【短編】彼女は廃墟街を彷徨う (畑渚)
しおりを挟む

彼女は廃墟街を彷徨う

https://twitter.com/g3a3gene/status/1219112930496503808?s=21
林田先生の素晴らしい絵に感化されてできた怪文書です。なんでも許せる方のみ、お読みください。


「それじゃあ今回の任務を再確認するわ」

 

 ヘリコプターの機内の中で、404小隊はブリーフィングを始める。

 

「今回は廃墟街を彷徨う人形の補足。正体をつきとめ、可能なら撃破後に記憶装置の回収よ」

 

 45の言葉に、全員がうなずく。各々、装備のチェックを終えると、暇を持て余し始めた。

 

「珍しいよね。いったいどんな人形がいるんだろう」

 

 最初にそう切り出したのは、9だった。

 

「お化けみたいだよね、彷徨うものって」

 

 珍しく、G11は目をきらめかせながらそう言う。彼女はそういった話が好きな部類であった。

 しかし、そういった話が苦手な人形もその場にはいる。

 

「なんてことを言うのよ」

 

「あれ?もしかして416、怖いの?」

 

「そんなわけないでしょう?ほら、無駄口叩いてないで準備でもしてなさいよ」

 

 無関心を装っているが、誰がどう見ようとも苦手であることが明らかだった。

 

「あ~ほんとは怖いんだ。しょうがないね。G11、416に付いていってあげてよ」

 

「やだよ。9が面倒みたら?」

 

「私には45姉がいるしさ!」

 

 416の面倒の押し付け合いが始まった頃、コツンと9の頭に45の拳があたる。

 

「何を言ってるのよ。散開して見つけ次第連絡って何度も説明したでしょう?」

 

「ねえ45姉」

 

「なに?」

 

「何かあるの?」

 

「それはどういう意味?」

 

 45は9の質問に首をかしげた。しかし、その様子だけ見ると、9はいつもどおり笑顔を浮かべた。

 

「ううん、やっぱりなんでもない!」

 

「……、へんなの」

 

「えへへ、それほどでも」

 

「褒め言葉じゃないでしょうに」

 

「まあね」

 

 どこまでも明るく笑顔を浮かべる9に、45は軽くため息をついて笑いかけた。

 

 しばらくすると、45がヘリコプターの扉を開く。

 ヘリコプターが地面スレスレまで降下し、404小隊をおろした。

 

「よし。それじゃあ各自、作戦通りに散開して」

 

 45の指示にうなずき、404小隊は各々別の方向へと向かう。

 

 ヘリコプターが去ってしまえば、その廃墟街には静寂が舞い降りた。

 

 

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 

 

「こんな広いのに見つかるわけないよ」

 

 9は、足元の小石を蹴ってそう呟いた。もう探索開始から数時間がたっており、だというのに手がかりの一つも見つけられずにいた。

 

 手頃なビルに入ると、休憩室のような部屋を見つけた。

 

「ちょうどよかった。さすがに少し疲れたんだよね」

 

 9はソファに身を沈めると、目を瞑る。

 意識レベルを落とし、キャッシュの削除等の整備を始める。

 

 作業が一段落して再び目をあける。何か、ひっかかるものがあった。

 

「綺麗すぎる……?」

 

 ソファは、まるで最近まで使われたかのようだった。机の上も、ホコリが溜まっていない部分が不自然にある。

 

「誰か……ここにいた?」

 

 9は浮浪者の可能性を考える。廃墟街であれば、雨風をしのげて便利だろう。これが件の人形であるという確証が欲しかった。

 

 部屋の中を見回せば、錆びついているロッカーが半開きになっていた。

 

 

 9は扉の方を警戒しながら、ロッカーへと近づいていく。

 嫌な予感は的中してしまっていた。

 

「これは……UMP?」

 

 その中に立てかけられていた銃には、見覚えがありすぎた。この銃の一般流通はない。

 

「45姉に連絡しないと!」

 

 9はソファの近くに置いた通信機の電源を着けた。

 

『9、何かみつけた?』

 

 45の声が、通信機の向こうから聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そっちはどうかなって思って。45姉は何かみつけた?」

 

『……?いいえ、まだ何も』

 

「そう!じゃあそれだけだから、またね」

 

『ええ……』

 

 9は通信機の電源を切って、そっと机の上に通信機を置く。

 

「これで良い?」

 

「うん、上出来だね」

 

「じゃあこのマチェット、どけてくれない?」

 

 つぅと9の首筋から血が流れる。少し身じろいただけで、その鋭い刃が皮膚を切り裂いてしまっていた。

 

「ごめんごめん。でももう少しはこのままかな」

 

 9は頭の中で対抗策を考える。しかし、先に自分が倒されるという結果しか推測できない。

 

「あなた……何者?」

 

「何者……ねぇ」

 

 9の動きを封じているその少女は、少し考えるように唸った。

 

「わかんないんだよね」

 

 その答えで、9は確信を持つ。この人形こそが、彷徨う人形であると。

 

 

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 

 

「ごめんごめん」

 

「いいけど……」

 

 9は自分の首筋を汚していた血を拭う。拘束は解かれても、銃は没収されている。

 彼女の銃と9の銃を並べられており、その類似したシルエットは2人がただならぬ関係であると言外に言っているようだった。

 

「それで、9だっけ」

 

「うん」

 

「あたいはえっと……多分40でいいはず」

 

「あなたが?」

 

「ん?あたいのことを知ってるの?」

 

 9は一度、言いよどむ。この眼の前の彼女が40であることは、彼女の銃を見れば明らかであった。そして、彷徨う人形というのもこの状況を見れば彼女で確定である。

 

「うん、知ってるよ」

 

「ほんとに?」

 

「銃を見ればわかるでしょ?」

 

「まあ、同じUMPならねぇ」

 

 40はUMP9を持って、マガジンを抜き差しする。

 

「いや~UMP9に触ったのは初めてだな。9はUMP45は触ったことある?」

 

「あるよ」

 

「ほんと!?それじゃあ45の戦術人形は?」

 

「うん……」

 

「もしかして!もしかしてだけどさ!」

 

 40は目を輝かせながら、45の容姿の特徴を口に出す。9は、顔を若干歪ませながら、それを肯定せざるを得なかった。

 

「やっぱり45じゃん!良かった……」

 

 安堵のため息をつく40を、9は複雑な顔をして見ていた。

 

「45姉の面倒を見てたって人形があなたでいいんだよね?」

 

「うん、ああ懐かしいなぁ」

 

 40は懐かしみ、いつくか45にまつわる昔話を9に聞かせる。

 

「私の知らない、45姉……」

 

 9は、まるで羨むように、そして妬むようにそう呟いた。

 

「それで、9は?」

 

「……?」

 

「なにかないの?45にまつわる話」

 

「まだまだ。私は45姉とはまだ日が浅いから」

 

「そんなことないでしょ?」

 

 首をかしげる9に、40は満面の笑顔を向ける。

 

「何にもないよ、本当に。ただ、私じゃ隣に立てなかった。踏み込めなかった。それだけ……」

 

「ふーん」

 

 40は、にやりと嫌な笑みを浮かべる。

 

「嫉妬してるんだ、9は」

 

「嫉妬?」

 

「そう。9は45にあたい以上に近づけないから嫉妬してるんだよ」

 

「ちがっ……」

 

「嫉妬されちゃうのか、あたい……」

 

 40はそう、思い出すかのように呟いた。

 

「45のこと、好きなんだね」

 

 9は反応に困った。果たしてそれがどういう意味の質問なのか、理解ができなかった。

 

「そうか、45はもう自分の居場所を見つけたんだね」

 

 40はそう言いながら、9の目の前にUMP9を置く。ほぼ無意識に、9はUMP9を構えていた。

 

「それで、任務はあたいの捕獲?それとも撃破?」

 

 マチェットすらも放り投げて、手を広げて40は9に嗤いかける。

 

 9は通信機へと手を伸ばしたが、電源を入れることはなかった。

 たとえ捕縛と撃破のどちらであっても、45ならば確実に40との再会を望むだろう。しかし、9の中のごちゃごちゃした感情が、その望みを叶えてはいけないと警鐘を鳴らしている。

 

「んー、撃破の方だったか」

 

 40は残念そうに両手を上にあげた。しかし、目線はしっかりと銃口をつきつけている9に向いている。

 

「わ、私の任務を邪魔しないで」

 

「邪魔なんかしないよ。見ての通り降参。煮るなり焼くなり好きにしなよ」

 

 UMP40は40の手の届かない範囲に、マチェットも先ほど手放している。彼女は、本気で9の弾丸を受ける気でいた。

 

「たださ、もし9もあたいも傷つかなくて済む未来があるとしたらさ。理想的な未来じゃない?」

 

 

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 

 

「9!」

 

 バタンと大きな音を立てて、休憩室の扉が開かれる。突入の勢いのまま室内をクリアリングする45は、薄暗い部屋の中で何かを探っている彼女を見つける。

 

「9、無事だったのなら返事をしなさい」

 

「ああ、45……姉、ごめんごめん、漁るのに夢中だったよ」

 

 彼女は振り返りながら誤魔化すように軽く笑う。ツインテールが、身体に遅れて揺れる。

 

「それで、何か見つけたの?」

 

「いや、なんにも」

 

「そう。もう……そっちから一方的にしか連絡しないなんて」

 

「ごめんなさい」

 

「とにかく無事でよかったわ。416とG11も外に——」

 

「ねぇ45姉」

 

 45の言葉を遮って、彼女は顔を隠すようにロッカーを開けながらそう呟く。

 

「あた……私たちのことは好き?」

 

「私たち?404のこと?」

 

「うん」

 

「突然なによ……。まあ悪くは思ってないわ。背中を預けるくらいにはね」

 

「そっか……」

 

「突然なに?」

 

「ううん、何でもない。それより先に外に出てて。あた……私もすぐに行くから」

 

「……?それじゃあ先に出てるわ」

 

 そう言って45は404の待つ外へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、9」

 

「私は何にもしてないよ」

 

 40は、感謝を述べながらツインテールにした髪を解いた。ロッカーから出てきた9は髪留めを受け取り、いつも通りの自分の髪型へと結び直す。

 

「ううん、あたいには大収穫だよ」

 

「このあとはどうするの?」

 

「そうだな……もう少し旅でもしてみようかな」

 

「45姉はもういいの?」

 

「うん!」

 

 40は溢れんばかりの笑顔を浮かべる。

 

「あたいはあの子が大切な居場所を見つけた、これだけで満足だよ」

 

 脱いだパーカーを9に差し出しながら、40はそうわざとらしく大声で豪語した。

 9は、差し出されたパーカーを受け取ろうとする手を止める。

 

「……持ってて」

 

「ん?」

 

「パーカーはあげる。私は予備があるから」

 

「……9」

 

「髪留めも置いていくね」

 

 ポケットから予備の髪留めを取り出すと、9は机に置いた。

 

「あたいへの慈悲のつもり?」

 

「言ったじゃん、さっき40姉がさ」

 

 9は、40という名を初めて口にしながら、40に負けないくらいの笑顔を返す。

 

 

 

 

「みんなが傷つかない未来が一番良いって」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。