デート・ア・ライブ 雷蒼の物語 (バルクス)
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番外編
デート・ア・ライブ雷蒼の物語ZERO
これは俺の物語が始まった前の物語だ。
『ねぇ貴方。貴方は何を願う?何を望むの?』
○○の目の前で何かが喋っている。それはまるで、問うように訴え続けてるかのように―――
『貴方が望むなら私はなんでも叶えてあげるよ?』
その声はノイズがかかったような声で話していてその正体は男なのか女なのか分からない。だが、○○は何故か不愉快とは思わなかった。○○は自然に口を動かす。
「――力が欲しい。もっと誰かを守れる強さが欲しい。悪魔や天使に魂を売ってもいい。だから寄越せあんたの力を!」
○○は謎の存在に強く言う。その存在は姿は分からないがクスッと息が漏れたかのような笑った声で言う。
『ならこれに触れて?そしたら貴方の望んだ力が手に入るよ』
そこには、黄色のラインに紫を基調としたクリスタルが現れた。○○はそれを躊躇なく触る。するとその謎のクリスタルは○○の中へ吸い込まれるように入っていった。すると突然○○の体から激しい激痛が襲った。
「――――がっ、ウッ....ァァァァァ!ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」
とても体験したことがない激痛のせいで言葉も出ない。だが○○はあることに気づく自分の体が別の何かに変わる違和感を感じた。だが、その違和感は一切なく。まるで慣れているような感覚だった。それを見ていた謎の存在はそれをじっと見続けている。当然姿は見えないが、雰囲気からにして笑った表情をしながら見ていたように感じた。そして、謎の存在が不気味に○○の耳元で言う。
『おめでとう。これで君の望みが叶うね、さぁ貴方の運命は何処から始まるのかな?楽しみだね』
そう言うと瞬間。○○の方向から謎の存在を目掛けて何が襲う。
『ふぅー危ない危ない。全く、力を手に入れたからってちょっとはしゃぎすぎじゃないかな?』
謎の存在は余裕そうに攻撃を軽々しく避けた。そして、さっき謎の存在のことを攻撃したのは○○だった。その右手には刀を持っていた。だが、○○はさっきまで普通の服を着ていたのだが、あの異様なクリスタルに触れた瞬間。体が再構築されるような激痛が襲い。のたうち回っていた。しかし、それを耐え抜いたのか、そのフォルムはまるで天使と堕天使の中間当たりぐらい異形の姿に変わっていた。所々に黒いラインが入った鎧に薄い赤を基調とした膜みたいなのが付いていた。そして、一番異様差を出しているのは翼だ。その形は天使と悪魔のような形状をした翼だった。謎の存在は少しこの状況について少し驚いていた。
『これは驚いたね。まさかまだ
謎の存在は冷静に状況判断していると、突如○○が謎の存在、目掛けて一直線に飛び込んで来た。すると、○○は右手に持っていた刀を謎の存在の首に振ろうとした瞬間。
『―――だけど』
パシーーン!
謎の存在は自らの手で○○の攻撃を防いだ。
『君にはまだちょっと早すぎたかもね....だから少しこの記憶は忘れて――いや、この記憶は全て忘れて、生まれ変わってきてね』
それを最後に、○○はここで意識を途絶えたのだった。
◇
「――ガ――きて、」
耳元から可愛らしい声が聞こえてくる。だが、睡魔のせいであまりその声は聞こえなかった。
「ねぇ、
すると、次は肩を揺さぶられ目が覚めた。寝起きの雷牙は少し口悪く自分を起こした少女に言う。
「たくっ。んだよ、
「駄目だよ!お母さんが言ってたよ?寝すぎは体に毒だって」
折紙は雷牙の寝起きの態度に少しムスゥとして言う。それについて雷牙はため息をつきながら体を起こす。
「ふぁぁぁぁー。んで、今日なん月何日だっけ?」
まだ寝ぼけているのか、雷牙はあくびをしながら折紙に聞く。折紙は雷牙に少し呆れた態度を見せながら返答する。
「今日は8月2日だよ。もう全く雷牙はすぐ日にちも忘れるんだから.....はぁー将来大丈夫かなぁ」
「おい。何でお前に自分の将来を心配されなきゃならないんだ」
折紙は哀れの目で雷牙の将来を心配したが、雷牙はそれにツッコミを入れてしまった。
「そうかぁもうそんな時期かぁ早いなぁ」
日にちを聞くと雷牙はまだ子供なのにおじいちゃん思考になってしまう。それを折紙はため息をしながら口を開く。
「なに朝からおじいちゃん思考になってるの、全く。そろそろ下に降りてきてご飯出来てるよ。それと、今日学校だから早くしないと遅刻するよ?」
折紙は言うと部屋から出て下に降りていった。それを聞くと雷牙はベットから素早く降り、クローゼットから学校に行く服装に着替えた。
「雷牙ー早く行かないと遅刻しちゃうよー!」
「ああ!今行くから待っててくれ!」
朝ご飯を食べ終わり、今雷牙は靴を履き終わると扉を開けるするとそこには先程雷牙を起こしに来てくれた折紙がいた。
「す、すまん!わざわざ待っててくれるとは......」
「ううん。大丈夫だよ、だって雷牙は私の幼馴染であるわけだし家族でしょ?待つに決まってるよ!」
その純粋の笑みに何故か雷牙は目を奪われた。体温が上がり心臓が早く動き変な気持ちになる。雷牙はこの気持ちはまだ分からない。いや、ずっと分からないかもしれない。と、ボッーとしていると折紙に肩を揺らされた。
「雷牙?ねぇ、雷牙ってば!」
「……!?あ、悪い少しボッーとしちまった。大丈夫だ」
雷牙は少し慌てて言うと、折紙が雷牙のデコにを手に置いて熱を確認したしてきた。それに雷牙はさっきよりも体温が上がり、心臓の鼓動も早くなってきた。
「な、何してんだよ!?」
「熱あるか計ってるの。少し動かないで」
折紙にそう言われると雷牙は終わるまでじっとしていたいや、思考が停止していたと言うのが正しいのだろう。
「うーん、熱はないね。今日どうしたの?何か変だよ?」
「いや、俺はいつでも普通だぞ?強いて言えば
「変な夢?」
雷牙は折紙に今日見た夢を少し話した。ある男が、何もかも失い絶望した時にふと、男の目の前に謎の存在現れ何かを渡される夢を。それを聞いた折紙は「そうゆう夢をだったんだ、何か新鮮だね!」と返す。
「新鮮なのか?いや、俺はあの夢を体験したことがあるかもしれない」
少し気になるのだ。それはまるで知っているより、体験したことがあるの方が正しいのだ。雷牙は頭を悩ませる。昔の自分は
「多分それは前世の記憶なんじゃないのかな?人って生まれ変わる前に前世の記憶を消されるんだって。けど、特たまに雷牙みたいな事の現象があるってどこかの本に書いてあったよ」
折紙の長い説明についていけない雷牙だが、だいたいは分かった。すると折紙が「だけど――」と1回言葉を区切る。
「たとえ前世の記憶を持ってたしても雷牙は雷牙だよ?」
「!?」
「私の知ってる雷牙は、料理が上手くて、優しくて、かっこよくて、私が困った時には直ぐ助けてくれる大切な家族で幼馴染だよ?私は前世で何かしたとしても雷牙が好き。だから雷牙は昔の記憶なんて忘れていいと思うよ」
折紙がそんなこと言ってると、言葉を思い出したのか、顔を赤く染めて少し雷牙から距離を離れた。
「ち、違うの!た、確かに雷牙は好きだよ!家族としてだけど、旦那さんてっ言う好きじゃないから...はぅー/////」
折紙の言葉に雷牙は何か吹っ切れた感じで笑ってしまった。
「ぷっふはは、あははは!」
「ちょっと!何笑ってるの!あぁ.....恥ずかしい何で私こんなこと言っちゃったんだろ/////」
折紙は自分の失言に恥ずかしさを感じて両手で自身の顔を隠した。すると、雷牙は顔を隠している折紙に左手で頭を撫でる。折紙はそれに気づいたが、それを振り払おうとはしなかった。何故か居心地がよかった。
「ありがとう折紙。お前のお陰で何か吹っ切れたよ本当にありがとう」
雷牙は折紙に感謝の礼をし、撫でるのをやめ、折紙の前に行き、左手で手を差し伸べる。
「よし、折紙行こうぜ!」
「全く調子が戻るとすぐこれなんだから、もう」
折紙はすぐ立ち直った雷牙に少し呆れるが笑顔で差し伸べられた左手を右手でとり、そして2人は歩きだす。
だが、それを何者かが見ているのを知らずに。
『ふふ。さぁ、今の貴方は何を見せてくれるのかな?』
謎の存在は不気味な笑みを浮かべながら言う。
『貴方はいずれまた絶望するそしてこの世界を恨み、壊す。果たしてこの世界はどちらに傾くのかしらね』
そして謎の存在は溶けるように消えた。
これは少年の運命の歯車が動き出す前の物語。
はいネタで書いて見ました。まぁ番外編も書けたら書きます。
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デート・ア・ライブ雷蒼の物語 予告編
俺はどこで間違っていたんだ?
彼の目の前には、白い髪をした少女が2人1人は王冠、1人は刀を持っていて、その彼女らの胸に1本の剣が刺さりながら壁に寄りかかって死んでいた。その姿はあまりにも惨かった。血だらけで、身体中は弾丸や、刃物傷。焼けた肌までもが鮮明に彼の瞳に焼き付けられていた。今彼の目に映っている少女だったものはピクリとも動いてはないが、何故か彼女達の唇だけは満足そうな笑みで死んでいた。
憎い。そんな感情が憎悪が、彼の体を心を蝕む。もう全てがどうでも良くなった――――ただあるのは憎しみだけの感情。彼はその言葉を頭の中で連呼する。
憎い憎い憎い憎いニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ
ドウシテニクイ?ソレハカノジョヲコロサレタカラ―――ナラドウスレバイイ?ソンナノハキマッテル。コノセカイヲ―――
壊せば良いんだ。
瞬間彼の体に変化が訪れる。
彼を包むかのように赤色の膜が現れる。そして彼はその膜を首に羽織るように巻き付け、その直後に背中から悪魔のような翼が生え。背中の真ん中には一対の斧があり、肩は2重の鎧を付けているように見え、腕は今の現代にありそうな機関砲を腕につけていた。そして足の方は裏側に大型の刃が付いている。
その異様な姿はまるで、
もう彼女達がいない世界なんて俺の生きる意味価値なんてない。いっそ、壊せば苦しまわずに済むだろう。
そして世界は殺戮者の手によって紅く反転していく。それは無惨な光景だった。家も公園も街も全て飲み込まれていく。いや、消えていくの方が正しい。彼はもう何も思わないのだろう。好きな場所も好きだった家も全て消えていく事に。だって―――彼女達がいなくなれば彼が生きる意味もない。彼女達がいたからこれまでもやって来れた。彼女達に勇気づけられたからやっていけた。それが無くなれば彼に残るのは絶望と憎しみと孤独だ。彼は自分の無力さに思わず叫ぶ。
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!
だが叫んでも誰にも届かない。この
彼は口を動かすこの世界を恨むように。
もうこノなニもナい世カイ何テ――――
消シてシまエばイいンだ。
それが
はいどうもバルクスです。これは悪魔で予告であってやるかは分かりません!ですがこの展開だけはやるので御安心を!
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第11.5話: 二人の苦難と改善
この度は読者さんや運営様に互いな迷惑をかけてしまい申し訳ございませんでした<(_ _)>
そのお詫びとして番外編を書かせてもらいました。
久々というのもあって、小説として成り立ってるのか心配ですが.....まぁそれは置いていてw
長らくお待たせ致しました!
どうぞ(∩´。•ω•)⊃
これはまだ時崎狂三が来禅高校に来る前の話。
「うーん.....」
白刃はキッチンで料理本に載っているレシピ本を睨むように目を細めて悩んでいた。
白刃が
彼女は彼――雷蒼雷牙に料理を作っている。
白刃は日頃お世話になっている
「これが......これで、この材料の量がこう.....かな?」
レシピ本を見ながら、料理を進めていく。
30分後。第1作目の料理が完成した。白刃は味見をしようと早速皿に料理を乗せ、箸を使って口に入れた。
しかし、白刃の顔は満足とは程遠い顔をしながら眉を歪めながら口を開く。
「......私的には美味しいと思うけど、ライガ的にはしょっぱいかな......」
味は差程問題はないと思うが、レシピ本の見本と今作っている料理の形は少し違ったように見える。
白刃は唸るように今の失敗を改善するように考えた。
「もっと上手くなってライガを驚かせたいな」
白刃は今の現状が自分自身の挑戦だと捉え、笑った。
「苦難.....上等」
そう告げた後白刃は料理に専念すべく再び誰もいないキッチンで作業を再開したのだった。
彼――雷牙に成長した料理を食べてほしくて。
◇
「......」
その頃。雷蒼雷牙は天宮市にあるショッピングモール入口の壁に背中を預けながらポツンと静かに立っていた。
何故ここに来ているかというと前日に折紙から電話が掛かってきた。内容は、買い物をするから手伝ってとの事。
後は集合場所と時間を指定された。雷牙は反論を言おうとしたが直後にプツリと切られ伝えられなかった。
雷牙は少し眉をピクっと動かす。でも折紙から買い物の誘いがあるのは久し振りだった。
もう怒るより楽しみが勝ってしまってるため雷牙はさっきの事は水に流すことにした。
そして今、雷牙は約束の場所で待ってはいるのだが、肝心の本人が来ていなかった。
「遅せぇ.....」
雷牙は唸りながら人際が漂う広場の中を凝視しながら折紙と思わしき人物を探し当てようと思ったが、如何せん人盛りのせいで判別が困難し断念した。
と――
「なぁなぁそこのお嬢さぁん?ちょっとこっち来て一緒にお茶しない?」
「今ならお兄さん達がタダでご馳走してあげるよ」
「........」
二人の男性が女子高生にお茶の誘いをしているのが視界に映った。
遠くから見てもナンパだ。しかし、雷牙はナンパされている女の子の方を見てみると目を大きく開けさず負えなかった。そう、そこにいたのは待っても来ないはずの鳶一折紙だった。折紙はナンパをしている男性に興味を示さず無言で首をキョロキョロと誰かを探しているような素振りを見せていた。
すると、焦れたのか折紙にお茶を誘ったナンパ男性A(名前が分からないので個体名してもらう)が先程の優しさの口調より強い言葉に変わり始めた。
「ちょっと無視しないでくれる?ねぇ、こっちは声を掛けてやってんのに何か反応してくれてもいいんじゃないの?」
「それは酷いなぁ?僕達こんなに親切なのに」
「......」
もう1人のナンパ男性BがナンパAに便乗しながら折紙に言ってきた。折紙は何も動じず、ただひたすら無言を貫いた。
その彼女の態度に堪忍袋の緒が切れたのかナンパ男性2人が遂に折紙の手を掴み始めた。
「さっさっと来いよ!可愛がってやるからよぉ!」
「そうそう、大人しくしてくれれば何もしねぇからグヘヘ」
「ッ......」
そこで折紙はやっと表情を変え始め、手を掴んできたナンパ男性の手を地面に掴み投げようとした瞬間――
「――おい......俺の大事な
ナンパ男性2人組の背後にもう1人男が現れ、冷徹な声音が響いてきた。しかしその言葉は折紙に向けてはなく、ナンパ男性に向けて言っているようだった。
折紙はこの声を知っていた。
雷蒼雷牙だ。しかし、今の雷牙はいつもの雷牙ではなかった気がした。
すると声を掛けられたナンパ男性2人は後ろを振り向き、機嫌が悪い言い方で口を動かした。
「あぁん?んだよガキ。ちょっとこっちは大事な用事をしてるから邪魔しないでもらえるかなぁ?」
「痛い目みたくなかったら早く消えろよ?」
雷牙はそれを聞くと少し口に笑みを浮かべながら口を開いた瞬間。
「――そか。じゃあ......死んでも――」
文句ないよな?
と言った刹那。
雷牙は何も躊躇せず、右側にいるナンパ男性Aの顔面目掛けて殴り付けた。
殴られたナンパ男Aは2mぐらい吹っ飛び、受身を取れず衝撃で気絶した。
その左にいたナンパ男性Bは吹き飛ばされたナンパ男性Aの方を見て驚愕した。
すると、雷牙は今度はもう1人の標的であるナンパ男性Bの方へ顔を向ける。
ナンパ男性Bはその顔を途端、雷牙に恐怖をしてしまいそして見てしまったのだ彼の
その表情はまさに自分の
「.....ひっ!」
ナンパ男性は恐怖で足を動かせず、尻もちを付いてしまった。
逃げたくても身体が言うことを聞いてくれない。
すると雷牙が足を一歩ずつゆっくりとリズムを取るかのような足取りで近付いてきた。
「――う、うわあぁぁぁぁぁぁぁ!」
ナンパ男性Bは恐怖に耐えれず叫ぶと力が抜けるように失神した。
ナンパ男性Bが失神したのを確認した雷牙は息を大きく吐くといつも通りの表情に戻り、折紙の方へ向かった。
「怪我はないか折紙?」
「......問題ない」
雷牙は折紙に被害がないか声を掛けた。だが、折紙の声が少し元気がないように聞こえた。
「本当に大丈夫か?いつもより元気ないけど――」
すると折紙がいきなり雷牙に抱きついてきた。雷牙は頬を赤くしながら慌て始めた。
「お、折紙!?ちょ、さすがにこんな公共な場で抱きつくのは.....」
「――ごめんなさい」
「え?」
雷牙は折紙の言葉にキョトンと首を傾げた。
折紙は気にせず口を開く。
「私があの男2人に遅れをとっていたのが悪かった。そして今の状況を、雷牙の怒りを作ってしまった......」
折紙は雷牙の顔を見ながら申し訳なさそうに口を揺らす。
「――本当にごめんなさい」
「......」
雷牙は無言になると両手に思いっきり力を入れ折紙の身体を抱きしめた。
「......雷牙?」
「俺こそ助けに行けなくてごめん......俺が早く助けに行ければこんなことにはならなかったかもしれない」
そう、今雷牙達がいる広場は人盛りが先程の状況を確認するために束になって囲んでいたのだ。
時にはヒソヒソ声や見て見ぬふりを人々が四方八方に聞き飽きれる程に――
雷牙は目立ってしまった。よりにもよって、幼馴染を巻き込んでしまったのだ。
今はこの状況を作った自分を許せなかった。
最初は穏便にすまそうと思ったが、ナンパ男性の一人が折紙の手を掴んだ瞬間。雷牙は頭の中で何かが切れた音がした後、先程の状況を作ってしまったのだ。
「だから折紙が謝る必要がないんだ。悪いのは俺、ただそれだけで十分なんだ」
雷牙は折紙の肩に顔を俯かせたまま強く抱きしめながら悲しそうな口調で話した。
すると、雷牙の腕の中にいた折紙は俯いた雷牙の頭に右手を置き、ゆっくりと撫で始めると同時に静かに口を開いた。
「――貴方の何処に悪い要素があるの?」
「.....え?」
雷牙は折紙の言葉に俯いてた顔を上げてしまった。
折紙は気にせず話を淡々と進めるように口を動かす。
「あれは列記としたセクハラ。それを雷牙は助けてくれた」
確かにそうだ。ナンパ男性2人組が折紙に向かってアプローチを仕掛けてきたのが始まりだ、そこに雷牙が現れナンパ男性2人組を再起不能にした、でも――
「それじゃあ折紙を巻き込んだのと同じじゃないか!」
雷牙は口を動かすと折紙は眉を少し歪ませ次に抱き締めていた腕を雷牙の顔に添えた。
雷牙は少し驚いてしまったが今照れても仕方ないので我慢した。すると、折紙が息を大きく吐き口を開く。
「貴方はバカ。どうして私の責任も背負ってしまうの? 」
「......」
「本当に貴方は昔から変わっていない。前に私は言った、その思考を直した方がいいと 」
何も言えない。
確かに、2ヶ月前。以前雷牙は似た様な事を折紙の口から聞いたのだ。まさに同じ事を言われてしまった。
やはり無自覚なのだろう、この面倒くさい思考と性格は―――
「ごめん.....」
今返せる言葉がこれしかなかった....なんとも情けない。
それを聞いた折紙は雷牙の身体を再び強くぎゅう と力を入れ、数秒後には顔が見れる距離をとった。
「私は別に直せとは強く強要はしない。でも、それ以上すると貴方の心が壊れてしまう」
折紙は一旦息を吸うと再び口を開いた。
顔こそ表情はでていないが、その目からは本当に雷牙を心配しているようだった。
「――だからあまり自分を責めないで。時には誰かに頼って」
「.......」
そうだった。彼女はこういう子だったな......今は感情をあまり出してはいないが、根は優しいのだ。
今の雷牙がいるのも彼女がいてこそ成り立っているとも言っていい。
彼女がいなかったら雷牙はこんなにも感情豊かではなかったはずだし、家族の温もりや大切なものが出来なかったのだろう。
「.......ふっ」
思わず笑いが込み上げてきてしまい雷牙は大笑いした。
「ふふっははははははは」
「.....雷牙?」
笑うのが気になったのか折紙が不思議そうに雷牙に声を掛けた。
「あぁ、ふふっ、悪い......少し面白くって」
ごめんなと口を動かし、息を大きく吸って、吐いた。
何かが吹っ切れた気がする。でも雷牙自身はそれに気付いておらず。ただひたすら、肩の骨を鳴らしながら歩き始めた。
「よし!色々あったけど
雷牙は後ろを振り向き左手を折紙に差し伸べると折紙は、呆れた様子で息を吐き口を開く。
「本当に雷牙は変わらない、振り回される気持ちを考えてほしい――でも」
雷牙からの距離では見えなかったが確かに折紙は無自覚に口元が揺らみ笑みをこぼしていた。
そして折紙は差し伸べられた手を取り、再び口を動かす。
「この振り回され方が丁度いい」
2人は手を繋ぎながらショッピングモールの入口へ入っていたのだった。
後書きで言うこと一つも思いつかねぇw
あるとしたら14話のことだけですが、今月中には出せるようにするのでお待ちを!
そして何時も雷蒼の物語を読んでくれている方々に感謝を!
ではまた次回の投稿でお会いしましょう!
PS:番外編がまた思いついたら書きますので長々とお待ち下さい。
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設定
設定①
プロフィール
雷蒼雷牙 イメージCV石川界人
年齢 17歳
身長 172cm
血液型 AB型
イメージソング PENGUIN RESEARCH HATENA
デート・ア・ライブ雷蒼の物語に登場
好きなもの 料理 (折紙、白刃の手料理) 昼寝
嫌いなもの 自分の為なら他人を平気で切り捨てる奴。 人をものとしてしか見ない奴。
本作の主人公。
性格はお人好しで、仲間想い。友達想いであり特に幼馴染の鳶一折紙や精霊の白風白刃に危害が及ぶ事があればその相手が誰であろうとも一切容赦しない。
実は5歳からの記憶はなく、鳶一家に引き取られた経緯を持つ。
最初の頃は誰からも心を閉ざして人形みたいな日々を過ごしていた。だが、雷牙を引き取った日から折紙が雷牙について毎日毎日一緒に遊んだり話しをしていた。
それから雷牙は折紙のお陰で心を開くようになり今の性格となる。
(因みに折紙が感情を預けた時から自分が彼女の感情を少しだけでいいから戻したいという気持ちで成り立っている事でもある)
両親は5年前の大火災で他界し、その時両親の遺産と祖母援助により、一軒家を購入。そこで不自由なく一人暮らしをしている。特技は料理と掃除で、主夫ぐらい並みの仕事は出来る。(五年間一人暮らしをしたら普通に出来た)らしい。本職はASTの整備士として働いており、CR-ユニットの整備と修理を主に担当している。実際、雷牙は
ASTでの階級は二尉(本人いわく上層部から聞いた話によれば
彼の戦い方は、演習の記録によると日下部燎子率いる隊員20名を40秒というあられもない速さで全員を再起不能させた。
この時雷牙の姿をみた隊員からは『
〈ラタトスク〉では雷牙自身のとてつもない能力(
精霊攻略前に精密に身体のあちこちを検査をされ、雷牙の身体から驚くものを発見された。それは本来士道にしかない霊力封印の力が雷牙にもあったのだ琴里達もこれには驚愕。しかし、雷牙の封印には制限がある事が分かった。彼自身は原理とは士道の霊力封印とは同じではあるがそれより形や大きさが違って。士道より封印できる人数が限られてしまっている。それにより、4、5人ぐらいでしか封印が出来ない。そのキャパシティーを万が一超えてしまうと、雷牙身体が霊力に耐えられなくなり最悪死ぬ確率がある。たが指定された人数さえ超えたりしなければ許容範囲である。
〈ホワイト〉との攻略の際。自虐的な彼女を否定して正すと言い、その後。彼女に名前がない事を知り雷牙は安直だが、彼女に白刃と名付けた。
デート編では白刃と商店街を見て回ったり、ゲームセンターで夕方になるまで遊びまくった。
だが
事態が収集した後、白刃に「この世界で一緒に暮らさないか?」と不器用ながらも提案をした。白刃はそれを了承、彼女の力を封印した。精霊の力を封印した後日。白刃と学校生活を送ってはいるが、力を封印してからか白刃が妙に積極的に甘えてきて困っているとのこと。
士道とも料理や家事ともの話で仲がいい。
プロフィール
白風白刃 イメージCV 金元寿子
イメージソング suara 星灯
身長153cm
識別名 〈ホワイト〉
総合危険度 AA
空間震規模 A
霊装 B
天使 AA
S T R (力) 190
C O N (耐久力) 180
S P I (霊力) 230
A G I (敏捷性) 170
I N T (知力) 190
霊装
天使
好きなもの シュークリーム。雷牙の手料理
嫌いなもの 納豆。雷牙を侮辱する奴と友達に怪我を及ぼす奴
『デート・ア・ライブ雷蒼の物語』のメインヒロインの精霊。識別名称は〈ホワイト〉。
容姿は背中まである白い長髪に宝石のよう紅な瞳。十香と並ぶ絶世の美少女。精霊としての姿は識別名の通り、霊装の色が白色のドレスで天使も純白であることからして命名された。
本作の主人公・雷蒼雷牙が初めて出会った精霊であり、霊力を封印された今では雷牙の
だが当人は十香と同じく名前を始めとした自身に対する記憶を全く持っておらず、自らがどういう存在であるのかも殆ど把握していなかった。
その為本人の意思に関係なく討滅対象として、ASTを通じ人間の殺意に曝され自身を否定され続けた結果自分の存在が必要ないと理解してしまい自虐的になり、世界に絶望しかけていた。
だが、そんな彼女を無害化すべく(興味本意に)送り込まれた雷牙と邂逅を果たし、彼と共に精霊にまつわる多くの戦いへ関わって雷牙を支えていく事となる。
その後「白刃」は雷牙が、「白風」は令音が名付けた。
四糸乃パペット編では〈フラクシナス〉(のアフターケアため)から雷牙の家に住むことになる。また、雷牙が寝てる時に毎日白刃が雷牙の部屋に侵入してきて毎日寝てくる。
人物
冷静沈着でかつクールな性格な持ち主。滅多なことがなければ慌てる事がない。精霊だった頃は自身の命を狙って来る者としか接触していなかったが静粛現界の時に世界の情報を調べていたため、人間社会との知識以外は
物静かではあるが、十香や親しい人だとすぐに優しくなる。
つまり心を開いていない人が白刃に近づくとゴミを見るような目で睨めつけ毒舌ならぬ罵倒を受けられる。(ちなみに男子勢には何故か人気)
その経緯から当初は人間不信で、人間や未知の物に対する警戒心が人一倍強かったが、封印後学生生活を送るうちに、世界は否定する人がいないという事を実感する様になってトゲトゲしさは少し無くなりクールに振る舞う仔猫系女子になった。クラスではそんな言動が庇護欲がくすぐられるのか男女問わず男子に人気があるが、白刃は雷牙とよく一緒にいるので男子の嫉妬される要因の一つになっている。
普段は雷牙とイチャついている面が目立つがクールな性格が変わった訳ではないため、いざ戦いになると封印される前の冷静沈着とした雰囲気に戻り、最前線で活躍する。天然であっても冷静に状況を判断する能力にも長けており、幾度となく雷牙を守っている。
また、その純粋で裏表の無い性格からか、雷牙に限らず十香や士道、親しくなった人達を励ましている。
学業成績は普通であり今までの知識を活かしているため、理科系、数学系以外は問題ない。だが、理科と数学だけは絶望的に酷く、雷牙はこれについて肝を冷やした。なんとか出来るように白刃に教えている。
また、十香はよりではないが食いしん坊であり。店一軒分の食料が切れる程でありながら抜群のスタイルは一切変化せず、他の女性陣から羨みの視線を向けられている。ただし、その栄養は白刃の
特に地上で最初に食べたシュークリームを大いに気に入って好物としており、作中では初めてのデート中のゲームセンターでシュークリームのクッションを取ってもらい、私生活で枕やソファーの腰掛けに愛用している。
料理は出来る方だがスキルが高い雷牙に任せているので。いつも作る食事を毎食楽しみにしている。お弁当のメニューだけは白刃が担当してる模様。たまにだが、夜ご飯を作る時があるが、基本肉料理と野菜しか出てこない。そのため白刃は昼ご飯(弁当作り)だけ熱心に作っている。好きなおかずは野菜類(ナスとトマト)と肉類で、普段雷牙を見てきている幼馴染の折紙の弁からによると、白刃が雷蒼家で食事を摂るようになってからは雷牙のおかずに野菜類と肉類の割合が増えたとか。また嫌いなものは納豆である。(本人いわく。「あんな臭いが強いもの食べ物じゃない絶対あの
白刃の特殊能力で他人に霊力と天使を貸し与えられる能力が出来る。貸し与えられた者は一時的に精霊と同じ力を使うことが出来る。予想では、〈プリンセス〉と互角ぐらいに戦えるとのこと。
白刃は何故自分にこの力があるのか不明。
霊装:
白刃の霊装。イメージは鳶一折紙の
防御性能は少し低いが、物理体制には強いため刃物系には絶対に通らない。(ただしレイザーブレイドは除く)射撃体制にはそこまで強くなく、特に〈ホワイトリコリス〉やペンドラゴン並みのビーム系はダメージが入る。
白刃はそれを補うために銃弾やミサイル、ビームは天使で切り裂いて防ぐ。
天使:
白刃が劇中で使用する日本刀型天使であり雷牙の愛刀でもある。見た目は黒い鞘に金色の鍔、黄色の下緒、そして白色の柄といった感じである。(イメージはDMCの闇魔刀)
技
瞬速居合
目にも止まらぬスピードで相手の懐に飛び込みながら斬撃を放ち、真空の刃を発生させ相手を切り裂く。
神速の居合で次元の狭間を切り、相手を無数の斬撃の渦に巻き込む。
白刃と雷牙とで技に少し違いがある。
雷牙
近距離攻撃で刀を長く納刀することによって刀に霊力を貯め3連続で繰り出す。
白刃
後述の「
因みに前方の空間を広く切り裂く。技名は「前破壊」
隣元斬・零
白刃の最終奥義とも言える技。こちらも白刃と雷牙で微妙に技が異なっている。
雷牙では『零刀』姿を消し隣元斬を無数に乱発する。
白刃では「隣元斬・零」と呼び。超高速移動と霊力によって自らの分身を作り出し、それぞれが隣元斬を発動させ広範囲を切り裂く大技。たがこれには一つデメリットがあり。これを使うと霊力ほぼ使いきり、疲労がとてつもなく襲いかかってくる。白刃はこの技は滅多に使用しないが、強敵の時には普通に使う。
はい設定集でした白刃の天使はもうDMCの闇魔刀の技をパクrオマージュさせていただきました。
因みに技ですが、自分の文力でなんとか表現できるように頑張ります!
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プロローグ
プロローグ
街が燃えている。その中で一人の少年が走っていた。
「父さん....母さん...折紙!何処だ!返事をしてくれ!」
ただひたすら家族の名前を叫んで走っていた。
走ってる途中に頭に家族の悲惨な光景が浮かぶ。
だが、その思考は直ぐに捨て頭を横に振った。
「大丈夫だ絶対に生きてる!俺の勘を信じろ!」
そう自分に言い聞かせて走り出す。
走り出してから何分経ったのだろうか…
今はその事に考える時間も惜しい。
その事を考えて次の角を右に曲がろうとした瞬間。
ズゴォォォォォン
音がして直後少年に風圧が襲い、体が壁に叩きつけられた。
「ガハッ....一体何が...!?」
少年は壁に叩きつけられた体を起こし、今起きている状況を確認しようとしたがそれは軽々と少年の頭から消し去った。
何故なら...
目の前の光景に広がったのは地面がまるでビームで抉られたように赤く、
そこには家族だった者の痕跡があったのだ。
その目の前には自分がさっきまで必死に探していた少女がそこにはいた。
少年は少女の前に立ち声を掛ける。
「折紙、折紙しっかりしろ大丈夫か!」
「.........」
少年は声を掛けるが、その少女の目には少年が入っておらずただひたすら家族だった者を見ていた。
その数分後…
少女はやっと理解したようで、その光の音の原因を確かめるべく上を向く。
それにつられて少年も少女と共に上を向いたのだが、
その光景に目を大きく開けてしまう。
それは上空に人影があり白い格好をした正しく天使の格好をした女の子だったのだ。
遠くからだったので容姿は分からなかったが、
少年は彼女が家族を本当に殺したのかと思えなかった。
だが現実は甘くなくそれは直ぐに確信に変わる。
家族を殺したことこれは紛れもない事実。
少年は家族を殺された事に怒りを発たせるが、
少年の横にいた少女がその天使の彼女に告げた言葉で少年は怒りを忘れた。
「ー お、まえ、が......お父さんとお母さんを。ー 許、さない......!殺す.....殺してやる.....ッ!私が ー 必ず......っ!」
少女は少年より人一倍空中に浮いている彼女に怒りを表す。
その後両親を殺した天使は、光の粒子となって消え二度と姿を現さなかった。
天使がいなくなった燃えた街に少年と少女は取り残された。
一人は絶望し地面に顔を下に向いている。
一人は少女の前に達少女の話を聞く。
やがて少し落ち着いたのか、少女は少年に絶望した声音で状況を説明する。
「雷....牙....お..父さんと.....お母さん....が...!?」
突然いきなり少年が少女を抱いたのだ。
少女は状況をうまく整理出来ていないため困惑していたが、それでも少年は少女に問いかける。
「.....折紙大丈夫だ!
俺がついてる!俺がお前を守ってやる。
だからお前の悲しみや怒りを俺が全部受け取ってやる!
お前の両親の仇を絶対にとるから.....
だから絶望だけはしないでくれ!!」
その言葉を聞いた少女は感情を露にし、少年の胸の中で泣いた。
その日少年は誓った。
絶対に命に代えても彼女を守り両親の仇を討つのだと
...これは復讐に燃える少女と歩む男の物語だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ジリジリジリジリ!!
一人の部屋で目覚まし時計が激しく鳴っている。その部屋で一人の少年は目覚まし時計を止めるべく手で目覚まし時計を探す。
「.....んー...」
カチッ
目覚ましを止めた後少年は体をベッドから起こし少し疲れたようにため息を吐いた。
「はぁ、懐かしい夢だな」
少年は懐かしい夢を思いだしながら、視線をカレンダーに目を向ける。が、カレンダーの日にちを見るとそこには四月十日始業式と書かれていた。
少年はだるそうに独り言を呟いた。
「遂にあの日が来たか。まぁ直ぐ終わるからいいか」
そう言いながら部屋のクローゼットから学校の制服を出し
パジャマから制服に着替え、朝食を作るべくリビングに向かった。
ハイ、いかがだったでしょうか。初めて小説を書いたのですが、自分的にはよく出来たと思います。
次回は十香デッドエンド編です。
更新速度は未定ですが、時間があれば出すつもりです。
では次回で会いましょう。
次回:四月十日と白い刃
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十香デッドエンド&白刃ホワイト編
第1話:四月十日と白い刃
今回は記念すべき第1話なので長いです。
ではどうぞ(*´∀`)つ
――息を飲む。
それはあまりにも非現実的な光景だった。
消し取られたかのように破壊された街並み。
隕石でも落ちて来たとしか思えない、巨大なクレーター。
空を舞う幾つもの人影。
全てが幻としか思えない。馬鹿げた景色。
だけれど一人の少年は、そんな異常な世界を、朧気にしか見ていなかったのだ。
――そんなものよりも遥かに異常なものが、少年の目の前にあったからだ。
それは、少女だった。奇妙な光の白いドレスを纏った少女が一人、立っていた。
「ぁ―――」
少年の声は嘆息に、微かな声が混じって消え去った。
それぐらいに、少年は少女の存在が圧倒的だったのだ。
金属のような、布のような、不思議なドレスも確かに目を引いた。
そこから広がった光のスカートも写真を撮りたくなるほど綺麗だった。
しかし彼女自身の姿容は、それすらも脇役に霞ませる。
肩から腰に絡みつくような長い白色の髪。
凛と蒼穹を見上げるは、何とも形容しがたい不思議な色を映す双眸。
天使さえ嫉妬を覚えさせるであろう貌を物憂げに歪め、静かに唇を結んでいるその様子は。
視線を、
注意を、
心をも、
一瞬にして、心を奪い去った。
それくらい、
あまりにも、
尋常ではなく、
暴力的なまでに美しい。
「―――お前、は......」
ただ呆然と。
少年は、その彼女に問いかけた。
瀆神としてのどと目を潰されることすら、思考のうちに入れて。
少女がゆっくりと少年に視線を下ろした途端。
悲しい顔でこう答えた。
「....名前、ね」
少年の前で心地のいい調べの如き声音が、空気を震わせた。
しかし。
「そんなものは、ないよ」
その言葉に少年は目を見開いた。
2人の目が交わり――雷蒼雷牙の物語は、始まった。
――――――――――――――――――――――
「あー.....」
寝起きの気分はとても最悪だった。
四月十日、月曜日。
昨日で春休みが終わり、今日から学校という名の始業式の朝。
雷蒼雷牙はしょぼしょぼする目をこすりながら、低くうなるような声を発し。自分の家のキッチンで一人で朝食を作っていた。
そう雷牙は一人暮らしなのだ。
両親は五年前のとある事件で他界してこの家は両親が亡くなった次にもらった。
そんな懐かしい夢の事を考えていく内に朝食が出来た為ご飯をテーブルがあるリビングに朝食を持っていき椅子に座ってテレビをつけた。
テレビをつけたら丁度ニュースがやっていた。その内容は
『――今日未明、天宮市近郊の地域で空間震が発生しました。』
そんな内容だった。
その次に画面には滅茶苦茶に破壊された街の様子が映しだされていた。建造物や道路が崩落し、瓦礫の山と化している。まるで隕石の衝突か空襲でもあったのかと疑いたくなるほどの惨状だった。
「ああ...空間震か」
うんざりと首を振る。
空間の地震と称される、広域震動現象。発生原因不明、発生時期不定期、被害規模不確定の爆発、震動、消失、その他諸々の現象の総称である。
まるで怪獣が気まぐれに現れ、街を破壊していくような理不尽極まりない現象。
心の現象が初めて確認されたのは、およそ三○年前の事である。
ユーラシア大陸のど真ん中――当時のソ連、中国、モンゴルを含む一帯が一夜にしてくりぬかれたように消失したのだ。
雷牙たちの世代になれば学校の教科書の写真で嫌というほど目にしている。
まるで地上にあるものを一切合切削り取ってしまうように、本当に何もなくなっていたのだ。
死傷者、およそ一億五○○○万人。人類史上を見ない最大最悪の災害である。そしてその後約半年間、規模は小さいものの、世界各地で似たような現象が発生した。
雷牙の覚えている限りでは――およそ五○例。
地球上の全大陸、北極、海上、さらには小さな島々でも発生が確認された。無論、日本も例外ではない。
ユーラシア大空災の六ヶ月後、東京都南部から神奈川県北部にかけての一帯が、まるで消しゴムでもかけられたかのように、円状に焦土と化したのである。
そう――ちょうど今雷牙が住んでいる地域だ。
「でも一時は全然起こらなかったが何でまた増え始めたのか不思議なんだよなぁ」
雷牙が一人で小さく独り言を言うと、そのままテレビに視線を戻し時間を確認した。
「あ・・・」
雷牙はテレビにある時間表を見るとそこには、午前八時10分と表示されていたのだ。
時間を見た途端 雷牙はとても焦っていた。
「やべぇぇ!遅刻だ急がねぇと!」
朝食を速やかに食べるとキッチンに皿を置き椅子に掛けてあった制服のブレザーを腕に通し鞄を持ち小走りしながら玄関に向かう。
靴を履き終わりドアを開け外に出てドアに鍵を掛け全速力で学校に向かう。
何でこんな時に遅れるんだよ本当に馬鹿すぎるぞ俺...
全速疾走してる中 心の中で自分の事を責めていた雷牙であった。
――――――――――――――――――――――
午前八時十五分を回った頃だった。廊下に貼り出されたクラス表を適当に確認してから、これから一年間お世話になる教室に入っていく少年がいた。
「二年――四組、か」
特に目立った特技もなさそうな中肉中背で中性的な顔立ちをしている青髪の少年 名は五河士道。
ここ都立来禅高校に通う学生だ。
都立来禅高校 三十年前に空間震が起こったあと、東京都南部から神奈川県――つまりは空間震で更地になった一帯をさまざまな最新技術のテスト都市として再開発が進める為この来禅高校が建てられた。数年前に創立されたばかりのためとても都立校とは思えない充実した設備を誇るうえ、内外装も損傷がほとんどない。もちろん旧被災地の高校らしく、地下シェルターも最新のものが設えられている。
そのためか入試倍率は低くなく、「家が近いから」だけの理由で受験を決めた士道と今全速力で学校にむかっている少年(雷牙)は、少々苦労することになったのだが。
「んー......」
士道は小さくうなり、何とはなしに教室を見回してみる。
まだホームルームまでには少し時間があったが、もう結構な人が揃っていた。同じクラスになれたのを喜びあう者、一人机についてつまらなそうにしている者、反応は様々だったが.......あまり士道の知った顔は見受けられない。と、士道が黒板に書かれた座席表を確認しようと首を動かすと、
「――五河士道」
後方から不意に、静かで抑揚のない声がかけられた。
「ん?」
聞き覚えのない声である。不思議に思い、振り向く。そこには、細身の少女が一人、立っていた。肩に触れるか触れないかくらいの髪に、人形のような顔が特徴的な少女である。この人形のような、という形容に異を唱える人間は、恐らくそういないだろう。まるで正確に測量された人工物のように端正であるのと同時に――彼女の顔には、まったく表情のようなものが窺えなかったのだ。
「え.....」
士道はきょろきょろとあたりを見回してから、首を傾げた。
「.....俺?」
自分以外のシドウさんと言う名前が見あたらないのを確認してから、自分の指をさす。
「そう」
少女はさしたる感慨もなさそうに、まっすぐ士道の方を見ながら小さくうなずいた。
「な、何で俺の名前知ってるんだ.....?」
士道が訊くと、少女は不思議そうに首を傾げた。
「覚えていないの?」
「.....う」
「そう」
士道が言い淀んでいると、少女は特に落胆らしいもの見せず、短く言って窓際の席に歩いていった。そのまま椅子に座ると、机から分厚い技術書のようなものを取り出し、読み始める。
「な.....なんだ、一体」
士道は頬をかき、眉をひそめた。何やら士道のことを知っているふうだったが、どこかで会ったことがあっただろうか士道はまったく覚えていなく少し自分の記憶を思いだすように考え始めたその瞬間。
「とうッ!」
「げふっ」
士道が頭を悩ませていると突如、ぱちーん!と見事な平手打ちが背にたたき込まれた。士道は知っていたこんな事をする人は一人しかいないすぐに分かった士道は背中を擦り後ろをむき犯人の名前を叫んだ。
「ってぇ、何しやがる殿町!」
「おう、元気そうだなセクシャルビースト五河」
犯人は士道の友人・殿町宏人だった。殿町は、同じクラスであった事を喜ぶよりも先に、腕を組軽く身を反らしながら笑っていた。士道はそんなのはどうでもよく、さっき殿町が自分に言った名前について聞いた。
「.....セク......なんだって?」
「セクシャルビーストだ、この淫獣め。ちょいと見ない間に色気付きやがって。いつの間にどうやって鳶一と仲良くなりやがったんだ、ええ?」
そう言って、殿町が士道の首に腕を回し、ニヤニヤしながら訊いてくる。
「鳶一? ....誰だそれ」
士道は誰の名前か分からず殿町に聞いた殿町は少し呆れながら言葉を返した。
「とぼけんじゃねぇよ。今の今まで楽しくお話してたじゃねぇか」
言いながら、殿町が顎をしゃくって窓際の席に指を示す。
そこには、先ほどの少女が分厚い技術書を読んで座っていた。ふと、士道の視線に気づいたのか、少女が目を書面から外し、こちらを向けてくる。
「....っ」
士道は息を詰まらせると、気まずそうに目を背けた。
反して、殿町が馴れ馴れしく笑って手を振る
「..........」
少女は、別段何も反応を示さないまま、手元の本に視線を戻した。
「ほら見ろ、あの調子だ。うちの女子の中でも最高難度、永久凍土とか米ソ冷戦とかマヒャデドスとまで呼ばれてんだぞ。一体どうやって取り入ったんだよ」
そう殿町に言われ士道は困った顔をして話す。
「はぁ.....? な、何の話だよ」
「いや、おまえホントに知らないのかよ」
「....ん、前のクラスにあんな子いたっけか?」
士道が言うと、殿町はまたも信じられないといった具合に両手を広げて驚いたような顔で欧米人のようなリアクションをする。
「鳶一だよ、鳶一折紙。ウチの高校が誇る超天才。聞いたことないのか?」
「いや、初めて聞くけど....すごいのか?」
「すごいなんてモンじゃねぇよ。成績は常に学年首席、この前の模試に至っちゃ全国トップとかいう頭のおかしい数字だ。クラス順位は確実に一個下がることを覚悟しな」
「はぁ?なんでそんな奴が公立校にいるんだよ」
「さぁてね?。家の都合とかじゃねぇの?」
大仰に肩をすくめながら、殿町が話を続ける。
「しかもそれだけじゃなく、体育の成績もダントツ、ついでに美人ときてやがる。去年の『恋人にしたい女子ランキング・ベスト13』でも第3位だぜ?見てなかったのか?」
「やったことすら知らん。ていうかベスト13?何でそんな中途半端な数字なんだ?
「主催者の女子が13位だったんだよ
「.....ああ」
士道は力無く苦笑した。どうしてもランキングに入りたかったらしい。
「ちなみに『恋人にしたい男子ランキング』はベスト358まで発表されたぞ」
「多っ!?下位はワーストランキングに近いじゃねぇか。それも主催者決定なのか?」
「ああ。まったく往生際が悪いよな」
「殿町は何位だったんだ?」
「358位だが」
「主催者お前かよ!」
「選ばれた理由は、『愛が重そう』『毛深そう』『足の親指の爪の間が臭そう』でした」
「やっぱりワーストランキングだそれ!」
「まぁぶっちゃけ、下位ランクには一票も入らない奴らばっかだったからな。マイナスポイントの少なさで勝負だ」
「どんな苦行だよ!やめりゃあいいだろそんなもん!」
「安心しろ五河。お前は匿名希望さんから一票入ったから52位だ」
「反応しづれぇ!」
「まぁ他の理由は『女の子に興味なさそう』ぶっちゃけホモっぽい』だったが」
謂れなき中傷に死の鉄槌を!」
「まぁ落ち着けって。『腐女子が選んだ校内ベストカップル』では、俺とセットでベスト2にランクインしているぞ」
「これっぽっちも嬉しくねぇぇぇぇぇッ!」
たまらず叫ぶ士道だが1位のカップルが少しだけ気になった。
しかし殿町はまったく気にしていない様子。
士道は全然嬉しくないランキングた頭を悩ませた時に廊下から一人の少年生徒が走りながら教室の扉をパシャーンと豪快に開けながら飛び込んできた。
「あっぶねぇぇぇぇぇ!遅刻する所だった...」
その少年は黒髪で目はワインレッドの色をしていて士道と同じく中性的な顔をしていた。
士道はその生徒を知らないので固まって驚ていた顔の殿町に聞いた。
「殿町あいつ誰だ?」
「はぁ?お前は鳶一といいウチの高校が誇る超天才を知らなすぎるんじゃないのか?」
「は?あいつも天才なのか?」
殿町は士道の言葉にため息を吐き今士道が座っている席から右斜めに座って寝ている先ほど教室から入ってきた少年について説明をした。
「彼の名は雷蒼雷牙。ウチの学校が誇るもう一人の超天才。成績優秀、体育も優秀この前の模試に至っちゃ鳶一と互角に張り合える頭のおかしい数字をたたき出してる男だ。」
「はぁ?鳶一といい何でそんな奴がこの高校にいるんだよ」
「俺が知るわけもないだろ」
殿町は話を続ける。
「ちなみに『恋人にしたい男子ランキング』では上位の3位だ」
「何でそんなに高いんだ?」
流石に士道も気になるらしく殿町に聞いてみた。
「選ばれた理由がえーと、『イケメンで悩殺されそう』『その赤い目で調教されたい』『料理を食べてみたい』でした」
「一つしかまともなのねぇぇぇ!」
理由が酷すぎた。最初の一つと二つは完全にMっけの入った女子が入れたのだろう。だがこうもまともなのが一つしかなくてツッコミせざるおえなかった。その後にどこかからジリジリの音が聞こえたその正体はすぐ分かった。
士道の隣で殿町が親指の爪を噛りながら嫉妬をした顔で雷牙を見ていたのだ。
「どうした?殿町?」
「なぁ五河何で世界てっこんなに不平等で理不尽なんだろうな」
殿町は何かに負けたような顔を作りながら小さな声でそんなことを口に出した
士道は殿町が何を言ったのか分からなかった。
「...は?何言って――」
キーンコーンカーンコーン
と、士道が言ったところで、一年生の頃から聞き慣れた予鈴がなった。
「おっと予鈴が始まった。五河とりあえず席に座ろうぜ」
「お、おう....そうだな」
士道は黒板に書かれた席順に従い、窓側から数えて二列目の席に鞄を置いた。そこで気づく。
「.....あ」
何の因果士道の席は鳶一折紙の隣だったのである。
鳶一は予鈴が鳴り終わる前に本を閉じ、机にしまいこんだ。視線は真っ直ぐ前に向け、定規で計ったような美しい姿勢を作る。
「......」
何故か少し気まずくなって、士道は折紙と同じように視線を黒板の方にやった。それに合わせるようにして、教室の扉がガラガラと開けられる。そしてそこから縁の細い眼鏡をかけた小柄な女性が現れ、教卓についた。
あたりから、小さなざわめきのようなものが聞こえてくる。
「タマちゃんだ...」
「ああ、タマちゃんだ」
「マジで、やったー」
――その生徒から好意的なようだった。
「はい、皆さんおはよぉございます。これから一年、皆さんの担任を務めさせていただきます、岡峰珠恵です」
間延びしたような声でそう言って、社会科担当の岡峰珠恵教諭・通称タマちゃんが頭を下げた。
贔屓目に見ても生徒と同年代くらいにしか見えない童顔と小柄な体躯、それにそののんびりとした性格で、生徒から絶大な人気を誇る先生である。
と、
「.....?」
士道は表情を強ばらせた。士道の左隣に座った折紙が、じーっ、と士道の方に視線を送っていたのである。
「....っ」
一瞬、目が合う。士道は慌てて視線を逸らした。一体なぜ士道を見て――いや、別に見てはいけないというわけではないと思うし、もしかしたら士道の先にあるものを見ている可能性だってある、とにかく落ち着かない。
「.......な、なんなんだ一体......」
誰にも聞こえないくらいの声でぼやき、士道は頬に汗を一滴垂らした。
それから、およそ三時間後。
「五河ー、どうせ暇なんだろ、飯いかねー?」
始業式を終え、帰り支度を整えた生徒たちが教室から一斉に出ていく中、鞄を肩がけした殿町が話しかけてきた。
士道はうなずきそうになってから、「あ、」と大切な約束を思いだした。
「悪い。今日は先約があるんだ」
「なぬ?女か」
「あー、まぁ....一応」
「なんと!!」
殿町が両手をV字に掲げて片足を上げた、どこかのランナーみたいなリアクションをとってくる。
「一体春休みに何があったっていうんだ!あの鳶一と仲良くお話するだけじゃ飽きたらず、女と昼飯の約束だと!?
一緒に正義の魔法使いを目指すって誓い合ったじゃねえか!」
「いや、誓い合った覚えはないが....ていうか、女っていっても琴里の方だぞ?」
「んだよ、脅かすんじゃねぇよ」
「お前が勝手に驚いたんだろうが」
「でもま、琴里ちゃんなら問題ねぇだろ。俺も一緒に行っていいか?」
「ん?ああ、別にファミレスだから大丈夫だと思うけど....」
そう学校に行く前に士道は家で妹の琴里と昼飯をファミレスで食べる約束をしていたのだ。
「なぁなぁ、琴里ちゃんって中二だよな。もう彼氏とかいんの?」
殿町は士道の机に肘をのせ、声をひそめるように言ってきた。士道はそれについて理解ができなかった。
「は?」
「いや他意はねぇんだが、琴里ちゃん、三つくらいの年上の男ってどうなのかなと」
「......やっぱ却下だ。おまえ来んな」
殿町はとんでもない爆弾発言を発したためそれを聞いた。士道は少しキレ半眼を作り殿町の頬をぐいと押し返した。
「そんな!お義兄様!」
「お義兄様とか呼ぶな気持ち悪い」
「ははっ冗談だ。ま、俺も兄妹団欒をつっつくほど野暮じゃねぇよ。都条例に引っかかんねでぇ程度に仲良くしてきな」
「おまえはいっつも一言余計だな」
頬をぴくつかせながら言うと、殿町が意外そうな顔をつくる。
「だっておめ、琴里ちゃん超可愛いじゃねぇか。あんな子と一つ屋根の下とか最高だろ」
「実際に妹がいれば、その意見は間違えなく変わると思うがな」
「あー.....それはよく聞くな。妹持ちに妹萌えはいないとか。やっぱ本当なのか?」
「ああ、あれは女じゃない。妹という名の生物だ」
士道がきっぱり断言すると、苦笑した。
「そういうもんかねぇ」
「そういうもんだ。女未満と書いて妹だろうが」
「じゃあ姉は?」
「......女市?」
「すげぇ、女性専用都市かよ!」
言って、殿町が笑う。
その瞬間。
ウゥゥゥゥゥゥゥッゥゥゥゥ―――――
「......ッ!?」
教室の窓ガラスをビリビリと揺らしながら、街中に不快なサイレンが鳴り響いた。
「な......なんだ?」
殿町が窓を開けて外を見る。サイレンに響いたのか鳥が何羽も空に飛んでいた。
教室に残っていた生徒たちも、皆会話を止めて目を丸くしている。
と、サイレンに次いで学校のスピーカーから機械越しの音声が響いてきた。
『―――これは訓練では、ありません。これは訓練では、ありません。前震が、観測されました。空間震の、発生が、予測されます。近隣住民の皆さんは、速やかに、最寄りのシェルターに、避難してください。繰り返します――』
瞬間、静まり返っていた生徒たちが、一斉に息を飲み避難を始めた。
――空間震警報。
皆の予感が、確信に変わる。
「おいおい....マジかよ」
殿町が額に汗を滲ませながら、乾いた声を発する。
たが――士道や殿町を含め、教室の生徒たちは、顔に緊張と不安こそ滲ませるているものの、比較的落ち着いてはいた。
士道たちは幼稚園の頃から、しつこいほどに避難訓練を繰り返しさせられていたのである。加えここは高校。全校生徒が収容できる規模のシェルターが設えられている。
「シェルターはすぐそこだ。落ち着いて避難すればいい。
「お、おう、そうだな」
殿町は士道の言葉にうなずいた。
走らない程度に急ぎ教室から出る。廊下には、もう既に生徒達が溢れ、シェルターに向かって列にを作っていた。
と――士道は眉をひそめた。
一人だけ、列とは逆方向に走って向かう女子生徒がいたからだ。
「鳶一....?」
そうスカートはためかせながら廊下を掛けていたのは、鳶一折紙だった。
「おい!なにしてんだ!そっちにはシェルターなんて――」
「大丈夫」
折紙は一瞬足を止め、それだけ言って、再び廊下を掛け出していった。
「大丈夫って....何が」
士道は怪訝そうに首を捻りながらも、殿町とともに生徒の列に並んだ。
「忘れ物でもしたのか?」
士道は折紙のことは気になったがすぐさま空間震が起こるというわけでもないためすぐ戻ってくれば間に合うだろうと士道は思った。
「お、落ち着いてくださぁーい!だ、大丈夫ですから、ゆっくりぃー!おかしですよ、おーかーしー!おさない・かけない・しゃれこうべーっ!」
と、そこに生徒を誘導している珠恵の声が響いてきた。
同時に、生徒たちの小さい笑い声が漏れ聞こえてくる。
「....自分より焦ってる人を見るとなぜか落ち着くよな」
「あー、それなんとなくわかる気がする。」
実際、なんとも頼りないタマちゃん教諭の様子に、生徒たちは不安を感じるより緊張をほぐされているように感じた。
と、士道はあることを思い起こし、ポケットから携帯電話を取り出した。
「ん、どうしたよ五河」
「いや、ちょっとな」
適当に言葉を返しながら、携帯の着信履歴から『五河琴里』の名を選んで電話をかける。
が――繋がらない。士道は何度か試すが、結果は一緒だった。
「.....駄目か。ちゃんと避難してるだろうなあいつ」
士道は脳裏に、朝琴里が言っていた言葉がエコーで渦巻く
「ま、まぁ空間震が起きても絶対約束とは言ってたけど....さすがにそこまで馬鹿では....っと、そうだ、あれがあった」
確か琴里の携帯には、GPS昨日を用いた位置確認サービスに対応していたはずである。
携帯を操作して確認すると、画面に上から見た街の地図と、赤いアイコンが表情された。
「―――ッ」
それを見て士道は息を詰まらせた。
琴里の位置を示すアイコンは、約束していたファミレスの真ん前で停止していたのだ。
「あんの、馬鹿.....ッ!」
携帯の画面を消さず携帯を閉じて、士道は生徒の列から抜け出した。そこに気づいた殿町が声をかける。
「お、おいッ、どこにいくんだ五河!」
「悪い!忘れ物だ!先行っててくれ!」
殿町の声を背に受けながら、列を逆走して昇降口に出る。そのまま速やかに靴を履き替えると、士道は転びそうなくらいに前のめりになって外へと駆け出していった。
校門を抜け、学校前の坂道を転がるように駆け下る。
「....っ、こんなんなったら、普通避難するだろうが!」
士道は、足を最速で動かしながら叫びを上げた。
――――――――――――――――――――――
雷牙side
「.....zzz」
誰もいない教室で雷牙はのんびりと昼寝をしていた。
たが、その眠りを妨げる音が雷牙を起こす。
「ふあ~たく、うるせぇサイレンだな」
そう言うと雷牙は席を立ち目を擦りながら窓を見た。
「....やっぱ来るのか頼むから家から遠いところでわくことを祈るわ」
その時雷牙の携帯から電話が掛かってきた。
「....?誰からだ?」
着信相手を確認してみるとそこには『鳶一折紙』のアイコンが映されていた。
雷牙は着信に出る。
「はーい、もしもし?」
『雷牙今どこ?』
「来禅高校の二年四組のクラス」
『何故まだそこにいるの?早くシェルターに避難して」
折紙の声は相変わらず落ち着いた声で雷牙に避難の声をかける。それついて雷牙は笑みを浮かび折紙に言葉を返す。
「...大丈夫だよ折紙俺の事は気にせず今はお前の仕事を優先的にやれいいな?」
そう言うと雷牙は最後折紙に「じゃあな」と言い残し電話を折紙の言葉を区切るように切った。
『待って、話はまだ終わって――』
雷牙はふぅー と、ため息を吐き。視界を窓に戻そうとした外に一人の少年が走りながら学校を出たのが見えた。
「あれは五河士道?何してんだあいつ?」
空間震警報が鳴っているのに何故シェルターに避難しないのか非常に気になって雷牙は窓のガラスを開けて外に飛び降り、ただの好奇心で士道を追いかけた。
「アイツに着いて行けば、何か起こりそうだな。」
そう予想した雷牙だった。だが――
「アレェ?五河士道は何処に行ったんだ?」
どうやら見失ってしまった。雷牙はどうしようかと歩きながら考え右側の道を通る次の瞬間。
ドォォォォォン
と、突然目の前にまばゆい光が包まれた。ついで、耳が痛くなるほどの爆音と、凄まじい衝撃波が雷牙を襲った。
「ッ!?やべ!」
雷牙は衝撃に吹き飛ばされ、壁に背中から激突した。
「――痛ッ ....一体なにが....!?」
目を開けるとそこには地上を消ゴムで抉られたに無くなった地面。その中心に....
少女がいたのだ。
「....あれが、精...霊」
雷牙はか細い声でそう呟いた。
朧気にしか見えないが、長い白髪と不思議な輝きを放つスカートだけは見て取ることができた。
女の子であることは間違いないだろう。
と、少女が怠そうに首を回し、ふと雷牙がいる方に顔を向けた。
「ん....?」
少女は雷牙に気づいた。少女は雷牙に気づくと腰に掛けてある武器を引き抜きそして――
「おい.....マジかよ!?」
少女が雷牙に向かって縦に武器を引き抜きその斬撃が雷牙に飛んで来たのだ。
雷牙はギリギリで回避し、崩れた瓦礫の壁にぶつかり寄りかかる。
「あぶねぇ....もう少しで死ぬところだった....!?」
一瞬だったのか、視線を外したとたんいつの間にか少女は雷牙の前にいて刀を雷牙の首に向けていた。
「い、いつの間に....っ!」
雷牙は少しでも遠くに逃げるために頭の中で逃げる策を考えた――だが。
「――貴様も.....か」
「....っ!?」
ひどく疲れたような声が、頭の上から聞こえた。
「あ――」
無意識に声が漏れる。
歳は雷牙と同じか少し下くらいだろう。
太ももまであろうかという白髪に愛らしさと凛々しさを兼ね備えた貌。
その中心には赤い水晶に様々な色を多方向から当てているかのような、不思議な輝きを放つ双眸が鎮座している。
装いは、奇妙なものだった。布なのか金属なのかよくわからない素材が、騎士のドレスのようなフォルムを形作っている。さらにその継ぎ目やインナー部分、スカートなどにいたっては、物質ですらない不思議な光の膜で構成はれていた。
そしてその手には、少女の身長より少し長い刀が握られている。
状況の異常さ。
風貌の奇異さ。
存在の特異さ。
どれも、目を引くには十分過ぎた。だけれど。嗚呼、だけど、雷牙が目を奪われた理由に、そんな不純物は含まれていなかったのだ。
「――、――」
一瞬の間。
恐怖も、呼吸すらも忘れ、少女の存在に目を釘づけられる。
それくらい。
少女は暴力的なまでに――美しかったのだ。
「――お前、は....?」
呆然と無意識に雷牙は声を発していた。
その声に少女は視線をゆっくりと下ろしてくる。
「.....名前、ね」
心地いい声音が空気を震わせた。
しかし。
「――そんなものは、ないよ」
悲しげに少女は言った。
そのとき。雷牙と少女の目が初めて交わった気がした。
ハイ、いかがでしたか?ここでオリ精霊が出ましたね。
ちょっと調子に乗りすぎて長めに作ってしまいました。次回は短めにしよう思っています。まだまだ新米ですが、これからも頑張りますのでまた読んでくれたら嬉しいです。
次回の更新は未定ですが、なるべく早く更新するつもりです。
そろそろ、貯め書きしないと....では、また次回お会いしましょう。
次回: スカウト
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第2話:スカウト
なかなか切りがいい所がないので結構書いちゃうんですよね。
ではどうぞ( ゚∀゚)つ
士道は妹を探すべく街を探索していたが突然進行方向の街並みが跡形もなく消し飛びその中心に玉座に足を掛けている少女がいた。少女は士道に玉座にある剣を引き抜きその剣を横薙ぎにブン、と振り抜いてきた。士道は回避をするが、腰が抜けてしまい壁に寄りかかる。士道は少しでも早く、少しでも遠くに逃げる考えをしていたのだが、
「――おまえもか....」
「....っ!?」
ひどく疲れたような声が、士道の頭の上から響いてきた。視覚が、一泊遅れて思考に追いつく。目の前に、さっきまで遠くにいた少女がたっていたのである。
その少女は歳は士道と同じか少し下くらいだろうか。膝まであろうかという黒髪に、愛らしさと凛々しさを兼ね備えた貌。
「――君は、は?....」
士道は少女に声を発していた。
少女はその声に反応するとゆっくりと視線を下ろしてくる。
「....名、か」
心地のいい調べの如き声音が、空気を震わせた。
しかし。
「――そんなものは、ない」
どこか悲しげに、少女は言った。
「―――っ」
その時士道と少女の目が初めて交わった気がした。それを同時に、名無しの少女がひどく憂鬱そうな――まるで、今にも泣き出してしまいそうな表情を作りながら、カチャリという音を鳴らして剣を握り直す。
「ちょっ......、待った待った!」
その小さな音に、士道は必死に声を上げた。
少女はそんな士道を見て不思議そうな目を向けてくる
「....なんだ?」
「な、何しようとしてるんだよ.....っ!」
「それはもちろん――早めに殺しておこうと」
さも当然かのこどく言った少女に、士道は顔を青くする。
「な、なんでだよ...っ!」
「なんで.....?当然ではないか」
「は――?」
予想外の答えに士道はポカンと口を開けた。
「....っそんなわけ、ないだろ」
「―――何?」
そう言った士道に、少女は驚きと猜疑と困惑の入り交じったような目を向けてきた。
だが、すぐ眉をひそめると、士道から視線を外し、空に顔を向けた。つられるように士道も目を上方にやり――
「んな...ッ!?」
これ以上にないほどの目を開き、息を詰まらせた。何しろ空には奇妙な格好をした人間数名飛んでいたのだ。
手にはミサイルを持っており、そのミサイルを士道と少女がいる方にいくつも発射してきたのだから。
「ぅ、わあぁぁぁぁぁぁぁッ――!?」
士道は思わず、叫びを上げる。
たが――数秒経っても、士道の意識ははっきりとしたままだった。
「え....?」
呆然と、声を漏らす。空から放たれたミサイルが少女の数メートル上空で、見えない手にでもつかまれたかのように静止していた。
少女は気怠げに息を吐く。
「....こんなものは無駄だと何故学習をしない」
言って少女が、剣を握っていない方の手を上にやり、グッと握る。
すると何発もミサイルが圧縮されるようにへしゃげ、その場で爆発した。それでも攻撃が止まることはない次々とミサイルの雨が撃ち降ってきた。
「――ふん」
少女は小さく息を吐くと、まるで泣き出してしまいそうな顔を作った。先ほど士道に剣を向けようとしたときと、同じ顔。
「―――っ」
その表情に士道は大きく心臓が跳ねるのを感じた。
奇妙な光景だった。少女が何者なのかわからない。上空にいる人間たちが何者なのかもまた、わからない。
だけれどこの少女が、上空を飛ぶ人間たちよりも強大な力を有していることだけは、なんとなく理解した。
けど、その力を有する最強者が。
――なんで、そんな悲しい顔をするのだろう。
「...消えろ、消えろ。一切、合切....消えてしまえ.....っ!」
そう言いながら。
瞬間――風が嘶いた。
「......っ、うわ......ッ!」
凄まじい衝撃波があたりを襲い吹き飛ばす。太刀筋の延長戦上の空に、斬撃が飛んでいく。上空を飛行していた人間たちは慌ててそれを回避し、その場から離脱していった。だが次の瞬間、別の方向から、少女めがけて凄まじい出力の光線が放たれた。
「....っ!」
思わず目を覆う
その光線はやはり少女の上空で見えない壁にでも当たったかのように書き消された。そしてその光線に続くように、士道の後方に何者かが舞い降りた。
「な、なんなんだよ次から次へと....ッ!」
もうさっきから意味が分からない。
まるで悪質な夢を見ている気分だった。だが――そこに降り立った人影を見て、士道は身体を硬直させた。
機械を着ている、とでも言うのだろうか。背には大きなスラスターがついており、手にはゴルフバッグのような形状の武器を携えていた。
士道は身を凍らせた理由は単純だった。少女の顔に、目覚えがあったのである。
「鳶一 ――折紙.....?」
今朝、殿町から教えてもらった名を呟く。そう、そのやたらメカニックな格好をした少女は、クラスメートの鳶一折紙だった。
折紙がちらと士道を一瞥する。
「五河士道......?」
ピクリとも表情を変えず。しかしほんの少しだけ、怪訝そうな色を声にのせて。
◇
雷牙side
雷牙の前に立つ白髪少女は刀を雷牙の首もとに向ける
「ちょっ.....、待て待て待て!」
雷牙は必死に声を上げた。
たが白髪少女は、不思議そうな目を向けてくる。
「.....何?」
「...何をしようとしているのかな...っ!」
「それはもちろん敵だから――早めに殺そうと」
「な、何故ですか....っ!」
「何故って.....?当然じゃない」
「だって貴方も
「え―――?」
予想外の答えに雷牙は驚いた顔で口を開ける。
「....俺が敵なわけ、ないだろ」
「―――?」
そう言った雷牙に少女は驚き質問をした。
「――質問をする。貴方は私の敵?味方?」
雷牙はその質問に戸惑ったが慌ててすぐに返した。
「.....少なくとも俺はお前の味方だ!お前に危害を加えるつもりなど毛頭ない!」
「...そう....」
雷牙が味方だと言うと少女は刀を腰にある鞘にしまう。少女は雷牙の事を味方と判断した。
雷牙はふぅーと、息を吐き地面に尻餅をついた。
「――ねぇ」
少女が雷牙に声を掛ける。
「ん?」
「どうして貴方はこの人気の無い街に一人でいるの?」
少女は不思議と思ったのだ。本来は空間震警報がなっている時、住民はシェルターに避難をするが雷牙だけシェルターに避難をしていなかったのだ。
「...んーちょっと人を追いかけてたんだけどいつの間にか見失ったんだよねぇ~」
雷牙はつい先ほどまで高校から出ていく士道を見かけ面白そうだから後をつけたのだが、道中道がいりくんでいたため見失ったのだ。
「ふーん、そう」
少女は声は素っ気ないが目は真剣に聞いていた。
「....貴方は避難しなくていいの?」
少女はシェルターを知っているような口振りで尋ねてきたのだ。
「?お前シェルターの事知ってるのか」
少女はコクンと、頷く。
「――だって私が現界すると警報がなって人が地下に避難するんでしょ?」
「...そうだけど何でそんなこと知ってるんだ?」
それは――と少女が言うとした瞬間。
近くから爆発音の音が聞こえた。
「――うぉ!派手にかましてますねぇ..」
雷牙はこの爆発音の正体が分かっていた。彼もまた関係者でもある。
「...
「――は?」
突然白髪少女が爆発音がした方向を見つめ、言葉を発していた。少女はその方向に向かおうとするが、何かを思い出したのか再び少年に方に身体を向ける。
「...ねぇ貴方、名前は?」
少女が名前を聞いてきたのだ。雷牙はいきなりだったので口をポカンと開けたがすぐに自分の名前を言う。
「――雷牙だ」
「....雷牙、ね...」
少女はさっきまで悲しい顔をしていたが雷牙の名前を聞くと何故か嬉しそうな表情をつくった。
「また、会えたらいいね。」
少女は笑顔で雷牙に再開の約束をしたのだ。雷牙は目を見開いたが、彼も少女に笑顔で言葉を返す。
「ああ、また会おうぜ!」
その言葉の最後に少女は空を飛び爆発音がした方向に向かった。
少女が去ると、ピーリリリリリという音が雷牙の携帯から聞こえてきた。雷牙は携帯をポケットからだし相手を見ると雷牙は怠そうな顔し電話に出る。
「....はいもしもし?あー...はい分かりましたそれでは」
ピッ!と、電話を切ると雷牙は背伸びをした。
「――やっぱ俺にも
雷牙は自分が走ってきた進行方向とは逆に進み電話があった
また、会えるといいな
歩きながらそう心の中で雷牙はそう思った。
◇
「.....は?な、なんだその格好――」
士道は間抜けな質問と自覚しながらも、そんな声を発する。
一気にいろんなことが起こりすぎていて、何から気にすればいいのかわからなかった。だが、折紙はすぐに士道から目を外し、ドレスの少女に向き直った。
それはそうだろう、何しろ、
「――ふん」
少女は先ほどと同じように、手にした剣を折紙に振り抜いたのだから。折紙は即座に地面を蹴ると、剣の太刀筋の延長線上から身をかわし、そのまま素晴らしい速さで少女に肉薄した。
いつの間にやら折紙の手にした武器先端には、光で構成された刃が出現している。
「――ぬ」
少女が微かに眉根を寄せ、手にしていた剣でその一撃を受け止める。
――瞬間。
少女と折紙の攻撃が交わった一点から、凄まじい衝撃波が発せられた。
それが合図だった。
「ちょ.....ッ、う、わあぁぁぁぁぁぁぁッ――!?」
その圧倒的な風圧に、士道は情けなく転がされ、塀にぶつかって昏倒した。
◇
「――状況は?」
真紅の軍服をシャツの上から肩掛けにした少女は、艦橋に入るなりそう言った。
「司令」
館長席の隣に控えていた男が、軍の教本にでも書いてあるかのような綺麗な敬礼をする。
司令と呼ばれた少女はそれを一瞥だけして、男のすねを爪先で蹴った。
「おうっ!」
「挨拶はいいから、状況を説明なさい」
苦悶、というよりは恍惚とした表情を浮かべる男に言いながら、館長席に腰を掛ける。男は、即座に姿勢を正した。
「はっ。精霊出現と同時に攻撃がされました」
「AST?」
「そのようですね」
AST。対精霊部隊精霊を狩り精霊を捕らえ精霊を殺すために機械の鎧を纏った、人間以上怪物未満の現代魔術師たち。
とはいえ――超人レベルでは、精霊に太刀打ちできないのが実状だった。それくらい精霊の力は、桁が違う。
「――確認されているのは十名。現在一名が追撃、交戦しています」
「映像だして」
司令が言うと、艦橋の大モニターに、リアルタイム映像が映し出される。繁華街から通りを二つくらい
隔てた広めの道路上で、二人の少女が巨大な武器を握りながら交戦しているのが確認出来た。
武器を打ち合うたびに光が走り、地面が割れ、建造物が倒壊する。およそ現実とは思えない光景である。
「やるわね。――でも、ま、精霊相手じゃどうしようもないでしょ」
「確かにそのとおりですが、我々が何もできていないのもまた、事実です」
司令は足を上げると、ブーツの踵で男の足を踏み潰した。
「ぐぎっ!」
男が、この上なく幸せそうな顔を作るのを無視し、司令は小さく嘆息した。
「言われなくてもわかっているわ。――見ているだけというのにも飽きてきたところよ」
「と、いうことは」
「ええ。ようやく円卓会議から許可が下りたわ。――作戦を始めるわよ」
その言葉に、艦橋にいたクルーたちが息を呑むのが聞こえる。
「神無月」
司令は軽く背もたれに身体を預けるようにすると、小さく右手を上げ、人差し指と中指をピンと立てた。まるで、煙草でも要求するように。
「はっ」
男は素早く懐に手をやると、棒付きの小さなキャンディを取り出した。速やかに、しかし丁寧に包装を剥がしていく。そして司令の隣に跪き「どうぞ」と、司令の指の間にキャンディを挟み込んだ。
司令がそれを口に放り込み、棒をピコピコ動かす。
「....ああ、そういえば肝心の秘密兵器は?さっき電話に出なかったのだけれど。ちゃんと避難しているんでしょうね?」
「調べて見ましょう――と、ん?」
男が怪訝そうに首をひねる。
「どうかしたの?」
「いえ、あれを」
男が画面を指さす。司令はそちらに目をやり――「あ」と短い声を発した。
精霊とAST要員が武器を打ち合っている横で、制服の少年が伸びていたのである。
「....ちょうどいいわ。回収しちゃって」
「了解しました」
男は、またも折りめ正しく礼をした。
だが、男はもうひとつの画面に目を向け気づくと司令に報告する。
「司令一つ報告することが...」
「何かしら?言ってみなさい」
「はっ、まずこれを」
男は艦橋のモニターに
司令は少し驚くが男に命令を出す。
「神無月貴方に任務をあたえるわこの男の住所を割り出して此処に連れて来なさい。」
「司令!彼はASTですよ!?もしも何かがあったりでもしたら――ぎゃふん!」
「あら?私の言うことにケチをつける気?いいからさっさと連れて来なさい。」
「ぐぉ....了解しました。」
男はそう言うと艦橋の自動ドアから廊下に向かった。
「...ふーん、まさかAST要員が〈ホワイト〉と対話....ね、皮肉な話だわ」
司令は少し笑みを作りとあるモニターを見ながらそんなことを言った。
――――――――――――――――――――――
雷牙side
「ふぅー良かったぁ家は無事で」
雷牙は先ほど電話があった目的地に行く前に自分の家が空間震で倒壊してないか気になって確認をしていたのだ。
「この家がなきゃお金はあるけどホームレス生活なるからいやなんだよなぁ」
そんな呑気な事を考え家の中を確認すべくドアを開けようとした時、
「雷蒼雷牙さんですね?」
後ろから声が聞こえゆっくり後ろを振り向くと横に二人の黒いボディガードがいて真ん中に軍服を纏っている長身の青年がいた。
「誰だあんた?」
雷牙は低く威嚇するような声で言う
男は動揺もせず話しをする。
「――これは失礼私は〈ラタトスク機関〉、〈空中艦フラクシナス〉の副司令官を勤めさせていただいている神無月恭平と申します。以後お見知り置きを」
「〈ラタトスク機関〉?〈フラクシナス〉?まぁどっちでもいいか、そんな組織が民間人の俺に何の様だ?」
雷牙は軽い口調で問う。
「――はい実は司令が貴方に興味を持ち、貴方をフラクシナスに連れて来るよう任務をあたえられここにきました。私たちと動向願いますか?」
「因みに聞くが拒否権は?」
「無いと言っても良いでしょう。大人しくしていただければこちらも何もしないので御安心を」
「...一つ条件がある。それを了承してくれれば行くよ」
「はい我々が出来る範囲なら」
雷牙は「それじゃ」と、条件を神無月に説目をした。
「そのフラクシナス?に行く前に天宮駐屯地に行かせてくれないか?さっきそこから出頭電話が掛かってきたからなその用事が終わってからならもちろん動向する。なに、逃げるわけじゃないからそこだけは安心してくれ」
「分かりました。ではこの〈インカム〉を持っていてください。用事が終わりましたらインカムを耳に装着して二回小突いていただくと我々がフラクシナスで回収する合図なのでお忘れなく。司令には後で伝えておきますので、ではまた後程。」
「...ああ、またな」
その後神無月と名乗る男は雷牙の前から消えた。
どうやら無駄に逃げても追いかけて来そうなので雷牙は折れたようにため息をしながら条件付きで渋々了承をしたのだ。再びドアの前に振り向き家の中に入った。
はぁ今日は何かと散々な目にあうな......
雷牙は心の中で密かに呟くのだった。
◇
――久しぶり。
頭の中に、どこかで聞いたことのある声が響く。
――やっと、やっと会えたね、○○○。
懐かしむように、慈しむように。
――嬉しいよ。でも、もう少し、もう少し待って。
一体誰だ、と問いかけるも、答えない。
――もう、絶対離さない。もう、絶対間違わない。だから、
不思議な声はそこで、途切れた。
◇
「...........はっ!」
士道は目を覚まし、
「うわッ!」
とすぐさま叫びを上げた。それはそうだ。何しろ見知らぬ女性が指で士道の瞼を開き、小さなペンライトのようなもので光を当てていたのである。
「.....ん?目覚めたね」
妙に眠たげな顔をした女は、その顔に違わぬぼうっとした声でそう言った。気絶した士道の眼球運動を見ていたらしく、妙に顔が近い。
「だ、だだだだダレデスカ」
「......ん、ああ」
女はぼうっとした様子のまま身体を起こすと、垂れていた前髪を鬱陶しげにかき上げた。
一定の距離が空いたことで、女の全貌が見取れるようになる。軍服らしき服を纏った、二十歳くらいの女である。無造作に纏められた髪に、分厚い隈に飾られた目、あとは何故か軍服のポケットから顔を除かせている傷だらけのクマのぬいぐるみが特徴的だった。
「......ここで解析官をやっている、村雨令音だ。あいにく医務官が席をはずしていてね。....まぁ安心してくれ。免許こそ持っていないが、簡単な看護くらいならできる」
「.........」
まるで安心できない。だって明らかに、士道よりも令音という女性の方が不健康そうに見えるのである。実際先ほどから、頭で小さく円を描くように身体をふらふらさせている。と、上体を起こした士道は、今の令音の言葉に引っかかりを覚えた。
「――ここ?」
言って、周囲を見回す。
士道は簡素なパイプベッドの上に寝かされていた。そしてその周りを取り囲むように、白いカーテンが仕切り作っている。まるで学校の保健室のような空間だった。ただ少し異なるのは天井だった。何やら無骨な配管や配線が剥き出しになっている。
「ど、どこですか、ここ....」
「.....ああ、〈フラクシナス〉の医務室だ。気絶していたので勝手に運ばせてもらったよ」
「〈フラクシナス〉.....?ていうか気絶って....、あ――」
そうだ、士道は謎の少女と折紙の戦闘に巻き込まれ、気を失っていたのだった。
「....え、えぇと、質問いいですか。ちょっとよくわからないことが多すぎて――」
頭をくしゃくしゃとやりながら声を発する。
しかし令音は応じず、無言で士道に背を向けた。
「あ――ちょっと....」
「.....ついてきたまえ。君に紹介したい人がいる。....気になることはいろいろあるだろうが、どうも私は説明下手でね。詳しい話はその人から聞くといい」
そう言って、カーテン を開ける。カーテンの外には少し広い空間になっていた。ベッドが六つほど並び、部屋の奥には見慣れない医療器具のようなものが置かれている。
令音は部屋の出入口と思わしき方向に向かい、ふらふらと歩みを進めていった。
が、すぐに足をもつれさせると、ガン!と音を立てて頭を壁に打ちつけた。
「!だ、大丈夫ですか!」
「.....むう」
一応倒れはしなかったらしい。令音が壁にもたれかかるようにしながらうめく。
「.....ああ、すまんね。最近少し寝不足なんだ」
「ど、どれくらい寝てないんですか」
士道が問うと、令音は考えを巡らせる仕草を見せてから、指を三本立ててきた。
「.....三日。そりゃ眠いですよ」
「.....三十年、かな?」
「ケタが違ぇ!」
明らか的に、彼女の外見年齢を越えているのだ。
「.....まぁ、最後に睡眠をとった日が思い出せないのは本当だ。どうも不眠症気味でね」
「そ、そうですか.....」
「.....と。ああ、失礼、薬の時間だ」
と、令音は、突然懐を探ると、錠剤が入ったピルケースを取り出した。そしてピルケースを開けると、錠剤をラッパ飲みの要領で一気に口の中に放り込んだ。
「っておいッ!」
思わずツッコミを入れる。
「....なんだね騒々しい」
「いや、なんて量を飲んでるんですか!ていうか何の薬ですか!?」
「.....全部睡眠導入剤だが」
「それ死ぬッ!さすがに洒落になれねぇ!」
「....でもいまひとつ効きが悪くてね」
「どんな身体してるんですか!」
「....まぁでも甘くて美味しいからいいんだがね」
「それラムネじゃねぇの?!?」
ひとしきり叫んでから、士道は「はぁ」とため息を吐いた。
「.....とにかく、こっちだ。ついてきたまえ」
空っぽになったピルケースを懐に戻してから令音はまたも危なっかしい足取りで歩みを進め医務室の扉を開ける
「――っとと」
士道は慌てて靴を履くと、そのあとを追って部屋の外に出た。
「....ここだ」
機械的な通路の突き当たり、横に小さな電子パネルが付いた扉の前で足を止め、令音が言った。
次の瞬間、電子パネルが軽快な音を鳴らし、滑らかに扉がスライドする。
「......さ、入りたまえ」
令音が中に入っていく。士道はそのあとに続いた。
「......っ、こりゃあ.....」
そして、扉の向こうに広がっていた光景に、目を見開く。一言で言うと、船の艦橋のような場所だった。士道がくぐった扉から、半楕円の形に床が広がり、その中心に艦長席と思しき椅子が設えられている。さらに左右両側になだらかな階段が延びており、そこから下りた下段には、複雑そうなコンソールを操作するクルーたちが見受けられた。全体に薄暗く、あちこちに設えられたモニターの光が、いやに存在感を主張している。
「.....連れてきたよ」
令音が、ふらふらと頭を揺らしながら言う。
「ご苦労様です」
艦長席の横に立った長身の男が、執事のような調子で軽く礼をする。ウェーブのかかった髪に、日本人離れした鼻梁。耽美小説にでも出てきそうな風貌の青年だった。
「初めまして。私はこの副司令、神無月恭平と申します。以後お見知り置きを」
「は、はぁ....」
頬をかきながら、小さく頭を下げる。
士道は一瞬、令音がこの男に話しかけたのだと思った。
だが――違う。
「司令、村雨解析官が戻りました」
神無月が声をかけると、こちらに背を向けていた艦長席が、低いうなりを上げながらゆっくりと回転した。
そして。
「――歓迎するわ。ようこそ、〈ラタトスク〉へ」
『司令』なんて呼ばれるには少々可愛すぎる声を響かせながら、真紅の軍服を肩掛けにした少女の姿が明らかになった。
大きな黒いリボンで二つに括られた髪。小柄な体躯。どんぐりみたいな丸っこい目。そして口にくわえていたチュッパチャプス。
士道は眉をひそめた。だって、それはどう見ても――
「......琴里?」
そう、格好、口調それに全身から発する雰囲気など、違いは数あれど、その少女は間違いなくつい先ほどまで探していた士道の可愛い妹・五河琴里だった。
◇
「――五河、士道」
小さな、誰にも聞こえないくらいの声を発し、折紙は頭の中に彼の顔を思い浮かべた。間違えなく、
今折紙はそれ以上に、気になることがあった。
「なぜ、あんなところに」
空間震警報の鳴り響く街に、なぜ彼が出ていたのかがわからなかった。
それに――彼は間違えなく目にしていた。特殊兵装を纏った折紙の姿と――精霊を。
「鳶一
「――――」
突然響いた整備士の声に、折紙はふっとうつむかせていた顔を上げた。そしてすぐさま、頭の中に浮遊の指令を発現をさせる。
するとその指令は折紙が身に纏っていた
陸上自衛隊・
その一角に位置する格納庫で、折紙は整備士の誘導に従いながら、自分の専用ドックに腰掛けるように着地し、武器を定位置に納めると、ようやく息を吐いて全ての
それと同時に、今まで
CR-ユニットを使用したあとは
三十年前の大空災の折、人類が手にした奇跡の技術・
コンピューター上の演算結果を、物理法則を歪めて現実世界に再現する。要は、制限付きではあるものの、想像を現実にする技術である。科学的な手段を
そして同時に――人間が精霊に、
「―――」
折紙は、細く息を吐くと同時、少し上にやった。
今日の戦闘を思い起こす。
――世界を殺す災厄・精霊超人たる折紙たちが幾人束になろうとも、傷一つつけることが叶わない異常。どこからともなく現れ、気まぐれに破壊を撒いていく、天災的怪物。
「.........」
結局今日の戦闘も、精霊の
「........っ」
表情はぴくりと動かさず。けれど、折紙は奥歯を強く噛み締めた。
「折紙」
と、そこで格納庫の奥から響いたきた声に、折紙は思考を中断させられた。
「.........」
無言で、そちらを向く。まだ身体が慣れていないのか、首がずっしりと重かった。ワイヤリングスーツに搭載されている
この領域がCR-ユニットの要だ。
だから逆に、CR-ユニット使用後は少しの間、身体が思うように動かせなくなるのである。
「ご苦労さん」
そこには、折紙と同じくワイヤリングスーツを着込んだ、二十代半ばくらいの女とを来禅高校の制服を着ている男が腰に手を当てて立っていた。
それと横にいるもう一人は折紙と同い年で黒髪、赤目の中性的の少年折紙唯一つの幼馴染である
「よく一人で
「『撃退なんて、してない』って思ってんだろ折紙?」
雷牙が折紙の心を読み取ると、折紙は肩をピクッと震わせた。どうやらあたっていたらしい。雷牙そう言うと、燎子は肩をすくめた。
「上への報告はそうしとかなきゃなんないのよ。ちゃんと成果出てますってことにしとかなきゃ予算が下りないの」
「.......」
「そう怖い顔をすんじゃないの。雷牙だってあんたのことを褒めてるんだから。エースが席を空けている状況で、よく頑張ってくれてるわ。あんたがいなきゃ死んでた人間も、もう一人や二人じゃ済まないでしょうよ」
燎子はそう言って、ふうと息を吐く。
「ただねぇ」
燎子は視線を尖らせると、折紙の頭を掴んで自分に向けさせた。これを見た雷牙は、やれやれと腕を曲げる。
「あんたは少し無茶しすぎ。――そんなに死にたいの?」
「........」
燎子は折紙に鋭い視線を向けたまま言葉を続けた。
「あんた、自分がどんな怪物相手にしているか本当にわかって戦ってるの?あれは化物よ。知能を持ったハリケーンよ。――いい?できるだけ被害を最小限に抑えて、できるだけ早く
「――違う」
折紙は燎子の目をまっすぐ見つめ返すと、小さく唇を開いた。
「精霊を倒すのが、ASTの役目」
「.........」
「――私は、精霊を、倒す」
「..........」
燎子は息を
「.....別に、個人の考えに口を出すつもりはないわ。好きに思ってなさい。――でも、戦場で命令に背くようなら、部隊から外すわよ」
「了解」
折紙は短く答えると、ようやく馴染んだ身体を起こし、歩いていった。
◇
雷牙side
「あんなこと言っていいんすか?隊長」
折紙が歩いている後ろ姿を見ながら燎子に言う。
「いいのよそんぐらい。今の内に釘を刺しとかないと後々扱うのが難しくなるからね」
雷牙は興味なしに「ふーん」返す。
「因みにあんたにも言えるからね?」
「はて?何の事やら」
「誤魔化しても駄目よ。折紙から聞いたわ、あんた、空間震警報鳴ってても学校のシェルターに避難しなかったんですって?」
雷牙は少し頬に汗を少し垂らす。
燎子は小さくはぁとため息を吐く。
「まぁ無事だったから良かったけど、もし怪我をして病院送りになったら折紙が黙ってないわよ?そこんとこだけ考慮しなさい。あんたと折紙は
「.......」
雷牙は何も言わずコクンと、頷く。
「分かったのならいいわ。こっちもあんたがいなくなるとCR-ユニットの作業効率が悪くなるからそこだけ忘れないで」
「善処します。」
雷牙はそう言うと、何処かに行こうとする。
「どこ行くの?」
「家に帰るんすよどうせ俺がいなくてもそこまで状況が悪いようじゃなさそうですし」
「そう...気をつけて帰りなさい。」
雷牙はそれを聞くと「では」と手を降り駐屯地から外にでた。
外に出て近くにある路地裏に入ると制服のポケットからインカムを取り出し左耳に装着して、二回インカム小突く。
その瞬間。
雷牙の身体がいきなり浮遊感に包まれ、目を開けると、さっきの路地裏ではなくテレポーターみたいな所にいた。
その前に自動ドアあったため中に入ると、そこにはまるで宇宙戦艦みたいな艦橋があった。その艦長席に小柄な少女が座っていたのだ。
「ようこそ、〈フラクシナス〉へ歓迎するわ雷蒼雷牙」
◇
数分前
「――で、これが、精霊って呼ばれてる怪物で、こっちがAST。陸自の対精霊部隊よ。厄介なものに巻き込まれてくれたわね。私たちが回収してなかったら、今頃二、三回くらい死んでたかも知れないわよ?で、次に行くけど――」
「ちょ、ちょっと待った!」
ペラペラと説明を始めた琴里を制するように、士道は声を上げた。
「何どうしたのよ。せっかく司令官直々に説明してあげているっていうのに。もっと光栄に咽び泣いてみせなさいよ。今なら特別に、足の裏くらい舐めさせてあげるわよ?」
軽くあごを上に向け、士道を見下すような視線を作りながら、琴里らしからぬ暴言を吐いてくる。
「ほ....ッ、本当ですか!?」
喜び勇んで声を上げたのは、琴里の横に立った神無月だった。琴里が即座に、「あんたじゃない」と鳩尾に肘鉄を放つ。
「ぎゃぉふッ....あ、ありがとうございます.....」
そんなやりとりを眺めてから、士道は呆然と口を開いた。
「....こ、琴里....だよな?無事だったのか?」
「あら、妹の顔を忘れたの、士道?物覚えが悪いとは思っていたけど、さすがにそこまで予想外だったわね。今から老人ホームを予約しておいた方がいいかしら」
士道は頬に汗をひとすじ垂らした。ついでにほっぺをつねってみると、痛かった。
「.....なんかもう、意味がわからなすぎて頭の中がワニワニパニックだ。おまえ、何してんだ?ていうかここ、ドコだ?この人たち、何だ?それに――」
「落ち着きなさい。まずこっちから理解してもらわないと、説明のしょうがないのよ」
そう言って琴里が、艦橋のスクリーンを指さす。
そこには、先刻士道が遭遇した黒髪の少女と機械の鎧を纏った人間たちが映しだされていた。
「ええと......精霊.......って言ったっけ?」
「そ。彼女は本来この世界には存在しないモノであり――この世界に出現するだけで、己の意思とは関係なく、あたり一帯を吹き飛ばしちゃうの」
琴里が両手をドーン!と広げ爆発を表現する。
士道は頬に手をあてて渋面を作った。
「.....悪い、ちょっと壮大すぎてよくわかんね」
すると、琴里が「ここまで言ってもわからない?」と肩をすくめながら吐息した。
「空間震、って呼ばれてる現象は、彼女みたいな精霊が、この世界に現れるときの余波だって言ってるのよ」
「な――」
士道は思わず眉根を寄せた。空間の地震。空間震。
人類を、世界を蝕む理不尽極まる現象。
その原因が、あの少女だというのか――?
「ま.......規模はまちまちだけどね。小さければ数メートル程度、大きければ――それこそ、大陸に大穴が開くくらい」
琴里が、両手で大きな輪を作る。
三十年前確認された最初の空間震――ユーラシア大空災のことを言っているのだろう。
「運がいいわよ士道。もし今回の爆発規模がもっと大きかったら、あなた一緒に吹っ飛ばされてたかも知れないんだから」
「.....っ」
「だいたい、なんで警報発令中に外出てたの?馬鹿なの?死ぬの?」
「いや....だっておまえ、これ」
士道はポケットから携帯電話を取り出すと、琴里の位置情報を表示させた。やはり、琴里のアイコンはファミレスの前で停止している。
「ん?ああ、それ」
しかし琴里は、懐から携帯電話を取り出して見せた。
「あ.....?なんでおまえ、それ」
「簡単よ。ここがファミレスの前だから」
「は.....?」
「ちょうどいいわ。見せた方が早いでしょ。――一回フィルター切って」
琴里が言うと、薄暗かった艦橋が一気に明るくなった。
事実――あたりには青空が広がっていた。
「な、なんだこりゃ....ッ」
「騒がないでちょうだい。外の景色がそのまま見えてるだけよ」
「外の景色って....これ」
「ええ。ここは天宮市上空一万500メートル。――位置的にはちょうど、待ち合わせしてたファミレスのあたりになるかしらね」
「ここ、って....」
そう。この〈フラクシナス〉は、空中艦よ」
琴里は腕組みし、ふふんと鼻を鳴らす。
「く、空中艦ん....っ?なんだよそりゃ。なんでおまえがそんなのに――」
「だから順を追って説明するって言ってるでしょう?鶏だって三歩歩くまでは覚えてるでしょうに」
「む....」
「.....でも、ケータイの位置確認で調べられちゃうなんて盲点だったわね。
琴里が、よくわからない単語を呟きながらあごに手を置く。
「な、何を言ってるんだ?」
「ああ、気にしないで。そこまで士道に期待していないから。グラム当たりの値段でいったら毛蟹に負けるくらいの脳だものね」
「.......」
「司令。蟹味噌は脳ではなく中腸線です。」
士道が頬に汗を垂らしていると、神無月が穏やかな声でそう言った。
「.......」
琴里はちょいちょい、と手招きをすると、神無月に腰を折らせた。そしてその目に向けて、プッ、と舐め終わったキャンディの棒を吹き出す。
「ぬぁォうッ!」
目元を押さえ、神無月が後方へ転がった。
「だ――大丈夫ですかッ!」
すがに洒落にならない。士道は声を上げた。しかしその場に駆け寄ろうとしたところで足を止める。床に転がった神無月が恍惚とした表情で懐からハンカチを取り出し、今し方琴里が放ったキャンディの棒を丁寧に包み込んでいた。
「おっと、心配させてしまいましたか?大丈夫、我々の業界ではご褒美です!」
言って、神無月がピョンと立ち上がり、完璧な直立姿勢を作る。どんな業界だろうか。あまり深くは知りたくなかった。
「神無月」
「はっ」
琴里が指を二本立てると、神無月が代わりの飴を取り出し、手渡した。
「それと、次はこっちね。AST。精霊専門の部隊よ」
言って、琴里がスクリーンに映しだされていた一団を示す。
「.....精霊専門の部隊って――具体的には何をしているんだよ」
士道が問うと、琴里は当然と言うように眉を上げた。
「簡単よ。精霊が出現したら、その場に飛んでいって処理するの」
「処理.......?」
「それは
「...彼?」
そう士道が言うと後ろの自動扉がスライドする。
琴里は「来たわね」と言い艦長席を後ろを向く。
士道もそれに釣られて後ろを見ると士道は目を大きくめ開くそう、そこには―――
「ようこそ、〈フラクシナス〉へ歓迎するわ雷蒼雷牙」
ここにはいるはずのない士道のクラスメート雷蒼雷牙がいたのだ。
「...な、何で雷蒼がここにいるんだよ!」
士道は驚いた声で琴里に問う。
「それは私が直々にスカウトしたのよ。」
「....スカウト?」
「ええ。ま、まだ彼に了承貰ってないから今言うんだけどね」
琴里はコホンと、話を戻した。
「んじゃ、初めまして、私はここ〈フラクシナス〉の司令官をしている。五河琴里よさっそくで悪いのだけど」
琴里は言葉を区切って真剣な眼差しで雷牙を見て言う。
「単刀直入に言うわ雷蒼雷牙私たち、〈ラタトスク機関〉に入ってもらえないかしら?」
それを聞くと雷牙は、一瞬にして体が凍ったような感じがした。
ハイ如何でしたか?雷牙君遂にオリ精霊とラタトスクに接触しましたね。
次回は本当に短くにするつもりなので、宜しくお願いします。
ではまた次回にお会いしましょう。
次回:訓練
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第3話:訓練
今回も長めです。
もう短くかけなくてもいいや
ではどうぞ。。(〃_ _)つ
「...はぁ?」
雷牙は困惑したいきなり知らない場所に来させられてよくわからない組織に仲間になれと言われたのだ。
「その前に質問いいか?」
「いいわよ。どうせ理解してもらわないと話が進まないしね」
雷牙は息を整え琴里に質問をした。
「どうして
そう言うと琴里は艦橋のモニターにあるものを表示させた。雷牙はそれを見て驚く。
そこには、つい先程出会った白髪少女と話をしている雷牙の姿があった。
「これが答えよ分かってもらえたかしら?」
「......」
雷牙はコクリと、小さく頷いた。 琴里は雷牙に「だけど」と雷牙に返す。
「貴方を呼んだのはもう一つあるの」
「....どうゆう事だ?」
「貴方の力を見込んで士道の護衛をしてほしいの」
雷牙はポカンと口を開ける。琴里はそのまま話しを続ける。
「貴方の経歴は見たわ驚くようなものばっかだけど」
「俺の経歴を見てどうする?確かに得することはあるけど。だが、俺とあんたらは敵だろ?」
琴里は「はぁ」と息を吐くと呆れたように口を開く。
「まだわからない?貴方の力で精霊を
「精霊を救う?」
雷牙は琴里の言葉に理解が出来なかった。
それはそうだ雷牙はAST精霊を殺す為の部隊雷牙にとってはそれは初めて言葉を覚えたような気分だった。
「確かに貴方が所属しているASTは現場にいってこれをぶっ殺すんでしょうけど」
AST。通称アンチ・スピリット・チームは精霊を殺すことに専念を置いている。だからこそ雷牙はこの武力を以て行使をするやり方しか知らないのだ。
だが、琴里は人差し指を立てて「もうひとつあるの」と言う。
「私達ラタトスクは精霊と、対話する方法。つまり精霊を殺さず空間震を解決するために結成された組織よ」
「.......」
雷牙は眉をひそめて考えを巡らせた。その組織とはなんなのか、気になることはたくさんあったが――とにかく、今もっとも気にせねばならないことを口に出す。
「....で、なんでその組織が俺の力を見込んで士道の護衛するって話に繋がるんだよ」
「そうね、簡単に言うなら〈ラタトスク〉っていうのは、そこにいる士道のために作らされた組織だから」
「「は、はぁ......ッ!?」」
士道と雷牙は今まで一番盛大に表情を崩すと、素っ頓狂な声を上げた。それを聞いた士道は口を開く。
「ちょっと待て。今まで以上に意味がわからん。俺のため?」
「ええ。――まぁ、士道と補助 兼 護衛役の雷牙を精霊との交渉役に据えて、精霊問題を解決しようって組織って言った方が正しいのかもしれないけれど。どちらにせよ、雷牙がいても士道がいなかったら始まらない組織なのよ」
「ま、待てって。どういうことだよ。この人たちが、全部そんなことのために集められたってことか?ていうかなんで俺なんだよ」
士道が問うと、琴里はキャンディを口の中で転がしながらうなった。
「んーまぁ、士道は特別なのよ」
「説明になってねぇぇぇぇぇ!」
たまらず、叫ぶ。
しかし琴里は不敵に笑うと、肩をすくめる仕草を見せてきた。
「まぁ、理由はそのうちわかるわ。いいじゃない。私たちが、全人員、全技術を以て士道の行動を後押ししてあげるって言ってるのよ?それとも――また一人で何の用意もなく精霊とASTの間に立つつもり?死ぬわよ、今度こそ」
琴里が半目を作り、冷淡な口調で言ってくる。士道は思わず息を呑んだ。
確かに琴里の言うとおりである。士道は理想と希望を唱えているだけで、それを実現させる手段を持っていない。
言いたいことはのどの奥からあふれ出るほどにあったが、なんとかこらえて、話を進める問いのみ発する。
「....その、対話ってのは、具体的何するんだよ」
言うと、琴里は小さく笑みを浮かべた。
「それはね」
そしてあごに手を置き、
「精霊に――
.......。
「......はい?」
士道は、頬に汗をひとすじ垂らし、眉をひそめた。雷牙はその事について口を開く。
「......すまん、意味がわからん」
「だから、精霊と仲良くお話ししてイチャイチャしてデートしてメロメロにさせるの」
さも当然のこどく言う琴里に士道と雷牙は頭を抱えた。
士道は琴里に質問をする。
「.....ええと、それで何で空間震が解決するんだ?」
琴里は指を一本あごに当てながら「んー」と考えるような仕草を見せたあと、
「武力以外で空間震を解決しようとしたら、要は精霊を説得しなきゃならないわけでしょ?」
「「そうだな」」
「そのためにはまず、精霊に世界を好きになってもらうのが手っ取り早いじゃない。世界がこんなに素晴らしいものなんだー、ってわかれば精霊だってむやみやたらに、暴れたりしないでしょうし」
「「なるほど」」
「で、ほら、よく言うじゃない。恋をすると世界が美しく見えるって。――というわけでデートして、精霊をデレさせなさい!」
「「いや、その理屈はおかしい(だろ)」」
明らかに論理が飛躍している。士道は頬に汗を垂らしながら言った。
「おッ、俺はそういうやり方じゃなくてだな.....」
「五河に一票だ確かにこれはあまりにもリスクがおおす――」
「黙りなさいこのフライドチキンとイノシシ頭」
士道と雷牙が反論しかけると、琴里を有無を言わせぬ強い口調で遮ってきた。
「ASTが精霊殺すの許せましぇ~ん、もっと他に方法があるはずでちゅ~、でも〈ラタトスク〉のやり方はイヤでちゅ~......って?甘えるのも大概にしなさいよこのミイデラゴミムシ一号、二号。士道と雷牙二人で何が出来るっていうの?身の程を知りなさい」
「ぐ、ぬ.....」
「......」
「――腹の底では全部賛同してなくったっていいわ。でもあなたたちがもし精霊を殺したくないっていうのなら.....手段は選んでいられないんじゃないの?」
なんともまぁ、悪そうな笑みを琴里が浮かべる。
実際、その通りだった。
なんの力もない士道と少しだけある雷牙が後ろ楯もなくもう一度あの精霊の少女と話がしたいと願っても、まず叶うはずもない。
ASTのやり方は雷牙と士道だって論外と思ってる――琴里たちだって、要は精霊に籠絡していいように利用しようとしているようにしか思えない。
だけれど――他に方法がないのも事実だった。
「.....っ、わかったよッ」
「士道はこう言ったけれど貴方はどうするの?雷牙」
「......」
雷牙は黙っていた。彼はASTに所属している身、精霊と戦う部隊と精霊と対話する組織は交わらないのだ。そう雷牙はどっちかを裏切らないといけなかった。その事について琴里は雷牙に提案をだす。
「そこまで深刻に考えなくてもいいのよただ貴方はスパイみたいな事をしてくれればいいのよ報酬はいくらでもだすわさぁどうする?」
琴里がそう言うと雷牙は驚いたが、少しだけ笑みを浮かべる雷牙は覚悟を決めたのだ。たとえAST要員でもあの少女にまた会う約束をしたのだそれを裏切りたくはなかった。雷牙は最初に出会ったあの少女の悲しい顔はもう見たくなかった彼は遂に答えをだす。
「......分かったこちらこそ宜しく頼む」
雷牙が了承の答えをだすと、琴里は満面の笑みを作った。
「――よろしい。今までのデータから見て、精霊が現界するのは最短でも一週間後。早速明日から訓練よ」
「「は......?くんれん.....?」」
士道と雷牙は呆然と呟いた。
◇
そして、次の日。
士道は折紙に手を掴まれ、教室を出ていく。
後方では殿町たちと男子生徒がポカンと口を開け、女子の集団が何やらキャーキャーと騒いでいた。
机に寝ていた雷牙は奇声音がうるさく寝れずにいた。
「(またあらぬ噂が流れるな.....頑張れよ士道....)」
雷牙が士道の事を下の名前で呼ぶようになった理由は昨日フラクシナスで士道と出会ってお互い自己紹介しあってから、雷牙の名字の雷蒼が呼びづらいためお互い信頼の証しとして下の名前で呼ぶ合うことになった。
そんな士道の精神的なダメージの無事を祈りながら雷牙は士道に親指をグッと、上げる。そんな中、雷牙の携帯にメールが届いていた。
「ん?誰からだ....げっ!?」
雷牙は携帯のメールを見るとそこには『鳶一折紙』と書かれてあった。その内容を見てみる。
『放課後、屋上の扉前に来て。』
と、書いてあった。雷牙には心当たりがあった。そう昨日の空間震の時雷牙はシェルターに避難しなかったのだ。自分はAST要員であって、部隊の隊員ではないのだ。
雷牙のASTでの役割は整備士で、
「昨日何か言われるんだろうなと思ったがまさか今日だったとは、頼むから心の準備だけさせて欲しかったぜ...」
◇
「.....ふぃぃ.....」
士道は折紙の背が見えなくなってから、壁に背をついて息を吐いた。士道は先ほど折紙に昨日の事について話をされていた。自分と精霊については誰にも公開しないでほしいと言われたのだ。
「両親が、精霊のせいで死んだ――か、」
ゴン、と壁に頭をつけ、呟くように言う。
そう折紙は五年前に両親を精霊に殺されたのだ。
その為に折紙はASTに入ったのだろう。世界を殺す災厄とさえ呼ばれる精霊だ。そういうことも――あるのだろう。
「....やっぱり、俺が甘いだけなのかね....」
はぁ、と息を吐く。と、士道が階段を下りて教室に戻ろうとしたとき――
◇
「......」
雷牙はこの状況を理解出来なかった。突然廊下の方から女子生徒の悲鳴が聞こえ駆けつけてみるとそこには自分には見覚えある女性が廊下で倒れていた。士道も途中から来たので雷牙は状況を確認すべく女子生徒に話を聞いた。
「どうしたんだこれ?」
「し、新任の先生らしいんだけど....急に倒れて.....っ!」
呟くと、女子生徒があたふたしながらそう返してきた。
「よくわかんねぇけど、とにかく保険の先生を―――」
士道が言いかけると、倒れていた白衣の女性がガシッ、と士道の足を掴んだ。
「う、うわぁっ!?」
「.....心配はいらない。ただ転んでしまっただけだ」
「いや心配ありだろ....」
雷牙はツッコミをいれたが、女は廊下にべったりつけていた顔面を、ゆらりと上げる。
「あ、あんたは.....!」
士道は気づいたのだろう。長い前髪に、分厚い隈。眼鏡なぞかけていたが、その特徴的な顔を二人は忘れるはずがない。
「.....?ああ、君たちは――」
〈ラタトスク〉の解析官・村雨令音が、のろのろと身を起こす。
「な、何してるんですか、こんなところで....」
「士道の言うとおりだ。どうしているんですか村雨解析官」
「.....見てわからないかい?教員としてしばらく世話になることにしたんだ。ちなみに教科は物理、二年四組の副担も兼任する」
白衣の胸につけていたネームプレートを示しながら、令音がいってくる。ちなみに、そのすぐ上の胸ポケットからは、傷だらけのクマさんが覗いていた。
「ほぇーそれは初耳だ士道お前知ってたか?」
「いや、わかるはずないでしょうがっ!」
叫び――士道はそこで、異様に周囲の視線が集まってしまっていることに気づいた。
「あ.....こ、この人大丈夫みたいだから」
言って手を差し伸べ、令音を立ち上がらせる。この後雷牙にクスクスと笑われたのは気のせいだろう。
「....ん、悪いね」
「それはいいですけど、歩きながら話しましょう」
あたりに気を払いながら、士道はいった。
「ええと――村雨解析官?」
「....ん、ああ、令音で構わんよ」
「は?」
「.......私も君たちを名前で呼ばせてもらおう。連携と協力は信頼から生まれるからね」
「え、マジかよし!んじゃ早速呼ばせてもらいますわ!」
雷牙は何かに解放されたように笑顔になる。
令音はうんうんとうなずき、士道と雷牙の顔を見た。
「ええと、君たちは....しんたろうとライ、だったかな」
「し、しか合ってねぇ!」
「俺は名前というよりあだ名だな」
信頼も何もなかった。
「さてシン、ライ、早速だが」
「なんですかその華麗なスルーは!ていうか変な愛称までつけた!雷牙も令音さんに何か言ってくれ!」
「いや別にいいんじゃね?俺は気に入ってるから」
「ここに味方なんていなかった!」
たまらず叫ぶ。しかし令音は、士道の言葉など聞いていない様子で続けてきた。
「....昨日琴里が言っていた強化訓練の準備が整った。君たちを捜していたところだ。ちょうどいい、このまま物理準備室に向かおう」
士道はもう何を言っても無駄とつっこみを諦め、はぁ息を吐いて問い返した。
「訓練ってのは一体どんなことするんですか?ええと.....令音さん」
「......うむ。琴里に聞いたが、シン君は女の子と交際をしたことがないそうじゃないか」
「え?士道お前まじかよプークスクス」
「じゃあお前はあるのかよ!」
士道は雷牙の笑いにキレ言い返す。だが、雷牙はこう返した。
「え?ないけど」
「.....」
その空気に令音は口を開く。
「.....別に責めているわけじゃあない。身持ちが堅いのは大変結構なことだ。....だが、雷牙も言えるが精霊を口説くとなるとそうも言っていられないんだ」
「「むう.....」」
二人は眉根を寄せながら、うめく。
と、職員室の近くを通ったとき士道と雷牙は奇妙なものを目にして立ち止まった。
「......どうかしたかね?」
「いや、あれ....」
「......」
視線の先を、担任のタマちゃん教諭が歩いていたのだが――その後ろに、どうも見覚えのある、髪を二つ結びにしたちっこい影がついて回っていたのである。
「あ!」
士道の視線に気づいたのだろうか、ちっこい影――琴里が表情をパァッと明るくした。
「おにーちゃぁぁぁぁぁん!」
瞬間、琴里が吸い込まれるように士道の腹に突撃してくる。
「はがぁ......っ!」
「あははは、はがーだって!市長さんだ!!あはははは!」
「こ、琴里......っ!?おまえなんだって高校に.....」
「え....士道。コイツ司令官なのか!どうみたってリボンの色も変わってるし、性格も違うじゃないか!?」
「安心しろ本来俺が知ってる琴里はこっちだ!!」
士道が困惑している雷牙に腹にまとわりつく琴里をどうにか引き剥がしながら言うと、琴里の後ろからタマちゃん教諭が歩いてきた。
「あ、五河くん。妹さんが来てたから、今校内放送で呼ぼうとしてたんですよぅ」
「は、はぁ」
よく見ると、琴里は来賓用のスリッパを履き、中学の制服の胸に入校証をつけていた。
手続きを踏んで学校に入ってきたらしい。
「先生、ありがとー!」
「はぁい、どういたしましてぇ」
元気よく手をブンブンと振る琴里に、タマちゃん先生がにこやかに返す。
「やー、可愛い妹さんですねぇ」
「はぁ.....まぁ」
士道は頬に汗を垂らして苦笑しながら、曖昧な返事をした。
タマちゃん先生は琴里に笑顔で「バイバイ」と手を振ると、職員室の方に歩いていった。
「.......で、琴里」
「んー、なーに?」
琴里が、丸っこい目を見開きながら首を傾げてくる。
その仕草(雷牙は知らない)は、士道のよく見知ったいつもの可愛い妹のものだった。
「おまえ....昨日の〈ラタトスク〉とか、精霊とか――」
「その話はあの部屋に行ってからしよーよ」
琴里が指を指した方角をみるとそこには物理準備室があった。
「さ。入ろー、入ろー♪」
「ハイ・ホー、みたいに言うんじゃねぇよ」
琴里に促され、士道はスライド式のドアを滑らせた。そしてすぐに、眉根を寄せて目をこする。
その次に驚いたような声で士道に訪ねる。
「....なぁ、士道これって.....」
「.....ちょっと」
「.....何かね?」
士道の言葉に、令音が小首を傾げた。
「なんですか、この部屋」
物理準備室なんて、生徒がそうそう入る場所ではないし、実際、士道と雷牙も中に何が置かれているかなんて知らない。
それでも、二人ははっきりと認識できてしまった。
――ここは、物理準備室ではない、と
何しろ二人の視界にはいくつものコンピューターにディスプレイ、その他見たこともない様々な機械で埋め尽くされていたのだから。
「......部屋の備品さ?」
「いやなんで疑問形なんですか!ていうかそれ以前に、ここ物理準備室でしょう?もといた先生はどうしたんですか!」
「あ、それ俺も思った」
そう。ここはもともと、善良で目立たない初老の物理教諭・長曽我部正市(通称・ナチュナルボーン石ころぼうし。雷牙はナチュナルと呼んでいる)がトイレ以外で唯一安らげる空間だったはずなのだ。
そのナチュナル教諭の姿がどことも見えない。
「......ああ、彼か。うむ」
令音があごに手をやり、小さくうなずく。
「..........」
「.........」
「.........」
「........」
「.........」
そのまま、数秒が過ぎた。
「.....まぁそこで立っていても仕方ない。入りたまえ」
「うむ、の次は!?」
「ナチュナル教諭.....あんたは言いやつだったよ」
令音の頭上に何かが見えた気がした。何というスルー力。
令音は先に部屋に入ると、部屋の最奥に置かれていた椅子に腰掛けた。
次いで、士道の脇から琴里が部屋に入っていく。そして、慣れた様子で白いリボンで括られていた髪をほどくと、ポケットから黒いリボンを取り出し、髪を結び直す。
「ふぅ――」
するといきなり、琴里の雰囲気が変わった気がした。どこか気怠げに制服の首元を緩め、令音の近くの椅子にどっかと座り込む。
そして琴里は、持っていた鞄から小さなバインダーのようなものを取り出した。中には綺麗に、様々な種類のチュッパチャプスが並べてセットしてある。まさかの飴玉専用ホルダーである。
琴里はその中から一つを選び、口に入れると、未だに部屋の入り口にたちつくしていた二人に、見下すような視線を向けてきた。
「いつまで突っ立ってるのよ、二人とも。もしかしてカカシ志望?やめときなさい。あなた達の間抜け面じゃあ、カラスも追い払えないと思うわよ。ああ、でもあまりの気持ち悪さに人間はよってこないかもしれないわね」
「以外と少しズキッとくるな....」
「.........」
一瞬のうちに女王様に変貌した琴里を見て、士道は額に手を置いた。
「....琴里、おまえどっちが本性なんだ...?」
「嫌な言い方するわね。そんなんじゃ女の子にもてないわよ。――ああ、だからまだ童貞だったんだっけ。ごめんなさいね初歩的なことを指摘して」
「....おい」
「統計だと、二十二歳までに女性と交際できなかった男の半数以上は、一生童貞らしいわ」
「まだ五年以上猶予があるわ!未来の俺を舐めるなよ!」
「猶予と可能性ばかり口に出す人間は、結局『明日から頑張る』しか言わないのよね」
「ぐ.....」
口喧嘩ではまず敵わないと悟り、ぐっと堪えてドアを閉める。 雷牙はヒューと、口笛で驚いていた。
「......さ、ともかくシン、ライ。訓練を始めよう。ここに座りたまえ」
「.....了解」
「うぃー」
二人は琴里と令音にはさまれるように設えられている椅子に座る。
「さ、じゃあ早速調きょ......訓練を始めましょう。
「てめ今調教って言おうとしたな」
「本当この司令Sっ毛あるな絶対」
「雷牙失敬ね気のせいよ。――令音」
「.....ああ」
琴里が言うと、令音が足を組み替えながら首肯した。
「.....君たちの真意はどうあれ、我々の作戦に乗る以上は、最低限クリアしておかねばならないことがある」
「何ですか?」
「....単純な話さ。女性への対応に慣れておいてもらわねばならないんだ」
そう令音が言うと雷牙は、?を浮かべながら口を動かす。
「女性への対応....?」
「....ああ」
令音がうなずく。なんだか、眠たそうだった。
「.....対象の警戒を解くため、ひいては好意を持たせるためには、まず会話が不可欠だ。大体の行動や台詞は指示を出せるが.....やはり本人が緊張していては話にならない」
令音が言うと士道が苦笑いで言葉を発す。
「女の子と会話って.....さすがにそれくらいは――」
「本当かしらね」
と、琴里がいきなり士道の頭を押し、ぎゅっと令音の胸に押しつけた。
「.........ッ!?」
「.....ん?」
令音が、不思議そうに声を発した。
両頬を温かくて柔らかい感触が襲い、ついでに脳がとろけてしまいそうなほどいい匂いが鼻腔を駆け回る。士道はすぐさま琴里の手を退かすと、バッと顔を上げた。
「......ッ、な、ななななにしやがる....ッ!」
「はん、ダメダメね」
琴里が嘲るように肩をすくめた。
「わかったでしょ、こういうこと。これくらいで心拍を乱しちゃ話にならないの」
「いや、明らかに例がおかしいだろ!?」
しかし琴里は聞く耳持たず、やれやれと首を振ってくる。
「ホント、悲しいまでにチェリーボーイね。やだやだ、可愛いとでも思ってるの?」
「う、うるせぇ」
「....まぁ、いいじゃないか。だからこそ私たちがここに来たのだから」
言って、令音が腕組みをする。自然彼女の見事なバストが腕に『乗って』いた。
「........っ」
なんだか直視するのも気恥ずかしくて、思わず目を泳がせる。
――女性に慣れる、訓練。
士道と雷牙の頭の中に、令音が発した言葉が過ぎった。しかも多少エロティックな場面になっても狼狽えないようにする....だなんて。
琴里と令音は、一体ここで二人にどんなことを――
「あら士道、生唾飲み込んでじゃって。いやらしい」
琴里が机に肘をつきながら、半眼でそう言ってきた。
「.......!い、いや違うぞ琴里ッ!お、俺は別に.....」
そう琴里に士道は動揺しながら言葉を返すと雷牙がゴミを見るような眼で士道を見ながら言葉を発す。
「士道お前。そんな趣味が.....」
「だから違げぇ!?」
「.....まぁ、早いところ始めようじゃないか」
三人の会話を制し、令音が眼鏡をくいと上げる。
「は―――っ、い、いやまだ心の準備が......っ」
「俺は出来てるぞー」
雷牙はなぜ緊張していないのか分からないが、士道は緊張に声を震わせながらも背筋をのばした。
ドキドキしながらも動くことができない。士道は少女漫画の主人公みたいな表情をしながら、キュッと目を閉じた。
――しかし、どれだけ待っても何も起こらない。目を開けて見てみると、令音が机の上にある二台のモニターに電源を入れていただけだった。
「え.....?」
士道がキョトンとしていると、二つの画面に可愛らしくデザインされた〈ラタトスク〉の文字が映った。
次いで、ポップな曲とともに、カラフルな髪の美少女たちが順番に画面に表示され、タイトルと思しき『恋してマイ・リトル・シドー』と『恋してマイ・リトル・ライガ』のロゴが躍る。
「こ、これは......」
「.......うむ。恋愛シミュレーションゲームというやつだ」
「ギャルゲーかよッ!」
士道は悲鳴じみた叫びを上げた。
「やだ、何を想像してたの?さすが妄想力だけは一級品ね気持ち悪い」
「士道....やっぱそっちの側か」
「.....っ、やっ、そ、それは.....」
言い淀むが.....なんとか咳払いをして心拍を治める。
「お、俺はただ、本当にこんなんもんで訓練になるのかって......」
「.....まぁ、そう言わないでくれ。これはあくまで訓練の第一段階さ。それに市販品ではなく、〈ラタトスク〉総監修によるものだ。現実に起こりうるシチュエーションをリアルに再現してある。心構えくらいにはなるはずだ。ちなみに15禁」
「ああ.....
何とはなしに士道が言うと、琴里が憐憫にも近い眼差しを作った。その横で雷牙は左手を顔に つけながらはぁと士道に吐息をする。
「やだ最低」
ついでに令音が、ぽりぽりと頭をかく。
「....シン、君は十六だろう?18禁のゲームができるはずないじゃないか」
「いやおまえらさっきと言っていること微妙に矛盾してね!?」
「士道落ち着け」
雷牙は叫ぶ士道を落ち着かせるが、琴里と令音に取り合うつもりはないようだった。
「......ん、では二人とも始めてくれたまえ」
はいはい......っと」
「うぃー」
雷牙は何も感じず気軽にコントローラを取る。士道に至っては腑に落ちないものを感じつつも、促されるままコントローラを手に取った。
士道は妹と先生に見られながらギャルゲーとか、どんな罰ゲームだろうと思いながら。隣にいる雷牙と一緒に主人公のモノローグを適当に斜め読みし、ゲームを進めていく。
と、画面が一瞬暗転し、
『おはよう、お兄ちゃん!今日もいい天気だね!』
「ねぇ――――――よ!!」
士道は、コントローラーを握りしめながら声を上げた。
「.....どうしたねシン。何か問題でも?」
「そうだぜ士道。いきなりどうしたんだ?」
「いや、これ実際にありそうなシチュエーションを再現とか言ってませんでした!?」
「......そうだが、何かおかしいかね」
「おかしいも何も!こんなふざけた状況現実に起こるわ......け.....」
そう言いかけた士道がいきなり喋らなくなった。雷牙はその事を察すると、士道に問う。
「お前まさか実際に起こったんじゃ......」
士道は雷牙に首をコクリと動かす。
「......何かね」
「.....いや、何でもないです。」
士道はものすごく不条理な何かを感じながらも、ゲームに戻った。
と、テキストを進めていくと、画面の真ん中に何やら文字が現れる。
「ん.....?なんだこれ」
「選択肢よ。この中から主人公の行動を一つ選ぶの。それによって好感度が上下するから注意するのよ」
言って、琴里が画面の右下を指さす。そこには、ゼロの位置にカーソルがついたメーターのようなものが表情されていた。
「ふーん....なるほどな。これのどれかを選べばいいんだな?」
「士道それフラグ.....」
隣から何やら声が聞こえてきたが、士道は好感度メーターから選択肢の方に視線を移動させた。
①『おはよう。愛してるよリリコ』愛を込めて妹を抱きしめる。
②『起きたよ。ていうか思わずおっきしちゃったよ』妹をベッドに引きずり込む。
③『かかったな、アホが!』踏んでいる妹の足を取りアキレス腱固めをかける。
「.....って、なんだこの三択は!どこがリアルだ!俺こんなんしたことねぇぞ!」
「何でもいいけど、制限時間つきよ」
「は.....ッ!?」
琴里の言うとおり、選択肢の下に表情されていた数字がどんどん減っていた。
「.....っ、仕方ねぇ」
「俺は放置しとこ」
雷牙は選択肢を選ばず放置をした。士道は一番まともであろう①の選択肢を選んだ。
が、それは大きな間違えだった。
『おはよう。愛してるよリリコ』
俺は妹のリリコを、愛を込めて抱きしめた。すると、リリコは途端顔を侮蔑の色に染め、俺を突き飛ばしてきた。
『え......ちょっと、何、やめてくんない?キモいんだけど』
好感度のメーターが、一気にマイナス五十まで下落する。
「リアルだったー!」
士道はコントローラーを膝の上に叩きつけながら叫びを上げた。
「あーあ、馬鹿ね。いくら妹でも、突然抱きついたらそうなるに決まってるじゃない。――まったく、ゲームだからいいものの、これが本番だったら、士道のお腹には綺麗な風穴が開いてるわよ?」
「じゃあどうしろってんだよこれッ!」
あまりに理不尽な仕打ちに士道は叫ぶも、琴里はまるで取り合わなかった。やれやれと息を吐きながら、自分の前に置かれていた液晶ディスプレイを点灯させる。
「あ.....?何やってんだ?」
「訓練とはいえ、少しは緊張感持ってもらわないとね」
画面に、見覚えのある風景が表示される。来禅高校の昇降口が映し出されていた。ついでにそこに、黒い服を着込んだおっさんが一人、カメラ目線で立っていた。
「....なんだ、この人」
「うちのクルーよ」
言うと琴里は、どこからともなくマイクのようなものを取り出して喋りかけた。
「――私よ。士道が選択に失敗したわ。やってちょうだい」
『はっ』
画面の中の男が敬礼をする。
「は.....?な、何だってんだよ」
士道が眉をひそめていると、画面の中の男が懐から一枚の紙を取り出した。それをカメラに映して見せる。
雷牙はそれが気になったのでそれを見てみるとタイトルらしきものが書かれていた。
「......えーとなになに?『腐食した世界に捧ぐエチュード』?中二臭せぇタイトルだな.....ん?まさか....」
雷牙が隣を見てみると汗を垂らしながら動揺している士道がいた。
「な、ななッ!?」
それを見ると同時、士道に心臓が止まるような衝撃が走った。
その様子に、琴里がものすっごく楽しそうな笑みを浮かべる。
「そう。若かりし頃、漫画に影響を受けまくった士道がしたためたポエム・『腐食した世界に捧ぐエチュード』よ」
「やっぱ士道のだったんだな」
「な......なななななななんであれが......ッ!?」
「ふふ、いつか役に立つと思って拾っておいたのよね」
「ど、どど どうするつもりだ....ッ!」
琴里はにやりと笑いながら「やりなさい」と言った。」
『はっ』
男は短く答え、そのポエムを丁寧にたたみ込んで、手近な下駄箱に放り込んだ。
「な...っ、何しやがる!」
「鬼だな...」
「騒ぐんじゃないわよみっともない。精霊に対して対応を間違ったらこんなもんじゃ済まないのよ。士道自身はもちろん、私たちも被害を被る可能性があるんだから。――というわけで、緊張感をもってもらうためにペナルティを設定させてもらったわ」
「重すぎるわぁぁぁぁぁッ!ていうか被害被ってるのは俺だけじゃねぇかッ!」
「なんでもいいから先を進めなさいよ、先」
琴里が焦れたように、椅子を蹴ってくる。
士道は泣きそうな顔になりながらも観念して画面に向き直った。たが、士道は無事にクリアできる自身がなかった。
「....なぁ琴里、今後のために、この選択肢全部試してみていいか?」
「うわ、チキンで小市民な発想ねみっともない」
「う、うるせっこういうのは初めてなんだからこれくらい許せよ!」
「まったく、仕方ないわね。今回だけよ。――じゃあ一回セーブして」
「お、おう.....」
士道はセーブを終えると、ゲームをリセットして先ほどの選択肢まで戻ってきた。
「.......」
険しい顔で選択肢を睨むが.....やはりどれもまともとは思えない。だが③で好感度が上がるとは考えられなかった。仕方なく②を選択してみる。
『起きたよ。ていうか思わずおっきしちゃったよ』
俺はおもむろに起きあがると、リリコをベットの中に引きずり込み、覆い被さった。
『や.....ッ、な、何するのよっ!』
『仕方ないじゃないか。リリコのせいでこんなになっちゃったんだから』
『!!いやッ、やめて!いやぁぁぁぁぁっ!』
『いいじゃないかいいじゃないかいいじゃないか』
画面が暗転する。
その後の展開は一瞬だった。泣き崩れる妹。父親に殴りつけられる主人公。カチャリという手錠の音。暗い部屋で一人笑う主人公。
そのCGをバックに、悲しげな音楽とスタッフロールが流れ始める。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁッ!」
「そりゃなそうなるわ」
「いきなりそんなことをしたらそうなるに決まってるじゃないこの性犯罪者」
「じゃあ③が正解だってのかよッ!」
士道はゲームをリセットすると、三たび最初の選択肢に戻り、今度は③を選択した。
『かかったな、アホが!』
俺は妹の足をひねり上げ、アキレス腱固めをかけ――ようとした。
が、
『甘い』
妹が身体をねじり、こちらの手から逃れると、そのまま俺の背に回り、足を搦め捕って見事なサソリ固めをかけてきた。
『ぐふ......ッ!?』
その後主人公はそのときの怪我が原因で半身不随となり、一生車椅子での生活を余儀なくされた。――そしてそのままエンディングへ。
「これ、①で正解だったんじゃねぇの!?」
「まったく、最後は出題者に答えまで聞くの?情けないわね」
言いながらも、琴里は士道からコントローラーを奪うと、ゲームをリセットして先ほどのところまで進めた。
そして何も選択せず、ただ黙って画面を眺め始める。
「.....?何してんだ?早く選ばないと――」
士道が言うと同時に、選択肢の下に表示されていた数字がゼロになる。
『んー.........あと十分......』
『だめー!ちゃんと起きるのー!』
と、至極普通な会話が、画面に表示された。
好感度メーターは上昇も下降もしていない。
「な......ッ」
「これはさすがに無理があるな」
「あんなおかしな選択肢選ぶなんて、どうかしてるんじゃないの?」
鼻で笑って、琴里が士道にコントローラーを放ってくる。
「特別にこの続きからやることを許してあげるから、早く先を進めなさい。もう雷牙は全クリさせたわよ?」
「....は?」
琴里に言われて士道は隣を見てみると確かに全クリらしきエンディングが雷牙の画面に流れていたのだ。
「お、おまえいつクリアしたんだよ....」
「んー......おまえらが会話してる間ずっとしてた。因みに失敗はしてないから一発クリアな」
雷牙は士道たちが会話している間、集中して(ムービーは飛ばして選択肢だけ選んで)プレイをしていたのだ。
雷牙は自慢しながら言うと、その次に琴里から士道に地獄の言葉が落ちてきた。
「そういうわけだから士道。次の選択肢からはペナルティありだからね」
「ぐ......ッ、ぬぬ....」
力一杯腑に落ちないものを感じながらも、士道はコントローラーを握りプレイを再開した。
「んで司令官や俺クリアしたんだが、次なにすればいいんだ?」
雷牙はやることがないので琴里に何かないか聞いてみた。
「....うーん早く終わっちゃったのは予想外だったわね...そうねぇ...今はやることがないから帰ってもいいわよ」
「お、マジ?丁度いいや」
雷牙はまるでやりたくなかったような笑顔をしながら琴里に言った。
「ん?なにか、用事でもあるのかしら?」
琴里は気になったのか、聞いてみた。
「あーちょっと友達から呼ばれててさそろそろ行かないと怒られちまうから」
「わかったわ。じゃあ次回の訓練は士道がこのゲームをクリアした後に話すわねお疲れ様。」
そう言うと琴里は雷牙に手を振る。雷牙は同じく琴里に手を振り返し「じゃあまたな」と物理準備室からでた。
雷牙が物理準備室からでた瞬間。
『ぎゃあああああああッ!?』
と、悲鳴みたいな叫びが物理準備室から聞こえた。
「また失敗したな幸運を祈るぜ。グッドラック士道。」
そう言いながら雷牙は友達が待っている場所に急いで走った。
◇
放課後
「はぁはぁここの階段キツいって....」
雷牙はこの学校にグチを言いながら階段を上り、しっかりと施錠された来禅高校の屋上への扉までやってきた。
そこを上ると、施錠された扉の前に少女が一人、立っていた。肩に触れるか触れないくらいの髪に人形のような顔が特徴的な少女である。
「よう。遅くなって悪かったな」
「構わない、私も今来たところ。」
そう扉の前にいたのは、
「んでこんな所に呼び出してどうした?
そこには雷牙の唯一の幼馴染でもありASTの仲間でもある鳶一折紙が雷牙を待っていた。
「単刀直入に聞く。貴方は昨日どこにいたの?」
折紙は昨日の件について聞いてきたのだ。
「普通にシェルターに避な――」
そう言おうとすると、折紙が雷牙を壁まで追い込み壁に手をつけた。雷牙は何が何だが分からず動揺しながら口を動かした。
「お、おおおお オリガミサン!?何をしているのですか!?」
「........」
折紙は無言のまま雷牙を見る。まるで返答を求めるように。
「はぁ分かった話すよ。昨日シェルターに避難せず外に出て散歩してました」
雷牙は折れ半分嘘をつきながら折紙に話した。
「そう。無事で良かった」
折紙は無表情のまま雷牙に呟いた。
雷牙はふぅーと壁に体重を寄せながら息を吐くと次に、ぎゅという音につれて、雷牙の体から暖かい感触がつたわってきたのだ。
「――!?」
下を見てみると、折紙が雷牙の胸元に顔を押しつけていたのだ。
雷牙は状況が分からなくて折紙に声を掛けた。
「.....お、折紙?一体どうした――」
瞬間折紙が雷牙の体に手を回して、力を込めてきた。
「......」
折紙は無言のままだが、雷牙にはすぐ分かった。
「....心配させてごめんな折紙。次はこんなことはしない」
雷牙は折紙の頭を撫でながら言う。折紙は胸に押しつけていた顔を雷牙に向き口を動かす。
「約束して、もうあんなことはしないで」
「ああ、約束する。もうお前を悲しませないし、危険な事はしないつもりだ」
「そう。良かった」
折紙は了承を得た後に雷牙から離れた。
「あなたは私にとって幼馴染でもあるし、
「.....ああ、俺もお前にあの思いは二度とごめんだ」
雷牙は頭の中で夢に見た
両親が死んだあの日全てが変わった。雷牙と折紙はそんな思いを誰かにさせないためにASTを入った。折紙は全ての精霊を殺そうとしてはいるが、雷牙は違った他の精霊には敵意や殺意をだしてはいなく。両親を殺した精霊だけ殺意を向けていた。
「俺は命を賭けても折紙を絶対守る。そして、両親を殺した精霊は俺が殺す」
雷牙が言うと折紙は頷き、手を雷牙に差し出す。
「ん?どした折紙?」
「今日、貴方は一人で帰ってはならない」
「いや、一人で帰れる」
「一人で帰ってはならない」
「....だかr」
「帰ってはならない」
「...........分かりました」
雷牙は断りきれず折紙の手を握り一緒に階段から下りていった。
雷牙は気づかなかったが、階段を下りている途中少し折紙の口が笑っているような気がした。
はい如何だったでしょうか。雷牙君と折紙と少しイチャついてましてたね折紙のヒロイン化はまだまだ先ですのでお待ちください。
たがメインヒロインはオリ精霊だということを忘れずに!
次回はオリ精霊が出ます。
次回:動き出す好感度
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第4話:動き出す好感度
投稿遅れて申し訳ありませんでしたぁぁぁ!
そして二万文字に達してしもうたぁぁぁぁ!
今回はオリ精霊が出てきます。
ではどうぞ。(。・x・)ゞ♪
「どんなもんじゃーいッ!」
来禅高校。物理準備室で士道の声が聞こえる。
左手にはコントローラーを預けながら、右手をグッと握って天高く突き上げた。琴里と令音の強化訓練が実施されてから、休日を含めて十日間。
士道はようやく、ゲームのハッピーエンド画面を迎えたのだった。
その頑張りに感動したのか、士道の隣にいる雷牙が労いの言葉を掛けた。
「お疲れ士道。よく頑張った」
「.....ん、まぁ少し時間はかかったが、第一段階はクリアとしておくか」
「ま、一応全CGコンプしたみたいだし、とりあえずは及第点かしらね。....とはいっても、あくまで画面の中の女の子に対してだけだけど」
背後からスタッフロールを眺めていた令音と琴里が、息を吐くのが聞こえてくる。
「じゃ、次の訓練だけど....もう生身の女性にいきましょ。時間も押しちゃったし」
「....ふむ、大丈夫かね」
「平気よ。もし失敗しても、失われるのは士道の社会的信用だけだから」
「何さらっと不穏なこと言ってんだてめぇ」
「.....士道のいじりてっそんなに楽しいのか?」
黙って二人の会話を聞いていた士道と雷牙だったが、さすがにたまらず口に挟む。
「やだ、盗み聞きしてたの?相変わらず趣味が悪いわね。この出歯亀ピーピング・トムと猪頭改」
琴里が眉をひそめ口元に手を当てながら言う。
「目の前で喋ってて盗み聞きも何もあるかっ!」
「士道少し落ち着け」
士道が叫ぶと、琴里が「はいはい」と手を広げてこちらを制するように言ってきた。
「それで、二人とも。次の訓練なんだけど」
「士道。俺は大丈夫だがいけるか?」
「.....びっくりするほど気は進まんが、なんだ?」
「そうね....誰がいいかしら」
「あ?」
「?」
と士道と雷牙が首を傾げる横で、令音が手元のコンソールを操作し始めた。机の上に並べられたディスプレイに、学校の映像がいくつも映しだされる。
「.....そうだね、まずは無難に、彼女などはどうだろう」
言って、令音が画面の右端に映し出されていたタマちゃん教諭を指さす。
琴里は一瞬眉を跳ね上げ――
「ああ、なるほど。いいじゃない、それでいきましょう」
すぐに、邪悪な笑みを浮かべた。
「.....シン、ライ。次の訓練が決まった」
「ど、どんな訓練ですか」
士道が不安な心地を抑えながら問うと、令音が首肯しながら返してきた。
「.....ああ。本番、精霊が出現したら、君たちは小型のインカムを耳に忍ばせて、こちらの指示に従って対応してもらうことになる。一回、実戦を想定して訓練しておきたかったんだ」
「で、俺にどうしろと?」
「......とりあえず、岡峰珠恵教諭を口説いてきたまえ」
「はァっ!?」
「うわやりたくねぇ」
一人は眉根を寄せ、叫びぶ。もう一人は嫌そうな顔をしながら言う。
「何か問題でもあるの?」
琴里が、二人の反応を楽しむようにニヤニヤと言ってくる。
「大ありだろが.....ッ!んなッ、できるわけ.....っ!」
「本番ではもっと難物に挑まなきゃならないのよ?」
「士道、これは訓練だ。確かに、先生に抵抗力があるかもしれないがこれが精霊だったら文句も言えないぞ?」
「――っ、そりゃ、そうだけど....っ!」
士道が言うと、令音がぽりぽりと頭をかいた。
「....ライの言うとおり、最初の相手としては適任かと思うがね。恐らく君が告白したとしても受け入れはしないだろうし、ぺらぺらと言いふらしたりもしなさそうだ。.....まぁ、君がどうしても嫌だというのならば女子生徒に変えてもいいが......」
「う......ッ」
「で、どうするの?本番での失敗はすなわち死を意味するから、どっちにしろ一回は予行練習させるつもりだったけど」
「士道、腹を括れ。お前だって嫌だろこれ以上変な噂が流れるのは」
「.....先生で頼む」
琴里と雷牙が言ってくるのに、士道は背中に嫌な汗をかきながらそう言った。
「.....よし」
令音は小さくうなずくと、机の引き出しから、小さな機械を取り出し、士道に渡してきた。次いでマイクと、ヘッドフォン付きの受信機らしきものを机の上に置く。
「これは?」
「.....耳につけてみたまえ」
言われるままに、右耳にはめ込む。
雷牙は十日前に事前にもらったインカムをポケットからだし、左耳にはめ込んだ。
すると令音はマイクを手に取り、囁くように唇を動かした。
『......どうかね、聞こえるかな?』
「うぉっ!?」
突然耳元で令音の声が響く。士道は肩をびくっと震わせて跳び上がった。
『......よし、ちゃんと通ってるね。二人とも音量は大丈夫かい?』
「は、はぁ....まぁ一応....」
「こっちも大丈夫だ」
士道と雷牙が首肯すると、令音はすかさず机の上に放ってあったヘッドフォンを耳に当てた。
「.....ん、うむ。こちらも問題ないな。拾えている」
「え?今の声拾えたんですか?こっちにはマイクっぽいのついてませんけど.....」
「.....高感度の隼音マイクが搭載されている。自動的にノイズを除去し、必要な音声だけをこちらに送ってくれるスグレモノだ」
「はぁー.......」
士道が感嘆していると、琴里は机の奥から、もう一つ小さな機械部品のようなものを取り出した。
ピン、と指で弾くと、そのまま虫のように羽ばたいて宙を舞う。
「.....うわ虫か?」
「......見たまえ」
雷牙が気持ち悪そうに言うと令音は、目の前のコンピューターを操作して画面を表示させた。
そこには琴里と令音、雷牙そして士道のいる物理準備室が映しだされている。
「これって....」
「.....超小型の高感度カメラだ。これで君たちを追う。虫と間違って潰さないようにしてくれ」
「はぁー.....すげぇなこりゃ」
「だな俺も思うわ」
と、ぼむ、と尻を蹴られた。
「何でもいいから早く行きなさい鈍亀と固猪。ターゲットは今、東校舎の三階廊下よ。近いわ」
「.......あいよ」
「うぃー」
二人は進みたがらない足をどうにか動かし、物理準備室を出ていった。
そして階段を下りて右に左に首を回すと――廊下の先に珠恵の背中が見えた。
「先――」
と、途中で呼び声を雷牙に肩を掴まれて止められる。
何故止めたかというと、雷牙は「お前そんな距離から呼ぶつもりか?」と言われた。確かにここで大声を出せばまだ学校に残っている生徒や教師たちの注目を集めてしまう。
「.....仕方ねぇ」
士道はその事を避けるため、軽く駆け足になって珠恵の背を追った。何メートルほど進んだ頃だろうか、士道の足音に気づいたらしく、珠恵が立ち止まって振り返ってくる。
「あれ、五河くんと雷蒼くん?どうしたんですかぁ?」
「.....っ、あ、あの――」
ほぼ毎日見ている顔だというのに、いざ口説く対象となると一気に緊張感が増す。士道は思わず口ごもった。
『――落ち着きなさいな。これは訓練よ。しくじったって死にはしないわ』
二人の右耳、左耳から琴里の声が響いてくる。
「んなこと言ったって....」
「え?なんですか?」
士道の呟きに反応して、珠恵が首を傾げる。雷牙は士道のかわりに弁明する。
「いえ、なんでもありませんよ....」
一向に話を進められない二人に焦れたのか、またもインカム越しに声が聞こえてきた。
『情けないわね。――とりあえず無難に、相手を褒めてみなさい』
琴里の言葉に、珠恵の頭頂から爪先までを眺め、褒める材料を探していく。二人は数秒探して見つけたのか士道が先に意を決して、口を開く。
「と、ところで、その服.....可愛いですね」
「え.....っ?そ、そぉですかぁ?やはは、なんか照れますねぇ」
珠恵は嬉しそうに頬を染めると、後頭部をかきながら笑顔を作って見せた。
――おお?これはなかなかいい反応では?
士道は心の中でそう言い。小さく拳を握った。
「はい、先生にとても似合ってます!」
「ふふ、ありがとぉございます。お気に入りなんですよぉ」
「その髪型もすごくいいですね!」
「え、本当ですかぁ?」
「はい、それにその眼鏡も!」
「あ、あはははは......」
「その出席簿も滅茶苦茶格好いいです!」
「あの.....五河くん.....?」
「はぁ....アホすぎ」
珠恵の顔が、だんだん苦笑、というか困惑に染まっていく。
『やり過ぎよこのハゲ。生ハゲ』
士道の右耳にはめ込んでいるインカムから、呆れたような琴里の声が聞こえてくる。
だが、そう言われても、次に何を話せばよいのか分からない。しばし、間が空いてしまう。
「ええと....用は終わりましたかぁ?」
珠恵が首を傾げてくる。
さすがに時間がないと思ったのだろう、右耳に、今度は眠そうな声が聞こえてきた。
『....仕方ない。では私の台詞をそのまま言ってみたまえ』
「あの、先生」
「俺、最近学校来るのがすごい楽しいんです」
「そぉなんですか?それはいいことですねぇ」
「はい。.....先生が、担任になってくれたから」
「え....っ?」
珠恵が、驚いたように目を見開く。
「な、何言ってるんですかもぅ。どうしたんです急に」
言いながらも、まんざらでもない顔を作る珠恵。
士道は続けて、令音の言葉を発した。
「実は俺、前から先生のことが――」
「ぃやはは.....駄目ですよぉ。気持ちは嬉しいですけど、私先生なんですからぁ」
「俺、本気なんです。本気で先生と――」
「えぇと.....困りましたねぇ」
「本気で先生と、結婚したいと思ってるんです!」
――ぴくり
士道が結婚の二文字を出した瞬間、珠恵の頬が微かに動いた気がした。そしてしばしの間黙ったあと、小さな声を響かせてくる。
「....本気ですか?」
「え.....っ、あ、はぁ......まぁ」
突然の雰囲気の変化にたじろぎながら士道が言うと、珠恵は急に一歩足を踏み出し、士道の袖を摑んできた。
「本当ですか?五河くんが結婚できる年齢になったら、私もう三十歳越えちゃうんですよ?それでもいいんですか?両親に挨拶しにきてくれるんですか?婿養子とか大丈夫ですか?高校卒業したらうちの実家継いでくれるんですか?」
まるで人が変わったかのように目を爛々と輝かせ、鼻息を荒くしながら珠恵が詰め寄ってくる。
「あ.....あの、先生.....?」
『.....ふむ、少し効き過ぎたか』
士道がたじろいでいると、令音がため息とともに声を発した。
「.....どういうことだ?」
珠恵に聞こえないくらいの声で雷牙が令音に問う。
『.....いや、独身・女性・二十九歳にとって結婚というのは必殺の呪文らしい。かつての同級生は次々と家庭を築き始め、両親からはせっつかれ、自分に関係ないと思っていた三十路の壁を今にも越えそうな不安定な状況だからね。....にしても、少々彼女は極端すぎるな』
珍しく少し辟易した様子を声に滲ませ、令音が言ってくる。
「そ、それはいいんですけど、どうしろってんですかこれ.....っ!」
「ねぇ五河くん、少し時間いいですか?まだ婚姻届を書ける年齢ではないので、とりあえず血判状を作っておきましょうか。美術室から彫刻刀でも借りてきましょうね。大丈夫ですよ、痛くしないようにしますからね」
にじり寄るようにしながら、珠恵がまくし立ててくる。士道は悲鳴じみた声を上げた。
『あー、必要以上に絡まれても面倒ね。目的を達したし、適当に謝って逃げちゃいなさい』
士道はごくりと唾液を飲み込むと、意を決して口を開いた。
「すッ、すいません!やっぱりそこまでの覚悟はありませんでした.....!どうかなかったことに.....!」
「今日は士道がすいませんでした!大丈夫まだ先生にはチャンスがありますよ。でわ!」
「あ、い、五河くんッ、雷蒼くんッ!?」
背に珠恵の声を聞きながら、二人は走る。
『いやー、なかなか個性的な先生ねぇ』
「ざっけんな....っ!何を呑気な「士道。前!」――」
と、言いかけた瞬間。
「の.....ッ!?」
「.......!」
インカムに注意がいっていたため、士道は曲がり角の先から歩いてきた生徒とぶつかり、転んでしまった。
「....士道!大丈――!?」
「っつつ....す、すまん、大丈夫か?」
士道は言いながら身を起こす。と.....
「ぃ......ッ!?」
士道と雷牙は心臓が引き絞られるのを感じた。何しろそこにいたのは、あの鳶一折紙嬢だったのだから。
しかもそれだけではない。転んだ拍子に尻餅をついてしまったのだろう、ちょうど士道と雷牙の方に向かってM字開脚くをしていた。......白だった。
士道は思わず目を背け、雷牙にいたっては右手で両目を隠す。しかし折紙はさして慌てた様子もなく、
「平気」
と言って立ち上がった。
「どうしたの?」
次いで、折紙は二人に訪ねてきた。
「....いや、気にしないでくれ。絶対にないと思ってたシチュエーションに遭遇してしまったのがショックでな.....」
最後の砦が崩れてしまった。恐るべきは〈ラタトスク〉のシミュレーション能力。なんだかんだであのゲーム、よくできていたのかもしれなかった。
「そう」
折紙はそれだけ言うと、廊下を歩いていった。
と、その瞬間、右耳に琴里の声が響く。
『――ちょうどいいわ士道。彼女でも訓練しておきましょう』
「は....はぁッ!?」
『やっぱり先生だけじゃなく、同年代のデータも欲しいしね。それに精霊とは言わないまでもAST要員。なかなか参考になりそうじゃない。見る限り、彼女も周りに言いふらすタイプとは思えないけれど?雷牙を除いてだけど』
「......」
「おまえ....ッ、ざけんなよ.....?」
『精霊と話したいんでしょ?』
「......ッ」
士道は息をつまらせると、下唇を噛んだ。
覚悟を決めて、折紙の背に声を投げる。
「と、鳶一っ」
「なに」
折紙はまるで声をかけられるのを待っていたかのようなタイミングで振り向いた。
士道は少し驚きながらも、呼吸を落ち着けて唇を開いた。
「その服、可愛いな」
「制服」
「.....ですよねー」
「士道お前というやつは.....」
雷牙は士道の制服の選択について呆れた。
『なんで制服をチョイスしたのよこのウスバカゲロウ』
士道は琴里からものすごく罵倒されてる気がした。
『.....シン、手伝おう』
士道は右耳に聞こえてくる令音の言葉に声を発していく。
「あのさ、鳶一」
「なに」
「俺、実は.....前から鳶一のこと知ってたんだ」
「そう」
声は素っ気ないままだったが、信じられないことに折紙が言葉を続けてきた。
「私も、知っていた」
「――――!」
士道は内心凄く驚きながらも、声には出さない。
「――そうなんだ。.....それで、二年で同じクラスになれてすげぇ嬉しくてさ。ここ一週間、授業中ずっとお前のこと見てたんだ」
「そう」
「私も、見ていた」
真っ直ぐに士道を見ながら、そう思った。
「......っ」
ごくりと唾液を飲み込む。
「でも実は俺それだじゃなくて、放課後の教室で鳶一の体操着の匂いを嗅いだりしてるんだ」
「そう」
さすがにこれはドン引きだろうと思ったが、折紙は微塵も表情を動かさなかった。それどころか、
「私も、やっている」
「.......!?」
士道は顔中にびっしりと汗を浮かべ、雷牙は自分の幼馴染が、ど変態なことをしているとは思ってはいたがまさかここまでしているとは思っておらず驚愕していた。
「――そっか。なんか俺たち気が合うな」
「合う」
「それで、もしよかったらなんだけど、俺と付き合ってくれないか――って急展開すぎんだろいくらなんでも!」
『.....いや、まさか本当にそのまま言うとは』
「そのまま言えっつったのあんたじゃねぇか!」
怨嗟を声に乗せて発し、すぐにハッとして折紙に向き直る。
「あ、その、なんだ.....すまん、今のは――」
「折紙。誤解するな士道は冗談でやっ「構わない」た....へ?」
「..............は?」
二人は間の抜けた声を出した。目が点になる。口が力無く開かれ、手足が弛緩する。要は、体全体を使って呆然とした。
「な....なんて?」
「構わない、と言った」
「....折紙さん?何がですか?」
「五河士道と付き合っても構わない」
「「.......ッ!?」」
士道と雷牙は顔中に汗をぶわっと吹き出させた。側頭部に軽く手を当て、落ち着け、落ち着け、と自分に語りかける。
「士道今ならまだ勘違いで通せる早く」
雷牙は士道に訂正の言葉をかける。
「あ、ああ.....どこかに出かけるのに付き合ってくれるってことだよな?」
「........?」
折紙が小さく首を傾げた。
「そういう意味だったの?」
「え、あ、いや....ええと、鳶一は、どういう意味だと思ったんだ....?」
「男女交際のことかと思っていた」
「......ッ!」
「(やっぱり勘違いしてたか....折紙...)」
「違うの?」
「い、いや....違わない....けど」
「そう」
折紙が、何事もなかったかのように首肯する。
次の瞬間、士道は思いっきり後悔し、雷牙は何故違わないと言ってしまった士道に心の中で叫んだ。
――なぜ、なぜ、「違わない」なんて言ってしまったのか!今ならまだ勘違いで通せたというのに!
と。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―――
「っ!?」
「来たか....」
瞬間、何の前触れもなく、あたりに警報が響き渡った。
それと同時に、折紙が顔を軽くあげる。
「――急用ができた。また」
そしてそう言うと。雷牙の目を少し見た後、踵を返して廊下を走っていってしまった。
雷牙は分かっていた。さっき折紙が雷牙の目を見たのは、アイコンタクトでその意味が理解できた。折紙は目でこういった『絶対避難して』と、だが雷牙は十日前に約束したことは今日だけ守れそうにない。少し罪悪感を残しながら心の中で折紙に謝罪をした。
「お、おい――」
今度は、士道が声をかけても止まらなかった。
「ど......どーすりゃいいんだ、これ....」
「そろそろ司令から連絡来るだろ」
ほどなくして、インカム越しに声が聞こえてくる。
『二人とも、空間震よ。一旦〈フラクシナス〉に移動するわ。戻りなさい』
「や、やっぱり、精霊なのか.....?」
士道が問うと、琴里は一拍置いてから続けてきた。
『ええ。出現予測地点は――ここ、来禅高校よ』
◇
時刻は、十七時二十分。
避難を始める生徒たちの目を避けながら、街の上空に浮遊している〈フラクシナス〉に移動した四人は、艦橋スクリーンに表示された様々な情報に視線を送っていた。
だが、正直士道と雷牙には、画面上の数値が何を示しているのかよくわからなかった。雷牙はASTで整備士の肩書きを持ってはいるが、いつも格納庫でCR-ユニットのメンテナンスしかしてないのでこれに関しては無知に近しい。
だが、唯一士道と雷牙でも理解できるのは――画面右側に示されているのが、二人の高校を中心にした街の地図であることくらいである。
「なるほど、ね」
艦長席に座りチュッパチャプスを舐めながら、クルーと言葉を交わしていた琴里は、小さく唇の端を上げた。
「――士道、雷牙」
「なんだ?」
「どした?」
「早速動いてもらうわ。準備なさい」
「.....っ」
琴里の言葉に、士道は体を硬直させた。
「――もう彼を実戦登用するのですか、司令」
と、艦長席の隣に立っていた神無月が、スクリーンに目をやりながら不意に声を発した。
「相手は精霊。失敗はすなわち死を意味します。訓練は十分なのでしょ....げふッ」
言葉の途中で、神無月の鳩尾に琴里の拳がめり込む。
「私の判断にケチをつけるなんて、偉くなったものね神無月。罰として今からいいと言うまで豚語で喋りなさい」
「ぶ、ブヒィ」
何かものすごく慣れた様子で神無月が返す。
士道はその光景を見ながら吹き出た汗を拭った。
「.....いや、琴里、神無月さんの言うことももっともだと思うんだが....」
「士道の言う通りだ。たとえ訓練をしたってまだ実戦登用は早すぎる。後もう1日おいた方がいいと思うが?」
「あら、二人ったら豚語が理解できたの?さすが豚レベルの男たちね」
「ぶ.....っ、豚をなめるなよ!豚は意外とすごい動物なんだぞ!」
「知っているわ。きれい好きだし力も強い。なんでも犬より高度な知能を持っているという説もあるとか。だから有能な部下である神無月や、尊敬する兄と信頼出きる雷牙に、最大限の敬意として豚という呼称を使っているのよ。豚。この豚」
「.......全くこのSっ毛中学生」
「.....ぐぐっ」
正直あまり敬称には聞こえなかった。
しかし琴里も神無月の疑問と士道と雷牙の不安がもっともであることくらいは理解しているようだった。キャンディの棒をピンと上向きにし、スクリーンを示す。
「士道、雷牙、あなた達かなりラッキーよ」
「え.......?」
「......ああ、そうゆう事か」
琴里の視線を追うように、スクリーンに目を向ける。
やはり意味不明な数字が踊っていたが――右側の地図に、先ほどと変わったところが見受けられた。二人が通っている学校に赤いアイコンが二つ、そしてその周囲に、小さな黄色いアイコンがいくつも表示されていた。
「赤いのが精霊、黄色いのがASTよ」
「.....で、何がラッキーだってんだよ」
「ASTを見て。さっきから動いてないでしょう?」
「ああ.....そうだな」
「精霊が外に出てくるのを待ってるのよ」
「なんでまた。突入しないのか?」
士道が首を傾げると、琴里が大仰に肩をすくめて見せた。
「ちょっとは考えてものを言ってよね恥ずかしい。粘菌だってもう少し理知的よ」
「な、なにおう!」
「雷牙、説明お願い」
琴里がそう言うと雷牙は士道に説明すべく、口を開く。
「士道いいか?そもそもCR-ユニットは、狭い屋内での戦闘を目的として作られていないんだよ。いくら
説明が終わるとその瞬間、琴里がパチンと指を鳴らす。それに応じるように、スクリーンに表示されていた画像が、実際の高校の映像に変わった。
校庭に浅いすり鉢状のくぼみが
「校庭に出現後、半壊した校舎に入り込んだみたいね。こんなラッキー滅多にないわよ。ASTのちょっかいなしで精霊とコンタクトが取れるんだから」
「.....なるほどな」
理屈は分かった。
だが、琴里の台詞に引っかかりを覚えた士道は、ジトッと半眼を作る。
「.......精霊が普通に外に現れてたら、どうやって俺たちを精霊と接触させるつもりだったんだ?」
「ASTが全滅するのを待つか、ドンパチしてる中に放り込むか、ね」
「.........」
「鬼すぎる.....」
士道と雷牙は今の状況がどれだけありがたいものかを知った。
「ん、じゃあ早いところ行きましょうか。――二人とも、インカムは外してないわね?」
「あ、ああ」
「大丈夫だ」
一人は右耳、もう一人は左耳に触れる。確かにそこには、先ほど使用したままのインカムが装着されていた。
「よろしい。カメラも一緒に送るから、困ったときはサインとして、インカムを二回小突いてちょうだい」
「ん.....了解した。でもなぁ.....」
士道は半眼を作り、琴里と、艦橋下段で自分の持ち場についている令音に視線を送った。
士道の表情からおおよそ思考を察した琴里が不敵な笑みを浮かべる。
「安心しなさい士道。〈フラクシナス〉クルーには頼もしい人材がいっぱいよ」
「そ、そうなのか?」
士道が疑わしげな顔で開き返すと、琴里が上着をバサッと翻して立ち上がった。
「たとえば」
そして艦橋下段のクルーの一人をビシッと指さす。
「五度もの結婚を経験した恋愛マスター・〈
「いやそれは四回は離婚してるってことだよな!?」
「.....お子さん大丈夫か?」
「夜のお店のフィリピーナに絶大な人気を誇る、〈
「それ完全に金の魅力だろ!?」
「借金大変だな....」
「恋のライバルには次々に不幸が。午前二時の女・〈
「絶対呪いかけてるだろそれ!」
「怖すぎるだろ....」
「百人の嫁を持つ男・〈
「ちゃんとZ軸のある嫁だろうな!?」
「....詮索しないでおこう」
「その愛の深さゆえに、今や法律で愛する彼の半径五百メートル以内に近づけなくなった女・〈
「「なんでそんな奴らばっかなんだよ!(なんだ)」」
「.....皆、クルーとしては腕は確かなんだ」
艦橋下段から、ぼそぼそっとした令音の声が聞こえてくる。
「そ、そう言われても.....」
「大丈夫なのかこれ....」
「いいから早いところ行ってきなさい。精霊が外に出たらASTが群がってくるわ」
苦情を発しかけた二人だが何故か士道の尻だけを琴里がボンっ、と勢いよく蹴る。
「......ってッ、こ、このやろ.....」
「心配しなくても大丈夫よ。雷牙は知らないけど、士道なら一回くらい死んでもすぐニューゲームできるわ」
「っざけんな、どこの配管工だそれ」
「マンマミィーヤ。妹の言うことを信じない兄は不幸になるわよ」
「兄の言うこときかない妹にいわれたかねぇよ」
士道はため息混じりにそう言ったが、大人しく艦橋のドアに足を向けた。
「二人ともグッドラック」
「おう」
「ああ」
〈フラクシナス〉下部に設えられている
最初二人は少々船に酔ったのかのような気持ち悪さを感じたが、数回目ともなると多少は慣れが出てくる。
一瞬のうちに視界が〈フラクシナス〉から、薄暗い校舎の裏手に変わったのを確認してから、士道と雷牙は軽く頭を振った。
「さて、まずは校舎内に――」
言いかけて、言葉を止める。
二人の目の前にある校舎の壁が、冗談のようにごっそりと削りとられており、内部を覗かせていたからだ。
「実際見るととんでもねぇな.....」
「だな、司令どうする?」
『まぁ、ちょうどいいからそこから入っちゃいなさい』
右耳と詰めたインカムと左に詰めたインカムから、琴里の声が聞こえてくる。
士道は「....了解」と頬をかきながら呟くと、二人は校舎の中に入っていった。あまりのんびりしていては精霊が外に出てしまうかもしれないし、それ以前に、士道と雷牙がASTに見つかって『保護』されてしまう可能性もある。
『さ、急ぎましょ。ナビするわ。精霊の反応はそこから階段を上がって三階、手前から四番目の教室と三番目の教室よ』
「了解....っ」
「ああ」
二人は深呼吸をすると、近くの階段を駆け上がっていった。そして一分とかからず、指定された二つの教室の前までたどり着く。
扉は開いておらず、中の様子は窺えなかったが、この中に精霊がいると思うと自然心臓は早鐘のように鳴った。
「て――ここ、二年四組。俺のクラスじゃねぇか」
「俺の隣のクラスは二年三組かまぁ近いのか?」
『あら、そうなの。二人とも好都合じゃない。地の利とまでは言わないけど、まったく知らない場所よりよかったでしょ』
琴里が言ってくる。実際、まだ進級してそう日が経っていないので、そこまで知っているというわけでもないのだが。
「....士道。準備は出来たか?」
雷牙が隣のクラスのドアで士道に声を掛けてきた。
緊張を紛らすためにいってきたのだろう士道は口を震わせて雷牙に返答を返す。
「――まだ心臓が跳ねてるけど、大丈夫だ」
「そうか。まぁ、お互い死なないように頑張ろうぜ!」
返答を聞いた雷牙は笑顔で士道に親指をグッ、と上げた。
「あ、ああ!」
二人は、意を決して教室の扉を開けた。
◇
雷牙が扉を開けると夕日で赤く染められた教室の様子が、網膜に映り混んでくる。
「ん?」
前から二番目、窓際から三列目の机の椅子に、不思議なドレスを身に纏った白髪の少女が、床に両足を付きながら静かに座っていた。紅く幻想的な輝きを放つ目を物憂げな眼にし、ぼうっと黒板を眺めている。
半身を夕日に照らされた少女は、見る者の思考力を一瞬で奪ってしまうほどに、神秘的だった。
それは、つい十日前に再会を約束した少女だった。
「よう。また会えたな」
雷牙が少女に声をかけると、少女は体をピクッ!、と震わせ、ゆっくり後ろを振り向く。
「.......誰?」
少女は声を雷牙にいる方に発す。
雷牙を忘れたのかまたは、夕日の光で見えないだけなのか分からないが、少女は少し警戒した眼で見つめてきたのだ。
「あんな
冗談のつもりで言った雷牙だったが、少女はその単語を聞くと、ハッ!となった。
どうやら忘れていたらしい。
「あなたは...確か....「雷牙だ」そう。その名前」
少女は名前を思い出すと少し雷牙を見つめ腰に装備している刀を何故か引き抜こうとする。
「――ちょっ!おま、一体何するつもりだ!?」
「?偽者か確かめようと...」
「洒落にならんからやめろ!」
雷牙が止めながら言うと少女は素直に警戒を解き刀を鞘に納刀し、刀は光の粒子となって消えた。
その光景に雷牙は「ふぅ」と、ため息を吐いた。
その瞬間。
「――ねぇ...」
「ん?」
少女が雷牙に声を掛けてきた少し切ない声音で、
「――また、会えたね」
雷牙はその言葉を聞くと、口を三日月状に笑みを浮かばせこう言う。
「...ああ、会えたな」
数分ぐらい沈黙が続く。その沈黙を雷牙が壊そうと声を発っしようとするが、『雷牙。待ちなさい」と、インカムから琴里のストップが入った。
〈フラクシナス〉の艦橋のスクリーンには今、光のドレスを纏った二人の精霊の少女が、バストアップで映し出されていた。
愛らしい貌を無表情な視線で、カメラの左側――雷牙の方をジィーと見つめている。
そして周りには『好感度』をはじめとした各種パラメーターが配置されていた。令音が
ついでに〈フラクシナス〉に搭載されているAIが、四人の会話をタイムラグなしでテキストに起こし、画面の下部に表示させている。
一見、士道と雷牙が訓練に使用したゲーム画面にそっくりだった。
特大のスクリーンに表示されたギャルゲー画面に、選りすぐられたクルーたちが、至極真面目な顔をして向かい合っている。
なんともシュールな光景である。
と――琴里はぴくりと眉を上げ、その瞬間、画面が明滅し、艦橋にサイレンが鳴り響いたのだ。
「こ、これは――」
クルーの誰かが狼狽に満ちた声を上げる中、画面中央にウインドウが現れる。
①「さて、改めて自己紹介しよう俺は雷蒼雷牙。おまえは?」
②「ごめん。実は俺、雷牙じゃないんだよ驚いた?」
③「俺と
「選択肢――っ」
琴里はキャンディの棒をピンと立てた。
令音の操作する解析用
つまり、正しい対応をすれば精霊の精神状態が良くなって取り入れることができる。
だがもし間違えれば
精霊もいつまでも待たせるわけにもいかないので。琴里はクルーたちに向かってのどを震わせた。
「これだと思う選択肢を選びなさい!五秒以内!」
クルーたちが一斉に手元のコンソールを操作する。その結果はすぐに琴里の手元のディスプレイに表示された。
最も多いのは――①番
「――やっぱみんな私と同意見みたいね」
琴里が言うと、クルーたちは一斉にうなずいた。
「②は沈黙の時に冗談として使えるように見えますが、警戒を解いていても向こうがまだこちらを敵と疑っているこの場で言っても逆に精神が不安定になるだけでしょう。それに少々鼻につく」
直立不動のまま、神無月がいってくる。
「......③は論外だね。万が一この場を壊せることができたとしても、横に風穴が開いてそれで終わりだ」
次いで、艦橋下段から令音が声を発してきた。
「そうね。その点①は理に適ってるし、上手くすれば真面目に会話の主導権を握ることもできるかもしれないわ」
琴里は小さくうなずくと、再びマイクを引き寄せた。
『雷牙。聞こえる?今から私の言うとおりに答えなさい』
「あ、ああ」
『――さて、改めて自己紹介をしよう俺は雷蒼雷牙。おまえは?』
「――さて、改めて自己紹介をしよう俺は雷蒼雷牙。おまえは?」
「.....」
雷牙の声を聞いた少女は途端表情を悲しそうに歪め、拳をギュッと握ると教室の床から亀裂が少し入り。
スドォォォォォォン
と、大きな衝撃と亀裂と共に光の球みたいなのが雷牙に向かって飛んできた。
「うぉ....ッ」
慌てて亀裂と光の球が無い方に移動した。
一瞬あと、雷牙の立っていた場所に何処からか投げつけられてきた黒い光球の跡があり。床に、二階一階まで貫通するような大穴が開く。
ついでに雷牙はその瞬間の衝撃波で吹き飛ばされ、机と椅子を盛大に巻き込みながら教室の端まで転がった。
「.....ってぇ.....」
『大丈夫?雷牙。さっきの亀裂はその精霊でしょうけど、光の球は士道がいる二年四組のクラスからよ』
「危ねぇじゃねぇか.....ッ殺す気ですか!....っ」
心底心配してない声音でいってくる。琴里に、雷牙は頭を押さえながら身を起こした。
と――
「.....名前なんて必要あるの?」
雷牙の机にある椅子から、少女が言ってくる。
「――え?」
雷牙は困惑した。少女が自分に名前が必要あるのかと、問いてきたのだ。
「確かにあなたに会う約束はした。たけど、私は精霊。人間に害を成すもの。人類の脅威であり死ななくちゃいけないそんな
雷牙は、小さく、眉根を寄せ、奥歯をぎりと噛んだ。
少女への安心感よりも先に。
少女が雷牙の言葉――君の名は、というその台詞を、微塵も信じることができないのが。
信じることができないような環境に晒されていた、というのが。嫌でたまらなかった。
「――それは違う....ッ」
思わず、雷牙は声を、発していた。
「人間はおまえを殺そうとするような奴らばかりじゃねぇんだッ!」
「.........」
少女は目を丸くして、雷牙を見つめる。
そしてしばしの間、もの問いたげな視線で雷牙の顔を見つめたあと、小さく唇を開いた。
「......そんなはずがない」
「本当だ!」
「違う。私が出会った人間たちは、皆私は死ななくちゃならないと言っていた」
「そんなわけ.....ねぇだろうがッ」
「......」
少女は何も答えず、後ろを向いた。
まだ雷牙の話が信じ切れないのだろう後ろを向いた途端少女が雷牙に問う。
「.....じゃあ聞くけど。貴方は
「っ、それは――」
『雷牙、待ちなさい』
雷牙が言おうとすると同時に、琴里の声が右耳に響いてきた。
「――また選択肢ね」
琴里は手に顎を置きながら、スクリーンの中央に表示された選択肢を見つめた。
①「もちろんお前に会うためだ」
②「知らねぇよ、そんなん」
③「偶然だろ、偶然」
手元のディスプレイに、瞬時にクルーたちの意見が集まってくる。①が人気だ。
「②は、さっきの反応を見る限り駄目でしょうね。――雷牙、無難に、お前に会うためだとでも言っておきなさい」
琴里がマイクに向かって言うと、雷牙が画面の中で立ち上がりながら口を開いた。
『お前に会うためだ』
『.........?』
少女が、きょとんとした顔を作る。
『一体何のために?』
少女が首を傾げてそう言った瞬間、またも画面に選択肢が表示される。
①「お前に興味が湧いたんだ」
②「お前と、愛し合うためだ」
③「お前に一つ訊きたいことがある」
「んー......どうしたもんかしらねぇ」
琴里があごをさすっていると、手元のディスプレイには②の回答が集まっていった。
「まぁ、いいでしょ。①や③だとまた質問を返されるだろうし。――雷牙。君と、愛し合うためだ、よ」
マイクに向かって指示を発する。
「あー.....その、だな」
「なに、言えないの?あなたは理由もなく私のもとに現れたの?それとも――」
少女の目が、険しいものになっていく。雷牙は慌てて声を発した。
「お、お前と...愛し合うため....だ?」
雷牙が言った瞬間、少女は腰に掛けてある刀を抜き横薙ぎに振り抜いた。
瞬間、雷牙の頭のすぐ上を刀から出る風の刃が通り抜け――教室の壁を切り裂いて外へと抜けていった。
「うぉ.....ッ!?」
「.....冗談はいらない」
ひどく憂鬱そうな顔をして、少女が呟く。
「......っ」
――ああ、また、この顔だ。
雷牙が大嫌いな、この顔だ。
自分が愛されるなんて微塵も思っていない、世界に絶望した表情だ。
雷牙は、その顔をみると思わず声を発していた。
「俺は.....ッ、おまえと話をするためにここにきたッ!」
雷牙が言うと――少女は意味がわからないといった様子で眉をひそめた。
「.....どういう意味?」
「そのまんまの意味だ。俺はおまえと話がしたい。内容なんかなんでもいい。気に入らないものだったら無視してくれていい。でも、一つだけ言わせてくれ――」
『ちょっと雷牙、待ちなさい!』
琴里が、慌てて諌めるように言ってきた。多分、今士道側の方にサポートにまわって忙しく突然のことすぎて反応が遅れたのだろう。しかし雷牙は止まらなかった。
だって、今までこの少女には手を差し伸べる人間が誰もいなかったのだ。たった一言でもあれば状況が違ったかもしれないのに、その一言をかけてやる人間が、一人もいなかったのだ。
雷牙には父が、母が、そして
でも、彼女には、否定する人がいて肯定する人が誰もいなかったのだ。だったら――雷牙自身が言うしかない。
「自分がいらない存在?ふざけんな!いらなかったらこの世界に生まれていないだろうが!そんな自虐的で自分の事を責めるなら、俺はお前の思考を否定して――」
「正してやる!」
雷牙はだん、と足を踏みしめると、一言一言を区切るように言う。
「.........!」
少女は眉根を寄せると、雷牙から目を剃らした。
そしてしばしの間黙ったあと、小さく唇を開く。
「.......確かライガ。てっいったよね?」
「――ああ」
「本当に、私を否定して正してくれるの?」
「本当だ」
「本当に本当?」
「本当に本当だ」
「本当に本当に本当?」
「本当に本当に本当だよ」
雷牙が間髪入れず答えると、少女はあごに手を置き、顔の向きを戻してきた。
「――ふん」
「誰がそんな言葉に騙されると思ってるのバーカ」
「っ、俺は――」
「....まぁ、あなたは信頼できる。だけど、どんな腹があるのかは知らない。だから....この世界の情報を得るために少しだけ利用する」
言って、もう一度ふんと息を吐く。
「......どゆこと?」
「話しくらいするんでしょ?だからその対価としてこの世界の情報を得る。わかった?」
言いながらも――ほんの少しだけ、少女の表情が和らいだ気がする。
「お、おう、そうだな....」
雷牙は頬をポリポリとかきながらそう返した。
雷牙が困惑していると、左耳に琴里の声が響いた。
『――まったく無茶してくれるわね。まぁ、上出来よ。そのまま続けなさい』
「了解だ」
と、少女が小股で教室の外周をゆっくりと回り始めた。
「ただし私が、不審な行動だと思ったらあなたの身体に風穴が開けるから」
「.....わかった、従うよ」
士道の返答を聞きながら、少女がゆっくりと教室に足音を響かせていく。
「ライガ」
「ん?、なんだ?」
「――早速聞くけど。ここは一体何処なの?初めて見る場所だから教えて」
言って、歩きながら倒れていない机をペタペタと触り回る。
「....ああ、学校――教室、そうだな、俺と同年代くらいの人たちが勉強する場所だ。その席に座って、こうだ」
「へぇー」
少女は驚いたように目を丸くした。
「これに全ての人間が収まるの?冗談でしょ?四十近くあるのに」
「いや、本当なんだよこれが」
いいながら、雷牙は頬をかいた。少女が現れるときは、街には避難警報が発令されている。少女が見たことのある人間なんて、ASTくらいのものだろう。人数もそこまでは多くはあるまい。
「なぁ――」
少女の名を呼ぼうとし雷牙は声を詰まらせた。
「なに?」
雷牙の様子に気づいたのだろう、少女が眉をひそめてくる。
そしてしばし考えを巡らせるようにあごに手を置いたあと、
「.....そうね、会話を交わす相手がいるのなら必要ね」
そううなずいて、
「ライガ。――あなたは私を何て呼びたい?」
手近にあった椅子に寄りかかりながら、そんな事を言ってきた。
「......へ?」
言っている意味がわからず、問い返す。
少女はふんと腕組みすると、尊大な調子で続けた。
「あなたが私に名前をつけて」
しばし沈黙したあとで。
――クッソ重ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
雷牙は心中で絶叫した。
「え、マジ?俺がつけんのッ!?」
「ええ。どうせあなた以外と会話する気もないし。問題ない」
「うっわ、今〈プリンセス〉で忙しいのにこれまたヘビーなのが来たわね」
館長席に腰を掛けながら、琴里は頬をかいた。
「......ふむ、どうしたものかね」
艦橋下段で、令音がそれに応えるようにうなる。
艦橋にはサイレンが鳴っているとのの、スクリーンには選択肢が表示されていなかった。
AIでランダムに名前を組むだけでは、パターンが多すぎて表示しきれないのだろう。
それについて琴里は顎を手におき頭を悩ませていると、
『司令。その役目俺が一人でやってもいいか?』
雷牙が少女の名前決めを一人でやると言ってきたのだ。
「待ちなさい雷牙。焦って変な名前を付けたら取り返しのつかないことになるのよ?」
『――それはわかってる。だが、そっちも士道の方で手一杯じゃないのか?』
「うっ.....」
どうやら図星らしい。それもそうだ琴里たちは今、士道のサポートで手一杯な状態。今士道の方は〈プリンセス〉の名前決めをしている真っ最中なのだ。
琴里はため息を吐き、口を開く。
「わかったわ。そっちの方はあなたに任せるただし、変な名前をつけたら承知しないわよ?」
『御忠告どうも。任せろ名前はもう決まってるんだ』
どうやらもう名前は決まっているようで雷牙は妙に自信のある表情をしていた。
「そ、ならちゃっちゃと付けなさいそろそろ士道の方も終わるし」
『了解』
通信が終わると雷牙は少女の方に身体を向ける。
「なにしてるの?もしかして、まさか私を殺――」
「違うから安心しろ!」
長く話しすぎたようだ。少女が雷牙に半眼で睨みつけてきた。
「さっきのは、おまえの名前を決めていたからだ」
「.....決まったの?」
雷牙はうなずいて少女の名前を呼ぶ。
「お前の名前は――」
太股まであって透き通るような長い白い髪に、宝石を連想させるような紅い眼。そして、彼女が持っている白く輝く一筋の刃。
その名も――
「
自信がある雷牙は、そんな名前を即答で言った。
「ん?」
「どうだ?」
「.......」
少女はしばらく黙ると――
「まぁ、変な名前を付けられるよりマシね」
「さすがに俺でも名前は決められるわ!」
雷牙は叫ぶが、少女はそれを無視しすぐにトントンと雷牙に近づいてきた。
「それで――シロハてっ、どう書くの?」
「ん、それはだな――」
雷牙は黒板の方に歩いていくと、チョークを手に取り、『白刃』と書いた。
「ふーん」
少女が小さくうなってから、雷牙の真似をするように指先を――
「あ、ちゃんとそこにあるチョークを使えよ?指で書いても......」
言いかけて、言葉を止める。何故なら少女の指から風が出てきて黒板が削り取られ、綺麗な『白刃』の二文字が記されていた。
「なに?」
「.....すまん、なんでもないぞ」
「そう」
少女はそう言うと、しばしの間自分の書いた文字をじっと見つめ、小さくうなずいた。
「ライガ」
「ん?」
「白刃」
「へ?」
「白刃。私の名前よ。素敵ね」
「ああ、そうだな....とても良い名前だ」
何故か知らないが....ちょっと気恥ずかしかった。
雷牙は苦笑しながら頬をかいた。
だが、少女――いや白刃は、もう一度同じように唇を動かした。
「ライガ」
.....さすがに雷牙でも、白刃の意図はわかった。
「白刃....」
雷牙がその名を呼ぶと、白刃は満足そうに唇をにッと上げた。
「.....ッ!」
心臓が、何故かどくんと跳ねる。何かに恐怖を感じたわけではない。その笑顔を見たとたん、何かに掴まれた感じがした。だが、それがなんなのか知るよしもない。
今は白刃の笑顔を見れたことしか頭に入っていなかったのだ。
と、そのとき、
「――!?」
突如、校舎を凄まじい爆音と振動が襲った。
咄嗟に黒板に手をついて身体を支える。
「クソ、そろそろ来ると思っていたが今になってくるのかよ.....」
『雷牙、床に伏せなさい』
と、左耳に琴里の声が響いてくる。
「言われなくてもわーってるよ」
雷牙は言われたとおりに床にうつぶせになった。
次の瞬間、ガガガガガガガガガ――ッと、けたたましい音を立てて、教室の窓ガラスが一斉に割れ、ついでに向かいの壁にいくつもの銃痕が刻まれていった。
まるで紛争にいる気分だった。
「やっぱり
『確かに。雷牙の言うとおり精霊をいぶり出すためじゃないかしら。――ああ、それとも校舎ごと潰して、精霊が隠れる場所をなくすつもりかも』
「本当に....、無茶苦茶すぎるな....」
『その部隊に入ってるあなたがいうの?ま、今はウィザードの災害復興部隊がいるからね。すぐに直せるなら、一回くらい壊しちゃっても大丈夫ってことでしょ。――にしても予想外ね。こんな強行策に出てくるなんて』
と、そこで、雷牙は顔を上に向けた。白刃が、先ほど雷牙に対していたときとはまるで違う表情をして、ボロボロになった窓の外に視線を送っていた。
無論、白刃には銃弾はおろか、窓ガラスの破片すら触れていない。だけれどその顔は、ひどく痛ましく歪んでいた。
「――白刃ッ!」
思わず、雷牙は彼女の名を呼んでいた。
「.......っ」
ハッとした様子で白刃が視線を、外から雷牙に移してくる。未だ凄まじい銃声は響いていたが、二年三組と二年四組からの教室への攻撃は一旦止んでいた。外に気を張りながらも身を起こす。と、白刃が悲しげに目を伏せた。
「....早く逃げて、ライガ。私と一緒にいると、討たれることになる」
「知るかよ....っ!」
雷牙は一言いうと、白刃の近くにある椅子に座った。
「え――?」
白刃が目を見開く。
「何をしているの?早く――」
「だから知るかってのそんなこと。今はお前と俺との会話タイムだ。あんなやつら気にするなよ。――この世界の情報、もっと欲しいんだろ?俺が答えられる範囲なら何でも教えてやる」
「......ふふ、やっぱあなた可笑しいよ」
白刃は一瞬驚いた顔を作ってから、雷牙の行動に少し笑い。雷牙の向かい側の椅子に座り混んだ。
◇
「―――」
ワイヤリングスーツに身を包んだ折紙は、その両手に巨大なガトリング砲を握っていた。照準をセットして引き金を引き、ありったけの弾を学舎にぶち撒ける。
とわいえ――
『――どう?精霊は出てきた?』
ヘッドセットに内臓されたインカム越しに、燎子の声が聞こえてくる。
燎子は折紙のすぐ隣にいるのだが――この銃声の中では肉声など届かないのだ。
「まだ確認できない」
攻撃の手を止めないまま、答える。
折紙は自らも銃を撃ちながら、目を見開いて崩れゆく校舎をじっと睨めていた。通常であればまともに見取ることすらできない距離だったが、
と――折紙は小さく目を細めた。
二年四組。折紙たちの教室。その外壁が、折紙たちの攻撃によって完全に崩れ落ち――ターゲットである精霊の姿が見えたのだ。
だが――
『.....ん?あれは――』
燎子が訝しげな声を上げた。
それはそうだろう。教室の中には、精霊の他に、もう一人少年と思しき人間が確認できたのである。――逃げ遅れた生徒だろうか。
「な、何あれ。精霊に襲われてる――?」
燎子が眉をひそめながら声を発する。
だけれど折紙はそれに反応を示すことなく、ただ教室をじっと見つめ続けた。精霊と一緒にいる少年の姿に、見覚えがある気がしたのである。
「――――!」
折紙は、目を見開いていた。
だってその少年は――折紙のクラスメート・五河士道その人だったのだから。
「――折紙?」
隣から、燎子が怪訝そうに話しかけてくる。たが折紙は答えず、ただ頭の中に指令を巡らせた。
全身に纏った
「ちょっと、折紙!?」
『――危険です。単独専行は避けてください』
さすがに異常に気づいたのだろう、燎子と本部から通信が、ほぼ同時に響く。
しかし折紙は止まらなかった。すぐさま両手に携えていたガトリングを捨て、腰に携えていた近接戦闘用の対精霊レイザー・ブレイド〈ノーペイン〉を引き抜いて、校舎へと向かっていった。
だが、校舎に向かう途中。視界に二年三組の教室が入るが、折紙は気づかなかった。そこには士道と同じぐらいに大切な人がいたことを知らずに。
◇
一方その頃士道は銃弾の吹き荒れる二年四組の教室で、女の子
.....当然ながら、生まれて初めての経験だった。十香の力なのだろうか、夥しい数の銃弾は、二人を避けるように、校舎を貫通していく。
とはいえ目の前を弾が通り抜けていくなんて、日常生活でそう体験できるものではない。少しでも動いてしまったら着弾するような気がして、士道は身を硬直させながら会話を続けていた。
会話の内容自体は、なんてことのないものである。十香が今まで誰にも聞けなかったようなことを質問し、士道が答える。ただそれだけの応酬で、十香は満足そうに笑った。
そしてどれくらい話した頃だろうか――士道の耳に、琴里の声が聞こえてきた。
『――数値が安定してきたわ。もし可能だったら、士道からも質問をしてみてちょうだい。精霊の情報が欲しいわ』
言われて、少し考えを巡らせてから士道は口を開いた。
「なぁ――十香」
「なんだ」
「おまえって.....結局どういう存在なんだ?」
「む?」
士道の質問に、十香が眉をひそめる。
「――知らん」
「知らん、て.....」
「事実なのだ。仕方ないだろう。――どれくらい前だったか、私は急にそこに
「そ、そういうものか.....ん?もう一人てっ誰だ?」
士道が頬をかきながら言うと、十香はふんと息を吐いて腕組みをした。
「詳しくは知らん突然この世に生まれ、そこには私と同じぐらいのやつがいたがその瞬間にはもう空にメカメカ団が舞っていてそいつに話すらも出来なかったのだ」
「め、メカメカ団....?」
「あのびゅんびゅんうるさい人間たちのことだ」
どうやらASTのことらしい。士道は思わず苦笑した。だが、士道はASTのことより十香と一緒にいたもう一人のことが気になったので十香に質問をする。
「.....なぁ十香。その一緒にいた人の特徴は覚えてるか?少しだけでいいから教えてくれると助かるんだが....」
十香は腕組みをしながらうーんと考える素振りを見せながら声を発する。
「....確か。白くて赤い目をしていたぞ後はスババーン、ズドドーンとメカメカ団から私のことをよく守っていてとても心強かった」
「――よく分からないが....琴里。何かわかるか?」
十香の説明が非常に壊滅的で士道にはよくわからずその特徴を元に琴里に訊いてみた。
『――そうねぇ.....多分だけど十香が言ってるのは〈ホワイト〉のことでしょうね』
「ホワイト?誰だそれ?」
『精霊の中で全身が白いからそう呼ばれている危険な精霊よまぁ詳しくは後で話すわ――!』
と、次いで士道のインカムから、クイズに正解したときのような、軽快な電子音が鳴った。
『チャンスよ、士道』
「は......?何がだ?」
『精霊の機嫌メーターが七十を越えたわ。一歩踏み込むなら今よ』
「踏み込むって......何すりゃいいんだ?」
『んー、そうね。とりあえず....デートにでも誘ってみれば?』
「はぁ......!?」
琴里の言葉に、士道は思わず大声を上げてしまっていた。
「ん、どうしたシドー」
士道の声に反応して、十香が目を向けてくる。
「ッ――!や、気にしないでくれ」
「......」
慌てて取り繕うも、十香はじとっとした訝しげな目で士道を見つめてきた。
『誘っちゃなさいよ。やっぱ新密度上げるためには一気にこう、さ』
「....んなこと言ったって、こいつ出てきたときにはASTが....」
『だからこそよ。今度限界したとき、大きな建造物の中に逃げ込んでくれるよう頼んでおくの。水族館でも映画館でもデパートでも何でもいいわ。地下施設があるとさらにいいわね。それなら、ASTも直接は入ってこれないでしょ』
「.....む、むう」
「さっきから何をブツブツ言っている。.....!やはり私を殺す算段を!?」
「ち、違う違う!誤解だ!」
視線を鋭くし、指先に光球を出現させた十香を、慌てて制止する。
「なら言え。今何と言っていた」
「そ、それは.....」
士道が頬に汗を滲ませながらうめくと、はやし立てるかのような声が右耳に響いてきた。
『ほーら、観念しなさいよ。デートっ!デートっ!』
そこで艦橋内のクルーを煽動でもしたのだろう、インカムの向こうから、遠雷のようなデートコールが聞こえてくる。
『デ・エ・ト!』
『デ・エ・ト!』
『デ・エ・ト!』
「あーもうわかったよッ!」
士道は観念して叫びを上げた。
「あのだな、十香」
「ん、なんだ」
「そ、その......こ、今度俺と」
「ん」
「で、デート....しないか?」
十香は、キョトンとした顔を作った。
「デェトとは一体なんだ」
「そ、それはだな....」
と、そのとき、右耳に、少し大きな琴里の声が入ってきた。
『――士道!ASTが動いたわ!』
「は......!?」
目前にいる十香にも聞こえてしまっているだろうが、士道は構わず声を発していた。
瞬間――いつの間にやら解放感に溢れていた教室の外から、折紙が現れる。
「――っ!」
十香が一瞬のうちに表情を険しくし、そちらに手のひらを広げる。それから一拍もおかぬうちに、手にした無骨な機械から光の刃を現出させた折紙が、十香に襲いかかった。
◇
数分前。
雷牙は二年三組の教室で白刃と椅子に座りながら、お互いに情報共有していた。内容自体は、なんてことないものだ。
ただ白刃が今まで誰にも聞けなかったようなことを質問し、それを雷牙が答える。それだけの応酬で、なぜか白刃は満足そうに笑った。それもそうだろう。白刃にとって会話は貴重なもので限界するとASTとの戦闘の繰り返しで誰も話をする人などいなかったのだ。
そしてどれくらい話した頃だろうか覚えてはいなかいが――雷牙の耳に琴里の声が聞こえてきた。
『――雷牙。〈ホワイト〉の数値が安定してきたわ。もし可能だったら、雷牙からも質問をしてみて。目撃例が少ない精霊だから情報が欲しいわ』
言われて、少し考えを巡らせ、雷牙は口を開いた。
「なぁ――白刃」
「なに」
「結局おまえはどういう存在なんだ?」
「.....」
雷牙の質問に、白刃が眉をひそめる。
「――わからない」
「わからないってそれはどういう.....」
「本当よ。しょうがないじゃない。――どれくらいだったかな、突然私は芽生えた。ただそれだけ。記憶は無く曖昧。私がどういう存在なのか、知ることが出来ない」
「そうなのか......?」
雷牙が腕を組ながら言うと、白刃はふんと息を吐いた。
「そう。突然この世に生まれて、その瞬間には空にハエが舞っていたの」
「は、ハエ....?」
「あのブンブン飛んでいる人間のこと」
「あぁ、ASTか」
雷牙は白刃の例えが面白すぎて思わず少し笑った。
と、次いでに左耳にはめているインカムから、琴里の声が聞こえてきた。
『雷牙、チャンスよ』
「....?何が?」
『精霊の機嫌メーターが七十を越えたの。一歩踏み込みなさい』
「踏み込むって.....あーそうゆうことか」
『察しが早くて助かるわ。んー、そうね。とりあえず....デートに誘いなさい』
「あーハイハイデートね.......デートォォ!?」
琴里の言葉に、雷牙は思わず大声を上げてしまっていた。
雷牙は勘違いをしていた。一歩踏み込む。つまり一緒にどこかに遊びに行くことだと思ったのだ。
まさかデートとは思わず答えてしまった。
それを聞いた琴里ははぁとため息を吐く。
「?どうしたのライガ」
雷牙の声に反応したんだろう。白刃が目を向けてくる。
「ッ――えと、....気にしないでくれ」
「........」
慌てて取り繕うとするが、白刃はじとっとした訝しげに目を雷牙に見つめてきた。
「さっきから一人で何を言っているの?....!やっぱり私を殺す作戦を!?」
「違う!誤解だ!」
「なら言って。今何て言ったの?」
「う.....」
雷牙が頬に汗を滲ませながらうめくと、白刃が目を細めながらジーと見つめてくる。
「はぁ...わかったよ」
雷牙は観念して白刃に口を開く。
「白刃」
「なに」
「その....今度良かったら俺と」
「うん」
「で、デートに行かないか!」
白刃は、目を見開きながら驚いた顔を作った。
「.....デートね....」
「ど、どうだ?」
白刃は腕組みをしながら少し考えると、
「いいよ」
「え?いいのか?」
「そっちから言ってきたんだから責任とってよ?」
「あ、ああ。そうだな任せろ!」
と、そのとき、
スドォォォォォン!!
隣の二年四組のクラスから大きな音と共に左耳から琴里の声が入ってきた。
『――雷牙!ASTが動いたわ!今すぐ〈フラクシナス〉で回収するから廊下に出て』
「わかった。悪い白刃。デートは明日行こう!んじゃまたな!」
「うん。また、ね。」
雷牙は二年三組に白刃を残して急いで廊下に向かい教室を出て廊下に行くと、突如不思議な浮遊感が襲い雷牙は〈フラクシナス〉に回収された。
白刃だけ残された二年三組の教室はなぜか寂しい感じになっていると感じた。
「.......呼んでる」
そう言うと白刃は椅子から立ち上がり左手を横にかざす。
「――
左手から白い刀が現れた。その刀は鞘は黒く少し金色の装飾あり、柄は白い、鐔は丸い金色で風の絵柄が施されている。刀の刀身は鎬造。
白刃その刀を右手で抜刀し、半壊した窓から隣の二年四組のクラスに向かって行った。
◇
溶接現場もかくやというほどの火花が、あたり一面に飛び散る。
「く――」
「――無粋!」
十香は一喝するように叫ぶと、光の刃を受け止めていた手を、折紙ごと振り払った。
「........っ」
微かに歯を食いしばりながら、折紙が後方へと吹き飛ばされる。――が、即座に姿勢を整えると、銃痕だらけの床に華麗に着地してみせた。
「ち――また、貴様か」
光の刃を受け止めていた手を軽く振りながら、唾棄するように十香が言う。折紙は士道を一瞥すると、安堵したかのように小さな息を吐いた。
しかしすぐに見慣れない武器を構え直し十香に冷たい視線を放つ。
「..........」
その様子を見た十香は、ちらと士道を一瞥してから、自分の足下の床に踵を突き立てた。
「―――〈
瞬間、教室の床が隆起し、そこから王座が現れる。
と、次の瞬間。
半壊した窓ガラスがあった場所から風が吹き。白い物体が十香の前に現れる。その正体は――
つい先ほど、雷牙と会話をしていた精霊〈ホワイト〉の少女。白刃が十香を守るかのように刀を折紙に向けていた。
十香は少し驚いてたが白刃の姿を確認すると、まるで友達みたいかのように、口を発する。
「おぉ来たか白いの!」
「呼ばれた気がしただけよ」
「おい白いの。今回は手出しは無用だいいな?」
「ふーん、わかった」
返答はそっけないが何故か白刃は十香を少しみて安堵したような気がした。
「な.....」
『士道、離脱よ!一旦〈フラクシナス〉で雷牙と一緒に拾うわ。出来るだけ三人から離れなさい!』
士道が呆然としていると、琴里が叫ぶのが聞こえてきた。
「んなこと言ったって......っ」
と、十香が王座の背もたれから剣を抜き、折紙に向かって振るう。
その際の衝撃波で、士道の身体はいとも簡単に、校舎の外に吹き飛ばされた。
「のわぁぁぁぁぁッ!?」
『ナイスっ!』
琴里の声が響くと同時、士道の身体が無重力に包まれる。不思議な浮遊感を感じながら、士道は〈フラクシナス〉に回収された。
◇
「.......やっぱ、あんなことが起こりゃ休校にはなるよな...」
雷牙は両手を頭の後ろに組みながら高校前から延びる坂道を下っていた。
雷牙が精霊に白刃という名をつけた次の日。普通に登校した雷牙は、ぴたりと閉じられた校門と、瓦礫の山と化した校舎を見て、自分の真面目さ?に阿保すぎて息を吐いた。
「うーん家帰っても暇だしなぁ......駐屯地に行ってCR-ユニットの整備でもしに行くか」
考えながら、家への帰路とは違う道に足を向ける。
確かつい最近燎子隊長から最近CR-ユニットの
と――数分と待たず、雷牙は足を止めた。道に、立ち入り禁止を示す看板がたっていたのである。
「...ちっ、通行止めかよ....」
だがそんなものがなくとも、その道を通行できないことは容易に知れた。何しろアスファルトの地面は滅茶苦茶に掘り返され、ブロック塀は崩れ、雑居ビルまで崩落している。まるで戦争でもあったかのような有り様だったのだから。
「――ん、確かここは」
この場所には覚えがあった。初めて白刃に会った空間震現場の一角である。まだ復興部隊が処理をしていなのだろう。十日前の惨状をそのままに残していた。
「.......」
空を見ながら少女の姿を思い浮かべながら、細く、息を吐く。
――白刃。
昨日まで名を持たなかった、精霊と、災厄と呼ばれる少女。昨日、前よりずっと長い時間会話をしてみて――雷牙は確信した。あの少女は確かに、普通では考えられないような力を持っている。国の機関が危険視するのもうなずけるほどに。
今雷牙の目の前に広がる惨状がその証拠である。確かにこんな現象を野放しには出来ないだろう。
「.....ガ」
だけれどそれと同時に雷牙は、彼女がその力をいたずらに振るう、思慮も慈悲もない怪物だとは、到底思えなかった。
「......ぇ、......ガ」
そんな彼女が、雷牙が大嫌いな絶望をしている顔を作っている。それが、雷牙にはどうしても許容できなかったのである。
「ねぇ、ライガ」
.....まぁ、そんなことを頭の中にぐるぐる巡らせていたものだから、気づいて当然の事態に思考がいかず、校門の裏まで歩く羽目になってしまったのであるが。
「......ねぇ、聞こえてる?」
「――あ?」
視界の奥――通行止めになっているエリアの向こう側からそんな声が響いてきて、雷牙は首を傾げた。凛と風を切るような、静かで美しい声。
どこかで.....具体的には昨日学校で聞いたことのあるような声。
......今、こんなところでは、聞こえてくるはずがない、声。
「え、ええと――」
雷牙は自分の記憶と今し方響いた声音を照合しながら、その方向に視線を集中させた。そしてそのまま、全身を硬直させる。
視線の先。
瓦礫の山の上に、明らかに街中に似つかわしくない白いドレスを纏った少女が、ちょこんと屈み混んでいた。
「し――白刃!?」
そう、そこには昨日学校で会話した精霊。白刃がいた。
ハイいかがでしたでしょうか。
オリ精霊の名前は白刃です白い刃に、白刃。格好いいですね。
因みに天使の刀のベースはデビルメイクライの闇魔刀を参照してください。
これもうクロスオーバーしてるかな?
さて、次回は白刃のデート編です。一体どんな風になるのか楽しみに待っててください。
次回:白いデート
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第5話:白いデート
どうもやる気が起きなくてずっとサボってました。本当に申し訳ない。
ですが!投稿は続けるので、気長に待っててくれると嬉しいです。
でわどうぞー( ゚д゚)ノー
そう、雷牙の脳か目に異常がなければ、その少女は間違えなく、昨日雷牙が学校で遭遇した精霊だった。
「やっと気づいた、このバーカ」
背筋が凍るほど美しい貌を不満げな色に染めた少女は、トン、と瓦礫の山を蹴ると、かろうじて原型が残っているアスファルトの上を辿って雷牙の方へと進んできた。
「ほい」
と、通行の邪魔だったのだろう、白刃が立ち入り禁止の看板を蹴り飛ばし、雷牙の目の前に到着する。
「あー、何してんだ?、白刃.....」
「.....?何とは何?」
「なんで、こんなとこにいるんだって話だろうが....っ!」
雷牙は叫びながら後方に視線を放った。立ち話をする奥様方や、犬の散歩をする近所の住人などが見受けられる。誰もシェルターに避難していない。つまり、空間震警報がなっていないのだ。
要するに、精霊現界の際の前震を、〈ラタトスク〉もASTも感知できていないということである。
「なんでって言われても....あなた忘れたの?」
しかし当の本人はその異常事態をまるで気にしていない様子だった。なぜ雷牙が叫んでいるのかが本当にわからないといった様子で左手を顎に置いた。
「ライガから誘ったんでしょ?そう、デートに」
「あ......」
こともなげにいい放った白刃に、雷牙は頬に汗を垂らした。
「そ、そうか覚えてたのか.......?」
「なに、私を馬鹿にしているの?」
「いや、そういうわけじゃないんだがな....」
「――ふーん、まぁいいや。それよりもライガ、早くデートに行こ?早く早く!!」
白刃が雷牙の左手を握りながら引っ張ってデートに行こうと催促をする。
「ま、待て待てわかった!わかったから頼むから俺の左手を引っ張るのをやめてくれ!」
「なんで?.....はっ!?、まさかライガ、私を押し倒そうと企んでるの?」
頬を赤く染め、白刃が眉をひそめる。
「――ッ!し、しないからな!俺は健全な男子だ!こんな所で非常識な事するやつがいるか!」
言ってから、後頭部をかく。雷牙は知らないが人によっては極めて不健全な事態の行動を起こすやつもいるかもしれない。
と、雷牙は居心地の悪い視線に身をよじった。
近所の奥様方がニヤニヤしながら、微笑ましいものを見るような目を向けてきているのである。まぁ一部、白刃の奇妙な格好を訝しむような視線が混じっている気もするが。
「......ん?」
白刃もその視線に気がついたらしい。雷牙の陰に身を隠すようにしながら目を鋭くする。
「......ライガ、あの人たちは一体なに。敵?殺す?」
「え....えぇ!?」
なんの前触れもなく物騒な事を口走った白刃に、雷牙は肩を震わせる。
「いやいや待てまて、なんでそうなるんだ。ただのおばあちゃんたちだぞ」
「ライガ何を言っているの。あの爛々と輝く目.....まるで猛禽のようで私を狙ってるようにしか思えない。....放置するとあとあと面倒なことになりそうだから。早めに消した方がいいと思う」
......まぁ、確かに目を輝かせてはいたけれども。主に新たな話の種を見つけていたんだろう。
「安心しろ。言っただろうが、おまえを襲う人間も殺そうとする人間たちなんてそうそういねぇよ」
「......うん」
白刃は未だに警戒を滲ませながらも、とりあえず今にも飛びかかっていきそうな気勢を収める。
「....それで、デートは――」
「っ、ち、ちと場所を移そうぜ。な?」
恥ずかしげもなく続ける白刃にそう言って、雷牙はそそくさと歩き出した。
「ん。ねぇ、ライガ、どこへ行くの?」
白刃はすぐさま追ってくる。そして雷牙の隣に並び歩きながら、不満そうな声を上げた。雷牙は白刃を伴って、ひとけのない路地裏に入り込むと、ようやく息を吐いた。
「本当におかしい人、一体どうしたの?」
白刃が半眼を作り、やれやれといった風情で言ってくる。
「確認するが、白刃.....おまえ、昨日あのあとどうした?」
いろいろ訊きたいことはあるが、最初に口から出たのはそれだった。白刃は少し憮然とした様子になりながら唇を動かした。
「別に、普通通り。通らない剣を振るわれ、当たらない弾を打たれ。――最後は私の身体が自然と消えて終わり」
「.....消える?」
雷牙は疑問に首をひねりながらある話を思い出す。確か、あのSっ毛司令がそんなことを表現して言っていた気がするが、正直。話を流しながら聞いていたのでよくわからなかった。
「この世界と違う別の空間に移動するの」
「そんなもんがあるんだな、一体どんなところなんだ?」
「ごめんわからないの」
「わからない?どうゆうことだ」
白刃の答えに、雷牙は問いかける。
「あっちに移動すると、いつの間に強制的に眠りに入らされるの。」
「てことは、目が覚めたらこの世界に現界すると」
雷牙がそれを言うと白刃は首を横に振り言葉を発する。
「そもそも、私の意思とは関係なく、強制的に起こされる感じ」
「......」
雷牙は息を詰まらせた。精霊はこの世界に現れようとする際に、空間震が起こるものと認識していたのだ。だから白刃と初めて出会った時にシェルターや空間震警報をしっていたのにもうなずける。
だが、白刃の話が本当だとするなら――精霊はこの世界に現れることすら自分の意思でやっているわけではないということになる。
ならば空間震というのは事故のようなもので――その責任までも白刃に、押し付けるのは、いくらなんでも理不尽過ぎる。
だが、雷牙は今の言葉に少し引っかかり疑問が頭の中で過った。それを確認すべく雷牙は白刃に口を開ける。
「なぁいつもってことは、今日は違うのか?」
白刃は頬をピクと動かすと、身体を後ろに向けた。
「知らない」
「そうか、なら詮索しないでおこう」
本当は凄く訊きたいがこれ以上問い詰めると、白刃が手から刀を出して俺の胸に刺しそうなので大人しく引き下がった。
そして目的を思い出したのか、白刃は後ろを向いていた全身を雷牙のいた方に振り向き声を発する。
「そろそろデート行こ。早くしないと日が暮れる」
白刃が急かすように雷牙の左手を引っ張って言ってくる。
「それはわかってるがその前に――白刃。今の姿だとまずいぞ」
「?」
雷牙が言うと、白刃は今の自分の格好に気づいた。
「.....確かにこの格好だと目立つしハエ共もわんさか出るし」
白刃は腕組みをしながらうーんと考えていた。と、思いついたのか白刃は雷牙にある提案をする。
「雷牙なにか画像?てっやつない?人の服装とか」
「画像?それなら....」
雷牙は制服のポケットから携帯電話を出し。ある画像を白刃に見せる。
「――これは?」
そこには、来禅高校の制服を着ている。雷牙と折紙が仲良く写っていた。
「これは去年の入学式に友達と撮った写真なんだ。すまないが服がある画像はこれしかないんだ許してくれ」
そういいながら雷牙は自分の携帯を白刃に渡す。
「この格好を真似ればいいの?」
白刃はなぜか知らないが、写真に写っている折紙を見ながら半眼を作りそう言った。
「あ、ああそうだけど。てかおまえ服作れるの?」
「いや、霊装を一度解除して新しく服を返るの。視認情報だけだからデザインは違うかもしらないけど」
白刃はそう言うと、指をパチンとならす。瞬間ドレスから来禅高校の制服に一瞬で変わった。
「便利だなそれ」
皮肉気味に白刃に聞こえないぐらい小さく言葉をこぼす。
「それより、もう服は大丈夫でしょそれで、最初はどこに行くの?」
「ああ、そうだなひとまず路地裏から出て商店街に行くぞ」
白刃はコクンと頷き二人は路地裏から出てそのまま商店街に向かった。
歩くこと数分。
「....この人間の数は一体....」
白刃は初めて商店街を見て人と車の数の量に目を丸くし、驚いていた。
「白刃は初めてだよな。これが商店街てっやつだ。人が買い物したり遊んだりする場所だよ」
白刃は辺りをキョロキョロしながら物珍しいそうな顔をして人と店を見ていた。
と――ある一つの店に白刃は目を釘付けにされた。
「――ライガ。これはなに?」
気になったのか白刃は指を指しながら、店にあるものについて雷牙に質問をしてきた。
「ん?ああ、それはシュークリームだ」
「シュウクリィム?」
「この柔らかい生地の中にクリームが入っているお菓子だ」
そう。白刃が見ていたのは、シュークリーム。よく小さい頃にだれしも食べたことがあるものだった。
イントネーションは少しちがうが、白刃はシュークリームを見た途端。とてもそれを物欲しそうな目をしながらガラス越しにシュークリームを見つめていた。
「――白刃。食べてみるか?」
雷牙が言うと、白刃は目を輝かせながら首を縦に振った。
「わかった。少し待ってろすぐ買ってくる」
雷牙はシュークリームが置いてある店の中へ入り。二つ購入した。店から出ると外で待っていた白刃がシュークリームをジィーと見ながら早く食べそうな表情をしていた。
「ほら、買ってきたぞ。」
雷牙は右手に持ってあるシュークリームを白刃に渡す。
受け取った白刃は最初は匂いを嗅ぎ、その次にシュークリームを自分の口に一口運ぶ。すると白刃は突然目を輝かせシュークリームをガツガツ食べていた。まるで初めて旨いものを見つけたかのように。
「おいおい....そんなに早く食ってもシュークリームは逃げはしないって」
雷牙は苦笑しながら左手に持ってあるシュークリームを一口食べる。
うん美味しい。
「~~♪」
白刃はシュークリームを食べた途端さっきよりとても機嫌がよくなったのか、笑顔をしながら歩いていた。
「...ライガ」
「ん?」
白刃が雷牙に話し掛ける。
「――またあのシュウクリィム?てっいうの食べたい」
「そか、気に入ってくれたよかったよ。いいぜ、また食べよう」
白刃は頬を少し染めながらコクンと頷いた。
「んじゃ、次はどこに行こうかな?」
雷牙は商店街に来て食事をしたのはいいが、肝心のデートプランを全然決めていなかったので何処に行くか迷っていた。こうゆう時に〈フラクシナス〉に連絡するべきだが残念ながら雷牙はインカムを自分の家の寝室に忘れてしまい連絡をとれずにいた。つまり一人で精霊を攻略するしかないということ。この時雷牙は前もって琴里に連絡先を交換しとけばよかったと後悔していた。その事でどうしようかと腕を組みながら考えていると――隣からグイグイと服の袖を白刃が引っ張ってきた。
「どした。白刃?」
「あそこ行ってみたい」
「ん?あそこ?」
白刃が指を指す方角を見ると、そこにはゲームセンターがあった。白刃はあそこが非常に気になったのだろう。
雷牙はニヤと笑みを浮かべ声を発す。
「OK。予定決まり!ゲームセンターに直行だ!」
雷牙はそう言うと白刃の右手首を左手でつかみ。ゲームセンターの所まで走り、中に入って行った。
中に入ると白刃は大きく目を見開き驚いていた。
「ライガ。ここはどうゆう場所?――まさかあの
「違うぞ.....確かに機械はあるが、全部子供も大人も遊ぶ一種の遊び場さ」
白刃はそうなのかみたいな顔をしながらゲームセンターにあるゲーム機器を見渡していた。
「これを人間が使って遊ぶのね....ん?」
白刃は歩きながら回っていたが何かを見つけたのか途中で足を止める。
「白刃?どうした?」
気になったのか白刃の目線をたどってみると、そこにはゲームセンターには絶対あるクレーンゲームがあった。その中には先ほど商店街で食べたシュークリームに似た抱き枕クッションがあった。
白刃は欲しいのか、ジーとシュークリーム形の抱き枕クッションを見つめていた。
「取ってやるよ」
「いいの?」
白刃はパァとした顔をしながら雷牙に向く。
「おうよ。こんなん楽勝だぜ」
そういうと雷牙はポケットから財布を出し、100円をコイン口に入れた。100円を入れるとクレーンゲームから音がして雷牙はレバーを動かし、シュークリームの抱き枕の所までクレーンを移動させる。抱き枕の上に来たら、レバーの右隣にあるボタンを押してクレーンを抱き枕につかませる。
「うし、後は落ちるかだな。」
後は落ちるだけだがそれは簡単には行かなかった。
クレーンは抱き枕を掴むと上に引き上げ、落とし口に運ばせようとするが、クレーンの振動のせいでその抱き枕は落ちた。
「あー、すまん白刃やっぱ取れなかった。次のゲーム行こうぜ」
と、雷牙は諦めようとしたが、白刃は首を振り口を動かす。
「ライガ。私とあなたで取ろう。そしたら行ける気がする」
白刃の眼には、まるで火が付いたかのようにしながら雷牙の肩に手を置く。雷牙は口から笑顔を見せ。白刃に声を発す。
「わかった。俺がレバーを動かすから白刃はボタンを頼む」
「うん。わかった」
二人はクレーンゲームに向き直り。100円を入れ、再び再戦した。
100円入れ、雷牙はレバーを抱き枕の所まで移動させる。
「白刃俺が指示するまでボタンは押すなこれを逃せばもう取れない」
「大丈夫。私はライガがいいまで押さない」
雷牙は白刃の言葉に少し笑みを浮かべた。その瞬間――
「....!?白刃今だ!」
クレーンが抱き枕の上に到着し、雷牙は白刃に指示を出す。
「うん!」
白刃は思いっきりボタンを押しクレーンが下に降りアームが開く。アームが開きその中に抱き枕が入るとアームは抱き枕を掴み。クレーンを元に戻し落とし口に運ぶ。
「よし!上手くいった。今度は絶対落ちるぞ!」
雷牙はこの角度は絶対落ちるということを知っているのでそれがわかって余裕で言ってた。だがクレーンが落とし口の所に差し掛かった後。
ポトッ
「なっ!それはまじかよ.....」
後少しの所で抱き枕が落とし口の角に引っ掛かったのだ。さすがにこれではどうすることも出来ないので、雷牙は諦めることにした。
「悪い白刃。後少しだったのに....仕方ない他のゲームをしようぜ」
雷牙はクレーンゲームを後にしようとしたが、白刃は無言でクレーンゲームにある取り損ねた抱き枕を見ていたが、突然ボタンをガンと叩き、口を開く。
「どうして?何で落ちないの。ライガと私で協力したのに....お願い落ちて、落ちてよ」
諦めきれないのだろう。願うように白刃は抱き枕を見ながら落ちてと言葉を連呼した。と、次の瞬間。
ポットン――
「「あ....」」
まるで願いが叶ったのか、抱き枕は静かに角から落とし口に落ちたのだ。二人はあまりのことで硬直していたが、抱き枕が落ちた瞬間二人は喜びにあふれ向き合いながらこう言う。
「「落ちたぁぁぁ!!」」
二人は感動のあまり思いっきり叫んだ。
「し、白刃!早く出せ!」
「う、うん!」
白刃は急いで落とし口からシュークリームの抱き枕クッションを出し、両手で抱える。
「ライガ、ライガ。見て、取れた!」
白刃は少しぴょんぴょんと、飛び跳ねながら雷牙に見せびらかす。それを雷牙は思わず可愛らしく思った。
「ああ。やったな白刃!」
雷牙は笑顔で白刃にハイタッチをした。
「よし、抱き枕もとれたし次のゲームに行くか!」
「うん♪」
二人は次のゲームに向かい歩いていった。
たが雷牙はこの後に異変が起こることを知るよしもなかった。
◇
時刻は18時。
夕日に染まった高台の公園には、士道と十香がいた。つい数時間前に士道は学校の校門前に来ており偶然十香と出会いそのままデートなって〈フラクシナス〉からのサポートもあっていろんな所を回り今に至る。
「おお、絶景だな!」
十香は落下防止用の柵から身を乗り出しながら、黄昏色の天宮の街並みを眺めていた。
〈フラクシナス〉クルーたちが巧妙に誘導するルートを辿ってきたところ、ちょうどこの素晴らしい公園に辿り着いたのである。
終着点にここを選んだのは、士道の妹にして〈フラクシナス〉の司令官。五河琴里だろう。
「シドー!あれはどう変形するのだ!?」
十香が遠くを走る電車を指さし、目を輝かせながら言ってくる。
「残念ながら電車は変形しない」
「何、合体タイプか?」
「まぁ、連結くらいはするな」
「おお」
十香は妙に納得した調子でうなずくと、くるりと身体を回転させ、手すりに体重を預けながら士道に向き直った。
「――それにしても」
十香が話題を変えるように、んー、と伸びをした。そして、にぃッ、と屈託ない笑みを浮かべてくる。
「いいものだな、デェトというのは。実にその、なんだ、楽しい」
「.........っ」
不意を突かれたのだろう。自分からは見えないけれど、きっと頬は赤く染まっている。
「どうした、顔が赤いぞシドー」
「......夕日だ」
言って顔をうつむかせる。
「そうか?」
すると十香が士道のもとに寄り、見上げるようにして顔を覗き混んできた。
「ぃ――ッ」
「やはり赤いではないか。何かの疾患か?」
吐息が触れるくれいの距離で、十香が言う。
「や....ち、違う、....から」
視線をそらしながらも――士道の頭の中には、デート、という言葉が渦巻いていた。漫画や映画で見た知識ではあるけれど。たぶん、恋人たちがデートの終盤でこんな素敵な場所を訪れたなら、やっぱり――
「ぬ?」
「―――ッ!」
自然、士道の目は、十香の柔らかそうな唇に向いていた。別に何も言っていないのだが、自分の邪な思考が見透かされたような気がして、再び目を逸らしながら身体を離す。
「なんだ、忙しい奴だな」
「う、うるせ.....」
士道は額に滲んだ汗を袖で拭いながら、ちらと十香の顔を一瞥した。十日前、そして昨日、十香の顔に浮かんでいた鬱々とした表情は、随分と薄れていた。鼻から細く息を吐き、一歩足を引いて十香に向き直る。
「――どうだ?おまえを殺そうとする奴なんていなかっただろ?」
「....ん、皆優しかった。正直に言えば、まだ信じられないくらいに」
「あ.....?」
士道が首をひねると、十香は自嘲気味に苦笑した。
「あんなにも多くの人間が、私を拒絶しないなんて。私を否定しないなんて。――あのメカメカ団....ええと、なんといったか。エイ.....?」
「ASTのことか?」
「そう、それだ。街の人間全てが奴らの手の者で、私を欺こうとしていたと言われた方が真実味がある」
「おいおい.....」
さすがに発想が飛躍しすぎていたが....士道はそれを笑えなかった。だって十香にとっては、それが普通だったのだ。否定されるのが、され続けるのが、普通。なんて――悲しい。
「....それじゃあ、俺もASTの手先ってことになるのか?」
士道が言うと、十香はぶんぶんと首を振った。
「いや、シドーはあれだ。きっと親兄弟を人質に取られて脅されているのだ」
「な、なんだその役柄......」
「.....おまえが敵とか、そんなのは考えさせるな」
「え?」
「なんでもない」
問い返すと、今度は十香が顔を背けた。表情を無理矢理変えるように、手で顔をごしごしとやってから、視線を戻してくる。
「――でも本当に、今日はそれくらい、有意義な1日だった。世界がこんなに優しいだなんて、こんなに楽しいだなんて、こんな綺麗だなんて.....思いもしなかった」
「そう、か――」
士道は口元を綻ばせて息を吐いた。だけれど十香は、そんな士道に反するように、眉を八の字に歪めて苦笑を浮かべた。
「あいつら――ASTとやらの考えも、少しだけわかったしな」
「え......?」
十香が少し悲しそうな顔を作りながら言った。でも士道は、その表情は見ているだけで胸が締め付けられてしまいそうな、悲壮感の漂う顔だった。
「私は.....いつも現界するたびに、こんなにも素晴らしいものを壊していたんだな」
「――――っ」
士道は、息を詰まらせた。
「で、でも、それはおまえの意思とは関係ないんだろ.....ッ!?」
「....ん。現界も、その際の現象も、私にはどうにもならない」
「なら――」
「だがこの世界の住人たちにしてみれば、破壊という結果は変わらない。ASTが私を殺そうとする道理が、ようやく.....知れた」
士道は十香の悲痛な面持ちに胸が引き絞られ、上手く言葉と呼吸が発せなかった。
「シドー。やはり私は――いない方がいいな」
言って――十香が笑う。
「そんなこと.....ない.....ッ」
十香の弱々しく、痛々しい笑顔を見た士道は声に力を込めるため、ぐっと拳を握った。
「だって....今日は空間震が起きてねぇじゃねぇか!きっといつもと何か違いがあるんだ.....ッ!それさえ突き止めれば.....!」
しかし十香は、ゆっくりと首を振った。
「たとえその方法が確立したとしても、不定期き存在がこちらに固着するのは止められない。現界の数は減らないだろう」
「じゃあ.....ッ!もう向こうに帰らなければいいだろうが!」
士道が叫ぶと、十香は顔を上げて目を見開いた。まるでそんな考えをまったく持っていなかったというように。
「そんなことが――可能なはずは.....」
「試したのか!?一度でも!」
「........」
十香が、唇を結んで黙り混む。士道は動悸を抑え込むように胸元を押さえながら、再びのどをを唾液で濡らした。咄嗟に叫んだ言葉だったが――それが可能ならば、空間震は起こらなくなるはずである。確か琴里の説明では、精霊が異空間からこちらの世界に移動する際の余波が空間震となるという話だった。
そして、十香が自分の意思とは関係なく不定期にこちらの世界に引っ張られてしまうというのなら、最初からずっとこちらにとどまっていればよいのだ。
「で、でも、あれだぞ。私は知らないことが多すぎるぞ?」
「そんなもん、俺が全部教えてやる!」
十香が発してきた言葉に、即座に返す。
「寝床や、食べるものだって必要になる」
「それも.....どうにかするッ!」
「予想外の事態が起こるかもしれない」
「んなもん起きたら考えろッ!」
十香は少しの間黙り込んでから、小さく唇を開いてきた。
「.....本当に、私は生きていてもいいのか?」
「ああ!」
「この世界にいてもいいのか?」
「そうだ!」
「....そんなことを言ってくれるのは、きっとシドーだけだぞ。ASTはもちろん、他の人間たちだって、こんな危険な存在が、自分たちの生活空間にいたら嫌に決まってる」
「知ったことかそんなもん.....ッ!!ASTだぁ!?他の人間だぁ!?そいつらが十香!おまえを否定するってんなら!それを越えるくらい俺が!おまえを肯定するッ!」
叫んで。
士道は、十香に向かってバッと手を伸ばした。十香の肩が小さく震える。
「握れ!今は――それだけでいい....ッ!」
十香は顔をうつむかせ、数瞬の間思案するように沈黙したあと、ゆっくりと顔を上げ、そろそろと手を伸ばしてきた。
「シドー――」
と。
士道と十香の手と手が触れ合おうとした瞬間。
「十香!」
突然士道は、両手で思い切り十香を突き飛ばした。細身の十香は突然の衝撃に耐えれず、漫画みたいにごろんと後ろに転がった。その刹那。士道の胸と腹の間くらいに、空洞が開き。地面に倒れた。
「な――何をする!」
砂まみれになった十香が、士道に非難の声を上げるが、それに返すことすら困難。息が、出来ないのだ。意識と姿勢を保っていることすらも、難しい。士道は地面に倒れた瞬間視界が真っ暗となり意識を失った。
「――シドー?」
十香が、呆然と言ってくる。原因を探ろうと、震える右手を脇腹にやってみた。だが、おかしい。何故ならばそこには何も手ごたえがなかったのだ。
「シドー......?」
名前を呼ぶが返事はない。それもそうだ。士道の胸には今、十香の手のひらサイズよりも大きな穴が開いている。
「シ――、ドー」
十香は士道の頭の隣に膝を折ると、その頬をつついた。反応は、ない。
「ぅ、ぁ、あ、――」
数秒のあと、頭がを理解し始める。
...あたりに立ちこめる焦げ臭さに十香は覚えがあった。いつも十香を殺そうと襲ってくるあの一団――ASTのものだ。研ぎ澄まされた一撃。恐らく――あの女。如何に十香とはいえ、礼装を纏っていない状態であれを受けたなら、無事では済まなかっただろう。ましては何の防護を持たない士道がそんな攻撃を受けてしまったのだ。
「―――」
十香は途方もない目眩を感じながらも、未だに空を眺める士道の目に手を置き、ゆっくりと瞼を閉じさせてやった。そして、着ていた制服のブレザーを脱ぐと、優しく士道の亡骸にかける。次いで十香はゆらりと立ち上がると、顔を空に向け、口から言葉を発す。
「やはり、駄目だった。士道とならこの世界で生きられるかもしれないと思った。士道がいてくれたなら、なんとかなるのかもしれないと思った。すごく大変で難しいだろうけど、できるかもしれないと思った。たが、駄目だった。
この世界は――私を否定した!」
それも、考え得る限り、最低最悪の手段を似て。
「――〈
喉の奥から、その名を絞り出す。霊装。絶対にして最強の、精霊の領地。
瞬間、世界が啼いた。周囲の景色がぐにゃりと歪み、落雷が落ち、十香の身体に絡み付いて、荘厳の形を取る。そして光輝く膜がその内部やスカートを彩り――世界の災厄は、降臨した。十香は地面に踵を突き立てた。瞬間、そこから巨大な剣が収められた玉座が現出する。十香はトン、と地を蹴ると、玉座の肘掛けに足をかけ、背もたれから剣を引き抜いた。そして。
「よくも」
目が湿る。
「よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも」
十香は剣を握る手に力を込めると、士道を殺した人間の所まで距離を殺した。
「な――ッ!?」
「―――」
瞬きほどの間も置かず、十香は銃弾が飛んできた高台に移動していた。目前には、驚愕に目を見開く女と、無味な表情の少女、折紙がいる。憎いその貌を見ると同時に、十香は吼えた。
「〈
刹那、十香が足を置いていた玉座に亀裂が走り、バラバラに砕け散った。そして玉座の破片が十香の握った剣にまとわりつき、そのシルエットからさらに大きな大剣に変えていく。全長十メートル以上はあろうかという長大過ぎる剣。十香はそれを軽々と振りかぶると、二人の女に向かって振り下ろした。刀身の光が一層強いものになり、一瞬にして太刀筋の延長線上である地面を這っていく。次の瞬間、凄まじい爆発があたりを襲った。
「な......ッ!」
「―――く」
すんでのところで左右に逃れた二人が戦慄に染まった声を上げた。それはそうだろう。たったの一撃で十香は広大な台地を縦に両断したのだから。
「嘘――」
長身の女が絶望に染まる。だが十香はそんなものには興味を示さず、もう一人の少女に目を向けた。
「――嗚呼、嗚呼。貴様、貴様だな」
静かに、唇を開く。
「我が友を、我が親友を、シドーを殺したのは、貴様だな」
十香がそう言うと、本の少し、少女が初めて表情を歪めた。しかしそんなことはどうでもいい。[
真っ黒に淀んだ瞳で折紙振り下ろす。を見下ろしながら、冷静に、狂う。
「
そう言うと十香は
『――折紙逃げなさい!!』
燎子が声を荒らげる。だが――もう遅かった。折紙の
パリィィィィン
絶対の力を誇るはずの城が。
「―――――――」
綺麗に打ち砕かれた。その衝撃で折紙の身体は、後方へ吹き飛び地面に強く叩きつけられる。
「ぁ―――」
『折紙ッ!』
燎子の声がどこか遠く感じる。
「―――――終われ」
精霊が、剣を振り上げ、そこで止めた。精霊の周囲に黒い輝きを放つ光の粒のようなものがいくつも生まれ、剣の刃に吸い寄せられるように収束していく。止めを刺すのだろう。
が――いくら待っても、身体から切られた痛みが感じないのだ。折紙はゆっくりと目を開らくと目の前にある人物がいた。
「......どうして...あなたが.....」
折紙は重い首を動かし。驚きながら、か細く声を発する。そう折紙は知っていた。何故ならば折紙にとっては士道と同じく大切な存在の人だったのだ。そう、そこには――
「大丈夫か?折紙」
折紙の目の前に立っていたのは白い刀で精霊の長剣を受け止めている雷蒼雷牙の姿がそこにはあった。
如何だったでしょうか?白刃のデート編だけを書くつもりが十香の暴走シーンまで書いてしまいました。
なんか切りが悪いなと思って書いてしもうた....
まぁそんな話は置いといて(・。・;
次回は最後で雷牙と十香の戦闘です。さぁどちらが強いのか、果たして雷牙が持っていたあの白い刀は一体誰のものなのか気になりますね。
では次回にお会いしましょう皆さんも新型コロナウィルスにかからないようお気をつけください。
次回:正す者
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第6話:正す者
長らくお待たせいたしました。
戦闘描写てっ難しいね。
はぁ文力が欲しい。
これで十香デットエンド編は最後になります。
お知らせ。タグを少し変更しました。
ではどうぞ!(´・ω・`)つ
「大丈夫か?折紙」
そこには精霊の長剣を白い刀で受け止めていた雷牙の姿があった。
◇
今から数分前
「いやぁー久々に結構遊んだあそんだぁー」
「うん。とても楽しかった」
先ほどまでゲームセンターで遊んでいた雷牙と白刃は商店街から出て、
「――ねぇ、ライガ」
白刃が話題を作るように、雷牙に話しかける。
「ん?どした?」
「デートてっ、いいものなんだね。その、えーと、楽しかった」
雷牙から目を背け照れくさそうに言った。
「.........ッ!」
不意を突かれてしまった。何この子クソ可愛......確かに、雷牙は女性とあまり交流したことはないが、その表情はいつも隠しているので大丈夫だが、今のは流石に雷牙でも不意打ち過ぎた。今、自分の顔はきっと少し赤くなっているだろう。だが、夕日のお陰でそれは誤魔化せて見えないため白刃には気づかれないだろう。と、白刃は気づいたのか不安そうに口を開く。
「ライガ。大丈夫?顔が赤いけど」
「え?あ、ああ。夕日だ夕日!」
言って誤魔化し直ぐ様顔を反対側にそっぽっと向く。
「そう?」
すると白刃が雷牙のもとに寄り、反対側に向けていた雷牙の顔を両手で掴んで振り向きさせる。そう今雷牙と白刃の顔はとても近い距離で吐息が少しだけかかるのだ。
「ちょ――ッ!」
「やっぱり赤い。何かの病気?」
「や....ち、違う、大丈夫だから....とりあえずその、離れてくれると嬉しいかな?」
「....わかった」
目をそらしながら、雷牙は言うと白刃は素直に離れた。
もう少し遅かったらアニメや映画みたいな展開になっていたのだろう。と、白刃が何かに気づく。
「ライガ。本当に私の事をそんなに見てどうしたの?」
「え?」
ぼぅとしていたのか自然、雷牙の目は白刃の柔らかそうな唇をいつの間にか見ていた。雷牙はその事に気づきさっきよりも顔を赤くした。
「―――す、すまんッ!」
白刃に指摘された雷牙は少しだけ白刃からバッと、離れる。それにびっくりした白刃は呆れた(ジト目)目をしながら声を発す。
「全く、忙しい人ねあなた」
「るっせ......」
雷牙は赤くなった顔を落ち着けるために深呼吸を二回し、ちらと白刃の顔を見た。
十日前、そして昨日、白刃の顔に浮かんでいた鬱々とした表情は、初めて会った日と比べられないほど薄れていた。
雷牙は口から細く息を吐き、歩きながら口を動かす。
「――あー....どうだ?お前を殺すような奴なんていなかったろ?」
「....うん。この世界の人達はとても優しくて暖かった。でも、正直に言えばまだ私には信じられないくらいに」
「そうか.....」
雷牙が少し残念そうに言うがそれもそうだろう。白刃にとってこんな日々は生まれて初めてだったのだ。現界するとAST要員と戦いそして
「.....ねぇライガ」
白刃が雷牙に話しかける。
「ん?どした?」
「あなたに確認したいことがあるの」
聞きたいこと?と、雷牙は首をかしげる。
「ライガは....あの
「――ッ!?」
突然そんな事を聞いて驚いた。今雷牙の頬には冷や汗をかいているだろう。
「やっぱり.....そうなんだ」
白刃は切なそうな声で言う。どうやら確信していたのだろう。
「あなたがどうしてそんなに私に近付けるのかいつも疑問に思ってた。でも、確信した。あなたはあの
「........」
雷牙は黙った。確かに雷牙はAST要員ではあるがそれは悪魔でも整備士であり、戦闘要員ではないのだ。たが、真実を伝えるのはこれはあまりにもリスクが大きすぎる。雷牙は少し考え答えを出す。
「....確かに。俺はAST要員だ」
「そう...なら貴方は私を「だけど!」ころ..え?」
雷牙は強く声を発する。
「俺はAST要員であって戦闘員じゃない!整備士だ!だから俺はお前に何もしないし上にも報告しない!信じてくれ!」
「.......」
その答えに白刃は大きく目開いていると、ぷっ、と笑ったのだ。
「ふふ、貴方大袈裟すぎ」
「んだとッ!こっちは必死で――」
雷牙が言うと白刃は右手でスッと、手をだし雷牙の言葉を静止させる。
「今のは確かめたかっただけ。言ったでしょ?
「ぐ....」
まんまと騙されてしまった。だが白刃は再び明るい表情に戻ると雷牙の左腕をぎゅ、と組む。すると雷牙の耳の近くで口を開く。
「大丈夫。私は貴方を信じる例えどんなことでも、ね」
「すまん。」
雷牙は笑顔で白刃を見て、ちょっと恥ずかしいが、次いでに頭を撫でる。
「?なんで頭を撫でるの?」
白刃は意味が分からなく?を頭からだすが、目を細めているのは確かだ。
「いや、気まぐれさ」
「そう....」
そう言うと雷牙は白刃の頭を撫でるのを止め普通に歩いた。
「さて早くしないと夕日が落ちちまう。行こうぜ」
「うん」
そうして歩こうとした瞬間。
スドーーーーーーン
まるで地面でも割れたかのような音が今雷牙が行こうとしている公園から聞こえてきた。
「な、何だ!」
「ライガ。あれ!」
白刃は公園があるところに指をさす。そうそこには、昨日。士道が接触した精霊〈プリンセス〉十香が誰かと交戦していた。
「なんであんな所に〈プリンセス〉が....まさか白刃と同じ現象が起こったのか!」
そんな事を考えている最中。ふと、雷牙の眼にある人がうつる。その瞬間。目を大きく目開いた。そう〈プリンセス〉と交戦している人物は雷牙にとって大切な人、鳶一折紙だった。
「折紙!何であんな所に!」
そう言うと雷牙は冷静さを忘れ、一直線に走り出そうとしたが、ガシッと、白刃に手首を掴まれた。
「白刃何してるんだよ!放してくれ!」
「ライガ。少し落ち着いて何も装備も武器も持たない貴方に今何ができるの?」
「.......」
白刃の正論に何も言えなかった。それもそうだ。今の雷牙は
だが雷牙は今、目の前で大切な幼馴染が精霊に殺されかけているのを黙って見てられることなんて出来ない。雷牙は
「――それでも。それでも俺は!折紙を絶対に助けたいんだ俺は約束したんだ。だから行かせてくれ白刃頼む!」
けど、どうすればいい。と頭の中で必死に最善策を考える。後先考えずに、たとえ折紙を助けられたとしても逆に雷牙が死ぬだけだ。もし精霊と同じ力があれば戦えたかもしれない。だけど雷牙は精霊ではない。
「ライガ。彼女を助けたい?」
白刃がため息を吐いた後。突然、口を開く。少し困惑した雷牙だが、即答で返す。
「ああ助けたい。だけど正直どうすればいいのか分からないんだ」
雷牙は自分の無力さに悔やんでいた。それはそうだろう。相手は精霊。世界の災厄。生身の雷牙では太刀打ちさえ出来もしない。だがCR-ユニットか願わくば精霊の天使さえあればこの状況を打破出来る。けどそれは叶わないことは雷牙もしっている。だが、
「なら私の力を使って」
「は?」
「彼女を助けたいんでしょ?」
「それはそうなんだが、精霊じゃない俺がお前の天使を扱える訳が...「出来るよ」え?」
白刃は雷牙の左手を取りながら、自信満々に言う。
「私は精霊だけど普通の人間にも私の霊力を貸すことができる。本当は駄目たけどライガなら出来る。だから使って」
「意味はわからないがわかった。それで折紙が助けられるなら早速やろう!」
そう言うと白刃は首肯したのち突然。光はじめ白刃の身体は粒子化し雷牙の左手に収束するとそこには刀があった。
「これは....」
それは雷牙の見たことがある刀だった。
『それは〈
その刀から白刃の声が聞こえた。
「白刃お前は一体....」
『私は少し精霊とは違う性質を持ってるのだから天使に変わることができる。因みに、折れたりはしないから』
「そ、そうか」
白刃は冗談を言いながら言うがその時間も今は惜しいのだ。雷牙は公園の方に向き直った。
「行くぞ。
『ええ。』
雷牙は全速力で公園に向かった。
その瞬間。視界に今にも折紙が〈プリセンス〉の長剣に切られそうになっていた。
「クソ!間に合えぇぇぇぇぇ!」
雷牙は全速で走りながらその後に高く跳び、公園の柵が見える所で刀を抜刀、二人の間に入り〈プリンセス〉の長剣を受け止めた。
どうにか間に合ったようで雷牙は後ろにいる折紙に声を発する。
「大丈夫か?折紙」
◇
「貴様。何者だ」
〈プリンセス〉が低い声音で目の前で刀で長剣を受けて止めている雷牙に言う。
「――ただ少し強い、人間さッ!」
そう言うと雷牙は刀を上に振り上げ、〈プリンセス〉持つ長剣を退かす。
「――!?、くっ!」
〈プリンセス〉は体制を崩し、その直後、後ろに素早く下がった。
「痛ぅー白刃の力を持ってるとはいっても、精霊の一撃はやっぱ重いなぁ。受け止めるのも退かすのにも結構体力とか使うし、こりゃ避けなきゃな」
余裕そうな口調で雷牙は〈プリンセス〉に向き直り刀を構える。〈プリンセス〉は目の前にいる男が気にくわなかった。その笑みは今の〈プリンセス〉十香にとっては憎たらしく思った。まるで、人を殺したのに何も感じてないようで、今倒れている士道について視界にも置いていなかった。
この男も、シドーを殺した
十香は
「――はぁぁぁぁ!」
「ぐッ....!」
雷牙は刀で長剣を受け流したが、その衝撃で後ろに吹っ飛び木に背中を強く打ち付けた。
視界が揺らぐ。激痛がする。だが、考える時間も判断も今は惜しい状況だった。雷牙が木に背中を叩き付けられた直前に、十香が急接近し、長剣を横に振り下ろす。
「――!?」
雷牙はそれより早く反応して、上に大きく高く跳んだ次の瞬間。
ヴォォォン!
先程。雷牙がいた所は十香の
「はぁぁぁ!」
「このぉぉ!!」
ゴォォォォォン!! という鈍い音が鳴り響いた。
ぶつかった直後、双方は相手を見るように睨み続け退く気も一切ない。
――ふと、雷牙は視界にある人が映る。それは十香の後ろで倒れている士道だった。遠目から見ると、周囲には血溜まりが出来ていて、そこの中心に彼は倒れていた。いや、死んでいた。死因はASTの武器か何かだろう。何故なら少しだけ焦げ臭いのだ。雷牙はこの焦げ臭さは知っている。実弾だ。だが、実弾でもこの臭いは普通に出る。だが、士道の周囲に垂れている血は尋常じゃなくあふれでていることからして、とても威力が強い武器の確率が高いのだ。一つ雷牙には心当たりがあった。前に整備していた武器があったのだ。対精霊用ライフル〈
雷牙は自分の無力さに対して悔やみ、口を噛み締めた。
「(....十香を守ろうとして庇い、自ら射線場に入ったんだな。バカ野郎が....お前が死んでどうすんだよ。誰が
十香が静かに口を開く。その
「何故シドーは殺された、何故私はこの世界に否定されるのだ。答えろッ!」
「.......」
十香の目には水分が溜まって、泣きそうな顔で強く問う。雷牙は言い返そうとしたが、左拳を強く握りながら押し黙る。
「(――精霊は世界の災厄。倒すべき存在。だけど、それは正しいのか?俺は白刃と出会っていろんなものに気づかされてきた。精霊だって一人の人間なんだ、笑えば笑うし、泣けばなく。お腹がすけば物を食べる。
そう心の中で雷牙は決意した。
「......そうか」
十香は雷牙の反応を見て、否定したと受け取ったようで右足を雷牙の横腹を蹴り後ろに下がる。
「――グゥッ!」
雷牙は横腹を蹴られて体制を崩し地面に左膝を降ろす。
「...やはり貴様もそうなのだな。」
十香は殺意を向けながら言う。そして雷牙に〈
「――本当にそう思ってんのか?」
雷牙はその顔を見た瞬間。言わずにいられなかった。だってその顔は―――
「....なんだと?」
十香は雷牙の言葉が何を言っているのか意味が分からず問う。それもお構いなしに雷牙は止まらず口を開く。
「どうしてお前はそう決めつける。じゃあ言うが何で士道はお前を庇って死んだ?何で士道はお前と会話とかしたんだ?それはお前という存在があったからする行動だ。人ってのはな一度見たらたとえ頭の中で否定したとしても心の中では否定出来なくなっちまうんだよ。」
「何が言いたい?」
十香は雷牙の返しに意味がわからず?とハテナを出した。それを見て雷牙ははぁーと溜め息を吐き、声を出す。
「単純な話、お前はまだこの世界に否定されてないんだよ」
「!?」
十香は雷牙の発言に驚いた。だが十香は首を強く振り、それを認めようとはしなかった。
「嘘だ!それは絶対に嘘だ!」
「嘘じゃない!お前それ言ったら士道の事を否定する事になるんだぞ!」
と、雷牙がそれを肯定した次の瞬間。十香は雷牙に向けて
「くッ!何しやがる―――!」
雷牙は再び十香の方に目を向けると、泣いていた。そして十香は声を圧し殺すような声で言う。
「――さい...」
「え?」
「五月蝿い五月蝿い五月蝿い!シドーはもういない!私の居場所はもうないのだ!なら私はシドーがいない世界でどうすればいいのだ!」
それは十香の心の叫びだった。彼女の希望は士道だったのだ。だが、その希望は小さな撃鉄によって奪われてしまった。そして彼女は絶望し今や世界を壊し掛けている。なら、雷牙が今言えることはこれしかなかった。
「なら、彼奴のために生きろよ!」
「――!!」
十香は驚くが、直ぐに体制を整え剣を構えてしまう。それでも雷牙は止まらず言い続ける。
「今のお前に出来ることがあるとしたら、胸張って士道の居場所を守って彼奴が笑いそうなことをしろよ!」
刹那、十香は目に水分を貯めながらも地面を蹴り、雷牙に向かって急接近してきた。これには雷牙も反応出来なかったようで死を覚悟し、目をつむる。しかし頭の中で幾つもの経験が流れこんでくる。
「(あぁこれが走馬灯てっやつか、だけど流石にこれは死亡回避は出来そうにないなぁすまん折紙約束守れそうにないわそれと白刃お前と短かったけど楽しかったよ) 」
そして雷牙の首に剣が触れようした瞬間。空から声が聞こえてきた。
「十ぉぉぉぉぉ香ぁぁぁぁぁぁ!」
それは、十香を庇って死んだはずの五河士道だった。
「――」
十香が、士道の声に気づいてか、長剣を雷牙の首もとに振りかぶったまま、顔を上に向ける。
「シ―――ドー.....?」
まだ状況が理解できていない様子で、十香は呟く。だが、ここで今士道のもとに行けば雷牙に隙を付かれてやられるのではないのかと思ったが――
「早く行ってやれよ〈プリンセス〉」
雷牙は十香に催促をした。それについて十香は、雷牙に少し警戒しながらも視線を戻し、殺気を向けながらフンと鼻で鳴らした。
「言われなくとも行くつもりだバーカ」
十香はそう言うと今落ちている士道の方に向かった。
それを見送った雷牙は手を地面につき、ふぅと、息を吐き座った。
『良かったね貴方の大事な人を守れて』
突如雷牙が持っている刀から声が聞こえてきた。
「あぁ、だけど
雷牙がため息を吐きながらそう言うと、刀が光始めその光の中から白い髪の少女が現れる。
「うん。大丈夫だよ、私が好きでしたことだし」
「それでもだよ。本当に助かった」
お互いお礼を言いその間だ見つめ合うと、二人はぷっ、と笑いだす。
「ハハハ!」
「ふふ」
しばらく笑いあった次に、雷牙は
「白刃お前に大事な話がある」
「どうしたの?」
「単刀直入で聞こう。白刃、お前の力を封印するかわりにこの世界で人間として生きて、俺たちと一緒に生活しないか?」
「.....」
雷牙から提案された話を聞いた白刃は少し考えたそぶりを見せながらその後考えが決まったのか雷牙の吐息がかかる所まで近づき、次の瞬間。手を後ろにやりながら、爪先をピンと上げ優しく雷牙の唇に唇を重ねた。
「ん、」
「――――!?」
雷牙は一瞬フリーズした。それを理解するまで何分?いや数秒ぐらい頭の中で必死に答えをさがしていた。たがやっと自分の頭が何をされたのかを理解し、それに気付いた瞬間、頬を真っ赤にしながらバッ!と後ろに少し下がった。
「お、おま!いきなりなにしてんだよ!」
「これが私の答えだよ」
「へ?」
白刃の答えの問いに、雷牙はポカーンと鳩に豆鉄砲を食らった顔になりながら困惑していた。それを気にせず白刃は続ける。
「私はライガと、この世界で一緒にいたい。ライガと一緒に色んな所に行きたい連れてってもらいたい。だから、責任とって?」
それは愛の告白にも近いような言い方だった。だがもう戸惑わなくてもいいだろう。だって彼女の答えは出たのだから。そして雷牙は口を動かす。笑顔でにっこりと。
「ああ!任せろ!何処へたりともつれてってやる!」
雷牙はそう言うと空で何かが割れる音が聞こえた。
パリーーーーーーーーーン!
そこにはほぼ全裸の十香を抱えながらキスをする士道がそこにいた。どうやら封印が終わったのだろう。地面に着いた士道は慌てながらも十香と何か言い争い?をしていた。少ししたら十香が裸が見られないよう士道に抱きつき事を納めた。まぁ後はそっち任せるとしよう。と、ふと、雷牙は何か違和感を感じた。霊力封印=裸え?裸?と、雷牙は考えを巡らせた次の瞬間。
「きゃあ!」
突如後ろから白刃の叫び声が聞こえて来たそれに反応した雷牙は後ろを振り向くとそこには、
「白刃どうし―――ッ!?」
一糸纏わない姿の白刃が蹲っていた。
彼女の体はとても凛としてシミも一つもない綺麗な姿だった。雷牙は白刃の裸を見てしばらく思考を停止してしまったが、すぐにハッ!と、戻し、後ろを向いた。
「(やべぇ..これはまた走馬灯が見えてしまうかも知れない。何か、何か白刃に言わなくては!あああッダメだ!白刃の姿が脳裏に焼き付けてるせいで考えられん!ど、どつすれば!)」
雷牙は頭の中でこの状況を打破する考えを巡らせたてはいたが、先ほど白刃の裸を網膜と脳裏に焼き付けられ考えがまとまらなくなっていて少し焦っていたが、ダキッと、後ろから抱きつかれた感覚がして首を後ろに振り向くと頬を染めた白刃が両手で裸が見えないように抱きついていた。雷牙はそれに驚いたがすぐにまた首を前に戻し平常心を保つために深呼吸をした。すると後ろから白刃が恥ずかしそうな声音で雷牙に話しかけてきた。
「ライガ。あなた見たでしょ?」
「し、仕方ないだろ!突然大きな声がしたらそりゃ誰しも振り向くわ!」
「ふーん。そう、あなたはこう言いたいの?私が声を大きく上げて気になったから後ろを向いたと」
「ふ、不可抗力だ!後見てごめんなさい!」
白刃はふーん、と言うが、多分後ろではジトー目をやっているだろう。それを最後に白刃はさっきよりも抱きついている両手を強くした。まるで捨てられそうな子犬か、子猫のように。次に弱々しく震えた声で雷牙に訪ねる。
「ねぇライガ、私は本当にこの世界にいていいの?私は精霊だし、皆に迷惑をかけるかもしれない。本当にいいの?」
雷牙は目を大きく目開いた。それは白刃が雷牙に初めて見せた弱々しく聞こえた声、普段落ち着いた声で話す彼女は雷牙にとって新鮮だった。彼女だって立派な女の子だ。なら、言うしかあるまいだって彼女が望んでいるのだから、
「精霊だから迷惑?はっアホか、普通にいればいいだろ俺はお前の事を迷惑なんて思ったこと一度もないね!いいんだよ迷惑かけて、その時は教えてやるし協力もする。後、言っただろ?お前の自虐的な事を否定して正してやるってな。だからその...そんなん気にすんなよ」
少し恥ずかしながらを頭をクシャクシャして言った。
「うん。ありがとう\\」
それを聞いた白刃はさっきの弱々しい声は何処へ言ったのかいつもの落ち着いた声に戻った。
「?白刃最後何ていったんだ?」
最後はボソボソ声で聞き取れなかった雷牙は白刃に尋ねた。だが、白刃はにっこりと笑いながら「教えなーい」と言った次の瞬間、足にとてつもない浮遊感が襲って来たのだった。
◇
「........」
あの一件から土日を挟んで、月曜日。ASTの復興部隊らの手によって復元された学校の机に雷牙は肘をつきながら窓側の外を眺めていた。
あの日。雷牙は白刃と共に〈フラクシナス〉に回収され、精密な検査と入念なメディカルチェックを受けされた。その時検査している部屋に〈プリンセス〉十香と出会った。最初は雷牙の事を警戒していたが、白刃のお陰で仲良くはなった。そしてその後、白刃達より検査が早く終わった雷牙は家に帰宅をしたが、あの日の検査以降から、白刃と十香の姿を見ていない。今ぼうっとしてる士道も同じことを考えているのだろう。白刃たちと話をされろといっても、〈フラクシナス〉のスタッフから検査があるからの一点張りで、結局最後まで姿を見ることすら叶わなかったのだ。
「.....はぁ、流石に空を眺めるのも飽きてきたな」
雷牙は独り言を呟く。
白刃に出会って、
それをした瞬間。白刃の纏っていた霊装が粒子みたいに消え――それとキスをした瞬間、自分の
「キス.....か...」
雷牙は言葉にして唇に触れる。
もう三日も経つのにまだその感覚が鮮明に残っている気がした。と、後ろ聞き覚えのある声が聞こえた。
「キスがどうしたの?」
「うぐぅ!」
雷牙はその声にびっくりしてイスから落ちた。腰をさすってから雷牙は声がした方向を見てみるとそこには肩まで届きそうな白紙で無表情だが、それは雷牙にとって大切な人であり幼馴染でもある少女。鳶一折紙がそこにいた。
「お、折紙!?いつの間にいたんだよ!てっゆうか!お前怪我は大丈夫なのか?」
雷牙はあたふたしながらも返答した。
「問題ない。多少な怪我は医療用
「最初からじゃねぇかキスと言う発言はお前には関係ない!てかお前の問題ないとか大丈夫とか信用ならんぞ!」
今の折紙身体は額やら手足やら包帯だらけだった。
「......くっ....」
どうも折紙の姿は痛々しくて息を詰まらせ顔を下にうつむいた。雷牙は右手拳に握って力をいれた。雷牙は自分の力の無力さに悔やんだ。あと、もう少し早ければ折紙にこんな大怪我をさせずに助けられたのだろう。そんな事を思っていると、
「.......」
折紙は頼りげな足取りで、雷牙の目の前まで歩いてきた次の瞬間。折紙が自身の胸のところに雷牙を抱き寄せてきたのだ
「えっちょ!折紙!?」
雷牙は恥ずかしさのあまりきょどってしまいうまく言葉を出せなかった。
「――雷牙は悪くない」
「え?」
折紙の言葉に雷牙は硬直した。折紙は気にせず話を続ける。
「これは士道を誤って殺そうとした私への罰。だから雷牙は気にしなくていい、あなたはいつも変わらない。他人がやったことを自分のせいにして自分が悪く言われるようにする。それは昔から変わってない」
「けど!おれはっ!?」
雷牙は何かを言おうとしたが瞬間。折紙にデコピンされ両手で頭をおさえる。
「つぅー!何しやがんだ!」
「直した方がいい」
「え?」
「自分のせいにする思考を」
雷牙は折紙の圧力で渋々了承した。それが終わると折紙は後ろを向いて自分の席に戻ろうとするが最後に言った。
「ありがとう私を助けてくれて」
それを最後に折紙は自分の席に戻っていった。
「幼馴染を助けるのは当たり前だろうが全く」
雷牙は少し笑みを浮かばせ折紙に聞こえないように小さくボソッと言った。
と、それに合わせるように、ホームルームの開始を告げるチャイムが鳴った。雷牙は先生が来る前に急いで席に着いた。
「はーい、皆さーん。ホームルーム始めますよぉー」
扉を開け、タマちゃん教諭が教室に入ってきた。
「はい、皆さん席に着きましたね?」
珠恵教諭がやたら元気な声を上げる。次いで、思い出したかのように手を打ち、うんうんとうなずいた。
「そうそう、今日は出席をとる前にサプラーイズがあるの!――入ってきて!」
言って、今し方自分が入ってきた教室の扉に向かって声をかける。
「ん」 「はい」
と――それに応えるようにそんな声がして。
「え.....」
「な.......」
「――――」
雷牙と士道と折紙の驚愕とともに。
「――今日から厄介になる、夜刀神十香だ。皆よろしく頼む」
「
高校の制服を着た十香と白刃が、すごくいい笑顔をしながら入ってきた。見ているだけで目が痛くなるほどの美しさに、クラス中が騒然とする。
二人はそんな視線など意に介さず、チョークを手に取ると、十香は下手くそな字で黒板に『夜刀神十香』書き、そして満足げに「うむ」とうなずいた。白刃は綺麗な字で黒板に『白風白刃』と書いた。
「な、おまえ、なんで....」
「ぬ?」
士道が言うと、十香が士道に視線を向けてきた。不思議な輝きを放つ、幻想的な光彩。
「おお、シドー!会いたかったぞ!」
そして大声で士道の名を呼び、ぴょんと跳び跳ねて士道の席の真横までやってくる。雷牙の方は白刃がいつの間にか雷牙の席の前にいた。士道と雷牙はクラス中から注目を浴びた。ざわざわ。といろんな声が聞こえてくる。
士道と雷牙は額に汗を浮かばせて、生徒たちに聞こえないよう小さく声を発した。
「と、十香.....?どうしてこんなとこにいるんだ?」
「ん、検査とやらが終わってな。――どうやら、私の身体から、力が九割以上消失してしまったらしい」
「白刃。お前何でいるんだ?」
「十香と以下同文」
「おいちゃんと言えよ....」
十香と白刃も士道と雷牙の真似をして、小さな声で言ってくる。
「まぁ――とはいえ怪我の巧妙だ。私と白刃が存在しているだけでは世界は啼かなくなったのだ。それでまぁ、シドーの妹がいろいろしてくれた」
「「み、苗字は.....?」」
「何といったかな、あの眠そうな女がつけてくれたなぁ白刃よ」
「うん。確か...村雨さん?だったはず」
白刃がそう言うと十香は「それだ!」といい。士道と雷牙は頭をくしゃくしゃとやって士道だけ机に突っ伏した。
「あいつら....」
「全く....最高だな」
二人を自由にしてくれたのはありがたいが、他にやりようというものがあるだろう。と、二人は思った。
その後は十香が士道に爆弾発言を投下してしまい、クラスがざわめきが最高潮に達し、士道の名が知れ渡ってしまった事と十香と白刃の席順だが、十香と白刃は二人のとなりにいるクラスメートに鋭い眼光を放ち席を勝ち取った。十香の方は折紙と席が士道の隣なのか互い睨みあっている。それに関して雷牙は士道にたいして同情した視線で「頑張れ」と親指でグッドサインを出した。一方。白刃は、雷牙の隣の席で雷牙と少し会話をしていた。ふと雷牙は白刃に聞きたくなり口を開く。
「なぁ白刃」
「何?」
「この世界は楽しいか?」
雷牙はにっこりと、笑いながら言った。すると白刃も笑顔で返しくる。
「うん。楽しくて退屈しないよ、だからライガもこれからよろしくね」
はい。如何でしたでしょうか?ちょっと無理やりすぎたかも。
これで十香デットエンド編は終了です。
次回は四糸乃パペット編です。
ですが、1、2話ぐらい溜め書きするので更新が今までより遅くなるかもです。ではまた次回にお会いしましょう!
次回:四糸乃パペット編 兎と雨
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四糸乃パペット編
第7話: 兎と雨
大丈夫かなぁ...七罪はいけるけど自分。あの夕弦独特な心情書けるかなぁ...ま、頑張ります!なにか違うなぁてっ思っても許してね?
ではどうぞー( っ・ω・)っ
街が燃えている。人も家も何もかもが燃えていた。視界に広がるのは、まるで地獄とも思える光景だった。見慣れた住宅街が、真っ赤な炎に沈んでいる。立ち並んだ家々も、通い慣れた道も自分が知っている場所が次々と炭に灰に変わっていく。辺りからは勢い良く燃え盛る炎の轟々という凄まじい音に交じって、逃げまどう人々の悲鳴や足音が響き、さらに時折、何処から何かが爆発するような凄まじい音が聞こえてきた。
(なんだよ.....これ......)
それは、あまりにも現実離れした光景を目の当たりにし、雷牙は呆然と声を発していた。意味のない行動。でもその一言を発する間に足を動かした方が、遥かに賢明であったに違いない。だが、それを愚かしいと指摘する者や断ずる者はいないだろう。たった12歳の子供が速やかに理解をするには、今この状況は理不尽過ぎた。何しろ日頃お世話になっている幼馴染のプレゼントを買いに行って帰ってきたら、出掛ける前に見ていた街とは別の光景が広がっていたのだ。その場でへたり込むことはしないだけで、雷牙はまだ幾分まだ落ち着いている。
と――そこで、雷牙はハッと脳裏に家族の事を思い出して目を見開いた。
(父さん、母さん、折紙......!)
そう。家には、父と母が残っており今帰宅中の折紙もいたはずなのだ。
それを思い出して瞬間、雷牙は頭よりも先に体が動きいつの間にか駆け出していた。例え男でも子供一人が駆けつけたところで何かできるわけでもないし、もしかしたら三人とも既に避難を終えているかもしれない。だが、混乱している雷牙にそんな判断ができるはずもなかった。ただ、数時間前とは随分と様変わりしてしまった道をひたすら走っていく。走りながらも雷牙は家族の名前を呼び続けた。
(父さん、母さん、折紙!何処だ!返事をしてくれ!)
ひたすら家族の名前を呼び続ける。ふと、雷牙の頭で無惨な家族の姿を思い浮かべてしまう。だが、その思考はすぐに捨て頭を横に振った。
(大丈夫だ、三人は絶対生きてる。自分の勘を信じろ!)
そう自分の頭に言い聞かせさっきよりもスピードを早くして走る。そして数分後、なんとか家のある角の近くまで辿り着いた雷牙は、角の道を曲がろうとした次の瞬間。雷牙に強い衝撃波と大きな爆音が襲い、雷牙は壁に背中を強く激突した。
(カハッ!――一体何が.....!?)
視界が歪む。意思が朦朧とする。雷牙は重い体を動かして今起きている状況を確認しようと前を見ようとした瞬間。雷牙は絶望し、何も考えられなくなった。
そう。そこには、クレーターのようになった地面の側に折紙がいたのだ。
雷牙は折紙の方を見て一瞬で理解した。両親が死んだことに、たったそれだけ理解が出来た。じゃあ犯人は誰だ?
と、空を見上げると、そこには天使みたいに白いドレスをした白髪の少女が浮かんでいた。雷牙は確信する。コイツが両親を殺したのだ。心の中でドス黒い何かを感じたこれが殺意か、と理解した。だが、今そんなことはどうでもいい雷牙は空に浮かんでいる少女に殺意を向けて言おうとしたが、その直後、折紙の言葉に雷牙は驚いた。
(おまえが....お父さんと、....お母さんを。......許、さない...!殺す.....殺してやる.....ッ!私が――必ず......っ!)
これが運命の歯車が動き出した瞬間だった。
◇
ジリジリジリジリリリリリリ―――!
一人部屋で激しく目覚まし時計が鳴り響く。一人の部屋で雷牙は目覚ましくを止めるべく、右手で目覚ましを手探りして止める。
「....んー......」
カチッ
目覚ましを止めた雷牙はベットから体を起こし少し疲れた表情をしながら息を吐く。
「はぁ
雷牙は体を伸ばしながら夢の事を考えていた。
「ん~!とっ、最近見ないとおもったらこれだよ....何でこんな夢見ちゃうのかねぇ....」
雷牙は窓のカーテンを開けて見ると外は気持ちのいい晴れだった。雲もなくただ空には一個の太陽しかない。
「やっぱ晴れはいいな。学校で昼寝には持ってこいだ」
天気を見終わると雷牙は制服に着替えるべく、クローゼットを開けて制服を取り出した。
◇
雷牙は来禅高校、2年4組の教室の机で肘を付きながら外の風景を眺めていた。すると、廊下から誰かが走ってくる音が聞こえ、次の瞬間。聞き覚えのある声と共に教室の扉がパシャーンと思いっきり開かれた。
「シドー!クッキィというのを作ったぞ!」
腰まである夜色の髪をなびかせ。水晶の如き瞳をキラキラと輝かせながら。冗談みたいに美しい少女。夜刀神十香が、興奮気味にそう言って、手にしていたクッキーが入っている容器を机にいる士道の目の前にずいっと突き出してくる。士道は気圧されるように身を反らした。それを窓側の席で退屈そうに雷牙は見ていると、後ろから誰かから肩を叩かれた。雷牙はそれを確認しようと後ろを向くと、そこには雷牙も知っている少女が、先程十香が持っていた同じ容器を両手で持ちながら立っていた。
雷牙は笑顔で少女の名を呼んだ。
「どうした?白刃」
「調理自習でクッキーてっいう物を作ったの。良かったら食べて?」
少し無表情だが、とても優しい声音で、少女――白風白刃が言う。今日何故男子と女子達が別なのか。雷牙はその時寝ていたがなんでも、個々人の作業量が充実じつするようにとか何とかで実験的に、調理実習を少人数に分けて行っていた。つまり今日は女子だけが調理実習の日だったのだ。それから帰ってきた白刃は雷牙に食べさせようと持ってきたのだろう。丁度雷牙も少し小腹が減っていたのでせっかくだから頂く事にした。
「お、じゃあ少し食べようかな」
そう言うと、白刃は雷牙の返答に首肯し、両手で持っているクッキーの容器の蓋を開けた。そこには美味しそうな色をしたクッキーがそこにはあった。ちょっと歪な物もあるが、とても可愛らしく、色んなキャラの形をしている。初めてとしても出来が良かった。雷牙は白刃が作ったクッキーを一つ取り、食べた。
「お、美味いな」
とても優しいサクサクした食感であり塩加減もバッチリだった。これだったら店でも出せそうだ。
「そ、良かった。まだまだあるから食べて」
白刃は少し頬を染めながら、笑顔で言う。雷牙は何故白刃が頬を染めながら言ってるのか分からなかったが、嬉しがってることはすぐに分かった。一方その光景を妬ましく見ている男子クラス達は雷牙と士道を嫉妬をしながら視線を注いでいた。勿論雷牙は気づいてたのだが、そんなのはどうでもいいので無視をしていた。そして2個目のクッキーを取ろうとしたら―――
「......!?、危ッね!」
2個目のクッキーを取ろうとしたところで、右側から銀色の弾丸のようなものが一直線に通り過ぎて教室の壁に突き刺さる。飛んできた物はフォークだった。形状から調理室のフォークだろう。雷牙は飛んできた方向に振り向く。
「ぬ、誰だ!危ないではないか!」
十香が先程飛んできたフォークについて叫ぶ。
「.........」
そこには、つい今仕方何かを投擲したように、右手を真っ直ぐ伸ばした少女が無言で立っていた。
肩に届きそうな長さの髪に、色素が薄い肌。顔たちは非常に端整であるものの、そこに表情のようなものが一切感じられないため、どこか人形のような無機的な印象がある少女だった。雷牙は知っていた。それは彼にとって白刃と同じく大切な人であり幼馴染でもあるのだ。
「と......鳶一?」
「ぬ」
士道は頬に汗をひとすじ垂らし、十香は不機嫌そうに眉根を寄せる。少女――鳶一折紙は、そんな二人を見つめながら、ゆっくりと士道達の方へと歩み寄ってきた。そして士道の前までたどり着くと、左手に持っていた容器の蓋を開け、先程の十香と同じように士道に差し出してくる。
「夜刀神十香のそれを口にする必要はない。食べるならこれを」
そこには工場のラインで製造されたかのごとく、完璧に規格の統一されたクッキーが綺麗に並んでいた。
「え、ええと.....」
「邪魔をするな!シドーは私のクッキィを食べるのだ!」
士道が反応に困っていると、十香がぷんすか!といった調子で声を上げた。しかし折紙は微塵も怯まず、それどころか表情をぴくりとも動かさず、のどを震わせる。
「邪魔なのはあなた。すぐに立ち去るべき」
「何を言うか!あとから来ておいて偉そうに!」
「順番は関係ない。あなたのクッキーを彼に摂取させるわけにはいかない」
「な、なんだと!?」
「折紙、それじゃ分からないから理由を言ってもらえるか?」
それについて、雷牙も気になっていたので、聞いてみた。すると折紙は雷牙が来るのを視線で確認し口を開く。
「あなたは手洗いが不十分だった。加えて調理中、舞い上がった小麦粉に咽せ、くしゃみを三度している。これは非常に不衛生」
「な……っ」
「良く見てるなぁ流石は折紙」
虚を突かれた十香は目を丸くし、雷牙は冷静に折紙の動体視力について褒めた。だか、何故だろうか、折紙の言葉が発せられた瞬間、周囲の男子生徒たちが、ざわ.....ッ、と色めき立ち、視線が十香のクッキーに注がれた。しかし十香はそんなものに気づく様子もなく、ぐぬぬ....と拳を握りしめる。
「し、シドーは強いからそれくらい大丈夫なのだ!」
「因果関係が不明瞭。――それに、あなたは材料の分量を間違えていた。レシピ通りの仕上がりになっているとは思えない」
「……っ!?」
折紙が言うと、十香は眉をひそめ、自分と折紙のクッキーを交互に見た。
「な.....っ、なぜその場で言わんのだ!」
「指摘する義務はない。例え指摘したとしても白風白刃と同じ精霊なのなら出来ても可笑しくはない―――ともあれ私の方が、彼と雷牙を満足させる可能性が高いことは明白」
「う、うるさいっ!貴様のクッキィなぞ、白刃より美味いはずがあるかっ!」
「なら、鳶一。私もあなたのクッキーを食べても良い?」
「――構わない」
十香はそう叫び、目にも止まらぬスピードで折紙の容器からクッキーを1枚かすめ取る。それに便乗して、白刃も折紙から許可をもらい。容器からクッキーを1枚取る。すると2人は自分の口に放り込んだ。そしてサクサクと咀嚼し――
「ふぁ........っ」
「これは.....」
1人は頬を桜色に染め、恍惚とした表情を作り、もう1人は感情に乏しいが頬だけは桜色に染める。どうやら、美味しかったらしい。
しかし十香はすぐにハッとした様子で首をブンブンと振った。
「ふ、ふん、大したことはないな!これなら私の方が美味いぞ!そうだろう白刃よ!おまえもこの女になんか言え!」
「うーん、流石にクッキーを初めて作った私たちより、鳶一の方が経験積んでいるから鳶一のが美味しかった。かな?」
「白風白刃の言うとおりそんなことは有り得ない。潔く負けを認めるべき」
「なんだと!?」
「なに」
「お、落ち着けって、二人とも」
「全く.....よく飽きないよなぁ」
放っておいたら殴り合いになってしまいかねない。士道は二人の間に割って入ると、「まぁまぁ」となだめるように距離を取らせたそれを士道の後ろで見ていた雷牙は呆れた表情で右手に顔を置く。すると、距離をとった二人だったが、十香がいきなり口を開く。
「ぬ......ではシドーは、どちらのクッキィが食べたいのだ?」
「え?」
不意にそんなことを言われた士道は間の抜けた声を発した。十香と折紙が、左右から同時に、クッキーの入った容器を差し出してくる。
「さぁシドー」
「………」
十香と折紙、二人の刺すような眼光に射すくめられた士道は、顔中にぶわっと脂汗を浮かべて後ずさった。
「モテていいな士道。プークスクスww」
その光景に雷牙は士道を馬鹿にするかのように
笑う。だが、今はこっちの方が大事だ。.......なんだか、どっちを食べても殺されそうな気を感じた士道は自らの生存本能の命ずるままに、両手で二つの容器からクッキーを取ると、同時に口に放り込んだ。
「う、うん、美味いぞ二人とも!」
十香と折紙はそんな士道の様子をジーッ……と見つめたのに、
「私の方がほんのちょびっと速かった!」
「私の方が0.02秒速かった」
まったく同時に、そう言った。
「………」
「………」
そして静かに顔を見合わせる。
「本当にモテモテだな士道。頑張れよ」
「雷牙と同じく。頑張って士道」
「勘弁してくれ......」
雷牙は少し面白そうな口調で士道に言い。白刃は疲れている士道に言う。一方士道はもう諦めに似た気分で目の前の二人を見ていたのだった。
◇
学校の帰り、雷牙は1人で下校していた。こうゆう時に白刃がいると思ったが何故か白刃は何かやることがある用事とかで走ってフラクシナスに帰った。
「随分慌てたな何か俺の事を少しだけ見て顔を赤くしやがって....俺の顔にゴミでもついてるのかねぇ」
雷牙は静かな道を歩きながら1人でブツブツと言っていると、頬っぺたに、何か冷たい物が当たった。
「ん......?」
雷牙はそれを手で拭い空を見た。それは、先程あんなに晴れた天気は一切なく、いつの間にか、空がどんよりと曇っていた。
「マジかよ。まったく、最近の天気予報はアテにはならないな。はぁー」
最近見ている天気予報番組に気象予報士に恨み言を呟く。すると、まるでタイミングを見計らったかのように、ぽつ、ぽつ、と、大粒の雫がアスファルトの道を染みを作り、だんだんと濡らしていく。
「っやべ...早く家に帰られねぇとな」
慌てて、鞄から素早く折りたたみ傘を出して、差す。雷牙は小走りで家へと急ぐ。しかし、雨はそんな雷牙をあざ笑うかのように、みるみるうちに激しさをましていった。
「やっぱ折りたたみ傘でもこの雨の量は多少しか防げないか....あぁ冷てぇ」
制服に染みていく冷たい感触に、雷牙はうんざりと眉をひそめた。と、急いで家に帰るのが仇となったのか雷牙は道の角を曲がろうとした瞬間。
ゴツン!
何かにぶつかり雷牙は後ろに倒れ尻もちをついてしまう。あーズボンが濡れちまったな。と、そんなことを考えていると視界から小さな女の子が倒れている姿が映る。そういやぶつかった事を思い出す。
「あ!大丈夫か!怪我はないか?」
雷牙はぶつかった少女に駆け寄った。すると少女は雷牙の存在に気付いたのか急いで雷牙から離れて距離を取った。雷牙は少し驚いたがまぁ、仕方ないことだろう。ぶつかってきたのは雷牙方なのだから。けど何故か不自然だ、何故少女はぶつかっただけであんなに身体を震わせ、怯えているのだろう?と、考えていると少女は怯えた様子で言った。
「.......!ち、近づかないで.....ください.......っ」
「え?」
雷牙は少し前に行くと、少女はまた身体を小刻みに震わせ怯えた。そして、少女は少し近づく雷牙に続けて言葉を吐く。
「いたく、しないで.....ください......」
雷牙が自分に危害を加えるように見えるのだろうか、その様子は、まるで震える小動物のようであった。
「.....あ..」
すると少女は何かに気付いたのか雷牙の足元に目を向ける雷牙もそこに目を向けるとそこには目に眼帯を付けた特徴的な兎の形をしたパペットがあった。先程、ぶつかった時に外れたのだろう雷牙は足元に落ちていたパペットを脚を折ってそれを拾い上げ、少し汚れがついていたので手でそれを払い、そしてパペットを少女に示す。
「これってお前の?」
「!......」
少女は怯えたまま首肯して頷く。
雷牙はゆっくり少女に近づき腰を折ってパペットを渡す。そして、雷牙の手からパペットを奪い取ると、それを左手に装着する。すると突然少女、がパペットの口をパクパクと動かし始めた。
『いやー悪いねおにーさん。でーもー危ないよおにーさん!道を走ってる時は気をつけてね!』
腹話術だろうか?ウサギのパペットが妙に甲高い声を発してきた。
「あ、ああこっちこそすまないな。怪我はないか?」
『うん大丈夫だよー、おにーさん優しいねー』
「いや、誰しも転んだ子を心配しない人はいないからな」
雷牙は少し照れくさかったが言われて嬉しかった。それを見たパペットは笑いを表現するようにカラカラと体を揺らした。
『またまたぁー、まーよしのんもこんな優しい人を見るのは
「あー.....それはすまない」
ぐうの音も出ないので素直に謝る。
『ぷッあはは、まぁ、一応は助けてくれたわけだし、特別ゆるしといてア・ゲ・ルんっ』
「......そ、そうか」
苦笑しながら、パペットが言ってくるのに返す。
『ぅんじゃあーねーおにーさん』
「あ、ちょっと待てよ」
雷牙は少女の肩を掴んで止まらせる。
『んーなぁにーおにーさんまだよしのんに何かあるのん?』
「あ、いやちょっとな.....はい、これ持っとけよ」
雷牙は自分の折りたたみ傘をパペットをはめていない少女の右手に持たせる。少女とパペットはそれに驚く。
『おぉーこれ凄いねー雨の水がかからない!』
パペットは喜んでいた。それはまるで傘を初めて差す子供のようにはしゃいでいた。
「それやるよ。それだったら雨にも濡れなくても住むだろ?」
『え?おにーさんいいの?だってこれおにーさんのでしょ?』
パペットは少し申し訳なさそうな表情?をしていたが雷牙は笑って返す。
「別に傘の一つや二つあげるてっ、俺は気にしねぇよ。てかそもそも傘を差してない人を見るのもちょっと気が引けるからな風邪とか引いたら元も子もないし、だからやるよ」
『――そぉーなんだねぇ。ま、ありがたく受け取っとくよ!ありがとうねおにーさん!んじゃね!』
パペットがそう言うと同時に少女が踵を返して走っていってしまった。
「おう、じゃなー」
雷牙は左手で少女の後ろから手を振る。少女が見えなくなると、雷牙は手を降ろし少し考えていた。
「あの兎の少女....何処かで....」
雷牙はさっきパペットの言葉に疑問を持った。
「いや、まさかな.....」
雷牙はすぐにその考えは捨てた。今はそれを調べるより家に帰る方が先だったのだ。今気づいたがもう雷牙の制服は大雨のせいでぐしょぐしょだった。
「はぁー後悔はしてないけど、やっぱもう一本持ってくれば良かったかな....へっくしょん!やべ、早く家に戻らないと風邪引いちまう!」
雷牙は髪を少しかきむしり、意味はないがカバンを頭の上に乗せ家に一直線に走ったのだった。
はい如何でしたか?正直自分は四系乃パペット編は悩み所なんですよね!まぁ、頑張りますが、さて次回は雷牙が処罰されます!お楽しみに╭(°ㅂ°)╮╰(°ㅂ°)╯
次回:死ぬまでの罰
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第8話:死ぬまでの罰
今回はタイトルの通りです。
ではどうぞー(∩´。•ω•)⊃ドゾー
雨に打たれながら走って数分。雷牙は自宅の玄関前まで辿り着き、玄関に鍵を差し込んだ雷牙は、眉をひそめる。そしてドアノブを握りそのまま引いてみた。
「.....どうゆうことだ?」
予想通り、いつも出掛ける時に必ず閉めているはずの扉が何も抵抗もなく開いた。雷牙は警戒した。なぜなら彼はここで
「泥棒か?まさか人が良く通る道なのにそれに気づかれなく開けたのか?」
雷牙の家は言わば人が良く通る道で必ず人に出会うハズなのだ。だが、それをお構い無しに玄関の鍵を開けている。流石に泥棒はそんな馬鹿な事はしない。まさか身内か?だが、雷牙が知っている身内がいるとすれば折紙、白刃、士道、十香にあたる。白刃、士道、十香はしないと思うが1人だけ身内でやりそうな人がいるのを思い出した折紙だ実は前、俺が風邪を引いた時に1回ピッキングされ侵入してきたのだ。最初はびびったが、それは仕方ない俺が風邪を引いたのだから看病して来てくれたのだろう。だがあの時は初めてすぎて説教をしデコピンで、すました程度だ。もしこの原因が折紙だったらまた説教をするしかないだろう。
「だけど折紙が同じやり方でやるはずがないんだよなぁ」
雷牙は意を決して扉を開けた。そこには、学校靴があった。やっぱり折紙なのか?雷牙は靴を脱ぎ先にリビングを調べた。だが、細かく調べても何処も荒らされた形跡はなかった。次は2階に続く階段から自分の部屋へと行き確認をしたが案の定荒らされた形跡は何一つなかった雷牙はある程度調べ終えリビングに向かう。すると風呂場からシャワーの音が聞こえてきた。
「.....誰か入ってるのか?」
雷牙は風呂場に行き脱衣場の中を確認する。するとそこには来禅高校の制服が洗濯カゴに入っていた。それをよくみると、女子が着用する制服だった。
「すまないが、開けさせてもらう!」
雷牙は恥を承知で風呂の扉を思いっ切り強く開ける。
「――――ッ!」
瞬間、雷牙は目の前の光景に身を凍らせた。何故ならば――風呂場の中に、ここにいるはずのない少女の姿があったのである。背を覆い隠す長い白髪に、宝石の如き紅い瞳。形容の頭に「絶世の」を10つけようとも、その美しさの1割も表しきれないほどの、圧倒的な存在感を放つ美少女。そんな少女は、雷牙の記憶の中に一人しかいなかった。
世界を殺す災厄・精霊。――そして、都立来禅高校二年四組のクラスメイト。白風白刃が、そこにいた。――その身に、一糸纏わぬ姿で。
「し、白刃.....?」
呆然と、呟く。芸術的とさえいえる美しい肢体が、一瞬のうちに雷牙の網膜を、視神経を、脳細胞に電撃をあたえる。十香よりではないが、手の平にフィットしそうな胸に、きゅっと締まったウエスト、柔らかそうな臀部。その全てが魅力的な裸体だった。
「......ッ!?」
そこでようやく、白刃が肩をビクッと震わせ、顔をこちらに向けてくる。
「!あ、いや、違うんだ......!これはその――」
雷牙は間違えてはいないが、何故かこれはいけないような気がして言おうとしたが白刃の裸体を見たせいで思考が追いついていかず言葉を詰まらせる。
「みッ、見ないで......っ!」
「ゴックゥ.......!?」
雷牙は、見事過ぎる右ストレートを顔面に喰らい、そのまま後方に吹き飛ばされ、壁に背を、床に尻を預けて経たり込んだ。間髪も入れず、ピシャン!と、風呂場の扉が閉められる。
「――けほッ、けほッ.....アイツ、本気で殴ってくるとかそりゃねぇぜ.....鼻が折れたらどうすんだよ全く.....」
そう言ったのち脳内で今起こったことを整理する。家に着くと鍵が開いていた、泥棒かと思い各部屋を確認し、最後に風呂場を見に行くと白刃がいた。つまり白刃が家に入ってきてこうなった。だが、雷牙は疑問が残っていた。なんで白刃がここにいる?そして何故家の合鍵を持っている?このピースに果てはまるのにそれ程の時間は掛からなかったのだ。なにせ白刃は<フラクシナス>に住んでいるのだ。あのロリっ子司令の事だ、何かあったから白刃がここにいるのだろう。
「たく、何かあるなら先に連絡しろよあのロリ司令が」
と、風呂場の扉が少しだけ開かれ、頬を少しだけ真っ赤にした白刃が顔を覗かせてきた。
「.......ライガ、見た?」
「.....あーまぁ、少しな?」
雷牙はじとーっとした視線を送ってくる白刃に、正直に言った。......実は少しじゃなくてだいぶ見てしまったかもしれない。だがバカ正直にぜ「全部見ました!」てっ言えるわけがない。そんなこと言ったら、第二派の顔面右ストレートが飛んできて死ぬ予感しかしない。一応それで納得したのか、白刃は「.....分かった」と言ってから扉を全開にする。雷牙は一瞬反応が遅れ後ろを見ることが出来なかったが、良く見ると白刃はタオルを巻いていた。水分を吸っているのでそのタオルは白刃の体のラインが浮かび上がっている。ので少々目に毒だ。
「ねぇライガ、何か着る服とかない?」
「え?ああちょっと待ってろ」
そう言うと雷牙は脱衣所のタンスから着替えを出し白刃に手渡す。ちょっと大きいが、その上にパーカーとか着るからまぁ大丈夫だろう。
「ありがとう、じゃあすぐ着替えるからリビングで待ってて」
「あ、ああ別にゆっくりでいいからな」
白刃は首肯すると着替えを置いて脱衣場にたるタオルで髪を吹いていく雷牙は急いで脱衣場からリビングへ行く。
それから数分後、雷牙はキッチンでコーヒーを作っていた。少し味見してみるがやはりインスタントだからか、少し不味い。
「うーんやっぱ豆を扱う専門店行った方が良さそうだなぁ金足りるか?」
雷牙はじっくりと考えているとリビングの扉からガチャと、音が聞こえてた来たので見てみると着替えた白刃が来た。
「おう白刃。コーヒー飲むか?」
「うん、飲む」
白刃は椅子に座り雷牙は出来たコーヒをコップに移し、角砂糖とミルクと一緒にお盆でテーブルに持っていく。
「はい、おまち堂」
「ん、ありがとう」
雷牙は自分の座るテーブルにコーヒを置き白刃の前にコーヒーを置く。
「いただきます」
「おう召し上がれ砂糖とかミルクがあるから苦かったらそれ入れろよ?」
白刃コクっと首肯し、右手でコップの塚を持ちコーヒーを飲む。それと一緒に雷牙も口の中にコーヒーを流す。すると、白刃が少しビクッと身体を震わせた。
「うぅ....ライガこれ苦い」
ちょっと涙目で雷牙に向けているのでなんとまぁ可愛らしい。それを雷牙は心の中で思ったが、すぐにその思考を捨て、白刃に砂糖とミルクを前に出す。
「やっぱお前には無理だったか、ほれ砂糖とミルクだそれ入れればだいぶ苦味も無くなるぞ?」
「うん。ありがとう」
白刃は砂糖とミルクを取り出しコーヒーにたくさん入れた――そう。それが、無くなるまで。雷牙はそれに驚き声を出す。
「ちょ、ちょっと待て!それは流石に入れすぎだって!」
「だってこのコォーヒィ?てっやつ苦いわよこのぐらい入れて当然でしょ.....ふー美味しい」
砂糖とミルクを限界まで入れたコーヒーを白刃何も躊躇いもなく飲んだ。これについて雷牙は驚くことしかできなかった。あの量は絶対糖尿病になりそうでやばかったのだ。あのコーヒーの中で一番甘いEXコーヒーより甘いと思った。さて、それはさておき。雷牙は白刃に重要な事を聞く。
「なぁ白刃、何でお前ここにいんだ?」
白刃は今の言葉を聞いて少し首を傾げる。
「.....雷牙は琴里から何も聞いていないの?」
「は?何が?」
雷牙は全く話の糸が分からなかったが白刃はそのまま話を続ける。
「良く分からなかったけど雷牙の家で訓練をするからしばらく此処でお世話になれてっ言われたのだけど、もしかして何も聞いてないの?」
なんて、言い放った。
「は?訓練........!?」
雷牙は眉根を寄せると、視線を玄関の廊下の奥の方にやった。そしてそのまま立ち上がり、白刃の方へと向く。
「白刃。
「ん、分かった」
そして2人は士道の家に向かうべく準備をするのだった。
◇
一方その頃――
「琴里ぃ!どういうことだッ!」
「おー?」
士道も雷牙と同じ状況になっていた。
「おー、おにーちゃん。おかえりー」
「お、おうただいま......じゃなくて!」
思わず普通に返事をしてしまってから、首をブンブンと振る。
「おまえが十香を連れてきたのか....?訓練てっ、一体何のことだよ.......っ!」
「まーまー、落ち着いて落ち着いて」
「落ち着いてられるかっ!な、なんで十香がうちに.....?今日も、いつもみたいに令音さんと一緒に帰ったじゃねぇか」
「え?んー、それなら――」
琴里が、指を1本ピンと立て、キッチンの方に向ける。
「あ........?」
士道は、琴里の指が指し示す方向に目をやり――また、固まった。
「......ああ、邪魔しているよ」
なんて、言いながら。やたら眠そうな顔をした女が、リビングと、キッチンを隔てるダイニングテーブルに着き、湯気を立てるカップに角砂糖をいくつも放り込んでいたのである。村雨令音。<ラタトスク>の解析兼、士道と雷牙のクラスの副担任だ。
「れ、令音さん?何やっているんですか......?」
「........ああ、すまない。砂糖を使いすぎたかな」
「いや、そうじゃなくて!」
たまらず叫ぶ。
「どういうことですか?十香は今、<フラクシナス>に住んでるんじゃ?」
<ラタトスク>に保護された十香は今、組織が所有する空中艦<フラクシナス>の内部隔離エリアで生活しながら、学校に通っているという話だった。たとえ力が封印されてるとはいえ、かつては世界を殺す災厄とさえ言われていた精霊なのだ。厳重な封印が施された隔離エリアに部屋が用意されているらしい。ゆえに、十香は学校が終わると、令音と<フラクシナス>に戻っていたのだが.....
「......ああ、そうだね。まずは説明をしなければならないね」
令音が、分厚い隈に彩られた目を擦りながら声を発してくる。
「.......しかし、だ。その前に」
「その前に......?」
「......着替えてきた方がよくはないかね?床が濡れているよ」
言われて、士道は「あ」と短く声を発した。と、令音が再び口を開く。
「.....それと、もうじきこちらにお客がやってくる。着替えるついでに玄関の鍵を開けて来るといい」
「誰か来るんですか?」
士道は首を傾げる。だってこの家を知っているのは琴里や、令音だけだ。そう考えていると、玄関からインターホンの音が聞こえてたきた。士道はすぐに玄関に向かい扉を開ける。するとそこには士道が知っている人物が二人いた。
◇
「......んで?これは一体どうゆう事だ?」
部屋着に着替えた士道と先ほど来た雷牙(白刃も一緒に来た)は、テーブル向かいに座った琴里と令音に視線を向け、雷牙が言う。何故ここに雷牙いるのかというと、白刃の件について五河家に来たのだ。(元々左側の家の一つ隣の家に住んでたので意外と近かった。)因みに何故五河家の場所を知ってるかと言うと、前に琴里に住所を渡されたからだ。さて話を戻そう。
今4人がいるのは、五河家1階に位置する、リビングだった。十香と白刃は2階の空いている部屋(十香の部屋)に移動してもらった。何故なら二人の耳に入れたくない話もあるらしい。因みに十香と白刃は今、2階の部屋で一緒にカードゲームをしている。とりあえずあと十分くらいは大人しくしているだろう。もしこちらに来てしまったら白刃が何とかしてくれるだろう。雷牙は移動する前に白刃には伝えていたのだ「もし十香がこっちに来たらお前が何とか食い止めてくれ」と、言った。白刃はこれをすぐさま了承した。まぁ、十分と一分があれば大丈夫だろう。
「んーとね」
と、琴里が、指で頬をぷにっ、と持ち上げた。
「今日からしばらくの間、十香がうちに住むことになって、白刃は雷牙の家に
そして、えっへんと胸を反らすようにしながら、無邪気な笑顔を作る。
「「だから、どうして(そうなったか)訊いとるんじゃぁぁぁぁぁぁぁッ!」」
「......まぁ落ち着いてくれ、しんたろう、ライ」
士道と雷牙が叫んだところで、令音が声を上げた。案の定というかなんというか、名前は士道は名前を間違えられ、雷牙はあだ名のままだった。
「しんたろうじゃなくて士道です」
「雷牙です。つか、あんた本当にわざとだろ......」
「.....ああ、そうだった。訂正しよう。悪いね、シン、ライ」
「「........」」
訂正されていない。ただの愛称になっている。わざとやっているとしか思えない.....のだが、令音のぼうっとした顔を見てみると、なんか本気で間違えて覚えてしまっているのではないかという疑念が浮かんでくるのだった。しかし、士道と雷牙はそれ以上、名前の件に関して追及できなかった。
「......理由は大きく分けて二つある」
令音が、静かな声で、そんなことを言い始めたのだ。
「......一つは―――2人のアフターケアのためさ」
「アフターケア.....っていうと?」
「.......それで?それがどうしたんだ?」
「.......シン。ライ。君達は先月、口付けによって十香と白刃の力をその身で封印したね?」
「.....っ、は、はい」
「......あーあれね......」
士道は小さく首を前に倒し雷牙は少し思い出したのか頬を染める。同時に二人は唇にあの時の感触が蘇ってきて少し顔が赤くなる。
「あー、おにーちゃんと雷牙赤くなってるー。かーわいいー」
「う、うるせ!」
「ほっとけ....」
琴里が二人の反応に心底楽しそうに言ってくる。
「.......まぁ、そこまではいいのだが、一つ問題があってね。........今、シンと十香、ライと白刃の間には、目に見えない
「パス?どういうことですか?」
「詳しく説明を頼む」
「........簡単に言うと、
「な.........ッ」
「マジかよ......」
士道と雷牙は戦慄に身を凍らせた。
――封印された十香と白刃の、精霊の力が逆流する?剣の一振りで天を、地を裂く力と無数の斬撃で全てを切り裂く力を、再び二人に備えてしまうということだろうか。もしそうだとしたなら――考えるだけでも怖気をふるう事態だった。(雷牙は普通)
「......君たちも知っての通り、十香と白刃は今、<フラクシナス>の隔離エリアで生活している」
士道の狼狽を知ってか知らずか、令音が静かな調子で言葉を続ける。
「......二人の精神状態は常にモニタリングしているのだが......どうも、<フラクシナス>にいると、学校にいる時に比べて、ストレス値の蓄積が激しいんだ」
「そ、そうなんですか?」
「そこまで、ストレスが溜まるものなのか.....」
「.....ああ。それに一日二回の定期検査もあまりお気に召さないようでね、白刃の説得で何とかまだ許容範囲内だが、このまま放置しておくのも好手とは言い難い。――そこで、だ」
令音が、立てた指をあごに当てた。
「.......検査の結果も安定してきたし、そろそろ<フラクシナス>外部に、二人の住居を移そうということになってね」
「ふーん、それで?」
「.....というわけで、精霊用の特設住宅ができるまでの間、十香をこの家に住まわせる事になったんだ」
「「プリーズ。ウェイト(ちょっと待て)」」
士道と雷牙は頬をぴくつかせた。
「......どうしたかね?」
「な、なんでうちになるんですか......?」
士道が問うと、令音は小さくうなりを上げた。
「......まぁ簡単に言うと、だ。君といる時が、一番十香の状態が安定するんだよ」
「え......っ」
急にそんなことを言われ、息を詰まらせる。
「.......逆に言えば、君と白刃以外の人間は、まだ十香の信頼を得ているとは言い難いのさ。私や琴里、ライなんかは比較的に顔を合わせる機会が多いが――それでもね。後、特に一番警戒しているのはライ。君だ」
「は?俺?」
いきなり自分の名前が出てきたのか雷牙は困惑した。令音はそれを気にしないそぶりで話を続ける。
「.......知っての通り、先月。君は十香と1回抗戦したね?それがまだ残っているのか十香はまだ君のことを少し警戒していてね、こうも言っていた「あやつの中になにか
「.....分かりました」
雷牙はあまり信用されてなくてちょっと悲しかったが、まぁ仕方の無いことだろうあの時は折紙を助けてその後に十香と激戦を繰り広げていたのだから。それが終わって、はいお互い仲良く!(白刃のおかげ)てっなるわけがない同じ立場だったら絶対警戒はする。今度学校の時にきな粉パンを20個買ってこよう。十香の仲良くなる作戦は決まった。だが、雷牙は少し十香の台詞に疑問があった。
「......話に戻るが、まずは少しでも安全性の高い場所で、十香がきちんと生活できるかどうか試したいところなんだ」
「......むう.....」
士道は、額に汗を滲ませながらうなった。確かにそう説明されると、整合性がある気がしないでもない。しかし、士道はそう軽々に許可を出せるような問題でもない。食い下がるように、また令音に問いを発する。
「それで.......もう一つの理由ってのは何ですか?」
「......ああ、これはもっと単純明快だ。――シン。ライ。君たちの、訓練のためさ」
「......っ」
先刻、服を着替える前に言われた言葉が繰り返される。訓練。その単語には、あまりいい思い出がなかった。と、士道が頭の中で考えていると、雷牙が令音に質問をした。
「んじゃ、俺の家に白刃が居たのも訓練てっわけか?」
「......いや、これは彼女の要望でね。先程のシンと同じ話になるが、ストレス値を溜めないためでもあり、彼女自らの希望なのさ」
雷牙はやっと理解した。だから白刃は「何も聞いてないの?」と言ったのだろう。だが、先程琴里が言い放った永久的に住むということはどうゆうことなのだろう?雷牙はそれが分からなかった。十香は精霊の特設住宅が完成するまでの間。士道の家で住むと言っていたが、白刃は雷牙の家に永久的に住む。まさかだと、思うが白刃が無理に言ったのであろう。が、少し疑問があり、雷牙はそれを確認すべく令音に問う。
「.....なぁ令音さんや、俺から見て白刃はそこまでストレス上げないと思うし精神的に少々大人びているから大丈夫じゃないのか?」
雷牙はそう言うと令音は目を細めた。物静かだが、うって変わって唇を動かす。
「......本当にそう思っているのかい?」
「は?それってどういう.....」
令音は自分のポケットから携帯を取り出し、それを雷牙に見せた。雷牙はスマホに映し出されていたモニターを見るとそれには、雷牙自身も驚愕した。なんせ―――
「....君が驚くのも無理はないだろう。これが今、彼女に起こっている数値さ」
令音の携帯に映し出されていたのは白刃や十香の感情値やその他色々が記録されていたデータだったのだ。雷牙はそのデータから白刃のストレス値を見てみると、十香より白刃の感情値が上がっていたのだ。
「これは一体....何があったらこうなるんだ」
「.....分からないのかい?彼女は内心は隠しているつもりだが、君がいないだけでもここまで感情値やストレス値がぐっ、と上がるんだ」
雷牙は白刃を軽く見ていたのかもしれない。白刃なら大丈夫。白刃なら大人の対応出来るから大丈夫。そんなことを考えてたのがこれだ。雷牙は何一つ白刃の事を分かっていなかった。いや、軽く受け流していたんだろう。白刃を封印してからもう1ヶ月位が経つ。自分はどこかでまだ覚悟が決まっていなかったかもしれない。だからそのせいで起こったのがこの結果だ。自分でも腹立つ。あの時、白刃に「その自虐的を否定して正してやる」と、約束したのは嘘だったのか自分でもそう思ってしまう。なら何故雷牙は白刃を軽く見てしまったのか、それは雷牙の
「.....ライ。君の気持ちは分かるしかし、白刃は白刃だよ君が知っている白刃は人を簡単に殺すかい?」
「!?」
令音が物静かに優しい言葉を発する。
「....君が命を張って救ったのなら分かるはずだよ.....だからもう少し彼女を信用してあげようじゃないか」
「――はい。分かりました」
雷牙は令音の言葉で目が覚めた。そうだ――白刃は白刃だ。あんなに可愛くて純粋で、物静かだけど、甘えて来る時は、なんとも可愛いらしい。ギャップ萌えてっやつだ。そんな彼女が殺すわけがない。今度白刃にラ・ピュセルの限定シュークリームを買ってこよう。雷牙は昨日よりも今日よりも白刃をちゃんと見ると心の中で誓った。
◇
「――話は以上よ」
何故アフターケアの話から飛んでいるかというと、雷牙は話をあまり覚えていなかったためである。簡単に説明すると、<ラタトスク>。精霊保護団体と言っても、表向きではそう言っているが、その機関の中でも精霊の力を兵器として扱うと言う輩もいるらしい。まぁ胡散臭い組織だが、<フラクシナス>にいるメンバーは大丈夫だろう。そして、精霊について。これは雷牙は知っていたが、今までただの一般市民だった士道はこの話には身を凍らせていたのだなんせ士道は精霊は十香と白刃だけだと思ったが、令音や琴里(司令官モード)に真実を伝えられた。それは精霊が十香や白刃だけではないこととそれにその精霊は数種確認されている。これには士道も驚愕せざるおえなかった。だが、士道はその現実をを受け止めた。(後十香が家に住むことを認めた)そしてその数種の精霊を攻略するために今日から士道は訓練(失敗したら黒歴史暴露)を始めた。因みに俺はその訓練がなく、その代わりに白刃の面倒を見ることになった。まぁ願ったり叶ったりだな。なんせ、俺は白刃をあの仇の精霊と少し重ねていた。たが、白刃は白刃それさえ分かればそれでいい。この面倒は甘んじて受けようそれが俺の罰なのだから。
「さて、今日から士道は夕飯を食べたら訓練を開始するわよそして雷牙は死ぬまで白刃の面倒をみなさい分かった?」
「....わ、わかったよ......っ.......」
「ああ」
◇
琴里や令音の話を聞き終わった雷牙は白刃と共に家に戻って夕飯を作っていた。一方。白刃は二階の部屋(客室)で自分の荷物を荷解きしている。直ぐに終わってリビングに来るだろう。―――しかし、白刃の面倒を死ぬまで見ろ.....か....別に、士道の訓練をしたいっていう理由ではない。ただ俺はあまり人に好かれるタイプではなかったのでそれが珍しかったのだろう(好かれているのを自覚していないだけ)。まぁそれは置いといて。雷牙は夕飯を作るのに集中した。と、するとリビングから続く廊下の扉が開き白刃が来たどうやら荷解きが終わったらしい。
「おう、荷解きお疲れさん。もうじきご飯出来るからそこのソファでテレビでも観て寛いでな」
「........」
雷牙は白刃にソファーで寛げというが、白刃それを無視して雷牙がいるキッチンに来た。雷牙は無言の白刃に何か恐怖し、額から冷や汗をかく。
「ど、どうした白刃?浮かない顔して....」
雷牙も白刃が何を考えているのかあまり分からない。それが分からないので雷牙は1歩少し下がってしまう。すると、白刃が頬を少し赤く染めて口を開く。
「....わ、私も料理。手伝っていい?
「え?あぁ、いいってすぐに終わるし白刃はそのまま寛いでていいぞ?」
「やだ」
雷牙はそれを断ろうとするが白刃が雷牙の袖を指で掴みそれを止める。
「私も料理習いたいし、ここに住むんだから私だけ呑気に寛ぐのも嫌なの」
律儀だなぁと、雷牙は内心でそう思ったが折角白刃か手伝ってくれるんだ素直に受け取ろう。
「分かった。んじゃそこに野菜を切ってくれ。一様確認するが、包丁の持ち方分かるか?」
「大丈夫。任せて」
◇
夕飯を食べて皿洗いを終えてから1時間後。雷牙は風呂に入っていた。
「ふぅー今日は色々あった気がする....」
精霊についてのことや白刃が家に住むこと――もうひとつは.....帰り道に出会った、左腕に兎のパペットをはめ込んでいて兎の形をしたフードを被っていた少女だ。今でも覚えていた。最初はただの少女だと思っていたが....あの異常な怯え――それはまるで人に毎日襲われているような感じだった。そして服の袖やスカートにヒラヒラと付いていたあの膜みたいなもの....あれは紛れもなく精霊だ。人類の災厄で倒すべき存在。だが、雷牙はあれは本当に精霊なのかまだ半信半疑で今は決められなかった。外見で判断しても勘違いてっのもあるかもしれない。観測機で確認しなきゃ分からないものだ。
「あ、やべ長く考えすぎたな早く出なきゃな」
今日の事で考えていて風呂に長く浸かりすぎてしまった。雷牙は浴室を出ようと扉を開けると、今ここには誰もいなかったはずの脱衣場に白刃が服を脱いでいた。すると、2人は互いに目が合って数秒固まってしまった。
「よ.......よう......は、ハハ...」
雷牙は手をあげ乾いた笑い声で未だ固まっている白刃に挨拶をした。それから数秒ののち。
「.....っっっっっっっ―――――………!?」
白刃は、顔をリンゴみたいに真っ赤に染めて、声にならない悲鳴を上げた。
「え....あ、ちょっ!落ち着いてくれ白刃!――ズゴックフゥ!」
「――――っ!バカ!見ないでよ!」
白刃が雷牙の右腕をガシッと掴み、脱衣場にある廊下まで強く背負い投げされ背中から壁に激突した。勿論、思いっきり投げられ強く打ったので肺に溜まっていた空気が一気に吐き出された。雷牙は意識を手放しそうになったが、何とか保ち。自分の着替えとタオルだけ持って自分の部屋に向かった。
◇
「はぁ.....今日は.....厄日かよ....」
雷牙はパソコンと睨めっこしながら愚痴っていた。もう時計の針は11時を回っている。白刃はもう寝ている。だが、何故雷牙はこの時間になっても寝ていないのかそれは陸上自衛隊ASTの基地でもある天宮駐屯地に
カタカタカタ―カチッ
「ふぅ...終わったぁー」
雷牙はパソコンをゆっくり閉じて、ベットにダイブしてすぐに静かに眠りに落ちた。だが、雷牙は知らなかった――自分の部屋の扉がゆっくりと開き、そこから白い髪をした少女が雷牙のベットに潜りこんだのだから。
はい雷牙は強気に言っていましたが、怖かったんですね。そりゃ仕方ないw相手がもし仇である精霊なのかもしれないんだからねw
さて次回は精霊会ですよぉ!ですが!雷牙君はAST側なので出番あまりないかも(´・ω・`)
では次の更新に会いましょう。バァイ!
次回:第9話 嫉妬の視線
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第9話:嫉妬の視線
今日は精霊会ですよー。
後、今回オリ主があまり登場しません!
では、どうぞ(っ´∀`)っ
ジリジリジリジリリリリリリッ!!
「ん..うぅ......」
雷牙は小さなうめき声を発しながら、右手でうるさい目覚まし時計を止める。
カチッ
「はぁ.....ん?」
目覚ましを止めてから体制をうつ伏せから横に向けると、何か柔らかい物が雷牙の顔に当たった。寝ぼけてなんだか分からないが、それを触れようとした瞬間に雷牙の顔を何かが掴み、引き寄せる。雷牙は上手く息が出来ずベットで足をバタバタする。
「むぐぁ....んん!?」
息は苦しかったが、今はそんなこと雷牙にとってどうでも良くなったのだ。それは何故か――引き寄せられた時にその目の前にある物は
「な、ななな...何で俺の部屋にお前がいるんだよ白刃!?」
「んぅ.....んー」
そこには自分の部屋で寝たハズの白刃が雷牙の部屋に忍び込んで、雷牙のベットに寝ていたのだ。と、白刃は雷牙の声に反応したのか、体を起こし体を伸ばすと次に手で欠伸を隠す。
「あーライガおはよう.....いい夢見れた?」
「見れてねぇよ!?危うくお前の力で窒息死する所だったわ!!」
雷牙はおもわず叫べられずにはいられなかった。
◇
雷牙は机に右肘をつき。学校の外から見える雲をぼぅと眺めながらため息をこぼす。
「.......はぁ...何で朝っぱらから疲れないといけないんだよ....」
雷牙はあの後、学校の制服に着替えるべく白刃を部屋を追い出した。だが、出したのはいいが、昨日からやけに白刃が積極的に振舞って来るのだ。別に嫌ではないが、流石に雷牙も歳頃の男子なので女子とひとつ屋根の下で一緒に住むのは刺激が強すぎた。小さい頃折紙と一緒に
―――と、教室のスピーカーから馴染みのチャイムが鳴り響く。HRが始まる時間だチャイムが鳴ると同時に、タマちゃん先生が教室の扉から入ってきた。
「はぁーい皆さん席に着いてくださぁーい。HRを始めますよぉ」
その掛け声がなると、さっきまでうるさかった教室が静かになり。そして、いつも通りの日常が始まる。雷牙はその光景を退屈そうに目を背け、再び窓の景色を眺めるのであった。
◇
キーンコーンカーンコーン
四限目の授業の終了のチャイムが校舎中に鳴り響き、昼休みになる。それと同時に、
「ライガ。お昼一緒に食べよ?」
「ん、ああ」
雷牙の机に、前からがっしゃーん!と机がドッキングされた。机をドッキングすると雷牙と白刃は自分の鞄からお弁当を取り出し机の上に置くと、一緒に蓋を開けた。
「お、白刃これは?」
弁当の中身を見ると、野菜と肉がびっしりと詰めてあった。白刃は自慢するかのように声を発する。
「今日の献立はピーマンの肉ずめ、ナスとひき肉の味噌煮、ウインナーと玉ねぎの炒め物だよ」
そう。この弁当を作ったのは白刃だ。なにやら「明日から弁当作りは私がやる」と、急に言い出し。雷牙はそれを断ろうとしたが白刃の上目遣い(涙目)に撃沈し折れた。自分でも思うがやはり白刃に少し甘い気がする。だがもし、下手に断ろうとすれば精神状態が不安定になって霊力が逆流しかねない。それを考慮するために仕方なく許可はしたが...まさか、弁当の中が肉、野菜、肉、野菜しかなかったのだ(ご飯はあります)そしてそのせいなのか弁当が遠くから見ても分かるぐらい非常に膨らんでいる。一体どんぐらいの量を入れたら膨らむのか雷牙は頭を悩ませた。
「ライガ、食べないの?」
「え、ああ!今食べるよ。いただきます!」
考え事をしていて弁当に手をつけていなかったので、白刃から不安の声が聞こえた。雷牙はそれに気づくと急いで箸を取り、弁当のおかずを口に運ぶ。すると、口の中から肉の旨みとほんのりと来る野菜の甘さが味覚に伝わって来る。一言で言うとめちゃくちゃ美味しい。白刃が料理を始めてから1日しか経っていないのにこの美味さは店に出せる程のものだった。
「....どう?」
痺れを切らしたのか、白刃は雷牙に弁当のおかずの味を聞いてくる。それを雷牙は素直に答える。
「うん。めちゃくちゃ美味い」
「本当?良かった....」
白刃はその事を聞くと、胸を撫で下ろしてふぅーと息を吐く。
「そんなに自分が作る弁当に自信がないのか?こんなに美味いのに」
「だって私まだ料理始めてから1日の半分しか経っていないんだよ?仕方ないじゃん。私だって自信がない時だってあるの」
白刃は頬を膨らませムスゥーとするが、雷牙はそれを気にせずに頭を撫でると白刃は直ぐに機嫌が良くなった。この時の白刃は、まるで大人っぽさが無く寧ろ妹みたいに甘えて来る。別に嫌な訳ではないが、親族もいない雷牙にとって、妹的な対応はどう接して行けばいいのか少々分からなかった。と、視界に士道の席が映る。見てみると、十香と折紙がまた言い争いをしていた。いつも見ているが良く飽きないなと雷牙は心の中でそう思った。すると、突然、街中から妬ましい警報音が鳴り響いた。
ウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――
瞬間。ざわついていた昼休みの教室が、水を打ったように静まり返る。
――空間震警報。
およそ三十年前より人類を脅かす、最悪の災厄。空間震と称される、災害の予兆である。
「..........」
と、士道の席にいた折紙は即座に席を立ち、雷牙の席まで来た。雷牙は折紙が来たことに首を横にきょとんとするが瞬間。折紙が無言で雷牙の襟元を掴み教室を出る。
「ちょ、ちょい!折紙さん!?一体どこに連れて行くんですかぁぁぁ!」
「.....」
雷牙は思わず叫ぶ。なにせ、何も伝えられていなく、いきなり襟を掴まれる。それを前の席で見ていた白刃が呼び止める。
「ちょっと、ライガを何処に連れていくつもり?質問によっては私が許さない」
白刃は雷牙をどこかに連れていく折紙に少し低い声で言う。折紙はそれに動揺もせず声を発する。
「無言で雷牙の襟を掴んだのは謝罪する。雷牙に用がある、少し借りる」
「借りる?それはどうゆう――」
白刃は折紙の返答に非常に気になりはしたが、今空間震警報が鳴っている事をその質問は中断する。折紙は雷牙の右手首を掴み廊下を出ようとするが、雷牙は止まり。白刃に向けて声を発する。
「大丈夫だ白刃!俺はちゃんと怪我せずに戻ってくるから!お前は十香と一緒にシェルターに避難しとけ。約束だぞ!」
それを言うと雷牙は折紙と共に教室を後にした。
その後ろ姿を眺めていた白刃は少し胸がキュッと締め付けられる感覚を感じてた。なぜだろう、雷牙が折紙と一緒にいるだけで少し腹が立つ。一体なんだろう何で2人の後ろ姿を見るだけでこんなに羨ましいのか、彼女はまだ知らない。この感情が嫉妬だと言うことを―――
◇
雷牙は折紙に手首を掴まれながら歩いていた。
「な、なぁ折紙。お前一体どこに連れて行くんだよ!」
「.........」
折紙は雷牙の返答に答えずにただ無言で歩く。だがその、今掴んでいる右手首は少しだけ力が強かった。雷牙は気づく今の折紙は怒っている。その理由は雷牙は自身も分からなかった。そして、いつも待ちわせ場所で使ってる屋上へと続く階段まで連れてこられた。折紙はそこで雷牙の右手首を離す。
雷牙は折紙に再び質問をする。
「んで、空間震警報が鳴ってるのにこんな所に連れてきて一体どうしたんだ?」
「手短に話す。雷牙、これを貴方に 」
折紙は右ポケットから手の平に収まるくらいのデバイスを雷牙の手元に渡す。
「緊急用デバイスか...何故これを?」
雷牙の手元にあるのは緊急着装デバイス。簡単に言うと、この小型デバイスに
「――念の為」
「は?」
「貴方は4月。空間震警報が鳴ってても外に出ることについて、日下部隊長から雷牙にこれを支給された」
雷牙は何も言えなかった。確かに4月に
多分日下部隊長が回してくれたのだろう。だからこそ雷牙にこの緊急用デバイスを折紙経由から渡されたのだ。雷牙は素直にもらい自分の制服のポケットに入れた。
「分かった。もし隊長に会ったらこう言っといてくれ。『
「分かった。約束する」
折紙は頷き雷牙の伝言を承知する。
それを確認した雷牙は
「んじゃ折紙また基地で会おうぜ!」
「......気をつけて」
「おう!そっちもな」
雷牙は折紙を置いて廊下を走りだし角を曲がった。そして角を曲がった瞬間、突如足から奇妙な浮遊感が襲う。
◇
「遅い!一体貴方は何処で寄り道していたのかしら?この、タラシ虫」
雷牙が <フラクシナス> の艦橋に着くなり、艦長席に座った琴里から、暴言が飛んできた。
てか、タラシ虫てっ何だよ....と、雷牙は心の中でそう呟いていた。
「で、士道が見当たらないんだがアイツどこ行ったんだ?」
「貴方が来る前に行ったわよ」
琴里はため息をしながら雷牙に返答する。
「え?マジ?」
「本当よ。なら自分でそこにあるモニターでも見てみなさい」
琴里は口に含んであるチュッパチャプスを右手で持ちモニターの方に指す。
雷牙は指された場所を見てみると目を大きく目開いてしまう。そこにはデパートの玩具店の中に士道ともう1人は昨日会った
「?雷牙どうしたの?まさか、貴方も昨日あの子に会ったなんて言わないわよね?」
「.....すまない昨日会った」
琴里はモニターを見て呆然している雷牙に問うが。雷牙はすぐ返答した。
「んで、司令。俺はどうすりゃいい?」
雷牙は琴里に何か自分が出来る事がないかと、尋ねる。
「んーとりあえず何かあったら出てもらうてっ形になるから一先ず待機ね」
琴里は難しく唸る声を出し、雷牙に命令を出す。
雷牙も今回は好都合だった。もしあの場で出てしまえば折紙達に見つかり職質されかねないのだ。今は士道に任せて自分は大人しく待機していよう。と、1つ脳裏に白刃の事を思い出す。
「そういや、白刃のやつちゃんと十香と一緒にシェルターに避難したかな....」
折紙に連れて行かれた雷牙は教室に残った白刃はそれからどうなったのか分からない。連れて行かれる前に念の為シェルターに避難しろとは言ったが、少し不安だ。
と、そんな事を考えていたら<フラクシナス>からものうるさい警報音が艦内に鳴り響いた。雷牙は目線をモニターに移すとそこにはここにはいないはずの十香と白刃がいた。
「おい司令。何で2人があそこにいるんだよ!シェルターに避難したんじゃないのか!?」
雷牙は驚きのあまり声を大きく琴里に言う。
「.....えぇ避難したはずでしょうけど十香が士道の事が心配で飛びしたんでしょうね。しっかしまさか白刃も一緒に来るとはね」
琴里は珍しく焦りながら言う。まさか避難した2人が空間震警報がなっているのに外に出ているのだ。本当なら誰かが止めるはずだがこっそり抜け出して来たのだろう。しかし、雷牙は驚いた。何故なら白刃が十香と一緒にシェルターを抜け出して士道と<ハーミット>がいる所に来てしまっているのだ。多分だが、十香を止めようとしたが止められずそのまま来てしまったのかもしれない。
「どうする司令?」
「....仕方ない、雷牙行ってきなさい。くれぐれもASTに見つからないようにしなさいよ!」
雷牙は琴里に出撃許可をもらうように言い琴里はそれに応え許可を出した。
雷牙は許可をもらった瞬間に飛び出し急いで白刃達がいる現場に走る。
「頼む。間に合ってくれよ!」
そう雷牙は祈るのだった。
◇
『やー、ねー、ごめんねぇ、これもよしのんが魅力的すぎるのがいけないのよねぇ』
「ぐ、ぐぐ.....っ」
同時刻。
士道が心配で学校のシェルターから抜け出した来た十香は<ハーミット>と言い合いをしていた。事の発端はジャングルジムで遊んでいた<ハーミット>が足を滑らせ落ちてそれを士道が咄嗟に受けとめてバランスを崩し、丁度唇と唇が重なってしまいそれを十香に見られ今この状況になっている。
『別に十香ちゃんが悪いって言ってるわけじゃないのよぅ?たぁだぁ、十香ちゃんを捨ててよしのんの元に走っちゃった士道くんを責めることもできないっていうかぁ』
「う.....うがーッ!」
しばしの間、<ハーミット>の左手に付けているよしのんが十香を煽るような声でいいその十香はそろそろ我慢の限界とばかりに叫びを上げた。
「う、うるさい!黙れ黙れ黙れぇっ!駄目なのだ!そんなのは駄目なのだ!」
『ええー、駄目って言われてもねぇ。ほらほらぁ、士道くんもそこの白髪のおねーさんもはっきり言ってあげなよぅ、十香ちゃんはもういらない子、って』
「十香、落ち着きなさい!耳を貸しちゃダメ!」
白刃が十香を呼び止めるがもう遅い。今の十香を止める者は誰もいなく彼女は『よしのん』の話を聞くと瞬間、ガバッとパペットの胸ぐらを掴み上げた。無論小さなパペットである。少女の手から容易く外れ、上空に持ち上げられてしまう。
「............!?」
と、パペットを取り上げられた少女が、目を丸くした。
次の瞬間には体や指先をプルプルと震わせる。十香はその事も気にせずパペットに、鋭い視線を向け、詰め寄る。
「わ........ッ、私は!いらない子ではない!シドーが......白刃が...私に、ここにいていいと言ってくれだのだ!それ以上の愚弄は許さんぞ!おい、何とか言ったらどうだ!?」
パペットが声を発していたと思っているのか、ウサギの首元を掴み上げながらぐらぐらと揺する。
「........!......!」
そんな様子に、『
「ぬ。な、なんだ?邪魔をするな。今私は、こやつと話をしているのだ」
「――かえ、して....くださ....っ」
十香の両手で高々と吊り上げられたパペットを取ろうとぴょんぴょんと飛び跳ねる。
『――何しているの士道。よしのんの精神状態まで揺らぎまくりよ早く止めなさい!』
士道の右耳に付けているインカムから琴里の声が響いてくる。士道は頬をかきながら、恐る恐るのどを震わせた。
「な、なぁ、十香。その.....それ、返してやってくれないか?」
「.........っ!」
すると十香が、士道の言葉に、愕然とした様子で目を見開いた。
「シドー....やはり.....私よりもこの娘の方が....っ」
「は、はぁ?いや、そういうことじゃなく―――」
と、それとほぼ同時に。
「.......っ、<氷結傀儡>......っ!」
『よしのん』がバッと右手を上げたかと思うと、それを真下に振り下ろした。
瞬間――床を突き破るようにして、その場に巨大なウサギ型の人形が現れる。
「に、人形.....っ!?」
「――なっ。これは――!?」
士道と十香が、同時に声を発する。白刃は目を見開き驚いていた。『よしのん』は、自分の足の下から出現した人形の背にピタリと張り付くと、その背にあいていた2つの穴に両手を差し入れた。
次の瞬間――人形の目が赤く輝き、その鈍重そうな体躯を震わせながら、グゥオォォォォォォォオオォォォ――と、低い咆哮を上げる。それに合わせて、人形の全身から白い煙のようなものが吐き出された。
「冷た.....ッ!?」
思わず足を引っ込めてしまう。
その煙は、まるで液体窒素から発せられているもののように、非常に低温であったのだ。
『――このタイミングで天使を顕現.....!?士道、まずいわ、逃げなさい!』
「は、はぁ...っ!?て、天使って何だよ!」
突然右耳に響いた琴里の叫びに、思わず大声を上げてしまう。
『精霊を護る絶対の盾・霊装と対と成す最強の矛!精霊をたらしめる「形を持った奇跡」よ!十香と白刃の<鏖殺公>と<天ノ白嵐>を忘れたの!?』
先月。二人が精霊の力を有していた時に顕現させた、剣と刀である。それが示す事象。それは非常にシンプルだった。つまりは――キスをしたのに、精霊の力が封印出来ていない。
と、『よしのん』が小さく手を引いたかと思うと、人形――<氷結傀儡>が低い咆哮とともに身を反らした。
すると、デパート側面部の窓ガラスが次々と割れ、フロア内部に雨が入ってくる。だが――正確に言うのなら、少し違う。
窓が割れて雨が入ってきたのではなく、まるで雨粒が凄まじい勢いで以て外部から窓ガラスを叩き割ったかのような感じだった。
「いぃ....っ!?」
士道は驚愕に目を見開くと、足を震わせながら、前方に聳える人形を見た。――ギロリ、と十香の方に顔を向ける人形を。
「士道!十香を!」
「.......ッ!十香!」
白刃がでかい声で叫ぶと同時に士道は、言うが早いか十香の手を引き、その身体を抱き込むようにして床に倒れこんだ。白刃も咄嗟に近くにある柱に飛び込もうとしたが、足に何かが絡まって動けなくなるが、突如白刃の前にいきなり人影が現れ彼女を抱いて近くにある柱に隠れる。確認をしようと思ったが中が暗すぎて誰だか分からなかった。
「――だ、誰!?」
「な.....っ、シドー!?」
十香の声が、鼓膜を震わせる。と、それとほとんど同時に、今の今まで2人の身体があった位置を、夥しい数の弾丸のようなものが通り抜けていった。それらは周囲の商品棚を派手に穿ったのち、透明な液体となって床に流れていく。
「あ、雨....!?」
そう。割れた窓から、雹のように固まった雨粒が、重力を無視して十香と白刃に放たれたのだ。
と――そこで、『よしのん』の駆る<氷結傀儡>が動いた。
「.....っ」
咄嗟に十香を守るように、自分の背を<氷結傀儡>の方に向ける。だが、<氷結傀儡>は鈍重なシルエットに似合わぬ俊敏な機動で血を蹴ると、先ほどまで十香がいた位置を通り抜け、そのまま割れた窓から屋外に飛び出していってしまった。
途中――十香の手から落ちたパペットを口に当たる部分でくわえて。
「.......」
士道は『よしのん』の背を視線で追ってから、小さく口を開いた。
「た、助かった......のか?」
『.....ええ。反応は完全に離脱したわ。なかなか無茶をするわね、士道。それと
右耳に、そんな声が聞こえてくる。だが、士道以外の名前も聞こえた気がした。
「や......でも何でいきなり....ん?待ってくれ、雷牙もいるの――」
と、言いかけたところで、
「いいから早く離さんか......ッ!」
服を掴まれ、士道はその場にごろんと転がされた。
「のわ......っ!?」
原因は考えるまでもない。今の今まで士道の腕の中にいた、十香だ。彼女を頬を紅潮させ歯を食いしばるという、駄々っ子のような表情を作りながら、肩をいからせるような姿勢でその場に立ち上がった。
「と、十香......?」
「......っ!触るなっ!」
「いて....っ」
士道が思わず顔をしかめ、手を引っ込めると、十香は一瞬ハッとした顔を作った。しかしすぐに「むむむ.....」とうなり、ぷいと顔を背けてしまう。
「ど、どうしたってんだよ、十香.....」
「うるさいっ!話しかけるな!わ、私より、あの娘の方が大丈夫なのだろう......っ!」
「は、はぁ.....?何言って――」
士道が呆気にとられたように声を発しようとするが、後ろから誰かに右肩を掴まれた。後ろを見てみるとさっきまでここにはいなかった雷牙がそこにはいた。
「ら、雷牙!何でここに.....」
「白刃やお前たちがいたから来たんだよ。それよりも今のアイツには何を言っても無駄だ。少し距離をとれ」
「あ、ああ.....」
雷牙が、士道を止めると士道は少ししょんぼりしたが雷牙はそれを気にせず直ぐに白刃の元に行く。
「大丈夫か白刃?」
柱に隠れて、座っている白刃に手を差し出す。だが、白刃はその手をバチンと払いとばす。雷牙はいきなりだったので声を発する。
「し、白刃?どうしたんだ?」
白刃を見てみると、少し頬をプゥと膨らませぷいと後ろを向く。
「知らない。何でか雷牙を見るとムカつくの。だから今は来ないで」
そんな意味が分からない返答が帰ってきた。それに雷牙は困惑することしか出来なかった。
すると、士道の方面から亀裂が入りそっちを見てみると十香が苛立たしげに地面を蹴っていた。その度にデパートの床が陥没していった。
その後は、フラクシナスに回収され、少し検査を受けて白刃と一緒に自分の家に帰るのだった。
はい。如何だったでしょうか?流石に四糸乃パペット編はオリ主の出番が少ないです。まぁ仕方ないですよね。雷牙君はAST側なので見つかったら職質待った無しですからw
次回で四糸乃パペット編は最後にしたいですが、まだ1話続くかもしれません!すまない!
次回:第10話 謝りと少しの過去
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第10話: 謝りと少しの過去
今回は長めです。
ドゾー(*゚-゚)っ
「白刃〜そろそろ部屋から出てきてくれないか?」
困惑に染まった声を発しながら、雷牙は白刃がいる部屋のドアをコンコンとノックした。しかし....反応はなかった。
「頼むよ、少しだけでいいから話を――」
もう一度、そう言いながら再び扉をノックしようとするがそれと同時に部屋から大きい声が響わたる。
『うるさい。いいから今は来ないでよ!』
突然のことに、思わず肩をビクッと揺らしてしまう。
「....っ!」
と、雷牙が今までノックを続けていた扉の向こうから、突き飛ばす声が響いてきた。
『......どうせ私より鳶一の方がいいんでしょ。だから早くどこか行っちゃえバーカ』
そしてそれきり、また何も反応がなくなる。完全に拗ねてしまっていた。
「.....うーん、どうすりゃいいんだよ.....」
雷牙は途方に暮れ、手で頭をポリポリかきながら陰鬱な調子でため息をした。雷牙が今いるのは、雷蒼家二階の客室――綺麗な字で『白刃』と書かれたプラカードが掛けてある扉の前だった。
<ハーミット>が隣界に
「....考えても仕方ないよな」
雷牙は一旦白刃を1人にするため、一階のリビングに向かって歩き出した。そして、リビングに到着すると、固定電話が置いてある引き出しの中からペンとメモ帳の紙を取り出しそれを机に置いて書き始めた。
「よし、これでいいか」
雷牙が紙に書いた内応は
『ちょい気分転換に外行ってくるわ。白刃は十香や村雨解析官と一緒にご飯食べに行きな』と書かれたいた。それを雷牙はテーブルの上に置くと、財布だけを持って家を出た。
◇
ムカつく。ただその感情が白刃の頭の中をぐるぐると駆け巡る。何故こんなに雷牙の声や、姿を聞いたり見たりすると凄く腹が立ってくるのだろう。元はと言えば雷牙が鳶一とくっ付いたりするのが悪い。
「.......ッ」
白刃は自分の部屋にあるシュークリームクッションをドアの付近に投げた。そして、投げたと同時にポフとベットに前のめりで倒れ、大きいため息を吐く。
「....もう分からないよ、ライガ」
◇
「やっぱ気分転換はここだよな」
雷牙は天宮駐屯地に来ていた。何故彼がここを気分転換をする場所と言っているのか、それは――
「おいすー。ミリィーいるか?」
ここでCR-ユニットを整備したり出来るのだ。
と、雷牙の声に反応したのか奥にいる作業服を着た整備士の少女がこっちに向かって手を振ってきた。
「あ、ライガじゃないですか!どうしたんです?こんな時間に来て」
雷牙に向かって手を振ってきた少女。ミルドレッド・F・藤村。ここの整備士でもあり折紙と同じAST要員なのだが、彼女はCR-ユニットの整備が出来ればそれでいいと言う頭を持っているため、雷牙にとっては少しやばいやつだと思っている。だが、整備の腕は十分で誰にも引けを取らないだろう。
「あーちょい気分転換に来たからさ、どっか整備する所ないか?」
「整備する所ですか?それだったらミリィの隣にありますから着いてきて下さい!」
雷牙はミリィに整備する場所を尋ねると丁度ミリィが作業している隣に空いている場所があるため案内された。
これが雷牙の気分転換の日課だ。何か暇な事さえあればいつも駐屯地に行きCR-ユニットを整備している。これをしている間は何もかも忘れられるので楽だ。そうして作業場に着くと雷牙はそこにある作業服を着て何時もの整備に取り掛かかった。
◇
それから数時間後。
「ふぅー。今日はこれぐらいかな」
「お疲れ様です、ライガ」
ある程度の作業が終わった雷牙は右手で汗を拭う。すると、いつの間にかミリィが缶の飲み物を2つ持っていて1つを雷牙の方へ投げてきた。雷牙はそれを慌てず左手で受け取る。
「お、緑茶か丁度飲みたかったんだ。サンキューミリィ」
「いえいえライガが来てくれたお陰でいつもより作業が早く終わったのでお礼ですよ」
同時に2人は飲み物の蓋をかシュッ、と音を出しながら開け、喉に流す。
「かぁ〜。そうそうこれよこれ、この仕事終わりに飲む一口が美味いんだよ」
「思考がおじさんですよライガ」
ミリィが困った感じで雷牙のセリフにツッコむ。
「別にいいだろ。俺がどれになろうがならまいが俺の勝手だ」
指摘された雷牙は少し気に触ったのか口調を強くする。それを見たミリィはハッ!となり弁解しようとするが何を言えばいいのか分からなくなってあたふたとする。
「い、いやそういう風に言った訳じゃなくてですね!あ、あのその....気に触ったのならすいません」
ミリィは失言だと思ったのかしょんぼりと顔を落とす。
と、雷牙はいきなり笑い始めた。
「ぷっ、アハハハハ!!」
「ちょっ!何で笑うんですか!」
「いや、ふふ。お前がそんなにヘコむとは思ってなかったからさ。まぁ、今の冗談だから気にすんなよ」
雷牙はミリィの前に歩いて来ると思いきや肩をポンポンと叩き、出口の方へ向かう。
「んじゃ俺はそろそろ帰るわ。今日はありがとうなミリィ!今度何か奢るわ」
「え?あ、ハイ!また何かあったら呼びますねー!ん?ライガが奢る?も、もしかして何かを奢ると見せかけて、変な店に行って「さぁお前へのプレゼント(意味深)を買ってやるから選べ」てっ言ってきて、私に選ばせてその買ったもので私を犯すんですね!キャアァァァァ!なんて大胆なんですかぁライガ!私。壊れてしまいますぅぅー」
なんて、ミリィは自分の世界に入ってしまったので雷牙はさっさと此処を離れることにした。
「たくっ。あの妄想頭をどうにかしてくれれば良い奴なんだけどなぁ」
早歩きしながら雷牙は愚痴を零しながら家に帰って行った。
◇
「.....何で十香と一緒にここに連れてきたの?令音」
一方その頃白刃の方では雷牙が家を出て、20分経ってからだろう。令音が十香を連れて雷牙の家に来たのだ。そして家に来たと思いきや、「....一緒にご飯を食べに行かないかい?」と誘われた。最初は断ろうと思ったが、家に1人でいてもイラつきが変わるはずもないので渋々了承した。
そして、向かった先はファミレス。そこで令音は足を止め傘を畳んで十香と共に店内に入る。白刃もそれに続いて行く。店員の案内に従い、禁煙席の1番奥の4人席に座る。
これが今の状況にあたる。白刃は令音に質問をしようとするがそれを声で静止する。
「.....その前にメニューを選ぼうじゃないか話はそれからだ」
すぐに、メニューに目を通して料理を注文する。そして料理が来るまでの間、令音が口を動かす。
「.....十香、白刃」
「なんだ?」
「何?」
「.....料理が運ばれてくるまでの間、少し話をしたいのだが....いいかな?」
「私は構わないけど、十香は?」
「ぬ....まぁ、構わんが.....一体何を話すのだ?」
十香は、少し警戒を示すように身体を離しながら頷いた。
2人は村雨令音を少し警戒していた。いつも何を考えているのか分からなくて――そのくせこちらの考えは全部見通しされている気がして少々気味が悪かった。
と、そんな2人の思考に気づいているのかいないのか、令音がぼうっとした拳動のまま鞄から機械のようなものを取り出し、テーブルの上に広げる。2人は気になるのか令音に問う。
「なんだ、それは」
「パソコン....なのかな?」
「....ああ、気にしないでくれ」
言いながら、令音が片手でそれをカタカタカタカタ...と軽やかに操作する。するとある程度の操作が終わったのか、令音は二人に視線を戻し、唇を開いてくる。
「.....まぁ、話が得意なわけでもないし、単刀直入で聞こう。十香、白刃。君達が苛立っていて――いや、今まさに苛立ちを覚えている、その理由と原因を教えてくれないかな?」
「――っ」
「.......」
令音の言葉に、二人は思わず息を詰まらせた。
「っ、私は、別に――」
「――それは....令音の思い込みよ」
「....やはり、シンとライが女の子と会っていたのが許せないのかな?」
シンとライ。それは令音が士道と雷牙を呼ぶ際の名前だった。
「なっ、なぜそこでシドーが出てくるのだ.....っ」
「....ライガには関係ない」
「.....おや、関係がなかったかな?」
「「.......」」
十香はテーブルに肘を突くと、観念したように頭をくしゃくしゃし、白刃はテーブルに置いてある水を手に取り。少し口に入れて飲む。
そして先に十香が大きなため息を吐いてから、重苦しい調子で唇を動かす。
「....わからないのだ」
「.....わからない?」
令音が、首を傾げながら聞き返してくる。十香はうつむけた顔をさらに前に倒した。
「うむ....自分でも、なぜこんな気分になってしまっているのか、わからないのだ....」
頭を抱えながら、言葉を続ける。
「昨日....シドーが私を学校に置いて――その、女の子と、キスとやらをしていたのだ」
キス。その単語を出すだけで、十香はなぜか胸の辺りが痛んだ。
「......ああ、そのようだね」
「別に.....何がいけないわけでもないはずなのだ。シドーがどこで誰と会おうが、誰とキスをしようが、私にそれを咎められるはずもない。....だが、それを見た瞬間、もう、なんとういうか、とても――そう、とても嫌な感じがしたのだ」
「.....ふむ」
「気づいた時には......声を荒らげていた。それに......そのあとあのウサギが、シドーは私よりもあの娘の方が大事だと言うのを聞いて......もう、どうしようもないくらい、悲しくて、怖くて、何がなんだかわからなくなってしまったのだ。......自分でも意味がわからない....こんなことは初めてだ」
再び大きなため息を吐く。
「やはり....どこかおかしいのだろうか」
「....いや、おかしくなどないさ。それは非常に
「そ、そうなのか?」
「....ああ。心配することはない。だが――誤解は解いておいた方がよさそうだね」
「誤解.....?」
「.....ああ。あのキスに関しては完全な事故だし....シンが十香、君よりもあの女の子のことを大事に思っているとか、そんなことは決してない」
令音が機械の方を一瞥してから言ってくる。十香はバッと顔を上げた。
「っ、ほ、本当か....?」
「....本当だとも」
「だ、だがシドーは....」
「....君の事を大切に思っていなければ、自らの命を危険に晒してまで君を助けはしないと思うがね」
「――あ.....」
言われて――十香は言葉を失くした。
胸に、腹に渦巻くわけのわからない感情に気を取られ、完全に失念してしまった。――昨日、士道は、先月と同じように、十香を庇ってくれた。また、凶弾に倒れる可能性があったにも拘わらず。十香は、胸元のあたりを手で押さえながら、ごくんと唾液を飲み込んだ。
「......っ、私は――」
十香はうめくようにのどを震わせ。そして、バッとその場から立ち上がる。
「.....十香?」
「すまん、今日の買い物、後日に回してもらうことはできないか?」
十香は、唇を噛みしめてから再び声を発した。
「.....シドーに、謝らねばならん」
令音はあごに手をあててから、小さくうなずいた。
「......行きたまえ」
「感謝する」
十香は短く言うと、ファミレスの扉を抜けて傘を手に取り、雨の街を走っていった。
「.....さて、十香の方は一件落着だが.....君はどうするのかね...白刃」
令音は前の席にいる白刃に向き直り口を動かす。
「....私はライガに抱いたこの感情が知りたい...だけど、わからないの」
白刃は声を震わせて唇を動かす。
「別にライガ誰と話そうが私がとやかく言う権利がないし、それは自由よ。なのに鳶一とライガが一緒にいる時が一番幸せそうだった。それを見るとなんでか落ち着けなくなって胸が締め付けられるように痛くなるの.....」
「.....ほう」
「私が気づいた時には....鳶一に殺意を向けていた。それに....鳶一がライガと話していると何かを奪われるてっ感じになって......もう、頭がぐちゃぐちゃになってどうしようもないくらいに、寂しくて、怖かった。......もう自分でも意味がわからなくなっていつの間にかライガに当たってしまったの」
白刃は心を落ち着かせるために大きく息を吐く。
「やっぱり.....私。どこかおかしいのかな」
「....白刃、それはおかしくなどないさ。それも十香と同じく健康的な感情さ」
「そう....なの?」
「.....ああ。心配することはない。だが――白刃。君は少し誤解をしている」
「え?」
「....確かにライは君の事も大切にしている。だが、彼にも白刃。君と同じく大切な人がいる、それが鳶一折紙さ」
「――私と同じで....大切な...人」
「....ああ。君を蔑ろしてる訳でもないし君の事もちゃんと大切にしているさ」
令音が視線だけ機器の方に向き言ってくる。
「っ、ほ、本当?」
「.....本当さ」
「...だけどライガは.....」
「....君の事が大切に思っていなければ、自らの命を顧みず危険に晒してまで君を助けはしないと思うがね」
「――!」
何で気付かなかったのだろう。胸に渦巻くわけのわからない感情に気を取られて忘れていた。
――昨日、雷牙は先月のように白刃を助けてくれた。また、氷の銃弾に倒れる可能性があったにも拘わらず。
「.....っ、馬鹿だな.....私」
なんて、馬鹿なんだろう。
白刃はうめくようにのどを震わせると、飲み物を全て飲み干し。そして、バッとその場から立ち上がる。
「....行くのかね?」
「ええ、ごめんなさい。今日の買い物はまた後日お願い」
白刃は、唇を噛み締めてから再び声を発する。
「.....ライガに、聞きたい事が出来たから」
令音は小さくうなずいた。
「.....ああ行きたまえ」
「ありがとう」
白刃は短く言うと、ファミレスの扉を抜けて傘を手に取り、雨の街を全力で走っていった。
「....まぁ、ジェラシーも、立派に恋のうちさ」
令音は呟きながら、端末を閉じる。
「.....ただ、二人とも気をつけたまえよ。恋はきっと、世界を殺す感情だ」
そして、突然十香の注文したハイカロリーな料理が来たかと思いきやすぐにテーブルに並べられ令音はどうやって対応すればいいのか少し困ったのだった。
◇
燃えている街が、家が全て灰や炭と化す。それを雷牙は見ていたがそれよりも目の前に印象的な姿をした者が空にいた。
『(こいつが父さんと母さんを....殺す絶対殺してやる。悪魔に魂を売ったとしても例え地獄に落ちたとしても!)』
彼にとって目の前にいるそれはまるで天使のようだった。だが、それは自分の家族を殺した元凶だったのだ。
そして彼は家族を殺した天使だけを狩る悪魔になるのだった。例えそれを邪魔する奴が親友だろうと知り合いだろうと身内だろうとも――
「......ん」
雷牙の意識は覚醒し、目をゆっくりと開け体を起こす。
「――ソファーで寝てたのか....」
雷牙は頭を抑えながら言う。
「もうこの
雷牙は大きくため息を吐くと、リビングの扉がガチャリという音を立てながら開く。すると、その向こうから白刃が現れた。
「あ、戻ったのか。お帰り」
「うん。ただいま」
雷牙は白刃にお帰りを言うと白刃も普通に返してきた。そしてその会話からすぐに静かになった。雷牙はそれから何も言わなかったが、何か話そうと思って白刃に声を掛けようとすると――
「ねぇ...ライガ」
白刃が声を発する。でも彼女の方を見るととても真剣な表情をしていた。雷牙はそれを重大な事だと思い真剣な顔になり体を白刃の方へ向き唇を動かす。
「どした?」
「聞きたい事があるの――」
謎の緊張感が襲い雷牙は唾液を飲み込む。
「ライガと鳶一は本当に幼馴染の関係?」
「んだよ、そんな話か?前にも言ったけど俺と折紙はただの幼馴「そういうことじゃない」――どうゆう意味だ?」
白刃の話を流そうと思ったが彼女の言葉に反応してしまい少しドスのある声で発してしまったけど、白刃はそれに微動だにせず口を開く。
「ずっと気になってた。ライガは私と鳶一以外にあんな嬉しそうな笑顔はしない。だけど、私より鳶一といるとそれより幸せそうな表情になる。これは、幼馴染に向ける仕草?」
「.......」
雷牙は無言になり顎を手で抑えるような体制で何かを考えていた。と、折れたのかため息を吐くと真剣な声音で声を発する。
「.....はいはい分かった、分かりましたよ。話せばいいんだろ?話せば...ちゃんと聞けよ?」
「うん。分かった」
白刃小さくうなずき雷牙の隣に座る。雷牙は心を落ち着かせるために大きく息を吐くと、ゆっくり口を開く。
「――何で俺と折紙があんなに親しいのかだったよな?まぁ、簡単に言っちゃえば...俺と折紙は
「家族?」
白刃が言うと雷牙は小さくうなずくと再び唇を動かす。
むかーしむかーしあるところに男の子がいました。
ですが、その男の子はまだ5歳の時に本当の母親に捨てられました。理由もなしにいきなり捨てられ男の子は困惑しましたが、それよりもその母親の言葉により男の子は絶望しました。
なんせ実の母親に『お前は私の子供じゃない』と言われたからです。そして男の子は途方に暮れてどこかの電柱に体育座りしてて、ぼうっと空を見て何時間も見ていました。
そして――1日経ったある日。目の前に白い髪をした女の子が家族と一緒にいて心配して弱々しい少年に話し掛けて来ました。少年は意識がなかったからあまり覚えていませんでしたが、彼はもう全てに絶望して生きる意味も見失ってしまって今死んでもいいと思って家族にその事を言ってしまいます。ですが、その家族が発言した言葉は――「なら、私達が君の家族になろう。だから、家に来ないかい?」と少年が思っていた事と違っていたからです。そこで初めて少年は鳶一家に引き取られたました。ですが、引き取られていても未だに心に穴を開けて世界に絶望していた少年は生きる意味を見失っていました。そして、ただひたすらに過ぎていく日々の日常が続くだけでした。だが――少年の前に1人の少女が現れ、少女が少年の心にぽっかり空いた穴を何日もかけて埋めてくれました。ふと少年は彼女の行動に疑問を覚えました。何故――赤の他人であって仮の家族の自分にそんなに構ってくるのか、何故色んな事を教えてくれるのか少年はいてもたってもいられず、彼女に聞きました。すると彼女は目を大きく見開きますが、すぐに笑顔になって少年の両手を包み込みこう言います。「何であなたにそんなに構うのか、それはあなたが私の家族だからだよ。例え、赤の他人だとしても引き取られたらもう家族同然だよ。だから、私はあなたの家族であって、友達でもあるの。実は私、女の子のお友達は沢山いるんだけど、男の子の友達が全然いなくて....男の人と話すことはお父さんしかいなくてさ、だから私お父さん以外の男の人と初めて話すの!だから、私と初めての男の子の友達になって下さい!」その時少年は胸に空いた穴が再び塞がれていく事が分かりそして、心に暖かい温もりが伝わっていくと感じました。世界に絶望した少年は無邪気な少女に救われました。ですが――その幸せな日々はあまりにも長くは続かなかったのです。
と。
「ねぇライガ、その少女って....」
白刃が先程話していた白い髪をした少女が気になったのか雷牙に質問をする。すると雷牙はフッと鼻を鳴らし口を動かす。
「まぁお前の想像通りだよ。今ではあんな無表情で人形みたいなやつになっちまったけど、昔は凄く女の子らしくて、気を使える普通の女の子だったんだ。まぁ、詳しく事はまた話してやる。――話を戻すぞ」
雷牙は白刃の質問に答え再び過去の続きを話すため唇を動かした。
少女の――否。鳶一家に引き取られて一緒に暮らしてから初めて家族の暖かみを知れた男の子俺はもう一度生きる意味を見出し自分なりに日常を謳歌していましたが――その幸せは長くは続かなかったのです。その7年後の天宮市に大火災が起こり、その時彼は日々、家の手伝いで貯めて貯金したお金でいつもお世話になっている家族にプレゼントを買いに行っていたのです。ですが、彼はその焼かれる街を見てすぐさま家族の安否を確認しようと走りだした。たけど、もう家に着く頃には、既に家も焼け焦げていて両親は跡形もなく灰になっていた。いや、灰になったのではなく消されていたのだ。残ったのは彼と現状理解が出来ていないのか、ぺたりと座っている彼を救ってくれた少女だけだった。それで、彼は何か視線を感じると思い、上空に視線を向けたら空に白い天使がいたんだ。その時はまだ精霊だという事は分からなかった。だが、鳶一家の両親を殺したのはコイツだって事は今の状況でもすぐに確信した。そこからだった。彼と彼女の運命の歯車が動き出し、そして少女の性格が変わったのは。彼女は両親を殺した天使に復讐するため、怒りだけ以外の感情を全て彼とそこに居合わせたもう1人の誰かに預けた。彼はそれを渋々了承した。ですが、彼もまた。あの天使に復讐するために少女と一緒に復讐に身を投じるのでした。
お終い。
雷牙が話を終わると息を吐きながらソファーにだらーんと力を抜いて壮大に寄りかかる。すると言い忘れてたのか、それを聞いていた白刃に言う。
「そしてこれが今の俺達の出来上がりだ。だから俺があんなに折紙と親しいのはそんな理由な訳で後は少しでもいいから笑って欲しかったからかな?」
雷牙は少し悲しそうな表情をしたがすぐに笑って白刃に体を向ける。
「はい!これで俺の過去についての話は終わり!つまんねぇだろ?壮大に笑ってくれ」
雷牙は明るく言うが白刃は何故かずっと無言のままだった。
「さて、そろそろ腹減ったろ?飯にしよ――」
場を明るくしようとするが突如白刃が雷牙の方に向かってくると、雷牙を自分自身の胸に抱きしめた。
「ええ!?し、白刃...さん?これはその....何をしてらっしゃるんですかね?」
「ライガごめんなさいあんなに強く当たってしまって、あなたは良く頑張ってるよ.....」
というと白刃は謝罪と一緒にギュッと少し力を入れて雷牙を抱きしめる。
「いや、もうあの事は気にしてないよ過ぎたことだしな.....それより俺がやってることなんて小さなことで自分の自己満足なんだし...頑張ってるに入らないと思うけど.....」
「それでも私は貴方を尊敬する。私だったらもうそこで諦めてるよ.....だから本当に――」
良く頑張ったね。
「!?」
その時雷牙の中であの時以来今まで封じられていた感情が解かれたような気がした。
「ごめん。白刃、しばらくこのままでいいかな?」
「うん、いいよ。私は何度でも胸を貸すよ」
雷牙は顔を白刃の胸に俯きながら力を強く白刃を抱き締めていたのだった。
◇
「すまん。恥ずかしい所を見せちまったな....」
頬をポリポリかいてから雷牙は恥ずかしそうに白刃から顔を背ける。
「いいよ。私はライガのためにやったんだから気にしないで」
白刃は恥ずかしがらずに平然と述べる。それを見た雷牙はさっきよりも恥ずかしく感じてしまったが彼女の真剣さに笑ってしまった。
「ぷっふふ、ははは!」
「な、何で笑うの!」
白刃は雷牙の笑いが少々気に触ったのか頬をプクーと膨らませて言う。
「いや別にただ俺もお前に色々救われてるんだなって思ってつい嬉しくてさ。まぁ気にすんな」
そう言うと雷牙は白刃の前にきて頭を撫でる。するとさっきまで怒ってた白刃が今度は幸せそうな感じで目を丸くしてただ雷牙の撫でを受けていた。こうして見るとまるで猫みたいで可愛らしい。そう思う雷牙であった。
と。
「――ライガ」
白刃が悲しい声で雷牙を呼ぶ。
「どした?やっぱ撫で方悪かったか?」
「いや、そうじゃないんだけど.....」
白刃の言葉に首を横に曲げてキョトンとする雷牙だが、その次に白刃が言いにくそうな表情で言う。
「え、えっと....さっきの家族を殺した精霊の話なんだけど、ライガは本当に殺すの?」
白刃はか細い声で話す。それもそう。彼女だって精霊だ。今は霊力を封印されてはいるが、両親を殺した天使も白刃と同じ精霊だ。それは変わらないよって、雷牙がやることはいわゆる彼女の仲間を殺す事。つまり白刃と一緒の存在を1つ消す。という事になる。彼女も気が進まないのか、対応次第で何かを言ってきそうな体制をとっていた。だが、雷牙の意思は変わらない、変われない。だって――
「――殺すよ。絶対に、確実に完膚なきまで。例えそれを邪魔をするやつが身内だとしても俺は手加減は出来ない。せめて骨は折らせて戦闘不能にはさせてもらうつもりだ――「だったら!」だけど!」
言葉に入り込んできた白刃静止させる。白刃それについて分からなかったが静かに聞いた。そして再び雷牙は、息を少し吐いて唇を動かす。
「俺はなるべくは
明らかに矛盾してる。これを聞いている人が常識人だったら何言ってんだコイツと思われても当然だ。雷牙の言葉は所々穴だらけで、とても説得力に欠けていると思うのも目に見えている。それを目の前で聞いた白刃は静かに彼の話を聞いていた。雷牙は息を大きく吸って口を動かす。
「矛盾してるってのは分かってる。だがこれが今唯一出せる俺の――
「.........」
場が静かになる。すると白刃が雷牙の前に来て右手を雷牙の胸にポフッと拳を当てると白刃が唇を動かす。
「私はライガの剣。貴方を護れるならこの身、全て捧げます――だから...私はあなたの
白刃は自分なりに真剣に答えを出したのだろう。それなら雷牙も出そう。だって――もう引き返せないし引き返したくないのだから。それなら後ろを見るより前を見ていればいい。
「――ありがとう白刃。俺とお前は
「うん。私もライガを絶対守ってみせる。約束する」
2人はお互いに拳をコツと音を立てながらニコッと笑う。
「さて、そろそろ腹減ったし飯でも作るか!白刃、今日のメニューは何がいい?」
「.....親子丼かな?」
「OK親子丼ね。少し待ってろよ〜すぐ作るからな」
「うん。楽しみにしてて待ってる」
その夕飯を作り出そうとした同時に雷牙の携帯から一通のメールが届いた。メールの送信主とその内容を見てみるとそこには驚きものの内容が書き込まれていた。雷牙は少しその内容を見たが今返信しなくとても後ですればいいと判断し、すぐに携帯の電源を落としポケットに入れ夕飯を準備するのだった。
どうもバルクスです。
やっぱダメでした申し訳ない。<(_ _)>やはり自分の文力と表現力が無さすぎて長く書いてしまいました。それと、何回も言いますが四糸乃パペット編はどうも描きにくくて投稿が遅れる原因でもあり、展開が難しくてモチベが下がる部類に入るのです。まぁ、そこを何とかするのが自分の課題なんですけどねwそこは暖かい目で見てくれるとお願いします。┏○ペコッ
さて、次回は本当に四糸乃パペット編は最後になります!では、次回の投稿でお会いしましょう!
第11話 : 絶対零度
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第11話: 絶対零度
更新遅くなりました。今回で四糸乃パペット編が最後ですので長く書いてしまった。(早く終わらせたから)
因みに今回、雷牙君は完全に空気でその代わりに白刃ちゃんが活躍しますよ〜!
ではどうぞー!(っ´∀`)っ
「....何でパシリにされてんだ俺」
直線上に続いている歩道を雷牙は気怠そうに歩いていた。何故雷牙が外に出ているとかいうと、数日前。白刃に夕飯を作ろうとしたら突如折紙からメールが届いたのだ。その内容を見てみると、こう書かれていた。
『数日後。私の家にこの物を届けてもらえると嬉しい。』
と、打たれていて。その下にはその材料の詳細と写真も送られていた
最初は栄養ドリンクの何かと思ったがよくよく見てみるとどれも高級性欲剤ものばかりだった。雷牙も正直引いた。正直、「だったら自分で買いに行け」と内心では言っていた。しかしまぁこれも幼馴染の頼みなのだからと困ったらお互い様なので雷牙は仕方なく了承した。だが――
「マジでこれ買うの恥ずかしいんだよなぁ....」
「まぁ、今更後悔しても遅いよな。買っちまったんもんは買っちまったんだし......」
しかし――雷牙は道中歩きながら
士道だった。
折紙の中で1番親しいのは俺と士道だ。時々ふと思う。折紙は何故そこまで士道に執着するのか本当に謎だ。雷牙の説だと昔何処かで会ったか、それとも他人の空似か、それ以上は分からない。
と。深く考え過ぎてて忘れていたが、もう目的地に到着して足を止めた。今雷牙の目の前には純白のマンションが立っている。折紙の家だ。
「ほんと相変わらず何も変哲もない白いマンションだなぁ」
雷牙はそんな一言をいうと再び足を前に出して歩きだすと、ポケットから折紙から貰った合鍵でなんも躊躇なく自動ドアを開け、そのままエレベーターに乗って、6階まで上がり、折紙が住んでいる部屋番号の前に到着した。
「そういや、ここに来るのも高校1年の時、以来だっけか....」
雷牙は懐かしむように独り言を呟く。彼は以前此処に来たのが高校を入って間もない頃にカロリーメイトやそんな栄養ドリンクしか食さなかった折紙の健康に心配した雷牙が彼女の家で夕飯を作りに来たのだ。折紙は「必要ない」とは言ったが、雷牙の粘り強さで折紙は折れて彼女の家に入れた。その後は少し折紙に「確かに、栄養満点ですぐ食べ終わる食べ物はいいけど...たまにはゆっくりして食べれる食べ物を作れよ?」と注意したが.....それ以来雷牙は彼女の家に行っていない。まぁ今日はそれをついでに確認するために来たようなもんだから一石二鳥というものだ。そして雷牙は深呼吸してから、呼び鈴を鳴らした。
ピーンポーン
「折紙ー入るぞ〜」
――反応がなかった。仕方ないので彼女から貰った合鍵を使い、ドアを開けた。すると玄関の靴脱ぎ場に折紙以外の靴が並べられていた。
「お客なんて珍しいな」
雷牙は気になったがまぁASTの知り合いが来ているとそう思い靴を脱ぎ丁寧に並べて、リビングがある扉を開けた.....のだが――
「折紙ーお前から頼まれていたもん買ってきてやったぞ――」
雷牙は目の前の光景に足を止めてしまい。口もポカーンと開けながら思考が停止しかけたが、それはすぐに復旧して口を開く。
「......お前ら何してんの?」
そこには仰向けに倒れている士道の上に紺色のメイド服を着た折紙が跨っていた。
◇
時は数分前。
「.......っ!?と、鳶一!?」
「なに」
まるで士道の方がおかしいとでも言うように、折紙が平然とした調子で返してくる。
何故士道がここにいるかというと、<ハーミット>が身に付けていた『パペット』が折紙の家にあるのが判明し、回収に向かったのだが、折紙の手厚い御奉仕?をされ。仰向けにされた士道は折紙に腹の辺りを跨がれ、マウントポジションを取るような格好で覆い被さってきて今に至る。
「い、いや、おまえ何を.....」
「だめ?」
「だ、駄目だ.....と思う」
士道は頭が沸騰しそうになるのをどうにか抑えながら、なんとか言葉を発した。折紙のほどよい重量とか、女の子特優賃のいい匂いとか、柔らかい感触とか、メイド服の衣擦れとか、そんなものが全て頭の中でぐるぐる交ざってヤバイ。少しでも気を抜いたなら、士道は即座にリバースカードをオープンしてしまいそうだった。
「そう」
折紙はそう言うと、ぱちりと瞬きをした。
「では、交換条件」
「は......?」
「ここから退くかわりに、私の要求を1つ無条件で呑んで欲しい」
「な、なんだ.....?」
ごくりと唾液を飲み下してから、問う。
すると折紙は、珍しく逡巡のような間をおいてから、小さな声で言ってきた。
「あなたは、夜刀神十香の事を十香と呼ぶ」
「え......?ああ....そ、そうだな」
士道は、小さく頷いた。確かにその通りである。
いや、そもそも『十香』という名を付けたのは士道なのだから、当然である。苗字は、戸籍を偽造する際に令音が付けたものという話だ。
「けれどあなたは、私のことを鳶一と呼ぶ」
「あ、ああ....」
「これは非常に不平等」
「へ........?や、えと....」
「私のことを折紙と呼んで欲しい」
「え......と」
「だめ?」
折紙が行ってくる。それはいつも通り抑揚のない声音だったのだけれど――少しだけ、不安そうな響きを孕んでいるような気がした。
「や......それは、駄目じゃない、と.....思う」
「そう」
「......」
「......」
またしばし、沈黙が流れる。
と――
「折紙ーお前から頼まれていたもん買ってきてやったぞ――」
玄関に続いている扉が開かれると士道が知っている声が聞こえて姿を現す。だがその彼は今の光景に情報処理が追いつかないのか扉を開けっぱにしながら止まっていた。するとすぐに今の現状を理解したのか彼は口を開く。
「......お前ら何してんの?」
そう。彼とは士道と同じ精霊の力を封印をする能力を持っていて折紙と同じASTに所属している雷蒼雷牙だったのだ。
◇
「.....んで、要約すると――跨るのを止めて、退く変わりに苗字呼びとフルネーム呼びからお互い下の名前で呼び合う事になったという事か?」
「だいたい合っている」
「あ、ああ....」
たくっ......今日は厄日なんじゃないかと思う。折紙の家に来てみれば早々リビングで(士道が折紙に)襲われているんだからなそんな光景をまじかに見る幼馴染の気持ちも分かってほしいものだ。まぁ...それは置いといて、ちょっと士道と話したい事があるので雷牙は口を開く。
「あ〜折紙。汗もかいていると思うしシャワー浴びてこいよ」
「何故?別に少しだけの汗ならば問題はない」
やはり素直に行ってくれそうにはなかった。逆に雷牙の言葉で警戒が少し強くなるように感じた。だが、ここで雷牙も引く訳にはいかないので仕方なく
「ここだけの話だ。士道はな、少しの汗だけでも臭いが分かっちまうだよ。んで、ここでシャワーを浴びとけば逆に士道が襲って来るかもしれないぜ?」
「......」
いつも通りに折紙は真顔だがその顔は真剣に考えるように見えた。すると答えが決まったのか折紙は首肯したのち立ち上がり風呂場が方面へ向かった。
「ふぅ行ったか。さて士道、手短に話そう。何で折紙の家に来たんだ?」
「あー....それはだな」
士道は状況を簡単に説明した。
「....なるほどな。んじゃこの家の何処かに<ハーミット>の私物があるってわけか」
「ああ。そうだ」
話を聞いた雷牙は肩を組みながら折紙が何処に<ハーミット>の私物を置いたか考えると、思い付いたのか雷牙は口を開く。
「士道。悪魔で予想だが、その『パペット』は多分折紙の寝室にあると思う」
「本当か!?」
「いや、これはあくまで俺の予想だ。だが、断言は出来る。まぁ、早く調べてきな」
士道は頷いたが、少し疑問が残ったので雷牙に質問をする。
「なぁ。雷牙は一緒に探してくれないのか?」
「俺はこれから白刃と予定があるのでね、パスするわ」
「いや、少しぐらい手伝ってくれてもいいじゃねぇか」
士道は1人では不安なのか、雷牙にも手伝ってほしかったようだ。だが、雷牙はあえてそれを断る。だって幼馴染の部屋だよ?まぁ、確かに探してやりたい気持ちもあるけど、流石に折紙もれっきとした女の子だ。見られたくないものもあるんだそんなやすやす俺が入ったら殺されるに決まってる(多分ないけど)。内心ではそう言ってすぐ心の中にしまう。士道は納得がいかないようだった。
仕方ない――少し喝を入れてやるか。
「士道。その<ハーミット>はお前が探してくれることを信じているんだ。お前が見つけてくれればその子も嬉しいだろ」
「だけど....」
これでも不満なのかよ...まぁいいか。雷牙は士道の肩をポンポンと叩く。
「そんな顔すんなよ、兎は知らない人が近づくと逃げていくんだ。俺じゃ役不足だし俺と<ハーミット>はあの日以来接点がない。ならお前が適任だ。救うんだろ?」
雷牙はそう言うと士道は納得したのかさっきよりも表情が良くなり。頷いた。
「ああ!俺がかならず四糸乃救って、幸せな生活を送らせてやるんだ。」
決意が決まったようだ。雷牙はふっ、と鼻で笑い左手の拳を士道の胸に向ける。
「その意気だ。頑張れよ士道」
「おう!サンキューな雷牙」
士道も右手の拳を雷牙の左拳に向けて、2人はその拳を互いにぶつけコツンという音を鳴らした。
「んじゃ俺はそろそろおいとまするわまたな」
「ああ。またな雷牙!」
士道の言葉を最後に雷牙は折紙の家を後にした。
「士道。お前なら折紙を
雷牙は来た道を歩きながら無意識にぽつりと寂しそうな声を発していた。そんな人気のない道を歩く中数分。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―――
突如天宮市に空間震警報が鳴り響く。
市内はすぐに緊張に変わり避難が始まった。
「......上手くやってくれよ士道。今回は全てお前に掛かってるんだからな」
雷牙は今回。何も出来ない自分の無力さに駆られ右拳をギュッと握りながら唇を動かすのだった。
◇
「ん.....」
肌寒さを感じた白刃は自分の部屋のベットに横たわっている体を起こして、窓を見る。だが、それはいつも見ている景色とは違っていた。
「これは一体.......」
外はとても強い雨と結露に支配され、家や雑貨店、高層ビルは氷が貼られ、凍らされていた。だが、雷牙の家も例外ではなかった。少しながら窓に結露がなっていたのでいずれここも凍らされるのだろう。
「ライガ.....」
白刃は彼の名を口にする。今から1時間前、雷牙は鳶一家にある物を届けに行くと言って、家を出たのだが、そろそろ帰って来る時間のハズなのにいつまでも帰ってこなかったのだ。白刃の心の中は不安に満ちていた。
「探しに行かなきゃ....」
白刃はそう言うと勢いよく扉を開け、雷牙を探すべく家を後にした。しかし、彼女は気づかなかった。自分の服装が白い膜で覆われていた事に。
◇
ビルの屋上で雷牙は今回の原因を遠くで眺めていた。
「やっぱり<ハーミット>の天使だったか.....」
その奥で動いている大きな影は<ハーミット>が出した天使。<氷結傀儡>形は大きな兎の人形だが、天使の威力は殺傷力も致命傷も与えることが出来る氷の弾やブレスを放つ。それを並の人間が食らったら1発で死ぬだろう。しかし、つい先程ASTの隊員達が<ハーミット>に攻撃を仕掛けていたが、<ハーミット>の天使を顕現した瞬間。天使がAST隊員にブレスを放ち、
「――これはちょっとマズイな......」
その様子を見ていた雷牙は唸った。それもそうだ。今雷牙に出来ることは何1つ無く、1つ言うならただひたすら傍観することしかなかった。
「クソ.....何もないのかよ.....」
雷牙は今自分の無力さに嫌気がして右拳に力が入り爪が手の裏にくい込んでそこから血がぽたぽたと流れ、雨に濡れた地面に紅いシミを付ける事になった。
「早く来いよ.....士道!」
そう愚痴を言った瞬間。とある建物の屋上から喉がはち切れそうな大声が響いてきた。
「――四糸乃ぉぉぉぉぉぉぉッ!」
その声に天使を具現した<ハーミット>の動きがピクッと止まり。声がした方面に向いたのだ。その方面にいたのは士道だ。
「たくっ遅せぇよ
雷牙はやっと来た士道にため息を吐きながらこれで終わると思い安心した。だが、それはすぐに崩れる。士道が肩がけバックから<ハーミット>の大切な私物。『パペット』を見せようとした瞬間。士道の後方から光線のようなものが通り過ぎ、<ハーミット>の肩口と頬のあたりを掠め、後ろへ抜けていった。これにも士道と雷牙も驚きその光線を放ってきた方をバッと振り向くとそこには、仰々しい装備に身を包んだ折紙が、殺意を向けながら巨大な砲門を掲げながらASTの部隊達も浮遊していた。士道も気づいたのか彼女の名前を呼ぶが、その状況も今は惜しいのだ。刹那――<ハーミット>が、叫びを上げながら臨戦態勢に入り周囲の空気を吸って、先程のブレスより強力なものを放とうとしていた。士道は<氷結傀儡>の、凄まじい威圧に気圧されて尻餅をついてしまって動けずにいた。
「まずい!――士道!?」
雷牙は今の状況に焦り、屋上の手すりを掴んで助けに行こうとした。だが、雷牙自身も分かっていた。今回自分は何も出来ないという事を。けど例え足でまといになろうとも、目の前で友達や身内が死ぬのは許容出来なかった。だってそれは
「(――だから頼む。士道を....俺の友達を助けさせてくれ!)」
死なせたくないんだ。もう誰かが死ぬのは見てられない!雷牙はその勢いで、士道の方に届くはずもない左手を伸ばす。そして――<ハーミット>が時間切れの合図かのように、士道にブレスを撃ったのだ。しかしそれは士道に直撃しなかった。何故なら――
「――!?あ、あれは.....十香の!」
雷牙は目を見開きながら声を発する。
先程のブレスは突如出現した玉座に防がれ士道は助かった。あれは間違いない。それは、夜色の髪を靡かせる少女。十香の天使。<鏖殺公>だった。すると、ブレスを放った<ハーミット>がその場から逃げるように移動した。再び士道の方に視線を戻すと霊装を纏った十香がいた。だが、その霊装は先月見た鎧みたいなものではなく来禅高校の制服に薄紫の膜を足した感じの姿だった。
「精神状態が不安定だから霊力が逆流したのか」
つい先日令音から霊力の逆流について説明はされたが、やはり霊力は微かしか戻ってなく一時的なものなのだろう。例えるなら少し防御力が上がった鎧と言える。雷牙は冷静に分析していると――
「ライガ!」
後ろから綺麗な可愛らしい声音が響き後ろを振り向くとそこには白刃がいた。だがその姿は先程家を出る前とは違っていたのだ。それは少々十香と異なるが列記とした霊装であり、所々Yシャツの襟や袖に白い膜が纏っていて白のロングスカートは全て白の膜で形成された形になっていた。
帰りが遅いから心配で家を飛び出したのだろう。雷牙は白刃が来たことに驚き声を挙げる。
「白刃!?おま、何でこんな所に?」
「帰りが遅かったから心配して飛び出してきたの。それで、この状況を見たらいても立ってもいられなくて......」
――あぁ。そんな事を言われるなんて何時ぶりだろうか。こうやって人に心配されるなんて......あの日から二度とないと思っていた。だがどうして心配されるだけで心がこんなにも暖かくなるんだ?やっぱり、俺は彼女の事が大切なんだな。だが、悪い気はしない――寧ろ穏やかな気分だ。
「ライガ?」
白刃はさっきから一言も喋らない雷牙に近くで声を掛ける。すると、雷牙はハッ!と反応して少し後ろを下がり口を開く。
「――!?ど、どした?」
「?どうしたも何も、さっきから動かないし一言も喋らなかったから.....大丈夫?」
それを聞いた雷牙は左手で頭を抑えて白刃から聞こえない程度の声で「見蕩れてしまったのか......」と言いながら少し後悔した。だが、感傷に浸っている時間も今は惜しかった。早くしなければ<ハーミット>がASTに殺られてしまう可能性があるからだ。雷牙は即行動に移すため白刃に頼みを申し込んだ。
「白刃。頼みがある」
「......なに?」
何故かさっきまで穏やかな空気が一瞬にして緊張に変わる。雷牙は唾液をゴクリと喉を鳴らせて、口を開いた。
「......今俺には何もする事が出来ない。目の前でその悲痛で理不尽な光景を見ているだけの傍観者なんだ」
雷牙の言葉に白刃は表情を崩さず静かに聞く。
それは――彼の望みを、願いを叶えるためかのように。
雷牙は最後の一言が言い辛いのか唇を噛み締める。
だが、状況は一刻を争う。こんな所で躊躇してどうする?この数秒、数分で一体何人の仲間や精霊に傷を負わせず救える?んなもん迷うな。生涯一生の恥でもそれで
雷牙は勇気を振り絞って彼女に
「――白刃。俺の代わりに
雷牙は声を大きく響かせ強く眼を瞑り腰を曲げて白刃に懇願した。
表情は見えない。しかし、これが俺の唯一出来る最善の策だ!
「――ライガ。顔を上げて」
戦闘音の中一人凛とした声が雷牙の鼓膜に響き渡り、その声に彼は顔を上げた。すると突如。白刃は雷牙の顔を上げさせた瞬間、両手で彼の左手を自分の胸に抱き締めるように押し当てた。
「な、何を!?」
雷牙はあまりの大胆さに動揺したのか声を荒くするが、次の瞬間に白刃の言葉で元に戻る。
「前に言ったでしょライガ。私は貴方の
「そう......だったな」
「貴方の願いを叶えるためなら何でもする。だから――私を存分に使って」
白刃は優しい声音で雷牙に問い掛ける。それもその言葉と表情には彼を信じているという、感情が伝わってきたのだ。
こうも言われればもう何も言うまい。なら――言うしかないだろ、彼女もそれを望んでいるんだからな。
「無事に帰って来いよ白刃。帰って来なかったら1週間シュークリーム食べるの禁止な」
「......分かった。無事に帰ってくるね」
白刃は眉を顰めるが渋々了承した。
すると、2人は片方の拳を前に出してコツンと音を鳴らし、後ろを向き、すぐさま行動を開始して動き出した。白刃はそのまま2mあるフェンスを軽々と飛び越え。十香達がいる場所へ向かった。
だが――雷牙はその後屋上から出ようとしたら突然体から浮遊感を襲い、姿を消した。
◇
同時刻。
折紙率いるAST部隊は<ハーミット>を追い詰めることには成功したが、<ハーミット>が突如。周囲に凄まじい風が巻き起こり、刹那――あたりに降り注いでいた雨粒が雹のように氷結。<ハーミット>を覆うかのように渦巻いて吹雪の結界を形成した。だが、その策を破るように折紙が近くにあった事務所の建物を<ハーミット>が形成している結界に物量で押し潰そうとした。しかし、それを邪魔をするようにその建物が真っ二つに断ち分けられたのだ。それだけではなく。市街地から<ハーミット>とは違うもう1つの精霊反応が出現した。
瞬間――折紙の目の前に、夜色の髪を靡かせる少女。夜刀神十香がいた。
「ふん、防いだか」
「......っ、夜刀神――十香」
折紙はうめくように少女の名を呼ぶと、腰からレイザーブレイド<ノーペイン>を抜き、身体の所々にまばらな霊装を纏った十香に斬撃を放った。
「っと――」
十香はその一閃をかわすと、近くのビルの屋上のフェンス上に足を落ち着けた。
「なぜ、あなたがここに」
油断なく雨に濡れた前髪をかき上げるようにしながら、十香は不敵に笑ってみせた。
「――ふん、悪いが、シドーの邪魔はさせんぞ」
「......」
士道の名が出たことに疑問を覚えつつも、折紙はレイザーブレイドを握り直した。
『く――なんでここで<プリンセス>が。<ハーミット>を助けに来たっていうの?』
折紙の耳から忌々しげに燎子が言う。
そう。AAAランクの精霊――識別名・<プリンセス>。
目の前の少女からは、普段観測できない精霊の反応が、微弱ながら発せられていたのだ。
『――く、<ハーミット>はあとよ。総員、目標を<プリンセス>に変更!』
通信から燎子が叫ぶ。――妥当な判断だろう。
<ハーミット>を打つチャンスではあるが、そちらに集中している間に隙をついて<プリンセス>がこちらに仕掛けて斬って来る。それを受ければ
だが、その作戦は跡形もなく消え去った。何故なら右から斬撃がこちらに飛んできたからだ。
『――!?総員、上昇!回避!』
即座に気づいた燎子は班の仲間に指示を送り上に飛んだ。上空に飛んだ燎子は先程斬撃が飛んできた方向を向くとそこには、白い髪をした少女が立っていた。だが、その格好は普通ではなかった。良く目をこらして見るとそれは<プリンセス>とはデザインと色も異なるが白い膜を纏っており、スカート部分については白い膜がロングスカートの形になって靡かせていた。そして右手には白い刀を握っていた。
燎子は確信した。先月。4月に<プリンセス>と共に忽然と姿を消した精霊。識別名<ホワイト>が今目の前に現れたのだと。隊員も気づいたのか、<ホワイト>がいる方に顔を向きそれを見た瞬間。隊員達は慌てる様子を見せた。
『な、なんでこんな所に<ホワイトが!?』
『こっちは今<プリンセス>と<ハーミット>で手がいっぱいなのに!』
『ま、まさか<ホワイト>も<ハーミット>を助けに来たって言うの!?』
一気に士気が下がっていく。だが、引くわけにはいかない。なんせ、ここで引いてしまったらせっかくの
『全員――良く聞いて!目標と作戦を変更!目標。<ハーミット>から<プリンセス>と<ホワイト>に変更。作戦は......<プリンセス>と<ホワイト>の撃退!』
『『了解!!』』
燎子達率いるAST隊員は的確な指示により即座に全員が行動に移ったのだった。
しかし、ASTが結界からいなくなった瞬間に1人の中性的な男が左手に『パペット』を持ちながらその結界の中に入るともしらずに。
◇
「どうにか......間に合ったのかな?」
白刃は<ハーミット>作った結界の外にAST要員達が固まっていたので、自身の天使。<
ASTの隊長と思わしき人物はいち早く斬撃が来るのに気づき、周りにいる隊員達全員に指示をして、上空に飛んだ。
避けられはしたが、これも
地上から空中に回避したAST隊員達に白刃は隙をついたかのように走りだし、そのまま十香がいる方に飛び。その建物のフェンスの上に足を着いた。
「大丈夫?十香」
「む、おぉ!白刃ではないか!何故ここにいるのだ?」
十香は一瞬。応援に駆けつけた新手ののAST隊員が来たと思ったがそんな事はなく。その優しい声音で気づいて白刃だと分かった。
「ライガの指示でここに来たの。まぁそれはこの戦闘が終わってからにしましょう――時間が惜しいわ」
「うむ。そうだな、まずはこのメカメカ団をシドーの方へ行かせぬ事が先決だな!」
「十香。鳶一の事は私に任せて、貴方は周囲にいる
「うむ!任された、白刃も無事に帰るのだぞ!」
2人の少女は自分の持っている天使を握り直し構える。そして――2人の少女は空中で固まっているAST隊員の方へ飛び出した。それに応えるかのようにASTの方も飛び出すのだった。
「.......っ、白風――白刃......」
折紙は白い髪を靡かせる少女の名前をうめくように呼ぶ。それもそうだ。今回は<ハーミット>だけを打つために出撃したと思いきや<プリンセス>と<ホワイト>の乱入。とても状況が有利から不利になった。折紙とってそれは関係なかった。例え精霊が何人束で掛かってきたとしてもそれを殺せるなら――命は惜しくなかった。しかし、折紙は少しながら躊躇いを感じていた。何故なら白刃は雷牙にとって
と、
「......ライガの事?」
「――!」
白刃がまるで折紙の心を読んだかのように声を発すると同時に刀を折紙の頭上に振るってきた。それを折紙は即座にレイザーブレイド<ノーペイン>を横にしてそれを防ぐ。
「大丈夫よ鳶一。ライガは私が切られても貴方を問い詰めたり責めはしないよ、だって私は雷牙の
白刃全て悟ったかのように上から目線で言う。それは折紙にとって憎たらしかった。それは雷牙の事を私より知っているような口調だったのだ。普段の彼女ならそんな挑発は乗らないのだが、彼の――雷牙の事を出されては怒りを露わにするしかなかった。
――気に食わない、彼女の言葉が。
「――な.....で....う...な」
「え?」
「彼を知ったような口で言うなァ!」
折紙は怒りに任せて受け止めていた刀を大きく弾いた。白刃は直ぐに折紙から距離を取ると、折紙が白刃に向かって口を開く。
「――何も知らない貴方に雷牙の何が分かるっていうの!ふざけないで!彼の事も分からないくせに、何も知らないくせに......彼の事を知った口でほざくなぁ!」
折紙はそのままブースターを吹かせ、白刃に向かって<ノーペイン>を振るう――だが、
「やっぱり、貴方はライガの家族だったんだね.....羨ましいよ」
白刃は剣先が触れる瞬間。後ろに回り込み、折紙の首筋に当て身を食らわせ気絶をさせる。気絶した折紙は白刃が近くにいたASTに投げ渡しされ回収された。
そこに一人取り残された白刃は上を見上げながら色が淀んだ雲を見ていた。
確かめたかった。どうして雷牙はそこまで折紙の事を大切に思っているのかを。先日、彼に自分の過去を聞かされた白刃はどうも不思議だったのだ。暗い過去話だったのに鳶一折紙の話になると途端。雷牙は楽しそうに話していたのだ。彼も無意識だったのか、表情が笑っていた。白刃といる時よりもずっと。いや、それよりの方が適当かもしれない。だからこそ、このタイミングで折紙がいた事は好機と見て折紙と接触した。少しカマをかけて見たが、それは予想以上で折紙の集中力を途切れさせたのだ。普段、人形のように感情を出さない彼女が彼の名前を出すと打って変わったかのように表情を変えたのだ。やはり――彼女も彼の事も士道と同等で大事なのだろう。白刃は鳶一折紙という少女を改めなければいけないと思った。
「少し、妬けちゃうな......」
白刃は自分の胸元をキュッと握りしめ誰もいない市街地で寂しそうな声を発した。すると、あんなにどんよりした雲から――太陽の光が注いできていた。
「――終わったんだね」
その一言を言うと、次の瞬間。白刃の身体から突然浮遊感を感じるのだった。
◇
「あぁ.......」
雷牙は唸りながら、白刃と一緒に士道の家まで歩いていた。士道が<ハーミット>四糸乃を封印した日から、二日後。
何故雷牙がこんなにも死んだ魚の目をしているかと言うと、二日前。ビルの屋上から出ようとしたら突然身体から浮遊感を感じどこかに転移されたと思ったがそこは空中艦<フラクシナス>の中だった。どうやら雷牙がいたから回収されたらしい。まぁそれで
「それで何人の人や精霊が救えるんだったら何度でも危険に飛び込んでやるさ」
雷牙は小声で独り言を呟く。と、
「ねぇライガ」
「どした白刃――」
ふと白刃が雷牙を呼び、雷牙その方に顔を向けると突如、唇から柔らかい感触が襲ってきたのだ。
「んっ」
「――!?」
意味が分からなかった。白刃がいきなりキスをするって誰が予想しただろうか?だが、雷牙は我に返ると、白刃から距離を取った。
「な、何すんだよ!」
「これでチャラ」
「へ?」
何の?と思って雷牙は返事を返そうと思ったが白刃が重ねるかのように雷牙の言葉を制止させる。けど、白刃は良く分からないが、顔を紅く染まっており、オマケに身体をモジモジしていた。一気に分からない、と雷牙は心の中で思った。
「そ、その......鳶一の事で私が貴方に強く当たってしまったから......そのお詫びというかそんな感じ.......だけど、これでチャラ!」
「お、おう......」
まぁ、別に嫌な訳ではないが、いきなりキスをするのは正直ビビった。一言言ってくれれば心の準備が出来たっていうのに....しかし、それでは白刃が怒ってしまうので言わない事にした。そんな事をしていると、いつの間にか士道の家に着いていた。それと、隣に立派なマンションが建っていた。
「なにこれ......」
その後。士道達が来て事情を聞くと、どうやら先日。司令から聞いた精霊用特殊マンションが完成したらしい。見た目は普通の何処でもある建造物だが、中は
やっぱり――<ラタトスク>はすげぇや....と心の中で思った。その後は検査から終わった十香と四糸乃がやって来て、色々あったとさ。(因みに雷牙はきな粉パンをあげて十香と和解した。)
◇
陸上自衛隊・天宮駐屯地の一角にあるブリーフィングルームには今、非戦闘員をも含めたASTメンバーが居並んでいた。先日の作戦報告会、及び近隣地域で観測された新たな精霊反応についての作戦会議のため、燎子によって集められたのである。
と――そこで、部屋の扉が開き、ASTの隊長である燎子が顔を出した。ブリーフィングルームにいた隊員たちが一斉に立ち上がり、敬礼をする。
「あー、いいわ。座って座って」
燎子は煩わしげにそう言うと、皆の前に立った。
「さて、皆集まってるわね。――じゃ、早速始めようかと思うけど......その前に。皆に愉快で最低なお知らせがあるわ」
『.......?』
メンバーたちが不思議そうな顔を作ると、燎子ははぁとため息を吐いた。
「......天宮は精霊現界が多いかわりに、今一つ成果が上がってないってんでね。補充要員が充てられることになったの」
『補充要員.....ですか?』
「ええ。バリバリのトップエース様よ。顕現装置の扱いにかけちゃ、世界でも五指に入るんじゃないかしら。――実際、単独で精霊を
『......!?』
燎子の言葉にメンバーの全員たちはざわめいた。それはそうだ。ASTの精鋭10人がかりでも手に余る精霊を、単独。たった一人で倒してしまうのだから。
燎子は予想通りの反応、というように肩をすくめてから、今し方入ってきた扉の方をチラと見やった。
「――入ってきて」
「はっ」
その声は随分と可愛らしい声音で周囲に響く。そして燎子の声に応えるように再度扉が開き――一人の少女がブリーフィングルームに足を踏み入れてきた。
『――!?』
瞬間、ブリーフィングルームに並んだAST隊員たちが、一斉に眉をひそめた。それも当然だろう。なんせ入ってきたのが、どうも見ても中学生の女の子だったのだから。
容姿は後頭部で一つ括った髪に利発そうな顔。それと左目の下にある泣き黒子が特徴的な少女だったのだ。
「――崇宮真那3尉であります。以後、お見知り置きを」
コスプレにしか見えない自衛隊常装を翻し、その少女が敬礼してみせる。と、一人の隊員が燎子に質問をする。
「日下部1尉......彼女は?
燎子の表情は「予想通りの質問が来た.....」みたいな感じに顔を作って口を開いた。
「さっき言ったでしょ。件のトップエース様よ」
『はぁ......!?』
メンバーたちが一斉に眉根を寄せて叫ぶ。
真那は、そんな皆の反応を不思議がるような首を傾げた。
「どうかしやがりましたか?」
なんとも奇妙で癖が強い敬語で、真那が言ってくる。
「ど、どうかって....き、君はまだ子供じゃ――」
隊員の1人が言うと、真那はふぅと息を吐いた。
「何か問題がありやがるでしょうか。年齢は個人の資質に関係ねーです。――それとも、この中に一人でも、私に勝てる方がいやがるのでしょうか?」
嫌味とかではなく、ただ事実を述べるように、真那が言う。
「......なっ」
そんな返しをされるとは思っていなかったのか、隊員が目を目を丸くする。
「そうですね。この中だと――」
と、真那が折紙の方に視線を向けようとした瞬間。バンッ!と、先程真那が入ってきた扉から一人の少年が勢いよく入ってきた。
「すんません!遅れましたァ!」
ある程度伸びた黒い髪に、濃い紅目を持ち、体格は太ってもなく、細くもない。顔は中性的な感じだった。
そう。勢い良く入ってきた男。陸上自衛隊の常服を着た、雷蒼雷牙だった。
真那は勢いよく彼が入ってきた事に驚いて目を細くするが、すぐに目が普通に戻ると雷牙の方と折紙の方を交互に向き、ニコッと笑いながら言う。
「――あなたと彼くらいでしょうか。ほんの数パーセントでも見込みがありそうなのは」
ブリーフィングルームに急いで入ってきた雷牙は状況が1歩も掴めず、目が点になってしまったのだった。
だが――雷牙は知らなかった。彼女が入ってきたという事は
はい。如何でしたでしょうか?やっぱり自分が足りないの文力による表現が足りないと思いました(´・ω・`)
ですが、それでもこの物語を読んでくれている読者さん達がいるのでこれからも頑張って書いていこうと思います!
さて、話がそれましたが、次回は狂三キラー編ですね。
多分ですが、四糸乃パペット編より簡単に書けると思うので早く更新が出来るかもしれません!
まぁ、それは作者である私自身のモチベがあればの話ですがね.....けど、少しずつ書いて行くつもりです!
では次回にお会いしましょう!(*´∇`)ノ ではでは~
次回: 第12話 狂響の来訪
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狂三キラー編
第12話: 狂響の来訪
24日の間投稿出来ず申し訳ありませんでした!_| ̄|○
早く投稿すると言ったな、あれは嘘だ。
最近リアルが忙しすぎて小説に手を付けられない状態でした......少しずつ書いてはいたのですが、あまり台詞が思いつかなかったのでこの状況を作ってしまいました。
では狂三キラー編どうぞ!(⊃σ▂σ)⊃ドウゾドウゾ⊂(σ▂σ⊂)
陸上自衛隊天宮駐屯地、特別演習場。
『――うわぁぁぁぁぁッ!?』
「.....ちっ」
ヘッドセットに搭載された通信機から聞こえてきた悲鳴に雷牙は、舌打ちを漏らす。
聞き覚えのある声。雷牙が所属する
すると物陰から出てきた折紙が真那に向かって
「残念、
真那は人並み外れた対応力で折紙の攻撃を
「あれが精霊を殺した力か.....」
正直、彼女に敵うか微妙だ。あの随意領域の操作、そして日本自衛隊のより性能が高いCR-ユニット。
何もかもが劣っていた。だが、雷牙も負けるつもりは毛頭ないし、性能が低いからってそのせいにもしたくはなかった。
「やるしか――ねぇよなぁ!」
その言葉を言った瞬間。雷牙は脳に指令を送り顕現装置を起動し、随意領域も展開した。
その音に気づいたのか真那が雷牙のいる方に首を向けてきた。
「――やっと出てきやがりましたか、しかしもう時間が1分しかねぇーですがどうしますか?このまま負けを認めてもいいですけど?」
真那は自分が勝つ事が目に見えているのか雷牙に挑発をする。流石に時間がないのでその挑発に乗ることにした。ついでに彼女にも仕返しに挑発をしてみることにした。
「――あ〜すまんな、俺は生まれながらの負けず嫌いでよ、そう易々と降参とかしたくねぇんだ。それとも何か?お前が強すぎて俺たちが弱いからっていじめしてんのか、はぁー相当いい趣味してるわ。安心しろよ、まだまだこれからだぜ?もっと楽しめよ?可愛いお嬢ちゃん?」
「ふーん。私も舐められたものですね、確かに真那はこの中で1番強いです。ですが、真那は弱い物いじめをしてねぇーですよ?ただこれが精霊だったらどーするきやがりですか?私はそれを教えてるだけです。まぁそれは建前で本当はあなたと鳶一 一曹と戦ってみたかっただけです」
真那は雷牙の挑発を鼻で笑うがその目だけはまるで獲物を狙う肉食獣の強い殺気を放つ。すると真那は再び口を開く。
「鳶一 一曹の力は分かりましたが、あなたはまだ分からねーです。一体どんな力があるのか存分真那に見せてください」
「おう、上等だ。だが残りの30秒で決着がつけばいいがな」
話が終わると雷牙と真那は2人とも剣を構えて脳に意識を集中させて何時でも近づけるように顕現装置を起動する。その刹那――1つの一閃が向かってきた。
専攻してきたは真那だ。彼女のレイザーブレイドは右横から雷牙の首を切り取るかのように向かってきて雷牙はそれをレイザーブレイド<ノーペイン>で防ぐ。その瞬間に左の方からもう1つレイザーブレイドが雷牙の首に向かって振ってきた。だが雷牙はそれを予測してか、右手に持っていた<ノーペイン>を離して脳に指令を出してスラスター思いっきり吹かして宙を舞りながら後ろに下がった。
その彼の対応差に真那は目を細くして驚き、口を三日月じょうに作り笑みを浮かべた。
「やりやがりますね。まさか、真那の最速を1発で防ぐとは一杯食わされやがりました」
「それはどーも。まぁ伊達にAST要員はやってないからな俺をあんまり舐めんなよ?」
お互い素っ気ない返事で返す。だがその目だけの睨み合いはまだ続いていた。それは隙を伺っているかのように、いや、その表現は少し違っていた。直すならこうだろう
すると焦れたのか真那から先手を打ち。さっきよりも倍以上に凄まじい速度で雷牙の距離を詰めてきた。それに雷牙は1歩対応出来ず足場に躓き後ろに倒れ真那のレイザーブレイドの剣先が雷牙の頬に触れようとした瞬間。周囲にブザー鳴り響きアナウンスが聞こえた。
『
そのアナウンスを聞いた真那は息を吐き雷牙に嫌味ぽく声を発する。
「――どうやら真那の勝ちですね。しかし、運がいー人です」
「......そいつは嬉しいな。それにトドメがさせなくて残念だったなまた相手をしてくれ今度は俺が勝つからさ宜しく頼むよ高宮三尉殿」
「ふん、随分よゆーな言い草ですが、その威勢が何処まで続くか見ものですね、まぁこれから仲間同士宜しくお願いしますよ?雷蒼
真那は嫌味ぽく鼻を鳴らし、言うとそれを最後に折紙の方へ向かって歩いて行った。
雷牙は真那が遠くに行ったあと強く息を吐きながら呟く。
「はぁ.....
雷牙はそんなことを言っていると演習が終わってあと片付けをするべく整備室に行くと燎子に呼び出されCR-ユニットを壊した事についてお叱りを受けた。
◇
「......これでよし、と」
自宅のキッチンで夏服の制服を着ている雷牙は朝食を作っていた。しかし、作っていたのは自分の分のものと今上で制服に着替えている白刃の分を作っていたのだ。やはり自分の分を作るのは楽だが1人増えるだけでこんなにも時間がかかるのだろうか?
と、リビングに続く廊下側から階段の降りてくる音がしたと思うとその瞬間ガチャリという音を立てながら扉が開き、そこから1人の少女が雷牙と同じ夏用の女子制服着ながら現れた。
「ライガ、ご飯出来た?」
その容姿はアルビノを持っていると疑いたくなる程、背中まで伸びている髪に高価な水晶を入れ込んだかのような深紅の瞳。そしてシミ1つもない雪のような肌。無表情ではあるが、外に出てみれば男子の注目の的にされそうな美少女。
白風白刃。ASTからは精霊<ホワイト>と呼ばれており4月に雷牙によって精霊の力を封印され今は彼のクラスメイト兼同居人なのだ。
何故雷牙と白刃が夏用の制服を着ているとかいうと今日は六月五日月曜日。どの学校も夏服を着ている頃合だろう。しかも今年は去年より少し暑いらしい。
「ん、ああ白刃か。今丁度朝飯が出来たから早くテーブルに座りな」
雷牙は白刃が来るにのに気付くと直ぐに返事を返し朝食を白刃がいるリビングのテーブルに持っていった。
テーブルに自分の分と白刃の分の食事を置き、白刃がいる反対側に椅子に座る。
「んじゃ食べるか」
「うん」
「「いただきます」」
2人は両手を合わせる。合わせ終わるとすぐさま目の前のある食事に箸を摘み出した。
朝食を易易と食べながら数分経ってからか白刃が食べるの止め口を開く。
「ライガ」
「
皿を口元に運びガツガツと食べている雷牙は口の中にある食べ物を噛み締めながら(口に手を置いて)喋る。白刃はそれを気にせず口を動かす。
「今日十香と昼ごはんを食べるんだけどライガも一緒にどう?」
「ん、ああいいぞ?」
雷牙が応えると白刃はパァと頬を緩ませニッコリと笑った。
「本当?」
「おう。俺もたまには十香達と昼飯を食べたいと思ってたからな」
ここ最近昼食を白刃と食べる事が多いのでたまには他の人と一緒に食べたいと思ってしまう時がある。別に白刃ともう食べたくないとは思ってもいない。寧ろ一緒にいて心地が良かった。
「そう。なら十香達に伝えとくね」
「お、おう頼むわ」
そうして雷牙と白刃は朝食を食べ終わり2人とも食器をキッチンに置き洗面台で1枚ずつ洗い。水切りカゴに皿を入れていった。
それが終わると二人は椅子に置いておいた学校の鞄を手に取り玄関に向かう。
靴を履き終わり扉に手を掛け外に出ると強い日差しの光が目に刺さる。
「うわっ眩し......」
少し視界が歪んだが数秒の後すぐ元に戻った。
その後ろで心配そうに見ている白刃が口を動かす。
「ライガ大丈夫?」
「――ああ。大丈夫だよ」
そう言って雷牙は白刃の頭を撫でた。白刃は雷牙の手を受け入れて無表情だが少し表情が柔らかくなっていると感じた。白刃の頭を撫で終わると学校がある方面に身体を向ける。
「んじゃ、行くか白刃」
「うん」
二人は横に並び、学校に登校すべく歩き出したのだった。
◇
雷牙と白刃は来禅高校の2年4組の扉の前に着いていた。
だが、扉を開けようとするとクラスの中から男の断末魔?みたいなものが響いて来て反対側の扉からワックスで髪を固めた男が泣き目になりながら廊下を走っていった。
「ち.......ッ、ちくしょぉぉぉぉぉッ!」
雷牙はその声の主を知っていたのであえて触れない事にして扉を開けるとそこには苦笑している士道と状況を掴めていないのか首を傾げている十香がいた。
「よぉ士道。朝から人気者(笑)だな」
「確かに。士道と十香の行動は目のやり場に毒だからね」
「そんな事いわないでくれ......」
士道は疲れた顔をしながら言うと、十香が雷牙と白刃に気づいたのか元気に挨拶をしてきた。
「おお!白刃、雷牙。おはようなのだ!」
「うん。おはよう」
「よう、今日も士道と元気にイチャイチャしてんな。ご褒美にきなこパンを買ってあげよう」
白刃は手を振りながら十香の返事を返す。雷牙はというと士道の心を抉るような感じに言ってきてその横で士道は「イチャイチャしてねぇから!」と言ってはいるがその言葉は聞こえない振りをした。十香はきなこパンの話に目を輝かせた。
「なんと!それはありがたいぞ雷牙、約束だぞ!帰りに帰ってくるのだぞ!」
「お、おう任せろ」
十香のきなこパンへの執着心は誰にも引けを取らないだろう(きなこパンをそこまで好きな人はいないから)。
と、白刃が何か思い出し十香に口を開く。
「あ、十香。今日の昼食雷牙も入ったからよろしくね」
「ぬ?うむ分かった」
「サンキュー十香」
雷牙はそう言ってから、窓際から三列目に位置する自分の席に歩いて行く。チラと一席越して左隣を見る。そこにはいつものごとく、綺麗な少女が腰掛けていた。色素の薄い肌に、どこか人形めいた貌。浮世がのものとは思えない雰囲気が醸し出す、不思議な少女である。だが雷牙はそんな彼女を知っていた。何せ5歳ぐらいの時から一緒にいた幼馴染でもあり家族だったのだ。雷牙は彼女の名前を呼びながら手を上げる。
「よ、折紙。おはよう」
「.......」
折紙は返事を返さなかった。いつもは返事を返してくれるのだが、今回は珍しく反応を示さなかった。いや、何か雷牙に対して怒っているのかもしれない。
凄まじいプレッシャー。
「――お、折紙?」
折紙が雷牙の腹越しに白刃と十香の姿を認め、視線を鋭くする。
「一緒に登校してきたの?」
「え?あー 十香は違うけど白刃とは登校してきたな......?」
「そう」
別段表情にも、語調にも変化は見られないのだが。何故だろう、そこからはとてつもない威圧感が辺りに満ちていた気がした。
「ライガ、席につかなくていいの――」
丁度雷牙の所に白刃がやって来て雷牙の目の前にいる折紙の視線に気づいたのか少し眉がピクリ動いたのが見えた。
「何か私に用?」
「別に、私は雷牙に用があるだけ。貴方に用は全くない」
「.......ふーん、そう」
無関心そうに鼻を鳴らす。だが、雷牙から見てみるときっと白刃の心の中では少し不快感がありそうな感じがした。
四糸乃の一件からずっとこんな感じなのだ。まぁ、それは仕方ないといえば仕方ない。折紙はAST――つまりは、白刃や十香のような精霊を武力を行使して排除する事を目的にした部隊の人間なのである。
実際、雷牙が白刃の力を封印するまでは、何の冗談もなく命を取り合う戦いを繰り広げていたのだから。
加えて、折紙も折紙で、精霊に両親を殺されたという過去がある。精霊に対して並々ならぬ憎悪と敵意を有している。そう易々と仲直りできないのも当然ではあった。
――と。そこで、スピーカーからチャイムが鳴り響いた。
「.......お、もうそんな時間か。ほら、二人とも。ホームルームだ!白刃、先に席に着いとけ。な?」
「ん?分かった」
白刃は素直に大人しく、自分の席に着いた。
白刃が座ったのを確認すると雷牙も自席に向かおうとしたが折紙が突然雷牙の袖を掴んできた。
「.......どうしたんだ折紙?」
「1つ質問をする。それを正直に応えてほしい」
何時にもなく折紙は真剣に雷牙の顔を見ていた。
これは冗談が通じないだろう。仕方なく雷牙はコクリとうなづいた。
「何故貴方は彼女――白風白刃に肩入れするの?」
折紙の意見も最もだろう。雷牙もASTに所属している身。そしてお世話になった折紙の両親を目の前で殺されるのを見てしまっているのだ。雷牙自身、恨みがないのは嘘になるがそれでも精霊を――白刃をどうしてそこまで贔屓するのか、それは分かっている。初めて彼女に会って話をしたら彼女は昔の俺に似ていたのだ。だからこそ雷牙は彼女を救いたいと心から思って命を賭してまで張ったのだろう。
だからこそ折紙には言わなければならない。嫌われたとしても。
「アイツが昔の俺みたいだったから」
「昔の......雷牙?」
今折紙は初めて会った雷牙の事を思い出したのだろう。その事を察してか雷牙は話を続ける。
「だからこそ俺は白刃に肩入れしたんだ。彼女が昔の俺にならないようにいや、ならせないように。そして――」
アイツが幸せになっている光景が見たいから。と、雷牙は言ってみせた。
明らかに矛盾が生じる。ASTに所属しているやつが何を言っているんだてっ話になるがそれでいい。人の考え方なんてそれぞれなのだ。それをとやかく言われるつもりは毛頭ない。それでも自分の考え方にイチャモンを付けるのならソイツを分からせるまで
それを聞いた折紙は表情は変えてはいないがなんとも言えないような顔をしているような気がした。
「お前は自分の信念を貫けばいい。それを誰かにとやかく言うつもりもない。だから俺はお前の復讐を応援する」
「.......貴方の言葉は滅茶苦茶。何を言っているのか分からない雷牙は一体どっちの味方?」
「少なからずお前が仲間だと思っているのなら俺は仲間だしそれに幼馴染を孤立させない為に俺がいるんだ感謝しろよ?」
折紙は雷牙の言い方に少し腹が立ったが嬉しかった。まだ私は雷牙に幼馴染だと思われていたのだと。だが、今の折紙はその感情を雷牙に預けているだから今は必要ない。
「んじゃ俺は席に戻るからまたな折紙」
早々に雷牙は自分の席に戻って着席した。
雷牙の後ろ姿を見ながら折紙は先程の言葉を考えていた。
「.......自分の信念を貫く」
折紙は担任の先生が来るまでずっとその言葉について考えていたいたのだった。
◇
「はい、みなさぁーんおはようございます。今日はみんなにお知らせがあります」
クラスの担任タマちゃん先生がホームルーム中にそう言うとクラス皆がざわめき出した。
「ふふ、なんとねぇ、このクラスに、転校生が来るのです!」
ビシッ、とポーズをつけながらタマちゃんが叫ぶ。すると教室中から、『おおぉぉぉぉ!?』とか『来たァァァァ!』やらでいっぱいだ。
まぁ、仕方あるまい。転校生といえば、学校生活の中でも大きな青春のイベントだ。実際十香や白刃がクラスに来た時も、皆一様に浮かれていた。
「.......妙だな」
そこで、雷牙は腕を組みながら下を俯いた。
ついふた月前に十香と白刃が転校してきた(という扱いになっているらしい)というのに、何故またもやこのクラスに転校生が宛てがわれるのだろうという疑問が浮かんだのだ。別に、他のクラスより人数が少ないわけでもないのに何故.....
「さ、入ってきて!」
雷牙の思考は、どことなく間延びしたタマちゃん教諭の声によって中断された。
ゆっくりと扉が開き、転校生が入ってくる。
瞬間――教室は水をうったかのように静まり返った。
姿を現したのは、少女だった。この暑い中、冬服のブレザーをきっちりと着込み、足には黒タイツわ穿いている。
影のような、なんて形容が良く似合う、漆黒の髪。長い前髪は顔の左半分を覆い隠しており、右目しか見とることが出来なかった。
だが、それでも、その少女が十香と白刃に――人外の美貌を備えた精霊に――勝るとも劣らない妖しい魅力を持っている事は容易に知れたのだと。
「さ、じゃあ自己紹介をお願いしますね」
「ええ」
タマちゃんが促すと、少女は優美な仕草でうなずき、チョークを手に取った。
そして黒板に、美しい字で『時崎狂三』の名を記す。
「時崎狂三と申しますわ」
そして、その響く声で、少女――狂三はこう続けた。
「
「.......ッ!?」
その言葉に雷牙は、心臓が何かに鷲掴みされるかのような感覚を覚えた。
ざわめく生徒たちの中。白刃、士道、十香、折紙だけが、同じ反応を示している。
狂三はそれに気づいたのか、一瞬、士道と雷牙の方を見て微笑んだ気がした。
新たな精霊。それはどんな状況に左右されるのか未だ雷牙達は知る由もなかった。
はいいかがでしたでしょうか?オリ主の考えがよく分からないと思いますが、彼なりに正しいと思っての行動だと思います。(多分)
さて次回は狂三が士道に学校を案内される所から始まりますね!これからどうなるのか分かりませんが、頑張って書きますので宜しくお願いします!
次回第13話: 狂食の晩餐
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第13話: 狂食の晩餐
2ヶ月小説投稿出来なくて申し訳ございませんでした!_○/|_ 土下座
リアルが忙しすぎて小説を書くモチベが上がらずにいました......ですが!たとえ時間が経とうともこのシリーズは完結まで書いていく所存です!
では、(⊃σ▂σ)⊃ドウゾドウゾ⊂(σ▂σ⊂)
「......精霊だと?」
一瞬、雷牙の心臓が脈を打つかのような感覚に襲われた。
学校に精霊が転校?何かの冗談かと思ったが狂三の目を見てみれば嘘を言っているわけでもなかった。
一体何の目的で?その思考が頭の中を駆け巡る。
本来簡単な答えの筈なのに冷や汗をかきながら彼女の言葉にどの意図があるのか、次々に仮説が増えていくが――
「ライガ。大丈夫?」
雷牙の表情に気づいたのか、隣席にいる白刃が心配そうに小声で雷牙に話し掛けてきた。
白刃の声掛けにハッと我に返り、笑みを浮かべ白刃の方へ顔を向ける。
「あ、いや、大丈夫だ......」
「......」
白刃が無言になるがすぐさま口を開く。
「――大丈夫。ライガは私が絶対守るから」
彼女の言葉を聞いた雷牙は少し心が揺らんだ気がした。安心する、彼女の言葉。本来守護対象である精霊が前戦で立つことは決して許されるはずがないのに雷牙はその言葉を聞くと先程まで波を発していた心臓の音が無くなった気がした。
息をすぅと吐き、心を落ち着かせ口を開く。
「ありがとう白刃。お陰で落ち着いたよ」
笑顔で返すと白刃もニコッと笑うとお互い転校生、時崎狂三の方へと顔を戻す。
するとたまちゃん先生が狂三が言った特殊すぎる言葉にフォローを入れるべく口を動かす。
「え......ええと......はい!とっても個性的な自己紹介でしたね!」
狂三がもう言葉継がないことを察してか、タマちゃん教諭がパン!と手を叩いて終了を示す。
「それじゃあ時崎さん、空いている席に座ってくれますか?」
「ええ。でも、その前に、一つお願いがあるのですけれど」
「ん?なんですか?」
タマちゃん教諭が言うと、狂三は指を1本立ててあごに当てた。
「わたくし、転校してきたばかりでこの学校の事がよくわかりませんの。放課後にでも構いませんから、誰かに案内していただきたいのですけれど」
「あ、なるほど。そうですねぇ.....じゃあクラス委員の――」
だが狂三は、先生の言葉の途中で前方に歩き出すと、士道の席の真ん前までやってきた。
「ねぇ――お願い出来ませんこと?士道さん」
「え......?」
士道の席に来た狂三が校舎の案内を士道に指名したのだ。
◇
「では、よろしくお願い致しますわ士道さん」
「あ、ああ......」
放課後の午後3時。士道は狂三に学校の案内をすべく教室から廊下に士道の腕を絡めながら出ていった。
それを自分の席で寝たフリをしながら見ていた雷牙が2人が行った後に顔を上げた。
「.......一体何がしたいんだ、時崎狂三......」
雷牙は左ポケットから<インカム>を取り出すと左耳にはめ込み、それを2回つついた。すると<インカム>を付けた左耳から可愛らしい少女の声が響き渡る。
『――さて、そろそろよ雷牙。士道達が10m離れたら追跡を開始して』
空中艦<フラクシナス>の司令、五河琴里。士道の妹である。彼女は年齢や容姿では普通の中学生だが、司令官モードに入ると、それとは思えない精神に司令官が持つ頭脳を持ち合わせている。雷牙は琴里の指示を受け、教室の扉の前に待つ。
あれから、狂三の自己紹介を終えてから昼頃に士道と雷牙は琴里に連絡を取り、狂三が精霊だと伝えた。琴里はすぐに司令官モードに入ると<フラクシナス>から観測機を出して調べると言って一旦電話を切った。その後<インカム>から通じてやはり彼女が精霊だったという事を伝えられた。
そして、士道が狂三を校舎の案内するため雷牙も参加した。そう、監視だ。琴里曰く。『まだ狂三がどんな精霊なのか分からないから雷牙が後ろから気付かれず2人を追跡して』との事で今に至る。
雷牙は心の中で本当にお兄ちゃん好きだなと思ってしまった。
「.....追跡てっいっても俺がいなくなると十香と白刃はどうすんだよ」
ふと、精霊2人の事が気になったので琴里に質問をする。
琴里はすぐに返答した。
『安心しなさい。貴方が一時的にいなくなっても白刃達は精神を乱れたりしないはずよ?十香の方は白刃が何とか引き止めてくれるでしょう』
「それはそうだけど――」
視線だけ白刃と十香がいる方に目を向けた。だが――そこにいたのは表情は分からないが少し困った顔をしていた
雷牙は席を立つと白刃がいる方へ歩き、白刃に話し掛ける。
「白刃、十香は?」
言いづらかったのか視線を横に逸らし口を開く。
「......鳶一と一緒に士道の方へ行っちゃった」
「え?」
雷牙は白刃の言葉に困惑するしかなかった。
すると白刃は話を続ける。
「私も止めたんだけど、二人の圧に押し負けちゃった.......」
「いや、負けても止めろよ.....」
と、<インカム>から琴里の声が響いた。
『雷牙。そろそろ二人を追跡してちょうだい』
「それはいいんだけど、十香はどうすんだよ」
『それはこっちで探しとくから安心していいわよ』
「.....了解した」
<インカム>から左手を離すと白刃に目を向けた。
「んじゃ白刃俺はそろそろ用事に行くから先に家に帰ってるんだぞ?」
雷牙は小走りで教室を離れようとしたが、白刃に服の袖を捕まれ止まってしまった。
「白刃?どうしたんだ?こっちは早くs「時崎狂三の所へ行くつもりでしょ?」は?」
雷牙は硬直してしまう。白刃はそれを気にせず続けた。
「お願い。私も連れて行って」
「......」
するとまたもや<インカム>から通信が入る。
『仕方ないわ雷牙。彼女も連れて行きましょう』
「ば、何いってんだよ司令!アイツは精霊だぞ?そこに行かせるなんて......」
『えぇ。でも彼女には嘘は付けないわ。もう確信しちゃってるわけだし』
「......」
雷牙は息を短くはぁと吐くと、白刃に向かって口を動かす。
「分かったよ。ただし、危険な事があったら離れるからな?」
「うん。分かった」
二人は一緒に教室から廊下に向かい士道の後を追った。
◇
その頃。
士道は狂三から頼まれた校舎の案内をしていた。道中、<フラクシナス>から訳の分からない選択肢を選ばされたりと散々な目にあってきたのだが、その逆。狂三が魅力的すぎて全ての状況がギャルゲー並の展開に網膜を焼き付けるかのような錯覚に襲われる羽目になった。
士道も男の子なのでそれを拒否する事も出来なかったのである。
「――ねぇ、士道さん」
狂三が、その小さな唇を蠢かせる。
「な......ん、だ?」
「わたくし、士道さんにお願いがありますの。......聞いてくださいまして?」
不思議な感覚。士道は今、狂三のお願いになら、無条件で首を縦に振ってしまいそうだった。
だが、その瞬間。
「ぬわ.....っ!」
「......っ」
そんな叫び声とともに、後方からドンガラガッシャンという音が響いてきて、士道はビクッと体を揺らした。
どうやら廊下に設えていた掃除用具入れが倒れて閉まったらしい。そこら中に箒やちり取りやらが散乱している。
そして――その中に、犯人と思しき生徒が二人、重なり合うようにして倒れ混んでいた。
「と、十香......折紙!?」
士道は声を上げた。そう、そこにいたのは十香と折紙だったのである。
「あらあら?お二人して何をなさっておられますの?」
狂三が、士道の手を掴んだまま不思議そうに首を傾げる。
その様子を見てか、十香と折紙がバッと立ち上がった。
「そ、それはあれだ!シドーが狂三に学校案内をするというから、その......あれしたのだが、そのあれは聞いてないぞ!」
「――時崎狂三。学校案内で手を握る必要はないはず。今すぐ話すべき」
「!そう、それだ!」
十香が珍しく折紙の言うことに同意するように大仰に首肯する。
「あ.....」
言われて、士道はまだ手を繋いでいる事に気づいた。慌てて離そうとする――が、そのタイミングに合わせて狂三が指に力を入れてきたため、手を解く事が出来なかった。
狂三は士道を一瞥してから二人に目を向けると、芝居がかかったセリフを言う。
「実はわたくし、酷い貧血持ちですの。そこで優しい士道さんが、わたくしの手を取ってくださったのですわ。士道さんを責めないであげてくださいまし」
十香と折紙は、狂三の言葉を一通り聞いてから士道に目を向けてきた。「本当なのか?」と問うような視線で。
「え、ええと......その、まぁ、うん.....」
なぜか、ここは誤魔化さねばならない気がしたので、士道は曖昧に返事をした。
と、狂三が廊下側を一瞥すると、クスッと笑い廊下側の方へ顔を向いたかと思うと狂三は口を動かした。
「ふふ、忘れる所でしたわ。そういえば二人ではなく四人でしたわね。そろそろ出てきてもいいではないですか?雷牙さん、白刃さん?」
狂三が言うと誰もいないはずの廊下から二人の男女が現れる。その人影は士道達も知っていた。雷蒼雷牙と白風白刃だ。
「雷牙に白刃!?なんでここに....」
「気になったから来たに決まってるだろ」
「私も同じ」
雷牙と白刃は士道に返答を返したのち、白刃は十香の方へ向かい雷牙は狂三の方へ睨みつけるように顔を向けた。
「時崎狂三。お前の目的は何だ?」
「さぁ、どうなんでしょうか?」
狂三は雷牙の表情に何も躊躇なく彼の質問をはぐらかした。
やはりそう簡単に言うわけがないか、と雷牙は心の中で思った。雷牙はそう来ると分かっていたため、あえて単刀直入に狂三の目的を聞こうとした。しかし、おいそれと答えてもらうほど彼女も馬鹿じゃない。だがそれだけで十分答えを得た。
彼女のはぐらかし方である程度の情報を掴んだのだ。
が、まだ確信に至っていない。あとは今後の彼女の様子を伺うしかない。
数秒、雷牙と狂三はお互いを睨むかのように見続ける。すると次の瞬間、不意に折紙がその場に膝を突いた。
2人の会話は中断され雷牙は折紙の方へ向かった。
「っ!折紙!?大丈夫か?」
突然の事で雷牙が驚き折紙の方へ膝を折り肩に左手を置くと折紙はくっと顔を上げて唇を開いた。
「貧血」
「.......は?」
雷牙は、口を開きながら困惑した。たが何故か、額に汗が伝ってくるのだけは理解出来た。嫌な予感がする。
「1人では歩けない」
「.......いや、嘘こけ――」
「雷牙。お願い」
「.......」
雷牙は
すると、折紙が貧血らしからぬ速度でその手を取り、雷牙の隣にぴったりと寄り添った。その後ろで見ていた白刃は何故か機嫌が悪くなったのかその仕返しかのように雷牙の先程空いた左手に自分の胸が当たるかのようにギュウゥと絡みつきながら抱きついた。
「何だ2人とも。情けないな!」
十香はそんな狂三と折紙を見てふふんと腕組みし――
「......はっ!」
士道の方を見直してから、ハッとした顔を作った。
「し、シドー!私もヒンケツなのだ!」
「そうなのか......?」
「う、うむ、実はあまりお尻の肉付きが良くないのだ!」
「いや貧血ってそういう意味じゃ......」
「十香、貧血の意味が違うよ.....」
士道と白刃が苦笑すると、十香は困ったようにあわあわと両手を蠢かせた。
「と、とにかく、私もなのだ!」
言って、十香は士道の空いている左手を取り、自分の胸が当たるぐらいにギューっと押し付けるように抱きついた。
十香は反対側にいる狂三を警戒しながら睨みつける。
それを見ていた狂三は手を抑えながら「あらあら」と言いながら笑った。
と、その瞬間、どこからともなく携帯電話のバイブ音が鳴り響いた。
「――もしもし」
と、折紙がポケットから携帯電話を取り出し、話し始める。
電話口に向かって淡々と相づちを打ったのち、なぜか狂三に鋭い視線を送った。
雷牙はその状況は理解した。多分だが、相手は日下部隊長だろう。先程狂三が精霊だと断定されて折紙に出動命令が下ったのだ。
「......了解」
そして、静かに電話を切る。
「急用が出来た」
折紙はそう言うと、名残惜しそうに雷牙の手をきゅっと強く握ったあと、手を離した。
その瞬間、白刃がさっきよりも雷牙の腕をぎゅっとしがみつく。
何故だろう、夏場なのに妙に寒気がするのだが?
「......」
折紙はそんな白刃を一瞥したあと、もう一度狂三に刺すような眼光を向け、歩き去っていった。
去り際、雷牙の耳元に「時崎狂三に気をつけて」という言葉を残して。
折紙の後ろ姿を見ながら士道はいまいち状況が掴めずにいた。
「折紙のやつ、一体どうしたんだ.....?」
「気にするな。それより士道、女の子待たせる気か?」
雷牙が言うと士道はハッ!と顔を狂三の方へ向けた。
「す、すまん狂三!」
「いいえ大丈夫ですわ。それでは士道さん、他の場所に参りましょう」
「あ、ああ.....」
狂三に促されて、士道は両腕を拘束されたまま歩いていった。
因みに雷牙と白刃も後ろを着いていくように歩きだした。本来は狂三の監視が目的なのだから気にしなくていいだろう。白刃は雷牙の腕にくっついたまま歩いているので、少々雷牙の顔が赤くなっておりそれに......廊下を歩きながら周囲から注がれる嫉妬や妬みの視線が一層濃厚なものになったことは、言うまでもない。
午後6時。
人通り学校内の施設の案内を終えた士道は、狂三、そして半ば無理矢理くっついてきた十香、狂三の監視で着いてきた雷牙と白刃とともに校門をくぐり、夕日に照らされた道を歩いていた。――もちろん、もう士道の両手は自由になっている。だが、雷牙の方を見てみるとそのまま白刃が離さないように強く抱きついていた。雷牙は顔には出さないが眉は疲れているように垂れていた。これは流石に士道も苦笑する他なかった。
「とまぁ、大体あんな所だ。分かったか?」
「ええ。感謝いたしますわ。.....本当は、二人きりが良かったのですけれど」
冗談めかして言ってくる狂三に苦笑で返す。
正直、士道は十香達に感謝していた。
たとえ<ラタトスク>の指示があったとしても士道一人じゃ何も出来なかった。
しかし、狂三は不思議な女の子だ。精霊だというのに、どこか大人びた振る舞いや今まで出会った精霊より大人しいというのだろうか?それくらい妖しい魅力が、彼女にはあった。
十香達がいなかったら今頃士道は狂三の虜になっていたのだろう。しかも彼女に身を任せたら何をされるか分からないのだ。自分でも危なかったと感じた。それぐらい、彼女は危険なのだ。まるで――そう、見る者を問答無用で虜にする、食虫植物のような。
「いやいや.......」
士道は自分の思考に小さく首を振った。いくら狂三が魅力的に見えるからって、女の子に向かって食虫植物とか、いくら口に出していないとはいえ十分失礼に過ぎる。
――と。
「それでは今日はありがとうございましたわ。士道さん、十香さん、雷牙さん、白刃さん、わたくしはここで失礼いたしますわ」
十字路に差し掛かったあたりで、狂三がぺこりと礼をして、そう言った。
「え?お、おう.....」
「む、そうか。ではまた明日だ」
「......」
「うん。また明日学校で」
士道と十香が小さく手を振り、白刃は頷き返すと、狂三は夕日の中に消えていった。
その後ろ姿が見えなくなるまで4人は眺めていた。
狂三が見えなくなる距離まで見ていた士道達はやっと緊張の糸が取れたのか深く息を吐いた。
「.....助かったよ十香、白刃、雷牙。三人がいなかったら今頃どうなってたか.....」
士道は苦笑しながら言う。すると十香が首を横に振り唇を動かす。
「何を言うか、シドーを守るのが私の役目だ!もしシドーに何かあったら私は耐えられないぞ......」
「うん。十香の言う通り。仮に士道を一人にしたら十香や雷牙や琴里、<フラクシナス>の人達が心配だったはずだよ?」
何を当たり前の事をと2人は即答に応えた。確かに、逆の立場だったら士道も十香達を助けるだろう。今回は十香を心配させてしまったので士道は帰りにきなこパンを買おうと心の中で約束したのだった。
と、
士道が雷牙の方を視線で見てみると何かしら考え事をしているかのようだった。士道はそれが非常に気になったので声をかけてみた。
「......雷牙どうしたんだ?何か考え事か?」
「......あぁすまん、少し、な」
士道は雷牙の応えに首を傾げた。すると雷牙は何かを思い出したのか士道の方へと顔を向いて口を開く。
「すまないが士道。ちょっと用事を思い出したから今日の夕飯は白刃も入れて貰えないか?」
「え?あ、ああ。いいけど、そこまで遅くなる用事なのか?」
「いや、そんなには時間は掛からないが、ちょっと雑用が残っててな少し夕飯に間に合うかどうか分からないんだ」
雷牙は士道に申し訳なさそうに言った。それについて士道は気にしなかったが、少し気がかりだったのだ。普段雷牙は用事、つまりバイトや習い事をしていない。まぁ、今月に入ってやるようになったのかもしれないが、彼からその情報は知らされてないし、しかも雷牙がそんな事を隠すわけもない。一体何故?士道は頭の中で自問自答を繰り返していた。
すると、雷牙は先程狂三が向かった道の方へと歩き出そうとした。
「んじゃ頼んだぞ?白刃も大人しく待っててくれ」
「うん。気をつけて」
雷牙はそう言うと走りながら狂三が通った帰り道を走り、その影は夕日に消えていった。
◇
「――はぁはぁ......」
士道と別れてから雷牙は先程狂三が向かった帰路を駆けていた。
「はぁはぁ......何処行ったんだ.....<ナイトメア>!」
その叫びは狂三が見つからなくヤケになっているのかそれともこれ以上無関係の人が彼女に殺されないように願っているのかどちらなのか分からなかったが、後者が正しいだろう。
だが、そんな願いが届くもなく数分走ったぐらいで突如トラックが通れそうな道を曲がろうとした瞬間。近くの路地裏から光線を放つ音が響いて来た。
雷牙はその音に気づくとその路地裏方へと向かい中を覗いて見るとそこには―――霊装だと思わしき格好をして横たわっている狂三とその右横には後ろにポニーテール結んで、左頬に泣きぼくろが特徴的な女の子がいた。
でもその女の子の装いは機械的な格好で形は違うがASTがよく使うCR-ユニットと酷似していてその右手には巨大なブレイドが握られていて先端には血が付着していた。
雷牙は驚きも動揺もしなかった。なんせ、彼女も彼と同じ仲間だったのだから。
すると丁度。気配を感じたのか彼女は雷牙がいる方へ顔を向けて来た。
「雷蒼二尉じゃねぇーですか。一体ここで何をしてるんです?今日は出動命令は下されてないはずですが?」
崇宮真那 三尉。見た目は中学生だがこれでも彼女はDEMから出向してきた
真那は突然現れた雷牙に驚き質問をしてきた。
「いや、たまたま通りかかっただけだよ」
雷牙は真那の質問をはぐらかした。こういう真面目な奴は適当に返せばそこまで追求してこないだろうと判断した。
すると真那は「ふーん、そーですか」と心底どうでも良さそうな声で話を流した。そして再び地面に横たわっている狂三に顔を戻した。
「.......なぁ真那、これはお前が?」
雷牙は頭の中では分かっているが聞かなくてはならないと思ったので真那に質問をした。
「――えぇ、そーです。何か問題でも?」
「いや、問題ない」
雷牙は真那がいる方へ足を歩かせるとそこにしゃがみ、横たわっている時崎狂三の死体を直視した。
体には先程真那が付けたと思われる光線の後や、喉の方を見ると深く切られているのが見受けられる。
それにここの壁には狂三とは違う他人の血が付着しているのも確認出来た。既に狂三は真那が来る前に数人を殺したのだろう。
遅かった。もう少し早く来ていれば人は救えただろう。
雷牙は自分の無力さに左手を強く握り締めた。
そして数分後に狂三の死体をAST部隊が回収すると真那は何も言わずにどこかへと消えていった。
だが、雷牙の前を通り過ぎる時に雷牙は見てしまった。
彼女の目の光が先程より薄暗くなっている事に――
「(これが.....精霊を殺した彼女の力......か......)」
雷牙は心の中で自分の無力さを悔やんだ。
如何でしたでしょうか?今回は長めに書いたつもりですが、やっぱりもう少し長めに書いた方がいいでしょうか?まぁ、いいや笑
次回は雷牙君が活躍?する所と士道がデートに誘われる所まで書くつもりでいます。
投稿するのに(リアルの事情で)時間は掛かりますが、長々と待っててくれると嬉しいです((。´・ω・)。´_ _))ペコリン
では次回の投稿でお会いしましょう!でわでわ〜(o・v・o)/~
次回 第14話: 狂気の始動
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第14話: 狂気の始動
更新遅れて申し訳ございませんでした。(/. .)
どうも、区切りが良くなくて迷いながら進めていたらこんなにも時間がかかってしまいました。
ちなみに今回はデート編ではないです。
次回からデート編に突入します。
ではどうぞ(꜆ ˙-˙ )꜆
「.......」
雷牙はゆっくりと道端を歩いていた。
あれから数分が経ち。ASTの部隊が時崎狂三の遺体を回収してことを収めた。
雷牙はそのまま遠くで見る事しか出来ず、今こうして自分の無力差に自問自答を繰り返しながら、ただひたすらのうのうと小さく音を起てながら歩いていた。
どうして間に合わなかった?行動する判断が遅かったから。
何故自分はこうも無力なんだ?自分の力をまだ知らないから。
分からない。自分の
と、左耳に付けているインカムから振動が入る。雷牙は人盛りがない道をそのまま歩き左耳を抑えながら口を動かし通信を取る。
「......司令か?丁度、話がしたかったんだが――」
だが、スピーカから聞こえてくる声は琴里のものではなく、今にも眠りそうな女性の声音が響いてきた。
『......すまないねライ。琴里は先程自宅に帰ってしまったよ』
インカムから聞こえてくる声の主は<ラタトスク>に所属する解析官村雨令音だった。
「あ、令音さんか?丁度話がしたくて」
『........ん、なにかね?』
令音は雷牙の言葉に首を傾げた。と、すぐさま令音は雷牙の言葉を察し、口を動かした。
『........時崎狂三の映像はちゃんと撮れたさ』
「なら話が早くて助かる。んで、どうだった?」
『.......君と同じ意見だよ。時崎狂三は先程、ASTに所属している者に殺された。これは何も絶えない事実だろう』
「.......」
雷牙は無言になる。やはり、狂三はあそこで青色のCR-ユニットを装備した高宮真那に確実に殺害された。
だが雷牙は一つの疑問が頭に過ぎる。しかしその疑問は一体何なのか分からずにいた。
と、インカムから令音の声が聞こえてきた。
『......だが、ライの言うとおりかもしれない。彼女、時崎狂三 ―― <ナイトメア>はこんなにも早く倒されるのはおかしい』
確かに<ナイトメア>と言う識別名を持って、ASTからは最悪の精霊として名が高いのに対して、今日初めて会った時崎狂三は天宮駐屯地で資料を見た情報よりとても
まるで1枚の紙が1L入ってる水に沈むような感じに。
雷牙は数々頭から疑問点が湧き出てくると、インカムから令音の声が響く。
『........とりあえずこの事は琴里に話して後日また報告をするよ。今日は家に帰ってゆっくり休むといい』
令音なりの気遣いなのだろうか、彼女は雷牙の精神面を観測機で数値化したのか知らないが、休息を推測してきた。
雷牙は精神的に疲れてしまったので素直に玲音の言葉に従った。
「そうですね、お言葉に甘えて休ませてもらいますわ」
『.......ああお疲れ様』
その言葉を最後、インカムから令音の声がなくなり通信は終了した。
雷牙は左耳に付いているインカムを取り外し、制服のポケットに入れた。
「ふぅ.......」
雷牙はひとりでにため息を吐く。
今日は色々あった気がする。とてもそんな感じじゃないとなんと表現すればいいのだろう?
と、そのまま自分の家がある方向へ向かって歩いていく。
すると雷牙は何かを思いだした。
「あ、そういやもうやる事がないし、白刃を向かいに行かないとな」
雷牙は今の時間だと士道の家にいるであろう白刃を迎えに行くため小走り気味に早く家に向かうのであった。
◇
「士道、あなたは!」
「実妹、義妹、どっち派でいやがるのですか!?」
「え、ええっ!?」
突然予想外の問いを振られ、士道は情けない声をする。
数分前、士道は狂三と別れてから十香達と一緒に近くのスーパーに買い物をしていて買い物が終わり士道の家まで続く道を会話して歩いていると士道宅の前に1人の少女がぽつんと立っていたのだ。
容姿は琴里と同年代くらいでポニーテールに泣き黒子が特徴的なパーカーにキュロットスカートというラフな格好。
そして、士道に気付くといきなり抱きついてきて士道のことを「兄様!」と言ってきたのだ。
自称・士道の妹、高宮真那だ。
士道はひとまず真那を入れてその後に士道のインカムから聞いていた琴里が家の玄関の前に仁王立ちをしながら待ち構えていた。
そして色々話していたら琴里が真那に『兄弟』の事を強調されたのか突如言い合いが始まって今に至る。
「い、いや......どっち派って.......」
『..........』
琴里と真那が、じーっと見つめてくる。どちらを選んでもろくなことになりそうにないのは容易く知れた。どうにか話題を逸らすべく、士道は思考を巡らせる。
「!そ、そうだ、真那」
「はい?」
ポンと手を打って声をかけると、真那がキョトンとした様子で首を傾げた。
そう。真那には昔の記憶。士道と会った記憶さえも一切なかったのだ。
彼女曰く、そこだけスポンと何かに抜かれたような感じで記憶がないらしい。
それを逆手に取った士道は口を動かす。
「おまえ、昔の記憶がないって言ってたよな ?」
「ええ、そうですが」
「じゃあ、今はどこに住んでいるんだ?家族と暮らしているってわけでもないんだろ?」
「あー.......っと」
と、そこでハキハキとした受け答えをしていた真那が口を濁した。
「ま、まぁ、ちょっと、いろいろありやがるんです」
「いろいろって......」
「えーと......ですね。こう特殊な全寮制の職場で働いているというか.....」
「職場.....?真那、今歳いくつだ?琴里と同じくらいじゃないのか?学校は?」
まぁ琴里も秘匿組織の司令官なんぞやっているわけだが.......真那とは違いちゃんと学校にも行っている。
真那は気まずそうに目を泳がせた。
「そ、その......えーと.....ま、またお邪魔しますっ!」
「へ.......?ちょ、待っ――」
真那はそう言うと、士道の制止も聞かず、脱兎の如く去っていった。
「な......なんだったんだ、一体.......」
頬をかき、真那が消えた扉を呆然と眺める。と、その扉が再びまた開いた。真那が帰ってきたのかと思ったが違った。そこには校門で別れたはずの雷牙がやってきたのだ。
「邪魔するぞー」
「ら、雷牙!?もう用事は終わったのか?」
「ん?ああ、士道か。まぁな、すぐ終わったから早く帰って来れたんだよ」
雷牙は驚いている士道にハキハキと応えた。
すると雷牙は誰かを探すかのように当たりを見渡す。
「士道。白刃は?」
どうやら白刃を探していたようだ。士道は口を動かした。
「ん、白刃は十香達と一緒に精霊用マンションにいるぞ」
「ん?なんで隣にいるんだ?」
雷牙はキョトンと首を傾げた。士道は先程の事を人通り雷牙に話した。
「......なるほどな。まさか真那が......」
リビングにある椅子に腰を掛けていた雷牙は状況を理解したようで最後の言葉は小声で聞こえなかった。非常に気になり士道は雷牙に聞こうと口を動かそうとするが、雷牙が先に口を開いた。
「それで、その.....高宮さんはお前に会うためにわざわざ来てその後急いで帰ったのか?」
「そういう事になるかな.....」
士道は頬をかきながらそう答える。すると、隣席にいる琴里がパンッと両手を叩く。
「その話はまた後日でいいわ。それより、そろそろ夕ご飯の支度をした方がいいんじゃないかしら?」
「そうだな、そろそろ俺も腹が減ってきたしな」
士道は理解できなかったが雷牙は琴里の意味に察して口を動かしたのだ。
「ん、ああ。もうそんな時間か、そろそろ飯の準備をしなきゃな」
士道は席を立つとキッチンに向かうと雷牙は席を立ち、玄関の方面へ向かう。
「ん?雷牙、何処行くんだよ?」
「いや、何処行くっていってもこれから一人で飯を買いに行くんだが?」
平然に雷牙は士道の言葉を返した。すると、琴里が雷牙の襟を強く掴んだ。
「ぐぇ!な、なんだよ司令?離してくれ!死ぬ、死ぬ死ぬ!」
「別に1人で行くよりこっちで食べってたら?」
「へ?」
雷牙はポカーンと首を傾げると戸惑いながら口を開いた。
「いいのか?」
「言いよりも何もあなたが抜けたら白刃が可哀想だし、それに1人が増えた所でうちの兄がそんなことで面倒くさがらないわよ?ねぇ、士道?」
「ああ。1人や2人増えてもどうってことないぞ寧ろ嬉しいしな」
琴里と士道は雷牙にそう返す。雷牙は少し恥ずかしがるが頬をポリポリとかきながら言葉返す。
「それじゃお言葉に甘えて頂こうかな」
雷牙は素直に夕食を頂く事にした。
◇
翌日。
キーンコーンカーンコーン、と、聞き慣れたチャイムが鼓膜を震わせる。
時計の針は八時三十分を示していた。朝のホームルームの開始時刻である。辺りで談笑していたクラスメート達がわらわらと席につき始めていく。
「.....あれ?」
そんな中。早めに席に着いていた白刃は小さく首を傾げた。
チャイムが鳴ったというのに、狂三の姿が教室になかったのである。後ろの席にいる士道と十香も同じことを思ったのだろう、キョロキョロと辺りを見回している。
「むう、狂三のやつ、転校二日目で遅刻とは」
「忘れ物でもしたんじゃねぇか?」
と、2人がそう言うと、
「――来ない」
白刃と雷牙を超して左隣から、そんな静かな声が響いてきた。
折紙が、視線だけを白刃と十香に向けて唇を開いている。
「ぬ?どういう意味だ?」
「それじゃ意味が分からない。もう少し細かく言ってもらえない?」
「そのままの意味。時崎狂三は、もう、学校には来ない」
「え?それじゃあ――」
士道が言いかけたところで、ガラッと教室の扉が開き、出席簿を両手で抱えるように持ったタマちゃん教諭が入ってきた。すぐさま学級委員が起立と礼の号令をかける。
「おっと.....」
折紙の言っていたことは気にかかったが、号令を無視するわけにもいかない。士道は皆と一緒に礼をしてから着席した。
「はい、皆さんおはよぉございます。じゃあ出席を撮りますね」
言ってタマちゃんが出席簿を開き、生徒の名前を順に読み上げていく。
「時崎さーん」
そしてタマちゃんが、狂三の苗字を呼んだ。だが、返事はない。
「あれ、時崎さんお休みですか?もうっ、欠席するときにはちゃんと連絡を入れてくださいって言っておいたのに」
タマちゃんが、ぷんすか!と頬を膨らせながら、出席簿にペンを走らせようとする。
と、その瞬間。
「――はい」
教室の後方から、よく通る声が響いた。
「狂三?」
後ろを向き、目を見開く。そう、教室後部の扉を静かに開き、そこに立っていたのは、穏やかな笑みを浮かべながら小さく手を挙げた狂三だった。
「もう、時崎さん。遅刻ですよ」
「申し訳ありませんわ。登校中に少し気分が悪くなってしまいましたの」
「え?だ、大丈夫ですか?保健室行きます......?」
「いえ、今はもう大丈夫ですわ。ご心配おかけしてすみません」
狂三はぺこりと頭を下げると、軽やかな足取りで自分の席に歩いていった。
「なんだ......ちゃんと来たじゃねぇか」
ほうと息を吐き、何やら不穏な事を言っていた折紙の方に視線を向ける。
「え......?」
士道は訝しげに眉をひそめた。
折紙が微かに眉根を寄せ、狂三のことを凝視していたのである。
表情にそこまで劇的な変化があるわけではない。だが――なぜか士道には何となくわかった。今、折紙は、間違いなく驚愕している。
「折.......紙?」
士道が、小さな声でその名を呼ぶ。
折紙は微かに指先を揺らすと、狂三からふっと視線を外した。
と、少し気になったのか士道は前の席いる雷牙を見てみるが、背中しか確認出来なかった。
だが、背中で表情を見る辺りどうも折紙と同じ反応ではなかった気がした――なんというか.....既にこの状況を予測ずみのように。
「――はい、じゃあ連絡事項は以上です」
ほどなくして、タマちゃんがホームルームを終えて教室を出て行く。
と、その瞬間、机の中に入れていた携帯電話が振動を響かせ始めた。
ギリギリのタイミングだった。あと十秒早かったら没収されていたかもしれない。
士道は携帯の画面を起動させる。そこには五河琴里の名が表示されてるメール通知があった。
タップしてメールの内容を確認すると士道は眉根を少し寄せた。
『お昼に物理準備室に来なさい。貴方に見せたいものがあるわ』
士道は頬に汗をかきながらその後の授業に臨むだった。
◇
午後12時。
丁度4時間目が終わり、生徒達が昼食をとる時間帯だ。
それでも折紙は、昼食を食べる事よりやらねばならないことがあった。
士道と昼ご飯を一緒に食べれずしょんぼりと肩を落とす十香とそれを横で慰める白刃の脇を通り抜け、目的の人物の席まで歩いていく。
「――少し話がある」
折紙は、その席の主――時崎狂三に、冷たい視線を投げながらそう言った。
狂三は折紙の言葉に不思議そうな表情をしたが、直ぐにその事を察したのか慌てて折紙と共に教室から廊下に渡り、屋上に繋がる階段の方まで向かったのであった。
だが二人は気づかなかった。それを見ていたのは彼女達ではなかったという事に――
◇
「......」
何も喋らず静かに、雷牙は窓際から広がる景色を眺めていた。
だが、雷牙はぼんやりと街の景色を見ているわけでも只只ぼぅーと現実逃避をしている訳でも無い。
その表情だけは――真剣な顔で周囲の生徒も近寄らせない程だった。
なぜなら、昨日確実に
その単純な理由だけで、この状況が作れるように――雷牙自身も驚きを隠せず目を大きく目開いてしまった。
しかし、そもそも根本的に理解が出来ていなく、脳の思考が追いつけてすらもいない。
昨日 確かに――彼女の死亡はこの手で確認した。そこまではいい。だが、その翌日。狂三がなんの影響もなくピンピンしながら学校に登校出来ていたのだ。
やはり雷牙の頭の中には疑問が残るばかり、ある程度は推測は出来ている。が――これはあくまで憶測であって確信には未だに至らない。
「......謎だらけ多すぎるな......」
雷牙は頭を掻きながら頭の中を整理した。
時崎狂三。精霊の中で目的、所在、そして天使の能力ですら謎が多く掴めない少女。
たとえ仮に彼女に話を聞いたとしよう。絶対何らかしらの理由をつけて彼女はぐらかして来るであろう。
話してくれたとしても逆にこっちが罠に掛かって殺られたら元も子もない。
「ここは慎重に立ち回った方がよさそうだな」
雷牙はため息を零しながらこの話に一段落つけるようと手を上に上げ、背伸びをした。次に先程まで頭を使っていために空腹になっていたのを気づかなかった。
昼食を取るべく 机の端にある鞄に手を掛け、その中に入っている弁当を取り出した。
「さてさて......今日の弁当のメニューはなんでしょうか〜」
雷牙は胸が高なるのを自覚しながら弁当に手を掛け蓋を開けた。
その中身はなんとも良い匂いであった。
真ん中に白い日本の象徴である米と左右には王道でもある玉子焼き、唐揚げが綺麗に並べられていた。
「.....おぉ」
雷牙自身でもこんな完成度が高い料理を見るのは自分のか士道のぐらいであろう。
でも――この弁当を作り上げる者がもう1人知っている。
それは今、十香の席で十香と昼食の準備をしていた白髪、赤目の少女――白風白刃。雷牙のクラスメイト兼 同棲している。
雷牙の家に暮らしはじめてから彼女は日々日々料理のスキルを習得しつつ、もう弁当作りなどお手の物だ。
そして料理を雷牙から教えてもらった彼女は昼食時だけ自分が作ると
それから今に至るという訳だ。
雷牙自身、ここまで彼女の習得速度が速いとは思っていなかったため、脱帽した。
そして白刃が作ってくれた弁当を箸で摘もうと伸ばすが、ふと、雷牙の視界から折紙と狂三が弁当を食べずに教室から出て行ってしまったのだ。
「折紙......それに時崎?二人がどうして――」
雷牙は次の言葉を喋ろうとしたが何かを理解して口を止めた。
理解して止めた.....いや、予測したというのが正しいのかもしれない。
雷牙は嫌な予感がして弁当の上に箸を置いてすぐさま二人の後を追った。
しかし、教室を出たが廊下には二人の姿が一切見えなかった。
雷牙の頬に夏真っ只中なのに冷たい汗が伝わってきた。
「一体何処に行ったんだよ......」
雷牙は考えた。まず、敵同士なのに2人で話に行こうと廊下をでた。
そして、その後に2人は姿を消した。
よっぽど人前では話せない内容だ。
ならば人気のない場所を選びに行くはずだろう。
「――まさか......」
雷牙は唯一人気のない場所を知っていたのだ。
前、4月に折紙と待ち合わせたあの屋上に繋がっている扉付近だと。
雷牙はすぐさま駆け出した。そして走ってから1分。
やっと目的の場所に着き、肩で息をしながら階段を上がって行くと、屋上の扉付近で誰かの声が聞こえてきた。物陰に隠れながらそれを雷牙は耳をすましながら聞いていた。数して2人だろう。
だがその声の主は聞き覚えのある声だった。
「.......っ、触らないで」
「ふふ、そうつれない事をおっしゃらないでくださいまし」
声だけ聞くと何処かの百合がたむらってるようにしか聞こえないが今はそんな冗談も言えない状況なのは十分理解している。
と、女の1人が苦しんでいそうな声が耳から伝わってきた。
そしてもう1人の女の方もその彼女の反応に息を荒くしながら声を発する。
「く......」
「ああ、ああ、でも駄目ですわ。駄目ですわ。とてもとても惜しいですけれど、お楽しみは後にとっておかなくてはいけませんわ」
雷牙はこれ以上は危険と思い物陰から出ると
ある光景を目の当たりにしてしまった。それは彼自身が許容し難いものだった。
なぜなら――折紙が壁から生えている無数の腕に手首や足首を拘束され――または、狂三にスカートの中をまさぐられながら襲われていた。
その時雷牙の中でプツンと何かが切れた音を感じた。
でも今それはどうでもいい。今は目の前にいる敵を倒せばいいだけの話なのだ。
「――おい......」
雷牙は狂三の後ろに回り込み護身用に持参しているポケットナイフを彼女の首に突き立てた。
「俺の幼馴染に何したんだ?お前」
何時も自分が出ないような低い声で殺意を向けながら声を発した。
それに気付いた狂三は雷牙の声にも動じず、ただにこやかに雷牙の存在を視界に焼き付けるのだった。
その表情は彼自身が彼女のメインディッシュを待ち望んでいたかのようでもあった。
「あらあら、雷牙さん。来てしまわれたのですの、随分早い到着でしてよ?」
「1歩でも動いてみろ......その首を掻っ切るぞ」
雷牙の言葉に狂三は動揺でも恐怖すらしておらず只只、頬を赤くしながら興奮気味に舌なめずりをした。
「あらあら、いけませんわ。いけませんわ。貴方というお方がこうも簡単に冷静さを失うとは.......やはり――予想通りだった。ということですわね」
最後の言葉に雷牙は何か引っかかることを感じた。
だが、今の雷牙は冷静さが欠けているので気づいていない。
すると雷牙は警告をしようとばかりに狂三に殺気を送りながら口を動かす。
「御託はいい。さっさと折紙を離せ、でないと本気でお前を殺す」
「そう怒らないでくださいまし。言われずともそうするおつもりでしたわ」
と、狂三は左指をパチンと鳴らすと、折紙を拘束していた腕が影に吸い込まれて行ったのだ。
拘束が解けた後。即座に雷牙は折紙の元へ抱きしめるような形で駆け寄った。
折紙は首を絞められていたのか、ケホケホと咳をこぼす。
そんな二人の姿を見た狂三は有意義に笑いながら上品に口を動かした。
「きひひ。随分仲がよろしいことですわね」
「.......」
狂三の言葉に雷牙は折紙を離さんばかりに強く抱き締め、睨みながら彼女を直視する。
「そんな怖い顔をしないで下さいまし。そんな顔されたら私悲しいですわ、泣いてしまいますわ」
手を瞼の方へ翳し、およよと泣く真似をする。と、でェもぉ と狂三は話を続けた。
「その顔ではつまりませんわねいずれ私に食べられるですもの。もっと絶望に浸った表情になってからいただくとしましょう。ですからその間までに仕上がっといて下さいまし」
「.....どういう意味?」
やっと喋れるようになったのか、折紙が狂三に質問をする。
「そのままの意味ですわ。でも折紙さんは雷牙さんよりもっと美味しくなっといて下さいまし」
狂三は折紙と雷牙を交互に見ながら舌なめずりをして言う。
「では私はこれにて失礼致しますわ。まだ昼食を取っていないですので」
それ言うと狂三はスカートを摘み、お辞儀して階段を降りていった。
狂三の姿が見えなくなったのを確認してから雷牙は先程まで抱きしめていた折紙の方へ顔を向けた。
「大丈夫か?ケガは無いか?」
「......問題ない」
「......なら良かった」
雷牙は深くため息を吐きながら折紙が無事だったことに安所した。
すると折紙は雷牙の胸元に顔を擦りつけながら抱きついた。
「お、折紙!?おま、一体なにして――」
「.......」
雷牙は少し動揺してしまったが、すぐに状況が理解できた。
あの折紙が恐怖したのだろう。誰に対して?狂三だろう。
何故に?俺の事を言われたのかもしれない。
雷牙はそんなことを頭で考えながらそっと折紙の頭を撫で続けた。
「大丈夫だ折紙、俺は死なない。絶対だ」
「......うん」
「でさ、その......俺はお前の事を絶対に護るから。だからその恐怖してる顔はやめろよ。お前には笑顔が必要だぞ?」
雷牙は髪を梳かすように折紙を撫で続ける。
どれくらい時間が経ったのだろうか?もう自分でも数えるのを諦めたきがする。
すると折紙が雷牙の顔に向き口を動かした。
「雷牙、今日一緒に帰れる?」
「え....ま、まぁ帰れるっちゃ帰るけど?」
いきなりすぎて躊躇した雷牙だったが咄嗟のことで応えてしまったが良かったのだろう。折紙と帰っても別になんも不都合なんてある訳ない。あるとしたら白刃ぐらいであろう。でも今回は折紙を家まで送り届けた方が良さそうな気がした。
お人好しすぎるが、それでもいい。幼馴染といれる時間なんて久しぶりなんだから。
「んじゃ放課後終わったら即帰ろうぜ」
「分かった」
雷牙と折紙はお互いの了承を組んだ後一緒に教室に戻ったのであった。
はい。如何でしたか?
今回は区切りが悪かった事でデート直前の所まで書かせて頂きました。
次回からはデート編なので長々とお待ち下さいまし。
さて、狂三の口調あってたかな?自信ないからコメントで感想お願い致します!
因みにとある所で狂三が言っていた言葉があるんですが分かりましたか?
まぁ、それは後々進めば分かるのでもうしばらくお待ちを(2回目)
では次回の投稿でお会いしましょうさよなら!( ´ ▽ ` )/
次回 : 第15話 ショッピング・The・デート
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第15話 : ショッピング・The・デート
あまりにもモチベがなくてやりたいのにやれないという現象に襲われてしまいこの始末です。
この先更新にどれだけかかるのか分かりませんが
なるべく早く更新できるように心がけますので宜しくお願いします。
では、(∩´。•ω•)⊃ドゾー
世界の
その光景はとても神秘的で、無邪気な子供でも遊ぶのをやめて瞳が食いつくぐらいに綺麗で儚いものだった。
だがそれは何回みても常に同じもので、変化は一切ない。
それは彼女自身にも分からない。でも――それでもいい。
分からないのならそれが来た時にだけ考えればいいだけの話だ。
すると日が沈むのと同時に、何処から機械的な鐘の音が鳴り響き始めた。
◇
キーンコーンカーン
2年4組のクラスから聞きなれたチャイム音が響き渡る。
そのチャイムを聞いた生徒達は人それぞれに
現在、午後12時20分。昼休みが入る時間だ。
するとチャイムがなり始めた瞬間まで1人の生徒が机で伏して寝ていたが、生徒達の声で目が覚めてしまう。
「んぅ.......」
可愛らしい声音を鳴らしながら少女は意識を覚醒させ、机から身体を起こした。
周囲を見渡しながら少女は口を開く。
「......もう、お昼なんだ」
少女の髪は雪のような白髪、肌は人並みより白で瞳は日に当たると輝きそうな綺麗な紅い瞳。
白風 白刃。世界を破壊する災厄、精霊と呼ばれた少女であり、今ではこの都立来禅高校の生徒だ。
白刃は腕を上に上げ伸ばし、白い髪を靡かせながら周囲を見渡し声を発す。
「ずっと寝ちゃったな.....」
どうやら4時間目の後半から考え事をしていたら寝落ちしてしまったらしい。
今回の授業の中で分からない所があったので自分で考えて答えを導き出そうと思ったが、身体が許容量を超えたのか分からないが。白刃は自分でも気づかず意識を手放したのだろう。
「初めてだな.....事業中に寝落ちするなんて」
白刃は自傷気味に声を発する。人生初めて寝落ちという現象を味わった。
だが、何故寝落ちしたかは分かる。
授業の疲れもあるが、大体がある程度予想がついてしまう。
いや、忘れてしまっていたに近いだろう。
白刃は自身の机の端に掛けているバックから白色の袋を取り出した。
その袋を取り出すと、結んでいる所に指を掛けてゆっくり引っ張った。
その中身はこれもまた白に近い銀色の弁当箱が入っていた。
そう、つまり白刃が寝落ちした答えがこれなのだ。
昨日の夜、自身の就寝時間を少し削り弁当のレパートリー広げていたのだ。
全く、自分でも馬鹿だと思う。だが白刃はそれでよかった。
彼、雷蒼雷牙が彼女の料理を美味しく食べてくれるのだから。
これを見た彼は何を思うのだろう?呆れるのか、それとも優しく微笑んでくれるのか分からないが。でも少しぐらい自身の睡眠時間を削っても彼は怒りはしないのだろう。
だって――この自虐的だった
だったらその分のお礼を返しても何も罰は当たらないだろう。
そして白刃はいつも一緒にお弁当を食べている雷牙の机の方をみると、雷牙が
「あれ?ライガ?」
白刃は教室全体を見渡すが、いくら見ても先程いた雷牙の姿が見当たらず疑問を抱いた。
だが、別にそこまで深刻に考えなくても大丈夫だろう。
白刃は誰よりも雷牙の事を信用している。
だから直ぐに戻ってくるだろう。そして白刃は気持ちが落ち着きやっとお昼ご飯を食べようとお弁当の蓋を開けようとしたが――
「白刃ー!」
いきなり後ろから声をかけられた白刃は後ろを振り向いた。
そこには夜色の髪を靡かせた夜刀神十香が白刃の机に立っていた。
「どうしたの?十香」
「実はシドーが何らかの用事で一緒に昼餉が食べられなくなったのだ」
十香は少ししょんぼりした顔で白刃に話す。
「だから、白刃と昼餉を食べようかと思ったのだが.....ダメか?」
まるで見捨てられそうな子犬のような顔で十香は白刃を見つめる。 それを見た白刃はニコッと微笑み口を動かす。
「別にダメじゃないよ?私も十香と食べたかったんだ」
白刃はそう言うと十香はにぱぁと明るい顔に戻り声を上げる。
「そうなのか! ならば一緒に食べようではないか!」
「うん」
白刃は頷き。十香の席の方へと自分が作った弁当を持って向かっていき士道の机を借りて座り、再び弁当に視線を戻して蓋を開けた。
弁当の蓋を開けるととてつもない匂いが食欲を唆られる。
その匂いが十香の方に漂うと反応して顔をこちらに向けてくる。
「む?.....こ、これは!?」
十香が白刃の弁当の中身をみると、途端に目をキラキラさせる。
「今日も白刃のお弁当は美味そうだな!」
「いつもありがとう十香」
白刃は少し微笑む。 十香は白刃の料理をみるといつも褒めてくれる。
そう言われると作った甲斐があったというわけだ。
「じゃあ、お昼ご飯食べよ」
「うむ!」
2人は今日あった事を話す。十香の方は最初は士道と摂ろうかと誘ったが用事があると断られ、1人で先に食べていいと言われた。それを話すと十香が突如涙目になったのでちょっと焦った。
だが、白刃も十香の気持ちが十分 分かる。彼女も最初は雷牙と昼食を一緒に摂ろうかと思い雷牙の方へみると何時の間にかいなくなっていたのだ。 でも彼がいなくなったらちょっとだけ心がドクンと少し震えた。
怖かったわけでも驚いたわけでもない。
でも、なんだろう......この感情は一体――
と、少し自分の事を考えていたら十香の所に女子三人組がいた。
確か名前は亜衣、麻衣、美衣。何故か名前が似ているかの縁で仲良くなったらしい。
するとその三人組は涙目になった十香に話を聞いたら情緖不安定なのか怒ったり泣いたりした。ちょっと私には分からない。
少し落ち着いたのか三人組の1人亜衣が自分のポケットから二枚の紙切れを十香に渡してきた。どうやら十香のために人肌脱いでくれたらしい。
だが、ついでがてら十香に変なメモ切れを渡したのはちょっと気になったが気にしなくていいだろう。
その光景を何気に見ていると、ふと白刃はあることを思いついた。
「明日.....ライガをデートに誘ってみよ」
と、白刃は小さく呟きながらゆっくり昼食を摂るのだった。
◇
もう時期夕暮れになり始めそうな空が道端に一緒に歩いて帰っている雷牙とその隣で無表情の折紙を太陽が沈みながら照らしている。
現在――16時。 学校の授業が終わり数々の生徒が下校する時間だ。
道を淡々と歩きながら他校の生徒達が帰宅するのを数秒眺めていた。
だが、それも興味を無くせば前を向く。 ただそれだけの単純差だろう。 その他は道端から度々車が通り過ぎていく。
その流れが数分間続き、やっと目的地にたどり着く。ただそこにポツンと建っている建物を雷牙は見つめた。
その外見は白を基調とした普通のマンションだった。
折紙の自宅だ。 以前、ハーミットの私物が彼女の部屋にコレクションとして保管されていた所でもあった。
だが、今回はそんな事はないだろう。なにせ、今回ここに来たのは折紙を自宅まで送る事なのだから。 これは雷牙が何時でも時崎狂三に襲われても対応出来るように彼女のボディーガードを努めていた。
と、そんな感じに周囲を警戒しながらマンションの扉の前付近まで来て雷牙は止まった。
「じゃあ俺はここで」
雷牙は口を開きながら手を振る。
その言葉に折紙は無表情に声を発する。
「うん。今日はありがとう」
「んな事気にすんなよ。俺が勝手にやったことなんだから」
当然かのように手をヒラヒラと揺らしながら雷牙は笑った。
「.......」
折紙は口を噤んだ。いや、何も言えなかったのかもしれない。 雷牙は気にしなかったがやはり昼休みのことについて負い目を感じているのだろう。
「じゃ、俺はそろそろ帰るわ」
「......うん」
雷牙はそう言うと先程来た道へと歩き出した。
と、帰る最後に足を止め、折紙の方へ振り向き表情を見てみると相変わらず無表情なのは変わらずなのだが、何か言いたそうにしていた。
でも、学校であった事でお互い疲れている。だから今は聞かなくていいと判断した雷牙は再び歩き出そうと足を動かすが――
「雷牙!」
後ろから折紙の声が響いた。それに雷牙は驚き振り向く。
「ど、どした?」
恐る恐る振り向く雷牙だったが、彼女の発した言葉に思考を停止せざる得なかった。
「明日の土曜、私とデートして欲しい」
まるでその場が凍り付く――いや、新しい春が来たかのような感覚に襲われた。
◇
「......」
雷牙は淡々と歩道を歩いていた―― 虚無感を感じながら。
先程折紙に『デートして欲しい』と言われた。何故?何故?今はそんな事はどうでもいい、ただ少し嬉しかった。
あの折紙が自ら誘ったのだから。
「少しだけど
歓喜が胸の中から鳴り止まない。 でもそれでいい、それすら懐かしいと思ってしまう。
「でも、俺はどうすればいいんだ?」
どうして雷牙はこのような事を言うのか、デートに相応しい服が無いわけでも財布が空で払えないとかでもない。
何故なら――詳細が分からなかったのだ。でも、集合時間だけは分かったが、後は分からなかった。
「敢えて教えなかったのか......」
雷牙は頭を悩ませながらやっと自宅に着いた。
「まぁ、それは明日考えればいいか――」
鍵を開け扉を開こうとしたら突如、勢いよく扉が勝手に開いた。
「......うぉあ!」
それに反応出来ず、雷牙は勝手に開いた扉に左手を掴まれ引きづり込まれた。
◇
「ライガ.....遅いな」
雷蒼家リビングのカーテンを閉めながら白刃は退屈そうに呟いた。
学校の放課後に一緒に帰ろうと誘ったが、折紙の体調が悪いから家に送ると言ってから別れて白刃は先に1人で帰ってきていた。
だが、少し心残りなのだ。白刃にとって鳶一折紙という少女は天敵なのだ。幼馴染だからなのかすぐに雷牙の事が気になってこちらに寄ってくる。まるでハイエナみたいに.....でも雷牙はそれを嫌がろうともせずそれを受け入れる、これが幼馴染の特権なのだろう。
ちょっと妬ましい。
だからこそ、今雷牙は折紙に何かされてはいないかとても気になって心配なのだ。 決して卑猥な事はないと思いたいが、彼女だったらやりかねないかもしれない。
「大丈夫だと願いたいなぁ.....」
憂鬱と思いながら家事に取り行おうと思い。キッチンに向かおうと足を踏み締めると、玄関から鍵が開く音が聞こえた来た。
「――ライガ!!」
白刃は玄関から聞こえた音に気づき、すぐさま向かった。
そして、勢いよく扉を開け、その前にいた雷牙の手を掴んで強引に引っ張り。雷牙の驚く声が聞こえるが、今の彼女はそんな事は気にせず自身の胸に抱き寄せた。
そして彼女は口を開く。
「ライガ......お帰り、心配したんだから」
まるで我が子の心配をする母親のようだと胸に抱き寄せられている雷牙は思ったのだった。
◇
「それで?なんで抱きついたんだ?」
白刃に抱きつかれてから数分後。やっと落ち着きを取り戻したのか白刃はリビングのソファーに腰を掛けながら、今キッチンで料理をしている雷牙を申し訳そうに見ていた。
白刃は少し震えた声で口を動かした。
「ライガの帰ってくるのが遅くて......怖くなった」
「怖くなった?」
白刃の言葉に雷牙は首を傾げる。
それにつれて白刃は再び口を動かす。
「ライガが鳶一と今日は一緒に帰るからてっ言ったからとても心配で.....」
「あぁ......」
雷牙は自嘲気味に笑った。
確かに雷牙は今日、折紙を自宅まで送ったが別にそこまでの事はしていない。
だが、白刃と折紙は四糸乃の件があって以来、何時の間にか仲が(元々?)悪くなっていた。
それを白刃は気にしていたのだろう。
雷牙は ため息を零しながら口を開く。
「それは悪かったな。でも、心配はいらないぞ」
「――ほんとに?」
まるで見捨てられそうな子猫のような眼差しで白刃は雷牙を見ると彼は一旦ガステーブルを切ってキッチンから出て、白刃の前に向かうと彼女の頭に自身の左手を置き、撫で始める。
「勿論だ」
雷牙は笑顔でそう言うと白刃に優しく声を掛けた。
と、頭を撫で終わり、そろそろキッチンに戻ろうとしようとするが――
「......ライガ」
「ん、どした――」
後ろを振り向こうと雷牙はしようとしたが、いきなり右手を白刃に引っ張られ、ソファーに仰向けにさせられその上に白刃が乗っかる感じになった。
いきなりだったので少しびっくりしたが怪我はしていないようだ。
「ライガ――」
白刃の声が近くで聞こえる。少しだけだが、息遣いが荒かったように感じる。
だが、その仕草も何故か魅力的で愛くるしく感じてしまう。
そんな事を考えていると再び白刃が口を動かす。
「.....あ、明日.....私と、デートに.....一緒に、行かない?」
頬をほんのりと赤らめながら白刃は言った。
勇気を振り絞って彼女なりに頑張ったのだろう。
「.......ああ、分かった」
雷牙は白刃の誘いを断り切れなかった。罪悪感なのかもしれないが、ここで断ったら白刃の頑張りが無駄になるかもしれないと思ったからだ。
自分の私情がここで出るとは自分もまだ甘い部分があったということだ。
でも、それで良かった気がした。
白刃は雷牙の応えに笑みが溢れて、気持ちが昂ったのか、さっきよりも上機嫌になっていた。
「じゃあ、明日の11時半に天宮駅にあるショッピングモール前に集合ね!」
白刃はそう言うと雷牙から、離れて自分の部屋に戻って行った。
リビングに1人だけ残された雷牙は仰向けになっていた体を起こした。
「まるで嵐みたいだったな......」
雷牙はそう思った。以前の彼女だったらそこまで大胆な行動に出ないと思ったが、三ヶ月でここまで変わるものなのか?と思ってしまう程に白刃は変わりつつある。
多分これが白刃の本質なのかもしれない。
そんな事を考えていたらふと、ある事を思い出す。
『明日の土曜、私とデートして欲しい』
頭の中に彼女の言葉が蘇る。その事で雷牙は脂汗をかいてしまった。
「やべぇ......そういや、折紙とのデートが先にあったんじゃんか......」
自分でも愚かだと思う。約束してる相手がいながら他の子にも約束を付けてしまうとは....あまりにも愚の骨頂だ。
まさに目から出たサビというのこういうことなのだろう。
因みに、折紙の集合時間は午前11時で11時半。
その間の30分で何とかするしかない。流石に<ラタトスク>に協力を仰ぐわけにも行かないのだ。
明日は士道が狂三とデートする日で尚且つ、ここで雷牙が入るとサポートもしきれない状態に陥ってしまう。
ソファーから身体を起こすと雷牙は頭をポリポリとかきながら口を開く。
「明日......1人でやるしかないよな......」
雷牙は明日は2人を楽しく過ごせるよう努力をすると胸に固く誓うのだった。
◇
「.......」
土曜日の休日。大人が子供を連れて歩き、学生は友達か彼女と楽しんでいる中。
雷牙は1人天宮駅前広場にある噴水前で折紙を待っていた。
流石に今日はデートなので、雷牙自身もオシャレをした。
黒と赤の半袖パーカーとその中に紺のTシャツ、下は黒のジーンズで靴はグレーのスニーカー。
あまりこういうのはどうも種類は分からないが多分そうだろう。
と、左手につけてある腕時計を見たら11時を回ったので周囲を見回すと駅の付近にあるエスカレータから以下にも夏服姿の折紙が見えた。
折紙がこちらを見つけると歩きながら駆け寄り口を動かした。
「ごめん。待った?」
折紙が少し困り気味にそう言うと雷牙はニッコリと笑みをしながら首を振った。
「いや、こっちも今さっき来たとこ」
定番の言葉を雷牙は軽々と言って見せた。
少々恥ずかしいがこれも折紙達のデートの為ならプライドが少し削れても容易い。
「さて、今日はどこ行くんだ?」
「映画」
雷牙はきょとんと顔を捻った。
「映画?」
「そう」
「何の?」
「恋愛物」
(いや、ちょっと待てぇぇぇい!?何で、何で寄りにもよって映画なんだよぉぉぉぉぉ!)
雷牙は心の中で叫んだ。まさか、自分が恐れていた事が今目の前で起きてしまったのだ。
映画と言えば上映時間は短くて1時間30分が妥当だろう。
まぁ、これはあくまで噂なのだが、超人気小説が映画アニメ化したものがあったらしくてその映画は最初は1時間だと思っていたが何故か重要な所をすっぽかしてその1時間を30分という2作品に分けてファンを怒らせたとか何とか。
それぐらいの映画時間の方が雷牙にとって嬉しかったものだが、流石に現実はそう、甘くはない。
だが、泣き言は今は言ってられない。これは自分自身で何とかするしかないのだ。
「そ、そっかぁ....楽しみだなぁ」
「なら、早く行くべき」
「え、あっ、ちょ!折紙!?」
雷牙は出来る限りの笑顔で言ったが折紙はそれを半ば無視するぐらいに雷牙の手を握って映画館がある天宮クインテットに向かった。
と、思ったのだが――
「あのー折紙さん?何故自分らはレストランで食事をしているのでしょうか?」
真っ先に映画館に行くと思ってはいたが、先にチケットだけを取りに行ってその後にこのレストランに来た。
「上映までにまだ時間がある。先に軽く昼食を食べておく」
「そうか」
どうやら先走っていたようだ。折紙は少しだけ食べて後は映画館で腹を満たしていくのだろう。
だが、先程折紙から映画館のチケットを渡されて上映時間を見てみたがやはり、1時間は超えているときた。
だが、こちらとしては好都合。まだ40分ある。後の10分で白刃と合流してその後の30分は白刃とデートする。そして、間に合うかは分からないがギリで折紙と映画が見れるぐらいだろう。その後はまたさっきの繰り返しだろう。
よし、完璧だ。
と、折紙の方を見てみると表情では分からないが何か思い詰めてるような感じに見えた。
「なぁ、折紙。何で今日、俺の事をデートに誘ったんだ?」
雷牙がそう言うと折紙は肩をピクッと少しだけ動かし、その後に口を開き始めた。
「今日はできるだけ1人にならないで欲しかった」
「は?」
雷牙は眉をひそめるがそれを構わず折紙は続ける。
「デートが終わったら私の家に泊まってほしい」
「要領を得ないな。一体何をそこまで怯えてるんだ?」
「........」
雷牙は思わず聞いてみることにした。しかし折紙は頑なに答えようとしない。
でも、雷牙は分かっていた。最初は話が分からなかったが
それでやっと分かった。
「もしかして昨日の狂三の事だろ?」
「........」
折紙はコクッと頷いた。
雷牙はやっぱりかとため息をこぼした。
「折紙、お前の気持ちはありがたいが、こっちは大丈夫だ」
「でも、それでは時崎狂三が何時雷牙に襲い掛かるか分からない」
「でももクソもありません。こっちは大丈夫だったら大丈夫なんだよ」
雷牙は流石に折紙には危険な目にあって欲しくはないため引き離そうとしたが、流石の折紙も引くわけにはいかないようだった。
彼女が優しいのは分かってるけど、こっちも引けない理由もある。
「何時もお前には迷惑掛けてるかもしれないけど、俺には俺なりの引けない理由があるんだ。それだけは譲れない」
「その理由は一体なに?」
真っ直ぐな目で折紙は雷牙を見つめる。
その顔は何かを見定めている目だった。
「それは今は教えられない」
「.......そう」
折紙は少し悲しそうな表情をしたが直ぐに元の顔に戻った。
「早く料理を食べないと、冷めてしまう」
「あ、ああそうだな」
何とか切り抜けたのか怪しいがこれで折紙は雷牙を泊める事はないだろう。
そんな事を考えながら腕時計の時間を見ようとすると、時間が2分オーバーしていた。
「(やっべえぇぇぇ!話してたら時間すぎてたぁぁぁ!)」
「雷牙、どうしたの?」
やばい、と雷牙は焦る。今折紙に勘づかれるとマズイので雷牙はどうにかしてきり抜こうと考えた。そして――
「あ、アイタタタタ!や、やばいちょっと朝冷たいもの飲みすぎて腹を壊したかなぁー!」
「大丈夫?」
「大丈夫だからぁ!俺はちょっと時間掛かりそうだから映画館近くのトイレに篭ってくるから折紙は上映時間に戻って来なかったら先に行っていいから!それじゃあ!」
雷牙は腹を壊した真似をしながら店を出た。
急いで白刃の所に行かなかければと思い、全力疾走で雷牙は向かったのだった。
◇
「危ねぇ......ギリセーフだ」
奇跡的にもショッピングモール前にはまだ白刃は来ていないようだった。
少し走りすぎたので近くにあるベンチに腰を掛けた。
「ふぅ.....これじゃあ幸先思いやられるな.....」
そう思うとふと、視界に見慣れた人がこちらに向かってくるのが見えた。
「ごめんライガ!待った?」
どうやら白刃も少し遅れたようだった。でもまぁ、これぐらいの時差なら大丈夫だろうと雷牙は思った。
「大丈夫、俺も今来た所だ」
そう言うと雷牙はベンチから立つと白刃の方を見た。
すると、その方を見てみると白刃の服装がとても綺麗だった。
白刃も雷牙の目に気づいたのか、服を見せびらかすようにクルクルと回って見せた。
「どうかな?」
白刃の服装は白の半袖のワイシャツに白のロングスカート。靴は黒と白のシューズ。 とても魅力的でまるで、映画館にも入ったかのような感覚だった。
「あ、ああとても綺麗だ」
嘘偽りもなく、雷牙は白刃に伝えた。
それを聞いた白刃は少し頬を赤らめながらニコッと笑った。
「.....ありがとう、ライガも似合ってるよ」
「お、おう。そうか.....」
まるで付き合いたてのカップルみたいな光景だが、これが自然なのだろう。だが悪い気はしない。寧ろ、嬉しさが勝っている。
「さて、じゃあ行こうか」
「うん!」
雷牙は白刃にそう言うと歩きだし、白刃はその後ろからついて行った。
「すごい!」
ショッピングモールの中に入るとそこは色々な物品やアクセサリー、食べ物が様々売られていた。
それを見た白刃は目を大きく広げながら周囲を興味津々に見ていた。
雷牙はその後ろを淡々と眺めながら歩いていた。
「ねぇ、ライガ!」
「ん?どした?」
白刃が何かを見つけたのか、雷牙を呼んだ。
そこに向かうとそこはアクセサリーショップだった。
種類は雷牙には分からないが、分かるぐらいだったらミサンガやネックレス、ペアネックレスとかだろう。
白刃がその店の中にある棚を見つめていた。
「ライガ、これはなに?」
「これはペアネックレスだな」
「ペアネックレス?」
白刃が見ていたのは2つが別れていたネックレス中称ペアネックレス。よく、カップルとかが買うアクセサリーだ。
それを白刃は見ていたのだろう。
形としては羽型のようだ。
「これ、欲しいのか?」
「.....いいの?」
どうやら欲しかったようだ。少し気恥しいが、これも白刃のためだ。腹をくくろう。
「ああ。もちろん」
雷牙は羽型のペアネックレスを持って会計に言った。
少し高かったが、偶にはこういうのもいいと思ったのだった。
買った早々雷牙はすぐさま白刃につけるべく雷牙は口を動かす。
「白刃後ろ向けよつけてやるから」
「うん」
白刃は後ろを向いて背中まである髪を上に上げて、ちょうどうなじが見える形になった。
雷牙はそこにネックレスの紐を通してフックで固定させる。
「よし、終わったぞ」
「ありがとう!ライガ!」
ニコッと白刃は笑って見せた。それを見た雷牙は笑みをする。
すると今度は白刃が雷牙の袖を引っ張る。
「ん、どした白刃?」
「私が.....ライガのもつけていい?」
「え、あ、まぁいいけど」
少し戸惑ったが仕方がない。あまりにも白刃が積極的すぎてやばいのだ。
どうしてそこまで好きでもない相手にこんな事をするのか雷牙には分からなかった。
「じゃあ後ろ、向いて?」
「お、おう.....」
言われた通りに後ろを向くと少し、冷たい感触が首筋に当たる。少々こそばゆいが、それは仕方の無い事だ。
「はい、終わったよ」
「サンキュ」
そう言うと雷牙は白刃の方に向くと胸元にさっき雷牙が着けたネックレスが目に入る。そして、雷牙の胸元にもその同じネックレスがあった。
「じゃあ白刃、良かったらつけてみるか?」
「付けるってどうやって?」
白刃はあまりこういうのを知らないので雷牙は手本がてら付け方を見せてみた。
「この片方に窪みとかあるだろ?それをその空いたやつに付けるんだ」
「なるほどね」
だが、雷牙はミスを犯した。このペアネックレスを付ける時は距離がだいぶ近くでやらないとくっつかないと出来ない事を。
それに気づいたのは付けた直後だった。
「......ご、ごめん白刃!!」
「別に....気にしてないよ」
白刃は笑みを浮かべながら雷牙に言う。
「でも、この感じは嫌いじゃないよ......寧ろ、好きかな」
「ッ!?」
白刃の言葉に雷牙は頬を赤く染まってしまった。
「そ、そうかそれなら買ったかいがあったな」
雷牙は自分の表情を隠そうと後ろを向き口を動かした。
「さてと、まだまだあるから次、行くぞ」
「うん!」
雷牙と白刃は再びそのままショッピングモールの中を歩き出した。
だが――まだこれからの事は何も知らずに.........
はい、如何だったでしょうか?
今回は士道達の下りはないです。ご都合主義てっすごいね(汗)
次回は士道達も出ますので( ̄▽ ̄;)
さて、今回はデート編でしたがこれが大変でしてねw
折紙の方はまぁ.....オリジナル要素入れなくてもいいかなぁて思って敢えて入れなかったんですけど、どうしてもオリ精霊が大変でね、<ラタトスク>にも協力を仰ごうてっ言うのもあったけどそれじゃ原作とほぼ同じだし、ややこしく(長く)なるので今回は雷牙君が頑張ってる感じに書きました。
んで、オリ精霊のペアネックレスですが、あんまり意味はなくてただ親密度を高めたかっただけです、すいません。
あ、でもその変わりデアラ民の人には分かるネタはこの話数にありますので是非探してみて下さい。
(見つけてもコメントとか使って怒らないでね?)
さて、次回はアニメだと狂三さんが人を的にする会まで書くつもりでいます。(分けるかもしれないけど)
では次回もサービe.....ゲフンゲフン 次回もお楽しみに!
次回: 第16話: 正義と悪
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第16話: 正義と悪
最後に更新したのが8ヶ月.....もはや半年が経ってしまいました........
やっぱりモチベが上がらないのはどうにかしないといけませんね......(助けて)
因みに私遂に社会人になりました!これで、お金が沢山使えるぞぉ!(フラグ)
さて、前置きはこれぐらいにしといて本編をどうぞ!
「あぁ.......疲れたぁ」
雷牙はベンチに座ってため息を吐いた。
白刃のデートが一段落着き、その後も折紙のデートがあって色々巡ったが
「......ん〜喉、乾いたな」
雷牙はそう言うと財布から200円を出し、丁度近くにあった自動販売機に向かい、そこでキンキンに冷えた緑茶を2つ買って先程座っていたベンチに腰を掛けた。
「ふぅ......」
座った瞬間にペットボトルの蓋を開けると喉に水分を流し入れた。
「.......ぷはぁー!やっぱり夏に冷たいもんを飲むのは最高だな」
デート時、まともに水分補給をする事が出来なかったので喉の中に染み渡る緑茶に歓喜を覚えながら雷牙は、飲み終えたペットボトルを先程の自動販売機にあるゴミ箱に捨てに行こうとした。
だが、そこで途中、ベンチから立ち上がろうとすると視界から人が通り過ぎようとしていた。
だがそれは普通の事で何も気にする必要はない。
しかし複数の人が通る道で小柄な少女が何かに躓いて転んでしまったのだ。
「お、おい!」
周囲は気にする素振りを見せずにそのまま立ち去ってゆく。
それに気付いた雷牙は少女の方に駆け寄った。
小柄と言っても外見はいかにも不健康そうな細い身体に真っ白い肌、そしてボサボサな緑色の髪を持つ。
まるで栄養失調なのか分からないが所々育ち切ってないと思ってしまう程、それぐらい彼女の身体は細いのだ。
「大丈夫か?怪我はないか?」
雷牙は声を掛けるとその声に少女は体をビクッとしながら反応した。転んで下に俯いていた顔を恐る恐る雷牙の方に向ける。
しかし何故だろうか?この少女の反応に少し疑問が残る。
まるで人間自体に恐怖、または人見知りかそのどちらかだろうが、それは分からない。
そう考えていると少女が震えながら遂に口を開いた。
「.......わ、私に声をかけないでくれる?どうせ心配を装って心の中では『うわ、何コイツ道端で転んでるんだダッさー』てっ哀れみの目で見て、笑ってるんでしょ!!」
雷牙は困惑した。この少女は何を言っているんだと。
確かに声を掛けたのは不快に思ったのかもしれないが、その後の被害妄想が激しすぎた。それと彼女から見る雷牙の印象はそこまで良い方ではなかったらしい。
やはり、そもそも良くそんな考え方に辿りつけるのか逆に凄いと思ってしまう。
雷牙は彼女から見ての自分の印象を撤回して貰わなければと思い、口を動かす。
「そんな事思うわけないだろ......」
「いえ、絶対嘘よ!心の中では私の事なんて相当ゲラゲラと笑ってるんじゃないの!?そうよね?こんなチビで誰にも認識されない醜い私なんてそこにある汚れた雑草と思うぐらいだもんね!」
うーん。これは中々骨が折れそうだと雷牙は思った。
この子は随分妄想が激しいようだ。
これでギネスも狙えるのではないかと少しだけ頭を過ぎるがこれは流石に酷すぎる。
一体過去の彼女に何があったのかは知らないが、雷牙は思う。
本能的なのか直感的なのかは定かではないが、ここで行動しなければ何か後悔すると感じたのだ。
雷牙自身が彼女に少し興味があった。それも原因なのだろう。
「......ん?」
ふと雷牙は視界に少女の左足が移り見てみるとそこには血が淀み始めている擦り傷があった。
それに気付いた雷牙は少女の方に近づいたらいきなり手を引いた。
「こっち来い」
「ちょ、ちょっと!え、何!?何よ!」
少女もいきなり雷牙が手を掴んだのに驚き、そのままベンチの方へ行き、座らされた。
流石に少女も警戒心を露わにして、雷牙を睨んでいる。
それでも雷牙は気にせず少女をベンチに座らせると少女の怪我した足の方に膝を付くと、ポケットからハンカチを出して、先程買った2本目の緑茶の蓋を開けてハンカチに染み込ませる。
雷牙はそのハンカチを少女の擦りむいた左足に優しく貼り付けて結ぶ。
「やめてよ、こんな醜い私の足に触るなんて毒が移るわよ!」
「ちょっと黙ってろ」
雷牙の言葉で流石に怖かったのか少女はビクッと震え、押し黙った。
ハンカチが落ちないようにキツく結び終わると雷牙は立ち上がり一息ついた。
「これで一先ず........大丈夫だろ」
そう言うと雷牙は一定の距離を保ちながら少女の隣に座った。
「..........」
少女は今も言葉を発さないが手当してもらった左足を見ながら俯いていた。
「一応、応急処置程度だから何処かで薬を買うか病院でも行きな」
雷牙は少女にそう伝える。だが少女はその返答に応えずそのまま沈黙が続く。
だが――
「......んで.......よ」
「ん?」
「........何で.......手当なんかしたのよ」
「え?」
少女が先にその沈黙を破った。
だがボソボソと言葉発していたので雷牙からは何を言ってるのか分からなかった。
そのせいで少女は遂に顔を赤くし涙目になりながらベンチを立ち上がった。
「何で、私ごときに手当なんかしたのよ!」
呼吸を荒げながら少女は言う。
「周りの人は私が転んでも見向きもせずに歩いていくのに、何でアンタだけは......私を無視しなかったのよ!」
少女は肩を上下に動かしながらそう言った。
「何でって......それは、転んだ子や怪我した子を見過ごすなんてできるかよ」
「そういう事じゃないの!そもそもアンタは私の姿を見てどうして平然といられるの!」
「はぁ?」
真面目な話かと思ったら今度は少女の容姿切り替わった。
その事に雷牙は首を傾げる。
「なぁ、それはどういうことだ?」
「ど、どういうてっ......わ、私、綺麗でもないし.......寧ろ可愛くもないし.......だって汚いし......」
少女は自分に対して自虐的な発言をブツブツと言い始める。
それでも少女の言葉を聞いても雷牙は表情を曇りもせず真っ直ぐ少女の目を見ながら口を動かした。
「そうか?お前、可愛いと思うぞ?」
「――!?」
少女はその言葉に思わず驚いてしまった。そして大きく口を動かした。
「私の......ど、何処のところが可愛いって言うのよ!」
少女が涙目になりながらプルプルと口を震わせて雷牙に問い詰める。
「そうだな......まずその肌だ、その色白差は美白美容液でも塗ってるかのように白い。それとその髪だ。ボサボサなのはクセがあるかもだが、ちゃんと綺麗に梳かしてやればサラサラなツヤがあるものになる筈だ。それは誰にでもマネが出来ない」
「....../////〜」
少女は雷牙の言葉に頬を染めるとその顔を両手で覆い隠した。それを気にせず雷牙は淡々と話を続ける。
「それに――その
「.........」
少女に雷牙は自分が思っていることを話すが、よくよく思うとさっきから恥ずかしい言葉を言っていると気付き始め顔が赤くなっていった。
「べ、別に口説いている訳じゃなくて、俺個人としての感想だから......その......」
先程真顔を貫いていた男とは思わないぐらい取り乱していたが、少し雷牙があたふたしていると、ぷっ、と少女が吹き出した。
どうやら雷牙の慌てた姿にツボったのだろう。
「.......ふふ、アハハ!何よ......それ」
少女は吹っ切れたのかベンチから立ち上がり雷牙の方へ身体を向きながら笑顔で言う。
「ありがとう.......こんな私を綺麗って言ってくれて」
恥ずかしそうに少女は感謝を述べた。 少し恥ずかしかったのか今度は自分の髪を指でくるくると回した。
「またそんな事言って......でもまぁ、さっきより元気になって良かったよ」
「ん.......あんたのお陰よ」
表情が明るくなった少女に雷牙は安心したがその後に少女が何を言ったのかは声が小さくて分からなかった。
「うし、そろそろ俺は友達がいる所に戻るからお前はその足怪我を病院の人に診てもらえよ?」
「わ、分かってるわよ」
もう自分に出来ることはないと判断して雷牙は立ち去ろうとする。 それに折紙と白刃を待たせてるいるのだ。彼女達も心配をしている頃だろう。
「じゃあな」
雷牙は少女に手を振りながら急いで天宮クインテットの方面に走って行った。
「.......」
1人取り残された少女は雷牙が走っていった方を彼が見えなくなるまで見続けた。
「私が綺麗.......ね」
それを呟くと少女は反対の方向の道を笑顔で歩み始めたのであった。
無意識にまた彼に会える事を願って。
◇
「はぁ......はぁ.....はぁ!」
やっとクインテットの近くまで戻って来れたが、少々時間が掛かってしまった。
時間というのは速いで短いのだ。
「アイツら絶対怒るよなぁ.......」
雷牙は2人の怒る姿を頭に思い浮かべながら止めていた足を息を整えながら再び歩みを始める。
すると何処からか鈍い音が響いた。
「何だ、今の音、銃声?」
それは火薬が内部で爆発した音に近い。でも、それだったらここから普通に火薬の臭いはする筈なのに
「まさか......!」
とてつもなく嫌な予感がした雷牙は銃声がなった草木が広がっている方に手を掻き分けながら向かった。
どんどんと進めば進むほど鉄の臭いが雷牙の鼻腔を刺激して来た。
「なんだよ.....これ......」
よく見ると地面には赤黒くまだ新しい血液がべっとりと木に付いていた。
吐き気がするほど視界が歪む。
怖い、その先を見たくない。自分の理性がそう言っている。
でも、この先に何が起こっているのか見なくては自分はなんのためにここまで来たのか分からなくなる。
そんな淡い正義感が彼を動かし最後の草木を退かすとそこに待っていたのは―――
周囲一帯が血みどろになっていてその真ん中には青と白を基調とした機械を身にまとっている少女、崇宮真那とその横には体に空洞を開けられ首には刃物で切られてもう二度と動かない時崎狂三が倒れて死んでいた。
すると真那がこちらに振り向いてきた。
気配を感じたのだろう。
「雷蒼二尉じゃねぇですか。どうしたんです?こんな所で」
真那は軽々と何もなかったかのように雷牙に話し掛ける。
でも、彼女は気づかない。その目の光は消えかかっている事に。
ゆっくりと当たりを見渡しながら雷牙は話す。
「これはお前がやったのか?」
「そうですよ、まぁ何時も同じように殺ってますがね」
「何時も?」
雷牙はゆっくりと口を開くと真那に聞いた。
すると真那は機械の姿から私服の姿に戻り、口を動かす。
「コイツは......ナイトメアは
精霊が死なない?一体それはどういう事だ?
真那は話を進めた。
「何回も私はコイツを殺しました。でも、その翌日には何故か生きていたりしてピンピンとしてるんです。そしたらまたコイツを殺したりの繰り返しですよ」
「........」
実際、想像はしたくない。 こんな幼い少女が同じ相手を殺すのだ、それは自分でも耐えられないだろう。
それを何回も何回も何回も殺してきた。
果たしてこの精霊は何体目なのだろうか?
数々と謎が増えていくばかりだ。
「雷蒼二尉......少し質問をしてもいいですか?」
ふと、真那が悲しい声音で雷牙に聞いてくる。
雷牙は何も言わずに素直に頷いた。
「先程、貴方が来る前に兄様と会いました。雷牙二尉と同じように説明したんですが兄様はナイトメアを殺すのは『間違っている、それじゃあ心をすり減らしているだけだ』と言われました」
兄様、つまり士道も此処に来ていたのだろう今は多分この現状で目を背けたくて逃げたかそれか彼女の
「私にとってそれは唯一の使命なんです。でも、一般人の兄様にはそれは到底理解されないとしても分かっています。でも―――」
空を見ながら真那は薄笑いをして言った。
「兄様の話を聞いて私は思いました。私のやっている事は本当に正しいのだろうかって」
すると彼女は雷牙を見た。彼は見てしまった、彼女の目には光がなかった事に。
すると雷牙は無意識に真那に声を掛けたのだ。
「........なぁ真那、正義と悪の区別てっ分かるか?」
「正義と悪の区別.......ですか?」
「正義ってのは悪人を断罪したり倒したり正したりする事みたいなもんだ一方悪は自分の欲を出して誰かに迷惑掛ける奴だったり人を殺すものだと世間はそう思っているだろうな」
「........何がいいてぇんですか?」
真那は首を傾げながら言うと雷牙は気にせず話を進めた。
「要するに正義と悪は一体何処の誰が決めるんだ?人か?世間か?政府か?んなもん誰にも言われる筋合いはないんだよ」
「.......」
「お前は兄様、士道に言われて迷ってしまっているだけだ。そんなの関係ねぇだろ兄弟でも自分が思っている事に口出しは出来ないんだから!!」
「――!!じゃあ、どうしろっていうんですか!真那は......兄様に間違ってるって言われたんですよ!唯一の兄に!」
真那は混乱していた。何が正しいのか何が間違っているのか今まで分からなかった。誰にも否定や訂正されずにただ、そこにある使命だけに囚われてその他の事は蔑ろにしていた。
もうわけが分からなくなったのだ。それは現実逃避に近いのだろう。
「だったら、迷うなよ!自分が正しいってんなら迷わず、貫き通してみせろよ!」
「――!?」
この時真那は彼の大声に驚いてしまった。
でもなんだろうか、少し気持ちが和らだ気がした。
「俺が言いたいのはそれだけだ、後はせめて自分で答えを見つけるんだな」
そう言うと雷牙はこれ以上真那と話しても無駄と判断して彼女の言葉も聞かずに天宮クインテットを後にした。
「はぁ......何やってんだろ」
自分が思った事を全部吐き出したのはいいが、あとから恥ずかしさが混み上がった。
それを理解しながら雷牙はやっと天宮クインテットの入口付近に着いた。
「時間掛けすぎちゃったな.......」
そんな独り言を呟きながら辺りを見渡しながら身体を震わせる。
彼女達を大分待たせてしまったのだ覚悟はしておいて損はない。
そう思っていると目の前から今まさにこれから会おうと足を運ぼうとしていた白風白刃と鳶一折紙が一緒に歩いていた。
彼女達も雷牙に気付いたのかハッと肩を震わせこちらに駆け寄ってきた。
「ライガ!大丈夫!?」
「いままで一体何処に行っていたの?」
2人に先程自分が何をしていたのかを軽く説明して納得させるように話した。
「ま、そんな感じだよ。あんま気にすんな」
そんな軽々しく雷牙は話を流そうとする。しかし、少女2人はそんな雷牙を見て何処か無理しているというのだけは分かった。
逆に口には出さず、ただその表情を見ていた。
正直、何か言えばいいのだろう。
でも、今の彼に投げ掛ける言葉は見当たらなかった。
「ごめん、今日のデート楽しかったのに雰囲気壊しちゃって」
雷牙は悲しそうに2人に言う。 白刃と折紙は元々は別々に雷牙とダブルデートをしていたが、雷牙が帰ってこないことを察して天宮クインテット付近をくまなく探した。
でも、いくら探しても彼自身が見つからない。
そんな不安感を抱きながら目の前が見えなかった2人は互いにぶつかり、今に至る。
「大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけだからね気にしないで」
「私も大丈夫。白風白刃自体が居るのは不本意だけれど」
そう折紙が言うと白刃は眉を歪ませ少し頬をムッとし、睨むと折紙も対抗するかのように彼女も白刃を睨む。やはりこの2人は相変わらず仲が悪いようだ。
「悪いけど少し1人にさせてもらっていいか?」
唐突に雷牙が口を開くと2人は互いに睨むのを止め、すぐさま彼の方に顔を向ける。
「ライガ......」
「........」
2人も彼の心中を察した。 何も言えなかった。いや、言えるはずがない。
これは彼なりの責任なのだろう。
何も出来ずにただのうのうと楽しく日常を過ごしていたのが。
それは関係ないと切り捨てられるだろう。でも、彼はそれすら赦せない。 無自覚だが彼も何かと士道と似ている所はある。
先程真那に語った善悪の価値観についてもそうだ。
勝手に決め付けて、押し付けて重荷を増やそうとした。
彼女自身を助けたかった......少しは心が楽になればいいと思いながら彼なりの言葉を彼女に届くように......結果は分からないが真那自身も何か心境が変わったのかも分からないた。ただ自分がすべき事は果たした。後は彼女が何をして変えていけばいいだけの話だこれ以上は何もしなくていい。
「大丈夫だよ、少し散歩してくるだけだからさ」
そう言うと雷牙はじゃっと手を上げ彼女達から離れて行くように去ろうと歩き出そうとしたが、突如に2人から左右の手を掴む。逃げないように、強く。
「ど、どうしたんだよ2人とも?」
彼女達の表情は見えないが、少し肩が震えているのは分かる。
けど、今の雷牙は一刻にも離れたかった。 この気持ちがわからないけど早く離れたかった。
「ねぇ.......ライガ」
いままで黙っていた白刃が震えた声で名前を呼んだ。
「私ってそんなに頼りない? 何も出来ない?」
彼は振り返りもせず口を閉ざしたまま白刃の話を聞く。
「辛かったら辛いって言ってよ相談して欲しいなら話してよ!」
珍しく感情を表に出す彼女は驚いた。それほど雷牙を心配している事が分かる。
また、彼は同じ過ちを繰り返したのだ。何回目だ?
すると折紙も口を開く。
「私にも話して欲しかった。精霊に対しては嫌悪感が傷めないけど何か出来るはず」
彼女もまた、復讐の為に感情は置いてきた筈なのに......今回だけはその声と瞳だけは震えていた。
まただ――俺は何回、彼女達を傷付ければいいんだ?
傷付いて欲しくないのに自分自身が彼女達を傷付けている。 これじゃあ矛盾も甚だしい。
自分が嫌になる。
「........ごめん」
雷牙は2人の手を振りほどきながら再び歩き出し白刃と折紙は彼の姿が見えなくなるまで見続けた。
翌日。白刃は琴里に呼び出され衝撃を受ける。
「........雷牙が消息不明になったわ」
「――え.........」
それを聞いた白刃は膝から崩れ落ちた。視界が真っ黒になるのを感じながら、下を向きながらひたすら否定していた。
あれぇ?うちのオリ主メンヘラすぎない?気のせい?
まぁ高校生でも精神的にはまだ成長しきってないから仕方ないよね?(震え)
というか雷牙君どこいったのぉ!?
それに、あの緑の子誰よォ!
とまぁこんな感じに巫山戯ながらやってますが、本当に更新遅れてごめんなさい......頑張って完結には持ってくので!
PS.最近ゆゆゆにハマったので小説と漫画(資料集)が手に入り次第書こうか検討中〜(本当に書くか?)
次回: 第17話:彼の時間
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