仮面ライダー~生まれ変わりし戦士~ (スタノヴァ)
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前半

初めましての方は初めまして、スターダストノヴァです。
今回は3人称の練習としてあげてみました。
読んで下されば幸いです。


○prologue

―この世界では魔法は皆平等に使用できる。―

とある人物が提唱した言葉によって今まで秘匿とされていた魔法への認知度が急増し魔法そのものが一般知識として浸透した並行世界の地球。

20XX年までの歴史の主な流れは他の並行世界の地球と同じであるが『魔法』という概念が介入したことで一部の常識が変化した世界。18世紀に布教した魔法と同時に科学技術の発展した極めて異なる時代を歩んだ世界だ。

そんな地球のとある島国、それの首都と呼ばれる東京の裏では禁止されている魔術への研究と実験を行われいる。

禁術、人体錬成と同等となる人体の進化を・・・・・・・・

 

P・・・P・・・P・・・

一定の機械音が鳴り続ける一室の研究室、そこでは人間大のゲージが壁一面に並んでおりその中には人の形をした人とは異なる異型の生物が飼育されていた。

「怪人」そう呼ばれる彼らは元々は人として生を受けたモノたちだった。

何故このような不気味な生物へと変貌したのか、その細かな事情は最中では無いが多くのモノ達はスネに傷を持つ者達が大体を占めていた。

そんな彼らを前に数人の白衣を着て顔を覆い隠した科学者らしき人物達が用紙にナニカを記入しながら一体一体、怪人達の情報を記録していた。

スー・・・・・・

彼らの後ろにある自動ドアが静かに開く。

そこからは顔を隠しているもののマスクから漏れる白い髭と低い姿勢で老人であろうということは大まかであるが予想ついた。

それに気づいた科学者達は一斉に整列し片手を天に翳す。

それを一瞥し老人はマスク越しで皺くちゃな声を出した。

 

「経過はどうだ?」

 

「はッ!現在P‐24からP-61までの生存を確認。尚、先日改造したP-1からのTOPナンバーはリジェレクションの影響で死亡しました。同時にP-24からP-49までの15体には強化手術を施しております。結果がで次第報告致しますので暫しお待ちを。」

一歩前にでた学者は淡々と報告していく。

その姿には戸惑う様子は一切なく普段の行動だというように終わらせる。

報告を聞いた老人はゲージに閉じ込められている怪人を一目見てまた科学者達に向き直った。

 

「・・・・新たに被検体を確保した。これより19:00にナノマシンと儀式による実験を行う。研究員と魔術師は全員集合だ。各班に伝えよ。」

それだけ言って老人は退出していく。

それに習って科学者達も退出していき最後の科学者は部屋を退出しようとしていた。

 

『Guru!guguuuuuu・・・・・・・・』

何処かのゲージから小さく、だが低く唸る声が漏れた。

一瞬其方に目を向けた科学者だが暫くして何事もなく部屋を退出してロックをかける。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・唸り声を上げたゲージの怪人の瞳には紫色の液が一筋流れていった。

 

○1

 

PiPiPiPiPi

タイマーの音声が小さい一室に鳴り響く。

ソレを手探りで探し出しゆっくりとベッドから顔をだした。

 

「・・・・・・・・・6時か。」

多少声変わりが始まったテノールの声で先程止めた時計を見つめる。

時刻は6時を過ぎて3分。

一般の学校が始まる時間まではまだ余裕がある。

それを確認した少年は着替えをさっさと済ませ自室を出る。

リビングに入ると既に他の家族は降りていて各々の支度をしていた。

30代後半であろう姿の女性はキッチンで料理をし40代であろう男性は新聞と握っている携帯を交互に見比べて険しげな表情を浮かべている。

テレビの前では10代の少女がニュースの占いを真剣に見て自身の運勢を調べていた。

 

「おはよう。」

その声に30代の女性が反応する。

 

「おはよう和樹、もう少しでご飯が出来るから座ってなさい。」

そう言ってキッチンの奥に消えていったのは式森綾子(しきもりあやこ)。

この式森家の母だ。彼女がこの家の健康と食事を管理しているといえるだろう。

 

「・・・・・・ん?おうおはよう和樹。」

新聞から顔を出して笑みを浮かべる男性、式森洋一(しきもりよういち)。

式森家の大黒柱であり少年の父である。仕事は大手の書籍関連の会社で係長を勤めている。

普段は自社が発行している新聞を確認しそのできを方向しているのも彼の大切な仕事の一つだ。

少年は聞こえる程度の音量でおはよう。といって席につく。

自身の席には既にハムエッグとサラダが置かれている。手元には箸が一膳置かれており直ぐにでも朝食にありつけられる。

 

「美香、そろそろご飯だぞ。」

 

「分かってる!もう少しだけ・・・」

そういいテレビの前を陣取り2~3分で終わる占いを必死に見ている少女、式森美香(しきもりみか)。

茶髪に染めて長い髪を後ろで纏めている小学5年生。これといって人の目を引く可憐さは無いが活発で元気のある少女だというのが見てわかる。

漸く番組が終わったのか多少の不満そうな表情で美香も自分の席についた。

 

「はい、ご飯。いまお味噌汁を盛るから待ってなさい。」

綾子は皆に白い白米を乗せた茶碗を手渡した。

全員が席につき家長である父の号令で同時に食事を始める。

この光景は今まで生きてきた15年間常にあった。

少年、・・・・式森和樹(しきもりかずき)はそのことを幸せに思いながら箸を進めるのだった。

・・・

・・

食事を終え既に着替えた服でリビングの椅子に座る。

今日は土曜であり和樹が通う学校は休日だ。

来年は高校への進路があるので有難いといえば有難いが既に9月を過ぎていった。

和樹の成績は中の上といった具合で大きな問題を起こしてもいないので受験に響くことはないだろう。

だがこの付近にある学校は軒並み魔術を大元に学ぶ学園しか存在しない。故に和樹は少々遠くても普通校を探さざる負えないのだ。この世界では魔法、魔術が一般でも認識されている世界であり和樹自身の魔法回数はたったの8回。妹は98万と果てしない数値を叩き出したのと比べればその落ちぶれさが分かるだろう。恐らく現時点最高の魔法回数を叩き出した妹と史上最低点の叩き出した兄。・・・・そう世間で言われるようになった。

だがそんな扱いをされているのにも関わらず和樹は擦れることも歪むこともなく真っ直ぐな少年に成長していった。

父である洋一はそんな姿を心配し、母である綾子は元々大人びていた和樹が無理してないか気にするようになっていった。

テレビを眺めている和樹だったが突如ニュースが割り込みキャスターが重々しい顔つきで発する。

 

『ニュースです、○○県××市――で昨夜の午後11時から深夜3時にかけて15歳から12歳の少年少女が集団失踪するという事件が発生しました。情報では彼らは良くその時間帯で違法で改造したバイクなどに乗っていったきり朝になっても帰ってこず行方不明になった親が警察に連絡したことによって発覚しました。これで集団失踪の事件は連続で5回目となり警察は組織的なものがあるのではとして捜査を開始するとのことです。また○○県付近では夜遅くに子供を歩かせないようにと各学校に連絡を入れていくとのことです。』

 

―集団失踪事件―

今もっとも騒がれている事件、主に18から13までの少年少女をターゲットに発生している誘拐だと思われる事件だ。

事件が初めて公になったのは8月下旬、世間では夏休みの影響でそこまで遅くなっても問題な無かったが十数人が一斉に二十日も連絡しないということで不安になった失踪者の両親達が警察に連絡、そこから現在まで一切の情報もなく捜査は迷宮入りとなりかけている。

和樹はそのニュースを見て顔を顰める。

何せ事件が起きたのは和樹が住んでいる県の隣、しかも県と県の境目であり事件が起きた隣の市だ。

あまり他人事ではない。

それに、・・・・・

 

(これでもう5回目か。流石に調べていくとしようか、いや今無闇やたらと動き回ると返って面倒になるだろう。)

和樹は目を細めて思考に浸る。

そんな一樹の後ろにこっそりと忍び寄る小さな影があった。

和樹はその気配に気づいたものの特に行動せず静かに座っている。

 

「兄ちゃん!」

「うわッッ!!?」

抱きつかれた拍子に声を上げる和樹。

大げさにならないように肩を上げて後ろからの奇襲者に声をかける。

 

「美香、何時も言ってるだろ?驚かさないでってさ~。」

「きひひひ、いいじゃんそうやって驚いている兄ちゃんも面白いよ?」

そう笑いながら直ぐ隣の椅子に座りチャンネルを変える。

 

「まだ見てるだろ~。」

「ニュースなんてつまらないよ!それよりこの前さ、友達から映画のチケットをもらったの!ほらこれ。」

チケット内容を見ると子供が見る特撮関係の映画のようだ。

5人組のヒーローが主役で異世界の姫様を救うというのが今回の主な話らしい。

 

「これを見に行くのか?」

「だってその友達が一緒に行こうって約束だったのに急に用事が入っちゃってさ!それが今日までなんだよ?最近は物騒だからって私一人じゃ映画館すらいけないし。だからお願い!一緒に来て!!」

両手を合わせて笑顔で言う美香。

彼女は今時の女子小学生にしてはこういう特撮関連が大好きだという男の子の好む趣味を持っている。

良く彼女が欲しがる特撮関連のDVDや関連商品を代わりに買ってくる。

今回はどうやら彼女のエスコート役を務めることになったようだ。

和樹は苦笑いしながら、

 

「分かった。それじゃあ美香も準備してきなよ、俺も準備してくるから。」

そう告げると「やった!!」と嬉しそうに飛び跳ねて美香は私服から外出用の服に着替えるために自室へと向かった。

和樹は手元のチケットをもう一度見て・・・

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・この俺が特撮を見る、・・・・・ねぇ。存在そのものがファンタジーだというのにな。」

そう自傷気味に告げてリビングを後にした。

 

○2

式森和樹。

彼は見た目は平凡そのものであり学力や筋力は平均よりも上程度のどこにでもいる少年。・・・・・を演じていた。

何故ならば彼の内に秘めている力の所為である。

彼はとある世界で生まれ人生を謳歌していた。

友と学び、両親に叱られて育ち、妹と笑い合いながら日々を過ごしていたのだ。

平凡でつまらない、幸せな人生―――それがある日突然消え去った。

彼を残して世界は色あせてまるで砂の城が海によって流されていくように彼の手から溢れていった・・・・・そこから彼の冒険が始まる。

世界を救う、・・・と言うのは過剰だが大切な日常を取り戻す為に彼は異世界(だが限りなく同じ地球に近い並行世界)の戦士達と出会いそしてその力を学び手に入れていく。幾多の苦痛、不幸、絶望を感じそれでも彼は戦い続けた。

取り戻すモノの為に愛する家族と友人の為に・・・・・・・・・・・・そして彼は鍵の在り処を知り得てそれを手に入れた。

正確には既に彼の手の内にあったのだ。

世界が消滅すればその星に住む生命は等しく消滅する。

なのに何故彼だけは生き残ったのか。

簡単な理由だ、世界の命の源が彼に宿りそれによって生かされていただけだった。

全てを知った彼は迷うことなく鍵を取り出した。

 

『俺は今までの旅で様々な・・・・・本当に様々なことを学んできた。人の弱さから生まれる真の強さ、誰かを信じ続けることの素晴らしさ、守る為に戦うことの美しさ、世界を、時をも超越しソレを制御していた彼らの逞しさ。親子の愛、仲間の絆、欲望の儚さ、友達の大切さ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だから今度は俺が望む番だ。これは犠牲じゃない、返却だ。・・・・・・・・・・・・・・・・・けれど、もし望めるならば・・・・・・・・・・俺の全てを星に受け継いで欲しい。』

 

それを願い彼は自身の存在全てを消滅させて守りたい者達を蘇らせた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そして彼は元の世界に戻ることは無く、『星の再誕』という偉業を成し遂げたことによる魂の昇華によって外世界へと魂は飛ばされていった。

そして並行世界のとある『赤竜帝』の兄として生まれた。

その内には今まで共に戦い続けてきた戦士達の『記憶』がありそれを駆使して彼はその世界を戦い抜いた。

全ての戦いが終わり弟達と別れを告げて彼は旅を続けた。

別の並行世界では神と魔王が争い星を滅ぼしかねない程の戦争を行っていた。

彼は仲魔達と、そして作られた『偽りのメシア』と共に神を討った。

また別の世界で機械が発展しその中に魔法を加わった世界で白き女性の魔導師達と共に破滅の未来を回避した。

別の世界では赤髪の少年とその生徒たちで魔法世界と呼ばれる幻想世界を旅した。

英霊として召喚され『この世の全ての悪(アンリ・マユ)』を退き受肉した先で吸血鬼の真祖等の起こした事件に巻き込まれた。

女性しか動かせない機械によって混乱した世界を見た。

仮想の世界に閉じ込められた人々を救うために力を振るった。

巨人と呼ばれる生物が支配する世界で生き続ける人々の力強さに震えた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そして気がつけば彼は肉体が消滅していた。

力によって若々しい肉体を維持していたが元の肉体は人間だった。

故に人以上に生き続けた肉体はついにその負荷に耐え切れず消滅していったのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そして彼は3度目の生を受ける。

そうして彼、式森和樹は誕生したのだ。

3度目も再び『人間』として。・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

○3

着替え終えた和樹は再びリビングに戻る。

そこにはもう待ちきれないと言わんばかりに足をばたつかせた美香の姿があった。

 

「遅いよ!早く行こ、ね?」

 

「はいはい。だから押すなって。」

 

苦笑しながら和樹は美香に押されて玄関に向かう。

それを見かけた母・綾子は二人に「気をつけて行きなさい。」と小言を言った。

美香は耳にたこができるくらい言われ続けて適当に聞き流しているが和樹は真剣聞きそして「行ってきます。」と答えるだけで外に出た。

外に出てからは美香は和樹の手を繋ぎ、いや引っ張るようにして走る。

 

「早く早く~!!」

 

「映画は逃げないから待てって!」

そのまま和樹は美香に引きづられていくようにして町の映画館へと連れて行かれたのだった。

・・・

・・

「うぅぅぅぅん、面白かったねぇ!!」

 

映画館から出た美香はとても嬉しそうに笑う。

その後ろからは和樹が微笑で頷いた。

 

「確かにストーリーは凝ってるな。(てかロマンスとか恋愛とか子供には分からんだろ。親御さんにも楽しめるように作られているのか。)」

 

「それと戦闘シーンのスーツアクターさん達マジで凄かった!!皆キレキレでさ、CGの無い本当のアクションってやっぱり最高だよね~。」

 

映画の感想を言いながら昼食を取ろうと街中を歩く和樹達、美香の特撮ヲタの熱が暴走する前に和樹は前方での騒ぎに気がついて其方に視線を向けた。

美香も釣られてそちらを見る。・・・・・・・・・・・・・何やら人だかりができており皆一様に自身の下を向いていた。

 

「・・・・・・何かあったのかな?」

「・・・・・・分からない、少しだけ近づいてみようか。」

互いに視線を合わせて前方に近づこうとして・・・・・・・・・・・

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああッ!!!?」

 

突如として悲鳴を上げて人々は散っていく、そしてその中心にあったのは、・・・

 

「ヒッ!?」

「ッ!?」

和樹は咄嗟(とっさ)に美香を後ろに隠して視界から消した。

彼らの目の前にいるのは青白い肌に大量の突起物が生えて下半身は虫のような脚部になった女性物の衣服を着た魚のような化け物だった。

その異様な姿に人々は悲鳴を上げて逃げ惑う。

中には足が縺(もつ)れて派手に転んだ人もいた。化け物は辺りを見渡していきなり屈んだと思ったらその驚異的な跳躍力でビルの屋上へと消えていった。

 

「・・・・・・・・・・・・アレは?」

現場は依然と人々の悲鳴が響き続け小規模では混乱による暴徒が現れていった。

 

「に、・・・・・・兄ちゃん。あれは、一体・・・・・・」

美香は震える手で和樹の衣服の端をつかみしっかりとしがみついた。

 

「・・・大丈夫だ、俺がついている。それにもう奴はこの場にいないから・・・・・・・・・・・さっさとここから離れよう。今日は真っ直ぐ家に帰るけどいいね?」

和樹の問いに美香は静かに頷く。

流石にあんなモノを見たあとでは無闇矢鱈と出歩きたくはないのだろう。

元気いっぱいの彼女とは打って変わり弱々しく和樹に引かれて自宅に帰っていった。

その後、問題もなく自宅に帰った二人だが出迎えた母にとても心配された。どうやら既にニュースで取り上げられているようだ。

 

『謎の生物、街で現れる!!』

そのような文字がテレビに表示されて先程の光景が映されていた。

母はその映像を見てその近くが和樹達のいた場所だったため気が気でなかったようだ。

 

「携帯も繋がらずかなり心配したのよ!」と和樹達はお叱りを受けた。

そして少し襲い昼食を済ませ和樹達は自室に戻っていく。

暫くして美香もショックから落ち着いていつも通りの活発さを取り戻しつつあった。

食後の後にテレビを見ながら「本物の怪人の写メ撮っておけば良かった~。」と落ち込んでいたのでもう大丈夫だろう。

自室に戻った和樹はすぐさま机の下に片付けてあったトランクケースを取り出す。

ケースは頑丈で取り付けられた鍵がその物の重要さを物語る。

それに和樹は鍵を取り出し開錠した。

中には物々しい携帯とゴテゴテとしたラジオ。横に細長い腕時計にカメラ、でんでん虫を象った暗視スコープに丸型の録音機、銃身が折れ曲がった銃にメモリ口のあるナイフ、そして最後に柄にメモリの装填口のある両刃剣、計9つの道具が入っていた。

その内携帯と腕時計、カメラ、録音機を取り出しそれぞれに手のひらサイズの長方形のメモリースティックを装填する。

 

『スタック!!』  『スパイダー!!』  『バット!!』  『クロッグ!!』

それぞれのメモリから機械音と共に音声が流れる。

すると装着された順から形態が変わりそれぞれ機械でできた生物へと姿を変える。

和樹は全てが変形したことを確認し発する。

 

「ここ最近、集団での行方不明事件が多発している。スタックとクロッグは情報を集めてくれ。バットとスパイダーには悪いが妹の美香の護衛を頼む。なにかあり次第知らせてくれ。」

 

それだけ言うと窓を開ける、そして機械生物、ガジェット達は空へと飛び立った。

それを見届けたあと和樹は自身のPCで事件関連の情報を調べ始めた。

もしかすればあの怪人等が俺の周りの人々を傷つけるのでは、と頭の隅に掠めたのだ。

それを回避するために和樹は独自で動くことを決めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・しかし、ネット上で上がったデータは全て噂やタチの悪い冗談などが主で具体的な情報がなかった。

その日は何の成果も得られないまま1日が過ぎていった。・・・

・・・

・・

 

○4

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・暗闇が広がる一室、そこは冷たく寒い地下の牢獄だった。

暗い部屋故に目を凝らさなくては分からないがその牢屋の中には二十歳にすら届かない少年少女が放り込まれていた。

彼らの格好は一言で言い表すならば派手であり男子は一人一人髪を染めており顔中にピアスなどをつけている。

女子も同様で身体の一部に刺青を入れていた。

まだ夏場ということで服装も乱れていて普通に生活している分にはこのような格好はしないだろう。

・・・暫く経つと少年の一人が目を覚ました。

 

「――――・・・・ぁ?」

数秒程暗い天井を眺め続けそれから小さく声を上げる。

何故自分はこんな暗い場所にいるのか?今は何時でどうしてここに眠っているのかそれらが一切不明だった。

辺りを見渡すと見知った顔がチラホラ見える。どうやら彼らは同じ空間で眠っていたようだ。

 

「――――・・・おい、皆。起きろ!」

少年は周りに眠っている仲間達に声をかける。

その声に反応しゾロゾロと起き始めた。

 

「――んだよぉ~。」

「まだ夜だろ?」

「うるさい・・・・・・・・」

様々な声が上がるが皆それぞれ頭が回らないようで未だに頭を抑えて意識を覚醒させようとする。

 

「お、おい!俺達今どこにいるか分かるか!?」

少年の声に彼らは思考を働かせる。

そして次第に自分達がどこにいるのかが思い出せなくなっていたことに顔を強ばらせる。

 

「おい、ここは何処だよ!?」

「なんで私達はこんな寒いところにいるの?」

「知らねーよ!起きたらこんな場所だったんだよ!!」

 

互いが互いを罵るように質問をぶつけていく。

段々と騒がしくなっていくとキィ・・・と錆び付いた扉が開く音と共に一筋の光が差し込んだ。

その光に目が慣れておらず全員が目をつぶっていた。

部屋の電気が付けられる。

そこで目が慣れた彼らは凝視した。

彼らは今鉄で出来た檻の中にいたのだ。

外では仮面のようなモノを被った男達がいそいそと作業を行っている。

 

「おい!お前等!!ここはどこなんだよ、俺達は何でここにいるんだよぉッ!!」

一人の少年が騒ぎ出す。そしてその中に閉じ込められた全員が同時に罵倒した。

ここから出せ!テメェ、ぶん殴ってやる!今日は約束があるんだよ!

理由は様々だがそれらの罵倒は部屋に反響する程騒いでいた。

そして、作業をしていた一人の男性が手を止めて牢屋に振り向く。

視線があう、それだけで先程までの罵倒が一瞬止まった。

そして近くに設置されているレバーを下ろし、・・・

 

『ガッ、GYaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!』

 

首輪から発せられる電撃が牢屋にいる彼らを襲った。

2~3秒でレバーを戻す。

それだけで少年少女達はバタバタと倒れ、中には尿を漏らす者もいた。

辛うじて意識があるものもいたが口からは何も発せられず空気が漏れる音のみが響いた。

それを確認した男性は再び作業に戻る。

その後何人かの男達に命令し作業していた男性はその部屋から退出した。

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・

・・

 

「――――・・・・・・・・・・・・・・・・ガァッ。・・・・・・・・・・・」

再び少年が目を覚ます。

そこは先程までの寒い牢獄ではなく天井には巨大なライトがコチラを照らしていた。

頭が痛い、少年は頭痛にも似た痛みを抑えるように腕を頭に向けようとした。

・・・・・・・・・・・・・・・・?

腕が上がらない。いやそれだけじゃない、身体が言うことを効かないのだ。

手を上げる、ダメ。足を動かす、ダメ。身体を起こす、ダメ。首を動かす、・・・・多少動く。

必死に首を回して現状を確認しようとした。

隣には仲間の男子が手足を拘束されて寝かされている。

まるで手術台で手術を行われる前の状態だった。・・・・・・

そこまでいって自身の状態を確認した。

衣服が無い、下まで脱がされている。

まるでこれから手術を行われるかのように・・・・・・・

 

「・・・・ぁぁ、ぁぁぁぁぁ!ぁぁぁぁぁあああぁぁぁあああああああッッ!!?」

全てが頭の中で合致した少年は必死に逃げ出そうと身体を動かす。

だがその願いとは裏腹に手足は像のように動かず固定されている。

必死に動かしているとなにか、キィィィィィン!と甲高い音が聞こえた。少年は無意識に其方に顔を向けた、向けてしまった。

そして目にしたのだ、空中に回転する銀色の輪を・・・・・・・・・・・

それが友人の一人の体にゆっくりと入って行き、

グシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

彼の体から大量の血痕が吹き出した。

そして血に汚れた輪はゆっくりと引いていき変わりに少年の腕程の大きさの異形の物体が彼の体の中に押し込まれていく。

 

「ぐm、ばあA?!ダダダダ?Gyagyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!?」

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!??」

 

少年は仲間だった友人が徐々に得体のしれない化け物になっていく光景を目の当たりにして悲鳴を上げた。

しかしその悲鳴はしっかりと発せられず強ばった表情のせいでみっともない叫び声となった。

そして彼は失禁をしてしまい、震え続けた。

どうして、なんで、助けて。お母さん、助けて、ママ・・・・・・・・・

様々な苦痛と願いによってぐちゃぐちゃになった感情が次第と少年の精神を幼児退行させてしまった。

・・・・・・・・・・・・・そしてその瞬間がやってくる。

少年の頭上にには幾多の少年少女の血で汚れた銀の輪、回転ノコギリが彼の目の前で止まったのだ。

 

「やめて、助けて!お願いだからやめて!!嫌だ!嫌だ、嫌だ、嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!??」

少年の叫び声を無視するように冷酷にそして容赦なく銀の刃が彼の肉体に迫っていった。・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

○5

捜査を開始して今日で二日。

和樹は未だに有力な情報を得られずにいた。

次の日が休みだったため長い時間をかけて調べ物に費やせたがそれでも少年たちが消えた瞬間を見たものもおらず、狙われたのがチンピラや普段からの素行が悪い者ということもあり事件の発覚に4~5日の誤差が生じるのだ。

これを狙って犯罪組織の連中は素行の悪い少年たちを狙ったのか?

和樹は頭が痛くなる思いで情報をまとめていく。

戻ってきたガジェット達も有力な情報は得られず難航していた。

ふと時計を見た、現在7時過ぎ。

今日は平日であり学校もある。これ以上の捜査は無理だと判断し和樹は自身の捜査を一旦打ち切った。

一階に降りると両親と妹が普段通りの風景が見れた。

しかし美香の見ている番組が占いからニュース特報に変わっており父の新聞には一面に失踪事件を押し出している。

母も表情には表さなかったがこの二日ですっかり心配性になってしまっていた。

 

(これ以上長く続くと一般の生活にも支障が生じてしまうか。)

苦い思いをしながらも和樹は普段通りの挨拶をした。

「おはよう。」

・・・

・・

登校時、和樹は美香の手を握って美香の通う小学校に向かう。

万が一と起こらないように当分の送り迎えは和樹と共に行うこととなったからだ。

朝の少々不安げな姿だった美香もすっかり笑みを取り戻していた。

 

「でさ、その富高君がね!」

 

嬉しそうに笑う美香を見て和樹も笑みをこぼす。

すると、視線の端に一人の人物が入った。

スっと和樹はそちらに視線を向ける、その人物は和樹と同じ中学に通う少女、紀美野優(きみのゆう)だった。

同じといっても会話したことも無ければ同じクラスになったこともない。

しかし何故和樹が彼女のことを知り得たのか、それは彼女のグループが学生内での悪を集めた集団だからだ。

悪といっても授業をサボり他学年の生徒から金をむしり取るというまだ可愛げのある(和樹視線で)不良の集まりだが。

そんなグループに属する彼女がたった一人で学校に通おうとしてた。

普段ならば5~6人で登校しその途中で何かしらの悪戯を敢行しているのだ、妙にも感じる。

そして直ぐに裏道を通り彼女は視界から消えていった。

 

「兄ちゃん?どうしたの。」

「ん?ぁ、ごめん。ちょっと知り合いがいたような気がしたんだけど・・・・・・・見間違いだった。」

適当な言葉で濁し小学校へと向かう。

校門では美香の通う校長先生が立っていた。

美香はそれをみると嬉しそうに笑顔で挨拶する。

 

「校長先生、おはようございます!」

「はい、おはよう。」

挨拶をされた先生は笑顔で対応する。

和樹も頭を下げて挨拶する。そして顔を上げて繋いでいた手を離し頭を優しく撫でておく。

 

「それじゃ、俺も学校に行くから。今日は迎えに来るから学校が終わっても待っててくれ。大体午後5時前にはこっちに来るから待ってろよ美香。」

 

「うん、分かったよ。早く迎えに来てよ!!」

そう言って和樹に向かって手を振り美香は校舎の中へ入っていった。

「美香を宜しくお願いします。」

見送った和樹は再び校長先生に頭を下げて自身も学校に向かった。

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

特に遅れることもなく和樹は自身の通う中学校に登校し自身の席に座る。

クラス内を見ると普段通りの風景だが所々で不安げな様子が見て取れた。その中から俺の姿を見て嬉しそうに近寄ってくる人物が一人、・・・

 

「よー、式森お前も無事だったんだな。」

その人物は和樹のクラスの委員長、相川千登瀬だ。極度の近視のために分厚いメガネをかけている。

和樹とは良く会話をする仲であり一番親しい友人と言えるだろう。

 

「なんだよその言い草。まるで俺らの学校で事件があったみたいじゃないか。」

和樹は冗談めかしてそういうと相川は驚いた表情で語る。

 

「お前、知らないのか?一昨日の事件の夜ウチラの同学年の連中が失踪したんだぜ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・なに?」

失踪という単語に無意識に顔を引き締めた和樹。

「・・・・・・いったい誰が、ていうかどうしてそのことが広まっているんだ?」

 

「あ、あぁ。消えた連中はウチの学校の不良グループだよ。・・・・それが発覚したのはほら、隣のクラスの紀美野って奴いるだろ?アイツ等がつるんでるグループが消えたんだって、結構な噂になってるぜ。」

鋭い視線を向ける和樹に動揺しながらも説明していく、その話を聞きながら今までの情報をまとめていった。

 

(ここでも誘拐が行われた、・・・・・・・・少なくともここでの不良グループは10~20人の集まりだったはずだ。それを一夜にして攫うとなると・・・・・・・・この付近に施設があるのか?)

和樹はもう一度相川に質問した。

「どうしてそれを紀美野さんが知ったんだ?その場にいたのか?」

「いや~、それは分かんないけどさ。何でもその時彼女は何処かに行ってたらしいんだよ、その間にって話だし。」

 

その後警察に逃げ込んだ彼女が話をして今回の事件が発覚したということらしい。

そこまで話をした所で学校の鐘が鳴り同時に教師が教室内に入ってきた。

それを目に止めた和樹達は各自自分の席に座る。

そのままHRが始まりいつも通りの一日が始まる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・

授業が全て終わり帰りのHRで最近はとても物騒だから外出は控えるようにと言われるのみで失踪した生徒のことは一切の連絡は無い。とあるクラスの生徒が欠席の生徒のことを話したがその人物は病欠で自宅で寝ているというが19人もの生徒が同時に欠席ということでこの噂が真実だということを知らしめた。

HRを終え今日から暫くは部活動も禁止となり生徒は速やかに自宅に帰宅を言い渡された和樹達は会話を挟む暇もなく学校から出される。

 

「それじゃ俺はこれから美香の迎えがあるから。」

「お、そういえば式森には愛しの妹たんがいたな。そんじゃあ気をつけろよ~。」

それだけ会話して和樹は相川達と別れた。

数分も経たずに和樹は美香の学校に着いた。

和樹が校門に入り美香が使う下駄箱に入ると美香が嬉しそうに地がづいて来た。

 

「やっと来た、兄ちゃん遅いよ~。」

「悪い悪い、それじゃあ帰るぞ。」

「うん、じゃあね~。」

 

美香は今まで一緒にいたであろう友人達と別れて和樹と共に校門を出る。

「さっきのは友達か?」

「うん。でも二人共お母さんが迎えに来るからって言ってたから。」

和樹と手を繋いで美香は今日の出来事を語る。

それを静かに聞きながら和樹は美香の手を引いて帰宅していった。

・・・・その時、

「いやぁァァァァ!!?」

 

甲高い悲鳴を上げて一人の人影が和樹達の目の前に飛び出してきた。

その姿に和樹は見覚えがあった、紀美野優その人だった。

その後ろから目線を隠した仮面を被った男達がゾロゾロと現れる。

和樹は咄嗟に紀美野の手を取り彼女と美香を背に隠す。

 

「・・・・・・・何だお前らは。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

男達は無言でコチラににじり寄ってくる。

和樹の背ではガタガタと震えた紀美野と恐怖で和樹にしがみつく美香の二人がいる。

彼女等を守りながら6人の相手をしなければならないという状況で和樹は舌打ちを打ちたくなった。

 

「・・・・・・・・・・」

一人の男が無言で和樹の目の前に近寄り和樹を殴りつけようとして、・・・・・・

ぐるっと、男Aは身体を半回転させ頭から地面に叩きつけられた。

その男を迷うことなく右蹴りで吹き飛ばし男達にぶつける。

男を支えようとして1人が受け止める。

他の男達は和樹を取り押さえようとして一斉に飛びつこうとした。

ビュンッ!

目にも止まらない一撃で一番近い男Bを蹴り飛ばす。

 

「美香、離れてろ。」

それだけ言って和樹は美香の手を強引に離して男達と対峙した。

タックルをかますように男Cが姿勢を低くして迫ってくる。

その背を借りて側転し他の男Dに飛び蹴りを食らわす。揺ら付いた一瞬に和樹はその男Dの裏に周り腰目掛けて拳をふるう。

ドッ!!

体制が崩れた男Dは簡単に吹き飛ばされタックルの状態から振り返った男Cにぶつかる。

ヒュッ!

止まっていた和樹の死角からナイフを持った男Eが襲いかかる。

それを危なげなく避け、腕を掴んで溝に肘打ちを食らわし一本背負いの要領で振り回す。

男Aを地面に置き男Eの援護をしようと男Fが殴りかかるがそれに投げられた男Eに衝突して壁際まで叩きつけられた。

もう一度立ち上がったDとCが同時に殴りかかる。

それを全て見切って拳を流し続けDの懐に入って和樹は顎目掛けてアッパーを決めた。

その体制から急に屈んで足払いをしCを転ばせる。

引っかかったCは他の男Bの上に倒れこみ、

 

「ゥラッッ!!」

横っ腹を思いっきり蹴り飛ばされて頭から壁に激突した。

・・・・・・・・・ほんの数分の出来事であったが和樹は見事暴漢6人を撃退してみせたのだ。

誰も動かないことを確認して美香達を見る。

二人共呆然としていたが状況が読み込めたのか美香は慌てて和樹に駆け寄り、紀美野はその場にヘタりこんでしまった。

・・・・・・・・・・・・それから数分後、和樹の通報によってパトカーに乗った警察が到着し男達を逮捕(殆ど気絶していたので保護に近い)し和樹達と紀美野は事情聴取の為近くの警察署に同行していった。

和樹は美香の面倒を見ながら襲われていた紀美野を軽く観察しておく。

その表情はまだ青いが何処か安堵の色を浮かべていた。

 

(間違いなく彼女は今回の失踪事件に関連する情報を得ている。)

そう確信し和樹は事情聴取を終えたあとの紀美野に声をかけた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・少しは落ち着いたか?」

「・・・・・・・・・・・・ぇ?」

行き成り声を掛けられた紀美野は戸惑いの声を上げた。

そして漸く飲み込めた紀美野は「う、うん。」と小さく頷いた。

 

「その、・・・・・・・・・・・・・・さっきはありがとう。」

金髪に染め濃い化粧をした彼女の風貌からは想像もできないようなか細い声で礼を述べる。

「あー、まぁ無事で良かったよ。」

「・・・・・・・・・・・・・・お前って結構強かったんだな。」

紀美野は和樹を見てそう言った。

 

「俺の事知ってたの?」

「いや、隣のクラスに仲がいい奴がいてな。富高って名前知ってるだろ?ソイツからクラスの話を聞いてたんだよ。そん中でお前の名前があってな。」

軽く頬を描きながら答えていく紀美野。

 

「あぁ、富高さんか。あの人結構な情報通だからな。」

和樹は一人の少女を思い浮かべて苦笑いする。

 

「ソイツからは『どこにでもいるTHE・平凡男』って言ってたから、それが面白くて笑ってたんだよ。それで記憶に残っててさ。」

「『THE・平凡男』って・・・・・・・・まぁ目立った行動はしてないけどさ。」

もっと言い方はなかったのか?と和樹は屈託のない笑みを浮かべたクラスメイトに文句を言いたくなった。

 

「そんな奴があの男どもを投げ飛ばしてんだぜ?驚きもするだろ。」

「・・・・・・・・・・・・・・ところでさ、アイツ等に覚えはあるか?」

男共の話となり和樹は彼女から話を聞き出そうとした。

「・・・・・・・・・・・・・・・知らないよ。今日だって行き成り名前を呼ばれて腕を掴まれたんだ。」

そう言って掴まれたであろう二の腕を摩(さす)る。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・二日前に起きた『失踪事件』、噂によると俺らの学校の生徒が行方不明になったらしい。そのメンバーが確か紀美野さんが共に活動していた友人達だったはずだ。そのことについて何か知っているか?」

その言葉に両肩をビクッ!っと震わせて硬直する。

掴んでいる腕は震え彼女の瞳には恐怖の色が浮かんでいた。

 

「(ビンゴだ。)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか、なら君は頷くだけでいい。俺の質問することに答えてくれ。」

和樹の言葉に多少の時間が掛かったが小さく頷いた。

「君は一昨日の深夜、彼ら・・・・・・失踪した少年たちと行動していた。」

「・・・(コクッ)」

黙りこくりながらも頷く紀美野。

 

「そして君は何らかの理由で彼らから一瞬離れたんだ。買い物かトイレ、他の理由でもいい。そして戻った時には彼らが何者かに連れ去られていくのを目撃した。」

「・・・・・・・・(コクッ)」

またも頷く。

 

「そしてその姿をあの男達の仲間に見られてしまった。故に君はアイツ等に襲われたのだろう、紀美野さんはその事を誰にも話せずけど連れてかれた友人達のことも気になり警察に通報した。それが昨日の朝だ。」

 

「・・・・・・・・・・・・・わ、私は!ほ、ほんのちょっと飲み物を買いに行ってただけなんだ、そしたら遠くで悲鳴が聞こえて、その方角が皆のいた場所だったからふざけて叫んでるんだろうと思って、そしたら、そしたら!」

次第と紀美野はボロボロ涙をこぼしていく。そのまま和樹の腕に捕まり泣き始めた。それを美香は彼女の手を優しく掴み和樹が彼女の肩を抱き寄せ軽く背中を叩いて彼女をあやした。

 

「良く頑張った。怖かったよな、友達が連れ去られていって奴等に見つかって。でも見捨てられなくて警察に話をして。君は本当に頑張った。」

 

紀美野は今度は自分があのように連れ去られてしまうかもしれないという恐怖の中、一人ぼっちで今日を迎えたのだ。

どれほど心細かったか、想像に難くないだろう。

その後暫く泣き止むまで彼女の傍にいて慰め続けた。

その姿を見た警察の人物が話をして和樹経由でその情報を警察に流し直様紀美野さんの護衛として婦人警官と刑事の人物が彼女につくことが決まった。

俺達にも警備がつくという話があったが状況が状況なためただ単に巻き込まれただけということでその日は両親に迎えに来てもらい無事に自宅に戻っていった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・この事件をさっさと終わらせよう。

そう和樹は心に誓い、今までの情報と地図を照らし合わせる作業を始めた。

 

 

○6

 

最初に事件が起きたのは○○県の△市、そこから順に□市、××市、○×市、≒≒市、そしてここの公園だ。

どこも此処に密集しておりそして団体という事でそう遠くへ連れ去るのもできないだろう。

魔術を用いた転移となるならば手に負えないがそれならば日本各地で行われるはずだ。

居なくなってもそうそうバレない存在、普段から素行の悪い者達を狙っていたのは短い期間で何らかの結果を残すため、・・・・・・そしてそれは単独での行動ではなくある程度の組織として活動している。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・人間を使った実験、か。」

 

そこまでの情報で和樹は今回の事件が人間を対象とした臨床実験の被検体確保だと決めつけた。

そうと決まった和樹は直様地図に印づけられている場所から計測して最も一目に着きにくい尚且つあまり人が寄り付かない場所を探し出す。

 

「・・・・・・ここだ。○○県とここの境目にある山の廃工場、ここならば人が近寄らない上に近隣住民にばれることはないだろう。」

 

魔術を用いた防音の結界を張れば廃工場の改造もできる。

近くに寄らなければその結界もわからないだろうからな。

情報をまとめて翌日の夜にその廃工場へ向かおうと結論を出し準備をしようとした時偵察として出したスタッグフォンが戻ってきた。

それが記憶した情報をPCで確認して驚愕する。

その中には今日襲われた紀美野さんがたった今誘拐されたという情報だった。

どうやら警察で保護を受けたあとに突然の停電と警察署への襲撃によって護衛の警察が死亡、紀美野さんは行方不明となっている。

(チッ!!まさか警察署まで乗り込んで目撃者を誘拐するとは!?まさか警察内で組織の者が存在するのか?日本政府、国家権力に真っ向から楯突いて無傷でいられる程の組織なのか。・・・・・・・それ以外に彼女で無ければ意味がないナニカがあるのか?)

苛立ちで舌打ちをうったがそこからの行動は早かった。

アタッシュケース内からメモリ銃、メモリ小刀、メモリ矛を装備しスパイダーショックを装着し部屋を出る。

ドタドタと一階に降りてきた和樹を見てリビングで寛いでいた両親と美香は驚いた表情で和樹に尋ねようとする。

 

「ど、どうしたの?!」

「すまない、少し出かけてくる。あ、俺が出たあとは鍵をかけておいてくれ!」

和樹は早口で捲し立てて靴を履いて玄関を出る。

 

「和樹!?」

「直ぐに戻るから、それじゃあ!!」

そう言って玄関の扉を閉める。

両手にグローブを填めてヘルメットを被る。スタックフォンによって自動操作されたバイクに乗って紀美野が捕まっているであろう山頂へ向かうのだった。

・・・・・・・

・・・・・

・・・

バイクによって数十分程かけて山奥まで続く道を行く。

そしてそこで道は途切れており『この先危険!』看板が立てられている。

視線の先は暗くて見えないがバイクのライトで照らした先には崩れた道が存在した。

和樹は静かに懐からデンデンセンサーを暗視モードを起動し覗く。

このデンデンセンサーは特別製でありこの世界でも対応できるようセンサーなどの感知は勿論のこと不可視の相手の認識と魔術的な事柄の感知が可能となっている。

それを発動しその奥に続く道を発見する。

どうやら認識阻害の魔術のみでセンサーなどは無いようだ。

和樹はデンデンセンサーを装着したままスタックフォンとフロッグポッドの2つを使用し襲われた警察署とは別の○○県の警察署に連絡する。

 

「はい、コチラ○○警察署です。」

 

『最近頻繁に起きている失踪事件の犯人の居場所が発覚した。』

 

「・・・は?」

 

『場所は○○県とこの前一昨日起きた誘拐事件の県との境目の山奥、そこに封鎖された道があるがその先が認識阻害の魔術がかかっている。そこを辿れば廃工場へと続いている。十分な装備と魔術知識のある人物を連れてくるよう各署に通達してくれ。』

 

「ちょッ!?待ってくだ・・・」

ブツッ!

要件を全て言い終え一方的に切る。そして懐にしまいバイクをフルスロットルで山奥の道を駆け抜ける。

真っ直ぐな一本道を走り続けた。

その道を走り抜けながら左手から赤と銀色の塗装のされた右側のみにスロットルが存在する機械仕かけの物体を取り出す。そしてそれを腹部に当てる、すると側面から銀色の帯が出現し和樹の腹部に巻かれていく。

完全に装着されたことを確認してどこからか取り出した黒色のメモリを握る。

そのメモリには『J』のマークが刻まれていた。

ボタンを押しメモリから『ジョーカー!!』と響いた。

 

『変身!』

 

それを左手で右側のみのスロットルに装填しそのまま左手で押す。

するとスロットは横方面に移動し『ジョーカー!!』と響いた瞬間、和樹の肉体を覆うように真っ黒の装甲がまとわりつく。

両目は赤い複眼式、黒い装甲に紫のラインが入り、そして頭部にはWマークの角が特徴の戦士、

 

「仮面ライダージョーカー」として変身した。

 

○7

Pi・・・Pi・・・Pi・・・Pi・・・Pi・・・Pi・・・

一定の機械音が鳴り響く、その静かな音の中で紀美野は目を覚ます。

ズキズキとした痛みが頭を襲うが耐えられないほどではない。

 

「・・・・・・・・・・どうして、・・・・・・・・・・・私が、・・・・!?」

 

口に出して辺りを見渡しているとある一つの物体が目に入る。

そして彼女はそれに駆け寄って叩き起こそうとした。

「アキ!アキ起きて!!」

紀美野が声を大にして発するとアキと呼ばれた少女は静かに目を覚ました。

 

「――・・・ユウ、なんで・・・・ここに?」

アキは弱々しく声を発する。服装は攫われる前に見た今時の服装ではなく病院患者が着るような膝まである白い服だった。

紀美野はそんな彼女を抱き寄せて立ち上がる。

「わかんない、でもここから早く出ないと!他の皆は?!」

 

「知らない。私達、あの後眠らされてて・・・・・」

ぐったりとした姿で辺りを見渡したアキは部屋の特徴を覚えようとする。

紀美野達が放置された部屋は一面が真っ白で6面全て色のない部屋だった。

あるとしたら紀美野とアキのみ。

どこから光が出ているかすら分からない部屋で紀美野達は必死に出口を探す。

 

「なんだよ、・・・本当に何処だよここはぁ!」

消えたハズの友人と再会した安堵が過ぎ去りこのままでは自分達はどうなってしまうのかという恐怖で彼女は震えていた。

何もない空間、それは人が思っているよりも精神的にダメージを負う。

それを改めて知った彼女は唯一の色であるアキに抱きより震えていた。

・・・・・・・・・・それから数分経ったのか。

それまで無音を通していた部屋の外から巨大な機械音が鳴り響いた。

機械音と言ってもどちらかというと巨大な歯車の軋む音だ。

そして彼女達は自身がゆっくりと下に落ちていく感覚に襲われる。

さながらエレベーターに乗った感覚に酷似していた。

 

「――――!?ぃ、ぃゃぁ!嫌ァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」

「アキ?!どうしたのアキ!!」

突如としてアキは激しく震えて叫び声を上げる。

ナニカに怯えるように嗚咽を吐き続けた。発狂したアキに紀美野はどうしようもなく狼狽えてただただ彼女を抱きしめ続けた。

そして下に降りていく感覚が収まり白い壁の一面がシャッターのようにゆっくりと上がっていく。

そして彼女は言いようのない光景に悲鳴すらも飲み込んだ。

 

「ヒッ!?・・・・・・」

白い壁の向こうには赤黒いシミが一面に広がった大人一人が横になれるほどの診察台のようなモノが並んでいる。

その奥には自身らがいるような真っ白な部屋と牢屋に似た檻がある。

そしてその中身を見て紀美野は絶叫する。

その中にいたのは人型を模した人ならざる者達が押し込められていたのだ。

真っ白い部屋では肌の色が変色し頭部が虫のような複眼を持ち、手足の関節が節足動物のように細くなっている。

檻の中に閉じ込められているモノはそれより更に醜悪で両腕と思わしきモノは人の顔に近いものがあり足と思われる部位には何本もの太い触手が生えている。顔は甲殻類のエビのように突出しており瞳には緑に近い液体がダダ漏れしていた。

それが壁一面に並びこちらを見ているのだ。10体や20体の数ではない。明らかに息をしていないであろうポットに詰められた生物も入れれば100体に届きそうな数がここに集められていたのだ。

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁxっぁxxッッtッッッッッ!!!!」

途中から叫び声にすらならない声を上げ紀美野は白い壁まで後ずさる。

「ほぅ、・・・・・・どうやら目覚めたようだね。」

地獄絵図に等しい光景を目の当たりにした紀美野の耳に確かにそう聞こえた。

男性の、老人に近い声が彼女の恐慌を一時的に抑えたのだ。

その声の元を探そうと紀美野は視線を泳がす。

それはどうやら紀美野の部屋の正面から聞こえた。

そこには巨大な扉を開き白い白衣とローブの間のような衣服を来た老人が紀美野に視線を送っていたのだ。

その表情は好奇な視線を彼女に当てており皺くちゃな顔を歪ませてにまぁッと嗤う。

 

「記念すべき100体目の素体にして最も適合率の高い者を引けるとは、私の運もまだまだ捨てたものじゃないな。」

ゆっくりとその老人は下へと続く階段をゆっくりと下り丁度中央にある診察台まで歩いた。

「な、なんだよ、・・・・・なんだよお前!アタシになんの用だよ!!」

震えながらアキを抱えて叫ぶ紀美野。

その老人は紀美野から見ても不気味であり異様な存在だった。

この醜悪な化け物達を前にしても一切の同様もせず寧ろその生物に近づき頭を撫でようとしている。

その老人の手を化け物は必死に避けようと牢屋の隅、部屋の隅へと逃げ込んだ。

明らかに異常な光景である。あのひ弱そうな老人がここの支配者だということを彼らは証明したのだ。

撫でようとし逃げた化け物を見て気を悪くしたのか能面な表情となり手に持っていた杖で、・・・・

ビュンッ!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・一突きで人で言う心臓部に突き刺した。

鋭い一撃をくらい苦しそうに悶えた後、老人が何らかの魔術を発動した。

その化け物は徐々にその醜悪な姿を変え人間に近い姿へと変わっていく。

そして暫くの痙攣を起こしてまるで糸が切れたかのように手足が投げ出された。

紀美野はその化け物の顔がコチラに向いた瞬間、絶句した。

先程までの化け物は中学で同じグループにいた同学年の生徒の面影があったのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・ヒロト?」

返事がしないと理解しながらも目を見開いて確認する。

顔には先程までの化け物の特徴である触覚や複眼、手足の変化などが残っているものの人間らしさの残る部分には彼女の友人である少年、ヒロトであったのだ。

そして紀美野は理解する。

ここに閉じ込められている醜悪な化け物達は元は彼女と同じ人間、しかも彼女の同じグループにいた友人達なのだということに。

 

「・・・・・・・・・・・・私の指示をマトモに受け付けないとは、矢張り失敗作は嫌なものだ。そうは思わないかね?」

化け物を殺した老人はまるで何でもないかのように紀美野に話を続ける。

 

「ヒロト、・・・・・・なんで・・・・・・・・・・・・・どうして?」

紀美野は先程までの光景を受け付けられなかったのか何度も声に出して否定しようとする。

「ん?ナニカおかしなことでもあったのかね?」

そんな紀美野の状態に理解できないというように首をかしげる老人。

そこで漸く紀美野は老人に顔を向けた。

その瞳には先程までの恐怖の他に表現できない程の怒りを宿していた。

 

「なんで、なんでヒロトがあんな化け物みたいになってるの?!なんなのアンタは!?なんだよ、何なんだよ!!」

しまいには涙を流して老人に訴える。

老人はそんな彼女の精神状態なんぞ気にせず、それよりも自身が名乗りをしていないことに気付き侘びを入れて優雅にお辞儀をした。

 

「これはすまない。私はジェネラルド、ジェネラルド・ヴァンドゥ・リジターナ博士だ。若い時代から魔術を学びかの栄誉ある賢人会議(ワイズメン・グループ)に所属させていただいている。」

役者のように大袈裟な素振りで会釈をする老人、ジェネラルドは、にまぁッと擬音が聞こえるような笑みを崩さず嬉しそうに、とても嬉しそうに語った。

 

「さて、確か君をこの素晴らしき儀式の場に連れてきた説明をしなくてはいけなかったね。我々賢人会議のメンバーはその一人一人が優秀な大魔導師であり、優れた功績を持つものばかりだ。かくいう私も「魔法生物学」での偉業を認められた魔術師であるがね。」

ジェネラルドは黒い革靴をカツカツと鳴らしながら診察台に手をかけてそれを愛おしそうに撫でる。

 

「しかし・・・・・そんな優秀な我らですら解決できない難題が、壁があるのだよ。分かるかね?」

首だけを紀美野の方に曲げ視線で彼女を見る。

紀美野は答えない、いや答えられない。

男が言っている意味が一切理解出来ないからだ。元々勉学を好んでいなかった彼女は当然魔術関連も無知である。

しかも彼女の魔力回数は2桁。つるんでいたグループ内ではトップだがそれでも魔術師、魔導師となるには到底届かない数値だ。

そんな彼女に老人の意味することなど解るはずがなかった。

ジェネラルドも答えられないことを理解しているようで勝手に語る。

 

「寿命だよ、我々大魔導師は各々の魔力を研究の全てに注ぎ込んでいる。その為万とあった回数がいつの間にか2桁に落ち込んでしまった。我々魔術を扱う者にとっては死に等しいことだ・・・・・・・・そして我らは求めたのだ、『死を超越する者』を!我々の持つ知識と魔術、そして新たな科学技術を用いて研究を開始したのだよ。そして、遂に・・・・・・遂に!その片鱗たる力の引き出す方法を確立したのだ!!」

段々と激しく、声が大きくなり彼は演説を続けた。

 

そしてそれが一旦終わると懐から黒い球体を取り出し顔に当てた。

一瞬・・・眩い光が辺りを包み込む。光の発光が収まると老人がいた場所には虫特有の毛に覆われた肉体に肥大化した口、その口は蜘蛛のような形をしており両腕両足は爬虫類に類似した肌となった。目は人の骨格では想像できないほどに大きく虫の複眼を思わせる。背には甲殻類の甲羅が付いている。更に身体のあちらこちらに機械が埋め込まれている。

最も違うのはその威圧感だ。紀美野は全身がナニカに引っ張られて身動きが取れないような感覚に襲われる。

キメラ。

その単語が紀美野の頭の中でチラついた。

 

「ぁぁ・・・・・・ァァァァァァァァァァァァァ!?」

 

抱きしめていたアキはソレを目にすると再び発狂したように絶叫した。

アキだけではない、純白の部屋に閉じ込められた化物が牢屋に押し込められた化け物がアキと同じように叫び声を上げる。

 

「あ、アキ!?アキ!!どうしたの、アキ!!」

『フフフ、安心したまえ。』

ボヤけたような声でジェネラルドは紀美野に告げた。

 

『彼らは私から放たれるエネルギーに当てられているだけだ。』

蜘蛛のような口をもぐもぐと動かして近くの牢屋に手を向けた。

そこから魔術印のような紋様が爬虫類の腕に刻み込まれ掌(てのひら)に魔力が集まっていく。ソレが牢屋の化け物に当たったと思うとあっという間に崩れ溶けていった。

既に身体の9割が溶けていって元の形が分からない、ソレを見せつけながら狂ったように嗤いだした。

 

『くっふっふっふっふっふっふっふっふっふ!!どうかね、素晴らしいだろうこの強大な力が!我々は遂に死を超越する力を手に入れたのだ。これが新たなる人間の在り方!魔法回数による死を克服し人間であった時よりも遥かに長い寿命を得る存在、これを『世界の結晶』と名付け新たな姿を『結晶化』と表した!あらゆる偉人や賢人が求めた究極の進化の頂点だ!』

演説を言い終えると狂ったように嗤う、わらう、ワラウ。

それに耐え切れなくなり紀美野は叫んだ!

 

「訳わかんないわよ!それがどうして私達と関係があるのよ!!!」

ピタリと笑うことを辞めてジェネラルドの複眼が紀美野を見る。

再び重圧に押しつぶされるような威圧により声がでなくなった。

 

「・・・・・・・・あぁ、すまないね。話が脱線しすぎた。君達がここに収容されたのは、まぁ簡単に言えば意味はないのだよ。」

ジェネラルドは再び激しく発光し元の皺くちゃな老人へとなり話を続けた。

 

「一昨日の昼くらいかな?我々の研究員の一人が誤って被検体P-82を逃がしてしまってね。当初彼女は治療してそう時間が経っておらず人型のまま逃げ出したのだ。そして外部で結晶化し外にその存在を知らしめた。我々としても無駄に姿を晒す訳にもいかないため深夜にその被検体の処分を敢行したのだよ。そして、・・・その被検体が最後に寄ったのが君のお友達が集まっていた場所だった。処分を完了し目撃者となった彼らを捕らえたまでは良かったのだが、紀美野君・・・・・・・・・・最後の最後で君だけを漏らしてしまってね。さっさと処分するつもりだったのだが、これを見て欲しい。」

パチンッと大きな音をたてたと思うと老人の後ろから巨大なモニターが出現した。

それには紀美野を象った映像が流れておりその隣では意味不明の文章、そして95%という数字が記されていた。

 

「この数値は結晶化する際の適合率を表したグラフだ。ふふふふふふ、いつ見ても惚れ惚れするよ。紀美野君、貴女は今までの被検体となった誰よりも『世界の結晶』との適合率が高いのだ・・・このような奇跡そうそうお目にかかれまい。それだけではない!これを肉体に埋め込みその力を操作出来るようになれば新たなる存在へと君は昇華出来る!!私は震えたよ、被検体P-82が逃げた時は自身の不運を呪ったがこれを知るための神のお導きなのだと!!この少女を手に入れる為に小さなハプニングが起きたのだと!!」

 

グルンッ!と勢いよく紀美野に振り返る。

 

「紀美野君!!素晴らしいとは思わないかね?我々賢人会議が長年求めた不老不死に最も近いのは他でもない紀美野君自身だったのだよ?!苦痛だったのではないかね?魔術を思うように使えない日々は、屈辱だったのではないかね?自身よりも魔法回数が多いだけの存在が我が物顔で世界を牛耳るのをただ見ているのは?安心したまえ。君は生まれ変わるのだ・・・・・・・この『世界の結晶』によって人知を超えた神に等しき存在へと!!」

老人は紀美野に、正確には紀美野が抱えているアキ目掛けて何やら呪詛のような言葉を呟く。

 

「ガッ!!?アァァァ、あぁァァァァァァァァァァァァァァァァAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa?!!?!!」

抱きしめていたアキは突然激しく暴れだし紀美野から離れた。

そしてアキの身体は発光し姿を変える。

数秒後、アキが立っていた場所には人の胴体を持ち両手両足が虫のように細くなり、その背には蝶を意識したような4枚の巨大な羽が生えていた。黒い髪で前顔が見えないが長い日本の触覚が見えた紀美野はアキが人ならざるものに変貌したことを認識した。

「―――――・・・・・・・・・・・・・・ァ・・・・・キ?」

言葉が出ない、声にならない、何故?何故アキがアイツと同じ化物になってるの?

そのような思いだけが頭をよぎりそして困惑する。

「どうだね?素晴らしいだろう、彼女は今まで実験してきた中で唯一人の姿を保ち、知識を持った『結晶化』の被検体、P-99なのだよ。」

 

老人はまるで自身の孫を愛でるように嬉しそうにいう。

被検体。

その言葉が彼女の脳裏に響き理解した。

当然と言えば当然だ。

他の人物が化け物に変貌し彼女だけ何もされてないなんてことはない。

あの事件から2日。それだけあれば人一人を改造するのにそう時間はかからないだろう。

 

『Kyururururururururrururururrururururururururruru!!!』

 

アキ(結晶化)は奇声を上げて老人の下に向かい、その後ろにあるヒロトの死体に食らいつく。

そして口から生えた長い触覚のようなものでヒロトの死体を突き刺し、

ギュルルルルルルルル!!!

凄まじい吸引音でヒロトからナニカを吸い出す。

吸われていくヒロトは次第に革のみとなりぺっちゃんこになっていった。

彼女はヒロトの死体から肉を吸い取ったのだ。

肉だけではない、骨も血も内蔵にあるであろう廃棄物全てを吸い取り捕食した。

それを理解した紀美野は抑えきれない吐き気によって嘔吐してしまう。

気持ち悪い、狂っている。

そんな負の感情と悲鳴に近い考えが彼女を崩壊寸前まで追いやったのだ。

 

「ふむ、余程腹を空かしていたのか。・・・・・・・まぁいい、あんな彼女だが私の命令を聞き従うことができる唯一の成功例だ。君も見ていただろう。彼女の人間時の姿を・・・・・後何度かの調整と改良を加えれば人型を維持できる『結晶化』怪人として完成するはずだ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・勿論、君もその例に入ってもらうよ紀美野君。いや、被検体P-100。」

 

そう言うかと思うと突如として白衣を着たマスクを付けた男性達が紀美野を取り押さえる。

 

「―――――!?な、何するんだよ、離せよ!!」

 

気持ち悪さと吐き気により行動が遅れ紀美野は取り押さえられる。そしてそのままジェネラルドのそばにある診察台に縛り付けられ完全に身動きがとれなくなった。

 

「ふ~、・・・・・・・そう怖がらないでくれたまえ。ほんの一瞬の間のみだ。そうすれば君は未だ人類が到達できない英知と優れた肉体を手にするのだ。」

 

恍惚とした表情で男性達に指示を出す。

そしてジェネラルドは少し下がり変わりに紀美野の頭上から細長い機械が現れた。

それまるでチェーンソーの刃のように、

Kiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiin!!!!

彼女の頭上で高速に回転しだす。

 

「・・・・・・・・・・・・あぁぁ・・・・・」

 

余りにも非現実的な光景と自身のあんまりな絶望さに声が出せない。

もう叫び声すら上げる余力がなくなっていったのだ。

そしてその刃はゆっくりと紀美野の腹部に近づき、・・・・・・・・

 

「ッラァァァァァァァァァァァッッ!!」

黒い影がそのチェーンソーの側面を思いっきり吹き飛ばす。

まるで車に跳ねられたような衝撃によってチェーンソーは傍にいた男性に突き刺さり刻み始める。

「ガァァァァァァァァァァァッッ!?」

激痛により叫び声を上げ痛みにより男性はショック死した。

それでもチェーンソーは回り続け止まったのは男の股間部に届いた辺りだった。

ジェネラルド博士を初め白衣の男達は動揺していた。

紀美野は薄れゆく意識の中その後ろ姿をただ見つめていた。

黒かった。タダ只管、まるで鎧のような逸脱なデザインに真っ黒な頭部。しかしそれは先程まで紀美野が見ていた化け物達とは違い何処か機械的で球体に近く洗練されていた。

 

「誰だ、なんだ貴様は!」

 

ジェネラルド博士の声が響く。

黒い影は左手を上に指してこう告げた。

 

「俺は仮面ライダー・・・・・・ジョーカー。」

 

そこで彼女の精神の糸が切れる。

そのまま深い深い眠りについていった。

黒い影、それだけを覚えて。・・・・・・・・・・・・

 



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後半

○8

 

「ッラァァァァァァァァァァァッッ!!」

気合の入った叫びをあげ拳をチェーンソーに突き出す。

その力によって繋がっていたパイプを折り紀美野に触れる前に吹き飛ばした。

その直線上に研究員が存在し彼が両断されてしまう。

それを認識しながらも仮面ライダージョーカー・・・・・式森和樹は老人を睨む。

 

「誰だ、なんだ貴様は!」

老人の叫びに和樹は左手を上につき出しこういった。

 

「俺は仮面ライダー・・・・・・ジョーカー。」

 

仮面ライダー。それは戦士達の名称、和樹が最初の生で得た戦うための力。

様々な戦士たちとの出会い、そして継承によって彼の中に生き続けている正義の力。

和樹は数十体に到達する化け物たちを前にしても臆することなく堂々と名乗った。

 

「貴様が今回の連続集団失踪事件の黒幕か。」

 

赤い複眼が光る。

それは怒りを表しているかのように仮面の下からギラギラとした視線が感じられた。

それに老人、・・・・・ジェネラルド博士は後ずさる。

それに気づいた老人はハッとしそして顔を憤怒に歪めた。

醜い皺くちゃな顔が更に歪む。先程の悦は無く激しい憎悪によって。

 

「ならば何だ?警察に突き出すか?この私を?崇高な大魔導師であるこのジェネラルド・ヴァンドゥ・リジターナ博士を!?」

次第に荒々しくなる口調を抑えきれず老人は口汚く罵る。

 

「貴様のような下等生物であるような愚かな存在が私を捕らえるだと?!思い上がるな!!」

ジェネラルドは呪文を唱えると一斉に檻と純白の部屋のロックが解かれそこから化け物・・・・改造された被検体が飛び出してきた。

 

「やれ!その者を殺せ!!相手は一人だ、さっさと片付けろ!!!」

ジェネラルドは被検体たちに命令した。

彼らに意志はない。記憶も無ければ知性もない。

ならば何故彼らはジェネラルドの命令を聞くのだろうか。簡単な話だ、彼ら全員の頭の中に特殊な装置を取り付けられている。

それを魔術を用いて操作し簡単な命令ならば反応できるようにしたのだ。

彼らは完全な怪人と成り果ててしまったのだ。

怪人たちは中央の診察台へとにじり寄る。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そろそろだな。」

和樹がそう呟くと突然彼らの頭上、天井の一部が崩れた。

それの直撃と土煙で怪人たちは怯む。ジェネラルドも例外ではなく目に手をあてて収まるのを待った。

そしてジェネラルドはそれを見て目を疑った。

何と空には機械仕かけの人形、ロボットが飛行していたのだ。

それはゆっくりと着陸し和樹の傍に降りる。

バイク型自動変形ロボ、『オートバジン』は無言で和樹を見た。

和樹は拘束されていた紀美野を抱きしめオートバジンに手渡す。

 

「お前はこの娘を。コイツ等は俺がやる。」

和樹から紀美野を受け取ると無言で頷き先程開けた穴まで戻る。

 

「させるか!!」

ジェネラルドは魔術を発動し炎を放とうとし、

ッタァァァンッ!

銃声が響き老人は腕を抑えた。

ジェネラルドが視線を向けると銃口を向けた和樹がジェネラルドに向けて構えている。

これによってオートバジンは無事に脱出していった。

 

「殺せ!あの男を殺してしまえ!!」

ジェネラルドの怒号と共に怪人たちは一斉に襲いかかる。

和樹は拳を握り締めその怪人たちの波の中に飛び込んだ。

高々と跳んでからの一撃は落下地点の怪人を軽々と吹き飛ばした。そして屈んだ状態から足払い、これによって押しつぶそうとしていた怪人等は自身の体重を抑えきれずに倒れてしまう。だがそれはほんの数体に過ぎない。

地に伏せた怪人を踏みつけて更に怪人たちが飛びかかってくる。

和樹は一人の怪人を掴みそれを一本背負いの要領で投げる。

ビュッ!!

鋭い音が和樹の側面から聞こえた。

咄嗟に顔を引き後方に跳ぶ。着地と同時に襲いかかってくる怪人たちに回し蹴りを食らわし怪人の死角から脇を狙って拳を放つ。

キュィィィィィィィィィィィィィンッ!!

先程のチェーンソーと同じような音に和樹は反応し壁を背にし振り返る。

視線の先には両腕を変形させて生物的な腕から機械的な武器へと変貌していた。

あるものは剣を、あるものはノコギリを、あるものは銃に似た武器を。

それだけでは無い。

ここまで和樹がここまで潜入してくる際に倒してきた研究員と同じ格好をした者達もゾロゾロと集まってきていた。

 

「数で押されるか。・・・・・・・・」

 

それを確認しドライバーを一旦元の位置に戻す。

そしてジョーカーへと変身するメモリ『ジョーカーメモリ』を抜き取り変わりに赤色のメモリを取り出した。

『ヒート!!』

それをスロットに装填し発動させる。

するとジョーカーの黒い鎧が炎に包まれ赤く、紅く染まっていく。

その吹き出した炎によって近くにいた怪人たちは炎に包まれてしまい地を這って藻掻く。

 

「仮面ライダー・・・・ヒート。」

 

和樹・・・仮面ライダーヒートがそう告げるとその両腕に炎を灯しそのまま両腕を前方に突き出した。

一気に約1500度の火炎放射が怪人たち、並びに研究員たちに襲いかかる。

彼らは目の前の黒い敵が一瞬で紅く染まったことに驚愕し身動きがとれなかった。

それが命取りとなる。

鉄をも溶かす炎に怪人たちは腕が炭化し行動不能となっていくが軽い武装を施した程度の研究員では耐えられず魔術を発動する暇もなく炭となっていく。

そこまで戦闘し和樹は気づく。

この場にジェネラルドがいないという事に。

 

「くッ!?」

追いかけていったか!と和樹は舌打ちを打つ。

今から追いかけようにも未だに10~20の怪人が襲いかかってくる。

中には手足を欠損した者もいるがそれでもお構いなしに立ち上がり若しくは這いずってこちらに近寄る。

 

「コイツラ、痛覚を持っていないのか?それともそれすら理解できないほどに知能が失われているのか。」

 

和樹は今この場に存在する怪人たちが元は誘拐された少年少女達ではと思っていた。

ソレを証明するモノは多々有り、ジェネラルド博士等が行っていた研究のデータを垣間見ていた。

そして長年の経験からによる直感が彼らが被害者であるという事に直結したのだ。

今の和樹には彼らを元に戻す力は無い。

仮に魔術的変化を元に戻しても肉体に埋め込まれ弄られた機械等は取り除けないだろう。

時を戻す術を持たない限り・・・・・

倒すに倒せない、そのようなジレンマが和樹を襲うとき一人の怪人が前に出てきた。

その姿は先程の炎に巻かれて身体のあちこちが炭化していたが外見から思うに蝶型怪人であろうと理解した。

その怪人はガラガラな声で、だが和樹に伝わる声でこういった。

 

『ゴ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ロジ、デ・・・・・・・・・・ボ、・・・ロジデ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゴロジデ・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

そう告げた怪人はその虫のような複眼から緑色の涙を流していた。

それだけでは無い。

その後ろにいた怪人達も、ポット内に閉じ込められて身動きが取れない怪人達もが大量の涙を流していたのだ。

その涙からは自身のどうしようもない悲しみが、絶望が激しく伝わり和樹は無意識に震えた。

キツく握る拳が激しく震える。恐怖からではない、果てしない怒りから握った拳が解けない故の震えだ。

和樹はその願いを、・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

無言で頷いた。

自身が出来るたった一つのことをする為に和樹はベルトのメモリを抜き取る。

そしてベルトのサイドに付いているスロットに装填する。

『ヒート!!マキシマムドライブ!!』

機械音が部屋中に響く、同時にヒートの身体が炎に包まれる。温度は1000度を超え2000度、3000度と上がっていく。

和樹の足元が融解していき近くにいた怪人はその熱に焼かれて一瞬にして灰になった。

 

「まだだ、まだ足りない!!」

 

そう叫んだ和樹はもう一度スロットのスイッチを押し発動する。

『ヒート!!マキシマムドライブ!!』

二度目のマキシマムドライブによって深紅に染まったボディが見えない程の激しい炎に巻かれていく。

ゆっくりとヒートは上昇して纏っていた炎が徐々に下へ向かい両足に計りきれない程の熱量が移動していく。

そして、・・・

 

「ヒートエクスプローション!!!」

 

そのまま一気に落下し地面を蹴りつける。

その莫大なエネルギーはその衝撃と共に研究場を爆発させていった。

 

『・・・・・・・・・・・・・・ァ・・・リガド・・・・・・・』

 

消えゆく彼らからそのような声が聞こえた気がした。

 

○9

 

怪人の群れから脱出した紀美野はロボット、オートバジンが開けた穴から一気に地上まで戻っていく。

オートバジンによって救出された紀美野はあんまりにも急な展開で思考を放棄していた。

ただ硬い機械の腕にしがみついているのに必死だった。

鉄臭い地下の空気から新鮮な空気に変わる。ソレを肌で感じながら紀美野は地上にたどり着いた。

 

「―――――――――ッ、アキ?」

 

暫く呆然としていたがふと先程まで傍にいた少女のことを呼ぶ。

どうしてこうなったのか、最早彼女には何も理解できなかった。ほんの数日前は笑顔で笑いあっていた友達の変わり果てた姿を見て何を信じていいのか分からなかった。

一体誰のせい?誰がこんなふうにしたの?思考が廻りだした時にはその問答を繰り返し続けていた。

そして先程までいた地下の場所の上には廃れてあちこちが壊れている廃工場が視界に入った。

 

「あ、あの!待って、待っててば!!」

 

機械の肉体(ボディ)を叩いて静止を呼びかける。

十分に離れたと判断したオートバジンはその静止の声を聞く。

 

「下ろして!」

 

無言を貫くオートバジンは静かに紀美野を下ろした。

彼女の足が地に着くと同時に紀美野は先程の廃工場に向かって走り出そうとした。

それを瞬時に察知し紀美野腕を掴む。

 

「離してよ!あそこにはアキがいるのよ!」

 

必死にその腕から逃げ出そうと藻掻く(もがく)がその動きにもオートバジンが対応し引き止める。

紀美野はあの場所に残してしまった変わり果てた親友に意識を取られすぎていた。余りの展開で正しく現状を理解していなかったのだ。紀美野の親友を変わり果てた姿に変えた元凶が今まさに「紀美野を狙っている」ということを理解できないでいた。

腐乱臭と錆びた鉄の臭いに紛れて何かの臭いが近づいてきているのを紀美野は理解する。

 

「フフフ、・・・・・私はついている。大切な実験材料に逃げられたと思ったら私の迎えを待っていたのだからな。」

聞きたくない声を耳にし彼女の身体が怯み上がった。

直様オートバジンは背に隠しタイヤ型の大きな盾を全面に出す。

 

「主人を待つとは本当に可愛い被検体(ペット)だ。さぁ一緒に戻ろうではないか。」

 

「・・・・・・・・・・・・・ぁ、アンタなんかと、戻るわけ無いでしょ!アキを元に戻してよッ!!」

紀美野は震えながら叫ぶ。

ジェネラルド博士は首を傾げていう。

 

「アキ?・・・・・・・・・あぁ、君が抱きしめていた被検体P-99のことか。」

ジェネラルド博士は納得したように軽く頷きそして口にする。

 

「彼女は今までの実験体の中で唯一の成功体なのだ。肉体を開きその中に動力源となる魔力宝玉によって魔力消費を抑えてナノマシンによる肉体改造と機械化をしている。それによる拒絶反応は現れずにいる、本当に素晴らしい被検体だったよ。」

恍惚とした表情で紀美野に語りかけるジェネラルド博士。

それを紀美野は硬い鋼鉄の肉体(ボディ)にしがみつく。その腕に多少だが力が入っているのが分かる。

 

「そして一番の予想外だったのはアゲハ蝶の結晶との適合率が想定よりも上位にあったことだ。」

両手を大きく広げて大げさに言う。

ジェネラルド博士に気を取られていた紀美野は気付かなかったが彼の後ろとは違う出口から白衣を着たマスクをつけた男たちが数人出てきたのをオートバジンは認識した。

 

「本当に素晴らしいかったぞ?肉体から臓器と子宮をいう邪魔なモノを取り除き生命生存装置を付けた。その後にアゲハ蝶の結晶を植え付けた時、遂に人間と結晶体の行き来を可能とした生命体として完成したのだ!!その時の興奮を君は分かるかね?いや分かるまい!!あの時の私の興奮は言いようのない「そんなことが聞きたいんじゃないわよ!!」―――?」

 

「私が言ってるのはアキを元に戻せって言ってるの。あんな化け物な姿に変えられて!さっさと元に戻してよッ!!」

――――――――――――・・・・・・ククク、ははッひゃぁっはははっはっはっはっははははははははははははははは!!!??

数秒の硬直からタカが外れたようにジェネラルド博士は嗤いだす。

可笑しくて、愚かしくて堪らないようだ。そして・・・・・彼は残酷な現実を告げる。

 

「元に戻す?何を?どうやって?無駄だよ、既にアレは脳までも改造してある。それにだ、内蔵の殆どを摘出されて研究所のパイプで辛うじて生き残っている彼等はもうマトモに生きていけんよ。」

 

「ど・・・どういう」

 

「考えてみたまえ、特に訓練も精密な調査をしていないでその肉体に機械を埋め込めたのだぞ?それも人が生きるために必要な機能が欠損しているな。仮に魔術で元に戻してもそのボロボロな肉体では1年も生きられん。」

紀美野はその説明を受けて次第に涙が流れていった。

 

「それに、どうせ魔術の知識も無い君達では人生というものを浪費して終わるだけだろう?ならば我らの偉大なる研究の柱となれることに光栄に思うべきだ。」

そこで言葉を止めジェネラルドは指示を出した。

 

「捕えろ。あの機械は破壊して構わん、そろそろあの下等生物も私の実験体によって押しつぶされているだろう。」

男達は無言のまま頷き・・・・・

 

バァァァァァァァァァンッッッ!!

男達の後方から激しい破裂音と爆風が吹き出す。

廃工場の傍にいた男達はその爆風によって吹き飛ばされ、ジェネラルド博士も爆風を受けたが何とか魔術を使用し耐えた。

オートバジンは紀美野を脇に掴み後方へと飛ぶ。

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

爆風が収まり紀美野が顔を開けるとそこには巨大な黒煙が登っている廃工場跡と呆然としたジェネラルド博士の姿が目に入った。

 

「そ、・・・・そんな?あぁぁぁッッ!!私のッ!?私の研究がぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁあぁぁッッ!!?」

膝を付き激しく頭を掻き毟り発狂するジェネラルド博士。

大声を上げたジェネラルド博士を見ていた紀美野だったが視界の端で黒煙が形を変えていくのを視認した。

黒煙が突如大きく広がったと思うと一気に霧散して中から黄緑色に近い鎧を身に纏い首に白いマフラーが靡く(なびく)。

それが宙に浮いておりそのままゆっくりと大地に着陸した。

 

○10

 

「き、貴様が、貴様がやったのかッッ!!?」

グッと起き上がったジェネラルド博士は傍からでも分かるほどの殺意と覇気を放って黄緑色のライダーを睨む。

紀美野はジェネラルド博士の背後からしか見ていないがその恐ろしい殺意に再び硬直してしまった。

「・・・・・・・・・・・・・あぁ、地下にあった書類とデータ、そして彼らは俺が眠らせた。後はお前とそこに転がっている奴等だけだ。」

ゆっくりと腕を上げたソレはジェネラルド博士を指差した。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おのれ。」

ボソッと呟いた言葉と共に懐から結晶を取り出し顔に押し付ける。

その瞬間、ジェネラルド博士の身体が発光しその形が変化していく。

各部の形態が別々の姿純粋な生き物と呼べないモンスター・・・・キメラ結晶化。

 

『オノレオノレオノレェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッッ!!!』

人の声とは違うガラガラとした聞き取りにくい奇声を上げるジェネラルド博士(キメラ)。

そのまま勢いをつけてジェネラルドは突撃してくる。

「ッ?!フッッ!!」

咄嗟に反応した戦士は右手を横に一閃する。すると振った先から風の刃が出現しジェネラルドの肉体を切り裂く。

胸を抉るように右腕を切断した。

 

『Gaaaaaaaaaaaaa!!』

その一撃によって攻撃が逸れて地面を転がる。

蜘蛛の口から粘ついた涎を垂らしながらライダーを睨む、更にその状態から唸り声を上げ・・・・

『GYAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』

切り裂かれた腕が抉れた胸から生えるように再生した。

 

「・・・・・・・・・・・トカゲの尻尾・・・いや蟹の再生能力か。少なくとも切った程度では倒しきれないのか。」

紫の血で濡れた右腕を軽く動かしある程度慣れた所でライダーを威嚇する。

 

「いいぜ。とことん相手してやるよ、・・・・この仮面ライダーサイクロンがな。」

両腕に風を纏い拳にその暴風を込めた。

先程と同じように突撃してくるジェネラルド、それに今度は肉弾戦を持ち込もうとする。

サイクロンが懐に飛び込み拳を放つ、それを受け止めたジェネラルドだったが風が巻き起こす回転力によって身体が持ってかれる。

巨体200キロ超をしている怪人でも竜巻級の威力にはなすすべが無かった。そのままバランスを崩し地を転がった。

 

『が・・・GAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaa!!!』

肉弾戦及び接近戦では部が悪いと察したジェネラルドは更に距離を開き魔術を展開する。

風の攻撃には風の魔術を、そしてサイクロンの操る風の力と回転方向を理解しその逆回転の風魔術を行使し10・・・20・・・30と連続で放っていく。

サイクロンは空中に逃げ最初の攻撃を躱し後からの追撃を自身が作り出した風の刃で相殺した。

その攻防が暫し続いたが最後の一撃を放ったジェネラルドは再び魔術を行使しようとして遅れた。これを好機と見たサイクロンは迷わず接近し右のアッパーを放とうとし・・・

ニヤリ

ジェネラルドの顔が急に上がる、そして蜘蛛の口から白く太い一本の超粘着糸を射出した。

咄嗟の回避が成功せず右足にその糸が付着する。

そしてジェネラルドは思いっきりその糸を掴み地面に引き吊り下ろそうした。

 

「・・・ぐぁッ!!?」

素早さで勝るサイクロンだったが単純な腕力ではジェネラルドの方が上手だった。為すすべもなく地面に叩きつけられるサイクロン。

「がはッ!?」

衝撃で肺の空気が一気に口から出る。サイクロンは歯を噛み締めて立ち上がり糸を切断しようとした。

しかしそう簡単に糸が取れず地面や木々に叩きつけられる。

それを二度、三度、と繰り返し行われ次第に引きづられていく。

 

「―――――ッ!この、・・・ならこのメモリだ!」

地面を思いっきり叩きつけ身体を宙に浮かし同時に黄色のメモリを取り出す。

そしてスロットに装填された緑色のメモリ『サイクロンメモリ』を取り出し『ルナメモリ』を装填する。

『ルナ!!』

黄緑色のボディから黄色のボディへと変化していく。

「変わった!?」

紀美野は漸く硬直が解けそれだけを口にすることが出来た。

 

『グァァァァァァァァァァァッ!』

ジェネラルドはサイクロンから変わった事を気にも止めずに再び力尽くで引っ張る。だが・・・

 

「フッ!!」

 

引かれる力に合わせるように足を蹴り出す、するとその足の先が伸びそのままジェネラルドの顔面を蹴った。

常識外の攻撃にジェネラルドは対応できずモロに食らってしまい吹き飛ばされた。

同時に着地したライダーは右手でLを形どり・・・

 

「幻想の戦士、仮面ライダー・・・・ルナ。」

 

そう告げた。

ジェネラルドは立ち上がりもう一度蜘蛛の糸を引こうとしてルナメモリの能力が発動する。

グニャッとジェネラルドの腕が曲がったのだ。

 

「ルナの力、それは相手にも通用する。今お前の肉体から両腕の感覚を奪った。」

そう言ってルナは離れた距離から拳を飛ばす。

中距離からの接近戦という矛盾の戦闘スタイルでジェネラルドを殴り続けた。

右ストレート、左アッパー、更に回し蹴り。

攻撃を受けてよろけるジェネラルド。逃げ出そうとした両足の感覚を変化させて棒立ち状態にしたのでそう動けない。

両手を伸ばしジェネラルドの頭を掴む、そして今度はコチラの番とでもいうように振り回す。ハンマー投げの要領で振り回して木々にぶつけ、その後投げ飛ばした。

その時には足に付いた糸は取れており拘束は解除された。

 

「・・・・・・・終わらせる。『ジョーカー!!』」

もう一度黒いメモリ、『ジョーカーメモリ』を手に持ち『ルナメモリ』と取り替える。

 

『ジョーカー!!』

再び黒い鎧の戦士、切り札のライダージョーカーになる。

未だにジェネラルドは叩きつけられたまま起き上がれない。元々は魔術師、しかも老化によって肉体が弱っていたのだ。結晶を用いた強化でも元のスペックが低い状態ではそう持つまい。

フラフラと木に手をかけて立ち上がる。

震えるように弱った異形の声が響く。

 

『・・・・何故だ?何故、私の邪魔をするのだ。私の魔術は研究は・・・・・・人類の、新たなる進化の為に・・・・・・・』

まるで子供が嘆くように、ジェネラルドはそう呟いた。

 

「・・・・・・・・違う、それは違うんだ。貴方がやろうとしているのは進化なんかじゃない、ただ死を逃れようとしていただけだ。恐怖から逃れようとしていただけなんだ。貴方が築き上げてきた全てが消えてしまうのが、貴方が生きた証しが消えるのが怖かっただけだ。」

ジョーカーは静かに、それでいてはっきりとした口調で答える。

赤い瞳には先程までの怒りの色は無く、唯々哀しみが浮かんでいた。

 

「死は怖い、誰だって怖い。自身が消えてしまうように感じ、皆との絆が途切れたように感じる。辛く切なく、冷たい・・・・・・・けどそれでいいんだ。だって人は死ぬために生きているんだ、必死に生きて必死に足掻いてそれで尚未来を掴もうと手を伸ばし穏やかに永眠(ねむ)る。それが人だ。」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嫌だ。私はそんな在り来たりな人生を、凡人と同じ人生を歩みたくない。私は大魔導師だ!選ばれし者だ!そんな私が何故こんな惨めに散らなければならないのだ!有り得ない、あってはならない!絶対に絶対にッ!!』

 

そう告げたジェネラルドの背についている甲羅が突如として割れた。そしてその中から数枚の半透明な羽が生えて激しく羽ばたかせる。羽の動きが見えなくなった時には空高く飛び上がろうとしていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ジョーカーは無言で『ジョーカーメモリ』を引き抜き右腰に付いたスロットに装填する。

『ジョーカー!!マキシマムドライブ!!』

右手の拳に力を込める。そこにジョーカーの力が集まり黒と紫の中間辺りのような色の発光が妙に禍々しく、雄々しく感じた。

 

「・・・ライダーパンチ。」

小さく告げたジョーカーはジェネラルドに向かって跳ぶ。

それを察知したジェネラルドは魔術で迎撃したが、どれだけ攻撃を当ててもジョーカーは止まることは無く、・・・

 

「オラァァッッ!!」

遂にその拳はジェネラルドの顔面を殴りつけた。

意識が持ってかれそうになったのを辛うじて耐え踏ん張ったジェネラルドだったが既に飛ぶことは出来ず落ちていく。

 

『グゥゥゥッッ!?ガ・・・・・・・・・・・・・・・ガアァア!!』

呻き声を上げるのみが響き地面をのたうち回る。

シュタッ!と静かに着地したジョーカーは唯ジェネラルドを見据えていた。

 

「・・・・・・」

やっとの思いで立ち上がったジェネラルドは自身の傷の回復も出来ず徐々に壊れていくのを感じた。

もう持たない、この体ではもう戦えない。そう実感したジェネラルドは最後の力を振り絞り目の前の男に尋ねた。

 

『・・・・・・・オ・・・・・・・マエハ、・・・・・ナニモノダ。ナンダ、・・・ナンナノダ・・・・・・・・』

自身の残りの魔力回数を何重に使用し最後の魔術を発動しようとする。

これは賭けだ。これで全てを終わらせようとジェネラルドは魔術の準備をする。

そして、それに気づかないジョーカーでは無く、コチラも最後の一撃を与えようとスロットのボタンを押した。

 

『ジョーカー!!マキシマムドライブ!!』

 

「・・・・・・俺は、俺は仮面ライダーだ。そう・・・覚えておけ!ライダーキック!!」

 

高らかに空を跳び空中から勢いよくジェネラルドに向けて蹴りを放つ。

その足に集まるジョーカーの力がジェネラルドの肉体を蹴り、強靭な筋肉を引き裂き核となっている結晶を打ち抜いた。

パリンッ!とガラスが割れるような音が響くのと同時にジェネラルドは数メートル先まで吹き飛ばされ、・・・・・

バァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッッ!!

エネルギーの過剰増幅によって爆発した。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・特別になんて、なってもいいことなんてないさ。有るのは永遠と続く虚しさと孤独だけだ。」

憐れむように何かに耐えるようにそう呟いた声は誰にも拾われることは無かった。

 

 

○11

 

・・・・・・・・終わった。

漸く、あの悪夢のような出来事が完全に終わったのだと紀美野はそう実感した。

友達が目の前から連れ去られ外道な人体実験の被検体として解剖されそうになり化け物の親玉に自身が壊されそうになり、そして目の前の仮面ライダーによって全てが片付けられた。

・・・・・・・・あれ、そう言えば皆は?

ふとアキを始めとした仲のいい友人達がどうなったのかと頭の中によぎった。

そして、つい聞いてしまったのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アキは?アキ達は何処にいるの?」

 

分かりきっているのに知っているのに、知らない振りをして声にだした。若しかしたら皆は助かったのかもしれない、人の姿を取り戻してまた笑みを浮かべているのかもしれない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だが、帰ってきた答えは残酷な現実だった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・彼らはもういない。俺が・・・・全員殺した。」

「・・・・・・・・・・・・・・」

その言葉に顔を下に向けて静かに震えた。右手で左腕を強く握り必死に泣くまいと堪える。

分かっていたのだ。あの男が言っていたようにもう元通りにはならないだろう、それくらい理解していた。でも、どうにもならないのだ。やるせないしどうにも言い表せない、どうしてこんな目にあったのか。私達は一体何をやったというのだ?理不尽だ、理不尽すぎる。

 

「・・・・・・・・・・・・言い訳はしない、彼らの息の根を止めたのは俺だ。俺には彼らの想いを留めることは許されない。だから、君に彼らの声を、想いを聞いて欲しい。」

そう告げたライダーは魔力を行使しそれを解き放った。

それは雪のように白く暖かな光でそれは紀美野の周りに降りかかりそして、・・・・・・

 

『・・・ユウ。』

 

「・・・・・・・・・・ぇ?」

紀美野が声の先を見ると光の形から少女の形を型取り、半透明の女性、アキとなる。

 

「・・・アキ?どうして・・・・」

『・・・へへへ、何というか・・・・・その、私ね。死んじゃったの。』

照れたような笑みのまま自身の死を淡々と語るアキ。

 

「・・・・・・本当なんだ。」

悲しみを宿した声で発する。

つい先日まで笑いあっていた友の死という現実を未だに理解出来ないでいた。

いや、分かりたくないだけだったのかもしれない。理解したくないのだ、すれば彼女等との絆が消えてしまいそうで・・・・こんな残酷な別れでそれを失うのが怖くて仕方がなかった。だが、それももう終わりだ。

目の前にアキがいるのだから、・・・・・魂の状態で。

 

『あのね、・・・・そのなんていうかさ。この後ででいいんだけど・・・・・・お母さんにさ、『ごめん』って言っておいて。』

笑みを浮かべながらそういう言葉を聞いた紀美野は静かに涙を流していた。

『あとさ、弟達にさ私みたいにバカみたいにならないようにって伝えて欲しいんだ。それとお父さんにハゲジジイっとか言ってゴメンtって・・・伝えてっ・・・・・・・・・・・』

 

言葉を紡いていくと段々と涙ぐんでいく、それを見て紀美野は堪えていた涙を抑えきれずに流してしまった。

『・・・・・・・・・・・・どうしてっ、どうして私は死んだの!?まだやりたいことがあったのに!恋もしたかったし友達とももっと遊びたい!・・・なんで?!どうしてこんなことになってしまったの!!』

ボロボロと涙を流して次第に号泣していくアキ。紀美野はそんなアキを抱きしめようとし、・・・・・通り過ぎていった。

 

「あ、・・・ぁぁぁっ!うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」

それを体感した紀美野はうめき声を上げながら崩れていく。

もうこの世にいない友を抱きしめて慰めることすら出来ない弱い自分を恨んだ。

もしかしたら魔法を使用すればと思ったが無学の上特殊であろう霊との接触なぞ自身では到底無理な話だった。

無力な自身を恨み友に駆け寄ることすら出来ない自身が情けなくなり紀美野は大粒の涙を止められなかった。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・ありがと。』

そんな彼女に声をかけたのは死人のアキだった。

『ありがと、私の為に涙を流してくれて。悲しんでくれて、本当に嬉しかった。・・・・私ね、死ぬまでの殆どは覚えてないのだけどとっても苦しい所にいた気がするんだ。そしたらユウが来てね。傍にいてくれて、抱きしめてくれて。・・・・・暖かかった。』

そう言葉を紡ぐ彼女は徐々に影が薄くなっていき輪郭がぼやけていった。

 

『・・・もし、だけど。・・・・私が生まれ変わってまたユウと出会った時も、友達になってくれるかな?』

アキは穏やかにそれで尚綺麗な笑みを浮かべていた。

瞳には涙の跡もあるがもう陰鬱を雰囲気はない。心の底から紀美野に向けて感謝の想いを伝えていた。

 

「ぅぅぅぅっ、・・・・・・・うん、うんっ!!なるよ、また友達になろう!」

そうグチャグチャにした顔で必死に笑みを作り浮かべた。

涙を止めることができずにいるがその言葉が、想いが真摯に伝わりアキも嬉しそうに頷く。

『それじゃ、私はもう行くから・・・・またね。』

そう言ってアキは軽く腕を振って静かに薄れていく。

「うん!・・・・・・・・・・・・ま、またね!?」

光の向こうに消えていくアキをしっかりと目に焼き付けるように涙を拭った。

そして完全に輪郭がぼやけた所で紀美野は大きな声で、・・・

 

「必ず!必ず会おうね!!」

届いたかどうか分からないが確かに想いが伝わった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

消えゆく少女とそれを見届ける少女を見守りながら静かに空を見る。

遠くからサイレンの鳴る音が聞こえる。

あまり長居はできないな。

そう認識したライダーは静かにその場を去ろうとし・・・・・・

 

「あ、あの!」

紀美野の声によって足を止める。

「・・・・・」

 

顔だけを後ろの少女に向けて聞き耳を立てる。少女は暫しどのような言葉をかけようか迷い、・・・・・・決意を決めたように顔を上げた。

 

「あ、あの・・・・・・その、・・・・・・ありがとう御座いました。」

「・・・・・・」

 

「アキを、・・・みんなを開放してくれて、助けてくれて、本当に有難うございました。」

 

そう言って頭を下げる紀美野。

それを見てただ無言を貫いたライダーは再び歩みを進めてオートバジンに手をかける。

 

するとその形は変わりバイクとなっていく。それに跨り何かのメモリを装填しそのバイクの形が更に変わる。

前輪とマシンの前半分が黒く、降臨が無く下半身が赤くなったバイクへと姿が変わる。

 

そのままそのマシン、『ハード・タービュラー』に乗り空を翔けた。その時、さり気なく背を向けたままで右手を上げ軽く振った。

飛び立ったライダーの背を見て彼女はもう一度、「有難う。」と呟いた。

 

○12

「・・・・ハァ、・・・・ハァ、・・・・ハァ、・・・・ハァ、・・・・・・・・・・・・クソッ!!」

暗い森の奥深く。敗走しているジェネラルド博士は忌々しげに紡ぐ。

原因は至って簡単だ、自身の最高傑作である結晶がいとも容易く攻略されオマケと言わんばかりにあの黒い戦士に全てを奪われたのだから。

彼の執念は途轍もないものだろう。

「だ、だが、この完成された技術を他の研究者に伝えてそのスポンサーになってくれれば再び権威を取り戻せるだろう!」

ダメージを受けた部位を手で押さえて必死に森を抜けようとする。

「ふ、ふっふっふっふっふ!今に見ておれ、必ずや結晶の技術を確立させてあの黒い戦士・・・をッ――――!!」

愉快そうに嗤いを上げたままのジェネラルドの胸から突如光の刃が突き出た。

そのまま大量の血を吐き出しジェネラルドは地に倒れる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぅ、漸く片付いたか。」

林の奥から声が聞こえる、その声は男性の声であり吐血している老人に歩み寄り語りかける。

吐血と痛みで震えながらなんとかそちらに顔を向けて、・・・・老人は驚愕したような顔でその声のした方向を見る。

そこには白衣を着た黒髪の長身の男がジェネラルドを冷たい視線で見ているのだ。

その端正な顔立ちは女性の視線を釘付けにするだろう、しかし今この場に至ってはその無表情の顔は恐怖を駆り立てている。

ジェネラルドは出せる最大の声でこういった。

「待って、待ってくれ!・・・・・・・・・・・・・・・・・・私は既にこの結晶の形を完成させている。だから他の賢人会議のメンバーにはdッッッ!!!??」

ジェネラルドが言い終わる前に魔法の槍がジェネラルドの足、腕、腰、胸、と刺さっていく。

「がッアァァァァァァァァァァァァaaaaaaaaaaaaaッ!!!」

あまりの激痛によって絶叫するもその声は不自然な程の静かな森の中で響かなかった。

「安心したまえ、もう結界は張っている。外からは決してこちらの声が聞こえることはない。」

致死量の血を流し続けている老人に優しく声をかける。

だがその声には安らぎを感じず淡々と仕事をこなしているかのような機械的な声だった。

そして、・・・・・

ボウッ・・・・・

声すら発せなくなったジェネラルドの肉体に火を放つ。

激痛により恐ろしい形相となった顔は只管に男性を睨んでいた。そんなジェネラルドに男性はこう告げた。

「貴方の築き上げた『結晶』なのだがね、こちらとしては余り価値を見いだせなかったのだよ。今回のような大掛かりな実験をしたにも関わらずできたのが試作品、・・・しかもそれを外部のモノに破壊されてしまった。これ以上我ら『賢人会議』に貴方を在籍させる必要は無しと結論付けてな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう貴方には居場所がないのだ。諦めてくれ・・・・・・・」

そういって彼は更に火力を上げて火葬に勤しむ。

先ほどの戦闘に魔法を上手く扱えないジェネラルドは必死に体を動かそうとするも血が流れて動きがままならないまま苦しみぬいて、・・・・・・・・・・・・そして完全に行動が停止した。

「・・・・・」

始末が完了したことを確認して彼の焼死体に残っていた結晶を取り出す。

あの炎に焼かれながらも耐えたという事実は評価してもいいだろうと男性は結論づけてその場を立ち去ろうとする。

魔術を発動して転移を行おうとして軽く後ろを振り向き、

「――――仮面、・・・・ライダーか。―――」

そう言い残して今度こそこの場から消え去った。

―――――――――――後には何も残らず焼死体も灰から塵へとなり風に吹かれて何処かへと吹き飛んでいった。

 

こうして、この物語の重要人物は人知れずに舞台から降りていった。

 

 

○epilogue

警察襲撃から数日後、―――連続集団失踪事件は幕を下ろす。

消えた少年少女の遺体は発見できずに終わったが警察等はこれを愉快犯による連続殺人事件として断定、保護された生存者の少女の話によると数人の男達に追われたがとある人物によって助けられ難を逃れたという。犯人と思しき逮捕された白衣を着た男達の身元を調べると共に行方をくらました老人を操作するというニュースが全国に流れ一時期有名になった。

それと同時に山奥に魔法を使用した跡が発見され警察では魔法による戦闘が行われたのではと報告されたがそれは大した問題とならず集団失踪事件のみが昼夜問わず世間を握わかし続けた。

 

「・・・・・・・・それじゃ、私は行くから。」

大きなバックを持ち和樹の正面に立つ紀美野。

今回の事件によって警察からの保護を受けた彼女だったが大きな事件だったため世間では彼女の名前と住所が広まってしまいこの街では生きづらくなってしまった。

 

そのため家族で遠くの県へと行き余熱(ほとぼり)が収まるのを待つということになったらしい。

「・・・・そうか、・・・・・あのさ、なんていうか。アッチに言っても元気にね。」

和樹は頭を描きながらそう告げた。

 

引越しの日に無理やり押し入って別れの挨拶を告げるただそれだけだったのだが、暫く塞ぎがちだった紀美野は微笑を浮かべていた。

「ホント変な奴だよなお前。・・・・・・・・私と会話したのだってあの時だけじゃないか。そんなヤツに別れを言いに来るなんてさ。」

「別にいいだろ?それにこのまま送ってったらなんだか何時までも引きずっていくだろうと思ったし。」

「は?余計なお世話だよバァカ!」

 

呆れたような態度で紀美野は和樹を罵倒する。

しかしその表情に苛立ちは無くどこか楽しんでいるようだった。それを察した和樹も「ひどいなぁ。」と戯る(おどける)ように言う。

「・・・・・・・・・・・・あのさ、ちょっと質問だけどさ・・・」

紀美野は少々下を向き言葉を発する。

 

「もしさ、お前が訳の分からない・・・・・理不尽な事に巻き込まれたらさ。どうする?」

戸惑いながらもコチラを見ながら言う紀美野。和樹はそんな彼女の質問に暫し時間をおき、・・・・・・・

 

「どうしようもないだろうな。」

「・・・・・ぇ?」

 

特に何も感じないというように語る和樹に紀美野は声を上げた。それでも尚話を続ける。

 

「世の中にはさ、交通事故で死んでしまう奴もいるだろ?それだけじゃない。持病でベッドから起き上がられずにそのまま死んでいく奴もいる。それだけじゃない、変に言いがかりつけてそのまま痛めつけられる奴もいる。」

和樹は言葉を紡ぎながら紀美野を見ていく。

何を言おうとしているのか理解出来ていない彼女は困惑して聴き続ける。

 

「要はさ、そんな理不尽なことを常に考えていてもどうしようもないんだよ。そんなもんは他人の気まぐれや運の無さによってどうにでも変わってくるんだから。だから今を一生懸命に生きようとするんだろ?何が起こるか分からない、そんなもんだよ。」

「・・・・・・」

紀美野は何かを言葉にしようと口篭るも発せずに俯く。

 

こんなものは感情論だ、それを理解している。だがそれでも紀美野はどうにも納得できなかった。

「・・・・・・・・・・・・あのさ、あの時の最後にアキが来たんだ。」

紀美野が口を開く、その紀美野の言葉をただ静かに聞く。

 

「なんて言えばいいのか分からないと思うけどさ・・・・・あの時、アキは笑ってたんだ。」

「『ありがとう』って言ってたんだ。・・・・・・・・ただ傍で泣いてただけなんだ、でもそんなのでも救われたのかな。」

「・・・・・・どうだろうな。でも、そうやって笑えたのなら・・・きっと救われたんだと思うよ。」

「――――――そっか。」

紀美野は空を見上げながらそう呟く。和樹は同じく空を見上げて視線を逸らした。

 

一筋の涙を静かに流す紀美野から逸らすように―――。

 

その後、互いに言葉を交わさず時間が過ぎ、紀美野の母が迎えにきた。

それに促されて紀美野は母の後についていく。

和樹はそれを静かに見送り、そして姿が見えなくなるまで手を振った。

ほんの、ほんの少しの気まぐれが彼女から大切な友達を奪った。大した大義を振りかざすでもなく下らない理由で人の命が失われていった。

「――――――――ホント、どの世界でもそう奴等はいるもんだな。」

そう小さく呟き拳を強く握り締める。

失ったものはもう戻らない。

ならば、今あるものを全力で守り抜こう。俺は、俺にはその力があるんだ。

だから、もう一度立ち上がろう。

異世界の旅人としてではなく、この世界で生きる一人の人間として、・・・・・

 

この日よりとある噂が日本全国で語られるようになる。

それはどことなく現れ悪事を働くモノ達を倒すというまるで正義の味方のような噂。

鎧を纏い仮面を被り、日夜誰かの涙を拭い続ける戦士、・・・・・・・・仮面ライダーの噂が。




というわけでほぼ短編の話仮面ライダーものでした。
本当はこれを短編としてあげたかったのですが・・・・・文字数が4万文字をオーバーしてしまいこのような形で上げさせていただきました。
この話を作り出したのが去年の12月、そしてできたのが2月の1日という約1ヶ月かかった作品です。
・・・・・・・・・・・・・・・・の割には下手だなとは自分でも思いますが(笑)
この作品では仮面ライダーtheFirstや仮面ライダーWをイメージして書いておりますのでそちら側の曲、(例えばRider○hips)などの曲を聞きながら見ても面白いかと思われます。(実際それらを聞きながら執筆してましたし

それではここで失礼させて頂きます。
本当に有難う御座いました。


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