TSロリエルフの稲作事情 (福岡の深い闇)
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目指せ米の街、オラリオ

センター試験爆死したので初投稿です。
こっちは気休め程度に、配信者が煮詰まったら書こうと思います。

やっぱロリは最高だぜ!!(現実逃避)


米が食べたい。

リリアは、この世界に生を受けてから数え切れないほど抱いたその願いを今日もまた、心の中で呟いていた。彼女がその眠たげな瞳で見つめるのは、風光明媚な新緑の森。魔力に満ちた空気は木々によって浄化され、心地よい森の香りを孕んでいる。そんな彼女の前に並べられているのは色とりどりの野菜達。サラダをメインに数々の料理が並べられたそれにちらりと視線をやり、リリアは表情を変えることなく、人知れず心の中でため息をついた。

 

(ああ……米が食べたい。いや、別にサラダ美味しいけどね。文句があるわけじゃないんだけどね。でもね、でもね……米が食べたい)

 

とは言え、ここで米が食べたいのだと近くに控えている()()()に言っても意味のないことである。……というより、彼女は既にそれを試していた。結果は空振り。「コメ……とは、なんでしょう?」という付き人の言葉に落胆を覚えただけであった。味は文句なしに美味しいため、リリアは願望を隠しつつ、もしゃもしゃとサラダを食べ始めた。

自分たちに食べられるためだけに専用の畑で育てられた野菜達は、この森の清浄な空気と豊富な栄養をたっぷりと吸って育っており、瑞々しい葉のシャキシャキとした食感や、果実の程よい酸味が舌を刺激して心地よい満足感をリリアに伝える。メニューはどうしても野菜中心になりがちなためにボリューム不足が否めないが、そこはまあ、慣れだ。

これまた自分たちのために栽培された紅茶を飲み、ふう、と1つ満足げなため息をつくリリア。そう、満足はできるのだ。というより、ここまで自分のために作られた料理に文句をつけるなど余程の傍若無人な者でなければ出来ないであろう。なにせ、彼女は日頃の()()の一環として自らの食事やその材料を作っている者たちの様子を見て回っているのだ。彼ら彼女らの、自らの作った食材や仕事に対する誇りを見れば、余程食べられないものが出てこない限り文句を言う気にはなれないというもの。

しかし、それとこれとは別なのだ。

食事を終え、下げられていく食器達を静かに見つめながら、リリアはゆったりとしたローブの裾の中でぐっと小さな手を握った。この世界に生を受けて早10年。自我の芽生えていなかった3歳ごろまでならまだしも、それからの7年間は忍耐の日々であった。

野菜中心の食生活に不満を抱き(その後の視察で考えを改めた)。

米が存在するかを確かめれば近辺では存在すら見受けられず(付き人を困らせるだけであったのでしばらくして止めた)。

かと言って日本人の魂である米を食べる事を諦めきれる訳もなく。……そう、何を隠そうこのリリア、転生者である。それも、現代日本から異世界に転生するという今流行りの「なろう系」の。転生先は《ウィーシェの森》というエルフが作っている集落の王族(ハイエルフ)。いわゆる「勝ち組転生」という奴である。美男美女溢れるエルフ達に傅かれ、()()()()と大切に育てられる日々。少し窮屈すぎるきらいもするが、それ自体に不満はなかった。それよりも「こんないい暮らしをしてたら後が怖いな」と思えるくらいには現在の生活に満足していた。

ただ2点「転生前との性別が違う」という点と、「この世界に米が見当たらない」という点を除けば。

性別が違うのは、まあいい。ようは慣れと覚悟の問題だ。7年も時間があれば自分の性別が女である事を理解はできる。王族ということもあって、将来は政治的な結婚をするのであろうこともまあ、覚悟はできる。

ただ、米よ。お前の姿が見当たらない事だけは物申したい。一体なんなんだ、この日本人に優しくない異世界は。というか植物全般を食べるエルフであれば稲作文化の1つや2つ持っていてもおかしくはないだろう。そこんところどうなんだ自称《森の人》。

何故だ、なぜ稲がないのだ。稲があれば、即座に輸入して稲作文化を王族特権で根付かせて見せるというのに。

リリアは前世では米を大層好いていた。それこそ、稲刈り体験などのイベントに参加し、収穫したての米を口いっぱいに頬張って至福のひと時を過ごすくらいには。しかし、彼女の前世は一介の学生。米農家ではないから稲を輸入しても田んぼを作るにはどうすればいいのか、まず苗を作るにはどうすればいいのか、といった稲作の基本知識がまるでなかった。米の品種は言えるがそれがどんな生育条件で、どんな特徴を持っているかなどはさっぱりわからないし、唯一ある知識は昔某農家アイドル番組で見た良い種籾の識別方法(塩水につけるやつ)だけだ。

 

要するに「食べ専」であったのだ。リリアは。

 

「……むう」

 

コツコツと、磨き抜かれた大理石で出来た廊下を歩きながら、リリアは米について思いを馳せる。今の彼女は、米への愛はあるもののそれを形にできるだけの技術や知識が欠けている、そんな状態だった。

どうしようかな。でももう米は無いっぽいしな。諦めるかな。いやいやでも日本人としてそれは……うーん、お米食べたい。

最近のリリアは常にそんな事を考えていた。そのため、日頃から眠たげに細められた瞳は更に考えが読みづらくなり、周囲の者達からは「自分たちには考えの及ばない崇高な事を考えていらっしゃるのだろう」と何やら勘違いをされていた。そんな事はない。彼女の頭の中にあるのはこの世界ではまだ見ぬ米と数々の米料理のことだけである。

 

そんな事を考えながら日々の活動を終え、部屋に戻ってきたリリア。ぽすんとその小さな体を豪奢な天蓋付きのベッドに預け、黄金色の稲穂溢れる思考の海へと沈んでいく。内容はいつもの如く「お腹いっぱいお米を食べるためには」である。

異世界転生という胸躍る体験をしたリリアであるが、米が無いのならば彼女にとってその魅力は半減する。彼女にとって米とは魂そのものであり、それがない世界というのはライスのないカレーの様なものだ。それはただの美味しい茶色いスパイシーなシチューだ。それはそれでありなのかもしれないが、というか一回厨房でそれを作ってみたことがあるのだが、彼女にとっては米の欲求をただひたすらに高める自殺行為にしかならなかった。

などと、意味のない思考がぐるぐると頭の中を回っていく。そうやって時間が過ぎること暫く。

 

「リリア様?リフィーです、入ってもよろしいでしょうか」

「……ん、はいっていいよ」

 

そんな声とノックが聞こえ、リリアが許可を出すとガチャリと開いたドアから1人の少女がリリアの自室へとやってきた。美形揃いのエルフの例に漏れず、かなりの美少女であった。1つに纏められた亜麻色の髪は艶やかな光を帯び、大きめの翡翠のような澄んだ緑色の瞳は愛嬌のある表情を顔に与えている。体つきはスレンダーながらも、全体を見れば文句なしの美少女エルフであった。彼女の名前はリフィーリア・ウィリディス。リリアの付き人を務めるエルフの1人にして、リリアが生まれた時からの付き合いである幼馴染でもある。もっとも、彼女の年齢は15歳で、10歳のリリアに比べたら遥かにお姉さんなのだが。

 

「……あー、また着替えずにベッドに潜り込んで。衣装がシワになるからやめて下さいって言ってるじゃないですか」

「ごめん、つい」

「ほら、立って下さいリリア様。水浴びに行きましょう」

「うん」

 

リフィーの小言に謝罪を返しつつ、リリアは彼女に連れられて水場に来ていた。リリアが住まう屋敷は丁度片仮名の「ロ」の字を描くような形であり、その中心には霊樹を中心に数々の木々が植えられた小さな森が作られている。その更に中心に位置しているのが、この王族専用の水場である。そこでは微精霊達が集い、夜になると仄かに光を放ち幻想的な空間を作り上げている。

リリアは、高価な絹の布をふんだんに使った高級なローブをリフィーの手を借りて脱ぎ、生まれたままの姿になると、何度か水を体にかけた後、ぱしゃぱしゃと音と水飛沫を少したてながら水場へと入っていった。物心ついたばかりの頃は慣れなかったこの水浴びも、今では慣れたものだ。霊樹や微精霊の魔力、もしくは木々の生命力に影響されているのか、仄かに温かい水に浸かって身を清めるリリア。

水音を立てて掬われた水が彼女の真っ白な肌を濡らし、滑り落ちる。見る者によっては良からぬ事を考えそうな程に、その光景は艶やかであり、神秘的であった。

 

(やっぱり、王族の方は何をやっても絵になるなあ……)

 

リフィーは、まるで絵画の一枚をそのまま切り取って来たかのような目の前の光景を見て、ほうっとこれまでで累計何回になるかもわからないため息を漏らした。見目美しいと言われるエルフ、その中でも、リリアの美しさは(中身の残念さとは裏腹に)際立ったものであった。

少し癖のある豊かな銀髪は、まるで魔導銀(ミスリル)を溶かし込んだかのように淡い蒼色を帯び、この世に存在するありとあらゆる宝石にも遅れを取らないであろう瞳は美しい瑠璃色に煌めいている。その肌は身を包む絹よりも白く滑らかな手触りであり、神が理想の人形を作り上げたらこうなるのであろう、と思ってしまうほどに整った顔立ちであった。要するに、リリアはこのウィーシェの森において一番の美人であるのだ。今はまだ幼い年頃ということもあって、美しさよりもあどけなさや可愛らしさが優っているが、今のリフィーと同じ年頃になれば、きっと神ですらも放っておかないほどの美女となること間違いなしだと彼女の姿を知る皆が噂しているのをリフィーは知っていた。

学区を卒業し、里に戻って王族の付き人という職についたリフィーは、最初こそ親に言われるがままに道を選んだ自分とは違う道に進んだ妹のことを羨んだものの、リリアと過ごす日々のうちに、そんな想いは消えていた。元々幼い頃から面識があったことに加え、久しぶりに会った彼女の美しさに心奪われたのもある。

 

「リリア様、そろそろ上がって下さい。就寝の時間ですよ」

「……ん、いまあがる」

 

ちゃぽん、と小さな音を立てて水場から上がって来たリリアの体を、リフィーが手に持った布で優しく拭いていく。そして僅かに湿り気を残すのみとなった髪を布で包むと、リリアに夜着を着せていく。無抵抗に、まるで人形のようにリフィーの指示に従って着替えていくリリア。周囲の者からは深い叡智を湛えていると評されるその瞳の奥では、

 

(やっぱ東だよ。極東の国とか探せば絶対米は見つかるはずなんだよなあ……でもなあ、水田作るスペースが無いし、そもそも里の金は自分が好き勝手するための金じゃ無いし……そもそも、極東がどこらへんに存在するのかも知らない状態で行動するのは危険だよなあ)

 

相変わらず米の事しか考えていなかった。

そして、元来た道を戻り、大理石の廊下を進み、自室に戻ったリリア。「お休みなさいませ」と綺麗なお辞儀を見せていたリフィーにおやすみと返すと、扉が閉まると同時にリリアはベッドの側に魔石灯を置き、ベッドに横たわってとある本を開いた。題名は「迷宮都市オラリオについて」。先日、極東の国について調べようと屋敷の書庫を探している時に見つけたものだ。エルフの基本に違わず他種族嫌いらしい彼らが持っていた、エルフの里以外のことが載っている本、という事でリリアはこっそりと書庫から持ち出していた。……手法はここでは秘密としておく。

日々王族の義務としてエルフの講師から英才教育を受けているリリアだが、どうにもこの世界の地理については教えて貰えなかった。どうやら地理についての知識を知った挙句、里を出奔してしまった王族が過去に存在するらしい。その王族の出身地はこの里では無いらしいものの、それから王族の出奔を防ぐために地理の知識は大雑把にしか与えられず、政治的に付き合いが必要な国の名前や特産品、国家元首の名前などを教えられるのみであった。この事を教えてくれたのは他でも無いリフィーで、彼女の妹の知り合いがまさにその「出奔した王族」の方であるらしい。

とはいえ、米以外の事はだいたい「へー」で済ませるリリア。自らを縛っているというエルフの教育事情については特に不満を抱いてはいなかった。そもそもこの里を出るつもりが彼女には無く、ここでの生活を彼女なりに気に入っているのも理由の1つにあった。しかし、外の情報が知れるのであれば知りたいと思うのがヒトの性というもの。書庫でこの本を見つけたリリアは、毎晩ワクワクしながらこのエルフの里以外の詳細な知識を吸収していった。

 

「ふむふむ……あまたのかみのおりたつまち、おらりお、ね」

 

その本には、作者がこの本を書いたきっかけをはじめとする前書きののちに、オラリオの大まかな概要が書いてあった。

 

—————その街は、世界で唯一「迷宮」が存在する円形の都市。大陸の最西端に位置し、都市は堅牢かつ巨大な市壁に囲まれており、外周ほど高層の建築物が多く、中心ほど低層となり、中心部にはバベルが聳える。また、神が下界に姿を見せ始めた後、神々の多くがこの地に居を構えたことで神の恩恵により人が成長する絶好の場となり、世界中を見回しても他に類を見ないほど高みに到達する者が多く、武力においても世界最高峰の大都市である。

 

「へー……なんか、ライトノベルのぶたいみたい」

 

概要を読んだリリアはそう呟いたが、実際その通りである。

 

—————都市内は、その中央から8方位に放射状のメインストリートが伸びており、東のメインストリートには闘技場、西には多数の飲食店、南には大劇場や大賭博場などの施設がある。南東のメインストリートに沿って歓楽街が栄え、北西のメインストリートは冒険者通りと呼ばれ、ギルドの本部をはじめとして武具屋などの冒険者関連の店が軒を連ねている。また、都市内はメインストリートで分けられた八つの区画で構成されている。都市外は、その東部方向に草原が広がっており、セオロ密林の先にアルル山脈が連なり、その先は大陸中央に繋がる。北部方向には天然の山城であるベオル山地がそびえ、南西方向に港町メレンが位置し、南東にはカイオス砂漠が広がる。

 

「……名前もきいたことのない地名がいっぱいだ……」

 

おおう、と頭を抱えるリリア。ここに来てエルフの教育方針の弊害が出ていた。地名が分かっても自分の現在地や目的地の方向が分からなければそれはその場所を知らない事と同義である。

しかし、そうやって頭を抱えた瞬間。彼女の脳裏に、凄まじい勢いで1つの仮説がたてられていった。

 

「神様がいっぱい、神様はなんでもできる、つまりお米のさいばいほうほうを知ってる神様がいるかもしれない……?」

 

ぺたん、とベッドの上に座り込むリリア。コツコツという見回りの衛兵の足音を聞き、魔石灯の灯りを消して、急いでベッドのシーツの中に潜り込むリリア。見回りの衛兵が部屋の前を過ぎ去っていったのを静かに確認してから、リリアはベッドから抜け出し、ポツリと呟いた。

 

 

 

「よし、里をぬけだそう」

 

 

 

エルフの英才教育、完全敗北の瞬間である。

思い立ったが吉日。こういう時に無駄な行動力を発揮するリリアは、ブツブツと何事かを呟くと、ガチャリとドアを開けて館の廊下へと出ていった。

 

 

 

 

 

「リリア様?……リリア様?入りますよー?」

 

そして、翌日。

いつもの如くリリアを起こしに行ったリフィーは、いつもなら返事が返ってくるはずが返事が返ってこなかったことに違和感を感じた。しかし、珍しく寝過ごしたのだろうと思ったリフィーは、特に何を思うでも無く扉を開け、リリアの部屋へと入っていった。そして、予想通りベッドにできた膨らみを見て微笑み、ゆっくりと近づくと激しくはないものの一気にかけられていた布団を剥ぎ取った。

 

「ほら、起きてくださいリリア様。いい朝です、よ……?」

 

そして、ピタリとその動きを止めた。

彼女の視線の先にあったのは、リリアと同じくらいの大きさに丸められた布の塊。何処から持って来たのか分からないその布の上には、羊皮紙に共通語(コイネー)で書かれた置き手紙が1つ。

 

《オラリオに行ってきます。暫くしたら戻ります。—————リリア》

 

その端的な文面が指し示す事実は、つまり、つまるところ。

 

「…………きゅぅ」

 

ばたん、とリフィーがうつ伏せに倒れこむ。運良くベッドの上に倒れ、頭を床で強打するという事態は避けられたが「王族が里を出奔する」というとんでもない事態を理解しきれなかったリフィーには少しの救いにもならないことであった。やがて、不審に思った衛兵が目を回してベッドに倒れこむリフィーリアと姿の見えない部屋の主人に非常事態だと察し、館がにわかに騒がしくなるのであった。

 

 

 

 

 

そして、そんな里のてんやわんやなど知る由もないリリア(ゲスロリ)は。

 

「……すぴー」

「……オレは、こういう時どうすればいいんだ……?」

 

ガタゴトと割と激しめに揺れるオラリオ行きの乗合馬車の中、新緑に染め抜かれた高級そうなローブに身を包み、恐れ多くも見知らぬ強面の男に思いっきり寄りかかりながら健やかな寝息を立てていた。寄りかかられた男はその強面を困った様子で歪め、周囲を見回すが、彼に有用な助言をくれる者はついぞ現れなかった。

 

 

 

 

 

これは、少年が歩み、女神が記す眷属の物語(ファミリア・ミィス)、ではない。

強さを求め続ける少女と、その眷属の物語、でもない。

迷宮に挑む冒険者たちの、輝かしい栄光の物語、でもなく。

それを支える者たちの、隠された過去や事情の物語、でもない。

 

 

 

ただ米が食べたくて、ただそれだけの為に世間を騒がせる事となった、傍迷惑な幼女の物語だ。

 

 




読了ありがとうございました。
感想とか誤字指摘とか設定間違ってるとことかあったらその指摘とか……してもいいのよ?(上目遣い)


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リリア、オラリオに立つ

あー……前置きが長いんじゃあ……

さっさと開墾から稲作スタートさせたいのに稲作情報を得るまでが長い……

次は配信者更新してからやな……次は開墾まで行けるはず……


「では、行ってきます」

「ああ、よろしく頼む」

「お任せください」

 

力強く頷いたリフィーリアに、王族の1人であり、またリリアの父であるレオナルドが安堵した様に表情を緩ませる。その後ろでは、リフィーリアの家族や彼女と同じく屋敷に勤める付き人たち、そして議会の上方の者たちがこちらをじっと見つめていた。

ウィーシェの森。そこは、見目麗しいエルフが住まう風光明媚な《エルフの里》の1つ。魔法技術に優れたエルフが育つと言われ、澄んだ空気と清水、そして新緑に包まれた森によって住まう者の心が癒されるとされるその里は、現在重苦しい空気に包まれていた。その原因はもちろん、先日発作的にこの里を出奔した馬鹿娘(リリア)だ。緊急会議が開かれ、「あの子が自分の意思で物事を行うなんて……」と若干ズレた事で感涙するリリアの母ライザリアを宥めるレオナルドの号令の下、今日という日を迎えた。

すなわち「リリア回収大作戦」である。

何故リリアがこの里を出奔してしまったのか。その理由は(彼らにとっては幸運な事に)解らないが、幸いなことにリリアの残した置き手紙には「オラリオに行く」という文言が書かれてあり、目的地を特定することは容易であった。しかし彼女はエルフの教育方針によって地理的な知識がほとんど与えられておらず、更には日頃箱入りな生活を送っていたために貨幣の価値や使い方を理解しているのかすら怪しい。そのため、リリアが本当にオラリオにたどり着けるのかどうかは怪しく、道中に(たむろ)する魔獣たちに襲われでもした日には戦闘力のない()()()彼女など立ち所に食われてしまう事間違いなしだ。

その為、一通りの護身用の技術を身につけ、更には語学にも堪能なリフィーリアをオラリオに護衛兼迎えの使者として派遣し、道中におけるリリアの痕跡の探索、また道中かオラリオにてリリアを発見した場合の説得、回収を行うという作戦だ。

近隣に出没する魔獣の革でできた軽装の鎧を纏い、ウィーシェの森の者である事を示す紋章付きのローブを羽織ったリフィーリアは、真剣な顔つきで、王家や議会、そして家族たちの見送りを受けていた。彼女が跨るのは、この森で一番の名馬。半日で千里を走破するという駿馬であり、この度の探索において重要な役割を果たす事となった。

 

「……ハッ!!」

 

リフィーリアが手綱を引き、馬が走り出す。ドドドッ、ドドドッというリズミカルな馬の脚音とともに瞬く間に小さくなっていく彼女の背を見つめながら、レオナルドは何度抱いたのかもわからない疑問を、重苦しく呟いた。

 

「何故だ……何故、我が娘はこの里を出奔したのだ」

 

……思えば、あの子が笑っている姿を自分は見たことがあったのだろうか?あの子はいつもあの美しい顔に表情を浮かべることなく日々をどこかつまらなさそうに過ごしていた節がある。あの子が何を感じ、何を考えてこの様な暴挙に出たのか。自分には一つもわからない。そうレオナルドは考えていた。

リリアが何を考えているのかと言えば、米のことである。

 

「私は……あの子に無理をさせ過ぎてしまったのだろうか」

 

確かに米を我慢するという無理はしていたが、それ以外は特に何の問題もなかったし、寧ろ彼女はこの生活を気に入っていた。それに彼がリリアに命じて行わせていた勉学の量はかつての彼女の前世(がくせい)の時に比べれば半分ほどの量でしかなく、また内容も歴史系以外の教科は彼女が前世で一度学んだ内容がほとんどであったために大した負担にはなっていなかった。

要するに米のために彼女はこの里を出奔したのだ。

 

「娘の気持ち一つ理解できない私は、父親として失格なのかもしれんな……」

 

あんな米キチ(リリア)の思考回路など理解できなくて当然である。寧ろあの米キチが見かけ上まともな王族(ハイエルフ)として振舞えていただけ、彼の采配の手腕は見事だったというしかない。

 

「神よ、どうか、我が娘の安全を守ってください……」

 

そう言ってレオナルドは静かに目を閉じ、祈った。

その姿は、事情を知っている者からすれば控えめに言って聖人であった。

 

 

 

 

 

「ついた」

 

所変わって、迷宮都市オラリオ。

乗合馬車に乗ること2日。この世界で唯一の存在である《迷宮(ダンジョン)》が存在する、活気溢れるこの街に米キチ(リリア)は辿り着いた。……無事に辿り着いてしまった。

その身に纏うのは鮮やかな緑色に染め抜かれた王家の紋章付きのローブ。金の縁取りがされたフードを深く被り、キョロキョロと忙しなく視線を行ったり来たりとさせる彼女は、側から見れば完全な()()()()()()であった。

てくてくと、メインストリートを歩いていくリリア。様々な人種が老若男女関係なく歩いている光景は、ウィーシェの森では見られなかったものだ。店先で客引きをするガタイのいい店主達、品物を冷やかす冒険者達、そして「ペロ……この匂いは、ロリ!!」「エルフっ子じゃねアレ」「ロリエルフ……だと……!?」などと世迷言をほざく変態(かみ)共。オラリオでしか見られない光景の物珍しさに感動していたリリアは「おーい、そこのローブのキミ!」とよく通る高い声をかけられ、その声がした方へと振り向いた。すると、その視線の先には何やら前世でいう縁日などで軽食を売る屋台の様なものがあり、長い黒髪を二つに結わえた少女がこちらに向けて手を振っていた。どうやら先程の声の主は彼女であり、リリアは彼女から呼ばれていたらしい。リリアがその売店の前へと向かうと、その少女がその愛らしい顔に笑顔を浮かべ、嬉々として声をかけてきた。

 

「そこのキミ、小腹が空いていないかい?」

「……えっと」

「小腹が空いているなら、この《じゃが丸くん》とかどうだい?蜂蜜クリーム味とか小豆クリーム味とか塩味とかあるよ!」

 

なんだ、その妙なクリーム推しは。リリアは首を傾げるが、見る感じコロッケと思わしき目の前の食べ物と、少女の纏う不思議な雰囲気に唆されてそのじゃが丸くんなる食べ物を買うことにした。買うのは……まずはシンプルに、塩味。こういう食べ物は、変に冒険すると痛い目を見ると相場が決まっている。冒険はしないことが一番なのだ。

 

「……えっと、じゃあ塩味を下さい」

「まいどあり!」

 

そう言いながら塩味らしいじゃが丸くんを差し出してきた手のひらに、入れ替えで袋から取り出した金貨を置く。単位は《ヴァリス》と言うらしいこの金貨は、どうやら日本円換算で1ヴァリス=10円程の価値らしい。リリアは乗合馬車でとなりに座った親切なドワーフのおじさんから色々と教えてもらっていた。要介護生物(リリア)に絡まれた彼には合掌である。

そうやって支払いを終えたリリアの耳に、少女がそっと口を寄せた。そして、リリアに向けて囁く。

 

「キミ、見たところここに来たばかりみたいだし、身なりからして結構いい所の子なんだろうけどさ。……もう少し堂々と歩いた方がいいぜ?何たってここは《神の街》だ。自由気ままな神にちょっかいをかけられたく無ければ、どこかの神の子になるべきだ。そう……ヘスティア・ファミリアとかね!」

 

そう言ってバッ!と両手をあげる少女。その勢いで外見年齢の割に豊満な胸が押し上げられ、制服らしいエプロンを押し上げていた。おおっと元男としての残滓により胸を注視してしまうリリア。そして、こてんと首を傾げて口を開く。

 

「……その、ファミリアって、何ですか?」

「そこからかい!?」

 

ギョッとした顔でリリアを見やるツインテールの少女。彼女の驚きを示すかの様にツインテールも心なしかみょんみょんと動いている。しかし、当のリリアは相変わらずののほほんとした雰囲気のままじゃが丸くんを見つめていた。そんなリリアの浮世離れした様子に、少女は頭を抱えて唸りだす。

 

「う〜〜〜ん……まずい、まずいぞぉ、オラリオの知識のないままこの子をこの街に放したら絶対面倒ごとに巻き込まれる、そんな女神(おんな)の勘がビンビンと反応している……でもなあ、ボクはまだバイトの時間中だし、休憩には少し時間があるし、そもそもこの後はへファイストスの所でバイトだしなぁ……そうだ!」

 

少女は何がしかを思いついた様で、ポンと手を打った。その前では、まだ自分の他に客のいない事をいいことにじゃが丸くんをぱくぱくと食べるリリアの姿があった。少女はリリアの手を取ると、眠たげな彼女の瞳をじっと見てこう言った。

 

「いいかい、キミはこれから《バベル》に行くんだ。ほら……あのでっかい白い塔。分かるかい?」

「……あ、はい。あのでっかい塔」

「そうだ。そこでここオラリオに関するレクチャーを受けるといい。……多分お金は取られないと思うから、安心して受けて来たまえよ。受付の人に《エイナ・チュール》というハーフエルフの子を呼び出してもらって、ボクの名前を出せば邪険にはされないはずだから」

「エイナさん、ですか」

「そう!」

 

こくん、と小さく頷いたリリアに笑いかける。なぜだろうか、目の前の要介護生物(リリア)を見ていると庇護欲が湧いてくる。……何というかこう、目を離しているとすぐに死んでしまう赤ん坊を見ている様な気分だ。そんな印象をツインテールの少女はリリアに抱いていた。

あながち間違ってはいないのがこのリリアの恐ろしい所である。

 

「……分かりました。えっと、教えてくださってありがとうございます」

「なーに、困っている子を見つけたら導いてあげるのがボク達《神》の下界での仕事さ!この道をあっちにまっすぐ歩いていけば着くから、迷う様な事はないと思うけど。いざとなったら大声を上げて誰かに助けを求めるんだよ、いいね?」

「はい……え、神様?」

「それじゃあ、もし会うことがあればまた今度!ボクの名前はヘスティアさ!ボクのファミリアに入りたければいつでも大歓迎だぜ!!」

 

そこで新たな客がやって来たため、2人は別れることとなった。「まいどあり!」という神ヘスティアの声を背に、リリアは彼女から貰った情報に従って白亜の塔へと向かうことにした。行儀悪くもじゃが丸くんを食べながら歩き、オラリオのメインストリートを進んでいく。

じゃが丸くん(塩味)は、中々に美味しかった。コロッケの様に見えたが、実際は「じゃがいもに衣をつけて揚げたもの」の様な感覚であり、中はよく火が通ってほろほろで、じゃがいも本来の甘みがじんわりと口の中に広がっていく。少し粉っぽいため、水が飲みたくなるのが玉に瑕ではあるが、我慢できないほどではない。少し味がもの足りなくなって来たと感じたら、付け合わせの塩をパラパラと振りかければ良い。程よい塩味がじゃがいもの薄味に丁度いいアクセントとなって、飽きを感じさせない美味しさとなる。……味を例えるならアレだ、マク○ナルドのフライドポテト。

ヘスティア、ヘスティア神かぁ……

リリアは、先ほど出会った「ヘスティア」と名乗った少女の事を考える。彼女がヘスティアの名を騙っている可能性もないとは言えないが、あの人間離れした美貌と抜群のプロポーションは女神と名乗っても違和感のないものであった。何より、彼女の纏う雰囲気はどことなく清浄なものであったように感じる。

ヘスティア。竈の神。元はギリシャ神話のゼウスの姉であり、彼の前で生涯純潔を誓った処女神でもある。正直蛮族の集まりと言っても過言ではないギリシャ神話の神達の中ではハデスと並ぶ神格者(じんかくしゃ)で、自らの権威は大切ではなく人の家庭と生活の礎となる炉の火を見守れればそれで良いと、オリュンポス十二神の座を神デュオニソスに譲ったともされる程。彼女はその生まれた経緯から最も若く美しい見た目であるとされ、その為あの見た目(ロリ巨乳)であると言われれば納得せざるを得ない。

因みに、なぜリリアがヘスティアの事を知っていたかというと、彼女が「竈の神」だからである。コイツの知識は基本的に米にしか結びついていない。

 

「……む?」

 

そんな考え事をしていたリリアは、ふと懐かしい気配を感じた様な気がして、周囲を見回した。

そして。

 

「あ、あれは……」

 

彼女は見つけた。見つけてしまった。

 

「はーい!パエリア一人前お待ちニャ!!」

「……パエリア、だと……!?」

 

獣人と思われる店員の女性が運ぶのは、パエジェーラと呼ばれる一風変わった形をしたフライパンに盛り付けられた()()()()。スペイン発祥の()()()。そう、米である。苦節約7年。エルフの里では手がかりすら見つける事ができなかった米料理が、今目の前にあった。感動に打ち震え、残りのじゃが丸くんを一息に腹へと押し込むリリア。もう彼女の頭の中にはバベルの塔の事や神ヘスティアの事など欠片も残っていなかった。彼女の頭の中にあるのは、目の前の米の事だけである。

食べなくては。

リリアはそんな使命感に襲われ、迷う事なく先ほどパエリアを提供していた飲食店《豊饒の女主人》へとふらふらと入っていった。

 

 

 

 

 

「いらっしゃい……ニャ……?」

 

豊饒の女主人。迷宮都市オラリオにおいて冒険者達からの絶大な人気を誇るこの酒場で働くクロエ・ロロは、稼ぎ時である夜の営業よりはのんびりしている昼の営業中にやって来た1人の客を見て、思わず眉根を寄せた。ギギ、と扉を開けて入って来たのは、フードを深く被った小柄な者だった。フードのシルエット的にはエルフなのだろうか。だとすると、年齢と外見が釣り合わない小人族(パルゥム)とは違い、ある程度育つまでは人間等と同じ様に成長するエルフの子供だという事になるが。

 

(たーまにいるんだよニャあ……度胸試しだかなんだかわかんないけど、ウチを冷やかしに来るガキンチョ……)

 

冒険者が集まる酒場という性質のせいだろうか。たまに何か勘違いした悪ガキ共が度胸試しの様な感覚で店内へと入って来ることがあった。他の客の迷惑にしかならないので、武闘派の店員達やボスのミアが脅して出て行かせているのが現状だが、それでも来る者は来るのだ。

少し脅して追い返すか。

クロエはそう決めると、スタスタとそのフードの人物に向かって歩き出した。キョロキョロと興味深そうな様子を見せるそのガキの様子に、冷やかしであるという確信を深くするクロエ。そして、近づいて来たクロエに気がついたのか、彼女の方を向いたフードのガキに、クロエは比較的絞った殺気を向ける。

 

「あー、そこのガキンチョ。ここはお前の来る様なところじゃな」

「パエリア」

「……ニャ?」

「パエリアを下さい。……あそこの、男の人が頼んでいる様な」

「……ニャ?」

 

が、フードのガキンチョは自分が向けた殺気など気にも留めず、そんな事を言ってのけた。客……か?クロエは咄嗟にそう考えて漏らしていた殺気を引っ込めた。料理を食べて金を払うのなら、たとえガキでも立派なお客様だ。クロエは「んー……」と少し唸ると、まあいいや、と思考を放棄してフードのガキを席へ案内する事にした。とりあえず、なにが起きても大丈夫な様に厨房に近い場所へと座らせる。自慢ではないが、生粋の裏世界の住人であった自分の殺気を受けて動じないのだ。ならば目の前のガキンチョも自分と同類である可能性が高い。

そう考えたクロエは、いつも通りの様子で、しかし注意はフードのガキから離さない様にして厨房へと注文を伝えに行った。

 

そして、出来上がったパエリアをテーブルに持っていくと。

 

「申し訳ありませんでした……!」

「あ、あの、頭を上げて下さい……」

「え、えっと、リュー?」

 

端的に言ってカオスな光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

目の前で土下座しかねないほどに申し訳なさそうに頭を下げている同族(エルフ)のつむじを見つめながら、リリアは困惑していた。

時間は少し前に遡る。米を食べる為に喜び勇んで入店したリリアは、猫耳を生やした黒髪の女性店員に連れられて席へと座り、今か今かと米料理の登場を待ちわびていた。ちなみに、彼女は米を食べられるという興奮でクロエの殺気に気がついていない。彼女にとっては自らの命の危機すらも米の前には霞んでしまう。

……率直に言って馬鹿である。

そんな、今にも歌い出しそうなほどに幸せそうなフードのガキ(リリア)に待ったをかける人物がいた。豊饒の女主人で働く店員の1人、リュー・リオン。夜の営業に向けた買い出しから帰ってきた彼女は、一緒に買い出しに行っていたシルと共に接客へと向かい、そしてリリアを発見した。見目麗しいエルフである彼女は、手に持った銀の盆をフードを被ったままのリリアの首筋あたりにひたりと添えると、底冷えのする声で彼女に声をかけた。その後ろでは、シルが焦った様な声を上げている。

 

「失礼、そのローブはどちらで?」

「ちょ、ちょっとリュー!?」

「え?……普通に家から持ち出したものですけど」

 

「抜かせ」

 

ギチッ、と盆を握る手に力が篭る。リューはその瞳に怒りを湛えながら静かに目の前のリリアに告げる。

 

「そのローブ、その紋章は我らが同族(エルフ)の王族のみが身に纏うのを許されるもの。里から出ることの無いそれを所持している貴女は一体何者ですか」

「……いや、えっと、その。王族(ハイエルフ)なんですけど……」

 

パサリ、とフードを下ろし、その人間離れした美貌を露わにするリリア。

……まさか思うはずもないだろう。この街で有名なハイエルフであるリヴェリアという例外を除き、基本エルフの里から出ることの無い彼らが、お供の1人も付けずにこんな酒場にやって来ているなど。それも、米料理を食べにやって来ているなど。普通の人間ならリューの様にローブの盗難を疑う。

これはひどいという他ない状況で、リューが取った行動は迅速かつ明快だった。フードを取った彼女の美貌、そしてハイエルフ特有の気品のある雰囲気に、目の前の彼女が王族であると理解したリューは、自分の冒険者としてのステイタスを全開にした速度で頭を深く下げた。

そして、クロエが見たカオスが広がるのであった。

 

「……あー、なんかあったのかニャ?一応頼まれた料理、持ってきたんニャけど……」

「あ、ありがとうございます……えっと、その。あまり気にしないで下さいね」

「ほ、ほら、リュー。この方もそう言ってくださっていることだし、顔を上げないと」

「いえ、顔を上げるなど滅相も無い……!!」

「マジでなにがあったんだニャ」

 

困惑した様子でそう呟くクロエ、なんとも言えない表情で謝罪し続けるリューをなだめようとするシル。そんな彼女達を苦笑いで見つめるリリアの脳内は、

 

(あー……パエリアが目の前にあるのに食べられない……つらい……)

 

相変わらず米の事しか考えていなかった。




信じられるか、ヘスティア様の出番これで終わりなんだぜ……?
現在の時間軸としてはリューさんが超倫理リリルカサッカーをしていた後の事です。
気が立っていたからね、しょうがないね(適当)

エルフの里に関する情報が少ないのでオリ設定マシマシとなります。ハイエルフとエルフの違いも王族かそうで無いかの違いでしか無いみたいですし、フードを被っていればエルフっぽいという印象しか受けないと思うんです(ガバ弁護)

読んでくれてありがとうございます、感想誤字報告嬉しいです。
では、また。


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オラリオの郊外で愛を叫ぶ

米ディ!!!(挨拶)

〜おととい〜
おいら「さーて日刊ランキングどれくらい上がったかなー、さっき42位だったから30位くらいに上がってるとうれしいなー」

日刊ランキング「日刊2位やで」

おいら「ファッ!!!?!?!?」


というわけで初投稿です。
いや、ホントこんなガバガバ小説が好きだなんてみなさんも物好き……あっごめんなさい謝りますからブラウザバックしないで。

今回はオリファミリアが登場します。あと米に関するオリ設定マシマシです。ガバもな。
それではどうぞ。


「しっかし、変な奴だニャあ……」

 

クロエは目の前でモグモグと口を動かす幼女を見つめ、そんな感想を漏らした。

あのカオスな光景からしばらくして。クロエの予想通り、厨房からのっそりと姿を現したミアからこってりと絞られたリューは落ち込んだ様子ながらも接客に戻っていた。それでも時々チラリとパエリアを食べるリリアを確認しているため未だに振りきれた様子は見えない。まあ当然だろう。いくらリリアが米に関すること以外は基本的に気にしない米キチであるとはいえ、王族に対して不敬極まりない態度をとってしまったことに変わりはないのだ。むしろ気にする様子もなく「……えっと、私は大丈夫ですので」とだけ言ってからパエリアを食べ始めたリリアが異常なのだ。

小さな顔に見合った小さな口を開けてパエリアをパクつくリリア。その動作は流石王族と言ったところか。スプーンの扱いから水を飲む動作まで全てが絵になり、気品に満ち溢れていた。リリア自身も久しぶりの米料理と言うことで厳かに食べていることで、より一層気品のある食事風景となっていた。パエリアを厳かに食べるというギャグかと言いたくなるような状況ではあったが、リリアの外見とその身に纏う真剣なオーラがその手のからかいをするのを躊躇わせていた。

こうして勘違いは加速していくのだ。罪な馬鹿娘である。

 

(これが、この世界でのパエリア……うん、おいしい。味が少し濃い目な気がするけど、地域の特色ということなら気にならない程度だし)

 

リリアはそんなことを考えながら黙々とパエリアを食べ進めていく。子供用に量が少し減らされているとはいえ、冒険者向けの店ということもあって基本的にこの店の料理はボリューム満点なのだが、リリアは久しぶりの米ということもあって構うことなく食べ進めていく。

そして。

 

「……ごちそうさまでした」

 

リリアは遂にパエリアを完食した。ぱち、と手を合わせ、食後の祈りを捧げる。

海が近いのか、それとも海産物をどこからか輸入しているのか。通常よりも大きめの海老がパエリアを彩っており、プリプリとした食感と旨味の染み込んだ芳醇な香りが共にリリアを楽しませる。主役の米も、上に乗った蓋代わりの具材から託された旨味をしっかりと吸い上げて米本来の甘味と見事な調和を醸し出している。パプリカと思わしき黄色い野菜などの他の具材も、その少しの苦みや酸味で米と海老だけでは単調になりがちな食感にアクセントを加え、量が多いことを感じさせない飽きの来ない仕上がりとなっていた。

総じて言えば、三ツ星である。

リリアは満足げに微笑み、食後の水を飲みながらこの店のパエリアにそう評価を下していた。

かなりの上から目線である。

 

「美味しかったです」

「ん、それはよかったニャ。ミア母ちゃんのご飯はオラリオ1だニャ」

 

そして、傍らにいたクロエにそれを告げる。クロエもまんざらではない様子で、そう言ってパエジェーラを下げる。そしてリリアのもとへ戻ってくると、手のひらをリリアに差し出して言った。

 

「さ、金を払うニャ。合計550ヴァリスニャ」

 

さて、どう出る?クロエは差し出した手のひらを見つめるリリアの顔を注視しながらそう心の中で呟いた。ここで金を払うのを渋るようであれば、このガキは冷やかしよりも悪質な無銭飲食をしたのであり、ミアからのキツい折檻の後に働いて飲み食いした代金を返すことになる。ちょうど今厨房で皿洗いをしている冒険者のように。たとえ彼女が暴れて抵抗したとしても、この店の店員は殆どがランクアップ済みの元冒険者である。速攻で取り押さえられ、折檻の度合いが酷くなるだけだ。

いや、まじで死ぬ目に遭うから暴れるとか蛮勇の極みだニャ。

クロエはかつて一度だけ見たことがあるミアの本気の折檻の様子を思い出してぶるりと震えた。

あの冒険者、ホントに生きてるかニャ。そう考えてしまうほどの折檻……いや、暴力であった。

 

「はい、どうぞ。……あの、金額合ってますか?」

「ん、ああ。ぴったりだニャ。安心するニャ。おみゃーは折檻を免れたニャ」

「はい?」

 

ジャラ、と重たそうな音をならす袋からヴァリス金貨を取り出すリリア。駆け出し冒険者の一日の稼ぎ、その約半分ほどの値段を躊躇うことなく支払える辺り、王族らしく金は持っているらしい。

ピン、と受け取ったヴァリス金貨をエプロンのポケットにしまうと、クロエはこちらを心なしかキラキラとした目で見つめるリリアに気がついた。何かまだ用があるのだろうか、と首をかしげるクロエに、リリアはワクワクした表情でクロエに問いかける。

 

「あの、質問があるんですけど」

「ん?なんニャ?シルのスリーサイズなら本人に聞いた方が早いニャ」

「……クロエ?」

「じょ、冗談に決まってるニャ!?だからその振り上げたお盆を下ろすのニャ、シル!?」

「この店の食材をどこで仕入れているのか、教えてもらってもいいですか?」

 

わたわたと怖い笑みを浮かべるシルに弁解するクロエの様子などお構いなしに告げられた米キチからの質問に、クロエとシルは顔を見合せ、そしてリリアの方を見た。

 

「……それを聞いてどうするのニャ?まさかおみゃーが飲食店やる訳じゃなさそうニャし」

「まあ、答えるとするなら《デメテル・ファミリア》の直営店ですけど……」

「デメテル……豊穣の女神ですか。なるほど。ありがとうございます」

「え、あ、ちょっと。質問に答えるニャ!」

 

ガタ、と音を立てて立ち上がり、再びローブのフードを被って店の外へ出ようとするリリア。クロエが彼女にそう声をかけると、彼女は一度だけこちらを振り向いて、無駄にキリッとした表情で一言だけ、

 

「私には、やらなくちゃいけないことがあるんです」

 

と言い、そのまま店を出て行った。

ちなみに、やらなくちゃいけないこととは当然、稲作の為の知識を学習することである。しかしそんなことは知る由もない豊饒の女主人の店員たち。シルとクロエは一様に首を傾げ、リリアの言葉の意味を考えていた。……無駄な努力である。

 

「やらなくちゃいけないこと……?」

「なんか、すっごい変な客だったニャ」

「シル、クロエ。立ち止まっているとまたミア母さんから叱られますよ」

「叱られてたのはリューの方だニャ」

 

うーん、と唸っていた2人に注意しに来たリュー。しかしクロエからの反論を受けて、心なしか憮然とした表情を浮かべる。そしてチラリと周囲に視線を向け、リリアが店内にいない事を確認すると、少し焦った表情で2人に質問した。

 

「……ところで、あの王族(ハイエルフ)の方はどちらに?」

「さっき店を出て行ったニャ。なんかウチの食材の仕入れ先とか聞いてきたのニャ」

「あれ、でもあの子……直営店までの道、知ってるのかな?」

 

クロエとシルからの返答を聞いてますますその顔に焦りを浮かべるリュー。リリアは曲がりなりにも王族、貴い身分の者だ。見目麗しい事この上ない王族(ハイエルフ)が1人で無事にこの店に着いた事自体が既に奇跡に近い幸運な事であると言うのに、護衛の一人もつけずに再び街へ繰り出した……?それでもしあの悪名高いアポロン・ファミリアや、イシュタル・ファミリアなどに目をつけられた日には……

まずい。非常にまずい。

リューは脳裏に最悪の事態を思い描き、背中に走った悪寒に思わず身震いした。そしてすぐさま厨房で料理を作っていたミアの下へ向かうと、少しの会話の後にシル達の方へと早足で戻ってきた。

 

「すみません、少し抜けます」

「ニャ!?突然何があったのニャ、リュー!?」

「リュー、追いかけるなら急いだ方がいいよ。あの子、多分道に迷うと思うから」

「はい」

 

そして、暫く店の仕事を抜ける事を伝えると、なるべく音を立てないように、しかし素早くドアを開けて外へ飛び出した。ギィ、と軋みをあげながら揺れるドアを見つめ、顔を見合わせてからシルとクロエは未だ店内で食事を楽しむ家族連れの客の下へと笑顔で向かって行った。

そして、その後は特に変わった事もなく、豊饒の女主人はリューが抜けたまま昼の営業を終えた。

 

 

 

 

 

「……ハッ」

 

てかりかりーん。

そんなSE(サウンドエフェクト)がしそうな程、なにかを感じ取った表情をフードの下で浮かべるリリア。豊饒の女主人で久しぶりの米を食べ、気力も体力も空腹も満タンな彼女は今……絶賛迷子になっていた。

店を出てから僅か数分の出来事である。だが、自分が迷子になったという自覚は無いリリアは、自分の直感の赴くままに歩みを進め始める。

デメテル・ファミリアの直営店とやらに行けば米の生産者の事が分かるかもしれない。そう考えた彼女は、ひとまずその直営店に向かおうとして、そして自分がその店へ向かうための道筋を聞き忘れていた事を思い出した。……どうしようか。そう考えた彼女は、思考の果てに凄まじい方法を思いついた。

 

(感じる……これは、米の気配ッ!)

 

ンな訳ねえよ。

思わずそう突っ込んでしまいそうな事を考えながら明らかに裏道と思わしき道を進んでいくリリア。……そう、彼女が思いついた方法というのは「米の気配を辿っていく」というスピリチュアルなものであった。下手すると、いや、下手しなくてもオラリオでの破滅ルートを最速最短で突っ切るような暴挙。今の彼女は久しぶりの米の摂取により浮かれきっており、オラリオの治安の事など頭の中から吹き飛んでいた。目を離すとこのように自分から死へと突っ込んでいく要介護生物(リリア)は、エルフの里から出てはいけない人物ナンバー1であった。

自分を見る浮浪者の視線など物ともせず、ただ自分の米レーダーに感知された気配に向かって一直線に進んでいくリリア。その足取りは堂々としており、道に迷った果ての所業だとは思えない程に洗練された歩みであった。

そして。

 

「……おおぅ」

 

リリアの目の前に、一軒の家屋が現れた。

複雑な裏道を抜け、大通りを横切り、路地を更に行った先。恐らくこのオラリオの端に位置するのであろう壁の近くに建っていたその家屋は、リリアにとっては懐かしくも見慣れない純和風の建物であった。藁葺きの屋根はその積み重ねて来た年月によってか日に焼け、黒く染まり、しかし雨風をしっかりと凌げるのであろう重量感を見る者に伝える。そしてその屋根を支えるのは白い壁と木枠で出来た壁。窓はなく、木枠に取り付けられた障子が採光の役割を果たしている。庭は広く、鯉と思わしき魚の泳ぐ小さな池の側にはリリアと同じ背丈ほどの小さめの石灯篭が置かれている。

まさに日本人が想像する「田舎の日本家屋」が、リリアの目の前に広がっていた。

 

「……おや、こんな辺鄙なところまで来るなど珍しいな。エルフの子よ」

「……貴方は」

 

思わずぼうっと目の前の家屋を見つめていると、彼女の背後から低い男性のものと思わしき声がした。振り返ると、そこには黒々とした豊かな髪と髭を蓄えた1人の男の姿があった。

首には翡翠の色をした勾玉や石が連なった首飾りをしており、服装は質素な白い無地の貫頭衣の様なもの。その手には折りたたまれた荷台のようなものが握られていた。一言で言えば、日本神話に出て来る男神のような見た目である。

しかし、リリアはその服装ではなく、彼の全身から発せられる気配に畏れを抱いていた。

 

(この人……全身から、溢れんばかりの米の気配を感じる……!!)

 

米キチ、ここに極まれり。リリアは自分の米レーダーにビンビンと反応する目の前の男性に本能的に跪いた。王族(ハイエルフ)としての威厳など糞食らえだとでも言うような見事な跪き方に、目の前の男性は驚いたように声を上げる。

 

「よい、よい。別にそこまで堅苦しくなる必要などないぞ、エルフの子よ。私はここではしがない神の1人。そして神としての力は粗方封じ込めている。それほどの敬意を向けられるほどの存在ではない」

「いえ、貴方のその全身から溢れ出る清浄な米の気配。敬意を払わないなど私にバチが当たります」

「……ふむ?」

 

小首を傾げる男神。そんな彼の様子など御構い無しに、リリアは跪いた姿勢のまま畏れ多くも、と前置きして言葉を発する。

 

「貴方の御名をお教えいただけないでしょうか、神よ。我が名はリリア・ウィーシェ・シェスカ。エルフの里の1つ、ウィーシェの森出身のしがないエルフの1人にございます」

 

この王族、ごますりに全力である。

この世界に生まれてから初めてであろう全力の敬語を用いたその言葉に、男神は1つ頷くと厳かに口を開いた。

 

「む、そうだな。名乗られたのならば名乗り返さねばなるまい。……我が名はアマツヒコヒコホノニニギ。長い為、我が眷属をはじめとする者たちにはニニギと呼ばれている」

「貴方が神かッ!!」

「突然何をしている!?」

 

男神の名を聞いた瞬間。リリアはそう叫び、同時に地面に倒れ伏した。膝を畳み、腕を伸ばし、額を地面に擦り付ける。

極東の国に伝わる最上級の敬意・謝意を示す動作DOGEZAである。このロリエルフ、王族としての自覚やプライドはウィーシェの森に置いてきてしまったらしい。それはそれは見事なDOGEZAを見たニニギは、驚愕の声を上げながら目の前で唐突に五体投地を始めたリリアを助け起こした。それでまた「助け起こされるなど畏れ多い!!」と叫び勢いよくDOGEZAに移行しようとする馬鹿(リリア)

しかし、彼女がこのような態度をとるのにはある理由があった。

彼女が最大級の敬意を向けるニニギ、アマツヒコヒコホノニニギは、日本神話における《天孫降臨》において日本に降り立ったとされる神の1柱である。武神や相撲の神と名高いタケミカヅチらが、国津神であるオオクニヌシらに働きかけて行った《国譲り》を受けて降臨した彼は、祖母であるアマテラスの神勅の1つによって、神の住まう高天原から稲を現世に持ち込んだという。

……つまるところ、彼は「米の始祖」である。米キチが敬意を抱くのは必然と言える。

 

「と、とりあえず中に入れ、何か私か、私の眷属に用があってきたのだろう?それならば話を聞こ」

「神の在わす場所に立ち入るなど畏れ多いッ!!」

「絶妙に面倒臭いな!?」

「あら、ニニギ様?どうされました?」

「ああ、千穂!良いところに。この子を中に入れてやってくれ。何か用があるようでな」

 

その後、ニニギと彼の眷属の1人であるミシマ・千穂が協力してぎゃーぎゃーと喚く馬鹿を家の中にかなり強引に家の中に連れ込み、事態は事なきを得た。

 

 

 

一方、その裏では。

 

「……ふう」

「ぐ、あ……」

「畜生、バケモノめ……」

 

リリアが通っていた裏道、そこに屯していたガラの悪い連中を一掃し、連戦に次ぐ連戦で息を吐くリューの姿があった。

すぐに追いついたリューだったが、先ほどの失態を気にしすぎた結果声をかけるタイミングを見失い、結果このようなシークレットサービスじみた事を行うことになった。そして、すぐさまリリアが向かった道の先へと向かうリュー。その先で彼女が見たのは、ニニギ・ファミリアの拠点に入って行くリリアとニニギ、そして千穂の姿であった。オラリオではあまりその名を知られていないファミリアの一つだが、ニニギ自身は善神として名高い。彼らの下で保護されるのであれば少しは安心出来るだろうか。

いや、やはり自分もしばらくは見張りについていたほうがいいだろう。王族を守る戦力は多ければ多いだけ良い。リリアは何かしらのトラブルに巻き込まれているのだと考えられる、ならば元アストレア・ファミリアの冒険者として、陰ながらであっても彼女を守りきらねばなるまい。

……ミアからのお叱り(あとのこと)は、後で考える。

頑張れ、リュー・リオン。

強く生きるのだ、リュー・リオン。

彼女の戦いは、まだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

「……んで、だ」

「ニニギ様、まーた犬猫拾う感覚で子供連れてきたんですか?しかも今度はエルフだし」

「いや、この子は少し違うのだが……」

「とりあえず、頭を上げたら?リリアちゃん」

「いえ、畏れ多いです」

 

そして、しばらく経って、夜。

ニニギ・ファミリアに保護され、オラリオに放り出されることがなさそうなことを確認したリューは去り、それと入れ替わるようにニニギ・ファミリアの冒険者たちが帰ってきた。齢15から17ほどの2人の少年と1人の少女からなるそのパーティは、玄関を開けるといつものメンバーに追加で見事なDOGEZAを披露するリリアを見て、そんな感想を漏らした。

リリアの隣では彼女と同じ年頃の千穂が困った表情でDOGEZAし続ける彼女に声をかけていた。そんな千穂を見かねてか、ニニギは少しだけ神威を解放してリリアに話しかけた。

 

「……リリアよ」

「はいッ!!」

「顔を上げよ、でなければ話ができないであろう?」

「承知しましたッ!!」

 

その言葉を受け、ガバッと勢いよく顔を上げるリリア。「ひゃあ!?」と驚いた千穂を同情の目で見つめ、ニニギは神威を収めてからリリアに再び声をかけた。その後ろでは、リリアの容姿の端麗さに驚いた眷属達が息を呑んでいる。

 

「それで、用は何だ?随分と私に敬意を持ってくれているようだが、私は特にエルフに語られるような神話はなかったはずなのだが……」

「米を愛する者として、ニニギ様を敬わないなどということは出来ませぬ」

「……あー、うん。なるほどね」

「エルフって米好きなのか……」

 

誤解である。

リリアの言葉に納得の声を上げるニニギの眷属達。何を隠そう、ニニギ・ファミリアはオラリオの外にて田地を拓いており、オラリオ唯一の稲作を行なっているファミリアである。ニニギ・ファミリアの米と言えば知る人ぞ知る名米で、農作物関係の商業系ファミリアとして名高いデメテル・ファミリアに卸しているほどの品質だ。

ならば、他の極東系ファミリアの構成員のようにニニギに対して敬意を持ってもおかしくはない……のか?ニニギ・ファミリアの眷属達は揃って首を傾げた。

 

「それで、用というのはですね。……私めに、稲作について教えて頂きたく存じます」

「……ほう、米を作りたいと?」

「はい」

 

しっかりと頷いたリリアの目を見て、ニニギは1つ溜め息をついた。

この小娘、嘘は言っていない。米が好きだという言葉は嘘ではないし、その言葉には米への愛がこもっていた。しかしこの小さな体で米作りという重労働をこなせるとは思えない。それを理由にここで教えられないというのは簡単だが、そうすればこの小娘がどう行動するかが読めない。……ならばいっそのこと自分のファミリアに入れて面倒を見るのが一番か……?何か、放っておくとすぐに死んでしまいそうな小鳥のような印象を彼女からは受ける。

実際には小鳥のように繊細なのではなく、その米にしか興味を示さない性質から地雷を踏み抜いても気が付かずに地雷原を突っ切りだすだけなのだが、そうとは気が付かないニニギであった。

そして。

 

「……では、私のファミリアに入るか?」

「……えっと、その。ファミリアとはなんでしょうか?」

「知らずにここに来たのか!?」

「端的に言うと神の眷属、または家族だ」

「なります」

 

リリアの言葉に驚いたように声を上げる眷属を他所に、ニニギとリリアの会話は進んでいく。ニニギの眷属というフレーズを聞いて一瞬でファミリア加入を決めたリリアは、ふと思い出したように懐を探ると、ジャラリと重たい音を立てる皮袋を畳の上へと置いた。

 

「えっと、入会金です。お納めください」

「いや、別に金はいらん。……と言うより、ファミリアに入ると言うのなら、私への過剰な敬意はやめなさい」

「……分かりました」

 

少ししょんぼりとした表情で金の入った袋をローブの中にしまうリリア。そんな彼女に、ニニギは手を差し出した。

 

「ほら、握手だ」

「……はい?」

「これから私達は家族となるのだ。この場にいる者達は皆、お前の仲間だ」

「……なかま」

「そうだ」

 

そう呟いたリリアは、すっと立ち上が……ろうとして、畳の上に崩れ落ちた。長時間のDOGEZAで足が痺れたのだ。焦った様子でリリアの肩を支える千穂に「ありがとうございます」と告げてから、リリアはその場で頭を下げた。

 

 

 

「今日から、よろしくお願いします」

 

 

 

その挨拶に、眷属達は皆困惑気味ながらもパチパチと拍手を送る。

ニニギはリリアのこれからについて思いを馳せ、遠い目をしながらも新たな眷属の誕生に笑顔を浮かべていた。

こうして、エルフ達の心配を他所に世にも珍しい稲作エルフの生活がスタートした。




【リリア・ウィーシェ・シェスカ】
所属 : 【ニニギ・ファミリア】
種族 : エルフ
職業(ジョブ) : 第一王女(現在は出奔中)
到達階層 : 無し
武器 : 《霊樹の枝》
所持金 : 101450ヴァリス

【ステイタス】
Lv.1
力 : I0
耐久 : I0
器用 : I0
敏捷 : I0
魔力 : I0

《魔法》
【スピリット・サモン】
召喚魔法(サモン・バースト)
・自由詠唱。
・精霊との友好度によって効果向上。
・指示の具体性により精密性上昇。

《スキル》
妖精寵児(フェアリー・ヴィラブド)
・消費魔力(マインド)の軽減。
・精霊から好感を持たれやすくなる。




【装備】
《王家の紋章付きローブ》
・最高級品。
・ウィーシェの森の最上級機織が作成。
・防御力は無いに等しい。

《霊樹の枝》
・最高級品。
・ウィーシェの森、王族の屋敷中央にある霊樹が自然と落とした枝の中で最も大きな枝。大きさは15センチ程で純白。
・魔力との親和性が高く、精霊にとっても心地の良い居住地。
・現在は彼女の出奔に力を貸した《火の微精霊》《風の微精霊》《土の微精霊》《水の微精霊》が宿る。


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エルフ従者は稲作の夢をみるか?

米ディッ!!(迫真)

日刊ランキング一位達成しました!!
これも皆様のおかげです、ありがとうございます!!

というわけで第4話です(唐突)
いや、その、かつてないほどに筆が乗りましてね?
まあ食事シーン(料理の過程込み)に5000字ほど使っちゃったからなんですが。
そのために今回は殆どリリアが和食を食べるだけとなっています。ゆるちて(クソガキムーブ)


念の為飯テロ注意です!!
いや、飯テロ出来るほど料理描写できてるか分からんのですが!!


感想、誤字指摘ありがとうございます!!返信はあまりできませんがいつも励みにさせていただいてます!!
それでは、感謝の第4話をどうぞ!!


「くは……が、ふ……」

「……こんなものですか。冒険者というものも、案外大したことがないですね」

「な、ぜだ。ここには、レベル2の冒険者が大勢いたはずなのっ、ガハァ!?」

「口を開くな、下衆が」

 

夜。端の欠けた月が大地を照らす中、ある建物の中では一つの蹂躙劇が終わりを告げようとしていた。

呻き声をあげるのは、この建物を拠点とし各地に支部が存在する裏組織のトップ。……もっとも、その組織も現在はここの本部を残すのみとなり、壊滅状態となっているのだが。

人身売買、違法薬物の輸出入、暴力の販売など、ありとあらゆる裏稼業を総括するこの組織は、僅か1週間で壊滅する運びとなった。その原因は、いま彼の目の前で木刀を振り抜いた姿勢のまま道端に落ちているゴミを見るような視線を彼へと向けている1人の女エルフ。

返り血を浴びた緑色のローブに身を包み、窓から差し込む月光を浴びるその姿は妖しく、そして美しい。しかし彼女の身に纏う気配は殺気や怒りに溢れており、迂闊な事をすればすぐさま隣に転がる柘榴(ひとだったもの)の様に砕け散ることになるのは目に見えていた。

 

「さて、いい加減に答えてもらいましょうか」

「だ……だから、知らないって言っているだろう!?俺だって、まだ探している途中だったんだ!!」

「またそれですか。それこそあり得ない」

「ガッ……あ、あ、あああああああ!?」

 

男は必死に叫ぶが、エルフは取り合わずに彼の足に木刀を突き刺した。ごりゅ、という骨に硬いものが当たる感触と共に、言葉に出来ないほどの激痛が男の全身に走る。言語として成り立っていない泣き声をあげながら呻く男を冷めた目で見下ろしながら、エルフは聞き分けのない子供に諭すようにいやに優しい声で語りかける。その手に携られているのは—————美しい、絹糸のような青みを帯びた銀髪。

 

「いいですか。我々エルフは自分が認めた者以外に身体を触れさせる事はありません。あり得ません。それが貴い身分である王族ならば尚の事。……ましてや『髪を売る』などという事はあり得ないんですよ、絶対に」

「ぎ、あぁ……だ、だずげ」

「吐け。あの方は何処にいる」

「じ、じらない!!ほんどうにじらないんだぁッ!!」

「……そうですか」

 

必死の表情で叫ぶ男に無表情でそう呟いたエルフ……リフィーリアは、無言で手に持った木刀を振り上げ。

 

「なら、もういいです」

 

振り下ろした。

ばきゃ、という硬いモノが砕け散った音と共に、男の声が止まる。月光に照らされた床には赤い染みが広がっていき、既に充満していた鉄の匂いがさらにその濃度を増す。その様を無表情で見つめていたリフィーリアは、興味を無くしたようにくるりと踵を返すと、この建物の地下へと向かった。

饐えた匂いが充満する地下の惨状に、形の整った眉を顰めるリフィーリア。しかし歩みを止める事なく地下の廊下を進み続けると、そこには中身の無い他の牢屋とは違い、厳重に封をされた鉄格子の牢屋があった。中にいるのは—————疲れ切った表情を浮かべ、死んだ目をした、同族(エルフ)の少女。職業柄里のエルフの顔を全て覚えているリフィーリアの記憶にはない顔のため、恐らくはウィーシェの森以外の里の出身だろう。牢屋の鍵を手に持った木刀《霊樹の大枝》で粉砕すると、リフィーリアはその音で漸くこちらを認識した様子を見せた少女に歩み寄った。

 

「助けに来ました。私は貴女の同族です」

「……うそ」

「嘘ではありません。この紋章は我らの里《ウィーシェの森》のもの。私は王族より命を受け、あるお方の捜索を行っています」

 

リフィーリアの言葉に、漸くこれが夢などではないと思えたのか、若干だが目に光が戻ったエルフの少女。彼女は、掠れた声でリフィーリアに問いかける。

 

「……ここの、人達は?」

「殺しました。皆森の魔獣にも劣る畜生ばかりでしたので」

「……そう」

 

殺した、死んだ、と言われても、自らを蹂躙した男たちの末路に実感が持てないのか未だに虚ろな表情のままの少女。その様子にリフィーリアは痛ましいものを見る表情になると「失礼」と一言断ってから、彼女の手足を戒める鉄の拘束具を砕いた。そして、彼女を丁寧にローブで包み抱え上げ、地上を目指す。

 

「ところで、この組織に王族(ハイエルフ)が捕まった、という情報を聴いた事はありませんか?なにか手がかりになりそうな情報があれば、教えていただけると嬉しいのですが」

「私は……ずっと、あの牢屋にいたから……い、いやっ」

「無理をしなくても結構です。……そうですか。ありがとうございます。貴女の里にすぐに返す事はできませんが、我々の里に招待します。信頼できる仲間達なので、安心してください」

 

道中でリフィーリアは少女から情報を得ようとしたが、彼女の精神状態が危うかったためにすぐに断念した。……念の為、守り人の中でも女性の者を手配しておいて良かった。リフィーリアは信頼できる里の守り人として長年勤めている女性のエルフに少女を預け、同時に里へと向かった彼女に「裏組織に捕まったという可能性は低い」と言伝を頼んだ。

守り人のエルフから手渡された換えのローブを羽織りながら、リフィーリアは欠けた月を見上げる。青白い光を浴びたそれは、まるで彼女の探し人であるリリアの髪の色のようだった。

 

「リリア様……」

 

思わず、そう呟いてしまう。

一人で心細い思いをされてないだろうか。ひもじい思いをされていないだろうか。他者から髪を切られた事を気に病み、泣いてはいないだろうか。まさか泥に塗れ、その美しい顔に傷がついたりなどしていないだろうか。次々とそういった心配が胸中に浮かんでは彼女の心を締め付けていく。

 

「……探せる所は全て探した。裏組織も潰した。後考えられるのはやはり……」

 

そう独りごちたリフィーリアが指笛を吹くと、すぐに嘶く声と共にドドドド、という脚音を鳴らして駿馬が傍らに侍る。約2週間を共に過ごした今、リフィーリアとこの駿馬の間には強い絆が生まれていた。それこそ、人馬一体とも言える程に。直ぐにその背中に飛び乗り、見据えた道の先には。

 

「迷宮都市オラリオ」

 

天を突く程の高さを誇る白亜の塔。

はるか遠くのため、白い線にしか見えないその塔を囲むように高い壁が聳える、都市の威容があった。

 

 

 

 

 

さて、ところ変わってオラリオ郊外。

ニニギ・ファミリアの拠点では、当の本人(リリア)がスヤスヤと眠っていた。隣では、彼女と同じ年頃の見た目をした少女《ミシマ・千穂》が同じように穏やかな寝息を立てていた。それからしばらくして、時刻は午前5時。未だ草木も眠っている時間帯に、しかし千穂はパッチリと目を覚ました。何度か瞬きをして眠気を払うと、布団の中から這い出て、夜の寒さに震えつつも可愛らしく伸びをした。そして夜着から普段着である小袖に着替え、未だ布団でスヤスヤと寝ているリリアの身体をゆさゆさと揺さぶった。

 

「ほら、リリアちゃん。起きて、ご飯の用意しなきゃ」

「ご飯」

 

その一言でパチリと目を覚ますリリア。すっと立ち上がると、千穂とお揃いだった夜着を躊躇いなく脱ぎ、これまた千穂と同じような柄の小袖を着る。そしてその上から王家の紋章が入ったローブを羽織ると、キリッとした表情で千穂の方を向いた。

 

「今日のご飯は何でしょう」

「どうしよっか。うーん、昨日いい鯖を買ったから、朝は塩鯖かな?」

「素晴らしい」

 

トントンと軽い足音を立てながら土間へと向かうリリアと千穂。今日の朝の献立を喋りながら決めたら、台所の床下に設置された氷室兼倉庫から今日の食材を取り出す。んしょ、と小さい体で大量の食材を取り出した彼女達は、ここで役割分担を始めた。虫除けの乾燥させた唐辛子が入った米櫃から朝ごはんの分の米を取り出す千穂。成長期の少年少女が揃うニニギ・ファミリアでは、一回に5合ほど炊くのがデフォルトとなっている。升で米を掬い、米とぎ用の鉢へと移す。その後に、傍らでキラキラと目を輝かせるリリアにその鉢を渡す。

 

「はい、よろしくねリリアちゃん。……言わなくてももうわかってると思うけど、後で使うことになるから」

「とぎ汁は捨てない。分かってる」

「そう、なら大丈夫。私はお味噌汁と塩鯖の準備してるから、米とぎが終わったら炊いてね」

「任せて!」

 

トン、と薄い胸を叩いたリリアは、意気揚々と水瓶へと向かう。そして、夜の間に冷えた水を少しだけ注ぐと、米の中に手を突っ込んでシャカシャカと米をとぎ始めた。

前世で米を食べる為に何度も米をといできたリリア。今、彼女のその経験が輝いていた。

前世では精米技術が発達していた為に強くゴシゴシと研ぐ必要は無かったが、ここは中世にほど近い技術体系のオラリオ。未だ完全な精米とはいかず、前世でといだ時よりも少し強い力を込める必要がある。シャカシャカと少し水を含んだ米をかき混ぜると、親指の付け根の辺りで優しく擦るようにしてシャッシャと米を押し、それを数回繰り返した後に水瓶から水を注ぐ。二、三杯ほど注げば、白く白濁したとぎ汁が出来上がるので、中身の米が出て行かないように気をつけながら傍に置いてある桶の中にとぎ汁を入れる。そして、水を切った米を再びシャカシャカとといでは、水を注いでとぎ汁を捨てるを繰り返す。

米を炊く時に、水をケチってはならない。リリアが前世で学んだことの一つである。

そして、水を注いだ時にうっすらと米粒が見えるようになればそこで米とぎは終了だ。あまりとぎ過ぎて透明度が強いとそれでも美味しい米は炊けないのである。リリアは前世でそれを嫌という程学んだ。

といだ米を釜に移し、水に浸して吸水させる。米はとぐ時とこの時に水を吸い、旨味を生み出す。ここで水につけ置きしなければ、食べられはするが美味しいとは言えない。その間は時間があるので、八面六臂の活躍をしている千穂の手伝いをする。手早く火にかけた鍋をかき混ぜ、味噌を溶かし、具材を投入する彼女にやる事を尋ねると「大根おろし作って、庭からかぼすを取ってきて」と言われた。

ふむ、かぼす。リリアは大人しく倉庫の隣に設置されている食器入れの中からおろし金を取ると、丼の上にそれを設置して大根をおろし始めた。小さな手では片手で押さえることが難しいので、板の間に上がり、行儀が悪いが胡座をかいて足で丼を固定して大根をする。円を描くようにゴシゴシとおろしていけば、ものの3分程度で半分ほどあった太めの大根は全て大根おろしへと姿を変えた。だんだんと味噌汁のいい匂いを漂わせ始めた土間の台の上にその丼を置き、千穂にその事を告げるとガラガラと音を立てて引き戸を開け、いまだ薄暗い庭へと出た。うっすらと太陽が出始めているのか、白み始めた空を、ほうと白い息を吐きながら見つめたリリアは、いけないいけないと庭へ向かう。

小さな池の側に、緑色の小さな実をならせていたのを見つけたリリアは、かぼすの実を一つもぎ取ると、何とはなしにかぼすの木に手を合わせ「いただきます」と呟いてから千穂の下へと戻った。

 

「かぼす取ってきたよ」

「それじゃあ6等分して、そこの皿に大根おろしと一緒に盛り付けて」

「がってん承知」

 

帰ってくると、魚の焼ける香ばしい匂いが味噌汁の匂いと共に広がっていた。リリアはニコニコと自分の顔に笑顔が浮かんでくるのを感じながらも千穂からの指示に従って大根おろしのそばに千穂から拝借した包丁で切ったかぼすを添える。そして吸水を終えた米の入った釜に分厚い木蓋をすると、かまどにセットして懐から白い枝を取り出し、ボソッと呟いた。

 

「火の精霊様、強めの火をくださいな」

 

すると次の瞬間、彼女が枝を向けていた先に真っ赤な炎が勢いよく現れた。燃料となる薪も置いていないのに出現したその炎は、消える様子もなくメラメラとかまどの中から米の入った釜を熱している。ここからは自分の忍耐力との勝負だ。しゃがみ込み、かまどの火をじっと見つめながら同時に温められている釜の様子も確認する。

そして、5分ほど経った後。

 

「お、来た」

 

カタカタと蓋が動き出し、そのできた隙間から水が溢れ出す。釜の縁に作られた受け皿にその水が受け止められるのを見たリリアは、再び枝をかまどの火に向けて構えると、もう一度ボソボソと呟く。

 

「火の精霊様、火の精霊様。火の勢いを弱めてください」

 

すると、先ほどまで煌々と燃え上がっていた炎が勢いを弱め、パチパチと音を立てながらも淡く揺れる弱火へと変化した。そして吹きこぼれも収まった後もじっとかまどと釜の様子を見ていると、徐々にかまどから芳醇な米の香りが漂って来た。しばらくして再び一瞬だけ強火に戻し、水気を飛ばした後にかまどの側に置いてある団扇で弱火を消し、米の蓋を取らないまま蒸らしに入る。

蒸らす米の香りが漂う、至福のひと時である。

 

「おーう、朝からありがとな」

「うまそうな匂い……今日は魚か」

「おはよー……」

「うむ。リリア、千穂。毎朝ありがとう」

 

すると、この時間帯あたりからご飯の匂いにつられてニニギ達が起きてくる。手を上げ、軽くリリアたちに礼を言いながら入って来たのはニニギ・ファミリアの団長にして最年長の17歳である青年、ミスミ・伊奈帆。その後ろで今日の献立の予想をしているのは伊奈帆の弟であり16歳のミスミ・穂高。そして朝に弱いのか、未だ目をしょぼしょぼとさせながら板の間にやって来たのがニニギ・ファミリアにおいて最年長の女性であり、ミスミ兄弟の幼馴染でもあるミシマ・千恵。寝ぼけ眼の彼女は、のっそりとした動きのままとぎ汁の入った桶へと向かい、そのままとぎ汁で顔を洗い始めた。

 

「っ、あーーー!!冷たい!目ぇ覚めた!!おはよう皆!」

「寝坊助」

「なんだとう!?」

 

キンキンに冷えたとぎ汁で顔を洗い目を覚ました千恵は、ボソリと呟いた伊奈帆に摑みかかる。それを呆れた様子で見守る穂高とニニギ。この光景は毎朝見られる日常のものであった。

 

「今日のご飯は味噌汁と塩鯖とご飯ですよー」

「おうリリア。サンキュー」

「美味しそう!千穂ちゃん愛してるー!」

「あはは……」

 

そして焼きあがった塩鯖などを配膳している間に、リリアは蒸らし終えた米を釜から茶碗についで皆の前に置いていく。精霊と王族(ハイエルフ)の炊いた米という、霊験あらたかに聞こえる米を前にして、しかしそんなことは露知らずの彼らは嬉しそうに手を合わせた。

 

「よし、それじゃあ食うか!今日の朝食を作ってくれた2人に感謝をして、いただきます!!」

「「「「「いただきます」」」」」

 

そして伊奈帆の元気な号令の下、朝の食事が始まる。

今日の献立は、かぼすと大根おろしが添えられた塩鯖と、小さく角切りにされた大根とわかめなどが入った味噌汁。そしてリリアが全身全霊をかけて炊いた白ごはんだ。純和風の食事を前に、リリアは感動で胸がいっぱいになった。

そう、これだよ。これが食べたかったんだよ。

心の中でそう呟きながら手を合わせてから箸を握り、他の者達と大差ない箸の使いっぷりで朝ごはんを食べるリリア。

まずは米。つやつやと光り、粒だった米がリリアの操る箸によって取られ、彼女の口へと運ばれる。そして。

 

「—————んんっ!!」

「ホントにリリアは米が好きだな」

「エルフって米を炊くのも上手いんだな、別に千穂の腕を馬鹿にしているわけじゃないが、美味い」

「分かってますよ。私も最初は驚きましたから」

「やっぱ米には焼き魚だよねー!」

「……美味い」

 

感動。

リリアは目を閉じ、会心の笑みを浮かべる。噛みしめるたびに口の中に広がる優しい甘味。食感はしっかりとしつつも柔らかく、他の味をサポートしつつも自分の主張も忘れないしっかりとした味わいだ。更にリリアが箸を伸ばすのは、千恵が食べているのと同じ塩鯖。皮の上から箸を入れると、脂が乗っているのかホロホロとした身が簡単に崩れ、その上にカボスを絞った汁をかけた大根おろしを乗せていただく。

 

「おいしいっ」

「この鯖美味しいな。かぼすもいい味出してる」

「ありがとうございます」

 

口の中に入れれば、すぐさまかぼすの爽やかな酸味とともに、脂の乗った鯖の身が芳醇な旨味を舌に伝える。大根おろしは単体だけだと少し脂っこいかと思われる鯖の脂を程よく中和し、かつ食感のアクセントにもなる。それと同時に米を頬張れば、もうそこは極楽だ。鯖の脂を吸い込んだ米はまたその顔を変え、噛み締めれば噛みしめるほどにその美味さをリリアの舌に刻みつけていく。これは麻薬だ。和食と言う名の麻薬だ。これの快楽を知ってしまえば最後、もうこの食事から逃れることはできない。

そしてご飯と塩鯖の調和に少しの飽きを感じれば、すぐそこにスタンバイしているのが味噌汁だ。

 

「あ゛〜……」

「リリア、凄い声出てるぞ」

「エルフも俺たちと変わんねえんだなー」

「いや、多分リリアちゃんが特殊例なだけかと……」

 

美味い。

感想としてはそんな陳腐なものしか浮かんでこない程の味わいだ。味噌の塩味がよく効いた濃い目の味付けである味噌汁は、昆布やいりこで出汁を取っているのだろうか、複雑ながらも芳醇な旨味をリリアに与え、これまでの米と塩鯖とは違った美味しさに包まれる。そしてワカメの食感やよく煮えた角切りの大根を頬張れば、熱さの中にもしっかりと味の染み込んだ美味さで食の素晴らしさをリリアに再認識させる。

そして味の変化を楽しんだ後に、再び米を食べる。塩鯖を頬張り、米を食う。味噌汁を飲んで、米、塩鯖、米。

まさに至福。これぞ食の道楽と言わんばかりの幸せを感じたリリアは、他の皆が食べ終わるのと同時に手を合わせた。

 

「今日もご飯、美味しかったです!ごちそうさま!」

「「「ごちそうさま」」」

「「お粗末様でした」」

 

そして他4人からの感謝の挨拶に、そう返してから少しの余韻に浸り、食器を下げる。

 

「リリアちゃん、とぎ汁ちょうだい」

「はーい」

「リリア。今日からお前も農作業の方に入ってもらうから、こっち来てくれ」

「はいはーい」

 

それから慌ただしく、ニニギ・ファミリアの1日は始まっていく。

 

 

 

ファミリアに加入してから約2週間。

リリアの日常は、とても平和なものであった。




※今回の米とぎ描写は筆者の体験を基にしています。その為米とぎガチ勢の方からすれば噴飯ものの描写となっている可能性もございますので、ご注意ください(事後承諾)。

今の日刊1位のFate二次読みやすくてめっちゃおもろい。


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世界の合言葉は米

米ディッ!!(迫真)

受験とか無くなればいいのにと常々思う福岡の深い闇です。

べ、別に配信者の更新サボってるわけじゃないから。これから書いていくからお願いゆるちて米が食べたいだけなの。(支離滅裂)


なんか日刊1位になったり2位になったりと忙しいですが、これも皆様のおかげですありがとうございます。
感想とか誤字指摘は励みになります。だからもっとくだせえ。


それではガバリティ増し増しの第5話を、どうぞ。


-追記-

第一話の前に登場人物紹介を挿入しました。
キャラ設定が固まり次第、徐々に更新して参ります。

……と、思ったんですけどやっぱりコメディ壊すのは良くないね。設定は殺すことにします。
色々と振り回してしまってすみません。


ピイィィ、と甲高い笛のような鳴き声が早朝のオラリオの空に響き渡った。

白み始めた空を悠々と飛んでいるのは、子供が手を広げた程の大きさを誇る巨大な鳶。ともすれば怪物(モンスター)とも間違われかねない程に大きな鳶はロキ・ファミリアの拠点である《黄昏の館》、その正門前に迷う事なく降り立った。

 

「うおっ!?」

「なんだこの鳥!?」

 

主神であるロキが「せんでいいっちゅーに」と言っているにも関わらず生真面目に門番をしていたロキ・ファミリアの団員が、驚愕の声を上げてその手に持っていた長槍をその鷲に向ける。しかし、自分の命を奪うかもしれない凶器を向けられてもなお、大鷲はそれがなんだか分かっていないかのように首を傾げるのみであった。その鳶の様子にまた驚いた門番は、その鳥が首にスカーフのような物を巻いているのを見つけた。深緑に、金糸で刺繍が施された豪奢なスカーフ。特徴的なその色合いに見覚えのあった獣人とヒューマンの門番は、互いに顔を見合わせてこう呟いた。

 

「これって……もしかして」

「リヴェリア様の……?」

 

 

 

 

 

「……ふむ、これは私宛の鳥ではないな」

「そうでしたか、これはとんだ失礼を」

 

女子塔の玄関にて、リヴェリアから発せられたその言葉に門番の1人は素直に頭を下げた。早朝とはいえ、もうすぐ皆が眼を覚ます時間帯だ。既に起きて身支度を済ませていたリヴェリアは首を緩く横に振ると、止まり木の代わりに布を巻いた自分の腕を差し出していた門番に向けて口を開いた。

 

「いや、構わない。確かにこの色は我らが同族(エルフ)が好んで使うものだからな。それにこの鳶がエルフの里からの使者であるのは間違いない、私たちの里でもよく用いていた」

 

そう言って鳶の足にくくりつけられていた小さな袋を取り出すリヴェリア。その口をためらいなく開け、中からサラサラと何かの籾のような物を取り出すと、手の平に乗せると躊躇うことなく鳶へと差し出した。

それを喜び勇んで啄む鳶。手の平に走る擽ったい感触に懐かしい気分になりながらも、リヴェリアは物言いたげな門番に視線を向ける。

 

「では、この鳥は一体誰の……?」

「それは、これを見ればわかるさ」

 

門番の疑問にうっすらと笑みを浮かべて鳶が身につけていたスカーフを外すリヴェリア。広げると、結んでいた影響できちんと確認することが出来なかった刺繍の全貌が見えた。そして、それをみたリヴェリアはむ、とその形の良い眉を顰めた。

 

「これは……ウィーシェの森の紋章か」

「ウィーシェの森、ですか」

「そうだ」

 

そう言うと、リヴェリアは「ここで少し待っていてくれ」と門番に言い残すと女子塔へと戻っていった。手持ち無沙汰にピイィィ、と鳴く鳶に「静かにしろよ」と声をかける。そうして待つこと数分。戻ってきたリヴェリアの傍らには、しっかりと結わえた山吹色の髪を揺らす美しい少女の姿があった。

レフィーヤ・ウィリディス。ロキ・ファミリアに所属するレベル3の第二級冒険者で、リヴェリアと同じエルフの少女。魔法技術に優れるという種族特性の通りに、彼女はリヴェリアが自らの後継として指導している将来有望な魔法使いの1人だ。そんな彼女はリヴェリアから差し示された先にいた鳶を見ると、あっ、と驚きの声を上げた。

 

「すみません、それ私の里の鳥です!……でも、なんでこんな手段で?」

「何か緊急の用事が出来たのではないか?コイツは早馬なんかよりもよっぽど早く着く」

「……ちょっと不安になってきました」

 

ううう、と唸りながら恐る恐る鳶の足に括り付けられた書簡を手に取るレフィーヤ。立ち話もなんだから、と3人で黄昏の館本館にある談話室へと向かう。暖炉によって温められた室内には都合の良いことにまだ誰も来ていなかった。飛んできた間に冷えたのだろう、ひんやりとした羊皮紙をパラリと広げたレフィーヤは、リヴェリアと門番に一つ頷くと、そのまま書かれた内容を読み進め。

 

「……きゅう」

「れ、レフィーヤ!?」

 

卒倒した。

 

 

 

 

 

「……なあ、穂高」

「なんだい兄さん」

 

ところ変わって、ニニギ・ファミリア。日課である農作業をしにオラリオの外へとやって来ていた彼らは、目の前に広がる非現実的な光景に茫然自失となっていた。

 

「土の精霊様、土の精霊様。目の前の田んぼの土を綺麗に平らにして下さいな」

「もうアイツ一人でいいんじゃないかな?」

「それ、僕も思ったけど言っちゃダメでしょ」

「リリアちゃんすごいねー!」

 

彼らの目の前にいるのは、両手を田んぼへと向け厳かに祈るように目を閉じ、何事かを呟くリリアがいた。

そして、彼女が手を向けた先の田んぼは、今まさに劇的な変化を迎えようとしていた。ざああ、と風が吹く音が聞こえたと思ったら、土が意思を持ったかの如くひとりでに動き始める。張った水がその土の動きによって微かに波を立てること数秒程。ふんす、とやりきった顔で腰に手を当てたリリアの前には、見事な真っ平らに整地された水田の姿があった。鋤を手に泥に塗れ、せっせと代掻きに精を出していた伊奈帆達は遠い眼をしてその光景を眺めている。

 

「長時間労働の筈の代掻きを数秒で終わらせやがった……」

「ていうか、魔法の無駄遣いだよね、あれ」

「エルフって農作業も魔法でやるのか……」

 

エルフへの誤解が深まっていく。

実際に働いたのはリリアではなく《霊樹の枝》に宿る土の微精霊なのだが、それを知らない彼らにとってはリリアが魔法によって代掻きを済ませたように見えた。……あながち間違ってもいないし、魔法の無駄遣いよりも遥かに罪深いことをやっているような気もするが、あの米キチ(リリア)には何を言っても無駄だ。

そして、じっと自分を見る視線に気がついたのか、リリアは伊奈帆達の方を見ると、嬉々とした様子で地面に突き立てていた鋤を手に取り、こちらへと歩いて来た。ばしゃん、と躊躇うことなく水田の泥の中に足を突っ込み、小袖の裾をたくし上げてこちらへと歩いてくる。

 

「早く終わったんで、お手伝いします!」

「魔法は使わないのか?」

「できますけど、予想以上に魔力(マインド)を結構使いますし、手作業も大事ですので!」

 

伊奈帆の問いにそう笑顔で言い切ったリリアは、んしょんしょ、と慣れない手つきで大きな鋤を操る。小さな体では重労働な筈のそれを笑顔でやる様子に、米を好きな事は間違い無いんだよなー、と伊奈帆は考えていた。リリアのへっぴり腰が見てられなかったのか、千恵が田んぼでの歩き方と鋤の扱い方をリリアに叩き込んでいる。……まあ、魔法に頼りっぱなしなのもバチが当たりそうだしな、と隣にいた穂高と苦笑を交わし合うと、そのまま4人で田んぼの代掻きをこなしていった。

そして。

 

「っだぁー!疲れた!!」

「リリア、帰ったらちゃんと休めよ。この後は本番の田植えだからな」

「田植え……!なんて素敵な響き!」

「あー、タケミカヅチ様のとことかにも声かけなきゃ……」

「そこんとこはニニギ様がやってくれるだろ」

 

夕方になるまでに広大な範囲の水田の代掻きを終えた彼らは、泥に塗れた姿のままある場所を目指していた。鋤を肩に担ぎ、わいわいと向かった先にあったのは、真っ白な湯気を煙突から出し続ける、一軒の民家であった。「ちーっす」と雑な挨拶を言いながら引き戸を開けた伊奈帆の顔に、濡れたタオルが勢い良く叩きつけられる。

 

「ぶほっ」

「その汚い格好で来るなと何度も言っているだろう。せめて泥を落としてから来い」

「いいじゃんかよー、結局ここで全部洗うんだしよー」

「くっつこうとするな汚いっ!!」

「がぶほぉ!?」

 

そのまま大通りへ吹き飛ぶ伊奈帆。呆気にとられたリリアが引き戸の先を見ると、そこには思いっきり顔を顰めた小柄な少女が立っていた。服装はリリア達と同じ小袖だが、上からもう一枚赤い上着を羽織っている。そして彼女はこちらを覗くリリアの姿に気がつくと、驚いた顔で穂高へと問いかけた。

 

「あれ?新入りの子?」

「そう、リリアって言うんだ。……ほら、リリア。この子はこの銭湯の番台さん。結愛っていうんだ」

「よ、よろしくお願いします」

「可愛いでしょ!」

 

何故か自分のことのように胸を張る千恵は放っておいて「よろしくね」と結愛はリリアに向かって微笑んだ。そしてその場にいた全員に濡れたタオルを渡すと、中へと招き入れた。その後にガラガラと荒く引き戸を開けて入ってきた伊奈帆が、憮然とした表情で入場料を徴収している結愛に向かって口を開く。

 

「なんか俺に対する態度と違くねえ?」

「アンタは毎回躊躇なく入ってこようとするからでしょうが」

 

ギリ、と伊奈帆を睨む結愛の眼光にうっと気まずそうな表情を浮かべる伊奈帆。そんな彼らの毎度のやり取りを呆れた表情で見ていた穂高は、伊奈帆の背を押すようにして男湯へと向かう。それを見た千恵も、リリアの手を引いて女湯の脱衣所へと向かい始めた。いってらっしゃいと手を振る結愛に手を振り返しながらも、ここはいったい何なのだろうと疑問の表情を浮かべるリリアに、千恵は笑みを浮かべて説明し始めた。

 

「ここはね、銭湯って言う場所なんだ」

「銭湯……まあ、見れば分かりますけど」

「あれ、知ってた?……まあいいや。ほら、農作業の後って少なからず汚れたり汗かいたりするからさ。そういう時はいつもみたいに水浴びで済ますんじゃなくて、銭湯でゆっくりしようって伊奈帆が言い出したのがここに来るようになったきっかけかな」

 

そう言いながら、脱衣所の籠に泥のついた小袖を入れ、その肢体を惜しげも無く晒す千恵。少女から女性へと変化する途中であるその未成熟な身体は、しかしそうであるからこその魅力を備えている。そして、その隣ではリリアが同じように躊躇うことなく服を脱ぎ、すっぽんぽんになっていた。こちらは見事な真っ平ら。小ぶりとはいえ立派な丘が出来上がっている千恵とは違い、リリアの胸は悲しいほどに真っ平らであった。しかし彼女はまだ10歳。子供もいいところである。全身つるつるのぺったぺたな彼女は、千恵に手を引かれて浴室へと入った。

 

「……おおー」

「凄いでしょ?これ、私達の故郷の国にある山なんだけどね?」

「でかい富士山……」

「よく知ってるねー!」

 

そして壁面にでかでかと書かれた富士山に圧倒されつつも、かけ湯と蛇口から出るお湯で体を清める。「洗ってあげるー」と千恵から髪を洗われ、お返しにリリアも千恵の背中を流すなど、互いを洗いっこする、男子諸君の桃源郷がそこには広がっていた。そして、十分に体を清め終えた後に、なみなみとお湯が注がれた湯船に疲れた体を沈める2人。じんわりと温かい湯の熱が体に染み込み、揺蕩う水の感触が2人の疲れを癒していく。

はふう。満足げなため息がつい漏れたリリアに、くすくすと千恵が笑いかける。

 

「リリアちゃん、おじさんみたいだよ」

「別におじさんでいいですよー。……いやー、お風呂っていいものですよねー」

「だねー」

 

間延びする声で千恵の言葉にそう返すと、他に客がいないのをいい事にだるーんと体を伸ばして湯船に浮かぶリリア。縁に頭を引っ掛けているために流されるような事はなく、ふわふわとお湯に包まれる素敵体験を堪能していた。そんな見るからにお風呂に入り慣れているリリアの様子に不思議そうな顔をした千恵。伸びをして体をほぐしていた彼女がリリアに質問しようと彼女の方を向くと、

 

「……ありゃ」

「ぅにゅ……」

 

そこには今にも閉じてしまいそうな瞼で微睡むリリアの姿があった。疲れがやって来たのだろうか、千恵はうとうととし始めたリリアを慌てて抱きかかえると、ざば、と湯船から上がって脱衣所へと向かった。

脱衣所に着くと、そこには彼女達が着ていた服はなく、代わりに白地に藍色で染められた柄のついた浴衣が2人分置いてあった。千恵は戸惑う事なくリリアと自分の体を手早く布で拭うと、小さめの浴衣を眠たそうなリリアに着せ、自分も慣れた手つきで身に纏うとリリアを背中に負ってから番台の結愛の下へと向かった。まだ男衆は上がっていないらしい。伊奈帆は男にしては珍しく長風呂を好む質だ、きっとまだ時間はかかる事だろう。

結愛は千恵の背中に負われたリリアを見てくすっと笑うと、千恵にまだ洗濯には時間がかかることを告げた。それに手を振って応えた千恵は、玄関に設置されていた長イスに座り、リリアを横たえると彼女の頭を自分の膝の上に乗せた。するとすぐにリリアの瞼は落ち切り、規則正しい寝息をたて始める。まだあどけないその寝顔をみて微笑んだ千恵は、さらさらと手触りの良い彼女の髪を手櫛で梳き始めた。

 

「その子、いつ頃から来たの?」

「うーん、2週間くらい前、かな?迷宮(ダンジョン)探索から帰ってきたら千穂ちゃんの隣に座っててね。今じゃ立派なファミリアの一員だよ」

「……エルフなのに、銭湯に入れるのね」

 

客が来ないからか、番台から降りて千恵たちに話しかける結愛。彼女の視線は、時折ぴくぴくと動くリリアの長い耳に向けられていた。スクナビコナ・ファミリアの一員として迷宮(ダンジョン)に潜る事もある結愛は、当然他の派閥に所属するエルフを見たことがあるし、エルフの噂話なども聞いたことがある。

曰く、自分が認めた者にしか触れる事はおろか、その肌を見せることすら許さない。

曰く、勝手にその肌を見れば烈火の如く怒り、魔法を以てその者を攻撃しだす。

などなど、とかくエルフというものはとっつきにくい種族として知られているのだ。それなのに、目の前で美しい寝顔を躊躇いもなく見せている幼子はそんな忌避感が強く働くはずの銭湯に入ってみせた。……まあ、他に客がいればまた違った結果になったかもしれないが、少なくとも同じファミリアの同性の者であれば裸体を晒す事を厭わないのか。

 

「変わった子なんだよー。お米大好きだし」

「へー。まあ森に住んでいるくらいだし、稲作とかしてるんじゃない?」

 

それが無かったからこの馬鹿(リリア)はエルフの里を出奔したのである。

しかし、そのツッコミができる存在はこの場にはいなかった。

 

「エルフが稲作かー。……うーん、似合わないねぇ」

「むしろ野菜ばっか食べてそうなイメージだけどね」

 

その通りである。

しかし、その言葉を言える存在はこの場にはいなかった。

 

「あ、そう言えば明々後日くらいに田植えをやるから、手伝いに来てくれれば嬉しいな」

「うん、大丈夫。ニニギの米を食べているものとしては手伝わないという選択肢は無いからね」

「極東出身のファミリアが毎年合同でやるからねー、田植え。ああ、ちゃんとおにぎりとか用意してあるから、昼ごはんはいらないよ」

「それは楽しみだね」

 

と、そこでにわかに男湯の脱衣所が騒がしくなった。どうやら伊奈帆達が上がって来たらしい。そして千恵とリリアが身に纏っているものと同じ浴衣に身を包んだ伊奈帆達が番台へやってくると、そこに座る結愛に向かってヴァリス金貨を2枚ピンと弾いて渡した。

 

「牛乳一本くれや」

「僕はコーヒー牛乳で」

「はいはい、いつものね」

 

そう言いながら番台の側にあるビン入れの中から目当てのものを取り出す2人。そしてコルクの栓を抜くと、一息に中身をごくごくと飲み干した。ぷはぁ、という息継ぎとともに、満足げな声を出すミスミ兄弟。そんな彼らは、千恵の膝枕で寝息を立てるリリアに気付くと優しい笑みを浮かべた。

 

「あー、寝ちゃったか」

「まだ小さいからね、疲れちゃったんだな」

 

すると、銭湯の入り口から1人の老人が入って来た。ともすれば小人族(パルゥム)とも見間違いそうなほど小柄なその人は、両手に洗濯物の入った籠を抱え、よたよたとしながらこちらに向かって歩いてくる。どっこいしょ、と籠を置くその姿は見るからに弱々しい老人であったが、彼を見た途端にニニギ・ファミリアの面々は背筋を伸ばしてかしこまった態度をとった。

 

「ほれ、お前さん達。洗い物を乾かし終わったぞ」

「す、スクナビコナ様!ありがとうございます!」

「よいよい、いつも洗ってくれるマキタが今日は迷宮に篭っておるからの。丁度儂も服を洗うところでな、ついでじゃついで」

「スクナ様、コイツらには自分で洗わせればいいんですよ」

「ほほ、そう言うで無い結愛よ」

「……ハアッ!米の気配ッ!!」

 

そう、彼こそはこの銭湯を経営するスクナビコナ・ファミリアの主神にして、医療や農業、(まじな)いから建築までありとあらゆる分野に精通する知識(じん)であるスクナビコナであった。彼がそう言いながら中に入ってくると同時に、リリアが本能的に目を覚ます。リリアの寝ぼけ眼がスクナビコナを捉えると、もはや天晴と言いようがないほどの素早さでスクナビコナの前に跪いた。

 

「その豊饒なる米の気配、貴方様はまさしく米の神……!」

「いや、儂は稲作の方法を教えただけで別に米の神ではないぞ、エルフの子よ」

「いや突っ込むとこそこじゃないです、スクナ様」

 

天然(スクナビコナ)米キチ(リリア)。2人が化学反応を起こした結果、瞬時に混沌とした空間が形成される。皆が呆気にとられる中、それに穂高が冷静に突っ込むがそれで止まる2人ではない。なにせリリアにとってはニニギに並び正しく「神」と呼ぶべき神物(じんぶつ)であったからだ。

 

スクナビコナ。又の名を、スクナビコナノミコト。極東の国々に伝えられる「一寸法師」のモデルともされる神であり、ニニギノミコトが降臨する前に相棒のオオクニヌシノミコトと共にその知識を活かして国の基礎を築き上げた、いわゆる「国造りの神」の1柱。先ほども言った通り、医療や農業、(まじな)いや建築などありとあらゆる物事に精通しており、ニニギノミコトが「米の神」であるとすれば、スクナビコナノミコトは「稲作の神」といっても(リリアの中では)過言ではない。

 

まあつまり、彼女の米レーダーがびんびんに反応する神物(じんぶつ)である、という事だ。

 

「ほほ、面白い子じゃのう」

「ありがたき幸せ—————ッ!!」

「なんでお前はそう神様に会うとオーバーリアクションを取るんだよ!?」

 

厳密には米に関する神に出会ったら、である。

わいわいと騒がしくなった銭湯《スクナの湯》。

落ち着いたのは、ひとしきり騒いだリリアが疲れで眠った後であった。

 

 

 

 

 

そして、黄昏の館にて。

 

「みんなー!こっち見てなー!!」

 

皆が食堂に集まり、わいわいと食事をする中、主神であるロキがパンパンと手を打ち鳴らしていた。必然的に、全団員の注目がロキに集まる。その隣では、何故かどんよりと死んだ目で微笑むレフィーヤの姿があった。

 

「今日から新しく家族になる子を紹介するでー!って言っても、長居することになるのかどうかはまだ分からんのやけどな!」

「……ロキ様?それってどういう……」

「まあまあ見てもらえば分かるって。ほな入って来てー」

 

思わず疑問の声を上げる団員に雑にそういうと、ロキはその「新しい家族」に食堂の中に入るように言った。

そして、そこに姿を現したのは。

 

 

 

「リフィーリア・ウィリディスです。まだまだ若輩者ですが、よろしくお願いします」

 

 

 

レフィーヤによく似た、山吹色の髪を結わえた1人の少女だった。

 

今、ここに。

 

約一年の期間をもって続いた、悲惨なすれ違いの連続が幕を開ける。

 

 

 




リフィーリア「リリア様……一体どこへ」(ダンジョンへ)
リリア「リフィー達元気かなー」(田んぼへ)
リュー「いつになったら護衛は来るのですか……?」(陰ながら護衛)
レフィーヤ「胃が……」(医務室へ)

うーんこの()



【リフィーリア・ウィリディス】
所属 : 【ロキ・ファミリア】(仮)
種族 : エルフ
職業(ジョブ) : 第一王女付き筆頭侍女(現在は出奔中のリリアの捜索中)
到達階層 : 無し
武器 : 《霊樹の大枝》
所持金 : 5060ヴァリス

【ステイタス】
Lv.1
力 : I0
耐久 : I0
器用 : I0
敏捷 : I0
魔力 : I0

《魔法》
【ツヴァイ・バースト】
・強化魔法。
・指定したステイタスの一定時間向上。
・重ね掛け不可。
・詠唱連結により指定項目増加。
・詠唱式【母なる森に請い願う。私の護りたいものを守れるだけの()を与え給え】()部に指定項目を挿入。
・連結式【重ねて請い願う】

《スキル》
妖精斉唱(フェアリー・コーラス)
・魔法効果の増幅。
・他者との同時詠唱で効果向上。




【装備】
《ウィーシェの森の紋章付きローブ》
・高級品。
・ウィーシェの森の上級機織が作成。
・防御力は無いに等しい。

《霊樹の大枝》
・最高級品。
・ウィーシェの森、王族の屋敷中央にある霊樹が自然と落とした枝をエルフの里の細工師が特殊な加工によって束ね、1つにした木刀。刃渡り約70センチ程で純白。
・魔力との親和性が高く、精霊にとっても心地の良い居住地。
・非常に強度に優れ、耐腐食性も高い。大昔は王家の家宝であったが、ウィリディス家に下賜された。
・ウィリディス家の家宝。


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米の海に沈む果実

米ディ!!!!(ヤケクソ)


どうも。福岡の深い闇です。
色々やらかしましたが更新しますよっと。
人物紹介?そんなものはなかった、いいね?(無言の圧力)


この二次創作はいかに作者が糞シリアスを打ち込むのを我慢できるかが鍵となっています。
だから感想と誤字指摘くだしあ(五体投地)


それでは、ガバリティ5倍増し(当社比)の第6話をどうぞ。


「精霊の愛し子、か……」

 

迷宮都市オラリオ最大派閥、ロキ・ファミリアの拠点(ホーム)である【黄昏の館】、その中央塔最上階にある主神ロキの神室(しんしつ)にて、ロキはいつになく真面目な表情でそう呟いた。その呟きを聞き、傍にいたロキ・ファミリア団長のフィンが視線を彼女に向ける。その気配を察したのか、ロキは手に持った酒の入ったグラスを見つめながら、言葉を続けた。

 

「リフィーたんが探してる王族(ハイエルフ)の子、精霊の愛し子っちゅう体質なんはリフィーたんから聞いたやろ?」

「ああ、それは確かに聞いたね。……複数の精霊に見初められ、複数の加護を得たまさしく【寵児】。僕も結構この世界で生きてきたつもりだけど初めて聞いたよ」

「そりゃそうやろ。精霊なんてものが超激レアな存在になってから何年経ったと思っとる。最後の精霊の愛し子なんてもうお伽話の中の存在やで?」

 

ロキが仮入団となったリフィーリアを自らの子達に紹介してからしばらくして。

当事者であるリフィーリア、彼女の身内であるレフィーヤ、そしてロキ・ファミリアの首脳陣であるリヴェリアとガレスを含めた6人で行われた情報共有の場で、リフィーリアが言ったのが「出奔した王族、リリア・ウィーシェ・シェスカは精霊の愛し子である」という驚きの情報であった。

 

「……ガチロリハイエルフの精霊の愛し子。そんな属性特盛りの超激レアな存在が、この愉快犯(かみ)だらけのオラリオに来て話題にならない筈がない。うちの耳に入らない筈がない。それなのに、リフィーたんから事情を説明されるまでうちはそんな面白……凄い存在がこの街にいるかもしれないっちゅーことに気付きもせんかった」

「その言葉、間違ってもリヴェリアや他のエルフの前で言わないでくれよロキ。烈火の如く怒り出す様が見えるから」

「分かっとる。……それで、つまりうちの耳に届かんっちゅーことはや。少なくとも()()()()()()にその存在を確保されてて、その神はそのリリアっちゅー子の『価値』を分かって情報を統制しとる可能性が高い」

「穢れた精霊のいるこの街に、精霊の愛し子がやって来た……まさか、ロキ」

 

穢れた精霊と交戦し、勝利を収めた当事者であるフィンのその言葉に、真剣な表情で頷くロキは呟いた。

 

「……これは、最悪の事態を想像せないかんかもしれんな」

 

『神と迷宮の都市』に潜む穢れた精霊、そしてそこに飛び込んできた消息不明の『精霊の愛し子』の情報。

これらを無関係と断じるには、些か無理があり過ぎる。

 

重苦しい雰囲気に包まれた神室で行われたその推理は……悲しいかな、とても筋道が立ち、かつ矛盾が存在しないものでありながら、真実とは正反対の方向に突き進んでいた。

 

 

 

 

 

さて、そんな凄まじい誤解をロキ・ファミリアにもたらしている我らが米キチ(リリア)はというと。

 

「うぬぬぬ……」

「り、リリアちゃん、機嫌直して……?」

 

何故か不機嫌になっていた。

ぷっくー、と不満を表すようにその頬は膨れ、ジトッとした目でパチパチと火花を上げる炎を見つめている。彼女を隣で宥めようとしているのは、リリアと似た小袖に身を包む千穂。彼女達がいるのはオラリオ市外。ニニギ・ファミリアが所有する田園の側に、リリアが土の微精霊の力を借りて作り上げた()()()で昼食用の米を炊くその先では、干し草で編まれた笠を被り、独特な装束に身を包んだ男女がおおっと鬨の声を上げていた。その集団の先頭に立って声を張り上げているのは、ニニギ・ファミリアの団長である伊奈帆だ。

 

「皆!今日は田植えの手伝いに集まってくれてありがとう!感謝している!!」

「あったりめーよ!」

「ニニギの米が無けりゃ生きる気力も湧いて来ねえ!!」

 

今日は、待ちに待った田植えの日。命の源、魂の源である稲を植えるとあって、リリアは遠足を前にした幼児のように楽しみで眠れなかった……のだが、朝になって彼女が千穂とともに主神(ニニギ)から言い渡されたのは「昼食の用意」という実質の待機命令。田植えは女の仕事じゃなかったのかぁ!!と叫んだリリアは、まあまあと宥める千穂と共に、こうして不機嫌ながらも昼食の準備を行なっているところであった。

ちらりとリリアが視線を向けた先には、伊奈帆達と同じ格好をした千恵の姿が。その手には千穂が毎日せっせと育苗していた稲の苗が握られており、その顔はやる気に満ち溢れていた。その他にも、彼女の周囲には同じような格好をした他の極東系ファミリアの女性団員達の姿もあり、その中には先日銭湯でお世話になった結愛の姿もあった。

稲作専門の半生産系ファミリアであるニニギ・ファミリアとは言え、ずっと中腰で広大な範囲の田んぼに苗を植えなければならない田植えは結構な重労働であり、神の恩寵(ファルナ)によって常人よりも強靭な肉体を持つ冒険者でも伊奈帆、穂高、千恵の3人だけでニニギ・ファミリアの所有する全ての水田に田植えをするのは無理・無茶・無謀であった。その為、ニニギ・ファミリアの生産する米の主顧客層である極東系ファミリアの団員達総出で田植えを行うのが風物詩となっていた。

その様子は彼らの故郷である極東の国々で見られる風景となんら変わりなく、他のファミリアの団員達からもまるで故郷に戻ったかのような雰囲気が味わえるということで人気の行事であった。

 

「人手が足りないなら、私達も田植えに参加させるべき」

「体格が違い過ぎるから、私達じゃ足手まといになっちゃうよ?」

「私1人でも田植えは出来る!」

「無茶だよリリアちゃん……」

 

1人気炎を吐くリリアを他所に、田植えはどんどんと進んでいく。流石は常日頃から死線を潜り続け、常人を遥かに超える能力を持った冒険者達といったところか。そのポテンシャルを遺憾なく発揮し、まるで田植え機で植えたかのような美しく並んだ苗が陽光を浴びて水田に立っていた。この調子であれば、昼を少し過ぎた頃にはほぼ全ての田んぼに苗を植え終わるだろう。目の前の光景からそう予測した千穂は、未だ唸り続けるリリアの頭をスパーンと叩くと、腰に手を当ててリリアを叱った。

 

「リリアちゃん!」

「う、はい」

「私たちの仕事は何ですか!」

「昼食の準備です……」

「そうです!だからいつまでもヘソを曲げてないで、ちゃんとお米を炊いてください!そうじゃないと、お米が美味しく無くなりますよ!」

「それは困る」

 

同い年の幼女から叱られる第一王女(精神年齢は既に成人済み)。千穂の言葉にキリッとした表情を見せたリリアは、いつも通りの真剣な様子でかまどと向き合い始めた。その様子を見てもう大丈夫かと思った千穂は、昼食のおかずを作ろうと行動を始める。

 

「えっと、あんまりしっかりしたのを作っても食べにくいだけだから……お味噌汁、かな?」

「豚汁とかどう?」

「え、リリアちゃん豚汁食べれるの?エルフなのに?」

「がんばる」

 

そう言って、ぐっ!と親指を立てるリリア。彼女は日本食を味わうために全力であった。肉を食べることを好まない筈のエルフからの提案に、千穂は悩むが、最終的には豚汁を作ることに決めた。外で手軽に食べられかつボリュームもあるメニューと言えば、やはり豚汁とおにぎりだろう。

となると、豚肉が無いために買いに行かなければならないか。懐からがま口を取り出し、十分な豚肉を買えるだけのヴァリスがある事を確かめた千穂は、リリアに「豚肉を買ってくるから、かまどの事よろしくね」と言い残してオラリオへと向かっていった。そんな彼女の方を見ていたリリアは、かまどの火へと向けていた純白の枝にこっそりと声をかける。

 

「……風の精霊様。千穂ちゃんが少し心配なので、付いていってもらってもいいですか?」

《縺?>繧》

「ありがとうございます」

 

精霊からの返答を受け、リリアが礼を言う。と、枝からふわりと風が起こったかと思うと、千穂が向かった方向へと追いかけるように風が吹いていった。その様子を確認し、安心した様子を見せたリリアは、気を取り直して会心の炊き具合を見定めるのであった。

 

 

 

 

 

……どうするべきか。

リューは苦悩していた。今日は豊饒の女主人の非番の日であったため、軽食用のじゃが丸くんを買った後に一日中張り込む予定でオラリオ市壁の上からこっそりとリリアの様子を窺っていたリュー。レベル4のステイタスと自身の魔法を用いれば、市壁の上に登ることなど容易い。見回りのガネーシャ・ファミリアの団員に見つかった時が怖いが、見つかるようなヘマをしなければ大丈夫だろう。

そんな彼女が悩んでいるのは、現在かまどの前で何やら火の様子を見ている護衛対象(リリア)とは別の人物、先ほどリリアと別れ、オラリオへと向かった1人の少女の事だった。

もちろん、彼女がこれまで1人で食材を購入しているところは見ているし、自分の身を守れるだけの危機管理意識があることもこの護衛の日々で把握している。しかし何が起きるか分からないのがここオラリオだ。特に今日は行き帰りの場所が違うため、何が起きるかの予測が一層しづらくなっている。……護衛対象では無いが、一応様子だけは確認しておくべきか。リューを悩ませているのは、概ねそのようなことであった。

そして、悩みに悩んだリューは、最終的に少女を追うことに決めたようだ。リリアの周囲には危険となりそうな影はなく、強いて言えばリリアが火によって火傷しないかどうかが気がかりではあるが大丈夫だろう。リューはこれまでにも彼女が意外なほどに料理ができる様子を見てきている。さらに言えば周囲には彼女に好意的な冒険者が多くいたので、万が一の場合も大丈夫と見た。

とてとてとオラリオの大通りを歩く少女の背中を見つめながら、リューは感慨深い思いでここ数週間影ながら護衛し続けてきたリリアの事を思う。

変わった方だ。リューの抱く印象はそんなものだった。しかし、それは決して悪印象などではなく、リューの中では好感に近いものであった。他種族に排他的、侮蔑的なエルフの種族的性格に嫌気がさして里を出たリューにとって、他種族しかいないはずのニニギ・ファミリアにうまく溶け込み、生活できているリリアは驚くべき王族(ハイエルフ)であった。幼いこともあって、自らの感情に素直な所は見受けられるものの、その感情も他種族に対する嫌悪ではなく、同じ共同体に住まうものへの敬意や愛情、友情であった。他者との触れ合いを拒むエルフの性をどうしても克服しきれなかったリューとは違い、リリアはそれすらも躊躇うことなく行えている。

それは、《九魔姫(ナイン・ヘル)》などの例外を除き、典型的なエルフしか見たことのなかったリューにとってはまさに理想的とも言えるエルフの振る舞いであった。

 

なお、実際のところはリリアが米キチであまり他種族の事を気にしない質であるというまさしく例外中の例外である事は、言わずとも知れたことである。

 

私も、あのように振舞えていれば――――と、そこまで考えて首を振るリュー。過ぎてしまった日々を思い返しても、その時に帰れるわけではないのだ。見ると、少女は無事に肉を買い終え、帰路についていた。どうやら何事もなく買い物を終えたようだ。リューは安堵の息を吐き、元の市壁の上(ポジション)へと戻っていった。

 

 

 

 

 

そして、昼過ぎ。

無事に殆どの田んぼに苗を植え終えた極東系ファミリアの冒険者たちは、リリアが土の精霊の力を借りて作り上げた特設の調理場で料理を受け取り、地面に腰を下ろしてわいわいと昼食を食べていた。

献立は、携帯しやすいように葉に包まれた炊きたての米で作られたおにぎりと、簡素な木彫りの椀に注がれた出来立ての豚汁。肉体労働の心地よい疲労感を癒す簡素ながらも絶品の昼食に、冒険者たちは喜びの声を上げていた。

 

「ほ、本当に食べれるの、リリアちゃん……?」

「だいじょぶ」

「エルフってお肉食べれたっけ……?」

 

ぐっと拳を握り、よそわれた豚汁をずずっと啜るリリア。その横では、首を傾げながら泥に汚れた装束で腰を下ろす千恵と、彼女の流す汗を手ぬぐいで拭ってやりながらもリリアを心配そうに見つめる千穂の姿があった。

そして、具材である豚肉をもぐもぐと頬張ったリリアは、くわっと目を見開くと豚肉をすぐさま呑み込んでこう叫んだ。

 

「美味いっ!!」

「あ、食べれたんだ」

「よかった……」

 

味噌の味と出汁がよく利いた汁に、その汁をしっかりと吸い込んだ豚肉。豚肉は良く血抜きがされてあったのか臭みはなく、しっかりとした食感でリリアの舌を楽しませる。そして肉の脂で少しこってりとした口の中にほかほかのおにぎりを放り込めば、まさに至福。

脂を吸い取った米はその味に深みを増し、また少量つけられた塩の味がよいアクセントとなって更に食欲を引き立てる。その次に一緒に豚汁に投入されていたごぼうやキャベツを食べれば、少しくてっとした食感ながらも肉や米とは違うシャキシャキ感と共に、豚肉からも染み出した旨味が口の中に広がる。

美味い。

満足げな笑みを浮かべるリリアに、心配が杞憂であった事を感じ取った千穂たちは笑顔を交わし、自分達の分の料理に箸をつける。

 

「うん、美味しい!」

「上手くできてよかったです」

 

そして、その出来栄えに感嘆の声を上げた千恵と、安堵の声を漏らした千穂。2人が黙々と食べ進めるその側に、腰を下ろした人影がいた。

と、同時にリリアが顔を上げ、その顔に驚愕を浮かべる。

 

「君が、ニニギの言っていた《風変わりな眷属》、か。……なるほど、確かに変わっている」

「あ、貴方様は……」

 

わなわな、と震えるリリア。その様子と、自分達の隣に座った人物……いや、神物(じんぶつ)を見て、千穂と千恵は同時に思った。

あっ、やばい。と。

 

「このように美味い握り飯を作ってもらった礼を言おうと思ってな。少し失礼するぞ」

「……こ、米の神様……!」

「だぁからすぐに土下座しようとするのやめようってリリアちゃん!」

「ああ、いつものですね……」

 

米レーダーにびんびんと反応する目の前の神は、タケミカヅチ。日本神話随一の武神にして、名前の通り雷を司る雷神でもある。

雷は、別の言い方で言えば稲妻となり、稲は雷に感光することによってその実をつけるという信仰から(リリアにとって)米に関係が深い現象である。つまり、雷神としての側面を持つタケミカヅチはリリアにとって米の神様。うん、跪くのもしょうがないよね。

もう諦めた様子で遠い目をする千穂と、それは見事なDOGEZAを披露するリリアを止めようとする千恵。そしてその様子を見て困惑するタケミカヅチという、ある意味いつもの光景(カオス)が広がっていた。

 

 

 

 

 

「ハァッ!!」

 

一閃。

純白の木刀が振るわれ、ゴブリンの胴を薙ぎ払った。魔石を潰されたゴブリンは断末魔を上げることさえままならず、直ちに灰となり消え失せていく。その様子をみて尻込みしたのか、ジリジリと後ずさるゴブリンに容赦なく木刀は振るわれ、怪物(モンスター)達を容赦なく灰へと変えていった。

ものの1分程で7匹のゴブリンが灰になった光景を見たレフィーヤは、そんな姉の狂戦士(バーサーカー)っぷりに引きつった笑いを漏らした。……おかしい、明らかに彼女の周りだけ世界観が違う。自分と似た見た目なだけに、細身のエルフがバリバリの近接戦をこなしているという絵面に非現実感が湧いてしまう。と、そう考えている端からボコボコと壁が隆起し、新たな怪物の産声が上がる。

 

「……【母なる森に請い願う。私の護りたいものを、護れるだけの力を与え給え】」

 

それを見た姉……リフィーリアは、静かに玉音の音色を迷宮に響かせ始めた。ギギ、ギギ、と唸り声を上げるゴブリンやコボルトの群れが襲いかかるものの、その玉音の音色が止む気配はなく。

 

「【重ねて請い願う】」

 

逆に、コボルト達の数が減っていく。

《並行詠唱》。全魔法使いが目指し、レフィーヤ自身もフィルヴィスとのスパルタ特訓を経てようやくものにした高等技術を自然と使い出す姉に顔の引き攣りが止まらないのをレフィーヤは感じていた。そして、第2波を難なく捌ききり、続く第3波。すると、ここまで怪物を送り込んでも倒れないエルフに嫌気がさしたか、迷宮の壁のひび割れは特別大きくなっていた。

それを見たレフィーヤが思わず目を見開く。

 

「まずい……お姉ちゃん!?」

「【護れるだけの、魔力を与え給え】」

 

そして、静かに詠唱を(うたい)続けるリフィーリアに向かって先輩冒険者として後退の指示を出そうとしたが。

 

 

 

「――――散れ」

 

 

 

ド……ンッ!!!と、迷宮内の空気が震えた。

レベル1とは思えない程の速度で振るわれた木刀が、生まれた大量の怪物達を薙ぎ払ったのだ。

 

(デタラメすぎる……えぇ……?)

 

レフィーヤは、声をかけきるよりも早く生まれた怪物達を一掃した姉にドン引きする。いや、カラクリは分かってはいるのだ。姉の持つ強化魔法【ツヴァイ・バースト】によるステイタスの底上げ。「森に対するカツアゲ」とロキが称したその魔法の効果は、一度模擬戦を行ったリヴェリア曰く「完全に詠唱し終えたならば、体感では殆ど階位上昇(レベルアップ)に等しい」とのこと。詠唱も効果も把握しているため、レフィーヤもその魔法を使おうと思えば使えるのだが、その無茶苦茶加減には呆れるしかない。しかも、まだステイタスの低いこの状態でこれなのだ。いったいレベルが上がった時に使用すればどれ程までになるのか――――

先輩冒険者としてすぐに追い抜かれそうな実力差にレフィーヤが遠い目をしていると、ハッとした表情で辺りを見回したリフィーリアが焦った様子でレフィーヤに話しかけてきた。

 

「えっと、その、こんな感じで大丈夫かな」

「うん、大丈夫だとオモウヨ」

 

思わず片言になりながらもなんとか気力を奮い立たせて姉に答えるレフィーヤ。

そう、レフィーヤが遠い目をする理由の一つには姉の性格もあった。姉は何故か戦闘になるとスイッチが入り、人格が変わる。いや、別人格というわけではないから、ロキの言葉を借りれば「キャラが変わる」という感じか。キレると本性が現れるティオネの様な感じだが、あちらは完全に怒りで行動するのに対して、こちらは冷静沈着な殺戮者へと変貌する。このギャップの激しさにレフィーヤは毎度胃がキリキリするような感覚を覚えるのだ。

まさか、自分の姉がそんな属性特盛りだとは思わなかったレフィーヤは、この久し振りに会った姉の扱いにも悩んでいた。

 

「もっと強くならないと……リリア様を、護りきれるように」

「うん、そうだね……護らないとね……ハハ」

 

レフィーヤは、今は何処にいるのか分からない幼馴染の王族に向けて心の中で呟いた。

 

 

 

リリア様……早く、早く見つかってください……!!




次回予告。

「行ってきます」
「夕食前には帰ってきてくださいね」
「がってんしょうち」

オラリオの街を探索するリリア(とそれを追うリュー)!!
精霊のお節介のもと、ぶらぶらと散歩する彼女が迷い込んだのは悪名高いダイダロス通り!!

「おー、トンネルを抜けたら森でした?」
「まずい、見失った……!!」
「精霊の愛し子になる条件……知ってるか、フィン?」
「まさか……馬鹿な」

的外れなシリアスはその重さを増し、さらに別方向へと突き進んでいく!!
そしてそんなシリアスを他所に、リリアは友達づくりへ!!

「やっちゃえモーさん!!」
「ブモォォォアアアアアアッ!!!!」



次回、TSロリエルフが稲作をするのは間違っているだろうか
第7話『割と暇な第一王女の一日』
たぶん明日更新!!


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わりと暇な第一王女の一日(前編)

こ、米ディ!?(困惑)

な、何があったかは分からねえ、ただ、気がついたら7000字をオーバーしていた……
そしてこのままだと10000字を超える事になるのは分かったから、急遽こういった前後篇にする事にしたんだ許して米(誤字)……

感想とか誤字報告とかじゃんじゃんください(DOGEZA)。
あと、ティオナとティオネを間違えてすいません。でもややこしいあの子達にも責任があると思うの。え?無い?……あ、そう。

ロキ・ファミリアが優秀すぎて辛い……
コイツら優秀すぎるが故に空回ってんじゃんかよいいぞもっと空回れ(ゲス顔)

それでは色々と高ガバリティーな第7話、どうぞ。


【黄昏の館】、主神ロキの神室にて。

ロキとフィン・ディムナ、そしてロキ・ファミリア副団長のリヴェリア・リヨス・アールヴ の3人は話し合いを行っていた。議題はもちろん我らが米キチ(リリア)である。

 

「駄目だ、エルフのコミュニティを当たってみたが全くと言っていいほどに情報が無い。オラリオの門を通行した者の情報を調べてみても他のエルフの出入りに紛れ込んでいるようで絞り込めなかった」

「話に聞くと幼い子供じゃないか。ちゃんとそれを考慮に入れたかい、リヴェリア」

「当たり前だ。しかし、不思議なことに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。乗合馬車や商人の連隊(キャラバン)の情報も調べたが、同様だ」

「精霊の力でも使ったんか?どうやったんかは知らんけど、透明になったりとか幻覚を見せたりだとか」

 

ロキの言葉に、リヴェリアは「あり得る」とだけ返すと疲れた様子で1つため息を吐いた。当初はやって来たリフィーリアのみに調査をさせておけば良いというスタンスだったロキ・ファミリアだったが、リフィーリアから「リリアが精霊の愛し子である」という情報が入った今、そのリリアという名の王族(ハイエルフ)を放って置くわけにはいかない。なにせこのダンジョンの地下には怪物からの捕食によって存在の反転した精霊—————穢れた精霊がまだ潜んでいるのだから。交戦時のアイズへの態度からして、穢れた精霊は他の精霊を取り込もうとしている可能性が高い。そこに複数の精霊を引き連れたリリアという存在が現れた。

精霊がもしあの穢れた精霊に取り込まれた場合、どうなるのかの詳細を予想する事は難しいが、ろくな結果にならないのは目に見えている。都市の破壊者(エニュオ)側の勢力と通じている、しぶとく生存していることが分かった闇派閥(イヴィルス)の残党などに彼女が捕まっていれば目も当てられない。オラリオの存亡という面で見ても、1人の少女の尊厳という面で見てもだ。

すると、ロキは「うちは1個情報仕入れて来たで」と言った。その言葉に、フィンは思考を働かせた状態のまま、片目をロキに向けることで促した。勇者(ブレイバー)のその様子にニヤリと笑みを浮かべたロキは、そのまま言葉を続ける。

 

「とりあえず手当たり次第に他の神にそれとなーく探りを入れてみたんよ、うち。ああ、精霊の愛し子やとか王族やとかそんな余計な情報は漏らしてへんで?まあそれは当たり前か。んで、しばらく聞いてたらな、今から1ヶ月前くらいに『ロリエルフの姿を見た』っちゅう神が何柱(なんにん)かおってな?それを追って行ったらあのどチビんトコにたどり着いてなー」

「過程はいい。結論だけ話してくれ、ロキ」

「なんや、つれないなー、フィン」

 

フィンの言葉に不満げな声を上げながらも、表情は面白がっているロキ。そして、続けられた言葉にフィンとリヴェリアは目を見開いた。

 

「……そのロリエルフ、神の塔(バベル)に向かったらしいで?」

「な……!?」

「馬鹿な、あり得ない。それなら……!」

 

もう既に見つかっているはず。

そう言おうとしたフィン達のその言葉は正しい。なにせ、彼らが話を聞いた時に真っ先に網を張ったのがそこなのだ。しかし、王族(ハイエルフ)はもちろんのこと、精霊や子供のエルフといった些細な情報すら手に入らなかったのだ。

つまり、その事実が指し示している事は。

 

「もう捕まっているかもしれない、と?」

「あり得んこっちゃないやろ。大通りと直結しとるバベルを目的地にして迷うことなんてあり得へん。それこそ上を向きすぎてダイダロス通りに行ったとかやったら別やけどな?」

「そんな、手が早すぎる!それなら、まるで……」

 

リリアがオラリオに来ることが分かっていたようではないか。

そう言いかけたリヴェリアは、ある一つの想像にたどり着いた。たどり着いてしまった。

 

「まさか……馬鹿な」

「……ウィーシェの森に、内通者がいる、と?」

「……うちは、そんな事起こって欲しゅう無いと思うとる。それやったら、リフィーたんやレフィーヤたんが可哀そすぎるやろ」

「しかし、この状況は……」

 

誤解のないように言っておくが、真の状況は『リリアが勝手に里を抜け出し』『ヘスティアの忠告をパエリアによって忘れてバベルの事が頭から吹き飛び』『デメテル・ファミリアの直営店に向かう途中で道に迷い』『適当に道を進んだ結果オラリオ郊外のニニギ・ファミリアの拠点へとたどり着いた』である。

……流石に切れ者のフィンと言えど、これを推理しようとするのは不可能である。まずロキ・ファミリアやウィーシェの森の住人達の想像と事実の間では前提条件からして違うのだ。ノーヒントのウミガメのスープ問題よりも悪辣である。

そして、この状況をロキ・ファミリア側から見てみればどうだ。

『突然、滅多に里を離れない王族、それも幼子で精霊の愛し子という貴重な存在が里を出奔し』『精霊を取り込もうとしている穢れた精霊の活動するオラリオにやってきて』『バベルに向かう途中で足取りが途絶えている』のだ。

控えめに言って詰みである。何かしらのヤバい事態に巻き込まれていると考えるのが普通だろう。リリアの存在が激レア中の激レアであるのも、また不運な事に勘違いに拍車をかけている。

 

「取り敢えず、大通り沿いの店に片っ端から聴き込むしか無さそうやなぁ……」

「早く見つけ出さなければ、大変な事態に陥るかもしれん」

「けれど、他の団員達に知らせるかい?どこから情報が漏れるか分かったものじゃないが」

「そこはまあ、心苦しいけど情報統制するしかないやろなぁ……。前回の情報共有で集まったメンバー以外にこの事は内緒やで?リヴェリアママもそうリフィーたん達に伝えといてやー」

「その呼び名は止めろと……ハァ、分かった」

 

こうして、勘違いしか起こってない話し合いは斜め上に進んでいくのである。

 

 

 

 

 

そして、我らが米キチ(リリア)はと言うと。

 

「……変な夢みた」

 

寝坊していた。

時刻は午前6時頃。空は青く染まり、薄くかかった雲が淡いコントラストを描いている。自分が寝坊していることに気がついた瞬間、リリアは「うわっ」と声を上げてどたどたと土間へと向かった。すると、そこには既に食卓を囲みリリアを待っていたファミリアの皆が。

 

「あら、おはようリリアちゃん。そろそろ起こしに行こうかと思ってたところなの」

「ご、ごめんなさい」

「大丈夫だって。誰も気にしちゃいねーよ」

「昨日まで具合悪そうだったからな」

 

千穂の言葉に急いで謝ると、伊奈帆や穂高から気にするなと声がかかる。そう、先日の田植えで、昼食に豚汁を食べたリリアはあの後見事に胸焼けを起こしていた。長年植物性のものしか食べてこなかったリリアの胃にとって、魚のあっさりした脂はギリギリ許容範囲内だったようだが、肉は流石にアウトだったらしい。ムカムカとする胃の感触にやられ、リリアは昨日一日中ダウンしきっていたのだ。

それでもしょんぼりとしたリリアに「今日も朝はお粥にしましょうか」と千穂が別に作ってくれていた粥をよそってくれる。その優しさが沁みたリリアは、ぐすんと鼻を鳴らしつつもいただきますと手を合わせ、匙で黙々と粥を食べ始めた。その様子を見て苦笑を交わし合うニニギ・ファミリアのメンバー達。なんだかんだ言って、元気の良くて器量好しのリリアはニニギ・ファミリアのマスコット的存在となっていた。

薄く塩味の効いたお粥に、すり潰されて混ぜ込まれた梅干しが良い酸味を出し、食欲を増進してくれる。ぱくぱくと食べ進めるうちに、だんだんとリリアの元気は戻っていった。

 

「今日は俺たち迷宮(ダンジョン)に潜ってくるから」

「田植えも終わったし、暫くは仕事も少ないからな」

「いっぱい稼いでくるから楽しみにしててね!」

「はい、お気をつけて」

「私も行く」

「「駄目だ」」

「うぅ……」

 

伊奈帆とニニギ、2人から却下されてリリアはバツの悪い顔を見せる。「危ないからついて来ちゃ駄目だぞ」と伊奈帆が言い、「まあ、そもそも冒険者登録してないからバベルで弾かれるのだがな」とニニギが頷く。はぁい、と返事を返したリリアをあやす様に、ぽんぽんと千恵が彼女の頭を撫でた。

そして、暫くして。皿洗いを済ませたリリアと千穂は、ニニギと共に物々しい格好で拠点を出て行く伊奈帆達を見送った。この時ばかりはどれだけ仕事があったとしても一旦放置だ。……今日この瞬間が、永遠の別れの時になるかもしれないのだから。

そして、ニニギも田んぼの管理やバイトの為に家を出て、リリアは千穂と2人っきりになる。主な仕事は洗濯や拠点の掃除なのだが、リリアと千穂の2人で分担してしまえば、昼前には終わってしまう。そうなると、その後は割と暇なのだ。

昼ごはんに米と味噌汁、そしてほうれん草やもやしのおひたしといった簡単な料理を食べた2人は、これから何をしようかと話し合う。

 

「私は前に買いためていた本があるからそれを読もうと思うんだけど、リリアちゃんは?」

「うーん、オラリオ探検?」

「……危ないとこ行っちゃ駄目だよ?ダイダロス通りとか」

「分かってる」

「ちゃんと帰ってこないと、ニニギ様も私たちも、皆怒るからね?」

「う……ちゃんと帰ってきます」

「はい、分かりました」

 

千穂はもはやリリアの母親である。したり顔で頷いた千穂は、少し待ってて、というと曲げ物で作られた小さめの箱をひとつ持ってきた。

中を見ると、手頃なサイズのおにぎりが2つ詰め込まれている。

 

「はいこれ、歩いてたらお腹空くと思うから、おやつ代わりのお弁当」

「……お母さん」

「ふえっ!?」

 

思わずそう呟いたリリアは、驚く千穂を他所に懐から取り出した布でその弁当箱を丁寧に包み始めた。鮮やかな新緑に染め抜かれた生地に、金糸で刺繍が施された豪奢な絹の織物。……言うまでもなく、ウィーシェの森の王族のみが着用を許される最高級のローブである。哀れなローブは、リリアによって多少の改造を施され、今では彼女専用の風呂敷として活躍していた。ウィーシェの森の機織りは泣いていい。

 

「それじゃあ、行ってきます」

「夕食前には帰ってきてくださいね」

「がってんしょうち」

 

ばいばーい、と元気に手を振るリリアに千穂は苦笑いを浮かべつつ、手を振り返した。

そして、ふむん、と気合を入れると、この間古書店で見つけた分厚いハードカバーである『自伝・鏡よ鏡、世界で一番美しい魔法少女は私ッ 〜第1章 マジックマスターの目覚め〜』を読み進めるのであった。

 

 

 

 

 

そして、まあ、いつもの如くと言うべきか。

 

「ここ……どこ……?」

 

リリアは道に迷っていた。左右をみても壁、壁。前を見ても壁。後ろを見れば、少しの道はあるものの、すぐそこに壁。

どこをどうやったらこんな摩訶不思議な地形にたどり着くのやら、リリアは現在、迷宮街と名高いダイダロス通りにて絶賛迷子となっていた。初見の者はまず間違い無く遭難し、慣れた者も気を抜けば遭難すると言われるオラリオの「第2の迷宮」ダイダロス通り。ふらふらとオラリオの街を出歩いていたリリアは、気がつけばこの通りに迷い込んでいた。馬鹿である。

 

「……困った」

 

リリアが首を傾げると、さらりと肩口に切り揃えられた()()()()()が揺れる。その髪から覗く耳は、ヒューマンよりは長いものの、エルフと比べると半分程に()()()()()()()。彼女が動くと、まるで蜃気楼のように彼女の周りの空間が揺らめく。

まるでハーフエルフのような外見となったリリア、その周囲をふわふわと漂うのは、光の塊のような不思議な物体。……微精霊だ。

火と水、そして風の微精霊は、現在自分達が振るえる権能を最大限に行使して、リリアの外見を周囲の人間に誤認させる現象を引き起こしていた。そこにリリアの指示はなく、精霊達が自分からやり始めたことである。理由?……その方が精霊達が()()()と感じたからだ。神といい精霊といい、基本愉快人だらけなのは超越存在(デウスデア)の性質なのだろうか。しかし何事にも例外はあるもので、土の微精霊のみはふよふよと漂いながらも他の微精霊達を非難するような光を出していた。

そして、しばらくうんうんと唸ったリリアは、なにかを思いついた様子でポン、と手を叩いた。それと同時に、カサリと肩に掛けるように結ばれた弁当が音を立てる。

 

「道がないなら作ればいい!!」

 

馬鹿だった。

単純明快かつ強引の極みである解決策を思いついたリリアは、懐から《霊樹の枝》を取り出すと、自らが立つ地面に向けて口を開く。

 

「土の精霊様、土の精霊様。ここを貫く感じで道を作ってください!」

 

そして、躊躇なくそう言った。えぇ……流石にそれはまずいでしょ、だって()()()()だよ?とでも言うようにちかちかと点滅しあう火、水、風の微精霊。そして土の微精霊はというと。

 

《〜〜〜〜〜〜ッ!!》

 

やる気に満ち溢れていた。

うわぁ……と若干引き気味にゆっくりと明滅する微精霊達。実際のところ、愛し子のおねだりに一番甘いのは土の微精霊だったりする。

やる気満々でリリアの構える枝に入った土の微精霊は、自らの権能を振るいに振るって彼女が指し示した方向に一直線のトンネルを作り上げた。……より具体的に言えば、奇人ダイダロスの執念の塊である人造迷宮(クノッソス)の上層から最下層を貫き、ダンジョン20階層へとつながるトンネルを。しかもご丁寧にも内部に人造迷宮(クノッソス)を構成する最硬精製金属(アダマンタイト)を使用した超強靭な最高品質のトンネルを。

 

《〜〜〜!》

 

枝から出て、やりきった!とでも言わんばかりにひときわ大きく点滅する土の微精霊。その微精霊のやらかした事態をなんとなく察知した他の微精霊達は、あいつやばくね?うん、わりとやばい、などと話しているかのようにこそこそと集まってうっすらと点滅する。

 

「ありがとうございます、それでは、とう!」

 

そしてそれに躊躇なく身を投げ出すリリア。彼女も彼女で精霊への信頼度が高かったため、まさか土の微精霊が神ですらも顔を引きつらせそうなやらかしをしているとは思わない。ぴゅーんと迷宮に向かってゴーイングマイウェイな愛し子(リリア)がトンネルとの摩擦で火傷を負わないように急いで風で補助しながら、風の微精霊は「どうしてこうなったーーー!?」とでも叫んでいるかの様な激しい明滅を繰り返した。

 

 

 

 

 

()()は、生まれながらにして餓えていた。

無数の同族を殺し、無数の闘争に身を委ねてもなお収まることのない強烈な餓え。

素手で撲殺し、足で圧殺し、肉体で粉砕する。そのような激しい闘争に皮が裂かれ、骨が砕けた。無限に現れる外敵に肉を溶かされ、腐り落ち、それでもなお彼は同族を殺し、闘争を続けた。しかし何事にも限界はある。もはや数えることすら出来ないほどに繰り返した闘争の末に、彼はようやく膝を折った。力尽き、いつしか芽生えていた自我で届くことのなかった憧憬(ゆめ)の事を思った。

その時だった。同族ではなく、『同胞』が現れたのは。

彼らは同族から彼を守りきり、死地から救い出した。更に自分達の家に運び、彼の体を癒してくれた。同胞とは、彼らとの暖かいやり取りは、生まれ落ちたその時から無限に続く闘争に身を置いていた彼にとって、餓え以外の何かを芽生えさせる程度には、良いもので、よい存在であった。

そして、彼らは彼に、自分の持つ餓えの正体を教えてくれた。

 

『強烈な()()』。

 

同胞の戦士は言った。それはお前の『願い』なのだと。彼は願いとはどう言うものなのかはいまいち理解しきれなかった。しかし、それが己の『願望』であることは理解した。……片時も見ないことのない『夢』の中では、音は無く、臭いも無く、ただ光があった。身を震わせるほどの意志が、空っぽの体に満たされていく歓喜が、己の存在を肯定する『何か』が。

彼は同胞から他にも様々なものを教わった。知恵を、強さを、そして武器を。

そして今、彼は自ら同胞達の家を出て、自らが生まれた場所へ、深い深い黒鉛の迷宮へと戻ろうとしていた。同胞の家はその場所から遥か遠く、そして暖かい場所であった。しかし、駄目だ。このままではいけない。このままでは、あの憧憬に手を伸ばすことはままならない。

もう行くのか、と同胞の戦士は言った。まあお前なら大丈夫だろうとは思うが、と戦士は彼への信頼を見せた。自らの肉体を使った戦い方しか知らなかった彼に、武器の使い方を教えてくれた戦士は良き練習相手であった。……だが、それでは満足することはできなかった。

もう少しゆっくりしていっても良いのだぞ、と黒き同胞は言った。彼に数々の知恵を、そして強さというものの本質を教えてくれた智慧者の同胞は、まあ言っても止まらないのだろうな、と若干の諦観を滲ませながら彼にそう言った。そうだ。自分はこんな所では止まらない。止まれない。

森の様になっている迷宮を歩く。狩人に見つからぬ様に、大きすぎる己の気配を殺して。

時折壁が割れ、同族達が生まれてくるが、それは武器を用いた戦いの丁度良い練習台となった。彼らから貰った両刃斧(ラビュリス)を振るい、切断し、鏖殺する。すぐさま灰になっていく同族達を見ながら、彼は不満げな鼻息を漏らした。……これではない。これでは手応えが余りにも無さすぎる。しかし、黒鉛の迷宮に潜っても、同じことではないか……?

彼の思考がそう弾き出し、動きを止めていたその時。

 

「ぺぐぅ!?」

 

ドサリ、と彼の目の前に1人の狩人が姿を現した。……いや、狩人と言うには、目の前の生き物は幼すぎた。

彼の腕よりも細い枝の様な体、手のひらで包めばすぐに砕け散ってしまいそうな程の小さな顔。そして、さらりと流れる蒼銀の髪。その色合いを見た瞬間、彼の脳裏にいつも見ていた『夢』の景色が広がった。あの夢で見た、真っ白な光が。

 

「いったたた……おー?トンネルを抜けたら、森でした?……って」

「……」

 

小さな狩人が、彼に気付く。彼は目の前の小さな雌が取る行動によって、どう動くか決めようかと思った。様子見に徹するのには、別にどうと言う理由はない。強いて言うならば、目の前の雌が纏うその『色』だった。

そして、小さな狩人が動き出す。

 

「……ええっと……」

「……」

 

 

 

 

 

「牛の獣人さん、おにぎり食べますか?」

「……何?」

 

それが、彼—————雷光(アステリオス)と、愛し子(リリア)の出会いであった。




次回予告が……次回予告が役に立っていない……だと……!?

フィン「精霊の愛し子で街がやべえ」(シリアル)
リュー「まずいまずいまずいはぐれた……!?」(胃がピンチ)
千穂「私にとっての魔法とは……」(寝落ち)
伊奈帆「リリア、大人しくしてるといいけど」(フラグ)
雷光「なんだコイツ」(困惑)
リリア「牛の獣人って初めて見た」(全ての元凶)



あと、次の話は筆者が戦闘描写の練習に使いますのでご留意くだせえ。
戦闘描写苦手なんじゃあ……


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わりと暇な第一王女の一日(後編)

米ディッ!!(いつもの)

さて、後編ですよ。
ここからはしばらくの間米キチの米キチによる米キチのための和食ライフが始まる予定。
あ、そういえば。

「魔銃使いは異界の夢を見る」
https://syosetu.org/novel/214037/

ダンまちTSロリジャンルの大御所である魔法少女()様とコラボした小説でございまする。
べ、別にオイラそこまでバイタリティ溢れてる訳じゃないから……

内容?
米キチがいつもの如くその言動でミリアちゃんを困惑させてるだけだよこの野郎。

面白いからぜひコラボ先の「魔銃使いは迷宮を駆ける」も読んでね。
向こうは全然米出てこないけど。……当たり前か。

それでは、告知も済んだ事ですので予告詐欺をやっちゃった後編をどうぞ!!




……因みにリリアの名前の由来はリリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツさんです(小声)。元ネタが分からない?ばっかやろう配信者の原作の作者様(あとがきの神)をよく調べるんだよ。


迷宮都市オラリオ。

世界の中心とも呼ばれる大都市、その象徴である存在の迷宮(ダンジョン)。その20階層にて。

やる気を出しすぎた土の微精霊によって人造迷宮(クノッソス)さえも貫いて出来たトンネルを通って無自覚のままに迷宮へと足を踏み入れたリリアは、現在奇妙な人物と共に早めの軽食をとっていた。彼女の手にあるのは、真っ白な米を三角形に固め、持ちやすいように草で包んだおにぎり。ぱくりと一口頬張れば、程よく効いた塩と米の甘味が絶妙なハーモニーを作り上げてリリアに米の素晴らしさを訴える。

日本人であるならば食べたことの無い者はいないであろうこの超基本的な料理(おにぎり)は、基本であるからこそ真に美味しく作るのは難しい。

米の炊き具合、塩加減、握る強さ。

料理というものは単純であればあるほど、少ない要素で味の全てが決定されるからだ。

その点、このおにぎりはどうだ。昼前に精霊とリリアが丹精込めて炊き上げた米は一粒一粒が綺麗に粒立ち、艶々と白く光り輝いている。そして十分に蒸らされた米はその優しい甘味を存分に引き出され、千穂が絶妙な力加減で握ることにより、米の食感を損なうことなく綺麗な三角形を形作っている。ひとつ間違えるとその自己主張の強さから全体の調和を乱しがちな塩も、米の甘味を引き立てつつも自身の旨味も伝える良い塩梅だ。

更にもう少し深くかじりつけば、おにぎりの中央に宝玉のごとく埋め込まれていた梅干しがその酸味で舌を心地よく刺激する。ニニギ・ファミリアの漬け物担当である千恵が丹精込めて作り上げたこの梅干しは、隠し味に蜂蜜が使われておりほんのりと優しい甘味がする。この梅干しの柔らかい酸味がしばらく歩き続けていたリリアの疲れを癒し、同時に食欲を沸き立てる。

しばし無言でおにぎりを食べ進めたリリアは、自分の隣に座る人物が手の中にあるおにぎりをじっと見つめていることに気がつき、自分の分のおにぎりを食べ終わると隣に座る「彼」に話しかけた。

 

「……おにぎり、食べないんですか?」

「……いや、戴こう」

 

こてん、と首を傾げながら問い掛けたリリアにそう言って、彼女のとなりに座っていた人物―――――雷光(アステリオス)は己の手の平にちょこんと乗っていたおにぎりを一口に頬張った。とは言え、そのおにぎりは人間よりも遥かに大きい怪物(モンスター)の一種、牛人(ミノタウロス)である彼にとっては小腹にも満たないようなささやかな量であった。

 

「お味はどうですか?」

「……分からない」

「……はい?分からない?」

 

そして、わくわくしながらアステリオスへとおにぎりの味の感想を尋ねたリリアに、彼はそう返した。量が彼にとって少なすぎたと言うのもあるが、それ以上に彼が生まれて初めて食べた味でどう判断したらいいのか分からないという困惑もあった。それに、怪物である自分にこうも屈託なく笑いかけてくる目の前の小さな狩り人(リリア)の存在にも、アステリオスは戸惑っていた。

 

「吐き出したくなるような感じはしない。むしろ食べたいと思うから、たぶん美味しい……のだと思う」

「……ほー。不思議な人ですね」

 

ある意味リリアにだけは言われたくない台詞で評されたアステリオスは、ふんすと返事の代わりに鼻息を吹くと、椅子の代わりに座っていた倒木から立ち上がり、立て掛けていた両刃斧(ラビュリス)を手に取った。両刃斧を構えた彼の目の前では、ビキビキと壁にひび割れが入り、今まさに迷宮が力なき者の命を奪う尖兵を産み出そうとしていた。

自分に続いて立ち上がろうとしていたリリアを視線で制したアステリオスは「耳を塞いでおけ」とだけ言うと、壁からズルズルと這い出てきた怪物たちを相手取る。数は合計10体。その全てが巨大な蜂型のモンスターであり、肥大した針をこれ見よがしにアステリオスへと向けていた。

キチキチ……とリリアなど直ぐに噛み裂いてしまえそうな大きな顎から威嚇音を鳴らす蜂の様子を油断無く伺いつつも、アステリオスは後ろのリリアが大人しく耳を塞いだのを確認した後、

 

「フンッ!!」

「ガ、ギッ!?」

 

凄まじい勢いで、蜂の群れへと強襲した。

迷宮の地面が陥没するほどの強力な踏み込みで、その巨体に似合わない俊足を見せたアステリオスは、驚いたような鳴き声をあげる蜂の横面に両刃斧を叩き込んだ。

轟音が鳴り響き、迷宮が微かに揺れる。

踏み込みの勢いをそのまま乗せられた両刃斧は蜂の大顎を割り砕き、周囲に蜂の体液を撒き散らす。当然、彼の周りにいた蜂から攻撃を受けるが、そんなものでは彼は止まらない。

次の瞬間にはアステリオスの腕が閃き、銀の閃光と凄まじい衝撃音と共に蜂のスクラップがその数を増やす。

咆哮(ハウル)で敵の動きを止めたいところだが、彼は今深層に向かう道中。下手に目立つ真似をして他の狩人をおびき寄せては敵わない。負けるつもりは微塵もないが、もし自分と同等かそれ以上の強い相手とぶつかれば手加減をすることは出来ない。

そうなれば同胞たちとの約束が守れない。

しかし、それがどうした。

咆哮が封じられたところで、敵の動く前に屠ればよい。蜂の攻撃を受けても傷ひとつ付かない己の体を奮わせ、アステリオスは壊滅状態の蜂の群れへと躍りかかる。

斧で蜂を真っ二つにし、背後のリリアへと襲い掛かろうとした蜂を蹴りで粉砕し、集団で飛び掛かってきた蜂の集団を鍛えられた全身で轢き殺す。

 

正に蹂躙。

正に無双。

 

一騎当千の活躍で瞬く間に迷宮によって産み出された蜂の群れを鏖殺したアステリオスは、不満げに鼻を鳴らしながらリリアの方を振り返り―――――そうしようとして、ぴくりと肩を揺らして動きを止めた。

アステリオスは恐れたのだ。

振り向いたとき、あの小さな狩人が自分にどういった目を向けるのか。

強さを恐れられるのはまだ良い。それは闘争に身を置く者にとって数え切れないほどの回数浴びせられた感情だから。

 

しかし、もし。

 

もし、彼女から「醜い怪物を見るような目」を向けられれば―――――それは、少し堪えるかもしれない。闘争のみに明け暮れていた頃ならばまだしも、今は他の存在に気を向けるだけの余裕があった。……他者とのふれあいというものを知ってしまった。

そこまで考えて、アステリオスはなぜここまで自分は彼女からの印象を気にしているのかを自問した。他の狩人には、例え醜い怪物と蔑まれようとも、恐ろしい化け物と怖がられようとも気にすることはなかったというのに。

……彼女からは、同胞と同じ気配がしたからであろうか。

アステリオスはそう自答した。自分に闘争以外のものに関心を抱かせた大切な存在。彼女からは、彼らと同じように敵意を感じなかった。むしろ、こちらに好意的な感情をもっていたかのように感じた。まるで、アステリオスが彼女と同じ存在であるかのように。

そんなはずはない。

彼女はヒトで、自分は怪物。決して交わることはない存在、その筈なのに。

 

「えっと、獣人さん?」

「……ああ」

 

彼女は真っ直ぐにこちらを見ていた。その目に、力への恐れも、怪物への嫌悪も宿す事なく。

ヒトは、自分達を嫌っている。そう同胞達から教えられていたアステリオスは困惑した。今目の前で起きた蹂躙劇の主役がアステリオスである事を分かっているはずなのに、その目で見たはずなのに、むしろキラキラとした目で自分を見ている。

 

「ありがとうございました。助けてくれて」

「……いや、問題ない」

 

リリアは、良くも悪くもヘスティア以上に差別、偏見を持たない存在だ。

その判断基準は彼女らしく「米」。彼女は、本気の本気で一緒に米を食べれば皆友達、と考えていた。

そして、彼女がこの世界に生を受けてから一度も怪物を見たことがないのも幸いした。彼女からしてみれば、アステリオスは「一緒におにぎりを食べたやけに牛っぽい獣人の男性」だ。

つまりはソウルフレンドだ。心の友よ。

そんな彼女がアステリオスの暴れっぷりを見ても特に何を思うこともなく、強いて言えば「この人超つえー」といった感心の類だった。その為、躊躇なくアステリオスに近づけるし、その手を握ることだって出来た。

ピクリ、とアステリオスの手が震える。それに気付く様子もなく、リリアは彼に笑いかけた。

 

「そう言えば自己紹介がまだでした。……私の名前はリリア。リリア・ウィーシェ・シェスカです。リリアと呼んでください、獣人さん」

「……あ、アステリオス」

「アステリオス……雷光ですか!素敵な名前ですね!特に『雷』の部分が!とっても強そうです!」

 

リリアはそう言うと、ちらっと後ろの壁を見た。そこには、また新たに亀裂が走り、怪物が産み落とされようとしていた。それに気がついたアステリオスは、リリアを片手で制したまま、彼女の前に出る。

何故自分が、こうして自らを倒す存在であるはずのヒトを守る様な真似をしているのかは分からない。

だが、彼女を見捨てる事は今、出来なくなった。

 

「アステリオス……牛っぽいから、あだ名は『モーさん』でいいですか?」

「ああ、好きに呼べ」

「ありがとうございます、モーさん」

 

彼の名前にかすりもしないあだ名で呼び始めるリリアを尻目に、両刃斧を再び構える。

壁から生み出される魔獣の他にも、何やら巨大な花のようなモンスターもやってきている。まるで、()()()()()()()()()()()()かのように蠢く巨大な花々を見ても、アステリオスの心は少しも揺らぐことは無かった。

体はどことなく軽く、今なら同族をいくらでも殺せるような気がした。飽くなき闘争、それをリリアの笑みに肯定されたような気がしたから。

 

「……リリア、ここは任せろ」

「分かりました。……怪我はしないで下さいね」

「大丈夫だ」

「……よーし、一度言ってみたかったんですよ、この台詞」

 

地面を踏み締め、力を溜める。ぎちぎちと、全身の筋肉が軋む音を心地よく聞きながら、アステリオスは目の前に広がる地獄絵図を見た。

前方の敵の数、およそ30。小さな広間(ルーム)でリリアと話していたため、後方の事を気にする必要は無い。踏み締めた地面が悲鳴をあげ、敵が今にも突撃して来ようとする。

ここから先に、進めると思うなよ。

アステリオスのその心の声を感じ取ったのか、巨大な花のモンスターが飛び掛かろうとした瞬間。

 

「――――やっちゃえ、モーさんッ!!」

『ヴオオオオオオオオオオッ!!!』

 

アステリオスの姿が()()()()()

ゴッッッ!!!!と音を超えた衝撃波がリリアの号令とほぼ同時に広間に発生し、アステリオスが足をつけていた場所がまるで鍬で抉り取ったかのように捲れている。牛人(ミノタウロス)が己の最大の武器である角を用いて行う必殺の攻撃。何者も止めることの出来ない、あらゆるものを粉砕する怒涛の突撃(チャージ)

第1級冒険者でさえも『地獄』と言い切る深層にてその能力(ちから)を磨き続けたアステリオスのその一撃は、進路上にいた不運な巨大な花の怪物や蜂の怪物、その全てを一瞬で残骸へと変えた。

悲鳴をあげる暇すらない。

己を守る事すら許さない()()()()()

ここまで派手に暴れてしまえば、他の狩人の事など気にする事に意味は無い。枷を外したアステリオスは、己の気配を隠す事なく敵の群れの中に突撃し、両刃斧を目にも止まらぬ速さで振り回す。

常人には構える事すらままならない超重量の銀塊が、瞬く間に怪物の体を引き裂き、砕いていく。防御の為に甲殻を構えれば、その上からうち砕き、カウンターを狙って放たれた触手の攻撃はそれごと()()()()()

10秒と経たない間に怪物達の群れの約半数を屠ったアステリオスは、討ち漏らした怪物達の群れの中からリリアを襲おうと躍り掛かる巨大な花々を感知した。

彼我の距離は5mも無い。恐らく1秒後には、リリアの体に怪物の触手が打ち付けられ、彼女は息絶えるだろう。20階層の適正レベルである第3級冒険者の平均的な能力であれば、まず救うことの出来ない絶望的な状況。

しかし、ここにいるのはアステリオスだ。

 

『ヴァァァアアアッ!!!』

 

ズンッ!!!

己の両刃斧(えもの)を躊躇無く投げ飛ばすアステリオス。その刃は違う事なく花の触手へと突き刺さり、衝撃に引っ張られた怪物ごと迷宮の壁に縫い止める。リリアまでの直線距離が拓けたアステリオスは、そこで彼をじっと見つめたまま怯えた様子も見せないリリアを見た。

それは、アステリオスが絶対に自分を助けるという信頼の表れでもあるようで。

 

『オオオオオオオオオオッ!!!!』

 

轟音。

広間が大きく揺れる程の突撃。矢のような鋭い蹴りにより体を貫かれた怪物は、次の瞬間その体を灰へと変えた。それを見て優先度を変えたのか、リリアへと向かっていた怪物達は一斉に進路をアステリオスへと変えた。得物は壁に深くめり込み、直ぐに引き抜いて応戦する事は出来そうに無い。

となれば、後の武器は己の肉体のみか。

アステリオスがそう考え、拳を構えたその時。

 

「モーさん、これ使って!!」

「ッ!!」

 

リリアの叫び声と共に、一本の巨大な大剣が迷宮の天井から生えてきた。

原理など気にする事なく、躊躇いもせずにその大剣を引き抜いたアステリオスは、怪物達に向かって全力でその剣を振るった。

壁からの光を反射して白銀に輝くその大剣は、リリアが土の微精霊に頼んで急造させた特注の代物。最硬精製金属(アダマンタイト)を弄ったことによりその構成を覚えた大地を司る者だからこそ出来る、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。怪物に叩きつけられた大剣は、その斬れ味を遺憾無く発揮して怪物達を両断した。

パラパラと灰に変わる怪物。それを尻目に、アステリオスは残る怪物達の掃討に向かった。

 

 

 

 

 

そして、5分後。

追加で現れた第2波も苦労する事なく殲滅したアステリオスは、リリアと共に彼女が「降って」きた穴の下に来ていた。どうやら彼女を守護する存在から帰った方が良いと言われたらしい。寂しそうな様子のリリアに、アステリオスは静かに語りかける。

 

「リリア」

「はい」

「また会おう」

「……はい!」

 

怪物である自分から、ヒトに再会を望むとは。それも、自分の憧憬(ゆめ)でもない者に向かって。

アステリオスはそう思いながらも、どこか良い気持ちであった。

リリアも、元気よくそう答えると何かを思いついたようにごそごそと懐を漁り……鮮やかな緑色に染め抜かれた、一枚の布を取り出した。

 

「お近づきの印に、これをあげましょう。エルフの里で作られた布です!」

「……それは、どうすれば良いのだ?」

「少ししゃがんでくれますか?こう、私が貴方の角に触れるくらいに」

 

そのリリアの指示に従ってアステリオスはしゃがみこみ、頭を下げた。すると、リリアは彼の角にその布を被せると、くるくると巻きつけてまるでリボンの様に端を縛り付けた。

 

「はい、出来ました!……えっと、嫌だったら別に取ってもらっても良いですよ?」

「……いや、いい。……感謝する」

「はい!」

 

そっとアステリオスが触ると、そこには確かに布の感触がした。

銀の大剣に、緑の布。二つの贈り物をリリアから貰ったアステリオスは、しゃがみ込んだ体勢から、彼女に跪き、こう告げた。

 

「リリア。我が身は憧憬を追う者。それ故にいつも貴女の力になるというわけにはいかない」

「はい。モーさんも頑張って夢を追いかけてください」

「だが、もし貴女と再び相見えることがあれば。……その時は、この身に出来ることならば何事であっても力を貸そう」

「……本当ですか」

「約束しよう」

「じゃあ、私も。……その時は、私に出来ることであれば、微力ながらお手伝いさせてください」

「ありがたい」

 

こうして、牛人(アステリオス)愛し子(リリア)の間に、一つの約束が交わされた。

……後に、この約束がオラリオ最大の異常因子(イレギュラー)となり、ロキ・ファミリア首脳陣や関係者各員の胃を的確に破壊していくものになるなどとは、まだこの時は誰も考えていなかった。

 

「それじゃあ、また」

「……ああ、また」

 

そして、リリアは地上へと帰還した。「えっ、あのちょっと、風の精霊様急ぎすぎではああああぁぁぁぁぁ!?」という悲鳴が聞こえた気がしなくもないが、ひとりでに穴の埋まった天井をしばらく見つめたアステリオスはフッと笑うと、再び深層へと潜り始めた。心配していた狩人が現れる様子はない。この隙に一気に潜ってしまいたいものだと考えながら、彼の手はそっと、角に巻かれた緑の布に触れていた。

……そして。

 

「ウラノス、大変だ」

「……どうした、フェルズ」

 

ギルド本部地下、『祈祷の間』。四距の松明に照らされる地下神殿の中で、大神ウラノスと賢者の成れの果てである愚者(フェルズ)は話していた。ウラノスに相対するフェルズの顔はフードで隠れ見えないが、声音は彼の驚愕を表しているかの様に震えていた。

 

「……『精霊の愛し子』だ。精霊の愛し子が、アステリオスと接触した」

「……なんと」

 

彼の言葉を聞き、さしものウラノスもその泰然とした表情の中に少しの驚愕を浮かべる。

精霊がこの世からほとんど姿を消してはや数百年。もはやお伽話の中にしか存在しないはずの存在が現れたと聞き、ウラノスは静かにフェルズに続きを話す様に促した。

 

「確認できたところでは火、風、土の精霊から加護を得ている様だ。……いや、あれはもしかするとまだ微精霊なのかもしれないが」

「どちらにせよ変わらぬ。精霊と微精霊は名が付いているかいないかの違いでしか無いのだから」

 

精霊とは、冒険者とは真逆の存在である、と昔誰かが言った。

冒険者は、その力を高め、器を昇華させる事で名を得るが、精霊はその逆。

()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「それで、どうであった」

「極めて友好的な関係を築いている様だった。……若干愛し子の態度が不自然ではあったが、少なくとも彼に嫌悪感を抱いている様子はなかった」

「なるほど。……フェルズ」

「ああ」

 

ウラノスの言葉に頷き、フェルズは踵を返すと祈祷の間から出て行った。愛し子が今どこにいるのか、どこのファミリアに所属しているのかを確認する為だ。未だこのオラリオで話題になっていないということは、どこかの零細ファミリアに所属している可能性が高い。

ならば。

 

「……今は、まだ。表舞台に出て来てもらっては困る」

 

その存在を限りなく隠蔽する。他の神に、他の都市に仇なす存在に見つからぬ様に。

来たるべき時に、その存在を有効に活用できる様に。

 

 

 

こうして、ロキ・ファミリアとエルフの胃痛の種がもう一つ増えることとなった。

頑張れ、強く生きろ。




【アステリオス】
装備
両刃斧(ラビュリス)
・魔剣。周囲に雷撃を撒き散らす。
・第1級冒険者装備。

《銘無し》
・特大剣。最硬精製金属(アダマンタイト)製。
・斬れ味、耐久性は折り紙つき。
・へファイストス・ファミリア作成の武具には劣るものの、第1級冒険者装備。

《王家の紋章付き元ローブ》
・高級品。
・エルフの里の最上級機織が作成。
・防御力は無いに等しい。
・アステリオスはこれを庇いながら戦闘を続けている。本人曰く「ちょうど良いハンデ」。
・防ぎきれなかった返り血などで若干汚れている。



次回予告

無自覚ながら迷宮から帰ってきたリリア!!
そして魔法が発現した千穂!!(唐突)

「なんで!?」
「こちらが聞きたい……!」

そんなゴタゴタを他所にニニギ・ファミリアに吹き荒れる嵐の予感!!

「ここで決着をつけておこうと思うんだわ」
「奇遇だな、俺もそう思っていた」
「負けられねぇ……この戦いには!!」

神をも巻き込み、極東系ファミリアで突如勃発した戦争を前に、リリアが取る決断とは!!

「争いは何も生まない。武を捨てよ、話はそれからだ」
「リリアちゃん!?」



次回、TSロリエルフが稲作をするのは間違っているだろうか。
『冷や奴定食、絹ごしで食うか?木綿で食うか?』


-追記-
感想欄にて豆腐の好みを報告していただけるのはありがたいのですが、出来れば二次創作の中身にふれた感想も付けていただければと思います。そうしなければ完全に規約違反らしいので……



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冷や奴定食、絹ごしで食うか?木綿で食うか?(前編)

米ディ……(諦め)


またやっちゃったぜ。
1話完結って難しいなぁ……


今回は皆さん気になっていたあの人が登場します。
ほんのちょこっとだけ。


え?この人が本編に絡むか?そんな事ありませんよ。ええ、はい。

それでは史上最大ガバリティの第……何話目だ?
どうぞ!!



-追記-

えー、予想外に大豆ガチ勢の方が出てきたので、次の話の予定を繰り上げてこちらで少し大豆の理屈(言い訳)予想のヒントを出しておきますね。

一つ目、客観的に見たリリアの状態。
二つ目、ニニギ・ファミリアの皆から見たリリア。
三つ目、オラリオにおける極東系ファミリアの立場。
四つ目、この作品でリリアが今までに食べたもの。
五つ目、原作九巻における命の発言。

以上です。


はじまりは、些細な事であった。

迷宮(ダンジョン)の探索を終え、怪物(モンスター)の魔石やドロップアイテムを換金したニニギ・ファミリアの団員達、伊奈帆、穂高、千恵の3人は、自分達の拠点(ホーム)である日本家屋を目指して大通りを歩いていた。今日は運良く換金性の高いドロップアイテムがよく落ちたため、その懐は暖かい。3人ともほくほくとした表情で威勢の良い声を張り上げる出店を冷やかしながら帰路を行く。

 

「あ、エルフだ」

 

と、穂高が呟き、他の2人がそちらを見ると、そこには背格好の似た2人のエルフの少女が肩を並べて歩いているところであった。どうやら食材を買った帰りらしく、肩からは様々な野菜やパンがはみ出して見えていた。同じ長い山吹色の髪を結った2人のエルフを見た彼らは、拠点(ホーム)で米をにこにこしながら炊いて自分達を待っているであろう自分達の家族(ファミリア)のエルフを思い浮かべた。

 

「リリア、ちゃんと待ってるかな」

「この時間帯だし、米炊いて待ってるよ」

「あの子達姉妹なのかなー、やっぱりエルフって良い顔してるよねー」

 

オラリオ最大派閥のロキ・ファミリア、その拠点である【黄昏の館】へと向かう2人のエルフの姉妹を見送りながら、3人ともが思い思いの言葉を呟きながら歩く。

大通りをある程度進んでいると、徐々に店の趣が変わり始めた。大陸系の食材や衣服などが売られていた出店から、様々な国や地域の食材や衣服、果てには武器防具まで売られている露店へと。

これが伊奈帆達がいるオラリオが世界の中心とも呼ばれる原因の一つ。交易エリアだ。

様々な地方からオラリオの経済力を目当てにやってくる行商人達が軒を連ねる、いわば商売の激戦区。日々安定した商売を行なっている大通りの出店達とは違い、行商人達は皆博打のような日々を送っている。仕入れた品物が客の目に留まれば儲けは出るが、留まらなかった時は悲惨なことになる。特に、極東や極寒の北方から来た者達など、ここに来るまでに少なくない路銀を使っている者なら特にだ。

そのため、ここでは客足が衰え始める夕方になっても未だ商売の芽を諦めきれない者達が必死に物を売ろうと画策して来る。それを次々に躱しながら、伊奈帆達はお目当ての行商人の下へと辿り着いた。

 

「お婆ちゃん、来たよー」

 

千恵がそう声を掛けたのは、齢60を超えようかという1人の老婆。千恵の声を聞き、ひえっひえっひえっと独特の笑い声をあげながら振り向いたその老婆は「待ってたよ」と言い、その目を細めた。

彼女の名はリンカ。行商人を始めて40年以上の大ベテランであり、主に極東の品物を扱う事から伊奈帆達極東系ファミリアに贔屓されている行商人だ。彼女から極東由来の味噌や漢方、干物などを購入していた彼らは彼女の背後にある一つの大きな袋を見つけた。麻で作られたその袋は、先ほどリンカがごそごそと弄っていたものだ。

 

「お婆ちゃん、あれ何?」

「ああ、これの事かい?」

 

その人当たりの良さからリンカとの交渉相手となっている千恵が彼女にそう問いかけると、リンカはずずっと重たそうな音を立てるその袋を抱え、千恵の前に持ってきた。袋の口を開け、千恵が覗き込むとそこには数え切れないほどの粒が入っていた。

 

「……豆?」

「大豆だよ。極東の方でしか作られてない珍しい豆らしくてね。今回は予算に結構な余裕があったから仕入れてみたんだ」

「へー、そっか大豆か!実物は久しぶりに見たから忘れてたよ、よく仕入れ出来たね!……伊奈帆、これどうする?」

「うーん大豆か……リリアはともかく、千穂なら何か作れはするだろうけどなあ……俺、豆そこまで好きじゃないんだよ」

 

珍しい食材を見つけ、団長である伊奈帆に買うかどうかの確認をする千恵。一方伊奈帆は、自分達の予算とにらめっこしながら、それを自分達の厨房担当がどう使うのかを考えていた。幸い予算には余裕がある。いつもの食材を調達したのに追加してある程度の大豆を買っても余裕はあるだろうが、買って使わないとなればそれは大きな損になる。

それと、伊奈帆は大豆がそこまで好きじゃない。

微妙な顔で大豆を見やる伊奈帆の言葉に、リンカはピクリと眉を片方持ち上げると千恵に話しかけた。

 

「リリア……っていうのは、お前さん達のとこの新入りかい?」

「え?うん、そうだよ。ちっちゃいエルフの子。お米が大好きなんだよ。ね、穂高」

「ああ。米を炊くのも上手い。今では立派な千穂の補佐役だ」

「……そうかいそうかい。なるほどねぇ……」

 

千恵と穂高の言葉に、何故か納得した様子を見せたリンカは、未だにうんうんと唸っている伊奈帆にため息を吐くと後ろの籠から小さめの麻袋を一つ出し、中に大豆をザラザラと入れ始めた。

そして袋の半分ほどまで大豆を流し込んだリンカはその袋を伊奈帆にずいっと突き出すとニヤリと笑いながら口を開いた。

 

「ほれ、これはおまけだ」

「……え?おまけ?」

「いいの、お婆ちゃん?」

「アンタらにはいつも世話になってるからね。その駄賃だよ。代わりと言ってはなんだけど、大豆をもうちょっとだけ買ってくれればいい」

 

それに、その子(リリア)には少しばかり助けられたからね。

リンカはそう心の中で呟きながらも大豆の袋を押し付けた。そして、それならと大豆を追加で購入する伊奈帆達にきちんと適正な値段で売り捌き、交渉を終えてから立ち去ろうとする彼らに声を掛けた。

 

「ああ、そうだ。嬢ちゃん」

「ん?なに、お婆ちゃん」

「そのリリアって子に伝えといてくれないかい」

 

……また髪が伸びたら声を掛けとくれ、とね。

そう言ってひえっひえっ、と何かを思い出したように笑うリンカに首を傾げながらも頷いた千恵。

その時のリンカの顔は、一世一代の大商いを成功させた商人の顔そのものであった。

 

 

 

 

 

そして、彼らが拠点へと帰宅して。

予想通り良い香りを辺りに漂わせていた拠点へと転がり込み、庭で水を浴び探索でついた汚れや汗を落とした伊奈帆達は夕食を食べていた。

今日の献立は味噌汁に白ご飯、出汁巻き卵に根菜の煮付けだ。あまじょっぱい煮付けに舌鼓を打った伊奈帆達は、探索に赴いた日の恒例となっているステイタスの更新を行なっていた。

上衣を脱ぎ、背中を晒した眷属の体に自らの血を垂らすニニギ。彼が手を動かすと、眷属の背中に刻まれた神の恩寵(ファルナ)がじわりと変化して彼らの成長を目に見える形で表す。それを用紙に写して手渡し、ステイタスの更新は終了だ。

 

「やっぱこう劇的に伸びはしないよな」

「まあ冒険とかしてないしね。というかあんな体験はもうこりごり」

「まあ今の稼ぎでも十分に生活できてるし、大丈夫だろ」

 

自分の更新されたステイタスを見ながら感想を述べあう眷属達。その様子を微笑みながら見つめていたニニギは、ふと土間で洗い物をしているはずの小さな眷属達を思い出した。少し前に神の恩寵を与えたリリアはともかく、千穂は随分と長い間更新をしていなかった気がする。

 

「……ふむ。そう言えば、千穂のステイタスを更新していないな」

「え?……あー、そっか。そう言えば千穂のステイタス更新って一年前くらいでしたっけ?」

「あの子、自分は迷宮に潜ってないからって遠慮しちゃってるからね。……ニニギ様、久しぶりにやってあげて下さい」

「とは言え、家事でステイタスって伸びるものなのか?いや、別に反対してるわけじゃないんだが」

「それはどうか分かんないじゃん!ニニギ様、千穂ちゃんとリリアちゃん呼んできますね!」

「ああ、頼んだ」

 

そして少し時間が経って。

千恵に連れられてやってきた千穂とリリアは、なんのこっちゃという顔をしながらニニギからステイタスの更新を受けていた。特にリリアに至ってはステイタスは更新するものだということを知らなかったらしく驚いていた。

光がぼんやりと浮かび上がる部屋の隣で、伊奈帆達は買ってきた大豆の処遇について話し合う。

というのも、大豆を見た千穂が一言こう言ったのだ。「ああ、豆腐が作れますね」と。

 

「豆腐、豆腐かぁ……」

「そういえば随分と長い間食べていないな」

「私冷や奴がいい!醤油はお婆ちゃんとこで買ってるからあるし、美味しいし!」

「……ま、そうだな。まずは冷や奴にするか」

 

とりあえず、どう作るかは置いておいてどう食べるかを話し合う。そんな彼らの姿は正しく食への探究心溢れる極東の民であった。

彼らの間でそう結論が出たその時。ステイタスを更新していた部屋から「なんで!?」という千穂の大きな声が聞こえた。何事かと急いで部屋を仕切っていた襖を開けた伊奈帆達は、更新されたステイタスが書いているのであろう羊皮紙を握りしめ、ぷるぷると震えている千穂の姿を見た。その隣には、興味無さそうに自分のステイタスをぼーっと眺めるリリアの姿もあった。

 

「ど、どうしたの千穂ちゃん……?」

「……千穂に、魔法が発現した」

 

慄きながらもそう問いかけた千恵に答えたのは、驚愕でいっぱいの千穂に代わってニニギ。

自らの主神から告げられた千穂の驚愕の事実に、伊奈帆達は思わず「ええええぇぇ!?」と口を揃えて叫んだ。

 

「魔法!?なんで!?」

「こちらが聞きたい……!」

「おめでとう!千穂ちゃん!」

「……あ、はい」

「そういえばリリアは?」

「なんかスキルが増えてました」

「「ファッ!?」」

 

自分達よりも劇的な変化を見せた2人の幼女に、思わず自分達のステイタスを思い浮かべる伊奈帆達。

しばらくその混沌とした状態は続き、ニニギが「もう遅いから寝ろ」と言うまでその騒ぎは続いていた。

 

 

 

 

 

そして、後日。

ステイタス更新時の騒ぎは無かった事にされた(無かった事にしたとも言う)。他人のステイタスは例え同じファミリアの団員であっても絶対不可侵。そのマナーにのっとった形だ。

迷宮の探索を行った次の日は休息日に当てるという団の規則に従って、家にいた彼らが向かったのは代掻きや田植えの後にお世話になった銭湯「スクナの湯」。朝からほかほかと煙突から湯気を出す銭湯を訪れた伊奈帆達は、番台にいつもの如く座っていた結愛と話していた。内容はもちろん、昨日手に入れた大豆についてだ。

 

「はあ?豆腐箱ぉ?」

「そう。スクナビコナ様なら持ってないかなって」

「あのねえ伊奈帆。アンタ達は大豆を買えたから豆腐を作ろうなんて思えたのかもしれないけど、普通オラリオ(ここ)で豆腐を作ろうなんて考えないからね?そもそもの大豆が無いのに豆腐を作る設備だけ整えるなんて、そんなこと」

「ふぉっふぉ。豆腐箱ならあるぞい」

「スクナ様ぁ!?」

 

がらっと引き戸を開けて入って来たのは、リリアよりも背丈の低い1人の老人。結愛が所属し、銭湯スクナの湯を経営するスクナビコナ・ファミリアの主神、スクナビコナだ。見ると一体いつから彼らの話を聞いていたのか、それは見事な豆腐箱がその手に携えられている。いつか大豆が手に入るかもしれない、そんなこともあろうかと、と言いたげなスクナビコナは満面の笑みだ。

結愛の驚く声を他所に、わいわいと騒ぐ伊奈帆達。ちなみに最初はあまり興味無さげだったリリアは千穂の「豆腐丼なんかも美味しいですよね」の一言で豆腐を求める狂戦士(バーサーカー)へと変貌している。

 

「仕込みはどうなっとる」

「水を吸わせる所までは昨日済ませてます」

「よしよし、じゃあウチの拠点に来なさい。豆腐を作ろう」

「やったぜ!流石スクナ様!!困った時はスクナ様に聞けと言われるだけのことはある!!」

「ほっほ、そう褒めるでない。では結愛よ、番台の仕事を頼んだぞい」

「え、ちょ!?」

 

唐突に現れて唐突に姿を消すニニギ・ファミリアの面々(+スクナビコナ)。閉められた引き戸に思わず手を伸ばしながら、結愛は如何ともしがたい怒りで肩を震わせた。

 

「アイツら……今度来た時は覚えてなさいよ……!!」

 

こうして、結愛の伊奈帆に対する感情は悪化していくのであった。

 

 

 

 

 

「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

「頑張れー」

「頑張れ、頑張れ」

 

粉砕する。

すり鉢に入れた吸水の終わった大豆とそれよりも少し多いくらいの水を入れ、棒を持って磨り潰す。雄叫びをあげながらごりごりと大豆を粉砕していく伊奈帆達ニニギ・ファミリア男子陣の奮闘に、千恵や千穂、リリア達はお気楽な声援を送っていた。美味しい豆腐が待っていると全身全霊をかけて大豆を粉砕した後に出来上がったのは、粉物の生地のようにどろりとした大豆の汁。

 

「これは生呉(なまご)って言うんだよ」

「へー」

 

ぜえはあ、と肩で息をする男子陣を他所に、出来上がった生呉を受け取ったリリア達は、スクナビコナ・ファミリアの拠点である古民家に備え付けられていた土間のかまどで生呉を煮込み始めた。

底の浅い鍋に生呉を注ぎながら、焦げ付かないようにしゃもじでよくかき混ぜる。そしてぐつぐつと沸騰し始めたら、薪の量を調節して弱火にする事10分。

スクナビコナが持ってきたザルにこし布を敷き、大きい丼に被せた後にその上から煮込んだ生呉を投入する。沸騰したてで熱いため、最初はしゃもじなどを使いながらこし布で生呉を絞っていく。若干冷めて手で触れても大丈夫な温度になれば、両手を使ってしっかりと生呉を絞りあげる。この時に分離する液がいわゆる「豆乳」で、こし布に残る繊維質が「おから」だ。

 

「お昼はこのおからで何か作ろうか」

「おからハンバーグ」

「……リリアちゃん、お肉食べれなかったのがそんなに堪えたんだね……」

「でもおからハンバーグは別におからだけで出来ている訳じゃないですよ?豚のひき肉も使いますし」

「……なん、だと……!?」

 

そんな会話を交わしながら、出来上がった豆乳を再び鍋の中に入れ、今度は弱火でゆっくりと温めていく。上に手をかざして十分に温まったと感じたら、ぬるま湯で溶いた()()()を加えていく。

このにがりは港町メレンで売っているもので、海水を長時間煮込み塩分を濃縮したものだ。交易エリアでわりと簡単に手に入る品で、千穂はこれを煮付けなどの灰汁取りに使用している。

 

「おー、固まって来た」

 

ゆっくりとにがりを加えた後、数回かき混ぜてから鍋に蓋をして蒸す。時々鍋の蓋を少し開けて隙間から覗いてみれば、上部に透き通った液体の溜まった白い沈殿物が出来上がっていた。この状態からザルなどに出したものがいわゆる寄せ豆腐というやつだ。

スクナビコナから借り受けた豆腐箱を水洗いした後にさらし布を敷き、水を受け止めるための大皿と豆腐箱の間に棒を数本敷いて、箱が大皿から少し離れた状態を作る。その後に固まって来た豆腐を豆腐箱の中に流し入れていく。

 

「フ○ーチェみたい」

「なにそれ」

「うーん、お菓子?」

「へー、エルフの里ってそんな名前のお菓子があるんだね」

 

プルンプルンと震える白い塊をみたリリアがそう呟き、エルフへの勘違いがまた増えていく。

そんなこんなで豆腐箱の中に作った量の半分ほどの豆腐を入れた後に、蓋をして軽めの重石を乗せ、重量で水をきっていく。この後は程よく豆腐が固まるまで放置だ。半分ほど残った豆腐はどうするのか、とリリアが不思議そうに見ていると、千恵が「これはこれで美味しいのです」と言いながら匙をリリアに手渡した。

 

「あっちで水を切っているのが木綿豆腐。こっちのぷるんぷるんの奴は寄せ豆腐ね」

「絹ごし豆腐は?」

「あれ、絹ごし豆腐知ってるんだ。あれはちょっと別の作り方だからまた今度。……というか、これが半分絹ごし豆腐みたいなものだしね」

「へー」

 

そんな会話を交わしながら匙で少し寄せ豆腐を掬い、一口いただく。

 

「美味しい」

「でしょ?」

 

すると、口の中に米とはまた違った大豆の優しい甘みが広がり、良い匂いが広がる。まだ温かい豆腐は舌に乗せた時点でほろほろと解け、噛む必要などないほどに柔らかい食感であった。小皿に少し取り分け、持って来ていた醤油をかけて食べる。

 

「あ!何勝手に食ってんだよ、俺たちにもちょっと分けろ!」

「スクナ様、こちらをどうぞ。兄さん、結愛の所にも持って行ってくるよ」

「よろしく」

「ほっほ、すまんの」

 

一足先に寄せ豆腐を味わっていた女性陣に気づき、抗議の声をあげる伊奈帆達。穂高は手際よく豆腐をいくつかに取り分けると、扉を開けて外へと向かった。番台で今も働いている結愛に寄せ豆腐を持って行ったのだ。

そうしてしばらくの間、皆でもぐもぐと寄せ豆腐をつつく。そうして食べているうちにお腹が空いてきたため、今回はスクナビコナ・ファミリアの拠点で昼食を摂ることになった。主神であるニニギを呼びに伊奈帆が戻っている間に、スクナビコナの許可を得て千穂とリリアが厨房に立つ。千恵は庭で燃料の薪割りを手伝っていた。

 

「お米は大事」

「豆腐が出来上がるまではしばらくかかるし、豆腐に合う料理って言ったら……うーん、やっぱり焼き魚?」

 

勝手が違う台所ながらテキパキと動く2人の幼女の様子に目を細めながら、スクナビコナはほっほっと笑う。やがて自分達の拠点からいくつかの食材を持って来た伊奈帆と共に姿を見せたニニギと歓談しながら、二柱(ふたり)の神は眷属が昼食を作るのを待った。

やがて昼の休憩時間となった結愛も彼らに合流して、いつもより人数の多い昼食が始まった。

伊奈帆が持って来た鯵の焼ける香ばしい匂いを感じながら、それぞれが食前の祈りを済ませて箸をつける。リリアは真っ先に米を頬張るとそれは嬉しそうににこにこと笑い、続いて今日の献立に追加されていた豆腐に手をつけた。

 

「ん、美味しい!」

「やっぱ作りたてだから風味も豊かだな」

「……美味しいじゃない」

 

そのまま醤油をつけて食べても十分に美味しく、薬味として添えられていた摩り下ろした生姜や細かく刻んだ細ねぎを上に乗せれば、また違った味を楽しめる。何故か若干悔しそうな結愛も、この時は大人しく箸を進めていた。

ニニギとスクナビコナも、穏やかな笑顔を浮かべて自分達の眷属と共に昼食を味わっている。こうしたファミリアの垣根を越えた付き合いは極東系のファミリアの間では珍しくない。そもそもが一部を除いて穏やかな神が多い極東系のファミリアは、同郷という事もあって横のつながりが強固なコミュニティであった。

 

 

 

 

 

この場にいた全員が昼食を食べ終わるこの時、この瞬間までは。

 

 

 




【リリア・ウィーシェ・シェスカ】
所属 : 【ニニギ・ファミリア】
種族 : エルフ
職業ジョブ : 第一王女(現在は出奔中)
到達階層 : 第20階層(非公式)
武器 : 《霊樹の枝》
所持金 : 100000ヴァリス

【ステイタス】
Lv.1
力 : I10
耐久 : I3
器用 : I3
敏捷 : I2
魔力 : E434

《魔法》
【スピリット・サモン】
召喚魔法(サモン・バースト)
・自由詠唱。
・精霊との友好度によって効果向上。
・指示の具体性により精密性上昇。

《スキル》
妖精寵児(フェアリー・ヴィラブド)
・消費精神力(マインド)の軽減。
・精霊から好感を持たれやすくなる。

妖精祝福(フェアリー・ギフト)
・精霊への命名実行権。
・魔力に補正。




【装備】
《小袖》
・千穂のお下がり。サイズはぴったり。
・千穂と衣服は共有している。
・防御力は無いに等しい。

《霊樹の枝》
・最高級品。
・ウィーシェの森、王族の屋敷中央にある霊樹が自然と落とした枝の中で最も大きな枝。大きさは15センチ程で純白。
・魔力との親和性が高く、精霊にとっても心地の良い居住地。
・現在は彼女の出奔に力を貸した《火の微精霊》《風の微精霊》《土の微精霊》《水の微精霊》が宿る。


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