シンジ君だって思春期なんだ! (虫野律)
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シンジ(ダメな方に)覚醒!

「……これはいったい?」

 

 黒髪の痩せた少年、碇シンジは昔ながらの繋がらない公衆電話へと無意味な愚痴をこぼす。

 

(ここは何処なんだろう? 違う。いつ(・・)なんだろう?)

 

 シンジは半ば察していながらも中学生特有の反抗心か、あるいは単なる現実逃避により、正解への思考を遠回りさせている。

 

「……あれは、戦自の戦闘機……」

 

 空を見上げ呟く。いい加減認めざるを得ない。

 

(ここはサードインパクトが起きる前の、そのまたもっと前の始まりの日。僕はあの紅い世界から帰って来たのかな)

 

 シンジは逆行したのだ。ただし、逆行するにあたり前もって何かを伝えてくれる人は、残念ながら1人もいなかったようだ。

 

(僕はどうすれば……) 

 

 一度サードインパクトを経験したと言っても、昔より少しだけ経験がある、と言うだけで特殊能力もなければ、金も無い、友達もいない、親も居ると言ってよいか分からない状態だし、シンジはほとほと困り果てていた。

 

(……この世界では、まだ(・・)綾波やアスカに会える)

 

 おや? シンジの様子が…………?

 

(でも、彼女達にも前の記憶があるのだろうか?)

 

 記憶は会って話して見ないと判断は難しい。

 

(……無いといいなぁ)

 

 え。無い方がいいの?

 

(もしも、だ。もしも彼女達に記憶がなかったとしたら)

 

 ごくり。

 

(前回の記憶を活かして)

 

 嫌な予感しかしない。悪寒と言ってもいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(オナ○女にしてやる!)

 

 碇シンジ。肉体年齢14才。性に目覚める。

 

 ちょっと色々有りすぎてダメな方に性格が突き抜けてしまう。これは酷い。正しい性教育を施さなければいけない! 手遅れになる前に! 

 なお、周りにまともな大人は居ない模様。

 オワタ。完全に世界が詰んでいる。サードインパクト最速RTAが始まってしまう。シンジ君、踏みとどまって皆の幸せを考えよう。

 

(一番の邪魔者は、やっぱりネルフの監視。これをどう誤魔化すかが計画の肝! まずは、どの程度のマークがされているのかを明確にしなければ……!)

 

 ちょ。お前誰だよ。何故かキレ者風になるシンジ。やはり、思春期の原動力はエロなのか。

 

(そう考えると綾波の攻略難易度は高くなる。くそ! 初期の綾波なんて頼めばヤらせてくれる女の代表なのに、こんなのって無いよ)

 

 こんなのって無いよは周りの人間のセリフである。人類の希望を一身に背負う少年が闇(エロ)落ちである。悔やんでも悔やみきれない。

 

(待てよ)

 

 おや? シンジはやはり優しい子で考えを改めたのだろうか。

 

(綾波が人格的に成長しないように人との接触を前回よりもっと減らして、それでいて僕には従順になるように何とか誘導出来れば……!)

 

 もう矯正は不可能である。サイコパスかのような思考に目覚めるシンジ。

 

(でも、僕がエロにかまけてたら世界はどうなるのかな?)

 

 確かにそれは最もな疑問である。流石にエロサイコ中学生と言えども世界が滅んだら困る。

 

(……ま、いっか。どうせ頑張ったところで前回と同じになるに決まってる。それなら、短い間でも好き勝手して楽しんだ方がお得だ!)

 

 後ろ向きなのか、前向きなのか、分からない理屈をコネだす。世界の破滅は確定である。

 

 

「ごめーん。待った?」

 

 高級車ルノーに乗って葛城ミサトが表れる。アル中女にシンジの正しい性教育を期待するしかない。

 

「いえ。乗ってもいいでしょうか」

 

 イッちゃってる思考とは裏腹にシンジの言葉使いは丁寧だ。

 

「もっちろん。早く乗って!」

 

「はい」

 

「も~シンジ君堅いわよ。もっとくだけてもいいのよ?」

 

 アル中女は、シンジとの距離を詰めようとしている。見方を変えれば、懐柔しようとしている、とも言える。

 

「分かりました。ミサトさん」

 

「お! いきなり年上を名前呼びなんて意外とやるわね~」

 

(うっぜぇぇ。あんたがぐだけろ言ったんだろうが! マジメンドクセーな)

 

 表面上は取り繕っているが、中身は反抗期の少年そのものである。寧ろ、先ほど迄のエロサイコ思考よりは健全だ。

 

(ただ、このアル中おばさんのいい加減で情に流されやすい性格は、僕としても好都合だ。僕がマンション内の監視に気づいてショックを受けた体で家出すれば、監視カメラも外される可能性が高い。そうすれば、都合の良いヤり部屋が手に入る。ククク)

 

 黒い。このシンジはもはや真っ黒くろ助だ。クククとか言って眼帯もつけ出すかもしれない。エロくてサイコパスで中二病……逆に健全な中学生らしいと言えなくもない。

 

「あれは!」

 

 ミサトが焦りを露にする。戦略自衛隊がN2爆弾を使用するのだ。その破壊力は並ではない。並ではない相手と戦っている。使徒とはそれほどの敵なのだ。

 

 閃光。遅れて爆音。ミサトの不安が的中しルノーは回転しながら爆風で跳ばされてしまう。

 

(そういえば、前回もこんな感じだったっけ)

 

 シンジは冷静さを失っていないようだ。

 

(死にたくはない。でも、どうせすぐに生きてるのか、死んでるのか、分からなくなるんだ。ちょっと早まったとしても、別にいいや。めんどくさい。エロいことが出来ればハッピーだけど、出来ないで死んでも別にいいや)

 

 色々有りすぎて諦めて、開きなおってメンタル激強シンジ君誕生である。エロい方にしか能力を発揮しなそうなことが悔やまれる。

 

「ちょっち、手伝って!」

 

 ミサトが車を動かそうとシンジに助けを求める。

 

「はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 そして、場面は移り変わる。

 

「お前が乗るのだ。シンジ」

 

 ガラス越しに上から見下ろし、録な説明もせず威圧的にゲンドウが言い放つ。エヴァンゲリオン初号機に乗れ。ゲンドウはシンジにそう言ってるのだ。

 

(ここで黙ってれば傷だらけの綾波が見れたはずだ! 傷だらけで血の滲む包帯……ぐっと来るものがある! どうしてこんな簡単なことに気がつかなかったのか!?) 

 

 むしろどうして気づいてしまったのか。リョナ趣味まで覚醒。もうあの優しくて不器用なシンジはいない。嘆かわしや。

 

「臆病者の役立たずめ。もういい。綾波を使え」

 

(やっとだ。はよはよ)

 

「な! 今のレイでは……」

 

「我々は負けるわけにはいかない」

 

「しかし……」

 

「ミサト。貴女も分かっているはずよ」

 

(そーゆーのいいから早くしてくんない? マジなんなんこいつら)

 

 シリアスな空気など知ったことか、と言わんばかりのこの態度。前回とは図太さが桁違いである。

 

(お! やっとお出ましか。ほうほう。ふむふむ。成る程な)

 

 したり顔だが、舐め回すように視姦しているだけである。

 

(この後どうなるんだっけ。ま、いいや。思わず心配で駆け寄った風を装い近づこう。そして、あわよくば色々触ってやろう。ククク)

 

 綾波に駆け寄るシンジ。本人の希望通りいかにも心配してますといった顔だ。中々役者の才能がある。だが、外道そのものである。重体の少女に対するこの仕打ち。シンジはもう手遅れだ。

 

(流石にこれだけの監視がある中でことは起こせない。しょうがない。今は綾波の恥態をしっかり脳内フォルダに

保存しよう)

 

「危ない!」

 

 ミサトの声が響く。鉄骨がシンジの頭上から落ちて来たのだ。

 

「え……」

 

 周囲の思い描く未来は訪れず、初号機が手をかざし2人を守る。

 

「これは……」

 

「イケるわ!」

 

(ラッキー。守るふりして抱きつけだ。ツイテルゥ!)

 

 平常運転である。命の危機にも全く動揺しない精神力。まともな方に活かしてほしいものだ。

 

 この後、なんやかんやでエヴァに乗ったシンジはシンクロ率79%と中々に高い数字を出して、がむしゃらにナイフを振り回してたら、たまたまコアに当たりました作戦を成功させましたとさ。めでたし。めでたし。

 

 なお、当然、爆発した。天罰である。

      



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綾波育成計画(闇)

これが皆の期待する展開かは分からない。


「シンジ君は私が責任を持って預かるわ!」

 

 等と葛城ミサト(29)は供述しているが、実際はシンジがミサトの面倒を見ることになるのだ。大人は嘘つき、シンジは前回の経験から学んでいる。

 

「貴女、まさか……」

 

 水着に白衣とか言うどこかのお店から飛び出して来たような格好の高学歴なんちゃって愛人女こと、リツコの言葉だ。

 

「僕はミサトさんにそう言っていただけると助かります。1人だと不安で……」

 

 しゅん、とした顔を見せる演技派シンジ。

 なんとこのクズは、第三使徒の命懸けのお仕置きを、いきなりATフィールドとかゆースパシン御用達の一発芸で無傷で切り抜けやがった。憎まれっ子世にはばかる、とは良く言ったものである。

 

(さっきからごちゃごちゃとうぜーな。変態マザコン女が)

 

 口が悪いのは思春期男子中学生アルアルだ。生暖かく見守るべきである。

 

「……じゃあ、そういうことで。行くわよシンジ君」

 

「はい! これからよろしくお願いします!」

 

(早くヤり部屋に案内しろや) 

 

 天使のような表面とのこのギャップ。ギャップ愛好家の許容範囲はどこまでなのか。世界の深淵を覗きたいものだ。

 

「シンジ君。明日から起動実験や訓練があるからそのつもりでいてね」

 

 最後にリツコがモルモットを逃がさまいと粘着力を発揮する。

 

(わかってるよ。どうせATフィールドがどうのとか訳分かんないことで、いちゃもんつけるんでしょ? 金髪にしてヤンキー気取りかよ)

 

 金髪=ヤンキーではない。

 

(つーか、眉も細くするか、染めるかした方がいーんじゃないか?)

 

 それに関しては同意する。

 

(さて、状況を整理しよう。綾波に記憶が有るか否かは未確認。僕以外ではそれらしき人物は今のところ居ないように思われる)

 

 なんか始まったぞ。

 

(現時点で確定するのは危険だが、少なくとも現時点で前回と大きく変わった点はないことから、前回の記憶を元にここまでの流れを変える行動をとった人物は居ないと言うことだ)

 

 急に真面目になってどうしたのだろうか。

 

(そして、それは記憶を継承してる人物が僕だけである可能性を否定しきれないということだ。そうなら、一番だが楽観はしないでおこう。次に綾波についてだが……)

 

 綾波についてだが……。

 

(定期的に重症を負ってもらおう。あれはいいものだ)

 

 お巡りさんこいつです。ちょっと真面目になったと思ったらすぐこれだ。全く油断ならない。

 

(おっと違う違う。綾波の状態についてだった)

 

 お? 

 

(前回の紅い海に混ざりあった時、断片的にだけど色んな情報が入ってきた。実際に経験したことも合わせて考えると、前回と同じなら、綾波は2人目。そして、母さんの遺伝子を継いでいることになる。……近親相姦)

 

 そうくると思ったよ。

 

(近親相姦は別にいんだ穴があれば、大丈夫だ。問題ない)

 

 血は争えない。クズの血を確実に受け継いでいる。

 

(問題は、今の綾波の精神状態だ。誰の言うことでも何でも聞く人形ならいいが、前回の経験から言うと……)

 

「シンジ君着いたわ。ここがあなたがこれから生活する家よ」

 

(とりあえずは気合いを入れて掃除しないといけないな)

 

 

 

 

 

「シンクロ率70%!」

 

 リツコが驚愕を浮かべる。本来ならこんな高い数値は然るべき訓練をしない限り出ないのだ。

 

(うーん。もっと低くできないかなぁ。細かい調整出来ないんだよなぁ)

 

 いくら2回目とは言えガチスパシン程の能力は無いようだ。本当に良かったと思う。

 

 程々に手を抜きそれなりの成績で起動実験と戦闘シミュレーションを終えるシンジ。さとり世代やゆとり世代を先取りしているのだろうか。性癖まで先取りしないことを祈るばかりだ。

 

(さて、ここが綾波の病室か)

 

 お見舞いに行くと言い場所を教えてもらったシンジは綾波の病室の前まで来ていた。三回ノック。

 

「入っていい?」

 

 この男、いかにも気弱そうな声を出している。演技技術が飛躍的に向上してしまっている。

 

(返事はないけど、行くか。ラッキースケベカモン!)

 

 だが、現実は非情である。綾波はベッドに座り読書をしている。相対性理論と背表紙に書かれた本だ。

 

「……誰?」

 

 気だるげに綾波レイが誰何する。

 

(久々の綾波ボイスキタ━(゚∀゚)━!)

 

「僕は碇シンジ。初号機のパイロットをやることになったんだ。これからよろしくね」

 

 前回とは比べ物にならない位の饒舌ッぷり。完全に陽キャである。

 

「なぜ?」

 

 が、綾波は非情である。

 

(やっぱりそうなるよね。ここはカメラが有るだろうし声も拾われているかもしれない。でも、今後のためにも出来る限りのことは伝える)

 

「深い意味は無いよ。挨拶だけのつもりだったけど、綾波が良かったらもう少しここに居ていいかな」

 

「……別に」

 

(どっちとも受けとれなくもないけど、明確に拒絶されてないなら良しとしよう)

 

 前向きである。こんなんでサードインパクト起こせるのか?

 

 暫く沈黙が続く。

 

 シンジがふいに沈黙の終了を決定する。

 

「ねぇ」

 

「なに」

 

「なんでエヴァに乗るの?」

 

 シンジはまるで昨日のテレビの話でもするように軽く聞く。

 

 少しの間。瞳が揺れる。

 

「絆だからよ」

 

「誰との絆なの?」

 

 また、間。本の背表紙をなぞる青白く細い指。

 

「碇指令」

 

「……ホント?」

 

 下から上目遣いに覗き込むシンジ。

 

「……本当よ」

 

 目線は真っ直ぐにシンジを見つめている。ふいにシンジが柔らかく微笑む。

 

「そっか。変なこと聞いてごめんね」

 

「……構わないわ」

 

「お詫びにこれを貸してあげよう!」

 

 じゃじゃーん。

 

「何?」

 

 シンジが差し出した物は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「○らぶるダークネス?」

 

 と○ぶるってお前。しかも初手ダークネスってあかんでしょ。

 

「そう。綾波はそれを読んで僕との接し方、つまりは絆を学ぶんだ!」

 

(名付けてエロ漫画で綾波育成計画! これなら極自然にハーレムを許容できる常識が形成されるはず! ホントはガチエロ本が良かったけど、流石にそれは言い訳できない)

 

 ○らぶるダークネスも言い訳できない。有害図書は伊達じゃない。

 

「……接し方。……絆」

 

 シリアス顔してるが、手にしている物はエロ本である。

 

「そう。僕と綾波だけの秘密の絆。だから、漫画のことを他の人に言ったり、見せたら駄目だよ?」

 

 この男、抜けてるのか、抜けてないのか分からない。ただ、確実に言えることは、凄い都合の良いこと言ってやがる。

 

「わかったわ」

 

 不幸なことに綾波にシンジの悪意を見抜く人生経験はない。素直にシンジの言葉に頷いてしまう。

 

 シンジは、また、柔らかく、だけどさっきよりは少しだけ大げさに微笑む。

 

「はい」

 

 小指を差し出すシンジ。

 

「何」

 

 もはや、定型句となりつつある言葉。

 

「綾波も小指出して」

 

 はよはよ、とうっっざいノリで急かす。

 

「はい」

 

「ぷ」

 

 綾波がシンジと逆の手を差し出したのを見てシンジは吹き出してしまった。要するに右手と左手で鏡合わせになっている。これはいけない。

 

「ま、いっか。はい。指切りげんまん嘘ついたら針千本呑ーます!」

 

 シンジは右手でも構わず喰っちまう男なので、気にせず小指を巻き付け一方的に約束してしまう。世間一般では、これを約束とは言わない。

 

「じゃあ、僕はもう帰るよ。またね」

 

 ヤることヤったらさっさと帰るとは男の鏡である。勿論、皮肉だ。

 

 シンジが居なくなり急に静かになった病室で、綾波は優しく小指をなぞる。

 

「ぽかぽかする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(よし。とりあえず肉体的接触によるパーソナルスペースの接近はクリアってことにしよう。今後はもっと色々なこと(・・・・・)が自然になるように調き……調整しないとな)

 

 

 台無しである。

 

 

 

 

 

 



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男子中学生の日常!

多分、悪い意味で期待を裏切る話の気がする。


「転校生。ちぃとツラ貸せや」

 

 熱血ロボットアニメの主人公が良く似合う男、鈴原トウジがシンジを屋上へ呼び出す。いいぞ、トウジ。そのクズに熱い鉄拳をお見舞いしてやってくれ。

 

 シンジは今週の始めから学校に通っている。ちなみに学校でのシンジは初回と基本的には同じだ。たが、外面を取り繕うことを覚えたので、多少、周りからの印象は良いようだ。

 

「転校生、歯食い縛れ!」

 

「トウジ!」

 

 トウジのマブダチこと相田ケンスケの待ったが入る。止めるなケンスケ。トウジの正義を思う存分、奮わせるんだ。

 

「ケンスケ。ワシはこいつをしばかなきゃならんのや」

 

 せやせや。

 

「先ずは、理由を聞かせてくれ」

 

 ケンスケの最もな質問が飛ぶ。ほくそ笑むシンジ。

 

 このクズが今度は何をしたのか?

 

 簡単に言うとケンスケを買収した。代金は綾波の写真。このクズ、基本的に綾波に対して独占欲という物がない。まして写真位どんな写真であれ好きなだけどうぞ、と言った感じだ。

 

(綾波の写真でケンスケを買収した甲斐があるってもんだ。ケンスケの奴、欲望とプライドの狭間で暫く悩んでて笑ったわ)

 

 人が葛藤してるところを嗤う。ひねくれ者だ。これは仕方がない。思春期には良くあることなので見守るべきであ。

 

 ところで何故独占欲がないか? それは……。

 

(どうせ。あのクズ親父も使ってるだろうし、今更さらじゃん?)

 

 誤解である。少しは実の父親を信用したらどうだろうか。親父は別の穴があるので大丈夫なのだ。ゲンドウも良い年なので、あっもこっちもとはいかないのだ。

 

(それに、あんまりにもユルくなってしまえば、サクッと殺せばすぐに新品だ。ラミちゃんの時も、シャムちゃんの時も、他にもいくらでも力及ばず泣き別れ演出が可能だ。昔は絶望したけど、この世界、実に希望に満ちている!)

 

 悪魔かよ。もはや、庇うことは出来ない。トウジ君だけが頼りだ。しばくと言わず抹殺してもええんやで。

 

「わこうたか! ケンスケ! わこうたらさごうてろ!」

 

「……すまない。シンジ」

 

(ちょ、お前!? もうちょい粘れよ!)

 

「死にさらせや!」

 

 大振りの右フックを何とかかわすとトウジが更に怒りだす。

 

「避けんなや!」

 

「いや、避けるよ! 何で僕が殴られなきゃいけないのさ!? 納得いかないよ!」

 

 まぁ、そこは分からんでもない。トウジの妹が戦いの巻き添えになって怪我をしたのは、常識的に考えてそんな危ない所に幼子を行かせてしまった親や監督者の責任だ。

 

(ぶっちゃけ覚えてたけど、面倒だから回避はしなかった。それにトウジを止める魔法の言葉がある)

 

 嫌な予感しかしない。というか気づいていたとなると弁護が難しいぞ、おい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妹さんがどうなってもいいの?」

 

 完全に悪党のセリフである。トウジ頼むから悪魔の言葉など無視してくれ。

 

「……どういうことじゃ?」

 

 またもや、ほくそ笑むシンジ。心なしか先ほどより凶悪度が増したスマイリーだ(*゚∀゚)

 

「エヴァでの戦闘が気に入らないと言う理由で貴重なエヴァパイロットに傷害を負わす。これはどうみてもネルフに対する敵対行動だ」

 

 お、おう。せやろか?

 自信満々に言いきるシンジを見ているとそんな気がしてくる。

 

「所でトウジ、君の妹が入院している病院はどこの病院かな?」

 

 シンジの言わんとするところを察したのだろう。トウジの先ほどまでの威勢が鳴りを潜める。

 

 スマイリーシンジ( ´∀`)

 

「そうだよねー。ネルフの病院だよねー。転院するにしても結局はネルフと何らかの繋がりが有るところしかないよねー? ここ新東京ではねー?」

 

 取り敢えずねーねー言っとけの精神は完全にイテマエ打線系女子である。……閃いた! 失礼。

 

 ……。

 

「せや。転校生のいう通りや」

 

「ついでにさ、僕ってネルフ総司令の息子なんだよね。ところで君の親父さんも奇遇(・・)にもネルフで働いてるんだよね?」

 

「……」

 

 シンジは、ぐっとトウジの胸ぐらを掴み引き寄せる。上目遣いにトウジを覗き込むマジキチスマイリーシンジ(・ω・)

 

「だから、仲良くしようよ? ね?」

 

「……はい」

 

 トウジ陥落!

 

 これは酷い。何が酷いって色々あるけど笑顔が一番酷い。まさに外道とはこの事か。

 

「それから、ケンスケ」

 

「は、はひぃ!」

 

 正直、びびってたケンスケはスットンキョンな声を上げてしまう。

 

「……君には失望したよ」

 

 シンジは徐にゲンドウポーズをとろうとして椅子が無いことに気がつく。そんなことより、何より良心がない。

 

(人間椅子……魅力的な響きだ。だが、男に座るのはごめんだ)

 

 トウジをちらりと見て、うっっざい顔でため息をつき首を振る。

 なんやこいつ。

 

「ケンスケは綾波の写真もう要らないんだね」

 

 シンジの言葉を聞いて焦り出すケンスケ。うん、まぁ、ケンスケはこんなもんだよね。

 

「ここに綾波の寝顔を写した写真がある」

 

「……!」

 

 ケンスケは息を呑む。

 

「ケンスケの為にとリスクを犯して入手したのに残念だ」

 

 訓練の帰りに寄っただけで実際はノーリスクである。シンジはまた、うっっっざい顔で首を振る。

 

 ビリビリ。

 

 ケンスケの目の前で写真を破り捨てる。

 こらこら。ちゃんとお片付けしなさないよ。

 

「あぁ……」

 

 ケンスケは精も根も尽き果てそのまま昇天しそうだ。

 

 たっぷりと間を取ってからシンジがまた口を開く。

 

「もし、だ。君に罪を悔い改めるつもりが有るのなら……」

 

 悔い改めるつもりが有れば、シンジを即刻ポリスメンにつき出すべきである。

 

「綾波の写真・寝顔+パジャマちょい乱れバージョンを特別に贈呈しよう」

 

「勿論! 僕はシンジのマブダチさ!」

 

 まさに即堕ち2コマ。ケンスケはチョロいんだって、はっきりわかんだね。トウジの微妙な顔が哀愁を誘う。

 

 こうして男の友情(?)を深めたシンジは、なんやかんやと日常系男子中学生の生活を満喫して、触手怪人こと、シャムシエルとの決戦の日を迎えた。

 途中のIDカードイベントはどうしたかって?

 届けに行ったら普通に○らぶる熟読してて話しかけづらかったから、そのまま帰ったとさ。

 シンジは弱い相手とか弱ってる相手にはイキり陰キャの本領を発揮して好き放題だけど、元気な相手には引き際を心得た紳士なのだ!

 監視カメラも気になるしね! しょうがないね!

 

 

 

 

 

『シンジ君。距離を取りながらパレットライフルで攻撃して』

 

 まずは、安全圏からの様子見の指示だ。

 

(このイカ怪人どうやって倒したんだっけ?)

 

 パレットライフルをテキトーに撃ちながら、シンジは前回の記憶を呼び出そうと頭を捻る。

 ……が、ダメ。シンジまたしてもアガれず。

 この男、エロい方面や子悪党方面には鋭い閃きを発揮するが、それ以外ではバカシンジそのものである。

 世界はもうおしまいである。

 

『シンちゃん、避けて!』

 

 ボヤっとしてバレットライフルをやる気無さげにポチってたら、案の定、シャムシエルの射程距離に入ってしまっていた。

 

 勿論、避けて等言われても無理な時は無理である。

 

(あ、閃いた!)

 

 シャムシエルの鞭打をしれっとATフィールドで防ぎ、何かを閃く。腐っても逆行シンジ君の端くれ。ATフィールド位は任意に展開可能だ。そんなことより、今度は何を閃いたのか?

 

(ATフィールドを手裏剣みたいにして飛ばそう!)

 

 何言ってんだこいつ。

 

(まず、手の平に小型のATフィールドを出します)

 

 なんかやり出したぞ。

 

(そして、それを円盤状にして高速回転させます)

 

 きゅいーん。気円斬かな?

 

(最後に、おめぇの席ねぇからぁ! の精神で拒絶を遠くに飛ばします)

 

 …………バチん。

 

(あっれぇ? 何か思ってたのと違う)

 

 シンジの気円斬は、フリスビーの様に飛び刃面から着弾したりはせず、円の平面からシャムちゃんにぶつかっていったのだ。シャムちゃんからすれば、うちわでバチコーンとヤられた感じだ。

 

(もしかして、ATフィールドって内側と外面があったりするのか)

 

 心の壁だからね。特に君の場合は内心と外面の差が激しいからね、然もありなん。

 

(それで、拒絶を飛ばそうとすると外面の面からぶつかっていくのか。仮にフリスビーみたいに飛ばしたいなら、拒絶と受容の中間みたいな気持ちを飛ばさないといけないってことなのだと思う)

 

 そんな器用なマネ、このシンジには不可能である。シャムちゃん、アダムたんまで待ったなし。次回の世界線にご期待下さい。

 

「やばーい? 詰んだかな」

 

『シンちゃん、諦めないで。まずば鞭の攻撃範囲とパターンをこちらで解析するから、防御と回避に専念して頂戴!』

 

 エリート軍人にして、エリート公務員のミサトからの指示が飛ぶ。アル中はアルコールが切れてなければそこそこまともなのだ。

 

「うーん。でもせっかくだし、上手い具合に飛ばせないかな?」

 

 ミサトの指示はガン無視である。これは懲罰物である。

 

 シンジは諦め悪く再度、手のひらに気円斬(笑)を作りだす。今度は右手に一つ、左手に一つ。確かにこれをカッコ良くシュパッとやりたい気持ちはわかる。

 

 さて、突然だが、綾波レイは今何をしているか。

 

 お家で、○らぶるの精読?

 

 それは寝る前の日課であって今している訳ではない。

 

 無口キャラを確固とするために鏡の前で表情チェック?

 

 それは朝の日課であって今している訳ではない。

 

 答えは…………。

 

「レイ! 急に走り出してどうしたの!?」

 

 青春じゃないっすか。

 

 綾波レイはシンジのフォローの為に零号機に乗り、後方で待機していた。お仕事だからね、仕方ないね。

 

 華麗なフォームで走り抜ける零号機は、シンジからやや離れた地点でステップを踏み、跳躍。空中で3回転を綺麗に決め初号機の上に……。

 

 衝撃。此だけの大質量の物体が跳んだり跳ねたりしたら、そらそうなるわ。

 

 それにしても初号機と零号機のこの体勢、既視感が……?

 

(こ、これは○らぶるの十八番、顔面騎乗!)

 

 人造人間同士の濃密な絡み。R18に行くべきか、悩みどころだ。

 

(ってなんでやねん!)

 

 シンジの鋭いツッコミと共に気円斬×2が龍玉よろしく綺麗に飛んでいくではありませんか。

 

 人造人間の恥態に頬を赤らめていたシャムちゃんのくりくりの可愛いコアをスパっと四分割。

 

 あ、やべ。

 

 こんなこと考えてるかは分からないが、シャムちゃんはボンっとかわいい爆発音と共に散ってしまった。なむなむ。

 

(もしかして、綾波の合ってるけど、間違っている変態行動への「違う! でもその調子!」という気持ちが拒絶と受容のバランスを絶妙に整えた?)

 

 ええぇ。

 

 突然、シンジのコックピットに綾波からの映像が入る。

 

 気のせいだろうか。綾波がどや顔をしているような……。あなたはそんな子じゃ無かったよね? 

 

「……あ、切れた」

 

 綾波はシンジにどや顔を見せつけるだけ見せつけたら通信を一方的に切ってしまった。なんというマイペース。これはシンジと良い勝負である。流石はマッディなサイエンサーユイの血を継いでる2人なだけはある。

 

 こうしてシャムシエルを粉砕したシンジとレイ。2人は世界を救うことが出来るのか!?

 

 

 なお、巨大ロボット(とトウジは思ってる)同士のくんずほぐれつを間近で見ていたトウジは、何か感じいるものがあったようだ。

 

 ほう、これはなかなかどうして……。

 

 皆、思春期だからね。仕方がないね。 

 

 



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最強を倒すたった一つの冴えた方法

全てのエヴァンゲリオンファンにごめんなさい。


「ラミちゃん攻略会議はっじまるよー」

 

 88888888888。綾波はなんだか分からないがパチパチと拍手している。

 

 順調に使徒をぬっころしてきたシンジだったが、次の使徒ラミエルへの対策を話し合う為に綾波と公園のブランコに乗りながら秘密会議を開催していた。

 ネルフの盗聴を警戒して周りへの見晴らしが良いこの公園を選んだのだ。勿論、盗聴機が気づかれずに仕込まれている可能性に思い至るシンジだが、そこまで考えるのはメンドクサイし対策のしようがないから割り切って諦めている。人生諦めが肝心と前回の経験から学んでいるのだ。

 

「……ラミちゃん? 美人なの?」

 

 綾波の気になるところはそこなのか。

 

「ああ、シワ一つない綺麗な体と切なげな声が魅力的な人さ」

 

 シンジは、間違いを訂正しない方向でいくらしい。だが、シンジの発言も一概に間違いとは言えない物だ。ラミエルは美人。業界では常識である。

 

「……そう」

 

 綾波もシリアスな顔してるけど、公園で勢い良くブランコ漕いでるだけなので全くシリアス感はない。

 

 それにしても、シンジは一体どうしたのか? 何時になく真面目である。

 

(ラミエル。こいつは僕が知る中でも純粋な戦闘では最強格の使徒だ。ヤシマ作戦をもう一度、確実に成功させる自信はない。もっといい作戦があれば良いけど僕1人で思い付くのは無理だ)

 

 流石のシンジもラミエル様には態度を改めざるを得ないようだ。

 

「綾波ってさ。人間じゃないんだっけ?」

 

 サードインパクトを経験し一度、LCLと成り同化したからと言って全てが分かる訳では無いので、シンジの知識は曖昧模糊としたものだ。

 

「…………どうして知っているの?」

 

 いきなり核心を突くシンジに、綾波はそう切り返す。

 

「父さんの日記に書いてた」

 

 勿論、嘘である。このシンジ、嘘をつくことに抵抗がない。

 

「……そう」

 

 綾波は、少し瞳を揺らした。だが、綾波に悲観するものはない。もはや、綾波のバイブルとなりつつある○らぶるでも人間と人間以外の種族が楽しくヤってるので全然オッケーなのだ。

 

「碇くんは異種姦が好きなのね」

 

 ぱやなみ!? あなたは卑猥なワードを言っちゃう系の子じゃなかったのに……。

 

「ワロたw勿論、綾波が(○ナホとして)大好きだよ」

 

「……何を言うのよ」 

 

 ホントにな!

 

(綾波育成計画は順調だ。この調子で淫語をどんどん仕込むぞ。そろそろ、次の性書を渡すべきか?)

 

 今度は何を渡すつもりだ。シンジは一気に思考が明後日の方に行ってしまった。

 

 その後もグダグダと猥談を続けて秘密会議はお開きになった。なお、帰り際に、綾波の学生カバンに退魔忍○サギと書かれた薄い本を忍ばせていた。中学生なのに何処でそんなもん入手したのか。 

 

(何の対策も出てこなかったけど、まぁいいや)

 

 エロい話しかしてないから、対策なんて出る訳がない。このシンジで、本当にダイジョーブなのか。

 ???『次の世界線の為に犠牲はツキモノでーす』

 

 

 

 

────使徒襲来! 使徒襲来!

 

 ネルフ内で死んだ目をしていたシンジは、最強の要塞ラミエルが来たことをキンキンとうるさいアナウンスで知った。

 

 シンジはエレベーターに乗りミサトの居る指令部に向かう。

 

 途中、エレベーターが止まり綾波が乗り込んで来た。プラグスーツを着込んでやる気満々だ。まるで、海に行くのが楽しみで出発前の早い時間から水着を着ちゃってる小学生だ。

 

「あなたは死なないわ。私が守るもの」

 

「おー。しっかり肉へ……ではなくて、じゃあ、綾波のことは僕が守るよ」

 

「……そう」 

 

(よし! ○ナホとしても肉壁としても順調だ!) 

 

 相変わらずである。

 

(綾波の好感度を稼ぐ為に思ってもいないことを真顔で言う苦行に耐えてきてよかったー)

 

 それが出来ることが大人の男の条件だ。

 

 

 

 

 一度目のラミエル戦を加粒子砲をブッパされて敗退したシンジ達は作戦会議をしていた。

 

「ヤシマ作戦よ!」

 

 ミサトは案の定と言うか、やむを得ずと言うか結局はそこに行き着いてしまう。

 

(来たかぁ。でも、ちょっと気になることがあるんだよなぁ)

 

 シンジは何か悪巧みをしているようだ。コソコソと綾波と相談する。

 

『ねぇ、綾波。使徒って進化するんだよね』

 

 シンジが聞いているのは、使徒はサキたんやシャムちゃんの戦闘データを元に対策してくるのではないか、ということだ。

 

『……正確には分からないわ。だけど、そういう仮説を赤木博士が研究してるわ』

 

『ふーん。そっか。ところで綾波』

 

『何』

 

『ちょっとお願いが……』

 

『避妊はしてね』

 

『なん……だと……!』

 

(綾波は別種族だから、避妊要らずの最強に都合の良い存在だと思ったから今まで優しくしてやったのに! 納得いかない!)

 

 むしろ、何故そこまで駄目な方につき抜けられるのか、納得いかない。

 

『……避妊しないとサードインパクトが起きる可能性があるわ。ごめんなさい……』

 

『バカな……! そんなこと……』

 

(無い、とは言い切れない……! 生でヤっちゃうとサードインパクトってどんなクソゲーだよ。ヌルイエロゲーだと思ったのに、なんてこった!)

 

 ざまぁw

 

(く! まだだ。諦めるな! きっと何か抜け道があるはずだ! 考えろ考えるんだ僕。何かないか、何か何か……)

 

 ラミエルのことは綺麗さっぱり忘れて鬼気迫る顔で沈思黙考するシンジを見て、ミサトやリツコは作戦の成功を確信する。

 

──何て真剣な顔! きっと集中力を高めているのね! 最高のパフォーマンスを魅せてくれるに違いないわ。

 

──これは期待しても良さそうね。

 

──ええ。イケるわ!

 

 この調子だと、(地獄に)イケるわ。駄目だこの人達も大概だ。はやくなんとかしないと。

 大人達もこんな調子なので、残念ながらシンジの思考は誰にも分からない。それに綾波も若干ニマニマしてるので一緒になって、エロいことでも考えているに違いない。もうダメだおしまいだ。

 

 

 

 

 

「シンジ君! 日本中の電力をあなたに預けるわ!」

 

「はーい」

 

 シンジはやる気無さげだ。

 

(簡単に倒せればいいけどなぁ)

 

 せやな。だけど相手はあのラミエルだ。一筋縄ではいかないだろう。

 

「レイ! もしもの時はあなたがシンジ君を守るのよ!」

 

「はい」

 

 守る、と言えば聞こえはいいが要は時間稼ぎの盾になれということだ。

 

 ヤシマ作戦とは、どのような作戦か。

 簡単に言うと、ラミエルの攻撃範囲外から超強いライフルで攻撃しちゃおう! と言うものだ。想定通りならば、ラミエルからの攻撃は無いはず。しかし。

 

「な! 加粒子砲が来る!」

 

 想定通りにはいかないものだ。

 ミサトが焦り出す。指揮官が感情を表に出すのは良いのか悪いのか。

 

(ポジトロンライフル発射)

 

 ラミエルの加粒子砲より一足早くシンジがポジトロンライフルの引き金を引く。超高密度のエネルギーが一筋の光矢となってラミエルに向かう。

 

 着弾する寸前にラミエルは加粒子砲を解き放ちビームと相殺する。ラミエルもどや顔だ。

 

「シンちゃん! すぐに第2射を準備! レイはシンちゃんを守って!」

 

 ラミエルが加粒子砲を準備する。そして、それはシンジのポジトロンライフルの充填時間よりもずっと早い。

 

 加粒子砲発射。

 

「レイ! 耐えて!」

 

 耐えてと口で言うことは簡単だが、絶大な威力を誇る加粒子方は、零号機の持つ盾を瞬く間に溶解していく。さらに余波だけで、零号機の対ラミエル用の装甲を少しずつ吹き飛ばしていく。一瞬、ラミエルの加粒子砲が逸れる。

 おや……? ラミエルはどうしたのだろうか?

 

(装甲が吹き飛ぶのを見て加粒子砲を逸らした……! これはイケるぞ!) 

 

 即座に綾波に通信を入れるシンジ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綾波! ストリップショーだ!」

 

 何を言っているんだ、バカシンジは? シンジは頭シンジになってしまった。

 

「……分かったわ」

 

 綾波も何かを察したのか、素直に頷く。

 

(シャムシエルもそうだった。初号機と零号機の顔面騎乗に顔を赤らめていた! 使徒は学習進化するという仮説が正しいならば、ラミエルはシャムシエルの時以上にエロに目覚めているはずだ! 従って色仕掛けがよく効く! こういった可能性があると、前もって綾波に言い含めておいてよかったー)

 

 一回サードインパクトを起こしてリセットした方がいいんじゃなかろうか。むしろ、世界の命運はゼーレに託されている。負けるなゼーレ。巨悪を討つんだ!

 

 綾波は盾で加粒子砲を受けながら、器用に装甲を飛ばしていく。……綾波さん余裕っすね。

 装甲が飛ぶ度にラミエルの加粒子砲が大きく逸れる。その時間は零号機はノーダメなので上手く時間が稼げる。

 最後の装甲が無くなり零号機の裸体(?)が露になる。ラミエルもテンションMAXで上空に向けて加粒子砲をブッパしている。

 綾波もノリノリで身体を隠す様にペタンと女の子座りをし、嫌々をするように首を振っている。勿論、やっているのは零号機だ。

 みんな楽しそうである。良かった良かった。

 

(隙あり! ポジトロンライフル発射!)

 

 零号機を食い入る様にガン見していたラミエルは、ポジトロンライフルから放たれたスーパー強くてカッコいいビーム的な何かに対応出来る訳もなく、あっけなく貫かれてしまった。

 

 最強の使徒、散る! 

 

 シンジのコックピットに綾波が写し出される。綾波から通信が入ったのだ。何かシンジに聞きたいことがあるようだ。

 

「こう言う時どんな顔すればいいのか分からないの」

 

 でしょうね! 

 綾波は分からないと言いつつ、笑いを堪えているように見えなくもない。綾波は無口無表情キャラを維持するために頑張っているのだ。

 

「笑うしかないと思うよ」

 

 でしょうね!

 シンジの返答を聞いた途端に破顔する綾波。に止まらず自身の両手でピースサインを作り顔の横に持ってきたではありませんか。

 

「あへ顔ダブルピース。ブイ」

 

 綾波はいつもの声音のまま、でもどこか楽しそうにそう告げる。

 

(キタコレー!)

 

 シンジも楽しそうだ。

 

 こうして最強の使徒ラミエルを抹殺したシンジと綾波は、2人仲良く懲罰房行きを命じられた。勿論、別の独房である。 

  

 



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ヤンデル彼女のオトシカタ

すまぬ。作者の力量不足。すまぬ。


 薬により呆然と何処ともなく見つめる少女──アスカと、少女を自らの欲望の捌け口にしようとパンツに手をかける少年──シンジの息使いだけがマンションの一室に響きわたる。

 

(薬で弱らせてヤっちまおう作戦成功!)

 

 これは酷い。どうしてこうなったのか。順を追って説明しよう。

 

 

 

 

 

 

 

「私が、セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーよ」

 

 オーバーザレインボーの上でいつかと同じ勝ち気な碧眼をシンジに向ける。

 

「あんたが、噂のサード?」

 

 どんな噂なのか分からないが、ろくでもないことだけは確かだ。

 

「そうだよ。よろしく。アスカ」

 

 どうやらシンジは猫を被るスタイルで行くようだ。

 

「着いて来なさい」

 

 アスカはいきなりぶつ切の命令をシンジに投げつけずんずんと早足で行ってしまう。

 

 エヴァンゲリオン二号機が格納されているスペースまでシンジを連れてきたアスカは、シンジに長々と自分と二号機がいかに優れているかを説明しているようだ。

 

「へー」

 

 シンジは生返事だ。

 

(うーん。アスカをどうやって攻略しよう。そもそも、アスカってどんな子なんだ?)

 

 改めて考えるとそれほどアスカを知らないことに気付く。

 

「聞いてるの?」

 

 シンジの上の空な返事に気づいたアスカは、語気を強めて詰問する。

 

(僕の知ってるアスカはワガママで攻撃的でプライドが高くて、なんか闇を抱えてる変なやつ。でも、見た目だけは凄く良いから是非とも○ナホにしたい)

 

「……」

 

(だけど、上手い方法が浮かばない。とりあえず、最初は優しくして僕に依存させる方向でいってみよう)

 

「あんたねぇ。あたしのこと舐めてるの!? ふざけんじゃないわよ!」

 

 ろくに話を聞かないシンジに、沸点のあまり高くないアスカはキレちまったようだ。

 

「ごめんごめん。ついアスカに見とれてたよ」

 

 なんだこの臭い台詞は。

 

「はぁ? 何いきなりキモいこと言ってんの? あんた鏡見たことあんの?」

 

 キモいことを言ったシンジも悪いがここまで言わなくても良い。

 

(このアマ……! 落ち着け僕。アスカはこうだって初めから分かってたじゃないか。大丈夫だ僕ならヤれる)

 

 シンジは心を落ち着かせて外面を取り繕う。

 

「ごめんごめん。そんなことよりもっとアスカのことを聞かせてよ」

 

 腹芸など一切使わないストレートな物言いは嫌悪感を与えることもあるが今回はそうならなかったようだ。

 

「……まぁ、いいわ」

 

 アスカが答えるや否や大きく船が揺れる。使徒が来たのだ。

 

「チャーンス」

 

 アスカは感情のこもらない声音でそう言うと物陰にいそいそと移動する。

 

「覗いたらブッ殺すわよ」

 

「そんなことしないよ」

 

(いつか絶対ハメ撮りしてやる……!)

 

 

 

 

「あんたも来るのよ。早くしなさい」

 

 アスカは前回同様シンジと相乗りして実力を見せつけたいらしい。だが、このシンジは強くてニューゲーマーなシンジだ。初めからフェアな勝負ではないので、勝ち負けを気にする必要はないが、そんなことアスカは知らない。

 

「あんたシンクロ率80%を出したんだって?」

 

 どこか聞きづらそうにアスカは尋ねる。

 

「そうだっけ? 無我夢中だったからよく覚えてないや」

 

 これは半分嘘だ。良く覚えてないのは本当だが、シンクロ率なんてどうでもいいから覚えてないだけだ。

 

「……! ふーん」

 

 アスカの表情が険しくなる。

 

(なんかギスギスしてるなー。ちょっと言い方が不味かったかなぁー)

 

「調子乗っていられるのも今の内よ。あたしが来たからにはあんたは万年補欠なんだから!」

 

 シンジ的にはそっちの方が面倒で無くてありがたい。

 

 

 

 

 

 

 

「………く! こいつしぶとい」

 

 鯨に似た使徒はコアを口の奥に隠し慎重に立ち回っている。私は前の3人の様に無様は晒さないと集中力を高めている。確かに色仕掛けに殺られたり、なんちゃって気円斬に殺られたりと残念の極みだ。 

 

(……痛! 好感度を稼ぐ為にシンクロを操作して痛みを肩代わりしてるけど、この女、僕の献身的なフォローに気づいていない。マジで何なんだこの女は)

 

 そうは言ってもアスカもいっぱいいっぱいなのだ。周りに目を配る余裕はない。

 

「アスカ。口の中だ。多少の被弾は我慢して突っ込むしかない」

 

 いい加減終わらせたいシンジは、アスカに助言を送る。

 

「……! 偉そうに……! あたしだってその位気づいているわよ!」

 

(偉そうなのはどっちだよ!)

 

 アスカのツンツンとした態度に、シンジはだんだんとムカつき出してきた。

 

(だいたいアスカはいつもいつも偉そうに人を使って! ハンバーグだって作れないくせに!)

 

 前回の辛い記憶が甦って来る。

 

(何だよ! エヴァンゲリオンの操縦だって大口叩いてる割には大した戦果を上げてないじゃないか!)

 

 アスカは意を決して使徒の口に突っ込む。当然ダメージは負うがシンジが肩代わりしてるのでアスカに痛みはない。自分で始めたことながら、それに気づかないアスカに余計に腹が立っていく。

 

(本当に居てほしい時にはベッドで寝てるだけで、何の役にも立たない……!)

 

 皆、ギリギリの所で生きていたんだ。そう言うのは少し酷だ。

 

「よし! コアを破壊したわ! 流石あたしね!」

 

 一言の感謝も無く、喜色を浮かべ自画自賛するアスカに、とうとうシンジの堪忍袋の緒がキレた。

 

(もういいや。メンドクサイ。薬で廃人にしてガチの○ナホにしよう)

 

 こうしてシンジは犯行を決意する。ちなみに薬は綾波に関することや例の計画(・・・・)を公表するぞとリツコを脅して入手したものをハンバーグに混入させた。今日、ミサトは帰って来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 シンジのリクエストした薬は、理性を弱め性欲を強めるという媚薬に相当する物だ。シンジの妄想通りならアスカは服を脱ぐのも待ちきれないとガッツいて来るはずだ。

 

「…………」

 

 アスカは虚空を見つめ静かなままだ。

 

(……? 何かおかしい。いつものアスカでは無いけれどもエロエロになっている様にも見えない……?)

 

 

「ママ……?」

 

 アスカの口から出た言葉はシンジの期待するものではなかった。

 

(……!? どういうことだ? 何がどうなっている?)

 

 イレギュラーな事態にシンジは混乱する。元々、臨機応変な方ではないので、混乱は大きい。

 

「ママ! どうして私を見てくれないの! ねぇ! ねぇ!」

 

 確かに薬は効果があったようだ。理性を弱めアスカの内面を浮き彫りにするという効果が。今頃、リツコもほくそ笑んでいる頃だろう。

 

「……そう。分かったわママ。私がもっと頑張ればいいのね? そうよね?」

 

(これはアスカの記憶? いや、分からない。アスカから昔のことをしっかり聞いたことなんて……)

 

 ことここに至り、シンジも漸く事態を飲み込めてきた。

 

「やったわ! また、私が1番だったわ。……ママ? どこ? ママ! ママ!」

 

 シンジは、まるで余裕の無いアスカの表情にいつかの自分が重なる。すがりたい時に限って誰も助けてくれない。

 

「……いない。何処にもいない。誰も居ない。誰も私を見ていない。誰にも必要とされていない」

 

(……! 何を言っているんだ!)

 

「分かったわ。まだ足りない……! もっともっと強く……! もっともっともっと……!」

 

(黙って聞いていれば勝手なことばかり!)

 

「私は強い! 足手まといなんていらない! もっと私を見て……! 私が一番! 誰もいらない! 誰か助けて……! 私が……私が……私はナニ?」

 

 アスカの奥底にヘドロのように淀んで自身を圧迫していた感情が、シンジの逆鱗に触れる。

 

「うるさい! 何だよそれ!? 何が誰もいらないだよ! 一人じゃ朝だって起きられない! ご飯だってレトルトばかり! 使徒だって一人じゃ倒せないじゃないか!」

 

 よくよく思い返してみても、自分は振り回されてばっかりだ。

 

「それに……それに」

 

 シンジは少し言い淀む。

 

「何だよ! キモチ悪いって! 僕がどんな思いでアスカを求めたと思ってるんだ……!」

 

 紅い海で全てと混ざり合い、自分以外誰も居ない、最も孤独からかけ離れた究極の孤独。その微睡みの中でシンジが最初に求めたのは、友人でも、親でもなくアスカだった。それにどれ程の激情があったかは、簡単には想像できない。

 

「違う……。私はただ……」

 

 今まで一度も見たことのないシンジの剣幕に理性が弱っているとはいえ、何かを感じたのだろうか。アスカは何かを言おうとして、何かを言う前にシンジはマンションから飛び出して行ってしまった。

 

 キモチわるい。

 

 実際の所、この言葉にどんな意味があったのかは、アスカ本人にも掴み所のないあやふやな雲のような感情がその時のアスカを支配していた、ということしか覚えていない。

 ただ、重要なことは、どんな感情であったにしろ、シンジに真っ直ぐにぶつけることができたという一点に尽きる。アスカはこの事実の重さに半ば気づき始めている。

 だが、悲しいことにシンジがこれに気づくにはまだ時間がかかりそうである。

 

 でも、大丈夫。だって……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(よくよく考えてみれば、今アスカは意識が混濁しているから、ナニをしても覚えていないんじゃないか? こいつはヤベー。早く戻らないと……! 昂ってキター!)

 

 だって、まだまだ思春期は始まったばかりなのだから。

 

 なお、偶々早く仕事が終わったミサトと出くわしたシンジは、血の涙を流していたとかそうでないとか。

 

 

 おしまい。

 




一応、本編完結。気が向いたらチマチマ更新するかも。ありがとうございました。


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アスカ(ダメな方に)覚醒!

完結宣言から3日と経たずに次話を投稿する輩がいるらしい。


「……全く情けない。これではアダム様に顔向けできんぞ」

 

「しかし……!」

 

「そうだ。奴は想定よりずっとヤる(・・)

 

「色仕掛けに殺られたくせに何をカッコつけてるんだか」

 

「貴様……!」

 

「はーい! 次はいぃちゃんの番なの!」

 

「……」

 

「……拙者も出よう」

 

「……な! マトリエル! 流石にそれは過剰ではないか!?」

 

「……使徒裏番マトリエル。貴殿が居ればよもや遅れをとることはないと思うが……」

 

「承知しておる。決して油断せぬよ」

 

「もぅー! いぃちゃんだけでラックしょーだよ!」

 

「……念の為だ。そうむくれるな。皆、他には何もないな」

 

「これにて第3回アダム様奪還会議を閉会する」

 

「……え? ゆるいオフ会じゃなかったの?」

 

「「……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ヤりたい)

 

 シンジは平常運転である。 

 

「……」

 

(最近、綾波も何か近いし、アスカもミサトさんのマンションに転がりこんで来たし、洗濯という至福の時があるから家事は別にいんだ。だけど、ちょっとムラムラがキツイ。昨日、アスカのベッドでくんかくんかすりすりしたけど、全然足りない)

 

 確実に有罪である。

 

「シンジー! 早くネルフに行くわよ!」

 

「……」 

 

 アスカがシンジを連れてネルフに行こうとしている。あれ以来アスカに変わった所は見られない。あの時のことは覚えていないのだろうか。シンジは気にはなっているが、敢えて問い詰めるようなことはしていない。それが一番いいような気がしているからだ。

 

「はいはい」

 

「……」

 

「うわ! びっくりした。綾波いつから居たの?」

 

 最初からである。シンジが邪な妄想に浸っている時からガン見していた。最近、綾波は某忍者の活躍に夢中なので日常生活でも忍者リスペクトなのだ。アへ顔にも一層磨きがかかっている。

 

「私とのことは遊びだったのね」

 

 綾波が目を手で隠し、よよと泣き真似をする。でも大丈夫。まだ綾波は無口無表情を維持している。とっても強い子なのだ。

 

(遊びも何も初めから綾波の穴にしか興味無い。綾波は何を言っているんだ?)

 

 むしろ、シンジは何を考えているんだ? 

 

「誤解だよ。綾波、あっちの方でゆっくり話そう」

 

 邪魔が入らないように2人っきりで話そうとするのは、女を都合良く利用しようとする男にはよく見られる現象だ。それに、そもそも何処にも誤解などない。

 

「……いちゃついてないで早く行くわよ」

 

 アスカもどうしたのだろうか。何時に無く余裕がある。

 

 

 

 

 

 

────使徒襲来! 使徒しゅぃ……襲来!

 

 噛んだ。間違いない。マヤはしれっと何事もなかったかのように言い直しているが、ネルフ内の放送は全て録音されている。

 

(マヤさん……。正直、眼中に無かったが案外イケるかもしれない)

 

 すぐに懲罰房にイケるに決まっている。

 

 指令室。ミサトはいつものようにノリで作戦を決定する。しょうがないね。ミサトは体育会系で文系だからね。数学的論理性は少ししか無いのだ。

 

「今回は、シンちゃんとアスカに出てもらうわ」

 

 え? 私は? 

 レイが無言の抗議をする。……レイも最近、本当に感情豊かになったなぁ、とミサトは感心する。やはり、男か、などとオバサン的思考に耽る。

 

 斯くして初号機と二号機は出撃する。勢い良くアスカが飛び出す……というようなことは無く、静かに使徒を観察している。

 

(おかしい。アスカらしくない。前は見せつけるようにバッサリと一刀両断したのに、静か過ぎる。何を企んでいる?)

 

 シンジは疑っているようだ。元々、猜疑心が強い傾向はあったが、その才能が開花してしまったのだろうか。それともアスカが静かという異常事態故だろうか。

 

(使徒イスラフェル。前回はアスカとのユニゾン攻撃で倒した。今回もそうなるのだろうか)

 

「あたしが先に行くわ。あんたはもしもの時の為のバックアップ要員よ」

 

「りょーかい」

 

 シンジの返答を聞くや否やアスカは弾かれたように使徒に突撃する。

 

 一刀両断。

 

 ブレンド系の近接武器で両断する。

 

(さぁ、来るぞ……!)

 

「シンジ。あれを見て」

 

 いつの間にか初号機の隣に来ていたアスカが、イスラフェルを指差し、注意を促す。分断された肉体が独立して動き始めたのだ。

 

(やっぱり同じか。ちょっと試してみようかな)

 

 シンジがユニゾン攻撃を提案しようとした所でミサトから通信が入る。

 

「2人とも、先ずは1人1体づつ確実に倒してちょうだい」

 

(意味無いと思うけど……)

 

 上司の命令なら仕方がない。

 

「シンジが右。あたしが左に行くわ」

 

「ほいほい」

 

 アスカがシンジを見つめる。パクパクと口を動かす。

 

(…………? あ、わ、せ、ろ。……! 合わせろ! まさかアスカ……)  

 

「アス……」

 

 シンジが何か言う前にアスカは行ってしまった。こうしちゃいられない。シンジも数瞬遅れで動きだす。大丈夫だ。まだ合わせられる。

 

 2人の連擊が決まっていく。

 

「これは……成る程、そういうことね」

 

 2人の意図にいち早く気づいたのは、リツコだった。

 

「どういうこと? ……いや、そうか。2人ともやーるぅ!」

 

 一拍遅れてミサトも察する。ややアンバランスな本能型ではあるが、ミサトも優秀な人間だ。足を引っ張る愚は犯さない。

 

 このまま、勝てる。誰もがそう思っていた。

 

 最後の飛び蹴りが決まる。その一瞬前、白い紐のような何かがイスラフェルにくっつき、そのまま引っ張られることでエヴァのラストアタックをかわしてしまった。

 

(なんだあれは……? あんなの見たことない)

 

 困惑するシンジへ、アスカの鋭い声が向けられる。

 

「シンジ! 紐の先を見て!」

 

 アスカの声に従い紐の出所であるビルの隙間を注視する。

 蜘蛛型の巨体が姿を現す。

 

(あれは……マトリエル。マトリエルさんじゃないか!?)

 

 シンジに喜色が浮かぶ。敵が増えたのにいったいどうしたのだろうか。

 

(全使徒中、最弱と名高いマトリエルさんじゃないか。これは使徒の戦力大幅減は確定だ!)

 

 たった今、攻撃をかわされたことなど知ったことか、とマトリエルをバカにする。

 

(ただ、気になるのはあの巨体に誰も気づいていなかったことだ……? ま、いっか。所詮、マトリエルさんなんてちょろいに決まってる)

 

──光学迷彩。

 

 マトリエルは始めから戦いを監視していた。高度な隠密能力に気づけた者はいない。

 

「まさか! 別個体なの! リツコ、これは一体?」

 

「……マギによると賛成1、条件付賛成1、回答不可1で別個体の可能性があると出たわ」

 

 指令部が俄に騒がしくなる。

 

(よユーよユー。……な! 速い!)

 

 バカにしくさっていたシンジだったが蜘蛛型使徒マトリエルの敏捷性に驚愕する。

 

 こんな時、最も速く行動に移ることが出来たのは、正規の軍で訓練を積んできたアスカだったのは必然であった。

 アスカのパレットライフルによる三点バーストがこ気味いいリズムを刻む。

 

 しかし……。

 

(バカな……! スパイダーマンじゃないんだぞ!?)

 

 マトリエルは自ら精製した白い紐──蜘蛛の糸を高層ビル群へ接着し、それを伸縮することで変則的な加減速を可能にし、銃弾をかわしていく。

 

 そして、敵は1人ではない。シンジがそれを思い出したのはイスラフェルの拳打により、半自動的にATフィールドが展開されてからだった。

 イスラフェルによるコンビネーションが炸裂する。今のところはATフィールドで凌げているが……。

 

(く……! アスカは大丈……!)

 

「アスカ!」

 

 アスカ──二号機はマトリエルの生み出す白い紐により拘禁されついる。ギリギリと締め付け高いシンクロ率を誇るアスカを文字通り痛め付けていく……!

 

(こんな所で負けるのか? だけど、僕にできることなんて……)

 

 シンジが諦めかけたその時、アスカに異変が起きる。いや、正確にはずっと起きていた。

 それは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり縛られるの……イイ! どうして私は今まで気がつかなかったの!」

 

 どうしてそこに気がついてしまったのか。もうチルドレンはおしまいである。

 

「……もしかして」

 

 おや? シンジは何か心当たりがあるようだ。

 

(昨日、アスカのベッドで『○ミの縄~初級緊縛生活~』を精読してたまではよかったんだ)

 

 良かったことなんて何もない。何をやってるんだ。君は? 

 

(今日になって『○ミの縄~初級緊縛生活~』が無くなってることに気づいた。多分、アスカのベッドに忘れてきたんだ)

 

 シンジ痛恨のミス。世界が違えば、地下行き確定の大チョンボバレ相当のミスだ。

 

(しかも、だ。昨日、僕のベッドの下に隠していた中級緊縛生活と上級緊縛生活と愛用のベルトも朝、学校に行く前には無くなっていた……! これはおそらくアスカの犯行……! アスカは目覚めたんだ! ハードSMワールドに!)

 

 迷探偵シンジ、とうとう真犯人にたどり着く!

 

 シンジが真相を究明している目の前でアスカのテンションはヒートアップしていく。

 

「縛られることでの安心感! 多幸感! そしてジリジリと痛覚をノックする快感! 愛されてるって実感出来る! これが生きるってことなのね!」

 

 これには、使徒裏番マトリエルさんも困惑を隠せない。

 

──拙者そんなつもりじゃ……。

 

(ふむ。アスカはそちらの方面で伸ばすのも一興か)

 

 シンジは何やらシリアスな思案顔だ。勿論、外面だけだ。

 

「……だけど……」

 

 アスカが喜びに満ち溢れた顔を引っ込める。漸くまともに戦う気になったのだろうか。イスラフェルもそろそろ攻撃していいかな? ともう1人の自分に自問自答している。

 

「縛り方が甘いわ!」

 

 アスカはそう叫ぶとタコみたいな動きで縄抜けをやってのける。忍者かよ。綾波とキャラ被りは勘弁やで。

 

「もっと、強く! 縄の摩擦を活かして! だけど、苦しめ過ぎないように! 愛を込めて縛り上げる!」

 

 なんということでしょう。一瞬の内にアスカとマトリエルの立場が逆転したではありませんか。マトリエルは亀甲縛りの亜種とも言えるアスカオリジナル緊縛術で完全に無力化されてしまった。

 

──不覚……! 

 

 マトリエルは大変遺憾である。

 

 イスラフェルも混乱の極みである。

 

──どうしよどうしよお家帰る? お家帰りゅ! 

 

 イスラフェルは撤退しそうな雰囲気だ。平和的にこの場はお開きになるのか?

 

「……隙あり」

 

 否、現実は無情である。アスカがポンコツ化してしまったのでリツコは綾波に出撃を指示。隙を見て攻撃するよう言い含めていた。

 

 零号機がプログレッシブナイフを3本、忍者のクナイよろしく投擲する。退魔忍○サギで毎日、様々なイメトレを欠かしていない綾波の投擲は素晴らしく、奇々怪々な事態に精神が不安定な使徒の、脆弱になっているATフィールドをぶち破り、3体のコアに同時にクリーンヒット。

 

──無念!

 

 でしょうね!

 

──うそー!

 

 なんか、ごめんよ。

 

 2体(3体)の使徒は仲良く同時に爆散した。

 

 世紀末な光景をポカーンと眺めていたシンジは、ポツリとアスカに尋ねる。

 

「ねぇ、アスカ。僕のベルトはどうしたの?」

 

「ふぇ!? し、知らないわよ! あんたの黒いベルト何て知らない!」

 

 そこは恥じらうのか。アスカのプラグスーツを良く見ると胸の辺りに不自然な膨らみが……。

 

 だが、シンジは紳士。野暮なことは言わな……。

 

「ふーん……別にいいけど、あんまり汚さないでね」

 

 言わない訳ではないが、紳士なので体液フェチでは無いのだ。

 

「」

 

 アスカも沈黙で肯定を表現している。動きだけじゃなくて顔もタコみたいに真っ赤である。

 

 

 こうして、使徒が2体同時に現れるという未曾有の危機を乗り越えたシンジとアスカは、当然、懲罰房行きとなった。レイは暇なのでシンジとアスカのとこ(懲罰房)にちょくちょく遊びに行っているようだ。もはや、懲罰房は実家のような安心感とは、シンジの言葉である。 

 

 

 

 



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少女の夢は終わらない

マヤ視点。作者的には一番の駄文。


「チルドレンの調査ですか?」

 

 赤木リツコの研究室で、伊吹マヤは素っ頓狂な声を上げた。

 リツコの研究室で2人っきりの密室で仕事が出来ると思っていたマヤは、不満を努めて外に出さないようにする。

 

(せっかく先輩と2人っきりで過ごせると思ったのに、チルドレンの調査? 何故、今更そんなことを?)

 

 マヤの記憶が確かなら、チルドレン選定時に様々な事情(・・・・・)をしっかり調査しているはずだ。それに加え、現在進行形でネルフの工作員による警護という名の監視が行われている。

 

(態々、私が再調査する意味は無いのでは?)

 

「理由をお聞かせ願えますか?」

 

 リツコにしては珍しく、少しだけいい淀み、やや時を経てから口を開いた。

 

「端的に言って、ファーストチルドレン、セカンドチルドレン及びサードチルドレンが優秀過ぎることが主な理由よ」

 

 ファーストチルドレン、セカンドチルドレン、サードチルドレン。普段はこのような呼び方はしないが、今は敢えてそうしている。マヤはその意味を機敏に察知した。

 

(先輩が個人的に関心があるだけでなく、もっと組織としての重要事項に関わる事態なのかしら? でも、優秀であれば問題ない様に思うけど……)

 

 普通はマヤの様に考えるだろう。だが、上層部とその後ろに控えるゼーレにとってはそうではないのだ。彼らにとっては適度に優秀で、適度に不安定である未熟な精神が最も都合が良いのだ。しかし、マヤの想像の埒外であるのが致し方無いのも、また、事実。

 

「……意図が分かりません」

 

 従って、マヤがこの様に返すのは、リツコとしても想定内だ。

 

「サードの平均シンクロ率82%、セカンド84%、ファースト66%。これに加えて、サードは任意にATフィールドを展開する、だけに留まらず形状の変化と遠隔操作も可能だわ」

 

 改めて説明されると、何の訓練もしていないにしてはサードは優秀過ぎると言える。確かに、そうだが……。

 

「適性や才能が高いだけでは?」

 

 マヤにとって、自分の想像を越える天才と言う存在は決して架空のファンタジーではない。これもその類いに思えてしまう。自分の凡庸さに嫌悪した時期も確かにあったが、とうの昔のことだ。今はその様な存在が味方であることを純粋に頼もしく思う。

 

「……エヴァの操縦に関しては、そういうことにしてもいいわ」

 

 そういうことにしてもいい。口ではそう言っているが納得などまるでしていない。付き合いのそう長くないマヤにもすぐにわかる。リツコはそんな顔を隠していない。

 

「一番の異常は、精神性よ」

 

(……精神性?)

 

 シンジのゲスピンク色の思考、アスカのドM趣味、レイのむっつりエロ漫画オタク……まぁ、異常と言われても仕方がないね、うん。

 

「皆、ちょっと変わってるけど良い子じゃないですか?」

 

 良い子とは、いったい……?

 マヤは、いつか悪い奴に騙されないだろうか。24歳とは思えない純粋さだ。

 

「そういうことじゃないのよ。彼らの異常性は安定し過ぎていることよ」

 

(安定……。言われてみれば確かに……)

 

 サードに関してはそれだけじゃないけど……。リツコが小さく呟いた言葉がマヤに届くことはなかった。

 リツコはマヤの為に用意した説明を始める。

 

「不測の事態に陥っても冷静に対処して、絶望的な強敵にもごねることなく出撃し、この前の使徒戦では私たちより先に、コア同時破壊という攻略法を思いつき、即実行してみせたわ」

 

(自分が14歳の頃はどうだったろうか。良く覚えていないが、シンジ達と同じことは絶対に出来ないだろう)

 

「……私の予想ではサードは、戦いを嫌い逃げ出していると思っていたわ。でも現実は一度も逃げ出していない」

 

 シンジは、前回の経験から無駄だって悟ってしまったのだ。

 

「セカンドは周りともっと軋轢を産むと思っていたけど、そんなこともなく、特にサードには気を許しているように見える」

 

 アスカも色々と経験し成長しているのだ。

 

「ファーストは、セカンドとは別の意味で周りから孤立するはずだったのに、自然と溶け込んでいる」

 

 レイは様々な感情を学習している。以前の様に無知な幼子ではない。

 

「……それに彼ら、隠しカメラに気づいている節があるわ」

 

 マンションやアパートに設置し、チルドレンを秘密裏に観察するためだ。

 

「それで何か言ってきたのですか?」

 

 マヤは考える。自分なら耐えられないだろう。まして14歳という年齢なら尚更だ。

 

 リツコからの回答がない。リツコは何かを考え、口にしようとするが上手く言葉に出来ない。

 

「先輩?」

 

「……何も言ってこないわ。年齢を考えるとあり得ないと感じてしまうわ」

 

(それは……確かにそうだ)

 

「……分かりました。それで具体的には何を調べればいいのですか?」

 

「人格や生活の様子などの個人的でプライベートな事が最優先。何をどこまで知っているか、という知識面が次点ね」

 

「方法はお任せいただけますか?」

 

「勿論よ。勘づかれなければ手段は問わないわ」

 

「……それでは、早速、調査に入りたいと思いますが、よろしいでしょうか」

 

「ええ、お願いね」

 

「はい。それでは失礼します」

 

 一礼し部屋を後にする。いつもより足取りが重いことを自覚する。

 

(工学畑の私が探偵のマネ事をするはめになるなんて……。それにいくら必要とは言え、罪悪感もあるし……)

 

 やりたくないなぁ。それがマヤの偽らざる心情だ。

 

 

 

 

「シンジ君、訓練お疲れ様」

 

 マヤは学校から直接ネルフに来て、訓練に励んでいたシンジを労い、スポーツドリンクーを差し出す。

 シンジの人格を調査するにあたって最初に取り組めべきと考えたことは、コミュニケーションをとるという至極真っ当な方法だった。

 

「……珍しいですね。マヤさんが僕に話しかけるなんて」

 

 シンジが訝かしむのも当然だ。少なくともシンジの記憶(・・)にはマヤが自分にこんなことをしたことはない。

 

「嫌だった?」

 

 この言い方は少し狡い。マヤも自覚はあるが、こちらも仕事だ、とぐいぐいやらせてもらう。

 

「うん。チョー迷惑」

 

 普通は多少嫌でも、そんなことないけど……、の様に言ったりするものだが、シンジはそんな気遣いをするつもりもない。別に何とも思って無くても、マヤの反応を見たいが為にこんなことを言ったりする。

 

(迷惑って……)

 

「もう、ひどいなぁ。私だって偶にはこういうこともするんだよ?」

 

「ふーん。マヤさんって何歳だっけ?」

 

(ん? いきなりどうしたんだろ?)

 

「24歳だよ。学年的には貴方達の11個上になるかな」

 

「11個かぁ」

 

 シンジはポーカーフェイスを保ったまま何かを考えている様だ。

 

「で、今日は何の用なんですか?」

 

(まぁ、そうなるよね)

 

「大した用ではないのだけど、エヴァの操縦はどうかな、と思って」

 

「どう、って具体的にはどういうこと?」

 

「うーん。正直に言うと嫌じゃないのかな、って気になったのよね」

 

 腹を割っている様に見せかける。人間関係を円滑にするために良く行われている技法だ。

 

 シンジのポーカーフェイスが崩れる。まるで、賞味期限が過ぎて冷えきってしまった揚げ物の惣菜を食べた時の様な顔をするが、すぐにいつもの顔に戻ってしまう。

 

「嫌ですよ。恐いし、痛いし、楽しいことなんて何も無い。エヴァも使徒も居ない世界に産まれたかったっていつも思ってます」

 

 物憂げな吐息がシンジの抱える苦しみを少しは和らげることが出来るのだろうか。

 

(なんて顔をするの……)

 

 マヤは今まで見たことの無いシンジに動揺してしまう。

 

「でも、シンジ君は逃げ出さないよね」

 

 どうしてなのかな。マヤは優しく問う。

 

「……」

 

 シンジは答えない。答えられない。

 

(らしく無いな。いつも歯切れ良く答えるのに。よっぽど言いにくい何かがあるのかな)

 

 シンジはややあってから口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……好きな人の為ですよ」

 

 お前誰だ? さては偽物だな? まさか! 使徒がシンジに化けているに違いない! 即刻、殲滅しなければ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ふぁ……♡)

 

 え? マヤさん? どったの? 急に仕込んでた○イブのスイッチ入れたんすか?

 

(なんということ! そういうことだったのね! それならば納得だわ! シンジ君は絶望的な世界を生きる愛の戦士だったのね!)

 

 伊吹マヤ(24)。当然、独身。秘密の趣味は乙女ちっくな妄想に耽ること。勿論、恋人居ない歴24年のベテランファンタスティッカーだ。

 

 マヤのキモい変化にシンジも引き気味である。ふざけて妙なこと言わなきゃよかったかなぁ。後悔しても時既に遅し。マヤはシンジに引かれてることにも気づかず、シンジを詰問する。

 

「で。好きな人って誰なの!? やっぱり、アスカちゃん? それともレイちゃん!?」

 

(シンジ君は2人の間で揺れ動いているのね。そしてアスカちゃんもレイちゃんもそれを知ってもシンジ君が欲しくて堪らないのね! それで恋のトライアングルが……!)

 

 マヤはシンジが何も言っていないにもかかわらず、自分の妄想が確定した事実と信じて疑わない。

 奈落の底にアクセル全快で突っ込んで行くマヤを見てシンジの頭に電球が点る。ぴこん。

 

 シンジは何かを閃いた様だ。きっとろくでもないことを考えているに決まっている。

 

 躊躇いがちに、シンジはマヤをじっと見つめ、不意に視線を外し、また、見つめる。

 

(……え!? 急に黙って、そんなに見詰めてどうしたの……? !まさか!)

 

「……教えられません……」

 

 消え入りそうな声でシンジは答える。儚げな微笑みを添えることも忘れない。

 10人中100人がキモ過ぎて吐く。しかし、マヤにとってはそうではない。マヤはケーキに蜂蜜とピーナッツクリームをかけて食べちゃう系女子なのだ。

 

(私!? シンジ君の世界を救う理由は私だったの♡)

 

 こっちも10人中1000人がキモすぎて下痢するレベルだ。

 

「そんな……イケないわ♡ でも、でも……!」

 

 うわぁ。マジやべー奴だ。

シンジは自分のことを棚に上げて2歩下がってマヤを観察する。

 うぇ。

 昼に食べたカレーがバーストしそうである。完全なる自業自得だ。

 

 マヤは完全に自分の世界に入っているので、シンジが帰ったことにも暫く気がつかなかった。マヤもATフィールド固そうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──コンクリートマイク。

 

 マヤの秘密兵器だ。コンクリートマイクとは、簡単に言うと壁に当てて壁の中や向こう側の音を拾う聴診器だ。

 本来は工事等で使用する物だが、不届き者によって盗聴に使われることがままある。そして、本性を顕したマヤはこの不届き者に当たる。

 

 レイのアパートの隣室でカフェオレとメロンパンを用意して盗聴の準備は万端だ。逮捕されればいいのに。

 

 寂れすぎたアパートの住民はレイ1人。14歳の少女が1人で暮らすには寂し過ぎる。尤も、レイにとっては色々と捗るのでハッピーである。

 だが、今回に限ってはそれが仇となり変質者──マヤの侵入を許してしまった。

 

 ガヂャガチャ。解錠音だ。時刻は17時30分を回った。レイが帰って来たのだ。

 

(来た)

 

 マヤに緊張が走る。心地良い強張りだ。

 

(……ファーストチルドレン、綾波レイ。シンクロ率は比較的低いながら、隠行やナイフ投げに於いては他の追随を許さない。最近は感情も豊かになってきている)

 

 ……マヤは仕事を忘れてはいない。ただの迷惑な妄想干物女ではなかった様だ。

 

(そして! シンジ君を巡る恋の奴隷! きっと1人になると色々と(・・・)発散しているに違いないわ!)

 

 訂正する。とても迷惑な変態目妄想科の犯罪者だ。

 

「……て」

 

「……邪魔……まーす」

 

 レイのものと思われる少女の声だけでなく、少年──シンジの声も聞こえる。時刻は夕方。おそらくネルフからの帰りにそのまま2人は行動を伴にして現在に至るのだろう。

 マヤに電流走る!

 マヤの腐った頭脳ば瞬時に真実(笑)を見抜く。

 

(辛い戦いの合間のささやかな日常を愛する人と過ごす……漲ってキター!)

 

 はぁはぁとヤバい顔で熱のこもった息を吐き出し、もぞもぞする姿は完全無欠の変質者だ。

 

(……2人は言葉少なに互いの気持ちを確かめ合い、そして……きゃー!)

 

 ぎゃー! 

 今のマヤをまともな人が見たらキモすぎて悲鳴が錯綜する筈だ。

 

 コンクリートマイクを壁に押し当てる。

 

「ハー……ム……」

 

 シンジの声が途切れ途切れに聴こえる。コンクリートマイクの本来のスペックならもっとクリアに聴こえる筈だが、路地裏で怪しげな外国人──外見や言葉からは国籍を特定できない──から、格安で購入したのが悪かったのだろう。粗悪品又はパチもんを掴まされた。

 しかし、テンション上げ上げ⤴️の犯罪者のマヤは気にならない。逞しい妄想力が情報を補完するから無問題だ。マヤの補完計画は順調に遂行されている。

 

(ハネムーン!? 2人は将来を誓い合った仲。でも、2人の恋は前途多難。だからこそ燃え上がる愛! くぅ。たまンねぇぜ! もうそこまで進んでいたなんて! く、出遅れた!)

 

 出遅れた、ではなく行き遅れになるに決まってる。

 

(でも、それじゃあアスカちゃんはどうなるの? まさかシンジ君!)

 

「……卑劣……」

 

 今度はレイの声だ。単語が辛うじて聞き取れる。

 

(やっぱり! シンジ君はレイちゃんを都合良く利用していたんだわ! ……もしかしてシンジ君、本当に私が本命……? 私、どうしたら……♡)

 

 都合良く利用している点はその通りである。だが、マヤがやるべきはそこを責めることでは無く自らの罪を認め刑に服することだ。

 

 ガタガタギシギシ。物音が聴こえる。

 

(修羅場!?)

 

『あんなに求め合ったのに全部嘘だったの!?』

 

『……そうだ。始めから愛してなんかいなかった』

 

『許さない。あなたを殺して私も死ぬわ……!』

 

 ※マヤの妄想です。

 

(なんてこと! これは大変だわ!)

 

 大変だわと言いつつ楽しそうである。

 

 また、レイの声が聴こえる。

 

「私は2番目……」

 

(レイちゃん、なんて健気なの! 2番目でも良いから側に置いてなんて……!)

 

 割とネルフの深層に迫る会話をしているがマヤは頭がおかしいので気づけない。残念の極みだ。

 こうして色々と楽しんだマヤだったが、仕事で来ていることをちゃんと思い出した。シンジが帰ってから。 

 

 

 

 

 

 

 後日。ミサトのマンションの隣室にマヤは居た。

 

(セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレー。頭脳、運動能力、エヴァ操縦能力、戦闘技術……全てが高水準。弱点はプライドが高く、癇癪を良く起こすこと。だったのだけど、最近はなんて言うか、丸くなった。14歳の少女に対する感想としては違和感があるけど、実際そうとしか言えない)

 

 今度はアスカの調査に来たようだ。レイのアパートより防音性が高いことを見越し、新しいコンクリートマイクを購入済だ。マヤは学習する女なのだ。

 

 ガヂャガヂャ。解錠する音が聴こえる。

 

「あー疲れた。シンジ、アイスってあったっけ?」

 

「チョコミントならあったはずだよ」

 

「えーチョコミントかぁ」

 

 アスカとシンジが会話をしながら移動している。位置関係的に少し聞き取りづらくなってしまった。

 

(まるで、夫婦の様な会話! やっぱりシンジ君の1番はアスカちゃん……! 私との事は遊びだったのね……)

 

 ギリ。

 歯ぎしりをしているがマヤはノリノリだ。マヤは雰囲気を大切にする女なのだ。 

 

 暫くしてアスカの物らしき声がしてきた。残念なことに不明瞭で部分的にしか理解出来ない。ガッつくマヤ。仕事熱心である。勿論、皮肉だ。

 

「……赤ちゃん……」

 

 今なんと言っただろうか。マヤは自分の耳が受け入れた音を俄には信じられない。と思いつつニヨニヨしている。

 

「ああ、胎児……」

 

(なんですって!? 2人の間には新しい命が……! 成る程、それでシンジ君は発散(・・)する為にレイちゃんを利用した……! シンジ君、なんてひどい人なの!)

 

「中は熱い……」

 

(中は熱い!? どういうことなの!? まさか、シンジ君、赤ちゃんがお腹に居ても構わずにアスカちゃんを……?)

 

 実際には妊娠中のセックスはケースバイケースだ。禁忌と言うほどではないが、マヤにとっては妄想を盛り上げるエッセンスだ。

 

「……早目に……降ろして、……殺す」

 

(早目に堕ろして殺す!? シンジ君はアスカちゃんに赤ちゃんを堕ろせ、とそういうことね! 仕方の無いことだけど……。アスカちゃんはなんて言うの?)

 

「そうね。それが一番よね」

 

 諦めた様に言うアスカの言葉にマヤの脳ミソがスパークする。

 

(アスカちゃん。本当は愛する人の子を産みたいんだわ。でも2人には世界を救う使命がある……! 泣く泣く諦めるしかない。きっとこれが2人のすれ違いの始まり! いずれシンジ君は1人になり、そして、自暴自棄になったシンジ君は貪る様に私を……! キャー!)

 

 バタバタしてるマヤは完全に手遅れだ。でも、本人が楽しそうだから、もういんじゃないかな。

 

 

 

 こうしてアスカの調査を無事(?)終えたマヤは次の日、妄想を抑えることが出来ずに職場のパソコンで『少女達の真実──少年の嘘』と題したエロ小説を鋭意執筆中である。バレたら懲戒処分待ったなしだ。

 

「マヤ。例の件はどう?」

 

 入り口からリツコがマヤに調査の進捗を訊ねる。マヤはここで漸く仕事の事を思い出す。報告書を提出しなければいけない。

 

「今日中には、報告書を提出出来ます」

 

 こんなんだが、マヤは一流大の情報工学系の学部を優秀な成績で卒業している。仕事は速く正確だ。報告書程度、すぐにそれっぽく仕上げられる。

 

「流石マヤね。じゃあ、暗号化して後でメールに添付してちょうだい」

 

「はい。分かりました」

 

 それじゃあね、と手をひらひらさせてリツコは行ってしまった。

 

(ふぅ。忘れてたわ。危ない危ない)

 

 2章まで書き上げた小説を念のため暗号化して保存する。

 

(報告書は……恋愛感情が精神に好影響を与えているという趣旨でそれっぽくまとめればいいか)

 

 優秀な人間が取り繕うと本当にそれっぽくなってしまうから厄介だ。特に人格に問題があると尚更だ。

 

(よし。これで報告書は完成)

 

 ほんの20分足らずでしっかりと体裁を整えた文書ファイルを作成してしまった。

 

(後は暗号化してバックアップ用に保存して、と)

 

 メールに添付して送信すればお仕事完了だ。マヤはさっさとメールを完成させる。添付ファイルをドラッグしようとしたその時……。

 

「マヤさん。ちょっと相談が……」

 

 シンジがマヤの所に訪ねて来たではないか。しかも何か思い詰めている様に見える。

 

(! シンジ君、まさか私を……!?)

 

 マヤは一瞬で妄想が沸騰する。集中しないで暗号化されたファイルをドラッグ&ドロップ。送信ボタンをクリック。

 ワクワクしながらシンジの話を聞き始めて数分後、リツコから呼び出しが……。

 

 

 

 

 

 

「あなたねぇ」

 

 先輩はぶち切れている。エロ小説送っちゃったからね。そらそうなる。

 

 伊吹マヤ、24歳。戒告及び減給の懲戒処分に処される。

 なお、本人は懲りていない模様。

 マヤもまだまだ痛い思春期である。




作者も昼休みにこの小説を書いたりしてる。職場の人にバレたら、と思うと具合が悪くなる。


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シン・エロンゲリオン

評価に色がついてた。黄色なので周りからすれば大したこと無いかもしれないけど、作者にとってはとても嬉しいです。評価してくれた方、ありがとうございます。


「マトリエル殿が討たれるとは……」

 

「イスラフェルだって決して弱くはなかったはずだ」

 

「だから、奴は相当ヤると言ったではないか! 間違いなく我々の最悪の障害足り得る存在だ!」

 

「ストリップショーに鼻の下を伸ばして、惨敗した変態は喋らないで下さいます?」

 

「」

 

「wwwwwwww」

 

「……エロオヤジの言ってる事も一理ありゅ。いぃちゃんもあいつのえぃてぃふぃーるどをやっつけれなかった……。あんなに硬いの見たことないよぅ」

 

「それほどか」

 

「敗者である拙者が、言えた口ではないが、あの動き……かつて見た殿に匹敵するものだ。……赤い悪魔……」

 

「マトリエル殿……」

 

「お腹すいたぁ。ポテチどこやったっけ?」

 

「「…………」」

 

「よかろう。次は朕が出よう」

 

「な!」

 

「そんな! お止めください!」

 

「貴方様に何かあればアダム様に本当に顔向け出来ません!」

 

「そうは申すが、このままでは敗色は濃厚だ。それに朕もそろそろ眠るのも飽きて来たのだ」

 

「どうかお考え直してくださいますよう、何卒、何卒!」

 

「なぁに。そう案ずるな。朕の実力は皆も知っておろう」

 

「それはそうですが……」

 

「奴らも触れてはならぬ獅子の逆鱗に触れてしまったようだ」

 

「ラミエル! 何言ってるんだ!」

 

「……勝ったな」

 

「シャムシエルまで!」

 

「遂に眠れる獅子が目を覚ます……!」

 

「皆! もしもがあったらどうするんだ! もっとよく考えてくれ!」

 

「「……」」

 

「俺のコーラがない! 誰だよ、もう!」

 

「「サキエルェ……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頑張っているみたいだね。シンジ君」

 

 土曜日、ネルフ内の食堂で昼食を摂ろうとしたシンジへ、声を掛けたのはロマンスグレーが良く似合う知的な初老の男──冬月コウゾウだ。

 

「ありがとうございます。ですが、僕はまだまだですよ」

 

 冬月の醸し出す品格に当てられてシンジまで礼儀正しくなってしまう。

 

「ははは。そう謙遜しなくても良い」

 

 折角の機会だ。シンジは冬月に、父について聞いてみる事にした。

 

「父さんは何か言っていましたか?」

 

 シンジの問いに直ぐには答えず、冬月は申し訳なさそうに遅れて回答をくれた。

 

「……君には嘘や誤魔化しをしたくないから正直に言うが、……ゲンドウはシンジ君の事は何も言っていなかったよ」

 

 最後に、すまない、と結んだ冬月の心中は如何程のものなのか。神ならぬシンジには分かりかねるが、冬月がシンジを気遣っている事は理解出来る。

 

「……そうですか。あの人はそういう人ですからね。僕は特に気にしていませんから、冬月さんも気にしないで下さい」

 

 嘘だ。それなら初めから聞いてはこない。

 冬月は、しかし、それを糾弾はしないことにした。本人が気にしないと言うのだ。外野がそれを揚げ足を取るように責め立てるのはみっともない。何よりシンジにとっては酷に過ぎる。

 

「冬月さんも苦労なさっているのではないですか? 父さんは説明不足のまま物事を強引に進める所がありますから」

 

 シンジは何気無い世間話のつもりだった。しかし、冬月にとっては、琴線に触れる物があった様だ。

 

「そうなんだ……! 碇ときたらいつも独断専行で各所に反感を買って、面倒事は私に押し付ける! 都合の悪い時は、"冬月先生"と学生の頃の様に甘えてくる! それに強く出られない私も確かに悪いが、それにしたって都合が良すぎる。今日だって、急用が出来た、と言って事務仕事を放置して消えてしまった。本人はバレてない気でいるようだが赤木博士との仲は古参連中の中では既定の共通認識だ。恋愛にとやかく言うつもりは無いが、仕事に支障をきたす様では一社会人としての常識が欠如していると言わざるを得ない。それに……」

 

(いつまで続くんだこれ?)

 

 変なスイッチを押してしまったとシンジが後悔した時には、社員食堂のチープながらも栄養バランスの整ったワンコインランチが、冷めてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そう言えば、シンジは泳げなかったわね」

 

 アスカが微妙な視線を投げ掛ける。

 

「そうだよ。いいじゃないか別に」

 

 林間学校と使徒の襲来が予測される日が重なってしまった為、せめてもの代わりにとミサトが気を効かせてシンジ達を室内プールに連れて来ていた。そのミサトは先ほど電話が来て席を外している。

 

「そう言うアスカは漢字の勉強はもういいの?」

 

 アスカは漢字が余り得意では無かった。日本に居た時間の方が短いからだ。思考も意識しないと、アメリカ訛りのドイツ語になってしまう。

 

「日常生活レベルはマスターしたわ」

 

 しかし、アスカは明晰な頭脳を以て漢字を攻略した様だ。和製英語まで日本語として完璧な発音だ。

 

「はいはいインテリインテリ」

 

 シンジのディスる為のおざなりな称賛にも気を悪くしたりはせずに、アスカはちらりとプールに居る筈のレイを見る。

 

「は?」

 

 才色兼備なアスカがポカンとアホ面を晒す。

 カシャリ。

 シンジはケンスケから借りたカメラで、アホ面アスカwearingフリル付き赤ビキニを無許可撮影する。ふむ、Cに近いBかな。順調、順調。

 

(これは良い値が付きそうだ)

 

 ぐフフとゲス笑いのシンジもレイを見る。

 

(まぁ、アスカの気持ちも分かる。だって綾波……)

 

 Q.綾波は何をしているか? 

 

 A.水の上に立ってます。

 

「水蜘蛛の術」

 

 レイが無表情で言い放つ。本来の水蜘蛛の術は浮く為の忍具──円盤上の板を用いるが、レイはスクール水着のみを装備している。こちらはAに近いBだ。失礼。

 要するにレイは裸足で水の上に直立して……。

 

「これ楽しい……」

 

 否、裸足で水の上を走っている。完全にジャンプバトル漫画の世界だ。

 

 事の発端はシンジが『そう言えば綾波っていっぱい居るんだっけ。……閃いたぞ!』とか言い出した事だ。

 

 綾波がいっぱい居るなら、ハーレムの術ver影分身が出来る!

 

 シンジは◯ルトのエロ忍術が掲載している単行本だけをレイのアパートに持ち込んだ。それが先日の事だ。

 シンジの計画では、エロ忍術のみを修めさせるつもりだったが、レイはジャンピングバトラーな忍術に興味を示した。

 その時、エロの為に身振り手振りを交えてハーレムの術を熱弁してしまったせいで、テーブルの上のエロフィギュアを床に落としてしまった。

 少し煩かったかもしれないが、アパートには綾波だけだから、騒音は気にしなくていい筈だ。ただ、その時、隣室の方から物音がしたような気がしたが、シンジにとってはハーレムの術を如何にして綾波に実行させるかが最重要課題だった為、すぐに忘れてしまっていた。壁の向こうも、何処もかしこも変態ばかり。まさに真世紀(末)だ。

 

「ねぇ、シンジ。あれはどういう原理なの?」

 

 アスカの疑問は尤もだ。ただ、残念ながらシンジにも理屈は分からない。

 さぁ? とメリケン風に肩を竦める。

 アスカの眼光が鋭くなった気がするので、シンジは記憶を掘り返してみる。

 

(うーん。綾波って僕らとはやっぱり違うよなぁ)

 

 小学生並みの感想である。

 

「綾波は、その気になれば空を飛んだり、巨大化したり、液体化? みたいになったり、生ハメでサードインパクト起こしたり出来るやベー奴なんだ。だからあれ位フツーフツー」

 

 アスカの形の良い眉がぴくりとする。

 

「生ハメって何よ」

 

「装備無しのガチバトルのことだよ」

 

「……」

 

 論点の違う答えをするだけでなく、あわよくば変な知識を植え付けようというシンジの魂胆を見抜いたアスカはシンジにジトっとした目を向ける。

 

(ちっ。学校でいきなり生ハメって言わせたかったのに)

 

「知ってるのに僕に言わせようとするなんてアスカは淫乱のド変態なんだね」

 

 ニッコリと微笑むシンジは楽しそうだ。

 

「……今のもう一回」

 

 自分の汚い所を優しく(・・・)責められると全てを受け入れてもらえたような、心を包み込まれているような安心感がある。

 そうか。これこそが真実の愛……!

 シンジのベルトを加工して造った秘密道具──フリルのせいで分かりづらくなってる──もいつもより柔らかく痛みを与えてくれている気がする……。じゅん。

 ……アスカはもうダメだ。矯正は不可能な所まで行ってしまった。シンジが愛用していたあん畜生(1980円のベルト)もお亡くなりになってしまった。

 

「……」

 

 シンジは、もう一回と言われて素直にやってあげる程優しくない。本気で嫌がられて初めて発奮するナイスガイであるので、冷めた目で一瞥するだけで後は無視する。

 

「!」

 

 アスカの顔に絶望が浮かぶ。アスカはドMだが、全てのマゾプレイに対応している訳ではない。好き嫌いがハッキリした我が儘ドMちゃんなのだ。トラウマ持ちのヤンデレ系我が儘ドM。……いくら見た目と能力が良くても、これはクーリングオフ案件だ。

 

(うわぁ。アスカの反応面白wwこれは暇潰しに丁度いいや)

 

 アスカ=梱包材のプチプチ。新公式発見である。惣流・プチプチヒ・アスカ・ラングレー誕生だ。

 

(それにしてもなんかいつもより近くないか?)

 

 林間学校が始まる前に比べてなんか近い。具体的には肉体関係があるのが当たり前になって暫く経ち、愛情と単なる情の比率が変わる、その少し前の男女の距離。

 

(まぁ、良いけど。丁度いいから色々揉んでみよう)

 

 即断即決。優柔不断なあの頃は遥か彼方。時間て残酷ね。

 

「……」

 

(何か気配が……)

 

 まさかな……。

 シンジは疑いつつも直感に従い天井を見てみる。

 

「知らない天井だ」

 

 綾波が室内プールの天井──小さめの体育館程の高さ──に逆さに立ってシンジを見ている。足を何かに引っ掛けている様には見えない。足の裏でくっついている形だ。

 

(ホラーかよ。こんな天井、僕は知らない)

 

 ですよねー。普通、こんな前衛芸術みたいな光景を産み出す天井なんて知らない。

 

「……。……」

 

 綾波が何かを言っているが遠くて聞こえない。

 

『私が……。感度3000倍は渡さない』

 

(こいつ……! 脳内に直接!)

 

 テレパシーには流石のシンジも動揺する。そのせいで綾波の言葉がテレパシーであるにもかかわらず、頭に入って(・・・・・)来ない。自分のゲスい思考が読み取られたら堪らない。

 流石にレイも拒絶している相手の思考を読み取る力は今のところ無い。レイは外部の物理現象を操作する方が得意なのだ。内面への干渉力は弱い。

 しかし、シンジはそんなこと知る由も無いので、戦々恐々だ。

 

(……ま、いっか。その時はその時だ。いざとなったら装備無しのガチバトルで全てを終わらせればいいや)

 

 戦々恐々もすぐに鳴りを潜めて、相変わらずの後ろ向きにポジティブシンキングだ。何という切り替えの速さ。シンジのモットーは

『I always wanna turn it around as soon as possible!』

に違いない。

 

「使徒が現れたわ」

 

 プール入り口からミサトの緊張を孕んだ声がする。髪が乱れている所を見るに走って来たのだろう。

 

「ほーい」

 

「ようやくお出ましね」

 

「邪魔者は駆逐……」

 

【次回】

 眠れる獅子、高貴なる大天使サンダルフォン登場!

 シンジ死す! 

 サービスサービス!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……というのは嘘で、逆行前の経験を活かし、胎児(・・)型使徒(とシンジとアスカは思ってる)であるサンダルフォンが動き出す前に、中は熱い(・・・・)であろう火口に早めに(・・・)エヴァを降ろして(・・・)、使徒を殺す(・・)という先日に話合った通りの作戦を実行した結果……。

 

 眠れる獅子、サンダルフォン未だ目覚めず! 

 そして、これからも目覚めず! (永眠的な意味で)

 

 眠れる獅子は眠っているから強いムーヴをかませるのだ。起きたら夢が終わってしまうからね。仕方ないね。

 

 こうしてまたしても世界の平和を守ったシンジと愉快な仲間達なのであった……。めでたし。めでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あんな雑魚い使徒はどうでもいいんだ。別に)

 

 クソ雑魚ナメクジ以下でどうでもいいとは酷い言い草である。

 一戦終えた(?)シンジ達は某温泉旅館に来ていた。

 

(そんなことより、アスカと綾波だ)

 

 お? 遂にシンジもまともなラブコメをするつもりになったのだろうか。

 

(奴ら、明らかに誘ってやがる。だが、僕に人に見られながらヤる趣味は無い)

 

 まぁそうだよね。

 

(何故かは知らないが逆行前より監視がキツイ気がする。きっと今も見られているはずだ)

 

 色々やらかしてるからね。完全な自業自得だね。 

 

(何という生き地獄。これがハリネズミのジレンマか)

 

 近いような気もするけど、遠いような気もする。非常にコメントし辛いことを考えないでほしい。

 

(ただ、妙だ。2人が示し合わせた様に同じタイミングで露骨に誘う様になった。何か裏がある筈だ。だけど、未だ情報が足りなくて判断が付かない。ならヤることは一つだ)

 

 お、おい。まさか、暗がりに連れ込んで仲良し小好しするつもりじゃないだろうな。

 KENNZENなラブコメなんだぞ。頼むぞ。絶対だぞ。振りじゃないからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綾波、何か僕に隠し事してるよね。教えてくれないかな」

 

 普通に聞くとか、不器用で迷走して傷付いていたシンジはどこへやら。只の普通の人じゃないか。

 

「知らないわ。そんなことより」

 

 夜の10時過ぎ。ミサトはホッケの塩焼きと刺身盛合せとタコわさをツマミにビールをたらふく飲んでグースカ爆睡している。

 シンジはアスカとレイの露骨なスキンシップのせいで目が冴えて眠れなかったので、夜の露天風呂も偶にはいいか、と柄にもなく風情を堪能しようと澄んだ夜空が見える混浴露天風呂に来ていた。

 ……という様に周りからは見える様な立ち振舞いではあったが、シンジの狙いは綾波やアスカと自分だけの空間を作ること。今の2人ならシンジが1人で混浴風呂に居ればホイホイ釣れるだろう、と考えてのことだ。逆にシンジから誘った形になる。そして、ここなら流石に盗聴も難しいだろうという思惑もある。

 

 果たして綾波がフィッシュ! 竿(意味深)をシャクって熱烈フッキング! 

 

 そして、先程のシンジの質問シーンへと繋がる。

 

 綾波がシンジに肩を寄せる。綾波の体温がシンジへ流れていく。

 

「感度3000倍でらめぇぇしましょう」

 

 綾波……。その言い方はちょっとあかんでしょ。100年の恋も冷める迷言だ。

 しかし、シンジはこれを華麗にスルー。フォワード陣のスタミナなど考えない鬼畜の所業だ。

 

「うーん。誰かに何か言われたのかな? それにいつもより体温が高いんじゃない?」

 

 温泉に入る前から、綾波達の体温が高い様に感じていた。キナ臭い。ひっっじょうに怪しい。

 

 綾波が固まる。

 

(……うーん。カマ掛けてみるか)

 

「ミサトさんかな?」

 

 綾波に特に変化は見られない。

 

(じゃあ、次は本命)

 

「違ったね。ホントはリツコさんが綾波とアスカにこうしろって言ったんだよね」

 

 綾波に変化は見られない。強いて言えば以前(・・)の様な感情の伺えない顔をしている。しようとしている。

 

 バシャッ。

 

 広い露天風呂の岩の向こう。不自然に大きな水音が鳴る。犯人を呼び寄せようとシンジが声を掛ける。

 

「アスカもおいで」

 

 少ししてから、アスカもやって来る。タオルを巻いているようだ。

 

(体温が高いなんて……生理前かよって思ったけどいくらなんでも2人がまったく同じタイミングでこれだけ長い期間続くのは不自然すぎる) 

 

 アスカが無言でくっついて来る。こっちも熱い。シンジの予想が正しければ、温泉だけのせいではないはずだ。

 

(薬による副作用で体温が上昇している。十分に起こり得る筈だ。そして、ネルフ薬剤部門を牛耳っているのはリツコさんだ。彼女なら、こんな意味不明な言動を誘発する薬も簡単に用意出来る。問題は目的だが……)

 

 先日のマヤとの会話が思い出される。ネルフ内での味方を増やそうと、妄想の餌さえ与えれば簡単にヤれそう……もとい簡単に仲良くなれそうなマヤを攻略しようとコミュニケーションを重ねていたシンジはマヤから興味深い話を聞いていた。

 

♡★♪

 

『先輩の趣味かぁ?』ウーン

 

『はい。リツコさんってどんな人なのかな、と思いまして』カナカナ

 

『ははーん。シンジ君は先輩が好みなのぉぅ?』キラーン

 

『ち、違いますよ! 僕が好きなのは……』ウツムキ

 

『……(ごくり)』ナマツバゴックン

 

『マヤさんが何も教えてくれないので、僕も教えません』ヘヘーン

 

『しょーがないなぁ。秘密だからね』コソコソ

 

『分かってます』ヒソヒソカ

 

『前に力試しがてら先輩の自宅のパソコンにハッキングかけたことがあるんだけど……』!?ヒソカ!ヒソカ!

 

『えぇ』マジカヨ

 

『先輩のフォルダに少年少女の盗撮動画らしき物が大量にあったわ』ジュルリ

 

『マヤさん不潔』キョリトリー

 

『ちょっと! 私じゃないってば!』アセアセ

 

『ははは、冗談ですよ。それで発見後はどうしたんですか?』ホンデ?

 

『……フォルダ閲覧後、16秒で私のパソコン、メモリ、更にパソコンと繋がっているプリンターや周辺機器の全てが爆発したわ』ドカーン

 

『は?』ウッソダロ

 

『幸い、11秒経過時点でヤバいプログラムに攻撃を受けているって気づいて、先輩なら徹底的に破壊するはずだから、爆発、溶解何でもあり。そう思って急いで逃げたから怪我は無かったわ』ヤレヤレ

 

『』ウワー

 

『どうしたの?』ハテ

 

☆※♯

 

(赤木リツコ容疑者(29)。容疑は未成年盗撮。これを踏まえると今回の事件の全容が見えてくる)

 

 迷探偵碇シンジ。シン実はいつも一つ!

 

「アスカも話してくれないかな」

 

 だが、アスカは話そうとしない。

 

(おそらく何らかの事情(・・・・・・)でアスカと綾波の性癖を知った。あるいは僕に好意があると考えた。そこでリツコさんはアスカと綾波を呼び出し、僕とヤるメリットを脚色して言葉巧みに説明し、その役に立つとでも言って薬を渡した。そして、自分はゆっくりとそれを観賞する。こんなところか?)

 

 いい加減、2人の口から答えを聞きたい。

 暫く待つも2人は黙ったままだ。しょうがない。カードを一つ切ろうとシンジは口を開く。

 

「綾波」

 

 レイがシンジの目を見つめる。

 

「忍者コスプレロールプレイ~囚われの見習いくの一~」

 

「!?」

 

 レイの表情がガッツリ崩れる。

 

──コスプレロールプレイ。

──何と魅力的な響きだろうか。今まで夢想し、でも心のどこかで諦めていたオーク凌辱プレイ、女幹部の女王様風プレイ、敵対組織に所属する2人の禁断の愛風プレイetc.

……。

 

 レイはどうして今まで、その発想に至れなかったのか不思議でならない程、自分にしっくり来る。何か本質的な歯車が噛み合った。レイは一気に世界が広がるのを自覚した。

 レイは壁を越えてしまった。もう後戻りは出来ない。なんてこった。

 

「もし、綾波が正直に話してくれるなら、僕も前向きに考えるつもりだ」

 

 考えるだけですね。分かります。シンジもまた一歩大人へと近づいている。

 レイの陥落を確認し、次の標的に移る。

 

「アスカ」

 

 ビク。

 アスカの肩が震える。

 

──私には一体どんな劇薬を渡すつもりなの……。

 

 アスカは恐怖と期待が混ざって、むしろ気持ち良くなって来た。

 

──あれ、こういうのもいいかも。

 

 アスカも大分図太くなっている。こいつは手強いぞ。

 

「目隠し手錠、甘甘焦らしプレイ」

 

「!?!♡!?!☆」

 

──目隠し手錠だって? 何ということ。今まで私は縄やストレートな言葉で縛られ、責められることにばかり拘泥していたわ。視界を奪われることによる不安感と孤独感、手錠の無機質でひんやりとした感触、想像するだけで恐ろしい。

──だけど! これに甘甘焦らしを加えることで世界が180度変わる! 不安感と孤独感は甘い言葉と愛撫を比較対象とする事でより一層際立ち、けれどもそれは逆に甘い言葉と愛撫の安心感と多幸感をも際立たせる! 

──これだけに留まらす、焦らしをトッピングされることで私の心は不安も孤独も喜びも全てシン……相手に支配される! 身体だけじゃない、心までも全てを支配され包み込まれる! 全てを愛されていると実感出来る! 私の真に求めていた物はこれだったのね!

 

 長すぎワロタ。末期の料理マンガかな? 

 そして、アスカも卍解してしまった。こっちもシン・淑女へとランクアップだ。

 

 アスカが奈落の底をぶち破ってMinus Ultraしたのを見届けて、若干引き気味のシンジは毒を食らわば皿までと死体撃ちを敢行する。

 

「アスカが何もかも話してくれるなら、甘甘焦らしのその先をアスカと見たいと思ってる」

 

「!?!♪※!♡♭!?」

 

 具体性のあることは一切口にせず、いざという時の逃げ道をしっかり確保する当たり、大人の階段がエスカレーターで出来てるとしか思えない成長スピードだ。

 

──逃げちゃだめ? 

 

──ふ。逃げるのは戦略であり、一手段に過ぎない。重要なのはその先の結果であって、逃げること単体で良いも悪いも無いさ。

 

 この口先のテクニックと自分にだけに都合の良い思想。シンジも更なるクズへと限界突破してしまった。

 

「「実は……」」

 

 綾波とアスカは2人揃って口を開く。

 

(ふ。チョロいww)

 

 

 

 2人が語った内容は概ねシンジの予想通りだった。この薬は、飲むと魅力が上がり、感度も良くなるとか言う怪しい謳い文句で渡されたそうだ。とあるツテを使って調べた所、長期間効果がある単なる媚薬だった。もし、シンジにしゃべったら2度と渡さないと言われていたそうだ。

 

「それでは頼みましたよ。冬月さん」

 

「シンジ君の頼みとあらば無下には出来ないよ」

 

 シンジは冬月にとある弁当を渡していた。冬月に聞いて再現したユイの得意料理マシマシ弁当だ。

 冬月からは偶に愚痴を聞いている。それだけの関係の筈だが、冬月からの好感度はやたらと高い。冬月コウゾウ正ヒロインルートもワンチャンある。

 

「それにしても、今時珍しい位の孝行息子じゃないか」

 

 は? 冬月は頭が生ゴミで出来ているのだろうか?

 

「いえ、僕なんて……。ただ、父さんの体が心配なだけですよ」

 

 シンジは冬月に父さんの食事事情──自炊は一切せず、外食か出来合いの物ばかり──を聞いていた。そこでシンジは父親の体調を心配し手作り弁当を父に届けてもらうよう冬月に頼んでいるのだ。食べてもらえる様に亡き最愛の妻の得意料理を調べて再現した弁当を。

 ……という風に冬月には見せている。勿論、目的は別にある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ♡ゲンドウさん、いきなりどうしたの……♡』

 

 カメラに写し出される光景は色んな意味でアダルティ過ぎる。コイカタオオメって感じだ。

 

(この動画は使えるぞ。僕をハメようとした報いだ)

 

 ゲヘへ。

 

 ゲッッッスい顔に協力者の2人──マヤとケンスケ──

はドン引きである。

 シンジは例の孝行(笑)弁当にアスカと綾波が所持していた薬の残りを全てぶちこんだ。天才赤木リツコ監修の媚薬は当然の様に無味無臭にして微量で絶大な効果を発揮する。まさにキレイなブーメランだ。

 

『♡……もうやめて♡』

 

 ……凄く幸せそうだけど、報いになってるのかこれ。

 

(何か納得いかない!)

 

 良い子の皆は媚薬を飲ませて盗撮しちゃダメ☆だぞ♪




冬月コウゾウって変換しようとしたら、冬月肛門ってなった。天の導きかな?


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真ヒロイン決定戦!

アスカ視点。時間無くてあんま確認してないから後で直すかも。


「シンジが真人間になったぁあ?」

 

 静かな昼休み、ケンスケの声が裏返る。屋上でケンスケがアスカから打ち明けられたのは、俄には信じられない常軌を極めて大きく逸脱した推定虚偽なる怪奇現象だった。

 ケンスケが、わぁこんなの初めてー! と女がほざいたのを聞いてしまった時の様に愛想笑いとドン引きと胃もたれを足して三乗したような顔をする。ケンスケはもうお腹いっぱいだ。

 

「あんたの気持ちも分かるわ。あの変態鬼畜ゲス性欲魔人サイコパスが更正するなんてサードインパクトが起きても無理よ」

 

 まったくだ。であれば、やはり推定虚偽ではなくみなし虚偽なるガセネタだったのか。

 

「でも、本当よ」

 

 アスカの剣幕にケンスケにも、まさか、いやしかし、と迷いが生じる。

 

 まずは話を聞こう。それからだ。

 

「いったい何があったんだ?」

 

 アスカは事の顛末を語りだした。

 

 時は、数日前に遡る。

 

 

 

 

───使徒襲来! え? 違う? でも反応はある? 使徒……襲来?

 

 マヤにいつものキレが無い。事実が判明してないのに放送しようとするから悪いのだ。

 

 ネルフにて、その道(・・・)を極めんと研鑽を積むついでにエヴァの訓練をちょちょいと片付けて、お家に帰ろうとしたアスカの耳に飛び込んできたのは、中途半端な緊急アナウンスだった。

 

(使徒じゃない? どういうことなの?)

 

 考えていても分からないなら、知ってそうな人間に聞くしかない。正直、早く帰って、シン……ではなくひょんなことから手に入れた布を加工しなければいけない。多忙な身であるアスカからすれば面倒極まりないが、お仕事だ。仕方がない。

 

(あーもー! 何なのよ。今日はミサトも居ないし、シンジも最近、ゴミ箱に痕跡もないし、いい感じに溜まってるのに!)

 

 人のゴミをナチュラルに把握しているあたり、アスカもシンジとは別ベクトルのクズである。大体、痕跡とはなんのことなのか? 溜まるとは何が溜まるのか? 見当もつかない(すっとぼけ)。

 

 プンプンと怒りながら指令部へとアスカは突入する。先ず最初に感じたのは、いつもとは違う緊張感だ。そして、困惑が広がっているのを理解する。

 

「どういうことなのよ? 使徒はどーしたのよ?」

 

 ちゃっちゃところころして、お家でぎちぎちされて、じゅんじゅんしたいのだ。早く説明しやがれ。

 

「今回の使徒は……ウィルス型の極小ナノマシンよ」

 

(ごっくんなの! マシン? 何それ欲しい)

 

 アスカは常人では到達し得ぬ頂きのその先へ邁進している。シンジといい勝負だ。

 

 変態淫乱メンへラマゾ女は放って置いて、アダムたんを愛でる会……もとい、第7回アダム様奪還会議で何があったか見てみよう。

 

 

♡♡♡

 

 

『王子までやられてしまった』

 

『どうなっている。売女リリスの汚れた種族にこうもいいようにやられるなど、信じられない』

 

『……奴だ。紫の変態。その中核たるリリン。奴が全ての元凶だ』

 

『ラミちゃん殿……』

 

『変態ロリコン野郎は黙ってろ……と言いたい所ですが、そのリリンに関しては同意しますわ』

 

『!』

 

『ガキエル嬢がラミエロの肩を持つとはどういう風の吹き回しだ?』

 

『エロエロwww 』

 

『『…………』』

 

『別に。事実をそのまま受け取っているだけよ』

 

『ラミエロ殿。具体的には奴のどこが脅威であるとお考えか?』

 

『……変態性。全ての物事を性欲の捌け口にする圧倒的色情狂。……それが奴の全てだ』

 

『ではいったいどうすれば良いのだ!? 我々に残された時間は少ないのだぞ!』

 

『皆、ネトゲとかクルトゥフとかやり過ぎwwアニメも観すぎwwだから時間無いんだぞーww』

 

『『…………』』

 

『僕に考えがある』

 

『イロウル!』

 

『アダム様親衛隊随一の頭脳派の貴殿なら……!』

 

『して、その考えとは……?』

 

『僕が変態撲滅ウィルスとなり、奴を真人間にする!』

 

『『『な、なんだってー!!』』』

 

『皆、ノリノリ過ぎワロタwww』

 

 

♡♡♡

 

 

「この使徒の特徴は、ターミナルドグマを目指していないことよ」

 

 リツコが苦虫を噛み潰したように、しかし、努めて機械的に言う。

 

(じゃあ、目的はなんなのよ)

 

 アスカは使徒やネルフについては、ある程度しか知らない。分野によってはシンジよりも理解が無い。これはそう仕向けていた周りの責任であってアスカが悪いわけではない。

 たがら、リツコの要点だけの解説を聞いても、ポカンとしてしまう。

 リツコもそれを重々承知している。だから結論だけ述べる。

 

「要するに、この使徒は対使徒戦のキーパーソンであるシンジ君の無力化に特化しているのよ」

 

(そんなのってアリなの?)

 

 理解は新たな疑問を産む。

 

(でも、無力化ってどうなっちゃったの?)

 

 そもそも、こんなのあったろうか。アスカにも周囲の困惑が感染する。尤も、リツコ達とアスカでは困惑のカテゴリーが違う。

 

「で、肝心の無敵のシンジ様はどこよ」

 

「……集中治療室に監禁しているわ」

 

 リツコが重々しく答える。リツコ自身、予想外の展開に疲弊しているのだろう。

 

「はぁ? シンジなどうなっちゃったのよ。まさか意識が無いとか、もっと……」

 

 アスカの脳裏に考えたくない未来予想図が描かれる。

 

(もし、そうなったらあたしが世界を……)

 

 アスカの葛藤を他所にリツコが想定外の一文を付け加える。

 

「シンジ君は、大人しい内気な少年になったわ」

 

「え? 詳しく説明して」

 

 嫌な予感がする。

 

「感染が確認されてからのシンジ君は、いつもの様にふてぶてしい態度では無くて、周りの顔色を伺いながら恐る恐る言葉を選んでいる。私にはそう見えたわ」

 

(そんな……。それじゃあ、まるで()みたい……)

 

 信じたくない。もし、アスカの予想が正しいならシンジは……。

 そう。アスカにとって重要なことはシンジが今のシンジであること。何故なら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(うぅ。前のシンジじゃあ、絶対、緊縛ガチ調教プレイなんてやらないよぅ。どーしよどーしよ)

 

 まぁ、そーだよね。君はそういう子だよね。

 

(……まだよ! まだ諦めるには早いわ。何か方法があるはず!)

 

 人間は一度、禁断の果実を味わってしまうと、もうそれ無しでは生きていけなくなってしまうのだ。

 そして、アスカはセックスレスを理由に離婚する女だ。このような事態は受け入れらない。何とかしてシンジをフル○ッキ魔人に矯正しければ!

 ここに至り、アスカの感覚が急速に研ぎ澄まされていく。(エロス)に目覚めたアスカは、無敵の(いんらん)恋する乙女モード(ビーストモード)だ。

 

 決意を新たにアスカはリツコに問う。情報収集と状況把握が最優先だ。

 

「シンジが変わってしまったのは理解したわ。じゃあ解決策は何なの? 考えているんでしょ?」

 

「……推測になるけれども、使徒はシンジ君の精神力に目をつけた。そこで精神の脆弱化を図るウィルスに変異した」

 

 ここまでは良いわね。リツコは一旦、呼吸をして間を置く。

 

「だけど、分からないのよ。いつもシンジ君にあって今のシンジ君に無いものが具体的に何なのか分からないのよ」

 

 シンジの精神力=エロ。こんな簡単なことも分からないとは、頭のいいバカである。

 

「そんな……」

 

(いや、ここでグダグダ言ってても何も始まらないわ。となればやることは一つね)

 

「シンジに会わせて頂戴。あたしが自分の目で判断するわ」

 

 

 

 

 

 

 

「アスカなの……?」

 

 集中治療室に居たシンジはいつか見た自信が無く、さりとて助けを求めることも出来なかった頃と同じ目をしていた。

 アスカは知らず知らずに呼吸を止めてしまっていた。やけに苦しい。そこまでいって漸く呼吸が止まっていることに気づいた。

 

「何を企んでるのよ。あんたそんなタマじゃないでしょ?」

 

 アスカは最早確信を持ってしまった事実を否定するために、敢えていつもの様に接する。

 

「なんだよそれ。僕が何を企むって言うんだ。そんなわけないじゃないか」

 

 口を尖らせ憎まれ口を叩く姿にアスカは目眩に似た感覚──既視感が広がってゆく。

 

(ホントに戻ってしまったの?)

 

 意を決してハートフルワードを吐き出す。

 

「ガチ失神強姦ラブラブセックス」

 

(これならどう!?)

 

 シリアスなフリしてただ淫語を並べているだけである。

 

「な、何言ってるんだよ! 意味が分からないよ!」

 

 その通りである。そもそも、強姦なのにラブラブとはストックホルム症候群かな? 

 ……シンジはこのままでいいのでは無かろうか。むしろ、イロウルさんにはもっと頑張ってもらって世界平和に貢献してもらいたいものだ。アスカとかレイとかやベー奴の治療を是非お願いしたい。

 

(そんな! これからあたしは何を希望に生きていけばいいの!?)

 

 そんな希望は捨てることをオススメする。いい機会だから皆まともになったらどうかな?

 しかし、そうはアスカが卸さない。自らの欲望を満たす為に頭脳が高速回転する。アスカは快天したいのだ。諦めるわけにはイかない……!

 

(そうだ。あいつなら何か名案があるかも)

 

 こうしてアスカはケンスケに相談する。いつもシンジと絡み、嫌らしい顔で話しているケンスケならば起死回性の一手を打てる。

 これは単なる希望的観測ではないはずだ。アスカは自らの直感に従い動き出す。 

 

 

 

 

 

 

 そして、冒頭のシーンへと繋がる。ケンスケが徐に口を開く。

 

「成る程。僕に一つ、考えがある」

 

 果たしてケンスケに一筋の希望を見出だすことに成功する。

 

(流石、私が認めた頭脳を持つだけはあるわ!)

 

 チルドレンを選定するにあたり行われた調査報告書には次のようにあった。

 

『No.7相田ケンスケ。特記事項・IQ167』

 

 天才赤木リツコを越え得る逸材。それがケンスケに対するネルフ上層部の共通認識だ。

 その頭脳を以て、此度の使徒に対する特効薬を導き出す。

 

「勿体ぶらないで早く教えなさいよ!」

 

 ケンスケはにやりと口角をあげる。

 イラッ。

 ……アスカは成長しているのだ。ブチ切れたりはしない。プルプル。

 

(大丈夫。我慢できる。あたしは変わったの。解決策を聞き出すまでの辛抱よ)

 

 解決策を言ったが最後、ケンスケはどうなってしまうのか。

 

「仕方ないなぁ。特別に知恵を授けて進ぜよう」

 

 ニヤニヤとしながらアスカが焦っているのを完全におちょくっている。

 ブチブチ。

 ケンスケは天才だ。それは間違いない。だが、ちょっと周りが見えてないだけなんだ。

 そして、アスカはドMだ。それは真理だ。けれども、かなり好き嫌いが極端な困ったちゃんだ。

 

「いい加減にしろやワレ! お? やんのか? ああ!?」

 

 つまりは、ケンスケがやった様におちょくられても、マゾい快感は得られない。結果、こんな感じにブチギレる。

 

「ひぃ」

 

 アスカは、やんのか? と言ったあたりで腹パンと壁ドン(ヤンキー漫画仕様)をかましている。聞いておきながら既にやっちゃっている。熟練の技と言えよう。

 

「潰されたくなけりゃ、さっさとゲロっちまえよ! なぁ!?」

 

 過剰な暴力描写は自主規制させていただきたいので、詳細は省くが、一言で言うとタマひゅんである。

 

 数分後、落ち着きを取り戻した反抗期の2人はやっとまとも(?)な会話を再開させる。そして、アスカは漸く求めていた答えを得る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまりはシンジにエロい事をしてフル○ッキさせればいいのね!」

 

(テンション上がってきたぁぁ!)

 

 暴力と性欲。アスカがやったことを纏めるとこの2つに集約される。

 最低だ、あたし。

 なんて可愛い精神は更々持ち合わせていないのでシンプルにあげあげだ。アスカはさいきょーだとおもいました。

 

「シンジの精神力の根源は歪んだ性欲と性癖、さらにはそれらをベースにしたエゴイスティックかつ刹那主義的な精神構造の歪みにある」

 

 ケンスケも真面目に不真面目な事を言っている。

 

「おそらく今回の使徒はそれを朧気ながら見抜いた。結果、シンジは歪みを消され、歪みが発生する前と同質の状態になった、と推測出来る」

 

(そう言うことだったのね。でも待ってそれじゃあ……)

 

「今までの記憶はどうなっているの? 忘れてしまったの?」

 

(あんなに強く縛っておきながら忘れたなんて……。それにプレゼントだって……)

 

 プレゼント(セルフ)である。アスカの頭の中ではシンジが渡したことになっている。流石は、キョウコ氏の娘だ。

 シンジは定期的に愛用品が無くなるので、最近では一つのものを長く使わないで、ころころと買い換えるようになってきている。女性関係にもこのルーチンが適用される日は近い。

 無意識に自分で自分の首を締めるとは、アスカはマゾの鏡である。

 

「記憶に関しては、歪みの消滅との整合性を持たせた結果として、最近の記憶の喪失に類した状態になっていると思う」

 

「……でも、フル○ッキで治るのよね?」

 

「そこなんだけど、ただ単にフル○ッキしただけでは治らないはずだ」

 

 ねぇ。君たちフル○ッキ言いたいだけだよね? 

 

「どういうことよ」

 

 ケンスケは瞑目して、自らの説を今一度検証し、正確性と妥当性を確認する。

 間違いない筈だ。見落としなど無い。

 

「今、シンジは人格が変わる程強く、性欲を抑圧されている状態だ。その拘束を打ち破るには生半可な性的衝動では不十分なんだ」

 

「そんな……」

 

(フル○ッキでもまだ足りないって言うの!? それならどうすれば……)

 

 まぁまぁ、最後まで聞いてくれ、とケンスケはアスカを宥める。そして、パンドラの箱に残った一滴の光をアスカへと射し込む。

 

「生半可ではない性的衝動、つまりは抑圧されたシンジの本質的な性癖を喚起し、性的情動を爆発させること。これがシンジを変態ゲス野郎に戻す必要十分条件だ」

 

 そこまでして戻す意味はないことは自明の理である。苦労した結果が変態ゲス復活とか報われないにも程がある。

 しかし、残念ながら、ケンスケによる天啓を得たアスカの顔に希望が滲む。ここで言う『希望』は、『性欲』の隠語であるのは世界の真実である。

 テンションアゲアゲのアスカは我が意を得たりと口を開く。

 

「バッキバキにフル○ッキさせてからのアヘアへ絶頂○精で解決ね!」

 

(何か想像したら、準備(・・)が整ってきた……)

 

 もう、お家に帰って大人しく明日の授業の準備して寝た方がいいんじゃないっすか?

 

 

 

 

 

 アスカはまるで丸の内に勤務するキャリアウーマンの様に自信たっぷりにネルフを闊歩する。

 リツコがいる情報統括室へノックも無しに闖入し、開口一番、言い放つ。

 

「シンジを私に(預けて)頂戴!」

 

 ざわざわ。使徒への有効打を見つけられずに鬱々としていたリツコと愉快な仲間達が色めきだす。

 

 アスカちゃんたら、なんて情熱的なの。

 ああ、きっとシンジ君が好きでたまらないんだ。

 少し位、性格が変わっても愛は変わらないのね。

 

 皆、好き勝手言っている。少しはマヤを見習ったらどうかな。鼻血を出して静かに横たわっているよ。

 

「……理由を教えてちょうだい」

 

「実は……」

 

 アスカもバカではない。ストレートにセクハラする為なんて言わない常識はあるのだ。

 

「ラブラブちゅっちゅっでホワイトアウトなのよ」

 

「はぁ?」

 

 常識はあるのだ?

 

(あ、間違えた。つい本音が)

 

「ではなくて、かくかくしかじかで」

 

 エロいことは伏せて、シンジの回復への秘策があることを説明する。その為にはシンジと2人っきりにならないといけない旨、説明する。

 リツコは思考する。ミサトのマンションならばカメラがある。ここは頷いて、密かに監視を続行すればいい。それに、このまま手をこまねいているわけにはいかないのも事実。アスカのお手並み拝見といきましょうか。

 

「分かったわ。ただし、危ない兆しがあったらすぐに連絡しなさい」

 

「オッケー! じゃあ早速シンジを連れていくわね」

 

 碇シンジ、ドナドナされるの巻。

 一体何が始まるんです? 

 シンジは嫌な予感が抑えきれないものの、アスカの妙な迫力に何も言えずに従う。

 

 

 

 ガチャリ。カチャカチャ。

 マンションの玄関扉を閉めるとすかさず鍵を閉めるアスカ。チェーンロックまでしっかりと掛けている。

 シンジは何も見なかったことにして、バレないようにアスカから、すこーしだけ距離をとる。

 

「さぁ、始めましょうか」

 

 アスカの目が据わっている。手にはいつの間にかロープが握られている。

 アスカは監視カメラが気にならないのだろうか?

 いや、そうではない。アスカはケンスケに前以て、ミサト宅の監視カメラの映像を差し替えるように頼んでいたのだ。今頃、リツコは誰も居ないマンションのリピート映像を見ていることだろう。

 相田ケンスケ。

 奴の頭脳にかかればこの程度、片手間にこなしてしまうのだ。

 

「痛いのは最初だけ……ではないけど、ダイジョーブダイジョーブ。きっとシンジも気にいるわ」

 

 にじり寄る変態。ホラーである。

 後ずさりするも、トンと、すぐに壁にぶつかってしまう。シンジは恐怖で頭がどーにかなりそうだ。

 そして、遂に変態に捕まる。素早く作業を開始するアスカ。目の錯覚だろうか、残像が見える。 

 

「ア、アスカ? 何してるの? ねえ、何で無視するの? あ、あアッー!」

 

 哀れ、シンジは野獣の餌食になってしまった。過激な性的描写は自主規制させていただくが、簡単に言うと、緊縛パラダイスである。

 

(……おかしい)

 

 おかしいね。君の頭がね。

 シンジは無惨にも縛りあげられ、肉体のとあるポイントを執拗に刺激され、疲弊している。

 

「うぅ、最低だ、僕……」

 

 何があっかは描写出来ないが、不憫びんでならない。

 

(……あたしなら、こんなにいい感じに縛られたら、それだけでイってしまう。さらにピーを責めぬかれたら天に召されかねない)

 

 天に召されればいいんじゃない? 

 

(でも、シンジは全然幸せそうじゃない。こんな美少女が愛を注いでいるのに、2回だけ……。どうして? 何がイケないの!?)

 

 自分の価値観が他者にも当てはまると盲信することは、思春期には稀に良くあることだ。無自覚に人を傷つけるなんて思春期アルアルの代表格だ。広い心で成長を見守ろう。……などと言えるレベルを鼻歌を奏でながら、スキップで越えるのがアスカという自称美少女だ。普通に良かれと思って犯罪を犯している。こういう人間が一番恐ろしい。

 

「どうすればいいのよ……」

 

 自首すればいいと思うよ。

 アスカとシンジが全く別の理由で絶望に苛まれていると、突然、少女の声が割って入ってきた。シンジの混乱はヤバいところまで来ている。もはや混乱ではなく混沌とした精神状態だ。

 

「私に任せて」

 

 綾波レイ。ネルフ暗部の上忍である。

 という設定にレイの中ではなっている。

 軍で訓練を積んだアスカをして、気配に気づかせない。忍と言っても差し支えない隠行だ。

 レイは密かにアスカを尾行してケンスケとの会話をしっかりと聞いていた。そして、タイミングを見計らいカッコ良く登場しようとした結果が、今のカオスな状況である。

 

(綾波レイ……! シンジを狙う不届き者! こいつの力を借りるのはシャクだけど、背に腹はかえられない……)

 

 アスカは断腸の思いでバトンを渡す。どんだけハードSMプレイをしたいんだ。

 

「碇君」

 

「ひ!」

 

 シンジは思わず、悲鳴をあげてしまう。レイはアへ顔でピチピチの全身タイツとかいうガチ変態モードだ。手には忍具(意味深)が握られている。もはや、人気ヒロインの面影は皆無だ。全ては○らぶるダークネスから始まった。げに恐ろしきは顔面騎乗である。

 

「大丈夫。心配要らないわ。碇君は私が守るもの」

 

 レイは天使の微笑みを浮かべる。にっこり。マジキチスマイルここに極まれり。守りたいこの笑顔。

 

「何をしてるんだよ! 綾波ぃ! 綾……アッー!」

 

 哀れ、シンジは珍獣の餌食になってしまった。過度に特化した性描写は自主規制させていただくが、ザックリ言うと男にも穴はあるということである。

 

「うぅ、最低だ、僕……」

 

(あんな世界があるなんて……。綾波レイ……まさに天才の所業。悔しいけど、完敗ね)

 

 甲乙付け難い変態行為である。

 

「……まだダメ……」

 

 レイが呟く。シンジはまだ(人格が)回復していない。そりゃ、立て続けに4回もホワイトアウトしたら、簡単には(ピーは)回復しないでしょうよ。

 

(これでもダメなの……? もう私達にできることなんて……)

 

 他にもっとやるべきことはある。そこに気がつかないとは……やはり変態か。

 

──ぷるるん、ぷるるん。

 

 唐突に気の抜けるようなメロディが流れる。アスカの携帯が鳴動しているのだ。

 

(誰よ、こんなときに!)

 

 画面には、ケンスケとある。瞬間、アスカは音速で応答する。藁にもすがりたいのだ。

 

「ケンスケ! 実はかくかくしかじかで」

 

 アスカがまくし立てるもケンスケは動じずに静かに耳を傾けている。アスカにひと通り吐き出させた後、ケンスケが口を開く。

 

『そんなことだろうと思って、例の媚薬を僕が改良したものをトウジに持って行かせた。それを使えばフェチニズムをピンポイントで刺激するのと同等の効果が期待できる。それじゃあ、健闘を祈る』

 

 例の媚薬とはリツコがアスカとレイに渡したアレである。どうやらケンスケはそれを独自に改良していたらしい。才能の無駄使いだ。

 

「ケンスケ……!」

 

(キモい奴だと思ってたけど、使えるキモい奴だったのね!)

 

 キモいことは変わらないのか。悲しいなぁ。

 

 少しして、玄関チャイムが鳴る。

 

「アスカー、おるか? 頼まれてたもんもうて来たでー!」

 

 トウジの声を聞いてシンジがぴくりと反応する。

 

(ん!? シンジに変な反応が? 今のトウジのセリフに何か琴線に触れる物があったの?)

 

 アスカは素早くトウジを招き入れる。

 

「今のセリフもう一回言って!」

 

 いきなり過ぎる。トウジは怪訝な顔をするも、切羽詰まったアスカとレイの様子にただならぬものを感じ、素直に従う。

 

「よう分からんが……。頼まれたもんもうて来たで。これでええか?」

 

 シンジに変わった様子は無い。あい変わらずグッタリしたままだ。

 

「その前から、もう一回!」

 

 前ってなんか言ったか?

 うーん、と唸り思い出したのか、トウジがリクエストに応える。

 

「『アス()ー、おる(・・)か? 頼まれてたもんもうて来たでー!』」

 

 完璧やろ、とトウジはどや顔である。嫌な予感がしつつもアスカはシンジをガン見する。

 

 シンジは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カヲル君!」

 

 色んな所が元気100倍あんあんまんである。

 

「なんでそーなるのよ!」

 

 本場仕込みのツッコミを見て育ったトウジをして唸らせる程のキレである。

 

 さて、突然だが、シンジの精神世界を覗いて見よう。

 

 

 

 

♡◇☆

 

 時はアスカとレイの犯行時刻に遡る。鎖にぐるぐる巻きにされたシンジと優しげな目元が特徴的な美少年──使徒イロウルが六畳の和室でテレビを見ている。テレビにはアスカとレイの鬼畜の所業が映し出されている。

 

「うわー。君たち何なの? なんでそんなに頭がおかしいの?」

 

 イロウルはドン引きである。良く見るとシンジも顔をひくつかせている。

 

「まぁ、世の中には色んな奴がいるからね!」

 

 こんな奴ら滅多に居て堪るか。開き直るのもいい加減にしてほしい。

 

「やはり、アダムさんにお願いしてサードインパクトを起こさなくてはいけない」

 

 せやせや。白き月陣営にはきばってもらわんとようあかんわ。マジで頼むぜ。

 

「そんなことより、鎖ほどいてくれない?」

 

「それは出来ない。そんなことしたら、君はまた変態行為に明け暮れるでしょ」

 

 イロウルは正義の使者だ。間違いない。

 

「そんなことしないよ。約束する。だからほどいて」

 

 勿論、嘘である。大正義イロウルさんには通用しない。

 

「諦めて大人しくテレビでも見ていなよ」

 

「えー」 

 

 ぶーぶー言いつつもしっかりとテレビを見ている。不意にトウジの声がする。

 

『……カ、おる……? …………!』

 

 か、おる? 

 シンジの中で忘れようとしていた記憶が甦る。カヲル君の声、カヲル君の体温、カヲル君の匂い、カヲル君の……。

 

 渚カヲル。魅力チートを公式から授かった超絶イケメンだ。シンジの性癖はカヲルと出会った時にすでに決定していた。

 だが、カヲル君は男だ。シンジの中で唯一の引っ掛かりが、辛うじてシンジを踏みとどまらせる。でも、でも、カヲル君……。

 悩むこと数分。シンジの顔に光が差す。殴りたいこの笑顔。

 

「は! 待てよ。良いこと閃いたぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

  

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

  

「カオル君は本当は男の娘だから問題ないんだ! むしろ、ご褒美だ!」

 

 何を言っているんだ。意味不明だ。しかし、イロウルの生存本能が警鐘を鳴らす。

 シンジが光に包まれたかと、思うと鎖が弾け飛ぶ。

 

「やっふぅ! 完全復活だー!」

 

 そう叫んだシンジは、ねっとりとした視線をイロウルに送る。

 

「ひぃ」

 

「イロウル君もキレイな顔してるね? ふふふ」

 

 拘束されて、色々溜まっていたシンジを止める者はここにはいない。イロウル、成仏しろよ。

 

「止めろ! 近づくな! アッー!」

 

 大正義イロウル。アンチ変態機能に特化したウィルスと言う名の変態治療薬であったが、進化する変態にコロコロされてしまう。ウィルスとワクチン、病気とお薬はいたちごっこだからね。仕方ないね。

 

 なお、目覚めたシンジはアスカに生ゴミで作ったハンバーグを食べ過ぎてゲロった吐瀉物に向けるような目を向けられていたとさ。めでたし、めでたし。

 

 良い子の皆は変態行為は用法・用量を守ってやろうね! 約束☆だぞ!



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シンジ「今日から本気出す」

最近執筆意欲が低下してたけど少し復活してきたから、ばーっと書いてみた。作者的にはまともなラブコメ書こうとしたらこの話ができた。


 

 チルドレン、碇シンジ(14)の朝は早い。

 時刻はAM6時30分、アナログタイプの電波時計が神経質なアラーム音を鳴らすも、すぐに止められてしまう。

 

(……起きるか。ご飯と弁当作らなきゃ)

 

 もそもそと着替えて活動を開始する。

 

 昨日の残りの肉じゃがを使いつつ、手早く朝食の準備を進める。

 チラリと時計に目をやる。時計の針は7時を回ったところだ。

 

(アスカ起きてこないな)

 

 そろそろ起きないと余裕がなくなってしまう。すると当然の様にアスカの機嫌は悪くなり、世の真理が認めていると言わんばかりの態度でシンジに八つ当たりが炸裂する。

 それは避けたい。

 

 というわけで、シンジはアスカの部屋の前までやって来た。

 わりとゲスい顔をしている。

 

(さて、ちょっと後々の為にも試してみようかな)

 

 この変態、今度は何をやらかす気だろうか?

 

 ガチャリ。

 

 この男、声を掛けることもノックもせずにいきなり扉を開けやがった。

 変態ドMヤンデレ暴力高飛車こそ泥女でも、一応はうら若き中学生。普通はもっと配慮すべきじゃなかろうか。

 

 アスカの部屋は比較的片付いている。

 テーブルの上に置かれたスタンドミラーと床に投げ出されたヘアアイロンがいかにも年頃の女の子ぽい。

 当の本人はベッドでスヤスヤと眠っている。実に穏やかな寝顔だ。

 というか、ちょっと信じられないことに○イヴとかディ○ドーとか縄とかは一応見当たらない。

 

 一通り部屋を見回す。

 ここで、ふとシンジの視線がベッドの横にある小さなタンスに固定される。

 

(なんか怪しいな)

 

 さて、皆さんは女子がそういった玩具を収納する場所としてどこが多いかご存知だろうか?

 

 答えは、ベッドの周り。

 

 バレやすいのは分かっているが使いがっての良さから、この結論に至ってしまうことが多いようだ。……勿論、根拠はない。

 

 アスカの場合はと言うと……。

 シンジが件のタンスに手を掛けるが……。

 

(開かない)

 

 タンスには鍵が掛かっているようだ。いよいよもって怪しい。てか、もう黒だろこれ。

 

 いや、それよりも人の部屋を部屋の主が寝ている間に物色するとは、シンジもエロい方向以外にも随分と素直になったものだ。クズそのものである。

 

「ん……」

 

(!)

 

 一応記述しておくが、別に喘いでいるわけではない。ぶっちゃけエロい声ではあるが、寝言に満たないただの声のようなものだ。バールのようなもの、の親戚のようなものだ。

 

「……」

 

 真剣な面持ちの変態。……いやな予感しかしない。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(よし、()れよう)

 

 そんなこったろうと思ったよ! 素直になり過ぎや。睡眠姦とか誰得だよ!?

 

 アスカの○っぱいで4545してた純粋なシンジ君はどこに行ってしまったのか。

 

(そう言えば、昨日はヌいてなかったな。だからアスカがいつもより可愛くみえるのか。納得だよ)

 

 ダメだ。発想が完全に性欲中心だ。

 

 男子諸君はこういう風に思っても彼女とかに、そのまま言ったらダメだからね。

 

 閑話休題。

 

 シンジが時計をチラリと見やる。一応時間を気にする理性は残っているようだ。

 時刻は7時15分前。あまりゆっくりしてると学校に遅刻だ。

 

(まぁ、生ならそんな時間掛かんないっしょ。おけおけ)

 

 これは酷い。冷静に、気持ちよく出すことしか考えていない。年齢的にも、環境的にも生でヤるのはリスクが高いと言うのに、全く躊躇う様子がない。

 

 シンジの魔手がアスカが被っているタオルケットをゆっくりと剥ぎ取る。僅かにアスカが身動ぎするが、目を覚ます気配はない。

 アスカが身に付けているのは、白いTシャツ(ノーブラ)と黒のショーツのみ。

 暑いから気持ちは分かるが、将来のことを考えるならブラジャーはした方がいい。周りより早く形が崩れてもいいのだろうか。てか、中学生で黒ですか、そうですか。

 

 シンジはアスカの全身を一通り観察し、しかる後(?)に胸をガン見して鷹揚に頷く。

 

(ふむ。少し成長したか?)

 

 いかにも真面目な議題について深慮してる風だが、やってることは○イオツ評定委員会(?)である。思春期男子あるあるであるある。

 

 流れるような所作でアスカのぱい○つを揉み込む。ついでに○首もなんとはなしに弄る。おっ○いを揉む=無意識に○首も弄るは、本日のあるあるその二だ。

 それにしても起こさないように通常時(?)より力を入れないあたり、やはり冷静である。

 

(うむ、よきよき)

 

 またチラリと時計を見る。チックタックと秒針が時を刻む。

 ゆっくりしていては遅刻だ。ご飯も冷えきってしまう。

 

──時間との戦い。

 

 碇シンジは残酷な時の流れに抗っているのだ!

 

(時間ないし、さっさと中出ししよっと)

 

 時の反逆者たるシンジはついに本丸へと攻めいる。つまりは、アスカの黒がtaking fly。

 

(ん?)

 

 ○探偵コナンのように「妙だな」的な顔をする。客観的に見て、睡眠レイプ中にその顔をしていることこそが「あれれぇ↑、おかしいなぁ?」である。

 

(なんか濡れてないか?)

 

 ちょっと生々しい感じにエロいことを考えるのは止めていただきたい。前も述べたがKENNZENなラブコメなのだ。KENNZENったら、KENNZENなのだ。

 

(さっきもフツー過ぎてよく考えずにスルーしちゃったけど、○首もなんか固くなってきてたような……?)

 

 寝てるにしては反応が良すぎる。非常に怪しい。

 視線を○っぱいへと移し、少し観察してから、またウェットスポットへと戻す。

 

 シンジは疑問を解消するために、仕方なくチェックしてみることにした。あくまでも仕方なくである。

 

 ここで、ペロッ青酸カリだな、はしないみたいだ。別にシンジには舐めるのが好きな癖はないらしい。つまり○探偵コナンは○ンニフェチだった……?

 

(やっぱそこそこ濡れてる。よく見ると肌もすこーしだけ赤みがかってる気がする)

 

 つまり、どういうことだってばよ?

 

「……」

 

 アスカの顔を凝視する。

 

 アスカもなんか気まずそうだ。

 

(絶対起きてるよ、これ)

 

【悲報】ただの和姦だった件【クソが】

 

(潤滑ゼリーも用意したのに完全に失敗したなぁ)

 

 中学生のわりに随分と準備がいい。大人でもそういった配慮ができない人がいるのにそこはできるんすね。なお、用途は睡眠レイプである。

 

(まぁ、最後まで起こさずにヤりきれるとは思ってなかったけど、せめて挿れてから起きて欲しかったよ)

 

 シンジの中でやる気が急速に萎んでいく。シンジのシンジ君もシンジ君っぽくなっている(?)。シンジ的に愉快なシチュエーションではなくなったのだ。

 起きたら挿れられてたって時の顔が見たかったらしく、興が削がれてしまったようだ。

 

「あ……」

 

 ここで狸寝入りがバレたと諦めたアスカ選手が口を開く。ちなみに股も少し開いている。

 

「あんたばかぁ!?」

 

 名言いただきました。睡眠レイプだし、そらそのセリフも出るわな。

 

「や、ヤるならちゃんと縛ってからヤりなさいよ!!」

 

 えぇ……。

 色々ツッコミどころ満載だが、顔を真っ赤にして、つっかかりながら言ってるところを見るに照れているらしい。というか、ヤりたいって素直に言えないだけなのでは?

 もしそうなら、そこだけ見れば普通(?)っちゃ普通(???)かもしれないけど、狸寝入りしつつワックワクで挿れられるの待ってたクセに、今さら恥じらっても遅過ぎる。

 アスカの恥じらいのポイントは謎である。

 

「朝からそんな面倒なのヤだよ」

 

 塩対応の極みである。シンジもシンジでツッコミどころ満載である。

 

「誰がめんどくさい女よ!?」

 

 そこまでは言ってない。被害妄想気質なとこは実にアスカらしい。てか、アスカも自分がめんどくさいやつって自覚はあったんだな。

 

 無言でアスカを指差すシンジ。凄く憎たらしい顔をしている。

 

「ムカつくぅ! バカシンジのクセになんなの!?」

 

(あ、いいこと閃いた)

 

 今度は何をやらかすんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん……」

 

 急にしゅんとして、前のシンジがよくしてたように俯きながら言葉を発する。

 

 いや、なんだこれ。違和感が凄すぎてビビる。

 

「え……?」

 

 アスカもビックリしてらっしゃる。盛ったり恥ずかしがったり怒ったりビックリしたり、ジェットコースターみたいな女である。

 

「嫌だったよね……。……これからはもうアスカには触れないし、変なことは絶対にしないよ……」

 

「は?」

 

「ごめんね、今までありがとう……」

 

 なんか別れ話の時みたいなセリフである。いきなり過ぎてシュールなのだが、アスカの様子が……?

 

 アスカの心臓が急激にテンポをあげる。息がくるしくなり、頭の中がごちゃごちゃとしていく。

 

「あんたばかぁ!?」

 

 本日2度目の名言いただきました。オワコンとの謗りを物ともしないキレの良さや。猛虎魂を感じる。

 てか、いきなり会話の流れを無視するシンジの言動には、アホちゃうか? て思うのもやむ無しである。

 しかし、今のアスカはそんなユルい精神状態を維持できていない。

 

「……じゃあ僕は戻るから」

 

 部屋から出ようとドアに歩き出すシンジ。

 

 アスカは身体の芯を氷柱で掻き回されたかのような錯覚を覚える。苦しい。

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

(かかった!)

 

 ……どうやら、これはシンジの駆け引き(笑)の一環らしい。引いて釣り上げよう的なサムシングだ。

 

「……何」

 

「私に飽きたってどういうことよ!?」

 

 だから、そんなことは誰も言ってない。

 アスカも普段は、感情的でありながらも冷静な視点を併せ持つ優秀な人間だが、依存度の高い人を失いそうになった時には幼児並みに劣化してしまう。というより、色んな感情が一気に錯綜して思考が纏まらなくなるのだ。

 結果、アスカの中にこびりついた強すぎる孤独感と歪んだ劣等感が、その強さ故に感情で出来た激流の中でも頼りになる、分かりやすい指針としてアスカを動かす。

 要するに、1人ぼっちになったトラウマを刺激すると、頭の悪い超寂しがりの卑屈女になる。ヤリモク男からすると、顔もいいし絶好のカモである。

 

「……」

 

 無情にもシンジはアスカを無視。正解は沈黙と言わんばかりの無言っぷり。

 

「なんとか言いなさいよ!」

 

「……じゃあね」

 

 うわぁ。別れ話で女に泣かれようと全く情に流されない男そのものの発言である。

 

 ハンマーで頭を殴られたような衝撃がアスカを襲う。

 

 たまらずシンジの腕を掴むアスカ。

 

「痛いよ」

 

 ひぇ。冷たい。冷たすぎる。

 ……別に、ひぇ、と冷えを掛けたわけではない。

 そんなことより、シンジがシンジさん(?)になってる。これは断罪系シンジ君へのキャラ換えもいけそうだ。やったぜ(?)。

 

「離してよ」

 

「……なんでなの」

 

 シンジを掴む手にも力が入る。

 

「……なんで皆、私の側に居てくれないの」

 

 せやろか? それはアスカ視点での思い込みもコミコミの結論や。

 目尻に涙を溜めながらすがり付くアスカを見るに、マジでトラウマ持ちメンヘラちゃんの本領発揮してらっしゃる。なお、軍で正式に訓練を積んだアスカの握力は、同年代女子の平均を凌駕するため、強く握られているシンジは普通に痛い。

 

 ここでシンジ選手、またしても時計をチラ見。

 結構な痛みを感じてるはずなのに冷静に時間をチェックとか、相変わらず凄い精神力である。

 

(そろそろ仕上げにしよっと)

 

「ねぇ! なんとか言」

 

 おっとシンジ選手、少女漫画のイケメンよろしくアスカ選手を抱きしめるぅ!

 ここに来て試合の流れを変えにきたぁ!

 

「ごめんごめん、アスカがかわいいからちょっと意地悪しちゃったんだ」

 

「え」

 

 え。

 アスカの中に熱が生まれ、氷柱が一気に溶けていく。

 

「僕はずっと側に居るよ。ずーっと」

 

「……」

 

「……愛してる」

 

 うわぁ。このシンジが言うとシンプルにキモイ。

 しかし、正常に思考できないようにトラウマを刺激されたアスカ選手には、こんなコントみたいな流れでも効果はばつぐんだ!

 ちなみにこんな甘ったるいことを言うのは初である。アスカも面と向かって恋愛的な意味で愛してると言われるのは生まれて初めてである。

 

 みるみるうちに茹でダコになるアスカ。

 さっきまでトラウマのフラッシュバックで死にかけだったのに、もうほぼイキかけてる豹変ぶり。めちゃくちゃ情緒不安定である。

 

 そんなことより、KENNZENとは言ったけど少女漫画ではない。あくまで○らぶるリスペクト(ギリギリを攻める的な意味で)なのにこの子たちは何を考えているのか。立場を弁えて欲しいものだ。

 

 消え入りそうな声でアスカが言葉を絞り出す。

 

「……もう一回言って」

 

 アスカの中には愛されることを信じきれないアスカもいる。不安なのだ。だから、何度でも言ってほしい。何度でも抱いてほしい。

 

 ぎゅっとアスカを抱きしめる力を少しだけ強める。

 

「ん……」

 

 アスカの口から声に成りきれなかった吐息が漏れる。

 ……コラコラKENNZEN言うてるやん。ガチでおっぱじめる空気を作るんじゃない。このままじゃ、朝チュンどころか朝クチュやん。 

 

 数秒間そのまま互いの熱を混ぜ合い、そして、ばっとアスカを放し、いたずらっ子みたいに笑う。

 

「なんちゃって。嘘だよ」

 

 いい笑顔である。

 

 信じてたで! シンジならまともなおせっせっなんてしないに決まってるよな! (手のひらトリプルアクセル)

 

「……」

 

「www」

 

「……」

 

 アスカの顔が恋する乙女から阿修羅へとトランスフォームしていくぅ! アスカと阿修羅(アシュラ)、母音が完全に一致している為、妙な親和性がある。

 

「……」

 

 アスカが無言で重心を徒手空拳用のそれへと移行させる。

 シンジもヤバいとすぐに察する。

 

「ちょっと待っておちつ」

 

 しかし、シンジが言いきる前に体重の乗ったおもーい一撃が鳩尾にクリーンヒット!

 

 K・O!

 

 終始試合を優勢に進めていたシンジ選手ですが、裏コード「レベルを上げて物理で殴れ」を実行され、敢えなく撃沈!

 

 ただ残念なのは、見事なフォームからの理想的な一撃なのに、ノーパンでアスカのアスカちゃんモロ出しだから非常にカッコ悪いことである。しかもアスカちゃん涎(?)垂らしそうだし。

 

 

 

♡♡♡♡

 

 

 あの後、ニヨニヨと気持ち悪いミサトさんにドン引きしながら朝食を済ませたシンジは、何事もなかったかのように登校している。

 男の価値は回復力(意味深)で決まるとは、シンジの言である。

 ちなみにアスカはネルフに用があるので、明日までそっちに行っている。

 分かれ際に何か物欲しそうな顔をアスカがしていたので、シンジはペットにするように顎を撫でておいた。犬っぽかったからしょうがないね。

 

 シンジの昨日立案したアスカ調教計画(笑)ではまず初期段階では優しく、かつアスカの不安を少なくする(不安を完全にゼロにしないのがポイントだぞ☆)立ち回りをする。

 第2段階ではアスカがシンジの役に勃つことをした時以外の場合に、かなり冷たくしてアスカの孤独感や不安感を煽るパターンを徐々に増やしていく。

 最終段階ではより極端にする。つまり、シンジにとって都合の良いことをした時には、自分の快楽そっちのけで優しくして、アスカのして欲しそうなことをして、言って欲しそうなことを言ってやるが、アスカが特に役に勃ってない時はエロいこともしないし、優しい言葉どころか会話も必要最低限の超絶塩対応にするつもりだ。

 ただし、塩対応モードの時でも、適宜トラウマを刺激し、強い不安を覚えさせる為には例外的にコミュニケーションをしっかりとる。

 こうすることでアスカに、シンジにとって都合のいい行動をとることこそが、孤独感や劣等感から遠ざかり、幸せになれる唯一の方法と刷り込むことが狙いだ。

 また、初期段階で優しくするのは、後々に優しかった、幸せだった時のイメージを求めて、また優しくしてもらうにはどうすればいいかと自発的に考えさせる思考誘導の為だ。完全に不安を消さないのは安心感を得た時の多幸感を際立たせる為と、完全に不安が消えることで歪んだ精神からの脱却に向かわないようにする為だ。

 お察しの通り、ここで言う都合のいい事とは、使徒殲滅に際してシンジに楽をさせることやシンジがヤりたい時にさっさと穴を差し出すことなどである。

 アスカの傷につけ込む鬼畜。まさに外道☆。優しいシンジ君の面影は皆無だ。

 

 学校への道をスタスタと歩いていく。

 

「おはよ、綾波」

 

 登校途中にレイと会ったようだ。

 

「おはよう、碇君」

 

 実は昨日の夜に、今日の朝は一緒に行こうとメールをしてたのだ。だから、学校への遅刻なんて大して気にしないシンジがあそこまで時間を気にしていた。

 ほんの一時間前にアスカに、愛してるとかほざいてたくせに凄い切り替えの良さである。

 

 さて、賢明なる読者の皆は察してるかもしれないが、ピュアなお友達のためにシンジの狙いを説明しよう!

 

──『アスカと綾波を使ってサードインパクトを回避しよう作戦』

 

 一応、このシンジにもサードインパクトを回避しようという気は多少はある。

 作戦の内容は「アスカと綾波をしっかり落として、都合のいい奴隷に仕立て上げ、前回のようなワケわからんノリにならないようにコントロールしつつ、使徒をコロコロする」というものだ。謂わば今までの「自動洗浄機能付き生オナホとして使えればいいや」的な思考の上位互換な作戦である。

 キングオブクズとはシンジのことである。

 

「行こっか」

 

「ええ」

 

 シンジの言葉に静かに答えて、無言で並び歩く。こうして普通にしてると、見た目がちょっと珍しいだけで、どこにでもいる女の子に見える。

 

「最近は何読んでるの?」

 

 レイの目が妖しく光る。

 

「○クールデイズ」

 

 ど、どこにでもいるお、おお女の子だよな? 女の子ってドロドロしたの好きだし、フツーフツー。

 

「え゛」

 

 流石のシンジもちょっと引いているようだ。

 

「ど、どんなとこが面白いの?」

 

 確かに何に惹かれたのだろうか。

 

 じっとシンジを見つめる紅い瞳。

 

「主人公が碇君に似ているところよ」

 

「!?!??」

 

(恐すぎて笑えないんだけど……)

 

 レイが不思議そうに、こてっと首を傾げる。

 非常に様になっているが、会話の内容を合わせて考えるとゾッとするものがある。

 

「そ、そうかな? 似てないんじゃないかな?」

 

 レイはチラリとシンジを見てから、無言で歩く。

 そして徐に口を開く。

 

「2号機の人の匂いがするわ」

 

「い、一緒に住んでるし、そうゆーこともあるよ」

 

 レイは無表情のままである。

 

「いつもよりあの人の匂いが強いわ」

 

「」

 

 テクテクと無言で歩く。

 

(や、やりづらい)

 

 実はシンジはレイがちょっとだけ苦手だ。嫌いとかではないのだが、アスカのように簡単に転がせるイメージがあんまり湧かない。

 それに何より、シンジにとって引っ掛かりを覚えることがある。

 レイの横顔を見る。

 

(……見た目はいいんだけどなぁ)

 

 それに気づいてレイもシンジを見る。

 

「……何」

 

「生ハメでサードインパクトがなぁ」

 

(ホントに綺麗な顔してるよなぁ)

 

 内心と発言が逆である。

 

「何を言うのよ」

 

 まったくだ。

 

 シンジは前に聞いた生ハメ即サードインパクト説が、微妙に気になってたのだ。

 シンジは自分が気持ち良くなることが最優先なので、コンドームなど邪道と考えるナイスガイである。ちょっと中出ししただけで、世界がどうの責任がどうのと言われたくない。

 その点、アスカはそこらへんをそんなに煩く言わない。というか、中に出されるととっても嬉しい系女子なので非常に都合がいいのだ。

 

 ただ、レイが苦手とは言っても別に不仲な訳ではない。むしろ都合よく利用しようとしなければ、気を張ることなく一緒に居られるから、そこはシンジ的には楽である。

 

(そうは言っても、やることはやるんだけど)

 

 シンジには作戦があるのだろうか?

 

 もう少しで学校に着くというところでシンジが口を開く。

 

「綾波、今日の放課後ちょっと買い物に付き合ってよ」

 

 前回からは考えられないくらい自然に誘いやがった。

 

「……分かったわ」

 

「うん、ありがと」

 

 誰だこいつ。シンジも表面上は少し大人びただけのただの中学生に見える。

 

 それにしてもアスカが不憫である。

 でも、まぁ、アスカもアスカで縄で縛って逆レイプみたいなことしてくるから、お互い様と言えなくもない。

 

 

ⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩ

 

 

 放課後、シンジはレイと一緒に駅前の本屋さんに来ていた。

 ぶっちゃけ行くとこはどこでもよかったけど、レイが喜びそうなとこで一番最初に思い付いたのが本屋さんだったからここにした。

 

「うーん、探してるやつ(「猿なら分かる! 未成年を性奴隷にできる正統派パターン69選と学術的考察 著・時田シロウ」)がないや。綾波はなんか見たいのある?」

 

 レイはコクンと頷いて歩き出す。  

 

 エロ漫画コーナーにでも向かうのだろうか? それともコスプレ雑誌コーナー? 官能小説コーナーもあり得るか?

 

 スタスタと歩くレイが立ち止まる。

 

(これって……)

 

「おかあさん、これ!」

 

 シンジ達の横でチビッ子が絵本を指差し、元気な声を上げる。

 

「ちゃんと読むのよ?」

 

「よむよ!」

 

 若い母親が小さな子どもを連れレジへ向かう。チビッ子の手には絵本がある。

 

 レイが向かったのは就学前の子ども用の絵本コーナー。

 

(……なるほど。思ってたより綾波は幼いのかも)

 

 シンジは前回のサードインパクトの時、レイと混じり合ったことでその歪みを概ね把握している。だから、シンジはレイが肉体年齢からは考えられないほど、幼い精神を持っていると知っているつもりだった。

 だけど、シンジのイメージよりももっと歪で未熟だ。シンジにもそれが今なんとなく分かった。

 

「どれが読みたいの?」

 

 無言でレイがとある絵本を手にとる。それはありきたりな勇者の御話し。

 

「じゃあ、それを綾波にプレゼントするよ」

 

 どちらかと言うと男の子向けのストーリーだ。レイにとってはこれが魅力らしい。

 綾波レイはアダムの遺伝子を受け継いでいる。もしかしたら、それが男の子的な感性に繋がっているのかもしれない。

 

(思い出してみると、○ルトの戦闘シーンに目を輝かせたり、忍者ごっこみたいなことをしたり、まんま幼稚園児の男の子だよなぁ)

 

 シンジの英才教育(笑)が加わり、わりとめんどくさい精神状態になった結果でもある。

 そして、性への理解というか、関心はやたらと変な成長を遂げている。残念すぎる。

 

 レイがシンジの(まともな)サプライズプレゼントに首をかしげる。何故かよく分かっていないようだ。

 

「特にこれといった理由はないんだけどさ。いつも助けてくれるから、そのお礼かな」

 

 誰だこいつ。シンジが良くできた彼氏みたいなこと言うと非常にキモイ。

 

「そう」

 

 しかし、レイは少しだけ嬉しそうに見えなくもない。

 

「行こっか」

 

 そう言ってレイの手をとり、レジに向かう。……だからなんだこいつ。本屋さんでいきなり手を繋ぎやがって、くそが。

 

「……ポカポカする」

 

 レイの呟きはシンジに聞こえただろうか。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 さて、賢者タイムのお兄ちゃん達と余韻に浸ってるお姉ちゃん達は察してると思うけど、ムラムラして知能指数が低下してる皆のためにシンジのレイ操り人形化作戦を説明しよう。

 

『父親的ポジションからの親密な距離感と親への信頼を利用し、都合のいい人格に育てよう作戦』

 

 うん。ぶっちゃけ初期ゲンドウのポジションと似たような立ち位置になるやつや。流石親子似ている。光源氏作戦とも言う。

 ヤバい男に連続で目をつけられるレイが不憫でならない。……ただ、レイもシンジの○ナルを無理矢理開発してるから、因果応報と言えなくもない。

 

 

 そんなこんなで夕方の町を2人で歩く。勿論、手を繋いでいる。

 この「手を繋ぐ」という行為も狙いがあってシンジがやってることだ。

 手を繋ぐことで人は安心感等のプラスの感情を抱くものだ。要は安心感を半強制的に与えることがメインの狙いである。それによりシンジへの信頼感を増幅させ、近い距離感を求めるようにさせる。

 レイの特殊な愛着障害と形容できうる幼い精神につけこむ鬼畜。このシンジに罪悪感は皆無だ。

 

 駅前を離れ、商店街を通ってる時にシンジが次の提案をする。

 

「今日、綾波の家でご飯食べていい?」

 

「? なぜ?」

 

「なんとなく。嫌かな?」

 

 レイは少し考えるも、手のひらに伝わる熱の心地よさに思考が流される。それに元々嫌ではない。レイの中で肯定すべき理由が明確に見つけられなかっただけだ。

 

「構わないわ」

 

「うん。じゃあ買い物してから帰ろうか」

 

 こうしてシンジとレイは調理道具と食材を購入してからアパートに帰宅した。

 途中、レイの目がホワイトチョコレートに向けられていたのを目敏く発見したシンジは、こっそり買い物かごに入れて購入しておいた。後で綾波にあげようそうしようとかなんとか。餌付けにも余念がない。

 

 レイの部屋に到着したシンジはサクサクっと料理を拵える。魚が良さげだったので、鮭をメインにしたものだ。ご飯はないので温めてすぐに食べられるやつで妥協した。炊飯器がないから仕方がないね。

 

 レイはシンジを不思議そうに見つめている。紅い瞳にはこの光景がどう写っているのだろうか。

 自分の手を見る。今はポカポカしない。開いたり握ったりしても、変わらない。でも違うところがポカポカする。奇妙な感じだ。

 

「はい、できた」

 

 シンジがご飯を運ぶ。湯気が昇るソテーはとても美味しそうだ。

 

 いつも1人のレイは慣れない状況に困惑を覚える。

 

「どうしたの。食べよう」

 

 知らず知らず、シンジの目を見ていたようだ。

 

「なんでもないわ。……いただきます」

 

 レイは無意識に微笑む。

 

 

♡♡♡♡♡

 

 

 そんなこんなで2人はご飯を食べたり、本を読んだり、一緒にシャワーを浴びたりして過ごした。

 客観的に見るとただのカップルである。しかし……?

 

(よし、なんか綾波の表情も柔らかくなってきたし、僕の言うことにも大分素直になってきた)

 

 シンジの内心は恋人とは似ても似つかないものである。

 

(肉体的な距離も近くなってる。多分綾波は無意識なんだろうけど。いい感じだ)

 

 ゲスい顔を表に出さないように気を付ける。

 

(じゃあ、そろそろ次の一手を打とう)

 

 キリッとカッコつけてやがる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、僕はそろそろ帰るから」

 

 シンジの言葉を聞いたレイの視線が不安定になる。

 

(よし、動揺してる)

 

 計画通り! とか言いたそうである。

 

 少し間を置いてからレイが口を開く。

 

「……なぜ」

 

 一緒に居るのが心地いいのに、シンジはなぜ帰るのだろうか? 

 

 レイの思考はクエスチョンマークで溢れていく。

 

「泊まるわけにはいかないしね。ミサトさんに変に思われたくないし」

 

 レイの中にモヤモヤとした痛みが生まれる。理由ははっきりとはわからないけど、居なくならないでほしい。近くに居てほしい。

 

 レイは今まで経験したことのない自身の気持ちに戸惑いを覚え、また口を開く。

 

「ダメ。ここに居て」

 

(フィーーーッシュ! やっぱり精神的に歪んでる子はチョロいぜwww)

 

 まさに外道。メンヘラを食い物にするヤリモク男的思考や。

 

「ダメって言われてもなぁ」

 

「ダメなものはダメよ」

 

(うわぁ。綾波が駄々こねてるよ。新鮮ww)

 

 随分と静かな駄々っこだが、レイ的には必死である。

 図式としては、親と離れる時に寂しくて泣いてる幼子みたいなものだ。

 これは何よりレイがシンジに心を許し始めてる証でもある。

 

「うーん。どうしよっかなぁ」

 

 シンジは考えるフリして、チラっとレイを見る。

 

 レイの眉毛が不安げに下がっている。僅かに眉間に皺も寄っている。

 

「碇君はここに居るの」

 

(理屈もくそも無くなってるwwいつもの綾波と違いすぎるww)

 

 ここで満を持してシンジが悪魔の取引を持ち掛ける。

 

「じゃあ、一つ約束してよ」

 

「?」

 

「これから、僕の言うことを絶対に守るイイコ(・・・)になってよ。そしたら綾波の近くに居るよ」

 

 レイはシンジの言葉を反芻する。

 

 イイコになれば碇君が側に居てくれる? イイコってどうすればいいの? 碇くんの言うことを聞けばいいの? そうすれば、まだ居なくならない……。

 

 そして、レイは悪魔の取引に応じてしまう。

 

「分かったわ。イイコになるからここに居て」

 

「しょうがないなぁ。今日だけだよ。いつもいつもは出来ないからね?」

 

「……」

 

「あれ、やっぱり悪い子なのかな」

 

「ちがう」

 

「じゃあ、明日は帰るからね」

 

 チクチクと痛むものを感じるが、レイは無言で頷く。

 

(はい、イッちょ上がり。これからはイイコってワードを有効活用しようそうしよう)

 

 この日、シンジはイイコになったレイに本気で優しくした。より依存度を高める為に……。

 

 ……このシンジ、サードインパクトを待たずして刺されないだろうか? そうなったらザマァである。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

 

──使徒襲来……ん……。使……徒しゅうらりぃ♡。

 

 マヤさん何してはるん? 公開プレイとはたまげたなぁ。

 

 いつもの指令部にて、作戦会議的なお喋りが展開され、なんやかんやでシンジ達3人が出撃する。

 

(あいつは……)

 

 今日の敵さんは、シマウマのようなカラーリングで空中に浮かぶ球体、皆大好きトラウマ芸人のレリエルちゃんだ。

 こいつは地味に見えてなかなか厄介な使徒である。だいたいディラックの海ってなんだよ。

 

 しかし、我らがチルドレンはと言うと……。

 

『ちょっとレイ! なんであんたが前線に居るのよ』

 

 使徒戦なのにアスカはレイが気になるようだ。

 

『指示があったからよ』

 

『いつもあんたバックアップじゃない。なんなの?』

 

 完全にいちゃもんである。アスカ的にはシンジに近いのがレイになる編成が遺憾らしい。使徒を前にして余裕である。

 

『碇くん、弐号機の人がよく分からないわ』

 

『え、僕にフルの?』 

 

 女の戦い(笑)をぽけっと聞いていたシンジには青天の霹靂である。面倒な空気に巻き込まれたくないのだ。自業自得のクセにふてぶてしい態度である。

 

『アスカがよく分からないのはいつものことだよ』

 

『そうね。仕方がなかったわね』

 

 レイも無自覚にアスカを煽っていくぅ。

 

『あんたらねぇ……!』

 

 アスカがマジでキレちゃう5秒前。

 

『はいはい! 痴話喧嘩は後にしなさい。今は使徒に集中して!』

 

 絶妙なタイミングでミサトさんの軌道修正が入る。流石20代で国家公務員として出世してるだけはある。

 

『了解。アスカも後でね』

 

 シンジが意味深な声音で言う。

 

『……! うん!』

 

 さっきまでのツンツンした雰囲気は一転して、アスカがかわいい声を無意識に出してしまう。完全にメスガキである。

 

『ダメよ。碇くんは約束があるの』

 

 せっかくまとまりそうだったのに、レイがそれに待ったをかける。

 

『……シンジどういうこと?』

 

 アスカの声のトーンが先程に比べ、1オクターヴは下がる。ナイスな音域である。これはアスカ歌手デビューワンチャンあるで。

 

『あ、そう言えばそうだった』

 

(やべ、忘れてた。てへ)

 

『イイコにしてたのに忘れてたの?』

 

『ち、違うよ!』

 

 先程のミサトの注意なんてなかったかのようにイチャイチャしだす三人にミサトがキレる。

 

『あんたらいい加減にしなさい! 今は作戦中なのよ!』

 

 さて、我らがリリス陣営が繰り広げるコントを見せられたレリエルちゃんはと言うと……。

 

──不潔! こんなやつらがガキエルお姉様をいじめたなんて許せないわ!

 

 レリエルちゃんは潔癖症だ。シンジ達の生々しい営みを連想させる空気感はノーセンキューである。

 

──私がガキエルお姉さまの敵を討ってみせます!

 

 仲間(?)の敵討ちとは綺麗な友情である。

 

──そうすればお姉様も素直(・・)になる……。ゲヘヘ。

 

 おい。

 

──お姉様のヒレお姉様のお口お姉様のヌメヌメお姉様のお骨お姉様のお刺身……。はぁはぁ。

 

 駄目だ。レリエルちゃんガチレズだ。しかも超粘着質なエロガキだ。

 それにしてもガキエル嬢を魚扱いである。

 

 レリエルちゃんがエロいことを考えてるとチルドレンにも動きがあったようだ。

 

『もういいわ。あなたはそこでじっとしてて』

 

 レイがレリエルちゃんに突撃する。

 

『はぁ? あんたが下がりなさいよ!』

 

 アスカもレリエルちゃんに向かう。

 

(そう言えばこの使徒って影が本体だったよな。簡単に近いたらまずい!)

 

 2人を止めようとシンジも妄想に勤しむレリエルちゃんに近く。

 

──はぁはぁ♡ ん、ん~~♡

 

 レリエルちゃんも楽しそうである。カオスすぎる。

 

 しかし、レリエルちゃんの昂りに応じて影(本体)が爆発的に拡がる。そしてそれはエヴァ3体を軽く含む広さになる。つまりは……。

 

(あ、ヤバい。死んだかも)

 

 シンジ達三人がディラックの海に取り込まれる。敗因は痴話喧嘩。ご愛読ありがとうございました。シンジの次回の逆行にご期待下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というのは嘘でもうちっとだけ続くんじゃ。

 

 ディラックの海に取り込まれた三人はと言うと、現在精神世界にて正座していた。

 

「仲がいいのは結構だけれど時と場合を弁えなさい」

 

 レイによく似たアラサー風の女性が言う。

 

「アスカちゃんにも好きな人が出来て嬉しいのだけどね、今回は駄目よ」

 

 今度はヨーロッパ風の顔立ちの女性が言う。年齢的には30中盤くらいに見える。

 

「「はい……」」

 

 アスカとレイが素直に返事をする。

 

(うわぁ、これ母さんと多分アスカの母さんだよね。こんな流れで会いたくなかったよ)

 

 そう、二人は碇ユイと惣流・キョウコ・ツェッペリン。エヴァごと取り込まれてしまったせいで、精神世界に登場したのだ。

 

「シンジは?」

 

 ユイが怖い声を出す。

 

(うぜぇぇぇ。死人のクセにしゃしゃり出てくんなよな)

 

 全く反省する気がないようだ。

 

「はいはい。申し訳ありませんでしたよ」

 

 何故ケンカを売るような言い方をするのか。反抗期なのか? ……そう言えば中学生やったわ。プレイが玄人地味てて忘れてたわ。

 

「いい度胸ね、シンジ」

 

 ユイが静かにキレ出すが、キョウコが場をいなそうとユイを遮るように口を挟む。

 

「まぁまぁ、ユイさん。シンジ君にも言い分があるでしょうし、まずはそれを聞きましょうよ」

 

 女神である。アスカの実の母親とは思えない穏やかさだ。

 

「仕方がないわね。シンジ何か言い訳はある?」

 

(言い訳って言ってもなぁ)

 

 強いて言えば二股を少しミスったくらいである。

 

「特にないかな。だって僕悪くないし」

 

 憎たらしい顔である。

 

 これには女神もイラっとする。

 

「それはよくないよ。元はと言えばシンジ君が二股するからいけないんじゃない」

 

「そうよシンジ。少し見ない内に何であなたそんなにエロエロクズになっちゃったの? あなたをそんな子に育てたつもりはないのに……」

 

(あんたに育てられた記憶がないよ!)

 

 それに関しては同情する。

 

「うるさいなぁ。いきなり出てきて母親面しないでくれない? だいたい僕がエロくてもあなたには関係ないでしょ!」

 

 険悪な雰囲気である。アスカとレイもこそこそ話をしながら見守っている。

 

『ちょっとレイなんとかしなさいよ』

 

『こんな時、どんな顔をすればいいか分からないわ』

 

『いや、少しニヤけてるじゃん』

 

『そんなことないわ』

 

 いや、君ら意外と仲良さそうやな。さっきまでのケンカはなんだったのか。

 

 一方、シンジとユイの親子喧嘩はヒートアップする。

 

「関係ないって何よ。いつもシンジがエヴァに乗りながらエロいこと考えてるせいでこっちまで変な気分になって大変なのよ!」

 

 ここでキョウコも食い付く。

 

「本当にその通りよ。アスカちゃんが変態的なことばっか考えてるから、私もムラムラして頭がおかしくなりそうだわ」

 

 突然の流れ弾にアスカもギクッとする。実の母親に痛い性癖を正確に把握されてる事実に今さらながら「まずったなぁ」とか思いだす。なお改めるつもりはない。

 

「そんなこと知らないよ。勝手に発情してればいいでしょ。あ、でも身体がないから発散できないんでしたね。お気の毒ぅwww」

 

 このシンジも母親二人相手に一歩も引かないで煽り倒すあたり、マジ鋼のメンタルである。

 

「く、言わせておけば……」

 

「ユイさん、こうなっては仕方がないわ。シンジ君の為にも私たちがヤらないといけないわ」

 

 急にキョウコが不穏な雰囲気を醸し出す。いや、本当は最初からわりとアカン雰囲気だった。

 

「そうね。シンジには少し女の怖さを教えないといけないわね。そうすればレイとアスカにも優しくなるでしょ」

 

 よく見るとユイの目がキマッている。どうやら2人は荒ぶる性欲をシンジにぶつけるつもりらしい。

 

(え、あれ。なんか嫌な予感が……)

 

 ユイとキョウコがシンジににじり寄る。息使いが荒い。

 

「ひぃ」

 

 シンジはディラックの海に囚われた時点で詰んでいたのだ。ユイとキョウコは、極めて高いシンクロ率のせいですっかり変態チルドレンに感化されている。

 それにそもそも30代の女は性欲が強い傾向にある。解消されない性欲をずっと抱え続けた30代女のそれを舐めてはいけない。

 

 シンジも事態を察する。はっきり言ってユイとキョウコはタイプじゃない。というかシンジにとっては年齢的にアウトである。

 

「や、やだなぁ、母さん。僕たち親子じゃないか」

 

 ここに来て急に母さんなどと口にし始める。ゲンドウが冬月に甘える時だけ、冬月先生とほざくのと同じである。

 

 女神(笑)のキョウコがやれやれと肩をすくめる。

 

「倫理観とか社会通念なんて科学の進歩に邪魔なだけ」

 

 女神どころか悪魔である。

 

 しかし、これにユイも大きく頷く。

 

「そうよ、シンジ。世の中のバカはそんな下らないこと気にしてるけど、バカの言うことなんて盛りのついた猫の鳴き声以下の雑音よ。無視しなさい」

 

 ユイも迫真の顔である。それにしてもユイも大分性格が悪い。飛び抜けて頭が良いと皆こうなのだろうか? 

 

(このマッドサイエンティストどもめ!)

 

 だが、ここでアスカからシンジへの援護射撃が入る。

 

「待ちなさいよ。娘のこ、婚約者に何しようってのよ」

 

(婚約者って何だよ。そんな約束していない)

 

 アスカの中ではそうなってたらしい。シンジも「ずっと一緒だよ☆愛してる(キリ」みたいこと言ってるし自業自得である。

 

 しかし、婚約者とか言うワードは聞き捨てならない。今度はレイが口を挟む。

 

「碇くんはあなたの婚約者じゃないわ。変なこと言わないで」

 

 もはや混沌とし過ぎて、地獄絵図である。

 

 聞き分けのない子供に言い聞かせるようにユイがカウンターを放つ。

 

「安心して。ここは精神世界だから実際は何もしてないのと一緒よ。それに今回みたいになりたくないでしょ? 私たちの治療(・・)が終わればシンジももっと真剣にあなた達のことを考えるようになるわ」

 

 凄く都合のいいことを言っている。

 

 しかし、アスカとレイには何か思うところがあるのか、静かに考え込んでいる。

 そして、二人は今回だけは見逃してやることにした。

 正直、シンジの心が自分に向いてないのでは? と不安に思っていた。それが解消されるなら藁にもすがりたい。

 それによく考えたらここは精神世界だ。言ってしまえば夢のようなものである。そこまで気にしなくてもいい気もする。

 

 アスカとレイを都合よく言いくるめたユイはシンジに向き直る。

 流石シンジの親である。欲望を叶える為なら、都合のいいことをペラペラ喋れる。

 

(クソ! 使えねぇ女どもだ。ホントに生オナホとしての価値しかないじゃないか!)

 

「さぁシンジ覚悟はいいわね」

 

 ユイがシンジの肩にポンと手を置く。

 

「まぁ出来てなくてもヤるんだけど」

 

 キョウコがニッコリと微笑む。

 

「」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 今度は現実世界、シンジ達を飲み込んだ直後のレリエルちゃんを見てみよう。

 

──ふふ。なんてチョロいのかしら。皆が油断するなって言うからどんなものかと思ったけど全然大したことないじゃない!

 

──ジュルり。これでガキエルお姉さまも私のことを褒めてくれますわ! 

 

──そうすれば、うへへへへへ。

 

 完全にヤバいやつである。

 こんな感じでネルフに包囲されながらも、暫く妄想の世界に浸っていると妙な感覚を覚える。

 

──ん? 何か中で変な感じが……?

 

 皆さんは慣れしたしんでいると思うが、○液や○液はそれなりに臭う。それが複数人のプレイングから作られるとなると、結構キツイものがある。

 

──うえ、なんか気持ち悪い……。

 

 レリエルちゃんは基本的には潔癖である。人間でいう生娘でもある。そんな彼女の本体であるディラックの海でL

et's party! しちゃってるとどうなるか。

 

──うぅぅ、何これ気持ち悪い。うぇ。ヤバ吐きそう。

 

 レリエルちゃんは決壊寸前である。

 

──もう無理オロオロオロオロ…………。

 

 堪えきれずにゲロっちゃう。つまりは……?

 

 ディラックの海から初号機から順番にシンジ達が押し出される。

 

 指令部ではミサト達がやいのやいのと大騒ぎである。

 

──はぁはぁ、苦しい。臭いが消えないです。もうやだ。リリン怖い。関わりたくない。

 

──なにこれ苦い。やだやだやだ!

 

──リリン嫌い! お外にも出たくない! 帰る! 

 

 レリエルちゃんが急に幼児みたいになったかと思ったら、球体をディラックの海に潜らせ、次いで影もどんどん縮小させる。

 

 そして……。

 

『……使徒消滅しました? 先輩これは一体?』

 

 マヤが困惑しながら、職務を全うする。

 

『現時点では原因を特定できないわ』

 

 リツコが素早くマギに検証させる。それによると無害化に成功したとの結論が出た。

 

『だけど、使徒を倒したのは事実のようね』

 

 潔癖レズ使徒レリエルちゃん、体内で乱交パーティーを開催され、現実世界に怯えディラックの海に引きこもる。

 

【祝】レリエルちゃん、引きこもりデビュー【やったぜ】

 

 こうしてシンジ達はまたしても無事(?)に使徒を殲滅した! めでたしめでたし。

 

 なお、いつも通り懲罰房行きである。




作者は自分のこと変態じゃないって思ってたけど、この話を書いてる時、少ーしだけ作者は変態なんじゃないかって不安になった。違うよね?


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