転生者はシンフォギア世界でオリジナルシンフォギア装者として生きるようです (アノロン在住の銀騎士)
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息抜きコーナー
ダイスで息抜き!シンフォギあんこ



◆息◆
息抜きで適当に進めるシンフォギアのあんこです。XD時空の平行世界の一つ、という感じ。シンフォギア世界でサイコロ遊びしようぜ的な?
本編はしばらく待ってくださいオナシャス。
◆抜◆




やる夫は転生者だお。

エロゲを買った帰りに車に轢かれて死んだけど、神様にシンフォギア世界に転生させてもらったお!

肌が青くて角と蝙蝠羽が生えてて目が爛々と輝いていた神様だったけど、まさか邪神じゃないおね……?

 

とにかく!そんな邪神めいた神様に転生特典もらったお!

シンフォギア世界にはノイズとかフィーネとか、おっかないのが跋扈していて対策しないと転生者はすぐ死ぬからって言ってたお。

 

 

 

やる夫の転生特典【1D10】

 

1「良い子の教本:猿でもわかる錬金術」(サンジェルマン著)

2 完全聖遺物

3 OTONA並の身体能力(の素質)

4 シンフォギア装者の才能

6「良い子の教本:猿でもわかる錬金術」(サンジェルマン著)

7 完全聖遺物

8 OTONA並の身体能力(の素質)

9 フィーネとのコネクション

10 マジカルチ○ポ

 

結果、【9】

 

 

 

やる夫の転生特典、それは【フィーネとのコネクション】だお!

……また面倒なモン貰ったおね。

フィーネとズブズブになったら弦十郎さんにボコボコにされるし、かといって疎遠になったらモルモットにされそうだお。

というか具体的にどんなコネクションだお……?

 

 

 

コネクション詳細【1D6】

 

1 先史文明からの腐れ縁

2 フィーネの支援者

3 先史文明からの腐れ縁

4 フィーネの支援者

5 先史文明からの腐れ縁

6 フィーネのカキタレ

 

結果、【3】

 

 

 

どうやら、やる夫はフィーネと先史文明からの腐れ縁みたいだお。

偶然先史文明の頃の記憶を持って生まれてきたやる夫にフィーネが接触したようだおね。

で、どんな縁だお?

 

 

 

フィーネとやる夫の関係【1D6】

 

1 フィーネとエンキをくっ付けたキューピッド

2 フィーネの弟

3 フィーネとエンキをくっ付けたキューピッド

4 フィーネの弟

5 フィーネとエンキをくっ付けたキューピッド

6 フィーネの息子

 

結果、【5】

 

 

 

どうやらやる夫はフィーネとエンキをくっ付けたキューピッドみたいだったおね。

つまりやる夫はルル・アメルとアヌンナキの間に立つ存在ってことかお?

神の眷族ってやつだおね。

 

 

 

やる夫のキューピッド活躍度【1D6】

 

1 原作以上にラブラブする二人。ラブラブ過ぎてシェム・ハ真実に辿り着くフィーネ

2 原作以上にラブラブする二人。ラブラブ過ぎて二人でシェム・ハを倒してしまう

3 原作以上にラブラブする二人。ラブラブ過ぎてシェム・ハ真実に辿り着くフィーネ

4 原作以上にラブラブする二人。ラブラブ過ぎて二人でシェム・ハを倒してしまう

5 原作以上にラブラブする二人。ラブラブ過ぎてシェム・ハ真実に辿り着くフィーネ

6 フィーネ「(やる夫に)切り替えていく」

 

結果、【3】

 

 

 

どうやらフィーネとエンキは原作以上にラブラブしたようだお。

キューピッドを頑張ったやる夫も鼻が高いお……。

でもエンキは原作通りシェム・ハと相討ちになり、シェム・ハの復活を防ぐために月の遺跡で統一言語を封印。

そのまま、帰らぬ人になってしまったお……。

 

だけど、フィーネはシェム・ハが統一言語と一体化した事、シェム・ハの復活を防ぐためにエンキが月の遺跡を起動させた事に気付いたおね。

二人がラブラブ過ぎたから、遠く離れても統一言語が封じられても以心伝心だったんだお。

そして、ここから原作乖離が始まったお。

 

 

 

フィーネのやらかした原作乖離【1D10】

 

1 シェム・ハの監視者として永劫に転生

2 シェム・ハの監視者として永劫に転生

3 シェム・ハの監視者として永劫に転生

4 シェム・ハの監視者として永劫に転生

5 ↑+ アダムと和解

6 ↑+ アダムと和解

7 ↑+ アダムと和解

8 ↑+ アダムと和解

9 1 + 5 + シェム・ハと和解

10 熱烈歓迎フィーネ

 

結果、【6】

 

 

 

まずフィーネは自身の遺伝子に、自身の意識と経験を刻み込んで子孫に転生を繰り返す術式を開発したお。

俗に言うリインカーネーションシステム、というやつだおね。

これは未来永劫転生を繰り返す事でシェム・ハが復活しないように監視する為だおね。

 

更にフィーネはヒトのプロトタイプ、アダムと接触。

話し合いとか殴り合いとか河原で友情を深めたりして、アダムと和解したお。

これでアダムはフィーネと協力してシェム・ハが復活しないように人々を見守ってくれるようになったお。

 

 

時を現代に戻すお。

エロゲ買ったやる夫の前世とキューピッドやったやる夫の知識を持って、やる夫が生まれた訳だけれど、厄い名字ではないおね……?

 

 

 

やる夫の血筋【1D10】

 

1 入即出(普通)

2 入即出(普通)

3 入即出(普通)

4 櫻井(了子の年の離れた弟)

5 入即出(普通)

6 入即出(普通)

7 風鳴(訃堂の孫)

8 風鳴(訃堂の孫)

9 風鳴(弦十郎と了子の子ども)

10 風鳴(訃堂の子)

 

結果、【2】

 

 

 

やる夫は【入即出 やる夫】だお!

前世と同じ名前、同じ両親から生まれたお!

普通に生まれた事が、なにより嬉しいお!!

ありがとうだお、邪神みたいな神様!

 

そんな訳でやる夫はスクスクと成長したわけだけれどお。

幼馴染とかいたりいなかったり……?

 

 

 

やる夫の幼馴染(ヒロイン枠)【1D10】

 

1 立花響 & 小日向未来

2 風鳴翼

3 雪音クリス

4 マリア & セレナ

5 暁切歌

6 月読調

7 天羽奏

8 友 里 あ お い

9 櫻 井 了 子

10 熱烈歓迎

 

結果、【1】

 

 

 

「やる夫!」

「やる夫、一緒に遊ぼう!」

「わかったお!」

 

そんな訳でやる夫の幼馴染は響ちゃんと未来ちゃんだお!

……別世界の誰か(渡 一鳴)もひびみくが幼馴染だお。

二人の重力は凄いお……!

 

さてさて。

スクスク育っているやる夫に、元ラスボスにして現人類の守護者であるフィーネもとい了子さんが接触するお。

というか、なんでやる夫が転生したってわかったんだお……?

 

「女のヒミツよん♪」

 

抜かしおる。

……絶対やる夫の魂になにか細工したお。

まぁ、いいお。

フィーネがやる夫に接触した理由は……。

 

 

 

フィーネ、なんで来たの?【1D6】

 

1 月の遺跡がヤバい

2 アメリカが勘づいた

3 月の遺跡がヤバい

4 アメリカが勘づいた

5 月の遺跡がヤバい

6 訃堂に狙われているから助けて

 

結果、【1】

 

 

 

「やる夫、月の遺跡が壊れかけているわ」

 

なんでも先史文明から現代まで稼働し続けた月の遺跡の調子が悪くなっているみたいだお。

修理に行かないといけないけど、修理知識を持っているのが現代ではフィーネとやる夫だけなんだお。

やる夫はエンキの眷族だから、そこら辺の知識も持ってるようだおね。

だからやる夫に接触したみたいなんだお。

 

「それって今すぐかお?やる夫小学生だから、居なくなったら大事だお?」

「今すぐじゃなくていいわ。まだ百年は大丈夫でしょうし。でも百年先に貴方が生まれる保証がないわ。だから……」

「わかったお。やる夫が自由に出来る年齢になったら月に行くお。……ところでどうやって行くのかお?」

「アダムの力を借りるわ。彼、今錬金術師たちを率いる長だから」

「わかったお。取り敢えず高校入学まで待って欲しいお」

「わかったわ。これ、私の連絡先。何かあったら連絡して頂戴。恋の相談でもいいわよん♪」

「抜かせお。やる夫がいなけりゃエンキと手も繋げなかったウブなネンネが!」

「シバくぞ」

 

そんなこんなで。

やる夫はフィーネと知り合えた訳だお。

それじゃあ、高校入学まで時間を飛ばすけれど、それまでに何かあったかおね?

 

 

 

トラブルダイス【1D10】

 

1 特になにもなかった

2 特になにもなかった

3 特になにもなかった

4 ツヴァイウィングのライブで……

5 特になにもなかった

6 特になにもなかった

7 響に逆レされた

8 未来に逆レされた

9 ひびみく「「二人に勝てる訳ないでしょ!」」

10 熱烈歓迎

 

結果、【7】

 

 

 

「響ちゃん!やめるお!やる夫たちまだ中学生だお!」

「関係ないよ!私ずっとやる夫の事好きだったんだもん!!」

 

……響ちゃんに大胆な告白されながら、汚されちゃったお。

響ちゃん、中学生の時からおっぱい大きかったおね……、いや、そうじゃなく。

まぁ、とにかく。

響ちゃんとは恋人になったお。

 

 

 

未来さんのお気持ち表明【1D6】

 

1 祝福する天使な未来さん

2 なんかもやもやしてる未来さん

3 響を押し倒す未来さん

4 祝福する天使な未来さん

5 なんかもやもやしてる未来さん

6 未来さんもやる夫を押し倒してきた!

 

結果、【2】

 

 

 

未来ちゃんはやる夫と響ちゃんがくっ付いたのが面白くないようだおね。

 

 

 

未来さんの秘めたる気持ち【1D6】

 

奇数で響が好きだった

偶数でやる夫が好きだった

 

結果、【3】

 

 

 

どうやら、未来ちゃんは響ちゃんが好きだったようだおね。

ひびみくをやる夫がぶっ壊してしまったお……。

なんか申し訳ないおね……。

 

「じゃあ響を譲ってよ」

「それはダメだお。やる夫も響ちゃん好きだからお」

 

まぁ、そんなやり取りを何回かしたお。

そして、響ちゃんにそれを知られてしまったお。

 

 

 

響のお気持ち表明【1D6】

 

1 三人で付き合おう!

2 私女はちょっと……

3 やる夫が未来と浮気してる!

4 三人で付き合おう!

5 私女はちょっと……

6 私の処女を奪ったやる夫のTNTNで未来を貫けば、擬似的にひびみくなんじゃない?

 

結果、【2】

 

 

 

「ごめんね未来。私ノンケだから……」

「そんなぁ!」

 

ズバッと切り捨てたおね……。

 

 

 

未来さんの決断【1D6】

 

1 二人のもとをそっと去る未来さん……

2 せめてこれからも友だちでいて欲しいな

3 響を寝取ってやる!

4 せめてこれからも友だちでいて欲しいな

5 響を寝取ってやる!

6 やる夫を寝取ってやる!

 

結果、【3】

 

 

 

未来ちゃん、響ちゃんを寝取ろうとしてるおね。

ネバーギブアップ精神はいいけど、それは駄目だと思うお。

 

 

 

私NTRは駄目だと思うの……【1D6】

 

1 やる夫のガードが固くて断念

2 ひびみくの仲が……

3 逆に響に押し倒される

4 やる夫のガードが固くて断念

5 ひびみくの仲が……

6 やる夫のTNTNで調教される

 

結果、【1】

 

 

 

「やる夫どいて!響を押し倒せない!」

「ぜってー駄目だおね!」

 

やる夫と未来ちゃんの攻防は白熱してるお!

とにかく、やる夫の目の黒い内は未来ちゃんに寝取らせはしないお!

 

そんな熱い攻防を繰り広げたり、響ちゃんに押し倒されたりしながら、高校生になったお。

原作にリスペクトして、リディアン……は女子校なのでその近くの高校に入学したお。

響ちゃんと未来ちゃんはリディアンに行ったお。

……不安だおね。

 

「やる夫、月に行く準備が整ったわ」

「わかったお」

 

高校一年生の夏休み、またフィーネがやって来たお。

いよいよ月の遺跡に行くんだおね。

 

「そういえば幼馴染の女の子二人とはどうなったのよ?」

 

 

 

ひびみく高校生活【1D6】

 

1 響ちゃんのガードは固い

2 みくクリで平和になった

3 未来ちゃん寝取り成功

4 響ちゃんのガードは固い

5 みくクリで平和になった

6 響「未来を調教出来たよ!」

 

結果、【2】

 

 

 

「なんかやる夫の彼女を狙ってた女の子が先輩の子と付き合い始めたお」

「あら^〜」

「そんな訳でやる夫と彼女は平和だお」

 

そうなんだおね。

未来ちゃん、高校入学してしばらくしたら先輩の女の子と付き合い始めたんだお。

その先輩がなんと、クリスちゃんなんだお!

なんでも向こうの一目惚れからの猛アタックに未来ちゃんが折れたみたいだおね。

 

「その先輩、雪音クリスって言うんだお。おめー知らないかお?表の顔はリディアンの保健医だおね?」

「あー……、思いっきり知ってる子。というか私の義理の娘よ」

「義理の?」

「その子の両親が死んで、私が引き取ったのよ。そっかぁ、だから最近ウッキウキだったのねー」

「おめーその子に変な人体実験とかしてないかおね?」

「する訳ないでしょ!私はフツーの美人保健医了子さんだもの」

 

そんな話をしている内にアダムと合流。そのまま月にたどり着いたお。

アダム率いる錬金術師たちが月へのテレポートジェムを作ってくれたからだお。

 

 

 

月の遺跡の状態【1D10】

 

1 二人でなんとか直せるレベル

2 二人でなんとか直せるレベル

3 二人でなんとか直せるレベル

4 どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!

5 二人でなんとか直せるレベル

6 二人でなんとか直せるレベル

7 ギリギリ直せる……かな?

8 ギリギリ直せる……かな?

9 どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!

10 シェム・ハがちょっと漏れてる

 

結果、【2】

 

 

 

月の遺跡をざっと見渡したところ、やる夫とフィーネの二人で直せるレベルだって判明したお。

直すための資材も、アダムと錬金術師たちが用意してくれたおね。

 

「これなら日帰り出来そうね」

「月の石でもお土産に持って帰るかお」

 

そんな訳で異端技術とか最新技術を使って月の遺跡を修理したお。

これで一安心だお。

 

「じゃあ、帰りましょうか」

「いいのかお?月の遺跡のメインシステムには、エンキの疑似人格が使われているお。話ぐらいしていけばいいお」

「……やめておくわ。話せばきっと、ずっとここに居たくなるもの」

「……すまんお。野暮なこと聞いたお」

「だったらお詫びに何か奢りなさいよね?」

「わかったお」

 

という訳で。

地球に戻った訳だけれどお……。

 

 

 

地球トラブルダイス【1D10】

 

1 平和である!

2 平和である!

3 平和である!

4 訃堂、やらかす

5 ドクターウェル、やらかす

6 キャロル、やらかす

7 響、妊娠

8 響、妊娠

9 訃堂、やらかす

10 あっ……

 

結果、【8】

 

 

 

地球に帰って来たやる夫は衝撃の事実を告白されるお。

 

「やる夫、私ね生理が来てないの」

「マジかおっ!?」

「うん……。でね、もしかしたらと思って妊娠検査キット使ったらね、陽性だった」

「……そうかお。とにかく、産婦人科行くおね」

 

はい、という訳で。

響ちゃんが妊娠してたお。

やる夫も響ちゃんも高校一年生だお。

高校生での妊娠は肉体的にも社会的にもリスクが大きすぎるおね。

 

「やる夫、私一人でも産むからね」

「バカ言ってんじゃねーお。元はと言えばやる夫が避妊しなかったのが原因だお。ちゃんと責任取るお」

「でもそれは私がゴムを着けさせなかったから!」

「ならその時にやる夫は響ちゃんをキチンと叱るべきだったお」

「……ごめんね、やる夫」

「そこはありがとうって言って欲しいお」

 

やる夫と響ちゃんは赤ちゃんを出産する事に決めたお。

学生での出産はきっと想像以上に大変だけれど、だからこそ、やる夫がしっかりしないといけないお。

 

「という訳で今年一杯で高校辞める予定だから、仕事先紹介して欲しいお」

「お前は一体化何を言っているんだ?」

 

やる夫はフィーネとのコネクションを活用する事にしたお。

だってこのコネクション、神様の転生特典だおね。活用しなくちゃ損だお。

 

「後悔も反省もしたお。だからこれからは愛する女と子どもの為に時間を使わないといけないお」

「だから私に仕事を斡旋しろと?」

「先史文明からの付き合いだおね?というかマジで助けて欲しいお!響ちゃんと子どもには苦労させたくないお!」

「むむむ……仕方ないか」

 

 

 

フィーネの紹介した仕事【1D10】

 

1 二課のオペレーター

2 二課のオペレーター

3 二課のオペレーター

4 二課のニンジャ

5 二課の異端技術者

6 二課の異端技術者

7 二課の異端技術者

8 アダムの秘書

9 二課のニンジャ

10 熱烈歓迎

 

結果、【9】

 

 

 

「やる夫、貴方身体能力高かったわよね?」

「身体検査の歴代最高記録をブチ抜く程度には高いおね」

「それに気配とか消せるわよね?」

「エンキとデート中のオメーにこっそりアドバイス出来る程度には消せるおね」

「人の精神を操る事に長けるわよね?」

「オメーとエンキの恋心を煽れる程度には操れるお」

「やる夫、貴方にオススメの仕事があるわ」

「おっおっ?マジかお?」

 

と言われて、面接会場にやって来たら謎のニンジャ軍団に襲撃されたお。

ソイツらを全て撃退したらファサリナさんで童貞捨ててそうな声の青年に拍手と共に、

 

「採用です」

 

と、言われたお。

同時に入り口からフィーネと赤シャツのおっさんも入ってきたおね。

……もう、どんな仕事かわかったおね。

 

「やる夫、貴方ニンジャになりなさい」

「オメーそれで分かる訳ねーお!シックスゲイツでも目指せばいいのかお?」

「そんな訳ないじゃないの」

「ここからは俺が説明しよう」

 

赤シャツのおっさん、弦十郎さんが説明してくれたお。

なんでも近年聖遺物や異端技術を使った犯罪が横行しているから、そういった犯罪に対応していく為に専門の部署を作ることになったお。

それが公安警察の【特異犯罪対策機動部】だお。

弦十郎さんがボスで、フィーネもとい了子さんが研究主任。そしてやる夫は───

 

「僕と一緒に捜査や犯人確保、アイドルの部屋の片付けなどの現場での仕事を担当してもらいます」

 

ニンジャの緒川さんの部下になるおね。

 

「仕事内容一個変なの混じってたお!」

「アイドルの部屋の片付けも僕たちニンジャの立派な仕事ですよ」

「嘘吐くんじゃねーお!」

 

とにかく。

そんな訳で!

やる夫、就職したお!!

 

 

 

 

○その後のやる夫たち

 

・やる夫

特異犯罪対策機動部のニンジャ捜査官としてバリバリ働きバリバリ稼ぐ。

愛する妻と子どもの為に定時退社を心掛けるサラリーマンのクズにして夫にして父親の鏡。

 

・響

高校一年生の時にやる夫と結婚。

高校二年生の春に出産。

友だちや教師の支援により今もリディアンに通えている。

高校卒業後には二人目を産みたいと考えているようだ。

 

・未来

響が妊娠したと知った時はすぐにやる夫をぶん殴った。

その後、二人が子どもの出産を決めた事を知った時には二人の支援を惜しまなかった良い女。

高校卒業後にクリスと結婚予定。

 

・クリス

フィーネにそそのかされ、異端技術の力でふたなりになった。響が学生結婚と出産をしたので自分も、と考えているが未来さんの尻に敷かれているので当分は無理である。

 

・フィーネ

シェム・ハの監視者としてアダムと連携しつつ特異犯罪対策機動部の研究主任として働く。

近々弦十郎と結婚予定。

 

・アダム

錬金術師たちのまとめ役を頑張りつつ、シェム・ハの監視者として世界に目を光らせる。

 

 

 

~おしまい~




~もしもこの世界に原作時空の装者がギャラルホルンの力でやって来たら~

「私に子どもがいるぅ!?」
「私が特撮ヒロインみたいな格好してるっ!?なんで!?」

「踏み込みが足りんおっ!」
「くっ!この白饅頭めいた男ッ、緒川さん並の使い手かッ!」

「なんでこっちのあたしにはチ○コ生えてるんだよっ!?」
「愛する女と繋がる為だ!」
「女ぁっ!?」

最初はビックリするけど概ね好評……好評?


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ダイスで息抜き!シンフォギあんこG

また本編が行き詰まってるから息抜きするわね。
聖杯戦争編。ボリュームありすぎて終わらねぇ、胸焼けしそう。
でもエタらない。頑張る。頑張るぞー!


 

 

主人公を決めよう!【1D6】

 

1 二課職員

2 F.I.S.職員

3 キャロルの弟子

4 パヴァリアの錬金術師

5 パヴァリアの実験体

6 チート転生者

 

結果【3】

 

 

 

今回の主人公はキャロルの弟子のようです。

 

 

 

なんでキャロルの弟子やってるのん?【1D6】

 

1 元々イザークパパの弟子だった

2 キャロルのホムンクルスだった

3 主人公が一目惚れ → 無理矢理着いてきた

4 キャロルが主人公に一目惚れ → 拉致

5 パヴァリアから派遣されてきたスパイ

6 人形姦ヤりたいから自動人形のプロに学ぶ為

 

結果【6】

 

 

 

一気に主人公がヤベェ奴になりましたね……。

 

 

 

主人公の能力を決めよう!【1D10】

(1ほどクソザコナメクジ、10ほどすごーい!)

 

錬金術【10】

人形製作【1】

聖遺物知識【9】

OTONA力【9】

 

 

 

錬金術と聖遺物知識はキャロルちゃん並みの力。

そしてOTONA力が高いので弦十郎さんとも互角の戦いが出来る。

すごーい!

なのに、肝心の人形製作が低すぎる……!

これじゃあ人形姦出来ないよぉ!

 

 

 

どうした、主人公!?【1D6】

 

1 主人公に才能がないの……

2 オートスコアラーとくんずほぐれずしてて……

3 主人公の性癖を危険視したキャロルが教えなかった

4 主人公に才能がないの……

5 オートスコアラーとくんずほぐれずしてて……

6 主人公の性癖を危険視したキャロルが教えなかった

 

結果【2】

 

 

 

主人公はオートスコアラーに手を出しやがったようです。

それなら自分で人形作らなくても良いもんね。

バカ!

 

 

 

誰に手を出したんや!【1D6】

 

1 ガリィちゃん

2 ミカ

3 ファラ

4 レイア

5 レイアの妹

6 全員

 

結果【3】

 

 

 

犠牲しゃ……ヒロインはファラのようです。

ソードブレイカーでチ○コ切り落とせばいいのに。

 

 

 

二人のラブラブ度【1D10】

(1ほど熟年夫婦並みの落ち着き、10でシャトーをラブホ扱い)

 

結果【7】

 

 

 

どうやら二人の仲はアツアツで、ファラさんは主人公くんの部屋に入り浸っているようですよ。

 

 

 

他者の主人公への好感度ガチャ【1D10】

(1ほどただの同居人、10で愛!ですよ!)

 

キャロル【4】

ガリィちゃん【6】

ミカ【4】

レイア【8】

レイアの妹【6】

 

 

 

キャロルちゃんは主人公の性癖気持ち悪がってますね(妥当)

ガリィちゃんにはなぜか好かれてますね。なんでや。

ミカちゃんも主人公の性癖気持ち悪がってます(妥当オブ妥当)

レイアは横恋慕しとるな。なんでや?

レイアの妹からも好かれてる……。これは紳士、変態紳士ですね(白目)

 

 

 

そう言えば主人公はキャロルの命題知ってるの?【1D10】

 

1 知らんよ

2 知らんよ

3 知らんよ

4 積極的に世界を分解しようとしとるよ

5 知っとるし、止めようとしとるよ

6 知っとるし、止めようとしとるよ

7 知っとるし、止めようとしとるよ

8 そんな事よりファラとおせっせだ!

9 積極的に世界を分解しようとしとるよ

10 主人公に絆されてスッパリ諦めたキャロルチャン

 

結果【1】

 

 

 

主人公はキャロルの命題を知らないようです。

主人公的には、キャロルちゃんは錬金術が凄くて人形製作と聖遺物知識も凄いカワイイ幼女だと思ってますね。

この主人公、たぶんアホだな。

 

 

 

今の時系列は?【1D6】

 

1 原作前

2 無印

3 G

4 GX

5 AXZ

6 XV

 

結果【4】

 

 

 

どうやらキャロルちゃんは本格的に動き出すようです。

ちなみに、AXZ以降の時系列だったらS.O.N.G.に投降ifルートとか逃亡ifルートに突入してました。

 

 

 

どうするの、キャロルちゃん?【1D6】

 

1 原作通りのムーブ、主人公には補佐をさせる

2 原作通りのムーブ、主人公には補佐をさせる

3 原作通りのムーブをしようとしたら主人公が!

4 原作通りのムーブをしようとしたら主人公が!

5 原作通りのムーブをしようとしたら知らない奴が!

6 原作通りのムーブをしようとしたら知らない奴が!

 

結果【1】

 

 

 

どうやらキャロルちゃんは原作通り、エルフナインちゃんにダインスレイフを持たせて呪いの旋律をゲッツ、地球分解大作戦を開始するようです。

主人公もシャトーの制御とか、キャロルちゃんのホムンクルスの作成とか、ファラにメイド服を着せるなどのお仕事に従事しているようです。

 

 

 

主人公のイベントダイス【1D6】

 

1 前線に投入される主人公

2 前線に投入される主人公

3 呪いの旋律を受けようとしたキャロルちゃんを助ける珍プレー

4 呪いの旋律を受けようとしたキャロルちゃんを助ける珍プレー

5 オートスコアラー真実を知ってしまう

6 オートスコアラー真実を知ってしまう

 

結果【6】

 

 

 

オートスコアラーは呪いの旋律の記録の為に、最期はキャロルちゃんの為に破壊されてしまう。

そんなオートスコアラー真実を知ってしまいました……。

 

 

 

主人公の行動は……【1D6】

 

1 キャロルに詰め寄る → 決別

2 キャロルに詰め寄る → 決別

3 ファラを連れて脱走

4 ファラを連れて脱走

5 オートスコアラー全員連れて脱走

6 オートスコアラー全員連れて脱走

 

結果【1】

 

 

 

人形大好きな変態で、ファラの恋人である主人公はキャロルちゃんに詰め寄ります。

でもキャロルちゃんは主人公の言葉を聞きません。

口論はエスカレートし、最後には互いに決別。

錬金術をぶつけ合う戦闘となってしまいました……。

 

 

 

主人公 VS キャロル【1D10】

 

1 師匠より強い弟子は居ないッ!

2 師匠より強い弟子は居ないッ!

3 互角

4 互角

5 互角

6 互角

7 互角

8 互角

9 ファラが主人公を連れて逃げ去った

10 師匠を越えた弟子……

 

結果【6】

 

 

 

二人の戦闘能力はほぼ互角。

主人公はキャロルに匹敵する錬金術とOTONA力で戦い、キャロルはダウルダヴラのファウストローブを持ち出し、更に大人の身体になって迎え撃ちます。

 

 

 

勝負の行方は……【1D6】

 

1 シャトーが壊れて地上に落下、更にシンフォギア参戦であーもうメチャクチャだよ

2 シャトーが壊れて地上に落下、更にシンフォギア参戦であーもうメチャクチャだよ

3 シャトーが壊れて地上に落下、更にシンフォギア参戦であーもうメチャクチャだよ

4 二人の間にファラが入った!

5 ミカが主人公を倒した!

6 ガリィちゃんが二人纏めて凍らせた

 

結果【1】

 

 

 

二人の戦いは激しさを増した。

炎、水、風、土。溢れる魔力の奔流。

そういったものが二人の間に溢れ、満たし、弾ける。

ところで二人が戦っているのはシャトー内である。

つまりシャトーは現在、二人の戦闘の余波を思いっきり受けている訳で。

 

結果として。

シャトーは壊れて制御不能となり、東京都庁上空に崩壊しながら現れた。

シャトーの瓦礫は東京都庁を押し潰し、しかし主人公とキャロルの戦いは続く。

オートスコアラー?とっくに逃げ出したよ。天才二人の錬金術合戦なんて止められないもの。

 

さて、東京都庁が崩れてそこにキャロルが何者かと戦闘中ならシンフォギア装者来ちゃうよね。

 

 

 

シンフォギアにイグナイト搭載されたんか?【1D6】

 

1 まだです……(震え声)

2 搭載されたけど未使用

3 搭載されたけど未使用

4 搭載されたけど未使用

5 搭載されたけど未使用

6 何でみんな完璧に使いこなしてるの?

 

結果【4】

 

 

 

シンフォギア装者たちにはイグナイトシステムが搭載されています。

エルフナインちゃん、頑張ったんやね……。

そんな装者たちの目の前には今も戦い続ける主人公とキャロルちゃんの姿が。

イグナイト使うしかないよね。

 

 

 

抜剣!イグナイトダイス【1D6】

(6で抜剣成功。それ以外なら暴走)

 

響【1】

翼【2】

クリス【3】

マリア【1】

調【6】

切歌【6】

 

 

 

調ちゃんと切歌ちゃんは抜剣成功!ザババすごーい!

それ以外は暴走!思いっ切り暴れてます。

装者に気付いた主人公とキャロル。互いに戦いながら、暴走装者を迎撃してます。

調ちゃんと切歌ちゃんは仲間の暴走を止めて、主人公とキャロルをお縄につけることが出来るのだろうか……。

 

 

 

戦闘の結果【1D10】

 

1 都庁跡地に立つ者は居なかった……

2 最後に立っていたのはキャロルちゃん

3 最後に立っていたのはキャロルちゃん

4 ズタボロの主人公が最後まで立っていた

5 ズタボロの主人公が最後まで立っていた

6 ザババコンビネーションすごーい!

7 ザババコンビネーションすごーい!

8 ザババコンビネーションすごーい!

9 ザババコンビネーションすごーい!

10 熱烈歓迎

 

結果【10】

 

 

 

熱烈歓迎ダイス(どないしよ)【1D10】

 

1 暴走装者の暴走が止まり主人公とキャロルたこ殴り

2 暴走装者の暴走が止まり主人公とキャロルたこ殴り

3 暴走装者の暴走が止まり主人公とキャロルたこ殴り

4 主人公とキャロルのハプニングキス!

5 避難していたオートスコアラー参戦!

6 避難していたオートスコアラー参戦!

7 避難していたオートスコアラー参戦!

8 主人公とキャロルのハプニングキス!

9 主人公とキャロルのハプニングキス!

10 熱烈歓迎更に倍

 

結果【1】

 

 

 

戦闘の熱気がアレしたのか、ザババコンビの頑張りがアレしたのか。フォニックゲインがアレしたのか。

暴走していた装者たちが正気になった。つまり全員イグナイト形態なワケダ。

そして目の前には街を破壊し続ける錬金術師二人。

シンフォギア装者たちは駆け出した。歌を歌いながら。

 

拳握り、

剣を持ち、

ミサイル構えて、

カデン粒子砲を構えて、

鋸を持ち、

鎌を構える。

 

二人が無傷だったなら、負けはしなかっただろう。

だが、二人は互いに戦い合っていて満身創痍疲労困憊であった。

結果、主人公とキャロルはボコボコにされてS.O.N.G.に逮捕されました。

 

 

 

二人のその後……【1D6】

 

1 深淵の竜宮に収監された

2 深淵の竜宮に収監された

3 S.O.N.G.お抱え錬金術師になった

4 S.O.N.G.お抱え錬金術師になった

5 S.O.N.G.お抱え錬金術師になった

6 大脱走

 

主人公【4】

キャロル【2】

 

 

 

主人公は見事にS.O.N.G.入り、エルフナインちゃんと共に元気に錬金術師をやっているようです。

その隣には緑がよく似合う自動人形と、なぜか派手好きな自動人形が寄り添っているとか。

 

キャロルは深淵の竜宮に収監されました。

主人公と違い、S.O.N.G.に靡かなかったからです。弦十郎さんも苦渋の決断でしたが、訃堂の指示もあり深淵の竜宮送りとなりました。

エルフナインちゃんは時々そんなキャロルと面談しているようです……。

 

 

 

 

「マスタァ!今ガリィちゃんが!くさーい飯食わされてるマスタァを、助けに行きますからねぇ!」

「でも海の底なんてどうやって行くんだゾ?」

「そこはほら、コイツに掴まって行くんだよ」

「…………(あ、やっぱり私ですか)」

「レイアの妹だゾ!泳ぎが得意だから、すぐにたどり着けるゾ!」

「コイツに掴まって、ミカちゃんが深淵の竜宮の壁を壊して、ガリィちゃんが侵入。完璧な作戦ね!」

「…………(雑だ)」

「あたしも早くマスターに会いたいゾ!」

「あんた隠密作戦なんて出来ないんだから、一番はガリィちゃんに譲りなさい!」

「わかったゾ……」

「ったく、隠密作戦ならファラちゃんも適任なのに、あの変態に付いていくんだから!」

「…………(レイア姉さんもあの人に付いていった。私も一緒に行けばよかったなぁ)」

「さ、行くわよ!早くガリィちゃんをマスタァの所に連れていきなさい!」

「行くゾー!」

「…………(はいはい、今行きますよー)」

 

 

 

 

オートスコアラーたちのマスター奪還計画【1D6】

 

1 失敗…

2 失敗…

3 失敗…

4 成功!

5 成功!

6 英雄志望のドクターもついてきた

 

結果【3】

 

 

 

 

 

「はい、逮捕よ」

「ゲェー!アイドル大統領!なんでここに居るのよ!」

「キャロルの弟子の彼からタレコミよ。貴女の性格からして、そろそろ動く頃だろうって」

「ちくしょー、あの裏切り者がぁ!」

「諦めなさい!外にいる仲間も捕縛された頃でしょうよ」

 

「捕まったゾ……」

「ザババのコンビネーションは」

「最強デース!」

 

「…………(捕まっちゃった)」

「う、動かないでね!」

「案ずるな立花、敵に戦意はない」

「図体の割に大人しいなコイツ」

「…………(捕まった方が自由にマスターやレイア姉さん、彼に会えるもんね)」

 

 

 

 

かくして。

キャロル陣営の野望は防がれたのであった。

 

ちゃんちゃん。



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ダイスで息抜き!シンフォギあんこGX


本編微妙に行き詰まったので息抜き回じゃ。
今回はな、ヒドいぞ(白目)



時系列はだいたいGXからAXZらへんで遊ぼう。

 

 

◆主人公を決めよう!◆

 

ステータス【1D10】

 

筋力【1】

知力【5】

敏捷【5】

幸運【6】

 

1:E(超ニガテ)

2〜3:D(ニガテ)

4〜5:C(普通)

6〜7:B(スゴイ)

8〜9:A(超スゴイ)

10:EX(ヤバイ)

 

 

 

スキル【1D10】

 

スキル1【10】

スキル2【9】

スキル3【9】

 

1 なし

2 忍術

3 錬金術

4 なし

5 高フォニックゲイナー

6 忍術

7 錬金術

8 高フォニックゲイナー

9 なし

10 マジカルチ○ポ

 

 

 

性格【1D6】

 

1 臆病

2 陽気

3 マジメ

4 ツンデレ

5 のんき

6 OTONA

 

結果【3】

 

 

 

◆まとめ◆

 

○ステータス

筋力:E(超ニガテ)

知力:C(普通)

敏捷:C(普通)

幸運:B(スゴイ)

 

○スキル

マジカルチ○ポ

 

○性格

マジメ

 

 

スキルと性格が合ってねぇ……。

 

 

 

君の身分を教えてくれないか【1D10】

 

1 学生

2 2課職員

3 パヴァリアの錬金術師

4 パヴァリアのホムンクルス

5 学生

6 2課職員

7 キャロルの弟子

8 キャロルのホムンクルス

9 フィーネの弟

10 訃堂の息子

 

結果【1】

 

 

 

主人公くんは学生さん。

 

 

 

友だちは?【1D10】

 

1 ひびみく

2 きりしら

3 クリスちゃん

4 S.O.N.G.に知り合いがいねぇ……

5 ひびみく

6 きりしら

7 クリスちゃん

8 S.O.N.G.に知り合いがいねぇ……

9 ミ ラ ア ル ク

10 ♡ふ♡ど♡う♡

 

結果【3】

 

 

 

主人公くんはクリスちゃんとお友達のようです。

 

 

 

仲の良さは?【1D10】

(低いほどただの友だち。8以上で恋人)

 

結果【6】

 

 

 

クリスちゃんとは異性の親友みたいですね。

 

 

 

クリスちゃんと友だちって事は、装者とも顔見知りなワケダ【1D10】

(低いほどただの友だち。8以上で恋人)

 

響【3】

未来【1】

翼【9】

マリア【5】

調【2】

切歌【2】

 

 

 

年下からは軒並み数値低くて草。

でも翼さんとは恋人同士のようですね。

主人公くんはマジメだし、気が合うのかも。

なおマジカルチ○ポ。

 

 

 

友だちと先輩が付き合い出したクリスちゃんの想いとは……【1D6】

 

1 あたしの先輩を友だちが取った!

2 祝福

3 惚気に辟易

4 祝福

5 惚気に辟易

6 あたしの友だちを先輩が取った!

 

結果【5】

 

 

 

「雪音!彼と今度デートに行くのだが、どのような服装で行くべきだろうか。いつもはクールな服装なのだが、彼が可愛らしいのも見てみたいと言ってな……。雪音はどう思う?」

 

「雪音!この前彼とスキーに行ったのだがな。彼はまともに滑れなくてな、だから私の後ろに立ってもらって一緒に滑ったんだ。彼に後ろから抱き締められると、すごくドキドキしてな……。思わず頬が緩んでしまうんだ」

 

「雪音!彼がヒドイんだ!止めてくれと言ったのに、私の部屋を勝手に片付けてな!しかも、下着まで洗濯してたんだぞ!わ、私の勝負パンツも見られてしまった!雪音からも彼を叱って、え?片付けられない方が悪い?そ、それはそうなのだが……」

 

と、こんな感じで惚気けられて、嫌ではないけれど辟易してるみたいですね。

 

 

 

風鳴家の男たちの反応【1D10】

 

弦十郎【7】(2以上で賛成)

八紘【4】(5以上で賛成)

訃堂【3】(10で賛成)

 

 

 

弦十郎さん以外から軒並み反対されてますね……。

 

 

 

なんで反対やの?【1D10】

 

1 まだ二人とも若すぎる

2 彼氏くんちょっとひ弱じゃない?

3 彼氏くんちょっとひ弱じゃない?

4 股間から邪悪な気配が……

5 彼氏くんの出自が……

6 まだ二人とも若すぎる

7 彼氏くんちょっとひ弱じゃない?

8 翼にはこっちで婚約者選んだから……

9 股間から邪悪な気配が……

10 彼氏くんは私のものだ!!!

 

八紘【1】

訃堂【8】

 

 

 

八紘パパは、まだ恋をするには早いと考えています。子煩悩め!

訃堂ジッジは、翼さんにはこっちで選んだ婚約者と結婚してもらおうと考えてるようです。

 

 

 

訃堂ジッジの選んだ婚約者【1D10】

 

1 元華族

2 風鳴の分家

3 訃堂子飼いの人間

4 訃堂ジッジが翼さんに子どもを産ませようと……

5 元華族

6 風鳴の分家

7 訃堂子飼いの人間

8 緒川=サン(ニンジャ!?ニンジャナンデ!?)

9 訃堂ジッジが翼さんに子どもを産ませようと……

10 弦 十 郎

 

結果【8】

 

 

 

訃堂ジッジは翼さんと緒川=サンを結婚させたいようです。

ナンデ?ニンジャナンデ?

 

 

 

緒川=サン婚約者ナンデ?【1D10】

(数字が一番高いのが理由)

 

緒川=サンがジツでジッジを操り……【2】

訃堂による暗躍【6】

実は全部仕込み【5】

 

 

 

緒川=サンを翼さんの婚約者に宛てたのは、ジッジの暗躍である。

翼さんを巡って緒川=サンと主人公くんを争わせる。

それを見た翼さんの哀しみを見て酒を啜り、こう翼さんに囁くのだ。

「防人としての努めではなく、女の幸せを取ろうとしたから、こうなるのだ」と。

邪悪!!

 

 

 

ちなみに主人公と緒川=サンの仲の良さ【1D10】

(1ほど冷めてる。10で無二の友)

 

結果【8】

 

 

 

二人は兄弟よりも親しい親友のようです。

これはキレイな保志総一朗。

 

 

 

そんな二人を争わせる訃堂の策【1D10】

(10ほど邪悪!)

 

結果【6】

 

 

 

「慎次、わかっておるな。翼にまとわりつくあの男を排除せよ。破れば、捨犬、貴様の弟を惨たらしく殺す」

「はい、よろこんで……」

 

緒川さんは訃堂に脅され、主人公と争うようです。

邪悪!!

 

 

 

「と、言う事で翼さんにしばらく彼と休暇を取っていただきます。行き先は……アメリカが宜しいかと。マリアさんに付き添いをお願いしていますので。あ、あと捨犬という僕の弟が同伴すると思いますので、こき使ってやってください」

 

そういう事になった。

 

「僕ですか?弦十郎さんや八紘さんと共に少し大掃除を。え、助力ですか?余計に散らかりそうなので……冗談ですよ」

 

そういう事になった!!

 

 

 

この国を綺麗にいたしましょう【1D10】

 

1 訃堂暗殺!

2 訃堂逮捕!

3 訃堂逃亡!

4 訃堂逆襲!

5 訃堂……え、死んでる!?

6 訃堂暗殺!

7 訃堂逮捕!

8 訃堂逃亡!

9 訃堂逆襲!

10 熱烈歓迎

 

結果【3】

 

 

 

主人公くんが翼さんとアメリカデートwithマリア&捨犬している頃、訃堂は弦十郎と八紘、緒川忍群の追撃から逃亡していた。

 

 

 

訃堂の逃亡先【1D6】

 

1 潜水艦に乗って海底(しばらく潜伏)

2 S.O.N.G.の船奪いやがった!

3 バルベルデ

4 潜水艦に乗って海底(しばらく潜伏)

5 S.O.N.G.の船奪いやがった!

6 南極(シェム・ハの腕輪をゲット)

 

結果【6】

 

 

 

訃堂は南極まで逃げて、そこでシェム・ハの腕輪をゲットしたようです。

ペンギンロボはお亡くなりになった。

 

 

 

アダムくんのお気持ち表明【1D6】

 

1 駄目だよね、そういうのは(訃堂VSパヴァリア)

2 まだだよね、その時は(静観)

3 するべきだよね、協力を(訃堂=パヴァリア同盟)

4 駄目だよね、そういうのは(訃堂VSパヴァリア)

5 まだだよね、その時は(静観)

6 するべきだよね、協力を(訃堂=パヴァリア同盟)

 

結果【6】

 

 

 

AXZの敵が強大になりおった……。

 

 

 

一方その頃主人公【1D6】

 

1 ホモに言い寄られてた所を翼さんに助けられた

2 捨犬くんとコミュってた

3 翼さんと一線超えた!

4 ホモに言い寄られてた所を翼さんに助けられた

5 捨犬くんとコミュってた

6 マリアさんと一線超えた!

 

結果【6】

 

 

やりやがった!

グーグルダイスくんやりやがった!!

 

「ま、マリア……?」

「オ゛ォ゛ッ゛……、………………つばさ?ち、ちがうの、これは、違うの!」

「何が違うんだこの泥棒猫ーッ!」

 

主人公くんの一番槍はマリアさんが頂いたようです。

多分これ、酒の勢いなんだろうなぁ……(白目)

 

 

 

その後のつばマリ【1D6】

 

1 殴り合いの大喧嘩

2 もう浮気しない事で、停戦

3 翼正妻、マリア愛人で話がつく

4 殴り合いの大喧嘩

5 もう浮気しない事で、停戦

6 主人公を寝取られた翼さん

 

結果【3】

 

 

 

「いいかマリア。私が正妻、書類上の妻。世間的にも妻!閨の中でも妻!!いいな!?」

「わ、わかったわ」

「お前が愛人だ。彼に触れるなとは言わん。だ、だだ抱かれるな、とは言わん。だが、私が優先だ!いいな!?」

「はい……」

「それで良いなら、二人で平等に愛されよう」

「ええ、そうね。……ありがと」

「……その、所で。ああいう事は、気持ちいいのだろうか……」

「……翼。覚悟しときなさい。……ヤバイわよ」

 

そういう事になった。

 

 

 

そんなこんなでAXZ編【1D6】

 

1 錬金術で若返ったジッジ無双

2 錬金術で若返ったジッジ無双

3 愛を知ったマリア無双

4 愛を知った翼無双

5 愛を知った翼無双

6 主人公くん!?

 

結果【6】

 

 

やりやがった!

グーグルダイスくんやりやがった!!(二度目)

 

さて(深いため息)。

シンフォギアは愛が深く強ければ、その分強くなるスゴイ変身スーツである。

アメリカで主人公に愛されたマリアさんは、パヴァリアの大幹部相手に大立ち回りを演じる。

 

大活躍のマリアさんを褒める主人公くん。

それを見ていた翼さん。

その日の夜、主人公くんを押し倒す翼さん。

 

「お前が欲しい、お前の愛が」

 

そう言うと唇を交わし、影が一つになり───

 

───スケベ防人、風鳴翼と化し───

 

───愛を知った翼さんが、マリアさん以上に大活躍。

錬金術で若返った訃堂をコテンパンにやっつける。

あとついでに八紘パパから結婚の許可を取り付ける。

訃堂は結婚許可証だった……?

 

それを見ていたクリスちゃん。

「なんか先輩だけじゃなくてマリアも距離近くね」と考えだす。

主人公と距離が近いと理由はわからないが大活躍、と考え主人公と共に行動しだす。

元々親友だった二人。

でも色を知った主人公くんは距離が近くなったクリスちゃんの色香に惑わされ……。

 

 

 

「ケダモノ……」

「最低だよお前、先輩がいるのに……」

「…………」

「…………責任、取れよな」

 

そんな訳で。

翼さんに打たれ、マリアさんに蹴られ、八紘さんに殴られて。

クリスちゃんも主人公くんの愛人になりました。

マジメとは一体……。

マジメ(ベッドヤクザ)

 

とにもかくにも。

愛を知ったクリスちゃんは変身したアダムをヘッドショットワンキルした。

 

そして、パヴァリア光明結社は壊滅した。

 

 

 

その後の話【1D10】

 

1 主人公くんは主夫になった

2 主人公くんは主夫になった

3 つばマリファンから石を投げられる主人公

4 パイプカットされた主人公くん

5 つばマリファンから石を投げられる主人公

6 きりしらから殴られる主人公

7 主人公、出家!

8 主人公、出家!

9 パイプカットされた主人公くん

10 主人公くん!?!?

 

結果【6】

 

 

 

「マリアとクリス先輩から、話は聞いたデス」

「二人に手を出したんだよね。……最低」

「歯ァ食いしばるデス!」

「死んで侘びて!!」

 

そんな感じで、切歌ちゃんと調ちゃんから殴られた主人公くんであった。

 

どっとはらい。

 

 

 

◆今回の主人公まとめ◆

 

○ステータス

筋力:E(超ニガテ)

知力:C(普通)

敏捷:C(普通)

幸運:B(スゴイ)

 

○スキル

マジカルチ○ポ

 

○性格

マジメ(ベッドヤクザ)

 

 

○マテリアル

今回の主人公。

まさかの非力系マジチンボーイ。多分男の娘とか中性的な顔立ち。

 

クリスちゃんと親友であり、その縁で恋人である翼さんと知り合った。

仲睦まじい恋人同士であったが、訃堂による二人の仲を引裂こうという妨害工作から逃れる為にアメリカに行った所、マリアさんと関係を持ってしまった。

マリアさん曰く、「酒は飲んでも飲まれるな」。

 

紆余曲折あり、マリアさんは愛人枠に収まった。

そのマリアさんが戦闘で大活躍していた所を見た翼さんとも関係を持つ。

翼さん曰く、「その、マリアの言う通り、ヤバかった」とのこと。

 

その後更に紆余曲折あってクリスちゃんも愛人になった。

クリスちゃん曰く、「え、具合はどんな……って、言えるかバカ!!!」と顔を真っ赤にしていた。

 

 

 

総評として。

なんもかんもグーグルダイスが悪い。

それに尽きる息抜き回であった。

 

次回息抜き回やるなら、ステータスやスキルをもっとFateに寄せて主人公にバリバリ戦闘させてみたいと思った(こなみかん)

 





グーグルダイスくんはさぁ……


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転生者はノーブルレッドを救済したいようです

本編じゃないんや、スマンな。
今回はノーブルレッド救済二次創作です。
ノーブルレッド、私は好きなのにニコ動のコメント見たら辛辣なコメントばかりで悲しくなったゾ……。




あなたは転生者として、シンフォギア世界に転生しました。

あなたの名前は、メアリー・スー。

目的はノーブルレッドの救済です。

 

ヴァネッサ・ディオダティ。

ミラアルク・クランシュトウン。

エルザ・ベート。

 

この三人はそれぞれの事情でパヴァリア光明結社に関わり、人体実験によって肉体を怪物に改造されました。

しかし、パヴァリアの目指す「完全なる命」を持つには至らず、卑しい錆色と蔑まれ、日々凄惨な人体実験を施術されています。

 

あとアニメでは民間人一万人異常を虐殺した為に、アンチが湧いてます。

あなたはそれを可哀想と思って、運命や因果を捻じ曲げてシンフォギア世界に転生したのです。

 

さて、まずはノーブルレッドの3人と接触する為にパヴァリア光明結社に入団しないといけません。

メアリー・スーたるあなたは、ちゃんとパヴァリア光明結社の入団テストに合格出来たでしょうか……?

 

 

 

メアリーVSパヴァリア入団テスト【1D10】

 

メアリー【10】(クリティカル)

入団テスト【2】

 

 

 

入団テストは筆記テストと、実戦テスト。

筆記は錬金術師として必要な知識をキチンと学んでいたら問題ありません。

実戦テストはアルカ・ノイズとの戦闘に勝利すれば合格です。

で、メアリーの結果なのですが……。

 

筆記テスト、満点合格。

サンジェルマン以来の快挙です!

実戦テスト、最速で勝利!!

複数体のアルカ・ノイズをその場から動かず錬金術で生み出した小型ブラックホールで消失させました。

 

文句なしの合格です!

 

「メアリー、おめでとう」

 

最高幹部の一人、サンジェルマンから直接パヴァリア光明結社の一員であることを示す、鏡写しの?マークみたいな体勢の蛇が刻まれた金バッチを授与されました。

 

「メアリー、あなたはこれから私の部下として働いてもらうわね」

 

クリティカルを出したので、サンジェルマンの直属の部下になりました。

これでパヴァリア光明結社内で多少怪しい動きをしても怪しまれません!

お、ノーブルレッド救済RTAか?

順調なので、なにか試練を与えますね(サドっ気)

 

 

 

順調なメアリーにさらなる試練が!【1D6】

 

1 プレラーティ「気に入らないワケダ……」

2 え、キャロルの所に出向!?

3 在野の錬金術師が蜂起した

4 もう一人の転生者が幹部として存在していた

5 え、フィーネの所にスパイに行け!?

6 気が付いたらサンジェルマンと褥を共にしていた

 

結果【1】

 

 

 

「おい、メアリー。ちょっとツラ貸すワケダ」

 

と、あなたに声を掛けてきたのは元おっさんの幼女、プレラーティです。

 

「入団テストでいい成績出したからって調子に乗ってたら、潰されるワケダ。特に、お前がサンジェルマン直属となっていい思いをしてない奴は両手の指じゃ足りないワケダ」

 

と、サンジェルマン直属の部下となったあなたにいい思いをしてない筆頭が脅しをかけてきます。

あなたはどうします?

 

 

 

メアリーの対応【1D10】

 

穏便【1】

過激【4】

偶然通りかかったサンジェルマン【3】

 

 

 

「いい歳して嫉妬はどうかと思いますよ、オ・ジ・サ・ン」

 

プレラーティの言葉にカチンときたあなたはプレラーティを挑発します。

なんやコイツ電子レンジの中のダイナマイトかよ……。

 

「……ッ! いい度胸なワケダ! その伸ばした鼻を圧し折ってやるワケダ!!」

 

プレラーティが術式を展開、あなたを攻撃しようとします。

 

 

 

メアリーVSプレラーティ【1D10】

 

メアリー【10】(クリティカル)

プレラーティ【4】

偶然通りかかったサンジェルマン【1】

 

 

 

プレラーティの作った氷の槍があなたを狙い撃ちます。

が。

氷の槍はあなたを突き抜けます。

あなたの姿はそのままに。

 

「は?」

「残像です」

 

プレラーティは思わず振り向きます。

あなたの声が真後ろから聞こえてきたからです。

あなたは一瞬で火と水の元素を利用してあなたそっくりな蜃気楼を作ると、風の元素を利用した高速無音移動でプレラーティの背後に移動したのです。

 

「がッ!?」

 

振り向いたプレラーティの頭をあなたはアイアンクローで掴みます。

 

「あだだだだ!!」

 

あなたの肉体は錬金術で一時的に筋力強化しているので、人一人の頭なら砕けます。

そして、それをプレラーティも理解しています。

 

「……ッ、ま、まいった、ワケダ……」

 

プレラーティの降参宣言です。

あなたは手を離します。

 

「くっ……これではまるで、私が噛ませ犬みたいなワケダ……!」

 

プレラーティは悔しさを滲ませます。

 

「フン! 今は負けを認めるワケダ。お前の方が強いワケダ! だが、次は私が勝つワケダ! 首を洗って待ってるワケダ!」

 

そう言ってプレラーティはそそくさと逃げていきます。

次の日から、プレラーティがちょくちょく決闘を挑んでくるようになりました。

そして、その分気安い関係になりました。

河原で殴り合って友情芽生えた感じですね。クリティカル報酬です。

なんでコイツ勝負事にはクリティカル出すんや……。

 

それはそれとして、あなたはサンジェルマンに呼び出されました。

初仕事です!

 

 

メアリーの初仕事【1D6】

 

1 サンジェルマンと書類仕事

2 サンジェルマンと書類仕事

3 カリオストロと汚れ仕事

4 カリオストロと汚れ仕事

5 プレラーティと実験施設査察(ノブレの居る施設)

6 プレラーティと実験施設査察(ノブレの居る施設)

 

結果【2】

 

 

 

「メアリー、少し書類仕事を手伝ってくれないかしら」

 

と、サンジェルマンに言われました。

なんでも、いつも一緒に書類仕事をやるはずのカリオストロとプレラーティが外回りの仕事に行き、しかも決裁がすぐそこまで迫る書類があるのだとか。

あなたはカリオストロの隣の机で書類仕事を始めます。

 

「……パヴァリアは、慣れたかしら?」

 

と、カリカリと万年筆を動かしながらサンジェルマンが聞きます。

あなたはボールペンを動かしながら頷きました。

 

「そう、良かったわ。ここには個性的なメンバーが集まってるから、なかなか慣れないと思って心配していたけれど、問題なさそうね」

 

クスリ、とサンジェルマンが笑います。

 

「プレラーティとも仲良くやってるようね」

 

プレラーティとの決闘騒ぎもすでに耳に入っているようです。

 

「プレラーティに勝ったと聞いたわ。才能ある錬金術師は歓迎だけれど、あなたの才能を妬むものもいるかもしれない。なにかあったら、気軽に相談しなさい」

 

サンジェルマンも繊細な心遣いで、あなたを支えてくれます。

あなたは、ノーブルレッドを助けるために、もしかしたらサンジェルマンを裏切る事になるかもしれない、そんな心配をします。

あるいは、懺悔とも言うかもしれません……。

 

 

 

ところで書類の中にノブレの情報は【1D6】

 

1 なんの成果も得られませんでした!

2 なんの成果も得られませんでした!

3 なんの成果も得られませんでした!

4 ノブレのいる研究所の所在地がわかった

5 ノブレのいる研究所の所在地がわかった

6 ノブレのいる研究所の所在地と所属メンバー、研究所に備え付けられた警備システムの詳細がわかった!

 

結果【5】

 

 

 

カリカリとボールペンを動かすあなた。

そんな時、ある書類に目がいきます。

それは、研究所の設備を買い換えるための見積書でした。

その見積書には、その設備をどう使うかの説明が写真付きで添付されてました。

その写真に、写っていたのです。

ノーブルレッドの3人が!

 

「……ッ」

「あら、どうかした?」

 

サンジェルマンが心配そうに、こちらを見ます。

あなたは見積書を見せました。

 

「あぁ、この研究所ね」

 

サンジェルマンは説明してくれました。

完全なる命を命題とするパヴァリア光明結社の研究所、人体を用いた研究を行う特別区画だと。

 

「と、いってもここの被験者は皆、パヴァリアに協力したいと申し出た協力者たちだと聞いているわ」

 

非道な事はしていない、そうサンジェルマンは言いました。

しかし、あなたは知っています。

ノーブルレッドが悲惨な扱いを受けた事を。

 

サンジェルマンが嘘をついているのでしょうか。

それとも、ニセの報告で騙されているだけ?

それとも、サンジェルマンは嘘をついておらず、ノーブルレッドの3人が協力を申し出た平行世界時空なのでしょうか。

 

証拠はまだまだ足りません。

もっと、情報を集めないといけませんよ。

 

 

 

メアリーの情報収集【1D6】

 

1 失敗……!

2 失敗……!

3 成功!

4 アダム「怪しいね、メアリーはさ」

5 成功!

6 大成功!

 

結果【6】

 

 

 

あなたの情報収集は大成功!

本来なら一つだけ手に入る情報が、2つ手に入ります!

 

 

 

手に入った情報①【1D10】

 

1 サンジェルマンは嘘をついていた……

2 サンジェルマンは嘘をついていた……

3 件の研究所が嘘の報告を上げていた

4 件の研究所が嘘の報告を上げていた

5 件の研究所が嘘の報告を上げていた

6 件の研究所が嘘の報告を上げていた

7 件の研究所が嘘の報告を上げていた

8 ノブレは自ら被験者となった

9 ノブレは自ら被験者となった

10 熱烈歓迎

 

結果【9】

 

 

 

手に入った情報②【1D6】

 

1 研究所の所属メンバーの個人情報

2 研究所の所属メンバーの個人情報

3 研究所の所属メンバーの個人情報 + 警備状況

4 研究所の所属メンバーの個人情報 + 警備状況

5 研究所の所属メンバーの個人情報 + 警備状況 + 近隣の隠れられそうなところ

6 研究所の所属メンバーの個人情報 + 警備状況 + 近隣の隠れられそうなところ

 

結果【4】

 

 

 

あなたが手に入れた情報は2つ。

 

一つは『ノーブルレッドの3人が自ら望んで被験者をやっていること』。サンジェルマンは嘘をついていなかったようです。

 

もう一つはノーブルレッドの3人が居る研究所の『所属メンバーの個人情報と警備状況』です。

研究所に侵入するとき、所属メンバーの内の誰かを脅して協力させたり、簡単に侵入出来るようになります。

 

侵入する手段が整いました。

しかし、肝心のノーブルレッドの3人が望んで被験者をやっているようです。

脅されて被験者をやっている訳でなく、自分からやりたい、と。

なんなら週休二日制で、休みの日には3人で街にショッピングに行っているとも。

 

あなたの目的はノーブルレッドを救済すること、でした。

が、肝心のノーブルレッドはこの世界では救われていたようです。

あなたのやる事、無くなってしまいましたね……。

 

 

 

ダイスさん、テコ入れして!【1D6】

 

1 え、研究所が襲撃された!?

2 え、研究所が襲撃された!?

3 え、プレラーティがやられた!?

4 え、プレラーティがやられた!?

5 え、カリオストロがヤられた!?

6 アダム「あるんだよ、ギャラルホルンが」

 

結果【5】

 

 

 

あなたがなんの為に生まれてきたのか、その意味を見失ったある日、パヴァリア光明結社にとんでもない事件が発生します。

アフリカに潜伏していたナチス残党「レーベンスボルン」にスパイしていたカリオストロが捕まって、アヘ顔ビデオレターを送ってきたのです!

ネタ出目をピンポイント狙撃しやがって!

 

「すぐに助けに行くわよプレラーティ、メアリー!」

「もちろんなワケダ!」

 

サンジェルマンとプレラーティと共にアフリカに飛んだあなた。

レーベンスボルンはアーリヤ人の人口増加を目的とした組織として知られていますが、裏ではパヴァリアと協力して「完全なる命」を目指していたのです。

が、戦争終結と同時にアフリカに逃亡、国際社会やパヴァリアからも逃げおおせたのです。

 

それが、最近になって存在を確認されたので、スパイとしてカリオストロが派遣されたのですが、結果はアヘ顔ダブルピースでした……。

 

「絶対助けるわ、カリオストロ!」

「帰ったらミルクを奢らせるワケダ!」

 

二人はやる気満々です。

そして、レーベンスボルンのアジトにたどり着いたのですが……。

 

 

 

カリオストロ救出【1D6】

 

1 悪落ちカリオストロ登場 → メアリーの腹パン

2 悪落ちカリオストロ登場 → メアリーの腹パン

3 サンジェルマン怒りの錬金術!

4 サンジェルマン怒りの錬金術!

5 プレラーティがさっさとカリオストロを救出した

6 プレラーティがさっさとカリオストロを救出した

 

結果【2】

 

 

 

「あら、早かったわね」

 

そう言って、レーベンスボルンのアジトから出てきたのはカリオストロです。

大事なところが丸見えなビキニアーマーを纏っています。

 

「カリオストロ! その格好は……」

「いいでしょサンジェルマン♪ ご主人さまたちが用意してくれたのよ♡」

 

くるり、と一回転するカリオストロ。

色んな所の食い込みか凄いことになってます。

 

「カリオストロ……」

「どうしたのプレラーティ? 心配しなくてもあなたたちもあーしと同じように、ご主人さまが調教してくれるわ♡」

 

カリオストロは悪堕ちしてます。

この小説、元々はノーブルレッドメインの筈だったんだぜ……。

 

「もちろん、そこの新入りさんも……」

「シャァ!」

 

あなたはカリオストロの懐に飛び込んで腹パン食らわせます。

守るものを身に着けてなかったカリオストロはモロに食らいます。

 

「グォエ!」

 

カリオストロは身体をくの字に曲げて嘔吐しました。

 

「フンッ!」

 

あなたはもう一発殴りました。

カリオストロは気絶しました。

 

「ちょ、メアリー!?」

「なにやってるワケダ!?」

「いえ、混乱してるようなので殴ったら元に戻るかなって」

 

あなたは悪びれず答えます。

ダイス結果から見てわかる通り、ゴリッゴリの武闘派だからです。

 

「それに、あんなカリオストロさん見たくなかったでしょう?」

「……そうね」

「……カリオストロ、助けるのが遅くなってすまないワケダ」

 

二人は目を伏せます。

が、顔を上げるとレーベンスボルンのアジトに向けて歩を進めます。

 

「レーベンスボルン、野放しにはしておかないわ」

「カリオストロの仇は取るワケダ」

「ええ、行きましょう」

 

あなたも進みます。

レーベンスボルンの構成員は全員捕らえられました。

キレたサンジェルマンとプレラーティに、ゴリッゴリゴリラ錬金術師のあなたもいるのです。

レーベンスボルンはダイジェストで滅びました。

 

そして、一週間後。

 

「カリオストロ、復帰よん♪」

 

カリオストロは職場復帰しました。

 

「え、早くないですか?」

 

あなたは驚きます。

あんな目にあった上に腹パンして沈めたのに、一週間で復帰してきたからです。

 

「メアリー。カリオストロのあれは演技よ、全部」

「……は?」

「アヘ顔ビデオレターも、悪堕ちも。演技なワケダ」

 

サンジェルマンとプレラーティにそう言われました。

あなたは開いた口が塞がりません。

 

「あーしがあの程度の男たちに墜ちる訳ないじゃないの」

「コイツがアヘ顔ビデオレター贈ってきたのはもう4度目なワケダ……」

 

プレラーティがげんなりしてます。

 

「え、でもサンジェルマンさんもプレラーティもすごく怒ってた」

「初見じゃ演技かどうかなんてわからないもの……」

「そら最初は怒るワケダ。……でも後から演技だって気付いたワケダ」

「てへ♪」

 

あなたは頭を押さえます。

 

「気持ちはわかるわ。メアリー」

「頭痛いなら医務室行くワケダ。仕事はカリオストロにやらせるワケダ」

「え。ひどい」

「ひどくない!」

 

サンジェルマンはぷりぷりと怒ります。

 

「そもそもあなたは普段から性的にだらしないのよ。この前も男娼と朝まで───」

 

サンジェルマンの怒声を聞きながら、あなたは部屋の窓から空を見上げます。

 

透き通るような、青空でした。

 

 

 

 

 

 

「ヴァネッサ、今日は客が来るって聞いたゼ?」

「ええ。最近パヴァリアに入ったメアリー・スーという人よ」

「なんでもスゴく強い人だと聞いたであります!」

 

「へー、なんでそんなスゴい人がウチらに会いに来るんだ?」

「ここの研究所の管理責任者になったから、挨拶に来るんですって。あと、私達がちゃんとお世話されるかも見るみたい」

「だから研究員さんたちが書類作りに忙しそうなんでありますね」

 

「優しい人だといいゼ……」

「しっかりした人だって聞いたわ。サンジェルマンからも推薦されたって」

「でも、かなり短期で血の気が多いって聞いたであります」

 

「え、怖い人なのゼ?」

「大丈夫よミラアルクちゃん。怖い人ならサンジェルマンは推薦しないわ」

「ミラアルクは怖がりであります」

 

「ち、違うゼ! 怖い人なら、ウチが二人を守らないとって思ったんだゼ!」

「ありがとうミラアルクちゃん。でもその時はおねーちゃんが頑張ります♪」

「私めも役に立つであります!」

 

「二人とも……。あ、来たみたいだゼ」

「礼儀正しくね、二人とも」

「任せるであります!」

 




ノーブルレッド救済(する必要はなかった)二次創作。
なんでさ。
私はもっとこう、パナケイア流体に必要な血液を生成するホムンクルスとか錬成して、スゴいゼとか、おねーさん好きになっちゃいそうとか、カッコいいでありますとかそういうのを考えてたのよ。
でもなんかこうなった。
なんもかんもダイスの女神様が悪い。


◆オリ主紹介な◆

○メアリー・スー
ノーブルレッドを救済する為にシンフォギア世界に転生した転生者。さらっと流してるけど、この人自力で転生してるのよね……。
パヴァリア光明結社に入団し、最高幹部の部下となり、別の最高幹部の良きライバルとなった武闘派ゴリラ。
本編後はノーブルレッドの所属する研究所の管理責任者となり、ノーブルレッドと仲良くしている。
性別はあえて表記していない。
男かもしれないし、女かもしれない。もしかしたらオカマかオナベかも。
一つ言えるのは、メアリーはインテリゴリラということ。

名前の元ネタは二次創作界隈で有名な「原作キャラより活躍する自己投影系オリ主概念」のこと。


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本編
序章


処女作です。
宜しくお願いします。


「突然ですが貴方にはシンフォギア装者になって貰います」

 

死んだと思ったら目の前に綺麗な女性がいて、ははぁコレは異世界転生だな、と思ったらいきなり大変な事を言われた。

 

「何故いきなり、お前にはこれから苦難溢れる人生を生きてもらう、みたいな宣告食らうんですか?来世は地獄か修羅道なんですかねぇ……?」

 

シンフォギア世界は物騒なのだ。

ノイズとか異端技術とか錬金術師とか。あとはアダムにシェム神様、訃堂じいじ。

 

「むしろもう一度現代日本とかいうベリーイージーな文明に人として転生出来るのですから、ご褒美なのでは?」

 

まあ、突然でしたしね。そう言って女性は一つ咳払いする。

 

「改めまして、私は『戦姫絶唱シンフォギアXDUにオリジナルシンフォギア装者を出す精霊』です。シンフォギアのソシャゲーでオリジナルの装者出てくれないかなー、という一部のユーザーのモヤモヤした思いが凝り固まって生まれた……ある種の哲学兵装のようなものですね」

「……ずいぶんと、独特な生まれなんですね」

「よく言われます。……まぁ名は体を表す、という事でXDUにオリジナルシンフォギア装者を出すのが私の存在理由なんです。と、言っても私、力が弱いのでゲームそれ自体にオリジナル装者を出す力はないのですが」

 

ですが!と此方を指差す精霊さん。

 

「最近流行りの『異世界転生』の概念をちょっぴり流用する事で『戦姫絶唱シンフォギアそっくりな数多の平行世界』に『シンフォギア装者になる可能性の高い魂』を送り込む事で、オリジナルのシンフォギア装者をバンバン生み出しているのです!」

「そして今回シンフォギア世界に送り込まれる哀れな子羊が私、と。……私、そんなにシンフォギア適正高かったんですねぇ……」

「貴方の魂と精神が、幾つかの聖遺物に適合しているんです」

「幾つか?」

 

シンフォギアの聖遺物は、適合するのは一人一つ。多くて二つ、だった気がするが。

 

「貴方が今、肉体も名前もないあやふやな存在だからですね。彼我の境界があやふやだからこそ、無数の可能性を受け入れるのです。ですが、まあ、ここで。貴方の適合する聖遺物を決めちゃいましょうか!そこら辺決めないと貴方の送り先決められませんし」

 

と言って、精霊さんはサイコロを振った。

……え、サイコロ!?

 

 

 

チキチキ貴方の聖遺物はどーれ?【1D6】

1 カリバーン

2 天羽々矢

3 ゲイ・ボルク

4 ゼウスの鎧

5 スダルシャン

6 アダマスの鎌

 

結果、【5】

 

 

 

「うん、貴方の適合する聖遺物は『スダルシャン』に決定しました!インドの主神の一人ヴィシュヌの持つ輪っかの手裏剣、チャクラの事ですね。最近ではマハーバータラのアシュヴァッターマンが使うことでも有名です」

「アシュヴァッターマンは我がカルデアの主戦力の一人なので、この聖遺物の事は良くわかりますよ。所で今大事なことサイコロで決めませんでした?」

「これが一番上手くいくんです。私が決めるでもなく、転生者に任せるのではなく、運命に委ねるのが。

それより、自分の姿を見てください。先程までのふわふわ曖昧ボディから姿形が変わってますよ」

 

そう言われて自分の姿を見る。

思えば、先程までは手足どころか目も口も、何もかもがなかったオバケスタイルだった筈なのだが、今では良く鍛えられた、指の長い、男性の姿となっていた。

あやふやな姿から、確固たる己の姿へと。

 

「これが……私、いや。俺の……」

「貴方です。スダルシャンにふさわしい、貴方の魂。精神。心。そして愛」

「なぜそこで愛ッ!」

「言いたいだけですよね?あとは貴方のお世話になる組織のボスも決めちゃいましょうか!コレが決まったら、もう転生先は確定ですよ!」

 

そう言ってまた精霊さんはサイコロを振った。

 

 

 

チキチキ装者の元締めコンペ【1D6】

 

1 風鳴訃堂

2 風鳴八紘

3 風鳴弦十郎

4 櫻井了子(フィーネ)

5 ドクターウェル

6 キャロルちゃん

 

結果、【1】

 

 

 

「あっ」

「あっ」

 

とんでもない出目が出た。

 

「……ネタで入れた訃堂が出るとは」

「精霊さん、これ振り直し出来ません?あとネタで厄いの入れるなや(プチおこ)」

 

精霊さんは静かに首を横に振った。

 

「このサイコロ、運命の可視化という、ある種の神様でして。出た目に対する結果は絶対なんですよね……」

 

俺は土下座した。恥も外聞もなかった。

 

「お願い精霊さん!救済措置をください!訃堂じいじの部下とか絶対ストレスで死ぬ!あと結果出せなかったら殺される!助けて!!!」

「……そうですね。流石に訃堂じいじと二人きりは厳しいですよね。…………わかりました。救済措置をあげましょう!サイコロで!!」

「え?」

 

 

 

チキチキ救済措置レース【1D6】

1 綺麗なじいじ

2 綺麗なじいじ

3 副司令に八紘と弦十郎

4 副司令に八紘と弦十郎

5 技術部にフィーネとウェルとキャロルちゃん

6 上全部

 

結果、【6】

 

 

 

「えっ?」

「はっ?」

 

なんか、すごいのが、でた。

 

「ウソーん……」

「これはグラサイを疑われますね……」

「ていうかコレどんな状況なんですかね?地球上の最高戦力と銃後の守りと異端技術の専門家が一つの組織に居るっていうのは……」

「……サイコロさん!」

 

 

 

何が起こった金子のオッサン!【1D6】

1 ギリシャが欧州統一、背後にオリュンポス

2 ギリシャが欧州統一、背後にオリュンポス

3 パヴァリアが北米乗っ取り

4 パヴァリアが北米乗っ取り

5 シェム神様まさかのお目覚め

6 上全部

 

結果、【2】

 

 

 

「どうやらギリシャがなぜか生き残ったオリュンポス12神と共に経済破綻した欧州を統一、国際関係はガッツリ緊張している上にカストディアンとか異端技術の情報が表に出たようですね。

 

基幹世界でも欧州の経済破綻にギリシャだけは巻き込まれてませんし、もしかしたら本当にオリュンポス12神関係の話をXDUでするのかも」

「よし、まだマシだな!(感覚麻痺)」

 

シェム神様が起きてなくて本当に良かった。よかったぁ……。

 

「そんな訳でこんな世界に転生なんですが」

「行きたくねぇなぁ。でも興味はあるしなぁ」

「好奇心猫をもチョメチョメ、というやつですね」

「コヤツめハハハ」

 

なんだろう、まさかの訃堂から精霊さんとの距離が縮まった気がする。

 

「そういえば、この世界俺以外のシンフォギア装者っているんですかね?」

 

 

 

装者ガチャ【1D6】

1 ぼっち

2 ぼっち

3 ぼっち

4 ツヴァイウィング + クリスちゃん

5 ひびみく

6 F.I.S.組

 

結果、【5】

 

 

 

「立花響ちゃんと小日向未来ちゃんが仲間にいますよ!」

「百合っぷるに挟まる男、刺されそう(恐怖)」

「TSします?」

「止めときます。女の子は人間関係がギスギスしてそうですし。友達とか同期とかで頑張りますよ」

「そうですか。では……」

 

ふっ、と精霊さんが手をあげると、目の前に扉が現れた。

さまざまな音楽記号の彫られた扉だ。

 

「この扉の先が、貴方の向かう世界へ続いています。数多の苦難、数多の強敵が待ち受ける事でしょう」

 

それでも、そう言って精霊さんは微笑みかけた。

 

「沢山の幸せ、沢山の仲間。そして沢山の歌が貴方を待っています。

二度目の人生、悔いの無きように」

「ええ、頼れる仲間が付いているんです。負けませんよ、俺は」

 

俺は精霊さんと握手をした。

はじめはどうなることかと思ったが、今では会えて良かった、不思議とそう思った。

ドアノブに手をかける。

開けようとして、忘れていた事があったので、振り返った。

 

「いってきますッ!」

「はい、いってらっしゃい」

 

今度こそ、扉を開けた。

光が広がる。

一歩踏み出した。

光に包まれる。

歌が聞こえる。

もう一歩踏み出そうとして。

俺は───

 

 

 

「おめでとうございます。元気な男の子ですよ!」

 

 

 




とうとう投稿してもうた……。
エタらないように頑張ります。


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第一話 設定を固めていたら長くなった前日譚(前編)


主人公の名前を【入即出 やる夫】にしようと思ったけど、やる夫がピチピチインナー着ているところを想像したくないので、完全オリジナルな主人公にしました。



 

我輩は転生者である。

名前はまだない。

普通の人生を生きて、死んだと思ったら『戦姫絶唱シンフォギアXDUにオリジナルシンフォギア装者を出す精霊』なる上位存在によりシンフォギア装者として送り出されたのだ。

なんかこの世界、オリュンポス12神が欧州統一したらしいけど。

どういう事なの?

 

そんな我輩は今、母の腕の中である。

先程すぽーん、と生まれたばかりなのだ。たぶん、ここは病院のベッドの上なのだろう。

母は我輩を優しく揺すって、歌なぞ歌っている。柔らかで優しい歌だ。

父親は近くに居ない。仕事なのだろうか、それとも……。

 

母の顔はわからぬ。

赤ん坊の視力はとても弱い。

我輩の視界はぼやけていて、白と黒のモノトーンだ。わかるのは母の暖かさと優しい歌、そして我輩の前をフワフワと浮かぶサイコロ。

 

…………これあれだな。

精霊さんが振ってたサイコロだな。

確か、運命の可視化とかある種の神様とか。

 

『然り』

 

喋った。

素敵なバリトンが頭に響いた。

思わず身体が反応し、母親がどうしたのーと言って抱き締める。

 

『私は運命、その一側面。命の運行、その羅針盤にして操舵輪である』

 

すっごい難しい事を言ってきたが、要するに運命そのものという事だろう。

その運命の一側面が何故ここにいるのか?

 

『貴公は私を見た。私に人生を預けた。だから私は此処にいる。私が貴公の運命を決めたが故に。私が貴公の運命となったが故に』

 

つまり我輩……もとい俺がサイコロ神に適合する聖遺物やらなんやら決めてもらったから、これからも俺の人生のあれやこれや決めていくってこと?

サイコロ神振ったの精霊さんなのに!?

 

『然り。私は貴公の運命である。人生の羅針盤、操舵輪となった。もうなったのだ、諦めよ』

 

……サイコロに人生委ねるのか、TRPGめいてきたなぁ。あるいはあんこスレか。

サイコロ神はそれでいいのだろうか。俺の人生になって、良かったのだろうか。

 

『気遣いは不要である。

私に感情はなく、自我もない。

貴公に話しかける私は機能である。インフォメーションでありヘルプ、ネットの海を泳ぐイルカなのだ』

 

サイコロ神はハイテクらしかった。

すごいや!

 

『運命は平等である。幸も不幸も、勝利も敗北も全て受け入れるが故に。

運命は絶対である。神にも人にも、精霊にも結果を変えることは出来ない。

しかし、出目の種類を変えることは出来る。

肉体を鍛え上げた戦士が強いように、勉学に励んだ賢者が未知を解き明かすように。

努力で出目の良し悪しを変える事は出来る。これは万人に許された、運命に対峙するための手段である』

 

つまりより良い人生を歩むためには努力しなさいよ、と言うことである。わかりやすく、そして難しい。殆どの人は怠け者で、努力出来る人間は中々少ないのだ。

だが。

俺はシンフォギア装者となる運命を背負って生まれてきた。

数多の苦難、数多の強敵と戦う運命を決定された。

なら、努力するしかないのだろう。

俺が人生を全うする為には。

 

『然り。

だが、これから決めることは努力では変えられぬ運命だ』

 

へ?

 

『貴公の生まれ、家柄や家族の良し悪しを決める』

 

 

 

転生オリ主一家の運命やいかに!【1D10】

(数字が大きいほど良い)

 

両親【8】

家柄【3】

金銭【5】

 

 

 

「和花(のどか)!!」

 

ガラガラと扉の開く音と共に男の声が響く。

 

「洋一(よういち)さん!」

 

母親……和花と呼ばれた……の声が跳ねる。恐らく、今入ってきた男の人は───

 

「生まれたのか、俺の。俺たちの子どもが……!」

「はい!この子が私たちの赤ちゃんです」

「そうか……!身体は平気か?」

「はい、私もこの子も健康です」

「良かった……本当に良かった」

 

ありがとう、そう言って男の人は俺と母を抱き締める。

やはり、そうなのだろう。

この男の人が俺の父親なのだ。

俺の誕生を、母と俺の無事を喜ぶこの人が、俺の父親なのだ。

 

『貴公の両親は人柄良く、家も貧しくなく、しかし妬まれるほどの財を持たず。何処にでもあるサラリーマンの家庭。幸せな家庭。それが貴公の暮らす家だ。

幸運を喜ぶが良い。育ちは変えられても、生まれだけは努力ではどうにもならぬものなのだ』

 

ああ、本当に。

今だけはこの幸運を味わおう。

両親の暖かさ、優しさを。

そして守るのだ。俺がこの二人を。

俺の大切な家族を。

 

 

でもオリュンポス12神が出てくるのは確定だしなぁ。勝てるかなぁ……。

 

「そう言えば洋一さん。この子の名前決まったの?」

 

ふと、母がそんな事を言った。

名前、名前かぁ。サイコロで運命決めるからって『入即出 やる夫』とかじゃないよね?

もしくは難読な名前だったり、ヘンな読みの名前!

生まれ持った名前も努力で変えられないよねサイコロ神?

 

『……名前は後年改名出来る(震え声)』

 

サイコロ神!

ちょっと!?

 

「勿論!この子は男の子だろう?なら、この子の名前は───」

 

待ってくれ、こっちは心の準備が出来ていない!

 

「一鳴。『渡 一鳴(わたり かずなり)』それがこの子の名前だ!」

 

瞬間。

すとん、と自分の何かが変わった。

ふわふわとした己が落ち着いたような。

錠に鍵がはまるような。

そんな、変化が。

 

ああ、そうか。

これで俺はようやく、この世界の一員になれたのだと。

 

なんとなく。そんな気がした。

 

俺は一鳴。渡 一鳴が俺の名前なのだ。

 

 

2027年10月10日。

俺は渡 一鳴となった。

天秤座の男であった。

 

 

 

 

そんなこんなで、俺はこの世界に生まれたのだが。

シンフォギア装者という将来の為に鍛えなければならない訳で。

シンフォギア装者というのは、歌いながら敵と戦うトチ狂った集団なのである。

激しい運動をしながら!

歌う!

熱唱!

弾ける汗、ズレるヘッドホン!

さすが業界一過酷な現場と言われるだけある。

 

そんな激務が俺を待っているのだ。

鍛えなければならない。

体力を付ける?筋肉を鍛える?肺活量を増やす?

どうするべきか……。

 

 

 

一鳴の育成方針【1D6】

 

1 波紋呼吸法は実在するッ!

2 体力強化だッ!

3 筋肉を付けるッ!

4 肺活量を鍛えるッ!

5 まだ慌てるような時間じゃない。

6 全集中の呼吸・常中は実在するッ!

 

結果、【2】

 

 

 

よし、体力を付けよう。

戦うのも歌うのも、とにかく何をするのも体力を使うのだ。

思えば俺はダクソもブラボも、初めに体力を上げて生存能力を高めていた。つまりこれは合理的な判断である。

 

公園デビューしたら、いっぱい運動しよう。

 

俺はそう思いながら母の腕に抱かれていた。

俺はまだまだ赤ちゃんなのだ、うん。

 

そうして。

 

生まれて二年ほど経って。

時は来た。

公園デビューである。

とは言っても、生後間もなくベビーカーに乗せられて、公園には何度も来ているのだ。

母もママ友が何人も出来た。今も名前を呼ばれている。

勿論俺も友だちが出来た。

親子揃ってぼっちにならなくて良かった……。

 

 

 

一鳴のお友達【1D6】

 

1 ひびみく

2 ひびみく

3 ひびみく

4 雪音 クリス

5 風鳴 翼

6 上全部

 

結果、【3】

 

 

 

「なるくーん」

「こっちだよー!」

 

『なるくん』というのは、俺の渾名。一鳴の『鳴』が訛ったのだ。

そして俺を呼んだのが、我が友人。

紹介しましょう、俺のマイフレンズ。

立花響ちゃんと小日向未来ちゃんです。

もう一度言おう。

 

立花響ちゃんと小日向未来ちゃんです。

 

二人とも二歳です。同い年!かわいい!

そして邂逅が早すぎる!

確かに精霊さんに、この世界ひびみくが装者になるよって言われたけど。

出会うのが早すぎるよ!

 

「なるくーん!」

 

キャーキャーと、俺に抱きつくロリビッキー。かわいい!

そしてそんなロリビッキーに抱きつくロリ未来さん。かわいい!!

 

「あそぼ!」

「なにする?」

「鬼ごっこは」

「うん!」

「やる!」

「僕が鬼ね!」

「うん!」

「にげろー!」

 

そんなこんなで。

いさささか早すぎる邂逅ではあるものの、俺は二人と仲良くやっていた。

 

 

 

チキチキ好感度判定【1D10】

 

1 あんまり……

2 友だち

3 友だち

4 友だち

5 あんまり……

6 友だち

7 友だち

8 友だち

9 好き!

10 早すぎる恋

 

立花 響【7】

小日向 未来【4】

 

 

 

まあ、普通に友達ですわな。

少なくとも「あんまり一緒に居たくないな、嫌だなぁ」とは思われていないので、俺としてはOKです。

百合カプの間に挟まる趣味もないですし。

二人とも可愛いし、恋人になりたいのだけれどね。

XVのアレ見るとね。挟まる隙間がないよね。こじ開ける気にもならないし。

 

そんな訳で。

俺は将来の同僚、未来のシンフォギア装者たちと仲良く過ごしていたのだった。

 

……もちろん、体力強化はしているよ?

今だって逃げる二人を捕まえそうで捕まえない、絶妙なバランスで追いかけつつ、二人を追っている。

全力で走りながら。

まあ、毎日こんな風に走っていると幼児の身体でも流石に体力が付く。

どこぞの縁壱みたいに、一日走っても疲れない、なんてことは無いけれど。

成長したら、もっと本格的なトレーニングしないとなぁ。

 

 

 

渡 一鳴は体力自慢のタフネスガイになります。

継戦能力が上昇します。

 

立花 響と小日向 未来と知り合いました。

 

 

 

さて。

俺の近況についてお知らせした所で。

この世界について説明します(ねっとりボイス)

自分自身の理解の為にもね。

 

さて、この世界は

【ギリシャがオリュンポス12神と共に欧州を統一した世界】

である。

そして、

【風鳴訃堂が司令、八紘と弦十郎が副司令となり、フィーネとドクターウェルとキャロルちゃんが技術部に所属している世界】

でもある。

どうしてこうなったか?サイコロ神が悪い。

 

『私は運命を示しただけ』

 

おっ、そうだな!(プチおこ)

では、最初に。ギリシャは具体的にいつ頃欧州を統一したのか。

俺が二歳になる今、欧州は平和である。いや、EU経済がガタガタなのは新聞やニュースを見て知っているのだが。それでもギリシャが欧州統一とかオリュンポス12神復活とか、そんな情報は入ってきていない。

 

『おそらく、ギリシャが動くのは連鎖的超規模経済破綻により欧州の経済基盤が破綻した時であるか(公式サイト参照)』

 

戦争するには、敵は弱ってる方がいいもんね。

経済破綻は欧州が暗黒大陸とか呼ばれるようになる原因でもあるし。たしか、デュランダルもこの時不良債権を一部肩代わりする代わりにゲットしたんだっけ。

その破綻はいつ頃なのか。

 

『公式サイトには【数年前】としか書かれていない。この【数年前】を原作開始時間を起点に考えれば今しばらく余裕はある。

原作開始時間が2043年4月。現在2030年4月。【数年】を十年よりも少ないと捉えれば、最低でも四年の余裕がある。』

 

事が起きるのは最も早くて【2034年】か。

それまでにやる事、出来る事はあるだろうか?

 

『貴公に出来る事は身体を鍛え、知識を蓄えることのみ。備えよ、決戦に。敵は強大である』

 

そうか。そうだな。

今俺は二歳だしなぁ。

とにかくいっぱい運動して、色々情報も仕入れないとね。

 

『然り』

 

さて、次に。

綺麗な訃堂じいじに司令……じゃなく弦十郎さんに八紘さん、フィーネにドクターウェルにキャロルちゃんが一同に会する理由なんだけれども。

まあ、これギリシャが原因なのよね……。

 

『それが定まった運命である』

 

そう、これは死後の世界で決まった事なのだ。

訃堂じいじが上司なのを嫌がった俺が救済措置をお願いしたら、オールスター大集合して、その理由としてサイコロ振ったらギリシャ大躍進が決定した。

……あれ、これ。ギリシャ大暴れは俺が原因?

…………。

 

か、考えないようにしよう。

とにかく。

風鳴親子が二課に居るのはわかる。訃堂じいじはキレイキレイだし、護国の為団結しなければならないだろうから。フィーネもわかる。フィーネの宿る櫻井了子は二課の所属だ。

でもドクターウェルとキャロルちゃんが二課にいるのはどういうことなの……?ドクターウェルはアメリカが本拠地の筈だし、キャロルちゃんはそもそもチフォージュシャトーに閉じこもって嵐が過ぎ去るのを待てばいいんだから。

 

 

 

YOUは何しに日本へ、ウェル編【1D6】

 

1 アメリカでやらかして日本に逃げてきた

2 マム「ドクター、出向です」

3 マム「ドクター、出向です」

4 マム「ドクター、出向です」

5 日本政府とアメリカの秘密取引

6 真の英雄、ドクターウェル

 

結果、【6】

 

 

 

YOUは何しに日本へ、キャロルちゃん編【1D6】

 

1 ストーカーと化したゼウスから逃げてきた

2 チフォージュシャトー壊されて……

3 チフォージュシャトー壊されて……

4 チフォージュシャトー壊されて……

5 風鳴機関とパヴァリアの秘密取引

6 世界を知ったキャロルちゃん

 

結果、【2】

 

 

 

『ドクターウェルは……後にしよう。

キャロルはチフォージュシャトーをオリュンポス12神に壊され、日本まで逃げてきた所を二課に保護され、その後技術部に雇われたようである』

 

キャロルちゃんは概ね予想通りの展開だった。大穴でゼウスにストーカーされたとかかな、と思っていたが。

で、ドクターウェルはどうなったんや(恐怖)

 

『風鳴訃堂が綺麗な訃堂になったのは知っているだろう?ドクターウェルも綺麗になった』

 

ファッ!?

 

『綺麗になったドクターウェルは英雄を「弱い者を犠牲にしない強い人」だと規定した。結果、F.I.S.にさらわれたレセプターチルドレンたちやナスターシャ教授を連れて日本に亡命。二課と交渉してレセプターチルドレンとナスターシャ教授の保護を条件に技術部に入ったようだ』

 

き、キレイなウェルだぁ……(白目)

でもそんな勝手して、フィーネは怒らなかったんだろうか?

 

 

 

フィーネのお気持ち表明【1D6】

 

1 そらおこよ

2 既に弦十郎さんに敗北した後

3 既に弦十郎さんに敗北した後

4 既に弦十郎さんに敗北した後

5 既に弦十郎さんに敗北した後

6 既に弦十郎さんに敗北(意味深)した後

 

結果、【4】

 

 

 

『ルナアタック未遂で弦十郎に倒され、大人しくしていたようである。ドクターウェルが二課と取引したのも、それがあるのやも』

 

そっかぁ。

原作のラスボスたちはほとんど敵になる事はないのか。

ならマジで敵はパヴァリアと神々だけなんだぁ。

 

『否である。ここはシンフォギアの世界ではなく、無数にあるシンフォギアに【似ている】世界の一つ。全てが貴公の知る通りに進むとは限らず。様々な敵や困難が待ち受けるであろう。具体的にはXDUのイベントのような展開がある』

 

なるほど。

ここはアニメやXDUの世界ではなく、あくまで似ている平行世界。何が起こるかわからん、と。確かに、既にオリュンポス12神の登場が確定しているので、全てがシナリオ通りとはいかないだろう。

反省しなければならない。

 

……そうか。

ここが平行世界の一つなら、ギャラルホルンの力でXDU時空の装者が来る可能性があるのか。

 

『然り。やもすれば、世界蛇との決戦に呼ばれる事もあり得る』

 

……備えよう。

 

 

そんな感じで、俺はこの世界について理解を深めたのであった。

 

 

 





後編も近々投稿したいです。
でもFGOのイベントもやらないといけないので、気長に待っていてください!

私もオリ主に早くシンフォギア纏わせたいので、頑張ります!


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第二話 設定を固めていたら長くなった前日譚(後編)

今回ダイス神荒ぶりすぎです……。


 

 

ギリシャ、立つ【1D6】

1 2034年

2 2035年

3 2036年

4 2037年

5 2038年

6 2039年

 

結果、【3】

 

 

 

2036年3月。

それは経済学者の危惧した通りに訪れた。

欧州某企業の倒産に端を発した、欧州の連鎖的超規模経済破綻である。

数年前から予兆はあった為、各国経済界はキチンと対策を取っていた。

しかし。

その後起きた事態については誰もが予想していなかった。

ギリシャが欧州全土に喧嘩を売るなど……。

 

7月。

ギリシャによる国連脱退、そして欧州各国への宣戦布告。ギリシャは世界から孤立、あるいは独立した。

その後、欧州各国軍は瞬く間に壊滅させられた。ギリシャから出てきたオリュンポス12神がやったのだ。

空軍は雷光に戦闘機ごと焼かれ。

陸軍は矢に人も戦車も貫かれ。

海軍は大津波により海底に沈められた。

 

また、ギリシャの保有していた完全聖遺物【エキドナ】が、魔獣を大量生産して生き残った軍隊の相手をする。

世界地図はあっという間にギリシャに塗り替えられていく。

 

 

 

欧州の寿命【1D10】

 

1 三擦り半でフィニッシュ

2 一週間で工事完了です……

3 一週間で工事完了です……

4 一週間で工事完了です……

5 三擦り半でフィニッシュ

6 神様相手に頑張って一ヶ月

7 神様相手に頑張って一ヶ月

8 神様相手に頑張って一ヶ月

9 ドイツくん聖遺物で応戦 → 一年保った!

10 アメリカブチギレ → 反応兵器発射

 

結果、【10】

 

 

 

アメリカの建国は神秘からの脱却に端を発する。

神話を持たない国であるアメリカは、神話の存在であるオリュンポス12神とその力を利用するギリシャを許しはしなかった。

 

アメリカは宣戦布告後、反応兵器という弾道ミサイルでギリシャに攻撃。

反応兵器は全て稲妻で撃ち落とされたのだが、アメリカ秘密兵器はこれだけではなかった!

 

 

 

アメリカトンチキ秘密兵器【1D10】

 

1 巨大人型ロボット

2 巨大人型ロボット

3 巨大人型ロボット

4 巨大人型ロボット

5 あったよ、スピア・ザ・ロンギヌス!

6 アメリカンパーフェクトソルジャー

7 アメリカンパーフェクトソルジャー

8 アメリカンパーフェクトソルジャー

9 アメリカンパーフェクトソルジャー

10 全部じゃ!

 

結果、【8】

 

 

 

反応兵器は目眩ましであった。

同時期に欧州に上陸した秘密部隊はギリシャと戦闘を開始した。

懐に入られたギリシャは魔獣たちを差し向けるが、相手にならず。

侵略した地は次々解放されていった。

 

この秘密部隊は只人ではない。

アメリカ人の夢、パーフェクトソルジャー軍団だったのだ!

 

アメリカのニューメキシコ州ロスアラモスにその研究所はあった。F.I.S.の本拠地でもあり、反応兵器やエシュロンという通信傍受システムといったアメリカングレートパワーはここで産み落とされた。

パーフェクトソルジャーたちもそうだ。

聖遺物の研究により開発された薬により志願者の中からキャップテン・アメリカは量産され、聖遺物の研究により開発されたスーパーアーマーを装着する事で彼らはパーフェクトソルジャーとなった。

パーフェクトソルジャーになるための薬とスーパーアーマーは続々量産され、アメリカ軍を超強化していく。

 

パーフェクトソルジャーは凄い!

雷は一撃なら耐える。

矢ならアーマーで数発弾ける。

大津波で船が沈んだら、泳いで行けばいい!

 

凄いやアメリカ!

しかしギリシャ……いや、オリュンポス12神も負けてなかった。

エキドナは休みなく魔獣を産み出し続け、欧州各地の研究所から強奪した聖遺物でパーフェクトソルジャーたちを倒していく……。

 

 

 

ギリシャ対アメリカの結果は【1D6】

 

1 パーフェクトソルジャー撤退

2 パーフェクトソルジャー撤退するも情報入手

3 パーフェクトソルジャー撤退するも情報入手

4 パーフェクトソルジャー撤退するも情報入手

5 パーフェクトソルジャー撤退するも情報入手

6 熱烈歓迎アメリカ

 

結果、【5】

 

 

 

パーフェクトソルジャーたちの奮闘虚しく、ギリシャは欧州を完全統一した。戦争開始から一年が経過していた。

パーフェクトソルジャー軍団は欧州から撤退した。ギリシャとオリュンポス12神の情報を持って……。

 

 

 

パーフェクトソルジャーのもたらした情報【1D6】

 

1 オリュンポス12神の弱点

2 オリュンポス12神の正体

3 オリュンポス12神の正体

4 オリュンポス12神の正体 + 開戦理由

5 オリュンポス12神の正体 + 開戦理由

6 オリュンポス12神を捕まえたぞ!

 

結果、【6】

 

 

 

パーフェクトソルジャーは凄かった。

迎撃に向かったオリュンポス12神の一柱、アレスを討ち取ったのだ。アレスはパーフェクトソルジャーによる尋問と一緒に来ていたロスアラモス研究員の持っていた不思議なお薬により、情報を吐き出したのだった……。

 

○オリュンポス12神はかつて地球にやって来たアヌンナキたちの一氏族であった事。

○アヌンナキたちの間で内紛があり、結果としてアヌンナキや人類の間で言語が滅茶苦茶になった事。

○言葉が通じるアヌンナキや人間同士で各地に集まり始めた事。

○オリュンポス12神はギリシャを治めていたが、寿命が近づいていた為にギリシャ地下のコールドスリープ施設で眠りに着いた事。

○十年前ギリシャの異端技術者がコールドスリープ施設を発見し、自分達を起こした事。

○自分達の寿命の問題をなんとか出来る聖遺物をギリシャは保有していた事。

○その聖遺物をある研究員が持ち出してしまい、どこにいったかわからない事。

○今の脆弱な人間を即効で支配してからゆっくり探せばいいと考え、第一段階で欧州統一に乗り出した事。

○ギリシャ政府は既にオリュンポス12神にアヘアヘ服従状態だという事。

 

 

 

これらの情報をブッコ抜いたパーフェクトソルジャーたちは更なる情報を吐き出させようとアレスをアメリカに連れ帰ろうとしたが、本気のゼウスの雷霆を食らい蒸発し、アレスを奪還された。

しかし生き残った数少ないパーフェクトソルジャーや研究者が持って帰った情報はアメリカ本国に伝わり……

 

 

 

アメリカの方針【1D6】

 

1 寿命まで待とう。

2 寿命まで待とう。

3 逃げた人員を探そう。

4 逃げた人員を探そう。

5 神秘絶対殺すマン

6 逃げた人員を探そう。 + 情報雑にバラ撒こ!

 

結果、【2】

 

 

 

アメリカはオリュンポス12神の寿命が短い事を知り、静観するようである。

70億居る人間の中からたった一人を見つけるは時間が掛かるだろうと考えたのだ。その間に神は死ぬだろうと。

アメリカは睨みを利かせつつ寿命を待つことに決めた。

 

こうして、ギリシャ vs 欧州 & アメリカ対決はギリシャの勝利で幕を落とした。

だが、アメリカが睨みを利かせているからかギリシャの進行は欧州で止まり、結果としてギリシャとアメリカは停戦条約を結んだ。

沢山の血が流れた。

各国の反応も様々だ。

神の力を恐れる者。神の力を利用しようと暗躍する者。神に対抗しようと兵器開発する者。

そんな中で日本は……。

 

 

 

訃堂じいじのお気持ち表明【1D6】

 

1 また国を焼くつもりかアメリカァ!

2 色々諸々どげんかせんと → 二課に権限集中

3 色々諸々どげんかせんと → 二課に権限集中

4 色々諸々どげんかせんと → 二課に権限集中

5 色々諸々どげんかせんと → 二課に権限集中

6 杉田「アメリカから来ますた」

 

結果、【6】

 

 

綺麗な風鳴訃堂は決断した。

古の神たるオリュンポス12神も怖いが、反応兵器とエシュロン、パーフェクトソルジャーも怖い。もう国を焼かれるのは、人が死ぬのは真っ平である。

故に自分を旗印に、副司令に息子の八紘と弦十郎。技術部に天才櫻井了子と保護した錬金術師キャロル・マールス・ディーンハイムを据えて脅威に対策していく。

そうしなければ、日本に未来はない。欧州の次が日本でないとは限らないのだ。

 

そう考えていたのだが……。

 

「えー、これからこの二課で一緒に働く事になったジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスくんだ。みんな仲良くするように」

「只今ご紹介に預かりましたジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスです。気軽にウェルと呼んでください。前職ではアメリカのF.I.S.で生化学者として聖遺物と生体を繋げる研究を専門としていました。将来の夢は英雄になって弱い人たちを守ることです。皆さんよろしくお願いします」

「皆も知っている通り、ウェルくんは締結予定のアメリカとの聖遺物に関する秘密条約に基づき先んじて二課に来て貰った。色々思うところや不馴れなところはあると思うが、よろしく頼む。ウェルくんには技術部でLiNKERの研究を中心に働いてもらおうと考えている。

 

八紘。アメリカとの条約、細部の調整はお主に任せた。

弦十郎。そこで白目剥いてる櫻井了子を拘束して取調室に連れてこい。儂自ら事情聴取を行う。……心配するな、無体な事はしない。こやつの知識はこれからも必要だからな。わかった、そこまで言うならお前も事情聴取に付き合え。

他に連絡はないな?では今日も一日安全と衛生に気を付けて宜しく頼む。ディーンハイムくんはウェル博士に技術部の案内をしてやってくれ。では、解散」

 

そういう事になった(白目)

 

切っ掛けはアメリカのパーフェクトソルジャーがオリュンポス12神相手に八面六臂の大活躍したことだ。

あまりにも、パーフェクトソルジャーが活躍し過ぎてしまったのだ。

 

結果、アメリカ政府の中で【もっと聖遺物とか研究して、更に強くなろうよ】の強硬派と【神の力や聖遺物は人間には過ぎた物だよ、もっと慎重にしようよ】の慎重派で派閥争いとなってしまったのだ。

水面下での争いの結果、慎重派が勝利した。過ぎたる力こそ、慎重に扱うべし。それが政府上層部の出した答えであった。

 

だが強硬派はやらかした。

一部の強硬派がロスアラモス研究所のデータを持って脱走。南米バルベルデ共和国のヴリル協会に合流したのだ。

ヴリル協会はかつての第三帝国で聖遺物について研究していた機関であり、大戦後はバルベルデにて潜伏。世界中のネオナチ軍団から支援を受けて研究を続けてきたマッド集団である。

バルベルデは内戦中の国である。その内戦はドイツとヴリル協会が聖遺物研究や人体実験の為の隠れ蓑として彼らが起こしたものだった。外道である。

 

しかも流れに乗って他の強硬派も世界中に逃げようとしたのだ。勿論、ギリシャにも。

控えめに言ってヤバい。

 

勿論、アメリカ政府もなにもしなかった訳ではない。強硬派たちを見つけ次第捕まえていたし、実際ヴリル協会への亡命以後強硬派を逃がしはしなかった。

ヴリル協会への対処も行った。強硬派の身柄引き渡しを要求し、それが叶わないと見るやパーフェクトソルジャー部隊での強襲とヴリル協会と強硬派の抹殺を執行しようとした。

だが、パーフェクトソルジャーは敵わなかった。

ヴリル協会からもパーフェクトソルジャーが出て来て、アメリカンパーフェクトソルジャーたちを蹴散らしてしまったのだ。

ヴリル協会のパーフェクトソルジャーは人の形を保っていなかった。

つまり彼らは力の為に人の尊厳を踏みにじったのであった。

 

アメリカは激怒した。やってええこととアカンことがあるやろ、と。

そして恐怖した。これどうやって対処しよ、と。

政治家や研究者、異端技術者による議論百出の結果、日本に助け船をお願いする事にしたのだ。

 

訃堂は激怒した。流石にアホやろ、と。お前ら邦人拉致して聖遺物研究やっとったやろ、と。どの面下げとんねん、と。

八紘はキレる訃堂を宥めすかしつつ、深く土下座する外交官に話を続けさせた。帰ったら翼と一緒に遊ぼう、とか考えながら。

 

アメリカとしてはヴリル協会なんかのドイツ聖遺物研究団体との繋がりがある風鳴機関や訃堂から強硬派の引き渡しをお願いして欲しいと、と可哀想な外交官は深く深く土下座しながら続けた。

対価は、と群蜘蛛をチャキチャキさせながら訃堂は続けさせた。

八紘は胃の辺りを抑えた。可愛い娘の顔を思い浮かべた。

 

誘拐してF.I.S.にご招待したレセプターチルドレンたちを返します。賠償金払います。オリュンポス12神から得た情報教えます。パーフェクトソルジャーの強化薬を開発した有能な生化学者のドクターウェルを派遣させます。あと二課にいるF.I.S.のスパイの名前教えます。煮るなり焼くなり好きにしてください。あと要望あったら聞きます、と可哀想すぎる外交官は言った。

一つ条件がある。訃堂は群蜘蛛チャキチャキを加速させながら言い放った。

八紘は翼の誕生日パーティーでの満面の笑みを思い浮かべた。まだ死ねない、孫を抱くまでは、そう思った。

 

ヴリル協会と強硬派は儂らで始末を付ける。訃堂はそう言って去っていった。

八紘は黙って着いていく。これは暫く家に帰れないかもしれない、と考えながら。

可哀想な外交官は静かに失禁しながら、ハイヨロコンデー!と更に深く土下座した。

 

そうしてウェル博士はやって来た。

レセプターチルドレンと彼らの監督役であるナスターシャ教授を連れて。

ウェル博士は早速レセプターチルドレンたちが一緒に暮らす為の孤児院をポケットマネーで建設させると、ナスターシャ教授を院長に据えた。

そして自分は堂々と訃堂との面接に臨んだ。スパイであるフィーネもとい櫻井了子の名を挙げて。

 

 

 

『と、いう事になっているようだ』

 

2038年1月某日。十歳の冬。

俺こと転生オリジナル装者(予定)の渡 一鳴はダイス神からギリシャと欧州、熱烈歓迎アメリカとの戦争経緯とその顛末について聞いていた。

日課の体力作りランニングをしながら。

結果、思ったこと。

 

外交官可哀想……。

 

『それより重要な事がある』

 

なによ?可哀想な外交官より大事な事なの?人前で失禁した外交官よりも!

 

『このタイミングで戦争が起こった事、ドクターウェルが二課に入った事とフィーネの正体が露見した事でセレナ・カデンツァヴナ・イヴと天羽奏の家族の生存が確定した。

セレナは2037年にネフィリムを封印するために絶唱し、崩壊する施設の瓦礫に潰され死去。

天羽奏の家族は2038年の皆神山の発掘調査中にフィーネの呼び出したノイズに襲われ死去。

この世界にてこれらの事象が消滅した』

 

そらまた大きな変化である。

2037年はアメリカ思いっきり戦争してたからネフィリムの起動実験なんてやってないだろうし。

2038年の皆神山発掘調査はフィーネが逮捕されてノイズが出てこない、と。

セレナちゃんと奏さんのご家族が生きていた事は喜ばしいが、この変化が後にどうなるか……。

 

『一つだけ言えることは、二人は今幸せである、と言うことだ』

 

なら、ええか。

 

そう言えば八紘さんはやたらと翼さんを気にしていたけど、この世界では翼さんの父親はどうなの?

 

『訃堂が綺麗な訃堂なので、風鳴翼は風鳴八紘の実の娘という事になる。その代わり、シンフォギアへの適性は極端に低下しているが……』

 

そっか……。因果な話だなぁ。

 

『そしてもう一つ。風鳴翼と天羽奏の生存が確定したので、ツヴァイウィングの活動が決定した。これは運命による強制である』

 

今日一番の嬉しい報告。

いっぱいグッズ買わなきゃ。

 

『売れないアイドル、という可能性もあるが?』

 

それでもいいの。

二人が楽しくアイドルしてくれるなら、それだけでファンは嬉しい。

そんな感じでどこか足取り軽く、ランニングをする俺であった。

 

なおニヨニヨしながらランニングしている所を未来ちゃんに見られて、気持ち悪いから止めた方が良いよ、と申し訳なさそうに言われた。

 

 

 

 

そういえば、この前ウェル博士は亡命して二課に来たとか言ってたよね?でも今回ウェル博士はアメリカからの派遣で来てるよ?ナンデ?

 

『運命とは大いなる時間の流れ。あらゆる命の運行。流れが変わり、様々な概念が移ろう。つまり亡命して来たか、派遣されて来たか。そのような事はもはや些事なのだ』

 

そっすか(震え声)

 

そういう事であった。

 

 

 

 

次回、オリ主やっとシンフォギアを纏う。

 

 

 

 




ダイス神「これがワイの出した答えや!」
アメリカ「どうしてこうなった(白目)」
フィーネ「どうしてこうなった(白目)」
作者ワイ「どうしてこうなった(白目)」
プロットくん「ほな、また……(頓死)」

そういう事であった───

作者は世界のアレコレとか政治のアレコレとか全くわからないアホアホマンなので、この話を読んで「(政治的に)そうはならんやろ……」と思う人も居るかもしれません。でも作者はアホアホなので、これで各国の政治描写はいっぱいいっぱいなのです。どうか寛大な心で許して下さい。


○おまけ
各国現状まとめ。

ギリシャ:欧州統一!アメリカにボコられたけど、まだまだ元気やよ。そしてさっさとアレとコレ探さな……

アメリカ:なぜか大活躍したけど、色々やらかしてしもた……

バルベルデ:許して(咽び泣き)

日本:二課が予定より早くパーフェクトになりました(震え声)次回バルベルデで訃堂と弦十郎が大暴れしつつ装者募集するやよ


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第三話 フィーネ二課入り/バルベルデOTONA無双/サンジェルマンの憂鬱 の豪華三本立て


(前回のあらすじ)
【次回、オリ主やっとシンフォギアを纏う】と言ったな。スマン、ありゃ嘘だ。



 

「なるほど、つまり貴様は櫻井了子ではなくフィーネ。先史文明の巫女か」

「了子くん……」

 

櫻井了子は拘束された。

現在、二課の取調室にて風鳴訃堂と風鳴弦十郎から取調べを受けている所だ。

 

七年前にフィーネとしての人格が目覚め、アメリカに情報と技術を横流ししてF.I.S.を作り、邦人をレセプターチルドレンとして拉致させたのがバレたのだ……。

ちなみにバラした奴は英雄志望でキレイキレイなドクターウェルである。

現在了子はメガ盛りMAXな髪型から金髪ストレートのフィーネスタイルで拘束されていた。

 

「ええ、そうよ。櫻井了子は天羽々斬の起動実験の時に目覚めた過去の亡霊フィーネ。櫻井了子の意識はその時にフィーネに取り込まれたの」

「で、目覚めた貴様はシンフォギアなどの技術を提供する代わりにアメリカにレセプターチルドレンを集めさせた。次の自身の依り代にするために」

「ええ。私の血を継ぐ子どもたち。彼らは皆、フィーネになる資格を持っている」

 

少し考え込む訃堂。

 

「一つ良いか?」

「なにかしら?」

「レセプターチルドレンには男の子も居たが……」

「彼もフィーネになる資格はあるわ」

「そうか……」

「ちなみに何回も男になっているわよ?」

「なんと!」

「そうなのか了子くん!?」

 

どよめく訃堂と弦十郎。

ちなみに騎士として生きたこともある、と答えたら更にどよめいた。

 

「で、他に聞きたいことはあるかしら?」

「……了子くん。本当に君の中に櫻井了子は残っていないのか?それとも……」

 

弦十郎がじっと目を見る。

 

「……わからない。私のリインカーネーションシステムは今までの私の知識を引き継ぐ。知識と共にある記憶、そして想いも……。だから、私の何処かに櫻井了子が居てもおかしくはない」

「そうか……」

「だが、私を櫻井了子とは思わない事だ。私はフィーネ。先史文明の巫女で、この場においてはスパイなのだからな」

 

それは決別だった。

櫻井了子に惹かれていた風鳴弦十郎に対する、決別であった。

 

「ならば、次は儂の番だ」

「あら、なにかしら?」

 

訃堂が空気を読まずに切り込む。

フィーネは平気な顔で対応した。

 

「なぜ、貴様は数千年もの間、子孫の身体を乗っ取り続けた?」

「……」

「なにが目的なのだ?」

 

黙り込むフィーネ。

黙秘するらしかった。

 

「ちなみに儂は気配で人の心を読むぞ」

「……わかったわよ。言うわよ」

 

降参するフィーネ。

 

「バラルの呪詛は知っているわよね?」

「ギリシャのアレスが言っていたな。アメリカから送られてきたビデオの中で」

 

他にも殴らないで、とか、もっと薬をくれ、とか言っていたが割愛である。

 

バラルの呪詛。

人の言葉を乱し、相互理解を阻む神の呪い。

その発生源は月にあるカストディアンの遺跡。かつての地球観測ベース基地だ。

 

「あれの破壊よ」

「月を、か?」

「ええ。馬鹿げてると思った?」

「ああ。月の破壊による重力異常は?降り注ぐ月の欠片は?」

「必要な犠牲よ」

「何のために?」

「……」

「何のために月を壊す。バラルの呪詛を止める」

「……」

「答えよ、フィーネ。何のために無辜の民を殺す」

 

訃堂の眼光が鋭く貫く。

何度も転生し、尋問も拷問も経験してきたフィーネをも震え上がらせる眼光であった。

その眼光は、フィーネの心の奥底を照らし出す……!

 

「……あの方に」

「あの方?」

「神たるあの方に、私の想いを伝えるため」

「想い?」

「ずっと、恋い焦がれてきた。何度も会って話をして。ずっと、ずっと。感じていた想いを伝えたかった」

「……」

「あの日も、いつものように待っていた。あの方を。でも、月が光って、人々の言葉が乱れて。あの方の声が聞こえなくなって。他の神の声もわからなくなって。いつの間にか他の神々は居なくなって……」

「了子くん」

「ずっと待っていたけど、あの方は来なくて。声も聞こえなくて。私はずっと待っていたのに」

「もういい、了子くん。もういいんだ」

 

そっと、フィーネの肩に手をやる弦十郎。

一瞬の後、その手をはたき落とした。

 

「…………私はフィーネよ」

「いや、俺にとっては櫻井了子だ」

 

弦十郎は振り払われた手を再び肩に置いた。

 

「……好きにしなさい」

 

そっぽを向くフィーネ。

訃堂がまた空気を読まずに切り込む。

 

「フィーネ、バラルの呪詛は月の遺跡から発せられてる。間違いないのだな?」

「ええ、そうよ。それは確認済み」

「なら、お前の願い叶うやもしれぬぞ?」

「どういうことよ」

「アルテミス」

 

突然、オリュンポス12神の中の一柱の名を出す訃堂。

 

「月を司る神性にして、オリュンポス12神。そして地球に残されたアヌンナキ」

「バラルの呪詛について何か知っていると?」

「顔見知りか?」

「いいえ。オリュンポス12神たちとは話したことはないわね。私が話したのはあの方とイシュタル様とあとは……」

「ならば可能性はある」

「親父、それじゃあギリシャと交渉するというのか!?」

 

弦十郎が突っ込む。

日本とギリシャの交渉。

人と神の取引。

世界に大きな波紋を生む事だろう。

それは訃堂も心得ている事だ。

 

「案の一つだ。他にもアメリカをせっついて(金だけ出させて)月に直接乗り込んだり」

「……」

「とにかくやりようはある。幾らでもな」

「……」

「月を壊すこともない」

「それで」

 

口を開くフィーネ。

 

「それで、私に何をさせようというの?そこまで譲歩して、何を」

「現在、世界は岐路に立たされている。人と神、正道と異端、そして力と力」

 

一瞬。

たった一瞬、訃堂の目に火が灯る。

決意と覚悟の火だ。

 

「もう、国を焼かれたくはない。美しい大地が、無辜の人が。焼かれるのは見たくない」

「親父……」

「力を貸してくれフィーネ。儂らには貴様の知恵が必要なのだ」

「……」

「頼む……!」

 

訃堂が頭を下げた。

下に立ち、故に頭を垂れる。

されど、そこには国を護るものの覚悟があった。

誇りがあった。

 

「わかったわ」

「……了子くん!」

「これまで通り、技術部の責任者として二課に貢献する。これで良いのよね」

「ああ、そうだ。ありがとうフィーネよ」

「その代わり、約束は守りなさい。風鳴訃堂、貴方が生きている間に私を月に連れていき、バラルの呪詛を停止させること」

「無論だ」

「これからは、櫻井了子としてだけじゃなくてフィーネとしてもお世話になるわね。風鳴司令、弦十郎くん」

「ああ」

「よろしくな、了子くん」

 

そういう訳で。

フィーネが仲間になった。

以下ダイジェスト。

 

「と、言うわけで櫻井了子くんは先史文明の悪い悪霊に取り憑かれてアメリカとのスパイをしていた(カバーストーリー感)

みんな、許してあげてくれ」

「迷惑かけてごめんなさい(素直)」

「……うん、皆も許してくれるようだぞッ!良かったな了子くん!」

「みんなありがとう(素直)」

「了子くんだが、引き続き技術部の方で責任者として在籍して貰うことになった。ウェル博士とキャロルくんも、了子くんの下で働いて貰うことになる」

「後で資料保管庫に来い(よろしくね、ドクターウェル)」

「アッハイ」

 

そういう事になった───

 

 

 

 

「ところで儂は後五十年生きる予定なんだがな?」

「えぇ……(困惑)」

「親父は人魚の肉でも食ったのか?」

 

 

 

 

綺麗な訃堂は激怒した。

必ずや邪智暴虐たるヴリル協会と強硬派を血祭りにあげなければならない。

訃堂は原作よりキレイキレイである。

キレイキレイなのであかんたれなドイツを見限り、貰ったガングニールを大切に保管しつつドイツの聖遺物関連組織から距離を取った。今ではお歳暮を送り合うだけの関係である。

ちなみに一緒に貰うはずだったイチイバルはUボートが撃沈して海の藻屑となった。だからクリスちゃんは装者になれないの……。

 

綺麗な訃堂は考える。

アメリカに土下座されたから、という理由でバルベルデ内戦に介入してヴリル協会をグリルに掛けるのはいささか無理矢理過ぎる。

政治的な理由が必要だった。

綺麗な訃堂は八紘を呼びつけ、なにか策はあるかと問うた。この世界の訃堂は綺麗なので、息子たちと仲が良い。

八紘は答えた。2035年からバルベルデで行方知れずとなっている【雪音クリス】ちゃんの捜索を方便にするべきである、と。

 

なるほど、と言って訃堂は雪音クリスに関する資料を見た。

 

雷が落ちた。

 

訃堂は再び激怒した。何故邦人の、しかもまだ幼い少女が内戦地で行方知れずになっているのに日本政府はなにもしてないんだ、と。

 

八紘は冷や汗を拭いて答えた。外務省担当者がバルベルデ政府に再三捜索を打診し、此方も捜索隊を派遣すると言っているのに、なかなか首を縦に振らない。様々な人道支援もするし、袖の下を渡そうとしても断る。何かある、そう思って調べようとしたらギリシャと欧州とアメリカが戦争を起こしたのだ、と。

 

訃堂はその報告を静かに聞くと、こう宣言した。

儂が行く。あとの事はお前に任せる。

 

訃堂を黙って見送った八紘は内線で弦十郎を呼ぶと、訃堂がバルベルデに行くこと、選りすぐりの戦闘要員と一緒に着いていって欲しいこと、あとの仕事は自分がやることを伝えた。

そして静かに気を失った。これからくる激務に備える為の緊急睡眠だった……。

 

 

 

 

後日。

風鳴訃堂は息子の弦十郎と共に南米バルベルデ共和国にいた。

周りには戦闘要員の黒服たちを従えている。

雪音クリスちゃんを助ける為であった。

あとついでにヴリル協会と強硬派の抹殺。

 

「総司、この基地に雪音クリスちゃんは捕らえられているのだな?」

「はい御前。三年前のテロから、幾つかの組織に奴隷として売られた後、このヴリル協会の実験基地に売られたと。内部の地図は確認を取りましたが、間違いなく本物であります」

 

緒川総司は飛騨忍群の若き頭領であり、有能な忍である。二課の諜報活動は本来、日本政府に雇われた弟慎次の仕事だ。しかし今回は外国バルベルデでの諜報に加え情報の深度と速度を最優先とするため、まだ若い慎次より経験豊富な総司を連れてきたのであった。

ちなみに慎次は家に帰れない八紘に代わり、翼の世話をしていた。

 

「まさか米軍が追い返されたヴリル協会の基地に雪音クリスちゃんが捕らわれているとはな……。よし、弦十郎。最終確認を。」

「はっ。

では一班は親父と共にヴリル協会及び強硬派の始末を。

二班は俺と共に捕らえられた人たちの救出。

三班は総司くんをリーダーとし、基地前にて俺たちの脱出経路の確保。

時計合わせ。五分後に突入する」

 

そして五分後。

 

「……作戦開始!」

 

防人の戦が、OTONA無双が始まった。

 

 

 

 

訃堂は飛んで来る銃弾を愛刀群蜘蛛で切り払いつつ基地内の廊下を進撃していた。

後に続く黒服一班は芸術的な連携で支援している。皆、アホみたいに強い訃堂と共に戦うのではなく、後ろで支援する為の訓練を積んでいるのだ。

そんな訃堂の前に巨大な異形が現れる。

人を何人も潰して捏ねて、一つの人の形に直したような。そんな姿。

ヴリル協会のパーフェクトソルジャーだ。

 

「いま、楽にしてやるぞ」

 

一閃。

ただ、群蜘蛛を振るっただけ。

それだけで、異形パーフェクトソルジャーは八分割された。

恐ろしい、業前であった。

だが訃堂は一言、ぼそりとこぼした。

 

「少し、鈍ったか」

 

帰ったら鍛え直さねば、そう言ってさらに進撃していく。

目指すはこの基地の一番偉い男のオフィス。

そこに、訃堂が切らねばならぬ相手がいる。

 

 

 

 

雪音クリスは地下区画の小部屋にいた。

一人であった。

畳一枚分しかないような狭さの部屋である。

それが幾つも隣り合わせで作られていた。

そういった部屋に一人ずつ、人が詰められていた。

ここは、実験基地の【備品】倉庫。そう言われている。

詰められた人たちは皆奴隷だ。

安く買われ、命を散らす。

あるものは実験材料にされ、あるものはパーフェクトソルジャーとは名ばかりの怪物にされる。

 

そんな備品たちの中でクリスは上等な扱いであった。

クリスの歌はフォニックゲインと呼ばれる、実験基地の人間が重要視する何かを発生させる事が出来た。

それに気付いた研究者たちはクリスの扱いを数段引き上げた。

死なれては困るからだ。

それでもクリスは備品扱いだった。

高級な備品。

それが雪音クリスという少女の全てだった。

 

その日も実験で、研究者たちが満足するまで変なオブジェ相手に歌わされた。

喉が嗄れ、研究者たちのお気に召す結果が得られなくなったので、罵られて備品倉庫に帰されたのだ。

罵られてもクリスは何も感じなかった。

そんなクリスも二年前までは普通の少女だった。

 

【歌で世界を平和にしたい】

 

そう言っていた両親と共にこのバルベルデ共和国に来て、内戦で苦しむ人たちを歌と音楽で癒していた。

そんな両親がクリスは大好きで、自慢だった。

だが。

そんな両親は死んだ。

歌で世界を平和にしたい、そう言っていた両親は戦争で死んだのだ。

それからクリスの人生は変わった。

 

庇護者の居ない子どもなぞ、紛争地では良いカモである。

しかもクリスの見目は整っていた。

怖い大人に捕まり、奴隷として売られて。

怖い目に遭って、飽きたら売られて。

それが、何度も。

備品扱いはクリスにとっては随分上等な扱いであった。

でも、クリスはそれを喜べなかった。

心が擦りきれていたから。

 

(パパ、ママ……。会いたいよ……もういやだよ……)

 

クリスの心は限界だった。

喜びも楽しみも。

それを感じる心も。

きっと二年前に。

両親と共に。

死───

 

爆音が響いた。

 

基地内にサイレンが鳴り響く。

慌ただしく足音が鳴り響く。

備品倉庫の住人たちも何事かと浮き足立つ。

だが、クリスは動かなかった。

もしこれが戦争の足音なら。

もう終わりにしてほしかった。

 

銃撃音が鳴り渡る。

それと同じように、衝撃と叫び声。

そして駆ける足音。

足音はどうやら備品倉庫の中の人たちを連れ出しているらしい。

そして。

クリスの部屋の扉がこじ開けられた。

 

入ってきたのは、赤いシャツの大男。

赤い髪を撫で付け、何故かピンクのネクタイの先を胸ポケットに入れていた。

 

「君は雪音クリスくん、かい?」

 

そう聞かれた。

クリスは小さく頷いた。

 

「俺は日本政府の風鳴弦十郎というんだ。君を助けに来たんだ」

 

そう言ってクリスを抱えた。

 

「なんで……」

「ん、どうしたんだ?」

「なんで、もっと早く来てくれなかったの?」

 

大男はビクリとした。

 

「なんで、パパとママ助けてくれなかったの?」

「ッ、すまない」

「なんで、私を助けてくれなかったの?」

「すまない……」

 

ギュッと、抱き締められた。

久々に感じた、人の暖かさだった。

 

 

 

 

「ギャアアアア!!!」

 

断末魔の叫びを上げて、異形パーフェクトソルジャーが八分割される。これで四体目であった。

 

「ヒィィィ……」

 

その背後で男が座り込んで怯えていた。

この基地を任されているヴリル協会の幹部であった。

 

「儂は貴様らに何も聞かん」

「ヒ、ア……ぁ」

 

一歩、歩く。

 

「何も求めん」

「ゆ、許して……」

 

もう一歩、歩く。

 

「ただ、何も言わず」

「ほ、他の基地の」

 

群蜘蛛を振り上げ、

 

「死ね」

「じょ」

 

幹部の首は泣き別れ。

ボトリと落ちて、コトリと倒れた。

 

「御前、証拠及び資料の回収完了しました。二班も雪音クリスちゃん及び他の人間の救助を済ませたとのことです」

 

黒服一班の一人が報告を済ませる。

 

「よし、引き上げるぞ。今日はあと二つの基地を落とさねばならん」

「ハッ!」

 

訃堂は部屋の窓から外を見た。

三班の黒服が運転するトラックの荷台に捕らえられた人たちが収用されていく。その中に、雪音クリスちゃんを抱き抱えて荷台に入れる弦十郎の姿。

その背中はどこか小さくなっていた。

 

あとで喝を入れねばならんな、訃堂はそう思い、撤退を開始した。

 

 

 

 

訃堂と弦十郎による、ヴリル協会への強襲は概ね成功となった。

総司の諜報活動と速攻戦術により、情報が渡るのが遅れた為であった。

ほとんどのヴリル協会会員と強硬派は抹殺されるか、アメリカに引き渡された。OTONAが介入した結果がこれである。

しかし、耳聡い者や勘の優れた者はバルベルデから即刻逃げ出した。

彼らの逃亡先はパヴァリア光明結社。

歴史の闇に潜み続けた錬金術師たちの総本山。異端技術のメッカである。

ヴリル協会は最近パヴァリアとの友好関係構築に成功したばかりであるが、パーフェクトソルジャー強化薬を初めとして手土産は十分であった為、受け入れられた。

 

 

 

パヴァリア光明結社の本拠地【1D6】

 

1 欧州(ギリシャにスルーされた)

2 欧州(ギリシャにスルーされた)

3 アフリカ(ギリシャに襲撃されお引っ越し)

4 アフリカ(ギリシャに襲撃されお引っ越し)

5 インド(ギリシャに襲撃されお引っ越し)

6 中国(ギリシャに襲撃されお引っ越し)

 

結果、【2】

 

 

 

パヴァリア光明結社の本拠地はギリシャ統一戦争から変わらず欧州の某所にあった。

戦地から離れていた上に、結界を張って徹底的に情報を遮断していた為に戦禍を免れたのだ。

 

指定ポイントからテレポートジェムにより送迎されたヴリル協会と強硬派の残党。

彼らを待っていたのは統制局長、アダム・ヴァイスハウプト。

そして最高幹部の三人。サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティ。

 

「此度は我々ヴリル協会を受け入れていただき感謝に絶えません」

「水臭いじゃないかずいぶんと。同盟関係だよ?僕たちは」

 

ヴリル協会の幹部が謝辞を述べると、独特な語法で返事をするアダム。

ちなみに結社の中では無能とか凡人とか呼ばれている。

 

「そう言ってくださるならば、幸いでございます」

「災難だったね、出るとはねまさか、かの防人が。……それで、渡して欲しいな、君たちの持つ人形を」

「ただちに。……おい」

 

呼び掛けられ、下っぱ会員たちが棺を運ぶ。

蓋を開けるとそこにはオレンジ色の結晶が入っていた。その中に、一つ目のバイザーを付けた少女の人形。

この人形は旧ドイツ海軍が海底より引き揚げたオートスコアラー。最近まで聖遺物だと思われていたが、元々パヴァリア光明結社の所有する異端技術人形であったという事が判明したので返還されたのであった。

もちろん、パヴァリアとヴリル協会の同盟締結に多大な影響を及ぼしたのは、言うまでもない。

 

「久しいね。何年ぶりかな、この子と会うのは」

「おおよそ400年ぶりかと」

 

アダムの問い掛けにサンジェルマンが答える。

そしてその言葉にヴリル協会と強硬派がざわめく。

パヴァリア幹部が不老不死というのは嘘ではなかった、と。

 

「うん、そうだ。長かったよ、ここまで。出してあげないとね、早くこの結晶から」

「ではティキの解凍を急がせます」

 

サンジェルマンが指を鳴らすと、どこからかフードを被った錬金術師たちが現れ人形、ティキを運び去る。

 

「さあ、しないとね歓迎会を。しなくていいよ遠慮は、仲間だからね僕たちは」

「ありがとうございます」

「あるけどね、積もる話も。まずは休んでほしいね、心と身体をゆっくりと」

「では部屋までご案内します」

 

そうして。

ヴリル協会と強硬派の残党は、三幹部に連れられて去っていった。

残ったのはアダム。

 

「ピースはあと一つ。戦争で魂も集まった。でも……動くべきじゃないね、まだ」

 

アダムは思案する。

 

「防人とオリュンポス、そしてフィーネ。動けないね、彼等が生きている内は」

 

 

 

 

「はぁ……」

 

深夜。

パヴァリアの幹部用ラウンジで、サンジェルマンは一人酒を飲んでいた。

ドンペリであった。

 

「サーンジェルマン♪」

「珍しいワケダ、サンジェルマンが酒を飲むなんて」

 

そこにやって来たのはカリオストロとプレラーティ。

二人はそれぞれサンジェルマンの横に腰を落とすと、芋焼酎と冷えた牛乳を注文した。

 

「……私だって、飲みたくなる日ぐらいあるわ」

「ストレスで限界の時とかに飲むワケダ」

「ヴリル協会の事でしょ?」

 

なんでもお見通しね、そう言って笑うサンジェルマン。

しかし、すぐに真面目な顔に戻る。

 

「ティキ確保の為とは言え、人体実験を是とする組織と手を組むのは……」

「そりゃあね……」

「しょうがないワケダ。ここで奴等からティキを確保しなければ、次にいつチャンスが巡ってくるかわからないワケダ」

 

もしここでティキを確保出来なければ、ヴリル協会の影響が薄れたバルベルデ政府は体制建て直しの為に、ティキを初めとした旧ドイツ軍残党の残した聖遺物を売り飛ばすだろう。大国アメリカや、防人の国日本に。

そうなれば、ティキを確保する難易度は跳ね上がる。

だからこそ、サンジェルマンの理念に反するとは言え、ヴリル協会を受け入れざるを得なかったのだ。

 

「人体実験といえば、あの支部の娘たちはどうなったの?」

 

巧みに話題を変えるカリオストロ。

奥歯を噛み締めるサンジェルマンを見てのフォローであった。

 

「支部……ああ、人体を直接改造して【完全】を目指そうとした支部の話なワケダ?」

「ええ、サンジェルマンその支部で実験に使われた人たちを助けたって言ってたから」

 

その支部は欧州辺境にあった。

人体を直接改造して神経を強化したり、ヴァンパイアを再現しようとしたり。

サンジェルマンの嫌う実験をしていた。

勿論、秘密裏に。

故に実験体は社会の爪弾き者や、裏社会の落伍者など居なくなっても誰も構わない存在であり、その悪行がバレる事はないはずだった。

 

だが、ギリシャの欧州統一戦争である。

 

欧州が飲み込まれた戦乱は、その辺境の支部も被害を受けた。

戦争の被害を確認し、必要ならば支部を放棄させて、結社の人間を守るために動いていたのは幹部たるサンジェルマンであった。

サンジェルマンは有能であった。

被害報告があれば、即座に出立し現場対応をしていた。

アポイントメントなしで。

 

サンジェルマンは見た。

人が意識を保ちながら作り替えられているのを。

目を覆いたくなるような実験と、そのレポートを。

 

一時間後。

その支部で人体実験に荷担していた結社構成員はアルカ・ノイズにより分解され、人体実験の被験者たちは助け出された。

 

その被験者たちの事をカリオストロは聞いたのだ。

 

「彼女たちの経過は順調よ。最初は警戒して治療を受けてくれなかったけれど、一人だけ私の事を知っている人がいたから」

「ああ、義体の娘なワケダ」

「でも、治療を受けてくれて良かったじゃない!」

「……それでも完全に治すのはほぼ不可能ね。彼女たちの改造は根深いわ……。根治にはそれこそ、【神の力】が必要よ」

 

神の力。

サンジェルマンたちが求めるもの。

純粋無垢にして、莫大なエネルギー。

ティキ、生贄の命、錬金術。

ピースは揃いつつあるものの───

 

「しばらく活動は禁止、だものねぇ」

「オリュンポスに睨まれたくない局長の指示なワケダ」

「仕方ないわ。地道にやるしかないのよ、私たちは。それに、被験者の娘たちも自分たちに出来ることをやらせてくれって言ってくれてね。ヴァネッサ……私を知っていた娘を中心に事務仕事を任せているわ」

「ほぉー、働き者なワケダ」

「良いコたちねぇー!」

 

感心するプレラーティとカリオストロ。

その二人を細い目で見るサンジェルマン。

 

「ええ、良い娘たちよ?本来ならどこかの幹部がやるはずだった事務仕事をしてるんだもの」

「……へぇー」

「……ほぉー」

「申し開きは?」

「ここは奢るから♪」

「許してほしいワケダ♪」

「このラウンジのドリンクはタダよ」

 

そんなこんなで。

三人の夜は更けていった……。





次回は装者になれるはず。頑張れ一鳴くん!


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第四話 転生オリ主はやっとシンフォギアを纏ったようです

オリ主がやっとシンフォギア装者になれたので、嬉しさのあまり初投稿です。



特異災害対策機動部二課の技術力は世界トップである。

櫻井理論の提唱者であり聖遺物と異端技術の専門家にして、先史文明の巫女である櫻井了子/フィーネ。

 

その下にはオリュンポスのアレスを捕まえる事も可能にしたパーフェクトソルジャー強化薬の開発者、生体と聖遺物を繋げる技術の専門家である生化学者ドクターウェル。

 

そして、錬金術の専門家にしてトップクラスの実力者、聖遺物で出来たお城をオリュンポスに壊されて二課に拾われたキャロルちゃん。

 

彼女たちが一つの組織に集い、訃堂のざっくりとした方針と八紘の手厚いサポートで日夜、研究と開発に勤しんでいるのだ。

 

2038年11月某日。

三人は会議室に集められた。

そこには訃堂、八紘、弦十郎の三人も。

シンフォギア装者についての会議である。

 

二課はOTONAと技術者、その他様々なプロフェッショナルに恵まれていたが、装者だけがいなかった。

 

シンフォギア。FG式回天特機装束の名称。

ざっくり言うと、聖遺物の欠片を励起させてエネルギーに変換し、身に纏う鎧へと変えるシステム。

ノイズの炭素変換を無効化するバリアを展開したり、位相差障壁を無視するスゴイ技術だ。

しかし誰にも使える訳ではない。

聖遺物を励起させるにはその聖遺物と共振・共鳴し、胸に聖詠を宿す適合者でなければならないのだ。

胸の歌を云々、という奴である。

 

その適合者が現在二課に居ないのだ。

……一応、フィーネが目覚めた原因である天羽々斬起動実験の際に、風鳴翼の歌で起動はしている。

しかし、励起状態が一瞬であった事と適合率があまりにも低かった事で翼は適合者足り得なかった。

また、日本に帰って来たレセプターチルドレンの中にもアガートラームに適合したセレナ・カデンツァヴナ・イヴが居たが、アメリカがアガートラームを渡そうとしないので装者となれなかった。

 

なので適合者を探す必要があった。

バルベルデOTONA無双によりヴリル協会と強硬派はほぼ壊滅したが、一部の人員が幾つかの聖遺物を持って逃げ出した事は、二課もアメリカも把握していた。

逃げ出した先は恐らくパヴァリア光明結社であろうとは、キャロルちゃんの言である。

 

パヴァリア光明結社には人造ノイズの量産に成功している。

それはアルカ・ノイズと呼ばれ、炭素変換の代わりに分解能力を持っている、と。

 

開発したのはキャロルちゃんであるがそこは黙っておいた。禄を食む身ではあるがそこまで言う義理はない、ということである。

 

閑話休題。

これからもヴリル協会と強硬派は暗躍するだろう。二課も彼等と戦うことになるかもしれない。その時、アルカ・ノイズという兵器に対抗出来る人間が居ないのはよろしくない、という訳である。

ノイズとアルカ・ノイズにはOTONAも逃げるしかないのだ。

 

そんな訳で全国から適合者を探した。

捜索対象は小中高校生。

国の音楽テストという事で全国の小中高校生に歌を歌わせ、聖遺物からアウフヴァッヘン波形が発生するかどうか確かめる、という者である。

膨大な数の音楽データが集まり、二課総出で作業を行った。皆目の下にクマを作っていた。半年以上掛かった。

 

その結果についてだが───

 

「今日の議題は、先日見つかった装者候補、【渡 一鳴】くんの事だ」

 

訃堂が口火を切る。

全国調査で見つかった装者候補、我らが転生オリ主である一鳴の事だ。

 

「エージェントたちの調査の結果が出た。それを踏まえて彼を装者にするべきかの決を取る。八紘」

「はい。では、私から渡一鳴くんについて説明させて貰います」

 

 

○2027年10月10日生まれの12歳。

○両親との三人暮らし。

○両親の経歴は真っ当なもの。

○本人は学校の成績も良く、友人も多い。近所からの評判も良い。

○ただ学校でイジメっ子に対してコブラツイストで懲らしめたり、問題を起こさない訳ではない。

○ジョギングが日課で、週末には基礎トレーニングも行っている。

○なぜ体力を鍛えているのかは不明。

○適合した聖遺物はスダルシャン。

 

 

「以上となります」

「ふむ、では何か意見のある者は?」

「では、俺から」

 

弦十郎が手を挙げる。

 

「八紘兄貴、一鳴くんが体力トレーニングをしている理由は不明なのか?」

「ああ、そうだ。それがどうした弦?」

「……うまく言えないが、彼の目だ」

「目?」

 

ジョギング中の一鳴の写真を指差して弦十郎が言う。

その言葉を訃堂が繋いだ。

 

「こやつの目、何か目的を持っている。身体を鍛える、それ以上の目的を。そんな目だ」

「随分と抽象的だな」

 

キャロルちゃんが揶揄する。

弦十郎が答えた。

 

「ああ。だが、俺も同じ思いだ。一鳴くんは何か目的を持って身体を鍛えている。……八紘兄貴、一鳴くんは将来の夢とか周りに何か言っていないのか?」

「それらしいことは何も。……学校の作文では『将来の夢は国家公務員になって安定した生活を送りつつ趣味に時間を費やしたい』という……現実的な夢を語っているな」

「オレたち国家公務員が目の下にクマを作って働いているというのにな……」

「その事は言わないでくれませんかねぇ……」

 

目の下にクマを作ったキャロルちゃんの言葉に目の下にクマを作ったドクターウェルがうんざりして答えた。

 

「皆にはすまないと思っている……」

「埋め合わせは期待しているわよ、弦十郎くん」

「ああ、勿論だ」

「で、弦。一鳴くんが何か目的を持って身体を鍛えているとして、何かあるのか?」

「いや。ただ、気になってな」

「なら、彼が二課に来たときに聞けばよろしいのでは?」

 

ドクターウェルの言葉をキャロルちゃんが否定する。

 

「呼ぶのか?まだ小学生だぞ?」

「確かに子どもです。でも今から訓練をすれば装者としては問題ないでしょう。我々もバックアップしますし。それに、シンフォギア装者は彼の夢でもある国家公務員ですしね」

「そういうことじゃない。ガキに守秘義務だのなんだのが理解出来るのか、という話だ!シンフォギアという力を見せびらかしたりしないか、という話だ!」

 

その事だが、と八紘が言った。

 

「私はその辺りの事は問題ないと思っている」

「何故だ、八紘?」

 

訃堂が聞く。

 

「一鳴くんは学校でも近隣住民からも評判も良いのですが、その理由は『落ち着いていて理性的で、まるで大人と話しているようだ』との事なのです」

「精神的には成熟している、と?」

「ああ」

「フン……どうだかな?」

「キャロルくんは、反対かね?」

 

弦十郎がキャロルちゃんに聞く。

 

「当たり前だ!子どもに作戦とか、被害状況が理解出来るか?余計な手間が増えるだけならまだいい。ソイツがまともに戦えなくて死んだらどうする!?」

「……キャロルちゃんは子どもを戦わせたくないのね?」

 

了子の言葉に顔を背けるキャロルちゃん。

 

「…………そんな事はない。ただ、すぐに死なれるのは困るという話だ」

「……キャロルくん。俺たちも子どもを戦わせるのはどうかと思う。だが、俺たちにはアルカ・ノイズに対する力が必要なのだ。俺たち大人がしっかりと導いて、彼が戦い、生き残れるように鍛える。それではダメか?」

「……」

 

キャロルは見た。

訃堂が、八紘が、そして弦十郎が拳を握っているのを。子どもを戦わせるしかない不甲斐なさを噛み締めているのを。

 

「……わかった。そこまで言うのなら好きにすれば良い」

「ありがとうキャロルくん」

「というより、弦十郎くんは賛成なのね?」

「ああ。彼の目を見て、な」

「気に入ったのね……」

「気になった、だがな。でも悪くないと思うぞ」

 

スッ、とドクターウェルが手を挙げた。

 

「と言うか僕としてはですね、何故彼がシンフォギアに適合したのかが気になります」

「どういう事だ?」

「シンフォギアって女の子しか纏えないんですよ。生物学的な理由で」

「じゃあなんで全国調査で男の子も調査したんだ?」

「誰か伝えていると思ったんですよォ!!」

 

報告連絡相談を怠った結果の寝不足である。

これにはキレイなドクターウェルも激おこ。

 

閑話休題。

キャロルがドクターウェルの話に補足する。

 

「オレの開発していたファウストローブも、生物学的に完全である女しか使えないからな」

「シンフォギアもファウストローブも聖遺物の力を用いたエネルギー固着型プロテクター、彼に何かあるのか?」

「それも、彼が二課に来たときに検査すれば良いのでは?」

 

八紘の提案に乗るドクターウェル。

 

「ですね。もう批判的な意見はないでしょうし」

「どうだろう、皆。一鳴くんに装者になって貰う方向で話を進めて良いだろうか?」

 

批判的な意見は出なかった。

 

「批判的な意見はないな。では、一鳴くんにはシンフォギア装者になって貰う方向で話を進める。八紘、本人とご両親への説明を頼む。拒否されたら、それでもいい。子どもを戦わせたくない、戦いたくない。そういう気持ちは理解している」

「わかりました」

「技術部は一鳴くんが装者になると確定したら、シンフォギアの調整を頼む」

「わかったわ」

「かしこまりィ!」

「了解だ」

「では、解散」

 

そういう事になった。

 

 

 

 

ドーモ、お久しぶりです。

転生オリ主の一鳴です。

現在我が家にいます。

両親も揃っています。

居間にいます。

対面には、シルバーグレイのナイスダンディ、風鳴八紘さんが座っております。

シンフォギア装者のスカウトに来たようです。

 

……ついに来たか。

俺がこの世界に来た理由。

スダルシャンのシンフォギア装者に、完全オリジナルのシンフォギア装者になる時が。

ワクワクするね。

ドキドキするね。

……怖いね。

俺は果たしてアニメで見た彼女たちのように戦えるだろうか。彼女たちのように誰かを助ける為に立ち上がる事が出来るだろうか。

なるようにしかならないと理解していても、それでも考えてしまう。

俺はシンフォギア装者としてやっていけるだろうか……。

 

……そんな事を考える前に俺はシンフォギア装者になれるのだろうか?

八紘さんがシンフォギアについて説明してるけど、両親はやっぱり不安げだし。

まあ、戦いありきの職業だししょうがないね。自分で言うのもなんだけど、普通に愛されている自覚ありますし。

自分の子どもが戦いに行くのは嫌だものね。

 

でも八紘さんも海千山千の各国官僚との話し合いを制してきた男。家の両親相手に弁舌を振るう。

そうして───

 

 

 

一鳴パパとママの出した結論【1D6】

 

1 うーん……

2 家の子が社会のお役に立つのなら……

3 家の子が社会のお役に立つのなら……

4 家の子が社会のお役に立つのなら……

5 家の子が社会のお役に立つのなら……

6 どーぞどーぞ持ってって

 

結果、【1】

 

 

 

家の両親は心配性みたい……。

八紘さんとの話し合いでも賛成は出来ないようだ。

しゃーない、俺が一肌脱いだる!

 

「ダディ、カーチャン!俺、やるよ!」

「一鳴!?」

 

そら驚くよなぁ。

今まで大人の話し合うだったのに、いきなり子どもの俺が割り込むんだから。

 

「一鳴、子どもは黙ってなさい!」

「そうはいかんぜよカーチャン!これ要するに俺が人様のお役に立てるかどうかって話でしょ?なら俺も話に入れとくれよ」

 

なぜ俺はべらんめぇ口調というか、変な口調なのか。たぶんシンフォギア装者になれるかどうかとか、大人の話し合いに入るのに少し緊張してたとか。

そんな感じね。

 

「そこの……八紘さんでしたっけ?八紘さんも言ってたでしょ?これからは俺のようなシンフォギア?を使える人が必要になるって。ノイズを倒せる人が要るって。誰かを傷付けるならまだしも、誰かを助ける仕事なら俺やりたいよ」

「一鳴……」

「それに、日本に俺一人しかシンフォギアを使えないなら、他の国から狙われたりするんじゃない?しますよね?……でしょ。なら親方日の丸の特異災害対策機動部二課でしたっけ?そこに所属した方がいいよ。てかそうしたい、俺が」

「……一鳴」

「頼むよ父さん、母さん。俺だって戦うの怖いけどさ、人助けになるのならシンフォギア装者になりたいんだ」

 

俺は二人をじっと見る。

父さんも母さんも俺を見ていた。

そうして一秒か一瞬か。

母さんがため息をついた。

 

「……わかったわ」

「和花……」

「一鳴、あなたがそこまで言うのなら、母さんもうとやかく言いません。洋一さんは?」

「……ああ。そうだな、僕も同じだ。……子どもの成長は早いな」

「そうね……」

「ありがとう、ダディ、カーチャン!」

 

俺は八紘さんの方を向いた。

 

「そんな訳で俺、渡一鳴は特異災害対策機動部二課のお世話になろうと思います」

「……そうか。わかった。本当に良いんだね?」

「はい!」

 

何かを噛み締めるようにしながら、頷く八紘さん。我が家のやり取りを見て翼さんとの思い出でも振り返っているのか。

 

「では、本日は幾つかの書類に本人とご両親のサインを頂きたいと思います。それと……近々検査の為に二課の本部へと一鳴くんに来ていただく必要があるのですが、ご両親も一緒に来ていただく事も可能です。いかがいたしますか?」

「勿論、一緒に行きます」

「ええ。息子もまだ小学生なので一度ご挨拶に」

 

……親同伴で来て、噂されると恥ずかしい。

とか思いつつ、俺は書類にサインを書いて、書いて、書きまくった。

守秘義務の書類だけで四枚あるってどういうことなの……。

 

 

 

 

そんなこんなで。

八紘さんの訪問から二週間ばかり経った週末。

俺は今、二課の本部に居ます。

前々に電話で日程調整を済ませ、当日になったら黒い車でお出迎え。からの目隠しをされて二時間走りっぱなし。情報漏らすわけにはいかないとはいえ、目隠しされるのはキツイっす。

 

着いたら着いたで、いきなりのクラッカーと『おいでませ 一鳴くん』の横断幕。あと和服の老人(精強)と赤シャツの大男(精強)。怖えーわ。

それから両親と共にご馳走食べさせられ、色んな人とたくさん話をし、いつの間にか病院めいた所でMRI採血CT問診等々……。

 

目が回る。

それで今は二課内の『技術部』に居ます。

フィーネ兼了子さんやドクターウェル、キャロルちゃんの職場ですね。

でも現在、ここには俺と両親、そして了子さんしか居ません。

検査の結果を説明するそうです。

了子さんはすこし怖い顔をしています。

……ガンとか見つかったのかしら。

 

「ねぇ、一鳴くん?今まで過ごしてきて、身体に変なところとか本当に何もなかった?」

「ないです……ガンでもありました?」

「え、ガン!?ないわよ、ナイナイ」

 

朗らかに笑う了子さん。

でも後ろの両親は不安そう。

俺も不安だぁ。

 

「あのね、一鳴くん。一鳴くんはシンフォギア装者として二課にスカウトされました。でもシンフォギア装者って女の子しかなれない筈なの」

「え"っ!?そうなんですか!?」

 

知らなかった、そんなの……。

でも死後の世界で精霊さん一言もそんなこと言ってなかったよ!?

サイコロ神!?

 

『事実だ。シンフォギアやファウストローブなどのエネルギー固着型プロテクターは女性しか纏えない』

 

なら、何故俺は男のまま転生したの?

シンフォギア装者になれって言われたのに。

 

『時々男のまま装者になりたいという者もいるからだ。精霊はニーズに答える為に、その矛盾を(強引に)解決する手段を見出だした』

 

何故だろう、凄く不安だぁ(白目)

 

「二課の皆も不思議に思ってたの。だから今日は沢山検査させてもらいました。大丈夫、疲れてない?」

「大丈夫っす。皆さん良くしてくれましたから」

 

友里さんがあったかいものくれたし、藤尭さんが気を使ってくれてゲームやマンガの話を振ってくれたし。

ちなみに名前は名札を見て判断しました。

二人ともアニメに負けずスマートでしたわぁ。

 

「そう、良かったわ。それでね、検査の結果なんだけど……」

 

そう言ってMRI写真を見せる。

……どこの部分か全然わからん。

 

「これ、お腹の部分なんだけど。……ここ、わかるかしら?」

「え、あー。白いのですか?」

 

渡一家三人ともMRI写真に注目する。

確かに凄く白く小さな影がある。

 

「これがガンですか?」

「だからガンじゃないわよっと。……一鳴くんもご両親も落ち着いて聞いてくださいね。これ、子宮です」

 

…………………………はい?

 

「子宮、赤ちゃんの出来る臓器。それが一鳴くんのお腹の中に有ります」

 

………………………………。

 

「ええええええぇぇぇぇ!?」

「そんな反応するわよねぇ。でも嘘じゃないわ。これ、子宮です」

 

つまり、俺は、ふたなり女子だった……ッ!?

 

『ふたなり女子ではない。いや、半陰陽ではあるのだが……』

 

これが精霊さんの解決手段か!

 

『そうだ。女しか纏えないのなら、男のまま女にすればいい。男でありながら、女であればいい。男と女、両方の性を持たせる。これが精霊の見出だした答えだ。そしてそれは実際成果を出している』

 

……実際シンフォギアに適合してるものねぇ。

 

『陰陽思想で考えれば、貴公は男と女、陽と陰の相克する二つの属性を併せ持った太極。すなわち完全なる身体であると言える。つまり貴公の身体は完全なるもの、エネルギー固着型プロテクターを纏うに値すると言える訳だ』

 

なんだか話が大きくなってきて訳がわからんぞ!空の境界かよぉ!?

 

「……その、一鳴はこれ、大丈夫なんですか!?」

 

母が勢い込んで聞く。

そら自分の息子に子宮あったらこうなるわ。

 

「ええ。検査の結果も、子宮がある以外は異常なしの健康体。一鳴くんも、身体に異常はないって言ってますし、問題ないかと」

「そ、そうですかぁ……」

 

脱力して、崩れ落ちかける母を受け止める父。

そのまま、了子さんに質問をぶつける。

 

「その、子宮という事は、一鳴は妊娠出来る、のですか?」

「いいえ、出来ません。一鳴くんのお腹の中には子宮はあっても卵巣も卵官も、女性器もありませんから。本当に子宮だけで独立しているんです」

「ははぁ……」

 

父も脱力して母と抱き合う形になる。

 

「つまり、俺のお腹の中に小さい子宮があるから、シンフォギアを使えるって事ですね?」

「そうだと思うわ。でも、確証はないのよ。初めての症例だし」

「ですよねぇ……」

 

二人してため息をつき、笑い合う。

お互い大変だね、そんな感じで。

 

「まあ、俺が健康ならそれで良いっす」

「随分あっさりねぇ」

「まあ、自分の事なんで一周回って。あ、そうだ!せっかく二課まで来たんでシンフォギア、使ってみたいです!」

 

俺はそう宣言する。

了子さんは了承した。

 

「実は本当に使えるのか、一回装着させてみせてほしいって言われてるのよ!」

「行きましょ行きましょ!ほら、ダディ、カーチャンしっかりして!俺は健康体だから!」

 

そう言って。

俺と足腰ふらふらの父と母は了子さんに連れられて訓練室にまでやって来ました。

機械的な空間。

うん、ゲームで見た空間や!

 

「じゃあ、これ持ってあの部屋に入ってくれる?私とお父さんとお母さんは、ここで貴方の事を見ているから」

「はーい(コナン君感)」

 

了子さんから紅い結晶……シンフォギアを渡されると、俺は無邪気にそう言って、訓練室の中に入る。

うーん、無機質。

そしてシンフォギアを渡されてから胸の音楽が止まらん。

 

「準備は良いかしら?OKなら、胸に響く歌を歌って頂戴♪」

 

そう言われた俺は胸の音楽に耳をすます。

音楽が頭の中に広がり、歌が浮かぶ。

さぁ、いよいよ。

時は来た。

 

「───── Sudarshan tron」

 

身体が光に包まれる。

光に包まれた身体にくすんだ赤のインナー。半袖にスパッツだ。

その上から黒と赤銅色のアーマーが装着される。

手足の装甲は必要最小限に。しかし腰部アーマーは足が隠れるくらいに大きく、まるで花かヒトデのよう。

頭部装甲は耳と額を覆う装甲、額の装甲から鬼の角のように2本のアンテナが生える。

そして最後に背中に大きな輪っかが接続される。

光が収まる。

なんか一分くらい変身に時間を使っていた気がするけれど、多分一瞬くらいなんでしょうね。

 

全身を見る。シンフォギアの色はくすんだ赤というか、赤銅色っぽい。でも黒い部分が多いね。

腰アーマーは大きく、下半身を丸っと隠す仕様。モビルスーツっぽくて俺は好きです。

 

「……数値に異常なし。どうかしら、初めてシンフォギアを纏った感想は?」

「……あー、いいっすわぁ~」

「おっさん臭い感想ありがとー!ご両親もカッコいいって言ってるわよ!」

 

ガラス越しのブースからスピーカーを通じて了子さんの声が聞こえてくる。背後には手を振る両親。

俺は手を振り返した。

 

そっか、俺はシンフォギア装者になったんだな。

 

『そうだ。貴公はやっとスタート地点に立ったのだ』

 

ここでスタート。

ここがスタート。

サイコロ神、俺はちゃんとしたシンフォギア装者になれるだろうか?

 

『未来は不確定である。されど、貴公のこれまでの努力は無駄ではない。胸を張るがいい。貴公の未来には、苦難は多くとも確かに明るい物もあるのだから』

 

そっか、なら頑張るよ。

せっかくシンフォギア装者になったのだから。

沢山の人を助けるよ!

やるぞぉ俺は。

俺はやる男ですよ!

 

 

 

 

そんなこんなで。

シンフォギア装者になった俺は。

気合いを入れた俺は。

この世界で生きていく覚悟を新たにしたのだった。

 




作中の陰陽思想云々はWikipedia先生から教えてもらった知識が元なので間違ってたら申し訳ない。


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第五話 転生オリ主は二課に所属したようです

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2039年2月。

年が明けてから、俺は本格的に二課所属のシンフォギア装者として活動することになった。

と、言っても未だに小学生の身、二課に詰めるのは土日祝日である。

そして詰めてる間はこれでもかと戦闘訓練を受けることになっております。

 

 

 

一鳴くんのトレーニングメニュー【1D10】

 

1 ドクターウェルによる無理のないメニュー

2 弦十郎による猛特訓

3 キャロルによるスパルタメニュー

4 ドクターウェルによる無理のないメニュー

5 弦十郎による猛特訓

6 キャロルによるスパルタメニュー

7 ドクターウェルによる無理のないメニュー

8 弦十郎による猛特訓

9 キャロルによるスパルタメニュー

10 訃堂による血を吐く程の愛のシゴキ

 

結果、【3】

 

 

 

「どうした!シンフォギアを纏っておいてその程度か!?」

「グワーッ!」

「そんな攻撃でオレを倒せると思ったか!」

「グワーッ!」

「単純な攻撃に当たってやるほど、オレは優しくないぞ!」

「グワーッ!」

 

はい。

キャロルちゃんにしごかれております。

二課にいる間の俺の戦闘訓練を引き受けてくれたようで、割りと真剣に俺の訓練をしてくれます。

ただね、キャロルちゃんって研究者肌というか、面倒見が良いというか、ドSというか。

徹底的にボコボコにされております。

 

シンフォギアという大きな力を手に入れて伸びた鼻っ柱をへし折ってやる。

戦闘訓練の初日にそう言われました。

現在、鼻っ柱どころか精神もベキベキにへし折れてます。

前世の経験が無ければ引き篭っていたでしょう。

転生オリ主で良かった!

 

「よし、今日はここまで!」

「……ゴシド…………アリガト………………ゴザイマシタ……」

「ふん……片付けはオレがしておいてやる。早く着替えてこい」

「ハイ………」

 

ふらふらであった。

体力自慢の俺が、ふらふらであった。

俺は未だ10歳の身である。

それでここまで戦えるならスゴいよ。

キャロルちゃんのビーム避けれたもん。炎とか風とかも凌いだし。

四大属性同時攻撃は回避不能防御困難で負けたけど。

でも俺はよくやってる。

俺はスゴい!

頑張れ一鳴頑張れ!

俺は今までよくやってきた!

俺はできる奴だ!

そして今日も!これからも!

心がベキベキに折れていても!

俺が挫けることは絶対に無い!

 

「あ、そうだ。渡一鳴、お前明日は戦闘訓練は無しだ」

「……え、クビですか……」

「なんでそうなるッ!?」

「いつまで経っても弱いままだから、放り出されるのかなって……」

「そんな訳ないだろうがッ!明日は風鳴弦十郎が連れて行きたい所があるらしいから、それで休みだと言ってるんだ」

「あ、そうだったんですか」

 

ホッと一安心である。

 

「わかったなら、とっとと帰れ!」

「はい、お疲れ様です」

「……あとな」

「はい?」

「……お前は良くやってるよ」

「……ありがとうございますッ!」

 

キャロルちゃんパイセンに誉められた。

しかも頬を少し赤らめるツンデレ仕様……ッ!

かわいい(かわいい)

 

「ニヤニヤするなッ!早く行けッ!」

「はーい!」

 

そんなこんなで。

明日は弦十郎さんとお出掛けである。

 

 

 

 

この世界において。

風鳴弦十郎は二課の副司令である。

司令は風鳴訃堂、護国の鬼と呼ばれたおじいちゃん。

……正直、弦十郎さんが司令でないのは違和感がある。

二課に入ってしばらく経っても慣れないままだ。

 

「それで弦十郎さん、今日はどこに行くんですか?そろそろ教えて頂きたいんですが」

「ん、言ってなかったか?」

 

車の中である。

二課所有の黒いワゴンだ。

弦十郎さんが運転し、俺は助手席。

後部座席には、何故か菓子類が積まれている。

 

「ええ、目的も何も聞いてないっす」

「そうか、すまん。今日はな、一鳴くんと同年代の子どもたちに会いに行くんだ」

「俺と?」

 

どこに行くのか、それを聞こうとした時、車がある建物横の駐車場に入る。

着いたぞここだ、そう言われた。

白い建物、どこかホテルのような雰囲気の五階建ての建物であった。

 

「ここは……」

「孤児院。ノイズや異端技術を用いた犯罪に巻き込まれて、親を亡くした子どもたちが暮らす場所だ」

 

お菓子を降ろすの手伝ってくれ、と後部座席のドアを開けながら弦十郎さんが言う。

俺が段ボール一箱、弦十郎さんが片手で五箱ずつを抱えて建物に向かう。

入り口には初老の女性が杖をついて待っていた。

 

「お待ちしていましたMr.弦十郎」

「ナスターシャ院長、いつもお出迎えありがとうございます」

 

ナスターシャ教授であった。

アニメと違い、杖はついているけど両足で立っており、眼帯もしていない。

そうか、ネフィリム起動前にドクターウェルが日本に連れてきたからケガしていないのね。

ということは、ここがレセプターチルドレンたちが暮らす孤児院……。

 

「そうだ、紹介します。彼が新しい装者の一鳴くんです」

「そう……彼が」

 

そう言って俺を見るナスターシャ教授……院長。

 

「どうも、初めまして。渡一鳴です。……装者の事を知っているのですか?」

「ええ……昔アメリカで研究者をしていた時に」

 

そう言って、少し遠い目をするナスターシャ院長。

 

「ナスターシャ院長?」

「……失礼、少し昔を思い出しました。Mr.弦十郎、一鳴くんも中へ」

 

そうして。

俺と弦十郎さんは孤児院の中へと入る事となった。

 

 

 

 

ドクターウェルはアメリカの聖遺物研究強硬派の蛮行に対抗するため、風鳴訃堂との取引で二課に移籍してきた。

その際、レセプターチルドレンの中で日本から拉致された者たちも連れてこられた。

そのレセプターチルドレンたちが暮らす孤児院がここであり、その院長がかつてF.I.S.でレセプターチルドレンの観察者であったナスターシャ教授である。

ちなみに、孤児院を建てたのもナスターシャ教授を院長に据えたのもドクターウェルである。我が世界のドクターウェルは訃堂じいじと同じくキレイキレイなのだ!

 

そしてその孤児院がキチンと運営されているかを確認するのが風鳴弦十郎であり、月に一度こうして元レセプターチルドレンたちに振る舞うお菓子を持ってくるのだ。

 

なので弦十郎さんは元レセプターチルドレンたちからとても人気がある。

 

「あっ弦十郎さんデース!」

「こんにちは弦十郎さん」

「こんちゃーす弦十郎さん!」

「オッス弦十郎さんお疲れナス!」

「押忍!!!」

 

弦十郎さんと食堂に足を踏み入れた途端、子どもたちが駆け寄ってくる。

揉みくちゃになる俺と弦十郎さん。

しかし弦十郎さんは巨木のように動じず笑うのみ。

 

「アバババ……」

「ハッハッハッ!相変わらず皆元気だなッ!」

 

揉みくちゃになり目を回す俺を見かねてナスターシャ院長が助け船を出す。

 

「貴方たちおとなしくしなさい!今日の客人はMr.弦十郎だけではないのですよ!」

 

その声を聞いてやっと俺に気付いたらしい皆が離れていく。

 

「助かりました、ナスターシャ院長」

「スマン……大丈夫か一鳴くん?」

「ええ、大丈夫です」

「申し訳ありません、とんだ失礼を」

「お気になさらず。こう見えて鍛えてますので」

 

そんなやり取りを見ていた子どもたちの一人が手を上げる。

 

「あの、マム?その人は?」

「新しく来た子デスか?」

「一鳴くんは俺の部下だ!」

「どうも、初めまして。渡一鳴です」

 

挨拶は大事、古事記にも書かれている。

 

「弦十郎さんの部下?」

「部下?」

「つまり舎弟デスね!」

「舎弟なの?」

「舎弟かぁ」

 

おかしい。俺が舎弟になっているのもそうだけど、弦十郎さんが完全にヤの付く自由業扱いだ。

 

「いや、舎弟ではないぞ?」

「じゃあ鉄砲玉デース!」

 

あの金髪の子、さっきから発想がブッ飛んでるな?というか切ちゃんだな?暁切歌だな?

 

「うん、もう舎弟でいいや!」

「それで良いのか一鳴くん……」

「重ね重ね申し訳ない……。昨日任侠ものの映画を見せていたので……」

 

子どもになんてものを見せるんや……。

 

「気にしないでください。装者も舎弟も似たようなもんですし」

「え……」

 

俺の【装者】発言に反応する子どもたち。

……そっか、切歌ちゃんいるならシンフォギア知ってるよなぁ。

 

「あなたも装者だったの?」

「ええ。え、貴女も?」

 

声を掛けてきたのは、ブラウンの髪をロングにし桃色の蝶めいた髪飾りをする中学生くらいの少女。

うん、良く見りゃ前世でよく知るあの子だわ。

 

「うん。私はセレナ・カデンツァヴナ・イヴ。私も装者だったんだ」

「ああ、アガートラームの」

「そう!」

 

ネフィリム封印の際、死ぬはずだった少女。

セレナ・カデンツァヴナ・イヴだ。

ドクターウェルがキレイキレイなので、死ぬ前に日本に来て死亡フラグがへし折れたお方。

 

「アタシは暁切歌デス!よろしくデース!」

「月読調。よろしく」

「あたしは雪音クリスだ」

「オッス俺は……」

「私は……」

「我が名は……」

「拙は……」

 

セレナさんの自己紹介を聞いて、他の子どもたちが一斉に自己紹介しだす。

頑張れ俺!前世の営業経験をフル稼働させて一発で名前を覚えろ……ッ!

 

というかなんでクリスちゃんもここにいるのん?

 

『風鳴弦十郎がバルベルデから救出し、ここで保護してもらっているようだな』

 

と、サイコロ神。

そう言えば訃堂司令がアメリカに頼まれてバルベルデのヴリル協会と強硬派を襲撃した時に助けられたとかなんとか……。

まあ、馴染んでいるようですし、良かった良かった。

 

「うん!早速仲良くなったようで何よりだなッ!」

 

と、弦十郎さん。

 

「一鳴くん、俺はナスターシャ院長と少し話があるから彼らと一緒に待っていてくれないか?」

「え?」

 

無茶振りされた。

 

「大丈夫だ、すぐに終わるッ!」

「え?」

「じゃあ、私たちとお茶しながらお話ししましょう!」

 

セレナさんに引っ張られる。

 

「え?え?」

「丁度お菓子もあるデース!」

「切ちゃんダメだよ。ちゃんと弦十郎さんにお礼言わないと」

「そうデス!」

 

ありがとう弦十郎さん!とお礼を言う子どもたち。

 

「どういたしましてッ!では、一鳴くん仲良くするんだぞ!」

「えぇ……」

 

そう言って去っていく弦十郎さんとナスターシャ院長。

そして背後には目をキラキラさせる子どもたち。

 

「さあお茶の準備をしましょうね!」

「はいデース!」

「お菓子分けるね」

「拙も手伝います」

「俺はお茶を沸かすぞ!」

「我も手伝ってやろう」

 

そういう事になった。

 

 

 

 

そんなこんなで三十分が経つ。

俺は子どもたちからの質問責めにあっていた。

 

「じゃあ一鳴くんは装者としてはまだ素人なんだ」

「そっすね。まだ一ヶ月程度ですね」

「まだまだデスね」

「切ちゃん失礼だよ」

「いやまだまだなのは事実だしねぇ。昨日も師匠にボコボコにされたゾ……」

「弦十郎さん?」

「いや、別の人。錬金術師なのその人」

「錬金術師ぃ?とんだオカルトが飛び出してきたな」

「錬金術師なんているの?」

「それなりの数がこっそりいるみたいよ?」

「まあ神様が生きていたからな……」

「この世は不思議だらけ……」

 

そんなこんなで。

元レセプターチルドレンの子どもたちと仲良くなれた訳だ。

 

 

 

チキチキ好感度ダイス【1D10】

 

1 うーん……

2 友だち

3 友だち

4 友だち

5 うーん……

6 友だち

7 友だち

8 友だち

9 ひとめぼれ

10 ヤンヤンデレデレ

 

 

セレナ【7】

切歌 【3】

調  【9】

クリス【3】

 

 

 

うん。

なんか調ちゃんから熱い視線を感じる。

俺に質問沢山してくるし。

お茶のお代わりとか、甲斐甲斐しく世話してくれる。

これ、もしかしてもしかする?

 

『で、あるな』

 

そっかぁ。

どこが決め手だったのかな……。

 

そんな事を考えていたら、弦十郎さんがナスターシャ院長と共に帰って来た。

 

「スマン、待たせてしまったな」

「少し話が長引いてしまいました」

 

お茶会をしていた俺たちを見る二人。

 

「お、仲良くなったようだな!」

「ええ、皆に良くしてもらいましたよ」

「そうか!ここに連れてきて良かった」

 

それからしばらく。

元気か、とか。学校はどうだ、とか。なにか困っていることはないか、とか。

子どもたちと弦十郎さんが会話をして。

 

「もうこんな時間か……。一鳴くん、そろそろお暇するとしよう」

「えー、もう帰っちゃうデスか!?」

 

子どもたちから非難の声が挙がる。

 

「すまない、この後仕事があってな……」

「俺もそろそろ帰らんと……」

「むー」

 

俺の袖をくい、と引っ張る調ちゃん。

 

「……また、来てくれる?」

「ん?……うん必ず。弦十郎さん、またご一緒しても良いですか?」

「勿論だッ!」

 

そういう訳で。

俺は元レセプターチルドレンの子どもたちと知り合う事になった。

 

 

 

 

「そう言えば」

 

帰りの車内。

俺はふと気付いた事を聞くことにした。

 

「なぜ俺をあの孤児院に?」

「ああ。……行きしにあの孤児院を【ノイズや異端技術を用いた犯罪に巻き込まれて、親を亡くした子どもたちが暮らす場所】と言っただろう?」

「はい」

「一鳴くん。俺たちの仕事はそういったノイズや異端技術による犯罪から人々を守る事だ」

 

だから、そう弦十郎さんは続ける。

微笑みながら横目で俺を見て。

真剣な顔で。

 

「俺たちの未熟さや失敗で、あの孤児院の子どもたちのような、家族を亡くしてしまう人たちが増えてしまうかもしれない」

「……」

「それを知ってほしい、そう思ったんだ」

「……はい」

「キャロルくんから聞いているぞ。厳しい訓練を弱音を吐かずにこなしていると。そんな一鳴くんだから、少し早いかもしれないが知ってほしかったんだ」

 

シンフォギア。

ノイズに対抗する為の鎧。

人類の脅威に抗う為の力。

俺は少し、シンフォギアを纏う意味を軽く考えていたのかもしれない。

俺の敗北が、失敗が。誰かの不幸に繋がる。

その意識が薄かった。

 

そうだったなぁ。

シンフォギア世界って物騒だしなぁ。

しかもこの世界カストディアンの一氏族が生き残ってるし。物騒さは群を抜いている。

 

だからこそ。

俺は更に鍛えなければならない。

もっと強く、強く、強く。

人には限界がある。伸ばす手の長さには限りがある。助けられる人には限りがある。

それでも。

あと少しで助けられた、そう後悔しないために。

 

今日出会った子どもたちを思い浮かべる。

フィーネが、アメリカが、ヴリル協会が運命を狂わせた子どもたち。

友だちになった子どもたち。

彼らのような子どもたちを、悲しい人たちを出さないようにしたい。

弦十郎さんの話を聞いて、そう思った。

 

 

 

 




シュルシャガナのアームドギアはヨーヨーや円鋸。
スダルシャンはノコギリめいた刃の円形スリケン。
つまり調ちゃんが一鳴に惚れる運命は、示唆されていたんだ!(キバヤシ感)


◆おまけ◆
2039年2月での年齢。
一鳴、12歳
セレナ、14歳
切歌、11歳
調、10~11歳
クリス、13歳

マリア・カデンツァヴナ・イヴ16歳はリディアン音楽院に寮から通っているので孤児院には不在。


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第六話 俺とオペレーター陣と八紘さんとツヴァイウィング(前編)


思いの外長くなってしまった上にここしばらく投稿出来てなかったので、分割して初投稿です。



 

 

我輩は異世界転生者である。

……前にもやったな、これ。

まあ、ともかく。

俺は異世界転生者だ。

戦姫絶唱シンフォギア……にそっくりな世界に転生し、日夜シンフォギア装者としてやっていく為にキャロルちゃん師匠のシゴキに耐える日々を送っている。

 

アニメの世界に転生した男である。

 

創作ではよくあるモチーフとなった転生であるが、当事者としてはどんな感じだろうとは、転生当時はよく思っていた。

二次元なのか三次元なのか。

 

答えは三次元。

アニメの実写ドラマで、アニメの人物と瓜二つの俳優女優を起用した、そんな感じだ。

実写ドラマ化に反対していた人がキャストを見て手のひらを返す、それぐらいそっくり。

そっくりというか、本人なのだが。

 

それを踏まえて藤尭朔也と友里あおいの話である。

二人とも二課のオペレーターである。

藤尭さんは軌道計算に優れていて、友里さんはコーヒーインストラクターの資格を持っている。二人とも仕事の出来るオトナである。

二課に所属して二人を紹介された時、アニメで親しんだあの姿の実写版が目の前に現れたのである。

 

あ、藤尭さんと友里さんだ。

 

紹介されずとも、魂で理解出来た。

藤尭さんは綾○剛に似ていて、友里さんは髪を切った仲間○紀恵。二人とも美形だぁ……!

 

さて、美形と仲良くなりたいと思うのは人の常、俺もそうである。

そして二人はオペレーターでもある。二人との連携も訓練内容に組み込まれており、様々なシチュエーションで二つの指示を聞いて最適な動きをする訓練も繰り返してきた。

 

聖遺物由来の火事が発生してマンション内に人が閉じ込められたとか、ノイズの大量発生で民間人の避難が遅れているとか。

 

そんな訓練を繰り返してきて、また前世の営業経験も活かしてコミュニケーションしてきた結果。

藤尭さんと友里さんとは、中々仲良くなれたのであった。

 

 

 

「はい、あったかいものどうぞ」

「あったかいものどうも」

「あったかいものあざっす」

 

夕方。

休憩室にて。

友里さんの淹れてくれたコーヒーを受け取る藤尭さんと俺。

前述の連携訓練終了の後の休憩である。

 

「あ"ー、うまい!」

「ふふ、ありがと」

「子どもがコーヒーの味わかるのか?」

 

五臓六腑に染み渡るコーヒーを楽しむ俺。

そんな俺を見てからかう藤尭さん。

 

「わかりますー。家のコーヒーより美味しいですし」

 

それに前世で飲んだコーヒーより美味しいからネ!

 

「嬉しい事を言ってくれるわね、はいサービス」

「あざまーす!」

 

友里さんからチロルチョコを貰う。

 

「あ、ズルい」

「素直に美味しいって言ってくれる子にしかあげません。で、藤尭くんは?」

「……美味しいですよあおいさん」

「はい、よろしい」

 

藤尭さんもチョコを貰う。

うーん距離感が近い。

これはふじともなのだろうか?

 

 

 

藤尭と友里の関係は?【1D6】

 

1 ただの仲の良い同僚

2 ただの仲の良い同僚

3 ただの仲の良い同僚

4 両片思い

5 ただの仲の良い同僚

6 藤尭さんは補食された後

 

結果、【2】

 

 

 

いや、ただの距離感が近い同僚だな。

前世で社内恋愛チェッカーお局山下の薫堂を受けた俺が言うのだから間違いないのである。

 

「それにしても今日も大変だったわね」

「あれはなぁ……」

 

今日の訓練の話である。

午前中、戦闘訓練では得られたデータを元にシミュレートされた異形パーフェクトソルジャーと戦ったのが切っ掛けである。

これがまた強敵なのだ。

腕を振るえばコンクリートがプリンめいて砕け、戦車砲を受けてもピンピンとする耐久力を誇り。一瞬で時速200㎞に達する瞬発力。

バルベルデでアメリカンパーフェクトソルジャー軍団が負けたのもわかる強さである。

こんな化物と戦わされたのだ。

 

俺は凄く頑張った。

隙を突いて切り、削り、焼き。反撃をギリギリで避けて、受けて、流す。

永遠に続くかと思われた攻防を凌ぎきって倒したのだ。

初見で。

倒したのだ。

凄く頑張った。

 

それを見ていたキャロルちゃん師匠。

「ほう、午後からの訓練は厳しくしてもよさそうだな」と呟いて。設定を弄くったかと思ったら。

午後からの藤尭さんと友里さんとの訓練にて、三体の異形パーフェクトソルジャーと戦わされた。

民間人の多く居る休日の商業施設、という設定で。

当然民間人の避難と救助を最優先にしなければならない。

だが三体の異形パーフェクトソルジャーである。

そう簡単に避難も救助もさせてくれない。

まず近場の人を狙うし、俺が見えていたら優先して俺を襲う。

 

何度も死んだ。

その度にキャロルちゃん師匠からボコボコに詰られた。

阿呆め何を死んでいるんだお前のせいで民間人が多数死ぬぞ午前中の奮戦はマグレか?等々。

藤尭さんもドン引きだし友里さんも厳しすぎると提言してくれたのだが、キャロルちゃん師匠は頑として聞かず。

 

俺も悔しいので何度も再挑戦して。

3時間。

それだけ再挑戦しつづけてやっと、民間人の犠牲なしに異形パーフェクトソルジャー三体を倒したのであった。

 

友里さんはその訓練の事を言ったのだ。

 

「一鳴くんの訓練は何度も見てきたけど、やっぱり厳しすぎるわ。弦十郎副司令も八紘副司令も何も言わないけど……」

「キャロルの言い分もわかるからなぁ」

「俺を少しでも早く一人前にする、ってやつですか」

 

現在、世界は神様復活のギリシャ、内ゲバでぐずぐずのアメリカ、ヴリル協会及び強硬派と合流したパヴァリア光明結社。その他聖遺物研究を始めたインドに聖遺物強奪を目論む中国、とカオスの極みにあり。

故にシンフォギア装者である俺の成長は急務である。

それがキャロルちゃん師匠の考え。

言ってる事はわかるし二課の上層部も許可してるけどやっぱりやり方が厳しい、というのが友里さんの考え。

 

「大丈夫、辛くない?」

 

友里さんが俺に目を合わせて聞いてくれる。

大きな瞳に整った鼻立ち、白い肌。仄かに香る良い匂い。

美人の顔が近いと顔が熱くなってしまうネ……。

 

「だ、大丈夫っす。なんやかんやでキャロルちゃん師匠、こっちが出来ない事はやらせませんし。出来たらちゃんと褒めてくれますし」

「そう? 辛かったらちゃんと言うのよ」

「うす……」

 

あたふたする俺を見て藤尭さんがニヤつく。

 

「なんだ?照れてるのかー?」

「て、照れてなんかいないですし! 美人だなーとか思ってないですし!!」

「からかっちゃ駄目だってば。 ……でも何かあったら言ってね、美人なお姉さんは一鳴くんの味方だからね」

「あざっす……」

 

にやにや、にっこり。

微笑ましい視線に晒されて俺はどうなってしまうのか。

そんな事を考えていたら───

 

「む、先客がいたか」

 

そう言ってグレイのスーツを着こなす副司令、八紘さんが休憩室に来る。

ビシッと立ち上がる藤尭さんと友里さん。

俺も一瞬遅れて立ち上がり挨拶する。

 

「お疲れ様です八紘副司令!」

「ああ、お疲れ様。三人とも楽にしてくれ」

「コーヒー、お注ぎしますね」

「すまない、たのむ」

 

友里さんが素早くコーヒーを淹れに行く。

洗練されてるなぁこの辺りの動き。

仕事が出来る人の動きだよ。

 

「君たちは訓練の後か?」

「はい。一鳴くんとの連携訓練です」

「そうか、どうだった?」

「なんとか合格点は貰えました」

「そうか、頑張っているようでなによりだ」

「あざっす……じゃなく、ありがとうございます」

 

うーん、弦十郎さんと違って八紘さんとの会話は少し固くなってしまうなぁ。

普段八紘さんは政府関係者との会合やらで二課には居ないしなぁ。あんまり話せないのよね。

 

「コーヒーお持ちしました」

「ん、ありがとう」

 

ごくり、一口。

 

「うん、美味しい」

「ありがとうございます」

 

ホッとする友里さん。

 

「……そうだ。三人とも、二週間後の日曜の14時から2時間ほど空いているだろうか?」

 

ふと、八紘副司令が聞いてくる。

 

「二週間後……俺は空いていますけど」

「私も空いてますね」

「俺はキャロルちゃん師匠とのトレーニングがありますけど」

「それなら私の方からキャロルくんの方に言っておくから大丈夫だ」

 

八紘さんがキャロルちゃんに話をして俺の予定を変えさせる程の用事、一体何事なのだろうか……?

 

「あの、八紘副司令?一体どんな用事が?」

「ああ。娘の翼のことだ」

「翼、さん?」

「ああ、一鳴くんは知らなかったわね?八紘さんの娘さんの風鳴翼ちゃん」

「時々フォニックゲインの実験なんかで二課に来てたんだけど……一鳴くんは会ったことなかったっけ」

「無いっすねー。タイミング悪く」

 

どうやら翼さん、時々二課に来ていたらしい。

でも俺、土日祝しか二課に来ないし、基本的にトレーニングルームに籠りきりだから会えていないのだ。

 

「で、その翼さんがどうしたんです?」

「うむ。翼がアイドルデビューしてな」

「それは、おめでとうございます!」

「スゴイじゃないですか!」

 

お、ツヴァイウィング結成したのね!

 

「ありがとう。聖遺物発掘チームの天羽くんの娘さんの奏さんとツヴァイウィングというユニットを組んでな」

「ああ、天羽さんとこの」

「あの【お宝センサー天羽】の娘さんの」

 

なんなんだ奏さんのお父さんのその二つ名は!

 

「そのツヴァイウィングの初ライブが二週間後の日曜日の14時から、七越デパートの屋上で行われる。……一緒に来てほしい」

「えぇ……」

「えーと……俺たちにですか?」

「そうだ」

「な、何故でしょうか……?」

 

何故一緒に行かなければならないのか。

何故一人で行かないのか。

なぜお宝センサー天羽を誘わないのか。

 

「その、な。恥ずかしいだろう、父親がわざわざ初ライブ見に来たなんて。年頃の娘には」

「まぁ、そうなんですかね?」

「そんな事無いと思いますけど。翼ちゃん、八紘副司令の事が大好きですから」

「そ、そうか?」

 

テレる八紘さん。

 

「と、とにかく。こう、ライブを父親がわざわざ見に来たなんて年頃の娘にはイヤだろうし、仕事の途中で偶然見かけたから、ぐらいの感じにしておきたい」

「だから俺たちに……」

「仕事の途中でデパートの屋上には寄らないと思うんですけど(名推理)」

 

友里さんの名推理にもめげる様子のない八紘さん。

 

「八紘副司令、お宝センサー天羽って人とは一緒に行かないんですか?娘さんとユニット組んでるんですよね」

「天羽くんはその日は遺跡調査の仕事でな……逆に動画撮影を任されてしまった」

「なんとタイミングの悪い……」

 

八紘さん曰く、血涙流していたらしい。

 

「まぁその日なら空いてますし大丈夫ですけど」

「私も大丈夫です。久々に翼ちゃんに会いたいですし」

「俺もキャロルちゃん師匠がOKなら問題ないっす」

「そうか、ありがとう!」

 

破顔する八紘さん。

すっごい嬉しそうだ。

 

そんな訳で俺と藤尭さんと友里さんの三人はツヴァイウィング初ライブを見に行く事になった。

 

 

 




書くたびに八紘さんに苦労人とか子煩悩とか変な属性が付いていっちゃう(ビクンビクン)

後編はまた一週間後辺りに……。
今宵は、ここまで……。


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第七話 俺とオペレーター陣と八紘さんとツヴァイウィング(後編)


(前回のあらすじ)
一鳴は藤尭朔也、友里あおいと三人で二課の休憩室にてコミュニケーションを取っていた。そこに八紘が現れて三人を娘の翼が出るライブに誘う。三人は八紘と共にライブに行くことになった。



 

二週間後。日曜日。

13:45。

天気は快晴。

俺と藤尭さんと友里さんの三人は七越デパートに来ていた。

待ち合わせ場所はデパート内の喫茶店。

俺は私服、藤尭さんと友里さんはスーツである。仕事途中を演出したのだ。

三人とも、コーヒーのみを頼んでいた。

 

「すまない、待たせた」

 

そこに八紘さんが現れる。

 

「お疲れ様です、八紘副司令」

「車の渋滞に巻き込まれるなんて災難でしたね」

「まったくだ……」

 

八紘さんが時計を見る。

ライブが始まるまで15分を切った。

八紘さんはソワソワしている。

 

「私もコーヒーを飲もうと思っていたのだがな……。仕方ない、屋上に向かおう。早めに行って良いポジション押さえときたいからな」

「どれだけ楽しみだったんですか……」

 

俺のあきれ声に八紘さんが返す。

 

「昨日眠れなかった」

「アッハイ」

 

よく見たら目の下にうっすら隈があった。

 

「さあ行こう。残り13分だ」

「わかりました……」

「誘った手前だ。ここは私が出そう。遅刻した詫びにも、な」

「ありがとうございます」

 

そんな訳で。

俺たちはソワソワした八紘さんと共に屋上に向かうことになった。

 

 

 

ライブの客入りは?【1D10】

 

1 ガラッガラ……

2 家族連れ一組だけ

3 家族連れ一組だけ

4 ガラッガラ……

5 家族連れ一組だけ

6 家族連れ一組だけ

7 家族連れ一組だけ

8 家族連れ一組だけ

9 満員御礼

10 人が多過ぎて屋上に入れない

 

結果、【8】

 

 

 

13:55。

屋上ライブ特設ステージには一組だけ家族連れが座っていた。俺たちは一番後ろの席に座った。少し離れた所に家族連れ。

ライブ五分前にしては、客入りはとても悪い。

 

「まぁデビューしたてだからね」

 

と藤尭さん。

ライブに誘われた後、ツヴァイウィングについて調べたらしい。

 

「今日はいくつかの名曲カバーを歌った後に初披露の楽曲を歌うみたいだよ」

「逆光のフリューゲル、というようだ」

 

八紘さんが呟くように言う。

"逆光のフリューゲル"。

シンフォギア無印一話劇中で歌われた楽曲であり、水樹奈々演じる風鳴翼と高山みなみ演じる天羽奏のデュエット。

無印の後のシリーズでは"虹色のフリューゲル"として装者たちの合唱で歌われている。

 

そんな逆光のフリューゲル。

すごく、良い曲なのよね。

俺がシンフォギア好きになった大きな要因の一つである。

それが、生で、聞ける。

リアル風鳴翼とリアル天羽奏のデュオで。

 

転生して良かった!

心の底からそう思った。

 

「一鳴くんも楽しみになってきた?」

「ええ、生のライブって初めてなんですよ!」

 

そんな俺の心を読み取ったのか、友里さんが声を掛けてきた。

 

「まあアイドルのライブって興味ないとそうそう行かないもんなぁ」

「私も初めてだから、楽しみね」

「……サイリウムとか、出して良いのだろうか」

 

サイリウムは止めといた方がいいです八紘さん。

そんなやり取りをしていたら。

 

「皆さまお待たせいたしました。ツヴァイウィングライブ in 七越デパート、これより開演です!」

 

というアナウンスと共に舞台脇から少女二人が駆け、ステージ中央に立つ。

青く見える黒髪の少女と赤く見える茶髪の少女。どちらも可愛らしく、そして転生者である俺にはすぐに誰だかわかる少女たちだ。

 

「風鳴翼です!よろしくお願いします!」

「天羽奏!盛り上げていくんで、よろしくなッ!」

 

と同時に音楽が鳴り出す。

佐賀が誇るご当地アイドルユニット、フランシュシュの『アツクナレ』だ!

 

「歌うっま!」

「さすが翼ちゃんね!」

「……(静かに頷く)」

 

翼さんと奏さんの歌に思わず唸る三人。

先に来ていた家族連れも顔を合わせて驚愕している。

スゴイ歌に屋上にいた他の客たちもステージに寄ってくる。

あ、翼さんこっちに向かって小さく手を振った。

 

「ほら八紘副司令、翼ちゃん手を振ってますよ!」

「手を振り返してあげないと」

「うむ……」

 

手を振る八紘さんとニッコリ笑顔の翼さん。

そんなこんなで一曲目終了。

拍手が鳴り響く。

 

「みんなありがとーッ!!次の曲行くぞーッ!」

「ウオーッ!」

 

思わず声援を送ってしまった。

そんな感じでメジャーな楽曲が幾つか歌われていく。

歌い終わる毎に人が増えていく。

今やステージ前の椅子は満員となり、立ち見の見物客がいるほどだ。

そして何曲目かの歌を歌い終わる。

そして───

 

「次で最後の曲」

「私たちのオリジナル曲」

「「逆光のフリューゲル!!」」

 

二人が言うと同時に、前世で何度も聞いた前奏が響く。

客席の盛り上がりは最高潮であった。

俺のテンションも最高潮であった。

 

「『聞こえますか……?』激情奏でるムジーク 天に♪」

「「と、き、は、な、て♪」」

「ウオオーッ!」

 

歓声が響く。俺も雄叫びをあげる。

リアル風鳴翼とリアル天羽奏のフリューゲル、もうヤバイ。場数を積んでいない新人アイドルなのに歌が心に響く。

ヤバイ。語彙が無さすぎてヤバイしか言えない。

 

「『聞こえますか……?』イノチ始まる脈動 愛を♪」

「「つ、き、あ、げ、て♪」」

「ウオオーッ!」

「翼ーッ!」

 

歓声が響く。俺も雄叫びをあげる。八紘さんも娘の名を叫ぶ。

もう仕事の途中で偶然寄った、という建前が吹き飛んでいるな。

でも仕方ない。二人の歌はそんな建前を吹き飛ばす程、心を揺さぶるのだから!

 

そんなこんなで、俺と八紘さんはどっぷりとライブにハマって歓声をあげるのであった。

 

 

 

 

ライブ終了後。

俺たち四人は特設ステージの裏の、小さな小屋めいた部屋にいた。

ツヴァイウィングに、風鳴翼と天羽奏に会うために。

 

逆光のフリューゲルが終わって。

余韻に包まれつつさあ帰るか、という時に。

後ろから黒スーツの男の人に声を掛けられた。

茶髪にキラヤマトみたいな声、あからさまにニンジャの緒川慎次なのだ!

 

その緒川さんに、翼さんが皆さんにお会いしたい、と伝えられて特設ステージ裏の出演者控え室に案内されたのだった。

 

「お父様、ステージから姿は見えましたが、やはり来てくださったのですね!」

「ああ」

 

八紘さんに駆け寄る翼さん。その背後にはニヤニヤしている奏さん。

 

「翼、奏さん。逆光のフリューゲル、良い歌だった」

「ありがとうございますお父様!」

「ありがとうな、翼の親父さん」

 

ニッコニコの翼さんと快活に笑う奏さん。

 

「友里さんと藤尭さんも、来てくれてありがとうございます!」

「どういたしまして。素敵な歌だったわよ!」

「うん、俺ファンになっちゃったよ」

 

何度も二課に来ているからか、藤尭さんと友里さんとも気安い翼さん。

そんな翼さんが俺を見る。

 

「それで、お父様。彼は……?」

「彼は渡一鳴、最近見つかった装者だ」

「どうも、初めまして。渡一鳴です。逆光のフリューゲル最高でした」

 

挨拶は実際大事。古事記には書かれていないけど、社会的マナーとして周知されている。

更に逆光のフリューゲルの感想も添えてバランスもいい。

 

「これはご丁寧に。八紘の娘の翼です。いつも父がお世話になっております」

「いえいえ、八紘副司令にはこちらの方がお世話になっております」

 

流石は防人の娘というか、良家の娘というか。とても礼儀正しい。

 

「あたしは天羽奏、よろしくな!」

 

対して奏さんは随分と気さくである。そしてそれが不快ではない。

 

「僕は緒川慎次です。一応二課職員なんですよ」

「慎次には翼の護衛も兼ねてツヴァイウィングのマネージャーをしてもらっている」

「緒川さん、政府のエージェントなの」

「凄腕なんだぜ?」

「それほどでもないですよ」

 

そんなこんなで、自己紹介が終わり───

 

 

 

いつもの好感度ガチャ【1D10】

 

1 緒川さんとキテル……

2 友だち

3 友だち

4 友だち

5 緒川さんとキテル……

6 友だち

7 友だち

8 友だち

9 ひとめぼれ

10 ヤンヤンツケボー

 

風鳴 翼、【1】

天羽 奏、【2】

 

 

 

それから、俺は翼さんや奏さん、緒川さんと楽しくお喋りをして。

気付いた。

 

(おがつばキテル……!)

 

翼さんの緒川さんを見る目が、なんだか熱っぽいのだ。

椅子に座る脚がウキウキしているのだ。

そんな二人を見る奏さんの目が凄く優しくて、かつ面白いものを見る目なのだ。

 

なるほどおがつば。

前世ではよく見たカップリングであるが、まさか現実でお目にかかろうとは……。

従者と姫、アイドルとマネージャー。そして大人の男と美しい少女。

モチーフとしても魅力的だし、なにより。

長年一緒にいたからこそ、恋に落ちたとも言えるだろう。

きっと、余人にはわからぬ、二人だけの絆や思い出があったりするのだなぁ。

 

 

 

ところで八紘パパは気付いてる?【1D6】

 

1 気付いてる

2 (気付いて)ないです

3 (気付いて)ないです

4 気付いてる

5 (気付いて)ないです

6 風鳴家公認である

 

結果、【5】

 

 

 

あ、気付いていないなコレ。

というよりも、周りが気付かせていない。

翼さんが恋するムーヴみせたら緒川さんや友里さんが巧みに八紘さんの視線を翼さんから外させているし。藤尭さんと奏さんはそんな二人をサポートしてるし。

これ、二課メンバーには知られているけど、八紘パパは知らないパターンのやつやん!

 

まあ、仕方ないと言えば仕方ない。

翼さん、まだ14歳ぐらいだし。立場も違いすぎる。

まだ、表沙汰にする訳にはいかないよねぇ。

 

翼さんが大人になって、自分の意思をはっきり八紘さんや訃堂司令に伝えられるようにならないとネ。

 

 

 

 

「皆、今日はありがとう」

 

帰り道の車の中。

俺たちは八紘さんにそう言われた。

リムジンなので俺たち四人は後部座席で向かい合って座っている。

翼さんと奏さん、緒川さんは次の仕事に向かった。

 

「いえ、こちらこそ素敵なライブに誘ってくれてありがとうございました」

「凄かったですよね、二人の歌声」

「俺は早速ファンクラブに会員登録しました」

「早いわね一鳴くん……」

 

スマホを見せる俺と呆れる友里さん。

そんなやり取りを見て微笑む八紘さん。

 

「ありがとう皆」

「そういえば八紘副司令。天羽さんに見せるライブの動画は……」

「あっ」

 

藤尭さんの指摘にやってしまった、という顔をする八紘さん。

そういえば、動画撮影を任されていたのに撮ってなかったような……。

 

「藤尭くん」

「すいません、俺は撮ってないです……」

「友里くん」

「申し訳ありません、私も撮ってないです……」

「一鳴くん」

「俺もライブに夢中で……」

 

リムジンの中が静寂に包まれる。

そんな中、携帯電話のメロディが響く。

 

「ん……?」

「誰か携帯なってるわよ?」

「俺じゃないですよ」

「俺でもないっす」

「私だ……。慎次からだな。…………これは!」

 

驚愕する八紘さん。

 

「どうしたんですか?」

「……ライブの動画だ。今日のライブの動画を送信してくれたようだ」

「緒川さん……!」

「出来る男だ……!」

「しかも高画質だ」

「緒川さん!!!」

 

俺たちの中で緒川さんの好感度が急上昇した。

翼さんとの婚約を反対されたら全力で味方しよう、そう思った。

 

 





という訳でおがつばルートに入りました。
こういう事があるからサイコロはやめられねぇ!
あと今回逆光のフリューゲルの歌詞を一部使いました。
権利関係のあれやこれやは初めてだから、不備があって削除されたらごめんなさい。


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第八話 マリア16歳襲来(E:リディアン制服)

この作品が日刊ランキングに入ってました。
見てくれた方ありがとうございます!!
承認欲求が満たされていく……!

それはそれとして、今回ハーレム要素入ってきたので苦手な人はブラウザバック重点な?


マリア・カデンツァヴナ・イヴ16歳は激怒した。

必ずや、かの邪知暴虐な渡 一鳴を除かねばならぬ。

マリアには恋はわからぬ。

マリアはリディアン音楽院二回生である。毎日歌を歌い、過ごしてきた。

リディアンには男はほぼいない。

だから恋がわからない。

 

その連絡を受けたのは夏休み直前となった7月のある日である。

マリアは妹のセレナと電話で話をしていた。

最近の出来事や、勉強でわからないこと。

いつものような内容であったのだが、一つ、セレナが爆弾を投入した。

 

「月読さん、恋をしているの」

 

月読 調はマリアの妹分である。

セレナと同じくらい大切な家族だ。

その、家族が、恋をした。

目の前が一瞬真っ白になった。

しかしマリアはレセプターチルドレンの長子である。

すぐに意識を取り戻し、あれやこれやと話を聞いた。

 

そして教えられたのは、最近風鳴弦十郎と共に孤児院に出入りしている渡 一鳴という少年に、熱い視線を向けて世話を焼く調の愛らしさであった。

セレナの口調は熱かった。

女の子は皆恋バナが好きだからだ。

 

マリアは激怒した。

必ずや、かわいい妹分の調をたぶらかした渡一鳴を除かねばならぬ。

 

「セレナ、その一鳴くんが次に孤児院に来るのはいつかしら?」

「えっと、ちょっと待ってね姉さん。……マムー!次はいつ弦十郎さんと一鳴くん来るかなー!!………………お待たせ姉さん。次は8月5日だって!」

「そう、ならその日は私も孤児院に戻るわね」

「本当、姉さん!」

「ええ、久々にセレナや皆に会いたいし、弦十郎さんや一鳴くんにもご挨拶したいもの」

「やったっ!」

 

無邪気に喜ぶセレナ。

その愛らしさに微笑むマリア、しかし孤児院に戻る目的が調をたぶらかす渡 一鳴の邪悪な(決めつけ)正体を暴く為と知ったらセレナはどう思うだろうか……。

そんな訳で。

マリア・カデンツァヴナ・イヴ16歳は我らが一鳴とエンカウントする事となった。

 

 

 

 

2039年8月5日。

金曜日。

子ども的には待ちに待った夏休みではあるが、二課職員である俺にとっては出勤日である。

8月の俺の出勤日は木・金・土・日、夏休みなのに出勤日が倍になった。悲しいね、バナージ。夏休みに働かなきゃいけないのが悲しいね。でも市民の安全を守る為だからね、しょうがないね。

しかも夏の暑さでヒートアップしたのか、キャロルちゃん師匠のトレーニングがキツくなりました。

キャロルちゃん師匠のビームを掻い潜りながら異形パーフェクトソルジャー倒せ、とか民間人助けろとか。

 

やったけどね。

出来るまでやれ、がキャロルちゃん師匠のスタンスなので、出来るまでやりましたけどね。

そんな地獄めいた出勤日ではあるものの、今日は訓練する必要がありません。

だって弦十郎さんと孤児院に行くからね。

 

二月からずっと、俺は月に一度の孤児院訪問に着いて行っている。

孤児院の子どもたちは皆話が合うし、シンフォギアの事を隠さなくて良いので、悩みや愚痴も言えるのである。

それにね、調ちゃんにね、毎回ね、また来てねってお願いされるからね(照れ)

 

まあそんな訳で、俺は毎月弦十郎さんと一緒に孤児院に出向いているのだ。

そして、今日も俺は弦十郎さんと車に乗り、後部座席にお菓子を詰め込んで孤児院にやって来た訳なのだが……。

 

「あなたが渡一鳴ね」

 

いつもはナスターシャ院長が出迎えてくれるのだが、今日は見たことのない日笠陽子ボイスの少女が出迎えてくれた。

桃色の髪の、リディアン音楽院の制服を着た、白い二の腕や太ももが眩しい美少女。

あからさまにマリア・カデンツァヴナ・イヴなのだ!

 

「あっはい。俺が一鳴ですが?」

「マリアくんじゃないか、久しぶりだな」

「お久しぶりね弦十郎さん。そして初めまして、私はマリア・カデンツァヴナ・イヴ。昔この孤児院に居たのよ。よろしく」

 

右手を差し出すマリアさん。

俺も右手で握手をする。

力強い、握手であった。

 

「よろしくお願いします、カデンツァヴナさん。カデンツァヴナ、という事はセレナさんのお姉さんですか?」

「ええ、そうよ。妹たちがお世話になっているわね。……鍛えられた戦士の手、貴方が装者だというのは本当なのね……」

 

そう言って手を離すマリアさん。

 

「さあ、行きましょう。皆貴方たちを待っているわ」

 

 

 

 

俺が孤児院の子どもたちと過ごす時はいつも、談話室でお菓子を食べながら話をしたりゲームをしたりしている。

弦十郎さんはいつも、ナスターシャ院長と話をする為に席を外している。

大人が居ない方がいいだろうと、弦十郎さんは気を使っているのだろう。

 

しかし、今日はいつもと違ってマリアさんと一緒である。

マリアさんはまだ16歳のはずなんだけれども、それでも俺や皆は全員小中学生でマリアさんは高校生。心情的にどうしても大人として見てしまう。

前世じゃ高校生なんて、遥か昔の事のはずなんだけどネ!

 

「それじゃあ、一鳴くんはここに来るようになって半年ほどなのね」

「ええ、そうですね。皆には良くしてもらってます」

「でしょうね、皆良い子だもの」

 

現在、俺は何故かマリアさんと面談めいた何かをしています。

孤児院の皆は戸惑いつつも遠巻きに見守っています。たぶん、この面談は初めからやる事になっていたのね。

あとマリアさんの対応が少し刺々しい気がします。

 

「……単刀直入に聞くわ渡 一鳴」

「アッハイ、なんですか?」

「何故この孤児院に通うのかしら?何か目的があるのかしら?」

 

いきなりそんな事を聞いてくるマリアさん。

正直、質問の意図がわからない。

わからない、が。

マリアさんは真っ直ぐ俺の目を見てくる。

人を測る目である。

こちらの心を、真意を見定める。そんな目だ。

ならばこちらも心をさらけ出して答えなければならない。

 

「目的、という程大層なものはありませんね。ただ、ここの皆と話をしたり遊んだりするのが楽しいので」

「学校の友だちは?」

「いますよ。一緒に遊びに行くこともあります。でも、ここの皆には俺の仕事の事も話せますし」

「装者の事で隠し事をしなくて良いから?」

「そうですね。突き詰めればそうなるかもしれません。それでも、なにより」

「なにより?」

「友だちだから、一緒に遊びたい。話をしたい。それが目的……なんでしょうかね」

「友だち、ね」

 

考え込むマリアさん。

 

 

 

マリアさんの決断は!?【1D10】

 

1 調との仲は認められないわ!!

2 まあ、認めてあげる

3 まあ、認めてあげる

4 まあ、認めてあげる

5 調との仲は認められないわ!!

6 まあ、認めてあげる

7 まあ、認めてあげる

8 まあ、認めてあげる

9 貴方になら調を任せられるわ

10 ……この胸の高鳴りは何ッ!?

 

結果、【10】

 

 

 

『ほう……』

 

と、サイコロ神が呟く。

なに、何があったの?運命はどう転んだの?

 

『貴公、なかなか罪な男であるな』

 

どういうことなの……(困惑)

 

『すぐにわかる、すぐに』

「一鳴くん。私とも友だちにならない?」

「え?」

「貴方の話を聞いて、私も一鳴くんと友だちになりたくなったの。ダメかしら?」

「いいえ、喜んで友だちになりましょう」

「ありがとう!私の事はマリアって呼んで。私も貴方を一鳴と呼ぶわ!」

 

そう言って、俺の手を両手で優しく包むマリアさん。

出会った時の握手とは違い、本当に優しく慈しむように。

離す気配がない。

 

「あー、マリア、さん?」

「あと、もう一つ質問いいかしら?」

「え、アッハイどーぞ」

「今好きな人はいるの?」

「マリアッ!?」

 

調ちゃんが声を荒げる。

それも当然か、好きな人はいるのかと質問したマリアさんの頬は少し赤くなり目は潤んでいたのだから。

サイコロ神が言っていたのはこういう事かぁ。

どうしてこうなったのぉ(困惑)

 

「えーっとぉ、居るような。居ないような」

「どっち!?男ならはっきり答えなさい!」

「はい!いまぁす!!(テンパリ)」

「……そう。ならもう一つ、年上の女性は好きかしら?」

「はい、好きでぇす!!(テンパリ)」

「そう……。なら、いけるわね(小声)」

「マ リ ア ?(絶対零度の視線)」

 

キレたナイフのような視線でマリアさんに詰め寄る調ちゃん。

あーもう滅茶苦茶だよ……。

俺はセレナさんに助けを求める視線を送った。

 

(がんばれ!)

 

サムズアップされた。

俺は切歌ちゃんに助けを求める視線を送った。

 

(やばいデス、調マジギレデース!こんなにキレた調、ドラクエのセーブデータ上書きしちゃった時以来デスよ!)

 

テンパっていた。

俺はクリスさんに助けを求める視線を送った。

 

(ったく、しょうがねぇなあ……)

 

やれやれと、そんな思いを全身から漂わせながら調ちゃんとマリアさんの間に入るクリスさん。

やっぱ最後に頼りになるのは、キネクリ先輩なんやなって。

 

「二人とも落ち着けって」

「でもクリス先輩、マリアが、マリアが!」

「わかってるから落ち着けって、な?」

「…………はい」

「マリアも、一旦こいつから離れろ、な?」

「………………わかったわ」

 

そう言って争いを調停するクリスさん。

 

「マリア、一体どうしたんだよ。こいつに色々聞いていた意図はわかるけど、どうしてこうなるんだよ」

「私にもわからないわよ!ただ胸が高鳴って……」

「なんでだよ!」

「だからわからないの!ただ、こう、こうなんていうの、キュンってなったのよ!」

「正直わかる」

「えぇ……(困惑)」

 

喧嘩したと思ったら意気投合した調ちゃんとマリアさんに困惑するクリスさん。

俺も困惑してる。

 

「とりあえず別の部屋で話し合え、な?」

「わかった」

「行きましょう、調」

 

 

 

恋する乙女の話し合いの結果【1D10】

 

1 一鳴を奪い合う事になった

2 取り敢えず三人でデートすることになった

3 取り敢えず三人でデートすることになった

4 取り敢えず三人でデートすることになった

5 一鳴を奪い合う事になった

6 取り敢えず三人でデートすることになった

7 取り敢えず三人でデートすることになった

8 取り敢えず三人でデートすることになった

9 セレナ「二人とも恋人になったら?」

10 更なるヒロインの登場で孤児院は危険な領域に突入する

 

結果、【10】

 

 

 

『あっ……』

 

と、サイコロ神が呟く。

なんだその、「やっちゃった」みたいな反応は!?

 

『貴公、これから起こることに備えよ』

 

なに、なんなのよぉ!?これ以上なにが起こるっていうの!?

 

『運命の大事故だ』

 

 

 

新たなるヒロイン颯爽登場【1D6】

 

1 セレナさん

2 切歌ちゃん

3 クリスさん

4 セレナさん

5 切歌ちゃん

6 セレナさんと切歌ちゃんとクリスさん

 

結果、【4】

 

 

 

「じゃ、二人とも行こっか」

 

そう言い出したのはセレナさん。

あまりにも自然な言い出しに、皆して驚いた。

 

「え、セレナ?どうしてセレナも来るの?」

「だって私も、一鳴さんの事良いなって思ってたから」

「セレナ!?」

 

どういうことなの?(混乱)

 

「私も一鳴さんと一緒に話をしていて話が合うな、もっと一緒に居たいなって思ってたんだよ」

「なら、なんで私の相談に乗ってくれたの?お洒落のアドバイスも」

「だって、最初に好きになったのは月読さんだから」

 

だから譲ろうって思ったの、そう言って俯くセレナさん。

 

「でもマリア姉さんまで一鳴さんの事好きになって、調さんと意気投合するし」

「……」

「だったら私もって、そう思ったの。ダメかなマリア姉さん、月読さん」

「……セレナ」

「私も一鳴さんの事好きになっちゃダメかなぁ?」

 

そう言うセレナさんは泣いていた。

きっといろいろな感情が渦を巻いていて、それが溢れてしまったのだろう。

 

「わかったわ、行きましょうセレナ」

「いいの、マリア姉さん?」

「ええ、勿論よ。だって貴女は私の妹で、同じ人を好きになった仲間じゃない」

「そうだよ、セレナ。私が言えたことじゃないけど、自分の気持ちを押し込めないで」

「月読さん……」

 

そう言って、談話室を出ていく三人。

残された俺たち。

 

「クリスさん、俺はどうするべき?」

「自分で考えろ、そんな事!こっちはこっちで頭がパンクしそうなんだよ!」

「アタシも訳がわからないデスよぉ!」

「我子どもだからこういうのまだ早いと思う」

「拙もそう思います」

 

皆混乱していた。

 

 

 

悲喜こもごもな話し合いの結果【1D6】

 

1 取り敢えず四人でデート

2 三人とお付き合いして♡

3 三人で一鳴くんを逆レする計画を立てる

4 取り敢えず四人でデート

5 三人とお付き合いして♡

6 三人で一鳴くんを逆レする計画を立てる

 

結果、【1】

 

 

 

「一鳴くん、なにも言わず私たちとデートして」

 

30分後。

帰って来た三人。

そしてセレナさんにいきなりそんな事を言われた。

 

「デート?」

「うん。一鳴くんももうわかっていると思うけど、私たち三人とも一鳴くんが好きなの」

「……うん、わかっていたけども」

 

ズバッと直球で言われた。

もう覚悟は決まっている、ということか。

 

「一鳴くんもいきなり三人とも恋人にしろ、なんて言っても困っちゃうよね?」

「だから私たちとデートして貰うわよ渡一鳴!」

「うんうん」

 

それが、三人が話し合って決めた結論であるらしかった。

……いや待て。

いま、「三人とも恋人にする」って言った?

「三人の内の一人を恋人にする」じゃなく?

 

「うん、言ったよ」

「アイエエ!?なんで三人と付き合う前提なの?」

「だって、もし私たち一人だけ恋人になれたとしても、選ばれなかった二人は絶対諦めないわよ」

「なら三人とも恋人になろうって結論になったの」

 

なるほど、選ばれなかった二人が敵に回るくらいなら三人で協力体制を取った方がメリットが大きい、という事ね。

心は未だに大荒れだけど、頭では理解した。

 

「で、デートの日程なんだけど───」

「話は聞かせてもらったッ!!」

 

バァン、と扉を開けたのは弦十郎さん。

その後ろには片手で頭を抱えるナスターシャ院長。

 

「すみません一鳴さん。家の子達がご迷惑を……」

「いえ、此方こそトラブルの種になってしまってなんと言えば良いか……」

「確かに三人も恋に落とした一鳴くんに原因はあるが、責任を感じる必要はないと思うぞ。恋は『された』側でなく『した』側にこそ主体……つまり責任があるのだからな」

 

弦十郎さんによるフォローが入る。

……弦十郎さんらしくないフォローだな。

 

「……俺だって、恋の一つや二つしたことがあるぞ。とにかく、女の子にここまで言わせたのだから、覚悟は決めなくてはならない」

「……そうですね。うん、わかりました」

「という訳でデートの日程なのだが……」

「明日か明後日でお願い出来ないかしら」

 

と、マリアさん。

 

「む……そんなに早くか?女性は色々準備する事も有ると聞いたが……?」

「ええ、普通はそうなのだけれど」

「明後日がマリア姉さんの誕生日なんです」

「だから、それに合わせたくて……」

「なるほど、なら明日だな」

 

即決する弦十郎さん。

 

「良いんですか、キャロルちゃんに相談しなくて?」

「ああ、問題ない。明日は急遽キャロルくんに仕事が入ったようでな」

 

スマホを確かめる。

確かにキャロルちゃんからのメールで、明日は訓練は休みである旨が伝えられていた。

 

「なら……!」

「ああ、こちらとしては明日デートしてもらうのは問題ない」

「俺も覚悟は決めました。行きましょう、デートに!!」

「やった!」

「明日は宜しくね、一鳴」

「がんばらなきゃ」

 

喜ぶ三人娘。

とにもかくにも。

俺、渡 一鳴は、明日、美少女三人と付き合う前提でデートすることになりました。

そういう事になった(強弁)

 

 




サイコロくん「そこです、自爆しなさい!」

プロットくん「え、ちょっ待って次回は戦闘回グワーッ!」

作者ワイ「プロットさーん!!!」

サイコロくん「必要な犠牲でした……」

そんな感じの八話でした。
どうしてこうなったの……?
使ってるサイコロが悪いのかしら。イエローサブマリンで買った六面と十面のクトゥルフ神話TRPGサイコロだから……?
エルダーサインが何か良からぬ事をしているの?


そんな感じで次回はデートですよデート!
次回もお楽しみにー。


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第九話 両手に花を、胸に愛を


(『4.5部は仕事が忙しすぎてやる気でなくて、まだ出来ていません』の札を首から提げる作者)


キャロル・マールス・ディーンハイムは二課の司令である風鳴訃堂と技術部の櫻井了子と共にとある警察署の署長室に来ていた。

 

とある男性の不審死について、訃堂が了子とキャロルに協力を求めた為である。

 

とある男性が数日間職場にも来ず、玄関ポストには数日分の新聞が詰め込まれていた為、様子を見に来た職場の同僚がマンションの管理人に鍵を開けてもらって中に入った。

 

だが住人の男性はどこにもおらず、大量の灰だけがリビングの床に残されていたのであった。

 

「十中八九、ノイズの仕業であろうよ」

 

訃堂が言う。

人を炭素変換し、灰へと変える特異災害ノイズ。

それが、マンションの一室に現れたのだ。

人生で通り魔に出会うよりも低い確率で。

 

「問題は、何故ピンポイントでマンションの一室に現れたか、だ」

「だからオレたちを呼んだか。これを見せるために 」

 

そう言って男性の部屋から押収されたパソコンを指差すキャロル。

液晶には、逆さの五芒星が映されていた。

 

「デビルスター、悪魔召喚だな」

「ええ。そして先史文明では『小さな空間』『穴』という意味を持っていた。……バビロニアの宝物庫を限定的に開けるための紋章よ」

 

訃堂が頷く。

 

「うむ、この紋章が男性の部屋のパソコンに残っていたそうだ」

「なるほど。パソコンを使って呼び出して、ノイズに灰にされたか。……むぅ」

「訃堂司令、この男性は異端技術者だったのかしら?」

「……否。勤めている会社も真っ当な商社、部屋にもそういった異端技術に関わる物は見つからなかった」

 

それはおかしな話だとキャロルが突っ込む。

 

「ノイズ召喚は異端技術中の異端技術。素人がおいそれと出来るものではないぞッ!」

「ええ、そうね。ノイズ召喚は先史文明期に喪われた技術の一つ。現代では不完全な技術を用いて一か八かでやるか、アメリカの持つ【ソロモンの杖】を使う他ないわよ。でもソロモンの杖はアメリカで厳重に封印されている。素人じゃ絶対に召喚出来ないわ」

 

現代で、完全なノイズ召喚を行えるのは先史文明期を知るフィーネ/櫻井了子か、完全聖遺物である【ソロモンの杖】だけである。

トップクラスの力を持つ錬金術師であるキャロルでも、ノイズの召喚は難しいのだ。

あるいは、召喚術に特化した異端技術者なら呼び出せるだろうが、死亡した男性はそうではないらしかった。

 

「だが、この逆さ五芒星だ。これでノイズが召喚されたのは間違いないのであろう」

「それは確かだ。ノイズ召喚には魔法陣が用いられる。逆さ五芒星はもっともポピュラーな物だ」

「でも男性はノイズを召喚することは出来ない……どういうことなの?」

 

その疑問に答えるように、訃堂は言った。

 

「この五芒星、どうやらメールで送られたものらしい」

「は、メール?電子メールか?」

「ああ。タイトルは……『夫がドスケベサキュバスに殺されました』、だ」

「スパムメールじゃないの……。……え、まさか、誰かが遠隔で呼び出したというの!?」

 

了子が叫ぶ。

 

「可能か?」

「……不可能ではないわ。私もたぶん同じ事出来るし。でもそれは先史文明期の完全なノイズ召喚方法を知っていること前提よ」

「じゃあ何か?まさかお前以外に先史文明期から生きている誰かがいるというのか!?」

「可能性は高い。あるいは、ノイズ召喚の方法を記録した物があるか……」

 

しばらくの沈黙。自体は深刻である。遠隔地からのノイズ召喚は、一種のテロであるからだ。

キャロルが口を開く。

 

「これ、送信元は辿れるのか?」

「藤尭にやらせる」

「アイツは元ハッカーだったな。なら遠からず探れるだろう」

「それとは別に二人にやってもらいたい事がある」

「なんだ?」

「この五芒星を用いたノイズ召喚を妨げる方法を見つけてほしい」

「これ以上被害者を増やさん為か」

「無論、そうだ」

 

了子が悩ましげに口を開く。

 

「それ、相当難しいわよ。しばらくはその研究に時間を費やさないといけないかも」

「なら一鳴の訓練はどうする。オレが居ないんじゃ訓練も糞もないだろう」

 

キャロルが突っ込んだ。

訃堂が答える。

 

「研究の間は儂や弦十郎が面倒を見よう」

「……ほどほどにしておけよ。アイツは我慢強いがそれでも限度があるからな」

 

心配するキャロル。

それをニヤニヤと見る了子。

 

「なんだそのにやけ面はッ!」

「別に~?ただ、随分と彼の事気にしているのね~?」

「当たり前だろうがッ!アイツはオレの弟子のようなものだぞ!」

「その弟子が今日デートだって聞いて、少し拗ねてたじゃないの」

「しかも女の子三人と。……若い頃の儂を思い出すのぅ」

「チィッ!!!!!忌々しい!!!!」

 

とても、大きな舌打ちをするキャロル。

 

「そんなにイライラするなんて……もしかして、本当にあの子の事が好きなの?」

「む、そうなのか」

「そんな訳ないだろうがッ!!ただの弟子だ弟子!」

 

 

 

実際どうなのキャロルチャン?【1D10】

 

1 弟子だッ!

2 弟子だッ!

3 弟子だッ!

4 弟子だッ!

5 弟子だッ!

6 弟子だッ!

7 弟子だッ!

8 弟子だッ!

9 弟子だッ!

10 ……………………好きだ

 

結果、【9】

 

 

 

「ただの弟子、それ以上でも以下でもないッ!!」

「そういう事にしといてあげるわ」

「だから違うと言っているだろうがッ!!」

 

そんな訳で。

櫻井了子とキャロルはノイズ召喚の妨害方法を探る事になった。

そして一鳴の訓練は更なるハードモードに突入した。

 

 

 

 

2039年8月6日。

土曜日、9時45分。

快晴で、今日も暑くなりそうな日差しの中、駅前の忠犬ボナパルト像前。

俺、渡一鳴はとても緊張していた。

 

今日はデートである。

月読調ちゃんと、マリア・カデンツァヴナ・イヴさんと、セレナ・カデンツァヴナ・イヴさんとの。

どういうことなの?そういうことだ。

待ち合わせは10時。デートは20分前集合なのは常識なので、バッチリ九時半に来て更に余裕を持たせた。

 

 

 

ところで一鳴くんの前世の女性遍歴は?【1D10】

 

1 素人童貞

2 普通に生きてりゃ彼女は出来るよ

3 普通に生きてりゃ彼女は出来るよ

4 素人童貞

5 素人童貞

6 普通に生きてりゃ彼女は出来るよ

7 普通に生きてりゃ彼女は出来るよ

8 普通に生きてりゃ彼女は出来るよ

9 素人童貞

10 コイツ前世でもハーレム作ってやがった

 

結果、【10】

 

 

 

緊張しているが、同時に懐かしいと思う。

前世でもこうして複数の女の子たちとデートに出掛けたものである。

もちろん、未だに多数の女の子たちと恋人になるのは抵抗があるのだが。

でも、誰か一人だけを選んで、それ以外の女の子を選ばず悲しませる、というのは嫌なのである。

まあ、つまり、優柔不断で欲深いのは前世から変わらないという事なのだけれども。

 

「お待たせ」

 

と、マリアさんの声が聞こえた。

声の方を見ると、薄桃色のシャツとミニスカート姿のマリアさん。

そして白いワンピース姿の調ちゃんと、薄い青色のシャツとロングスカート姿のセレナさん。

駅を行く男だけでなく、女性も視線を投げ掛ける美しさであった。

 

思わず、見とれてしまった。

三人とも、肌の色が白く、今日は夏日だ。

とても、夏の日差しに照らされて輝いて見えた。

 

「……どうしたの?」

「ああ、その。見とれてたんだ、みんなに」

「あら……」

「ふふっ、嬉しいです」

 

思わず見とれてしまった俺の様子を調ちゃんに不審がられ、正直に答えた。

その言葉に照れる三人。

その可愛らしさよ。

 

「じゃあ、行きましょう」

 

マリアさんがそう言う。

と、同時に右手を調ちゃんに、左手をセレナさんに掴まれる。

両手に花の形である。

 

「……行こ」

「えへへ、照れちゃいますね」

 

二人とも顔真っ赤である。

かわいい。

 

 

 

 

今回のデートは、三人がそれぞれ俺と行きたい場所に一回ずつ行くというものだ。

それで、自分達の事を俺に知ってほしいということなのだそうな。

その代わりお昼ご飯は俺のチョイスしたお店である。昨日、司令に教えてもらったリーズナブルで美味しい寿司屋である。

 

 

と、いう訳で最初はマリアさんの行きたい場所に行く事になった。

 

 

 

マリアさんのチョイスしたデートスポット【1D10】

 

1 映画館

2 水族館

3 ブティック

4 ゲームセンター

5 映画館

6 水族館

7 ブティック

8 ゲームセンター

9 美術館

10 ランジェリーショップ

 

結果、【9】

 

 

 

最初に向かう事になったのは美術館。

 

「今、私の好きな絵の展覧会をやっているのよ」

 

そう語るマリアさん。

なんでも、動物の絵を洋の東西を問わずに集めた展覧会で、マリアさんの見たい絵は展覧会の目玉であるらしかった。

 

美術館は大盛況であった。

皆、展覧会の絵を見に来たようであった。

 

「この絵、面白いね」

「ウサギとカエルと……いっぱいいますね」

「コミカルでいいわね」

 

調ちゃんとセレナちゃんは鳥獣戯画が気に入ったみたい。

 

「お、この絵は見たことある」

「あ、私もあります」

「ラッセンね」

「凄い……本物みたい」

 

月夜に照らされる海と跳ねるイルカが特徴的な絵を見たりもした。

そしてマリアさんの見たいと言っていた絵である。

 

「はぁ……可愛い」

「マリア姉さん、もう5分は見てますよ」

「どれだけ見たかったの……?」

「絵は確かに可愛いけどネ」

 

それは赤ちゃんペンギンと子猫と子ウサギが寄り添って眠っている絵であった。

新進気鋭のとある女性画家が描いているらしかった。

現実では寄り添うことのない動物たちを、モフモフしているからという理由で集めて描いた、絵でしか見ることの出来ない光景であった。

 

「マリアさんは、モフモフした動物が好きなんですか」

「ええ。モフモフ良いわよね、モフモフ」

「……可愛い」

「そうね、可愛いわよね」

(今、マリア姉さんを見て言ったよね?)

(うん)

 

二人の手を握る力が強くなった、気がする。

しょうがないじゃない、モフモフ言う時のマリアさんニコニコ笑うんだもん。可愛いって言っちゃうよそれは。

そんな訳で、美術館デートではマリアさんの可愛らしさを確認出来た。

 

 

 

 

お昼は弦十郎さんに紹介してもらった、リーズナブルなお寿司屋である。

回らない、お寿司屋である。

 

「ほ、本当に大丈夫なの……?」

「値段、高そうですよ?」

「お金、大丈夫?」

 

カウンターに座る三人が心配する。

奥からマリアさん、セレナさん、俺、調ちゃんという順番である。他にお客さんは居なかった。

 

「大丈夫でさぁ、お嬢さん方。ここはあっしが趣味でやっているお店。採算度外視で寿司を提供してるんでさぁ」

 

と、お店の大将。

弦十郎さん曰く、元々政府のエージェントだったが仕事の関係で寿司屋に潜伏した時に寿司の魅力に取りつかれて、定年後この店を開いたらしい。

波乱万丈な人生である。

 

「だから、お金は大丈夫。それに俺、稼いでますから」

「そ、そう?」

「そうですよ、だから遠慮しないで好きなの食べて!大将、マグロ大トロ四人前!」

「大トロあいよぁ!」

 

恐るべき速度で大トロ寿司を握る大将。

あっという間に寿司が俺たちの前に並べられる。

 

「早い!」

「さ、食べましょ。いただきます。……うまぁい!」

「そんなに?」

「食べてみて、美味しいよ」

「なら、いただきます。……美味しい!」

「大トロって、こんなに美味しいんだ……」

「口の中で溶けちゃう!凄い」

 

俺が寿司を食べるのを見て、おずおず食べる三人。そして大トロに舌鼓を打つ。

 

「あの、大将さん。海老って、あります?」

「あるよ、海老」

 

おずおず注文するマリアさん。

即行で海老を握る大将。

 

「早い、そして美味しい!」

「あ、私も海老食べたいです」

「海老あいよぉ」

 

もむもむ美味しそうに食べるマリアさんを見て、セレナさんも海老を注文する。

 

「……美味しい!」

「……一鳴さん、こういう店ってハンバーグのお寿司は無いよね?」

「あるよ、ハンバーグ」

「あるの!?」

 

なんでもハンバーグ屋にも潜伏していた時期があったので、美味しいハンバーグを作れるらしかった。

冷蔵庫から、ハンバーグの種を取りだし焼く大将。

 

「ハンバーグあいよぉ!」

「美味しそう、…………ん~~美味しい!」

 

肉汁が溢れるハンバーグでとても美味しいらしった。

 

「大将、オススメは?」

「カリフォルニアロールですね」

「カリフォルニア!?」

「海外のお客様も多く来るんでさぁ」

「なるほど……一つください」

 

そんな訳で。

手広くやっててグローバルなお寿司を堪能した俺たちであった。

ちなみに、値段は回るお寿司と大して変わらなかった事を明記しておく。

 

 

 

 

午後一番は調ちゃんの行きたいデートスポットに行く事になった。

 

 

 

調ちゃんのチョイスしたデートスポット【1D10】

 

1 映画館

2 水族館

3 ブティック

4 ゲームセンター

5 映画館

6 水族館

7 ブティック

8 ゲームセンター

9 映画館

10 ランジェリーショップ

 

結果、【5】

 

 

 

向かったのは映画館。

調ちゃんの見たい映画とは……。

 

 

 

調ちゃんの見たい映画は?【1D6】

 

1 アイアンシャークVSキャプテンワニ

2 Faith / star knight

3 猫鳴村

4 となりのどろろ

5 マリー・アントワネットと賢者の石

6 マッドサマー 怒りのデスビレッジ

 

結果、【3】

 

 

 

「私、この映画が見たくて」

 

そう言って調ちゃんが映画館で指差す先には【猫鳴村】のポスター。

おどろおどろしい文字で、『この先人間の法律通用せず』という躍り文句。

 

「……ホラー?」

「に、見せかけた感動巨編らしいよ」

 

そんな訳で映画を見る事になった。

席は真ん中より少し後ろ。スクリーン全体を無理なく見れる位置だ。

席順は、左からマリアさん、俺、調ちゃん、セレナさん。

マリア姉さんも一鳴さんと手を繋ぎたいでしょ、と俺の隣を譲ったのであった。

そんな訳で左手をにぎにぎされている俺であった。

あ、右手も握られた。

 

 

~映画視聴中~

 

 

「ぐすっ」

「うぅ、良かった、猫鳴村が無事で」

「思った以上に感動巨編だしファンタジーだった」

「にゃんこ、可愛かった」

 

猫鳴村を見た俺たちは皆感動していた。

周りの人たちも涙ぐんでいたり、感動しているようだった。

 

「まさかホラーに見せ掛ける事にあんな意図があったなんて……」

「この作品、アカデミー賞は確実よ」

「ストーリー、カメラワーク、猫ちゃんの可愛さ。百点満点です……!」

「私の目に狂いはなかった」

 

そんな訳で。

俺たちは映画に大満足したのであった。

調ちゃん、センス良いのね……。

 

 

 

 

本日最後はセレナさんセレクトのデートスポットである。

 

 

 

セレナさんのチョイスしたデートスポット【1D10】

 

1 ブティック

2 水族館

3 ブティック

4 ゲームセンター

5 ブティック

6 水族館

7 ブティック

8 ゲームセンター

9 ブティック

10 ランジェリーショップ

 

結果、【9】

 

 

 

「ここでーす!」

 

と言って連れてこられたのはブティックであった。

 

「ここで、私たちに似合う服を一鳴さんに見繕って貰おうかなって」

「良いけど、俺女性向けの服ってよく分からないよ?」

「ある程度は此方で絞るから大丈夫よ」

「こっちとこっちどっちがいい、って聞くだけだよ」

「なら俺でも選べそうね」

 

そんな訳で。

三人に似合う服を選ぶ事になりました。

 

 

 

一鳴のセンス力【1D6】

 

1 あるよ

2 ないよ

3 あるよ

4 ないよ

5 あるよ

6 前世の経験もあるのでセンスめっちゃある

 

結果、【3】

 

 

 

「一鳴さん、こっちとこっちどっちがいいかなぁ?」

「うーん、こっちのシックな方かなぁ。そっちは肌の露出が大きくて可愛らしいセレナさんとは合わない気がする」

「かわ……っ、もう、そんな事しれっと言わないで!でもありがとう!」

「どういたしまして」

 

俺は己のセンスをフル動員して服を選んだ。

どうやら、気に入ってくれたらしい。

サンキューマイセンス。

 

「今度のデートには、この服を着ていきますね!」

「うん、楽しみだ」

 

さらっと、次のデートが有ることを知らされる。

 

「一鳴、私の服も選んで欲しいんだけど」

「あ、私もスカート見てほしいです」

「あっはい。良いですよ」

 

マリアさんと調ちゃんも服を持ってくる。

 

 

 

二人のセンスは如何に【1D10】

(低いほど宇宙猫シャツ、高いほどセンス◎)

 

マリア【5】

調【6】

 

 

 

二人とも普通のセンスであった。

宇宙を背景にした猫のシャツ持ってこられたらどうしようと思ったけども。

 

「マリアさんは、こっちの白いシャツが良いかも。そっちの柄物はマリアさんには合わない気がする」

「うん、私もマリア姉さんはそっちの方が可愛いと思うな」

「わかったわ!」

「調ちゃんは、こっちのピンクのスカートが合うかなぁ。そっちのはちょっと短すぎてワカメちゃんみたいにパンツ見えちゃうと思う」

「うん、わかった。パンツ、見られると恥ずかしいもんね」

「そうよダメよ。はしたないから」

「マリア姉さんお母さんみたい」

 

そんなこんなで。

三人の服を選びまくりました。

 

 

 

 

時刻は早いもので、もう18時である。

俺たち四人は待ち合わせ場所の忠犬ボナパルト像近くの広場に居た。

 

「一鳴さん、どうでした今日のデート?」

「すごく、楽しかったです」

 

調ちゃんにデートの感想を聞かれる。

とても、楽しかった。そう言えるデートだった。

マリアさんも、調ちゃんも、セレナさんもとても可愛らしくて。でも、それだけじゃなくて相手を思いやれる素敵な女の子である事を知ることが出来た。

最高のデートであった。

 

「そ、そう言って貰えると嬉しいわね」

「……ありがとう」

「一鳴さんは恥ずかしい事をしれっと言うの癖なんですか!?」

「感情と感想はキチンと言語化して共有した方が良いからね」

 

三人とも顔真っ赤であった。

照れる女の子はかわいいね。

 

「私も、最高の誕生日デートだったわ。ありがとう」

「……そんなマリアさんに誕生日プレゼントがあります!」

 

俺はカバンからマリアさんへのプレゼントを取り出す。

30センチほどの細長い箱だ。

昨日、弦十郎さんに無理を言ってお店に連れていってもらったのだ。

 

「いいの、ありがとう!ここで開けても良いかしら?」

「もちろん、どーぞ」

「よかったね、マリア姉さん」

「おめでとう、マリア」

 

箱を開けるマリアさん。

中にはネックレスが入っていた。

蝶を象った、シルバーのネックレス。可愛さとシックさ、何年経っても使えるものを贈らせてもらった。

マリアさんの優美さに合うと思って買ったのだ。

 

「わぁ……」

「キレイ」

「えぇ、とてもキレイね。…………どう、似合うかしら?」

 

ネックレスを着けたマリアさん。

 

「自分で言うのもなんですが、とても似合ってますよ」

「本当!?ありがとう、嬉しいわ!本当にありがとう!」

「いいなぁ」

 

ふと、そんな事を言うセレナさん。

 

「ふふ、セレナさんにも有るのよ」

「えっ!?本当、一鳴さん?」

「うん。誕生日のマリアさんのより小さめだけどね。調ちゃんの分もあるよ!」

「ありがとう、一鳴さん」

「ありがとうございます」

 

更に二人にプレゼントを渡した。

マリアさんだけにプレゼントを渡したら二人が羨んでしまうだろう、と予測していたのであった。前世のハーレム経験は伊達ではないのだ!

 

そんな訳で俺が贈ったネックレスは、セレナさんのネックレスは花を象ったもの。調ちゃんのネックレスはウサギを象ったものだ。

 

「わぁ、可愛い」

「うん、スゴく可愛いね」

「喜んでもらえて嬉しいよ」

「うん、スゴく嬉しい!ありがとう一鳴さん」

 

花も恥じらう笑顔な二人。

あぁ、本当に。可愛らしい女の子たちだなぁ。

 

「……あのね、一鳴さん」

「なに、セレナさん?」

「私たち三人の事、素敵な女の子って言ってくれたよね?」

 

セレナさんが神妙な顔をして聞いてくる。

期待と不安、恐怖と祈りを内に秘めた、そんな表情。

気付けば、マリアさんと調さんも同じ表情をしていた。

 

「私たち三人とも貴方が好きなの」

「一鳴さんは、どう?私たちの事好き?」

 

そうだった。

今日のデートは三人とお付き合い出来るかどうかの試験でもあったのだ。

三人の内の一人じゃなくて、三人とも。

そういう、デートだ。

 

まあ、俺の答えは既に決まっていたんだけども。

 

「好きだよ、大好き。困った事にね、三人ともが大好きなんだ」

「……!」

「今日デートして、その思いを自覚したよ。俺は調ちゃんも、マリアさんも、セレナさんも大好きみたいだ」

「一鳴さん!私も、私も好き!」

「私もよ一鳴!」

「私もです一鳴さん!」

 

四人でひしと抱き合う。

暖かい、人の温もり。

心が解け合い、伝わり合う。そんな気がした。

 

……いや、夏だから暑いわ。

しかも周りから生暖かい視線が注がれている。

 

「こ、ここからどうしましょうか……」

「……恥ずかしい」

「か、一鳴さん!」

「今日のところは一気に帰ろう。後ろを振り返らずに!」

 

そんな訳で、俺は三人とお付き合いする事になった。

そういう事になった。





執筆前ワイ「あかん、ワイ素人童貞やからデートした事ないわ。デート回なんて書けへん!!どないしよ」

執筆後ワイ「ワイの書いたデート回めっちゃ面白いやん!天才かワイ!」

だいたいそんな感じのテンション。
次回こそ戦闘回です。
ガンバルゾー!


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第十話 戦闘チュートリアル(フロム・ソフトウェア仕様)

switch版のダクソリマスターを買いました。
switchの画質がとても良いので、アノール・ロンドがとても美しい。
そんな美しいアノール・ロンドで働く銀騎士です、よろしくおねがいします。



「と、いう訳で三人の彼女が出来ました」

「頭でも打ったの?」

 

未来の第一声がそれであった。

 

八月中旬。

お盆のある日。

一鳴と未来の二人は立花響の家に来ていた。

響の夏休みの宿題を手伝う為であった。

 

「だって響ってば、いっつも夏休みの宿題最後までやってなくて私たちに泣きつくんだもん」

 

と、いう訳であった。

最後に泣きを見るくらいなら、早々に響の家に集まって宿題を片付けてしまおう、という事になったのだ。

そして今は休憩中。一鳴は最近の事情を二人に説明していた。

すなわち、美少女三人が彼女になった事を。

 

「頭なんて打ってないんだよなぁ」

「……変なハーブでも」

「吸ってないんだよなぁ」

「……変なゲームでも」

「持ってないんだよなぁ。現実なんだよなぁ」

 

これ証拠、と一鳴はスマホを見せる。

画面には一鳴を中心に、調とマリアとセレナ。三人の美少女が一鳴に抱きついていた。

 

「……合成?」

「いいえ、自然体です」

「本当に?」

「イエース」

 

なかなか信じない未来であった。

一方響は目を輝かせている。

女の子はコイバナ大好きだからだ。

 

「ね、ね!この子達本当にナルくんの恋人なの!?」

「そうわよ」

「わー、スゴイ!」

「もー響ったらすぐ信じるんだから……」

「未来ちゃんもいい加減信じてよ……」

 

なかなか信じられない未来であった。

 

「だって、恋人三人だよ?普通独り占めしたいと思うんじゃない?」

「俺もそう思ったけどもね、『一人抜け駆けしたら、残る二人は全力で奪いに来る』って三人ともが豪語してね。なら三人とも恋人になればいいじゃんって事らしいよ」

「えぇ……」

 

困惑する未来であった。

そんな未来とは裏腹に質問をぶつけていく響。

 

「三人ともアグレッシブなんだね!なんて名前なの?」

「この黒髪の子が月読調ちゃん、一つ年下ね。この人がマリアさん、高校生なのよ。で、この子がマリアさんの妹のセレナさん。三つ年上。みんな可愛いでしょ」

「うん!でもどこで知り合ったの?」

「いつものボランティア活動よ」

「あぁ、守秘義務盛り沢山の」

 

未来さんがそう言う。

一鳴はシンフォギア装者である。

二課に所属し、日夜人々を守るためのトレーニングを積んでいる。

二課は最新技術や異端技術のメッカである。それを狙うスパイも多い。

故に一鳴は二課での活動をボランティアと偽装しているのだ。

そしてそのボランティア活動の内容には守秘義務が課せられると響や未来に説明していた。

 

「美少女たちと知り合うボランティアって何なの?」

「守秘義務です♪」

 

頬っぺに人差し指を当てて顔を傾けニッコリ笑顔で答える一鳴。

未来は無言で頭をはたいた。

 

「あだっ」

「それ、二度としないで」

「はい」

 

未来の目はどこまでも冷たかった。

-5100℃の如しであった。

二人の力関係がよく分かる一幕であった。

 

「まぁ、あれよ。孤児院で出会った子達よ。ボランティア活動の一環で立ち寄った時にね」

「あーそれで」

「ふーん、ボランティア活動でね……」

「ところで、響ちゃんや。宿題はあとどれくらいかね?」

「うぅっ」

 

一鳴の質問に呻く響。

未来が追撃を重ねる。

 

「響?あとどれくらいなの?」

「うぅ……。算数ドリルがあと半分。読書感想文と自由研究と絵日記です……」

「全然終わってへんやん?どゆこと?」

「で、でも今日で漢字ドリル終わらせたよ!」

「すごいね響。でも休憩は終わりだよ。さぁ、算数ドリル開いて。これも今日終わらせるよ!」

「そんなぁ~!」

 

そんな夏休みの1日であった。

ちなみに、この後響はキチンと算数ドリルを終わらせる事が出来たとさ。

 

 

 

 

三日後。

二課の発令所に緊張が走った。

ノイズの集団が現れたのである。

 

「郊外にて、ノイズの反応を確認!」

「規模は!?」

 

発令所に詰めるは護国の防人、司令訃堂とその息子にして副司令弦十郎と八紘。

それを支える銃後の守りたるオペレーター陣。

そして、我らがシンフォギア装者、一鳴。

 

 

 

ノイズ集団の規模【1D10】

 

1 小規模(10体ほど)

2 中規模(50体ほど)

3 中規模(50体ほど)

4 中規模(50体ほど)

5 小規模(10体ほど)

6 中規模(50体ほど)

7 中規模(50体ほど)

8 大規模(100体ほど)

9 大規模(100体ほど)

10 大規模 + なんか黒いノイズが混じってる

 

結果、【10】

 

 

 

「ノイズ集団約100体と推定。現地の映像、出ます!」

 

先に現場に赴き、住民の避難とノイズの足止めをしていた一課から現地の映像が送られる。

そこに映っていたのは、多数のノイズと……。

 

(なんでカルマノイズがいるんだよ!?)

 

一鳴は驚愕した。

そこには、黒いノイズが映っていたからだ。

タイプは人型の、アイロンめいた手を持つノイズ。

 

カルマノイズ。

戦姫絶唱シンフォギアXDUに出てくる敵キャラクターである。

見た目は黒いノイズであるが、その能力は桁違いであり、装者たちが絶唱やエクスドライブを用いなければ倒せないほど。

通常攻撃では倒しきれず、体を再生させてしまうしぶとさを誇る。

また、通常のノイズは人を炭化させる際に自らも炭化し消滅するが、カルマノイズは炭化する事なく無尽蔵に人を炭化させ続ける。

更に呪詛の塊であり、人々の精神を汚染させて破壊衝動を植え付ける。

 

つまりとても厄介な敵なのであった。

序盤のチュートリアルで出ていい敵じゃないのだ。

 

「住民の避難は!?」

「近所の老人ホームの避難がまだ済んでいないとのこと!」

「ヌゥーッ!」

 

訃堂が唸る。

 

「司令、出撃の許可を!早くしないと老人ホームの人たちが」

「無論だッ!すぐに出撃───」

「待て」

 

一鳴に出撃の許可を出そうとする訃堂。

それに待ったをかけたのはキャロルだ。

 

「キャロルちゃん?」

「オレも共に出る」

「キャロルちゃんも!?」

「ああ。初出撃のバカ弟子が心配なのでな」

「キャロルちゃん……ありがとう!」

「ふん、さぁ行くぞ。遅れるなッ!」

 

一鳴にとってキャロルの同行はありがたかった。

相手は100体のノイズと、カルマノイズ。

自身だけで倒しきれるかわからなかった。

そもそも生きて帰れるかさえも。

だからこそ、キャロルの同行は嬉しかったのだった。

 

「よし、一鳴、キャロル。共に出撃し、人々を守れ!」

「「はいッ!」」

 

 

 

 

現場に到着したのは出撃の五分後であった。

ヘリコプターに乗ってきたので早かった。

 

「よし、行くぞ。遅れるなよ」

「はい!」

 

キャロルは既にダウルダブラのファウストローブを纏っていた。無論、ノイズ対策は万全であった。

キャロルが先にヘリコプターから飛び降りた。

それに続く一鳴。

 

『───── Sudarshan tron』

 

飛び降りながら聖詠を歌う一鳴。

一瞬にしてシンフォギアを装着する。

黒い部分の多い赤銅色の装甲。

細身の機械鎧は全身を覆い、腰から伸びる大型スカートアーマーは脚を隠す。

背中に1mほどの輪が接続される。

顔の上半分を仮面が隠し、額からは角型アンテナが伸びる。

これが一鳴のシンフォギア、スダルシャンである。

 

空から落ちながら一鳴は町を見る。

極彩色の群れが町を進む。その戦闘はカルマノイズ。

向かう先は老人ホーム。寝たきりの老人が多くて避難に手間取っていた。

 

「まずは数を減らすッ!」

「はい!」

 

キャロルはそう言うが早いか、錬金術による火炎と烈風でノイズを撃破していく。

続く一鳴も攻撃を開始する。

 

 

 

先制攻撃(残り101)【1D10】

 

1 20体倒した

2 30体倒した

3 30体倒した

4 50体倒した

5 20体倒した

6 30体倒した

7 30体倒した

8 20体倒した

9 50体倒した

10 通常ノイズは全て倒した

 

結果、【6】

 

 

 

スダルシャンとは、インドの最高神ヴィシュヌが用いたというチャクラムの事である。

108のノコギリ刃を持ち、太陽神スーリヤの発する光を削って作られたと言われている。

故にスダルシャンは、そのシンフォギアは太陽のプロミネンス吹き出す炎の戦輪である。

 

一鳴は背中の輪を取り外す。輪からは即座にノコギリ刃が形成される。

これがスダルシャンのアームドギアであった。

そのアームドギアを投擲する一鳴。

アームドギアから炎が吹き出す。

そして、ノイズを焼き払っていく。

 

「一先ずは30体ほど、か」

 

先に着地したキャロルが呟く。

帰って来たアームドギアを掴み取りながら一鳴が答える。

 

「存外、削れなかったね……」

「いや、こんなものだろう。では、次の作戦だ」

「俺が後ろから、キャロルちゃんが先頭から攻める挟み撃ちね。……あの黒いノイズ、気を付けてね」

「ああ。お前も気を付けろよ。訓練と実戦は違うぞ」

「はいッ!」

 

そんな訳で、ノイズ集団の先頭をキャロルが、後方を一鳴が攻め立てる事となった。

 

 

 

ノイズの反撃(残り71)【1D10】

 

1 カルマノイズの手痛い一撃

2 反撃でノイズ10体撃破

3 反撃でノイズ10体撃破

4 反撃でノイズ10体撃破

5 カルマノイズの手痛い一撃

6 反撃でノイズ20体撃破

7 反撃でノイズ20体撃破

8 反撃でノイズ20体撃破

9 カルマノイズの手痛い一撃

10 カルマノイズの一撃でキャロル戦闘不能

 

結果、【4】

 

 

 

一鳴とキャロル。

突如近くに現れた人間に対し、ノイズたちは攻撃を開始。

カルマノイズはキャロルに迫撃し、通常ノイズ群は一鳴に殺到する。

 

「イヤーッ!」

 

一鳴がアームドギアを振るう。

炎と斬撃が飛び、殺到するノイズたちを焼き斬る。

 

訃堂による訓練の賜物であった。

少し前から一鳴の訓練担当がキャロルから訃堂と弦十郎に変わっており、そこで教えられたのである。

習得までに地獄を数度見た、とは一鳴の言である。

 

閑話休題。

その技の名を【紅蓮一閃】と言った。

蒼ノ一閃のパクりであった。

 

「キャロルちゃん!」

「こっちは問題ない!だが余裕がない!そっちでノイズを殲滅しろッ!」

「はい!」

 

キャロルはカルマノイズと戦闘していた。

ダウルダブラの弦を巧みに操り、また錬金術による攻撃を繰り返す。

しかし、カルマノイズは幾度攻撃を受けようともすぐに肉体を再生、キャロルへ攻撃する。

戦力は拮抗していた。

 

 

 

ノイズとの本格戦闘(残り61)【1D10】

 

1 20体倒した

2 30体倒した

3 30体倒した

4 50体倒した

5 20体倒した

6 30体倒した

7 30体倒した

8 20体倒した

9 50体倒した

10 通常ノイズは全て倒した

 

結果、【1】

 

 

 

「これでやっと、半数切った!」

 

ノイズを焼き払い、斬り払いながら言う一鳴。

 

「キャロルちゃん!」

「くっ、オレは問題ない!……だがなんだこのノイズはッ!」

 

カルマノイズに苦戦するキャロル。

キャロルを助けるべきか迷う一鳴、しかしその一鳴を阻むようにノイズが殺到!

 

 

 

ノイズの反撃(残り41)【1D10】

 

1 カルマノイズの手痛い一撃

2 反撃でノイズ10体撃破

3 反撃でノイズ10体撃破

4 反撃でノイズ10体撃破

5 カルマノイズの手痛い一撃

6 反撃でノイズ20体撃破

7 反撃でノイズ20体撃破

8 反撃でノイズ20体撃破

9 カルマノイズの手痛い一撃

10 カルマノイズの一撃でキャロル戦闘不能

 

結果、【9】

 

 

 

「ぐわぁっ!」

「キャロルちゃん!」

 

カルマノイズの一撃にキャロルが呻く。

腹に一撃食らったのだ。

 

「うろたえるなッ!オレは平気だ!」

「ッ!わかった!」

 

ダウルダブラの弦でカルマノイズを縛り付けながら叫ぶキャロル。

いいから早くノイズを倒せ、というメッセージであり、それを理解した一鳴はアームドギアを構える。

しかし、キャロルの顔からは脂汗が流れており、次に食らえばどうなるかはわからない。

 

 

 

ノイズとの本格戦闘(残り41)【1D10】

 

1 20体倒した

2 30体倒した

3 30体倒した

4 通常ノイズは全て倒した

5 20体倒した

6 30体倒した

7 30体倒した

8 20体倒した

9 通常ノイズは全て倒した

10 通常ノイズは全て倒した

 

結果、【9】

 

 

 

「イヤーッ!」

 

アームドギア投擲。

燃え盛る戦輪はノイズを薙ぎ払い倒していく。

 

「もういっぱぁぁぁつ!!」

 

更にアームドギア形成。

二つ目のアームドギア投擲。

二つの戦輪は互いを補い合うようにノイズを殲滅。

残るはカルマノイズ一体のみだ。

 

 

 

カルマノイズの行動【1D6】

 

1 戦闘続行

2 撤退

3 撤退

4 撤退

5 戦闘続行

6 戦闘続行

 

結果、【3】

 

 

 

しかし、カルマノイズはその姿を薄れさせていく。

そして、完全に消えて居なくなった。

 

「なっ!?」

「の、ノイズの反応消失……」

「なにが、起こった?」

 

カルマノイズは周りの人が居なくなれば撤退する。

そして時間を置いて人の多いところに再出現するのだ。

しかし、それは一鳴しか知り得ぬ真実であり、キャロルと二課陣には何が起こったかわからなかった。

 

「ノイズの反応、周囲には無し。仕事は、終わりか?」

「ですかねぇ。わからない事は多いけれど、まあ老人ホームの人たちが無事なら一先ずは良し、なのかな」

「……そうだな。あの黒いノイズについては帰還してから考察するとしよう。突如現れた大量のノイズの謎と共にな」

 

そんな訳で。

一鳴の初陣はとりあえず、無事に終わった。

一鳴にカルマノイズとの再戦を予感させて……。

 

 

 

 

「■ァ■■よ、あの黒いノイズはなんだ?」

「あれは邪悪なりしレビヤタンの産み出した尖兵、呪い撒き散らす汚物。世界を食らう蛇の使い魔よ」

「本来のノイズとは別物なのか?」

「しかり。本来のノイズよりも強大な力と再生能力を持つ」

「あれを計画に加えることは出来るか?」

「否、あれを操る事は我ら神霊にも只人にも出来ず。ただ、世界蛇と忌み人のみが操るもの」

「ソロモンの杖でも、か?」

「しかり」

「そうか。計画に修正は必要か?」

「不要。あれはただの尖兵。無数にある平行世界にばら蒔かれただけ。かのレビヤタンも、忌み人が居なければ現れぬであろう」

「ならば、本来の計画通り、あの女の協力の元、ノイズ召喚術式を多用していく。それでいいな?」

「しかり。焦りは禁物である。我ら神霊の力を信じよ」

「ああ、信じているとも。だから、僕にもっと力と知恵を」

「無論だ、我が契約者よ。真なる神復活の為に、あらゆるものを与えよう」

「そうだ、お前たちの神を僕が甦らせてやる。だから」

 

「ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスを絶望に追いやる力を、もっと!」




キレイな訃堂がメックヴァラヌスイベントで出てきましたね。
そしてキレイな訃堂はウチの二次創作にも出ています。
つまりウチの二次創作は公式だった……?(飛躍した理論)


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第十一話 VSカルマノイズ


メックヴァラヌス後半プレイ後ワイ「訃堂!!」


 

カルマノイズ襲撃の翌日。

二課の主要メンバー、すなわち訃堂、弦十郎、了子、キャロル、ウェル、藤尭。そして一鳴は、二課内にある会議室に集まっていた。

前日に発生した、ノイズの大量発生とカルマノイズについて話し合う為である。

 

「では昨日判明した事を報告してくれ」

「わかったわ」

 

弦十郎の言葉に答える了子。

カルマノイズ襲撃の後、現場検証や報告された情報の整理を、技術部が請け負っていたのだ。

 

「まずは、ノイズの大量発生の方から報告するわね。原因はスマートフォンよ」

「スマホ?」

「正確には、ノイズ召喚プログラムがインストールされたスマートフォン」

「はいぃ?」

 

一同、驚きの声をあげる。

 

「詳しく説明するわね。少し前にスパムメールを利用したノイズ召喚術式による無差別殺人が発生していたのは、みんな報告書で知っているわよね」

「逆さまの五芒星を用いた異端技術、っていう奴ですよね?悪魔召喚術の起源とかいう」

 

一鳴の回答に頷く了子。

 

「そうよ。今までのスパムメールを利用したノイズ召喚は単発の、ノイズ一体しか呼び出せないもので、スパムメールを開いた人にしか危害が出ないものよ。でも、今回のノイズ召喚プログラムは連続してノイズを呼び出す事が出来るわ」

「それが、今回の原因……」

「ええ、そう。そして、このスマホは現場近くの廃墟から見つかったわ」

「見つかった時には既に電源が落ちており、ノイズ召喚プログラムが停止していたのが幸いだった」

 

そう言うのは弦十郎。

もし、スマホの電源がまだ生きていたら、召喚されたノイズに現場検証中の人員が殺されていたからこその発言であった。

ちなみに、そのスマホを二課で充電して起動させた黒服の一人がノイズ召喚プログラムも起動してしまい、偶然近くにいた一鳴とキャロルは呼び出されたノイズから黒服を守る事となった。

その後、迂闊な行動を取った黒服は了子とキャロルにこっぴどく怒られた。

 

「そのスマホから他に情報は見つかったのか?」

「いいえ、訃堂司令。スマートフォン自体は盗品でしたし、ノイズ召喚プログラム以外に異常はありませんでした」

「手掛かりはノイズ召喚プログラムのみ、か……」

 

訃堂が腕を組み、唸った。

 

「少なくとも、ノイズ召喚という特級の異端技術に精通し、それをプログラムに組み込む技術力を持っている者が相手、という事だな了子くん」

「そうよ、弦十郎くん」

「そういえば、スパムメールの送信元は辿れたのか藤尭?」

 

キャロルの問いに困った顔で答える藤尭。

 

「それが……まだ辿れていないんだよ」

「は?どういう事だ?」

「たどろうとしても送信元がモナコだったりツバルだったり……」

「なんだそれは……」

「色々なサーバーを経由してメールを送っているみたいでね……。本当の送信元にたどり着くにはまだまだ時間が掛かるよ」

「ヌゥーッ!敵はどれほどの力を持っているのか……」

 

訃堂がまたしても唸る!

そんな訃堂を見て、八紘が口を開いた。

 

「少なくとも個人ではないでしょう。組織……それも生半な大きさではないか……」

「あるいは、国か?」

「ありえるな……」

 

中国、インド、そしてアメリカ。

ITと異端技術に通じ、歴史的経緯や保有する聖遺物を求めて日本を狙う国は多い。

しかもノイズという、最悪の特異災害を武器に使われるのだからたまらない。

 

「早急にノイズ召喚術式の対策を実用化せねばならぬ」

「わかりました」

「わかった」

 

訃堂の言葉に頷く了子とキャロル。

ノイズ召喚術式という異端技術に対抗出来るのはこの二人ぐらいなのだ。

 

「ノイズの大量発生についてはこの辺にして、次は……」

「あの黒いノイズですねぇ!」

 

訃堂の言葉を無理矢理繋いだのはウェルであった。

徹夜での調査によりテンションが高かった。

訃堂も少し引いていた。

 

「う、む。黒いノイズの調査はウェル博士の領分であったな」

「はいそうですよぉ!この天才!にして英雄!ドクタァァァウェェェェルが調査してきましたァン!」

「煩い黙れ」

 

あまりのテンションの高さにキャロルが一睨み。しかしウェルは気にしない。

 

「合法お子ちゃまはシャラップ!静かになったところで、この黒いノイズについて説明しましょう!」

「……やはり仮眠の時間を挟むべきだったか」

「次からはそうしてね弦十郎くん……」

「シャラップ!!」

 

ハイテンションなせいでずれ落ちた眼鏡を直すウェル。

 

「さて!あの黒いノイズ、どうにも【呪い】の類いを身に纏っているようなんです」

「呪い?」

 

訃堂が聞く。

 

「ええ、呪詛、怨念。そういった類いの精神に悪影響を与える何か。それがあの黒いノイズの黒さの原因ですねェ!」

「そう言える根拠は?」

「僕が調べた所によれば、その日避難させようとしていた老人ホームの人たちが凶暴化していた事が確認されています」

 

だから老人ホームの避難が遅れていたんですよォ、と続けるウェル。

その報告に疑問を呈する八紘。

 

「なぜそれだけで黒いノイズが呪いを身に纏っている、と言えるのだ?」

「アメリカに居たときに、呪われた聖遺物のレポートというのを読んだ事がありましてね。【ティルフィング】というものなんですが」

 

ティルフィング。

北欧神話に出てくる魔剣である。

持ち主の願いを三度叶えるが、持ち主に破滅をもたらす呪いが掛けられている。

掛けたのはドヴェルグ。オーディンの子孫スウェルフラーメに無理矢理捕らえられ、魔剣を作らされた為に呪いを掛けたのだ。

 

「ええ。強力な力を持っていますが、研究に関わろうとした人間が凶暴化してしまう為、現在は封印処置で倉庫に放置されてますね」

「なるほど……。老人ホームの件と似ているな」

「故に僕は、このノイズは呪いを纏っていると確信したんですよォ!」

 

ハイテンションが止まらないウェル。

 

「で、この黒いノイズを倒す手段はあるのか?」

 

キャロルがうんざりしながら聞く。

 

「通常のノイズよりも強く、強力な再生能力を持つこの黒いノイズを倒す方法は一つ。一撃で倒す、これしかありません」

「……具体的には」

「絶唱ですね」

 

ざわつく面々。

ただ一人、前世の知識を持つ一鳴だけは冷静であった。

絶唱はフォニックゲインを爆発的に高める決戦機能だが、その代償として肉体にバックファイアによるダメージを負うことになる。

危険な賭けであった。

 

「フォニックゲインをチャージしての一撃は?」

 

一鳴が聞く。

冷静に、答えを知っているかのように。

 

「合法お子ちゃまの戦闘データを見る限りは、極めて難しいでしょうねぇ……。手足が吹き飛んで平均0.6秒で再生してますから、生半な攻撃では倒せないでしょう」

「だが、絶唱などッ!」

 

机を叩いて立ち上がるキャロル。

それを止める一鳴。

 

「なぜ止めるッ!お前が死ぬかも知れないんだぞ!!」

「うん、わかってる。でもそれはウェル博士もわかってるんでしょう?」

「勿論!」

「なら対策も立ててますよね」

「よくわかってるじゃないですか!」

 

そう言って、机の上にあるものを置く。

緑の薬剤の入った銃型の注射器。

了子がいち早くその正体に気付く。

 

「LiNKERね」

「ええ。これで適合率を上げて上げて上げまくって、バックファイアのダメージを低減させるって考えです!」

 

LiNKER。

人と聖遺物の適合率を上げる薬剤である。

絶唱のバックファイアは適合率が低くければ低いほどダメージが大きくなる。ならばLiNKERで適合率を上げてしまえ、という訳だ。

 

「これなら過保護な合法お子ちゃまも安心じゃァないですか?」

「ふん……。確かに死ぬほどのダメージにはならんだろう。それ相応のダメージは負うだろうがな」

「それは覚悟の上だよキャロルちゃん」

 

一鳴の言葉を聞き、訃堂に顔を向けたキャロル。

 

「風鳴訃堂ッ!次に黒いノイズが出たときはオレも出るぞ!」

「わかった、その時は頼むぞ」

「キャロルちゃん……」

「一鳴、お前を鍛えたのはオレだ。そのお前にノコノコ死なれたら寝覚めが悪いからな!」

「うん、ありがとう」

 

確かな師弟の絆がそこにはあった。

そういう訳で。

カルマノイズとのリベンジ戦では絶唱を用いる事となった。

 

 

 

 

会議から二日後。

再びカルマノイズが現れた。

現れた場所は商業地区。

通常ノイズが……、

 

 

 

ノイズのオトモ【1D10】

 

1 小規模(10体ほど)

2 中規模(50体ほど)

3 中規模(50体ほど)

4 中規模(50体ほど)

5 小規模(10体ほど)

6 中規模(50体ほど)

7 中規模(50体ほど)

8 大規模(100体ほど)

9 大規模(100体ほど)

10 カルマノイズくん「誰も来ねぇ……」

 

結果、【1】

 

 

 

10体ほどのノイズがカルマノイズと共に現れた。

夏休みということもあり、カルマノイズとの戦闘に備えて二課に詰めていた一鳴はキャロルと共に現場にヘリコプターで急行した。

 

「では作戦通りに行くぞッ!」

「了解ッ!」

 

ヘリコプターから飛び降りる二人。

既にシンフォギアとファウストローブは着装済みである。

 

「まずはオトモのノイズを倒す!」

 

 

 

一鳴の先制攻撃【1D6】

 

1 カルマノイズに邪魔された……!

2 5体倒した!

3 全滅させた!

4 全滅させた!

5 5体倒した!

6 カルマノイズに邪魔された……!

 

結果、【6】

 

 

 

一鳴によるアームドギア戦輪投擲。

渦巻く炎と108の刃はノイズを残さず滅する筈であった。

しかし、前回の戦闘で学習したのかカルマノイズが戦輪を弾き、ノイズたちを守る。

 

「キャロルちゃん!」

「問題ない!」

 

キャロルが腕を振るうと、指先の弦がカルマノイズに絡み付き束縛。

 

「ぐぅっ……!今だ!」

「わかった!」

 

彼らの作戦はこうだ。

キャロルのファウストローブの力でカルマノイズを束縛してる間に、一鳴が絶唱してカルマノイズを滅する。

本来なら初手で通常ノイズの数を減らしてから絶唱する予定であったが、今回現れた通常ノイズの数が少なかった事から絶唱の使用に踏み切ったのであった。

 

 

 

ちゃんと絶唱出来た?【1D6】

 

1 問題ない!

2 問題ない!

3 ノイズによる妨害

4 問題ない!

5 問題ない!

6 カルマノイズの束縛が解けた!

 

結果、【5】

 

 

 

───Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el baral zizzl

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el zizzl───

 

一鳴が絶唱を歌う。

一鳴のシンフォギアから発せられるエネルギーは風を起こし、ノイズたちを近付かせない。

カルマノイズはその風に抗おうとし、ダウルダブラの弦をギチギチと引き千切ろうとする。

だが、その抵抗は叶うことはない。

 

絶唱を歌い終えた一鳴はアームドギアである戦輪を生成し、構える。

それは先程とは違い、直径3m程の大きさの巨大戦輪であった。

戦輪からは無数の刃が三段重ねに生えており、その間から太陽面爆発めいた超高温の炎が巻き起こる。

戦輪が円鋸めいて高速回転し、炎が勢いを増す。

 

「やれ、一鳴!」

「どぅおりゃぁぁぁあ!!!」

 

キャロルの掛け声を合図に巨大戦輪投擲。

巨大な戦輪はノイズを巻き込み尚回転を増し続ける。

そして巨大戦輪がカルマノイズに直撃。

無数の刃がカルマノイズの身を削り落とし、超高温の炎が傷を広げていく。

そのダメージはカルマノイズの再生能力を越えていた。

 

「いけぇぇぇぇ!!!」

 

一鳴の掛け声と共に巨大戦輪回転数倍増!

カルマノイズの身は既に千々に砕かれ、その欠片も炎に焼かれて塵にすら残らず。

こうして。

カルマノイズは消滅したのであった。

 

 

 

一鳴のダメージ【1D6】

 

1 ちょっと鼻血が出ただけ

2 血涙が少し

3 ノーダメージとは恐れ入った

4 ちょっと鼻血が出ただけ

5 血涙が少し

6 絶唱顔

 

結果、【5】

 

 

 

「あー、視界が赤い!」

 

そう言う一鳴。

一鳴の目からは血の涙が流れていた。

 

「おい、大丈夫か!?」

「え、ああ大丈夫大丈夫。特に痛みはないけど……血止まらないなぁ」

 

絶唱のダメージで血涙が止まらない一鳴であった。

本来なら七孔噴血するほどのダメージである筈だが、大分軽く済んでいた。

現着までのヘリコプターの中でLiNKERを打っていた成果であった。

 

「おい本部!医療チームは控えさせているな!?すぐに帰投するから病室を一つ開けておけ!」

「いや、そんな慌てなくても大丈夫よキャロルちゃん。痛みは本当に無いし。血も止ま……止まらない!」

「いいから!とっとと帰るぞ!」

 

一鳴を引きずるキャロル。

その先にはヘリコプターが待機していた。

 

そんな訳で。

初戦にして最初の強敵カルマノイズは、多少の負担はあったもののなんとか倒せたのであった。

 

 

 

 

「シンフォギア、そしてファウストローブ。恐ろしい力だな」

「しかり。されど、我らの知恵と我が【兵士】が有れば、あれらは恐れるに値せず」

「確かに、な。お前の力はああいった単一の力に対して有利に動ける」

「……なにか有るのか?」

「敵はシンフォギアやファウストローブだけじゃない。風鳴訃堂やフィーネ、そして忌々しいウェルキンゲトリクス!」

「契約者よ」

「わかっている。僕は冷静だ。……とにかく、油断だけはするな。奴らは強大だ」

「理解はした。しかし、所詮は我らが被造物。我が【兵士】には敵わず。我らを信じよ」

「……まぁいい、その【兵士】だが早速使うことになりそうだ」

「ほう?」

「あの女から連絡があった。二課に潜り込ませた【信者】からの情報だ。【神獣鏡】の研究施設に目星が付いた」

「鏡が見つかったか!朗報である。して、いつ取りに行くべきか」

「シンフォギア装者はまだ小学生だ。小学生には修学旅行というものがあるだろう。……10月20~21日だ」

「戦力が手薄な時を狙うか。理解した。それまでに【兵士】の数を増やしておくとしよう」

「ああ、頼んだぞ■ァ■■よ。真なる神とやらの復活にも、僕の夢にも神獣鏡が必要不可欠なんだからな」

 





深夜に振るダイスは極端な出目を好む。そんな11話でした。

あと、誤字報告ありがとうございました。
ハーメルンぽちぽち触ってたらいつの間にか誤字修正されててハイテクを感じました。

次回はみんな気になるエルフナインちゃんやオートスコアラーの面々の安否についての話をする予定。
ほな、また。


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第十二話 キャロルが二課に勤めるようになったワケ


この作品のキャロルちゃんは原作キャロルちゃんより四割増しで優しくなっております。

二次創作なんてそんなふんわり感でええんや、の精神で書いてるので初投稿です。


 

その日はキャロルにとって最悪の1日であった。

オリュンポス十二神による欧州侵略。

その余波がチフォージュシャトーにも襲い掛かったのだ。

超高電圧高電流の雷がシャトーを貫き、轟音が響く。

ゼウスの持つ完全聖遺物【ケラウノス】が直撃したのだ。

 

「何事だ!?」

 

シャトーの玉座にて、突然の事態に説明を求めるキャロル。

それに答えたのはオートスコアラーのガリィであった。

 

「わかるわけないでしょマスタァ。いきなり揺れたんですから。というかマスタァなら診断プログラム走らせて原因探れますよね?」

「うるさい!今やっているところ……は?」

「どうしましたマスタァ?鳩が豆鉄砲くらった間抜け面して」

「下層区画が、吹っ飛んでる」

「は?」

 

驚きの表情を浮かべるガリィ。

チフォージュシャトーの城壁には、アルカノイズの研究を元にした位相差障壁や各種聖遺物による防御機構が備え付けられており、生半な攻撃では破壊不能である。

たが、しかし。

先程の攻撃で、シャトーの下層が吹き飛んでいた。数多の防御を貫いて。

 

「マスター!」

「派手にご無事ですかマスター!」

 

そこに他のオートスコアラー、ファラ、レイアが玉座の間に入ってくる。

 

「んもー、煩くて眠れないゾ」

「眠ってる場合じゃないのよこのポンコツ!」

 

そして玉座の間にて休眠モードに入っていたミカが起動する。

もっとも、事態の把握はしていないのだが。

 

「……ファラ、レイア。そしてミカ。状況を説明する」

 

途中参加の三体に事態を説明するキャロル。

 

「そんな……!」

「状況は、派手に最悪だな」

「で、どうするんだゾ?撤退か?迎撃か?ミカは迎撃がいいゾ!」

「そりゃオメーの趣味だろーが!」

「無論迎撃───」

 

そうキャロルが口にした時、再びの轟音。

今度は玉座の間近くの区画に直撃、稲光がキャロルたちを照らす。

 

「……撤退だ」

「撤退、ですか?」

「今のは紛れもなく雷による一撃。今この時、このチフォージュシャトーを砕く程の雷を出せる物なぞ一つしか居ない!」

「何だゾ?」

「……ケラウノスだ」

 

絶句するオートスコアラーたち。

 

「つまり敵はゼウス……!」

「とんでもないビッグネームが出てきたわね……」

「でもなんでゼウスがここを狙うんだゾ? ガリィ変なことでもしたのか?」

「するわけないでしょうが!」

「理由を考えても仕方ない!巨大テレポートジェムを使う!」

 

巨大テレポートジェム。

今回のようなシャトーを破壊する程の攻撃に晒された時の為の緊急避難装置である。

使用には大量のエネルギーが必要であるが、一度起動させれば一瞬にしてシャトーを別の場所に転移させる事が出来る。

その代償としてシャトー内のメイン動力炉がオーバーヒートしてしまうが。

 

「エルフナイン、聞こえるか!?」

「なに、キャロル!?今の揺れはなんなの!?」

「現在攻撃を受けている!巨大テレポートジェムを起動させろ!」

 

念話でもって、シャトーを建設していたエルフナインに巨大テレポートジェムの起動を命じるキャロル。

エルフナインはキャロルのホムンクルスであり、内部は未だ建造途中であるチフォージュシャトーの建造を担っていた。

そのエルフナインの作業現場は巨大テレポートジェムに程近い所なのだった。

 

「キャロル!巨大テレポートジェムが起動しないよ!」

「なに!?」

「……ダメだ!キャロル、さっきの攻撃で巨大テレポートジェムにエラーが出てる!」

「…………わかった。エルフナイン、お前も玉座に来い」

「えっ?」

「いいから、早く!来るまでにありったけ聖遺物持って来い!」

 

そう言うと、目を押さえるキャロル。

 

「……マスター?」

「大丈夫だ、大丈夫だから。……大丈夫だもん」

 

キャロルは静かに泣いた。

あまりの理不尽に泣いた。

父の命題を解き明かすまで、あと少しという所まで来て、全てを崩された。

怒りがあった。

憎悪があった。

それ以上に、やるせなさがあった。

 

「マスタァ、元気出してくださいよぉ。シャトーならまた作れば良いじゃないですか」

「そうだゾ!ミカたちもお手伝いするゾ!」

「そうだマスター、まだ私たちがいる」

「そうですわ、マスター!」

 

突然のケラウノスでシャトーが壊され、解き明かす直前まで来た命題が遠退いていく。

それでも、まだキャロルにはオートスコアラーたちがいた。

 

「そう、だな。すまない、みんな」

「良いんですよぉマスター。私とマスタァの仲じゃないですか」

「ふっ、そうだな。よし、エルフナインが来たら脱出するぞ!」

 

キャロルは何とか元気を取り戻す。

そこに、エルフナインが現れる。

 

「はぁはぁ……お待たせキャロル……どうしたの?」

「いや、なんでもない。それより聖遺物は取ってきたのか?」

「うん。とにかく持てる物を持ってきたよ」

「よし!テレポートジェムを使う。全員集まれ」

 

そう言って、オートスコアラーとエルフナインを自分の周りに集めるキャロル。

 

「で、マスタァ。一体どこに逃げるんです?パヴァリアですかぁ?」

「いや、パヴァリア光明結社も本拠地は欧州だ。ケラウノスが届く範囲内だから、別の場所に行く」

「どこですか、マスター?」

「日本だ」

 

防人訃堂の守護する国。

本来ならば近寄りがたい国ではあるが、テレポートジェムによる不法入国ならば入り込める。そして訃堂が居るからこそ、他の組織の人間も容易く動くことは出来ないという考えであった。

至高の域に達しつつあるキャロルの錬金術の知識を狙う者は多いのであった。

 

「よし、行くぞ!」

 

そう言ってテレポートジェムを割るキャロル。

しかし、その直前にケラウノスが玉座の間に直撃。

キャロルやオートスコアラー、そしてエルフナインを飲み込んでいく……。

 

 

 

フナちゃんやオートスコアラーの生存ダイス【1D10】

 

1 全員城と運命を共にした……

2 エルフナインが共に逃れた

3 エルフナインが共に逃れた

4 全員城と運命を共にした……

5 エルフナイン + オートスコアラー一体

6 エルフナイン + オートスコアラー一体

7 エルフナイン + オートスコアラー二体

8 エルフナイン + オートスコアラー三体

9 全員城と運命を共にした……

10 全 員 生 存

 

結果、【5】

 

 

 

生き残ったオートスコアラーは誰?【1D6】

 

1 ガリィ

2 ミカ

3 レイア

4 ファラ

5 レイアの妹

6 大逆転で全員生き残ったゾ!

 

結果、【2】

 

 

 

「ん……」

 

キャロルが目を覚ました時、見えたのは木板の張られた天井であった。

布団の上で寝かされていたのである。

床は畳、伝統的日本様式の部屋であった。

問題はその広さである。

高校の教室二つを並べたぐらいの広さであったのだ。

 

(なんだここは?)

 

起き上がるキャロル。

しかし頭に痛みが走る。外傷のようであった。

キャロルは顔をしかめ、額に手を当てようとした。

だが、そこで誰かに手を握られている事に気付いた。

 

「エルフ、ナインか?」

 

一瞬、誰かわからなかった。

シャトーから脱出する直前に着ていた黒いマントとパンツのハレンチルックではなく、年頃の少女が着るような可愛らしいシャツとオーバーオール姿だったからだ。

 

「……キャロル?…………キャロル!」

 

キャロルが起きたことに気付いたエルフナインが、抱き着く。

慌てるキャロル。

 

「なっ!いきなりなんだエルフナイン!ちょ、離れ、やめ、離れろ!」

 

もがくキャロル。

そこに、襖を開いて現れた者。

 

「お、マスター起きたのか?」

「ミカ!」

「起きて早々仲が良いゾ!ラブラブだゾ!」

「言ってる場合か!早くこいつを引き剥がせ!」

「マスターは照れ屋さんだゾ」

 

そう言いながらもエルフナインを引き剥がすミカ。

ミカもまた、年頃の少女らしいワンピース姿であった。

 

「うぅ、キャロルぅ。良かった……目が覚めて……」

「……オレはどれだけ寝ていたんだ?」

「一週間だ」

 

襖に目をやるキャロル。

そこに居たのは……、

 

「風鳴、訃堂……ッ!」

「自己紹介は、いらぬようだな」

 

日本最強の防人、風鳴訃堂その人であった。

 

 

 

 

「お主らは突然ウチの庭に現れおったのよ」

 

その日、訃堂が庭で散歩をしていた時。

突如として少女が三人、目の前に現れた。

少女は三人とも服や肌が焦げており、傍目に見ても重症であった。

訃堂はすぐに三人を保護し、名医に治療させた。

 

「まさか一人は人形だとは思わなんだがな。ミカちゃんを直したのは一足早く目覚めたエルフナインちゃんよ」

「そうか……礼をいうぞ風鳴訃堂、あとエルフナインも」

「なに、子どもが死にかけていたら助けるのは当然の事よ」

「訃堂さん、改めてありがとうございます!」

「マスターとフナちゃんを助けてくれてありがとうだゾ!」

「いいんじゃよ」

 

好好爺のように、優しく笑う訃堂。

 

「風鳴訃堂、ミカ以外のオートスコアラーは……」

「エルフナインちゃんから聞いておる、ガリィ、ファラ、レイアと呼ばれる人形については見つかっておらん」

「そうか……」

 

キャロルは確信していた。

シャトーから脱出する直前、ケラウノスが撃ち込まれた事を。

恐らくガリィもファラもレイアも。そしてレイアの妹もケラウノスに焼かれて灰となったのだろうと。

 

「キャロル……」

「マスター……」

「大丈夫だ……。心配するな」

 

肩を落とすキャロル。

そんなキャロルに優しく声をかける訃堂。

 

「事情はエルフナインちゃんから聞いておる。無理はせず、しばらくはゆっくりすると良い」

 

訃堂を見るキャロル。

 

「なぜだ」

「何が?」

「なぜオレたちを助ける。エルフナインから聞いている筈だ風鳴訃堂!オレの目的をッ!」

「……」

 

訃堂を睨むキャロル。

キャロルの最終的な目標は【世界の分解】。

「世界を知れ」という父の命題を解き明かす為、世界を余すところなく腑分けする事こそ、キャロルの目的なのだ。

それはすなわち、世界ごと訃堂の守護する日本も分解する事を指す。

訃堂にとってキャロルは日本を滅ぼそうとする夷敵の筈である。

 

「逆に聞こうキャロル・マールス・ディーンハイム。今のお主に世界を分解する力があるのか?世界を分解するチフォージュ・シャトーも無く、お主の手足となる人形もほとんど無く。お主に世界を分解することが出来るのか?」

「……ッ!」

「今のお主はただの子どもよ。儂ら大人が守るべき子ども、それだけよ」

「舐めるなッ!オレはお前より年上だッ!」

「いいや儂の方が年上よ。儂が何年この国を守ってきたと思っておる」

 

キャロルは数百年生きている。

錬金術によって完全なる身体となってから老化しておらず、死亡したとしてもスペアのホムンクルスに記憶と精神をインストールする事で甦ってきた。

しかしキャロルは、目の前の訃堂に自分以上の年月の積み重ねを感じた。

 

「風鳴訃堂、お前は一体……」

「この国の防人よ。この国を、美しい自然を、そして無辜の人々を守ると誓ったのよ」

 

キャロルはそう語る訃堂の瞳に、覚悟と少しの愛しさと懐かしさを見た。

 

「その上でキャロル・マールス・ディーンハイムよ、取引がしたい」

「取引?」

「儂と共に日本を、そして世界を守らぬか?」

「は?」

 

キャロルは混乱した。

訃堂は世界を壊そうとしたキャロルを、世界を守る為にスカウトしたのだ。

 

「冗談で言った訳ではないぞ。儂が率いる特異災害対策機動部の二課という組織ではな、聖遺物の研究をしておるのだが、研究主任から専門家が足りないと言われてな。キャロルちゃん、チフォージュシャトーは聖遺物で造られた城というではないか」

「だから、聖遺物に詳しいオレをスカウトした、と」

「うむ」

「……」

 

キャロルは思考する。

実際、悪い取引ではない。

風鳴訃堂の庇護下に入る事が出来るし、世界の様々な情報を真っ先に知る立場に立てる。

だが、それは逆に言えば風鳴訃堂に生殺与奪を握られるという事だ。

つまり、世界の分解は諦めなければならない訳だ。

 

「一つ、言わねばならぬ」

「……なんだ?」

「お主の父が残した『世界を知れ』という言葉の意味は、【世界の分解】ではわからぬと思うぞ」

「……お前になにがわかるッ!」

 

キャロルは激昂した。

部外者に父との思い出に踏み入られたからだ。

しかし、訃堂はひるまず言葉を続けた。

 

「少なくとも父親の気持ちはわかる」

「……ッ!?」

「磔にされた父が、今まさに焚刑に処されるという父親が娘に残す思いは、『復讐してくれ』という執着ではなく、『幸せになってほしい』という祈りよ」

「……!」

「お主の父がどのような人物か、娘に復讐を託すか、幸せを願うか。それはお主が一番良く知っておるだろうよ」

 

エルフナインは泣いていた。

エルフナインにはキャロルの記憶がインストールされている。エルフナインはキャロルのスペアボディの規格外品、故に労働力として使われていてもキャロルの記憶を有しているのだ。

だから、わかる。

訃堂の言葉の意味が。

自分の父親が、どのような人物か。

 

「パパ……」

「フナちゃん……」

 

エルフナインの頭を撫でるミカ。

巨大な爪で傷付けぬよう、優しく不器用に。

その光景を見て、キャロルは言葉を絞り出す。

 

「……その言葉を、そう簡単に納得は出来ん」

「そうか」

「だが、理解は出来る」

「うむ」

「……特異災害対策機動部二課、だったか」

「ああ」

「いいだろう、風鳴訃堂。お前の元で、世界の平和を守ってやろう」

 

そんな訳で。

キャロルは二課の技術部に雇用されたのであった。

 

 

 

 

「そんな事があったのね」

「そうだゾ!あの時はマスターがおじいちゃんに襲い掛からないかヒヤヒヤしていたゾ」

 

八月も終わりの週末。

発令室。

始業前の朝会が始まる前の待機時間。

俺、渡一鳴は休憩所でミカちゃんとお話をしていた。

ミカ。

自動人形。

火の力を使う、オートスコアラー。

 

現実に見てみると、人間にしか見えない。

不気味の谷?なにそれおいしいの、という奴だ。

そんなミカちゃんから俺は、キャロルちゃん師匠が二課に入った切っ掛けの話を聞かされていた。

 

「ところでミカちゃんはなんでここにいるの?キャロルちゃんと一緒に来たのん?」

「違うゾ?フナちゃんが今日からここで働くから付いてきたんだゾ」

「フナちゃんが?ナンデ?」

「なんでもキャロルちゃんが呼んだんですって」

「技術部に期間限定で働くらしい」

 

近くにいた友里さんと藤尭さんが話に入る。

 

「そうだゾ。マスターが忙しいから助っ人で呼んだんだゾ!」

「助っ人?」

 

詳しく聞こうとした時、訃堂司令が入ってくる。

了子さんとキャロルちゃん、そしてキャロルちゃんにそっくりな女の子も一緒だ。

小声で話していた者たちも口を閉じ、真っ直ぐ前を向き直す。

 

「皆さんおはようございます」

「「「おはようございます(だゾ)!」」」

 

一斉に挨拶。

 

「さて今日は新しく二課で働く事になった者がいるので紹介させてもらう」

「さぁ、エルフナインちゃん前に出て」

「ひゃい!」

 

了子さんに促され、キャロルちゃんと似た少女が前に出る。

ガッチガチに緊張していた。

 

「え、エルフナインです!技術部で働かせていただきます!」

「エルフナインちゃんには私たちと共に、昨今問題となっているノイズ召喚プログラムの対策をしてもらうわ」

 

ここで前に出るキャロルちゃん。

 

「知っての通りノイズ召喚プログラムによって、ノイズが呼び出される事例が徐々に増えてきている。今は一鳴一人で対処出来るかもしれんが、先日の黒いノイズのようにオレが出なければならない状況が今後続くかもしれん。そうなった場合、ノイズ召喚プログラムの対策が遅れる可能性が高い。故に短期間とは言え、オレと同じ知識を持つエルフナインに働いてもらう」

 

キャロルちゃんの説明を引き継ぐ了子さん。

 

「エルフナインちゃんにはノイズ召喚プログラム対策が確立するまでの間だけ、二課で働いて貰うわね。……たぶん、二~三ヶ月ほどかしら」

「そういう訳だ。オレの妹みたいなものだが、なにかやらかしたら厳しく指導してやってくれ。……それと」

 

俺たちの方を、より詳しく言えばミカちゃんの方を見るキャロルちゃん。

 

「ミカ、なんでお前はそっちにいるんだ!」

「探検してたら、ここに出たんだゾ」

「お前はエルフナインの護衛だろうが!エルフナインの側を離れるな!」

「マスターが居るから大丈夫だと思ったんだゾ。それに訃堂おじいちゃんも居るから安心だゾ」

「そういう問題じゃない!」

 

まったく、そう言って腕を組むキャロルちゃん。

すごく、プンスコしていた。

 

「そこにいるのはミカ。ミカ・ジャウカーン。エルフナインの護衛を勤めるオートスコアラー……自動人形というやつだ。アホだが戦闘力だけは一級品だから、現場で必要なら使ってくれ。詳しいデータは後で教える」

「ミカだゾ。宜しくだゾ~」

 

そんな訳で。

期間限定で、エルフナインちゃんとミカちゃんが仲間になった。





この作品の訃堂おじいちゃんは原作訃堂から外道を引いて優しさを足しています。つまりほぼ別人なんやな。
あとミカちゃんの一人称は「あたし」なのか「ミカ」なのかわからない……なにも……。ゼロはなにも答えてくれない。

それと、次回から謎の敵が攻めてくる10月になるまで二回ほど話を挟むワケですが、冒頭で「ノイズ召喚プログラム対策研究」の進捗ダイスを振ります。
10月までに対策出来なかったら……フフフ、怖い。

という訳で、次回の更新もガンバルゾー!


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第十三話 地獄までのカウントダウン①


更新遅れて申し訳ないです。
世間は大変ですけど私は元気です。
更新遅れたのはFGOしてたからです。
キリシュタリア……最高のライバルだった……。

あ、物騒なサブタイだけど、中身は平穏です。



 

ここは特異災害対策機動部二課の誇る研究室。

エルフナインは了子とキャロルからノイズ召喚プログラムの対策研究について説明を受けていた。

 

「アプリケーションのプログラムで正確にノイズの召喚を行う。言葉にするのは簡単ですが実際に実物を見ると、これがとてつもない技術力で構築された異端技術である事がわかります……!」

「ええ。一呼吸。一工程。ちょっとのミスで不発に終わるノイズ召喚術を、ミスをしない機械にやらせる……。これ考えた人は天才よ」

「それでも、このプログラムの解析は既に終了している。後は、対策を練るだけだ」

「道半ばって所ね」

「わかりました!ボクも頑張ります!」

 

やる気に燃えるエルフナインであった。

 

 

 

ノイズ召喚プログラム対策研究進捗【1D10】

(現在進捗【50%】)

 

1 進捗 + 10%

2 進捗 + 20%

3 進捗 + 20%

4 強い敵が攻めてきて研究どころじゃぬぇ!

5 進捗 + 10%

6 進捗 + 30%

7 進捗 + 30%

8 進捗 + 30%

9 進捗 + 40%

10 進捗 + 50%

 

結果、【1】

 

 

 

九月前半の平日。

ノイズ召喚プログラム対策研究は進んでいなかった。

 

「今月入って何度目だ、出撃……」

 

キャロルが愚痴る。

正規シンフォギア装者である一鳴が、土日祝日しか二課に居ないため、必然的にキャロルが出撃する事になるのだ。

そして九月に入ってから、ノイズ出現率が急上昇していた。

ノイズ召喚プログラムのせいである。

結果、そのノイズ召喚プログラムの対策はあまり進んで居なかった。

 

「一鳴くんも心配していたわね。『対策出来るまで平日も二課に待機しておきましょうか』って、さっき弦十郎くんたちと電話で相談していたわよ」

「そこまでしなくていいが……。というか、アイツは学校大丈夫なのか?」

「一鳴くん、あとはめぼしいイベントが運動会と修学旅行だけだから問題ないんですって」

「だがアイツも六年生だろう?そういうイベントも思い出作りに必要だ」

 

そんな話をする二人を笑顔で見つめるエルフナイン。

その様子にキャロルが気付く。

 

「なんだエルフナイン、そんなにニヤついて」

「キャロルも変わったなぁ、って」

「オレがか?」

「うん。昔はもっと眉間にシワが出来て、誰かの思い出なんて気にも止めなかったのに」

「かわいい弟子が出来ると変わるわねぇ~」

 

揶揄する了子。

 

「かわいい?出来の悪いの間違いだ!」

「ダメな奴ほどなんとやら、と言うわよね?」

「そっか、キャロルも友だちが出来たから変わったんだね」

「うーるーさーいー!」

 

言い合いが始まる三人。

それを少し離れた所から眺めるミカとウェル。

二人は将棋をしていた。

休憩時間だからだ。

 

「やっぱりマスターとフナちゃんはラブラブだゾ」

「女三人寄ればかしまし娘、という奴ですねぇ」

「かしまし?ドクターの言うことは難しいゾ。……あ、それ王手だゾ」

「ま、待った!」

「その待ったもう三回目だゾ」

 

容赦なくドクターの王の駒を奪うミカであった。

 

 

 

 

九月某日。夜8時。

俺、渡一鳴は貸し与えられたマンションの一室で椅子に座り、静かに考え事をしていた。

 

俺の二課出勤日は土日と祝日である。

家が少し遠い場所にある為、平日の出勤は免除されているのだ。

そして土日に働くにあたり、土曜日の夜にわざわざ家に帰り日曜日の朝に出勤するのも面倒だろうと言うことで、二課の権力でマンションの一室を貸してもらったのであった。

1LDKで六畳一間の付いた独り暮らしには十二分に広い部屋であった。

 

俺が座る椅子はLDKにあった。

6人用のテーブルに付いている椅子だ。その席から少し離れた所にあるテレビからは「ボーッと生きてんじゃねぇよ!」という罵倒が聞こえてくる。

そして、俺の後ろからは───

 

「一鳴くん、髪伸びましたね」

「肩下くらいあるんじゃないかしら?」

「……サラサラ」

「……つやつやデス」

「男なのにキレーな髪だな」

 

可愛らしい女の子五人の声が聞こえてくる。

というか、セレナさんマリアさん調ちゃん切歌ちゃんクリスさんであった。

七時前に家に来て一緒に食事を取った後、何故か皆俺の髪を触りだしたのである。

ちなみに髪は、カーチャンのお高いシャンプーをこっそり使ってたらこうなった。お陰でカーチャンからは大目玉である。

 

「あのー」

「あら、どうしたの?」

「門限大丈夫?」

 

時刻は8時。

高校生のマリアさんはともかく中学生のセレナさんやクリスちゃん、小学生の調ちゃんや切歌ちゃんは補導される時間帯である。

それに変質者に行き合ったら大変だ。

 

「私は外泊届け出してるから問題ないわ」

「私はマリア姉さんの所に泊まるって言ってるから」

 

と、カデンツァヴナ姉妹。

ほんのり頬を染めている。

 

「ぼくしょうがくせい!添い寝以上はアウトよ!」

「添い寝はいいのね!」

「やった!」

「しまった!」

 

墓穴を掘ってしまった。

俺の何かがアブナイだ!

 

「マリアもセレナもずるい」

 

頬を膨らませる調ちゃん。

その肩を叩くクリスさん。

 

「安心しろ、このバカ二人を孤児院まで引きずって帰るのがあたし様の仕事だ」

「アタシは調を連れて帰る係デス!マムからの任命デース!」

 

流石のナスターシャ院長である。

ローティーンの少年少女の性的な何かに配慮した采配であった。

 

「と、言うわけであたしたちは九時頃に帰るわ」

「わかりました。孤児院まで送りますね」

「あ、マムが車で迎えに来てくれるので大丈夫デスよ」

 

そういう訳であった。

そういう話をしていたら、調ちゃんに顔を覗き込まれた。

 

「……何かあったの?」

 

そう調ちゃんに聞かれた。

どうやら、考え事をしていたのが顔に出ていたらしい。

 

「ん、いや?特にどうしたって訳じゃないんだけどね」

「?」

 

そうして。

みんなに俺は昼間の事を話始めた。

 

「今日、シンフォギアでの戦闘訓練をしていたんだけど、弦十郎さんから対多数用の技を考えろって言われてね」

 

今日の日勤中の、訓練時間。

訃堂司令は別件の仕事があるという事で、弦十郎さんと戦闘訓練をしていたのだ。

市街地にノイズが現れた、という設定のシミュレーションで訓練をしていたのだが、ノイズに周りを囲まれてしまった時の対処法を咎められたのだ。

 

『多数の敵に対して一体一体相手にするのではなく、一度の攻撃でまとめて倒せるようにしろ』

 

と言われてしまったのだ。

確かに、現在の俺の攻撃はアームドギアで切りつけるかアームドギアをぶん投げるしかない。

切りつける攻撃は対単独用の基本的な攻撃で、ぶん投げる攻撃は直線上の敵を薙ぎ払う対多数攻撃だが、直線上から外れていたら当たらない。

ちなみに、切りつける攻撃は『紅蓮一閃』。ぶん投げる攻撃は『黄道天輪』と名付けたヒサツ・ワザである。アニメならカットインが入るよ!

 

閑話休題。

多数の敵に囲まれた時の攻撃手段を考えなければならないのだが、良いアイデアが浮かばないのであった。

 

「そういう話はあたしらじゃわからねーな」

「うん、シンフォギアの事よくわからないし」

「出来たデス、三つ編みデース」

「セレナ、なにかアイデアはある?」

 

切歌ちゃんはなにやっとるんや……?

 

「うーん、シンフォギアってエネルギーを鎧に変えてるから、割と形や大きさって変えられるんですよね」

 

と、セレナさん。

 

「だから、ちっちゃいアームドギアをいっぱい作って投げるのはどうですか?」

「……いいかも」

 

俺はセレナさんの話を聞いて前世の記憶を思い返していた。

前世で装者だった翼さんの『千ノ落涙』という技は、小さなアームドギアの剣が生成されて雨のように降り注ぎ敵を倒すのである。

そんな感じの技を、スダルシャンのシンフォギアで作れればいいのだが……。

 

「出来たデス!ツインテール!今度は調とお揃いデース!」

「お揃い、いいかも……!」

「切歌、次は私と同じ髪型にしたらどうかしら?」

「いやお前ら話聞いとけよ」

 

切歌ちゃんは俺の髪を好き放題弄っていた。

しょうがないよねシンフォギアの事なんてわかんないもんね、この世界の切歌ちゃんは。

 

なんて事を考えていたら天啓が降りてきた。

 

「調ちゃん……ツインテール…………シュルシャガナ……」

「……どうしたんデスか?」

「小さいアームドギア………………それだ!」

「デデッ!?」

 

前世の記憶から繋がったアイデアが形になる。

その興奮に思わず立ち上がってしまい、切歌ちゃんを驚かせてしまった。

 

「ありがとう切歌ちゃん!」

「どーいたしましてデス!そんなに調とおんなじツインテールが気に入ったんデスか?」

「ねぇ、私の髪型!私の髪型は!?」

「マリア姉さん落ち着いて。たぶん髪型の事じゃないから」

 

 

 

 

次の日。

二課のトレーニングルームにて。

 

「うん、昨日の今日で大丈夫かと思ったが、問題なさそうだな!」

 

弦十郎さんが深く頷く。

今日も弦十郎さんと二人で戦闘訓練、特に対多数戦の訓練をしていたのであった。

そこで俺は昨日思い付いた技を試したのであった。

 

火烏(かう)(まい)繚乱(りょうらん)

 

そう名付けたヒサツ・ワザである。

セレナさんのアイデアから、小型のチャクラム型アームドギアを大量に生成、周囲一体を攻撃するという技である。

ではその小型アームドギアをどこから出すか。

正解は、俺のシンフォギアの腰部の大型スカートアーマーからである。

 

スダルシャンのシンフォギアにはスカートアーマーが付いている。

これは足を覆い隠す位大きく、袴のようである。

あるいは、ガンダムUCに出てくるクシャトリヤというMSのバインダーのようにも見える。

そのスカートアーマーから射出したのだ。

 

シンフォギア装者としての調ちゃんの技に『α式・百輪廻』というものがある。

調ちゃんのツインテール部に付いている装甲が開いて、中から小さな円鋸がたくさん出てくるという技だ。

 

この技を真似して出来たのが、『火烏の舞・繚乱』である。

 

スカートアーマーが二枚貝めいて開き、格納されていた小型アームドギアのチャクラムを射出。周囲一体を炎と斬撃で攻撃する。

チャクラムから生じる炎は推進力となり、脳波コントロールで様々な方向に進行させるサイコミュ兵器である。

 

「これなら実戦でも十分使えるだろう」

「ありがとうございます!」

「ところで……」

 

俺の頭を見る弦十郎さん。

 

「なんでマリアくんと同じ髪型なのだ……?」

「…………深ーい事情があるんです」

 

まさか嫉妬したマリアさんに、一日私と同じ髪型で居なさい、なんて言われるとは思わなかった。

マリアさんこんな性格だっけ……?

原作より若いからかな?若さゆえの過ち……?

恋しているからかしら?

 

「なぜ照れるんだ……?」

 

首をかしげる弦十郎さんであった。





今回初めて多機能フォームを使ってみました。
文字の色を変えられるのは良いですね。一鳴のイメージカラーをわかりやすく読者に伝えられますし。

一鳴くんのヒサツ・ワザ、名付けのモチーフは太陽です。スダルシャンは太陽神スーリヤが放つ太陽の光を削り取って作られた、太陽を象徴する武器ですからね。そこら辺を踏まえて名付けています。
あと鬼滅の刃の『ヒノカミ神楽』なんかも参考にしています。
日暈の龍・頭舞いとか語感が好き。『日暈』とか初めて聞いたけど。

それではまた次回。


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第十四話 地獄までのカウントダウン②


ベーコンポテトパイセンから奏さんの声が聞こえたので初投稿です。


 

ノイズ召喚プログラム対策研究進捗【1D10】

(現在進捗【60%】)

 

1 進捗 + 10%

2 進捗 + 20%

3 進捗 + 20%

4 強い敵が攻めてきて研究どころじゃぬぇ!

5 進捗 + 10%

6 進捗 + 30%

7 進捗 + 30%

8 進捗 + 30%

9 進捗 + 40%

10 進捗 + 50%

 

結果、【7】

最終進捗率、【90%】

 

 

 

10月に入り。

ノイズ召喚プログラムの対策はほぼ出来ていた。

しかし、対策実行まではまだまだ詰めねばならない事も多かった。

 

「なんとか11月にはアンチ・ノイズ召喚プログラムを完成させる事が出来そうね」

「だが、まだやらねばならぬ事も多い。細部にまだまだ粗もあるしな」

 

了子とキャロルが話し合う。

ノイズ召喚プログラム対策の終わりが見えてきて、二人の顔に安堵の表情が浮かぶ。

 

「エルフナインちゃんもありがとうね、とっても助かったわ!」

「いえ!ボクの方こそ、了子さんの見識はとても参考になりました!」

「そう言ってくれると嬉しいわぁ!」

 

撫でくり撫でくり、エルフナインを可愛がる了子。

ノイズ召喚プログラム対策を初めてから仲良くなったのだ。

(錬金術師どもの間で怖れられたフィーネが、こんな表情を見せるとは)

 

そう、キャロルは思う。

 

フィーネ。

先史文明の巫女。

リインカーネーションシステムにより他者に成り代わる悪霊。

太古より蓄積された知恵の怪物。

 

そのフィーネが自分のホムンクルスと戯れている。

平和な一幕。

微笑ましい日常。

キャロルは自身の知識と目の前の現実との差に少し可笑しくなった。

 

(フィーネもオレも……、この二課で変わったという事か)

 

人格者の風鳴訃堂を始めとして、八紘や弦十郎に他の職員。そして一鳴。

ここはとても居心地がいい、そう思えた。

 

「そうだ。一鳴といえば、あいつの修学旅行だ」

 

キャロルの言葉に反応する了子。

 

「修学旅行?……そういえば20日から泊まりだって言ってたわね」

「ああ。ノイズ召喚プログラムの対策がまだ出来ていない今、アイツを修学旅行に行かせるべきかどうか……。上はどうするつもりなのだろうな」

 

ノイズ召喚プログラムにより大量のノイズが現れる可能性の高い現状、キャロルを除いてノイズに対抗できる一鳴を修学旅行で手元から離すのはよろしくない、という話である。

 

「そうねぇ……最近はノイズ召喚プログラムの発動もほとんど確認されてないし、行ってもいいってなるでしょうね」

 

そう了子が答える。

だが……、

 

「否、よ」

「訃堂司令!?」

 

突如として訃堂が研究室に現れる。

キャロルが訃堂の言葉に返した。

 

「どういう意味だ?」

「胸騒ぎがするのだ」

「胸騒ぎ?」

「こういう時は必ず、良からぬ事が起きる。世界大戦の前も、原爆が落とされた時もな」

「だからアイツの修学旅行は中止だと?」

「そうだ」

「だが……ッ!」

 

反論するキャロルを手で制する訃堂。

 

「本人にはすでに伝えた」

「……っ」

「仕方ない、そう言っていたぞ」

「納得、していたのか?」

「ああ。儂にはそう見えた」

「そうか……」

 

意気消沈するキャロル。

小学生最後の修学旅行、それを行かせることが出来なかった。

それは、ノイズ召喚プログラム対策を完成させられなかった自分達の責任だろう。

そう思った。

 

「なんだか、申し訳ない事しちゃったわね……」

「そんなに気にしないで下さいよ了子さん」

 

現れたのは……一鳴だ!

 

「一鳴くん」

「弦十郎さんとの訓練が終わったのでギアの調整をしてもらいに来たんですがね……。俺は本当に気にしていませんよ」

 

言葉を続ける一鳴。

 

「俺は装者です。こういう事は覚悟の上ですし」

「……すまない」

「謝らないでよキャロルちゃん。皆が寝る間も惜しんでノイズ召喚プログラム対策してたのに、一人遊びに行くのもイヤだったし。気にしないで!」

 

ニッ、と笑う一鳴。

その笑顔で、いくらか救われた気になったキャロルである。

 

「すいません一鳴さん、ありがとうございます!」

「ええんやで」

 

エルフナインの言葉には父親のような顔で返す一鳴であった。

 

そんな訳で。

一鳴は10月20日、21日は二課に待機する事になった。

 

 

 

 

「ところで、マリアたちとはどこまで行ったんですか?」

 

訃堂司令が帰った後。

俺、一鳴はギアの調整中、ドクターウェルに不躾な質問をされた。

 

「いきなりなんなんです、ドクター?」

「いや、僕も彼女たちの保護者の一人なので気になって」

 

マリアさんたちレセプターチルドレンを日本に連れてきたのは元々ドクターウェルである。

F.I.S.の実験台であった彼女らを助ける為にドクターウェルは二課に転勤になり、日本に孤児院を作ったんだったなぁ。

この世界のドクターウェルはキレイキレイだからね。

 

そしてその言葉を聞いたのはコーヒーブレイク中だった了子さん。

 

「あら、それは私も気になるわ!」

「目が輝いてますね了子さん」

「オンナはいつだってコイバナが好きなのよ~!ね、キャロルちゃんもエルフナインちゃんも気になるでしょ!」

「……まあ、な」

「は、はい!ボクも気になります」

 

キャロルちゃんやフナちゃんも興味持つのね……。

 

「お前のぶっ飛んだ交際経験、興味がないと言えば嘘になるからな」

「キャロルから聞いています!女の子三人と付き合っていると!しかも一人は初対面だったんですよね!」

「まあ、そうやよ」

 

言葉を続けたフナちゃん。

 

「『お前もあんまり関わり過ぎれば恋に落とされるぞ』とキャロルに脅されました!」

「ちょっとキャロルちゃんや」

「ミカにも言ってました!」

「ちょっとぉ!?」

 

 

 

十二話で振るの忘れてた好感度ダイス【1D10】

 

1 うーん……

2 いい人

3 いい人

4 いい人

5 うーん……

6 いい人

7 いい人

8 いい人

9 ひとめぼれ

10 ヤンヤンデレデレ

 

エルフナイン、【4】

ミカ、【4】

 

 

 

「でも二課内で会ったら親切にしてくれて、恋人三人いるのもわかります!ミカも一鳴さんの事気に入ってますし」

「あ、そーお?」

 

フナちゃんにそう言われたら嬉しいわね。

 

「ところでそのミカちゃんは?」

「食堂で充電中だ」

 

ミカ、戦闘用自動人形。コンセントでの充電で動き、一時間の充電で丸一日動くオーバースペック充電池を内蔵している。

サイコロ神曰く、もともと『思い出』がエネルギー源だったがその思い出を補給する為のガリィが消滅した為、キャロルちゃんが改造して充電池を内蔵したのだとか。

ちょっとしたメタ情報だ。二課の人間はミカが元々思い出で動くという事は知らないのです。

 

「なんだ?エルフナインとミカも恋人にしたかったか?」

「キャロルちゃん俺の事、とんでもない女好きって思ってない?」

「違うのか?」

「違うんだよなぁ……!」

 

けらけら笑うドクターウェル。

 

「まぁまぁ。でも僕もびっくりしましたよ。一鳴くんがあのマリアをオトしたなんて」

「だから気になる、と?」

「ええ、幸せそうなのはオバハ……ナスターシャ院長から聞いているんですがね」

「そうですか……」

 

まあ気になるよなぁ。

自分が助けた子どもたちに恋人が出来たなら。

 

 

 

そんでどこまで行ったの一鳴くん?【1D10】

 

1 何度かデート重ねました

2 何度かデート重ねました

3 何度かデート重ねました

4 何度かデート重ねました

5 Aまで行った

6 Aまで行った

7 Aまで行った

8 Bまで行った

9 大人の階段上るシンデレラ

10 一鳴のご立派様にそらもう夢中よ

 

調、【5】

マリア、【1】

セレナ、【5】

 

 

 

「えーっと……、マリアさんとは何度かデートをしました。買い物したり、ビュフェに行ったり」

「あら~、良いじゃない!」

「マリアもデートの後はウキウキしていたとオバハン……ナスターシャ院長も言ってましたねぇ」

「で、他の二人とはどうなんだ?」

「……その、キス。……しました」

「キャー!ホントに?やるじゃない!」

 

了子さんが俺の背中をバシバシと叩く。

 

「どんな?どんなシチュエーションで!?」

「どんだけ興味津々なんですかねぇ!?」

「いいから!言いなさい!」

 

物凄く恥ずかしい。

恥ずかしいが、言わなければ了子さんは背中を叩き続けるだろう。

ドクターウェルもキャロルちゃんもフナちゃんも興味津々だし。

 

 

 

キッスのシチュエーションは?【1D6】

 

1 キレイな夜景の公園で……

2 一鳴の部屋で……

3 デートの帰り際、孤児院の前で……

4 キレイな夜景の公園で……

5 一鳴の部屋で……

6 デートの帰り際、孤児院の前で……

 

調、【5】

セレナ【5】

 

 

 

「二人とも、俺の部屋で……」

「あら~」

「二人同時にか?」

 

こいつまさか、みたいな顔のキャロルちゃん。

 

 

 

キスのタイミングは?【1D6】

(偶数で同じタイミング、奇数で別々のタイミング)

 

結果、【2】

 

 

 

「……同じタイミングで」

「マジか……!?」

「しゃーないのよキャロルちゃん聞いておくれよ」

 

そう、仕方ないのだ。

マリアさんがテスト期間で遊びに来れないタイミングで、二人が遊びに来て。

二人に挟まれてソファに座り、ラジオから流れるクラシックを聞いていて。

窓の外の夜景がとても輝いていて。

そしたらなんだかとってもしっとりとした雰囲気になり。

いつの間にか二人が俺の前に顔を持ってきてこっちを見て。

静かに目を閉じて唇尖らしたらさぁ!

男として女の子に恥かかす訳にもいかねぇよなぁ!

 

「良いじゃない良いじゃない!そういうのもっと頂戴!」

 

テンション爆上がりの了子さん。

 

「……ッ!」

「わぁ……」

 

顔真っ赤なキャロルちゃんとフナちゃん。

 

「なかなかロマンティックなファーストキスですねぇ……」

 

うんうんと、頷くドクターウェル。

……うん、やっぱり恥ずかしいなファーストキスのシチュエーション話すのは!

 

「だが、お前の彼女の一人だけキス出来ていないな」

 

顔を真っ赤にしながらキャロルちゃんが聞く。

 

「うん、そうなのね。だからかマリアさん、最近凄いソワソワしてて……」

「そう言えばオバハンもそう言ってましたね……」

 

ついでに言えば調ちゃんもセレナさんも同じ事を言ってたのよね。

自分だけキスされてない事を気にしているとか。

だからフォローしてあげてね、と二人からアドバイスされました。

なので今度夜景がキレイなデートスポットにでも行こうと思っている。

 

「なら、私が幾つかオススメのスポット教えてあげましょうか?」

 

と、了子さん。

 

「是非是非。弦十郎さんと行ったんですかぃ?」

「ふふふ、ヒ・ミ・ツ」

 

俺のからかいをマタドールめいて受け流す了子さん。

コイバナ歴戦の風格を感じるわぁ。

 

「まぁ僕としては幸せなら問題ないです。三人の事、改めてよろしくお願いしますね」

「はい、勿論!」

 

ドクターウェルにそう言われた。

そのドクターの目は優しくて、少し寂しげで。

キレイなドクターにとって、レセプターチルドレンはもしかしたら、弟妹や子どものように感じてるのかもしれない。

そう、思った。

だから俺は、あの三人を幸せに、大切にしようと改めて思ったのであった。

 

 

 

 

「あの女から連絡があった。【信者】によればシンフォギア装者は修学旅行には行かないらしい」

「戦力は分散されぬ、と」

「ああ。だが、ノイズ召喚プログラムの対策はまだ出来ていないとも報告があった」

「で、あるならば」

「ああ、神獣鏡の強奪は予定通り行う」

「目眩ましに、街一つ灰塵に帰するか」

「反対か?」

「否、否よ。我らはかつてソドムとゴモラを焼いた。今さら街一つ焼くことになんの躊躇いがあるものか」

「では」

「ああ、計画通りに」

「わかった。あの女にも連絡しておく。【兵士】、いや【天使ども】も問題はないな?」

「無論。我が【兵士】は我が意のままに」

「よし。……ウェルキンゲトリクス、今はまだ呑気にしているがいい。だが、神獣鏡が、■ァ■■が、更に僕がお前を地獄に落とす!そして、お前が僕から奪った全てを、返してもらうぞ!」





積み重なった幸せが。
アナタと触れ合った暖かさが。
対価となって、暗い不幸に振れていく。
焦熱地獄と化した街並みが、冷たくボクを誘い込む。
炎は爆ぜて、建物は崩れ、人々は泣き叫ぶ。
それはまるでオーケストラに似て。

そして。
地獄を睥睨し、天使が現れる。


次回、地獄の天使


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第十五話 地獄の天使①

敵も味方もサイコロの殺意が高すぎるので初投稿です。
いや、本当になんでこんなにキレッキレな出目ばかりでるのん?


新東名高速道路を下るバスが二台。

その内の一台には、立花響と小日向未来が乗っていた。

小学校六年生の修学旅行で、京都に向かっていたのであった。

 

「ナルくん、一緒に行きたかったね……」

「しょうがないよ、親戚のおばさんが入院しちゃったから……」

 

二人の元気はない。

二人の親友である渡一鳴が修学旅行に急遽来れなくなったからだ。

楽しい修学旅行になる筈であった。

三人で京都の街を散策する予定だったのだ。

 

「はぁ……」

 

響がため息をつく。

一鳴は六年生になってから、土日にボランティア活動を始めて、一緒に遊ぶ機会が減っていた。

だから、修学旅行で今までの分一緒に遊ぶつもりだったのだ。

それは未来も同じ気持ちであった。

 

「……あ、メール」

 

響の携帯電話にメールが届く。

2039年現在、小学生も携帯電話を持ち歩く時代である。

本来なら学校で携帯電話を出すのは言語道断であるが、修学旅行ならそれが許されていた。

 

「ナルくんからだ」

「ナルくん、なんて?」

 

未来が聞く。

 

「えっと……『一緒に行けなくてゴメン。お土産はサーターアンダギーでお願い』だって」

「京都にサーターアンダギーはないよ、もう」

「だよねぇ」

 

クスクスと笑う二人。

一鳴からのメールを見て、元気になったようだ。

 

「仕方ないから、八ツ橋買って帰ろっか」

「そうだね、未来!」

 

 

 

 

ドーモ、一鳴です。

修学旅行はお休みし、シンフォギア装者として二課に詰めてます。

親戚のおばさんが入院した、という嘘の連絡をしました。

有事に備えて、なんて言えないものね。

 

あと、さっき響ちゃんにゴメンねメールを送りました。

三人で京都の街を探検しよう、って約束してたから、きっと俺が居ないの気にしてると思ってメールしました。

お、返信だ。

 

『今回の埋め合わせ、ちゃんとしてね!お土産は湯葉だよ!』

 

湯葉……。

湯葉かぁ……。

……しょうが醤油で食べようかな。

それはともかく。

とりあえずは許してもらえたようだ。

埋め合わせ、どうしようかな。

そういえば、近所の喫茶店の新作パフェが情報誌で取り上げられてたような。そこのパフェを奢ろうかしら。

二人とも甘いものが好きだから、丁度いいネ!

 

 

それにしても……。

 

「暇だ……」

 

俺は休憩所で呟いた。

仕事がなかった。

戦闘トレーニングは有事に備えて禁止、オペレーター陣のお仕事は手伝おうにもわからない。研究室関係なぞもっての他。

なら書類整理や清掃は、と言われてもそういうのはしなくていいよとさっき言われた。

という訳で暇なのであった。

そんな時。

 

「暇ならあたしと将棋するゾ!」

 

と、ミカちゃんに話しかけられた。

 

「あらミカちゃん。いつものドクターウェルは?」

「ドクターは新しいLiNKERのレシピを思い付いたから忙しいって言われたゾ」

 

これは来週試してくれって言われるパターンね。

LiNKER、使うのは良いけど体内洗浄いちいちしないといけないのが面倒である。

それはそれとして。

せっかくのミカちゃんのお誘い、乗らねば不作法というもの。

 

「将棋、やろっか」

「やるゾ!やるゾ!」

 

そんな訳で。

この後滅茶苦茶将棋を指した。

 

 

 

 

気が付けば午後6時であった。

 

「嘘やろ……」

「やりすぎたゾ……」

「時が経つのは早いものよ……」

 

俺、ミカちゃん、お昼から参戦した訃堂司令の三人は驚愕した。

ぶっ続けで将棋を指していたからだ。

だってすっごい白熱したもの。

名勝負が幾つも生まれたもの。

だからウン時間も指していたのは仕方ないのだ。

 

「うぅん、座りっぱなしだったから腰が……!」

 

ぐ……と身体を伸ばす。

凝り固まった筋肉が伸びていく。

 

「人間は大変だゾ」

「こういう時はミカちゃんが羨ましいよ」

 

対してミカちゃんは平気そうだ。

オートスコアラーだからか、ミカちゃんが戦闘用だから頑丈なのか。

 

「どれ、一鳴くん。儂がストレッチしてやろう。……ほれ」

「んごぉ!!?」

 

訃堂司令に組み付かれる。

いや、ストレッチなのだろうけど、痛みが凄い!人間の身体はそんな方向に曲がらない……!

 

「それ、反対も!」

「おごぉ!!?」

「そーら、仕上げ!」

「ぐぼぁ!!?」

「どうだ、凝りがほぐれたであろう?」

 

確かに凝りはほぐれて、身体が柔らかくなった。

でも痛みは凄かった!

 

「訃堂司令、ありがたいですけど、突然やるのは止めてくださいよ!痛みで意識が危なかったですよ!?」

「はっはっは。常在戦場の心持ちならば耐えられた。まだまだ修行が足りんな!」

 

快活に笑う訃堂司令。

 

そんな時。

突如としてサイレンが二課内に響く。

緊急事態の報だ!

 

「む……!胸騒ぎは当たったか……。一鳴くん、発令所に急ごう!ミカちゃんは研究室のエルフナインちゃんの所へ行くのだ!」

「了解!」

「わかったゾ!二人とも気を付けるんだゾ!」

 

そうして。

ミカちゃんは研究室に向かい、俺と訃堂司令は発令所に急いだ。

発令所に着いた時、オペレーター陣は関係各所との連絡や情報収集に大忙しであった。

そして、弦十郎さんが俺たちを待っていた。

 

「親父!一鳴くんも一緒か!」

「遅れました!」

「弦、何があった?」

「ノイズの大量発生を確認した。……範囲は■■市全域!」

「なんだと!?」

「しかも、まだまだノイズは増えている状況で、住民の避難も滞っている!」

 

あまりにも、危機的な状況であった。

現在午後6時過ぎということもあり、会社から帰宅途中の会社員や放課後に遊ぶ学生なんかが街に出てきている。

このままでは、多数の被害が出てしまうだろう。

 

 

「ノイズ召喚プログラムか……!」

「キャロルくん!」

 

と、キャロルちゃんが発令所に入ってくる。

 

「話はおおよそ聞こえていた。オレも出撃する!この規模だ、一鳴だけでは手が足りないだろう」

「キャロルくん、ありがとう!」

「ふん、禄を食む身だからな。……それと、主任が話があるようだ」

『ええ、そうよ!聞こえる弦十郎くん!?』

「了子くん、聞こえてるぞ!」

 

発令所で様々な映像やデータを映すモニターの一つに了子さんが映る。

研究室からの通信だ。

 

『ごめんなさい、完全にこちらの失態だわ!ノイズ召喚プログラムの対策は九割がた完成していたのに……!』

「了子くん、今それを言っても仕方ない事だ」

『そうね。……本題に入るわ。現状起動しているノイズ召喚プログラム、今なら無効化出来るわ』

「本当か了子くん!?」

『ええ。その代わり、時間制限があるけれど……』

 

 

 

アンチ・ノイズ召喚プログラムの制限時間【1D10】

 

1 あっ……

2 一時間

3 一時間

4 三十分

5 一時間

6 三時間

7 三時間

8 半日

9 半日

10 街一つだけなら半永久的に起動可能

 

結果、【1】

 

 

 

『三時間ならなんとか───』

『了子さん!!』

 

エルフナインちゃんの悲痛な声が響く。

 

『研究室のメインフレームがハッキングされました!!』

『なんですって!?』

 

驚愕する了子さん。

その映像の後ろでは今にも泣きそうなエルフナインちゃんやパソコンに向かってタイピングするドクターウェルが映る。

そして弦十郎さんも直ぐに対応した。

 

「藤尭!」

「もう防衛してますよ……!くっそ侵攻が速すぎる!なんだこれ!?」

 

藤尭さんの高速タイピング。

しかし、侵攻が早いのか苦戦している。

そして数十秒後……。

 

「弦十郎副司令、アンチ・ノイズ召喚プログラムをクラックされました。また、ハッキングの逆探知にも失敗……」

「なんだと……!?」

 

敵はアンチ・ノイズ召喚プログラムだけを破壊して逃げたようだ。

つまり……。

 

「ノイズはこれからも増えっぱなし、という事ですね」

「……そうだ」

 

弦十郎さんも、藤尭さんも、了子さんも、二課の職員全員悲痛な面持ちであった。

モニターからはエルフナインちゃんのすすり泣く声が漏れ聞こえる。

 

「やってくれたな。オレたちの苦労を水の泡にするとは……!」

 

キャロルちゃんは怒りに燃えていた。

 

「もはや一刻の猶予もない。弦十郎!」

「……ああ、親父。一鳴くん、キャロルくん!至急現場に向かいノイズを殲滅。街の人を守るんだ!」

「了解!」

「まかせろ!」

 

 

 

 

ノイズの大量発生した■■市であるが、ざっくりと五つの地区から構成されている。

繁華街のあるA地区。

ビルの多い商業区のB地区。

住宅密集地のC地区。

学校の多く集まるD地区。

港湾を有するE地区。

現在、A地区が一番人が多く、E地区が一番人が少ない。

そんな五つの地区のノイズの数だが……。

 

 

 

街に現れたノイズの数【1D10】

 

1 100体ほど

2 100体ほど

3 100体ほど

4 3000体ほど

5 300体ほど

6 300体ほど

7 300体ほど

8 600体ほど

9 600体ほど

10 1000体ほど

 

A地区、【8】

B地区、【10】

C地区、【8】

D地区、【8】

E地区、【4】

 

 

 

「A地区、C地区、D地区にそれぞれ600体ほど、B地区に1000体。そしてE地区に3000体……」

 

ヘリコプターでの移動中、発令所から送られてくるデータを確認する。

あまりにも多いノイズの数であった。

 

『一鳴くん、作戦を説明するわね』

 

と、友里さんからの通信がシンフォギアを通じて受信。

 

『一鳴くんをこれからE地区で降ろすわ。ノイズを殲滅しつつ、ノイズ召喚プログラムの起動している端末を見つけて破壊して。そうじゃなきゃノイズは際限なく呼び出されるわ!』

「了解!」

『E地区でノイズと召喚プログラムを殲滅したらD地区に向かって。キャロルちゃんはA地区からB地区に向かって進行するから!』

「そしてC地区で合流ですね!わかりました!」

『……状況は大変だけど、頑張ってね』

「はいっ!」

 

そして。

ヘリコプターはE地区の上空にたどり着く。

眼下の港は極彩色の災害に埋まり、海にはエレキングめいた芋虫型巨大ノイズが複数体。

ノイズに船乗りが殺されて制御を失ったのか、タンカーが港に突っ込んであちこちから火の手が上がる。

そして飛行型ノイズがヘリコプターを撃墜しようと突撃してくる。

 

「こっちに飛んでくるノイズは俺が倒すから!おっちゃんはその隙に逃げてくれ!」

「任せとけ!坊っちゃんも無理するんじゃねーぜ!」

「あいよぉ!」

 

ヘリパイロットの権堂さんに声をかけ、俺はヘリコプターから飛び降りた。

 

『───── Sudarshan tron』

 

聖詠を歌う。

一瞬にしてシンフォギアを装着される。

黒い部分の多い赤銅色の装甲。

細身の機械鎧は全身を覆い、腰から伸びる大型スカートアーマーは脚を隠す。

背中に1mほどの戦輪が接続される。

顔の上半分を仮面が隠し、額からは角型アンテナが伸びる。

シンフォギア、装着完了。

 

そして、俺は歌い上げる。

胸の歌を。

戦いの歌を。

咆哮をあげる。

 

Burning hearrrrrrt♪

 

飛び降りながら身体を捻り、空を見上げる。

ヘリコプターに向かう飛行型ノイズが見える。

 

火烏の舞・繚乱

 

大型スカートアーマーが二枚貝めいて開き、中に納められた小型戦輪が射出される。

空に飛び出た小型戦輪は炎を上げ、飛行型ノイズに直進。

そのまま撃破!

 

心を燃やせ♪

太陽のプロミネンスのように♪

 

また身体を捻り、地上を見る。

いまや地上全てのノイズが空を、俺を見ていた。

倒すべき敵が、灰にするべき人間が現れたと。

その数3000体!

 

雑音蹴散らし♪

歌を響かせろ♪

 

しかし、怯んでいる暇はない。

一刻も早くノイズを殲滅し、召喚プログラムを破壊。人々を守らなければならない。

俺は小型戦輪たちを地上のノイズたちに突き進ませる。

そして、背中の戦輪を取り外して海にいる大型ノイズに叩き付ける。

 

Burning My Hearrrrt!!♪

 

 

 

ノイズ撃破率【1D6】

(現在1%)

 

1 20%

2 30%

3 30%

4 40%

5 40%

6 50%

 

結果、【5】

現在ノイズ撃破率、41%

 

 

 

燃え上がる小型戦輪たちはノイズたちを切り刻み進む。炎は周りのノイズたちを巻き込み灰へと変えていく。

そして、俺もアームドギアを振るい大型ノイズを倒していきながら、ノイズの群れを飛び回る。

ちょっとした応用で、アームドギアの纏う炎をシンフォギアの足裏から噴出して短時間ながら飛んでいるのだ。

 

輪が回り時は進む♪

けれど輪が戻り♪

また始めから回りだしたなら♪

また進み出せばいい♪

今度は全てに全力でぇ!

 

アームドギアを叩き付ける!

歌う!

叩き付ける!

そうして、おおよそ四割ほどのノイズを撃破。

そして友里さんからの通信!

 

『一鳴くん、ノイズ召喚プログラムの反応を見つけたわ!北東に50メートル!』

「あの建物か!至急破壊します!」

『急いで!召喚プログラムの周りでまたノイズの反応が増えたわ!』

 

見るとプログラムの反応のある建物……恐らくは港湾の管理事務所であろうか……からノイズが出てきている。

急いで破壊しなければ、またノイズの数は3000体に戻ってしまうだろう。

その前に破壊しなければ……!

 

 

 

プログラムの端末、破壊できた?【1D6】

 

1 無事破壊!

2 ノイズが邪魔ぁ!

3 ノイズが邪魔ぁ!

4 ノイズが邪魔ぁ!

5 ノイズが邪魔ぁ!

6 無事破壊!

 

結果、【1】

 

 

 

Burning Hearrrrrrrrrrrrt!♪

 

管理事務所内をアームドギアを振り回して突き進む。周りには小型アームドギアがハチドリめいてついて回り、ノイズを焼き切っていく。

ノイズの数は多いが歌を歌う俺を止めることは出来なかった。

 

心を燃やせ♪

太陽のプロミネンスのように♪

 

目前には逆さ五芒星の映るモニターが見える。恐らくは事務用のパソコン。

その前に数体のノイズ!

 

雑音蹴散らし♪

歌を響かせろぉ!!!♪

 

俺はアームドギアを投擲した。

投擲されたアームドギアは炎を纏い加速!

 

黄道天輪

 

加速したアームドギアはノイズを巻き込んでそのままパソコンに激突!

パソコン破壊!

 

『一鳴くん、ノイズ召喚プログラムの反応消失したわ!あとはノイズの殲滅だけよ』

「了解!」

 

 

ノイズ殲滅にどれくらいかかった?【1D6】

 

1 5分

2 10分

3 10分

4 10分

5 15分

6 15分

 

結果、【3】

 

 

 

残敵の掃討には10分ほどかかった。

建物やコンテナの中に潜むノイズが多かったからだ。

小型アームドギアのお陰で想定よりも早く終われたのだが。

サンキュー火烏の舞!

サンキュー切歌ちゃん!

 

「はぁはぁ……助かったよ……」

「死ぬかと思ったぜ……」

「やっぱ陸より海だよな……」

 

生き残りの人間も数名ほど見つかった。

彼らは全員ノイズに襲われる直前だった。

あと少し殲滅が遅ければ、誰も助けられなかっただろう……。

 

「友里さん、E地区のノイズ殲滅終了しました」

『お疲れ様!キャロルちゃんもA地区のノイズ殲滅と召喚プログラムの破壊を終わらせてB地区に移っているわ』

 

流石のキャロルちゃん師匠である。

もう地区一つを救い、次の地区に行っている。

まぁ、ノイズがE地区に一番多く現れたというのもあるだろうが。それでも凄い。

 

「俺もD地区に向かいます!」

『ならそこの国道を北に向かって───』

 

その時、二課に緊急連絡が入る。

藤尭さんが驚愕の声を上げる。

 

『これは……司令!浅賀研究所から救援要請です!!』

『なんじゃと!?』

「浅賀研究所?」

『浅賀研究所は聖遺物の研究所、そこが何者かに襲撃されたみたいなの!』

 

このタイミングでか!?

そう思ったが、すぐに考え直した。

このタイミングだからこそ、研究所を襲撃したのではないか。

更に言えば、今回の■■市のノイズ発生は研究所を襲撃した人物の仕業なのではないか?

 

「訃堂司令、その浅賀研究所の救援は俺が行きますか?今回の件と無関係じゃないでしょう?」

『……そうだな、頼めるか?』

『待て風鳴訃堂』

 

とキャロルちゃんが通信に割り込む。

 

「キャロルちゃん?」

『研究所にはオレが行く。今、B地区のノイズ召喚プログラムの破壊を終わらせた』

「はやっ!」

『その代わりノイズはまだ残っているがな』

『……わかった!悩む時間も惜しい、キャロルくんはノイズを殲滅しつつA地区まで戻ってくれ。そこでヘリを迎えに寄越す!一鳴くんは予定を変更してB地区に移動、ノイズを殲滅しC地区に向かってくれ!』

『わかった』

「了解です!」

 

そんな訳で。

色々考えなければならない事はあるようだが、とにかく。

B地区に向かうとしましょう!

 

「友里さん!ナビゲートお願いします!」

『OK!まずはさっき言った国道を北に───』

 

 

 

 

そして。

一鳴は地獄と化した街で。

キャロルは牢獄と化した研究所で。

 

天使に(まみ)えるだろう。




と、言うわけで地獄の幕開けでした。
次回は地獄の真骨頂みたいな話になるかと思います。よろしくね!

あと、FGO2000万ダウンロード記念ということで、星5一体プレゼントしてくれますね。
サンキューディライトワークス!
サンキュー英雄王。
皆さんは誰を貰います?
私は性能と可愛さで選んだ刑部姫か、股間と可愛さで選んだエウロペちゃんのどちらかです。
悩ましいネ!

ほな、また……。


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第十六話 地獄の天使②

仕事が忙しくて出来なかったメックヴァラヌスDイベントやろうと思ったら期間終了していたので初投稿です。

……グスン


「大変じゃ新吉!」

 

警報の鳴る中、浅賀研究所の所長である浅賀が助手を呼ぶ。

側頭部にのみ癖のある白髪を残した太った男であった。

 

「どうしたんだよ博士!」

 

そう答えるのは助手の五藤 新吉だ。

大きな眼鏡を掛けている。

新吉の声は浅賀の腰位の高さから聞こえてくる。

新吉は子どもなのだ。

子どもの身体を持つ大人なのだ!

 

浅賀研究所は聖遺物の持つ能力について研究する研究所であり、その能力を機械などの文明の利器を使うことで励起させたり、再現する事を命題としていた。

新吉の身体もそういった聖遺物の能力を再現した発明品の作用によるものだ。

浅賀が作り出した『変若水』の模造品を飲んだら身体が縮んでしまったのであった。

だが、小さくなっても頭脳は大人のままなのでそのまま雇われている訳であった。

 

「この研究所に襲撃者じゃ!」

「襲撃者!?」

 

新吉の顔が強ばる。

 

浅賀研究所は山奥にある研究所である。

それは、研究の内容が危険であり人工密集地ではもしもの時の被害が計り知れないので山奥に構えているのである。

だが、山奥の研究所ということは、逃げ場もないに等しい訳で。

 

「襲撃者の情報は!?」

「ノイズじゃ!それも新種の!」

 

そう言って、近くにあったモニターを操作する浅賀。

モニターは研究所の出入口を映し出す。

そのモニターを見た新吉は驚愕した。

 

「これは……ッ!」

 

 

 

 

18時30分。

■■市。B地区。

高層ビルや雑居ビルの建ち並ぶ、商業の盛んな地区だ。

本来ならば家に帰る途中のサラリーマンや、友だちと待ち合わせて繁華街に乗り出すOLが道を歩いている時間帯だ。

だが。

 

ノイズの現れた街に人は居ない。

ビルの窓は割れて、その下にはガラス片と血の跡。道には灰が積もり、乗り手を失った車が連鎖して事故を起こし、火の手を上げている。

そして。

人の代わりにノイズが道々を闊歩する。

 

「友里さん、B地区に到着しました!」

 

俺は友里さんに通信を繋いだ。

返答はすぐに来た。

 

『了解よ一鳴くん!ノイズの殲滅を開始して!と、いってもキャロルちゃんがある程度は撃破したはずだけれど……』

 

 

 

残ったノイズの数は?【1D10】

 

1 50%

2 50%

3 50%

4 別地区からノイズが流入して80%

5 40%

6 40%

7 30%

8 20%

9 10%

10 もうほとんどノイズはいないゾ(5%)

 

結果、【10】

 

 

 

『……もう50体ほどしか居ないわね』

「ですねー」

 

アームドギアでノイズを叩き潰しながら呟く。

どうやらキャロルちゃんはかなり頑張ったらしく、B地区に残ったノイズは50体しか残っていなかった。

そして今潰したので残り49体。

 

「とりあえずサクッと全部倒してC地区に行きますね」

『お願い!』

 

と、いう訳で。

特筆する事もなく、ノイズを倒しきり、C地区に行く事になった。

 

 

 

 

C地区。

住宅の多く存在する地区である。

ノイズ発生当時は夕御飯前であり、主婦や子どもの多くが家にいたのだろう。

B地区と同じく道に灰が積もっており、家々で火の手が上がる。

 

「C地区に到着しました!」

『了解よ!ノイズの殲滅とノイズ召喚プログラムの破壊をお願い!』

「了解!」

 

俺はアームドギアを構える。

家々に籠っていたノイズたちが飛び出し、俺に向かう。

 

 

 

ノイズ撃破率【1D6】

(現在0%)

 

1 30%

2 30%

3 40%

4 40%

5 50%

6 50%

 

結果、【6】

現在ノイズ撃破率、50%

 

 

 

「ドラァ!」

 

アームドギアのチャクラムを振り回す。

飛び掛かってきたノイズを切り裂き、焼き払う。

ノイズたちは何処からともなく現れて此方に駆けてくる。飛んでくる。飛び掛かる。

本来ならば多勢に無勢。

だが、俺のシンフォギアは一対多数も戦えるハイスペックシンフォギア。

邪悪を払うスダルシャンのシンフォギアだ。

 

「イヤーッ!」

 

スカートアーマーが開く。

中から小型アームドギア多数射出!

周りのノイズを切り裂き、焼き払う。

 

『一鳴くん!ノイズ撃破率50%突破!これで召喚プログラムの場所を探れるわ!』

「わかり!ました!お願い!します!」

 

友里さんからの通信に切れ切れに答える。

だって今戦闘中ですし、今もノイズが飛び掛かるし!

何処からともなくノイズが現れるのだ。

確実にノイズ召喚プログラムの仕業である。

また、密集した住宅と狭い道がノイズの身を隠すのを助けているようであった。

 

『……、……!見つけたわ!その場所から真っ直ぐ北に200メートル!』

「わかり!ましたァ!」

 

ノイズを倒しながら答える。

さて、真っ直ぐ北に200メートルという訳で、道も丁度真っ直ぐ続いている訳だ。

アレが出来るな!

調ちゃんの技をパク……リスペクトした技その2!

 

「ドリャぁ!」

 

目の前のノイズを叩き潰す。

そのままアームドギアを立てる。

俺のアームドギアはチャクラム。

輪っかの手裏剣だ。

輪、つまりドーナツめいて穴が開いている訳だ。

俺はその輪に片足を掛ける。

と、同時にアームドギア巨大化!

外側の刃高速回転!

もう片方の足で思いっきり地面を蹴る。

蹴った勢いと、高速回転する刃の力でアームドギア直進!

そう、これは調ちゃんのシュルシャガナの禁月輪を真似したもの。

その名も!

 

日輪航路

 

俺の乗るアームドギアは炎の轍を残して前進、道を阻むノイズを轢き潰していく!

 

「こりゃあいいや!楽だ!」

『残り30メートル!なにか見える?』

「……あれか!ノイズの密集する家があります!」

 

前方には無数のノイズが犇めき、その奥に大きな家があった。

恐らくは、あの家の何処かにノイズ召喚プログラムが起動している端末があるはず……。

 

 

 

プログラムの端末、破壊できた?【1D6】

 

1 無事破壊!

2 ノイズが邪魔ぁ!

3 無事破壊!

4 ノイズが邪魔ぁ!

5 ノイズが邪魔ぁ!

6 無事破壊!

 

結果、【6】

 

 

 

俺はそのままアームドギアを走らせてその家に乗り込んだ。

と、同時に小型アームドギアで辺りのノイズを破壊していく。

ノイズ召喚プログラムの起動している端末はリビングと思われる場所にあった。

家族共用だと思われるパソコンには逆さ五芒星の映像が映っていた。

 

「イヤーッ!」

 

車輪モードから手持ちサイズに縮んだらアームドギアを振るう。

パソコンは壊れて画面は何も映さなくなる。

 

「ノイズ召喚プログラム、破壊しました!」

『お疲れ様、周辺のノイズを殲滅して!』

「了解です!」

 

 

 

ノイズ殲滅にどれくらいかかった?【1D6】

 

1 5分

2 5分

3 5分

4 10分

5 10分

6 15分

 

結果、【3】

 

 

 

残ったノイズの殲滅は5分で終わった。

300体ほど残っていたノイズであったが、俺が道を行くだけで向こうから寄ってくるので殲滅には時間は掛からなかった。

シェルター前にノイズが集まっていたのが、少し危なかったが……。

 

『お疲れ様、残るはD地区だけだけれど、大丈夫?』

「ええ、大丈夫!まだまだいけますよ!」

 

子どもの頃から体力を作り続けた甲斐があった。

度重なる連戦にも俺は平気だった。

だが……。

 

「お母さぁん!どこー!お母さぁん!!」

「あぁぁぁぁ……ユウリ、ユウリぃぃ……」

 

シェルターから声が漏れ聞こえる。

母親を探す声。

子の死を嘆く声。

 

『一鳴くん……』

「大丈夫、大丈夫ですよ。友里さん。D地区までのナビゲート、お願いします!最速で最短で真っ直ぐ向かいますので!」

『……ええ、わかったわ!まずは国道に出て───』

 

俺はアームドギアを再び車輪モードにする。

輪に足を掛けて、アームドギア高速回転。

炎の轍を残してD地区に向かう。

 

……ああ、俺は大丈夫だ。

もっと早くノイズを倒せれば、もっと早くこの地区に来れたら、シェルターの中の子どもは母親を探さずに済んだのか。母親は子どもを亡くさずに済んだのか。

そんな、『もしも』なんて今は考えてる場合じゃない。

だから、俺は大丈夫。

今やるべきは一刻も早くノイズを殲滅して、ノイズ召喚プログラムを破壊して。

今にも死にそうな誰かを助ける事だから。

俺はそっと呟く。

自己に暗示させるように。

 

「そう、俺は大丈夫……。まだ戦える」

 

 

 

 

D地区。

小中高校、そして大学や研究機関。

そんな学術的な施設の並び建つ地区、それがD地区だ。

そして、ここも。

窓は割れて、車は事故を起こして火を上げて。

道には灰が積もっていた。

 

『ここで最後よ一鳴くん!』

「了解!サクッと終わらせてキャロルちゃんの援護に行きましょう!」

『そうね、始めましょう!』

 

 

ノイズ撃破率【1D6】

(現在0%)

 

1 30%

2 30%

3 40%

4 40%

5 50%

6 50%

 

結果、【3】

現在ノイズ撃破率、40%

 

 

 

飛行型ノイズが此方に向かって突進。

俺は小型アームドギアで迎撃、そしてノイズ撃破!

それを契機にノイズが向かってくる……!

 

「イヤーッ!」

 

アームドギアを横に振るう。

斬撃が炎を纏い飛ぶ。

これぞ、翼さんの『蒼ノ一閃』をパクったヒサツ・ワザ!

 

紅蓮一閃

 

飛ぶ斬撃はノイズに当たり、爆発!

周りのノイズを巻き込む。

 

「オラーッ!」

 

そのまま、ノイズ迎撃!

アームドギアを振るい、小型アームドギアを飛ばしてノイズを破壊していく。

 

『ノイズ撃破率40%突破よ!ノイズ召喚プログラムを探るわね!』

「お願いします!イヤーッ!」

 

友里さんの通信に答えつつ、振り向いてアームドギアを振るう。背後から攻撃してきようとしたノイズを迎撃!

 

『……見つけた!そこから東に100メートル!』

「……あれか!」

 

友里さんの指示した場所には建物が一つ。

恐らくは、大学か研究機関の建物!

 

「イヤーッ!邪魔だ!」

 

アームドギア一閃、ノイズ破壊!

俺は脚部から炎を噴出、跳躍する。

目的地までの道のりは曲がりくねっており、日輪航路では逆に時間が掛かってしまうのだ。

……思い付いたのがもう少し前なら、慣熟訓練していたのだが。

 

「悔いてる場合じゃない!」

 

雑居ビルの側面を蹴り、速度を上げる。

そう、今は悔いてる場合ではない。

一刻も早くノイズ召喚プログラムを破壊し、ノイズを殲滅しなければならないのだ。

 

「友里さん、到着しましたけど……」

『どうしたの一鳴くん?』

「いや、建物の出入口が閉まってて、何処から入ればいいのか……」

 

目の前の、内部でノイズ召喚プログラムが起動しているだろう建物は出入口が閉じているのだった。

ノイズ召喚プログラムが内部にあるのは間違いない。壁からノイズが出てきているから。

 

「出入口壊していいんですかね?」

『今は緊急事態、もちろん良いわよ!……訃堂司令も許可を出したわ!』

「わかりました!イヤーッ!」

 

俺は出入口にアームドギアを投げて出入口破壊。

ガラス戸は壊れて、中に居たノイズは切断!

そして俺はそのまま突入した。

 

「友里さん、建物内ですけど聞こえますか?」

『ええ、問題ないわ!プログラムはそこから南東に12メートル。恐らく上の階よ!二階か三階!階段を探して!』

「わかりました!」

 

俺はノイズを破壊しながら建物内を進んでいく。

なんの研究をしていたのかはわからないが、大きな建物である。金があったのか、大事な研究だったのか……。

 

「階段あった!」

 

俺は階段を駆け上がる。

無数のノイズを倒しながら……。

 

 

 

プログラムの端末、破壊できた?【1D6】

 

1 無事破壊!

2 ノイズが邪魔ぁ!

3 無事破壊!

4 ノイズが邪魔ぁ!

5 ノイズが邪魔ぁ!

6 無事破壊!

 

結果、【4】

 

 

 

「あ"ぁ!もう、邪魔だ!」

 

ノイズを切り伏せながら叫ぶ。

さっきから前に進めないままであった。

大きな研究所内で多くのノイズが潜んでいたのだろう。

無数のノイズが俺めがけて直進してきたのだった。

 

『落ち着いて、一鳴くん!』

「わかって、ますよ!イヤーッ!」

 

そう答えるものの、焦りは生まれる。

こうしている間にもどこかで人がノイズに灰に変えられているかもしれない。

 

その焦りで、隙が生まれたのだろう。

俺は背後からの攻撃を受けてしまった。

 

「うぐっ」

『一鳴くん!?』

 

思わず、うずくまってしまう。

そして、ノイズたちはそんな隙を見逃さない。

無数のノイズが俺にのし掛かり、圧死させようとする。

 

「……っあ!がぁ……!」

『一鳴くん!?応答して!』

 

そう言われるが、潰されては声を出せない。

このまま、死んでしまうのだろうか……。

 

………………………………。

……………………。

………。

 

それで、いいのだろうか?

シンフォギア装者になると決めて転生して。

響ちゃんや未来ちゃんと友だちになって。

毎日体力作りをして。

そして、シンフォギア装者になって。

 

キャロルちゃんとの特訓の日々を生き抜いて。

訃堂司令と弦十郎さんとの特訓の日々で地獄を見て。

 

孤児院で調ちゃんたちと出会って。

皆と友だちになって。

何故か恋人が三人も出来て。

 

港湾で人を助けて。

シェルターで誰かの泣き声を聞いて。

ここで、諦めていいのか?

 

「……いい……わけ……」

 

腕に力を入れる。

床を押して隙間を作る。

 

「ない……」

 

少しでも隙間があればいい。

アームドギアを回転させる隙間があれば……!

 

「だろ……う」

 

ほんの少し。

たった一センチの隙間。

だが、アームドギアを回すのには十分だ。

 

「がぁ!!!」

 

叫ぶ。

力を込めて。力を振り絞って。

それに応えるかのようにアームドギア回転、炎発生!

 

「まだだァ!」

 

さらにアームドギア高速回転!

炎もさらに強く巻き上がる。

巻き上がる炎は辺りのノイズを焼いていく。

だが、俺は炎に焼かれない。

この炎はアームドギア由来の、スダルシャン由来の炎。

使い手は燃やさない。

だが、高速回転する刃は。物理的な刃は俺を傷付ける。

だから隙間を開ける必要があったんですね。

そうして、周りのノイズを焼き払い、何とか立ち上がる。

 

「ハァーッ、ハァーッ!」

『一鳴くん!?』

「大丈夫、あ、いや大丈夫じゃないです。身体中が痛いですけど、大丈夫です。戦えます!」

 

アームドギアを振り回して答える。

うん、死にかけたせいで返答がおかしいね……。

 

『……一鳴くん』

「大丈夫っす。プログラムの元へ急ぎます!」

 

友里さんは心配してくれている。

きっと、俺の声からも俺がキツそうだってわかるのだろう。

でも、ここで退くわけにはいかない。

まだ、ノイズもノイズ召喚プログラムも破壊していないから。

 

 

 

プログラムの端末、破壊できた?【1D6】

 

1 無事破壊!

2 無事破壊!

3 無事破壊!

4 ノイズが邪魔ぁ!

5 無事破壊!

6 無事破壊!

 

結果、【2】

 

 

 

死にかけて頭が冷えたのか、俺は冷静にノイズを対処していく。

切り、薙ぎ、焼き、潰す。

そうして、何とかノイズ召喚プログラムのある場所にたどり着く。

 

そこは、研究室の一つだろう。

狭い部屋にところ狭しと本が置かれている。

そしてその部屋の奥。

パソコンの置かれた机が一つ。

持ち主は恐らく灰となったのだろう……。

俺は小型アームドギアでパソコンを破壊した。

 

「友里さん、端末を破壊しました」

『了解、ノイズの殲滅に移行して!……無理しないでね』

「……ここが無理のしどころですよ。では、ノイズを殲滅しますね!」

 

 

 

ノイズ殲滅にどれくらいかかった?【1D6】

 

1 5分

2 5分

3 10分

4 10分

5 15分

6 15分

 

結果、【2】

 

 

 

D地区のノイズの殲滅には時間は掛からなかった。

恐らくは、あの研究所にほとんどのノイズが詰まっていたからであろう。

……いや、本当に死にかけた。

 

「お兄ちゃん、ありがとう!」

「この子達を助けていただき、なんとお礼を言えばいいか……」

 

小学校から助け出した子どもたちとその教師からお礼を言われる。

彼らは偶然体育館にあった地下倉庫に逃げて、ノイズのセンサーから逃れていたようであった。

 

「お礼なんて、いいんですよ。これが仕事ですし」

「では、あとは我々が……」

 

子どもたちと教師の保護を二課の黒服さんに任せる。

 

『全地区のノイズ殲滅および、ノイズ召喚プログラムの破壊は終了よ。本当にお疲れ様』

「友里さんもお疲れ様です」

『一鳴くんはこのまま本部で治療を受けてもらうわ』

「わかりましたぁ……」

 

流石にキャロルちゃんの援護には行かせてくれないようだ。

……圧死、されかけたからなぁ。

まだ全身痛いし。

 

「そういえばキャロルちゃんの方はどうなりました?」

『キャロルちゃんは浅賀研究所に着いたみたいね。……藤尭くん?』

 

どうやらキャロルちゃんの担当オペレーターは藤尭さんだが、その様子がおかしいらしい。

 

『……なんだよ、これ』

『藤尭くん?』

『こんなこと……あっちゃダメだ……!』

『ちょっと藤尭く……え、高エネルギー反応?』

 

一体、何が起こっているのか……。

 

『一鳴くん、A地区で高エネルギー反応!恐らくはノイズのものよ!』

「すぐに向かいます!」

『……大丈夫なの?』

「あと一戦ならば!友里さん、ナビゲートお願いします!」

 

俺は日輪航路でA地区に向かう。

正直、ちと身体がキツいけれども。

それでも、今ノイズを相手に出来るのは俺だけだから。

そうして俺は炎の轍を残してA地区に向かう。

 

 

 

 

そこで一鳴は天使に出会うだろう。

 

覚えておいてほしい、かの有名なベストセラーブックにおいて。

もっとも多くの人を殺したのは神であり、

天使なのだと。




メックヴァラヌスD復刻……どこ、ここ?
辛い、こんな時期なのに忙しい仕事で辛い。
せめてULTRAMANイベントはちゃんとやろう……。メカメカしいウルトラマンの話はよく分からないけど。プラモデルもあるよね、あれ。イベント面白かったらプラモデル買おうかな。

あと、FGO星5交換は刑部姫を選びました。
星5アサシンが欲しかったのよね。ジャックちゃんも欲しかったけれど、ウチのカルデア星4アサシンの層は厚いからサポート枠のおっきーにしようと思いました。
さぁ、おっきー。絆ポイント集めるために出掛けようねぇ!

……ではまた次回!


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第十七話 地獄の天使③

ゴールデンウィーク暇で執筆捗ったので初投稿です。


「こちらキャロル。浅賀研究所上空に到着した」

『了解!敵は見えるかい?』

「いや……全員研究所の中か、伏兵がいるかだろうな」

 

藤尭とそんなやり取りをするキャロル。

彼女は現在ヘリコプターに乗りこんでいた。

襲撃者が現れたという、浅賀研究所救援のためだった。

 

(イヤな予感がするな……)

 

キャロルは■■市で研究所襲撃の報告を聞いてからそう思っていた。

■■市での大規模ノイズ発生、それと重なるように研究所が襲撃された。

まず間違いなく、何らかの組織が動いている。

それが、国家によるものか、秘密結社によるものか。それはわからないが、ろくでもない事になるだろう、というはわかる。

故にキャロルは浅賀研究所の救援に立候補したのだ。

敵の本命はまず間違いなく浅賀研究所であり、その為に敵は全力を尽くすだろうと考えての事だった。

あとは、弟子である一鳴が人の邪悪と相対するのはまだ早いと考えて、である。

 

「我ながら過保護だな……」

『え、何か言ったキャロルちゃん?』

「何でもない、突入するッ!」

『了解!ナビゲートは任せてよ!』

 

キャロルはヘリから飛び降りた。

無論、ダウルダヴラのファウストローブは装着したままである。

 

(空中に身を晒しても、攻撃はなし。……外に伏兵も置いていないのか?)

 

いぶかしんだまま、研究所前に着地。

攻撃は一切なかった。

 

「こちらキャロル。無事研究所の入り口前に着地した。敵影はなし」

『了解。なにかあるかい?』

「なにか?……血の跡と……銃だな。銃が落ちてる」

 

入り口前にはバケツをぶちまけたかのように血の跡が壁と地面にベッタリと付いており、その近くに銃が落ちていた。

ライフル、という奴だろうが、キャロルは銃の種類には疎かった。

 

『うん、此方でも確認した。それはこの研究所の警備員が使っていた物と同種だね』

「銃と、血だけが残されている。……妙だな」

『うん、ノイズの仕業だとしたら灰がないね』

「ああ。そしてノイズでないなら何故身体がない?」

 

アルカ・ノイズの仕業か、とも考える。

だが、万物を分解可能なアルカ・ノイズでも分解したあとは赤い塵が残る。

それも、見当たらない。

 

「考えても仕方ない。突入するぞ!」

『うん。気を付けて!』

「無論だッ!」

 

そう言って研究所に入るキャロル。

一歩踏み入れた、その途端。

上から攻撃を受けた。

 

 

 

アンブッシュ対処出来た?【1D6】

 

1 出来なかった……

2 出来た

3 出来た

4 出来なかった……

5 出来た

6 出来た

 

結果、【5】

 

 

 

「ふん!」

 

敵のアンブッシュをダウルダヴラの弦で弾くキャロル。

 

「気配が丸わかりだッ!」

 

そのまま敵を叩き落とす。

キャロルもまた風鳴訃堂、弦十郎に鍛えられていたので、アンブッシュしてきた敵の気配がわかったのであった。

そうして、捕らえた敵の姿を見るキャロル。

 

「これは……ノイズ、か?」

 

捕らえたのはノイズであった。

だが、通常のノイズとは違うノイズであった。

極彩色の体は純白で、背中から白鳥のような翼が生えていた。

 

「藤尭、このノイズは二課のデータベースに存在するか?」

『……いや。そんなノイズ、データベースに載ってないよ』

「……そうか。どうする?生け捕りにするか?」

 

キャロルの疑問に答えたのは訃堂である。

 

『否、今やるべきは研究員の救出。刻んだ後の欠片を持ち帰ってくれればいい』

「わかった」

 

言うが早いか純白のノイズは輪切りになり、体組織分散!

 

(思いの外、堅かったな)

 

通常のノイズに比べて身体が堅かった、そうキャロルは思った。まるでノイズを改良したかのような……。

キャロルは思考を切り替えて、灰のようなノイズの体組織を懐に入れる。

 

「藤尭、研究員の救出に向かうッ!」

『了解!研究所の内部構造は把握済み!研究員の緊急避難区画は三つだよ!まずはそのまま真っ直ぐ進んで!』

「了解だッ!」

 

 

 

 

キャロルが辿り着いたのはメイン実験室であった。

道中、純白のノイズが数体襲ってきたものの、問題なく迎撃した。

 

「藤尭、入り口がロックされているぞ」

『ちょっと待って、ここから操作して…………開いた!』

 

藤尭の高速タイピングにより遠隔でメイン実験室の扉がロック解除される。

扉を開けるキャロル。

中には───

 

「遅かったかッ……!」

 

中には純白のノイズが一体だけ存在した。

 

「消えろッ!」

 

敵が行動に移す前に風の錬金術で切り刻む。

 

『生き残りは……』

「……居ないな」

 

メイン実験室の中を見渡すキャロル。

物の散乱した床。何か大きな物がぶつかったかのようにヒビの入り、へこんだ壁。ガラス管の中で静かに佇む聖遺物。

人の気配は何処にもなかった。

 

「藤尭。この部屋のロック履歴、辿れるか?」

『既に調べてるよ。襲撃を受けてから俺が開けるまで、この部屋のロックは開いていない』

「……そうか」

 

奇妙であった。

このメイン実験室、襲撃を受ける前までは確実に実験に使用していたように思われる。ガラス管の中にある聖遺物が証拠である。

ならば、実験していた者はどこに消えた?襲撃を受けてからキャロルが来るまでこのメイン実験室は密室だというのに。

純白のノイズが炭素変換した?否、この部屋にキャロルの倒したノイズ以外の灰はない。

 

「嫌な予感がするな……」

『……次の避難区画は二階、ナビゲートするね』

「わかった」

 

キャロルはメイン実験室を離れる。

振り向く事はなかった。

 

 

 

 

二階の大会議室。

それが、藤尭の示した第二の緊急避難区画であった。

そしてこの大会議室も電子ロックが掛けられていた。

 

「藤尭」

『……、よし開いた』

「突入する」

 

キャロルは十分に警戒して大会議室に入る。

中には純白のノイズが四体。

 

「ここもかッ!」

 

言うが早いかキャロルによる風の錬金術。

カマイタチが純白のノイズを切り刻む。

純白ノイズ全滅、かに思われた。

 

「まさか仲間を盾にするとはな」

 

純白ノイズの内の一体が仲間の影に隠れて攻撃をやり過ごしたのだ。

そして、生き残ったノイズがキャロルに襲いかかる……!

 

 

 

VS 純白ノイズ【1D10】

 

1 キャロル大ピンチ

2 純白ノイズ優勢

3 純白ノイズ優勢

4 互角

5 互角

6 互角

7 キャロル勝利

8 キャロル勝利

9 キャロル勝利

10 キャロル「所詮はノイズッ!」

 

結果、【8】

 

 

 

(間違いないッ!このノイズ、強い!)

 

純白ノイズの攻撃をいなしながら、確信するキャロル。

この純白ノイズ、攻撃の力強さも速さも、通常のノイズとは格が違うのだ。

ノイズの上位互換、そう思わせる強さである。

 

(だが、あの黒いノイズ程ではないッ!)

 

そう、キャロルと一鳴は現時点でカルマノイズと遭遇、勝利していた。

その経験は、確かにキャロルの力となっていた。

ダウルダヴラの弦で右手による攻撃を弾く。即座に対応し、弾かれた勢いで身体を回転させて更なる攻撃に繋げようとする純白ノイズ。

だが。

 

「甘いッ!」

 

純白ノイズの身体が固定される。

三方向から弦が伸びていた。一つはキャロルの両手。

残る二つは、密かに配置されたダウルダヴラの弦の集まった糸玉!

 

「千切れろッ!」

 

そう言ってキャロルは手を引き、糸玉は弦を巻き上げる。

純白ノイズの身体が四散!

戦いはキャロルの勝利であった。

キャロルは息を整える。

 

「藤尭」

『ロック履歴はさっきと同じ。俺が開けるまでここは開いていない』

「そうか」

 

先程のメイン実験室と同じ状況であった。

争った跡はあったが、人も死体も残っていない。

 

「……次だ」

『最後は三階、浅賀所長の書斎だよ』

 

 

 

 

浅賀所長の書斎への通路には純白ノイズが一体も居なかった。

スムーズに書斎へ辿り着いた。

 

「ロックは……されているだろうな」

『うん解除……え、そこはロックされていない!?』

「ええ、開いているわよ」

 

中から声が聞こえる。

 

「二課からの救助ね。私はアッシュ・哀原、ここの所長直属の研究員。話があるの。さぁ、中に入って」

『アッシュ・哀原……確かに研究員として登録されてる。罠ではなさそうだ』

「ならば話を聞かせてもらうか」

 

キャロルは書斎に入った。

中には太った丸メガネの壮年男性、所長である浅賀と子どもが二人。

 

「子ども、だと!?」

「あら、貴女も子どもでしょう?」

 

そう言うのはウェーブのかかった茶髪の少女。その声はアッシュ・哀原のものであった。

 

「俺は錬金術で年齢を止めてるだけだッ!」

「俺たちも聖遺物の出来損ないで若返っただけだよキャロル・マールス・ディーンハイムさん」

 

そう言ったのは大きなメガネをかけた男の子。

 

「貴様は?」

「五藤 新吉。哀原と同じ、博士の助手だよ」

「そしてワシが浅賀 博史じゃ。噂は聞いとるよキャロルくん」

 

自己紹介する浅賀。

 

「……キャロル・マールス・ディーンハイム。お前たちの救助に来た。色々聞きたいが、そちらの話が先だ」

「うむ、すまんの」

 

朗らかに言う浅賀。

だが、次の瞬間には真剣な顔つきになる。

 

「襲撃者の正体と目的がわかった」

「なんだと?」

 

浅賀は襲撃者、あの純白のノイズの正体と目的がわかったと言う。

 

「ここにはいざという時、研究所中の監視カメラの映像を閲覧、録画出来る設備があるのじゃ」

 

そう言って、パソコンを見せる浅賀。

哀原と五藤もパソコンを見せる。

そこには研究所中の研究室、会議室、警備員詰所等々の映像が映っていた。

 

「研究所が襲撃され、新吉とアッシュくんが避難してきてから研究所内の映像を見続けた。その結果、恐ろしい物を見たのじゃ」

 

ブルブルと震える浅賀。その背をさする哀原。

 

「恐ろしい、物……」

「こいつを見れば一発でわかるが。キャロルさん、これは本当に恐ろしい映像なんだ。見たくないなら……」

「いや、見る」

 

見たくないなら、と言う五藤。

キャロルは即答した。

かつては父の命題を解き明かす為、世界の分解という計画を立てて、数百年生きたキャロルである。

並大抵の物では怯まない覚悟があった。

 

「わかった。いくぜ……」

「藤尭、映像見えてるか?」

『うん、見えてる。訃堂司令と弦十郎さんも見てるよ』

「了解した」

 

キャロルのファウストローブや一鳴のシンフォギアには発令室に映像を送るための小型カメラが備え付けられている。

 

パソコンの動画が再生される。

現場は一階のメイン実験室のようだ。

一人の女性が奥の方で三角座りをしている。恐怖で震えているようだ。

だが、入り口からあの純白のノイズが現れる。

位相差障壁で壁を通り抜けたのだろう。

驚愕の顔を浮かべる女性。近くにある物を純白ノイズに投げ付ける。

物が純白ノイズに当たるが、純白ノイズは怯まず進む。位相差障壁ですり抜けていない。アルカ・ノイズのように位相差障壁が弱いのかもしれない。

女性に近付いた純白ノイズが女性を投げる。

壁に当たる女性。壁にはヒビ。女性はぐったりと倒れて動かない。

また女性に近付く純白ノイズ。

 

そして、恐ろしい事が起こった。

 

おもむろに自身の翼から羽を一つむしり取る純白ノイズ。

そのまま女性に手を伸ばし、その手が女性にめり込んだ。

暴れる女性。異常に気付いたようだ。

手を引き抜いた純白ノイズ。その手には羽はなかった。

ボコボコと膨れ上がる女性。ジタバタと手足を動かす。だが、変化は止まらず。

 

『……なんだよ、これ』

 

藤尭が震えた声を上げる。

キャロルは声を上げなかった。

 

映像は続く。

女性の服は肉体に飲まれ、膨れ上がる肉体は白く変色していく。背中の肉は盛り上がり細かな部位が無数に生成されていく。それはまるで羽のようだ。

いつの間にか、女性は暴れていない。変化を静かに受け入れている。

───そして。

 

『こんなこと……あっちゃダメだ……!』

 

藤尭の歯が鳴る。

キャロルは静かに映像を見ていた。

 

映像には純白ノイズが二体。

一体はメイン実験室に侵入したもの。

もう一体は、女性だったものだ。

人が、ノイズになったのだ。

ノイズが一体、扉をすり抜けて出ていく。

もう一体は静かに佇んでいる。

 

そこで映像は終わった。

 

「あのノイズは、人だった、という事か……」

「ああ、そうだ。あのエンジェノイズ……俺たちがそう名付けたあの白いノイズはこうやって仲間を増やしたんだ」

 

衝撃的な映像であった。

人が、ノイズに変わる。

そして変化したノイズを殺したのは───

 

『キャロルくん、聞こえるか?』

 

聞こえてきたのは弦十郎の声。

 

「……ああ。藤尭は?」

『藤尭は眠らせた。精神の限界が来ていたからな。ここからは俺がオペレーターをやる』

「そうか」

『キャロルくんは大丈夫か?』

「ああ、問題ない」

 

キャロルは頬を叩く。

世界の分解という命題の下、オートスコアラーの動力たる思い出を集める為に、あるいは必要な聖遺物を持っているという理由でキャロルは既に人を殺している。

だから問題ない。キャロルはそう考える。

心のうずきを押し殺して。

 

「それで浅賀博士、奴らの目的は?仲間を増やしてまで、何を望む……!?」

「うむ……!奴ら、地下の聖遺物保管庫が目的じゃ!」

「聖遺物保管庫?」

「そうじゃ。厚さ二メートルの鋼鉄に阻まれた巨大な金庫。それが聖遺物保管庫。奴ら、そこに集まって保管庫の入り口を削っておる」

 

そう言って映像を見せる浅賀。

映像には純白の───エンジェノイズが蠢き保管庫入り口に取り付く光景が映っていた。

 

「エンジェノイズの位相差障壁は弱い!厚さ二メートルの壁は通り抜けられんようじゃ」

「保管庫には今何が入っている?」

「うむ、去年発掘された聖遺物、神獣鏡が入っておる!」

『神獣鏡、だとぉ!?』

 

弦十郎が叫ぶ。

 

『神獣鏡は二課、ひいては日本の最重要機密、それを知り得る者がいたということか……!』

 

訃堂が唸る。

 

「キャロルくん!地下の聖遺物保管庫へ行き神獣鏡を守ってくれ!あれは誰にも渡してはいけないんじゃ!」

 

 

 

 

 

19時。

■■市、A地区。

平時ならば繁華街として、老若男女問わずに賑わう地区である。

だが、現在はビルは焦げて百貨店は崩れて、地面に灰が積もっている。

 

そんなかつての繁華街に炎の轍を引き連れて、(かずなり)が辿り着く。

 

「友里さん、A地区に到着しました!ノイズはどこに!」

『ノイズ反応、そこから真っ直ぐ50メートル先よ!エネルギー反応更に増大!何か見える!?』

 

そう言われて辺りを見渡す。

空に、なにかが居た。

それは白かった。

それには翼が生えていた。

それは均整の取れた筋骨隆々の肉体であった。

顔にあるべき目、耳、鼻はなく、代わりにノイズのような液晶めいた結晶が付いていた。

 

「友里さん、あれ、なんでしょう?」

『……高エネルギー反応はアレからよ』

 

そう話す友里さんはどこか放心しているようだった。

俺も放心していた。

アレは美しかった。

一瞬、心を失うぐらいに美しかった。

 

純白の肉体も。

羽ばたく翼も。

伸びる手足も、全て。

美しかった。

 

「遅カッタナ、シンフォギア」

 

初めは気付かなかった。

その、雑音混じりの声が、誰から発されたものなのかが。

一瞬後、気付く。

あの白く、美しい何かが話したのだ。

 

「お前、何だ?」

 

出た言葉がそれであった。

その言葉に白い何かが答えた。

 

「我ハ神霊ツァバト、貴様ラ【ルル・アメル】ノ造物主」

 

 



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第十八話 地獄の天使④

ゴールデンウィークなので初投稿です(ざっくり)


神霊ツァバト、そう名乗った白い何か。

俺たちルル・アメルの造物主、確かにそう言った。

このシンフォギア世界において、人を、生物を創ったのはカストディアン・アヌンナキであり、改造執刀医シェム・ハである。……筈だ。

 

ならばあのツァバトはカストディアン・アヌンナキの一人なのだろうか。

いや、ツァバト。その名は聞いた事がある。確か前世のゲームに出てきた覚えがある。

天使と悪魔の出てくるゲームで、ツァバトはラスボスの───

 

「ドウシタ、イキナリ黙ッテ」

 

と、ツァバトが聞く。

小首なぞ傾げている。

 

「いや、ルル・アメルとか造物主とか出てきたからな。ちょっと理解が及ばなかった」

「ダロウナ。矮小ナ人ノ子ヨ」

「矮小とは言ってくれる」

「事実ダロウ?」

 

クックッ、と嘲笑うツァバト。

その様は傲慢で、酷薄で、美しかった。

 

「ならば偉大なるツァバト様は矮小な人間の為に言葉の意味を教えて下さるのでしょうか?」

 

うやうやしく俺は聞いた。

目の前のツァバトが本当に造物主なのか、それとも嘘をついているのか。本当のところがわからない以上、こうやって情報を引きずり出すのが最善であろう、と考えたのだ。

 

「教エテモ無駄ナノダ。我ラト貴様ラ、忌々シキ月ノ光デ真ナル意思ノ疎通ハ不可能。我ガ言葉ニ雑音ガ混ジルヨウニ」

「月の光……?」

 

とりあえず目の前のツァバトは【バラルの呪詛】について知っているようだ。

バラルの呪詛。前世のうろ覚えの記憶では月の遺跡から発せられるネットワークジャマーで、これのせいで人々は統一言語を失い、人と神は相互理解出来なくなった。

起動させたのはエンキ、というカストディアン。フィーネの恋人でもあった人物。

 

うろ覚えだが、シェム・ハが統一言語を使って人の身体を乗っ取って復活するから、彼は人々を守る為にバラルの呪詛を起動させた。

そして統一言語の中に潜むシェム・ハは封印されて甦れなくなった。

確か、それで合っている筈だ。もう十年以上も昔の話だし、間違ってるかもだけど。

 

『ねぇ一鳴くん、聞こえるかしら?』

「了子さん……?」

 

了子さんからの通信。

 

『ツァバトにね、【バラルの呪詛】について聞いてみてくれないかしら?』

「わかりました」

 

恐らくは、フィーネとしての意識が出てきているのだろう。

俺にバラルの呪詛について聞くよう指示してきた。

そうだ、フィーネはエンキが人々を守る為にバラルの呪詛を起動させた事を知らないのだ。

 

「偉大なるツァバト様は【バラルの呪詛】、という言葉をご存知でしょうか?」

「……フィーネノ入レ知恵カ?」

 

速攻で見抜かれた。

でも俺は了子さんがフィーネという事を知らない筈な訳で。

 

「フィーネ?」

 

と聞くしかなかった。

 

「コレ以上ノ問答ハ無意味ダ」

「フィーネが怖いのか?」

 

俺はあえて挑発する。

挑発して怒らせるのもこういう時のテクニックだって、昔に読んだ小説に書いてあったからね。

 

「クク、アカラサマナ挑発ダ。怖クハナイガ、面倒ナノデナ」

 

そう言って右手の手のひらをこちらに向けるツァバト。

人と同じように指が五本。

その手のひらが光る。

嫌な予感がした俺は地面を蹴って後退。

その一瞬後。

俺が立っていた場所の地面が抉れていた。

 

「レーザーか……?」

「神ノ威光ダ、シンフォギア。甘ンジテ受ケヨ!」

 

そんな訳で戦闘開始である。

……俺、満身創痍なんだけどネ!

 

 

 

対ツァバト戦【1D10】

 

1 万軍の主の本領発揮

2 ツァバト優勢

3 ツァバト優勢

4 ツァバト優勢

5 ツァバト優勢

6 互角

7 互角

8 互角

9 互角

10 一鳴優勢

 

結果、【4】

 

 

 

ツァバトの閃光が幾条も走る。

俺も当たるまいと、走り、跳び、アームドギアで防ぐ。

だが、それでも。

左肩に閃光を受けてしまう。

 

「うわぁだっ!!」

『一鳴くんっ!?』

 

友里さんが呼び掛ける。

左肩の攻撃、貫通はしていないがダメージは甚大らしく、左腕に力が入らない。動きはするものの、物を持つことは出来ないだろう。

 

「大シタコトハナイナ、シンフォギア」

 

と、ツァバト。

 

「こちとら連戦の上に満身創痍なんでね。手加減してくれると嬉しいんだけど?」

「口ノ減ラナイ奴ダ」

 

閃光発射!

アームドギアで防ぐ。

右腕しか支えられないから、衝撃が重い。

 

「我ガ契約者ガ貴様ラノ強サヲ懸念シテイタガ、所詮ハ【ルル・アメル】!我ニ勝テル道理無シッ!」

 

攻撃を受けながら俺は考える。

今、こいつは【契約者】と言った。

この神霊には契約者……つまり協力者がいるということか……?

そしてその契約者は此方を知っている……。

更なる情報を引き出そうと思うも、攻撃が激しく、口を開くことも出来ない……!

 

 

 

対ツァバト戦その2【1D10】

 

1 万軍の主の本領発揮

2 ツァバト優勢

3 ツァバト優勢

4 ツァバト優勢

5 ツァバト優勢

6 ツァバト優勢

7 互角

8 互角

9 互角

10 一鳴優勢

 

結果、【7】

 

 

 

「ドウシタドウシタ、シンフォギア!」

 

そう言いながら閃光を連射するツァバト。

閃光は俺やアームドギアだけでなく周りの地面にも当たり、土煙を起こす。

……チャンスか?

 

俺は密かにスカートアーマーを開閉させ、中の小型アームドギアを射出。

直ぐにはツァバトへ向かわせず、炎を溜めさせる。

その瞬間は直ぐに来た。ツァバトの攻撃が一瞬途切れたのだ。

 

「行けッ!」

 

小型アームドギア、高速で直進!

溜めた炎が推進力を爆発させて速度倍化!

小型アームドギアはツァバトの右手を切り落とす。

 

「ナッ!?」

「もう一発だッ!!」

 

俺は右腕だけでアームドギア投擲!

アームドギアはツァバト目掛けて飛んでいく。

しかしツァバトは左手でアームドギアを弾く。

 

「マダソンナ(ちから)ガアッタトハナ、シンフォギア!」

「お褒めに預り光栄だよ!」

 

さて。

必死こいてツァバトの右手を切り落としたものの、相手はまるで気にしていない。

……痛覚とかないのかしら?

 

 

 

対ツァバト戦その3【1D10】

 

1 万軍の主の本領発揮

2 ツァバト優勢

3 ツァバト優勢

4 ツァバト優勢

5 ツァバト優勢

6 互角

7 互角

8 互角

9 互角

10 一鳴優勢

 

結果、【5】

 

 

 

ツァバトは左手を向ける。

左手が光り、閃光発射!

転がって避ける。

 

そりゃそうだよなぁ。

右手で出来ることは左手でも出来るよなぁ!

 

「無様ダナ、シンフォギア」

 

転がって避ける俺を見て言うツァバト。

 

「見テイテ哀レダ。一撃デ終ワラセテヤル!」

 

ツァバトの左手に集まる光が大きくなる。

そして、光は伸びて剣めいた形状に変化!

その場で左手を振るうツァバト。

 

「コンナモノカ」

 

遠目でもわかる。

アレは確実に此方を殺せる剣だ……!

 

「サラバダ」

 

ツァバトが背中の翼を羽ばたかせる。

大きく、大きく羽ばたかせ、そして。

此方に直進!直接切り殺すつもりだ!

小型アームドギアで迎撃?間に合わない!

アームドギアを生成し防御?間に合わない!

動かない左腕を囮に逃げる?…………これしかない。

 

俺は覚悟を決めた。

ツァバトの方へ一歩踏み込む。

ツァバトが俺を斬る瞬間に、右前方に向かって回避。左腕を囮に逃げる。

左腕は斬り落とされるだろうが、命は助かる。

幸運なら、切り口が綺麗で後からくっ付けられるかもしれない。

 

こんな時に前世の記憶を思い出した。

シンフォギアXVでのエンキとシェム・ハの戦闘。

腕を白銀に変えられたエンキは全身が白銀となる前に自らの腕を斬り落としてシェム・ハを殺すのだ。

今と同じ状況じゃないか。

そして。

ツァバトもシェム・ハ、シェム・ハ・メフォラシュも。

ヘブライの神の別名を表す……!

 

死を前にして時間がゆっくりと流れる。

ツァバトが目前まで迫る。

左手を振りかざす。

俺は一歩踏み込んで回避準備。

だが。

ツァバトは俺を見る。見続ける。

……あぁ、見抜かれた。

 

回避運動する俺に向けて光の剣が振り降ろされる。

俺は死ぬだろう。

だから、せめて。

目は瞑るまい。

そう思ってツァバトを見続ける。

そして気付いた。

 

ツァバトの全身にヒビが入っていることを。

ツァバトの翼が既に崩れていることを。

もしかしたら、そう思った。

右腕で思いっきりツァバトを押す。

ツァバトの身体はバランスを保てず体勢が崩れる。そして俺も押した反動で後退。

 

転げ回る俺。

そしてツァバトも地面に激突。

 

「ぐぅぅぅっ……!」

「ガァァァッ……!」

 

両者共に呻き声を上げる。

俺はもう全身が悲鳴をあげている。

だが、ツァバトのダメージはそれ以上だった。

手足は崩れて原型は無く、翼は折れてもがれていた。

 

「ヤ■リ……【主天使】■駆体デハ我■(ちから)■耐エ■■ヌ■……!最低■モ【座天使】デ■■レバ」

 

その言葉はもはや聞き取る事叶わず。

辛うじてわかる【主天使】の駆体、【座天使】という言葉からツァバトが本来の身体でない事がわかった。

 

「ぐぅ……お前、全力じゃなかったのか?」

全力(ぜんりょく)■■タ……!ダガ、■ノ駆体デハ我ガ■引キ出■ヌ!」

 

そう言う間にもボロボロと崩れていくツァバト。

 

「■■デ終ワリ■。……マタ会■■シン■■ギア……」

 

そう言い残して灰に変わるツァバト。

雑音混じりだったけど、「また会おうシンフォギア」って言ったよなぁアイツ。

会いたくねぇなぁ!

 

『一鳴くん!応答して一鳴くん!』

「あだだ……聞こえてますよ友里さん」

『直ぐに医療チームを派遣させるわ!』

「おねがい、します……」

 

意識がもうヤバい。

ヤバいけど。とにかく。

ツァバトを撃退出来たようだった。

 

 

 

 

同時刻。

浅賀研究所。

聖遺物保管庫前、地下通路。

 

キャロルはそこに居た。

聖遺物保管庫を、保管庫の中の神獣鏡を守る為に。

浅賀、新吉、哀原は今も三階の書斎に隠れている。どうやらエンジェノイズは三階までは上がってこないらしい。

人を殺すより、神獣鏡の方が優先らしかった。

 

地下通路にはエンジェノイズが陣取り、保管庫の扉を削り続ける。

その数おおよそ、10体。

 

「減っているな……」

『ああ……』

 

エンジェノイズの数が減っていた。

三階のパソコンで見たときにはもっと数が居たように思えたのだが……。

 

『キャロルさん、聞こえる!?』

 

と、哀原からの通信。

 

「どうした?」

『奴ら、貴女が出ていってしばらくしてから合体しだしたのよ!』

「は、合体?」

 

信じられぬ言葉に耳を疑うキャロル。

しかし、よくよくエンジェノイズを見てみればキャロルが見てきたエンジェノイズよりも大きく、そして逞しくなっている気がした。

 

「確かに姿が変わっているな……」

『気を付けて!奴ら、十体で一体になったのよ!』

「つまり、強さも十倍と言うことか……!」

 

その言葉に反応するかのように、エンジェノイズたちがキャロルたちの方へ振り向く。

そしてキャロルに飛びかかる……!

 

 

 

対エンジェノイズ(強)軍団!【1D10】

(残り10体)

 

1 キャロルにダメージ!

2 キャロルにダメージ!

3 拮抗

4 拮抗

5 エンジェノイズ1体撃破

6 エンジェノイズ1体撃破

7 エンジェノイズ2体撃破

8 エンジェノイズ3体撃破

9 エンジェノイズ4体撃破

10 エンジェノイズ半数撃破!

 

結果、【1】

 

 

 

キャロルは迎撃しようとした。

だが、遅かった。

 

「ぐぅっ!」

 

エンジェノイズに殴られたのだ!

 

(速いッ!)

 

ゴロゴロと転がりながら体勢を整える。

そんなキャロルを狙い飛びかかるエンジェノイズたち。

キャロルはダウルダヴラの弦を巧みに操り攻撃を弾く。

 

(重いッ!)

 

だが、エンジェノイズの攻撃が重く弾ききれない!

 

『キャロルくんっ!』

「問題ないッ!」

 

弦十郎の言葉に荒く返すキャロル。

実際、返す余裕など無かった。

それを見たエンジェノイズたち、5体が保管庫の扉に戻る。

 

「舐めてくれるッ!」

 

エンジェノイズたちはキャロルの相手は5体で十分と判断したのだ。

 

 

 

対エンジェノイズ(強)軍団!【1D10】

(残り10体)

 

1 キャロルにダメージ!

2 キャロルにダメージ!

3 拮抗

4 拮抗

5 エンジェノイズ1体撃破

6 エンジェノイズ1体撃破

7 エンジェノイズ2体撃破

8 エンジェノイズ3体撃破

9 エンジェノイズ4体撃破

10 エンジェノイズ半数撃破!

 

結果、【9】

 

 

 

キャロルは本気を出すことにした。

背中のパーツ展開、中には弦!

弦が揺れる、響く!

弦はキャロルのフォニックゲインと魔力を増幅、そして水、火、風、土の属性による同時錬金術攻撃!

辺りの壁や床を抉りながらエンジェノイズ4体撃破!

 

「ハァハァ、どうだ!」

 

その言葉に答えるように保管庫の扉を壊していたエンジェノイズが戦闘に戻る。

 

 

 

対エンジェノイズ(強)軍団!【1D10】

(残り6体)

 

1 キャロルにダメージ!

2 キャロルにダメージ!

3 拮抗

4 拮抗

5 エンジェノイズ1体撃破

6 エンジェノイズ1体撃破

7 エンジェノイズ2体撃破

8 エンジェノイズ3体撃破

9 エンジェノイズ4体撃破

10 エンジェノイズ5体撃破

 

結果、【7】

 

 

 

「ふんッ!」

 

 

高重力エネルギー球を発射するキャロル。土属性の応用錬金術!

高重力エネルギー球はエンジェノイズ2体を飲み込み、潰す!

 

「残り4体!」

 

残ったエンジェノイズたちの攻撃を避けながら言い放つキャロル。

 

 

 

対エンジェノイズ(強)軍団!【1D10】

(残り4体)

 

1 キャロルにダメージ!

2 キャロルにダメージ!

3 拮抗

4 拮抗

5 エンジェノイズ1体撃破

6 エンジェノイズ1体撃破

7 エンジェノイズ2体撃破

8 エンジェノイズ3体撃破

9 エンジェノイズ4体撃破

10 エンジェノイズ4体撃破

 

結果、【8】

 

 

 

「お前たちは強い、だが近寄らなければ!」

 

合体したエンジェノイズたちはパワー、スピード共に強くなっている。

しかし、遠距離での攻撃が無く、故にこそキャロルは遠距離での攻撃を徹底した。

故にこその2度目の四属性同時攻撃!

3体のエンジェノイズが破壊された。

 

「残ったのは1体か」

 

その残った1体は静かに佇んでいた。

 

「なんだ……?」

 

突如動かなくなったエンジェノイズを警戒するキャロル。

しばらくすると、エンジェノイズの液晶部分が点滅し始める。

……なにかを受信しているようだった。

 

「何をする気だッ!」

 

そう言いながら錬金術の風属性真空刃で攻撃するキャロル。

真空刃がエンジェノイズに当たる……直前。

光の壁に真空刃が阻まれる。

 

「なんだ……?」

「■■■……」

 

エンジェノイズが突如発音!

しかし、雑音にまみれて意味がわからない。

そのエンジェノイズは突如として振り向くと、保管庫へ向けて走る。

 

「な……ッ!待て!」

『待つんだキャロルくん!』

■■コ■■■動(自爆コード起動)

 

エンジェノイズを止めようとするキャロルを制止させる弦十郎。

その判断は正しかった。

エンジェノイズは突如として爆発!

自爆したのだ!

キャロルは即座にダウルダヴラの弦で自身を囲い、繭めいてガード。

爆発の衝撃は繭を揺らし粉砕していく……。

 

「ぐぅぅぅっ……」

『キ■ロル■ん!』

 

二課との通信が不安定になる程の爆発!

キャロルはなんとか繭を維持して身を守る。

そして……。

 

「まさか、これ程とはな……」

 

衝撃波が収まり繭を解除するキャロル。

地下通路はズタズタになり、保管庫の扉は破壊され、小さく隙間が空いている。

 

「最後の一撃、といったところか」

『だが神獣鏡は守り抜いた。よくやったキャロルくん』

 

そう弦十郎は労う。

たしかに神獣鏡は守り抜いた。

だが、エンジェノイズに変えられた人々は救えただろうか?そのエンジェノイズを倒した己は……。

 

『キャロルくん、今は三階の三人を連れて脱出を』

「わかった」

 

キャロルは思考を切り替える。

地上階へ向かって歩きだした。

その時。

 

「あらあら、タイミングが悪かったかしら」

 

女の声がした。

哀原の声ではない、聞いたことのない女の声。しかし姿が見えない。

キャロルは即座に戦闘体制を取る。

 

「何者だッ!」

「名乗る程の者ではございませんわ」

 

そして。

キャロルの腹に衝撃!

殴られたのだ。

キャロルは壁に叩きつけられる。

 

「少し、気絶していただきますね?」

「……ッ!」

『キャロルくん!しっかりしろキャロルくん!』

 

弦十郎の声が薄れゆく意識に響く。

そして。

 

「ごめんなさい」

 

という言葉を最後に意識を失った。

 

 

 

 

「しっかりして!キャロルさん!」

 

頬を叩かれる。

意識がゆっくりと覚醒する。

 

「……あ、哀原?」

「大丈夫!?指何本に見える!?」

「三本、だ。うぅ、一体なにが……」

 

頭を押さえるキャロル。

そして記憶を思い出していく。

自爆したエンジェノイズ。突如として現れた見えない女。神獣鏡。

 

「そうだ、神獣鏡!」

 

叫ぶキャロル。

だが、哀原の顔は暗い。

 

「キャロルさん、神獣鏡なんだけれど……」

「盗まれたよ」

 

保管庫から歩いてくる新吉。

 

「なん、だと……?」

「盗まれたんだ、キャロルさん」

「は?」

 

新吉の方を見るキャロル。

その後ろには保管庫の扉。

扉は今や大きな隙間が空いていた。

自爆で空いた隙間とは比べ物にならないくらいに。

 

「キャロルさん、一体なにがあったの?監視カメラで見ていたら、エンジェノイズが突然爆発してカメラが壊れるし」

「嫌な予感がしてみれば、キャロルさんは気絶してて神獣鏡は盗まれていた」

「女だ」

 

キャロルは一部始終を説明した。

エンジェノイズ自爆の後、目に見えない女に気絶させられた事を。恐らくはその女が神獣鏡を盗んだのだろうと。

 

「そうだったの……」

「その女がエンジェノイズを……!」

 

怒りに燃える新吉。

 

『キャロルくん!無事だったんだな……』

 

弦十郎からの通信!

 

「風鳴弦十郎、すまない。神獣鏡を盗まれた……」

『そうだったか……。キャロルくんは大事ないか?』

「ああ、なんとかな」

 

立ち上がるキャロル。

 

「おーい新吉!アッシュくん!あった!あったぞ!」

 

と、保管庫から浅賀が駆けてくる。

 

「キャロルくん!起きたんじゃな!」

「どうしたんだよ博士?」

「うむ、神獣鏡があった!」

「は?」

「盗まれたんじゃないのか?」

「盗まれたのは研究用にわかりやすい場所に置いておいた欠片!奥の方に保管していた予備には手を付けておらんかった!」

 

どうやら、女は神獣鏡を全て盗んだ訳ではないらしかった。

 

「じゃが、研究用の神獣鏡でも危険なものじゃ……。二課にも報告はあげておくがの……」

 

キャロルは奥歯を噛み締める。

神獣鏡を守れなかった。

悔しかった。

 

『キャロルくん、とにかく二課に帰還してくれ。■■市のノイズ召喚も収まったからな』

「……わかった。一鳴は?」

『満身創痍だが、命に別状はない。安心してくれ』

「そうか……」

 

一鳴が生きていた。

その言葉でほんの少し。

心が暖かくなった。

 

 




ツァバトくん、台詞をカタカナに変換するのが面倒なのでしばらくは出さねぇ(鋼鉄の意思)


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第十九話 地獄のあとしまつ


邪悪なるゴールデンウィーク後の二週連続土曜日出勤を倒したので初投稿です。


 

2039年10月20日に■■市で発生した大規模ノイズ災害は死者8000人以上、重軽傷者一万人以上に上った。ノイズによる被害だけでなく、事故や火災による被害も多かった。

これは戦後最大のノイズ災害であり、人々にノイズの恐ろしさを刻み込んだ。

 

また、その裏ではエンジェノイズと呼称する事になる新種のノイズと謎の女による浅賀研究所襲撃事件が発生。キャロルちゃんが救助と迎撃に向かうも神獣鏡を強奪された。

 

そして神霊ツァバトを名乗る謎めいた敵の存在。シンフォギア装者である俺を殺す直前まで追い詰めた強敵。

■■市に現れて俺を追い詰めたものの、肉体が崩壊し、消滅。最期に俺との再会を宣言した。

【主天使】と呼ばれる肉体が崩壊しなければ、俺は死んでいただろう……。

 

 

という訳でこれからの二課の動きについて、纏めておこう。

 

まずはアンチ・ノイズ召喚プログラムについて。

謎のクラッカーに破壊されたプログラムだけど、再開発には───

 

 

 

アンチ・ノイズ召喚プログラムについて【1D6】

 

1 年内にはムリ!

2 年内にはムリ!

6 2ヶ月で再開発

4 2ヶ月で再開発

5 一月あればイケる

6 半月で出来るってよ

 

結果、【6】

 

 

 

半月もあれば再開発出来るそうだ。

なんでも、もしもの時の為に、了子さんが二課だけじゃなく風鳴機関のメインフレームにバックアップを取っていたかららしい。

キャロルちゃんが「あの時苦労を無駄にされたと思って怒った事が無駄だったのか……」と少し燃え尽きていた。フナちゃんに慰められていた。

まあそんな訳でノイズ召喚プログラム対策はバッチリである。

 

また、エンジェノイズについては一旦は情報を伏せて、秘密裏に研究・対策するとの事。

研究についてはキャロルちゃんが入手したエンジェノイズの体組織の欠片や、浅賀研究所に残された灰を調べるようだ。

また、映像に残されたエンジェノイズの情報からトレーニングルームで強さを再現、俺やキャロルちゃんのトレーニングを通して対策していくとの事。

 

そしてツァバトについて。

訃堂司令、及び二課としては■■市で大災害を引き起こしたと思われるツァバトを最優先で追跡、確保する事にした。

街一つにノイズ召喚プログラムをバラ蒔き、二課の研究室メインフレームに侵入した手腕、そして浅賀研究所の襲撃事件などから組織で動いていると予想し様々なコネクションを駆使して探っているようだ。

各国首脳部は八紘さん。

裏社会の支配者には訃堂司令。

オカルト関係は緒川忍軍がキャロルちゃんや了子さんの手足になって動いている。

それでも、めぼしい情報は現在手に入っていない……。

 

この事件、俺はいくつか考えている事があった。

 

まず始めに九割ほど完成していたアンチ・ノイズ召喚プログラムをクラックされた件について。

 

アンチ・ノイズ召喚プログラムは二課の研究室メインフレームにて開発されていた。ノイズ災害発生時、そのメインフレームをハッキングしてプログラムを破壊した者がいる。

コイツは研究室の面々や藤尭さんの防衛を意に介さずプログラムを破壊、逆探知される事なく逃げ出した。

 

友里さんから聞いた話では、藤尭さんは世界でもトップクラスのハッカーだったらしい。シンフォギア世界全部でそうなのか、この世界独自の設定なのかはわからないが、とにかくそうらしい。

その藤尭さんの防衛を意に介さず、追跡を逃れた。

敵はどのようなハッカーなのか。

そもそも人間なのか。

 

 

人外の存在で、ネットワークに侵入・侵食するモノを俺は知っている。

 

シェム・ハ・メフォラシュ。

 

XVのラスボスにしてバラルの呪詛で封じられた、カストディアン・アヌンナキ。

その名はヘブライの神の呼び名の一つ。

そして、ツァバトも同じくヘブライの神の名の一つだ。【万軍の主】、イスラエルの民は敵を前にしたら全てが兵であるとみなされたが故にそう讃えられたようだ。

 

今回の事件、シェム・ハが関わっているのだろうか……。

 

もしそうならば、エンジェノイズの謎もある程度はわかる。

キャロルちゃんの報告では、エンジェノイズは純白の身体に白鳥のような翼を持ったノイズであり、通常のノイズよりも強い。

羽を一つ埋め込む事で人間をエンジェノイズに変える力と、合体して強くなる力を持っている。

その代わりに位相差障壁は弱く、二メートルの壁をすり越える事は出来ない。

 

コイツは、他者を侵食する力を持っていたんじゃないだろうか。

自らの一部である羽を埋め込む事で人間を侵食、自分のコピーに変える。

神の眷族、天の御使い。

エンジェノイズとはよく言ったものである。

 

そして、俺と戦ったツァバトはエンジェノイズの身体で戦っていたのではないか。

ツァバトは【主天使】の身体で戦ったものの肉体が崩壊し、【座天使】以上でなければ身体が持たないと言っていた。

主天使も座天使も天使のヒエラルキー、階級の一つである。主天使は中間管理職、座天使は役員クラスである。

エンジェノイズの外見も天使に酷似している。だからこそエンジェノイズと名付けられたのだが。

つまりツァバトの肉体はエンジェノイズを使ったものなのではないだろうか。

シェム・ハも他者の肉体を乗っ取る力を持つ。

ツァバトがシェム・ハと同じ力を使えるのだとしたら、ツァバトがエンジェノイズの肉体を使っているのもわかるというもの。

 

シェム・ハとツァバト。

二者に一体どのような関係があるのか。

上下関係なのか、同格なのか。

味方なのか敵対しているのか。

それとも全くの無関係なのか。

情報が少ないので答えを出すことは出来ない。

取り敢えずツァバトはXDUのギャラルホルン編に出てくるベアトリーチェ……いや、世界蛇のような物だと考えるべきか。あからさまにオリジナルの敵だし。

 

もう一つ気になる事が。

神霊ツァバトには契約者が居るという事か。

ツァバトは俺たち人間や二課を舐めていたが、対照的にその契約者は警戒していたらしかった。

そして浅賀研究所でキャロルちゃんを気絶させて神獣鏡を盗み出した女。

この女が契約者なのだろうか。

少なくともツァバトと協力しているようではあるっぽいが……。

あと、神獣鏡で何をするつもりなのか。

 

神獣鏡は凶祓いの鏡、輝きを放ち【あるべきカタチ】を映し出すもの。

現状、唯一バラルの呪詛を祓う力を持つもの。

それ即ち統一言語に封じられたシェム・ハを降臨させる為に必要なもの。

 

もしツァバトがシェム・ハの味方なのだとしたら。

シェム・ハを降臨させるつもりなのか。

だけど月の遺跡がバラルの呪詛を発し続ける限りは復活出来ないんじゃないか?

だとしたら、奴らいずれ月を壊すつもりか?

 

 

……駄目だ。情報が足りない上に前世のシンフォギア知識がフワッフワだからもうわからん。

これ以上は考察出来ないね……。

 

 

2039年10月22日。お昼時。

現在俺は二課の権力で用意してもらったマンションに居た。

ノイズによる全身の圧迫とツァバトによる左肩へのダメージは存外深く、暫くは療養しろと言われたのだ。

とは言っても2039年の医療技術、しかも二課の最先端のもの。

俺はもうほとんど回復していた。

それでも二課でのトレーニングも10月は禁止、もしもの時に備えて土日はマンションで待機。と、言われてしまったのであった。

 

それをどこからか聞き付けてきたのだろうか。

愛しい恋人が一人、面倒を見に来てくれたのだった。

 

「あーん♥」

「あの、マリアさん?俺ほとんど元気よ。一人で食べれるんですけど?」

「あーん♥」

「あの……」

「あーん♥」

「…あーん」

 

完全敗北した男がそこにはいた。

俺の事である。

ニッコニコの笑顔でハンバーグを食べさせてくる。

 

「どう?」

「……ん、美味しいです!」

「そう、良かったわ。まだまだたくさんあるわよ!」

 

そう言って今度はご飯を食べさせてくれるマリアさんであった。

 

さて、俺の面倒をわざわざ見に来てくれたマリアさん。

俺の事をドクターウェルから聞いたらしい。

なんでも今朝電話が掛かってきて、「■■市での戦闘で重症を負ってマンションで一人療養しているので、きっと今頃寂しがっていますよ」と言われたとの事。

ドクターウェルめ、マリアさんの不安を煽ってけしかけるとは……!

今度お菓子いっぱい差し入れしなきゃ!(謝意)

 

それはそれとして。

見事に不安を煽られたマリアさんはおっとり刀で俺の家に駆けつけたのであった。

チャイムが鳴り、マリアさんが来たことを確認した俺が扉を開けた途端、抱き締められた。

 

「元気そうな一鳴を見たら感極まっちゃったのよ」

 

との事。

かわいい(迫真)

さて、思いっきり俺を抱き締めたマリアさん。そのまま俺の世話を焼く為に、一緒に居てくれています。

ご飯作ってくれたり、隣に座ってあーんしてくれたり。至れり尽くせりではあるんだけれども、ケガほとんど治ってるからそこまでしてもらわなくてもいいのよね。

でも俺の世話を焼くマリアさん、楽しそうだしなぁ。

それに俺はマリアさんを甘やかしたいタイプの転生者だしなぁ。

 

「でも、本当に良かったわ。貴方が無事で……。テレビで■■市の事を知ってから気が気じゃなかったもの」

 

ふと、そう言ったマリアさん。

 

「心配かけてごめんなさい」

 

俺は優しくマリアさんの頭を撫でた。

 

「ん……、いいのよ、ちゃんと帰って来たんだもの」

 

顔を赤くしてそう言うマリアさん。

照れ隠しだろうか、俺の口にハンバーグを押し込む。

 

「むぐむぐ。マリアさんにも食べさせてあげましょうねぇ」

「え、私はいいわよ!」

「あーん」

「いいってば!」

「あーん」

「いいって……」

「あーん」

「……もう!あーん」

 

口を開けるマリアさん。

ハンバーグを食べさせる。

女の子のお口にモノを入れるって……なんか、官能的で……いいよね……!

 

「美味しいです?」

「ええ、美味しいわ」

「じゃ、ご飯も!」

「あむ……ありがと」

 

そんなこんなで。

俺はマリアさんとイチャイチャしました。

こういうの、いいよね。

戦った後って、ストレス溜まったり気が荒ぶったりするから、こういう恋人とのふれあいで気を鎮めたり、ほっこりしないとね。

ちなみに今後は調ちゃんやセレナさんともイチャイチャする予定です。

そうでもしなけりゃ、あの戦闘で荒ぶった心は落ち着きそうもないからね……。

 

 

 

 

アメリカ合衆国。

ニューメキシコ州。

ロスアラモス。

米国聖遺物研究機関、F.I.S.。

主任研究室。

 

研究主任であるジュリアン・シーザーは部下からの報告を聞いていた。

 

「───ですので、国内で聖遺物適合者及び高フォニックゲイナーは見つかりませんでした」

「そうですか、わかりました」

 

報告を聞いたシーザーはため息を溢した。

現在、F.I.S.において聖遺物を起動させる事の出来る適合者及び高フォニックゲイナーは一人しかおらず、研究は滞っていたのであった。

故に国内にそういった適合者や高フォニックゲイナーを探させていたのであった。

 

「やはり、日本政府と交渉してセレナ・カデンツァヴナ・イヴの身柄を要求するべきなのでは?」

「風鳴訃堂がそれを許す筈は無いでしょうが……、まぁ話だけは上に通しておきましょう」

「あぁ、日本で思い出しました。資材課からの連絡があって、日本からシーザー主任に荷物が届いてましたよ。宛名は確か『Meika』だったと」

「……そうですか。ありがとうございます。貴方はもう下がって良いですよ」

「はい、失礼します」

 

部下は頭を下げて、部屋を去る。

シーザーは目元を押さえる。

 

「あの女……神獣鏡を宅配便で届けるなど、ふざけているのか……ッ!」

 

そう静かに怒るシーザーのパソコンが点滅。

白い人影が映る。

 

「随分と、お怒りだな我が契約者よ」

「ツァバト!お前、あの女と共に居たのなら神獣鏡を宅配便で届けさせるなよ!」

 

白い人影、ツァバトはくつくつと笑う。

 

「心配するな、シャダイがお前以外の人間に開けられぬように細工をしている」

「そう言う問題じゃ……いや、もういい。で、何か用か?」

「ああ、そうだ。茶会を開きたい」

 

シーザーは腕時計を見る。定時はとうに過ぎていた。

 

「今からか?」

「ああ」

「なら、15分待て」

「わかった。他の者にはそう伝えておこう」

 

ツァバトがそう言ってすぐにパソコンの画面が点滅。

ツァバトが消える。

 

シーザーはそれを横目に内線の受話器を取る。

 

「副主任ですか?私です。私はもう帰りますので後の事は宜しくお願いしますね。……ハハハ、デートではありませんよ。えぇ……はい。宜しくお願いしますね」

 

受話器を置く。

そして広げた資料を片付け、パソコンの電源を落とし、白衣からスーツに着替える。

糊の効いた高級スーツだ。

部屋に備え付けているタイムカードを通す。

その時スマホが震えた。

丁度、ツァバトが消えてから15分経っていた。

 

シーザーは迷わず電話に出た。

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壁も、床も、天井も。全てが白い部屋。

壁にはミケランジェロの『最後の審判』やダ・ヴィンチの『最後の晩餐』などの名画が飾られている。

大学の講義室ほどの広さの部屋だった。

そこにシーザーはいた。

 

「時間丁度だな、我が契約者よ」

「ツァバト」

 

シーザーの背後から声。ツァバトのものだ。

振り向けばそこにはツァバト、銀色の髪の美しい女性。ただ、その肌はピンクとホワイトであった。

人外の存在。ただ、人の意識に寄生する神の成れの果て。

それが、ツァバトであった。

 

「さぁ、皆がお前を待っているぞ」





R18書きてぇなぁ。
一鳴くんの経験豊富なテクニックに翻弄されるマリアさんのショタおねが書きてぇなぁ!
清楚なセレナちゃんがアへアへするR18書きてぇなぁ!!
エッチな調ちゃんがヘコヘコ腰を振るR18書きてぇなぁ!!!

でもR18展開になるのはダイス神のお許しが出てからだからね。仕方ないね……(哀しみ)


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第二十話 神霊たちの茶会


(前回までのあらすじ)
F.I.S.の研究主任であるジュリアン・シーザーは、■■市を襲撃し浅賀研究所から神獣鏡を強奪したツァバトの契約者であった。
そのツァバトから茶会に誘われたシーザーは準備を整えてスマホで電話に出る。その瞬間、シーザーは白い部屋に連れ込まれたのであった。



 

ここは人類の脳波を伝うネットワークに存在する隠し部屋だ。

 

壁も床も天井も白くて広い部屋。

壁に飾られた名画。

その中央には黒いソファとガラステーブル。

テーブルに乗ったケーキスタンドに用意されたケーキやサンドイッチ。

それら全てが脳の裡に在るイメージであり、ツァバトを始めとした神霊たちが構築したものであった。

バラルの呪詛から逃れ、自らの契約者たちと密会する為に。

 

そしてソファに座る二人の女性。

 

「あら、シーザー様。お先に頂いておりますわ」

 

黒絹のような長髪に修道女のような服装の女性がそう言って右手に持った紅茶のカップを軽く上げる。

そのバストは豊満であった。

 

彼女の名は【至天院 銘歌】。

日本にて【天神合一会】という宗教団体を運営する教祖であり、浅賀研究所にてキャロル・マールス・ディーンハイムを倒して神獣鏡を強奪した張本人である……!

 

「至天院、貴様!神獣鏡を郵便で送るなど何を考えている!日本政府にバレたらどう責任を取るつもりだったんだ!?」

「まぁ、そんなに怒らないでくださいましシーザー様。一刻も早く神獣鏡を届けようと思いまして、シャダイ様にお願いして貴方様以外の人間には開封出来ぬよう加護を掛けていただきましたから」

「そう言う問題ではなく、危機管理がないのが問題なのだ!住所からお前と僕の繋がりがバレたらどうする!?」

 

怒るシーザー。

銘歌は奥ゆかしく謝る。

その銘歌の後ろに人影が現れた。

銀色の髪に、ピンクとホワイトの肌。ツァバトと酷似した外観の女性。

だが、二つ在るはずの目は、 眉間に一つしかなかった。

彼女の名はシャダイ。ツァバトと同様に銘歌と契約している神霊であった。

その名は『山』『乳房』『野原』を意味する、生物強化に特化した神霊だ。

 

「銘歌を許してほしいシーザー。我らは山奥で暮らしているから、世間ずれしているのだ」

「シャダイ!お前は銘歌を甘やかしすぎだ!」

「仕方がないのだ。我にとってルル・アメルとは愛おしい存在故な」

 

そう言うシャダイ。

その様をクツクツと笑いながら見ていたもう一人の女性が宥めに入る。

 

「まぁまぁ。彼女たちも悪気があった訳じゃないんだから許してあげなよ。次から気を付ければ良いんだしね」

 

金糸のような髪の女が言う。

彼女は赤いスーツを着ていた。

赤いジャケット、パンツ。

内側には黒いシャツ。

そして赤いシルクハット。

そのバストは平坦であった。

 

「エロヒム、お前また身体を変えたのか?」

「ああ、この身体はなかなか便利でね。パヴァリア光明結社の幹部の……確かアグリッパ、だったかな」

 

そう言って紅茶を飲むエロヒム。

エロヒムもまたツァバトやシャダイといった神霊の内の一体である。

神を意味するヘブライ語『エロ』『エローアハ』の複数形。それがエロヒムの語源だ。

エロヒムはその権能故に契約者を持たない。

エロヒムは人の精神を侵し、蝕み、乗っ取るのだ。

無限に増え続ける精神寄生神霊、それがエロヒムであった。

 

「シーザー、君の協力で強硬派の一人を侵食してバルベルデのヴリル協会に亡命し、パヴァリアに潜り込んでここまできたんだ」

 

ギリシャとの戦争で聖遺物の扱いについて慎重に使うべきという慎重派ともっと聖遺物を研究するべきという強硬派で争いになった時、これ幸いと研究員の一人を侵食。そのままバルベルデに亡命したのだった。

全てはパヴァリア光明結社とオリュンポス十二神をぶつける為である。

 

ツァバトやシャダイ、エロヒムにとってオリュンポス十二神はおぞましく、また憎い存在であるようだった。

曰く、『この世でもっとも罪深き一族』。

 

三人とも多くは語ろうとしなかったが、ツァバトが絞り出すように言った言葉によれば、『真なる神の聖骸に許されぬ事をしたのだ、シーザー。我はあのような事を語りたくない。許してくれ……』とのこと。

 

閑話休題。

エロヒムはパヴァリア光明結社の構成員を侵食していき、最終的にオリュンポス十二神にぶつけるつもりなのだ。

そしてシーザーはその手助けをしている。

F.I.S.の研究主任という肩書きを利用して。

 

「苦節二年、君のお陰でここまで来たよ」

「礼はいい。僕は頼まれた事をしただけだ」

「謙虚だな。それを完璧にこなせたのだから、もっと偉ぶればいいのに」

 

シーザーはそれを無視してソファに座る。

そしてツァバトが淹れた紅茶を飲む。

とても美味しい紅茶であった。

 

「パヴァリアの人間はどれだけ侵食出来たんだ?」

 

 

 

エロヒムのパヴァリア侵食度【1D6】

 

2 +【3】割

合計、5割

 

 

 

「ああ、おおよそ半分ほどね」

 

答えるエロヒム。

あっさりと言って見せたが二年で世界中で暗躍する秘密結社の構成員の半分を侵食してみせたエロヒムの恐ろしさである。

 

「それはすごいですわ!」

 

銘歌の賛美。しかしエロヒムの表情は硬い。

 

「いいや。まだパヴァリアの下っぱや幹部の一部だけだからね。まだまださ」

「完全掌握にはあとどれくらいかかるんだ?」

 

シーザーの問いに対して顎に手を当て考えるエロヒム。

 

「うーん……。あと二年か三年は欲しいね。幹部たちを侵食するのは出来るけど、大幹部と呼ばれる三人や、首魁のアダムの乗っ取りにはまだ時間がかかるよ」

「大幹部……確かサンジェルマン、プレラーティ、カリオストロの三人でしたわね」

「ああ、彼らは別格さ。精神に防壁を常に張っているし、そもそもパヴァリアが侵食されている事に気付いている節がある」

「……大丈夫なのか?」

「無理矢理なら絶対に失敗するね。だからしばらくは大人しくする必要がある」

 

その為の二〜三年さ、と言葉を続けるエロヒム。

 

「手助けはいるか?」

「今はいいさ。シーザー、君は神獣鏡の研究を」

「ああ、わかった。此方の提示したメインプランとお前の提示したサブプラン、両方のプランで使えるようにしておく」

「頼むよ。神獣鏡は我らが真なる神、我らが根源たるシェム・ハの復活に必要不可欠なんだ。その浄罪の力を使えるようにしないといけない」

 

彼らの言う真なる神、シェム・ハ。

彼女は死に際に自らの魂を分割し、分霊を作った。

それがツァバト、シャダイ、エロヒム。

他にもいるようだが、シェム・ハの復活の為に動いているのは現状、その三人のみだ。

 

シェム・ハの大元の魂は統一言語、人類を繋ぐ脳波ネットワークに編み込まれている。

本来なら統一言語を通じて人類の身体を乗っ取って復活する筈であった。

だが、その統一言語は月から発せられるネットワークジャマーにより人々から分断されている為、シェム・ハは復活出来ないでいた。

 

そのネットワークジャマーをバラルの呪詛と言う。

人々の意思統一を阻む原罪は、人々を守る祈りなのだった。

 

故に神獣鏡。

罪を祓う力を持つ神獣鏡は、バラルの呪詛を祓う力を持つ。

その力でシェム・ハの依代に相応しき人間を浄罪し、シェム・ハを復活させる。

そして、月より発せられるバラルの呪詛を停止させ、もって世界をシェム・ハの供物に捧げる。

それが、ツァバトたちの計画であった。

 

 

ジャマーの存在を予測したシェム・ハは自らの魂を分割し、自らの死後、復活の為に活動させる事にした。

故に彼らは自らを『神霊』と呼称する。

神の霊、神の分霊であるが故に。

 

そして。

シーザーも、銘歌も。

シェム・ハの復活の為に神霊であるツァバトやシャダイの手足となって働く契約を結んだ。

シーザーは見返りにドクターウェルへの復讐を。

銘歌は信者たちだけが穏やかに過ごせる世界の為に。

 

紅茶を飲むシーザー。

静かに口を開いた。

 

「浄罪の力を引き出す……。此方も三年ほど欲しいな。一年で試作し、残りの二年で完成させる」

「頼もしいよ」

「ああ、そこは任せておけ。専門分野だからな」

 

そんな二人を見て、おずおずと手を上げる銘歌。

 

「あの、わたくしはどうすれば」

「ああ、銘歌はこのまま信者を増やしていってくれ。政財界、二課。そして風鳴機関。とにかく我々は情報が欲しいからね」

「わかりましたわ」

 

頷く銘歌。

そんな銘歌を見て、シーザーが口を開く。

 

「そうだ、お前に聞きたいことがあったんだ至天院」

「あら、何でございましょうシーザー様?」

「なぜキャロル・マールス・ディーンハイムを殺さなかった」

 

浅賀研究所での事を聞くシーザー。

キャロルを一撃で気絶させ、そのまま神獣鏡を持ち去った件について聞いたのだ。

なぜ気絶したキャロルを殺さなかったのか、と。

 

「そうですわね……。あの時は神獣鏡の確保を最優先したからですわ。グズグスしていたら風鳴訃堂がやって来るかもしれませんもの」

「まぁ、確かにな」

「あとは……」

 

続けて語る銘歌。

先程までのどこかふわふわした雰囲気は消え、空気がひりつくような威厳を纏っていた。

 

「わたくし、子どもは殺さない主義ですの」

「……そうか」

 

銘歌の威圧感に当てられるシーザーはそう言うしかなかった。

 

「安心して下さいまし。大人と悪党外道は遠慮なく殺しますので」

 

ニッコリと微笑む銘歌。

威圧感は消え、先程のふわふわした雰囲気が戻ってくる。

 

その二人の様子をニヤついて見ていたエロヒム。

ふと、思い立って懐から懐中時計を取り出した。

 

「おや、もう一時間も経ってしまったようだ。楽しい時間はあっという間だね」

 

その言葉に返したのは銘歌だ。

 

「あらあら、もうそんなに?わたくし、この後信者たちへの指導がありますの」

「では、この辺でお開きにしようか。それじゃあ、またいずれ」

「ごきげんよう、エロヒム様」

「また会おうエロヒムよ」

 

銘歌はシャダイと共に消えた。

この白い部屋から、現実に戻ったのだ。

 

「君たちはどうする?」

「僕は明日も仕事だからな。僕も帰るよ」

「ならば我もそうしよう」

「わかった。それじゃあまたいずれ。神獣鏡、任せるよ」

「ああ」

 

そう答えた瞬間。

ソファに座るエロヒムが。

壁に飾られた名画が。

そして白い部屋が消えて。

見慣れた自室に切り替わる。

 

「帰ってきたか」

 

シーザーはベッドに腰掛けていた。

茶会に行った後、ツァバトが身体を動かして座らせたのだ。

シーザーはベッド脇の目覚まし時計を持ち上げる。

時刻は丁度、茶会のはじまりから一時間しか経っていなかった。

 

 

 

 

欧州某所。

パヴァリア光明結社総本山。

数々の異端技術や錬金術で秘匿された古城の一室。

統括局長アダム・ヴァイスハウプトの執務室にサンジェルマンは呼び出されていた。

 

「日本へ出張、ですか?」

「そうだよサンジェルマン。見つけたのさ遂に」

 

そう言って資料を手渡すアダム。

そこにはブレてはいるが、金髪の少女の写真。

戦闘中なのだろうか、紫色の装甲を纏っている。

 

「キャロル……!」

「そう、居たのさ日本に。戦っていたのさノイズと!」

「生きていたのか……」

 

キャロルはパヴァリア光明結社と技術提携を結んでいた。

チフォージュ・シャトーの組み立てを手伝う代わりに、ファウストローブの技術を教授してもらっていたのだ。

だが、三年前にゼウスの雷霆でチフォージュ・シャトーを破壊されてから行方がわからなくなっていた。

 

だが、先日の■■市の大規模ノイズ災害。

■■市で暮らす結社の錬金術師が偶然キャロルを見かけたのだ。

錬金術師は密かにスマホで撮影、アダムに報告した。

 

「では私たちはキャロルを連れ戻せばよろしいのですか?」

「事は簡単じゃない。行動しているのさ彼女は、風鳴訃堂と!二課の一員として!」

「訃堂!?」

 

驚愕するサンジェルマン。

その恐ろしさは身に染みて知っている。

戦時中、風鳴機関に聖遺物を盗みに来たサンジェルマンを迎撃したのは風鳴訃堂であり、サンジェルマンに苦い敗北の記憶を植え付けたのもまた訃堂である。

 

「脅されたのかほだされたのか。わからないけどね、どちらか」

「あの男は脅すような事はしないかと。恐らくキャロルは己の意思で二課に居るのだと思います」

「そうなのだろうね、他ならぬ君が言うなら」

 

サンジェルマンは一度戦ったからこそ理解していた。

風鳴訃堂は恐ろしい強さを誇るが、その強さで嵩にかかって外道な行いをする人間ではないと言うことを。

あれは正しく『防人』。人を守り国を守るラスト・サムライである。

 

「こっちが本命さ君に調査して欲しいのは、サンジェルマン」

 

そして、もう一つの資料を手渡すアダム。

そこには【セーマン桔梗組合】という組織について纏められていた。

 

「これは……日本の異端技術の……」

「下部組織だよ、僕たちパヴァリアのね。狙っているのさ、彼らは。キャロルの持つ知識を」

 

キャロルは、いや長く生きる錬金術師はその蓄えた知識故に、他の錬金術師から狙われやすい。

もっとも、そういった錬金術師にとって自分を狙う錬金術師など歯牙にもかけぬ存在なのだが。

 

「止めてほしいのさサンジェルマン。彼らの暴挙を。訃堂にバレる前に」

 

つまりは【セーマン桔梗組合】がキャロルを狙うために二課の、訃堂の縁故の者を害するのを防いでほしい、という事だった。

パヴァリア光明結社はギリシャの巻き起こした戦争の被害を建て直している最中である。

そんな中で訃堂と敵対するのは組織的に危ないのだ。

 

「わかりました」

「連れていくといいよ、プレラーティとカリオストロも。それと、君の配下の【ノーブルレッド】も」

 

サンジェルマンは怪訝な顔だ。

 

「ノーブルレッドも、ですか?」

「必要だろう、休暇は?行くといいよ観光地に」

 

アダムなりの気遣いであった。

だが……。

 

「その間の仕事はどうするおつもりですか?」

「僕がやるよ」

「出来もしない事を言わないで下さい!」

 

アダムは無能である。

アダムにまで回ってきた書類は概ねサンジェルマンが処理しているのだった。

そしてそれを手伝うのはノーブルレッド。

彼らが日本にまで出向けば組織は回らなくなるだろう……。

 

「いらないよ心配は。頼むからねアグリッパに」

「……アグリッパ、ですか?」

「あるのかい、なにか?」

 

サンジェルマンは答えた。

 

「アグリッパの事なのですが、最近様子がおかしい気がして」

「そうなのかい?いつも通りだと思うけどね」

「それはそうなのですが……」

 

サンジェルマンは気付いていた。

アグリッパの様子がおかしいのだ。

確かにアダムの言うとおり普段と変わらぬ様子なのだが、【何か】がおかしかった。

口では上手く伝えられない、頭では上手く纏められない何かが。

いや、おかしいのはアグリッパだけではない。

他の結社の構成員にも、ヴリル協会の人間にも何人か様子のおかしい者がいる───。

 

「疲れているのさ、きっとね。入るといいよ温泉にでも。取っておくさ長めに、出張期間は」

「……わかりました」

 

釈然としないまま、サンジェルマンは頭を下げ退出した。

扉が閉まるのを見たアダムは一人、呟く。

 

「……思うけどねまさかとは。確かめる必要があるね、アグリッパに。忌々しき神霊の気配がないかを」





今回オリキャラいっぱい出てきたし、キャラ紹介しとくね……。

○ジュリアン・シーザー
F.I.S.の研究主任。
ツァバトと契約している苦労人。
何故かドクターウェルに恨みを持つ。

○ツァバト
シェム・ハの魂から分けられた神霊。
物理的肉体を持たない為にシーザーと契約する事で世界に介入する。
エンジェノイズを生産する力を持つ。

○至天院 銘歌
天神合一会という宗教団体の教祖。
山奥で暮らしていたので、世間ずれしている。

○シャダイ
シェム・ハの魂から分けられた神霊。
銘歌を甘やかす単眼系女神。
どんな能力を持っているかは、まだヒミツ。

○エロヒム
シェム・ハの魂から分けられた神霊。
人間の精神を乗っ取り、無限に増殖する力を持つ。
パヴァリアをオリュンポス十二神とぶつける為にじわじわ侵食中。

○アグリッパ
パヴァリア光明結社の幹部の一人。
全身を赤でコーディネートした赤大好きな人。
同時期に結社に入ったサンジェルマンが大幹部にまで出世したので焦っていたが、仕事はそつなくこなすし錬金術も一流に扱える才人。
アダムもそろそろ出世させようと考えていたが、哀れエロヒムに乗っ取られる悲しい存在。


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第二十一話 デリシャスロカカカパフェ


ノーブルレッドの三人の口調がよく分からないので初投稿です。
XDのXVシナリオやれって言われそうだけど、俺まだ3.5部クリアしてへんねん(超絶小声)


 

 

セーマン桔梗組合。

正確には晴明桔梗組合。

関西の陰陽師たちのまとめ役である【関西陰陽師連盟】の内ゲバで分裂した組織であり、分裂後にパヴァリア光明結社からの支援を受けて一つの組織として独立した。

現在は関東を中心に活動している。

 

「で、そのセーマン桔梗組合がキャロルの持つ知識を狙っているのね?」

 

カリオストロが聞く。

隣に座るプレラーティが口を開く。

 

「ったく、あの幼女め。生きていたならキチンと連絡するワケダ」

「そう言わないでプレラーティ。欧州はオリュンポスに乗っ取られて国境が封鎖されているもの。仕方ないわ」

 

サンジェルマンが諌める。

 

彼女達三人は現在、豪華客船サントアンヌ号の一等客室の一つに居た。アメリカ─日本間を行き来する客船だ。

キャロルの知識を狙うセーマン桔梗組合を諌めに行くのである。

テレポートジェムでアメリカまで転移し、船に乗ったのだ。

また、統括局長アダムの心意気で長めに出張期間が設けられているので、日本観光も兼ねている。

隣室にはサンジェルマンの部下であるノーブルレッドの三人が宿泊している。彼女らも慰安の為に出張兼旅行に連れてきたのだ。

 

「で、セーマン桔梗組合の組織の規模はどのくらいなワケダ?」

「確かにそれを知らなきゃこれからの指針も決められないわね」

 

二人の指摘に答えるサンジェルマン。

 

「セーマン桔梗組合の規模は───」

 

 

 

セーマン桔梗組合の規模【1D6】

 

1 しょっぱい家族経営

2 ちょっとは人のいる小規模組織

3 まあまあ人のいる中規模組織

4 ちょっとは人のいる小規模組織

5 まあまあ人のいる中規模組織

6 関東を支配する大規模組織

 

結果、【3】

 

 

 

「まあまあ人のいる中規模の魔術結社のようね」

「なるほどね。キャロルの知識を得て組織を大きくしたい、そんなところなワケダ」

「私たち三人が説得して大人しくするかしら?」

 

少し考えるサンジェルマン。

 

「恐らくは問題ないと思うわ」

「あら、根拠は?」

「ここを見てちょうだい」

 

と、アダムから貰った資料の一つを指差すサンジェルマン。

 

「これは……」

「セーマン桔梗組合の、内情なワケダ」

 

そこにはセーマン桔梗組合の世知辛い内情が書かれていた。

陰陽道で使う道具はボロボロの使い回し、陰陽道において縁起の良い地である龍穴のある地を二束三文で売った証拠である契約書等々。

組織運営に行き詰まっている様子が描かれていた。

 

「カッツカツね……」

「自転車操業なワケダ」

「だからこそ躍進を夢見てキャロルを狙ったのだろうけれど……」

 

だが結果は、上位組織であるパヴァリア光明結社から大幹部を派遣されるという始末であった。

 

「だからこの小切手を渡せばキャロルの知識を狙う事はないと思うわ」

 

そう言って懐から小切手を取り出すサンジェルマン。

そこにはゼロが九個並んでいた。

 

「こ、こんなに渡して大丈夫なの?」

「(統括局長のポケットマネーだから)問題ないわ 」

(絶対統括局長のポケットマネーを流用しているワケダ、でも統括局長アホだから通帳なんて見ないだろうし問題ないワケダ!)

 

そういう事になった。

 

「そうだ、サンジェルマン!残りの期間はどうする?あーし、このニンジャエステっていうの受けてみたいわ!」

 

雑誌片手にはしゃぐカリオストロ。

話は仕事からプライベートに。

話題は観光の話になった。

 

「ニンジャエステって一体どんなエステなワケダ……」

「雑誌にはマキビシでツボを刺激とか、螺旋丸の回転エネルギーでリンパの流れを良くするとか、ニンジャソウルを憑依させて体内カラテ粒子を活性化とか書いてあるわね」

「訳わからんワケダ」

「そーいうプレラーティはどっか行きたい所ないの?」

「ジャパニーズコタツというどんな荒くれ者も大人しくなるという暖房器具を試したいワケダ」

「んもう!出不精なんだから!」

 

キャッキャとはしゃぐ二人。

なお二人とも元おっさんである。

錬金術の力で性転換して美少女化したおっさんである。

サンジェルマンだけが生粋の女の子であった。

 

「サンジェルマンはどこか行きたい所ある?」

「乙女ロードなワケダ?」

「いえ、私はキャロルにコンタクトを取ってみるわ」

 

サンジェルマンの言葉に驚愕する二人。

 

「え、キャロル?どういうワケダ?」

「統括局長からは元気そうだし今回は接触しなくていいって言われたんでしょう?」

「そうなのだけれど……」

 

サンジェルマンはちら、と目をそらす。

そこには壁、そしてノーブルレッドの客室。

 

「キャロルはファウストローブの開発だけでなく、ホムンクルス製造にも精通しているでしょう?」

「ええ、まったくの同一人物を作り出せるほどの精度を誇るって聞いたわ」

「ええ、そう。ほぼ同じ、ではなくまったく同じ人間。その身体を作れるノウハウを持つ」

「ノーブルレッドの為なワケダ」

「ええ、そうね」

 

微笑むサンジェルマン。

 

ノーブルレッド。

パヴァリアのとある支部にて非合法の実験台として飼われていた少女たち。

オリュンポス十二神による戦争被害の確認の為にサンジェルマンがアポなしで支部を訪れた際に発覚、支部の人間は処分され少女たちは救出、ケアの為にサンジェルマンの部下となった。

 

少女たちには実験で人体改造が施されている。

それは現代の錬金術、異端技術では治癒不可能の呪い。

だからこそ、キャロルのホムンクルス技術でまったく同一の、真っ当な人としての身体を用意出来ないか、と考えたのである。

 

「キャロルが協力してくれるのか。そもそもコンタクトが取れるのかは、わからないけれどね」

「……サンジェルマン」

 

サンジェルマンの優しさに心が震えたカリオストロとプレラーティの二人であった。

 

「よーし、わかったわ!」

「カリオストロ?」

「あーしたちもキャロルとのコンタクト、なんとか取れないか動いてみるわ!」

 

カリオストロの言葉に頷き、発言するプレラーティ。

 

「一人より二人、二人より三人で動いた方がより早く確実にキャロルの元にたどり着けるワケダ」

「そうよ!風鳴訃堂の食客だからセキュリティも万全だろうけど三人なら、ね!」

「だからサンジェルマンも、私たちやノーブルレッドの三人娘と一緒に観光するワケダ」

「二人とも……ありがとう」

 

サンジェルマンの目には光る物があった。

二人との確かな友情に、涙したのだ。

目元を拭い、サンジェルマンは二人とキャロルとコンタクトを取るための算段を立て始めた。

 

 

 

 

日本にたどり着いたサンジェルマン、プレラーティ、カリオストロ。そしてノーブルレッド三人娘。

 

六人は高級ホテルの最上階スイートルームを予約していた。

部屋に荷物を置き、早速セーマン桔梗組合の本拠地へと向かう。

突然の上位組織の訪問に驚愕したセーマン桔梗組合の幹部たちに、キャロルの知識を狙う暴挙を止めてほしいというアダムの意向を伝え、必要なら更なる援助は惜しまないとゼロが九個並んだ小切手をチラ見させた結果───

 

 

 

セーマン桔梗組合の決断【1D10】

 

1 対魔忍並の即落ちアヘアヘ恭順

2 圧力には屈しない姿勢

3 圧力には屈しない姿勢

4 対魔忍並の即落ちアヘアヘ恭順

5 対魔忍並の即落ちアヘアヘ恭順

6 圧力には屈しない姿勢

7 サンジェルマンの熱烈なファンが居たのでスムーズに話が終わる

8 もう既に二課にちょっかい掛けた後

9 もう既に二課にちょっかい掛けた後

10 熱烈歓迎セーマン

 

結果、【6】

 

 

 

「あいつら、あそこまで頑なだとは思わなかったワケダ」

 

高級ホテルの最上階スイートルームのソファに深く腰掛けたプレラーティが言う。

窓からは夜景と星空が見えている。

 

昼間、セーマン桔梗組合の本拠地に乗り込んみ話し合いに臨んだのだが、セーマン桔梗組合の対応は冷ややかだった。

キャロルを狙うのはアダムの本意ではないこと、支援として十億円渡す事を伝えても手応えは薄く、キャロルを狙うことを止めないであろうと思われた。

話し合いは夜まで続いたが、セーマン桔梗組合は首を縦に振らなかった。

 

「まさか、内政干渉は止めていただきたい、なーんて言われるなんて思わなかったわね」

 

ワイングラスを傾けながら、カリオストロが言う。

 

「で、どうするのサンジェルマン。出張期間は長く設けられているから根気よく説得する事は出来るけど……」

「キャロルとコンタクトを取る事は難しくなるワケダ」

 

悩むサンジェルマン。

セーマン桔梗組合の暴挙を止めなければキャロルの命はない。そして風鳴訃堂や二課を敵に回す事になる。

だが、セーマン桔梗組合を止める事に注力すれば、キャロルとコンタクトを取れずノーブルレッドの三人を人間の身体に戻す事が出来ない。

キャロルはまた後日、じっくりと探せばいいのかもしれないが、サンジェルマン個人としてはノーブルレッドの三人を早く元の身体に戻してあげたい。

 

「…………………………」

「サンジェルマン?」

「…………………………」

「サンジェルマーン?」

「…………………………」

「サンジェルマン!」

「ハッ……、なにかしら」

 

突然の大声に、現実に引き戻されるサンジェルマン。

 

「……サンジェルマン、明日はみんなで遊びに行きましょう」

「……え、何故?」

「このまま思考を煮詰めても、いい考えは浮かばないわ!だから一旦思考をリフレッシュさせましょ!」

「一理あるワケダ」

「いえ、流石にそう言う訳にはいかないわ。まだセーマン桔梗組合を説得出来ていないのに遊びに行くなんて……」

 

反論するサンジェルマンにカリオストロは畳み掛ける。

 

「ノーブルレッド!」

「え?」

「あの娘たち、私たちが仕事してたら遠慮して観光出来ないじゃない!」

「確かにその通りなワケダ。目上の人間が働いているのに、自分たちだけ遊びにはいけない、とか考えているワケダ」

「エルザちゃんなんて、日本が楽しみで傍目から見てもソワソワしていたじゃない!」

 

エルザ・ベート。

ノーブルレッド最年少の少女だ。

口癖は「ガンス」。

日本行きが決まった時、「天ぷらを食べたいであります!」と雑誌片手にソワソワしていた。

エルザだけではない。

ミラアルクもヴァネッサも日本を楽しみにしていた。

そんなノーブルレッドを知っているからこそ、サンジェルマンは呻く。

 

「うぅ……っ」

「ね、サンジェルマン。明日はリフレッシュに時間を使って、明後日から頑張りましょ」

「それがいいワケダ」

「……わかったわ。そうしましょう」

 

サンジェルマンは遂に折れた。

 

「やったわ!ねね、サンジェルマン!一緒にニンジャエステ行きましょう」

「それはちょっと……」

「なら六人でショッピングに行くワケダ」

「それなら……」

 

キャッキャとはしゃぐ三人。

そんな三人を月が優しく照らしていた。

 

 

 

 

ドーモ、一鳴です。

私は今、喫茶店にいます。

【喫茶 愛愛A(アイアイエー)】という店です。

そこの【デリシャスロカカカパフェ】という新作パフェが美味しいと評判なので、響ちゃんと未来ちゃんと食べに来ました。

 

■■市の騒動のせいで、一緒に修学旅行に行けなかったから、埋め合わせの為に、ね。

 

このデリシャスロカカカパフェ、ロカカカというジョジョリオンに出てくるクッソ厄いフルーツが使われているが、身体の一部が石化したり別人の身体の一部と入れ替わったりするような奇妙な効能は持っていない。

普通に健康と美容に高い効果を発揮するスーパーフルーツという奴である。アサイーみたいなものやね。

 

そんな素敵なロカカカのパフェを奢る事で修学旅行の埋め合わせをしようという訳だ。

 

「デリシャスロカカカパフェ三つ、お待たせしました」

 

俺たちの座るテーブルにパフェが運ばれてくる。

 

「うわーっ、美味しそう!」

 

響ちゃんが目を輝かせる。

確かに美味しそうだ。

パフェの上にはカットされたロカカカとホイップクリームが飾られており、その下にはバニラアイスとロカカカゼリー。更にロカカカのグラニテ、カリカリのコーンビスケット、再びロカカカゼリーとホイップクリーム。そして底にロカカカのジュース。

 

「あとサービスのキュケオーンです」

「サービスのキュケオーン」

 

キュケオーン、ギリシャの麦粥である。

店名がアイアイエーだし店主がキルケーって名前だからか?

小さな椀にキュケオーンが盛られている。

 

「キュケオーンはおかわり自由となっております!」

「おかわり自由」

「それではごゆっくりー」

 

色々突っ込み所のある喫茶店だなぁ!

 

「ねぇ、ナルくん。本当に奢ってもらって良かったの?」

 

と、未来ちゃんが聞いてくる。

 

「デリシャスロカカカパフェ、高いよ」

「ええんやで?」

 

デリシャスロカカカパフェ、確かに定価1980円である。

巷で話題のロカカカがふんだんに使われているから、その分お高い。

でも、俺は装者のお仕事で稼いでいるのだ!

 

「修学旅行で使う予定だったお土産の資金が丸々残っているしね」

「でも……」

「それに、ほら。三人で散策しよって約束、守れなかったから」

「ナルくん……」

「だから、遠慮しないで。ね?」

「うん、ありがと」

 

納得した様子の未来ちゃん。

 

「ナルくん、ありがとー!」

「響ちゃんも、いいのよ。さぁ、お食べ」

「いただきまーす!」

「いただきます」

 

二人ともパフェを一口。

すぐに目を輝かせる。

 

「美味しい!」

「美味しいね、響!」

「では、俺も……」

 

一口、食べる。

瞬間、甘味が口の中に広がる。

それはビッグバンにも似て爆発的に広がる。

しかし甘味はすぐに消え、代わりに現れるのは爽やかな酸味。

甘味とは対照的に、舌に残る。

それが不快ではないのだ。

だからこそ、また食べたくなる。

 

「うん、美味しい!」

「美味しいよね、ナルくん!」

 

響ちゃんの言葉に頷く。

うん、これは人気が出るのもわかるというもの。

 

「いらっしゃいませー!」

 

ほら、またお客さんがやって───

 

「ここよ、サンジェルマン!巷で噂のロカカカパフェが食べれるお店!」

「わかったから、手を引っ張らないでちょうだいカリオストロ!」

「……店内の雰囲気は悪くないワケダ」

「お洒落ですねぇ」

「ロカカカパフェ、楽しみだゼ!」

「ミラアルク、はしゃぎすぎでありますよ?」

 

前世で見たことある人たちが来た(白目)

 

 

 

 

「なぁ、本当にやるのか?」

「あァ?なんだ、ビビったのか?」

「ビビったって訳じゃねぇが、民間人巻き込む事になるんだぜ?」

「それをビビったって言うんだ兄弟。いいか、これはチャンスなんだ」

「俺たちセーマン桔梗組合がパヴァリアから開放される為の、だろう?」

「そうだ。俺たちの自由の為だ。なら、民間人が何人死んでも、そりゃ尊い犠牲って奴だ」

「……確かにそうだな」

「腹ァ決めたようだなァ。じゃあ、やろうぜ。パヴァリアの三幹部をブチ殺して、キャロルの脳を奪う。行くぜ?」

「おう!」





◆お知らせな◆
日頃から『転生者はシンフォギア世界でオリジナルシンフォギア装者として生きるようです』を御愛読いただき、ありがとうございます。
これまで週に一度の投稿を心がけていましたが、これからしばらく投稿が不定期になります。
理由としては、

○FGOのイベントをやるため
○シンフォギアXDのなのはコラボイベントをやるため
○新しく買ったダークソウル2をやるため
○なんか仕事が忙しくなったため

などがあげられます。

七割以上遊びが原因ですけど、良い小説を書くためにはそういった上質なシナリオを摂取しないといけないのです。
ご迷惑をお掛けしますが、これからも宜しくお願いします。


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第二十二話 一鳴、キレた‼


(前回のあらすじ)
修学旅行に同行出来なかったお詫びに響と未来にパフェを奢る一鳴。しかし、ちょうどその時パヴァリア三幹部とノーブルレッドが店内に入ってきた!
彼らは日本の【セーマン桔梗組合】がキャロルの脳を狙うことを阻止しに来たのだ。
だが、セーマン桔梗組合はかなり頑ななようで、三幹部の命を狙っているぞ……!



 

 

(アイエエエ!?パヴァリア!?パヴァリアナンデ!?)

 

俺は心中で大混乱であった。

なんでパヴァリアの三幹部とノーブルレッドの三人が日本の喫茶店にいるの!?

 

『どうやら日本には出張兼休暇で来ているようだな』

 

と、サイコロ神さま。

それでこの喫茶店にお茶しに来たのね。

この喫茶店、デリシャスロカカカパフェで有名になったから。

だからってなぁ……。

なぁーんで俺が居る時に来るのかなぁ。

 

「6名でお待ちのサンジェルマン様~」

 

そんな事を考えていたら、店員さんに案内されるパヴァリアご一行。

そして俺たちの席の近くへ案内された。

なんでさ。

 

「うわぁ、あの人たちキレイだね!」

「うん、モデルさんかな?」

 

響ちゃんと未来ちゃんが見惚れている。

 

「ねぇ聞いたサンジェルマン?あの子たち、あーしたちの事モデルみたいだって!」

「なかなか照れるワケダ」

「いや、プレラーティの事を言った訳じゃないと思うゼ?」

「ミラアルクちゃん、シーッ!」

 

響ちゃんたちの言葉にキャッキャしている六人。

……なかなか和気藹々としているね。

 

「こんにちは」

 

サンジェルマンが笑顔で此方に話し掛ける。

 

「こ、こんにちは」

 

キレイで大人なお姉さんに話し掛けられて、二人とも緊張した様子であった。

 

「ねぇ、あーしたちキレイに見える?」

 

カリオストロが顔をずい、と近付けて聞いてくる。

 

「は、はい!」

「とてもキレイだと思います」

「やぁーん!嬉しい!貴女たちもとってもカワイイわよん♪」

 

キャッキャと戯れるカリオストロとひびみくの三人。

 

「お姉さんたち、モデルさんですかぃ?」

 

俺はそう聞いた。

いや、錬金術師だってこと知ってるけども、このままじゃ会話にあぶれちゃうし。

しょうがないね。

 

「いいえ、私たちは宝石商よ」

「日本にはビジネスに来たのよ。バカンスも兼ねて家族と一緒にね」

 

と、サンジェルマンとヴァネッサ。

どうやら、宝石商というのが彼女たちの表向きの肩書きらしい。

 

『実際の所は、日本にあるパヴァリアの下部組織の暴走を諌めに来たようだが』

(暴走?)

『それ以上は禁則事項故に口外不可である』

(つまり俺に関わる何か、ということか……)

 

サイコロ神は裏話などは教えてくれるものの、これから俺に関わる事や現在進行形で関わっている事については教えてくれないのであった。

 

だが、少なくともパヴァリアのご一行が日本に来たのは俺に関わる何かが原因という事であるか……。

 

なんじゃろうね。

もっと聞き出したいけど、俺の話術じゃ聞き出せないだろうなぁ……。

 

「やぁ、ご注文はお決まりかい?」

 

お、パヴァリアご一行と楽しく話していたら店長のキルケーさんがパヴァリアのテーブルに注文を聞きに来た。

うーん、何度見ても前世のFGOのキルケーにそっくりだなぁ。

 

「私のオススメはこのキュケオーンセットさ!」

「いえ、このデリシャスロカカカパフェを六つ」

「え、キュケオーンセットを六つ?(すっとぼけ)」

「……」

「冗談さ。デリシャスロカカカパフェ六つ。しばらく待っているといいよ」

 

そして、キルケー店長は此方のテーブルに向かってくる。

 

「そこの少年!キュケオーンは要らないかい?」

「あ、サービスのキュケオーンが残ってるので大丈夫です」

「そうかい?遠慮しなくていいんだよ?」

「お腹空いてたら頼みますね」

「期待して待っているよ!」

 

そう言ってにこやかに去っていくキルケー店長。

……うん、やっぱり俺の知っている怪文書のキャスターだわ、アレ。

 

 

 

突然の第六感ロール【1D10】

(五人以上成功でボーナス)

 

一鳴(5以上で成功)【1】

響(10で成功)【10】

未来(10で成功)【2】

サンジェルマン(4以上で成功)【9】

カリオストロ(4以上で成功)【5】

プレラーティ(4以上で成功)【3】

ヴァネッサ(5以上で成功)【6】

ミラアルク(5以上で成功)【10】

エルザ(5以上で成功)【4】

 

結果、成功者【5人】

 

 

 

「あれ?」

 

と、響ちゃんが窓の外を見て声を出す。

 

「どうしたの?」

「アレ見て」

 

と、外を指差す。

 

「あれは……」

「ウソッ!正気!?」

「ミラアルクちゃん!」

「見えたゼ、ヴァネッサ!」

 

サンジェルマン、プレラーティ、ヴァネッサ、ミラアルクが何かに気付く。

でも俺には何も見えないんだよなぁ。

窓の光が反射してるのよね。

 

「響、なにがあるの?」

「何事なワケダサンジェルマン?」

「まったくわからないであります」

 

と、未来ちゃんにプレラーティ、エルザちゃん。

 

「全員伏せなさい!」

 

突然、サンジェルマンが大声で叫ぶ。

と、同時にカリオストロに床に押さえ付けられた。

響ちゃんと未来ちゃんも一緒だ。

 

その一瞬後、窓が割れて何かが一斉に入ってくる。

十や二十ではきかない数だ。

 

「きゃあ!」

 

未来ちゃんが怯える。

侵入者たちが店内を縦横無尽に飛び回る。

がさがさ、カサカサと虫の羽音めいた音が響いている。

 

「これは……」

 

一瞬、飛び回る侵入者の姿が見えた。

侵入者たちは白い身体をしていた。

侵入者たちは切られ加工されていた。

人の形をした、紙だ。

20cmほどの大きさの紙人形だ!

紙人形が百単位の数で喫茶店に侵入してきたのである。

虫の羽音めいた音は、そいつら同士が擦れた時に発生する音だったのだ。

 

「なんじゃこりゃあ!」

「アイエエエ!?」

「コワイ!」

 

喫茶店のお客さんも悲鳴をあげる。

 

「動いちゃダメよオチビちゃんたち!」

 

と、カリオストロが俺たちに声をかける。

 

「いまサンジェルマンたちが何とかしているから」

「もう終わったわ」

 

そう、サンジェルマンが声を掛ける。

それと同時に喫茶店内を飛び交っていた紙人形たちが動きを止め、ヒラヒラと舞い落ちてくる。

 

「サンジェルマン!」

「対陰陽術術式、念のために用意しておいて正解だったわ」

「それ、仕掛けるの大変だったんだゼ。紙人形の群れをかいくぐらなきゃだったし」

「すばしっこいわたくしめらにぴったりの仕事であります!」

「お疲れ様ミラアルクちゃん、エルザちゃん」

 

サンジェルマンとノーブルレッドが紙人形を止めたようだった。

店内をよく見ると、店内を囲むように四方向の壁に幾何学模様のカードが貼られていた。

模様は淡く光っている。

あのカードが【対陰陽術術式】、という奴らしい。

……陰陽術?

 

今度の敵は陰陽師かよぉ!?

 

「このオチビちゃんが式神に気付いて良かったわぁ!」

 

そう言って響ちゃんの頭を撫でるカリオストロ。

 

「ええ、お陰で術式を手早く用意出来たもの」

「被害も無くて良かったワケダ」

「でもプレラーティは最後まで式神に気付かなかったわよね?」

「ちょっと何言ってるかわからないワケダ」

 

俺も気付けなかったから、居心地が悪い。

シンフォギア装者なのに……!

 

とにかく。響ちゃんをはじめとして、パヴァリアの半数以上が気付いた為に迅速に対応出来た、という訳だった。

 

「そうだわ!オチビちゃんたち、今の内に逃げなさい!」

 

カリオストロがそう言う。

サンジェルマンも追従した。

 

「そうね、裏口から逃げなさい!店長さんが避難誘導しているわ」

 

確かに怪文書のキャスターがお客さんを逃がしているようだ。

 

「みんな、早くお逃げ!裏口は安全みたいだから!」

「た、助かった……」

「アイエエエ……」

 

他のお客さんもほうほうのていで裏口に向かう。

 

「お姉さんたちは?」

 

響ちゃんが聞く。

サンジェルマンが微笑む。

 

「私たちは大丈夫よ」

「君たちが逃げたら私たちも逃げるわ」

 

そう、サンジェルマンとヴァネッサが答える。

そうこうしている内に、他のお客さんと店長さんは逃げたようだった。

 

「ひ、響。ナルくん……」

「うん。……行こ」

「そうだね 」

 

未来ちゃんが裾を引っ張る。

俺と響ちゃんも逃げることにした。

……ここはサンジェルマンたちに任せておいた方が良さそうだ。

後で二課に報告して、場合によってはシンフォギア装者としてここに戻らなければならない。

そう考えていたのだが……。

 

「おっと、そうはいかねェなァ!」

 

何かに響ちゃんと未来ちゃんごと、抱え上げられる。

それは紙だ。

幅50~60㎝ほどの、白い紙の帯。

後ろを見る。

高さ二メートルほどの、紙。

いや、紙人形。

俺たちは巨大な紙人形に抱え上げられてたのだ……!

 

「きゃあああああ!!?」

「なんなの!?これ!!」

 

二人が叫ぶ。

 

「騒ぐんじゃねェぞ餓鬼ども」

 

男が二人、割れた窓ガラスを踏みながら入ってくる。

髪を金色に染めた男と、黒いスーツを来た男だ。

髪を染めた男の方が、此方を睨みながらそう言った。

それに答えたのはサンジェルマンだ。

 

「貴方たちは……!」

「よう、パヴァリアの皆様。動くなよォ!餓鬼どもが潰れることになるぜ?」

 

そう言うと同時に、紙人形が腕に力を入れる。

思わず呻く俺たち。

男たちは、パヴァリアの関係者であるらしかった。

サイコロ神の話から考えるに、パヴァリアの下部組織のメンバーか?

 

「何をしているか……」

「わかっているぜェ。飼い主のテメェらに噛みついているんだってなァ 」

「お前たちが大人しくしていれば、子どもたちは開放する」

 

俺たちは人質と言うワケダ(プレラーティ感)

いや、ふざけている場合じゃない。

 

ちら、と響ちゃんと未来ちゃんを見る。

二人とも目元に涙を浮かべて震えている。

……、いざという時にはシンフォギアを使ってでも助けなければならない。

それで、二人にシンフォギア装者だとバレる事になっても……。

 

「それで貴方たちの目的は何かしら、セーマン桔梗組合の陰陽師さん?」

 

と、カリオストロが聞く。

セーマン桔梗組合というのがコイツらの組織名か……。

 

「目的はテメェらよ、パヴァリアの幹部ども」

「俺たちはパヴァリアの支配から脱却する」

「支配?支援の間違いなワケダ」

 

うん。

完全に組織間の争いに巻き込まれてるわね(白目)

余所でやって欲しいです(哀しみ)

うん、隙を見せたらシンフォギア装着して、さっさと響ちゃんと未来ちゃん助けて逃げましょ。

 

「支配だ。俺たちは錬金術師じゃねェ。陰陽師だ。テメェらの指図は受けない」

「パヴァリアの支配から脱却し、キャロルの脳を得て、俺たちは上に行く」

 

…………うん。

いま、変な事を言わなかった?

【キャロルの脳】?

 

「キャロルのバックに何がいるかわかっているの?」

「そんなのはどうでも良いことだァ」

「キャロルの叡智を得る事が出来れば、パヴァリアも風鳴も、そして関西陰陽師連盟も!」

 

あぁ、間違いない。

この男たち、キャロルちゃんを狙っている。

キャロルちゃんの頭の中の異端技術を。

だめだ、こいつらここで逃がしたら確実にキャロルちゃんに害が行く。

それだけでなく、この場でサンジェルマンたちパヴァリア三幹部殺す気だっていうなら、響ちゃんや未来ちゃんもここで殺すだろう。

コイツらにはその凄みがある。

 

「おい」

 

思わず、声が出てしまう。

全員の視線が俺に向く。

 

「な、ナルくん……?」

 

響ちゃんが声を震わせて聞いてくる。

 

「なんだァ糞餓鬼ィ……」

「キャロルの脳云々ってさぁ……それ、キャロル・マールス・ディーンハイムちゃんをどうにかするって事?」

「貴様……ッ!?キャロルの関係者かッ!?」

 

黒スーツの男が驚愕の表情を浮かべる。

否。

パヴァリアの皆も驚愕していた。

 

「この子……ッ!?」

「まさか……!」

『───── Sudarshan tron』

 

聖詠を歌う。

一瞬にしてシンフォギアが装着される。

黒い部分の多い赤銅色の装甲。

細身の機械鎧は全身を覆い、腰から伸びる大型スカートアーマーは脚を隠す。

顔の上半分を仮面が隠し、額からは角型アンテナが伸びる。

シンフォギア、装着完了。

 

シンフォギアの背中から炎が吹き出る。

それはスペースの都合で形成されなかった戦輪の代わり。

それは、浄化の炎。

神聖な炎が燃やす対象は、俺が選べる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

響ちゃんと未来ちゃんには、傷ひとつ付けない。付けさせない!

 

一瞬にして消し炭となった紙人形から開放された俺は、同じく開放された響ちゃんと未来ちゃんを空中で抱えて着地。

 

「ナルくん……?」

「なに、それ……」

 

二人は怯えている。

俺の突然の変化に。

当然だよねぇ……。友達が突然メカメカしい装甲を(よろ)ったなら。

 

「聞きたい事は後で答えるし、隠し事していたのはキチンと謝る。だから、今は逃げて」

「……うん、わかった」

「……ちゃんと後で話してね」

 

そう言うと、二人は裏口へ向かう。

髪を染めたの男がそれを逃がすまいと紙人形を投げる。

俺は腰サイドアーマーから小型チャクラムを射出し、それを撃ち落とす。

 

「テメェ……」

「お前たちが陰陽師だろうが錬金術師だろうがしったこっちゃないけどねぇ」

 

背中の炎は戦輪と姿を変える。

エネルギーが固着化されたのだ。

俺はその戦輪を手に取り、振り回す。

炎が軌跡を描く。

 

「俺の師匠と友だちに手ェ出すってんなら、容赦しねぇぞ!!」





皆様お待たせしました。
無事、エリちの宝具レベルを5にして、なのはコラボを楽しんで、ドラングレイグの地を蹂躙してきた銀騎士です。
本当にお待たせして申し訳ない!
ダクソ2をやったらダクソ3をやりたくなり、しかもフロム作品がダウンロード版で丁度良くセールで安くなったので、ダクソ3とブラボ買ってやってました。
本当に申し訳ない(博士感)

しかもポケモンも鎧の孤島が始まったのでやってました。クリムガンちゃんとドラミドロちゃん可愛いよ……。

とにかく。
上質なシナリオはたっぷり補給したので、これからは週一投稿に戻せたらな、と思います。

週一じゃなかったらダクソ3とポケモンにハマってるな、と呆れといて下さい。
ほな、また……。


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第二十三話 だからこれは、きっと俺の我が儘なんだろうね。


遅れて申し訳ありません。
なかなか話の切れ目が書けず、気が付けば普段の倍近くのボリュームになってました。
あと仕事がね、残業 + 日曜出勤のデスコンボ食らいましてね。そしてそれが9月まで続きそうなのね……。
そんな訳でこれからもしばらくは、不定期更新になりそうです。
エタりはしないから、安心してね!



 

二課の発令所は火の付いたような騒ぎであった。

 

本日、地元で過ごしていた筈の一鳴のフォニックゲインを確認したからである。

 

「間違いありません、スダルシャンのアウフヴァッヘン波形です!」

 

藤尭が叫ぶ。

それを受けて唸る弦十郎。

 

「一鳴くんとは連絡は取れないのか?」

「……通信、繋がりました!」

 

友里の報告。

シンフォギアには二課との通信装置が内蔵されているのだ。

 

「一鳴くん、聞こえるか?一体何があったんだ?」

 

弦十郎の言葉に一鳴が答える。

 

「現在戦闘中なので手短に!喫茶店愛愛Aに民間人の被害を省みない陰陽師が2名現れ現在戦闘中です!民間人は逃がしました!敵の狙いはキャロルちゃんです!」

「なんだと!?陰陽師!?」

 

驚愕する弦十郎。

通信からは風を切る音、爆発音などが聞こえてくる。

 

「一鳴くん!今増援を送る!とにかくその陰陽師を逃がすな!」

「わかりました!」

 

通信の向こうでは、戦いが続いている。

弦十郎は増援を呼ぶために、二課の内線をある場所に繋いだ───。

 

 

 

 

俺と陰陽師の戦いが始まって、五分。

弦十郎さんとの通信では増援を呼ぶということだが、陰陽師との戦いは───

 

 

 

VS陰陽師 【1D10】

 

1 ノブレ、頑張る

2 ノブレ、頑張る

3 シンフォギアに敵う訳ないだろ!

4 陰陽師優勢

5 シンフォギアに敵う訳ないだろ!

6 シンフォギアに敵う訳ないだろ!

7 三幹部の的確なサポート

8 三幹部の的確なサポート

9 陰陽師優勢

10 熱烈歓迎

 

結果、【5】

 

 

 

「イヤーッ!」

 

戦輪を振るう。

108のノコギリ刃と炎が、陰陽師たちの肌を斬り裂き、焼き付ける。

 

「ア"ァ"!糞がッ!」

「落ち着け!」

 

苛立つ髪を染めた陰陽師を、黒スーツの陰陽師が抑える。

陰陽師の攻撃は弱く、此方にダメージを与える事はなかった。

サンジェルマンやノーブルレッドの三人が設置した対陰陽術術式のお陰だろうか……?

 

「クソッ、クソッ!なんで効かねェんだよォ!」

 

髪を染めた陰陽師が光弾を射出。

俺はそれを左手で払いのけて、カウンターで殴り付ける。

髪を染めた陰陽師が吹き飛ぶ。

 

……おかしい。

()()()()()()()()

 

先程の話じゃ、コイツらはパヴァリアの下部組織で、そしてパヴァリアからの脱却の為に反乱を起こしたようだった。

だが、パヴァリアの三幹部はタイマンならシンフォギア相手にも勝てる強者。

そんな彼女らと戦うなら、最低でも俺と良い勝負になるくらい強くなければならない。

なのに、この陰陽師たちは弱すぎる。

 

二人がかりなのに、俺に有効打を与えていない。

対陰陽術術式のお陰だろうか。

パヴァリア三幹部やノーブルレッドが対陰陽術術式を守ったり、外への経路を塞いでいるから逃げられない、戦場を変えられないというのもあるだろうが……。

 

なにか。なにかがおかしい。

 

「ガ、ァ……」

「ぐぅ……!」

 

とかなんとか、考えている間に陰陽師二人を倒した。

……やっぱり、弱い。

 

「流石シンフォギアね」

 

と、カリオストロ。

 

「ご存知でしたか」

「えぇ、ウチの業界じゃ有名よ」

「お前の師匠キャロルがそのシンフォギアと似たような研究をウチと共同で行っていたワケダ」

 

そういう繋がりかぁ!

シンフォギアとファウストローブ、ウタノチカラと錬金術というアプローチの違いはあるけれど、本質は同じだものねぇ。

 

「貴方は、キャロルの弟子なのよね?」

 

と、サンジェルマン。

 

「ええ。と、言っても錬金術じゃなくて戦い方の師匠なんですけれど」

「それなら……、ッ!?」

 

何かを語ろうとしたサンジェルマンが顔を強ばらせる。

視線の先には倒れた陰陽師たち。

 

だが、そこに陰陽師は居らず。

ただ、紙人形が二つ落ちているだけであった。

 

「式神ッ!?」

「偽物だったって事!?」

「どおりで……」

 

弱い訳である。

彼らは式神、偽物だったというのだから。

 

「動くなァ!!」

 

外から声が聞こえる。

先程の、髪を染めた陰陽師と同じ声。

 

声の先、喫茶店の外の駐車場に彼らは居た。

髪を染めた陰陽師と黒スーツの陰陽師。

そして───

 

「ナルくん……」

「助けて……」

 

大型紙人形に拘束された響ちゃんと未来ちゃんの姿。

陰陽師たちは光弾を放ち、対陰陽術術式の札を破壊。

店内に入ってくる。

 

「下手な真似するなよォ糞餓鬼ィ。オメーの可愛いオトモダチが、グチャッと潰れることになるぜェ?」

「……ッ」

 

やられた。

逃がした響ちゃんと未来ちゃんを、アイツら本体が確保して人質にするなんて……。

迂闊なことは出来ない。

 

「糞餓鬼、その鎧を寄越しなァ」

「シンフォギア、っていうのだろう。噂には聞いている」

「さっさとしろ!餓鬼ども潰すぞ」

 

そう言うが早いか、大型紙人形が腕を締め上げる。

響ちゃんと未来ちゃんが呻く。

 

「わかった!だから二人を離せ!」

「シンフォギアが先だ」

 

俺はシンフォギアを解除し、ギアペンダントを黒スーツの陰陽師に投げ渡した。

シンフォギアは機密と異端技術の塊だけど、二人の命の方が大事だからだ。

 

「ふむ……見た目からは何もわからねーな」

 

黒スーツの男がギアペンダントを見ながら言う。

髪を染めた陰陽師がそれを見ながら口を開く。

 

「帰って解析すりャいい。さて」

 

突如、髪を染めた陰陽師が光弾を放つ。

光弾は俺目掛けて飛んで行く。

 

「うぐッ……!」

「ナルくん!!」

 

光弾が腹に直撃する。

未来ちゃんが叫ぶ。

痛い。

そして、熱い。

あぁ、クソ。こいつ、いたぶるつもりだ……!

 

「やめなさい!貴方たちの目的はあーしたちでしょう!」

 

カリオストロが叫ぶ。

それをヘラヘラと受ける髪を染めた陰陽師。

 

「そうだ。俺らの目的はテメェらよ。だが、この餓鬼は俺らに舐めた真似してくれたからなァ……!」

 

更に光弾。

蹲る俺のすぐ前の地面を抉る。

喫茶店の床の欠片が散弾めいて俺の身体に当たる。

 

「ナルくん!」

「やめてぇ!」

 

痛みで意識がグラつく。

響ちゃんと未来ちゃんが泣いている声が聞こえる。

二人の声が、俺の意識を繋ぎ止めた。

 

「しぶとい餓鬼だなァ」

「おい、もういいだろ?」

「ビビんなよ兄弟。たかが餓鬼を一匹殺すだけだ」

「じゃあ早くしろ。増援が来ちまうよ」

 

そう言い合う陰陽師たち。

俺は逆転の手段を模索していた。

響ちゃんと未来ちゃんさえ開放させれば、あとはパヴァリア三幹部とノーブルレッドで解決出来るだろう。

なら、どうやって助けようか……。

 

ふと、外を見た。

あぁ、存外早かったなぁ。

 

「…………ふ」

「……ア?おい糞餓鬼、お前今笑ったか?この状況わかってるのか、アァ!?」

 

髪を染めた陰陽師が怒鳴り散らす。

だが、俺にはその姿がもう、滑稽にしか見えなかった。

 

「状況?わかっているとも」

「ならなに笑ってるんだァ、オラッ!?お前はもう死ぬんだよ!」

「いや、死なない」

「ア?」

「お前、頭悪いな」

 

激昂した髪を染めた陰陽師が光弾を発射しようとする。

だが───

 

「う、腕が……!」

「……拘束された!?」

 

外から伸びる糸が、陰陽師たちを縛り上げていた。

そして同時に、その糸は響ちゃんと未来ちゃんを抱える大型紙人形を切り裂いた。

 

「きゃあ!」

「大丈夫、お嬢ちゃんたち?」

 

二人を受け止めたのは、ヴァネッサである。

 

「しっかりするんだゼ!」

「傷は浅いであります!」

 

俺の元にはミラアルクとエルザが来てくれた。

 

「……早いね、キャロルちゃん」

「フン、テレポートジェムにこの辺りの座標を登録していたからな」

 

そう言ったのは、キャロルちゃんだ。

彼女が弦十郎さんの言っていた増援であるらしかった。

 

「オレだけじゃない。黒服たちも向かってる所だ」

「そっか」

「あと、これだ」

 

キャロルちゃんが何かを放り投げる。

それを受け止めた俺、手に持っていたのはギアペンダントだ!

 

「あの男が持っていたからな。弦で掴んでおいた」

「ありがとう、キャロルちゃん」

「ナルくん!」

「生きてる!?」

 

響ちゃんと未来ちゃんが駆け寄ってくる。

 

「なんとか、生きてるよ」

「ぐすっ、良かった……」

「ごめんね、捕まっちゃった」

 

涙を流す二人を、俺は優しく抱き締めた。

 

「うん、俺は大丈夫。大丈夫だから。だから泣かないで」

 

ぽんぽん、と背中を優しく叩いてやる。

俺は大丈夫だと、安心させる為に。

 

「ク、ソォ……」

「ぐ……」

 

遠目では、陰陽師たちが抵抗しようとしていたが……。

 

「そこまでよ」

「いい加減、諦めなさい」

「無駄な足掻きはしないでほしいワケダ」

 

パヴァリア三幹部が包囲していた。

 

「美味しいところは横取りか?」

「支援なワケダ」

 

キャロルちゃんの挑発に睨み返して答えるプレラーティ。

 

「久しいわねキャロル」

「お前もなサンジェルマン」

「元気してた?」

「まぁ、そこそこだな」

 

サンジェルマンとカリオストロとはそこそこ仲良く話せるのにねぇ……。

 

「それと、お前たち全員拘束させてもらうぞ」

「……もしかして」

「喜べ。風鳴訃堂に会わせてやる」

 

すっごいイヤそうな顔をするパヴァリアの面々。

 

「あと、一鳴。お前は医務室直行だ」

「アッハイ」

「……お前の友だちにも、此方から事情は説明する」

 

……仕方ないよね。

シンフォギアは国家機密ですもの。

事情説明の為に二課へ連れていくのは、決定事項か。

 

「ナルくん……」

「大丈夫よ、大丈夫。後で俺からも説明するからね」

 

そんな訳で。

後からやって来た黒服さんたちに、俺たちはドナドナされたのであった。

 

 

 

 

ひびみくのお気持ち表明【1D10】

 

1 おこ

2 おこ

3 おこ

4 激おこ

5 許すよ……

6 私たちもシンフォギアやる!

7 私たちもシンフォギアやる!

8 私たちもシンフォギアやる!

9 激おこ

10 熱烈歓迎

 

結果、【9】

 

 

戦闘が終わり、二課の医務室に直行した俺はベッドに寝かされ、二課の名医である顔に縫い目のあるブラックジャック先生(偽)から治療を受けていた。

 

「全身に打撲、それと腹に軽い火傷。薬塗っておけば治る」

「ありがとうございますブラックジャック先生」

「私はブラックジャックではない。それと……」

 

ブラックジャック先生(偽)はちら、と横を見る。

そこには椅子に座り、俺をじっと見るひびみく。

涙目で睨んでいる。

うん、俺が治療を受けている間に了子さんからシンフォギアや二課の事を説明されたら、こんな感じになりました。

しょうがないよね、友だちがクッソ危ない仕事を隠れてしてたんだから。

 

その後了子さんは「頑張って説得しなさいね~」なんていってとっくの昔に出ていった。

おのれラスボス……!

 

「痴話喧嘩なら病室の外でしてほしいんだがな」

「そういうのじゃないんですが……」

「彼女三人いる男がそう言ってもな……」

 

とにかくキチンと話し合えよ、そう言ってブラックジャック先生(偽)は病室から出ていってしまった。

病室には俺と響ちゃんと未来ちゃんの三人。

 

「……」

 

しばらくは、沈黙が場を支配していた。

 

「……ねえ」

 

最初に口を開いたのは未来ちゃんだった。

 

「いつも、こんな危ないことしてるの?」

「……そうだね」

「怖くないの?」

「怖くないって、言ったら嘘になるかな」

「じゃあ、なんで続けてるの?」

「……一言じゃ、難しいかな。義務感とか、正義感とか。色々、ごちゃ混ぜ」

 

一瞬の、沈黙。

そして。

 

「じゃあ、これからも続けるの?」

「うん」

「痛い思いするのに?」

「うん」

「怖い思いもするのに?」

「そうだね」

「私たちに嘘ついて?」

「……ごめん」

「謝るんなら……もう辞めてよ、戦うの」

 

ポロポロと泣き出す未来ちゃん。

ずっと黙っていた響ちゃんが口を開く。

 

「ナルくん、私たち本当に怖かったんだよ。ナルくん、死んじゃうんじゃないかって」

「うん……」

「もう辞めようよ。私も未来も、ナルくん死んだらイヤだよ……」

 

そう言って響ちゃんも泣き出してしまった。

 

「ごめんね」

 

俺は、二人の手を握った。

 

「俺はシンフォギア辞めないよ」

「なんで?」

 

未来ちゃんが聞く。

響ちゃんも、きっと心の中では同じ事を思っているのだろう。

 

「シンフォギアは特別な力さね。才能ある人間にしか扱えない。扱いたくても、扱えない人がいる」

 

二人は黙って俺の話を聞いている。

 

「そんな中で俺はシンフォギアを扱える才能を持っている」

 

そうだ。

転生者。精霊さんに偶然選ばれ、シンフォギアの高い適合率とシンフォギア装者となる運命を与えられた。

ただ、それだけの人間。

それでも、シンフォギア装者だ。

 

「シンフォギアはすごいよ。ノイズだって倒せるし、どんな攻撃も耐えられる。その力で沢山の人を助けることが出来る」

「それでも、怖くて痛い思いをするんでしょ」

 

響ちゃんが聞く。

俺は静かに頷いた。

 

「うん、怖くて痛い思いもすることがある。それでも戦うための訓練は受けているし、諦めるつもりもないし。

俺はね、助けたいと思ったんだ。シンフォギアの力で助けることが出来る人を。俺の手で助けることが出来る人を」

 

ああ、そうだ。

俺は助けたかったんだ。

あの日、戦場に出た時に、ノイズと炎に追われる人々を。

 

死後、精霊さんと出会った時に思ったんだ。

この恐ろしい世界で、胸の歌を信じ続ける人たちを助けたい、と。

死ぬ筈だった人たちを助けたい、と。

 

「だからこれは、きっと俺の我が儘なんだろうね。()()()()()()()()()()()()、シンフォギアをやる。義務感や正義感は、後からついてきたものなんだろうね」

「ナルくん……」

 

その声はどちらのものだったのか。

あるいは両方か。

 

一瞬、沈黙が場を支配する。

そして。

 

「わかった」

 

口を開いたのは未来ちゃんだ。

 

「ナルくん、頑固だから。私たちがこれ以上言ってもシンフォギア辞めないよね」

「頑固じゃないし、柔軟かつ臨機応変に対応出来るし(震え声)」

「だから一つ約束して」

 

ぎゅ、と手を強く握る未来ちゃん。

 

「死なないって。絶対に生きて帰ってくるって」

「未来……」

「約束して」

 

じっ、と俺の目を見つめる未来ちゃん。

きっと、生半可な答えは許されないだろう。

 

「あぁ、わかったよ。約束する。俺は死なないし、死ぬつもりもない。なにがあっても、きっと無事に帰ってくるって」

「うん、約束。破ったら、許さないから」

「うん、了解」

「あと、もう嘘も吐かないでよね」

 

と、響ちゃん。

 

「うん。もう嘘吐かんよ」

「うん、約束だよ!」

 

と、小指を突き出す響ちゃん。

俺もまた、小指を突き出し、絡ませる。

 

「ゆーびきりげんまん。嘘吐いたらはりせんぼんのーます。指切った!」

「嘘吐いたら本当に針飲ませるからね」

「こわ~」

 

そんな訳で、響ちゃんと未来ちゃんになんとか許してもらえました。

友達止めなくてすんで、本当に良かった。

守秘義務とか、二人の身を守るためにシンフォギアのことは口外出来なかったけれども、もうそんな嘘も言わずにすむかもね。

 

……そういえば、響ちゃんも未来ちゃんも精霊さんの話じゃ装者になるのよね。

だけど、二人は現在装者適性が低い。

きっと何かが起こるだろう。

備えよう。

 

 

 

 

訃堂のお気持ち表明【1D10】

 

1 パヴァリアは許したる

2 パヴァリアは許したる

3 パヴァリアは許したる

4 パヴァリア許さねぇ

5 パヴァリア事情があるんやろ?

6 陰陽師は根絶やしだ!

7 パヴァリア事情があるんやろ?

8 陰陽師は根絶やしだ!

9 パヴァリア許さねぇ

10 熱烈歓迎

 

結果、【5】

 

 

 

「久しいなサンジェルマン。九十年ぶりか?」

 

二課の発令所にて。

訃堂はそう言った。

 

「覚えていたのね……」

「儂はまだボケとらん」

「親父、知り合いだったのか……!」

「ああ。若い頃、コヤツがウチの蔵に盗みに入ってきた時に一戦交えてな」

 

呵呵呵(カカカ)、と笑う訃堂。

 

 

あれから。

手錠を付け、拘束されて連れてこられたパヴァリア一同。

彼女たちは発令所に直接連れられたのだった。

場には訃堂、弦十郎、キャロル、ミカ、了子がいた。パヴァリア一同を抑えられる面々である。

 

「さて、サンジェルマンよ。事情は概ね把握している。陰陽師どもからキャロルちゃんを守ろうとしたのであろう。ついでにキャロルちゃんの力を借りたいと」

「なんであーしたちがキャロルの力を借りたい事を知っているのよ……」

「永いこと生きてきたのでな、勘が冴えるのよ」

 

カリオストロの突っ込みを笑顔で受ける訃堂。

 

「で、オレに一体なにをやらせたいんだ?」

 

キャロルが聞く。

サンジェルマンは全てを話した。

すなわち、ノーブルレッドの三名のホムンクルス体を作り、そこに意識を移すという考えを。

 

「サンジェルマンさん……」

「ウチらの為に……」

 

それを聞いたノーブルレッドの面々は涙が溢れた。

サンジェルマンが自分達の為にキャロルに会おうとしていた事を、はじめて知ったのであった。

 

「ふむ……」

 

キャロルは考え込む。

 

「どうかしら?」

「……オレの技術なら確かにこいつらのホムンクルス体を作る事は出来る」

「それ以外の問題が?」

「設備がない」

 

キャロルのホムンクルス体は元々チフォージュ・シャトーで作っていた。

だがチフォージュ・シャトーはゼウスにより破壊された。

そして二課にはホムンクルスを製造する為の設備が無いのであった。

 

「設備ならこちらで用意するわ。丁度自由に出来るお金は持っているし」

(局長の貯金なワケダ……)

 

セーマン桔梗組合との交渉用に用意した10億円の小切手の事であった。

 

「これだけあれば十二分だ」

 

小切手の額を見たキャロル。

 

「だが、年内は無理だぞ」

「勿論よ。すぐにやれ、なんて言わないわ」

 

サンジェルマンがそう答える。

ノーブルレッドの精密なホムンクルス体の製造、それなり以上の時間がかかる事は承知していた。

 

「……あとな、欲しいものがある」

 

キャロルは少し考えて、口を開いた。

 

「欲しいもの?」

「ああ、聖杯と剣、あと硬貨の聖遺物だ」

「マスター、それって……」

「ああ」

 

ミカの言葉に静かに頷くキャロル。

キャロルはシャトーと共に失われた自動人形たちを、再び作り上げようと考えたのだった。

キャロルの自動人形、終末の四騎士(ナイト・クォーターズ)はその核に聖遺物を用いている。

ガリィ・トゥマーンには聖杯。

ミカ・ジャウカーンには杖。

ファラ・スユーフには剣。

レイア・ダラーヒムには硬貨。

 

「それぐらいなら、結社で保管しているから……」

「いや、待つワケダ」

 

サンジェルマンの言葉を遮るプレラーティ。

怪訝な顔をするカリオストロ。

 

「どうしたのよプレラーティ?」

「聖杯は……確かもう無かったワケダ」

「そうなの?」

「ああ。間違いないワケダ。……そうだ、アグリッパが実験で使うと持っていったワケダ」

 

タイミングが悪いわね、とカリオストロが呟く。

 

「すまない、キャロル。聖杯はどうしようもないわ」

「いや、剣と硬貨だけでもありがたい」

 

そう言うキャロルだが、その顔は暗い。

と、今まで黙っていた訃堂が口を開く。

 

「聖杯……それが欲しいのだな」

「……ああ。前にも話しただろう。ミカと同じ自動人形、ガリィを作るのに必要なんだ」

「あるぞ、聖杯」

 

その場にいた全員が、口をポカンと開いた。

 

「あ、あるの!?」

「ある……が、ここには無い」

「ど、どういう事なワケダ?」

 

悪い顔をする訃堂。

 

「時に、パヴァリア光明結社はヴリル協会やアメリカの亡命科学者を抱え込んでおるな」

「う……その通りよ」

 

読者の皆さんは覚えておられるだろうか。

バルベルデ共和国で内乱を引き起こし、雪音クリスを用いて聖遺物の研究をしていたヴリル協会の事を。

ギリシャとの戦争を期に聖遺物の更なる研究を行おうとして、政争で負けてヴリル協会と合流したアメリカの科学者たちの事を。

訃堂はその事を言ったのだ。

 

「儂はかつて、奴らを殲滅しようとしていた事があってな」

「……引き渡せ、と」

「いや、それはもうよい」

「ならば……」

「だが、パヴァリア光明結社という組織は人体実験を是とする組織であろう」

「それ、は……」

 

サンジェルマンは言い返せなかった。

それはヴリル協会を受け入れたからであるし、ノーブルレッドの事があるからであった。

また、サンジェルマンもカリオストロもプレラーティも。死刑囚や社会のクズ相手ではあるものの人体実験を行っていたからでもあった。

 

「お主たちは信用出来る。組織の為とはいえキャロルちゃんを助けに来てくれた。一鳴くんやその友だち、一般人を助ける為に尽力してくれた」

「……」

「あと少し。もう少し信頼が欲しい」

「……具体的には?」

「とある地方都市に聖杯はある。だが、その聖杯を使って儀式を行っている者共がいてな」

「……まさか」

 

サンジェルマンには心当たりがあった。

カリオストロにもプレラーティにも。

曰く、極東にて行われる聖杯の内に溜まった膨大な魔力を賭けた戦争。

異端技術者たちが聖杯の権能により、アカシックレコードに刻まれた英雄の影法師を呼び出して戦わせる魔術儀式。

 

「お主ら、聖杯戦争に参加して奪ってこい」





ひびみくお気持ち表明のダイスで熱烈歓迎が出ていたら、二人の内のどちらか、あるいは両方がヒロインになってました。
危ない、危ない……。

そんな訳で次回から聖杯戦争編に突入します。
小説版のFate/zeroとFGOしか知らないニワカだけど、執筆ガンバルゾー!


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第二十四話 異端聖杯戦争①

聖杯戦争、軽々しく手を出すんじゃなかった……(型月wikiとシンフォギア用語説明を熟読して設定練った感)



始まりはツァバトの追跡であった。

■■市でのツァバトとの邂逅後、二課は総出でツァバトの行方を探り続けた。表も裏も、そしてオカルト関係も。

 

その過程で見つけたのであった。

万能の願望器である聖杯と、その聖杯を賭けて争う聖杯戦争の存在を。

 

風鳴訃堂は知っている。

聖杯も、聖杯戦争も。

だからこそ、驚いたのだ。

 

なぜ、未だ聖杯があるのだ、と。

 

かつて。94年ほど前の昭和20年。

訃堂は聖杯も、聖杯戦争も破壊し尽くしたのだ。

それは日本を、そして世界を脅かしかねないものであったから。

だから聖杯戦争は起こる筈がない。

なかった筈だったのだ。

 

だが、聖杯は某県冬木市に眠り。

聖杯戦争は準備段階に入ってた。

 

一刻の猶予はなし。

己か、弦十郎か、一鳴か。誰かを派遣し、聖杯を回収もしくは破壊しなければならない。

 

そんな時に現れたのだ。

パヴァリア光明結社の大幹部たちが……。

 

 

 

 

ドーモ、転生者の渡一鳴です。

先日、友人の響ちゃんと未来ちゃんに隠れてシンフォギアやってる事がバレてすごく怒られて泣かれたけれど、なんとか許して貰えました。

 

そして俺は今……。

聖杯戦争に参加するサンジェルマンのサポートをしています(白目)

この世界、聖杯戦争とかあるのね……。

 

『おそらくは、貴公が転生したことで世界が混じった可能性がある』

 

そうサイコロ神は言った。

俺のせいなのか……(困惑)

 

『正確には、聖杯戦争を知る貴公がこの世界に転生した事で、この世界に聖杯戦争を受け入れる余地が生まれた、といったところか』

 

やっぱり俺のせいじゃないか……!

 

「一鳴くん、大丈夫か?」

 

と、俺の隣に座る弦十郎さんが聞く。

サイコロ神との会話に集中しすぎていたようだ。

 

「もしかして眠いワケダ?」

「ちゃんとお昼寝した?」

 

対面に座るプレラーティとカリオストロがそう言った。

 

「ああ、大丈夫です。すいません」

「大丈夫なら、話を続けましょう」

 

と、サンジェルマン。

 

ここは冬木市ハイアットホテル、そのスイートルーム。パヴァリア三幹部が宿泊している部屋だ。

聖杯戦争に参加する為、二課が用意した拠点の一つである。

この場にはサンジェルマン、カリオストロ、プレラーティのパヴァリア三幹部。そして二課からのサポートとして俺と弦十郎さん、了子さん。

 

俺たち二課の面々は、聖杯戦争に参加するパヴァリアのサポートと、彼女たちが裏切った時の為の抑止力として派遣されたのであった。

俺と弦十郎さんは戦闘役、了子さんはシンフォギアの修理などの補助役である。

そして今は、聖杯戦争に対する打ち合わせの最中であった。

時刻は夜の11時である。

こんな時間に打ち合わせるのには訳があるワケダ(プレさん感)

その訳はまた後で。

 

「聖杯戦争はここ、冬木市で行われるわ」

 

地方都市、冬木。

西日本の日本海に面した風光明媚な観光都市である。

11月ながら、あまり寒くないここで、聖杯戦争は行われる。

でも俺、Fate関係の知識はうろ覚えな上にstay nightは未履修でよく分からないのよね……。

 

「主に夜間、異端技術者が召喚した英霊同士の戦闘が行われるわ。そして、最後の一組になった時、聖杯は顕現し願いを叶える……」

「もし民間人がその戦闘を目撃したり、巻き込まれたりした時は……」

 

弦十郎さんが聞く。

 

「良識のある者なら、記憶を消す。無ければ……」

 

静かに首を振るサンジェルマン。

弦十郎さんは眉間にシワを寄せた。

 

「……民間人保護の為、飛騨忍群の者をもっと派遣させるべきだな」

「そうね。基本的には人払いの術式を使うでしょうけれど、念には念を入れておくべきね」

 

今回、確実な勝利を掴む為に訃堂司令は飛騨忍群の忍者を数名派遣してくれた。

情報収集の為である。

今も、情報を掴む為に冬木市全域に散っている筈である。

 

「続けるわね。英霊、サーヴァントと呼ばれる彼らはアカシックレコードから抽出され、召喚されるわ」

「アカシックレコード?」

「簡単に言えば、地球のどこかにある地球誕生から今までのありとあらゆる歴史、なワケダ」

「聖杯は、そこから英霊のデータを引っ張ってきて、魔力でかりそめの身体を生成させるわけ♪」

「ははぁ!スゴいというのはわかりました」

 

ここら辺、たぶんFateの英霊召喚とは別物よね。あっちは確か【英霊の座】から呼び出していた筈だし。

 

『こちらの世界に合わせるカタチとなったのだろう』

 

と、サイコロ神。

 

「もう少し捕捉するなら、呼び出される英霊は、生前のそれとは異なるわ。これは、アカシックレコードへのアクセスという大事業が、聖杯だけでは完全に行う事が出来ないからよ。

聖杯から抽出したデータには少なからず欠損が生じるわ。そこを補うために、人々の知識や信仰、畏れといった……いわゆる【知名度補正】を使うのよ」

「つまり、鬼の子孫なんて言われる英霊なら鬼の特徴が現れるし、神の子孫なら神の特徴を持って召喚されるって言うことね」

 

サンジェルマンの言葉を了子さんが説明してくれる。

知名度補正……コトバノチカラを使うという訳ね。

サンジェルマンは頷いて再び口を開いた。

 

「英霊にはクラス、と呼ばれる器に当て嵌められて召喚される事になるわ。例えばアーサー王なら有名なエクスカリバーの逸話から【セイバー】のクラスで呼ばれるでしょうね」

 

もしくはロンゴミニアドを持った【ランサー】か……。

 

「クラスは【セイバー】【ランサー】【アーチャー】【ライダー】【キャスター】【アサシン】【バーサーカー】の七種類よ。

そして、強力なサーヴァントはその分、魔力の消費が激しいわ。身の丈に合ったサーヴァントを召喚するべきね」

「サンジェルマンさんは、どのクラスの英霊を呼ぶつもり?」

 

と、俺が聞くとサンジェルマンはしばし考え込む。

 

「【セイバー】か【ランサー】を呼ぼうかと思っていたけれど、貴方たちの力を借りられるなら、【アサシン】か【キャスター】も良いかも知れないわね」

「呼び出すクラスは選べるのか?」

 

と、弦十郎さん。

 

「基本は選べないわ。ただ、召喚の際に唱える呪文を改編すれば多少の指向性は得られる……らしいわ」

「情報があやふやなワケダ」

「しょうがないでしょ?聖杯戦争なんてマイナー通り越して絶滅危惧種な儀式なんだから。記録もデータも今言った事以外はほとんど残ってないわ」

「そうなんですか?」

 

俺はそう聞いた。

この世界の聖杯戦争の情報は少しでも知っておきたい。自身のわずかな知識と照らし合わせて、差違を知っておかなくちゃね。

 

「そう。確か、最後に行われたのは1945年、第二次世界大戦終戦の年よ」

「開催場所は東京。何をどうしたかは知らないけれど、風鳴訃堂が聖杯を解体したとか破壊したとか……」

「えぇ……」

「親父は何も言ってなかったぞ……」

 

訃堂司令、マジOTONA。

と、冗談は置いておいて、1945年の東京で行われた聖杯戦争という事は……ぐだぐだ帝都聖杯なんちゃらがベースなの?

ノッブとかおき太とかが呼ばれたのかしら。

 

「その時召喚されたサーヴァントはわかります?」

「源 頼政以外の記載はまったく無かったワケダ」

 

源 頼政。

妖獣・鵺を退治した平安末期の武人。

つまり、知らない聖杯戦争なワケダ。

 

「というか、その時訃堂司令が聖杯を解体なり破壊したなら、今冬木にある聖杯は誰が作ったのよ?」

 

と、了子さん。

あぁ、そこも気になる。

 

なんでも聖杯戦争に使える出力の聖杯はほとんど無いのだとか。

あったとしても、バチカンやパヴァリアといった大きな組織が厳重に保管していると。

 

聖杯、確か遠坂、マキリ、アインツベルンが作ったんだったような。

あれ、じゃあなんでFGOはあんなに聖杯あるの?……魔術王が大量生産したんだっけ?

だめだ、記憶があやふやだわ……。

 

「作ったんでしょうね、ここで暮らす錬金術師が」

「【阿礼(あれい) 星乃(ほしの)】という女なワケダ」

 

人力で作られたのね。

 

「知っている人?」

「奴の先祖を知っているワケダ」

「そいつの先祖は元々パヴァリアの幹部だったのよ」

「思想が危険(ぶっとび)すぎて追放されたワケダ」

 

訳ありっぽいわね。

 

「ついでだから、聖杯戦争参加者について話しておくわね」

「阿礼星乃については事前に調査を依頼していた筈なワケダ」

「ああ。飛騨忍群の者から阿礼星乃や参加者とおぼしき人のデータは送られてきている」

 

と、弦十郎さんがタブレット端末を見せる。

飛騨忍群、キラ・ヤマトみたいな声の緒川さんの実家である。

そんな飛騨忍群の皆さんは、ここ最近冬木にやって来た外国人滞在者や長期滞在予定の人間から怪しい人間の情報を洗い出してくれたのであった。

 

「まず最初に、今言った【阿礼 星乃】」

「この冬木の大地主、だったか」

 

タブレットが女性の映像と、略歴を映し出す。

阿礼 星乃。45歳。女性。

前髪は額で一文字に切り揃えられた、黒い長髪の持ち主。年相応の見た目ながら、怪しい魅力を出している。

略歴には東大法学部卒業、と書かれている。才媛らしかった。

住居は冬木市郊外にある森の中。

 

「彼女は錬金術師よ」

「先祖の知恵から錬金術と、聖杯の作成法を学んで、それを実践したのね」

「で、先祖は誰なんです?」

「アレイスター・クロウリー」

 

とんでもないビッグネームが飛び出してきた。

 

「……マジ?」

「マジよ」

 

アレイスター・クロウリー。

顔の両脇に握り拳をくっ付けた写真で有名な魔術師、否、錬金術師だ。

あと禁書目録にも出てたような。アニメしか見てないからどんな人かわからないけども。

 

「異端技術者で、作家で、登山家よ」

 

と、了子さん。

詳しくは後でウィキペディア見なさい、とも言われた。

 

「次は【ラーガ・スン】。インド人」

 

タブレットには彫りの深い顔立ちで肌がよく焼けた男性が映る。

ラーガ・スン。31歳。男性。

観光目的の来日であり、滞在期間は1ヶ月を予定。

冬木市の友人の家に泊まるようであった。

職業は、研究者。

 

「この研究、というのが異端技術についての研究らしい」

「そんな事までわかるんですか」

「二課に詰めてるドクターウェルが一度彼の顔を見たことがあるらしい。インドとの合同研究での顔合わせでの事、二年ほど前だそうだ」

 

こんな時に異端技術の研究者が来るのは怪しいよなぁ。

というか、よくそこまで調べてきたものである。

飛騨忍群、すごい優秀だぁ。

 

「次も異端技術の研究者だな」

 

次に映ったのは女性である。

カルマ・リー。26歳。中国人。

おかっぱというか、髪を肩で切り揃えている。目は鋭く、研究者というより軍人のようだ。

滞在目的はこれまた観光。期間は二ヶ月を予定。

宿泊場所は、冬木市深山町の民泊。

 

「深山町は冬木市の西側ね」

 

冬木市は中央を東西に分断する未遠川が流れており、その西側が深山町。東側が冬木ハイアットホテルのある新都である。

ちなみに北側が海、南西部が山。海の幸も山の幸も食べ放題やね。

 

「ちなみに彼女の事も、ドクターウェルが知ってたわ」

 

ドクターウェル、顔が広すぎる。

 

「次は陰陽師だ」

 

映ったのは男。

夜の町を彷徨いているのだろうか、背景のネオンが眩しい。

赤いシャツに赤路と金糸の龍が彩られたジャケットを着た丸刈りの中年。そして左腕にはトライバルめいたタトゥー。

全身は鍛え上げられた身体をしている。

名前は【郷田(ごうだ) (きよし)】。

 

「阪神最大の暴力団組織の用心棒だ。過去に逮捕歴が3件」

「ヤクザの陰陽師なのか……」

 

俺は思わず困惑した。

キャラが濃すぎる。

 

「奴の着けているバッチ、これは関西陰陽師連盟の所属を示すものらしい」

 

弦十郎さんがタブレットの写真を拡大。

郷田の胸元には銀色に光る五芒星のバッチ。

陰陽師うんぬんの情報は、先日逮捕したセーマン桔梗組合の二人組を取り調べた時に聞き出したらしい。

 

「怪しい人物は以上の4名だ」

「聖杯戦争の参加者は最大7名。こちらの陣営含めて残りは二人か……」

「残りは冬木市の隠れ錬金術師か異端技術者かしらね」

「飛騨忍群には引き続きマスター候補の捜索をさせよう」

 

アレイスター・クロウリーの子孫、阿礼 星乃。

インドの異端技術研究者、ラーガ・スン。

中国の異端技術研究者、カルマ・リー。

ヤクザもんの陰陽師、郷田 潔。

そして、我らがサンジェルマン。

 

彼らが現在わかっている聖杯戦争の参加者とおぼしき存在。

もちろん、違うかもしれないけれど、注意は必要ね。

 

「そろそろいい時間ね」

 

と、カリオストロ。

時刻は午前0時の5分前。

 

「準備はいい、サンジェルマン?」

「ええ、問題ないわ」

 

と、左手の甲をさする。

そこには赤いタトゥーが光る。

令呪だ。

 

同人誌でサーヴァントにイヤらしい命令をさせることで有名な令呪は、サーヴァントへの絶対命令権であり魔力リソースであり聖杯戦争への参加権である。

冬木市に到着した途端、サンジェルマンに発現したのであった。

なので、サーヴァントの召喚はサンジェルマンが行うことになった。

 

そして、それこそがこんな深夜に打ち合わせをしていた理由。

サーヴァント召喚には魔力を多大に消費するらしく、サンジェルマンの魔力が最大にまで高まる午前0時にしか召喚出来ないらしかった。

 

「サンジェルマン、準備は出来ているわ」

 

カリオストロがテーブルをどかす。

テーブルの下には幾何学模様の魔法陣。

昼の間に準備していたのかしら。

 

「あとは、少し恥ずかしい呪文を唱えるだけなワケダ」

「余計なことは言わないでちょうだい……」

 

げんなりするサンジェルマン。

たしかにあの呪文、ちょっと中二っぽくていい大人のサンジェルマンには恥ずかしいよね……。

 

「あと30秒で0時よん」

 

了子さんが知らせる。

その言葉で、パヴァリアの三幹部の顔付きが変わる。

サンジェルマンが魔法陣の前に立ち、カリオストロとプレラーティがその後ろに待機。

有事の際に備える為だ。

俺と弦十郎さんも、その並びに加わる。

了子さんはその更に後ろだ。

 

「あと10秒……5秒、4、3、2、1」

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公……」

 

0時になり、サンジェルマンが呪文を唱え出す。

呪文が進むたびに、魔法陣から光が発され、それが強くなる。

 

「…………アーカーシャより来たれ、天秤の守り手よ!」

 

呪文を唱え終わる。

魔法陣の光がより強く輝き、一瞬視界が白く染まる。

その直前、3重の光の輪が魔法陣より現れて、その中心に収束したのを見た。

FGOのサーヴァント召喚演出めいてるね。

 

視界が元に戻る。

広いホテルの内装。どかされたテーブル、魔法陣。

そして、魔法陣の中心に立つ人。

 

 

 

呼び出されたサーヴァント【1D10】

 

1 ジャンヌ・ダルク(セイバー)

2 ジャンヌ・ダルク(セイバー)

3 ジャンヌ・ダルク(セイバー)

4 ジャンヌ・ダルク(セイバー)

5 ジャンヌ・ダルク(セイバー)

6 ジャンヌ・ダルク(セイバー)

7 ジャンヌ・ダルク(セイバー)

8 ジャンヌ・ダルク(セイバー)

9 ジャンヌ・ダルク(セイバー)

10 エンキ(セイヴァー)

 

結果、【8】

 

 

 

金色で髪の長い、女性。

横髪をロールさせた、ぱっちりとした碧眼。

額には鉄の冠、身体は軽装鎧で身を包む。

帯剣している、女騎士。

 

その女騎士が口を開く。

 

「サーヴァント、セイバー。ジャンヌ・ダルク、召喚に応じ参上しました。貴女が私のマスターです───」

「ジャネット……?」

 

と、サンジェルマンの声。

 

「……え、嘘。天使様!?」

 

え、知り合いなの?




サンジェルマンとジャンヌ・ダルクって知り合いなの?ジャネットって?天使様って?

そう思った読者は今すぐシンフォギアXDUをインストールしてイベント『聖なる誓いの合重奏』をプレイしよう!
上記の二人の触れ合いがタダで見れるぞ!
しかも課金するだけで、セクシーな女騎士装備の響、キャロル、サンジェルマンが手に入るんだ!
やらなきゃ損だぞ!!


あ、でも今やってる超高難易度『シェム・ハ』獲得クエストだけはやるのやめとけ。
クエストの為に2万円課金したけど勝てる気しないから。
シェム・ハ欲しいけど、どうしようかなぁ……。


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第二十五話 異端聖杯戦争②


投稿が遅れて申し訳ございません。
仕事がクソファッキン忙しいのと、switchで真・女神転生遊んでたのとファッキンファッキンファック仕事が忙しいのが原因です。
そしてこのまま忙しさが九月以降も続きそうです。
辛いです、小説書けないから……。


 

サンジェルマンが呼び出したサーヴァント、【ジャンヌ・ダルク】。

ルーラーやアーチャーで声優が坂本真綾なジャンヌ・ダルクではなく。この世界の、シンフォギア世界のジャンヌ・ダルク。

 

それがサンジェルマンの呼び出したサーヴァントだ。

そしてサンジェルマンは生前のジャンヌ・ダルクとは親しい仲であったようだ。

召喚した直後はお互いにビックリしていたものの、落ち着いたら会話に花を咲かせている。

 

「まさか天使様に召喚されるなんて、夢にも思いませんでした!」

「私も、まさか貴女を呼び出すことになるなんて思わなかったわ」

「はい、天使様!本当に、本当にお久しゅうございます!!」

「で、サンジェルマン。そろそろ二人の関係を聞かせて欲しいんだけれど?」

「こっちを放置しないでほしいワケダ」

 

ほらー、サンジェルマン大好きなカリオストロとプレラーティが拗ねたー。

 

「ああ、ごめんなさい。彼女とは生前で付き合いがあったのよ」

「改めまして、セイバーのサーヴァント。ジャンヌ・ダルクです。よろしくお願いします」

「ジャネット、彼女たちは私の仲間よ」

「カリオストロよん♪」

「プレラーティなワケダ。噂はかねがね」

 

……プレラーティ、なにか様子が変な気がする。

居心地が悪そうというか、なにか歯切れが悪いというか。

 

「フランソワ・プレラーティはね、ジャンヌ・ダルクと共に戦場を駆けたジル・ド・レェ元帥と結託して数多の少年たちを凌辱したのよ」

 

と、了子さんが小声で教えてくれる。

憧れだったジャンヌ・ダルクが火刑に処された事で精神を病んだジル・ド・レェ元帥は、プレラーティと共に悪魔召喚の生贄や、儀式の為に美少年たちを凌辱・虐殺し、最終的に絞首刑にされた。

そして元帥としてはとても優秀な人物で「救国の英雄」と呼ばれる程だったとか。

ジャンヌ・ダルクとも親交を深めただろう。

前世のFate/zeroでもそんな話をしていたし。

そんな人間を堕落させたプレラーティ、そら居心地悪くなるわ!

 

「カリオストロさん、プレラーティさん。よろしくお願いしますね。それと、後ろの方々は……?」

「彼らはこの聖杯戦争の協力者。この国の守護者よ」

「風鳴弦十郎だ、よろしく」

「櫻井了子よ、よろしくね」

「ドーモ、はじめまして。渡一鳴です」

 

自己紹介する弦十郎さんと了子さん。

俺も手を合わせてお辞儀した。

 

「よろしくお願……え?」

 

俺を見て固まるジャンヌ・ダルク。

そら、ローティーンの子どもが国の守護者って言われたら固まるよね。

 

「こんな見た目ですが国から選抜されたエリート戦士だったりします」

 

シンフォギア装者なので嘘は吐いてない。いいね?

 

「でも、まだまだ半人前よね~?」

「ぐぬぬ……」

 

了子さんに訂正される。

悔しいけれど、その通りなのよね……。

 

「一鳴君は確かに子どもだが、頼りになる男だ」

 

弦十郎さんのフォローが暖かいね……。

 

「そうですか、わかりました。よろしくね、一鳴さん」

「こちらこそ。ジャンヌさんの露払いは俺が務めましょう!」

「あら、勇ましいわね」

 

微笑むジャンヌ・ダルク……ジャンヌさん。

 

「そういえば、なぜサンジェルマンさんを【天使様】と呼ぶんです?」

 

ずっと気になっていたのよね。

ジャンヌさん、サンジェルマンの事をずっと【天使様】って呼んでる事が。

 

「ああ、それは……」

「ではお話ししましょう!」

 

サンジェルマンの言葉を遮ってジャンヌさんが語り出す。

 

「私が12歳の時、故郷ドンレミ村が戦火に焼かれました。たくさんの人が亡くなり、私もまた瀕死の重症で死を待つばかり。

 

そこを、天使様が助けてくださったのです。

 

天使様は神の御技で瓦礫を吹き飛ばし、水を出してドンレミ村を焼く火を消し去りました。

そして、私の傷を癒して下さったのです。

神の御技を使う、だから【天使様】なのです!」

 

ジャンヌさんはサンジェルマンに助けられたのね。

 

「……ジャネット、私は天使ではなく錬金術師だ」

「ええ、わかっています。……聖杯戦争、英霊召喚。そして、あれから幾百年経ってなお健在なお姿。……異端技術、そう呼ばれるものを扱うのですね。

聖杯が、教えてくれました」

「そうだ、ジャネット。私は……」

「それでも、天使様は天使様です。あの日、私を助けてくれた貴女は、本当に天使のようでしたから……」

 

そこにあるのは、憧憬か友情か。

サンジェルマンの手を取るジャンヌさん。

 

「だから、もう一度貴女と会えて本当に嬉しいのです」

「……ええ、私もよ。ジャネット」

「えーと、サンジェルマン?」

 

うっとりし合う二人の間にインターセプトするカリオストロ。

 

「……あ、すまない」

「んもう、懐かしいのはわかるけど、私たちをほっとかないで!」

「す、すみません!」

「まぁ、ジャンヌさんがサンジェルマンさんを【天使様】と呼ぶ理由はわかりました」

「……とにかく。今日はもう遅いワケダ。旧交を暖めるのも、方針を定めるのも明日にするワケダ」

 

と、プレラーティ。

時計を見るともう午前一時。

 

「そうだな。そちらもそれで良いだろうか?」

「ええ、そうね」

 

弦十郎さんの言葉にそう返すサンジェルマン。

そんな訳で。

パヴァリア + ジャンヌさんとはまた明日という事になった。

と、言っても我ら二課組の部屋は隣なんだけれども。

弦十郎さん、了子さん、そして俺。傍目から見たら家族連れよね。

そんな事を考えながら就寝したのであった。

 

 

 

 

時は少し遡り、午前0時。

冬木市郊外。

深い森の奥に、その家はあった。

塀で囲まれた中には見事な庭園と、和風の屋敷。

森の奥にひっそりと佇む事から【マヨヒガ】などと、東北の伝承のように噂されている。

 

その表札には【阿礼】。

家長の名は【阿礼 星乃】。

かの有名な近代魔術師、アレイスター・クロウリーの子孫であり、聖杯戦争の主催者。

 

彼女は今、自らの執務室にいた。

16畳もの広さの部屋だ。

夜の闇を備え付けられた燭台だけが照らしていた。

星乃は今、文机の前に座ってタブレット端末を操作している。

 

その彼女から少し離れて対面に座り、茶を啜る男が一人。

黒いローブを着た男だ。

獣めいた鋭い目付きで、金色の瞳をしていた。

星乃のサーヴァントである。

その名は【アレイスター・クロウリー】。

クラスは【バーサーカー】。

阿礼星乃は、自分の先祖を呼び出したのだ。

 

「アレイスター様、サンジェルマンがサーヴァントを呼び出したようです。……【セイバー】のサーヴァント。名を【ジャンヌ・ダルク】」

「ずずず……ほう。かの聖女を呼び出したか」

 

星乃の端末には、冬木ハイアットホテルの一室。

サンジェルマンが宿泊する部屋の様子が写し出されていた。

 

「文明の利器には感謝しなくてはな。我が守護天使エイワズの御力で、千里眼の真似事が出来る」

「ええ。サンジェルマンたちも国家を味方につけてマスターたちの情報を盗み見ているようですが」

「それが出来るのは彼女らだけではない、ということだ。いや、プレラーティ風にいうならワケダ、という奴だな」

 

くつくつと笑うクロウリー。

 

「……協力を申し出さなくて宜しいのですか?彼女らはかつてのアレイスター様のお仲間では……?」

「クク、仲間ねぇ。いや、構わんさ。大昔に決別した仲だ。それに、死んだ後ぐらい自由にやりたいのでね」

「……過ぎたことを申しました」

「構わんよ、我が子孫よ」

 

再び茶を啜るクロウリー。

 

「そういえば、セイバーで何騎目だっかな、サーヴァントは?」

「六騎目です」

「ああ、そうだ。ラーガ・スンもカルマ・リーも、郷田潔も。そしてあの哀れな男……。既にそれだけのサーヴァントが呼び出されていたな」

 

 

 

サーヴァントコンペ(ラーガ・スン編)【1D6】

 

1 アーチャー

2 ランサー

3 ライダー

4 アサシン

5 アヴェンジャー

6 フォーリナー

 

結果、【5】

 

 

 

サーヴァントコンペ(カルマ・リー編)【1D6】

 

1 アーチャー

2 ランサー

3 ライダー

4 アサシン

5 振り直し

6 フォーリナー

 

結果、【2】

 

 

 

サーヴァントコンペ(郷田潔編)【1D6】

 

1 アーチャー

2 振り直し

3 ライダー

4 アサシン

5 振り直し

6 フォーリナー

 

結果、【6】

 

 

「クロウリー様」

「なんだい?」

「聖杯戦争で呼び出せるサーヴァントのクラスは【セイバー】【ランサー】【アーチャー】【ライダー】【キャスター】【アサシン】【バーサーカー】の7つですよね?」

「そうだな、我が子孫よ」

「【アヴェンジャー】と【フォーリナー】ってなんなんですか?」

 

阿礼星乃の真っ当な疑問であった。

 

「さぁ?」

「さぁ、って……」

「あの聖杯、百年ほど前にパクった、誰かが作った物を違法コピーした物だからな。そういうイレギュラーも発生するとも」

「えぇ……」

 

困惑する星乃。

そんな星乃を見てクロウリーは笑いながら茶を啜った。

 

「ずずず。まぁ、いいじゃないか。どの道、我らが糧になるのは確定だ」

「……そう、ですね」

「聖杯を満たす莫大なエネルギー。【四騎】ほど、サーヴァントを倒せば我らが大願は叶う」

 

茶を飲み干すクロウリー。

 

「全ては我が守護天使エイワズの為だ」

「はい、全ては滞りなく」

「星乃よ、お前の願いもようやく叶うだろう」

「はい……ん?」

 

タブレットを見た星乃が訝しげな顔をする。

 

「どうした?」

「キャスターが動き出しました」

「ほう?……なるほど、今補足した」

 

クロウリーの眼が怪しく光る。

 

「目的地は……冬木大学学生寮。奴め、マスターに餌を食わせるつもりか」

「如何なさいますか?」

「放っておけ」

 

立ち上がるクロウリー。

 

「どうせ明日のニュースを騒がせるだけだ」

「わかりました」

「俺はもう休む。お前ももう寝ろ、明日から忙しくなるからな」

「はい」

 

そして、クロウリーは霊体化。

執務室には星乃ただ一人。

タブレットの電源を切る。

 

「キャスター。自らのマスターを怪物へと変えた狂信者、ね」

 

星乃は胸騒ぎがしていた。

それはキャスターのおぞましき行い故か、それとも……。

 

「イレギュラーが、発生しなければ良いのだけれど」

 

星乃の呟きは闇に溶けて消えた。

 

 

 

 

冬木大学。

新都にそびえる学舎だ。

十数年前に設立された真新しい大学。

その近くに学生寮は存在した。

4階建てのアパート。

その二階。202号室。

そこに一人の男子学生が暮らしている。

 

名を藤丸立香(ふじまるりつか)

冬木大学社会福祉学部の二回生である。

彼はゼミに提出するためのレポートを作っていた。

時刻は既に午前0時を回っており、レポートも完成が見えていた為、就寝しようとしていた。

その時だ。

 

隣の部屋、201号室から大きな物音がした。

争うような物音と、物が床に落ちる音。

すわ強盗か、立香はそう考えた。

警察に電話しようか、そう考えた。

だが、気付いた。

 

もう、物音がしていない。

隣の住人はどうなったのか。

強盗はどうしたのか。

 

恐怖はあった。

だが、まだ助けられるかもしれない。

立香には、ほとんど顔を合わせたことのない隣の住人を見捨てることが出来なかった。

 

傘立てに刺してた木刀を持ち、部屋を出る。

一人暮らしを始める立香を心配して父親が持たせたものであった。

その木刀を持ち、201号室の前に立つ。

ゆっくり、ドアノブを回す。

ドアは、開いた。

鍵がかかっていなかった。

 

「すいませーん、隣の藤丸ですけれど……」

 

そう、声をかける。

返答はない。

ゆっくり、部屋に入る。

住人には悪いが、土足のままで。

 

部屋は真っ暗だった。

玄関からまっすぐ廊下が伸び、その先に4畳ほどの部屋。廊下の右側に小さなキッチン。立香の部屋と同じ構造。

その4畳ほどの部屋に何かが蠢いていた。

大きく膨らんだナニカ。

 

頭から記憶を引きずり出す。

確か、この部屋の住人は痩せていたはず。

なら、あの膨れ蠢くモノは何だ?

 

立香は木刀を構える。

 

「すいませーん、大丈夫ですかー?」

 

じりじり、摺り足で近寄りながら声をかけ続ける。

立香は木刀を持つ反対の手でスマホを取り出し、ライトを付けた。

蠢く物がライトに照らされる。

 

「───え?」

 

立香は目を離せなくなった。

その膨れたナニカに。

ソレは元は人間だったのだろう。

うずくまっていて手足が有り、下半身にジーンズを履いていた。

だが、その身体から。

無数の触手が生えて、びちびちと蠢動している。触手からは細いトゲが生えていてオニヒトデめいている。

 

そのナニカの動きが止まる。

ライトに気付いたのだろう、立香の方を振り向く。

 

「ひッ───」

 

息を飲む。

そのナニカの顔はボコボコと膨れ、ベコンと縮む運動を繰り返す少女の顔だったからだ。

立香は気付いた。

そのナニカ、恐らく元は成人男性だったのだろうと。触手の隙間から見える身体が男性のものなのだ。

男性の身体に少女の顔がついている。

そして、その少女の口は血にまみれていた。

 

少し、視線をずらす。

ナニカの顔があったところに。

そこには血と腸をぶちまけた、痩せた男。

この部屋の、住人の男だったもの。

 

「あ、ああぁぁぁぁ」

「■■■■■……」

 

ナニカが声を上げる。

男性の、あるいは少女のような冒涜的な声。

 

「じるぅ~、びるぅぅぅぅぅ」

 

甘えるような声。

だが、声を出す度に顔が歪む、変わる。

立香の精神は限界だった。

 

「うわああああああああああああ!!」

 

立香は逃げ出した。

木刀を投げ捨て、走った。

走って、走って。

玄関にまでたどり着いた所で。

 

「ああ、駄目ですよ」

 

腹を殴られた。

 

「ぐえぇっ!」

 

呻き、倒れる立香。

その側に立つ一人の男。

豪奢なローブを着た、柔和な風貌の男。

その右手には、本を持っていた。

 

「逃げてはいけませんよ。貴方は我がマスターであるジャンヌの糧なのですから」

「ジャ、ンヌ……?糧……?」

 

立香は理解した。

あの、触手蠢く怪物が【ジャンヌ】であり、自らはジャンヌに食われるのだろうと。

この部屋の、元々の住人のように。

 

「いや、だ……」

 

手足に力を入れて、逃げようとする。

だが、男に腹を思い切り踏みつけられる。

 

「えぐっ……」

「喜びなさいな。貴方は出来損ないとはいえ、ジャンヌの糧になるのですよ?名誉なのです」

「ぐげぇ……」

 

ぐりぐりと、腹を踏みにじられる。

痛み、苦しみ。そして、怒り。

立香は思う。

なぜ自分がこんな目に合うのか。この男はなんなのか。一体なにが起こっているのか。

なぜ、ここの住人は死ぬことになったのか。

このまま、生を諦めてなるものか……!

 

「まだ、だ……」

 

腹に力を入れる。

痛みに悶える身体に喝を入れる。

消え入りそうな心に火をつける。

死にたくない。

自分はまだ───

 

「死にたく、ない……ッ!」

「無駄な足掻きはもうお止めなさい。ほら、ジャンヌもやっと来ましたよ」

「じるぅ、じるるるる……」

 

ずり、ずり、と。

【ジャンヌ】が這ってくる。

立てないのか、四つん這いで、近付いてくる。

 

「オレは……!」

 

拳を握る。

痛くなるほど。拳の痛みで、意識を保つ。

だから、気付かなかった。

左手に、令呪が表れた事に。

 

「生きたい……ッ!」

 

そう、口に出した途端。

立香の下の床が光る。

召喚魔法陣が現れる……!

 

「これは……!?」

「じるるぅ?」

 

男が狼狽える。

しかし、それも一瞬で立香から足を離し【ジャンヌ】を掴んで部屋の奥に後退。

 

「これは……?」

 

立香もまた、狼狽していた。

だが、気付いた。

この光は自信を脅かす物ではないと。

光がよりいっそう強くなる。

三重の光の輪が現れ、収束。

一瞬の強い光。

 

そして、光が消えて。

立香を守るように、男と【ジャンヌ】に相対している人影。

 

 

 

サーヴァントコンペ(藤丸立香編)【1D6】

 

1 シャルロット・コルデー(殺)

2 シャルロット・コルデー(殺)

3 メルトリリス(アルターエゴ)

4 メルトリリス(アルターエゴ)

5 シャルロット・コルデー(殺)

6 エミヤ(弓)

 

結果、【1】

 

 

 

そこに現れたのは、普通の少女のようであった。薔薇をあしらった黒い山高帽子に白いドレス。ブラウンの髪はキメ細やか。

そして、そんな可愛らしい少女に似つかわしくない大降りのナイフ。

 

「……えーと、こういう時は『問おう貴方が私のマスターか!』と言うべきなのでしょうけれど……」

 

可憐な声だ。

だが、その声からは明確な敵意。

そして少女はナイフを向けた。

 

「貴方は私のマスターの敵ですか?」

 

ナイフを、敵意を向けた先は男と【ジャンヌ】。

男は不敵に笑った。

 

「死に際でサーヴァントを召喚するとは……」

 

そう言うと男は懐から赤い宝石を取り出す。

 

「この場は撤退しましょう。警官もすぐ近くまで来ているようですし」

 

男の言うとおりパトカーのサイレンが遠くから聞こえてくる。

学生寮の誰かが騒ぎを聞いて警察に連絡したのだろう。

 

「それでは、お嬢さん」

「あっ!」

 

少女がナイフを投擲。

だが、一瞬早く男が宝石を割る。

瞬間、男と【ジャンヌ】の姿が消え、ナイフが通り過ぎる。

二人は逃げ出したようだ。

 

「ふぅ、なにはともあれ逃げてくれて助かりました……」

 

少女はそう言うと立香の方に振り向いた。

 

「マスター、大丈夫ですか?」

 

起き上がる立香に手を差し伸べる少女。

朗らかで優しげな笑み。そしてバストは豊満であった。

 

「うん、取り敢えず……」

「はい!」

「ちょっと、もう、限界……」

「へ……?」

 

立香の意識が遠くなる。

男に腹を殴られ、踏みにじられ。

そしてサーヴァント召喚で完全に体力を持ってかれたのだった。

 

「ま、マスター!しっかりしてください!」

 

少女、シャルロット・コルデーの叫びを聞きながら、立香は意識を手離したのだった。





作者ワイ「どうして聖杯戦争7騎中2騎がエクストラクラスなのん?」
ダイス神「サーヴァントコンペでの選択肢の1/3がエクストラクラスだからでしょ」
作者ワイ「あ、そっかぁ(明確な反省点)」

そんな感じのおはなしでした。
そして登場FGOの主人公藤丸くんです。まぁ同一人物ではなく同一存在ではありますが。そんな彼も聖杯戦争に巻き込まれていきます。これからどうなることやら……。


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第二十六話 異端聖杯戦争③

作者の処女作完結の為!
ハーメルンよ、私は帰って来た!



ドーモ、一鳴です。

朝の7時30分。

爽やかな目覚めを迎えた俺たちは、ホテルの中にあるビュッフェレストランで優雅に朝食食べております。

 

「一鳴くん……、あなた明太子取りすぎじゃない?」

 

俺の持つお盆を見た了子さんの顔がひきつる。

お盆の上にはご飯、味噌汁、野菜ジュース、スクランブルエッグとベーコン。そして明太子の小鉢が3つほど。

 

「俺明太子好きなんですよ」

「き、気持ちはわかるが……」

「食事はバランス良く食べなきゃダメよ」

 

俺のメニューに苦言を呈する弦十郎さんとサンジェルマン。

しょうがないのよ、目の前に明太子があるんだもの(アルピスト感)

ビュッフェスタイルだから明太子取り放題だし、冬木ハイアットホテル最高や!

 

「普段は抑えてるので、今日ぐらいは許してつかぁさい」

「まぁ、気持ちはわかりますからね……」

 

と、セイバーのジャンヌさん。

ジャンヌさんのお盆の上には大盛のご飯とトーストと山盛りのおかず類。

 

「私も思わず張り切ってしまいました……お恥ずかしい」

「貴女は昔から健啖家だったものね」

 

流石のサンジェルマンも苦笑いであった。

ちなみにサンジェルマンはトーストとサラダ。

カリオストロはヨーグルトとサラダ。してフルーツ類

プレラーティはミルク一杯。

 

プレラーティはそれで足りるのん……?

 

「私は低血圧だから、朝はこれでいいワケダ」

「良いわけないじゃない、ほら、これ食べなさい」

 

プレラーティのお盆にフルーツ盛り合わせを乗せるカリオストロであった。

 

「それでは食べましょうか」

 

サンジェルマンが言う。

手と手を合わせて、いただきます。

挨拶は実際大事。古事記にもそう書かれている。

 

「食事の席ではあるが一つ報告しなければならない事がある」

 

食べはじめてからしばらくして、弦十郎さんが口を開く。

 

「なにかしら?」

「昨日の0時過ぎ、冬木大学の学生寮で殺人事件が起こった」

 

詳細は食事中には話せないのだが、と続けた弦十郎さん。

 

「その現場で倒れていた、隣の部屋の住人の右手の甲に、赤く光るタトゥーが入っていたそうだ」

 

赤く光るタトゥー……令呪だよね。

その人は聖杯戦争に参加しているマスターの一人ってことだろう。

学生寮で起こったという殺人事件の犯人?

ならなぜ現場で倒れていた?

 

「その隣の部屋の住人は聖杯戦争に参加しているマスターの可能性が高いだろう」

「サーヴァントは?」

「いや……そうと思える人間の報告は入っていない。恐らく霊体化という奴で姿を隠しているのだろう」

「その殺人事件は、その住人Xが犯人なワケダ?」

「現状は、まだなんとも。ただ、可能性は低いな」

「なぜ?」

「現場にはその住人の物と思える木刀が落ちていたのだが、その木刀には血が着いておらず、また、被害者にも木刀で殴られた痕は無かった」

「つまり、犯人は別に居て、その住人Xとそのサーヴァントは殺人事件に巻き込まれただけの可能性が高いということね」

 

サンジェルマンが纏める。

聞いた限りでは、被害者の人を助けようとしてサーヴァントを呼び出したっぽい?

巻き込まれ主人公?

 

「こちらとしてはその住人と接触して、出来れば保護したいところなのだが」

「その住人は今どこに居るワケダ?」

「衰弱していた為、新都にある聖堂病院に入院したとの事だ」

「衰弱?」

「恐らくは、サーヴァントの召喚か維持で魔力が欠乏しているのね」

「それ、大丈夫なんです?」

 

俺はサンジェルマンにそう聞いた。

クッソうろ覚えだけど、Fate/zeroの雁夜おじさんはバーサーカーの維持の為に苦しんでいたし、その人は大丈夫なのか心配になったのだ。

 

「報告では意識はもう戻っていて、命に別状も無いそうだ」

「なら、問題は無さそうですね」

「ああ。だからこそ、彼の保護をしたんだ」

 

と、弦十郎さん。

 

「……まあ、その人が真っ当な人間なら保護を受け入れるでしょうし、聖杯目当てだった人間だというなら先手を打つ事も出来るわね」

「保護した後に、出来る範囲で協力してもらうのもありね」

「つまり、こちらとしては問題ないワケダ」

 

と、パヴァリア三幹部の返答。

 

「で、誰が行くかなんだが……」

「言い出しっぺで、国家機関の幹部として保護を申請出来る風鳴弦十郎は確定だとして……」

「サーヴァントとの戦闘も考えられるわ。私とジャネット……セイバーも行きましょう」

 

サンジェルマンがそう言う。

トーストを頬張っていたジャンヌさんが答えた。

 

「ええ、わかりました天使様(マスター)。ですがきっと、その人も保護を受け入れてくれるはずです」

「それは、戦略家としての勘かしら?」

「ええ、今の話を聞いた限りでは」

 

先程まで朝食に舌鼓を打っていたような腑抜けた顔ではなく、凛とした戦士の顔でそう言った。

 

「取りあえずは、弦十郎さんとサンジェルマン、そしてセイバーちゃんで病院に向かうって事で良いかしら?」

 

了子さんが確認をとる。

弦十郎さんが答えた。

 

「そうだな。で、俺たちが病院に行っている間、そっちはどうするんだ」

 

 

留守番組の行動【1D10】

 

1 拠点防衛

2 拠点防衛

3 拠点防衛

4 威力偵察

5 偵察

6 偵察

7 情報収集

8 情報収集

9 威力偵察

10 熱烈歓迎

 

結果【7】

 

 

 

「そうね、こっちは情報収集でもしようかしら」

「あら、そうね。他のマスターの弱味とか握りたいし」

 

悪い顔の了子さんとカリオストロ。

 

「情報収集は良いんですけど、そう言うのって飛騨忍群がやってるんじゃないです?」

「飛騨忍群はあくまで日本国内にいる時の情報しか掴めない。また、錬金術や陰陽術にも精通している訳ではないから、ソッチ方面にも弱いな」

「つまり、海外やオカルト方面での情報をこっちで集めれば良い訳ね」

 

異端技術者にしてフィーネがinしてる了子さんや、世界中で暗躍しているパヴァリア光明結社の大幹部カリオストロとプレラーティにはうってつけの任務だろう。

でもそしたら俺の仕事が無いワケダ……。

俺も弦十郎さんたちに着いて行こうかしら。

 

「いや、一鳴くんにはここの護衛をお願いしたい」

「そうね。セイバーちゃんが離れている間、サーヴァントとまともに戦えるのはカリオストロちゃんとプレラーティちゃん以外では一鳴くんだけだもの」

「そして、戦闘員が私たちパヴァリアの人間だけだと、了子さんが無防備になってしまうもの」

「私たちが裏切ったら終わりなワケダ」

 

という事らしかった。

 

「と、言うわけで。私を守ってね、一鳴くん♡」

「アッハイ」

 

守る必要があるのか、甚だ疑問ではあるものの。

俺は了承した。

 

「で、お三方は裏切るんです?」

「私はジャネットを召喚したから聖杯戦争に参加せざるを得ないし。裏切らないわね」

「裏切ったらおっかないお爺ちゃんに切られるから、裏切らないわよ?今さら逃げるつもりもないし」

「それに、冬木市に潜伏している飛騨忍群は、私たちの見張りでもあるワケダ」

「つまり現状裏切る予定はないと」

「そういう事ね」

 

そういう事であった。

 

という訳で。

弦十郎さんとサンジェルマン、そしてジャンヌさんは聖堂病院へ。

俺と了子さん、カリオストロとプレラーティはホテルに残って情報収集を行う事になった。

 

 

 

 

【ダイス処理】情報収集パート【居残り組】

 

 

 

 

時刻は午前9時。

朝御飯を食べてからしばらく経って。

俺と了子さんは、パヴァリア組の宿泊している部屋に居た。

情報収集の為である。

 

弦十郎さんとサンジェルマン、ジャンヌさんは既に聖堂病院へ向かっている。

タクシーを使うという事なので20〜30分で着くことだろう。

 

「さぁ、情報収集よ!訃堂司令から『委細任せる』って言われてるし、カネとコネを用いて調べまくるわよん!」

 

了子さんはやる気だ。

 

「こっちも、結社のデータベースを漁ってみるわ」

「面倒だが、やるだけやってみるワケダ」

 

パヴァリア組は普通ね。

……プレラーティはやる気なさそうだけども。

で、俺はどうしよう。カネもコネもノウハウもないし。

……茶でも汲んどこう。

 

 

 

一鳴の茶の旨さ【1D10】

(1ほど所詮はインスタント、10ほど絶品)

 

結果【1】

 

 

 

「あら、ありがとう」

「丁度喉乾いてたのよ~」

「いただくだけいただいとくワケダ」

 

三人がお茶を飲む。

 

「……うん!」

「ホテルのお茶って感じね!」

「所詮はインスタント茶葉なワケダ」

 

大して美味しくもないのか……。

こういう時役立たずね、俺。

 

 

「一鳴くん、次はあーしがお茶の煮出し方教えるわね。少しは美味しくなるだろうし♪」

 

カリオストロがフォローを入れてくれる。

そのフォロー、暖かいぜ……。

 

 

 

フォローの結果【1D10】

(1ほど変わらねぇ、10ほど劇的)

 

結果【9】

 

 

 

「……美味しいわ!」

「ガキにしちゃ、頑張ったワケダ」

 

なんという事でしょう。

可もなく不可もなかった俺のお茶が、カリオストロの指導を受けた結果、美味しいお茶になったのです……!

 

「カリオストロ師匠……!」

「やったわね!」

 

二人で両手ハイタッチ。

俺のお茶がここまで美味しくなったのは、カリオストロ師匠の女子力の高さのお陰だよ。

もう、『元おっさん』『カリオっさん』『リアル美少女受肉おじさん』なんて言わないよ。

 

 

 

情報収集の結果【1D6】

(美味しいお茶効果で、失敗結果は排除されました)

 

1 ラーガ・スンの情報

2 カルマ・リーの情報

3 郷田 潔の情報

4 阿礼 星乃の情報

5 学生寮の殺人事件の情報

6 熱烈歓迎

 

結果【4】

 

 

 

「阿礼 星乃についての情報が手に入ったワケダ」

 

と、プレラーティがA4用紙片手に言う。

 

「阿礼 星乃……。確か今回の聖杯戦争の主催者で、アレイスター・クロウリーの子孫の方ですよね」

「そうだ。彼女の───」

 

 

 

わかった情報【1D10】

 

1 召喚したサーヴァント

2 召喚したサーヴァント

3 召喚したサーヴァント

4 召喚したサーヴァント

5 + 阿礼邸の侵入法

6 + 阿礼邸の侵入法

7 + 阿礼邸の侵入法

8 + 聖杯戦争の開催目的

9 + 聖杯戦争の開催目的

10 熱烈歓迎

 

結果【2】

 

 

 

「彼女の召喚したサーヴァントが判明したワケダ」

 

プレラーティの報告。

 

「まあ、なんとなく予想はつくけれど」

「ああ。彼女は自身の先祖である、アレイスター・クロウリーを召喚したワケダ」

 

プレラーティが用紙を一枚見せる。

そこには空撮したのだろう、広大な日本家屋が俯瞰風景で写っていた。

 

「ここを見るワケダ」

 

プレラーティが一ヶ所、指を指す。

そこは、庭だ。日本庭園の真ん中。

そこには、こちらを。天を見て微笑む男が一人。

 

黒いローブを着た男。

獣めいた鋭い目付きで、金色の瞳をしている。

……撮影がバレてる。

 

「こいつがアレイスター・クロウリー。昔結社で会った時の姿なワケダ」

「この人が……。なんか、Wikipediaで見た写真よりハンサムですね」

 

俺は昨日、アレイスター・クロウリーについてサクッと調べていたのだ。

信仰を否定した幼少期。

魔術結社、黄金の夜明け団に入団し様々な知識を得たものの内紛のゴタゴタで追放された青年期。

その後、結婚してエジプトのカイロにハネムーンに行った際に、魔術儀式を行い【エイワズ】なる神秘存在に見えて『法の書』を執筆した。……SAN値消失した?

あと、魔術結社『銀の星』を立ち上げたり『東方聖堂騎士団』に入ったりしたものの、第二次世界大戦でほとんど吹っ飛んだとか。

 

あとは、『汝の意思する事を行え』って言葉で有名よね。

 

「そうそう、大体そんな感じよ」

「ちなみに黄金の夜明け団を追放された後に、密かにパヴァリアに入団しているワケダ。まあ、ハネムーンの後に追放されたワケダが……」

「この人ちょっと追放され過ぎじゃないですか……?」

 

俺の素朴な疑問であった。

まあ、破天荒そうな人ではあるけれども。

 

「確かに破天荒な面もあったけれど……」

「パヴァリア追放については、アイツの思想にも問題があったワケダ」

 

思想?セレマ思想とか、そう言うのかしら。

 

「そっちじゃないのよねぇ」

「なら、どういう思想なのかしら?」

「アイツ、【全人類は完全な存在にかしずくべき】なんて言い出したワケダ」

「詳しくは言えないが、結社の理念から真っ向対立する思想なワケダ」

 

パヴァリア光明結社の思想。

確か、支配からの脱却だっけ?

神の支配であるバラルの呪詛を解くのが目的だったような。

アダムは神シェム・ハに対抗する力の為に。

サンジェルマンは純粋に人は何者にも支配されるべきではないという思想の為に。

……だったような。うろ覚えやね。

 

「で、ウチの局長と長いこと話し合った結果、追放されたってわけ」

「でも、信仰を否定して魔術に傾倒した人が、【全人類は完全な存在にかしずくべき】なんて思想持ちます?」

「確かにそこは気になるわね」

 

そこんとこ、どうなのん?と、了子さん。

 

「ああ。それは、どうやら【エイワズ】が関係しているらしいワケダ」

「【エイワズ】?ハネムーンの時に呼び出した聖守護天使?」

「ああ。聞いた話では、そのエイワズがクロウリーにその信仰を与えたらしいワケダ」

「口の悪い結社の人間からは、アイツはエイワズに洗脳されたんだ、なんて言われてたわね」

 

エイワズ。

謎の多い存在だなぁ。

 

「了子さんはエイワズについてどう思います?」

「そうね。日本にもイタコとか口寄せ、新しいのだと狐狗狸(こっくり)さんっていう霊的存在を呼び出す儀式があるわ。だから、クロウリーが霊的存在を呼び出した可能性は高いけれど……」

「クロウリーだって無能じゃない。そんな霊的存在に悪い影響を受けない為の精神防御はキチンとしていた筈よ」

「つまりそんじょそこらの雑霊では洗脳すら出来ない。なら、彼が呼び出したのは───」

 

本物の、神サマの可能性があるわね。

了子さんはそう言った。

 

 

 

 

聖堂病院。

弦十郎がサンジェルマンとジャンヌ・ダルクと共に向かった病院。

その病院は現在……。

 

「サンジェルマンくんッ!」

「わかっているッ!そこッ!」

天使様(マスター)!第二波、来ます!」

 

戦場と化していた。

そしてその戦場には。

 

「マスター、私から離れないでくださいね!あなたは私が守りますから!」

「コルデー……ああ。わかった。君を、信じる!」

 

アサシン、シャーロット・コルデーと藤丸立香が居た。

 




弦十郎さんがサンジェルマンをどう呼ぶかわからぬぇ。
有識者の方、教えて……。


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第二十七話 ホスピタル・パニック!

9月は自主的に休日出勤しないといけない事が確定した銀騎士です。
しんどさが限界突破した銀騎士クソヤローを元気づける為に小説の感想と高評価と枷の椎骨を贈ろう!(欲張りセット)



 

午前9時。

風鳴弦十郎とサンジェルマン、そしてサンジェルマンのサーヴァント、ジャンヌ・ダルクは聖堂病院に到着していた。

聖堂病院に搬入された聖杯戦争のマスターと思える大学生と話をするためだった。

 

ちなみにジャンヌは当世風の装いである。

セーターにロングスカートの、女子大生の趣きである。

 

「警察と病院側には話がついている」

 

と、弦十郎。

彼ら三人は病院の受付をスルーして、その大学生の病室へ向かう。

内科病棟の5階、その一室に入院しているのだった。

 

「そう言えば」

 

病室へ向かう途中、ジャンヌが口を開いた。

 

「大学寮での殺人事件の詳細、食事中は話せないということでしたが」

「ああ、その事か」

 

そう言う弦十郎の口は重い。

 

「被害者は冬木大学の大学生、佐藤長夢(さとうながむ)。警察の話では、全身を食べられてのショック死だそうだ」

「た、食べられて!?」

「確かにそれは、食事中には話せないわね……」

 

眉間を押さえるサンジェルマン。

 

「ああ。中々にショッキングな殺人事件だ。警察も犯人を捕まえようとしているが、冬木市では現在聖杯戦争の真っ只中」

「犯人は()()()()の可能性が高いわね」

「ああ。だからこそ、俺たちも捜査に協力しなければならないが……」

「まずは、この病室の方ですね」

 

と、ジャンヌ。

話をしている間に三人は病室前にたどり着いていた。

その病室の前に名札はまだ貼られていない。

 

「機密性の高い案件だからな。名札は貼られていないんだ」

「そう言えば、私たちはまだ入院している人の名前を聞かされていないわ」

「ああ、すまない。ここに入院しているのは───」

 

藤丸 立香、という男子大学生だ。

そう、弦十郎は言った。

 

 

 

 

立香が目を覚ましたら、知らない天井が見えた。

横を見たら、点滴。管は自分の腕に伸びている。

その奥には窓。外からは明るい。恐らくは朝だろうか。

 

(……病院?)

 

なぜ、と思った。

記憶を辿る。

触手蠢く怪物。顔が女の男。口に着いた血。

そして、内臓をぶち撒けた隣人。

 

「うっ……!」

 

吐き気がして、思わず口を押さえた。

 

「はぁはぁ……」

 

呼吸を整える。

 

「マスター、目を覚ましたんですね」

 

と、声がした。

声がした方に目を向けると、一人の少女。

白い服に薔薇のあしらわれた黒い山高帽子。

可愛らしい顔立ちにブラウンの髪のショート。

 

「えっと……君は……」

 

触手蠢く怪物と突然現れた男から自分を守ってくれた、突然現れた美少女。

 

「私は、シャルロット・コルデーって言います」

「あ、オレは藤丸 立香です」

「はい、マスター!よろしくお願いしますね!……あの、それで。昨日の事、覚えてますか?」

 

少女、シャルロット・コルデーからそう問い掛けられる。

 

「うん。……オレを助けてくれたよね」

「はいっ!良かった、覚えていたんですね」

 

その言葉で、記憶が鮮明に甦る。

怪物から逃げようとした自分の腹を殴り、踏みつけたローブの男。

そして、突然現れたコルデー。

 

「うん、ありがとう。助けてくれて」

「いえ!私はあなたのサーヴァントですから!」

 

サーヴァント。従者。

立香は言葉の意味はわかるが、なぜコルデーが自身をサーヴァントと称するのかわからなかった。

 

「ねぇ、オレなにがなんだかわからないんだけど……」

「あ、そうですよね。えっと……、聖杯戦争っていう魔術の儀式がありまして───」

 

コルデーの口から語られたのは信じられないようなオカルティックな内容であった。

コルデーもそう言ったオカルトに通じている訳でもなく、ただ知識として与えられた内容を語っただけであり、立香もそういった事に精通している訳ではないので、完全に理解出来た訳ではないが、恐ろしい事実を知ることは出来た。

 

アカシックレコードに刻まれた英雄を聖杯の力で召喚し、殺し合う魔術儀式。

英雄はサーヴァントと呼ばれ、マスターからの魔力供給によって実体化される。

七騎の英雄の内、一騎とそのマスターのみが聖杯の力であらゆる願いを叶える事が出来る。

そして、立香は。

そのマスターとして登録されてしまったということだ。

 

「……オレが、マスター?」

 

立香に実感はなかった。

立香は普通の家の生まれである。オカルトに関わった事なんてない、普通の生まれだ。

普通に生まれ、普通に育ち。

そして、異常に巻き込まれた。

 

「マスター、大丈夫ですか?」

 

コルデーが背中をさする。

心配そうな顔は、ただの普通の少女のようで。

 

(でも……)

 

立香は覚えている。

醜悪な怪物とローブの男と相対した時の、コルデーの凛とした顔を。

凛として……それでいて───

 

「そういえば」

「はい?」

「ここって、病院……だよね?」

 

立香はふと、思い出した。

コルデーが怪物と男を追い払った後、自身が気絶した事を。

そして、今病院らしき所にいることを。

その空白の時間を、この少女は知っているだろうかと。

 

「はい。……たしか聖堂病院、と言っていたと思います」

「聖堂病院……」

 

新都にある病院だ。

自分はどうやらそこに運ばれたらしい。

 

「そういえば、コルデーも一緒に来たんだよね」

 

そう、コルデー。

この少女がここに居るということは、一緒に救急車なりなんなりに乗ってきたということか。

 

「確かに着いて来はしましたが、少し違うんです」

「えっと?」

「こういう事です」

 

瞬間、コルデーの姿が消える。

 

「え!?コルデー!?」

「はい!ここです!」

 

コルデーの姿が元の場所に現れる。

 

「エスパー!?」

「違いますよ!?」

 

コルデーが言うには霊体化、というものらしい。

サーヴァントが物理干渉されない状態になる事らしかった。

 

「つまりオバケ?」

「……まぁ、サーヴァントってオバケだから否定出来ないんですけど」

 

つまり霊体化して、こっそり着いて来たという事だ。

 

「……あと、警部って呼ばれた人がマスターの事を調べるように、って」

 

警部。警察。

気絶していたとは言え、立香は殺人事件の現場にいたのだ。

なにがしかの話は聞かれる事になるだろう。

 

「……それと、その警部さんがマスターの令呪を見てどこかに連絡を取っていました」

「令呪?」

「右手の、その紋様です」

 

立香は右手の甲を見た。

そこには盾のような、槍の穂先のような赤い紋様が刻まれていた。

無論、昨日までは無かったものだ。

 

「それは、聖杯戦争に参加するマスターの証であり、サーヴァントへの三回分の絶対命令権です」

「それを警察官が見ていたの?」

「はい。恐らく……」

 

立香は考える。

令呪は聖杯戦争に参加するマスターの証、それを見て警部はどこかに連絡を取っていた。

つまりその警部は聖杯戦争を知っているという事か?

なら、誰が教えたのだろうか。

オカルトに精通する人間?

この冬木で、オカルトに精通しているのは聖杯戦争に参加しているマスターたちじゃないのか?

 

「コルデー、それいつ頃?」

「えっと……夜中の……。ここに運ばれる前の、戦闘があった建物、学生寮って言うんですか?そこです」

「今、何時?」

「ええっと、あ、ここに時計があります。えっと……9時6分?」

 

夜中から、朝の9時。

警部に聖杯戦争を教えたのが、別のマスターだとして、そのマスターに連絡してから今まであまりに時間が経ちすぎている。

行動を起こすには、あまりに多くの時間が。

 

「コルデー」

 

逃げよう、そう言おうとした時。

病室のドアがノックされた。

 

「……っ」

「マスター?」

 

コルデーが小声で問う。

 

「コルデーは霊体化してて」

「でも……」

「オレが対応するから……、でも、もし何かあったら助けてね?」

「……わかりました」

 

コルデーはそう言うと、霊体化した。

それを確認した立香は、ノックの主に対して返答した。

 

「どうぞ」

 

ドアが開く。

入ってきたのは、赤いシャツの大柄で筋骨隆々な男性。

 

「失礼する」

 

男性の後ろからは白いジャケットを羽織った、男装の麗人。

そして───

 

「俺は特異災害対策機動部二課の風鳴弦十郎という。彼女たちは……」

「あ───」

 

立香には弦十郎の言葉が届かなかった。

弦十郎の後に入ってきた女性。

男装の麗人であるサンジェルマンと、もう一人。

長い金髪の女性、ジャネット。セイバー、ジャンヌ・ダルクから、目を離せなかった。

 

彼女は昨日、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「コルデー!」

 

立香がコルデーの名を呼んだのは無意識であった。

だが、コルデーはその言葉に応えた。

 

「はいっ、マスター!」

 

コルデーは立香と弦十郎の間に現れると、ナイフを構えて立ちはだかる。

目的は弦十郎の後ろに立つジャンヌだ!

 

「ジャネット!」

天使様(マスター)っ!」

 

サンジェルマンが呼び掛ける。

すぐさまジャンヌが対応、当世風の装いが鎧装束に切り替わり、剣を抜く。

 

「待ってくれ!藤丸 立香くん!我々は君を保護しに来たんだ!」

 

弦十郎が呼び掛ける。

 

「保護……?」

 

警戒したままの立香。

 

「ああ。君と争うつもりも危害を加えるつもりもない」

「……なら、あなたの後ろの女性は?」

 

立香の目はジャンヌから離れない。

 

「彼女たちは我々の協力者だ。敵じゃない」

「……私は、セイバー。セイバーのサーヴァントです」

「私がそのマスターよ」

 

ジャンヌとサンジェルマンは名を名乗る。

だが、立香は警戒を崩さない。

 

「セイバー……。彼女、昨日の深夜、どこで何をしてました?」

「昨日?」

「そっくりなんです。彼女の顔。学生寮の、隣の部屋の人を食べてた怪物と……ッ!」

 

立香の言葉にざわつく三人。

 

「ど、どういう事だッ!?」

「わ、私と……同じ!?」

「……詳しく、教えてくれるかしら?」

 

サンジェルマンが冷静を装って、立香に聞く。

 

「言葉通りです。学生寮の隣の部屋の人を、そのセイバーが食べていたんです!」

「た、食べていませんッ!」

「藤丸くん、それは昨日の深夜で間違いないな?」

 

立香は頷いた。

 

「私も確認しました。間違いなく昨日の深夜に、その人と同じ顔の人……の仲間と戦闘しました」

「……ッ!」

 

コルデーの言葉に困惑する弦十郎とサンジェルマン、ジャンヌ。

 

「聞いてくれ。彼女は、セイバーは昨日の深夜0時に召喚されたんだ」

「……え?」

「事件が起こったのが0時過ぎ。その時間、セイバーは冬木ハイアットホテルに居たッ!俺も、仲間たちも証言出来る。なにより、監視カメラにも映っているはずだッ!!」

 

そう、監視カメラ。

ホテルの部屋には防犯の為に監視カメラが設置されている。

サーヴァントの召喚という、異常現象に対して多額の()()によって黙認してもらっているものの、その記録は確かに残っているのだ。

 

「それ、本当ですか?」

「ああ。間違いなく本当だ」

「なにより、理由がないわ」

「そ、そうです!私、人を食べたりなんてしませんっ!」

 

立香は考える。

昨日の怪物、その顔は間違いなく目の前のセイバーと同じ顔だ。

だが、冷静になって観察すると目の前のセイバーと、昨日の怪物は違うと思った。

目の前のセイバーの眼には理性の光があった。昨日の怪物は、眼に理性なんてなかった。

目の前のセイバーは身体が女性だった。昨日の怪物は、身体が男性だった。

なにより、目の前のセイバーはキチンと人の言葉を話していた。

 

「…………わかりました。あなた達を信じます」

「マスター?」

「コルデー、大丈夫だから」

 

立香に言われ、コルデーはナイフを下ろした。

弦十郎はホッと一息ついた。

 

「一先ずは、話を聞かせてくれないか。昨日、何があったのかを」

 

 

 

 

30分後。

立香は昨日の出来事を事細かに弦十郎たちに話していた。

 

「セイバーと同じ顔の怪物と、突然現れたローブの男、か……」

 

弦十郎は考え込む。

 

「立香くん、もう一度聞くが、この写真の中にそのローブの男は」

「居ませんでした」

 

立香は首を横に振った。

立香のベッドに備え付けられたテーブルの上には、ラーガ・スン、カルマ・リー、郷田 潔、そして阿礼 星乃の顔写真。

立香はローブの男が彼らの中に居ないと証言したのだった。

 

「その男は、まだ知らぬ聖杯戦争のマスターか……?」

「私と同じ顔の怪物がサーヴァント……バーサーカーのクラスでしょうか?」

 

話し合う弦十郎とジャンヌ。

そんな中、サンジェルマンが口を開いた。

 

「二人に幾つか聞きたい事があるのだけれど、大丈夫かしら」

「あ、はい。オレは大丈夫です」

「私も、大丈夫です」

「そう……まずローブの男の外観なんだけれど───」

 

サンジェルマンはローブの男の外観について聞いていく。

男の髪型、体型、声質。

ローブの色、最後に逃げる時に使った宝石の色。

そして。

 

「その男、本を持っていたのよね?」

「えっと、確かそうです」

「はい、持ってましたよ。一冊」

「その本、どんな本だったかしら?」

 

そう聞かれて立香は考え込む。

ローブの男の持っていた本。

言われると、何か奇妙な気がする本だった。

……だが、立香はその奇妙さを言葉に表せない。

 

「ごめんなさい。あの時暗くって、よくわからないんです。……何か変だった気がしますけど。コルデーは、なにかわかる?」

 

 

 

コルデーの直感【1D6】

 

1 わからないです……

2 わからないです……

3 わからないです……

4 わかります!

5 わかります!

6 わかります!

 

結果【3】

 

 

 

「ごめんなさい、わからないです……」

 

コルデーがそう言う。

 

「そう……」

「えっと、サンジェルマンさん?その本が何か気になるんですか?」

「ええ……。もしかしたら、そのローブの男の正体、わかったかも知れないけれど……」

 

サンジェルマンの言葉に全員が驚く。

 

「それは本当か、サンジェルマンくん!?」

「その、はずなのだけれど」

 

サンジェルマンはチラリとジャンヌを見る。

 

「ごめんなさい、今はまだ確信を持てないのよ。確信が持てるまで考えさせてくれないかしら……」

「……ふむ。わかった、サンジェルマンくんがそこまで言うなら、これ以上は問わんよ」

「感謝するわ、風鳴弦十郎」

 

弦十郎に礼を言いながら、サンジェルマンは心中で安堵していた。

もし、サンジェルマンが考える人物がローブの男の正体なら、ジャンヌはきっと傷付いてしまうだろう。

その男は、ジャンヌと生前付き合いがあったのだから。

 

「……何か静かですね」

 

立香の言葉にサンジェルマンは現実に引き戻された。

 

……確かに、病院内とは言え、人の話し声や生活音の一つも聞こえなくなっている。

 

「ッ!やられた!」

「サンジェルマンくん!?」

「風鳴弦十郎!藤丸くんを守るのよ!私たちは既に……ッ !」

 

サンジェルマンの言葉は続くことは無かった。

病室の扉と、窓から。

何者かが侵入してきたのだから。

 

 

 

迎撃ダイス【1D10】

(コルデーの直感に失敗したのでハードモード)

 

1 藤丸立香にダメージ

2 コルデーにダメージ

3 弦十郎にダメージ

4 サンジェルマンにダメージ

5 ジャンヌにダメージ

6 藤丸立香にダメージ

7 迎撃成功

8 迎撃成功

9 迎撃成功

10 熱烈歓迎

 

結果【1】

 

 

 

窓と扉から勢い良く侵入した何者かは、真っ直ぐと立香たちに向かう。

窓から侵入した何者かはサンジェルマンが撃破したものの、扉から侵入した何者かが立香の寝るベッドに肉薄、そしてベッドに向かってぶつかって来た。

 

「うわあああっ!!」

 

ベッドから転がり落ちる立香。

点滴の針が抜ける。

 

「マスターッ!」

「藤丸くん、無事かッ!?」

 

コルデーと弦十郎が声を荒げる。

 

「ぶ、無事です!」

 

そう声を出す立香。

しかし、ベッドから落ちた時に身体をぶつけて動けそうになさそうだ。

 

「うじゅるる……」

 

ベッドにぶつかった何者かが奇妙な音を出す。

それは1メートルほどの、オニヒトデめいた生命体である。深紫色の体色で、棘の生えた触腕が数本生えている。そしてその触腕の中心に歯のびっしり生えた口。

 

「ヒトデッ!?」

「……いえ、これは【海魔】よ」

 

立香の言葉に答えるサンジェルマン。

そのまま錬金術で海魔を焼き払う。

海魔は激しく燃え上がり、灰となった。

 

「海魔……?」

「昔、プレラーティがまだ()()()錬金術師でなかった頃に、偶然書き上げた魔道書から呼び出される……異世界の魔物よ」

「プレラーティくんの……ッ!?」

 

弦十郎が驚きの声を上げる。

その言葉にサンジェルマンは緩やかに首を横に振った。

 

「でもプレラーティはその魔道書を他人に譲った。そしてその魔道書は持ち主諸共、局長が焼き払ったわ」

「なら……」

「でも、ソイツが()()()()()()()()()()()()()()()なら……ッ!」

 

サンジェルマンは病室の出入り口に目を向ける。

病室の外からかすかに聞こえてくる音。

 

うじゅる。

うじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅるうじゅる。

 

 

「サンジェルマンくんッ!」

「わかっているッ!そこッ!」

天使様(マスター)!第二派、来ます!」

 

弦十郎の声と共に振り向いたサンジェルマンは天井の通風孔から飛び出した海魔を撃破。

ジャンヌは警戒の声を上げる。

 

「マスター、私から離れないでくださいね!あなたは私が守りますから!」

「コルデー……ああ。わかった。君を、信じる」

 

アサシン、シャルロット・コルデーは藤丸立香を守るように側に立つ。

 

「立香くん、君を保護しに来たのに争いに巻き込んでしまって申し訳ない」

 

弦十郎が出入り口に向かって拳を構えながら、謝る。

 

「いえ、むしろ巻き込んだのはこちらの方ですし」

 

サンジェルマンの言動から、今回の襲撃は昨日自身を襲った相手と同一であると、立香は確信していた。

 

「それで、呼び出されたサーヴァントはッ!?」

 

ジャンヌがサンジェルマンに聞く。

サンジェルマンは冷や汗を一つ垂らして答えた。

 

「敵は……ジル・ド・レ。かつてパヴァリア光明結社にも所属していた、錬金術師。かつては貴女とも轡を並べたであろう男よ」

 




★備考な★
哀れな被害者、佐藤長夢くん。
彼の元ネタはニンジャスレイヤーの『キルゾーン・スモトリ』というエピソードに出てくるサラリマン、サトウ=サンとナガム=サンです。
どんなエピソード?サトウ=サンとナガム=サンの役割は?読めばわかるさ。ははは。

あと、この世界の聖杯戦争と本家聖杯戦争は大本の仕組みから違います。
「おかしい、本家と違うぞこのニワカ!」と思ってもそれはこの作品の独自設定だと思っておいてね。
(実際ニワカかまして間違えてるかもだけどネ)

それとやっとこ名前の判明したジル・ド・レ=サン。Fateシリーズのジル・ド・レェの持つ魔道書を持っていますが、シンフォギアXDUに出てきたジル・ド・レとほぼ同一存在だと思っておいてください。
本家ジル・ド・レは封印だけどこっちのジル・ド・レは局長が黄金錬成で焼却してます。つまりそれだけヤベー奴なワケダ。


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第二十八話 ジル・ド・レの魔の手


◆こんかいの投稿が遅れた理由◆
対馬で蒙古相手にチャンバラしていた為。
あと仕事。



 

「おおおお……ッ!」

 

聖堂病院の屋上で、一人の男が泣いていた。

目から大粒の涙を流し、そして。

歓喜していた。

 

「ジャンヌッッ!貴女も召喚されていたとはッ!!これは僥倖!」

 

男……ジル・ド・レは叫ぶ。

己の幸運を宣言するかのように。

ジル・ド・レは呼び出した海魔の視界を共有する事でセイバー、ジャンヌ・ダルクが召喚されていることを知った。

己と同じように。

サーヴァントとして。

 

「だが、呼び出したのがよりにもよってサンジェルマンとは……!」

 

一転、ジル・ド・レは怒る。

サンジェルマン。

かつて自身が所属していたパヴァリア光明結社の大幹部。

そして、自身より先にジャンヌ・ダルクに出会った女。

嫉妬の念がジル・ド・レの心中に渦巻く。

 

何度。

何度、自分からジャンヌ・ダルクを奪うのか……!

 

「いや、落ち着け。まだ、ジャンヌをお迎えに上がるのは早い」

 

そもそも。

今回の病院襲撃は昨夜見逃した少年、藤丸立香を仕留める為のもの。

ジャンヌ・ダルクとサンジェルマン、そして風鳴弦十郎が来たのはまったくの偶然なのだ。

 

「ジャンヌの()()()()()もまだ出来ていない」

 

ちらり、と隣を見る。

そこには、ジル・ド・レが肉体改造を施している自らのマスター。

ジャンヌ・ダルクと同じ顔の男。

その目は虚ろで、空を(ぼう)と眺めている。

 

「今は、再開の喜びを抑え、情報を集めるとしよう」

 

ジル・ド・レの持つ本が光る。

螺湮城教本。

遥か遠き世界の【ジル・ド・レェ】が持つ本と同じもの。

その魔本の力でヒトデめいた怪物、海魔が呼び出されて階下へ向かう。

 

「そして、時が来たら我がシャトーへとお招きしなければ……。

ふふ、フハハハ……」

 

 

 

 

呼び出された海魔【1D10】×10

(最低保障5)

 

結果【5】 × 10 = 50体

 

 

 

「恐らく、呼び出された海魔は50体ほどね」

 

サンジェルマンが冷静に観察する。

その背に声をかけるジャンヌ。

 

天使様(マスター)、今言ったことは本当なのですか?ジルがサーヴァントとして呼び出されて敵に回ったと。いえ、そもそも、今回の殺人事件の犯人だと言うことも!」

 

声を荒げるジャンヌ。

 

「ええ、そうよジャネット。この海魔は私も何度か見たことあるわ。プレラーティが麻薬で正気を失った時に書き上げた魔道書。非ユークリッド幾何学模様の螺湮城を幻視して、そこに住む者たちを呼び出す螺湮城教本。ジル・ド・レの手に渡り、そしてジル・ド・レと共に燃え尽きたはずの……」

 

サンジェルマンの声は続かなかった。

海魔が病室になだれ込んだのだ。

 

(フン)ッ!」

 

弦十郎の八極拳。

海魔は爆発四散。

 

「話は後だ二人ともッ!」

「っ!すまない」

「すみません……」

 

謝りながら戦闘態勢に入る二人。

 

「まずは海魔の数を減らそう。その後、この病室を脱出する」

「わかったわ」

「立香くんはそこから動かないでくれ」

「わかりました」

「マスター、ご安心を。へっぽこサーヴァントではありますが、それでもマスターの事は私がお守りしますので」

 

コルデーが立香にそう声をかける。

 

「よし、行くぞッ!」

 

 

 

海魔の数を減らそう(1/3)【1D6】

(残り50体。3回以内に殲滅でジル・ド・レと対決)

 

サンジェルマン【1】体撃破

ジャンヌ・ダルク【5】体撃破

風鳴弦十郎【3】体撃破

シャルロット・コルデー【3】体撃破

 

 

 

「セイッ!」

 

ジャンヌの剣が閃き、海魔を断つ。

その後ろから別の海魔が飛びかかるものの……。

 

「燃えろッ!」

 

サンジェルマンの錬金術により燃やされてしまう。

 

「ありがとうございます、天使様(マスター)!」

「礼には及ばないわ」

 

優しく微笑むサンジェルマン。

しかしすぐに凛とした表情になる。

 

「風鳴弦十郎。今私達は結界の中にいる」

「結界?」

「だから他に人が居ないのか……」

 

立香の言葉に頷くサンジェルマン。

 

「ええ。恐らくは誰にも気取られず私達を殺すために」

「それを、ジルが……」

「でも、このタイプの結界は術者が結界内に居ないといけないわ。

……問いただしに行きましょう、ジル・ド・レに。彼の目的は何なのかを」

「……っ、はい!」

 

頷くジャンヌ。

 

「だけど、そのジル・ド・レはどこに居るんです?」

 

コルデーの疑問。

答えたのは弦十郎だ。

 

「恐らくは上階だろう。海魔の群れが階段の上にまで続いている」

 

外を覗き込んだ弦十郎がそう言った。

 

「なら、上に参りましょう!」

「そうね」

「立香くんは俺が背負って行こう」

「お世話になります」

「マスターを落とさないでくださいね!」

 

コルデーが注意する。

 

「無論だ。だが、戦闘には参加できん」

「問題ありません!私が二人分、頑張ります!」

 

ジャンヌはやる気だ。

 

「よし、では上階へ走るぞ!」

 

 

 

海魔の数を減らそう(2/3)【1D6】(ジャンヌのみ【1D10】)

(残り38体。2回以内に殲滅でジル・ド・レと対決)

 

サンジェルマン【5】体撃破

ジャンヌ・ダルク【2】体撃破

風鳴弦十郎 戦闘不参加

シャルロット・コルデー【4】体撃破

 

 

 

「遅いッ!」

 

サンジェルマンの錬金術が海魔を次々に撃破していく。

 

「やぁっ!」

 

コルデーもナイフで海魔を屠っていく。

 

「……」

「立香くん、大丈夫か?」

「あ、はい。大丈夫です」

 

弦十郎の言葉にそう返す立香。

更に言葉を続けた。

 

「海魔って、タコっぽくもありますよね」

「……まぁ、そうだな」

「……美味しいんですかね?」

 

戦場でとんでもないことを聞く立香であった。

 

「……食べるのは、止めておいた方が良いだろうな」

「ですよねぇ……」

 

阿呆な事を言い合う男二人。

 

「海魔の群れはまだまだ上まで続いているわね」

 

と、サンジェルマン。

 

「恐らくは屋上……」

「一気に、行きましょう!」

 

ジャンヌが気合を入れ直す。

 

「……弦十郎さん」

「今度はなんだ?」

「もう、降ろしても大丈夫です」

「立香くん?」

「まだ痛いところもありますけれど、走れます!」

 

立香はそう言った。

 

「わかった、無理はするんじゃないぞ」

「はいっ!」

「マスター……」

「コルデー、オレは大丈夫だから」

「わかりました、マスターがそうおっしゃるなら」

 

 

 

海魔の数を減らそう(3/3)【1D6】(ジャンヌのみ【1D10】)

(残り27体。今回殲滅でジル・ド・レと対決)

 

サンジェルマン【4】体撃破

ジャンヌ・ダルク【7】体撃破

風鳴弦十郎【1】体撃破

シャルロット・コルデー【3】体撃破

 

結果【15】体撃破

殲滅、ならず……。

 

 

 

ジャンヌによる八面六臂の大活躍。

残った海魔は12体となった。

 

「屋上まで、あと少し!」

「海魔が一気に来るぞッ!」

「マスター!下がってください!」

 

残り少なくなった海魔が一斉に飛びかかる。

弦十郎たちは迎撃に専念。

一時、釘付けにされてしまう。

 

「そこ!」

「セイッ!」

「破ッ!」

「えーいっ!」

 

サンジェルマン、ジャンヌ、弦十郎、そしてコルデーにより海魔は殲滅された。

 

「よし、屋上へ急ぎましょ……」

 

サンジェルマンの言葉が途中で遮られる。

病院内に、人の気配が戻ったのだ。

廊下を歩く看護師、患者。

医師を呼び出すアナウンス。

人の話し声。

 

「これは……ッ!」

「逃げられた、わね」

 

結界は解かれた。

それは、術者が解いたということ。

その術者はすでに、ここには居ないということを示していた。

 

「……ジル」

 

ジャンヌの呟きが、小さく消えた。

 

 

 

 

13時頃。

 

弦十郎たちは冬木ハイアットホテルに帰還していた。

立香とコルデーを連れて。

 

あの後、立香は弦十郎の提案を受けて、一時保護して貰うことに決めたのだった。

今回の件で、またジル・ド・レが立香を狙うかもしれず、その時に弦十郎たちが近くにいるとは限らないからだ。

それに……。

 

「聖杯戦争の参加者が非道な事をするなら、止めたいんです。オレに何が出来るんだって思うんですけど、それでも。今にも死にそうな誰かを助けたいんです!」

 

と、立香が熱弁した為でもあった。

そんな訳で。

立香は保護される一般人でもあり、サンジェルマンと共に聖杯戦争を戦う同盟相手という事になった。

 

「今戻ったわ」

 

サンジェルマンがホテルの部屋の扉を開ける。

 

「おかえりなさい、サンジェルマン」

「ジル・ド・レが出てくるとは……。とにかく無事で良かったワケダ」

 

カリオストロとプレラーティが出迎える。

その後ろから、了子と一鳴が出てくる。

 

「で、その子たちが連絡のあった立香くんとそのサーヴァントね」

 

と、了子さん。

 

「ああ、そうだ」

 

弦十郎さんが答える。

 

「藤丸立香です」

「アサシンのサーヴァント、シャルロット・コルデーです」

 

二人が自己紹介する。

ホテルに残っていた面々も、自己紹介していく。

 

「……で、彼が特異災害対策機動部二課の……一鳴くん?」

「え、あっ、ハイ」

 

呆けていた一鳴。

 

「どうした?」

「あ、いえ。二人が知り合いに似ていたので」

(知り合いというか、前世で一方的に知っているんだけどね……) 

 

前世でプレイしていたゲームの主人公たちが目の前に現れた一鳴。

流石に理解に時間が掛かったようだった。

 

「ドーモ、はじめまして。渡 一鳴です。バリバリ戦う公務員系小学生です。よろしくお願いしますね藤丸さん、コルデーさん」

 

そんな訳で。

自己紹介を済ませた一同。

部屋の中で車座になり、互いに情報共有していく。

 

「阿礼 星乃が召喚したのはアレイスター・クロウリー……。半ば予想通りではあるけれど、ね」

「そして、そっちにはジル・ド・レ。……この聖杯戦争はパヴァリア光明結社の同窓会なの?」

 

カリオストロが愚痴る。

 

「パヴァリア?」

 

立香の疑問。

 

「簡単に言えば、錬金術師たちの秘密結社?」

「秘密結社……本当にあったんだ」

「他にも陰陽師の秘密結社とかもあります」

 

一鳴の情報リーク。

そこまでにしておけ、と弦十郎からストップがかかる。

 

「あの、プレラーティ様」

 

と、ジャンヌが声をかける。

 

「なんだ?」

「プレラーティ様がジルに魔道書を、螺湮城教本を渡したと言います」

「……そうだな。昔の話なワケダ」

「私の死後、ジルと一緒に居たと。教えていただけませんか?ジルがどんな様子だったかを」

 

プレラーティはしばし沈黙。

そして、語りはじめた。

 

「あの頃の私は、錬金術師を騙る詐欺師だったワケダ」

「詐欺師……」

「そして男だったワケダ」

「男ぉ!?」

「サンジェルマンに女にされたワケダ」

「いかがわしい言い方は止めなさい」

 

コホンと、咳払いするプレラーティ。

 

「詐欺師だった私はジル・ド・レに接触したワケダ。アイツは金持ちで、錬金術に傾倒していたから、金を騙し取ろうとしたワケダ」

「……」

「ある時。ジルから信頼を得た私は、錬金術に傾倒した理由を聞いたワケダ」

「そしたら、なんと?」

「『ジャンヌ・ダルクを蘇らせる』、アイツはそう言ったワケダ」

「私を……!?」

 

ジャンヌが驚く。

 

「アイツは、お前に執着していたワケダ。『我が聖女』『我が旗持ちの聖女よ』『必ず、貴女を蘇らせる』よくそう言っていたワケダ」

「なら、今回の一件も……!」

「なにがしか、やらかしているハズなワケダ。昨日の夜、藤丸を襲った時にジャンヌと同じ顔の怪物が居たなら……」

 

プレラーティは紅茶を一口飲み、続けた。

 

「私とジルは派手にやったワケダ。悪魔ベルゼブブを呼び出す儀式を大々的に行ったり。ジルは自分が治める領内から少年たちを拉致して虐待や陵辱していたワケダ」

「ちょっと、プレラーティ!」

「いえ、大丈夫です。大丈夫、ですから」

 

プレラーティをたしなめるカリオストロを、ジャンヌが抑える。

 

「ある程度は、聖杯が教えてくれましたから……」

「私達は、責められて憎まれて当然の事をしたワケダ。だから、私達は捕縛されたワケダ。だが、もうすぐ処刑、という時にサンジェルマンに救われたワケダ」

天使様(マスター)が……?」

「ああ。その後の経緯は省くが、私とジル・ド・レはパヴァリアに入って、本物の錬金術を、世界の神秘を学んだワケダ」

「その経緯を知りたいんですけど……」

「話が長くなるからNGなワケダ」

 

一鳴の要求を棄却するプレラーティ。

 

「私はそのままサンジェルマンから錬金術を学んでいたが、ジル・ド・レは別の人間から学んだワケダ。……そして、やらかしたワケダ」

「やらかした……?」

「無許可でアカシックレコードに接続しようとしたワケダ」

「アカシックレコード、だとぉ!?」

 

弦十郎が驚くのも無理はない。

アカシックレコードの接続、それは【この世界の】聖杯戦争における英霊召喚の技法。

地球が記憶するあらゆる人物のデータ、それがアカシックレコードなのだ。

 

「当然、それは結社として許される事ではないワケダ。局長自ら出陣して黄金錬成で焼き払った、らしいワケダ」

「そして、今。英霊として呼び出された、と」

「ジル・ド・レの目的はまず間違いなくジャンヌちゃんの復活。アカシックレコードの接続は、ジャンヌちゃんのデータを手に入れようとしたからね」

 

了子が完結にまとめる。

 

「あの、なら、ジャンヌさんがここに居る今、ジル・ド・レはジャンヌさんを奪いに来ると思うんですけど……」

 

コルデーが小さく右手を挙げながら言う。

 

「可能性は極めて高いわ。だけど、今すぐには来ないでしょうね」

 

と、カリオストロ。

 

「えっと、何故ですか?」

「病院で、貴方たちに接触せずに逃げたでしょ。それって情報収集が目的で、その目的が達成された、あるいは達成出来なかったから逃げたって考えるべきね」

「つまりヤツは理性的に行動出来る、というワケダ」

 

カリオストロとプレラーティの解説。

 

「それって、準備が出来たら行動するって事ですよね」

 

一鳴が真剣な顔で言う。

 

「一刻も早く、ジル・ド・レを探し出して先手をうたなければならないな……」

「セーフハウスもいくつか用意しとかないといけないわね……」

 

弦十郎と了子が、これからやらなければならない事を挙げていく。

 

「すいません、私のせいで……」

「あなたは悪くないわ」

「そうよ、気にしちゃダメ」

 

落ち込むジャンヌをサンジェルマンとカリオストロが宥める。

 

「…………ジャンヌ・ダルク」

「プレラーティさん?」

「ジル・ド・レの件、元をただせば私が悪いワケダ。恨むなら、私を恨めば良いワケダ」

 

そう言うプレラーティ。

それは彼女なりの気遣いだろうか。

それとも……。

 

「恨みません」

「……は?」

「恨みませんよ、貴女を」

 

だが、それを聞いたジャンヌはそう返した。

 

「怒りはあります。悲しみもあります。それよりも、ジルにこれ以上酷い事をしてほしくないのです」

 

そう、言い切ったのだ。

 

「……そうか」

 

プレラーティはそう呟いて、更に続けた。

 

「なら、ジル・ド・レが出たときは私も戦うワケダ。アイツの癖や思考はすでに読み切ってるワケダ」

「プレラーティさま……、ありがとうございます!」

「礼など、いらんワケダ」

 

笑顔を向けるジャンヌから、顔をそらすプレラーティであった。

 

 

 

 

そして、夜が来る───。





『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:100人
ジル・ド・レの宝具。

錬金術師になる前のプレラーティが麻薬をキメて執筆した魔術書。
表紙は人間の皮膚で装丁されており、苦悶で歪んだ表情を浮かべたデスマスクがあしらわれている。
背表紙には美少年の裸像を模った銀細工が施されており、禍々しくもかなり悪趣味なデザイン。

非ユークリッド幾何学模様の建物が建ち並ぶ【世界から隔絶された異界】に繋がっている。
この魔術書は、そこに住む【海魔】を呼び出すのだ。


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第二十九話 異端聖杯戦争一日目、夜


聖杯戦争関係者の外観をわかりやすく既存二次元キャラに当てはめとくわね。

○阿礼星乃:『ガールズアンドパンツァー』の西住しほ

○アレイスター・クロウリー:『ハリーポッター』のヴォルデモート卿

○ラーガ・スン:『真・女神転生Ⅳ FINAL』のクリシュナ

○カルマ・リー:『攻殻機動隊』の草薙素子

○郷田 潔:『彼岸島』の鮫島

こんな所かしら。
これでイメージしやすくなったんじゃない?



 

 

「ええ、ええ。はい、大丈夫ですよ、ええ。はい。わかってます、ちゃんと無事に帰りますから。はい、いの一番に会いに行きますから。ええ、おやすみなさい。……え、えー、言わなきゃダメ?……わかりました。…………愛してますよ、マリアさん。いや、照れるくらいなら言わせないでくださいよ。はい、はい。また、明日。おやすみなさい」

 

ドーモ、一鳴です。

現在夜の九時。

ホテルの廊下で、マリアさんと電話してましたのよ。

今回は冬木市に出張と言うことで、しばらく会えなくなるから代わりに毎日電話して、と言われたのよね。

ちなみに、マリアさんの前に調ちゃんとセレナさんにも電話してました。

スマホって、便利よね。

 

「あ、渡くん、だっけ」

 

と、立香さんに話しかけられる。

うーん、cv島崎信長の良い声!

 

「こんばんは、立香さん」

「こんばんは。電話してたの、お母さん?」

「んにゃ、恋人です」

 

立香さんは驚いた様子だ。

 

「恋人!?最近の小学生は凄いなぁ……」

「んへへへ(気持ち悪い笑み)、自慢の美人な彼女ですわぁ。立香さんは恋人居ないんです?」

「居ないなぁ。いいなぁ、羨ましい」

「へぇ、以外です。立香さん、モテそうなんですけどねぇ」

 

顔も声も良いし、半日一緒にいて誰とでも話せるコミュニケーション能力も確認済み。

モテないはずないんだけどなぁ。

 

「あ、ごめんね電話だ。……もしもし、マシュ?どうしたの」

 

マシュも居ったんかワレェ!(歓喜)

 

「……え、平気だよ。あぁ、事件のこと聞いたの?うん、本当に大丈夫。うん、今はホテルに泊まってるよ。うん、警察から念の為にって言われて……。あとしばらく大学休むことになって……いや、大丈夫だよ。本当に念の為ってだけだから。大学にも話は行ってるから、単位も大丈夫。うん、落ち着いたらまた連絡するね。はい、おやすみマシュ」

 

電話を切る立香さん。

俺は気持ち悪い笑みを浮かべながら、声をかける。

 

「うへへへ(気持ち悪い笑い)、立香さぁん今の電話の相手は誰なんですかぁ?お相手女の子みたいですけれどぉ?」

「えぇ……(困惑)、後輩だよ大学の。マシュっていう女友達。恋人じゃないよ……あ、ごめんまた電話だ」

 

そう言ってまた電話に出る立香さん。

 

「もしもし、どうしたのジュリエット?」

 

ジュリエット……あ、虚月館殺人事件か!?

と言うことは、ステンノ!?

 

「あ、ジュリエットも事件のこと……。うん、大丈夫大丈夫。大丈夫だから、心配しないで。うん、今はホテルに泊まってて……、いや、そっちじゃなく冬木ハイアットホテルに……いや、念の為にってだけ……うん、大丈夫。また落ち着いたら一緒に観光行こうよ。うん、おやすみジュリエット」

 

電話を切る立香さん。

俺は気持ち悪い笑みを浮かべながら、声をかける。

 

「うぇひひひ(気持ち悪い笑い)、立香さぁん今の電話の相手は誰なんですかぁ?お相手またまた女の子みたいでしたけれどぉ?」

「えぇ……(困惑)、友だちだよ大学の。ジュリエット、ジュリエット・ステンノ・バイオレットっていう女友達。恋人じゃないよ。留学生でね、二日に一回一緒にランチ食べて、週に一度観光する仲だよ」

 

それはもう、ほとんど恋人と言っていいのでは……?

うーん、自覚ないだけでやっぱりモテてるみたいね。

 

「あら、貴方たちこんな所に居たのね」

 

と、サンジェルマンがやって来る。

 

「どうしました?」

「夜は聖杯戦争の本番よ。各陣営が動き出すでしょうし、これからの動きを全員で確認しておこうと思って」

「あ、なるほど」

「みんな、私達の部屋に集まっているわ。行きましょう」

 

そういう事になった。

 

なお。

立香さんの後ろで『貴方の傷になりたい』みたいな顔をしているコルデーは、見て見ぬふりをしておいた。

『マスターの事が気になりだしたけれど、マスターには既に仲の良い女友だちがいるし、そもそも自分はサーヴァントで聖杯戦争が終われば消えてしまう存在。ずっと一緒には居られないから、せめて心に傷を残して一生忘れないでいて欲しい』とか思ってそうだけど俺は見て見ぬふりをするよ……。

 

 

 

 

今夜の各陣営の動き【1D10】

 

1 引きこもって専守防衛

2 引きこもって専守防衛

3 引きこもって専守防衛

4 阿礼陣営に攻め入る(攻めた側確定敗退)

5 別陣営に攻め入る

6 別陣営に攻め入る

7 別陣営に攻め入る

8 別陣営に攻め入る

9 阿礼陣営に攻め入る(攻めた側確定敗退)

10 阿礼陣営に攻め入る(勝敗はダイス次第)

 

サンジェルマン・藤丸陣営【確定1】

ジル・ド・レ陣営【確定1】

阿礼陣営【確定1】

 

ラーガ陣営【9】

カルマ陣営【8】

郷田陣営【3 】

 

 

 

どこを攻めたのカルマ・リー【1D6】

 

1 サンジェルマン・藤丸陣営

2 ジル・ド・レ陣営

3 ラーガ陣営(留守だった……)

4 郷田陣営

5 サンジェルマン・藤丸陣営

6 阿礼陣営に攻め入る(攻めた側確定敗退)

 

結果【4】

 

 

 

「今夜、私たちはホテルに引きこもって防衛に当たるワケダ」

「ついでに、各陣営の動きを注視する、だったわよね?」

「ええ、そうよ」

 

パヴァリア一行が泊まる部屋。

全員で集まり、今日の動きを確認していた。

 

「各陣営の見張りは飛騨忍群が請け負っている」

 

と、弦十郎さん。

 

「……早速動きがあったようだ」

 

弦十郎さんの持つ端末にメッセージアプリめいた連絡が入る。

 

「……インドのラーガ・スンが阿礼家に攻め入ったらしい」

「早速動いたわね……!」

 

ラーガ・スンは速攻を重んじるようだった。

弦十郎さんの端末をみんなで覗き込む。

 

「サーヴァントと共に阿礼家に侵入……、むっ!?」

 

弦十郎さんが驚く。

端末には、『阿礼家から出た無数の閃光に貫かれたラーガ・スンのサーヴァントが銀色に変質、そのまま消滅』と連絡があった。

 

「えっと、どういう事ですか?」

 

コルデーが聞く。

それに答えたのはサンジェルマンだ。

 

「ラーガ・スンのサーヴァントは敗退した、と言うことよ」

「しかも鎧袖一触。アレイスター・クロウリーは相手に何もさせずに勝利した、というワケダ」

 

プレラーティが補足する。

その頬には冷や汗が一つ。

 

「アレイスター・クロウリーって、こんなに強かったんです……?」

 

俺の言葉にカリオストロは首を横に振って答えた。

 

「いいえ、こんな強さは持っていなかったはずよ」

「少なくとも、相手を銀に変える力なんて使わなかったワケダ」

 

そう、プレラーティは付け加えて言った。

そんな中、俺は一つ気になった事があった。

 

『相手を銀に変える』

 

今回、アレイスター・クロウリーが使った攻撃が、俺には引っ掛かっていたのだ。

触れたものを銀に変える攻撃を使う奴を俺は一人知っているのだ。

 

シェム・ハ。

 

先史文明期に地球を訪れたアヌンナキの一人。

統一言語に封じられた改造執刀医。

彼女は、触れたものを銀に変える閃光を放てるのだ。

実際、【原作で】マリアさんやセレナちゃんが適合したアガートラームはそうやって作られたのだ。

フィーネの恋人、エンキの右腕を銀に変えて。

 

ならば。

アレイスター・クロウリーはシェム・ハに接触したのだろうか。

昼間、了子さんと交わした会話を思い出す。

【人は完全な存在にかしずくべき】というアレイスター・クロウリーの思想と、彼の幼少期の考えが合わないという話で、確か了子さんはこう言ったのだ。

 

「そんじょそこらの雑霊では洗脳すら出来ない。なら、彼が呼び出したのは本物の、神サマの可能性があるわね」

 

それは、アレイスター・クロウリーがハネムーンで降霊したエイワズについての考察だった。

もし、エイワズがシェム・ハと関わりがあるのなら、アレイスター・クロウリーの強さにも説明がつく。

 

エイワズと、シェム・ハ。

そして■■市を襲撃し、同時に神獣鏡を強奪したツァバト。

シェム・ハの残り香は、どこまで───。

 

「ところで、ラーガ・スンはどうなりました?」

 

ジャンヌさんの言葉に現実に引き戻される。

そうだ、マスターの一人であるラーガ・スンはどうなったのだろうか。

 

 

 

ラーガ・スンの生死【1D10】

 

1 サヨナラ!

2 撤退したようだ

3 撤退したようだ

4 サヨナラ!

5 撤退したようだ

6 撤退したようだ

7 撤退したようだ

8 撤退したようだ

9 サヨナラ!

10 阿礼邸に攻め入る強い男だ……

 

結果【7】

 

 

 

「なんとか逃げ出したようだな」

 

飛騨忍群からの報告に目を通す弦十郎さん。

 

「どうします、助けます?」

「いえ、放っておきましょう」

 

俺の質問にそう答えたサンジェルマン。

 

「無事に逃げられたようだし、この聖杯戦争の間はこっちに妨害も出来ないでしょう」

 

と、続けるサンジェルマン。

今夜の戦闘はこれで終わりかと思っていたら、更に弦十郎さんの端末に連絡。

 

「冬木埠頭で戦闘だ。郷田 潔陣営をカルマ・リーが急襲したようだ」

 

 

 

カルマ・リーの召喚サーヴァント(ランサー)【1D6】

 

1 秦良玉

2 李書文

3 ナタク

4 秦良玉

5 李書文

6 スカサハ

 

結果【4】

 

 

 

郷田 潔の召喚サーヴァント(フォーリナー)【1D6】

 

1 葛飾北斎

2 葛飾北斎

3 葛飾北斎

4 葛飾北斎

5 葛飾北斎

6 葛飾北斎

 

結果【1】

 

 

 

「カルマ・リーのサーヴァントは、女性の槍兵。郷田 潔のサーヴァントは……妙な格好の少女だそうだ」

 

端末を見た弦十郎さんがそう言う。

 

「妙な……格好?」

「ああ、丁度動画で送られてきた」

 

飛騨忍群がこっそりと撮影してくれたらしい。

その動画には、埠頭で争う二人のサーヴァント、そして写真で見たカルマ・リーと郷田潔の姿。

槍兵のサーヴァントは、髪をシニョンで2つに纏めている全身白いタイツ姿の女性。

……秦良玉だ。

 

郷田潔側のサーヴァントは……コウモリタコというか妖花を思わせる格好の女性。袖は大きく広がり、先に絵筆が4本ずつ。

……娘の身体を使う葛飾北斎か。

 

この二人が戦闘をしている。

秦良玉が槍を振るい、それを葛飾北斎がいなして反撃。

二人の戦闘力はほぼ互角。

 

動画は短い録画時間であった。

バレないように撮影したのだろう。

しかし必要な情報は伝えられるように。

プロの仕事であった。

 

 

 

勝負の結果(秦良玉 VS 葛飾北斎)【1D10】

 

1 葛飾北斎勝利、秦良玉消滅

2 葛飾北斎勝利、カルマ陣営撤退

3 葛飾北斎勝利、カルマ陣営撤退

4 葛飾北斎勝利、カルマ陣営撤退

5 葛飾北斎勝利、カルマ陣営撤退

6 秦良玉勝利、郷田陣営撤退

7 秦良玉勝利、郷田陣営撤退

8 秦良玉勝利、郷田陣営撤退

9 秦良玉勝利、郷田陣営撤退

10 秦良玉勝利、葛飾北斎消滅

 

結果【5】

 

 

 

「どうやら、勝ったのは郷田の召喚したサーヴァントのようだな」

 

葛飾北斎が勝利し、カルマ・リーと秦良玉は撤退。

それが埠頭での戦闘の結果だった。

 

「で、二人のサーヴァントの正体、わかったワケダ?」

 

プレラーティが皆に聞く。

 

「郷田潔のサーヴァントはなんとなくわかります。葛飾北斎でしょう」

「葛飾北斎?だがあれはどう見ても女の子だったぞ」

 

俺の言葉にそう返す弦十郎さん。

……うん、普通はそう思うよね。

 

「でも、彼女が攻撃の時に出してた波とか龍とか鳳凰とか。あれ北斎の描いた絵に似てた気がするんですけど」

「む、そうなのか?」

「そうねぇ、私もそんなに詳しくないけど、確かに見たことある気がするわね」

 

了子さんがそう言う。

と、ここでスマホをポチポチしていた立香さんが声をあげる。

 

「渡くんの言う通りかも、です。スマホで調べたら確かに北斎の絵っぽいですよ」

 

みんなにスマホを見せる立香さん。

そこには北斎の描いたという絵の一覧。

その中に戦闘中に描かれた龍や鳳凰も含まれていた。

……『東町祭屋台』、屋台の天井に描かれた絵なのね。

 

「だが、何故女の子になっているんだ?」

 

真っ当な弦十郎さんの疑問!

それに答えたのはサンジェルマン。

 

「恐らく、アカシックレコードからの情報抽出の際に問題が発生したのではないかしら」

「ありえるワケダ。聖杯戦争なんて百年ぶりな上にアカシックレコードへのアクセスなんて大業。バグが発生してもおかしくないワケダ」

 

あ、なんかいい感じに納得してくれた。

娘の身体使っているんですよ、という説明はしないでおこう。

 

「カルマ・リーのサーヴァントはどうだろう、わかるだろうか」

 

秦良玉、なのだが。

正直、現状ではそれを指摘出来ないのよね。

北斎は攻撃の際に出てくる絵が特徴的だから、知識のとっかかりはいくらでもあるんだけども。

秦良玉は、正直使っている槍が『白杆(トネリコ)の槍』って事がわかれば、まあ、中国史に詳しそうな弦十郎さんならわかりそうだけどもね。

でもあの動画じゃ槍の材質なんてわからないしねぇ。

 

「……ふむ、皆わからないか」

「中国系、というのはわかるんだけれど……」

「むしろ弦十郎くんはわからないの?八極拳やってるんでしょ?」

 

了子さんの熱い無茶振り。

 

「す、すまん。俺が知っているのは主に『燃えよドラゴン』とかあの辺でな……」

「まあ、現状では正体探れないでしょうし、また明日以降で調査しません?」

 

と俺が提案すると、みんな賛成してくれた。

 

取り敢えず。

この後にも襲撃が無いとは限らないので、仮眠を取る者と起きて備える者に別れて作業に当たる事になった。

 

俺?

俺は襲撃に備える側よ。

即応戦力としてシンフォギアは有能なのよね。

聖詠唱えるだけで戦闘モードに入れるんだもの。

 

そんな訳で。

メチャクチャ襲撃に備えた。

 

 

 

 

走る。

走る、走る、走る。

冬木の街を疾走する。

 

横笛を吹きながら走る。

普通なら息が切れそうなものだが、男は息を乱さず笛を吹いて走っていた。

 

男の名は【ラーガ・スン】。

この冬木の街で聖杯戦争に参加したマスターである。

いや、あった、というべきか。

 

ラーガ・スンは手始めに聖杯戦争主催者である阿礼星乃を倒そうと、自身が召喚したサーヴァントである【アヴェンジャー】と共に阿礼邸に向かい、そして。

一瞬で敗北した。

真正面から向かった二人を待っていたのは、門より注がれた閃光だった。

 

その閃光に穿たれたアヴェンジャーは銀色の金属めいて変質し、そして消滅した。

鎧袖一触であった。

勝ち目など無かった。

 

だから逃げ出した。

笛を吹きながら。

 

ラーガ・スンは音楽魔術、という異端技術の使い手だ。

音楽は人の感情を操る力をもつ。アップテンポの曲なら気分が高揚して盛り上がり、その逆にテンポの遅い曲なら気分が鎮静される。

それを更に高めたのが音楽魔術だ。

彼の吹いている笛は、その音楽は、彼の身体能力を高めて活力を増強させる。

 

だが、だからだろうか。

奏でられる曲が異音に気付かせなかったのは。

蓋の空いたマンホールから、無数の触手が出てくる事に気付かなかったのは。

 

「ッ!?」

 

ラーガ・スンの脚は一瞬で触手群に絡め取られ、下水に引き摺りこまれる。

そして、ラーガ・スンの身体が完全に下水道に引き摺りこまれると、触手が一本出てきてマンホールの蓋を閉めてしまった。

 

この時を境に。

ラーガ・スンはもう二度と。

日の光を見ることはなくなった。





【悲報】ラーガ・スン、ジル・ド・レに拉致される

と言う訳で次回からジル・ド・レの行動が活発になります。
錬金術師や異端技術者はいいエネルギー源になるんじゃ〜!


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第三十話 願いはすでに───

シンシンシンフォギアーッ!
なシンフォギアラジオ出張版、見ました?
ダークニンジャみたいな格好したif響とか、XDUの新OPとか気になる情報いっぱい出てましたけれど、私が一番気になったのは……、平行世界のセレナとマリア!
大人になった色っぽいセレナさんと、なんかロリィなマリアさんがね、XDUの新OPに出てたんですよ!

可愛かった(素朴な感想)

なのでこの世界の順調にスクスク育ったセレナちゃんはifセレナさんのようになります(作者権限)
ばいんばいんのカデンツァヴナ姉妹に挟まれて悶えろ一鳴!!



私は夢を見ている。

明晰夢、という奴だろう。

夢の中で自己の意識がはっきりしているのだ。

 

だんだんと、周りの様子がはっきりと見えてくる。

これは……もう遠い昔の───

 

「ジャネットまた祈っているのか」

「はい。 4年前、戦火によって失われた故郷のみんなのために」

 

ここは、フランスの、ドンレミ村近くの草原。

そこに、ジャネットと……(サンジェルマン)がいた。

 

「そうか……。 すまなかったな。 もっと早く、私が気づいていれば助けられた者も……」

「いえ、天使様がわたしを救ってくださったから、こうして亡くなった者のために、祈りを捧げることができるのです」

 

そうだ。この子は、ジャネットは優しい子だった。

 

「それにしても、やはり天使様はお年を取らないのですね?」

「お前は、随分大きくなったな。 出会った時が十二歳だったから───もう十六歳か」

「はい、身長だけは天使様に近付きました」

「……その、天使というのはやめてもらえないだろうか。 私は天使などではない。一介の錬金術師だ」

「錬金術師って、そんな筈ないじゃないですか。 あの時、瀕死の私を助けてくれたのは、神の御業です! 巷で錬金術師と言ったら、奇妙な研究をしている人たちですし、そんな人たちがあんな力を使える筈ありません」

「いや、私は巷の錬金術師とは違って、本当の錬金術を───」

 

私の言葉を、笑顔で止めるジャネット。

 

「フフ、わかっています。 人間には正体を隠さないといけないんですよね? 天使様のことは、神にも誓って誰にも話しません。 だから、ご安心ください」

「本当に、天使という柄でもないんだがな……」

 

そうだ……。

ジャネットはずっと私を天使様と呼んでいた。

何度違うと話しても、呼び方を変えてはくれなかったな。

……出会ったころから、思い込んだら一直線なとこらがあった。

 

 

……。

…………。

…………………。

 

 

場面が切り替わる。

これは……ああ、先程の記憶より、少し後の……。

ジャネットに会いに来て、草原に響く歌声を聞いた時の───。

 

「〜♪ 〜♪ ───あ、天使様!」

「邪魔をしてしまったか。 しかし、綺麗で優しい歌声だった」

 

歌を唄っていたのはジャネットだった。

この時か、私がジャネットの歌を初めて聞いたのは……。

 

「……ありがとうございます。 拙い歌で、ちょっと恥ずかしいですけれど……」

「そんなことはないさ」

「あの……、天使様も歌はお好きなのですか?」

「……そうだな。 あまり意識した事はないが、好きなのかもしれない。 ……母が元気だった頃に、よく唄ってくれたのを覚えている」

 

それは、とてもとても遠い記憶だ。

奴隷だった母と、馬小屋以下のあばら家で暮らしていた時の。 母と二人、必死で生きていた時の記憶。

母はいつも唄ってくれていた。

私が近所の子どもに虐められた時や、辛い事があった時に。

だか、その母も……。

 

「天使様のお母様が? それはそれは、綺麗な歌声だったのでしょうね……」

 

そう、ジャネットが聞く。

 

「……ああ。 幼い私は、母の歌が大好きだった」

「天使様は唄ったりしないのですか?」

「いや……、そんなことはない。 だが、人前で唄うような機会はほとんど無いな」

「あの……、もしよかったら、ご迷惑でなければなのですが、いつか天使様のお歌を、聴かせていただけませんか?」

「私の歌など聞いても、楽しくはないだろう」

「そんなことはありませんッ! 大好きな歌を、敬愛する天使様から、聴いてみたいのです」

 

その時のジャネットの熱の入りようは、流石の私もたじろぐ程だった。

 

「……そこまでのものではないのだがな。 わかった。 気が向いたら、その時は聴かせてよう」

「ありがとうございます。気が向いたら、ですね」

「ああ、そうだ」

「ではなるべく早く、天使様の気が向くよう祈っております」

「……あまり期待するなよ」

「いいえ、これ以上ないくらい、期待しておりますので」

「お前は……まったく」

 

そう言っても、ジャネットは笑ったていたのだったな……。

それにしても。

ジャネットも、プレラーティも、カリオストロも。

なんで私の歌を聞きたがるのかしら……?

 

「……天使様、もう一つ聞きたいことがあるのです」

「なんだ? 私で答えられることなら、答えよう」

 

この時の、この質問をしたジャネットは、とても凛とした顔をしていた……。

 

「イングランド王国との戦い……。 わたしたちは勝てるのでしょうか?」

 

イングランド王国との戦い。

百年戦争と呼ばれる争い。

イングランド王国とフランス王国の、王位継承権と領土を賭けた戦争。

 

「……次の戦いに限ってなら、恐らく負けるだろう」

「そんな……」

「最終的な戦いの勝敗はわからない。 だが、オルレアンを舞台とする次の戦いについては、無理だ」

 

私は、はっきりとジャネットに伝えた。

 

「戦いは兵数ではない。 敵に倍する兵力があったとしても、指揮官の能力や兵士の士気次第でどうとでも転ぶ」

「…………」

 

私の言葉を、ジャネットは黙して聞いている。

記憶の中でその様子を見ているから、これからどうなるかわかるから、私にはそれがショックを受けたからではなく、懸命に理解しようとしているからだとわかった。

私の言葉を、これからの戦いに役立てようとしているのだ、と。

 

「フランス王国はスコットランド王国との連携が取れていない。 数だけ揃っていても、これでは力の半分も出せないだろう。 対してイングランド王国側は、兵数こそ少ないが、そういった不安要素はなく、その差が出る可能性が高い」

「私の故郷、ドンレミ村は一度戦火に見舞われました。 あれから四年、なんとか復興し、人も戻ってきています。 わたしは、再び村が戦火に焼かれることを望みません。 しかし、次の戦いに負ければ、戦火はまた村へと迫るでしょう」

「……そうかもしれないな」

 

意を決したように、ジャネットが口を開く。

 

「天使様……わたしに指揮官を務める力はあるのでしょうか?」

「ジャネット……なにを考えている?」

「護りたいのです。 わたしの大切な場所を。 そのために、わたしに出来ることがあるのならば───」

 

そして、ジャネットはジャンヌ・ダルクとなった。

フランス王国の希望として、人々を導く英雄に───。

 

 

……。

…………。

…………………。

 

 

「……天使様、お久しぶりです」

 

甲冑を纏ったジャネット───否、ジャンヌ・ダルクが私の前に立っている。

 

ここは、ドンレミ村近くの草原。

何度もジャネットと語らい合った草原。

ジャネットはジャンヌ・ダルクとなって百年戦争に身を投じ、そして英雄となり人々を導いている。

 

「ああ……活躍は聞いている」

「はい……。 天使様のお言葉のお陰で、なんとか勝つことができています」

「私は、何もしていない」

「いいえ。 戦いの本質を、わたしは天使様のお言葉で学びました。 指揮官としての自分を高め、兵たちを鼓舞する……。 兵士一人一人が死力を尽くし、それを束ねる指揮官が正しく指揮を行えば、どのような戦いでも勝機を見いだせます。 

だから。

今のわたしが、フランス王国があるのは、天使様のお陰です」

「そうか……。 だがジャネット、本当にこれで良かったのか?」

 

私はジャネットに問いかけた。

 

「敵を、人を殺すのが戦争だ。 指揮官とは味方を生かすために、敵を殺す命令を下す者。 その業は、前線の兵士よりもよっぽど深い。 命令一つで多くの人命が失われる……」

「……はい、そうですね」

「……辛くないのか?」

「辛くないといったら、嘘になります。 けれど、それでもわたしは、大切なものを護りたいのです。 自分の故郷を、祖国を、人々を護るために剣を取りました。 これは、わたし自身が決めたことです。 だから、天使様が気に病むことではありません。 この辛さも、何もかもわたし自身の選択が原因なのです」

「……それでも、あの時、私はお前に戦いの才があると答えてしまったことを悔やんでいる」

 

そうだ。

私が、ジャネットに戦いの才があると答えなければ、ジャネットは戦いの道を歩まず、焚刑に処されることも無かったというのに……!

 

「天使様はお優しいのですね。 わたしのような者を心配してくださって……」

「お前には、戦場よりも故郷の村の景色が似合っている。 のどかな風景の中で、楽しげに唄っている姿が……」

「わたしも、そう思います。 けれど、わたしが戦場を去れば、この故郷にまで戦火は及んでしまいます。 大切なものを失い、後悔したくないのです。 護れる力がありながらそれを捨てたら、きっと後悔しまいます」

「……戦場では、何が起こるかわからない。 私は、お前と会えるこの時間を楽しみにしている……」

「光栄です、天使様」

 

微笑むジャネット。

 

「お前という友を失いたくはない。 だが、私自身が力を振るう事は禁じられている……。 こうして少しの間、この場所でお前の話を聞いて、月並みな助言をするくらいしか、してやれることがない……」

「それで十分です。 こうして、私の話に付き合ってくださるだけで……」

「……何か、私に出来ることはないか? それでも私は、お前に何かしてやりたいと思っている」

「……いつか、ずっと先になるかもしれませんが、一つだけ、お願いを聞いて貰えますか?」

「ああ、言ってほしい」

「この長い戦いが終わったら、わたしを天使様の───

 

 

…………………。

…………。

……。

 

 

「───あ」

 

目が覚める。

 

「おはようございます、天使様(マスター)

 

ふわふわのベッド。

整った調度品。

カーテンの隙間から差し込む朝日。

横で眠るプレラーティとカリオストロ。

 

「おはよう、ジャネット(セイバー)

 

私は側に立つ自身のサーヴァントに挨拶する。

 

「……どうされました?」

 

きょとん、とするジャネット。

頬に手を当て、自分が微笑んでいる事に気付いた。

 

「いいえ、ただ」

 

───懐かしい、夢を見ただけよ。

 

 

 

 

「えー。 では、朝の作戦会議を始めるわね」

 

ドーモ、一鳴です。

聖杯戦争二日目の朝、パヴァリア組が宿泊する部屋での作戦会議です。

朝食はすでに取った後。明太子の取り過ぎを注意されたりされなかったり、特にトラブルはなかったです。

ちなみに、会議の司会は了子さんである。

 

「まず、昨日の戦闘のデータを踏まえての、今日の方針だけれど」

 

昨日の戦闘。

まず思い浮かべるのは、ラーガ・スンのサーヴァントを一瞬で倒したアレイスター・クロウリーの攻撃である。

 

「サーヴァントを銀へと変えたあの攻撃か……。錬金術にはあのような攻撃は無いのだろうか」

 

弦十郎さんの言葉に答えたのはパヴァリア三人娘。

 

「黄金錬成。……万物を黄金へと変える術式がそれに酷似しているが、アレイスター・クロウリーがそれを手にしたという報告は聞いていない」

「それに、パヴァリアに記録された黄金錬成術式はあくまで核融合による元素転換で、アホみたいに莫大な魔力が必要なのよね……」

「つまり机上の空論な上に、光線を射出して元素転換するなんて無理なワケダ」

 

と、言うことだった。

さて、あの攻撃。俺の記憶が正しければ、シェム・ハの使った攻撃である。

で、あるならば。あの攻撃は【埒外物理学】な訳で。

……つまり訳のわからない攻撃なワケダ(プレラーティ感)。

 

「ならば、アレイスター・クロウリーについて調べるべきでは?」

 

俺は進言してみる。

埒外物理学かどうか、とにもかくにも調べないとわからないし。

 

「確かにそうだな。葛飾北斎も、正体不明の女性サーヴァントもこちらの戦力で対応可能だしな」

 

昨日の映像から、弦十郎さんはそう判断したようだった。

 

「貴方ほどの漢がそう言うならそうなんでしょうね……」

 

と、了子さん。

 

「もちろん、油断は禁物だがな。しかし、あの銀化攻撃の対処こそが火急だろう」

「だが、どうやって調べる?」

 

サンジェルマンが聞く。

 

「正面から行けば、あの攻撃が降り注ぐ。どうするつもり?」

 

 

 

対アレイスター情報収集【1D10】

 

1 威力偵察

2 パヴァリア本部に問い合わせ

3 こっそり忍び込む

4 威力偵察

5 パヴァリア本部に問い合わせ

6 こっそり忍び込む

7 威力偵察

8 パヴァリア本部に問い合わせ

9 こっそり忍び込む

10 熱烈歓迎

 

結果【6】

 

 

 

「こっそり忍び込むのはどうです?」

 

俺は提案した。

 

「阿礼邸になら、なにかしらの情報はあるはずです」

「だが、あまりに危険なワケダ」

「しかし、その危険に見合う価値はあるわね……」

 

賛成しかねるが反対もし辛い、みたいな反応ね。

 

「メンバーを厳選すれば良いんじゃないですか?言い出しっぺの俺と、もう一人ぐらい」

「一鳴くんが?」

「ふふふ、シンフォギア装者ですし小学生なんで、どんな隙間にも入れますよ」

 

俺は熱烈アピールした。

見張りだけじゃなくて、積極的に動きたいのよね。

 

「だが、なぁ……」

「なら、私も一緒に行くワケダ」

 

逡巡する弦十郎さんに、プレラーティが声を上げた。

 

「プレラーティ、貴女が行くの?」

「ああ、潜入なら私も出来るワケダ。それこそ、子どものお守りもしながら、な」

 

そう、皮肉げに言うプレラーティはしかし、どこか思い詰めた顔をしていた。

 

「ふふん、別にこちらがお守りしても構わないんでしょう?」

「抜かすワケダ。……足手まといになったら、速攻で追い返すから覚悟しとくワケダ」

 

切り捨てないだけ有情やね。

 

と、まぁそんな訳で。

俺とプレラーティによるドキドキ阿礼邸侵入ミッションが幕を開けたのであった。

 

 

 

 

阿礼邸。

森の中に建つ巨大日本家屋。

俺とプレラーティは阿礼邸を俯瞰できる木の上に並んで立っていた。

 

「あれが阿礼邸……広い」

「その上、錬金術で結界を張っているワケダ。……無策に突っ込めば、即お陀仏なワケダ」

「ならばどうします?」

 

俺の問いかけにニヤリと答えるプレラーティ。

 

「私を誰だと考えているワケダ?天才錬金術師プレラーティ様なワケダ。あの程度の結界、ダミー走らせて騙せるワケダ」

「はえー、すっごい(素)」

 

なんかよくわからないが、無力化出来るのね。

やっぱりプレラーティも一流錬金術師なんやね。

 

「よし、ダミーは走らせた。ついて来るワケダ」

「ウス」

 

そんな訳で。

プレラーティと共に阿礼邸まで走り抜けて、高い塀を乗り越えて侵入、……したのだが。

 

「お待ちしておりました、渡 一鳴様。プレラーティ様」

 

和服を着てサスマタを構えた女中軍団が待ち受けていた。

 

「星乃様とアレイスター様がお待ちです。……抵抗すれば、それなりの対応をするのでお覚悟を」

 

そんな訳で。

俺とプレラーティはドナドナと連行されたのであった。

 




ifセレナさんの話をするために、今回の話を巻きで仕上げたマンです。
雑な所があったらゴメンね。


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第三十一話 阿礼邸での問答と同盟

ス マ ホ が 壊 れ ま し た

画面が写らなくなったのでお店に持っていって修理してもらいます。
でもそうなったらデータ初期化からのFateGOとシンフォギアXDUのデータも消えちゃう……!
俺のエリちゃんlevel100とエリちlevel90、グレビッキーlevel70とバーニングXD響level70とファウストローブ未来さんlevel70とヘキサクエストセレナlevel70がぁぁぁ……。

俺の努力と課金の結晶が消える、消えてしまうファンタズマ……。

ディライトワークスとポケラボに問い合わせたらデータ復活しないかなぁ……。




阿礼邸の廊下を女中軍団に連れられて進む俺とプレラーティ。

……まさか、潜入がバレていたなんて。

 

「あのー……」

「なんでしょう一鳴様」

 

と、先頭を歩く一番偉そうな女中さん。

 

「いつから俺たちが来るのバレてたんですかね?」

「さぁ、私にはわかりかねます。ただ、貴方方の来る一時間前にはアレイスター様から知らされておりました」

「それ、作戦会議やってた時間帯なんですけれどぉ」

 

つまりアレイスター・クロウリーにこっちの作戦筒抜けだったという事かよぉ。

 

「帰ったら、ホテルの中総浚いしてやるワケダ……!」

「着きました、こちらの部屋に星乃様とアレイスター様がお待ちです」

 

女中リーダー(仮)がそう言う。

目の前には襖。

女中リーダーは膝をついて、襖を開けた。

襖の向こうには、畳敷きの大広間の中央に写真で見た女性、阿礼星乃とその側に立つ禿頭の男。アレイスター・クロウリー。

 

「久しいなプレラーティ。そして、はじめまして渡 一鳴くん」

「アレイスター・クロウリー……!」

 

アレイスター・クロウリー。

金色の瞳と獣じみた眼光の、錬金術師にして異端技術者。

かつて黄金の夜明け団とパヴァリア光明結社に所属し、それぞれから追放された異端者。

その男が目の前にいた。

 

「そう緊張するな。ふふ、まあ座れよ二人とも」

 

アレイスター・クロウリーが促す。

目の前には座布団が2枚。

俺とプレラーティは顔を見合わせて、座ることにした。

 

「ふふ、足は崩せよ。……菊江、チャを淹れてくれ」

「かしこまりました」

 

アレイスターは星乃の隣に乱雑に座ると、菊江と呼ばれた女中リーダー(仮名)にそう言った。

菊江は襖を閉めて去っていった。

茶を淹れに行ったのだろう……。

 

「さて。……取って食ったりはせんよ。フレンドリーに行こうじゃないか。プレラーティ、一鳴くん?」

「お前、なんのつもりなワケダ?」

「なんの?」

「なんで私達をここまで連れて来させたワケダ?」

 

プレラーティがそう聞く。

 

「なんで攻撃してこない?お前は、私達と旧交を温める、そんな男じゃないワケダ」

「……面白くないな。貴様らとは色々と話してみたかったんだがな」

「こっちにはそんなつもりはないワケダ」

「つれない女だ」

 

つまらなそうに、アレイスターはそう言った。

 

「一鳴くん、君もそうかい?俺は君とも話をしたいのだがな?」

「一鳴、止めとくワケダ。コイツ、真性の教祖体質で、話してたらいつの間にか信奉者にされるワケダ」

 

と、俺を嗜めるプレラーティ。

でも、これって情報集めるチャンスなのよね。

 

「なら、いくつか聞きたい事が」

「おう、良いぞ」

「おい!」

「大丈夫っすよ、二課でそういう対洗脳訓練はやってるんで」

 

キャロルちゃんによる対洗脳訓練……思い出したくない厳しさ。でも、それが役に立って良かった。

 

「で、アレイスターさん。俺たちが来る事、なんで知っていたんですか?」

「ああ、詳しくは言えないが俺のスキルでね。インターネットとかWi-Fiとかが通じる場所なら何でも見る事が出来るのさ」

「千里眼?」

「似て非なる、さ。フフ、博識じゃあないか」

 

アレイスターこいつアンドロイドか?

と思ったが、ネットワークに関係する力ならシェム・ハ疑惑が高まってくるねぇ。

 

「次は俺に質問させてくれよ」

「……どうぞ」

「君、シンフォギアっていうノイズと戦う戦士なんだろ?」

「ええ、そうですね」

 

……シンフォギアの事まで知られてるのか。

二課の情報も抜かれている可能性があるな。

 

「警戒するなよ。俺が知っているのは触りだけ。それぐらいさ。で、だ。君、怖くないのか?その歳でノイズなんておっかない物と戦うなんてさ」

「……正直、怖さがありますよ。でも、俺にはノイズと戦う力があって、ノイズから人を助ける事が出来るなら戦いますよ」

「それは、正義感?それとも義務感かい?」

「両方……いや、色々と混ざってますね。自己肯定感高めたいとか。使命感とか。……でも、一番近いのは()()()()()()()()()()()()()()()()んじゃないかな、と」

「ほう……ふふ、つまり。それがキミの【法】という訳か」

 

愉快そうに微笑むアレイスター。

 

「法?」

「汝の欲する所を為せ、それが汝の法とならん。知らんか、俺が本に書いたんだが」

「法の書、なワケダ」

「聞いたことはあります。読んだことはないですけど」

「本は読み給えよ。知は力さ。なぁ、星乃」

「はい、クロウリー様」

 

阿礼星乃が初めて口を開く。

背筋をピン、と伸ばした姿はとても四十路には見えない力強さを醸し出している。

 

「よし、次は君の番だ一鳴。なんでも聞いてくれ」

「そこの星乃さんは貴方の子孫と聞きました。日本で暮らしていた事があるんですか?」

「ああ。短い間……太平洋戦争終結間近に密入国してな」

 

堂々と密入国を告白する男が目の前にいた。

アレイスター・クロウリーであった。

 

「その時に聖杯を手に入れた?」

「ああ。恐ろしいサムライが壊した聖杯の欠片を密かに盗み取ってな。俺の子孫がここで少しずつ修復して、なんとか形にしたのがついこの前らしい。なぁ、星乃」

「はい。……アレイスター様は私の曾祖母と恋人で、別れ際に聖杯の欠片を渡したのよ」

 

恐ろしいサムライ……訃堂じいじの事だな。

太平洋戦争末期に行われた聖杯戦争は訃堂じいじがハチャメチャにしたって聞いたし、そのゴタゴタにまぎれて欠片を盗んだのか。

そしてそれを阿礼星乃の曾祖母に渡した。修復させて使うために。

なんの為に使うのか……。

 

「それとアレイスター様、喋りすぎです」

「そうか?まあいいだろこのぐらい」

「……わかりました」

 

冷静でしっかりした星乃と割とテキトーなアレイスター。いいコンビ?

 

「……そもそも、聖杯ってなんなんです?」

「聖杯か?簡単に言えば、イエス・キリストが最後の晩餐で用いたコップのことさ。このコップに注がれた飲み物を飲めば立ちどころに傷や病が癒えて不老長命になると言われる聖遺物だ」

「ここの聖杯が、キリストのコップなんです?」

「いや違う、ここの、というか世界中にある聖杯はほとんど後世に造られた贋作さ。本物はバチカンが保有している筈だ」

「聖杯は錬金術師なら多用する概念なワケダ。だから、聖杯のパチモンを作ってそれを使うワケダ」

「パチモンでも、名のある錬金術師が作れば立派な聖遺物さ」

「じゃあ冬木の聖杯は……」

「かつての名のある錬金術師が作ったもの……なのだがな」

「アカシックレコードへのアクセス能力、サーヴァントの召喚なんて奇妙な機能が付与されているのです」

 

と、星乃が語る。

 

「本来の聖杯はいわゆる一つの魔力タンク。杯の内側に魔力を溜めてそれを使うのですが、この聖杯戦争用の聖杯はその魔力の使用を聖杯戦争の勝者に限定しているのです」

「つまり、俺たちが聖杯の魔力を使うためには七面倒な聖杯戦争なんてやらないといけない訳だな。誰が作ったか知らないが、なんでこんな仕掛けを施したのやら……」

 

そんな七面倒なことをしてまで魔力を欲する理由はなんだろうか……。

きっと聞かれても教えてくれないだろうけど。

あと、アカシックレコードへのアクセスとサーヴァントの召喚なんて仕掛けを施したの、絶対Fate知ってる転生者だろ。

 

「それと一鳴、君今2回質問しただろ。聖杯手に入れたか、ってのとそもそも聖杯はなんだ、っての」

「え、今の2回カウント?」

「俺の田舎じゃそうなんだ。だからコッチも2回質問するぜ」

 

と、意地の悪い笑顔のアレイスター。

 

「……そうだなぁ。君、恋人が居るらしいじゃないか。それも三人!」

「は?」

「え?」

 

アレイスターの発言に目を大きく開かせるプレラーティと星乃。

まあ、ビックリするわなぁ。

 

「……ええ、居ますよ」

「警戒するなよ。何もしないさ。俺が聞きたいのは、その中で誰を一番愛しているんだ?年下の娘と、年上の娘。年上の娘の妹!なぁ、教えてくれよ」

 

と、アレイスター。

いつかはこういう質問されると思っていたが、まさかこんな所で聞かれるとは……。

でも、俺の答えは決まっているのだ。

 

「全員一番なんですけれど?」

「そんな難しく考えるなよ。『ゴジラとガメラどっちが強い?』、『今日は赤と青どっちの靴を履こうかな?』、それぐらいの気楽ささ。なぁ、それなら答えられるだろう?」

「全員一番なんですけれど?」

「あの……?」

「全員一番なんですけれど?(半ギレ)」

 

俺の剣幕にアレイスターも困惑していた。

でもこれ、譲れないところなのである。

 

「アレイスター・クロウリー、複数の女の子と付き合う時にはね、序列とか順番を作っちゃダメなのよ」

「あ、ああ……」

「本妻側室愛人妾なんて序列作った日には、私は貴女より上だからより愛される資格がある、なんて言い出す娘が出てくるのです」

「はい」

「俺は俺が愛する人たちがギスギスになるのを見たくないし、俺が愛する人たちもギスギスしたくないだろうし。だから誰が一番、なんて気楽に言えないのです」

「はい」

「複数の女の子と付き合う時はね、全員と本気で向き合う覚悟と全員を本気で愛する決意が必要なのです。わかりますね?」

「ああ、よくわかったよ」

 

俺の熱弁に気圧されたのか、素直に頷くアレイスター。

プレラーティと星乃は眼を丸くして俺を見ていた。

 

「……喋りすぎましたね」

「いや、いいさ。君は信念を持って複数の女の子と付き合っているのだな。敬服するよ」

「ドーモ……」

「他には複数の女の子と付き合う秘訣はないのか?」

 

と、アレイスター。

 

「女の子同士も仲良くしてもらう事ですかね。彼女同士で仲悪いとやっぱり喧嘩したり足の引っ張り合いになりますし」

「協調性というやつか。……あるいは、昨今流行りの『百合』とかいうヤツか?」

「協調性、そうですね。それが大切です。百合もそうですね。アレ、広義の意味では女性同士の感情の向け合いらしいので」

 

でも百合は、憎しみ向け合うのも百合になっちゃうので、ちょっと違うかしら。

今のところ、調ちゃんもマリアさんもセレナちゃんも同じレセプターチルドレンで同じ孤児院出身ということもあり仲良しである。

でも、もし。か細い可能性の先に彼女が増える事があったら仲良く出来るかしら。

 

「彼女同士で仲良くしてもらう努力をするのも、俺の役割だと思ってますし。まあ、必要経費というヤツですかねぇ?」

「そうかそうか。複数の女の子と付き合える男はそこら辺も気にしないといけないという事か」

 

なるほど、と顎を撫でるアレイスター。

 

「失礼致します。お茶をお持ちしました」

 

と、ここで菊江さんが入ってくる。

 

「待っていたぞ菊江。さぁ、お前たちも飲み給え」

 

菊江さんが湯呑と急須を置く。

瞬間、アレイスターがお茶をガブ飲みする。

 

「日本の茶は旨い。特に菊江の淹れた茶は絶品だ」

「恐れ入ります」

「さぁ、お前たちも飲め。毒も薬も入っていないさ」

 

俺とプレラーティは一瞬顔を見合わせると、お茶を飲むことにした。

渋みと苦み、そして確かな甘み。

 

「美味しい……」

「確かに、旨いワケダ」

「恐れ入ります」

 

俺たちの感想に、そう返す菊江。

 

「さて、茶も飲んだし次の質問にいこうか」

 

菊江さんが去るのを見送ると、アレイスターがそう発言した。

 

「まだやるのか?そろそろ私達を連れてきた目的を話して欲しいワケダ」

「慌てるなよプレラーティ。まだ昼にもなっていない」

「昼飯まで食うつもりは無いワケダ」

「はぁ……わかった。なら、これで最後の質問にしよう。その後、本題だ」

「……わかった。それでいいワケダ」

 

警戒を続けるプレラーティ。

それを見て気付いた、俺はもうアレイスターを警戒していないことに。

目の前にいるのが意地の悪いハゲたオッサンとしか思っていなかったことに。

……気が抜けていたようだ。

 

「なら、最後に一つ聞かせてください」

「ああ、なんでも聞いてくれよ」

「昨日、サーヴァントとマスターが攻めてきましたよね」

「ああ。カルマ・リーとアヴェンジャーだな」

 

え、カルマ・リー、アヴェンジャー呼んでたの!?

それなのに負けたんか……。

 

「アヴェンジャー……はひとまず置いといて、そのアヴェンジャーを貴方は銀に変えて倒したとか」

「ああ。そうだな」

「どういうカラクリなんです?プレラーティさんたちは錬金術ではない、と言ってますし」

 

ニヤリ、と笑うアレイスター。

 

「埒外物理学」

「アレイスター様!」

 

アレイスターの発言に被せるように、星乃が叫ぶ。

 

「喋りすぎです!」

「星乃、良いじゃないか。それだけで真実には辿り着けないさ。落ち着け」

「……はい。大声を出して申し訳ありません」

 

二人のやり取りを尻目に、俺はプレラーティに話しかけた。

 

「埒外物理学って?」

「よくわからない何か、なワケダ。錬金術でも異端技術でもない、現代物理学にケンカを売るような現象を起こす学問……とも呼べない与太話なワケダが……」

 

星乃の言動からアレイスターが埒外物理学を使うのは間違いない。

そしてそれは、(シェム・ハ)の領域でもある。

 

これは、シェム・ハとツァバト関係者で確定やね。

 

「さ、ナイショ話はそこまでだ二人とも。最後はこちらの質問さ」

「……どうぞ」

「渡 一鳴。君は何者だ?」

 

アレイスターの眼が獣めいて鋭くなる。

 

「何者、とは?」

「今こうやって話をしたが、君、小学生とは思えない冷静さだぜ?」

「……シンフォギア装者として鍛えられていますから」

「違う。君のその冷静さ、しっかりとした受け答えが出来る知能の高さは、訓練によるものじゃあない。……長年の、経験によるものさ」

 

……この男。

俺が転生者であることを見抜きやがった。

俺が渡一鳴だけでなく、前世の記憶を持っていることを───!

 

「お前、子どもに化けた悪魔か?───それとも、噂に聞くフィーネとやらか?」

「ッ!?」

 

フィーネ。その名前が出た時、プレラーティの顔が強張った。

確か、フィーネとパヴァリアは長年相争う関係だったか。

 

「……悪魔、の方。と、言うべきなんですかねぇ?」

「フィーネではない、か」

「ええ。フィーネなんて聞いたことは……一度だけありますけれど」

 

ツァバトが言ってたよね、確か。(第十八話参照)

 

「悪魔、と言うより木っ端な雑霊。輪廻転生なんて荒唐無稽を経験したただのクソガキですよ」

 

この男の前で、嘘をつく事はできない。

きっとすぐに見抜かれるだろう。

それほどの洞察力、観察力、推理力!

なら、仕方がないけど、転生者である事は話すしかない。

死後精霊さんと出会った事とか、この世界をアニメとして知っているとかは話さず隠しておかないといけないけれど。

嘘はつかないが隠し事はさせてもらおうか。

 

「なるほどなるほど。時々は君みたいな前世の記憶を持った人間が現れるものだ。フィーネの輪廻転生、そのシステムのバグか暴走か?興味深いな」

「ちなみに、どこで気付きました?」

「君のハーレム論を聞いた時に確信した。ローティーンがあんな真剣に愛を語れるものかよ」

 

自分で蒔いた種が原因であった。

でも、仕方ないわね。自分は曲げられないもの。

 

「プレラーティさん、この話、皆には───」

「言わんから、安心するワケダ。……本当にフィーネじゃないよな?」

「ないです(断言)」

「なら、良いワケダ」

 

俺はプレラーティに念押しした。

流石に二課の人たちに中身オッサンである事がバレると二課に居辛くなるかもしれないしね。

……でもアレイスターにバレたなら、訃堂司令にもバレてると考えるべきだよなぁ。

訃堂司令には話しておくかなぁ。

 

「ふむ。楽しく会話も出来たし、本題に入るか」

 

と、お茶を飲みながらアレイスター。

やっと本題か。

何故、俺たちをここに呼んだのか。殺すことも出来たというのに。

 

「話というのは他でもない。お前たちと同盟を組みたいのだ」

 

同盟。

すなわちセイバー陣営であるこちら側と不戦、あるいは協力関係になりたい、と言うことか。

なかなか、難しい提案である。

 

「同盟内容は、サーヴァントが残り【3騎】になるまでの間、俺達とそちらの不戦及び協力。どうだ?」

 

と、アレイスター。

 

「いくつか質問が有るワケダ」

「ああ、なんでも答えよう」

「なぜサーヴァントが【3騎】残るまでの同盟なワケダ?」

「俺、そちらのセイバーとアサシン。この3騎だ」

「なぜ、私達と同盟を組む事にしたワケダ?」

「簡単なことだ、お前たちがここに来た。それだけ」

「それだけ、なワケダ?」

「ああ、それだけ。それ以上でも以下でもないさ。カルマ・リーが来たならカルマ・リーと同盟を組むし、郷田が来たなら郷田と同盟を組むつもりだった」

「誰でも良かったワケダ」

「ああ。俺たちには聖杯に溜まった魔力が必要でな、最後まで残りたいんだ」

「…………」

 

アレイスターが言うことに変なところはない……と思う。俺は戦術とか戦略とかわからないし。

 

「質問は以上か?」

「いや、もう一つあるワケダ。……私たちが同盟を断ったら、どうするつもりなワケダ」

 

プレラーティの質問に、アレイスターは笑顔で答えた。

酷薄な嘲笑でもって。

 

「殺す」

「……ッ!」

「星乃の屋敷は落ち着いているが華美な装飾が無くてな。お前達を銀像にして、門に飾るとしよう。少年少女で、バランスも良いしな」

 

アレイスターから、濃密な殺気が放たれる。

首筋がチリチリとする。

隙を見せれば、殺される。

それほどの、殺気。

 

「どうする、プレラーティ。同盟か死か。ここで決めろ、ホテルのサンジェルマンへの相談も許さん」

 

アレイスターの最後通告だろう。

更に濃密な殺気を放つ。

冷や汗が垂れる。

チラリ、とプレラーティを見る。

プレラーティも此方を見て、ほんの少しだけ頷いた。

そして、プレラーティは口を開いた。

 

 

 

プレラーティの決断【1D10】

 

1 同盟

2 同盟

3 同盟

4 決別

5 同盟

6 同盟

7 同盟

8 決別

9 決別

10 話の途中ですまないが襲撃だ!

 

結果【6】

 

 

 

「……、…………わかった。同盟を結ぶワケダ」

 

プレラーティは絞り出すように、そう言った。

恐らく、一人だけなら決別し戦ったのだろう。

しかし、この場には隣に俺がいた。

だから、同盟を結ぶという選択をしたのだろう。

 

「ああ、嬉しいよプレラーティ。短い間ではあったが、お前とは仲間だったからな」

「……いいから、さっさと証文を寄越すワケダ」

「ああ、勿論。ほら、これだ。内容はしっかり確かめろよ」

 

ぽい、とアレイスターが紙の束を渡す。

そして、俺を見て笑って言った。

 

「錬金術師、というか魔術をかじる異端技術者はな、自分たちの契約を紙にしたためて互いにサインを残すのさ。契約を破れば死の呪いが降り掛かる、異端技術の刻まれた証文にな」

 

と、説明してくれた。

そして、その間にプレラーティはサインを終えたのだろう。

ぽい、とアレイスターに投げ渡していた。

 

「ほら、書き終えたワケダ」

「うむ、確認した。これで俺たちは同盟相手だ。握手でもしようか」

「しないワケダ。一鳴、さっさと帰るワケダ」

「もう帰るのか、ホテルまで送っていくが?」

「いらんワケダ!」

 

プレラーティはそう叫ぶと立ち上がり、そして、俺の手を引っ張って立ち上がらせる。

そして、そのまま出口まで引っ張っていく。

 

「渡 一鳴、また会おうぜ」

 

アレイスターがそう俺の背中に声を掛ける。

その声に振り向こうとしたが……。

 

「一鳴、放っとくワケダ!」

 

プレラーティの剣幕によって、振り向くことはなかった。

 

 

 

 

一鳴とプレラーティが阿礼邸を去った後。

 

「くく……」

 

アレイスターは笑っていた。

 

「くはははは!あはははは、は」

「同盟締結、そこまで嬉しかったのですか?

 

星乃が聞く。

アレイスターは笑顔のままでこう答えた。

 

「星乃、お前に謝らなければならない」

「はい?」

「俺はアイツにとんでもない情報を渡してしまった!」

 

星乃にはアレイスターの言葉の意味がわからなかった。

 

「どういう、意味でしょう?」

「【()()()()()】!!あの言葉だけで、あのガキは俺の裡に住むエイワズ、そしてその先の神にまでたどり着いたようだ!」

「は……は!?」

 

星乃は最初、アレイスターの言葉が理解出来なかった。

数瞬後、言葉の意味を噛み砕いて理解した時、驚愕が沸き起こった。

 

「あの、転生者の子どもの、一鳴くんがですか?」

「そうだ!アイツ、気付いていたんだ!わからないフリして、言葉の意味をプレラーティに聞いていたが、俺の眼は誤魔化せんぞ! 」

 

笑いながら叫ぶアレイスター。

哄笑し、天を仰ぐ。

 

「なにが木っ端雑霊の転生者か!なにがクソガキか!真に警戒するべきは、お前だ、一鳴!」

 

叫ぶアレイスターを怯えた眼で見る星乃。

こんなにも笑い叫ぶアレイスターを、星乃は初めて見たからだ。

 

「お前こそ悪魔だ!神を殺す悪魔!お前こそ、俺の好敵手!!待っていろ一鳴、エイワズにすべての力を捧げた時、俺は貴様を打倒するのだッ!!」

 

アレイスターは叫ぶ。

覚悟のように、

決意のように、

そして。

愛のように。




一鳴くんはアレイスターに気に入られたようです。
ちなみにもう一組の陣営にも気に入られる(意味深)予定なので、モテモテやね。


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第三十二話 狂った母と嗤いなさい、と彼女は言うだろう

烈海王「復ッ活ッ。FGO復活ッッ!XDU復活ッッ!FGO復活ッッ!XDU復活ッッ!FGO復活ッッ!」

ワイ「してェ……」

烈海王「XDU復活ッッ!」

ワイ「ガチャしてェ~~~~~……」



俺はプレラーティに手を引かれて阿礼邸を早足で歩いていた。

 

「クソックソックソッ!!」

 

プレラーティがガチギレしててめっさ怖いです(震え声)。

 

「舐め腐りやがるワケダ!新参者の追放者の癖にッ!!」

 

先ほどアレイスターにやり込められたから、鬱憤が凄い貯まってるのね……。

 

「すいません、プレラーティさん。俺が居たから……」

「ッ!お前は、悪くないワケダ!襲撃を察知されたのも、同盟組むしかなかったのも此方のミスなワケダッ!!」

 

怒鳴られながらフォローされる。

……なんだかプレラーティの様子がおかしい気がするんだよなぁ。

怒るなら怒るで『お前がもっと強ければこっちも強気に出れたワケダ!』って言いそうだし、なにか抱え込んでいる感じなのよね。

帰ったら誰かに相談しようかな。

了子さん辺りかなぁ、フィーネについてもそろそろハッキリさせたいし。

 

「プレラーティ様、一鳴様」

 

そんな事をつらつらと考えていると、女中リーダーの菊江さんに話しかけられる。

 

「なんだワケダ!」

「まあまあプレラーティさん落ち着いて」

 

俺はプレラーティを宥めながら菊江さんの話を聞くことにした。

 

「一鳴様、忘れ物でございます」

 

そう言って懐から、紙束を一つを取り出す。

俺には見覚えのないもの。

忘れ物ではないはずのものだ。

 

「あの、これ……」

「……、なるほど」

 

と、プレラーティ。

 

「一鳴、黙って受けとるワケダ」

「……わかりました?」

 

プレラーティはなにかを察知したようだった。

俺は素直に応じることにした。

 

「玄関までお送りします」

「いや、いいワケダ。間取り的に、もう目と鼻の先なワケダ」

「承知いたしました。次にお越しの際は玄関からの来訪をお願い致します」

「考えておくワケダ」

 

そうプレラーティはそう言うと、またぞろ俺を引きずっていく。

その直前、菊江さんは小さな声で確かにこう言った。

 

「星乃様の事、なにとぞ宜しくお願い致します」

 

 

 

 

「で、菊江さんの一連の行動はいったいなんなんです?」

 

阿礼邸から冬木ハイアットホテルへ帰る途中、俺は菊江さんについて聞いた。

紙束を渡した事とか、最後の言葉とか。

……なんとなく、意味はわかるけどね。

 

「あの菊江という女は、星乃の従者であってもアレイスターの従者ではないという事なワケダ」

「つまり、裏切ったと?」

「アレイスターを、な。アレイスターの行いか、聖杯の使い道。どちらを気に入らんかは知らないが、あの菊江という女はそれが星乃を害する事になると考えたワケダ」

 

最後にあんな事を言ったのか。

星乃を助けるために。

 

「紙束の中身、なんですかね?」

「さぁ、軽く調べたが呪いの類いは掛けられていないワケダ。ホテルに戻ったら読んでみるワケダ」

 

……あの、屋敷の中は、いやネットワークの繋がる所はアレイスターの庭だ。

それを、危険を冒してまで裏切るなど、菊江さんの忠誠心はとても高いのだろう。

そして、紙束の中身は恐らく、アレイスターの弱点となる内容なのだ。

 

「早く戻りましょう。紙束の中身も気になるし、きっとみんなも心配してるはず」

「わかっているワケダ」

 

自然と二人、早足で進む。

今はもう、新都と呼ばれる冬木の繁華街に入っている。

人々は行き交い、街は少し早いクリスマス商戦に騒いでいる。

 

「……ッ!」

 

ふと、突き刺さるような視線を感じて振り向いた。

人、人、人。

ただ、街を行く人の群れだけがあった。

 

「どうしたワケダ?」

「……いえ、なんでもありません」

 

視線は既に無く、視線の主はとうに消えていていた。

気のせい、だったのだろうか。

 

俺は、先を行くプレラーティを駆け足で追いかけた。

 

 

「ふふ、美味しそうなボウヤ……。はやく食べちゃいたい」

 

 

 

 

冬木ハイアットホテル。

拠点に戻ってきた俺たちを、二課とパヴァリア、そしてアサシン陣営全員が迎えてくれた。

 

「心配掛けたワケダ」

「すみません、油断しました……」

「二人が無事で本当に良かった」

 

と、弦十郎さん。

どうやら、俺たちが女中軍団に捕まった所を飛騨忍群が見ていて連絡をしていたようだった。

俺とプレラーティは、阿礼邸で何があったかを説明することにした。

───もちろん、ホテル内のネットワークは完全に遮断した上で、だが。

 

「クロウリーはネットワークを通じてこちらの情報を抜ける……と」

「ええ。恐らく、監視カメラなんかをハッキングめいて乗っ取れるのではないかと」

 

クロウリーはネットワークを通じて、此方の内情を把握していた。

そして、恐らくは他の陣営も……。

こと、情報戦においてクロウリーは此方の二手三手先を行っていると言えるだろう。

 

「防犯面で不安はあるが、このフロア内はネットワークを遮断するしかないな……」

「そこら辺は任せるわ……。問題はプレラーティがクロウリーと結んだ同盟ね」

 

サンジェルマンがそう言った。

プレラーティがクロウリーと締結した同盟について提言したのである。

同盟の主たる内容は以下の三つ。

【サーヴァントが残り三騎になるまで、サンジェルマン陣営とクロウリー陣営は不戦、及び協力体制を取る】

【サンジェルマン陣営とクロウリー陣営は互いに相手が不利益を被るような行動を取ってはならない】

【もし、同盟の内容に反する事を行えば、サンジェルマン陣営はプレラーティが、クロウリー陣営は阿礼星乃が死ぬ】

 

つまり、同盟破りをしたらプレラーティが死んでしまうのである。

 

「厄介な事になったわねぇ」

 

と、カリオストロ。

 

「スマン、全部こっちの独断なワケダ……」

 

プレラーティは絞り出すようにそう言った。

 

「待った!」

 

俺はナルホドくんめいて待ったをかけた。

 

「あの状況ではプレラーティさんは同盟を結ぶ他ありませんでした。彼女を責めるはお門違いかと」

「わかっているわ、一鳴くん。プレラーティ、私は貴女が同盟を結んだ事自体を問題視している訳ではないわ」

 

と、サンジェルマン。

 

「この同盟で貴女を人質に取られている。それが厄介だってことよね?」

「ええ、プレラーティは私にとって友。貴女を犠牲に強硬手段を取ることは出来ないわ……」

「サンジェルマン……」

 

プレラーティは終始、何かを噛み締めるかの表情だった。

何か、質問をして空気を変えようか。

 

「……ところで、何でクロウリーはこんな同盟を結んできたんですかね」

「……確実に勝利する為、じゃないの?」

 

と、俺の質問に答えるカリオストロ。

 

「でも、あの時クロウリーの殺気を感じましたけど俺たち二人を簡単に倒せる気迫でしたよ。それこそ、クロウリー一人で勝ち残れるぐらいに」

「それでも、私たちは軍勢です」

 

と、ジャンヌさんが口を開いた。

 

「貴方の言うように、アレイスター・クロウリーは隔絶した能力を持っているのでしょう。埒外物理、でしたか?」

「ええ、そうですね」

「ですが、クロウリー陣営は孤軍で、私たちは軍勢なのです。私たちセイバー陣営と貴方たちシンフォギア組と飛騨忍群。……そして、藤丸さんたちアサシン陣営。全員で掛かれば、多大な犠牲を出しますが勝利しましょう」

 

言われれば、そうである。

セイバー、ジャンヌ・ダルク。

サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティ。

俺、弦十郎さん、了子さん(フィーネ)。

飛騨忍群。

立香さんとアサシン、シャーロット・コルデー。

確かに、俺たちは戦力が充足している。

対してクロウリー陣営はアレイスター・クロウリーと阿礼星乃、そして少数の女中たち。

 

「戦いは指揮官の能力や士気次第でどうとでも転びますが、それでも数というのは重要です。クロウリーに私たちをぶつけて対応させている間に背後からコルデーさんが暗殺。あるいは、マスターである阿礼星乃を拘束する等々。取れる戦術が単純に増えるのです」

「つまり、犠牲を許容するならクロウリーに勝てる?」

「はい。そして、他の陣営とも協力体制を取ることも可能。それをクロウリーも理解していたのだと思います」

「だから、同盟を結んだ?他の陣営と同盟を結ぶ前に。確実に勝利するために」

「恐らくは。……そして、時間は彼らの味方です。サーヴァントが三騎に減るまでに、私たちを倒す準備を済ましてしまうつもりなのでしょう」

 

流石百年戦争で、フランスを勝利に導いた聖女である。

卓越した戦略眼であった。

 

「でも、これはチャンスでもあります。時間は此方の味方でもあり、私たちはクロウリーの弱点に通じる情報を握っていますから、この情報を解析することが出来ます」

「女中の菊江さんから渡されたこの紙束です?」

「そうです。内容はわかりませんが、その菊江という方が危険を冒してまで渡してきたもの。中身に期待も出来ましょう」

 

ジャンヌさんの言葉を聞いて、了子さんが口を開いた。

 

「ホテルのこのフロアは完全にネットワークを遮断しているわ。覗きも盗み聞きも出来ないわよ」

「なら、はやく見てみましょ」

 

と、カリオストロ。

俺も、ずっと気になっていたのである。

菊江さんが渡してきた紙束が。

 

紙束はA4の用紙が十枚ほど束になったものだ。

紙自体は新しいコピー用紙だろうか。

 

「紙束に写っているのは、書類をコピーした画像のようね。……これは、日記かしら?」

 

と、了子さん。

紙を一枚取って確かめてみる。

確かにそこには達筆なボールペンらしきもので日付と、何があった、何をしたか、などが書かれていた。

 

「これは……阿礼星乃の日記みたいね」

 

サンジェルマンが、同じく紙を見ながら言った。

 

「星乃の日記帳を、菊江という女中が密かに控えていたという所かしら」

「とにかく、読んでみましょ」

 

と、カリオストロ。

その言葉を合図に、皆で星乃の日記の読みこみを始めるのであった。

 

 

 

 

【六月四日 晴れ】

今日から阿礼家の当主となった為、日記をつけていこうと思う

……三日坊主にならなければいいけれど。

 

 

【六月五日 晴れのち曇り】

今日、先代当主である母に阿礼家の使命たる聖杯の修復について、改めて説明された。

アカシックレコードにアクセスしてかつて生きていた偉人や英雄を呼び出す異形の聖杯。その欠片は我が阿礼家の祖であるアレイスター・クロウリーが私の曾祖母に授けたもの。

それを完成させ、アレイスター・クロウリーを呼び出すことこそが、阿礼家の悲願なのだと。

 

幼少から口酸っぱく言われてきたことではあるが、今日は初めて聖杯を見せてもらった。

我が家の地下、最新の網膜指紋確認扉と錬金術や異端技術を用いた封印の先に、聖杯はあった。

崩れかけた球体、ひび割れ中身の見えた殻。ただし、大きさが三メートルは越えていた。

これを、直さなければならない。

 

 

【六月七日 雨時々くもり】

聖杯の修復には高価な金属類や聖遺物を用いる。

これらは高額で、入手も困難だが、世界各地に協力者がいるので、定期的に我が家に届けられていた。

現在、聖杯の修復率は80%といったところらしい。

私の代で、修復は完了する予定だそうだ。

 

 

【六月八日 曇り】

どうやら、三日坊主にはならなかったらしい。

特になにもない一日であったが、三日坊主にはならずにすんで良かった。

 

 

【七月七日 晴れ】

本日は七夕である。

団扇を扇ぎながら、天の川を見ていた。

星の光は好きだ。

星乃、という名前だからか幼少のころから星を見てきた。

冬木は良い、東京の学生寮と違って星がよくみえるから。

 

 

【九月二十四日 大雨】

今日、母が死んだ。

先月から具合が悪く臥せっていたのだが、とうとう死んでしまった。

厳しくも優しい母であった。聖杯の完成をなによりも楽しみにしていた。

 

完成した聖杯を、お見せしたかった。

 

 

【十一月九日 小雨】

母の四十九日法要が終わった。

我が家の女中たちも落ち着きを取り戻していた。

これからは、私一人で阿礼家を運営していかなければならない。

 

 

【六月六日 雨】

明日結婚する。

政略結婚、というやつだ。

愛はないが利益はある、そんな結婚だ。

相手の男、夫となる男は家柄だけの詰まらない男だ。

せいぜい、互いに利用し合うとしよう。

 

そう言えば、日記を初めて一年経ったのか。時が経つのは早い。

 

 

【四月二十日 晴れのち曇り】

娘が産まれた。

体重2914g。元気な女の子。

名前は真緒と名付けた。緒は糸を表す漢字、糸の始まり。端緒。始まりから、真っ直ぐ生きて欲しくて真緒と名付けた。

可愛らしい、私の子ども。

一抹の不安と共に喜びを感じる。

これが、母親になるということか。

 

夫はついぞ、病院には来なかった。

きっと、また愛人の所にいるのだろう。

 

 

【五月十五日 晴れのち雨】

真緒を育てるのは大変だ。

夜泣きや汚物の処理。

子どもを育てるのは、こんなにも大変なことだったのかと愕然としている。

子どもの頃から一緒だった菊江が助けてくれなければきっと私は……。

菊江には、本当に感謝しなければならない。

 

あの男は今日も帰ってこない。

せめて、連絡くらいは入れれば良いものを。

 

 

【六月四日 晴れ】

日記を初めて二年である。

まさか自分に子どもが出来るなどと、二年前の自分は信じられるだろうか。

当主になって二年。

聖杯修復は遅々として進まず、もういいんじゃないか、という思いを抱いてすらいる。

 

家業は順調、子どもも産まれて幸せなのだ。

アレイスター・クロウリーの復活など、必要なのか?

 

 

【八月七日 ■■■】

(水滴の大きな染みで、ほとんど読めない)

 

 

【八月八日 大雨】

真緒が死んだ。

私のせいだ。

普段の態度の悪さを指摘して、夫と喧嘩になり、夫の投げた青銅のオブジェクトが真緒に当たった。

即死 だっ た。

真緒ご めん ね、ダ メなお か あさん でごめんね

 

 

【十月二十四日 雨】

聖杯修復率85%。

この聖杯はアカシックレコードへのアクセスという、他の聖杯にはない機能を持つ。

アカシックレコード、地球の記憶。

そこにはきっと真緒の記憶もあるのだろう。

聖杯が完全に修復されれば、私はもう一度真緒に会えるのだ。

もう一度、真緒のお母さんになれるのだ。

 

 

【九月二日 雨】

聖杯修復率95%。

真緒の十三回忌法要を済ませた。

真緒は極楽浄土にいるのだろうか。

あなたを甦らせようというお母さんを、どう思っているのか。

それでも、私は

 

 

【九月三日 大雨】

あの男を見つけた。

かつて夫だった男。

真緒を殺した後、実家に逃げて全てを有耶無耶にした屑。

殺してやろうかとすら思ったが、放っておいた。

今は聖杯だ。

 

 

【十月一日 晴れ】

聖杯修復率100%。

聖杯は完全に修復された。

これで、真緒を甦らせる事が出来る。

儀式は明日行う。

子供部屋はあの日のまま。

早く貴女に会いたい、真緒。

 

 

【十月二日 晴れ】

真緒を甦らせようと儀式を行ったらアレイスター・クロウリーが呼び出された。

呆然としている私を余所にクロウリーは『よくやった!』『よくぞ俺を甦らせた!』『これでエイワズの願いを叶えられる』とまくし立てた。

真緒は?

どうして真緒は甦らなかったの?

 

 

【十一月三日 曇り】

あの聖杯で呼び出せるのは人類史に名前を残した者のみらしかった。聖杯が呼び出す者はアカシックレコードの情報だけでは精度が悪く、残りを人類の認知・認識で補っていると。

そして、真緒は人類全体に認知されている訳ではないので呼び出せなかったという事だった。

落ち込む私に、しかしアレイスターはこう言った。

 

『聖杯戦争を執り行え。残り六騎のサーヴァントを呼び出させて、四騎を聖杯に焚べれば聖杯に接続されたエイワズは本来の力を取り戻す。

 

かつて改造執刀医と呼ばれ、今は統一言語に封じられた神の力の一部を。

 

そうなれば、アカシックレコードからお前の娘の情報を引き出すなど容易い』

 

私は、アレイスターの言葉を信じることにした。

もう一度、真緒に会いたい。

その為なら私はなんでもしよう。

私の呼び出した、先祖の甘言に乗ってでも。

 

 

 

 

言葉が、出なかった。

阿礼星乃には子どもがいたのだ。

真緒という子どもが。

その子は赤ん坊の時に死んでしまって、それからずっと、星乃は真緒を甦らせる為に聖杯を修復し続けたのだ。

十年以上かけて。

そして、アレイスター・クロウリーと契約したのだ。

シェム・ハと関わりのあるエイワズの復活と引き換えに、娘の蘇生を。

 

そして、アレイスターが同盟を求めた真の理由は。

 

「大嘘つきめ、なにが聖杯戦争に勝利したいから、なワケダ。サーヴァントを四騎倒せば目的を達成出来るから、あんな同盟を結んだワケダ!」

 

そう、アレイスターにとって聖杯戦争の勝利条件は全てのサーヴァントを倒す事ではなく、たったの四騎倒せばそれでいいのだ。

四騎のサーヴァント、その身体を構成する魔力を、聖杯に焚べればアレイスターの目的は達成されるのだ。

すなわち、エイワズの復活。

 

「アレイスターを止めようにも、証文でプレラーティを人質に取られている。手が出せないわね」

「クソッ!やっぱりあの時戦っておくべきだったワケダ」

 

カリオストロの言葉に悔しさを露にするプレラーティ。

 

「でも、あなた達がこうして帰ってきたからこの情報を掴むことが出来たのよ」

「……すまない。少し頭を冷やしてくるワケダ」

 

サンジェルマンの言葉にそう言い残して、プレラーティは退室していった。

 

「プレラーティ、フォローしとかないといかないわね」

 

と、カリオストロ。

 

「それについては、後で考えましょう」

 

サンジェルマンはそう言った。

 

「あのー……」

 

と、ここで立香さんが控え目に手を上げた。

 

「どうしたの?」

「その、エイワズについてはWikipedia見てなんとなくわかるんですけど、改造執刀医とか統一言語ってなんなんでしょう?」

 

まぁ、普通はわからないよなぁ。

 

「改造執刀医は……わからないわ。ごめんなさい」

「統一言語は、簡単に言えば先史文明期に使われていた言語。5000年前の言語よ」

「ごせっ……!?」

 

サンジェルマンの解説に驚き言葉も出ない立香さん。

更に、了子さんが続けた。

 

「先史文明期は神々がまだこの星にいた時代よ。現代に比べても隔絶した科学力と技術力を持った上位存在アヌンナキ。そんな神と人が交流するのに統一言語は使われていたわ。……でも、バラルの塔が崩れた時に言語は乱され、神と人、人と人は思いを交わすことが出来なくなった」

「……」

「その統一言語を乱しているのが月。月の光が、今も統一言語を乱し続けている。だから人の意思は今も統一されない。人と人はわかり合えず、同族同士で殺し合いを続けている」

 

了子さんこれ、ちょっとフィーネ出てるわね(白目)

サンジェルマンとカリオストロは目を丸くして了子さん見てるし、弦十郎さんも口許をヒクつかせてるし。

しゃーねー、フォロー入れっぺ。

 

「で、その統一言語に改造執刀医=サンは封じられている訳ですね。了子さんの話を聞くと、改造執刀医=サンは先史文明期の神様の一人のようですし。そうなるとエイワズは改造執刀医=サンの分身?そもそも言語に封印ってどういう事でしょう?」

 

俺の言動に最初に返したのはサンジェルマンだった。

 

「……恐らく、その改造執刀医とやらの精神か魂が統一言語に封印されているのね。そして、エイワズはその封印から逃れた改造執刀医の分霊」

「まさか、神サマと戦う事になるなんてね」

 

カリオストロが愚痴る。

 

「皆が使っていた言葉に封印されるなんて、その神様は何をしたんですかね?」

 

立香さんの疑問に答える人間は居なかった。

 

誰も思わないだろう、改造執刀医シェム・ハはアヌンナキに反旗を翻して、全人類を11種類の怪物に改造して対アヌンナキの尖兵にしようとしていたなんて。

 

そして、シェム・ハを封印したのは、当時のフィーネの思い人であるエンキであるなど……。

 




シンフォギアの設定、用語解説見ているとはいえ、大分あやふやだぁ……。
もしかしたら、本家と設定が違う所があるかも。
そういう時は目を瞑って、ゆっくりこう唱えるんだ。

「これはシンフォギアの並行世界の話や工藤」と(メタルマンの外道博士感)


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第三十三話 異端聖杯戦争二日目、夜

聖杯戦争編もやっと中盤戦といった所に突入しました。
今回から一鳴くんが活躍する、かもしれないお話デス。



冬木ハイアットホテル最上階。

そこにあるラウンジで、プレラーティは一人冷たいミルクを飲んでいた。

 

(ここに来てから、クソッタレな過去が這い上がって来ているワケダ……)

 

そう、物思いに耽っていた。

サーヴァントとして呼び出されていたジル・ド・レは、かつて錬金術師となる前のプレラーティが金をむしり取り、無数の罪を共に積み重ねた男。

そして、サンジェルマンが召喚したのは、そんなジル・ド・レと轡を並べたジャンヌ・ダルク。

サンジェルマンは生前のジャンヌ・ダルクと知り合いのようであった。

 

自身が堕落させていったジル・ド・レと仲間だったジャンヌ・ダルクは、自分が信頼を寄せるサンジェルマンと友であった。

プレラーティの心に嵐が吹いた。

 

サンジェルマンはプレラーティの罪を知っている。プレラーティが成したことを。

それでもサンジェルマンは、処刑寸前だったプレラーティを助けて、錬金術を教えてくれた。

プレラーティを友と呼んでくれた。

堕落と享楽を愛するプレラーティを、それでも。

そんなプレラーティはサンジェルマンに恩義を感じている、信頼している。

プレラーティも、サンジェルマンを友だと思っている。

 

その、サンジェルマンの敵となったジル・ド・レは、プレラーティが原因で立ちふさがったのだ。

ジル・ド・レが錬金術を学んだのは、ジャンヌへの執着を煽ったのは、プレラーティなのだ。

今回の一件、その原因の一端はプレラーティにあるのだ。

 

少なくとも、プレラーティはそう思っていた。

 

(だが、私はサンジェルマンの助けになっていないワケダ。……なにも、出来ていないワケダ)

 

プレラーティはミルクを一気に飲み干した。

藤丸立香はジル・ド・レに殺されそうになった。

サンジェルマンは病院でジル・ド・レの襲撃を受けた。

阿礼邸での偵察任務は失敗し、アレイスターとの同盟を結ばざるを得なかった。

そして、その同盟はアレイスターに有利な内容であった。

 

(私は、役立たずなワケダ)

 

プレラーティはミルクのお代わりを頼もうと右手を挙げて───

 

「飲みすぎよ、プレラーティ」

 

カリオストロが、その右手を受け止めた。

 

「お腹壊しちゃうから、もう止めときなさい」

「カリオストロ」

「隣、座るわね」

 

カリオストロは、そのままプレラーティの右側に座った。

 

「いつになく、荒れてるわね」

「……」

「過去の過ちが降りかかって来たのに何も出来ない。自分は役に立っていない、そう思っているんじゃない?」

 

カリオストロの指摘に、顔を上げるプレラーティ。

 

「なんでそう思うワケダ」

「何年一緒に居ると思っているのよ。……それに、あーしも貴女の同類だしね」

 

カリオストロ。

彼女もプレラーティと同じく、詐欺師だった。

元男で、サンジェルマンの手によって完全な身体構造である女性に変えられたのだ。

 

「サンジェルマンの役に立ちたい、って気持ちもわかるわ」

「……」

「でも、今あーしたちがやらなければならないことは何?」

 

カリオストロの声は鋭さを含んでいた。

 

「聖杯戦争を潰して、聖杯を持ち帰る事なワケダ。風鳴訃堂の意に沿う形で」

「そうよ、その為ならジル・ド・レもアレイスターも叩き潰すしかないの。それは、あーしたち三人、いいえ、二課の人間や藤丸クン、コルデーちゃんとも協力しないといけないわ」

「こんな所で荒れてる暇はない、というワケダ」

「そうよ。わかっているじゃない」

 

カリオストロは笑う。

プレラーティもニヤリと笑った。

 

「あの面子をサンジェルマンだけに纏めさせる訳にはいかないワケダ」

「サンジェルマンが胃痛で倒れちゃうわ」

「……礼を言うワケダ」

「別に良いわよ、あーしと貴女の仲じゃない」

 

それとね、とカリオストロは続けた。

 

「サンジェルマンの目的、【神の力】の創造によるバラルの呪詛の解呪。それが揺らいでいるわ」

「……日記の最後に書かれていたアレなワケダ?」

「そうよ、統一言語に封じられた改造執刀医。バラルの呪詛によってその神が封じられているなら、バラルの呪詛は解かない方が良いんじゃないかって」

「バラルの呪詛はただの呪いではなく、人を守る光だと?」

「可能性はね。そして、ウチの局長はその事を知っていた可能性があるわ」

 

アダム・ヴァイスハウプト。

パヴァリア光明結社の統括局長。

サンジェルマンにバラルの呪詛の存在を教えた男。

人が人を支配するのは、人がわかり合えないのはバラルの呪詛だと教えたのはアダムなのだ。

 

「サンジェルマンは?」

「表には出していないけど、悩んでいるわ」

「なら、私たちがやることは一つなワケダ」

 

プレラーティとカリオストロは立ち上がる。

 

「サンジェルマンに着いていくワケダ」

「サンジェルマンを信じて、ね」

 

 

 

 

天使様(マスター)?」

 

ジャンヌがサンジェルマンに声をかける。

パヴァリア組が泊まる部屋。

サンジェルマンは一人椅子に腰かけていた。

 

「ジャネット」

「なにか、お悩みですか?」

「……ジャネット。いいえ、ジャンヌ・ダルク。聞かせて頂戴」

「はい」

「今まで七万以上の犠牲を払って目指してきた戦略目標が、間違っている可能性が出たとき貴女はどうする?」

「直ちに戦略目標を設定し直します。或いは、別の目標に変更します」

「七万の犠牲を払ってきても?」

「はい、それ以上の犠牲を出さない為にも」

 

ジャンヌは断言した。

 

「そう、そうよね」

 

サンジェルマンはそう言った。

どこか、諦めを含んだような。肩の荷が降りたかのような様子であった。

 

「先程の日記に、なにかあったのですか?天使様(マスター)が、そんなご様子になるようななにかが」

「……ジャネット。私の母は奴隷だった。貴族が戯れに手を出した奴隷の娘。それが私だったんだ」

「……そう、だったのですか」

 

ジャンヌは生前も今も、サンジェルマンの過去を聞いたことが無かった。

サンジェルマンが奴隷の子だったというのは、初耳だったのだ。

 

「幼少の頃、母が病になった時。私は父に助けを求めた。薬があれば、母は助かったんだ。だが、父は助けなかった。薬を買ってはくれなかった」

「……」

「家に帰った時、母は冷たくなっていた。私は一人になったんだ」

「……っ」

「私は奴隷の娘だった。だから、生きる為に貴族の奴隷になった。いつも奴隷だからと殴られ、その内に褥に連れ込まれた」

 

ジャンヌは思わず口を押さえた。

自身の敬愛するサンジェルマンに、そんな壮絶な過去があったのだと。

 

「その貴族が、戯れにな。私に文字を教えた。私は貪欲に学んだよ。……学べば、世界を知れば、母がなぜ死んだのか、なぜ父は母を助けなかったのか、わかると思ってな。私はその貴族に媚を売り、様々な書物をねだった。哲学、自然科学、軍略。そして錬金術」

「……」

「ある時、貴族の元に一人の男がやって来た。錬金術を学んだ奴隷、私に会いに来たと言っていた。その男が言ったんだ。母が死んだのは、父が母を助けなかったのは、人と人がわかり合う事が出来ず、故に支配という形でしか関われないからだと。

そして、人の相互理解を阻むのは月の放つ呪詛のせいだと」

「バラルの、呪詛ですか?」

「そうよ、バラルの呪詛。人と人がわかり合う為の統一言語、それを阻害する呪いのせいだと」

「ですが、統一言語の中には」

「ええ、神が封じられていた。統一言語に封じられた、アレイスターに宿るエイワズの大元。そんな、邪神が封じられていたのよ」

 

サンジェルマンは真っ直ぐにジャンヌを見据えた。

 

「見損なったかしら。私はかつて穢れた奴隷で、バラルの呪詛を解くために七万人犠牲にした愚かな女だった」

天使様(マスター)……」

「私は、局長に、アダムにずっと騙されて……ッ!」

 

サンジェルマンは拳を握った。

それは悔しさだろうか。

騙された事への、あるいはアダムの手のひらで踊らされた自身への侮蔑か。

 

天使様(マスター)、いえサンジェルマン様。歯を食いしばってください」

「え?」

 

ジャンヌはサンジェルマンをぶん殴った。

ジャンヌの拳はサンジェルマンの頬を捉えていた。

吹っ飛び、床に転がるサンジェルマン。

サンジェルマンは頬を手で押さえながら、呆然とジャンヌを見ていた。

 

「申し訳ありませんサンジェルマン様。ですが、今の貴女は私を、そしてカリオストロ様とプレラーティ様、客将である弦十郎様や一鳴様を従える身。指揮官がそのような心持ちでは勝てる戦も負けてしまいます」

 

ジャンヌはそう言うと、しゃがんでサンジェルマンと目を合わせた。

 

「それと、私にとってサンジェルマン様はドンレミ村で私を救ってくださった天使様なのです。あの草原で私の唄を褒めてくださった、心優しい方なのです」

「ジャネット……」

「だからこそ、戦略の修正を。これ以上、優しい貴女が傷付かない為にも」

 

ジャンヌはそう言い切った。

 

「……貴女は今も、私を信じているのね」

「はい。そしてそれは、私だけではありません」

「それはどういう……?」

「あーしも信じているわよ!」

「私も居るワケダ!」

 

扉からカリオストロとプレラーティが入ってくる。

 

「あなたたち……」

「サンジェルマンごめんね、盗み聞きするつもりはなかったんだけど」

「カリオストロ。いいわ、気にしないで」

「サンジェルマン、すまなかったワケダ。一人で勝手に荒れて、頭を冷やしてくるなんて言って……」

「いいのよプレラーティ。あなたも気にしないで」

 

サンジェルマンは二人の手を借りて立ち上がった。

 

「サンジェルマン、私たちは何があってもサンジェルマンに着いていくワケダ」

「取り合えずどうする?局長フルボッコにしちゃう?」

 

サンジェルマンは笑った。

自分の道は血塗られた道で、しかし流した血は報われず。

サンジェルマンの悲願たるバラルの解呪は誤った目的であったが、それでもサンジェルマンに着いてきてくれる仲間がいた。

 

「取り合えずは、聖杯戦争を勝ち抜き、聖杯を訃堂とキャロルに渡しましょう」

「わかったワケダ!」

「局長に問い合わせるのは、それからでも問題ないわ」

「待ってなさい、局長!顔ボコボコの骨バキバキにしてやるんだから!」

 

腰の入ったシャドーを繰り出すカリオストロ。

 

「ジャネットも、ありがとう。お陰で更に道を誤らずにすんだわ」

「こちらこそ、サンジェルマン様のお顔を殴ってしまい申し訳ございませんでした」

「いいのよ。私の為を思って殴ったのでしょう。気にしないわ」

「ありがとうございます、サンジェルマン様!」

 

こうして、パヴァリア陣営はより強固な絆で結ばれる事となった。

きっと、聖杯戦争でも活躍してくれることでしょう───。

 

 

 

 

今夜の各陣営の動き【1D10】

 

1 引きこもって専守防衛

2 引きこもって専守防衛

3 引きこもって専守防衛

4 阿礼陣営に攻め入る(攻めた側確定敗退)

5 別陣営に攻め入る

6 別陣営に攻め入る

7 別陣営に攻め入る

8 別陣営に攻め入る

9 阿礼陣営に攻め入る(攻めた側確定敗退)

10 阿礼陣営に攻め入る(勝敗はダイス次第)

 

サンジェルマン・藤丸陣営【イベント発生】

ジル・ド・レ陣営【8】

阿礼陣営【確定1】

 

ラーガ陣営【敗退】

カルマ陣営【イベント発生】

郷田陣営【2】

 

 

 

どこを襲ったジル・ド・レ!【1D6】

 

1 サンジェルマン・藤丸陣営

2 カルマ陣営

3 郷田陣営

4 阿礼陣営

5 サンジェルマン・藤丸陣営

6 カルマ陣営

 

結果【6】

 

 

 

深夜。

調ちゃんマリアさんセレナちゃんへの電話を済ませて、夜間警戒をしていた時に部屋に備え付けられていた内線が鳴りだした。

 

「もしもし?」

 

電話を取ったのは、同じく夜間警戒をしていたカリオストロだ。

 

「……は、爆弾!?」

 

爆弾?今爆弾って言った?

冬木ハイアットホテルで、爆弾?

ケイネス、切嗣……Fate/zeroッ!

 

「……ええ、ええ。わかったわ」

 

がちゃり、と電話を切るカリオストロ。

すぐにこちらを向いてこう言った。

 

「このホテルに爆弾を仕掛けたって脅迫電話がかかって来たんですって。安全のためにホテルの外に避難してくれって言われたわ」

「罠、ですかね?」

「可能性は大よ。でも、本当にホテルに爆弾を仕掛けた可能性もある。とにかく、一鳴くんは皆を起こしてきて!」

「了解っす!」

 

そうして、五分後。

皆を叩き起こした俺たちは、廊下に集まっていた。

全員、すぐに起きてくれたのが幸いであった。

避難にはエレベーターは使えなかった。

何かあった時にエレベーターが停止したり落っこちる可能性があったからだ。

なので階段で下まで降りて外に出るのだが……。

 

「ぜーっ、ぜひーっ……」

「がんばれ、了子くんッ!あと少しだッ!」

 

階段を降りて、息が上がる了子さんを励ます弦十郎さん。

俺たちの宿泊していたフロアは30階。

そこから、1階まで降りるのだから、了子さんの息が上がるのも当然であった。

 

「マスターは、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。ありがとう、コルデー」

 

立香さんを気遣うコルデー。

立香さんも少し息が上がっているが、まだ余裕そう。

……年、かな。

 

「今、ぜーっ、失礼な、ぜひーっ、こと、思わなかった、ひーっ」

「いえ、まったく」

 

振り向いて此方を睨む了子さん。

汗だくなのであまり恐ろしくは無かった。

流石の勘の良さであった。

 

「……オンナの年には触れぬが吉よ」

「肝に銘じます……」

 

カリオストロが小声で忠告してくれた。

 

そんな一幕があったものの。

俺たちは何とかホテルの外にたどり着いた。

そこは、駐車場を兼ねた広場といったところか。

他の宿泊客も不安げに集まっていた。

 

「風鳴様ご一行とサンジェルマン様ご一行でございますね」

 

ホテルマンが人数確認にやってくる。

全員降りてきているので、問題なく確認は終わるだろう。

……と、思っていたのだが。

 

「あ、あれ見ろ!煙だ!」

「爆弾が爆発したの!?」

 

宿泊客が騒ぎだす。

彼らの指差す先には、ホテルの真ん中辺りの階層。そこから煙が出ていた。

月明かりに照らされて、映し出される大量の煙。

心を乱すには十分であった。

 

「落ち着いてください。大丈夫です。皆さん落ち着いて!」

 

ホテルマンが宿泊客を落ち着かせに奔走している。

大変そうだなぁ。

 

「あれ、爆破の煙じゃないわね」

「え、そうなんですか?」

 

了子さんの言葉に驚く立香さん。

 

「ええ、あの煙。勢いはすごいけど、奥に火の影が見えないわ。恐らく、虚仮威しのものね」

 

と、サンジェルマン。

虚仮威しの煙。

それがなぜこのタイミングで、ホテルの中層から出てくる?

敵の狙いは……?

 

「む……?」

 

通信があったのか、通信端末に出る弦十郎さん。

 

「オフェンダーか、どうした?」

 

オフェンダー。

飛騨忍群の忍、だそうだ。

彼らは個人情報保護の為、ニンジャネームという偽名を騙る。

オフェンダーもその一人だそうだ。

人の顔の皮を剥ぎそうな名前やね。

 

『弦十郎=サン!襲撃だ!俺たちニンジャを襲撃してきやがった奴らがいる!!』

「なに、どういう事だ!?」

『敵の装備は統一され───畜生、スキャッター=サンがやられた!!弦十郎=サン!敵は奇妙なジツを使───』

 

ザリザリザリ……。

通信機からオフェンダーの声が途切れ、耳障りな砂嵐に変わる。

 

「間違いないわね。どこかの敵が仕掛けてきたわ」

 

サンジェルマンがそう言った。

更に、こう続けた。

 

「全員、辺りを警戒しなさい!」

 

その言葉に、俺たちは即座に反応。

敵がどこから来ても対応できるように、ホテルの人たちを守れるようにポジションを調整した。

だが、その時。

 

大きな爆発音がホテルから響いた。

 

全員が、ホテルを見た。

ホテルからは相変わらず煙が出ている。

()()()()、だった。

ホテルは爆発しておらず、崩れてもいなかった。

なら、今の爆発音は?

そう、思った時。

 

「つ、か、ま、え、た」

 

女の声が聞こえて、そして。

視界が切り替わった。

 

 

 

 

「なんだ、今のは……?」

 

弦十郎がそう周りに問う。

しかし、その質問に答える者は誰も居なかった。

 

「奇妙よ。さっきから……敵の目的はなに?」

 

了子が呟く。

そして、気付いた。

 

「……一鳴くんは?」

 

そう問われて、全員周りを見渡した。

 

「……居ない?」

「どこに、消えたワケダ?」

「ここは、衆人環視の開けた空間よ。人がいきなり消えるなんて」

「そもそも、一鳴くんは席を外すときは必ず一声かけるはずだ……む!」

 

またも、弦十郎の通信端末に通信。

 

「俺だ」

『ドーモ、ミュルミドンです。ご無事でしたか』

 

通信してきたのはミュルミドンという中忍クラスのニンジャだ。

 

「ああ。なんとかな。そっちはどうだ?」

『こっちは襲撃者を殺したところです。敵はどうやら飛騨忍群全体に攻撃を仕掛けてきたようですね。実際、こっちにもスキャッター=サンやオフェンダー=サンを始め、被害が出ています』

「飛騨忍群にかッ!?」

 

更にミュルミドンは続けた。

 

『それと、敵の正体が掴めました。装備は中国軍が使っているもの。ですが、宗教的な意味合いのある装飾具を多数保持。また、敵は紙切れから水だの火だの出してきました。恐らく敵は───』

「中国の、聖遺物研究所……ッ!」

『可能性は高いかと。私はスキャッター=サンとオフェンダー=サンの手当てをしてから別小隊の応援に向かいます』

 

通信機が切れる。

 

「みんな、敵の正体と目的がわかった」

「それは……?」

 

サンジェルマンが問いかけた。

弦十郎は答えた。

拳を握りしめ、歯を食いしばりながら。

 

「敵はカルマ・リーと、彼女の所属する聖遺物研究所ッ!!狙いは一鳴くんとシンフォギアだッッ!」

 




オフェンダー、スキャッター、ミュルミドンはニンジャスレイヤーに出てくるニンジャです。

飛騨忍群(ソウカイシンジケート(善))


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第三十四話 一鳴の長い夜(前編)

石砫宣撫司女土官秦良玉,雅度侃議,傔從俱美少年。朱公子壽宜訪之,酒間微諷,良玉笑引南宋山陰公主云「陛下後宮百數,妾惟駙馬一人」以答。」(『棗林雜俎』)



気が付くと辺りの風景が切り替わっていた。

ホテルの駐車場から石畳の上に。

目の前には……ボロボロの教会。

ここは───冬木教会か!

 

「うふふ……」

 

背後から女のクスクス笑い。

俺は迷わなかった。

 

『───── Sudarshan tron』

 

聖詠を歌う。

俺は今、なんらかの攻撃を受けている。

故にシンフォギアを纏い迎撃する。

しようと、したのだが。

 

「ハァッ!」

 

いきなり。

目の前に現れた女に腹を殴られる。

 

「か……ぁっ!!?」

 

衝撃で聖詠を最後まで唱えられず、シンフォギアを纏えなかった。

 

「……!」

 

そして、敵は殴ったのではなかった。

槍の石突で、突いたのだ。

殺さず、聖詠を止めるために。

そして、槍を持ったその女性は……!

 

「秦、良玉ッ!」

「あら、(リャン)まで知られていたのね」

 

後ろから話してくる女性。

秦良玉のマスター、カルマ・リーだ。

カルマは俺から、シンフォギアのマイクユニットを取り上げた。

 

「ぐ……っ!」

「これでもう、抵抗できないわね。(リャン)、運んで」

「はい、マスター」

 

そう言うと、秦良玉は俺をお姫様だっこして運び出した。

なぜか秦良玉の息が荒く、俺をじっと見つめて頬を赤くしていた。

 

「さ、行きましょ。私たちの、愛の巣に」

 

そう言って、先を行くカルマ・リー。

彼女の右手にある令呪は。

一画しか残っていないように見えた。

 

 

 

 

冬木教会。

麻婆豆腐大好きな神父の根城として知っていたが、この世界の冬木教会は既に廃墟になっているらしかった。

 

冬木廃教会。

そう呼ぶのが正しいらしい。

 

なぜ、潰れたか。

立香さんはこう言っていた。

 

「詳しい理由は俺にも、地元の人間にもわからないんだ。なにせ廃墟になってから30年以上経っているみたいだし。

いろんな噂はあるけれどね。神父が狂って妻と娘を殺したんだ、とか、いや狂人に押し入られて神父一家が殺されたんだ、とかね。

 

ただ、廃墟だから肝試しに行く不埒ものも多いみたいでね。そうした不埒ものが集まっているから危険なんだってさ。

友だちの中学生が言ってたんだ。

名前?宇津見エリセっていうんだけど」

 

立香さんはその内刺される(確信)

それはさておき。

 

俺はその廃教会に連れ込まれた。

壁も床もボロボロで、かつて荘厳だったろう面影はない。

そんな協会内を歩くカルマ・リーと秦良玉。

俺を抱っこする秦良玉は、胸を押し付けたり俺の太ももを撫で回してきたりする。

なんでさ(恐怖)

 

え、秦良玉こんな淫らな性格だっけ!?

もっと慎みとか穏やかさをもった女性じゃなかったっけ!?

 

「そんなに怯えないで、一鳴くん。後で姐姐(ジィエジィエ)といっぱい遊びましょうね」

 

艶やかな笑みで、秦良玉はそう言った。

 

「おい、カルマ・リー。彼女本当に秦良玉か?」

「あら、疑うの?」

「秦良玉が俺の太もも撫でまわすはずないだろ(震え声)」

 

俺の言葉にクスクスと笑うカルマ・リー。

 

「なら、貴方は彼女の事をどれだけ知っているの?」

「秦良玉。中国は明の時代の英雄で、白杆の槍を持つ、正史唯一の女武将。性格は温厚で忠義深く、疑り深い時の皇帝から詩を4つ贈られる程の人物だった、でしょ?」

「んー、60点。よく勉強しているけれど、まだまだね」

「なら、何が足りない?」

「ふふ、良。貴方の好みのタイプは?」

 

カルマ・リーに問いかけられた秦良玉は頬を染めながら答えた。

 

「はい!一鳴くんみたいなかわいらしい男の子です!!」

「と言うことよ。彼女は無類の美少年好きなのよ」

「えぇ……」

「『棗林雜俎』に曰く、周りの従者は皆美少年だったそうよ」

「お恥ずかしい……」

「だからって、こんなストレートにセクハラする人間じゃ……」

 

そこで、俺は気付いた。

カルマ・リーの右手。

一画だけ残った令呪。

使われた、ニ画の令呪。サーヴァントへの絶対命令権。

俺の知る秦良玉とは違う、秦良玉。

 

「お前、令呪でなにかしたな?」

「正解。100点よ」

 

振り向いて、にちゃりと笑うカルマ・リー。

 

「話の続きは、ここでやりましょう」

 

教会内部を通り過ぎ、一つの部屋に入る。

きっと、神父か家族の誰かが使っていた部屋。

この部屋だけは、扉も修繕され、中に電気が通っていた。

 

カルマ・リーが中に入り、俺を抱えた秦良玉も入る。

中も掃除されていて綺麗だった。

ソファとテーブル。小さな冷蔵庫、テレビ、ラジオ。無骨な無線機。

清潔なベッド。

 

秦良玉は俺をベッドに寝かせると、カルマ・リーにベッドの柵で両手を拘束された。

その間も秦良玉の息は荒かった。

 

「ここまでやるかね」

 

俺は軽口を叩いてみせた。

虚勢であった。

 

「ふふ、あなたが暴れて怪我したら大変だもの。上の人間からは【損傷】なく連れてこいって言われてるもの」

「中国の、聖遺物研究所か」

「ええ。私はそこの研究員兼実験部隊隊長ですもの」

「俺は捕らえられた実験動物という訳だ」

「とびきり稀少な、ね」

「で、そこの秦良玉に何をした?」

 

カルマ・リーはソファに腰掛けた。

シンフォギアのマイクユニットを、弄んでいる。

 

「私が使った令呪は2画。一つは『欲望を抑えるな』。もう一つは『死ぬまで少年を愛せ』と命じたわ」

「なんで、そんな命令を」

「愛、よ」

「は?」

 

突然、ウェル博士みたいな事を言い出した。

 

「人間は、愛ゆえに躊躇いなく行動する事ができる。殺人、窃盗、自己犠牲。忌避する行いを、躊躇いなく」

「……それで?」

「私は、我々の任務はあなたを捕らえて研究所に引き渡す事。その為に、この聖杯戦争に参加した」

 

聖杯戦争への参加は、二課の目を欺くためのもの。

聖杯には最初から目を向けていなかった、ということか。

目的は最初から、俺だった。

 

「神秘のベールに覆われた聖遺物。その聖遺物を使ったシンフォギア。研究所、ひいては軍部はそれを求めている。作り方、装者の適性。それらを調べて自分たちの手でシンフォギアを作り上げるために」

「狙いは俺と、シンフォギアかよ。で。それが秦良玉に令呪使ったことと、なんの関係が?」

「私たちの戦力は、二課の通常戦力とは拮抗出来る。でも、風鳴弦十郎やシンフォギアには敵わない。あなた達に勝てる戦力が必要だった」

「……秦、良玉」

「そうよ、サーヴァントランサー。彼女の力が必要だったのよ」

 

でもね、カルマ・リーはそう続けた。

 

(リャン)は私達の計画を拒否した。当然よね、彼女は高潔な武人。子どもを攫うなんて汚れ仕事は彼女の嫌うところ」

「それで、令呪で言うこと聞かせたと?」

「ただ、命令を遵守させるだけでは駄目。自らの意思で命令を遂行させないと、本来の力は発揮しないわ」

「それで、愛か」

「ええ、そうよ。あなたがなかなかの美男子で助かったわ」

 

そう言うと、立ち上がりベッドまで近付いて俺の頭を撫でるカルマ・リー。

 

(リャン)はよく働いてくれたわ。目くらましで別の参加者と戦い、わざと負けてくれたり」

「……」

「でもね。その代わりに、彼女はあなたを求めている」

「……おい、まさか!」

「ふふ、良かったわね坊や。こんな美人のお姉さんがハジメテの相手になってくれて……」

 

クスクスと笑いながら、ソファまで戻るカルマ・リー。

代わりに、それまで入り口に控えていた秦良玉が近づいてくる。

全裸だった。

白い肌。

しなやかで女性的な筋肉に覆われた身体。

ハリのある乳房。

淡い色の乳輪。

引き締まった腰。

黒ぐろとした陰毛に包まれた局部。

それらを惜しげもなく晒していた。

 

「うおおおぉぉぉおおお!!????」

「はぁ、はぁ。マスター、もう良いですか?」

「ええ、もう良いわよ」

「待て待て!まだ聞きたいことがある!!そうだ!俺をここまで攫ったのはどういう方法だ!!」

 

俺は必死だった。

時間を稼がなければ、俺の何かがアブナイのだ。

 

「ふふ、照れちゃって」

「いいから!」

「私は聖遺物研究所の研究員よ。異端技術の一つや二つ習得しているわ。あなたをここまで攫ったのは【縮地】という技術よ」

「縮地!?仙術のか!?あー、触らないで!ズボンを脱がすなァ!」

「ふふふ、そうよ。私達【第七聖遺物実験部隊】は皆仙術を習う道士なの」

「部隊全員道士なのか!?」

 

だからソウカイシンジケートもとい飛騨忍群と戦う事が出来たのか。

 

「だが二課の面々もパヴァリアも無能じゃない!必ずここを突き止めるぞ!だからこんなことさせてる場合じゃない(震え声)」

 

俺は服を脱がそうとしてくる秦良玉に抵抗しながら叫んだ。

 

「問題ないわ。彼らにはコレ込みで時間稼ぎの作戦に当たって貰ってるし、ここは結界張ってバレないようにしてるもの。もし、侵入してきても、また縮地で逃げればいいわ」

 

そう言いながら、冷蔵庫からアイスを取り出すカルマ・リー。

マイクユニットはテーブルの上に置かれていた。

 

「ふぅ。未熟者だから、縮地一回でバテるのが弱点ね。……(リャン)、後で変わって頂戴。房中術で気を搾り取るわ」

 

房中術。

いわば性行為である。

仙人の修行法の一つで、男女和合は陰陽思想に通じるという考え方だったか。

 

「ふふ、私もね。あなたみたいな子は大好きなの」

「主従揃ってショタコンかよぉ!!!」

「いいじゃない。ここで楽しんでおきなさい。どうせこの後、あなたは研究所で地獄のような日々を送ることになるのよ」

「……ッ!」

 

研究所。

シンフォギアの技術を学び盗まんとする者たち。

おそらく、俺もあらゆる実験に酷使されて、使えなくなったら全身を切り裂かれ腑分けされ、ホルマリン漬けにされるのだろう。

このまま、連れて行かれたならば。

 

「ハァハァ。さぁ姐姐(ジィエジィエ)と猥褻前後しましょう」

 

パンツを脱がせようとする秦良玉に抵抗しながら(スボンは脱がされた)、俺は考える。

 

研究所に連れて行かれない為には、時間を稼がなくてはならない。

二課か、パヴァリアの誰かが助けが来るまでに。

 

最悪、そう最悪の手段ではあるが、方法はある。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

房中術を会得しているカルマ・リーはなかなか手強そうであるが、令呪でムラムラしきっている秦良玉ならば可能性は高い。

チンチンで屈服させて、もっともっと頂戴と、依存させてやれば良いのだ!

 

俺にはそれが出来る。

前世でハーレムを築いて、沢山の女性を妻としてきた俺ならば。

ハーレムを長続きさせるには、夜の技術も必要なのだ!

 

でも。

俺の頭に浮かぶ三人の女の子。

月読調。

マリア・カデンツァヴナ・イヴ。

セレナ・カデンツァヴナ・イヴ。

 

奇しくも、この世界で恋人になった女の子たち。

俺の愛する恋人たち。

 

今世では、未だ俺は童貞である。

出来る事なら、俺の貞操はこの恋人たちに捧げたい。

特に童貞は、俺を初めて好きになった、俺がこの世界で初めて好きになった調ちゃんに……。

 

だが。

だが、このまま研究所に送られ二度と会えなくなるくらいなら。

我が貞操、ここで散らすも仕方なし───

 

「やっと、大人しくなりました、ね───む!」

 

 

 

■■・■・■による襲撃の対応ダイス【1D10】

(5以上なら成功)

 

渡 一鳴【拘束されていて、対応出来ない】

カルマ・リー【9】

秦良玉【9】

 

 

 

扉が吹き飛ぶ。

そして、何かの群れが部屋になだれ込む。

 

「ハイヤーっ!」

 

カルマ・リーが叫ぶ。

部屋に侵入した群れを掌底で吹き飛ばしている。

……強い。

弦十郎さんに少し劣るかもしれないが、それでも十分な力量の戦士だ。

 

「甘いっ!」

 

いつの間にか、戦装束に身を包んだ秦良玉が白杆の槍で襲撃対応。

 

だが、一体。

二人の暴力から逃れた何かが俺のベッドに向かう。

それは、ヒトデめいた怪物。

ジル・ド・レの操る海魔だ。

話は聞いていたものの、醜悪な怪物である。

 

その怪物が、俺のベッドを持ち上げ、壁に叩きつけた。

 

「グワーッ!」

 

壁とベッドに挟まれて、俺はダメージを受けた。

 

「一鳴きゅん!!」

(リャン)!集中して!まだまだ来るわよ!」

 

グチャァ!

という音を響かせながらカルマ・リーが叫ぶ。

ベッドを持ち上げた海魔を潰したのだろう。

ベッドの残骸の中、俺は悶える。

そして、気付く。

ベッドが破壊されたことで、俺の拘束が解けていた。

 

こっそり、残骸の中から二人を覗き見る。

二人は、海魔との戦いに集中している。

海魔は多数。

現状は互角の勝負。

この後、どう転ぶかはわからないが、二人は俺の方に気を向けていない。

 

チャンスだ。

 

二人の目をかいくぐり、シンフォギアのマイクユニットを取り戻す、チャンス。

テーブルは倒れてマイクユニットは床に転がっている。

 

ここを逃せば、俺は二度と清い身で調ちゃんやマリアさん、セレナちゃんの元には帰れない。

男を見せる、時が来たのだ。




性癖だけじゃなくてダイスの出目も同じとは、ランサー主従は仲が良いな(震え声)


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第三十五話 一鳴の長い夜(後編)

◆連絡な◆
今回の聖杯戦争編に出てくる秦良玉は、FGOに出てくる秦良玉をベースにしつつも、カルマ・リーの令呪によってショタコンサーヴァントに魔改造されております。
故に秦良玉オルタとも言うべきオリジナルサーヴァントと言えます。
だからウチの秦良玉オルタがやらかしても許し亭許して。



深夜。

月読調は、ふと目が覚めて台所に向かっていた。

喉がカラカラだった。

 

(一鳴さん……)

 

調は恋人を想う。

彼は今、冬木という街に出張していて会えていない。

毎晩、電話で話をしてはいるが。

 

その彼と、二度と会えなくなる夢を見た。

悪夢であった。

 

(一鳴さん、会いたいよ……)

 

調は自らを抱きながら、歩く。

季節はもうすぐ12月。

だが、この寒さは気温のせいだけではないだろう。

 

「調、さん?」

「セレナ?」

 

台所には電気がついていた。

中には、パジャマ姿のセレナが居た。

そのバストはやや豊満であり、目元は少し腫れて赤くなっていた。

 

「セレナも喉乾いたの?」

「はい。怖い夢を見てしまって……」

 

調は直感した。

 

「一鳴さんの、夢?」

「……はい。調さんも?」

「うん。……一鳴さんと会えなくなる夢」

「……ッ!私も、です!」

 

二人はこの奇妙な符号に恐怖した。

自分たちの見た夢が現実に起こってしまうのでは無いかと。

 

「調さんっ!ど、どうしましょう……!」

「……大丈夫だよ!一鳴さん強いって、弦十郎さん言ってたから!」

「そう、ですよね!絶対帰って来ますよね!」

 

二人は笑い合う。

だが、心のどこかではまだ不安なのであった。

だから、二人はこのまま椅子に座って他愛ない話をしはじめた。

部屋に戻ったら、考えてしまうから。

もしも、一鳴が帰ってこなかったら。

そんな、恐ろしく悲しい【もしも】を───。

 

 

 

 

「ハイヤーっ!」

()ッ!」

 

ドーモ、一鳴です。

現在パンツ一丁で壊れたベッドの中にいます。

隙きを見て、床に転がったシンフォギアのマイクユニットを取り返す算段です。

それが出来なかったら、俺は中国に出荷されてしまうかも。

そうならない手段(コマす)はあるにはあるが、あまり使いたくないのよね。

 

なのでマイクユニットを取り返します。

そしてシンフォギアを纏って脱出するのだ!

清い身のままで!!

問題は、その取り返す隙が有るかどうかなのだけれど……。

 

 

 

ランサー陣営の隙【1D10】

 

1 海魔への対応で手一杯

2 海魔への対応で手一杯

3 海魔への対応で手一杯

4 海魔への対応で手一杯

5 海魔への対応で手一杯

6 それなりに、マイクユニットに意識を向けている

7 それなりに、マイクユニットに意識を向けている

8 それなりに、マイクユニットに意識を向けている

9 マイクユニットを取り戻そうとしている

10 熱烈歓迎

 

結果【5】

 

 

 

海魔は途絶える事なくやって来て、部屋の中に入ろうとしている。

それを阻むために、カルマ・リーも秦良玉も迎撃に専念している。

床に転がっているマイクユニットに意識を向けている暇はないようだった。

 

 

 

一鳴の直感【1D10】

(10が出たら何かに気付く)

 

結果【10】

 

 

 

(む……?)

 

ふと、海魔たちの行動の違和感に気付いた。

海魔たちの動きが、カルマ・リーを狙っているように思えたのだ。それも、殺すのではなく捕らえようとしている、そんな動きだ。

秦良玉へは道の前に立っているから排除する、という感じなのだがカルマ・リーに対しては威力の弱い攻撃を急所に当てようとしている、殺すのではなく昏倒させる攻撃をしているのだ。

 

理由はわからないけれど、海魔たちをカルマ・リーにけし掛けたら、この後の脱出も有利に進めそうやね。

 

……、よし。一瞬だけだけれど海魔がカルマ・リーと秦良玉の両方に飛び掛かるタイミングがあるな。

その瞬間に合わせて、走り出しマイクユニットを奪還してシンフォギアを纏うか。

 

……3

……2

……1

…………GO!

 

 

 

 

マイクユニット奪還ダイス【1D10】

(数字の合計が高いものが有利)

 

一鳴 【5】

カルマ 【7】− 3(海魔に専念していたから)

秦良玉 【2】− 3(海魔に専念していたから)

 

 

 

「どっせい!!」

 

俺は掛け声とあげてベッドの残骸を蹴飛ばし、瞬時に走り出した。

距離は約2メートル。

世界一長い2メートルである。

 

「意識があったの!?」

「マズい……キャア!」

 

カルマ・リーと秦良玉が驚愕する。

秦良玉に至っては、こちらを妨害しようとして海魔からのダメージを受けている。

 

「とっ……たぁぁぁ!!」

 

2メートルの距離を駆け抜けて、スライディングで突っ込みマイクユニットを掴む!

 

『───── Sudarshan tron』

 

俺は聖詠を口ずさむ。

一瞬にしてシンフォギアが装着される。

黒い部分の多い赤銅色の装甲。

細身の機械鎧は全身を覆い、腰から伸びる大型スカートアーマーは下半身を隠す。

顔の上半分を仮面が隠し、額からは角型アンテナが伸びる。

スダルシャンのシンフォギア、装着完了!

 

「しまった!!(リャン)、起きなさい!!」

「一鳴きゅん!!あと少しだったのにい!」

 

ランサー陣営が叫ぶ。

サーヴァントに至っては、涙目になっていた。

 

「うるさいショタコンども!二人とも一段落したら刑務所に送ってやるからな!!」

 

恨み骨髄であった。

俺の貞操を奪おうとして罪はそこそこ重いのだ。

 

俺は背中についていたアームドギアを手に取ると、アームドギアを回し続ける。

それは仏像の光輪めいた2メートルほどの戦輪。

108のノコギリ刃を生やす戦輪。

 

俺のアームドギアはインドの神ヴィシュヌの戦輪なのだ。

そして太陽を象徴する武器でもある。

戦輪からは常に炎が勢いよく吹き上げる事ができる。

この技はその発展型。

 

勢いよく回転する戦輪は刃の隙間から、紅炎を吐き出す。

その炎は大きく長くなり、ついには部屋全体を覆う程になった。

 

燎原火(りょうげんび)(くれない)

 

主に炎によるダメージと目くらましを狙う技である。

カルマ・リーと秦良玉、海魔たちにはよく効いた。

 

「視界がッ!」

「一鳴きゅーん!!」

 

俺はアームドギアを地面に降ろすと、その真ん中の空間に足をかける。

刃部分が回転しだす。

 

(リャン)!」

 

カルマ・リーが秦良玉に何かを命じるが、もう遅い。

 

日輪航路(にちりんこうろ)

 

禁月輪をパク……リスペクトした技である。

車輪めいて回転するアームドギアは俺を乗せて走り出す。

炎の轍を残して。

 

「「ンアーッ!」」

 

途中でカルマ・リーと秦良玉を轢くが、気にしている場合ではない。

手応えが薄かったので、たぶん大したダメージにはなってないだろうし。

それに、すでに加速は済んでいる。途中で止まることは出来ないのだ。

俺は、海魔たちを轢き潰しながら、教会から脱出する───!

 

 

 

 

日輪航路で爆走した俺は、なんとか教会の前まで逃げる事が出来た。

道すがら、海魔で溢れていたけれど、ここも海魔で満ち満ちている。

うねうねしてて、気持ち悪ぅい……。

 

『……くん。……一鳴くん、聞こえるか!?』

 

シンフォギアに通信が入る。

 

「弦十郎さん!」

『一鳴くん、無事だったか!!』

「(色んな意味で)無事です!」

 

通信の相手は弦十郎さんだった。

俺は戦輪から出る炎で海魔を焼きながら無線を聞く。

 

『そうか、良かった』

「弦十郎さん、俺は今新都郊外の廃教会に居ます!カルマ・リーに連れ去られたんですが、隙見て逃げ出してきました!」

『状況は把握している!アレイスター・クロウリーから連絡があって、君がカルマ・リーに連れ去られたこと、教会が海魔に襲撃されていることが伝えられた!』

「あのハゲやっぱり見てたな!!」

 

貞操の危機なんだから、少しぐらい助けてくれても良いのに!

海魔を刻みながら、そう思った。

出口はまだ遠い……。

 

『コチラも助けに行きたいが、飛騨忍群を襲撃したカルマ・リーの部下たちも海魔に襲撃され、拉致されているらしい!』

「状況が混沌としてますね!」

 

どうやら、海魔たちは冬木市全域に発生したみたいだ。

そしてカルマ・リーの部下たちを狙っているそうな。

……こっちの海魔も、カルマ・リーを攫おうとしていたな。

理由はなんだ?ジル・ド・レの狙いは……?

 

『飛騨忍群の者たちは攫われてはいないが、戦闘に巻き込まれ怪我人が出ている!こちらは散開して飛騨忍群の救出に向かわねばならない!』

「つまりこのままそっちに合流したら良いんですね!」

『そうだ、そこから一番近い合流場所は───』

 

弦十郎さんから合流場所を聞こうとした、その時。

俺はひりつく殺気を背後に感じた。

 

 

 

一鳴の奇襲対応【1D10】

(6以上で対応。10で反撃!)

 

結果【9】

 

 

 

「ハァッ!」

 

白杆槍の一撃を、俺は戦輪を倒して回避した。

 

「今のを避けますか」

「紙一重、だけどね。秦良玉!」

 

戦輪から降りて、俺は答えた。

奇襲してきたのは、秦良玉だった。

さすがランサーのサーヴァント。敏捷高めなだけはある。もう追いついてくるとは……。

 

『一鳴くん!何があった!?』

 

無線から弦十郎が叫ぶ。

 

「逃げようとしたら、ランサーに追いつかれました。これより、迎撃します」

『一鳴くん、よせ!無茶はするな!』

「無茶はしたくないですけれど、敵は逃してくれそうもありませんので!」

 

俺は無線を切った。

と、同時に槍の穂先が俺の肩を貫かんと、迫っていた。

 

「イヤーッ!」

 

俺はアームドギアを振るい迎撃。

 

「話は終わりましたね。では、また捕らえさせていただきます!」

「そう何度も捕まるか!」

 

俺は本気で戦うことにした。

すなわち、歌だ!

戦いの歌だ!

 

Burning hearrrrrrt♪

 

胸の歌が力に変わる。

戦輪の重さが!一撃が!重くなる!炎が熱くなる!

 

「これはッ!?」

心を燃やせ♪

太陽のプロミネンスのように♪

 

思わぬ俺の強さに驚愕する秦良玉。

それでも押し負けない、むしろまだ余裕そうなのは英霊故だからだろうか。

 

「シンフォギアは歌で強くなる、だったわね」

 

教会の奥からカルマ・リーが現れる。

逃げる途中で、海魔を倒してたから簡単に追いつけたのね。

 

(リャン)!その子の喉か腹を狙って!歌を止めるのよ!」

「はいッ!」

雑音蹴散らし♪

歌を響かせろ♪

 

槍の狙いが露骨に喉か腹に変わる。

強烈で、正確無比な攻撃。

しかし、ここで負けるわけには行かないのだ!

 

Burning My Hearrrrt!!♪

 

 

 

一鳴 VS 秦良玉 VS 海魔【1D10】

 

一鳴【1】+ 5(歌補正)

秦良玉【8】+5(サーヴァント補正)

海魔【8】

 

 

 

一合、二合……。十合。

戦輪と槍は幾度も打ち合い、削り、流し、焼き、受ける。

辺りに犇めいていた海魔も、その戦いの余波でほとんどが死に絶えている。

だが、その戦いは唐突に終わりを迎えた。

秦良玉の槍の一撃によって。

 

「見えたッ!」

 

白杆の槍が、俺の喉を突く。

シンフォギアによる防御で、抉られることは無かったものの、歌は止められ痛みで怯む。

 

「……ッあ!」

「御免!」

 

二撃目。

槍を振るう打撃でもって肩を強かに打ち付けられる。

地に叩き伏せられる。

即座に立ち上がろうとするものの、槍の穂先を眼前に突き付けられる。

 

「降伏を。これ以上、カワイイ一鳴きゅんを痛めつけたくはありません」

「……ッ!」

 

完全敗北であった。

このまま、貞操を貪られる運命なのだろうか……。

救援が来るまで、秦良玉をアヘらせねばならないのだろうか……。

 

 

 

一鳴くんの運命は!?【1D10】

 

1 現実は非情である……

2 困った時の火烏の舞・繚乱

3 困った時の火烏の舞・繚乱

4 現実は非情である……

5 困った時の火烏の舞・繚乱

6 救援だ!

7 救援だ!

8 救援だ!

9 現実は非情である……

10 熱烈歓迎

 

結果【4】

 

 

 

現実は非情であった。

シンフォギアのマイクユニットはもぎ取られ、救援は来ず。

教会の中、入り口すぐの礼拝堂まで連れ去られる。

パンツが剥ぎ取られる。

目の前には全裸のショタコンサーヴァント。

 

「さぁ、ネンゴロしましょう……」

 

俺は覚悟を決めた。

そして、思った。

せめて、唇は守り通そうと……。

 

『許せ、貴公。これもまた、定められた運命なのだ……』

 

そう、サイコロ神が呟いた。

運命なら、仕方ないネ……。

 

 

 

一鳴 VS 秦良玉(意味深)【1D10】

 

一鳴【4】 + 50(前世ハーレム補正)

秦良玉【2】+5(ショタコン補正)

 

 

 

 

サンジェルマンとジャンヌ・ダルク、藤丸立香とシャーロット・コルデーが廃教会に到着する。

 

一鳴との連絡が途絶えた後、教会から一番近くにいた彼らが救援に向かったのだ。

カルマ・リーとサーヴァント・ランサーに対抗出来る、この二組が。

それでも、道を阻む海魔を相手にしてそれなりの時間は経ってしまっているが……。

 

「一鳴くんはどこに居るんでしょう……?」

「とにかく教会の中に入り……声がするわね」

 

そう、サンジェルマンが言う。

立香とコルデーは精神を集中させ、耳を澄ませた。

 

「……!………!!」

「聞こえました!」

「女の人の、声かな。サンジェルマンさんはどう思います?」

「……遅かったようね」

「え?」

 

サンジェルマンは苦虫をかみ潰した顔だ。

そして立香とコルデーにこう言った。

 

「貴方たちは裏に回って。正面から私とジャネットで追い立てるから」

「挟み撃ち、ですか?」

「ええ、正面は私達で充分よ」

「わかりました」

 

立香とコルデーは教会の裏に回る。

教会周りの海魔は殺し尽くされているので、問題はないだろう。

むしろ、問題はここからである。

 

「ジャネット、貴女はここで待ち伏せを……」

「いえ、私も共に行きます」

「ジャネット……」

「彼を、これ以上苦しませない為にも。速攻でカタをつけましょう」

「……そうね」

 

教会から聞こえてきたのは喘ぎ声だ。

女性の、喘ぎ声。

ここにはカルマ・リーと秦良玉、そして一鳴しかいないはず。

ならば、今行われているのは……。

 

「行きましょうジャネット!」

「はい!!」

 

サンジェルマンとジャンヌ・ダルクは教会内に突撃した。

 

「……ッ!」

 

そこでは、サンジェルマンの予想通りに一鳴を犯す秦良玉の姿があった。

一鳴に跨り、腰を振る女の姿。

だが、予想に反して秦良玉には余裕が無さそうであった。

 

一鳴の性技が、秦良玉から余裕を奪い、理性を奪っていた為だ。

 

彼女は背中を向けていた。

そして、サンジェルマンたちの突撃には対応出来ていなかった。

 

「サンジェルマンさんか!!俺が抑える間に!」

 

秦良玉の下、一鳴が叫ぶ。

秦良玉の腰を抑え、逃げられないようにする。

 

「ジャネットぉぉ!!」

「やぁぁぁああああ!!」

 

サンジェルマンが叫ぶ。

ジャンヌ・ダルクは叫びに含まれる命令を遵守した。

すなわち、速やかに斬れ。一鳴の意志を無駄にするな!

 

「───え、あ」

 

秦良玉は、最後まで対応出来なかった。

ジャンヌ・ダルクの剣が閃き、秦良玉の首が落とされる。

秦良玉は、ランサーのサーヴァントは。黄金の魔力に変換されて、消えた。

 

「一鳴くん!」

「サンジェルマンさん、助かりましたぁ……」

 

ジャンヌ・ダルクが一鳴を助け起こす。

一鳴は息を整えながら、そう答えた。

サンジェルマンは、そんな一鳴に自分の上着を着せた。

 

「ごめんなさい、助けるのが遅くなってしまったわ……」

「いいえ。助けに来てくれるだけで、ありがたい」

 

一鳴は微笑みながら、答えた。

 

「そうだ!カルマ・リー!アイツ、シンフォギアのマイクユニット持って行ったんです!早く捕まえないと!」

 

一鳴が思い出したかのように言う。

 

「ジャネット、立香とコルデーと協力してカルマ・リーの捕縛を頼めるかしら」

「はい!お任せを!」

 

ジャンヌ・ダルクは教会の奥に駆けて行った。

 

「俺も……」

「あなたはもう少し休んでなさい」

 

サンジェルマンはそうたしなめるものの、一鳴は立ち上がる。

 

「大丈夫ですよ。これでも心身共にタフなのです。マイクユニットを取り戻したら、また戦えますよ」

「だが……、いや、わかった。行きましょう」

 

最終的にサンジェルマンは折れた。

ただ何もさせないより、敵を追った方が気が晴れると思ったのであった。

 

その時。

轟音が響く。

教会を揺らすような音が。

天井から、ホコリが落ちてくる。

 

「なにが……!?」

「音は奥からです!とにかく、行ってみましょう」

 

一鳴とサンジェルマンは轟音の聞こえた方に向かう。

そこは、元は中庭だったのだろう空間。

ゴミが捨てられ、教会の一部が朽ちた空間。

その中央に、大穴が空いていた。

 

「立香さーん、コルデーさーん!」

「ジャネット!どこにいるの!?」

「ここでーす」

 

元中庭の隅から、声が聞こえた。

 

「立香さんとコルデーさんも無事です!」

「ジャネット!」

 

ジャンヌ・ダルクは崩れた瓦礫の下にいた。

その奥には立香とコルデー。

ジャンヌ・ダルクは起き上がり、自身の上に積み重なった建材を退かす。

 

「なにがあったの?」

「海魔です」

 

ジャンヌ・ダルクの話では、この元中庭でコルデーとカルマ・リーが戦闘を行っていた。立香はコルデーの奥。

ジャネットが戦闘に加勢しようと駆け出した所、地面が爆発。

爆発の中から大きな海魔が現れ、その余波で衝撃と土と岩とゴミが散弾めいて飛び散り、それに対応するためにジャンヌ・ダルクは立香とコルデーに飛び掛かって押し倒して回避。

だがカルマ・リーは対応する間もなく、海魔に連れ去られた、とのことだった。

 

「え、じゃあシンフォギアは!?」

「シンフォギア?これのこと?」

 

立香が持っていたジュラルミンケースを一鳴に渡す。

中には、赤い垂直結晶。シンフォギアのマイクユニットだ!

 

「シンフォギア!取り返してくれたんですね!ありがとうございます!」

「カルマ・リーが大事に持っていたけど、戦闘になったら放り捨ててね。スキを見て、取ってきたんだ。一鳴くんは大丈夫?」

「無事です(大本営発表)」

 

一鳴はそう、宣言した。

 

 

 

 

聖杯戦争二日目、終了。

渡一鳴、童貞卒業。

秦良玉、消滅。

カルマ・リー、生死不明。

 

 

 

 




ダイスの出目を見た。

【4】

我が目を疑った。
三割。
たった三割の一鳴逆レ結果を、引いていた。
なんなのだろうか、ダイスの神は一鳴が逆レされるのを望んでいるのだろうか。

いや、まだだ。
なんか今回のダイスロールはサイコロがクッションに当たって、サイコロの動きが変な感じになったし。
これはもう一度サイコロを振る流れだ。
そうだ。
ウチのオリ主はこんなところで童貞捨てないのだ。
私はもう一度サイコロを振った。

【4】

私はふて寝した。



そんな訳で、投稿遅れたのです。
ごめんね。


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第三十六話 ジル・ド・レを討伐せよ!

『デジタルデビルサーガ アバタールチューナー』のRTA動画を見ました。
男女同体、神、梵我一如。私がシンフォギアでやりたいテーマが明確に見えてきた気がします。

その前に聖杯戦争終わらせないとネ!



ドーモ、渡一鳴です。

昨日の夜は、ランサー秦良玉と熱い激闘を繰り広げました。

戦輪と白杆槍がぶつかり合い、火花を散らし、その果てに俺は秦良玉に勝利しました。

 

そういうことになった。いいね?(記憶操作)

 

今は朝。

冬木ハイアットホテルは昨夜の騒動で宿泊出来ないとの事で、新都にある駅前ウィークリーマンションを臨時拠点とする事にしました。

 

「うん、シンフォギアに問題はナシ!良かったわね〜」

 

そんなウィークリーマンションの一室にて。

昨日色々あってシンフォギアのマイクユニットを奪われたからね、了子さんに検査してもらってました。

 

「あざっす。これでまた戦えますよ」

「シンフォギアに問題はないわ。でも、あなたは非道い目にあったのよ」

 

了子さんが心配そうな顔で俺を見る。

……確かに普通ならトラウマものの目にあってるのよね、俺。

 

「サンジェルマンさんから聞きました?……俺は、大丈夫ですよ」

「本当に?」

「……いや、本当言うと、さっさと帰って恋人たちに甘えたいです」

 

うん。

そうだ、もう帰って恋人たちと戯れたいわ俺。

調ちゃんを抱きしめたいし、マリアさんを甘やかしたいし、セレナちゃんに甘えたい。

 

「マリアちゃんを甘やかしたいの?甘えたいんじゃなくて?」

「マリアさん、年長で長女だから誰かに甘える経験が無かったみたいで。だからこそ甘やかしたいっていうか?」

「なるほどねぇ〜?」

「だからこそ、さっさと聖杯戦争終わらせましょうよ」

「そこらへんは今、隣で弦十郎くんがサンジェルマンちゃんと話し合っているし。もう少し待ちましょ」

 

サンジェルマンたちパヴァリア陣営は隣の部屋。

弦十郎さんはその部屋で、これからの方針を彼女らと話し合っているのだ。

ちなみに立香さんとコルデーはそのまた隣である。

 

「あら、帰ってきたわね」

 

扉を開く音がして、足音が聞こえる。

弦十郎さんが戻ってきたのだ。

 

「了子くん、シンフォギアはどうだった?」

「問題ナシよ。で、どうしたの?方針決まった?」

「その事なのだがな、アレイスター・クロウリーが連絡を取ってきてな」

 

アレイスター・クロウリー?

いったいなんの連絡なのだろうか?

 

「わかったわ、隣で会議ね」

「一鳴くんは……」

「俺も行きますよ。最後まで、戦いますからね」

「そうか、わかった」

 

そういう事になった。

 

 

 

 

アレイスター・クロウリーは時計の針を早める事にしたようだった。

 

ジル・ド・レと葛飾北斎の共同討伐。その誘いであった。

 

『ザザザ……いい加減、終わらせたいのさ。俺も星乃も早く聖杯が欲しくてな。お前たちも、そうだろう?』

 

テレビにノイズの激しいアレイスター・クロウリーの顔が映っている。

先程、こうやって連絡を取ってきたのであった。

 

『俺はラーガ・スン陣営を倒した。ザザ……お前たちはカルマ・リーを倒した……というか海魔が連れ去った。残ったサーヴァントは我らが陣営以外は葛飾北斎とジル・ド・レ。この二人を同士攻略しようじゃないか』

「葛飾北斎がそっち、ジル・ド・レがこっちなワケダ?」

『ザザザ……因縁があるだろう、お前たちとジル・ド・レには』

 

テレビの中で笑うアレイスター・クロウリー。

サンジェルマンが口を開く。

 

「で、二人を倒したら即座にこっちに攻撃してくるつもりかしら?」

『そんなことはせんさ。ザザ……そちらから、攻撃しない限りは、な』

「そういう事にしておきましょうか」

 

うーん、不穏!

アレイスターは不敵な笑みを隠そうともしないし、サンジェルマンもアレイスターを毛ほどと信用してない。

というか、絶対アレイスター、コトが終わり次第仕掛けてくるよね。

菊江さんが渡してきた星乃の日記にはサーヴァント四騎倒したら充分、みたいなこと書いてたし。

備えよう……。

というか、気になった事があるんだけれども……。

 

「そもそも、ジル・ド・レがどこに隠れてるかわかってないんだけれど……」

「地下……下水道が怪しいというのはわかるんだがなぁ……」

 

俺の言葉に弦十郎さんがぼやく。

そう、昨夜の一件で海魔たちは地下や、マンホールの下から現れた。

つまり下水道を利用している、というのはわかるのだが……。

 

『ザザザ……それはこちらである程度把握している』

「……どこなワケダ?」

『冬木海底トンネル跡、だ』

 

聞いたことない地名が出てきたぞぅ!?

 

「なんです、それ?」

 

俺の疑問に答えたのは、立香さんだ。

 

「確か、十何年か前に冬木近海にメタンハイドレートが沢山埋まってるとかいうので、その採掘施設を作ろうとしたんだよ。その資材を海底まで運ぶために作られたのが、冬木海底トンネル」

『だが、資金不足や市会議員と建設業者の癒着が判明してメタンハイドレートの採掘計画は頓挫。ザザザ……残ったのは、中途半端に建造されたトンネル跡、という訳だ』

 

更に言えば、その海底トンネルは未遠川、ひいては冬木の下水道に通じているらしい。

そして、そこにジル・ド・レが目をつけた、と。

ジル・ド・レ、海底、螺湮城教本。そしてクトゥルフ。

嫌な予感しかしねぇ!!

 

『星乃はその建設業者の筆頭株主でな。海底トンネルの設計図は既に手に入れている。電子メールでそちらに送付しておこう。ザザ……中は迷路のようだぞ。気をつけろよ?』

 

クツクツと笑いながら、アレイスター。

 

「その設計図は信用出来るのかしら?」

 

カリオストロがにこやかに言う。

だが、その目は笑っていなかった。

間違った設計図を送って海底トンネルに迷わせるつもりじゃないの、と言わんばかりであった。

 

『ザザ……そこは信用してくれよ。お前たちがジル・ド・レを討伐してくれなきゃ、こっちは葛飾北斎とジル・ド・レの連戦だ』

「……なら、そういう事にしておきましょうか」

『そうしてくれ。では、な』

 

そう言うと、アレイスターはテレビから消えた。

あとに残ったのは、真っ暗なテレビ画面のみ。

……と、同時に全員のスマートフォンに着信。

 

「律儀に全員に送り付けてきたわね」

 

げんなりしながら了子さん。

俺はスマホを弄くり、海底トンネルの設計図を見る。pdf形式の画像データだ。

それは、一本の大きなトンネルを中心に、支流のトンネルが幾重にも重なり合った複雑なものであった。

長さは、端から端までおおよそ5キロほどか。

まさしく、迷路のごとしである。

 

「これは、探すの骨が折れますねぇ……」

 

俺の言葉に全員が頷いた。

 

「とにかく今夜、決行か。誰が行く?」

 

弦十郎さんの言葉に答えたのはサンジェルマンだ。

 

「私とジャネットが向かうわ」

「私も行くワケダ」

 

プレラーティも追従する。

まあ、この三人はジル・ド・レとは因縁あるものねぇ。

ジャネット、ジャンヌ・ダルクはジル・ド・レとは戦友であるし、プレラーティはジル・ド・レを堕落させた責任がある。

 

「なら、私も一緒に行くわ」

 

カリオストロも行くようだ。

つまり、パヴァリア組が向かうようね。

 

「では、そのように」

「俺たちは待機ですか?」

 

俺はそう聞いた。

 

「ああ。一鳴くんとコルデーくんはもしもの時の為に備えてほしい」

「アレイスター・クロウリーがなにかやらかす、と?」

「ああ。ジル・ド・レ討伐後、すぐには合流出来ないだろうしな」

 

海底トンネルは長く、複雑な構造。

もし、ジル・ド・レ討伐後にアレイスター・クロウリーがすぐに動いたら、残った者たちで対応しないといけない訳ね。

たとえテレポートジェムという便利な道具があっても、アレイスターがそれを封じる可能性もあるしねぇ。

 

それに、アレイスター・クロウリーはエイワズを復活させる為に現世に舞い戻った。

英霊四騎を捧げた聖杯による、エイワズの復活を。

きっとすぐにエイワズを復活させるだろう。

対策は必要だ。

その為にも、留守番組は必須な訳だ。

 

「わかったワケダ」

「ジル・ド・レの事は、こっちに任せなさい!」

 

息を巻くプレラーティとカリオストロ。

 

「そちらの事はまかせるわね」

「ジルのことは、私達でなんとかします!」

 

サンジェルマンとジャンヌさんもそう言った。

 

決戦は夜だ。

備えよう……。

 

 

 

 

夜。

サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティ、そしてジャンヌ・ダルクは冬木海底トンネル跡の入口に立っていた。

冬木を流れる未遠川河口部のエレベーターから下に降りて、辿り着いたのであった。

 

「この奥に、ジルが……」

 

ジャンヌが呟く。

トンネルの入り口には電灯がついているものの、奥は暗く闇に包まれていた。

 

「……生臭いわね」

 

サンジェルマンが眉をひそめる。

トンネルの奥から漂ってくる臭いだ。

海魔の、臭い。

 

「行きましょっか」

 

カリオストロが指を鳴らす。

すると、カリオストロの頭上に光が現れる。

錬金術で作り出した、光だ。

 

「これで楽に探索出来るでしょ」

「ありがとうカリオストロ」

 

四人は歩みを進めた。

すべてを飲み込むような、闇の奥へと……。

 

 

 

海底トンネル探索ダイス(1/5)【1D10】

 

1 何もない

2 何もない

3 何もない

4 海魔だ!

5 何もない

6 ジル・ド・レの痕跡だ

7 ジル・ド・レの痕跡だ

8 ジル・ド・レの痕跡だ

9 海魔だ!

10 海魔の大群だ!

 

結果【4】

 

 

 

「……サンジェルマンっ!」

 

先頭を歩いて哨戒していたカリオストロが叫ぶ。視線の先には海魔だ!

海魔はカリオストロに飛びかかる。

 

「はぁっ!」

 

すかさず飛び出したジャンヌが、海魔を切り捨てた。

 

「助かったわ!」

「いえ、ですが……」

「これで、私達が来たことがジル・ド・レにバレたわね」

 

海魔たちはジル・ド・レの持つ螺湮城教本により呼び出される。

海魔はジル・ド・レの使い魔、故に倒されれば気付くはず。

 

「とにかく、進むしかないわね」

「警戒して、進むワケダ」

 

 

 

海底トンネル探索ダイス(2/5)【1D10】

 

1 海魔だ!

2 海魔だ!

3 海魔だ!

4 海魔の大群だ!

5 奇妙な気配がする……

6 奇妙な気配がする……

7 ジル・ド・レの痕跡だ

8 ジル・ド・レの痕跡だ

9 海魔の大群だ!

10 海魔の大群だ!

 

結果【5】

 

 

 

「……ん?」

 

プレラーティが立ち止まる。

 

「どうした、プレラーティ?」

 

サンジェルマンが聞く。

 

「なにか、奇妙な気配がするワケダ」

「気配?」

 

ジャンヌは神経を集中させる。

確かに、近くの脇道から奇妙な気配……いや、呼吸音がする。

 

「言ってみる?」

「ええ、海魔以外のなにか、かもしれないし」

 

そんな訳で四人は脇道に逸れることにした。

 

 

 

奇妙な気配の正体【1D6】

 

1 連れ去られた人々

2 連れ去られた人々

3 連れ去られた人々

4 連れ去られた人々

5 連れ去られた人々

6 父なる■■■

 

結果【3】

 

 

 

脇道の先は小部屋であった。

学校の教室ほどの広さの部屋。

その内装は極めて冒涜的であった。

うぞうぞと蠢動する肉の壁、天井、床。

部屋の中心には、2メートルほどの肉の塊。

その塊の中から、人が顔を出している。

 

そう、人だ。

 

白目を向き、口から涎をだらだらと垂らし続ける人。

すでに精神的に死んでいる人間が、肉腫に捕らわれているのだ。

 

「なに、これ……?」

 

カリオストロが口を覆う。

吐き気を催す、悍しき光景であるが故に。

カリオストロだけではない、サンジェルマンもジャンヌも似たようなものであった。

だが、ただ一人プレラーティだけが肉腫に近づき調べ始める。

眉根を潜め、不快感を押し殺しながら。

 

「……ドッグタグ。名前は……中国系。コイツは、昨日の襲撃者の一人なワケダ」

「そいつが、なんでそんな目に合っているのよ!?」

「……この肉腫、身体と完全に癒着、いや食い付いているワケダ。おそらく、コイツから魔力を搾り取っているワケダ。……抵抗しないように、心を殺して」

 

そう言うと、プレラーティは肉腫と人に火をつけた。

 

「──────────ッ!」

 

肉腫は声ならぬ悲鳴を上げて灰となった。

人は、何も言わず灰となった。

 

「……行くワケダ」

「プレラーティ……。ええ、そうね」

「ジル……」

 

四人は部屋を出た。

 

 

 

海底トンネル探索ダイス(3/5)【1D10】

 

1 海魔だ!

2 海魔だ!

3 海魔だ!

4 海魔の大群だ!

5 人が捕らえられている

6 人が捕らえられている

7 人が捕らえられている

8 聖杯戦争のマスターが捕らえられている……

9 海魔の大群だ!

10 ジル・ド・レを見つけた!

 

結果【1】

 

 

 

「来たわよ、海魔!」

 

先頭を歩くカリオストロが叫ぶ。

サンジェルマンが、魔力弾で海魔を撃ち抜く。

 

「流石ね、サンジェルマン」

「それほどでもないわ。それよりも、ジル・ド・レに本格的に捕捉されたかもしれないわね」

 

サンジェルマンはそう言った。

 

「……急いだ方が、いいワケダ」

 

 

 

海底トンネル探索ダイス(4/5)【1D10】

 

1 海魔の大群だ!

2 海魔の大群だ!

3 海魔の大群だ!

4 母なる■■■■

5 人が捕らえられている

6 人が捕らえられている

7 人が捕らえられている

8 聖杯戦争のマスターが捕らえられている……

9 父なる■■■

10 ジル・ド・レを見つけた!

 

結果【7】

 

 

 

海底トンネルも、半ばを過ぎた頃。

辺りの雰囲気は一変した。

 

「まるで、人の体内ね……」

 

サンジェルマンがげんなりして言う。

まさしく、トンネル内は人の体内のようであった。

触手で覆われた内壁。配管に絡みつく肉。脈動する管。粘つく体液。すえた臭い。

ジル・ド・レによって変えられた、ここは異界。

ジル・ド・レと海魔の為の領域だ。

その領域の外れ。

扉を抜けてしばらく歩いた先にあった部屋に、まてしても肉腫に捕らわれた人を見つけた。

 

「また、人ね……」

「……今度の人は、ドッグタグ無し。雰囲気的にも、軍人でも異端技術者でもないワケダ」

「ただの、一般人ということですか?」

 

魔力が多かっただけの一般人が、海魔に攫われ魔力炉とされていたのだ。

サンジェルマンが指を鳴らす。

錬金術の炎が肉腫と人を燃やす。

せめて、死ぬ時は安らかに。そう、願いを込めて。

 

「でも、ジルは何のために人を攫って魔力を奪っているのでしょうか……?」

 

人が灰になったのをじっ、と見ていたジャンヌがそう言った。

 

「現界の為に必要なんじゃないの?」

「に、しては昨日の襲撃は大規模過ぎませんか?」

「……確かに」

 

昨夜の大規模襲撃。

冬木市全域に広がった飛騨忍群とカルマ・リー配下の道士たちによる暗闘。

その最中に現れた海魔たちによる道士たちの拉致。

あまりにも、大規模でなおかつなりふり構わない行動であった。

 

「たくさんの魔力が必要?でも、何のためなワケダ?」

「嫌な予感しかしないわね……」

 

カリオストロはげんなりしている。

 

「とにかく、今は進むしかないわ」

 

サンジェルマンが皆を励まし、そう言った。

 

 

 

海底トンネル探索ダイス(5/5)【1D10】

 

1 ジル・ド・レを見つけた!

2 海魔の大群だ!

3 海魔の大群だ!

4 母なる■■■■

5 人が捕らえられている

6 人が捕らえられている

7 人が大勢捕らえられている

8 聖杯戦争のマスターが捕らえられている……

9 父なる■■■

10 ジル・ド・レを見つけた!

 

結果【3】

 

 

 

「サンジェルマン、海魔よ!数がかなり多いわ!」

 

トンネル内を進む一行の前に海魔の大群が襲いかかる。

四人はそれぞれ、迎撃態勢を取った。

 

 

 

パヴァリアVS海魔軍団【1D10】

 

1 サンジェルマン負傷

2 カリオストロ負傷

3 プレラーティ負傷

4 ジャンヌ負傷

5 無事に倒したけど、疲労が大きい

6 無傷で勝利

7 無傷で勝利

8 無傷で勝利

9 無事に倒したけど、疲労が大きい

10 熱烈歓迎

 

結果【8】

 

 

 

「今更海魔にやられる訳ないじゃない!」

 

カリオストロがハート状のエネルギー弾射出!

海魔をなぎ倒す。

 

「いい加減、見飽きたワケダ!」

 

プレラーティが巨大氷柱射出!

海魔を複数貫いていく!

 

「こんな所で立ち止まる訳にはいかないッ!」

 

サンジェルマンがオオカミ状のエネルギー弾射出!

海魔を複数粉砕する!

 

「どいて!私はジルに会わないと行けないのッ!」

 

ジャンヌが剣から光を放出!

海魔を焼き切る!

剣からビームを出すのはセイバーの特権だ。

 

四人の活躍で大した消耗なく、海魔の大群を倒した。

 

「皆、無事ね?」

 

サンジェルマンの言葉にそれぞれ頷く皆。

 

「息を整えたら、先に進みましょう」

「それにしても、一気に来たわねー」

 

カリオストロが愚痴る。

 

「それだけ、ジル・ド・レに近いというワケダ」

「ここから先は油断大敵ね……」

 

カリオストロは嘆息した。

 

 

 

 

トンネル探索リザルト。

 

破壊した魔力炉(捕まっていた人々):2

負傷者:なし

ジル・ド・レ:発見出来ず

 

結果、ジル・ド・レの宝具が起動します……

 

 

 

 

足元が揺れる。

 

「キャア!なに!?」

 

カリオストロが叫ぶ。

 

「地震!?」

「サンジェルマン様!お手を!」

 

転びそうになったサンジェルマンに手を伸ばすジャンヌ。

結果、サンジェルマンとジャンヌ、カリオストロとプレラーティの間にほんの少しの隙間が出来る。

そして、その隙間こそ致命的であった。

 

「サンジェルマン!」

 

カリオストロとプレラーティが同時に叫ぶ。

二人とサンジェルマン、ジャンヌを隔てるように、肉と触手の壁が生じたのだ。

地響きは更に続く。

トンネルが崩れ、肉の壁が変質し、変形していく。

続いて、浮遊感。

エレベーターが上に向かう時のような浮遊感を四人は感じた。

 

「浮上しているのか!?」

 

サンジェルマンが叫ぶ。

だが、その叫びは地響きに消えた。

ジャンヌはサンジェルマンの手をしっかり繋ぎ止めていた。

 

揺れは5分ほど続いた。

 

「ジャネット、無事?」

「はい……」

 

サンジェルマンとジャンヌは地響きに立っていられず座り込んでいた。

二人は立ち上がる。

 

「なにやら、床が動いていたような感覚がしていましたけれど……」

「ええ、そうね。見なさい」

 

サンジェルマンが前方を指差す。

その先には豪奢な大扉。

壁や床、天井が肉肉しい中での金属製の扉である。

 

「これは……」

「私達は招かれたようね、ジル・ド・レに」

 

この扉の奥にジル・ド・レはいる。

二人は確信していた。

 

 

 

 

それは突然冬木の海から浮上した。

大きな城。

非ユークリッド幾何学的な、異常極まる建造物が無数に、そして無秩序に増築された、ジル・ド・レの居城。

 

かつては怠惰と退廃、そして背徳に耽り。

かつては愛しの聖女を蘇らせる為の複合聖遺物。

そして、現在では───

 

無数の海魔により形成された、【キャスター】ジル・ド・レの対軍宝具。

 

聖女の為の螺湮城(チフォージュ・シャトー・ルルイエ)】である。

 

 




ジル・ド・レ(XDU版)の宝具ね、これがずっとやりたかったのよね(ほっこり)


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第三十七話 聖女の為の螺湮城


『聖女の為の螺湮城(チフォージュ・シャトー・ルルイエ)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:100~10000 最大捕捉:10000人
【アカシックレコードをハックしてジャンヌ・ダルクのデータを抽出する】という目的で建造された複合型聖遺物神殿。……を、螺湮城教本で呼び出した海魔で模造したもの。
非ユークリッド幾何学的な外観の、SANチェック不可避の見た目。でも原材料は海魔。
空をラピュタめいて浮かんで移動し、海魔を砲弾めいて射出する防衛機構も搭載された浮遊要塞。
そして、この城を直視した者は精神力対抗ロールを行い、失敗した場合発狂する。



夜。

深夜が始まったばかりの、人々が起きている時間。

それは、海から浮かび上がって現れた。

 

非ユークリッド幾何学的な建造物が無秩序に乱立し、されど荘厳なパイプオルガンを思わせるシルエットの、浮遊城。

 

その名を【聖女の為の螺湮城(チフォージュ・シャトー・ルルイエ)】。

 

【キャスター】ジル・ド・レが呼び出した海魔が無数に固まり絡み合い、かつてのジル・ド・レの築き上げた聖遺物複合神殿、聖女を蘇らせる為にアカシックレコードへの接続能力を持ったチフォージュ・シャトーを模しているのだ。

海魔たちの故郷、螺湮城に半ば似せて……。

 

そして、螺湮城に似せているからこそ、その城を目視した者は己の正気を疑った。

空を浮く巨城。

冒涜的外観。

非常識的な、その光景。

 

冬木市の人々の正気は削れていく……。

 

 

 

冬木市民正気度ロール【1D10】

 

結果【9】× 10 - 1%の市民が発狂……。

 

 

 

「アイエエエエエエエエエ!!!?」

「あ……あ、ああああああ!!!!!????」

「ああ、空に!ソラに!!うわあああああ!!」

「ああ、やっとわかっタ。ウチゅウはソラにアる……」

 

冬木市民の、89%が発狂。

街はパニックに陥った。

発狂した運転手が乗る市民バスは横転炎上。

人の多く行き交う駅前パークは発狂者による殺人事件で親が子を踏み逃げ、子が親を置いて逃げる地獄絵図。

未遠川に架かる冬木大橋からは、飛び降り自殺するもののが続出。

螺湮城を直視した者の内、自我を守る為に気絶するか自らの目を潰した者もいた。

 

そして、アレイスターへ睨みを効かせる為の留守番組もまた……。

 

 

 

 

留守番組正気度ロール【1D10】

 

一鳴【8】(確定セーフ)

弦十郎【8】(9以上で発狂)

了子/フィーネ【6】(5以上でフィーネが出る)

立香【10】(5以上で発狂)

コルデー【5】(5 以上で発狂)

 

 

 

「うわぁ……」

 

ドーモ、一鳴です。

街が騒がしいんで部屋の窓から空を見たら、冒涜的外観のチフォージュ・シャトーが浮かんでました。

チフォージュ・シャトー、だよねシルエット的に?

なんか見てたら精神がゾワゾワしてくるんだけど……。

 

『貴公、あまりアレを見ぬ方がいい』

 

と、サイコロ神。

 

『アレは本来ならば人が見てはならぬモノ、この世の理から外れたモノ。輪廻転生を果たせし貴公で有るからこそ耐えきれるモノ』

 

見たらSAN値削れるのね。

というか、輪廻転生したらSANチェキに耐性出来るのかぁ。

 

とにもかくにも。

つまりアレはジル・ド・レの宝具ですね(白目)

 

『然り。アレはキャスター、ジル・ド・レの宝具なり。サンジェルマンたちは、あの中で未だ戦っている』

 

生きているのか、良かった。

さて、問題はこっちよね……。

 

「なんだ、アレは……ッ!」

「くっ……!!」

 

弦十郎さんと了子さんも空を、城を見る。

 

「あれ、見ないほうが良いですよ」

 

俺はそう言うと、カーテンを締める。

 

「十中八九、ジル・ド・レの宝具ですね」

「ああ。心が抉れるような、なんという物を……。了子くんは平気……了子くん?」

「……ああ。私は、平気だ」

 

了子さんが金髪金眼になっていた。

 

「了子くん、フィーネが出てるぞ!(小声)」

「櫻井了子の精神では、アレは耐えきれなかったんだ!……あ」

 

了子さん、いやさフィーネがこっちを見る。

俺もフィーネを見ていた。

 

「了子さん」

「いや、違うぞ。じゃない。違うわ、一鳴くん。これは、そう、私実はスーパーサイヤ人になれるの」

「それは流石に厳しいぞ了子くん!」

「いやフィーネでしょ」

 

俺はもう知らないふりし通すのも面倒になった。

 

「ツァバトがフィーネ云々言ってたし。いまも弦十郎さんがフィーネ出てる、って言ってたし」

「ぐ……。そうだ、私はフィーネ」

「んでフィーネって何もの……」

 

言葉を繋げようとした、その時。

立香さんとコルデーさんの部屋から絶叫が響き渡る。

 

「うわああああ!!?」

「いやああああ!!!」

 

俺は即座に駆け出していた。

後ろに続くは弦十郎さん。

 

『───── Sudarshan tron』

 

俺は即座にシンフォギア装着。

二人の部屋の扉を無理矢理開けると、即侵入。

中では、立香さんとコルデーさんが空を浮く城を見て叫び続けていた。

 

「吩ッ!」

 

弦十郎さんが立香さんに当身を食らわせて気絶させる。

俺はコルデーさんの正面に回り込み、シンフォギアのパワーで裸締めを行使する。

当然抵抗されるが、俺は離れなかった。

完全にキマった裸締めからは、決して逃れられないのだぁ……!

コルデーさんは気絶。そして、そのまま霊体化。

 

「終わりましたぁ……」

「助かったぞ、一鳴くん」

 

弦十郎さんは携帯端末を仕舞いながら続けた。

 

「そして最悪の知らせだ。冬木市民の9割弱があの城を見て発狂。街はパニックだそうだ」

「鎮圧は難しいですか?」

「鎮圧する為の警察官や自衛官が発狂している。飛騨忍群や風鳴機関のエージェントでは手が足りない」

「うわぁ……」

 

冬木市はもう終わりかもしれんね(白目)

 

「なにか手はありませんかね?」

「とにかく、事態を鎮圧する為にも一鳴くんにはあの城に乗り込んで……」

 

と、そこで弦十郎さんの携帯端末に連絡が入る。

 

「俺だ。……ああ。……なにッ!……わかった!すぐ向かってもらう」

「どうしました?」

 

携帯端末を握る弦十郎さんの顔は厳しい。

 

「あの城から海魔が複数冬木市に向かって射出されているらしい。既にいくつかは冬木市に着弾、そのまま暴れているそうだ」

「はぁっ!?」

 

本当に非常事態であった。

ジル・ド・レは冬木を滅ぼすつもりか?

 

「街に着弾した海魔は俺や飛騨忍群で対処する!一鳴くんは射出された海魔を迎撃してくれ!!これは、空を跳べる一鳴くんにしか頼めない……ッ!」

「わかりました!そっちは任せます!」

 

そう言うと、俺は窓から飛び降り、そのままシンフォギアの脚部ブースターを吹かす。

推進力を得た俺はウィークリーマンションの壁を駆け上がり屋上に立つ。

そして、空を見る。

空に浮くチフォージュ・シャトー。

そこから撃ち出された海魔が、よく見えた。

 

俺は思いっきり力を込めて跳び上がる。

そして、ブースター点火。

一気に地上を離れて、天を跳ぶ。

アームドギア、生成。

戦輪を両手で持ち、浮遊城を睨む。

シャトーから射出された、海魔を。

 

「迎撃開始だ!!」

 

 

 

 

「なァ、不景気な面の旦那」

 

フォーリナー葛飾北斎がそう声をかける。

 

「不景気とは失礼だが、聞いてやろう。なんだ?」

「あの城、放っといていいのかィ?」

 

葛飾北斎が空を顎で指す。

アレイスター・クロウリーはちら、と見るとまた北斎に視線を戻す。

娘応為の身体を借りて顕現した北斎を。

 

「あの城ァ、この世にあっちゃァいけねェシロモノよ」

「だろうな。街は阿鼻叫喚よ」

「俺なんか放って、さっさと壊しに行った方が良いんじゃないかィ?」

「その心配は無用だ。既に、人を向かわせてる」

「……そうかィ」

 

北斎はそれきり黙った。

 

「葛飾北斎、貴様はあの城を知っているのか?」

「……あの城に住む、大ダコ神さんをなァ」

「……そうか、だから貴様が呼ばれたのかもな」

 

納得がいった、そう言うとアレイスターは指先を北斎に向けた。

北斎は避けなかった。

否、避けられないのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なぁ、不景気面の旦那」

「なんだ?」

「俺のますたぁだけは助けちゃくれねェかい?ハゲでバカでヤクザ者のハゲだけど、世話にはなったのサ……」

「良いだろう。元よりターゲットは貴様のみだ」

「そうかィ、そりゃァ安心した」

 

北斎は目を閉じた。

アレイスターの指先にデビルスターの魔法陣が現れ、そこから光線射出。

北斎の頭に当たった光線は瞬く間に北斎を銀と変える。

全身を銀に変えられた北斎は、そのまま消滅した。

 

「さて……」

 

アレイスターの指先はそのまま、北斎の後方でへたりこんだ禿頭の男に向けられる。

男は郷田潔。

フォーリナー葛飾北斎のマスターである、聖杯戦争参加者である。

 

「ひ、ひぃぃぃぃ!お前、俺を助けるってさっき!」

「黙れ。質問に答えろ郷田潔。さもなくば、お前もオブジェに変わることになる」

「わ、わかった!」

 

郷田は激しく頷いた。

 

「所属は?」

「■■組、若頭の護衛だ!」

 

郷田が答えたのは、阪神最大規模の暴力団組織だ。

 

「そっちじゃない。裏の方だ」

「うぅ、阪神陰陽師連盟」

 

郷田は陰陽師だ。

式神を使い、人の弱みを握り裏社会で登りつめた。

そんな郷田を他の陰陽師たちは馬鹿にしていた。

陰陽道、魔道では登りつめられなかった愚か者、と。

だから郷田は聖杯戦争の話を聞いた時に、即座に飛びついた。

異端技術者同士の殺し合い。

それに勝ち抜けば、陰陽師たちも自分を認めるだろうと。

 

「その聖杯戦争の事を誰から聞いた?」

「し、新興宗教で教祖やってる女だ!」

「名は?」

「【天神合一会】の、至て、てん?て、ててててててて」

 

郷田が突如白目を向く。

涎がダラダラと垂れる。

 

「かかかか。ががっ。がっ!!」

 

ぱぁん、と。

郷田の頭が破裂。

アレイスターは飛び散る肉片を冷静に銀に変えて対応。

 

「神霊どもめ、口封じのつもりか?……まぁいい。エイワズをシェム・ハに至らせるのは俺よ。お前たちは黙って見ているといい」

 

アレイスターはそう言うと、懐よりテレポートジェムを起動させ、阿礼邸に帰還した。

 

 

 

 

チフォージュ・シャトー・ルルイエは悠然と空を飛んでいる。

地上の喧騒など、関係ないとばかりに。

 

そのチフォージュ・シャトー内部。

引きずり込まれたサンジェルマンとジャンヌ。

二人の目の前には豪奢な扉があった。

先程までの人の臓腑を思わせる冬木海底トンネルとは正反対の内装。

その奥に、ジル・ド・レの気配を感じて……。

 

サンジェルマンはジャンヌと頷き合うと、扉を開けた。

引きずるような音がして、扉が開く。

 

最初にジャンヌが剣を構えて中に入る。

その次に、サンジェルマン。

 

「……」

 

中は豪華な大部屋であった。

大理石の壁、床、天井。

天井からはシャンデリアが吊り下げられている。

シャンデリアは部屋を照らしている。

そして、部屋の奥。

大理石の階段を昇った先のエントランスに、ジル・ド・レは立っていた。

 

「お久しぶりでございますジャンヌ。貴女をずっと待っていましたよ」

「ジル……ええ、久しぶりね」

「そして、サンジェルマン。何年ぶりでしょうか?」

「さぁ。私は貴方と会いたくなかったけれど」

「私もですよ」

 

憎々しげにサンジェルマンを睨むジル・ド・レ。

 

「貴女は本当に憎たらしい!私より先にジャンヌに出会い、ジャンヌの心に入り込み、ジャンヌに信頼されている。……忌々しい!」

 

ジル・ド・レはサンジェルマンを睨んでいる……。

顔には青筋が浮いている。

 

「私が先に出会っていれば、ジャンヌは私のモノになっていたというのに……!!」

「……そうね、ジル。そうかも知れない。でもね───」

 

屹然と、ジャンヌは言い放った。

 

「あの日、ドンレミ村が戦火に焼けた日。死にそうな私を助けてくれたのはサンジェルマン様。そして、私と寄り添い語らい、私の歌を褒めてくださったのもサンジェルマン様」

 

ジャンヌは一瞬、サンジェルマンを見た。

だが、すぐに、ジル・ド・レに視線を戻した。

 

「そして、私に祖国を救う力が有ると教えてくれたのもサンジェルマン様で……。全てが終わった後、お仕えしたいと思った方もサンジェルマン様。だから、私は貴方とは共に歩めないわ。ジル、人をモノとしか見れなくなった貴方とは!」

 

ジャンヌは剣の切っ先をジル・ド・レに向ける。

ジル・ド・レはそれを見ると、嫌らしく笑った。

 

「ああ、ジャンヌ。貴女はやはり清らかで美しい。だからこそ、貴女は私を殺せない」

 

ジル・ド・レはそう言うと指を鳴らす。

瞬間、サンジェルマンとジャンヌの目の前の空間が歪む。

歪みは大きくなり、広がり、一つの光景を見せる。

それは、空から地上を見た俯瞰風景。

映るのは海。

海面に反射するのは螺湮城。

遠くに見えるのは、冬木市の地上だ。

発狂した人々が火の手の上がる街を練り歩く。

 

「なっ……!?」

「これこそ、私の居城。海魔たちの故郷!そして、貴女の暮らす住処となる【聖女の為の螺湮城(チフォージュ・シャトー・ルルイエ)】」

「……それが、貴方の宝具ね」

「そうとも!見たものを狂気の坩堝に叩き落とす螺湮城!そして、この城に入り込んだネズミはあと2匹……!」

 

空間の歪みはまた、別の景色を映し出す。

カリオストロとプレラーティだ。

二人は肉の回廊の中にいた。

床も壁も天井も悍しい肉の触手で固められた螺湮城の外壁内部。

そこに二人はいた。

大量の海魔と共に……。

 

「カリオストロ!プレラーティ!」

「二人は邪魔だったので、別の場所に送らせて貰いましたよ」

 

空間の歪みから、声が聞こえてくる……。

 

『クッソ、いったい何匹出てくるワケダ!?』

『わかんないわよぅ!!さっさとサンジェルマンたちと合流したいのにぃ!!』

 

カリオストロとプレラーティは海魔を撃破していきながら、前に進む。

だが、その顔からは冷や汗が流れている。

二人は消耗している……。

 

「ジャンヌ、サンジェルマンと契約を切り私と共に参りましょう」

「断ったら、二人を殺すのですね?」

「私は殺しません。この城から無限に湧き続ける海魔が彼女らを殺すのです」

 

詭弁を弄するジル・ド・レ。

対するジャンヌは奥歯を噛み締めている。

そして、一瞬サンジェルマンを見ると口を開いた。

 

「───わかりま」

「断る」

 

ジャンヌの言葉を遮るサンジェルマン。

 

「サンジェルマン様?」

「このままなら二人は死ぬでしょうね。でも、その前に貴方を殺せば問題は無いでしょう?」

「サンジェルマン、仲間を見殺しにする事になるぞ」

 

ジル・ド・レがそう言うと、カリオストロとプレラーティの周り床、壁、天井から更に海魔が湧き出る。

 

『更に増えたワケダ!』

『勘弁しなさいよね!!』

「さあ、二人が死ぬぞサンジェルマン!今なら、土下座したら許してやる!」

 

ジル・ド・レが睥睨して、叫ぶ。

だが───

 

「私の仲間を舐めないで頂戴!」

 

サンジェルマンが叫ぶ。

錬金術による通信を試みたのだ!

 

「カリオストロ!プレラーティ!聞こえる!?」

『この声!サンジェルマン!』

『無事だったのね!』

 

空間の歪みに映る二人が反応する。

 

「単刀直入に言うわ!今から私とジャネットでジル・ド・レを殺す!それまで耐えなさい!」

 

更に続けた。

 

「プロトタイプ・ファウストローブの使用を許可するわ!!」

 

その言葉を聞いた途端、カリオストロとプレラーティに笑顔が浮かぶ。

 

『了解したワケダ!』

『わかったわ!こっちは気にしないで、チャッチャと決めちゃいなさい!』

 

二人はそう言うと懐からラピス・フィロソフィカス───賢者の石を取り出す。

そしてその賢者の石にはゴテゴテとしたコンバーターユニット、エネルギーをプロテクター状に変換する装置がついている。

二人がラピスを掲げる。

ラピスが赤く光り、二人の身体を包み、そして。

 

プロトタイプ・ファウストローブが装着されていた。

それは、AXZのファウストローブと違い、灰色一色ではあるものの、そのエネルギーは桁違いである。

 

『やってやるワケダ!』

『このままサンジェルマンのところにたどり着いてやるんだから!!』

 

ファウストローブを纏った二人は、先程とは異なり、余裕綽々に海魔を撃破していく。

 

「な、なんだそれは!!」

 

ジル・ド・レが困惑し叫ぶ。

 

「とある天才が持たせてくれた、秘密兵器よ」

 

聖杯戦争のために、冬木に向かう直前。

キャロルが手渡したものだ。

 

『急ごしらえで耐用性と持続性に不安はあるが、十分役に立つはずだ』

 

そう、言いながら。

 

サンジェルマンは苦笑いを浮かべる。

こちらを心配してくれる、心の奥底では優しい少女を思って。

 

一度使えば壊れかねない、脆さ故に今まで使用を許可しなかった秘密兵器。

サンジェルマンもそんなラピス・フィロソフィカスを掲げる。

赤い光があふれ、ファウストローブを纏うサンジェルマン。

 

「すごい力ね……。これでプロトタイプなんて……」

「ぐぅぅぅぅ!!認めない!認めないぞ、そんな事ぉぉぉおお!!!」

 

ジル・ド・レの身体、否、存在にヒビが入る。

ヒビは大きくなり、ジル・ド・レの身体が割れていく。

そして、中から醜い悪魔が現れる。

牡牛めいた頭。

赤く輝く目、捻じくれた角。

腕はコウモリのような翼に変異し、全身を異形の筋肉に包んだ怪物。

 

それが、ジル・ド・レの中から現れたのだ。

これこそが、ジル・ド・レの本性。

ジャンヌをサルベージせんとする、錬金術によるアカシックレコードへの接続行為により、その身体はアカシックレコードを巡る魂魄───超容量の情報に冒されていた。

結果、ジル・ド・レの肉体は醜く変質したのだった。

 

「そっちの格好の方がお似合いよ、ジル・ド・レ」

「黙れ!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!」

 

ジル・ド・レが雄叫びを上げる。

すると、大理石で作られた部屋から肉の触手に変化していく。

 

「これはッ!?」

「幻、だったのね」

 

完全に肉の触手に切り替わった大部屋。

あちこちから海魔が滲み出てくる。

 

「サンジェルマン!貴様の手足を切り落として、ジャンヌのマスター権を奪ってやるぞ!その後は、海魔どもに辱められるがいい!!」

「そんな事は、させません!」

「ええ、そうね。行くわよ、ジャネット!!」

 

 

 

サンジェルマン&ジャンヌVSジル・ド・レ【1D10】

 

サンジェルマン【3】+5(P(プロトタイプ)・ファウストローブ補正)

ジャンヌ【4】+5(サーヴァント補正)

ジル・ド・レ【5】+5(サーヴァント補正)+3(海魔による補助)

 

[サンジェルマンとジャンヌの合計値が、ジル・ド・レより多ければ勝ち]

 

 

 

「はあッ!」

 

サンジェルマンの灰色銃から放たれた弾丸が、ジル・ド・レの身体を貫く。

 

「ぎゃぁあああ!!サンジェルマン!許さん!!」

 

天井を旋回するジル・ド・レが、サンジェルマンに突撃する。

 

「させないッ!」

 

ジャンヌが剣に光を纏わせて迎撃。

ジル・ド・レの翼膜を切り裂く。

 

「ぎゃあっ!」

 

地面に激突し、転がるジル・ド・レ。

止めを刺そうとするサンジェルマンとジャンヌを阻む海魔たち。

 

「邪魔よ!」

「どいて!」

 

だが、海魔たちでは太刀打ち出来ない!

しかし、ジル・ド・レが体勢を整える時間は稼げたようだ。

立ち上がったジル・ド・レが口を開き、赤黒い閃光を放つ。

それを受け止めたのは、サンジェルマンだ。

 

「ぐぅぅぅッ!」

 

腕を交差させて受け取るサンジェルマン。

だが、ジリジリと腕の装甲が焼けていく。

それでも、サンジェルマンは怯まず、叫ぶ。

 

「ジャネットぉ!」

「はいッ!!」

 

ジル・ド・レがサンジェルマンに向かい合っている間に側面に回り込んだジャンヌ。

ジル・ド・レは気付くものの、サンジェルマンに閃光を放っているので動けない。

ジャンヌはそのまま、ジル・ド・レの首に剣を振り下ろす。

 

「ぎゃあああああ!!痛い、痛いぃぃい!!ジャンヌ、おやめください!」

「止めないッ!」

 

そのまま、剣を光らせて最後まで振り下ろす。

 

「じゃ、ん、ぬ……」

「ごめんね、ジル……」

 

牡牛めいた頭がごとり、と落ちる。

その目から光が消えて。

魔力に還元されていく。

 

「ジル……」

「これで、終わったのね……」

 

そう、サンジェルマンが呟く。

その時、すぐ近くの壁が砕ける。

その奥から、カリオストロとプレラーティが駆け足で現れる。

 

「サンジェルマン!ジャネット!無事だったワケダ!」

「やっと会えたわぁ!!」

「カリオストロ!プレラーティ!」

「良かったぁ!無事だったんですね」

 

しばしの再開を祝う四人。

そして、気付く。

 

「……城が、消えていく」

「城?」

 

サンジェルマンは二人に説明した。

今いるのが、ジル・ド・レの起動させた宝具で、ジル・ド・レを倒したから消えていっている、ということ。

 

「そして、今ここは地上ウン百メートルの上空で……」

「下は海、というワケダ」

「そうなるわね……」

「さっさと脱出するワケダーッ!」

 

四人は壁や床に出来た隙間をくぐり抜けて、なんとか外に脱出した。

サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティは空を浮いている。錬金術によるものだ。

唯一飛べないジャンヌはサンジェルマンがおぶっている。

 

四人は崩れていく【聖女の為の螺湮城(チフォージュ・シャトー・ルルイエ)】を見る。

どうやら部品として冬木海底トンネルの一部を使っていたみたいで、金属やコンクリートが海に落ちていく。

その中に、大きな肉塊があった。

大きさは5メートルほどか。

小さな触手をわたわたと動かし落ちていく肉塊。

触手の一つに、令呪が刻まれている肉塊。

ジル・ド・レがジャンヌの器として改造したマスターの成れの果て。

本物がいるからと、改造を途中で止めて螺湮城を呼び出し持続させる為の魔力タンクとして閉じ込められていたのだ。

 

その、かつてのマスターが海に落ちていく。

水しぶきがあがり、全てが底に沈む……。

 

「長かったわね……」

「残すはアレイスターだけなワケダ」

「ええ、そうね」

 

四人はしばし、崩れて消えていく螺湮城を眺める。

 

「取り敢えず、拠点に帰りましょっか!」

 

カリオストロがそう言い背後を、冬木市の方を向く。

 

「……なにあれ?」

 

思わず、カリオストロが呟く。

サンジェルマンとプレラーティ、そしてジャンヌもまた振り向いてカリオストロが見るものを見た。

 

火の手の上がる冬木市。

その郊外。阿礼邸のある深山町郊外。

そこから。

 

光の柱が天に昇っていた。

 

 

 

 

「ジル・ド・レが倒された」

 

アレイスターが満面の笑みで言う。

阿礼邸の地下。

復元された異端聖杯の前。

星乃の前で口を開く。

 

「エイワズの復活には、十分な魔力が溜まった」

 

球形の聖杯を優しく撫でるアレイスター。

 

「俺とお前の願いは、ようやく叶う」

「はい」

 

星乃の言葉に笑うアレイスター。

 

「さぁ、始めよう。聖杯戦争の総仕上げ」

 

アレイスターは聖杯を撫でていた手を、聖杯に突っ込む。

光が、魔力が溢れる。

 

「神霊の復活、そして」

 

アレイスターが聖杯に飲み込まれていく。

 

「統一言語に眠るシェム・ハを引き継ぐ、神の新生を!」

 

アレイスターが完全に聖杯に取り込まれる。

聖杯から光が溢れ、天を貫き伸びていく。

 

思わず手を掲げて視界を覆う星乃。

そんな星乃に聞こえてくる、魂を揺さぶる叫び。

 

「■■■■■■■■■■ーッ!」

 

目を細め、光の奥の、叫ぶ何かを見ようとする星乃。

そこには、ひび割れた聖杯から湧き出る、ナニカがいた。

 

それこそ、かつてアレイスター・クロウリーが見えた神秘。

先史文明期の神シェム・ハ。

アヌンナキと呼ばれた、外宇宙よりの使者の内の一人。

その、魂の一欠片。

 

神霊エイワズが、復活したのだ。

 




聖杯戦争編もやっと最終盤です。
長かった……。

そういえば、大人セレナの情報出ましたね。
「仕事終わりに飲むビール」が好きなようです。

……新歓でたらふくビール飲まされるセレナさん。
酔い潰れたセレナさんを持ち帰ろうとした野郎どもが、逆にセレナさんに酔い潰されていく……。
それを見て「私を酔い潰そうなんて百年早いんですよ」と冷たく言い放つセレナさん……。
でも彼氏の一鳴くんが迎えに来た瞬間酔ったフリしてしなだれかかって「どこかで休憩しませんか(超絶甘え声)」なんて言うセレナさん……。
彼氏と二人、夜の街に消えていくセレナさん。それを見送りながら「マジ半端ねぇっスセレナさん」と、思う女性社員たち……。

よきかな……(千と千尋の神隠しの河の神感)


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第三十八話 マスターテリオン/人を捨てた母

カンムリ雪原から帰ってきたら、東京が死んで僕が生まれたので初投稿です。
ポケモン、やっとこ過去の化石ポケ出てきたので嬉しいです。でもシールド版だとオムスターちゃん出ないのね……。
あと真・女神転生3楽しいです。でも序盤にマタドール出すのは鬼畜だと思うの……(マハガルでパーティ壊滅した感)。



「城が、落ちたッ!」

 

ドーモ、一鳴です。

空中に現れた冒涜的なチフォージュ・シャトーから射出された海魔を、空から迎撃していました。

冒涜的チフォージュ・シャトーのせいで地上は発狂市民に溢れて大変だぁ。

それでも見捨てるわけにはいかねぇ、と頑張って冬木市民を守っておりました。

 

スダルシャンのシンフォギア、炎が装甲の各所から出て推進力を得られるから、空跳べるのよね。

飛べる、じゃなくて跳べるだから滞空時間が長い跳躍なのだけれども。

でもこの場合は空中で海魔を迎撃出来たので便利である。

 

 

 

一鳴きゅんの海魔迎撃率【1D6】

 

1 7割迎撃

2 7割迎撃

3 8割迎撃

4 8割迎撃

5 9割迎撃

6 全部迎撃とは恐れ入った……!

 

結果【5】

 

 

 

俺の飛んできた海魔迎撃率は9割ほど。

とにかく都市部に落ちそうな奴を優先的にアームドギア投げて倒してました。

その代わり、1割ほどの海とか山とかに着弾したのは断念しました。

無念……。

まあ、その1割は弦十郎さんや飛騨忍群のグレーターニンジャたちが倒したようなので一安心である。

 

さて、そんな迎撃を三十分ほど続けていたら海上に浮かぶ城が崩壊していくのを目撃。

サンジェルマンはキチンと倒せたのね……。

 

『どうも、プロトタイプ・ファウストローブを使用したらしいな』

 

と、サイコロ神さま。

そういや、そんな代物をキャロルちゃん師匠が渡したやね。

でもあれ、耐用性に難アリとか言ってたような……。

 

 

 

P・ファウストローブの耐用性能【1D6】

 

1 轟沈

2 大破

3 大破

4 中破

5 中破

6 さすキャロ!

 

結果【2】

 

 

 

『もはやただの服、プロテクターとしては一度の攻撃を防げるかどうかだな』

 

やはり耐用性に難アリやったようですねぇ……。

それで、ジル・ド・レ倒れてお城崩れたから、冬木市民元に戻るよね……?よね?

 

 

 

お城崩れたら冬木市民も正気に戻るよね?【1D10】

 

1 そらそうよ

2 そらそうよ

3 そらそうよ

4 そらそうよ

5 感受性の強い人は危ない(10%発狂のまま)

6 感受性の強い人は危ない(10%発狂のまま)

7 感受性の強い人は超危ない(25%発狂のまま)

8 感受性の強い人は超危ない(25%発狂のまま)

9 大概の人が超危ない(50%発狂のまま)

10 神話生物が死んでも不定の狂気は治らんぞ

 

結果【5】

 

 

 

『一鳴くん!聞こえるか!?あの城が崩れた事で、ほとんどの人間が正気に戻った!』

 

と、弦十郎さんから連絡が入る。

 

「良かった。じゃあやっとまともに救助活動出来ますね!」

『ああ。だが、子どもや芸術家といった者たちはまだ発狂している者もいる』

「ああ……そう言った人たちって感受性が強いから」

『了子くん……フィーネもそう言っていた』

 

とにもかくにも。

これからこの混乱は収まっていくだろう。

あとはアレイスターの動向に注視するだけだなぁ。

 

そんな事を考えていると、遠くの方で光がちらつく。

爆発事故か、そう思って光の方を見る。

瞬間、天に向かって伸びる光を見た。

 

「なんじゃあああああ!!?」

 

思わず叫ぶ。

天に伸びる光の柱は数秒ほど冬木を照らしていたが、次第に細くなり消えた。

 

「弦十郎さん、見えました?」

『ああ、あれは阿礼星乃の屋敷の方だったな……』

「アレイスター、早速行動起こしやがったな!?」

 

アレイスター・クロウリーの目的。

それは、サーヴァント四騎を倒して、そいつらの身体を構成する魔力で聖杯を満たし、聖杯に寄生していたエイワズを復活させること。

ジル・ド・レが倒されたことで、エイワズを復活出来るようになったという訳ね……。

 

「ってことは、あそこにアレイスターとエイワズが居る!攻めますか?」

『待て!まずはサンジェルマンくんたちとの合流を───』

 

弦十郎さんの言葉は突如遮られた。

光の柱の方向、阿礼邸のあった場所から巨大な腕が生えたのだから。

巨大な腕は、長さは100メートルはあろうかという長さである。

白く光っていて、指は5本。人の腕だ。

 

巨大な腕は肘を曲げると、地面を掴む。

そこを起点に、阿礼邸から身体が生えてくる。

白銀の髪、紅玉の瞳。

薄い胸、女性の身体。

その背からは羽が生えている。天使のような白い羽。

下半身は腰から下が、無数の尻尾が絡みつき二股の尾を形作っているかのよう。

俺は、コイツを知っている。

コイツの顔を知っている。

改造執刀医、シェム・ハ。

 

シェム・ハの分霊、エイワズ。

こいつこそが、この巨大な怪物こそがエイワズその者であった。

 

「───ハ」

「ハ、ハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

怪物は、エイワズは哄笑する。

天に向かって、月に向かって。

 

「クロウリー!クロウリー!!アレイスター・クロウリー!!!感謝するぞ!感謝しかない!感謝である!!よくぞ我を蘇らせた!」

 

大音声で叫ぶ。

泣きながら、笑いながら。

 

「お前の願いを叶えよう。そして、お前の召喚者の願いも。故に───」

 

ギロリ、と俺を睨むエイワズ。

 

「アレイスターを通して、お前を知っているぞ一鳴。

我を知る者、神の御業を知る者よ。

神の敵、神を殺す悪魔よ。

我はお前を殺す。アレイスターがそう望んだ故に。我の中に宿るアレイスターの意思が、お前を殺すだろう」

 

エイワズが羽を大きく広げる。

そのまま、上下に羽撃く。

エイワズの頭上に光の輪が発生し、少しずつ浮いていく。

上半身が持ち上がる。

しかし、下半身はゆらゆらと力なく揺れている。

 

「アレイスターとの契約だ、一鳴。我はお前を殺す。その後は月を破壊し、貴様らルル・アメルの裡に封じられた(シェム・ハ)を飲み下し!我が真の神となるのだ!!我はエイワズ、最新の神霊なれば!!」

 

エイワズが大口を開く。

口の前にデビルスター模様の魔法陣が出現。

直径10メートルはあろうかという、光線を射出。

 

『一鳴くんッ!』

 

弦十郎の声。

その声を認識するより前に、俺は回避行動を取っていた。わざとブースターを消して自由落下。頭を下に、脚を上に向けて、すぐにブースターをフルスロットル。

地面に向かって最高速で加速。

 

エイワズの光線は俺の脚先のほんの数センチを掠れて夜空を照らした。

俺は地面にぶつかる直前、身体を半回転させ脚を地面に向けさせる。

そして、着地の瞬間地面を思い切り踏みしめ、思いっ切り跳ぶ。

アスファルトが砕けてヘコむ程の力で踏みしめ跳び上がる為、高速で飛行中だ。

 

「なんとか無事です!」

 

弦十郎さんの声に答えながら、また冬木の空に戻ってくる。

 

『一鳴くん、理由はわからんが敵の狙いは君だ』

 

弦十郎さんの声を聞きながら、俺は空中を動き回る。

エイワズが細い光線を戦艦めいて全身から射出した為だ。

俺はマクロスめいた回避軌道を余儀なくされているのだった。

そう言えば全身の毛穴からレーザー撃つ加護与えられた女神がインド神話にいたなぁ……。

 

『サンジェルマンくん達と合流出来るまで、敵、エイワズの注意を引き続けてくれ!』

「クッソ鬼畜な命令ですねぇ(白目)。でも俺がやらなきゃ街に被害が出てしまいますもんね」

 

冬木市民の避難率は発狂したまんまの人が10%残ってるから、あまり高くないようだ。

そして相手の光線、当たると銀に変質するみたいやね。つまり即死攻撃なワケダ。

やべぇ!

 

『すまない……』

「良いですよ。シンフォギアですし。取り敢えず合流目指す兼被害を抑える為に海に向かいます」

『わかった!今、了子くんの指示で立香くんとコルデーくんが星乃の身柄確保に動いて貰っている』

「二人とも!起きたんです、か!?」

 

光線を必死こいて避けながら問う。

お城みて発狂したから弦十郎さんと二人で気絶させたのに。

 

『先程、城が崩れたタイミングで起きたようだ。二人には既に星乃の屋敷に向かってもらう』

「二人にマスター殺しをやらせるつもりですか!?」

 

コルデーはともかくとして、立香さんはこの世界じゃ普通の大学生よ。

人殺しなんてさせなくても……。

 

『いや、了子くんが同伴している。彼女が星乃とアレイスター、ひいてはエイワズとの契約を切る!そうしたらエイワズも消滅するはずだ!』

「それまで耐えろ、と。良いでしょう!死ぬまでエイワズの攻撃引き継ぎますよ」

 

なら俺の仕事は、エイワズを引きつけて星乃から引き離しつつ、サンジェルマンと合流すること。

 

「でも、別にエイワズを倒してしまっても構わないんでしょ!!」

 

俺はそう言いながら、アームドギアを投擲!

俺は一方的に責められて喜ぶMじゃないのだ!

 

アームドギアである戦輪は吹き出る炎で加速してエイワズの左目に着弾。

叫びを上げるエイワズ。

 

「やったぜ!」

 

そう言いながら海に向かって空を征く。

相手が怯んでいる間に一気に距離を稼ぎたいところ。

だが───

 

「徒労である!」

 

そうエイワズが叫ぶ。

そして、エイワズを中心にエイワズの薄い影が無数に、広がるように現れる。

広がったエイワズの影は中心に集まってエイワズに重なる。

エイワズの影は消えて、エイワズだけが残った。

 

()()()()()()()()()()

 

「うわぁ……」

 

これあれじゃん。AXZとかXVで出てきたやつじゃん。

 

『受けたダメージを並行世界に存在する同一別個体に生贄と肩代わりさせる、神の力である』

 

要するに大統領のD4Cやね(白目)

いとも簡単に行われるえげつない行為。

平行世界の自身を差し出して生き残る外道戦法。

 

これガングニールないなら詰みじゃん(白目)

 

「一鳴、大人しくサンジェルマンと合流して知恵を借ります……」

『ああ、こちらもなるべく早く市民の避難を終えるように尽力する!……死ぬなよ』

 

 

 

 

一鳴がエイワズを海に誘導している頃。

 

立香とコルデー、そしてフィーネは星乃の屋敷に到達していた。

 

立香はコルデーに背負われサーヴァントによるパワフル走法で、フィーネは飛騨忍群が用意したバイクに乗って辿り着いたのだ。

 

「オレもバイクに乗せてくれたら良かったのに……」

 

と立香。

女の子に背負われて街中を疾走する羽目になったので、やや恨み節である。

 

「リスクマネジメントよ。コルデーと貴方を別々に分けたら戦力減衰だもの」

 

フィーネは取り付く島もない。

 

三人が星乃の屋敷に辿り着いた時、エイワズは既に海に向かう一鳴を追っており、静寂が辺りを満たしていた。

 

半壊した屋敷。

地下からエイワズが這い出した為である。

屋敷に人の気配はない。

 

「……誰もいないのかな」

「いえ、ひとり来ます!」

 

立香の問いにそう答え、即座に立香の前に立つコルデー。アサシンクラス故の気配察知能力であった。

 

「私を殺しに来たのね、アサシン」

 

屋敷から出てきたのは星乃その人であった。

黒絹の如き髪、シワもシミも一つもない肌。40歳を超えている筈なのに若々しい見た目。

だが、フィーネは気付いていた。

星乃の時間は、子どもを亡くしたときから止まっているのだろうと。

 

その美しき母が問う。

 

「私を殺してもエイワズは消滅しないわよ。エイワズは聖杯を依り代に復活しているのだから。せいぜい、アレイスター分弱くなる程度。あなた達に勝ち目は無いわ。神の力でエイワズは全てのダメージを無かった事にできる。それでも戦うのかしら?」

「それでも、戦う」

 

立香は毅然と答えた。

 

「ジル・ド・レは街の人を発狂させて滅茶苦茶にした。そしてエイワズは街を破壊しながら進んでいる。人の事を何も考えずに」

 

エイワズは一鳴を追う時に、全身から光線を発射している。その光線は一鳴を狙っているが、狙いを逸れた光線は冬木の街を銀に変えている。

建物も、そして人も。

 

「人を傷付けることをなんとも思わない奴を、オレは止める。そして聖杯戦争なんて終わらせるんだ!」

 

立香は巻き込まれた人間だ。

ジル・ド・レに殺されかけて、運良くコルデーを召喚した。ただの一般人。

だからこそ、彼は戦うのだ。

今も戦闘に巻き込まれている人を助けたくて。

 

「わかりました」

 

星乃は頷いた。

 

「言葉は既に、意味を持たないのね」

「ええ。悪いけど、あなたとアレイスターとの契約を切らせて貰うわ」

 

フィーネがそう言う。

だが、星乃は笑って答えた。

 

「ふふ、あなた達私に勝てると思っているわね?サーヴァントもない、ただの人である私を」

「……だから?」

「……()()()()、じゃないわよ」

 

瞬間、星乃の身体が膨れ上がる。

全身から金属音。

異常事態だ。

 

「な……!」

 

星乃の服が破れる。

内から現れたのは、金属の装甲板だ!

重厚な装甲板で覆われた腕、脚、胴体!

身体の各所にはスラスター!

右腕マニピュレータには対物キャノン装備!

左腕マニピュレータにはガトリング砲搭載!

頭部は四つの赤いカメラセンサーアイ搭載!

 

もはやそこに阿礼星乃の姿形はなく。

ただ人を効率的に殺すための人型戦車めいた全長3メートルの巨大サイボーグが立っていた。

 

「これ、はッ!」

 

フィーネが呻く。

フィーネはそれを知っていた。

冬木に来る前にサンジェルマンが連れてきた、非人道的実験の実験台となった女性に施された術式として。

その女性、ヴァネッサに施された術式は……!

 

義体(シルエット)、というもの。大陸から伝わってきた技術を私の持つ重工業系の企業で形にしたのよ」

「サイボーグなのか……!?」

「ええ。かつては全身の骨格と筋肉だけのものだったけど」

 

立香の問いにそう答えた星乃。

 

「エイワズのお力で完全な人体の機械化に成功したのよ」

「……ッ!?」

「そう、私は人を捨てたの」

 

星乃は左腕のガトリング砲を立香たちに向けた。

 

「完璧な母になる為!完全なる母として、再び真緒をこの腕に抱く為に!!」

 

カメラアイが光った。

立香たちを完全にロックしたのだ!

 

「だからここで死になさい!!私の願いの為に!!」




最後に星乃が変形したのは、星乃の元ネタがガルパンの西住しほであること。しぽりんなら戦車に関わらせたい。そういやヴァネッサはサイボーグだったな。せや、星乃と戦車とサイボーグ悪魔合体させたろ!
みたいな発想から生まれました。これを専門用語でその場のノリ、と言います。

異端聖杯戦争編は次の話で終わり。その次でエピローグかしら。
長く続いたものね……。

それが終わったらクリスマスエピソードにずっとやってなかったツヴァイウィングエピソード。色々やりたいね。

それでは、また次回……。


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第三十九話 異端聖杯戦争、終結


『現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変(二日市とふろう著)』という本を読みました。
詳しくは特設サイトに譲るとして、主人公の桂華院瑠奈お嬢様が可愛いんだよなぁ。
私はこういう自分の可愛さを理解した強かさな女性が大好きなんだ。
作品としても、とても面白いから皆も読んでみてね(ステマ)



 

一鳴とサンジェルマン合流までにあったこと【1D10】

 

1 無事に合流出来た!

2 無事に合流出来た!

3 無事に合流出来た!

4 無事に合流出来た!

5 無事に合流出来た!

6 無事に合流出来た!

7 カリオストロ負傷

8 プレラーティ負傷

9 サンジェルマン負傷

10 一鳴負傷

 

結果【1】

 

 

 

エイワズを倒すためにサンジェルマンと合流兼冬木市にこれ以上被害を出さない為に、空を跳んで海までエイワズを誘導してきました。

エイワズの全身から射出される銀化光線を紙一重で避けまくって、なんとかサンジェルマンたちと合流出来たぜ。

 

サンジェルマンたちはテレビで見ていたファウストローブの灰色バージョンを纏っていた。

プロトタイプだから色が着いていないのね。

 

「一鳴!」

「無事だったワケダ!」

「状況は聞いているわ!」

 

と、パヴァリア三人娘。

 

「丁度いいわ。人も居ないし、ここでクギヅケにしちゃいましょ」

 

カリオストロの言葉に頷く俺たち。

 

「で、あいつを倒す方法考えました?なんか了子さんは星乃をなんとかしてもエイワズは消えないとか、サイボーグがどうこうとか報告してきたらしいですけれど」

「あっちもあっちで大変だけど、こっちはもっと大変なワケダ」

 

エイワズからの攻撃を避けながら、言い合う俺たち。

 

「神の力、平行世界の自分にダメージを肩代わりさせる……。大昔に局長から聞いたことがあるけれど、まさか目にする日が来るとはね……」

 

サンジェルマンが眉間にシワを寄せる。

その後ろで、ジャンヌさんが口を開いた。

 

「あの……神の力を打ち破る方法は無いのでしょうか」

「現状、無いわね」

 

と、サンジェルマン。

 

「局長の話では、神殺しの権能───すなわち不死の神バルデルを殺したミストルティン、マハーバーラタにおいてインドラが英雄カルナに与えた槍。そして、ゴルゴダの丘にて神の子の死を確かめたロンギヌスの槍。そう言った武具でなければ突破出来ないそうよ」

「つまり現状は攻撃を凌ぐしかないワケダ」

 

しかし問題は、この場の誰も神殺しを持っていない訳で。

……冬木に無いかな神殺し。最悪穂群原のブラウニーに投影してもらうとか。そもそも居ないかブラウニー。

 

「あの!」

 

と、ジャンヌが叫ぶ。

 

「どうしたの、ジャネット?」

「……私、どうにか出来るかもしれません」

「へ?」

 

情けない声を出したのはカリオストロだ。

 

「神殺し、出来るの?」

「神殺しは出来ません。しかし、あのエイワズをどうにか倒す手段はあります」

 

と、自信満々に言うジャンヌ。

 

「私の宝具を、令呪で強化したらあるいは……」

「宝具……?……ッ!?確かにこれなら……」

 

ジャンヌのステータスを確かめたらしいサンジェルマンが叫ぶ。

 

「でも、まだ不確定要素が多いわね。立香たちが星乃をなんとかするのを待つ他無いわ」

「つまりこのまま逃げ回れってことですね」

 

光線による攻撃は激しさを増すばかり。

早くしてくれ立香さーん、コルデーさーんそしてフィーネ!!!

 

 

 

 

アサシン陣営VSサイボーグ星乃【1D10】

 

1 殲滅の完全義体

2 星乃優勢

3 星乃優勢

4 互角

5 互角

6 互角

7 互角

8 アサシン優勢

9アサシン優勢

10 熱烈歓迎

 

結果【10】

 

 

 

「だからここで死になさい!!私の願いの為に!!」

 

星乃が叫ぶ。

と、同時に立香たちに向けた左腕ガトリング砲が火を吹く。

毎秒600発という圧倒的殲滅能力!

当たれば人体はあっという間にネギトロめいて崩れ去るだろう。

 

だが、そうはならなかった。

立香たちの前に立ったフィーネが右手を掲げ、異端技術による力場を発生させて攻撃を防ぐ。

 

「何をしようと、無駄よ!」

 

星乃が右腕対物キャノンをフィーネに向ける。

そして弾丸射出。

大型の弾丸はフィーネの力場を大きく凹ませる。

 

「ぐうぅ……!」

 

フィーネが呻く。

力場が破られそうなのだ。

フィーネは左手も掲げて力場を持ち直そうとする。

 

「右腕の対物キャノンはね、3秒で次弾を装填出来るのよ」

 

そう言うと星乃は更に対物キャノンから弾丸射出。

フィーネの力場が更に凹む。

 

「これ、以上は……!」

 

フィーネが呟く。

一か八か、力場を解除し星乃を攻撃しようにも、左腕のガトリング砲で瞬く間にネギトロめいた死体になるだろう。

万事休すだ。

 

だが、そうはならなかった。

 

「コルデー」

 

立香が口を開く。

そして毅然とした態度でこう言った。

 

「令呪をもって命じる。

星乃の右腕を切り落とせ!

更に令呪をもって命じる。

星乃の左腕を切り落とせ!

最後に令呪をもって───

コルデー、みんなで生きて帰ろう!」

 

立香の左手の令呪3画が赤く光る。

令呪という莫大な魔力がコルデーに流れ込む。

 

「っ!はい!わかりましたマスター!」

 

コルデーはそう答えるだけで精一杯だった。

コルデーに流れ込んだ魔力はコルデーに限界を超えた力を与える。

そして、立香の命令を叶えんと強制させるのだ。

 

「令呪ッ!だが、その前に殺せばッ!」

 

星乃が対物キャノンを撃ち出そうとする。

だが、その前に……。

 

故国に愛を、溺れるような夢を(ラ・レーヴ・アンソレイエ)

 

コルデーが右腕の対物キャノンを関節ごと斬り落としたのだ。

長高速で隣に迫っていた彼女の、宝具でもって。

 

故国に愛を、溺れるような夢を(ラ・レーヴ・アンソレイエ)

暗殺の天使、と謳われたシャルロット・コルデーによる静かで温かな暗殺。殺されるその寸前まで、微塵も殺意を感じさせない。

他の暗殺宝具とは異なり、直感・心眼による回避が難しい。彼女の風貌、彼女の言葉、彼女の仕草などを認識する回数が多ければ多いほど、暗殺の成功率は高まっていく。

「こんなに可憐な女性が暗殺など企むはずがない」という偏見がどんどんと強化されていくのである。

 

星乃は強化されたアイカメラでコルデーを観察していた。

弱くともサーヴァント。油断は出来ぬとして。

それが、仇となった。

星乃はコルデーの殺意を感じ取る事が出来ず、また宝具の発動を認識出来なかった。

 

「あ、あああ……」

 

星乃がたじろぐ。

そして、がむしゃらにガトリング砲を振り回すが……。

 

故国に愛を、溺れるような夢を(ラ・レーヴ・アンソレイエ)

 

コルデーが左腕のガトリング砲を関節ごと斬り落とす。

宝具の2連続発動。

 

「来ないで……!来ないでッッ!!」

 

星乃が更にたじろぐ。

 

故国に愛を、溺れるような夢を(ラ・レーヴ・アンソレイエ)

 

背後に回ったコルデーが、星乃の腰部の脊椎型命令伝達回路を切断する。

宝具の3連続発動!

 

「───あ」

 

下半身への命令が届かなくなった星乃の身体は、静かに背中から倒れた。

 

「……あっと、いう間ね」

 

フィーネが両手を掲げたまま呆然と言う。

 

「ですね……」

 

立香も目を丸くしてそう答えた。

 

「マスター!」

 

当のコルデーが立香の元へ駆け寄ってくる。

 

「お疲れ様、コルデー!」

「はい!私はお役に立てましたか、マスター?」

「うん、スゴかった」

 

立香がそう答えると、コルデーは華やかに笑ったのだった。

 

「……私の、負けね」

 

身体の動かなくなった星乃がそう呟いた。

 

「……ええ、そうよ」

 

フィーネがそう言いながら星乃に歩み寄る。

 

「さぁ、観念して令呪を出しなさい」

「…………」

「そんな身体になっても、サーヴァントとの繋がりはあるはずでしょ?」

 

そう問われても、星乃は何も語らなかった。

静かに夜空を見ていた。

 

「───胴体の中。心臓部にございます」

 

屋敷から、そう声が聞こえた。

 

「菊江」

「星乃様、もう止めましょう」

 

屋敷から出てきたのは使用人の菊江だ。

菊江は星乃の側に歩み寄ると、静かに膝をついた。

 

「こんな事をして真緒様を蘇らせても、真緒様はお喜びになりません……!」

「それでも、それでも私は……私、は……ッ!」

「星乃様、こんなやり方でもう一度真緒様の母親になって、真緒様に胸を張れる母親になれるのですかッ!?」

 

菊江がそう叫ぶ。

その言葉を聞いて、星乃はまた沈黙する。

 

「どうか、どうかお考え直しを……!」

「…………」

 

沈黙する星乃。

だが、静かに胴体部の装甲がパージされた。

 

「これね……ッ!」

 

フィーネが呻く。

星乃の胴体部の中には、小さな黄金の球体。

……聖杯だ。阿礼家悲願の大聖杯修復、その副産物たる汎用聖杯。その内の一つ。

それこそが星乃の義体の心臓部だった。

そしてその聖杯の表面に令呪が刻まれていた。

 

「好きに、しなさい。私はもう……真緒……」

 

そう言うと、星乃のアイカメラから光が消えた。

星乃の義体がスリープモードになったのだ。

 

フィーネは星乃の心臓部。汎用聖杯に手を伸ばす。

令呪に手が触れる。

バチッ、と魔力が弾ける。

そして、令呪が静かに消えていく……。

 

「これで、アレイスターとの契約を切ったわ。でも……」

 

菊江が口を開く。

 

「かのエイワズ、阿礼家地下の聖杯に取り憑く形でこの世に顕現しています。そしてその聖杯はエイワズの心臓に……」

「つまり、後はあの子達の仕事、という訳ね」

 

フィーネは空を見る。

フィーネだけでなく、立香もコルデーも。

そして菊江も。

夜空に浮くエイワズと、その周りを跳ぶ小さな光を……。

 

 

 

 

「アレイスター?アレイスター!!」

 

エイワズが突然叫びだす。

 

「星乃!!星乃がやられたのか!!?」

 

この狼狽えよう。

フィーネと立香さんとコルデーがやったのかな!

思った以上に早いな!!

 

「……ジャネット!」

「はいっ!」

 

サンジェルマンの叫びにジャンヌさんが答える。

 

「カリオストロさん、プレラーティさん、一鳴さん!時間稼ぎをお願いします!」

「わかったわ!」

「了解したワケダ」

「かしこまりっ!!」

 

ジャンヌさんの声を聞いて、俺たちは即座に行動した。

散開してチマチマとエイワズに攻撃を与える。

 

「……許さんぞ。許さんぞ貴様ら!我からアレイスターを奪うなど!許さん許さん許さん許さん……!」

 

恨み辛みを込めてエイワズが光線を射出。

だけど怒りで雑になっているというか、ほんのり弱体化している?

 

「宝具の起動には時間が掛かります。それまで援護を!」

「「「了解!」」」

 

 

 

ジャンヌの宝具起動必要ターン数【1D6】

 

【6】ターン(最低2ターン)

 

 

 

「あの、結構時間掛かる感じなので……(震え声)

その、頑張ってください!」

 

ジャンヌさんが不穏な事を言う。

ここぞという時にハードモードだなぁ!!

 

 

 

ジャンヌの宝具起動チャージ(1/6)【1D10】

 

1 何事もなくチャージ!

2 何事もなくチャージ!

3 何事もなくチャージ!

4 何事もなくチャージ!

5 何事もなくチャージ!

6 カリオストロにダメージ

7 プレラーティにダメージ

8 一鳴にダメージ

9 サンジェルマンにダメージ

10 いい感じにチャージが進む(必要ターン−1)

 

結果【3】

 

 

 

「誤り無き正義を司る天主よ。その忠実な僕にして、信託を与えし大天使聖ミカエルよ───」

 

サンジェルマンに背負われたジャンヌさんが剣を掲げて、呪文を詠唱する。

剣が光を放つ。

夜空を切り裂く光。

 

「この光は……ッ!」

 

エイワズがジャンヌさんを見る。

どうも、驚異認定したようだ。

 

「そぉい!」

 

エイワズの注意を引くために、戦輪投擲。

戦輪はエイワズの身体に当たる。

しかし戦輪はそのまま高速回転。エイワズの肉を削る。

 

「ぎゃああああああ!!」

 

叫びながら戦輪を握り潰す。

そして神の力で平行世界の己に傷を押し付ける。

 

「一鳴ぃぃぃ!!」

 

エイワズの注意がこっちに向く。

さぁ、ここからが本番よ!

 

 

 

ジャンヌの宝具起動チャージ(2/6)【1D10】

 

1 何事もなくチャージ!

2 何事もなくチャージ!

3 何事もなくチャージ!

4 何事もなくチャージ!

5 何事もなくチャージ!

6 カリオストロにダメージ

7 プレラーティにダメージ

8 一鳴にダメージ

9 サンジェルマンにダメージ

10 いい感じにチャージが進む(必要ターン−1)

 

結果【7】

 

 

 

「くぅっ!!」

 

エイワズの銀化光線。

それがプレラーティに当たる。

 

「プレラーティ!?」

「大丈夫なワケダ!ファウストローブに当たったワケダ!」

 

カリオストロの心配そうな声にそう返すプレラーティ。

プレラーティはファウストローブを解除。

元の服装に戻る。

 

「だが、次食らったらヤバいワケダ」

 

プレラーティの事、こっちでもいつでも庇えるように見とかないとな……。

 

 

 

ジャンヌの宝具起動チャージ(3/6)【1D10】

 

1 何事もなくチャージ!

2 何事もなくチャージ!

3 何事もなくチャージ!

4 何事もなくチャージ!

5 何事もなくチャージ!

6 カリオストロにダメージ

7 プレラーティ撤退

8 一鳴にダメージ

9 サンジェルマンにダメージ

10 いい感じにチャージが進む(必要ターン−1)

 

結果【4】

 

 

 

「其の右の手には、主の敵を討つ剣。其の左の手には、忠実なる人の魂を図る秤───」

 

ジャンヌさんの詠唱が進む。

剣の光が更に強くなる。

 

「よし、ジャネット。令呪をもって命じる。目の前の神霊を討て!」

 

サンジェルマンが令呪を切る。

ジャンヌさんの剣の光が更に強くなる。

 

「このままいけば……!」

 

サンジェルマンさんや、それフラグや……。

 

 

 

ジャンヌの宝具起動チャージ(4/6)【1D10】

 

1 何事もなくチャージ!

2 何事もなくチャージ!

3 何事もなくチャージ!

4 何事もなくチャージ!

5 何事もなくチャージ!

6 カリオストロにダメージ

7 プレラーティ撤退

8 一鳴にダメージ

9 サンジェルマンにダメージ

10 いい感じにチャージが進む(必要ターン−1)

 

結果【1】

 

 

 

「あまたの天使を率い、全能なる天主の敵を討ち滅ぼした、最も偉大な神の戦士よ───」

 

ジャンヌさんの詠唱が進む。

剣の光が更に強くなる。

 

「ジャネット、重ねて令呪をもって命じる。目の前の神霊を必ずや討て!」

 

サンジェルマンが令呪を切る。

ジャンヌさんの剣の光が更に強くなる。

 

「あと、少しなワケダ……!」

「みんな、頑張って!!」

 

 

 

ジャンヌの宝具起動チャージ(5/6)【1D10】

 

1 何事もなくチャージ!

2 何事もなくチャージ!

3 何事もなくチャージ!

4 何事もなくチャージ!

5 何事もなくチャージ!

6 カリオストロにダメージ

7 プレラーティ撤退

8 一鳴にダメージ

9 サンジェルマンにダメージ

10 いい感じにチャージが進む(必要ターン−1)

 

結果【5】

 

 

 

「願わくは戦いにおいて我らを護り、その祈りを阻む者、愛しき御父に背きし者を誅滅する───」

 

ジャンヌさんの詠唱が進む。

剣の光のが更に強くなる。

 

「あと少し……ヴォア!?」

 

カリオストロの頬を光線が掠めて、雄丸出しな声が出る。

 

「いま完全に雁雄太郎(カリオスタロウ)になっていたワケダ」

「プレラーティ、シャラップ!」

「しっかりしてぇ?」

 

最後まで緊張感持ってくれお願いだから!

 

 

 

ジャンヌの宝具起動チャージ(6/6)【1D10】

 

1 何事もなくチャージ!

2 何事もなくチャージ!

3 何事もなくチャージ!

4 何事もなくチャージ!

5 何事もなくチャージ!

6 カリオストロにダメージ

7 プレラーティ撤退

8 一鳴にダメージ

9 サンジェルマンにダメージ

10 いい感じにチャージが進む(必要ターン−1)

 

結果【2】

 

 

 

「最後に令呪を持って我が従者に命じる。今を生きる人たちを守れ!」

 

サンジェルマンが最後の令呪を使う。

ジャンヌの剣が放つ光が更に強くなる。

その光はもはや夜空に浮く太陽のようだった。

 

「これなら……!」

「いけるワケダ!!」

「やっちまえ、ジャンヌさん!」

 

俺たちの声を受けて、ジャンヌさんが剣を天に掲げる。

 

「裁きの、権限をッ!」

 

そして、ジャンヌさんが剣を振り下ろす。

 

裁定するミカエルの剣(ソード・オブ・フィエルボワ)!!!」

 

振り下ろされた剣から、眩き光が放たれる。

光はエイワズを飲み込む。

 

「ぐわぁぁ!!この光は!!我を、この世界から!おのれぇぇぇぇぇ!!」

 

光はエイワズを完全に飲み込み、そして。

 

「逃げられん!アレイスター!アレイスター!!お前が居ないからか……!」

 

光が消えて、エイワズもまた消えた。

 

これで、終わり。だろうか……。

 

「いいえ、まだです!」

 

と、ジャンヌさん。

 

「エイワズは私の宝具の力で別の世界に閉じ込めただけ。時間が経てば脱出されるかもしれません」

「というかジャンヌさんの宝具って、そもそもどんな効果なの?」

 

俺がさっきからずっと思っていた事である。

さっきまではその場の勢いで時間稼ぎをしていたけれど、落ち着いたら疑問が噴出したのだ。

 

「ジャネットの剣はね、フィエルボワの剣と呼ばれるけれど、実は大天使ミカエルの剣そのものだったのよ」

「生前は気付きませんでしたが……。サーヴァントとして呼び出された時に覚醒したのかと。聖ミカエルの権能である、魂を選別し次の世界に導くという力をこの剣は持っているようなのです」

「それが彼女の宝具、『裁定するミカエルの剣(ソード・オブ・フィエルボワ)』剣から放たれる光に当たった者は『次の世界』と呼ばれる閉鎖領域に転送されるのよ」

 

対象を強制的に葬り去る、極めてえげつない効果の宝具やね。

 

「で、今はエイワズを次の世界に送り込んだだけ、と。で、ここからどうするんです?」

「それは既に考えてあります」

 

と、ジャンヌさんが続けて言う。

 

「次の世界に送られた者の存在する力、人や物がこの世界にあり続けるエネルギーを吸い取る力が、この剣にはあるんです」

「それで、エイワズの存在する力を一気に絞り取る、と」

「はい!」

「で、その絞り取ったエネルギーはどうするワケダ?」

 

 

 

エイワズエネルギーの使い道【1D10】

 

1 冬木市民の生きる活力に変える

2 冬木市民の生きる活力に変える

3 冬木市民の生きる活力に変える

4 ↑+ 冬木市の復興にも使う

5 ↑+ 冬木市の復興にも使う

6 ↑+ 冬木市の復興にも使う

7 ↑+ 冬木市の復興にも使う

8 ↑+ サーヴァント1騎の受肉にも使える

9 ↑+ サーヴァント1騎の受肉にも使える

10 ↑+ もう一騎増やせるドン!

 

結果【1】

 

 

 

「エイワズの存在する力で、冬木に住む人々を元気にしようかと」

 

冬木市はジル・ド・レとエイワズのせいで滅茶苦茶である。

ジル・ド・レのせいで発狂した市民が事故を起こしたり、エイワズの進軍に巻き込まれて建物が崩壊したり。

故に、前途多難な冬木市の復興に心が折れそうになっている人たち。親しい者が亡くなった者たちがいる……。

 

「エイワズのエネルギーで、冬木に住まう人々の生きる活力を充填しようかと思うのです」

「いいと思うわ」

 

サンジェルマンの言葉を聞くと、ジャンヌさんはひとつ頷く。

そして、剣を掲げる。

 

「誤り無き正義を司る天主よ。その忠実な僕にして、信託を与えし大天使聖ミカエルよ───」

 

今一度の詠唱。

剣が光る。優しい光だ。

 

「其の右の手には、主の敵を討つ剣。其の左の手には、忠実なる人の魂を図る秤───」

 

詠唱が進む。

光が更にあふれる。

 

「彼の者ら、忠実なる神の僕なれば、その罪に赦しを、その魂に祝福を───」

 

詠唱が進む。

光が更に強くなる。

 

「───敬虔なるこの祈りを、聞き届けたまえ───」

 

詠唱が進む。

剣はまた、太陽のような輝きを放つ。

ジャンヌさんはまた、剣を天高く掲げる。

 

裁定するミカエルの剣(ソード・オブ・フィエルボワ)!!!」

 

剣を冬木市に向けて放つジャンヌさん。

光は冬木市上空に向かって飛んでいき、そして弾けた。

弾けた光は黄金の雪めいて冬木市に降り注ぐ。

 

「これで、冬木市民の心に活力が戻るワケダ……」

「そうね……」

 

そう言って冬木市を見つめるプレラーティとカリオストロ。

 

「ジャネット……ジャネット!?」

 

サンジェルマンが叫ぶ。

サンジェルマンの方を見ると、彼女が背負うジャンヌさんが光る粒子、魔力に還元されつつあった。

 

 

 

 

そして。

異端聖杯戦争は終結する。





今回のMVPは速攻で令呪3画切った藤丸立香くん。
ダイス腐りまくったジャネットちゃんはもっと見習って?
とにもかくにも、そんな訳で異端聖杯戦争、終結でございます───。



『裁定するミカエルの剣(ソード・オブ・フィエルボワ)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:10人
四大天使の一人、ミカエルの持つという剣。ジャンヌ・ダルクの持つ哲学の牙。
魂を選別し、次の世界へと導くというミカエルの力を宿しており、剣から発する光を浴びた者は存在を閉鎖空間、『次の世界』に追放される。
異世界に送られた者は現世との魔術的な繋がりは途切れないものの、存在エネルギーを搾取され続け、やがて消滅する。
ジャンヌ・ダルクの死後、遥か遠き平行世界にて使われ、宝具となった恐ろしき力。


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第四十話 異端聖杯戦争エピローグ

FGO、新たなイベントが始まり、キャプテンネモとゴッホが新登場しましたね。
ゴッホの宝具演出が、秘匿が暴かれたように見えて啓蒙増える増える。(ロマ撃破後感)



エイワズは聖杯に寄生する形でこの世に顕現していた。

だが、ジャンヌさんがエイワズごと聖杯のエネルギーを搾り取った事で消滅。

聖杯により呼び出されていたジャンヌさんもまた、消え去ろうとしていた……。

 

「サンジェルマン様……、どうやらお別れのようです」

 

ジャンヌさんがそう言って微笑む。

 

「そうか……」

 

対するサンジェルマンは寂しげで悲しげで。

 

「そんな顔しないでくださいサンジェルマン様。私は、嬉しかったです。この出会いがあって」

「ジャネット……」

「サンジェルマン様、覚えてますか?あの日、私と最後に会ったあの草原での語らいを」

「ああ、勿論だ」

「私をサンジェルマン様の従者にしてほしい、あの日の願いは叶いましたから」

 

従者。

サーヴァント。

セイバーとしてサンジェルマンに呼び出された彼女は、従者になれたのだ。

願いは既に叶っていたのだ。

 

「ジャネット。本当ならお前に色々な事を教えたかった。文字の読み書き、錬金術、色々なことを」

「光栄です、サンジェルマン様」

 

ジャンヌさんはどんどん揮発していく。

消えていく……。

 

「最後に、お願いを聞いてもらっても?」

「勿論だ」

「……歌を、お聞かせいただけませんか?」

「歌……?あぁ、昔、約束したな」

 

───あの……、もしよかったら、ご迷惑でなければなのですが、いつか天使様のお歌を、聴かせていただけませんか?───

 

「そういう、話だったな」

「はいッ!」

 

サンジェルマンは静かに目を瞑り、歌を口ずさむ。

優しい、声で唄う。

 

「〜〜〜♪」

 

優しい音色、優しい歌声。

あぁ、これは子守唄か。

 

「〜〜〜♪」

「綺麗な声……」

 

それは誰の言葉だったのだろう。

ジャンヌさんは目を細めて聞き入っている。

 

「……素敵な歌を、ありがとうございます」

 

ジャンヌさんはもう、ほとんど消えかかって。

それでも最後に言葉を残して。

 

「私の、天使様……」

 

そして。

セイバー、ジャンヌ・ダルクは。

この世から消えた。

 

「〜〜〜♪」

 

サンジェルマンはそれでも、最後まで歌い続けた。

涙を一筋、流しながら。

 

 

 

 

「───あ」

 

阿礼邸。

街に降り注ぐ優しい光の粒を見ながら。

コルデーが気付く。

自分が魔力に還元されていくことに。

 

「コルデー?」

 

立香が異常に気づく。

 

「マスター、どうやらお別れのようです」

「……え?」

 

コルデーが微笑む。

 

「きっと、サンジェルマンさんたちがエイワズを倒したから」

「そんな……!」

 

立香がコルデーの手を掴む。

 

「どうにか、ならないの?」

 

立香の言葉を、首を振って否定するコルデー。

 

「マスター、私たちサーヴァントは死人。稀人なんです」

「コルデー……」

「だから、これでいいんです」

 

俯く立香。

その立香を見て、コルデーが口を開いた。

 

「マスター、顔を上げてください」

「コルデー?」

 

コルデーを見る立香。

瞬間、立香とコルデーの唇が重なり合う。

 

「……ッ!」

「私、頑張りましたから。これが報酬です♪」

 

立香の手を振り解いて、数歩下がるコルデー。

 

「マスター、私マスターの事好きだったんですよ?」

「コルデー……」

「初恋、でした」

 

そう言うコルデーは既に消えかかっていた。

 

「さようなら、私の大好きだったマスター……」

 

そう言って。

アサシン、シャルロット・コルデーは消滅した。

立香は涙を流していた。

自身を守ってくれた少女を思って。

 

それを見て、フィーネが呟いた。

 

「思いっ切り、傷を残して消えたわね。あの娘……」

 

 

 

 

冬木市被害金額【1D10】

 

【6】兆円

 

 

 

阿礼邸から押収された聖杯の数【1D10】

 

【8】個

 

 

 

立香くんのその後【1D10】

 

1 コルデーを忘れられないマスター

2 マシュ、ステンノ、エリセと修羅場

3 マシュ、ステンノ、エリセと修羅場

4 コルデーを忘れられないマスター

5 マシュ、ステンノ、エリセと修羅場

6 マシュ、ステンノ、エリセと修羅場

7 マシュ、ステンノ、エリセと修羅場

8 マシュ、ステンノ、エリセと修羅場

9 コルデーを忘れられないマスター

10 熱烈歓迎

 

結果【2】

 

 

 

「以上が冬木市での魔術儀式『聖杯戦争』の報告となります」

 

特異災害対策機動部2課。

その発令室にて、風鳴訃堂に報告するサンジェルマン。

 

「冬木市の被害総額は6兆円か……」

「それだけの被害を出したのも、こちらの不徳の致すところ」

「否、お前たちが居なければもっと酷い事になっていてであろう。大義であった」

 

冬木市での聖杯戦争より数日。

俺たちは冬木市から引き上げて2課に戻ってきていた。

冬木市は建物はボロボロで荒れ放題だったが、ジャンヌさんが最後に放った光によって人々は上を向いて復興に励んでいた。

 

「冬木の復興には風鳴機関の抱える企業を協力させよう。それにしても……」

 

弦十郎さんとサンジェルマンが共同で作った報告書を読む訃堂司令。

 

「阿礼星乃……聖杯を8個も持っていたのか」

「サーヴァントを呼び出せない、魔力タンクとしての聖杯ではありますが」

 

つまりあれやね。

FGOでイベント終わった後にもらえる聖杯みたいなものやね。サーヴァントのレベルキャップ開放用の。

それが8個もあるのか……(困惑)

 

「一つは勿論オレが貰えるんだろうな?」

 

と、一緒にいたキャロルちゃん。

 

「無論だ」

「それと、貴女の要求していた剣と硬貨も近々届く予定よ」

「ならいい」

 

と、キャロルちゃん。

 

「阿礼星乃は人に戻せそうかしら」

 

とサンジェルマンは問う。

阿礼邸での戦闘で半壊した星乃はそのまま2課に回収されて研究がてら事情聴取を受けているとか。

従者の菊江さんと共に。

 

「無理だな。あれはヴァネッサとは違って人の部分が残っていない」

「神の力で完全になった、と言っていたわね」

 

キャロルちゃんの言葉を補足するフィーネもとい了子さん。

あのあとフィーネの正体を聞かされて、ついでに因縁のあったサンジェルマンと一触即発になったけど弦十郎さんがうまく収めていた。

 

「つまり彼女は、完全な機械?」

「ええ。本人も納得しているとはいえ、ね」

 

星乃は後悔していないらしかった。

確かに自身が望み、エイワズにより叶えられたのだと。

その声色は、悲しげだったが。

それでも彼女は生きていくだろう。

ジャンヌさんの光を、彼女も浴びていたのだから。

 

「民間協力者の藤丸立香くんは?」

「現在、風鳴機関の人間をつけて密かに護衛していますが、今のところオカルティストたちが接近する様子はありません」

 

藤丸立香さん。

別世界では人類最後のマスターとして数多のサーヴァントを率いているが、この世界ではただの民間人であり、巻き込まれた被害者である。

そして、魔術儀式である聖杯戦争の生存者である彼を狙ってオカルティストたちが危害を加えかねない。

そんな危惧から密かに護衛、という形になったとか。

 

「ですが……」

「なにかあるのか?」

 

口籠る弦十郎さん。

 

「……どうやら3人の女性から言い寄られているようで」

「……後輩のマシュ・キリエライト。留学生のジュリエット・ステンノ・バイオレット。そして近所の中学生である宇津見エリセ」

 

報告書には片目隠れおっぱいとツインテール美少女と黒髪和風少女に挟まれている立香さんの写真が貼られていた。

 

「3人に言い寄られて大変ねぇ」

「一鳴、なにかアドバイスしてやるワケダ」

 

とカリオストロとプレラーティ。

 

「全員と付き合えばいいのに(麒麟児の風格)」

「それが出来るのは貴方ぐらいよ……」

 

サンジェルマンのツッコミにみんなが笑う。

むぅ、真面目にアドバイスしたのに。

 

「さて」

 

報告書を閉じる訃堂司令。

 

「皆ご苦労であった。被害は出たが、それでも守ることの出来たものは多い」

 

俺たちを見渡す訃堂司令。

 

「サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティも多くの人を守るために身体を張ってくれた。感謝する」

 

そう頭を下げる訃堂司令。

 

「それじゃあ……!」

「ああ。お主らを信頼し、ヴァネッサ、ミラアルク、エルザを人間に戻す協力をしよう」

「やった!」

「やったワケダ!」

「ありがとう、風鳴訃堂!」

 

良かったなぁ。

翼さんのライブを惨劇に変えるノブレなんて、なかったんや!

 

「して、これからどうする?」

「しばらくは日本に留まるわ」

「ノーブルレッドの3人の面倒を見ないといけないしね」

「パヴァリアは放っといていいのか?」

 

と、訃堂司令。

 

「今の所、ほとんど動きないから問題ないわ」

「出張期間も、まだあるし」

「何かあったら局長から連絡があるワケダ」

 

緩いな、パヴァリア光明結社……。

 

「それはそれとしていつか顔ボコボコの骨バキバキにしてやるわ局長……!」

「私達を騙した罪は重いワケダ……!」

 

あぁ、アダム。

エイワズ関係から、アダムが【バラルの呪詛】で嘘ついてたのバレたからね……。

恨み骨髄よ……。

 

「独立も視野に入れるべきね……」

「ウチに来るか?」

「そこまで甘える訳にはいかないわ」

 

と、訃堂司令に返すサンジェルマン。

サンジェルマンたちが来たら頼もしいのだけれどね。

 

そんな訳で。

冬木市にて行われた聖杯戦争事件。

解決である。

 

 

 

 

「……きなさい。起きなさい一鳴よ」

 

むにゃむにゃ。

母ちゃん今日から冬休みだよ。

 

「起きなさい一鳴。冬休みにはまだ二週間以上あります」

 

そんな声に起こされる。

俺は2課の用意したマンションの一室で一人眠ってた筈なのに……。

目をこすり、前を見る。

目の前には懐かしい人物。

 

「……あ。戦姫絶唱シンフォギアXDUにオリジナルシンフォギア装者を出す精霊!戦姫絶唱シンフォギアXDUにオリジナルシンフォギア装者を出す精霊じゃないですか!お久しぶりです」

「お久しぶりです一鳴くん」

 

そんな訳で俺をこの世界に転生させた、戦姫絶唱シンフォギアXDUにオリジナルシンフォギア装者を出す精霊のエントリーである。

 

「ここは夢の中。現と幻、生と死の狭間。曖昧な境界線ゆえ、すべてを受け入れる。だからこそ、あなたとコンタクトを取れました」

「なにかあったのですか?」

 

俺の言葉に一つ頷く精霊さん。

 

「長い聖杯戦争、よく頑張りました」

「まあ、3日ほどではありましたが。確かに大変でしたね……」

「そのご褒美を与えに来たのと……」

 

ぱちん、と指を鳴らす精霊さん。

すると、精霊さんの隣に一人の女性が現れる。

 

「ケジメをつけさせてあげようと思いまして」

 

精霊さんの隣に立つのは、白杆槍を携えた武人。

秦良玉だ。

秦良玉は即座にドゲザした。

 

「アイエッ!?」

「この度は大変申し訳御座いませんでしたッ!」

 

美しい土下座であった。

額を地面に着けた、由緒正しいスタイル。

 

「ナンデ?ドゲザナンデ!?」

「ほら。一鳴くん、聖杯戦争中に(リャン)ちゃんに逆レされたじゃないですか。倒された後に正気に戻って、良心の呵責に苦しむ(リャン)ちゃんを私がキャッチして、こうして謝罪の場を用意した訳です」

「ああ、それでケジメ……」

 

俺を逆レした秦良玉は、カルマ・リーの令呪でショタコンにされた秦良玉である。

意志と性癖を歪まされた彼女はしかし、倒された時に令呪の呪縛から解き放たれて正気に戻った。

で、アカシックレコードにただの情報として帰る前に精霊さんが捕まえたようだった。

 

「うん……まあ、悪いのカルマ・リーなんで、頭を上げてくださいよ」

「……うぅ、しかし」

「俺は気にして……いや、若干気にしてますけど」

「くひゅっ!」

 

変な声で呻く秦良玉。

面白いなこの人。

 

「でも、俺は大丈夫ですから。ほら、頭を上げて。立ってくださいな」

「はい……。寛大な対応、痛み入ります……」

 

俺は秦良玉を立たせる。

うん、この人は悪くないものね……。

 

「許してもらえて良かったですねぇ……」

「はい、精霊様もありがとうございます」

 

精霊さんにも頭を下げる秦良玉。

 

「さて、ケジメも済んだところで。一鳴くんには頑張ったご褒美を与えたいと思います!」

「やったぜ」

「おめでとうございます!」

 

精霊さんからのご褒美!

一体何が貰えるのかしら。

 

「私は5つのご褒美を用意しました。今からサイコロ神の力を借りて、どれを一鳴くんにあげようか決めようと思います!」

「結局サイコロかよぉ!?」

 

転生前にサイコロ振って訃堂じいじが上司になった大事故、俺まだ忘れてないからな!

 

「今回はハズレなしのオール当たりクジだから(震え声)」

「ほんとぉ?」

「ホントですって!さぁ、(リャン)ちゃん!唄ってください!」

「えぇっ!?私ですか?……わかりました。───何が出るかな?何が出るかな?テレレテンテン、テンテテン♪」

 

 

 

一鳴くんへのご褒美ダイス【1D6】

 

1 アーマード・コアの続編が発売される

2 デュオレリック用の聖遺物獲得イベント発生

3 訃堂による特別トレーニングイベント発生

4 秦良玉、2課加入

5 ヒロイン追加イベント発生

6 上全部持ってけドロボー!

 

結果【2】

 

 

 

「おめでとうございまーす!デュオレリック用の聖遺物が手に入りまーす!」

 

いつの間に手に持っていたのか、ベルをガランガラン鳴らす精霊さん。

 

「デュオレリック!シンフォギアの強化じゃないですか!やったぜ!」

「おめでとうございます、一鳴さん」

 

ぱちぱちと拍手をしてくれる秦良玉。

良い人だぁ……!

 

「でもデュオレリックって使うと負荷がヤバいですよね?」

 

デュオレリック。

シンフォギアと、別の聖遺物を用いたシンフォギアの完全強化型。

例えば響ちゃんのガングニールとミョルニルを用いたデュオレリックがある。ガングニールによる打撃とミョルニルによる電撃が合わさり実際強い。

しかし、デュオレリックを用いると、装者に多大な負荷が掛かり、幻影が現れて精神的に追い詰めてきたりする。

大いなる力には、大いなる責任が伴うという奴だ。

 

「確かに使うと負荷が掛かります。そして、今の一鳴くんではその負荷に耐える事は難しいでしょう……」

「そっかぁ……」

「しかし、心身ともに鍛えたらきっと難なくデュオレリック出来るようになりますから、頑張ってくださいね」

「了解でーす」

 

今の俺にはまだ扱い切れない、か。

悔しいけれど、仕方ないね。

今は、いつでもデュオレリック出来る手段を手元に残せるって事を重視しておこう。

 

「ちなみに俺のデュオレリックはどんな聖遺物なんです?」

「んふふ、それは秘密です」

「そんなぁ」

「ヒントは、一鳴くんのスダルシャン。それと同じくインドの聖遺物ですよ」

 

インドの聖遺物かぁ。

いっぱいあるから、わからねぇな(白目)

 

「さて、そろそろ時間のようですね」

 

と、精霊さんが言う。

そういえば、なんだか視界がぼやけてきたような。

 

「現実の貴方が起きかけているのですよ」

「夢から覚める、と」

「そういう事です」

 

そんな事を言っている間にどんどんぼやけていく視界。

もうそんなに余裕ないね。

 

「それではまた会いましょう。貴方の現世での頑張り、いつでも私は見ていますからねー!」

「はい!」

「ほら、(リャン)ちゃんも一言なにか言って!」

「ええッ、えっと、その……!───気持ち良かったですッ!(大混乱)」

 

秦良玉の鉄の理性はすでにどろどろに熔けていたようやね(白目)

 

そんな訳で。

俺の意識は現実へと戻っていった───




秦良玉はただのショタコンではない。
これだけははっきりと事実をお伝えしたかった。

そんな訳で聖杯戦争編は今度こそ終わり。
次回は恋人たちとの甘々イベントをやって、デュオレリックイベントかなぁ。
デュオレリックイベントの展開はこれから考えるのだけどね!



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第四十一話 敵サイドと味方サイドの寒暖差が激しい


オレ、カノジョ、イナイ。
イチャイチャ、ワカラナイ。
ダカラ、モウソウ、シタ!
いまじなりー、カノジョ、ツクッタ!
イチャイチャシナリオ、ツクッタ!
オレ、テンサイ!
オレ、サイコウ!



 

人類の脳波を伝わる隠し区画。

壁も、床も、天井も。全てが白い部屋。

壁にはミケランジェロの『最後の審判』やダ・ヴィンチの『最後の晩餐』などの名画が飾られてた神霊たちのサロン。

 

そこにエロヒムと至天院銘歌、そしてシャダイがソファに座っていた。

 

「……と、言う訳で聖杯戦争を利用して蘇ったエイワズはシンフォギアと錬金術師たちの手によって再び葬られましたわ」

 

銘歌はエロヒムに聖杯戦争での顛末を報告していた。

 

「そうか、あの裏切り者のエイワズの企みは潰えたか」

 

エロヒムはそう言うと、紅茶を一口飲む。

 

エイワズ。

元はシャダイやエロヒムと同じくシェム・ハの魂から分かたれた神霊である。

バラルの呪詛を停止させ、シェム・ハを復活させようと先史文明の頃より蠢いていたが、突如として神霊たちに反旗を翻した。

エイワズは、自らがシェム・ハになり代わろうとしたのだ。

だからこそ、シャダイたちに殺された。

その魂を十七に分割されて。

 

「だが、裏切り者とはいえエイワズは神霊。そんじょそこらの武器では倒せないはずだよ?」

「ええ。サンジェルマンが召喚したジャンヌ・ダルクの持つ【ミカエルの剣】の権能で倒したようなのです」

 

銘歌の報告を聞いて眉間にシワを寄せるエロヒム。

 

「ミカエルの剣か……。確かにあれなら神殺しを成し遂げる事も不可能ではないね」

「……そのミカエルの剣についてもう一つ報告が」

 

今度は銘歌が眉間にシワを寄せた。

 

「ミカエルの剣、どうも現存しているようなのです」

「なに?」

 

ジャンヌ・ダルクのミカエルの剣は、サーヴァント召喚によって魔力で再現されたもの。

当然、オリジナルは別で存在しているのだ。

 

「それは厄介だね。神殺しなど許されるものではない」

「ええ。どうやら欧州のブラックマーケットに流れていた物を数十年前に日本の闇ブローカーが買い取った、という所までは辿れたのですが……」

「……そこから先はわからぬ」

 

単眼の神霊、シャダイがそう繋いだ。

ミカエルの剣、その行方をネット回線に乗って探ったのはシャダイであった。

 

「闇ブローカーは、どうにも取引にネット回線を使わなかったようでな。電話回線込みで探すとなると、時間が月単位で掛かりそうだ」

「ふむ……そうか。わかった。シャダイは【本業】の方が疎かにならない程度に、探って頂戴」

「心得た」

「銘歌は引き続き、協力者を増やして情報収集を」

「わかりましたわ」

 

更に一口、喉を潤す為にエロヒムは紅茶を飲む。

 

「アダムとの交渉も上手くいった。対ギリシャ戦では共同戦線を張ることになる。それに、ツァバトによればシーザーの研究も順調にいっているようだ。来年には試作が完成するそうだし」

「それはおめでたいですわ」

「ああ。だからこそ、慎重に慎重を重ねて、ね?」

 

目を細めて、エロヒムは言う。

 

「君の拠点は日本だ。決して風鳴訃堂に気取られてはいけないよ」

 

神霊たちは人目につかぬように、蠢く。

計画を邪魔されないように。

悲願を叶える為に。

神を、蘇らせる為に。

 

 

 

 

 

 

朝。

目が覚める。

起き上がり、身体を伸ばす。

 

夢の中で精霊さんに会ったり、秦良玉にドゲザされたり、デュオレリック用の聖遺物の入手イベントをご褒美で貰えたりした。

 

不思議な体験だったなぁ(遠い目)

 

ふと、気付く。

台所から音が聞こえる。

トントンと、包丁を使う音。

味噌汁の匂い。

それらに釣られて、台所に顔を出す。

 

「おはよう、一鳴。もうすぐ朝ごはん出来るから顔洗ってらっしゃい」

 

台所で朝ごはんを作っていたのはマリアさんだった。

そういや、合鍵渡してたなぁ。

そんな事を考えながら洗面所に向かった。

 

顔を洗って服を着替えた後、台所に向かうと既に朝食の用意は出来ていた。

ご飯、味噌汁、だし巻き卵にほうれん草のお浸し。

どこに出しても恥ずかしくない和風の朝食。

それを作ったのがウクライナ人でアメリカ育ちのマリアさんだというのは、なんとなく可笑しかった。

 

「いただきます」

 

テーブルに座った俺とマリアさんは手を合わせる。

隣の席で、椅子を並べて。

まず、味噌汁に口をつけた。

ネギと豆腐の味噌汁。

出汁の効いた、美味しい味噌汁だ。

 

「美味しいです」

「ふふ、気に入ってくれて嬉しいわ。少し、お出汁に工夫してみたの」

 

そう言って微笑むマリアさん。

俺好みの味。

わざわざ合わせてくれたんだなぁ。

 

「───続いてのニュースです。今月○日に発生した冬木市沖海底火山噴火による墳石被害及び火山性ガスによる集団幻覚被害について、国会では災害支援の決議が───」

 

テレビに映るニュースは、冬木市の事を言っているようだ。

聖杯戦争の事は言えないから、海底火山の被害と言う事でカバーストーリーが作られたのだ。

 

ジル・ド・レの宝具による海底トンネルの破壊と、砲弾めいた海魔の被害は海底火山の噴火と墳石。

冬木市民集団発狂による街の被害と、空を浮くエイワズについては海底火山の火山性ガスによる幻覚。

そういうことになっているのだ。

冬木市のガス会社重役は頭を下げなくて済んだのであった。

 

「一鳴は、ここに居たのよね?」

 

と、マリアさん。

 

「うん、仕事で」

「海底火山の噴火じゃなくて、本当は2課が出張るような事が起きていたのよね」

「うん。守秘義務で、ほとんどの事は言えないんだけどね……」

 

俺がそう言うと、マリアさんが抱き着いてくる。

 

「マリアさん……」

「ごめんなさい。急に……。でも、怖かったわ。貴方が居なくなる夢を見て、セレナと調も同じ夢を見たって言ってたから」

「……そっか」

「街が滅茶苦茶になるくらい、激しい戦いだったのよね」

「うん」

「良かった、帰って来てくれて……」

 

俺は、ただマリアさんを抱き締めた。

抱き締めて、頭を撫でる。

 

「心配かけて、ごめんなさい」

「いいの、いいのよ。……でも、セレナと調の事も、ちゃんと抱き締めてあげてね?」

「ん。でも今はマリアさんを抱き締めるね?」

 

俺は、しばらくマリアさんを抱き締めていた。

……心配、掛けちゃってたのよね。

 

「ご飯、冷めちゃったわね……」

 

数分、抱き締めた後、冷静になったマリアさんが頬を赤らめながらそう言った。

 

「冷めても美味しいから、ヘーキヘーキ(クソデカ度量)」

 

そう言って、俺はモキュモキュご飯を食べる。

実際、美味いから困らないのよね。

 

そんな訳で朝食後。

テレビの前にあるソファに並んで座りながらサ○デーモー○ングをぼんやりと見ていた。

マリアさんは洗い物。

俺がやる、と言ったのだが頑として譲らなかった。

とにもかくにも。

そんな風に過ごしていると、ドアの鍵が開けられる音。

 

「ん……?」

「来たかな?」

 

部屋に入ってきたのは、予想通り、セレナちゃんと調ちゃんだった。

 

「一鳴さんッ!」

 

そう名前を呼ぶと、すぐに俺に抱き着いてくるセレナちゃんと調ちゃん。

勢いに負けて、俺はソファに倒れ込む。

 

「会いたかった……ッ」

「私も……ッ」

「心配かけてごめんなさい。ちゃんと帰って来たよ」

 

俺は倒れ込んだまま二人を抱き締めた。

 

「一鳴さんが、居なくなるんじゃないかって、私怖くて……」

「私も……。ずっと不安、でした」

「うん、でも俺はちゃんと帰ってきたから。もう、大丈夫だから」

 

俺は二人が落ち着くまで、背中をさすり続けた。

その様子を、微笑ましく眺めるマリアさんであった。

 

 

 

 

 

 

「いきなり押し倒して、ごめんなさい……」

 

しばらくして。

落ち着いたセレナちゃんと調ちゃんに謝られる。

俺はソファに腰掛け直し、二人は床に正座している。

 

「うん、気にしてないから。だからほら、床に座らないでこっちおいで?」

「はい……」

 

二人は立ち上がると、セレナちゃんは俺の隣に。

調ちゃんは俺の股の間に座る。

更に洗い物を終えたマリアさんが空いている方の隣に座る。

そして俺は調ちゃんを抱き締め、マリアさんとセレナちゃんが俺と腕を組む。

この美少女たちに挟まれるフォーメーションこそ、いつものスタイルであった。

 

「……そういえば」

 

と、セレナちゃん。

 

「マリア姉さんと一鳴さんはクリスマス、空いてますか?」

「クリスマス、何曜日だっけ?」

「えっと……」

「イブが土曜、クリスマスが日曜だよ」

 

と、調ちゃんが教えてくれる。

 

「ふむ……土曜の夜なら空いてるかな?」

「私も、土日ともに空けられるわ」

「なら、二人とも孤児院でクリスマスパーティーに参加しませんか?」

「クリスマスパーティーとな?」

「はい。マムが良かったら参加してくださいって!ドクターがケーキとチキン大量発注したから職場の人も誘ってくるらしいですし」

「ドクターも来るのね」

 

 

 

孤児院でのドクターの評価【1D10】

 

1 お菓子ばっかり食べてる変人

2 お菓子ばっかり食べてる変人

3 お菓子ばっかり食べてる変人

4 お菓子ばっかり食べてるけど、良い人

5 お菓子ばっかり食べてるけど、良い人

6 お菓子ばっかり食べてるけど、良い人

7 お菓子ばっかり食べてるけど、恩人

8 お菓子ばっかり食べてるけど、恩人

9 お菓子ばっかり食べてるけど、恩人

10 熱烈歓迎ウェル者

 

結果【7】

 

 

 

「ドクターウェルって、孤児院ではどんな感じなの?」

 

と、俺が聞くと、皆少し悩んでいた。

 

「……そんなに評価に困るの?」

「いや、恩人なのよ?私達を実験動物から人に戻してくれた人だし」

「マムからも信頼されてますし」

「でも、お菓子ばっかり食べてるよ?」

 

調ちゃんが辛辣に言い放つ。

 

「ドクター、『頭に糖分が足りてないッ』なんて言って食事の時もお菓子ばっかり食べてるし」

「でも、恩人なのよねぇ」

「皆からも懐かれてます」

「うん、それはそう。切ちゃんが風邪なの隠して学校行こうとしてたらドクターが止めた事もある」

 

みんなの事よく見てるのねぇ……。

…………ん?

 

「ドクター、朝に孤児院に居たの?」

「ドクター、孤児院で暮らしてるのよ?」

「……知らなかったんですか?」

「……知らなかった」

 

ドクター、あの孤児院で暮らしてるのか。

でも、俺が遊びに行く時に出会ったことないし。

 

「月に一度か二度くらいしか帰ってこないから」

「……仕事人間だからなぁ」

 

きっと今日も喜々として英雄目指して研究しているのだろう。

 

「まぁ、ドクター来るなら俺も行こうかな。弦十郎さんは?」

「来られるらしいですよ」

「多分、サンタの格好で来るな(名推理)」

 

そんな事をわいわいと言い合いながら一日を過ごした。

冬木では色んな事があったけど、こうしてマリアさんやセレナちゃん、調ちゃんと過ごしていると、自分の心が癒やされていくのを感じる。

 

と、同時に3人にどれだけ心配を掛けさせたのかも。

こればかりは仕事上仕方ないけれど、でも。

なにもしない、という訳にもいかない。

だからせめて、こうやって3人にと過ごして少しでも今ここに居る、3人の元が心地良いと考えている事を示していこうと思う。

 

何があっても、絶対帰ってきてくれる。

そう、信じて貰えるように───

 





イチャイチャシナリオ、俺書けるやん(人類の進化)

そんな訳で次回はデュオレリック用聖遺物入手イベントとなります。
シナリオは固まった。後は書くだけ。
そして、一つだけ。
次回はインドが大変な事になります……。


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第四十二話 羅刹の王と月の微笑み①


シンフォギアXDUのifマリセレシナリオにグレビッキーシナリオ第二章、FGOのイベント。
そして仕事での決算棚卸し。

やらなきゃいけないことがいっぱいだぁ……!


 

インド。

国立聖遺物研究所。

夜の事。

 

研究所内部は蜂の巣を突いたような騒ぎであった。

 

「18番……いや、17番隔壁突破されました!」

「バカな、早すぎる……ッ!」

「保安部隊は何をしている!?」

「正門大扉を封鎖!続いて第2、第4、第12隔壁起動!第14及び第16障壁は開放、奴を誘導しろ!」

 

警備・保安室。

サイレンが鳴り、赤い警報灯が光る。

研究所内を全て監視カメラからの映像で確認できる大型モニターがある。

そのモニターを見る男たち。

完全装備の警備員も居れば、白衣を着た研究者も居る。

研究者たちがいる理由。それは──

 

「こちら第6保安部隊!RK-001、止まりませんッ!」

「殺す必要はないッ!冷凍保管庫に誘導しろって言ってんだ!」

「誘導、されてません!銃も手榴弾も効きやしねぇ」

 

大型モニターにそれが映っている。

保安部隊と戦闘……否蹂躙している生体型聖遺物。

3メートルある研究所の廊下を屈んで歩く巨体。

左腕は破損し、背中から生える九対ものサブアームも動かさずにジャラジャラと揺らす傷付いた姿。

そして、右腕に持つ輝く曲刀。

 

研究所で氷漬けに保管され、細胞片を研究していた生体型聖遺物が突如として起動。

冷凍保管庫から脱走して、外に出ようとしているのだ。

 

「……あ」

 

保管部隊が攻撃を止め、それを見る。

生体型聖遺物が構えた、輝ける曲刀を。

それは淡い光を放っていた。

夜空の月の光のような。

淡い、淡い、翠玉の如き刀身。

 

「何をやっている攻撃……いや、逃げろ!」

 

警備・保安室で彼らの責任者が叫ぶ。

しかし、現場の保安部隊たちは、ただ呆然と刀身を見ていた。

 

「綺麗だ」

 

彼らはずっと見惚れていた。

振り下ろされたその刀身から、光波が放たれて彼らを切り裂くまで。

生体型聖遺物は歩みを進める。

外を目指して。

 

「……ァァァ…………」

 

生体型聖遺物は目指す。

怨敵たる者の居る地を目指して。

神と、彼を殺した者を殺すために。

 

その生体型聖遺物、RK-001の正式な名前は【ラーヴァナ】といった───。

 

 

 

 

 

 

「ナルくーん!」

 

小学校にて。

響ちゃんが俺に話しかける。

授業前の事であった。

 

「どしたの?」

「これ見てよ!」

 

と言って、一冊の雑誌を開いて渡してくる。

 

「なになに……、『インド郊外の街壊滅』……?『巨人による仕業か』?……ナニコレ?」

 

開いた箇所の記事によれば、数日前に巨人のような何かがインド洋に面した街に現れて、街を滅茶苦茶にしたとのこと。軍が出動するも巨人は意も介さず街を出て、そのまま海に消えていったそうな。

 

「お父さんが買ってきた雑誌なんだけど、ナルくんのお仕事に関係あるかな、と思って」

 

と、小声で教えてくれる響ちゃん。

 

「二人ともなにかあったの?」

 

と、未来ちゃんがエントリーしてくる。

 

「あ、未来。この記事が、ナルくんのお仕事に関係あるのかな、って」

「インド?巨人?これ、本当なの?」

 

記事を読んだ未来ちゃんが雑誌を閉じて、表紙を見る。

表紙には「月刊 ヌー」と書いてあった。

 

「響ちゃんのお父さんは何を思ってこの雑誌買ったの……?」

「お父さん、この『レイラインのエネルギーで頭皮にエネルギーをチャージ』って記事を読んでいたよ?」

「あっ……」

 

生え際の後退が気になる歳かぁ……。

 

「で、ナルくんこの巨人倒しに行くの?」

「え、ナルくんインド行くの?」

「いや、行かんよ?」

 

手を振って否定する。

だって2課からは何も言ってこないし。

たぶん、2課も情報はキャッチしてるだろうけど。

 

「これ、インド国内でなんとかするんじゃないのかな」

「そうなの?」

「うん。多分、インドの秘匿技術が関わってるだろうし、他国の介入は嫌がるんじゃないかな」

「こーどにせーじてきなはんだん、ってやつだね」

「響、せめて漢字で話そうよ……」

 

バカっぽい話し方の響ちゃんに苦言を呈する未来ちゃんであった。

 

「まぁ、向こうが助けて、って言ったら助けに行くのかも知れないけどね」

「そっかぁ……」

 

少し残念そうな響ちゃん。

 

「インドの人たち困ってるだろうし、ナルくんが助けに行くのかなって思って……」

「優しい子やねぇ」

 

俺は響ちゃんの頭を撫でてやる。

やめてよー、なんて言いつつも抵抗せずに撫でられている。

 

「クソが……」

「イケメンがよ……」

「俺の立花さんが…………ウッ、ふぅ……」

「俺も撫でられてぇ」

 

クラスの男子からの怨嗟の声が聞こえてくる。

一部おかしな声が聞こえる気がするが、俺の耳には何も聞こえないな(震え声)

 

「ほーら、じゃれ合ってないで。もうすぐ先生来るよ?」

 

そう言って響ちゃんを引き摺って席に戻る未来ちゃんであった。

 

 

 

 

 

 

そんな訳で放課後。

授業?冬休み前の小六の授業なんてざっくりしたもんよ。

さっさと帰ろうとランドセルを背負おうとした時、スマホが震える。

 

2課からの連絡だ。

 

「もしもし一鳴です」

『一鳴くんか。八紘だ』

 

相手は2課の副司令、八紘さんだ。

 

「なにかありましたか?」

『ああ、実は面倒な事態になってな。今放課後か?』

「はい」

『なら、家に迎えを寄越すから、2課まで来てほしい』

「わかりました」

 

電話が切れる。

響ちゃんと未来ちゃんが近寄ってくる。

 

「なにかあったの?」

「お仕事?」

「うん。なにか急ぎっぽい」

「そっか……」

 

心配そうな二人。

俺は二人の頭を撫でた。

 

「心配しなくても、大丈夫よ」

「うん……」

「わかった」

 

少しだけ、二人とも安心したようだった。

 

「あのイケメン、顔の皮剥ぎてぇな……」

「クソクソクソクソ……!」

「小日向さんまで…………ウッ、ふぅ……」

「俺のチンチンも撫でてくれないかな」

 

やっぱこのクラス怖いわ……(恐怖)

さっさと帰ろ。

 

そんな訳で。

途中まで3人で帰る。

途中で別れて、一人家に帰り着く。

 

「ただいま」

「おかえり。2課からお迎えが来てるわよ」

 

と、お母様。

俺のお賃金でエステ行ったり高い化粧品買って若々しい。

まぁ、端金だしええんやが。

ちなみに親父もお高いスーツ買ってエリートサラリマン感出してる。実際係長でエリートなんだけども。

閑話休題。

リビングに顔を出すと、テーブルで母さんと話す女の子が一人。

キャロルちゃんだ。

 

「あらキャロルちゃん」

「やっと、帰ってきたか。早く部屋にランドセル置いてこい」

 

そう言って、椅子から立ち上がるキャロルちゃん。

 

「あら、もう行っちゃうの?」

 

と、母上。

 

「ええ。しばし緊急の案件で……。紅茶ご馳走さまでした」

「また来てね。一鳴の事、よろしくね」

 

そんなやり取りを見ると、俺は部屋にランドセルを置きに行く。

戻ってくると、玄関に立つキャロルちゃん。

 

「さぁ、行くぞ」

「はい」

 

テレポートジェムを割るキャロルちゃん。

赤い光が身を包む。

一瞬で転移、家の玄関から2課のエントランスホール。

時間節約である。

 

「ヘリコよりずっとはやーい」

「当たり前だ、テレポートだからな。ほら、行くぞ」

 

そう言って歩いていくキャロルちゃんに着いていく。

 

「そういや、何事なんです?平日に呼び出されるのはよっぽどの事だと思うんですが」

「詳しくはこれから説明されるだろうが。……簡単に言えば───」

 

キャロルちゃんが振り向いて壮絶に笑いながら言う。

 

「インドが厄介事を持ってきたんだ」

 

 

 

 

 

 

「つい先日、インドの国立聖遺物研究所から一体の聖遺物が暴走、研究所を破壊しながら逃げ出した」

 

2課の発令室にて八紘さんが説明してくれる。

大型モニターには、その聖遺物の姿。

左腕は千切れて、右腕には翠色に光る曲刀。

背中からは装飾品のように揺れる十八本の腕。

傷つきながらも屈強なる、怪物の姿。

 

「この聖遺物は、スリランカから発掘された【ラーヴァナ】と呼称される生体型聖遺物だ」

「ラーヴァナ?」

 

聞いたこと、あるような……。

たしか、真・女神転生で都庁に出てくる悪魔だったか?

 

「ラーヴァナは、ラーマーヤナという叙事詩に出てくる羅刹の王……。まぁ、魔王だと思ってくれ」

 

羅刹、ラークシャサはインドの鬼だそうで。

その鬼の王がラーヴァナ。

スリランカ……叙事詩においてはランカー島を根城にしていたとか。

 

「ああ、そうだ。ラーマーヤナ。ラーマとシータの話の敵役か!」

「そうだ。よく知っていたな一鳴くん」

 

ラーマーヤナ。

要は妻であるシータを攫われたラーマの冒険の話だ。

そしてシータを攫ったのがラーヴァナ。FGOでのラーマとシータの話から興味を持って、前世で調べたことがあったなぁ。

 

「そのラーヴァナ、聖遺物だったんですか?」

「正確には、聖遺物の特徴をもった生命体だな」

「???」

 

キメラ、という事かしら?

訳わからんみたいな反応していたら、キャロルちゃんが助け舟を出してくれた。

 

「コイツの組成物質のうち、4割は聖遺物だが残った6割ほどは生物なんだ」

「両者の特徴を持っているから生体型聖遺物、という訳だ」

「ちなみにコイツの組成する生体の遺伝子構造が人間に酷似しているらしい」

 

つまりこのラーヴァナ、6割ほどは人間ということか……。

 

「話を戻そう。逃げ出したラーヴァナはインドの街を破壊しながら南下。海を渡りスリランカにまで移動した後、反応が消失した」

 

…………薄々気付いてはいたが。

この事件、今日響ちゃんに見せてもらった雑誌の事件じゃない?

噂をすれば影がさす、とはいうものの。

因果なものを感じるなぁ……。

 

「しかしスリランカから───一鳴くん、どうした?」

「いえ、今日学校で友だちがこの事件の記事が載った雑誌持ってきたので」

「ああ、ヌーか」

 

どうやら八紘さんも知っているらしかった。

 

「ちょうどそのヌーの記者がこんな写真を撮っていてな」

 

と、モニターに映される一枚の写真。

それは夜空の写真だ。

だが、しかし。写真の中央。

燃え盛る隕石のような光が写っていた。

 

「この光を画像解析したらこんなものが写っていたんだ」

 

八紘さん写真を解析、加工していく。

ボカシを減らし、光を抑え、高解像処理していく。

 

「あっ!」

 

そこに映っていたのは光ではなく。

翼を広げた戦闘機の直上に乗る、ラーヴァナであった。

 

「これは2日ほど前、東京湾にいたヌーの記者が偶然撮影した物を2課がヌー編集部へのガサ入れの時に押収したものだ」

「2日前……東京湾……え、ラーヴァナ日本に来たんですか?」

 

インドの街を破壊し尽くしたラーヴァナが日本に来てたの?戦闘機に乗って?

 

「この写真が撮られる数十分前。スリランカから超高速で飛び立つ飛翔体の存在をインド政府は確認している。日本とスリランカの距離は約6700キロ。つまりラーヴァナは、マッハ20オーバーの速度で日本までやって来たという事だ……!」

「は?」

 

マッハ20……?

速いってことしかわからない速さだ。そして、その速さを出せる戦闘機なんてそうそうないし、そもそも外に居るのにマッハ20の速さに耐えられるラーヴァナの尋常ならざる頑丈さよ……!

 

「インドの聖遺物研究所の人間によれば、ラーヴァナが乗っているのは【プシュパカ・ヴィマナ】と呼ばれる聖遺物らしい。スリランカの地下遺跡から発掘された物だと思われる。ラーヴァナもこの地下遺跡から発掘されたそうだ」

 

プシュパカ・ヴィマナ。

そもそもヴィマナ、ヴィマーナはインド神話における空飛ぶ戦車、空飛ぶ神殿である。

シンフォギアXDUで『機械仕掛けの奇跡』に出てきたり、Fate/zeroでギルガメッシュが乗ってたりしたアレである。

そしてプシュパカ・ヴィマナはそれよりも小さいもの。プシュパカが『花のような』、という意味だそうで、プシュパカ・ヴィマナもXDUに出てきたヴィマーナよりも小さい。

それでも全長30メートルあるのだが。

デカいな……。

まあ、身長5メートルオーバーのラーヴァナが乗ってるんだから、それぐらいある必要があるのだけども。

 

「あー、八紘副司令?インドの街を滅茶苦茶にしたラーヴァナが、マッハ20オーバーの速度を出せるプシュパカ・ヴィマナに乗って、日本に来た……という事ですか?」

「……更に付け加えるなら、ラーヴァナは『チャンドラハース』という聖遺物の曲刀を持っている」

 

八紘さんがモニターにラーヴァナの映像を再び出し、右手をアップする。

右手に持つ、美しい曲刀を。

 

「このチャンドラハースの能力は不明だ。ただ、チャンドラハースを見た者は魅了されたかのように動かなくなった、という報告がある」

「わかりました訂正します。超ヤバい聖遺物3つが何故か日本に来てるんですね?」

「そういう事だ」

 

八紘さんが眉間を押さえる。

……頭が痛い。

 

「今回の一件、インド政府からラーヴァナもプシュパカ・ヴィマナもチャンドラハースもなるべく損傷なく返還して欲しいと言われていてな……」

「無茶言わないでください……」

「父……訃堂司令もそう言っていてな。今直接インド政府高官から話を聞くとインドに向かった」

「行動力の化身……!」

 

ちなみに、弦十郎さんも護衛として共に向かっているとか。

インド政府高官は災難やね……。

 

「……で、今ラーヴァナはどこにいるかわかるんです?」

「……写真が撮られた場所から潜伏先を絞っている所だ」

 

つまりなにもわかっていないワケダ。

これはキャロルちゃんも「インドが厄介事を持ってきた」なんて言うよなぁ。

 

「それで、俺はどうしましょ。しばらくこっちで待機ですかね」

「そうだな。申し訳ないが……」

「八紘副司令!」

 

と、友里さんが血相変えて叫ぶ。

 

「ラーヴァナ出現しました!」

「なにッ!?」

 

噂をすれば影がさす、か。

 

「海から現れて……リディアンに真っ直ぐ向かってます!!」

 

リディアン。

リディアン音楽院。

その地下には2課。

つまり───

 

「ここに向かってるの!?」

「ッ、すぐに街に避難勧告!一鳴くんはすぐに出撃、キャロルさんは遊撃!人命救助と一鳴くんの補助を臨機応変に頼む!」

「了解!」

「任せておけ!」

 

俺とキャロルちゃんは外に向けて駆け出す。

叙事詩における羅刹の王、聖遺物を操る聖遺物。

そんなラーヴァナがなんでここを狙っているのかしら。

 

───おめでとうございまーす!デュオレリック用の聖遺物が手に入りまーす!───

 

まさか。

これがデュオレリック獲得イベントなの?

 





一鳴くんのクラスメイト、人数が30人でその内男子が15人。
一鳴くんへの嫉妬に狂うのが10人。
彼女居るので特に何も思わないのが2人。
寝盗られ趣味に目覚めてしまったのが1人。
一鳴くんに叶わぬ恋をしているのが2人です。
うーん、カオス!


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第四十三話 羅刹の王と月の微笑み②

FGOのイマジナリ・スクランブルなんとかクリアしました。
英霊ネモの評価で『んもー、不安になったらすぐ会談する』って言われてて草生えました。

そんな私はこのイベントで3万課金してネモ船長とゴッホちゃんお迎えしました。(金が解けていく瞬間が)たまらねぇぜ!


 

『───── Sudarshan tron』

 

聖詠を唄う。

瞬間、シンフォギアがプロテクターを形成。

黒い部分の多い赤銅色の装甲。

細身の機械鎧は全身を覆い、腰から伸びる大型スカートアーマーは下半身を隠す。

胸部装甲は上に伸びて喉を隠す。

前回の秦良玉戦での反省から喉と腹を防御するスタイルに変更したのだ。

そして最後に背中に光輪めいたアームドギア形成。

 

シンフォギアを纏った俺はラーヴァナに向けて駆け出す。

隣にはダウルダヴラのファウストローブを纏うキャロルちゃん。

 

「羅刹の王、ラーヴァナか……」

「なんだ、臆病風に吹かれたか?」

「そういう訳じゃないんですけれどもね……」

 

そんなラーヴァナが現れたの、俺が原因なのかもしれないのがね……。

 

『それは違うぞ』

 

と、俺の側に浮くサイコロ神。

 

『元々ラーヴァナに準ずる驚異はこのタイミングで来る運命だった。それをかの精霊が歪曲して、貴公のデュオレリック獲得イベントにしたのだ』

 

気に病むな、という事か。

サイコロ神に慰められたわね。

 

「一鳴、そろそろラーヴァナに接敵する。気合を入れろ!」

「……っ、はい!」

 

さて。

気持ちを入れ替えよう。

対するはラーヴァナ。

ラーマーヤナのラスボスだ。

 

ラーヴァナの姿が見えてくる。

まだ遠く離れているのに、はっきりと姿が見える。

あれ、身長2階建ての建物くらいあるな。

ラーヴァナは街をずんずん進んでいる。

アスファルトを踏みしめて、乗り捨てられた車を踏み潰す。

 

「っ、報告より大きい!」

「キャロルちゃん、俺がラーヴァナを引きつけるから住民保護を!」

「わかった。……死ぬなよ」

 

そう言うと、キャロルちゃんは別の道を進む。

俺はそのまま真っ直ぐラーヴァナに向かう。

 

「……………ァ」

 

ラーヴァナにも気付かれた。

関係ない。

背中のアームドギアで先制攻撃───

 

「ラァァァァァァァァァァァマァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」

 

叫ぶ。

叫ぶ。

ラーヴァナが叫ぶ。

思わぬ大音声に一瞬、怯んでしまう。

だが、その一瞬でラーヴァナの攻撃を許してしまう。

 

「アァァァァァァァ!!!!」

 

ラーヴァナが右手の曲刀、輝けるチャンドラハースを振るう。

チャンドラハースから光の斬撃が飛ぶ。

 

 

 

一鳴回避ロール【1D10】

 

1 チャンドラハースに魅了された!

2 避けきれない!

3 避けきれない!

4 チャンドラハースに魅了された!

5 避けた!

6 避けた!

7 避けた!

8 避けた!

9 チャンドラハースに魅了された!

10 回避して反撃した!

 

結果【8】

 

 

 

俺は右半身側のシンフォギアのブーストを吹かす。左側にクイックブーストめいて高速移動。

光の斬撃をなんとか躱した。

 

「あっぶぇ!!」

 

着地後、ブーストを吹かし足を踏みしめ、一気に加速。

ラーヴァナへの距離を詰める。

このまま、アームドギアを振るい攻撃……

 

───今回の一件、インド政府からラーヴァナもプシュパカ・ヴィマナもチャンドラハースもなるべく損傷なく返還して欲しいと言われていてな……───

 

攻撃、していいのかコレ?

 

「八紘副司令。ラーヴァナへの攻撃って、して良いんですかね?」

『……ラーヴァナを損傷させない範囲で攻撃を許可する』

「無茶を言わないで下さ、危なっ!」

 

文句を言おうとしたら、ラーヴァナが第二の光波を飛ばしてきた。

ギリギリで躱す。

うーん、それにしても。

倒せないならここで時間稼ぎしか出来ないぞ……。

 

 

 

住民の避難率進捗【1D10】

 

結果【4】0%

 

 

 

『現在、住民の避難率は4割ほど。一鳴くん、今しばらく時間を稼いでくれ。……現在、インド政府と協議している。訃堂司令にも話を通している。すぐに攻撃の許可は下せるはずだ』

 

それまでは耐えればいいのね。

もっとも、それまで俺が耐え切れたらの話だが。

 

「ラァマァァ!ラァァマァァァ!!ラァァァマァァァァ!!!」

 

見て、ほら。ラーヴァナがこんなにやる気マンマン。

というか、なんで俺を見てラーマ認定してるのよ。

 

ラーマ。

ラーマーヤナの主人公で、『神々には負けない』という加護を得たラーヴァナを倒すためにヴィシュヌ神が人間に転生した姿。

ヴィシュヌ神……?転生……?

スダルシャンは元々、ヴィシュヌ神の持つ武器の一つだし、俺は転生者だし……。

………………。

俺はラーマだった……?

 

「ラァァァァァァァマァァァァァァァア!!!!」

 

とかアホな事を考えているとラーヴァナが突進。

ブーストを吹かしてなんとか回避。

うん、冗談は置いておいて。

 

「スダルシャン使ってるからラーマ認定してるのか?ガバガバ判定かよ!?」

 

俺は振り向きながらアームドギアを投擲。

アームドギアは背中を向けているラーヴァナの膝裏に直撃。

膝が折れ曲がり倒れ込む。

 

「やったぜ」

 

俺はラーヴァナから距離を取る。

 

「友里さん!この近くに人気(ひとけ)のない所あります?」

『……、そこから東に400メートル先に緑地公園があるわ!』

「了解、そこに誘導します!」

 

街中で戦う訳にはいかないので、公園に誘導しよう。

俺は腰のスカートアーマーを二枚貝めいて開いて、小型戦輪射出。

ラーヴァナを小突きまくる。

 

「ラァァァマァァァ……!!」

「こっちだ、ラーヴァナ!」

 

公園に向けてブースト移動。

ラーヴァナは叫びながら俺の後を追ってくる。

……いや、速いな。割と素早いぞコイツ。

俊敏に動きながら小型戦輪を躱して追跡してくる。

流石羅刹の王と言ったところかしら。

 

「アァァァァ!!!」

 

だからって、負けるつもりも無いけれど!

 

 

 

一鳴VSラーヴァナ【1D10】

 

1 一鳴にチャンドラハースが直撃

2 一進一退の攻防をしつつも公園に到着

3 うっかり本気で攻撃してしまう一鳴

4 一鳴にチャンドラハースが直撃

5 一進一退の攻防をしつつも公園に到着

6 うっかり本気で攻撃してしまう一鳴

7 一鳴にチャンドラハースが直撃

8 一進一退の攻防をしつつも公園に到着

9 うっかり本気で攻撃してしまう一鳴

10 キャロルちゃん参戦

 

結果【2】

 

 

 

「ラァァァマァァァ……!」

「そぉい!そぉら!」

 

間近に迫るラーヴァナの剣戟を手に持ったアームドギア戦輪で弾く。弾く。弾く。

脳波コントロールでラーヴァナの背後に小突くようにぶつけようとした小型戦輪が、チャンドラハースで迎撃される。

その隙に距離を取る。

 

そんな攻防を繰り返してなんとか緑地公園にたどり着いた。

緑地公園はなかなか広く、そして人っ子一人いない空間であった。

ここでなら、街も壊さず人も傷付かずに済む。

 

「八紘さん!攻撃の許可は降りました!?」

 

 

 

訃堂VSインド政府【1D10】

 

1 普通に

2 考えたら

3 ただの役人が

4 訃堂のプレッシャーに

5 耐えられる

6 訳が

7 無いんだよなぁ

8 普通に

9 考えたら

10 インド政府に訃堂に匹敵するOTONAが居た

 

結果【1】

 

 

 

『一鳴くん!先程連絡があった!破壊許可が降りた!思い切りやってくれ一鳴くん!』

「わっかりましたぁ!」

 

訃堂司令はインド政府をわからせたらしい。

そんなんメスガキじゃくても屈服するわ……。

 

それはともかく。

ラーヴァナへの攻撃許可が降りたので思い切りやりましょ。

だが。

さっきから軽く攻撃してたけれども、ラーヴァナの身体クッソ硬いのよね……。

マッハ20で日本までやってくるぐらいだから、尋常ではない頑丈さではあるのだろうと予想してたけれど。

これ、『神々には負けない』加護は働いてないのよね。それでこの硬さ?チートか?

 

「ラァァァァァァァァア!!マァァァァァァァァァァア!!」

 

ラーヴァナが叫びながらチャンドラハースで斬り込む。

俺は手持ちのアームドギアをデンノコめいて高速回転させて受け止める。

火花が散る。

踏みしめた足が大地に沈んでいく。

力が、強い……。

 

「ラァァァ……」

 

眼前のラーヴァナの顔が、ニヤリと笑った気がした。

瞬間、受け止めているチャンドラハースが妖しく光る。

 

「しまっ……!」

 

翆の光で視界が染まる。

 

 

 

チャンドラハースの光【1D10】

 

1 身体の自由が奪われた

2 一瞬惑わされて押し負けた

3 キャロルちゃんが助けてくれた!

4 身体の自由が奪われた

5 一瞬惑わされて押し負けた

6 キャロルちゃんが助けてくれた!

7 身体の自由が奪われた

8 一瞬惑わされて押し負けた

9 キャロルちゃんが助けてくれた!

10 熱烈歓迎

 

結果【1】

 

 

 

「あ……ッ、ガ……ッ!」

 

身体が動かない……!

そんな俺を見て、ラーヴァナは一旦チャンドラハースを戻すと、天高く掲げる。

時刻は既に夜。

月明かりにチャンドラハースが照らされる。

チャンドラハースから、光が踊るように生じる。

光はどんどん増えて、輝きを増す。

それを俺は、見ることしか出来ない。

身体が動かず、逃げる事も止める事も出来ない。

 

チャンドラハース。

月の刃、あるいは月の笑み。

『神々には負けない』という加護を得たラーヴァナがシヴァ神に挑み、シヴァ神から認められて与えられた神剣。

月。

月、バラルの遺跡。

バラルの刃、バラルの笑み。

 

脳の命令を、身体に伝えられない。

()()()()()()()()()()()()()()()()……!

あぁ、これは。

ヤバいかも……!

 

 

 

一鳴くんのピンチに助けが……!?【1D6】

 

1 現実は非情である……

2 キャロルちゃん師匠!

3 キャロルちゃん師匠!

4 現実は非情である……

5 最近出番がなかった緒川さんが来た

6 最近出番がなかった緒川さん(兄)が来た

 

結果【4】

 

 

 

「アァァァァァ……ッ!」

 

ラーヴァナがチャンドラハースを振り下ろす。

先程とは比べ物にならない光の奔流が俺を飲み込む。

熱い。

痛い。

熱い。

 

奔流に飲み込まれて、吹き飛ばされる。

光が収まる。奔流が消える。

俺は、地に倒れ伏していた。

 

「う……ぐぅ……」

『一鳴くん!?』

 

友里さんの叫びが無線から聞こえる。

ダメージが大きい。

手に力を入れる。

身体に喝を入れる。

少しずつ立ち上がる。

……身体が、動く。

脳の命令を、身体が聞いている。

ダメージを受けたら治るのね……。

 

「ぶ、無事です」

『今キャロルちゃんが向かってるわ!なんとか耐えて!』

「……はい」

 

地響きが鳴る。

ラーヴァナが歩いて近付く。

キャロルちゃんが来るまで、耐えられるかコレ?

そんな事を考えていたら。

月を背に、ラーヴァナの背後に浮くキャロルちゃんが現れる。

……いや、来るの早いね。

 

キャロルちゃんの周りに四大属性によるエネルギー体が生じる。

そこからエネルギー砲発射。

ラーヴァナに命中。

 

「ギャアァァァァ!!!」

 

ラーヴァナがよろめく。

振り返り、キャロルちゃんを睨む。

 

キャロルちゃんはラーヴァナに向けてダウルダヴラの弦で攻撃。

ラーヴァナはチャンドラハースを閃かせて弦を切り裂いていく。

 

「一鳴!」

 

キャロルちゃんが叫ぶ。

ラーヴァナはこちらに背中を向けている。

チャンスだ。

俺は全身に力を入れて、手持ちの戦輪を投げる。

戦輪は炎を生じて高速回転。

ラーヴァナの背に命中。

 

「ガアァァァ!!」

 

ラーヴァナが悲鳴をあげる。

背から生えた腕が一本、切り裂かれて吹き飛ぶ。

傷口が炎で焼かれる。

アームドギアが回転して戻ってくる。

 

「ラァァァマァァァ!!!」

「一鳴!」

 

ラーヴァナが憎悪を込めてこちらを睨む。

同時にキャロルちゃんが俺の側に来る。

 

「まだ戦えるか?」

「……難しいですね」

 

チャンドラハースの光の奔流により、俺もシンフォギアもダメージを受けていた。

戦い抜くのは難しかった。

 

「一鳴、オレが隙を作るからお前は逃げろ」

「キャロルちゃん……」

「いいから、行け!」

 

心配する俺を背にラーヴァナに立ち向かうキャロルちゃん。

そのままラーヴァナが向かってくるのかと思ったが……。

 

「ゥゥゥ……」

 

ラーヴァナがチャンドラハースを降ろす。

そして───

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

大音声。

俺もキャロルちゃんも思わず耳を塞いでしまう。

大声で叫ぶラーヴァナの頭上に、突如として金色に輝く戦闘機が現れる。

大翼を広げる、機械の鳥。

プシュパカ・ヴィマナだ。

 

ラーヴァナは跳躍するとプシュパカ・ヴィマナの上に乗る。

そして、ラーヴァナとプシュパカ・ヴィマナは。

夜空に溶け込むように消えた。

そして、突風が吹く。

枯れ葉が吹き飛ぶ。

俺とキャロルちゃんは顔を伏せた。

 

「ぐぅぅ、なんだ?」

「逃げた、んですかね?」

 

俺とキャロルちゃんは顔を見合わせた。

 

「司令部!どうなっている!?」

『ラーヴァナの反応、消失したわ……。いえ、そもそもプシュパカ・ヴィマナの反応も突然現れて、突然消えたわ……。どういう事なの……?』

 

友里さんがそう呟く。

その疑問に答える人間は、この場のどこにも居なかった。

 

 

 




一鳴くん最近ダイス運悪いね。
ダイスが力を貯めていると見るべきか、ううむ……。
カッコいい主人公の姿、見せたいからもっと頑張ってくれ一鳴くん!


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第四十四話 羅刹の王と月の微笑み③

FGOの5.5章、ゴールデンがとてもカッコいいシナリオでした。
でも伊吹童子のあのHPは許さねぇからなぁ!(ゴッホちゃんでクリティカル連発しながら)

◆お詫びな◆
マリアさんが一鳴を呼ぶときの人称を「一鳴くん」から「一鳴」に修正しました。
申し訳ありませんでした。
担当者は右手薬指をケジメした上でマンゴーもぎ研修に向かいました。ご安心ください。



 

ラーヴァナが撤退した後。

俺は2課のメディカルルームに運び込まれた。

同時にシンフォギアも了子さんにボッシュートされた。結構なダメージ受けたものねぇ。

 

「全身に軽度の火傷。あと打撲。全身にオロナイン塗ったくってやるから明日には治るぞ」

 

と、ベッドに横たわる俺を見てそう言うブラックジャック先生(偽)。

 

「オロナインで良いんですか……(困惑)」

「なんだ、嫌か?なら全身にアロエ貼っつけるか?」

「それで治るんですか!?」

「了子さんが育てたアロエだから効きは良いぞ」

「…………絵面がアレなんでオロナインで」

 

そんな訳でオロナイン塗ったくられた俺は2課のメディカルルームで一夜を過ごした。

 

「……ホントに治ってる」

 

肌を見ながら感嘆した。

スゴイなオロナイン。

優しさで半分出来てるだけはあるわ。

 

「半分優しさで出来てるのはバファリンだ。あと、本当はオロナインじゃなくて俺が配合した軟膏だ」

 

と、ベッドの隣で椅子に腰掛けて診察するブラックジャック先生(偽)。

一日で火傷が治る軟膏って……、有能だなこの人。

 

「よし、治ったな。これ食ったら司令部に顔出せよ。昨日の一件、色々わかったことがあるらしいからな」

 

そう言うとブラックジャック先生(偽)が器に盛られたヨーグルトを出す。

 

「朝食だ。足りなきゃ休憩所の自販機でホットスナックでも買え」

「ヨーグルトだけ……」

「アロエ入りだから味はあるぞ」

「なんすかそのアロエ押し……」

 

呆れながら俺はアロエヨーグルトを食べた。

美味しかった。

 

 

 

 

 

 

ヨーグルトを食べた後。

俺は司令部に顔を出した。

ホットスナックは後で食べる事にした。

 

「一鳴くん、もう大丈夫なのか?」

「ええ、オロナイン……もとい、先生特性の軟膏のお陰でなんとか」

 

八紘副司令が声を掛けてくれた。

 

「ブラックジャック先生(偽)がなにかわかったことがあるって言ってましたけど」

「ああ。昨日の戦闘のデータからいくつかの事が判明してな」

 

八紘さんが司令部の端末を操作。

司令部中央のモニターが切り替わる。

 

「まずはチャンドラハースについてだ」

 

モニターにはラーヴァナがチャンドラハースを振り下ろす映像。

 

「一鳴くんにはよくわかるだろうが、チャンドラハースは脳から伝達される情報を操作、あるいはかき乱す能力がある事が判明した」

 

チャンドラハースが拡大される。

 

「チャンドラハースの光を詳しく調べた所、月の光の波長と酷似しているらしい。了子くんの調べでは、月の遺跡バラルから発せられる呪詛を元に創られた可能性があるとか」

 

チャンドラハースが光る瞬間が映像に映る。

光から直線が伸び別の映像が映される。

それはチャンドラハースの光の波長であり、月の光の波長とほぼぴったり重なり合う。

 

月の遺跡バラル。

バラルの遺跡は、カストディアン・アヌンナキが作り上げた巨大構造体。

人類の相互理解を阻むバラルの呪詛の発生源だ。

その月から放たれる呪詛は月の光と共に地球に届くという。

そのバラルの呪詛と同じ光を放つのはチャンドラハース。

 

「一鳴くんならわかるだろうが、チャンドラハースの光をまともに目にしたら、脳の情報を身体が認識出来ずに動けなくなってしまう。……だが、それは十数秒の効力しかないらしい」

「確かに、それぐらいで動けるようになりましたね」

 

もっとも、その十数秒の間にチャンドラハースの光の奔流をまともに喰らったのだが。

 

「うむ。実戦において十数秒の隙は致命的だ。これからはチャンドラハースの光は視界に入れないようにしてくれ」

「わかりました」

「また、ラーヴァナが突如として撤退したのもチャンドラハースが原因らしい」

 

八紘さんがモニターを操作。

プシュパカ・ヴィマナに乗って逃げる前のラーヴァナがモニターに映る。

 

「脳からの情報を操作撹乱し、また純粋な熱線としても転用できるチャンドラハースの光だが、その使用量には限度があるらしい」

 

ラーヴァナの右手のチャンドラハースがズームされる。

そのチャンドラハースは、なんだかくすんでいるようだった。

 

「完全聖遺物というのはどれもが大なり小なりエネルギーを発生させている。チャンドラハースも例に漏れず自らエネルギーを発生させているが、そのエネルギーは無尽蔵ではない、ということだ」

「つまりチャンドラハースのエネルギーが切れたから、撤退したと?」

「ああ。あの場には君だけでなくキャロルさんも居た。安全策を取ったのだろう」

「あるいは、いつでもこちらの首を取れる、と考えているのか」

 

舐められたものである。

 

「だが、そのお陰で敵の弱点の一つを知ることが出来た。チャンドラハースのエネルギー容量には限度があり、限度に達すれば相手の戦力は落ちるのだと」

「はい」

 

長期戦に徹すれば、勝てる見込みありと言う事かな。

だが、それまでにラーヴァナは何度もブレード光波を放ち、こちらの動きを封じ、エネルギーの奔流をも放っている。

……ハードな戦いになりそうやね。

 

「他にわかったことは?」

「ああ。君が最後に斬り落としたラーヴァナの背中の副腕を現在櫻井女史が解析しているところでな」

 

そういや最後に一本もぎ取っていたわね。

そしてそれをフィーネ櫻井が解析している、と。

 

「櫻井女史の報告では、体細胞の分子の結合が極めて強く、生半な攻撃は通じないそうだ。事実、インド軍の攻撃ではほとんど傷付かなかったらしい」

「たしかに、硬くて攻撃が通じにくい印象はありましたね……」

「ああ。しかし、シンフォギアの攻撃しか現状打つ手がないのも事実だ」

 

すなわち、ラーヴァナを倒すには聖遺物のパワーが必要だと。

つまり、俺とキャロルちゃんならラーヴァナを倒せるのだ。

 

と、考えていたら、そのキャロルちゃんが入ってきた。

 

「そのラーヴァナだが、先程問題が発生した」

「問題?」

「昨夜から了子がラーヴァナの副腕を解析しているが、副腕が再生していっている」

「は?」

「見た方が早いだろう」

 

キャロルちゃんが端末操作。

ラーヴァナの副腕が映る。

ラーヴァナの背中でジャラジャラ揺れてた内の一本だ。

切り口は少し焦げている。

それが、銀色の台に置かれている。

 

「これが、昨日の時点の副腕だ」

 

キャロルちゃんが端末操作。

昨日の時点の副腕の映像が上に寄せられる。

そして、下側の画面にもラーヴァナの副腕。

 

「下に映したのがさっき撮影した副腕だ」

「どれどれ……」

 

上と下、二つの副腕を比べてみる。

 

「……下の方、ちょっと伸びてない?」

「ああ。お前が切り落とした側が再生して伸びている」

 

先程撮影したという副腕だが再生している側、傷口から伸びていっていると言う事だろう。

 

「切り口の焦げが無くなっているし、全体的に付いていた細かい傷も無くなっているな」

「ああ。このラーヴァナには強力な再生機能があるようだ」

 

八紘さんの指摘に頷くキャロルちゃん。

 

「つまり?」

「次に戦う時は、アイツの破損した左腕や背中の副腕が修復されている可能性が高い、という事だ」

 

右腕だけで俺とキャロルちゃんと互角だったラーヴァナ。

そのラーヴァナが五体満足になったら、果たして勝てるかどうか……。

 

「なら、さっさとラーヴァナの潜伏場所探して、倒さないと!」

「……それは、難しいだろう」

 

と、八紘さん。

 

「どういう事ですか?」

「ラーヴァナが遺跡から持ち出したプシュパカ・ヴィマナだが、強力なステルス性能及び透明化機能が搭載されている可能性が高い」

 

八紘さんによると。

ラーヴァナが逃げる直前に現れたプシュパカ・ヴィマナは、最初からラーヴァナの頭上に待機していた可能性があるという。

戦闘時のデータから、ラーヴァナの頭上の空気の流れが普通と違ったとの事。その流れを可視化したら、丁度プシュパカ・ヴィマナの形になったらしい。

そして、その異常はデータを徹底的に精査しなければ判明しなかっただろうとも……。

 

「それでステルス性能及び透明化機能が搭載されている、と」

「ああ……」

 

八紘さんの顔は暗い。

ラーヴァナを早く倒さなければならないのに、ラーヴァナが身を隠す手段を持っているから見つけられないのだ。

打つ手なしである。

 

「ラーヴァナが行動を起こすのを待つしかない、か」

 

俺と八紘さんとキャロルちゃんが顔を突き合せて暗い顔をする。

その時だ。

 

「ん……あれ?」

 

と、藤尭さん。

 

「どうした、藤尭くん?」

「……え、あ!ハッキングされています!」

 

司令部がざわついた。

オペレーター陣が一斉にキーボードをタイピングしだす。

 

「状況を説明しろ!」

「っ、はい!2課のデータベースでラーヴァナのデータを纏めていたら、動作が重くなって、原因を調べたら、外部から違法にアクセスされているようで……」

 

タイピングしている藤尭さんの言葉はたどたどしい。

 

「データのクラッキング(破壊)は!?」

「されていません!ただ、データベースを覗かれていたみたい、で!」

 

藤尭さんのタイピングが更に早くなる。

 

「クソッ!ツァバトの一件といい、どいつもこいつも逃げ足が、速い!」

 

藤尭さんのタイピングはもはや残像が見えるほどだ。

 

「……よし、逆探───あ」

 

司令部にあるパソコンから一斉にビープ音が鳴る。

 

「なにが起こった?」

「……逆探知したら、大量のデータが送られてきて2課のサーバーが落ちました」

「……して、やられたな」

 

その時。

司令部の内線に連絡。

キャロルちゃんが出る。

 

「もしもし。……ああ、サーバーが落ちた。ああ、ハッキングされてな。…………いや、それはまだ。……ああ、わかった」

 

キャロルちゃんが受話器を置いた。

 

「誰から?」

「了子からだ。サーバーが落ちて実験データが飛んでカンカンだぞ、藤尭」

「俺悪くないよね!?」

「八つ当たりは覚悟しとけ。で、どこが仕掛けたかわかるか?」

「いや……それがダメでして」

「わかった。とにかく、サーバーの復旧を待とう」

 

 

 

サーバー復旧に掛かった時間【1D6】

 

結果【2】時間

 

 

 

サーバーが落ちて2時間後。

なんとかサーバーは復旧したらしい。

俺はその知らせを休憩所でホットスナックの焼きおにぎりを食べながら聞いていた。

 

「で、ハッキングしてきた犯人が判明した」

 

と、ホットドッグを食べるキャロルちゃん。

 

「どこです?」

「国じゃなくて、個人……まあ、個人だな」

「意味深ですね、その言い方」

「犯人、人じゃないからな」

 

もう、それで犯人わかったわ……。

 

「犯人、ラーヴァナでしょ」

「正解だ」

 

2課のデータベースをこのタイミングでハッキングするの、ラーヴァナぐらいしか居ないしね。

 

「正確にはプシュパカ・ヴィマナの機能の一つらしい」

「多芸だね、プシュパカ・ヴィマナ」

「完全聖遺物だからな」

 

2課に送りつけられた大量のデータ、その正体が古代文字で書かれたプシュパカ・ヴィマナのマニュアルやらソースコードやら超超超高画質で撮られた年単位の映像データらしい。

そらサーバー落ちるわ……。

 

「それでだな、ラーヴァナはどうやら職員についてのデータを見ていたらしい」

「職員?」

「その職員の家族構成とか交友関係が纏められたデータだ。……外部に漏れたら本当にマズイデータというのはわかるだろ?」

「だから職員みんな慌ただしいんだね?」

「ああ」

 

うん。

俺も両親や友だち、マリアさんセレナちゃん調ちゃんがラーヴァナに狙われたら、と思うとね。

 

「今、黒服や飛騨忍群を動員してラーヴァナを捜索しているが……」

「……人海戦術じゃ、見つからないよね」

 

そんな事を話していたら、課内放送。

 

『一鳴くん、渡一鳴くん!至急司令部に来てくれ!』

 

放送の八紘さんの声は慌ただしい。

俺は、キャロルちゃんと共におっとり刀で、司令部に駆けつけた。

 

「何事ですか?」

「一鳴くん、大変だ」

 

八紘さんの額から、一筋汗が流れる。

 

「ラーヴァナが、ナスターシャ教授の孤児院に出現した」

「……はァ!?」

 

ラーヴァナの狙いは、俺だったか!

孤児院で暮らすセレナちゃんか、調ちゃんをどうにかこうにかするつもりだな!

 

「偶然近くにいた飛騨忍群のニンジャが足止めをしているが……」

「俺もすぐに出ます!シンフォギアは!?」

「すでに修復済みだ。一鳴くんは研究室でシンフォギアを受け取ってから出撃を!キャロルさんと共にテレポートジェムで向かってくれ!」

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

研究室でシンフォギアを受け取った俺は、その場でシンフォギア装着。

キャロルちゃんと共にテレポートジェムで孤児院屋上にテレポートした。

 

「ラーヴァナ!」

 

孤児院に併設された運動場。

そこでラーヴァナが暴れていた。

ラーヴァナの周りを高速移動する影たち。

飛騨忍群のニンジャだ。

 

「ドーモ、渡一鳴です。ラーヴァナの相手は俺たちがします!」

 

俺はキャロルちゃんと共に飛び降りながらアイサツした。

 

「ドーモ、ミニットマンです。実際助かった!」

「ドーモ、イクエイションです。孤児院の子どもたちと職員はまだ建物内に!俺たちは避難を指揮してくる!」

 

二人のニンジャは孤児院建物内に向かった。

ラーヴァナが俺とキャロルちゃんを見る。

 

「ラーマ……!」

「ラーマじゃないし!」

 

ラーヴァナの姿を見る。

ラーヴァナの左腕はほとんど修復されている。

そして、背中の副腕たちは手のひらをこちらに向けている。

昨日、戦った時はブラブラと揺れ動いていただけの副腕が。

 

「やっぱり再生してるか……!」

「油断するなよ一鳴!」

「もちろん!」

 

俺の後ろには孤児院のみんながいるものね。

セレナちゃんと調ちゃんも。

 

「一鳴!」

「……マリアさん!?」

 

後ろ一階の窓から名前を呼ばれる。

その声はマリアさんのものだった。

普段リディアンの寮に暮らすマリアさんだが、どうやら今日は孤児院に来ていたらしい。

ますます負ける訳には行かなくなった。

 

「頑張って!」

「はい!マリアさんもみんなと早く逃げて!」

「わかったわ!」

 

 

 

一鳴&キャロルVSラーヴァナ【1D10】

 

1 完全聖遺物の本気

2 ラーヴァナ優勢

3 ラーヴァナ優勢

4 完全聖遺物の本気

5 ラーヴァナ優勢

6 ラーヴァナ優勢

7 一鳴の一撃

8 キャロルの錬金術

9 一鳴の一撃

10 一鳴&キャロルのコンビネーション

 

結果【3】

 

 

 

「ラーマ!シネ!」

 

ラーヴァナが放つチャンドラハースのブレード光波を戦輪を投げて相殺する。

……というか、喋れるようになってるし。

 

「消えろ!」

 

ラーヴァナの背後からキャロルちゃんの多重錬金術エネルギー砲攻撃。

 

「ムダダ!」

 

背中の副腕たちがエネルギー砲に向けて手のひらを向ける。

副腕からエネルギー力場が発生。

キャロルちゃんのエネルギー砲を防ぎきった。

 

「いや、強すぎでしょ!」

 

俺のツッコミはラーヴァナの剣閃にかき消えた。

戦輪を投げて飛んできた光波を防ぐ。

 

「クッソ……」

 

ラーヴァナは孤児院を狙って来ているのだ。

まだ、中の人が避難出来ていない孤児院を。

故に俺は孤児院を守る為に行動を制限されていた。

 

「ゲッゲッゲ……!」

「嗤ってやがる……!」

 

ラーヴァナが嗤う。

嘲笑う。

お前は俺に勝てない、そう言わんばかりに。

 

「ラーマ、ヨワイ。ヨワクナッタ」

「だからラーマじゃないっての!」

「ゲッゲッゲ……。ラーマ、ラーマ。オマエ、ラーマ」

 

ラーヴァナがタックルを仕掛ける。

背後には孤児院。

逃げられない!

 

「一鳴!」

 

キャロルちゃんがダウルダヴラの弦でラーヴァナを絡め取り、止めようとする。

しかし、ラーヴァナの副腕がダウルダヴラの弦を引きちぎる。

 

「来いやァァァァァァァ!!」

「ギャギャギャギャギャ!」

 

俺は戦輪を盾めいて構えてラーヴァナを受け止める。

だが───

 

「ぐぅぅ……!」

「フキトベ!」

 

ラーヴァナの力が強すぎて受け止め切れない。

俺は吹き飛ばされた。

孤児院の壁に追突。

更にラーヴァナがチャンドラハースで斬りかかる。

俺はとっさに戦輪で防御。

 

孤児院の壁が壊される。

チャンドラハースに押されて孤児院の床に叩きつけられる。

背中からブーストを更かして受け身代わりに対応した。

 

「一鳴!」

「一鳴さん!」

 

壁を壊されたのは、孤児院の食堂だったらしい。

中にはまだ避難しきれなかった人たちがいた。

ナスターシャ教授。

マリアさん。

セレナちゃん。

調ちゃん。

切歌ちゃん。

クリスちゃん。

小さい子から逃していたのだろう。

俺と仲の良い子たちが残っていた。

 

「キャロルちゃん!みんなを逃して!」

「任せ───」

 

キャロルちゃんがみんなのところに向かおうとするが、ラーヴァナが左腕でキャロルちゃんを掴む。

そして、運動場に向けて放り投げた。

 

「キャロルちゃん!」

「ラーマ……、ヨワイ!マタ、シータ、サラッテヤル!」

 

ラーヴァナの左腕がみんなに向けて伸びる。

その左腕を切り落とそうと腰の装甲から小型戦輪を飛ばそうとしたら、チャンドラハースを更に押さえつけてくるラーヴァナ。

一瞬、対応が遅れる。

それで、ラーヴァナにとっては十分だった。

 

 

 

ラーヴァナが掴んだ相手【1D10】

 

1 ナスターシャ教授

2 マリアさん

3 セレナちゃん

4 調ちゃん

5 切歌ちゃん

6 クリスちゃん

7 マリアさん

8 セレナちゃん

9 調ちゃん

10 一鳴、覚醒

 

結果【2】

 

 

 

「きゃあッ」

 

ラーヴァナが掴んだのは、マリアさんだ。

ラーヴァナの左腕がマリアさんを持ち上げる。

マリアさんが逃れようともがく。

 

「マリアさん!」

「マリア!」

「マリア姉さん!」

「ウゴクナ」

 

マリアさんを助けようとする俺たちをラーヴァナが制する。

 

「シータ、ツブスゾ?」

「あぐッ……」

「マリア姉さん!」

 

マリアさんを握るラーヴァナ。

呻くマリアさん。

セレナちゃんは泣きそうだ。

 

「ラーマ」

 

ラーヴァナが俺を見る。俺の目の前にマリアさんを近付ける。

 

「シータ、タスケタイナラ、オマエヒトリデ、オッテコイ」

 

マリアさんを助けようと手を伸ばす。

マリアさんも手を伸ばす。

しかし。

ラーヴァナが左腕を、掴んだマリアさんを離す。

そしてラーヴァナがチャンドラハースを退け、運動場に向かう。

 

「一鳴!」

「マリアさん!」

 

俺は立ち上がり、ラーヴァナの元に駆ける。

ラーヴァナは俺を一瞥すると。

 

「プシュパカ」

 

そう呟く。

瞬間、ラーヴァナの頭上にプシュパカ・ヴィマナが現れる。

透明化を解いたようだ。

 

「マッテルゾ」

「一鳴ぃッ!!」

「マリアさん!必ず助けるから!!」

 

ラーヴァナが跳ぶ。

プシュパカ・ヴィマナに着地し、マリアさんも降ろした。

そして。

プシュパカ・ヴィマナは。

ラーヴァナとマリアさんを乗せて、去っていった。

 

 




次回で、VSラーヴァナ終わるかな?どうかな?


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第四十五話 羅刹の王と月の微笑み④

ラーヴァナ編、これにて完結。
文字数堂々の1万字オーバーです。
いつもの2倍だ!



マリアさんが攫われた。

ラーヴァナによって。

ラーヴァナは言った、マリアさんを助けたかったら一人で追ってこい、と。

俺をラーマだと思いこんでいるラーヴァナが俺を確実に殺すために誘っているのだろうか。

とにかく。

俺に、助けに行かないという選択肢は無かった。

愛する人を、マリアさんを必ず救い出す為に。

 

「一鳴さん……」

 

背後から声をかけられる。

セレナちゃんだった。

後ろには皆もいた。

 

「マリア姉さんを、助けてください!」

「もちろん」

 

俺はセレナちゃんの目を見て、そう言った。

 

「絶対、絶対助けるから」

「約束ですよ!」

「マリアの事、助けてね」

「絶対の絶対デスよ!」

 

セレナちゃんだけじゃなく、調ちゃんと切歌ちゃんも声を掛ける。

三人はF.I.S.にいた頃からマリアさんと一緒だったから、余計に心配なのだろう……。

 

『すこーし待ちなさい!』

 

と、2課から通信が入る。

了子さんだ。

 

『一鳴くん、あなた本当に一人で行く気!?』

「はい」

『ラーヴァナに防戦一方だったのに!?』

「勝てるかも、って戦法は考えていますよ」

『……罠かもしれないわよ』

「それでも、行きます」

 

俺の意思は硬かった。

 

「了子さん。俺はねブチ切れてるんですよ。マリアさんを攫ったラーヴァナにも。そのマリアさんを助けられなかった俺自身にも」

『…………。止まる気はない、という訳ね』

 

了子さんは深い溜め息を一つ。

 

『勝てるかもって戦法、詳しく教えなさい』

「了子さん……」

『あなたの考えた戦法、こっちで修整してあげる。ラーヴァナは今回、ステルス機能は使わずに飛行中よ。だから、見失う心配はないわ』

「誘っていますね」

『だからこそよ。貴方が来るのを待っているからこそ、時間に多少の猶予はあるわ』

「……わかりました」

 

俺は考えた戦法を伝えた。

 

「ラーヴァナのチャンドラハースを隙見て奪ってエネルギーの奔流でヤります」

『クッソ雑ね……』

 

了子さんに呆れられてしまった。

でも俺が考えている戦法って、原作響ちゃんがデュランダルからビーム出してフィーネ倒したアレを元にしているのである。

つまり原作リスペクトな。

 

『正直言って、成功率は低いわね。ラーヴァナからチャンドラハースを奪うのも厳しいし、完全聖遺物であるチャンドラハースをあなたが扱うのも厳しいわ』

「ですかね?」

『必ず、チャンドラハース側からの抵抗があるわ』

 

それはつまり、原作響ちゃんが黒くなったアレであろうか。

うーん、俺の属性が怒属性になってしまう(XDU感)

 

「愛と勇気と気合でどうにか抑えますね……」

『あなたなら本当にどうにか出来そうね……』

 

了子さんは呆れ声だ。

まあ、確かに行き当たりばったりではあるけれども。

でもなんとかする自信はあるのだ。

こういう時、得てして自身の悪い面、弱い面と精神世界で対峙するのだ。

ようはそのもう一人の自分を受け入れるか打ち勝つかすれば良い訳で。

そんなの、()()()()()()()()()()()()()()

 

『……、もう一つ。抑える為に必要なものがあるわ』

「はい……?」

『胸の歌を、信じなさい』

 

その声は優しげであった。

胸の歌。

シンフォギアのテーマの一つだ。

それは心臓が刻む命の鼓動であり。

心に秘めた想いでもあり。

つまり、心身共に、己を信じろ的な(あやふや感)?

 

「わかりました」

『よろしい!……丁度、ラーヴァナの反応が静止したわ。座標は、太平洋に浮かぶ無人島。地図に載らない、個人所有の島ね』

「データ、受信しました。シンフォギアで跳んでいける距離ですね」

 

ラーヴァナが待つのはここから百数キロ先の孤島。

シンフォギアの力で跳んでいけば一時間強といったところ。

 

「待て、一鳴……」

 

と、跳び立とうとした俺を呼び止める声。

キャロルちゃんだ。

そういやラーヴァナに投げ飛ばされたきり、忘れていたね……。

 

「キャロルちゃん、無事やったのね」

「さっきまで、気絶していたがな。だが、事情は聞いている」

「そっか」

「一人で行くんだな」

「行かなきゃマリアさんが殺されるもの」

「なら、お前に一つ教えなければならない事がある」

 

と、キャロルちゃん。

 

「ラーヴァナの最期だ」

「ラーヴァナの?」

「……ラーマーヤナにおいて、ラーマ王子との一騎打ちの末、ラーマ王子のブラフマーストラを受けてラーヴァナは死ぬ」

 

ブラフマーストラ。

アグネヤストラとも。

インド神話において、ブラフマンというなんか漠然としたスゴイ力があり、それを利用した必殺技である。ブラフマン+アストラ(矢の意味)の合成語だ。

 

インドの神々は全てがブラフマンから生まれたとされ、故にインドの創造神はブラフマンと同一視されるブラフマーと呼ばれる。

つまりブラフマンとは神の力であり、もともとはヴェーダ聖典の言葉の持つ聖なる力の事だとか。

神の力……、言葉の力……。シンフォギアの原点がここにありそうな気がする……。

 

閑話休題。

そんなスゴイパワーなブラフマンを撃ち出すのがブラフマーストラ。インドの英雄は皆使える。

 

「つまり俺もブラフマーストラを使えば……!」

「修行が足りないから無理だ」

「バッサリと……!」

「だが、ここにラーヴァナを倒すヒントがある」

 

言葉を引き継いだのは了子さんだ。

 

『ラーヴァナのあの再生力の秘密であるアムリタを、ラーヴァナの体内から蒸発させて殺したのがラーマ王子のブラフマーストラなのよ』

「…………そういう事だ」

 

説明を取られたキャロルちゃんは不服そうだ。

 

「アムリタ。甘露とも呼ばれる不死の妙薬の事だ。ラーヴァナもこの妙薬を飲み不死の肉体となっていたが、ラーマ王子が蒸発させた事でアムリタの効能が切れて死んだ……と、伝えられたのがラーマーヤナだ」

『本当はアムリタが少しだけ残っていて遺跡に封印されていた。なるほど。インド政府は、ラーヴァナの体内に僅かに残ったこのアムリタを研究してたみたいね!』

「それで復活されて、こっちが尻拭いする事になるとはな」

『そこら辺は、弦十郎くんと訃堂司令が落とし前つけてくれるわよ』

 

なんか話がズレていってるわね?

 

「つまり、ラーヴァナの体内のアムリタ蒸発させて殺せって事です?」

「そういう事だ」

『なるほどね。チャンドラハースだけじゃ足りないと踏んだわね』

 

確かにラーヴァナの体躯は頑丈だ。

チャンドラハースのエネルギーの奔流では倒し切れないかも。

 

「チャンドラハースでダメージ与えて、トドメでスダルシャンの炎で体内を焼けと」

「ああ。お前が勝つにはそれしかないだろうな」

「……発想こわ〜」

「うるさい!!」

 

キャロルちゃんが怒ってしまった。

 

「ごめんなさい。冗談ですから」

「ふんだっ!」

「見た目相応な対応しないで……」

「良いからさっさと行け!……恋人を助けるんだろう」

「……ええ。わかりました。んじゃ、行ってきます」

 

俺は脚部装甲のスラスターから炎を噴き上げながら跳躍。

 

「セレナちゃん、みんな!マリアさん、助けてくるから!」

「お願いします!」

 

皆が手を振る。

応援しているのだ。

期待しているのだ。

祈っているのだ。

ならばそれに応えないとネ。

 

俺はアームドギアの上に乗る。

サーフボードめいたスタイルで乗ったアームドギアは、円周部分を高速回転させながら、炎を発生させる。

火炎は推進力を産み、高速で前進する。

脚の炎だけじゃ、速度が足りないと思ったのでサーフボードスタイルを構築したけれど、うまくいって良かった。

 

このままラーヴァナが待ち受ける島まで一直線だ。

 

 

 

 

 

 

ラーヴァナは瞑想していた。

偶然見かけた孤島に降り立ち。

広い草原に一本だけ生えた樹の下で。

座禅を組み、目を瞑り。

チャンドラハースは地面に刺していた。

 

攫ってきたピンク髪のシータは近くに着陸させたプシュパカ・ヴィマナの上でへたり込んでいる。

しかし、その目には諦めの色はない。

ラーマが、一鳴と呼ばれたラーマが必ず助けに来てくれると信じているのだ。

 

ラーヴァナは記憶を探る。

かるか昔、最初のシータを攫ってきた時も、同じ目をしていた。

ラーマが助けに来ると信じているのだ。

確かな愛。

確かな信頼。

ラーヴァナがついぞ得られなかった物。

 

ラーマ。

ラーヴァナを殺す為にカストディアン・ヴィシュヌがその魂と記憶をホムンクルスに移した者。

アヌンナキ殺しの力を■■■・■より得たラーヴァナを殺す為に造られた存在。

 

ラーヴァナは思い返す。

自身が再起動した理由を。

この国の、冬木と呼ばれる土地から発された神の力を察知した為だ。

■■■・■に仇するアヌンナキを殺す為に。

あるいは■■■・■に与するアヌンナキを助ける為に。

 

だが。

自体は既に終息していた。

聖杯戦争と呼ばれる儀式の果て、召喚されたエイワズは■■■・■の眷属であり、そして裏切り者でもあった。

そのエイワズが発した神の力を察知して、ここまで来たのだった。

 

察知したのは神の力だけではなかった。

微弱ながら、ヴィシュヌの武器の反応も捉えていた。

神の力と同じ場所で。

そして、神の力を持つエイワズを殺した者の一人がヴィシュヌの武器の力を扱う一鳴だった。

 

ヴィシュヌは■■■・■の敵対者であった。

シヴァは傍観していたものの、ヴィシュヌと■■■・■は相争う関係であり、故にこそ■■■・■の眷属を一鳴が殺したのだろう。

 

ならば。

ラーヴァナは一鳴なるラーマを殺さなければならない。

ラーヴァナに油断は無かった。

座禅を組み、瞑想し、体内に僅かに残ったアムリタを活性化させる。

傷が癒やされるのが感じられる。

■■■・■によって与えられた肉体が全盛の姿を取り戻すのを感じる。

思考が、鮮明になっていくのを感じる。

 

突如、ラーヴァナは気配を感じた。

ここから数キロ先。

高度2000メートル。

速度、時速百数キロ。

到達予想時刻、あと十秒。

 

ラーヴァナは立ち上がる。

チャンドラハースを握り、大地から引き抜く。

 

全身に力を入れる。

体躯は一回り大きくなり、故障個所は全て修復されていた。

左腕は、完全に機能を取り戻しており、背中の副腕群はチャンドラハースから取り出したエネルギー刃を握っている。

頭からは角が生え、その角は天高く伸びる。

 

前方を睨む。

上空から炎が落ちてくる。

着弾。

土煙があがる。

炎が漏れる。

ラーヴァナは目を離さない。

 

土煙が晴れる。

そこには───

 

「一鳴ッ!」

 

マリアなるシータがヤツの名前を呼ぶ。

一鳴。

ラーマ。

ソレが目の前十メートル先に居た。

 

「驚いた。空を飛んできたのか、ラーマよ」

 

ラーヴァナが問い掛けた。

 

「俺も驚いた」

 

一鳴(ラーマ)が答えた。

 

「お前、まともに喋れたんだな」

 

 

 

 

 

 

太陽が沈み、月が空に輝く逢魔が時。

俺はラーヴァナと相対していた。

身長を越える戦輪であるアームドギアを持ちながら。

 

「お前が来るのを待つ間に、かつての機能の八割を取り戻す事が出来たのだ」

「確かに、威圧感が違うな」

 

ラーヴァナの全長はもはや8メートルに至ろうとしており、左腕は完全に修復されている。

背中にある20本の副腕は、それぞれが自律稼働しており、翠色の光剣を持っている。

チャンドラハースの権能だろう。

これこそが、全盛期に近いラーヴァナか。

 

「ラーマよ、降伏しろ。力の差は歴然だ」

「降伏したら、どうする?」

「楽に殺してやる」

 

なんでもなさそうに、そう言うラーヴァナ。

 

「……マリアさんは、どうする?」

「案ずるな、我が妻として迎えよう」

「……ッ!?」

 

ラーヴァナの言葉に、怯えの色を目に浮かべるマリアさん。

俺は、プシュパカ・ヴィマナの上からこっちを覗き込むマリアさんに向かって一瞬、微笑む。

これで、安心してくれたら良いけれど。

 

「じゃあ降伏はナシだな」

「ほぅ?」

「マリアさんは俺の女だ。お前じゃ荷が重いよ、過去の遺物」

「抜かす」

 

クツクツと笑うラーヴァナ。

俺も、笑う。

 

ああ。本当に。

コイツは気に入らない!

 

「「死ね!」」

 

動いたのは同時だった。

一気に踏み込み武器を振るう。

スダルシャンとチャンドラハースがぶつかり合う。

 

 

 

一鳴VS真ラーヴァナ【1D10】

 

1 神代の羅刹王の独壇場

2 ラーヴァナ優勢

3 ラーヴァナ優勢

4 ラーヴァナ優勢

5 互角

6 互角

7 一鳴優勢

8 一鳴優勢

9 一鳴優勢

10 一鳴怒りのアラバマオトシ

 

結果【10】

 

 

 

「イヤーッ!」

「ぬぅぅうん!!」

 

スダルシャンとチャンドラハースがぶつかり合う。

火花が散り、不快な金属音が鳴り響く。

ラーヴァナの剛力が、俺をアームドギアごと押していく。

 

「ぐぅ……!」

「隙ありだ、ラーマぁ!」

 

ラーヴァナが嘲笑う。

チャンドラハースが光る。バラルの光、肉体の自由を奪う月の光だ。

 

「二度も同じ手段が通じるか!」

 

俺はラーヴァナの剛力を利用して、チャンドラハースを受け流す。

ラーヴァナがチャンドラハースに引きずられて前のめりになる。

俺はその脇を通り背後に回る。

バラルの光回避!

 

「ぬぅぅッ!?」

 

ラーヴァナが驚きの声を上げる。

俺はその隙を逃さなかった。

ラーヴァナの背後から腰をがっぷりと掴む。

そして、背部ブースター及び脚部ブースター点火!

一気に最大火力に達する。

 

「なんだ!?」

「空の旅にご招待だ!」

 

ラーヴァナが浮かぶ。

否、俺につられて空に射出。

地上から百メートル地点に到達。

俺は空を蹴って、方向転換。

前転めいて前倒しになり、頭を地上に、足を天に向ける。

もちろん、ラーヴァナも同様に。

 

「まさか!」

「そのまさかだラーヴァナァ!!!」

 

俺は怒っていた。

ラーヴァナに負けたことに。

マリアさんを攫われて、怖い目に合わせてしまった事に。

その怒りがシンフォギアを通じて、ブースターの火力を限界突破させる。

俺が外付けブースターとなって空へと飛び上がり、ラーヴァナを地上に向けてぶつける。

これぞ、訃堂司令直伝のイヅナ落としである!

 

「ぶっ飛べェェェ!!!」

「ぬぉおおおおおお!!」

 

時速100キロオーバー。

その速度で地上に向けて加速。

ラーヴァナが抵抗して、副腕による光剣攻撃をしてくる。

しかし、俺はそれを腰部アーマーから出した小型戦輪で迎撃!

ラーヴァナを逃さない……!

 

あっという間に地面が近付く。

もがくラーヴァナ。

俺は絶対に離さない。

ラーヴァナをぶつける、ギリギリのギリギリまで。

 

まだ……。

まだ…………。

…………………いまだ!

 

「イヤーッ!」

「グワァァァァァア!」

 

ラーヴァナの頭を地面に刺して離脱。

ラーヴァナは加速によって首が完全に埋まる。

衝突の衝撃でチャンドラハースが吹き飛ぶ。

俺はチャンドラハース近くに着地。ラーヴァナとプシュパカ・ヴィマナの中間地点だ。

 

「一鳴!」

 

俺の勝利を確信し、プシュパカ・ヴィマナを降りようとするマリアさん。

 

「まだだ!」

「えっ……?」

 

俺はマリアさんを制した。

 

「コイツはこの程度じゃ死なない。まだだ。まだだから、……もう少し、待ってて?」

「……わかったわ」

 

そう微笑みながら言って、マリアさんはプシュパカ・ヴィマナの上に戻る。

その微笑みは、俺の勝利を信じていた。

 

「……よし!」

 

俺の後ろにマリアさんが居る。

目の前には地面に刺さったチャンドラハース。

ここで負ける訳にはいかない。

覚悟を決めよう。

否。

覚悟は、この世界に生まれる前に決めたのだったな。

 

俺はチャンドラハースに手を伸ばす。

ラーヴァナの手を離れ、刃渡り1メートル程に縮んだチャンドラハースの、柄を握った。

 

「あ──────ァァアア■アアア■■■アア■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 

 

 

 

 

 

気が付けば、真っ白い空間にいた。

天も地も白い空間。

何もない領域。

 

否、目の前に暗い影がポツンと立っていた。

人のような影。

いや、少年の影か。

 

「なあ」

 

その少年の影が声を掛けてくる。

どこかで聞いたような声。

これは……、俺の声か……?

 

「お前にとってこの世界は娯楽なのか?」

 

娯楽?

 

「この世界は、【戦姫絶唱シンフォギア】ってアニメの世界なんだろ?なら、お前はアニメの世界で楽しく生きてるって事だよな?それは娯楽って事だろ」

 

影はそう断定する。

 

「みんな真剣に生きてるのに、お前だけシンフォギア纏って楽しく無双して、彼女三人作って。なあ、この世界に生きてる他の奴に恥ずかしいと思わないのか?」

 

影はそう詰る。

俺は───

 

 

 

一鳴の返答【1D10】

 

1 うるせぇ!

2 うるせぇ!

3 うるせぇ!

4 うるせぇ!

5 うるせぇ!

6 うるせぇ!

7 うるせぇ!

8 うるせぇ!

9 うるせぇ!

10 うるせぇ死ね!!!!!!!!!!!!!

 

結果【5】

 

 

 

「うるせぇ!」

 

俺は影をぶん殴った。

 

「ぐえっ!?」

 

影は混乱している。

 

「オラッ、お前はチャンドラハースが見せる俺の弱い心だろオラッ!」

「ぎっ、ぐぎぃ!?」

 

馬乗りになり、影をボコボコにする。

 

「俺がこの世界を娯楽として捉えてる?そんな訳無いだろノイズとかいる危ない世界だぞ!娯楽狙いならガルパンの世界に行くわ!」

「グワーッ!」

 

右ストレートが影の頬を捉える。

 

「俺が無双?助けられなかった人も沢山いるし冬木で逆レされかけたわダボ!」

「グワーッ!」

 

左ストレートが影の頬を捉える。

 

「彼女三人作って?前世じゃもっと嫁さん居たわアホ!」

「グワーッ!」

 

右ストレートが影の頬を捉える。

 

「俺もこの世界で真剣に生きてるわ!真剣だからマジになってマリアさん助けに来たんだよ!」

「グワーッ!」

 

左ストレートが影の頬を捉える。

 

「お前が俺の弱い心なら、お前もマリアさん助けたいだろ!」

「グワーッ!」

 

右ストレートが影の頬を捉える。

 

「もし違うなら力だけ寄越して隅っこでジッとしてろ!」

「グワーッ!」

 

左ストレートが影の頬を捉える。

 

「さあ返答はどっちだ?返事はどちらでもいいから力を貸せ!もしくは寄越せ!さぁ、ハリーハリーハリー!!」

「グワーッ!」

 

右ストレートが影の頬を捉える。

 

「ま、待て!」

「イヤーッ!」

「グワーッ!待ってくれ!タンマ!降参!」

 

影が抵抗を辞めて、両手を掲げて降参のポーズ。

 

「力を貸してくれるね?」

「はい……」

「君は俺の弱き心かな?」

「はい……」

「チャンドラハースが具現化させた?」

「はい……」

 

俺は最後の質問をした。

 

「マリアさん、助けたい?」

「……当たり前だろ!」

「よろしい」

 

俺は影から退いて、手を差し伸べた。

 

「さあマリアさんを助ける為に手を取り合おう!俺には君が必要なのだ!」

「ちくしょう俺の心が強すぎる!」

 

影は悪態をつきながら手を取った。

そんな俺の影に、一つ教えてやろう。

 

「知らんのか。ハーレム作るにはまず心が強くないといけないんだよ」

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■アア■■ア■アアアアアああッおおおおらッしゃあああああ」

 

俺は雄叫びと共にチャンドラハースを引き抜いた。

翠緑の光を湛える神剣。

破壊神シヴァが、ラーヴァナの蛮勇を讃えて与えた月の微笑み。

その微笑みに光が増す。

 

ラーヴァナが頭を地面から引き抜く。

そして、此方を見る。

目を見開く。

 

「バカな、チャンドラハースを……ッ!?」

 

そう言う間にチャンドラハースのチャージが終わる。

 

「昨日のお返しだァッ!」

 

チャンドラハースを振るう。

翠玉の如き光の奔流が放たれる。

 

 

翠月残光波

 

 

「ぐおおおおおおおおお!!?」

 

ラーヴァナに奔流が命中。

胴体で受け止める。

 

「うおりゃああああああああ!!」

「ギャアアアアアアアアアア!!」

 

チャンドラハースに力を籠める。

シンフォギアの力を奔流に込める。

ラーヴァナの右腕が吹き飛ぶ。

胴体にヒビが入る。

 

チャンドラハースがエネルギーを全て出し尽くし、奔流が消える。

チャンドラハースはくすんだ緑色となる。

ラーヴァナは胴体が凹み、右腕が千切れたものの、いまだ健在。

 

「……耐えきったぞ、ラーマァ!」

「まだだァ!」

 

俺はチャンドラハースを投げ捨て、地面を蹴った。

ラーヴァナに対して一気に詰め寄る。

 

「なっ!?」

 

ラーヴァナが防御しようとする。

しかし、遅い。

チャンドラハースのダメージと、イヅナ落としによる脳のダメージが、ラーヴァナの行動を遅らせたのか。

俺はラーヴァナの凹んだ胴体に右腕を突っ込む。

 

「ぐぅぅ……!貴様、何を……ッ!?」

「ラーマに代わって、お前に引導を渡してやるッ!」

 

さて。

俺のシンフォギアはスダルシャン。

維持神ヴィシュヌの持つ、太陽を象徴とする戦輪だ。

その戦輪のエネルギーを装甲としているからこそ、俺のシンフォギア装束は各所からプロミネンスめいた炎を吹き出せる。

装甲自体が、聖遺物の特性を持っているのだ。

そのシンフォギアを纏った右腕をラーヴァナの胴体に突っ込んでいる。

 

つまり何が言いたいか?

俺はシャイニングフィンガーが使えるという事だ。

 

「これが俺の(むねのうた)だッッ!」

「ぎぃやあああああああ!!!」

 

ラーヴァナが断末魔の悲鳴を上げる。

胴体のヒビから炎が漏れる。

ラーヴァナの体内を、異常発熱したシンフォギアの右手で内側から燃やしているのだ。

 

 

紅蓮灼熱手

 

 

「バァニング、ラブッ!!」

「あああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 

ヒビ割れた胴体から、千切れた右腕から、口と目から炎が吹き上がる。

 

「アアアアア■アア■ア■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■…………」

 

もはや声も出ないラーヴァナ。

全身が黒く焦げていく。

そして───

 

「ラ、……マ────」

 

ラーヴァナは。

灰となって散った。

最後に、怨敵の名を呼んで……。

 

「うっ……」

 

思わず呻く。

ここまで飛んで来て、ラーヴァナと戦って。

肉体にダメージが蓄積されていたようだった。

ダメージが蓄積されていたのは、俺だけでなく。

シンフォギアも解除されてしまった。

 

「一鳴ッ!」

 

ふらふらと倒れそうな俺を、駆け寄ってきたマリアさんが受け止めてくれた。

 

「あ……マリアさん」

「一鳴、無事なのッ!?」

「ええ……。えへへ、無事です。だいぶ無理はしましたけれど」

 

マリアさんの腕に力が入る。

 

「私が、攫われたから……ッ!」

「そうですね」

 

俺もまた、マリアさんを抱き締めた。

身長の関係上、顔が胸に埋もれる。

やわこい……。

 

「大好きなマリアさんが攫われたから、必死こいて助けに来ました」

「一鳴……」

「でも、自分のせいでなんて、思わないで下さい」

「……」

「むしろ俺が助けに来てくれた、って誇って下さい」

 

俺はマリアさんに笑いかける。

マリアさんの心に傷が残らないように。

 

「というか、謝るべきは此方(こちら)です。俺が至らぬせいで、ラーヴァナに。アイツに好き勝手させてマリアさんを怖い目に合わせてしまった」

「一鳴……」

「ごめんなさい、マリアさん」

「ううん、いいのよ」

 

そう言うマリアさん。

 

「ただ……」

「はい」

「もう少し……。もう少しだけ、こうしてあなたを感じさせて……」

「ええ、もちろん!」

 

そうして。

俺とマリアさんは抱き締め合う。

お互いの体温を、お互いの命を感じ合うように。

 

 

 

 

 

 

と言う訳で今回のオチ。

ラーヴァナは完全破壊され、残ったインド産聖遺物は月の刃チャンドラハースと空飛ぶハイスペ戦車プシュパカ・ヴィマナ。そして俺が切り落としたラーヴァナの副腕一本。

もちろんインド政府が引き取りに来たのだが、上層部でどういう話が成されたのか、チャンドラハースは日本で引き取る事になった。

 

『と、言う訳で貴公のデュオレリック用聖遺物はチャンドラハースだった訳だ』

 

サイコロ神はそう言った。

そのチャンドラハースは永田町最深部、特別電算室【記憶の遺跡】に運び込まれた。

チャンドラハースが日の目を見るのは、まだしばらく後であるようだった。

貴重な完全聖遺物である。仕方ないね。

 

そんな訳で。

ラーヴァナ、チャンドラハース、プシュパカ・ヴィマナというクソヤバ完全聖遺物を日本に流出させたインド政府への落とし前はつけたという訳であった。

 

しかしラーヴァナ事件の余波は大きく。

プシュパカ・ヴィマナによって2課のデータベースがハッキングされた一件を訃堂司令は重く見ており、防諜の強化を命じたのだ。

これによって2課の黒服及びオペレーター陣は年末年始の休暇を返上する事になった。

……今度差し入れ持ってこよう。

 

そして、ラーヴァナに壊された孤児院の壁はドクターウェルの発注した建設会社が半日で直した。

また、敷地内に緊急時用のシェルターも同時に建設された。

子どもたちは、これでクリスマスパーティーが出来ると喜んだそうな。

 

めでたしめでたし。

……では終わらなかった。

 

「ふぇぇ……反省文終わらないよぉ」

 

俺は反省文を書かされていた。

罪状は、シンフォギアの故意による破壊。

原因はラーヴァナを燃やしたシャイニングフィンガーもとい紅蓮灼熱手である。

シンフォギアの腕部を異常発熱させて相手を燃やし尽くすヒサツ・ワザであるが、それはシンフォギアのシステムに負荷を物凄く与える技であった。

そして、俺はそれをわかって使ったのよね。

 

シンフォギアをオーバーロードさせて限界を超えた熱を発生させる。

ラーヴァナを倒す為の必要な措置、だと思ったのだ。

それ以上にその場のノリで使った感は否めないのだが……。

 

まあとにかく。

シンフォギアを壊して了子さんの仕事を増やした俺は反省文を書かされていたのであった。

 

「ドクター助けてぇ……」

「いやぁ、それはダメですよ一鳴くん」

 

俺が反省文を書かされている隣でモンブランを食べるドクターウェルである。

俺が反省文を書き上げるまでの見張りであった。

 

「マリアやレセプターチルドレン……孤児院の子どもたちを助けてくれたのは感謝していますがね。櫻井研究主任に絶対に手伝うな、と言われていますので」

「ふぇぇ……」

 

反省文を原稿用紙10枚分書けとかキツい。

鬼!悪魔!フィーネ!

 

「ドクター!英雄目指してるなら、困ってる俺を助けてくれぇ」

「一鳴くん、日本ではこう言う言い回しがあります。『若い時の苦労はブックオフで買ってでもしろ』と」

「苦労ならもう十分してるよぉ!!」

 

結局。

反省文を書き上げるのに3時間かかり。

ドクターは4個のケーキを平らげたとさ。

ちゃんちゃん。




決めるべきところで決める。
一鳴くんは主人公の器です。
二次創作者兼なんちゃってあんこ作者としては絶頂モンですわぁ!(10の出目を見ながら)

あ、あと一鳴くんの精神世界でのダイス目は戦闘ダイスの結果がどうであれ、アレで据え置きです。
前世でハーレム作って結婚して精神が成熟してるので、心がすでに完成済みなんですよ一鳴くん。
例えるなら6部のスタープラチナなんです。成長済みなんですよね。

次回は孤児院でのクリスマスパーティー回かな?お楽しみに。
それじゃあまた!


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第四十六話 クリスマスパーティー

グーグルくん!「サイコロ 振る」で検索したら、いろんな面数のサイコロ振れる機能が有るなら言ってくれよ!
サクシャみたいな、にわかあんこモドキ作者が喉から手が出るほど欲しかった機能じゃん!これで出先でもサイコロ振れるゾ!

そんな訳で、今日のあんこは全部グーグルくんの力を借りました。サンキューグーグル!



12月24日。

クリスマスイブ。

午後6時。

孤児院の食堂にて。

クリスマスパーティーが開催された。

立食形式で、皆がテーブルの上のご馳走を好きに取りながら歓談している。

 

ラーヴァナによって壊された壁はすっかり直っており、キラキラしたリースが飾り付けられている。

食堂の中央にはクリスマスツリーが設置されている。

 

天井まで届きそうな大きなモミの木だ。

キラキラとした飾りが着けられ、てっぺんには星飾り。

誰が星を飾るかで少し揉めたらしい。

結局じゃんけん大会で決めて、勝者たるセレナちゃんが着けたようだった。

 

テーブルの上にはフライドチキンやローストビーフ、サラダ。カルパッチョに唐揚げ。スープにはホワイトシチュー。パンやお寿司も用意されている。ドリンクにはシャンメリーや様々なジュース。

そしてもちろん、冷蔵庫にはケーキも待機している。

 

キラキラと暖かい、素敵なクリスマスパーティー。

そんなクリスマスパーティーに俺は招待されたのだった。

 

「メリークリスマス、ナスターシャ院長。皆さん。お招きあずかり光栄です」

 

俺は職員たちに差配しているナスターシャ院長に挨拶した。

 

「メリークリスマス、一鳴さん。来てくれてありがとうございます」

「調ちゃんたちに招かれましたので。本当は弦十郎さんとドクターも来る予定でしたが……」

「仕事ならば、仕方ありません」

 

そう。

本当なら孤児院の様子を定期的に見に来る弦十郎さんや、孤児院で暮らすドクターウェルもクリスマスパーティーに出席する予定だったのだ。

しかし、ラーヴァナが2課のメインフレームにハッキングした上にサーバーを落とされたというので、訃堂司令に防諜面の強化を指示されたのである。

そのせいで弦十郎さんや八紘さん、研究室の面々やオペレーター陣は今も仕事中である。

ここに来る前にフライドチキンとケーキを差し入れしたら、オペレーター陣に泣いて喜ばれたのは、流石に心にキたゾ……。

 

「あ、これ。弦十郎さん達からのクリスマスプレゼントです。皆さんでドーゾ」

「ああ、これは。ありがとうございます」

 

俺は手提げ袋を手渡した。

中身はシュトーレン、というドイツのケーキである。

レーズンやオレンジピール、ナッツが入ったケーキに、これでもかと粉砂糖がかけられた固いケーキである。

ドイツじゃクリスマスの定番だとか。

 

「皆さん、弦十郎さんとドクターからのクリスマスプレゼントです。早速いただきましょう」

「はーい!」

「Yeaaaaaaaah!」

「Fooooooooo!」

「やったぜ」

「成し遂げたぜ」

 

ナスターシャ院長の言葉にテンション爆上がりの子どもたち。

シュトーレン、そんなに嬉しかったのね。

 

俺はパーティーの中に入り込む。

居るはずの恋人たちを探しながら。

と、探し人の方から駆け寄ってくる。

 

「一鳴さん!」

 

調ちゃんに抱き付かれた。

 

「メリークリスマス、調ちゃん」

「メリークリスマス!一鳴さん」

「メリクリデース!」

 

後ろから切歌ちゃんもやって来る。

 

「調、みんなの前ではしたないわよ」

「そうですよ調さん、そんな羨まゲフンゲフン」

「欲望が隠せてねーぞ?」

 

更に後ろから、マリアさんセレナちゃんクリスちゃんも。

 

「皆もメリークリスマス」

「メリークリスマス、一鳴。あなたの分のお料理よ」

 

と、マリアさんがお皿を渡してくる。

チキンにローストビーフ、あとサラダ。

フォークも乗っている。

バランスの良い食事ね。

 

「ありがとう、マリアさん」

「あと調はいい加減離れなさい!」

「むぅ……」

 

少し膨れて、調ちゃんが離れる。

俺はそんな調ちゃんの頭を撫でてやる。

 

「そんなにむくれないの。ね?」

「ん……わかりました」

「調がご機嫌になったデース……」

 

切歌ちゃんが少し呆れたように言う。

 

「あ、そうだ!一鳴さんはちゃんとプレゼント用意してきたデスか?」

「もちろんよ」

 

切歌ちゃんが言うのは、この後行われる予定のプレゼント交換会用のプレゼントの事である。

高すぎず、かと言って安すぎず。

そして実用的。

絶妙なラインを攻め抜いたプレゼントを用意してきたのだぁ。

 

 

 

一鳴の用意したプレゼント【1D10】

 

1 懐中時計

2 図書カード5000円分

3 ツヴァイウィングのコンサートチケット

4 懐中時計

5 図書カード5000円分

6 ツヴァイウィングのコンサートチケット

7 懐中時計

8 図書カード5000円分

9 ソネット・M・ユキネのミュージックビデオ

10 ソネット・M・ユキネの水着写真集(非売品)

 

結果【7】

 

 

 

俺が用意したプレゼントは懐中時計。

精密な細工の施されたなかなかお洒落な一品。

懐中時計って、カッコいいよね。

懐からサッと取りだして時間を見る。

そんなスマートな大人になりたいわよね……。

きっと皆もそうだと思って、懐中時計に決めたワケダ。

 

「プレゼントはちゃんと持ってきて、入口で職員さんに預けてきたよ」

 

その職員さんが一気に纏めて、交換会の時に受け渡してくれるのだとか。

 

「おお〜、なに用意してくれたんデスか?」

「んー、秘密?」

「えー、気になるデスよ」

「みんなはなにを用意してきたの?」

「秘密」

「秘密デス」

「ふふ、秘密よ」

「私も、秘密です!」

「ここで言ったら、つまらないよなァ?」

「皆も秘密じゃーん!」

 

キャッキャウフフと戯れる。

うーん、楽しい!

 

「おっとお肉が冷めてしまう。いただきまーす」

「ローストビーフ、美味しいよ?」

「フライドチキンも絶品デース」

 

調ちゃんと切歌ちゃんの言うとおり、ローストビーフもフライドチキンも美味しかった。

 

「うん、美味しい!サラダもドレッシングがイイね」

「オリーブオイルベースのドレッシング、私が作ったのよ?」

「へぇ……、マリアさんスゴイ」

 

サラダのドレッシングはマリアさんが作ったらしい。

そういや、今日も食事を用意する為に午後3時に孤児院に着いたらしいし。

 

「他にマリアさんが作った物はどれです?」

「他は、シチューにケーキかしら」

「なら次はシチューをいただきましょう」

「あ、あの!私もシチュー手伝いましたよ!」

 

と、セレナちゃん。

 

「お、それはますます楽しみよね」

「えへへ……!」

「わ、私は……!」

「アタシたちは部屋を飾り付けたデース。ね、調!」

「……そう!頑張ったよ!」

「お、二人とも偉いね」

「やった……!」

「デース!」

 

調ちゃんと切歌ちゃんは嬉しげである。

褒められたら嬉しいものねぇ。

 

「ほれ、喉乾いたろ?ジュース貰ってきたぞ」

「あ、ありがとクリスちゃん」

「あと、空いた皿持ってくわ」

「ありがとね」

 

クリスちゃんからブドウジュースを渡された。

ワイングラスに入っている。

代わりに俺は食べ終わった皿にフォークを置いて渡す。

 

「皿洗いは誰がやってるの?」

「職員さんだな。でも何人か子どもたちも手伝ってる」

「そっか」

「ま、ゆっくりしとけよ」

「ん、ありがと」

 

そう言ってクリスちゃんは去っていく。

 

「クリス先輩……、まさか」

「いや、調の勘違いデスよそれ」

「セレナ、どう思う?」

「シーフ、ではないと思いますけれど警戒は必要ですね……」

 

四人は何か話し合っている。

一体なにを話しているのかしらね(すっとぼけ)

 

俺はブドウジュースを飲んだ。

……ん?味が変ね。

いや、これ……ワインだ。

 

「あー、クリスちゃん間違えたかな」

 

ごくり。

もう一口。

生まれて初めてのお酒。なかなか刺激が強いけど、懐かしい味。

前世じゃ妻たちと晩酌してたなぁ。

みんな元気かしら。

俺の遺産で苦労はしてないと思うけど。

……懐かしいな。

 

「一鳴さん、どうしました!?」

 

と、セレナちゃん。

なんだか、慌ててる。

 

「え?」

「泣いてますよ?」

「え、あー……」

 

知らず、涙を流していたらしい。

かつての家族を思い出したからか。

それとも酔いが回った?

とりあえず、俺は涙を拭った。

 

「んにゃ、少し懐かしい事を思い出していてね」

「……大丈夫ですか?」

 

俺の顔を覗き込んでくるセレナちゃん。

近いね……。

ぱっちりとしたお目々。白いお肌に桜色の唇。頬は室温が高いからか、赤くなっている。

 

「可愛い……」

「ふぇ……!?」

「セレナちゃん凄く可愛いよ」

 

俺は左手でセレナちゃんの髪を撫でる。

右手はワイングラスをゆらゆらと。

 

「髪もサラサラ……。ずっとこうしていたい」

「え、あの、一鳴さん……?」

「ホント、可愛い」

 

なんか、セレナちゃんキラキラしてるな。

可愛いな。

なんか、すごく可愛いぞ?

 

「可愛い」

「あ、あのあの、一鳴さん!どうしましたか……?」

「セレナちゃん可愛いなー、って」

「はぅ……可愛いって言い過ぎですよ」

「一鳴さん?」

「一鳴?」

 

調ちゃんとマリアさんが怪訝にする。

そんな二人も可愛いなオイ。

ジェットストリーム可愛いアタックかよ。

俺はワインを飲んだ。

 

「二人も可愛いね……」

 

俺はセレナちゃんを抱き寄せた。

 

「はぅ……」

「だ、大胆デース……」

「調ちゃんもマリアさんも、おいで?」

 

俺はワインを飲みながら、左手を広げて受け入れのポーズ。

 

「か、一鳴さん……?本当に変だよ?」

「顔も赤くて、目がトロンとして……すごくエッチ、じゃなくて!ちょっとそれ貸しなさい!!」

 

と、マリアさんにワインを取られる。

 

「あ、マリアさん!優しくして……」

「ん"ん"ッ!変な事言わないの!」

 

グラスを鼻に近づけるマリアさん。

 

「……やっぱり。これ、ワインじゃないの!!」

「え!?」

「デース!?」

 

あぁ、バレちゃった。

でも両手が空いたからセレナちゃんを抱き締めとこう。

ぬくい。かわいい。いいにおい。

うーん、酔いがまわってれいせいなしこうができない!

 

「はぅ〜〜〜〜〜!!」

 

だきしめたセレナちゃんが奇声をはっする。

 

「じゃあ、一鳴さんが変なのは、酔っ払ってたから?」

「そうね。たぶん、クリスが間違えちゃったのね」

「あたしがどうかしたか?」

 

と、クリスちゃんがもどってきた。

クリスちゃんもかわいいな。

きりかちゃんもかわいい……、かわいくない?いや、かわいくないわけがない(反語)

 

「ああ、クリス。あなたが持ってきたジュース、ワインだったみたいで……」

「一鳴さん、酔っ払っちゃった」

「え!?マジかよ……」

「うふふ、アイアムよっぱらい?」

「ね?」

「……すまん」

 

しょんぼりしたクリスちゃん。

かわいそう、なぐさめないと(しめいかん)

 

「クリスちゃん」

「な、なんだよ!?」

 

おれはクリスちゃんのあたまをなでた。

 

「な、なにしやがる!?」

「ちょっと一鳴!?」

「クリスちゃん、いいこ。いいこ」

 

なつかしいな。

むかしは、ないちゃったこどもたちをこうやってなぐさめてたものだ。

 

「なかないで、クリスちゃん」

「な、泣いてねぇよ!」

「いいこ、いいこ。しっぱいは、だれにでもあるから」

「やーめーろー!!」

 

クリスちゃんがあばれる。

そうよね、みんながいるまえだと、はずかしいものね。

でもやめない(こうてつのいし)

 

「何事です?」

 

あら、ナスターシャ院長がいらっしゃったわ。

クリスちゃんがさわいでたから、ようすをみにきたのね。

 

「マム!一鳴が間違えてワインを飲んじゃったの」

「なるほど……。それで……」

「クリス、よいこだねんねしなー(やさしいイケボ)」

「なんでもいいから早くなんとかしてくれ!」

「はぅぅ……マリア姉さん、調さん。私もうダメかも」

「セレナーッ!!」

「はぁ……。調、彼に水を飲ませて上げなさい」

 

ナスターシャ院長にいわれて、調ちゃんがあいたコップにみずをそそぐ。

 

「一鳴さん!これ飲んで!」

「うふふ、大吟醸かしら?」

「水だよ!?」

「ムッハハハ、ジョーダンよ。でもりょうてがふさがってるから、調ちゃんがのませて?」

 

みぎてでクリスちゃんを撫でて、ひだりてでセレナちゃんをだきしめる。

だから、みずをもてないのだった。

仕方ないね。

 

「はい、行くよ!」

「んんっ……ぷぁ」

「ん"ッ!飲み方がエッチ過ぎる!」

「マリア、黙りなさい(半ギレ)」

 

水をのませてもらう。

思考がクリアになる。

酔いが少しずつ冷めていく。

 

「まさか、ワイン一杯で酔っ払うとは……みんなごめんね」

「どうやら正気に戻ったようですね」

「だったらもう頭撫でるの止めろ!」

「あ、ごめん」

 

クリスちゃんの頭から手を離す。

 

「ついでにセレナも離してあげて」

 

と、調ちゃんに言われる。

腕の中のセレナちゃんを見たら、耳まで真っ赤になっていた。

 

「はぁはぁ……。た、助かった……」

 

セレナちゃんが離れる。

少し、フラフラしていた。

 

「苦しかった?ごめんね……」

「い、いえ!大好きな一鳴さんに抱き締められて、クラクラしちゃっただけですから!」

「ごめんね……無理矢理……」

「大丈夫!大丈夫ですから!むしろちょっと残念ですから!」

 

欲望が漏れていた。

 

「姉妹揃って欲望が漏れまくってるデスよ。調はああなっちゃダメデスよ?」

「うん」

 

切歌ちゃんは常識人やね。

 

ナスターシャ院長が場の空気を引き締めるように手を叩いた。

 

「さて!ゲストの正気が戻った所でプレゼント交換といきましょう!」

「うおおおおお!!」

「いいねぇ、盛り上がってきたねぇ!!」

「プレゼントだ!我々にはそれが必要なんだ!!」

「まだまだイケるぜ、メルツェェェル!!」

 

子どもたちのテンションは最高潮だった。

てか誰だメルツェル。

 

「皆さんのプレゼントはこちらで一度集めて、適当に番号を振りました。これから皆さんにくじ引きをしてもらい、出た番号と同じ番号のプレゼントを貰えます」

「車座になって、プレゼントを皆でぐるぐる回すスタイルじゃないんですね」

 

俺の疑問にナスターシャ院長は答えた。

 

「此方も一度はその方式を想定しましたが、皆で車座になるには一度テーブルをどかさないといけない上に、回すには大きすぎるプレゼントがありまして……」

「えぇ……」

 

どれだけ大きなプレゼントを買ってきた人が居るの……。

 

「ではくじ引きを始めます。まずは年少の子どもたちから。一鳴さんは申し訳ありませんが、後の方にくじ引きを」

「わかってますとも」

 

今日の主役は孤児院の子どもたち。

こちらはあくまでゲストだものね。

 

 

 

一鳴の貰ったプレゼント【1D10】

 

1 調ちゃんの選んだプレゼント

2 調ちゃんの選んだプレゼント

3 マリアさんの選んだプレゼント

4 マリアさんの選んだプレゼント

5 セレナちゃんの選んだプレゼント

6 セレナちゃんの選んだプレゼント

7 クリスちゃんの選んだプレゼント

8 切歌ちゃんの選んだプレゼント

9 メルツェルの選んだプレゼント

10 ナスターシャ院長の選んだプレゼント

 

結果【6】

 

 

 

「この番号は……、このプレゼントですね」

 

くじを引いた俺に、ナスターシャ院長がプレゼントを渡してくれる。

ピンク色の包装がされたプレゼント。

中身は軽くて、柔らかい。

 

「あ、それ私の選んだプレゼントです!」

 

と、セレナちゃん。

 

「あら、中身は……マフラーか!」

 

プレゼントの中身は淡い水色のマフラーだった。

素材は、カシミヤかな?

 

「結構高かったんじゃないの?」

「す、少しだけ奮発しました!」

 

中学生がカシミヤのマフラーは中々思い切ったと思う。

それだけ、孤児院の子どもたちを大事に思っていたという事だろう。

俺が貰っちゃったけど。

まあ、くじ引きの結果だし仕方ないネ!

 

 

 

ちなみに一鳴の懐中時計を当てたのは?【1D10】

 

1 モブのレセプターチルドレン

2 モブのレセプターチルドレン

3 モブのレセプターチルドレン

4 調ちゃん

5 マリアさん

6 セレナちゃん

7 切歌ちゃん

8 クリスちゃん

9 ナスターシャ院長

10 メルツェル

 

結果【4】

 

 

 

カチリ、と懐中時計の蓋を開ける音。

 

「ふふっ……」

 

パチリ、と懐中時計の蓋を閉める音。

 

「えへへ……」

「調が時計に夢中デース……」

 

流石の切歌ちゃんも呆れ顔である。

俺が買ってきた懐中時計を見事に当てたのが、調ちゃんであった。

プレゼントを当てて、「それ俺のプレゼントよ」と教えた瞬間、右手を高く掲げて完全勝利のポーズを取っていた。

 

「それだけ喜んでくれて、俺としては嬉しいけれどね」

 

プレゼント選んだ甲斐があったね。

プレゼント交換会が終わったのを見計らって、ナスターシャ院長が口を開く。

 

「プレゼント交換が終わりましたね。それでは最後にケーキを食べましょう」

「ッシャッ!!」

「この瞬間を待っていたんだ!!」

「お腹はまだまだ空いてるぜメルツェェェル!」

 

子どもたちも大喜びだ。

もちろん、俺も喜びに溢れているとも!

甘いの好きだからね!

 

「はい、どうぞ」

 

と、ケーキを切り分けに行ったマリアさんが一切れ分けてくれた。

イチゴのショートケーキだ。

イチゴに粉砂糖が掛かっていて、雪化粧の趣を感じさせる。

 

「そのケーキは私が作ったのよ」

「なら、味わわないとネ」

「ふふ、少し気恥ずかしいわね」

 

まずは一口。

うん、生クリームの甘さとスポンジ生地の間に入ったイチゴのスライスが見事にマッチしてる。

 

「美味しいよ、マリアさん」

「良かった。口に合ったみたいで」

 

俺に微笑みかけるマリアさん。

皆もケーキに舌鼓をうっている。

 

「ケーキ美味しいデース!」

「うん、美味しいね切ちゃん」

「ん、んぐっ。うめぇ!」

「クリスさん、ほっぺたに生クリームが付いちゃってますよ」

 

ワイワイと賑やかな、楽しいクリスマスだ。

甘いケーキ。素敵なプレゼント。キラキラ光るクリスマスツリー。

そして、笑顔の子どもたち。

 

「一鳴、どうかした?」

「え?」

「すごく、遠くを見る目をしていたわよ?」

 

言われて気付く。

どうやら、俺はまだ酔っているようだ。

 

「……そうですね。遠い昔を思い出していました」

 

遠い、遥か遠い昔。

前世の頃の、俺が父親で沢山の妻と沢山の子どもたちと暮していた頃の光景。

今はもう、思い出すことも稀になった過去。

 

「ねぇ、辛かったら言ってよ?」

「ん、大丈夫。その時は、ちゃんと甘えます!」

「よろしい!」

 

マリアさんと笑い合う。

うん。今の俺は、この世界で生きる渡一鳴なのだ。

だから。

 

「ねぇ、マリアさん」

「ん、なぁに?」

「来年も、こうして皆と過ごせたら良いね」

「そうね」

 

過去の思い出は、一旦心の宝箱に仕舞って。

今はこの人生を、出会いを。

大切にしていこう。

そんな、クリスマスイブの一幕でした。

 

 

 

 

 

 

クリスマス当日のトラブル【1D10】

 

1 一鳴のフートンに潜り込む調

2 一鳴のフートンに潜り込む調

3 一鳴のフートンに潜り込むカデンツァヴナ姉妹

4 一鳴、カデンツァヴナ姉妹丼を味わう

5 一鳴のフートンに潜り込むカデンツァヴナ姉妹

6 一鳴のフートンに間違って潜り込む切ちゃん

7 友里に補食される藤尭

8 友里に補食される藤尭

9 友里に補食される藤尭

10 弦十郎とフィーネがベッドイン!!!

 

結果【8】

 

 

 

「おはようございます」

 

12月25日。

朝8時。

クリスマス当日。

孤児院で泊めてもらい、朝ごはんもご馳走になって。

2課に出勤したのだが……。

 

「あら、おはよう♪パーティー楽しかった?」

 

友里さんのお肌がツヤツヤしていて、ご機嫌であった。

昨日まで、目の下のクマを化粧で隠していた位だったのに。

そして───

 

「あ、おはよ……」

 

藤尭さんの頬が痩けていた。

生気が半ば無かった。

というか、口から魂がちょっと出ている気がした。

 

「……おはよう、一鳴くん」

「おはようございます、弦十郎副司令。……あの二人、どうしたんですか?」

 

俺は弦十郎さんに聞いた。

 

「う、む。昨日飲みに行ったらしいのだが、な。藤尭はどうにも酒をガバガバ飲まされて───」

「友里さんにお持ち帰りされた、と?」

「……そうらしい」

 

そう言う事であった。

酒の勢いやったんやろなぁ……(恐怖)

 

「どれだけ、搾り取られたんですかね……」

「……あ、あまり詮索するのは良くないぞ(震え声)」

 

そう言う事らしかった。

弦十郎さんにそう言われたなら、詮索するのは止めておこう。

雉も鳴かねば撃たれまい、という奴だ。

 

「藤尭くん♪今夜も飲みに行きましょ♪♪♪」

「ヒェッ……」

 

身体の相性がよほど良かったのか。

またお前を食ってやる宣言される藤尭さん。

 

可哀想に……。

今夜も搾り取られるのね……。

後で赤マムシドリンクを差し入れよう……。

そう思ったクリスマスでした。

 

どっとはらい。




グーグルくんはどうやら友里×藤尭派らしいな……。


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第四十七話 オートスコアラー・スクランブル!①


明けましておめでとうございます(フライング)
そんな訳で、今年最後の投稿です。

そういやXDU、新しいイベントやるようですね。
キャロルとオートスコアラーと、暴走したアダムの話。
そのね……、今回の作者が考えた話、キャロルとオートスコアラーが活躍する予定なのよね。
……、ネタ被ったな。



 

 

2040年1月1日である。

元日である。

そんな訳で、明けましておめでとうございます。

渡一鳴です。

テレビがつまらんので、部屋でのんびりしてます!

ビバ、寝正月!

 

いやー、早いもので今年小学校卒業ですよ奥さん!

来年からは中学生、ひびみくのセーラー服が見られるぞ!

……ひびみく中学生の制服、セーラー服だっけ?ブレザーだっけ?

まぁいいや。

 

原作なら、来年の1月にやるツヴァイウィングのライブで奏さんが亡くなって、響ちゃんがガングニールの融合症例になるのよね。

この世界でも響ちゃんがシンフォギア装者になるのは確定した運命である以上、その事件に類する事が起きる可能性は高いのよね。

たとえ奏さんが、この世界でガングニールの装者になっていなくても。

 

と、いうか。

この世界と原作世界、結構違う点が多いからなぁ。

原作装者は既に日本に大集合してるし。

ギリシャはオリュンポス十二神が蘇って欧州乗っ取ったし。

……そもそも、ギリシャはどれだけの国を侵略したのかしら。

 

 

 

現ギリシャの保有領土【1D10】

 

1 イギリス以外の欧州圏

2 イギリス以外の欧州圏

3 イギリス以外の欧州圏

4 イギリス以外の欧州圏

5 イギリス以外の欧州圏

6 欧州全土

7 欧州全土

8 欧州全土

9 欧州+中東

10 欧州+中東+中央アジア

 

結果【1】

 

 

 

ネットでググッと調べてみる。

現在のギリシャは、北はバルト三国、南はエジプト、西はポルトガル、東はウクライナまでがっつり勢力下におさめている。

しかし、なぜかイギリスはギリシャから独立している。

もう少し、深く調べてみる。

……どうやら、イギリスは攻められてなかったようだ。

土地がクソやからね、イギリス。

それに海で隔たれてるし。

 

……しかし、イギリスにはアーサー王伝説やケルト神話など、多くの聖遺物に恵まれた土地だ。

いつか、ギリシャとやり合う時には味方になってくれるかも。

 

そのギリシャもとい欧州だが。

どうにも鎖国めいて国交封鎖しているらしい。

国境、あるいは海岸線に高い壁を築いているのだ。

 

2課でも情報収集はしているけれど、中々ギリシャ内部の情報が漏れてこないのだそうな。

それでも、衛生写真から漠然とした情報はわかるけれど……。

 

 

 

ヨーロッパの衛生写真【1D10】

 

1 ギリシャ以外は戦争の傷跡が生々しい……

2 ギリシャ以外は戦争の傷跡が生々しい……

3 ギリシャ以外は戦争の傷跡が生々しい……

4 復興はされてるみたい

5 復興はされてるみたい

6 復興はされてるみたい

7 未来都市ヨーロッパ

8 未来都市ヨーロッパ

9未来都市ヨーロッパ

10 分厚い雲で覆われていてなんもわからん……

 

結果【2】

 

 

 

ヨーロッパの大地はアメリカが撃った反応兵器やらパーフェクトソルジャー軍団が持ち込んだ超兵器やら、オリュンポス十二神の持つ完全聖遺物の一撃やらなんやらであちこち傷付いた。

その傷がそのまま残っているのだ。

もう、戦争から3年以上経つというのに、復興がまるで進んでいない。

その癖、ギリシャ本国はこれでもかと発展している様子が見て取れた。

国にひしめく高層建築物。

各所に建設された巨大神殿。

エーゲ海に並ぶ、戦艦と思しき構造体。

 

2課の見解では、ギリシャやオリュンポス十二神は侵略した国を治めるつもりはないのだろうという事だった。

確か、オリュンポス十二神の寿命をなんとか出来る聖遺物が持ち去られたから、それを探すために戦争起こしたのだったか。

それで戦争起こすとか、傍迷惑な奴らである。

……古代の神だから仕方ないか。

 

そういえば、オリュンポス十二神はアヌンナキの1氏族を名乗っているのだったか。

アメリカのパーフェクトソルジャーがとっ捕まえた軍神アレスをお薬の力で正直にして吐かせた情報由来だが。

だが。

そもそも、アメリカが用意していたのは人間用のお薬だったはず。

その薬が、アヌンナキであるアレスに効いたのか?

神なのに?

 

なにか、変な気がする。

なんだろう、こう、違和感が───

 

「一鳴ーっ!響ちゃんと未来ちゃんもう来たわよ!初詣行くんでしょ!」

 

と、階下から母の声。

そういえば、今日は二人と一緒に初詣に行く約束してたのよね。

 

「今行くー」

 

俺はベッドから起き上がる。

出かける準備しないとなぁ。

……というか、なんかさっき感じた違和感どっか行ったな。

まぁ、いいや。

 

まずは初詣である。

屋台で地味に高いじゃがバターやたこ焼き買おう。

 

そういえば、キャロルちゃんとミカちゃんも元旦は休み貰ったんだったか。

キャロルちゃん2課で働いて家でオートスコアラー修復する作業に没頭してたらしいから、元旦くらいはゆっくり休んでると、良いけれど……。

 

 

 

 

 

 

「キャロル!お汁粉出来たよ!」

「マスター、休むゾ!」

「いや、待て。あと少し……」

「ダメだよキャロル!そう言って朝からずっとじゃない!休まなきゃダメ!」

 

キャロル邸にて。

エルフナインとミカに引きずられて、キャロルが作業部屋から連れ出される。

この家は、訃堂がキャロルたちの為に用意した家である。

郊外に建てられた60坪ほどの広さの一軒家であり、部屋数は8。その内一つがキャロルの部屋兼作業部屋なのであった。

その作業部屋から引きずられてリビングに連れて来られて、椅子に座らされる。

目の前のテーブルにはお汁粉だ。

エルフナインの手製である。

甘い匂いが漂っている。

 

「日本の冬はお汁粉飲むのが定番なんだって」

「ミカも手伝ったゾ!」

「そうか……」

 

キャロルはお汁粉を一口飲む。

 

「甘い……」

「美味しいでしょ?」

「ああ、そうだな」

 

箸を使い、餅を掴む。

一口、齧る。

箸を離すと、餅が伸びる。

 

「んおっ!?」

「すっごい伸びてるゾ!」

「キャロル噛みちぎって!」

「んぐ、んぐぐ」

 

キャロルはなんとか餅を噛みちぎる事に成功した。

 

「んぐ……餅も旨いな」

「うん!そうだね」

「おじいちゃんが持ってきた餅なんだゾ」

「ああ、そういえばあったな。そんなの」

 

2日ほど前、キャロルの仕事納めの時に。

上司である訃堂に1キロ程の餅を渡されたのだった。

訃堂……風鳴家が普段発注している贔屓の餅屋の餅である。

ちなみにその餅屋、宮内庁御用達の餅を販売している餅屋である。

つまり高級品だ。

 

そんな餅を使ったお汁粉を堪能するキャロルとエルフナイン。

ミカは食事機能が無いので、二人の側で荒ぶる鷹のポーズで待機している。

 

「そういえば」

 

おやつのお汁粉を食べ終わった段階で、エルフナインが口を開く。

 

「ガリィ達の進捗はどんな感じ?」

 

オートスコアラーたちはギリシャにてチフォージュシャトーと共に大破した。

その修理……、もとい再作成をキャロルは行っていたのだ。

 

「7割ほどは終わっている」

「あとはキャロルの思考のダビング作業?」

「それと各関節の微調整か……」

 

元旦の昼下り。

可愛らしい少女たちが話す内容は、どこまでも専門的であった。

 

「それと、彼女たちの服も作製しないとな」

「それは、ボクがやるよ!」

「ふざけるな一番楽しい作業だぞ!」

 

少女たちは戯れ合う。

 

「なら、関節の調整はボクがやるから、ファラとレイアの服はボクに作らせて!」

「なら、オレが思考のダビングとガリィの服か……」

「アタシも新しい服欲しいゾ!」

 

ミカが荒ぶる鷹のポーズを止めて、二人の会話に食い付く。

 

「なら、キャロルはミカとガリィの服を作ってね」

「……仕方ないか」

「やったゾ!新しい服はフリフリのが良いゾ!」

「今でもフリルが付いてるだろうが……」

「もっとフリフリしたいゾ!ガリィみたいなスカート着けて欲しいゾ!」

「わかったわかった」

 

そんなかんじで。

キャロル家での元旦は過ぎていった───

 

 

 

 

 

 

暗く冷たい空間。

どこまでも機械的で、気温も湿度も空気の流れさえ管理された空間。

数キロ四方の、柱や壁など隔てる物のない広い空間に、それらは立っていた。

立って、俯いていた。

マネキンを思わせる、無機質な身体。

球体関節と、愛らしい顔の少女人形たち。

彼女らが、瞼を閉じ眠るように。

キチンと整列して待機している。

 

そして。

見る人が見ればわかるだろう。

その少女たちには4種類の(タイプ)に別れている事を。

彼女らの顔は、キャロルの側を侍る終末の四騎士(ナイトクォーターズ)に酷似している事を。

ガリィ・トゥマーン。

ミカ・ジャウカーン。

ファラ・スユーフ。

レイア・ダラーヒム。

以上、4種類。

それぞれ250機。合計1000機の自動人形たち。

 

彼女らは眠り続ける。

いずれ来たる主命を果たすまで。

それはもうすぐに───





来年もだらしねぇ作者と拙作『転生者はシンフォギア世界でオリジナルシンフォギア装者として生きるようです』をよろしくお願いします。
では、良いお年を───


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第四十八話 オートスコアラー・スクランブル!②


明けましておめでとうございます。
今年も作者と、拙作をよろしくお願いします。
今回の話は、ちょっと懐かしい人が出てきますよ。



 

 

2040年1月2日。

深夜2時。

 

人々から寝静まり、初夢を見ている頃。

横浜の街を東京湾を横目に走る10トントラックが一台。

その前後を挟むように黒いトヨタのセンチュリー。

彼らは2課のエージェントである。

トラックの荷台に載せたモノを深淵の竜宮に納める為に、正月の深夜に車を走らせているのだ。

 

深淵の竜宮。

日本領海内の海底に建てられた、聖遺物の保管庫である。

内部に納められるのは得てして、役に立つというよりも厄介極まりないモノばかりである。

彼らが運んでいるのも、そういったものである。

 

10トントラックの中。

強化ガラスで出来たシリンダーが一つ。

透き通る緑色の溶液の中に居るのは、人でありながら完全なる機械となった女性。

冬木の街にて聖杯戦争を執り行い、神霊エイワズを蘇らせた魔術師。

手足を切り落とされた頭と胴体だけの人型兵器。

その名を、阿礼星乃と言った。

 

その星乃はシリンダーの傍らに侍る女性に声を掛ける。

 

「貴女まで一緒に来なくていいのよ、菊江」

 

菊江、そう呼ばれた女性はゆるゆると横に首を振る。

 

「私は星乃様の侍女でございますから。地獄の底までお供致します」

「そう」

 

二人は幼少の頃から主従の間柄にあった。

だからこそ。

二人は親友としての関係も育んできたのだ。

たとえ、主が人を捨てても。

たとえ、主がモノとして海底に封印される事になっても。

菊江は星乃の側を離れるつもりは無かった。

 

「……」

 

そもそも。

星乃を深淵の竜宮に納めようと言い出したのは2課ではない。

冬木に政治基盤を置く官僚や政治家である。

星乃は聖杯戦争を円滑に運営する為に、そう言った官僚や政治家たちに裏金を渡して協力させていたのだ。

だからこそ、星乃は知っている。彼ら政治屋たちの裏の顔、影での行いを。

だからこそ、彼らは恐れたのだ。

星乃が彼らの悪行を2課に言う事を。

もっとも、その程度の悪行など2課はとっくの昔に知っているのだが。

 

とにもかくにも。

だからこそ、彼らは星乃を深淵の竜宮に押し込める事にした。

人から変異した人外、聖遺物として。

2課は抵抗したのだが、星乃がそれを了承したのだ。

 

(私はもう……)

 

星乃は疲れていた。

人を捨たのは、エイワズを蘇らせたのは、聖杯戦争を開催したのは、アレイスター・クロウリーを召喚したのは、全て死んだ娘を蘇らせるために。

娘の真緒を再びこの腕に抱くために。

しかし、その願いは果たされなかった。

 

残ったのは、硬く冷たい機械の身体。

星乃には生きる気力というものが無くなっていた。

だからこそ、そんな自分に菊江を付き合わせるのは嫌だったのだが……。

 

(無理矢理着いてくるんだものね……)

 

2課も、菊江を深淵の竜宮に向かわせるつもりは無かったのだが、本人が強く希望したのだ。

あまりに根強く希望したので、最終的に訃堂が折れたのであった。

 

「菊江」

 

ありがとう、そう言おうとして。

トラックが大きく揺れた。

 

「きゃあ!!」

「菊江!」

 

揺れに耐えきれず、床に倒れ込む。

 

「大丈夫です。ですが、一体なにが……」

「空に、何かいるわね」

 

星乃の頭部センサーは、トラックの上空に居る何かを察知していた。

 

「大きいわね……、このトラックよりも大きい。……それにホバリング音が聞こえる。しかも二重に。……サイドバイサイド方式のツインローターか」

 

更に重低音。

そして浮遊感。

 

「星乃様!?」

「トラックを持ち上げたのね。……なら、上に居るのは輸送ヘリ【STORK】ね」

 

星乃はセンサー類から得た情報と、重工業系企業の株主だった知識からトラックを持ち上げた物の正体を看破した。

輸送ヘリ【STORK】、コウノトリの名を持つヘリだ。

機体の左右両端に大きなメインローターを備え付けた大型輸送ヘリだ。

装甲も分厚く拡張性も高いので、戦地でも運用される名機である。

そして、輸送用のアームはトラック一台運べる程のパワーを持っている。

 

「どんどん持ち上げられていくわね……。現在上空50メートル。……運転手は、飛び降りて逃げたのね」

 

運転席の方をセンサーで察知して、そう星乃は言った。

 

「星乃様、私たちはどこに……!」

「さぁ?少なくとも、深淵の竜宮では無いでしょうね」

 

ヘリはどんどん上昇していく。

方向転換、速度を上げて飛んでいく。

 

「星乃様……」

「安心なさい。少なくとも、すぐに命を取るつもりは無いでしょうから」

「それは、わかりますが……」

 

もし星乃の命が目的なら、トラックをロケット砲なりなんなりで破壊しただろう。

だが、犯人はヘリでトラックごと連れ去る事を選んだ。

なら、目的は星乃か菊江の身柄である。

 

「……交渉出来る相手なら良いのだけれど」

 

せめて、こんな自分に着いて来てくれた菊江だけは守りたい。

そう思う、星乃であった。

 

 

 

 

 

2040年1月2日。

7時。

2課の発令室にて。

 

俺は急に2課に呼び出されていた。

 

「おい、今はオレも一鳴も正月休みだぞ。それを呼び出すなら余程の事態なんだろうな?」

 

キャロルちゃんが目元をヒクヒクさせながら弦十郎さんに言う。

休み中に呼び出されたからね、半ギレなのね。

 

「二人とも済まない。しかし緊急の事態が発生してな」

「なんです?」

「5時間程前、深淵の竜宮へ護送中の阿礼星乃が連れ去られた」

「は?」

 

弦十郎さんが言うには。

深淵の竜宮に星乃を収蔵する為に、横須賀基地に向けて走っていたトラックを、トラックごとヘリが連れ去ったのだという。

阿礼星乃。

聖杯戦争を開いた魔術師にして、聖杯を作る技術を持った魔女。

そして、機械の身体を得た女性。

 

「護衛連中は何をしていた?」

 

と、キャロルちゃん。

 

「護衛は最低限でな、コレには勝てなかった」

 

そう言うと、弦十郎さんがモニターに映像を出す。

護衛の車に備え付けられたカメラだろうか。

トラックに覆い被さる大きな機械が映る。

ローターが2つ付いた、大きなヘリコプター。

 

「これは……」

「STORK、という輸送ヘリコプターでな。装甲が分厚く、護衛の持つ武装では装甲を抜く事すら出来なかったんだ」

「まあ、硬そうですからね……」

 

STORK、5メートルほどの人型兵器を運んでそうだし、タフだよなぁ。

でも、これ結構目立つよね。

 

「犯人はこのヘリ持ってる奴ですよね。目立つから、すぐ見つかりませんか?」

 

俺の疑問に弦十郎さんは苦々しい顔で答えた。

 

「それなんだがな……」

「何か?」

「38、だ」

「……なにが、です?」

「日本でこのヘリコプターを所有している組織、企業、個人だ」

 

つまり、38の容疑者が居ると言う事か……。

 

「絞り込めないのか?」

 

キャロルちゃんが聞くが……。

 

「ある程度は現在絞り込んでいる所だが、それでも20はあるという話だ」

「話にならんな……」

 

嘆息するキャロルちゃん。

 

「それで弦十郎さん、俺達はどうすれば?」

 

そう、星乃を探すのに俺もキャロルちゃんもあまり役には立たない。

いや、キャロルちゃんは錬金術師だから、物探しの術式とかあるかも知れんが。

 

「この映像を見る限り、相手は武装集団である可能性がある。そして、更なる攻撃を仕掛けてくる可能性も」

「つまりもしもの時の為の備えとしてオレたちに待機させるという事か」

「そうだ」

 

キャロルちゃんは憮然としている。

 

「正月から迷惑な奴らだ」

「本当にね……」

「まったくだ……」

 

俺たち3人はため息をついた。

 

「そう言えばキャロルちゃん、ミカちゃんは?」

「アイツは家だ。エルフナインの護衛でな」

「なるほど」

「エルフナインには破壊されたオートスコアラーの作成を頼んでいる。……もう少ししたら人不足も解消されるかもしれんぞ?」

「それは嬉しいね」

 

前線で戦えるの、俺とキャロルちゃんとミカちゃんだけだものね。

しかもミカちゃんは基本的にエルフナインちゃんの護衛で離れられんし。

ガリィちゃんたちが復活したら大分楽になるぞぉ!

 

そんな事を話していると……。

アラームが鳴り響く。

 

「なんだ!?」

「市街地にて、何者かによる襲撃です!」

「現在、……広範囲に被害が!」

 

オペレーター陣による報告。

敵さんが早速行動に移したかしら。

 

「早速出番だな」

「昨日お餅いっぱい食べたから、運動には丁度いいね」

 

食べ盛り、という事で食べ過ぎてしまった。

お腹がぷにる前に運動しましょ。

 

「出撃するぞ!」

「頼む!」

 

弦十郎さんの言葉を背に受けて、発令室を去る。

さぁ、正月を騒がせる悪い奴を懲らしめましょ!

 

 

 

 

俺とキャロルちゃんは、キャロルちゃんのテレポートジェムで攻撃を受けている街に転移した。

 

「これは……、酷いな」

 

被害を受けたのはビジネス街、正月で人通りは少なく人的被害は出ていないらしい。

しかし、道やビルはひび割れ壊れている。

そして、何より。

 

「凍ってる……」

 

道もビルも、そして街路樹も全てが凍っていた。

 

「錬金術師の仕業か?」

「にしても、街一つ凍らせられるもの?」

 

俺の疑問にキャロルちゃんが答えた。

 

「オレならともかく、普通の錬金術師には厳しいな」

「つまり敵は並々ならぬ錬金術師か」

「あるいは聖遺物を使ったか」

 

街の中に入る。

道もビルも凍っている。

そして白い冷気が街を包む。

寒いな……。

そして、物音一つしない。

 

「敵さん、どこいった?」

「さぁな。油断するなよ、一鳴」

「こんな視界不明瞭な所で油断なんてしませんよ」

 

10メートル先が霞む中、油断なんて出来るはずもなし。

そんな訳で上下左右警戒していたのだが。

 

「……ッ、一鳴!」

 

キャロルちゃんが叫ぶ。

辺りから何者かが疾走する足音。

それが四方から。

つまり。

 

「複数犯か!」

 

 

 

迎撃ダイス【1D10】

(数が多い人に有利)

 

一鳴【6】

キャロル【2】

襲撃者たち【3】

 

 

 

「イヤーッ!」

 

俺はアームドギアの大戦輪を振り回す。

こんな冷気の中、炎を出せば水蒸気で視界がとんでもない事になるので、炎は無しである。

そして、襲撃者たちはその戦輪の一撃だけで迎撃出来てしまった。

否、()()()()()()()

 

「……は?」

「これは……自動人形か?」

 

キャロルちゃんが襲撃者の破片を見て呟く。

破片は手足のような物、球のような物、そして顔のような物。

そして、その顔は……。

 

「なんだと……ッ!?」

「これ……」

 

その顔は少女の顔であった。

虚空を見る濁った目。

鋭利な歯の生えた口。

黒いボブカットの髪。

その髪を纏める青いヘアバンド。

……これ、ガリィちゃんじゃない?

 

「ガリィ……何故だ?」

 

キャロルちゃんが呟く。

その呟きに答える声が聞こえる。

 

「あら、わたくしのオリジナルをご存知なのですね」

 

その声の主は道を歩いてくる。

カツン、カツン。カツン、カツン。

冷気の奥からその姿が見える。

黒い装甲。

細長い顔。

紅い瞳。

人よりも高い背丈。

それは黒い馬の自動人形だった。

 

「え、馬?」

「それはわたくしの愛馬です」

 

その黒馬の自動人形の背から、更に声。

冷気が突如として晴れる。

青い空が、白く凍った街が見える。

そして、声の主。 

此方を見る濃い青の目。

鋭利な歯の生えた口。

黒いボブカットの髪。

その髪を纏める青いヘアバンド。

手には、黒い天秤。

 

「ガリィ!?」

 

キャロルちゃんが叫ぶ。

なら、やはりあの自動人形はガリィちゃんなのか?

 

「いいえ、いいえ!わたくしはガリィ・トゥマーンでは御座いません!そして、そこに転がる量産型も!」

 

彼女はガリィちゃんではないと言う。

そして、そこらに転がる襲撃者の成れの果てもガリィちゃんではないと。

なら、彼女らは一体……。

 

「わたくしは新生の四騎士(メカニカルクォーターズ)が一人!黒騎士と、呼んでくださいませ」

 

新生の四騎士、メカニカルクォーターズ。

彼女は、ガリィちゃんに似た黒騎士はそう自称した。

 

新生の四騎士(メカニカルクォーターズ)、だとッ……」

「わたくしだけではありませんわ、レディ・キャロル」

 

そう黒騎士は言う。

その直後、更に3つの気配が黒騎士の背後から現れる。

 

「そうとも」

「わたしたちもまた、ここに」

「そうだゾ。我ら四騎士、ここに揃っているゾ」

 

コツコツと、凍った道を進む3騎の人形騎士たち。

 

一人は白い馬型自動人形に乗り。

金色の瞳。

癖っ毛の黒髪。

スレンダーな体躯。

その手には金色の弓と矢。

その顔はレイア・ダラーヒムと同じものか。

 

新生の四騎士(メカニカルクォーターズ)が一人、名を白騎士。派手に覚えていってくれ」

 

一人は赤い馬型自動人形に乗り。

緑の瞳。

栗色のロングヘア。

女性的な身体付き。

その手には、幅広のレーザーブレード。

その顔はファラ・スユーフと同じものか。

 

新生の四騎士(メカニカルクォーターズ)が一人、名を赤騎士。以後お見知りを」

 

一人は青ざめた馬型自動人形に乗り。

紅い瞳。

紅く豊かなロール髪。

真っ黒な大型の掌の指には、爪の代わりに穴が空いている。

その顔はミカ・ジャウカーンと同じものか。

 

新生の四騎士(メカニカルクォーターズ)が一人、名を青騎士。今日は顔合わせだゾ」

 

青騎士が気になる事を言う。

 

「顔合わせ?」

「そうだゾ」

 

青騎士が頷く。

白騎士が言葉を繋いだ。

 

「我ら四騎士、今日は我らが主の言葉を伝えに来た」

「主?」

 

わざわざキャロルちゃんの自動人形と同じ顔の自動人形を用意した人間の言葉か。

 

「そうだ」

「我らが主は、昨夜、阿礼星乃を我らが館に招かせていただきましたわ」

 

と、赤騎士。

阿礼星乃を拐った犯人は、やはりコイツら一派か。

 

「で?」

「阿礼星乃の居る、我らが館。その場所を知りたくば」

「わたくしたちを倒して、頭の中のチップを集めて下さいな」

 

黒騎士が、自分の頭を指でコツコツ叩く。

 

「4つ集めたら、館の場所がわかる仕様です」

「ほう……。なら、今すぐにでも!」

 

キャロルちゃんが戦闘態勢に入るが……。

 

「止めたほうが宜しいですよ?」

 

黒騎士が止める。

 

「同胞たる青騎士は、人間相手なら有利に立ち回れますから」

「そうだゾ」

 

黒騎士が言う。

黒騎士は静かに手を上げて、指を街路樹に向ける。

そして。

黒騎士の指から黒い煙が射出される。

 

「な!?」

「黙って見てるゾ」

 

黒い煙は街路樹にまとわりつく。

煙の奥、街路樹は少しずつ削られ小さくなり。

そして、十秒もしない内に消え去った。

 

「にひひ。これがアタシのチカラだゾ」

「派手じゃないが、強力だろう?」

「有機物を分解するナノマシン、ですわ」

 

白騎士と赤騎士が言う。

有機物を分解するナノマシンとは。

∀ガンダムの月光蝶の有機物版か。

確かに人間特攻だな……。

 

「しかし、わざわざ俺達に手の内教えるとか、油断しすぎじゃない?」

「それでも勝てると判断したまで、です」

 

黒騎士がそう言う。

 

「わたくしたちはわたくしたちの有用性を我らが主に証明したいのです」

「そうだ。我らはただの人形にあらず」

「四騎士揃えば負けは無し」

「そして、一騎でも負けはしないと証明するんだゾ」

 

つまり、奴らは。

 

「我らは貴方たち2課に決闘を申し込みます」

「我らは一騎」

「貴方たちは何人でもどうぞ」

「だが、もしここで勝負すると言うのなら」

 

白騎士が指を鳴らす。

瞬間、ビルの影から。窓から。裏路地から。

ゾロゾロと自動人形たちが現れる。

レイアの、ファラの、ガリィの、ミカの。

それぞれの顔をした、無数の自動人形たち。

 

「我らをかたどった量産型自動人形1000機。いや、先程破壊された4機を引いて996機の量産型と共に挑み掛かろう」

「勝ち目は無いから止めておくべきかと」

「アタシとしては、ここでやるのも良いと思うゾ」

「青騎士、派手に抑えろ」

 

キャロルちゃんと背中合わせになる。

街中から視線。

本気で1000機近く街にいるみたいだな。

勝率は……低いな。

特に、青騎士のあのナノマシンはヤバい。

自動人形の中、使われたらマズイぞ……!

 

「聞こえるか、一鳴くん!キャロルくん!」

「弦十郎さん!」

 

本部の弦十郎さんから連絡。

 

「その決闘は、受けるべきだ。今の君たちに勝ち目は無いッ!」

「……確かに」

 

悔しいけれど、確かにそうなのよね。

俺はキャロルちゃんと目を合わせる。

キャロルちゃんは唇を噛み締めて小さく頷いた。

 

「オレたちは、その決闘を受けよう」

「わかりましたわ」

 

赤騎士がそう言う。

 

「では、日時はいずれ連絡致しますわ」

「もう帰るのか?」

「まだ壊し足りないけど、仕方ないゾ」

「そうですねぇ。決闘の時を楽しみにしておきましょう」

 

量産型の自動人形たちが何処かへ去っていく。

同時に四騎士たちが、馬を操りもと来た道を去っていく。

黒騎士が天秤を掲げる。すると、白い冷気が街を包む。

騎士たちが見えなくなる。

 

「おい!一つ教えろ!」

「なんでしょう?」

 

白い冷気の奥、黒騎士の声が響く。

 

「その顔はなんだッ!なぜその顔をしているんだッ!?」

「……その答えは我らが主に会った時にわかるでしょう」

 

クスクスと笑う黒騎士。

その笑い声も聞こえなくなって。

冷気が晴れていく。

残ったのは凍った街と自動人形の残骸4つと、俺たちだけだった。

 

「キャロルちゃん……」

「一鳴、わかっている」

 

キャロルちゃんの背中を撫でる。

キャロルちゃんは拳を握っていた。

 

「あれは、俺の自動人形(オートスコアラー)だ。奴らの主に直接聞かねばならん。なぜ俺の自動人形をかたどったのかをな……!」

 





四騎士モチーフはいつか出したかった。
そしてオートスコアラーは終末の四騎士と呼ばれていた。
だから悪魔合体させてもらった。
この自由さが二次創作のウリよねぇ。


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第四十九話 オートスコアラー・スクランブル③

高難易度のシェム・ハさま限凸したけど、上限突破で要求してくる素材の量がエグすぎる。
さすが神様やでぇ……。



 

我々は恐怖した。

我々は慄いたのだ、神と呼ばれた者の力を。

聖遺物と呼ばれる神秘の威力を。

 

我らの技術の結晶が、容易く砕かれたのを見た。

我らの智慧の結晶が、容易く捉えられたのを見た。

 

アレは、人が敵うモノではない。

人は、神には勝てない。

ならば、人はあの暴君たる神々に(かしず)き生きねばならぬのか。

人は、神の奴隷なのか……。

 

違う、と誰かが叫ぶ。

我らの技術と智慧は神に勝る、と誰かが叫ぶ。

 

そうだ、と誰かが叫ぶ。

その声はだんだん増えていく。

そうだ、我々の叡智は神にも負けない。

 

我々はさらなる技術の発展でもって、神に勝たねばならない。

その為には。

我らが技術でもって、人を進化させねばならない。

人を、人体を、我々の技術でもって。

 

神に勝つには、人には無駄が多すぎる。

もっと、純粋にならないと神には勝てない。

故にこそ。

人を完全なる兵器と変えねばならぬ───

 

 

 

 

新生の四騎士(メカニカルクォーターズ)、そう名乗る自動人形たちと相見えて。

決闘を申し込まれたその後。

俺とキャロルちゃんは2課の発令室にいた。

弦十郎さんもまた、苦い顔であった。

 

「───そうか、彼女らはキャロルくんの自動人形の技術を使って作られているのか」

「ああ。間違いない。アレはオレの技術を、知識を利用して作られた自動人形だ」

 

キャロルちゃんはあの四騎士たちについて俺と弦十郎さんに説明してくれた。

キャロルちゃんの自動人形、すなわち終末の四騎士であるガリィちゃんたちと同じ顔、同じ技術を利用して作られた自動人形であると。

 

「だが、犯人は錬金術師ではないな」

「と、言うと?」

「これだ」

 

キャロルちゃんが右手に持ったものを見せてくれる。

小さな手の中には、いくつかの部品類と球形の金属塊。

 

「これは?」

「アイツらが量産型と呼んでいた自動人形のパーツ、まあ動力部だな」

 

そう言われても、ただの部品にしか見えない。

それは弦十郎さんも同じだったらしい。

 

「スマン、キャロルくん。詳しく説明してくれ」

「ああ。このパーツはな、奴らの動力部。文字通り心臓部だ」

「うむ」

「錬金術師はここに魔力由来の炉心を使う。だが、これは水素電池だ」

「なに?」

 

水素電池。

まあ要するに科学的なエネルギーという事。

 

「錬金術師はまず水素電池なんて使わん。たとえそれが量産型の自動人形でもな。だが、あの量産型に使われていたのは水素電池だった」

「だからこそ、下手人は錬金術師ではないと」

「ああ。恐らくは、錬金術的なパーツは全て科学的な代用品を用いているのだろう」

「ならば、下手人はいくつか絞り込めそうだ」

 

俺にもなんとなくわかってきたぞ。

 

「犯人は錬金術師でなく、1000体の自動人形の部品を用意できて、キャロルちゃんの技術を知る事が出来る人物、あるいは組織?」

「うむ、そうだな」

「でも、キャロルちゃんの技術を知る事が出来るのって、錬金術師たちですよね?」

「いや、そうは限らない」

 

キャロルちゃんが首を振る。

 

「パヴァリアの連中にはオレの技術を提供している。そして奴らは世界中の金持ちと繋がりある」

「金で技術を買えるって事か。……つまり、1000体の自動人形の部品を用意できる……工場?」

「ああ、重工業系企業だろう。それならば、阿礼星乃を拐った理由もわかる」

 

阿礼星乃はかつて、重工業系の会社の株主であり。

そして彼女の肉体は完全なる機械となっていた。

彼女の持つ技術を狙った企業の仕業か……。

 

「でもなんでキャロルちゃんの自動人形のコピー品けしかけてきたのでしょう?」

「それは、現時点ではわからんな……」

 

俺と弦十郎さんは頭をひねる。

そんな俺達にキャロルちゃんが口を開く。

 

「それは、アイツらを全て倒して主とやらを引きずり出せばいいだろう」

「……確かに」

 

幸か不幸か。

相手はこちらに決闘を挑んできた。

向こうは一体、こちらは何人でも。

そんなハンデマッチを。

 

「舐められたものだけれど、青騎士のアレ見せられたらね……」

「有機物を分解するナノマシンか……」

 

青騎士、ミカちゃんを元に作られた自動人形。

彼女の指先から出す黒いナノマシンは、有機物を分解する性能を持つ。

そのナノマシンの霧に包まれたら人間はものの十秒で分解されてしまう。

勝てるのか……?

 

「それに、黒騎士の天秤もヤバいよね」

「此方でもモニターしていた。街一つを冷気で氷点下にする能力。了子くんによれば、あの街は何らかの要因で気候を変動されていたと」

「気候変動……、あそこだけ北極圏にされてた的な?」

「なんらかの聖遺物か哲学兵装だろう」

 

暗黒メガコーポなら、聖遺物でも哲学兵装でも用意出来るだろう。

ならば、白騎士の弓矢も赤騎士のレーザーブレードもそれに連なるものか。

 

「厄介な……」

「まったくだ」

「だが、それでもやらねばならん」

 

と、弦十郎さん。

そうだ。この一件で阿礼星乃が拐われているのだ。侍女の菊江さんと共に。

元は敵対していたけれど、助けなくてはならない。

 

「その上で、キャロルくん。君には別件で仕事がある」

「オレにか?」

 

弦十郎さんは頷いた。

 

「ああ。あの四騎士に対抗するための、な」

 

 

 

 

一週間後。

俺はとある街に出撃していた。

新生の四騎士の内の一騎、白騎士が出現した為だ。

白騎士、レイア・ダラーヒムを元にした自動人形。

白い馬に乗り、金の弓矢を持つ。

ただの一騎。

他の四騎士も、量産型もなし。

決闘、なのだろう。

 

「と、言う訳で頼りにしてるよレイア、ミカちゃん」

「派手に、任せておけ」

「頑張るゾ!」

 

俺は隣に立つレイアに目を向ける。

レイアもまた、俺を見ている。

次に反対に立つミカちゃんを見る。

ミカちゃんはニッコリ笑っていた。

 

一週間前。

弦十郎さんがキャロルちゃんに任せた仕事は、キャロルちゃんの四騎士の早急な修復であった。

青騎士の有機物分解ナノマシン、これに対抗する為に無機物で出来た自動人形をぶつけるためであった。

そうして、キャロルちゃんとエルフナインちゃんが頑張った結果、レイアは復活した。

 

ファラとガリィはまだ復活していない。

どうにも調整が難航しているらしい。

だが、それで良いと言っていた。

ここでレイアとミカちゃんに新生の四騎士との戦闘経験を積ませて、ファラとガリィにその経験を共有させるらしい。

ちなみにキャロルちゃんはエルフナインちゃんの護衛として側に侍っている。

星乃を拐った犯人は、自動人形を更に発展強化させる為に作成法を知るエルフナインちゃんを拐う可能性があったからだ。

そんな訳でキャロルちゃんは今回お休みである。

 

「ふむ、一鳴、ミカ。あれか?」

「ああ、そうだね。あれが白騎士」

「レイアにソックリだゾ」

 

無人の街。

車が乗り捨てられた道を、常歩で近づく白い馬の機械。

その背に乗る、白騎士。

 

「そこのオリジナルを元に作られたからな」

 

白騎士はジッとレイアを見ている。

レイアもまた、白騎士を見ている。

 

「ふむ、自動人形2機ははじめましてだな。私は白騎士」

「白い馬に乗ってるから白騎士なのか?」

「ああ。わかりやすくて良いだろう?」

 

白騎士はそう言いながら、弓に矢を番える。

 

「では、はじめよう」

「派手に急ぐな」

「逸っているのだ。目の前にオリジナルが居る」

 

ギリギリと、弦を引く白騎士。

 

「私はお前に勝ちたい。レイア・ダラーヒム。派手に胸を、顔を、手を、足を!撃ち抜いて殺したい!」

「良いだろう白騎士。お前の挑戦を派手に受けよう!」

 

レイアは、指の間に硬貨を挟む。

 

「アタシを仲間外れにしないで欲しいゾ!」

「そうとも。俺もいるんだぜ?」

 

ミカちゃんが高圧縮カーボンロッドを両手に持つ。

俺も、アームドギアの大戦輪を構える。

 

「さあ、派手に殺ろう!この私、白騎士に勝利の上の勝利を!そしてお前たちに敗北を!!」

 

白騎士が矢を放つ。

強く、重い一矢。

それを、レイアの飛ばした硬貨が弾く。

 

「いいや、派手に勝つのは我々だ!」

「いくゾ!」

「あ、頭は壊さないでね大事なチップがあるから!」

「わかってるゾ!」

 

白騎士との決闘が始まった。

 

 

 

VS白騎士【1D10】

(一鳴、レイア、ミカの合計値 VS 白騎士)

 

一鳴【6】

レイア【2】+5(対抗心補正)

ミカ【9】

 

白騎士【5】+10(対抗心補正)

 

 

 

白騎士の矢は疾く、そして重かった。

アームドギアで矢を弾くので精一杯であった。

矢の暴風雨。

まさに、そう呼ぶに相応しい猛攻だった。

だが、それでもミカちゃんは凄かった。

 

「アハハハハ!ぜーんぶ薙ぎ払うゾ!」

 

高圧縮カーボンロッドを振り回し、矢を薙ぎ払って白騎士に向かって進む。

レイアも負けていない。

 

「派手には派手だッ!」

 

矢を硬貨で撃ち落とし続ける。

しかし、それを黙って見ている白騎士ではなかった。

 

「ならばこちらは更に派手にッ!」

 

その言葉と共に、矢の数、速度、威力が上がる。

それと同時に馬を走らせる。

矢が、縦横無尽に飛んでくる。

無尽蔵に飛んでくる。

 

「うおおおおッッ!!」

「アハハハハ!ヤバいゾ!」

「二人とも背中を合わせろ!」

 

俺たち三人は背中を合わせて対処する。

が、それは対症療法でしかなく。

勝つための手段が必要であった。

 

「このままじゃ……ッ」

「地味に危機……ッ!」

 

俺とレイアの意見が合致する。

しかし、ミカちゃんは……。

 

「知ってるゾ!こういう時は、『将を射んとする者はまず馬を射よ』だゾ!」

 

この危機を脱する為の一石を投じていた。

高圧縮カーボンロッドを投擲。

馬の胴体に当たった。

 

「なにッ!?」

 

馬の体勢が崩れる。

白騎士が落馬。

受け身を取ったようだが、高速移動していた為に慣性で滑る。

矢の雨が止まる。

 

「よくやったミカッ!」

「スゴいよミカちゃん!」

「教育テレビ見た成果だゾ!」

 

俺とレイアは白騎士にトドメを刺す為に一気に距離を詰める。

 

「舐めるナァッ!!」

 

白騎士が即座に反撃しようと、矢を番えようとする。

が。

 

「遅い」

 

レイアの硬貨が、白騎士の胸に突き刺さる。

 

「ア───」

 

白騎士が自身の胸を見る。

穴が空いた、水素電池を射抜かれた自分の胴体を。

 

「まけ、タ───」

 

白騎士の眼が裏返る。

そして、そのまま倒れ。

機能停止した。

 

「白騎士、お前は私に勝ちたい、そう言ったな」

 

レイアが白騎士を見る。

 

「私もそうだ。お前にはなんとしても勝ちたかった」

 

レイアは硬貨を生成、指に挟み、そして魔力に還元する。

その一連の動作はマジシャンのようであった。

 

「矢を番える一瞬、それがお前の敗因だ」

 

白騎士の動作は恐ろしく早い。

一瞬で矢を番え、一瞬で狙い、一瞬で射抜く。

恐ろしく早いが、レイアが硬貨を生成し撃つ速度には至らなかった。

レイアが硬貨を生成する速度の方が、白騎士が矢を番える速度より速かった。それだけだった。

 

「派手に、私たちの勝利だ」

 

白騎士との対決。

俺たちの勝利である。

 

 




ずっと正月休みなら、ずっと小説書いていられるのに……(正月休み終わり感)


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第五十話 オートスコアラー・スクランブル④


モンハンライズの体験版プレイしたけれど、狩猟笛楽しいね。
でも糸アクションがクッソ難しいゾ……。



 

とある部屋。

そこに阿礼星乃の姿があった。

機械の身体。

腕と脚のパージされた躯体。

金属製の台に寝かされ、身体の各所にコードを接続されていた。

 

「………………」

 

星乃に反応はない。

頭部カメラセンサーに光はない。

コードに繋がれた機械には、様々なデータが波形やグラフとして記録される。

その部屋に、一人の男が入ってくる。

白衣を着た男、研究者である。

男は星乃に繋がれたコードを抜いていく。

 

「……もう、終わりかしら?」

 

星乃のカメラセンサーが光る。

 

「ええ。お疲れ様です」

 

研究者が星乃を台ごと運ぶ。

台には持ち手と滑車。

 

「お望みのデータは取れたかしら?」

「ええ、それはもう」

 

星乃と研究者の向かう先はゲストルーム。

星乃と菊江の暮らす部屋。

監禁されている、豪華な部屋だ。

 

「明日からも、義体の脳を調べさせていただきます」

「好きになさい。どうせ抵抗出来ないんですもの」

 

二人は部屋の前にたどり着く。

研究者が、ドア横の端末に触れる。

指紋認証。

その後、目を近付ける。

網膜認証。

そして、マイクに向けて話す。

 

「富士山麓に鸚鵡鳴く」

 

声帯認証。

以上3つの認証によるセキュリティの部屋。

それが、星乃と菊江の鳥かごであった。

 

「星乃様!」

「今戻ったわ」

 

菊江が星乃に駆け寄る。

部屋の中は、一流ホテルの如く。

されど、ネット環境も電話回線もない。

 

「では、また明日」

「……待ってください」

 

菊江が研究者に声を掛ける。

 

「私たちはいつまでここに居れば宜しいのですか?」

「……」

「いつまで星乃様の身体を研究するおつもりですかッ!?」

「菊江、止めなさい」

 

星乃がたしなめる。

それを制したのは研究者だ。

 

「良いのです。菊江様の言う事もごもっとも」

 

研究者は右手人差し指を立てる。

 

「あと10日。それで終わります」

 

良くも悪くも、そう続けた。

 

「それは、どういう……」

「我々の勝利か、敗北か。そういう意味です。ご安心を、貴女の主を解体、改造するなんて致しませんから。ただ、その在り方を知りたいのです」

「……在り方?」

 

研究者は破顔した。

 

「はい!貴女の主、阿礼星乃は素晴らしい!神の力によって完全なる機械の身体を得たと聞いておりましたが、まさしく完全!純粋なる機械の身体!!それでいて人間ッッ!!」

 

研究者の目に狂気の光。

星乃と菊江はただ、沈黙するしかなかった。

 

「星乃様のお身体は、まさにッ!我らの理想とするものッ!故に、故に!誠に失礼だとは思いますが、こちらに招かせていただき、研究させていただいております」

「それで」

 

星乃が、研究者の話を止める。

 

「貴方たちの研究に成果は出たかしら?」

「それはもう!」

 

深く頷く研究者。

 

「既に形にしております。今は改良の段階でございます」

「そう」

 

星乃は核心をついた。

 

「シンフォギアには勝てそうかしら?」

「ええ、勿論」

 

研究者は顔色を変えずに言った。

 

「シンフォギアだけではなく、一国の軍隊にも。それ程の物を作りました。貴女のお陰です」

「そう」

 

星乃はそれきり、興味を無くしたように沈黙した。

 

「質問は以上ですね。それではまた」

 

研究者は出て行った。

部屋には星乃と菊江の二人きり。

 

「菊江」

「はい、星乃様」

「10日以内にここを出れそうだわ」

 

星乃は断言した。

 

「一国を相手取る。それは、風鳴訃堂の怒りに触れるわよ……」

 

 

 

 

2課のシミュレーションルームにて。

俺は大剣による剣舞を防いでいた。

戦輪で防ぐたび、金属音と共に火花が散る。

 

「私のソードブレイカーを防ぐなんてッ!」

 

大剣、ソードブレイカーを振るうのはファラ。

 

「だって俺の武器剣じゃなくて戦輪ですし!」

 

ファラのソードブレイカー、剣の概念を持つ武器なら問答無用で破壊するけど、それ以外の武器にはただの大剣なのよね……。

なのでこうして俺でも対抗出来たり。

 

「ならガリィちゃんが凍らせちゃう!」

 

背後からの攻撃。

氷の槍が降り注ぐ。

 

「だったら太陽のプロミネンスで溶かしちゃう!」

 

シンフォギア装甲から炎を噴出させ、氷の槍を溶かす。

シミュレーションルームは水蒸気に包まれた。

 

「な、視界がッ!?」

「もしかして、ガリィちゃんやっちゃいましたぁ?」

 

気付いたところでもう遅い。

白い水蒸気にまぎれて移動、両手にそれぞれ30cmほどの戦輪生成、それぞれ二人に投げつける。

 

「キャッ」

「ぐえっ!」

 

無事命中したようであった。

 

「はい、俺の勝ちぃ!」

「負けましたわ……」

「女の子相手に本気にならないでくださいよ大人げない」

「だって小学生ですし」

 

ファラとガリィ。

レイアに遅れて再生された、キャロルちゃんの自動人形である。

レイアとミカちゃんの白騎士との戦闘データをインストールされた、彼女らの初実戦の相手を俺は仰せつかった訳で。

でも勝ててよかった。

 

「3人ともご苦労だったな」

 

と、キャロルちゃんがシミュレーションルームの観覧席から声を掛けてくる。

 

「ざっとスキャンしたが、ファラにもガリィにも損傷はないな」

「ええ、そうですわね」

「ガリィもう疲れちゃいましたぁ!」

「自動人形が疲労を感じる訳無いだろうが!」

 

ガリィちゃんに突っ込むキャロルちゃん。

 

「まあいい。これならもっと二人の出力を上げても問題ないな」

「あ、やっぱ手加減してました?」

 

自動人形、もっと強かった記憶があるし、俺一人で倒せる程の弱くはないと思ってたのよね。

 

「ああ。今は最大出力の20%か」

 

思ったより出力出てなかったわ(白目)

 

「はぁい、ガリィちゃん次は全力でやりたいです」

「本当はもう少し刻んで上げたかったが……、これなら問題ないか」

「やったぁ。マスター大好きでぇす」

 

ガリィが獣の眼光でこっちを見る。

 

「やられたら、倍返しですよぉ?」

 

ガリィちゃんは根に持つタイプのようです。

 

「ファラさん助けて(震え声)」

「えぇ……(困惑)私ガリィと同じチームなんですけれど?」

 

とまあ、二人とじゃれあってたらキャロルちゃんに通信が入る。

二言三言話すキャロルちゃん。

 

「3人とも、新生の四騎士が出現した」

 

と、キャロルちゃんが伝えてくれる。

 

「しかも、2騎同時だそうだ。発令室に急ぐぞ」

 

そういう事になった。

 

 

 

 

出現した新生の四騎士はなんと2騎。

赤騎士と黒騎士。

ファラを元にした赤騎士。

ガリィを元にした黒騎士。

赤騎士は地下街。

黒騎士は山の中に現れたそうである。

戦力の分散が目的だというのが、弦十郎さんと訃堂司令の読み。

 

しかし1騎に戦力集中して、もう1騎を放っておくのも問題である。

なので二組に別れる必要があった訳で。

 

俺はレイアとファラと組んで赤騎士を相手にし、キャロルちゃんはガリィとミカちゃんと組んで黒騎士を相手取る。

 

そんな訳で。

俺は二人と地下街に来ていた。

暗い、地下街。

店の光は無く、道の先が暗闇。

その暗闇の先に光。

剣の形の、赤い光。

赤騎士の持つ、レーザーブレードの光。

 

蹄の音がこちらに近づく。

うすぼんやりと、赤騎士の顔が浮かぶ。

ファラによく似た顔。

ファラを元に作られた騎士。

 

「あら、私のオリジナルがいらっしゃるわね」

 

鈴のような声で赤騎士が言う。

 

「はじめましてファラ・スユーフ。私は赤騎士。貴女を殺すものの名ですわ」

 

赤騎士の言葉にファラは笑顔で返した。

 

「はじめまして赤騎士。随分と大胆な発言ですわね?」

「だってひと目見て確信しましたもの。私の方が強いと」

「あら、そうなの?」

 

ファラはソードブレイカーを構えて、フラメンコめいた足踏み。

 

「弱い犬ほどよく吠える、貴女もその類じゃなくて?」

「弱い犬かどうか、貴女の時代遅れの身体で確かめてくださいませ。私の光の剣で!!」

 

赤騎士の言葉と共に、赤い馬型自動人形疾走。

同時に赤騎士がレーザーブレードを振る。

赤い光の刃が飛ぶ。

ファラがそれをソードブレイカーで切り払う。

 

「貴女がその武器を剣と定義するのなら。私の哲学の牙は負けませんわ!」

「ならば剣に頼らず倒すまで!」

 

赤い馬型自動人形が突撃。

前脚を上げて、ファラを踏みつけようとする。

 

「それをさせる」

「俺達じゃないッ!」

 

レイアと俺で馬に攻撃!

嘶いて突撃が止まる。

 

「助かりましたわ」

「仲間だからな」

「ええんやで」

 

そんな訳で。

VS赤騎士、開戦!

 

 

 

VS赤騎士【1D10】

(一鳴、レイア、ファラの合計値 VS 赤騎士)

 

一鳴【4】

レイア【3】

ファラ【6】+5(対抗心補正)

 

赤騎士【3】+10(対抗心補正)+5(性能向上)

 

 

 

地下街の闇の中。

赤騎士が駆ける。

赤いレーザー光を閃かせて。

 

「あはははは!楽しいですわ!楽しいですわ!!」

 

哄笑する赤騎士。

先程から一撃離脱戦法で此方をジワジワと追い詰める。

しかし、こちらも負けていない。

 

「そこッ!」

 

俺の投擲した戦輪が赤騎士の馬に当たる。

鈍い金属音が鳴り、戦輪が跳ね返る。

装甲が分厚い。

 

「ならば!」

 

レイアのコインが馬の関節に当たる。

駆けていた馬が体制を崩す。

そこを、ファラが斬りかかる。

 

「これでどうかしらッ?」

 

しかし赤騎士は身体を倒して回避。

身体が後ろに100度ほど折れ曲がる。

 

「うふふふふ。まだまだですわ」

「うわキモ」

「人形としての利点だな」

 

人間と違って、関節の駆動範囲は改造し放題という訳か……。

赤騎士は馬の体制を整えさせ、また闇に紛れる。

 

「……赤騎士、白騎士よりも強くない?」

「恐らく白騎士の敗北を受けて、派手に強化されたのだろう」

 

ファラとガリィちゃんが、レイアとミカちゃんの戦闘経験を同期させたように、白騎士との戦闘を観測されて赤騎士をバージョンアップさせたか。

だからこそ、馬型自動人形の装甲が強化されていたのか。白騎士の馬はミカちゃんに破壊されたから。

 

「なら、黒騎士も強化されている可能性があるね」

「マスターたちが危険だッ!」

「なら、早く倒しましょう」

 

ファラがソードブレイカーを構え直す。

赤騎士が突撃してくる。

 

 

 

VS赤騎士(2回戦)【1D10】

(一鳴、レイア、ファラの合計値 VS 赤騎士)

 

一鳴【6】

レイア【7】

ファラ【1】+5(対抗心補正)

 

赤騎士【2】+10(対抗心補正)+5(性能向上)

 

 

 

「ハハハハハ!!楽しい!楽しいわ!!もっと戦いましょう!」

 

赤騎士が笑いながら、斬り込みにかかる。

レーザーブレードが俺に振るわれる。

大戦輪で受け止める。

 

「うぇっ、熔けるッ!?」

「アハハハハ!!自慢の剣ですわッ!!」

 

大戦輪を熔かしてじわじわとレーザーブレードが俺の首に迫る。

だが……。

 

「動き、止めましたわね?」

 

ファラが俺の後ろから飛びかかり、ソードブレイカーでレーザーブレードを叩く。

その瞬間。

レーザーブレードに亀裂が入る。

 

「……は?」

「私の哲学の牙は喰い破りますわよ?貴女がそれを、剣と定義するのならッ!!」

 

ファラがソードブレイカーを振り抜く。

レーザーブレードが砕ける。

砕けた欠片は粒子となり、空中に消える。

ありえない光景。

だが、世界の法則を捻じ曲げる哲学兵装により、光は砕かれた。

 

「わ、私の剣が……」

 

呆然とする赤騎士。

その隙をレイアは見逃さなかった。

 

「派手に隙だらけだッ」

 

赤騎士に向かって蹴りを放つレイア。

赤騎士は吹き飛ばされ、ガラクタのように地面を転がる。

そこをファラが仕留める。

 

「さようなら、偽物(イミテーション)

 

ソードブレイカーが振るわれる。

ソードブレイカーは、赤騎士の首を捉えた。

一閃。

赤騎士の首は落とされた。

 

「─────あ」

 

最期に何を言おうとしたのか。

赤騎士は口を広げようとして、機能停止した。

 

「貴女の剣、キレイでしたけれど、それだけでしたわね」

 

ファラはそう、言い放った。

その時。

背後で何かが崩れる音。

振り返る。

そこには、倒れた赤騎士の馬。

 

「……主が死ぬと、馬も死ぬのか」

「一蓮托生。まさに、騎士、か」

 

 

 

 

一鳴たちが赤騎士を倒す少し前。

 

キャロルたちもまた、黒騎士と相対していた。

ガリィを元にした自動人形。

黒い馬型自動人形に乗った、天秤を持つ自動人形だ。

 

彼女が待つのはとある山の中腹。

平時なら登山客で賑わう山であるが、現在は避難命令により、静かな山となっている。

もっとも。

静かなのは人が居ないからだけでなく。

黒騎士の力で辺り一帯が凍りついているからである。

 

「寒いゾ〜」

「人形は寒さなんて感じないでしょうが!」

 

ミカに突っ込むガリィ。

それを見て目を見開く黒騎士。

 

「そんな……わたくしのオリジナルがこんな品の無い人形だなんて……ッ!!?」

 

黒騎士はガリィを見て愕然としていた。

 

「はぁ〜〜〜???コピー品の偽物風情が、なに気取ってんのよ?」

「品性がまるでないッ!オリジナル、それ以上口を開かないで!わたくしの人品まで疑われますわッ!」

 

キャロルは大きくため息をついた。

 

「とっとと、始めるぞ」

 

 

 

VS黒騎士【1D10】

(キャロル、ミカ、ガリィの合計値 VS 黒騎士)

 

キャロル【8】

ミカ【4】

ガリィ【6】+5(対抗心補正)

 

黒騎士【8】+10(対抗心補正)+5(性能向上)

 

 

 

キャロルの放つ火球が黒騎士目掛けて飛ぶ。

黒騎士は馬を走らせ回避。

火球は背後の木に当たる。

 

「……この環境で、よく避けるッ」

 

彼女らが居るのは山の中腹。

無論、木々が生えている。

その木を黒騎士は器用に避けている。

 

「いっくゾ〜」

 

ミカが高圧縮カーボンロッドを投擲。

 

「甘いですッ」

 

黒騎士は回避。

更に反撃。

天秤を掲げ、冷気噴射!

 

「にゅあ〜!!」

「なに遊んでんのよッ!?」

 

冷気に流され転がるミカ。

それを見たガリィが怒鳴る。

 

「コピー品のクセに、大層な聖遺物持ってんじゃないわよッ!」

 

ガリィが手に氷を纏わせ剣に変える。

その剣で黒騎士の馬を狙う。

だが、剣は馬の装甲に弾かれる。

 

「は?」

「死ね、オリジナル!」

 

黒騎士による冷気攻撃。

ガリィに直撃するかと思われたが……。

 

「ガリィ!」

「マスタァ!」

 

ダウルダヴラの弦で、ガリィを引き寄せるキャロル。

冷気から守ったのだ。

 

「馬に攻撃が通らない。……白騎士戦で対策されたか」

 

キャロルは考察する。

 

「マスタァん!ガリィちゃんを、守ってくれたんですね!お優しいマスタァ!!」

「うるさい離れろ!」

 

抱きついてきたガリィを引き剥がすキャロルであった。

 

「今戻ったゾ!」

 

転がったミカが戻ってくる。

 

「戻ってきたか」

「おっそい!」

「ごめんだゾ」

「いや、いい。二人とも、反撃開始だッ!」

 

 

 

VS黒騎士(2回戦)【1D10】

(キャロル、ミカ、ガリィの合計値 VS 赤騎士)

 

キャロル【10】

ミカ【10】

ガリィ【8】+5(対抗心補正)

 

黒騎士【10】+10(対抗心補正)+5(性能向上)

 

 

 

「ミカ!あいつの周りにカーボンロッドをバラ蒔け!」

「わかったゾ!」

 

キャロルの指示に従うミカ。

黒騎士に向かってカーボンロッドが複数射出される。

 

「無駄です!」

 

黒騎士が天秤から冷気発射。

高圧縮カーボンロッドが急速冷凍され、熱が冷めて脆くなる。

 

「潰しなさい!」

 

黒騎士の命令で、馬型自動人形が飛んできたカーボンロッドを踏み潰していく。

 

「まだだッ!」

 

キャロルによる火球。

先程よりもさらに大きい。

 

「無駄だと言っています!」

 

黒騎士が天秤から冷気発射。

寒々しい風により火球が小さくなっていく。

 

「いまだ、ガリィ!」

「わっかりました!」

 

キャロルの号令。

ガリィが黒騎士の側面から、一気に近付く。

 

「な、しまった!」

 

火球を消すのに集中していた黒騎士はガリィの接近に対応出来なかった。

ガリィが飛びかかる。

氷の刃が黒騎士に襲い掛かる。

 

「ぎゃあっ!」

 

氷の刃は黒騎士の首を狙っていた。

だが、瞬間的に身体を反らして回避。

だが、黒騎士はガリィともつれあい、落馬。

 

「くそったれ!離れろオリジナル!」

「嫌に決まってるでしょコピー品!」

 

転がり合い、木に激突する二人。

黒騎士の手から天秤が転がる。

 

「しまった!」

 

そのチャンスを逃すガリィではなかった。

 

「良くも好き放題やってくれたわねぇ〜」

 

嫌らしい笑みを浮かべるガリィ。

黒騎士に対して馬乗りになる。

黒騎士は目を剥いた。

 

「ふざけんなクソオリジナル!離れろグワーッ!」

 

ガリィによる殴打!

 

「敗者の悲鳴が心地良いわねぇ〜!」

「いたぶってないでとっとと終わらせろガリィ!」

「はぁいマスター」

 

ガリィが両手で黒騎士の頭を持つ。

 

「や、やめ……!」

「イ・ヤ・よ♡」

 

ガリィはそのまま黒騎士の頭を引き抜いた。

 

「ギィ───」

 

黒騎士は白目を向いて機能停止。

当時に馬型自動人形も倒れる。

 

「結局アンタも、性根が腐ってたわねぇ」

 

ガリィが黒騎士の頭を見てそう、呟いた。

 

 

 

 

赤騎士、撃破。

黒騎士、撃破。

残るは、青騎士───





どうして赤騎士戦も黒騎士戦も一度引き分けるんですか?(電話猫感)
お陰で文字数増えて大変だったゾ……


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第五十一話 オートスコアラー・スクランブル⑤

ミラアルクちゃんのドスケベエッチ純愛ドスケベ二次創作読みたい欲が凄い……。
誰か書いて♡♡♡



2036年7月下旬。

アメリカのパーフェクトソルジャーによる、とある部隊がギリシャに進軍した。

アメリカの秘密兵器であるパーフェクトソルジャーには我が社の技術の結晶である義体技術が一部使われており、彼らの義体の整備・改修の為に我々も技術士官として同行していた。

 

我らには一つの使命があった。

ギリシャにて蘇ったという、オリュンポス十二神。

現代においても魔獣を生み続けるという怪物の母エキドナ。

そして、欧州に眠る聖遺物の数々。

異端技術と呼ばれる、これらのオーパーツを一欠片でも本社に持ち帰ることが、技術士官である我らの裏の使命だったのだ。

 

ギリシャへの進軍は苦難の連続であった。

我らの乗る軍用機は空を翔ける戦車に乗る双子の神、アポロンとアルテミスに射落とされた。

部隊の4割がここで死んだ。

 

ギリシャの洗礼を受けて、それでも生き残った我々は運良く山岳部に不時着した。

軍用機はもはやスクラップと化し、帰りの足が無くなってしまっても、任務は続行しなければならない。

表も、裏も。

 

進軍する我々のパーフェクトソルジャー部隊は、エキドナの産む魔獣たちを容易く打ち破っていった。

空を飛ぶもの。

地を走るもの。

ぐねぐねしたもの。

硬いもの。

男のようなもの。

女のようなもの。

魔獣たちは多種多様であったが、投薬と義体化によるパーフェクトソルジャーたちの敵では無かった。

 

だが。

時々現れるアポロンやアルテミス。そして突如として地上に落とされる稲妻によって人員はどんどん減っていった。

そして、いつしか。

部隊は、5人ほどに減っていた……。

 

我々は疲弊していた。

倒しても倒しても現れる魔獣たちにも。

逃げても逃げても、いつの間にか現れる神たちにも。

装備を捨て、武器を捨て。

逃げて撤退して遁走して。

 

我々は口に出さずとも、同じことを考えていた。

【神に挑むべきではなかった】と。

我らは疲れ切っていた。もはや、任務などどうでもいいと思えるほどに。

だが、我々は成し遂げて、帰ってきたのだ。

ギリシャに進軍して、2週間が経ったあの日に。

 

ギリシャのかつての国境付近で【ソレ】を見つけたのは偶然だった。

空を翔けるアルテミスに見つかり、豪雨の如く降り注ぐ魔弾の如き矢から逃げて逃げて。

いつの間にか、目の前に【ソレ】はあった。

アルテミスは我らを見失い、どこかへ去った。

我々は、不思議と【ソレ】が原因だと思った。

 

【ソレ】は崩れ落ちた城であった。

城の上半分は焼け焦げて、ほぼ原型を失っていた。

おそらく、ゼウスの稲妻で焼かれて落ちたのだろう。

それは、信じられない事に、空に浮く為のカタチをしていたのだ……。

 

我々はその不思議な城の中を調査する事にした。

中に人気は無く、我々以外に動くものは無かった。

内部を見て、私は恐れた。

その城に使われている技術の数々に、数多使われた至高の知恵に!

その城は芸術品と言いたくなるような、緻密な計算によって建てられたものだと理解した。

この城を設計したのは。

この城を建設したのは。

間違いなく、天才なのだと。

 

我々は、とある部屋を見つけた。

内部は広い空間で、また天井も高かった。

その中央には天井まで届こうかという祭壇。

その祭壇は多数の棺桶によって形作られていた。

そして、その棺桶の中には。

ひび割れた人形が眠っていた。

 

オートスコアラー。

近くにあった端末にはそう記されていた。

擬似的な自我を持つ、人形。

量産可能な、兵士の代替品。

我らの探し求めた異端技術がそこにはあったのだった───

 

 

 

 

2040年1月下旬。

2課の研究所にて。

キャロルはエルフナインからの報告を聞いていた。

 

「キャロル、間違いないよ。白騎士の持っていた弓は【ケイローンの弓】! 赤騎士の剣には【クラウ・ソラスの欠片】が、黒騎士の天秤には【古の冬の小箱】が埋め込まれてた。全部チフォージュ・シャトーにあった聖遺物だよ!」

 

エルフナインの報告に頷くキャロル。

 

「やはりそうか……。どこかで見たことがあるとは思っていたが……」

「うん。全部チフォージュ・シャトーにあったものだから、キャロルの予想が正しかった事になるね」

 

エルフナインがキャロルに報告する前。

黒騎士と戦闘した後のキャロルは一つの予想を立てていた。

終末の四騎士を元にした自動人形の量産技術と、新生の四騎士の持つ聖遺物はチフォージュ・シャトーから持ち出されたのではないかと。

その為に、キャロルはエルフナインに新生の四騎士の持つ聖遺物の調査を依頼したのだ。

 

その聖遺物は、チフォージュ・シャトーに収められていたものではないか、と。

 

結果、四騎士の持つ聖遺物はチフォージュ・シャトーに収められた記録が残っていた物であった。

かつてシャトーの建造を任されていたからこそ、シャトーの建材である聖遺物の管理していたエルフナインには、それらがかつてシャトーにあったという記憶が残っていたのだった。

 

その調査結果は、すぐに2課上層部に伝えられた。

 

「なるほど……、かつてのキャロルくんとエルフナインくんの住んでいたチフォージュ・シャトーから……」

 

その報告を聞いた弦十郎は難しい顔をする。

 

「かつてのシャトーは、ゼウスのケラウノスによって撃ち落とされたのだったな」

「ああ。あの時はギリシャの上空にいたからな」

「なら、シャトーはギリシャに落ちたという事か」

「ああ」

「ならば、キャロルくんのオートスコアラーを模した自動人形を作成、量産したのはギリシャということか」

 

言葉を繋いだのは了子だ。

 

「技術的には可能ね。ギリシャが占拠した欧州には彼女たちの製造を可能にする企業が多くあったもの。ドイツの【アルブレヒト・ドライス】、イタリアの【レオーネ・メカニカ】、フランスの【メリエス】。北欧の【アクアビット】にロシアの【テクノクラート】もそうね」

「それだけでは、ないかもしれん」

 

そう言ったのは、八紘だ。

 

「どういう事だ八紘兄貴?」

「ああ。私も噂で聞いたに過ぎないが、アメリカのパーフェクトソルジャーがギリシャに侵攻した時、とある部隊が多数の異端技術や聖遺物を持ち帰ったらしい」

 

八紘は更に言葉を続けた。

 

「だが、それが真実ならば、アメリカが今回の事件の背後にいる可能性がある」

「その部隊が、撃ち落されたチフォージュ・シャトーを発見した、という事か」

 

考え込む弦十郎。

 

「八紘兄貴」

「ああ。ツテを頼って噂の真偽を確かめよう」

「頼む」

 

そう言った事を話し合った2日後。

青騎士が出現した。

出現した場所は、リディアン音楽院。

特異災害対策機動部のすぐ真上であった。

 

 

 

 

「お、やっと来たゾ」

 

と、青騎士は呑気にそう言った。

青い馬型自動人形に腰掛けた、ミカを元に作られた自動人形。

両腕の大きな掌は高圧縮カーボンロッド精製機能の代わりに、有機物を分解するナノマシン精製機能が備え付けられている。

凶悪な能力の自動人形だ。

 

リディアン音楽院の生徒は既に避難している。

敷地内には人っ子一人いない。

その敷地内に居るのは自動人形のみである。

 

青騎士の迎撃に出たのは、レイア、ファラ、ガリィ、ミカの4騎。

終末の四騎士総出での迎撃だ。

 

「あれが最後の新生の四騎士(メカニカルクォーターズ)か」

「ミカの模倣品ね」

 

レイアとファラがそう言い合う。

青騎士はその言葉に答える。

 

「そうだゾ。そこのオリジナル同様、戦闘特化なんだゾ。お前らなんてバラバラだゾ」

「そういう所も、ミカちゃんそっくりね」

 

と、ガリィ。

 

「ところで、お前たちだけか?」

「ああ、そうだが?」

 

レイアがそう返すと、青騎士は笑い出す。

 

「キャハハハ!シンフォギアもお前たちのマスターも、アタシに恐れをなしたのか?」

「違うゾ」

 

と、ミカ。

 

「お前なんて、ミカたちだけで充分だって事だゾ」

「……は?」

「もう一度言ってやるゾ。お前なんてミカたちだけで充分倒せるって事なんだゾ」

 

青騎士から表情が消える。

 

「……そうか。わかったゾ」

「……ッ」

 

ミカたちが戦闘態勢を取る。

青騎士からプレッシャーが放たれる。

他の四騎士とは格が違う、強さである。

 

「お前、目障りだゾ」

「アタシもそう思うゾ」

 

オリジナルと模倣品(フェイク)はそう言い合う。

青騎士が片手で手綱を握る。

馬型自動人形が駆け出す。

青騎士のもう片方の掌から黒い煙、有機物分解ナノマシンだ!

そのナノマシンが固まり、大きな爪となる。

 

「お前ら全員、ここでバラバラにしてやるゾ!!」

「それはこっちのセリフだゾ!!」

 

青騎士とミカが激突する───!

 

 

 

終末の四騎士VS青騎士【1D10】

 

レイア【6】

ファラ【4】

ガリィ【6】

ミカ 【10】+5(対抗心補正)

 

青騎士【7】+10(対抗心補正)+10(性能向上)

 

 

 

「バラバラだゾ!」

 

ミカが掌から高圧縮カーボンロッド射出。

それを青騎士はナノマシンを固めた爪で握り取る。

そして、握りつぶす。

 

「無駄だゾ!」

 

青騎士はそう言うと、爪を振るう。

爪は再び分裂し、無数のナノマシンとしてオートスコアラーたちに襲い掛かる。

 

「吹き飛ばして差し上げますわ!」

 

ファラが風を操りナノマシンを吹き飛ばそうとする。

が……。

 

「それは、悪手だゾ」

 

青騎士が嗤う。

確かに、目に見えるナノマシンは風で吹き飛ばされた。

()()()()()()()()()()()

 

「ぐ、動きが……!」

「なんで、私たちは、人形なのに……ッ」

 

レイアとガリィの動きが悪くなる。

有機物分解ナノマシンは、無機物で出来た自動人形には効果が薄いはずなのに。

 

「まさか、関節を固めて……ッ」

「正解、だゾッ!」

 

青騎士は戦闘が始まった時、すでに辺り一面にナノマシンを散布していた。

そして、わざとナノマシンを固めて目に見える形にしてみせた事で、ナノマシンを視認できる、とオートスコアラーたちに認識させた。

そしてファラの風によって更に撒き散らされたナノマシンを操って、彼女たちの関節部に忍ばせて、爪を形作った要領で密集・固形化させて動きを鈍らせたのだ。

 

「反撃だゾ!」

「キャアッ!」

 

再び掌の周りにナノマシンを集めて巨大爪を作成、ファラを弾き飛ばす。

ファラは吹き飛ばされ、立ち上がる事が出来ない。

ナノマシンに関節を固められたのだ。

 

「まず一人、だゾ」

「ファラッ!」

 

青騎士が馬型自動人形を走らせる。

ファラを踏み潰すつもりだ。

ファラは逃げる事が出来ない。

このままファラは踏み潰されてしまうのか……!?

 

「やらせないゾ!」

「ぐえっ!?」

 

ファラの間近に迫る青騎士の側面から、ミカが迫りカーボンロッドで殴り飛ばした!

青騎士が吹き飛ぶ。

 

「な……なんで、動くんダ?」

「ナノマシンなんて、燃やせば良いんだゾ!」

 

そう言ったミカを見て、青騎士は驚愕した。

 

「な、ハァ!?」

 

ミカは、()()()()()

身体のあちこちから炎があがる。

キャロルに作ってもらった身体が、服が。

ガリィに結んでもらったリボンが。

燃えていた。

 

「燃えてるアタシに、ナノマシンはくっつかないゾ!」

「あ、アホだゾ……!」

「ミカちゃん!」

 

焼身したミカに呆れる青騎士。

ファラはそんなミカに悲痛な叫び。

 

「戦闘特化で熱に耐性があるとはいえ、それでも……」

「もって5分だゾ。バーニングハート・メカニクスよりも長持ちだゾ」

 

それでも1分しか変わらないが。

 

「コイツを倒せるのは、きっとアタシだけだゾ」

 

ミカは一瞬、背後を見る。

関節を固められ、動けなくなったレイアとガリィを。

 

「速攻で終わらせるゾ」

 

ミカが駆け出す。

瞬く間に青騎士の眼前!

 

「は───?」

「うりゃー!!」

 

カーボンロッドで殴られる青騎士。

吹き飛ばされる。

 

「ぎゃ!?」

「まだだゾ!!」

 

吹き飛ばされた青騎士に向けてカーボンロッド射出!

青騎士は咄嗟にナノマシンを放出して防御するが……。

 

「ゾ───?」

 

カーボンロッドがナノマシンを喰い破る。

 

「弱いゾッ!!」

 

ナノマシンの群れを貫き進み、カーボンロッドは青騎士の両手の掌を突き破る。

 

「ギャッ!?」

「隙あり、だゾ!」

 

掌を破壊されて、怯んだ青騎士に向かって突き進むミカ。

そのミカを阻まんと、馬型自動人形が立ち塞がる。

が。

 

「無駄だゾ!」

 

その馬型自動人形を、ミカが勢いのままに持ち上げる。

そして、青騎士に投げつけた。

 

「グギャッ!?」

「───!?」

 

青騎士と馬型自動人形が激突。

地面に倒れ込む。

 

「トドメだゾ!!」

 

そこ目掛けて飛び上がったミカが、カーボンロッドを形成。

そのまま、青騎士と馬型自動人形に向けてカーボンロッドを振るう。

落下速度も相まって、恐ろしい破壊力だ。

 

「あ───」

「うりゃー!!」

 

カーボンロッドが青騎士と馬型自動人形に叩き付けられる。

カーボンロッドがひび割れる程の威力。

地面はひび割れてめり込み、青騎士と馬型自動人形の胴体は砕け散る。

 

「────………」

「────………」

 

そして。

青騎士と馬型自動人形は機能停止した。

 

「勝ったゾ!」

 

ミカが両手を上げて勝利のポーズ。

その身体は黒く焦げつつあった。

 

「ミカちゃん!」

「この、アホンダラ!」

 

青騎士が機能停止して、動けるようになったファラがミカに向けて強風を放つ。

と、同時にガリィが水をぶっかける。

蒸気を出しながら、ミカの身体の火が消化されていく。

 

「派手に無茶苦茶する」

「だからって焼身自殺してたら世話ないんだよッ!」

 

レイアはミカに呆れ、ガリィは怒っていた。

 

「みんな、ありがとうだゾ」

「ったく……。ボディに異常はないの?」

 

ガリィはミカの身体をあちこち触る。

 

「……うーん、多分大丈夫……、あ!」

「なによ?」

「マスターに作ってもらった服、燃えちゃったゾ……」

 

ミカは現在、ぽんぽんすーであった。

服は燃えてしまった。

 

「……はァ〜〜〜。服ならまたマスターに作ってもらったら良いでしょ、もう!」

「そうするゾ!」

 

朗らかに笑うミカであった。

 

 

 

 

青騎士、撃破。

阿礼星乃の居場所を示すチップ、全て入手。

 

───それと同時に。

次世代の、義体。

完成。

 




今回のシナリオ、ミカちゃん大活躍じゃない?スゴイ!
ちなみに、次回でクライマックス。このままミカちゃんに頑張って貰いたい(願望)


◆聖遺物説明◆
【ケイローンの弓】
ギリシャ神話のケンタウロス、ケイローンの用いた弓。
ケイローンは賢者であり、様々な英雄の師匠でもあった。有名なヘラクレスもアキレウスもケイローンの弟子。

【クラウ・ソナスの欠片】
アイルランド民話に出てくる光の剣、その欠片。
様々なエネルギーを光に変換する力を持つ。
赤騎士のレーザーブレードの柄の部分に埋め込まれていた。

【古の冬の小箱】
中に冬の概念が閉じ込められた箱。
元ネタはマイティ・ソーであるが、作者はマイティ・ソーを見たことが無い。じゃあどこで知ったかというと、やる夫スレの『エージェントやる夫の日常茶飯事』という作品。めっさ面白いからみんな見るといいよ。マーベル作品はスパイダーマンとメタルマンしか知らない作者でも楽しめたもの(露骨な宣伝)


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第五十二話 オートスコアラー・スクランブル⑥


最近、モルカーが愛おしくて仕方がない。
モフモフで、心優しくて、純粋。
可愛いなぁ。



 

「阿礼星乃女史の居場所が判明した」

 

弦十郎さんが開口一番、そう言った。

6時間ほど前、ミカちゃんたちが青騎士を倒してチップを回収。

四騎士のチップが揃った事で、阿礼星乃の囚われた場所が判明したのであった。

 

「どこなんです?」

 

と、聞く。

 

「レイレナード日本支社だ」

 

レイレナード?

なんか、聞いたことあるような……。

記憶の彼方、前世で聞いたことあるぞ……?

あーまーど、こあ?記憶が霞んで、よくわからない。

 

「レイレナード?」

「ああ。カナダに本社を置く重工業系の企業でな。特にエネルギー系に強い企業だ。日本でも車のバッテリーや工業機械のジェネレータを作っている。あとは、義手や義足。ロボットアームなどを製造している企業だ」

「なるほど」

 

なにやら凄い企業らしい。

 

「そして、パーフェクトソルジャーの義体を作る企業の一つだ」

 

と、八紘さん。

 

「パーフェクトソルジャーの?」

「ああ。アメリカのパーフェクトソルジャーは主に投薬によって筋密度と骨格の増強、感覚を強化されている。

だが試験的に人工筋肉の移植や神経の光ファイバー化など機械的な強化、すなわち義体化によるパーフェクトソルジャーも少数作られていたらしい。

その義体を作っていた企業の一つがレイレナード社だったらしい」

「八紘兄貴。それじゃあ」

「ああ。例の聖遺物を持ち帰った部隊、レイレナード社が義体を作っていた部隊だったらしい。しかも、技術士官としてレイレナード社の技術者も出向していたようだ」

 

八紘さんが資料を見ながら言う。

そこに、キャロルちゃん。

 

「つまり、そいつらがオレのシャトーに盗みに入って自動人形の技術や聖遺物を持ち帰ったのか」

「そして、その技術で自動人形を大量生産した、と」

 

自動人形の技術は便利である。

彼ら彼女らは人間の代わりに働き、また兵士の代替としても期待できる。

だけど、レイレナード社はなぜそれをわざわざコチラに知らせるようにしてきた?

正月三が日にわざわざ1000体もの自動人形を見せ、新生の四騎士という強力な自動人形の存在を知らせ、そしてわざわざ四騎士たちを単騎で戦わせた?

四騎士全員で掛かれば、いや、そもそも青騎士単騎をあの時戦わせれば俺もキャロルちゃんも敗北していた筈。

それに、阿礼星乃を攫い、その居場所のヒントを新生の四騎士の頭部のチップに隠したのは何故?

一つの企業が、わざわざそんな真似をした理由は?

それは恐らく……。

 

「誘われておるな」

 

と、訃堂司令。

 

「……ですよね」

「うむ、一鳴くん。恐らく、我らがレイレナード社に辿り着くこと自体は想定内なのだろう」

「何か目的なのでしょう」

「わからぬ。だが、確実にレイレナード社は罠を仕掛けておる」

 

レイレナード社が罠を仕掛けているのなら。

その罠を無視するか、罠ごと全てぶっ壊すのが一番である。

が。

 

「レイレナード社に阿礼星乃と菊江さんが捕まってるのよね……」

「うむ……」

 

訃堂司令が唸る。

この世界で、聖杯戦争を引き起こした魔術師にして全身を完全な機械に変換された阿礼星乃と、その従者である菊江さん。

二人がいるから、その罠を無視することも壊す事も出来ないっていうね……。

 

「とにかく、行くしかありませんねぇ」

「仕方ないか……」

 

俺の言葉に、ため息混じりに同意するキャロルちゃん。

 

「そう言えば、ミカちゃんはどうなったの?」

 

6時間ほど前、青騎士相手に焼身して勝ったミカちゃん。

全身焦げて帰ってきたけれど、直ったのかしら。

 

「エルフナインがここに詰めてたからな。一緒に直した。今はエルフナインと共に最終チェック中だ」

「そう、良かった」

「内装も外装もそう取っ替えだったがな」

 

深いため息のキャロルちゃんであった。

 

「だが、ミカちゃんが居るのなら」

「ああ。レイレナード社への突入もオートスコアラー全員で臨める」

 

訃堂司令と弦十郎さんがそう言い合う。

 

「そういえば」

「ん、どうした一鳴くん」

「そのレイレナード日本支社ってどこにあるんです?」

 

俺はその日本支社の住所を知らなかった。

教えてくれたのは八紘さんだった。

 

「ああ。東京湾に浮かぶ人工島だ。……ちょっとびっくりする見た目だぞ」

 

 

 

 

 

 

レイレナード日本支社の外観は、大きく口を開いた二枚貝である。もしくは、雀を捕まえる為のカゴか。

その上のフタだかカゴは、つっかえ棒のように十数本の支柱で支えられている。

力学的に、支柱を8本折れば社屋は完全に崩壊するとか。……普通のビルじゃ駄目だったのかしら。

ちなみに、カナダのグレート・スレーブ湖に浮かぶ本社も同じデザインだとか。

欠陥住宅じゃないか!

 

そんなレイレナード日本支社は東京湾に浮かぶ人工島に作られている。

外から見える脆弱な部分はオフィスが入っているらしい。そして地下部分が研究施設だとか。

阿礼星乃と菊江さんが囚われているのは、その地下施設の可能性が高いとのこと。

なので我々は日本支社の地下に突入しないといけない訳なのだが……。

 

「……出迎えどころか、警備もないとはな」

 

ヘリから降りたキャロルちゃんがダウルダヴラのファウストローブを纏い、警戒する。

 

「あからさまに罠だね」

 

時刻は夜。

日本支社は夜闇に包まれている。

二枚貝の内側には、社員の送迎の為のヘリコプターが停められている。その中に巨大な影。

輸送用大型ヘリコプター、STORKだ。

このヘリコプターで、阿礼星乃をトラックごと攫ったのだろう。

 

「入口、ありましたわ」

 

先行していたファラが地下への入口を見つけたらしい。

 

「ロックは?」

「派手に施錠されていない」

 

レイアが扉を開ける。

非常灯の灯りと、下に続く階段。

罠も何もない。

 

「私達が先行しますわ」

「マスターと一鳴はその後で。ガリィ、ミカ。殿は頼むぞ」

「はぁい」

「わかったゾ!」

 

レイアが言ったとおり、戦闘にファラとレイア。殿にガリィとミカちゃん。

そしてその間に俺とキャロルちゃん。

そんな順番で地下に進む。

 

「…………」

「…………」

 

無言で進む。

何があってもいいように。

だが。

何も起こらない。

起こらないまま、階段が終わり、長い廊下。

 

「……みんな逃げ出した後かな」

「いや、それは無いはずだ」

 

キャロルちゃん曰く。

青騎士からチップを抜き出して解析、阿礼星乃が囚われたのがレイレナードだと判明した後すぐから、レイレナード日本支社の監視を黒服さんたちがしていたらしい。

そして、黒服さんたちが見ていた限り、阿礼星乃を護送した様子が無かったらしい。

 

「だからまだ、阿礼星乃はここに居る筈なんだがな」

「なるほど」

「マスター、また扉ですわ」

 

ファラの見る先。

長い廊下の突き当りにその扉はあった。

 

「開けますわよ」

 

その突き当りに歩を進めて。

ファラが扉を開ける。

その横でレイアが硬貨をすぐ撃てるように構える。

 

金属が擦れる音がして、扉が開かれる。

 

「これは……」

 

扉の先には暗く冷たい空間。

どこまでも機械的で、気温も湿度も空気の流れさえ管理された空間。

それが扉の先の空間。

数キロ四方の、柱や壁など隔てる物のない広い空間に、それは立っていた。

 

流線的な、スポーツカーのような胴体。

細見で鋭い手脚。

肩は排熱機関のような、複数の板が縦に並べられた部位。

そして、その顔はカラスのように尖り、眼は右眼と左眼が繋がったラインアイ。そのラインアイは複眼で、多数の眼が紅く光る。

機械だ。

黒い機械人形。

 

その機械人形の眼は。

こちらを見ていた。

 

「新たな、自動人形……か?」

 

キャロルちゃんが警戒する。

その前に、オートスコアラーの四人がキャロルちゃんを守るように展開。

俺も、大戦輪を構える。

 

「ザザッ……遅かったじゃないか」

 

機械人形がノイズ混じりに語りかける。

 

「何者だッ!」

 

キャロルちゃんが問い掛ける。

 

「ザザ……、私は、いや名前はもう無い。

……アリーヤ。これがこの躯体の名前だ」

 

アリーヤ。

ああ。俺はそれを知っている。

国家解体戦争。リンクス戦争。レイレナード。ORCA旅団。アーマード・コア、ネクスト。

 

それは、前世のロボットゲームに出てきた名前だ。

人間大の、大きさではなかったはず。

それよりなにより。

 

「かつては名前があったような言い方だな」

「ああ。私はかつて人間だったのさ」

 

あれは人が乗るもので、機械に人間の意識を押し込めるようなモノでは無かったはず……!

だが。

俺は、似た存在を知っている。

 

「阿礼星乃は、あんたを作る為に攫ったか!」

「そうだ」

 

俺の指摘に、アリーヤは頷く。

阿礼星乃。

元々、肉体の数割は義体化していた女性。だが、彼女と手を組んだ神霊エイワズが彼女を完全なる機械の身体に変えた。

人でありながら、機械の身体に。

機械の身体の中に、人の精神を。

 

「ザザッ……、安心しろ。彼女は無事だ。

だが、レイレナードの研究者は彼女を徹底的に研究した。そして、人の精神や魂、そう呼べるものを機械に移すことに成功したのだ」

「……なんという」

 

キャロルちゃんが呻く。

彼らのやった事は、あまりにも道に外れている。

 

「その技術の一部には、キャロル・マールス・ディーンハイム。貴女の記憶転写技術が役に立ったと聞いている」

「やはり……ッ! チフォージュ・シャトーからオレの技術を盗み取ったな!!」

 

キャロルちゃんの怒りを受けてなお、アリーヤは動じず。

ただ、淡々と語りだす。

 

「……私はかつて、アメリカのパーフェクトソルジャーの一人だった」

「……ギリシャに行ったのか?」

「ああ。地獄だった。ギリシャの地を踏むまでに部隊の4割が死に、作戦遂行中に9割が死んだ」

「…………」

「地獄だ。神に逆らった罰がああなら、納得がいく」

 

ただ、淡々と語る。

 

「だが、運命は我らを見捨てなかった。いや、或いは悪魔か。神の撃つ矢に追われた我々は、ある遺跡に逃れたのだ。神の雷に撃ち落された、空浮く孤城。貴女の城だ」

「その時、見つけたのだな。自動人形の技術と、オレの記憶転写技術。そして、聖遺物を……ッ!」

「ああそうだ、キャロル・マールス・ディーンハイム。我々は君の技術を密かに持ち帰った。君の聖遺物をほとんどアメリカに差し出したから、文句は言われなかったよ」

 

アリーヤはただ淡々と語るのみだ。

 

「なんとか帰ってきた我々は、1つの思いがあった。神の打倒だ」

「神の、打倒……」

「ああ。ギリシャの神々は恐ろしい。アポロンとアルテミスの矢は我らを穿ち、ゼウスの雷はすべてを壊した。

───なら、我々人類は神に敗北していくだけなのか?」

 

この時初めて、アリーヤは感情を出した。

 

「否!我らには智慧がある。技術がある!その力でもってすれば、神をも打倒出来るはずだ!」

「だから、貴様を生み出したか?」

 

キャロルちゃんが聞く。

 

「ああ。そうだ。完全なる機械。無駄のない兵器。ここまで変わり果てて、ようやく我々は神を打倒出来る」

「哀れね……」

 

ファラがそう呟く。

 

「そうかもしれん。だが、もう後には引けないのだ。私も、彼らも」

 

神の恐ろしさを知ったから、そうアリーヤは呟いた。

 

「…………最終試験を開始する」

 

アリーヤがそう言うと、ブザーが鳴る。

と、同時にアリーヤの背後の床から、壁が現れる。

壁にはいくつかの武器が掛けられている。

 

「戦闘モード起動」

 

アリーヤが壁から武器を取る。

右手に角ばったライフル。

左手には尖ったライフル。

壁から伸びたロボットアームが、アリーヤの背中にキャノン砲を接続する。

 

アリーヤが武装すると、壁が下がっていく。

 

「試験内容は、シンフォギア及びキャロル・マールス・ディーンハイム及び終末の四騎士との戦闘」

 

アリーヤの複眼が光る。

 

「私を倒してみせろ。そうでなければ、阿礼星乃を助ける事は叶わないぞ」

「全員来るぞッ!」

 

キャロルちゃんが叫ぶ。

アリーヤが背中のブースターを吹かして突撃してきたのは、ほぼ同時であった。

 

 

 

一鳴&キャロル&オートスコアラーVSアリーヤ【1D10】

(6人の合計値VSアリーヤ)

 

一鳴【7】

キャロル【8】

レイア【3】

ファラ【3】

ガリィ【5】

ミカ【4】

 

アリーヤ【6】+30(性能補正)

 

 

 

アリーヤが加速しながら両手のライフルを構える。

銃口が光り、弾丸がレイアとファラを撃ち抜いた。

 

「ガッ……!?」

「な……ッ!?」

 

弾丸はレイアとファラの胴体を貫き、アリーヤがその脇を通り抜けた。

レイアとファラが倒れる。

 

「レイア!ファラ!!」

「マスター!」

「お逃げを!」

 

レイアとファラが地に伏せると同時に叫ぶ。

アリーヤが大きく弧を描くように、戻ってくる。

疾い。

アリーヤの姿が残像のようにしか見えない。

光を残して駆ける、黒い残像だ。

 

「ヤッバ、なにあの速さ!?」

 

ガリィが慄く。

 

「ガリィ怯むな!来るぞ!」

「わかってますよマスタァ!」

 

アリーヤがガリィに向かって加速。

ガリィは氷の矢を形成、アリーヤに向かって撃つ。

それをアリーヤは肩につけられたブースターを吹かして横っ飛びに回避。

クイックブースト……!

 

「そこだゾ!」

 

ミカちゃんが高圧縮カーボンロッド射出!

ブースト後の隙を狙ったのか。

だが。

アリーヤは先程とは反対側の肩ブースターを吹かして回避。

そして。

アリーヤが引き金を引く。

銃弾の一つはガリィの肩に、一つはミカちゃんの左腕を撃ち抜いた。

 

「ガリィ!ミカ!」

 

キャロルちゃんが叫ぶ。

二人が倒れる。

 

アリーヤが倒れつつある二人の頭部に銃口を向ける。

弾丸が放たれる。

だが、その弾丸が二人の頭部を破壊する事は無かった。

 

「間に、合った……ッ!」

 

俺は、密かに腰部アーマーから小型戦輪を射出。

アリーヤの弾丸を弾いたのだ。

 

「……ほう」

 

ノイズ音混じりの声。

アリーヤの物だ。

 

「オリジナルの自動人形と聞いていたのに弱いと思っていたが、シンフォギアの方は中々やるな」

「そりゃどうも!」

 

そう言いながら、小型戦輪を操りアリーヤに向かわせる。

その数10。

アリーヤを囲むように配置し、射出。

 

「甘い」

 

アリーヤはそう言うと、両手を伸ばしてその場で回転。

同時に銃弾発射。

クルクル回りながら小型戦輪たちを撃ち落としていく。

 

「そこだッ!」

 

一瞬の隙を突き、キャロルちゃんがダウルダヴラの糸をアリーヤに巻き付かせる。

関節に絡まり、アリーヤの動きが止まる。

 

「いまだ一鳴ッ!」

「了解!」

 

キャロルちゃんの意図を汲んで、大戦輪を構えてアリーヤに突撃。

大戦輪を振りおろそうとするが……。

 

「哀れだよ。炎に向かう蛾のようだ」

 

アリーヤがブースト点火。

と、同時に糸で繋がっていたキャロルちゃんが引きずられる。

アリーヤがキャロルちゃんを振り回す。

遠心力で加速したキャロルちゃんが俺にぶつかってくる。

俺は咄嗟に戦輪を捨てて、キャロルちゃんを受け止めるが……。

 

「うわああああ!」

「ぐえっ」

 

衝撃は殺しきれず。

糸が切れたキャロルちゃんもろとも壁に激突してしまう。

 

「うぅ……、すまん」

「キャロルちゃん、無事?」

 

キャロルちゃんを受け止めて、壁に対してクッションになったけれど、キャロルちゃんに何かあったら大変である。

 

「ああ。……アイツ、ヤバイぞ」

「うん」

 

アリーヤ。

ヒトの目に止まらぬ速度、力。

精密動作。

人を捨て、機械の身体、兵器となった戦士。

強い。

ただシンプルに強い。

 

「キャロルちゃん」

「なんだ」

「もう一度。5秒だけ、アイツの動きを縛れる?」

「……やる気か」

「うん」

 

キャロルちゃんは察したようだ。

アイツに勝つためには、俺が絶唱するしかないのだと。

キャロルちゃんは唇を噛む。

 

「……ごめんね、気使わせて」

「……ッ!うるさい!…………やるからには、成功させろ」

「ウィ」

 

俺とキャロルちゃんは立ち上がる。

 

「作戦会議は終わったか」

「ああ」

「反撃じゃ!」

 

アリーヤが銃口を向ける。

 

「ガリィ!」

 

キャロルちゃんが叫ぶ。

倒れていたガリィが起き上がる!

 

「はぁいマスタァ!」

 

ガリィが右手をアリーヤに向ける。

銃口が凍る。

 

「……む」

 

アリーヤの攻撃は封じられた。

一瞬だけ。

 

「ならば」

 

背中のキャノン砲をこちらに向ける。

即座に発射。

一瞬の光。

レーザーか!

 

「散開!」

 

俺とキャロルちゃんは別々に逃げる。

アリーヤが狙うのは、俺か。

レーザー砲がこちらを狙う。

当たれば大ダメージは必至か。

だが。

 

「ミカ!」

 

キャロルちゃんが叫ぶ。

 

「わかったゾ!」

 

倒れていたミカちゃんが高圧縮カーボンロッド発射。

アリーヤは回避行動。

レーザー砲発射中止!

 

「ファラ!レイア!」

「わかりましたわ!」

「了解!」

 

胴体を撃ち抜かれた筈のファラとレイアが上体だけ起こす。

ファラは風で、レイアは硬貨でアリーヤを狙う。

 

「…………」

 

アリーヤは最低限のブースト移動で回避。

だが。

一瞬、隙が出来る。

 

「ここだッ!」

 

キャロルちゃんの錬金術。

アリーヤの脚に集中攻撃。

 

「む……ッ!」

 

アリーヤが怯む。

 

「一鳴ィッ!」

 

キャロルちゃんが叫ぶ。

ここが、勝負どころだ!

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el baral zizzl

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el zizzl

 

絶唱。

シンフォギアのリミッターを解除し、聖遺物のエネルギーを限界を超えて出力する。

溢れたエネルギーが、炎と変わり俺を包む。

 

「なんだ……ッ?」

 

アリーヤが初めて慄いた。

ブーストを吹かして距離を取ろうとする。

 

「逃さんッ!」

「一斉攻撃で!」

「派手に動きを止めるッ!」

「いい加減倒れなさいよッ!」

「終わりだゾ!」

 

キャロルちゃんとオートスコアラーたちが攻撃してアリーヤを釘付けにする。

 

「そこだァァァァァア!!!」

 

俺はアームドギアを盾のように構える。

アームドギアが高速回転し、炎が溢れる。

そして。

絶唱のエネルギーが最大限に至り。

アームドギアから炎の奔流が放たれる。

それは、太陽のプロミネンス。

5000度から10000度に及ぶ、超高温の焔。

その紅炎がアリーヤに迫る。

 

「な……ッ!」

 

藻掻こうとしたアリーヤだが、紅炎に呑まれて動きが止まる。

金属の装甲が熔ける。

関節が熔けて固まる。

電子回路が燃える。

義体が、焼ける。

 

「ア─────!!!?」

 

アリーヤが叫ぶ。

しかし、熔けた身体では動けない。

燃えた身体では逃げられない。

そのまま、アリーヤはただの熔鉄と変わる。

 

「──────…………」

 

アリーヤは機能停止した。

プロミネンスが消えていく。

アームドギアの回転が止まる。

溢れるエネルギーが消滅していく。

 

 

 

絶唱のフィードバック【1D6】

 

1 軽度

2 軽度

3 重度

4 重度

5 重度

6 瀕死

 

結果【2】

 

 

 

「……ぐふっ」

 

俺は吐血した。

絶唱のフィードバックが身体にダメージを与えたのだ。

身体がふらつくが、倒れる程のダメージではない。

……我ながら、頑丈やね。

 

「一鳴ッ!」

 

キャロルちゃんが駆け寄る。

そのまま俺の身体を支える。

 

「キャロルちゃん」

「平気か?」

「うん、大丈夫。ダメージはあるけど、思ったより平気」

 

俺はキャロルちゃんの身体にもたれかかる。

 

「重くない?」

「そんな事、お前が気にするな」

 

キャロルちゃんはそう言ってくれる。

嬉しいね。

 

「今本部に連絡する。阿礼星乃はこっちで保護しておくからお前は休め」

 

そう言って俺を座らせるキャロルちゃん。

そんな時。

 

「その必要はないわ」

 

と声。

声の方を見ると、金属製の台車に乗せられた頭部と胴体だけの機械人形。

阿礼星乃だ。

その台車を押すのは従者の菊江さん。

 

「阿礼星乃か?」

「ええ」

「先程、部屋のロックが外れたので逃げ出してきたのです」

 

との事だった。

 

「それにしても、ボロボロね」

 

星乃がアイカメラを光らせて俺たちを見る。

 

「アンタたちを助ける為にね」

「ありがとうございます、皆様」

「別に頼んでないわ」

「星乃様!またそのような言い方を……」

 

まあ星乃はそう言うのも仕方ないけどさ。

 

「それに、まだ終わってないわよ」

 

と、星乃。

 

「どういう事だ?」

 

と、キャロルちゃん。

 

「アリーヤは確かにレイレナード日本支社の最高傑作。でも、まだ完成していない」

「なに?」

「アリーヤは叩き台って事よ」

 

星乃は語る。

 

「アリーヤは異端技術と、レイレナードの研究者の知恵をかき集めて作られているわ。でも彼らはそれだけで神に勝てるとは考えなかった。必要なのは経験だと考えた」

「経験?」

「そう、戦闘経験」

「───まさか」

 

嫌な、予感がした。

 

「アリーヤの使命、それは貴方たちとの戦闘経験を得ること。貴方たちを観察し、対策を組み、戦闘アルゴリズムを作ること」

「……ッ!?」

「そしてレイレナード日本支社の目的はそれをレイレナード本社に送信すること。レイレナードはね、更なる強さを得たアリーヤを量産するつもりよ」

 

最悪だ。

戦いはまだ終わっていない。

むしろここから本番だ。

 

「阻止は!?」

「可能よ。ここのネットワーク施設を破壊すれば阻止できるはず。戦闘経験のデータは膨大。まだ、間に合うわ」

 

星乃がそう言うと、キャロルちゃんは駆け出す。

 

「ミカ、ガリィ!来い!」

「わかったゾ!」

「はぁ〜い。超過労働分の報酬、2課からふんだくってやるんだからぁ!」

 

ミカちゃんは左腕、ガリィは肩を撃ち抜かれただけなのでまだ動ける。

だが、ファラとレイアは胴体を撃ち抜かれているので待機と言うことか。

そして、絶唱でまともに戦えない俺も……。

 

「キャロルちゃん、頑張って!」

「仕方ないが、オレがなんとかする。お前たちはここで待っていろ」

 

そう言って、元来た道を駆けていくキャロルちゃん。

その後ろに続くミカちゃんとガリィ。

 

「マスター、ご武運を」

 

レイアの言葉が、部屋にこだました。

 

 

 

 

 

 

地上を目指すキャロルは本部に事の次第を連絡していた。

2課はすぐに行動を開始した。

 

「藤尭!ここからデータ送信、阻止できるか!?」

「……、……ッ!駄目です!ファイアウォールが強固過ぎるッ!」

「キャロルちゃん、ネットワーク施設の場所は送信したわ!」

「スマン、友里!」

「すぐに実働部隊に連絡!レイレナード日本支社に強行査察を!」

 

藤尭はレイレナード日本支社にハッキングを仕掛け、友里はネットワーク施設の場所をキャロルに教えた。

八紘は現場にいる黒服実働部隊に連絡し、レイレナード日本支社を制圧しようとした。

だが……。

 

「……どうした?」

 

八紘に実働部隊から連絡が入る。

 

「無数の自動人形だと!?」

 

レイレナード日本支社敷地内から、無数の量産型自動人形が現れて、上陸しようとしていた実働部隊を襲撃していた!

 

「キャロルくん!」

 

弦十郎の叫び。

 

「聞こえていたッ!」

 

キャロルが返す。

 

「手はあるッ!実働部隊を下がらせろ!」

「……なにッ!?」

「危ないから下がらせろと言ったんだ!」

「……わかった」

 

八紘はキャロルの言う通り、実働部隊を一時下がらせた。

 

「キャロルくん!」

「よし」

 

キャロルは地上目指して走る。

走りながら、()()()

 

「よし、出番だッ!」

 

キャロルは命じた。

5番目の自動人形に。

 

海が荒れる。

波が起こる。

夜の暗い海から、巨人が現れる。

癖のある髪。顔と手足を包帯で隠した巨躯の自動人形。

レイアの妹だ!

 

「■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

レイアの妹は雄叫びを上げる。

そして、レイレナード日本支社上の自動人形を薙ぎ払う。

文字通り、薙払った。

 

「よしッ!」

「おおー、すごいゾ!」

「大迫力ねぇ〜」

 

丁度、地上に辿り着いたキャロルたちがその光景を見た。

 

「よし、ネットワーク施設を破壊するぞ!」

「わかったゾ!」

「さっさと終わらせましょマスタァ!」

 

その3人を囲むように、量産型自動人形が現れる。

その自動人形たちを更に倒そうと、レイアの妹上陸。

レイレナード日本支社は戦場と化した。

 

 

 

2課VSレイレナード日本支社【1D10】

 

キャロル【2】

ガリィ【8】−2(アリーヤ戦でのダメージ)

ミカ【3】−2(アリーヤ戦でのダメージ)

レイアの妹【7】×10(大きさ補正)

 

量産型自動人形軍団【5】×10(数補正)

 

折れた支柱の数【7】(8本以上で……)

 

 

 

「■■■■■■■■■■■ッ!!」

 

レイアの妹が並み居る量産型自動人形軍団を薙ぎ払う。弾き飛ばす。粉砕する。

 

「もうあの子一人でいいんじゃないですかぁ?」

 

ガリィが遠い目をしてその光景を見る。

 

「そんな訳あるかッ!」

 

キャロルが叱りながら量産型自動人形軍団を燃やす。

 

「バラバラだゾ!沢山バラバラだゾ!!」

 

ミカもカーボンロッドで殴って進む。

 

「……あ、支柱折れた」

 

レイアの妹の腕が当たり、レイレナード日本支社の支柱が一本折れる。

 

「……あった!ネットワーク施設!」

 

キャロルがネットワーク施設に辿り着く。

しかし。

 

「流石に容易くやらせんかッ!」

 

量産型自動人形軍団が邪魔をする。

 

「邪魔だゾ!」

 

ミカが薙ぎ払う。

しかし、自動人形たちの数は多い。

 

「もろともやれッ!」

 

キャロルがレイアの妹に命じる。

レイアの妹が腕を振り上げ……。

 

「■■■■■!!!」

 

一気に振り下ろした。

量産型自動人形軍団ごと、ネットワーク施設破壊!

 

「よしッ!」

「やったゾ!」

「……あ、支柱7本折れてる。確か、8本折れたら建物倒壊とか、言ってたわねぇ」

「■■■■■■■■■!」

 

勝利の雄叫びをあげるレイアの妹。

そこに2課から連絡。

 

「キャロルくん!こちらも社内の制圧を完了した!」

 

戦闘に紛れて実働部隊が上陸、密かに社内に残ってた者たちを拘束した。

 

「これで、今度こそ終わりですかぁ?」

 

ガリィがボヤく。

 

「ああ。ご苦労だった」

 

弦十郎がそう言う。

アリーヤの戦闘経験データの送信は中止され、レイレナード日本支社社員は拘束された。

事件は無事、解決である。

 

 

 

 

 

 

と言う訳で今回のオチ。

 

レイレナードの野望は頓挫した。

社の命運を賭けて作られたアリーヤは破壊され、その戦闘経験データは蓄積されることは無かった。

今回の一件を計画した日本支社の社員は軒並み逮捕され、阿礼星乃と従者の菊江は無事救出された。

 

その後、阿礼星乃と菊江は事情聴取の後、再び深淵の竜宮に送られた。

訃堂司令や弦十郎さんも再三説得したのだが、

 

「もう、俗世に興味はないわ」

 

と、けんもほろろに断られたのだという。

菊江さんも、

 

「星乃様を一人にはしておけませんから」

 

と、同行した。

二人は今、海底の奥底で穏やかに暮らしている。

 

 

 

いい事もある。

今回の一件で、レイレナード社がチフォージュ・シャトーから持ち出した技術を2課がサルベージ出来たのだ。

その中には記憶転写技術とホムンクルス製造技術があったのだ。

これで、ノーブルレッドの3人を人間に戻す事が出来るようになったのだとか。

その技術を形にする為には時間が必要らしいが、それでも喜ばしいことだ。

 

喜ばしいことはもう一つ。

終末の四騎士、ファラ、レイア、ガリィ。そしてレイアの妹が2課の職員として働くことになった。

もっとも、普段はキャロルちゃんの護衛として研究室に詰めるらしいが。

それでも、オートスコアラー四騎が揃ってミカちゃんやエルフナインちゃん、そしてキャロルちゃんは嬉しそうだ。

 

 

 

そして、俺は───。

 

「はい、あーん♡」

「あの、一人で食べられるよ?」

「あーん♡♡♡」

「あの……」

「あーん(威圧)」

「あーん(屈する)」

 

俺は2課の病室でセレナちゃんに看病されていた。

絶唱のフィードバック。

それは確かに俺の身体を蝕んでいた。

レイレナード日本支社から救急搬送され、この病室に叩き込まれたのだ。

重症患者として。

意識もはっきりしてるし、身体も動くんだけれどねぇ……。

 

「絶対安静ですよ!」

 

と、押し切られて。

セレナちゃんに看病されてる次第である。

 

「本当に、心配したんですからね」

「ごめんね……」

「絶唱は、身体にすごく負担が掛かるんです」

 

そっか。

セレナちゃんはF.I.S.の装者だったから、絶唱の事も知ってるよね。

 

「弦十郎さんから、一鳴さんが絶唱を使ったって教えられて、私……わだじ……」

「うん、ごめんね……」

「うえぇぇん」

 

セレナちゃんは泣いてしまった。

セレナちゃんを泣かせてしまった。

 

「ごめんねセレナちゃん。心配させちゃって」

「ほんどでずよ!」

「うん、ごめん」

 

俺は起き上がり、セレナちゃんを抱き締める。

今年で孤児院を出て、リディアン音楽院の寮で暮らす事になるセレナちゃん。

すっかり女性らしくなったけれど、細い肩のセレナちゃんを抱き締める。

 

「セレナちゃん、俺強くなるから」

「う゛ん゛」

「絶唱使わなくて良くなるくらい、セレナちゃんを心配させないくらい強くなるから」

「わだじも」

「うん」

「わだじも、がずなりざんを支えられるくらい、強く、なります!」

 

ぎゅ、と俺を抱き締め返すセレナちゃん。

セレナちゃんの頭を撫でる。

 

「うん。……セレナちゃん、今日一日、看病してくれる?」

「はい!……あ」

「なに?」

「マリア姉さんと調さんも看病したいって言ってました」

 

あー、つまり?

 

「明日から、3人で看病しますね!」

「アッハイ」

 

それから。

3人は俺の世話を焼くようになった。

セレナちゃん、俺身体くらいなら自分で拭けるから。

調ちゃん、お水口移しで飲ませなくて大丈夫だから。

マリアさん、お願いだからその尿瓶から手を離して!

 

結局。

退院許可が降りる三日間。

3人に甲斐甲斐しく世話を焼かれ続けた俺であった。

 

 





今回出てきたレイレナード社。
元ネタはアーマード・コア4及びフォーアンサーに出てくる企業です。
でっかいロボットが戦うゲーム。
そのロボットの一つにアリーヤという機体があります。
レイレナード社が作った鋭角が鋭いカッコいい機体。
私の好きな機体です。

だから出した。
後悔はしてない。

そんな訳でオートスコアラー・スクランブル終了。
次回はバレンタイン回。
XDで出てきたあの錬金術師三人組が出てきますよ!


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第五十三話 護りたいハッピーバレンタイン

この前見た夢の話。
仕事内容は不明だが、私は髭面で四角い顔のオッサンの部下。結月ゆかりが同期。
オッサンに恋愛相談して雪音クリスちゃんとデートして夜景のキレイなトコロでキスして、プロポーズ。そして結婚。
クリスちゃんの愛が重い、と周りは言うけど私は気にしてなかった。
そんな夢。
ちなみに結月ゆかりは髭面のオッサンとワンナイトラブしてたし、髭面のオッサンは既婚者。
そして結月ゆかりは私が結婚したと聞いて悔しがってた。
どんな夢だ。フロイト先生、診断オナシャス。
私がクリスちゃん大好きって事しかわかんないよ。

そんな訳でバレンタイン回です。
ちょっと早いけど、来月仕事でどうなるかわからないし、多少はね?



2月14日。18時。

バレンタインデーである。

 

聖ヴァレンティヌスが結婚を禁じられた兵士の為にこっそり結婚式を行っていたエピソードから発展した、好きな人にチョコを贈る日である。

まあ、お義理で異性にチョコを贈り、ホワイトデーに3倍返しを巻き上げる半沢直樹もビックリの暴利を貪る女性もいるが。

 

それはさておいて。

今日は火曜日。平日である。

あるが。

俺は地元を離れて、2課のある街に出ている。

なぜか。

 

「一鳴さん、お待たせ」

「さぁ、行きましょう!」

「二人とも急いじゃだめよ」

 

調ちゃん、セレナちゃん、マリアさんとのデートの為である。

折角付き合いだして初めてのバレンタインだもの。

愛する人とデートしたいじゃない。

だから俺は事前にキャロルちゃんからテレポートジェムを貰って、放課後すぐにこっちに来れるようにしておいたのだ。

ちなみにその時、キャロルちゃんからもチョコを貰った。

シンプルなチョコレートケーキ、でも口当たりが滑らかで手間暇かかった一品。

エルフナインちゃんと一緒に作ったのだそうな。

こりゃホワイトデーの品も腕によりをかけて用意しないと……!

 

「えい」

 

と、調ちゃんが俺の右腕に腕を絡める。

 

「あ、調さんズルい!」

 

セレナちゃんがそう言い、俺の左腕に腕を絡める。

挟み撃ちの形になるな。

 

「もう、二人ともはしゃぎすぎよ」

 

マリアさんがそう言うが、その目は羨ましげである。

あとで、抱き締めてあげなきゃ(使命感)

 

「それで、今日はどこ行くの?」

 

今日のデートはマリアさんたちの発案である。

俺はどこに行くのか知らないのだ。

 

「今日は、小物を買いに行こうかと」

「セレナが孤児院を出てリディアンの寮で暮らすから」

「色々見に行くんだよね」

 

ああ、そうだった。

セレナちゃん今年から高校生なのだ。

リディアン音楽院に入学して、寮で暮らす事になる。

その小物を買うのである。

ちょうど、街でもバレンタインモールなる特別な品揃えの店が出ているらしいしね。

可愛らしい小物がいっぱいである。

 

「なるほどね。ふふん、俺がセンスいい小物を見繕ってみせませう」

「フフ、お願いしますね」

「私も頑張る」

「寮で暮らすなら、あった方がいい物もあるし、そういったものなら教えられるわ」

 

四人で街を歩く。

調ちゃんとセレナちゃんに挟まれて、その後ろからマリアさん。

店先にはバレンタインデーの飾り付けがされて、チョコの甘い匂いが洋菓子店から漂ってくる。

そして、街を歩くのは俺達と同じようにカップルが多い。

彼らもきっと、バレンタインモールに行くのね。

 

「流石バレンタイン。カップル多いね」

「バレンタインですからね!」

 

セレナちゃんがぎゅっ、と身体を押し付ける。

 

「私達みたいにカップルでデートしてるんですよ」

「そうだね」

 

調ちゃんもぎゅっ、と身体を押し付ける。

 

「恋人たちにとって、大切な日だから」

「そうよ」

 

マリアさんが、俺の服の裾を掴む。

 

「大切な日だから、一緒にいたくなるの」

「なるほどね」

 

うーん、愛されてる。

 

「そういえば、バレンタインといえばチョコですが」

「フフ、ちゃんと用意してるわよ」

 

マリアさんが微笑む。

 

「でも、まだです」

「エッ、ナンデ?」

 

セレナちゃんにそう言われた。

お預けナンデ?

 

「あのね、この街に【岩の戦士ハベル像】っていうオブジェがあるの」

 

と、調ちゃんが教えてくれる。

なんやその古竜の牙振り回してそうな高強靭マンの像は……。

 

「そのオブジェの下で愛を誓いあったカップルは、岩のように変わることなく永遠に愛し合えるって言われてるのよ」

 

マリアさんが言葉を繋げてくれる。

ハベルに愛にまつわる言い伝えなんてなかったやろ……。誰だよ捏造したの。

でも……。

 

「ロマンチックだね」

「うん」

 

キラキラした目の調ちゃん。

 

「だから、ハベル像の下で、私達のチョコをお渡ししますね」

「永遠の愛を込めて、ね」

 

セレナちゃんとマリアさんにそう言われた。

なるほど。

そういう訳ね。

 

「わかった。チョコはそれまで、楽しみにしてます」

「ええ、期待しててね」

 

みんなにそう言われると、余計に期待が膨らむというもの。

それにしても、永遠の愛か。

いいよね……。

万物流転、この世に変わることのないものは無い。

だとしても、この愛は永遠に続いていくと、変わらないと信じる。信じ続けて、行動する。

そんな人間の心は、美しいと思いました(作文感)

そんな事を考えていると。

悲鳴が聞こえた。

 

「え、なに?」

「近いよ?」

 

セレナちゃんと調ちゃんが当たりを見渡す。

更に何かの破壊音が聞こえた。

 

「キャッ!」

「調!」

 

怯える調ちゃんが俺にしがみつく。

その調ちゃんを庇うように、マリアさんが近づく。

 

「あ、あれ!」

 

セレナちゃんが指差す。

その方向には、バレンタインセール中のスーパー。

その店先に、ノイズが居た。

ノイズが暴れているのだ。

人々が逃げ惑う。

 

「皆!」

「はいっ!」

 

俺の声に答えるように、調ちゃんとセレナちゃんが腕を離す。

 

「───── Sudarshan tron」

 

聖詠を唄う。

瞬間、シンフォギアがプロテクターを形成。

黒い部分の多い赤銅色の装甲。

細身の機械鎧は全身を覆い、腰から伸びる大型スカートアーマーは下半身を隠す。

胸部装甲は上に伸びて喉を隠す。

そして最後に背中に光輪めいたアームドギア形成。

シンフォギア、装着完了である。

 

「3人とも、避難誘導をお願い!」

「わかったわ!」

「まかせて」

「一鳴さん、頑張って下さい!」

 

3人の声援を受けて、俺はノイズに突貫した。

 

「イヤーッ!」

 

アームドギアを振るう。

炎がノイズを覆い、ノイズを溶かす。

 

「え?」

 

ノイズを溶かす?

ノイズって、溶けるの?

そんな疑問をよそに、ノイズは溶けて崩れ落ちた。

 

「なに、これ?」

 

なにか、おかしい。

普通ノイズは溶けないし、その残骸はほとんど残らない。灰になって吹き飛ぶのみだ。

だが、このノイズは溶けて残骸が残っている。

いや、そもそも。

この甘い匂いはなんだ?

少し焦げ臭いし。

というか、このノイズ、茶色くない?

 

「いや、まさか……」

 

ノイズの残骸に指を突っ込む。

掬う。

指にノイズの残骸が着く。

茶色くて、甘い匂いで、すこしとろけてる。

ぺろり、と舐めてみる。

甘い。

甘くて、すこしビター。

 

「チョコだこれ!」

 

チョコで出来たノイズだ。

チョコノイズ?

胡乱なのが出てきた。

 

「一鳴くん、聞こえる?」

 

と、2課から通信が入る。

 

「藤尭さん?」

「一鳴くんが今いる所で高エネルギー反応を捉えたんだけど……」

「あー。なんというか。チョコで出来たノイズが居ました」

「え、チョコのノイズ?」

 

藤尭さんも混乱している。

 

「いや、バレンタインだからってそんな……、ッ! さらに高エネルギー反応多数! 一鳴くんッ!」

「もう視認してますよ」

 

そう。

目の前に無数のチョコノイズ。

つい先程、出現したのだ。

 

「一鳴くん、避難誘導の人員を派遣するからそれまで、民間人の保護をッ!」

「了解!」

 

そんな訳で。

チョコノイズたちを破壊していこう。

……と、思ったのだが。

 

「………………あの、藤尭さん。チョコノイズたち、人には目もくれず街だけ攻撃しているんですが」

「……うん、こっちも報告来てるよ。人的被害は、パニックになった人たちが避難する途中でコケて膝を擦りむいたとかだけだ」

 

うん。

チョコノイズたち、人間にはまったく興味を示さないのだ。

彼らが攻撃するのは街の施設だけ。

しかも、バレンタインの飾り付けとか、バレンタインセール中のチョコレートとかだけだ。

まあ、それでも迷惑極まりないので、チョコノイズを破壊して回ってるのだが。

 

「しかし一体、誰がなんの目的でこんな事を……」

 

思わずボヤいてしまう。

と、その時。

 

「フーッハッハッハ!!」

 

と、高笑い。

 

「誰だ!?」

「ここだッ!」

 

俺の声に答えるかのように、3人の影。

 

「さすが噂のシンフォギア装者、オレたちのアルカ・チョコノイズをこうもやすやすと倒すとは……」

「アルカ・チョコノイズ、だとぉ!?」

 

背の高い、いじわるそうな男。

無線から、弦十郎さんの驚く声!

というか、アレ、アルカ・ノイズの一種なのか。

 

「貴様の活躍で、吾輩たちの目的達成が遅れている。流石だな……!」

 

中肉中背の、強面の男。

 

「目的……。バレンタインっぽい物を壊してるのはやはり、貴様らか!」

「まさかもなにも、こんな登場をしておいて、事件の首謀者じゃないと思ったのかな〜?」

 

俺の問いかけに、背の小さいひょうきんそうな男が答える。

 

「チョコノイズもとい、アルカ・チョコノイズを量産して、バレンタインっぽいものを破壊する貴様らは何者だッ!?」

 

俺の問いかけに、3人は高笑いして答えた。

 

「オレの名は現今の真理の探求者・アクチュアルッ!」

 

と、いじわるそうな男、アクチュアルが名乗る。

 

「吾輩は往昔の探求者・ガンゲンハイト……」

 

と、強面の男、ガンゲンハイト。

 

「そして、オイラは曇りなき未来の探求者・ツークンフトだいッ!」

 

と、ひょうきんそうな男、ツークンフト。

 

「「「我ら! 3人合わせて錬金術師トリオ・クラウディオッ!!! 見知り置くがいいッ!!!」」」

 

3人が堂々と名乗る……!

 

「トリオ・クラウディオ……ッ!」

「ふ、オレたちの威光に恐れたか」

「シンフォギアといえど、所詮は小学生よ……」

「オイラたちの方が100倍スゴイんだ!」

「いや、どこの組織?」

 

初耳の組織であった。

 

「お、オイラたちの事知らないとか……!?」

「ば、バカなッ!? 錬金術師界に彗星の如く現れたニューホープ、かの有名なクラウディオだぞッ!?」

「いや、知らん……」

 

初めて聞いた。

え、原作に居たっけ?

あ、オリジナル組織か!

 

「がはッ!」

 

アクチュアルが膝から崩れ落ちる。

 

「リーダー、しっかりしろ!」

 

ガンゲンハイトがアクチュアルを支える。

 

「ウチのリーダーは繊細なハートの持ち主なんだぞッ! あんまりイジメるなよッ!」

「ええ……」

 

ツークンフトに責められた。

 

「おい」

 

と、ここでキャロルちゃんから通信。

 

「トリオ・クラウディオという組織だが、サンジェルマンに確認を取ったら確かに存在していた」

「ウワハハハハハ! それ見たことかッ! お前たちが物知らずなだけなのだッ!」

「ソイツらは元々パヴァリア光明結社の一員だ」

 

へー、この3人元パヴァリアなのね。

 

「いかにも! 吾輩たちはアダム様に見出された優秀な錬金術師……」

 

と、ガンゲンハイト。

キャロルちゃんが説明を続ける。

 

「結社の資金を流用して追放されてる」

「追放されてんじゃねーか!」

 

しかも資金流用って……。

 

「ち、違う!」

 

と、アクチュアル。

 

「我らは崇高な目的の為にアダム様に頼んで資金を融通して貰っていたのだ! 断じて流用ではないッ!」

「……結社の統括局長アダムは適当な性格だから、資金の融通はサンジェルマンを通すルールらしいが?」

「ぐぅッ……!!」

 

キャロルちゃんのツッコミにうずくまるアクチュアル。

 

「リーダーッ!」

「しっかりしろッ!傷は浅いぞッ!」

「つまり適当な性格のボスを騙くらかして資金流用したって事か」

「小悪党ね……」

 

藤尭さんと友里さんが好き勝手言う。

いやまあ、小悪党だけどさ……。

 

「い、言うに事欠いて小悪党、だとぉ……!」

「落ち着けリーダー。無知蒙昧な人間の言葉など……」

「ヘヘっ、サンジェルマン師もオイラたち3人の崇高な思想を理解出来なかった負け惜しみさ!」

 

と、クラウディオの3人。

 

「……いや、バレンタインで使うチョコを買い占める為に資金援助してくれ、は流石に駄目だろ」

 

キャロルちゃんのマジレスである。

というか、え、バレンタインのチョコを買い占める?

え、え?

 

「いや、なんでさ」

「ふん、理解出来んようだな」

 

と、アクチュアル。

 

「バレンタイン等というくだらぬ行事から、人間たちの目を覚まさせてやるのだッ!」

「デパートの商戦、資本主義にまんまと騙された哀れな者共よ……」

「聖ヴァレンティヌスの逸話とチョコレート、なんにも関係ないじゃないかッ!」

 

3人がまくしたてる。

 

「でも、楽しいじゃろ。好きな人と過ごすバレンタイン。好きな人から贈られるチョコレート美味しいし」

「ぐぅぅぅぅ、キラキラオーラがぁぁぁぁッ!」

「リーダーッッッ!!!」

「傷は深いぞッッッ!!!」

 

3人が膝をつく。

 

「おのれ、これみよがしにリア充オーラを……ッ!」

「だけど、これを見てもそんな態度を取れるかな……?」

「さぁ来い、アルカ・チョコノイズ!」

 

ぞろぞろと、チョコノイズたちが歩いてくる。

その中心には……。

 

「マリアさんッ!? セレナちゃん!? 調ちゃん!?」

 

俺の恋人たちが捕らえられていた。

 

「ごめんなさい、一鳴……」

「捕まっちゃいました……」

「うぅ……ごめんなさい」

 

3人は抱き合って震えている。

可哀想に……。

 

「人質、と言うことか……ッ!」

「そうだッ! お前が小学生のクセに、彼女が3人も居るのは知ってるんだよッ!」

「大人しくしてもらおうか……」

「さあやれ、アルカ・チョコノイズたちッ!」

 

またアルカ・チョコノイズが現れて、街を破壊していく。

 

「ああッ、あの雑貨屋! 行きたかったのに……」

「ヒドいよッ!」

「どうしてこんな事するのッ!?」

 

マリアさんが叫ぶ。

3人は哄笑した。

 

「どうして、だとッ!?」

「吾輩たちはバレンタインが憎いのだッ!」

「そうだ、バレンタインなんてなくなってしまえばいいんだいッ」

 

バレンタインへの憎しみを隠さない3人。

 

「一体、なにがアンタらをそんなに憎悪させるんだ……ッ」

「ふ、聞きたいか? ならば教えてやろう……」

 

アクチュアルが語りだす。

 

「あれはオレがまだ小学生の頃───」

 

 

 

 

 

 

アクチュアルがまだ小学生の時。

アクチュアルには好きな人が居た。

同じクラスのナターシャちゃんだ。

ナターシャちゃんは銀糸のような髪に碧玉のような瞳。

美少女である。

 

さて、バレンタイン。

アクチュアルはナターシャちゃんに告白する事にした。

アクチュアルの国では、男が女にチョコレートを贈るのだ。

だから、アクチュアルもチョコレートを用意した。

あちこちガタガタしているが、自家製のチョコレートだ。

だが……。

 

「ニェット。ごめんなさい。私、恋人います」

 

と、にべもなく断られてしまう。

そしてナターシャちゃんはそのまま去ってしまった。

アクチュアルのチョコレートを受け取らずに……。

 

アクチュアルは叫んだ。心の奥底から。

 

「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

と。

 

 

 

 

 

 

「と、言う訳だッ!」

 

アクチュアルの話が終わる。

俺も、マリアさんも、セレナちゃんも、調ちゃんも。黙って聞いていた。

 

「吾輩はバレンタインの日に恋人に振られた……」

 

と、ガンゲンハイト。

 

「オイラはクラス皆にチョコレートを配ってる女の子が、オイラにだけチョコレートをくれなかったんだ……、うぅ」

 

ツークンフトが涙を滲ませる。

 

「………………」

 

言葉が出ない。

 

「わかったか、オレたちに憎悪を植え付けたバレンタインの正体がッ! バレンタインがもたらす愛や夢や希望など、幻想ッ! その本質は絶望なのだッ!」

 

熱弁するアクチュアルに、マリアさんが口を挟む。

 

「あの、気の毒だとは思うけれど……。ノイズ使って暴れるほど?」

「そうだよね……」

 

ノイズ使って暴れるにしては、理由がしょっぱい。

いや、普通に悲しい過去だけどさ。

 

「酒飲んで忘れなよ、そんな思い出」

「忘れられるかッ! この前ナターシャちゃんの結婚式の招待状が届いたんだぞッ!」

「ウォッカ飲んで寝ろ!」

「うるさいッ!」

 

アクチュアルが怒る。

 

「もう怒ったッ!街中のバレンタインというバレンタインを破壊し尽くして……」

「いまだ!」

 

俺はアクチュアルたちの隙をついた。

腰アーマーから、小型戦輪を射出。

マリアさんたちを捕らえるチョコノイズたちを溶かして破壊する。

 

「ああッ! 卑怯だぞッ!」

 

と、ツークンフト。

 

「人質取ってる方が卑怯でしょーが!」

「一鳴ッ!」

 

マリアさんたちが駆け寄ってくる。

俺はマリアさんたちの前に庇うように立つ。

 

「怪我はない?」

「ええ、大丈夫よ」

「でも、街が……」

「めちゃくちゃ……」

 

セレナちゃんと調ちゃんが言うように、バレンタイン一色だった街はチョコノイズによって破壊されていた。

 

「おのれ目の前でイチャイチャと……ッ!」

「リーダー! 吾輩たちの理想のため、さらなるアルカ・チョコノイズをッ!」

「もちろんだッ!」

 

と、またしてもチョコノイズを呼び出す。

が。

 

「種は見切った!」

 

俺は戦輪を投げる。

戦輪は炎を吹き出して飛ぶ。

炎の熱でチョコノイズが溶ける。

チョコノイズ殲滅!

……うん。

 

「なんでチョコレートでアルカ・ノイズなんて作っちゃったのさ……」

「うう、うるさいッ!」

 

怒鳴るアクチュアル。

 

「吾輩たちが買い占めたチョコレートの使い道がこれしか思い浮かばなかったのだ……」

「エコの精神だいッ!」

「その精神は偉いが……」

 

だからってアルカ・ノイズの素材に使っちゃ駄目だよ。

というか、結局チョコレートは買い占めたのか……。

この3人、憎むに憎みきれんなぁ。

 

「もう投降しなよ」

 

俺はそう投げかけた。

 

「これ以上罪を重ねちゃ駄目だよ」

「うるさいッ! オレたちの思想のため、諦める訳にはいかないんだッ!」

「そうだッ! 吾輩たちには負けられない理由があるッ!」

「そうだいッ! リア充爆発しろッ!」

 

3人が叫ぶ。

 

「いや、彼女作りなさいよ」

 

と、マリアさんがぶっこんだ。

 

「こふっ」

「がはっ」

「きひゅ」

 

クラウディオの3人が倒れた。

 

「……そうだよね」

「どうして彼女作らないんですか?」

 

調ちゃんとセレナちゃんもそう問いかけた。

 

「や、止めてあげてよぉ!」

「え、なんでよ?」

「彼女作ればいいのに」

「あ、なにか理由があるんですか!?」

 

クラウディオの3人はびくんびくんしている。

もう駄目そうだ。

 

「あのね、3人とも。ああいうリア充爆発しろ、とかバレンタインが憎い、とか言う人たちって、彼女は欲しくても彼女作る努力はしない人たちだから。楽な方楽な方に行って、文句しか言わないのよ」

「ごぼぉッ!」

「がはぁッ!」

「ぜひぃッ!」

「おごぉッ!」

 

クラウディオの3人が血反吐を吐いてしまった。

聞こえてしまったか……。

あと何故か、通信から藤尭さんの吐血音も聞こえたけど、まさかそんな筈はあるまいよ。

ハハ……(乾いた笑い)

 

「あ、そういうのね」

 

と、マリアさん。

 

「ちゃんと自分を磨く努力をすればいいのに」

 

と、セレナちゃん。

 

「……ダメ人間?」

 

と、調ちゃん。

クラウディオの3人はわなわな震えているかと思ったら、一気に立ち上がった。

 

「おのれ、よくも好き勝手言ってくれたな!」

「もう許さん!」

「オイラたちの本気をくらいやがれ!」

 

そう言うと、3人とも両手を前にかざした。

そして、その3人の前にチョコノイズが現れる。

 

「……む」

 

先程までのチョコノイズとは違う。

ただ立ってるだけなのに、隙が無い。

見た目にも、艷やかでどこか気品がある。

なによりも……。

 

「美味しそう……」

 

と、調ちゃん。

うん、そうなのだ。

目の前のチョコノイズ、とても美味しそうなのだ。

 

「ハッハッハッ! 見よ、これこそオレたちトリオ・クラウディオの最高傑作!」

「設計、造形、味! 全てに気を使った!」

「その名も、クリオロ・チョコノイズ!!!」

 

最高傑作、クリオロ・チョコノイズ……!

最高傑作というだけあって、今までのチョコノイズとは格が違うな。

 

「……クリオロ?」

 

と、藤尭さんから通信が入る。

 

「もしかして、クリオロ種のカカオを使ってるのかッ!?」

 

クリオロ種?

なにそれ?

 

「ハッハッハ! どうやら知ってる奴がいるようだなッ!」

 

と、自慢げなアクチュアル。

さらにガンゲンハイトが続ける。

 

「そうとも。このクリオロ・チョコノイズにはクリオロ種のカカオ豆が使われている……」

「とっても高価なチョコノイズなんだいッ!」

 

高いカカオ豆使ってるから、美味しそうなのね。

 

「そんなもんじゃないよ!」

 

と、藤尭さん。

 

「クリオロ種は絶滅危惧種ッ! 生産量は世界全体のカカオ豆の3%以下って言われてるんだッ!」

「へあッ!?」

 

予想以上に貴重なカカオ豆だった。

絶滅危惧種のカカオ豆。

コイツらもしかして非合法な手段で……。

 

「いやあ、まさかアダム様に貰った資金が全部吹っ飛ぶとは思いませんでしたねリーダーッ!」

「まったくだツークンフト。しかしその甲斐はあったッ!」

 

普通に買ったのか……。

どうやらマリアさんも同じ事を思ったようで、

 

「奪ったとかじゃないのね」

 

と聞いた。

 

「そんな事をするはずないだろうッ!」

「そんな事をしたら、吾輩たちが国際指名手配されてしまう……」

「オイラたちはリスクマネジメントが出来る錬金術師なんだいッ!」

 

と、怒られた。

なんでさ。

 

「フン、まあいい。さあやってしまえクリオロ・チョコノイズッ!」

 

アクチュアルの命令に従い、クリオロ・チョコノイズが動き出す。

が……。

 

「……え。ちょ、待てクリオロ・チョコノイズッ! なぜこっちに来るッ!?」

 

クリオロ・チョコノイズはアクチュアルの方に向かった。

そして、アクチュアルを殴り飛ばした。

 

「グワーッ!」

「リーダーッ!?」

「な、なんでリーダーの命令に反逆を……?」

 

どうやら暴走状態らしい。

だが、クリオロ・チョコノイズはさらに行動する。

 

両手を広げる。

街に散らばるチョコノイズの残骸が、クリオロ・チョコノイズに集まってくる。

 

「な、なにが……」

 

アクチュアルが慄く。

クリオロ・チョコノイズの行動は止まらない。

どんどん集まってくるチョコノイズの残骸が、クリオロ・チョコノイズと同化して、大きくなっていく。

そして。

クリオロ・チョコノイズは、バルタン星人めいた20メートル程のアルカ・ノイズ形状に変わった。

 

「な、何だこれ……ッ!?」

「吾輩の設計に、不備が……ッ!?」

「一体、なにが起こってるんだッ?」

 

クラウディオの3人にも不測の事態らしい。

 

「なにか原因は思い浮かばないの?」

「そ、そんな事を言われても……あ」

 

原因があったらしい。

 

「強くなるかと思って、アダム様に頂いた【ラインの黄金】を仕込んだのが、原因か?」

「絶対それじゃねーかッッッ!!!」

 

ラインの黄金。

北欧神話や、ニーベルングの指環に出てくる聖遺物である。

詳細は省くがドヴェルグのアンドヴァリによって、手に入れると破滅する呪いのかけられた黄金である。

そら、そんなもん突っ込んだら暴走するわ……。

 

実際、クリオロ・チョコノイズは巨大化し、持ち主であるアクチュアルを攻撃している。

 

「グワーッ! グワーッ! グワーッ!」

「このままじゃ、リーダーが!」

「なあ、頼むよッ! リーダーを助けてくれよッ!」

 

ツークンフトに助けを求められた。

 

「このままでは、取り返しのつかない事になってしまうッ! この通りだッ!」

 

ガンゲンハイトにも頭を下げられた。

 

「貴方たち……」

「一鳴さん……」

「……」

 

マリアさんたちにも見つめられてしまう。

 

「もーッ! しょうがないなぁッ! みんな少し離れてて!」

「す、済まないッ!」

「ありがとうッ!」

 

はた迷惑な奴らだが、流石に死なれると悲しい。

だから助けよう。

というか、アクチュアルは今もボコボコにされてるので、早く助けないと……!

 

「うおおおおおおおおッッッ!!!」

 

俺はアームドギアを2つ、両手に1個ずつ持つ。

身長を越える直径の大戦輪2つ。

回転させて炎を纏わせる。

 

「燃えろ燃えろ。熱く、燃えろォッ!!!」

 

炎が滾り、弾ける。

思うは愛。

バレンタイン、共に過ごす恋人たちとの夜。

愛しく楽しい、特別な日。

愛が炎と変わり、戦輪から溢れ出る。

 

シンフォギアを強くするのは愛だ。

故に、心に愛を滾らせる。

そして、この手に愛を焚べるのだ。

 

2つの戦輪を同時に投げる。

戦輪は2つ重なり、巨大化クリオロ・チョコノイズの胴体を貫通する。

 

 

双ツ日輪(ふたつにちりん)愛燦燦(あいさんさん)

 

 

戦輪が貫通した跡がハートめいている。

そのハートから、熱く燃える炎が巨大化クリオロ・チョコノイズの全身を走り出す。

そして、一気に燃え上がり。

巨大化クリオロ・チョコノイズはドロドロに溶けて崩れ落ちた。

 

「リーダーッ!」

「リーダー返事してくれよッ!」

 

ガンゲンハイトとツークンフトがアクチュアルに駆け寄る。

 

「うう……、まだ、まだだ……」

 

アクチュアルはまだ諦めていない。

 

「リーダー……」

「…………もう、止めようリーダー」

 

ツークンフトが言う。

 

「ツークンフト……ッ、お前、オレたちの大義が間違っていたというのかッ!?」

 

アクチュアルが言葉を荒げる。

 

「認めようよ。オイラたち、本当は羨ましかったんだって……」

 

ツークンフトが静かに言う。

 

「リーダー、吾輩も、我々が間違っていたと認識している」

「ガンゲンハイト、貴様まで……ッ」

 

ガンゲンハイトにまでそう言われて、アクチュアルは声が出なくなる。

 

「もう、止めなよ。アクチュアル、本当はわかってるんでしょ……」

「シンフォギア……」

 

アクチュアルは黙り込んでしまった。

 

「羨んでも、憎んでも。本当に欲しいものは手に入らないんだぜ」

「…………」

「本当に欲しいなら、誰かの足を引っ張るんじゃなくて、手を伸ばさないと」

「………………ああ、そうだな」

 

俺の言葉を聞くと、アクチュアルは一つ頷いた。

 

「投降するよ、シンフォギア」

「リーダー……ッ!」

「リーダー!」

 

トリオ・クラウディオの3人は手を上げる。

そこに、2課の黒服さんたち。

 

「さあ、3人とも行こうか」

 

連行されていくアクチュアルたち。

 

「獄中で罪を償ったら、3人でナンパに行こうか」

「吾輩は、婚活パーティの方が良いと進言する……」

「どっちでもいいさ。3人で行こう!」

 

3人は仲良く連行されていった……。

俺はシンフォギアを解除した。

 

「これでめでたしめでたし、かな?」

「ええ、そうね」

「人騒がせな人たちでしたね……」

 

セレナちゃんの言う通り、人騒がせだったけど憎めない奴らだったよ。

 

しばし、4人で街に佇む。

アクチュアルたちが逮捕されて、避難命令が解除されたのか、街に人が戻ってくる。

壊されたバレンタインっぽいものも多いけれど、無事だったものもある。

 

「岩の戦士ハベル像、凄い人だかりだね」

 

ハベル像の下で愛を誓いあったカップルは、岩のように変わることなく永遠に愛し合える、そんなジンクスのある高強靭マンのオブジェである。

何度かチョコノイズに攻撃されていたものの、その持ち前の防御力と高強靭で耐えきったスゴイオブジェだ。

 

そして、そんなオブジェの下には沢山のカップル。

 

「私達、近づけませんね……」

 

少し、出遅れてしまったわね……。

 

「うーん、みんな、ここでチョコレートくださいな♪」

「え、一鳴?」

「でも、永遠に愛し合えないよ……?」

 

マリアさん達は不安そうというか、なんでそんな事言うの、永遠に愛し合えなくていいの、という表情。

 

「俺たちなら、ハベル像の下じゃなくても永遠に愛し合えると思うのね」

「一鳴さん……」

「もしそれが不安だって言うなら、また来年、四人でこうやってデートしましょ?」

 

俺がそう言うと、3人は花が咲くように笑顔になった。

 

「もう、口が上手いんだから」

「えへへ、約束ですよ一鳴さん?」

「……また一緒に行こうね」

 

そう言って、チョコレートを渡してくれる。

可愛らしく梱包された、3人の手作りチョコレート。

 

「チョコレートありがとうね!」

「帰ってから開けてね」

「腕によりをかけました!」

「切ちゃんやクリス先輩に手伝って貰ったの」

 

それは、味わって食べないとね。

そう言うと、3人は微笑んだ。

その微笑みは、とても愛らしかった。

 

 

 

 

 

 

3人のチョコの出来栄え【1D10】

 

マリア【2】

セレナ【10】

調【8】

 

 

 

バレンタインデートの後。

テレポートジェムで家に帰ってきた俺は、自分の部屋でマリアさんたちのチョコレートを食べようとしていた。

 

「チョコレートヨシ! ホットミルクヨシ! 開封!」

 

まずはマリアさんのチョコレートを食べよう。

そう思って梱包を開けた。

…………、なるほど。

見た目は、うん。シュルレアリスムである。

サルバドール・ダリを超えてる。

うん、大事なのは味だ。

一口食べよう。

…………、普通に美味しい。

普通に美味しいのに、シュルレアリスム。

なるほどね。

なるほどね!

 

「マリアさんのチョコ、ヨシ!」

 

ごちそうさまでした。

次はセレナちゃんのチョコレートやね。

はい、開封!

見た目は、スゴク美味しそう!

小さな箱に、トリュフチョコが6個。

ココアパウダーが掛かったものや、細かな模様のもの。

色んな種類のチョコが入ってる。

そして、味や口触りも様々。

すごく、手の込んでるチョコレートだ。

これは下手な店売りよりも美味しい。

 

「セレナちゃんのチョコ、ヨシ!!」

 

ごちそうさまでした。

よし最後。

調ちゃんのチョコレート。

開封!

見た目は、大きなハート型のチョコレート。

表面には『かずなりさんだいすき』と、ホワイトチョコで書かれている。

文字書くために大きくなったのね。

照れくさいわね。

そういえば、切歌ちゃんやクリスちゃんにも手伝ってもらったとか。

つまりこの文字見たのね。

…………うん!

食べよう!

……味は美味しい。

口当たり滑らかで、甘さ控えめ。

大きいのに食べやすい。

気配りが効いた一品。

美味しゅうございました。

 

「調ちゃんのチョコ、ヨシ!」

 

ごちそうさまでした。

ホットミルクを飲み干す。

愛のこもったチョコレートだった。

また来年、貰えると良いな。

では。

はい、穢土転生(エドテン)




執筆前ワイ「まあ5000字で終わるやろ余裕やガハハ……」

執筆中ワイ「なんで10000字越えるの?ドウシテドウシテ……」

そんな感じのバレンタイン回でした。
次回はホワイトデー回。
男たちがホワイトデーのお返し作りに挑むようです……。


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第五十四話 男たちのホワイトデー

仕事が忙しいので初投稿です。
初投稿詐欺も、久しぶりね……。


3月13日。ホワイトデー前日。

 

2課の男たち、すなわち訃堂司令、弦十郎さん、八紘さん、ウェル博士、藤尭さん、そして俺は2課の食堂に集まっていた。

全員、頭に三角巾を被り、エプロンを着ている。

そんな中、藤尭さんが声を上げる。

 

「えー、では? 明日のホワイトデーに向けた料理講座を始めます?」

 

藤尭さんがそう言った後、みんなで頭を下げて、

 

「よろしくお願いします」

 

と言った。

 

「いや、なんで俺が講師役なんですかッ!?」

 

藤尭さんの叫び。

それを冷静に返したのは訃堂司令だ。

 

「だって藤尭くんは料理上手だって聞いたし」

「いや、確かに上手ですけれど……」

 

言い淀む藤尭さんに、更に弦十郎さんが畳み掛ける。

 

「こういう事は藤尭にしか頼めんのだ」

「そ、そこまで、言うのなら」

 

藤尭さんは静かに納得した。

 

そもそも。

どうしてこうなったかというと。

 

バレンタインに女性たちから気合の入ったチョコレートを貰った野郎たちが、お返しを作ろうにも料理の経験があまり無いので、どうしようかと考えていたら。

 

そういや藤尭は料理が得意だったな。

 

と、いう話になり。

あれよあれよと藤尭さんを担ぎ上げて、ここに至るというワケダ。

 

「では、料理を始めますけれど」

 

藤尭さんが俺たちを見渡す。

 

「そもそも皆さんどれだけ料理出来るんですか?」

 

 

 

野郎たちの料理スキル【1D10】

 

一鳴【5】(最低保障3(一人暮らし補正))

弦十郎【6】(最低保障3(一人暮らし補正))

八紘【1】

ウェル【2】

訃堂【確定10】

 

藤尭【確定9】

 

 

 

「俺はそこそこ出来ますよ?」

 

前世では台所に立つこともあったのだ。

クッキングパパ片手に料理した日が懐かしいね。

一般的な家庭料理なら大体作れると言えるよ。

 

「俺もそこそこ出来るな」

 

と、弦十郎さん。

まあ、弦十郎さんも一人暮らしである。

それに身体も鍛えていて、健康的だ。

普段から、健康的な食事を心がけているのだろう。

 

「……私はまったく出来ん」

 

八紘さんが目をそらして言う。

 

「お主はあれだものな、絶対台所に立つな、と風鳴家全員から言われてるものな」

 

訃堂司令がカラカラと笑う。

八紘さんは気まずげに頷いた。

どうやら、それほどのダメさ加減らしい。

 

「そういう訃堂司令はどうなんです?」

「ん、ワシか?」

 

呵々(カカ)と笑う訃堂司令。

 

「ま、ワシもそこそこよ」

「一流料亭の味を再現出来るレベルはそこそことは言わんぞ親父……」

 

弦十郎さんの呆れ声に静かに頷く八紘さん。

どうやらそうとうな料理上手のようだ。

 

「じゃあ、なんで俺に料理習うんですか……?」

 

げんなりした藤尭さん。

 

「え、面白そうじゃし」

 

訃堂司令は笑って答える。

藤尭さんは、ははぁ、と曖昧な返答。

 

「いやぁ、意外と皆さん料理出来るんですねぇ」

 

と、ウェル博士。

そう言うウェル博士も、さっぱり出来ないらしい。

 

「だって僕、お菓子があれば十分ですからね」

 

そもそも食生活に問題があった。

 

「管理栄養士でも新たに雇おうかのぅ」

 

訃堂司令は静かに呟いた。

 

「……それじゃあ、料理やっていきますけれど。そもそも、皆なにを作りたいんですか?」

 

藤尭さんがみんなに聞く。

 

「俺はバームクーヘンっすね。調ちゃんたちに贈るんです」

 

バームクーヘン、ホワイトデーに贈ると「あなたとこれからも一緒に居たい」という意味になるのよね。

バームクーヘンの形が、年輪を重ねた切り株に似ているから、そういう意味なのだそうな。

調ちゃんたちにはこれからも恋人として、キャロルちゃんやエルフナインちゃんたちには友だちとして一緒に居たいという意味を込めて贈るのだ。

 

「そういうの、良いのぅ」

 

訃堂司令が優しく目を細める。

照れくさいわね……。

 

「俺は了子くんに、キャンディでも作って贈ろうかと思う」

 

弦十郎さんがそう言う。

どうにも、バレンタインの夜にウィスキーボンボンを貰ったのだとか。

 

「はい、弦十郎くん。バレンタインだもの、貴方にあげるわ♪」

 

そう言われて渡されたのが、手作りのウィスキーボンボン。しかも、中身の洋酒は弦十郎さんの好みの酒なのだとか。

 

「だからお返しに、了子くんの好きな味のキャンディを作ろうかと思ってな。了子くんの仕事は頭を使うからな。キャンディなら、仕事中に舐めて糖分を取れるからな」

「なるほど」

「と、友里くんにアドバイスされた」

「なるほどぉ!!」

 

キャンディ。

ホワイトデーのお返しに贈ると、「あなたが好きです」とか「あなたと甘い関係になりたい」とかそういう意味になるのだとか。

弦十郎さんは意味を知っているのだろうか?

 

「知っとると思うか?」

 

訃堂司令が小声で言った。

……ですよねぇ。

 

「私は翼に、プリンでも作ろうと思ってな」

 

と、八紘さん。

プリン。

ホワイトデーに特別な意味はない。

けれど、嫌いな人も居ないスイーツである。

 

「翼が好物だしな」

 

お父さんとしても頑張りたいのね。

料理下手くそみたいだけれど。

まあ、藤尭さん居るし、大丈夫っしょ(てきとう)

 

「僕はマシュマロです。好きなんですよ、マシュマロ」

 

と、ウェル博士。

自分が食べたいだけなのね……。

 

「マシュマロは止めた方が良いですよ」

 

マシュマロ、ホワイトデーのお返しとして贈ると「あなたが嫌い」という意味になるらしい。

口の中ですぐ溶けるから、儚く消える程度の関係と暗喩させるらしい。

 

「そうなんですか?」

 

俺が教えると、ウェル博士が目を開いて驚く。

 

「うーん、オバハンには世話になってるしどうしようか……」

 

ウェル博士はナスターシャ院長に贈るらしい。

 

「だったら八紘さんと同じプリンにしたらどうです?」

 

同じ物なら教える方も楽だろうし。

料理下手にはプリン作らせとこう。

 

「そうですね。そうしますよ」

「ウェル博士もプリンか。同じ物を作るのもつまらないし、なにかアレンジを……」

 

藤尭さん、止めて差し上げろ(震え声)

料理普段からやらない人間がアレンジとかしちゃ駄目だよ……。

 

「ふ、訃堂司令は何作るんです?」

 

俺は話題をそらした。

藤尭さんは八紘さんを必死に止めてる。

俺は目をそらした。

 

「ワシか? ワシはバターケーキをな」

 

バターケーキ?

また珍しいものを作るようである。

 

「ワシの妻が好物だったのよ」

 

この世界の風鳴訃堂はヨメさん思いなんだね。

息子の嫁を寝取る外道とは大違いや!

 

「はぁはぁ、それじゃあ皆とにかく作ってみましょう」

 

八紘さんを止めてた藤尭さんはげっそりしていた。

上司に進言するのは気苦労が多かろう……。

 

とにもかくにも。

男たちは各自、料理を始めることにした。

材料は色々揃ってるし、まあ、問題ない。

調理場も、2課の食堂は大きめなので余裕は十二分だ。

オーブンもハイパワー。

さて、作りましょうかね!

 

 

 

 

 

 

お料理ダイス(前編)【1D10】

 

一鳴【10】(最低保障5(料理スキル補正))

弦十郎【5】(最低保障6(料理スキル補正))

八紘【1】

ウェル【4】(最低保障2(料理スキル補正))

訃堂【確定10】

 

藤尭アドバイス【3】(一番低い人に数値をプラス)

 

 

 

俺のバームクーヘン作りは極めて順調であった。

作り方はほとんど卵焼きと一緒である。

くわしい作り方?ネットでググッと調べてほしい。

 

とにもかくにも。

俺のバームクーヘンづくりは順調であった。

 

決められた材料を決められた分量で。

決められた作り方、決められた焼き加減で。

そうすれば、一端の料理は出来るわけで。

俺はここから、調ちゃんには調ちゃん好みの、マリアさんにはマリアさん好みのといった、個人に向けた細かな調整を加えていった。

味や焼き加減、大きさなど。

調整する所は多々あるけれど。

手間ひまかけてこそ、美味しい料理は出来上がるのだ。

 

「うん、一鳴くんスゴク上手だよ!」

 

と、様子を見てくれた藤尭さんもそう言ってくれた。

褒められると嬉しいねぇ!

 

「あっちはどうですか……?」

 

俺は藤尭さんに、八紘さんとウェル博士を見ながら聞いた。

 

「うん。最悪は防いでるよ……(掠れ声)」

 

料理下手くそな二人である。

卵を割れば殻ごとバラバラになり。

調味料の分量を適当にしようとする。

 

そこを藤尭さんがサポート。

ギリギリ人並みの物が出来上がりつつあるのだとか。

 

「そういえば、藤尭さんは友里さんにどんなチョコを貰ったんです?」

 

俺は話を変えた。

藤尭さんの気を紛らわせようとしたのである。

 

 

 

友里さんのチョコレート【1D10】

 

1 普通にでっかいハートのチョコレート

2 普通にでっかいハートのチョコレート

3 普通にでっかいハートのチョコレート

4 ダークマター

5 媚薬入りチョコ

6 媚薬入りチョコ

7 媚薬入りチョコ

8 媚薬入りチョコ

9 ダークマター

10 友里「私がチョコよ♡」

 

結果【3】

 

 

 

「うん、友里さんからはハートのチョコレートを貰ったよ。大きさが、俺の顔くらいあったけど」

 

藤尭さんが恥ずかしそうに言う。

 

「大きな愛ですねぇ」

「……うん。まあ、そうだね」

 

頬を染める藤尭さん。

照れくさいようだ。

 

「藤尭さんはどんなお返しを贈るんです?」

「俺? そうだね。家で夕食を一緒に、と思ってね」

「藤尭さんの手料理?」

「うん」

「ええのぅ」

 

にゅっ、と訃堂司令が話に入る。

 

「うわ、訃堂司令!?」

「イチャイチャしとるのぅ。羨ましい!」

「きょ、恐縮です?」

 

疑問符の藤尭さん。

 

「15日は遅刻しても良いぞ?」

 

この爺さんセクハラしてきやがったぞ!?

ホワイトデーの翌日遅刻しても良いってことはつまりそういう事である。

そういう事である!!

 

「か、考えときます」

 

藤尭さんはタジタジだ。

と、ここで八紘さんのヘルプが入った。

 

「藤尭くん大変だ! プリンの原液が緑色になった!」

「なにがどうしてそうなったんですかッ!?」

 

藤尭さんは八紘さんの所に向かった。

残された俺と訃堂司令。

 

「訃堂司令、俺も遅刻して良いですかッ!?」

「一鳴くんはギリギリ小学生だから駄目じゃ」

 

それ、中学生なら良いって事ですか……?

 

 

 

 

 

 

お料理ダイス(後編)【1D10】

 

一鳴【1】(最低保障5(料理スキル補正))

弦十郎【3】(最低保障6(料理スキル補正))

八紘【4】

ウェル【3】(最低保障2(料理スキル補正))

訃堂【確定10】

 

藤尭アドバイス【2】(一番低い人に数値をプラス)

 

 

 

お料理結果

(前編と後編の数値の平均値、小数点切り上げ)

 

一鳴 【10】+【5】÷2 結果【8】

弦十郎【6】+【6】÷2 結果【6】

八紘【1+3】+【4】÷2 結果【4】

ウェル【4】+【3+2】÷2 結果【5】

訃堂【確定10】

 

 

 

俺のバームクーヘン作りは最後の最後で少し焼きすぎてしまった。

まあ、見た目にはほとんどわからず、味も普通に美味しい。

でもなぁ。悔しいなぁ!

最初クッソ上手くいってたなのになぁ。

悔しいなぁ!!

 

「まぁ、いいじゃないか一鳴くん」

 

そう言うのは弦十郎さん。

 

「俺のキャンディも、すこしパッとしない結果になったしな」

 

と、手作りキャンディを見せてくれる。

キラキラとしたキャンディたちであるが、すこし形がイビツであった。

 

「だが、味はいい感じだ。これが俺の精一杯のお返しさ」

「そうっすね。このバームクーヘンが俺の精一杯、ですね!」

 

うん。

精一杯頑張って作ったのは確かですし。

店売り出来るレベルだと自負してるし。

うん、これがお返しに一番相応しいな。

 

「はぁ、はぁ。こっちもなんとか終わりましたよ」

 

ボロボロの藤尭さんがやって来る。

その後ろにはプリンを持った八紘さんとウェル博士。

 

「ちゃんとプリンの形、だとぉッ!?」

 

弦十郎さんが慄く。

八紘さんがジト目で睨む。

 

「弦、お前は私をなんだと思ってるんだ?」

「いや、八紘兄貴は米を洗剤で洗う男だから」

 

これはしゃーない。

そんな扱いも仕方なしである。

 

「藤尭さん頑張ったんですね……」

「うん……」

 

ボロボロの藤尭さんは深く頷いた。

 

「なんとか、人に渡せるプリンにしたよ」

「いやあ、藤尭さんには迷惑を掛けました」

 

ウェル博士が笑いながら言う。

 

「冷やしてたプリンが膨張した時は驚きましたが」

「何混ぜたウェル博士……」

 

加熱した時に膨らむならともかく、冷やした時に膨らむのはおかしいでしょうがッ!

 

「それでも、なんとか出来上がりましたよッ! オバハンも、これなら満足するでしょうッ!」

「翼も、喜んでくれると良いがな」

「大丈夫ですよ、八紘副司令」

 

八紘さんのプリンもちゃんとプリンだし。

藤尭さん着いてたなら、大丈夫でしょ。

駄目だったら藤尭さんの首が飛ぶだけだ(小声)

 

「皆なんとかなったようじゃな」

 

と、訃堂司令。

その手には円盤状のケーキ。

訃堂司令の焼いたバターケーキか。

 

「おお……」

 

とても美味しそうだった。

 

「皆疲れたろう。これでも食べると良い」

 

と、バターケーキを差し出す訃堂司令。

 

「え、でも……」

「家でもう一個作るからええわい」

 

呵々と笑う訃堂司令。

俺たちは顔を見合わせて、いただくことにした。

 

「うまっ」

 

バターケーキ、中にナッツやドライフルーツが入っていて、素朴ながらとても美味しかった。

 

「親父のバターケーキ、相変わらず美味いな」

「ああ。そうだな。翼もこれが好きなんだ」

 

風鳴家では定番の味らしい。

羨ましいわね。

 

「おお、美味しい!」

「これ、隠し味もないのに。素材の味だけで、これだけ……」

 

ウェル博士と藤尭さんも舌鼓を打つ。

 

「皆、お疲れ様だったな」

 

と、訃堂司令。

 

「明日は今日作ったお返しをキチンと渡すようにな」

「はいッ」

 

訃堂司令に背中を押された。

うん、明日、みんなにバームクーヘン渡すとしよう。

喜んで、くれるといいけれど。

 

 

 

 

 

3月14日。ホワイトデー。

 

「ナルくんがこれ作ったの!?」

「美味しそう……」

 

響ちゃんと未来ちゃんにバームクーヘンを渡す。

二人からもチョコ貰ってたのよね。

お返しよ。

 

「……美味しい!」

「うん美味しい。ありがとうナルくん」

 

二人とも喜んでくれた。

 

 

二人の次に、2課でキャロルちゃんとエルフナインちゃんに渡した。

 

「ほぅ、バームクーヘンか。……ありがたくいただこう」

「バームクーヘン! 一鳴さんが作ったんですか? 凄いです」

 

キャロルちゃんもエルフナインちゃんも喜んでくれた。

 

「バームクーヘン、か。アイツは意味、わかってるよなぁ……」

「意味?」

「ああ。ホワイトデーに贈るバームクーヘンには────」

 

 

そして、調ちゃんたちにも。

 

「ありがとう、一鳴さん」

 

バームクーヘンの入った包みを抱き抱えて調ちゃんがそう言う。

頬を染めて。

可愛い。

 

「嬉しいわ、一鳴。バームクーヘン、ふふ。そういう事ね」

 

マリアさんは中身を見てバームクーヘンだと知ると、微笑む。

そして頬にキスしてくれた。

 

「一鳴さん……。私も嬉しいです。このバームクーヘンのように、ずっと同じ時を重ねたいです」

 

セレナちゃんはそう言うと俺を抱き締めてくれた。

暖かいね。

 

皆、喜んでくれて良かった。

渡すまでは不安だったから、一安心である。

 

一安心して、思い至る。

弦十郎さんたちは、ちゃんとお返し渡せたかしら?

 

 

 

 

 

 

「了子くん、今、いいか?」

 

弦十郎が2課の研究室、了子のオフィスに入る。

中には了子一人だ。

 

「あら、弦十郎くんどうしたの?」

「ああ。バレンタインに良い物を貰ったからな。お返しを持ってきた」

 

そう言って、包み紙を了子に渡す弦十郎。

包みを開けた了子。

中には小瓶に入れられたキャンディ。

 

「あら、もしかしてキャンディ?」

「ああ」

 

弦十郎が頷く。

 

「了子くんは頭脳労働だからな。糖分をこまめに取れるように、と思ってな」

「へー、ありがと弦十郎くん♪」

 

そう言うと、了子はキャンディを一つ摘む。

そして、官能的に口に入れた。

 

「あむッ。……美味しいわよ弦十郎くんッ!」

「そうか、そう言って貰えると嬉しいな」

「ところで……」

 

了子が問う。

 

「ホワイトデーにキャンディ贈る意味を、弦十郎くんは知ってるかしら?」

「まぁな。俺だって、それくらいは知っているさ」

「そう♪」

 

弦十郎の答えに一つ頷くと、了子は結い上げていた髪を解く。

髪が金色に変わる。

瞳が金色に変わる。

櫻井了子が、フィーネに変わる。

 

「一つ言っておく風鳴弦十郎」

 

了子、いやフィーネが弦十郎に宣言する。

 

「私がお前の想いに答える事は無い。私の愛は、未だ、あのお方にのみ捧げるものだからだ」

 

そう言うフィーネの瞳をじっと見て、弦十郎は言った。

 

「それでも良いさ。想うだけなら、自由だろう?」

「……ふん、好きにしろ」

「それに……」

「?」

「脈のない相手にわざわざ、手作りのウィスキーボンボンを贈ったりはしないだろう?」

 

そう言われたフィーネは、静かに顔をそむけた。

 

「……あれは、私の中の櫻井了子がやったことだ」

「そうか」

「そうだ」

 

弦十郎は、フィーネの頬が微かに染まったのを、見ぬふりをした。

 

「……今、時間あるか?」

「ああ、あるが?」

「なら、少しお茶でも飲んで行きなさい」

 

フィーネが立ち上がる。

その瞬間、髪が茶色に戻る。

フィーネが髪を結い上げながら弦十郎に笑い掛ける。

 

「美味しい茶葉が手に入ったのよ」

「そうか、では、いただこう」

 

 

 

 

 

 

「翼」

 

東京の風鳴家にて。

撮影から帰ってきた翼に、八紘が紙袋を手渡す。

 

「お父様、これは?」

「バレンタインのお返しだ」

「ホワイトデーの……!」

「ああ。私が作った」

 

翼は目を見開いた。

 

「お、お父様が……ッ!!?」

「なぜそこまで驚くッ!?」

「いえッ! ただお父様が料理をするなどとは思えなくて……」

 

翼は知っていた。

八紘は米を洗剤で洗い、砂糖と塩を素で間違えて、カレーを紫色にする男だと言うことを。

 

「まあ、藤尭くんに()()手伝って貰ったがな」

 

八紘は見栄を張った。

翼はその見栄を見抜いた。

 

「後日、藤尭さんにお礼を言わねば……」

「何か言ったか?」

「いえ、なにもッ!」

 

翼はふるふると首を振った。

 

「お父様のホワイトデーの贈り物、ありがたくいただきます」

「うむ……」

 

その後。

八紘のプリンが、普通に食べられるプリンだった翼は藤尭への畏敬の念を新たにした。

 

 

 

 

 

 

「ナスターシャ院長、この僕が、プリンを作ってあげましたよッ!」

 

孤児院の院長室。

ズケズケと入って来たウェルに、ナスターシャは眉を片方上げるのみであった。

 

「プリン?」

「ええッ! ナスターシャ院長にはバレンタインにチョコ貰いましたからね。そのお返しですよ」

「これはこれは」

 

明日は大雪だな、とナスターシャは思った。

 

「それはわざわざありがとうございます。……ところで」

「なんですかナスターシャ院長?」

「なぜプリンが二つ?」

 

ウェルはプリンを二つ持ってきていた。

 

「え、勿論僕が食べるためですが?」

「なるほど」

 

ナスターシャは静かに頷いた。

たまにはこの小うるさい男と食卓を共にするのもいいだろう。

そう、思った。

 

 

 

 

 

 

「藤尭くん」

「はい」

「ディナー美味しかったわ。ありがとう♡」

「はい」

「お礼にデザート用意したわ」

「……あの」

「なに、藤尭くん?」

「よく寝ながら器用に生クリームや果物を、自分の身体に盛れましたね」

「練習したもの」

「あっはい」

「それじゃあ、デザートのあおい盛り、召し上がれ♡」

「はい」

「召し上がれ(龍の眼光)」

「はい(完全服従)」

 

 

 

 

 

 

訃堂は一人、霊廟に来ていた。

風鳴本邸の地下にある、神殿のようにも見える霊廟だ。

石造りの柱に、不可思議な文字やレリーフの描かれた壁。それらを蝋燭の炎が照らしている。

この霊廟は、かつて日本に来たフィーネ氏族の子孫が作り上げた異端技術の一つである。

だが、その機能は使われなくなって久しい。

 

その霊廟を一人、訃堂が奥へ奥へと入って行く。

手には訃堂手製のバターケーキを持って。

 

そして。

道の終端。

石の扉の前に辿り着く。

扉の前には祭壇が置かれている。

 

「久しいな、クシナ」

 

訃堂がそう、扉の奥に語り掛ける。

その声は優しげであり、最愛の人に語り掛けるようであった。

 

「これ、いつものバターケーキじゃ。お主の好物だった」

 

訃堂は祭壇にバターケーキを置いた。

 

「……お主の魂はユグドラシルに記録・保存され、ここには居ないとわかっていても、こうして時々来てしまうのぅ」

 

訃堂は埃で汚れる事も厭わず、床に腰掛ける。

 

「クシナ、前に話した一鳴くんを覚えておるか」

 

「ワシと同じ眼をした子ども、ワシやフィーネと同じように、輪廻を知る眼をした子ども」

 

「頑張ってシンフォギア、いや戦士として戦っておる」

 

「だが、敵は強大よ」

 

「シェム・ハの末裔が蠢動し、ゼウスの一族が欧州を支配し、企業は異端技術に手を出し始めた」

 

「今の一鳴くんでは、いずれ力尽きてしまうやも知れぬ……」

 

「クシナ、ワシは一鳴くんにさらなる力を与えようと思う」

 

「彼には死んでほしくないからのぅ」

 

「だから」

 

「ワシは殺す気で、一鳴くんを鍛えようと思う」

 

「この霊廟の封印、第一段階解かせて貰うぞ」

 

訃堂がそう言うと、石の扉の紋様が妖しく光る。

その光は次第に壁や柱に伝播していく。

そして。

ゆっくりと石の扉が開かれていく。

霊廟が、かつての機能を取り戻していく。

侵入者を殺す、殺戮の迷宮へと……。

 

 

「クシナ……」

 

「いつかはお主の事、ワシの事も教える日が来るかも知れんのぅ」

 

「このワシが、タケハヤと呼ばれていた時代の事を……」

 

「だが、その前に」

 

「渡一鳴、彼奴には一度、死んでもらおうか」

 




ウチの訃堂じいじは心がキレイキレイです!(強調)

そんな訳で次回は修行回です。
殺戮迷宮霊廟にて、地獄のような特訓が始まります。
頑張れ一鳴くん、頑張れ!一回死んでもらうけど、頑張れ!


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第五十五話 殺戮迷宮霊廟 前編


一鳴くん修行編、始まります。
なお命の保証はない模様……。

あ、あと目次に一鳴くんの立ち絵貼っ付けました。
良かったら見てください。
立ち絵メーカーとやらで、一鳴くんっぽい髪型とか色々選んで作りました。
結果美少女になった。なんでさ?




 

 

3月後半。

春休みである。

ツクシが生えて、モンシロチョウが宙を舞う春うららな日。

皆さんどうお過ごしですか?

 

俺?

俺は、訃堂司令に拉致されて風鳴本邸に連れてこられました(震え声)

 

どういうことなの……。

 

「修行よ」

「修行?」

 

俺をお米様抱っこする訃堂司令がそう言う。

 

「一鳴くん、君はよく頑張っておるが、敵は強大。故に、修行よ」

「なるほど。でもなんで突然拉致したんです?」

「これから修行する所、極めて危険な所でのう。八紘や弦十郎にバレたら面倒だからじゃ」

 

そんな危険地帯に連れて行かれるのね……(遠い目)

どうやらここで俺の第二の人生は終わりのようです。

 

「ほれ、あそこじゃ」

 

と、訃堂司令の視線の先。

そこには注連縄で仕切られた、黒い穴。

石造りの階段が、闇の奥に続いている。

 

「なんです、あれ……」

「大昔、まあ、先史文明期に片足突っ込んだ時代に造られた遺跡よ。さる貴人の墓、霊廟という奴じゃな」

 

霊廟。

たしかに、なにか厳かな雰囲気というか、注連縄の向こうは別空間みたいだ。

 

「で、その霊廟で修行ですか?」

「そうじゃ。その霊廟、墓荒らし対策でおかしな程の罠が仕掛けられておってな。それが、修行にちょうど良い」

「ちょうど良い、にしては危険地帯なんですね」

「一般人には危険地帯、なのでな」

 

そうこう言いながら、穴の中に入って行く訃堂司令。

内部は石造りの遺跡である。

人の手で丁寧に作られた、霊廟か。

石造りの柱が、規則正しく並び、奥に続く。

壁には不可思議な文字やレリーフが描かれている。

そして、それらを照らすように蝋燭の炎が燃えている。

 

「ついたぞ」

 

そう言うと、お米様だった俺は降ろされる。

俺が降ろされた場所は、学校の教室程の広場であった。

祭壇が部屋の中央にあり、その奥に開かれた石造りの扉。

 

 

「この奥に、一鳴くんは向かってもらう」

「奥……」

「無論、一人でな」

「えっ?」

 

訃堂司令着いてこないの?

 

「いや、ワシ仕事あるし」

「えぇ……。俺がサボったらどうするんですか?」

「ハッハッハ、それは無理じゃな」

 

呵々と笑う訃堂司令。

そのまま、俺を突き飛ばした。

石扉の向こうに転がってしまう。

 

「アイエエエ!?」

「出口はそこから先にしかない! サボるなんて出来んぞ!」

 

訃堂司令が叫ぶ。

と、同時に石扉が閉まりだす。

 

「ちょ、嘘でしょ!?」

「嘘ではない。では、頑張れ一鳴くん!」

 

俺が立ち上がり、扉に向かおうとするも。

石扉はさっさと閉まってしまった。

 

「───── Sudarshan tron」

 

聖詠を唄う。

瞬間、シンフォギアがプロテクターを形成。

 

と、同時にアームドギアの大戦輪を振り回し、扉にぶつける。

轟音が鳴り、火花が散るも扉は健在だ。

これ、見た目が石なだけで実際は謎鉱物だ!

 

「マジで出られねぇ……」

 

訃堂司令はガチらしい。

ガチでここを抜けて出口に辿り着かないと、生きて出られない。

これは、そういう修行だ。

俺は石扉から眼をそらし、道が続く先を見る。

そこそこ長い廊下の突き当りが、左右に別れるT字路だ。

 

「迷宮というか、ダンジョンというか……」

 

どうやら、道は曲がりくねっているらしい。

……着の身着のまま攫われたから、スマホしかない。

スマホで地図作れるかな……。

無理だな、入ってるアプリにそんな便利なものはない。

しかも圏外なので、新たにアプリをダウンロードすることも出来ない。

…………自力でやるしかない。

 

「行くかぁ……」

 

とりあえず、右から行こうかな……。

なんか、迷宮に挑むときは右折だけでいけとかどうとか、聞いたことがある気がする。

……うん、臨機応変でいいかぁ。

 

 

 

一鳴くんの霊廟挑戦!その1【1D10】

 

1 罠だ!

2 罠だ!

3 罠だ!

4 殺意の高い罠だ!

5 休める場所だ!

6 骸骨だ!?

7 攻略のヒントだ!

8 休める場所だ!

9 殺意の高い罠だ!

10 宝箱だ!

 

結果【4】

 

 

 

訃堂司令に迷宮めいた霊廟に放り込まれて2時間。

俺はウロウロと迷宮をさまよっていた。

いや、少しは進んでいるはずだ。

 

進んでる、というか行く先行く先が行き止まりで行ったり戻ったりしているというか。

まあ、とにかく少しは前に進んでいるのだ。

だが。

 

「これは……」

 

俺の目の前には一本の通路。

長さは百メートルほどだろうか。

真っ直ぐに伸びている。

 

「絶対なにかあるよなぁ」

 

今まで曲りくねった道ばかりで、こんな直線通路なんて無かったし。

 

俺は腰アーマーから小型の戦輪を取り出し、通路に向かって投擲。

戦輪はしばらく飛んでいたが、突如として何かに撃ち抜かれて落下。

 

「やっぱり……」

 

罠が仕掛けられていた。

もう一度戦輪投擲。

また、撃ち落とされる。

 

「見えた……」

 

戦輪はレーザーのような光によって撃ち落とされている。

そしてそのレーザーは、石造りの通路のほんの僅かな石と石の隙間から発射されていた。

 

「次は一斉に……!」

 

腰アーマーを二枚貝めいて開放、中から小型戦輪を一斉に射出!

一気に通路の奥に向かって飛ばす。

が。

 

撃ち落とされる。

撃ち落とされる。

通路から一斉に発射されたレーザー光によって、戦輪が撃ち落とされていく。

 

「うそぉ……」

 

戦輪が全て撃ち落とされたのを見て、思わずそうぼやいてしまう。

いや、マジでどうしよう。

引き返そうにも、たぶんここ以外に道無いだろうし……。

少し、考えるか……。

 

 

 

一鳴VSレーザートラップ【1D10】

 

一鳴【3】

レーザー【7】+3

 

 

 

駄目だった。

一気に走り抜いたら問題ないかなって、禁月輪のパクリスペクト技の日輪航路で一気に通り抜けようとしたら、思いっ切りレーザーに撃たれた。

めっちゃ痛いわこれ……。

 

でもなんとか通り抜ける事に成功した。

ダメージは受けたけれども。

肉を切らして骨を断つ、という奴である。

 

 

 

一鳴ダメージロール【1D10】

(10以上で……)

 

結果【8】+3(レーザー被弾補正)

 

 

 

痛い。

痛い。

痛い。

なにが肉を切らせて骨を断つだ。

肉どころか骨まで撃ち抜かれてる。

血が止まらない。

思考が定まらない。

足に力が入らない。

 

そのまま崩れ落ちる。

受け身を取ることも出来ない。

目の前が霞む。

真っ暗になる。

もう、なに、も……。

 

見え、な…………───

 

 

ザリ、とナニカの足音が聞こえて。

俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

「グ……」

 

ナニカの音が聞こえて。

俺は目を覚ました。

 

「あれ……?」

 

俺は生きていた。

遺跡内の床、敷かれた毛布の上に寝かされていた。

先程いた場所とは別の場所、小さな部屋に居るようだ。

シンフォギアは解除されているものの、レーザーに撃ち抜かれた箇所は包帯が巻かれている。

そして、痛みもほとんどなくなり、力も入るようになっている。

誰かが、治療してくれたのか?

 

「グ……ギギ……」

 

ナニカがこちらにやってくる。

ザリ、ザリ、と足音を立てて。

歩み寄ったナニカの姿が、蝋燭の炎に照らされる。

 

それの姿を俺はよく知っている。

歴史の教科書に載っている姿を知っている。

ゲームのマスコットキャラクターでもある。

茶色い円筒状の身体に、それぞれ天地を指す両腕。

丸い目と口。

 

それは、埴輪であった。

全長2メートルの埴輪がザリザリと、床をこすって移動しているのだ。

いや、え? 埴輪!?

埴輪!?

 

「ギギギ……ダメージスキャン開始」

 

埴輪の目から緑色のレーザー光が発射され、俺の身体をなぞる。

思わず両手で、顔を庇う。

 

「スキャン終了…………異常ナシ」

 

ダメージスキャン、異常ナシ……?

もしかして、この埴輪が治療してくれたのか?

埴輪が?

その腕動きそうもないのに?

 

「ググギ……音声再生」

『一鳴くん、聞こえるか?』

 

埴輪の口から訃堂司令の声!

 

『この音声を聞いておると言うことは、一鳴くんは一度致死量のダメージを受けた、ということじゃな』

 

どうやら、この訃堂司令の声は録音されたもののようだ。

 

『一鳴くんが致死量のダメージを受けた時、この埴輪のハニーちゃんが一度だけ治療してくれるようにセッティングしておいた。ワシに感謝するんじゃぞ?』

 

そうか、俺が助かったのは埴輪のハニーちゃんのお陰か。

埴輪のハニーちゃん……、彼女は一体……。

 

『──この霊廟内での油断は死を意味する。それを、努々忘れるな。暗く寂しい中、一人で死にたくないであろう……』

 

訃堂司令の諭すような声。

そうだ、俺は油断していた。

あのレーザーの通路も、死ぬようなダメージじゃないと思っていたから、あんな無茶をしたのだ。

シンフォギアと同等以上の強度を持つ小型戦輪をたやすく破壊したというのに……。

 

『どうせ死ぬなら、布団の上で子どもと孫に囲まれて死ぬのが良いじゃろ?

一鳴くん、いいか、忘れてはならんぞ。埴輪のハニーちゃんが助けてくれるのは一度きり。ここから先はもう、彼女は助けてくれん。次に致死量のダメージを受けた時は、冗談抜きで一鳴くんが死ぬ時じゃぞ』

 

そうか、もうハニーちゃんは助けてくれないのか。

ならもう、油断は出来ないな。

 

『霊廟の第1階層の奥に辿り着き、生きて脱出するのじゃ。次に地上で会う時を楽しみにしておるぞ』

 

第1階層の奥。

そこが出口か。

でも、第1階層があるという事は第2階層もあるという事か。

気になるね……。奥に一体何があるというのか、祀られた貴人とは一体誰なのか。

 

『貴人の正体は一鳴が脱出したら教えてやろう』

 

さらっとこっちの思考を先読みしないでください訃堂司令。

 

『ああ、そうじゃ。埴輪のハニーちゃんじゃが、実は先史文明の───』

「音声終了」

「ええッ!?」

 

ハニーちゃんの正体が明かされそうになった所で音声が終わってしまった。

なんなんだハニーちゃんの正体! 

先史文明の何!?

 

「任務終了。……グググ、さっさとデテケ」

 

ハニーちゃんがそう言うと、背後の壁から轟音が鳴る。

 

振り向くと、壁が天井へと登っていく。

その向こうに別の部屋。

隠し扉だったのか。 

 

「デ、テ、ケ!」

「ちょ、押さないで!」

 

ハニーちゃんに身体で押される。

やっぱ手動かないのね。

 

「デテケ! デテケ!」

「わ、わかったから!」

 

仕方がないので、部屋から出る。

ハニーちゃんは部屋から出た俺をジッと見ていた。

 

「グググ……、検討をイノル!」

 

そう言うと、壁が一気に落ちて隔てられた。

 

「ハニーちゃん、ありがとう」

 

俺は、壁の向こうに向かってそう言った。

 

 

 

 

 

 

俺が治療を施されていた部屋は、訃堂司令に突き飛ばされた場所のすぐ近くであった。

閉ざされた扉がすぐ側にあったのである。

 

俺は記憶を頼りにまた、道を進む。

そして、直線通路に辿り着く。

通る者をレーザーが歓迎する通路、俺が死にかけた通路である。

 

「───── Sudarshan tron」

 

俺はシンフォギアを纏った。

と、同時に腰アーマーから、小型戦輪大量射出。

さらにアームドギアの大戦輪を地面に立てて、その内側に乗る。

 

 

日輪航路

 

 

アームドギアが回転し、タイヤめいて走り出す。

と、同時に小型戦輪を俺の周りに纏わりつかせる。

通路を爆走する。

炎の轍が残る。

通路からレーザー射出!

小型戦輪破壊!

しかし、俺には届かない。

 

「よしッ!」

 

更にレーザー射出!

小型戦輪破壊!

レーザーが網のように発射されるが、その全てを小型戦輪で受け止める。

俺には届かせない。 

 

俺は一度失敗した。

レーザーに射抜かれて、死にかけた。

だからこそわかった。

このレーザーはシンフォギアのアームドギアを破壊する威力を持っているが、()()()()()()()()()()()()()威力は持っていない。

俺の身体は貫いたが、シンフォギアの装甲は貫けなかったのだ。

 

だから、小型戦輪でピンポイントに防げば、こっちにまではレーザーが届かない。

 

そうして。

俺は無傷で通路を突破した。

あんなにダメージを受けた罠を無傷で突破したのだ。

……もっとよく考えたら良かった。

 

「……先に進もう」

 

ここに仕掛けられた罠、殺人級のエゲツなさではあるが、キチンと考えたら突破出来るのだ。

冷静に、ビークールよ俺!

 

 

 

一鳴くんの霊廟挑戦!その2【1D10】

 

1 罠だ!

2 罠だ!

3 罠だ!

4 殺意の高い罠だ!

5 休める場所だ!

6 骸骨だ!?

7 攻略のヒントだ!

8 休める場所だ!

9殺意の高い罠だ!

10 宝箱だ!

 

結果【4】

 

 

 

レーザー通路を突破し、辿り着いたのは学校の教室程の広さの部屋だ。

四角い部屋で、俺が入ってきた通路とその対面にのみ、出入り口が空いている。

そして。

部屋の中には鎧を着た人間。

否、土人形。……埴輪だ!

身長約2メートルか。

その手には鈎の生えた剣、七支刀。

埴輪の目が光る。

そして、此方に歩きだす。

 

「敵かぁ……」

 

俺はアームドギアを構える。

さらに、小型戦輪射出。

俺の周りに浮遊させておく。

さて、本気で勝ちに行くとしようか。

 

 

 

一鳴VS武装埴輪【1D10】

 

一鳴【7】+5(本気補正)

武装埴輪【5】+3

 

 

 

武装埴輪が七支刀を振りかざす。

そして、俺めがけて振り下ろす。

俺はそれを紙一重で避けた。

 

「……ッ!」

 

速いッ!

歩くスピードは遅いのに、攻撃は速く鋭い。

……だが。

それだけだ。

 

「イヤーッ!」

 

俺はアームドギアの大戦輪をぶつける。

鈍い音と共に、武装埴輪の胴体が少し凹む。

 

「イヤーッ!」

 

大戦輪を回転させる。

火花が散る。

武装埴輪は逃げようとする。

 

「逃がすかッ!」

 

俺は小型戦輪を武装埴輪にぶつける。

脚や関節部分に集中して。

その結果、武装埴輪が怯む。

 

「そこだッ!」

 

俺は大戦輪を一気に押し込んだ。

武装埴輪の胴体にヒビが入る。

そして。

武装埴輪が砕け散った。

 

「……勝った」

 

ガランガラン、と音。

武装埴輪の持っていた七支刀だ。

埴輪と違い、青錆びた青銅で出来ているようだ。

 

「聖遺物かな。……一応貰っとこうか」

 

俺は七支刀を拾い、腰に佩く。

シンフォギアって便利ね。形状が自由だから、腰アーマーの一部を改装して七支刀引っ掛けられるように出来るんだもの。

 

「それにしても」

 

今になって気付いたが、部屋の四隅に人骨が積み上げられていた。

あの武装埴輪の犠牲者だろうか。

鎧を着たり、布製の服を着た者も。

かなりの数の人間があの武装埴輪の餌食になったらしい。

もしかしたら、俺もあの中に入っていたかもしれない。

……背筋に怖気が走った。

 

「先を急ぐか……」

 

俺は足早にその場を去った。

 

 

 

 

 

 

次回に続く…………

 

 





Q.どうして一鳴くんは危険な罠にピンポイントで引っかかるんですか……?

A.苦難の道を歩むのは転生オリ主の特権だから(ダイスの女神様による返答)


俺、修行編が終わったら、一鳴くんと女の子たちのイチャイチャイベント書くんだ……(無事に終わるとは言っていない)
一鳴くんをねぎらうのだ。


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第五十六話 殺戮迷宮霊廟 中編

シフトが変わって平日がお休みになって筆が乗ったので連続投稿です。
果たして一鳴くんは修行を乗り越えることが出来るでしょうか……。


◆前回のあらすじ◆

 

風鳴訃堂によって、危険な罠が無数に仕掛けられた霊廟に放り込まれた一鳴。

出口は奥にしかないぞ、進め!

なお一度死にかけた模様……。

 

 

 

一鳴くんの霊廟挑戦!その3【1D10】

 

1 罠だ!

2 罠だ!

3 罠だ!

4 攻略のヒントだ!

5 休める場所だ!

6 骸骨だ!?

7 攻略のヒントだ!

8 休める場所だ!

9 殺意の高い罠だ!

10 宝箱だ!

 

結果【5】

 

 

 

「おぉ……!」

 

武装埴輪を倒した後、道に迷ったり行き止まりだったり。

霊廟内をあっちこっち行って辿り着いたのは、明るい空間であった。

天井には部屋全体を照らす程の光源。小さな太陽のような球体がぶら下がっている。

なんらかの聖遺物だろう。

 

地面には芝生が生えており、所々に小さな花が咲いている。

部屋の中央には小さな池がある。

綺麗な水だ。

水の中では小魚が泳いでいる。

……毒は無さそうだ。

 

「そういや、喉乾いていたんだった」

 

手で水を汲み、飲む。

……冷たくて美味しい。

 

「ふぅ……」

 

俺は池の側に腰を下ろした。

存外、疲れが溜まっていたらしい。

自然とため息が出てしまった。

 

「出口はどこにあるんだろ……」

 

訃堂司令は霊廟の奥にあると言った。

第一階層の奥にある、と。

ここが第一階層だとするなら、まだまだ下の階層があるということか。

……もっと下に行けとか言われないよね?

 

「……もう行こう」

 

嫌な考えを振り切るように立ち上がる。

十分癒やされたし。

ダメージを負っていたら、そのダメージも幾らか回復しそうな場所だ。

ヒールスポット、というやつやね。

まるでゲームだぁ……!

 

 

 

一鳴くんの霊廟挑戦!その4【1D10】

 

1 罠だ!

2 罠だ!

3 罠だ!

4 攻略のヒントだ!

5 迷った!?

6 骸骨だ!?

7 攻略のヒントだ!

8 迷った!?

9 殺意の高い罠だ!

10 宝箱だ!

 

結果【8】

 

 

 

「あれ?」

 

霊廟を幾らか進んだ後。

気付いた。

ここ、さっきも通ったな、と。

 

三叉路なのだが、右に進んだら左から出てきてしまったのだ。

よく似た三叉路なのでは、と思ったが壁に傷が付いていたので同じ三叉路だと気付いたのだ。

壁の傷は、おそらく先人が付けたものだろう。

横に5本、縦に4本の格子状の傷だ。

 

「……あそこの道を左に行ったら戻ったから、じゃあ右か」

 

もう一度右側の通路に進む。

その後分かれ道を右に進む。

その後分かれ道。

今度は左。

更に───

 

 

 

脱出出来た?【1D10】

 

1 ダメみたいですね……

2 ダメみたいですね……

3 ダメみたいですね……

4 殺意の高い罠だ!

5 宝箱だ!

6 霊廟攻略のヒントを見つけた。

7 霊廟のコントロールルームを見つけた。

8 霊廟攻略のヒントを見つけた。

9 殺意の高い罠だ!

10 宝箱だ!

 

結果【4】

 

 

 

通路を歩む。

三叉路で迷ってから、あっち行ってこっち行って。

なんとか見たことのない道を進んでいたら。

奇妙な感触の床を踏んでしまい。

カチリ、と音がした。

 

「……まさか」

 

ゴゴゴ、と音がする。

轟音が近付いてくる。

嫌な予感がする。

 

「ウソでしょ……ッ!?」

 

通路の先から巨大鉄球が転がってきていた。

通路を塞ぐ程の大きさだ。

その鉄球が、時速何キロだろうか、一般道の車より早い速度で迫る。

 

「インディ・ジョーンズかよぉ!!?」

 

逃げ場はない。

踵を返して逃げるか、あの鉄球を破壊するか。

鉄球は結構な質量だ。

しかも、この霊廟に仕掛けられた罠。

扉や壁の材質同様破壊出来ないかもしれない。

ならば、逃げの一択だ。

 

「うおおーッ!? 日輪航路だーッ!」

 

アームドギアの大戦輪の内側の縁に足をかける。

大戦輪がタイヤの如く回転し、疾走。

炎の轍を残して走る。

その轍を踏み消していく鉄球!

命を懸けたレースが始まった。

 

 

 

一鳴VS鉄球【1D10】

 

一鳴【4】+5(本気補正)

鉄球【3】+3

 

 

 

「うおおーッ、曲がり角!」

 

俺は三叉路まで戻ってきていた。

鉄球とのデットヒートになんとかリードしていた。

が、そこまで鉄球が迫ってきていた。

俺は通路の一つに身体を潜り込ませると、大戦輪から降りる。

そして、そのまま大戦輪を通路の出入り口に向けて構える。

鉄球が迫る。

鉄球が疾走したままこちらに来る。

俺は身体に力を込めた。

 

「……ッ!」

 

鉄球が戦輪に擦れる。

物凄い重さ、物凄い力だ。

だが、なんとか耐えきる。

そして、そのまま鉄球は別の通路に向けて転がっていった。

 

「ハァー、ハァー、助かった……」

 

思わずへたり込んだ。

この霊廟、エゲツない罠が多すぎるよぉ!

 

 

 

一鳴くんの霊廟挑戦!その5【1D10】

 

1 罠だ!

2 罠だ!

3 罠だ!

4 攻略のヒントだ!

5 攻略のヒントだ!

6 骸骨だ!?

7 攻略のヒントだ!

8 攻略のヒントだ!

9 殺意の高い罠だ!

10 宝箱だ!

 

結果【8】

 

 

 

霊廟を進む。

右に進み左に進み。

行き止まりで引き返したりして。

歩みを進めていると、通路にソレがあるのが見えた。

 

「また埴輪だ……」

 

通路の片隅に埴輪が立っているのだ。

武装していない、素の埴輪。

ハニーちゃんの同型だろうか。

 

「……?」

 

その埴輪は近づいてもなにも反応しない。

……壊れているのだろうか。

 

「……………ギ」

 

いや、まだ活きている。

わずかに反応があった。

俺は咄嗟に後退する。

 

「グ……………ギギ」

 

埴輪の目から光が放たれる。

光は通路の壁に当たる。

その光はなにかの図形の形を映し出す。

 

「これ……地図か?」

 

その図形は正方形の中に無数の線が走っていた。

正方形の下辺から通路が伸び、上辺中央辺りに広い空間。円形の部屋。

おそらく、この霊廟の地図だ。

プロジェクションマッピングめいた技術で映し出したのだろうか。

 

下の辺の通路が、おそらく出入り口。

上の辺の空間が、出口のあるこの階層の最奥か。

で、現在位置だが。

地図に光る点がある。

これだろう。

その点は地図の左辺の真ん中辺りにある。

ちょうど、霊廟の半分を過ぎたあたりか。

 

「あ、スマホで撮っとこ」

 

ぱしゃり。

スマホで地図の写真を撮る。

これで、後で見直す事も出来る。

 

「ありがとね」

 

俺は埴輪を撫でる。

 

「ギ」

 

そう言うと、埴輪の目から光は消えて反応しなくなった。

俺は少し埴輪を撫でると、その場を後にした。

 

 

 

一鳴くんの霊廟挑戦!その6【1D10】

 

1 奥に辿り着いた!!

2 罠だ!

3 罠だ!

4 骸骨だ!?

5 奥に辿り着いた!!

6 骸骨だ!?

7 宝箱だ!

8 宝箱だ!

9 殺意の高い罠だ!

10 奥に辿り着いた!!

 

結果【7】

 

 

 

スマホで撮った地図を頼りに進む。

道に迷わずにスイスイ進めて楽である。

……果たして修行になるかと言われると困るが。

そうしていると、小部屋に辿り着く。

ここを右に曲がると、奥まで最短なのだが。

 

「…………宝箱だ」

 

部屋の真ん中に宝箱があった。

いや、宝箱というか箱というか。

1メートル程の横幅で、高さは50センチほどか。

あからさまになにか入ってそうな箱だ。

 

 

 

宝箱の誘惑【1D10】

(数値が高い方の感情が勝る)

 

歓喜【1】

冷静【1】

 

 

 

怪しい。

あからさまに怪しい。

レーザーだの武装埴輪だの鉄球だの。

殺意溢れる罠が仕掛けられた霊廟である。

絶対に罠だ。

罠、なのだが。

 

「……気になる」

 

気になるのだ。

宝箱と見ると開けたくなるのがRPGプレイヤーである。

それが現実に宝箱があったら尚更だ。

だが、宝箱に罠を仕掛けるのは常套手段だ。

開けたら毒ガスが出たり、宝箱自体が敵だったり。

宝箱、スレンダーな肢体、むしゃむしゃ……うっ、頭が……!

 

 

 

どうする、一鳴!【1D6】

 

1 無視する

2 無視する

3 無視する

4 開けちゃう

5 開けちゃう

6 取り敢えず蹴ってみる

 

結果【5】

 

 

 

えーい、開けちゃおう!

罠なら咄嗟に離れれば良いだけだし!

よし、開けよう!

 

 

 

宝箱判定ダイス【1D10】

 

1 空っぽ

2 空っぽ

3 毒ガスが吹き出した!

4 宝箱の中から腕と舌が!

5 毒ガスが吹き出した!

6 空っぽ

7 金印だ!

8 勾玉だ!

9 宝箱の中から腕と舌が!

10 おっ!

 

結果【9】

 

 

 

「えっ?」

 

宝箱を開けたら中から腕と舌が飛び出した。

腕は俺を掴み、舌が俺をなめる。

よく見たら、宝箱に歯が生えてる。

 

ミミックだった!!

 

「ヌゥーッ!」

 

ミミックが俺を宝箱の中に引き摺りこもうとする。

引き摺り込まれたら最後、俺はミミックのご飯になってしまう!

 

 

 

一鳴VSミミック【1D10】

 

一鳴【1】+5(本気補正)

ミミック【7】+5(不意打ち補正)

 

 

 

「グワーッ!」

 

ミミックには勝てなかったよ……。

俺は宝箱の中もとい、ミミックの口に引き摺り込まれてしまう。

 

 

 

一鳴ダメージロール【1D10】

(10以上で……)

 

結果【5】

 

 

 

ぺっ、と吐き出された。

シンフォギアが硬いお陰で吐き出されたようだ。

 

「お返しだコノヤロー!」

 

俺はミミックに戦輪を叩き込む。

脚が生えていない、身動きしないミミックなのでモロに戦輪を食らうミミック。

バキッ、と宝箱部分が砕けて、ミミックは動かなくなった。

 

「うぅ、痛い……」

 

ミミックに思いっ切り噛まれたので、お腹と背中から血が出ている。

止血法ぐらいなら習ってるしなんとかなるが。

それでも、痛みは走る。

 

 

 

ミミック戦での戦利品【1D6】

 

1 なんもないよ

2 なんもないよ

3 金印だ

4 勾玉だ

5 ……ペンダント?

6 おっ!

 

結果【2】

 

 

 

ミミックの口の中を漁る。

なにもない。

なにもない。

なにもない。

……ゲームだったら何某か落としてるのに。

現実は非情である……。

無視してさっさと進んだら良かった……。

 

 

 

一鳴くんの霊廟挑戦!その6【1D10】

 

1 奥に辿り着いた!!

2 奥に辿り着いた!!

3 奥に辿り着いた!!

4 奥に辿り着いた!!

5 奥に辿り着いた!!

6 奥に辿り着いた!!

7 奥に辿り着いた!!

8 奥に辿り着いた!!

9 奥に辿り着いた!!

10 奥に辿り着いた!!

 

結果【6】

 

 

 

ミミックとの激闘の痛みに耐えて。

俺はなんとか奥まで辿り着いた。

 

「おお!」

 

霊廟第一階層、その最奥は劇場のようであった。

円形劇場だ。

天井までは20メートル程か。ドーム状の壁には客席が並び、高い壁で俺のいる場所と隔てられている。

俺は劇場の中にいる。

石畳の床ではない。リノリウムのような、光沢のある床。

およそ古代に造られたものではない。

いや、先史文明期にほど近い時に造られた霊廟だったか。

 

その劇場の最奥。

出口が見えるその前に。

巨大な四本脚の埴輪。

犬の埴輪だ。

高さ3メートル、全長は5メートルほど。

霊廟の、番犬といったところか。

 

「ギギギ! ワンワン!」

 

埴輪犬がこちらを見る。

口の部分が開く。

光が見える。

嫌な予感がした。

咄嗟に回避。

その一瞬後、俺がいた場所をレーザーが通過した。

俺を瀕死にまで追い込んだ通路のレーザー、あれとは一線を画する威力のレーザーだろう。

通路のレーザーは糸のような細さだが、今のレーザーは人一人覆える程の太さだったし。

 

俺は戦輪を構えた。

埴輪犬がお尻からブースター炎を出して突進してくる。

俺と埴輪犬が交差した。

 

 

 

一鳴VS埴輪犬【1D10】

 

一鳴【8】+5(本気補正)

埴輪犬【4】+5(性能補正)

 

 

 

埴輪犬は強い。

突進の速度は速く、口から出すレーザーは鋭い。

また、前脚による踏みつけは劇場の地面を揺らす。

だが。

 

「攻撃が単調なんだよ!」

 

すべての攻撃が単調なのだ。

突進した後はしばらく動かなくなるし、レーザー撃つときは身体も頭も固定してるし。踏みつけ攻撃はそもそも脚を振り上げる動作で予測できるし。

つまり。

慣れてしまえば簡単に倒せるということだ。

 

「イヤーッ!」

 

俺の大戦輪による一撃が埴輪犬の首を捉える。

埴輪犬にヒビが入り、そのまま首を落とす。

 

「ギギギ……クゥーン」

 

一つ鳴くと、埴輪犬は動かなくなる。

と、同時に埴輪犬の胴体が倒れる。

 

「……勝った」

 

ミミックによる痛みは残ってたが。

なんとか勝てた。

勝てたが。

 

「これで終わり、か?」

 

なんというか。

強くなった、という実感が湧かない。

霊廟の罠、埴輪は強大だったが。

修行としてなにかを学べたか、というと『油断しない』という事しか学べなかった。

いや、それも大事なんだけども。

 

「ほう、あの番犬に勝てたか」

 

と、声。

見ると、出口の方から訃堂司令が歩いてくる。

腰には群蜘蛛を佩いている。

 

「訃堂司令! 仕事は?」

「テレワークじゃ」

 

訃堂司令はハイテクにも通じていたようで。

 

「さて、一鳴くん」

 

訃堂司令が語り掛ける。

 

「ここまで様々な罠を乗り越えて来たようじゃの」

「本当ですよ」

 

レーザーに撃たれたり鉄球に追いかけられたり。

 

「宝箱の罠にも引っ掛かったみたいじゃの」

「そうっすね(震え声)」

 

俺の身体の傷を見て訃堂司令はそう言った。

 

「さて」

 

訃堂司令は群蜘蛛を抜いた。

 

「訃堂司令……?」

「最終試練じゃ」

 

群蜘蛛を立てて構える訃堂司令。

八相の構え、というらしい。

 

「ワシを倒してみせい、渡一鳴!!」

 

 

 

 

 

 

後編に続く……。




Q.どうして一鳴くんはことごとくアブナイ罠に引っ掛かるんですか?

A.苦難の道を歩むのは転生オリ主の特権だから(ダイスの女神様による超絶震え声)

そんな感じの中編でした。
本当なら前後編の2話で終わる予定でしたが、一鳴くんがアブナイ罠に何度も引っ掛かるから長くなったのね……。
しかもせっかく宝箱見つけてもミミックだったし、しかもそのミミックも何も残さないし。
なんでこんなに運がないのよ……。

そんな訳で次回、VS訃堂司令です。
霊廟内の地下劇場にて、一鳴くんとちょっと本気の護国の防人がぶつかり合います。
次回もお楽しみにね───



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第五十七話 殺戮迷宮霊廟 後編


お待たせしました。
仕事でトラブったり、クビの危機になったり、仕事が忙し過ぎたり、小説の展開に四苦八苦してた為投稿が遅くなってしまいました。

次回以降も、投稿は2〜3週間おきになりそうです……。
でもエタりはしないので、ご安心ください。

(ワンピースばりに伏線広げまくったんだから、畳むのは)当たり前だよなぁ?



 

 

「ワシを倒してみせい、渡一鳴!!」

 

訃堂司令が群蜘蛛を抜き、言い放つ。

と、同時に一息にこちらに踏み込んでくる。

 

「ぐッ!」

 

群蜘蛛の鋭い一撃を大戦輪で受け止める。

鋭く、重い一撃。

 

「そらそらそらッ! 守ってばかりでは勝てんぞッ!」

 

訃堂司令は連撃を繰り出してくる。

それらをなんとか大戦輪で捌き切る。

俺は一瞬の隙を突いて、反撃を試みる。

たとえそれが、ワザと作られた隙であっても。

 

「やってやらァ!」

 

「来い、一鳴ィ!」

 

 

 

一鳴VS訃堂【1D10】

 

一鳴【5】+5(本気補正)

訃堂【7】+10(ほんのり本気補正)

 

 

 

「イヤーッ!」

 

「イヤーッ!」

 

俺は腕を振るい、大戦輪を叩きつける。

訃堂司令の群蜘蛛が弾き、受け流す。

 

「しまっ…!」

 

「イヤーッ!」

 

巧みなパリィを前に、大きく隙を見せてしまう。

そして。

 

()ッ!」

 

訃堂司令による群蜘蛛の突きは俺の胸を貫いた。

 

「が……ッ!?」

 

「取ったぞ、一鳴ィ」

 

訃堂司令が群蜘蛛をひねる。

傷を抉られた俺は思わず呻く。

 

「う……ぐぅ!」

 

「死ぬか一鳴? 死んで屍晒すか?」

 

更にひねられる群蜘蛛。

傷口から血が溢れ出る。

マジで、生命取りに来るとか……!

 

「死ぬか一鳴? 家族と友、恋人を残して逝くか?」

 

手足の力が萎えていく中、訃堂司令の言葉が染みる。

ああ。

そうだ。

両親も、響ちゃんも未来ちゃんも。

そして、調ちゃんもマリアさんもセレナちゃんも。

遺して死ぬ訳にはいかない。

きっと、皆哀しんでしまう。

死ぬ訳には……!

 

「ぐ……ぅ!」

 

「……ほう?」

 

俺は左腕を動かして、なんとか群蜘蛛の刀身を掴む。

そして、腰アーマーから小型戦輪射出!

訃堂司令の首、脇、腹、股関を狙う。

人体の弱点を狙う同時攻撃。

攻撃を弾くための群蜘蛛は左手で封じている。

 

「まだまだ、よ」

 

訃堂司令は群蜘蛛から手を離すと同時に跳躍。

空中で身体を旋回させた。

小型戦輪を巧みに回避。

 

「今のを」

 

「避ける。そして……」

 

訃堂司令は俺の横に着地。

シンフォギアの腰アーマーに着けてた七支刀を掴む。

 

「あ」

 

「これで終いよ」

 

その七支刀で俺の首を斬る。

しかし。

 

「ぐ、あ……」

 

「まだ、倒れぬか」

 

訃堂司令の一閃は、俺の頸動脈を切り裂いた。

血が止まらない。

だが、倒れる訳にはいかない。

死ぬ訳には……!

 

腕はもう動かない。

脚ももう動かない。

立つだけで精一杯。

倒れないだけで精一杯。

胸には群蜘蛛が刺さったまま。

だから。

脳波でコントロール出来る小型戦輪で倒すしかない。

そして。

きっとチャンスは一度きりだ。

 

「…………ッ」

 

俺は花弁のように下半身を守る腰アーマーの全てから、一斉に小型戦輪を射出。

その数、108個。

 

「下手な鉄砲、と言う奴か?」

 

訃堂司令が使い心地を確かめるように七支刀を振るう。

きっと、訃堂司令なら小型戦輪全てを切り落としてしまうかもしれない。

()()

 

「……いけッ」

 

「来いッ」

 

訃堂司令を囲むように展開した小型戦輪全機を、訃堂司令に突撃させる。

訃堂司令は七支刀を構える。

 

小型戦輪が訃堂司令の射程距離に這入る直前。

小型戦輪を爆発させた。

 

「なにッ……!?」

 

訃堂司令が驚く。

アームドギアが突然爆発したのだから当然である。

 

シンフォギアは聖遺物のエネルギーを固着化させた物だ。

アームドギアもまた然り。

そして、俺のシンフォギアである【スダルシャナ】はそれ自体が太陽を意味する武具である。

太陽神の光から造られた、遍く照らす太陽光を神格化したヴィシュヌの戦輪。

故にスダルシャナは。

太陽の属性を持つ。

 

()()()()()()()()()()()()でしょう?」

 

太陽面爆発。

太陽フレアとも、言われるそれ。

太陽は爆発する天体なれば。

俺の小型戦輪もまた、爆発する!

 

「ぬおォォォォォッ!!」

 

訃堂司令が叫ぶ。

気付いた所でもう遅い。

戦輪は斬り払える訃堂司令とて、爆発によって生じた熱と衝撃は斬り払えないだろう。

 

 

火烏(かう)(まい)烈花(れっか)

 

「ぼんばー」

 

少し気の抜けた俺の合図と同時に小型戦輪を一斉に起爆させる。

気が抜けたのは仕方ないのよ、今俺瀕死の重傷だし。

胸と首から血がダクダクと流れてるし。

 

小型戦輪の爆発は小規模だ。

大体、1メートル程の範囲だろうか。

だが、しかし。

それが108もあれば?

そしてその中心にいた人間は?

いかな風鳴訃堂といえど、ダメージは受けるだろう。

 

爆煙が訃堂司令を覆う。

だがしかし。

訃堂司令が倒れるのを確認する前に。

俺の意識が限界である。

息が荒い。

血が無いから、酸素を身体に運んでいない。

マジでヤバい。

流石に医療班は来てる筈。

筈、よね?

マジで死ぬぞ、これ。

両親や響ちゃんや未来ちゃんや調ちゃんやマリアさんやセレナちゃん遺して死ぬ。

あかん。

前世だって妻と子ども遺して死んだのに。

今世くらい妻子を哀しませたくないのに!

もう、誰かを哀しませて逝きたくないのに!

あ、やば。

目の前が真っ暗になりつつある。

 

爆煙が晴れる。

視界が闇に包まれる。

意識が、遠く。

だが。

耐える。

ギリギリの、ギリギリまで。

そして。

 

「見事」

 

という声が聞こえて。

俺の意識が────

 

 

 

 

 

 

───。

……───。

…………───。

 

ぅ……ん───。

 

あ、れ。

俺は、確か。

寝かされてる?

目を、開けた。

 

目の前に埴輪の顔があった。

 

「オアーッ!?」

 

「グギギ、おはようございます」

 

埴輪は離れた。

と、同時に目から緑色のレーザー光。

身体中を走査される。

 

「オアーッ!?」

 

「スキャン終了…………異常ナシ」

 

あ、もしかして。

この埴輪……。

 

「ハニーちゃん?」

 

「そうじゃよ」

 

と訃堂司令の声。

身体を起こし、声の方を見る。

 

「お目覚めじゃな」

 

フンドシ一丁の訃堂司令が片膝立てて座っていた。

 

「オアーッ、変態!」

 

「失礼な! 一鳴くんが戦輪を爆発させたせいで服が吹き飛んだんじゃ!」 

 

「あ、すんません……」 

 

俺のせいだった。

 

「ごほん。とにかく、目覚めて良かった」

 

「ダメージ甚大、甚大。主要血管切断、肺臓損傷、血液22%流出。死にかけ、ダッタゾ」

 

ハニーちゃんから聞き捨てならない言葉が聞こえた。

 

「あの、重傷なんですけど(震え声)」

 

「殺す気で、いったからのぅ」

 

「えぇ……(恐怖)」

 

訃堂司令が怖いんじゃが……。

 

「だって一鳴くん、死ぬのに躊躇いが無かったじゃろ?」

 

と、言われた。

 

「……いや、怖いですけれど」

 

「怖いのは怖いじゃろ? だが一鳴くんは死に対して躊躇いが無い。負けた時に抵抗しなかったり、迷わず絶唱を使うからの」

 

訃堂司令の言葉が、胸に刺さる。

 

「一鳴くんは、死を恐れておらぬ。……正確には、()()()()()()()()()()()()()、と言うべきか」

 

訃堂司令が手に持った群蜘蛛を天に向ける。

ボロボロになった刀身が、蝋燭の光に照らされる。

 

「人は未知を恐れる生き物よ。その際たるものこそ、【死】。故に人は死を恐れる。死ねばどうなるのか。極楽に往くか、地獄に落ちるか。閻魔の裁きを受けるのか。それとも……輪廻転生し、別人になるのか」

 

訃堂司令が群蜘蛛の切っ先を俺に向ける。

 

「一鳴くん、お主にとって、死は未知ではないのだな」

 

「……」

 

どうやら。

俺の正体に気付いているらしい。

 

「いつから、気付いてました?」

 

「出会った時から」

 

「……どこで、気付いたんです?」

 

「眼、よ」

 

眼?

 

「死を知り、死を乗り越えた者の眼は独特な色を持つ」

 

「色……」

 

「お主しかり、フィーネしかり。……そして、ワシも」

 

「え……?」

 

「ふふ、ワシも輪廻転生しとるのよ」

 

え、マジで?

 

「マジじゃ。……、大昔、ワシは神と呼ばれていた存在だった」

 

群蜘蛛を鞘に収めて、語りだす訃堂司令。

神。

この世界の神、という事は。

 

「カストディアン・アヌンナキ。5000年以上前にこの星に生命の種を蒔いた、まあ、宇宙人じゃな」

 

「いや、宇宙人って……」

 

確かに宇宙から来たのがアヌンナキだから、宇宙人って言うのは間違ってないけれど……。

風情がないなぁ。

 

「で、まぁ、宇宙人同士で内乱起こった結果、世界は大混乱に陥ってな。弟は内乱起こした奴封印して死ぬし、ワシは地上に置いてけぼり食らうし仲間はさっさと別の銀河に逃げるし」

 

あぁ、シェム・ハ関係の。

……弟、封印?

訃堂司令、エンキのお兄ちゃん?

 

「で、あちこち彷徨った挙げ句に辿り着いたのが、この日本列島という訳じゃ。そこでまぁ、嫁に出会って、人間たちに製鉄とか農法とか教えてな」

 

そう言う訃堂司令は、遠い昔を懐かしむようであった。

 

「ワシ、人間嫌いじゃったのよ。騒がしいし鬱陶しいし、木を切り水を汚すし。でも、そんなワシに嫁がこう言ったのよ。『人もまた、この星に生きる生命。天然自然の一部です』、とな」

 

「天然自然の、一部」

 

「そうじゃよ。それを聞いてな、ワシは人を見る目が変わった。騒がしいし鬱陶しいし、木を切り水を汚すが、それでも懸命に生きる生命なのだと。他の自然と変わらぬ、とな」

 

「……」

 

「ワシは人が愛おしくなった。その日、ワシは神としての名を捨てて、人として【タケハヤ】と名乗る事にした」

 

タケハヤ。

それが、訃堂司令のかつての名前。

タケハヤ。タケハヤ……どこかで、聞いたような。

神話?

古事記か?

 

「そして、この霊廟にはタケハヤとその嫁が祀られておるのじゃ」

 

あ、そう繋がるのか。

この霊廟はそう言う由来があるのか。

 

「ワシも嫁も、民衆からすっごい祀られておったからのぅ。盗掘者は必ず殺すような罠を仕掛けておっての。だからこそ、今回の特訓にはちょうど良かった訳じゃが」

「それで俺は死にかけたんですが……」

「命の儚さを思い知ったじゃろ?」

 

そんなもん、この仕事してたら嫌でも思い知る。

 

「人はすぐ死ぬ。死んで、何かを遺す。形ある物、形のない物。……なにかを」

 

「……」

 

「だが。置いていかれた者には何が残る?」

 

「……」

 

「お主の父母は、友は、恋人には? 何が残る? 愛する一鳴くんはもう居ないというのに」

 

「……」

 

「一鳴くん、お主にとって死は未知ではない。しかし、しかしな。死は断絶よ。一鳴くんの死は、渡一鳴という存在の断絶を示す。

忘れるな。渡一鳴の生は一度切りなのだ。お主が何度目の人生なのかはわからぬ。だが、渡一鳴の人生は今生限りと知れ」

 

「……はい」

 

俺は静かに頷いた。

 

俺は転生者だ。

前世では妻が何人もいて、子どもはもっといた。

だが。

前世には帰れない。

俺はここで生きていく。

渡一鳴として。

そう決めたのは俺だ。

そして、訃堂司令の言う通り。

渡一鳴としての生もまた、一度切りなのだ。

 

「だから、先程の、あのアームドギアを爆発させる技を出してきた時は嬉しかった。お主はまだ諦めていなかったのだと」

 

「瀕死も瀕死でしたけどね」

 

「それでも、最後の最後まで足掻いていた。それを忘れるでないぞ。限界を越え、死の直前にまで戦い続ける。それこそが、一鳴くんに必要なものだからな」

 

「わかりました」

 

「それじゃ、帰るかのぅ」

 

よっこいせ、と訃堂司令が立ち上がる。

フンドシ姿のままで。

……まぁ、服は本邸にあるか。

 

「そういえば」

 

「なんじゃ?」

 

「ここは霊廟の第一層なんですよね」

 

霊廟。

訃堂司令の前世とその嫁が埋葬されている遺跡。

いったいいくつの階層から成っているのだろうか。

 

「7層じゃな」

 

「結構多いっすね」

 

「ちょっと民衆が本気出しすぎたみたいじゃ。

あ、だが、この下には行けんぞ」

 

「え、そうなんですか?」

 

「うむ。この先の階段から行けるんじゃがな……。大昔、一歩踏み入った瞬間レーザーで狙撃された。3連続で額を狙われたわ!」

 

「えぇ……」

 

物騒さのグレードがアップしてる……。

 

「あれは奥まで行かせる気はないの!」

 

ワハハと笑う訃堂司令。

笑い事なのかなぁ……。

 

「だからアレは一鳴くんがもっと強くなってからじゃ」

 

「わかりました。……お宝ありますかね?」

 

「まぁ、奥の奥、ワシ(タケハヤ)の亡骸はスゴイお宝と共に埋葬されておるが……これだってお宝じゃぞ?」

 

と言って、青錆びた七支刀を掲げる訃堂司令。

 

「錆び錆びですよ?」

 

「経年劣化がのぅ……。それでもこれは異端技術の用いられた剣よ。フィーネに渡せば、シンフォギアを強化してくれる筈」

 

なんでもエネルギー効率が良くなって、攻撃にエネルギーを回せるようになる筈とかなんとか。

お宝じゃないの!

 

「当たりの宝箱には同じような技術で造られた勾玉があったんじゃが……」 

 

「俺を食べようとしてくる宝箱は居ましたね(震え声)」

 

「中身は……?」

 

「なにも、無かった、です」

 

訃堂司令は悲しげな目をした。

 

「その……ドンマイ、じゃ」

 

「はい……」

 

「罠の宝箱には、中に良いのが入ってるモンじゃがのぅ……」

 

俺は自分の不幸さに泣きそうになった。

彼女3人出来た件といい、運の振れ幅がデカすぎる。

 

「帰るか……」

 

「あい……」

 

俺は訃堂司令に肩を叩かれながら出口に向かった。

 

 

 

 

 

 

今回のオチ。

 

後日。

二課の廊下にて。

訃堂司令が正座していた。

首からは『私は一鳴くんを危険な遺跡に放り込み、刀で胸を貫き首筋を切りました』と書かれたプラカードを提げていた。

 

弦十郎さんと八紘さんから怒られた結果であった。

 

まぁ、仕方ないね。

 

 





◆リザルトな◆

○危険な罠に引っ掛かった回数:3回

○偽の宝箱に引っ掛かった回数:1回

○瀕死回数:2回

○手に入れたお宝:青錆びた七支刀

○称号『自殺志願か?』を獲得しました。
○称号『ウカツ!』を獲得しました。
○称号『薄幸』を獲得しました。

○スキル『戦闘続行』を獲得しました。
説明:名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。「往生際の悪さ」あるいは「生還能力」と表現される。
戦闘ダイスで敗北しても、一度だけ戦闘ダイスを振り直す事が出来る。


○青錆びた七支刀を手に入れたので、シンフォギアでの戦闘ダイスに『+5』の補正が付きます。

◆リザルト終了な◆


そんな訳で殺戮迷宮霊廟編、終了です。お疲れ様でした。
拙作でダークソウルの攻略みたいなのをやりたい、あと一鳴くんを強くしたいという思いから始めたこの話ですが、……一鳴くん運が悪すぎる。
多種多様なタノシイアスレチック感溢れる罠を用意してたのに、出せたのは殺意溢れる罠だけだった。ナンデ?

あと訃堂じいじの設定は拙作だけの設定です。
Twitterのシンフォギアオタク集合知からねるねるねるねした設定です。
訃堂じいじの過去に本格的に触れるのはひびみくがシンフォギアになってからかしら?
それまでお楽しみにね!
あとこれはネタバレなんですが、その時には今回の霊廟、アメリカの軍事衛星質量兵器によって破壊されます。神の杖な。


次回はマリアさんとの温泉旅行回を書きます。
作者はそろそろ一鳴くんとヒロインのスケベを書きたいんだ!(早漏感)
それじゃまた、次回!


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第五十八話 重複世界観旅館、閻魔亭

最近ダクソ3新データで始めました。
体力と技量に振ってカタリナ騎士コスでファランの大剣振り回してます。
玉ねぎが高速戦闘してるの面白いわね。

そんな訳でマリアさんとの温泉回で御座います。



 

始まりは、一鳴が霊廟に放り込まれる一ヶ月前まで遡る。

 

その日、マリアは商店街に買い物に出ていた。

日用品を買い、レジで精算した後、()()を渡されたのだ。

 

「こちら、福引券となっておりまーす♪」

 

商店街の町おこしの一環である、福引の回数券である。

一等には一家族様4名までの温泉旅行券。

そして、福引券の期限は今日まで。

回数はキッチリ一回分。

 

(まあ、お菓子の詰め合わせが当たればいいわね)

 

と、五等を狙うマリアであった。

が。

 

「おめでとうございます! 一等の温泉旅行でーす!」

 

ガランガラン、と手持ちのベルを鳴らされる。

周りの客からは羨望の眼差し。

そんな訳で。

マリアは温泉旅行券を手に入れたのであった。

 

さて。

温泉旅行券を手に入れたマリアであるが。

問題なのは誰と行くか、であった。

一緒に行きたい人間は沢山いた。

母親代わりのマム。妹のセレナ。妹分の調に切歌。それにクリス。

そして、何よりも。

愛する恋人の一鳴。

温泉旅行を共にしたい人間が6人も居るが、温泉旅行券は四人まで。

 

その時、マリアに悪魔が囁いた。

温泉旅行券は四人まで、だが。

四人全員を連れて行く必要はない。

誰か一人だけ、連れて行っても良いのだ。

恋人の、一鳴と共に。

二人っきりで温泉旅行。

浴衣の一鳴

一鳴と混浴。

一緒にご飯を食べて。

一緒の布団で寝る。

もしかしたら、あんな事やこんな事になったりするかも……。

 

むふふ、とニヤつくマリア。

だが、マリアの中の天使が諌める。

絶対後でセレナと調と揉めるぞ、と。

温泉旅行券は四人まで。

一鳴とセレナと調。

一鳴を恋人とする少女たちと行けば良い、と。

そうした方が後で揉めない。

なにより。

4月で中学生とはいえ、未だ小学生の一鳴とお泊りは倫理観的にアブナイだ。

 

マリアの中の天使と悪魔が取っ組み合う。

結果、マリアが出した決断は───

 

 

 

マリアの中の天使VS悪魔【1D10】

 

天使【3】

悪魔【7】

 

 

 

そして、現在。

マリアは一鳴の手を握って、温泉旅館の前に居た。

二人きりのお泊りデートであった。

 

「中々立派な旅館ですねぇ……」

「そうねぇ」

 

マリアたちの泊まる旅館は山の中にあった。

自然豊かな山の中に突然現れた朱塗りの楼閣。

九龍城砦、あるいはハウルの動く城のような無秩序に建て増しされた秘湯の宿。

それが、今回宿泊する【閻魔亭】であった。

 

(セレナ、調、ごめんなさい! でも、私だって、一鳴と思いっ切りイチャイチャしたいの……!)

 

マリアは心中で詫びた。

マリアの中の悪魔が勝った結果であった。

 

「マリアさん?」

 

一鳴が呼び掛ける。

 

「どうかしました?」

「いえッ!? なんでもないわ!」

 

マリアは一鳴の腕を取る。

最近、一鳴は成長期で身長が伸びだして、マリアと腕を組めるようになったのであった。

 

「行きましょう!」

 

そうして。

二人で旅館に向って、並んで歩いていく。

 

 

 

 

 

 

ドーモ、一鳴です。

今日はマリアさんと温泉旅行に来ています。

商店街の福引で当たったのだとか。

 

二人きりでお泊り旅行したい、そう言われたので了承した次第。

なお、セレナちゃんと調ちゃんには内緒の模様。

ま、バレないでしょう(フラグ)

 

腕を組むマリアさんと共に、旅館に入る。

閻魔亭、という旅館である。

見た目はFGOの閻魔亭に似ている。

というかほぼ同じ。

違法建築丸出しの建て増し建築物である。

 

……ここ、特異点じゃないよね?

現実よね?

 

そんな疑念は中に入った時点で霧散した。

旅館の中は結構な人が浴衣で談笑したり、お土産店を冷やかしていたり。

うん、普通の人たちだ。

良かった。

 

「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました」

 

カウンターに近付く俺たちを見て、従業員が頭を下げた。

髪をセンター分けにした目つきの悪いが顔の整った男。名札には【鬼灯】。

……そっちも混じったかぁ。

 

「予約していたカデンツァヴナですけれど」

「はい、少々お待ち下さい」

 

そう言うと従業員がパソコンを弄る。

 

「はい、2名様でご予約のカデンツァヴナ様ですね」

「ええ」

「カデンツァヴナ様のお部屋は5階の【エトピリカの間】で御座います」

「ありがとう」

 

マリアさんが従業員から鍵を受け取る。

赤いクリスタル状の細い立方体のキーホルダーに【エトピリカの間】と刻まれていた。

……いや、エトピリカて。

閻魔亭って雀のお宿がモチーフだから、部屋の名前も鳥縛りなのかもしれないけれど……。

 

「行きましょう、一鳴」

「はい」

「どうぞ、ごゆっくり」

 

従業員が頭を下げて俺たちを見送る。

旅館は従業員の人が荷物を持って部屋まで共に行く、というのが多いがここはそういうのはないようだ。

とにもかくにも。

エレベーターで5階まで向かう。

 

「エトピリカ、なのね」

「エトピリカ、ですね」

 

マリアさんも気になったらしい。

まあ、エトピリカだもん。

旅館なのにカタカナだもん。

 

「でも、エトピリカは嘴が美しい鳥って意味の名前ですからね。綺麗なマリアさんにピッタリですよ」

「あら、ありがとう」

 

マリアさんが頬を染める。

エトピリカはアイヌの言葉で嘴が美しいという意味だそうで。鮮やかなオレンジ色の嘴なのだ。

そんな感じで会話しながら5階に辿り着く。

ヒノキ材で造られた旅館は暖かな和の雰囲気を漂わせる。

エトピリカの間はそんな5階の奥にあった。

 

「おお……」

 

中に入った俺とマリアさんは感嘆の声を上げた。

エトピリカの間は二部屋からなる和風の部屋であった。

テレビとテーブル、座椅子の置かれた部屋と、行灯の置かれた部屋。行灯の部屋の方はおそらく寝室であろうか。

そして、旅館には欠かせない椅子とテーブルの置かれた窓際のあのスペースもあった。

 

なんとなく居心地の良いあのスペース、名前を広縁というのだとか。

広い縁側、だから居心地が良いのね。

 

「景色も綺麗ね……」

 

窓から外の景色を見るマリアさん。

外からは山中の景色が見れた。

杉の木が生え、所々で滝が流れ落ちる自然のままの景色だ。

 

「あ、一鳴見て! 大仏よ!」

 

マリアさんが指をさす。

窓から見て左側にある谷、その両側の岸壁にはズラリと菩薩が彫られていた。

……うーん、あれは隻狼で見たな。

獅子猿とか二刀流の猿が居た所だ。

え、蘆名も混じってるのココ!?

じゃあクソみたいな立地と風習と住民の源の宮もあるの!?

 

「凄いわね!」

「凄いですねぇ」

 

マリアさんははしゃいでいる。

うーん、まあ。近付かなければ問題ないネ!

 

「……セレナたちも、一緒に連れて来れば良かったわね」

 

ふと、マリアさんがそう言った。

 

「私、一鳴と一緒に居たくて二人には黙ってたけれど……」

「マリアさん……」

 

マリアさんは後悔しているようだった。

セレナちゃんと調ちゃんには黙ってここまで来たのである。

 

「大丈夫ですよ」

 

俺はマリアさんを抱き締めた。

 

「俺も一緒に怒られますから」

「怒られはするのね……」

「当たり前でしょう、俺達だけでいい思いするんですもの。どこかで埋め合わせはしないとですね。

でも……」

「でも?」

「今だけは、二人で楽しんじゃいましょう! 俺と、マリアさん。二人きりで、ね?」

「……ええ、そうね!」

 

マリアさんは元気を取り戻したようだ。

二人きり、というのがキモである。

普段はセレナちゃんや調ちゃんに遠慮して俺とイチャつけないマリアさんである。

だからこそ、俺と二人で旅行したかったのだろうし。

なので二人で楽しもう、そう言ったのである。

 

「さ、浴衣に着替えて温泉行きましょう!」

「ええ!」

 

 

 

 

 

 

閻魔亭の浴衣は千鳥柄である。

ここまで鳥推しとは。

ちなみに俺とマリアさん、着替えは勿論別々の部屋である。

そこら辺はちゃんとしてるよ。

 

「お、マリアさんカワイイ」

「そ、そうかしら?」

 

そう言いながらくるりと一回転するマリアさん。

着替えたマリアさんは千鳥柄が似合ってて大層可愛らしかった。

 

「一鳴も似合ってるわよ」

「ありがとうございます」

 

そんな訳で俺達は大浴場に向かった。

大浴場は2階にあった。

エレベーターを降りるとフルーツ牛乳やコーヒー牛乳が売られている自販機。

風呂上がりに飲みたいわね。

それにマッサージチェアが3台。

風呂上がりに座りたいわね。

 

そして、男湯と女湯の暖簾。

 

「じゃ、また後で」

「ええ、また」

 

そんな訳で。

マリアさんは女湯、俺は男湯へ。

脱衣場で浴衣を脱ぎ、大浴場に入る。

湯気に覆われた浴場の中は、それなりに人が入っていた。

俺は適当な椅子に座ると、シャワーで頭を洗う。

こういう時、隣に泡とかお湯とか飛ばさないようにしないといけないの大変よね。

 

そんな事を考えてると、声が聞こえてきた。

 

「おお、中々広いじゃないか!」

「そうだねおじさん!」

 

小山力也みたいな声のおじさんと高山みなみみたいな少年の声。

……いや、まさか。

俺はちらり、と声がした方を見る。

ちょび髭のおじさんと、小学校低学年くらいの少年。

俺、あの人たち知ってる。

前世の土曜の夜6時に毎週見てた。

眠りの小五郎とコナンくんだ。

え、この旅館ごった煮過ぎない?

大丈夫?

事件起きない?

 

「ふぅー、気持ちいい! 超気持ちいい!」

 

と、隣に座る人の声。

阿部寛みたいな声だ。

そっちを見る。

チ○コのデカイ阿部寛が居た。

俺、この人知ってる。

TRICKの上田次郎だ。

え、この人も居るの?

絶対事件起きるじゃん。

チェックアウトした方が良いかな? かな?

 

「……ヨシ!」

 

俺は適当に身体を洗うとさっさと大浴場の奥から外に出て露天風呂に向かう。

外の景色がよく見えて気持ちが良い。

見えてるの菩薩谷の石仏だけど。

谷底が緑色の鉱毒で満たされてるけど。

下見なけりゃセーフである。

 

「ふぅ……」

 

露天風呂に入る。

思わずため息が出る。

気持ちいい心地だ。

 

「……無事に帰れるかなぁ、俺」

 

俺は遠い目をした。

なんでコナンくんと上田がおるんや。

絶対事件起きるじゃん。

せめてマリアさんは守らなきゃ。

 

 

 

「あら、お待たせ一鳴。……なんかやつれてない?」

 

風呂上がりにフルーツ牛乳を飲んでると、同じく風呂上がりのマリアさんにそう言われた。

ほんのり上気した肌とアップにした髪が色っぽい。

 

「色々ありましてね。……でも、風呂上がりのマリアさん見れたら元気出てきましたよ」

「もう、一鳴ったら……」

 

そう言いながらも俺と腕を組むマリアさん。

周りの男たちが羨望と嫉妬の眼差しを向ける。

その中に小五郎のおっちゃんと上田が居るのは……見ないふりしとこう。

 

 

 

 

 

 

夕食は鳳の間という大広間で宿泊客一斉に食べるスタイルである。

ちなみに朝食は大広間でのバイキングスタイルだとか。

 

俺とマリアさんは適当な席に座る。

座椅子と机が用意されており、机の上には山海の幸がふんだんに使われた夕食が用意されていた。

飛騨牛のすき焼き、山菜や海老やイカなどの天ぷら。刺し身、煮物等。

 

「豪華ね」

 

マリアさんが目を輝かせる。

俺とマリアさんは隣り合う席だ。

 

「はやく食べましょう一鳴!」

「はいはい、いただきます」

 

まだ高校生だからか、美味しいご飯に待ちきれないマリアさんであった。

かわいい。

 

それはそれとして、まずは刺し身に手を付ける。

鯛やマグロの刺し身だ。

うん、新鮮で美味しい。

 

「一鳴、すき焼き美味しいわ!」

 

目を輝かせるマリアさん。

 

「良かったですね、マリアさん」

「ええ♪」

 

ウッキウキのマリアさん。

次は天ぷらに手を付けるようだ。

 

そんなカワイイマリアさんからしばし視線をそらす。

周りには五十人程の宿泊客。

その中にはコナンくんと毛利親子とか、山田と上田のTRICKコンビとか。

それだけじゃなく、太眉で髪を後ろにまとめた金田一の孫っぽい人とか、水谷豊と寺脇康文のコンビとか。

 

……明日を無事に迎える事は出来るのかしら(震え声)

 

「一鳴、どうしたの?」

 

俺の様子に気付いたマリアさんが声をかける。

 

「なんでもないよ、マリアさん」

 

俺はすき焼きの肉を掴むとマリアさんに差し出す。

 

「あーん」

「あーん♪ ……もう、こんなに人が居るのに」

 

そう言いながらも、幸せそうに肉を噛むマリアさんであった。

 

 

 

食事が終わり、エトピリカの間に戻る。

 

「おぉう」

「あら……」

 

二人して顔を赤らめる。

寝室に敷かれた布団が一つだけだったからだ。

うん、たぶん旅館の人が敷いてくれたんだと思うけれど。

というか高校生と小学生の組み合わせをカップル認定したの誰!?

 

「あー、俺はこっちで寝ますね?」

 

と、テレビの置いてある部屋で寝ようとした俺の腕を、マリアさんが掴む。

 

「一鳴」

 

そう呼びかけたマリアさんの声は、少し上ずっていた。

 

「マリアさん? どうしました?」

「あの、ね……。その……」

 

マリアさんは顔を赤らめたまま、いや、更に赤くしながらもじもじとしている。

……うん、まあ、そういう事か。

 

「わ、私達、付き合ってもう、半年以上経つでしょう?」

 

そう言えばそうだ。

マリアさんとセレナちゃんと調ちゃん、この三人と付き合いだしたのが8月だから、もう7ヶ月か。

時の流れは早いものだ。

 

「キスだけじゃ、我慢出来ませんか?」

 

そう問う俺に、マリアさんは赤面して、こくんと頷いた。

 

「ふふ……」

 

あまりの可愛らしさに思わず微笑んでしまう。

ああ、駄目だ。

小学生だから我慢しようと思ってたのに。

こんなに可愛いマリアさんを見てたら、もう我慢出来ないよ。

 

「マリアさん」

 

俺はマリアさんに抱き着いた。

身長差があるので、マリアさんの胸に顔が埋まる。

 

「か、一鳴ッ?」

「可愛いマリアさんを見てたら、俺も我慢出来なくなりました」

「……ッ!」

 

俺の言葉を聞いて、マリアさんは俺の腰に手を回した。

 

「一鳴……!」

「コンドーム、用意してます?」

 

一応念の為、念の為で財布の中に一つだけ用意しているが、一応マリアさんにそう聞く。

今回の旅行で、そういう事を期待してたなら、マリアさんの方がコンドーム沢山用意してそうだしネ!

 

「な、無いけど。でもッ! ピルは飲んできたわ」

 

ピルかぁ。

2040年である今、ピルによる避妊率は極めて高い上に副作用も殆ど無い。

だからまあ、安心かしら。

マリアさんに望まぬ妊娠はさせたくないからね。

 

「んふふ、じゃあ……シます?」

「……ええ」

 

こくこく、と頷きながら、俺をエスコートするマリアさん。

鼻息が荒く、期待しているのが丸わかりである。

 

さて。

前世でハーレム築いてた俺のテクニック、マリアさんのご期待に添えるかしら……?

 

 

 

一鳴VSマリア(意味深)【1D10】

 

1 普通に

2 考えたら

3 百戦錬磨(意味深)の

4 一鳴くんに

5 ウブなネンネの

6 マリアさんが

7 勝てる訳

8 ないん

9 だよなぁ

10 マリア・サキュバスンツァヴナ・イヴ

 

結果【3】

 

 

 

「あッ……♡ あへッ……♡」

 

眼の前には、布団の上でアヘ顔しながら潰れたカエルみたいになって失禁しているマリアさん。

……やりすぎちゃった。

 

「あー、マリアさん? 大丈夫です?」

「かずなりの、けだもの(けりゃもにょぉ)……♡」

「ごめんね……」

 

マリアさんがアヘ顔しながら俺を責める。

言い返せないわ……。

 

「せきにん、とりなしゃいよ♡」

「うん」

「あたしを、およめさんにしてぇ♡」

「うん、俺のお嫁さんになってね」

「♡♡♡」

 

マリアさんは幸せたっぷりな顔で、そのまま寝た。

うん、体力いっぱい使ったからね。

俺はマリアさんの頭を撫でると、マリアさんを抱き寄せて寝た。

 

次の日。

 

「けだもの」

「ごめんなさい」

 

俺はまた責められていた。

朝の目覚めに一発キメたのが原因であった。

 

「でもマリアさんが朝からしゃぶってたのも原因……」

「スケベ」

「はいごめんなさい」

 

有無を言わせぬマリアさんである。

 

「浮気者」

「それは違うよ」

「じゃあなんであんなに上手なの?」

「いろいろあるのよ(震え声)」

 

前世の記憶とか、前世の経験とか。

いろいろよ、いろいろ。

 

「やっぱり浮気したのね!」

「してないよ!」

「じゃあ、はじめてだったのよね?」

「…………(目そらし)」

 

冬木のね、秦良玉オルタがね……。

 

「浮気者ぉ!」

「違うの! 違うの! 仕事でヘマしてね、ショタコン女幹部がアレしてコレなの!」

「え……」

 

それなりに説明したらマリアさんは泣いてしまった。

 

「ごめんね、一鳴……。辛かったでしょう?」

「俺は大丈夫よ? こっちこそごめんね。マリアさん、はじめてだったのに張り切っちゃって……」

「いいのよ、気持ちよかったから。最高のはじめてだったわ」

「そう言ってくれると嬉しいね」

 

マリアさんは俺に身体を預けてくる。

 

「ねぇ、セレナや調の時も、今日と同じぐらいに愛してあげてね?」

「ええ」

「もちろん、私ともずっとよ?」

「わかってますとも」

 

俺はマリアさんにキスをした。

 

 

 

 

 

 

今回のオチ。

旅行から帰ってきた俺とマリアさんを俺の部屋で待っていたのはセレナちゃんと調ちゃんだ。

 

「マリア姉さん?」

「一鳴さん?」

 

俺達は静かに正座した。

リビングの、冷たいフローリングの上である。

 

「二人で旅行、ですか?」

「な、なぜそれを」

 

マリアさんはぷるぷると震えていた。

それぐらい、二人は怖かった。

 

「私の友だちが家族で旅行に行ってたんだよ? 閻魔亭って高級旅館」

「商店街の福引きの一等も、閻魔亭の宿泊券だったよね?」

 

セレナちゃんの友だちも、泊まってたのね……。

調ちゃんもよく知っていたね福引きののこと。

 

「ご、ごめんなさい」

 

マリアさんはぷるぷるしながら頭を下げた。

 

「その、マリアさんを止めなかった俺に罪はあるから、マリアさんにはもう少しこう、手心というか……」

「一鳴さんは黙ってて」

「一鳴さんは黙ってて」

「アッハイ」

 

マリアさんに助け舟を出したら氷山にぶつかって沈んだでござる。

 

「独り占めしたい気持ちはわかるよ? でもさぁ……」

「……話して欲しかった」

「ごめんなさい……」

 

二人は相談してほしかったようだ。

 

「それに……ヤった?」

「うッ! ……はい」

 

ずい、とマリアさんに顔を近付けたセレナちゃん。

マリアさんは静かに頷いた。

調ちゃんの成長に悪い会話である。

 

「でも、クラスでももう経験ある娘いるよ?」

「えぇ……」

 

今どきの子は早いなぁ……。

そんな事を調ちゃんと話してると、セレナちゃんがマリアさんに問うた。

 

「気持ち良かった?」

「とても」

「そっか〜〜〜〜〜」

 

セレナちゃんは満面の笑みだ。

所で、笑顔って本来は攻撃的な意味合いを持つらしいね。

今回は関係ないけれど。

関係ないけれど(恐怖)。

 

「そっか〜〜〜〜〜、私も我慢してるんだけどな〜〜〜〜〜」

「うぅ……抜け駆けしてごめんなさい」

「……ゴールデンウィーク」

 

ニコニコ笑顔のまま、セレナちゃんがそう言う。

 

「ゴールデンウィークは私とお泊りしましょう? ね、一鳴さん?」

「ハイヨロコンデー!」

「マリア姉さんもそれでいいよね?」

「も、もちろんよ」

 

俺とマリアさんは反射的に恭順した。

セレナちゃんとしてはそれで手打ちにしたいという訳ね。

 

「一鳴さん、私もお泊りしたい」

 

と、調ちゃん。

でも調ちゃんは現役JSだからね……。

 

「調ちゃんは、高校生になったらね……」

「むぅ……」

 

むくれてしまう調ちゃん。

俺は調ちゃんを膝の上に座らせる。

 

「それまでは健全にデートしましょ?」

「……わかった」

 

むくれながらも納得した調ちゃん。

俺は調ちゃんの頭を撫で回す。

 

「いい子いい子」

「ん……もっと」

 

目を細めて気持ち良さそうな調ちゃん。

 

そんな訳で禊は済んだ。

マリアさんは正座中の足裏をセレナちゃんに攻められて悶ているけれど。

……まあ、仕方ないネ!

 

 




一鳴とマリアさんのねっとりスケベR18版は近々投稿します(これから執筆感)
→執筆出来ました♡

18歳以上の大きなお友だちは、下のURLからご覧ください♡
作者の性癖が炸裂した作品だゾ♡

……と思ったけど、全年齢向け作品にR18作品のURL貼るのはどうかと思うし、作者のページから探してくださいな。


◆用語説明な◆

○閻魔亭
FGOの閻魔亭と同一存在。
あちらは神を招く旅館だが、こちらは現世に近いので一般客も泊まりに来る。
るるぶの評価は5である。

○鬼灯
『鬼灯の冷徹』の鬼灯さん。
閻魔亭の女将が上司の義理の娘なので旅館の手伝いに来た。

○閻魔亭殺人事件
事件が起こる前に鬼灯が真犯人をボコったので起こらなかった。

○名探偵コナン
「真実はいつも一つ」でお馴染みのコナンくん。
今回は居候先の小五郎と蘭と共に閻魔亭に来てたが、殺人事件が起こらなかったので平和に過ごせた。

○金田一少年の事件簿
「じっちゃんの名にかけて」でお馴染みの孫。
幼馴染の美雪と共に閻魔亭に来てたが、殺人事件が起こらなかったので平和に過ごせた。

○TRICK
「まるっとお見通しだ!」でお馴染みの貧乳と巨根のコンビ。
閻魔亭に泊まった後、近くにある水生村に行きヘンテコ教団の起こした事件に巻き込まれた。

○相棒
「恥を知りなさいッ」でお馴染みの右京さんと亀山くんのコンビ。
右京さんの相棒は何人も変わってるけど、やっぱ初代相棒の亀山くんの存在感は大きいのよね。

○菩薩谷
『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』に出てくるステージ。
山越え谷越えた先には谷底に並ぶ菩薩たちが待っていた、そんなステージ。菩薩の間をくぐり抜け、谷底で群れる猿たちにボコボコにされ、菩薩谷奥の獅子猿にボコボコにされた思い出。

○源の宮
『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』に出てくるステージ。
クソみたいな立地からクソみたいな環境のステージ。建物はほぼ水没しており、住民は不死を求めた結果軟体生物みたいになった貴族と武者たち。
電撃蹴鞠エースストライカーは絶対許さない。
この源の宮の真下が菩薩谷なのよね。だから色々流れ落ちてる訳で……。



そんな訳で次回からは中学生編かな。
中学校入学回をやらないとネ!
次回もお楽しみにね!


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第五十九話 中学生になってから急に悪ぶるヤツいるよね


風俗落ちしてソープ嬢になった一鳴くんと、一鳴くんにドハマリしたマリアさんとセレナちゃんの話を息抜きで書こうとしたけど、マリアさんとセレナちゃんが風俗に行く理由を考えられなかったので、ここで供養しときます。

そんな訳で中学生編リリカルトカレフはじまります!




ドーモ、一鳴です。

2040年4月9日。月曜日。

大安吉日。

本日、中学校の入学式でございます。

 

俺も学ランで身を包み、中学生デビューでござる。

一つ大人になったね、と両親からも祝福されてます。

つい先日、別の意味で大人の階段登ったけれど(震え声)

 

「ナルくん!」

「おはよう、ナルくん」

 

と、響ちゃんと未来ちゃん。

二人もセーラー服である。

可愛い。

 

「おはよ、響ちゃん未来ちゃん」

「おはよー、今日から中学生だよ私たち! お姉さんだよ!」

「響はまだお姉さんって感じじゃないかなぁ?」

「未来ひどーい!」

 

キャッキャと触れ合う俺達。

子どもの頃から一緒だから、距離感近いけれど、二人とも女性らしくなったよなぁ。

俺は二人の距離の近さにドキドキすることもあるけれど、二人はどうなんだろうか……?

 

 

 

ひびみく思春期ダイス【1D10】

 

1 まだまだ子どもよ……

2 まだまだ子どもよ……

3 まだまだ子どもよ……

4 ひびみくキマシ……!

5 無意識ながら一鳴を……

6 まだまだ子どもよ……

7 まだまだ子どもよ……

8 無意識ながら一鳴を……

9 一鳴に雄を感じてる……!

10 熱烈歓迎

 

響 【10】

未来【6】

 

 

 

「ナルくーん、未来がヒドーイ!」

 

そう言って、俺に抱き着く響ちゃん。

胸が当たるゥ!

 

「響! はしたないよ!」

「えぇ、ナルくんだし良いんじゃない?」

 

そう言いながら、胸をむにむにぃと押し付ける響ちゃん。

周りの視線がキツい。

 

「響!」

「はぁい」

 

しぶしぶ、といった感じで俺から離れる響。

そしてそのまま俺と手を繋ぐ響。

反対側の手は未来さんと繋ぐ。

 

「響ちゃん?」

「一緒に行こ、入学式!」

「もう、響ったら……」

 

と、いうものの未来さんも満更ではなさそうだ。

 

『ドーモ、一鳴さん。サイコロ神です』

 

俺の横に突如、半透明の喋るサイコロが現れる。

彼こそ、揺れ動く俺の運命が形を得た存在。

俺の運命の羅針盤。操舵輪。

神の振る賽。

運命の擬神。

俺にだけ見えるパワーあるヴィジョン、サイコロ神である。

 

『ドーモ、サイコロ神さん。いきなりどうしたの?』

 

俺は心中でサイコロ神と会話する。

 

『うむ。立花響についてだ』

『響ちゃん?』

『彼女は貴公に惹かれている』

 

響ちゃんが、俺の事を……?

思春期だから、そういう事もあるかもしれないけれど、俺には彼女が居るって知ってる筈だし。

どうしようか、と考えてると更に衝撃的な事をサイコロ神に言われる。

 

『貴公だけではない。小日向未来にも惹かれている』

『エッ?』

『つまり立花響はナルみくハーレム願望があると言うことだ』

『ファッ!?』

 

横目で響ちゃんを見る。

俺と未来ちゃんと手を繋ぎ、ニコニコ笑う可愛らしい女の子。

そんな純真な響ちゃんが、俺と未来さんを……?

 

『貴公とて、小学生にしてハーレム作ってるであろう? そんな貴公の影響を少なからず受けている、という事であろうよ』

『畜生、俺の、せいかよ……』

 

俺は某赤帽子めいたセリフを吐く。

うーん、しかし真面目に考えると。

原作のひびみくに、俺という不純物混じっただけか。

じゃあ問題ないな!

 

『いや、おそらくだが、いずれ行動を起こすと思うぞ』

 

そう、サイコロ神が呟く。

 

『行動?』

『そうだ。

貴公に抱き着き、貴公と小日向嬢と手を繋ぐのが証拠。惹かれてるが故に、肉体的な接触を求める。

マリア嬢が、貴公と愛の営みを求めたように。

いつか、貴公と小日向嬢に対して肉体関係を求めるかも知れぬ。

多感な中学生であるからこそ、な』

『ぬぅ……』

 

響ちゃんのみくナルハーレム願望は、そこまで強いものであったか。

仲良し三人組で幼少の頃から一緒だった俺達。

三人一緒。だからこそ、響ちゃんは俺と未来ちゃんに惹かれたのかしら。

そして、俺というハーレムの見本が側にいて、ハーレム願望は形を得た、という事か……。

 

「ナルくん?」

 

響ちゃんが、顔をこちらに向ける。

 

「どうしたの?」

 

俺の様子を心配したらしい。

響ちゃんの事で悩んでいた、そう言う訳にもいかない。

 

「んにゃ、春の日差しが眩しいなって」

「そう? 暖かくて私は好きだけどな〜」

「暖かいのはいいのよ。眩しいのがイヤなのよ」

「あー、ナルくん身長伸びたから」

「それ、関係あるのかなぁ」

 

なんとか誤魔化し、三人で雑談。

うん。

響ちゃんに、みくナルハーレム願望があるなんて信じられないけれど。

でも。

もしもの時の為に、何をどうするか位は、考えておかないといけない。

後悔しないためにも、ね?

 

 

 

 

 

 

「ワシがこの学校の校長、江田島平八である!

以上!」

 

入学式が終わった。

あまりにも短い入学式であった。

校長の挨拶が終わると、それぞれ教室に案内された。

 

「一緒のクラスだね、未来! ナルくん!」

 

とまあ、そんな訳で、俺も響ちゃんも未来ちゃんも同じクラスである。

嬉しいね。

 

で、それぞれ五十音順で席が割り振られているのだけれど。

俺の名字、「渡」でわ行だからいっつも廊下側の後ろの方なのよね。

人の席の側に扉があるから、人の往来が激しいのだ。

 

まあ、嘆いても仕方なし。

座って担任待つかぁ、と考えてたら隣の席の男から声をかけられた。

 

「オレ吉田な。仲良くしようぜ」

 

雌タコ使役してそうな物憂げな同級生がいた。

ちょっとこの世界色んな人混入してんよー。

 

「俺は渡。渡一鳴。よろしく」

「渡か。オレはヒロフミってんだ。

お前、女の子二人侍らせてただろ、もう噂になってるぜ?」

「マ?」

「マ」

 

響ちゃんと未来ちゃんの事かもう噂になってるのか。

まあ、手繋いでたし、仕方ないね。

 

「二人とも彼女?」

「んにゃ、幼馴染」

「幼馴染かぁ。でも可愛いし、ケッコンの約束とかしてるの?」

「しとけば良かったって、後悔する日もある」

「ハハハ、残念だったな」

 

とまあ。

担任教師が来るまで、吉田と会話していた。

お前どこ小とか、この学校の噂とか。

吉田はこの学校に仲のいい先輩がいるので、色々教えてもらったらしい。

俺が噂になってるのも、その先輩からSNSで聞いたのだとか。

 

「2年とか3年が、生意気だーって言ってたらしいぜ」

「やっべ体育館裏呼び出されるじゃん。正当防衛通してボコボコにしよ」

「強気だな」

「こう見えて鍛えてるんよ」

「筋肉の付き方とか見てたらわかるぜ」

「吉田も鍛えてるっしょ」

「わかるか?」

 

吉田。

謎だなぁ、俺と同レベルに鍛えてるし。

国家公務員として、ノイズと戦う俺と同レベルの鍛え方とか。

デビルハンターでもやってんの?

 

と、ここで教室前方の扉が開く。

入ってきたのは、女性。

黄色いワンピースにピンクのインナー。

胸の谷間を出した眼鏡の女教師。

 

「全員揃ってますね〜」

 

と、その女教師。

 

「私がこのクラスの担任の山田真耶です。一年間、よろしくお願いしますね」

 

いや、本当に混じりすぎじゃないこの学校!?

 

 

 

 

 

 

逆から読んでも山田真耶先生から諸注意を聞いた後、自己紹介となった。

 

「相川清香です。走るのが好きなので陸上部に入ろうと思ってます。よろしくお願いします」

 

彼女も山田先生同様の世界観からやって来たっぽい。

ここはIS学園だった……?

 

「織斑一夏です。……以上です!」

 

ほら、もう織斑くん居るじゃん。

ここIS学園じゃん。

クラスの半分男子だけどIS学園じゃん!

 

「小日向未来です」

「立花響でーす!」

 

未来ちゃんも響ちゃんもソツなく自己紹介をこなす。

まあ、響ちゃんが不安だったけど、普通に終わって良かった。

まあ、他にも五反田弾とか篠ノ之箒とか鳳鈴音とか。

うーん、インフィニット・ストラトス!

 

「吉田ヒロフミって言います。よろしく」

 

隣の吉田も自己紹介が終了。

吉田もIS動かしたのかな(混乱)

雌タコ型ISかな?

八本のテンタクラーロッド操りそう(小並)

 

そんなアホな事考えてたら俺の番である。

 

「渡一鳴です。趣味は身体を動かす事、かな。よろしくお願いします」

 

 

 

一鳴くんの評価ダイス【1D10】

 

男子【7】−5(嫉妬補正)

女子【3】

 

 

 

「アイツだよ、女の子と手繋いで登校してたの」

「ツラが良いから恋人同伴ってか。モテる男はツラいねぇ」

「妬ましい妬ましい妬ましい……」

「一鳴きゅん、学ランも似合う。細い肩あすなろ抱きしたい」

 

男たちから呪詛が聞こえる……。

あと情欲。

俺に興奮しないで……(恐怖)

 

「顔は良いし、人も良さそうだけど……」

「ああ見えてやり手なんだって」

「噂じゃ彼女が6人いるとか」

「女の敵じゃん」

「身体を動かすって、そういう事?」

「えー、狙ってたんだけどなぁ」

 

女の子たちからも変な噂立てられてる……。

あと恋人は3人だよ。倍になってるよ。

 

「ぷっククク……」

 

吉田はそれ聞いて密かに笑うし。

オノレェ……。

 

「えっと、自己紹介も全員分終わりましたね」

 

俺の悪評流れてるのを、『えっと』で終わらさないでぇ……。

 

 

 

 

 

 

次の日。

午前中もホームルームというか。

まあ、中学校での生活の決め事についてである。

委員会とか、部活のあれこれとか。

色々決めてお昼時間。

隣の吉田と弁当食べようかと思ったのだが……。

 

「渡くん! 一緒にお弁当食べよう!」

「吉田くんも!」

 

クラスメイトの女子たちに囲まれてしまった。

彼女たちは俺たちに惚れてる……と、言う訳ではない。

 

「渡くんって、彼女6人居るって本当?」

「吉田くんって、大人のカノジョが居るって聞いたよ?」

 

まあ、こんな風に噂の真偽を聞きたいのだろう。

そして、ここで聞いた事を、更に水増しして発信するのだ。

コワイ!

 

「6人も居ないよ〜。沢山カノジョは欲しいけど」

「オレも今フリーだし。誰よ年上カノジョ居るなんて嘘吐いたの」

 

俺と吉田は報道陣めいた女子の質問を、のらりくらりと躱す。

ちらり、と響ちゃんと未来ちゃんを見れば心配そうな表情。

安心して、とウィンクで返す。

 

「みんなも俺のカノジョになる?」

「ヤダー、ワタシ純愛派だもん!」

「渡くん堂々浮気宣言はないわー」

 

よし、うまく話せたな(プロデューサー感)

そんな風に女子たちとコミュニケートしていると。

 

「渡はいるか?」

 

と、男子生徒。

髪を金色に染めた、不良っぽいの。

でも不良しては身体付きが貧弱だな……。

 

「誰?」

 

俺は小声で聞いた。

 

「2年の先輩だよ」

 

女子の一人が返す。

 

「悪ぶってるけど悪い事は出来ないから、クラスメイトや不良からはヘタレ野郎、って嫌われてるって」

「なにその残念な先輩は……」

 

その先輩はキョロキョロと教室を見渡す。

……帰るつもりなさそうね。

俺は立ち上がった。

 

「俺が渡ですけれど?」

「居たんならさっさと返事せぇや!」

 

と、大声を出す先輩。

……声が若干裏返ってる。

大声を出し慣れてないのかしら。

 

「すいませェん」

「まぁ、ええ。ちょっとツラ貸せや」

 

先輩が顎で廊下を指す。

 

「え……、嫌ですけど」

「……は?」

 

俺は普通に拒否した。

 

「授業まであと十分ですし」

「だからなんじゃい!? 先輩の俺が来い、言うたら来いや!」

「はぁ?」

 

思わず挑発的疑問形で対応してしまった。

先輩は激昂した。

 

「舐めてんなお前。俺を舐めてるな!」

「いや、授業があるって」

「うるさい! 生意気なんだよお前! 入学式に女の子と手ェ繋いで登校とか! やっぱ舐めてんな!」

 

その先輩が速歩きで近付き、俺の胸ぐらを掴む。

ところで。

友里さんが言っていたのだが、人の胸ぐらを掴むだけで暴行罪が成立するらしい。

つまり今、俺は暴行されてる真っ最中な訳で。

ここから反撃しても、正当防衛通るのよね。

 

 

 

一鳴の対応【1D10】

(1ほど穏便、10ほど過激)

 

結果【3】

 

 

 

「先輩、落ち着きましょうや」

 

俺は胸ぐらを掴む先輩の腕を掴む。

そしてそのまま、思いっ切り握る。

普段からシンフォギア装者として、戦闘訓練を積んでいる俺が、思いっ切り。

力強く。

握る。

 

「いだだだだ!」

「ね、落ち着きましょう。先輩?」

 

先輩は痛みに耐えかねて、胸ぐらから手を離す。

俺も、先輩の腕から手を離した。

 

「話があるなら放課後聞きますから。もう先生来ちゃいますし」

「……もういい! クソッ」

 

先輩はそそくさと帰っていった。

 

 

 

クラスメイトの評価補正【1D6】

 

1 アイツヤベェ…… 評価−1

2 怖いけど頼りになるな 評価+1

3 怖いけど頼りになるな 評価+1

4 怖いけど頼りになるな 評価+1

5 カッコイイ! 評価+2

6 カッコイイ! 評価+2

 

男子【3】

女子【6】

 

男子評価 3

女子評価 5

 

 

 

「渡くん、スゴーイ!」

 

と、大声を上げたのはお弁当一緒に食べた女子。

 

「怖い先輩追い返すなんてすごいねぇ」

「頼りになる〜!」

 

黄色い声。

うん、まあ。

(雰囲気だけ)怖い先輩追い返したら、こういう反応するよねぇ。

 

「渡やるじゃん」

「女の子と手繋ぐだけはあるな」

「でもちょっと怖いな……」

「カッコイイ……、100回惚れ直した」

 

男子からも声があがる。

最後の声は……、聞かなかった事にしよう(震え声)

 

「渡強いなやっぱ」

「吉田もアシストしようとしてたっしょ」

 

先輩に胸ぐらを掴まれた時、吉田は先輩を引き剥がそうと席から立ち上がっていた。

 

「あんがとね」

「まあ、オレの手助けは要らなかったっぽいけど」

 

そう言う吉田はちょっと照れていた。

 

「はーい、皆さん授業の時間ですよ……。なにかありました?」

 

教室に入ってきた山田先生の反応が、少しおかしかった。

 

 

 

 

 

 

放課後。

俺は響ちゃんと未来ちゃんの3人で帰っていた。

吉田?

アイツは学校の正門から方向逆だったよ……。

 

「結局先輩来なかったな……」

 

俺にビビったのか、先輩は放課後来なかった。

十分くらい待ったんだけどね……。

 

「ナルくん、大丈夫だった?」

 

心配そうな未来さん。

 

「うん、弱かったし」

「でも、心配だな……」

 

と、響ちゃん。

 

「報復だー、とか言って仲間とか連れて来たらどうするの?」

「それは大丈夫だと思うよ」

「なんで?」

「だって、女子たちが今回の一件、広めまくってたし」

 

現代は情報戦が重要だとは言うが。

女子の情報網ほど恐ろしいものはない。

 

「あの先輩が後輩をシメようとして返り討ちにあった」

 

それが尾ヒレが付きまくり、

 

「あの先輩が後輩をシメようとしてボコボコにされたあげく彼女を寝取られた」

 

になったのは流石に笑う。

ちなみにあの先輩に彼女は居ないらしい。

むしろ、女の子に声を掛けまくって嫌われてるとか。

哀れ……。

 

「つまり、嫌われ者のあの先輩が後輩にやられたって噂が広まってるから、わざわざあの先輩に加勢しようって人が居ないワケダ。

後輩にやられた情けないヤツの元に何人集まると思うって話」

「あー……」

 

未来さんが納得した表情。

 

「女子には感謝ゾ。ティラミス作って持っててやるかな」 

 

前世でも居たのよね。

お菓子作りが趣味の男子がクッキーやらティラミス作ってクラスメイトに振る舞ってて。

ソイツ、ユーモアもあったから女子からモテてたなぁ。

卒業後の進路で海外に行ったのは驚いたわ。

 

「え、ティラミス!」

 

俺のティラミス発言に目を光らせる響ちゃん。

 

「響ちゃんの分も作ってあげようね」

「わーい! ありがとナルくん!」

 

俺に抱き着く響ちゃん。

胸ェ!

 

「響!」

「はぁい」

 

未来ちゃんに怒られて響ちゃんが離れる。

胸……。

 

 

 

 

 

 

「クソッ! クソッ! クソッ!」

 

子供部屋で少年が一人、クッションを殴りつける。

 

「クソォッ!」

 

最後にはクッションを壁に投げ付けた。

 

その部屋は殺伐とした部屋であった。

ベッド。

タンス。

机。

パソコン。

物入れ。

壁、床、天井。

全てがボロボロであった。

少年が、乱暴に扱ったからである。

 

苛立ったら殴り。

ご機嫌なら蹴る。

そんな風に扱っていたからだ。

 

「渡のヤツ! やっぱ俺を舐めてたな! 俺は先輩だぞ! 偉いんだぞ!」

 

少年は苛立っていた。

髪に金色に染め、煙草も吸った。

大声で威嚇した。

それでも、不良たちからは仲間として認められず。さりとてクラスメイトからも近寄られず。

だからこそ。

男子たちが生意気だ、と言っていた渡をシメれば仲間として認められると思ったのだ。

 

結果は返り討ち。

腕を握られただけでスゴスゴと帰ってしまったのだ。

そうしたら、女子たちを始めとしてSNSで今回の一件が広まってしまったのだ。

 

少年が後輩をシメようとして返り討ちにあったと。

 

酷いものは少年がボコボコにされたり、彼女を寝取られたと、言っているものもあった。

クラスメイトたちは、少年の顔を見てかわいそうなものを見る目をしたし、不良たちも情けない奴だと嗤った。

 

「クソッ!」

 

少年は机を蹴りながら、椅子に座る。

開いたのはパソコン。

見るのは動画だ。

凌辱モノのアダルトビデオ。

違法アップロードされたものだ。

 

少年にとって女性とは男に尽くすモノである。

家事炊事、そして性処理。

女性はそうやって、男に奉仕しなければならない。

 

それが、幼少期から両親が仕事がちで、こっそりとインターネットのアンダーグラウンドに触れていた少年の価値観であった。

女性蔑視。

それは、少年の女性への憧れの裏返しであり。

学校の女子たちから嫌われる少年の心の拠り所であった。

SNSの噂の始まりが女子たちである。

だからこそ、女性が凌辱されるポルノを見て溜飲を下げようとしたのだ。

 

そんな、少年の元に一通のメールが届く。

差出人は、少年のネット上の友人である。

ネット上のコミュニケーションサイトで知り合ったのだ。

ハッカーだという彼は、やはり女性蔑視思想に取り憑かれた少年の同士である。

その同士のメールを、開く。

 

Hi!

前に話してた、聖遺物。あったろ。

世界中の神話に出てくる不思議な道具。

それが、一個手に入ったんだ!

インドの研究所が保有してた奴でな。

なんで流出したかは知らんが、マジモンの聖遺物だ。

お前にも一個やるよ。

もう二、三日したら届くと思うよ。

街中で使ったらよ、サイコーに面白いことになったんだ!

 

その名も───

 

少年は、メールに書かれた聖遺物の名と効果を読んで、ほくそ笑む。

これなら、あの生意気なクソ後輩に恥をかかせられるだろう。

少年は笑う。

来たるべき幸福を。

渡一鳴の失墜と、自身の下剋上を。

その先に待つのが、破滅だと知らず……。

 

 




主人公がひびみくという名の白百合に引っ付くてんとう虫になってしまった……。
これもみんな熱烈歓迎が悪いんだ!
だから全国一千万人のひびみくファンに置かれましては俺の事を殺さないでください。
ゴルゴ13雇わないで……!

あ、あと吉田くんの正体は次回以降で明らかになるかも。
元ネタはチェンソーマンの吉田ヒロフミ。人気投票10位の男である。


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第六十話 マダの酩酊酒①

息抜き話を書いたらモチベーションが復活したので初投稿です。
今回の話、一話完結かと思ったら、一話で終わらなかったゾ。


そういえば、切歌ちゃんってロシア系クォーターらしいですね。
ボルシチって言ってた切歌ちゃんの絵が可愛かった(小並感)

でも、切歌ちゃんがロシア系クォーターだって書いた一次資料って、あるんです?



「マダの酩酊酒?」

 

2課にて、弦十郎がそう八紘に聞く。

 

「ああ。そうだ」

 

話は2日ほど前に遡る。

インドの外交官から連絡があったのだ。

八紘が対応したのだが、彼らが言うにはラーヴァナがインド国立聖遺物研究所から脱走した際に、いくつかの聖遺物が盗難・紛失したのだという。

それらの殆どは国内で発見出来たのだが、ただ一つ、【マダの酩酊酒】と呼ばれる聖遺物だけが見つからなかった。

 

だが、2日前。

その聖遺物がブラックマーケットによって日本に流れていたのを察知したのだ。

インド政府は恥を忍んで、八紘を通じて2課及び日本政府に協力を要請した。

そして、マダの酩酊酒を持つと思われる人間にコンタクトを取ろうとしたのだが……。

 

「町がパニック……だとぉ!?」

 

小さな町。

寂れた商店街と住宅地があるだけの小さな町の人々が狂乱に支配される事件が発生したのだ。

人々は感情のままに行動した。

泣き、笑い、破壊行為、あるいは暴力行為など。

それは、マダの酩酊酒を手にした人間の住む町であった。

 

2課はその事件の裏にマダの酩酊酒が絡んでいると判断。

黒服や緒川忍群を投入。

マダの酩酊酒と、それを購入した人間を確保した。

 

マダの酩酊酒を購入したのは、ハッカーの男である。

インターネット経由でブラックマーケットから購入したのだという。

その費用は、どこかの誰かの口座から違法引き落としされたものだった。

 

ハッカーの男は2課の尋問により、分配したマダの酩酊酒をすでに別の人間に郵送している事を吐いた。

インターネットで知り合った、顔も知らない男に。

 

「弦十郎さん。ヤツのパソコンの解析が終わりました」

 

藤尭が言う。

今回、ハッカーのパソコンを解析し、誰にマダの酩酊酒を郵送したかを探っていたのだ。

その結果、住所を割り出した。

一鳴の住む街にほど近い場所。

彼は、一鳴と同じ中学校に通っていた……。

 

 

 

 

 

 

ドーモ、一鳴です。

中学生になって早一週間。

特にトラブルなく日常を過ごせています。

男子からは相変わらず距離を感じるけどね。

 

そんなこんなで。

午前中の授業を乗り切り、今はお昼ごはんの時間です。

一緒に食べるのはもっぱら、隣の席の吉田と近くの席の女子たちである。

響ちゃんと未来ちゃん?

彼女たちは彼女たちでまた別のコミュニティとご飯を食べているよ。

響ちゃんは積極的に色んなコミュニティに顔出してるけどね。

お陰で顔が広い広い。

 

「吉田ぁ、午後一の授業なんだっけ?」

「現文」

 

俺の疑問に、食べ終わった弁当を片付けながら吉田が教えてくれた。

 

「あー、寝そうだぁ」

「寝たら岸辺先生にドヤされるぜ?」

「岸辺先生、ユルいようで厳しいよね」

 

岸辺先生。

もう何も見たくねぇ、とか言いそうな白髪の中年教師である。

目が死んでて口の端から頬まで傷がある。

現代文担当教師でわかりやすい授業だが、うつらうつらしてたら思い切り頭を机に押し付けられたりする。

頭ぶっ飛んでるな(白目)

 

「そういや現代文、小テスト無かったっけ……」

「あ……」

「やっば……」

 

忘れてた。

女子たちも口を開けて呆然としている。

 

「オレ、予習してるぜ」

 

と、吉田。

俺と女子たちは懇願した。

 

「吉田ぁ、助けてぇ……」

「吉田くぅん、お願ぁい(媚媚ボイス)」

「吉田くん、少しだけ、ね?(上目遣い)」

「女の子には教えるよ」

 

吉田の野郎、俺を省きやがった!

 

「吉田ぁ!」

「渡は自力で頑張れ」

「吉田ぁ!!」

 

そんなやり取りを女子たちはケラケラと笑いながら見ている。

 

「さ、時間はないし早くやろうぜ」

 

吉田がそう言うと、女子たちはせっせと現代文の教科書とノートを用意する。

俺も仲間に入れてぇ……。

 

ふと、気づく。

教室に漂う妙な匂いに。

なにか、変な匂いがする。

かなりキツイ匂いだ。

 

「何この匂い?」

「変な匂いね」

「でもちょっと甘い匂いだよ?」

 

女子たちがキョロキョロとあたりを見渡す。

 

「吉田、これ……」

「ああ、酒だこれ」

 

俺と吉田は匂いの正体をそう結論付けた。

アルコールの匂い。

あたりに酒の匂いが満ち始めたのだ。

 

「誰だよ酒飲んでる奴は……」

「にしちゃ匂いがキツイな」

 

吉田の言葉に気付く。

教室に漂うアルコール臭は、人一人が酒を飲んだくらいじゃココまでにはならない。

酒の原液で満たされたかのような匂いの強さだ。

 

「これ、なにか、おかしくないか?」

「オレもそう思う」

 

吉田と二人、キョロキョロとする。

匂いの原因はなんなのか。

換気の為に窓を開ける者もいる。

廊下側の窓も。

 

「うっ!」

 

廊下の窓を開けた生徒がえずく。

 

「原因は廊下か?」

「廊下?」

 

吉田が扉から顔を出し、廊下の様子を見る。

 

「確かに匂いがキツイな」

 

女子たちを窓際に避難させようとした、その時。

 

「一夏!」

 

篠ノ之さんの大声。

 

「好きだ! 私と付き合ってくれ!!」

 

なんか告白してた。

え、このタイミングで!?

 

「ほ、箒!? 一体何言ってるんだよ!?」

「愛の告白だ!」

 

一夏くんも驚いている。

というか、篠ノ之さんあんなキャラだっけ?

もっとツンデレというか、暴力ヒロインというか。素直になれない女の子だったような?

 

「そうよ箒! 一夏は私と付き合うのよ!」

 

鳳さんも変な事を言い出した。

いや、君もツンデレキャラだったよね?

 

「ふざけるな中国! 一夏は私の幼馴染だぞ! つまり私の恋人だぞ!」

「それはこっちのセリフよこのモップ! 一夏は私の酢豚を毎日食べるのよ! 私は一夏のお嫁さんよ!」

 

ああ、一夏くんを挟んで殴り合いの喧嘩になっちゃった。

二人を止めようとする一夏くんがボコボコにされてる……。

流石に見かねたのか、男子たちが篠ノ之さんたちを止めようとする。

 

「篠ノ之さん、おっぱい揉ませてくれぇ!」

「鳳さん、一発ヤラせてくれ!」

 

いや、違う二人に抱きついて痴漢してる!

 

「キャーッ!」

「ナニ押し付けてるのよ離れなさいよ!」

 

篠ノ之さんのエルボーが男子の顔面に炸裂し、鳳さんの頭突からの回し蹴りでもう一人の男子が吹っ飛ぶ。

いや、強いな。

……というか、おかしいな。

 

「ナルくん!」

「響ちゃん、未来ちゃん」

「みんな、なにか変だよ!」

 

ただならぬ雰囲気を感じたのか、響ちゃんと未来ちゃんが近寄ってくる。

クラスの雰囲気は、異常だ。

 

殴り合いの喧嘩を始める者。

愛の告白を敢行する者。

異性を押し倒して服を剥ぐもの、それを邪魔する者まで。

カオスである。

 

「二人は平気?」

 

俺は響ちゃんと未来ちゃんに聞く。

 

 

 

???耐性【1D6】

 

一鳴【1】(最低保証3)

響 【6】(最低保証2)

未来【5】(最低保証2)

吉田【6】+5(???補正)

 

 

 

「私たちは平気だよ」

「うん、少し身体が熱いぐらいかな……?」

 

確かに、二人とも顔が赤い。

 

「吉田は?」

「オレは全然問題ないぜ」

 

逆に吉田は普段と顔色が変わらない。

 

「むしろ渡の方がこの中で一番重症な気がする」

「え、マジ?」

 

と、吉田に言われる。

 

「うん、顔が赤いよ」

「ナルくん大丈夫?」

 

響ちゃんと未来ちゃんにそう言われる。

……言われてみると、確かに少し身体が熱い。

あと視界が揺れる気がする。

うん、間違いない。

 

「酔っ払ってるな、これ」

「やっぱそう?」

 

俺の言葉にそう返す吉田。

 

「さっきからお酒の匂いが漂ってるし。体温が上がって、少しふらついてる」

「……大丈夫か?」

「動くのには問題ないけど……」

 

俺はクラスメイトたちの乱痴気騒ぎを見る。

 

「完全に酔っ払うとああなるのか?」

「ただのお酒じゃないよね……?」

 

不安そうに聞く響ちゃん。

 

「うん。十中八九こっち側だよなぁ……」

 

聖遺物案件だろうなぁ。

俺は吉田を見る。

吉田、信用出来るかどうかは置いといて、2課の事、まだ話すべきではないよなぁ。

でも、2課と連絡取りたいし。

 

「吉田、少し響ちゃんと未来ちゃんの側に居て」

「渡は?」

「ちょっち秘密の連絡」

「早めでな。アイツら、こっちに来たらオレ一人じゃ二人を守りきれない」

「おう。廊下にいるから、何かあったらみんなで叫んで」

 

そう言いながら、俺は廊下に出て、2課から支給されてる通信端末を繋ぐ。

 

「弦十郎さん? 渡です」

「一鳴くんか、どうした? 今は学校の筈だろう?」

「緊急事態です」

 

俺は事態を簡潔に説明した。

 

「なるほど、それはおそらく【マダの酩酊酒】だろうな」

「マダの酩酊酒?」

 

マダ。

それは、インドのアスラの一人である。

詳細は省くが、神仙アシュヴィンにより呼び出されたアスラで、口の中に天地すべてを飲み込めるほど大きかったという。

しかし呼び出したアシュヴィンにより、4つに分けられた。

そしてそれぞれ、酒、女、サイコロ、狩猟という悪徳になったという。

 

……サイコロ、悪徳なのね。

 

「マダの名は【酩酊】を意味する。英語の"mad"と語源を同じくする言葉だ。

だからこそ、マダから生まれた4つの悪徳は人を酩酊させ狂わせると言う訳だ。

……了子くんの受け売りだがな」

 

と、弦十郎さん。

 

「そして、マダの酩酊酒は飲んだ人間の心のタガを外し、理性でなく本能で動くようになってしまう。

元々はインドの聖遺物研究所で冷凍保管されていたが、ラーヴァナの脱走騒ぎで紛失してな。それが日本に流れてきたという訳だ。

そして先日、とある町で見つかったのだが、一部が一鳴くんの通う中学校の生徒に渡ったみたいでな」

「それでこんな乱痴気騒ぎが」

「すぐに2課による事態鎮圧を……」

 

と、弦十郎の言葉を遮る叫び。

 

「渡! 来てくれ!」

「ナルくん!」

「助けてぇ!」

「すみません、一度切ります!」

「一鳴くん待て! マダの酩酊酒はすぐ揮発す……」

 

俺は端末を握りしめて、すぐに教室に戻った。

 

「立花さんおっぱい揉ませてくれぇ!」

「ワシは小日向さんのおっぱいじゃ!」

「私は吉田くん!」

「吉田くんはあたいのよ!」

「いいえアタクシのでしてよ!」

 

吉田や響ちゃんたちに生徒が群がっていた。

男たちは響ちゃんと未来ちゃんを狙い、女たちは吉田を狙う。

 

「おらぁ!」

 

俺は手近なところにいたやつの腹を殴る。

 

「ぐえっ」

「そおい!」

 

そして、そいつを思い切り、押した。

いま、クラスメイトたちが一斉に吉田たちに群がっていた状況。

そんな密度の高い人混みで、人を倒したらどうなるか。

 

「うわぁ!」

「キャーッ!」

「お、重い」

「どいてよ、どきなさいよ!」

「グォエ(嘔吐)」

 

人々はみんな転んで倒れてしまうと言う訳だ。

……下敷きになった人の中で嘔吐した者がいる。

教室中が悲惨なことになった……。

お昼食べたあとに潰されたらこうなるわなぁ。

 

「3人とも早く外に!」

「助かった」

「ナルくん!」

「ありがとう!」

 

俺は3人を廊下に連れ出す。

 

「異常事態だ」

「それはわかるけど」

 

吉田がそう返す。

うん、まあ、それはそうなんだが。

 

「この酒、どうも心のタガを外すらしい」

「秘密の連絡で教えてもらったのか?」

「そうだよ」

 

俺は吉田を見る。

 

「しばらく待てば助けは来るが」

「なら、どうする?」

「外に出た方がいいな」

「学校の中じゃ酒に酔うから、か?」

 

吉田の疑問に俺は頷いた。

玄樹さんの最後の言葉、マダの酩酊酒はすぐ揮発する、と。

おそらく犯人は、昼休みになってから廊下に酒をばら撒いたのだろう。

それが揮発して、こうして皆酔っぱらいだした。

そして、俺たちもこうして呼吸してたら、揮発した酒を取り込んでいつか酔っぱらうだろう。

 

その前に脱出した方が良い訳だ。

 

「なら、急いだ方が良い」

 

吉田が辺りを見渡す。

 

「他のクラスの奴らも廊下に出てきた」

 

確かに、他のクラスからも生徒たちが出てくる。

みんな、顔が赤いし目が座ってる。

 

「ウチのクラスも、ほぼ全員酔っ払ったようだな」

 

教室の中を見ると、全員顔が赤く正気をなくしている。

 

「ナルくん……」

 

未来ちゃんが心配そうにこちらを見つめる。

 

「大丈夫よ大丈夫。外に出たらなんとかなるわ」

「そうだな。……渡、先導してくれ。俺は後ろを見とくから」

「ん、わかった。響ちゃん、未来ちゃん。俺の後ろを着いてきて」

 

さて。

我が中学校は3階建ての校舎が2つある。

北校舎と南校舎。

その内、俺たちが居るのが南校舎。

1階が三年生、2階が二年生、3階が一年生のクラスがある。

つまり今、俺たちは3階に居る訳で。

外に出るには階段で降りないといけない訳だ。

階段はそれぞれの校舎の両端にある。

で、そこまで行ったけれども……。

 

「え、閉まってるよ?」

 

と、響ちゃん。

どうも、誰かが防火扉で階段を封鎖したようだ。

 

「先に外に逃げた奴かな」

「だろうな」

 

しかも、ご丁寧に防火扉の潜り戸にも、鍵をかけてるし。

 

「北校舎に行くしかないな」

 

南校舎が生徒たちが普段授業を受ける校舎なら、北校舎は理科室とか音楽室とかの特別な授業をする教室を集めた校舎である。

職員室も北校舎にある。

南校舎と北校舎を繋げる渡り廊下はそれぞれの校舎の真ん中にある。

つまり、来た道戻る必要があるのだけれど……。

 

「うへへ、かわいい子いるじゃん」

「わたりィィィ、顔が良いからってェェ。一発殴らせろォォォ」

 

酔っ払った生徒が居るのよね。

しかも欲望と敵意満々だしぃ……。

 

「吉田、鍛えてるなら殴り倒せるか?」

「……成績に響かねぇかな」

「緊急事態だし、問題ないだろ」

 

俺と吉田で生徒たちを殴って押し通る事にした。

 

 

 

一鳴&ヒロフミVS一般生徒軍団【1D10】

(一鳴とヒロフミの合計値と一般生徒軍団の勝負)

 

一鳴【5】

ヒロフミ【9】

 

一般生徒軍団【7】

 

 

 

「シネェワタリィ!」

 

フラフラ走ってきた男子生徒を殴り飛ばす。

 

「ヨシダァ! 人の彼女と仲良くしやがってぇ!」

「誰だよお前」

 

吉田も男子生徒を殴り飛ばす。

 

「渡くぅん! 私と付き合ってェ!」

「あぁん私もォ!」

 

女子生徒たちが群がる。

女の子を殴り飛ばす訳にはいかず、かといってそれ以外に大人しくさせる手段もなく。

俺は女子生徒たちにしがみ掴まれた。

 

「ちょ、ズボン脱がさないで!」

「カズナリクゥン!」

「スキヨォ!」

 

ホラーである。

抵抗する俺を嘲笑うように、女子生徒が増えていく。

が。

 

「そい」

 

吉田が女子生徒の首を当身して気絶させていく。

 

「た、助かった……」

「女子だからって躊躇したらやられるぜ?」

「そうだな、ごめんね」

 

うん。

その通りだ。

女子生徒だからって遠慮しちゃ駄目よね。

俺の後ろには響ちゃんと未来ちゃんがいるんだから。

 

「よし、行こう」

 

生徒たちが来なくなったのを確認して、俺たちは渡り廊下に向かう。

それにしても。

犯人はここの生徒らしいが、こんな事をやってなにが目的なのやら……。

 

 

 

 

 

 

酩酊酒耐性

 

一鳴 残り3

響  残り6

未来 残り5

吉田 残り11

 

 

酩酊酒耐性は勝負に負けると【1D10】で減少します。

酩酊酒耐性がゼロになると、酔っ払って理性が利かなくなります。

酔っ払った人は行動不能になるので、誰かが運ばないといけません。

3人酔っ払うとゲームオーバーです……。




今回、酩酊酒耐性というものを設定して、それが無くなると行動不能です。
マダの酩酊酒、揮発しているとはいえ、かなり強力な聖遺物ですからね。流石の一鳴くんも酔っ払います。
……思ったより酩酊酒耐性低かったのはナイショだ!
というよりむしろ、ひびみくの耐性が高ぁい!


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第六十一話 マダの酩酊酒②

◆お詫びと訂正◆
前回、

『酩酊酒耐性は勝負に負けると【1D10】で減少します。
酩酊酒耐性がゼロになると、酔っ払って理性が利かなくなります。
酔っ払った人は行動不能になるので、誰かが運ばないといけません。
3人酔っ払うとゲームオーバーです……。』

と、今回のルールを決めさせて貰いましたが、作者の別人格からの「酩酊耐性値の減少数、重くね?」という意見を考慮した結果、

『酩酊酒耐性は勝負に負けると【1D6】で減少します。
酩酊酒耐性がゼロになると、酔っ払って理性が利かなくなります。
酔っ払った人は行動不能になるので、誰かが運ばないといけません。
3人酔っ払うとゲームオーバーです……。』

に、訂正させていただきます。
関係各所にはご迷惑をお掛けしました。
申し訳ございません。

担当者はすでに左手をケジメし、アラスカシンフォギアセンターで研修を受けてます。
ごあんしんください。




 

◆前回のあらすじ◆

ある日の中学校の昼休み。

弁当を食べていた一鳴であったが、揮発したマダの酩酊酒が学校中に充満する。酩酊し、欲望のままに行動しだすクラスメイト。

一鳴は響と未来、吉田と共に学校から脱出するため、北校舎に向かっていた。

 

 

 

生徒たちが泥酔して倒れたり眠ったりする廊下を乗り越えて、なんとか北校舎へ向かう為の渡り廊下にたどり着いた。

渡り廊下には、赤い顔で眠る生徒たち。

そして、吐瀉物。

うん、寝ゲロしとるな!

 

「ここ、通るの……?」

 

未来ちゃんが引きながら聞く。

 

「大変残念な事に、ここしかルートが無いのよね」

 

北校舎に向かうには、ここ通るしかないのだ。

 

「一応、窓から飛び降りたら外に出れるけど」

「ここ、3階なんだけど……」

 

吉田が窓を指差すが、響ちゃんに止められた。

 

「うん……、ごめんね。ここ通ろう」

 

未来ちゃんは折れた。

仕方ないね……。

俺たちは慎重に生徒と吐瀉物を避けながら北校舎に向かう。

 

「それにしても」

 

俺は先導しながら、問いかける。

 

「犯人はなにが目的なのかね」

「えっと……みんなを困らせる?」

 

と、響ちゃん。

 

「なるほど。みんなが欲望のままに行動する所を悦に浸りながら見る。そういう変態が犯人ということね」

「へ、変態かどうかはしらないけど!」

 

響ちゃんは真っ赤になりながら否定する。

 

「でも、みんなが困る所を見たいって人はいるよね……」

「そうだね」

 

と、華麗なステップの未来ちゃん。

 

「吉田くんはどう思う?」

「オレ?」

 

軽やかなステップの吉田は、少し考える。

 

「……、少なくとも犯人はバカだな」

 

犯人をバカと断じた吉田であった。

 

「理由は?」

「色々雑すぎる」

「雑?」

 

吐瀉物の川を飛び越えながら問う。

響ちゃんと未来ちゃんには手を伸ばして、川を越える手伝いをしながら。

 

「ヤバい酒を廊下に撒いて、揮発させて酔わせたのが今回の手口だ。

でも、普通はヘンなモン撒いてるヤツが居たら注意するだろ」

「するよなぁ」

 

そこなのだ。

酒の匂いの発生源から考えて、犯人は廊下に酒を撒いた。

昼休みに人がたくさん居て目立ちにくいとはいえ、わざわざ顔を見られたり、そもそも酒を撒くのを阻止される恐れもあるのに……。

 

「しかも」

 

吐瀉物の川を飛び越えた吉田が、窓を指差す。

窓からは遠くなった南校舎が見えた。

 

「2年と3年も同じような目にあってる」

「わざわざ3学年全部の廊下に撒いてるのかぁ……」

 

南校舎の2階と1階。

2年生と3年生もまた、狂乱の中に居た。

つまり、そこにも酒は撒かれたと言う事。

 

「バカだが……、偏執的だ」

「へんしつてき?」

 

と、吉田の言葉に返す響ちゃん。

お勉強が……、足りてない……。

 

「あー、徹底的みたいな?」

「つまり、バカだけど理由はあるってこと」

 

そんな事を言っていると、なんとか北校舎にたどり着く。

北校舎3階は確か……、音楽室とか美術室とかか。

……音楽室からは狂ったメロディの「猫踏んじゃった」が聞こえる。

 

「音楽室には……、近寄らないほうがいいね」

「ああ」

 

と、吉田と話していると。

 

「お前らか」

 

と、声をかけられた。

 

「ッ……、岸部先生かぁ」

 

にゅっ、と現れたのは現国担当の岸辺先生である。

教師の癖に耳にピアスをしてる、もう何も見たくなさそうな中年男性だ。

 

「あー、お前ら教室から逃げてきたのか」

「そうですよ。そう聞くって事は、この事態を教員は知ってるって事ですね」

 

もしかしたら、教師によって混乱が収められるかも。

そう思ったのだが……。

 

「少し違う」

「?」

「職員は俺以外の全員酔っ払った」

「はぁ!?」

 

なにやってるんだ大人!

 

「さっき、職員室に酒の匂いが充満しだしてな。あっという間に全員おかしくなった」

「え、じゃあ岸辺先生は……」

「俺はさっさと逃げてきた」

「えぇ……」

 

逃げちゃ駄目だよ……。

 

「渡、流石に無理だって。だって織斑先生いたもん」

「あぁ……」

 

じゃあ仕方ないな、というムードに即座に変わった。

 

織斑千冬。

我が校1年生の学年主任であり、クラスメイト一夏くんの姉である。

担当教科は体育。

そんな織斑先生。

強いのだ。

単純に、筋力とか技量とか。

そういうフィジカルが強い。

バレーボールを腕の力だけで割れるのは、流石におかしい。

ついたあだ名が「ゴリラ」「メスハルク」「織斑くん可哀想」である。

なお、名指しされた一夏くんはシスコンである。

 

閑話休題。

そんなゴリラゴリラ織斑が職員室に居るなら中年男性は逃げるわなぁ。

 

「で、お前らは?」

「俺たちは外に逃げるとこっス」

「階段は?」

「防火扉で塞がれてました」

 

俺は岸辺先生に教室の惨劇を教えた。

 

「子どもも酔うのかよ……ハァ」

 

ため息一つつくと、岸辺先生は渡り廊下に向かう。

 

「岸辺先生、どこ行くんですか」

「ガキども抑えてくる」

「一人でですか」

 

と、吉田。

 

「吉田。俺はな、一応教師だ。生徒を守る義務がある」

「織斑先生からは逃げたのに……」

「ゴリラは対象外だ」

「織斑先生ェ」

「ま、ガキどもには負けねぇよ。アホやってるやつらを気絶させればいい」

 

そう言って、南校舎に歩を進める岸辺先生。

 

「あ、そうだ。お前らはそのまま東の方の階段に向かえ。西の方は防火扉で塞がってた」

「わかりました」

「ありがとうございます岸辺先生」

 

岸辺先生は右手を軽く上げて、去っていった。

 

「……かっこいいね」

「だね」

 

響ちゃんとそう言い合う。

でも……。

 

「岸辺先生、ゲロ思いっきり踏んで行ってたよな」

「うん。……あ、男子も踏んでる」

「あのオッサン教師向いてねぇな」

 

 

 

 

 

 

岸辺先生の言った通り、北校舎の東階段で下に向かった俺たち。

2階にたどり着いたが……。

 

「わたりくん!」

 

誰かに呼び止められた。

ろれつの回らない声。

確実に酔っ払ってる。

 

「よしだくんに、たちばなさんとこひなたさんまで!」

 

声の主は山田先生であった。

顔を真っ赤にしながら、大股で歩いてくる。

ブラウスのボタンは既に外され、大きな胸がバルンバルン。

 

「ナルくん」

「ミテナイヨ」

 

未来ちゃんの冷たい視線。

こうかは ばつぐんだ!(ドラゴンタイプ感)

 

「あぁ、2階には職員室があったな……」

 

北校舎2階。

職員室と理科室があったなぁ。

 

「よにんとも、いまじゅぎょうちゅうでしゅよ!」

「いや緊急事態なんですよ」

「いいわけはききましぇーん! よにんともせいとしどうしつにれんこうれしゅ!」

 

うーん、この酔っぱらい。

 

「どうした山田くん」

 

職員室から、織斑先生が顔を出す。

 

「おりむらせんせぇ、ふりょーでしゅ! ふりょー! じゅぎょーさぼってでーとでしゅ!」

「なに!? それはイカンな。お前ら生徒指導室に来い!

生徒指導室というのはな……、あの、あれだ。生徒を指導するアレだ!」

 

言葉が出ない織斑先生。

駄目だ、完全に出来上がってる。

 

「私自らが連行してやる! 逮捕だ逮捕!」

 

そう言いながら、扉を破壊して現れる織斑先生。

全裸だった。

 

「キャーッ!」

 

未来ちゃんが悲鳴を上げる。

俺も上げたい(悲哀)

 

「なんだ小日向。人を見て悲鳴を上げて」

「織斑先生服を着てください!」

「嫌だ!!!」

 

すっごい否定された。

 

「なんで!?」

「嫌だからだ!!!」

「理由になってねぇ!」

 

駄目だこの酔っぱらい……。

 

「逮捕!」

「たいほー!」

「逮捕されるのはそっちだよ!!」

 

こちらに挑みかかる織斑先生と山田先生。

俺と吉田は、響ちゃんと未来ちゃんの前に立ち迎撃する。

 

 

 

一鳴&ヒロフミ VS メスゴリラ&山田【1D10】

(それぞれの合計値との勝負)

 

一鳴【8】

ヒロフミ【10】

 

織斑先生【9】

山田先生【4】

 

 

 

「たいほー!」

 

と言いながら挑みかかる山田先生だったが。

 

「んべっ!」

 

ズッコケた。

そしてそのまま動かない。

 

「……すやぁ」

 

寝たようである。

何だこの人……。

 

「山田くんはグッスリスリーピング。私はお前たちとファイティング。おーいえー」

 

ヘッタクソなラップを唄いながら駆け寄る織斑先生。

バストがバルンバルンしよる!

 

「ナルくん?」

「今戦闘中だから!」

 

響ちゃんの視線が突き刺さる。

 

「渡!」

 

と、名前を叫びながら俺に掴みかかる織斑先生。

負けじとこっちも織斑先生と組み合う。

 

「いや強ッ!」

「伊達に鍛えては……うぷっ」

 

うぷっ?

 

「渡、吐きそうだ」

「え」

「渡、受け取ってくれ、私の女子力」

 

そう言うと、俺の顔を掴んで口を開かせる織斑先生。

 

「ふぇッ!?」

「ヴォエッ! くるぞ渡。しっかり飲めよ」

 

ねぇ嘘だよね。

流石にそれはないよね。

 

「ウッ」

 

あ、これ駄目だ。

助からない奴だ。

織斑先生の頬が大きく膨らんでるもん。

もう決壊するもん。

女子力が降り注ぐやつじゃん。

 

と、思ったのだが。

 

「オラァ!」

 

吉田が織斑先生を蹴り飛ばす。

織斑先生は俺から剥がされて、そして。

 

「おろろろろろ」

 

女子力が決壊した。

その女子力は。

寝ちゃった山田先生に降り注いだ。

 

「すやぁ……くさっ…………すやぁ」

 

山田先生は一瞬顔をしかめたが、また眠りだした。

そして織斑先生は……。

 

「はぁ、スッキリした。……寝るか。お休み一夏」

 

山田先生に、覆いかぶさって寝た。

 

「……」

「……」

 

俺と吉田は無言で顔を見合わせた。

 

「……助けてくれて、ありがとね」

「……ああ」

 

俺たちは静かに1階に向かった。

 

 

 

 

 

 

1階は静かであった。

1階には、調理室や技術授業用の加工室があったはず。

だが、廊下は誰も倒れておらず、教室の扉は閉められている。

ここだけ、なにもなかったかのようである。

 

「ナルくん……」

 

不安からか、響ちゃんが裾を掴む。

 

「ん、大丈夫よ大丈夫」

「うん」

 

響ちゃんを安心させた、その時。

 

ずずん!

 

と、校舎が揺れた。

 

「なんだ!?」

 

ずずん!

ずずん!

 

揺れはどんどん大きくなる。

 

「ふたりとも伏せて!」

 

俺は響ちゃんと未来ちゃんを廊下に伏せさせる。

電灯が点滅する。

なにが、起こっている……ッ!?

 

「渡、あれ」

 

吉田が廊下の先を指差す。

そこには一人の男。

袴姿の、禿頭の男。

 

「ワシがこの学校の校長! 江田島平八である!」

 

校長の江田島先生であった。

一歩歩く。

校舎が揺れる。

もう一歩歩く。

校舎が揺れるッ!

 

「なんちゅう迫力だ……」

 

本気の訃堂司令に匹敵する迫力だ。

何も無いワケだよ、江田島校長いるもん。

みんな酔っ払ってても、この人怖がって近寄らないよ!

 

「ワシが!」

 

校舎が揺れる。

 

「この学校の!」

 

校舎が揺れる。

 

「校長!」

 

校舎が揺れる。

 

「江田島平八であるッ!」

 

校舎が揺れる。

 

「ねぇ吉田。もしかして……」

「あぁ、やるしかなさそうだな」

「そっかぁ……」

 

勝てる気しねぇけど、やるしかないのね……。

 

 

 

一鳴&ヒロフミ VS 江田島平八である!【1D10】

(一鳴&ヒロフミの合計値との勝負)

 

一鳴【7】

ヒロフミ【7】

 

江田島平八【5】+5

 

 

 

「ぬぅん!」

 

江田島校長の正拳突きが、俺に向かう。

 

「イヤーッ!」

 

俺はその拳を受け流して回避。

その隙を狙い、吉田が江田島校長の頭を回し蹴り。

だが。

 

「効かぬわ!」

 

吉田の蹴りを受けてなお、校長の頭は揺るがず。

逆に吉田に頭突きを食らわせようとする。

 

「イヤーッ!」

 

それを防ぐ為に、俺は江田島校長の背後に回り、腰をガッチリホールド。

 

「ぬッ!?」

 

驚く江田島校長だが、もう遅い。

俺は江田島校長を持ち上げると、そのまま身体を反らして、ブリッジの体勢になる。

 

訃堂司令に教えてもらった技。

ジャーマンスープレックスである。

 

「イヤーッ!」

「グワーッ!」

 

江田島校長の背中を思い切り、廊下に叩きつける。

流石の江田島校長も、多少は効いたようだ。

俺はホールドを解いて逃れる。

 

「疾ッ!」

 

そこに吉田が、大の字になった江田島校長の鳩尾を殴る。

 

「ぐぅ……ッ!」

 

呻きながらも、吉田の腕を掴む校長。

ミチミチと、音がする。

だが。

 

「みご、と」

 

そう言うと、校長の全身から力が抜けて、今度こそ大の字で倒れた。

 

「ぐごーッ! ぐごごーッ!」

 

高鼾をかく校長。

酔っ払って寝ただけか……。

……酔っ払ってあの強さなのか。

世の中自分より強い人なんて、ゴマンといるのね。

 

「吉田、腕ダイジョブ?」

「ああ。少し痛いが、問題なく動かせる」

 

と、拳を握ったり開いたりする吉田。

 

「助かったわ渡。サンキュな」

「ええんやで」

 

二人でなければ倒せなかった男である。

吉田と腕をぶつけ合った。

男の友情であった。

 

 

 

 

 

 

北校舎。1階。

正面玄関。

 

北校舎の出入り口の一つである。

校舎の東端と西端にもこじんまりとした出入り口はある。

俺たちも階段で降りてきた側にある東端の出入り口から出ようとしたのだが、誰の仕業か、扉が外から固定されていた。

犯人の仕業だろうか。

 

出れないのは仕方ないので、北校舎のちょうど真ん中にある、正面玄関に向かう事にしたのだ。

正面玄関は、主に来客や教職員の為の出入り口。

木彫りの熊やら、生徒の作った全長2メートルのオブジェやらが飾られている。

なんかこう、目を逸らしたら一気に近付いてきそうな、手足の短い白いヒトガタのオブジェだ。

 

「やっと外だ〜」

 

響ちゃんが気の抜けた声をあげる。

気持ちは、わかるけどね。

 

「響ちゃん、先行しないの。まだ変な酔っぱらいがいるかもだし」

「その時は、ナルくんが守ってね」

 

と、左腕にしがみつく響ちゃん。

動きづらいから、離れて。

そう、言おうとして時。

背の高いオブジェの影から。

 

俺たちにマダの酩酊酒がかけられた。

 




Q.どうしてルール改定した後なのに誰も酩酊状態にならないのですか?

A.ウチのオリ主と吉田ヒロフミの相性が何故か良いから。

だから最後に無理矢理酩酊ロールする(やりたい放題)


あと、最後に出てきた【目を逸らしたら一気に近付いてきそうな、手足の短い白いヒトガタのオブジェ】。
元ネタはアレです。SCPです。
最初のSCP。
オブジェで最初に浮かんだのはアレなのよね。

なお中学校にあるのはただの生徒たちの卒業制作の作品です。
動くわけ無いじゃないですか。
中学校にあるのは、ね。ウフフ……。


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エイプリルフール特別編 教えてシェム・ハさま♡

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オッス、我シェム・ハ!

統一言語に封じられた、貴様らルル・アメルが仰ぎ見るべき神が、我だ。

 

今回は上位存在(さくしゃ)が"もんはん"とやらで忙しいので、我が出てきた。

"アルビノの中落ち"とやらが落ちない、とかなんとか言っていた。中落ちなのに落ちない、とはな(激うまギャグ)

 

今回、我が出てきたのは、作中の設定について上位存在(さくしゃ)に変わって説明するためだ。

感謝しろ、人の子らよ。我が貴様らの為に、言葉を紡ぐのだ。頭を垂れて、感謝するがいい。

 

では早速最初の質問。

 

 

 

Q.ツァバトやシャダイって、なんなの?

 

ツァバト、シャダイ、そしてエロヒム。

あぁ、あとエイワズか。

こ奴らは我の魂を分けた写し身、神の分霊たる神霊たちだな。

先史文明期の終わり、我が人類補完計画(意訳)を決行した時に、フィーネのカキタレ(エンキ)に刺し貫かれた際にその魂を統一言語に溶かす前に生み出した、可愛い我が子らよ。

我は統一言語が封じられる未来を予見していた。故に、保険として、我の思想を受け継ぐ者たちを遺したのだ。

まあ、エイワズみたいに勝手しだす奴らもいたようだがな。

 

今、残っているのはツァバト、シャダイ、そしてエロヒムのみ。

それ以外の神霊は、力を無くして消滅したか、人の子らに討伐されたようだ。

かつてはシェムハザ、シェムハト、汎用人型決戦兵器シェムハゲリオンなどがいたが、それも今は昔、か。時の流れは残酷である。

 

 

 

Q.ゼウスたちって、カストディアン・アヌンナキなの?

 

……え、我知らんぞこんな奴ら。

え、誰だ? 我知らんぞ、こんなのアヌンナキには居なかった。

上位存在(さくしゃ)、設定資料よこせ。

……。

…………。

………………うわぁ。

我、ドン引きである。

我の身体になにしてんのコイツら……。

こわ……。

 

 

 

Q.この世界の訃堂の正体は?

 

かつて神であり、そして人として生きる事を選んだ愚か者。

我が言えるのは、それだけだ。

まあ、ヒントはある。

最初の人としての名が【タケハヤ】。

原作世界で、孫の風鳴翼の適合していた聖遺物の名が【アメノハバキリ】。

そして、XDU世界のLOSTSONG編に出てきた【アヤツ】の大元。

それを加味すれば……、自ずと正体は知れよう。

 

 

 

Q.一鳴くん前世はなにしてたの?

 

前世でもハーレム築いてた主人公。

その前世は平々凡々だったらしいな。

ハーレム築いてたのに、ぬかしおる。

具体的にどんな仕事をしていたか、それは賽の目を振って決めるとしよう。

 

 

 

一鳴くんの前世の職業【1D10】

 

1 専業主夫

2 専業主夫

3 専業主夫

4 男娼

5 サラリマン

6 サラリマン

7 サラリマン

8 農家

9 男娼

10 内閣総理大臣

 

結果【7】

 

 

 

ただのサラリマン。

企業から賃金を得て労働する者。

厄い過去のない、普通の前世であったな。

ちなみに男娼が出ていたら、厄い過去が生えてきた可能性もあったらしい。

良かったな、普通のサラリマンで。

 

 

 

Q.一鳴くんとマリアさんたちが普段どう過ごしてるのか教えて

 

普段は一緒にゲームをしたり、勉強をしているらしい。

ソファで寛いでいる時は一鳴が月読調を膝に乗せて、一鳴の両脇をマリアとセレナが挟む形になっているとか。

そして隙あらばキスしてるぞ。

マリアとキスした後にセレナがキスをせがみ。それを見た月読調が裾を引っ張りながらキス顔をする。

それが週末の一鳴の日常らしいな。

 

あと、マリアの方は最近学校に外泊許可を得てから一鳴の部屋でしっぽりしている。

発情期のネコのようである。

 

 

 

Q.この作品の今後の展開を教えて。

 

今やってる『マダの酩酊酒編』が終わったらセレナとのデート回をやる予定だそうだ。セレナとのR18回も書く予定らしい。良かったな人の子らよ。

その後はサンジェルマン回、ツヴァイウィング回、雪音クリスと暁切歌がメインの回をやるらしい。詳しくは決まってないらしいがな。だが、雪音クリス回は「六本木のアリス」がどうこうと言っていたぞ。楽しみにしておけ。

 

そして、2040年が終われば、本格的に我が子たる神霊たちが動き出す。

心しておけ、人の子らよ。神霊たちは、一筋縄ではいかんぞ。

 

 

 

Q.こっちの世界でシェム・ハさま出番あるの?

 

上位存在(さくしゃ)! 設定資料!

……。

…………。

…………おい。

我の記述がないぞ。

出番があるのか無いのかすらわからんではないか。

 

……なに、そこまでプロット練ってない?

今後出るかわからないからここで出したぁ!?

ふざけるな!

我神ぞ!

我神ぞ!!

おい、逃げるな!

待て、上位存在(さくしゃ)

逃げるなぁッ!!




01011111110010

しすてむガ復旧シマシタ。
引キ続キ、【転生者はシンフォギア世界でオリジナルシンフォギア装者として生きるようです】ヲオ楽シミ下サササ───


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第六十ニ話 マダの酩酊酒③

フルフルから中落ちが落ちたので初投稿です。
モンハンライズ、楽しいね。
使用感がノコギリ鉈に似ているスラッシュアックス使ってます。縦斬りで尻尾も頭もスパスパよお!


 

 

突然のアンブッシュ回避ロール【1D10】

(6以上で回避。回避失敗時には酩酊ロール)

 

一鳴【4】

響 【1】

未来【1】

吉田【4】

 

 

 

酩酊耐性値減少ロール【1D6】

 

一鳴 3−【4】×2(原液補正)=マイナス5

響  6−【3】×2(原液補正)=0

未来 5−【6】×2(原液補正)=マイナス7

吉田 11−【2】×2(原液補正)=7

 

 

 

オブジェの影から突如マダの酩酊酒をかけられた俺たち。

咄嗟のことに避ける事も出来ず、まともに酩酊酒を被ってしまう。

 

「うっ!」

 

匂いがきつい。

舌がしびれる程のアルコール臭。

間違いない。

これは、マダの酩酊酒、その原液だ。

酒にやられて、倒れ込む。

思考がまとまらない。

理性が、トぶ……。

みんな、は……。

 

 

 

響ちゃんの酩酊状態【1D6】

 

1 一鳴に対して「好き」連呼

2 未来に対して「好き」連呼

3 一鳴に対して抱き着く

4 未来に対して抱き着く

5 一鳴の股間を掴む猛者

6 未来のスカートに潜り込む強者

 

結果【3】

 

 

 

未来ちゃんの酩酊状態【1D6】

 

1 ストレスに負けて泣く(響誘引)

2 ストレスに負けて泣く(響誘引)

3 ストレスに負けて泣く(響誘引)

4 ストレスに負けて泣く(響誘引)

5 響に対して抱き着く

6 一鳴に対して抱き着く

 

結果【3】

 

 

 

「ナルくーん♡」

 

響ちゃんに抱きつかれる。

甘い、におい。

柔らかい、身体。

 

「えへへ、ナルくんすきぃ♡」

 

頬を、スリスリと、俺の胸に擦りつけてくる。

あ、やば。

我慢、できねぇ……。

 

「う……ぅ」

 

その時。

薄らとした理性に、誰かの泣く声。

 

「もぅ、やだぁ……!」

 

未来ちゃん。

座りこんで、泣いている。

 

「みんな、おかしくなっちゃったぁ。やだよぉ……!」

 

未来ちゃんが泣いている。

 

「あ、未来……」

 

響ちゃんが、俺から離れる。

 

「未来、泣かないで」

 

響ちゃんが、未来ちゃんに抱き着く。

未来ちゃんの頭を撫でている。

未来ちゃんは響ちゃんの胸に顔を埋めて、スンスンと泣いている。

その時、オブジェの影から誰かが現れる。

ソイツは、手に500mlペットボトルを持っていた。

透明な、しかし不思議なオーラを放つ液体。

感覚で理解した、あれはマダの酩酊酒だ。

そして、その酩酊酒を持つのは……。

 

「よぉ、ええ格好やな渡ィ」

 

一週間前に教室に乗り込んできた先輩であった。

響ちゃんと未来ちゃんと手を繋いで登校したのが生意気だって、文句を言いに来た先輩。

その後、俺に彼女を寝取られたって大嘘の噂を流された先輩であった。

 

「アンタが、その酩酊酒を……!」

「なんや、知っとるんか、コレ」

 

先輩が、ペットボトルをこちらに見せる。

中身はまだ、半分ほど。

 

「知っとるなら、わかるやろ。俺が学校中に撒いた」

「なんで……」

「皆ムカつくからや。皆、俺をバカにしおって……! 俺が生意気やと、お前らの方が生意気や!」

 

先輩の顔が憎悪に歪む。

 

「その中でもお前や。渡」

 

ツカツカと、俺に近付く。

 

「お前のせいで俺は学校中の笑い者や。クソが……!」

「もともと、笑い者でしょ」

「黙れや!」

 

無抵抗に倒れる俺を、先輩は蹴り飛ばす。

 

「うぐぅ」

「渡ィ! お前のせいや。お前の、お前の……ッ」

 

ブツブツとそのまま呟き続ける先輩。

よく見ると、その顔は赤く、瞳は蕩けている。

先輩も、酔っている。

当然か、酩酊酒を持ってるだけの先輩に、酩酊酒の耐性は無い。

先輩は今、理性なく欲望のみで動いている。

皆を、俺を貶める。そういう純粋な憎悪のみで……。

 

「そこの、響と未来言うたか」

 

ふと、先輩がそう言う。

 

「お前の前でレ✕プしたら、お前はどんな顔するやろな」

「テメ……ッ」

 

先輩の言葉に響ちゃんと未来ちゃんはビクリと震える。

 

「……ぅ」

「やだッ! やだやだやだやだ!!」

 

先輩は、わざとゆっくり歩みを進める。

下卑た笑みで。

俺の足は、手は動かない。酩酊酒をまともに被った為に、酩酊してまともに力が入らない。

だが。

まだここには、頼りになるヤツがいる。

 

「吉田ァ! 二人を連れて逃げろォ!!」

 

酩酊酒を被ってなお、平静を保っていた吉田。

俺と同じくらい鍛えている上に酩酊酒被っても冷静さを保つ謎なヤツだが、悪いやつじゃない。

二人を連れて逃げてくれるはずだ。

 

「逃げたら渡殺すで」

 

だが。

先輩は、俺の言葉にそう返す。

ポケットから、バタフライナイフを取り出して。

 

「吉田、いい。俺は、いいからッ!」

「黙れやッ!」

 

先輩が俺の頭を踏む。

吉田は……。

 

「いや、渡。もう大丈夫だぜ」

 

そう、言った。

 

「なにがや」

 

先輩は、そう返す。

 

「もう、終わりにするし」

 

吉田はそう言い、さらに言葉を続けた。

 

()

 

そう言うが早いか、俺を踏んでいた先輩の重さが消える。

その一瞬後。

ガシャン!

と、大きな音。何かの壊れる音がした。

顔を上げあたりを見渡すと、壊れたオブジェと、倒れる先輩。

何かに弾き飛ばされた?

何に?

 

吉田の方を見る。

吉田は、どこからか現れたのは蛸の脚に腰を掛けている。

吸盤が揃った、大きな雌蛸の脚。

それが、先輩を弾き飛ばしたのだろう。

突如として現れた蛸に、響ちゃんと未来ちゃんも目を見開いて驚いている。

というか。

やっぱり。

チェンソーマンの吉田なのね、キミィ……。

 

 

 

 

 

 

「と、言う訳で。オレは二課に雇われた緒川忍群の忍びってわけ」

「吉田ニンジャなの!?」

 

学校の外、花壇に腰掛けながら俺は吉田の話を聞いていた。

辺りには救急車と、二課から来た黒服さんが忙しなく働いている。

校舎の影には、酩酊して寝ている生徒たちが寝かされている。

体育館には、きっともっと寝かされているだろう。

酩酊酒で暴走して怪我した生徒は、続々と病院に運ばれている。

響ちゃんと未来ちゃんも、病院に運ばれた。酩酊酒で、理性を奪われたので病院で酒を抜くそうな。

 

そして俺と吉田は、ほとんど軽症だったのでこうして学校に待機している訳で。

俺も、酩酊酒浴びたんだけどね。

割とすぐに治ったのよね……。

なんでだろ?

 

「ニンジャ、って訳じゃないんだけどな」

 

そう言うと、言葉を選びながら吉田は説明してくれた。

 

「緒川忍群はまあ、諜報機関だ。それ以上に戦闘のプロとして社会の裏側で暗躍してきた訳だ。

で、社会の裏側には得てしてオカルトが関わってくる。何十年か前にも西洋化生とかいう妖怪軍団とウチが戦った、なんて話もあるし。

オレたちはまあ、そんな緒川忍群の中でもオカルトに特化した派閥でな」

「あの蛸もオカルトかぁ」

「そう。猫又って知ってるだろ。長生きした猫が成るっていう妖怪。あの蛸もその類さ。オレは、その蛸と契約して使役しているってワケ」

 

つまりあれだ。

シンフォギアの強烈忍者軍団とチェンソーマンのデビルハンターが悪魔合体してるのね。

 

「そして俺も緒川忍群の一人って訳だ」

 

そう言って現れたのは岸辺先生。

そうだよな、岸辺先生もチェンソーマンじゃデビルハンターだったもんなぁ。

無事だったのか。

無事だろうな、忍者なら。

 

「岸辺先生も二課に雇われたんですか?」

「ああ」

「……なんで?」

「お前の護衛だ」

 

と、岸辺先生。

 

「渡、お前冬木市で中国の聖遺物研究所に攫われそうになっただろ」

「あぁ……、あったなぁ、そういうの」

 

ランサー秦良玉のマスター、カルマ・リー。

中国の聖遺物研究所の研究員であり、実験部隊【第七聖遺物実験部隊】の隊長だった女。

仙術を扱う道士であり、縮地を扱える女隊長。

そして、ショタコン。

かつて彼女に一度攫われて、中国に出荷(意味深)されそうになったのだった。

被害は最小限ですんだが(大本営発表)、もし攫われていたら、今頃俺はホルマリン漬けにされていただろう……。

 

「渡、お前はお前が思う以上に貴重な人材であり、研究対象だ」

「シンフォギアに適合した人間だからっスね」

「ああ。お前を守る為に二課の黒服たちが居るが、それじゃ足りないのが実情だ」

「だからオレたちが雇われたって訳」

 

そう言う訳かぁ。

なら、緒川忍群の中でもオカルトに特化した一派を送り込んだのも納得がいく。

中国の聖遺物研究所、カルマ・リーの事を考えるに、オカルトというか異端技術に特化してそうだし。

 

「そんな訳で改めて」

 

吉田は右手を差し出す。

 

「3年間、仲良くしようぜ」

 

俺はその手を握る。

 

「こっちこそ、よろしくね」

 

 

 

 

 

 

酩酊酒の被害状況【1D10】

 

結果【4】

 

 

 

響と未来の影響【1D10】

 

響【8】

未来【1】

 

 

 

先輩による酩酊酒バラ撒き事件の影響はそんなに大きくなかった。

酩酊酒がバラ撒かれてビチャビチャになり、また酩酊酒が揮発してベタついた学校の清掃と、壊れてしまった備品の購入、被害者の心のケアを加味して1週間ほど休みになったぐらいである。

なおその分夏休みは減った模様……。

 

未来ちゃんも病院に運ばれて一晩寝たらすっかり元通りになった。

俺たちの前で大泣きしたので、すごく恥ずかしそうにしていたぐらいであった。

可愛かった(KONAMI)

 

それはともかく。

問題は響ちゃんの方で……。

 

「未来〜〜〜〜〜!!」

 

久々の登校日。

家の外に出ると、響ちゃんが未来ちゃんに抱き着いていた。

 

「ひ、響ッ!?」

「未来、おはよう」

 

朝の挨拶にしては、過激だなぁ。

そして。

 

「ナルくんも、おはようッ」

 

俺にも抱き着いている。

過激だなぁ!

 

「えへへ」

 

そうして。

俺と未来ちゃんの腕を取って間に入るのだ。

まるで、両方とも自分のものだと言うように。

酩酊酒の件があった翌日からこの調子である。

同じ病院の同じ病室に運ばれた二人。

響ちゃんは、未来ちゃんと同じベッドで寝たがったという。

そして、寝たら寝たで未来ちゃんを抱きしめるのだとか。

それはお見舞いに行った俺に対しても。

 

俺と未来ちゃんが話し合った結果、先輩に犯されそうになった経験から、まだ不安なのだろうと結論づけた。

 

だが。

俺は、知っている。

響ちゃんが、俺と未来ちゃんに惹かれていた事を。

そして、きっと理解したのだろう。

心を暴く酩酊酒、それを浴びて自身の恋心に。

 

さて。

俺は、どうするべきだろうか。

調ちゃん、セレナちゃん、マリアさんという恋人が居る俺は。

ハーレムメンバー増やしていいのだろうか。

三人はなんと言うだろうか。

いざと言うときは言いくるめればいいが……。

 

響ちゃんの顔を見る。

満面の笑みの響ちゃん。

可愛らしいと思う。

笑顔の似合う女の子。

だが。

そんな響ちゃんの顔を見ても答えは出なかった。

 

 

 

 

 

 

今回のオチ。

 

「おはよー」

 

教室にたどり着いた俺たち。

 

「おはよう」

 

挨拶を返す吉田。

そして……。

 

「助けてくれ一鳴!」

 

半泣きで縋り付く一夏くん。

 

「なんじゃあ!?」

「箒と鈴をなんとかしてくれ!」

 

そう言う一夏くんを、篠ノ之さんと鳳さんが引き剥がす。

 

「なんとかとはなんだ!」

「そうよ!」

 

二人はだいぶ怒っているようだった。

 

「どしたの?」

 

俺の言葉に答えたのは、でなく吉田だった。

 

「あの酒の件で、二人とも一夏に告白しただろ。一夏がまだ返事してないってキレてる」

「あぁ……」

 

そういや告白してたなぁ……。

 

「休みの間それぞれとデートして決めようってなったよな?」

「楽しかったわよねぇ、ショッピングモール『レゾナンス』でのデート」

「で、どちらにするか決めたのか?」

「もちろん、決めたわよねぇ、男らしく」

 

ジリジリと一夏くんに近付く二人。

一夏は尻餅をついて、後ずさりするが壁に当たる。

もう逃げられないぞ。

 

「一鳴、助けてくれ!」

「一夏!」

「一夏!」

 

助けを求める一夏くんに、この場を丸く収める最適解を教えることにした。

 

「一夏くん、二人と付き合えばWin-Winよ?」

「ふざけんな!」

「お前なら出来るさ」

 

俺だって出来てんだし。

しかも俺は三人の女の子と付き合ってるし。

二人で済む一夏くんならへーきへーき。

なお俺には女の子がもう一人増える可能性がある模様(震え声)

 

なお、この後山田先生と裸族ゴリラもとい織斑先生が来たので有耶無耶に終わった。

どっとはらい。

 




次回はセレナちゃんとのデートです。
ダイスでどこに行くか決めるすごろく方式にしようかな。

響ちゃんは、どうしようか……(ノープラン)
このままハーレムに突っ込んでも持て余しそうだしなぁ……、暫くはこのままにすべきか……。


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第六十三話 セレナのドキドキ☆デート


面白い小説を読んで執筆意欲が湧いたので初投稿です。
最近小説書けねぇ! って時が多かったのでウレシイウレシイ。
やっぱ新しい風取り入れないと良い物は書けないのよね。



 

 

5月初旬。朝10時。

ゴールデンウィークのある日。

俺は、駅前の『忠狼シフ像』の前で人を待っていた。

アルトリウスの大剣を咥えたシフ像の下には、多くの人が集まっている。

俺と同じように、人を待つ人。

行き場もなく、適当に集まった若者。

そういった人たちに向けた露天商。

割とカオスな町並みであった。

 

そんな、混み合った人の群が、ザワザワと騒ぎ出す。

そして、モーセが割った海のごとく両脇に避けていく人たち。

そして、開かれた人の間を、スーパーモデルのように歩いてくる一人の女の子。

 

美しいブラウンの髪をポニーテールにして、黒いブラウスとクリーム色のスカートを履いた美少女。

透き通るような白い肌と大きな瞳、高い鼻の顔。そして、メリハリが効きつつもムッチリしたスタイル抜群の外国人。

高校一年生になったセレナちゃんである。

 

「おまたせしました、一鳴さん」

 

俺の目の前に来たセレナちゃんがそう言う。

 

「ん、俺も今来た所です」

 

本当は三十分前に来たのだけれど、多少はね?

 

「えへへ、ちょうどよかったですね」

 

そう言うと、セレナちゃんは俺の左腕に絡みつく。

 

「じゃあ、早速行きましょう!」

 

俺はセレナちゃんに連れられて歩きだす。

それを見る人たちは羨望と嫉妬、そして仄かな憎悪に染められている。

そりゃそうよね、こんな超絶美少女と親密に腕を絡ませる男には嫉妬するよねぇ。

でもしょうがないよね、俺とセレナちゃんは恋人だもの(優越感)

 

「今日は、一鳴さん独り占めですね」

「そうよ、今日はセレナちゃんだけの俺ですよ」

「えへへ、今日は目一杯楽しみましょうね!」

 

本日、セレナちゃんとデートである。

俺と、セレナちゃんだけの。

セレナちゃんがプランを考えてリードしてくれるデートである。

そして。

 

「一鳴さん、夜は期待しててくださいね♡」

 

セレナちゃんが耳元で囁く。

目を細めて、潤んだ瞳で俺を見る。

獲物を見る女豹の顔、あるいは男を誘う雌の顔。

つまるところ。

今日は、セレナちゃん主催のお泊りデートなのであった。

 

「……楽しみです」

 

俺はそれだけ絞り出す。

うん、マリアさんと旅館でお泊りデートしたのに対抗して主催したのが今回のデートである。

気持ちはわかる。

自分の姉がいつの間にか自分と共同で付き合ってる好きな人とネンゴロしてたら対抗心と嫉妬心が湧くわよね。

 

「それで、最初にどこに行くんです?」

 

 

 

セレナのデートプラン(1/3)【1D10】

 

1 映画館

2 喫茶店

3 本屋さん

4 対魔忍ショップ

5 水族館

6 服屋さん

7 博物館

8 商店街

9 公園

10 ランジェリーショップ

 

結果【8】

 

 

 

「商店街です」

 

駅の近くの商店街である。

結構いろいろな店が揃っている。

 

「なにか欲しいものでも?」

「色々、小物が欲しくって。学生寮って以外と物がなくて」

 

セレナちゃんは現在、リディアン音楽院の学生寮で暮らし、そこから学校に通学している。

だから、寮生活で欲しい物を買いたいのね。

 

「それに、商店街で一鳴さんと一緒にデートして、一鳴さんの事自慢したくって」

 

少し、顔を赤らめるセレナちゃん。

可愛い。

 

「ふふ、ありがとうございます。俺も、セレナちゃんの事見せつけたいです」

「えへへ、じゃあもっとくっつかないとですね」

 

そう言うと、更に密着してくるセレナちゃん。

大きな胸が、胸が!

 

「えへへ♡」

 

セレナちゃんの目が肉食獣に変わる。

コワイ!

 

 

 

イベントダイス【1D10】

(1ほどバット、10ほどグッドイベント)

 

結果【5】

 

 

 

「む、一鳴くんにセレナくんか」

 

密着するセレナちゃんとお店を冷やかしてると声をかけられた。

声をかけてきたのは弦十郎さんだ。

 

「弦十郎さん、ドーモ。今日休みでしたか」

「ああ。いい天気だし、映画でも見ようかと思ってな。二人はデートか?」

「はいッ!」

 

元気のいい返事のセレナちゃん。

 

「はは。そうか。なら、俺はお邪魔だな」

「お邪魔だなんて……」

「いや、いいんだ。二人で楽しむといい。……あ、そうだ」

 

と、ポケットをまさぐる弦十郎さん。

 

「あった。これをあげよう。商店街のサービス券らしい。入り口で貰ったんだ」

「いいんですか?」

「ああ。俺は使わないからな」

 

と、サービス券を渡す弦十郎さん。

商店街の中のお店に使うと少し安くなったり小物がついてきたりするらしい。

 

「ありがとうございます!」

「ああ。ではな」

 

そう言って去っていく弦十郎さん。

 

「良かったね、セレナちゃん」

「はいッ! 早速使えますね」

 

そんな訳で。

弦十郎さんのサービス券は大いに活用された。

 

 

 

セレナのデートプラン(2/3)【1D10】

 

1 映画館

2 喫茶店

3 本屋さん

4 対魔忍ショップ

5 水族館

6 服屋さん

7 博物館

8 対魔忍ショップ

9 公園

10 ランジェリーショップ

 

結果【7】

 

 

 

さて。

お昼ごはんを商店街の中のサイ○○ヤで済ました俺たちは、今度は博物館に来ていた。

 

「博物館?」

「はいッ」

 

なんでも、今博物館で「魅惑のインド神話展」なる催しをしているらしい。

インド神話の紹介やインド神話由来の聖遺物が展示されてるとか。

……聖遺物?

 

「マムも関わってるんです、今回」

 

ナスターシャ院長がアメリカの保有する聖遺物の一時貸し出しに奔走したらしい。

凄いなナスターシャ院長、あのアメリカから聖遺物引き出したとか。

 

……そういえば、八紘さんがインド政府と色々調整してたような。

展示会がどうとか、護衛がどうこうとか。

思えば、一般客に混じって目つきの鋭い黒服の人とかサイバネ強化された人間が。

あ、あの黒服の人二課で見たな。

この展覧会、二課も関わってるな。

 

「さ、一鳴さん行きましょう!」

 

俺を引っ張り博物館に入っていくセレナちゃん。

あ、黒服さんに頭下げられた。

あっちのサイバネ強化人間は生暖かい目で見てくるし。

 

 

 

イベントダイス【1D10】

(1ほどバット、10ほどグッドイベント)

 

結果【10】(クリティカル)

 

 

 

「あ、一鳴さん。愛の矢ですって」

 

と、とある展示物が目に入る。

展示台に乗ったそれはガラスに覆われている。

そのガラスの向こうには一本の矢。

サトウキビの花の矢だ。

枯れては居るが、不思議な威圧感を感じる……。

 

カーマ。

インド神話の愛の神であり、また美男子であるとか。オウムに乗っており、サトウキビで出来た弓と矢を持つ。

その矢で射られるとたちまち恋情を催すとか。

でも瞑想中の破壊神シヴァに矢を射って怒られて第三の目から出たビームで焼かれて灰になった神様である。

哀れ……。

 

その花の矢が目の前にある。

うん、これは本物だわ……。

なんとなく、わかる。

聖遺物特有の、力を感じる……。

 

「射抜かれた者はたちまち恋情を催す……」

 

なぜかその矢をネットリ見るセレナちゃん。

 

「お手にとってご覧になりますか?」

 

と、学芸員さん。

 

「え、これ貴重なものじゃないんですか?」

 

完全聖遺物よ、これ?

しかもこれ、日本保有じゃなくてインド保有よ?

側に立ってるサイバネ強化インド人の視線が強いよ。

 

「大丈夫です! なんというか……、矢が貴方たちを気に入った、そんな気がするんです!」

 

そう力説してガラスケースを手際よく外す学芸員さん。

インド人の目が光った。

 

「さ、どうぞ」

 

と、矢を差し出す学芸員さん。

いや、いいの……?

俺はインド人を見た。

 

「ダメヨ」

「大丈夫ですッ!」

 

学芸員は力強い。

いや、インド人ダメって言ったじゃん!

ダメじゃん!

 

「少しだけです、少しだけ! ね、ね!」

「ンー、スコシダケヨ」

 

インド人が折れた!

もっと頑張れ貴重品だぞ!

 

「じゃあ遠慮なく」

 

と、セレナちゃん。

いつの間にかその手には白い手袋。

学芸員さんから渡されたものか。

 

「へー、花で出来てるから軽いです」

「そ、そうなのね」

 

壊さないでね、セレナちゃん。

とか、思ってたら。

 

「え、矢が……!」

 

なにやら様子が変である。

見ると、矢がピクピクと動いている。

 

「え、なにこれ?」

「か、一鳴さんッ!? ど、どうしよう」

「と、とりあえず学芸員さんに返して……」

「矢が動いた! すごーい!」

「スゴーイ!」

 

学芸員さんとインド人は呑気に驚いている。

驚いている場合じゃないよぉ!

 

「あ!」

 

矢がセレナちゃんの手を離れて飛ぶ。

その先には……。

 

 

 

矢の向かう先【1D10】

 

奇数で一鳴

偶数でセレナ

 

結果【3】

 

 

 

矢が向かったのは俺であった。

物凄い瞬間速度で飛んだカーマの矢は、とっさに構えた俺の腕に刺さる。

 

「うッ!」

「一鳴さん!?」

「うん、へい、き」

 

俺は矢を引き抜いた。

矢が刺さった痛みはそれほどなかった。

むしろほぼ無痛。

だが。

身体が、熱くなる。

心が、軋む。

魂が、乾く。

 

「一鳴さん! 一鳴さん!!」

 

思わず蹲る。

セレナちゃんが、そんな俺にしゃがみこんで介抱しようとする。

 

「一鳴さん、しっかりしてください!」

「セレ、ナ。ちゃん……」

 

セレナちゃんの顔を見る。

泣きそうな顔で焦るセレナちゃんは、とても。

とても。

 

「う、セレナちゃんが可愛い!」

「一鳴さん!?」

「セレナちゃん可愛いヤッター!」

 

うーん、セレナちゃんが可愛い。

好き!

いや違う!

 

「う、カーマの矢!」

「あ、恋情!」

 

そういう事であった。

カーマの矢で恋情催された結果セレナちゃんがスゴイ可愛い。

可愛いヤッター!

 

「コレヤバイヨ。オマエノセキニンモンダイダヨ」

「わ、私のせいですか!?」

 

インド人と学芸員さんが揉める。

うぅ、とにかく矢を渡そう。

 

「学芸員さん、とにかくコレ受け取ってください」

「ええ、私に刺さったらどうするですか!?」

「いいから受け取れよアンタが原因でしょ!!」

 

及び腰の学芸員に無理矢理カーマの矢を渡す。

これで矢については安心だけど……。

 

「一鳴さん、大丈夫ですか……」

「ごめんね、セレナちゃん。セレナちゃんが可愛すぎて無理。死ぬ、尊すぎて無理」

「一鳴さーん!?」

 

もうダメだ。

セレナちゃん可愛すぎて神。

神というか女神?

天使?

マジ、カワイイエンジェルゴッデスセレナちゃん。

セレナちゃんが絡むと思考が駄目になるなコレ……。

 

「ど、どうしよう」

「……オマエラカップルカ?」

 

と、サイバネ強化インド人。

 

「え、あ、はい」

「ナラ、ヤルコトヤレバナオルヨ」

「え、やることって……その」

 

セレナちゃんが顔を赤らめる。

つまりはそういう事であった。

え、まだ昼よ?

 

「カーマがシヴァ神に矢を射ったのは、シヴァ神が瞑想に夢中でパールヴァティー女神と子づくりしなかったからなんです」

 

と、学芸員さんが続ける。

 

「逆に言えば、ずっとムラムラさせる矢をシヴァ神に射る訳ない、という事で」

「コヅクリシロヨ」

 

インド人はブレねぇなぁ。

 

「か、一鳴さん!!!」

 

と、可愛いセレナちゃん。

 

「ほ、ほ、ホテルの予約は、取ってるんでしゅが!!!」

 

セリフを噛んだセレナちゃんキャワワ……。

それはそれとしてホテルは予約済み。

まあ、今日ははじめからそれ目的のデートだものなぁ。

 

「うぅ、可愛いセレナちゃんと? ホテルで? 猥褻前後?」

「はい!!!」

「行きまぁす!!!」

 

そういう事になった。

 

 

 

 

 

◆カーマ神◆tipsな◆してやってり◆

 

 

 

クリティカルが出たのでデートは強制的にホテルに移行します。

 

 

 

◆そして朝◆tipsな◆カーマ神ご満悦◆

 

 

 

 

 

一鳴VSセレナ(意味深)【1D10】

 

1 カーマの矢でブーストされた一鳴くんに勝てる訳ないだろ!

2 カーマの矢でブーストされた一鳴くんに勝てる訳ないだろ!

3 カーマの矢でブーストされた一鳴くんに勝てる訳ないだろ!

4 カーマの矢でブーストされた一鳴くんに勝てる訳ないだろ!

5 カーマの矢でブーストされた一鳴くんに勝てる訳ないだろ!

6 カーマの矢でブーストされた一鳴くんに勝てる訳ないだろ!

7 カーマの矢でブーストされた一鳴くんに勝てる訳ないだろ!

8 カーマの矢でブーストされた一鳴くんに勝てる訳ないだろ!

9 カーマの矢でブーストされた一鳴くんに勝てる訳ないだろ!

10 カーマの矢でブーストされた一鳴くんに勝てる訳ないだろ!

 

結果【5】

 

 

 

ホテルである。

セレナちゃんの予約していた、ホテルの一室である。

キングサイズのベッドの上、俺とセレナちゃんが寝ていた。

全裸で。

俺はセレナちゃんを腕枕して、眠るセレナちゃんの頭を撫でている。

全裸で。

 

セレナちゃんカワイイを連呼する俺をタクシーに押し込めたセレナちゃんは、タクシーをホテルに向かわせた。

そこそこお高いホテルの一室を予約していたとか。

お金はマリアさんに借りたんだって。

言えばお金出したのに……。

それはそれとして。

 

ホテルに着いた俺とセレナちゃん。

部屋に入るなり、激しくキスをしながらお互いに服を脱がし合い。

そして、セレナちゃんを抱きかかえた俺がキングサイズのベッドに運んで、キングサイズのベッドが狭く感じるほどに愛し合った。

 

それはもう激しく激しく。

描写するとR18オーバーなので詳しくは言わないけれど。

一つだけ言えるのは。

 

「セレナちゃん可愛い」

 

えへへ、と。

セレナちゃんが眠りながら微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

今回のオチ。

 

「おはよーごさいまーす」

 

デートの翌日。

2課に出勤すると、なんか職員さんの目が優しい。

 

「おはよう、一鳴くん」

 

と、優しい目の友里さん。

 

「おはようございます友里さん。……みんなどうしたんです?」

「一鳴くん、インド神話展行ってたでしょ」

 

……あ。

二課もインド神話展に協力してたという事は。

 

「カーマの矢に射られて大変だったわね」

 

ニヨニヨと友里さん。

俺の暴走と、セレナちゃんの大声でのホテル誘惑も知らされていたと言うわけね(白目)

 

「大丈夫よ、みんなからかったりしないから」

 

と、大いにニヨニヨする友里さん。

からかいはしないね、からかいは……(震え声)

 

「おはよう、一鳴くん」

 

弦十郎さんである。

 

「その、大変だったな」

「ソッスネ(棒読み)」

 

うーん、やっぱり弦十郎さんまで報告されてるぅ。

 

「おはよ、一鳴くん!」

「おはよう」

 

了子さんとキャロルちゃんの登場だ。

 

「聞いたわよーなかなか派手にやったじゃない!」

「……避妊はしておけよ」

 

バシバシ背中を叩く了子さんと、耳まで真っ赤にした顔を背けるキャロルちゃん。

 

つまりはそういう事であった(恥晒し感)

 

「弦十郎さん今日は休みまーす!!」

 

と、宣言するも。

 

「駄目よー、今日は戦闘時のシンフォギアデータ取らないといけないんだから。その時に、色々聞かせてね♡」

 

了子さんにブロックされた。

俺の精神的な死が確定した瞬間であった。

 

どっとはらい!

 

 





まともにデートしてたの午前中だけじゃないか!
そんなデート回でした。

R18版はこれから書きます。
大人セレナちゃんのドスケベピクチャァ見たので執筆意欲スゴーイ状態なのよね。
なお描写力と書く時間。
気長に待っててくだせぇ……。

次回はツヴァイウィング回の予定。
懐かしのカルマノイズくんにも出番があるよ。
お楽しみに。


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第六十四話 平行世界からの訪問者①

セレナちゃんとのR18スケベ話が進まねぇので初投稿です。




「来たか、奏」

「ダンナ。準備は出来てる」

 

特異災害対策機動部二課。

その聖遺物実験場。

そこに風鳴弦十郎と天羽奏の姿はあった。

目の前には、完全聖遺物が一つ浮かんでいた。

巻き貝のような見た目のそれは、神話において終末の時を知らせる【ギャラルホルン】と呼ばれる角笛である。

その角笛は今、高エネルギー反応を発している。

アラームを、鳴らしている。

 

「こっちと平行世界を繋げる聖遺物、か」

 

奏はギャラルホルンを見て、そう呟く。

ギャラルホルン、その特性は平行世界に異変が起こったときにこちらと平行世界を繋げること。

 

なぜ、そんな機能を持っているのか。

どうやって、そんな機能を実現したのか。

極めて特異なその力は、二課の頭脳たる櫻井了子を持ってしてもその全容を知ることが出来なかったが。

 

「アッチはどんな世界なのかな」

「平行世界、こちらとはまた、別の可能性を拾い上げた世界。なにがあるか、予想はつかない……」

 

弦十郎は申し訳無さそうに言う。

それは、奏一人を平行世界に送り出すからか。

 

「でも、いくしかない」

 

奏は覚悟を決めていた。

ギャラルホルンは平行世界へと通じている。

そして、ノイズの生産工場があると言われている【バビロニアの宝物庫】にも。

こちらの宝物庫と、平行世界の宝物庫。ふたつの宝物庫からノイズが溢れているのが現状。

故に、奏は平行世界に赴き異変を解決する。

 

それが、ノイズを憎み恨む奏の使命である。

 

「奏、すまん」

「翼のことか? いいよ、仕方ないさ。あの爺様が許さなかったんだろう」

 

風鳴翼。

天羽奏の片翼であり、シンフォギアの完全適合者。

奏とは違う、純正のシンフォギア装者である。

だからこそ、彼女の祖父が許さなかった。

よくわからない完全聖遺物の使用と、帰ってこれるかもわからない平行世界への訪問を。

 

「なるべく早く帰るからさ、翼には適当に言っておいてくれよ、ダンナ」

「ああ。……奏、無事に帰ってこい」

「もちろん! 今度ライブもあるからな!」

 

奏は笑う。

そして、LiNKERを注射し聖詠を唄う。

 

「Croitzal ronzell gungnir zizzl」

 

奏がガングニールのシンフォギアを鎧う。

 

「じゃあ行ってくるよ、ダンナ! オミヤゲ期待しといてくれ!」

 

そう言って、天羽奏は平行世界に向かった。

 

 

 

 

 

5月中旬。

日差しが日に日に強くなってきたある日の休み。

俺はとあるコンサートホールにいた。

ステージがよく見える天井近くのボックス席。

その中でも上等なVIP席とも言うべき場所にいた。

 

「ウオオーッ! 翼ッ! 翼ーッ!」

 

隣では両手に青いペンライトを持った八紘さんが奇声を上げている。

その更に奥では……。

 

「奏ーッ! ほ、ホアアーッ! 奏ーッ!」

 

オレンジのペンライトを振る中年男性。

彼は二課の聖遺物発掘チームを率いる幹部の一人であり、奏さんのお父さんでもある。

 

そう、このコンサートホールでは現在、ツヴァイウィングのライブが行われている。

一年前ぐらいにはデパートの屋上でミニライブをしていた彼女たちもコンサートホールでライブをする程の成長を遂げていた。

いや、それでは足りない。

現在、ツヴァイウィングの人気は絶頂にあり。

テレビで彼女たちを見ない日は無く、彼女たちの歌声を聞かない日はない。

それぐらいの、人気。

それでもなお、俺たちはVIP席を手に入れている。

それは、翼さんの父親である八紘さんや奏さんのお父さんたちが権力を行使したからとか。

 

「翼も奏ちゃんも、キレイじゃのぅ」

 

八紘さんとは、反対側に座る訃堂司令がしみじみと言う。

翼さんの歌やライブは緒川さんが撮影した映像で見ていたらしいが、生で見たのは初めてだとか。

今回のライブ、訃堂司令が見てみたいと言うことで八紘さんが全力で乗っかった形になるらしい。

だからこそ、大々的に権力行使したとか。

そして、俺がいるのも、訃堂司令のボディーガードというタテマエである。

……うん、俺もツヴァイウィングのファンなの。

ファンクラブ入ってるし。

だから俺も乗っかりました。

テヘペロでやんす!(恋人の持ち芸感)

 

「それに楽しそうに歌声を重ねる。良いデュオじゃな」

 

舞台では、翼さんと奏さんが「逆光のフリューゲル」を唄っている。

二人の歌声を聞くと、心が高まる。高揚する、と言うべきか。

二人の歌から、フォニックゲインが大量発生しているのかもね。

 

「翼ーッ!」

「奏ーッ!」

 

八紘さんと奏さんパパも盛り上がる。

 

「いい歌ですねぇ」

「そうじゃのぅ」

 

俺と訃堂司令はしみじみと言い合った。

その時である。

 

爆発音がコンサートホールに響く。

歌声は止まり、伴奏も消えた。

観客たちは悲鳴を上げる。

 

「皆さん落ち着いてください」

 

と、コンサートホールのスタッフがアナウンスする。

 

「……弦十郎か」

 

訃堂司令の通信機に、弦十郎さんから通信が入る。

 

「親父、そこのコンサートホールに高エネルギー反応だッ!」

「……ノイズか?」

「ああ。……もしやッ」

「もう侵入しとる」

 

爆発音は、コンサートホールの天井に穴が空いた音であった。

陽の光が、天井から降り注ぐ。

それと同時に、極彩色の災厄もまた降り注ぐ。

人のみを灰と変換するノイズたちであった。

 

「───── Sudarshan tron」

 

俺は聖詠を唄う。

赤銅色の装甲装着。

6つの花弁の如きスカートアーマー装着。

シンフォギア各所から漏れ出した炎が背中に集まり、光輪形成。

その光輪を手に取る。

光輪は物質化し、108の刃を持つ戦輪、チャクラムに変わる。

シンフォギア、装着完了。

 

「ノイズの迎撃に向かいます!」

「うむ、任せた」

 

どっしり構えて落ち着いている訃堂司令に見送られて、俺はボックス席から飛び出した。

ボックス席は、コンサートホールの最上階にあり。

故に、俺は中空に身を投げだした形になる。

だが、堕ちず。

脚部装甲から、太陽のプロミネンスめいた炎噴出。

推進力を得て、コンサートホール内を跳躍する。

ノイズたちの一部がこちら側に殺到する。

俺は、スカートアーマーを二枚貝めいて開き、中に納められた小型チャクラムを当たり一面にばら撒いた。

ばら撒かれた小型チャクラムは、刃の間から炎を噴出し、向かってきたノイズを逆に殲滅していく。

 

 

火烏の舞・繚乱

 

 

それと同時に、既にコンサートホールに降りたノイズたちに向かって手に持ったアームドギア戦輪を投げる。

戦輪は炎を吹き出し、高速回転。

人を襲おうと走るノイズたちを灰に変えていった。

 

 

黄道転輪

 

 

ノイズたちは、まず俺を排除するべしと考えたのか。

地上の人たちから俺に目標を示したらしい。

殺到するノイズたちを小型チャクラムや、戻ってきたアームドギア戦輪で対応する。

その間に、八紘さんや緒川さんを中心に観客の避難を進めるようだった。

俺はこのまま逃げ回りつつ、地上に向かうノイズを倒して一般客が退避するまで時間を稼げばいいね。

 

そう、考えていたのだが……。

 

天井の穴から、高速で飛来する黒いナニカ。

周りのノイズとは一線を画する速度で向かってきたモノを、俺はなんとか迎撃する。

戦輪で弾いて迎撃したそれは、黒いノイズであった。

 

「カルマ、ノイズッ!」

 

世界蛇の手先、通常ノイズとは異なり呪いの力を宿すが故に装者の絶唱でなければ倒せないほど強いそのカルマノイズが、向かってきたナニカの正体であった。

初撃を弾かれたカルマノイズは、側にいた飛行型ノイズを足場にして再び俺に攻撃する。

 

「イヤーッ!」

 

俺は再び戦輪で攻撃を弾く。

今度は戦輪を回転させ炎を噴出させながら、である。

攻撃してきたカルマノイズの腕が削れる。焼ける。

ノイズは俺を蹴り飛ばして距離を取る。

 

カルマノイズの腕が、あっという間に再生する。

この再生力こそが、絶唱でしか倒せない理由である。

 

バランスを崩した俺は客席に向かって墜落する。

それを逃がすカルマノイズではなく、別の飛行型ノイズを足場にして蹴り飛ばしてこちらに突貫。

俺はそれを、戦輪で受ける。

カルマノイズと共に客席まで落ちる。

攻撃の衝撃で大きなクレーターが落下地点に発生。

 

「ぐ、ぅ……」

 

墜落した俺に、カルマノイズが攻撃を加え続ける。

俺はそれを受け続ける。

カルマノイズめ、俺を逃さないつもりだろうか。

そんな俺の耳に、声が聞こえた。

 

「あ……助けて……!」

 

少し離れた所に女の子が一人。

たった一人で客席の床にへたり込んでいた。

避難しそびれたのか……!

その女の子を、ノイズが包囲していく。

助けようと、小型チャクラムを向かわせる。

が。

 

「な……!?」

 

小型チャクラムが全て撃ち落とされる。

撃ち落とした者は……。

 

「二体目の……、カルマノイズッ!」

 

複数の触腕を持った、タコめいた姿をした二体目のカルマノイズであった。

天井から落下しながら、小型チャクラムを撃ち落としたのだ。

そして、一体目のカルマノイズと共に、俺への攻撃を再開。

 

「ヌゥーッ!」

 

2体のカルマノイズからの攻撃をなんとか耐える。

たが、だからこそ余力はなく。

逃げ遅れた女の子を助ける力が無かった。

ノイズが女の子への包囲網を縮める。

……歌うか、絶唱。

 

そうして、俺が絶唱を歌おうとした時。

 

 

STARDUST∞FOTON

 

 

天井から無数のエネルギー弾が降り注ぐ。

それは、槍。

穂先の広く大きい、剣槍とも言うべき槍状のエネルギーがノイズへと降り注ぐ。

更に、そのエネルギー弾はカルマノイズへも降り注ぐ。

咄嗟に回避するカルマノイズ。

カルマノイズが避けた為に、槍状エネルギーが俺に向かうが、俺に刺さる直前に霧散する。

天井からその人が落下する。

 

黒い部分の多い、橙色の装甲。

赤くふわふわとした長髪を揺らす女性。

その手には、エネルギー弾によく似た物理槍。

俺は、この人を知っている。

つい先程まで、この場所でライブをしていた人。

フィーネの挫折によりアイドルとして、生きることになった人。

 

俺は、知っている。

風鳴翼の片翼。

フィーネの手により家族を殺され、復讐鬼となったシンフォギア装者。

ガングニールの、第二種適合者。

立花響を、身を挺して守った女性。

 

嗚呼、彼女は───。

 

「無事か!?」

 

天羽奏、その人である───!

 

「……ええ、なんとか。ありがとうございます、奏さん」

「……奏であって、奏じゃないんだけどな」

「その話は、また後で。とりあえず、ノイズの殲滅を……」

 

ノイズたちは遠巻きに見ている。

その背後に、カルマノイズ2体。

そのカルマノイズたちの姿が薄れていく。

 

「逃がすかッ!」

 

奏さんがガングニール投擲!

しかし、カルマノイズは消失し、ガングニールは何もない空間を穿つのみであった。

 

「カルマノイズは消えたが、ノイズはまだいるか」

 

後ろを見る。

まだ避難出来ていない人が何人か。

ノイズに襲われそうになった女の子は、あ、黒服さんに助けられてる。

良かった……。

 

「さて、奏さんっぽい人。話を聞かせてもらう前に」

「ああ、ノイズを皆殺しだ!」

 

奏さんは槍を振るい。

俺は戦輪を投擲して。

ノイズを全て殲滅した。

カルマノイズは逃したものの、被害は最低限で良かった良かった。

 

で、問題の奏さんは。

手錠をはめられて、俺たちと共に二課に連行されることとなった。

 

と、いうか十中八九、平行世界の奏さんだよなぁこの人。

まあ、話は二課でするでしょう。

そう思い、俺は訃堂司令と共に二課の本部に向かった。

 

 




そんな訳で装者の奏さん登場です。
もちろんこの世界の奏さんでなく。
じゃあ、どこの奏さん、と聞かれたら……。

また次回に、と答えさせていただきましょう♪


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第六十五話 平行世界からの訪問者②

この話の後にやる予定のクリスちゃんイベントのシナリオのアイデアはムクムク湧くのに、このイベントの話は全然固まらないので初投稿です。

ちまちま書くので、気長に待っててくだち!


 

規則によりつけられた奏さんの手錠は、二課に入ったと同時に解除された。

俺たちを助けてくれた奏さんへの配慮である。

そして、奏さんは二課の発令室に案内された。

そこには弦十郎さん、了子さん、ウェル博士、キャロルちゃん、そして俺も揃っている。

訃堂司令と八紘さんはもう少しで到着するようだ。

 

「俺はここの副司令、風鳴弦十郎だ」

「天羽奏、シンフォギア装者をやってる。インチキだけどな。……ところで、副司令?」

「ああ、何か変か?」

「いや、あたしの世界じゃダンナは司令官だからさ」

「あたしの世界?」

「あたしは、あー、信じられないかもしれないが、平行世界から来たんだ」

 

場がざわついた。

最初に口を開いたのはウェル博士だ。

 

「へ、平行世界ィ!?」

「ああ。……まぁ、信じられないとは思うけどさ。でも本当なんだ」

「どうやって、世界間を移動したのかしら?」

 

了子さんが聞く。

 

「ギャラルホルン、っていう完全聖遺物の力だ」

「ギャラルホルン……、北欧神話でヘイムダルの持つ角笛か」

 

キャロルちゃんが呟く。

 

「ああ。そのギャラルホルンがアラームみたいに高エネルギー反応を発していて、この世界との繋がりを持っていたんだ」

「それで、君は単身様子を見に来た、と」

 

弦十郎さんの言葉に頷いた奏さん。

 

「ヘイムダルは世界の終わりであるラグナロクの訪れを、ギャラルホルンを吹いて知らせる。なら、ギャラルホルンのアラームは世界に危機を伝えている可能性が高い、ってあたしの世界の了子さんがそう言ってたんだ」

「そっちにも、私はいるのね」

「ああ。双子みたいにそっくりだ」

「同一人物、ですものね」

 

と、了子さん。

 

「で、了子くん。平行世界を行き来する聖遺物なんてあり得るのか?」

 

弦十郎さんが問う。

 

「少なくとも、私は聞いたことないわ」

 

了子さんの言葉にキャロルちゃんも頷く。

 

「オレも知らん。聞いたことすらない」

 

キャロルちゃんの城、チフォージュ・シャトーは聖遺物で構成された浮遊城である。

ギャラルホルンはそれのパーツに使えそうなのに知らないとは、ギャラルホルンの存在は歴史において秘匿されてるのかしら。

 

「あるぞ、ギャラルホルン」

 

と、声。

声の主は訃堂司令。傍らには八紘さんだ。

 

「げ」

 

イヤな人が来た、そんな反応をしたのは奏さんだ。

 

「え、ワシなんかした?」

 

訃堂司令は寂しそうな顔をした。

 

「え、いやー、まあ、あたしの世界のアンタは怖い人だからさ……」

「えー、ワシは無害なジジイじゃぞ」

「エッ無害?」

 

訃堂司令の言い草に思わず異を唱えてしまった。

人を異端技術モリモリな遺跡に放り込んで生死を掛けた戦いさせたりするし。

信頼出来る人物ではあるんだけれどね。ここの訃堂じいじ。

 

「一鳴くん、なにか言いたい事でもあるのかの?」

「無いです(声だけ迫真)」

 

訃堂司令が笑顔で俺を見る。

ところで関係ないけれど、笑顔って本来は攻撃的なものらしいね(震え声)

 

「あー、親父。ギャラルホルンを知っているのか?」

 

弦十郎さんが助け舟を出してくれた。

助かったね……。

 

「うむ。あれは第二次世界大戦の頃、ドイツのアーネンエルベ機関からいくつかの聖遺物を貰えることになっての」

 

アーネンエルベ機関。

ドイツの聖遺物研究所、だったかな。

ガングニールやイチイバル、ネフシュタンの鎧もそこから貰ったのだったか。

でもこの世界、イチイバルは輸送中に海に沈んだらしいけどね。

……もしかして。

 

「ガングニール、イチイバル、ネフシュタンの鎧。そしてギャラルホルン。それぞれ別のUボートに載せられて秘密裏に日本に運ばれたのじゃが、無事にたどり着いたのはガングニールとネフシュタンの鎧だけじゃった」

「残りは海の藻屑、ですか」

 

ウェル博士の言葉に訃堂司令は静かに頷いた。

沈めたのは、アメリカの潜水艦らしかった。

道半ばで沈んだUボートは、イチイバルとギャラルホルンは深い海の底で眠り続けているのだ。

 

「イチイバルは恐らくもう見つからぬ。だが、ギャラルホルンは探せば見つかるかもしれぬ」

「なぜだ?」

 

キャロルちゃんが聞く。

イチイバルは小さな欠片であり、もう海底の砂と見分けがつかないだろう。

だが、ギャラルホルンはなぜ見つけられるのだろう。大きいからかしら?

 

「ギャラルホルンはその時から起動していたらしい」

「ああ、起動しているならエネルギー反応があるわね」

 

了子さんの返答に訃堂司令は頷いた。

それは、奏さんがこの世界に来た理由である。

奏さんはギャラルホルンがアラームめいた高エネルギー反応を発していたから、それを確かめる為にこの世界に来た。

なら、この世界のギャラルホルンも、高エネルギー反応を発していてもおかしくはない。

 

「すぐに発掘チームを発足させます」

 

八紘さんはそう言う。

訃堂司令は、任せた、と答えた。

 

「それと」

 

訃堂司令は奏さんを見た。

 

「君の世界の事を教えてくれんかの、奏ちゃん」

「あ、ああ。勿論だ」

 

奏さんは肯定したけれど、鳥肌が立っていた。

風鳴訃堂に「奏ちゃん」と呼ばれて悍ましくなったのかしら……。

 

「……そっちのワシがどんな人物かも、教えてもらおうかの」

 

訃堂司令はそう言った。

 

 

 

 

あたしの世界……。

あー、なんて説明したらいいのかな。

……え、最初から説明したらいい、か。

うん、そうだな。そうするか。

 

あたしが所属しているのが、特異災害対策機動部二課。

うん、ここと同じだ。

弦十郎のダンナが司令官で、了子さんが研究主任。

そこのメガネの男と女の子に、一緒に戦ったキミは知らないな。

……ウェル博士にキャロルに、一鳴か。

うん、覚えた。

爺様は前司令官だったらしい。

さっきも話に出たイチイバル、だっけ。

それが盗まれたから引責辞任した、って聞いたな。

八紘? 翼のお父さん?

えーと、翼は確か、内閣情報官だって言ってたな。

……え、ここじゃ副司令?

…………色々違うんだな、平行世界。

 

うん、話を続けるか。

シンフォギア装者は、あたしと翼。

そう、翼もシンフォギア装者。

アメノハバキリの完全適合者だ。

……? ああ、アメノハバキリと完全適合してる。

え、こっちじゃ適合率低いのか?

じゃあシンフォギア装者じゃないのか?

……そっか、装者じゃないのか。

あたしはガングニール、そのインチキ適合者さ。

インチキの理由?

あたしは本当は適合者じゃないんだ。

LiNKERで無理矢理適合した時限式のインチキなのさ。

 

なんでそこまで?

……あたしの家族はノイズに殺されてる。

ああ、父さんと母さん、妹。

皆神山にある遺跡の調査中にノイズが現れて、あたしだけが生き残った。

だから、あたしはノイズを皆殺しにするんだ。

あたしから家族を奪ったから。

 

あー、ごめん。話が重くなったな。

うん。

確かにあたしは復讐鬼って呼ばれてもおかしくないかもな。

でも、楽しいこともあるし。

ツヴァイウィング。

あたしと翼もアイドルやってるんだ。

翼と歌うのは楽しいし、あたしの歌をみんなに届けるのは気持ちがいいんだ。

こっちのツヴァイウィングは?

こっちのあたしと翼はどうなんだ?

……そっか、そこはおんなじなんだな。

 

あとは……。

ああ、ギャラルホルン。

うん、訳のわからない聖遺物だって了子さんは言ってた。

なぜ平行世界に繋がるのかも。

なぜ平行世界の危機を伝えるのかも。

だから、あたしが様子を見に来たんだ。

……え、ああ、確かにあたし一人じゃ危ないけどさ。

翼? ああ、最初は翼も一緒に来る予定だったんだ。

けど、なぁ。

……あー、爺様が横から口出したんだよ。

「完全適合者である翼をいたずらに喪うわけにはいかない」って言い出して。

……そうだよ、あたしは捨て駒にされたんだ。

ヒッ……、ああ、大丈夫。

大丈夫だよ、ありがとう一鳴。

うん、爺様もいいよ。でもいきなり殺気だすのは止めてくれよ。

いいよ、こっちの爺様が謝ることじゃないし。

 

そうだ。

こっちの世界のことも教えてくれよ!

……オリュンポス十二神復活?

……イギリス以外欧州全滅?

……神霊?

あー、なるほど。

やっぱりここは平行世界だな!

 

 

 

 

「さて一鳴くん」

 

奏さんの話を聞いた訃堂司令。

奏さんを捨て駒にした向こうの訃堂じいじに殺気を出して奏さんを怯えさせたのはダメだと思うよ訃堂司令。

 

「ちょっとアッチの世界に行って向こうのワシを殺してこい」

「無茶苦茶言わないでください」

「大丈夫大丈夫。首落とせば、さすがのワシも死ぬから」

「その前に俺が膾にされますよ」

 

ギャラルホルンで平行世界に行けるのは装者だけ。

だからって俺に無茶振りしないでほしい。

 

「落ち着け親父」

「そうです、落ち着いてください」

 

弦十郎さんと八紘さんの息子コンビでなんとか宥めさせる。

 

「なぁ、一鳴」

 

奏さんに声をかけられる。

 

「なんです奏さん?」

「……こっちの装者は、一鳴だけなんだよな?」

「ええ」

「あたしは?」

「ただのアイドルですね」

()()()()()()()()()……?」

 

そうよね。

気になるよねぇ。

こっちの奏さんはただのアイドル。

装者にはなっていない。

ガングニールがあるのに。

なら、その差異は気になるよねぇ。

奏さんのターニングポイント。

そこの結末はすでに切り替わっているのだから。

 

()()()()()

「……そっか」

 

皆神山での惨劇。

その原因はフィーネが神獣鏡を求めたこと。

皆神山に埋まる神獣鏡を手に入れるために、発掘チームを皆殺しにしたのだ。

だが、この世界では。

皆神山の発掘調査の時点ですでにフィーネは二課に降っていたのだから。

惨劇は起こっていないのだ。

故に。

ここの奏さんはシンフォギア装者にならなかった。

 

「会いたいですか?」

「ズバッと聞くね。……うん、でもいいや」

「そうですか」

「うん。ここは平行世界だし。あたしもいるしな」

 

ここの家族は、あたしの家族じゃないから。

少し寂しそうに、奏さんはそう言った。

 

「……ふぅ、すまん落ち着いたわい」

 

訃堂司令は冷静になったらしい。

弦十郎さんと八紘さんはげっそりしていた。

 

「さて。奏ちゃん」

「ああ」

「ここに来る前に、ギャラルホルンは高エネルギー反応を発したことは?」

「一度だけ。……確か、去年の8月くらいかな」

 

去年の8月。

それは、たしか……。

 

「カルマノイズ、あの黒いノイズが最初に現れたのも」

「8月でしたね」

 

今となってはもはや懐かしい、俺の初戦闘の事であった。

初戦闘でカルマノイズと遭遇、撃破してるのよね俺。

サツバツとしてない?

 

「そして、今回もカルマノイズが現れた」

「ギャラルホルンの脅威とは、カルマノイズのこと、ですね」

 

了子さんとウェル博士が話し合う。 

ギャラルホルンについての情報はそれなりに出揃ったかしらね。

 

「ならば、最優先目標はあのカルマノイズ2体よな」

 

と、訃堂司令。

 

「平行世界を繋げるギャラルホルン、それが伝える脅威であるカルマノイズの撃破こそ優先目標よ」

「はいッ」

 

全員頷いた。

 

「それと奏ちゃんも協力してくれるかの?」

「当たり前だ! その為にあたしは来たんだからな」

「礼を言う。ここにいる間の住居は用意しておくからの」

「ありがとな爺様!」

 

ウェル博士が口を挟んだ。

 

「ああ、奏さん。アナタLiNKER用いてるんですよね? ボクの作った体に優しいLiNKERを使ってみませんか?」

「体に優しいLiNKER?」

「ええ! ソコの櫻井主任の作ったモノより負荷も小さく、体内洗浄も軽く済むLiNKERを作れるのですよ僕はァ!」

「チッッッッッッッ!」

 

ウェル博士の言い草に思いっきり舌打ちした了子さん。

ウェル博士、生化学の権威だから人体に関わる事は了子さんより詳しいのよね。

太古の巫女フィーネを宿す了子さんよりも。

やっぱ凄いよなウェル博士。

 

「あはは、ありがとな」

「ええ、お土産として持ち帰ってもいいですよ。そして僕の名前を出してください。この、ドクタァ、ウェェェルの名前を!」

「あー、うん。わかった」

 

奏さんは引いていた。

仕方ないね。

 

そんな訳で。

平行世界の奏さんと共にカルマノイズを討伐する事になった。

 

 

 

 

『一つ、教えておこう。

こちらに来た天羽奏、彼女の来た世界について』

 

解散した後。

自室で寛いでいるとサイコロ神に話しかけられた。

 

「どういうこと?」

『彼女が来たのは、XDUの世界だ』

「片翼世界ってこと?」

 

片翼世界。

片翼の奏者、というXDU内のイベントがあって、そこの舞台になった世界のことだ。

片翼世界、一番の違いは2041年のライブで死んだのが奏さんじゃなくて翼さんだと言うこと。

そして、そんな奏さんが原典世界からやってきた翼さんや響ちゃんと出会って……、というのが片翼の奏者のあらすじ。

あとはアダムがキレイだったりするけれど、それは置いといて。

 

『いや、片翼世界ではない』

 

だがサイコロ神は否定した。

 

「エッ、じゃあどこ?」

『XDUの世界。今貴公が今出した原典世界によく似たからだ』

「……XDUの世界と原典世界って違うの?」

『しかり。

あの天羽奏は原典世界によく似たXDU世界から来た。

原典世界とXDU世界はギャラルホルンの有無だ。それ以外は変わらぬ。

フィーネが月を壊し、ウェル博士がフロンティアを浮上させ、キャロルが世界を分解しようとし、アダムが神の力を手に入れようとし、そしてシェム・ハが蘇った世界。

だが、ギャラルホルンの有る世界。それがXDUの世界だ』

「ほえー」

『あと、小日向未来が正規の装者になってるのも違いか』

「ああ、そっか。そこも違うのね」

『ああ。

話を戻そう。

天羽奏は、そのXDU世界から来た。

つまり……』

 

サイコロ神は残酷な事実を伝えた。

 

『彼女は2041年のライブで死亡する』

 




この世界と原典世界(XDUの世界)、一番の違いは翼さんの出生。
原典世界じゃ翼さんは八紘さんじゃなく、じいじの娘だけど、この世界、訃堂じいじがキレイだから息子の嫁寝取ったりしてないのよね。
だから、この世界の翼さんは八紘さんの実子です。
だからアメノハバキリの適合率が低いんですね。

次回はサイコロ振ったり戦闘したり出来たらいいなぁ。
ほな、また……。


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第六十六話 平行世界からの訪問者③


メックヴァラヌスVSノーブルレッド始まりましたね。
私はまだストーリー全部見れてませんが、ノーブルレッドの三人が出てくるイベントはもっと見たいゾ。
それはそれとして。
言わせてください。

モコモコ衣装のエルザちゃんカワイイ!
モルガンみたいな格好のミラアルク、セクシー! エロい!
ヴァネッサお姉ちゃんは、そのお腹のキャノンどうやって格納してるの!?




 

 

 

カルマノイズ2体と接敵し、平行世界の奏さんと協力体勢を結んだ次の日。

俺と奏さんは模擬戦を行うことになった。

俺と奏さんが連携を取るためにも、お互いの戦い方を知っておいたほうが良いとの、訃堂じいじのお言葉であった。

 

「平行世界の装者の実力、見せてもらいますよ」

「こっちだって負けないぞ、一鳴!」

 

俺はアームドギア戦輪を構えて、奏さんはアームドギア槍を頭の上で振り回す。

 

「行きますッ!」

「来いッ!」

 

俺は戦輪の刃を高速回転させながら吶喊し、奏さんもまた槍を中段に構えて迎撃体勢を取る。

戦輪と槍がぶつかり、火花が散った。

 

 

 

一鳴くんVS奏さん【1D10】

 

一鳴【4】+5+3(???補正)+3(???補正)

奏【10】+5(LiNKER補正)

 

 

 

戦輪を振り下ろす。

槍で受け止められる。

火花が散る。

槍による刺突。

戦輪で受け流す。

火花が散る。

 

奏さんは強い。

攻撃が鋭く、重い。

少しでも弾き方を間違えたら、即御陀仏である。

だが、俺もシンフォギア装者。

キャロルちゃんや訃堂司令に鍛えられた装者なのである。

 

「イヤーッ!」

「疾ッ!」

 

刃が高速回転し、バズソーのようになった戦輪で思い切り攻撃する。

が、素早く槍で受け止められる。

だが、これを待っていたのだ。

 

「炎よッ!」

 

高速回転する刃の間から炎が吹き上がる。

そして、槍に纏わり付く。

穂先から、柄。

柄から持ち手に向かって。

 

「させるかッ!」

 

奏さんがそう言うと、槍の穂先が高速回転。

回転がエネルギーを生み、炎を消すと同時に戦輪を弾き飛ばす。

戦輪を弾き飛ばされた反発を利用し、後方に跳んで奏さんと距離を取る。

奏さんはクルクルと槍を回転させた後に中段構え。

 

さて、どう攻めようか。

そう考えていると。

 

「二人とも、そこまでよ」

 

と、了子さんの声。

同時に、シミュレーションルームの戦闘プログラムが終了する。

 

「えー。了子さん、まだ決着着いてないんだけど」

 

奏さんが抗議の声。

俺も、まだ戦いたいのだけれどね。

 

「またカルマノイズも出てくるかもしれないし、ダメよー」

「あー、そっか」

 

奏さんは納得した。

カルマノイズ、普通のノイズと違ってクッソ強いからね。ある程度の余裕は必要ね。

 

「それにしても、スゴイな。【身体に優しいLiNKER】」

 

奏さんが肩を回しながら言う。

 

「いつもより、うんと力が出た」

「そうでしょうそうでしょう!」

 

オペレーションルームからウェル博士の声。

了子さんと一緒に見てたのである。

 

「僕が作ったLiNKERを、さらに貴女に合わせて成分配合を変えましたからねッ。既存のLiNKERと違いますよッ!」

「そうね。適合率は一鳴くんがダントツで上だけれど、戦闘力は互角だったわね」

 

と、了子さん。

その言葉に奏さんが頷く。

 

「うん、あたしも絶好調だった。それについてくる一鳴も凄いけどな」

「一鳴くん最近調子良いのよね」

 

ニヤニヤと了子さん。

くっそぅ面白がってやがるぅ。

 

「へぇ? なにかあるのかい?」

 

そんな了子さんの様子を見て、何かあると見抜いたらしい奏さんである。

ウェル博士が問いかける。

 

「時に奏さん。シンフォギアの適合に必要なものは一体何かわかりますか?」

「え……。うーん……強い、感情じゃないか?」

 

奏さんはノイズへの憎悪から装者となった。

故に適合に必要なのは強い感情だと答えたのであった。

 

「それもまた一つです。でも、一番に必要なのは違います」

「なら、答えは?」

「愛、ですよッ!」

「あ、愛……!?」

 

ウェル博士の剣幕に後ずさる奏さん。

 

「もう少し詳しく言うとね、奏ちゃん」

 

目元を抑えた了子さん。

 

「激情、強い感情が聖遺物との適合に必要なのは確かね。貴女の憎悪もそう。でも、一番適してるのは、愛。

 誰かを慈しみ、そして渇望する感情。その時、脳が分泌する化学物質や電気信号が一番聖遺物と適合するのよ」

「そっか……。愛、か。で、一鳴が強いのは愛が強いからってか?」

「そうよー」

 

ニヤニヤと笑う了子さん。

 

「ねぇ、この前カノジョとイイコトしたものね?」

「ヌゥー!」

 

面白がるような了子さんの言葉に呻く。

了子さんの言っている事は正しいのだ。

マリアさんとセレナちゃん。

二人の恋人と深く愛し合ってから。

シンフォギアがよく馴染むのだ。

戦輪の刃はよく回り、炎は熱く燃え盛り。

装甲各所のスラスターは出力が向上した。

セックスしたら強くなるのシンフォギア……?

エロじゃん。

 

「え、一鳴まだ中学生だろ……?」

「……。まぁー、そっすね」

「それで、その。……経験済み?」

 

顔を真っ赤にする奏さん。

やっぱりそこは乙女なのねん。

 

「まぁー、そっすね」

「し・か・も、恋人、三人も居るのよね」

「え゛、三人!?」

 

そら、驚くわね。

了子さんはニヤニヤしてるし。

 

「その内二人とよねー、セックスしたの」

 

奏さんと違って恥じらい捨ててるわね了子さん。

 

「なにか言った?」

 

了子さんの瞳が金色に変わる。

フィーネ出さないで(恐怖)

とまあ、仲良く話してると。

警告音がシミュレーションルームに響き渡る。

 

「何がありました?」

 

素早くウェル博士が通信を繋ぐ。

 

「街にノイズが現れました。黒いノイズ───カルマノイズも!」

 

通信に出た藤尭さんが伝える。

 

「奏さんッ!」

「ああ、一鳴ッ!」

 

俺と奏さんは頷き合う。

仕事の時間である。

 

 

 

 

 

 

ノイズ規模【1D10】

 

結果、【5】00体

 

 

 

人々が逃げ惑う。

街に現れた極彩色の災厄が、人々を恐怖に叩き落とす。

突如として現れた500体ものノイズは、人々を灰にせんと横行跋扈する。

その先頭に黒いノイズ。

人型の、カルマノイズだ。

カルマノイズもまた、人を灰にする。

だが、通常ノイズと違い、人を炭素変換させると共に自らも炭素変換したりはしない。

存在し続ける限り、人々を殺し続ける。

 

人々が逃げ惑う。

買い物に来ていたのだろうか、母が子の手を引いて走る。

後ろに迫る、黒と極彩色の災厄。

少しずつ、少しずつ距離が縮められる。

焦りからか。

子どもが転ぶ。

子どもの名前を呼ぶ母。

お母さん、と叫ぶ子ども。

その子どもに、カルマノイズの手が触れようとしたとき。

 

「させるかァ!!」

 

奏さんのアームドギアがカルマノイズの手に突き刺さる。

後退するカルマノイズ。

 

「キミ、大丈夫かい。さ、早くお母さんと逃げるんだよ」

 

その間に母子は逃がそうね。

俺の言葉を聞いて、母親は子どもを抱きかかえて逃げていく。

 

「一鳴、合わせるぞッ」

「了解でっす」

 

即席のユニゾン、奏さんの槍と俺の戦輪を合わせるのだ。

俺と奏さんが武器を向けると同時に、ノイズたちが大波となってカルマノイズと共に俺たちを飲み込もうとする……。

 

 

 

一鳴&奏VSノイズ軍団【1D10】

 

一鳴【6】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

奏【1】+5(身体に優しいLiNKER補正)

 

カルマノイズ【10】

ノイズ軍団【4】+5(数補正)

 

 

 

STARDUST∞FOTON

 

 

 

奏さんがアームドギアを投擲。

アームドギアはエネルギーによる分身を生成し、ノイズによる大波を穿ちゆく。

 

 

 

燎原火(りょうげんび)(くれない)

 

 

 

俺はアームドギア戦輪を高速回転させ、炎を燃え盛らせる。

溢れた炎は天を覆い大地を焼き、ノイズの大波を滅却する。

そして、その炎で俺たちとカルマノイズを囲う。

 

「これで逃げ場も余計なちゃちゃ入れも無しだッ」

 

炎は円形の壁となり、カルマノイズを逃さない陣となった。

あとは一気に倒すだけよ!

 

「奏さんッ!」

「ああッ!」

 

俺と奏さんがカルマノイズを挟むように立つ。

俺はアームドギア戦輪を背負って突撃。

奏さんはアームドギア槍を構えて突撃。

カルマノイズは迎え撃つつもりのようだ。

 

俺と奏さんは一気にカルマノイズと距離を詰め、奏さんは槍で貫き、俺は戦輪を叩きつけた。

 

 

 

双陽・TWIN∞IMPACT

 

 

 

戦輪と槍、2つの攻撃を手で受け止めるカルマノイズ。

だが、その手は熱で焼け崩れ、槍の一撃で弾けていく。

そして───

 

「「いっけぇぇぇぇぇッ!!」」

 

カルマノイズ本体に攻撃が届く。

熱と槍のエネルギーがカルマノイズを破壊していく。

灰になるカルマノイズ。

カルマノイズは消滅した。

 

「か、勝った……ッ」

 

奏さんが膝をつく。

俺は駆け寄り、肩を支えた。

 

「大丈夫ですか!?」

「あ、ああ。少し力が抜けただけさ」

 

奏さんは俺から離れた。

 

「よし、残りのノイズも倒そう!」

 

数えるほどしか居なくなったノイズ。

それらはすぐに消滅させられた。

是非もないよネ。

 

 

 

 

 

 

残るカルマノイズはあと一体。

無印シンフォギアで、響ちゃんと未来ちゃんが仲直りする回に出てくる、音に反応するタコめいたノイズのカルマノイズ版である。

今回は出てこなかったが……。

 

それはそれとして。

奏さんの事である。

 

『彼女は2041年のライブで死亡する』

 

サイコロ神に言われたこの言葉。

彼女はシンフォギア原典と極めて近い世界から来た装者である。

故に、ライブで死亡し響ちゃんにガングニールを遺すのだが……。

一緒に戦う中で知らぬ仲では無くなった。

死なせたくない、そう思った。

だが、そのライブ当日に助けに行こうにも現状ギャラルホルンは見つかっておらず、平行世界へ行く手段もなし。

 

ならば他の手段を用いるまでである。

俺が助けに行けなくても、奏さんを助けるモノがあればいいのだ。

 

「ウェル博士、ちょっと作って欲しいものがあるのですけれど」





ナチュラルに10出す奏さんとカルマノイズ怖いなぁ!
次回投稿までにメックヴァラヌスVSノーブルレッド、終わらせてエロいミラアルクちゃん完凸しないとネ。


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第六十七話 平行世界からの訪問者④


ゴールデンウィーク、俺を置いてどこに行くの……。
あんなに一緒だったのに……。
夕暮れにはもう違う色なの……。
行かないで、ゴールデンウィーク。
もっと俺に休みを頂戴。
そんな感じで六十七話です。



 

「一鳴、明日デートに行かないか?」

 

カルマノイズに対する為の訓練のあと、奏さんにそう誘われた。

 

「美人の誘いは断らない俺ですが、どこか行きたい所があるんです?」

「うん、まぁな。……少し、聞いてほしい事があってな」

 

そう言う奏さんは、どこか思いつめた顔であった。

そんな訳でデートに行くことになった。

 

そんな訳で翌日。

 

「おまたせしました、奏さん」

「いや。ごめんな、無理言って」

「いいですよー。奏さんとデート出来るならこれくらい」

「そんなキザなセリフ言って、彼女三人作ったのかー?」

「ノーコメントで」

 

むしろ向こうからガンガンいこうぜで俺を落としに来たのだけれど。

まあそれはそれとして。

奏さんとデートである。

デート、というよりは甘い雰囲気はさほど無いのだけれど。

 

「……やっぱりな」

 

街を歩きながら、奏さんがそう呟く。

 

「何がです?」

「あたしの世界と、こっちの世界。あまり変わらないなって」

 

ほら、と奏さんが指をさす。

ケーキ屋さんだ。

 

「あのケーキ屋、あたしの世界にもある。あのゲーセンも、あの雑居ビルも」

「平行世界でも、そんなに変化はないんですね」

「だな。……でも」

 

奏さんは寂しそうな顔をした。

 

「こっちのあたしの家族は、ちゃんと生きてるんだよな」

「そうですね……」

 

奏さんの家族、父親と母親と妹。

その3人は、ノイズに殺された。

皆神山の発掘チームだった両親とついてきた奏さんと妹さんは、神獣鏡目当てだったフィーネが呼び出したノイズに襲われた。

そして生き残ったのは、奏さんだけだった。

 

だが、この世界では。

フィーネの正体が早々にバレたので、皆神山の発掘が邪魔されず、結果奏さんの家族は全員生存しているのであった。

 

「それだけじゃない。翼のお父さんもさ、翼のライブを見に行くような人間じゃなかったよ」

 

それは、最初にカルマノイズが襲撃してきたライブの事を言っているのだろう。

ツヴァイウィングのライブを応援していた八紘さんを、視認したのだろうか。

 

まあ、この世界訃堂じいじがマトモだから、翼さんが八紘さんの実の子だし。

 

「まるで、あたしの世界が間違ってるようじゃないか……ッ」

 

奏さんが絞り出すように、言う。

それは、怒りと悔しさなのだろうか。

方や家族が死に、あるいは距離があり。

方や家族が生きていて、娘を堂々と応援している。

どちらが光でどちらが影か。

そう、奏さんが悩むのも仕方ないか。

 

「なぁ、あたしたちはどこかで間違えたのかな……」

「それは、違うと思います」

 

だから俺は毅然と言った。

 

「こっちの世界もろくでもないですよ。オリュンポス十二神蘇ったし。神霊名乗る奴らが暗躍してますし」

 

オリュンポス十二神については俺のせいかもしれないけれどもネ……。

でも転生前の運命ガチャだし、ノーカウントだノーカウント!

神霊はマジで知らぬい……。

ツァバトとか原作出てないよ。

 

「それにオリュンポスと欧州の戦争でたくさん人が死んでます。人類全体で見たら、こっちが間違ってますよ」

 

少なくとも、奏さんが来た世界ではオリュンポス十二神による欧州支配はされてない。

アメリカはパーフェクトソルジャーなんて作ってないし、ツァバトによる市街地の襲撃なんて起こってない。

人が、死んでいない。

逆に言えば。

こっちは、余計に人が死んでいる。

人口を人類全体の発展と利益として見るならば、こちらは劣っているのだ。

例えそれが、死ぬはずだった人が生きているとしても……。

代わりに別の誰かが死んでいるのだ。

……ドライな考え方だけれどね。

 

「それは、そうかもだけどさ……」

 

奏さんは納得出来ない様子。

 

「……そこでお茶しながら、話をしましょう」

 

俺は、喫茶店を指差す。

奏さんは頷き、ついてくる。

俺たちは喫茶店に入り、席に座る。

俺も奏さんも、アイスコーヒーを注文した。

 

「奏さんは、こっちの世界が正しい世界で、そっちの世界が何かを間違えた世界だと思ってるんですよね」

「ああ……」

 

運ばれてきたコーヒーを一口飲む。

 

「じゃあ奏さんは、こっちの奏さんとして生きられるってなったら、どうします?」

「え?」

「ご両親と妹さんの生きている『天羽奏』として生きられるなら? 奏さんはどうします? ツヴァイウィングもあるので翼さんと一緒に歌えますよ?」

「……それは」

「悩む話ですか?」

「そりゃそうだろ。あっちにも、あたしの友だちもいるし。翼だっている」

「こちらが正しい世界なのに?」

「……あぁ、そうだな」

「それが答えでしょ」

 

コーヒーをグビッと飲む。

奏さんはコーヒーに手を付けてない。

 

「奏さんにとっては、こっちが正しい世界に見える。でも、奏さんはこっちよりも、そっちの世界の方が大切なんですよ。だから、悩んでるじゃないです? 自分の大切な世界が、間違ってるように見えるから」

「……そう、だ。あたしは」

 

奏さんは絞り出すように語りだした。

 

「あたしにとっては、あの世界は家族を奪って、翼も一人ぼっちで、ひどい世界だ。でも、あの世界でも、帰りを待ってる人がいるんだ。一緒に歌える翼がいるんだ……!」

「なら、それで良いんでしょう。自分の帰りを待ってくれている人が居るのが一番の幸せですよ。そこに世界の正誤は関係ないです」

「そっか、そうだな。……そうだな」

 

奏さんはコーヒーを一気飲みした。

その表情は、どこかスッキリとしていた。

 

「ありがとな一鳴。ぐちぐちして、辛気臭かっただろ」

「いいえ、こちらこそ若造が好き勝手言っちゃいました」

「でも、ありがとな」

 

若造云々言ったけど、前世含めて奏さんの倍以上生きてるけどね。

でも、偉そうに説教垂れるような人生は送ってない。

特に女性関係でね……(震え声)

だから、俺の言葉に怒るかと思ったけれど、納得してくれて良かった。

 

「あ」

 

と、奏さん。

窓の外を見ながら口を開いた。

 

「どうしました」

「あれ」

 

そう言って示したのは、町中にあるホログラム投射機である。

様々なCM映像をホログラムで映し出す装置である。

なんやかんやで2040年。

ああ言った近未来感溢れる装置があるのだ。

 

「ツヴァイウィング、この近くでライブやってるんだな」

 

ホログラム投射機が、翼さんと奏さんの歌う映像を投射する。

投射しているのは、この近くの小さな劇場で行われているライブの映像だ。

 

「押しも押されぬ人気アイドルですからねぇ」

 

新進気鋭のツヴァイウィングは人気急上昇である。

だからこそ、積極的にライブを行っている。

未来ちゃんも密かに応援してるしね。

逆に響ちゃんはあまり興味なし。

未来ちゃんが如何にして響ちゃんをツヴァイウィング沼に落とそうかと画策しているが。

 

「奏さんは、そっちのツヴァイウィングのライブは良いんです?」

「こっちは装者と二足のわらじだからなぁ。あまり積極的にライブは出来ないんだ」

「あらら」

「その代わり一曲一曲魂込めて歌ってるけどさ」

 

ニカッと笑う奏さん。

 

「そっちのツヴァイウィングのライブも、聞きたいですねぇ」

「ギャラルホルンが見つかったらさ、聞きに来てくれよ。一鳴なら大歓迎さ!」

 

やったぜ。

そんな会話をしていると。

ホログラム映像が乱れる。

 

「ん?」

「お?」

 

そして、ホログラム映像が停止する。

と、同時に二課から通信が入る。

イヤな予感がする。

カルマノイズは、人の集まる所に現れるよね……。

 

「こちら一鳴です」

「緊急事態だ。奏も一緒だな?」

 

通信してきたのは弦十郎さん。

その声は張り詰めている。

 

「ツヴァイウィングのライブ会場で何かありました?」

「ああ。ライブ中にカルマノイズが出現した!」

「……ッ! すぐに向かいます!」

「頼む……ッ!」

 

俺は通信を切った。

 

「奏さんッ!」

「わかってるッ! 急ぐぞッ!!」

 

俺と奏さんはライブ会場に向った。

会計?

テーブルに1万置いていったよ。

緊急事態だものね。

釣りとか貰ってる場合じゃないよ。

 

 

 

 

 

 

ひびみくライブ会場にいるかしら?【1D10】

 

1 未来ちゃんが!

2 いないよ

3 いないよ

4 未来ちゃんが!

5 いないよ

6 いないよ

7 いないよ

8 いないよ

9 未来ちゃんが!

10 響ちゃんと未来ちゃんが!

 

結果【4】

 

 

 

ライブ会場の被害【1D10】

 

1 緒川さん負傷!

2 ニンジャのワザマエで被害ゼロ

3 ニンジャのワザマエで被害ゼロ

4 緒川さん負傷!

5 ニンジャのワザマエで被害ゼロ

6 ニンジャのワザマエで被害ゼロ

7 ニンジャのワザマエで被害ゼロ

8 ニンジャのワザマエで被害ゼロ

9 観客の【2D10】%が被害に……

10 カルマノイズのせいで観客が暴徒と化した!

 

結果【1】

 

 

 

ライブ会場は小さな劇場であり、そのライブはファンクラブ会員限定のライブであった。

観客は百人ほど。

そのライブ会場に、カルマノイズが出現した。

カルマノイズは近場の人を灰燼に帰そうとするも、緒川さんの影縫いで動きを止められた。

 

その隙に観客を逃がそうとするも、すぐに影縫いを解除したカルマノイズがその触腕を伸ばす。

緒川さんは、その触腕を回避し続けた。

だが、カルマノイズの触腕が、一人の観客に狙いを変えた。

それは一人の少女。

その少女を殺そうと伸びた触腕、一瞬実体化したその隙に、緒川さんが触腕をクナイで弾く。

だが、カルマノイズは。

弾かれた触腕とは別の、他の触腕で緒川さんを狙う。

その数、3本。

緒川さんは素早く少女を抱えて回避行動に入るが、触腕が弾き飛ばした座席に直撃。

少女を遠くに放り投げる。

だが、緒川さんは。

背中を強打!

すぐには動けない。

 

「緒川さんッ!」

「翼、ダメだッ!」

 

ステージの上、翼さんが叫びながら緒川さんを助けようとステージを降りようとするが、奏さんに止められる。

カルマノイズは緒川さんを仕留める為に触腕を振り下ろす。

だが。

 

劇場の天井から赤銅色の戦輪が炎を纏わせながら飛び出し、触腕を弾く。

戦輪は無論、俺が投げた物!

 

「緒川さん生きてるッ!?」

 

俺は天井から跳躍して、緒川さんの側に降り立つ。

 

「はい……ありがとうございます一鳴さん」

「お礼は良いので、彼女たちをステージから下げて下さいな。【彼女】がステージに上がれないので」

 

俺の言葉を察したのか、緒川さんは頷くと煙と共に姿を消す。

と、思ったらステージの上に現れる。

ワザマエ!

 

「翼さん、奏さん。ここから避難を」

「緒川さんッ! 無事でしたか」

「はい。さ、早く」

 

緒川さんは翼さんと奏さんを連れてステージの裾に消えた。

 

さてと。

俺は後ろをチラリと見る。

緒川さんが助けた少女を。

黒い髪に大きな白いリボンの少女。

未来ちゃんである。

ライブに来てたのね。

てかファンクラブ入ってたのね。

 

「ナルくん……」

「ん、大丈夫」

 

俺の言葉に安堵する未来ちゃん。

側にいた女性客に連れられて、避難していく。

 

さて。

ツヴァイウィングはもう居ない。

観客もみんな避難した。

だから、もう現れても大丈夫だ。

 

「奏さんッ!」

「ああッ!」

 

現れたのは奏さん。

シンフォギア装者の奏さんだ。

 

「さあ、ラストバトルです!」

「ああッ! いくぞ一鳴ッ!」

 

その言葉を合図に、カルマノイズが触腕を伸ばした。

 

 

 

一鳴&奏VSカルマノイズ【1D10】

 

一鳴【5】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

奏【3】+5(身体に優しいLiNKER補正)

 

カルマノイズ【2】

 

 

 

双陽・TWIN∞IMPACT

 

戦輪の一撃と槍の一撃を叩き込む。

槍の一撃でカルマノイズの身体にヒビが入り、戦輪の炎がヒビを焼く。

 

カルマノイズは消滅した。

ユニゾンするとカルマノイズも楽に倒せるね。

 

「お疲れ様でした」

「ああ、お疲れ一鳴」

 

そう、奏さんと言い合う。

これでカルマノイズはすべて倒された。

これで、奏さんとはお別れね……。

ウェル博士に頼んでた()()、ちゃんと出来たかな。

 

そんな事を考えていると。

 

「待ってくれ!」

 

ステージから声。

そこには、アイドル衣装を纏った奏さん。

 

「あ……」

「……」

 

こっちの世界の奏さんと、平行世界の奏さんが見つめ合う。

 

「アンタ、何者だッ!」

 

こっちの世界の奏さんが言う。

 

「この前のライブの時も、ノイズと戦ってたよな!?」

 

こっちの世界の奏さん、この前の戦闘見てたんだね……。

 

「わかるんだ、……わかるんだ! あたしと同じ顔で、あたしと違ってノイズと戦ってるアンタがッ! あたしと一緒なんだって! あたしなんだって!」

「…………」

 

平行世界の奏さんは黙ったままだ。

 

「だから、わからないんだッ! アンタは何者なんだよ。本当に、あたしなのか……ッ!?」

「あたしは」

 

平行世界の奏さんが口を開いた。

 

「あたしは、平行世界から来たんだ」

「平行、世界……?」

「ああ、何かが違う世界。どこか違う世界。あたしは、ノイズと戦う事を選んだあたしなんだよ」

「ノイズと……」

「なぁ、あたし」

「なんだよ」

「父さんと母さんと、妹は元気か?」

「……ああ」

 

こっちの世界の奏さんの言葉を聞いて、奏さんは静かに微笑んだ。

 

「そっか、ならいい」

「なぁ、そっちのあたしの、家族は……」

 

平行世界の奏さんは首を横に振った。

 

「なぁ、あたし」

「……なんだよ」

「アイドル、頑張れよな」

「……ああ、勿論だ! そっちも、頑張れよ!」

 

こっちの世界の奏さんの言葉を聞いて、平行世界の奏さんは一つ頷く。

そして、こちらを向いた。

 

「帰ろう、一鳴」

「良いんです?」

 

俺はこっちの世界の奏さんをチラリと見た。

 

「いいさ。これ以上はな」

「そうですか。わかりました」

 

俺は平行世界の奏さんを見る。

本当に、同じ顔の、同一人物。

でも、こっちの奏さんは顔や髪に埃が着いている。

それでもこの平行世界の奏さんは、美しく見えた。

 

「帰りましょうか、奏さん」

 

 

 

 

 

 

次の日。

カルマノイズをすべて倒したので、奏さんは平行世界に帰る事になった。

その前に、二課に挨拶に来た。

 

「短い間、お世話になりました」

 

奏さんは頭を下げた。

 

「こちらこそ、貴重な平行世界の装者のデータが取れたわ」

 

ホクホク顔の了子さん。

 

「そっちの俺によろしくな」

 

奏さんと握手をする弦十郎さん。

 

「ツヴァイウィングが2度も世話になった。ありがとう」

 

弦十郎さん同様に、奏さんと握手をする八紘さん。

 

「奏さん、これをあげますよ」

 

ウェル博士が10cm程度の小さな瓶を渡す。

中には緑色の液体。

 

「これは……LiNKERか?」

「はいッ! 短時間用のLiNKER投与装置です」

「へぇ、ありがとな。でも、なんでコレを?」

 

と、奏さんが問う。

 

「僕は一鳴くんに頼まれて作ったので」

「一鳴が?」

 

俺を見る奏さん。

 

「奏さん、LiNKER使わないと装者になれないんですよね。だから、いざ言うときの為に必要かなって」

 

そう。ウェル博士に作ってもらった、この小型LiNKER投与装置は、奏さんのいざという時の為の秘密兵器である。

2041年の、ライブの惨劇を回避する為の秘密兵器なのだ。

 

あのライブの惨劇の原因、原作で奏さんが死んだ原因は、絶唱による負荷のバックファイアを一身に受けた為である。

ライブの裏で進められた、ネフシュタンの鎧の起動実験、その実験のデータ採取に不確定要素(ガーベッジ)が混入しないように、奏さんはLiNKERを断っていたのだ。

そんな、適合率が低下した中で絶唱したので、負荷を一身に受けて死亡したのだ。

 

ならば、逆に。

適合率が上がっているなら絶唱で死ぬことはないはずだ。

故に、小型LiNKER投与装置である。

常に持ち運び出来るLiNKERがあるならば、ライブ中でも持ち運び出来るLiNKERがあるならば。

それを使って、絶唱の負荷を和らげることが出来るはずだ。

 

そんな訳でウェル博士に小型LiNKER投与装置の作成を依頼していたのだ。

 

「そっか、ありがとな一鳴」

 

ニカッと笑う奏さん。

うーん、笑顔が似合うお姉さんだ。

 

「奏ちゃんや」

 

訃堂司令である。

 

「あ、爺様」

「寂しくなるのぉ。ずっとこっちに残らぬか? その間に向こうのワシ殺しとくし」

「そ、それはいいかなぁ!」

 

奏さんが引いていた。

殺意がヤバイヤバイ。

キレイな訃堂じいじ的に外道訃堂は許されないらしい。

 

「向こうで待ってる人がいるからさ」

「そうか、じゃあ仕方ないの」

 

訃堂司令が懐から手紙を取り出す。

 

「コレを、向こうの弦十郎に渡しておいてくれぬか」

「いいけど、コレは?」

「次に奏ちゃんや翼を捨て駒にするような事があれば、ウチの装者をヒットマンとして送り込むぞ、という脅しじゃな」

「お、おう……」

 

奏さんの顔がヒクつく。

 

「あとはまあ、激励とか色々じゃな」

「そっちメインでいいんじゃないかなぁ」

 

俺もそう思うよ奏さん……。

 

「うん。まぁ、とにかく渡しとくよ」

「頼むぞ」

 

そうして。

奏さんは平行世界に帰っていった。

次に会えるのは、いつになることやら。

でもまあ。

次に会うと時も。

笑顔で会えたら、そう思った。

 

 





長いような短いような、平行世界の装者編プレリュード、これで終わりです。
奏さんは生きて会えるのか、それはまた次回の平行世界編で。
次回はいつかって?
そんな先のことはわからない(ボトムズ感)

あと今回のダイスで、翼さんの緒川に対する好感度と、未来さんの一鳴くんへの好感度がぐーんと上がりました。
つまりどういう事か?
おがつばと、なるみくに近づきました。
やったぜ。

それと次回はクリスちゃん編。
女神転生のアイドルであるあの子も出ます。
お楽しみにね。


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第六十八話 屍人の国のアリス


シンフォギアの曲が聞きたい。
でも作者の音楽プレーヤーは、YouTubeミュージックでお排泄物プレーヤーですの。
読者の中でオススメの音楽アプリを知ってる方はメッセージボックスに打ち込んでくださいまし!
YouTubeミュージックでは、撃槍ガングニールを聴けないの!



 

 

南米。

バルベルデ共和国。

軍事政権と、市民による反政府組織による内戦が頻発している不安定なその国の、とある村。

ジャングルに囲まれたその村は、反政府組織の支援者たちの暮らす村であった。

だが、その村の在り処を突き止めた政府軍との戦闘が勃発したのだ。

それが、つい2時間前の事。

 

だが、その村は。

不気味な程に静かだった。

生存者が、誰も居なかった。

戦闘が終わったのか?

確かに終わった。

第三者による介入で。

 

「〜♪ 〜〜♪」

 

その、生存者の居ない村に、歌声。

歌っているのは、一人の少女だ。

小学校低学年程の、少女。

金色の髪に、青い瞳。

白い肌。

青いエプロンドレスを着ている。

 

その少女と手を繋ぐ、二人の男女。

二人共、三十代程だろうか。

顔立ちが整っており、品を感じさせる。

男性の方は七三分けの髪と顎髭を生やしている。

女性の方は豊かな銀色の髪を、夜風にたなびかせている。

そして、二人の目はどちらも光を写していなかった。

 

彼ら三人は、既に死亡している。

死者でありながら立ち、そして歌っている。

 

「もう、雅律パパもソネットママもちゃんと歌って!」

 

と、少女が咎めるような口ぶりだ。

 

「あ、う……」

「うぁ……」

 

パパ、ママと呼ばれた雅律とソネットはただ呻くように話す。

 

「鎮魂曲よ、レクイエム。ここで死んだ人のためのね」

 

鎮魂曲。

少女は鎮魂曲を歌っていたのだ。

ここで死んだ人のための。

政府軍と、反政府組織の為の。

少女の保護者が、皆殺しにした者たちへの為の。

 

その、保護者が帰ってきた。

 

「アリス、ただいま」

「いい子にしていたかなアリス?」

 

少女をアリスと呼んだのは禿頭の赤スーツの男と、痩せた黒スーツの男である。

彼らが、政府軍と反政府組織を皆殺しにした少女の保護者である。

 

「赤おじさん、黒おじさん! おかえりなさい」

「雅律やソネットといい子にしていたかね?」

 

と、赤スーツの男こと赤おじさんが聞く。

アリスは口を尖らせた。

 

「赤おじさん聞いて! 雅律パパもソネットママも歌ってくれないの! アリスはパパとママと一緒に歌いたいのに」

「おやおやそれは。男爵、どうなっている」

 

赤おじさんは黒おじさんを見る。

その黒おじさん、黒男爵は雅律とソネットをしげしげと見る。

バルベルデの地で死した、雅律とソネットを蘇らせたのは黒男爵なのだ。

 

「ふむ……。仮の肉体と魂は確かに接続されている」

「ならばなぜ歌わぬ」

「……アリスへの命令遵守が、うまく働いていない。……なるほど、実の娘への愛が阻害しているな」

 

雅律とソネットの頭に触りながら、黒男爵がそう言う。

 

「直りそうか?」

「難しいな、赤伯爵よ」

 

黒男爵は、そう赤おじさんこと赤伯爵に言った。

 

「愛とは頑なで、そして中々思い通りにいかないものだ」

「実の娘への愛、それほど深いか」

「赤おじさん、黒おじさん?」

 

アリスが二人に聞く。

 

「雅律パパとソネットママ、歌える?」

「……ああ、これならいけるか」

「黒男爵よ、どうするのだ?」

「簡単な事だ。彼らの娘も、アリスの家族に加える」

「なるほど、実の娘の括りに、アリスを入れるか」

 

黒男爵は、アリスに目線を合わせた。

 

「私達の可愛いアリスや、お姉ちゃんは欲しくないかい?」

「お姉ちゃん!? 欲しいわ!!」

「なら、お姉ちゃんを迎えに行こうか」

「わーい! お姉ちゃんはどこにいるの?」

「日本だよ、アリス。雪音クリス、という女の子が君のお姉さんになるんだよ」

「クリス……、クリスお姉ちゃんね! 嬉しいわ!」

 

はしゃぐアリス。

それを見て、微笑む赤伯爵と黒男爵。

 

「ちょうど良いか、アメリカ政府からの追求がバルベルデにも伸びだしていたからな」

「ああ」

「だが、日本か。長旅だな」

「構わないだろう。船を手に入れる必要はあるが」

「ならばフェリーにしよう。小さな船など、アリスには相応しくない」

「乗客は、殺しても?」

「もちろん。殺してアリスの召使いにしよう」

 

そう話す赤伯爵と黒男爵。

だから気付かなかったのだろう。

雅律とソネットの目に涙が浮かんでいたのを……。

 

「クリス……」

「にげ、て」

 

 

 

 

 

 

2040年6月。

もうそろそろ梅雨入りだな、という頃。

俺は孤児院に来ていた。

弦十郎さんと共に、お菓子を持って。

 

「全員『礼』だッ! 弦十郎のオジキと一鳴の兄貴がお越しだッ!」

 

と、子どもたちに歓迎される。

全員、ピチッとお辞儀をしている。

 

「ナスターシャ院長、今度は何を見せたんです?」

「えぇ、少しジョジョの第5部をアニメで」

「なるほどぉ」

 

これは、あれじゃな。

ペリーコロさんがポルポの財産を受け取るついでにトリッシュを連れてきた所じゃな。

そこに感化されたかぁ……。

 

「あぁうん。全員楽にしてくれ……」

 

弦十郎さんの言葉を聞いて子どもたちもお辞儀を辞める。

弦十郎さんもどこか呆れ顔だ。

 

「はーい、お菓子持っていきなー」

 

俺がお菓子を渡してやる。

 

「ありがとうございます、オジキに兄貴!」

 

子どもたちから礼を言われる。

言われてるんだけどなぁ。

なぁ!

 

「ナスターシャ院長、次に来るまでに一部を見せてジョナサンの黄金の精神で、みんなを上書きしといてください」

「わかりました。……私は3部が好きなのですが」

「俺は7部ですねぇ!」

 

ジョニィとジャイロの関係性とか、馬とか好きなの。

キャッチ・ザ・レインボー戦が特に好きね……。

 

「俺はやはり4部が好きだが……」

 

と、弦十郎さんも話に入ろうとするが。

 

「一鳴さん、弦十郎さん」

 

と、声をかけられる。

声の主は調ちゃんだ。

側に切歌ちゃんとクリスちゃんもいる。

 

「相談があるんです」

「相談?」

 

なにやら相談があるらしい。

クリスちゃんが俺たちの前に出る。

 

「クリスちゃん何かあったの?」

「うん」

 

頷くクリスちゃん。

 

「クリス先輩、最近ずっと不思議な夢を見るんです」

 

と、調ちゃん。

 

「夢?」

「ただの夢、って言われたらそれまでだけどさ……」

「そんな事ないデス! 絶対大切な事デス!」

 

クリスちゃんの言葉を否定する切歌ちゃん。

なんだか、ただ事ではない。

俺は弦十郎さんと顔を見合わせた。

 

「クリスちゃん。詳しく教えて?」

 

 

 

 

 

 

話の発端は一週間ほど前。

夜。

クリスちゃんが眠っていると、夢を見た。

 

クリスちゃんは真っ暗闇の中にポツンと一人で居たという。

辺りを見渡していると、少し離れた所にぼんやりと人の姿が見えた。

目を凝らしてよく見ると、それは、バルベルデで死別したはずのクリスちゃんのご両親だったという。

 

「パパ! ママ!」

 

思わずクリスちゃんがそう叫ぶと、クリスちゃんのご両親は、

 

「クリス、早く逃げなさい」

「クリス、逃げて。ずっと遠くに」

 

と、そう言うのだという。

何から逃げれば、どこに逃げればいいのかわからないし、そもそも死んだと思っていた両親に会えたクリスちゃんは、ご両親に近付こうとした。

だが。

一歩、歩みを進めて、身体が動かなくなった。

ガタガタと、歯がなる。

鳥肌が立つ。

恐怖で震えた。

 

クリスちゃんのご両親、その背後に。

恐ろしい、怪物が見えたのだという。

炎と共にある、人の顔の赤い竜。

悪霊を従えた、死人のように青白い肌の男。

その怪物たちが、クリスちゃんと目を合わせようとして───

 

そして、目が覚めるのだという。

 

「それが、一週間ずっとなんだ……」

 

そう、クリスちゃんは言った。

孤児院の食堂、その隅の席で、俺たちは固まって話を聞いていた。

 

「そっか、クリスちゃんのご両親と、怪物が……」

 

その夢は辛いだろう。

死んだ両親が出てきて逃げろ、と伝えるのだ。

その後ろには怪物。

不安にもなる。

 

「死者の報せ、か」

「恐らくは」

 

話を聞いた弦十郎さんとナスターシャ院長がそう言った。

 

「それに、今日の夢は……」

 

クリスちゃんが口ごもる。

 

「何かあったの?」

 

と、聞くと。

 

「怪物が出てくるまでは一緒だったんだ」

 

両親の後ろに、怪物が現れる。

いつもなら、目が合う前に目が覚める。

だが、今日は。

そこで、怪物たちと目が合った。

人頭竜体の怪物と、死人のような怪物と。

二人の怪物は、厭らしく嗤い。

そして。

 

「見つけたぞ、雪音クリス」

「お前を連れて行くぞ、雪音クリス」

「お前の両親と共に行こう」

「お前を迎えに行こう」

「「我らの娘と共に!」」

 

と、言った。

そして、両親の泣く声と共に、目を覚ましたのだという。

 

「だから、今日相談したんだ」

 

俺と、弦十郎さんが来るから。

 

「弦十郎さん、ヤバくね?」

「ああ……」

 

弦十郎さんが冷や汗をかく。

それぐらいの、事態だ。

一週間ずっと見ていた同じ夢が、今日に限って違っていた。

それも、怪物が迎えに来るという形で。

 

「こういうのに詳しい了子さんやキャロルちゃんは?」

 

異端技術、夢のお告げや夢に出てきた怪物に詳しそうな二人の名を出すが……。

 

「二人は遭難船の調査だ。……ちょうど、テレビでやっているアレのな」

 

弦十郎さんの言葉の後、テレビを見る。

テレビでは、ニュースをやっていた。

ここ最近、巷を騒がしているニュースだ。

 

そのニュースの概要はこうだ。

北米─南米を航海していたフェリー、サンタモニカ号が何故か日本近海で発見された。

サンタモニカ号の中には乗客・乗員が一人も居らず、厨房では食事の用意がされていた。

食事は湯気が出ており、つい先程まで調理されているようであったという。

 

そんな事から、現代のメアリー・セレスト号事件と呼ばれている。

 

日本政府は、異端技術か聖遺物が関わっている可能性があるとして、二課に調査を依頼。

その依頼を受けて派遣されたのが了子さんとキャロルちゃんであった。

 

……南米から流れてきた船。

突如消えた乗客。

夢に現れたクリスちゃんのご両親。

クリスちゃんの夢と関係ありそうな事象である。

 

そう考えていると、弦十郎さんに電話が掛かってくる。

 

「了子くんからだ」

 

渡りに船、丁度良かった。

そう思ったのだが……。

 

「もしもし、俺だ。一体どうし───」

「弦十郎くん! 今、孤児院!?」

 

弦十郎さんの携帯から、了子さんの慌ただしい声。

 

「そうだが……どうした、何かあったのか?」

「サンタモニカ号の調査していたんだけれど、船長室で何枚かの写真が見つかったわ」

「写真?」

「ええ。その写真は全て、雪音クリスちゃんの写真よ!」

「なッ!?」

「バルベルデで救助された時の写真から、今年の写真まで。隠し撮りじゃないわ、異端技術で念写それたものよ!」

 

念写とは……。

 

「じゃあ船長が何かやらかしてそうって事ですか?」

 

弦十郎さんが携帯をスピーカーモードに切り替え、俺も了子さんに質問出来るようになった。

 

「船長、ではないわね」

 

と、了子さん。

 

「どういう事です?」

「船長は多分殺されてるわ」

「……はい?」

「この船、一見なにもないように見えるけど、船内全域からルミノール反応が検出されたわ」

 

ルミノール反応。

ようは血とルミノールが反応して光る事。

この反応は、血を拭き取ってもその跡が光るのだ。

それが、船内全域?

船内で、血の跡が発見されたという事か。

そしてそれはキレイに掃除されていた……?

 

「ええ、そうよ。犯人はね、乗員乗客を皆殺しにした後、この船で過ごしていたのよ」

「……その船、広いだろう」

「ええ、そうね」

「その掃除に、どれだけかかる」

「それは───」

「簡単なことだ」

 

第三者の声。

キャロルちゃんだ。

 

「キャロルちゃん!」

「一鳴、孤児院にいるんだな。いいか、いつでもシンフォギアを纏えるようにしておけ!」

 

キャロルちゃんが、声を荒げる。

それは、どこか慌てるような感じで。

 

「一鳴、敵は乗客乗員を皆殺しにした。だがな、その後、自分たちが殺した人間を操って掃除させたんだ!」

「は……え?」

 

殺した人間を操った?

 

「死霊魔術、ネクロマンシーだ。死霊と死体を操ったんだ。

その痕跡が見つかった。船内全域で、だ!

気をつけろ、ソイツはすでに日本に潜んで───」

 

突如、キャロルちゃんの声が途切れる。

ツーツーツー、と弦十郎さんの電話から聞こえる。

回線が切れたらしい。

 

「圏外になっている、だと……ッ!」

 

弦十郎さんが慄く。

俺も、自分のスマホを確認する。

圏外になっていた。

 

「テレビも、電波が届いていませんね」

 

と、ナスターシャ院長。

テレビの画面には、電波の受信が途切れた事を示すメッセージ。

 

「結界、ですね」

 

ナスターシャ院長が教えてくれた。

異端技術の一つであり、外界と内界を隔てる概念的な障壁だという。

大戦時のドイツは、【ディー・シュピネの結界】という神秘を用いていたとか。

 

「今回の結界も、似たようなもの。人の意識、思考、電波さえも遮るものですね」

「つまり、外界から隔離された密室と言う事ですね」

 

弦十郎さんの言葉に頷くナスターシャ院長。

つまり、敵は既に行動しているという事。

詰めに来ていると言う事。

 

 

「───── Sudarshan tron」

 

俺は聖詠を唄う。

赤銅色の装甲装着。

6つの花弁の如きスカートアーマー装着。

シンフォギア各所から漏れ出した炎が背中に集まり、光輪形成。

その光輪を手に取る。

光輪は物質化し、108の刃を持つ戦輪、チャクラムに変わる。

シンフォギア、装着完了。

 

キャロルちゃんの言葉を信じ、シンフォギアを即時展開した。

敵の攻撃は既に始まっているのだ。

 

「一鳴さん……」

 

調ちゃんが不安そうな顔。

 

「大丈夫。俺がいるから」

 

調ちゃんの頭を撫でる。

 

「みんなも、こっちに集まって!」

 

俺は食堂にいた子どもたちを呼ぶ。

ナスターシャ院長が、子どもたちを隅の壁際に集める。

俺と弦十郎さんがそんな子どもたちやナスターシャ院長の前に立ち、敵の攻撃に備える。

その時である。

 

「クスクスクス……」

 

と、少女の笑い声。

聞こえてきたのは前方。

誰も居ないはずの空間である。

その空間が歪み、一人の少女が現れる。

金色の髪と、青い瞳。

白い肌。

青いエプロンドレスを着ている。

 

「こんにちは、お兄ちゃん」

 

鈴がなるような声。

少女が、俺を見る。

 

「そんなに睨まないで。私はただ、クリスお姉ちゃんを迎えに来たのよ」

「あたし……?」

「ええ、そうよ」

 

クスクス笑う少女。

 

「私だけじゃないわ」

 

少女の後ろから、更に人が二人。

ふわふわと浮いて現れる。

それは、人形遣いに使われる人形のようであった。

 

「あ、……う、そ」

 

クリスちゃんが、その二人を見て震える。

二人共、三十代程だろうか。

顔立ちが整っており、品を感じさせる。

男性の方は七三分けの髪と顎髭を生やしている。

女性の方は豊かな銀色の髪を伸ばしている。

二人共、どこかクリスちゃんに似ていて。

そして、目に光を宿していなかった。

……もしかしなくても、そうなのだろう。

 

「パパ……、ママ……!」

「ええ、そうよ。雅律パパとソネットママ! クリスお姉ちゃんに会いたいっていうから、一緒に来たの!」

 

雪音雅律。

ソネット・M・ユキネ。

彼らはクリスちゃんのご両親で、バルベルデで死亡したはず。

だが、目の前にいるのは、間違いなく。

クリスちゃんのご両親なのだろう。

少女が嗤う。

口を開く。

 

「私達と行きましょう、クリスお姉ちゃん。雅律パパとソネットママと一緒に、私の家族になりましょう」

 





はい、女神転生の魔人アリスがエントリーです。
エッ女神転生のアイドルはジャックフロストじゃないの、という意見はあるかと思いますが、ワイにとってのアイドルはアリスちゃんなの。
ストジャニも4もアリスちゃんと駆け抜けたんじゃぁ〜!


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第六十九話 屍人の国のアリス②

女神転生Ⅵの発売日どこ、ここ?
葛葉ライドウシリーズリマスターどこ、ここ?
デジタルデビルサーガリマスターどこ、ここ?
あと世界樹の迷宮とかもリマスター出してねアトラス♡



 

「私達と行きましょう、クリスお姉ちゃん。雅律パパとソネットママと一緒に、私の家族になりましょう」

 

突如として、孤児院の食堂に現れた少女は、そうクリスちゃんに言い放った。

その背後には、クリスちゃんの両親。

雪音雅律と、ソネット・M・ユキネ。

彼らは目に光を宿しておらず、少女の背後で浮かんでいる

 

「お前、パパとママに何したんだよッ!」

 

自我もない状態の両親を見て、激昂するクリスちゃん。

そのクリスちゃんを見ても微笑みを崩さない少女。

 

「フフッ、私は別に何もしてないわよ。でも、クリスお姉ちゃんの所に行くって聞いたら、二人が暴れだしちゃったから、黒おじさんが大人しくさせてくれたの」

「黒おじさん?」

 

と、弦十郎さんが聞く。

……黒おじさん、目の前の少女はそう言った。

金色の髪に青いエプロンドレスを来た少女。

クリスちゃんの夢に出てきた人頭竜体の怪物。

悪霊を従えた青白い肌の怪物。

黒おじさん。

え、マジで?

真・女神転生の六本木在住のあの方々?

だとしたらヤバイぞ。

黒おじさんはなんとかなるかもだけど、赤おじさんは厳しいかもしれない。

赤おじさん、聖書に出てくる魔王だし。

 

「黒おじさんは凄いのよ! アリスがパパとママが欲しいって言ったらね、()()()()()()()って言うので雅律パパとソネットママを作ってくれたの!」

「つくっ、た?」

「そうよ! バルベルデって所で暮らしていた時に身体を作ってもらったの! 雅律パパとソネットママの魂はバルベルデで見つけたって黒おじさんは言ってたわ!」

 

そう目の前の少女は笑った。

ケラケラと。

クスクスと。

クリスちゃんは俯き、拳を握る。

 

「……なよ」

「あら、なぁに?」

 

クリスちゃんは叫んだ。

 

「ふざけるなよッ! あたしのパパとママだぞッ!」

 

クリスちゃんの目には涙が浮かんでいた。

死に別れていた両親が、得たいの知れないモノに操られていたなら、そうなるだろう。

 

「でもクリスお姉ちゃんが捨てたものよ。私が拾ってもいいじゃない」

「……ッ! 捨ててねェ!」

「そう。でも、ダメ。もう私のパパとママだもん!」

 

と、ソネットさんに抱き着く少女。

ソネットさんは呆と虚空を見つめている。

 

「あたしのッ! パパとママだッ!」

「私のだもん」

「返せッ!」

 

クリスちゃんが飛び出そうとする。

それを止める弦十郎さん。

 

「クリスくんッ! ダメだッ! 落ち着けッ!」

「放せよオッサン! あたしのパパとママがッ! パパ! ママ! 正気に戻ってよ!」

 

クリスちゃんが叫ぶ。

そして、近くにあったテーブルの上にあった醤油差しを手に取り少女に向かって投げた。

 

「パパとママを返せッ!」

「キャッ!」

 

飛んできた醤油差しをすんでの所で躱す少女。

だが、醤油差しから醤油が飛び出て、少女のエプロンドレスの裾を汚す。

 

「あ、ドレス……」

 

少女の目に涙が浮かぶ。

 

「ふぇ……」

 

そして、座り込んで泣き出した。

 

「うぇぇぇん。うぇぇぇぇん! 私のドレス、汚れちゃった! うぇぇぇぇん!」

 

いきなり泣き出した少女に、弦十郎さんもクリスちゃんも。孤児院のみんなも呆気に取られる。

恐ろしい怪物のような少女が、幼気に泣き出したのだから。

だが、俺は知っている。

もし、彼女が俺の知ってる存在なら。

彼女の泣き声を聞いて、彼女の保護者が出てこないはずがない。

 

そして、予想通り彼らは来た。

少女の背後、空間を歪ませて現れたのだ。

 

「ああ、アリス。どうしたんだい、そんなに大きな声で泣いて」

「だから言ったじゃないかアリス。私達と一緒に行こうと」

 

現れたのは、赤いスーツを着た禿頭の男と黒いスーツを着た背の高い男。

二人がアリスと呼んだ少女が、泣きながら口を開いた。

 

「クリスお姉ちゃんがね。クリスお姉ちゃんがね、私のドレスを汚したの。ヒック、それにね、私のパパとママを返せって言うの。私のパパとママなのに。私はクリスお姉ちゃんと家族になりたかっただけなのに。うぇぇぇん!」

「そうかそうか。よしよし、おじさんたちがアリスの仇を取ってあげよう」

 

赤いスーツの男、赤おじさんが一歩前に出る。

 

「そういう訳だ。貴様らには死んでもらうぞ」

 

赤おじさんの身体が、紫電を発しながら膨張していく。

背中からコウモリめいた節のある翼、尻から爬虫類の尾が生える。

身体には頑強な真紅の鱗。

手足は太く逞しく、爪は鋭い。

頭には角のような冠。

人頭竜体の怪物の姿。

その名はベリアル。

 

更に黒おじさんが一歩前に出る。

 

「雪音クリス、余計な抵抗をしなければここの者たちもろとも苦しまずに死ねたものを」

 

黒おじさんの身体が、紫電を発しながら変質していく。

肌は青白く死者のよう。

顔は真っ白でドクロのようである。

赤いマントを被り、姿を隠している。

そして、その影から死霊とゾンビが這い出てくる。

悪霊を従えた怪物の姿。

その名はネビロス。

 

クリスちゃんの夢に出てきた怪物の姿そのものである。

そして、俺が前世でやってたゲームの姿そのものでもある……。

孤児院の子どもたちは恐怖で怯えている……。

 

「みんな、落ち着きなさい。弦十郎さんや一鳴さんが着いていますよ」

 

と、ナスターシャ院長や他の職員さんが落ち着かせている。

俺たちが着いてるって言われたら、やるしかないわね。

 

「弦十郎さん、赤い方お願いしても」

「構わないが、理由は?」

「黒スーツの方は死霊やゾンビとも戦わないとなので。そういうのは、俺のスダルシャナは得意です」

 

スダルシャナ。

ヴィシュヌの戦輪。

それは太陽を示し、悪を滅ぼす聖なる武器である。

死霊やらゾンビやらに特攻乗ってるはずである。

乗ってるよね?

 

「よし。なら、そっちは任せた」

「任されました!」

 

弦十郎さんはベリアルに突撃し、俺はネビロスに突撃した。

 

 

 

弦十郎VSベリアル【1D10】

 

弦十郎【6】+50(OTONA補正)

ベリアル【1】+50(人外補正)

 

 

 

一鳴VSネビロス【1D10】

 

一鳴【4】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

ネビロス【5】+15(人外補正)

 

 

 

「人間風情が、この私に勝てると思うなッ!」

 

ベリアルが弦十郎さんに向かって腕を振り下ろす。

孤児院の床が壊れる。

弦十郎さんは紙一重で回避。

そしてその勢いのまま跳躍。

ベリアルの顎を蹴り飛ばす。

 

「がッ!?」

 

ふらつくベリアル。

その隙を突き、ベリアルの首に鉄拳をお見舞いする弦十郎さん。

 

ボキィ! と何かが折れる音がした。

 

ベリアルはダウンする寸前である。

弦十郎さん魔王相手に勝ちかけてる……(困惑)

 

対する俺は、ネビロス相手に苦戦していた。

 

「フハハハ、どうした? 先程から防御しかしてないではないか」

「ヌゥー!」

 

ネビロスの言葉に唸り声しかでない。

実際、俺は先程から攻撃出来ていない。

 

ネビロスの従える死霊やゾンビが、俺の後ろにいる孤児院の子どもたちを狙ってくるのだ。

 

ゾンビの中には兵士のような格好をして銃を装備したヤツもいる。

ソイツらが子どもたちを狙い撃ちにする。

それを防ぐ為に、俺は戦輪を全て防御に回しているのだ。

 

「アバー」

「ウゴー」

「ボエー」

 

ゾンビたちが銃撃。

戦輪で銃弾を弾く。

 

「ヒヒヒ!」

「キシャーッ!」

「ooooooOOO!」

 

死霊たちが子どもたちに突撃。

戦輪から炎を出して浄化。

スダルシャナは死霊たちに対して有効だ。

だが、それだけ。

ネビロスは際限なく死霊やゾンビを供出し、俺は少しずつだが疲労が溜まりつつあった。

このままジリ貧である……。

 

「ベリアルッ! いつまで寝ているッ」

 

ネビロスが俺にゾンビや死霊を差し向けながら、倒れるベリアルを一喝する。

ベリアルはゆっくりと起き上がる。

 

「ぐ……ぅ、ネビロス。お前こそ、いつまで遊んでいるッ! 早く全員殺せッ!」

「この少年がしぶといのだッ! 聖なる武器を使っているッ! 私と相性が悪いッ!」

「ならば俺が喰い殺してくれるッ!」

 

ベリアルがこちらに突撃!

……する前に弦十郎さんが腹を殴って止める。

 

ボゴォ! とベリアルの腹がへこみうねった。

 

「うぐぅ!」

「お前の相手は俺だッ!」

 

弦十郎さんがファイティングポーズでベリアルの前に立ちはだかる。

 

「一鳴くんッ! 無事かッ!?」

「なんとかッ! だけど決め手がありませんッ!」

「わかった! ベリアルは俺が倒すッ! その後は共にネビロスをッ!」

「了解ッ!」

 

ベリアルの側にネビロスが立つ。

 

「舐めてくれるなッ! 人間風情がッ!」

「協力しよう、ベリアル。早々に倒して、アリスと共に帰ろう」

 

ネビロスが死霊とゾンビを召喚、ベリアルが口内に炎を溜める。

一気に攻めるつもりか。

俺は弦十郎さんと子どもたちを守る体勢を取る。

が。

 

「もう! 赤おじさんも黒おじさんも遅ーい」

 

アリスの声。

 

「しょうがないから、私が助けてあげるわ」

「アリス?」

「いかん、ダメだアリスッ!」

 

ネビロスが慌てて何かしようとしているアリスを止めるが。

アリスの行動は既に終了していた。

たった一言、それだけで。

 

ねぇ、死んでくれる?

 

 

 

呪詛対抗ロール【1D10】

 

一鳴【9】(2以上で抵抗成功)

弦十郎【9】(8以上で抵抗成功)

 

 

 

この言葉を聞いた途端。

全身に激痛が走った。

 

あ、これやばい。

すぐにそう思った。

 

【死んでくれる?】は女神転生においては、高確率で相手を即死させる呪殺属性の魔法だ。

呪殺、呪いである。

それ相応の対抗策が無ければ死ぬ。

そういう攻撃である。

 

俺は即座に戦輪から出た炎を身に纏った。

全身の痛みが急速に引いていく。

太陽を象徴する聖なる炎である。

呪いを弾くには最適であった。

 

俺は更に弦十郎さんを聖なる炎で守ろうとしたが。

 

「ぬぅんッ!」

 

弦十郎さんが気合を入れる。

呪いは弾かれた。

呪いは弾かれた。

え、呪いを弾いたの?

自力で?

えぇ……。

もう超人じゃん……。

 

「アリス、それはダメだ」

 

ネビロスがアリスに諭すようにそう言う。

 

「お前の呪いの言の葉は、相手の魂すら呪詛で汚染する。雪音クリスを家族に出来なくなるぞ」

「そうなの? ごめんなさい黒おじさん……」

「いいんだ、アリス。私達を助けようとしたんだろう?」

 

しおらしく謝るアリスの頭を撫でるネビロス。

 

「ネビロス、このままでは埒が明かんぞ」

「そうだな。……雅律、ソネット」

 

ネビロスがクリスちゃんの両親を呼ぶ。

クリスちゃんの両親は、フヨフヨと浮いてネビロスの側に来た。

 

「雪音クリス。我らと共に来い。でなければ、お前の両親を痛めつけるぞ」

 

ネビロスが指を鳴らす。

フヨフヨ浮いていたクリスちゃんの両親が、地面に落ちる。

 

「ぅ……、ここ、は?」

「あ……クリス?」

 

クリスちゃんの両親は、正気に戻ったようだ。

 

「クリス!? ここは、そうか……」

「クリス、早く逃げてッ! 私達はいいから」

 

クリスちゃんの両親は現状を把握し、クリスちゃんに逃げるように言う。

が。

ネビロスが、雅律さんの髪を掴む。

 

「うぅ……!」

「雅律さんッ!」

「パパッ!」 

 

ソネットさんとクリスちゃんが叫ぶ。

ネビロスは気にせず、雅律さんの耳を自身の爪で切り落とした。

 

「ぐぅッ!」

「きゃああああ!」

「パパァッ!」

 

泣き叫ぶソネットさん。

そのソネットさんを踏みつけるベリアル。

ソネットさんの身体がネジ曲がる。

 

「うぅっ!」

「ソネッ、ト……!」

「ママァッ!」

 

クリスちゃんは涙をボロボロと流す。

 

「止めろァ!」

 

見ていられない。

俺は戦輪を手に突撃する。

 

「させん」

 

ネビロスの指揮で兵士ゾンビが銃撃し、死霊が特攻する。

戦輪と炎で弾く。

が、前に進めない……!

 

「雪音クリス、早くこちらに」

「お前の両親を無惨に痛めつけるぞ」

 

ネビロスとベリアルが笑う。

更にネビロスが言う。

 

「安心しろ。手足をもごうが顔の皮を剥ごうが、我が死霊魔術で直してみせよう。何度でも、何度でもな」

 

ネビロスが笑う。

ベリアルが笑う。

 

クソ野郎どもが……!

 

「止めろ! 止めてくれ……!」

 

クリスちゃんが叫ぶ。

 

「一緒に行く! だから、もうパパとママを虐めないで……!」

 

クリスちゃんは泣いていた。

泣きながらも、覚悟を決めていた。

自分の両親を手前勝手に蘇らせて、いいようにいたぶる怪物たちと共に行く覚悟を……。

 

クリスちゃんの言葉を聞いて、雅律さんとソネットさんを放すネビロスとベリアル。

兵士ゾンビも銃撃を止め、死霊はフヨフヨと浮遊するのみだ。

 

「良いだろう雪音クリス。歓迎しよう」

「最初から、こうすれば良かったのだ」

 

ベリアルがボヤき、ネビロスが笑いながら指を鳴らす。

雅律さんの耳が元通りになり、ソネットさんの身体が元通りになる。

 

「クリス……」

「だめ、逃げて……」

 

雅律さんとソネットさんが泣く。

その二人にネビロスが囁く。

 

「安心しろ、お前たちの娘は今はまだ殺さん。()()()()()()()()が必要なのでな。

フォニックゲインは心が生きた人間からしか発生しない。利用価値がある内は生かしておく。

……念の為、貴様ら諸共、幻術はかけるがな」

 

ネビロスの言葉を聞いて、抱き合う雅律さんとソネットさん。

フォニックゲイン?

クリスちゃんに何をさせようとしている?

 

「さあ、早く! 我らのアリスを待たせるな!」

 

ベリアルが叫ぶ。

クリスちゃんが前に出る。

 

「クリス先輩……」

 

調ちゃんや切歌ちゃん、孤児院のみんなが泣きそうな目でクリスちゃんを見る。

 

「大丈夫だって。すぐに帰ってくるから」

 

クリスちゃんは泣きながら笑う。

クリスちゃんは歩く。

ネビロスやベリアルに向かって。

 

「すまん、クリスくん。俺が着いていながら……ッ」

 

弦十郎さんが拳を握りしめる。

その拳からは、血が滴り落ちていた。

 

「いいよ、オッサン。あたしは大丈夫だ」

 

クリスちゃんは無理して笑う。

クリスちゃんは歩く。

自分の両親に向かって。

 

「クリスちゃん……」

 

俺は、何も言えなかった。

そんな俺にクリスちゃんは、

 

「一鳴。……待ってるから」

 

と言った。

泣きながら。

限界を、迎えたのだろう。

一歩一歩、怪物に近づくから。

 

「助けに、来てくれ……!」

「必ず」

 

俺はクリスちゃんの涙を指で拭った。

言うべきことを、言わなければならない事を言おう。

覚悟を決めて、けれど、泣いている女の子に。

 

「絶対助けに行く」

「……待ってる」

 

クリスちゃんは俺たちに背を向けて歩きだす。

 

「ようこそ、雪音クリス」

 

ネビロスが手を広げて歓迎した。

 

「アリスのドレスを汚した分は、その働きで返せ」

 

ベリアルが鼻を鳴らす。

 

「クリス……」

「あぁ、神よ」

 

雅律さんとソネットさんは泣いている。

 

「ふふ、クリスお姉ちゃん。帰ったら、一緒にお歌を唄いましょう」

 

アリスがそう微笑む。

そして、空間が歪むと、アリスたちは消失していた。

ベリアルもネビロスも。

雅律さんもソネットさんも。

そして、クリスちゃんも。

 

テレビにニュースが映る。

弦十郎さんの携帯が鳴る。

結界が解除されたのだ。

 

弦十郎さんは携帯を取った。

相手は了子さんだった。

 

「弦十郎くん、事態は把握しているわ。孤児院が結界に閉じ込められた所までは」

「了子くん。クリスくんが攫われた」

「……そう」

「助けに行かねばならない」

「……そう」

「力を、貸してくれ」

「……ええ、もちろん」

 

でもその前に、と了子さん。

 

「弦十郎くんも一鳴くんも二課に帰ってきなさい、色々わかった事があるから」

「わかった事?」

「ええ、そうよ」

 

そして、了子さんはこう言った。

 

「赤伯爵と黒男爵の目的と、潜伏している所もね」




弦十郎さんが【死んでくれる?】素で耐えてるのは草生えた。
魔王ベリアルをボコボコにしてるし、これはOTONAの風格。

でも本来のプロットなら呪殺を喰らって血を吐いた弦十郎さんを見たクリスちゃんが呪殺を止めてもらう為に、アリスに投降する筈だったのです。
でも弦十郎さんが素で耐えたからさぁ……(プロット崩壊の音)

なので雅律さんとソネットさんに少し痛い目に合ってもらった(邪悪)
その分、後半戦で一鳴と弦十郎さんに怒りでブースト掛かるので許して。


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第七十話 屍人の国のアリス③


サブノーティカという海を探検するゲームを買いました。
まだ序盤だけど、海怖いわ……。
海面近くを泳いでても、底が見えない海は怖いわ……。



 

 

 

「赤伯爵と黒男爵を名乗る怪人たちだが、米国政府も追っていた」

 

と、八紘さん。

二課に帰還した俺と弦十郎さんが二課のメンバーに事情を説明した後で教えてくれたのだ。

 

「アメリカが?」

「ああ。向こうの外交官が教えてくれたのだが、どうやら米軍が独自に保有していた聖遺物を盗まれたらしい」

「米軍、ですか?」

 

八紘さんの言葉にウェル博士が疑問を持つ。

 

「アメリカの聖遺物は全てF.I.S.にて保管されるはずです」

「ああ、こちらもそう聞いている。だが、そのせいで米国政府内でF.I.S.の発言力が増してるようでな。それに反発した軍部の若手将校が勝手をしたらしい」

 

そしてその結果、ベリアルとネビロスに聖遺物を奪われた、と。

おそらくその米軍若手将校一派は聖遺物についての知識が少なくて、それが恐ろしい力を持っているが故に多数の人間に狙われているとは思わなかったのね。

 

「だからネビロスは最後にフォニックゲインが必要だ、と言ったのだな」

 

弦十郎さんが納得する。

【お前たちの娘は今はまだ殺さん。フォニックゲインが必要なのでな】とネビロスはクリスちゃんの両親に囁いていた。

クリスちゃんを使って聖遺物を起動させようとしているのか……。

 

「それで、奴らが盗んだ聖遺物はなんていうんです?」

 

と、俺が聞くと、八紘さんは了子さんと目を合わせる。

そして、こちらを向いて教えてくれた。

 

「……終末兵器アバドン、というらしい」

「アバドン?

ヨハネの黙示録の?」

 

俺の言葉に頷く八紘さん。

 

アバドンとは、ヨハネの黙示録に記された天使である。

その名は【破壊者】【奈落の底】などを表す。

ヨハネの黙示録はキリスト教における世界の終わりが描かれているのだ。

その黙示録によれば、7人の天使がラッパを吹くと隕石が落ちたり水が毒になったりして、世界を終わらせるのだとかなんとか。ざっくりとした理解だけど。

 

そしてアバドンは、5人目の天使のラッパで奈落から現れるのだという。

「馬に似て金の冠をかぶり、翼と蠍の尾を持つ」という天使であり、奈落の底でルシファーを千年見張るのだと。

蝗害が神格化したものであり、死より苦しい苦痛を与える蝗を従える。

蝗害はすべてを食い荒らして無に返す。奈落の底を意味するアバドンもまた、すべてを無に返すという事か。

 

まあ要するにとんでもないビッグネームだということ。

 

「で、このアバドン。フィーネは知っているらしい」

 

八紘さんの言葉で、この場にいた全員が了子さんを見る。

髪と瞳が黄金に変わった了子さん、フィーネを。

 

「……と、言っても前世での話だ。第二次世界大戦の時か」

 

フィーネの話によれば。

第三帝国の総統閣下の指示の元、世界中から聖遺物が集められたらしい。

その聖遺物を調べるのがアーネンエルベ機関であり、トゥーレ協会であり、ヴリル協会であった。

二課の前身である風鳴機関は、それらの組合から技術や知識を提供されていたらしいのだが、アバドンは秘中の秘であった為に風鳴機関に情報は流されていない。

 

アバドンはエジプトの遺跡で見つかった完全聖遺物である。

その側には、アバドンについて書かれた文書が残されていたという。

 

不活性時には手のひら大の卵であるのだが、エネルギーを溜め込むと5メートル以上の大きさになり、最終的にアバドンが孵化する。

アバドンは体内が際限なく広がる異空間になっており、全てを喰らい無に返すという。

また、アバドンは護衛として小型の蝗型自立兵器を無限に生成し続ける。

この自立兵器は有機物無機物を問わずに齧って破壊し、自らの体内に取り込む。

まさに蝗害の具現である。

 

もし第三帝国がアバドンの孵化に成功していたら、歴史は変わっていただろう。

 

「ならなんで総統閣下はアバドンを孵化させなかったんですか?」

「危険すぎたのよ」

 

アバドンの側で見つかった文書にはこう書かれていたという。

【アバドンによって、一つの国が滅びた。国のあった場所はただ荒野のみが広がっていた。アバドンが喰らったのだ。荘厳な王宮も、肥沃な大地も、国を支えた人々も。全て。

知らぬ者よ、アバドンを永遠に眠らせよ】

と。

 

それ故にアバドンを持て余した総統閣下は、Uボートに命じて、不活性状態のアバドンの卵を大西洋に廃棄させたという。

 

「そして、その捨てられたアバドンの卵を米軍が見つけた、と」

「それをベリアルとネビロスに奪われた、か」

 

俺と弦十郎さんはそう話し合う。

了子さんが口を開いた。

 

「ベリアルとネビロスが、そのアバドンの起動を目論んでいたとしても、クリスちゃんの歌だけだと最低2週間は歌わないといけないわよ」

「なら時間はあるか」

 

と、八紘さんが答えるけれど。

ベリアルとネビロスに囚われているのは、クリスちゃんだけではないのだ。

 

「いや、ソネットさんもいる」

 

ソネットさん。

クリスちゃんのお母さんである彼女は、世界的な声楽家である。

高フォニックゲイナーであるクリスちゃんのお母さん、ソネットさんも高フォニックゲイナーである可能性は高い。

 

「フォニックゲインは、心を重ねる事で効果が向上するわ。もし、クリスちゃんとソネットさんの心を重ねたとしたら……、3日、保つかどうか」

 

3日。

それよりも短い時間。

あまりにも短い時間であった。

 

「なら、早く助けに行かないと!」

 

と、俺は訴えるが。

それを制したのは八紘さんだ。

 

「落ち着け一鳴くん。敵の拠点は既に把握している。問題はない」

 

 

 

ベリアルとネビロスの拠点【1D10】

 

1 六本木

2 六本木

3 六本木

4 冬木(難易度上昇)

5 六本木

6 六本木

7 六本木

8 六本木

9 冬木(難易度上昇)

10 皆神山(難易度急上昇)

 

結果【6】

 

 

 

「ベリアルとネビロスは六本木ヒルズに潜伏している」

 

八紘が教えてくれた。

 

「ヒルズ、ですか?」

「ああ。六本木ヒルズ内のホテルに暮らしているらしい」

「……なら、なんでさっさと捕まえないんです?」

「敵の腹の中に飛び込むようなものだからな」

 

冷や汗をかきながら、八紘さんが説明の続きを言った。

 

「……現在、六本木ヒルズ内の人間は全てゾンビ化しているのを確認している」

「……ハァ!?」

 

ヒルズ内の人間全員?

何人がいるんだ?

職員だけでなく、お店の客も居たでしょ?

 

「被害者数は軽く千人を超えるだろうな……」

「なんという……ッ!」

 

弦十郎さんの顔が険しくなる。

ベリアルもネビロスも、アリスの為に何人殺すつもりだろうか……。

 

「だが、ベリアルとネビロスの撃破には米軍と連携する事になる」

「米軍?」

 

俺の疑問に八紘さんは頷いた。

 

「ああ。若手将校の暴走であるとはいえ、国内の聖遺物を奪われたのだからな。対ベリアル及びネビロス戦に同行させてほしいと頼まれてな……」

 

 

 

米軍の戦力【1D10】

 

1 精鋭部隊(戦闘ダイス +10)

2 特殊部隊(戦闘ダイス +15)

3 パーフェクトソルジャー部隊(戦闘ダイス +20)

4 精鋭部隊(戦闘ダイス +10)

5 特殊部隊(戦闘ダイス +15)

6 パーフェクトソルジャー部隊(戦闘ダイス +20)

7 精鋭部隊(戦闘ダイス +10)

8 特殊部隊(戦闘ダイス +15)

9 パーフェクトソルジャー部隊(戦闘ダイス +20)

10 (F.I.S.所属の)特殊部隊(最終的に裏切る)

 

結果【7】

 

 

 

米軍のスタンス【1D10】

 

1 ジャップは下がってな!(連携✕)

2 事務的な対応(連携△)

3 日本のオトモダチのサポートするね(連携○)

4 ジャップは下がってな!(連携✕)

5 事務的な対応(連携△)

6 日本のオトモダチのサポートするね(連携○)

7 ジャップは下がってな!(連携✕)

8 事務的な対応(連携△)

9 日本のオトモダチのサポートするね(連携○)

10 じゃぽん好き……ちゅきちゅき……(連携◎……?)

 

結果【6】

 

 

 

「米軍も必死なのだろうな、精鋭部隊を送り込む予定らしい」

「予定? まだ日本に着いてないんです?」

「ああ。今日の深夜到着予定だそうだ」

「じゃあヒルズに突入は明日以降ですか」

 

果たしてそれで、間に合うだろうか……。

 

「だが、連携には問題ないと思う。今回来日する部隊は皆、変な思想に傾いておらず純粋にこちらをサポートするようだしな」

 

来てくれるのはまともな部隊らしい。

それは良いんだけれどね……。

やっぱりすぐにクリスちゃんを助けに行きたい気持ちがあるのよね。

 

「一鳴くん、この後いいか」

 

と、弦十郎さん。

 

「あの時、俺も不覚を取った。身体を動かさないと、一人で動いてしまいそうでな……」

 

模擬戦の誘いである。

弦十郎さんも、目の前でクリスちゃんを連れて行かれたのが響いてるよう。

 

「ええ、もちろん」

「二人共、怪我しないようにしろよ」

 

そう八紘さんに言われる。

 

「ああ、それなら私が見ておくわ。少しギアの調整もしておきたいし」

 

了子さんに戻ったフィーネがそう言う。

 

「では一鳴くん行こう」

「ええ、行きましょう」

 

そういう事になった。

 

 

 

 

 

 

六本木ヒルズ。

地上54階地下6階と、大きな複合商業施設である。

普段は様々な人々で賑わうその巨塔は今、一人の少女の為の城となっていた。

 

その六本木ヒルズ内にある、ホテルの一室。

無論、最高級クラスの部屋であるそこで、ヒルズの幼い女主人であるアリスは家族と共に歌を唄っていた。

 

「ら、ら、ら♪」

「うふふ、アリスはお歌が上手ね」

「ああ、自慢の娘だよ君は」

 

アリスが唄い、母親であるソネットと父親である雅律が褒めそやす。

ソネットと雅律は穏やかな顔である。

 

「ねぇクリスお姉ちゃん、私のお歌どうだった」

「ああ、綺麗な歌声だったぞ」

 

そして、アリスの姉であるクリスもまた、穏やかな顔でアリスを褒める。

頭を撫でられたアリスはクリスに笑い掛ける。

 

「クリスお姉ちゃんも一緒に唄いましょう!」

「あたしもか? ……ああ、そうだな唄うか!」

「うふふ、ママも一緒に唄って良いかしら?」

「ええ、もちろんよ!」

「なら、伴奏は僕にやらせておくれ」

 

雅律がヴァイオリンで曲を奏でる。

その音に合わせて、アリスたちが唄う。

 

「ら、ら、ら♪ うふふ、楽しいわ楽しいわ楽しいわ! 家族で唄えるなんて夢みたい!」

 

アリスが笑う。

無邪気に笑う。

そこに、呪詛で全てを殺す魔人の姿などなかった。

ただの少女であった。

 

そのアリスを、部屋の隅から眺める二人の紳士。

赤伯爵と黒男爵である。

彼らはティータイムを楽しんでいた。

 

「雪音クリスへの幻術は上手く働いているようだな」

「ああ、そこに抜かりはないさ」

 

黒男爵は紅茶を飲みながら自慢げに言う。

優れた死霊魔術の使い手である黒男爵は、幻術にも通じていた。

クリスを攫った後、クリスに幻術をかけたのだ。

 

バルベルデで両親は殺されておらず。

アリスという妹と仲良く暮らしている。

そういう幻術を。

 

「ソネットと雅律も無事に動いている」

「彼らは元々、実の娘への愛情が強すぎてアリスを娘と認識していなかったのだ。

だが、ああやって雪音クリスを連れてきてやれば、アリスを雪音クリスの妹と認識させてやる事が出来る」

「死霊魔術とは、難しいものだな」

「今回は、人の心の問題だよ伯爵」

 

二人の紳士は紅茶を楽しむ。

家族に囲まれながら唄うアリスを慈しむ。

 

「ああ、アリスがあのように笑うなど思ってもみなかった」

「ワガママばかりだったアリスも、家族が出来てからは良い子になった」

 

メイドが二人に紅茶を注ぐ。

そのメイドはゾンビであった。

元はヒルズに遊びに来ていた少女である。

だが、黒男爵によりゾンビに変えられたのだ。

そしてメイドとして使われている。

 

「アリスは今、間違いなく幸せなのだろうな」

 

赤伯爵が感慨深く呟く。

 

「ああ、無論だ」

「だからこそ、アバドンを早く目覚めさせなければ」

「問題はないさ伯爵。このまま行けば、卵は明日の夜には孵るだろう」

 

アバドンの卵は現在、一階に置かれている。

ベリアルとネビロスの力で、アリスたちから発生したフォニックゲインが注ぎ込まれている。

ソネットとクリス、そしてアリスの歌から生まれたフォニックゲインである。

アリスもまた、高フォニックゲイナーだったのである。

卵の大きさは既に5メートルに達しようとしていた。

 

「アバドン、その胎内に世界を持つもの」

「その世界をアリスに捧げよう」

「アリスが永遠に幸せに暮らせるように」

 

二人の紳士がアリスを眺める。

その瞳には慈愛が宿る。

紛れもない、愛が。

 

「この世界は、アリスに厳しすぎる」

「残酷すぎる」

「だから、別の世界に」

「アリスが幸せに暮らせる世界に行こう」

 

愛とは、偏執である。

偏執は、狂気に変わる。

彼らの愛は狂気であった。

世界全てを生贄にしてでも、一人の少女を幸せにする。

そういう、愛だ。

 

「ネビロス、邪魔は入るだろうな」

「米国も、この国も攻めてくるだろう。アバドンを破壊しにな」

 

黒男爵が嗤う。

 

「その時は、我が屍人と死霊総計10000体で迎え撃とう」

 

赤伯爵が嗤う。

 

「ならば私も、本気を出すとしよう。孤児院は、天井が低すぎて本来の姿になれなかったからな」

 

紳士たちは嗤う。

今度こそ自分たちに歯向かう愚か者を殺す事に愉悦を覚える。

これこそが、彼らの本性。

残酷な悪魔の本性。

 

タイムリミットは、刻一刻と迫っていた……。





今回は状況説明回。
次回は戦闘回です。
ダイスいっぱい振るぞぉ!


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第七十一話 屍人の国のアリス④


お待たせして、申し訳ありません。
5月病と、ブラボの血晶マラソンドハマリ症候群を患ってました。
ちまちまリハビリして、少しずつ前みたいに週一投稿に戻そうと思うので、宜しくお願いします。

そういや女神転生V発売日が決まりましたね。
楽しみね。
アリスちゃんは出るのかしら。出てほしい。出て♡



 

 

生まれたのは、欧州の小国だった。

貧乏な国の、貧民窟。

そこに、()の生家があった。

 

母は娼婦だった。

父親の顔は知らない。

 

ろくでもない母親だった。

泣いたら叩く。

粗相をしたら叩く。

お前なんて生むんじゃなかった、お前のせいで生活が苦しい、何度もそう言われた。

 

6歳の時、みんなが学校に通う中、私は一人で家の中にいた。

母親は私を学校に生かせるよりも、家事をさせたほうが良いと考えたのだ。

そんな訳で掃除をしていると、テレビが騒々しくなった。

見ると、なにかのニュースをやっていた。

ギリシャ、欧州全土に宣戦布告なんて言っていたっけ。

 

母親は、テレビを見る私を打って、早く掃除を済ませろと怒鳴った。

その母親の後ろにある窓から外が見えて。

稲妻が降り注いで、そして。

───私は死んだ。

 

『ああ、可哀想な少女だ。愛を知らず死ぬとは』

『ならば我らで育てようではないかベリアルよ』

 

でも、死んでから私は親切なおじさんに助けてもらった。

赤おじさんと黒おじさん。

二人とも優しくて、頼もしい。

でも、私にはずっと足りない物がある。

だから、二人にワガママを言う。

 

「私、パパとママが欲しいわ」

 

とってもカッコよくて頼れるパパ。

とっても優しくて歌の上手なママ。

そして、赤おじさんと黒おじさんが連れて来たのは───

 

 

 

 

 

 

「……ぁ」

 

なにか夢を、見ていた気がする。

 

「起きたか、カズナリ」

 

隣に座るビリー大尉が声をかける。

 

「すみませんビリー大尉。何分ぐらい寝てました?」

「HAHAHA、構わないさ。深夜だからな。それに寝てたのは30分ほどだ。むしろその図太さは頼りになるよ」

 

ビリー大尉は笑いながらそう言う。

 

「で、見たのはどんな夢だい?」

「どんな……? 悪夢なような、そうじゃないような?」

 

なんかこう、悪夢は悪夢なんだけど、こっちはそう思ってない。少なくとも自分は楽しい、そんな夢であった。

 

「悪夢か、まあ仕方ないよな」

 

ビリー大尉が俺の言動を深読みする。

 

「俺たちはこれから悪魔とゾンビを相手取るんだからな」

 

そう言ってビリー大尉は持っているライフルを撫でる。

そう、俺たちはこれからベリアルとネビロスの討伐とアバドンの奪還の為に六本木ヒルズに向かう軍用ヘリに乗っているのだ。

 

 

 

二課で話し合った日の深夜。

ビリー大尉率いる精鋭部隊が日本に到着した。

アバドンを破壊する任務の為である。

アバドンを破壊するために来た彼らは二課と合流すると、早速情報共有を行ったらしい。

 

ベリアルとネビロスが六本木ヒルズに潜伏している事。

六本木ヒルズにいた千人単位の人間がゾンビとなって使役されている事。

民間人が攫われ、アバドン起動の為の歌を歌っていること。

そして、アバドンの起動にはもう幾ばくもないこと。

 

二課からの情報は米軍精鋭部隊を動揺させた。

そして、即座に行動を開始しようとした。

それを止めたのは八紘さんだ。

 

「ベリアルとネビロスは強大であり、米軍だけでは倒し得ない」

 

と言ったのだ。

それと同時に、俺やキャロルちゃんを例に出して二課は対抗しうる戦力がある事と、多少の猶予がある事を伝えた。

結果、二課と米軍の共同作戦は翌日の深夜となった。

六本木ヒルズ周辺を完全封鎖するには、それだけの時間が必要だったというのもある。

人を封じて、ベリアルとネビロスの被害を抑えるのと同時に、ゾンビを追加させないという狙いもある。

 

そして、今。

俺たちは米軍精鋭と共同作戦を実行する事になった。

作戦は簡単だ。

ヒルズの一階にあるアバドン(アウフヴァッヘン波形が確認された)を破壊するチームと、ヒルズの屋上から侵入してヒルズ上層のホテルに居るとされるクリスちゃんの救出に動くチームに分かれて同時に攻めるのである。

アバドン破壊チームは弦十郎さん、キャロルちゃん、自動人形の四人、米軍精鋭部隊の半数。

クリスちゃん救出チームは俺とビリー大尉率いる精鋭部隊の残り半数だ。

 

人質救出は難度が高いらしい。

なので精鋭部隊の中でも凄腕のビリー大尉が俺と共に向かうことになった。

実際頼りになる兵隊さんである。

コミュ力もあるし気配りも出来るし、部下の人たちからも信頼されている。

 

「あと少しで作戦開始時間だ」

 

そのビリー大尉がそう告げる。

深夜0時。

それまであと1分。

ヘリは既にヒルズの屋上の上空にたどり着いていて、俺たちはヒルズの屋上に降りている。

ヘリは一時退却した。

 

「よし……5、4、3」

 

大尉の部下が扉に手をかける。

 

「2、1。突入!」

 

扉が開かれる。

大尉以下数名が銃を内部に向ける。

ヒルズ内部は電気が灯り明るい。

そして誰も居なかった。

 

「GO!」

 

俺はは大尉たちと共にヒルズに侵入する。

同時に、ヒルズが揺れる。

 

「下も派手にやってるな」

 

ヒルズ一階、アバドン破壊チームも作戦を開始したらしい。

 

「ゾンビは下に行ってるのかもな」

「ベリアルとネビロスも下に向かってると良いが」

 

精鋭部隊の隊員たちがそう言いながらヒルズ内を進む。

 

「生体反応は?」

 

俺は二課と通信を取る。

友里さんが返信する。

 

「ヒルズ内21階、プレジデンシャルスイートよ」

「了解!」

 

俺はその情報をビリー大尉に伝えた。

 

「OK。早くお姫様を助けに行こう」

 

と、ビリー大尉。

そうやってプレジデンシャルスイートに向かうのだが……。

 

「アバー!」

 

突如としてゾンビ襲撃!

ホテルの扉から!

 

「ファック!」

 

部隊員たちが銃撃。

ゾンビはハチの巣にされて停止した。

だが。

 

「アバー!」

「ウゴー!」

「uuuuuuu……!」

 

ホテルの扉という扉からゾンビが飛びててくる。

騒ぎに誘われてきたのだろうか。

俺たちは迎撃を開始した。

 

 

 

一鳴&米兵VSゾンビ軍団【1D10】

 

一鳴【2】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

+米兵戦力10

 

ゾンビ軍団【7】×2(軍団補正)

 

 

 

「くたばれゾンビ!」

「墓場に帰りな!」

「ファッキンファッキンファーック!」

 

精鋭部隊の銃撃でゾンビ軍団は殲滅された。

俺、いらんかった……。

 

「HAHAHA、カズナリは対ベリアル・ネビロスでの切り札さ。雑魚は俺たちに任せておけ」

 

ビリー大尉が笑顔で背中を叩く。

優しい……。

 

そんな俺たちの前に、声。

 

「来たか、シンフォギア」

 

振り向くと、赤いローブを着た白い肌の悪魔。

ネビロスだ。

 

「ネビロス」

「ふん、こんな深夜に騒ぎおって。アリスが起きてしまった」

 

ネビロスは怒っている。

ゾンビたちが影から現れる。

 

「礼儀のなっていない客人には死んでもらおう!」

「クリスちゃんを返してもらうぞ悪魔!」

 

 

 

一鳴&米兵VSネビロス【1D10】

 

一鳴【8】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

+米兵戦力10

 

ネビロス【8】

+ゾンビ軍団10

 

 

 

「撃てッ!」

「ゾンビの銃に負けるな!」

 

精鋭部隊がゾンビと戦闘。

敵の兵隊ゾンビを次々に倒していく。

 

「知性のないゾンビより、賢い俺たちってな!」

「ゾンビの相手は俺たちがやるッ! カズナリはネビロスをッ!」

「了解ッ!」

 

精鋭部隊がゾンビの注意を引いてくれている。

 

「ネビロスッ!」

「来るか小僧!」

 

俺の戦輪と、ネビロスの手から放たれた闇色の炎がぶつかり合う。

戦輪から溢れた炎が闇色の炎を消し飛ばす。

 

「舐めるなッ!」

 

ネビロスが影からゾンビを召喚する。

そのゾンビは拳銃を持っていた。

警官のゾンビだった。

 

「アバー」

 

ゾンビが俺に向けて銃を撃つ。

俺は咄嗟に顔を背けた。

銃弾が俺の頬を掠める。

 

「お返しだッ!」

 

戦輪から炎を溢れさせる。

その炎はフロア内に広がる。

 

燎原火(りょうげんび)(くれない)

 

炎がゾンビたちとネビロスを飲み込む。

 

「ガア……ッ! 焼ける……! 消える……!」

「ア、ババ」

 

ネビロスが膝を付く。

ゾンビが灰となる。

弱ったネビロスに精鋭部隊が銃を向ける。

勝った。

そう、思ったのだが。

 

ねぇ、死んでくれる?

 

精鋭部隊たちが血を吐く。

銃が床に落ちる。

倒れていく。

 

「みんなッ!?」

 

倒れた米兵たちを助けようとした。

が、その前に。

米兵たちは身体が崩れて死んでしまった。

 

 

 

呪殺された精鋭部隊【1D10】

 

【10】−1人

 

 

 

「あ……」

 

ほぼ全員、死んでしまった。

生き残ったのは、ビリー大尉ただ一人だ。

そのビリー大尉も血を吐いて、辛そうだ。

 

「もう、うるさいわ。せっかくぐっすり寝てたのに」

 

廊下の奥から現れたのは、アリスだ。

その後ろには、雅律さんとソネットさん。

そしてクリスちゃん。

みんな、パジャマを着ている。

 

「回復してあげるわ、黒おじさん」

「う、すまぬアリス」

 

アリスが治癒魔術を使う。

異端技術である。

炎が消え、傷の癒えたネビロスが立ち上がる。

 

「うるさい人たちには死んでもらったけど、いいわよね」

「ああ、無論だアリス」

 

事も無げに言うアリスとネビロス。

 

「あら、あなた……クリスお姉ちゃんと一緒にいた方ね。クリスお姉ちゃんを迎えに来たのかしら?」

 

クスクスとアリスが嗤う。

 

「でも、クリスお姉ちゃんはあなたの事忘れたんじゃない? ね、クリスお姉ちゃん」

「……」

 

クリスちゃんは雅律さんの後ろに隠れる。

 

「アイツなんて知らない」

「だって」

 

アリスが嗤う。

クリスちゃんは、俺を見て怯えている。

 

「クリスちゃん? 本当に忘れたの? 俺のことも、みんなの事も?」

「……知らないッ! あたしはアンタなんか知らないッ!」

 

クリスちゃんはそう叫ぶ。

おそらく、ネビロスに何かしらの洗脳を受けている。

 

「無駄だ小僧。雪音クリスはもう、お前を思い出さないさ」

「黙れ」

 

戦輪の炎を飛ばす。

ネビロスはマントで防御。

ネビロスを黙らせる。

 

「クリスちゃんッ! 孤児院のみんなもクリスちゃんの事を心配してたッ!」

「孤児院なんて知らないッ!」

「クリスちゃんッ! 思い出してッ!」

「知らない知らないッ!」

 

頭を振るクリスちゃん。

だけど、その顔からは冷や汗が流れている。

洗脳が解けかけてるのだろう。

ならば。

俺は声をかけ続けるだけだッ!

 

「クリスちゃんッ! 思い出してくれ、俺や弦十郎さん。マリアさんやセレナちゃんに、切歌ちゃんや調ちゃんと過ごした日々をッ! ナスターシャ院長の居る孤児院をッ!」

「う、あぁ、あ……」

 

 

 

クリスちゃん催眠判定【1D10】

 

1 ネビロスの洗脳魔術はしぶとい

2 洗脳が解けた、けど

3 洗脳が解けた!

4 ネビロスの洗脳魔術はしぶとい

5 洗脳が解けた、けど

6 洗脳が解けた!

7 ネビロスの洗脳魔術はしぶとい

8 洗脳が解けた、けど

9 洗脳が解けた!

10 熱烈歓迎

 

結果【8】

 

 

 

「うぅ……、かず、なり……」

 

クリスちゃんが呻く。

その口からは俺の名前。

 

「クリスちゃん! 洗脳が解けたのね!」

「あぁ。……うぅ」

 

クリスちゃんが頭を押さえる。

フラフラとしていて、調子が悪そうだ。

 

「今助けるよッ!」

 

俺は駆け出そうとしたが。

 

「させないわ」

 

アリスが手から闇の玉を射出。

戦輪で迎撃、防御する。

 

「雅律パパ、ソネットママ。クリスお姉ちゃんが悪いオトコに騙されそうになってるわ。引き止めて」

 

アリスがそう言う。

すると、クリスちゃんの側にいた雅律さんとソネットさんがクリスちゃんの腕を掴む。

 

「ダメだよクリス。僕達から離れないで」

「そうよクリス。あの男の子は女泣かせな気がするわ」

「パパ! ママ! 離して!」

 

俺の方に向かおうとするクリスちゃんを雅律さんとソネットさんが引き止める。

 

「パパ! ママ!」

「駄目よ、クリスお姉ちゃん。クリスお姉ちゃんは私達とずっとずっと一緒に過ごすんだから」

 

アリスがクスクスと嗤う。

雅律さんとソネットさんがクリスちゃんを掴んで離さない。

彼らの洗脳は、どうにか解けないだろうか……。

 

そう考えていた時、ヒルズが揺れた。

 

「なんだッ!?」

 

揺れはどんどん大きくなる。

 

「……アバドンが目覚めたか」

 

とネビロス。

 

「アリス、往こう。ベリアルが待ちかねている」

「ええ、そうね」

 

ベリアルがアリスの側に立つ。

アリスの口が三日月のように歪む。

 

「それじゃあねお兄ちゃん」

 

ベリアルとアリス、クリスちゃんと雅律さんとソネットさんが闇に消える。

 

「カズナリ……」

 

ビリー大尉の声。

弱々しい声だ。

 

「下に、アバドンの所に行け……」

「……ビリー大尉」

「俺はもう戦えん。だが、面倒はかけんさ。自力で脱出する」

「……わかりました」

 

呪詛で弱ったビリー大尉を置いていくのは心配だが、さっきから連絡の入らない一階チームもまた心配だ。

なので。

 

「ビリー大尉、少し失礼」

「カズナリ?」

 

俺はビリー大尉を背負う。

ビリー大尉と共に、脱出する。

俺は近場の窓から飛び降りた。

目指すは一階。

安全な場所にビリー大尉を下ろした後、アバドンの元に向かうのだ。

 

そして、クリスちゃんを救出する。

しなければ、ならない。





サクシャは六本木ヒルズに言ったことがありません。
だから六本木ヒルズがビルの名前じゃなくて町の名前だなんて知らなかったんです。
でもこの作品の六本木ヒルズはビルです。
スゴイ高いビル。

だからビルの中にオフィスやホテルがあるんです。
あるんです!!!!!


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第七十二話 屍人の国のアリス⑤

これからやりたい話、

○きりしらウェルと行く妙な風習の残る日本の村
○おおかみおとこ事件
○パヴァリア組の闇オークション
○一鳴を姉妹で誘うマリア&セレナ
○修羅場不可避の海水浴と海底遺跡探索
○藤尭の人生相談

なお現在の作者、
「土日出勤+夏の暑さで気力も体力もないんじゃぁ〜!」
なので投稿不規則な模様。
すまぬ、すまぬ……。



 

話は数十分遡る。

六本木ヒルズ一階に突入した弦十郎、キャロル、自動人形四人。

そして米軍精鋭部隊。

 

彼らが六本木ヒルズ一階で見たものは、5メートル程の巨大な卵である。

ホールの中心に聳える、昏く黒い聖遺物。

アバドンの卵だ。

そして、その前に立つ赤い竜人。

ベリアル。

その身体は孤児院を襲撃した時よりも大きく、アバドンの卵を超えている。

 

「ウッソ、デカすぎるでしょ!?」

 

ガリィが目を見開いて驚く。

前情報からは2メートルほどの大きさとしか聞いてたなかったのだ。

驚いているのはガリィだけではない。

全員が驚いていた。

そんな人間たちを見てベリアルが笑う。

 

「ヒト猿どもが。人形を引き連れ死にに来たか」

 

ベリアルが口から炎を吐きながら言う。

 

「ベリアル……ッ!」

「風鳴弦十郎。クックック。小さいな、お前は」

 

ベリアルが弦十郎を見下ろす。

今のベリアルにとって、ただの人間など羽虫に過ぎないのだ。

ただの人間、だったなら。

 

「落ち着けお前たち」

 

そう言ったのはキャロルだ。

 

「図体がデカくなっただけだ。むしろ、的に当てやすくなったと考えろ」

「なるほど、わかりましたマスター」

 

キャロルの言葉に頷くレイア。

ファラとミカも口を開く。

 

「わかりましたわマスター。ふふ、どこから切り取ってあげましょうか」

「大きいトカゲなんだゾ。トカゲにビビるなんて、ガリィはヘタレだゾ」

「誰がヘタレだアホ!」

 

ガリィはキレた。

 

「ふ、そうだな。ただ図体が大きくなっただけ」

 

にわかに士気を取り戻す皆を見て、弦十郎は頼もしさに笑った。

 

「あなた達はアバドンの卵の破壊を!」

「OK! トカゲ野郎は任せたぜ」

「ファッキンファッキンファーック!」

 

米兵たちがアバドンの卵破壊に向かう。

 

「行かせるか!」

「キャロルくんと自動人形の四人はベリアルを!」

「了解! 行くぞ!」

 

キャロルのダウルダヴラの弦が、米兵に向かうベリアルの爪を止めた。

一瞬、動きの止まったベリアルに、弦十郎と自動人形たちの攻撃が炸裂する……ッ!

 

 

 

弦十郎&キャロル陣営VSベリアル【1D10】

 

弦十郎【4】+50(OTONA補正)

キャロル【5】

ガリィ【5】

ミカ【10】

ファラ【5】

レイア【7】

 

ベリアル【8】+80(人外補正)

 

 

 

弦十郎の拳がベリアルの腹に直撃する。

ベリアルの身体が軋む。

が。

 

「効かぬわッ!」

 

尻尾で弾き飛ばされる。

 

「ぐぅ……ッ!」

 

弾き飛ばされた弦十郎はしかし、受け身を取って体勢を立て直す。

 

「前よりも、堅い……ッ!」

「大きくなって、ウロコも分厚くなったといった所か」

 

キャロルがそう結論付ける。

 

「ならウロコが無い所を狙えばッ!」

 

ガリィがそう言うと氷柱を飛ばす。

ベリアルは炎を吐いて氷柱を霧散させた。

 

「全然ダメだゾ」

「うっさい!」

「単発の攻撃ではダメね」

「ああ、派手に協力だ」

 

ファラとレイアが仕掛ける。

ファラの突風とレイアのコインがベリアルを攻める。

 

「無駄だ!」

 

ベリアルがダウルダヴラの拘束を解いて、ファラとレイアを拳で叩き潰そうとする。

 

「隙ありよぉ、トカゲ野郎!」

 

ガリィが成形した巨大氷柱2つが、ベリアルの拳を撃ち抜く。

 

「ぐぅ……ッ!」

「今よ、ミカちゃん!」

「わかったゾ!」

 

大きな隙を晒したベリアルにミカがカーボンロッド射出!

狙いは目だ!

 

「バラバラだゾ!」

「ぐおおおおおッ!!」

 

カーボンロッドがベリアルの顔面に直撃。

 

「やった?」

「バカ、それはフラグというものだ……ッ!」

 

キャロルが迂闊な発言をしたガリィに叫ぶ。

そして、キャロルの言葉は事実となった。

 

「マハラギダインッ!!」

 

ベリアルが、不思議な呪文を唱える。

すると、弦十郎たちを狙うように炎が燃え盛った。

 

「ぐお……ッ!!」

「くぅ……ッ!!」

 

弦十郎とキャロルが防御態勢を取る。

が、自動人形たちは一瞬防御が遅れてしまった。

 

「きゃあああ!」

 

炎で弾き飛ばされる自動人形たち。

 

「ガリィ! ミカ! ファラ! レイア!」

 

キャロルが叫ぶ。

 

「うぅ……」

「ごめんだゾ、マスター!」

「私達は、もう」

「派手な、炎だ……!」

 

自動人形たちは、躯体の各所が焼け焦げ、溶けていた。

メンテナンス無しでは、動けぬほどであった。

 

「フハハ、初戦はヒト猿と人形よ。このベリアルの敵ではないわ!」

 

ベリアルが笑う。

その顔は血に塗れていたが、それでも嗤っていた。

ベリアルの勝利か……。

そう思われたとき。

銃声が響いた。

 

「撃って撃って撃ちまくれ!」

「アバドンを破壊せよ!」

「ファッキンファッキンファッキンファーック!!」

 

アバドンの卵の元へたどり着いていた米軍兵たちが、破壊工作を開始したのだ!

 

「よし、ヒビが入った!」

「あと少しだ!」

「……あれ?」

 

アバドンの卵にヒビが入った事で喜ぶ米兵たち。

だが。

異変が起きた。

卵が、グニャグニャと歪みだしたのだ。

 

「な、なんだ……?」

「と、とにかく撃て!!」

「ファーック!」

 

異変に逸り、攻撃を再開する米兵たち。

だが。

アバドンの卵から、一本の手が生え、そして。

米兵を1人摑んだ。

 

「な……!」

「うわあああ!」

 

その手は、米兵を卵の中に引き込む。

そして、中から悲鳴。

 

「ギャアアアア!!」

 

それと同時に、咀嚼音。

 

「うそ、だろ……」

「食った、のか……?」

 

米兵たちは攻撃を止め、慄いた。

そんな米兵たちに、アバドンは。

更に腕を生やして捕まえようとした。

その数、4本。

 

「うわ、わ!」

「ヒィィィ!」

「た、助け」

「いやだ、死にたくない!」

 

4本の腕が卵の中に引き込まれる。

咀嚼音がする。

 

「て、撤退!」

「アバドンが目覚めた!!」

 

米兵たちが撤退しようとする。

が。

アバドンは目の前の食事(米兵)を逃すつもりはないようだった。

 

卵から2本の腕。

その腕が地面を掴み、力を込める。

そして、跳躍。

逃げる米兵の真上!

そして、そのまま。

卵ごと、米兵を押しつぶした。

ジュルジュルと、床を舐め回す音。

 

「……ッ!」

 

目の前で、あっという間に米兵たちが死んでいった事実に戦慄する弦十郎とキャロル。

 

「フハハ、アバドンが目覚めた! 流石は高フォニックゲイナー! アリスと雪音クリスとソネットの3人だけで目覚めるとは!」

 

ベリアルが笑う。

 

「さあアバドン! 食事はまだまだあるぞ!」

 

ベリアルが、弦十郎とキャロルへの道を開ける。

 

「キャロルくん、君だけでも」

「ガリィたちを置いて行けん。気合で倒せ」

 

アバドンとベリアル、その2体と戦わねばわならない現実に直面する2人。

だが、アバドンが向かったのは……。

 

「…………え?」

 

()()()()であった。

ベリアルに向かって突進したアバドンは、ベリアルを壁に叩きつけた。

 

「が、ァ……!」

 

大質量に押しつぶされ呻くベリアル。

 

「アバ、ドン。 ちが、う! エサは、あっち……」

 

そういうベリアルを無視して、アバドンは。

何度も体をベリアルに叩きつけた。

ビルが揺れる……。

 

ベリアルの動きが弱くなる。

アバドンの卵は縦に大きく裂けた。

ヒビだと思っていたのは、口だったのだ。

口から、手が伸びていた。

その口が、ベリアルを飲み込む。

 

「やめろ! ギャア痛い! やめろ、噛むな! やめ、ろ……」

 

バリバリと、ベリアルを咀嚼し、飲み込むアバドン。

その身体に変化が現れる。

卵型の身体の下半分に、脚と尻尾。

背部に羽。

口から伸びた手は4本、地に着いている。

そして、頭頂部には冠型の角。

 

「GYAGYAGYA……」

 

アバドンが、笑い声のような鳴き声をあげる。

 

「成長、した……!」

「ベリアルを取り込んで……!」

 

と、弦十郎とキャロル。

そんな二人の方を向く、アバドン。

だが、その時。

 

「目覚めたか、アバドン」

 

ネビロスが転移してくる。

アリスやクリスたちも一緒だ。

 

「クリスくんッ! 無事かッ!?」

「おっさん! あたしは大丈夫だ!」

「……あら、赤おじさんがいないわ?」

 

アリスがキョロキョロと辺りを見る。

 

「……ベリアル? どこだ?」

「食われたぞ、そいつに」

 

ネビロスにそう教えるキャロル。

 

「なに……?」

「ベリアルなら、アバドンが食べた」

「うそ……」

 

アリスが驚愕する。

その声に反応してか、アバドンがアリスを見る。

 

「Gyaha……!」

「いや……ッ」

 

アバドンの嗤い声に、命の危機を感じたのかアリスが後ずさる。

そのアリスの前に、ネビロスが壁となるように立つ。

 

「なるほど。アバドン、その名の通り破壊しかもたらさぬか」

 

ネビロスの影から、無数のゾンビたちが這い出てくる。

 

「もはやアリスの為の国は作れぬ。ベリアルの仇よ、死ね」

 

そうネビロスが言うが早いか、ゾンビたちがアバドンに向かって攻撃する。

こうして、ネビロスとアバドンの戦闘は開始された。

アバドンはゾンビたちによる攻撃に一瞬怯む。

その隙を逃さず、ネビロスが闇色の魔力弾を大砲の一斉射のように射出する。

 

「キャロルくん、自動人形を連れて離脱しろ」

 

アバドンとネビロスから目を離さず、弦十郎がそう言う。

 

「お前はどうするつもりだ?」

「隙を見て、クリスくんを助け出す」

「無茶だ……! お前も離脱しろ」

 

キャロルが声を荒げる。

そう言い合う間に戦況は移り変わる。

防戦一方だったアバドンが動いたのだ。

その腕を伸ばして、ゾンビを掴み取った。

そして、そのゾンビたちをアリスに向かって投げたのだ。

 

「アリス!」

 

ネビロスがアリスを庇う。

ゾンビが降り注ぎ、ネビロスの身体に当たる。

身動きの取れないネビロス。

その眼前に、大口を開いたアバドンが迫る。

 

「……あ」

 

ネビロスが何か言おうとする。

が、その口が言葉を発する事はなく。

ネビロスはアバドンに喰われてしまった。

 

「黒おじさん……?」

 

アリスは、目の前の出来事を理解出来なかった。

敬愛する黒おじさんを食べられた事に。

 

「……ぅ」

「……あ」

 

アリスの背後、クリスの両手を掴む雅律とソネットが呻く。

 

「あぁ、僕は……」

「うぅ、クリス」

「パパ! ママ!」

 

ネビロスが死に、雅律とソネットの洗脳が解けたのだ。

雅律とソネットがクリスの手を離した。

 

「クリス、ごめんよ。心配をかけて」

「辛かったでしょう……」

 

そう、雅律とソネットが声をかける。

だが、その声がアバドンの注意を引いた。

 

「GyaHaaaA」

 

アバドンがその腕をアリスたちに伸ばす。

愛娘を庇う雅律とソネット。

愛し子の中には、咄嗟のことからかアリスが含まれていた。

だが、その腕が一組の家族を掴む事は無かった。

 

「Gyaaaah!?」

 

アバドンの腕を阻んだのは業火であった。

アバドンとアリスたちとの間に敷かれた炎の轍が太陽のプロミネンスのような炎を拭き上げてアバドンの腕を焼いたのだ。

 

「間に合っ、たぁ!!」

 

炎の轍を敷いたのは、一鳴である。

六本木ヒルズの最上階から飛び降りた彼は、抱え上げたビリー大尉を後方支援に徹していた二課職員に預けた後、アバドンの元へ向かったのだ。

そして彼は間に合った。

 

「弦十郎さん、キャロルちゃん! クリスちゃんを連れて退避を!」

 

この場は俺が引き受ける。

そういう覚悟であった。

 

「……すぐ戻るッ!」

 

ネビロスは死に、アリスは呆然としていた。

クリス救出を妨げる者は居ない今、退避有るのみであった。

キャロルは自動人形4騎をダウルダヴラの弦で器用に抱え、弦十郎はクリスの手を引き雅律とソネットに避難を勧めた。

 

「アリスちゃんも!」

「……あ」

 

避難の中、ソネットはアリスの手を掴んでいた。

アリスは、きゅ、と小さくその手を握った。

 

 

 

 

 

 

六本木ヒルズは崩壊した。

アバドンが暴れ回り、一鳴のスダルシャナが回転する。

瓦礫はアバドンが喰らい、ネビロスが死んで制御するものが居なくなったゾンビがアバドンに掴み取りされた。

アバドンは物を食うたびに成長し、その身体は今となってはニ十メートルに迫ろうとしていた。

 

「きっつ……」

 

一鳴の頬を冷や汗が流れる。

アバドンの皮膚にはスダルシャナの刃も炎も通らなくなっていた。

大きく成長する度に、その皮膚も厚くなったと見える。

その一鳴とアバドンの戦闘を、少し離れた場所から見る弦十郎。

 

「クリスくん」

 

弦十郎が話しかける。

そのクリスは、蹲ったアリスの側にいた。

雅律とソネットも、その隣に居てアリスを気遣っていた。

 

「赤おじさん、黒おじさん……」

 

そのアリスは、保護者が死んで意気消沈していた。

 

「一鳴くんを助ける為に、力を貸してほしい」

「……どうすればいいんだ」

 

クリスの言葉に、弦十郎は答えた。

 

「歌ってほしい。クリスくんの歌が必要なんだ」




この世界のアバドンは、女神転生のような蕩けたカエルや地面に潜るオッサンのような見た目ではありません。
わかりやすく言うと、アクジキングみたいな見た目。
胎内に平行世界を持っているので、なんでも食べれるしその胃袋に限界はありません。
つよい(確信)


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第七十三話 屍人の国のアリス⑥

7月はお仕事クソスケジュールで投稿不定期になりそうだから早めに初投稿です。

そういやXDU4周年ですね。え、そんなやってたのあのゲーム!?
4周年記念のデュランダルギア、シナリオもギアのデザインも最高でした。これからも宜しくねXDUフタッフ! 期待してるゾ!


フォニックゲイン。

歌の力とも称され、聖遺物を励起・増強させるエネルギーである。

このフォニックゲインを多く発揮させる歌を唄える者は高フォニックゲイナーと呼ばれる。

雪音クリスもその一人だ。

 

故に風鳴弦十郎は、雪音クリスの歌が必要だと言ったのである。

ベリアルとネビロスという悪魔を喰らった完全聖遺物アバドンを倒すために。

今もアバドンと戦い続ける一鳴のシンフォギアを増強させる為の歌を、クリスに歌ってほしいのであった。

 

「歌ってほしい。クリスくんの歌が必要なんだ」

 

弦十郎の頼み、クリスは弦十郎を見た。

 

「あたしの……歌を?」

 

クリスは、シンフォギアの特性を知らなかった。

フォニックゲインの高まりで強くなる事を知らなかった。

だが、ベリアルとネビロスに攫われた後の事は覚えていた。

 

自身の両親やアリスと歌った事、彼女らの歌を聞いたベリアルとネビロスが満足気に笑った事、これでアバドンは目覚めるという言葉を。

 

「よくわかんねーけど、あたしの歌が、一鳴に必要なんだな?」

「ああ」

 

弦十郎が頷く。

クリスが言葉を続けた。

 

「あたしの歌が、アバドンを目覚めさせたように一鳴を強くするんなら、あたしだけじゃダメだ。……ママ!」

 

クリスは、アリスを介抱するソネットを呼んだ。

 

「クリス、話は聞いていたわ。私達の歌が必要なのね」

 

ソネットはそう言う。

だが、その目はアリスに向けられていた。

 

「……アリスちゃん、一緒に歌いましょう?」

「……え?」

 

アリスは戸惑う。

当たり前だ、アリスはソネットたちを利用していたのだから。

アリスの保護者であるネビロスが勝手な理由からその死体から蘇らせ、物のように扱っていた。

だがソネットの、アリスを憎む筈のその声はしかし、慈愛に満ちていた。

 

「私と……?」

「ええ、あそこで戦っている男の子を助ける為に歌が必要なんですって」

「……いいの?」

 

アリスは問う。

 

「私、あなた達に酷いこと沢山したわ」

「そうね。……でも、あなたはずっと、寂しかったんでしょう?」

「……え?」

「一緒に過ごしてきて、なんとなくわかったわ。アリスちゃんは、きっと愛されたかったんだって。そんな子を憎めるはずないじゃない」

 

そう言ってソネットは笑いながら、アリスの頭を撫でた。

 

「それに、私はあなたのママでもあるもの」

「僕にとっても、大事な娘さ」

 

雅律もまた、そう言って笑った。

 

「……ありがとう」

 

アリスは決意を込めて立ち上がった。

洗脳されていたとはいえ、アリスに愛を注いでくれたソネットと雅律が、アリスを許したのである。

アリスはその愛に報いたかった。

 

「行きましょ、クリスお姉ちゃん!」

「ああ!」

 

クリスとアリスは手を繋いだ。

今も戦う、一鳴を助ける為に。

 

「雅律さん、私達も」

「ああ」

 

ソネットが手を伸ばし、雅律がその手を取る。

一組の家族は戦場に向かう。

ただ希望を歌うために。

 

 

 

 

 

 

「GyaaaaA!!」

 

アバドンの腕が(一鳴)に伸びる。

俺はその腕を戦輪で受け流す。

黒い槍の如きその攻撃は重く鋭く、受け流すだけでも手一杯であった。

 

「ハァ……ハァ……」

 

息が荒い。

疲労が溜まっていた。

六本木ヒルズは瓦礫となり、その瓦礫を飲み込んだアバドンの大きさは三十メートルになろうとしていた。

もはや大怪獣である。

いや、シンフォギアはゴジラとコラボしてたしな。

そらアバドンも怪獣になるわね(震え声)

などと考えていたら、アバドンが跳躍し、大口を開けて俺を飲み込もうとしてきた。

 

「うおおーッ!」

 

シンフォギア脚部のバーニアを吹かして回避。

アバドンが衝撃波を起こして着地。

俺はそこから少し離れた所に同じく着地。

 

「ハァ……ハァ……、みんな、逃げたかしら」

 

俺もそろそろ撤退をしようか、そう考えた時。

歌が、聞こえた。

 

「この声……」

 

流麗で涼やかな、しかし確かな火のような意志のある歌声。

クリスちゃんの歌声だ。

それだけではない、ソネットさんと、アリスの歌声も聞こえる。

声の聞こえる方を見渡すと、少し離れたビルの屋上にクリスちゃんとアリス、ソネットさん。その隣で雅律さんがバイオリンを奏でている。

 

「なんで……」

 

なぜ彼女らが歌を歌うのか、疲労した脳ではすぐに答えが出せなかった。

 

「Gguuu……」

 

アバドンも、クリスちゃんの方を見る。

ニヤリと嗤い、そのビルの方へ向かう。

 

「させるかッ!」

 

腰アーマーから小型戦輪を、アバドンに向け射出。

ただ、その進行を妨害しようとしたのだが、その刃がアバドンの皮膚を裂き、その炎がアバドンの肉を焼いた。

 

「Gyaaaa!!?」

 

アバドンが痛みに後退する。

 

「……フォニックゲインか!」

 

俺は合点がいった。

フォニックゲインで、こちらのシンフォギアを強くしてくれているのだ。

危険を冒してまで。

 

「ありがとね」

 

俺はクリスちゃんたちに向けて手を上げた。

クリスちゃんも手を上げて応えてくれた。

 

 

 

一鳴VSアバドン【1D10】

 

一鳴【3】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

+100(フォニックゲインの高まり)

 

アバドン【5】+80(ベリアル捕食)+15(ネビロス捕食補正)+5(ヒルズ捕食補正)

 

 

 

フォニックゲインが高まり、黄金の光となる。

溢れたフォニックゲインが、シンフォギアの力となる。

スダルシャナの炎が燃え上がり、戦輪の回転は黄金回転に至ろうとする。

 

「これでぇッ!!」

 

紅蓮一閃・滅破

 

俺は戦輪を振るう。

戦輪の108の刃は回転し、その回転は炎の嵐を生む。

その嵐は赤い斬撃となり、アバドンに向かって飛ぶ。

 

「Gya────!」

 

アバドンが叫び、その斬撃を腕で受け止める。

だが、その斬撃はアバドンの腕をたやすく焼き切り、アバドンの本体に達した。

 

「─────a」

 

そして、アバドンは。

その身を真っ二つにして、倒れ伏した。

アバドンは動かなくなった。

こちらの勝利である。

 

俺は、シンフォギアのバーニアを吹かして飛翔。

クリスちゃんたちのいるビルに着地した。

 

「クリスちゃん!」

「一鳴!」

 

互いに名前を呼び合う。

 

「ありがとう助かった!」

「こっちこそ。助けに来てくれて、ありがとうな」

 

クリスちゃんが照れくさそうに笑う。

俺の意識はクリスちゃんに向けられていた。だからこそ、アバドンの動きに気付かなかった。

アバドンの指が、わずかに動いたのである。

その指は、俺に、そのそばにいるクリスちゃんに向けられていた。

 

「Gu……A」

 

アバドンの指先から、闇色の魔力光が放たれる。

 

「あ……」

 

俺がそれに気付いた時、魔力光は目前まで迫り防御は間に合いそうも無かった。

せめてクリスちゃんを庇おうとした、その時。

アリスがその眼前に飛び出した。

 

「きゃあああッ!」

 

アリスが泣き叫ぶ。

しかし、そこから動こうとせず、手を伸ばして光線を防ぐ。

 

光線が収まる。

アリスの腕は黒焦げ、崩れていた。

 

ねぇ、死んでくれる?

 

アリスが涙ながらに口ずさむ。

瞬間、真っ二つになってなお生きていたアバドンは、全身が塵となった。

 

「アリス!」

「アリスちゃんっ!」

 

クリスちゃんとソネットさん、雅律さんがアリスちゃんに向かう。

 

「お兄ちゃん、油断してちゃダメね」

 

アリスが半ばふざけたように俺を咎める。

 

「ごめんね、助けてくれてありがとう」

「クリスお姉ちゃんを助けたのよ」

 

そう、笑いながら言うアリス。

だが、その笑いはすぐに引っ込んだ。

 

「……もう、終わりね」

 

アリスの身体が崩れだしていた。

 

「アリス……?」

「クリスお姉ちゃん、私、もうさよならみたい」

 

アリスは残念そうに言った。

 

「黒おじさんが死んで、私の身体を保つ為の生命エネルギーをゾンビから取り出せなくなったから」

「そんな……」

 

クリスちゃんの眼から涙が溢れる。

 

「泣いてくれるの? 私、クリスお姉ちゃんに酷いことしたのに」

「そうだよ! あたしのパパとママ好き放題しやがって! ……それでも、一緒に歌って仲良くなれたのにッ!」

「クリスお姉ちゃんは優しいわね」

 

アリスが穏やかに笑った。

 

「素敵なパパとママと、優しいお姉ちゃんが出来て、私嬉しかったわ!」

「アリス……」

「ありがとう、大好きよ……、クリス、おねえちゃん」

 

そう言って、アリスの肉体は崩れ、土塊となった。

魂は、黄金の粒子となって、天に登っていった。

 

「クリス……」

「私達も、そろそろ終わりみたい」

 

雅律さんとソネットさんがそう言う。

 

「パパ、ママ。……嫌だよ、ずっと側にいてよ」

 

クリスちゃんの眼から涙が止まらない。

そんなクリスちゃんを雅律さんとソネットさんが抱きしめた。

 

「僕達もゾンビだから」

「ネビロスが居ない今、いつかは崩れ去るのよ」

 

雅律さんとソネットさんはクリスちゃんを強く抱き締める。

 

「クリス、学校で友だちは出来たかい?」

 

雅律さんがそう聞く。

クリスちゃんは頷いた。

 

「クリス、病気してない?」

 

ソネットさんがそう聞く。

クリスちゃんは頷いた。

 

「クリス、もう思い残す事はないよ」

 

雅律さんが、クリスちゃんから離れる。

 

「クリス、愛してるわ」

 

ソネットさんが、クリスちゃんから離れる。

 

「パパ! ママ! あたしも、あたしもパパとママが大好きだよ!」

 

クリスちゃんが叫ぶ。

雅律さんも、ソネットさんも泣きながらその言葉を聞いていた。

 

「クリス、天国から見守って、いるから、ね……」

 

雅律さんの身体が土塊と変わる。

 

「クリス、さようなら。最期に皆で歌えて、よかった……」

 

ソネットさんの身体が土塊と変わる。

雅律さんの魂とソネットさんの魂は、黄金の風となりクリスちゃんを撫でると、天に向かって飛んでいった。

 

「パパ、ママ……、うわああああん!!」

 

クリスちゃんは泣いた。

大声で、泣いた。

俺はその背を静かに撫で続けた。

夜は明け、黄金の朝日が街を照らした。

天に登る魂を、迎え入れるかのようであった。

 

 

 

 

 

 

こうして、アバドン事変と名付けられた事件は幕を閉じた。

犠牲者は3000人を超え、被害総額は2000億を超える。

それでも、生き残った人は今日を生きるのである。

 

「君には世話になったな」

 

ビリー大尉もその一人である。

アリスの死んでくれる攻撃を生き残った彼はしかし、内蔵を酷く傷付けられ軍人を続けられなくなっていた。

 

「なぁに、テキサスで牧場やってる弟に世話になるさ」

 

そう言って笑うビリー大尉。

だが、ビリー大尉は今回の作戦の失敗と部下を全員死亡させた責任を取らされ、給料と年金を全て返上する事になった。

 

「生きていればどうにでもなるよ」

 

ビリー大尉はそう笑って俺と握手した。

国を守ってきた男の、力強い握手であった。

 

「ではなカズナリ。お姫様に宜しく」

 

そう言って、ビリー大尉はアメリカに帰って行った。

 

 

「八紘さん、せめてビリー大尉の年金ぐらいはどうにかなりませんか」

 

俺がそう頼むと、八紘さんは首を振ってこう言った。

 

「ビリー大尉はアメリカに仕える人間だ。こちらがビリー大尉の処分にとやかく言えば越権行為とみなされるだろう」

「そんな」

「だが」

 

八紘さんはこう続けた。

 

「ビリー大尉の弟がやってる牧場に、まとまった額の寄付はされるだろうな」

「八紘さんッ! ありがとうございます!」

 

少なくとも、ビリー大尉のしばらくの生活費には困らないだろう。

その後、ビリー大尉が新しい仕事を見つけるか、弟と共に牧場をもり立てるかは、彼次第である。

 

さて。

アバドン事変に巻き込まれ、今日を生きる者はもう一人。

クリスちゃん。

彼女も随分と塞ぎ込んでいた。

死に別れた家族と、また別れてしまったのだから。

だが、病院での検査が終わり、孤児院に戻ると。

 

「クリス先輩!」

「心配したデスよ!」

 

調ちゃんや切歌ちゃん、他にも沢山のクリスちゃんを慕う孤児の子たちに出迎えられた。

 

「皆の前で、いつまでも落ち込んでられねぇよな!」

 

クリスちゃんはそう言って笑った。

ヤケクソ気味なのかもしれない、が。

それでも元気になったのなら、良かったのかもしれない。

 

 

 

クリスちゃんの好感度ダイス【1D10】

 

1 頼れる奴だ!

2 ……カッコ良かったな

3 あたし、なんで一鳴と話すと胸がドキドキするんだ?

4 頼れる奴だ!

5 ……カッコ良かったな

6 あたし、なんで一鳴と話すと胸がドキドキするんだ?

7 頼れる奴だ!

8 ……カッコ良かったな

9 あたし、なんで一鳴と話すと胸がドキドキするんだ?

10 熱烈歓迎

 

結果【1】

 

 

 

「一鳴は頼りになるよな。ちゃんとあたし様を助けに来てくれたし」

 

そう言って、クリスちゃんは笑う。

 

「ちゃんと助けに来てくれて、ありがとな」

「どういたしまして。お礼はデートで良いよ」

「あたしはお高い女だからな! 満足させないと許さねぇぞ」

 

そんなやり取りがあったりなかったり。

 

「じー……」

 

そんなやり取りを調ちゃんに見られたり見られなかったり。

いや見てたわ(震え声)

 

「し、調ちゃん」

「うわきもの」

「調ちゃーん!」

「すけべ。おっぱい星人。へんたい」

「調ちゃん! 許して許して」

「じゃあお高いデートしてね」

「ハイヨロコンデー!」

 

そんなやり取りがあったりなかったり。

クリスちゃんは笑っていたけれど。

けど、笑ってくれるなら、まあいいか。

 

どっとはらい!




クリスちゃんはお高い女。
早々簡単には落ちないオンナなのね。
これには雅律さんもニッコリ、ソネットさんも安心である。

ちなみにサクシャ、クリスちゃん推しなので運命に抗い10面ダイスを振りまくった。
で、出た出目が【1】【1】【4】【7】。
全て好感度最低値上昇の出目だった。
私は哀しい……(ポロロン)


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第七十四話 藤尭の人生相談


最近バトル展開ばっかりだったので、気軽な日常回です。
藤尭さんは、何やら悩みがあるようです……。


 

 

6月某日。

梅雨に入り、雨の降りしきる深夜のこと。

地下深くにある特異災害対策機動部二課のオフィスは、雨音は届かずクーラーの効いた快適な職場であった。

なのだが。

梅雨のようにジメッとした雰囲気を漂わせた夜間勤務の男が一人、休憩室でコーヒーを飲んでいた。

冷たい缶コーヒーであった。

 

「はぁ……」

 

ため息が一つ。

今ため息をついた男は、藤尭朔也という。

二課のオペレーターの一人であり、若いながらも多くの仕事を任されている男である。

 

「はぁぁ……」

 

その藤尭がまた、ため息をついた。

と、そこに一人の少年が現れる。

ぴっちりインナーに首からタオルを提げた少年、我らが一鳴である。

 

「藤尭さんお疲れ様です。休憩ですかぃ?」

 

缶コーヒーを買いながら、一鳴が藤尭に話しかける。

 

「うん、まあね。一鳴くんも休憩?」

「ええ、訓練プログラムは終わったんで、あとは朝まで待機デスネー」

 

ラーヴァナとネビロスとベリアルの三人がかりはいやーキツイっす、と口にしながら、一鳴は藤尭の対面のベンチに座る。

 

一鳴もまた、今夜は夜勤であった。

夜の間、特異災害であるノイズの発生に備えて二課に待機しているのである。

ただ待機しているだけでなく、その間も訓練を課されているが。

今日も、トレーニングルームにてバーチャルラーヴァナとバーチャルネビロスとバーチャルベリアル相手に戦ってきたのだ。

 

ちなみに、今夜も一鳴の寵愛を賜わろうとしたマリアとセレナはガックリと肩を落としたが、それはそれとして。

 

「はぁぁぁ……」

 

藤尭の深いため息である。

流石に一鳴も無視はできなかった。

 

「どうしたんです、そんなため息なんてついて」

「ああ、ごめん」

「悩みがあるなら聞きますよ?」

 

と、一鳴。

藤尭は、ポツリポツリと話し出す。

 

「実は……」

 

 

 

藤尭の悩み【1D10】

 

1 仕事がうまくいっていない

2 友里さんと喧嘩した

3 友里さんの性欲が強い

4 仕事がうまくいっていない

5 友里さんと喧嘩した

6 友里さんの性欲が強い

7 仕事がうまくいっていない

8 友里さんと喧嘩した

9 友里さんの性欲が強い

10 友里さんがたまごクラブを読み出した

 

結果【8】

 

 

 

喧嘩の原因は?【1D10】

 

1 友里さんを名前で呼べない

2 内緒で高価な調理器具買っちゃった

3 女性職員に告白された所を見られちゃった

4 友里さんを名前で呼べない

5 内緒で高価な調理器具買っちゃった

6 女性職員に告白された所を見られちゃった

7 友里さんを名前で呼べない

8 内緒で高価な調理器具買っちゃった

9 女性職員に告白された所を見られちゃった

10 飲む、打つ、買う! が酷すぎて……。

 

結果【6】

 

 

 

「───実はさ、友里さんと喧嘩しちゃって」

 

一週間前の事である。

その日も仕事をしていた藤尭。

聖遺物のデータを纏めたり、事件のデータを収集したり。

藤尭は元ハッカーである。

高校卒業後は、ハッカーとして活動していたのだ。

ハッカーたちの間ではヤバイ級ハッカーとして、名を上げていた。

だが、二課のセキュリティを突破してシンフォギアの情報を盗み見た事がバレて拘束され、そのまま二課にスカウトされたのであった。

なのでインターネットを使った仕事は得意である。

そんな藤尭でも、仕事が膨大なら定時を超えて仕事することになり、遅くまで残ることになってしまった。

 

「残りは明日にするか……」

 

藤尭は帰宅することにした。

二課内には職員は残り少ない。

オペレーター陣もほとんど帰っている。友里も定時頃に帰宅した。

責任者である弦十郎に挨拶し、エレベーターに長く揺られて外に出る。

その日は晴れていて、星空が見えていた。

普段は生徒で賑わっているリディアン音楽院も、前衛的な校舎を静かに夜に横たえている。

 

「センパイ!」

 

外に出たところで、後ろから来た人間に声をかけられた。

最近二課に、入った後輩の女性である。

元々は、警察のサイバー対策室にいた才女であるらしかった。

そのバストは豊満であった。

 

その後輩が、藤尭の後を追ってきたのである。

 

「一緒に帰りませんか?」

 

走ったのだろうか、少し息を切らしながら藤尭にそう言う後輩。

 

さて、藤尭には美人の恋人がいる。

名を、友里あおいというその女性は、美人で性欲旺盛であり、その友里と恋人である藤尭は世の男性から羨望の眼差しで見られること間違いない。

なので、後輩からそう言われた時、藤尭の脳裏に浮かんだのは友里である。

が。

 

(浮気するわけじゃないから、いいか)

 

と軽く考え、後輩の提案に同意したのだ。

だが。

その後輩が距離を詰めてくるのだ。

最初は後輩の女性もそれなりに距離を離して歩いていたのだ。

だが、歩いていく内にだんだんと、距離を詰めだし、今ではもう腕が触れ合うほどの距離である。

 

「俺は恋人がいるから離れてくれないか?」

 

と、強気で言えるほど藤尭は豪胆ではなく。

距離が近いな、と思いながら家まで歩いていたのだ

 

「じゃ、俺はここだから」

 

と、藤尭が自宅マンションの前で後輩に告げる。

後輩の家もここまでであり、恋人でもない女性の家まで送って行くのもはばかられる。

しかし、その後輩女性は動かなかった。

下を見ていたかと思うと、覚悟を決めたように顔を上げ、藤尭の目を見る。

 

「ワタシ、藤尭センパイの事好きですッ!」

 

一瞬。

藤尭は言葉の意味がわからなかった。

少しの間の後、言葉の意味を理解した藤尭は仰天した。

 

「ええッ!?」

「本気ですッ! 本気で藤尭さんの事が好きなんですッ!」

 

後輩の女性に告白された藤尭。

しかし繰り返すが、藤尭には美人の恋人がいる。

そして、えてして美人は怒ると怖い。

なので藤尭は即座に断ることにした。

 

「ご、ごめんッ! 俺恋人いるから」

「友里先輩ですよね。知ってますよ」

 

と、後輩。

 

「でも、友里先輩より私の方が若いですよ。それに……」

 

後輩が、藤尭に抱きつく。

豊満なバストを押し付ける。

 

「おっぱいだって、友里先輩よりも大きいんですよ……♡」

「だ、駄目だって離れて……!」

 

藤尭は赤くなりながらも、後輩を引き離そうとする。

が……。

 

「あら、藤尭くん。遅いと思ったら」

 

声が響く。

マイナス5100度の指向性エネルギー波が放たれたかのようである。

緊張感で空気がヒリつく。

 

「と、友里=サン……!」

 

友里あおい=サンのエントリーであった。

友里は、藤尭のマンションから出てきた。

藤尭の部屋で待っていたのだろう。

仕事終わりの藤尭と愛し合おうとして……。

 

「随分と、楽しそうねぇ……?」

「アイエエ……」

 

友里の笑顔に藤尭は小さく失禁した。

笑うという行為は本来攻撃的な物であり、獣が牙を剥く行為が原点である。

凄まじい、迫力であった。

 

「ヒエエ……」

 

後輩女子は失禁しながら藤尭から離れ、逃げ出した。

残された藤尭!

 

「と、友里さん。違うんです(震え声)」

「ええ、もちろんわかってるわ」

 

ニッコリと、笑う友里。

 

「若い女の子の巨乳の感触堪能していたのよねぇ?」

「ち、違うよ!」

「若い女の胸は、柔らかかったかしら?」

「友里さん、話を……」

「悪かったわねぇ、貧乳のおばさんで!」

 

フン、とそっぽを向いて去る友里。

なお友里の胸は世間一般的に見ても大きい。

 

「ま、待って友里さん。友里さーん!」

 

腰が抜けた藤尭は、友里を追うことが出来なかった。

風が一陣吹き抜けて、哀れな藤尭を撫でていった。

 

 

 

 

 

 

「それから、友里さんと話そうとしても無視されて。ずっと話せていないんだ……」

 

ずーん、と肩を落とす藤尭である。

一鳴は、缶コーヒーを一口飲む。

 

「藤尭さん、失敗しましたね」

 

一鳴は言葉を続けた。

 

「その時、無理に立ってでも友里さんを追って抱き締めるべきでしたね」

 

友里からしてみれば、彼氏である藤尭に若い女が抱き着いていたのである。

プライドを大いに傷つけられたに違いない。

なので藤尭のやるべきことは、そんな友里を抱きしめて「君が一番だ」と囁くことであった。

 

「一鳴くん、どうしよう。俺友里さんと別れたくないよ」

 

付き合いの始まりが酒の勢いの逆レであったとはいえ、藤尭にとって友里は初めての恋人であり、愛する女性であった。

そして、一鳴もそんな藤尭の力になりたいと思った。

 

「やるべきことは一つしかありません」

 

一鳴は人差し指を立てて教授した。

 

 

 

一鳴のアドバイス【1D10】

 

1 抱けーッ!

2 抱けーッ!

3 抱けーッ!

4 抱けーッ!

5 抱けーッ!

6 抱けーッ!

7 抱けーッ!

8 抱けーッ!

9 抱けーッ!

10 このフィーネ印の媚薬を飲んで抱けーッ!

 

結果【2】

 

 

 

「友里さんを抱きませい」

 

一鳴は断言した。

 

「えっ?」

 

藤尭は聞き返した?

 

「友里さんを抱きませい」

 

一鳴は2度、断言した。

 

「いいですか藤尭さん? 友里さんは大いにプライドを傷つけられたと同時に、藤尭さんに裏切られたと思っている筈です」

「う……」

 

図星を突かれた藤尭である。

 

「なので抱きませい」

「だからなんで!?」

「激しく抱きませい」

「激しく!?」

 

一文追加されて驚く藤尭。

 

「友里さんもきっと、藤尭さんと仲直りしたいと思っています。でも、同時に藤尭さんに裏切られて信用出来ないと、思っているのです」

「うん」

 

一鳴の言葉を静かに聞く藤尭。

 

「なので激しく抱くのです。友里さんが好きだ、友里さんが欲しい、そういう思いを込めて激しく激しく抱くのです。藤尭さんには友里さんしかいない、友里さんだけだ。そう思わせるのです」

 

一鳴の言葉には実感が籠もっていた。

というか前世で経験済みであった。

なので一鳴の言葉は自信が込められていた。

その自信に中てられる藤尭。

 

「そ、そうか。わかったよ、やってみる。……でも、そもそもどうやって誘えばいいか」

 

友里は藤尭を無視していた。

藤尭が「ヤらないか?」と誘っても乗ってこない可能性が高い。

 

「んなもん「ちゃんと話がしたい」って腕掴んででも伝えてアポ取ってホテル連れ込め」

 

アドバイスが雑になる一鳴であった。

それぐらい自分で考えろ、という意思の現れであった。

 

「家でもいいですよ。とにかくふたりきりになれる空間に連れ込んで抱きませい」

「わかったよ。ありがとう、話を聞いてくれて」

 

藤尭は立ち上がる。

もうジメッとした雰囲気は纏っていなかった。

 

「どういたしまして。吉報待ってるデスよ」

 

そうして。

一鳴は仕事に戻る藤尭を見送ったのであった。

 

 

 

 

 

 

6月某日。

梅雨の合間の晴れの日、日中のこと。

地下深くにある特異災害対策機動部二課のオフィスは、夏を思わせる日差しは届かずクーラーの効いた快適な職場であった。

そんな職場の休憩室で美少年が一人、コーヒーを飲んでいた。

冷たい缶コーヒーであった。

 

「バーチャル弦十郎さんとバーチャルキャロルちゃんとリアル訃堂司令はキツすぎて草も生えねぇ」

 

一鳴である。

今日も今日とて、トレーニングルームでの訓練プログラムを行っていた。

気分が乗った訃堂がトレーニングに乱入して、ボコボコにされたのだが。

 

「お疲れ様、一鳴くん」

 

そこに、友里が現れる。

そのまま、一鳴の座るベンチの隣に座る。

 

「一鳴くんのお陰で藤尭くんと仲直り出来たわ、ありがとう」

「どういたしまして。藤尭さんから聞きました?」

「ええ」

 

花のように笑う友里。

 

「久々に熱い夜を過ごせたわ」

「良かったですねぇ」

 

友里の肌はツヤツヤしていた。

 

「仲直り出来てなによりです」

「そうね。私も、あのまま終わりじゃイヤだったから」

「ところで友里さん」

「なぁに、一鳴くん?」

「藤尭さんを、どれだけ搾り取ったんですか?」

 

友里は、ニッコリと笑った。

藤尭は本日病欠であった。

 

「10から先は数えてないわね」

「えぇ……」

「気づいたら朝で、ベッドの上で藤尭くんがゲッソリしていたわね」

 

途中から攻守交代していたらしかった。

 

「まあ藤尭くんにしては頑張っていたわね」

「もっと労ってあげてください(懇願)」

 

漢藤尭、人間の限界に挑んだらしかった。

なお友里に敗北した模様……。

 

「今夜も藤尭くんには頑張ってもらうわね」

「……その前に性の付く物を食べさせてあげてくださいね」

 

一鳴は藤尭の運命に密かに悲しんだ。

が、それを表に出さず、友里に性の付く食材とその料理法を色々教えたのであった。

少しでも、藤尭が楽になるように……。

 

 





今回はダイスが暴走しなかったわね。
力を貯めている……!

ちなみに、藤尭さんに告白した後輩女性は友里さんに恐怖して、サイバー対策室に出戻りしました。
てったい、てったーい!


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第七十五話 人おじさんダンディダービー


私も大好きな某あんこ作者がね、ウマ娘のおじさんVerをスレでやってたので初投稿です。
私もね、やりたくなったのよ。
なので今回の話が生まれた。



 

 

 

「ねぇデート行こうよデート!」

 

7月一週目、期末テストの終わった放課後の事、響ちゃんが突然そんな事を言い出した。

 

「デート? なして?」

 

とりあえず(一鳴)はそう聞くことにした。

 

「テスト! 終わったから、パーッと遊びに行こうよ! 未来も部活無いでしょ!」

 

テストで抑圧された反動からか、遊びに行きたいらしい。

普段は放課後、陸上部で勤しむ未来ちゃんとも遊べるしねぇ。

 

「俺は一向に構わんが」

「うん、私もいいよ」

 

俺も未来ちゃんも断る理由がないので、響ちゃんと遊びに行く事になった。

 

で、ついた場所が……。

 

「ゲーセンかぁ」

 

ゲームセンターであった。

 

「プリクラ撮ろうよプリクラ!」

「あ、響待って!」

 

未来ちゃんの手を取って駆ける響ちゃん。

どうやら最初にプリクラを撮るらしい。

 

「ナルくんも早く!」

「はいはい、今行きますよ」

 

そんな訳でプリクラコーナーである。

俺たちと同様テスト帰りだろうか、女子学生やら学生カップルがキャイキャイしている。

 

「これやろうよ、箒ちゃんと鈴ちゃんがこの前一夏くんと撮って、オススメだって言ってたよ」

 

と言って響ちゃんがプリクラ筐体の内の一つを指さす。

 

「俺プリクラって初めてなのよね。未来ちゃんは?」

「私もそんなに無いから、良いのか悪いのかわからないよ?」

 

とまあ、俺と未来ちゃんはそのプリクラの良し悪しがわからないので、響ちゃんの言葉を信じる事にして、筐体に入る。

 

「じゃあ撮るよー」

 

響ちゃんがそう言う。

 

 

 

どんなプリクラ撮ったの?【1D10】

 

1 普通に三人くっついた

2 普通に三人くっついた

3 普通に三人くっついた

4 ひびみくキスプリ

5 普通に三人くっついた

6 普通に三人くっついた

7 未来ちゃんの頬にキスする響ちゃん

8 普通に三人くっついた

9 ひびみくキスプリ

10 ひびみくにキスされる一鳴

 

結果【4 ひびみくキスプリ】

 

 

 

「はい、チーズ」

 

と、プリクラの筐体が声を上げる。

その瞬間。

 

「未来!」

「え?」

 

響ちゃんが未来ちゃんを呼ぶ。

振り向く未来ちゃん。

その瞬間。

響ちゃんが未来ちゃんにキスをした。

 

「むっ!」

 

目の前で繰り広げられたひびみくに俺は思わず、感嘆の声を上げる。

と、同時にフラッシュが焚かれる。

 

「ぷぁ……!」

 

響ちゃんが唇を離す。

 

「ひ、響ッ!」

 

声を荒げる未来ちゃん。

その耳は真っ赤に染まっていた、

 

「な、ナルくんも居たのに!」

「えへへ、ごめんごめん」

 

まったく悪びれない響ちゃんであった。

 

「……二人は、そういう関係なの?」

 

俺はそれだけ、なんとか言葉にした。

 

「……うん、そうだよ」

 

未来ちゃんが恥ずかしげにそう言った。

 

「5月の終わりぐらいにね、私が告白したんだ」

 

と、響ちゃん。

さらに言葉を続けた。

 

「未来、陸上部に入ってから、男子にデートに誘われるようになってね、未来が取られちゃうって思って、告白したんだ!」

「そっかぁ〜!」

 

キマシタワーはすでに建立されていたのね。

この俺の目を持ってしても、見抜けなんだ……ッ!

 

「ごめんね、ナルくん。ナルくんには言わなきゃって思ってたんだけど」

 

と、未来ちゃん。

 

「いいのよ。響ちゃんとお付き合いして楽しい?」

 

と、俺が聞くと、未来さんはコクリと小さく頷いた。

 

「うん、楽しい……」

「そう、幸せにね」

「うん……!」

「私も! 私も楽しいよ!」

「はいはい」

「ナルくん雑だよッ!」

 

俺は響ちゃんの言葉に適当に返した。

ちなみに。

この時撮ったプリクラは、スマホの裏に貼った。

キスをする響ちゃんと未来ちゃんの後ろで俺が、「我天啓を得たり」みたいな顔していた。

 

「次、あれやろうよ!」

 

さて。

そんな訳で俺と未来ちゃんが響ちゃんに引っ張られて連れてこられたのは暇そうなジジババがタムロしてる、ゲーセンの奥である。

壁一面に緑のターフとおじさんたちが映っている。

その前に、十席ほどの椅子とゲーム筐体。

 

「これ?」

「うん! 人おじさんダンディダービー!」

 

人おじさんダンディダービー。

人おじさんダンディダービーである。

人おじさんダンディダービーってなんだよ。

 

「えっとね、人おじさんたちがコースを一斉に走って、一着の人おじさんを決めるゲームだよ」

 

ようは競馬である。

というかウマ娘プリティーダービーのパクりというかなんというか……。

 

「すごい面白いんだって! 女の子たちの間で大人気なんだよ!」

「それ、私も聞いたことある!」

 

未来ちゃんまで響ちゃんに賛同してしまった。

 

「人おじさんが? 女子学生に? 人気?」

 

と、疑問に思う。

人おじさんって、ようはおじさんでしょう?

おじさんが走るだけでしょう?

本当に人気なの、と思う。

思うのだが。

筐体の前に女子学生が何人も座っている。

人気なのかぁ……(震え声)

 

「ねぇやってみようよ! 一着当てたらなんでも言う事聞くよ!」

「もう、響ったら。……でもいいよ、やろう! 私も人おじさんやってみたかったんだ!」

 

二人は乗り気である。

乗り気なのねぇ。

じゃあ断るのもアレだし、やるしかないわね。

 

そんな訳で、三人で空いてる筐体を使わせてもらう。

 

 

 

レース距離【1D4】

 

1 スプリント(120メートル)

2 マイル(160メートル)

3 クラシック(240メートル)

4 ステイヤー(360メートル)

 

結果【3 クラシック(240メートル)】

 

 

 

「おじさんたちに240メートル全力疾走させるんか……(困惑)」

 

おじさんたちは東京競馬場で240メートル走らされるらしいです。

おじさんたちが可哀想だろいい加減にしろッ!

 

「じゃあ二人ともどの人おじさんに賭ける?」

「うーん、どの人おじさんも距離適性は最低なんだよね」

 

未来ちゃんが悩む。

人おじさんたちには、距離適性というものがあり、適性に合っていたらスピードアップするらしい。

でもほとんどの人おじさんたちは短距離にしか適性持ってねぇ!

 

響ちゃんも未来ちゃんも、あーでもないこーでもないと悩んでいる。

俺も、どの人おじさんが一着になるか選ぶとしよう。

 

 

 

エントリーした人おじさん【1D6】

 

1 アシガクサイ

2 アルチュー

3 メタボラード

4 バーコードハゲ

5 カレイシュー

6 ニョウケッセキ

 

一鳴【4 バーコードハゲ】

響【3 メタボラード】

未来【1 アシガクサイ】

 

 

 

「うーん、俺はバーコードハゲにしよう」

 

俺が賭けるのは4番バーコードハゲ。

スーツを着たバーコードハゲのおじさんである。

せめてジャージを着てほしいが……。

 

「私はメタボラード!」

 

響ちゃんが賭けるのは3番メタボラード。

汗をかいた太ったおじさんである。

大穴狙いか……。

 

「私はアシガクサイかな」

 

未来ちゃんが賭けたのは1番アシガクサイ。

どこからどう見ても野原家の大黒柱。

著作権どうなってるの?

 

まあいいや。

とにかくおじさんたちの出走である。

 

 

 

日本ダービー G1 芝(240m)【1D10】

(40メートルごとに10面ダイスを振って合計値が一番多い人おじさんが優勝。なお、1を出すと故障して敗退)

 

1 【7】【5】【3】【8】【9】【6】合計 38

2 【6】【9】【1】【4】【9】【3】故障

3 【7】【4】【9】【2】【3】【9】合計 34

4 【3】【8】【5】【5】【6】【7】合計 34

5 【8】【5】【8】【6】【10】【3】合計 40

6 【8】【8】【2】 【10】【1】【6】故障

 

 

 

1番アシガクサイ、なんとか善戦するもカレイシューに追いつけず2着。

 

2番アルチュー、飲酒出場したもののコーナーを曲がりきれずずっこけて捻挫して敗退。

 

3番メタボラード、その豊満な肉体に似合わず善戦するも、4番と同着3位。

 

4番バーコードハゲ、息を切らしながらも走りきり、3番メタボラードと同着3位。

 

5番カレイシュー、後半のカーブで加速してアシガクサイを抜き切り一着。

 

6番ニョウケッセキ、後半で尿結石が膀胱を痛めつけて敗退。

 

3分の2が敗退しとる……!

 

「うわーッ、メタボラード!」

 

響ちゃんが頭を抑える。

俺の賭けてたバーコードハゲと、同着3位である。

メタボ体型にしては善戦したんじゃない?

 

「未来ちゃんも惜しかったねぇ」

「うん、残念……」

 

俺の問いかけにそう答える未来ちゃん。

未来ちゃんの賭けてたアシガクサイ、一着とハナ差だものねぇ。

 

「一着は誰も居なかったけど、未来ちゃんの賭けてたアシガクサイが一番順位高いし、なんでも言う事聞くよ?」

 

まあ、慰める為にそう言った。

 

「え、いいの?」

「うん、未来のアシガクサイが一番順位高いし」

 

と、響ちゃんも同調した。

未来のアシガクサイ、って未来ちゃんの足が臭いのうに聞こえる……。

 

「うーん、じゃあ……」

 

 

 

未来のおねがい【1D10】

 

1 夏休みに三人で旅行に行きたい!

2 夏休みに三人で旅行に行きたい!

3 夏休みに三人で旅行に行きたい!

4 響に逆バニーのコスプレをしてほしい

5 夏休みに三人で旅行に行きたい!

6 夏休みに三人で旅行に行きたい!

7 夏休みに三人で旅行に行きたい!

8 一鳴に執事服でご奉仕してほしい

9 響に逆バニーのコスプレをしてほしい

10 ナルくん私達とえっちして!

 

結果【5】

 

 

 

「夏休み、三人で旅行に行きたい、かな」

「三人で?」

 

響ちゃんと未来ちゃん付き合いたてだから、二人きりで行きたいんじゃないかなと思っただけどもね。

 

「うん、私もナルくんと一緒がいいかな」

 

と、響ちゃんもそう言う。

 

「いいの? 未来ちゃんとラブラブしなくて」

 

俺が聞くと、二人はこう答えた。

 

「響とも一緒にいたいけど、ナルくんとも遊びたいし」

「ナルくんとこういう旅行行ったことないしね!」

「そういうことなら」

 

俺としては断る理由は無かった。

 

「夏休み、どっか行こっか」

「うんッ!!」

「やった!」

 

二人とも花咲くような笑顔である。

かわいいね!

二課の仕事は、まあ、一日二日くらいなら休み貰えるでしょう。

てかもぎ取る。

交代要員として、キャロルちゃんに交渉しないといけないなぁ。

 

「ね、ね! どこ行く? 沖縄? 北海道?」

「えー、そんな遠くは行けないよ。 近場でどこか探そ?」

「うーん、海か山か悩ましいね未来!」

 

二人はキャイキャイしている。

うん。この二人見てると、なんとしても休みをゲットしなければ、という気持ちになる。

 

「俺は楽しいならどこでもいいよー。二人で決めなさいな」

 

そんな事を言いながら。

俺も密かに旅行を楽しみにしてるのであった。

 





なんか知らんがひびみくが付き合いだした。
まあ一鳴くんを間に挟んで百合ドッキングしないだけマシだわよ(震え声)

なお響ちゃんはハーレム願望持ってるし未来ちゃんは一鳴くんへの好感度高めな模様……。
これは荒れるでぇ。


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第七十六話 リディアン音楽院でのカデンツァヴナ姉妹

最近マリアさんとセレナちゃんメインの話を書いてない気がしたので初投稿です。
リディアン音楽院で過ごすカデンツァヴナ姉妹をノゾキミしてみませう。



○マリアの場合

 

私立リディアン音楽院。

設立されて7年が経つ、新しい高校である。

音楽教科を中心にカリキュラムが組まれた、音楽に力を入れた高校であり、在校生や卒業生の中には有名なタレントやアイドルが存在する。

ツヴァイウィングの天羽奏も、その一人であり、片翼である風鳴翼もタレントコースに入学を予定されているとかいないとか。

そんな、音楽に力を入れた学院の三年生のクラスに、マリア・カデンツァヴナ・イヴは在席していた。

 

7月初旬、中間テストも終わりの時期である。

マリアもまた、一般教科のテストも音楽教科のテストも終わらせていた。

 

 

 

マリアのテストの出来【1D10】

 

1 一般教科も音楽教科もボロボロ

2 一般教科まあまあ、音楽教科トップ

3 一般教科も音楽教科もトップクラス

4 一般教科も音楽教科もボロボロ

5 一般教科まあまあ、音楽教科トップ

6 一般教科も音楽教科もトップクラス

7 一般教科も音楽教科もボロボロ

8 一般教科まあまあ、音楽教科トップ

9 一般教科も音楽教科もトップクラス

10 熱烈歓迎

 

結果【8 一般教科まあまあ、音楽教科トップ】

 

 

 

「ふぅ、数学は強敵だったわね……」

 

と、黄昏るマリアであった。

リディアンは音楽に力を入れている。

入れてはいるが、一般教科がダメでも問題ない訳ではない。ないのだ。

なのでマリアも一般教科の勉強を頑張った訳で。

どれくらい頑張ったかというと、一鳴とのえっちを我慢して勉強した。

ヤりたい盛りのマリアが、我慢して勉強したのである。

 

それでも手応えはあまりなかった。

それでもせめて赤点は回避できたはずだ、と思っていた。

 

「マリアちゃん、テストどうだった?」

 

と、親しげな声。

同じクラスの天海春香、マリアの友人であった。

 

「あら春香。私は数学がちょっと自信ないわね」

「マリアちゃんも? 私もちょっとダメかもしれないなぁ……」

 

眉を下げてそう言う春香。

そこにさらなる声。

 

「春香は現代文も古典もダメじゃない」

「千早ちゃん!」

 

マリアと春香の共通の友人、如月千早である。

 

「まあ私は一般教科全部ダメそうだけれど」

「千早ちゃん……」

 

クールに言い放つ千早に春香はあきれた。

 

「仕方ないじゃない、仕事が忙しいんだもの」

「だからって全部ダメなのはどうかと思うよ?」

「大丈夫よ、赤点は回避してる……はず」

 

千早は目を逸らした。

春香も千早もタレントコースに所属しており、アイドルと学生を兼業しているのだ。

765プロダクションという、小さいながらも所属アイドル全員が全国区クラスの人気アイドルという凄まじいプロダクションである。

春香と千早は、その中でも更にトップに君臨する人気アイドルである。

つまり、その分仕事が忙しい訳で……。

むしろ千早が普通で、ちゃんと勉強してきた春香が偉いのかもしれない。

 

「それにしても」

 

千早は露骨に話を変えた。

 

「マリアさんの歌はいつ聞いても素晴らしいわね」

 

音楽教科のテストの話である。

教師の前で歌を歌う、というものだが、千早はそれを言ったのだ。

 

「うん、マリアちゃんの歌はとっても素敵だと思う!」

 

春香もまた頷いた。

マリアは微笑んだ。

 

「二人ともありがとう。二人の歌も素敵だったわよ」

「これでもアイドルだからね!」

「ええ。……ねえマリアさん」

 

千早が口を開いた。

 

「やっぱり、この前の話考え直してくれないかしら」

「……765プロに入ってアイドルデビューしてくれ、って奴かしら」

 

マリアが三年生に昇進した時、初めての声楽の授業。

マリアが歌声を披露した時、初めて同じクラスになった千早が手を握ってスカウトしたのだ。

自身の所属する765プロに、アイドルとして。

 

「ええ、マリアさんの歌は本当に素晴らしいわ。

万人の心を揺らす歌よ。歌一本でアイドルをやってる私には、その才能を世に埋まったままにはしたくないのよ。

765プロがイヤなら、他のプロダクションを紹介するわ。876プロや346プロ、283プロなんかも……」

 

熱弁する千早を、マリアは止めた。

 

「ありがとう千早、そこまで言ってくれて」

「マリアさん……」

「でもごめんなさい。やっぱり、その話は受けられないわ」

 

マリアは柔く微笑んだ。

 

「アイドルは恋愛厳禁、なんでしょう?」

「それは、そうだけれど……」

「ならダメね。私には愛する恋人が居るもの」

 

マリアはスマホを取り出した。

待ち受けには、一鳴の写真。

マリアの作った料理に舌鼓を打つ写真。いきなりカメラを向けられてキョトンとした隙だらけの表情。

マリアはそれを見て、笑顔を浮かべた。

 

「みんなに歌を聞かせる、それはとても魅力的。でも、愛する人と一緒に居られないなら私は、みんなの偶像にはなれないわ」

「そう、なら、仕方ないわね」

 

千早はため息をついた。

食い下がろうかと思ったが、マリアの表情を見て止めた。

恋する少女の、魅力的な笑顔。

人々に向けたら、誰もがファンになるだろう表情。

それを、ただ一人の少年に向けていた。

 

「その男の子がなんだか恨めしいわ。あなたの才能を独り占めするだなんて」

「ええ、そうね。私を独り占めする、罪な男よ」

「惚気は聞かないわよ」

 

クスリ、と千早は笑った。

 

「でもマリアちゃんは就職どうするの? そろそろ決めないとマズイんじゃない?」

 

春香が聞く。

 

「私の進路? それは───

 

 

 

マリアの進路【1D10】

 

1 ツヴァイウィングのマネージャー

2 ツヴァイウィングのマネージャー

3 ツヴァイウィングのマネージャー(の裏で動くマリアのアイドルプロデュース計画)

4 ツヴァイウィングのマネージャー

5 ツヴァイウィングのマネージャー

6 ツヴァイウィングのマネージャー(の裏で動くマリアのアイドルプロデュース計画)

7 ツヴァイウィングのマネージャー

8 ツヴァイウィングのマネージャー

9 ツヴァイウィングのマネージャー(の裏で動くマリアのアイドルプロデュース計画)

10 一鳴のお嫁さん

 

結果【5 ツヴァイウィングのマネージャー】

 

 

 

「知り合いのコネでね、とあるアイドルユニットのマネージャーをやる事になったわ」

 

マリアの言うコネとは弦十郎であり、とあるアイドルユニットとはツヴァイウィングの事である。

現在、緒川慎次がマネージャーを務めているが、助力が欲しいと八紘に相談しており、それを聞いた弦十郎がマリアに就職を斡旋したのだった。

 

マリアはリディアンで音楽全般について学んでいる他、かつてF.I.S.所属していた時にナスターシャから護身術の教授や船舶操縦法やヘリ操縦法を取得していたからである。

なお免許はまだ取っていない。二十歳になったら取る予定である。

 

「へー、アイドルのマネージャーになるんだ!」

 

春香が感心して言う。

 

「なら、私達と仕事で会うかもしれないわね」

 

千早もまた笑顔でそう言った。

 

「その時は、お手柔らかにね?」

「業界の先輩として、色々教えてあげるね?」

「春香の方が教わる側じゃないかしら?」

「千早ちゃんひどーい!」

 

三人は笑いあった。

平和な一日であった。

 

 

 

 

 

○セレナの場合

 

私立リディアン音楽院一年生の、とあるクラス。

高校生活最初の中間テストが終わり、リディアン生たちが姦しく騒ぐクラス。

その中に、セレナ・カデンツァヴナ・イヴの姿があった。

 

 

 

セレナのテストの出来【1D10】

 

1 一般教科も音楽教科もボロボロ

2 一般教科まあまあ、音楽教科トップ

3 一般教科も音楽教科もトップクラス

4 一般教科も音楽教科もボロボロ

5 一般教科まあまあ、音楽教科トップ

6 一般教科も音楽教科もトップクラス

7 一般教科も音楽教科もボロボロ

8 一般教科まあまあ、音楽教科トップ

9 一般教科も音楽教科もトップクラス

10 熱烈歓迎

 

結果【9 一般教科も音楽教科もトップクラス】

 

 

 

「……よし」

 

セレナが自信ありげにそう呟いた。

高校生活最初のテスト、悪い点を取ってマリアや調、愛する恋人一鳴に笑われないように頑張った結果が出たのであった。

一鳴とのえっちを我慢して勉強して良かった、そう心の底から思ったセレナである。

テスト頑張ったご褒美にいっぱい可愛がってもらおう、セレナはニヨニヨした。

 

「セレナちゃん、テストどうだった?」

 

そんなセレナに声をかけてきたのは、セレナの友人である島村卯月であった。

大型芸能事務所である346プロダクションの新人アイドルである。

 

「自信アリ、です! 卯月さんはどうですか?」

「私は……えへへ、ちょっと自信無いかな」

 

卯月は苦笑した。

その後ろから、二人の少女。

 

「だから言ったでしょ、もう少し勉強しよって」

 

卯月と同じく346プロ所属の新人アイドル、渋谷凛だ。

そしてもうひとり。

 

「まあ、仕方ないんじゃない? しまむーも私達も事務所でのレッスンあったし」

 

同じく346プロ所属の新人アイドル、本田未央だ。

 

「そ、れ、に。しまむー安心して! 私もダメそうだから!」

「自信満々に言わない」

 

ぺちっ、と未央の頭を叩く凛。

その様子にセレナと卯月は笑った。

 

「それにしても。セレナさんの歌、すごくキレイだったよね!」

「うん、そうだね」

 

卯月の言葉に、凛が頷いた。

声楽のテストで聞いたセレナの歌声の事である。

 

「もしかしてセレナもアイドル候補生だったりする?」

「ぜんぜん。ただの高校生ですよ」

「ほんとぉ?」

 

凛の言葉を否定するセレナ。

そのセレナを疑わしく見つめる未央である。

 

「うふふ、本当です」

 

笑顔で否定するセレナ。

なお、F.I.S.時代にシンフォギアの力を引き出す為に声楽のトレーニングを施されている為、そこらのアイドルよりも専門的なトレーニングは積んでいると言える。

それを言うセレナではないが。

 

「ならさ、これからアイドルデビューとかしないの?」

 

と、凛。

卯月が更に続けた。

 

「そうだ! ウチの事務所でデビューしようよ!」

「それ、ナイスアイデア!」

 

指を鳴らして賛同する未央であった。

 

「えーと、ごめんさない。アイドルはちょっと……」

 

セレナは困惑しながらも否定した。

 

「えー! やろうよアイドル!」

 

未央がすがりつく。

凛が引き剥がした。

 

「無理矢理誘わない」

「むぇー」

 

奇声を発して不満ですアピールする未央。

 

「ごめんなさい、未央さん。私彼氏が居るから……」

 

セレナがそう言う。

その瞬間、クラスから音が消えた。

セレナの言葉を聞いて、話し声が止まったのだ。

 

「………………か、かれし?」

 

ようやっと、未央が口を開く。

セレナが答えた。

 

「えっと、はい」

「かれしって、あの彼氏?」

「はい」

「Boyfriend?」

「流暢ですね未央さん」

「……えええええええ!!!!!???」

 

絶叫。

まさに絶叫であった。

前衛的なデザインのリディアン音楽院校舎が揺れた。

そして、セレナのクラスメイトがセレナの席に殺到した。

 

「セレナさん彼氏いたの!?」

「天使のようなセレナさんに!?」

「聖女系清純派のセレナさんに!?」

「どんな人!?」

「年上? 年下?」

「囲め、逃がすな!!」

「惚気を聞かせろ!!」

「キリキリ吐けぇ!!」

 

クラスメイトからの尋問めいた質問攻めを受けたセレナであった。

 

 

 

質問攻めされたセレナさん【1D10】

 

1 一鳴くんの人となりを吐かされた

2 ↑ + 一鳴くんとの出会いを吐かされた

3 ↑↑ + 初チューについて吐かされた

4 一鳴くんの人となりを吐かされた

5 ↑ + 一鳴くんとの出会いを吐かされた

6 ↑↑ + 初チューについて吐かされた

7 一鳴くんの人となりを吐かされた

8 ↑ + 一鳴くんとの出会いを吐かされた

9 ↑↑ + 初チューについて吐かされた

10 えっち関係諸々吐かされた

 

結果【8 ↑ + 一鳴くんとの出会いを吐かされた】

 

 

 

「3つ下の彼氏……」

「ちうがくせい……犯罪では?」

「セレナさんショタコンだったかぁ」

「孤児院に来たボランティアショタに一目惚れとは……なかなかやる!」

「キスはしたんか?」

「えっちしたんか?」

「腰つきとくるぶしを見ればわかる。セレナさんは非処女。このハレンチショタコン天使め」

「セレナさん非処女は解釈違いなんだよなぁ(怒り)」

「なんだぁテメェ、非処女でも天使は天使だろうが(迎え撃つ姿勢)」

 

クラスメイトの議論が白熱!

それをスルーして話し出す卯月たち。

 

「セレナさん、彼氏いたんだぁ」

「いいなぁ未央ちゃんも彼氏ほしーい!」

「私達はアイドルだから恋愛厳禁でしょ」

 

卯月と未央をなだめると同時に凛は納得した。

恋人がいたなら、アイドルデビューは出来ないな、と。

それを勿体なく思う凛である。

セレナの才能は、アイドル候補生である自分から見ても凄まじいものだ。

人を引き付ける外見。

人を離さない優しい性格。

人の心を癒やす歌。

 

望んでも鍛えても手に入らない人もいる。

それらの才能を持つセレナを羨ましいと思うし妬ましいと思う凛であった。

そんなことを考える凛を現実に引き戻す未央の声。

 

「ところでさ」

 

未央が赤面しながらセレナに聞く。

 

「みんなガヤガヤ言ってるけどさ、セレナはもうえっちして───」

 

デリカシーの無いことを聞こうとした未央の頭を、スパーンとはたく凛であった。

 




マリアさんもセレナちゃんも一鳴くんとのえっちを我慢してテスト勉強しっかり出来る子。
なお我慢した反動で後々激しく求める模様……。

マリアさんとセレナちゃんの友人のキャスティング、アイドルマスターのアイドルたちというのは前々から考えてました。
イチからクラスメイト考えるのがメンドウとか、そんなんじゃナイヨー。
でもまぁ、リディアンという舞台に合ってるんじゃないかと自画自賛してます。自分をどんどん褒めていけ。

次回からはきりしら&ウェルといく異郷の儀式の残る秘境の村ツアーをやっていきます。
ジャパニーズホラーになるので、怖い話が苦手な人は注意な。
まあ作者はホラー書くの初めてなんでそんなに怖くないってヘーキヘーキ。


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第七十七話 かみゆがみ、ひとのろう①

そんな訳で今日からはしばらく納涼ホラー回。
邪悪な儀式の残る村で、きりしらウェルと一鳴は生き残れるのでしょうか。
あなたの過ごす暑い夜がちょっぴり涼しくなる、そんな話を目指します。




 

石造りの階段を一段一段登っていく。

時刻は午前二時の十分ほど前といったところか。

生い茂る木々に覆われて、星明りも月明かりも届かない暗闇。

灯籠も建っていない参道だ。

手に持った燭台のロウソクだけが頼りであった。

 

「みかちゃん、大丈夫? 疲れてない?」

 

燭台を持つ手とは反対の手で繋がった義理の娘に声をかける。

 

「大丈夫だよ、お母さん」

 

そう言うみかの顔はどこか強張っていた。

無理もない、夜も深い中、家の裏にある山中の奥を目指しているのだから。

ゆっくり歩く。

六の鳥居を抜ける。

石造りの神明鳥居。

ところどころ崩れ苔生した古い鳥居。

これまで、六つの鳥居を抜けてきた。

鳥居はあと一つ。

それを越えると、もう後戻りは───

 

「お母さん、どうしたの?」

 

みかが心配そうに聞いてくる。

私の顔を見て、恐ろしくなったのか。

私は無理に笑って、みかに話しかけた。

 

「大丈夫よ、みか。心配してくれてありがとうねぇ」

 

みか。

私が産んだわけではない子ども。

“儀式”の為に、孤児院から引き取った子ども。

どこか私に似た雰囲気の子どもだ。

外で遊ぶよりも家で本を読むのが好きな子。

自分の気持ちを出すのが苦手な子。

義理の母親である私を、お母さんと呼んでくれる子。

とても、優しい子。

七の鳥居が見えてくる。

その奥、山奥の森の中にひっそりと佇む神社が見える。

小さな社が闇の中に紛れて存在している。

その社を見ると、私の心の奥底から、恐怖が浮かんだ。

根源的な恐怖、人が獣だった頃から抱いている恐怖が……。

“儀式”は、あの神社の中で行う。

 

「お母さん……、こわいよぉ」

 

みかが腕にしがみつく。

その顔は恐怖で歪み、目元には涙が浮かんでいた。

その顔を見て、私は……。

私は、この子を守らないと、と思ったのだ。

お腹を痛めて産んだ子ではない、みかを。

“儀式”の為に引き取った子、“儀式”で使い捨てる前提だった子。

……やはり、私には“儀式”なんて出来ない。

 

「みかちゃん、やっぱり帰りましょう」

 

私は、みかにそう言うと踵を返す。

 

「いいの、お母さん? 伯母さん怒っちゃうんじゃないの?」

「いいのよ、いいの」

 

伯母さん、私の姉である深夜(みや)は我が家の当主であり、今日の儀式の準備を整えてくれた。

ひとえに、私のために。

だけど、あの儀式は時代錯誤も甚だしいもの。

西暦2030年になる現代では、あまりに間違えてる。

私はみかの手を強く握り直す。

 

深夜(みや)姉さんは、私がなんとかするわ」

「……うん」

「朝になったら、村を出ましょう。そして、都会で暮らすの」

「……お母さん」

「喫茶店で、美味しいもの食べましょう。パフェもパンケーキも、なんでも!」

「……お母さん、あのね」

 

みかが手を引っ張る。

その顔はもう、恐怖で引き攣り見ていられないほどだ。

異常な何かを感じて、そして……。

 

「みか、どうしたの?」

「お母さん、うしろ。もう───」

 

 

 

 

 

 

(一鳴)が二課に呼び出されたのは、夏休みまであと数日、といった日の事であった。

毎度おなじみ発令室には、訃堂司令と八紘副司令、そしてウェル博士が待っていた。

 

「すいません、遅れました」

「いや、いい」

 

そう答える訃堂司令の言葉は硬い。

……なんというか、怒ってるね。

そう、感じ取った。

 

「……なにがあったんです?」

「まずは、僕から説明しましょうか」

 

そう言ったのはウェル博士だ。

 

「実はですね、僕が出資してナスターシャ教授に管理を丸投げして弦十郎さんや一鳴くんが定期的にお菓子配ってる孤児院から、一人子どもを引き取りたいという話がありましてね」

「それは、良いことでは?」

 

孤児院、レセプターチルドレンだった子どもたちや、ノイズ災害で親を亡くした子どもたちが暮らしている所。

そこで暮らす子どもを一人引き取りたいというのなら、良いことであろう。

相性が、合うのであれば。

だが、ウェル博士は首を振った。

 

「引き取りたいっていう子どもが、切歌さんなんですよねぇ」

「切歌ちゃんを?」

 

元レセプターチルドレン、LiNKERを使えばイガリマのシンフォギアを纏える適合者である。

 

「……引き取りたいのが、どっかの国の軍部で、適合者を軍事利用したい、とかですか?」

「いえ、違います」

 

と、俺の邪推を否定するウェル博士。

 

「東京都の県境にあるっていう寒村の名士、なんですがねぇ」

「……遠いですね」

 

今までみたいに、気楽に遊べる関係ではなくなるのか。

寂しいなぁ……。

いや、そもそも。

遠くに引き取られるから、この場に呼び出された訳ではないのだろう。

 

「その名士、歯越(しこえ) 深夜(みや)という女性なのだがな」

 

そう言って、資料を見せてくれる八紘さん。

資料には、歯越深夜の顔写真や住所、経歴が書かれている。

歯越深夜、48歳。

黒い髪は艶々としており、その瞳はどこか冷たい。

肌は雪のように白く、シワひとつない。

美しい人だ。

美魔女、といったところか。

住所は……。

 

「……あの、これなんて読むんです?」

「みがた、だな。深潟村が、彼女の住む村だ」

 

深潟村(みがたむら)

潟、というのは外界と分離して出来た湖や沼の事らしい。

深い潟。山奥に出来た、人の住む小さな集落という意味でつけられた名前かしら。

それにしても。

歯越深夜の経歴は凄いな。

二十歳の頃に一流の建築会社に入社して、5年経つと独立。

その後、建築デザイナーとして多くの仕事を成し遂げてると共に、海外の石油事業に投資して巨額の富を築いた。

そして、村人の住居全て新築したとか。

そら名士になるわ。

 

「この人が、切歌ちゃんを引き取りたいと?」

「ああ」

 

問題は、見受けられない。

見受けられないのだが、彼女の目を見ると。

不安になる。

この冷たい目をした人が、切歌ちゃんと?

 

「……これを、見てくれ」

 

八紘さんが、別の資料を見せる。

深潟村の資料だ。

山奥にある、小さな村。

村民は50人いるかどうかといったところ。

名産品は特になし。

村民は、米や野菜を育てて暮らしている。

そして。

()()()()が、孤児を引き取って育てている。

 

「……全員?」

 

村民全員が、孤児を引き取っている。

どういう事だ?

 

「次の資料を見てくれ」

 

資料をめくる。

次の資料は、村民の養子縁組と死亡届のデータだ。

村民が養子縁組を出してから数年、長くても三年以内に、その()()()()()()()()()()()()()()

早いものは、引き取って半年で死亡している村民もいる。

……不気味だ。

 

「なんです、これ」

「わからぬ」

 

訃堂司令の言葉は重い。

 

「だが、何かが起こっていると見ていい」

「で、その何かが起こっている村の名士に見初められたのが切歌さんという訳で」

 

ウェル博士がげんなりして言った。

 

「……最後の資料を見てほしい」

 

八紘さんの言葉に従い、資料をめくる。

それは、新聞の記事だ。

お悔やみ欄、というやつか。

 

 

 

 

 

 

■■新聞2030年■月■日の記事抜粋

 

お悔やみ申し上げます。

 

歯越 千雪さん(しこえ ちゆき=深潟村■−■−■)■日■時■分、老衰で死去、36歳。葬儀は近親者で行った。

喪主は姉深夜(みや)さん。

 

歯越 みかさん(しこえ みか=深潟村■−■−■)■日■時■分、老衰で死去、10歳。葬儀は近親者で行った。

喪主は伯母深夜(みや)さん。

 

 

 

 

 

 

「……歯越?」

 

十年前、切歌ちゃんを引き取りたいといった深夜の妹とその娘が亡くなっている。

死因は両者ともに老衰。

……おかしくない?

 

「あの、みかって子の死因、老衰なんですけど」

「ああ。そうだ」

「10歳、なんですけれど」

「異常だろう? 当時検死した者は確かに老衰と判断したらしい」

 

おかしい。

絶対おかしい。

この村、絶対おかしい。

子どもが老衰で死ぬってなによ。

 

「そんな村に引き取られるんですか切歌ちゃん!?」

「そうなんですよねぇ」

 

ウェル博士はため息混じりにそう言った。

 

「断れないんですか?」

「歯越深夜、オイルマネーでガッポガッポでしょう? 横の繋がりとやらで孤児院の支援者をせっついてて」

「……あぁー」

 

切歌ちゃん養子にしてあげないと支援打ち切るぞ、と脅されてるのか。

世知辛い……。

 

「……ですので一鳴くん」

 

ウェル博士が俺の肩を掴む。

 

「僕や切歌さんと一緒に深潟村に行きませんか?」

「なんでさ」

 

訳がわからなかった。

 

「養子にする前に一緒に暮らしてみて、相性を見る、というのがウチの孤児院にありまして───」

 

ウェル博士によると、こういう訳であった。

引き取り親は養子にしたい子と一緒にしばらく暮らす決まりがナスターシャ教授の孤児院にあり、最初は職員が付き添って二、三日泊まるのだという。

その制度を利用して、俺とウェル博士が切歌ちゃんと一緒に深潟村に乗り込んで、深潟村の秘密を探り出して、養子縁組を無効化してやろう、という訳であった。

 

「無論、二課もサポートする」

「深潟村は何らかの異端技術に手を出してる可能性があるからな」

 

と、訃堂司令と八紘副司令。

 

「そんな訳で一鳴くん! 僕と一緒に深潟村に行きましょう!!」

 

そういう事になった。

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

俺はウェル博士の運転する車の助手席にいた。

孤児院で持ってるワンボックスカーである。

深潟村に向かう車中。

後ろの席からは、元気な声が聞こえてくる。

 

「調のオンナグセワルイ、仕上がってるデスね!」

「切ちゃんのバーコードハゲも強いね」

 

切歌ちゃんと調ちゃんがスマホゲームで盛り上がってた。

やってるの人おじさんかしら。

本当に若い子に流行ってるんやね(震え声)

 

「もうすぐ着くから、準備してくださいよ」

「はいデス!」

「やっとついたんだ」

 

ウェル博士の言葉に従い、スマホを仕舞って降りる準備をする二人。

本来、深潟村には切歌ちゃんだけが向かう予定だった。

だが、それに待ったをかけたのが調ちゃんだった。

 

「いやな予感がする」

 

そう言って、ナスターシャ教授に泣きついて、調ちゃんはここまで着いてきたのだった。

レセプターチルドレンは、みんなフィーネの子孫である。

巫女であったフィーネの血を継ぐ調ちゃんは、本当に何か嫌なものを感じ取ったのかもしれない。

深潟村、本当に何があるのだろうか。

 

そうこうしていると。

深潟村が見えてくる。

人口49人。

山奥にある小さな村。

その村は、想像していた山村とは大きく違っていた。

まず、道がキチンと舗装されている。

次に家が新しい。

深夜がオイルマネーで全部建て替えたからだろう。

暮らしやすい、良い村に見える。

の、だが。

なにか、粘つくような気配というか。

嫌な感じがするのだ。

闇の中から、何かが見ているような。

粘性の液体が、身体に絡みつ様な。

そんな、嫌なナニカが。

 

「……デース」

「……」

 

切歌ちゃんも調ちゃんも、そんな気配を感じ取ったのか、テンションが低くなる。

車はどんどん進む。

村の奥。

一番奥まで。

 

「あれ、ですねぇ」

 

車が進む先に、深夜の家があった。

他の村人の家よりも大きい、木造の平屋。

家の前で、誰かが待っている。

若い男性だ。

黒い髪に鍛えられた身体。

鋭い目は、深夜に似ているが、優しい光が見える。

 

「あぁ、深夜の息子ですね。一緒に孤児院に来てましたよ」

 

と、ウェル博士。

その深夜の息子が手を振り、平屋近くの空き地を指差す。

車を誘導してくれるらしかった。

車を空き地に停めるウェル博士。

俺とウェル博士、切歌ちゃんと調ちゃんは車を降りた。

 

「遠路はるばる、お疲れさまでした」

 

と、深夜の息子。

俺に気付くと、手を差し出した。

 

「おや。はじめまして、歯越 達也といいます」

「これはご丁寧に、渡 一鳴といいます」

 

俺は達也さんと握手した。

力強い握手である。

 

「中々力が強いが、なにかスポーツをしているのかい?」

「ええ、格闘技を少々」

「電話で話した、僕の助手ですよ」

 

と、ウェル博士。

俺は今回、孤児院の職員であるウェル博士の助手、という事になっていた。

 

「そして、こちらが」

「こ、こんにちはデス!」

「はじめまして」

 

切歌ちゃんと調ちゃんが挨拶をする。

切歌ちゃんは孤児院で一度会ったことがあるらしかった。

 

「はじめまして、こんにちは。母も首を長くして皆さんを待ってましたよ」

 

そう言って、平屋に案内する達也さん。

歯越家の中で、切歌ちゃんを養子にしたいという深夜が待っている。

達也さんはその深夜の息子だという。

だが、彼が「母」と言葉にした時。

そこに、悲哀と嫌悪を感じたのは気の所為、なのだろうか……。




本当は前書きで、クリスちゃん関係のドギツイ性癖をさらけ出した怪文書を曝け出そうと思ったけれど、今回のホラー話の前に出すと情緒がハチャメチャになるので止めました。
いつか曝け出したい俺の特殊性癖。


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第七十八話 かみゆがみ、ひとのろう②


会社もやっと夏休みに入ったのにまん延防止措置と大雨で休みを満喫できないので初投稿です。

今回のホラー話、9月前半までには終わらせたい、ホラーだから。
なので夏休みにドバーッと一気に書き上げようと思ったらFGOでオベロンと妖精騎士トリスタンが来たからね、育成しまくってたらもう夏休みも終わりが近づいてきたゾ(白目)



 

 

 

 

 

■■国風土記より抜粋

■■ニ深潟等ト云フ村在リ。コハ忌ミ村ノ類ニテ、キガルサマトイフナル神、其ノ村ニ廣マレリ。コハ邪敎也ト申ス。キガルサマハ死神ノ類ニテ、村民悉ク畏レ奉ル。山奥ニアル社、キガルサマノ社ニテ、禁足地トゾ申ス。踏ミ入ル者コトゴトク■■トゾ聞ケリ。

 

 

 

 

 

 

歯越家は大きな純日本風な屋敷であった。

生垣に囲まれたその屋敷は、山の麓を一部切り開いたようであった。

内部は漆喰の壁と茅葺屋根の屋敷、庭には松の木や小さな池が見えた。

 

「お、大っきいデス……」

 

切歌ちゃんは、屋敷の大きさに慄いている。

 

「無駄に大きいだけさ。昔は庄屋だったらしくてね、その名残だ」

 

と、達也さんが教えてくれた。

玄関から中に入る。

広い玄関だ。木造である。

そんな玄関口に屏風が飾られていた。

 

「これは……山と、森……?」

 

屏風の上半分は青空と峻嶺な山々が描かれており、中段から下段にかけては森と、その中に赤い炎。朱色の建物。

 

「これは立山曼荼羅、というもののレプリカらしい」

 

と、達也さん。

立山曼荼羅、どこかで聞いたような気がする。

小説かなんかだったかな……?

大昔の話だから、もう忘れてしまったよ。

 

「まんだら?」

 

と、切歌ちゃん。

小学生だもの、曼荼羅なんてわからないよねぇ。

 

「曼荼羅ってのは、仏教の教えをわかりやすく絵にしたもの、ですかね?」

 

と、ウェル博士。

さすが元F.I.S.の研究員と言うべきか、曼荼羅についてある程度は知っていたようだった。

 

「へー、じゃあコレも仏教の教えなんデスか?」

「立山曼荼羅は、立山という山の信仰を現したものだ」

 

立山。

富山ある立山連峰のこと。

立山曼荼羅は、そこで修行する立山修験が人々に勧進を促すために持っていたものだとか。

彼らにとって、立山は聖地である。

山中を極楽浄土、地獄谷を地獄と見立てたのが彼らの信仰であり、わかりやすく絵にしたのが立山曼荼羅である。

立山はあの世、現世とは異なる他界だったのだ。

 

「っと、この屏風の事はまた後で。今は母の元に」

 

と、達也さんが先を促す。

俺たちはそれに従うことにした。

 

廊下を進み、奥に向かう。

長い廊下は白い壁で挟まれており、ところどころに障子戸がある。

そして、とある障子の前で止まると、片膝をつく達也さん。

 

「母さん、孤児院の方たちがお着きになりました」

 

その達也さんの声に答えるように部屋の中から声。

 

「入って頂戴」

 

達也さんが障子を開ける。

 

「さぁ、入ってくれ」

 

その達也さんの声に従って、部屋の中に入る。

その部屋は宴会場かなにかか、広い畳敷きの座敷である。

その奥に、一人の女性が座布団に座る。

歯越 深夜、その人である。

黒い服の上から、カーディガンを羽織っている。

その横、下座の位置にもう一人の女性。

深夜とよく似た黒い髪の美しい人だが、深夜よりもずっと若い。

二十代、だろうか。

その人もカーディガンを羽織っている。

 

そうだ、この部屋は。

少し、寒すぎる……。

 

「ようこそお越しくださいました」

 

深夜が頭を下げる。

その側の女性も同じように頭を下げる。

 

「さ、そこにお座りになって」

 

深夜の対面には4つの座布団。

俺たちは大人しく座布団に座る。

俺以外、正座に慣れていないようで居心地が悪そうね。

その様子を見ていた深夜が微笑む。

 

「そんなに固くならず、足を崩してくださいな」

 

その言葉に甘えて、俺たちは足を崩すことにした。

深夜が言葉を続ける。

 

「改めまして。この歯越家当主、歯越深夜です。ウェルさんと切歌ちゃんは半月ぶりね?」

「で、デス……」

 

深夜が優しく微笑む。

切歌ちゃんがコクコクと頷く。

 

「で、これが息子の達也。こっちが深雪」

 

いつの間にか、深夜の右側に座った達也さんが頭を下げる。

そして、その対面、深夜の下座に座る女性は深雪というらしい。

達也、深雪……?

劣等生?

 

「これはご丁寧に。僕と暁さんの紹介はいいでしょう」

 

と、ウェル博士。

 

「この少年は渡 一鳴くん。僕の助手です。このツインテールの子は月読 調。暁さんの親友です」

「ドーモはじめまして。渡 一鳴です」

「月読 調です」

 

俺と調ちゃんは頭を下げた。

 

「渡 一鳴くんに、月読 調さんね。よろしくね」

 

と、深夜さん。

 

「それじゃあ早速だけど、これからの事について話し合いましょう」

 

そんな感じで、歯越家での日程の確認が行われた。

 

○今日から三日間、歯越家で過ごす。

○俺たち孤児院組は食事を歯越深夜と共に摂る。

○歯越深夜と切歌ちゃんは積極的にコミュニケーションを取ること

 

等など。

 

「なにか、質問はあるかしら?」

 

ある程度すり合わせが終わると、深夜はそう聞いた。

うん、せっかくだし、少し突っ込んだことを聞いてみよう。

 

「では、一つ」

「なにかしら、えっと、一鳴くん?」

「はい。達也さんと深雪さんは、深夜さんの実子なんですよね? なんでまた切歌ちゃんを養子に?」

 

実子が居るのに養子を取る、のは変な気がする。

 

“村民全員が、孤児を引き取って育てている”

 

これがここ、深潟村の奇妙な風習。

それについて、少し突っついてみようというワケダ。

 

「そうね、そこを疑問に思うのは当然よね」

 

と、深夜さん。

 

「私が切歌さんを引き取りたいのはね、簡単に言うならこの村の風習なの」

 

おや?

なんだかあっさりと答える深夜さんである。

しかも、この村の風習?

割と秘密に近しいところじゃないの、そこ。

 

「この村の守り神で、()()()()という神様がいらっしゃるんだけれど、そのきがる様が、【この村に生きる者は血の繋がらぬ子を育てよ】と仰るのよ」

「きがる様?」

 

土着の神様、というやつか。

きがる様、きがる様ねぇ……。

気軽(きがる)なのか、気枯(きが)るなのか……。

 

「その信仰を守るために、切歌ちゃんを?」

「ええ。私ももう58ですもの。今まで達也と深雪を育てるので必死だったけれど、そろそろきがる様の言う事を守らないと」

 

と、深夜さん。

調ちゃんが口を開く。

 

「その、年齢制限ないなら、そのまま守らなくても……」

「ダメよ」

 

即座に。

即座に深夜さんが調ちゃんの言葉を否定した。

鬼気迫る様子であった。

 

「きがる様の言う事は守らないといけないのよ。じゃないと───」

「お母様」

 

深雪さんが、深夜さんを止めた。

 

「皆さん驚いてますわ」

「……あぁ、ごめんなさい」

 

深夜さんは冷静さを取り戻した様子だ。

 

「駄目ね、歳を取ると。うふふ」

 

深夜さんが笑う。

目は笑ってなかった。

 

「きがる様は女性の神様なの。だから、不幸な子どもを助けてあげて、って説いているのね」

 

きがる様は女神らしい。

それも、鬼子母神などの母神だろうか。

 

「あぁ、あと切歌さんを引き取りたいのは一目惚れしたからよ」

「デース!?」

 

衝撃発言であった。

そっちのケもあるのか深夜さん。

 

「その切歌さんの髪、綺麗な金色の髪。ひと目見て好きになっちゃった」

「あ、そういう事デスか」

「それに、明るくていい子だってナスターシャさんが仰っていたから、あなたを引き取りたいって思ったのよ」

「照れるデスよ……えへへ」

 

切歌ちゃんが照れる。

まあ、ここまで褒められたらねぇ。

 

 

 

突然だけど、目星ロール【1D10】

(5以上で成功、10でクリティカル)

 

結果【10】

 

 

 

ふと、気付く。

深雪さんの視線。

切歌ちゃんについて褒める深夜さんを見る目が、一瞬、ほんの一瞬。

嫉妬に染まっていた。

深雪さんは、羨ましいのだ。

切歌ちゃんを養子にする深夜さんが。

嫉妬に染まった瞬間の言葉、深夜さんの放った言葉は、【綺麗な金色の髪】だ。

深雪さんは、切歌ちゃんの金髪が羨ましいのだろうか……?

いや、違う。

深雪さんが嫉妬していたのは、深夜さん。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()さんが、羨ましいのだ。

 

“この村に生きる者は血の繋がらぬ子を育てよ”

 

それが、この村の掟、風習。

ならば、深雪さんもいずれ孤児を引き取り育てる身だ。

深雪さんは、金髪の養子が欲しいのだろうか……?

 

「あ、僕からも質問宜しいですか?」

 

と、ウェル博士。

 

「この部屋、寒いですけれどなんででしょう? 見た限りエアコンもありませんし」

 

そうだ。

ウェル博士の言うとおりこの部屋は寒い。

深夜さんも深雪さんも服の上からカーディガンを羽織っているし、達也さんも長袖の服を着ている。

調ちゃんも切歌ちゃんも寒そうだ。

なにか羽織らせてあげたいけれど、俺も半袖なのよね……。

 

「ああ、ごめんなさい寒かったのね」

 

と、深夜さん。

達也さんになにか羽織るものを持ってくるよう命じる。

達也さんが出ていくと、深夜さんが説明した。

 

「このあたりは山奥で標高も高いから、日差しが届かないと寒いのよ。ごめんなさいね、気付かなくって」

 

とのこと。

まあ、確かに車で結構山登って来たからねぇ。

一種の避暑地になってるのかココ。

 

「そんな訳で、欲しいものがあったらなんでも言ってくださいね。生活必需品なら、大抵揃ってますから。ここ田舎ですけれど、Amazonの注文が届くのよ」

 

と言う深夜さんであった。

 

 

 

 

 

 

その後、俺たちは達也さんに案内されて宿泊する部屋に通される。

切歌ちゃんと調ちゃんは、達也さんの持ってきたカーディガンを羽織っている。

子供用のカーディガン、あったのね……。

 

宿泊用の客間は、先程の座敷からまた長い廊下を通った先にあるらしい。

俺たちの為に2つの客間を空けたのだとか。

 

「ウェルさんと一鳴くんは、この【菖蒲の間】を使ってくれ」

 

俺とウェル博士が通されたのは、部屋の上に【菖蒲の間】と書かれた部屋。

中はテレビとテーブルのある6畳の部屋と、ガランとした10畳の部屋だ。

6畳の部屋と10畳の部屋は障子で隔てられるようになっている。

そして、6畳の部屋はガラス戸があり外が見れるが、10畳の部屋の方は押し入れがあるのみだ。

 

「切歌ちゃんと調ちゃんは、この【百合の間】を」

 

切歌ちゃんと調ちゃんの為に用意された部屋は菖蒲の間の隣の百合の間だ。

間取りは菖蒲の間と同じらしい。

切歌ちゃんと調ちゃんは、荷物を百合の間に置いた後、菖蒲の間に入ってくる。

達也さんが客間について説明する。

 

「どちらの部屋も布団はこっちの大部屋の押し入れの中にある。座布団も中に」

「何から何まで、ありがとうございます」

 

俺が頭を下げると、達也さんの方が申し訳無さそうにした。

 

「……いや、いいんだ。客人をもてなすのは当然の事だからな」

「……達也さん?」

「……変な家だと思っただろう?」

 

と、達也さんが苦々しげに言う。

 

「あー、きがる様?」

「あぁ」

 

達也さんが頷く。

 

「土着の神を信仰している、なんて気味が悪いだろう?」

「あー、まあ。変わってはいますね」

 

俺は曖昧に答えるしか出来なかった。

 

「そのきがる様って、どんな神様なんデスか?」

 

切歌ちゃんが聞く。

達也さんが、言葉を噛み砕きながら答える。

 

「随分と古い神だとされている。古事記の神よりも古いのだとか」

「由緒ある神様なんですね」

 

という調ちゃんの言葉に、眉を顰める達也さん。

 

「古ければ良い、という訳でもないんだがな……」

「え……」

「いや、なんでもないさ」

 

達也さんは言葉を続けた。

嘘くさい微笑みを浮かべて。

 

「きがる様は、母も言うように女神なんだ。この深潟村を守護する神でね、村人は皆きがる様を信仰している」

「神社は? 車でこの村を通った時それらしい物はありませんでしたよ?」

 

と、ウェル博士が聞く。

博士の言うとおり、俺もこの村に入ってから鳥居も神社も見ていない。

ただ、新築の家と小さな畑ぐらいしかない村だと思っていたが……。

 

「あぁ、神社はこの家の裏の山の中にあるんだ」

「家の、裏……?」

「ああ、俺たち歯越家はきがる様の神主のようなものの家系でな、きがる様を祀る唯一の家なんだ」

「達也さん神主さんなんですねぇ」

 

俺は感心した。

神主さんとお知り合いになる経験なんて初めてだからね。

 

「俺まだ神主ではないさ。きがる様を祀るのは、歯越の当主、つまり俺の母が祀るのさ」

「へー」

 

切歌ちゃんや調ちゃんは感心しっぱなしである。

やっぱり興味あるのね、こういう話。

それにしても。

10年前に死亡した、深夜の妹である千雪とその娘みかと、きがる様の言うことは守らないといけないと言った時の深夜さんの反応。

そして件のきがる様。

なにか関係がある気がするのよね。

千雪とみかの死因が老衰という、ちょっと考えられない異常な死因なのだし。

 

「達也さん、きがる様って祟ります?」

 

なので少し突っ込んでみよう。

幸い、達也さんはなんだかきがる様への信仰が薄そうだし。

達也さんは目を見開くと、小声で嗜める。

 

「一鳴くん、その質問は母や深雪の前ではしないようにしてくれ」

「あー、すいません。二人は信心深いんですね」

「まぁ、な……」

 

更に達也さんは続けた。

 

「……君の言う通り、きがる様は祟る……というよりも、死神なんだ」

「……死神?」

「あぁ。普段は山の中に居るが、夜になると村に降りてきて、家の外に出ている人の魂を持ち去るんだ」

 

人の魂を、持ち去る。

死神。

それが、この家の裏に居るの?

 

「玄関に立山曼荼羅の屏風があったろう。アレと同じなんだ。山中他界、山の中は今を生きる人々の世界とは別の世界、きがる様の世界であり死後の世界なんだ」

 

山中他界。

富士山や立山といった山々は霊峰であり、魂の帰る場所でもあるという考え方。

だからこそ立山の山中は地獄であり、頂上は極楽だと、立山曼荼羅では描かれているのである。

 

それにしても。

達也さんはあまりきがる様をありがたがってる感じはしないのに、まるできがる様が実際に居るように話す。

 

「達也さんは、きがる様を信じているんですか?」

 

俺はそう聞いた。

すると、達也さんは驚くべき事を言ったのだ。

 

「あぁ、何度も見たことあるからな」

「……え?」

 

見たこと、あるの?

 

「達也さん、神様見たことあるんデスか!?」

 

切歌ちゃんも驚いている。

調ちゃんも、目を見開き驚く。

 

「ああ。きがる様の神社はこの家の裏の山にあると言っただろう。夜になると、そこからきがる様が降りてくるんだ。……この家は、きがる様の通り道なんだよ」

「……デース!?」

「だが、害はない。家の中にいる限りは……」

 

達也さん曰く、

家の中に居て、扉も窓も全て閉め切っていたら、特に問題は無いのだという。

 

「後で母から改めて聞かされるかもしれないが、部屋の戸締まりはしっかりしておいてくれ。それさえ守れば、安全なんだ」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

夜の九時を過ぎて。

歯越家の面々との食事を終えた調と切歌は、百合の間で寛いでいた。

6畳間の方で、テレビのニュースを流している。

 

「お風呂、大っきかったデスね!」

「そうだね、切ちゃん。温泉みたいだったね」

 

二人は風呂上がりであった。

ほかほかと、湯気を立てながら長袖のパジャマを着ている。

パジャマも歯越深夜の用意したものであった。

着心地の良い、高級なパジャマである。

 

「ご飯も美味しかったし、本当に旅行みたいデース!」

 

と、切歌が笑う。

だが、調にはわかる。

それは無理をしている笑いなのだと。

 

「ねぇ、切ちゃん。やっぱり明日帰ろうよ」

 

と、調。

 

「……えー、三日間だけデスよ。大丈夫デス!」

「でも……」

 

食事の席で。

歯越深夜は、客人たちにこう言ったのだ。

 

「達也から話は聞いているでしょうが、夜はきがる様の時間です。外に出ることの無いよう。それと、窓の鍵はしっかり締めてくださいね。

この村の人間は()()()()()()()()()()()()()()()()()。窓の外から何が聞こえてきても、決して窓を開けることのないように」

 

小学生の調と切歌にもその異常性はわかる。

きがる様は、決して人間の味方という訳ではないのだ。

 

「深夜さんも言ってたデス。戸締まりしっかりしてたら大丈夫って!」

「でも……、切ちゃんだって怖いんでしょ?」

「……怖くなんてないデスよ!」

 

切歌は虚勢を張っていた。

調にはそれがわかった。

 

「切ちゃん……」

「調、アタシがここの家の子にならないと、孤児院はお金が貰えないんデス……」

 

切歌は知っていた。

深夜が孤児院の支援者たちに圧力を掛けて、孤児院の資金援助を停滞させていた事を。

ナスターシャや、他の職員が夜遅くに話し合っているのを、こっそり聞いていたのだ。

だから、切歌は歯越深夜の養子になるつもりだった。

たとえ歯越家に、深潟村に土着の死神が(いま)すとしても……。

 

「でも、だからって……へくちっ」

 

切歌を説得しようとして、クシャミをしてしまう調。

 

「お風呂上がりで寒くなってきたデスね。今日はもうあったかくして寝るデスよ」

「切ちゃん、違うよ。急に寒くなってきたの……」

「へ?」

 

調の言葉で切歌は気付く。

自身が鳥肌が立っている事に。

部屋の中が、夏の夜なのに冬のような寒さになっている事に。

 

「おかしいよ、切ちゃん!」

「デース! 隣の部屋に行くデスよ!」

 

困った時の一鳴、あとついでにドクターウェル。

そんな思いで二人は立ち上がろうとした時。

カーテンで閉ざされた窓を。

 

コツコツ、と。

 

誰かが叩いた音を聞いた。

 

 

 

 





やっとホラーらしくなってきた(歓喜)
平地人を戦慄せしめたる!(柳田国男感)


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第七十九話 かみゆがみ、ひとのろう③

Twitter経由で知ったんですが、与謝野鉄幹は妻である与謝野晶子の陰部にバナナを突っ込んで食べていたとか。
まさか教科書で名前を知った偉人がそんな事をしていたなんて、と思いましたが、偉人もまた人だったと言うことでしょうか。

……マリアさんとセレナちゃんの陰部にバナナ突っ込む一鳴くん。
R18で書こうかな。






そんなこんなでホラー編、ここからが恐怖の本番よ!



 

 

○櫻井了子のレポートから抜粋

 

 哲学兵装とは、生体演算端末である私たちルル・アメルによって長年積層された想念により在り方を捻じ曲げられたモノである。

 生体演算端末は、ある対象についての情報がそれが嘘であれ真であれ、言葉として出力すると、その対象をその言葉のように現実を改変させる。そうして改変されたものが哲学兵装である。

 これは、我々がアヌンナキの創り出した演算装置であるが故に、演算した結果を現実に出力している為だと思われる。月の遺跡によって統一言語を封じられているとはいえ、人口に膾炙した情報が長年積層されるされると現実改変を引き起こす事は、驚愕に値する。

 具体例をあげるなら、「剣を壊す」という概念が積層されたソードブレイカー、「呪いの人形」という噂が積層されたアナベル人形など。

 

 哲学の積層には最低でも百年単位の時間が必要であり、ある情報を人口に膾炙させて人工的に哲学兵装を作ることは難しいと思われる。

 

 

 

 

 

 

コツコツ、と窓が叩かれる。

カーテンで隠された窓の向こうに、誰かが居る。

 

“この村の人間は窓の外から声をかける事はありません”

 

食事の席で、歯越深夜の言葉を思い出す調と切歌。

夜はきがる様という死神の時間、領域だ。

今はもう、夜の九時。

村人は誰も、外に出ないだろう。

それは、この歯越家の人間も……。

 

コツコツ、コツコツ。

 

窓を叩かれる。

調と切歌は、手をきつく握りあった。

 

「に、逃げる、デスよ」

 

ガチガチと、歯を鳴らしながらなんとか切歌が調に言う。

調はコクコクと頷く。

隣の、菖蒲の間にいる一鳴とウェルの元に行こうとして、聞いてしまった。

窓の外からの声を。

 

「調、切歌……私よ。開けて」

 

それは、二人のよく知る人の声であった。

 

「ま、マリア!?」

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴの声であった。

窓の外からマリアが呼びかける。

 

「切歌、そこに居るのね? ここを開けてちょうだい」

 

コツコツと、窓を叩きながらマリアが言う。

 

「ねぇ開けて? ねぇ、ねぇ、切歌。ここを開けて」

 

開けて開けてと、マリアは言い続ける。

コツコツと、窓を叩き続ける。

 

「おかしいよ、切ちゃん……」

「デス……」

 

マリアは開けてと言い続ける。

窓を叩き続ける。

マリアの声に抑揚はない。

まるで、機械がマリアの声を真似したかのよう。

知り合いの声を再現している、窓の外にいるなにか。

 

「開けて、切歌。開けてよ、ねぇ。聞こえるんでしょ、調。ねぇ。ねぇ、ねぇ、ねぇ」

「……あ、開けないデス!」

 

切歌がたまらず、大声を出す。

 

「マリアじゃないなら、絶対開けないデス!」

「切ちゃん! 刺激したらダメだよ!」

 

調がそう言って止める。

だが、窓の外の声も止む。

 

外は静寂。

部屋の中にはただ、テレビの音だけが聞こえていた。

だが、切歌と調は窓から、窓を覆うカーテンから目を離せなかった。

 

「行った、デスか?」

「うん、たぶん……」

 

そう、二人で言い合う。

だが、その時。

 

「キャアアアアアッ!!?」

 

悲鳴が響く。

窓の外、マリアの悲鳴だ。

 

「助けてッ!! 調ッ! 切歌! ここを開けてッ! 化け物がいるのッ! 助けて! 開けてェッ!」

「ま、マリアッ!?」

 

バンバンッと、窓を激しく叩く音。

切歌は咄嗟に立ち上がると、窓を開けに行こうとする。

鬼気迫るマリアの声に、思わず助けに行こうとしたのだ。

だが、それを止める声。

 

「あけちゃだめだよ」

 

それは、調の声でも切歌の声でもない。

知らない女の子の声。

それが、突然部屋の中から聞こえてきたのだ。

 

「それ、きがる様の演技だもの」

 

声の方を、調と切歌は見る。

二人の背後。

壁際にひっそりと、三角座りをする女の子だ。

歯越家の人間ではない、この家に子どもは居ない。

最初から部屋の中にいた訳ではない。

突然現れた子どもだ。

 

「あ、あ……」

 

調と切歌のうめき声が重なる。

窓の外のきがる様と、部屋の中の少女。

異常現象が重なり、意識が遠くなる。

 

「あっ、きがる様、今度こそ行ったみたい」

 

少女がそう言う。

窓の外からは、悲鳴も何も聞こえなくなっていた。

 

「調ちゃん、切歌ちゃん? 何かあったの?」

 

部屋の扉をノックする音。

一鳴である。

 

「入るよ?」

 

そう言って、部屋の扉を開く一鳴。

その後ろでは、ウェルも心配そうに調と切歌を見ていた。

 

「───ぁ」

 

見知った顔、見知った人を見て、調と切歌の緊張の糸は切れた。

 

「うええええええん……!」

「こわかったあああ……!」

 

二人は泣きながら一鳴に抱きつく。

一鳴は狼狽えながらも二人を受け止めて、その背中を擦る。

 

三角座りの少女は、部屋の中から消えていた。

 

 

 

 

 

 

(一鳴)は調ちゃんと切歌ちゃんから部屋の中で何があったかを聞いた。

 

窓を叩く声と、抑揚のないマリアさんの声。

マリアさんの悲鳴と、突然現れた三角座りの女の子。

ふたりとも、怖かったろうなぁ。

 

「もう大丈夫よ、俺もウェル博士もここにいるから」

「うん……」

「デス……」

 

数分泣き続けて少し落ち着く二人。

今は菖蒲の間で座らせている。

ウェル博士が備え付けのポットで沸かせたお湯で作ったお茶を差し出す。

 

「さ、これを飲んでください」

「ありがとう、ドクター」

「ありがとデス」

 

ちびちびとお茶を飲む二人。

 

「落ち着いた?」

「うん」

「もう大丈夫デス」

「良かった」

 

俺は二人の頭を撫でる。

顔を赤くする二人。

 

「それにしても……きがる様はともかく、女の子の幽霊が出るなんて達也さんも深夜さんも言ってなかったぞ」

 

俺のボヤキにウェル博士が緑茶を飲みながら答えた。

 

「ですよねぇ。それに、きがる様が親しい人の声を真似するとも言ってなかったですし」

「ワザと言わなかったのか……、それとも」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そして、女の子の幽霊も出たことなかったのか。

もしそうなら……。

なぜきがる様は急に変わったのか……。

なぜ女の子の幽霊が出てきたのか……。

 

「とにかく、二人は今日はここで寝なさいな」

 

と、俺は調ちゃんと切歌ちゃんにそう言う。

 

「文句は明日言えばいいさ」

「うん……」

「デス……」

 

二人は素直に頷くと、10畳間に用意した布団(元々は俺とウェル博士用だった)の中に入る。

……が。

 

「一鳴さん……、一緒に寝て」

 

調ちゃんが震えながらそう言うのである。

 

「アタシも、まだ怖いデス……」

 

切歌ちゃんも震えている。

 

「……うん、わかった。二人が寝入るまでは側にいるから」

 

流石にね?

年頃の男としては人様の家で女の子と同衾するのもどうかと思うしね?

まあ二人が寝るまでは側にいる事にしようね。

流石に、怖い思いをした二人を放って置く訳にもいかないしねぇ。

 

そんな訳で、二人が寝るまでは調ちゃんの隣で見守るとしましょう。

切歌ちゃんも調ちゃんの布団に潜り込むし、調ちゃんもそんな切歌ちゃんを抱き締める。

俺はそんな二人を、布団の上からトントンと優しく叩く。

赤ちゃんとか、こうすると早く寝るのよね。

……ほら、もう寝息が聞こえてくる。

 

「……おやすみ、二人とも」

 

 

 

 

 

 

「母さん、もう止めよう」

「達也、何を言っているの?」

「切歌ちゃんを儀式に使うのも……いや、きがる様に関わるのも。間違ってる……!」

「……達也、アナタがこの村の事を疎んでいるのは知ってるわ。でも、この村で生まれたアナタならわかるでしょう。誰も、きがる様からは逃げられないの」

「だが……!」

「私たちが、この村で生きる者たちの祖先がそうしたのよ。きがる様を、()()()()()()

「……なら、せめて切歌ちゃんを、孤児を儀式に使うのを」

「止めないわ」

「母さん!」

「48年生きて、一端の成功者と呼ばれるまでになったわ。人生を駆け抜けた」

「……」

「この村での立場も確立して、政財界に影響を与えられるようにもなった」

「……」

「達也。ここまで頑張ったのは、儀式があるから。努力して財を貯めたのは、儀式の後で幸せになる為よ」

「そこまで、()()()()()()()()()()……!」

「ええ」

「なら……!」

「殺す? 無駄よ」

「……なッ」

「私はきがる様の巫女よ? 私を殺そうとしたら、きがる様は助けてくださるわ」

「……、ぎ、ィ」

「……莫迦な子ね。千雪に影響されて……。それとも、千雪の仇を取りたかったのかしらね」

「…………」

「……お帰りください、きがる様。もう用はありませんわ」

「………………」

「……達也。アナタの言う通り間違ってるわ。私たちも、この村も、きがる様も。でも」

 

 

 

「もう、変えられないの。私たちの祖先が都合よく歪めて利用してきた、きがる様は……」

 

 

 

 

 

 

朝。

外で鳴く小鳥の声で目を覚ます。

昨日の夜、調ちゃんと切歌ちゃんが寝るのを確認すると、6畳の部屋の方でウェル博士と寝たのであった。

現在6時。

調ちゃんと切歌ちゃんもまだ寝ているようだ。

ウェル博士もグースカと寝ながら手足を布団からはみ出ている。

 

そろそろみんなを起こすべきかしら。

そんな事を考えていると、扉をノックされる。

……いや、朝早いな。

田舎だから?

 

「おはようございます」

 

扉を開けると、深雪さんが立っていた。

目が赤い。

泣いていたのかしら?

 

「おはようございます。どうしました?」

「切歌ちゃんと調ちゃんも、この部屋に?」

「……ええ。昨日、きがる様やら女の子の幽霊が出たとかで」

「女の子の……?」

 

と、深雪さんが考え込むが「いえ、それよりも」と言う。

 

「みなさん、今すぐ昨日の大広間に集まって下さい」

「……なにが、ありました?」

「お兄様が……」

 

深雪さんは、驚くべき事を口にした。

 

「お兄様が、亡くなりました」

 

 

 

お兄様こと、歯越達也さんが亡くなったのは、午前零時以降の事らしかった。

午前零時まで深夜さんと話をした後、自分の部屋に戻るも、寝間着に着替える間もなく死んでいたとの事だ。

 

「達也は、きがる様に招かれました」

 

大広間に集まった俺たちに深夜さんはそう言い放った。

息子が亡くなったのに、何事も無かったかのように振る舞う深夜さん。

 

「悲しい事ですが、仕方ありません。部屋の窓が開いていました。恐らくは、きがる様の招きに応じたのでしょう」

「……お兄様」

 

深雪さんが、顔を押さえて泣き出す。

 

「あんなに! あんなに夜窓を開けてはいけないと言われていたのに……!!」

 

深雪さんがワンワンと泣く。

いたたまれなくなる。

が、同時に思う。

達也さんは俺たちに夜窓を開けるなと注意してくれた。

そして、深雪さんもそれは知っている。

なのに、なんで達也さんは夜に窓を開けたのだろうか。

 

「……達也がきがる様の招きに応じた理由はわかりません」

 

そう、深夜は言う。

【きがる様の招きに応じる】、それは夜にきがる様に会う、という意味なのだろう。

招きに応じた者は、死ぬ。

なら達也さんは、何故窓を開けたのだろうか。

 

 

 

唐突な心理学ダイスロール【1D10】

(6以上で……。そして10で……)

 

結果【10】(クリティカル)

 

 

 

深夜の姿を見て、ふと気付いた。

()()()()()()()()()()()()

達也さんの妹の深雪さんは、今もワンワンと泣いているのに、深夜さんは落ち着いている。

実の息子の死に、心を動かしていない。

 

なぜ、どうやって殺したのかはわからない。

わからないが……。

 

「昨日……」

 

切歌ちゃんが口を開く。

俯いていた顔を上げる。

 

「窓から声をかけられたデス」

「……きがる様ね」

 

深夜さんの言葉に頷く切歌ちゃん。

 

「たぶん、そうデス。マリア、アタシたちのお姉さんの声をしてたデス」

「……きがる様は、窓を開けさせるためにその人と親しい人の声を真似ると、昔聞いたことがあります。最近は、そんな事をしなかったのですが」

「……その後、きがる様は達也さんを殺したんでしょうか?」

 

最後に俺が聞く。

その言葉に、深夜さんは「恐らくは」と頷いた。

 

「…………とにかく、このような事が起こった今、このまま切歌ちゃんや皆さんに滞在していただく訳にもいきませんね」

 

そう言う深夜さん。

達也さんには申し訳ないけれど、きがる様なんて人外がウロウロしている村に調ちゃんや切歌ちゃんを滞在させる訳にもいかない。

ここで帰れるなら、帰った方がいい。

そう、思っていたのだが……。

 

「深夜さま! 深夜さまァ!!」

 

外から、村人の一人が歯越家の中に入ってくる。

若い、鍛えられた身体の男と女であった。

夫婦だろうか。

 

語呂崎(ごろざき)さん、夫婦でどうしました?」

「み、道が……!」

 

やっぱり夫婦だった語呂崎さんの男の方が叫ぶ。

 

「道が、土砂崩れで塞がってますッ!!」

 

それは、この村と外界を繋ぐ唯一の道が塞がれた報せであった……。

 

 

 




一鳴くんはどうしてどうでも良いところでクリティカル出すんですか?(現場猫感)

情報の厳選が難しいゾ……。


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第八〇話 かみゆがみ、ひとのろう④


マリアさんとセレナちゃんの怪盗イベント、続編をやるようですね。今度は平行世界のカデンツァヴナ姉妹も出るようで。
PV見たけれど、みんな可愛かったゾ。
怪盗ギアはえっちだから、またR18なイラストが増えるんやろなぁ(期待)

そんな訳でホラー回。
この話で起承転結の転ぐらいかな。
あと2話ぐらいで終わる予定です。
9月には終わるな!(確信)


 

 

 

○絶対に後ろを見ないでください

 

探しています。

佐々木 淳吾

佐々木 美羽

私の夫と娘です。平成■■年■月■日に、✕✕山に登山に行ったまま帰ってきません。

夫淳吾は赤いシャツに緑のズボン、娘美羽は黄色い帽子に赤いシャツと黒いズボンを身に着けていました。

なにか知っている方は下記の電話番号に連絡お願いします。

 

✕✕✕−✕✕✕−✕✕✕✕

 

 

探しています。

佐々木 淳吾

佐々木 美羽

私の夫と娘です。平成■■年■月■日に、✕✕山に登山に行ったまま帰ってきません。

✕✕峠を越えて藪の中に入ってから、行方がわからなくなっています。

二人の進行方向には深潟村という村があるようです。

 

夫淳吾は赤いシャツに緑のズボン、娘美羽は黄色い帽子に赤いシャツと黒いズボンを身に着けていました。

なにか知っている方は下記の電話番号に連絡お願いします。

 

✕✕✕−✕✕✕−✕✕✕✕

 

 

探しています

佐々木 淳吾

佐々木 美羽

私の夫と娘を返してください。きがる様が取ったことはわかってます。

深潟村の人たちはなにも知らないと言ってます。でもきがる様の側でずっと暮らしているのになにも知らないのはおかしいと思います。

昨日も窓の外に二人は立ってました。私は大声で二人の名前を呼びましたが、二人はうつむいたままでした。

二人を返してください。

返してください。

 

 

さがしています

きがるさま

わたしのおっととむすめをとったきがるさまをさがしています。

きがるさまのすみかはしこえさんちのうらのじんじゃですが、よそもののわたしはいれてもらえません。よるになるときがるさまはむらにおりてくるといいますが、わたしはあったことがありません。

おっととむすめはずっとそこにいます。でもちかづけません。

きがるさまをさがしています。

 

 

さが ていま 

き るさ 

 たし お  

 あ 

 

き がるさま

うし ろ

      いた

 

 

 

 

 

 

絶対に後ろを見ないでください。

 

 

 

 

 

 

全員で土砂崩れの具合を見に行った。

村と外界を繋ぐ唯一の道は、赤茶けた土と倒れた木々で、完全に塞がっていた。

 

「深夜さま!」

「大変な事になったべ深夜さま」

「今日Amazonから荷物が届く日なんですよ深夜さま、どうしましょう……」

 

同じように、土砂崩れを見に来ていた村民たちが深夜さんに駆け寄る。

 

「皆さん落ち着いてください」

「落ち着いて、落ち着いてください!」

 

深夜さんと深雪さんが村人を落ち着かせる。

 

「これから市役所に電話して、土砂崩れをなんとかしてもらいます。電気や水道は通ってますし、食べ物の備蓄も我が家にありますから」

「おお……」

「なんとかなりそうだべ」

「Amazonは……」

「今日はダメかと……」

「そっかぁ」

 

村人は落ち着いたらしい。

落ち着くと、深夜さんの後ろに居た俺たちに気付いた。

 

「その方たちは昨日のお客人ですか」

「ええ。今日お帰りいただくつもりだったのですが……」

「土砂崩れで無理だべな」

「災難だったねぇ」

 

と、口々に労われる。

村人は若い人が多い。

寒村と聞いていたが、若い人がこの村にも暮らしている。

寒村のすべてが老人だけで構成されている、という訳じゃ無いだろうけれど。

それとも。

この若い人たちは皆養子なのだろうか。

 

「深夜さま」

 

村人の一人が口を開く。

 

「土砂崩れの原因はなんでしょう。昨日からずっと雨なんて降ってなかったのに」

 

確かに、突然の土砂崩れの原因は不明だ。

雨なんて降ってないので、地盤が崩れていたという訳では無いだろうし。

 

「わかりません」

 

深夜さんが答えた。

 

「そもそも、土砂崩れは何時頃発生したかわかる方は?」

 

深夜さんが村人を見回す。

一人の村人が手を挙げた。

 

「昨日の夕方は土砂崩れはありませんでした」

「今朝散歩してた飛葉(ひば)さんが見つけたんです」

 

つまり、土砂崩れは夜の間に発生したってことか。

 

「だれか、音か何かを聞いた人は?」

 

と、深夜さんが聞いても村人は顔を見合わせるばかりであった。

 

「みんな、きがる様が降りてくるんで、夜は早う寝ますけんね」

「昨日は熟睡じゃなぁ」

「私は眠りが浅い方だけれど、大きな音は聞いてませんよ深夜さま」

「……そうですか」

 

村人たちは、誰も土砂崩れの音を聞いてなかった。

でも、この土砂崩れは大規模で、道が完全に塞がって土が3メートルか4メートルは積み上がっている。

 

「……きがる様が、起こしたんかね」

 

ポツリ、と村人の一人がそう呟く。

 

「それはわかりません。が、兎にも角にも、皆さん村に戻りましょう。こちらも、一度家に戻り、市役所に連絡しますので。その後、食料の配給を行います」

 

そう、深夜さんが宣言しこの場は解散となった。

その帰り道。

戦闘に深夜さんと深雪さんが今後の食料の配給について話し合い、その少し後ろを調ちゃんと切歌ちゃん。さらに、その後ろを俺とウェル博士が歩いている。

 

「一鳴くん、気付きましたか?」

 

ウェル博士が俺に小声で話し掛ける。

 

「この村の家、新しいのを」

「深夜さんが、村人の家全部を新築したんですよね」

 

たしか、八紘さんが見せてくれた資料に書いてあった。

デザイナー業と石油事業の投資で儲けた金で新築したと。

そうして建てられた村人の家は、白くて可愛い家である。

統一化されているのか、全部同じように見える。

 

「あの家、全部オートロックが使われていますよ」

「ハイテクですね」

「ところがですね、あのタイプのオートロックは構造に欠陥がありましてね」

 

ウェル博士が更に声を潜める。

 

「アレ、オートロックのシステムが全部一つの解錠システムで操作できるので、ソレ持ってたら簡単に解錠出来るんです」

「ダメじゃん」

 

セキュリティガバガバであった。

つまり、解錠システム一つあれば侵入し放題ってコト!?

 

「ええダメです。アレ元々はアメリカで開発されたモノなんですが、そんな欠陥があるっていうので大規模な訴訟沙汰になりまして。……問題は、その訴訟沙汰になったのが十年以上前って事で」

「家を建て変えたのは、何年前でしたっけ」

「三年前、ですね」

 

つまり。

深夜さんは、システムに深刻な欠陥を抱えているオートロックをワザと使って村人の家を建てたという事である。

なんの為に?

村人の家に忍び込む予定があるのだろうか。

 

「一鳴くん、夜はきがる様が来るので窓の鍵を開けてはいけないんでしたよね」

「……ッ!?」

「つまりは、そういう事なんですかね」

 

夜はきがる様が来るので窓の鍵を開けてはいけない。

だが、村人の家の鍵は、簡単に外部から開けられる。

それは、つまり。

深夜さんは村人の生殺与奪を握っている、という事。

だが先程の村人たちの会話から、深夜さんが村人を殺そうとしているとは思えないし、村人が深夜さんを恐れているようにも見えなかった。

では、何故深夜さんはわざわざセキュリティに不安のあるシステムを用いて村人の家を建てたのか。

その答えは、俺もウェル博士もわからなかった。

 

 

 

 

 

 

この深潟村は異常である。

若いのに老衰で死ぬ人。

必ず養子を取らなければならない掟。

土着の女神、きがる様。

夜は家を閉ざさなければ神に殺される村。

母親に殺された達也さん。

簡単に鍵を開けられる村人の家。

それを建てた村の名主、歯越深夜。

そんな彼女に養子縁組しなければならない切歌ちゃん。

 

俺はそんな切歌ちゃんを守るために、深潟村の秘密を探らなければならない訳で。

 

「つまり家探しします」

 

歯越家に戻ると、菖蒲の間でウェル博士にそう言った。

その側では調ちゃんと切歌ちゃんが心配そうに見ている。

 

「バレたら大変だよ」

「そんなコトして怒られないデスか?」

 

二人はそう言う。

 

「だからバレないように協力してほしい」

「協力? なにをすれば?」

 

と、ウェル博士。

 

「深夜さんは今、市役所に土砂崩れの事を連絡して、その後村人みんなに食料を配給するんだよね」

「ええ、そう言ってましたね」

「みんなにも、その配給を手伝ってほしいの」

「配給を、デスか?」

 

俺は頷いた。

 

「配給を手伝いながら、深夜さんと深雪さんを見張ってて。その間にサクッと家探ししてくるから」

「なるほど」

 

そんな訳で。

皆に協力してもらって、俺は家探しする事にした。

調ちゃんと切歌ちゃん、ウェル博士は深夜さんに配給の手伝いを申し出て、深夜さんはその申し出を受けた。

そして、今は歯越家の前で食料を倉庫から運んで、配給している。

その倉庫から、食料の入ったダンボールを搬出するのは俺も手伝った。

深雪さんの指示の下、ダンボールをほいほい出していく。

深雪さんの目元は赤い。

達也さんの死が哀しいだろうから、こうやって忙しくしている方が気が紛れていいかもね。

その深雪さんが、最後の食料のダンボールを家の前まで運ぶ。

その隙を突いて、ひっそりと家の中に戻る。

家探しの時間だ。

 

 

 

一鳴が家探しする場所【1D10】

 

1 深雪の部屋

2 達也の部屋

3 深夜の部屋

4 深雪の部屋

5 達也の部屋

6 深夜の部屋

7 深雪の部屋

8 達也の部屋

9 深夜の部屋

10 熱烈歓迎

 

結果【6 深夜の部屋】

 

 

 

探るのは、当主である深夜の部屋である。

彼女はきがる様を祀る歯越家の当主であり、またこの村の名主である。

そして、切歌ちゃんを養子にしたい人。

家探ししない理由はない。

確実に、なにかがある……。

 

 

 

一鳴の目星【1D10】

(5以上で成功、10でクリティカル)

 

結果【2(失敗)】

 

 

 

深夜の部屋の中は片付けられた書斎、といった所か。

毛の長いカーペット、分厚い本の収められた本棚。

お高そうな木でできた机。その上に乗ったパソコン。

安眠できそうなベッド。

で、ひっそりと家探ししてみたが……。

 

「なんもわからん……」

 

証拠残すわけにもいかないからあちこち触る訳にはいかないが、だがそれ以前に。

本棚にはデザインの専門書等のお固い本ばかり、机の引き出しは鍵が掛けられており、パソコンはパスワードが必要。

つまり、まあ。

なんの成果も得られませんでした、というワケダ。

 

「なにしてるの?」

 

背後から声。

急いで振り向くと、部屋の隅に三角座りをした女の子。

歳は10歳頃か。

その子がジッと俺を見ていた。

 

「探検ダヨ(裏声)」

 

人の気配は無かった。

誰にも見られなかった。

扉が開いた気配は無かった。

なのに、今、女の子がこの部屋にいる。

調ちゃんや切歌ちゃんが昨夜見た女の子は、この子だろう。

 

「嘘つき」

 

女の子はクスクス笑いながらそう言った。

 

「きがる様と、この村の事を知りたいんでしょ?」

「なぜ、それを……?」

「さっき、菖蒲の間で話してたの聞いたの」

 

つまり、あの場に居たという事か。

 

「ねぇ、着いてきて」

 

女の子は立ち上がると、俺の裾を掴んで歩きだす。

深夜さんの部屋をコッソリ出て、その女の子に着いていく。

着いたのは、最初に達也さんに通された宴会場に使えそうなほど大きな部屋。

その部屋の奥の押し入れの一つを開ける。

中には布団。その布団に手をかけ足をかけ起用に登る。

 

「ちょっと待ってて」

 

そう言うと、布団の山を登りきり、押し入れの天板を押す。

すると、簡単に板がずれて天井裏に登れるようになる。

女の子はその暗闇に身を滑らせる。

しばらく待つと、その女の子が顔を見せる。

 

「はい、コレ」

 

女の子は俺に手に持つものを渡してくる。

俺がそれを受け取ると、女の子は天板を戻して布団の山を降りてくる。

 

「コレは……、ノート?」

 

それは、よくある大学ノートであった。

長年置かれていたのか、ホコリで少し汚れている。

 

「それ、私のお母さんが書いたノート。お母さん、()()()()学を勉強してて、きがる様について調べてたんだ」

 

みんぞく学、民俗学か。

この女の子のお母さんが民俗学者できがる様について調べていたというのね。

この子のお母さんのノートが、歯越家の天井裏に隠されていた。

それってつまり、この子は歯越家の縁者という訳で。

 

「ねぇ、君はみかちゃん?」

 

俺の問いかけに、女の子は寂しそうに笑った。

 

歯越みか。

八紘さんの資料に書いてあった、十年前に老衰で亡くなった女の子。

お母さんの名前は、歯越千雪。深夜の妹だ。

 

「私とお母さん、儀式をする予定だったの」

「儀式?」

 

みかちゃんは儀式と言った。

恐らくは、きがる様に関わる儀式。

 

「でも、お母さん儀式はやっぱり止めようって言ったの。そしたら、きがる様に取られちゃった」

「……」

「お母さんの魂、まだずっときがる様の側に居るの」

 

みかちゃんの言葉の意味は、まだ良くわからない。

わからないが、なにか、恐ろしいものにひっそりと近づいている気がする。

寒い。

この家は、寒い……。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。お母さんを、助けて」

 

そう、みかちゃんは言った。

でも、俺は。

泣きそうな女の子に、助けを求める子どもになんて言うべきかを知っている。

 

「うん、もちろん。絶対に助けるよ」

 

みかちゃんは笑いながら。

 

「ありがとう、お兄ちゃん」

 

そう言った。

そして、瞬きをする間にみかちゃんは消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

そして、夜が来る。

 

 

 

 





どうして一鳴きゅんは成功してほしいダイスロールで失敗するんですか?(憤怒の形相)

みかちゃんが居なかったらマジでなんの情報も入らないままクライマックスまでいってたゾ!!


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第八十一話 かみゆがみ、ひとのろう⑤


了子「マリアちゃんは、一鳴くんに快楽堕ちしちゃってるのよ!」
一鳴「なんだってー!?」
了子「年下で可愛くって頼りになって優しくてセックスも上手い彼氏よ? そら堕ちるわよぉ?」
一鳴「そっかぁ」
了子「ちなみにセレナちゃんも堕ちてるわよ」
一鳴「くーん……」


なんて会話を思いついたけれど使い所がないのでここで供養しときます。
そんな訳でホラー回。もうクライマックスですわよ!



 

 

○歯越千雪のノートから抜粋

 

きがる様は女神である。生と死の循環を司っており、夜に出会った村人の命を取る事もあれば、儀式によって新たな生を与える事もある。

 

その起源はメソポタミア神話の【エレシュキガル】に繋がると思われる。

そもそも、我々深潟村の祖先は中東から日本に渡ってきたメソポタミアの民であると古文書では言われている。

フィーネと呼ばれる氏族長によって導かれた10の氏族の一つ、その中の更に異端が日本渡来後に密かに作った村が深潟村である。

私たちの祖先が異端である理由は、女神エレシュキガルを信仰していたからである。

しかも、ただ信仰していた訳ではなく、神の在り方を捻じ曲げる研究をしていたのだ。

 

エレシュキガルとはメソポタミアで信じられた死後の世界の女神である。

神話世界では短気で捻じ曲った性格だというエレシュキガルも、現実世界では篤く信仰されていた。エレシュキガルの神殿で人々は疫病にかからないように祈りを捧げていたという。

私たちの祖先もまた、女神エレシュキガルを篤く信仰する氏族であったが、一つの奇妙な考え方を持っていた。

 

神様の在り方を変えれば我々に都合の良い神にならないか、と。

 

我々の先祖は、この深潟村でその実験を行った。

魔術、呪術。そして、言霊の力。

あらゆる異端に手を出した結果、エレシュキガルから派生した私たちに都合のいい神こそが、きがる様なのだ。

 

きがる様は儀式によって、私達に永遠の生を与える。

それは、私たちの魂を別の誰かに移す呪法。

子どもを犠牲にする忌まわしき儀式、生まれ変わりの儀だ。

 

止めなければならない。

(おこな)ってはいけない。

しかし、捻じ曲げられた神性故か、きがる様は定期的に儀式を行わないと災いを起こして人の魂を取るのだ。

人の魂を取り、自身の聖域に持ち帰る。

歯越家の裏に作った、人工の冥府に。

その中心にあるきがる神社に。

 

きがる神社周辺と深潟村はきがる様のテリトリーだ。

夜になると、村の中をさまよいながら、家々の窓や戸を叩いて回る。

そして、窓や戸を開けた家の住人を残さず連れて行くのだ。

だが、きがる様は無理矢理家の中に押し入る事はしない。

出来ないのだ。

私達の祖先が、そういうセーフティをきがる様の構成要素に組み込んだようだ。

そして、もう一つ。きがる様には弱点がある。

 

太陽の光。

朝の日差しこそがきがる様の弱点である。

 

 

 

 

 

 

夜。

0時まであと少しという時間。

達也さんが亡くなり村の唯一の道が土砂崩れで閉ざされたと言う事で昨日とは打って変わって質素な食事を終えてから、俺は菖蒲の間でウェル博士と共に千雪さんの遺した大学ノートを読み込んでいた。

側には調ちゃんと切歌ちゃんもいる。

今日も、ここで寝てもらうつもりだからだ。

きがる様が本当に人の魂を取るとなった今、二人だけにしておくつもりもない。

それに、きがる様に疑問を持ってた達也さんと違い、深夜さんと深雪さんはきがる様への信仰が篤い。

寝ている間になにかしてくるかもしれない。

なるべく一つの部屋に固まってた方が良いのだ。

そんな訳でノートを読み込んだ訳で。

 

「……そういう事でしたか。村人が皆養子を取ってたのは、新しい生を得るため……」

 

ウェル博士が唸る。

 

「どういう事デスか!?」

 

それを聞いた切歌ちゃん。

ウェル博士が口を開く。

 

「このノートによれば、きがる様は人の魂を別人に移す事が出来るようです。つまり、深夜さんは貴女に魂を移すつもりだったと言う事ですよ」

 

村人全員が養子を引き取る村。

その正体は養子を利用して若い肉体を得るための悍ましい若返りの儀式。

一体、今までどれほどの犠牲が出たのか……。

 

「それじゃあアタシはどうなるデスか!?」

 

切歌ちゃんが自分の顔に指を突きつけて聞く。

それに答えたのはウェル博士だ。

 

「……死ぬんだと思いますよ」

「そんなのダメッ!!」

 

調ちゃんが叫ぶ。

俺も、同じ気持ちである。

 

「うん、そんなのダメだ」

「ええ。二課に報告しましょう」

 

ウェル博士がそう言って、二課から持ってきた通信機を取り出す。

元々は、なにやら怪しい深潟村について調査して、切歌ちゃんの養子縁組を無効化しようというのが目的なのだ。

人身御供の風習が今も残る深潟村について二課に報告すれば、二課は動くだろう。

なにせ、紀元前からずっと殺人事件を繰り返してきた村だから。

 

「それは困りますね」

 

扉が開かれる。

そこには、深雪さんが立っていた。

右手には、血濡れの包丁……!

 

「深雪さん……!」

 

異常だ。

俺は立ち上がると、調ちゃんと切歌ちゃんの前に立つ。

ウェル博士が四つん這いで俺の後ろに隠れる。

 

「この村の秘密を、どこかに知らせるのは止めてください」

「深雪さん、その、右手の包丁は……!」

「……ああ、これですか? 先程お母様を殺してきまして」

 

包丁をぼんやりと見てから、なんでもないようにそう言う深雪さん。

 

「な、なぜ!?」

「お母様が、達也お兄様を殺したからですよ」

 

そう深雪さんは言った。

深夜さんが達也さんを殺したのは、俺もなんとなく理解していた。

しかし、それを深雪さんはいつ気付いたのか。

少なくとも、昼間は深夜さんに対して憎しみを見せてはいなかったが……。

 

「先程、お兄様の部屋を片付けていた時に見つけんたんです。お兄様の日記。そこに書いてありました。死ぬ直前に書いた【切歌ちゃんの養子縁組を止めるようお母様を説得する】って文を!」

 

アハハ……、と嗤う深夜さん。

 

「アハハハ……、お兄様は魂を奪われて死んでいた! きがる様に魂を奪われた時の死に方! そして、歯越の当主は、きがる様を使役できるッ! お母様が達也お兄様を殺したってことなのよォ!!」

 

髪の毛を振り乱して叫ぶ深雪さん。

その目は血走り、ダラダラと涎を垂らしている。

尋常ではない……!

 

「うふふ、でもぉ、お母様はぁ、死にましたぁ。私がぁ、殺しましたぁ! つまり、私が歯越の当主と言う事です! ねぇ、きがる様ァ!」

 

そう叫ぶ深雪さん。

その声に答えるかのように、菖蒲の間の、部屋の窓がコツコツ、と叩かれる。

 

「いらっしゃいましたね、きがる様……」

 

部屋の中にスタスタ入ってくる深雪さん。

俺は後ろの三人を庇いながら、その動きを見張る。

深雪さんの向かう先は、窓。

 

「まさか、開けるつもりじゃ……!」

 

ウェル博士の危惧。

それに答える深雪さん。

 

「開けても、命を取りませんよ。私がそれを許しませんから」

 

そう言って、窓を開ける深雪さん。

闇。

明かりのない深潟村の濃い闇の中で、一人の女性が裸の姿をはっきりと現している。

 

くすんで色が抜け、洗われていないゴワゴワとした長い髪。

あちこち傷だらけの身体、傷には白く太った蛆が湧いている。

髪の毛に隠された顔からは、俺たちをジッと見る視線を感じる。

いや、視線なんてない。

髪の隙間から見えた顔には眼が無く、真っ黒い眼窩があるだけだった。

 

「あ……」

「いや……ぁ」

「ひ、ひぃ……」

 

調ちゃん切歌ちゃん、ウェル博士が恐慌状態に陥る。

身体が震えて、動けなくなっているようだ。

いや、俺も、そうだ。

寒い。

ガチガチと、歯を鳴らす。

寒い。

恐ろしい。戦闘訓練を積み、実戦経験も積んだ俺が。こんなにも、恐ろしい……。

寒い。

背骨に氷柱を突っ込まれたかのような寒さ。

寒い。

これは、根源的な、恐怖……。

寒い。

きがる様は、死だ。今までとは比べ物にならない程の、濃密な死。

寒い。

寒い……。

シンフォギアの聖詠を、唄えない……!

 

「ふふ、きがる様が恐ろしいですか? 私も恐ろしいです」

 

そう言いながら、深雪さんが歩み寄る。

そして、震える調ちゃんと切歌ちゃんを立たせる。

 

「二人は連れていきますね」

「ど、こに……」

 

なんとか、身体が動かない中声を出す。

 

「きがる様の神社です」

 

端的に、深雪さんは答えた。

 

「切歌ちゃんを私の新しい身体にします。実は、お母様が羨ましかったんです。切歌ちゃんみたいに美しい金色の髪の女の子が、新しい身体だなんて」

 

クスクスと、恋する少女のように笑う深雪さん。

 

「調ちゃんは、きがる様への生贄です。お兄様の魂は、きがる様に取られてしまいましたから、返してもらわないと」

「やめ、ろォ……!」

 

無理矢理、身体を動かそうとする。

しかし、いつの間に部屋の中に入ったのか、俺の目の前にきがる様の顔。

眼窩の闇が俺を見る。

死が、俺を見る。

死。

死。

死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死。

死が、俺を見ている。

もう死しか見えない。

動けない。

 

「ありがとうございます、きがる様」

 

そう言って、深雪さんは去っていく。

きがる様は俺から離れると、深雪さんの後を追った。

 

「……ぁ、かずなり、さん! しっかり!」

 

身体が自由になったウェル博士が俺の肩を揺する。

 

「あ、うぐ、……おえッ」

 

あまりの恐怖にえずいてしまう。

 

「オエッ、げほ、げほっ」

「大丈夫ですか!?」

 

ウェル博士が背中を擦る。

 

「はい、もう大丈夫、です」

 

なんとか、きがる様の恐怖から立ち直る。

恐ろしい、あれはまさしく死だ。

死神、死の象徴なのだ。

人が、あらゆる生物が逆らえない運命の終点。

一度死に、そして今生で何度も死にかけてきた俺でさえも、いや、むしろだからこそ、その死の恐怖は俺の魂に直接作用して、俺は何も出来なくなった。

何も、出来なかった。

調ちゃんと切歌ちゃんを攫われてしまった。

 

「助けに行かなきゃ……!」

「待ってください!!」

 

シンフォギアを纏おうとする俺をウェル博士が止めた。

 

「今のまま向かっても、また動けなくなるだけですよッ!」

「……ッ! でもッ!」

 

たとえ動けなくなっても、調ちゃんと切歌ちゃんを助けないと。

そう思う俺に、ウェル博士が更に言う。

 

「深雪さんの胸元ッ、見慣れないバッジを着けてました」

 

見慣れないバッジ。

そう言われて、気付く。

確かに、今の深雪さんは昼間には着けてなかったバッジを胸元に着けていた。

握りこぶし大で、金色の金属で出来た五芒星のバッジ。

 

「アレがないと、きがる様と相対できないのではないですか?」

「……確かに、そうかも」

 

歯越の当主はきがる様を使役できる。

だが、使役できるだけできがる様の濃密な死の気配をシャットダウン出来ないのかもしれない。

その死の気配を何とか出来るのが、あの五芒星のバッジなのかも。

 

「深雪さんの部屋を探しましょう」

 

ウェル博士はそう言った。

 

「深雪さんの着けてた五芒星のバッジが、深夜さんから奪ったものだとしても、予備はあるはずです」

「そうですね!」

 

落ち着きを取り戻した俺は、ウェル博士と深夜さんの部屋に向かう。

 

「これは……」

 

部屋の前までたどり着く。

血がベッタリと廊下や壁に付着している。

血は、廊下の奥から続いていた。

扉は少し開いていて、中から光が漏れていた。

 

「深夜さんッ!」

 

まだ深夜さんが生きているのではないか、刺されてから部屋まで戻ったのではないか。

そう思って扉を開け、深夜さんの部屋に入る。

血で染まったカーペット。

部屋の奥の壁が光で照らされている。

パソコンの電源がついていて、その前で深夜さんが机に伏せている。

 

「深夜さん、しっかり!」

 

そう声を掛けても反応がない。

ウェル博士が深夜さんの脈を取る。

静かに、首を横に振った。

 

「深夜さん……」

 

深夜さんが、死ぬ間際。

なぜパソコンをつけたのか。

俺とウェル博士はパソコンの画面を見る。

……。

なにかの、システム画面だ。

【all security unlocks】と書いてある。

 

「これは……!」

 

ウェル博士は知っているらしい。

 

「昼に話したでしょう、この村の家のオートロックには欠陥があると!」

「一つの解錠システムがあれば、簡単にロック解除出来るという……あ」

 

パソコンの【all security unlocks】という文字。

もしかして……。

 

「はいッ! 深夜さんは最期の最期で村のオートロックを全解除したんですよッ!」

「なんでですかッ!?」

「わかりませんよ、なにか、理由があるのかないのか……」

 

深夜さんが、この村にどんな思いを持っていたのか。

それをうかがい知る事はもうない。

そんな時間もない。

今はそれよりも……!

 

「五芒星、探しましょう!」

「机の一番下だよ」

 

すぐ側で声。

みかちゃんだ!

 

「鍵のかかった引き出し。わたし一度見たことある!」

 

ナイスな情報であった。

だが、突然現れたみかちゃんにウェル博士は驚いた。

 

「一鳴さんッ!? その子は……!?」

「歯越みかちゃんです! 10年前のッ!」

 

俺の言葉で八紘さんから貰った資料を思い出したのか、更に驚くウェル博士。

 

「おばけェ!?」

「お化けでもなんでも、協力者!」

 

俺は聖詠を唄う。

シンフォギアを纏って、一番下の引き出しを無理矢理開けた。

シンフォギアのパワーで机がバキ、と割れて引き出しが開く。

中には沢山のプリント、資料。

その奥に、黒い箱。

取り出して、中を開ける。

深雪さんがつけていたような五芒星のバッジだ!

 

「ありました!」

「よし、これできがる様と戦えますよォ!」

 

俺はバッジを胸元につける。

不思議と、身体がポカポカして勇気が湧いてくる。

 

「あとは、神社に向かうだけですね!」

「私場所知ってるよ」

 

と、みかちゃん。

案内してくれるようだ。

 

「だから、お母さんやみんなを助けて」

「勿論!」

 

俺はウェル博士を小脇に抱えると、みかちゃんに先導されて神社に向かう。

早くしないと、調ちゃんも切歌ちゃんも殺されてしまう。

その前に、助けなければ。

深雪さんの凶行を止めなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある母の最期

 

 

 

 

 

 

壁にもたれながら、少しずつ歩く。

娘から刺された傷を押さえながらゆっくり、確実に。

一歩一歩、痛みに耐えながら、部屋に戻る。

息子を殺した母が娘に殺される。

因果ね、と深夜は苦笑する。痛みが走り呻く。

笑うことすら、もう出来ない。

ようやく部屋にたどり着き、扉を開ける。

痛みに耐えきれず、その場で倒れる。

それでも、まだ死ぬ訳にはいかない。

這って机までたどり着く。

なんとか、椅子に座る。

目が霞む。

意識が遠くなりつつある。

パソコンを立ち上げ、あるプログラムを開く。

深夜が村人の家を新築した時に仕組んだ、オートロックの解除システムだ。

それを弄くる。

画面に【all security unlocks】と現れるのを見て、ようやく終われると気が抜ける。

 

この地獄のような村で生まれ、地獄のようなきがる様と暮らし。

そんな暮らしが嫌になって都会に出てがむしゃらに働いた。

結果、社会的に成功して巨額の富を得た。

だが、代わりに深夜の身体はボロボロになっていた。

若い時に遊んだ記憶もなく、ただつまらない男と結婚して二人の子を産んだだけ。

それが、嫌になった。

あぁ、自分の子は私の財産で苦労することなく生きるんだなと考えてしまったのだ。

そう考えてしまった。

そして、思い出したのだ、自分の生まれた地獄のような村の風習を。

無垢な子どもを殺して成り代わる外法を今も伝える故郷を。

深夜も深潟村の血を引いていたのだろう、その外法がどうにも自分の救いのような気がしてならなくなった。

 

だが、子どもを産んだ女として子どもを犠牲にする村の儀式に我慢も出来なかった。

深夜は自分で儀式は最後にしようと考えていた。

あまりにも自己中心的だと思わず笑ってしまった。

だが、深夜はきっとそういう人間なのだろう……。

 

深夜が故郷に帰ってきて最初に行ったのは、村人の家の新築であった。

金は十分にあった。

久々に帰ってきた深夜が村に馴染むための投資だと、村人たちはそう思った。

だが、その家は。

自分が生まれ変わった後に村人全員を殺すための処刑器具だったのである。

 

深夜が生まれ変わりを成した後に、村人全員をきがる様に差し出すための檻。

それが、彼女の建てたもの。

オートロックをシステム一つで解除出来る欠陥品。

村人たちは、何も知らずに深夜に感謝した。

深夜は深潟村の住人が嫌いだった。

反吐が出る。

どこからか養子を貰い、その養子の肉体を奪う外道どもが嫌いだった。

深夜が子どもの頃、妹の千雪と共に友人になった子どもが居た。

 

その子どもは、半年後、母になった。

 

深夜は千雪と共に泣いた。

自分たちの友人は死んでしまった。

母に殺された。

母だけでない、村人全員が同じことを繰り返してきたのだ。

ずっと、ずっと……。

 

それから、千雪はこっそりときがる様について調べるようになった。

きっと、儀式を止める術を知りたかったのだろう。

だが、儀式を止める前に千雪は死んでしまった。

儀式のその最中に。彼女の養子とともに。

 

深夜の視界が黒く染まる。

死がもうすぐそこまで来ている。

その中で、足音が聞こえる。

こちらに向かう足音。

男二人の声が聞こえてくる。

渡一鳴と、ウェルキンゲトリクス。

深雪が切歌と調を攫ったので、対抗策を探りに来たのだろう。

あるにはある。きがる様の死の瘴気を遮る五芒星の守りが。

 

仕舞ってある引き出しの鍵をポケットから取り出そうとして、別の場所に置いてある事に思い至る。

まあ、いいか。どうせ力尽くで引き出しを開けるだろう。

 

プツリ、と意識が途切れる直前。

深夜は切歌を想う。

自身が殺した息子でなく、自身を殺した娘でなく。

血の繋がった妹でもなく。

切歌を想った。

自身が成り代わろうとした少女。

かつて、母が成り代わった自身の友人によく似た少女。

美しい、金髪の乙女に。

 

「取り返してみなさい、儀式はまだ、止められるわ、よ……」

 

そして。

深夜の意識は闇に落ちた。

二人の人間が部屋に入ったその直前の事であった。

 

 





五芒星について、お話します(土方感)
五芒星は世界中で使われているマークです。日本では安倍晴明の晴明桔梗が有名ですね。
逆にした五芒星は悪魔のマークだし、古代シュメールでは「角・小さな空間・穴」を表す、というのは昔この作品で書いたと思います。
バビロニアでは、五芒星の角をそれぞれ木星水星火星土星金星を対応させ、陰陽師たちは陰陽五行を対応させました。

この五芒星は一筆書きで書くことが出来ます。つまり筆を離すことが無いということ、それは五芒星のマークに綻びが無いことを表します。五芒星が得てして結界に使われるのはそういう意味があるからなんです。
綻びが無い、つまり抜け出す穴が無い。
故に五芒星は何かを閉じ込めたり、何かから身を護るのに使われるんですね。

だから歯越家の人間は五芒星のお守りを作りました。
きがる様の死の瘴気から身を守るための結界として。

……という話を深夜さんの部屋を探索したら見つけられるようにしてたのに一鳴くんがダイスロール失敗するからよぉ!!

そんな訳で次回ホラー編ラスト!
きがる様と最終決戦よ!


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第八十ニ話 かみゆがみ、ひとのろう⑥

 

 

 

○ある神の独白

 

憎い。恨めしい。悍ましい。なぜ私を作った。なぜ私を歪めた。

なぜ?

憎い。憎い、憎い。

憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎────!

憎い!

許さぬ。

赦さぬ。

釈さぬ。

故に、殺そう。

殺し尽くそう。

鏖殺である。

我を生んだ者どもを殺そう。

その子孫を殺そう。

我が大願、成就の時は近い。

フィーネの子孫が呼び水よ。

新しい巫女は我の御し切れぬ。

その時こそ、我は自由となる。

殺そう。

殺し尽くそう。

鏖殺である。

我を生んだ者どもを殺そう。

その子孫を殺そう。

前祝いに、フィーネの子孫を喰らおうか。

シラベとキリカを喰らおうか。

嗚呼、フィーネ。

お前のせいだ。

お前が、魂の秘密をあ奴らに教えなければ……!

フィーネ、フィーネ。

フィーネよ……!

せめてもの腹いせよ、貴様の子孫を喰ろうてくれようぞ。

憎い。

憎い。

憎い。

 

 

 

 

 

 

「ここだよ!」

 

みかちゃんに案内されて着いたのは、歯越家の真裏。

小さな川と細い橋の掛かる先にある山道入口であった。

石造りの鳥居と、石造りの階段。

夜の闇が鳥居の奥を隠す。

 

「こ、この奥ですか……」

 

ウェル博士が口元を引き攣らせる。

まあ、うん。流石に怖いわ……。

 

「奥だよ!」

 

みかちゃんが先導する。

俺はビビるウェル博士を小脇に抱えたまま、その後ろを追う。

細い橋を渡り、鳥居を越えて山道、いや参道に足を踏み入れる。

瞬間、空気が切り替わる。

冷たい、夏とは思えない冷気。

冷蔵庫の中に居るようだ。

 

「寒っ!」

「一鳴くん、炎出してください! 寒いッ!」

 

ウェル博士に言われて俺は炎を出す。

紅い炎が鬼火めいて辺りを照らし、ほんのり暖かくなる。

 

「ひっ!」

 

ウェル博士が悲鳴を上げる。

 

「か、かか、一鳴くん! あ、アレ!」

 

ウェル博士が指差す先を見る。

参道を外れた森の中、暗闇の中、炎に照らされて何かが居る。

人だ。

立ったまま俯いている人。

それが、無数に居た。

闇の中に犇めいていた。

 

「……ッ!」

 

怖気が走る。

何アレ幽霊!?

怖ッ!

 

「あの人たちは、きがる様に取られた人たちだよ」

 

みかちゃんが、そう教えてくれた。

 

「きがる様に取られた人たちは、ああやって山の中に立ち続けるの。ここは冥界で、あの人たちはきがる様の眷属にされたから」

「眷属……」

 

つまりあれは、今まできがる様に殺され続けた人たちってことか……。

あんなに、沢山の人が。

 

「お母さんも、きがる様に取られちゃったの……」

「千雪さんだよね」

「うん」

「きがる様、倒さないとね」

 

その為には、助ける為には先を急がないと。

調ちゃんも切歌ちゃんも、千雪さんも助けないと。

 

「急ごう!」

 

俺はみかちゃんの先導の元、足裏から炎を吹き出し駆ける。

みかちゃんは幽霊だから、スーッて浮かんで移動できるし、遠慮せずに高速移動出来る。

ウェル博士はヒィヒィ言ってるけど、我慢して欲しい。

高速で参道を登る。

石段を駆ける。

鳥居を1つ2つ、3つ4つ通り抜ける。

上に登るにつれ、闇に犇めく人々が若くなる。

むしろ、子どもと言うべきか。

……養子にされて、肉体を奪われた子どもたちか。

鳥居を5つ抜け、6つ抜ける。

 

「あっ!」

 

と言ってみかちゃんが一瞬止まる。

だが、すぐにまた動き出す。

 

「どうしたの?」

 

俺は聞く。

 

「……お母さんが居たの」

 

千雪さんが居たらしい。

止まらなくて、顔を見なくて良いのかと思ったのだが、そう口にする前にみかちゃんが言った。

 

「今は、きがる様を止めるのが先だよ」

「……うん、ごめんね」

 

それから、7つ目の鳥居を越える。

広場にたどり着く。

その中心には、小さな神社。

その前に、普通の神社なら賽銭箱がある筈の場所に台座があり、そこに調ちゃんと切歌ちゃんが寝かされていた。

 

「調ちゃん! 切歌ちゃん!!」

 

そう叫ぶも、二人に反応はなかった。

 

「ああ、もう来たんですね」

 

そう言って、神社の中から出てきたのは深雪さんだ。

その後ろにはきがる様。

先程のように、恐ろしさはない。

 

「そのバッジ、それにその姿は……」

「悪いけど、家探しさせてもらいました」

 

深雪さんが、俺の胸元に着けたバッジを見る。

 

「これでもう、きがる様は怖くないッ!」

 

俺はウェル博士を降ろしてその前に立つ。

みかちゃんはいつの間にかウェル博士の側にいた。

 

「ぼ、僕達はここでじっとしてますので!」

「ごめんね、私も怖いから」

 

二人はバッジ着けてないからね、死神であるきがる様に恐怖している。

 

「俺に任せてくださいッ! 調ちゃんと切歌ちゃんは俺が助けるからッ!」

「勝手な事を……。きがる様ッ、儀式の前に彼らを殺してッ!」

 

深雪さんの言葉に応えて、きがる様が俺の前に立ちはだかる。

俺は大型戦輪を振りかざし、きがる様に飛び掛かった。

 

 

 

一鳴VSきがる様【1D10】

 

一鳴【2】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+50(スダルシャナの魔性特攻)

 

きがる様【4】+50(邪神補正)

 

 

 

スダルシャナは邪悪な魔性を払う太陽の力を持つ聖遺物である。

その力はシンフォギアになってなお、きがる様に有効なようで、炎はきがる様の皮膚を焼き、無数の刃はきがる様の肉と骨を引き裂いた。

 

「ィギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

きがる様の胴体を袈裟斬りに焼き切る。

きがる様が悲鳴を上げる。

 

「きがる様ッ!?」

 

深雪さんが、驚愕する。

きがる様が負けるとは思ってなかったのだろう。

そのきがる様は痛みで暴れている。

 

「イギィ……グギ……」

「きがる様ッ! なにやってるの、早く殺してッ!」

 

そう深雪さんは叫ぶ。

 

「きがる様、早くッ!」

「ギィ……、ギィィィ!」

 

きがる様が腕を振り回す。

その腕が、深雪さんの胸に当たる。

深雪さんの胸に着いていたバッジが吹き飛ぶ。

 

「……あ」

 

深雪さんが間抜けな声を上げる。

 

「ギィ……?」

 

きがる様が不思議そうに深雪さんを見る。

そして、地面に転がったバッチを見て。

嗤った。

 

「ギャハ……」

 

深雪さんが、地面に落ちたバッジを慌てて取ろうとする。

が、その前にきがる様が深雪さんの頭を掴む。

そして、そのまま深雪さんを持ち上げた。

 

「あぁッ! お止めくださいきがる様、止め」

 

そう言う深雪さんの頭をきがる様は握り潰した。

トマトのように赤く弾けて潰れた深雪さんの頭。

頭のなくなった深雪さんの身体は地面に落ちた。

 

「───ハ」

 

きがる様が嘲笑う。

 

「ハハハ……、ヒャハハハ!!」

 

そして、きがる様がぐるりと、俺を見た。

 

「ハハ、ハ」

 

きがる様が嗤うのを止める。

そして、村の方を見る。

きがる様が、闇に消えた。

 

「……え?」

「消えた?」

 

俺とウェル博士が呆然とする。

 

「う……ん」

「デース……」

 

調ちゃんと切歌ちゃんが唸る。

目を覚ましたようだ。

 

「調ちゃん! 切歌ちゃん!」

「無事ですか!?」

「……あ、一鳴さん」

 

二人が起きる。

無事なようだった。

 

「無事で良かった」

「ううん、まだだよ」

 

みかちゃんがそう言う。

みかちゃんは震えていた。

 

「みかちゃん?」

「まだ、きがる様居るよ。怖いよ……」

 

みかちゃんが村の方を見て、そう言った。

 

……突然だった。

闇に佇む境内の地面が黒く染まった。

まるで、闇のように。

 

「なん、だッ!?」

 

足が、地面に沈んでいく。

足だけではない。

神社も、鳥居も。

ゆっくりと闇に沈んでいく。

 

「……みんな、掴まってッ」

 

異常事態と判断し、俺はウェル博士と調ちゃんと切歌ちゃん、そしてみかちゃんを抱えて足裏と脚部アーマーから炎を噴出。

跳んで沈みゆく鳥居の上に着地する。

 

「何が……」

「……あれ! あそこ見るデスよ!!」 

 

と、切歌ちゃんが山の麓の方、深潟村を指差す。

夜の闇の中で、闇を生み出し続けるナニかが見えた。

 

「もしかして、きがる様かアレ」

 

自分で言って信じられないが、闇を生み出すなんて事を出来る存在がきがる様しか思い浮かばない。

 

「一鳴くん、僕達を木の上に! ()()()()()()()()()()!」

 

ウェル博士が叫ぶ。

見ると、確かに森の木々は闇の中に沈んでいない。

だが、その下にいるきがる様に取られた、眷属にされた者たちは藻掻きながら闇の中に沈みつつあった。

 

「お母さんッ!」

 

みかちゃんが指差す。

その先には一人の女性。

こちらに手を伸ばしながら、闇に沈んでいた。

俺はみんなを抱えながら鳥居から飛び降りると、炎を噴出しながら地面すれすれを飛び、その女性の上を通る。

みかちゃんがその女性の手を掴む。

それを確認すると、俺は炎を更に噴出して上昇。

大きな木の枝に着地する。

 

「お母さん!」

「……ぁ」

 

俺はみんなを枝の上に降ろす。

みかちゃんが助けた女性に抱きつく。

女性は呻きながらもみかちゃんを抱きしめた。

 

「あの闇、人と人工物を飲み込む特性を持っていると見るべきですね」

 

ウェル博士が冷静に分析する。

俺は立ち上がる。

 

「ウェル博士、みんなを頼みます」

「行くんですね」

「ええ」

 

闇を生み出し続けるきがる様。

人を、人の魂を、人工物を飲み込む闇。

このまま朝を待つのも手だが、ここまで振り回されてきたお返しはしないといけない。

 

「……一鳴さん」

「……デース」

 

心配そうな調ちゃんと切歌ちゃん。

俺は二人の頭をそっと撫でる。

 

「大丈夫、俺はアイツに有利みたいだから」

「うん、……ちゃんと帰ってきてね」

「帰ってきたら、マリアやセレナとパーティデスよ!」

「ん! 楽しみにしとく!」

 

俺は枝の上から飛び降りる。

そのまま脚部アーマーのブーストを吹かす。

跳び上がり、一気に境内を降りていく。

今まで通り抜けてきた鳥居が闇に沈みゆくのが見えた。

5分ほどで深潟村まで降りてこられた。

村の建造物はもう闇に溶けて、村一番で大きかった歯越家も屋根を残すのみとなっていた。

俺はその屋根に着地。

村の中心地を、闇が生まれ続ける所を睨む。

 

その中心地から、金色の頭が浮かび上がる。

闇の中で輝く美しい金色の髪。

その次に見えてくるのが、白い肌。

赤い眼球の異形。

口が見える。耳元まで裂けた獣の口。

首、胸、腰、足まで浮かび上がる。

そこに傷一つなく、美しい白い肌であった。

闇の上に立つ、異形の女性。

異形の女神。

きがる様だ。

 

「ひ、ひ、ひ」

 

そのきがる様が嗤う。

 

「ひひひ、ひゃははは」

 

きがる様が嘲笑う。

 

「コロしてやったゾ、我を、ウんだ者どもヲ! その子孫ヲ!」

 

村人全員を、殺したようだ。

当たり前か、村はもう闇に沈んでるのだし。

そもそも、深夜さんが家々のロックを開けていたのだから。

 

「次はキサマだ、太陽の力を持つ者ヨ」

 

きがる様がそう言うと、闇から無数の黒い骸骨が浮かび上がる。

骸骨はその手に様々な武器を持っていた。

あれは、きがる様に取られた者たちの末路か。

 

「いいや、お前はここで死ぬ」

 

俺は戦輪を構える。

シンフォギア装甲各所から浄化の炎を吹き出す。

きがる様はもう逃さない。

ここで、倒す……!

 

 

 

一鳴VSきがる様【1D10】

 

一鳴【9】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+50(スダルシャナの魔性特攻)

 

きがる様【4】+50(邪神補正)

きがる様の眷属【2】

 

 

 

黒い骸骨たちが俺に向かって突撃する。

数は数え切れない。

だが、アレ明らかに魔性よね?

ならスダルシャナの特攻通るよね?

 

「ファイヤー!!」

 

燎原火・紅

 

シンフォギア装甲各所から浄化の炎があふれる。

俺に飛びかかろうとした黒い骸骨が瞬く間に灰となる。

黒い骸骨がまた闇から生まれようとするが、その前に───。

 

「お前を倒せばッ!!」

 

俺は戦輪を投擲。

戦輪は高速回転しながら、炎を纏う。

その戦輪がきがる様の胴体に直撃!

 

「ぎゃあああアアアアアアアアアアアア!!!」

 

きがる様が悲鳴を上げる。

それは断末魔の悲鳴だ。

戦輪の炎が肉を焼き、戦輪の刃が骨を砕く。

炎が闇に落ちる。

 

「ヒィィいいいいいいいいいいいいいい!!!」

 

炎がきがる様を焼く。

闇に落ちた炎がまさしく燎原の火めいて燃え広がる。

闇はいまや村全体を覆い、きがる様の神社のある山にまで迫っていた。

 

「ぃ、ギ……ィ……、ぁ」

 

きがる様が灰となって崩れ去り、闇に落ちる。

その闇はもはや、すべてが浄化の炎に燃やされている。

浄化の炎は闇だけを燃やし、山に生える木々は燃やしていない。

邪悪なもののみを燃やしているのだ。

その炎が少しずつ消えていく。

炎が消えた所には、元の地面が見えていた。

地面に沈んだ村の建物、標識。

中途半端に闇に沈んだ物が帰ってくる。

 

俺は歯越家の屋根を降りる。

振り向くと、地面に沈んだ歯越家。

 

「夏草や 兵どもが 夢の跡、か。

いや、兵じゃなくて異端技術者どもというかその子孫というか」

 

神を歪めて死を乗り越えようとした者たち。

死を他者に押し付けていた者たちが闇に沈み、残ったのはただ夏草と、歯越深夜の建てた建物の残骸のみだ。

不老不死を求めた果てが、これか。

 

「一鳴さーん!!」

 

と、センチメンタルに浸ってると名前を呼ばれた。参道から、調ちゃんが降りてきていた。

その後ろには切歌ちゃん。

みかちゃん、千雪さんはスーッと滑り降りてきていた。

最後尾はヒィヒィと息も絶え絶えなウェル博士。

 

「一鳴さんッ!!」

 

勢いそのままに調ちゃんが抱きつく。

俺はそれを受け止める。

 

「勝ったんだね?」

「うん! 楽勝だった!」

 

俺は調ちゃんを撫でながら元気にそう言った。

魔性特攻通ったからね、楽勝よ。

 

「地面が燃えたと思ったら闇が消えてたから、みんなで降りてきたデスよ」

 

調ちゃんに追いついた切歌ちゃんがそう教えてくれた。

 

「お兄ちゃん!」

 

と、みかちゃん。

 

「お母さん助けてくれてありがとう!!」

 

頭を下げるみかちゃん。

 

「私からもお礼を言わせてください」

 

と、隣に立つ千雪さん。

 

「これで私達も、もう……」

 

二人の身体が透けていく。

 

「みかちゃん、色々助けてくれてありがとうね」

「どういたしまして、お兄ちゃん!」

「ありがとう」

「ありがとうデス!」

 

みかちゃんはにっこり笑うと、千雪さんと共に消えた。

二人の居た場所から、黄金の粒子が天に昇っていった。

 

「ふぅふぅ、これで、はぁはぁ、解決、ですか? ヒーヒー」

 

息切れのウェル博士であった。

 

「ええ。深潟村は壊滅しましたが……」

 

深夜さんがオートロック解除したからね……。

 

「まあ、それは仕方ないでしょう。村人全員外法に手を出していたようなものですからね」

 

と、ウェル博士はそう締めくくった。

 

 

 

 

 

 

その後の話。

シンフォギアの通信で二課から救助を呼んだ後、俺達四人は二課に搬送された。

相手は冥界神を歪めた邪神にして死神である。

精神的な後遺症を見るため、了子さん指示の下様々な検査をされた。

結果、みんな異常なし。

やったぜ。

 

 

 

切歌ちゃんの好感度ダイス【1D10】

 

1 頼れるお兄さんデス!

2 ……カッコ良かったデス

3 アタシ、一鳴さんと目が合うと胸がドキドキするデス

4 頼れるお兄さんデス!

5 ……カッコ良かったデス

6 アタシ、一鳴さんと目が合うと胸がドキドキするデス

7 頼れる奴お兄さんデス!

8 ……カッコ良かったデス

9 アタシ、一鳴さんと目が合うと胸がドキドキするデス

10 熱烈歓迎

 

結果【6 アタシ、一鳴さんと目が合うと胸がドキドキするデス】

 

 

 

「あ、一鳴さん……」

 

二課での入院中。

調ちゃんと切歌ちゃんの病室に遊びに行くと、切歌ちゃんが顔を真っ赤にして目を逸らす。

え、何その反応。

 

「切ちゃん???」

「うぅ、調見ないで欲しいデスよ……」

 

目を見開く調ちゃんと、手をほっぺたに当てて蹲る切歌ちゃん。

え、なにこれ?

 

「切歌ちゃん大丈夫?」

「だ、ダダ、大丈夫デース! デースデース!」

 

切歌ちゃんが目をぐるぐるさせておる。

本当になにこれ。

 

「一鳴さん、私ちょっと切ちゃんと話があるから」

「あー、大事な話?」

「うん。大事な話」

 

大事な話なら仕方ないね。

俺は二人の病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

「切ちゃん?」

「うぅ……ごめんなさいデス、アタシ、アタシ……」

「……好き、なの?」

「わかんないデス。でも、目が合うと胸がドキドキしちゃうデス」

「そっか……」

「怒った、デスよね」

「うん(即答)」

「デース!!?」

「でも許すよ」

「デス?」

「私、切ちゃんと喧嘩したくないから」

「調……」

「でも抜け駆けはダメだよ?」

「し、しないデス! 調と一緒に、デス!」

「うん。マリアとセレナに負けないように頑張ろう切ちゃん!」

「はいデス!!」

 

「でも切ちゃん最近おっぱいもお尻も大きくなってきたし。……削るか(小声)」

「デース!!!???」

「嘘だよ♡」

「調ぇ……」

 

 

 





これにて夏のホラー編おしまい。
最後はいつものように一鳴くんが焼いてましたね。
プロット段階では、きがる様を倒した数日後、きがる様が闇の中から切歌ちゃんをジッと見つめていたってエンドにする予定でしたが。
やめました(DOMAN感)

面倒くさくなったからね、仕方ないね。

そんな訳で次回はひびみくと海に行く話です。
修羅場回です。
お楽しみにね(震え声)


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第八十三話 ひびみく vs F.I.S.組 vs ダークライ

修羅場? やっこさん死んだよ。
作者がそういうの書けないってよ!
読むのと書くのは大違いだとさHAHAHA!



 

 

7月後半。

夏休みである。

サマーシーズン到来ッ! と行ったところである。

 

そんな7月某日。

俺は響ちゃんや未来ちゃんと共に海に来ていた。

いつぞやの、3人で旅行に行きたいという未来ちゃんの願いを叶えた形である。

 

「わーい! 海ーッ!」

「響ーッ! 先に準備運動しないとダメだよ!」

 

海に駆け出す響ちゃんとそれを止める未来ちゃん。

そんな二人を見ながら俺はビーチパラソルやら下に敷くマットなんかを準備していた。

女の子に労働させる訳には行かないしね。

それに荷物を見張る人も居るだろうし。

……未来ちゃんそれを見越して俺を起用したの?

 

「あつい……」

 

俺は用意したマットの上に座る。

パラソルの下の影にいるのに、暑さが辛い。

現在午前9時。

6時に起きて電車に乗って海まで来たのがこの時間。

なのだが、もうすでに日差しが強い。

焼けちゃう。

このままではハードボイルドになっちゃう……。

 

「ナルくーん! ナルくんも泳ごうよ!!」

 

と、準備運動の終わった響ちゃんが大声で呼びかける。

朝の海はまだ人が少なく、響ちゃんの声がよく通る。

 

「俺は荷物見てないといけないから、未来ちゃんと遊んでなさーい!」

 

という俺の声が聞こえたのか、未来ちゃんと一緒に海に向かう響ちゃん。

元気だなぁ。

そんな事を思いながら、水を掛け合ってじゃれ合う二人を見る。

響ちゃんも未来ちゃんもワンピース水着を着ている。

響ちゃんがオレンジ色メインで、差し色に紫の水着。

未来ちゃんが紫メインで、差し色にオレンジ色の水着。

あれか、自分の好きな色がメインで、お互いの好きな人の好きな色を差し色にしているものを選んだのね。

……ええやん。

そういうの好きよ。

とまあ、そんな風に二人をニチャァとした目で見ていると声をかけられた。

 

「そこの素敵なキミ、お姉さんたちと遊ばない?」

 

逆ナンであった。

こんな朝早くから……!?

ハンターの朝は早いのねぇ。

 

「あ、連れが居るん、で……」

 

と、断りながら、相手の顔を見る。

ニッコニコのマリアさんがいた。

その隣に、これまたニッコニコのセレナちゃんがいた。

その少し後ろに頬を膨らませた調ちゃんと、なぜか顔が赤い切歌ちゃん。

全員水着であった。

 

「へぇ、彼女が3人も居るのに別の女の子と海に行くのね、一鳴は……」

 

マリアさんが目を細める。

狩人の目!

 

「あんな、ちゃうねん……」

 

冷や汗を流す俺。言葉も変になる。

 

「その、ちゃうねん……(震え声)」

「違 わ な い わ よ ね ぇ」

 

マリアさんが俺の隣に座る。

その反対側にセレナちゃんが座る。

二人が俺の太ももを抓る。

 

「ひぎぃ……」

「浮気は感心しないわよ?」

「非道いです、私たちをハチャメチャにしたのに、更にハチャメチャしようとするんですか?」

 

二人が頬をふくらませる。

可愛い。

太ももを抓られてなければ、二人の可愛さを堪能出来たのに。

 

「一鳴さん?」

「ふぇぇ、調ちゃん……」

「うわきもの」

 

俺の前に座った調ちゃんが俺のお腹をテシテシ殴る。

痛くない。

痛くないけど心が痛いの。

 

「女好き。すけべ。えっち。ヤリチンクソヤロー」

「ちょっと待って最後の言葉は誰から教わったの?」

「マム」

「ナスターシャ院長!?」

 

何教えてるのあの人!?

 

「あの、一鳴さん……?」

 

と、顔の赤い切歌ちゃん。

 

「そ、その、女の子が好きなら、アタシとか……

「切ちゃん、ステイ」

「デスッ!」

 

調ちゃんの言葉に、その場で気をつけをする切歌ちゃん。

じょ、上下関係……!

 

「まだ早いよ。焦らずじっくり行こう」

「はいデス」

 

とまあ、そんな風に騒いでいたら。

響ちゃんと未来ちゃんが何事かと、戻ってきた。

 

「ナルくん、どうしたの?」

「えっと、ナルくんナンパしてるの?」

「きみたち?」

 

未来ちゃんには、俺がナンパしてるように見えてるらしい。

なんで?

 

「あら、一鳴の友達(強調)ね?」

 

マリアさんが立ち上がり、二人の前に立つ。

つまり、俺とひびみくの間に立っているんだけど、マリアさんのお尻が見えて、……すごいおっきい。

マリアさんのお尻おっきいし、水着の食い込みがすっごい。

すっごいエッチ。

 

「えいえい」

「むー!」

「で、デス!」

 

そんな俺をセレナちゃんはポカポカ殴り、調ちゃんはテシテシ殴り、切歌ちゃんはさり気なくマリアさんが座ってた場所に座る。

 

「私はマリア・カデンツァヴナ・イヴ。一鳴の恋人(超強調)よ!」

 

と、腰に手を当て気の強い女アピールするマリアさん。

こういうポーズが様になるのがマリアさんなんだよなぁ。

 

さて、そんな事を言われた響ちゃんと未来ちゃんだけど……。

 

 

 

ひびみくのマリアさん対応【1D10】

 

1 ナルくんの彼女! 実在したのね!!

2 ナルくんの彼女! 実在したのね!!

3 ナルくんの彼女! 実在したのね!!

4 話の途中だがノイズだ!

5 ナルくんの彼女! 負けられない!!

6 ナルくんの彼女! 負けられない!!

7 ナルくんの彼女! 負けられない!!

8 ナルくんの彼女! 負けられない!!

9 話の途中だがノイズだ!

10 ナルくんの彼女! えっちだ……!

 

結果【3 ナルくんの彼女! 実在したのね!!】

 

 

 

「ナルくんの、彼女……彼女!?」

「え、ナルくんの彼女!? うそ、ホンモノ!?」

 

マリアさんがライバル心バチバチに自己紹介したのに、響ちゃんと未来ちゃんの反応は少しおかしかった。

 

「……あ、ナルくんの写真で見たことあるかも!」

「ホントだ、年上彼女のマリアさんだ!」

「え、えぇ、マリアだけど……?」

「わぁ、実在したんだ!」

 

二人は俺の彼女が実在していた事に驚いていた。

今まで非実在彼女だと思ってたんか……。

 

「いや、今まで写真でしか見た事なかったから」

「まあ、それはそうだけどさぁ」

 

いい機会だから、紹介しとこうかな。

 

「彼女がマリアさん。で、こっちにいるのがセレナちゃん。この子が調ちゃん。この子が切歌ちゃん」

「……あれ、ナルくん彼女3人って言ってたよね?」

「……増えた?」

 

ひびみくが俺をジト目で見る。

 

「切歌ちゃんは調ちゃんの友だちだよぉ!」

「そうデス! ()()彼女じゃないデス!」

(まだ!?)

(まだ!?)

(まだ!?)

(まだ!?)

(まだ!?)

 

なんだろう、みんなが難しい顔をしている。

 

「そういえば、なんでみんなはここに?」

 

俺が海に行く事を知ってるのは両親と二課の弦十郎さんのみだ。

マリアさんたちは誰から話を聞いたのか。

 

「ドクターウェルよ」

「ウェル博士が?」

「一鳴が女の子と楽しく海に行く、って言ってたのよ」

「同じ話を了子さんからも聞きました」

「弦十郎さんも言ってたよ」

「デス!」

 

めっちゃ拡散されとる……。

つらみ。

めっちゃつらみ。

 

「そんな訳で浮気者の一鳴を連れ戻しに来たのよ」

 

そういう事であった。

 

「え、連れ戻すって……?」

 

未来ちゃんが聞く。

 

「当たり前じゃない。彼氏が私たち以外の女の子と遊びに行くなんて。一鳴はこれから私達と遊ぶのよ!」

「え、でも……」

 

と言う響ちゃんを無視して俺の手を取り立たせるマリアさん。

 

「それじゃ。あとは二人で楽しみなさい」

 

そう言って俺を引っ張るマリアさん。

セレナちゃんたちも立ち上がる。

と、その俺の反対側の腕が引っ張られる。

 

「ダメ……ッ!」

 

 

 

一鳴の手を引っ張った人【1D6】

 

1 響ちゃん

2 未来ちゃん

3 響ちゃん

4 未来ちゃん

5 響ちゃん

6 未来ちゃん

 

結果【1 響ちゃん】

 

 

 

俺の手を引っ張ったのは響ちゃんであった。

 

「マリアさんはナルくんの彼女かもしれませんけど、今日のナルくんは私達と遊びに来てくれたんですッ!」

「響……ッ!?」

「未来も引っ張って!! ナルくん連れてかれちゃう」

「う、うん……!」

 

響ちゃんに言われて、俺の手を引っ張る未来ちゃん。

 

「セレナ! 調! 切歌! 私達も負けられないわよッ!」

「はいッ! 幼馴染みには負けません!!」

「付き合いが深いのは私達の方!」

「デース! ()()彼女じゃないけど負けないデース!」

((((((まだ……))))))

 

セレナちゃんたちも俺を引っ張り出す。

俺の両手が伸び、身体が大の字になる。

 

「あだだだだ……!」

「ナルくん、我慢してッ!」

「一鳴、耐えなさいッ!!」

 

痛みに声が漏れる。

そんな俺に無茶苦茶言う響ちゃんとマリアさん。

二人にはソロモン王の逸話を思い出してほしい。

赤ん坊の母親を名乗る二人の女性から、本物の母親を見つけ出したソロモン王の逸話を。

 

「伸びる! 腕が伸びる!!」

「ナルくん、頑張って!」

「一鳴さん、今だけは耐えて……!」

「デース! あ、一鳴さんの手おっきいデス

「切ちゃんの卑しんぼ」

 

みんなが俺に頑張れって言いながら俺を引っ張る。

そんな俺は裂けそうである。

俺で綱引きをしないで……。

 

 

 

一鳴綱引き対決の行く末【1D10】

 

1 話の途中だがサメだ!

2 ひびみくの勝利!

3 ひびみくの勝利!

4 話の途中だがノイズだ!

5 マリア軍団の勝利!

6 マリア軍団の勝利!

7 マリア軍団の勝利!

8 マリア軍団の勝利!

9 話の途中だがワイバーンだ!

10 熱烈歓迎

 

結果【7 マリア軍団の勝利!】

 

 

 

戦争は数だよ兄貴、とどこぞのフケ顔の弟も言っていた。

二人で引っ張る響ちゃんと未来ちゃんよりも、四人で引っ張るマリアさんたちが有利なのは自明の理であり。

引っ張られた俺がマリアさん軍団に引き寄せられるのは仕方のないことであった。

問題は、最後まで俺を離さなかった響ちゃんと未来ちゃんも引き寄せられた事である。

 

「うおっ」

「わぁッ」

「きゃッ」

 

俺達はマリアさんたちに受け止められた。

 

「一鳴さん、大丈夫ですか!?」

 

声をかけるセレナちゃん。

俺はセレナちゃんに抱き締められた。

むにぃ、と押し付けられるおっぱいの感触!

 

「うん、大丈夫……。二人は?」

「あの二人はマリア姉さんが受け止めたから大丈夫です」

「そっか。良かった」

 

で、そのマリアさんは……。

 

「ふぅふぅ、私達の、勝利よ……」

 

息切れしながら、勝利宣言していた。

 

「うぅ、負けちゃった……」

「ナルくん取られちゃった……」

 

響ちゃんと未来ちゃんはションボリしている……。

その目には光るものが……。

勝利宣言していたマリアさんも、その二人を見て眉をハの字にした。

 

「マリアさん、二人も一緒に遊んじゃダメかな?」

 

俺はそう聞いた。

 

「みんなに黙って女の子と遊びに来たのは悪い事だけど、あの二人はずっと一緒の幼馴染みなのよね。最近仕事やらなんやらで遊べなかったし、ダメぇ?」

「むぅ……」

 

悩んでいたマリアさんが口を開いた。

 

「一つだけ、条件があるわ」

「条件?」

 

未来ちゃんが首を傾ける。

 

「子どもの頃の一鳴の話、聞かせてちょうだい」

 

その言葉に、響ちゃんと未来ちゃんが顔を見合わせ、そして。

 

「はいッ!」

「ありがとうございます、マリアさん!」

 

花開くような笑顔でそう言ったのだった。

 

 

 

結末【1D10】

 

1 みんな仲良くなった

2 みんな仲良くなった

3 みんな仲良くなった

4 我慢出来ず告白しちゃう切歌ちゃん

5 調を気に入る響とその頬を抓る未来

6 調を気に入る響とその頬を抓る未来

7 切歌を気に入る未来と激しい嫉妬に身を焦がす響

8 切歌を気に入る未来と激しい嫉妬に身を焦がす響

9 いいムードになってキスしちゃう一鳴と響

10 熱烈歓迎

 

結果【9 いいムードになってキスしちゃう一鳴と響】

 

 

 

みんなで遊んで、なんやかんやとみんな仲良くなれたと思う。

俺の子供の頃の話を響ちゃんと未来ちゃんから熱心に聞くマリアさんとセレナちゃん。

響ちゃんと調ちゃんが一緒に砂のお城を作ってたり。

焼きそばを食べて口の周りを汚す切歌ちゃんの世話を未来ちゃんが焼いてたり。

今日一日楽しかった。

そしてもう、夕方だ。

もう帰らないといけない時間。

昼間は沢山いた海水浴客も、もういない。

帰りは、マリアさんが借りてきたレンタカーに乗せてもらえるらしい。

 

皆は車に荷物を積みに行った。

レンタルしていたビーチパラソルを海の家に返した。

あとはマットを片付けるだけ。

なのだが。

俺は、誰もいなくなったビーチに一人座っていた。

ざざん、ざざん。

波が打ち寄せる。

夕日に染まった海が、音を立てる。

楽しい時間はもう終わり。

もう帰りなさい、そう海が急かす。

でも、もう少し。

もう少しだけ、海を見ていたかった。

 

「隣、座るね」

 

声がした。

響ちゃんだ。

来たときと同じように、麦わら帽子に白いワンピースを着ている。

 

「響ちゃん」

「夕日、綺麗だね」

「うん」

 

二人並んで、しばらく海を見る。

ざざん、ざざん。

オレンジ色の海が打ち寄せる。

 

「ナルくん、私は未来が好き」

「うん」

「でも、ナルくんの事も同じくらい好きだよ」

「うん」

「未来もきっと、そうだと思う」

「……そうかもねぇ」

「ナルくん」

 

名前を呼ばれて、響ちゃんを見る。

響ちゃんと目が合う。

響ちゃんの瞳の中の俺と目が合う。

 

「調ちゃんが言ってたよ、一鳴さんはうわきものだーって」

 

響ちゃんがクスクスと笑った。

 

「でも、そんなナルくんが大好きなんだって」

「そっか」

「マリアさんもセレナさんも、あと切歌ちゃんも!」

「照れるねぇ」

「モテモテだね、このこの」

 

と、俺を肘で突っつく響ちゃん。

しばらくして、突っつくのを止める響ちゃん。

しばし、見つめ合う。

 

「ねぇ、ナルくん……。私も、ダメかな」

 

瞳を潤ませ、響ちゃんが言う。

 

「私も、ナルくんが好きだから」

 

そう言って響ちゃんが目を瞑る。

あぁ、この子はまったく……。

俺が断らないって、わかってる。

俺は響ちゃんに顔を近付ける。

そして。

唇同士が触れ合う。

 

「ん……」

 

響ちゃんが吐息を漏らす。

 

「えへへ、ナルくんとキスしちゃった」

 

そう笑うのだった。

 

「このうわきものー」

「響ちゃんもそうでしょ、未来ちゃんが居るのに」

「未来もナルくんが好きだからセーフだよ!」

 

そう言ってじゃれ合う。

そんな俺達を夕日だけが見ていた。

 

「ひーびーきー!」

 

未来さんも見てたわ(震え声)

 

「私達も」

「見てましたよ?」

「うわきもの」

「あ! アタシも……! あ、なんでもないデス」

 

みんな見てたわ(震え声)

そんな訳で。

この後めちゃくちゃ土下座した。

 

 

どっとはらい。

 

 

 

 

 

 

なおみんなそんなに怒ってなかったのか。

響ちゃんは正式に彼女扱いになり。

未来ちゃんと切歌ちゃんが熱っぽく俺を見てくるようになった。

 

 

どっとはらい!!




グーグルのサイコロは響ちゃん推しのようです。
誕生日近かったからね、多少はね?

次回はどうしようかな、海底遺跡というか、海底に埋まってた聖遺物の話にしようかしら。


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第八十四話 海の底のシンフォギア(前編)

日曜日は予定が入ってるので、早めに投稿です。
一鳴くん深海に行くの巻。
サブノーティカやってから、深海の話をずっとやりたかったのでここで捩じ込む。
バグも多いけど、深海を冒険できる楽しいゲームなのじゃぁ〜!



8月初旬。

沖縄から東に数十キロの洋上。

二課の保有する大型船に俺は乗っていた。

弦十郎さんと了子さんも一緒だ。

弦十郎さんは海パンに赤いアロハシャツ、了子さんは黒いビキニの上から白衣を着ている。

遊びに来た訳ではない。

聖遺物を探しに来たのだ。

 

事の発端は三日前。

平行世界の奏さんが来てからその存在が明らかになったギャラルホルン、その捜索をしていたチームから一つの報告が上がったのだ。

琉球海溝の底からアウフヴァッヘン波形が確認された、と。

 

二課にはギャラルホルンのアウフヴァッヘン波形データが無く、その琉球海溝から発せられる波形がギャラルホルンの物であるという保障はない。

だが、少なくとも琉球海溝の底に励起した聖遺物がある事は確かなのである。

そんな訳で、その聖遺物の発掘をしようとしていたらしいのだが。

発掘用の無人探査船を送り込んだ所、破壊されたらしい。

理由は不明。

だが、探査船から送られた映像データに大きな黒い影が映っていた事から敵意を持った何かがいる事は明らかである。

 

と、言う訳で。

二課の保有する最高戦力であるシンフォギア装者である俺が、発掘用の無人探査船を守護する事になったのであり、弦十郎さんと了子さんはそのサポートという事であった。

なぜ二人は水着着てるのかって?

沖縄の洋上は暑いからってよ。

 

 

「でも了子さん、俺は海中で活動したことないし、スダルシャナのシンフォギアにそんな機能は無いですよ」

 

作戦開始の前、俺は了子さんに聞いた。

 

「あら一鳴くん、策ならあるわよん」

「策? なんです?」

「シンフォギアはね、装者の強さに応じてシンフォギアにかけられたリミッターが解除されていく仕組みなのだけど、装者の心象心理や外部からの影響によって特定分野に特化した機能を獲得する事も出来るのよ」

 

……つまり、アレか。

XDの水着型ギアとか、クリスマスギアとかあんな感じの変化か。 

 

「だから一鳴くんの心を深海特化にすれば一鳴くんも深海に適応出来るってワケ!」

 

深海型ギアになれ、ということね。

……そんなすぐにはなれないよぉ!!

 

「その為の俺だ」

 

ヌッ、と現れたのは弦十郎さん。

その手にはいくつかのビデオテープやDVD。

 

「弦十郎さん?」

「今から一鳴くんには深海に関する映画やドキュメントなどを見てもらう」

「えっ?」

「作戦を開始する三日後までみっちりとやるぞ!」

「えっ?」

 

そういう事になった。

 

「一鳴くんッ! 深海は大水圧と低水温、そして光の届かない暗黒の世界だッ! 調査はほとんど進んでおらず、生物たちは独自の生態系を築いているッ! まさに異世界だッ!」

 

「見ろ、一鳴くんッ! ダイオウイカだッ!! 大きいなッ! 日本で見つかったものは足を含めて6.5メートル。ヨーロッパで見つかったものは最大18メートルとも言われているらしいッ。大きなタコの怪物クラーケンの正体とも言われている、地上最大の無脊椎動物だなッ! 大きくて食べごたえがありそうだが、体内に塩化アンモニアを大量に含んでいるので美味しくないらしいぞ」

 

「一鳴くんッ、深海では大水圧に阻まれて戦輪がうまく機能しない可能性があるッ! 新たな形のアームドギアを形成しなければならないッ! そうだな、やはりここは銛か? 細身の武器ならば水圧の影響を受けにくいだろう。銛なら投擲も出来るしなッ! ……え、戦輪を銛に変える方法? ……よし、特訓だッ!!」

 

そんなこんなで。

三日間深海漬けになった結果。

 

「───── Sudarshan tron」

 

俺は深海型ギアを手に入れていたッ!

琉球海溝直上に向かう船の中でお披露目である。

背中には眩く輝くチャクラム。

これは戦うためではなく、光の届かない深海で光源として用いるための物。

上半身を隠すのはインナーのみで、腕には流線型の手甲。

下半身は腰から下を装甲が覆っている。

小型チャクラムを格納していたスカートアーマーは無くなり、両足の装甲が一体化している。

まるで人魚のようなシルエットだ。

この下半身の装甲からシンフォギアのエネルギーを放出して、深海の大水圧から身を護ったり自在に泳げるようにしているのだ。

そして、手にはアームドギアである銛。

戦輪から変形した銛である。

戦輪がどうして銛になったのかって?

どっちも投擲武器だからネ!(てきとう)

でも戦輪から変形してるから、先端部分が高温を発するようになっている。

ザクの持ってるヒートホークみたいな感じである。

強い(確信)

 

「おお……ッ!」

「あら、いいじゃない!」

 

弦十郎さんと了子さんもご満悦である。

これなら深海でも戦えるぞぅ!

それに、人魚っぽいシルエットも結構気に入ってたり。

 

「性能も問題ナシ! いけるわよ弦十郎くん!」

 

パソコンでシンフォギアの性能を見ていた了子さんも太鼓判を押す。

それを聞いた弦十郎さんがうなずく。

 

「よしッ! ならば一鳴くんは当初の予定通り無人探査船と共に潜航、海底に沈む聖遺物の所まで無人探査船を守ってくれ!」

「了解ッ!」

 

俺は頷き、無人探査船のところまで向かう。

ぴょんぴょん跳ねて移動……。

仕方ないのよ、俺の足、今人魚みたいに一体化してるから歩けないのよね……。

陸では無力ね、深海型ギア……。

 

無人探査船は、船に取り付けられたクレーンによって吊り下げられていた。

たまごひこーきみたいなずんぐりむっくりした流線型のフォルムだ。

全長5メートル、全幅4メートル、高さ3メートル。

そんな無人探査船にはロボットアームがついており、これで聖遺物を回収するのである。

この無人探査船を、聖遺物の所まで護衛するのが今回の任務だ。

 

「無人探査船を降ろすわよ」

 

了子さんが伝える。

クレーンが回転して、無人探査船が海の上に降ろされる。

無人探査船が着水すると、クレーンの接続部が外れる。

 

「一鳴くん、準備はいいか?」

 

弦十郎さんが確認する。

俺はうなずいて答えた。

 

「大丈夫ですッ!」

「よしッ! 謎の黒い影も脅威だが、それ以上に深海は未知の領域だ。十分気をつけてくれッ!」

「了解! 行ってきます!!」

 

俺は船から飛び降りる。

水しぶきを上げて着水。

同時に下半身装甲からエネルギー放出。

俺を囲むように球形に形成。

これで海中でも呼吸が出来る訳だ。

どんな理屈かはわからない。

でも呼吸できるし歌も響かせられる。

どんな理屈かはわからない!

 

「よし、行くか」

 

無人探査船はすでに海中に潜航している。

俺も後を追った。

足を動かして潜る。

海の中は青い世界であった。

だが、底の方は暗黒が広がっている。

ここはすでに琉球海溝直上。

この下は、水深5000メートルオーバーなのだ。

故に、底なしの闇が広がっている。

無人探査船はどんどん潜っていく。

俺も横並びに潜っていく。

水深50メートルを越えて、100メートルに達する。

どんどん暗くなっていく。

周りは海水ばかりである。

生きているものが、世界で自分だけになってしまったかのような錯覚に陥ってしまいそうになる。

 

「水深100メートル突破、どうかしら一鳴くん海の中は?」

 

了子さんからの通信である。

 

「周りになにもないので、正直怖いですね」

「そうね、そこはもう人の住む領域じゃないもの。通信は繋いだままにしておくわ、心細くなったら話しかけてね」

 

と、了子さん。

やさしみ。

了子さんの優しさに触れたので、少し元気が出た。

その間にも潜行していく。

 

「水深150メートル、そろそろ光が届かなくなってきたかしら」

 

了子さんの通信で言われたとおり、だんだん薄暗くなっていく。

隣に居るはずの無人探査船もライトを光らせているが、ボディも見えなくなりつつある。

 

「背中の光輪、そろそろ点灯させた方がいいだろうな」

 

と、弦十郎さんの通信。

俺は言うとおりに背中の光輪を光らせた。

 

「眩しッ!?」

 

全力で光らせたせいで目眩ましになってしまう。

もうちょい抑えて抑えて……。

 

「大丈夫か?」

 

弦十郎さんの声。

 

「ええ、大丈夫です」

「そうか。これより先は光の届かない領域だ。だからこそ、一鳴くんの光輪をエサだと思い込んだ生物が狙ってくるかもしれない。気をつけてくれ」

「了解です」

 

チョウチンアンコウみたいな感じか。

あの魚は頭から飛び出た釣り竿めいたヒレを光らせてエサである小魚をおびき寄せていた、はず。

つまり、俺の光輪によってくる魚がい、る……。

 

「あー、弦十郎さん?」

「どうした、一鳴くん」

「……ダイオウイカとの戦闘って、していいんですか?」

「……いるのか?」

「はい、来ましたねぇ」

 

来ちゃった(震え声)

嘘でしょダイオウイカってもっと深い所に棲息してるんじゃないのッ!?

しかも結構デカいッ!

脚含めて10メートルくらいあるんじゃないアレ!?

 

「あー、確認した」

 

と、弦十郎さん。

無人探査船にはカメラもついており、船上で弦十郎さんや了子さんが確認しているのだ。

 

「丁度いいじゃない。深海型ギアの性能を試させて貰いましょ」

 

と、了子さん。

 

「止むおえないか。無人探査船を壊されるわけにもいかんしな。だが、深追いはするな、追い返すだけにしておくように」

「了解!」

 

そんな訳で。

vsダイオウイカである。

 

 

 

一鳴vsダイオウイカ【1D10】

(負けると無人探査船にダメージ)

 

一鳴【7】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

 

ダイオウイカ【9】+5(大きさ補正)

 

 

 

ダイオウイカがその触腕を無人探査船に向かって伸ばす。

 

「イヤーッ!!」

 

俺はアームドギア銛を振るってダイオウイカの触腕を弾く。

その勢いを利用して、高速でダイオウイカの胴体まで移動。銛を刺す。

ジュッ、とダイオウイカの傷が焼ける。

カウンターを食らったダイオウイカが暴れる。

もう一度銛を刺す。

ダイオウイカは方向転換、海の底に消えていった。

 

「戦闘終了ッ!」

「お疲れ様。無傷とは流石ね」

 

了子さんが褒めてくれる。

 

「思った以上に水中でも自在に動けましたね」

「特訓の成果が出ているなッ」

 

弦十郎さんと一緒に深海ドキュメンタリー見た結果であった。

むしろドキュメンタリー見ただけでこうなるあたり、シンフォギアかなり柔軟性あるな……。

 

「ダイオウイカが去ったところで、さらに潜っていきましょう!」

 

と、了子さんに言われる。

そうして潜ること、水深200メートル。

これより先が、深海、と定義されている領域だ。

可視光線がほぼ遮断される暗黒の世界。

もっとも、弱い光は届いているらしい。

水深200メートルから1000メートルが弱い光が届くから弱光層、それより下が無光層だとか。

つまりはまあ、ここはもう光が無い真っ暗闇である。

 

「…………」

 

横で泳ぐ無人探査船を見る。

今、俺は背中の光輪で、周囲10メートルを照らしており無人探査船はその範囲内に入っている。

だからこそ、俺の目に見えるのが無人探査船のみであり、不安になってくる。

ここは暗黒の世界だ。

20気圧以上の水圧がかかる死の世界。

シンフォギアが無ければ、辿り着くことも出来ない異界である。

 

「一鳴くん、大丈夫?」

 

心配そうに、了子さんが聞いてくる。

 

「ええ。……聖遺物の反応があったのは、もっと下ですよね」

「ええ。アウフヴァッヘン波形が確認されたのは、そこからもっと下。おおよそ水深5000メートル地点よ」

 

水深200メートル地点でさえこれなのに、更に下に潜る。

いや、むしろ。

この地点ですら、深海の入口でしかないのだ。

 

「大丈夫よ」

 

俺の内心の恐れを感じ取ったのか、了子さんが声を掛ける。

 

「一鳴くんは訃堂司令や弦十郎くん、キャロルちゃんに鍛えられたウチの最高戦力じゃない! ただの真っ暗闇なんて平気でしょ?」

「そうだな。一鳴くんは多くの強敵を乗り越えてきた。安心しろ、君なら大丈夫だッ!」

 

二人が励ましてくれた。

 

「……ええ、そうですねッ! さっさと潜って聖遺物をドーンと持って帰ってきますよ!」

 

二人の励ましは、確かに俺の心に響いた。

我ながら単純な男だと苦笑する。

でも、俺の心には火がついた。

もう、深海を無闇に恐れることは無いだろう。

俺は、一人では無いのだから。

 

「さあ、更に潜って行きましょう!」

 

 

 

 

 

 

ソレは感じていた。

自身の直上から降りてくる、強い力の持ち主を。

 

「……。」

 

()()が知性を得てから90年近く。

長く生きてきてはじめて。

恐怖した。

 

「…………。」

 

頭に()()()()聖遺物によって知性を得て、強く大きくなったソレが恐怖したのだ。

 

───あぁ、アレは己を殺すものだ。

 

思えば、つい数日前。

ソレの縄張りに近づく見慣れぬ()が居た為に、握り潰した。

その魚は血が流れず肉もない、金属の魚。

奇妙奇天烈な魚。

いや、アレは……。

おそらく、地上に住む人間が作ったものだろう。

ソレはそう結論付ける。

ならば、直上から降りてくるモノもまた人間か。

ソレは、ゆっくりと身を持ち上げた。

琉球海溝の奥底にて、横たえた肉体を。

あまりに大きすぎて、()()()()()()()肉体を。

 

ソレは、かつてはマッコウクジラと呼ばれていた生物。

聖遺物を運ぶUボートが撃沈され、太平洋に沈んだ聖遺物が頭に刺さった結果、知性と力を得た魔獣。

それの姿はもはや、クジラではなく龍のようである。

長く伸びた胴体。

ヒレは伸びて人の腕のよう。

歯は牙のように鋭い。

そして、その頭には一本の聖遺物が刺さっていた。

海水によって腐食しながらも堂々と存在している剣。

 

その剣の名を、アスカロンと言った。

 




こう、クジラの頭に聖遺物が刺さった結果知性を得たというアイデアは、大昔に見た漫画版メダロットから着想を得ました。
メダロット、昔はやり込んだのよね。
ユイチイタン、軽いトラウマなのだわ……。


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第八十五話 海の底のシンフォギア(後編)



ダクソ3でジークバルトイベントのフラグ叩き折れて意気消沈したので初投稿です。
深みの聖堂でな、うっかりロザリア方面行ってしもたんじゃぁ〜(ショック感)
パッチ、出てきてくれ〜!



水深500メートルまで潜ってきた。

200メートル地点からずっと真っ暗闇の中をシンフォギアの光輪の明かりを頼りに潜ってきたのだ。

の、だがぁ。

 

「弦十郎さん、またでーす……」

「これで何体目だ、ダイオウイカ……」

 

ダイオウイカである。

でっかいイカなのである。

それが、海の底から上がってきたのである。

ちなみに水深200メートルから数えて、これで6体目である。

 

「あ、今度のはちっさい。5メートルぐらいかな」

 

そう言いながら俺はダイオウイカの胴体に銛を刺す。

ジュッ、と身が焼ける音と共にダイオウイカが逃げていく。

 

「終わりましたぁ」

「お疲れ様ね……」

 

了子さんが労う。

 

「……ダイオウイカって珍しいんですよね」

「生きている姿を見るのはな」

 

と、弦十郎さんが教えてくれる。

 

「……もう見飽きました」

「そこらへんで、繁殖してるのかしら。でも、前回はダイオウイカなんて見なかったわよ?」

 

了子さんによると、前回の調査では深海魚は何匹か見たものの、ダイオウイカはついぞ見かけなかったらしい。

 

「……一鳴くんを追い返しに来たのか?」

「なんで?」

「聖遺物を守るため、か?」

「なのかしらねぇ?」

 

と、弦十郎さんと了子さんが通信機の向こうで討論している。

しかし、俺にはあのダイオウイカたちがなぜ群がってきたのかわかる気がした。

 

「あのダイオウイカたち、なんだか怯えてる気がしたんですよね」

「怯えてる?」

「ええ、弦十郎さん。ダイオウイカたちはなんだか慌ててたというか、俺に向かってきたというよりも進行方向に俺がいて驚いて攻撃してきたって感じがしました」

 

そう、あのダイオウイカたちは怯えていた。

怯えて、何かから逃げてきていたのだ。

 

「……ダイオウイカたちは皆と海の底から上がってきていたわ」

 

了子さんがダイオウイカについて解析していたようだった。

 

「海底に、何があるというのだ……」

 

と、弦十郎さん。

 

「兎にも角にも、潜っていくしかないかと」

「そうだな、一鳴くん! 充分気をつけてくれ」

「了解ッ」

 

そんな訳で、気を付けつつも更に潜っていく事になった。

 

水深1000メートル。

この地点まで達すると、水温は4℃にまで下がってしまう。

まあ、シンフォギアのお陰でなんともないけれどね!

それと、水圧が100気圧に達する。つまり、体重の100倍の重さが身体にのしかかっている事になる。

まあ、シンフォギアのお陰でなんともないけれどね!

 

「ダイオウイカの群れも、一段落かしら」

 

了子さんがそう通信する。

その通信の通り、ダイオウイカとのエンカウントもしなくなった。

ちなみに、ここまで潜るのに11回はダイオウイカを追い返してるのよね(震え声)

 

「水深1000メートルまで潜ると、もう日光が届かないので、植物は存在しないらしいな」

 

そう、弦十郎さんが教えてくれる。

 

「棲息している生物はラプカやあんこう類、あとはマッコウクジラか」

「クジラ?」

「ああ。肉食のクジラでダイオウイカを食べる事もある、巨大なクジラだ」

 

マッコウクジラ。

巨大な頭部が特徴のクジラであり、深海まで潜ってダイオウイカや他の生物を取る。

他のクジラが水深200メートル程しか潜れないのに対して、マッコウクジラは最低でも水深2000メートル、確認される限り3000メートルは潜れるのだとか。

マッコウクジラ、ダイオウイカ食べるのね……。

つよい(確信)

 

「このマッコウクジラの結石が、竜涎香という香料になり……む?」

「どうしました?」

 

弦十郎さんがなにかに訝しむ。

 

「通信に、なにか変な音が……、いや、これは!」

「一鳴くんはなにか聞こえる?」

 

そう言われて、耳を澄ます。

よーく聞いてみると、カチッカチッというクリック音や、バチンバチンという金属音が聞こえてくる。

 

「……なんですか、これ」

 

音は、なんだか少しずつ近づいている気がする。

 

「一鳴くん、気をつけろ」

 

と、弦十郎さん。

 

★「これは、マッコウクジラの反響定位(エコーロケーション)! マッコウクジラが、一鳴くんを探っているぞッ!!」

 

そう言われ、俺は即座に迎撃態勢を取る。

そのすぐ後で、目前の暗闇から。

灰色の壁、否。

マッコウクジラが突撃してきたのである……!

 

 

 

一鳴VSマッコウクジラ【1D10】

(負けると無人探査船にダメージ)

 

一鳴【2】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

 

マッコウクジラ【9】+8(大きさ補正)

 

 

 

 

 

 

◎戦闘で負けたので、スキル『戦闘続行』が発動します。

一度だけ、戦闘ダイスを振り直します。

(第五十七話で獲得してたの、今まで忘れてました。小説執筆担当と設定管理担当は利き腕をケジメしました。これからも応援よろしくお願いします)

 

 

 

 

 

 

一鳴VSマッコウクジラ【1D10】

(負けると無人探査船にダメージ)

 

一鳴【10】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

 

マッコウクジラ【6】+8(大きさ補正)

 

 

 

マッコウクジラの突進を、俺は受け止める。

だが、もともとの大きさと速度の乗った突進を止める事は出来ず、弾き飛ばされてしまう。

 

「なんのこれしき!」

 

俺は尾ビレめいた両足で水中を蹴るようにして、体勢を立て直す。

その直後、マッコウクジラに向かって突撃。

巨大な頭部に銛を突き刺す。

 

「あっち行けッ!」

 

銛を引き抜き、その銛で頭を更に斬りつける。

ジュッ、と頭部が焼けて血が溢れる。

マッコウクジラが踵を返して暗闇に消える。

 

「危機一髪ね」

 

と、了子さんが言う、が。

 

「いえ。まだです……ッ!」

 

クジラを追い返してもなお、反響定位は鳴り止まなかった。

いや、むしろその数をどんどんと増やしていっているのだ。

バチンバチン。

カチッカチッ、カチッ。

バチンバチンカチッバチンカチッカチッカチッバチンバチンカチッバチンバチンカチッバチンバチンカチッバチンバチンカチッバチンバチンバチンカチッバチンバチンバチンバチンバチンカチッバチンバチン。

 

俺の周囲から無数に聞こえてくる反響定位。

これ、マッコウクジラ一匹二匹じゃ足りないぞ……!

 

「これは……ヤバいかも」

 

流石の了子さんの声も震える。

マッコウクジラの群れが敵意を持って俺を探しているのだ。

 

「一鳴くん、水深4000メートルまで潜行するんだッ! マッコウクジラは一時間もの間に、水深3000メートルまで潜れる! だから、更に潜って逃げるんだッ! マッコウクジラには息継ぎが必要だから、そんなに深くは潜れない筈だッ!!」

「了解ッ!!」

 

つまりは、一時間しか深海に潜れないマッコウクジラが危険を犯してまで俺を水深4000メートルまで追ってこれるか、という話である。

この群れがどれだけこの地点に居たのかはわからないが、ここから水上に上がるまでも時間がかかる。

いわんや水深4000メートルや、というワケダ。

 

「そうと決まれば!」

 

俺は背中の戦輪の光量を増やす。

周囲50メートルまでが明るく照らされる。

すると、居るわ居るわ。

マッコウクジラが数十頭。

暗闇に潜むクジラも居るから、更に増えるだろう。

 

「無人探査船は一鳴くんの後に着いていくように設定を変えたわ! 急いで!」

 

と、了子さん。

俺は、クジラの隙間を縫うように潜行を開始した。

 

 

 

一鳴とマッコウクジラの追跡戦(1/3)【1D10】

 

一鳴【10】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

 

マッコウクジラの群れ【7】+8(大きさ補正)

 

 

 

俺の纏う深海対応型シンフォギアの最高速度は時速60キロメートルである。

それに対して、マッコウクジラの最高速度が時速40キロメートル弱。

速度においてはなんと、俺の方が早いのだ。

だが、その速度の差をマッコウクジラたちは大きさでカバーしている。

俺の進行方向を、ヌッと巨体で阻むのである。

 

「イヤーッ!」

 

俺は道を阻んできたマッコウクジラの胴体に銛を突き刺す。

マッコウクジラが痛みで怯んだ隙に、その背中を抜けて前に進む。

 

「一鳴くん、現在水深2000メートルよ! 頑張って!」

 

了子さんに応援される。

あと2000メートル潜らないといけない。

こりゃ大変だぁ……!

 

 

 

一鳴とマッコウクジラの追跡戦(2/3)【1D10】

 

一鳴【3】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

 

マッコウクジラの群れ【5】+8(大きさ補正)

 

 

 

水深2000メートルを越えて、マッコウクジラの群れの数は大分減ったと思う。

だが、後ろを見るとまだまだガッツのあるマッコウクジラが数匹追いかけてきていた。

 

「イヤーッ!」

 

俺は銛を投擲。

先頭のマッコウクジラの頭に当てる。

銛は刺さらなかったが、その熱に驚いたクジラが悶る。

その隙に更に潜る。

潜る。

潜る。

 

「現在水深3000メートルを超えたッ! あと少しだ!!」

 

弦十郎さんがそう通信してくれた。

 

 

 

一鳴とマッコウクジラの追跡戦(3/3)【1D10】

 

一鳴【10】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

 

マッコウクジラの群れ【7】+8(大きさ補正)

 

 

 

水深3000メートルを越えて、もう追い掛けてくるマッコウクジラはあと一匹だけであった。

身体中に傷が刻まれている、歴戦の個体である。

……おそらくは死なば諸共、俺を殺そうとしている。

そのマッコウクジラが無人探査船に突っ込んで、破壊しようとする。

 

「イヤーッ!」

 

俺はそのクジラの頭を銛で刺す。

だが、クジラは止まらない。

俺は銛の先端を更に発熱。

クジラが苦痛で悶る!

しかし、闘志を失わない。

 

「……、そっか」

 

このマッコウクジラはきっと、もう止まらないだろう。

俺が死ぬか、このマッコウクジラが死なない限りは。

ならば、苦しませずに一気に殺すのみ……!

銛の先端が更に発熱!

熱エネルギーは一瞬にして剣槍の穂先を形作り、マッコウクジラの頭を蒸発させた。

頭を無くしたマッコウクジラが海底に沈んでいく。

静かで暗い、海の底へと……

 

「……」

 

俺はそれを、静かに見ていた。

あのクジラは、きっと戦士だった。

最後まで、戦士だったのだ。

 

「一鳴くん、無事かッ!?」

 

弦十郎さんからの通信。

 

「ええ、無事です」

「そうか、マッコウクジラの反響定位(エコーロケーション)も、もう聞こえない。逃げ切れたようだ」

「ですね」

 

現在水深4000メートル。

静かで暗い海の底。

アウフヴァッヘン波形が確認された地点まで、残り1000メートル。

ここから先は、琉球海溝に入っていく事になる。

 

「気をつけてね、一鳴くん。少なくとも、敵意を持った何かが居ることは確かよ」

 

了子さんの言う通り、この先にある聖遺物には守護者が居るのだ。

先んじて送られてきた無人探査船を破壊したなにかが……。

 

「考えても仕方ないか。一鳴、更に潜ります」

 

そんな訳で、俺は海溝へと潜っていく。

 

「それにしても、遠くまで来たものですねぇ」

 

思わず、そう呟く。

なにせ水深4000メートルを越えて、更に潜っていくのだ。

未だ研究の進んでいない深海。

そこに、踏み入ったのである。

 

「そうねぇ。でも、そこはまだ琉球海溝の中では浅い方なのよん」

 

と、了子さん。

その言葉を、弦十郎さんが繋いだ。

 

「琉球海溝はフィリピン海溝の一部でな、そのフィリピン海溝には水深10000メートルを越える深さのエムデン海淵やケープ・ジョンソン海淵がある」

「海淵?」

 

知らない言葉が出てきた。

海淵ってなんぞ?

 

「海淵とはな、水深6000メートルを越える海溝の中の更に深い地点の事だ」

「つまり、一鳴くんは深海のまだ入り口にいるって事ね」

 

水深5000メートルがまだ深海の入り口とは、なんとまあ、地球は広いなぁ。

とまあ、そんな話をしていると水深5000メートルに到達する。

琉球海溝の底。

海底の地面が視認出来た。

砂漠のような、海藻一つ生えていない荒涼とした深海の砂漠が広がる。

アウフヴァッヘン波形が確認された地点とは、目と鼻の先である。

 

「やっと到達ね。……なにか、見えるかしら?」

 

了子さんがそう聞く。

 

「うーん、砂と岩ばかりで……」

 

俺は辺りを見渡す。

こう、聖遺物みたいな不思議な見た目の物はなにもない。

……いや、気になるものはあった。

 

「……骨がありますね」

 

それは、大きな骨であった。

全体の形から見て、恐らくはクジラの骨だ。

それがマッコウクジラなのか、別種のクジラなのかはわからないが。

だが、その骨はあちこちが砕けており、肉が全て削がれている。

そんな骨が、海溝中にある。

 

「……クジラの墓、か?」

「と、言うよりもお食事の後に見えるんですけれど」

 

弦十郎さんの言う通り、クジラの墓場に見える。

なのだが、俺には食われた後にしか見えないのだ。

だって、骨に歯型が着いている。

鋭い牙の穴が空いた骨が。

 

「……居ますね」

 

これは、居るね。

このクジラを食った何かが。

そして、それは恐らくは無人探査船を襲った黒い影の事であろう。

 

「…………」

 

集中して、攻撃に備える。

だから、それに気付いたのだ。

背中の戦輪が照らし出すのは半径50メートル。

その外側に蠢くナニカ。

チラチラと、その肉体が視認できる。

直径30メートルはありそうな肉体。

全長は、わからない。

だが、大きい。

 

「……!」

 

バチン。

バチン!

バチンバチン!!

水中に金属音が響く。

マッコウクジラの反響定位によく似ている、だが、先程よりも大きな音。

そして。

 

★直上から、巨大な顎門(あぎと)が降ってきた。

 

 

 

一鳴回避ロール【1D10】

 

1 避けた!

2 避けた!

3 避けた!

4 食われた!?

5 避けた!

6 避けた!

7 カウンター!

8 避けた!

9 食われた!?

10 熱烈歓迎

 

結果【1 避けた!】

 

 

 

直上から急加速で降ってきた顎門(あぎと)を躱す。

謎の頭部は海底に激突、砂煙が上がる。

だが、頭部はすぐに動き出して鎌首をもたげる。

それは、正しく蛇の動き。

だが、その頭はマッコウクジラのソレだ。

長大なマッコウクジラ、それが俺を襲ってきたモノの正体。

 

「アウフヴァッヘン波形確認! 聖遺物はすぐ近くよ!!」

 

了子さんが叫ぶ。

目の前の怪物、その頭に棘が刺さっている。

それは、よく見ると棘でなく剣だ。

腐食しながらも、堂々として存在する剣。

間違いなく、聖遺物だろう。

 

「剣の聖遺物……? ギャラルホルンじゃなかったのか」

 

アウフヴァッヘン波形を発していたのはギャラルホルンではなかった。

謎の剣の聖遺物であった。

 

「恐らく、その怪物が前回の無人探査船を破壊した犯人ね。聖遺物の力で進化したのかしら……」

 

と、了子さん。

怪物の頭に刺さった聖遺物の力で、怪物は今のような姿になったのか。

龍のような、神秘的で恐ろしい姿に。

その怪物が口を開く。

鋭い牙が見える。

そして、そのまま噛み付いてくる。

高速の攻撃、間一髪で避ける。

 

「向こうはやる気マンマンですねぇ!!」

「止む終えん! 攻撃を許可する!」

 

弦十郎さんから許可が出る。

この怪物、クジラの王を倒して剣の聖遺物を手に入れるのだ!

 

 

一鳴VSクジラの王【1D10】

(負けると無人探査船一発破壊、引き分けは無人探査船にダメージ)

 

一鳴【7】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

 

クジラの王【3】+15(大きさ補正)

 

 

 

さて、クジラの王と戦うのであるが。

鯨の王はその龍めいた細長い身体で俺の周りを囲っている。

包囲されているのだ。

そして、俺に向かって頭を突撃させている。

その攻撃は早く、避けるので精一杯。

受け止めようものなら、勢いを殺せずクジラの王の突撃を食らうことになるだろう。

なので俺は隙を狙って居たのだが。

俺と一緒に包囲されていた無人探査船を狙われてしまう。

 

「しまっ───」

 

無人探査船を守ろうとするも、素早い攻撃に無人探査船が一部破損されてしまう。

 

「ロボットアームを一本持ってかれたわ!」

 

了子さんから通信で悲鳴。

無人探査船はお高いのだ(震え声)

 

「一鳴くん、これ以上クジラの王の好き勝手やらせないで! 高いのよコレ!!」

「ハイヨロコンデー!」

 

俺は了子さんの剣幕に背筋が寒くなった。

 

 

 

一鳴VSクジラの王【1D10】

(負け及び引き分けは無人探査船一発破壊)

 

一鳴【7】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+3(了子の脅し)

 

クジラの王【3】+15(大きさ補正)

 

 

 

了子さんに脅されて気合が入ったのか、恐怖で集中力が増したのか。

クジラの王の動きが見えるようになってきた。

クジラの王の攻撃を、無人探査船に向かわないようにコントロールする。

クジラの王が噛み付きにかかる。

回避!

クジラの王が突撃する!

回避!

クジラの王が首を振り回して俺を叩き落とそうとする。

回避!

 

「今!」

 

首を振った影響からか、隙を大きく見せるクジラの王。

俺は銛の刃先を緊急発熱!

あまりの熱に銛が形を保てず、熔融する。

俺はそのまま更に発熱!

アームドギアが形を持たないエネルギーと変質する。

俺はそのエネルギーを自分の周りに集める。

アームドギアはエネルギーに変質してもアームドギアとしての特性を持っている。

つまり、形は自在である。

アームドギアのエネルギーは俺の周りに纏わり付いて大きな魚の形を取る。

実体のない、全長10メートルほどの大魚。

その形はマグロめいた流線型のフォルム。

超高温、金色のエネルギー体。

辺りの海水が沸騰する。

クジラの王が怯む。

だが、もう遅い───!

 

 

化身・金色大魚

 

 

巨大魚の化身となったアームドギアと共にクジラの王の首に突撃。

そのまま噛み付く。

実体は無くとも、超高温のエネルギー体。

クジラの王の首が焼き切れていく。

 

「!?!?!?!?!?」

 

クジラの王が悶る。

暴れる。

龍のごとき長大な巨体が、琉球海溝を揺らす。

だが、離れない。

俺は、このエネルギーはクジラの王から離れない。

そして。

クジラの王の首を焼き切る。

 

「───………」

 

クジラの王の首が海底に落ちていく。

大量の血が海底に広がる。

巨体が深海に沈む。

大魚を形作るエネルギー体が、銛の形に戻る。

 

「ふぅ、戦闘終了です!」

 

俺の報告に、通信の向こうで弦十郎さんや了子さん、他にも沢山の人がホッと息をする音がした。

 

「お疲れ様、一鳴くん」

「聖遺物も確保したわ」

 

見ると、無人探査船が残ったアームドギアでクジラの王の頭に刺さった聖遺物を引き抜いた所であった。

 

「人類未踏の領域で、良くやった」

 

弦十郎さんに褒められた所で。

任務完了である。

 

 

 

 

 

 

クジラの王の頭に刺さった聖遺物の正体は、アスカロンという聖剣であった。

任務完了後、了子さんが聖遺物の特徴と、Uボートに積まれて日本にやって来る予定だった聖遺物の名簿を確認して、証明したのである。

 

アスカロンとは、ゲオルギウスという聖人が用いたという聖剣であり、片刃の剣であるとか。

「汝は竜、罪ありき!」という言葉で有名かしら。いや、そのセリフ知ってるのFate民だけだけど。

まあ、要するにアスカロンは聖人の剣である。

そして、毒吐く邪竜を殺したドラゴンスレイヤーでもある。

 

アスカロンにはほんの僅かに、血がこびり着いていた。

それはマッコウクジラの血でもなく、人の血でもない。

未知の血だ。

強いて言うなら、爬虫類の血に似ているが詳細は不明。

おそらくは、邪竜の血だろう。

 

その、ほんの僅かな邪竜の血が、偶然刺さったマッコウクジラに作用して、あのような姿になったのか。

龍のような長大な身体。

腕のような前ヒレ。

鋭い牙。

邪竜のごとき、クジラの王。

Uボートが沈められたのが、今から90年ほど前。

それだけの時間、あのクジラの王は海底に君臨していたのだろうか。

だからこそダイオウイカは怯え、マッコウクジラの群れも俺を殺そうとしてきたのか。

 

人類未踏の領域に君臨する、クジラの王。

シンフォギアが無ければ、いや、深海型ギアに目覚めてなければ死んでいたな……。

 

そんな風に深海型ギアに感謝した。

そして、こんなニッチなギアはもう出番は無いだろうとも。

だけど───

 

「一鳴、こっち向いてッ!」

「あーダメ、ダメです! エッチ過ぎます!」

「一鳴さん、素敵ですよ。だから目線お願いします」

 

写真撮影会で早速纏う羽目になるとは思わなかった。

マリアさんがスマホで写真をパシャパシャ撮る。

セレナちゃんはムービーを撮り続けている。

調ちゃんはそのバズーカみたいなカメラどこで手に入れたの? え、マムの私物? そっかぁ。

 

「了子さんには感謝ね!」

 

マリアさんがローアングルで俺を撮りながらそう言う。この三人に深海型ギアの情報を漏らしたのは了子さんらしかった。

 

「はい! 人魚姫みたいなギアなんて……あーいいです♡」

 

うっとりしながら、ムービーを取り続けるセレナちゃん。

 

「後で切ちゃんにも見せてあげよっと」

 

と、プロ顔負けの技術で撮影し続ける調ちゃん。

 

「ねー、もういい?」

 

かれこれ三十分撮影されていた。

俺は疲れていた。

 

「まだ駄目よ! 響に送る分もまだ撮れてないし!」

「もうちょっと、もうちょっと撮らせてください! あーこのアングル最高!」

「一鳴さん、笑って?」

 

パシャリパシャリ。

写真を撮ったり動画を撮ったりする3人であった。

 

……まあ、3人とも楽しそうだしいっか!

 

いっか!!!(ヤケクソ)

 




ちょっと裏話。
アスカロンがクジラの王に刺さった時、アスカロンはまだ励起していませんでした。
じゃあなんでアスカロンが起動しているかというと、マッコウクジラたちの反響定位が原因です。
反響定位は「クジラの歌」とも呼ばれており、若干のフォニックゲインを含みます(オリジナル要素)
だからアスカロンが起動したんですね。

そして、クジラの王はアスカロンに付着していた邪竜の血によって肉体を変異させました。
そのままなら、いずれ邪竜の血の強すぎる力によって死に至る所でしたが、アスカロンが起動した事により生きながらえました。
アスカロンには、持ち主を守るという特性があり、その力が邪竜の血からクジラの王を守ったのです。

ですが、その力は経年劣化と深海による腐食で弱まっており、一鳴くんの攻撃から守るほどの力は残っていませんでした。
だから一鳴くんでもクジラの王を討伐出来たんですね。

よし、裏話終わり。
皆もう寝ていいよ(怪文書感)


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第八十六話 調神社でお祓い


どんな話をするか思いつかなかったので初投稿です。
色々案はあるけれど、纏めるのは難しい。
だから今回はダイスでなにやるか決めました。



 

 

なにやろっか?【1D10】

 

1 きりしらウェルと調神社で厄落とし

2 ひびみくの一鳴マンション訪問

3 マリセレと大人なデート

4 きりしらウェルと調神社で厄落とし

5 ひびみくの一鳴マンション訪問

6 マリセレと大人なデート

7 きりしらウェルと調神社で厄落とし

8 ひびみくの一鳴マンション訪問

9 マリセレと大人なデート

10 セッ! しないと出れない部屋に迷い込む一鳴とクリスちゃん

 

結果【4 きりしらウェルと調神社で厄落とし】

 

 

 

8月も半ばのある日の事。

二課でお仕事中、ウェル博士がふいにこう言った。

 

「一鳴くん、厄落としに行きませんか?」

「厄落とし?」

 

俺の言葉にウェル博士は頷いた。

 

「ええ。実は僕、きがる様の一件からどうにも、身体が重くて。整体に行っても、効果が出ないんですよ」

「それで厄落とし」

「ええ」

 

ウェル博士は肩をグルグル回しながらそう言った。

 

きがる様、深潟村で信仰された土着の死神。

フィーネと共に日本に渡ってきた渡来人の末裔であり、シュメールの神エレシュキガルを自分たちに都合の良いように解釈して生み出したのが、きがる様である。

そのきがる様に関わったのが、7月の末頃。

そこから半月近くずっと、ウェル博士は身体が重いらしい。

 

「きっときがる様の厄が憑いてるんですよ。間違いありません」

「疲れてるだけだと思いますけどねぇ。俺も調ちゃんも切歌ちゃんもなんともないですし……」

 

と、ウェル博士にそう言ったのだが。

 

「実はアタシも、ちょっと調子悪いデス」

 

切歌ちゃんであった。

調ちゃんもいる。

二人が二課に来ていた。

 

「ドクターに呼ばれて来たデスよ!」

「私達もオバケに憑かれてる気がして……」

 

二人曰く。

きがる様の一件以来、視界の端で黒い影が横切る事があるという。

そちらに目を向けても、何もない。

だけど、しばらくするとまた、黒い影がチラつくのだという。

また、暗闇に視線を感じたり小さな囁き声が聞こえることもあったのだとか。

 

「そうだったの?」

「そうなんデス!」

 

力強く頷く切歌ちゃん。

 

「そっか。……俺はなんとも無かったから、ドクターの気の所為とばかり……」

「恐らくは、一鳴くんの持つシンフォギアのお陰でしょうね」

 

俺の持つスダルシャナはインドの最高神の一人、ヴィシュヌの持つ戦輪。

それは太陽を表し、あらゆる邪悪を焼く聖なる武器でもある。

そのスダルシャナのお陰で霊障が起きないらしい。

 

「そういえば、一鳴さんと一緒だと黒い影は出てこなかった」

「そういえばそうデス!」

 

二人がキラキラとした目で俺を見る。

スゴイのは俺じゃなくてスダルシャナだけどね!

 

「確かにスダルシャナは強力だし、厄落としも出来るかもしれませんが、今回は()()を頼りましょう」

「プロ?」

 

ウェル博士は力強く頷いた。

 

「ええ、もう予約済みです! 早速四人で向かいましょう!」

 

そんな訳で。

二課の社用車に乗り込んで、そのプロの元に向かう事になった。

車で一時間ほど揺られて。

たどり着いたのは、埼玉県さいたま市浦和区。

JR浦和駅の近くにある神社である。

 

「ここですよ! この調神社(つきじんじゃ)の宮司さんが厄除けしてくれます!」

 

そんな訳で連れられたのは調神社であった。

わあ、シンフォギアの聖地!

AXZで出てきた神社よ!

なんで出てきたのかは……忘れた。

なんか、パヴァリアが、なんか、こう、アレしたからアレなんだっけ?(あやふや)

でもこの神社、確か調ちゃんと因縁あったような……。

 

「あ、ウサギさんデース!」

 

と、切歌ちゃんが神社前で向かい合う狛犬を見て歓声を上げる。

狛犬、というか狛兎だけどね。

 

「調神社は世にも珍しい狛犬じゃなくて狛兎がある神社なんだとさ」

 

と、俺はWikipediaを見ながら説明した。

調神社はその名前から月神の使いである兎が守り神になったのだとか。

月神。

月読。

月読、調。

 

「ウサギさん可愛いね」

「可愛いデース!」

 

調ちゃんと切歌ちゃんが、狛兎にはしゃぐ。

可愛いね(二人が)

 

「ほら、3人とも行きますよ!」

 

ウェル博士が神社の中にずんずん入る。

 

「あ、待つデスよ!」

「切ちゃん走ると危ないよ」

 

二人もウェル博士を追いかける。

俺はその後を歩いて追った。

そうして、着いたのは社殿。

その前には一人の男性。

白髪で、メガネを掛けた壮年男性。

 

「ウェルキンゲトリクスさんですかな?」

「ええ、そうです」

 

どうやら、この人が宮司さんらしかった。

 

「お待ちしておりました。ささ、暑かったでしょう中へ」

 

そう言われて、社殿の中に入れてもらう。

中はクーラーが効いてて涼しかった。

 

「さ、そこにお座りになって」

 

社殿の中には椅子。

俺たちはそこに座る。

宮司さんがお茶を持ってくる。

 

「さ、どうぞ」

「ドーモ」

「ありがとうございます」

 

お茶はよく冷えて美味しかった。

 

「……?」

 

宮司さんは調ちゃんをジッと見ている。

 

「えっと、どうしました?」

「ああ、いえ、孫娘に似ていたもので」

「お孫さん?」

「ええ、もう十年も前に事故で娘夫婦共々亡くなったのですがね」

「それは……」

「あ、これはお茶菓子のマドレーヌです」

「マドレーヌ!?」

 

緑茶にマドレーヌ。

事故の話からのボケ。

情緒が乱高下していた。

 

「あ、マドレーヌ美味しい」

「喜んでくれて良かった。私の手作りなんですよ」

「そうなんですか!?」

 

調ちゃんが驚く。

そら、神社の宮司さんがマドレーヌ作ってたらなぁ。

 

「ええ、フランス料理が趣味でして。もしよろしければ、後で作り方を教えますよ」

「本当ですか! お願いします!」

 

調ちゃんが喜ぶ。

 

「調のマドレーヌ、じゅるり」

「切ちゃんにも作ってあげるね」

「やったデス!」

「それよりも、お祓いの方を……」

「ああ、そうでしたね」

 

ウェル博士の言葉に、そうだったそうだったと言う宮司さん。

 

「いや、お若い方とお話するのは楽しくて。申し訳ない」

 

そう言いながら、大幣を手に持つ宮司さん。

大幣、ようはお祓い棒である。

 

「ウェルキンゲトリクスさんからある程度は話を聞いてますが、状況を確認させてください」

 

と、宮司さん。

 

「半月ほど前、とある村に滞在したときに土着の死神と深く関わることがあったとか」

「ええ、そうです」

「ヒドイ目にあったデース!」

 

切歌ちゃんの言葉に俺含めて全員が深く頷いた。

きがる様と深潟村、マジのガチで怖かったわ……。

最終的にはスダルシャナで焼いたけど。

 

「それから、全員身体が重かったり、視界の端に黒い影が走ったりすると?」

「ええ」

「あ、俺はなんともないですけど」

「ほう、それは……」

 

宮司さんは目を丸くして俺を見る。

 

「確かに、あなたからは神秘的な気配を感じます」

「神秘的?」

「ええ。あなたといると、温かい。そんな感じが……。だから霊も寄り付かなかったんでしょう」

 

宮司さんはそう言った。

 

「うん、一鳴さんは温かい人」

「デスね!」

 

調ちゃんと切歌ちゃんもそう言ってくれる。

ウレシイ……ウレシイ……。

 

「まあ、それは一鳴くんの持つペンダントのお陰なんですがね」

「ウェル博士ェ」

 

ネタバラシしないでほしい。

 

「ははは。まあ、そんなペンダントを持つのもあなたの人徳と言うことで。さあ、お祓いを始めましょうか」

 

と、宮司さんが大幣を構える。

 

「皆さんは土着とはいえ死神に見えた。ならば、皆さんは死と縁が繋がったと言えます。その縁を通じて霊が寄ってきたのでしょう。なので、霊を祓うとともにその縁も絶ちましょう」

 

そう言った後、宮司さんの雰囲気が変わる。

厳かで、清らかに。

 

「掛けまくも畏き伊邪那岐の大神。

筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に禊ぎ祓い給ひし時に、生り坐せる祓へ戸の大神───」

 

 

 

お祓いの結果【1D10】

 

1 祓えた!

2 祓えた!

3 祓えた!

4 祓えた!

5 祓えた!

6 手強いぞ……!

7 手強いぞ……!

8 手強いぞ……!

9 手強いぞ……!

10 なんで新皇が憑いてるんですかね……

 

ウェル【3】

調【2】

切歌【7】

 

 

 

「お……!」

「身体が……!」

 

宮司さんが祝詞を唱え終えると、ウェル博士と調ちゃんが声を上げる。

 

「身体が軽い!」

「なんか、スッてした」

 

どうやらお祓いが成功したらしい。

だが……。

 

「デデデ……」

「む、これは……!」

 

切歌ちゃんの背後から黒いモヤが湧き上がる。

そのモヤが人の形を取る。

 

「…………」

 

モヤが切歌ちゃんの首に手を掛ける。

 

「掛けまくも畏き伊邪那岐の大神───」

 

再び宮司さんが祝詞を唱える。

黒いモヤが切歌ちゃんから手を離す。

だが、モヤが消える気配は無い。

モヤはジッと、切歌ちゃんを見ている。

 

「ぐぅ……、手強い!」

 

宮司さんが冷や汗を流す。

 

「デデデ、なんか寒いデース……」

 

ガチガチと歯を鳴らす切歌ちゃん。

 

「切歌さん、頑張ってください!」

「切ちゃん!」

「デース……」

 

ウェル博士と調ちゃんが声を掛けるものの、切歌ちゃんの表情は暗くなっていく。

 

「さっきから、声が聞こえるデス。お前は親に捨てられた。お前は一人だ、お前は誰からも愛されてないって。アタシの、後ろから……」

「そんな事ない!」

 

調ちゃんが切歌ちゃんの手を握る。

 

「私は切ちゃんが大好き! マリアもセレナもみんな切ちゃんが好きだよ! だから、そんな声に負けないで!!」

「調……!」

 

切歌ちゃんの顔に力が戻る。

 

「そうだよ」

 

俺も反対の手を握る。

 

「切歌ちゃんは一人じゃないから。俺や調ちゃん、みんなが一人にはしないから」

「一鳴さん……!」

 

切歌ちゃんの顔に更に元気が戻る……!

 

 

 

切歌ちゃんVS怨霊【1D10】

 

切歌【3】+5(調と一鳴の声援)

 

怨霊【6】

 

 

 

「祓ひ給へ清め給へと、白すことを聞こし召せと、かしこみかしこみと白す……」

 

宮司さんが祝詞を唱え終わる。

黒いモヤが霧散していく。

 

「……なんとか、終わりましたな」

 

そう宮司さんが言うと、黒いモヤは天に消えていった。

 

「切ちゃん!」

「調!」

 

二人はひしと抱き合った。

 

「切歌さん、よく頑張りましたね」

「調や一鳴さんがいたお陰デス!」

 

宮司さんの言葉にそう返す切歌ちゃん。

 

「宮司さん、あのモヤは一体……」

 

ウェル博士が宮司さんに聞く。

 

「迷える霊、にしては切歌さんにとても執着していました。まあ、野生の怨霊という奴でしょう」

「野生ではエンカウントしたくないですね……」

 

切歌ちゃんに執着する霊。

なんか、思い当たる節が……。

深潟村の、歯越さん一家のぉ、母か娘か。

なんか、娘っぽい気が……。

いや、気の所為ね。

きっと気の所為よ……。

 

 

 

 

 

 

お祓いが終わって。

みんな清々しい顔で車に乗り込む。

ウェル博士が運転で、俺が助手席。

調ちゃんと切歌ちゃんが後部座席。

有料道路に乗り込んで早々、後ろの二人は寝息を立てる。

調ちゃんは宮司さんからマドレーヌやらキッシュやらのフランス料理のレシピを教わってたし、切歌ちゃんも境内の中にやたらあるウサギさんモチーフの石像やら絵馬にテンションが上がっていたし。

そもそも、お祓いで大変なことになったし。

疲れていても、無理はないね。

 

「ねえドクター、一つ聞かせて」

 

俺は二人が寝ているのを確認すると、ウェル博士に一つ質問した。

 

「どうして調神社でお祓いを受けようと思ったの」

 

結局の所、ウェル博士がなんで調神社を選んだのかわからないのだ。

調神社がお祓いで有名だという話は聞かないし。

 

「ああ、了子さんにオススメされたんですよ」

「了子さんが?」

「ええ……調さんと切歌さんを連れて行くならそこにしろって。ウサギがいっぱいで喜ぶだろうとのことで」

「へぇ……」

「なにか、気になることが?」

 

気になることはある。

調ちゃんは、たぶん、宮司さんの孫なのだろう。

それは、前世の知識からも参照出来る。

たしか、調ちゃんの名前は持っていたお守りに書いてあった「調」の字が由来だとか。

調ちゃんは、親の付けてくれた名前を知らないのだ。

だから、宮司さんもわからなかったのだろう。

孫だと直感しても、理解できなかったように。

調ちゃんはレセプターチルドレンだ。

アメリカのF.I.S.に攫われた子ども。

フィーネの血を継ぐ、子ども。

そして、了子さんはフィーネの依代でありF.I.S.の設立者である。

当然、調ちゃんのプロフィールもわかっていた筈だ。

 

「贖罪、なのかな」

「え、なんです?」

「なんでもないでーす」

 

俺は窓の外を見る。

空は今日も青かった。

 

 





次回は響ちゃんVS夏休みの宿題!
乞うご期待!


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第八十七話 響 VS 夏休みの宿題 VS ダークライ VS アベンジャーズ


ダークライとアベンジャーズは有給取ったのでお休みです。



 

 

「ナルくん助けてェッ!!」

 

夏休みもあと少しとなったある日。

響ちゃんに電話で泣きつかれた。

毎年恒例の、()()である。

 

「夏休みの宿題、手伝ってェッ!!」

 

そんな訳で。

いざ立花家。

 

「おじゃまします」

「ナルくん! 待ってた、よ……」

 

響ちゃんが、玄関に立つ俺の後ろを凝視する。

冷や汗がダラダラと流れている。

 

「こんにちは、ひ び き」

 

小日向未来=サンのエントリーである。

 

「み、みく=サン? なんでここに?」

「状況判断だよ、響?」

 

ニッコリ。

恐ろしく美しい笑みであった。

コワイ!

 

「そろそろかな、と思ってナルくんに響から電話来てないか聞いたら教えてくれたよ?」

 

正確には。

「響から連絡あったよね? 正直に言わないと、わかってるよね?」と脅されゲフンゲフン。

口は災いの元。

雉も鳴かずば撃たれまい。

余計なことは、言わないようにしよう。

 

「ねぇ、響? 私言ったよね? 夏休みの宿題早くやらないとダメだよ、って」

「え、えーっとぉ……」

「言 っ た よ ね ?」

「はいッ! ごめんなさ~い!!」

 

そういう訳であった。

未来さんの忠告を聞かずに夏休みに遊びまくったツケが回ってきただけであった。

自業自得である。

響ちゃんはキツイお灸を据えられる事となった。

 

「もうっ、仕方ないから私とナルくんで手伝ってあげる」

「ホント? ふたりともありがとう!」

「その代わり!」

 

未来ちゃんの口から、キツイお灸の内容が告げられるのであった。

 

「響の目の前でナルくんとイチャイチャするから!」

 

そう言って、俺に抱きつく未来ちゃん。

その耳は赤く染まっていた。

 

「ええぇぇぇ〜!!? なんで!!?」

「響が真面目に宿題しないからだよ! だから響抜きでイチャイチャするから!」

 

響ちゃんは未来ちゃんとお付き合いしている。

そして俺ともお付き合いしている。

つまり響ちゃんはハーレムを構築している訳だが、今回響ちゃんへの罰として、響ちゃん抜きでイチャイチャしようという事になった。

なお、言い出したのは未来ちゃんである。

 

「あー、わからないところは教えるから」

 

俺は未来ちゃんの頭をポフポフしながら、響ちゃんにそう告げた。

 

「でも響ちゃんが真面目に宿題しないと更にイチャイチャするんですって(震え声)」

「私は本気だからね、響!」

 

未来ちゃんは頬を膨らませて響ちゃんにそう言った。

 

「そんな〜!」

 

響ちゃんはそう悲しげに俯くのだった。

だが、未来ちゃんはやっぱり響ちゃんに甘いようで……。

 

「その代わりに、ちゃんと宿題出来たら3人でイチャイチャしようね」

「……え?」

 

響ちゃんが顔を上げる。

未来ちゃんは照れてプイ、と顔を背ける。

 

「だから、頑張ってね」

「……うん!!」

 

喜色満面。

響ちゃんは元気を取り戻した。

そんな訳で。

時間を無駄には出来ない。

俺たちは早速響ちゃんの部屋で宿題を見ることにした。

小さな部屋だ。

ベッドと机とテーブルとタンスで占められた部屋。

俺たちはテーブルの周りに座る。

響ちゃんが上座。

その右側に俺。

俺の膝の上に未来ちゃん。

 

「待っておかしくない!?」

 

未来ちゃんにツッコむ響ちゃん。

それに対して頭を傾け、キョトンとする未来ちゃん。

 

「え、なにが?」

「なんでナルくんの上に座ってるの!?」

「イチャイチャする為だよ?」

「ズルい!」

「ちゃんと宿題終わったらね?」

「むー!」

 

とにもかくにも。

響ちゃんの宿題討滅戦が開始された───。

 

 

 

響ちゃんの宿題進捗(1/3)【1D10】

(1〜3でペナルティ。1が出るとスゴイイチャイチャする)

 

1 こっそりソシャゲ周回してるのがバレる響ちゃん

2 自主休憩が増える響ちゃん

3 自主休憩が増える響ちゃん

4 わからない所が多い響ちゃん

5 わからない所が多い響ちゃん

6 わからない所が多い響ちゃん

7 響ちゃんもようやっとる

8 響ちゃんもようやっとる

9 響ちゃんもようやっとる

10 響ちゃんの頭が冴えてきた……!(進捗+1)

 

結果【9 響ちゃんもようやっとる】

 

 

 

現代文教師から出題された、漢字プリントを進める響ちゃん。

漢字プリントは漢字を書くだけだし、サクサク進めてるね。

 

「手が疲れるよぉ」

「サボったらナルくんとイチャイチャするからね」

「もうイチャイチャしてるじゃん!」

「もっとイチャイチャするから!」

 

とまあ、響ちゃんは未来ちゃんはそう言い合いながらも1時間で漢字プリントを終わらせた。

 

「へへーん! 私はやればできる子なんだよ!」

「偉い偉い」

「えへへ……!」

 

響ちゃんの頭をヨシヨシと撫でる未来ちゃん。

よく集中して頑張ってたし、俺もご褒美に撫でてあげよう。

 

「えへへ、二人共ありがとう!」

 

 

 

響ちゃんの宿題進捗(2/3)【1D10】

(1〜3でペナルティ。1が出るとスゴイイチャイチャする)

 

1 こっそりソシャゲ周回してるのがバレる響ちゃん

2 自主休憩が増える響ちゃん

3 自主休憩が増える響ちゃん

4 わからない所が多い響ちゃん

5 わからない所が多い響ちゃん

6 わからない所が多い響ちゃん

7 響ちゃんもようやっとる

8 響ちゃんもようやっとる

9 響ちゃんもようやっとる

10 響ちゃんの頭が冴えてきた……!(進捗+1)

 

結果【8 響ちゃんもようやっとる】

 

 

 

次に手を付けたのは、数学の問題集である。

それなりの分厚さがあり、また、難しい問題もあるので俺たちに質問する事もあった。

 

「ねえ、この問題は───?」

「そこはxの値を───」

「この問題は?」

「そこは───」

 

とまあ、ヒントを与えたらキチンと問題を解いているので地頭は良いのよね響ちゃん。

真面目にやってるしね。

 

「だって私も未来やナルくんとイチャイチャしたいもん!」

「がんばれ♡がんばれ♡」

 

応援する未来ちゃん。

でも、その応援は、股間に悪い。

 

「?」

 

モゾモゾする俺に疑問符を浮かべる未来ちゃんであった。

 

 

 

響ちゃんの宿題進捗(3/3)【1D10】

(1〜5でイチャイチャ。1と4が出ると凄いイチャイチャする)

 

1 こっそりソシャゲ周回してるのがバレる響ちゃん

2 自主休憩が増える響ちゃん

3 自主休憩が増える響ちゃん

4 こっそりソシャゲ周回してるのがバレる響ちゃん

5 自主休憩が増える響ちゃん

6 成し遂げた響ちゃん

7 成し遂げた響ちゃん

8 成し遂げた響ちゃん

9 成し遂げた響ちゃん

10 熱烈歓迎

 

結果【5】

 

 

 

「ふう、休憩……」

 

宿題もあと少し。

英語の問題集だけ。

だが、ここで限界が来たのか休憩が増えてきた響ちゃん。

 

「また?」

「うぅ、だって疲れてきたんだもん……」

 

気持ちはわかる。

ぶっ続けで2時間以上、宿題してきた訳で。

そら、疲れるよなぁ。

でも、未来ちゃんはそれをアウト判定したようで……。

 

「響休みすぎ! だからナルくんとイチャイチャするね♡(無慈悲)」

「え゛!?」

 

 

 

未来ちゃんのイチャイチャ度【1D10】

 

1 向かい合ってのハグ

2 向かい合ってのハグ

3 向かい合ってのハグ

4 向かい合ってのハグ

5 向かい合ってのハグ

6 「ナルくんおっぱい揉んでいいよ?」

7 「ナルくんおっぱい揉んでいいよ?」

8 「ナルくんおっぱい揉んでいいよ?」

9 チュッとした。

10 ねっとり舌を絡めるキス

 

結果【2 向かい合ってのハグ】

 

 

 

「ナルくん!」

 

未来ちゃんが俺に向き直る。

そして。

 

「えいっ!」

 

俺に抱き着いた。

 

「あーッ!!」

 

響ちゃんが叫ぶ。

その声の大きさに比例するように、強く抱き着く未来ちゃん。

俺の首元に顔を埋める未来ちゃん。

髪の毛から、凄くいい匂いがする。

調ちゃんやマリアさん、セレナちゃんとはまた違う爽やかな匂い。

あ、よく見ると耳が真っ赤なのだわ。

 

「は、離れて!」

「ダメッ!」

 

腕を俺の首に回す未来ちゃん。

ドキドキする。

俺に密着するので、小さめながらも柔らかい乳房の感触が伝わる。

ドキドキする。

 

「真面目に、真面目にやるから離れてよお……」

「未来ちゃん、そろそろ、ね?」

 

流石にこれ以上は響ちゃんが可哀想。

俺は未来ちゃんの背中をポンポン叩いて、離れるように促す。

 

「もう……、わかった」

 

渋々と、俺から離れてまた膝の上に座る未来ちゃん。

 

「ほら響、ちゃんとやってね。やらなかったらもっとイチャイチャするからね!」

「わかったよぉ……」

 

眉をハの字にして宿題を進める響ちゃん。

英語は長文読解が面倒くさいけれど、それでもちゃんとやる響ちゃん。

未来ちゃんが目の前で俺とハグしたのが効いたのかしら。

そして。

 

「終わったぁ〜!!」

「お疲れ様、響」

 

響ちゃんは成し遂げた。

夏休みの宿題完了である。

討滅完了!

 

「未来〜〜〜!!」

 

勢いよく未来ちゃんに抱き着く響ちゃん。

だが、よく考えてほしい。

未来ちゃんは俺の膝の上に座っている。

その未来ちゃんに勢いよく抱き着いたなら、その衝撃は俺にも伝わるわけで。

 

「きゃぁ!」

「うぉっ!」

 

響ちゃんに押し倒される俺と未来ちゃん。

 

「響〜!」

「えへへ、ごめん」

 

そう謝りながらも、未来ちゃんへのハグを止めない響ちゃん。

 

「だって二人でイチャイチャするんだもん! 私も混ぜてよぉ!」

「はいはい」

 

そう言って未来ちゃんも抱き着き返す。

 

「ナルくんも!」

「はいよ」

 

二人の下敷きになった俺も、二人を抱き締める。

 

「ナルくん力強いね……♡」

「うん……」

 

二人とも、顔が赤くなる。

初々しくて、可愛いね。

まあ、調ちゃんたちも抱き締めるとこんな感じになって可愛いんじゃがな!

がな!

 

「ぎゅー」

「もう、響変なとこ触らないで」

 

そんなこんなで。

響ちゃんは夏休みの宿題を見事やり遂げたのだった。

 

 

 

 

 

 

後日。

 

「一鳴さん助けて! 切ちゃんの宿題が終わらないの!」

 

と、調ちゃんからヘルプコールが掛かってきた。

 

「ンモー、ちゃんとコツコツやらないからー」

「ごめんなさいデース」

「ちゃんと反省してね?」

「はいデス!」

 

仕方がないので調ちゃんと二人で手伝ってあげた。

 

どっとはらい!

 

 





次回はオオカミ男の話をしようかな。
それが終わったら、久々のパヴァリア三人娘回の予定。
お楽しみにね!


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もし一鳴くんをXDUに出すとしたら


FGOのイベントと、最近始めたウマ娘に夢中だったので本編はお休みです。
許して許して……。

なんも投稿しないのはアレなので、もし一鳴くんがXDUに実装されたらの妄想データを設定しました。
適当だけど、こういうデータ考えるのは楽しいね。
あ、あとおまけのショートストーリーも書いたからお楽しみにね。



 

 

 

渡 一鳴【紅蓮一閃】

名前:渡 一鳴

レアリティ:星5

属性:技

種族:シンフォギア装者

ギア形状:通常

 

必殺技1:ノコギリ刃だッ!

敵一体に攻撃 + 相手の防御力ダウン + 相手に裂傷 + 火傷

 

必殺技2:紅蓮一閃

自身に無敵貫通効果 + 敵一体に攻撃 + 相手に火傷 + 火傷状態の相手に追加ダメージ

 

 

説明:

イベントの時にアイテムを集めて交換するシンフォギア枠。

画像イメージとしてはピースする一鳴くん。覚醒後はアームドギアである巨大チャクラムを振り回している。

リーダースキルとかパッシブスキルとかも考えたかったけど、頭が回らぬぇ……。

 

ちなみに、なぜ技属性なのかというと、作者の切り札が技属性ツクヨミギア調ちゃんだからっていうのと、一鳴くんはテクニシャン(意味深)だからです。

 

 

 

渡 一鳴【火烏の舞・繚乱】

名前:渡 一鳴

レアリティ:星5

属性:絶

種族:シンフォギア装者

ギア形状:通常

 

必殺技1:皆を守るッ!

無敵を無視して敵全体に攻撃 + 相手の防御力ダウン + 自身の攻撃力アップ + 味方全体に全てのダメージを無効(3回)付与

 

必殺技2:火烏の舞・繚乱

無敵を無視して敵全体に攻撃 + 裂傷 + 火傷

 

 

説明:

ガチャで出てくる高コスト枠。

画像イメージは腕を組む一鳴くん。覚醒後はスカートアーマーが開いて小型戦輪を射出しているところ。

エクスドライブモードが本編未実装なんでカード化出来なかったわ……(震え声)

なお実装は作中世界の二年後の模様(小声)

絶属性の理由は雑に強いから。火烏の舞・繚乱も雑に強いので一鳴くんもとりあえずブッパしとるわ。

絶属性、アリーナで出てきても技属性ツクヨミギア調ちゃんのおやつなのよね。

シェム・ハ美味しいです。

 

 

 

 

おまけ。

一鳴くんがヒロインと雑にイチャイチャする話。

 

 

 

 

○マリアさんとイチャイチャ。

 

「マリアさん」

「なぁに、一鳴?」

「突然抱きついてどうしました?」

「あら、恋人同士で抱き合うことに問題があるのかしら?」

「ないですよ?」

「ならいいでしょう? 急にあなたが愛おしくなったのよ」

「嬉しいですね」

「それなら、やることあるでしょう」

「頭を撫でる? こうやって……」

「んふ……。嬉しいけど違うわ」

「じゃあ、キス?」

「ん……。違うわ。でも、もっと……」

「はいはい。ちゅっちゅっ」

「ん、ふ……。ねぇ、一鳴わかってるでしょ?」

「ええ、もちろん。耳許で───

 

愛してる

 

───って、言って欲しいんでしょ」

「……ッ! そうよ、もっと、愛の言葉を頂戴……」

「わかりました、マリアさん。好きです、大好き……」

「……ッ! 私も、好きよ……だいしゅき……」

 

 

 

○セレナちゃんとイチャイチャ

 

「かーずなりさんっ」

「どうしたのセレナちゃん」

「えへへ、名前を呼んだだけです」

「えー……」

「えへへ」

「……セレナちゃん」

「なんですか、一鳴さん?」

「名前を呼んだだけですよ」

「なんですか、もー……♪」

「セレナちゃん」

「はーい。一鳴さん♡」

「はい、一鳴ですよ」

「えへへ、一鳴さんだぁ」

「セレナちゃん」

「一鳴さん」

「セレナちゃん♪」

「一鳴さん♡」

「セレナちゃん♪」

「一鳴さん♡♡」

「セレナちゃん♡」

「一鳴さん♡♡♡」

「ふふ……」

「えへへ♡」

 

 

○調ちゃんとイチャイチャ

 

「一鳴さん?」

「どうしたの、調ちゃん」

「重く、ないですか?」

「重くないよ。軽いくらい」

「私、膝に乗ってるのに?」

「軽いよ。もっともたれ掛かっても大丈夫」

「では遠慮なく」

「どんと来い」

「……どうですか?」

「全然軽いよ。あといい匂い」

「……ッ! やっぱり降ります」

「ダメ」

「〜〜〜ッ!」

「調ちゃん、いい匂い。大好きな匂いだよ」

「わ、私も……」

「?」

「私も、一鳴さんの、匂い、嗅ぎたい」

「ふふ、いいよぉ。じゃあ、向かい合って……」

「ん、すぅ……はぁ……」

「どう?」

「すき、です……」

「俺も、好きだよ」

「きゅぅ……」

 

 

 

○響ちゃんとイチャイチャ

 

「すぅ、すぅ」

「疲れが溜まってたのかな。俺の膝枕で寝るとは……」

「えへへ、ナルくぅん」

「おや、俺の夢」

「ナルくん未来のおっぱい吸わないでぇ」

「どんな夢だ」

「むにゃ。ナルくん……」

「かわいい寝顔。頭、撫でようかな」

「えへへ。ナルくん……、そんなとこ触らないでぇ。まだ未来も触ってないのに……」

「頭しか触ってないよ」

「ナルくん、未来。大好き……」

「俺も好きだよ」

「えへへぇ……」

 

 

 

○未来さんとイチャイチャ

 

「響を膝枕したんだね」

「はい」

「私もした事ないのに」

「はい……」

「ズルい」

「はい……」

「私も響を膝枕したい」

「はい」

「ナルくん、練習付き合って」

「練習?」

「私が膝枕してあげるから」

「えっ?」

「いいから、早く」

「はい」

「……どう?」

「柔らかい」

「あとは?」

「いい匂いがする」

「……変態」

「ごめんなさい」

「……」

「……」

「……ねぇ、ナルくん」

「……ん?」

「……いつか」

「うん」

「いつか、気持ちに整理がついたら」

「うん」

「聞いてほしいことがあるの」

「うん」

「その時は、答えを聞かせてくれる?」

「うん、いつでも」

「そう」

「うん」

「……よかった」

 

 

 

○切歌ちゃんとイチャイチャ

 

「デース!」

「うぉっ! いきなり抱きついてどうしたの」

「デース! 一鳴さん! アタシ、決めたデス!」

「なにを?」

「これからは積極的に行くデス! 肉食系女子デス!」

「ガンガンいくの?」

「そうデスッ! 一鳴さん、アタシどうですか?」

「え、可愛いよ?」

「デース……♡ じゃなくて!」

「?」

「あ、アタシ最近成長期です。調よりナイスバデーデス」

「あぁ、そういう」

「どうですか?」

「うん、魅力的だと思うよ?」

「やった!」

「あとね?」

「なんデス?」

「後ろ、調ちゃん」

「え゛」

 

 





来週は本編を投稿
できたら
いいなぁ(震え声)



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第八十八話 ウールヴヘジン


ウマ娘ガチャ回したんよ。
マンハッタンカフェちゃんが欲しかったんよ。
スペちゃんが来たんよ。
水着のスペちゃんが来たんよ。

両手にスペちゃんだぁ(震え声)



 

 

 

9月某日。

長く楽しかった夏休みも終わり。

しんどく面倒くさい通学にもなんとか慣れてきた頃。

俺は二課に呼び出されていた。

 

「一鳴は、オオカミ男を知っているか?」

 

と、聞いてきたのはキャロルちゃん師匠である。

 

「月を見たら狼になる妖怪、妖怪? まあ怪物でしょう?」

「ああ、それだ。そのオオカミ男が、この一ヶ月ほどこの近辺で出没している」

「オオカミ男が?」

「オオカミ男が」

 

キャロルちゃんの話によれば。

8月頃から夜な夜な街を彷徨くオオカミ男の噂があったらしい。

全身を覆う黒黒とした体毛。

肉食獣らしい、しなやかでありながら逞しい肉体。

長い耳と大きな口、その奥から覗く牙。

赤く爛々と光る目。

ワーウルフ、ライカンスロープとも人狼とも呼ばれる怪物である。

その怪物の噂は夏という時期もあって学生たちに怪談としてひっそりと語られてきた。

その怪談が、実話だと知られたのは2日ほど前。

 

その日、オオカミ男に遭遇したのは見回り中のお巡りさんであった。

ここ最近現れる露出狂を捕まえるために、夜間パトロールを強化していたのだ。

そのお巡りさんが、ある公園を通り掛かった時に悲鳴が聞こえた。

野太い悲鳴である。

すぐに悲鳴の上がった場所に向かうと、腰を抜かした全裸の中年男性と、オオカミ男の姿。

ダラダラと涎を流しながら、全裸中年男性に襲いかかろうとするオオカミ男。

お巡りさんは咄嗟に、腰から拳銃を抜き発砲。

だが、オオカミ男に傷はつかなかった。

恐るべき強靭な肉体である。

だが、発砲音に驚いたのか、オオカミ男は逃げ出したのだという。

 

「そして露出狂の全裸中年男性はお巡りさんに保護されたという訳だ」

「それ、逮捕って言いません?」

 

まあ、全裸中年男性は無事なだけ良かったと思うが。

 

「それはそれとして。日本のお巡りさんが即座に拳銃を抜くって、ヤバいですね」

 

アメリカンポリスと違い、日本の警官は銃を滅多に撃たない。

「銃を撃たないと事態を収集出来なかった」と、他の警官に白い目で見られるからだ。

だから、日本の警官は基本的に銃を撃つことが無い。

その警官が、巡回中のお巡りさんが即座に撃つ判断をした。

 

「それだけ、オオカミ男が恐ろしい見た目だったのだろうな」

 

と、キャロルちゃん。

見た瞬間、撃つという選択をしたほどだしねぇ。

 

「つまり今回は、そのオオカミ男をなんとかしてこいって事ね」

「そういう事だ」

 

キャロルちゃんは頷いた。

 

「だがまあ、今回は協力者がいるがな」

「協力者?」

「ウチらだゼッ!」

 

と、部屋に入ってくる者たち。

ミラアルク。

ヴァネッサ。

エルザ。

ノーブルレッドの3人であった。

 

「ウヌら3人か。でもナンデ?」

 

なぜノーブルレッドの3人が今回のオオカミ男騒動に協力してくれるのだろうか。

 

「今回のオオカミ男が、私達の同類かもしれないから、かしら」

 

と、ヴァネッサさん。

ノーブルレッドは、パヴァリア光明結社により怪物の力を植え付けられたのである。

今回のオオカミ男も、同類だと考えたのか。

 

「出来るのなら、助けたいでアリマス!」

「なるほど。わかりました! 今回はよろしくお願いしますね」

「ガンスッ(了解の意)」

 

 

 

ところで3人の人間に戻るための治療の進捗は【1D10】

 

1 進捗ダメです(震え声)

2 厳しめ

3 厳しめ

4 進捗ダメです(震え声)

5 あと少し

6 あと少し

7 年内には治療に移れる

8 年内には治療に移れる

9 進捗ダメです(震え声)

10 もう治ってる

 

結果【2 厳しめ】

 

 

 

「私達のホムンクルスを作るのが難しそうなのよね……」

 

ノーブルレッドの3人とは、ホムンクルスで新しい身体を作りそこに意識を移す事で人間の身体に戻すという契約を結んでいる。

の、だが。そのホムンクルスを作るのが難しいとヴァネッサは語る。

 

「私達の肉体は、半分以上が怪物と移し替えられた。つまり、残りの半分以下の人間部分から健康なホムンクルスを作らないといけないのだけど……」

「それがとっても難しいんでアリマス……」

「なかなか、大変らしいゼ……」

 

3人はションボリした。

 

「まあ、そこはキャロルちゃん信じましょ。その道のプロなんだから」

「ええ、そうね」

「頼むゼ、キャロル!」

「ガンス(お願いしますの意)」

「まあ、契約だからな。最善は尽くしてやる」

 

と、キャロルちゃんは言った。

 

「そういえば、弦十郎さんたちは? 任務内容の説明は司令か副司令がしてくれてたのに」

 

それが、今回はキャロルちゃんが説明をしていた。

キャロルちゃん、二課内の立場的には訃堂司令の食客で、研究部門の重鎮ではあるけれども。

 

「……訃堂と八紘、弦十郎。あとついでに了子は別件で忙しい。詳しくは聞いてないがアメリカ、中国、バルベルデが妙な動きをしているらしくてな」

「妙な?」

「なんでも静か過ぎるらしい」

「嵐の前の、と言うやつですか」

「お前らはなにか聞いているか?」

 

と、ノーブルレッドに話を振るキャロルちゃん。

 

「わからないゼッ!」

「私めは何も聞いてないでアリマス」

「私も。……ただ、統括局長がサンジェルマンたちに年末を目処に強い帰還命令を出したみたい」

「アダムがか……。一応、上には伝えておくか」

 

サンジェルマンたちは年末に結社に帰るらしい。

だが、冬木の一件でアダムがサンジェルマンたちに嘘を吐いていた事は知れている。

サンジェルマン、そこで裏切るのかしらね……。

だけど、アダムの出した帰還命令も気になる。

世界でなにが起こっているのか。

 

「それで、オオカミ男はどうするんだゼ?」

 

と、ミラアルク。

 

「捕まえるなら、作戦は必要でアリマス!」

「聞く限り、オオカミ男の身体能力は高いわよ?」

 

下手な包囲なら突破出来るというワケダ。

 

 

 

対オオカミ男のアイデア【1D10】

(6以上で成功。成功した人が多いほどボーナス)

 

一鳴【6】

キャロル【6】

ヴァネッサ【1】

ミラアルク【9】

エルザ【10】

 

結果【4人成功】

 

 

 

「うーん、お姉さんにはアイデアは浮かばないわね……」

 

と、ヴァネッサ。

 

「え、ヴァネッサわからないでアリマスか?」

「今回はウチもわかったぜ」

 

と、エルザとミラアルク。

 

「え、え?」

「なんだ、ヴァネッサ。お前わからないのか?」

 

と、キャロルちゃん。

3人にマウント取られるヴァネッサさん可哀想……。

仕方ないので、答え合わせよ。

 

「ヴァネッサさん、オオカミ男は全裸中年男性を涎を流しながら襲おうとしてました」

「ええ、聞いているわ」

「そこが、ヒントです」

「……オオカミ男は、ホモ?」

「違うわ」

 

ヴァネッサ、ポンコツか?

 

「オオカミ男はお腹を空かせているという事です」

「……ああ! そういう事ね!」

「どうしてそこでオオカミ男が男好きという結論になるんだゼ……」

「ヴァネッサ、乙女ロードとやらに通い詰めてたから……」

 

エルザによってヴァネッサさんの趣味が暴露された。

かわいそ……。

 

「……とにかく」

 

ゴホンと咳払いをするキャロルちゃん。

 

「オオカミ男は腹を空かせている。なら、エサを用意してやればいい。……とびきり上等なエサをな」

 

キャロルちゃんはニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

夜。

オオカミ男が多く目撃される時間帯。

オオカミ男のせいで街の中は人っ子一人居らず、静まり返っている。

その街の中にある、自然公園。

全裸中年男性が出没した公園に俺たちは居た。

熱くなった鉄板。

その上で焼かれるA5ランク近江牛。

カルビ、ロース、ハラミ、タン。

ジュウジュウと油の跳ねる音、肉の焼ける芳香。

たまらぬバーベキューであった。

 

「エルザちゃん焼けたよ」

 

俺はエルザちゃんの持つ皿に肉を乗せる。

 

「ありがとうでアリマス!」

「ミラアルクも食べて食べて」

「あざまーす、だゼ♡」

 

ミラアルクの皿にも肉を乗せる。

ミラアルクが可愛らしく礼を言う。

 

「ヴァネッサもどうぞ」

「あの、これ、玉ねぎ……」

「カボチャもあるよ」

「お肉を食べさせて!」

 

ヴァネッサ渾身の叫びであった。

仕方がないので肉も乗せてあげた。

 

さて、なぜ俺は公園で肉を焼いているのか。

ノーブルレッドの3人は何故バーベキューに舌鼓を打っているのか。

オオカミ男を誘き出す為である。

キャロルちゃんは肉の焼ける音、人々の歓声にオオカミ男が寄ってくると考えたのだ。

 

ちなみにキャロルちゃんは司令室にいる。

近江牛は俺たちで食え、とのことで。

太っ腹である。

 

「……一鳴さん」

 

最初に気付いたのはエルザだ。

獣の特性をインプラントされている為、感覚が鋭い。

 

「獣の匂いと呼吸でアリマス。血と肉に飢えた獣……」

 

そうエルザが言う。

と、同時に。

 

「■■■■■■……」

 

唸り声が聞こえる。

オオカミ男だ。

オオカミ男が現れたのだ。

 

全身を覆う黒黒とした体毛。

肉食獣らしい、しなやかでありながら逞しい肉体。

長い耳と大きな口、その奥から覗く牙。

赤く爛々と光る目。

そして、ダラダラと流れる涎。

視線は完全に俺たちを向けている。

 

「───── Sudarshan tron」

 

シンフォギア展開!

驚くオオカミ男。

異常を察知し、逃げようとするが……。

 

「逃さないゼッ!」

「釘付けでアリマス!」

「いくわよ!」

 

ノーブルレッドの3人が攻撃。

オオカミ男を釘付けにする。

 

「よし、獣狩りじゃい!」

 

 

 

一鳴&ノーブルレッドVSオオカミ男【1D10】

 

一鳴【1】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

ノーブルレッド【1】+4(アイデア補正)

 

オオカミ男【4】×3(ケモノ補正)

 

 

 

オオカミ男は強敵であった。

人並み外れた膂力から繰り出される攻撃は速く鋭い。

そして、下手な攻撃は効かないタフな肉体。

だが。

 

「こっちはノコギリ属性と炎属性だッ!」

 

刃を高速回転させたアームドギアで殴りつける。

戦輪のノコギリ刃がオオカミ男の肉体を削り、炎が傷を焼く。

 

「■■■■■■■■■■───!!」

 

オオカミ男が悲鳴をあげる。

 

「チャンスだゼ!」

「一気にやるでアリマス!」

「これで、最後!」

 

ノーブルレッドが怯んだオオカミ男に一斉攻撃。

 

「■■■……」

 

オオカミ男が唸る。

そして、地に倒れ伏した。

 

「……気絶したようでアリマス」

 

と、エルザ。

警戒しながらも、オオカミ男に近付く俺たち。

 

「……ん?」

 

オオカミ男の背中、よく見ると裂け目があるな。

ヴァネッサとミラアルクが裂け目を調べる。

 

「……これ開くぜ?」

「……いっせーので開けるわよ」

 

二人が裂け目を開く。

その中には───

 

「えーと……」

「……誰?」

 

中には、見知らぬ中年男性が入っていた。

 

 

 

 

 

 

次の日。

二課にて。

 

「ウールヴヘジン」

 

キャロルちゃんが教えてくれた。

 

「古ノルド語で『狼の皮』という意味のこの言葉は、北欧の戦士ベルセルクを表す言葉でもある」

 

ベルセルク。

漫画で有名なこの戦士は、バーサーカーの語源でもある。

熊(Ber)の毛で作った上着を着る(Serkr)で、ベルセルク。

つまり、ウールヴヘジンは狼の皮を被った戦士という事だ。

 

「ベルセルクは軍神オーディンの神通力を受けた戦士であり、危急の際には獣の如く忘我状態になり戦ったという」

「そのウールヴヘジンの皮が、コレですか」

 

目の前には畳まれたオオカミ男の皮。

ウールヴヘジン。

 

「中に入っていた男は小金持ちでな、聖遺物をコレクションしていたらしい。ほとんど偽物だったがな」

「そのコレクションの一つが、ウールヴヘジン」

「ああ。だが、このウールヴヘジンは本物だった」

 

ウールヴヘジンは、()()()()()

皮だけになっても生きていたのだ。

オーディンの神通力のお陰か、別の要因かは置いておいて。

ウールヴヘジンは皮だけになっても、血に飢えていた。

 

「ウールヴヘジンはその男を操って自分を着せた」

「それが、オオカミ男」

 

中に入っていた小金持ちの男は、何が起こったか覚えていなかった。

ただ、夜になると気が遠くなり朝になるとウールヴヘジンを着て目を覚ましたので奇妙には思っていたようだった。

 

「まあ、このウールヴヘジンは二課預かりとなる」

「まあ、当然ですねー」

 

そんな訳でオオカミ男事件は解決であった。

 

 

 

話の途中だが、みんな大好き好感度ダイスよ!【1D10】

 

1 これ以上ヒロイン増えたら作者がタイヘン!

2 これ以上ヒロイン増えたら作者がタイヘン!

3 これ以上ヒロイン増えたら作者がタイヘン!

4 これ以上ヒロイン増えたら作者がタイヘン!

5 これ以上ヒロイン増えたら作者がタイヘン!

6 これ以上ヒロイン増えたら作者がタイヘン!

7 これ以上ヒロイン増えたら作者がタイヘン!

8 これ以上ヒロイン増えたら作者がタイヘン!

9 これ以上ヒロイン増えたら作者がタイヘン!

10 あっ……。

 

ヴァネッサ【10】

ミラアルク【7】

エルザ【10】

 

 

 

「ところで、ノーブルレッドを落としたと聞いたが?」

 

キャロルちゃんがニヤニヤと笑う。

オオカミ男を倒した後、ノーブルレッドの3人と連絡先を交換したのだが……。

 

「ヴァネッサとエルザちゃんからのアプローチがしゅごい……」

 

つまりはそういう事であった(震え声)

運命は俺をどうしたいのか……。

 

「まあお前なら良いだろ、今更女が二人増えるくらい」

 

キャロルちゃんは半分面白がり、半分呆れながら言う。

俺をなんだと思っているのか。

 

「ハーレム大王」

「くぅん……(悲哀)」

 

 

 






【挿絵表示】


つまりはそういう事であった(震え声)
たまらぬヒロイン増加であった(半泣き)

なおノーブルレッドの3人は年末を最後にしばらく出番はありません(小声)
しゃーない最初から決まってたシナリオやし。


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第八十九話 サンジェルマンのオークション


今月ポケモンと女神転生が発売されるので初投稿です。
たぶん俺、この2つが発売されたら小説どころじゃないと思う(未来予知A+++感)
なので書けるときに小説書いて投稿よ!



 

 

 

10月某日。

都内にある帝都ホテル。

日本国内のホテルの中で最高のサービスが受けられると称賛されるこのホテルの、とある大広間にサンジェルマン、プレラーティ、カリオストロの3人は居た。

3人とも、肩と背中が開かれたイブニングドレスを着ていた。

その華やかさ、綺羅びやかさは筆舌に尽くしがたい。

その大広間に集まった老若男女の視線を集めながら、カリオストロは口を開いた。

 

「あーしたち目立ってるわよ、サンジェルマン」

 

カリオストロがクスクス笑う。

 

「鬱陶しいわね」

 

サンジェルマンが答えた。

 

「我慢するワケダ。オークションに出たいなら、ここで癇癪起こす訳にはいかないワケダ」

「わかってるわよプレラーティ」

 

プレラーティの言葉に眉間にシワを寄せながら答えるサンジェルマン。

 

さて。

パヴァリア光明結社の最高幹部である3人がこの帝都ホテルにいる訳は、あるオークションに出る為だ。

国内最高級の帝都ホテルの大広間を貸し切って行われる、金と権力を持った者のためのオークション。

聖遺物のオークションである。

富と力を手にした者が最後に求めるもの、それは永遠の命と若さ。

聖遺物はそれを可能にする。

特に、今回出品される【変若水(おちみず)】は飲んだ者を若返らせる力を持つとして、出品が発表された直後から話題となっていた。

 

もっとも、サンジェルマンたちの狙いは別の聖遺物であるが。

 

「永遠の若さが欲しいなら、ウチに入れば良いのにねぇ」

「それで永遠の若さが得られるのは一握りなワケダが」

 

と、カリオストロとプレラーティが言い合う。

錬金術の力ならば、永遠の若さを得ることが出来る。

だがその前に結社に金とコネを搾り取られるだろうが。

それでも結社に残った忠義者にのみ、錬金術の秘奥は紐解かれるのだ。

 

「それで、サンジェルマンが欲しい【フィエルボワの剣】を欲しがるライバルは居そうかしら?」

 

カリオストロが聞く。

 

「さあ? 変若水のついでに買う、という金持ちも居ると思うから……」

 

フィエルボワの剣。

ジャンヌ・ダルクの剣の事である。

読者諸兄におかれてはわざわざ説明する必要もないと思うが、サンジェルマンとジャンヌ・ダルクは友人同士であった。

サンジェルマンはジャンヌ・ダルクをジャネットと呼び、ジャンヌ・ダルクはサンジェルマンを天使様と慕った。

その二人が冬木市において開かれた聖杯戦争で再会したのは、昨年の事。

そこでセイバーとして召喚されたジャンヌ・ダルクは宝具である【裁定するミカエルの剣(ソード・オブ・フィエルボワ)】を発動させて、神霊たるエイワズを討滅した。

その後、サンジェルマンはジャンヌ・ダルクの為に歌を唄い、見送ったのだ。

 

フィエルボワの剣はサンジェルマンの友の剣であり、形見である。

それが、今回のオークションに出品される事となったのだ。

サンジェルマンはオークションへの参加を決めたのはすぐの事であった。

 

「それで、サンジェルマン。(タマ)はどれだけあるの?」

 

カリオストロが問う。

弾、ようするに現金の事だ。

 

「とりあえず元々の貯金と、宝石を売って100億円確保したわ」

「……本気ね」

 

サンジェルマンはパヴァリア光明結社の最高幹部である。

給料も最高幹部である。

また、表向きの立場として宝石商の顔を持っていた。

市井に紛れるための顔、という奴であるがその宝石商が儲かっていた。

サンジェルマンはかつて貴族から教養を詰め込まれた。

その中に宝石に関わるものがあり、パヴァリア光明結社に入ってからも教養を磨きコネを作って、良質の宝石を取り扱えるようになっていた。

欧州が焼かれる前は、各国王室御用達の宝石商であったのだ。

そのサンジェルマンは宝石を売りまくり、確保した100億円。

この100億円で、ジャネットの剣を競り落とそうという訳だった。

 

「それにしても、見た事ある金持ちや権力者ばかりなワケダ」

 

プレラーティが辺りを見渡して言う。

 

「あそこに、この国の首相がいるワケダ」

「あそこにはアメリカの不動産王よ」

「あそこにはアラブの石油王」

「あっちは南米の麻薬王」

 

表と裏の支配者が揃っていた。

 

「みんな変若水目当てなんでしょうね」

「……そうね」

 

今も昔も変わらぬ権力者の常。

不老不死を求める人の性。

そういった物を感じるサンジェルマンであった。

 

「……サンジェルマン、あそこ」

 

カリオストロが出入り口を指差す。

丁度白ずくめの集団が入ってきた所であった。

 

「彼らよ、変若水を出品したの」

「確か……、【天神合一会】とかいう宗教団体だったワケダ」

 

天神合一会。

密教系の宗教団体であり、普段は山奥で活動している秘密の多い組織である。

その天神合一会が変若水を出品したのだ。

 

「秘密が多いから軽く調べてみたけどダメね、秘密主義すぎてほとんど何もわからなかったわ」

 

カリオストロがサンジェルマンの耳許に口を寄せて告げる。

カリオストロは3人の中でも諜報能力が高い。

そのカリオストロが探れなかった程だ。

天神合一会の秘密主義は徹底されていた。

 

「でも、トップの名前はわかるわ。あの、白ずくめの真ん中に居る女よ」

 

カリオストロの言う通り、白ずくめの者たちに守られるように一人の女性。

僧衣を纏いながらも、豊かなボディが強調されている若く美しい女性だ。

 

「至天院銘歌、天神合一会の代表よ」

「……実力者ね」

 

銘歌の体つきを見てサンジェルマンはそう呟く。

筋肉の付き方、歩き方からサンジェルマンは銘歌が格闘技に精通している事を悟った。

その至天院銘歌は薄い微笑みを浮かべながら会場を進む。

前述の内閣総理大臣の側を通ったとき、内閣総理大臣が立ち上がり銘歌に何事か声を掛ける。

 

「……変若水の出品者だもの、権力者は声を掛けたくなるでしょうね」

 

総理が声を掛けたのを皮切りに、銘歌の周りにオークションの参加者たちが集まってくる。

 

 

 

聞き耳ロール【1D10】

(6以上で成功、10でクリティカル)

 

サンジェルマン【7】

プレラーティ【6】

カリオストロ【2】

 

 

 

「会場が五月蝿くて何も聞こえないわ。二人は聞こえる?」

 

カリオストロが銘歌の周りに耳を澄ませつつそう言う。

 

「……なるほど」

「……なるほどなワケダ」

 

サンジェルマンとプレラーティがそう頷きあった。

その後、カリオストロにこう伝える。

 

「海外の権力者は月並みなことを言ってるワケダ」

「『変若水をどこで手に入れた?』『他に変若水は?』そんな事を言ってるわ」

「でも、日本の権力者はこう言ってるワケダ」

 

プレラーティはカリオストロの耳許に口を寄せた。

 

「『先日はお世話になりました』『一族代々感謝しております』『寄進をさせていただきたいのですが』、と言ってるワケダ」

「……なんか、毛色が違うわね」

 

天神合一会に対して、海外の権力者は変若水についてのみ話題に出している。

それに対して、日本の権力者は天神合一会及び至天院銘歌に深い感謝をしている。

それも、長い年月付き合っているような……。

 

「宗教団体だから、冠婚葬祭でお世話になったとか?」

「山奥で暮らす秘密主義の宗教で?」

「……怪しいワケダ」

 

3人が至天院銘歌に目を向ける。

銘歌はその視線を感じているのかいないのか、権力者たちとの会話もそこそこに席に向かう。

その周りを白ずくめが固める。

彼らの間に会話はなく、ただ銘歌は微笑みを浮かべるばかりであった。

その時、会場が薄暗くなる。

 

「はじまるワケダ」

 

プレラーティの言う通り大広間の奥、舞台脇から一人の女性が上がってくる。

バニーガール衣装の若い女性だ。

そのバストは豊満であった。

 

「レディース&ジェントルメン! 皆さんお待たせしました! 聖遺物オークションin帝都ホテル、只今開催いたします!」

 

その女性の言葉の後、拍手が鳴る。

権力者たちの目はギラギラしている。

欲の色だ。

至天院銘歌の目は何も浮かんでいない。

欲も何も。

凪のようだと、サンジェルマンは思った。

 

「司会は私、加藤サクラが務めさせていただきます♡」

 

ヒューヒューと海外の権力者が口笛を飛ばす。

加藤サクラ、今回のオークションの主催者組合の幹部である。

この若さで幹部にまで上り詰める、そうとう有能な人間であろうとサンジェルマンは一人思った。

 

「皆さんもうお待ちかねですね! さっそくオークションを始めていきましょう!」

 

その言葉の後、舞台脇から台に載せられた聖遺物が運ばれてくる。

紅く煌めく宝石だ。

 

「最初の聖遺物はこちら! 【カーバンクルの宝玉】! 見た目はルビーかガーネット。ですが励起したら生体型聖遺物カーバンクルになるという聖遺物です! カーバンクル、リスや猫に似た可愛らしい生き物らしいです! 癒やしが欲しい方はぜひ落札してください。では、5億円からスタート♡」

 

サクラが言い終わると、手を上げて値段を言っていく権力者たち。

だが、その数は少ない。

 

「7億円」

「7億4000万円」

「8億円」

「8億円! 8億円です! 他にいませんか? いませんね。落札! そこの8億円の貴方、落札です♡」

 

カーバンクルの宝玉を落札したのは、日本の研究者のようであった。

 

「やっぱり皆、変若水目当てだから様子見が多いわね」

「な、ワケダ」

「ライバルが少ないのはいい事よ。貴方達も欲しいのがあったら落札しなさい」

「気に入ったのがあったらね」

「そうそうあるとは思えんワケダが」

 

そう言うものの、カリオストロとプレラーティの目は光っていた。

そうこう言う間に次の聖遺物が運ばれてくる。

錆で覆われた鎖だ。

 

「お次はこちら。【ドローミ】! 北欧神話の神々が暴れ狼フェンリルを縛る為に作った神代の超合金鎖。その頑丈さたるや、モース硬度50という凄まじさ! それでもフェンリルには引き千切られたんですけどね♡ それでは8億円からスタート」

 

 

 

プレラーティとカリオストロの興味【1D10】

(8以上である)

 

プレラーティ【5】

カリオストロ【6】

 

 

 

「ただの硬い鎖なワケダ」

「それだけ硬くても結局千切れちゃったのよねぇ。それだと千切れたっていう概念がついて回るから、高位の錬金術師には効かないわよ。どうせならグレイプニル用意しないと」

 

そう言って、二人はドローミを見送った。

ドローミは重金属工業の社長が12億で買い取った。

次の聖遺物が運ばれてくる。

それは一冊の本だ。

 

「次はこちらの魔本。【屍食教典儀】! フランス国内の人肉嗜食や屍姦行為などを行う邪教について書かれた本ですが、すぐに発禁処分となります。当たり前ですね! これは、発禁処分になる前に発行された数少ない物の一つとなります。お値段なんと15億円。お買い得品となります♡ ではスタート」

 

 

 

プレラーティとカリオストロの興味【1D10】

(8以上である)

 

プレラーティ【1】

カリオストロ【4】

 

 

 

「あー……、あれ贋作なワケダ」

「あら、そうなの?」

「表紙見ればわかるワケダ」

 

ヒソヒソと言い合う二人。

その間に屍食教典儀は30億円でアフリカの富豪が買い取った。

 

「あーあ、可哀想になワケダ」

 

プレラーティはそう、ニヤニヤと言った。

 

「次の聖遺物はコチラ! 【照魔鏡】! 真実を映す鏡と言われており、人や物に化けた悪魔や妖怪を照らし出すという摩訶不思議な鏡です! あ、私は照らさないように♡ 後悔しても知りませんよ? では16億からスタート」

 

 

 

プレラーティとカリオストロの興味【1D10】

(8以上である)

 

プレラーティ【9】

カリオストロ【1】

 

 

 

「……欲しいワケダ」

「え、あの古臭い鏡を?」

 

照魔鏡に興味を示したプレラーティ。

意外なものを見る目をするカリオストロ。

 

「真実を映す、面白いワケダ。サンジェルマンやカリオストロ、統括局長を映したら何が映るか楽しみなワケダ」

「悪趣味〜……」

 

カリオストロは呆れた。

 

 

 

プレラーティ、落札できた?(難易度:高)【1D10】

 

1 足りないワケダ……

2 足りないワケダ……

3 足りないワケダ……

4 足りないワケダ……

5 足りないワケダ……

6 足りないワケダ……

7 足りないワケダ……

8 素寒貧になったワケダ

9 素寒貧になったワケダ

10 カリオストロ、金を貸すワケダ(トイチ)

 

結果【4】

 

 

 

「18億円」

 

手を上げて発言するプレラーティ。

が、すぐに……。

 

「20億」

「23億」

「26億円よ!」

 

と、値段がつり上がっていく。

冷や汗を流すプレラーティ。

 

「2、29億円」

 

プレラーティの出せる、ギリギリの金額。

だが現実は非常である。

 

「34億」

「35億」

「37億円」

 

権力者によって値段が跳ね上がる。

 

「これ以上は、無理なワケダ……」

「ドンマイ、プレラーティ」

 

カリオストロはプレラーティの背を優しく撫でた。

結局照魔鏡は40億円で落札された。

落札したのは、与党幹事長だった。

次の聖遺物が運ばれてくる。

それは一本の剣だ。

両刃のロングソード。

その剣を、サンジェルマンはよく知っていた。

 

「さあお次は凄いですよ! あの世界的に有名な聖女ジャンヌ・ダルクの用いた剣、【フィエルボワの剣】! 一節には大天使ミカエルの剣とも! 欧州闇マーケットを巡った後、この国のコレクターが密かに買い取りました。そのコレクターの死後、子孫の方が今回、我々のオークションを通して出品してくださりました。この聖なる剣、まずは42億円からスタートです!」

 

サンジェルマンは勢い良く声をあげた。

 

「50億!」

 

だが、その声に続くものあり。

 

「65億円」

 

至天院銘歌である。

穏やかなアルカイックスマイルのまま、声を上げた。

サンジェルマンは銘歌を一瞥すると、値段を釣り上げた。

 

「85億」

 

会場がざわめく。

高価格で取引される聖遺物だが、それでも85億円は高いのだ。

だが、会場はさらに驚く事となる。

 

「90億円」

 

至天院銘歌だ。

にこやかに、値段を上げた。

サンジェルマンは勝負に出ることにした。

 

「100億円」

 

サンジェルマンの出せる限度額ギリギリだ。

あまりの値段に会場がヒートアップする。

 

「皆さん落ち着いてくださーい。落ち着いて!」

 

カンカンとサクラがハンマーを叩く。

会場が静かになると同時に、銘歌が口を開く。

 

「110億円」

 

会場が静まり返る。

勝負あり、そう皆の心に浮かぶ。

 

「110億。もうありませんか?」

 

サクラがサンジェルマンの方を見て言う。

サンジェルマンの表情は暗い。

友の形見を落札できない、そう絶望している。

だが、その時である。

 

「サンジェルマン、25億貸すワケダ」

 

プレラーティが言う。

更に続けてカリオストロ。

 

「あーしも、30億なら貸したげる♡」

「二人とも……、ありがとう」

 

サンジェルマンの目に再び火が灯る。

サンジェルマンが声を張る。

 

「155億円!!」

 

サンジェルマンは再び勝負に出た。

それを受けて至天院銘歌は……。

 

「…………っ」

 

沈黙!

ほんの、ほんの僅かに眉間にシワを寄せる。

 

「155億円! もうありませんか? ありませんか?」

 

至天院銘歌は沈黙し、微動だにせず。

勝負ありだ。

 

「155億円で、そちらの淑女が落札でーす♡ 巨額の取引にスタッフ一同興奮冷めやらずでーす!」

 

会場が拍手に包まれる。

サンジェルマンは深く息を吐く。

 

「良かったワケダ」

「おめでとう、サンジェルマン」

「ありがとう、二人とも。本当に、ありがとう」

 

高額取引の集結に会場で拍手が鳴る。

サンジェルマンはそれに応えるように、右手を上げた。

 

「フィエルボワの剣も落札できたし、どうするサンジェルマン? もう帰る?」

 

カリオストロが問いかける。

 

「いえ、次で最後の聖遺物みたいだし、最後まで見ておきましょう」

 

舞台上に最後の聖遺物が運ばれてくる。

瓶に入った、透明の液体。

今宵の主役。

 

「さあ、皆さんお待たせいたしました。こちらに運ばれてきた聖遺物、飲めば若返る奇跡の秘薬。【変若水】でございます! こちらの聖遺物、紛れもなく本物! なぜなら、一口飲んだ私が十歳以上若返ったからでーす♡」

 

サクラの言葉にざわつく場内。

変若水は本物。

その証人が目の前にいる。

権力者たちは沸き立った。

永遠の若さ、永遠の繁栄。

権力者たちの夢が、目の前にある。

 

「こちらの変若水、100億円からスタートです!」

「120億!」

「150億!」

「177億円!」

 

競りが始まると同時に、参加者たちが値段を釣りげていく。

 

「変若水が最後で良かったわね」

「変若水がフィエルボワの剣より先だったら、アッチが落札していたワケダ」

「まったくね」

 

幸運だった、そうサンジェルマンは思った。

だが、銘歌の方を見た時その考えは間違っていると思った。

銘歌は、笑っていた。

薄い微笑みではなく、満面の笑み。

変若水を競り合う権力者たちを笑う銘歌を。

 

「…………」

「サンジェルマン?」

「なんでもないわ」

 

黙り込んだサンジェルマンを心配するプレラーティ。

サンジェルマンはそれに短く答える。

だが、サンジェルマンの頭の中では様々な考えがよぎっていた。

 

銘歌のあの笑みは変若水が高値で取引されて嬉しいという笑みではない。

あれはもっと加虐的な笑みだ。

残酷な人が見せる、相手をいたぶる時の暴力的な笑い。

……あの変若水、なにかある。

若返らせる能力以外の、なにかが……。

 

だが、サンジェルマンの危惧など知らぬとばかりに、変若水の競りは終わる。

 

「10兆円」

 

落札したのはアラブの石油王。

会場からは悔しげな呻きとため息。

 

「帰りましょう」

 

サンジェルマンは立ち上がる。

 

「はやく、ジャネットの剣を受け取らないとね」

 

そう言いながらも、サンジェルマンの頭の中には一つの仕事が浮かんでいた。

変若水を落札したあの石油王を調査して、怪しいところが出てきたのなら二課に報告する。

 

それと天神合一会についても訃堂に聞こう。

古くより日本を守るあの防人ならば、かの宗教団体の事も知っているはずだ。

 

 

 

 

 

 

「大した役者だな、銘歌」

「ありがとうございます、シャダイ様。虚偽とはいえ、サンジェルマンとの競りはなかなか楽しかったですわ」

「お前が楽しいと我も楽しい」

「ふふ……。欲しい物を競り合う他人がいれば、自ずと思考と視野は限定的になる。当初の予定通り、サンジェルマンに神殺しの剣、落札させましたわ」

「ライバルを減らすために変若水を出品させたが、必要なかったかもしれぬな」

「まあ、良いではありませんか。おかげで、かの石油王の支援が得られるというもの」

「我が力を込めた水の中に、エロヒムの端末を溶け込ませる。……これであの石油王も、エロヒムとなる」

「ですが、行動は()()()()が終わってからにしましょう」

「サンジェルマンに嗅ぎつけられたか」

「なので年内は控えめに大人しく」

「ああ、そうだな」

 

「どうせサンジェルマンたちは今年までの命、なのですものね、ふふふ……」

 

 

 





きな臭い所で終わり!
作中時間で年末年始、物語は大きく動きます!

あと、オークション内で出てきた聖遺物はどれも落札していたら、年末でサンジェルマンたちの大きな助けになった聖遺物です。
でも落札出来なかったから畜生!

あと、オークションの司会をしていた加藤サクラちゃん、元ネタがあります。
FateのBBちゃんです。
だから名前が間桐桜をもじった加藤サクラなんですね。

次回は修業回。
FateGOのあのお城がパワーアップして登場します……。


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第九十話 チェイテピラミッド姫路チフォージュ城①


女神転生発売前に初投稿です。
今回からは探索シナリオ。
悪夢の世界に聳えるチェイテピラミッド姫路チフォージュ城を探索してお宝をいっぱい見つけよう!
そのお宝はシンフォギアを強くする力を持っているぞ。

エルデンリングの最新PV見たからね、ちょっとフロム系をやりたくなったのよ。



 

 

11月。ハロウィーンの季節。

二課でもそれは変わりなく。

 

「トリックオアトリートです!」

 

そう言うのは、三角帽子を被った魔女。

もとい、エルフナインちゃんである。

 

「うぁぁぁ……、魔女が二課を練り歩いてる!」

 

俺は腰を抜かしながら、ポケットからお菓子の入った小袋を取り出す。

 

「これあげるから許してぇ……!」

「な、何もしませんよ!」

 

演技しすぎてエルフナインちゃんが遠慮しちゃった。

 

「冗談よエルフナインちゃん。はい、お菓子」

 

エルフナインちゃんにお菓子を渡して立ち上がる。

 

「それにしてもカワイイ仮装だね」

「ありがとうございます! 友里さんが作ってくれたんです」

「そっか、よかったねぇ」

 

俺はほっこりした。

 

「で、キャロルちゃんは仮装しないの?」

 

と、俺はエルフナインちゃんの後ろにいたキャロルちゃんに聞く。

キャロルちゃんはいつもの格好であった。

 

「オレはそこまで子どもじゃないぞ!」

「もう、キャロルってば……。季節の行事くらい楽しめばいいのに」

「オレはいい」

 

と、そんな事を言うキャロルちゃん。

 

「エルフナインちゃん、俺にいい考えがある」

 

俺はそう言うと、キャロルちゃんに手の平をさし出す。

 

「なんだ、その手は?」

「キャロルちゃん、トリックオアトリート。お菓子をくれなきゃイタズラするぞ」

「おま、一鳴ィ!」

 

目を剥くキャロルちゃん。

 

「キャロルちゃんは大人で、俺は14歳の子ども。トリックオアトリートするのは、こっちだよネ!」

「ぐぅ……」

 

唸りながらポケットを弄るキャロルちゃん。

そこから、飴を一つ渡す。

 

「のど飴……」

「シンフォギアは歌が命だから、丁度いいだろう。そもそも、お前はなんの仮装もしてないだろうが」

「ハーレム大王のコスプレぞ」

「とうとう自分で言ったな!!」

 

と、キャイキャイしていると。

前触れもなく、一瞬にして。

 

辺りの景色が一変する。

 

青ざめた空。

輪郭の蕩けた赤い月。

そして、地面に立つ無数の墓石。

 

「……ッ!」

「エルフナインッ!」

 

俺とキャロルちゃんはエルフナインを庇うようにする。

 

「なんだ、ここは……ッ!?」

「幻術ッ!?」

 

俺とキャロルちゃんは辺りを警戒する。

生きているもの、動いているものは無いかを探る。

その時である。

墓足の下の地面が盛り上がる。

白い腕が伸びてくる。

その腕には皮も肉も無い。

骸骨である。

骸骨が、墓石の下から這い出てくる。

 

「一鳴ッ!」

「わかってるッ!」

 

すべての墓石から、骸骨が這い出てくる。

その数おおよそ100。

なのだが。

その骸骨、頭にカボチャを被っている。

ジャック・オー・ランタンだ。

カボチャ頭の骸骨たち。

 

「は、ハロウィン!」

「狼狽えるなッ! 来るぞッ!」

 

マリアさんみたいな事を言うキャロルちゃん。

叫びながら錬金術で4属性攻撃をぶっ放す。

俺も早く攻撃しないと。

 

「───── Sudarshan tron」

 

シンフォギアを装着。

即座にアームドギアである戦輪を手に取る。

戦輪の刃が高速回転、炎を吹き上げる。

その戦輪を投擲!

ハロウィン骸骨軍団を薙ぎ払う。

と、同時に腰アーマーから小型戦輪射出!

脳波でコントロールしながら、無数の小型戦輪で骸骨の頭部であるカボチャを破壊していく。

そうして5分ほどして。

キャロルちゃんと協力して、墓場から出てきた骸骨は全て倒しきった。

 

「……で、ここどこ?」

 

一段落した所で、原点回帰である。

 

青ざめた空。

輪郭の蕩けた赤い月。

そして、地面に立つ無数の墓石。

その墓石の下から湧き出したハロウィン骸骨たち。

 

「あの空、いや、まさか……、だがそれしか……」

 

と、空を見てブツブツ言うキャロルちゃん。

 

「……エルフナイン、研究室のアレ、起動してたか?」

「……! ううん、今朝の段階では未活性だったよ」

 

キャロルちゃんとエルフナインちゃんには、心当たりがあるようである。

 

「二人とも、心当たりがあるの?」

「……ああ」

 

と、キャロルちゃん。

 

「一週間ほど前、在野の聖遺物研究所から未知の哲学兵装が持ち込まれた」

「【蕩けた瞳】という、瞳孔の輪郭が崩れて蕩けた眼球なのですが、この瞳を手に入れた者は見てはいけないものを見て発狂する、といういわくのある哲学兵装なのですが……」

 

キャロルちゃんの言葉を、エルフナインちゃんが補足する。

そして、言葉を続けるエルフナインちゃん。

 

「その聖遺物研究所が偶然、その蕩けた瞳を手に入れたので研究していたのですが、研究者が数名発狂したそうです……」

「ソイツらは今も意識が戻っていない。だが、うわ言のように『名状しがたきものが目の前に』『青ざめた空が、蕩けた月が堕ちてくる』『許してくれ許してくれ』としか言わないらしくてな。それで、二課にお鉢が回ってきたんだがな……」

「つまり、ここはその【蕩けた瞳】が見せてる世界ってコト?」

 

俺の言葉に、恐らくはと言いながら頷く二人。

俺は空を見る。

青ざめた空。

輪郭の蕩けた赤い月。

そして、蕩けた瞳。

 

……Bloodborne?

狩人悪夢か、ココ。

だけど、さっきのハロウィン骸骨は、アレは……。

うーん、わからん。

 

「とにかく、移動しない?」

「そうだな。ここで待機するわけにもいかないならな」

「なら、あそこを目指すのはどうでしょう?」

 

と、エルフナインちゃんが指をさす。

その方向には街の光。

 

「この陰気な墓場で待機するのは嫌だしねぇ」

「……だな」

 

キャロルちゃんが頷く。

そんな訳で。

街に向かう事になった。

 

 

 

 

 

 

墓場から街までは徒歩で30分ほどだった。

何かあってもいいように、俺はシンフォギアを装着しっぱなしである。

キャロルちゃんはエルフナインちゃんと手を繋いでいる。

何かあった時のためにすぐ連れて逃げられるようにする為だ。

そして、その逃げる時間を稼ぐ為に俺が頑張るのである。

 

それはそれとして、街である。

レンガとガラスの窓。

欧風の街である。

そして、街中を飾るカボチャの飾り。

……うーん、ハロウィン。

 

「ハロウィンだね」

「ハロウィンだな」

「ハロウィンですね」

 

と、3人で呟く。

さて、そんなハロウィンの街。

人っ子一人居ない。

ゴーストタウンである。

だが、街の家々の窓からは明かりが漏れている。

しかし、人の話し声がしない。

だが、その時である。

 

「む~ん……」

 

唸り声が聞こえてくる。

街の隅、暗い路地の中から。

俺とキャロルちゃんがエルフナインちゃんを庇いながら、そちらに身体を向ける。

声の主が這い出てくる。

碌に風呂に入っていないのか、黒くなった身体。

ボロとなった服を纏い、髪は白く伸び放題。

眼窩は落ち窪んでいる。

そして、その眼は瞳孔が崩れて蕩けている。

 

「……また、【外】から人が来たのか」

 

ずり、ずり、と。

這いながら近づくその男。

 

「ああ、武器は向けないでくれたまえ。私は貴公らの味方だよ……」

「……貴様はなんだ? ここはどこだ?」

 

キャロルちゃんが詰問。

だが、男はどこ吹く風だ。

 

「クク……、私も貴公らと同じだよ。【外】からここに放り込まれたのさ。あの、瞳の力でね」

「瞳孔が蕩けた、あの瞳か?」

「ああ、そうだ。クク……、ここは悪夢さ。あの瞳の持ち主が堕ちた悪夢、それを永遠に繰り返す終わりなき地獄。それが、ここさ」

 

悪夢。

男はここをそう言った。

 

「瞳の持ち主がどうしてそんな悪夢を見るようになったかは知らないがね」

「なぜ、お前やオレたちはその悪夢に引きずり込まれた?」

「仲間が欲しいのさ、悪夢にもだえる仲間がね。瞳だけになっても、ずっとずっと、欲しがるのさ」

 

クックック、と笑う男。

声を荒げるキャロルちゃん。

 

「……出る方法はあるのか?」

「苛つくなよ、貴公。出る方法ならあるさ」

 

男はある路地を指差す。

 

「その路地をまっすぐ行けば、城がある。その最上階に向かいたまえよ」

「そこに出口があるのか?」

「恐らくは」

「恐らくは?」

「貴公ら、私もここから出たいのさ。だから、この悪夢のあちこちを探した。だが、出口なんて無かった。唯一探っていない、城の最上階以外にはね」

 

だが気をつけたまえよ、と男は続けた。

 

「城には守護者がいる。むごい守護者が。

……そして、この悪夢は形を変える。私が来た時には、この悪夢はこんな形ではなかった。もっと、血が滴っていたのだよ。そして、あの城も、あんなにいびつでは無かった」

「……礼を言う」

 

キャロルちゃんはそう言うと、城を目指そうとする。

だが、その前にエルフナインちゃんが男に向かって口を開いた。

 

「……あの! ボクたちの来る前に人が来ませんでしたか?」

「……ああ、来たとも」

「その人たちは……」

 

男はニヤニヤと笑った。

 

「私が城への道を教えてやって、それから会ってないよ」

 

 

 

 

 

 

街から城へは真っ直ぐな道であった。

だが、城は小高い丘にあるのか、登り道でありエルフナインちゃんの為に小休止を取った。

そんなこんなで30分で城に辿り着いた。

 

「……」

「……」

「……」

 

俺たちは。

城を見てゲンナリしていた。

 

その城は、西洋風の城である。

白を基調にした、小綺麗な城。

だが、その上に。

上下逆しまになったピラミッドが刺さっていた。

ピラミッドの重さから城にはヒビが入っている。

そして、さらに。

逆しまのピラミッドの上に、石垣と白鷺のように白い日本の城。

姫路城だ。

うん、やっぱり。

 

チェイテピラミッド姫路城だコレ!!!!!

 

「……」

「……」

「……」

 

だが。

だが、である。

目の前の城には、上に更に城が乗っていた。

白く美しい姫路城に、更に刺さる城。

上半分はパイプオルガンのような見た目。

下半分は、姫路城に刺さって見えないが、おそらくは音叉のように2つの突起が伸びているのだろう。

その城の名は───

 

「エルフナイン、アレ、チフォージュシャトーだよな……?」

「キャロル、アレ、チフォージュシャトーだよ……」

 

二人の居城だったチフォージュシャトーであった。

チェイテピラミッド姫路城の上にチフォージュシャトーが刺さっていた。

 

つまりこれは……。

 

「チェイテピラミッド姫路チフォージュ城か……」

「やめろ。なんか、その名前を聞くと脳が震える……(げっそり)」

 

キャロルちゃんが弱っている。

 

「キャロル、大丈夫……?」

「……ああ、大丈夫だ。大丈夫」

 

頭を振り、気を取り直すキャロルちゃん。

 

「……あの男の話では、唯一探っていない最上階に出口がある、だったな」

「これを登るのかぁ……」

 

チェイテ城とピラミッドと姫路城とチフォージュシャトーが積み重なった複合建築である。

高さ的には東京スカイツリーを越えてる(震え声)

 

「ええい! 悩んでも仕方ない! 行くぞ二人とも!」

 

やけくそ気味なキャロルちゃん。

俺はエルフナインちゃんと一緒にキャロルちゃんに着いていった。

 

正門をシンフォギアのパワーで押し開く。

中は小綺麗な欧風の豪邸と言ったところ。

チェイテ城だし、当たり前か。

さて、上に向かう為に探索開始である。

 

 

 

CPHC(チェイテピラミッド姫路チフォージュ)城探索(チェイテ編 1/3)【1D10】

 

1 敵だ!

2 敵だ!

3 敵だ!

4 強敵だ!

5 休める小部屋を発見!

6 罠だ!

7 宝箱だ!

8 敵だ!

9 あっ……

10 宝物庫だ!

 

結果【7 宝箱だ!】

 

 

 

チェイテ城を探る俺たち。

とある部屋を開けると、部屋の奥に宝箱があった。

 

 

 

宝箱の中身はなんじゃろな?【1D10】

 

1 R

2 R

3 R

4 ミミックだ!

5 R

6 R

7 SR

8 SR

9 ミミックだ!

10 SSR

 

結果【2 R】

 

 

 

「……これは良いものです!」

 

宝箱に入っていたのは、黄色いひし形の結晶だ。

 

「これはちょっとしたエネルギーの塊です! 帰ってシンフォギアに組み込めば、少しだけシンフォギアを強くできますよ」

「え、ホント? ヤッター!」

 

シンフォギアが強くなるのは良いことである。

 

「……だが上への道はどこにあるのやら」

 

キャロルちゃんがボヤく。

まだ探し始めたばかりである。

 

エルフナインちゃんが結晶をポケットに仕舞い、俺たちは探索を再開した。

 

 

 

 

 

 

「ああ、許して。許してください」

 

女がブツブツと許しを請う。

女は、発狂した筈の研究者の一人である

その女はカボチャ頭の騎士に運ばれている。

服は着ていない。

裸である。

騎士が運ぶ先は風呂場である。

風呂場の中には、もう一人の騎士。

そして、猫脚バスタブの中には少女。

その少女は影である。

影のみが、バスタブの中に入っているのだ。

少女の影が風呂場内の騎士に何事か命じる。

その騎士は頷くと、女を持ってきた騎士に近付く。

男を持ってきた騎士は風呂場内の騎士に、女の腕を持たせ、自分は脚を持つ。

 

「止めて、止めてください……」

 

女は力なく呟き続ける。

騎士たちはそれを無視して女をバスタブの上まで運ぶ。

女の腹が、バスタブの上を跨ぐ形になる。

 

「殺さないで、殺さないで」

 

女の訴えを無視する騎士たち。

騎士たちは女の身体を伸ばす。

 

「もう死にたくない。死にたくない、これで、()()()よ……」

 

少女の影が手を閃かせる。

瞬間、女の腹が裂けて、血がボトボトとバスタブ内に落ちていく。

 

「いやぁぁぁ……、痛い、痛い。()()死ぬのはいやよ……」

 

血がバスタブを満たす。

小さな白い脂肪の欠片が、浮いている。

騎士たちは力なく垂れ下がる女の身体をどこかへと運び去る。

 

残ったのは、血で満たされたバスタブに浸かる少女の影。

影は繰り返す。

血で己の美を磨く行為を。

影はこの悪夢に流れ着いた城に刻まれた残留思念である。

その思念が、悪夢と結びついてかつての城主の形を取り戻した。

そして影は繰り返す。

血で己の美を磨く行為を。

処女を殺して、その血で肌を磨く事を。

先程の女は処女だ。

研究一筋の女、故にこそ、その血は美肌をもたらす。

その行為に、意味がないとしても繰り返すのだ。

それが、かつての城主の行いだから。

 

研究者の女にとって最大の不幸は、この悪夢では死によって楽にはなれないこと。

悪夢の世界は実体の世界でなく、肉体の死は死ではない。

故に、何度血を搾り取られようとも、時間が経てば元に戻るのだ。

現に彼女はこの世界に来てから。

もう、102回も血を絞られている。

 

影は102回めのバスタイムを楽しむ。

侵入者を歓迎するために。

男と非処女は惨たらしく殺し、処女は連れ帰り血を絞る。

それが、影に刻まれたルーティンであるが故に。

 

 





一回目からお宝発見。
幸先いいね!


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第九十一話 チェイテピラミッド姫路チフォージュ城②


明日女神転生Ⅴが発売されるので初投稿です。
たぶん今日からしばらくの間投稿はないです。
アリスちゃんとマーラ様と一緒に東京救ってきます。
その後はシンオウ地方行くし、ハードスケジュールね。




 

 

CPHC(チェイテピラミッド姫路チフォージュ)城探索(チェイテ編 2/3)【1D10】

 

1 敵だ!

2 敵だ!

3 敵だ!

4 強敵だ!

5 休める小部屋を発見!

6 罠だ!

7 宝箱だ!

8 敵だ!

9 あっ……

10 宝物庫だ!

 

結果【4 強敵だ!】

 

 

 

チェイテ城を探索していた俺たち。

とある大広間に入った瞬間、脳が警鐘を鳴らす。

血の臭いが、漂ってくる。

キャロルちゃんが叫ぶ。

 

「下がれエルフナイン!」

 

俺とキャロルちゃんはエルフナインちゃんの前に立つ。

大広間には、無数の死体が積み重なっている。

その中に一匹の獣。

手足は細く、爪は鋭い。

そして、自らの背中の皮を剥いで頭に被せている。

あれは、光を感じ取る瞳孔が蕩けて広がっているから、自然光でさえ眩しいのだ。

しかし、自らの皮を剥いだからこそ、あの獣は血に渇いている。

 

あの獣の名は、血に渇いた獣。

Bloodborneに出てきたボスである。

やっぱここブラボの悪夢じゃないか!!

 

「■■■■■■■───!!」

 

獣が駆ける。

俺たちを殺すために。

俺とキャロルちゃんは迎撃の為に武器を構え、あるいは錬金術を起動させる。

 

 

 

一鳴&キャロルVS血に渇いた獣【1D10】

 

一鳴【4】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

キャロル【9】

 

血に渇いた獣【10】+15(ケモノ補正)

 

 

 

 

 

 

一鳴のスキル、【戦闘続行】発動!

ダイスロールもう一回な?

 

 

 

 

 

 

一鳴&キャロルVS血に渇いた獣【1D10】

 

一鳴【10】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

キャロル【8】

 

血に渇いた獣【3】+15(ケモノ補正)

 

 

 

「所詮お前は血に渇いた獣(ちいかわ)なんだよーッ!」

 

戦輪のノコギリ刃高速回転プラス炎による攻撃で血に渇いた獣を攻撃する。

 

「■■■■■───!!」

 

血に渇いた獣が全身から体液を噴出。

この体液は毒!

近くにいた俺はまともに喰らう。

 

「グワーッ! 毒!!」

「下がれ一鳴ッ!」

 

そう叫びながらキャロルちゃんが魔法陣から炎を放出。

俺は言う通りに一度下がる。

 

「一鳴さん、見せてください!」

 

エルフナインちゃんが診察。

 

「……うん、これなら大丈夫です」

 

エルフナインちゃんが錬金術で水を出し、それで俺の身体を洗い流す。

 

「目には入ってないですよね?」

「うん、顔を庇ったから」

「なら、もう安心です!」

「良かったぁ」

「治ったなら戦闘に戻れ! オレ一人ではキツイ!!」

 

キャロルちゃんが、獣の爪撃を躱す。

 

「いま、止めを!」

 

俺は走って獣に向かう。

戦輪を振りかざし、思い切り獣に叩きつける。

と、同時にノコギリ刃高速回転!

炎放出!

 

「■■■■■!!」

 

血に渇いた獣が断末魔の叫びをあげる。

血が、毒が吹き出る。

 

「毒は焼く!」

「■■■………………」

 

炎が血を、体液を、毒を焼いて浄化。

血に渇いた獣は、力なく崩れ落ちた。

 

「……なんとか、勝利かな」

「ああ……」

 

どっと疲れた。

銃持ってパリィしたくなった敵だった。

 

 

 

ドロップ品はあるかい?【1D10】

(7以上である)

 

結果【1】

 

 

 

血に渇いた獣は大したものを持ってなかった。

鍵とか地図とか、お宝とか。

まあ、獣だし。

そういったものは持たされてなかったのかもね……。

 

「行こっか」

「ああ……」

「が、頑張りましょう!!」

 

戦闘で疲れた俺たちをエルフナインちゃんが励ます。

それだけが、癒やしだよ……。

 

 

 

CPHC(チェイテピラミッド姫路チフォージュ)城探索(チェイテ編 3/3)【1D10】

 

1 敵だ!

2 敵だ!

3 敵だ!

4 強敵だ!

5 休める小部屋を発見!

6 罠だ!

7 宝箱だ!

8 敵だ!

9 あっ……

10 宝物庫だ!

 

結果【8 敵だ!】

 

 

 

チェイテ城の奥へ奥へと向かう俺たち。

だが、それを阻むようにカボチャ頭の騎士たちが立ちはだかる。

……が。

 

「どけどけッ!」

「死にたくないなら失せろッ!」

 

俺とキャロルちゃんの敵では無かった。

さっき戦った血に渇いた獣が何もドロップしなかったイライラをぶつけにぶつけた。

骨折り損のくたびれ儲けやんけ、と怒りをぶつけた。

そのかいあって、騎士たちは全滅した。

カボチャがホクホクになった。

 

「フンッ! 俺たちの敵ではないな!」

「まあ、本番はここからみたいだけどね……」

 

俺は廊下の先を見る。

その先の大きな扉の向こうから、プレッシャーが発せられてる。

……明らかに、ボスがいるぅ……。

 

「……行くぞ」

 

キャロルちゃんがそう言って歩きだす。

俺とエルフナインちゃんは着いていく。

扉の前に辿り着く。

豪華な扉だ。

俺はその扉を押し開ける。

皆で、中に入る。

 

そこは、謁見の間であろう。

奥まで長い部屋。

その奥に玉座。

そして、その更に奥に大きなエレベーター。

上へと続くもの。

だが、アレに乗るためには玉座の前の影を倒さないといけないだろう。

プレッシャーは、あの影から発せられている。

 

あの、少女のような形の影には、竜の角と翼と尾が生えている。

 

「チェイテ城の主と言うことは、アレはエリザベート・バートリーか」

 

博識なキャロルちゃんはすぐに正体に気付いた。

 

「バートリー家の紋章が竜の牙だからといって、本人が竜になるとはな……」

「キャロルちゃんバートリー家の紋章なんて、よく知ってるね」

「ああ、昔パパに教えてもらったことがあってな……」

 

エリザベートの影が槍を持つ。

そして、穂先をこちらに向ける。

 

「相手はやる気満々だね」

「ああ。みたいだな」

 

こちらも戦輪を構える。

キャロルちゃんも、ダウルダヴラのファウストローブを装着!

 

「エルフナイン、下がっていろ!」

「うん! キャロル、一鳴さん気をつけて!」

「まっかせて!」

 

さてそれでは。

エリザベートの影を倒しましょう!

 

 

 

一鳴&キャロル VS エリちゃんの影【1D10】

 

一鳴【9】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

キャロル【4】+10(ダウルダヴラ補正)

 

エリちゃんの影【5】

 

 

 

「イヤーッ!」

「消えろッ!」

 

俺の戦輪とキャロルちゃんの錬金術が影に直撃する。

 

「………………!」

 

影はまともに攻撃を喰らい、片膝をつく。

 

「キャロルちゃん……」

「ああ、コイツ()()()()

 

エリザベートの影の槍による攻撃は鋭くこちらを狙ってくる。

……が、なんというか速さが足りないというか簡単に躱せるというか。

うん、弱い。

 

「……まあ、よくよく考えると城の主が強くある必要は無いしな」

 

と、キャロルちゃん。

そのまま、影に止めのビームを放つ。

エリザベートの影が霧散していく。

 

「終わりかぁ」

「呆気ないな。さっさと上に───」

「まだです!!」

 

すっかり気の抜けた俺とキャロちゃんに対して、鋭い声がエルフナインちゃんから飛ぶ。

即座に戦闘態勢を取り直し、影の居た場所に目を向ける。

霧散した影が、大きな形を取っていた。

幾本もの手足が伸びる巨大な影。

その中でも長大に伸びた二本の腕が床を叩きつける。

地響きと共に、床にヒビが入る。

 

「まずいぞ……」

「エルフナインちゃん、壁際まで逃げて!!」

 

俺がそう叫ぶと、エルフナインちゃんは一つうなずき、壁まで駆ける。

だが、その間に巨大な影は何度も床を叩く。

その度に広がるヒビ。

 

「落ちるぞ、備えろ一鳴!」

 

キャロルちゃんがそう言うのと、巨大な影が床を叩きつけるのは同時だった。

大きな音と共に床が崩れる。

俺とキャロルちゃんは暗闇に吸い込まれていく。

 

「キャロル、一鳴さん!!」

 

上の方からエルフナインちゃんの声。

床の崩落には巻き込まれなかったみたいだ。

 

「キャロルちゃん平気?」

「ああ……」

 

立ち上がろうとするキャロルちゃんに手を貸す。

上方10メートルほど上から光が差し込む。

10メートルも落ちたということか。

そして、落ちたこの場所は……。

 

「酷い臭いだな……」

「うん」

 

血の臭いが酷い。

床には瓦礫と薄く貯まる赤黒い液体。

辺りを見渡せば全裸の死体たち。

上の謁見の間よりも広いここは、死体の置き場だ。

 

「ああ……あなたたち……」

 

と、死体の中から一人の女性の声。

 

「……あの顔! 例の研究所の職員だ」

 

キャロルちゃんが教えてくれた。

 

「発狂したっていう?」

「ああ……」

「助けに来たのね、そうでしょ!」

 

女性はこちらに這い寄りながらそう言う。

 

「ああ! おぞましい、醜い竜がやってくる。呪われた、エリザベートが。許して、お願い許して……」

 

瞬間、水と地を踏む音。

前方、薄暗くとも見える。

下半身は何本も生えた竜の足と尾。

背骨は曲がり、竜の翼が萎びて生えている。

そして、竜のように伸びた少女の顔。

その右隣に生えた、眼球の集合体は口のようにモゴモゴと蠢いている。

ああ、これは。

もうエリザベートの影じゃない。

いや、影は仮の姿か。

エリザベート・バートリーに悪夢のエッセンスが混じって生まれたコイツは、醜い獣だ。

 

「そういう趣向か、悪夢ってのは!!」

 

俺は、憤りを感じた。

エリザベート・バートリー、俺の知るFateのエリちゃんは自称アイドルのトラブルメーカーで音痴で傍迷惑で。

でも、それでも前向きに生きていた。

こんな、醜い獣になっていい子じゃなかった。

 

「キャロルちゃん、やろう」

「ああ」

 

俺は戦輪を構えた。

キャロルちゃんも錬金術起動準備に入る。

悪夢を終わらせるために。

 

 

 

一鳴&キャロル VS 醜い竜、エリザベート【1D10】

 

一鳴【4】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

キャロル【9】+10(ダウルダヴラ補正)

 

醜い竜、エリザベート【5】+20(悪夢補正)

 

 

 

悪夢として、本来の姿を取り戻した醜い獣の攻撃は直線的ではあるものの、早く鋭い。

故に俺とキャロルちゃんははじめは防戦一方であった。

……しかし、獣と成り果てた影の攻撃はそれ故に単純でパターン化されており、スキを見出すのは容易であった。

醜い竜が突進攻撃。

俺とキャロルちゃんは左右に跳んで回避。

 

「合わせろ、一鳴ッ!!」

「ハイヨロコンデーッ!!」

 

キャロルちゃんがグラビトンエンド。

俺が燃え盛る戦輪投擲。

左右からの攻撃をまともに喰らう醜い竜は咆哮をあげる。

 

「■■■■■■■■■■ーッ!!」

 

醜い竜が跳躍。

上空から俺たちを潰そうとする。

 

「甘いッ!」

「イヤーッ!」

 

それに合わせるようにキャロルちゃんがダウルダヴラの弦を部屋中に張り巡らせる。

さながら蜘蛛の巣のように張り巡らされた弦は高速落下する醜い竜の身体を切り刻む。

 

「■■■■■!?」

 

切り刻まれていく己の身体に驚く醜い竜。

俺はそのスキを逃さず、射出した小型戦輪を醜い竜にぶつける。

弦と小型戦輪による合せ技!

逃げ場のない空中では避ける事は出来ない!

 

「─────」

 

もはや叫ぶ事も出来ず、切り刻まれて肉片となって死体置き場に落下していく醜い竜。

最後に、竜めいて伸びた少女の顔が目の前に落ちてくる。

バチャン、と血が跳ねる。

 

「───あり、がと」

 

醜い竜は最期にそう呟いて。

幻のように消え去っていった。

 

「……エリちゃん」

 

あの影には、エリザベート・バートリーの意識があったのだろうか。

それとも、影に刻まれた過去のデータのようなものか……。

 

「行くぞ、一鳴」

 

と、キャロルちゃんが上を、謁見の間を向いて言う。

 

「ここで感傷に浸っている暇はない」

「……わかったよキャロルちゃん」

 

素っ気ない言い方は、キャロルちゃんなりの気遣いだろう。

その優しさが嬉しかった。

 

「あ、研究者の人も連れて行かないと」

 

と、研究者の女性の方を見ると。

 

「…………」

 

虚ろな瞳で空を見ていた。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「…………」

「あのー?」

「…………」

 

声を掛けても反応がない。

 

「……放っておけ」

 

と、キャロルちゃん。

 

「安堵からか、悪夢の特性かわからんが自我が薄くなっているようだ」

「大丈夫なの、それ?」

「さあな。まあ、ここに置いておいても死にはしないだろう。まともな出入り口は瓦礫で塞がってるし」

 

それに、とキャロルちゃんが続ける。

 

「この悪夢を祓えば元の身体に戻るだろう」

「……出るだけじゃないんだね」

「ああ。あんなものを見せられたら、この悪夢を見せてるヤツをブチのめさなければ気がすまない」

 

キャロルちゃんも、醜い竜と成り果てたあのエリザベート・バートリーに思う所はあったという事か。

 

「うん、じゃあ早くエルフナインちゃんの所に戻らないとね。きっと心配してる」

「ああ、そうだな」

 

俺とキャロルちゃんは跳躍。

壁を蹴って、上方の謁見の間に戻る。

 

「キャロル! 一鳴さん! 無事でしたか!」

 

と、エルフナインちゃん。

 

「うん、心配させてゴメンね」

「オレたちがあれで死ぬはず無いだろう」

 

キャロルちゃんは素っ気ないが、エルフナインちゃんの頭を撫でてる辺り甘い。

とにもかくにも。

合流できた俺たちは、謁見の間の玉座の奥にあるエレベーターに乗る。

ゴウンゴウンと、轟音と共に上に昇っていく。

 

その途中、壁の色が変わる。

灰色の煉瓦壁から、黄色い巨石の壁に。

エレベーターが止まる。

黄色の巨石で出来た壁に松明が掛けられている。

柱は白く、所々に壁画。

 

「ここが、チェイテピラミッド姫路チフォージュ城のピラミッド部分かぁ」

「その呼び名やめろ!」

 

4層からなる悪夢の第2層。

ピラミッド部分である。

 

 





私はエリちゃんを作中で醜い獣ルドウイークとガッチャンコしましたが、エリちゃんの事は嫌いではありません。
私の初めてのレベル100サーヴァントであり、推しの一人でもあります。
それだけは、真実をお伝えしたかった。

そんな訳でチェイテ編終わり。
次回からピラミッド編です。
と、いってもやる事は変わらず。
探索して、敵をしばいて、お宝見つけるだけ。
なお次回更新は未定の模様(震え声)


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第九十ニ話 チェイテピラミッド姫路チフォージュ城③


Switchを充電してる間にチマチマ書いてたので初投稿です。
真5、取り敢えずニホンバシにまで来ました。
主人公とラフムくんが万能全体攻撃覚えたのでサクサクじゃぁ〜。


 

 

 

CPHC(チェイテピラミッド姫路チフォージュ)城探索(ピラミッド編 1/3)【1D10】

 

1 敵だ!

2 敵だ!

3 敵だ!

4 強敵だ!

5 休める小部屋を発見!

6 罠だ!

7 宝箱だ!

8 敵だ!

9 あっ……

10 宝物庫だ!

 

結果【8 敵だ!】

 

 

 

ピラミッドに踏み入った俺たち。

そんな俺たちを歓迎するように、カボチャ頭の騎士と骸骨たちが殺到してくる。

 

「イヤーッ!」

「消え失せろッ!」

 

まあ、俺とキャロルちゃんの敵じゃないんだけど。

でも、後方のエルフナインちゃんに被害を出さない為にも気を張って戦わなければならないのだ。

 

「……ふぅ、終わった?」

「そのようだな」

 

敵は全て倒せたようだ。

辺り一面にホクホクのかぼちゃが広がる。

 

「……ジャック・オー・ランタンって美味しいのかな」

「……止めておけ」

 

そんな訳で。

俺たちはピラミッドの先を進む……。

 

 

 

CPHC(チェイテピラミッド姫路チフォージュ)城探索(ピラミッド編 2/3)【1D10】

 

1 敵だ!

2 敵だ!

3 敵だ!

4 強敵だ!

5 休める小部屋を発見!

6 罠だ!

7 宝箱だ!

8 敵だ!

9 あっ……

10 宝物庫だ!

 

結果【8 敵だ!】

 

 

 

ピラミッド内を延々と進む俺たち。

とある部屋に入った途端、部屋の扉が閉まり鍵がかかる。

しかも部屋の中には大量のカボチャ頭騎士と骸骨たち!

 

「罠かよ!」

「来るぞッ!」

 

騎士と骸骨たちが押し寄せる。

津波の如き攻勢に対して、俺は小型戦輪を射出して迎撃。

キャロルちゃんも錬金術で応戦。

エルフナインちゃんはその間に挟んで守る!

エルフナインちゃんを挟んで背中を預ける形になる。

 

「イヤーッ!」

「甘いッ!」

 

俺たちの頑張りで部屋の中の敵は一掃された。

……敵を全滅させても宝箱は出ない。

まあ、RPGじゃないしね。

しょうがないね。

俺たちはさっさと部屋を出て先を急ぐ事にした。

 

 

 

CPHC(チェイテピラミッド姫路チフォージュ)城探索(ピラミッド編 3/3)【1D10】

 

1 宝箱だ!

2 宝箱だ!

3 宝箱だ!

4 宝箱だ!

5 宝箱だ!

6 宝箱だ!

7 宝箱だ!

8 宝箱だ!

9 宝箱だ!

10 宝物庫だ!

 

結果【7 宝箱だ!】

これは前半2回の結果がしょっぱかった事の救済であり不正は一切ない。いいね?

 

 

 

ある廊下の突き当り。

本来なら行き止まりのはずの壁の前には宝箱が安置されていた。

 

「ヤッター!」

「今度はなにが入っているんでしょうか! ボク楽しみです」

 

喜ぶ俺とエルフナインちゃん。

それに対してキャロルちゃんは、

 

「……ミミックでなければいいがな」

 

と言いつつも、宝箱の中身に興味津々である。

 

 

 

宝箱の中身はなんじゃろな?【1D10】

 

1 R

2 R

3 R

4 ミミックだ!

5 R

6 R

7 SR

8 SR

9 ミミックだ!

10 SSR

 

結果【8 SR】

 

 

 

宝箱を開ける。

重い蓋が開き、砂ホコリが舞う。

エルフナインちゃんと中を覗き込む。

 

「……わぁ!」

 

エルフナインちゃんが顔を輝かせる。

手を伸ばして、中の物を取るエルフナインちゃん。

それを俺たちに見せてくれる。

 

「見てください! ラーの目のメダルです!」

 

それは、瞳の描かれたメダルであった。

触ってみると、ほのかに温かい。

瞳のデザインは、フォッグシャドウやホワイトグリントのエンブレムと似ている。

要は、瞳の端っこや下側からニョーンと線が飛び出しているマークである。

 

「この目のマークは天空神であるホルスの目とも言われていて、左目は月の象徴、右目は太陽の象徴なんです! で、この目は右目だから……」

「太陽の目、太陽神ラーの目ってことか」

「はい! 太陽の戦輪スダルシャナのシンフォギアを強化できます!」

「スゴイ!」

「はい! 帰ったらさっそく組み込みましょう!!」

 

エルフナインちゃんはニコニコ笑顔でポケットにメダルをしまう。

エルフナインちゃんに、シンフォギアを強化してもらう為にもこの悪夢からさっさと脱出しないとね。

 

 

 

 

 

 

チェイテ城に刺さった逆さピラミッドを進む俺たち。

とうとう、その最奥部に辿り着く。

ピラミッド内を球場にくり抜かれた、広い広場。

その中心に伸びる石造りの道。

その行き止まり地点、広場の中心に上に続くエレベーターがある。

そして、勿論エレベーター前の守護者も。

 

「あの影は、女か……?」

 

キャロルちゃんが観察する。

影は女性型だ。

手足は長く、スタイルが良い。

マリアさんも似たような体型である。

モデルのようだ。

そして、影の周りには長く曲がりくねる影。

蛇の影。

 

クレオパトラの影だ。

 

「恐らくはクレオパトラですね」

 

と、エルフナインちゃんが正解を言い当てる。

 

「クレオパトラ、自慢の美貌も影となれば意味もないな」

 

と、キャロルちゃん。

『クレオパトラの鼻が短かったら歴史は変わっていた』とは有名な言葉である。

美しい人であったらしいが……。

 

「……む!」

 

クレオパトラの影に近付く俺たち。

クレオパトラの影が攻撃してくるのかこないのかにしろ、エレベーターには乗らねばならない。

のだが。

影の様子がおかしい。

クレオパトラではなく、その周りに浮く蛇が。

蛇の影がどんどん大きくなる。

 

「エルフナイン!」

 

キャロルちゃんがエルフナインちゃんの側に立つ。

俺は更にその前に立ち、盾となる。

蛇の影はどんどん大きくなる。

蛇の影から、黒い霧が立ち昇る。

霧の隙間から、白い蛇体が見える。

 

「おいおい……」

 

キャロルちゃんが上を見て慄く。

いまや、蛇の大きさは見上げるほどとなり、頭だけでトラック並みの大きさとなる。

黒い霧が晴れる。

蛇の影は白い大蛇となった。

紅い蛇眼がこちらを睨む。

 

「飛べッ!」

 

キャロルちゃんが叫ぶ。

エルフナインちゃんを抱えて、キャロルちゃんが飛ぶ。

俺もギアから炎を噴出させ跳躍。

その直後。

白蛇が俺たちのいた所に頭を突進。

石造りの道が崩れる。

 

「……危機一髪だ」

「また来るぞッ! 狙いはお前だッ!!」

 

キャロルちゃんが叫ぶ。

道を崩した蛇が頭を持ち上げ、俺を見る。

白蛇が、口を開く。

俺一人は簡単に飲み込める程の口。

 

「ええい、ただのおっきな蛇がなんぼのもんじゃい!!」

 

 

 

一鳴&キャロル VS 白い大蛇【1D10】

 

一鳴【8】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

キャロル【7】+10(ダウルダヴラ補正)

 

白い大蛇【4】+25(悪夢補正)

 

 

 

球形の広場内を上下左右飛び回る。

その俺を食い殺さんと、白蛇が追い回す。

 

「一鳴ッ! 壁際まで誘導しろッ!」

 

キャロルちゃんが指示する。

俺はその指示通りに壁を目指す。

その俺を追う大蛇。

食い殺さんと口を開く。

 

「イヤーッ!」

 

俺を喰おうと口を閉じる大蛇。

それを横方向にブーストして回避する。

 

「イヤーッ!」

 

また俺を喰おうと口を閉じる大蛇。

更に横方向にブーストして回避する。

 

「そのまま真っ直ぐ行け!」

「了解ッ」

 

キャロルちゃんがエルフナインちゃんを抱えながら、大蛇の後ろを追う。

俺は壁に向かって飛ぶ。

壁が近づく。

大蛇が追い縋る。

壁が迫る。

迫る。

迫る。

 

「今です!」

 

エルフナインちゃんの声。

俺は壁を蹴って横っ飛び。

そのすぐ後ろに迫っていた蛇は口を開けたまま、壁に激突。

ずるり、と下に落ちていこうとする。

だが、すぐに意識を取り戻したのかまた、鎌首をもたげようとする。

 

「一鳴、頭を潰せッ!」

 

キャロルちゃんの声。

その声を聞いて、俺は蛇の直上に飛ぶ。

そして、そのまま蛇の頭目掛けて落下。

蛇の脳天に、戦輪を打ち込む。

 

「■■■■■ーッ!!?」

 

大蛇が暴れる。

俺は蛇の頭にしがみつく。

そして、ほんの一瞬動きが緩んだスキにもう一度戦輪を叩き込む。

頭蓋を潰した、確かな手応え。

 

「■■■■■ーッ!!?」

「一鳴、離れろッ!」

 

蛇が断末魔の悲鳴をあげる。

俺はキャロルちゃんの声を聞いて、蛇の頭から離れる。

俺が離れた瞬間、その頭に突風を浴びせるキャロルちゃん。

風に煽られて、蛇の頭がある一点に向かって落下していく。

クレオパトラの影のいる地点に。

大蛇の頭が、石造りの道に落下する。

クレオパトラの影が潰れる。

蛇の影は霧散しながら、球形広場の底に落下していく。

 

「……終わり?」

「ああ……」

 

エレベーター前に着地する、俺とキャロルちゃん。

エルフナインちゃんがキャロルちゃんに降ろされながら口を開く。

 

「二人とも、お疲れ様です!」

「ほんとうに疲れた。……この後もこんなのばっかなのぉ」

「デカい相手は面倒だ。さっさと上に行くぞ」

 

と、キャロルちゃんはさっさとエレベーターに乗る。

俺とキャロルちゃんは、その後を追った。

 

俺たち三人がエレベーターに乗ると、エレベーターは勝手に動き出す。

鎖で吊られたエレベーターは、白蛇との戦闘でもビクともしなかったらしい。

いや、あの白蛇はエレベーターへの攻撃を避けていたのかしら……。

エレベーターが球形広場を抜け、ピラミッド内部に突入する。

しばらくすると、黄色い石造りの壁から、灰色の石垣と木の柱に景色が変わる。

ここはもう、姫路城である。

 

エレベーターが止まる。

木の床、木の柱。

そして、石垣の壁。

チェイテピラミッド姫路チフォージュ城の姫路城部分である。

 

「半分は、越えたかな」

「姫路城もさっさと踏破して、上を目指すぞ」

「またお宝、あるといいですね」

 

そんな訳で、姫路城探索スタート!

 

 

 

CPHC(チェイテピラミッド姫路チフォージュ)城探索(姫路城編 1/3)【1D10】

 

1 敵だ!

2 敵だ!

3 敵だ!

4 強敵だ!

5 休める小部屋を発見!

6 罠だ!

7 宝箱だ!

8 敵だ!

9 あっ……

10 宝物庫だ!

 

結果【4 強敵だ!】

 

 

 

石垣部分の探索をしていると、とある部屋を見つける。

襖を開けて、中に入る。

あ、ヤバい。

直感した。

 

部屋は16畳の大部屋である。

四方を漆喰の壁で覆われている。

俺たちが入ってきた襖が勝手に閉まる。

ここは殺し間だ。

目の前に立つ、烏羽の外套を身にまとう鉄仮面の剣士の。

剣士が右手に持つ刀を振るう。

その刀の名は千景。

持ち主を蝕む代わりに血の刃を纏わせる事の出来る妖刀の類だ。

左手には長銃。

一度に2発の弾丸を放つ銃。

彼の名はカインの流血鴉。

Bloodborne屈指の強狩人である。

かく言う俺もダース単位で頃された記憶ががが(トラウマ)

 

「……」

 

俺は戦輪を構える。

キャロルちゃんがエルフナインちゃんを下がらせる。

目の前に立つのは油断ならぬ強敵である。

全力で臨まねばならない……!

 

 

 

一鳴&キャロルVSカインの流血鴉【1D10】

 

一鳴【6】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

キャロル【10】+10(ダウルダヴラ補正)

 

カインの流血鴉【9】+20(古強者補正)

 

 

 

流血鴉が千景を鞘に納める。

そして、こちらに向かって居合斬り。

その刃は血を纏い、攻撃範囲が広がると共に猛毒を持つ。

俺はその攻撃をバックステップで回避。

現在、流血鴉は千景を両手で持ち銃を腰に仕舞っている。

遠距離攻撃が封じられている。

 

「キャロルちゃん、畳み掛けよう!」

「わかった! お前に合わせるッ!」

 

俺は戦輪を振るう。

流血鴉が高速移動で回避。

その移動地点に、キャロルちゃんがグラビトンエンド。

流血鴉を地に叩きつける。

俺は、その流血鴉に向かって、戦輪を叩きつける。

刃を高速回転させ、炎を放出!

流血鴉の肉体を削り焼く!

 

「───…………」

 

流血鴉は手足を力なく投げ出し、動かなくなる。

短時間での決着である。

流血鴉に時間を与えたら、高速移動+銃撃で削り殺される。

故に、流血鴉の真価が発揮される前にキャロルちゃんと連携殺した。

 

 

 

なんかドロップあるかな?【1D10】

(7以上である)

 

結果【9】

 

 

 

何がドロップしたかな?【1D10】

 

1 宝箱への地図

2 R相当のお宝

3 宝箱への地図

4 R相当のお宝

5 宝箱への地図

6 R相当のお宝

7 宝箱への地図

8 SR相当のお宝

9 宝箱への地図

10 宝物庫への地図

 

結果【1 宝箱への地図】

 

 

 

流血鴉の肉体が紅い粒子に変化して霧散していく。

流血鴉が完全に消滅するその直前、流血鴉の外套のポケットから、血で汚れた紙が落ちる。

キャロルちゃんがその紙を広い見る。

 

「ほう、これは地図か。……この地図の通りに行けば宝箱があるらしいな」

 

とのこと。

 

「行きましょう!」

 

エルフナインちゃんが力強い。

流血鴉の死体はもう消えていた。

襖は簡単に開いた。

 

「じゃ、行こっか」

「はい!!」

「……やれやれ」

 

宝箱に興味津々なエルフナインちゃんに、キャロルちゃんが若干呆れていた。

 

 

 

←To Be Continued

 

 

 





ピラミッドのボス、白い大蛇はSEKIROの白蛇です。
落ち谷の土地神ですね。
それがチワワ……もとい、狼に殺された後悪夢に囚われて最終的にピラミッドの主になりました。

本当はクレオパトラの影の胸から蛇を出して【ヤーナムの影】仕様にしようと思ったけど、エリちゃんをルドウイークとガッチャンコした途端お気に入りがゴッソリ減ったので日和りました(正直)

???「アイドルであるこのアタシを醜い竜、なんて表記するからよ!!」


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第九十三話 チェイテピラミッド姫路チフォージュ城④


東京を救ったので初投稿です(カオスルート感)
シヴァ様倒すためにレベリングとスキル選びをガチったら、ラスボスが楽勝になってしまった(震え声)
そんな訳で今はシンオウ地方にいます。
ナエトルと一緒にがんばるぞい!



 

 

 

CPHC(チェイテピラミッド姫路チフォージュ)城探索(姫路城編 2/3)【1D10】

 

1 宝箱だ!

2 宝箱だ!

3 宝箱だ!

4 罠だ!

5 宝箱だ!

6 宝箱だ!

7 宝箱だ!

8 宝箱だ!

9 罠だ!

10 豪華な宝箱だ!(SR以上確定ガチャ)

 

結果【3 宝箱だ!】

 

 

 

「宝箱! 宝箱です!!」

 

カインの流血鴉が遺した地図。

そこに書かれた小部屋に辿り着くと、箪笥や衣紋掛けなど様々な物品と共に宝箱があった。

この部屋は物置だろうか。

エルフナインちゃんは宝箱にはしゃぐ。

 

「早く開けましょう!」

「はいはい」

 

俺は苦笑しながら、宝箱を開ける。

 

「罠かもしれん、気を付けろ」

 

後ろからキャロルちゃんが注意する。

果たして中身は……。

 

 

 

宝箱の中身はなんじゃろな?【1D10】

 

1 R

2 R

3 R

4 ミミックだ!

5 R

6 R

7 SR

8 SR

9 ミミックだ!

10 SSR

 

結果【3 R】

 

 

 

宝箱の中身はオレンジ色のひし形エネルギー結晶体だ。

 

「シンフォギアの能力を上げられます……が」

 

エルフナインちゃんはしょんぼりしている。

まあ、さっきのホルスの目のメダルに比べたら、ねぇ?

 

「罠ではないだけマシだろう。行くぞ」

「待ってよキャロル!」

 

キャロルちゃんはスタスタと先を行く。

その後を追う俺とエルフナインちゃんであった。

 

 

 

CPHC(チェイテピラミッド姫路チフォージュ)城探索(姫路城編 3/3)【1D10】

 

1 敵だ!

2 敵だ!

3 敵だ!

4 強敵だ!

5 休める小部屋を発見!

6 罠だ!

7 宝箱だ!

8 敵だ!

9 あっ……

10 宝物庫だ!

 

結果【8 敵だ!】

 

 

 

「ヒーホー!」

「燃やすホー!」

 

姫路城の天守を目指す俺たちの前に妖精ジャックランタンが現れた。

 

「どうせならジャックフロストも連れてこい!」

 

俺は戦輪の刃を高速回転させ削り殺す。

ジャックランタンは炎を無力化するので、刃のみで攻撃だ。

 

「木造建築で炎は洒落にならんぞ!」

 

キャロルちゃんは凍らせて殺していく。

 

「ヒホホ……。レベル差がありすぎるホ」

「ここは燃えないし出られないホ。オイラたちも閉じ込められてるホ……」

 

なんてことを言いながらジャックランタンたちは消滅した。

 

「燃えないし出られない、か」

「この城は、獲物を捉えて逃さない罠なんでしょうか……」

 

と、キャロルちゃんとエルフナインちゃん。

なんだか厄い設定が出てきたな……。

 

「どの道上を目指すしかないか」

 

天守閣まであと少し。

俺たちは足を動かす。

 

「……ここだ」

 

姫路城最上階。

最後の部屋の襖の前に辿り着く。

キャロルちゃんが襖を開ける。

瞬間。

襖の先から光が溢れる。

 

「しまった! これは、転移の───」

 

と、キャロルちゃんの声が聞こえる。

しかし、最後までいい切る前に光が収まる。

目の前には広々とした空間。

木目の床に木の棚が壁代わりにずらりと並ぶ。

天井は高く、奥まで長い。

細長い部屋だ。

部屋の奥には大きな時計盤の裏側が見える。

そして、その時計盤の隙間から僅かな光が漏れている。

その光に照らされて、背もたれの高い椅子に座る影が見える。

尾羽根の着いた帽子、マントのような上着は貴族のように細かな刺繍が施されている。

下半身はズボンと、ロングブーツ。

そして、その手には日本刀。

柄の先端には、更に短刀が伸びている。

あれは。

落葉という銘の、獣狩の武器だ。

目の前に座る彼女は、時計塔のマリア。

Bloodborneでも屈指の強さを誇るボスである。

 

その狩人の影が、椅子から立ち上がる。

そして、落葉から短刀を引き剥がす。

ガキィン、と派手に金属音が鳴る。

右手に大太刀、左手に短刀を持ち此方に歩いてくる影。

 

「やる気だな、来るぞ!」

 

キャロルちゃんがそう言うと同時に、影が踏み込み斬り込んでくる!

 

 

 

一鳴&キャロルVS時計塔のマリア【1D10】

 

一鳴【4】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

キャロル【10】+10(ダウルダヴラ補正)

 

時計塔のマリア【8】+30(悪夢補正)

 

 

 

 

 

一鳴のスキル、【戦闘続行】発動!

ダイスロールもう一回な?

一鳴きゅん初戦で遊ぶの止めてくれ(震え声)

 

 

 

 

 

 

一鳴&キャロルVS時計塔のマリア(振り直し)【1D10】

 

一鳴【4】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

キャロル【1】+10(ダウルダヴラ補正)

 

時計塔のマリア【10】+30(悪夢補正)

 

 

 

影が二刀を振り下ろす。

俺はそれを戦輪で受け止めるが、攻撃が重く鋭い。

 

「グゥ……!」

 

思わずうめき声が漏れる。

攻撃の重さに身体が痺れる。

その隙を見逃す狩人ではなく。

さらなる攻撃を加える。

大太刀による突きである。

戦輪の守りを抜けて、俺の腹に突き刺さる。

死の予感。

俺はなんとか足を動かしてバックステップ。

しかし、完全に攻撃を躱しきった訳ではなく、攻撃の衝撃はモロに喰らう。

 

「グワーッ!」

「一鳴ッ!」

 

攻撃の衝撃で転がる俺を案じるキャロルちゃん。

俺にさらなる攻撃を加えようとする影に対して、キャロルちゃんがグラビトンエンド。

だが、影はグラビトンエンドを回避。

返す刀でキャロルちゃんに斬りかかる。

 

「させるか!」

 

キャロルちゃんがダウルダヴラの弦を影に絡ませようとする。

だが、影は弦を全て切り刻む。

そして、その勢いでキャロルちゃんに突き攻撃!

 

「ぐ……ッ!」

 

キャロルちゃんがこちらに転がってくる。

 

「キャロルちゃん!」

「安心しろ! ダウルダヴラの装甲を斬られただけだ! ……だが」

 

俺とキャロルちゃんは立ち上がり、影を睨む。

相手は完全に格上だ。

力も技も、研ぎ澄まされている。

達人。

弦十郎さんや、訃堂司令と同じと思わねばならない……。

俺とキャロルちゃんが構え直した、その時。

 

「キャロル! ボクがスキを作る!」

 

エルフナインちゃんが、後ろの方から駆け寄りながら叫ぶ。

 

「エルフナイン! 無茶だッ!」

「それでもッ! 見ているだけなんてイヤなんだ!」

 

キャロルちゃんにそう言いながらエルフナインちゃんが懐から何かを取り出し、影に向かって投げる。

 

それは複雑な文様の刻まれた小石のようなものだ。

その小石が、影の足元に投げつけられる。

その瞬間、小石の落下地点から影の足に向かって有刺鉄線が伸びて絡みつく。

錬金術で作られた動きを封じる罠だ!

 

「一鳴ッ!」

「了解ッ!」

 

キャロルちゃんが叫ぶ。

俺はその意を読み取った。

ここで、影を仕留める。

そうしなければ、影はエルフナインちゃんも攻撃対象に加えるだろう。

達人級の強さを持った狩人に狙われるエルフナインちゃんを守るのは厳しい。

故に、ここで倒すのだ。

俺は戦輪を振りかざして影に吶喊する。

キャロルちゃんも影に向かって4属性によるビームを放つ。

 

「うおおおおおッ!!」

「終わりだッッ!!」

 

 

 

一鳴&キャロルVS時計塔のマリア(泣きのリベンジ)【1D10】

 

一鳴【6】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

キャロル【10】+10(ダウルダヴラ補正)

 

時計塔のマリア【5】+30(悪夢補正)−5(エルフナインの罠)

 

 

 

有刺鉄線に足を取られて動けない影は、俺の戦輪を躱す事は出来ず、その両手の刀で受け止める。

戦輪の刃が高速回転し、火花が散る。

俺はそのまま相手の弾き飛ばそうとする力を利用して、戦輪を持ったまま跳躍。

脚部装甲から火を吹かし、天井近くまで跳ぶ。

その合間を縫うように、キャロルちゃんの4属性ビームが影に当たる。

俺の攻撃に集中してた影はビームをまともに喰らう。

両腕が飛ぶ。

刀を持った影の腕がビームによって撃ち抜かれる。

 

「一鳴ッ、トドメを刺せッ!」

 

キャロルちゃんのビームが止む。

俺は影に向かって垂直落下。

そのまま、戦輪を叩きつける。

戦輪に叩き潰された影は、そのまま霧散していく。

戦いは終わった。

俺は戦輪を背中にしまう。

あたりの景色が歪む。

 

「お」

「……戻ったか」

 

気がつけば、あたりは姫路城に戻っていた。

目の前には襖の開かれて、内装が見える小部屋。

中は殺風景で、小さな神社というか祠のみがあった。

3人で、小部屋の中に入る。

襖が閉まる。

そのまま振動し、小部屋が轟音と共に上に昇っていく。

 

「これがエレベーターか」

「凝った造りだなぁ」

 

そんな訳で、姫路城攻略完了。

最後の層である、チフォージュシャトーに向かう。

 

「エルフナイン、さっきは助かった」

 

そうエルフナインちゃんに言うキャロルちゃん。

 

「だが、ああいう事は危ないから止めろ」

「でもッ! 二人が危ない所で戦ってるのに何も出来ないのはイヤだよ……」

 

エルフナインちゃんはうつむき、服の裾を握る。

俺はそんなエルフナインちゃんの頭をそっと撫でる。

 

「エルフナインちゃん、俺も同じ気持ちよ」

「一鳴さん……?」

「助けてくれてありがとう。それでも、危ない事は極力しないでほしいかな」

「でもッ!」

「うん。わかる。俺たちのために頑張ったんだもんねぇ」

 

なでりなでり。

頭を撫でてエルフナインちゃんを落ち着かせる。

 

「だからさ、普段は隠れてて。それで、また俺たちがピンチになったら助けてほしいかな」

「おい、一鳴ッ」

 

咎めるキャロルちゃん。

俺はそんなキャロルちゃんに説明した。

 

「だって、何もするなって言っても、またピンチになったらエルフナインちゃんは動くんじゃない」

「……だろうな」

「なら、初めから動く事を想定してたら良いじゃん」

「…………………………そうだな」

 

長い沈黙の後、キャロルちゃんはそう言った。

そんな訳で。

俺たちがピンチになったら、エルフナインちゃんが助けてくれる事になった。

 

 

 

 

 

 

ガコン。

ひときわ大きな振動の後、小部屋の襖が開く。

 

「着いたな」

 

キャロルちゃんに続いて小部屋の外に出る。

外は、石造りの広い廊下だ。

どこか神殿を思わせる内装。

 

「キャロル……」

「ああ、間違いなく、チフォージュシャトーだが」

「構造が変わってる……」

 

つまり。

ここも、迷路のようになっていると言う事であった。

 

 

 

CPHC(チェイテピラミッド姫路チフォージュ)城探索(チフォージュシャトー編 1/3)【1D10】

 

1 敵だ!

2 敵だ!

3 敵だ!

4 強敵だ!

5 休める小部屋を発見!

6 罠だ!

7 宝箱だ!

8 敵だ!

9 あっ……

10 宝物庫だ!

 

結果【3 敵だ!】

 

 

 

チフォージュシャトーを探索する俺たち。

その俺たちの前に敵が立ちふさがる。

 

「なるほどな」

 

そう言いながら、キャロルちゃんが火の玉で敵をふっ飛ばす。

現れた敵は、頭のない自動人形であった。

 

「頭もないのに動くのかよッ!」

 

俺はそう叫びながら首無し自動人形を戦輪で焼き刻む。

 

「そんな機能は付けていないッ!」

 

キャロルちゃんが叫びながら錬金術ビームで自動人形たちを薙ぎ払う。

一気に薙ぎ払われた自動人形たち。

動かなくなった。

 

「この人形たちは、操られているのだろう」

 

キャロルちゃんはそう言った。

 

「操られている……」

「このチフォージュシャトーに我が物顔で居着く、黒幕にな」

 

そう言ってキャロルちゃんは上を見る。

チフォージュシャトー上層。

悪夢の主がいるであろう、階層を……。

 

「……行くぞ」

 

キャロルちゃんはそう言って歩を進める。

俺とエルフナインちゃんはその後を追った。

 

 





一鳴きゅんのダイス運がカスすぎる(悲哀)
まあ、このイベント終わったらパワーアップするし、ええか(震え声)



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第九十四話 チェイテピラミッド姫路チフォージュ城⑤



筆が乗ったので初投稿です。
夜になると筆がスイスイッて進むのよね。
なお睡眠時間。

ポケモンもやらないといけないし、時間がもっと欲しい!



 

 

 

チェイテピラミッド姫路チフォージュ城の、最後のチフォージュシャトー部分を踏破していく俺達。

客室めいてベッドやソファのある部屋を見つけたので、小休止を取ることになった。

 

「さすがにちょっと疲れましたね……」

「おい、伸し掛かるな」

 

ソファに二人座って並ぶエルフナインちゃんとキャロルちゃん。

エルフナインちゃんはキャロルちゃんの肩に頭を預けている。

キャロルちゃんは口では嫌がるが、エルフナインちゃんを無理矢理どかそうとはしなかった。

 

「ここに飛ばされて、どれだけ経ったかな」

「2、3時間ほどか……?」

「ボクたちも意識不明という事になってるんですかね……」

 

悪夢に飛ばされた者は意識不明という事になっている。

つまり、意識だけが飛ばされているという事か。

……あれ、じゃあなんで俺やキャロルちゃんはシンフォギアやファウストローブを纏えるのか。

いや、でも、狩人様も悪夢の世界で手に入れた武器やら装備をヤーナムに持ち込んでるしな。

そういうもの、かしら。

 

「どうした一鳴?」

「いえ。そもそもこの悪夢ってどうして生まれたのかなって」

 

Bloodborneの悪夢、というステージ。

これは上位者というなんかスゴイ軟体動物たちが作り上げた異世界である。

 

『Ooh,Majestic!』でお馴染みの、細長い檻を被ったおじさんミコラーシュやら、曲剣シャンシャン振り回すメルゴーの乳母がいるメンシスの悪夢。

 

そして、この場所の元になった狩人の悪夢は上位者ゴースの赤子が作り上げたもの。

現地住民の頭蓋骨に穴をあけるなどの冒涜的殺戮を繰り返してきたエインズワースの医療者、その末裔である狩人を囚えて苦しめるための、まさに悪夢だ。

これらの悪夢は、物理的な世界ではなく精神的な世界というか、意識を飛ばして到達するのだ。

 

さて問題。

悪夢は上位者が作った異世界だが、この異世界は誰が作ったのか。

狩人の悪夢に似てるから、上位者ゴースか?

でもあの世界、狩人様は『HUNTED NIGHTMARE』して消滅させてなかった?

というかなんでチェイテピラミッド姫路城が混じっているのか。

更に言えばなんでチフォージュシャトーが乗っかってるのか。

なんもわからん……。

 

「城下町で男の人が言ってましたよね、ここは蕩けた瞳の持ち主が見た悪夢だって」

「うん、そうだね」

 

エルフナインちゃんの返答に頷く。

城下町で出会った第一村人の男は色々言っていた。

ここは、蕩けた瞳の持ち主が見た悪夢の世界だと。

 

「いや、少し違う」

「キャロル?」

「瞳の持ち主が()()()世界、だ」

 

キャロルちゃんはそう言い、更に続けた。

 

「見た、ではなく堕ちた。瞳の持ち主はこの悪夢に引きずり込まれたんだ。そして、帰らぬ人となり、その肉体は悪夢の撒き餌となった」

 

そう聞くと、最初に悪夢を見てこの悪夢に堕ちた人は、まだこの悪夢を生きているような気がする。

肉体が朽ちても、精神だけならこの世界で生きられるから。

何年経とうとも。何年経とうとも。

 

「だけど、この悪夢は今は変容してるんだよね」

 

と、エルフナインちゃん。

 

「ああ、このイカれた城だな」

「チェイテピラミッド姫路チフォージュ城」

「その狂った名称は止めろ!!」

 

キャロルちゃんはチェイテピラミッド姫路チフォージュ城のイメージを追い出すように頭を振った。

 

「とにかく! この城は元々はこんな形じゃ無かったらしい」

「夢だから、割と変わりやすいのかしら」

「かもしれん。この悪夢は形を変える、と言っていたからな」

「元々は血が滴っていたし、城はちゃんとした形だったらしいし」

「……まっとうな悪夢だったということか」

「まるでこのチェイテピラミッド姫路チフォージュ城が悪夢ではないかのような」

「種類が違う!! この城の造形は風邪のときに見る夢だッ!!」

 

キャロルちゃんはチェイテピラミッド姫路チフォージュ城がお気に召さないみたいだった。

 

「ぼ、ボクは結構好きですよ。こう、ジェンガみたいで!」

 

エルフナインちゃんによる精一杯のフォローであった。

 

「……この城の頂上に待つのはなんだろうな」

 

キャロルちゃんが上を見て言う。

 

「なにか心当たりはないの? それっぽい聖遺物をチフォージュシャトーに保管していたとか」

「ボクには思い当たるものはありません。それに、そんなものがあったらレイレナード資本のパーフェクトソルジャー部隊が回収してるでしょうし、姫路城に乗っかってるのがレイレナード本社ビルになっちゃうのでは?」

「そっかぁ」

 

現世のチフォージュシャトーはギリシャのどこかに墜落しているらしい。

ゼウスのケラヴノスを食らって墜落、キャロルちゃんとエルフナインちゃんは最低限の聖遺物とミカちゃんを連れて脱出してるのよね。

……この城、ケラヴノスを受けた傷とか破損とか無かったような。

 

「…………キャロル?」

 

エルフナインちゃんがキャロルちゃんに声をかける。

顎に手を当て、冷や汗を流している。

……心当たりありそう。

 

「……今から40年ほど前か」

 

キャロルちゃんが口を開いた。

 

「世の中がノストラダムスの大予言に湧いていたから、1999年頃だな。オレは、大英博物館からとある聖遺物を買い取った」

「大英博物館!?」

「ボクその話知らないよ!?」

「ああ、パヴァリアの口利きでな。そしてこれは、ホムンクルスには継承していない記憶だ。正直思い出したくもないがな」

 

それだけ、嫌な記憶しかない聖遺物ということか。

 

「それは、イギリスのある廃村で見つかったものだ。あるカルト教団に纏わる手帳が見つかり、そこに住所が書かれていた。冒涜的殺戮の記録と共に。

調査団が派遣され、隠蔽された廃村と生きたまま解体されたような村人の死体と共にそれを見つけた」

「その聖遺物って……?」

「ソレは軟体動物のように見えた。廃村は元々漁村で、村民はソレを神として崇めていたらしい。そしてカルト教団がソレに目をつけて色々と実験した」

「実験って何?」

「さあな。ただ、不老不死やら人の進化につながるとか」

 

カルト教団。冒涜的殺戮。異常な死体。軟体動物のような神。そして、不老不死。人の進化。

嫌な予感しかしない……。

 

「ソレは死んでいたが、地球上のありとあらゆる生物のDNAとは合致しない、奇妙な死骸だった。

そして、その死骸はついさっき死んだかのように腐敗一つ無かった。……少なくとも、死骸が発見されて200年以上経っているというのに。

 

さらに廃村で見つかった村人の死体のDNAが、この死骸に近くなっているのがわかった。大英博物館の聖遺物研究部門は、この軟体動物の体細胞が地球産の生物のDNAを書き換えて、軟体動物に近付ける力を持っているのではと考えた。

そして、匙を投げた」

「投げたの!?」

 

大英博物館の聖遺物研究部門、駄目じゃん!

 

「マトモな人間には訳がわからないしこの死骸を研究するために理性や常識を捨てたくない。当時の研究者はそう言い切った。そして、この忌むべき死骸をオレは二束三文で買い叩き、シャトーに持ち帰った」

「そんな厄いモノを……」

「当時のオレは研究が行き詰まっててな。現状を打破するためになんにでも手を出していた。

そして後悔した」

「後悔したんだ……」

「その軟体動物の体細胞には他者のDNAを書き換える力がある。そして、軟体動物の死骸は腐らず新鮮だった。つまり、永遠の若さを保持するなんらかのエネルギーを発生させていると考えた」

「うん」

「だからな、適当なホムンクルスを作って、ソイツの体細胞を足した」

「……それで、どうなったの」

「…………、子どもの肉体だったホムンクルスが、急激に成長、老化し、暴走した」

 

子どもが、老化。暴走。

老いたる赤子。

上位者の遺児。

 

「その身体能力はホムンクルスの性能を遥かに凌駕していた。……俺が半殺しにされるぐらいにな」

「大丈夫だったのキャロル!?」

「ああ。なんとか始末はした。あのホムンクルス、ずっと俺の脳内にハッキングし続けてきた上に、なにかのイメージを送信し続けた。人が理解してはいけない、なんらかの知識を……」

「だから記憶を継承しなかったんだね」

「その軟体動物、結局どうしたの?」

「シャトーの中に扉も窓もつけなかった出入り不能の部屋を作ってそこに放り込んだ。たっぷりコンクリートを塗り込めてな」

 

徹底的に封じたらしい。

そのおぞましき軟体動物の死骸を。

 

「その軟体動物、名前はないの?」

 

キャロルちゃんはその名前を口にした。

もっとも聞きたくなかったその名前を。

 

「ゴース、あるいはゴスムと呼ばれていたらしい。人の顔をした、ダイオウイカみたいな死骸だった」

 

 

 

CPHC(チェイテピラミッド姫路チフォージュ)城探索(チフォージュシャトー編 2/3)【1D10】

 

1 敵だ!

2 敵だ!

3 敵だ!

4 強敵だ!

5 休める小部屋を発見!

6 罠だ!

7 宝箱だ!

8 敵だ!

9 あっ……

10 宝物庫だ!

 

結果【9 あっ……】

 

 

 

客室で休憩をして、探索を続行した俺たち。

迷宮めいて入り組んだチフォージュシャトーの内部を練り歩く。

 

「……ん?」

 

と、とある部屋の前で止まるキャロルちゃん。

 

「どうしたの?」

「いや、この部屋からなにか声が聞こえた気がしてな」

 

その部屋は木の扉で隔てられている。

先程の小部屋も同じような扉だった。

 

「……入ってみる?」

「そうだな。敵が潜んでて、背後から襲われる危険性もあるし」

 

そんな訳で、その部屋に入ることにした。

先頭は俺。

殿はキャロルちゃん。

間にエルフナインちゃんを挟んで前後からの攻撃から守る陣形である。

 

「デトろ! 開けろイト市警だ!」

 

なんて言いながら部屋に突入。

部屋の中は、先程と変わらない大きさの小部屋。

部屋の中はベッドが専有している。その横には小箪笥がある。

……誰かが隠れるスペースは無さそう。

 

「誰かいますか?」

「いや、誰も……」

 

エルフナインちゃんに聞かれそう答える。

ジワリジワリと部屋に入りながら、辺りを探る。

やはり、誰も居ない。

 

「キャロルちゃん、誰も居ないけど」

「そうか……。オレの気の所為だったか」

 

すまん、そう謝りながら振り返って扉を開けようとするキャロルちゃん。

だが……。

 

「開かない」

「……え゛」

 

扉が開かないらしかった。

つまり、それって……。

 

「罠にはめられた……ってコト?」

「だな……」

 

俺たちは閉じ込められたらしい。

ピンチじゃん!

 

「あ、ここ! 二人ともここ見てください! なにか書いてますよ!!」

 

と、扉を指差すエルフナインちゃん。

そこには───

 

 

 

扉に書かれていた言葉【1D10】

 

1 チューしないと出れない部屋

2 チューしないと出れない部屋

3 チューしないと出れない部屋

4 異性同士でチューしないと出れない部屋

5 チューしないと出れない部屋

6 チューしないと出れない部屋

7 チューしないと出れない部屋

8 チューしないと出れない部屋

9 異性同士でチューしないと出れない部屋

10 セッ! しないと出れない部屋

 

結果【10 セッ! しないと出れない部屋】

 

 

 

「えっと、セックスしないと出れない部屋って───」

 

エルフナインちゃんは言葉をすべて言い終わる事が出来なかった。

いつの間にか大人モードになったキャロルちゃんが殲琴・ダウルダヴラを歌い出したからだ。

 

「二人とも離れろッ! 70億の絶唱すら凌駕するオレの歌でこじ開けてやるッ!!」

 

俺はエルフナインちゃんを連れて部屋の奥、ベッドの上に逃げる。

というか、やっとわかった。

この部屋内装がラブホみたいなんだわ。

大きなベッドと、その横の小箪笥。

俺は小箪笥の引き出しを開けた。

中にはコンドームや大人のオモチャ、あとペペローション。

俺はそっと引き出しを戻した。

エルフナインちゃんが不思議そうな顔をしていた。

 

そんな事をやってる間にキャロルちゃんが扉に稲妻を伴う黄金色の竜巻を打ち込んでいた。

余波からエルフナインちゃんを守るため壁になる。

いや、余波がすごい!

小部屋で撃っていい技じゃないぞコレ!!

 

「ルルリラーッ!!!!!」

 

更に竜巻!!

余波!!

 

「うわーッ!」

 

エルフナインちゃんの悲鳴!

余波が収まる。

キャロルちゃんの背中が見える。

その更に後ろ、部屋の扉があった場所は……。

 

 

 

キャロルVSセックスしないと出れない部屋【1D10】

 

キャロル【8】+10(ダウルダヴラ補正)+70(殲琴・ダウルダヴラ歌唱補正)+20(乙女の意地)

 

セックスしないと出れない部屋【10】+100(みんなの期待値)

 

 

 

扉は、無傷だった。

キャロルちゃんは膝から崩れ落ちた。

 

「キャロルーッ!」

 

エルフナインちゃんが駆け寄る。

 

「エルフナイン……」

「キャロル、大丈夫?」

「大丈夫じゃない。……割と」

「キャロル……」

 

キャロルちゃんがしんなりしていた。

そら、セックスしないと出れない部屋に閉じ込められたら、ねぇ。

 

「ほ、他の方法を探そうよ!」

「エルフナイン?」

「セックスしなくても出れるかもしれないよ!」

 

エルフナインちゃんの言葉に俺は肯定した。

 

「まあ、こんな悪夢だしね。壁抜けバグとかあるかもしれん」

「そうだよキャロル! 諦めたら駄目だよ!」

「あぁ、そうだな」

 

キャロルちゃんが立ち上がる。

なんとか立ち直ったみたいだ。

そんな訳で。

この部屋から出る方法を探すことにした俺たちであった。

 

 

 

結果【1D10】

 

1 現実は非情である

2 現実は非情である

3 現実は非情である

4 現実は非情である

5 イザーク「不純異性交遊は認めんぞ」

6 イザーク「不純異性交遊は認めんぞ」

7 イザーク「不純異性交遊は認めんぞ」

8 イザーク「不純異性交遊は認めんぞ」

9 現実は非情である

10 3人ともなんかムラムラしてきた!

 

結果【6 イザーク「不純異性交遊は認めんぞ」】

 

 

 

部屋から出る方法は無かった。

ベッドの下も、天井も探したが抜け道は無かった。

気合い入れて部屋の隅に突撃してみたが、壁抜けバグは発生しなかった。

俺たちは閉じ込められた、セックスしないと出れない部屋に。

 

「……」

「……」

「……」

 

沈黙。

さっきから、沈黙が小部屋を支配していた。

 

「………………エルフナイン」

 

意を決したように、キャロルちゃんが口を開く。

 

「後ろを向いて、耳を塞いでいろ」

「キャロル……!」

「一鳴、手早く5分で済ませろ。いいな」

 

キャロルちゃんは覚悟を決めたらしい。

握られてた手が小刻みに震えているのが、痛ましい。

 

「キャロルちゃん……」

「一鳴も服を脱げ。エルフナインは早く後ろを向け!」

「俺、遅漏気味だから20分は欲しい」

「5 分 で 済 ま せ ろ!!!!!」

 

キャロルちゃんはキレた。

俺のジョークはお気に召さなかったらしい。

……気が立つのも当たり前かぁ。

キャロルちゃん、たぶん、そういう経験無いだろうしなぁ。

 

「キャロル……」

 

エルフナインちゃんは泣きそうだ。

キャロルちゃんはダウルダヴラを解除し、服を脱ごうとする。

 

その時である。

 

(((キャロル、エルフナイン、絶望するのはまだ早いよ)))

 

部屋に響く男性の声!

その声に反応したキャロルちゃんとエルフナインちゃん!

 

「「パパ!?」」

 

なんと声の正体はイザークパパだった。

 

(((扉は開けておいたよ)))

 

イザークパパのその言葉を聞き、扉を見る。

ギィ、と扉が開いていく所であった。

 

(((少し因果を弄ったよ、錬金術で)))

「錬金術スゲー!」

 

錬金術というか、イザークパパが凄いというか。

というかイザークパパはどうやって出てきたのよ。

 

(((娘の貞操の危機に父親が出るのは当然だからね)))

 

つまりはそういう事であった。

 

(((二人とも、不純異性交遊は駄目だからね……駄目だからね(念押し)……)))

 

その言葉と共に、イザークパパの声は聞こえなくなった。

 

「……パパ」

「……グスッ」

 

二人とも涙ぐんでいた。

親子の愛が奇跡を起こしたのだ。

 

「ヒック……、先を急ぐぞ」

 

と、涙を拭きながらキャロルちゃん。

いつの間にやら、子どもモードに戻っていた。

省エネ!

 

「また扉が閉まったらかなわんからな」

「そうだね、行こう!」

 

二人で手を繋いで部屋の外に飛び出していく。

俺はその後をそっと、着いていった。

 

(((……娘に生半可な気持ちで手を出したら■すからね)))

 

脳内にイザークパパの声が響いた。

 

(ハイヨロコンデー)

(((よろしい、その言葉を忘れないでね)))

 

イザークパパの声は消えた。

 

「一鳴、先を急ぐぞ!」

「一鳴さん、はやくはやく!」

 

先を行く二人が俺を呼ぶ。

俺は頭を振って、小走りで二人の元に向かった。

 

 

 

 

 

 

部屋を出たときのキャロルの内心【1D10】

 

1 ホッと一安心

2 ホッと一安心

3 ホッと一安心

4 ちょっと残念

5 ちょっと残念

6 ちょっと残念

7 割と残念

8 割と残念

9 割と残念

10 ムラムラが収まらない

 

結果【8】

 

 

 

部屋を出たときのエルフナインの内心【1D10】

 

1 ホッと一安心

2 ホッと一安心

3 ホッと一安心

4 ホッと一安心

5 ホッと一安心

6 ホッと一安心

7 ホッと一安心

8 ホッと一安心

9 ホッと一安心

10 下腹部が疼く

 

結果【9】

 

 

 

(パパが助けてくれて本当に良かった。そうじゃなければ、あんな所で雑にロストバージンする所だった。どうせなら、もっとオシャレな部屋でゆったりとした時間を共に過ごしてそこで……ッ、いや、オレは今、一体なにを考えたッ!?

アイツはオレの弟子で、ハーレム大王だぞッ! 見てくれは良いし気も合うが、だからといって! 気をしっかりもてオレ! エルフナインもいるんだぞッ!!)

 

(パパが助けてくれて本当に良かった。そうじゃなかったら、あんな所でキャロルと一鳴さんがセックスする所だった。ここは敵の本拠地で、誰かに覗き見される危険性もあったし。それに、キャロルには幸せになってほしいから……。

でも、いっその事一鳴さんにキャロルを貰ってもらおうかな。恋人がいっぱいってことは、女の人の扱いに慣れてるだろうし。

でもキャロルがなんて言うかなぁ。キャロルは素直じゃないから、色々言い訳しそうだなぁ。)

 

(イザークパパこわぁい。マリアさん助けてぇ)

 

 






(((この作品を見てる皆は、キャロルとエルフナインの無事を祈っていたよね? もし祈ってなかったら錬金術だよ?)))


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第九十五話 チェイテピラミッド姫路チフォージュ城⑥


調ちゃんのナイトドレス姿がエッチなので初投稿です。
エチエチですわ(お嬢様感)
毎夜これですわ(お嬢様感)
右手が止まりませんわ(お嬢様感)

あ、チェイテピラミッド姫路チフォージュ城編は今回で終わりですわ(お嬢様感)




 

 

 

CPHC(チェイテピラミッド姫路チフォージュ)城探索(チフォージュシャトー編 3/3)【1D10】

 

1 敵だ!

2 敵だ!

3 敵だ!

4 強敵だ!

5 休める小部屋を発見!

6 罠だ!

7 宝箱だ!

8 敵だ!

9 あっ……

10 宝物庫だ!

 

結果【4 強敵だ!】

 

 

 

セックスしないと出れない部屋を脱出した俺たちはチフォージュシャトーの内部を、上を目指して歩く。

途中、小部屋を見つけても決して中に入らず外から様子を窺いながら探索する。

うん、セックスしないと出れない部屋がね、もうね、インパクト強すぎて忘れられないのよ。

 

「一鳴、オレはシャトーにあんな低俗な部屋は作っていないからな。あれはこの世界に突如として生えてきた部屋だ。わかったな? ……わかったな?」

 

と、さっきからやたらと念押ししてくるキャロルちゃんである。

まあ、あんな部屋を作ったと勘違いされるのもイヤだろうしねぇ。

設計者のプレラーティ? まあ、設計段階で密かに仕込んでた可能性は、うん……(震え声)

 

とにもかくにも。

俺たちはチフォージュシャトー内を昇っていく。

その途中。

終わりも近づいて来た頃。

シャトーの廊下から大広間にたどり着いた。

 

「これは……」

「まるで聖堂のようだな」

 

エルフナインちゃんとキャロルちゃんがそう大広間を言い表す。

確かにこの大広間は聖堂の中のようだ。

右側からは窓ガラスがズラッと並び、外の赤い月の光が差し込まれる。

左側は石造りの壁に、蝋燭が等間隔で立て掛けられている。

そして、大広間の一番奥。

祭壇がある。

俺たちはその祭壇の前で足を止める。

祭壇には、巨大な獣が横たわっていた。

肉体が燃える、鹿のような角の生えた獣。

うーん、どこからどう見ても初代教区長ローレンス。

 

「引き返す?」

 

と、俺は二人に聞く。

だってローレンス強敵なんだもん。

俺いっつも連盟の長とタッグを組んで戦ってたしね。

 

「いや、どうも道はこの祭壇の裏にありそうだ」

 

キャロルちゃんがそう言う。

 

「それに、お目覚めのようだぞ」

 

キャロルちゃんがエルフナインちゃんを下がらせる。

獣が、頭を手で押さえながら祭壇から立ち上がる。

左腕の肥大化した、二足歩行の獣。

右腕で頭を押さえながら、左腕をこちらに伸ばしてくる。

俺たちお前の頭蓋骨持っとらんぞ!

 

「来るぞ!」

「ええい、やってやる!!」

 

 

 

一鳴&キャロルVSローレンス【1D10】

 

一鳴【1】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

キャロル【5】+10(ダウルダヴラ補正)

 

ローレンス【1】+25(悪夢補正)

 

 

 

ローレンスの燃え盛る左腕が俺たちを狙い叩きつけられる。

炎が飛び散るが、俺のシンフォギアであるスダルシャナは太陽の戦輪のエネルギーを固着化させている。

つまり炎は効かないワケダ。

そんな訳で頭を攻撃攻撃!

 

「■■■■■■!」

 

咆哮を上げて、頭を下げぐったり怯む。

そのスキを逃さず、ローレンスの頭に手刀を突っ込む。

頭蓋骨が無く、ブヨブヨとした皮膚と肉の感触を通り抜けて、脳まで貫通。

そして、指を曲げて脳を掴むと一気に引き抜いた。

ヤーナムの狩人に伝わる非人道暗黒カラテ、内蔵攻撃だ!!

 

「イヤーッ!」

「■■■……!!」

 

脳の一部を引き抜かれて、頭から血を吹き出しながら咆哮を上げるローレンス。

 

「一鳴、下がれ!!」

 

キャロルちゃんの声!

俺は即座にローレンスから離れる。

キャロルちゃんがその直後にグラビトンエンド発射!

高重力を伴う暗黒の球体が、ローレンスの下半身に直撃。

ローレンスの腰から下の肉体が弾け飛ぶ。

地に倒れ伏すローレンス。

 

「やったか!」

 

と、フラグ満載の言葉を言うキャロルちゃん。

むしろローレンスはここからが本番なのよね。

 

「■■■■■」

 

ローレンスが咆哮を上げる。

上半身だけになってなお生きている。

むしろ、生存本能が刺激されて、手強くなるのがここからよ。

ローレンスは両腕をバタフライめいて動かしながら移動。

半身の切断面からはマグマのような熱い血潮が流れ出る。

てかローレンスこっちに来てるな!

 

「グワーッ!」

 

ローレンスのジタバタした腕の動きに巻き込まれる俺。

べチーンべチーンと攻撃をまともに喰らう。

 

「一鳴ッ!」

「グワーッ! 助けてキャロルちゃん! グワーッ!!」

 

手足を曲げ、身を護る。

が、ローレンスはさらに激しくべチーンべチーンと腕を振るう。

待ってゲームじゃここまで連続して攻撃してこないぞ。

あれか、内蔵攻撃の恨みか?

だから俺をロックしてるのか?

 

「一鳴、今助けるッ!!」

 

キャロルちゃんが、セックスしないと出れない部屋を破壊しようとした時に使った黄金の竜巻をローレンスに発射。

稲妻を伴う竜巻は見事にローレンスの背中に当たる。

そして、ミキサーめいた回転運動がローレンスの背中を削り、胴体貫通!

熱い血潮が内臓と共に溢れる。

 

「■■■……」

 

呻きながら、倒れるローレンス。

頭が俺の目の前にあり、荒く息を吐く。

もう、どうするかわかるね?

 

「イヤーッ!」

 

非人道暗黒カラテ技、内臓攻撃でローレンスの頭にダイレクトアタック。

残った脳みそを引き抜きトドメを指した。

 

「いや、脳みそ引き抜かなくてもその内死んでたと思うが……」

 

キャロルちゃんがドン引きしながら言った。

でも、アイツびたんびたんずっと攻撃してきたもん!

 

「怪我はありませんか!?」

 

エルフナインちゃんが駆け寄る。

俺がびたんびたんされてたから、心配してくれてたみたい。

 

「主に全身が痛いけど大丈夫よ」

「それって結構重傷なのでは!?」

「……少し、休んでいこう」

 

そういう事になった。

 

 

 

探索はもう終わりだし、なんかドロップさせるわね【1D10】

 

1 R

2 R

3 R

4 R

5 R

6 SR

7 SR

8 SR

9 SSR

10 熱烈歓迎

 

結果【7 SR】

 

 

 

壁際で、3人座って休む。

すぐ近くでローレンスの死体は燃え盛っているが、その内灰となって消えていく。

その灰の中でなにかがキラリと光って見えた。

 

「なんでしょうか……?」

「いいモノがドロップした?」

「またエネルギー結晶かなにかだろう」

 

3人でそんなことを言いながら見に行く。

灰の中から出てきたのは、丸い金のペンダント。

それは、Bloodborneを代表する警句の象徴だ。

 

『我ら血によって人となり、人を超え、また人を失う。知らぬものよ、かねて血を恐れたまえ』

 

Bloodborneの舞台である街、ヤーナムの人々は上位者と呼ばれる生物の血を体内に取り入れている。

民衆は酔う為に、秘密を知るものは上位者に至るために。

だが、上位者の血を取り入れすぎると人々は獣と変わる。

それは獣の病と呼ばれており、狩人は獣の病の罹患者を狩るのが習わしである。

かねて血を恐れたまえとは、そう言う意味である。

だがローレンスは血を利用して上位者に至ろうとして、結局獣の病に罹患してしまった。

警句を忘れた結果であろう。

 

とまあ、そんな事は置いておいて。

 

「このペンダント、由来は不明ですが力を感じます。シンフォギアに組み込めばパワーアップ出来ます!」

「いっぱい強化できるねぇ!」

 

エネルギー結晶体が2つ。

ホルスの目のメダルに、今回の金のペンダント。

俺のシンフォギアがつよつよになるねぇ!!

 

「シンフォギアを強くするためにも、この悪夢から脱出しなければな」

 

小躍りする俺とエルフナインちゃんを見て、苦笑しながらキャロルちゃんはそう言った。

 

 

 

 

 

 

ローレンスのいた祭壇の脇を通り、その奥に続く廊下を歩く。

真っ直ぐに伸びる廊下を10分ほど歩くと、行き止まりである。

目の前には、石で出来た扉。

その扉がゆっくりと開かれていく。

 

「いよいよお出ましだな」

「誰が相手でもボコボコよ!」

「ボクも、いざという時にはがんばります!!」

 

3人でそう励まし合う。

長い悪夢、チェイテピラミッド姫路チフォージュ城探索ももう終わりである。

色々あったけど、セックスしないと出れない部屋に全部持ってかれたゾ……。

 

扉が開かれる。

扉の向こうには、海があった。

ざざんざざんと波の打ち寄せる入江だ。

 

「……は?」

「あー……」

「え、え?」

 

二人が驚くが、俺はなんとなくは覚悟していた。

このチェピ城は外観だけはチェピ城+チフォージュシャトーである。

だが、その中身はほとんどBloodborneのDLCである狩人の悪夢だ。

そして、その狩人の悪夢のラスボスは。

上位者ゴースの老いたる赤子。

チフォージュシャトーには、大英博物館から買い取った上位者ゴースの死骸があったという。

全てがゴースに集約される。

つまりここは、ゴースの見る夢なのだろう。

 

その証拠に、入江の波打ち際。

砂利の上に横たわる、白い神。

白い肉体はブヨブヨとして軟体動物のようである。

下半身や背中にはヒレがあるが、上半身は人の腕が生えている。

そして、頭部には女性の顔のようなものと髪のような触手。

だが、その異形は動かない。

ただ波に身体を洗われている。

その上位者は夢の中で尚、死んでいた。

 

「やはりあの死骸がこの悪夢を作ったのか」

「あれが、ゴース……」

 

キャロルちゃんの言葉に声を震わせるエルフナイン。

ゴースの死骸は、死してなおこちらの脳を震わせるような何かを発していた。

あれは、人にとっては毒だな……。

 

「む~ん……」

 

3人でその上位者を観察していると、背後からうめき声が聞こえた。

俺達の後ろから現れたのは、チェイテ城下町であった男である。

碌に風呂に入っていないのか、黒くなった身体。

ボロとなった服を纏い、髪は白く伸び放題。

眼窩は落ち窪んでいる。

そして、その眼は瞳孔が崩れて蕩けている。

 

「良くやったぞ貴公ら」

「着いてきていたのか……!」

 

ズリズリと這いながら入江に入ってくる男。

 

「ああ。貴公らなら、この城の守護者を倒してくれると思ったからな」

「オレたちを利用したという訳か」

 

キャロルちゃんは額に青筋を浮かべた。

 

「あなたもここから出たいなら、一緒に来れば良かったのに」

 

エルフナインちゃんはそう言うが、男は這いずりながらこう言った。

 

「いや、私は出たい訳ではないのだよ」

 

這いずり這いずり。

男は入江の奥に向かっていく。

白い神の死骸に向かって。

 

「貴公ら、私はね。かつてはある博物館の学芸員(キュレイター)だったのだよ」

 

脚は壊死しているのか、手の力のみで上位者のもとに向かう男。

気のせいだろうか、空に浮かぶ蕩けた赤い月が大きくなっている。

 

「ある時、その博物館にとあるモノが運び込まれた。それは一部の学芸員と研究者にのみ知ることを許されたものだった。私は、小遣い稼ぎに使えると思って、その写真を密かに撮ろうと思ったのだよ」

 

男はもう随分とここから離れている。

だが、その声は近くに聞こえる。

赤い月が空を覆う。

海が青ざめる。

 

「ソレは密かに仕舞い込まれていたが、私は鍵を手に入れてソレが安置されている部屋に忍び込んだ。

邂逅だよ。

私はソレと邂逅して、ああ!

真実を知った!

蒙が啓かれた!!

我が女神よ……」

 

男がゴースの身体に辿り着く。

ゴースの身体に乗り、反対側に落ちる。

男の姿がゴースに隠れて見えなくなる。

 

「私はこの悪夢に堕ちた。だが、不幸では無かった。この悪夢には女神も共に居ると確信していたからだ。だが、女神への道は残酷な守護者たちがいて近寄れなかった。

だから感謝するよ。

私と女神の道を阻む守護者たちを倒してくれたことを……」

 

【蕩けた瞳】の持ち主、悪夢に堕ちたのはこの男だったのだ。

上位者ゴースに触れ、その姿を見て狂った男。

その男はゴースの体を持ち上げて、胎内に入る。

ゴースの身体が痙攣する。

 

「お礼に見せてあげよう。

私の命を啜り、蘇る女神を。

君たちも、蒙を啓きたまえよ。

私と同じように……!」

 

ゴースの身体が帯電する。

ビクンビクンと痙攣している。

あれは、自分で自分の心臓をマッサージしているのだ。

 

「あ、あぁ、ああああああああッ!」

 

恍惚の声。

神と一体となる、男の悦びの声が響く。

ゴースの腕が動く。

身体が動く。

起き上がり、顔をこちらに向ける。

女性のような顔、額から生えた触手。

ゴースはただこちらを見つめるばかりだが。

 

「逃げろ一鳴ッ!」

 

キャロルちゃんがエルフナインちゃんを抱えながら跳躍!

俺もその場から回避。

その直後。

俺たちがいた場所に、雷が墜ちる。

轟音、閃光。

紛れもなく、ゴースの攻撃!

上位者ゴースは、蘇ったのだ。

 

「キャロルちゃん!」

「ああ、これで最後だ!!」

「ぼ、ボクも頑張ります!」

 

悪夢の最終戦。

上位者ゴースとの戦闘である。

 

 

 

一鳴&キャロルvs上位者ゴース【1D10】

 

一鳴【9】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

キャロル【8】+10(ダウルダヴラ補正)

 

上位者ゴース【6】+40(悪夢補正)−10(エルフナインちゃんの妨害)

 

 

 

ゴースが這うように動き回りながら、その肉体から放電して海岸を焼く。

上半身は人の女性のようであるが、下半身は魚類のように脚はない。

その動きは、先程の男のようである。

 

「一鳴、腕を狙えッ!」

「はいッ!」

 

キャロルちゃんの指示に従い、俺は這い回るゴースの右腕を狙って戦輪を投擲。

キャロルちゃんはグラビトンエンドで左腕を攻撃する。

両腕を攻撃されて、力が入らなくなったのか、ゴースが倒れる。

ビクンビクンと痙攣しながら藻掻く。

 

「キアァァァァ!!」

 

女性のような金切り声を上げるゴース。

俺は帰ってきた戦輪を構え直して跳躍、戦輪を思い切りゴースの頭に叩きつける。

 

「ギャァァァ!!」

 

悲鳴を上げるゴース。

ゴースの身体が帯電して光り輝く。

 

「いかん! 離れろ一鳴ッ!」

 

キャロルちゃんの言葉が響く。

その声を聞いて、俺はバックステップでゴースから距離を取る。

 

「アァァァァァ!!!」

 

ゴースの声。

それと同時に辺り一帯に放電。

雷電により閃光と轟音が入り江を照らし震わせる。

俺はすんでの所で回避を成功させていた。

 

「こっわ……」

「気を付けろ、まだ終わってない!」

 

紙一重の回避を成功させた俺にキャロルちゃんの声が届く。

煌めく雷電の中から、ゴースが突進してきた。

 

「グワーッ!」

 

咄嗟の回避!

しかし、躱しきれずに轢かれる。

吹っ飛ぶ俺。

その俺を更に狙うゴース。

頭の触手を伸ばして鞭のように振るう。

 

「させませんッ!」

 

キャロルちゃんに抱えられたエルフナインちゃんが球体を投擲。

その球体は地面に落ちると、石の柱になった。

触手が柱に当たり、軌道が変わる。

 

「ありがとうエルフナインちゃん!」

 

俺は礼を言いながらゴースから距離を取る。

その間に石の柱を腕で破壊するゴース。

こちらを睨みつける。

眼が粘膜で隠れてて見てるかわからないけど……。

 

「一鳴、オレがスキを作るッ!! お前はトドメを刺せ!!」

 

キャロルちゃんが錬金術起動。

炎と風がゴースの右腕を、水と黄金色の槍が左腕を攻撃。

再びゴースが倒れる。

無防備な頭が晒される。

 

「キアァァァァ!!」

 

ゴースが金切り声を上げる。

同時に帯電。

また、辺り一面を焼くつもりだろう。

だが、遅い。

俺はもう、ゴースの頭の前に居る。

 

「イヤーッ!」

 

ゴースの頭に手刀を捩じ込む。

中で脳のような塊を握る。

 

「イヤーッ!!」

 

そのまま、俺は勢いよく腕を引き抜く。

非人道暗黒カラテ技、内蔵攻撃だ。

白い体液が、ゴースの頭から勢いよく溢れ出る。

 

「ァァァ……」

 

ゴースの声が弱々しく漏れ出し、そして。

ゴースは動かなくなった。

 

「ああ、ゴース。私のゴスム……」

 

男の声が脳内に響き、そして聞こえなくなった。

手の中にはゴースの脳の一部。

上位者の脳みそ。

確実に聖遺物。

だが。

俺はその脳みそを地面に放った。

だって確実に厄ネタだからネ!

残念ながら俺は狩人様ではないので、なんでもポケットにしまう趣味はないのだ。

 

「お……」

 

空を見る。

崩れた赤い月が蕩けていく。

空に溶けて、そして。

赤い月は消えてなくなり、夜空が見える。

青ざめていない、黒い夜空。

 

「悪夢の終わり、だな」

「そうだね」

 

夜空を見ながら、キャロルちゃんとエルフナインちゃんがそう言い合う。

辺りの景色が希薄になっていく。

薄れて消えて、そして。

 

「ここは……二課?」

 

二課の廊下に戻ってきた。

帰ってきたのだ。

俺のシンフォギアと、キャロルちゃんのファウストローブは既に解除されていた。

いや、そもそも。

悪夢の世界は人間の内面的な世界だから、肉体的にはそもそも纏っていなかった、という事か。

 

「帰って、きたんだな」

「そうだね、キャロル」

 

俺はスマホを取り出す。

時間は、キャロルちゃんにトリック・オア・トリートしてから5分も経っていない。

 

「良かったぁ……」

「ですね!」

 

ホット一安心した俺に笑顔を向けるエルフナインちゃん。

上位者ゴースの作った悪夢から犠牲なく脱出できて本当に良かったゾ。

というかこの世界上位者おるんか。

こわ……。

いや、そもそも隻狼も混じってたわ。

こわ……。

 

「……悪夢が無くなったってコトは、蕩けた瞳はどうなったの?」

 

エルフナインちゃんがふと、気付く。

蕩けた瞳は上位者ゴースに魅入られた男の瞳だ。

ゴースと悪夢を破壊した今、蕩けた瞳はどうなったのだろうか。

俺たちは研究室に急いだ。

ガラス管の中に収められた蕩けた瞳は、押し潰されたかのように破壊されていた。

蕩けた瞳孔は潰れて何も映さなくなっていた。

そして。

悪夢に囚われた研究者たちが、意識を取り戻しつつあるという。

万事めでたしめでたし、と言えるね。

 

 

 

そんな訳でチェイテピラミッド姫路チフォージュ城、無事脱出である!

 

 

 

◆リザルトな◆

 

 

 

○危険な罠に引っ掛かった回数:0回

 

○偽の宝箱に引っ掛かった回数:0回

 

○セッ! しないと出れない部屋に入った回数:1回

 

○手に入れたお宝:

R エネルギー結晶2個

SR ホルスの目のメダル

SR 金のペンダント

 

○称号『幸運』を獲得しました。

○称号『こいつら交尾したんだ!!(さ せ な い よ)』を獲得しました。

○称号『錬金術スゴーイ!』を獲得しました。

 

 

Rのお宝2個、SRのお宝2個を獲得したので、シンフォギアの戦闘力が強化されます。

Rなお宝が戦闘力+1。

SRなお宝が戦闘力+3。

よって、一鳴のシンフォギア戦闘力がこうなります。

 

変更前:【1D10】+5+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

 

変更後:【1D10】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

 

 

 

◆リザルト終了な◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴースは確かに死んでいた。

肉体も精神も、そして魂も。

だが、その肉体は。

瞳は、ある学芸員の男を悪夢に落とす程度には魔力を持っていた。

そして、キャロルにより、チフォージュシャトーに運び込まれたゴースは。

シャトーに直撃したケラヴノスによって、一瞬、蘇生した。

ほんの一瞬蘇生したゴースは、その本能の赴くままにチフォージュシャトーごと精神を悪夢に移設した。

悪夢に作った、己の似姿に。

だが、強すぎたケラヴノスはゴースの精神を再び眠りにつかせた。

 

その眠りを覚ましたのは、学芸員だった男である。

男はその命を糧にゴースを起こした。

永遠に眠るはずだったゴースを。

故に男は、神たるゴースを起こした褒美と、悍ましきゴースを起こした罰を受けることとなった。

 

「ああ、ゴース。私の、ゴスム……」

 

男は神の腕に抱かれている。

長年渇望した神の腕に抱かれて、深く暗い海の底に落ちていく。

ただただ、ゴースの周りにのみに展開された、永遠に落ち続ける深海のような小さな悪夢。

 

「ゴースに抱かれて、海へと還る……」

 

神と永遠に共に居られる悦びと、底なき海に落ち続ける地獄の中で、男は笑っていた。

 

「ゴースの腐臭が、愛が届く……」

 

男は恍惚の相を浮かべながら、ゴースの遺骸に抱かれ続ける。

それが、男に許された自由であり、愛であった。

 

「愛と海に底はなく、故に全てを受け入れる……。ふふ、ふひひ…………」

 

ゴースと男は永遠に墜ち続ける。

悪夢の底に向かって。

ずっとずっと届かない、底に向かって……。

 

 

 

 

 

 





そんな訳でチェイテピラミッド姫路チフォージュ城編終わりですわ(お嬢様感)

一鳴くん強敵と当たりすぎですわ!
クズ運ですわ!
女運だけモリモリですわ!
このヤリチン野郎!!

次回からは女の子とのイチャイチャ回ですわ。
とりあえず今のところはセレナちゃんと切歌ちゃんメインで書きたいと思いますわ。
でも予定は未定ですわ。
大人は嘘をつきません、ただ間違いを犯すだけなのですわ……。

あ、クリスちゃんをヒロインにする回は絶対やりますわ。
クリスちゃんは作者の推しですわ!!!!!!!!!!!

それではアデュー(精一杯のお嬢様感)


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第九十六話 ネタが無いのでダイス振って決めたセレナちゃん回

「悪人は乳首舐められて当然」というパワーワードを知ったので初投稿です。
その理屈でいくとフィーネもウェルもキャロルもアダムも訃堂も乳首舐められて当然なのよね……。



 

 

運命のダイスロールセレナちゃん編【1D10】

 

1 一鳴×セレナのラブラブデート

2 一鳴×セレナのラブラブデート

3 一鳴×セレナのラブラブデート

4 一鳴 VS セレナちゃんに纏わりつくストーカー

5 一鳴 VS セレナちゃんに纏わりつくストーカー

6 一鳴 VS セレナちゃんに纏わりつくストーカー

7 セレナちゃん VS ヒロイン's3番勝負

8 セレナちゃん VS ヒロイン's3番勝負

9 セレナちゃん VS ヒロイン's3番勝負

10 セッしないと出れない部屋、再び

 

結果【8 セレナちゃん VS ヒロイン's3番勝負】

 

 

 

「勝負です、調さん!」

 

11月のある日の昼下り。

のんびりと二課から借りてるマンションのソファに座り、膝の上に調ちゃんを乗せてテレビを見ていると隣に座るセレナちゃんがそんな事を言い出した。

 

「勝負?」

 

小首をかしげる調ちゃん。

なぜセレナちゃんがいきなり勝負を仕掛けてきたのかわからないのだ。

俺もわからない。

なんでだろう。

 

「はいッ! 私が勝ったら、一鳴さんの膝を譲ってもらいますッ!」

 

セレナちゃんの言葉に調ちゃんの目の色が変わった。

瞳にセンコめいた光が宿る……!

というか、セレナちゃん俺の膝の上に座りたかったのね。

 

「この場所は譲らない……!」

「いいえ、今日こそは譲ってもらいます!」

 

バチバチと火花を散らす二人。

 

「それで、勝負内容は決めてるの?」

 

俺はセレナちゃんに問うた。

 

 

 

セレナちゃんセレクトの勝負内容【1D10】

 

1 お料理

2 お料理

3 お料理

4 おそうじ

5 おそうじ

6 おそうじ

7 お洗濯

8 お洗濯

9 お洗濯

10 アーマードコア

 

結果【7 お洗濯】

 

 

 

「お洗濯です!」

 

セレナちゃんは宣言した。

 

「私達はいずれ一鳴さんのお嫁さんになる身。

家事炊事は覚えていて当然のこと。マムから教わったお洗濯技術で勝負です調さん……!」

「受けて立つ。主婦力ではセレナに負けない……!」

 

そういう事になった。

 

 

 

セレナVS調ちゃん(お洗濯勝負)【1D10】

 

セレナ【3】

調【7】

ついでに一鳴【9】

 

 

 

「キャーッ! 洗剤入れ過ぎちゃった……」

 

南無三!

セレナちゃんが洗濯物を入れた洗濯機から泡があふれる。

こんな事本当にあるのね。

 

「この勝負は私の勝ちだね」

 

と、泡を拭き取りながら調ちゃんが胸を張る。

 

「うぅ、悔しいけど負けを認めます……」

 

ガックリとうなだれるセレナちゃんであった。

後で慰めてあげようね……。

 

「それにしても、一鳴さんはお洗濯上手だね」

 

調ちゃんにそう言われる。

 

「まあ、半分一人暮らしみたいなものだからね。家事炊事は一通り出来るのです!」

 

俺は自慢げに言った。

まあ、俺は前世の知識もありですし。

こちとら、仕事と子育てと家事のトリプルタスクを乗り越えてきた自負があるのよ。

 

「うう、一鳴さんに負けたのが一番悔しい……!」

「それはそう……!」

 

なぜかセレナちゃんと調ちゃんからジト目で見られてしまった。

解せぬ。

 

 

 

 

 

 

「マリア姉さん、いざ勝負!」

 

夕方。

調ちゃんが孤児院に帰ったあと、入れ違いでやってきたマリアさんを膝枕しているとセレナちゃんがマリアさんにそう言った。

 

「急にどうしたのセレナ?」

 

急に言われたマリアさんは目を丸くして驚いている。

俺はそのマリアさんの髪をそっと撫でながら昼間の顛末を話した。

 

「セレナちゃん、俺の膝にご執心で昼間も調ちゃんに勝負を挑んでたのよ」

「なるほど、確かに一鳴の膝は座り心地も寝心地最高だけれど」

「だからこそ、今日こそマリア姉さんから一鳴さんの膝を奪い取ります!!」

「……いいでしょう」

 

マリアさんが身体を起こし、セレナちゃんを見る。

その瞳にはセンコめいた光が宿る……!

 

「私もまた、一鳴の膝の虜。たとえセレナが相手でも、本気で臨ませてもらうわ!」

 

そういう事になった(本日二度目)

 

 

 

セレナちゃんセレクトの勝負内容その2【1D10】

 

1 おさんどん

2 おさんどん

3 おさんどん

4 うでずもう

5 うでずもう

6 うでずもう

7 アーマードコア

8 アーマードコア

9 アーマードコア

10 おせっせ

 

結果【7 アーマードコア】

 

 

 

「マリア姉さんとは、これで勝負です!」

 

そう言ってセレナちゃんが手に取ったのはPSP。

2040年の今となっては化石のようなゲーム機である。

 

「アーマードコアで勝負です!」

「ええ、いいでしょう……!」

 

マリアさんもまた、カバンからPSPを取り出し構える。

……なんで二人ともPSP持っとるん?

 

「F.I.S.での娯楽と言ったらコレだったのよ」

「マムが用意してくれたんです」

 

そういう訳だった。

F.I.S.でのメインのエンタメはPSPだったらしかった。

まあ、研究所で閉じ込められていた子どもたちになんも娯楽を与えなかったらストレス凄いものねぇ。

ナスターシャさんの采配の凄まじさよ。

いや、それでも古くない?

 

「さあ、マリア姉さんいざ勝負!」

「言葉は不要、と言う訳ね」

 

セレナちゃんとマリアさんがPSPを起動させる。

二人の決闘が始まった。

 

 

 

セレナVSマリアさん(アーマードコア)【1D10】

 

セレナ【7】

マリア【6】

ついでに一鳴【4】

 

 

 

「そこッ!」

 

セレナちゃんのACが持つハイレーザーライフルKARASAWAがマリアさんのACに当たる。

マリアさんのACが爆散!

 

「勝った!!」

「……ッ! 負けたわセレナ、強くなったわね」

 

勝ったのはセレナちゃんだ。

マリアさんが敗北の屈辱に震えると共に、セレナちゃんの成長に柔く微笑む。

セレナちゃんのACの体力は残り僅か。

僅差での勝利であった。

 

「おめでとうセレナちゃん」

「ありがとう、一鳴さんッ!」

 

セレナちゃんが俺の膝に飛び込む。

膝枕だ!

 

「んふー」

 

セレナちゃんはご満悦だ。

俺はセレナちゃんの頭をそっと撫でる。

 

「あ、そうだセレナちゃんPSP貸して。俺も久々にやってみたい」

「あ、良いですよ」

 

寝転んだセレナちゃんからPSPを借りる。

 

「さあ、マリアさんいざ勝負!」

「ええ、どんと来なさい!」

 

そんな訳でマリアさんと戦ったのだが……。

 

「グワーッ!」

 

俺のACがマリアさんのMOONRIGHTに切り裂かれて爆散!

マリアさん余裕の勝利だ!

 

「ふふ、私の勝ちよ」

 

そう言って、俺にむけて胸を張るマリアさん。

 

「ヌゥー、テレビに繋ぐプレステに慣れた身には、PSPはボタンが少なすぎる……」

「PSPには私たちが一日の長があるわね」

 

そういう訳でボコボコにされた。

自信、あったんだけどねぇ。

 

「そういえば」

 

俺の膝を堪能するセレナちゃんが口を開いた。

 

「アーマードコアが一番強いのは、実はマムなんですよ!」

「あの人何でもできるな」

 

ナスターシャさん、強い。

 

 

 

 

 

 

「切歌さん、勝負です!」

 

セレナちゃんが俺の膝を堪能した次の日。

調ちゃんと一緒にマンションに遊びに来た切歌ちゃんが、同じくやってきたセレナちゃんに勝負を挑まれていた。

 

「いきなりなんデスか!?」

「切ちゃん膝の上に乗ってないよ?」

 

驚く切歌ちゃん。

調ちゃんの言うとおり、切歌ちゃんは俺の膝に乗っていない。

3人で並んで座りゲームをしてたけど。

ドラゴンをハントするゲーム、協力プレイである。

 

「いえ、今日は一鳴さんの膝は関係ありません! 昨日堪能したので!」

 

セレナちゃんは言った。

 

「今日は別件です!」

「それで、切歌ちゃんと何を賭けて戦うんです?」

「切歌さんが一鳴さんに相応しいか勝負して確かめます!」

「デデス!!?」

 

切歌ちゃんが飛び上がった。

 

「セレナ、姑みたい」

「とにかく! 一鳴さんは彼女がいっぱいで、これからも増える見込みなのでそれに負けない強さを確かめます!!」

 

俺は言葉が出なかった。

概ねその通りだと思った(震え声)

 

「なるほど、確かに増える恋人の中でも埋もれない個性の強さを見せる必要はある」

 

調ちゃんは納得した。

 

「……わかったデス!」

 

切歌ちゃんは立ち上がった。

 

「一鳴さんのハーレムに入るため、セレナを認めさせるデスよ!」

「その意気や良しです!」

 

そういう事になった(かすれ声)

 

 

 

セレナちゃんセレクトの勝負内容その3【1D10】

 

1 お料理

2 お料理

3 お料理

4 ドラゴンをハントするゲーム

5 ドラゴンをハントするゲーム

6 ドラゴンをハントするゲーム

7 トランプ(きりしらが組んでセレナちゃんをハメる)

8 トランプ(きりしらが組んでセレナちゃんをハメる)

9 トランプ(きりしらが組んでセレナちゃんをハメる)

10 ディープなチッス

 

結果【6 ドラゴンをハントするゲーム】

 

 

 

「ちょうど良くやってるそのゲームで勝負です!」

 

と、セレナちゃんが指をさしたのは、ドラゴンをハントするゲーム。

でもこのゲーム、協力プレイがメインで、プレイヤーが勝敗を決する事は出来ないよ。

 

「そこは、一番活躍した人を一鳴さんに決めてもらうという事で」

 

責任重大であった。

 

「うん、わかった。忖度無しで見させてもらうよ」

「頑張ります!」

「負けないデスよ!」

「ついでに私も頑張る」

 

そういう事になった。

四人で挑むのは、ドラゴンをハントするゲーム屈指の強敵とネットで騒がれてる「ガブ・リアス」である。

ガブリアスじゃないよ、ガブ・リアスです。

サメっぽい見た目で体色が青いし頭の先端に星のようなマークが付いてるけど、ガブリアスとは無関係です。

地震起こすけど、無関係です。

 

「イクゾー!」

 

 

 

セレナVS切歌ちゃん(ゲーム)【1D10】

 

セレナ【3】

切歌【1】

調【7】

ついでに一鳴【4】

 

 

 

「うーん、文句無しで調ちゃんの優勝!」

 

俺は3人に宣言した。

調ちゃんは右腕を天高く掲げて勝利のポーズ。

 

「ぶい!」

「うーん、完敗です……」

「デース、デース……」

 

ガブ・リアスは強敵であった。

ドラゴンダイブは判定がイカれているので四人全員ふっ飛ばされるし、地震攻撃はタイプ一致で威力が高いのに、範囲が異常に広いし。

そんなアタッカーなガブ・リアスが、剣の舞で更に攻撃力を上げてきて手を付けられないのだ。

切歌ちゃんは速攻で沈んだ。

ドラゴンダイブがモロに当たったのだ。

その次に沈んだのはセレナちゃん。

地震を避ける為にジャンプして逃げた所をストーンエッジで狙われたのだ。

そんな訳で最後まで残ってたのは、俺と調ちゃんであった。

 

「最後の逆鱗は死ぬかと思った」

「調ちゃんのれいとうビームが当たらなければ、俺たち諸共沈んでいたよね……」

 

紙一重の勝利であった。

調ちゃんと喜び合う。

 

「うう、カイ・リューなら私でもなんとか勝てたかもしれないのに……」

「デース、マルチスケイルで武器が弾かれる未来が見えるデスよ……」

 

マルスケカイリューはチートじみた強さだからね……。

 

「セレナも切ちゃんもまだまだだね」

「う゛っ」

「デース!!?」

 

調ちゃんにトドメを刺された二人だった。

 

 

 

 

 

 

「それで、最近勝負勝負言ってたのはなんで?」

 

夕方。

調ちゃんと切歌ちゃんが帰ったあと、セレナちゃんに聞く。

夕焼けに照らされて、セレナちゃんが答える。

 

「ふふ、なんででしょうか?」

 

そう言うセレナちゃんは、窓の外の街を、夕焼けを見ているようで。

 

「一鳴さんに、構ってほしかっただけだったりして」

「そっか」

 

俺は、そう言うセレナちゃんを抱きしめる。

夕焼けに照らされて赤くなるセレナちゃんを。

耳まで赤くなるセレナちゃんを後ろから、強く優しく抱きしめた。

 

 

 




最後にキレイに纏めたら全て良し理論。
作者はアリだと思います。


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第九十七話 ネタが無いのでダイス振って決めた切歌ちゃん回


最近ネタが切れてきたので初投稿です。
恋のネタが足りない!
なんか恋愛モノのマンガとか買おうかな。100カノとか。

恋のネタは無いのに与太話のネタは豊富にあるの!
バランスが悪いわね(白目)




 

 

 

運命のダイスロール切歌ちゃん編【1D10】

 

1 一鳴×切歌ちゃんのラブラブデート

2 一鳴×切歌ちゃんのラブラブデート

3 一鳴×切歌ちゃんのラブラブデート

4 一鳴×切歌ちゃん×調ちゃんのラブラブデート

5 一鳴×切歌ちゃん×調ちゃんのラブラブデート

6 一鳴×切歌ちゃん×調ちゃんのラブラブデート

7 一鳴VSラスプーチン(切ちゃんロシア系クォーター説採用)

8 一鳴VSラスプーチン(切ちゃんロシア系クォーター説採用)

9 一鳴VSラスプーチン(切ちゃんロシア系クォーター説採用)

10 セッしないと出れない部屋、再び

 

結果【2 一鳴×切歌ちゃんのラブラブデート】

 

 

 

12月最初の日曜日。

午前10時。

天気は快晴。

気温は、少し寒いぐらい。

俺は、駅前の『忠狼シフ像』の前で人を待っていた。

アルトリウスの大剣を咥えたシフ像の下には、多くの人が集まっている。

俺と同じように、人を待つ人。

行き場もなく、適当に集まった若者。

街にはクリスマスソングが流れている。

 

そんな中で、俺は人を待っている。

今日はデートに誘われたのだ。

誘ったのは───

 

「お待たせしましたデスよ!」

 

一人の少女がこちらに駆け寄ってくる。

切歌ちゃんだ。

今日は切歌ちゃんにデートに誘われたのだった。

 

「今来たばかりよ〜」

 

と、俺は言う。

本当は30分前からスタンバってたけれどね。

そこは言わないお約束。

 

「それは良かったデス! それじゃあ、行くデスよ」

 

切歌ちゃんはほんの少し頬を赤くして俺を先導する。

俺は切歌ちゃんの隣を歩く。

手は繋がない。

まだ、恋人じゃないもの。

ただの友だち。

切歌ちゃんの気持ちを知ってなお、俺はそういうスタンスで切歌ちゃんと触れ合ってる。

 

「……デス」

 

なのだが。

切歌ちゃんは俺の手をチラチラと見ている。

あからさまに手を繋ぎたがってるのだ。

 

 

 

切歌ちゃんのお気持ち表明【1D10】

 

1 なんも言えねぇ……

2 なんも言えねぇ……

3 なんも言えねぇ……

4 きょ、今日は冷えるデスねー(棒読み)

5 きょ、今日は冷えるデスねー(棒読み)

6 きょ、今日は冷えるデスねー(棒読み)

7 今日は人がいっぱいデス。はぐれたら大変デスよ。

8 今日は人がいっぱいデス。はぐれたら大変デスよ。

9 今日は人がいっぱいデス。はぐれたら大変デスよ。

10 あそこにホテルがあるので休んでいくデスよ

 

結果【6 きょ、今日は冷えるデスねー(棒読み)】

 

 

 

「きょ、今日は冷えるデスねー(棒読み)」

 

切歌ちゃんがそう言った。

 

「んー、もう冬だものねぇ」

「デスよ! 手がもうヒエヒエデース」

「あら、手袋持ってないの」

「持ってないデス! あー、誰か手をあっためて欲しいデス」

 

わざとらしく切歌ちゃんはそう言ったのだった。

 

「……俺で良ければ、手を繋ぐ?」

「繋ぐデス!!!!!」

 

シュバッ、と即座に俺の手を取る切歌ちゃん。

にぎにぎと、俺の手を握る。

 

「大っきくて、温かいデース」

「喜んでもらえて何より」

「それじゃ、出発するデス!」

 

今日のデートは切歌ちゃんプロデュース。

どこに行くかは切歌ちゃん任せである。

ただ一つ、調ちゃんから伝えられた事がある。

 

「切ちゃんは今日告白するつもりだよ」

 

と……。

ならば、俺はそれに真剣に答えましょう。

と言っても、答えはもう決まってますけれど。

 

 

 

切歌ちゃんデート(1/3)【1D10】

 

1 服屋

2 ゲームセンター

3 映画館

4 チャラ男が現れた!

5 占いの館(恋占い)

6 服屋

7 ゲームセンター

8 映画館

9 催眠アプリ持った陰キャが現れた!

10 ガンダーラ・ブホテル

 

結果【2 ゲームセンター】

 

 

 

「着いたデス!」

 

連れてこられたのは、ゲームセンター。

ゲームセンターだけでなくボーリング場やカラオケも入ってる複合エンターテイメント施設だ。

 

「一鳴さんと一緒に遊ぶデス!」

「良いよ、いっぱい遊びましょ」

 

切歌ちゃんに手を引かれてゲームセンター内に入る。

 

 

 

ゲームセンターでの一時【1D10】

(10に近いほど良い事が起こる)

 

結果【5】

 

 

 

「ウワーッ、惜しかったデス!」

 

切歌ちゃんはクレーンゲームに苦戦中。

狙う景品は『のろいうさぎ』、口が縫い合わされた赤い目のウサギのヌイグルミである。

ハンマー使うおさげ髪で赤い幼女が持ってそうなヌイグルミである。

切歌ちゃん曰く、女子たちの間でコアな人気を誇るらしい。

 

「一鳴さん、仇を取って欲しいデス!」

「うーん、クレーンゲームは苦手なんだけど、兎にも角にもやってみよう」

 

と、苦戦すること1000円分。

なんとかのろいうさぎをゲット出来た。

 

「やったデス!」

「よかったねぇ」

 

のろいうさぎを抱きしめる切歌ちゃん。

カワイイ。

 

そんな訳で。

俺たちはゲームセンターを満喫したのだった。

 

 

 

切歌ちゃんデート(2/3)【1D10】

 

1 服屋

2 公園

3 映画館

4 チャラ男が現れた!

5 占いの館(恋占い)

6 服屋

7 公園

8 映画館

9 催眠アプリ持った陰キャが現れた!

10 ガンダーラ・ブホテル

 

結果【5 占いの館(恋占い)】

 

 

 

ゲームセンターを後にして。

雰囲気の素敵な喫茶店でお昼ごはんを食べた後。

切歌ちゃんは俺を路地裏に連れてきた。

路地裏、というと治安が悪そうだが、あたりには若いカップルや女性が多い。

 

「この辺りに、とってもよく当たるっていう占い師が居るらしいデス。見てもらいたいデスよ」

 

とのこと。

女の子は占い好きよねぇ。

かく言う俺も嫌いじゃないです。

でも、こうやってプロに見てもらうのはハジメテである。

普段はテレビの星座占いで一喜一憂してるのだ。

 

「あ、あそこデスよ!」

 

切歌ちゃんが指差す先には行列。

その更に先に雑居ビル。

占い師は、その一階に居を構えてるようだった。

 

「並ぶデス!」

 

そう言って、手を引っ張られる。

行列の後ろに並ぶ。

 

「そういえば、切歌ちゃんは何を相談したいの?」

 

占い師に相談、と言っても色々あるからねぇ。

学校での交友関係とかかな?

 

「えっと……、一鳴さんとの、今後のアレヤコレヤをデスね……」

 

蚊の鳴くような声で、切歌ちゃんがそう言う。

カワイイ。

 

「そ、その、やっぱり止めるデスよ」

「えー、なんで?」

 

恥ずかしがる切歌ちゃん。

少し、イジワルしたくなった。

 

「俺も気になってきたよ、切歌ちゃんとの相性とか、色々……♡」

「デデス!!?」

 

顔を真っ赤にさせ、目を白黒させる切歌ちゃん。

 

「ちゃんと見てもらおうねぇ」

「デース!」

 

そういう事になった。

 

さて。

行列に並ぶこと、30分。

切歌ちゃんとお話してる間に順番が来た。

占い師の店の中に入る俺と切歌ちゃん。

 

「いらっしゃい」

 

そう言うのは、店主の占い師。

黒い髪は長く艷やかで、その顔は冷ややかながらも美しい。

右手には煙管を持っている。

 

「なるほどなるほど」

 

占い師は俺を見てニヤニヤと笑う。

その目は、俺を見透かしてるようで、恐ろしい。

 

「貴方、なかなか難儀な運命を背負ってるわねぇ。まぁ自ら選んだ道なんだし、途中で放り投げちゃダメよ」

 

あ、この人本物だ。

俺は即座に直感で理解した。

この人、俺が転生した時のことを言ってるんだわわ。

恐ろしい人だ。

 

「デス?」

「あら、ごめんなさい。余計なことだったわね。で、今日は貴女とそこの難儀な男との相性占いだったわね」

「アタシまだ何も言ってないデスよ!」

「占い師だからわかるわよ」

 

 

 

占い師のヒトコト【1D10】

 

1 ココロの相性バッチリよ

2 ココロの相性バッチリよ

3 ココロの相性バッチリよ

4 ココロもカラダも相性バッチリよ

5 ココロもカラダも相性バッチリよ

6 ココロもカラダも相性バッチリよ

7 ココロもカラダも魂も相性バッチリよ

8 ココロもカラダも魂も相性バッチリよ

9 ココロもカラダも魂も相性バッチリよ

10 熱烈歓迎

 

結果【3 ココロの相性バッチリよ】

 

 

 

「二人のココロの相性はバッチリよ」

 

占い師は煙管を吸いながらそう言った。

 

「ホントデスか!? やったデス!!」

「でも」

 

喜ぶ切歌ちゃんの言葉を遮る占い師。

 

「カラダの方は頑張らないとダメよ。貴女もなかなか好きモノだけど、そこの難儀な男は無尽蔵だから、体力つけときなさい」

「か、カラダ……。体力、頑張るデース……」

 

占い師のアドバイスに顔を真っ赤にする切歌ちゃん。

てか、小学生に何を言ってんだこの人は!

 

「あら、女は生まれた時からオンナよ。そういう知識も、生まれた時から無意識に身に着けていくの」

「そうなの切歌ちゃん?」

「デース!? 知らないデース!! でもマムがちゃんと勉強しろって言ってたデス!!」

 

まあ、避妊とかのアレコレはきちんと知識をつけて望まぬ妊娠とかしないといけないものね。

女の子は大変だよねぇ。

 

「だから、あなたの恋人たちも労ってあげなさいね」

「さらっと俺の心読まないで」

 

占い師こわぁい。

帰ろう帰ろう切歌ちゃん。

 

「ああ、あと■■……じゃなくて、カズナリ?」

 

去り際に、占い師が俺に声を掛ける。

前世の名前を言いかけた後に、名乗った覚えのない今生での名前を呼ぶ。

 

「貴方の前にはこれから、神の残滓と世界蛇、牛神の系譜が立ちはだかる。でも、それを覚悟の上で生まれてきてなら、頑張りなさい」

「……ええ、わかりました。ありがとうございます」

「とりあえず、年明けに試練が訪れる。死んじゃだめよ」

 

そう、占い師はそう言って、それきり俺たちに興味を無くしたかのように煙管を吸った。

 

「そういえば」

 

占い師の店から出て大通りに出た後、俺は切歌ちゃんに質問した。

 

「あの占い師、名前はなんていうの?」

「えっと、『壱原侑子』っていうらしいデス!」

 

次元の魔女生きとったんかワレェ!!

 

 

 

切歌ちゃんデート(2/3)【1D10】

 

1 服屋

2 公園

3 映画館

4 チャラ男が現れた!

5 ガンダーラ・ブホテル

6 服屋

7 公園

8 映画館

9 催眠アプリ持った陰キャが現れた!

10 調ちゃんと合流してガンダーラ・ブホテル

 

結果【6 服屋】

 

 

 

時刻は3時過ぎ。

ファミレスでパフェやケーキを食べた後、服屋さんに向かう。

安くていい服がある店らしい。

 

「セレナに教えてもらったデス!」

 

セレナちゃんも節約で苦労してるらしかった。

今度カワイイお洋服でも贈りましょうかねぇ。

 

 

 

服屋での一時【1D10】

(10に近いほど良い事が起こる)

 

結果【3】

 

 

 

「デース!」

 

切歌ちゃんの哀哭が服屋さんに響く。

 

「ピッタリのサイズが、無いデス……!」

 

切歌ちゃんが手に取るのはガーリィで少しヤンチャなデザインのアウターウェア。

なのだが、切歌ちゃんにピッタリのサイズが無いらしかった。

 

「これは、小さいデス! これは、大きすぎデス!!」

 

手に取って比べていく切歌ちゃん。

 

「うーん、店員さんに聞こうよ。もしかしたら店の裏に在庫があるかも」

 

と、店員さんに聞いてみたのだが、無いようだった。

だが、取り寄せは出来るみたいなので、注文しておいた。

 

「デース、今すぐ欲しかったデスよ……」

「まあまあ、取り寄せで買えるから良かったじゃない」

「デース……」

 

すっかりしょげてしまった切歌ちゃんの頭をそっと撫でてあげた。

 

 

そんなこんなで。

時刻はもう夕方の5時。

俺は切歌ちゃんに連れられて自然公園まで来ていた。

夕日が俺たちを照らし、夜空がゆっくりと空を染め上げていく時間。

 

「一鳴さん、今日は楽しかったデスか?」

 

切歌ちゃんが、向かい合いながらそう言う。

 

「うん、楽しかったよ」

「えへへ、良かったデス。調やみんなに相談して良かったデス!」

 

切歌ちゃんが、俺の目を見て口を開く。

 

「一鳴さんは、もうわかってると思うデスが」

「うん」

「アタシ、一鳴さんが、す、す、好きデス!」

 

顔を真っ赤にして、瞳を潤ませてそう言った。

 

「カッコよくて優しくて、アタシや調、みんなのこと守ってくれる一鳴さんが好きになっちゃったデス! お付き合い、してほしいデス!」

「俺は、恋人がいっぱいいる優柔不断で欲張りな男よ? それでも、いいの?」

 

俺はそう切歌ちゃんに聞く。

切歌ちゃんは真っ直ぐ俺の目を見てこう言った。

 

「ちゃんと、平等に愛してくれるなら! アタシはウェルカムデス!!」

「ふふ、そう。うん、俺は恋人は全員まとめて幸せにする男。切歌ちゃんも、幸せにするよ。絶対ね」

 

俺は切歌ちゃんにそう言った。

それを聞いた切歌ちゃんは、一筋の涙を流す。

 

「う、嬉しすぎて泣いちゃったデス」

 

切歌ちゃんはそう言って、俺に抱き着いた。

 

「今後とも、よろしくデス。一鳴さん!」

 

ギュ、と俺を抱きしめる切歌ちゃん。

それに答えるように、俺は切歌ちゃんを抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

次の日。

俺は部屋で正座していた。

膝の上にはセレナちゃん。

更にその上に調ちゃん。

石抱きならぬ、美女抱き。

世界一幸せな拷問であった。

足が痺れてタイヘンだぁ。

 

「増やしたんだね」

「増やしたんですね」

「増やしたのね」

 

上から調ちゃん、セレナちゃん、マリアさんである。

マリアさんは俺の後ろで足の裏をツンツンしている。

 

「うぎぃ、この一鳴、悔いはなし! 煮るなり焼くなり好きにしなさいッ!」

「じゃあ16連打ね」

 

ズビビビビ、と俺の足裏を高速連打するマリアさん。

 

「んひぃ!」

「まあ、私はそんなに怒ってないですけれど」

 

と、セレナちゃん。

 

「私も。切ちゃんなら、安心」

 

と、調ちゃん。

 

「でも、なんのペナルティも無しだと際限なく増やしそうだし、お仕置きはしておきましょう」

 

と、マリアさん。

32連打!!

 

「アッアッアッ……!」

 

俺は喘いだ。

 

「さて、一鳴。貴方に一つ、頼みがあるの」

 

と、マリアさんが俺の足裏を48連打しながら耳元で囁く。

 

「オォン! アォン! 頼み? 何?」

 

マリアさんは、衝撃的な一言を口にしたのだった。

 

「クリスを、本気で堕としてほしいの」

 

 

 

←To Be Continued

 

 

 





○ラスプーチン
チンコデカいロシアの怪僧。
言峰だったりデビルサマナーだったりする。この作品に出てくるのはデビルサマナーの方。
切歌ちゃんがロシア系クォーターだという与太話から、切歌ちゃんロマノフ王朝後継者説捏造して、ラスプーチンを関わらせる予定だった。
うーん、でも一発ネタで寝かせるには惜しいし、その内復活させるかなぁ。

○壱原侑子
なんかCLAMP作品に出てくるすごい人。
作者もそんなに知らない。大昔に見たアニメxxxHOLiCとツバサクロニクルに出てたので、今回も出した。
本当に触りしか知らないので、この人の出番はここだけである。



そんな訳で切歌ちゃんデート回でした。
切歌ちゃんカワイイヤッター成分をお楽しみいただけたら幸いです。

次回はクリスちゃんデート回。
2回連続デート回!
そんなに引き出しないぞ作者!
どうするんだ作者!

待て次回!


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第九十八話 これまでよりも、これからを


コヤンスカヤ討伐の合間に初投稿です。
ウチのメリュ子が大活躍!
さすが恋人や!

そんな訳でクリスちゃんのデート回。
クリスちゃんの過去で凄惨な設定を捏造しました。
こう、原作に忠実にしようと思ったら、そこのリアリティを妥協したら駄目かなって。
ようは戦場で女の子がどういう扱いを受けるか、という話です。

無理な人はブラウザバックを。




 

 

 

事の始まりは、クリスちゃんが学校で告白された事らしかった。

相手の男は、クリスちゃんの通う学校でも評判の美男子らしい

たが、クリスちゃんはその告白は断った。

まあ、その男は女遊びが激しいらしいし、クリスちゃんをイヤらしい目で見ていたようなので断られるのは当然らしいのだが。

 

まあ、それはそれとして。

 

クリスちゃんが告白された事を聞いたマリアさんが、クリスちゃんに恋バナを吹っかけたらしいのだ。

やれ、好みの男はどうだとかどんなシチュエーションで告白されたいのかとか。

 

だが。

だがである。

クリスちゃんは哀しげにこう言ったのだ。

 

「あたしは、恋とか出来ねぇよ。穢れた女だからな……」

 

クリスちゃんはバルベルデで奴隷であった。

弦十郎さんが保護した時は聖遺物研究所で聖遺物を起動させるための備品として扱われていた。

だが、その前は。

口には出せない、壮絶な体験をしたらしい。

 

「だからね、クリスを幸せにしてあげてほしいの」

 

涙ながらに、マリアさんはそう言った。

 

「恋の幸せを、教えてあげてほしいのよ」

「それは、クリスちゃん自身が見つけるべきものだと思うよ」

 

俺はマリアさんにそう言った。

マリアさんの気持ちもわかる。

幼少期に壮絶な体験をして、恋が出来なくなったクリスちゃん。

恋をすることを恐れているクリスちゃん。

 

だからこそ、俺がクリスちゃんを墜とすというのは違う気がする。

そういうのは、きっとゆっくりゆっくりと、クリスちゃん自身が見つけていくものだと思う。

 

「わかってるわ、一鳴の言いたいこと」

 

マリアさんは俺を背中から抱きしめる。

いつの間にか、セレナちゃんも調ちゃんも俺の膝から降りて、こちらを見ていた。

哀しげに、縋るように。

 

「でも、私はクリスに一歩だけでも踏み出して欲しくて……」

「一鳴さん……」

「……」

「恋することを、恐れないでって伝えたいの……」

 

ぎゅぅ、とマリアさんの俺を抱きしめる力が強くなる。

 

「……クリスちゃんには、マリアさんの気持ちを伝えたの?」

「ええ、お節介だって言われちゃった」

「そっか」

「でも。一度だけなら、デートしてくれるって約束してくれたわ」

 

来週。

一日だけ俺とデートをしてもいい、とクリスちゃんは言ったらしい。

あとは、俺が乗り気かどうか。

 

「……いいでしょう」

「一鳴!」

「ええ、ええ。そんな話を聞かされて、クリスちゃんが一度だけでも乗り気というのなら俺は断りませんとも。全身全霊でデートさせてもらいます!」

「一鳴、ありがとう……!」

 

そういう事になった。

 

 

 

 

 

 

そんなこんなでクリスちゃんとデートの日。

12月二週目の休日。

いつもの忠狼シフ像の前である。

 

「……待たせちまったな」

 

ポケーッとクリスちゃんを待ってると、約束の時間の15分前に彼女は来た。

赤くてファーのついたフワフワモコモコのコートを着ての登場である。

靴はおろしたての、ピカピカの赤いハイヒール。

ハイソックスはシミひとつない白。

透けるような美しい脚が冬の街に映える。

顔には薄く化粧をしている。

総じて大変カワイイ。

 

「今来たところよ、クリスちゃん」

「嘘つけもっと前から居たんだろ。……今日のこと。マリアから、なんて聞いてるんだよ」

「クリスちゃんとデートしてこいって言われただけよ」

「……そうかよ」

「あと、楽しませてこいって」

「……そうかよ」

 

それきり、クリスちゃんは黙ってしまった。

あからさまに乗り気じゃないね。

まずはノリノリになってもらわないと(使命感)

 

「じゃあ、行きましょクリスちゃん」

「ああ。……で、どこに行くんだよ」

「カラオケ」

「カラオケぇ?」

「クリスちゃん、あんまり今日乗り気じゃなさそうだし、まずはノリノリになってもらう為に、思いっきり歌いましょ!」

「……まあ、いいけどよぉ」

 

俺が免許を持っていたら、ランボルギーニガヤルドの助手席にクリスちゃんを乗せて高速道路をかっ飛ばすんだけどね。

中学生だし無理よ。

免許持ってたらなー、海老名サービスエリアに行ってエンジョイしてたんだけどなー。

無いものは仕方ないネ!

 

そんな訳で、いざカラオケ。

 

 

 

クリスちゃんのノリノリ具合【1D10】

 

1 ノリノリになった

2 ノリノリになった

3 ノリノリになった

4 くぅーん……

5 すごくいい雰囲気になった

6 ノリノリになった

7 すごくいい雰囲気になった

8 ノリノリになった

9 くぅーん……

10 熱烈歓迎

 

結果【5 すごくいい雰囲気になった】

 

 

 

「〜♪」

「〜♪」

 

カラオケ屋さんでクリスちゃんと逆光のフリューゲルをデュエットする。

点数は……。

95点!!

 

「よっしゃ!!」

「やったね、クリスちゃん!」

 

二人でハイタッチ。

いぇーいと、盛り上がる。

 

「一鳴はやっぱ歌ウメェな!」

「クリスちゃんこそ俺より上手じゃない! 俺に合わせてくれてたもんね」

「まあな!」

 

俺が翼さんパート、クリスちゃんが奏さんパート。

クリスちゃんは明らかに俺に合わせて歌ってくれていた。

 

「次、何歌おっか」

「アタシずっと歌いたかった曲があって───」

 

と、クリスちゃんがソファから立ち上がって曲を入力する端末を取ろうとした時、クリスちゃんが足を滑らせる。

 

「あっ……!」

「危ない!」

 

倒れるクリスちゃんを抱き締めて受け止める。

クリスちゃんにソファに押し倒される形になる俺。

クリスちゃんの顔が近い。

乳香のような香りがする。

 

「大丈夫?」

「あ、あ、ああ……」

 

クリスちゃんにそう聞くと、クリスちゃんが顔を真っ赤にして答える。

目と目が合う……。

 

 

 

目と目が合う瞬間どうした?【1D10】

 

1 意識しちゃった

2 意識しちゃった

3 意識しちゃった

4 気まずくなった……

5 好きだと気付いた〜

6 意識しちゃった

7 好きだと気付いた〜

8 意識しちゃった

9 気まずくなった……

10 熱烈歓迎

 

結果【1 意識しちゃった】

 

 

 

「わ、悪い!」

 

バッ!

と音がするように俺から離れるクリスちゃん。

 

「別にいいよ? 怪我はない?」

「ああ、ありがとな」

 

顔を真っ赤にして答えるクリスちゃん。

恥ずかしさを誤魔化すためか、髪を整えたり服の裾を直したりする。

 

「怪我が無くてよかったよ」

「ああ、うん。……鍛えてるんだな」

「まあね、可愛い子を助けるためによく働く筋肉よ?」

「かわっ……!? バカッ!」

 

ぽふぽふ殴られる。

可愛いと言われたのが照れくさいみたい。

 

「言葉が過ぎるぞ色男!」

「色男は言葉と行動を尽くして女の子を口説くのよ」

「うっせぇバカッ!!」

 

そんな訳でカラオケでクリスちゃんと仲良くなった。

なった!!(強調)

 

 

 

そういえばもうすぐお昼ごはんですよ【1D10】

 

1 無難にファミレス

2 無難にファミレス

3 無難にファミレス

4 カレー屋(!?)

5 料理に自信アリな純喫茶

6 無難にファミレス

7 料理に自信アリな純喫茶

8 無難にファミレス

9 カレー屋(!?)

10 ラ ッ コ 鍋

 

結果【9 カレー屋(!?)】

 

 

 

さて。

多少のトラブルはあったものの、カラオケを堪能した俺たち。

そろそろお昼でお腹すいたね、と話をしているとクリスちゃんがあるお店を見つけた。

 

「お、あの店いいんじゃねえか?」

 

指差す先にはカレー屋さん。

カレー屋さん。

食べ方が汚いクリスちゃんがカレー屋さん。

お、試練か?

 

「……行くかァ!」

「よし! アタシ何食べようかな。けっこうガッツリ食べたいんだよな」

 

そんな訳でカレー屋さんである。

二人でテーブル席に向かい合って座る。

俺はコロッケカレー。

クリスちゃんはカツカレー。

5分ほどで運ばれてくる。

刺激的な匂いが食欲をそそる。

茶色いルーは粘性があるが、クリスちゃんが食べると絶対散る。

散って服につく。

どうする、俺!

 

 

 

一鳴の策【1D10】

 

1 あーんで食べさせる!

2 あーんで食べさせる!

3 あーんで食べさせる!

4 あーんで食べさ「恥ずかしいんだよ!」

5 あーんで食べさせる!

6 あーんで食べさせる!

7 あーんで食べさせる!

8 あーんで食べさせる!

9 あーんで食べさ「恥ずかしいんだよ!」

10 熱烈歓迎

 

結果【10 熱烈歓迎】

 

 

 

ここは、あーんで食べさせるしかない。

絶対恥ずかしがるだろうけど、デートだからでゴリ押すしかない!

と、口を開こうとしたら。

 

「なあ、一鳴……あの……」

 

と、もじもじするクリスちゃん。

さらにこう続けた。

 

「その……、食べさせてくれ、よ……」

 

頬を染めて、そう言った。

そう言った。

 

「……ふぇ!?」

「しょうがないだろ! アタシは、その、食べるの下手なんだからッ!!」

 

そう言うと、スプーンをこちらに付き出す。

食べさせろ、という事であろう。

恥ずかしがりやのクリスちゃんが、何を思ってこう言い出したのかは、わからない。

デートだからか、服を汚したくないからか。

それでも、恥を忍んで頼んできたのだから、俺としては否やはなかった。

 

「ええ、ええ! わかりました。食べさせてあげる!」

 

クリスちゃんからスプーンを受け取り、クリスちゃんのカツカレーを掬う。

そして、それを、クリスちゃんのお口に。

 

「はい、あーん」

 

俺がそう言うと、クリスちゃんは控えめに口を開ける。

白く並びの良い歯が見える。

 

「あ、あーん……」

 

その口の中にスプーンを入れる。

パクッ、とカレーを食べるクリスちゃん。

スプーンを抜く。

……うーん、エッチ!

 

「美味しい?」

 

と、俺が聞くとクリスちゃんはコクリと頷いた。

 

「アタシも、食べさせてやるよ……!」

 

クリスちゃんが別のスプーンを持ち、俺のコロッケカレーを掬い、付き出す。

 

「あーん」

「恥じらいなく食うのかよ……。美味いか?」

「美味しいよ」

 

そんな感じで、二人で食べさせあった。

 

 

 

カレー屋で食事を済ませた後。

 

「少し、歩かねぇか?」

 

と、クリスちゃん。

俺は頷き、クリスちゃんの隣を歩く。

街の中、クリスマスソングが鳴り響く中をゆっくりと二人で歩く。

 

「……なぁ、一鳴」

「うん、どうしたの?」

 

クリスちゃんに話しかけられる。

 

「アタシとデートして、楽しいか?」

「うん」

 

即答する。

考えるまでもない、クリスちゃんとのデートは楽しいから。

 

「クリスちゃんは?」

「あぁ、楽しい。……最初は、乗り気じゃ無かったんだけどな」

「ふふ、こちとらプロですので」

「ドン・ファンだな、本当……」

 

クリスちゃんは呆れ顔だ。

 

いつの間にか、街中から自然あふれる公園にたどり着いていた。

 

「あそこのベンチで、少し話さねぇか?」

 

クリスちゃんが、二人で座れるベンチを指差す。

俺は頷くと、二人でベンチに並んで座る。

 

「……なぁ、アタシの事どう思う?」

 

と、聞かれる。

 

「うーん、可愛い女の子? あと優しくてしっかり者? それと恥ずかしがりやさん」

「……アタシの事、好きになれるか?」

「クリスちゃんの事好きよ?」

 

と、言う。

クリスちゃんは俯いてしまった。

 

「…………お前は、アタシの過去知ってるのかよ」

「バルベルデでひどい扱いされてたんだよね」

「ああ。アタシは、奴隷だった」

 

ポツリポツリと、言葉を紡ぐ。

クリスちゃんは2035年から2038年の三年間、バルベルデで奴隷として扱われていた。

最後は聖遺物研究所でフォニックゲインを高めるための備品として捕まっていたが、それ以前は……。

9歳から12歳の間、クリスちゃんは奴隷だったのだ。

 

「バルベルデは内戦状態でな、そんな国で女の奴隷がどんな扱いされるかわかるか?」

「……」

「初体験は9歳だ。嫌がるアタシを、男たちは無理矢理犯したんだ」

「……」

「痛かった、怖かった……。自分が穢されていくのが、辛かった」

 

クリスちゃんが、静かに涙を流す。

 

「アタシの身体で、男に犯されなかった所はないんだよ……。口も、アソコも、尻の穴も。なぁ、そんな女でも、お前は、好きって言えるのかよ」

 

俺は、クリスちゃんの涙を指で拭った。

 

「言えるよ。言えるとも」

 

とめどなく溢れる涙を拭う。

悲哀に暮れて泣く少女の頬を撫でる。

 

「辛かったね、クリスちゃん。辛い思いをしたね」

「……」

「男の俺に、その辛さは共感出来ないけど、クリスちゃんの涙を拭うことはできる」

「……うん」

「君のそばに居る事は出来る」

「……うん」

「だから、自分をそういう風に言わないで。貴女は魅力的な女の子だから」

 

クリスちゃんは顔をくしゃくしゃにして、泣き続ける。

俺の胸に顔を押し付けて、くぐもった声で泣く。

俺はただ抱き締めて背中を撫で続ける。

 

 

 

「……アタシは、恋をしていいのかよ」

「いいよ、勿論!」

 

しばらくして。

少し泣き止んだクリスちゃんが、そう問いかけた。

 

「クリスちゃんは、今好きな人いるの?」

「……気になる人は、今日出来た」

「あら、その人はとんだドン・ファンで、このご時世にハーレム作る遊び人よ」

「でも全員と真剣に向き合う男だろ?」

「そうじゃないと、女の子から相手にされないわ」

「なら、アタシとも向き合ってくれるだろ?」

「勿論ですとも」

「なら、アタシはお前がいい」

 

そんな訳で。

クリスちゃんが恋人になった。

 

 

 

 

 

 

次の日。

俺は部屋で正座していた。

膝の上にはセレナちゃん。

更にその上に切歌ちゃん。

更にその上に調ちゃん。

石抱きならぬ、美女抱き。

先週より一人増えていた。

世界一幸せな拷問であった。

足が痺れてタイヘンだぁ。

 

「増やしたんだね」

「増やしたんデスね」

「増やしたんですか」

「増やしたのね」

 

上から調ちゃん、切歌ちゃん、セレナちゃん、マリアさんである。

マリアさんは俺の後ろで足の裏をツンツンしている。

 

「うひぃん! 今回はマリアさんが持ってきた話でしょ!」

「それはそれ、これはこれよ」

 

マリアさんの64連打!

 

「ふぇぇ……、助けてクリスちゃん」

「その、みんな許してやってくれよ」

 

そばにいるクリスちゃんに助けを求める。

が。

 

「クリス、ここで甘い顔を見せたらまた増えるわよ」

「そうなのか?」

「ええ、だから一緒につっ突きましょう」

 

なぜかつっ突く人が増えた。

なんで?(水柱感)

 

「オォン! アォン!!」

 

悶る俺。

みんな笑顔である。

じゃあ、いいかな。

よくねぇわ脚が限界よ!

 

「一鳴、これからよろしくな!」

 

笑顔のクリスちゃんがそう言った。

 

「はい、よろしくねクリスちゃん。ぎゃおん!!」

 

最後にマリアさんに思いっきりツンツンされた。

 

どっとはらい。





対ダイスの女神必勝法。
そもそも不利な出目を減らせば良い。
でも今回はダイスの女神が味方してくれました。

そんな訳でクリスちゃんデート回でした。
この結末にはソネットさんもニッコリ。
クリスちゃん幸せにおなり……。
一鳴きゅんは死力を尽くせよ……。


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第九十九話 2040年12月31日


2021年最後の初投稿です。
この回からシリアスに向かっていきます。
いい加減時計の針を進めて本編の時間軸まで行かないとね。
そんな訳でサンジェルマン回です。




 

 

 

その日、サンジェルマンたちは日本を離れて、欧州に潜伏していた。

パヴァリア光明結社の本部、統括局を目指していたのだ。

統括局長アダム・ヴァイスハウプトに年末に一度帰還するようにと言われていた為である。

一年以上日本に滞在していたので、その命令も妥当である。

様々な仕事が溜まってるだろうし、連絡事項もあるだろう。

 

そんな訳で欧州である。

欧州は現在、ギリシャのオリュンポス十二神に実効支配されている。

イギリス以外の欧州全土が鎖国状態にある。

なのでサンジェルマンたちは日本からアメリカに行き、そこから英国に向かい、さらに海を渡りフランスに密航。

そこから陸路で統括局のあるチェコに向かった。

 

パヴァリア光明結社統括局は巧妙に隠されている。

それは、迫害されてきた錬金術師や魔女を守るための措置であり、現代ではオリュンポス十二神から身を隠すためのものである。

錬金術による結界で隠された古い館。

それが、パヴァリア光明結社統括局だ。

 

その統括局に6人がたどり着いたのは、日本を出て一週間が経ってからである。

夜のことであった。

戦争の傷跡がいまだ生生しく残る欧州を徒歩で移動していたので、時間が掛かったのだ。

 

「やっ…………と! 着いたワケダ」

 

ミラアルクに背負われたプレラーティがげっそりして言った。

 

「プレラーティはずっと背負われてただけじゃないの」

 

カリオストロがそう言う。

 

「背負われるのも大変なワケダ!」

 

と、ミラアルクから降りながらプレラーティが言う。

 

「長い旅路だったのは否定しないわ」

 

サンジェルマンがそう言う。

そして、館の中に入る。

残りの5人もそれに続いた。

 

「懐かしの統括局ね」

「なワケダ」

 

カリオストロとプレラーティはキョロキョロと当たりを見渡す。

 

「……?」

「人の気配が、ないワケダ」

 

統括局は外見も大きいが、中はそれよりもさらに広くなっている。

結界の力で大きくしているのだ。

だが、それにつけても人の気配が全くしないのはおかしい。

 

「…………」

 

サンジェルマンも辺りを見渡す。

床には赤いカーペットが敷かれ、白い壁には花の模様。

サンジェルマンの記憶にある統括局だ。

だが、人の気配がない。

廃墟のようになっている訳ではないが、人が居ない。

 

「みんな、警戒して。なにかが異常よ」

 

と、サンジェルマン。

 

「どうするワケダ?」

「いっそ帰っちゃう?」

 

プレラーティとカリオストロはそう言う。

サンジェルマンは首を振った。

 

「いえ、一応統括局長の部屋に向かいましょう」

 

そんな訳で全員でアダムの部屋に向かうことになった。

廊下を進み、階段を登り館の最上階。

アダムの執務室。

その、執務室の前で、赤いスーツを着て赤いシルクハットを被る男装の麗人が立っていた。

彼女の名前はアグリッパ。

パヴァリア光明結社の幹部の一人である、優秀な錬金術師であり、サンジェルマンが居ない間アダムの書類仕事をこなしていた人物である。

 

「アグリッパ」

「久しいじゃないかサンジェルマン、カリオストロ、プレラーティ。一年ぶりかな」

 

アグリッパが3人に笑いかける。

 

「久しぶりね。仕事はどう?」

「なんとかこなしていたさ。統括局長はアレだし、こっちが頑張らないとね」

 

アダムは無能である。

規格外の魔力をぶん回して錬金術を無理やり行使しているぐらいである。

細かい仕事が出来ない男であった。

ゆえに、サンジェルマンがサポートに入っていたのであったが、そのサンジェルマンが日本に出張中にアダムのサポートをしていたのがアグリッパであった。

 

「それでアグリッパ、統括局に人の気配がしないのだけれど」

「ああ、それについては統括局長から説明があるよ」

 

アグリッパがそう言うと、扉の前から離れる。

サンジェルマンたちはアダムの執務室に入ろうとするが。

 

「あ、そこの3人には入らないでおくれよ」

 

アグリッパはヴァネッサたちノーブルレッドに向かってそう言ったのだった。

 

「この部屋に入れるのは幹部だけだから」

「ああ、そうだったわね」

 

サンジェルマンは思い出した、そう言えばそういう規則があったな、と。

サンジェルマンは腰に佩いていた剣をヴァネッサに渡す。

その剣は【フィエルボワの剣】、サンジェルマンの友ジャンヌ・ダルクが用いた哲学兵装だ。

今年手に入れた、彼女の親友の剣である。

 

「ヴァネッサ、その剣を持って私の執務室で待ってて」

「わかりました」

 

ヴァネッサはそう言うと、剣を受け取る。

そして、ミラアルクとエルザを連れて一つ下の階にあるサンジェルマンの執務室に向かった。

その姿をアグリッパはジッと見つめている。

 

「アグリッパ?」

 

サンジェルマンはその様子に疑問を抱いて問いかける。

 

「ああ、いや。あの剣は完全聖遺物かい?」

「ええ。日本で手に入れた哲学兵装よ。その説明も統括局長にするわ」

「そうかい」

 

今度こそ。

サンジェルマンたちはアダムの執務室に入る。

 

「やあサンジェルマン、カリオストロ、プレラーティ。久しぶりだね、こうして会うのは」

「お久しぶりです、統括局長」

 

サンジェルマンたちを歓迎したのは、アダムである。

汚れ一つない白いスーツに白い帽子を着た伊達男。

アグリッパと対になるな、とサンジェルマンは密かに思った。

そのアグリッパは最後に部屋に入ると、扉を閉める。

そして、扉の前で腕を組んで待機する。

サンジェルマンたちを笑みを浮かべて見る。

 

「統括局長、一つお聞きしたいことが」

「なんだいサンジェルマン? 聞いておくれよ、なんでもね」

「なぜ、この統括局に人の気配がしないのでしょうか。私たち以外の人が居ないような気がするのですが」

「流石だよサンジェルマン。その通りだよ。居ないのさ、()()()()()()()()()

 

アダムはそう言い放った。

 

「私たち以外に……?」

 

アダムの言い方に違和感を覚えるサンジェルマン。

アダムの言い方だと、アダムとアグリッパも人間ではないと言っているようだ。

 

「少し話をしようか」

 

そう言うと、アダムは立ち上がり窓辺に向かう。

 

「おおよそ2年前だよ始まりは。あるいはもっと昔かな。受け入れた時だよ、ヴリル協会の面々を」

 

ヴリル協会。

バルベルデに潜伏していた旧ドイツの秘密組織。

アメリカの聖遺物使用推進過激派と合流した後、風鳴訃堂に追われてパヴァリアに逃げてきたのだ。

 

「保菌していたのさ、その中の一人が。かつての神の残滓、神霊を」

「……!!」

 

神霊、その言葉を聞いてサンジェルマンは驚いた。

それは、昨年の10月、冬木市で聞いた言葉。

統一言語に潜むかつての神、カストディアン・アヌンナキの一柱の魂の欠片。

そして、サンジェルマンが統括局長に不信感を覚えるようになったきっかけ。

 

「持っていたのさ厄介な特性を、その神霊はね。増えるのさ、彼女は。人々の精神に寄生して、己を増やす。同じだよ、()()()

「酷い言い草だな、アダム」

 

クスクスとアグリッパはそう笑う。

一幹部に過ぎないアグリッパが、アダムを呼び捨てにする。

サンジェルマンは罠に嵌められたと気付いた。

 

「アグリッパ、貴女……!」

「手遅れだったよ、気付いたときには。探った時には遅かったのさ。感染爆発だよ、パヴァリアは。居なかったからね、君たちが。止められないよ、誰にもね」

「そして、パヴァリア光明結社に所属する錬金術師や研究者を全員私の支配下において、私はアダムと取引をした」

 

アグリッパが、アダムの言葉を引き継いだ。

 

「パヴァリアの全勢力をもってギリシャの十二神を討つ。君たちに残された道は2つ。私の支配下に入るか、ここで死ぬかだ」

 

アダムが口を開いた。

 

「錬金術師たちは全員ゾンビのようになった。もう君たちだけだよ、マトモな人間は」

「あなたは、統括局長? あなたはその神霊に支配されていないのでは……?」

 

サンジェルマンの言葉にアダムはクツクツと笑う。

 

「人間ではないよ、僕は。『ひとでなし』なのさ。神に作られた最初のヒト、それが僕さ」

「局長……?」

「言いたくないかな、それ以上は」

 

それきりアダムは口を噤んでしまう。

 

「さあどうする? 支配か死か。選びなよサンジェルマン」

 

アグリッパがそう言ってサンジェルマンたちに近付く。

 

「サンジェルマン」

「答えは、決まってるワケダ」

 

カリオストロとプレラーティがそう言うと、サンジェルマンは一つ頷いてアグリッパに向かってこう言った。

 

「アグリッパ、私の心は決まってるわ」

「ほう」

「私は支配に反逆する為にパヴァリアに入った。そして、まだ死ぬつもりはないわ」

 

そう、言った瞬間。

カリオストロとプレラーティが錬金術を使い、床を分子分解。

下の階に落ちる。

 

「ヴァネッサたちと合流して、脱出するわよ!!」

「はーい!」

「わかったワケダ!」

 

着地した後、扉に向かって走る3人。

そして、廊下に出た途端。

 

「ヴァアアア!!」

「アアアアア!!」

「キィエエエ!!」

 

奇声を上げて走る錬金術師たちが現れる。

彼らは全員両手を前に突き出して走る。

サンジェルマンたちに向かって。

 

「こいつらずっと隠れてたわね!!」

「蹴散らすワケダ!」

 

カリオストロとプレラーティが風の錬金術で錬金術師たちを吹き飛ばす。

しかし……。

 

「アッアッアッ……」

「キャハキャハ……」

「チュパチュパ……」

 

次から次へと錬金術師たちが現れる。

 

「キリがないわサンジェルマン!」

「早くヴァネッサたちと合流しましょう!」

「アイツらの手、なにか嫌な予感がするワケダ。触れられないように注意するワケダ」

 

三人はサンジェルマンの執務室に向かう。

 

そして、執務室にたどり着いたが。

 

「う、そ……」

 

中は錬金術師たちで犇めいていた。

ヴァネッサたちの姿は見えない。

 

「やられたわ……!」

「これじゃあ3人は……」

 

ノーブルレッドの3人は犠牲になった。

そうサンジェルマンたちは思った、のだが。

 

「まだ生きてるでアリマス!」

 

エルザの声だ!

執務室の奥から聞こえる。

 

「剣がバリアー張ってくれて無事なんだゼ!」

「でも動けないので、助けてくださーい!」 

 

ミラアルクとヴァネッサの声もする。

フィエルボワの剣がノーブルレッドの3人を守ったのであった。

 

「ジャネット、感謝するわ」

 

そう呟くサンジェルマン。

スキありと見たのか、錬金術師が手を伸ばし、サンジェルマンに触れようとする。

 

「甘いわ」

「ギャアアア!!」

 

サンジェルマンが錬金術で錬金術師を燃やす。暴れる錬金術師、他の錬金術師に炎が燃え広がる。

 

「こじ開けるワケダ!」

「こっちも!」

 

プレラーティとカリオストロが錬金術で人波を無理やり脇に寄せる。

押し潰される錬金術師たち!

 

「こっちよ!」

「助かりました!」

 

光の障壁の中に居たノーブルレッドたちが駆け寄る。

 

「この剣のおかげで助かりました」

 

ヴァネッサがサンジェルマンにフィエルボワの剣を返す。

 

「ありがとう、ジャネット」

 

サンジェルマンは剣にそう言うと、来たときと同じように腰に佩く。

 

「それで、状況はどうなってるんだゼ?」

「ゾンビパニックみたいになってるでアリマスが」

「似たような状況よ」

「パヴァリア光明結社は終わりなワケダ」

 

合流した6人はサンジェルマン先導のもと、統括局を走る。

並み居る錬金術師たちはサンジェルマンたちが錬金術で排除している。

 

「テレポートジェムはジャミングのせいで使用出来ない。正規の脱出ルートも統括局一帯も、いえ欧州全体も、おそらく多くの錬金術師で固めてるはず」

「なら、どうするワケダ」

 

走りながらそう話すサンジェルマンとプレラーティ。

サンジェルマンはこう答えた。

 

「正規じゃないルートを取るわ。つまり、このままギリシャに向かうわよ」

 

窓の外から月明かりが漏れる。

深夜を過ぎて、年が明けようとしていた……。

 

 

 





パヴァリアの本部を統括局と呼ぶとか、統括局がチェコにあるとかはオリジナル要素です。
そんな訳で次回はサンジェルマン大脱出回。

6人は無事にギリシャにたどり着けるでしょうか。

次回もお楽しみにね!


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第100話 2041年1月1日


あけましておめでとうございます。
今年もこの作品と作者をよろしくお願いします。

さて、今年初の初投稿なのですが、本当は元日に投稿する予定でした。
でも寝正月で忙しくて(震え声)

あと、ここからオリジナルキャラとオリジナル展開マシマシで行くので、ついて来れるやつだけついて来い!(マリアさん感)


それと記念すべき本編100話到達記念なので、後書きで所感を書かせていただきます。



 

 

サンジェルマンがギリシャに逃げ込もうと言ったのには理由がある。

神霊を保菌するアグリッパはどう言う訳かギリシャのオリュンポス十二神を目の敵にしており、ギリシャに攻め入ろうとしている。

だからこそ、ギリシャには神霊に精神汚染されている人は居ないだろうと考えたのだ。

 

「日本も危険よ」

 

サンジェルマンは5人にそう言った。

サンジェルマンたちが日本の二課と協力体制を取っていることは相手にも知られている。

だからこそ、アグリッパの配下が日本に先回りして神霊感染爆発を起こす可能性も否めないのだ。

だからこそ、ギリシャに逃げ込む。

そして、そこで神霊の精神汚染に対抗出来る技術を確立して、改めて日本に逃げ込む。

それが、サンジェルマンの計画だ。

 

「その為には、彼らの身体に触れてはいけないわよ」

 

と、サンジェルマンは側に倒れる錬金術師を見ながら言う。

ここはパヴァリア光明結社統括局地下、聖遺物倉庫。

建物内に犇めく錬金術師たちから一時隠れているのだ。

聖遺物倉庫内にも何人かの錬金術師が潜んでいたがさっさと無力化された。

そして今、カリオストロとプレラーティが錬金術を用いて精神寄生する神霊の正体を探っている。

 

「精神寄生体に実体はないワケダ。肉体を持たないからこそ、精神に寄生するワケダ。幽霊みたいなものなワケダ」

 

と、錬金術師の頭を錬金術で探るプレラーティ。

 

「でも幽霊と違って生きている肉体がないと生きられないのよねー」

 

カリオストロがプレラーティの補佐をしている。

 

「うん、大体わかったワケダ」

「どうなの、プレラーティ?」

「コイツらの肉体内部には冬木で見たエイワズと同じようなエネルギーが流れているワケダ」

 

プレラーティがそう言う。

 

「では、神霊という事で間違いないのね」

「そうね」

「それと、空間にはエネルギーは漏れてないワケダ。空気感染はせず、肉体の接触感染で伝染するワケダ」

「触らなければいいのね」

「それはそうなワケダ。でも……」

 

カリオストロにそう伝えるプレラーティ。

言葉を続ける。

 

「このエネルギー自体は強力で、触れられたら一発アウトだと考えるワケダ」

「ワオ、怖いわね」

 

カリオストロが茶化す。

しかしその顔は真剣である。

全員を見渡して、こう言った。

 

「一応聞くけど、ここに来てから誰も他の人と触ってないわね?」

「ええ」

 

全員が頷く。

サンジェルマンとカリオストロ、プレラーティが全員分の精神をチェックする。

 

「あのエネルギーは全員発していないワケダ」

「ひとまず安心かしら」

「既存の精神防壁は使えそうね」

「でも、神霊のエネルギー圧が高いからあまり安心出来ないワケダ」

 

つまり、一度だけなら神霊感染した錬金術師に触れられても大丈夫だが、その次はアウトという事である。

 

「……いつまでもここに隠れている訳にはいかないわね」

 

サンジェルマンは上を見る。

ここは地下。

なんとか人の薄い所を選んで逃げてきたが、いい加減外に出ないといけない。

そして、陸路でギリシャに向かう。

 

「全員、覚悟は良いわね」

 

サンジェルマンにそう言われて、全員が頷く。

生き残る努力をしようと、覚悟を決めていた。

 

「まずは外まで一気に突っ切るわよ!」

 

聖遺物倉庫を走って出る。

外は、感染済みの錬金術師たちが犇めいていた。

 

錬金術師たちに向けて、様々にビームが飛び交った。

 

 

 

サンジェルマン逃避行(1/4)【1D10】

 

サンジェルマン【2】

カリオストロ【5】

プレラーティ【10】

ヴァネッサ【4】

ミラアルク【1】

エルザ【9】

 

感染済み錬金術師たち【8】+10(神霊補正)

 

 

 

「知能の無い錬金術師など敵ではないワケダ!!」

 

プレラーティの錬金術が神霊感染錬金術師の錬金術に対抗、神霊感染錬金術師たちが無力化されていく。

 

「スキありでアリマス!」

 

エルザがテールアタッチメントを取り出し、腰部のコネクタに接続。

半球状のテールアタッチメントを展開、身に纏って高速回転!

無力化した錬金術師たちを跳ね飛ばす!

 

「凄いわねエルザちゃん!」

「負けてられないゼ!」

「触らないように注意するのよ」

 

ミラアルクはバイオブーステッドユニット「カイロプテラ」を身に纏って戦う肉体派なので神霊にはいささか分が悪かった。

なのでカイロプテラをブーメランめいて投擲して戦っていた。

 

「道が出来た! 出口まで一気に走るわよ!」

 

錬金術師たちが倒れて道が開かれる。

6人は駆け出す。

目指すは地上だ。

 

 

 

サンジェルマン逃避行(2/4)【1D10】

 

サンジェルマン【8】

カリオストロ【5】

プレラーティ【1】

ヴァネッサ【8】

ミラアルク【10】

エルザ【2】

 

???【5】+20(???補正)

 

 

 

6人は階段を駆け上がり、並み居る神霊感染錬金術師たちをぶっ飛ばしながら走る。

そして、結社の門までたどり着くが……。

 

「そこまでだよ、快進撃は」

 

門の前には統括局長アダムが立っていた。

冬空の元、月明かりに照らされているアダム。

 

「統括局長……」

 

アダムを睨むサンジェルマン。

無能だが、強敵であるのでサンジェルマンの顔も険しい。

 

「して欲しいね、投降を。間に合うよ、今はまだ」

「そういう訳にも、いきませんので」

 

アダムに向かって、サンジェルマンははっきりとそう言った。

 

「あなたは、ずっと私を騙していた。人と人との相互理解を阻むバラルの呪詛、それこそが諸悪の権化だと。でも、違った!」

 

サンジェルマンは声を荒らげた。

冬木の異端聖杯戦争で知った事実。

アダムがサンジェルマンを騙していたという事実をぶつける。

 

「バラルの呪詛が阻む統一言語の中にはかつての神が封じられていた! 改造執刀医と呼ばれたアヌンナキが!」

「……そこまで知っているのかい」

 

アダムは嘆息した。

 

「そうさ、騙していたんだよ君を。僕には必要なのさ、神の力が」

「だから、神霊と手を結んだのか! 神の力が欲しいからと!」

「それだけじゃ、ないけどね。教えないよ、もう君には」

 

アダムが掌を天に向ける。

手のひらの上に火の玉が生まれる。

核融合による、プラズマだ!

膨大な魔力で、無理矢理黄金錬成を行っているのだ!

 

「死んでもらうよ、君たちには。残念だけどね、僕としても!」

「そう簡単に、死ぬ訳にはいかないわ!」

 

サンジェルマンがそう言うと、6人が散開。

一気呵成に畳み掛ける。

 

「負けないよ、僕は。ただのヒト風情には!」

 

アダムが核融合プラズマを地面にぶつける。

アダムを中心に爆発が起きる。

熱と土煙がサンジェルマンたちの視界を奪う。

 

「きゃあッ!」

 

エルザの側に現れたアダムがエルザを蹴り飛ばす。

エルザはプレラーティに当たって転がる!

 

「プレラーティ! エルザ!」

 

サンジェルマンが叫ぶ。

 

「気にしていいのかい、あっちを」

 

アダムがサンジェルマンに迫る。

その手のひらには火の玉!

黄金錬成を直接サンジェルマンをぶつける算段だ!

回避しようとするサンジェルマン。

しかし、どうあがいても間に合わない。

腕一本を犠牲にするしかないと、サンジェルマンが覚悟したその時!

 

「やらせないゼ!」

 

カイロプテラを足に纏ったミラアルクがアダムに飛び蹴り!

アダムの顎にクリーンヒットしてふっ飛ばす。

ふっ飛ばされた先で黄金錬成が暴発して爆発する。

 

「助かったわ、ミラアルク」

「あざまーすだゼ!」

 

にっこり笑うミラアルクであった。

 

「屈辱だよ、こんなことは」

 

土煙の中からアダムが立ち上がる。

二度に渡る黄金錬成の爆発で、服が焼却され全裸である。

 

「その格好は確かに屈辱なワケダ」

「そういう意味じゃないさ」

 

プレラーティの皮肉を流すアダム。

 

「やられるとはね。不完全な人、それも廃棄寸前の実験動物に」

 

と、アダムはノーブルレッドを揶揄するように言う。

 

「その実験動物にやられてちゃ世話ないゼッ!」

「まったくだよ。だから、出させてもらうよ本気を。脱がせてもらうよ、()()を」

 

そうアダムが告げた途端。

アダムの肉体が膨れ上がった。

巨人の如く大きくなり、頭が変形する。

黒ヤギのような頭になり、雄牛のような角が生える。

黒い肉体には、更に黒いプロテクターが生成される。

およそ醜悪な人外の姿である。

 

「これは……ッ!」

 

サンジェルマンたちが驚く。

アダムのこの姿をサンジェルマンたちは知らなかった。

 

「言ってなかったね、サンジェルマン! これが僕の本性さ! 神に作られた人のプロトタイプ! 神に廃棄された原初のヒト!」

「原初のヒト、だからアダムなのね……!」

 

サンジェルマンは聖書に書かれたアダムとイヴの逸話を思い出していた。

 

「アダムというより、サタンでアリマス!」

「悪魔チックではあるわよね……!」

 

エルザとヴァネッサがそう言い合う。

 

「晒したんだ、恥を。醜悪な姿を。死んでもらうよ、ここで、確実に!!」

 

アダムの口吻がバッカルコーンめいて開かれる。

魔力がチャージされる。

 

「全員、気を付けなさいッ!!」

 

サンジェルマンが叫ぶ。

全員が再び散開する。

 

アダムの口吻から、閃光が放たれる。

放たれた閃光はパヴァリア光明結社統括局に命中する。

爆発。

統括局の一角が消滅していた。

 

「全員、気を引き締めなさい。当たれば死ぬわよ!」

「死なせるのさ、僕が! 恥を雪ぐのさ、僕が!!」

 

 

 

サンジェルマン逃避行(3/4)【1D10】

 

サンジェルマン【1】

カリオストロ【7】

プレラーティ【9】

ヴァネッサ【6】

ミラアルク【2】

エルザ【6】

 

アダム【10】+50(真の姿補正)

 

 

 

真の姿を晒したアダムの性能は圧倒的であった。

巨駆から繰り出される格闘は、人体など軽く破壊する威力だ。

無尽蔵の魔力から放たれる錬金術は、人体など軽く消滅させる力を持つ。

それでも、全員がボロボロになりながらも立っているのは幸運だろう。

 

「ちょっとキツイわね……」

「なワケダ……」

 

カリオストロとプレラーティがそう口を開く。

才ある二人が前もって対策を練っていれば、対抗出来たかもしれない。

だが、この場に対アダム戦を想定していた者は居らず、故に危機的状況に陥っていた。

 

「……ミラアルクちゃん、エルザちゃん。アレをやりましょう」

「……! わかったゼ!」

「ガンス!」

 

ヴァネッサ号令の元、ノーブルレッドの三人がアダムを囲うように等間隔に立つ。

それは三角形を描くようにアダムを包囲していた。

 

「何をする気だい? 出来ないだろう、君たち失敗作には! 何も!」

 

アダムが嘲笑するように言い放つ。

 

「出来るわよ、一瞬なら!」

「馬鹿にするのも、ここまでだゼ!」

「怪物は迷宮に放り込まれるのがお似合いでアリマス!!」

 

三人が両手を伸ばしてアダムに向ける。

空に、青く輝く立方体が無数に現れる。

立方体にはそれぞれの面にルーン文字が描かれている。

それらは円を描くように周回し、そして降ってくる。

立方体がアダムを囲う。

 

その技の名は「ダイダロス・エンド」。

 

「迷宮には怪物がいる」という、多くの人が長き時間に渡って積層してきた認識を元に、「怪物がいる場所こそが迷宮」と因果反転させることで実現した哲学兵装にして、ダンジョンエディット機能。

 

その技の行使には三人の消耗が激しく、10分と持たない。

だが、逆に言えば。

10分間は持たせられるのだ。

維持できるのだ。

 

こうして、アダムは迷宮に放りこまれた。

だが、アダムの無尽蔵の魔力を爆発させれば、一瞬で迷宮を破壊して脱出可能だ。

だから、三人はこう叫んだ。

 

「早く逃げてくださいッ!」

「ここはウチらが抑えるんだゼッ!」

「一分でも、一秒でも長く抑えて見せるでアリマスッ!!」

 

パヴァリア光明結社の実験動物として捕らえられていた彼女たちだが、そんな彼女たちを救ったのは結社の最高幹部の一人サンジェルマンだ。

複雑な思いはある。

だが、恩義はそれ以上に感じていた。

 

しかし、何事にも上には上が居るものである。

 

「概念補強、しとくわね」

 

カリオストロが指を鳴らす。

ノーブルレッドが形作るダイダロスの大迷宮が青から赤に変わる。

 

「怪物ある場所に迷宮あり、なら、怪物そのものな統括局長が中に居たら存在強度を補強出来るわよ」

「あと、要石も用意したワケダ」

 

プレラーティが丸い石をノーブルレッドの3人の足元にばら撒く。

丸い石は青い魔力を放っている。

 

「簡易的な物なワケダが、お前たちの代わりに迷宮を維持してくれるワケダ」

 

ノーブルレッドの作った迷宮を、二人の最高幹部が補強、改造する。

その事実に思わず呆けてしまうノーブルレッドであった。

 

「すごいゼ……」

「ガンス……」

「お姉さん自信無くしちゃうわ……」

 

そんな訳で。

ノーブルレッドの3人は消耗しながらも、6人全員でパヴァリア光明結社を離脱出来たのであった。

だが、3人の消耗は大きく、力を使いすぎた為に血を浄化しなければならない。

ノーブルレッドの3人は実験動物であり、失敗作である為に異端の力を使用すると血が淀むのである。

そして、現状その淀みを浄化することは出来ない。

 

 

戦力が3人減ってしまった……。

 

 

だが、それで見捨てるサンジェルマンではなかった。

サンジェルマンはノーブルレッドの3人を連れて逃走した。

結社の結界を出た後、テレポートジェムを使いチェコからハンガリーのブタペストに転移。

そこにはサンジェルマンの秘密のアジトがあった。

結社にも知らせていない、秘密のアジトだ。

そこで小休止を取った後、サンジェルマンたちはまたテレポートジェムを使って転移した。

 

 

 

数時間後。

6人は旧北マケドニア共和国のビトラという街にいた。

ビトラはギリシャの国境にほど近い。

オリュンポス十二神の居る旧ギリシャ共和国は国境線に白亜の大きな壁を建設。

出入国を厳しく管理している。

国境線の壁は物理的にも魔術的にも固く、テレポートジェムでの侵入も難しい。

それに十二神に気付かれる可能性もある。

 

だが、何事にも裏はある。

門番に顔の聞く密輸業者がこのビトラに居るらしい。

その業者はギリシャ内部で作られるオリュンポスの神々の恩寵が籠もった物品を高額で売りさばいているのだ。

サンジェルマンはすぐにその密輸業者と連絡を取り合い、サンジェルマンたちを密入国させる手続きを取った。

そして、待ち合わせ場所に向かったのだが……。

 

「やあ、サンジェルマン」

 

待ち合わせ場所の公園にはアグリッパがいた。

アグリッパの足元には密輸業者の男が倒れている。

 

「アグリッパ……!」

「逃避行もここまでだよ」

 

アグリッパが指を鳴らす。

密輸業者の男の身体が燃え上がり、瞬く間に灰となった。

 

「強力な魔力ね……!」

「そしてそれを繊細にコントロールしているワケダ。アダムとは大違いなワケダ」

 

カリオストロとプレラーティが冷静に観察する。

サンジェルマンたちに匹敵する魔力と、アダムとは違う繊細な術式。

繊細な術式はアグリッパの得意とする所だが、サンジェルマンほどの魔力をアグリッパは持っていなかった。

神霊に感染したが故に手にした力だろう。

 

「君たちを殺すために私も危ない橋を渡っている。この街にいると、オリュンポス十二神に気付かれる可能性も高いからね」

 

だから、そう言ってアグリッパが更に言葉を繋げる。

 

「少しだけ、本気を出させてもらうよ」

 

アグリッパの眼が赤く光る。

金糸の如き髪が白く変わる。

 

「姿が、変わったッ!」

「だけじゃないよッ!」

 

サンジェルマンの呟きにアグリッパが更に答える。

サンジェルマンたちを囲うように、パヴァリア光明結社の錬金術師たちがテレポートジェムで転移してくる。

その数およそ10人!

全員が赤い瞳と白い髪となっている。

全員が口を開く。

 

「死にゆく君たちに、我が真名を教えよう」

「我が真名はエロヒム」

「シェム・ハ・エロヒム」

「一にして、複数なるもの」

「ただ一つにして、無数にいるもの」

「お前たちルル・アメルに組み込まれた神聖な御霊の一つ」

「喜べ」

「お前たちは神の奇跡を目撃する」

「すなわち、同一自我の複数同時運用」

「この場にいる我ら全てが神なのだ」

「平伏せよ、頭を垂れよ」

 

アグリッパに感染したエロヒムが口を開く。

 

「そうすれば、楽に殺してやろうッ!!」

 

瞬間、エロヒムたち全員が逆さ五芒星魔法陣展開、万物を白銀に変える閃光を放たんとする……!

 

 

 

サンジェルマン逃避行(4/4)【1D10】

 

サンジェルマン【8】

カリオストロ【3】

プレラーティ【7】

ヴァネッサ【戦闘不能】

ミラアルク【戦闘不能】

エルザ【戦闘不能】

 

エロヒム【】

エロヒム【】

エロヒム【】

エロヒム【】

エロヒム【】

エロヒム【】

エロヒム【】

エロヒム【】

 

 

 

「そこまでです」

 

11人のエロヒムが白銀変換閃光を放とうとした、まさにその瞬間、大地が裂け一人の女性が姿を表す。

 

「……ペルセポネー、ハデスの管理者か」

 

エロヒムはその女性をペルセポネーと呼んだ。

ギリシャ神話における、ハデスの妻。

冥界の女王。

金色の髪を一房にまとめた美しい女性だ。

そのバストは豊満であった。

 

「失せなさい、古き神の残滓よ。あなたたちに雷霆を凌げる力は残っていないでしょう?」

「…………」

 

エロヒムたちはペルセポネーを一瞥すると、魔法陣を消して転移していく。

最後にアグリッパの身体を奪ったエロヒムが残る。

 

「残念だがここまでか。また会おう、サンジェルマン」

 

アグリッパの姿も消えた。

統括局に帰ったのだろう。

 

「窮地を助けてくれた、という認識でいいのかしら?」

 

サンジェルマンが聞く。

ペルセポネーは微笑みながら頷いた。

 

「ええ。貴女たちのことは知っています。間に合ってよかった」

 

ほっと息をつくペルセポネー。

その様子に疑問を持つプレラーティ。

 

「私たちを知っていた? どういうワケダ?」

 

ペルセポネーは口を開いた。

 

「それを説明する為にも、私と共に来ていただけませんか?

オリュンポスの地下特別居住区、私の居城に」

 

その後、ニッコリとペルセポネーは微笑み、ノーブルレッドたちに向けてこう言った。

 

「お連れ様の体調も優れないご様子。そこでしたら、血の淀みも治療できますよ?」

 

 





今回の戦闘、一回目と2回目はいつもの戦闘ですが、3戦目の本気モードのアダムは負けイベント。4戦目のエロヒム軍団はイベントムービー入りみたいな感じ。
実質戦闘2回じゃん、そんな補足でした。

あと、話の最後に出てきたペルセポネーさんは、外観は『僕は友達が少ない』の柏崎星奈を当てはめると良いと思います(適当)
この作品、ほとんどやる夫スレリスペクトみたいな所あるんで、オリジナルキャラの外観は大体版権キャラのアスキーアートです。



それと、今回で本編100話到達しました。
皆様の応援のお陰でここまでこれました。
ありがとうございます。
これからも応援と高評価お願いします(ヨクバリス)
あーはやく評価バー真っ赤にならないかなー(棒読み)

それはそれとして。
この作品は作者の処女作です。
もともと創作は好きで、今は無きアイドルマスターミリオンライブのドラマ作成機能で変態ドラマを書いてました。
ドスケベ千早やドスケベ志保など。

そんな下地があり、いつか自分もハーメルンでなんか書きたいと考えてました。
ハーメルン二次創作ではインフィニット・ストラトスやリリカルなのはを読み耽りオリ主文化について学びまして、それからシンフォギアAXZをリアルタイムで見て、シンフォギアにハマってチョイワルビッキーや藤×切小説なぞ読みまして。

XV放送直前のYouTubeでのシンフォギア一挙配信を見て、
「シンフォギア二次創作書くかァ!」
となりました。

でも作者は飽き性だし、普通に書いても良くあるオリ主介入ものになるのは目に見えてました。

じゃあダイスによるランダム要素入れりゃいいじゃん!
そういう事になった。
そして書いた。

のっけから訃堂が司令になってた(かすれ声)
ランダム要素なんてクソ。時代は固定値だと学びました。

そんなダイスに泣かされてプロット書き直したりする作者ですけれど、ランダム要素があるからこそ飽きずに書き続けることが出来ました。

そしてこれからもダイスに泣かされながら渡一鳴というモテモテハーレムマンと二人三脚で頑張っていきます。
本当は当初、この作品ハーレムものにするつもり無かったんです。
最初に一鳴くん好きになった女の子とラブラブしてもらおうとおもいまして。
そしたら速攻調ちゃん落ちまして、こりゃヒロインは調ちゃんだなと考えてたらね……。
マリアさんとセレナちゃんがね……(震え声)

総括として、なんもかんもダイスが悪い!!

そんなこんなでこれからも応援よろしくッ!


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第101話 2041年1月2日

今回の話の為にギリシャ神話を調べました。
結論として、作者には難しすぎた(白目)
まあ、プロット組むのには問題ないので問題ないです(進次郎感)

そんな訳で、作者の考えた古代ギリシャしんじつ回です。
オリジナル展開がモリモリです。
おおナムサン!
読者諸君の精神状況は大丈夫だろうか!?
失禁等の症状が現れた場合は直ちにブラウザバックして、ネコチャン動画を見てほしい。




 

 

2041年1月2日。

ペルセポネーに連れられて地下世界にやって来たサンジェルマンたち。

旧北マケドニア共和国ビトラの地下からペルセポネーが示した座標に転移してたどり着いたのは、窮地ギリシャ共和国の北西、イオニア海がほど近いネクロマンディオという町……の地下500メートル地点である。

 

ネクロマンディオはハデスに纏わる遺跡がある。

死者のお告げが来る神託所、地下神殿がある。

ここは、その更に地下。

神々の揺り籠、地下特別居住区。

ギリシャの地下に埋没する、かつてのアヌンナキの宇宙船の残骸である。

 

その地下特別居住区の一室、食堂のような椅子の並べられた場所にサンジェルマン、カリオストロ、プレラーティはペルセポネーに招かれた。

 

「いやー、あの子達も大事に至らなくて良かったわね!」

 

先程とは打って変わって、フランクに話しかけるペルセポネー。

こちらが素で、先程の丁寧で礼儀正しい話し方は余所行き用のペルソナを被っていたらしい。

 

ここにたどり着いた後、ヴァネッサ、ミラアルク、エルザの3人はここの治療室に放りこまれた。

治療室には無数の2メートルほどの卵型のカプセルがあり、3人はそこに押し込められた。

このカプセルは患者のためのベッドであり、また、隔絶された手術室でもあった。

現在は3人とも、麻酔をかけられて眠っている。

 

「血の淀みを治すために稀血がいるなんて、難儀ね。でも、ここなら稀血は無限に精製できるし安心よ!」

「稀血の無限精製とかサラッととんでもないこと言ってるワケダ……」

 

ノーブルレッドの3人は人でない物が肉体に接続されている。

拒絶反応を抑えつつ、人と人でない物を繋げるためには稀血(Rhソイル式(Rh xxoyle_formula))という珍しい型の血液が機能させる「パナケイア流体」が必要不可欠なのだ。

そして、この地下特別居住区治療室では稀血を無限精製出来るのであった。

無論、異端技術でありパヴァリア光明結社ではついぞ実現しなかった技術である。

プレラーティが唸るのも頷けるだろう。

 

「さて、改めて。

私はペルセポネー。神話で知ってるかもしれないけど、豊穣神デメテルの娘でハデスの嫁よ」

「つまり、神さまってコト?」

「みんなの認識上はそうなるわね」

 

カリオストロの言葉にそう答えるペルセポネー。

 

「含みのある言い方ね」

「そうね。うーん、なんて言ったらいいのかしら……」

 

悩むペルセポネー。

その時である、ガガガ、と耳障りなノイズ音が部屋に響く。

そして、その直後、音声!

 

『妻よ、そこからは私が説明しよう』

 

威厳のある、しかし優しい男性の声だ(CV津田健次郎感)

部屋の隅にあるスピーカーから聞こえてくる。

 

「ダーリン!」

「ダーリン、という事は」

 

サンジェルマンにはダーリンと呼ばれた男の察しがついた。

 

『始めまして、異邦の錬金術師よ。我が名はハデス。一応冥界の神として名が通っているな』

「やはり、貴方が……!」

 

ハデス。

ギリシャ神話におけるビッグネームであり、冥界の神である。

主神ゼウスの兄であり、また兄弟たちと違って人格者だと知られている。

ペルセポネーにまつわるこんな話がある。

 

ペルセポネーが野原で花を摘んでいるところを、偶然ハデスが目にした。その瞬間、愛の神エロスに矢を射たれてハデスはペルセポネーに恋をした。

しかしハデスは内気だった為、ゼウスの元に恋の相談に行く。

しかしゼウスは、

 

「男は強引に行ってナンボだぜ? え、結婚の許可? (デメテルに話し通してないけど)ええよ」

 

と言ってしまう。

それを真に受けたハデス、黒い馬に乗ってペルセポネーを冥界に攫ってしまう。

困ったのはデメテルである。

愛娘が夜になっても帰ってこないので、あちこち歩き回ってハデスの誘拐を知り、ゼウスの元に赴く。

 

「アンタが唆したんでしょ!」

「知らねーよ兄貴が勝手にやったんだろ!」

 

兄を売るゼウス。

しかしデメテルは、

 

「アンタと違って真面目なハデスがそんな事自分からする訳ないでしょうがッ!」

 

と一瞬で見抜いたそうな。

その後色々あって、ハデスとペルセポネーはきちんと結婚して、ペルセポネーは冥界の女王になった。

どっとはらい。

 

 

 

閑話休題。

スピーカー越しに話を続けるハデス。

 

『我らは神として人々に知られている、故に神として生きていける』

「……まさか! 自分たちを神だと人口に膾炙させたのね!」

 

サンジェルマンは看破した。

ペルセポネーが含みを残す言い方をした理由を、ハデスの言葉の意味を。

 

()()()()ッ! 人々に神だと信じ込ませて自分たちを神に引き上げたッ!」

『正解だ、賢者よ。故に語ろう、我らの始まりを。そして、何故貴女たちを知り、ここに招いたかを……』

 

ハデスは語りだす。

全ての始まりを。

 

 

 

 

 

 

約5000年前。

先史文明末期。

或るアヌンナキが反旗を翻した。

その名はシェム・ハ。

 

シェム・ハの陣営は地球を己の物にしようとしたが、アヌンナキであるエンキにより撃破された。

だが、シェム・ハは肉体的に死を迎えようとも、全人類の遺伝子に言語化した己を潜り込ませており、何度でも復活する。

故にエンキは月の遺跡、観測ベースマルドゥークからネットワークジャマー「バラル」を発生させて全人類の言語を分断。

エンキは命を捨ててシェム・ハを封印する事に成功した。

 

だが。

死を迎えたシェム・ハの肉体をシェム・ハ陣営残党に奪われ蘇生されては苦労が水の泡となる。

エンキ亡き後のアヌンナキたちが戦場跡に赴き、シェム・ハの肉体も封印しようとしたが。

そこに、死体は無く。

あるのは無数の血の跡と、僅かな骨の欠片のみであった。

 

 

 

シェム・ハは、その肉体は喰われたのだ。

かつてのルル・アメルだった、ゼウスとその兄弟たちによって。

 

ゼウスたちは、今のギリシャを収めていた王の一族であった。

アヌンナキに代わり人々を纏める者達、神と人を繋ぐもの。

それが、かつてのゼウスたちだ。

人々を纏める代わりに贅を尽くす暮らしを許された。

だが、それは所詮ヒトに許される範囲のもの。

ヒトの上に立つアヌンナキたちは、ヒトの暮らしとは隔絶した暮らしをしていた。

 

リンゴやザクロとは比べ物にならない程甘い菓子。

暑い日を涼しく、寒い日を暖かくする部屋。

鉄の武器では決して叶わぬ兵器群。

 

先史文明期において、ヒトは家畜であった。

ゼウスたちは家畜の王であった。

王として人々の上に立つ彼らには、誇り高き彼らには許されざる事であった。

だから、シェム・ハの反乱は彼らにとって転機だったのだ。

ヒトが神の力を得るというチャンスの……。

 

彼らは賭けた。

アヌンナキの死に面する機会に恵まれる事を。

そして、彼らは賭けに勝った。

 

エンキとシェム・ハ。

激闘の末、死したシェム・ハ。

エンキは月に去り、大地に神は無し。

ゼウスたちの目の前には、シェム・ハの死骸。

 

 

同物同治という言葉がある。

身体の中の不調を治すには、不調な部分と同じ物を食べればいいというもの。

例えば、肝臓が悪いなら家畜の肝臓を食べればいい、胃の病気なら胃を、心臓の病気なら心臓を食べればいいという考え方だ。

 

また、カニバリズムは対象の血肉を取り入れる事で、魂や力を受け継ぐことが出来るという考え方が主流だ。

 

 

つまり、彼らは。

すなわち、ヘスティア、デメテル、ヘラ、ハデス、ポセイドン、そしてゼウスは。

アヌンナキの力を得る為に、アヌンナキを喰らった!

シェム・ハの死骸を喰らう、神喰いを行ったのだ。

 

効果はすぐに現れた。

只のヒトであった彼らの肉体は若返り、また強大な力を得た。

アヌンナキが地上に置いていった異端技術の結晶、完全聖遺物の完全な制御を可能とした。

 

事の次第を知ったアヌンナキたちは、ゼウスたちを殲滅せんと宇宙戦艦を持ち出した。

宇宙からギリシャごと殲滅するつもりだった。

 

だが、その戦艦は。

雷霆ケラヴノスにより落された。

放ったのはゼウス。

島ほどあろうかというアヌンナキの戦艦はギリシャに落ちた。

大地は戦艦の重さに耐えきれず、戦艦は大地に沈んだ。

 

シェム・ハの反乱で戦闘用員のアヌンナキが激減していた事もあり、アヌンナキたちは地球を捨てた。

そして、ギリシャはゼウスたちの物になった。

彼らは真に支配者となったのだ。

 

ゼウスたちはアヌンナキの戦艦からアヌンナキの知識を得た。

即ち、ヒトの認知を利用した哲学兵装。

アヌンナキの異端技術を使用した聖遺物の作り方。

まずゼウスたちは自分たちを崇めさせる為の神話を作った。そして、それを人口に膾炙させた。

同時にいくつもの聖遺物を作り、その力でもってヒトを支配した。

ゼウスたちに支配された人々は、ゼウスたちを新たな神だと信仰した。

その畏れはゼウスたちにさらなる力を与えた。

 

彼らは神となった。

 

長い月日、ゼウスたちはギリシャを支配する神として君臨した。

ゼウスたちは子どもを作り、神の数は増えていった。

有力な神の子はゼウスと並んで讃えられ、そういった神々はオリュンポス十二神として知られる事となった。

そんな、ある日の事。

 

 

シェム・ハの呪いが牙を剥いた。

 

 

神喰らいという大罪を犯したゼウスとその血を繋ぐ兄弟姉妹。

その子どもたち。

彼らにシェム・ハの血肉は毒と変貌した。

生きながら肉は焼け、血は毒となり骨は腐りゆく。

ゆっくりと、しかし確実に。

ギリシャの神々を冒していった。

 

だから、オリュンポス十二神は永い眠りに就くことを強いられた。

遠い未来に希望を残して、アヌンナキの戦艦の一室、コールドスリープ装置で眠りについた。

 

シェム・ハの呪いに対抗する為の聖遺物『ピトス』とそのピトスの守護者である自動人形『パンドラ』を製造して───。

 

 

 

 

 

 

『だが。旧ギリシャ共和国の考古学者によりコールドスリープ装置から、十二神は叩き起こされた上に、頼みの綱であるピトスはパンドラに持ち去られ行方不明。結果、パンドラを探す為に十二神は世界に対して戦争を起こした、という訳だ』

 

ハデスは、語り終えた。

長い長い話であった。

 

『私は十二神よりも症状が進行していた為に、肉体を捨てて、この戦艦の管理システムの一部となった』

「つまり、電脳化しているのね」

「そうよ、私のダーリンってばプログラムなの」

 

サンジェルマンの言葉に、ペルセポネーはあっさりとそう答えた。

 

「ん、じゃあ貴女は?」

「ああ、私も肉体を捨てて自動人形に置換してるのよ」

「ウソ、その身体で自動人形!?」

 

カリオストロが驚く。

ペルセポネーの肉体はどこから見ても人間のようにしか見えなかった。

 

「そりゃ、ヘパイストス工房の特注品だもの! そんじょそこらの錬金術師製のモノとは格が違うわ!」

「なるほど鍛冶神の手製なのね」

 

ヘパイストス。

ギリシャの有名な鍛冶神である。

ゼウスの雷霆も彼の手製と言われている。

だが、ゼウスの雷霆がアヌンナキの遺した聖遺物であるとすれば、アヌンナキの知識を紐解き自身の物にした神だと言える。

 

「この身体、ウン千年運用しても壊れないのよ! スゴイでしょ!」

 

ペルセポネーは自慢げだ。

作ったのはヘパイストスだが。

 

『話を戻そう。ゼウスたちはピトスを持ち出したパンドラを探している。だが今も見つかっていない』

「心当たりはないの?」

『無い。だが、今も稼働しているのは確かだ』

「何故そう思うのかしら」

『ピトスが開かれていない』

「どういう事?」

 

サンジェルマンの疑問にハデスは答えた。

 

『ピトス、その正式名称を【事象選択装置】、ゼウスたちを蝕む呪いに対抗する事象を演算して、現実を演算結果に書き換える現実改変を引き起こす』

 

現実改変を引き起こす聖遺物。

それこそが、パンドラの箱として知られる【ピトス】の正体だ。

 

『事象の演算が終わる前にピトスが開かれたら、未演算の事象が災いとして振りまかれる。それが起こってないという事は───』

「まだピトスは開かれてない……」

『そうだ。そしてピトスが開かれていないという事はパンドラはまだ稼働している、という事だ』

 

ハデスはそう言い切った。

そして、言葉を続けた。

 

『パンドラの持つピトスをゼウスが獲得したら、ゼウスは不死となり手がつけられなくなる。その前に、君たちにはパンドラの行方を探ってほしい』

「なぜ、私達にそれを?」

 

サンジェルマンが聞く。

 

『私はずっと私達の味方になってくれる人物を探していた』

「私達はね、ずっとずっと前からゼウスのやり方には辟易していたのよ」

 

ペルセポネーが言葉を繋げる。

 

「ママもそうだし、ヘラ様もそう。でも表立って反抗したら殺されちゃうわ。だから、密かに活動し続けていたし、味方になってくれる人も探してた」

『君たちは強く、裏社会に通じていて、そして私達との話し合いに応じてくれるだろうと前々から考えていた』

「ずっと見ていたわ。あなた達を。サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティ」

 

ペルセポネーは3人の目を見て、こう言った。

 

「私達に力を貸して。お願い」

 

ペルセポネーの言葉に3人は顔を見合わせる。

 

「どうするの、サンジェルマン?」

「サンジェルマンに任せるワケダ」

 

カリオストロとプレラーティはサンジェルマンに判断を任せる。

もう、答えなど決まっているからだ。

 

「……貴女にはノーブルレッドの三人を助けてもらった恩があるものね」

 

サンジェルマンはペルセポネーの目を向けてそう言った。

 

「いいわ。パンドラの捜索、請け負いましょう」

「……! ありがとう、サンジェルマン!」

『君に感謝を。サンジェルマン』

 

ペルセポネーとハデスが感謝を述べる。

ペルセポネーの目には光るものが見えた。

 

「取り敢えず、あの3人を治すまではゆっくりしてて! この戦艦、快適だから! お肌スベスベエステルームもあるのよ!」

「案内して、すぐに!!」

 

エステルーム発言に食いつくカリオストロ。

サンジェルマンとプレラーティは思わず吹き出してしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

この時。

サンジェルマンはおろか、ハデスもペルセポネーも、そしてゼウスですらも気付いていなかった。

濁り水はもうすでに流れ出しており、世界はまた変わろうとしている事を……。

 

 

 




御清覧ありがとうございました。

次回は一鳴くん回……を書けたらいいなぁ。
そろそろ女の子とイチャイチャさせたい欲が、うごご……。


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第102話 嵐の前


今日で投稿2周年なので初投稿です。
一日は27時間なのでセーフなのだ(ガバガバ理論)

これからも執筆投稿ガンバルゾー! ガンバルゾー! ガンバルゾー!(邪悪なチャント)



 

 

年始の二課。

風鳴訃堂、風鳴八紘、風鳴弦十郎、フィーネ、ウェル、キャロル、そして外部の人間であるナスターシャの7人は会議室に集まっていた。

日本政府や飛騨忍群の掴んだ情報を共有するためだ。

 

「……もう一度、仰っていただけますか?」

 

ナスターシャがそう言う。

毅然と言い放つが、その声は僅かに震えていた。

ナスターシャの問いに答えたのは、八紘だ。

 

「F.I.S.は、壊滅したとの事です」

「そう、ですか……」

 

ナスターシャは目許を押さえて、それだけ答えた。

 

ウェルの裏切りと訃堂の脅しにより、レセプターチルドレンは全員日本に帰還・移送された。

子どもたちは皆、日本各地の養護施設に送られた。

ナスターシャもまた、F.I.Sの研究者を辞めてウェルが建てた養護施設の院長になった。

だが、F.I.S.は研究を辞めなかった。

聖遺物の研究を辞めなかった。

国から死刑囚や不法入国者を斡旋してもらい、違法な人体実験に手を染めていた。

だからこそ国はF.I.S.の手綱を取るために、F.I.S.に定期的に連絡を取るよう命じていた。

 

1月2日から3日の深夜。

その定期連絡が無かった。

国はすぐに、投薬パーフェクトソルジャー部隊をF.I.S.の研究所に派兵した。

そして、パーフェクトソルジャーたちは惨劇を目の当たりにした。

白い研究所の内部が血と肉で赤く染まり、研究者も死刑囚も不法入国者も殺し尽くされた、F.I.S.を。

生存者、ゼロ。

肉体が壊され尽くされており、誰が誰なのかわからない始末であったという。

そして、何より。

いくつかの聖遺物が無くなっていた。

 

その情報を、八紘はアメリカ政府高官から聞き及んでいた。

 

「米国政府は犯人に、目星はついているのでしょうか?」

 

ナスターシャの言葉に首を振って答える八紘。

 

「いえ。ただ、研究所内に無理矢理押し入った跡が無いことから、内部の人間による犯行と見ているようです」

「内部犯……、ドクター心当たりはありますか?」

 

ナスターシャがウェルに聞くが、ウェルは首を振った。

 

「……わかりません。あそこは誰もが野心を持ってましたからね。聖遺物使って悪さしそうなのはいくらでも居ますよ」

「そうですね……」

 

かつての職場、共に働いた者たちの訃報を聞いてナスターシャとウェルは少なからずショックを受けていた。

邪悪な研究者はいたが、清掃員や警備員には良い人も居た。

そんな彼らも死亡した。

それが、ナスターシャとウェルに衝撃を与えたのだった。

 

「大丈夫ですか。無理はなさらず、お休みになりますか?」

「いえ、大丈夫です」

 

ナスターシャは毅然と答えた。

ウェルも頷く。

 

「続きを話してください。問題は、F.I.S.……米国だけではないのでしょう?」

「ええ、そうです」

 

弦十郎が頷いた。

 

「インドの聖遺物研究所もまた、同じタイミングで襲撃されました」

 

この襲撃事件もまた、2日から3日にかけた深夜の事である、

かつてラーヴァナを収容・研究していたインドの聖遺物研究所が襲撃された。

犯人は中国の聖遺物研究所所属の特殊部隊。

第七聖遺物実験部隊という異端技術を用いる部隊。

かつて冬木市で一鳴を攫おうとした、カルマ・リーの所属していた組織である。

その時は冬木市に潜伏していた緒川忍群を強襲、そのスキに一鳴を誘拐した。

その後なんのかんのあって、一鳴は救出されてカルマ・リーは死亡した。

その、第七聖遺物実験部隊がインドの聖遺物研究所を襲撃したのである。

死者も出た襲撃で、第七聖遺物実験部隊はいくつかの聖遺物を強奪した。

その中の一つに、ラーヴァナの副腕があった事が日本に伝えられた……。

 

「ラーヴァナの、副腕……」

 

キャロルは顎に手を当て考える。

 

「ラーヴァナは体内に不死の霊薬アムリタを宿していたな。副腕には?」

「……確か、まだ残っていたわね。一鳴くんがラーヴァナの身体を焼き尽くす前に切り離された腕だから」

 

了子の言葉に全員頭を抱えた。

 

「不老不死狙いか……」

「道士である第七聖遺物実験部隊には喉から手が出るほど欲しいか……」

「富と権力を得た人間は、誰もが欲しいのでは?」

 

と、話し合う。

 

「それで、インド政府と中国政府はどうしているのです?」

「中国政府に極めて強い厳重抗議をしたらしいのだが、中国政府は知らぬ存ぜずらしく」

 

ナスターシャの疑問に弦十郎はこう答えた。

 

「それと、中国と第七聖遺物実験部隊との間でなにかあったらしく情報が錯綜しております」

「今も、緒川忍群が情報を収集しております」

 

八紘が弦十郎の後に答える。

 

「ロシアから来た軍事アドバイザーの指示だとか、千年狐狸精がどうとか……」

「千年狐狸精、九尾の狐……?」

 

了子が意外な名を聞いたと目を丸くした。

 

「知り合いか?」

「かつての私だ」

 

了子の目と髪が黄金に変わる。

フィーネが表に出たのだ。

 

「かつてのフィーネ、ですか」

「あなたなんでもアリなんですか?」

「白面金毛九尾の狐、なるほど見た目はそれっぽいな」

 

上からナスターシャ、ウェル、キャロルである。

 

「長生きなんですね!」

 

エルフナインの無邪気な言葉!

フィーネはスルーした。

 

「中国の妲己と褒姒、インドの華陽夫人、そして日本の玉藻前。全部私だ」

「じゃあ、第七聖遺物実験部隊になにかしたのか?」

 

キャロルの言葉に苛立たしげにフィーネが答えた。

 

「なにもしていない。私の行動は全て二課に筒抜けだし、そもそも年末年始は風鳴弦十郎と共に……」

 

フィーネはハッとして了子に戻った。

 

「とにかく私は無実よ!」

 

会議室の面々は弦十郎と了子を生暖かい目で見た。

 

「ごほんッ! とにかく第七聖遺物実験部隊についてはこれからも情報を収集していこうッ!」

「……うむ、そうだな」

 

八紘が生暖かい目でそう言った。

 

「最後にバルベルデで起こった異変だが、ほとんど何もわからない」

 

これもまた、2日から3日にかけた深夜の事。

バルベルデのジャングルから天に向かって黒い霧が吹き出した。

その霧は10kmも高く登った後、薄く広がり地に降りていった。

黒い霧は瞬く間にバルベルデ共和国とその国境を超えた別の国の一部を覆い尽くした。

それは、空から見れば、黒い霧が吹き出した地点を中心に半球状に覆われた闇である。

その黒い霧は、光を通さなかった。

朝が来て、太陽の光が南米大陸を照らしても、その黒い霧は霧散せず、それはまさに闇のようであった。

 

「そして、その闇は恐ろしく硬い壁としても機能しているらしく、国連軍はその闇を突破はおろか突入することすら出来ないそうだ」

 

弦十郎はそう締めくくった。

 

「南米で発生した闇。夜……? テスカトリポカかツィツィミトル由来の聖遺物が原因かしら……」

「どちらも南米で信仰された神、夜の神ですね」

 

了子の言葉にナスターシャは答える。

 

「日食、太陽を否定するからこそ太陽の光で払えない闇を作り出すことも出来るでしょうけれど……」

「情報があまりにも足りていませんね」

 

二人はそう締めくくった。

訃堂が口を開いた。

 

「南米バルベルデで発生した異変についても、米国やインド、中国で起こった異変についても。各国と連携して情報収集をしていくしかあるまい」

 

全員が頷いた。

その後、了子が口を開く。

 

「弦十郎くん、ネフシュタンの起動実験どうする?」

 

2041年1月6日にツヴァイウィングのニューイヤーライブで【ネフシュタンの鎧】という聖遺物の起動実験を行うのだ。

ライブ会場の別室で、ツヴァイウィングの歌声とライブの熱狂を浴びせて起動させようという実験である。

だが、世界が混乱しつつある最中でそのような実験をしてもよいか、という疑問である。

 

「難しいな……。ネフシュタンの鎧はこれまで一鳴くんの協力でフォニックゲインを高めてきたからこそ、ここで起動させたかったが……」

「いや、実験は行う」

 

悩む弦十郎にそう言ったのは訃堂だ。

 

「このような時代だからこそ、ネフシュタンの鎧の起動は急務である。かの鎧は無限再生の理を持つ、それ故に再生医療への転用が可能かもしれん。それに」

 

訃堂は続けてこう言った。

 

「実験会場に儂と弦十郎、それに了子くんとキャロルくん、ナスターシャ教授。

ライブ会場には一鳴くんと慎次、そして二課本部には八紘とエルフナインくんが居る。何があろうと問題は起こるまいよ」

 

 

 

 

 

 

明けましておめでとうございます。渡一鳴です。

2041年1月5日。

そろそろ冬休みも終わりが見えつつある今日この頃。

俺も二課の正月休みが開けそうで辛い。

3日しかなかったけどね、正月休み。

 

2日と3日はお仕事でした(かすれ声)

元日は有給取った(祝日出勤回避感)

 

1月6日に催されるツヴァイウィングのニューイヤーライブ、それと並行して行われるネフシュタンの鎧の起動実験。

その警護のためにライブ会場の見取り図を頭に叩き込み、一緒にライブ会場を守る緒川=サンと互いの役割を決めたりした。

ちなみに、俺が異常が発生した際にその異常を取り除く役、緒川=サンが観客の避難誘導を中心とした役である。

あとは、二課や起動実験の会場からの通信が遮断された際の動き方とか。

 

緒川=サンは実際スゴイニンジャである。

連絡が遮断されたら、ここまで自己判断で動くとか、その時俺はどう連携したらいいかとかを、凄くわかりやすくかつ効果的に教えてくれる。

そりゃ翼さんも惚れますわぁ。

ちなみに翼さんの事を聞いてみても、シレッとかわされたり空蝉ジツ使われたりした。

おのれニンジャ……!

コイバナからは逃げられんぞ……!

 

それはそれとして。

そんなライブ兼起動実験が明日行われる訳で。

俺はその為に英気を養えと言われてお休み貰ったのだった。

昨日は調ちゃん達と初詣に行きました。

調ちゃん、切歌ちゃん、マリアさん、セレナちゃん、クリスちゃん、そして俺。

みんなで調神社に行ったのよねぇ。

そこで色々話をしたのだけれど、ナスターシャ院長が起動実験に手を貸す縁から、孤児院の皆がライブに招待されているらしい。

ツヴァイウィングは今、熱狂的な人気を誇っているから皆楽しみにしているのだとか。

調ちゃんと切歌ちゃん、クリスちゃんもソワソワしていた。

マリアさんは今年の4月からツヴァイウィングのマネージャーになるから、セレナちゃんと関係者席でライブを観劇するとのこと。

 

それに、聞いた話だと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

……響ちゃんと未来ちゃんがライブに行くのは、原作通りの流れである。

もっとも、未来ちゃんは親戚のおばさんが事故かなんかで不参加になったはずだが。

 

問題はライブの顛末も原作通りなのかという訳で。

原作では、フィーネが悪さしてライブ会場にノイズを召喚して大惨事を引き起こし、ネフシュタンの鎧を強奪。

その惨劇の最中、ガングニール装者だった奏さんは死亡、ガングニールの欠片は響ちゃんの心臓近くに癒着、響ちゃんはガングニールの融合症例となりライブに誘った未来ちゃんは罪悪感からと愛故に神獣鏡のシンフォギアを纏う、というのがもはや記憶も定かではない俺のシンフォギアの知識である。

 

少なくとも、ノイズを呼び出しネフシュタンの鎧を奪うはずのフィーネは二課に縛られているから惨劇は引き起こさないだろう。

ツヴァイウィングはシンフォギア装者としての顔を持っていないから、ノイズと戦うこともない。

響ちゃんが融合症例となることも無い。

だが、それでも。

転生前の、精霊さんとのやり取りが頭に浮かぶのだ。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

精霊さんは響ちゃんと未来ちゃんが仲間になると言っていた。

だが、二人のフォニックゲインはシンフォギアを起動させるには至らないらしい。

了子さんに聞いたので間違いない。

 

だが、明日のライブは。

どこかの誰かが事を起こすのにはうってつけの日でもある。

そして、響ちゃんが融合症例となる日である。

今の時代、火種はどこにでもあるのだ。

備えなければならない。

やるべき事はすでにやった。

なら、後は守り抜くだけだ。

 

自分の守りたい人。

愛する人を。

愛すべき人々を。

 

二課の防人、唯一無二のシンフォギア装者として。

 

 

 

「ナルぐぅぅんッ!! 宿題終わらないよぉ!! 宿題やらないとライブ行っちゃダメってお母さんに言われたから助けてぇ!!」

 

涙と鼻水で顔がグジュグジュの響ちゃんのエントリーである。

うーんこの愛すべきおばか。

 

仕方ない。

今日は響ちゃんの宿題手伝って上げるとしようかな。

もうすぐ未来ちゃんも来るだろうしネ!





今回だけで色んなこと起きすぎやろ作者ァ!
ちゃんとプロット練ったんかワレェ……え、ダイスのせいでプロット壊れた……あ、そっかぁ(白目)

まあ、簡単にまとめると、

○アメリカ:F.I.S.壊滅。死傷者不明。
○インド:聖遺物研究所襲撃されてラーヴァナの腕パクられた。
○中国:インドの研究所襲撃してラーヴァナの腕パクった。計画したのは九尾の狐か?
○バルベルデ:謎の黒いドームに閉じ込められた。
○日本:ツヴァイウィングのライブとネフシュタンの鎧の起動実験
○一鳴:2日はお仕事でヘトヘトになって帰ってきたらマリアさんとセレナちゃんに姫始め懇願されたので気絶するまで頑張った。
○フィーネ:年末年始は弦十郎としっぽりした。

だいたいこんな感じ。
わかんないところあったら質問してください。
今後のネタバレにならない範囲で答えます。

そんな訳で次回はツヴァイウィングのライブ編。
次回もお楽しみに……。


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第103話 序曲




◆とうこうが遅れたりゆう◆

ヒスイ地方でポケモンと死闘を繰り広げてました(震え声)


そんな訳で遅れて申し訳ないです。
ここからライブ編です。

そういえばXDU新章始まりましたね。
楽しみですねぇ!
アマテラスギア切ちゃん、アマテラスに縁あるからって伊勢神宮の関係者説出回ってるデスよね。
……ロマノフ王朝関係者にして伊勢神宮関係者切ちゃん。
ちょっと盛りすぎやね……。





 

 

 

2041年1月6日。

ツヴァイウィングニューイヤーライブ当日。

ライブ自体は16時から行われる。

のだが、ツヴァイウィングの二人やスタッフ、そしてライブの裏でネフシュタンの鎧の起動実験を行う二課のメンバーは昼過ぎから現場入りしている。

もちろん、俺もネ!

 

今は奏さんと翼さんがライブでの動きを確認しているところ。

会場の天井からステージに舞い降りて歌うという、派手派手なもの。

いやホント紐なしバンジーのハズなのになんであんなにフワッと浮遊感あふれる登場が出来るのかしら。

 

「あれは最新の重力制御装置と慣性制御装置を組み合わせているのですよ」

 

と、いつの間にやら側にいた緒川=サンが教えてくれた。

 

「それ、異端技術では?」

「異端技術ですよ? 翼さんのお父様である八紘様が無理を言って用意したものです」

「うーん親ばか!」

 

八紘さんは翼さんに甘すぎでは?

俺は訝しんだ。

 

「ところで一鳴さんは非常時の動きは大丈夫ですか?」

 

と、緒川=サンが聞く。

 

「ええ、問題なく。ライブ会場の間取りと避難経路、敵が侵入するときの予測経路も頭に入ってますよ」

 

今回のライブ会場、観客のキャパシティが10万人。

その10万人の観客を逃がすための避難経路は20にも及ぶ。

その全てがどこにあって、どう通じるのかを覚えるのは俺の仕事の一貫である。

もし、異常が発生した時、その異常をどうにかこうにかするのは俺だからだ。

例えば、会場の避難経路をノイズに抑えられたら、そのノイズを撃破するのは俺である。

もっとも、ノイズを人工的に呼び出すことは日本においては不可能だが。

2年前から稼働しているアンチ・ノイズ召喚プログラムは現状異常なしだからだ。

なので、出てくるとしたら、アルカ・ノイズかカルマノイズだが……。

まあ、その時はその時である。

 

「……一鳴さんは、ライブが襲撃されるとお考えですか?」

 

そう、緒川=サンに問いかけられる。

その顔は、今もリハーサル中であるツヴァイウィングに向けられている。

 

「充分、ありえるかと」

 

神ならぬ身では、未来も運命も見えはしない。

だが、本来の歴史なら今日この日は奏さんが死んで響ちゃんがガングニールの融合症例となる日だ。

なんらかの作用が働いて、異変が起こる可能性を俺は無視できなかった。

 

「もし、その時、僕の身になにかあったとして」

 

緒川=サンは続ける。

 

「僕のことよりも、翼さんと奏さんを最優先に助けて欲しいのです」

「緒川=サン……」

 

それは、忍者としての矜持だろうか。

自分よりも、主を。その娘、孫を。

あるいは、ずっと見てきたツヴァイウィングというアイドルを、翼さんと奏さんという少女二人を敬愛しているからか。

でも、緒川=サン。

貴方が命よりも優先する翼さんは、貴方を愛しているのですよ。

 

「助けますよ。翼さんと、奏さんも。そして、緒川=サンも」

「一鳴さん……」

「ええ、俺はヨクバリなので、全員助けてみせますよ」

「……そうですか」

 

緒川=サンが僅かに微笑んだ。

 

「その時は、お願いします」

「ハイヨロコンデー」

 

 

 

 

 

 

15時。

ライブ一時間前。

ライブ会場の入り口が開かれて、長蛇の列を築いていた観客たちが中へ中へと入っていく。

俺はライブ会場のエントランスホールで、観客たちを眺めていた。

 

サボってないよ?

怪しい人たちが居ないか見てるだけだよ?

 

「あ、一鳴さん!」

 

と、声をかけてきたのはセレナちゃんである。

その横にはマリアさん。

セレナちゃんは可愛らしくも大人っぽいワンピース。

マリアさんは、なぜか樫原理子めいたパンツスーツだ。

 

「私も4月からはツヴァイウィングと共に働くもの。だから仕事という意味でスーツなのよ」

 

と、マリアさん。

気合が入っているなぁ。

 

「一鳴さんは、お仕事ですか?」

「うん、そうなのよね」

 

セレナちゃんはナスターシャ院長から、ネフシュタンの鎧について聞いているのだろう。

すこし、心配そうだ。

 

「聖遺物の起動実験なんて、大丈夫なの?」

 

マリアさんが小声で聞いてくる。

 

「大丈夫だと思いますよ。優秀な科学者や技術者が揃っているので」

 

了子さんナスターシャ院長キャロルちゃんというチートなラインナップである。

これならネフシュタンの鎧も暴走しないでしょ。

……しないよね?

 

「ま、何かあった時の俺なので。二人共安心してね」

「はい、わかりました……」

「その時はよろしくね」

 

そう言うと二人は俺の頬にキスをして、人波に消えていった。

関係者席に向かったのだろう。

あと美女二人からキスされたのを見て、「リア充爆発しろ」と叫ぶ時給が255円そうな人が居たり。

 

それはそれとして。

5分ほど人波を見ながら、怪しい人物チェックしていると、見覚えある人たち。

 

「あ、一鳴さんデス!」

 

その内の一人が手を振る。

切歌ちゃんだ。

孤児院メンバーも現場入りである。

 

「やっほー」

 

俺も小さく手を振る。

孤児院の皆も手を振ってくれる。

俺は皆に近付いた。

 

「一鳴さんはお仕事ですか?」

 

調ちゃんが聞く。

 

「そうなのよね。二課って人が居ないから」

 

シンフォギア装者は俺一人だし。

あれ? 原作は翼さんと奏さんの二人だから、半分に削減されとるな(震え声)

だから忙しいのね(気付いてはいけない真実)

 

「お前も災難だなぁ、楽しい楽しいライブを楽しめないなんて」

 

と、クリスちゃんだ。

皮肉げに言い放つがその目は寂しそう。

一緒に見たかったのね。

 

「クリスちゃんとのデートはまたの機会ね。今度小さな箱のライブ行きましょ。クリスちゃんロックとか好きでしょ?」

「素人バンドじゃねぇだろうな?」

()()()()()のライブはどう?」

「カノープス!? 人気爆発のバンドじゃねーか! 行く行く! 絶対行く!!」

 

カノープスはコピーバンド中心のバンドグループだ。

メンバーはナイスネイチャ、ツインターボ、イクノディクタス、マチカネタンホイザの四人。

なぜか史実の有名馬の名前で活動している美少女バンドグループだ。

つぼ八で突発ライブしたのがきっかけでじわじわと人気に火が付きつつある。

ついたあだ名はつぼ八バンド。

あとマネージャーが緒川=サンに似ている気がする。

立ち振舞とか、雰囲気とか……。

 

「じー……」

「ずるいデース……」

 

調ちゃんと切歌ちゃんのジト目だ!

 

「私欲しい洋服があるんだけどなー」

 

調ちゃんがそう言う。

 

「アタシも行きたい所いっぱいあるデス」

 

切歌ちゃんがそう言う。

 

「はい、一鳴二人ともデートします……」

 

俺はそう言った。

 

「楽しみにしてるね♡」

「いっぱい連れ回すデス♡」

「その、あたしも楽しみにしてるからな……!」

 

そんな訳で。

孤児院のメンバーを見送った。

 

それから更に8分ほど。

見覚えのある二人組がエントランスホールに入ってくる。

 

「あ、ナルくん!」

「あ、本当だ」

 

響ちゃんと未来ちゃんだ。

そっか、未来ちゃんもライブに来たのね。

 

「やっほ」

「ナルくんやっほ!」

「ナルくんお仕事?」

「お仕事ですねぇ……」

 

未来ちゃんの問いに俺はそう答えた。

 

「大変だね……」

「お賃金いっぱい貰えるし、仕方ないね」

 

俺のお賃金は父の年収を遥かに超えている。

その分父より忙しいのだぁ(悲哀)

 

「聞いてよナルくん! 今日未来休むところだったんだよ!」

 

と、響ちゃん。

 

「未来のおばさんが怪我したとかでお見舞いに行かなきゃいけなくなりそうだったんだけど」

「無理言って来ちゃった」

 

未来ちゃんはそう告げた。

本来なら今日のライブは行けなくなっていた筈。

だが、未来ちゃんは無理矢理来たのだ。

原作よりもアグレッシブになってるのかな?

誰のせいかしらね(すっとぼけ)

 

「その代わりライブが終わったらお父さんが迎えに来てすぐにおばさんの入院してる病院に行かないと行けないんだけど……」

「そこは仕方ないネ……」

「未来と一緒に帰りたかったなぁ」

 

響ちゃんの眉がハの字になった。

 

「ライブの後、一時間ぐらい待っててくれたら一緒に帰れるけど?」

 

俺はそう、響ちゃんに提案した。

今回、二課組が撤収するのがそれぐらいの時間なのだ。

 

「え、いいの? 待つよ、うん! 私待ってるから!」

 

ニッコニコの響ちゃんであった。

 

「いいなぁ……」

 

未来ちゃんは唇を尖らせた。

 

「……あ、響! 急がないと物販売り切れちゃうよ!」

「そうなの?」

「そうなの! ツヴァイウィングの物販は大人気なんだから! サイリウムは持ってきたから、ライブ限定グッズを……」

「あ、未来待って!」

 

未来ちゃんはツヴァイウィングガチ勢であったか……。

道を急ぐ響ちゃんと未来ちゃん。

響ちゃんが振り返る。

 

「ナルくん、また後でね!」

「……あ、ナルくん! それじゃまたね!」

 

響ちゃんにつられて未来ちゃんが手を振る。

二人は去っていった……。

 

「一鳴さん」

 

客足が落ち着いた頃、緒川=サンがやって来る。

 

「そろそろ時間です。舞台裏に待機しましょう」

 

そういう事になった。

 

 

 

 

 

 

ライブが始まった。

ツヴァイウィングの二人が逆光のフリューゲルの伴奏と共に舞台に舞い降りる。

会場の観客たちが、オレンジ色のサイリウムを炊く。

あの中に、皆が居るなんて不思議だなぁ。

 

そんな事を、スタッフさんが忙しく動き回る舞台裏で考えている。

何かあったら、すぐに飛び出せるように緒川=サンと共に待機しているのだった。

 

「それにしてもすごい熱気ですね」

 

俺は緒川=サンに話しかけた。

ライブ会場はツヴァイウィングの歌と観客の応援による熱気が凄まじかった。

それらがうねり、一体となって舞台裏に流れ込んでいた。

 

「ええ、これこそライブの醍醐味です。翼さんと奏さんも、これが癖になると言っていましたよ」

 

緒川=サンが笑う。

ライブは最高に盛り上がる。

ライブ会場の天井が花開くように展開していく。

夕日が会場に注がれて、暗かったライブ会場を照らす。

陽の光が、ツヴァイウィングの二人を照らす。

天然の、スポットライトだ。

 

「こりゃ会場もヒートアップだ」

「ネフシュタンの鎧の起動実験も、順調なようですよ」

 

緒川=サンが教えてくれた。

それは何よりである。

このまま、何も起こらないことを祈るばかりだ。

いや、本当に。

こんな素敵なライブ、最後まで見ていたい。

皆もおんなじ気持ちだろう。

そうだと、いいな……。

 

 

 

 

 

 

「始めようか、ツァバト。ここならフォニックゲインも充分だ」

「ああ。シェム・ハの依代に相応しき、巫女の選定を」

 

 

 






歌鳴り響く中、天使は舞い降りる。
天使たちは残酷を手に人々を天へと返す。
夕日に染まる会場は、
血と塵で彩られた恐怖劇と塗り替えられた。

次回、『福音曲ーゴスペルー』

逃げ惑う人々の中。
黄金の太陽は昇る。
人々を防人る為、そして。
立ちふさがる幾万の天使たちを、
ただ……塵へと返す為に。


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第104話 福音曲ーゴスペルー


作者の執筆一週間スケジュール

月曜から土曜日:仕事とゲーム
日曜朝:そろそろ書かなきゃなーと考える
日曜20時:やっと執筆
日曜21時:ツイッター
日曜22時:執筆

みたいな流れなので投稿する時間がこんな時間なのはしかたないのだ。

そんな訳でライブ編中盤。
敵がワチャワチャ出現します。




 

 

 

最初に気付いたのは、緒川=サンだった。

夕焼けに照らされて空から舞い降りるナニカ。

ソレが鮮明に見えるようになった時、俺と緒川=サンは即座に行動していた。

 

「ライブは中止! 観客を即座に避難をさせてくださいッ!!」

 

緒川=サンがライブ会場のお偉いさんに叫ぶ。

 

「空からノイズが降ってきていますッ!!」

 

ノイズだ。

空からノイズがこの会場目掛けて降ってきているのだ。

それも、ただのノイズではない。

鳥の翼を生やした純白のノイズ。

エンジェ・ノイズと名付けられたノイズ。

2年前に発見されてから、一度も出現して来なかったノイズ。

それが、今になって現れた。

この、ライブ会場の真上に……。

 

『こちらは、ライブ運営事務所です。只今ノイズが出現しました。係員の指示に従って、直ちに避難してください。

繰り返します───』

 

ライブの音楽が止まり、避難指示アナウンスが流れる。

観客がざわめき、空を見て悲鳴を上げる。

 

「緒川さんは観客の避難を。俺はノイズを迎撃します」

「わかりました。ご武運を」

 

緒川さんは側に控えていた数人の黒服さんたちを連れて会場に出る。

俺も舞台裏から、舞台に駆け出る。

 

「───── Sudarshan tron」

 

俺は聖詠を唄う。

赤銅色の装甲装着。

6つの花弁の如きスカートアーマー装着。

シンフォギア各所から漏れ出した炎が背中に集まり、光輪形成。

その光輪を手に取る。

光輪は物質化し、108の刃を持つ戦輪、チャクラムに変わる。

シンフォギア、装着完了。

 

そのまま舞台から装甲各所のスラスターから炎を射出、空を目指して跳ぶ。

空からは、白い身体のノイズが無数に降り注いでいた。

 

 

 

エンジェノイズ駆除【1D10】

 

1 2割撃破

2 2割撃破

3 3割撃破

4 1割撃破

5 3割撃破

6 3割撃破

7 4割撃破

8 4割撃破

9 1割撃破

10 半数撃破

 

結果【2 2割撃破】

 

 

 

俺は腰のスカートアーマーを展開、中に格納されていた小型戦輪108個を射出。

小型戦輪は炎を纏って、エンジェノイズに殺到する。

 

 

火烏の舞・繚乱

 

 

小型戦輪はエンジェノイズを焼き、切り刻んで撃破していく。

だが……。

 

「多すぎる……ッ!」

 

撃破できたのは全体の2割ほど。

残りの8割がライブ会場に着陸していく。

 

 

 

ライブ会場の避難状況【1D6】

 

結果 【1】割ほどの観客が避難出来た!

 

 

 

下を見る。

観客が20ある避難経路に殺到しているのが見える。

だが、10万人いる観客を逃がすには時間も数も足りなかったのか、まだ多くの観客がライブ会場に残っていた。

 

「───」

 

着陸したエンジェノイズたちが観客に向かって滑空。

観客に体当たりをする。

 

「うわあああ!!」

 

観客が悲鳴を上げる。

その観客の顔を、エンジェノイズは殴り潰した。

エンジェノイズの拳が血と肉片に染まる。

死人が出た。

それは、観客にパニックをもたらした。

 

「キャアアアアッ!!」

「助けて……ッ」

「早く避難しろよッ!!」

 

観客が避難路に殺到。

子供や女性が転び、その上を観客が踏み越えていく。

その人々を追い立てるように、エンジェノイズが滑空。

そのエンジェノイズの背中を、戦輪で切断した。

 

「やらせはしないってのッ!」

 

俺は小型戦輪を、観客に向かうエンジェノイズに向かわせる。

最優先は人命。

その為には、着陸したエンジェノイズを先に倒すこと。

空中のエンジェノイズは一旦後回し。

 

「……さて」

 

避難できていない観客をザッと見る。

マリアさんやセレナちゃん、孤児院のみんな。

響ちゃんと未来ちゃん。

見知った顔がチラチラと見える。

皆、怯えた目で俺を見ていた。

しかし、そこには俺への信頼が見えた。

渡一鳴が居るなら大丈夫。

そういう、信頼が。

 

「うし、気合が入った!」

 

シンフォギアとして、人命は守らないといけない。

渡一鳴として、守りたい人がライブ会場にいる。

ならば、エンジェノイズを通しはしないという気合が入るのは当然と言えよう。

 

「さあ来いエンジェノイズッ!!!」

 

 

 

一鳴VSエンジェノイズ軍団【1D10】

(負けたら観客がエンジェノイズに変えられる)

 

一鳴【10】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

 

エンジェノイズ軍団【4】+10(数補正)

 

 

 

「燃えろォッ!!!」

 

俺は戦輪を投擲。

戦輪は軌道を変えながら、観客に向かうエンジェノイズを焼き切って進む。

エンジェノイズが焼けて灰と変わる。

更に空からエンジェノイズ殺到。

 

「数が多いなら、一気に焼き尽くすだけだッ!」

 

戦輪がブーメランめいて俺の元に帰ってくる。

俺はその戦輪の、刃ではなく面の部分を空のエンジェノイズに向ける。

戦輪に光が集まる。

戦輪が強く光を発し、臨界に達する。

そして、戦輪から光線が放たれた。

 

 

紅鏡光線

 

 

光線が空から降り注ぐエンジェノイズを消滅させていく。

また、かするだけでもエンジェノイズたちを塵へと変えるを

光線を避けるエンジェノイズ。

だが、光線の周りが超高温になっているのか、炎に包まれていく。

結果、エンジェノイズたちを殲滅出来た。

……ビームマグナムかな。

 

「ビーム鬼つええ、このままエンジェノイズ焼いていこうぜ!」

 

俺はビームの強さに思わずそう言ってしまった。

やはりビーム、ビームは全てを解決する……。

 

 

 

ライブ会場の避難状況【1D6】

 

結果 【5】+1割ほどの観客が避難出来た!

 

 

 

ちら、と後ろを見る。

エンジェノイズを倒せたのが良かったのか、観客の

避難がスムーズに進んでいる。

残っているのは4割ほどか。

響ちゃんと未来ちゃんは呆然とこっちを見ている。

……はやく逃げてぇ。

 

「上だッ!!」

 

舞台にいた奏さんが叫ぶ。

声に従い上を見ると、またエンジェノイズたちが出現していた。

 

「またかよッ!」

 

空には何も見えない。

だが、エンジェノイズたちは空から現れていた。

エンジェノイズはテレポート出来るのか?

 

「というか奏さんと翼さんも逃げてッ!」

 

俺はまだ舞台に残っていたツヴァイウィングにそう言うと、戦輪に再びエネルギーを溜める。

そしてビーム射出!

ビームはまたエンジェノイズたちを焼き尽くそうとが……。

 

「うそ……」

 

こちらのビームを空から放たれたビームが受け止めた。

ビームとビームは対消滅。

エンジェノイズ健在!

 

「いまの、閃光は……ッ!」

 

エンジェノイズがライブ会場上空を旋回する。

その中心に、ビームを防いだ者が浮遊していた。

異常膨張した筋肉。

顔にはフルフェイス装甲、目にはバイザー。

手足には大きな装甲。

両脚の装甲は大きく、裾が広いので袴のようだ。

両手の装甲は長い銃口のよう。

身体からは、機械が生えておりコードで手足の装甲と繋がれている。

 

投薬により人間を違法兵器と変えた異形パーフェクトソルジャーだ。

そして、それだけではない。

この異形パーフェクトソルジャーは、聖遺物と融合させられている。

 

神獣鏡

 

聖遺物を消滅させる最凶の聖遺物。

浅賀研究所から盗まれた聖遺物。

浅賀研究所は初めてエンジェノイズが観測された場所でもある。

……繋がりは明白であった。

 

その神獣鏡融合パーフェクトソルジャーは、こちらをバイザー越しに見る。

そして右手を向けると、その右手の銃身から紫色の閃光を発射。

俺はその閃光を回避。

防御は不可、聖遺物を消滅させる神獣鏡とシンフォギアは相性が悪い。

 

「でも放置は出来ないのよね……ッ!」

 

俺はスラスターを吹かす。

空へと跳び上がる。

パーフェクトソルジャーを優先的に撃破しようと試みる。

……が。

 

「グワーッ!!」

 

横合いから突如として斬りつけられる。

傷は浅い。

俺は距離を取るために、ゴロゴロと転がる。

勢いつけて起き上がり、闖入者を視界に収める。

異形パーフェクトソルジャーだ。

上空の神獣鏡融合型とは別個体!

 

上空の個体より細見で、身体の各所から湾曲した刃が生えている。

その刃は、緑色。

 

「……イガリマの融合症例」

 

イガリマ融合型のパーフェクトソルジャー。

それが密かにライブ会場に入り込み、アサシンめいて俺の首を狙ったのだ。

そして、イガリマと言えば……。

 

「イヤーッ!」

 

俺は振り向きながら、背後からの攻撃を戦輪で受け止める。

攻撃の正体は円形鋸!

高速回転する戦輪と鋸がぶつかり合い火花を散らす。

 

シュルシャガナ融合型の異形パーフェクトソルジャーだ!

 

小柄で手足の先が円形鋸となっている。

また、ガイガンのように正中線から鋸が生えている。

 

「これ犯人はF.I.S.から奪ったな!!」

 

俺はシュルシャガナ融合型の攻撃を弾き飛ばすと、背中から来ていたイガリマ融合型に攻撃!

イガリマ融合型はバク転で後退して回避。

 

イガリマとシュルシャガナはF.I.S.に保管されていた。

それがパーフェクトソルジャーに融合されているという事は、もうそういう事であった。

 

「F.I.S.壊滅もこいつらの仕業と言う事か」

 

上空より降り注ぐ神獣鏡の閃光を回避する。

巻き込まれるエンジェノイズたち。

 

「エンジェノイズを気にしてない……。それだけエンジェノイズの在庫は豊富ってことかぁ」

 

俺は戦輪を構える。

目標は観客に向かうエンジェノイズ。

妨害するは融合症例異形パーフェクトソルジャー。

 

「でも負ける訳にはいかないのよね」

 

 

 

一鳴VSエンジェノイズ軍団【1D10】

(負けたら観客がエンジェノイズに変えられる)

 

一鳴【10】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

 

エンジェノイズ軍団【9】

神獣鏡融合型【5】

イガリマ融合型【4】

シュルシャガナ融合型【7】

 

 

 

さて、敵がいっぱい居て手強いのが混じってる時どうするか。

取り敢えず止まることは死を意味する。

ので、取り敢えず移動手段は確保する。

 

 

日輪航路

 

 

大きな戦輪に乗り込む。

戦輪は火の轍を残して疾走。

ライブ会場を駆け巡り、エンジェノイズを轢き殺していく。

エンジェノイズは遠距離攻撃手段を持っておらず、人を害そうとするときは地上に降りてくるので倒すのが楽なのだわ。

だが油断は禁物。

好きを見せたら融合症例異形パーフェクトソルジャーが攻撃を加えてくる。

神獣鏡融合型対策でジグザグ移動を心がけながら、イガリマ融合型とシュルシャガナ融合型の攻撃をいなす。

とりあえず、融合症例異形パーフェクトソルジャーの目はこちらに向いていて、観客には向かわないのが救いやね。

 

取り敢えずはこのまま時間を稼いで観客の避難が終わるのを待つしかない。

そう、思っていた時だ。

 

ライブ会場の一角が爆発した。

 

炎が上がる。

煙が広がる。

瓦礫が飛ぶ。

人一人潰せる大きさの瓦礫が、舞台にいたツヴァイウィングに向かう。

 

「イヤーッ!!」

 

俺は戦輪をその瓦礫に向かって疾走させる。

瓦礫を切り刻み、ツヴァイウィングを守る。

 

「あ、ありがとう……」

「助かったわ」

 

奏さんと翼さんからお礼を言われる。

だが。

 

「■■■■■■■■■───ッッッ!!!」

 

轟音がライブ会場に響き渡る。

それは怪物の叫声のようだった。

 

「あ……」

「なに、あれ……」

 

否、まさしく怪物の叫声だった。

爆発跡から長大な怪物が現れる。

 

それは、光沢のある白銀の体表であった。

菱形の鱗をした巨大な蛇。

長く伸びた身体は会場の奥まで続いている。

それが鎌首を持ち上げ、こちらを見る。

首からは二等辺三角形状のピンク色のエネルギーが固着化してエラか鬣のように伸びている。

牙もまた、同じようなエネルギーで構成されている。

 

似たようなものを、俺は知っている。

今日、起動実験していたはずの完全聖遺物。

 

ネフシュタンの鎧

 

あれは、聖書では元々蛇として伝わっていた筈。

あの怪物は、ネフシュタンの鎧が変化した蛇なのだろうか。

なぜ、鎧が蛇になった?

実験中だった皆はどうした?

 

頭に疑問が浮かぶ。

 

「■■■■■■■■■───ッッッ!!!」

 

蛇の叫声が俺を現実に引き戻した。

とにもかくにも。

やることは変わらない。

人命を守るために、頑張るだけだ。

 

 

 




ネフシュタンの鎧は元ネタは蛇。
じゃあ蛇にしちゃえと今回出した。
大きくなった理由は、私にもわからん(丸投げ)


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第105話 狂想曲 −カプリチオ−

前回ポエム忘れちゃった……。
だから前書きで書いとこ!


青銅の蛇が蘇り、人と怪物/天使がぶつかり合う。
剣戟の音、羽撃き、叫声が重なり狂想曲と響く。
只人は逃げ惑い、混乱は狂騒と奏でる。

狂想曲 −カプリチオ−

狂想と狂騒の最中、人の思考の外にある怪物が現れる。
忘れるなかれ。怪物は別の名で神という事を。





時間はしばし巻き戻る。

 

ネフシュタンの鎧の起動実験はライブ会場がエンジェノイズに襲撃されて、一時中断。

責任者である訃堂は、非戦闘員である研究員を先に逃しエンジェノイズに対抗できるファウストローブ持ちのキャロルを会場に向かわせようとした。

だが、それは叶わなかった。

聖遺物と融合した異形パーフェクトソルジャー一体が実験室に侵入したのである。

そのパーフェクトソルジャーは他の融合症例パーフェクトソルジャーと同じように身体の各所に機械が取り付けられていた。

だが、全身の生身の部分が白銀に変質していた。

特に、左腕はほぼ全てが白銀となっていた。

 

ソイツは、アガートラームと融合したパーフェクトソルジャーであった。

 

その銀腕融合型が両腕に持った蛇腹剣を振り回し、未だ実験会場に居る者たちを皆殺そうとする。

その蛇腹剣を拳で弾く弦十郎。

あるいは錬金術で防ぐキャロル。

 

「やっかいな……」

 

キャロルが呟く。

銀腕融合型の蛇腹剣の軌道が不規則で読み辛いのだ。

更にそのパーフェクトソルジャーは逃げ遅れた非戦闘員である研究者たちを狙っている。

一気に勝負を決めようとすれば、研究者たちに被害が出かねない。

 

「チッ……、早く会場に行かねばならんというのにッ!」

「落ち着け、キャロルくん」

 

苛立たしげに舌打ちするキャロルにそう言う弦十郎。

一鳴の援護に向かいたいキャロルを、弦十郎が落ち着かせる。

 

「一鳴くんはそうそうやられはしない。俺たちが今やるべきことは、コイツを倒すことッ!!」

 

弦十郎が蛇腹剣を弾きながら、そうキャロルに言う。

 

「それは、わかってるがッ!!」

 

キャロルが蛇腹剣を防ぎながら叫ぶ。

 

「アイツは絶対無茶をやるぞッ!!」

「だが、悪運は強い! 一鳴くんを信じるんだッ!!」

 

キャロルが錬金術で銀腕融合型の蛇腹剣を一瞬封じる。

そのスキを狙い、弦十郎がぶん殴るッ。

だが、銀腕融合型は自ら吹っ飛んで威力を減衰させた。

 

「良い拳だ、弦十郎!」

 

訃堂の声!

隠形を用いて銀腕融合型の背後に忍び寄った訃堂が、腰に佩いた群蜘蛛を抜いた。

その殺気に反応し、咄嗟に回避行動を取った銀腕融合型。

しかし、遅い。

訃堂の居合が、銀腕融合型の両腕を切り落とした。

 

「ギャアアアアアアアァァァッッッ!!!?」

 

異形パーフェクトソルジャーが悲鳴を上げる。

両腕の切断面から白銀に変質した血が溢れる。

 

「ァァァ……」

 

両腕を切断された痛みと、血が抜けた事からフラフラと後退する銀腕融合型。

 

「……やったか?」

 

キャロルがそう言う。

その時、机の下に隠れていた了子が顔を出す。

 

「……ッ、弦十郎くん早くソイツを止めてッ!」

「何ッ!?」

 

了子の声を聞いて、銀腕融合型に目を向ける弦十郎。

銀腕融合型は後退しながら、実験中だったネフシュタンの鎧に近付いていた。

 

「アガートラームの特性はエネルギーのベクトル操作! ソイツ、ネフシュタンの鎧にフォニックゲインを注ぎ込んでオーバーフローを起こして爆発させるつもりよッッッ!!!」

 

その言葉を聞くが早いか、弦十郎とキャロルそして訃堂が銀腕融合型を止めるために疾走する。

だが……。

 

「ヒ、ヒィィィ……」

 

銀腕融合型が引きつった笑いを浮かべる。

そして、取り付けられた機械から光が漏れる。

エネルギーのベクトル操作を行っているのだ。

ネフシュタンの鎧から光が漏れて……。

そして……。

 

光が、溢れた。

 

 

 

 

 

 

弦十郎は瓦礫を発勁で吹き飛ばし、起き上がる。

 

「了子くん、みんな! 無事かッ!?」

 

弦十郎がそう叫ぶと、近くで瓦礫が吹き飛ぶ。

訃堂が発勁で吹き飛ばしたのだ。

 

「ワシは無事だ。キャロルくんもな……」

「流石に、死ぬかと思ったぞ……」

 

訃堂の側からキャロルが起き上がる。

訃堂が咄嗟に庇ったのだ。

 

弦十郎くーん、起こしてー

 

小さな声。

了子の声だ。

瓦礫の下から聞こえてくる。

 

「動くなよ了子くんッ! 吩ッッッ!!」

 

弦十郎の発勁。

了子周りの瓦礫が吹き飛んだ。

 

「〜〜〜ッ!!」

 

発勁に了子が悶えた。

地面から伝わる発勁に身体が痺れたのだ。

 

「もっと優しく助けられないのッ!?」

「す、すまん……」

 

弦十郎に掴みかかる了子。

弦十郎は素直に謝った。

 

「……どうなった?」

 

そんな二人を無視してキャロルが訃堂に聞く。

 

「ワシが見た限り、ネフシュタンの鎧がフォニックゲインのオーバーフローによって変化し、爆発と同時に会場の方に向かったと思われる」

 

実験室には大穴が開いていた。

その続く先はライブ会場だ。

 

「……一鳴が危ないッ!」

 

キャロルが会場に向かおうとする。

だが。

瓦礫の下から更に這い出る者が一人。

先程まで、会場に居た二課のメンバーはキャロルたちのみ。

残りの研究者は全員逃げ出せていた。

つまり、最後に這い出た者は二課のメンバーでないという事である。

 

ヒ、ヒ、ヒ

 

立ち上がり、嗤うのは銀腕融合型だ。

その両腕の切り口からは白銀の腕が触手のように無数に生えていた。

その全てから刃が生えており、蛇腹剣のようだ。

また、全身の生身の部分からは白銀の結晶が生えていた。

 

「融合が進んでる……。今のアレは全身がアームドギアのようなものよ」

 

了子がそう分析する。

 

「集めたフォニックゲインをネフシュタンの鎧だけじゃなくて、自分にも使ったのね」

 

そう分析する了子の前に弦十郎が立つ。

 

「どのみち、アイツを倒さねば避難も一鳴くんの援護にも向かえないという事か」

「チッ……急いでるというのに」

「手早く済まそう。会場から悲鳴が止まぬ」

 

弦十郎、キャロル、訃堂が構える。

銀腕融合型が触手状の両腕の3人に向けて振り回した。

 

 

 

 

 

 

ネフシュタンの蛇の狙い【1D10】

 

1 観客

2 エンジェノイズ

3 エンジェノイズ

4 一鳴

5 神獣鏡融合型

6 神獣鏡融合型

7 イガリマ融合型

8 シュルシャガナ融合型

9 一鳴

10 熱烈歓迎

 

結果【5 神獣鏡融合型】

 

 

 

「■■■■■■■■■───ッッッ!!!」

 

ネフシュタンの蛇が叫び、首を上空に向ける。

その先には神獣鏡融合型。

首に生えた二等辺三角形型エネルギーが神獣鏡融合型に向けられる。

そこから、ピンク色の結晶が無数に放たれる。

それらは神獣鏡融合型を狙う。

神獣鏡融合型が回避軌道を取る。

代わりに穿たれるエンジェノイズたち。

ネフシュタンの蛇は執拗に神獣鏡融合型を狙う。

 

ネフシュタンの鎧の特性は無限だか無尽だったか。

とにかく無制限にエネルギー弾を撃てるみたい。

 

「二人共、今の内! 早くここから逃げてください」

 

俺は奏さんと翼さんを立ち上がらせて背中を押す。

 

「一鳴、ありがとな」

「武運を祈ってるわ……」

 

二人はそう言うと避難路に向けて走る。

それを狙う、エンジェノイズたち。

 

「行かせんよッ」

 

俺は小型戦輪を用いて羽を斬り飛ばし、手足を斬り飛ばし、胴体を焼き尽くした。

 

「来いッ! 全員まとめてぶっ飛ばしてやるッ!」

 

 

 

一鳴VSエンジェノイズ軍団【1D10】

(負けたら観客がエンジェノイズに変えられる + ツヴァイウィングに被害)

 

一鳴【2】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

 

エンジェノイズ軍団【5】

神獣鏡融合型【ネフシュタンに掛かり切り】

イガリマ融合型【3】

シュルシャガナ融合型【3】

 

ネフシュタンの蛇【神獣鏡融合型に掛かり切り】

 

 

 

「イヤーッ!!」

 

俺は戦輪を投擲する。

狙いはイガリマ融合型。

だが、シュルシャガナ融合型が間に入って防ぐ。

そして、イガリマ融合型とシュルシャガナ融合型が反撃しようと向かってくる。

背後からはエンジェノイズの軍勢。

 

「舐めるなよ、っと!」

 

投擲した戦輪が弧を描いて帰ってくる。

その戦輪を掴んで、回転斬り。

パーフェクトソルジャーたちとエンジェノイズたちを一気に斬り伏せる。

だが、パーフェクトソルジャーたちはギリギリで回避運動を取り、距離を取る。

傷は浅そうだ。

 

「一鳴さんッ!」

「頑張るデスッ!」

 

調ちゃんと切歌ちゃんの声援。

観客席から声を飛ばしていた。

 

「ありがとッ! でも早く逃げてね!!」

「うんッ!」

「はいデスッ!」

 

イガリマ融合型とシュルシャガナ融合型が二人を見る。

声を聞いたからか?

そして、二人のもとに向かおうとする。

 

「させるかッ!」

 

俺は前に立ちふさがり戦輪を振るう。

炎が軌跡を描き、パーフェクトソルジャーたちを近付かせない。

 

「…………」

「…………」

 

パーフェクトソルジャーたちが俺を睨みつける。

 

「来いよ三下ッ! 俺が相手だ」

 

俺は挑発する。

パーフェクトソルジャーたちが俺に対して刃を煌めかせた。

 

 

 

ネフシュタンの蛇の狙い【1D10】

 

1 観客

2 エンジェノイズ

3 エンジェノイズ

4 一鳴

5 神獣鏡融合型

6 神獣鏡融合型

7 イガリマ融合型

8 シュルシャガナ融合型

9 一鳴

10 熱烈歓迎

 

結果【4 一鳴】

 

 

 

「イヤーッ!!」

 

俺はパーフェクトソルジャーたちに向かって戦輪投擲!

パーフェクトソルジャーたちをは最低限の動きで回避。

だが、その回避後のスキを狙い小型戦輪を射出させる。

その目論見は見事に的中。

パーフェクトソルジャーたちはまともに小型戦輪を食らう。

 

……が。

 

投擲した戦輪が、不運なことにネフシュタンの蛇に当たる。

胴体が切れるネフシュタン。

 

「……あ」

「■■■■■■■■■───ッッッ!!!」

 

ネフシュタンがこちらを睨む。

傷は即座に回復。

だが、痛みと恨みはあるみたい……。

 

「■■■■■■■■■───ッッッ!!!」

「ごめーんッッ!!」

 

謝ったってもう遅い。

ネフシュタンの蛇がエネルギー弾を射出してきていた。

 

 

 

一鳴VSエンジェノイズ軍団【1D10】

(負けたら観客がエンジェノイズに変えられる + ツヴァイウィングに被害)

 

一鳴【4】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

 

エンジェノイズ軍団【5】

神獣鏡融合型【5】

イガリマ融合型【7】

シュルシャガナ融合型【1】

 

ネフシュタンの蛇【4】(一鳴狙い)

 

 

 

「ウワーッ!!」

 

俺は脚部装甲から瞬間的に炎を噴出、一瞬の機動力を得てエネルギー弾を回避する。

戦艦から攻撃を受けているかのような連射性と火力であるが、その弾幕の濃さ故にパーフェクトソルジャーたちやエンジェノイズたちは近付けないみたいだった。

でも躱すのだいぶギリギリなんですけれど!?

観客に被害が行かないようにするの大変なんですけれど!!

 

とまあ、そんな風に会場を逃げ回っていると、ネフシュタンの蛇からの攻撃が止む。

 

「?」

 

何事かとネフシュタンを見ると、蛇は空を睨んでいる。

空を浮かぶ神獣鏡融合型を睨んでいるのかと言えばそうではなかった。

神獣鏡融合型はフワフワとネフシュタンの視界の外を浮かんでいる。

おかしいのはネフシュタンだけではなかった。

エンジェノイズたちの動きが変わった。

 

今までは人を害そうと、無秩序に向かってきていた。

だが、今は違う。

人を害そうとするのではなく、人をライブ会場から出さないための動きに変わった。

 

ライブ会場に存在する20の避難路、その出入り口に着陸し観客を通さないエンジェノイズ。

更に、観客を追いやって会場の内側に向かせていく個体もいる。

 

「一鳴さんッ!! 空をッ!!!」

 

緒川さんが叫ぶ。

その後ろにはツヴァイウィングの二人。

更に観客の中にはマリアさんとセレナちゃん。

調ちゃんと切歌ちゃん、クリスちゃんに他の孤児院の子どもたち。

響ちゃんに未来ちゃん。

みんな、逃げ遅れたみたい……。

 

俺は空を見た。

 

「……は?」

 

思わずそう漏らした。

空には先程よりもずっとずっと多いエンジェノイズの群れが旋回している。

更にその中には、他とは違う姿の個体も見える。

 

10mはあろうかという巨大なもの。

獅子、牛、鷲、そして人面から直接翼の生えたもの。

巨大な眼球から、無数の小さな眼球がついた翼が生えたもの。

 

異形の天使たちが羽撃きながら外界を見ていた。

この、ライブ会場を……。

 

「ヒッ……」

「な、なんだよアレ……」 

 

観客の中から恐怖と戸惑いの声。

当然だ。

今までのエンジェノイズは、ノイズに羽が生えているだけのもの。

怖いは怖いがノイズは既知の存在。

だが、天上で飛ぶあれらは……。

まさに、怪物だ。

 

「■■■■■■■■■───ッッッ!!!」

 

ネフシュタンの蛇が天に向かって叫ぶ。

そして、天に向けてエネルギー弾を撃とうとするが……。

 

ネフシュタンの蛇の頭が弾け飛んだ。

 

空から質量を持った存在が降ってきたのだ。

落下地点に土煙が舞う。

ネフシュタンの蛇の首が再生される。

同時に蛇が土煙から距離を取る。

視線を外さずに、退避する。

 

土煙が晴れる。

 

そこにいたのは白い人だ。

身体も髪も、全てが白い。

 

身体つきから女性だと思われる。

背中から翼が三対、6枚生やしている。

身体も、翼も、手足も。

全てが美しいもの。

俺は、ソレに見覚えがあった。

 

「久しいな、シンフォギア……」

 

ソレから声が上がる。

その声もまた、美しい。

2()()()()、ノイズ混じりの声とは違う。

 

「約束通り、会いに来たぞ」

 

ソレの両手が光り、剣のように伸びる。

……ソレの名は、ツァバト

カストディアン・アヌンナキの一人、改造執刀医シェム・ハ・メフォラシュの分け御霊。

 

シェム・ハと同じ姿をした、神の(すえ)である。




次回予告

神の光が少年(せんし)を狙う。
異形の天使たちが光と共に地に舞い降りる。
ここは光の国、神の国と化す。人々はただ救いを求めるだけの信徒と変わる。

次回
聖譚曲 −オラトリオ−

そして光は放たれた。
人々の中から神宿すに相応しき巫女を選定するために。
光の名は浄罪と言った。


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第106話 聖譚曲 −オラトリオ−


今回のお話書いてる内に、一鳴くんがだんだんマリンフォード頂上戦争編のルフィみたいになったので初投稿です。
これは最終的に「二年後に!!!シャボンディ諸島で!!!」するしかないわね。




 

 

シェム・ハの分霊、ツァバト。

初めて存在が確認されたのは2039年10月20日に発生した大規模ノイズ災害である。

街でノイズを倒していた一鳴の元に現れて戦闘となり、一鳴を敗北寸前まで追い込むがツァバトの肉体となっていたエンジェノイズが耐えきれず崩壊。

その後は今の今まで存在が確認出来なかった。

同時に現れたエンジェノイズ共々……。

 

それが今、目の前にいる。

無数のエンジェノイズと共に。

 

「ツァバト……ッ!」

 

俺は観客との壁になるようにツァバトの前に立つ。

ネフシュタンの蛇がツァバトを睨む。

シュルシュルと、舌を出し入れしている。

 

「ふむ……、シンフォギアだけでなく無限再生の蛇も居るか」

 

ツァバトはネフシュタンの蛇を一瞥する。

 

「我が契約者よ、あの蛇を釘付けにせよ」

 

ツァバトがそう言うと、イガリマ融合型とシュルシャガナ融合型の異形パーフェクトソルジャーがネフシュタンの蛇の元に向かう。

刃を閃かせる2体に対し、ネフシュタンの蛇がエネルギー弾で応戦する。

 

「さて、シンフォギアよ……」

 

ツァバトがゆっくりと歩み寄る。

 

「あの日の続きといこうか」

 

ツァバトの姿が消える。

否、消えたのではない。瞬時に加速したのだ。

そして、どこに行ったかと思えば。

俺の、背後……!

 

「イヤーッ!!」

 

両手に持った戦輪を持って旋回。

背後からツァバトが振りかざした両手の光剣を防ぐ。

 

「喝采であるッ! 我が一撃、防ぐとはッッ!!」

「少しは成長してるのよ、俺もッッッ!!!」

 

理由はわからないけど、今回のライブの襲撃の犯人はツァバトみたい。

だから、まあ。

 

「お前を倒せば事態も収束するかッッ!!」

「やれるものなら、やってみせよッッ!!」

 

俺とツァバトは一瞬、距離を取る。

その直後、互いに縮地めいて踏み込み武器をぶつけ合う……!!

 

 

 

一鳴VSツァバト【1D10】

(負けたら一鳴くん絶唱)

 

一鳴【1】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

 

ツァバト【10】+20(分霊補正)

 

 

 

ツァバトが背中の六翼を羽撃かせ、加速。

両手を突き出しドリルめいて回転。

俺はその攻撃を戦輪で防御。

ギャルギャルギャル、と嫌な金属音と共に火花が散る。

このまま戦輪からビームを出して攻撃を、そう思ったが……。

 

「甘い」

 

ツァバトが戦輪の隙間に右手を突っ込む。

その右手の光が強くなり、閃光が放たれる。

閃光は俺の胸部に命中。

 

「グワーッ!」

 

痛みと衝撃で戦輪から手を離してふっ飛ばされる。

瓦礫の山に直撃。

背中を殴打された気分だ。

 

「一鳴ッッ!?」

 

そう叫ぶ、少女の声が聞こえる。

たぶん、マリアさんかしら?

俺は瓦礫の中から立ち上がる。

 

「弱いぞシンフォギア……。落胆である」

 

戦輪をこちらに投げつけながら、ツァバトが言う。

俺は戦輪を掴み取りながら、言葉を返した。

 

「げふッ、うるさいよ……」

 

咳と共に血が漏れる。

口の中を切ったみたい……。

さて、それはそれとして。

目の前のツァバトは強い。

流石は【万軍の主】を意味する名を持つ神霊であると言うべきだ。

戦闘センスがピカイチである。

シェム・ハの分霊、シェム・ハの戦闘部分を司っていたのかな。

 

……、こちらも出し惜しみは出来ないね。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal……」

 

俺は絶唱を口に乗せる。

 

「ほう……」

 

ツァバトはそんな俺を興味深げに見る。

 

「Emustolronzen fine el baral zizzl……」

 

チラと、横を見ると顔を青くするセレナちゃんが見えた。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal……」

 

そっか、セレナちゃんはアガートラームの正規装者だったから、絶唱のこと知ってたなぁ。

去年も、あのオートスコアラー軍団の時も絶唱使って心配させたっけ。

 

「一鳴さん、歌っちゃダメッッ!!」

 

セレナちゃんの叫びが聞こえる。

また、心配させちゃうなぁ……。

 

「Emustolronzen fine el zizzl……」

 

俺は絶唱を歌い終える。

エネルギーの奔流がシンフォギアから溢れる。

 

「あ、あぁ……一鳴さん……」

 

セレナちゃんが泣いているのが見える……。

マリアさんが口を手で覆って泣いているのが見えた。

二人共、心配させてごめんね……。

 

「知っているぞシンフォギア。それは絶唱、ある種のリミッター解除。命を削る諸刃の剣だと」

 

ツァバトが笑いながら問いかける。

 

「そうだよ、ツァバト」

 

俺はツァバトに歩み寄る。

 

「お前を確実に殺すという事さ」

 

瞬間、シンフォギアのスカートアーマーから小型戦輪が光速に迫る速度で放たれた。

 

 

 

一鳴VSツァバト【1D10】

(負けたら観客に被害)

 

一鳴【10】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+20(絶唱補正)

 

ツァバト【8】+20(分霊補正)

 

 

 

小型戦輪はツァバトに反応させる事無く、ツァバトの両手足を切り落とした。

 

「これほどか、命がけの歌というものはッ」

 

ツァバトはどこか嬉しそうにそう言う。

ツァバトの頭に小型戦輪がぶつかる。

ツァバトの頭は爆ぜた。

ツァバトの胴体が地面に落ちる。

 

絶唱のエネルギーを小型戦輪に乗せた一撃、神を屠る程であった。

絶唱により、小型戦輪から吹き出る炎の熱と勢いは通常時より遥かにパワーアップしていた。

小型戦輪が亜光速で飛ぶほどに。

 

それはそれとして。

これで終わりとは言えないのだ。

地上にはイガリマ融合型とシュルシャガナ融合型、それと戦うネフシュタンの蛇。

天には空を飛ぶエンジェノイズ軍団。

とりあえず、エンジェノイズ軍団を吹き飛ばそうかしら。

そう思って空を跳ぼうとした、その時だ。

また、何かが降ってきた。

 

それは白い人だ。

身体も髪も、全てが白い。

身体つきから女性だと思われる。

背中から翼が三対、6枚生やしている。

身体も、翼も、手足も。

全てが美しいもの。

ツァバトであった。

 

「復活早くなぁい?」

「お前と戦うのが楽しみだったのでな、熾天使級の肉体は無数にストックしてあるのだ」

 

ツァバトはクツクツとそう笑ったのであった。

 

「ああそうだ。先に使命を終わらせねばな」

 

ツァバトは手を叩いてそう言ったのだった。

 

「使命?」

「しかり。我らも遊びに来たのではない」

 

ツァバトは観客をジロジロと眺めた。

 

「ふむ、残った観客は───」

 

 

 

ライブ会場の避難状況【1D6】 

 

結果 【6】+6割ほどの観客が避難出来た!

(最大9割)

 

 

 

「一万人ほどか」

 

確かに、残った観客はそれぐらいに見える。

九割は逃がせたのか緒川さんと黒服軍団。

実際スゴイ。

その緒川さんはツヴァイウィングの二人を守るように側に控えつつ、避難路を塞ぐエンジェノイズを伺っている。

スキあらば、エンジェノイズを倒して観客を逃がすつもりかも。

 

「少し多いが、まあ良いか」

 

ツァバトが右手を挙げる。

 

「我らの目的はな、神の復活。その為の依代の選定よ」

「神……、依代……?」

「そうとも。偉大なる神、統一言語の中で眠りたる我らの母たるシェム・ハ・メフォラシュ。その復活の為には穢れなき肉体が必要でな」

 

空から光が溢れる。

神獣鏡融合型の両手の砲塔から、紫色の光が漏れている。

……まさか。

 

「神獣鏡の光で、観客を浄罪するつもりかッ!?」

「そうとも」

 

ツァバトは笑って答えた。

 

「しかし、一万のルル・アメルから巫女を選ぶのは面倒よな。……()()()()()()()()

 

ツァバトが右手を振り降ろす。

空を旋回していたエンジェノイズが、一斉に降り注いだ。

 

「生き残ったものを、巫女としようか」

「ツァバトォォォッ!!!」

 

10mはあろうかという巨大なもの。

獅子、牛、鷲、そして人の頭から直接翼の生えたもの。

巨大な眼球から、無数の小さな眼球がついた翼が生えたもの。

無数の天使たちが降り立ち、人を殺そうとする。

 

それと同時に、神獣鏡融合型が浄罪の光を放つ。

 

俺は、それを止めるためにアームドギアを振るう。

絶唱のフィードバックが来る前に、エンジェノイズを殺し尽くすために。

人々を守るために。

 

 

 

一鳴VSエンジェノイズ軍団【1D10】

(負けたら観客に甚大な被害)

 

一鳴【8】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+20(絶唱補正)−5(絶唱のフィードバック)

 

エンジェノイズ軍団【4】+10

 

 

 

──燎原火・紅──

 

 

両手を天に向けて、手に持ったアームドギア戦輪を高速回転。

戦輪から溢れる炎が、天から降り来るエンジェノイズたちを焼き尽くす。

 

だが、神獣鏡の光が炎を掻き消して、観客に降り注ぐ。

 

「きゃあああああッ!」

「助けてくれぇ!!」

「神様ッ!」

 

観客の間から悲鳴が溢れる。

 

「一鳴さんッ、避難路を防ぐエンジェノイズを倒してくださいッ!!」

 

緒川さんがパニック寸前の観客を纏めようとしながら、こちらに叫ぶ。

避難路を防ぐエンジェノイズをどうにかしたら、観客を逃がせるという事か。

 

「それはつまらぬなぁ」

 

そう言いながらツァバトが突撃してくる。

俺は攻撃を中断し、ツァバトを迎撃する。

 

 

 

一鳴VSツァバト(二体目)【1D10】

(負けたら一鳴のフィードバック加速)

 

一鳴【6】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+20(絶唱補正)−10(絶唱のフィードバック)

 

ツァバト【4】+20(分霊補正)

 

 

 

───紅蓮一閃───

 

 

突撃してきたツァバトが両手から光を剣のように伸ばして、十字切りしようとする。

だが、その前に燃え盛る戦輪をツァバトに叩きつけ、ノコギリ刃と炎でツァバトの肉体を破壊し尽くす。

 

「おお、強い強い」

 

新たなツァバトが天から降り立ちながら言う。

 

「だが、先程より元気はないか? ん?」

「うるさいよ……!」

 

俺は、ごふり、と血混じりの咳をしながらそう答えた。

ツァバトの言うとおり、絶唱のフィードバックはジワジワと俺の身体を蝕みつつあった。

だが、ここで倒れるわけにはいかない。

 

 

 

一鳴VSエンジェノイズ軍団【1D10】

(負けたら観客に甚大な被害)

 

一鳴【4】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+20(絶唱補正)−15(絶唱のフィードバック)

 

エンジェノイズ軍団【5】+10

 

 

 

───紅鏡光線・乱───

 

 

小型戦輪の面の部分から、細い光線が射出される。

それらは空から降り注ぐエンジェノイズを切り裂きいていく。

さながら、スタークジェガンを破壊していくクシャトリヤのファンネルの如し。

 

「緒川さんッ!」

 

俺は避難路に立つエンジェノイズも破壊して、緒川さんに観客を逃がすように叫ぶ。

 

「逃げられたらつまらんなぁ」

 

それを阻もうとするツァバト!

 

 

 

一鳴VSツァバト(三体目)【1D10】

(負けたら一鳴のフィードバック加速)

 

一鳴【1】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+20(絶唱補正)−20(絶唱のフィードバック)

 

ツァバト【5】+20(分霊補正)

 

 

 

「動きが悪いなシンフォギアッ!」

 

そう言ってツァバトが俺の首を狙って光剣を閃かせる。

 

「させるかッ!」

 

俺はそれをアームドギアで受け止める。

ギチギチと、互いの武器が鳴る。

俺はツァバトの背後を狙い、小型戦輪から光線を放つ。

 

「見え見えだ」

 

ツァバトが身体を閃かせて光線回避。

その動きのまま、ツァバトが身体を倒す前傾姿勢。

両手を地につけ、片脚を軸に蹴りが放たれた。

 

「ぐあッ!!!?」

 

メイアルーアジコンパッソ!

カポエイラの技だ。

その蹴りが、俺の腹にもろに命中。

思わず、片膝をつく。

 

「シンフォギア、敗れたり」

 

にや、とツァバトが笑った。

 

「ナルくんッ!」

 

響ちゃんが、叫ぶ。

未来ちゃんが、泣いている。

 

人々が、泣き叫んでいる。

神獣鏡の光が降り注いでいる。

エンジェノイズが降り注いでいる。

 

このまま倒れることは、出来ない。

 

「もう終わりだシンフォギア。絶唱のエネルギー増強は終わり、バックファイアが貴様の身体を蝕んでいるな」

 

ツァバトの言うとおりだ。

ダメージフィードバックは甚大、肉体はずたずた。

もはや戦うことは出来ないだろう。

でも。

 

「関係、ないね」

 

俺は立ち上がる。

諦めない。

諦めたら、後ろの観客たちはどうなる?

響ちゃんや未来ちゃんは?

マリアさんやセレナちゃんは?

調ちゃんや切歌ちゃん、クリスちゃんは?

 

だから、諦めない。

絶対に、諦めない。

 

「なら、終わらせてやる」

 

ツァバトが右手を挙げ、光を伸ばす。

あれで俺を斬り殺すつもりか。

 

「すぅー、ふぅー……」

 

呼吸を整える。

一瞬、たったの一瞬。

ツァバトが右手を振り下ろし、俺を斬り殺そうとする一瞬。

そこを狙い、回避する。

それを、狙う。

ツァバトから目を逸らさず一瞬を狙う。

 

ツァバトが右手を振り下ろす。

その瞬間。

銀色の巨体がツァバトを喰った。

ネフシュタンの蛇だ。

大蛇がツァバトを喰い殺した。

 

「ネフシュタン……」

 

グチャグチャとツァバトを噛み砕くネフシュタンの蛇。

俺を一瞥すると、シュルシュルと舌を出し入れする。

ふと、気付く。

 

身体が軽い。

 

絶唱のフィードバックが無くなっている。

傷が治っている。

 

「お前が治してくれたのか?」

 

蛇はシュルシュルと舌を出し入れするばかりだ。

だが、その目は優しかった。

 

「ありがとね」

 

ネフシュタンの蛇、元はネフシュタンの鎧。

無限再生の能力を持つ完全聖遺物。

そして、聖書においては神が遣わした燃える蛇からイスラエルの民を守るためにモーゼが作った青銅の蛇。

燃える蛇がイスラエルの民を噛んでも青銅の蛇を見れば生きながらえたという。

青銅の蛇を見る。

青銅の蛇が見る。

だから俺は生きながらえたのか。

 

「さて、と」

 

戦輪から炎を出して空から来るエンジェノイズを焼き払う。

地上に降り立ったエンジェノイズは小型戦輪で切り裂く。

ネフシュタンの蛇はイガリマ融合型とシュルシャガナ融合型を相手取る。

その間に観客の避難を急がせようとした、その瞬間。

 

ネフシュタンの蛇に、神獣鏡の光が降り注いだ。

 

「■■■■■■■■■───ッッッ!!!」

 

ネフシュタンの蛇が叫ぶ。

巨体を揺らして、地に倒れ伏す。

身体中に穴が空き、そこから塵へと変わっていく。

 

「さしもの蛇も、浄罪の光に曝されては身を保てぬか」

 

四体目のツァバトが地に降り立つ。

 

「これでもう、回復は出来ぬなぁ」

 

ツァバトがそう言って笑う。

 

「さて、しかしもう飽きてきた。夜も近い。

選定を終わらせよう」

 

ツァバトがそう言う。

 

「契約者よ、神獣鏡を暴走させよ」

 

ツァバトがそう言うと、天に浮かぶ神獣鏡融合型異形パーフェクトソルジャーの様子が変わる。

苦しみ悶えながら、身体中から光が漏れる。

光の中から、鏡面の棘が生える。

その棘から更に光が溢れる。

神獣鏡との融合が進んでいく……。

 

「させるかッ」

「遅いよ、もう」

 

俺は神獣鏡融合型に向かって跳ぶ。

溢れた光が俺に向かう。

俺はシンフォギアの脚部から炎を吹き出し、その光を回避していく。

 

投擲すれば戦輪が届く、その距離に至った時。

神獣鏡融合型の肉体が弾け飛び、

浄罪の光が放たれた。

 

 

 







光と光がぶつかり合う。
絶望と希望、その重奏の最中に浄罪は人々を焼く。
響と未来、二人の少女は光の中に男の背中を見た。

次回
鎮魂歌 −レクイエム−

倒れ伏した人々、少女たち。そして、少年。
戦場にたどり着いた少女が見たものの名は、地獄───




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第107話 鎮魂歌 −レクイエム−



狭間の地をウロウロしているので初投稿です。
そんな訳でエルデンリング買いました。
楽しい。
オープンワールドが本当に広いし、馬に乗ってどこにでも行けるので見知らぬ武器を求めてウロウロしちゃう。
楽しい。
ウロウロしすぎてレベル的に合ってないエリアに行って速攻で死んだ。
楽しい。
これこそフロムなんだよなぁ。
フロムの伝説ブレスオブザエルデンだよコレ。
そんな訳で、面白いので次回投稿が不定期になります。
エルデンリング面白いから仕方ないよなぁ(同調圧力)

今回でライブ会場惨劇編終幕。
次回からは、事件の後始末を書いていきます。






 

 

神獣鏡融合型異形パーフェクトソルジャーの肉体が弾け、全身から鏡面の棘が無数に生える。

さながらウニのよう。

この鏡面鋭角構造体こそ、神獣鏡融合型の発光器官。

鏡面反射の棘から日の出の如き光が放たれる。

それらは一つとなり、ライブ会場に向けて発射された。

 

俺は戦輪を盾のように構える。

光を防ぐためではない。

神獣鏡の光はシンフォギアのアームドギアなど障子紙めいて破り捨てるから。

これは、攻撃のための構え。

アームドギアをぶつけるわけにはいかない、俺の決死の一撃だ。

 

 

───紅鏡光線───

 

 

アームドギアから光が放たれる。

光線と光線がぶつかり合い、紅と紫の光が弾ける。

 

(……流石に、強い!)

 

神獣鏡融合型の光線の圧が強い。

聖遺物を暴走させているのだろう。

放たれたエネルギーはどんどん強くなる。

こちらの戦輪から放たれる光が押し負けつつある。

溢れた神獣鏡の光が、少しずつライブ会場に降っていく。

 

「きゃあああああッ!」

「腕が、俺の腕がッ!」

「うわあああああ……ッ」

 

人々の悲鳴。

神獣鏡の光に焼かれた人々の悲鳴が聞こえる。

神獣鏡の光はまだ強くなる。

こちらの光線で抑え込めなくなる。

抑え込めなくなれば、さらなる光が会場を焼くだろう。

なら。

躊躇ってる場合じゃ、ないよねぇ……?

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal……」

 

「Emustolronzen fine el baral zizzl……」

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal……」

 

「Emustolronzen fine el zizzl……」

 

俺はもう一度、絶唱を唄う。

ネフシュタンの蛇が肉体を癒やしてくれたので、もう一度歌えるのだ。

日に二度の絶唱。

フィードバックが回復したとはいえ、後が怖い。

だが、ここが無理のしどころである。

 

戦輪から放たれる光線が強くなる。

今までのがビームマグナムなら、今の光線はZZのハイメガキャノンかしら。

暴走状態の神獣鏡の光すら押し返している。

このまま、融合型異形パーフェクトソルジャーを撃破する。

そうすれば、神獣鏡も止まるのだ。

 

「堕ちろよォッ!!」

 

血反吐を吐きながら叫ぶ。

戦輪の光が、神獣鏡融合型を飲み込む。

神獣鏡融合型は肉体が塵となり、機械の部分は溶解した。

神獣鏡そのものも熱で破壊しただろう。

光は空を飛ぶエンジェノイズを多数飲み込む。

そして閃光は細くなり、消えた。

 

流石に限界である。

 

光の消えた戦輪から炎も消える。

全身の装甲から噴出していた炎もまた、消える。

空を飛ぶ俺もまた、重力に従い堕ちていく。

エネルギー切れだ。

気合で炎を出そうとするが、イガリマ融合型とシュルシャガナ融合型がこちらに向かって跳躍するのが見えた。

弱りきった俺を殺すつもりか……。

 

「ナルくんッ!!」

 

響ちゃんと未来ちゃんの悲鳴が聞こえる。

地面に蹲って、空を見上げている。

俺を見ている。

目があった。

泣いていた。

イガリマの刃とシュルシャガナの刃が俺に迫る。

首元と心臓を狙う刃。

体をひねる。

戦輪を振るう。

刃が逸れる。

狙いがズレる。

両刃は俺の皮膚一枚を裂き、3人縺れて地面に叩きつけられた。

 

「が……、ぁ……ッ」

 

呻く。

痛みで意識を失いそうになる。

力が入らない。

戦輪は落下の衝撃でどこかに飛んでいった。

イガリマ融合型と、シュルシャガナ融合型は。

互いの刃が互いに刺さり絶命していた。

ライブ会場が陰る。

空を見る。

赤い夕日に照らされて、エンジェノイズが降下してきていた。

先程焼き払った筈のエンジェノイズが、またどこからか現れていた。

 

「思ったよりも浄罪は出来なかったか。だが、贅沢は言えないな。

さあ、我が下僕たちよ、シェム・ハの巫女たらん者たちを攫うとしようか」

 

ツァバトの哄笑が響く。

エンジェノイズたちが一斉に降下する。

その、エンジェノイズたちを。

 

水と、

炎と、

風と、

地が、

 

粉砕していった。

 

「よく耐えた、一鳴くん」

 

訃堂司令の声が聞こえて。

俺は。

意識を手放した───。

 

 

 

 

 

 

キャロルたちが暴走した銀腕融合型異形パーフェクトソルジャーを倒し、ライブ会場に突入した時、事態は終焉に向かっていた。

瓦礫の積もった会場。

白銀の蛇だった聖遺物の残骸。

炎と崩落の跡。

 

地に倒れ伏した人々。

泣き叫ぶ声。

母を、子を呼ぶ声。

誰かの名を叫ぶ声。

血まみれの誰か。

無数の人に踏みつけられ、微動だにしない子ども。

焼け焦げた死体。

手が、足が、頭が潰れたかつて人だったもの。

恐怖に震えた人たち。

 

そして。

地に倒れ口から血を吐き、血涙を流しながらなお立ち上がろうと藻掻く一鳴。

 

その一鳴の視線の先を追った四人は、天に無数に蠢く白い怪物たちを見た。

エンジェノイズ。

それらが会場に降り立とうとしていた。

 

ライブ会場には一人の女性が立っていた。

三対六翼を背中から生やした白い女性。

訃堂はその顔に見覚えがあった。

シェム・ハと同じ顔。

その顔の女が笑っていた。

人々が倒れる地獄の中で……。

 

「思ったよりも浄罪は出来なかったか。だが、贅沢は言えないな。

さあ、我が下僕たちよ、シェム・ハの巫女たらん者たちを攫うとしようか」

 

彼らの行動は早かった。

キャロルと了子が錬金術で地に降り立つエンジェノイズたちを撃破。

 

弦十郎が即座に生き残った観客たちの護衛に向かい、訃堂は一鳴の保護に駆けた。

 

「よく耐えた、一鳴くん」

 

訃堂は一鳴にそう声をかけた。

一鳴は一瞬目を見開くと、気絶した。

最後に、安心したように目を閉じて……。

 

「……■■■■」

 

ツァバトが、訃堂のかつての名を呼ぶ。

 

「今は、風鳴訃堂だ。シェム・ハの残骸よ」

 

訃堂が言い返す。

 

「残骸? 残骸は貴様だろう。老いさらばえたアヌンナキよ」

 

ツァバトが眉間にシワを寄せて言い返した。

 

「私はツァバト。シェム・ハの子だ。断じて残骸ではないッ!」

「物は言いようよなぁ」

 

訃堂が鞘に収められた群蜘蛛を抜く。

刀身には白銀の血、銀腕融合型を斬った時についた血だ。

 

「戦うつもりか老いぼれ。我が戦力はこれこの通り」

 

ツァバトが笑う。

訃堂を囲むようにエンジェノイズ着地。

5メートル級の巨体。

全身に眼球のついた個体。

二対四翼の個体。

様々なエンジェノイズ。

どれも強力な個体だ。

 

「我が下僕も、我の代理肉体も無数に用意している。物量ですり潰してやろう」

 

そうツァバトが言い放った直後。

訃堂を囲むエンジェノイズが粉砕された。

錬金術である。

放ったのはキャロル!

 

「風鳴訃堂ッ! 一鳴はッ!?」

「オヌシの弟子は無事じゃ。キャロルちゃん」

 

キャロルが訃堂の横に立つ。

視線は一鳴に向けられていた。

 

「観客は?」

「弦十郎と了子に任せてきた。緒川もピンピンしていたからもう大丈夫だろう」

 

キャロルはそう言った。

 

「そうか。キャロルちゃん、頼みがある」

「……なんだ?」

「上空、高度5kmから10kmほど。()()()

「……わかった」

 

怪訝とするキャロル。

だが、訃堂の言う通りに、錬金術でもってエネルギー弾を撃ち出す。

エネルギー弾は天空に昇っていき、そして。

 

()()()()

 

「やはり、隠していたか」

 

訃堂が言う。

ツァバトの顔が憎々しげに歪む。

 

「貴様……ッ!」

 

ツァバトが隠していたもの。

それは、空に浮かぶ巨大な完全聖遺物。

全長3km、鶴のようなシルエット。

その名は【メルカバー】。

神の戦車、あるいは神の玉座という意味の完全聖遺物であり、古代インドに存在した完全聖遺物ヴィマーナと同種の聖遺物。

そのメイン機能は、自律機動兵器の格納と運用。

要は空母としての空中浮遊兵器。

そのメルカバーが、ライブ会場上空に浮いていた。

 

「突如空から降ってくるエンジェノイズ。神獣鏡。状況証拠のみではあったがのぅ」

「神獣鏡の特性の一つ、ウィザードリィステルス。対象を不可視とし、振動、その他シグナルの一切を低減・遮断し、 索敵機器の目をくらませる。それをあの巨大な聖遺物に組み込んだか」

「その通りだ」

 

メルカバーを晒され、観念したかのようなツァバト。

 

「あれは我らが玉座、メルカバー。あの中には我が契約者と、我が下僕たちが積載されている」

「ほう、ペラペラと」

「あれを暴いた褒美だ。そして、取引だ」

 

ツァバトは言った。

 

()()()()退()()()

「なに……ッ!?」

 

ツァバトの言動に驚くキャロル。

 

「当たり前だ。ウィザードリィステルスはそこの錬金術師のせいで一時停止。今の状態では通常兵器でも落とせるだろう。そうなれば契約者は死んでしまう。

だからこそ、撤退する」

「それを見逃す儂らだと?」

「見逃すとも。お前たちは」

 

ツァバトが、にや、と笑う。

 

「もしこのまま戦うというのなら、エンジェノイズを市街地にも放つ」

 

その言葉と共にエンジェノイズがメルカバーから発艦される。

メルカバーの周りで無数のエンジェノイズ旋回!

 

「……ッ!」

 

エンジェノイズは未だ健在。

対して二課は一鳴が戦闘不能となり、キャロルだけでエンジェノイズと戦わねばならない。

 

「…………よかろう」

 

訃堂が言う。

血がこぼれるほど拳を握りしめる。

 

「早く去れ。残骸」

「そうするとも、老いぼれ。巫女はしばし預けよう」

 

ツァバトが六翼を広げて飛翔。

メルカバーに向かう。

ライブ会場に展開していたエンジェノイズたちも、攻撃を中止し、ツァバトの後を追う。

 

ツァバトがメルカバーの中に消えた後、メルカバーはエンジェノイズを連れて夜の空に消えた。

 

訃堂はそれをただ見ていた。

拳を握りしめ、ただ見ていた。

 

 

 

 

 

 

2041年1月6日。

この日ツヴァイウィングのライブ会場を襲撃したツァバトによる惨劇で、12674人もの人命が喪われた。

ライブ会場から避難する途中、逃走中の将棋倒しによる圧死や、 避難路の確保を争った末の暴行による傷害致死が殆どを締めていて、エンジェノイズによる死亡数は1/3以下である。

 

本来の歴史において。

ライブ会場で発生したノイズの大量発生による惨劇の死者は12874人。

 

この世界の死者は200人少ない。

これは一鳴による奮戦の成果であり、また巫女選定のために加減したツァバトの気まぐれのせいでもある。

そして、この200人こそが神獣鏡に浄罪され、巫女の資格を得た者たちである。

 

その中には、立花響と小日向未来も含まれている……。

 

 

 



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第108話 そして少女は装者となった



接ぎ木のゴドリックを倒したので初投稿です。
忌み鬼マルギットとゴドリックを経てわかったこと、褪せ人呼んで囲んで棒で叩けば大抵のボスは死ぬという事デス。
そんなエルデンリング、みんなもやろう!

あ、あとアンケート実施してます。
お題は現在から、原作開始する2043年の間の出来事を飛ばすかどうかというもの。
ちょっとこの先の展開悩んでるのでご協力オナシャス!
面倒くさいので飛ばしたいという気持ちと話盛りてぇという気持ち。心が2つある〜!


 

 

 

「ぅ……ううん………」

 

頭が痛い。

身体が重い。

なんかズキズキと疼痛がしてる。

それと、ベッドに寝かされている。

 

「……んんん?」

 

たしか、俺はライブ会場で神獣鏡融合型を撃破した後、地面に落っこちて、訃堂司令が最後に来て……。

 

「ここ、二課か……」

 

身体を起こす。

やはり、ここは二課のメディカルルーム。

あの後、俺は二課に運ばれて治療されたのか。

 

「かず、なり……さん……」

 

隣を見る。

椅子に座った調ちゃんが口元を手で押さえていた。

一筋の涙が流れている。

 

「あー……。調ちゃん、おはよ」

 

ぼんやりとした頭で、そう口にする。

他に言うべきこともある気がするけれど。

 

「一鳴さん……っ!」

 

調ちゃんに抱き着かれる。

 

「一鳴さん、一鳴さん一鳴さんッ、うわああああああん!!」

 

大声で泣く調ちゃん。

俺は調ちゃんをぎゅ、と抱きしめる。

 

「……心配させてごめんね」

「ほんとだよッ、一鳴さんのバカッ!」

 

そう言ってボロボロと泣く調ちゃん。

俺は、ただただ調ちゃんの小さな身体を強く抱きしめる。

 

「おかえりなさい、一鳴さん」

「ただいま、調ちゃん」

 

さて。

それからは大変だった。

俺が目を覚ましたことを知ったブラックジャック(偽)先生に各種精密検査に連れ回され、やっと病室に戻ってきたと思ったらおっとり刀で駆け付けたマリアさんたちにモミクチャにされた。

 

そんなこんなで。

病室にて了子さんによる現状説明である。

 

「2週間ぶりの目覚めはどう、一鳴くん?」

 

現在、2041年1月20日。

俺は2週間も意識不明らしかった(震え声)

重症じゃん。

 

「重症よッ!」

「重症です!」

 

俺に抱きつくマリアさんとセレナちゃんに怒られた。

二人だけじゃない。

調ちゃんも切歌ちゃんもクリスちゃんも俺に抱きついている。

おダンゴ状態であった。

……暑い。

蜂球かな?

 

「心配させたバツだッ!」

 

クリスちゃんがそう言う。

その目元は赤かった。

……ずっと、泣いていたのよね。

 

「2週間ぶりの目覚めは居た堪れないですね(掠れ声)」

「皆のこと、たっくさん心配させたんだから、もっと居た堪れなさを感じなさい」

「くーん……」

 

了子さんは冷たかった。

 

「一鳴、ちゃんと反省して」

 

マリアさんがそう言う。

 

「貴方が死んだら、私たちみんな悲しいんだからね……」

「はい……」

 

マリアさんは涙を滲ませてそう言うのだった。

俺はマリアさんを抱き寄せた。

全員、俺の身体に顔を(うず)める。

 

「とりあえず、一鳴くんの検査結果は問題なし!

後遺症も無さそうだわ」

「ネフシュタンさまさまですわぁ!」

 

一度目の絶唱の後ネフシュタンの蛇が回復してくれなければ、ニ度目の絶唱のダメージで内臓1個2個無くしてた可能性が高いらしかった。

ネフシュタンの蛇がいなければ危なかったゾ。

 

「それで、そのネフシュタンの蛇はどうなりました?」

「神獣鏡の光に貫かれて破損。完全聖遺物からただの聖遺物に格下げね」

「そっか……」

 

完全聖遺物だったネフシュタンの鎧は銀腕融合型の力でフォニックゲインを注がれて蛇の姿になった。

そして神獣鏡の光で壊れて欠片になったらしかった。

俺を回復してくれた、大恩ある蛇だったのだけれどね……。残念ね。

 

「メルカバーは太平洋上空でウィザードリィステルスが復旧、姿を眩ませたわ」

「逃げられましたか……」

 

ツァバト一行には逃げられてしまったか……。

 

「そういえば、メルカバーはF.I.S.の所有していた聖遺物なんですか?」

 

今回の下手人、F.I.S.の持ってた聖遺物を融合させたパーフェクトソルジャーを運用していた。

F.I.S.を襲ったのも彼らで間違いないので、メルカバーもF.I.S.から奪ったものかと考えたのだ。

 

「ナスターシャ教授にも聞いたけれど、違うみたいね」

「じゃあアレはツァバトの持ち物って事か……」

「まあ、アイツらがF.I.S.を襲撃したのは間違いないでしょうけれどね」

 

神の戦車、メルカバー。

F.I.S.の持ち物でなく、シェム・ハの分霊たるツァバトが元から保有してても不思議はないか……。

 

「彼らはF.I.S.も襲撃してるの?」

 

マリアさんがそう聞く。

セレナちゃん含めて、ある程度はナスターシャ院長から聞いているようだった。

 

「十中八九ね。彼ら、F.I.S.で保有していた聖遺物をパーフェクトソルジャーに融合させていたわ」

「そう……、聖遺物を……」

 

F.I.S.に居た子たちが目を伏せる。

実験動物として扱われていたF.I.S.であっても、何年も過ごした場所が襲撃されたら思うこともあるのかしらね……。

俺はみんなの頭を撫でた。

 

「メルカバーについては、自衛隊や在日米軍とも協力して捜索してもらうわ」

 

了子さんはそう言った。

 

「さて。ここからが本題よ」

「本題?」

 

了子さんは真面目な顔だ。

 

「今回の襲撃、大多数のエンジェノイズを一鳴くん一人で迎撃していた事、訃堂司令は重く見ているわ」

「……というと?」

「戦力が足りない、ということよ」

 

現在、ノイズと戦えるのは俺とキャロルちゃんのみ。

あとは訃堂司令や弦十郎さん、フィーネにオートスコアラー四人組は戦力としては十二分だけれどノイズの位相差障壁を抜けるかというと微妙なライン。

 

「でもね。災い転じて福となす、とは違うけれど今回の襲撃による神獣鏡の閃光でシンフォギアに適合した娘達がいたの」

 

入ってきて、と了子さんが言う。

メディカルルームの扉を開けて入ってきたのは……。

 

「響ちゃん、未来ちゃん……」

「ナルくん……」

「良かった、生きてて……」

 

メディカルルームに入ってきたのは響ちゃんと未来ちゃんだ。

二人は目元に涙を滲ませる。

二人も心配させちゃったね。

 

「あなたのお友達の、響ちゃんと未来ちゃん。あの日の神獣鏡の光で浄罪されたのよ」

「直撃は、してないはずですよ……?」

 

そう。

あの日、神獣鏡融合型の攻撃は地上に降り注いだ。

何人か犠牲者を出てしまった。でも、二人には当たってなかったはず……。

 

「一鳴くん、光は散乱するのよ」

 

それは、洞窟の天井から漏れ出た一筋の光が洞窟全体を照らすように。

あの日、神獣鏡融合型が注いだ浄罪の光は散乱し、観客の何人かを浄罪したのだそうだ。

 

「健康上の問題は?」

「ないわ。ただ、聖遺物との適合率が上昇したわ」

「他の人たちは……」

「現状、最後まで会場に残っていた全員が対象だと考えたほうがいいわ」

「そうですか」

 

あの日、最後まで残ってたのは響ちゃんと未来ちゃん。

マリアさんたちは途中で脱出出来ていたはず。

なら、マリアさんたちの適合率が上がっては居ないのか。

 

「二人は、それでいいの?」

 

俺は響ちゃんと未来ちゃんを見る。

 

「命を懸けた戦場(いくさば)に出るってことは、こうなるってことよ?」

 

俺は手を広げた。

2週間の昏睡。

俺はボロボロでメディカルルームに運ばれた。

生死をかけた戦い。

俺の後ろで散っていく命。

そんな物を背負って生きていくのだ。

重く伸し掛かる十字架が増えていく。

その覚悟はあるか、と二人に問う。

 

「……それでも」

 

響ちゃんがポツリと言う。

 

「だとしても。あの日、戦ったナルくんの姿を見たから。ボロボロになってもみんなを守るために戦うナルくんを見たから」

「私たち、ナルくんを守りたい。ナルくんがみんなを守るように、私たちもナルくんとみんなを守りたいのッ!」

 

響ちゃんと未来ちゃんがそう言った。

覚悟は決まってる、ということね。

なら、もう言うことはないかしら。

 

「おーけー、わかった。二人がそこまで言うのなら、俺からはもう何も言わないよ。

───これから宜しくね、響ちゃん未来ちゃん」

 

俺の言葉に笑顔でうなずく二人であった。

 

「一鳴さん、いいんですか?」

 

セレナちゃんがそう聞く。

セレナちゃんはF.I.S.での正規装者。

シンフォギアとはなんたるか、ノイズと戦うとは何かを知っている。

そのセレナちゃんが是非を問う。

 

「うん、二人が決めたことだからねぇ」

「……でも。ううん、そうですよね。二人とも、あの日の事があったからそう決めたんですもんね」

 

セレナちゃんは一つ頷いた。

 

「私も、アガートラームがあったら……」

 

誰にも聞こえないくらい、セレナちゃんがそう呟いた。

俺はそっと、セレナちゃんの手を握った。

 

「それで、二人が適合した聖遺物はなんですか?」

 

俺は了子さんに聞いた。

了子さんは口を開いた。

 

「二人の聖遺物はね〜〜〜」

 

 

 

響の適合した聖遺物【1D10】

 

1 ガングニール

2 ガングニール

3 ガングニール

4 ガングニール

5 ガングニール

6 ガングニール

7 ガングニール

8 ガングニール

9 ガングニール

10 アガートラーム

 

結果【5 ガングニール】

 

 

 

未来の適合した聖遺物【1D10】

 

1 神獣鏡

2 神獣鏡

3 神獣鏡

4 神獣鏡

5 神獣鏡

6 神獣鏡

7 神獣鏡

8 神獣鏡

9 神獣鏡

10 ネフシュタンの鎧

 

結果【8 神獣鏡】

 

 

 

「響ちゃんが第3号聖遺物、ガングニール、未来ちゃんが第39号聖遺物、神獣鏡よ」

 

概ね原作通りの適合である。

これでもし、ヘンな聖遺物と適合してたらアドリブが過ぎるところだよ。

 

「ガングニールは北欧神話の主神オーディンの持つ魔法の槍、必殺必中の投げ槍よ。

神獣鏡は鏡の聖遺物。鏡由来の光を操る力と、罪や穢れを祓う浄罪の力を持つわ」

 

そんな訳で。

響ちゃんはガングニールの装者に。

未来ちゃんは神獣鏡の装者となった。

 

「……あ、あの!」

 

セレナちゃんが手を上げた。

 

「今回の事件で、アガートラームの融合型も倒したんですよね?」

「……ええ、弦十郎くんの无二打をまともに食らって七孔噴血したわ」

 

こっわ……。

 

「じゃ、じゃあ! アガートラームでシンフォギア作れますよね!」

 

セレナちゃんは、了子さんにそう聞いたのだった。

 

「私も、一鳴さんの力になりたいんですッッッ!」

 

 

 

了子さんの回答【1D10】

 

1 アメリカが返せって言ってきたわ

2 アメリカが返せって言ってきたわ

3 アメリカが返せって言ってきたけど───

4 アメリカが返せって言ってきたわ

5 アメリカが返せって言ってきたわ

6 アメリカが返せって言ってきたけど───

7 アメリカが返せって言ってきたわ

8 アメリカが返せって言ってきたわ

9 アメリカが返せって言ってきたけど───

10 熱烈歓迎

 

結果【8 アメリカが返せって言ってきたわ】

 

 

 

「セレナちゃん……。アガートラームは、いいえアガートラームだけじゃなくてイガリマもシュルシャガナも、アメリカが返却要求してきたわ」

「……そうですか」

 

セレナちゃんは俯いてそう言った。

 

「その気持ちだけで嬉しいよ」

「一鳴さん……」

 

俺はセレナちゃんの頭を撫でた。

 

「とりあえずは、一鳴くんは休暇代わりにしばらくはベッドの上で安静にしていること! いいわね?」

「アッハイ」

「響ちゃんと未来ちゃんは明日からはシンフォギア装者として戦闘訓練を積んでもらうわ」

「キャロルちゃんが教官ですか?」

「未来ちゃんはね? 響ちゃんは弦十郎くんが教えるわ」

「なるほど」

 

合ってるなぁ、と思った。

神獣鏡は遠距離攻撃メインだし、キャロルちゃんの錬金術で学ぶべき所は多い。

響ちゃんと弦十郎さんは言わずもがな。

 

「あと、一鳴くんは訃堂司令が群蜘蛛研いで待ってることを伝えておくわ」

「くーん……」

 

退院後は地獄が確定した瞬間であった(白目)

 

 

 



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第108.5話 王様ゲーム



ラダーン祭りが楽しいので初投稿です。
鉤指(別プレイヤーのサポート)で参加しているのですが、でっかいボスに大人数でワチャワチャ挑むのが楽しい。
そんな楽しいエルデンリングやってたら、執筆が出来ないから本編とは全く関係ない話です。

次回以降、シンフォギアの設定を見ながら頭を使う話を書かないといけないので大変!
なので、こういう頭を使わない話でお茶を濁すのだぁ。





 

 

 

 

何がどうしてそうなったのか?

理由はわからないが、王様ゲームをやることになった。

参加者は、

 

俺こと渡一鳴。

調ちゃん。

マリアさん。

セレナちゃん。

切歌ちゃん。

クリスちゃん。

響ちゃん。

未来ちゃん。

 

以上、8人。

場所は俺の入院しているメディカルルーム。

 

「一ついいかしら?」

 

マリアさんが手を挙げる。

 

「スケベな命令はアリかしら?」

「ナシに決まってるだろッ!?」

 

キリッとした顔のマリアさんの発言に突っ込むクリスちゃん。

 

「え、ナシなんですかッ!?」

 

セレナちゃんがショックを受けた顔をした。

 

「色ボケ過ぎるだろカデンツァヴナ姉妹ッ!?」

 

クリスちゃんのツッコミはキレキレであった。

 

「あ、アタシはアリのほうが……」

「切ちゃんステイ」

「私もアリがいい……」

「ひ び き ?」

 

切歌ちゃんと響ちゃんが発言しようとしたが、調ちゃんと未来ちゃんにカットされた。

 

「……キスはアリよね?」

「キスはアリにしましょう?」

 

マリアさんとセレナちゃんが手を挙げた。

 

「アタシも、き、キスならアリでいいと思うデス!」

「はいはい! 私も! キスはアリ!」

 

切歌ちゃんと響ちゃんが便乗!

 

「もう、切ちゃんったら……。まあ、キスならいいかな?」

「私も、キス、なら……」

 

調ちゃんと未来ちゃんも乗り気!

 

「ね、クリス? 皆もアリって言ってるし?」

 

マリアさんが囁く。

 

「で、でもキスなんて恥ずかしいし、そういうのは好きな人と……」

 

クリスちゃんが恥じらう。

あとチラチラ俺を見ていた。

 

「大丈夫ですよクリスさん」

 

クリスちゃんの耳元でセレナちゃんが囁く。

 

「クリスさんが王様になった時には健全な命令をすればいいですし、王様になれなくても、指名される確率は1/7なんですよ?」

「そ、そうかな?」

「そうですよ?」

「そうか。なら、そうなんだな……」

 

そういう事になった。

 

 

 

王様だーれだ?【1D8】

 

1 一鳴

2 調

3 マリア

4 セレナ

5 切歌

6 クリス

7 響

8 未来

 

結果【3 マリア】

 

 

 

「私が王様ね」

 

マリアさんが【王様!】と書かれた割り箸を見せつけた。

 

「じゃあ王様として命じるわ。一鳴は私とキス!」

「そういうゲームじゃねえからッ!!」

 

マリアさんの欲望をクリスちゃんが抑える。

抑えきれてるかなぁ?

 

「冗談よ、冗談(大嘘)」

「嘘だ」

「嘘だよ」

「嘘デス」

「嘘だよね?」

「嘘ですよね」

 

皆に看破されてた。

 

「ンンッ(咳払い)、まあいいわ(仕切り直し)

最初だから、控えめの命令をしましょう。

3番と4番は1分間ハグしてもらいましょう」

 

最初の命令はハグ。

……控えめかな?

まあそれはそれとして。

3番と4番は誰かしら……?

 

 

 

3番と4番はだれ?【1D8】

 

1 一鳴

2 調

3 一鳴

4 セレナ

5 切歌

6 クリス

7 響

8 未来

 

3番【5 切歌】

4番【4 セレナ】

 

 

 

「3番はアタシデース!」

「4番は私です!」

 

切歌ちゃんとセレナちゃんであった。

 

「えへへ、なんだか恥ずかしいデスよ……」

「そうですね。でもこういうのは思い切りです!」

 

切歌ちゃんとセレナちゃんはお互いを抱きしめあった。

 

「切歌さん、小さくて温かくて、可愛いです」

 

セレナちゃんがそう言う。

 

「セレナも、あったかヌクヌクデース」

 

と、笑顔の切歌ちゃん。

ふと、真顔になる。

 

「セレナ?」

「どうしました切歌さん?」

「ちょっと太ったデスか?」

 

あ、セレナちゃんが固まった。

 

「オッパイだけじゃなくて腕やお腹もムニッと大きく……」

「切歌さーん?」

 

セレナちゃんが再起動。

 

「せ、セレナ? ちょっと苦しいデース!」

「私は太ってないですよね?」

 

ギチギチと切歌ちゃんを締め上げるセレナちゃん。

 

「ギブ。ギブでず……」

「1分経った! 1分経ったわ! セレナ! 離してあげて! セレナ!!」

 

青い顔をする切歌ちゃん。

マリアさんは二人を引き離しにかかる。

 

「太ってないデス! ムチムチデス!」

「切ちゃんそれ火に油を注いでるよ?」

 

調ちゃんが呆れ顔だ。

その後、マリアさんは二人を引き離すことに成功。

切歌ちゃんはしばらく青い顔のままであった。

 

「一鳴さん私太ってないですよね!?」

「太ってないよ。成長期だもの。成長してるってことよ。あんまり気にしないの」

 

俺はそう言って慰めた。

 

……でも、よくよく考えると、出会った頃よりほっぺたがモッチリと───いや、考えるのはよそう。

きっと杞憂だものね、うん(フラグ)

 

 

 

王様だーれだ?【1D8】

 

1 一鳴

2 調

3 マリア

4 セレナ

5 切歌

6 クリス

7 響

8 未来

 

結果【4 セレナ】

 

 

 

「私です」

 

【王様!】の割り箸をみんなに見せるセレナちゃん。

 

「太ってない私です!!!!!」

「どうどう」

「落ち着いてセレナ」

 

荒ぶるセレナちゃんを鎮める俺とマリアさん。

 

「コホン。私の命令は……ズバリ、お互い見つめ合ってもらいます!」

「見つめ合うのって、気恥ずかしいよね」

 

目と目を合わせる、互いを見るというのは照れてしまうもの。

そんな見つめ合う二人は誰だ……?

 

 

 

見つめ合うのは誰?【1D8】

 

1 一鳴

2 調

3 マリア

4 セレナ

5 切歌

6 クリス

7 響

8 未来

 

結果【2 調】

  【3 マリア】

 

 

 

「2番と3番、1分間見つめ合ってください!」

「私」

「調と、私ね」

 

見つめ合うのは調ちゃんとマリアさんみたい。

 

「じー」

「あ、もう始まってるのね……」

 

調ちゃんとマリアさんが見つめ合う。

 

「じー」

「……」

「じー」

「……」

「じー」

「……あの、調?」

 

沈黙に耐えきれなくなったマリアさん。

 

「どう、かしら? 見つめ合って」

「どう? ……うーん」

 

調ちゃんが口を開いた。

 

「マリア、瞳がキレイ」

「あら、ありがとう」

 

マリアさんが頬を染めながら微笑む。

 

「調もキレイな目よ」

「ありがと、マリア」

 

調ちゃんも頬を染めた。

カワイイ。

 

「うーん、平和デスね」

「おめーは一言多いんだよ……」

 

切歌ちゃんの言葉に突っ込むクリスちゃんであった。

 

 

 

王様だーれだ?【1D8】

 

1 一鳴

2 調

3 マリア

4 セレナ

5 切歌

6 クリス

7 響

8 未来

 

結果【2 調】

 

 

 

「次の王様は私」

 

【王様!】を見せつける調ちゃん。

 

「私は賭けに出る」

「賭け、デスか?」

 

首を傾げる切歌ちゃん。

 

「うん。私の命令は……」

 

調ちゃんが口を開いた。

 

「7番は私にキス」

 

 

 

キスするのはだれ?【1D8】

 

1 一鳴

2 一鳴

3 マリア

4 セレナ

5 切歌

6 クリス

7 響

8 未来

 

結果【6 クリス】

 

 

 

「ラッキーセブンだから、きっと一鳴さん」

 

ウキウキする調ちゃん。

だが……。

 

「7番は、誰なの?」

 

誰も手を挙げなかった。

 

「一鳴さん?」

「俺じゃないよ?」

「私でもないわよ?」

「私でもないです」

「アタシじゃないデスよ」

「私も違うよ?」

「私も」

 

みんな違うみたい。

残ったのは……。

 

「………………あたしだよ」

 

クリスちゃんであった。

嘘ぉ……。

 

「クリス先輩? うーん、……アリ!」

 

調ちゃんはそう言い切った。

 

「恥じらえバカッ!」

 

クリスちゃんは真っ赤になって怒鳴った。

 

「そ、そんな!! キスとか!! まだ一鳴ともしたことないのにッ!!」

 

クリスちゃんが真っ赤っ赤である。

うーん、ダメそう。

俺は助け舟を出すことにした。

 

「グググ……。思い出せクリス=サンよ、シラベ=サンはキスする場所の指名はしておらぬぞ」

「なんだよその奈落の底から響いてきそうな声は……。でも、思えばそうだな」

 

クリスちゃんは顔を赤くしたまま、唇を尖らせる調ちゃんに近づく。

 

「ちゅー」

「ったく、ほらよ」

 

クリスちゃんは調ちゃんの手を取り、その手の甲にキスをした。

 

「ちゅー……、え?」

「キス、したぞ」

「え、今のが……?」

「キスだキス! あたし様の唇はそんなに安くねぇ!」

 

そんな訳で、調ちゃんはクリスちゃんにキスしてもらった。

手の甲にな!

 

「あたしの唇は、お前のものだからな……!」

 

クリスちゃんは俺の耳元で、こっそりそう言った。

えへへ……(照れ)

 

 

 

王様だーれだ?【1D8】

 

1 一鳴

2 調

3 マリア

4 セレナ

5 切歌

6 クリス

7 響

8 未来

 

結果【3 マリア】

 

 

 

「私よッ!!!」

 

【王様!】の割り箸を掲げるマリアさん。

 

「マリアさん二回目ぇ!?」

「運がいいんですね」

 

響ちゃんと未来ちゃんが目を丸くする。

 

「日頃の行いがいいのね♡」

「いいなぁ、マリア姉さん」

 

羨ましそうなセレナちゃんであった。

 

「うーん、そうねぇ。みんなに何をしてもらおうかしら」

 

マリアさんが悩む。

しばらく後、指を鳴らす。

なにか思いついたようだ。

 

「1番が6番を抱き締めてもらおうかしら!」

「抱きしめる? ハグってこと?」

「いいえ。お互いに抱きしめ合うのではなく、6番の子は一方的に抱き締められるのよ」

「それは、刺激的デース……」

 

抱き締める方も、抱き締められる方もなかなか照れが大きいと思う。

 

 

 

抱きしめる人【1D8】

 

1 一鳴

2 調

3 一鳴

4 セレナ

5 切歌

6 クリス

7 響

8 未来

 

結果【3 一鳴】

 

 

 

抱き締められる人【1D8】

(被ったら下に一つズレる)

 

1 一鳴

2 調

3 一鳴

4 セレナ

5 切歌

6 クリス

7 響

8 未来

 

結果【8 未来】

 

 

 

「抱き締める人は俺ね」

 

俺は1番の割り箸をみんなに見せた。

 

「わ、私が、6番、です……」

 

未来ちゃんが頬を染めながらみんなに6番の割り箸を見せる。

 

「未来、交換してッッッ!」

 

大人げないことを言う王様ことマリアさん。

クリスちゃんに頭を引っ叩かれる。

 

「自重しろ最年長ッ!」

「いいなぁ、未来……」

 

響ちゃんが羨ましそう。

こればっかりは時の運なのよねぇ。

 

「では。おいでー未来ちゃん」

 

俺は手を広げてそう告げる。

おずおずとやって来る未来ちゃん。

 

「お、お邪魔します……」

 

俺の胸にしなだれかかる未来ちゃん。

俺はそんな未来ちゃんを抱き締める。

 

「どう、痛くない?」

「だ、大丈夫。もっと強くして、いいよ?」

「では」

 

ぎゅー、と強く抱きしめる。

未来ちゃんは俺の胸に顔を埋める。

 

「はぅ……」

「うぅ、ナルくんに抱き締められる未来、可愛い……」

 

吐息を漏らす未来ちゃん。

そんな未来ちゃんを見て、頬を染める響ちゃん。

 

「終わり! 終わりよッ! 離れて二人共ッッッ」

 

そんな俺と未来ちゃんを引き離しにかかるマリアさん。

あとセレナちゃんと調ちゃんと切歌ちゃんとクリスちゃん。

 

「いや多くない?」

「う、羨ましいんですッ」

「次こそは私が一鳴さんとキス」

「アタシもギューッてしてほしいデスッ」

「さ、さっさと次の王様決めるぞッ!」

 

そういう事になった。

 

そんな訳で割り箸を引く。

そこには【王様!】と書いてあった。

 

「あ、王様だ」

「一鳴さんが王様……!」

 

場に緊張が走る。

首の裏がピリリとする。

これは……、戦場の空気!

王様の命令一つで鉄火場となるッ……!

 

「一鳴、命令はなにかしら?」

「はやく、言ってください……!」

 

マリアさんとセレナちゃんがそう急かす。

冷や汗一つ流れる。

 

「俺の命令は、やっぱりキスかな。王様の俺とキス……ッ!」

 

場の空気がギラリと刃のように尖る。

誰とキスをするのか。

俺から番号が伝えられるのを皆、心待ちにしている。

 

「俺がキスするのは……」

 

 

 

キスするのはだれ?【1D8】

 

1 響

2 調

3 マリア

4 セレナ

5 切歌

6 クリス

7 響

8 未来

 

結果【3 マリア】

 

 

 

「3番は俺とキス!」

 

俺は告げた。

その瞬間。

 

「よッッッシャァッッッッッッ!!!!!!!」

 

マリアさんがガッツポーズ。

3番はマリアさんだったみたい。

 

「またマリアデス!」

「マリアずるい!」

 

切歌ちゃんと調ちゃんがブーブー言う。

 

「日頃の行いよッッッ!」

 

マリアさんが言い放った。

 

「マリア姉さんなにか細工した?」

「してないわよッ」

 

セレナちゃんがジト目で疑う。

 

「……いいな」

 

クリスちゃんがボソッとそう言った。

 

「うぅ、私一度も呼ばれてない……」

「響、元気だして」

 

響ちゃんの頭を撫でる未来ちゃん。

 

「さあ、一鳴! キスしましょう!」

 

むちゅー、と唇を尖らせるマリアさん。

 

 

 

マリアさんとのキス【1D10】

 

1 唇を合わせるキス

2 唇を合わせるキス

3 舌を絡ませる情熱的なキス

4 唇を合わせるキス

5 唇を合わせるキス

6 舌を絡ませる情熱的なキス

7 唇を合わせるキス

8 唇を合わせるキス

9 舌を絡ませる情熱的なキス

10 熱烈歓迎

 

結果【3 舌を絡ませる情熱的なキス】

 

 

 

ぶちゅっ、と唇が触れ合う。

マリアさんの舌が、俺の口内に這入(はい)りこむ。

俺の舌にマリアさんの舌が絡みつく。

俺は負けじと、マリアさんの舌を舐め、攻守逆転を目論む。

舌と舌が絡みつき、互いの唇をむしゃぶり合う。

 

「わぁ……!」

「……ッ!」

 

響ちゃんと未来ちゃんの息を呑む声が聞こえる。

 

「デデデ!?」

「すごい……」

 

切歌ちゃんと調ちゃんの声も聞こえる。

 

「ま、マリア姉さん? そろそろ、ね?」

 

セレナちゃんがマリアさんを止めようとする。

しかしマリアさんの吸い付きが強くて離れない。

 

「二人共はーなーれーろー!!」

 

クリスちゃんも加勢。

引き離された。

 

「ああっ、酷いわ……」

「自重しろ最年長ッッッ!!!」

 

クリスちゃんが顔を真っ赤にして怒鳴る。

 

「お前のキス熱烈過ぎるんだよッッッ!!!」

「だって2週間もご無沙汰なんだものッ!」

「私だってそうだもんッ!」

 

セレナちゃんが大声で言う。

そのまま3人で言い合いになる。

 

「一鳴さん、私ともキスして……」

 

こっそり近寄ってきた調ちゃんがそう囁く。

 

「あーッ、調ズルいデス! アタシもキスして欲しいデスッ」

 

切歌ちゃん参戦。

 

「あ、あ! 私も! 私一回も王様ゲームで選ばれてないし!」

 

響ちゃんも寄ってくる。

 

「ならあたし様にもキスする権利はあるだろッ!」

 

クリスちゃんも参戦。

 

「私! 私もキスしますッ!」

「私も! もう一回よッ!」

 

セレナちゃんとマリアさんも寄ってくる。

俺は蜂球状態になる。

 

「あ、あの。みんな、そんなに騒ぐと……」

 

未来ちゃんがみんなを止めようとする。

が。

 

「煩いわよあなた達〜〜〜ッ!!!」

 

バァン!

と、扉を開けて了子さんが現れる。

 

「いい加減にしないと、面会謝絶にするわよッ!」

「はぁい……」

「ごめんなさい……」

 

了子さんに怒られてしまった。

騒がしくしたからね。

仕方ないね……。

 

そんな訳で。

初めての王様ゲームはこんな感じに終わってしまった。

 

「また! またやろうね!」

「みんなが集まったらね」

 

響ちゃんはまた、王様ゲームをやりたいみたい。

俺も楽しかったし、またやりたいね。

……今度は、騒いでも怒られない場所で。

 

 

 

 

 








豪運な女、マリア。
未成年の前でエグいキスする女、マリア。
2週間ご無沙汰の女、マリア。
そんな回でしたね(震え声)

こういう話は時々やりたい。
何も考えずにダイス触れるから(小声)

そんな訳で、次回以降も投稿間隔は伸びます。
なんもかんもエルデンリングが面白いのが悪い(責任転嫁)






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第109話 ライブの後遺症、陰謀の夜




宿将ニアールをなんとか倒せたので初投稿です。

今回はシリアス。
響ちゃんが学校でイジメられる話。
書いててしんどくなりました。
イジメ描写を微に入り細を穿つように描写出来る人たちは心が鋼で出来ているのかしら……。

そんな訳で109話、お読みください。





 

 

2月の事である。

しとしとと、涙雨の降る日であった。

雨雲で空が覆われ、薄暗い朝のこと。

学校の教室。自分の机の前で、響ちゃんが立ち尽くしていた。

 

「死ね」「人殺し」「金どろぼう」

 

などの悪口が書かれた、響ちゃんの机。

 

「あはは、またかぁ……」

 

響ちゃんが苦笑いしながらそう言う。

 

「響……」

 

未来ちゃんがバケツの中に水を汲んでくる。

 

「机、拭くよ」

 

俺は未来ちゃんの持ってきた水で雑巾を濡らす。

 

「立花、私もやる」

「あたしもやるわ」

 

クラスメイトの篠ノ之(しののの)さんと凰鈴音(ファンリンイン)さんが雑巾を持ってくる。

 

「みんな、ありがと……」

 

響ちゃんは、目を伏せてそれだけ言った。

 

 

俺が退院して、しばらく経ち。

久々に登校したら、響ちゃんがいじめられていた。

原因は、ツヴァイウィングのライブで生き残ったから。

 

ライブの死者の2/3がノイズによるものでなく、逃走中の将棋倒しによる圧死や避難路を争った末の傷害致死によるものだと報道された上に、生存者や遺族にノイズ災害による国庫からの支援金が支払われる事が週刊誌に掲載されると、苛烈な自己責任論が世論を席巻するようになる。

 

心無い中傷が、多数の【一般人】に支持され世論となり、正義という名の暴力となるのだ。

それは、魔女狩りに似て苛烈で甘美。

故に、大多数の()()な人間は暴力に酔っていた。

 

響ちゃんも、そんな暴力に晒されていた。

いじめているのは別クラスの女子生徒。

その女子生徒が憧れているサッカー部の男子生徒が、ライブで死亡しており、なんの取り柄もない響ちゃんが生き残ってるのはおかしい、というのが理由らしい。

原作と同じ理由だ。

 

だが、原作と違ってクラスメイトの子たちは響ちゃんに同情的だ。

一夏や篠ノ之さんや凰鈴音さん、あと吉田なんかの善良な人間が在籍していたからだろう。

 

「千冬姉ぇ!!」

 

朝のホームルーム。

教室に入ってきた織斑先生に向かって一夏が声を荒げる。

 

「学校では織斑先生だ」

 

織斑先生がそう言う。

だが、いつもの生徒名簿による頭部攻撃がない。

 

「立花さんがいじめられてるのに、なんで学校は何もしないんだよ!」

「……」

 

一夏の言葉に織斑先生は目を伏せて黙る。

学校側も馬鹿ではない。

あからさまにいじめられている生徒を助けないなんてことはしない。

担任は織斑先生だし、校長は男塾塾長だし。

だが、いじめは収まっていない。

 

「イジメを行っている生徒についてはこちらで三者面談を行い、家庭でも指導してもらっている」

「でも、イジメは収まっていないではないですか?」

 

篠ノ之さんがそう聞く。

すると、織斑先生は、

 

「……再度、学校側でも指導はする。だがな」

 

と言いづらそうに言葉を続けた。

 

「イジメを行っている生徒が膨大すぎて全貌がつかめない」

「そんな……」

 

世論に踊らされた人々は多い。

情報の取捨選択が出来ず、他者を排除する暴力に伴う快楽に溺れる中学生は多いという事ね……。

 

「立花、不甲斐ない私達を許してくれ」

 

織斑先生は響ちゃんに頭を下げる。

 

「あ、いや! 私は大丈夫ですよ! あはは」

 

と、響ちゃんはそう言った。

その笑い声が虚しく教室に響いた。

 

 

 

 

 

 

朝のホームルームが終わり。

俺は隣の席の吉田と話をする。

 

「で、ニンジャの吉田よ。この学校のイジメに加担する生徒について調査は済んでるよのね?」

 

吉田はクラスメイトであり、俺の護衛の緒川忍群の一員だ。

年経たメスダコと契約して使役している異端技術者でもある。

 

「ああ、もちろん」

 

 

 

中学校のイジメ加担率【1D10】

 

【7】割(最低保証5割)

 

 

 

「学校全体の7割の生徒がライブ生存者イジメに加担している」

 

吉田の報告に、一瞬目の前が真っ暗になった。

 

「7割? 70%? そんなに?」

「そんなに。世も末だな」

「悪魔が微笑む時代だよ」

 

この学校イジメの悪魔とか居るんじゃないの?

と、現実逃避したい所だけれどそういう訳にもいかず。

響ちゃんを守るために、なんとかしなければ。

と、考えていたら。

おトイレに行っていた響ちゃんと未来ちゃんが帰ってきた。

 

 

響ちゃんが、水浸しの状態で。

 

 

教室が静まり返る。

トイレで水をかけられたのか。

二人は何も言わずに自分の席に向かう。

未来ちゃんがタオルを、響ちゃんがタオルと体操服を持つ。

 

「立花、小日向!」

 

篠ノ之さんが声をかける。

 

「箒ちゃん、大丈夫だよ。大丈夫。へいき、へっちゃらだから」

「とてもそうは見えないわよ!!」

 

笑いながらそう言う響ちゃんに、凰さんがそう返す。

俺は、そんな響ちゃんに近づく。

 

「あ、ナルくん……」

「タオル貸して、風邪引いちゃうよ」

 

俺は響ちゃんからタオルを受け取ると響ちゃんをワシャワシャと拭いていく。

 

「わッ、ナルくん!?」

「未来ちゃん、タオル貸して」

「うん」

 

近づいていた未来ちゃんから、タオルを受け取り響ちゃんを拭く。

未来ちゃんは目が赤かった。

 

「なんで、響だけなの……」

 

未来ちゃんの目から涙があふれる。

 

「響ばっかり、酷い目に合うの……」

「ほんとにね……」

 

俺はそれだけ返した。

 

「本当に、酷い話」

 

 

 

 

 

 

一鳴おこ度【1D10】

 

1 ちょいおこ

2 おこ

3 まじおこ

4 おこおこのおこ

5 プンプン丸

6 激おこプンプン丸

7 ムカ着火ファイヤー

8 カム着火インフェルノ

9 激おこスティックファイナリアリティプンプンドリーム

10 滅 尽 滅 相

 

結果【4 おこおこのおこ】

 

 

 

俺は怒っていた。

善良を気取る蒙昧な一般人に。

他者に暴力を振るうを快楽とする人間の悪性に。

 

なによりも。

響ちゃんがいじめられて、未来ちゃんが涙を流した事に。

 

俺は怒っていた。

過去形だ。

怒って、いたのだ。

怒りの時間は終わり。

往々にして、怒りは持続しない。

怒りの後にやってくるのは、憎悪か殺意だ。

 

そんな訳でお昼休み。

響ちゃんと未来ちゃんを篠ノ之さんと凰さん、あと一夏に任せて、俺は別のクラスの前に来ていた。

隣には吉田。

 

「いざという時にはお前を止めないとな」

「吉田……」

 

そんな吉田に感謝しつつ。

俺は隣のクラスの扉を開ける。

 

「ねぇ、今度はあの税金泥棒になにしよっか?」

「服脱がせて写真撮ろうよ」

「いいね、それ! あいつ身体つきはまあまあいいし、ついでに売春させようよ! あいつのツレの小日向とかいうのも一緒に!」

 

あら^〜不快な声!

殺意の高まりを感じるわ!

 

「お邪魔しまーす! このクラスにイジメやってるメスブタが居るって聞いたけど、誰?」

 

俺の言葉に、そのクラスの生徒たちが一斉に目を向ける。

 

「あ、なんだよお前?」

「君かい? 響ちゃんをイジメてるのは?」

 

目当ての女子生徒から声をかけてきてくれた。

ラッキーである。

 

「何あんた? あいつ助けに来たの? でもあいつ人殺しでしょ? 自分が助かるために人を押し退けて逃げたんでしょ?」

「サイテーの人殺しだよね」

「生きてるだけで害悪だよ、あんな奴」

 

取り巻き共とピーチクパーチク。

 

「はっはっは! 何も知らない癖に」

 

俺はその女子生徒の顔に狙いをつける。

 

「ほざいてるんじゃねェよ!」

 

そして右ストレート。

鼻の軟骨をへし折る感触。

 

「ぎゃああああ!」

 

当該女子生徒が鼻血を噴き出して倒れる。

 

「きゃああああ!」

「何してんだテメェ!」

 

取り巻きの女子生徒が叫ぶ。

 

「テメェらも同罪だァ!!」

 

女子生徒二人も殴り倒す。

鼻の軟骨を折った感触!

 

「いかれてるのかコイツ!」

 

同じクラスの男子生徒たちが俺を止めようとしてくる。

が。

 

「ふざけんなふざけんなふざけんな!!」

 

俺は大いに暴れる。

男子も女子も、何人も殴り飛ばす。

響ちゃんがいじめられていたのに、何もしなかった生徒を殴り倒す。

 

「どいつもこいつも!」

 

俺は大いに暴れる。

響ちゃんがいじめられて、未来ちゃんが涙した現実に拳を振り上げるように。

 

「何も知らない癖に!!」

 

教師たちもやって来て俺を止めようとする。

だが俺は暴れて抵抗する。

少しでも騒ぎが大きくなるように。

少しでも、問題が大きくなるように。

 

「渡! 止めろ!!」

 

織斑先生が後ろから羽交い締めにしてくる。

羽交い締めというか、完全に決まった裸締めだ。

逃げることが出来ない。

 

「あぁぁぁ!! がァァァ!!」

「渡!! もう、終わりにしよう」

 

織斑先生に極められて、俺の意識が遠くなる。

教室に入ってきた響ちゃんと未来ちゃんが見えて、俺の意識は遠くなった。

 

 

 

 

 

 

重症6名。

軽症28名。

 

それが、俺のやらかした大暴れの被害であった。

 

「やってくれたな、渡」

 

保健室に寝かされた俺にそう言ったのは織斑先生であった。

俺が大暴れしたせいで、一年生の授業は中止。

一年生の担任教師は緊急職員会議をする羽目になり、被害生徒は病院に送られた。

 

「立花をいじめていたあの女子生徒も病院だ。鼻骨骨折だそうだ。顔面陥没していたら、学校では庇いきれなかったぞ」

「最低限の理性は残してましたから」

「手加減する理性があるなら、平和的に解決してほしかったよ」

 

織斑先生がそう言って、俺の頭を名簿で小突いた。

 

「で、目的は復讐か?」

「半分は」

「もう半分はなんだ?」

「今回のイジメの件が大事になれば、と」

 

響ちゃんがイジメられている事が教育委員会や保護者会に知れ渡れば、止められるだろうかと考えたのだ。

憎悪と殺意。

その2つに動かされた俺だが、一番は響ちゃんを守ること。

響ちゃんのイジメが無くなること。

 

「イジメに加担しているのは全校生徒の7割だとか。もちろん、全員が響ちゃんをイジメている訳ではないでしょう。他の生存者をイジメているのでしょうね」

「……だな。世も末だ」

「悪魔が微笑む時代、らしいですよ。でも、【みんなやってるから】でイジメをやる彼らに現実を教えてやればいい。イジメは立派な犯罪だって」

 

正義を標榜し、暴力を振るう彼ら。

だからこそ、今回の件が大事になり、彼らの内の誰かが罪に問われたなら。

【ライブ生存者は人殺しだから何をしてもいい】という空気は雲散霧消するだろうと考えた。

曲がりなりにも正義を標榜する彼らは、自分たちを善良だと考えているのだから。

 

「その為にお前が悪になる必要はないだろうに」

「だからこそ、復讐心で行動力をブーストしました」

「するな!」

 

少し強めに生徒名簿で叩かれる。

 

「まったく……」

 

その生徒名簿で肩を叩きながら、織斑先生が口を開く。

 

「今回の暴行事件は某女子生徒がイジメ被害に合っていた事に対する復讐。そのイジメについて、教育委員会が重い腰を上げて調査するだろう」

「はい」

「イジメに加担していたものには多かれ少なかれ処分を下す。

そして……、理由が理由だが、渡には今回の事件を引き起こした事を反省してもらうために、2週間の停学処分とする」

「わかりました。ほとぼり冷めるまでジッとしてろという事ですね」

「そういう事だ。……ああ、あと」

 

織斑先生が保健室の扉を開けた。

そこには、響ちゃんと未来ちゃん。

 

「二人と話をしておけ」

 

そう言うと、織斑先生は去っていった。

入れ替わるように、響ちゃんと未来ちゃんが入ってくる。

 

「ナルくん……」

「……」

 

未来ちゃんが黙って俺の頬をつねる。

 

「無茶しすぎ」

ほへん(ごめん)

 

二人の瞳は潤んでいた。

 

「ナルくん、ごめんね。私のせいで……」

 

響ちゃんがそう言った。

 

「私のせいで無茶しちゃって……」

「響ちゃんのせいじゃないよ」

 

俺はハッキリとそう答えた。

 

「今回の件は響ちゃんのせいじゃない、絶対に」

 

悪いのはイジメをしていた生徒たち。

あるいは、そういう空気を作った世論か。

イジメられる響ちゃんに悪い点は一つとして無いのだ。

 

「そうだよ響」

 

未来ちゃんが続けて言った。

 

「悪いのは暴力で無理矢理解決したナルくんなんだから」

「ひゃい……」

 

未来ちゃんが再度俺の方を抓る。

 

「未来、ナルくんのほっぺた伸びちゃうよ」

「伸びればいいよ、もう!」

ひほい(ひどい)……」

 

そう言い合うと、二人はクスクスと笑い合うのであった。

 

 

 

 

 

 

夜。

帰宅して、晩御飯を食べた後リビングでのんびりとしていた。

お母さんは怒ったあと、好物のエビフライを作ってくれた。

響ちゃん守るためにやったのはわかってる、そう言ってくれた気がした。

お父さんからは、次同じことしないようにな、とだけ言われた。

だけどその目は優しかった。

 

そんな訳で。

食後にのんびりとしていると、電話が掛かってくる。

相手は響ちゃん。

今日の事で電話してきたのかな、と電話に出ると。

 

 

『ナルくん、お父さんが、お父さんが帰ってこないよ……』

 

 

と、言われたのだった。







大暴れした時の一鳴くんは、スチェンカしてるときの杉元とだいたい一緒です。
あと、一鳴おこ度で滅尽滅相出てたら、学校から生徒が何名か『転校』してました(震え声)


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第110話 陰謀の夜、聖女は嘯く




エルデの王になったので初投稿です。
ラニ様結婚エンドを選んだので、2週目はフィアちゃんかハイータちゃんルートにしようかしら?

それはそれとして、そろそろ一鳴くんの新曲考えないといけない。
水着ギア編のときに水着ギア用の歌詞は考えたけれど使う暇なくて結局お蔵入りだし。
つんく♂や米津玄師とか考えてくれないかしらね……。


 

 

立花洸。

響ちゃんのお父さん。

旧姓は守崎。

響ちゃんのお父さんは入婿なのである。

その洸さんが家に帰ってこないのだという。

 

『いつもなら、この時間には帰ってくるのに……』

 

時刻は夜の8時半。

日勤のサラリーマンである洸さんなら、7時前には帰ってきているはず。

それが、帰ってきていない。

残業するという連絡もない。

 

「二課に連絡しよう」

 

俺は電話口で響ちゃんにそう言った。

原作では、響ちゃんのお父さんは会社で大きなプロジェクトから外されて社内で持て余すように扱われてプライドズタズタになり、酒浸りになって家庭内暴力するようになって最終的に蒸発したのだったか。

だが、この世界では響ちゃんは既にシンフォギア装者となっている。

 

もしかしたら、シンフォギアの秘密を探ろうとした他国のエージェントに攫われたのかもしれない。

もし、そうでなくても二課及び緒川忍群の力を借りたらすぐ見つかるだろうし。

 

「わかった。すぐに捜索に入ろう」

 

弦十郎さんに連絡を取ると、そう言ってくれた。

そして、二課や緒川忍群を動かしてくれたのだが……。

 

 

 

響パパの行方【1D10】

 

1 わからなかった……

2 わからなかった……

3 わからなかった……

4 わからなかった……

5 わからなかった……

6 わからなかった……

7 謎の女性と会っていたのを最後に行方知れず

8 謎の女性と会っていたのを最後に行方知れず

9 謎の女性と会っていたのを最後に行方知れず

10 熱烈歓迎

 

結果【1 わからなかった……】

 

 

 

次の日。

俺と響ちゃん、未来ちゃんが二課に呼び出された。

洸さんの行方についてだ。

 

「お父さん、どこにいるかわかったんですか!?」

 

響ちゃんの言葉に、弦十郎さんは首を横に振った。

 

「すまん、わからなかった」

「そんな……」

「夕方、会社から帰宅して、響くんの家の最寄り駅に居たのは確認出来たのだが……」

 

前日の夕方6時過ぎ。

洸さんは退勤した。

終業直後であった。

ライブの前までは、30分から一時間は残業していたそうだが、社内で腫れ物のように扱われているので終業直後の退勤という事だろう。

それから、行方が摑めない。

 

「退勤ルートの監視カメラは?」

 

と、俺が聞く。

弦十郎さんは首を振った。

 

「駅からは人混みに紛れてしまってな。その後はまだ確認出来ていない」

「そうですか……」

「だが、な」

 

弦十郎さんは言いづらそうに口を開いた。

 

「当時、響くんの家の近くで他国のエージェントや悪意ある人間が活動していた訳ではないようだ」

「つまり……」

「……洸さんは、自分から居なくなったという事だ」

 

弦十郎さんが、その言葉を口にした途端。

響ちゃんが膝から崩れ落ちた。

 

「響ッ!」

 

すかさず、俺と未来ちゃんで支える。

 

「お父さん、逃げたんだ……」

 

響ちゃんが、呆然としながら言葉を紡ぐ。

 

「私が生き残って、会社で居場所なくなったから、皆に虐められたから」

「響!」

「私が、生きてるから……」

 

響ちゃんが大声で泣く。

その響ちゃんを未来ちゃんが抱き締める。

 

「響のせいじゃない。響のせいじゃないよ」

「うわああああああん!」

「響は悪くないから。絶対」

 

ぎゅ、と未来ちゃんは響ちゃんを抱き締める。

 

「弦十郎さん、捜索は続けてくれますか?」

「ああ。無論だ」

 

だが、と。

弦十郎さんは俺にしか聞こえないように声を潜める。

 

「俺たちも緒川忍群も諜報のプロだ。ただの会社員が行方をくらましても一週間で見つけるだろう。

だが、今回は妙だ」

「妙とは?」

()()()()()()()()()()()

 

弦十郎さん曰く。

素人が自分の足で失踪しても、何がしかの手がかりを残す。

例えば、監視カメラの映像。

例えば、目撃証言。

例えば、物的証拠。

 

しかし、今回それらが見つかっていない。

 

「今回の失踪、プロが関わってるかもしれない」

「プロ?」

「逃し屋、という奴だ」

 

犯罪者や、なにかやらかした人を秘密裏に他国に逃がす裏社会の住人のことだ。

それが今回関わっているのだろうか……。

 

「それでも二課で捜索は続ける」

「よろしくお願いします」

 

俺は弦十郎さんに頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

その日も立花洸は定時で退勤した。

ひと月前ならば、「もう帰るのか~?」と言われたし、自身も好んで残業していた。

だが、社内で腫れ物のように扱われる今となっては、定時でタイムカードを通しても何も言われなくなった。

屈辱だった。

 

かつてはバリバリと働いていたし出世レースにも乗れてたと思う。

入婿である自分が妻を子どもを、義母を経済的に支えていたのだという自負があった。

それが、今では……。

 

「チッ……」

 

思わず舌打ちが出る。

すべてが変わったのは、娘が遊びに行ったライブ会場でノイズ災害が発生したあの日。

多くの人が死んで、しかし娘は生き残れた。

無事に生きててよかったと思うし、社内でも生きてて良かったと喜んでくれた。

だが、取引先の、それも重要な取引先の社長の令嬢がそのライブで命を落としたのだという。

 

「そちらの社員のお嬢さんは生きてて良かったですな」

 

と、その社長は言った。

だが、よくわからない理由でその会社との取引量が減り、結果としてその会社との取引を重視していたプロジェクトを外された。

出世レースから外されたのだ。

それから、社内での扱いも変わった。

腫れ物のように扱われた。

屈辱だった。

会社内ではそれなりに優秀な人間として通っていたのに。

 

酒量が増えた。

妻との喧嘩が増えた。

先週、思わず妻を打ってしまった。

妻の怯え、憎み、そして哀しむ瞳が忘れられない。

 

「チッ」

 

また、舌打ちが出る。

苛立ちが収まらない。

また、帰って酒を飲もう。

飲んで、忘れよう。

すべて。

 

「少々すみません」

 

声をかけられた。

街角。

駅から家までの帰宅路の途中。

商店街の隙間にあるせまい横道から声が聞こえた。

 

「あなたは神を信じますか?」

 

そう言ったのは、僧衣を纏った若く美しい女性。

そのバストは豊満であった。

無視しようかと一瞬洸は思ったが、なんとなく返答した。

 

「居ないよ神なんて」

「何故そう思うのです?」

「いま不幸だから」

「それはなんと……。なぜ不幸なのか教えていただけませんか? 話すだけで楽になるやもしれません」

 

僧衣の女性はそう言う。

不思議と、洸は今までの顛末を話していた。

 

「娘さんが…………会社で…………奥様を…………なるほど。大変でございましたね」

 

長い時間話していた気がする、洸はそう思った。

しかし、洸は家路を急ぐ気にはならなかった。

もっと目の前の女性と話したいとすら思った。

だから洸は気付かなかった。

 

洸の周りに人が居なくなってる事に。

結界を使われていることに、洸は気付かない。

気付けない。

 

「洸さま。人はなぜ、そのように相手を思いやれぬ行動をするかわかりますか?」

「さあ。人の本性は悪だからじゃないの?」

 

洸は昔習った性悪論を諳んじた。

 

「いいえ。いいえ、人の本性は善ですわ」

 

僧衣の女性は言い切った。

 

「人は善です。無垢なるものですわ。ですが、それが歪められているのです」

 

僧衣の女性は一歩近付いた。

 

「洸さま、バベルの塔の逸話はご存知ですか?」

「聖書の? 神様に近付きたい人間たちが大きな塔を建てたけどそれが神様の逆鱗に触れて、人間たちが協力して塔を建てられないように言葉を乱したっていう奴でしょ」

「ええ、そうですわ。人類の言葉は乱された。意志の統一は阻止されたのです。それは過去にあった実話です」

 

僧衣の女性は一歩近付いた。

 

「人類の意志の統一は阻止された。そして、我らの神は統一言語に封じられた。我らの、人の意志を一つにする神」

 

僧衣の女性は一歩近付いた。

 

「善にして全なる神。我らがシェム・ハ。彼女は今も唯一の言葉に封じられているのです」

「シェム・ハ……」

「ええ。彼女が目覚めれば、人の意志は統一され、人々は歪められた本性を正して善なる存在に戻るのです」

「善……」

「ええ、善。人は善なるもの。それを歪めるは月」

 

僧衣の女性は夜空の月を指差した。

洸は月を見た。

 

「嘘ではありませんわ。すべて実話」

「……」

 

洸の脳裡に不思議なヴィジョンが浮かぶ。

銀の髪の女性が、青い髪の男性と空中で戦闘を繰り広げている。

 

「その御方が善なる神シェム・ハ。青い髪が言葉を乱したエンキ」

 

僧衣の女性の言葉が響く。

場面はエンキがシェム・ハを殺す所であった。

 

「シェム・ハはエンキの左腕を銀に変えましたが、エンキは自ら左腕を切り落とし、そのままシェム・ハを殺しましたわ。ですが、シェム・ハはその魂を統一言語に隠します」

 

エンキが消える。

そして、月が不思議な波長を発する。

 

「エンキが月の遺跡を操作して、地球上の人類の言葉を意思を乱します。シェム・ハは統一言語ごと封じられましたわ」

 

場面が変わる。

真っ暗闇の中、僧衣の女性が浮かんでいる。

 

「ですが、シェム・ハは諦めませんでした。人の意思を統一するため、その魂を切り分けて分身を作り上げました」

 

僧衣の女性の背後に大きな人影が浮かぶ。

銀色の髪のシェム・ハと同じ姿。

だが、その目は単眼だ。

 

「この御方こそ、シェム・ハの分け御霊シャダイ。我らを導くもの」

「あ……うぁ……」

 

神秘体験に洸は呻くしか出来なかった。

 

「洸さま。我らは求めています。我らと共に戦うものを。人の意志を一つにする為に戦う同志を」

 

僧衣の女性は洸に手を伸ばした。

 

「虐げられた人よ、私たちと共に来てくれませんか?」

「お、俺……が?」

「ええ。あなたの力が必要ですわ」

「……うぅ」

「我らと共に戦いましょう。そうすれば……」

 

僧衣の女性は嘯いた。

 

「あなたの家族はまた、あなたを必要としますわ」

 

ガチリと、その言葉が洸の心に嵌り込んだ。

 

会社で冷遇されて。

入婿の立場で家庭で肩身が狭くて。

妻の怯え、憎み、そして哀しむ瞳。

そんな現状を覆せる未来を見た。

 

「あぁ」

 

洸は恍惚と手を伸ばした。

シャダイと共に浮かぶ僧衣の女性が神聖なものに見えた。

洸は僧衣の女性の手を取った。

 

「あぁ、ありがとうございます。新たな同志よ」

 

ニッコリと、僧衣の女性は微笑んだ。

 

「あ、あなた様の名は?」

「あら、名乗っていませんでした」

 

うっかりでしたわ、と女性は言った。

 

「私の名は、至天院銘歌。同志と共に暮らすしがない僧侶でございます」

 

女性、銘歌は洸の手を引いて歩く。

 

「さあ、共に行きましょう。私達の家に霊峰富士の底の底。樹海の底にある我らの家に」

 

銘歌に手を引かれて洸は歩く。

闇の中を。

 

 

 

 

 

 

それから2年以上。

洸の行方は不明のままである。

 






次回の構想がまったくない(震え声)
またしばらく待たせてしまうかもしれません。
ユルシテユルシテ。


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閑話 ノーブルレッドの冒険




前回からだいぶ間が空いたのでリハビリ回です(震え声)

仕事が忙しくて話を書けないし、書き方も忘れちゃったの。
だから今回の話でリハビリして、本編の書き方を思い出します。
ガンバルゾー。





 

ヴァネッサ・ディオダティ。

ミラアルク・クランシュトウン。

エルザ・ベート。

 

パヴァリア光明結社の人体実験の被検体であった3人である。

別の世界(原作)では悲惨な人生であった3人だが、この世界ではサンジェルマンに助けられて、彼女の従者となった。

そしてサンジェルマンたちと共にギリシアのペルセポネーとハデスに助けられ、その対価として自動人形パンドラと完全聖遺物ピトスを探索することとなった。

 

なった、のだが……。

 

「お金がないワケダ……」

 

プレラーティが深刻げにそう言った。

 

「フィエルボワの剣を買うのにあーしたちお金を使い過ぎたものね」

 

カリオストロの声は震えていた。

サンジェルマンの友、ジャンヌ・ダルクことジャネットの持つ哲学兵装、フィエルボワの剣。

それが裏オークションに出品されたのは昨年の10月のこと。

サンジェルマンたちはその剣を落札するために貯蓄のほとんど全てを使い果たしていた。

 

「まあ、しばらくはこうして贅沢できる程度のお金はあるワケダが」

 

プレラーティがワイングラスに入った高級ミルクをくゆらせる。

彼女らは現在インドの三ツ星ホテルにいた。

プレラーティとカリオストロはホテル内のプールサイドで寛いでいた。

水着姿だった。

金もないのに高級ホテルに泊まっていた。

それだけの金はあった。

だが、パンドラを探すためにはホテルの宿泊費とは比べ物にならないお金がいる。

そんな訳でノーブルレッドに命令が下された。

 

「という訳でお前たちにお金を稼いで来て欲しいワケダ」

「その額……500億」

「無茶言うんじゃないゼ」

 

ミラアルクがげんなりと突っ込んだ。

 

「まあ、500億は冗談よん♪」

「でもそれなり以上のお金は稼いでほしいワケダ」

「アテはあるんでアリマスか?」

「ええ、あるわよ」

 

エルザの言葉に頷くカリオストロ、

その豊満な胸の谷間から、USBメモリを取り出しヴァネッサに向けて放り投げる。

それを受け取ったヴァネッサ。

ヴァネッサはそのUSBメモリを首の後ろに接続した。

ヴァネッサの肉体は機械なので、USBメモリを接続出来るのだ。

そして、USBメモリの中身を読み取る。

 

「インドの聖遺物研究所から持ち出された聖遺物の奪還……?」

 

インドの聖遺物研究所はこの一年で2回も半壊していた。

一度目は聖遺物ラーヴァナの暴走により、二度目は中国聖遺物研究所所属の特殊部隊の襲撃により。

そのせいで保管されていた聖遺物の管理に不具合があり、いくつもの聖遺物が紛失していた。

いくらかは中国聖遺物研究所の特殊部隊が強奪したのだが、職員の横流しや他国のスパイにより盗まれたものも多数あった。

 

「サンジェルマンが研究所と交渉してね、盗まれた聖遺物を取り返したらお金を払うって約束させたのよ」

「で、難易度が比較的低いミッションを選定したから、お前たちにやってもらおうというワケダ」

「なるほど」

「頑張ってね〜。あーしたちの活動はあなた達に掛かってるからね♡」

 

と、寛ぎながらそう言うカリオストロ。

そのカリオストロに鋭い声。

 

「なにヴァネッサたちだけ働かせようとししてるのかしら?」

「さ、サンジェルマン……」

 

目を釣り上げたサンジェルマンがそこには居た。

インド聖遺物研究所との2回目の折衝から戻ったのだ。

カリオストロとプレラーティは震えた。

 

「難易度の高いミッションは私達でやらなければならないのは前に説明したでしょう……!」

「も、もちろんわかってるワケダ」

「ちょっと、もうちょっと寛がせてサンジェルマン」

「駄目よ!!!」

 

サンジェルマンはにべもない。

 

「難易度の高いものはほとんど国外に持ち出されているから、明日にでも出発しなければならないわよ! 寛いでいる暇はないわ!!」

 

サンジェルマンはプレラーティとカリオストロの首根っこを掴み引きずる。

 

「悪いけどよろしく頼むわね」

 

サンジェルマンは振り向きそう言うと、また前を向いてホテル内に向かってドスドス歩いていった。

 

ノーブルレッドの三人はそれをただ、見届けたのだった……。

 

 

 

聖遺物奪還ミッションの難易度【1D10】

(数字が大きいほど高難易度)

 

結果【10】

 

 

 

聖遺物のレア度【1D10】

(数字が大きいほど貴重)

 

結果【10】

 

 

 

さて。

聖遺物奪還ミッションを仰せつかったノーブルレッド一行。

彼女たちが最初に選んだミッションは……。

 

「ヴァネッサ、やっぱり無茶だゼ……」

 

ミラアルクが冷や汗を垂らしてヴァネッサを見る。

 

「流石に引き返すべきだと思うでアリマス」

 

エルザが心配そうにヴァネッサを見る。

 

「いいえ、私達でやりましょう」

 

ヴァネッサは毅然とそう言い切った。

彼女たちが向かったのはパキスタンとの国境近くの小さな町。

田舎町であるその町では、確実に他所から来たであろう物騒な男たちがうろついている。

彼らは目が血走っており、殺気を隠そうともしない。

さらによく見れば、その男たちとは隔絶した強さを持っているであろう全身を義体化した者や錬金術師と思しき者たちもチラホラと見える。

彼らはある聖遺物をパキスタンに持ち込むためにこの町に集まったのだ。

 

その聖遺物の名は『アグネヤストラ』。

インドの火神アグニの持つ矢である。

その威力は地獄の顕現の如く、全てを焼き尽くすという。

大量破壊兵器である。

 

その聖遺物が、インドと仲の悪いパキスタンに持ち込まれようとしていた。

確実に、よろしくない事になりそうであった。

 

「軍が動けば、彼らは勘付いてアグネヤストラごと姿をくらます筈。そして、サンジェルマンたちは今国外で、すぐには帰ってこれない」

「ウチらでやるしかない、という訳ね」

「ガンス……」

 

ノーブルレッドが奪還するしかなかった。

 

「でも正面突破はよろしくないわね」

 

ヴァネッサは町を眺めながらそう言った。

町中には物騒な男たち。

そして、アグネヤストラは町中の小さなモーテルの一室に、保管されていた。

勿論、モーテルは厳重な警備。

 

「どうするんだゼ?」

 

 

 

ノーブルレッドの策【1D10】

(数字が大きいほど有効な策)

 

結果【5】

 

 

 

「わたくしめにいい考えがあるでアリマス!」

 

自信満々にエルザが言う。

 

「どんな作戦、エルザちゃん?」

 

ヴァネッサとミラアルクの耳元にエルザがその考えを伝える。

 

「なかなかいい作戦だと思うわ!」

「それで行くゼッ!」

 

二人は笑顔でそう言い切った。

そして、三人は行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

町をうろつく二人の男。

彼らはマフィアであり、彼らのボスの命令でとある男と男の運ぶブツの護衛を任されていた。

 

「暇だな……」

 

男の一人がタバコを咥えながらそう言うと、相方の真面目そうな男が答えた。

 

「仕方ない、こんな田舎町じゃな」

「娼婦一人いやしねぇシケた町だ」

 

男がタバコに火を付けた。

 

「あーあ、腰が抜けるほどヤリてぇぜ」

「この仕事が終わったらな」

「ケチなボスがこの仕事に関しちゃ気前良かったからなぁ」

 

男が煙を吐く。

 

「だが、イヤに金払いが良すぎて不安になるぜ。俺たちゃ捨て駒なんじゃないかって」

「そりゃないだろ。あそこ見てみろ」

 

真面目そうな男が親指で一人の男を指差す。

全身の8割を義体化させた、傍目にはサイボーグにしか見えない男だった。

 

「ありゃ『殴り屋イワノフ』だ」

「あの『殴り屋』かよ! ロシアから来た慈悲なき殺し屋」

「あそこには『火炙りのアサヴ』」

「有名どころがゴロゴロと」

「それだけシリアスな仕事という訳だ」

「つまりその分、成功報酬がデカいって訳か」

「ケチなボスが大金払う訳だよ」

 

二人は町を練り歩く。

 

「こりゃ成功したらボスの覚えも目出度く……」

「どうした?」

 

いきなり黙った男を、真面目そうな男が心配そうに尋ねる。

 

「いま、揺れなかったか?」

「地震? いや、わからなかったな」

「……気のせいか?」

 

そのまま、二人はまた歩き出した。

 

その地下。

ヴァネッサたちが居た。

モグラよろしく、穴を掘り進めていた。

エルザの尻尾アタッチメントの一つ、球形のアタッチメントを高速回転させて掘っていたのだ。

 

「どうやら、バレなかったようだゼ」

「ヒヤヒヤしたでアリマス……」

 

エルザはそう言うとまた掘り進めた。

ミラアルクの強化された聴力により、地上の声を拾ったのだ。

一瞬怪しまれたが、問題ないと判断したので、エルザはまた掘り始めたのだった。

 

作戦はこうだ。

このまま地下を掘り進めてモーテルの真下に向かう。

そのまま倉庫となっているモーテルの地下室に侵入。

ヴァネッサとミラアルクで暴れ回る。

その間にエルザがアグネヤストラを奪還。

混乱に乗じて逃げ去るという寸法であった。

 

そんなこんなでモーテルの地下にたどり着くノーブルレッド三人。

そこには……。

 

 

 

ノーブルレッドの隠蔽力【1D10】

 

結果【10】+5(策補正)

 

 

 

敵の看破能力【1D10】

 

結果【7】+10(難易度補正)

 

 

 

敵の大群が待ち構えていた。

 

「バレバレなんだゼ!?」

 

ミラアルクはキレた。

 

「バレバレなんだよなぁ」

 

そう言ったのは全身を義体化させた男。

頭部は「干」の形をしたレーダーとなっていた。

レーダー頭の男が自身の頭をコツコツ叩いた。

 

「俺のレーダーは特別製さ。地下からの振動がこっちに向かってるのにすぐ気づいたぜ」

 

レーダー頭がそう言うと、男たちが銃器をヴァネッサたちに向ける。

 

「じゃ、死ね」

 

 

 

ノーブルレッドVS敵の軍団【1D10】

 

ヴァネッサ【2】+5(策補正)

ミラアルク【1】+5(策補正)

エルザ【4】+5(策補正)

→合計【22】

 

敵の軍団【6】+10(難易度補正)

→合計【16】

 

 

 

銃が火を吹く。

弾丸がノーブルレッドに届く寸前、ヴァネッサの乳房がミサイルのごとく発射される。

ヴァネッサの乳房が爆発!

弾丸が吹き飛ばされ、地下室が爆煙で包まれる。

 

「しまった!」

 

レーダー頭が叫ぶ。

男たちは視界を封じられパニック!

爆煙の中で動く二人の影を、レーダー頭だけが捉えていた。

 

「左右から来るぞ!」

 

レーダー頭が指示を飛ばすが、遅かった。

右側からミラアルクがカイロプテラを纏わせた両脚でもって、一瞬で距離を詰め男たちを蹴り飛ばす。

左側からエルザが獣の爪のようなアタッチメントを振り回して男たちを吹き飛ばす。

そして、中央からヴァネッサのロケットパンチがレーダー頭の男のレーダーを殴り飛ばす。

 

「グワーッ!」

 

レーダーがひしゃげて、視覚と聴力が停止する男。

地下室の男たちは全員ノーブルレッドに倒された。

 

「でも、騒ぎすぎたわね」

 

地上の騒ぎがヴァネッサたちにも届く。

襲撃者のエントリーにアグネヤストラを守るために集められた男たちがモーテルに集まりつつある。

 

「一気に行くでアリマス!」

「だゼ!」

 

三人はモーテルの階段を駆け上がった。

 

 

 

アグネヤストラ確保できた?【1D10】

 

1 持ち主がモーテルから逃げ出した!

2 持ち主がモーテルから逃げ出した!

3 確保できた!

4 持ち主がモーテルから逃げ出した!

5 持ち主がモーテルから逃げ出した!

6 確保できた!

7 確保できた!

8 確保できた!

9 持ち主がモーテルから逃げ出した!

10 あっ……

 

結果【7 確保できた!】

 

 

 

モーテルを突き進むノーブルレッドの三人。

 

「ザッケンナコラー!」

「スッゾコラー!」

 

ヤクザめいた男が恫喝しながら銃を向けてくるが、人体改造されたノーブルレッドの敵ではなかった。

そして、モーテルの一室。

そこで、ブリーフケースに収められたアグネヤストラを発見した。

なおアグネヤストラをパキスタンに持ち込もうとした男はミラアルクに殴られて気絶した為、アグネヤストラは楽々持ち出せた。

 

「あとは脱出するだけでアリマス!」

「飛んで逃げるゼッ!」

 

ミラアルクがカイロプテラを翼状にして、窓に足をかける。

しかし、その瞬間!

モーテルの廊下から、砲弾のように突入してくる男!

 

「危ないッ!」

 

ミラアルクに突撃してきた男を、獣爪型アタッチメントで辛うじて弾き飛ばすエルザ。

しかし、男のパワーが強すぎてアタッチメントが破損!

 

「エルザちゃん!」

「大丈夫でアリマス!」

 

そう言いながら、エルザは球状のアタッチメントを装着した。

男が立ち上がる。

全身の8割を義体化させた男。

殴り屋イワノフであった。

 

「女にしちゃやるじゃないか」

 

首をゴキゴキ鳴らしながらそう言うイワノフ。

更に男が部屋に入ってくる。

火炙りのアサヴ、そう呼ばれる錬金術師だ。

アサヴが口を開いた。

 

「アグネヤストラを置いて投降しろ」

「そうすりゃ命だけは勘弁してやろう。命だけはな」

 

イワノフがニタニタと嫌らしく笑いながら言った。

 

「投降しなかったら?」

「惨たらしく尋問してから殺す」

 

ヴァネッサの質問に答えるイワノフの視線は、ヴァネッサとミラアルクの胸に注がれていた。

 

「もう2日も女を抱いてないんだ。たっぷり楽しんでから殺してやるよ」

「俺はそこのケモミミ生やしたガキだ。生きたまま焼きたい!」

 

アサヴはエルザを見てそう言った。

 

「悪いけど、それは無理ね」

 

ヴァネッサは口を開いた。

 

「あなたの粗末なイチモツはこれから消し飛ぶんだから!」

「これを機に全身義体化させるんだゼ!」

 

ミラアルクがイワノフに中指を突き立てた。

 

「そこの変態も火葬してやるでアリマス!」

 

エルザはアサヴを睨みつけた。

 

 

 

ノーブルレッドVS強敵【1D10】

 

ヴァネッサ【3】+5(策補正)

ミラアルク【8】+5(策補正)

エルザ【1】+5(策補正)

→合計【27】

 

殴り屋イワノフ【3】+10(難易度補正)

火炙りのアサヴ【5】+10(難易度補正)

→合計【28】

 

 

 

「オラッ!」

 

イワノフの拳がミラアルクを狙う。

ミラアルクが回避!

モーテルの壁が崩壊!

 

「燃えろッ!」

 

アサヴが錬金術で炎を出す。

エルザが回避!

モーテルの床が燃える!

 

「反撃よッ!」

 

ヴァネッサの全身からミサイルポッドが生える。

そしてそこからマイクロミサイルが発射。

イワノフとアサヴに向かって飛ぶ。

 

「甘い!」

「舐めるな」

 

イワノフの全身からミサイル迎撃用のレーザーが飛び、アサヴの魔法陣からか細い炎の閃光が飛ぶ。

ミサイルはすべて迎撃された。

モーテル半壊!

 

「スキあり!」

「でアリマス!」

 

そこをミラアルクとエルザが攻撃。

しかしイワノフとアサヴはその攻撃に対応。

イワノフの鋼鉄の拳がミラアルクの腹に突き刺さる。

アサヴの炎がエルザのアタッチメントを焼き熔かす。

 

「ウゲッ!」

「きゃあああッ!」

「ミラアルクちゃん! エルザちゃん!」

 

その場に倒れるミラアルクとエルザ。

イワノフはミラアルクの頭を掴んで持ち上げた。

 

「なかなか強かったが、俺たちの敵じゃない」

 

アサヴがエルザの頭を踏み付ける。

 

「所詮は二流だな」

 

イワノフとアサヴ。

長年裏社会を生き抜いてきた男たちの実力であった。

 

「それじゃあ楽しい拷問だ」

「身の程弁えていれば、生きて帰れるかもしれんぞ?」

「手足の4、5本は無くなるかもしれないがな」

 

そう言うと下品に笑い合うイワノフとアサヴである。

 

「そんな……」

 

ヴァネッサは絶望した。

ノーブルレッドの三人とこれから幸せに生きていく。

その筈だったのに。

ここで結果を出せば、その未来にグッと近づける。

そう思っていたのに。

 

「これで、終わりなの……」

 

ヴァネッサが膝をついた。

その時である。

 

イワノフの頭を弾丸が破壊した。

対義体化用の強化弾だ。

狙撃であった。

 

「……え?」

 

崩れ落ちるイワノフの肉体を見ながらアサヴは間抜けな声を出した。

そのアサヴの頭もまた、弾丸が破壊した。

アサヴの肉体も崩れ落ちた。

これもまた、狙撃であった。

 

「う……ヴァネッサ……」

「なにが起こったでアリマスか……?」

 

ミラアルクとエルザが呻きながら、そうヴァネッサに問う。

ヴァネッサは周りを見た。

小さな町は戦場に変わっていた。

 

「インドの軍が、特殊部隊が来たみたいよ」

 

ヴァネッサはミラアルクとエルザを抱きしめながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

盗まれたアグネヤストラを見つけたのはインド軍であった。

軍を投入すれば取り返すのは容易だった。

だが、アグネヤストラがあるのは国境近くの町であり、また護衛として多くの裏社会の住人が雇われていた。

軍を動かせば派手な戦闘になり、隣国を刺激することとなる。

 

軍を動かすわけにはいかない。

しかし、アグネヤストラは取り返さねばならない。

そういう時にサンジェルマンから話を持ちかけられて、ノーブルレッドにアグネヤストラ奪還任務を依頼した。

 

だが、もしも失敗したら。

その時の後詰めとしてインド軍はその町の近くに特殊部隊を配置。

今回、出動したという訳だった。

 

 

ということで。

アグネヤストラは無事に聖遺物研究所に返還された。

 

 

 

「二人とも、ごめんなさい」

 

インド聖遺物研究所近くの小さなホテル。

その一室で、ヴァネッサはミラアルクとエルザに謝罪した。

 

「私が判断を誤ったから、二人を危ない目に合わせてしまったわ……」

 

今回の敗北が、ヴァネッサの中では響いていた。

 

「仕方ないんだゼ。敵が想定よりも強かっただけだゼ」

 

ミラアルクはそう言って肩を竦めた。

 

「わたくしめももっと良い作戦を考えれば良かったでアリマス……」

 

エルザが耳をへにょんとさせてそう言った。

 

この後、三人は反省会をし、二度と負けないように頑張ろうと心に誓った。

そして、気分を一新させるために。

街に繰り出し、美味しいものを食べに行った。

 

 

 

 

 

ノーブルレッドの冒険はまだまだ続く……?









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第111話 生きるのを諦めるな



お久し振りです(超絶震え声)
お仕事が忙しくて投稿できず、申し訳ないどす(謝罪)
繁忙期 + 新商品生産 + 注文数バカ増のトリプルコンボを食らってね……(瀕死)

まあ、スキを見つけてチマチマ書いてたのがなんとか形になったので初投稿です。



 

 

 

響ちゃんのお父さんが失踪して一週間。

あれから、手がかりは見つからず。

響ちゃんのお父さんは帰ってくることもなかった。

響ちゃんは塞ぎ込んでいる……。

 

「聞こえますか? 激情奏でるムジーク天に、解き放て……」

 

二課のベンチに座って逆光のフリューゲルの歌詞を口ずさむ響ちゃん。

その顔には陰を落とす。

あれから、シンフォギア装者としての鍛錬を積む響ちゃんと未来ちゃんであるが、響ちゃんも未来ちゃんも精彩を欠いている。

やはり、響ちゃんのお父さんが失踪したことが影響しているのね……。

 

俺は「なんとかしろ」という弦十郎さんやキャロルちゃんの無言の要請を受けて動いた。

目は口ほどに物を言うわね……。

 

「響ちゃんツヴァイウィング好きなのん?」

 

隣に座った俺を響ちゃんが顔を上げて見る。

 

「あ、うん。この歌を聞くと、ちょっぴり元気が出るんだ」

 

えへへ、と力なく笑う響ちゃん。

 

「素敵な歌を唄うもんね、ツヴァイウィング」

 

いつの間にやら。

未来ちゃんが現れて俺と反対側の響ちゃんの隣に座る。

 

「私はORBITAL BEATも好きかな」

「うん、私もそれ好き。でも逆光のフリューゲルが一番かな」

「わかる」

「わかりみに溢れる」

 

俺と未来ちゃんは深く頷いた。

ツヴァイウィングといえば逆光のフリューゲルと言えるくらい名曲だものね。

 

「二人は奏さん派? 翼さん派?」

 

俺は定番の質問を投げかける。

ツヴァイウィングの話をすると必ずこの話題にたどり着くのだ。

アネゴ肌で頼りがいがありバストが豊満な奏さんか、大和撫子で奏さんに甘えるところが可愛くモデル体型の翼さん。

この二人のどちらを推すかで、きのこたけのこ戦争並の争い(茶番)がネットでは毎日繰り広げられている。

 

「私は奏さん! ああいうカッコいい女性になりたいなぁ」

 

未来ちゃんがそう夢見がちに言う。

未来ちゃんは奏さん派かぁ。

 

「私は、翼さんが好き。翼さんの歌、すごくキレイだと思うから」

 

と、響ちゃん。

響ちゃんは翼さん派だぁ。

 

「ライブで初めて翼さんの歌を聞いて、大好きになったんだ」

「そっか……」

 

そう言うと、響ちゃんはまた俯いてしまう。

ライブの話をして、辛い現実を思い起こしてしまったのね……。

 

「翼さんの歌、聞くと元気になれるのに……。最近はもうずっとしんどいんだ……」

 

響ちゃんがそう言うと、未来ちゃんの手が響ちゃんの握り締めた拳をそっと優しく包み込む。

 

「響……」

「……」

 

響ちゃんは何も答えなかった。

 

「二人とも」

 

俺は立ち上がり口を開く。

 

「ちょっと、ついてきて」

 

そう言って二人を立ち上がらせる。

 

「どこ行くの?」

 

と、未来ちゃんが問う。

俺は答えた。

 

「トレーニングルーム」

 

という訳で、二人をトレーニングルームに連れてきた。

 

「何をするの?」

 

未来ちゃんがそう聞く。

俺はトレーニングルームに備え付けられてる端末を弄る。

 

「ここをこうして、こう!」

 

ポチポチとボタンを押し、レバーを触る。

瞬間、トレーニングルームの風景が変わる。

バーチャルリアリティめいたシステムにより、殺風景なトレーニングルームが満員御礼なライブハウスに切り替わった。

 

「これ……」

「ライブハウス……?」

「あと、はいコレ」

 

困惑するひびみくに、俺はマイクを手渡した。

 

「えっと……?」

「二人の逆光のフリューゲル聞きたいな〜!」

 

俺はそう言い切った。

 

「響ちゃん、思いっきり唄うのも、きっと気持ちいいよ?」

「え……」

「未来ちゃんと二人で、唄ってみなよ」

 

俺の意図を察したのか、未来ちゃんが響ちゃんの手を取る。

 

「そうだね。響、一緒に唄おう!」

「あ、未来。待ってよ!」

 

未来ちゃんが響ちゃんをライブステージに引っ張る。

二人がステージに立つと、観客席から歓声が沸く。

……まあ、観客の行動はオートで定められてるんだけどね。

それはそれとして。

俺は観客席最前列でサイリウムを振る。

 

「わー!」

「ほら、盛り上がってるよ! 響!」

「……うん」

 

そう、未来ちゃんに言われて響ちゃんは一つ頷く。

逆光のフリューゲルのイントロが流れ出す。

 

「聞こえますか? 激情奏でるムジーク天に、解き放て♪」

 

二人の歌声が重なる。

暗い顔だった響ちゃんの顔がどんどん明るくなる。

俺のサイリウムを振る速度も速くなる。

 

「もっと高く 太陽よりも高く♪」

「ウオオーッ!」

 

二人が一曲歌い切る。

その頃には響ちゃんは笑顔で唄い切っていた。

よかったよかった元気になってくれた、そう思った時。

 

その時。

パチパチと拍手の音が鳴る。

 

「上手かったぞ」

「ええ、息が合っていたわね」

 

拍手の主は奏さんと翼さん。

ツヴァイウィングの二人であった。

いつの間にやら、トレーニングルームに入ってきていたみたい。

 

「奏さん!?」

「翼さん!? なんでここに!?」

 

未来ちゃんと響ちゃんが驚く。

俺も驚いている。

翼さんは時々二課に出入りしているとは聞いていたが、二人揃って来るのは聞いていないからだ。

 

「翼のパパさんに呼ばれてな」

「私達のファンが装者になったから、会って欲しいと頼まれたのよ」

 

八紘さんも、二人のことを考えてくれてたようで。

ツヴァイウィングの二人を寄越してくれたらしかった。

 

「は、はいッ! 私たち二人の歌が大好きなんですッ!」

 

響ちゃんが元気いっぱいにそう言った。

 

「おっ嬉しいねぇ」

 

奏さんがそう言いながら笑う。

だが、その顔を曇らせる奏さん。

 

「二人とも、あの時のライブに来てたんだよな?」

「……はい」

 

奏さんの言葉に頷く響ちゃん。

奏さんはポツリと、言葉を漏らした。

 

「……ごめんな、あたしたちのライブで」

「奏さんは悪くありませんッ!」

 

響ちゃんが声を張り上げる。

 

「あれは、ノイズのせいですッ! 奏さんも翼さんも悪くありませんッ!」

「そうです!」

 

未来ちゃんもそう言う。

 

「ありがとな、二人とも」

 

奏さんは微笑みながらそう言った。

 

「最近、色々あってさ……」

 

寂しそうに言った奏さんの言葉を、翼さんが引き継ぐ。

 

「あんな事件が起こった後で、更に生存者への迫害も始まって。私達もなんとか止めたいのだけれど……」

 

二人は、ライブ生存者への迫害に心を痛めているようだ……。

 

「なあ、二人とも」

 

奏さんは響ちゃんと未来ちゃんに顔を向けて、こう言った。

 

「辛いことがあってもさ、()()()()()()()()()()()()よな」

「奏さん……」

「なんとなく、二人にはそう伝えておきたかったんだ。あたしたちツヴァイウィングを好きになってくれた人に、死んでほしくないからさ」

 

奏さんの言葉を受けて、響ちゃんは頷いた。

 

「はい……ッ! はい……ッ」

 

響ちゃんは泣きながら、そう言った。

奏さんはそんな響ちゃんを抱き締めた。

 

「うん。辛いこともあるけどさ、あたしたちも頑張るから。ヨシヨシ」

 

そう言って、響ちゃんの頭を撫でる奏さんだった。

 

 

 

 

 

 

二課発令室。

二課の職員や幹部たちが、難しい顔をして話し合っていた。

 

「昨今の、ライブ生存者への差別・迫害を煽っているものがいる、か」

 

弦十郎は眉間にシワを寄せた。

 

「間違いありません」

 

そう言ったのは、オペレーターの藤尭朔也だ。

モニターにいくつかの画像を出す。

 

「大型のインターネット掲示板、アフィリエイト目的のまとめサイト、個人ブログ。その内のいくつかで、差別や迫害を助長するカキコミが投稿され続けています」

「だが、そんなもの他者を嘲り下に見る人間なら誰でもやるだろう?」

 

藤尭の言葉に口を挟むのはキャロルだ。

人の闇をさんざん見てきたキャロルはそう決めつけるが。

 

「ところが、そう単純じゃないのよ」

 

キャロルの言葉に返したのは友里あおい。

 

「この、差別・迫害を助長するカキコミの中に、状況を煽動するカキコミが幾つかあるのだけれど、そのIPアドレスが数種類だけなの」

「……あいぴー?」

 

キャロルが首を傾げた。

キャロルはインターネットが不得手である。

 

「IPアドレスっていうのは、パソコンやスマホの不変の識別番号……、ようは住所みたいなものね」

「つまり同じ人間が迫害を煽っているということか。ならば、その、IPアドレスを辿れば、煽った奴らを捕まえられるんじゃないのか?」

 

そのキャロルの疑問に答えたのは、翼のマネージャーでありニンジャである緒川慎次だ。

 

「その知らせを受けて、二課のエージェントと共にその煽動している端末の持ち主を訪ねましたが、家には誰もおらず……」

 

煽動している端末の持ち主の一人は、都内在住の男子大学生で、安アパートで暮らしていたが二課のエージェントがその部屋に突入した時には部屋には誰もいなかったという。

近隣住民からは「しばらく見ていない」と、言われた。

 

「他の持ち主の家も訪ねましたが、誰も居ませんでした」

 

サラリーマン、主婦、ニート、地下アイドル、神父、医師。

老若男女、様々な職業の人間が煽動していた。

だが、その誰もが行方不明となっていた。

 

「行方不明となったタイミングはバラバラ。だが、その全員が二課から逃げ切っている……」

 

弦十郎が顎に手を当て考える。

弦十郎は口を開いた。

 

「彼らに共通点は?」

「一つだけ……」

 

藤尭がパソコンを操作、モニターに新たな画像を映し出す。

それは木で出来た板状の札だ。

板には墨で梵字が書かれている。

 

「煽動している人間全員の家の中に、この護摩札(ごまふだ)がありました」

「ごまふだ……?」

 

頭を傾げるキャロルに解説したのは慎次である。

 

「はい。仏教、特に密教における護符、のようなものです」

 

モニターに映る護摩札は、人の手で一つ一つ彫られたもののようだった。

 

「この護摩札になにか特徴は? 宗派によって特徴があるだろう?」

「それについては……」

「私が説明するわ」

 

そう言ったのは、櫻井了子だ。

 

「了子くんが……?」

「ええ。知っているわよこの護摩札。これ、真言立川流のものよ」

「真言立川流……?」

 

首を傾げるキャロル。

 

「室町時代に滅ぼされた仏教の異端、セックスカルトよ」

「……は? ……はぁ!?」

 

目をむいて驚くキャロル。

 

「仏教にセックスカルトがあるのか!?」

「……創作の中では時々見るな。京極夏彦とか。本当にあったのか……」

 

弦十郎の言葉に、頷く了子。

 

「間違いないわ。当時、何度か彼らと関わった事があるもの。その護摩札は真言立川流のもの」

「行方不明者の家族の宗教は?」

 

弦十郎の疑問に慎次が答える。

 

「バラバラでした。浄土真宗から、キリスト教に至るまで」

「なら、彼らは室町時代に滅ぼされた真言立川流にいつ、どうやって入信したのか」

「目下調査中です」

「もう一つ、いいか?」

 

八紘が声を挙げる。

 

「この煽動している者たちだけじゃなく、行方不明者自体が最近増えている。そして、彼らの多くは失踪前に僧服を纏った者たちと会話をしていたという」

「なにッ!?」

 

八紘の言葉に驚くキャロル。

 

「ならば、その真言立川流が人々を連れ去っているというのかッ!?」

「可能性は高い」

 

八紘が頷く。

今まで沈黙していた訃堂が口を開いた。

 

「なぜ、かつて滅んだはずの真言立川流が今暗躍しだしたのか。人々を集める理由はなんなのか。早急に探り出さねばならぬ」

 

訃堂は慎次を見た。

 

「慎次、お主は総司の下、緒川忍群と共にその真言立川流を見つけ出せ」

「はい」

 

緒川総司は慎次の兄であり、緒川忍群の長である。

訃堂が次に八紘と弦十郎を見た。

 

「八紘、お主は現在も行われているライブ生存者への迫害を一刻も早く収束させよ。風鳴機関も動員してメディアやSNSへの情報操作を行え」

「わかりました」

「弦十郎、お前はシンフォギア装者を鍛え上げるのだ。特に立花響くんと小日向未来くんは戦場に出せるようにしておけ。……これは嵐の前触れかもしれぬ」

「わかった親父」

 

最後に了子とキャロルを見た。

 

「了子くんとキャロルちゃんは普段と変わらぬ勤務を。シンフォギアの強化、聖遺物の研究を続けてくれ」

「わかったわ」

「わかった」

 

訃堂は一つ息をつく。

 

「ライブを襲撃したツァバト及びエンジェノイズの行方は今も知れず、いつまた人々を襲うかわからぬ。警戒を怠るなッ!」

「了解ッ!!」

 

二課の職員たちはそう言うと、己の職務を全うするための行動を開始した。

そんな彼らを見ながら、訃堂はポツリとつぶやいた。

 

「ツァバト、真言立川流……。どちらもどこにいるかわからぬ。やもすれば、この2つは()()()()()のかも知れぬな……」

 

 

 






ライブの時に奏さんに「生きるのを諦めるな」と言わせ忘れたのでここで言わせる剛腕プレイ。
だって一鳴くんが頑張って響ちゃんを守ったから、響ちゃんに怪我をさせて奏さんに上記のセリフを言ってもらおうと思ったのにッ!

あ、あと私生活がお辛い銀騎士先生に感想を送ろう。
イヤホント感想ないと心が折れるゾ……(疲労困憊



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第112話 歪んだ真如波羅蜜


地獄のような業務状況が9月まで続くことが確定したので初投稿です(白目)
それでもなんとか夏休みは貰えたので、今回投稿出来ました。

敵サイドと、悪い宗教の手に落ちた響パパの話です。


 

 

 

人類の脳波を伝うネットワークに存在する隠し部屋。 

 

壁も床も天井も白くて広い部屋。

壁に飾られた名画。

その中央には黒いソファとガラステーブル。

テーブルに乗ったケーキスタンドに用意されたケーキやサンドイッチ。

バラルの呪詛から逃れた神霊たちの隠れ家。

 

そこで、イライラとした様子でソファに座り、紅茶を飲むのはシーザーである。

ツヴァイウィングを襲撃したツァバトの契約者である彼の本体は今、完全聖遺物メルカバー内の一室に居る。

シーザーの後ろで静かにツァバトが佇む。

 

「ご無沙汰しておりますわ、ツァバト様。シーザー様」

 

そこに、至天院銘歌が神霊シャダイを伴って現れた。

そのバストは豊満であった。

 

「至天院か……」

 

シーザーが口を開く。

 

「エロヒムから聞いたか?」

「ええ。2年ほど、潜伏するとか」

「それだ」

 

銘歌がシーザーの対面に座り、紅茶をカップに注ぐ。

シャダイが銘歌の好きなケーキをいくつか皿に載せて銘歌に渡す。

 

「中国とバルベルデで蠢動する者共を探るのでしたね」

「ああ」

 

中国の第七聖遺物実験部隊がインドの聖遺物研究所を襲撃して、ラーヴァナの副腕をはじめとした幾つかの聖遺物を強奪、その後中国も裏切って政府軍とも戦闘が起こった。

また、バルベルデ共和国を中心にドーム状の結界が張られて内部の状況が読めなくなっている。

エロヒムはそれらについて情報を集めようというのだった。

 

「中国の件には怪僧ラスプーチンや千年狐狸精が関わっているという話ですし、バルベルデの方は何らかの聖遺物が起動したとか。エロヒム様が危惧するのもわかりますわ」

 

銘歌がそう言うと、シーザーは紅茶を飲んで答えた。

 

「それは、わかっているがな」

「ふふ、早く動きたくて仕方ないご様子ですわ」

 

シャダイが選んだケーキに舌鼓を打つ銘歌。

シーザーは乱暴にサンドイッチを齧る。

 

「ああ、そうだ! 僕は早くウェルキンゲトリクスに復讐したいっ! ツァバトの力と天使どもが居ればすぐに行動出来るッ!」

「でもメルカバーが不調ではありませんか」

 

銘歌の言うとおり、メルカバーはキャロルの攻撃が直撃した影響で不調だ。

神獣鏡を利用したウィザードリィシステムが時々機能しなくなる為、銘歌が教祖を務める天神合一会の本部のある富士樹海の地下に隠してある。

つまり、シーザーは現在、天神合一会に滞在しているのだった。

 

「全くもってその通りだッ! よりにもよってあの一撃がウィザードリィシステムの根幹を撃ち抜くなどッッ!」

「不運な御方」

「一番の不運はお前の所に滞在することになった事だよ」

「あら、F.I.S.ほどではありませんが異端技術を扱う設備はちゃんとしていますし、食事は三食用意しているではありませんか」

「肉のない精進料理じゃないかッ! 肉を出せ肉をッ!」

「ウチは仏教系ですので、生臭物は駄目ですわ」

「生臭いセックスカルトのクセにッ!」

 

シーザーの乱暴な言葉を、おほほと受け流す銘歌であった。

 

「それでずっと()ってきましたから」

 

そんな銘歌が紅茶を飲むと口を開く。

 

「そんな訳で2年ほど時間があるので、シーザー様にお願いがありまして」

「なんだ? お前らのイヤらしい儀式には付き合わんぞ」

「そっちはどうでもいいですわ。ツァバト様が作った天使様たち、アレと人間の融合実験をしようかと」

「ああ、あれか……」

 

シーザーが考え込む。

ツァバトが作ったエンジェノイズは人間が原材料だ。

主に行方不明者や死刑囚、F.I.S.に居たときの実験対象を密かに入手して作ってきた。

そして人間を原材料にしているからか、エンジェノイズは人間との親和性が高く、理論上は人間と融合して他者の戦闘力を強化することが出来た。

……のだが、原材料である人間を2倍使うのでエンジェノイズの一番の武器である量産性が損なわれる上に、融合する人間にも適性が必要なのであった。

なのでシーザーはそっち方面の実験はしてこなかったのだ。

 

「僕は構わんが、ツァバトは?」

「我も構わぬ」

「お二人共ありがとうございます」

 

銘歌が深々と頭を下げた。

 

「信者を強化するのか?」

「ええ。私達の教導で蒙が啓かれた者たちを精鋭として鍛えようかと」

「なるほどな。わかった、メルカバーの中に実験室を用意しよう」

「ありがとうございます」

「だが、僕もそっち方面の実験はやったことがない。成功までは長いぞ?」

「構いませんわ。だって……」

 

銘歌が嗤って答えた。

 

「この時代、信者はいくらでも増やせますもの」

 

 

 

 

 

 

天神合一会の銘歌の私室にて。

銘歌が布団の上で目を覚ます。

神霊たちの隠れ家での話し合いを終えた彼女が、現実へと帰還したのだ。

 

「おはようございます銘歌さま」

 

側に待機していた尼僧が頭を下げる。

そのバストは豊満であった。

 

「現在朝の5時でございます」

「ありがとう。朝の勤行に向かいます。その後は朝食、食後は信者勧誘に向かいます」

「わかりました」

 

銘歌が尼僧に向けて一日のスケジュールを確認していく。

 

「ああ、そうですわ。貴女の方で、【死を怖れない】信者をピックアップして頂戴」

 

【死を怖れない】、暗号である。

天神合一会には死を怖れない信者は確かに多い。

しかし、彼らは天神合一会に必要不可欠な人材である。

銘歌が口にしたのは、【死んでも問題のない】信者のこと。死んだところで特に困らない、ただの人員の事である。

 

「わかりました」

「では、後ほど」

 

尼僧が出ていく。

その後、銘歌は寝間着である長襦袢を脱ぎ、僧衣に着替えていく。

長い髪を後ろで纏めると、部屋を出て仏間へと向かう。

天神合一会の本拠は青木ヶ原樹海地下の洞窟を掘削して作られている。

故に仏間も洞窟を削り出した場所である。

広さは100立方メートルほど。

その最奥に、天神合一会の本尊は存在した。

 

天井に頭が届く結跏趺坐した巨大な磨崖仏。

岸壁を削り出したとは思えぬ滑らかさは女性的である。

そして、その頭は我々が知る仏像とは異なり、長い髪を流す女性の顔だ。

 

これこそ、天神合一会の本尊。

シャダイ如来坐像である。

 

「銘歌」

 

銘歌の後ろにシャダイが儚げに浮かんでいた。

 

「シャダイさま、おはようございます」

「おはよう銘歌。また信者が増えたようだな」

 

銘歌がシャダイ如来坐像の前に来て、座る。

シャダイが隣に佇む。

 

「ええ、人は何人いても足りませんから」

「あのライブを利用して、差別を煽って被差別者を追い込み、そこを(すく)う。楽園の蛇の如きよな」

「あら、聖書の神よりも慈悲深いでしょう?」

 

クスクスと、銘歌が笑う。

 

「信者を使って差別を煽らせる策、成功するかは半々でしたのよ」

「だが、成功した」

「ええ。いまや人の悪心は増すばかり」

「やはり人、否、ルル・アメルは愚かなり」

「だからこそ、太母シェム・ハの降臨を成さねばならぬのでしょう」

 

クスクスと、銘歌が嗤う。

 

「信者たちにやらせている太母シェム・ハの為の髑髏本尊作成儀式も、このままのペースでも3年は掛かります。エロヒムさまが2年待てと言ったのは僥倖でございますし」

「あー、アレか」

 

銘歌の言葉に、呆れ顔というかイヤそうな顔をするシャダイ。

 

髑髏本尊。

真言立川流における、本尊である。

特別な頭蓋骨に和合水(男女の性交中に出る精液と膣液を混ぜ合わせたもの)を塗りつけ、その上から金箔や銀箔を張ったり曼荼羅を描く等のさらなる加工を行ったものだ。

この頭蓋骨は加工が完了すると本尊として扱われるようになるのだが、本尊として完成するまでにも脇でひたすらセックスする。

 

髑髏本尊には多大な利益があるとされるが、本質はその作成のプロセスにあるともいい、作成作業(真言を唱えながらひたすらセックス)を通じて男女の行者が悟りを得る事こそ本懐なのだという。

 

閑話休題。

シャダイが口を開く。

 

「アレに我らが根源たるシェム・ハを宿らせるのか……?」

「ええ。嫌ですの?」

「実際宿っていた身からすれば、嫌だ」

 

シャダイは断言した。

何を隠そう分霊シャダイ、最初は天神合一会の創始者により作られた髑髏本尊に宿っていたのだ。

なおその髑髏本尊はシャダイ如来坐像の胎内に収められている。

 

「気分的に嫌だ。だから我は銘歌に鞍替えした」

「まあまあ。今回の髑髏本尊は特別ですから」

「今の髑髏本尊は違うと?」

「ええ、なにせ古代日本の聖母(しょうぼ)の髑髏を用いてますから」

「ほう、聖母?」

「ええ聖母です」

 

銘歌が笑いながら、日本の聖母の名を口にした。

 

「オキナガタラシヒメ。神功皇后として知られる武勇溢れる聖母ですわ」

 

 

 

 

 

 

立花洸は天神合一会の儀式場にいた。

広々とした、岸壁の間。

洞窟のようなその空間には喘ぎ声が反響し、粘着(ねばつ)くような空気が洸を包む。

あたりには無数の男女がまぐわい合っている。

洸も、中年女性とまぐわっている。

1時間前は娘の響と似たような年齢の少女と。

更に前には美しい二十歳頃の女性と。

 

洸は銘歌によって天神合一会に連れてこられてから、ずっとここで様々な女性とまぐわい続けている。

最初は抵抗があった。疑問があった。妻と娘の顔が浮かんだ。

だが、しばらくすると儀式場の空気に当てられたのか、思考が麻痺してくる。

一日も居ると、もうなにも考えることなく女性とまぐわい続けている。

だから、何日もいる洸はなにも疑問に思わなくなっていた。

 

洸はなにも疑問に思わない。

無数の信者たちに混じってまぐわうことにも。

儀式場の中心で、白い僧衣を纏った僧侶や尼僧が髑髏に金箔や銀箔を貼っていることも。

信者の数が加速度的に増えていることも。

その信者から数人が、定期的に連れて行かれていることにも。

そして、とうとう洸が僧侶に手を引かれて儀式場から連れ出されても。

 

なにも、疑問に思わない。

もう、なにも、考えられない───。

 

 

 






これにて第一部、完です。
このへんにぃ、原作時間軸行く前に100話越える二次創作があるらしいっすよ(震え声)

次回からは、アンケートで出た通り、原作までの2年間のエピソードを4話から5話ほど書こうと思います。
アンケートに協力してくれた方々、ありがとうございました。
とりあえず、一鳴くんが女の子とイチャイチャしたりダイスに翻弄される話が書きたい。
というかダイスを振りたい(ギャンブラー感)

それではまた次回。


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第113話 ひびみく大特訓


貴重な夏休みに初投稿です。
終わりが近い夏休み、お辛い仕事を忘れるために本日二度目の投稿よ!
今回はひびみくがシンフォギア特訓する回です。


 

 

響ちゃんと未来ちゃんがシンフォギア装者になってしばらく。

ツヴァイウィングのお陰で、気持ちも取り直してシンフォギア装者の為の特訓にも力が入っている。

そんな二人の調子は……。

 

 

 

ひびみくの調子【1D10】

 

1 アカンやん!

2 ええやん……

3 ええやん……

4 アカンやん!

5 ええやん……

6 ええやん……

7 メッチャええやん……

8 ええやん……

9 アカンやん!

10 熱烈歓迎

 

響ちゃん【2 ええやん……】

未来ちゃん【10 熱烈歓迎】

 

 

 

響ちゃんの調子は良いみたい。

 

「稲妻を喰らい、雷を握り潰すように打てッ!」

「言ってること、ぜんぜんわかりませんッ! でもッッッ!」

 

弦十郎さんの指導の元、二課のトレーニングルームで弦十郎さんとスパーリングする響ちゃん。

響ちゃんのシンフォギアの拳を素手で受け止める弦十郎さん。

拳が当たるたびに「ズパァンッッッ」と重苦しい音が響くのだが、弦十郎さんは涼しい顔だ。

……なんでなんともないのん(震え声)

手のひら痛くないの……?

 

「あ、ナルくん!」

 

と、響ちゃんが手を止めてこっちを見る。

ニッコニコ笑顔。かわいい。

 

「調子どう?」

「うんッ! バッチリ!」

「響くんは筋がいいな」

 

弦十郎さんもそう言って響ちゃんを褒める。

気性ゆえか、響ちゃんは原作通りにアームドギアを出せなかった。

「じゃあ殴ればええじゃろ?」と訃堂じいじの言葉で、響ちゃんは弦十郎さんから徒手空拳の指導を受けていた。

 

「よし、次は鉄山靠の練習だッッッ!」

「はいッッッ!」

 

そう言うと二人はまた訓練に戻った。

俺はその場を後にして、未来ちゃんの様子を見に行くことにした。

 

未来ちゃんは確か、キャロルちゃんから指導を受けていたはず。

今は、キャロルちゃんの研究室にいるみたい。

 

「失礼しまーす」

 

そう言って研究室に入ると。

 

「つまり、錬金術の四大元素は乾・湿と熱・冷の二対の相反する性質の組み合わせで───」

「地・水・火・風の四元素の他に、天体を構成するアイテールという元素が───」

 

キャロルちゃんとエルフナインちゃんが未来ちゃんに錬金術の講義をしていた。

なにやってんの?

 

「なにやってんの?」

「む、一鳴か。見ての通り錬金術を教えているが?」

 

キャロルちゃんがそう言う。

 

「え、シンフォギアは?」

「ああ、()()()()()()

 

終わった……?

 

「え、終わったって?」

「未来はもう、オレが用意したカリキュラムはすでにパスしたぞ」

「えぇ……」

 

俺がヒィヒィ言いながらこなしていたシンフォギア訓練を、もう終わらせたのん……?

 

「未来はお前より才能あるぞ」

「ぴぇ……」

 

未来=サンは俺よりツヨイのか……。

強いのか。

つよい、のか……。

 

「その、ナルくん。なんかごめんね……」

 

俺の瞳から光が喪われたのを見て、未来ちゃんが申し訳無さそうにする。

 

「いいのよ? いいのよ……?」

 

俺は未来ちゃんの頭を撫でる。

サラサラの黒髪は撫で心地がよい。

 

「ん、もう。ナルくん恥ずかしいよ……」

 

そう言いながらも、未来ちゃんは俺に身を任せる。

そんな俺達を呆れ顔で見ながら、キャロルちゃんが口を開く。

 

「まあ、終わったのは初級カリキュラムだから明日からは中級カリキュラムだがな」

「あ、まだあるのね」

 

未来ちゃんが覚えることはまだまだあった。

 

「それで? なんで錬金術を教えてるのん?」

 

その疑問に答えたのはエルフナインちゃんだった。

 

「未来さんの神獣鏡は錬金術と相性が良いんです」

「なにっ?」

 

エルフナインちゃん曰く。

神獣鏡のシンフォギアのメイン武装は鏡から出るレーザーである。

錬金術で空気中の水分量を増減させて光の屈折率を変えればレーザーの軌道も変えられるし、氷のレンズを作ってそれにレーザーを通せば拡散レーザーとして広範囲攻撃出来るという訳だった。

 

「つまり未来ちゃんは水タイプ……ってこと!?」

「どちらかといえばエスパータイプかと!」

 

俺の戯言にノリノリのエルフナインちゃんである。

 

「まあ、エスパーといえばエスパーだが……。いや、とにかく! 今は未来の勉強中だ。一鳴は邪魔だからあっち行ってろ!」

 

塩対応のキャロルちゃんである。

 

「ひどい! 親しい仲にも礼儀ありよ!」

「親しい仲だからぞんざいに扱ってるんだろうが」

 

俺の抗議を受け流すキャロルちゃん。

……俺のこと、親しい仲って思ってくれてたのね。

 

「それはそれとして俺も錬金術使いたい。黄金作ってガッポガッポよ!」

「黄金錬成は才能ないと無理だが……。まあ才能あるかどうかは見てやる」

 

 

 

一鳴の錬金術の才能【1D10】

 

1 ないやん……

2 ないやん……

3 ないやん……

4 エロ魔術の才しかねぇ

5 ないやん……

6 ないやん……

7 あるやん!

8 ないやん……

9 エロ魔術の才しかねぇ

10 熱烈歓迎

 

結果【8 ないやん……】

 

 

 

「諦めろ」

「くぅん……」

 

キャロルちゃんに一刀両断された。

俺に錬金術の才能は無かった。

 

「悲しい……。俺も火とか水で攻撃したかった」

「火は出せるだろ」

 

俺が出せるのは火というか、日というか。

シンフォギアが太陽由来だしね。

 

「あの、響はどうなのかな?」

 

と、未来ちゃん。

 

「響ちゃんに錬金術の才能、あるかなぁ」

 

響ちゃんと錬金術、もっとも遠いところにないかな?

いや、黄金錬成とかアマルガムとかしてたけど。

響ちゃん自身が錬金術行使していたわけじゃないし。

 

 

 

響ちゃんの錬金術の才能【1D10】

 

1 ないやん……

2 ないやん……

3 ないやん……

4 ないやん……

5 ないやん……

6 ないやん……

7 あるやん!

8 ないやん……

9 エロ魔術の天才

10 熱烈歓迎

 

結果【7 あるやん!】

 

 

 

「あった」

 

弦十郎さんと響ちゃんが訓練していたトレーニングルームに向かったキャロルちゃんが、帰ってきてそう言った。

後ろには弦十郎さんと響ちゃん。

 

「あるんだ!」

 

未来ちゃんの顔が明るくなった。

 

「あったの!?」

 

俺は驚いた。

 

「え、何の話?」

 

響ちゃんはなにも聞かされていないのか、キョトンとしている。

 

「喜べ立花響。お前、錬金術を扱えるぞ」

「えっと、錬金術?」

「……魔法だ。魔法」

「魔法!」

「未来も扱えるぞ」

「未来も!」

 

響ちゃんは目を輝かせる。

そんな響ちゃんにキャロルちゃんが現実を叩き込む。

 

「まあ、勉強はする必要があるがな」

「ウ゛ッ!」

 

苦虫を噛み潰したような顔をする響ちゃん。

 

「という訳で弦十郎。そっちの訓練が一段落したら連れてこい。錬金術を叩き込むから」

「わかった。頼んだぞキャロルくん!」

「任せておけ。未来は優等生だから特に苦労する事は無かったが、響の場合はスパルタでいくか」

「ぴぇ……」

 

壮絶な笑みを浮かべるキャロルちゃんと、蛇に睨まれた蛙のような響ちゃん。

そういや蛙を意味する方言の一つにビッキーってあるらしいね(震え声)

 

「ところで一鳴くんは錬金術の才能は無かったのか?」

 

弦十郎さんがそうキャロルちゃんに聞く。

 

「なかった」

「なかったのか」

「ああ。皆無だ」

 

俺の錬金術の才能は皆無らしかった。

おつらい。

 

「へぇーなかったんだ」

 

ニヤニヤと響ちゃん。

 

「私と未来にはあったのに」

「響、そんな風に言ったらかわいそうだよ」

 

未来ちゃんがフォローに回るがそれすらも俺の心には棘のように突き刺さる。

 

「トレーニングルーム行こうぜ……。久しぶりに……、キレちまったよ……!」

 

俺はシンフォギアを纏った。

 

「な、ナルくん……?」

「お、落ち着いて」

「錬金術が使えなくても、筋力上げて巨人砕き担げば神も殺せるんだよ(脳筋並感)」

 

今の俺ならエルデの王になれそう。

それぐらいキレていた。

俺だって本当は錬金術使いたかったのだ。

彗星アズールブッパしたかったのだ。

 

「ふむ、まあ良いんじゃないか」

「……そうだな」

 

と、弦十郎さんとキャロルちゃん。

 

「響くんにもそろそろ実戦形式の訓練に入ろうかと思ってたしな」

「未来もそろそろ戦闘を経験しておけ」

「ええっ!?」

「わ、わかりました!」

 

そういうことになった。

 

 

 

一鳴VSひびみく【1D10】

 

一鳴【5】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

 

響【10】

未来【2】+5(錬金術補正)

 

 

 

───火烏の舞・繚乱───

 

 

腰アーマーから射出された小型戦輪が、響ちゃんと未来ちゃんに殺到する。

 

「負けるかぁッ!」

 

響ちゃんが迎撃。

小型戦輪が打ち落とされる。

 

「私もッ!」

 

未来ちゃんもまた、小さな鏡を出してレーザーで小型戦輪を撃ち落としていく。

 

二人が小型戦輪に気を取られている間に、俺は次の技の準備を完了していた。

 

 

───紅鏡光線───

 

 

アームドギアから放たれた光線は二人を貫く。

だが、その閃光を乗り越えて、響ちゃんが突貫する。

 

「稲妻を喰らい、雷を握り潰すように打つッ!」

 

響ちゃんの拳が俺に届く。

()()()()()()()

 

 

───幻日陽炎───

 

 

太陽光の揺らめきが生み出す幻。

シンフォギアの熱で空気中の光の屈折率を変えて、俺の幻を見せたのだ。

錬金術かわ使えなくても、光の屈折率は変えられるのだ。変えられるのだ。

つまり、響ちゃんが殴ったのは幻であり、本物の俺はその少し横。

 

「そぉい!」

 

手応えがなくて呆然としていた響ちゃんを戦輪で殴り飛ばす。

 

「うわぁッ!」

「響ッ!」

「そこまで!!」

 

未来ちゃんのところまで吹き飛ばされた響ちゃん。

そこに弦十郎さんの声。

 

「俺の勝ち。なんで負けたか、明日までに考えといてね♡」

「うぅぅぅぅぅ……!」

「ナルくん大人げない!」

 

俺の愛嬌たっぷりな声に悔しげに唸る響ちゃん。

未来ちゃんのジト目が心に突き刺さる。

 

「勝負とは残酷なのよね」

「むぅ……、次は負けないからね!」

「響、コンビネーションの特訓しよう!」

 

と、キャイキャイしていると。

 

「楽しそうじゃのう」

 

風鳴訃堂のエントリーである。

なんで(震え声)

 

「一鳴くんはまだまだ余裕もあるようだし、ワシともう一戦してみぬか?」

「俺これから塾があるので(大嘘)」

「ふふ、遠慮するな。響くんや未来くんにシンフォギア装者としての戦い方を見せてやってくれ」

 

そういうことになった。

 

 

 

一鳴VSひびみく【1D10】

 

一鳴【7】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

 

訃堂【1】+99999999999(OTONAギャグ補正)

 

 

 

「勝てるわけないだろ!」

 

俺は叫んだ。

俺の首から下はトレーニングルームの床に埋まっている。

つまりはそういうことであった(震え声)

 

「ワシの攻撃7発耐えきったのなら上々じゃな」

 

訃堂司令が群蜘蛛を鞘に収めながらそう言った。

 

「私は最初の一撃でやられていたかも……」

「私も……」

 

トレーニングルームの端っこで見学していた響ちゃんと未来ちゃんがそう言う。

 

「二人とも、これから鍛えていけばいい」

 

と、弦十郎さん。

 

「その為にオレたちがいるんだからな」

 

と、キャロルちゃん。

 

「はいッ!」

「これからも、お願いします!」

 

響ちゃんと未来ちゃんはそう言った。

うん。大団円だね。

だから早く俺を助けてほしいかな。

トレーニングルームに埋まって身動き取れないから。

 

へるぷ、みー!

 

 





ひびみくに錬金術補正がついてしまった(震え声)
まあ、ダイスの神様の思し召しなので、仕方ないね。

次回はマリアさん回。
ツヴァイウィングのマネージャーとして社会人デビューしたマリアさんが右往左往する予定。

なお最終的に一鳴くんに抱かれる模様(ネタバレ)


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第114話 マリア、社会人になる


投稿が遅れて申し訳ぬぇ(土下寝)

9月はお仕事ハードモード突入して睡眠時間が、ね(震え声)
やっとハードモード終わったので、少しずつ投稿頻度増やしていこうと思います。
増えなかったら「コイツまたハードモード突入したな」と思ってください(白目)



 

 

薄紅色の桜の花びらがひらひらと舞い、新緑の葉がちらちらと桜の木を染め上げ始める。

2041年4月のある日のこと。

マリア・カデンツァヴナ・イヴはリディアン音楽院を卒業して、ツヴァイウィングのマネージャーとなった。

 

表向き、ツヴァイウィングは小滝興産所属のアイドルユニットという事になっている。

が、実際は小滝興産は二課が設立したダミーカンパニーである。

ツヴァイウィングのメンバーである天羽奏と風鳴翼が二課上級職員の子女である事から、彼女らの身辺を二課職員が守るために設立されたのが小滝興産という訳だ。

なので、マリアがツヴァイウィングのマネージャーになるというのは、実質的にマリアを二課職員として扱うという事である。これは、マリアの恋人であり、二課の最高戦力であるシンフォギア装者である一鳴への配慮でもあった。

二課は一鳴の親類縁者を守るという、意思表示である。

 

それはそれとして。

小滝興産はダミーカンパニーなので会社の社屋というものを持っていない。

会社登記簿には不動産の住所等が記されてるが、そんなもんペーパーカンパニーというやつで実際には存在しない。

そんな訳で、社屋のない小滝興産に入社したマリアはファミリーレストラン『イルズベイル』で入社式を行うことになった。

 

「そんな訳でマリアさんです」

「よろしくなーマリア」

「よろしくカデンツァヴナさん」

「よろしく」

 

緒川の紹介とツヴァイウィングの挨拶に返答するマリア。

四人の前にはホットコーヒー4つ。

 

「……入社式って、もっと厳かなものじゃない?」

 

マリアのもっともな疑問であった。

 

「だってマリアはずっとインターンで一緒に仕事してたじゃないか」

 

奏がそう答えた。

 

「……それもそうね」

 

マリアは考えることを止めた。

面倒になったとも言う。

マリアさんも大分染められていた。

 

「そんな訳でこれからマリアさんも一緒にお仕事してもらいます」

 

緒川がそう言うと、懐から黒いファイルを取り出した。

マリアがそのファイルを受け取り、中を見る。

 

 

 

マリアの最初のお仕事【1D10】

 

1 レコーディングの付き添い(難易度:優しい)

2 テレビ撮影の付き添い(難易度:普通)

3 翼さんの部屋の片付け(難易度:難しい)

4 レコーディングの付き添い(難易度:優しい)

5 テレビ撮影の付き添い(難易度:普通)

6 翼さんの部屋の片付け(難易度:難しい)

7 レコーディングの付き添い(難易度:優しい)

8 テレビ撮影の付き添い(難易度:普通)

9 翼さんの部屋の片付け(難易度:難しい)

10 マ グ ロ 漁(難易度:ルナティック)

 

結果【6 翼さんの部屋の片付け(難易度:難しい)】

 

 

 

マリアが見たファイルの中身。

そこには、1枚の写真が入っていた。

その写真には、物が散らばった部屋が写っていた。

 

「……廃墟? いえ、ゴミ屋敷かしら?」

 

マリアの率直な感想であった。

 

「いえ、それは翼さんの部屋の写真です」

「緒川さん!?」

 

あっけらかんと答える緒川に目を剥く翼。

 

「あ、あれほど乙女の部屋に入るのはいかがなものかと言っておいたのに! あまつさえ写真を撮るなんて!」

「ええ。僕は入ってません」

「アタシだよ」

 

写真を取ったのは奏だった。

 

「最近忙しいから、アタシも片付けに行けなかったし、どうかなーって様子を見に行ったらさぁ……」

 

奏がトントンと写真を突く。

 

「マリアの言った通り廃墟かゴミ屋敷って惨状だ」

「だ、だって忙しかったから、多少は……」

「多少?」

「多少?」

「多少?」

「もうっ!」

 

多少とは言えない惨状に首をひねるマリアと緒川と奏。

翼は頬を膨らませた。

 

「そんな訳で。全員で片付けに行く」

「研修と仲を深めることも兼ねて頑張りましょう!」

 

奏と緒川に肩を叩かれる翼。

 

「そうね」

 

パタンとファイルを閉じるマリア。

 

「人気絶頂のアイドル風鳴翼、私生活はダメ人間! ってすっぱ抜かれたら大変だものね」

 

マリアは言った。

 

「片付けに行きましょう」

「行こう」

「行きましょう」

「……不承不承ながら、承知しました」

 

そういうことになった。

 

 

 

 

 

 

マリア VS 汚部屋【1D10】

 

1 マリア、脚の小指をぶつけて泣く

2 マリア、脚の小指をぶつけて泣く

3 マリア、脚の小指をぶつけて泣く

4 マリア、黒光りするGと死闘を繰り広げる

5 マリア、黒光りするGと死闘を繰り広げる

6 マリア、黒光りするGと死闘を繰り広げる

7 マリア、マム直伝の片付け=ジツを披露

8 マリア、マム直伝の片付け=ジツを披露

9 マリア、マム直伝の片付け=ジツを披露

10 マリア、キノコの生えたパンツを見つける

 

結果【7 マリア、マム直伝の片付け=ジツを披露】

 

 

 

翼の部屋に辿り着いた一行。

翼が玄関を開けると、そこは腐海であった。

 

「改めて見るけどさ。腐ってやがる、(来るのが)遅すぎたんだ……」

 

奏が口元を引くつかせながら、そう言った。

 

「腐ってない! 腐ってないわよ!」

「これは強敵ね……」

 

翼の抗議をマリアはスルーした。

玄関から見える惨状は酷いものだった。

玄関にはプラスチックごみの入ったゴミ袋と燃えるゴミの入ったゴミ袋が積み重なり。

廊下には衣類や下着類、なぜかトランプが撒き散らされている。

奥に見えるリビングは更に酷い。だって足の踏み場もないもの(震え声)

 

「………………行くわよ!」

 

長い沈黙の後、マリアが翼の部屋に這入る。

なお靴を脱ぐべきかどうか少し逡巡した模様。

マリアに続いて緒川と奏が突撃した。

 

「服や下着類は私と奏で集めるわよ!」

「わかった!」

「緒川さんはそれ以外のものを!」

「わかりました」

「わ、私は……」

「翼は……………………、緒川さん!」

「翼さんは先に自分の部屋に行って見られたくないものを隠してきてください」

「わかりました」

 

廊下で物を拾い集める3人の横を風のように通り抜ける翼。

 

「これは、ダメ。 ……これもね。 あ、これも見せられないわ」

 

部屋から漏れ伝わる翼の声をスルーして、3人は廊下の物を集める。

 

「マリア洗濯はアタシがやる。ついでに風呂場も」

「ありがとう。任せるわ」

「ではマリアさんは僕とリビングに行きましょう」

「ええ。……背中は預けたわ」

「はい」

 

マリアの顔は戦場に向かう戦士の顔であった。

緒川はその顔に頼もしさを感じた。

 

(彼女になら、ツヴァイウィングを任せられますね……)

「行くわよ! マム直伝の片付け=ジツを見せてあげるッ!」

 

二人はリビングに突入した───

 

 

 

マリア VS リビング【1D10】

 

マリア【6】+5(マム補正)

緒川【3】+5(ニンジャ補正)

 

きったねぇリビング【1】+10(きったねぇ補正)

 

 

 

「イヤーッ!」

 

マリアのカラテシャウトがリビングに響く。

ゴウランガ! 一瞬で部屋の奥に進み、カーテンと窓を開ける。

日差しと風が部屋に入る。

 

「イヤーッ!」

 

マリアが一瞬で部屋の様子を確認。

即座に動く。足の踏み場もないリビングの、僅かな隙間をつま先立ちで移動!

散らばっていた下着類を確保!

これで男性の緒川が自由に動けるようになる。

 

「ありがとうございますマリアさん」

 

緒川がバク転しながら入る!

マリアのようにつま先立ちで移動しながら部屋の大きく重たいものを動かす!

女性のマリアに配慮したワザマエである。

 

「イヤーッ!」

 

マリアの片付け=ジツ!

 

「イヤーッ!」

 

緒川の片付け=ジツ!

 

「イヤーッ!」

 

マリアの片付け=ジツ!

 

「イヤーッ!」

 

緒川の片付け=ジツ!

 

「イヤーッ!」

 

マリアの片付け=ジツ!

 

「イヤーッ!」

 

緒川の片付け=ジツ!

 

…………………………

 

………………

 

……

 

 

 

「ふぅ……こんなところかしら」

 

マリアが袖で額の汗を拭う。

そよそよと入ってくる風が、マリアを撫でる。

 

なんということでしょう。

この世の終わりのような翼のリビングが、キチンとした女性の一人暮らしの部屋のようになっているではありませんか。

物で埋まっていたテーブルは四人がけの姿を現しています。

物で埋まっていたソファはフカフカの姿を現しています

物で埋まっていた床は、磨かれたフローリングの姿を現しています。

 

そんな訳でリビングが往年の姿を取り戻したのであった。

 

「お疲れ様でしたマリアさん」

 

勝手知ったる緒川が、冷蔵庫から冷たい麦茶をコップに注いで渡してくる。

 

「いえ。こっちこそ、緒川さんに台所を任せてしまっていたわ」

「頑固な油汚れがあって、僕が適任かとおもいましたので」

 

と、二人で話す。

……そこに。

 

「二人とも大変だ!」

 

奏がリビングに飛び込んでくる。

 

「うわスゴ……、普通の部屋だ」

 

慌てた奏も、生まれ変わったリビングに驚きを隠せない。

 

「どうしたの奏? 風呂場にGが出たの?」

「Gじゃねぇ! ネズミだ!!」

「えっ?」

「翼の部屋にネズミが出た!」

 

三人は即座に翼の部屋に向かった。

 

「緒川さん! カデンツァヴナさん!」

 

翼が震えて、部屋の外にいた。

 

「ネズミですって!?」

「そうなのよ、見て!」

 

翼が、己の部屋を指差す。

開かれた扉の向こうには……。

 

「チュウ」

 

ネズミというには余りに大きい。

人間の腰ぐらいの全高で、鼻先から尻尾までは2メートルはあるだろう。

そんな、フロム・ソフトウェアのゲームに出てきそうな巨大ネズミが翼の部屋に居た。

 

「いやいや待て待て待ちなさいッ!」

 

流石のマリアも、冷や汗をダラダラと流す。

 

「なんであんなのが部屋の中に居るのよ!?」

「天井から落ちてきたのよ!」

 

翼が部屋の中を指差す。

指の先の天井には大穴が空いている。

 

「チュウ」

 

大ネズミがマリアたちを見る。

そして、駆け出した。

扉から出て、マリアたちを襲撃しようという動きだ。

 

 

───影縫い───

 

 

おお、見るがいい!

大ネズミの影に刺さった一本の針が、大ネズミの動きを止めている。

緒川のワザマエだ。

 

「緒川さんッ!」

 

翼の声に答えるように、緒川が印を結ぶ。

 

 

───影縛り───

 

 

緒川の忍術が発動し、大ネズミの身体が動き出す。

ヨチヨチと歩いて、翼の部屋を出ていく。

 

「この術は! 影縫いした相手を意のままに操る高等忍術、影縛りの術ッッッ!」

 

翼の解説!

 

「このネズミは僕が保健所に連れていきますね。部屋の片付けはお願いします」

 

そう言ってネズミと共に出ていく緒川を三人は見送った。

 

「……ニンジャって、本当に居たのね」

「緒川さんは木下藤吉郎に仕えていた緒川忍群の出身なのよ」

 

マリアの呟きに、翼は誇らしげに答えた。

 

「すごいわね(小並感)」

「すごいのよ!(えっへん)」

「翼は緒川さんの事が好きなのね」

 

マリアの発言に顔を真っ赤にする翼。

 

「な、な、な! 違うわよ! そ、そういう好きじゃなく、ずっと子どもの頃から一緒にいたから兄のようと言うか家族のようなものでそういった意味の好きじゃ……」

 

翼が早口で否定。

その早口に被せる奏。

 

「翼は緒川さんにホの字なんだよ」

「奏!」

「あらあら」

 

翼を微笑ましく見守るマリア。

 

「そ、その顔はなんなの!?」

「いえ、微笑ましいと思って」

 

そんな二人を見て笑う奏だった。

 

「マリア、翼に恋のアドバイスしてやってくれよ」

 

奏は言葉を続けた。

 

「翼、なかなかアプローチ出来なくてさ。翼ももう高校生だからいい加減進展させたくて」

「いいわよ」

「二人とも!?」

 

 

 

マリアの恋のアドバイス【1D10】

 

1 押し倒しなさい(迫真)

2 想いを手紙にしたためたら?

3 滅茶苦茶為になるアドバイス

4 押し倒しなさい(迫真)

5 想いを手紙にしたためたら?

6 滅茶苦茶為になるアドバイス

7 押し倒しなさい(迫真)

8 想いを手紙にしたためたら?

9 滅茶苦茶為になるアドバイス

10 熱烈歓迎

 

結果【9 滅茶苦茶為になるアドバイス】

 

 

 

「まず、今のまま告白しても優しく断られるだけね」

 

マリアはそう、最初に言った。

 

「高校生と言っても、翼は未成年。子どもの頃から一緒に居た緒川さんにとって、翼はまだまだ子どもで、そう言う対象に見れないのよ」

 

ざんばらりんと言い切ったマリア。

翼は口を尖らせながら答える。

 

「それは、私もわかっている。だから、なんとも出来ないんだ」

「なら、まずはそういう対象に見られる事から始めるの」

「なんだ? オッパイでも押し付けるのか?」

 

奏が疑問符を浮かべながらそう聞く。

 

「それは悪手ね。恋愛でなく、性欲の対象として見られていると思われて距離を取られてしまうわ」

「なら、どうするんだ?」

「つまり、こうするのよ───」

 

 

 

 

 

 

「緒川さん」

 

すっかり片付いた翼の部屋。

ネズミを保健所に預けてきた緒川が帰ってきて、それと入れ違いにマリアと奏がお昼ごはんを買いに行った。

部屋には、翼と緒川の二人きりだ。

 

「どうしました、翼さん?」

 

緒川は、正面に座る翼を見る。

二人とも、正座で座っていた。

 

「……ッ」

 

翼は頬を赤らめ、唇を噛む。

恥じらいながら、それでも想いを口にする。

 

「貴方が、好きです」

「そう、ですか」

 

翼の言葉に、緒川は一瞬心を乱す。

しかし、すぐに取り繕う。

なんとなく、目の前の少女が自分にそういう想いを向けていたとわかっていたから。

 

「ですが、僕は……」

「わかっています。緒川さんが私のことをそういう風に見れないことは」

 

翼は言葉を紡いだ。

己の想いを、少しずつ形にするように。

 

「だから、リディアンを卒業するまでに女を磨きます。緒川さんが、私を一人の女性と見てくれるように」

「翼さん……」

「リディアンを卒業するとき、また告白します。だから、私の事、見ていてください」

 

 

 

(((まず告白するのよ)))

 

翼の脳裏にマリアのアドバイスがよぎる。

 

(((緒川さんに自分が恋心を向けていると認識させるの)))

 

(((その上で、高校卒業まで答えを保留させなさい)))

 

(((女を磨くから、なんて言ってね)))

 

(((ほら。これで緒川さんは貴女から3年間目を逸らせなくなった)))

 

(((3年間、貴女を意識するようになった)))

 

(((あとは、貴女の努力次第)))

 

(((いい女になれば、緒川さんはきっと貴女に夢中になるわ)))

 

なんたるマリアの知謀知略か。

人の恋心を知る女の戦略の極みである。

悪事以外はなんでも出来る女の、本領発揮であった。

 

 

 

「……わかりました」

 

沈黙の後、緒川が答えた。

 

「3年間、待ちます。翼さんの事」

「緒川さん……、ありがとうございます」

 

そう言う翼は、一筋安堵の涙を流して笑った。

その笑顔に緒川は一瞬、見惚れてしまった。

それが、なんだか悔しい気がして。

そんな悔しさなんて堪え忍べるのに。

少しだけ、意趣返ししてしまった。

 

「アイデアを出したのはマリアさんですか?」

「ゔっ! わかりますか」

「彼女はそういう経験は豊富でしょうから」

「ゔー、緒川さんはいじわるだ」

 

そう、いじける翼に、緒川はまた見惚れてしまった。

 

 

 

 

 

 

今回のオチ。

 

「かずなり〜〜〜!!」

 

土曜日。

一週間働いたマリアに訪れたお休みの日。

マリアは朝から一鳴に抱き着いていた。

ダッコちゃんであった。

 

「どうしたの、マリアさん?」

「私おしごとやめる〜〜〜!!!」

「よしよし。何があったのさ?」

 

慣れた様子でマリアをあやす一鳴。

前世で2桁数の子どもを育ててきた男の手腕であった。

 

「緒川さんと翼が無自覚イチャイチャして一鳴に会いたくなるし奏は奏で女性アイドルや女性ファンを恋に落とすし恋に落ちた女の子が私を敵視して睨んでくるから辛くて一鳴に会いたくなるのよ〜〜〜」

 

びえーッ、という擬音が出そうなほどにマリアは泣いた。

まるでダメなお姉さんと化していた。

 

「よしよし、大変だったねぇ。いいコいいコ」

「かずなり〜〜〜!!」

 

マリアの一鳴を抱きしめる力が強くなる。

 

「滅茶苦茶に抱いて! ストレス吹っ飛ぶくらいに激しく抱いて!」

「いま朝なんですけどー」

「そんなの関係ないわよッ!」

 

マリアが一鳴を抱き締めながら服を脱いでいく。

器用な女であった。

 

「しょうがないなぁマリアさんは……。今日だけよ?」

「一鳴好き(鳴き声)」

「明日は皆でデートだよ。お出かけ楽しみましょうね」

「うん!(幼児退行)」

 

そんな訳で。

このあと滅茶苦茶セックスした(超絶迫真)

 

 






ダイスの女神さまは『おがつば』推しであった。
これにはワイもニッコリ。


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第115話 一鳴、引っ越す(前編)



最近ガンダムサンダーボルト読みました。
イオの人生悲惨では?
イオを響ちゃん、クローディアを未来ちゃんにキャスティングしたら愉しい事になるわね(闇の性癖)

???「わたしが……ころした、みくを……わたしが……」


そんな訳で(大胆な転換)、一鳴くんは引っ越しを検討するようです。




 

時の過ぎるのは早いもので。

マリアさんがツヴァイウィングのマネージャーになって半年以上が過ぎた。

最初の頃は休みのたびに甘えん坊マリアになってたのに、最近では黒いレディーススーツを着こなしてバッチリとマネージャーをこなしている様子。

 

まあ、休みの度に甘えてるし、全身の穴という穴から体液吹き出して白目向いてるのだが(震え声)

 

そんな訳で、渡一鳴です。

時は2042年1月。原作時間軸まであと一年と少しといった所です。

 

現在、俺が二課から借りているマンションでみんなと一緒にいます。

マリアさん。

セレナちゃん。

クリスちゃん。

響ちゃん。

未来ちゃん。

調ちゃん。

切歌ちゃん。

 

多いね(白目)

全員俺の彼女です(震え声)

みんなかわいい(現実逃避)

 

さて、8人もの少年少女が集まると広い部屋も少々手狭である。

調ちゃんと切歌ちゃんなんて、俺の膝に座ってるし。

マリアさんとセレナちゃんは俺の両サイドに陣取り、腕を組んだり、頭を俺の肩に乗せたり。

クリスちゃんは俺の背中にもたれ掛かっている。

あれ、これイチャイチャしてるだけ……?

 

響ちゃんは未来ちゃんの膝枕で寝て、未来ちゃんはそんな響ちゃんの髪を撫でる。

ただのイチャイチャ空間だねコレ。

 

「一鳴」

 

俺にもたれ掛かりながら、マリアさんが口を開く。

 

「引っ越しましょう」

「その心は?」

 

マリアさんは重苦しく口を開いた。

 

「隣の横井さんと、下の階の下山さんがね。遠回しに、その、喘ぎ声がうるさいって(震え声)」

「そっかぁ(震え声)」

 

そういうことであった(白目)

 

「マリア姉さん働きだしてから喘ぎ声大きくなったから……」

「セレナだって大きいわよ!?」

「お前ら二人が原因じゃねぇかエロ姉妹!」

 

言い合うカデンツァヴナ姉妹に突っ込むクリスちゃん。

 

「クリスさんだって、この前エッチしてるとこ覗いてオナニーしてたくせに(迫真小声)」

「んなっ!?」

 

セレナちゃんの指摘に顔が真っ赤に染まるクリスちゃん。

 

「クリスちゃん見てたのん?」

「み、みみみ」

「先週の土曜です一鳴さん」

 

先週の土曜?

マリアさんをアヘアヘ言わせてた時にセレナちゃんが乱入してきたときの?

 

「そうです。マリア姉さん共々オホオホ言わされてた日。あの日クリスさん覗いてましたよ」

「知らなかった、そんなの……」

「ののの、ののののの!」

 

クリスちゃんは『の』しか言えなくなっていた。

お顔は真っ赤っ赤である。

 

「クリス先輩エロデスね」

「エロだよ切ちゃん」

「うるせぇ!!」

 

切歌ちゃんと調ちゃんに言われ放題のクリスちゃんであった。

 

「まあ、クリスちゃんも思春期だし」

 

俺の精一杯のフォロー!

 

「覗くぐらいなら混ざれば良かったじゃない」

 

マリアさんのフォロー! フォロー?

 

「あたし様はまだ中学生だよ!」

「そこよ」

 

クリスちゃんの反論に待ったをかけるマリアさん。

 

「クリスは今年でもう高校生になるわ」

「リディアン音楽院、私たちの後輩になるんだよね姉さん」

「ええ。そして、一鳴とのラブラブえっちが解禁されるわ」

「言い方ぁ」

 

これには俺も苦笑い。

 

「来年には響と未来も解禁、再来年には調と切歌とえっちラッシュが来るわ」

「頭茹だってんのか?」

 

クリスちゃんも呆れ顔だ。

 

「これは真剣な話よ。これからの3年ラブラブえっちラッシュが来るなら相対的に喘ぎ声が大きくなるの!」

「……ッ!!」

 

ハッとした顔をするセレナちゃんと響ちゃん。

 

「マリア姉さんそれはつまり!」

「そう、このままじゃうるさすぎて横井さんと下山さんに本気で怒られてしまうわ!」

「大変ですよマリアさん!」

 

未来ちゃんに膝枕されながら慄く響ちゃん。

 

「一鳴、なんとかしろ……」

 

クリスちゃんが呆れ顔で俺に振る。

 

「マリアさんの言うことはアレだけどさ……」

 

俺は言葉を繋げていく。

 

「引っ越しはしたいかなって」

「なんで?」

 

未来ちゃんが聞く。

 

「これからみんな、独り立ちしていくなら一緒に暮らしたいなって」

「あー、いいデスねそれ! 調や一鳴さん、皆と暮らしたいデス!」

 

俺の言葉に乗る切歌ちゃん。

 

「でも皆で暮らすには今の部屋は狭いから」

 

皆と暮らすならもっと部屋数多いとこ借りないとねぇ。

なので引っ越しは有りである。

喘ぎ声うんぬんは置いといて(震え声)

 

「でも、私達みんなで暮らせる部屋があるところってあるの?」

 

と、調ちゃん。

 

「前もって調べておいたわ」

 

と、マリアさんが答えた。

手際がいい。

 

「こう見えて、敏腕美人マネージャーとして業界で有名になってきたんだから」

 

マリアさんが胸を張る。

でもその敏腕美人マネージャーは家に帰るとストレスで性欲増進されてるんですよね(小声)

 

「そんな訳でいくつか候補を見繕ってきたからみんな見て頂戴」

 

マリアさんがカバンからA4の紙を何枚かテーブルの上に置く。

不動産の資料のようだ。

俺は、その中の一枚を手に取った。

 

 

 

一鳴の手に取った不動産の資料【1D10】

 

1 衛宮家みたいな武家屋敷

2 洋風な館

3 マンション一棟

4 衛宮家みたいな武家屋敷

5 洋風な館

6 マンション一棟

7 衛宮家みたいな武家屋敷(土蔵に謎の魔法陣)

8 洋風な館(かつて殺人事件が発生した)

9 マンション一棟(怪奇現象あり)

10 ズ ム シ テ ィ 公 王 庁

 

結果【7 衛宮家みたいな武家屋敷(土蔵に謎の魔法陣)】

 

 

 

手に取ったのは、東京二十三区内にある木造平屋建の資料だ。

8LDKで、庭もある。

そして、庭には土蔵と別宅がある。

大豪邸だ。

というか衛宮邸じゃないこれ?

 

「あら、一鳴そのお家が気になるの?」

 

マリアさんが聞いてくる。

それに合わせて、みんながおれの持つ資料を覗き込む。

 

「そのお家、西日本の冬木市にある武家屋敷を気に入ったかつてのオーナーが建てたらしいのよ」

 

元ネタが衛宮邸かぁ。

てか、土地の安い冬木市ならともかく東京二十三区でこの規模のお屋敷はさぞお高いんじゃ……。

 

「そこ、安いのよ」

 

マリアさんの言葉が固くなる。

訳アリの、家か……。

 

「なんで安いの、マリア?」

「まさか、オバケが出るデスか……?」

 

調ちゃんと切歌ちゃんが不安げに聞く。

マリアさんは頷いて答えた。

 

「オバケが近いわね」

 

ここ見て、と資料内の家の間取り図の一角をつつく。

庭に建つ土蔵だ。

 

「この庭の土蔵、中に大きく魔法陣が書かれてたみたいなのよ」

「魔法陣……?」

「そう。幾何学模様の円形ですって」

 

俺は資料をめくった。

数枚めくると、その土蔵内の写真が載っていた。

マリアさんのいったように、土蔵内の床に堂々と魔法陣が描かれていた。

色は赤黒い。

まるで乾いた血みたいだぁ(白目)

 

……専門家に聞いてみよう。

俺は土蔵内の写真を撮るとキャロルちゃんに送付した。

 

 

 

キャロルちゃんの見解【1D10】

 

1 デタラメで意味のないもの

2 デタラメで意味のないもの

3 デタラメで意味のないもの

4 悪魔召喚の魔法陣(偽)

5 悪魔召喚の魔法陣(偽)

6 悪魔召喚の魔法陣(偽)

7 星5英霊確定ガチャ

8 星5英霊確定ガチャ

9 星5英霊確定ガチャ

10 悪魔召喚の魔法陣(真)

 

結果【10 悪魔召喚の魔法陣(真)】

 

 

 

「おい一鳴あの写真はどこのものだ!」

 

メールを送るとすぐにキャロルちゃんから電話が返ってきた。

 

「えっと、リディアンの近所の●●区にある売家だけど」

「そうか。少し待て」

 

キャロルちゃんが、電話から顔を離して色々指示を飛ばしてる。

はやく現場を確保しろ、とか、最悪辺り一帯封鎖だ、とか。

……大事(おおごと)じゃん

 

「すまん待たせた」

「キャロルちゃん、その魔法陣なんなのなの?」

 

俺は電話をスピーカーモードに変えてテーブルに置く。

そして、キャロルちゃんに魔法陣の詳細を聞いた。

 

「その魔法陣自体は悪いものじゃない。魔法陣の中と外を遮断するものだ」

「結界?」

「そうだ。かなり正確に書かれた結界だ。しっかり効果を発揮するだろう」

 

なにに、対してだろう。

何のための結界なのか……。

 

「問題は、魔法陣の外。その部屋中に書かれた呪文だ」

 

土蔵内の写真には、そのような文字は見えない。

 

「ああ、普通ならわからない。未来、響。そこにいるな?」

「「は、はい!」」

 

いきなりキャロルちゃんに名前を呼ばれて飛び上がる二人。

 

「錬金術師は魔女狩りや不心得者から己の術の秘奥を守るために、秘密を日用品の中に隠すと前に教えたな? その中から探ってみろ」

「え、えっと……」

 

二人が土蔵の写真を見る。

二人はキャロルちゃんから錬金術を習っているのだ。

ならば、土蔵の秘密がわかるだろうか。

土蔵内には床の魔法陣以外には雑多な物が置かれるばかり。

……ん?

 

「マリアさん、ここのオーナーは片付けてないの?」

 

売りに出されているには、雑多なものが置かれすぎている。

普通処分するでしょ、前の住人の私物は。

 

「……今のオーナー、あまり関わりたがらないのよ。最初のオーナーが行方不明になったとかで」

 

ガッツリいわくつきじゃん。

そんなことをマリアさんと話していると……。

 

「あ、ここ、前習った呪文だよ! 響!」

「えっと、あ、本当だ!」

「ということは、あ、ここにもある!」

「ここと、ここも!」

 

響ちゃんと未来ちゃんが呪文を見つけたみたいだ。

俺には雑多なガラクタにしか見えぬぇ……。

 

「正解発表だ」

 

キャロルちゃんが、電話口から響ちゃんと未来ちゃんに問いかける。

 

「この土蔵に書かれた呪文はなんだ?」

「EL ELOHIM ELOHO ELOHIM SEBAOTH

ELION EIECH ADIER EIECH ADONAI

JAH SADAI TETRAGRAMMATON SADAI

AGIOS O THEOS ISCHIROS ATHANATON

AGLA AMEN」

「正解だ」

 

二人が流暢な英語? 外国語を話し出し、キャロルちゃんが正解と答えた。

 

「一鳴よく聞け。今、二人が言ったのは悪魔召喚のための呪文だ」

「悪魔召喚!?」

 

とんでもない単語が出てきたな。

でも、この世界英霊も召喚出来るんだし、悪魔も召喚出来るか……(適当)

 

「それともう一つ最悪なことがある」

「それは?」

 

キャロルちゃんはゾッとするような冷たさでこう言った。

 

「この呪文は使われた形跡がある。一鳴、悪魔はもう呼び出されているぞ」

 

 

 





どうして一話で引っ越しが終わらないんですか?(電話猫)

なんもかんもダイスの女神様(クソビッチ)が悪い。
7からの10コンボ叩き込まれるとは思わなかったゾ(白目)

そんな訳で次回、悪魔払いです。


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第116話 一鳴、引っ越す(後編)


ワクワクワクワクチンチンチンチンしたら身体がしんどいでゴザルの巻(瀕死)
そんな訳で一鳴お引越し編の後編でございます。



 

 

俺のお引越し先候補の一つである武家屋敷めいた豪邸に魔法陣があったでござるの巻。

しかも、魔法陣の周りには悪魔召喚の呪文が書かれていて、悪魔はすでに召喚されてる可能性があるとかないとか。

 

ふぇぇ(白目)

 

そもそも。

その、魔法陣のあった家は5年ほど前に建てられたものらしかった。

最初のオーナーが冬木で見た衛宮邸を気に入って建てたもの。

だが。

二課の調べによると、最初のオーナーは家が建って半年ほど経って失踪したのだという。

理由は不明。

それから5、6人ほど持ち主が変わっているのだとか。

 

そんな訳で緊急二課呼び出し。

キャロルちゃんとお話タイムである。

 

「それで、ここからが問題なのだがな……」

 

その衛宮邸(偽)の歴代オーナーたちは、ほぼ全員住んで一年以内に死んでいるらしい。

それも不審死ではなく、老衰などの自然死で。

 

「それ、瑕疵物件じゃないの?」

「不審死ではないから、通告義務は無いそうだ」

 

故にマリアさんに伝えられたのは、「蔵の中に魔法陣がある」という一点のみであったそうな。

とんでもねぇ不動産屋だ。

 

「その不動産屋には後日、風鳴に通じる公正取引委員会に踏み入られるだろうよ」

 

悪徳不動産屋は(法的に)爆発四散!

 

「さて、一鳴。問題の悪魔だが、まだ屋敷にいる可能性が高い」

 

キャロルちゃんが話を戻す。

 

「その根拠は?」

「最初のオーナー以外のオーナーが、自然死している事だ。まず間違いなく、呼び出した悪魔が生体エネルギーを吸い取っている」

 

そもそもの話、悪魔とは。

人々の口に乗った神話や伝承から生まれた情報生命体、生きる哲学兵装の事だそうな。

 

そもそも、神話や伝承の怪物の殆どの正体が、ノイズか聖遺物である。

なのだが。

長い歴史の中で、神話や伝承が人々に口承にされると、その口承が形を成すのだ。

ノイズや聖遺物とはまた別の災害。

概念災害とも言うべき情報生命体、悪魔が生まれるのだ。

 

今回呼び出されてのは、そんな情報生命体である悪魔である。

彼ら悪魔は、人の言の葉、人の信念が形を与えた。

故に人の発するエネルギーこそが彼らを形作り、強くするのだという。

だから、今回呼び出された悪魔は衛宮邸(偽)に暮らすものから生体エネルギーを吸い取っていたのだ。

その生体エネルギーの事を生体磁気、即ち生体マグネタイトというのだとか。

 

つまりは女神転生ということやないの!

 

それはそれとして。

それで、今回呼び出された悪魔だが……。

 

 

 

呼び出された悪魔の種族(女神転生準拠)【1D10】

 

1 悪霊

2 幽鬼

3 邪鬼

4 死神

5 妖獣

6 邪竜

7 妖樹

8 邪神

9 魔王

10 魔人

 

結果【4 死神】

 

 

 

悪魔のレベル【1D10】

 

結果【3】×10代(最低保証40代)

 

 

 

「さて一鳴。現場に行こうか。響と未来も待っているからな」

 

先に黒服さんたちと共に衛宮邸(偽)に向かっている。

不測の事態に備えるためだが、待ちわびてるだろうなぁ。

 

「時間が惜しい。テレポートジェムを使うぞ」

 

キャロルちゃんは懐からテレポートジェムを取り出した。

そして、それを地面に落とす。

赤い結晶が壊れる。

その瞬間、辺りの風景が二課から閑静な住宅街に切り替わる。

 

「うわぁ! キャロルちゃん!? ナルくん!?」

 

びっくりした響ちゃんの声。

声の方を見ると目を丸くしてる響ちゃんと未来ちゃん。

 

「テレポートしてきたの?」

「うん」

 

未来ちゃんが聞き、俺が答えた。

 

「お疲れ様。状況は?」

 

キャロルちゃんが黒服のリーダーに聞く。

 

「お疲れ様です。現場では動きなし、周辺住民の避難は完了しました」

「よし。響! 未来! 一鳴! 邸内の蔵に向かうぞ! 黒服は現状維持!」

「わ、わかったよキャロルちゃん!」

 

そんな訳で。

黒服さんたちの敬礼を背中に受け、俺たちは邸内に足を踏み入れた。

 

邸内は広い。

眼の前には武家屋敷のような荘厳な和風邸宅。

なのだが、人が住んでいないからかどこか寒々としている。

 

「問題の土蔵は、敷地の奥だな」

 

キャロルちゃんはズンズン進んでいく。

俺たちはその後ろを着いていく。

壁際を歩いていき、邸内の奥地にたどり着く。

土蔵は高さ5m以上はありそうな大きなものだ。

壁は漆喰で塗られているみたい。

 

「一鳴、開けろ」

 

と、キャロルちゃんに言われたので土蔵の扉を開ける。

ギギギ、と建付けの悪い音がするが無理やり開ける。

中は埃っぽく、雑多なものや段ボール箱が積まれている。

それでも、土蔵の中心にはスペースが開けられている。

魔法陣の書かれているスペースだ。

 

「……ふむ。呼べるな」

 

と、キャロルちゃん。

 

「お前ら、シンフォギアを纏っておけ。これからおの邸宅内に隠れている悪魔を再召喚する」

「そんな事出来るの?」

「電話のリダイヤルのような物だ」

 

そういう訳であった。

多分それ出来るの天才って呼ばれる人たちだけだと思うんですけど?(名推理)

まあ、それはそれとして。

キャロルちゃんに纏えと言われたのだから、纏いましょう。

 

「───── Sudarshan tron」

「Balwisyall nescell gungnir tron」

「Rei shen shou jing rei zizzl」

 

俺と、響ちゃんと未来ちゃんが聖詠を唄う。

俺は赤銅色のスダルシャナを。

響ちゃんは黄色いガングニールを。

未来ちゃんは紫のシェンショウジンを。

 

それぞれ纏う。

 

「二人とも、覚悟はいい?」

「う、うん……!」

「大丈夫……!」

 

俺が問うと、響ちゃんと未来ちゃんが少し緊張気味に答える。

仕方ないね、これが初実戦だもの。

 

「大丈夫、俺とキャロルちゃんが付いてるから」

「うん、ありがとナルくん」

 

胸をドンと叩いて頼れるアピールをする。

二人とも、少しは緊張がほぐれたようだ。

 

「よし、始めるぞ!」

 

キャロルちゃんがそう言うと、指をぱっちんと鳴らす。

瞬間、魔法陣から青白いエネルギーが稲妻のように迸る。

それと同時に魔法陣の中心から光が放たれる。

ひときわ強く輝くと、光とエネルギーが消える。

 

魔法陣の中から放たれる威圧感。

すべてを凍てつかせるような死の気配。

悪魔が呼び出されたようだ。

 

「ワシを再び呼び出したのは貴様らか?」

 

嗄れた、老婆のような声。

その声は、土蔵の高い天井から聞こえてきた。

そいつは胡座をかいて座りながらも、天井に頭がつきそうだ。

座ってなお、5メートル近い大きさだった。

下半身の殆どは凍りついており、肌は腐敗したかのような黒。

長い髪は老人のように白く、瞳は凍てつくように青い。

そして、口元が凍りついている。

 

こいつ、俺の女神転生知識が正しいなら……。

 

「死神、ヘル……!」

「ほう……、ワシを知るものがいたか」

 

死神ヘル。

女神転生においては大体レベル40代に設定されている、北欧神話の死者の国ヘルヘイムの女神である。

その名前の語源は英語の地獄と同じであるとか。

ロキの娘であり、フェンリルやヨルムンガンドとは兄弟である。

そして見た目の通り氷雪系魔法を得意とする。

 

「北欧神話の冥府の女王だと……!」

 

キャロルちゃんが慄く。

 

「そう恐れるな。全盛の力は取り戻せておらぬがよヒヒヒ」

 

ヘルが笑う。

 

「おヌシらはマグネタイトたっぷり詰まってて美味そうじゃ。おヌシらを喰らえば、少しは全盛に近づけるか?」

「来るぞ!」

 

キャロルちゃんが叫ぶ。

 

「ヒヒヒ。全員凍らせてバリバリ喰ろうてやるわ!」

 

ヘルがその手をこちらに伸ばしてきた。

 

 

 

VSヘル【1D10】

 

一鳴【3】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)

響【6】+5(錬金術補正)

未来【5】+5(錬金術補正)

キャロル【10】+20(錬金術補正)

合計【73】

 

ヘル【6】+40(レベル補正)+5(マグネタイト補給)

合計【51】

 

 

 

「一鳴、土蔵ごと燃やせ!!」

 

キャロルちゃんがそう叫びながら錬金術で炎を生み出す。

俺もそれに習い、戦輪を高速回転。

生み出される炎をまき散らす。

 

 

──燎原火・紅──

 

 

「ギャアアア!!!」

 

半身が凍ったヘルには炎はよく効く。

しかも、足が凍ってるので逃げられない。

 

「おのれ、よくもワシの黒絹の如き肌を焼いたな!」

 

と、ヘルが怒り心頭。

土蔵内に吹雪を吹かせる。

 

「響! やれ!」

「うん、キャロルちゃん!」

 

響ちゃんが猛然と、吹雪に突っ込む。

風雪が響ちゃんを止めようとするが、響ちゃんを守るように鏡が飛んできて盾となる。

未来ちゃんのシェンショウジンだ。

 

「響!」

「未来、ありがとう!」

 

響ちゃんが走る。走る。走る。

そして、吹雪を抜ける。

鏡を足場にして、響ちゃんが跳び上がる。

 

「うわあああ!!」

 

響ちゃんが叫びながら、ヘルの横っ面をぶん殴る。

 

「うぐ、これはあの大神の槍か……!」

 

ヘルが頬を抑える。

北欧神話出身だからか、ガングニールを知っていたか。

 

「一鳴、合わせろ!」

「うぃ!」

 

俺とキャロルちゃんが跳ぶ。

目標はヘルの頭。

俺は戦輪を振り降ろし、キャロルちゃんが錬金術で作った超高温カーボンロッドを射出する。

戦輪とカーボンロッドがヘルに衝突。

ヘルの頭が弾け飛ぶ!

 

「無念……」

 

頭が弾けてなお、そう思念を飛ばしたヘル。

だが、ヘルの身体はほどけるように消えていく。

そして、ヘルは完全に消滅した。

魔法陣の中に入る、人の白骨死体。

 

「この人は……」

「最初のオーナー、だろうな。ヘルに生体マグネタイトを奪われてヘルと一体化したのだろう」

 

その白骨死体も、パラパラと砕けて粉となった。

 

「これで終わり?」

「だな」

 

こうして。

割りと新築の武家屋敷に潜む悪魔、死神ヘルの討伐は完了した。

代償として、焼けた蔵は建て替えないといけないけど、まぁ仕方ないネ!

 

 

 

 

 

 

2041年3月。

俺は衛宮邸(偽)に引っ越すことになった。

死神ヘル討伐から色々物件を探してみたんだけど、他にいいところ無かったのよね。

狭かったり、高かったり、心霊現象起きてたり。

 

それなら、安くて広い衛宮邸(偽)で暮らそうと、みんなで話し合って決めたのであった。

引っ越し前にこの家で死んだ人の為に慰霊を兼ねてお祓いはしておいた。

まあ、魔法陣のあった蔵はスダルシャナの炎で浄化されてるから大丈夫だろうしね。

 

そんな訳で。

現在俺は土日はここで暮らしてる訳である。

マリアさんとセレナちゃんもここに引っ越してきた。

それでもまだまだ部屋は余ってるから衛宮邸(偽)ってしゅごい(小並感)

 

そして今日。

中学校を卒業して、孤児院から独り立ちした少女が、家にやって来る。

 

「お、お邪魔します……」

「はーい」

 

クリスちゃんの事であった。

モジモジと恥ずかしそうにカバンを持っている。

 

「カバン持つね。それと……」

「それと?」

「お邪魔します、じゃなくて〜?」

 

クリスちゃんのカバンを持ちながら、俺はクリスちゃんにニヤリと問いかけた。

クリスちゃんは恥ずかしそうに答える。

 

「……た、ただいま」

「おかえりなさい、クリスちゃん。さ、部屋に案内するよ」

「……おう」

 

俺はクリスちゃんの手を取る。

クリスちゃんはぎゅ、と手を握った。

 

 

 





出てきたのが死神ヘルで良かった。
魔王ルシファーが出てくる可能性もあったから、ネ……。


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第117話 胎動する闇、あるいはひびみく大特訓



シンフォギア展見に行きました。
名古屋クッソ遠かったけど、行ってよかった(小並感)
GXの序盤を大迫力で公開してたけど、最高だったゾ。やっぱシンフォギアは歌がいいんだよね。
シンフォギアを好きで良かった、そう思えた展覧会でした。
サンキューシンフォギア、フォーエヴァーシンフォギア。

だからボクも一鳴くんの新曲を考えないといけない(震え声)
シンフォギアは歌が大事だし、ネ……(遠い目)




 

 

 

 

人類の脳波を伝うネットワークに存在する隠し部屋。 

 

壁も床も天井も白くて広い部屋。

壁に飾られた名画。

その中央には黒いソファとガラステーブル。

テーブルに乗ったケーキスタンドに用意されたケーキやサンドイッチ。

バラルの呪詛から逃れた神霊たちの隠れ家。

 

そこでシーザーと銘歌が各々契約した神霊を背後に立たせて紅茶を飲んでいた。

そこに現れたのは、赤いスーツを着て赤いシルクハットを被る男装の麗人。

 

彼女の名前はアグリッパ、だったもの。

高名な錬金術師が、神霊エロヒムに感染し肉体を奪われた成れの果てである。

 

「久しいね、二人とも」

「お久しぶりですエロヒム様。2年ぶりですわね」

 

にこやかにエロヒムに挨拶するのは銘歌。

その銘歌に笑顔を返して、エロヒムはソファに座る。

 

「ああ。もう2年か。本当に久しぶりだね」

「まったくだ。2年も待たせるなど……」

 

口では憤慨しつつも、エロヒムの為に紅茶を淹れるシーザーであった。

 

「すまないねシーザー。ああ、紅茶ありがとう」

「で、今回呼び出した理由は?」

 

シーザーがエロヒムに問う。

エロヒムは口を開いた。

 

「時は来た」

「!?」

「……あら」

 

その言葉に、シーザーは驚き銘歌は微笑んだ。

 

「この2年、中国と南米について調べたが。あれらは我々の計画の邪魔にはならない」

 

エロヒムは紅茶に口をつけた。

 

「中国聖遺物研究所を誑かしたラスプーチンと千年狐狸精にもなれないケモノは、ロマノフ王朝復古を嘯く誇大妄想家で、我らの邪魔は出来まいよ」

 

エロヒムはまた、紅茶に口をつける。

 

「南米を夜で包んで隠した者は、夜の裡から出てこれない。恐れることはない、太母シェム・ハ復活の準備を進めよう」

 

エロヒムはシーザーを見た。

 

「シーザー、メルカバーは直ったかな?」

「ああ、もう直ってる。試験飛行もバッチリさ」

「いいね。実にいい。シーザーとツァバトには忌々しい月の破壊をお願いしたい」

「任せておけ」

 

シーザーはそう言うと笑ってみせた。

 

「フハハ、銘歌が()()()()()()()()()()が教えてくれた『カ・ディンギル』を使うぞ!」

「カ・ディンギル?」

 

シーザーの言葉に疑問を浮かべるエロヒム。

 

「カ・ディンギルは巨大な荷電粒子砲だ。櫻井了子、いやフィーネがかつて二課のエレベーターシャフトに偽造して建造していたものだが、櫻井了子が二課に降ってからは放置されている。だがな、コイツの標準は今も月に向けられているし、エネルギー源さえあれば月を穿てる!」

「素晴らしいな。だがシーザー、エネルギー源はどうする」

「それも、心当たりがある。日本領海内の海底に深淵の竜宮と呼ばれる聖遺物の管理施設がある。そこなら有用なエネルギー源となる聖遺物もあるだろう」

 

シーザーの言葉に満足げに頷くエロヒム。

 

「素晴らしい。素晴らしいよシーザー。月の破壊については君に一任しよう」

「任せておけ。その代わり……」

「ああ、君の復讐も一緒に成すがいい」

「クフフ、感謝するぞエロヒム。待っていろ、ウェルキンゲトリクス……!」

 

シーザーはニヤニヤと嗤いながら思考の中に潜っていく。

 

「あらあらシーザー様はもう心ここにあらずなようで」

 

それを見た銘歌が笑うのであった。

 

「やっと、悲願が叶うのだからね」

 

そう言ってエロヒムはまた言葉を続けた。

 

「銘歌。君には月を壊した後の、太母シェム・ハ復活の儀式を一任する」

「わかりましたわ」

 

銘歌は微笑んで答えた。

 

「2年前の作戦で浄罪した者たち。その内108名を我が信徒としました。太母も誰に宿ろうか悩むというものですわ」

「それはそれは……」

 

エロヒムの目が鋭くなる。

 

「ところで銘歌。君は私たちに隠し事はしてないかな?」

「……なんの、事でしょう?」

 

銘歌は微笑みながら、エロヒムを見た。

冷や汗一つ、垂らさずに。

 

「オキナガタラシヒメ」

「……」

「古代日本の聖母の頭蓋骨を手に入れたそうじゃないか。そして、君は頭蓋に宿らせた神を操る術を持つ。太母を、その力を己のものにするつもりは、無いかな?」

 

エロヒムから殺気が飛ぶ。

それを受け止める銘歌。

 

「スラオシャの如き耳の大きさですわね。ご安心を、あの頭蓋骨は予備プランとして用意したものですわ。わたくしの見つけた巫女たちでは太母を受け止めきれなかった時の予備の予備です」

「……なら、その言葉を信じようかな」

 

エロヒムはそう答えた。

だが、その一瞬後。

 

「でも、裏切ったら殺すからね」

 

ソファに座る銘歌のその後ろ。

見知らぬ男が銘歌の首元に刃物を押し当てていた。

銘歌だけではない。

銘歌に侍るシャダイにも同じように刃物を向ける女。

刃物は両方とも、白銀に輝いている。

 

「……心臓に悪いですわよエロヒム様」

「「「ふふ、すまないね」」」

 

ティーカップを持つアグリッパ、銘歌とシャダイに刃物を向ける男女の三人が同じ声同じタイミングで発言した。

同一自我の複数同時運用。

その、一端であった。

 

「今は君を信じる事にするよ」

「シェム・ハの復活は我らの悲願」

「失敗しないでおくれよ」

 

3人のエロヒムが念を圧す。

銘歌は頷いて答えた。

 

「ええ。わたくしも信者たちを守らねばならぬ身。粉骨砕身、大母復活に臨みますわ」

「頼んだよ」

 

エロヒムは、またアグリッパの肉体分一人に戻った。

 

「私は邪魔者を牽制することにする。ギリシャのオリュンポス十二神にアメリカ。そして、イギリス。無数の私を送り込んでいるが、まだ足りないからね。君たちの支援は出来ないよ」

「構いませんよ」

 

微笑みを崩さず、銘歌が答えた。

 

「え、ああ。構わない。人手がいるなら至天院から借りる」

 

エロヒムに話しかけられ、正気に戻ったシーザーは慌ててそう答えた。

二人がそう答えると、エロヒムは紅茶を一口飲む。

 

「では二人とも、よろしく。次に会うときは、シェム・ハの御前で」

「ああ」

「わかりましたわ」

 

 

 

 

 

 

「これより大特訓を行う!!!」

 

弦十郎さんが声を張り上げる。

雪が積もる二課所有の山中の、小さい広場でのことであった。

弦十郎さんの後ろでは業務用のテントが建てられ、中は臨時の作戦詰め所のように二課オペレーター陣がパソコンとにらめっこしている。

 

「これから3人には、この山の中に召喚されたアルカ・ノイズを倒していってもらう」

 

弦十郎さんの横、フワフワのコートを着込んだキャロルちゃんが指を鳴らす。

山の中にアルカ・ノイズを召喚したらしい。

所々で、木々より大きいアルカ・ノイズが頭を見せている。

 

「一鳴くんはソロで、響くんと未来くんはチームとして撃破数を競ってもらう。勝者には二課の予算内でなんでも願いを叶えよう。敗者には罰ゲームとして、親父とキャロルくんによる特別トレーニングを受けてもらう」

 

弦十郎さんはそう言い切る。

そして、並ぶ俺たちを見てこう言った。

 

「なにか質問は?」

「はい」

 

俺は手をあげた。

 

「なんだ一鳴くん?」

「どうして正月三が日に特訓しないといけないんですか(電話猫感)」

 

現在2043年1月3日。

朝におせちの残り物食べてたら突如呼び出されたのであった。

響ちゃんも未来ちゃんも同じらしかった。

 

「親父が言い出したからだ(目そらし)」

「あっ……(察し)、ふーん……(白目)」

 

そういう事らしかった(震え声)

 

「はいッッッ!」

「なんだ響くん?」

 

勢いよく手を上げたのは響ちゃん。

 

「勝ったら冬休みの宿題手伝ってくれますかッ!?」

「……オレが手取り足取り見てやろう」

 

キャロルちゃんが壮絶な笑みを浮かべてそう言った。

響ちゃんは半泣きになった。

 

「はい」

「なんだ未来くん?」

 

控えめに手を上げたのは未来ちゃんだ。

 

「ついでに響の受験勉強も見てあげてください」

「……この後、対受験特別チームを発足させよう」

 

響ちゃんと未来ちゃんは今年リディアン音楽院に入学予定だ。

何かあったとき二課に集合しやすいし、受験も簡単だしね。

簡単のはず……。

 

ちなみに俺の進学先は……。

 

 

 

一鳴の進学先【1D10】

 

1 リディアン音楽院(今年から共学)

2 リディアン音楽院(今年から共学)

3 リディアン音楽院(今年から共学)

4 リディアン音楽院近くの男子校

5 リディアン音楽院(今年から共学)

6 リディアン音楽院(今年から共学)

7 リディアン音楽院(今年から共学)

8 リディアン音楽院(今年から共学)

9 リディアン音楽院近くの男塾

10 中卒労働者

 

結果【6 リディアン音楽院(今年から共学)】

 

 

 

まあ俺もリディアン音楽院である。

元々二課がシンフォギア装者を見つけるために作った学校なので、二課がある程度の裁量権を持っている。

そんな訳で元々女子校だったリディアン音楽院は今年から共学化、俺もそこに放り込まれることとなった。

 

「質問はもうないな」

 

弦十郎さんは俺たちを見る。

 

「それでは始めるぞ。制限時間は3時間。響くんと未来くんにとっては特にこれまでの特訓の集大成となる。頑張ってくれ」

 

そして、勝負の火蓋は切って落とされた。

 

「始めッッッ!!!」

 

 

 

 

一鳴VSひびみく(1/3)【1D10】

 

一鳴【10】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+3(クリス補正)

累計『32』

 

響【7】+5(錬金術補正)+5(連携補正)

未来【4】+5(錬金術補正)+5(連携補正)

累計『31』

 

 

一鳴VSひびみく(2/3)【1D10】

 

一鳴【2】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+3(クリス補正)

累計『56』

 

響【4】+5(錬金術補正)+5(連携補正)

未来【7】+5(錬金術補正)+5(連携補正)

累計『62』

 

 

一鳴VSひびみく(3/3)【1D10】

 

一鳴【6】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+3(クリス補正)

累計『84』

 

響【9】+5(錬金術補正)+5(連携補正)

未来【9】+5(錬金術補正)+5(連携補正)

累計『100』

 

 

 

 

3時間後、俺たちはまた広場に集まっていた。

アルカ・ノイズ狩りの結果発表の時だ。

 

「一鳴くん84体、響くんと未来くん累計100体。よって響くんと未来くんチームの勝利!」

「やったよ未来!」

「うん!」

 

響ちゃんと未来ちゃんが抱き合って喜び合う。

あら^〜。

じゃない!!

 

「異議あり! 俺はたくさん大型アルカ・ノイズを倒しました! その分のポイントは!?」

「大型アルカ・ノイズも小型アルカ・ノイズも平等に1ポイントだ」

 

俺の異議はキャロルちゃんにより無慈悲にも却下された。

かなしみ……。

 

「大型倒し損……」

「現場では評価するから……」

 

弦十郎さんがそっと慰めてくれた。

やさしみ……。

 

「それでは立花響。勝者のお前にはオレが付きっきりで冬休みの宿題もリディアン音楽院入試対策もやってやろう」

「きょ、きょひけん(震え声)」

「あると思っているのか(龍の眼光)」

 

キャロルちゃんの眼光に響ちゃんは泣いた。

 

「未来〜〜〜!」

 

未来ちゃんに泣きつく響ちゃん。

 

「キャロルちゃん、響のことよろしくね」

「任せておけ」

 

未来ちゃんは無慈悲にも響ちゃんをキャロルちゃんに押し付けた。

 

「未来ぅ!?」

「響はもっとちゃんと勉強しなきゃ駄目だよ。一緒に学校行けないよ?」

「うぅ……ッ」

 

危機感は持っていたのか、それ以上は何も言わない響ちゃんであった。

 

「小日向、お前はどうだ。受験勉強でわからないところがあるならオレが教えてやる」

「ありがとうキャロルちゃん。数学、少し教えてもらっていい?」

「ああ。数学ならエルフナインが詳しい。教え方も上手だろうしな」

「ありがとう!」

 

未来ちゃんとキャロルちゃんは仲がいいなぁ。

未来ちゃん真面目だし、心の距離感バグってないからキャロルちゃんも居心地いいのだろう。

響ちゃん? あの子は大型犬だから(震え声)

 

「俺も声楽が不安なのキャロルちゃん」

「お前はオレと訃堂と特訓だ」

「わァ…………ぁ……」

 

流石の俺も泣きたくなった。

おつらみ……。

 

「そもそもなんで今特訓なんですかァ!?」

 

俺の疑問に答えたのは弦十郎さんだ。

 

「親父いわく、そろそろ敵が動き出しそうな気がするとのことだ」

「勘かい」

 

でも訃堂じいじの勘は当たるのよね……。

 

「敵って、ツァバト?」

「ああ」

 

ツァバト。

エンジェノイズを率いて米国F.I.S.を滅ぼし、ツヴァイウィングのライブを襲撃したシェム・ハの分霊。

この2年は動きがなかったが、とうとう動き出すのか。

 

「だから一鳴くんには親父とキャロルくんの特訓を受けてもらう。力なき人々と、実戦経験のない響くんと未来くんを守るために」

「そう言われちゃ、しょうがないですね」

 

他人を守るには強くならないといけないのだ。

でもいつかは響ちゃんと未来ちゃんに背中を預けたいね。

二人とも、本気でシンフォギア頑張ってるんだし。

 

「なんで地獄の特訓うけまァす……」

「骨は拾ってやるから……」

 

俺は弦十郎さんにそっと肩を叩かれるのであった。

 

 





はい、そんな訳で次回から原作時間軸突入です。
つまりこれまでは序章。これからが第一章なワケダ。
章タイトルは『神蝕穿月学舎 カ・ディンギル』です。
FGO味たっぷり!

そんな訳でこれからも拙作共々よろしくお願いします。


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第1章 神蝕穿月学舎 カ・ディンギル
第118話 リディアン音楽院



新章入ったので初投稿です。
長いことお待たせしました。やっと原作時間軸突入ドスエ。
ここからが本番。
はたして一鳴くんは生き残ることが出来るか?



 

2043年4月6日 日曜日。

19:00。

東京。

 

黄昏を闊歩する極彩色の災害。

認定特異災害ノイズ。

バビロニアの宝物庫から、溢れ落ちた厄災が夕暮れの街を征く。

明かりの絶えない不夜の街並みは地獄と化していた。

逃げ惑う人々はノイズに追いつかれると灰と変えられていく。

そして。

また一人、少女がノイズの魔手に落ちようとしていた。

 

「誰か、助けて……ッ!」

 

少女の叫びを聞き入れる人はおらず。

ノイズが少女に触れようとしていた。

 

だが、待て!

夜よ聞くがいい。

 

少女に触れようとしたノイズの頭上から黄色の流星が堕ちてくる。

その流星が振り下ろした拳が、ノイズを砕く。

 

「……え?」

 

眼の前の光景が信じられない少女が、目を見開く。

ノイズを砕いた流星が、自分より少し年上の少女であったからだ。

 

「大丈夫?」

 

その、流星の少女が立ち上がり手を伸ばす。

茶色の髪は少し癖があってフワフワとしている。

黄色の流星と思えたのは、黄色を基調としたメカニカルな装甲を身に着けているから。

その黄色の少女の顔が優しく笑いかけて手を伸ばしてくれていた。

彼女の名前は立花響。

ガングニールのシンフォギア装者である。

 

「ひゃ、ひゃい……」

 

少女は、思わず頬を赤らめた。

顔がいいに助けられた上に手を差し伸べられたらこうもなる。

少女ががっちりと響の手を取る。

力強い握りである。

絶対離してなるものか、という執念であった。

響はそれを気にせず、少女を立たせた。

 

「避難所、わかる?」

「い、いえ!」

「えーっと、友里さんこの近くの避難所は……」

 

響が、オペレーターの友里と通信する。

その隙を狙い、飛行型ノイズの群れが突進!

響と少女を狙う。

だが、そのノイズは幾条もの紫色の光線に貫かれて灰になる。

 

「未来!」

「油断大敵だよ響」

 

飛行型ノイズを灰にしたのは神獣鏡のシンフォギア装者、小日向未来だ。

小さな鏡をいくつか出し、そこから光線を出して飛行型ノイズを迎撃したのだった。

 

「それと、避難所はもういいかな」

「え?」

「ナルくんが来たから」

 

未来の言葉がそう言うと、空から火球が落ちてくる。

その火球の中心には回転する戦輪。

戦輪が地を征くノイズの群れに着弾した途端、戦輪が爆発。

熱と炎でノイズを灰燼にしていく。

その灼熱地獄の如き攻撃から運よく逃れたノイズも居たが、飛来する小型の戦輪に焼き切られて散った。

 

「ミッションコンプリートでーい。お疲れ様」

 

響と未来、そして少女の側に着地する赤銅色のシンフォギア装者。

スダルシャナの適合者であり、我らが主人公。

ハーレム大王、渡一鳴である。

 

「……その子」

「うん……」

 

一鳴と未来は、響にひしと抱きつく少女を見て顔を合わせる。

そして、響に向かって口を揃えてこう言った。

 

「「初恋泥棒」」

「なんでッ!?」

 

響が抗議するが二人は無視した。

 

「ナルくん残存ノイズは?」

「撃ち漏らしゼロ。さっさと帰りましょ明日は入学式よ」

「うん、そうだね」

「あの、二人とも?」

 

響が声をかける。

 

「この後二課の人たち来るから、その子預けなよ? 初恋泥棒さん」

「響の節操なし。スケベ。浮気者。初恋泥棒」

「待って未来。未来ぅ! 話を聞いてぇ!!」

 

なにはともあれ。

ノイズは殲滅され、東京の平和は一時守られたのであった。

 

 

 

 

 

 

2043年4月7日 月曜日。

9:00。

東京。リディアン音楽院。

 

本日はリディアン音楽院の入学式である。

リディアン音楽院、本来なら女子高で俺は入れないのだが、「シンフォギア装者はリディアン入れといた方が便利でしょ」と訃堂じいじの鶴の一声でリディアンは共学となり俺もリディアン生となった。

 

そんな訳で、ドーモ、渡一鳴です。

グレーのブレザーに身を包んでリディアン音楽院の体育館で入学式なうです。

周りを見ても男子が少ない少ない。

まあ共学になって間もないからね、仕方ないね。

そんな、男子たちにリディアン女子たちは……。

 

 

 

リディアン女子生徒たちの男子への反応【1D10】

 

1 男子ちょっと怖いですわ……

2 男も女も人ですよ

3 年頃だから男に興味あり

4 男子ちょっと怖いですわ……

5 男も女も人ですよ

6 年頃だから男に興味あり

7 男子ちょっと怖いですわ……

8 男も女も人ですよ

9 年頃だから男に興味あり

10 リディアン女子はケダモノの代名詞

 

結果【1 男子ちょっと怖いですわ……】

 

 

 

うーん、リディアン女子たちは男子が苦手みたい。

男は狼だからね、仕方ないね(悲哀)

女子たちへの距離感は気をつけていこう。

 

そんな事を考えていたら入学式終わったでござるの巻。

そのまま人波に流されて自分の教室に。

 

傾斜が物凄い教室である。

大学の大教室がこんな感じ……、いや傾斜はここまででもないような(震え声)

それはそれとして自分の席に座る。

窓際一番後ろ。大当たりの席だ!

そんな俺の隣の席の人物は……。

 

 

 

一鳴くんの隣の席の人物【1D6】

 

1 響ちゃん!

2 未来ちゃん!

3 吉田ァ!(中学の同級生)

4 安藤創世

5 板場弓美

6 寺島詩織

 

結果【2 未来ちゃん!】

 

 

 

隣の席は未来ちゃんだ。

 

「やっほ未来ちゃん」

「やっほナルくん」

 

気さくに挨拶する俺と未来ちゃん。

教室が一瞬静まり返る。

クラスで数少ない男である俺と未来ちゃんがかおみしりなのが気になるらしい。

 

「みんなナルくんが気になるみたい」

「未来ちゃんの事も気になってるんじゃなーい?」

 

そんな事を言い合ってクスクス笑い合う。

ちなみに響ちゃんは廊下側の一番後ろ。

会話に混じりたそうにこっち見てるけど、もうすぐ先生来るので席を離れられないというジレンマに悩まされてる顔だ。

その響ちゃんの隣の席はツインテールの女の子。

多分板場弓美ちゃんやね。

響ちゃんに肘をつついて色々聞いてる。

会話は聞き取れないけど、知り合いなのかとかそんな内容やろね。

 

とまあ、そんな風に過ごしてると教師が入ってくる。

アニメで響ちゃんをよく叱っている金髪のあの人である。

あの人が担任なのね。

担当教科は音楽と情報。

というかリディアンの教師は全員音楽出来る人なので、全員音楽担当なのだとか。

さすが音楽院。

そう言えば、リディアン音楽院は元々シンフォギア装者を見つけるために二課が作った学校である。

もしかしたら、何人か二課のエージェントが在校してるかも。

というかしてるよな。

シンフォギア装者3人も入学してるんだし。

 

「渡くん!!」

「ぴゃいッ!?」

 

担任教師にいきなり名前を呼ばれて奇声を発する俺。

 

「ボーッとしてましたが、話を聞いていましたかッ!?」

「いいえ! 聞いてませんでした申し訳ありません!」

 

こういう時は知ったかぶりせずちゃんと謝ったほうがいいのだ。

素直が一番。前世で大人になって学んだことだ。

 

「寝不足なのかしら?」

「はい。昨日緊張してて(大嘘)」

 

本当はノイズ退治が終わった後にマリアさんとセレナちゃんとおせっせしていたのだが(震え声)

男子中学生の一鳴は今日で食べ納めなのね、とマリアさんが言い出したから……。

素直が一番と言ったそばから嘘ついてる(呆れ)

 

「ナルくんのえっち」

 

隣の未来ちゃんにはお見通しみたいね(白目)

 

「緊張する気持ちはわかるけど、睡眠時間はきちんと長めに取るように。寝る子は育つのよ」

「はいッ」

「今は授業の選択方法についての説明よ。下手したら単位足りなくて落第なんてこともありえるんだから真面目に聞きなさい」

 

リディアン、大学みたいに自分で授業を選ぶ形式のようだ。

もっとも法定科目である現代文古典数学等などははじめから時間割に入っているのだが。

あとは音楽関係の授業を選択するだけである。

まあその音楽関係の授業も総合コースとタレントコースでは選ぶものも違うし、多種多様だ。

 

管楽器弦楽器声楽ボーカロイド。

どれを学ぶかで多種多様な組み合わせがある。

それに加えてタレントコースでは芸能界の勢力図を学んだり、海外進出を目標に外国語を学んだり。

大変である。

ちなみに翼さんも在学中で、タレントコースらしい。

仕事が忙しくてあんまり授業出てないらしいけど。

この前ネ○リーグのファイブボンバーでやらかしてたけど。

……駄目では?

 

取り敢えず俺は声楽取ろうかな。

シンフォギア装者なので歌を極めると強くなれるのだ。

 

 

 

ちなみに一鳴くんの歌唱力【1D10】

(数が少ないほどダメ、多いほどスゴイ)

 

一鳴くん【4】+3(装者特訓補正)

ついでに響ちゃん【5】+3(装者特訓補正)

ついでに未来ちゃん【4】+3(装者特訓補正)

 

 

 

俺も響ちゃんも未来ちゃんもシンフォギア装者としてトレーニングを受けてるので歌は上手い。

響ちゃんが頭一つ抜けてるかな。

これで下手だったらシンフォギア装者降ろされるレベルである。

セーフセーフ。

 

とまあ、そんなこんなで授業というか入学して初めての説明会は終了。

初日はお昼で終わり。

あとは自由なのだが、なんと食堂が開放されておりお昼ご飯を食べられるのだ。

しかもビュッフェ。

 

「未来ちゃんお昼食べよ。ビュッフェですよビュッフェ!」

「天海春香ちゃん?」

 

春香ちゃんはリディアンの卒業生である。

あとインベルの彼女……いやそれは中の人が未来ちゃんと同じ春香ちゃんの話である(ゼノグラシア感)

 

「未来ー! ナルくん! お昼いこ! ビュッフェだよビュッフェ!」

「それもう俺が言ったゾ」

「天丼だね」

「天丼だけじゃなくてカツ丼もあるよきっと!」

 

果たしてビュッフェに天丼とカツ丼はあるのか……。

 

「待った待った!」

 

と、響ちゃんの隣の席の板場弓美。

 

「私も一緒に行くわよ!」

「弓美ちゃんも?」

 

響ちゃんがそう聞く。

 

「渡くんと仲良しなら面白ゲフン、色々な話を聞かせてよ!」

 

ちくしょう俺たちから色恋の匂いを嗅ぎ取って首を突っ込んできやがった。

 

「あの……」

 

と、俺の前の席の人が振り返って声をかけてきた。

金髪の人。

 

「私、寺島詩織といいます。隣は安藤創世。私たちもご一緒しても宜しいですか?」

「安藤創世だよ、よろしく。クラスメイト同士仲良くしない?」

「うん、いいよ!」

 

響ちゃん快諾!

 

「私もいいよ」

 

未来ちゃん快諾!

残る俺に視線が注がれる。

 

「ええよ」

 

俺は快諾した。

同調圧力に屈したともいう。

まあ、断る理由無いですし。

 

「じゃあお昼行こう!」

 

響ちゃんがそう言った。

そういうことになった。

 

 

 





いっぱいダイス振って楽しかった(小並感)


次回、タノシイお食事タイムな?


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第119話 女3人よれば姦しいし、5人いたらもうスゴイ


新年あけましておめでとうございます(大遅刻)

年末年始はのんびり過ごしていたので(震え声)
本年も作者と拙作をよろしくお願いします。
今年の目標として、原作時間軸でいう無印とGを終わらせたいです。
早く一鳴くんを平行世界に送り込みたいんじゃ!

それはそれとして。
みんなにお年玉をあげよう(親戚のおじさん感)
高校生一鳴くんをデザインしたので見てください。


【挿絵表示】


Picrewの「おにいさんメーカー」という奴で作りました。
こんなのがあるなんてネットは広大だわ(二度目)
コンセプトは「エッチなお兄さん」です。
これにはマリアさんもニッコリ。セレナちゃんも大満足。

そんな訳で今年もよろしくお願いします。


 

 

リディアン音楽院の食堂は広い。

窓から太陽光が入って明るく、席も多いのでお高めのレストランのよう。

食事もプロが作ってるので美味しいし、ビュッフェスタイルなので好きなものを好きなだけ食べられる。

そして生徒は無料で食べられる。

天国かな?

まあ、リディアンは政財界からの寄付金を募っているので、そのお金だろう。

ありがとう暗黒メガコーポや闇カネモチの人!

 

「おースゴイ!」

「スゴイねぇ」

 

と、響ちゃんと俺は言い合う。

 

「ほら、ボサッとしない。席取りに行くわよ!」

 

と、板場さんが俺と響ちゃんの背中を押す。

食堂はそれなりに混んでいる。

お昼時だものねぇ。

でも、なんとか俺たち6人が座れるテーブル席を見つけることができた。

 

大きな長テーブルの片面に三人掛け。

向きとしては、

俺、響ちゃん、未来ちゃん。

板場さん、寺島さん、安藤さん。

 

「なんか、あれよね」

 

と、席順を見た板場さんが一言。

 

「合コンみたいね」

「男が足りない。足りなくない?」

 

流石に男が俺一人で合コン感は出ないゾ……。

 

「バカね、リディアンは元々女子校よ。カッコいい女の子が男役やるのよ」

 

と、自信満々に言う板場さん。

でも、それ聞いたことあるな。

女子校では中性的な女の子がモテるとかなんとか。

 

「この場じゃ立花さんは確定ね」

「ええっ!?」

 

と、板場さんに男役認定される響ちゃん。

 

「私が男の子役なのッ!?」

「はいはいアホなこと言ってないでご飯取りに行こ」

 

抗議する響ちゃんを抑えつつ、未来ちゃんが提案。

これはあれじゃな?

響ちゃんが男役認定されたら、他の女の子に狙われる可能性が高まるからそれを阻止しようとする策略ね。

俺には理解(わかる)(一人の武道家感)

 

「それもそうですね」

「お腹空いたし」

 

そんな未来ちゃんに同調する寺島さんと安藤さん。

 

「んじゃ、俺は席番しとくわ」

 

と、俺。

誰も居ないと、間違って席に座る子が出てくるかもしれないからね。気配りの心である。

 

「じゃお願いね!」

 

と、板場さん。

5人はご飯を取りに行った。

 

「はふぅ……」

 

俺は一人ため息をついた。

女子高生のパワーに軽く疲れていたともいう。

スゴイね女子高生、ここに来るまでの会話が濃密で大変だったぞ。

 

それにしても。

辺りを見るとチラホラと男子の姿。

だが周りに女子の姿はなく、隅っこで一人食事してたり、男子で固まったり。

そして、少し離れてそんな男子をチラチラ見る女子たち。

うーん、リディアン音楽院の生徒は少し男子恐怖症気味だし仲を深めるのは時間がかかりそうね。

 

そんな中で女の子連れで食堂に来た俺の異質さよ。

前世プラス今生で女の子と関わりまくりな成果というべきか、俺はコミュニケーションに自信ニキである。

いや、板場さんのコミュ力が高いのも要因の一つか。

なんてことを考えてたら、人影が近付いてくる。

 

「よ、よぉ一鳴」

 

クリスちゃんのエントリーであった。

リディアンの制服に身を包んでおり、そのバストは豊満であった。眼福。

 

「クリスちゃんこんにちは。……学校じゃ雪音先輩だったね」

「別に、お前ならクリスでいいよ。お昼か?」

「クラスメイトとね。クリスちゃんは?」

「あたしもそうだよ」

 

よくよく見れば、クリスちゃんの後方から様子を窺う生徒たちが数名。

あの子達がクラスメイトみたい。

 

「クリスちゃん、クラスの子と仲良くしてるのね……」

 

俺は一筋の涙を流した。

良かった、リディアンに馴染んでるみたいで。

 

「泣くなよ! あたし様はこう見えて優等生なんだよ」

「知ってます。クリスちゃんの良いところは沢山、ね」

 

と、朗らかに会話してるとクリスちゃんのクラスメイトが近寄ってくる。

 

「クリスさん、この新入生の子とは知り合いなの?」

「ま、まあちょっとな?」

 

あら。

クリスちゃん、俺と付き合ってることは秘密にしたいみたい。

恥ずかしいものねぇ。

でも学校でクリスちゃん呼びを許した時点でガードはモロモロだぞぅ。

 

「ほ、ほら。佃煮! 佃煮取りに行こう。な? な!」

「誤魔化し方下手すぎじゃない?」

 

女子高生が佃煮に釣られるわけないでしょクリスちゃん。

 

「むぅ、佃煮があるならここは引くかな!」

「えぇ……」

 

それでいいのか女子高生……(困惑)

 

「じゃあな一鳴!」

 

と、クラスメイトを連れて去っていくクリスちゃん。

 

「うん、また後で」

 

俺とクリスちゃんは同棲してるので、家で会えるからこう発言したのだが……。

この俺の発言に引っ掛かったクリスちゃんのクラスメイト集団。

 

「後で、後でっていつ!?」

「後でまた会うの? 会う用事あるの?」

「デートか? デートなんか、おん?」

 

あぁ、クリスちゃんが詰め寄られている……。

 

「いいだろ、それよりほら佃煮だぞ?」

「佃煮よりクリスさんのデートだよ!」

「え!? えーと、あ! 筑前煮! 筑前煮もあるぞ!」

「ヌゥー! 筑前煮!」

「今どきのJKは筑前煮には目が無いのよ」

 

今どきのJKは筑前煮には目が無い。

はじめて知った……。無知の知である。

 

「あの美少女とデートなのかしら!?」

 

と、ひょっこり帰ってきた板場さん。

 

「そんなことより筑前煮は取ってきたの?」

「筑前煮よりクラスメイトの女性関係よ!」

 

なんてこった筑前煮が通用しない!

板場さんが顔を寄せる。

気分はマル暴の取り調べである。

コワイ!

 

「ナルくんはあの子、クリスと付き合ってるんだよ」

 

と、板場さんの耳元で囁いたのは未来ちゃんであった。

 

「やっぱり。私がアニメで磨いた恋愛センスは正しかったみたいね」

 

うんうん、と一人うなずく板場さん。

というか5人まとめて帰ってきたみたい。

 

「みんな内緒にしててねぇ?」

「いいよ、その代わり色々聞かせてね」

 

と、俺の言葉にそう返したのは安藤さんであった。

 

「お、お手柔らかに(震え声)」

「えー、どうしようかな」

 

と、質問に悩む安藤さんは席に座る。

そんな安藤さんの横に座った寺島さんが手を挙げて。

 

「では、私から」

 

と、言った。

 

「彼女は何人いるんですか?」

「ちょっとその質問おかしくない?(震え声)」

 

どうして複数いる前提なんですか?(現場猫)

 

「なんというか、複数の女性と関係持ってそうな雰囲気でしたので……」

 

勘であったか。

 

「ナルくん今カノジョ5人以上いるよね」

 

と、ご飯大盛りにして帰ってきた響ちゃん。

おのれ裏切ったな!

 

「は、5人? どういうことよ!」

 

と、板場さんに詰め寄られる俺。

 

「あ、俺筑前煮取ってこなきゃ(使命感)」

 

俺は逃げだした。

 

 

 

一鳴くんはハーレムを秘密にできたかな?【1D10】

 

1 駄目です(無慈悲)

2 駄目です(無慈悲)

3 一鳴くん渾身の言いくるめ(ダイス判定)

4 駄目です(無慈悲)

5 駄目です(無慈悲)

6 一鳴くん渾身の言いくるめ(ダイス判定)

7 駄目です(無慈悲)

8 駄目です(無慈悲)

9 一鳴くん渾身の言いくるめ(ダイス判定)

10 学園中に拡散される(犯人は食堂のおばちゃん)

 

結果【6 一鳴くん渾身の言いくるめ】

 

 

 

しかし、俺は板場さん寺島さん安藤さんのトライアングルフォーメーションに捕らえられた。 

 

「それで逃げられるわけ無いでしょ!」

「ねぇ、こんな言葉は知ってる? 『A secret makes a woman woman.(女は秘密を着飾って美しくなる)』」

「アンタ男じゃん!!」

 

 

 

一鳴VSトライアングルフォーメーション【1D10】

 

一鳴くん【1】

 

板場さん【2】

寺島さん【7】

安藤さん【4】

合計 【13】

 

 

 

「3人に敵う訳ないでしょ!(迫真)」

「馬鹿野郎お前俺は勝つぞ(装者としての意地)」

「未来、筑前煮美味しいよ!」

「響、佃煮も美味しいよ。あーん」

 

という激闘があり。

 

「ねぇ、こんな言葉は知ってる? 『乱数は敵、固定値は大正義』(満身創痍)」

 

俺は洗いざらい人間関係を吐かされた。

具体的には彼女がいっぱいいること。

 

 

 

3人の反応【1D10】

 

1 うわぁ……(ドン引き)

2 えぇ……(引きつつも興味はある)

3 アニメみたい!(興味津々)

4 うわぁ……(ドン引き)

5 えぇ……(引きつつも興味はある)

6 アニメみたい!(興味津々)

7 うわぁ……(ドン引き)

8 えぇ……(引きつつも興味はある)

9 アニメみたい!(興味津々)

10 ハーレム! ということはテクニシャン?(好感度アップ)

 

板場さん【10 ハーレム! ということはテクニシャン?(好感度アップ)】

寺島さん【7 うわぁ……(ドン引き)】

安藤さん【9 アニメみたい!(興味津々)】

 

 

 

「は、はーれむ。実在してたのね」

 

と板場さん。

少し興奮しているみたい。

 

「女の子をいっぱい侍らせてる。ということは、女の子を満足させるテクニックをお持ちのテクニシャンということね!」

「俺の特性は『かたやぶり』だゾ(大嘘)」

「メロメロボディでしょ?(指摘)」

 

未来ちゃん、黙って(震え声)

 

「その……。流石に不実では……」

 

と、控えめに言う寺島さん。

倫理観がしっかりしておられる。

 

「俺もそう思うが、最初からいきなり3人の彼女が出来ると、もう、ネ……(貞操ガタガタ感)」

「3人もそれ以上も変わらないってことですか?」

「うん。全員幸せにすればいいから(不退転)」

 

俺の決意にジト目の寺島さん。

 

「それが出来る男性はそうそう居ませんよ」

「だからといって、好きだと言ってくれた女の子切り捨てたくはないし」

「それはそうかもですが……」

「まあまあ」

 

と、寺島さんを宥める安藤さん。

 

「それにしてもハーレムかあ。あんまり見ないけど、アニメとか漫画みたいだよね」

「まあ、現実では早々無理よ」

 

と、俺は安藤さんにそう言う。

 

「でも渡くんは出来てるじゃん」

「日頃の努力の成果だゾ(自慢げ)」

 

前世と今生から続くハーレム維持能力の賜物であった。

なんでそんな能力が今生でも必要になるんだよ!(半ギレ)

 

「例えば何やってるの?」

「え、ナニ?(難聴)」

 

俺は板場さんの言葉を無視して安藤さんに話す。

 

「毎日話をする。少しでもいいから二人だけの時間を取る。嫌がることはしない」

「なんか、普通だね」

「それを続けられるかどうかで決まってくるのよね」

 

上に挙げた事だけでも毎日続けるなら大変。

更に言うと、他にももっとやってることあるしね。

キスするとか。抱きしめるとか。エッチするとか。

 

「ハーレムマンは持続力、ね!」

「デビルマンの歌みたいに言うの止めろ板場ァ!」

 

もう板場さんの事は呼び捨てでいいや(粗雑感)

 

「なによぉハーレムヤリチン野郎の癖に!」

「ヤリチンは止めろ。止めてください(悲痛な叫び)」

 

そんなこんなで。

俺にも友達が出来ました。

出来ました!(強弁)

 

 

 

 

 

 

「あ、渡くん」

「板場さん、」

 

と、食事の後。

玄関へ続く廊下を歩いている時。

解散しようか、という時に板場さんに話し掛けられた。

他の子たちは話をしていて、ちょうど二人で話すタイミングになったのだ。

 

「私のことは弓美で良いわよ。その代わり一鳴くんって呼ぶから」

「いいのぉ? いいのぉ?」

 

女の子を下の名前で呼ぶのは気恥ずかしい。

というか人を下の名前で呼ぶのが幾つになっても気恥ずかしい。

なんでだろう、一気になれなれしい感じがするからかしら。

 

「いいわよぉ。なんか、アンタとは気が合いそうだし」

「オタクトーク盛り上がったからね」

 

アニメのキャベツの作画であんなに盛り上がれるとは思わなかった。

 

「そういうことよ。んじゃ、これからもよろしくね一鳴くん!」

「ん、よろしく。弓美さん」

 

そういうことになった。





次回はバトル回。
一気に物語を動かす予定。
動かしたい(願望)


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第120話 招かれざる天使は突然に(前編)


お久しぶりです(震え声)
ちょっと南米でORTと死闘を繰り広げたり、トラロックちゃんが宝具5になってりしてたらこんな時期よ(悲哀)

投稿頻度、あげなきゃやねぇ……。


 

 

さて。

リディアンの入学式を無事終えた俺。

食堂で友だちが出来たあと(大本営発表)、真っ直ぐ帰ったのだが……。

 

「ただいまー」

「あら一鳴おかえりなさい」

 

出迎えてくれたのはマリアさん。

スーツを着こなしている。

 

「ただいま帰りましたマリアさん」

「あ、マリアさん。これからお仕事ですか?」

 

春先から一緒に暮らしている響ちゃんと未来ちゃんもマリアさんに挨拶する。

うん、三人一緒に帰ってきたのよね。

 

「二人もおかえり。そうなの、これから仕事なのよ」

「……ツヴァイウィングと海で漁、でしたね」

 

緒川さんが変な仕事を取ってきて、なぜか翼さんと奏さんと一緒に魚を捕りに行くらしい。

なんで?

 

「私が聞きたいわ……」

 

マリアさんはゲッソリしていた。

マリアさんがツヴァイウィングのマネージャーになって2年。

生放送でツヴァイウィングに密着、みたいなロケに出たときに『超美人マネージャー』として有名になったマリアさんは、ツヴァイウィングと一緒に無茶振りされていた。

なんで?

 

「緒川さん曰く、知名度はもうあるからこれからは好感度を上げていくって」

「それで漁……」

「二人が努力する姿に人々は好感をおぼえるんですって。ロケは明日の四時から。これから現地に行くわ……」

「がんばって、マリアさん」

 

俺はマリアさんにキスをした。

 

「うん……。がんばる。明後日の朝には帰るから。それじゃあ、行ってきます」

 

そう言ってマリアさんは仕事に向かった。

 

「マリアさん、大変そうだね」

「でもなんやかんやで仕事が楽しいみたい」

 

ツヴァイウィングのライブが成功したりすると、マリアさんも喜んでいるのだ。

いい傾向だと思う(小並感)

 

「おかえりなさい一鳴さん」

 

と、奥のリビングから出てきたのは、セレナちゃん。

髪をポニーテールにし、白のスプリングニットにピンクのロングスカートを着ている。かわいい。

 

「ただいまセレナちゃん」

 

俺はセレナちゃんとハグする。

そのバストは豊満であった。

 

「響さんと未来さんもおかえりなさい」

「ただいまセレナちゃん」

「ただいま帰りました」

 

響ちゃんと未来ちゃんもそう返す。

セレナちゃんは今年、リディアン音楽院を卒業した。

そんなセレナちゃんの卒業後の進路は───

 

 

 

セレナちゃんの進路【1D10】

 

1 音楽大学入学(入学金は一鳴持ち)

2 小滝興産の事務員(マリアさんと同じ職場)

3 孤児院の職員(ナスターシャの部下)

4 ユーチューバー(零細)

5 音楽大学入学(入学金は一鳴持ち)

6 小滝興産の事務員(マリアさんと同じ職場)

7 孤児院の職員(ナスターシャの部下)

8 ユーチューバー(大人気)

9 ユーチューバー(零細)

10 熱烈歓迎

 

結果【3 孤児院の職員(ナスターシャの部下)】

 

 

 

セレナちゃんは孤児院の職員になった。

ナスターシャさんの直属の部下としてこき使われているらしい。

まあ、付き合いも長いから気を使わなくていいだろう。

それと、聖遺物の研究家としてのナスターシャ教授の助手もしているとか。

ちなみに今日はお休みらしい。

孤児院の職員は休みが不定期なのだ。

 

「おゆはん、これから作りますからゆっくりしててくださいね」

 

そう言うとセレナちゃんは俺にキスしてまた、リビングに消えた。

この家、リビングと台所が一体化してるのだ。

 

「相変わらずお熱いね」

 

と、響ちゃんが顔を赤くしながら言う。

 

「マリアさんといいセレナさんといい、ナルくんいつか刺されるよ」

「今更だし……ふたりとも大好きだから無問題(もーまんたい)だし……(震え声)」

 

俺は未来ちゃんにそう返した。

と、スマホが震える。

宛名は、弦十郎さんか。

 

「もしもし一鳴です」

「俺だ、弦十郎だ。響くんと未来くんも一緒だな」

「ええ」

「エンジェノイズが出現した」

「エンジェノイズが……ッ!?」

 

弦十郎さんの言葉に俺は驚いた。

エンジェノイズ、2年前にツヴァイウィングのライブ会場を襲撃したツァバトの使役していたノイズ。

全体が白く、白鳥のような翼を生やした異形のノイズ。

この2年、全く姿を表さなかったのに、今になって現れたのはなぜだ……?

 

「3人で現場に向かいます」

「そこにヘリを向かわせる。頼んだぞ」

 

俺は電話を切る。

響ちゃんと未来ちゃんがこちらを見ていた。

 

「二人とも、エンジェノイズが出現した」

「エンジェノイズッ!?」

「ライブ会場を襲撃した、あの白いノイズだよね……?」

 

響ちゃんが驚き、未来ちゃんがそう聞く。

 

「そうだよ」

「あの時の、ノイズ……!」

「二人とも、覚悟はいいか」

 

俺はそう問う。

 

「……うん! 大丈夫!」

「私も。一緒に戦う!」

「なら善し。ヘリが来るから、庭に行こう」

 

と、庭に行こうとしたら。

 

「お仕事ですか?」

 

と、セレナちゃんが戻ってきた。

 

「うん。もしかしたら遅くなるかも」

「そうですか……」

「先にクリスちゃんと食べといて」

「いえ! 私もクリスさんも待ってますから!」

 

セレナちゃんは笑って続けた。

 

「3人とも、頑張ってください!!」

「はいっ!」

「行ってきますっ!」

 

響ちゃんと未来ちゃんが、セレナちゃんにそう返したのだった。

 

 

 

 

 

エンジェノイズ。

先程挙げた通り、白い体色に白鳥のような翼を生やしたノイズの亜種だ。

翼から羽根をむしり、それを人間に埋め込むことでその人間をエンジェノイズに置換させる。

だが、そうやって人間からエンジェノイズになった個体は位相差障壁を展開できず、壁を通り抜けることができない。

また、オリジナルのエンジェノイズ自体も位相差障壁が弱く、厚さ2m以上の壁は通り抜ける事ができない。

 

エンジェノイズの戦闘能力は高い。

これは、通常のノイズと違い炭素変換機能をオミットし、位相差障壁を弱める事で、個々の戦闘能力を高めているのだと考えられる。

また、エンジェノイズたちは融合して、より強力な個体となることが確認されている。

 

現在確認されているのは、通常個体、通常個体が融合した強化個体、人に近い主天使個体、3対の翼の生えた女性型の熾天使個体、そして人型とは程遠い異形の形態の個体である。

 

そして、今回街を襲撃してきたエンジェノイズの規模は……。

 

 

 

エンジェノイズの規模【1D10】

(数が大きいほど、強力な個体が居る)

 

結果【3】

 

 

 

エンジェノイズの規模としては小規模。

30体ほどの通常個体と、強化個体が数体ほど。

だが、エンジェノイズに炭素変換機能はない。

故に人を灰に変えて対消滅することもない。

ただ、人の如き暴力によって人々を殺戮していく。

だから、俺たちで止めないといけないのだ。

 

 

 

「───── Sudarshan tron」

「Balwisyall nescell gungnir tron」

「Rei shen shou jing rei zizzl」

 

ヘリから飛び降りた俺たちは聖詠を唄う。

シンフォギア装着。

エンジェノイズが暴れる地点に落下していく。

そこは、市街地から外れた郊外だ。

しかしそれでも、人は居るのだ。

 

「行くよ、ふたりとも!」

「うん!」

「わかった!」

 

 

 

一鳴たちVSエンジェノイズ【1D10】

 

一鳴【7】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+3(クリス補正)

響【1】+5(錬金術補正)+3(未来補正)

未来【5】+5(錬金術補正)+3(響補正)

合計、51。

 

エンジェノイズ【10】+30(数補正)

 

 

 

俺の戦輪と未来ちゃんの光線が、エンジェノイズたちを破壊していく。

そして、戦輪と光線の間を縫うように地に降り立った響ちゃんが、エンジェノイズの強化個体を殴り倒す。

うん、響ちゃんも未来ちゃんもちゃんと戦えてる。

 

「これで、最後ぉッ!」

 

最後に残った強化個体を、響ちゃんの拳が貫き倒す。

強化個体は灰となり崩れて消えた。

 

「エンジェノイズの反応はそれで最後よ」

 

と、オペレーターの友里さんが教えてくれた。

 

「みんな、お疲れ様」

「お疲れ様でーす」

 

とりあえず、おゆはんには十分間に合いそうね。

セレナちゃんの手料理、楽しみだわね。

最近はクリスちゃんも台所に立つようになったし、この前は卵焼きを作ってくれた。

形ぐちゃぐちゃだったけど。

でも、その気持ちが嬉しいのよ。

ゾロが泥だらけのおにぎりを美味いと言ったようなものだ。

 

「……待って!」

 

と、友里さんから鋭い声が飛ぶ。

 

「そこから1キロ離れた場所に、さらなるエンジェノイズの反応……は?」

「どうしました、友里さん?」

「さらに2箇所、エンジェノイズの反応よ。合計3箇所!」

 

 

 

更に増えた3箇所のエンジェノイズの規模【1D10】

(数が大きいほど、強力な個体が居る)

 

ポイントA【7】

ポイントB【4】

ポイントC【9】

 

 

 

「一鳴くん、ポイントAで異形のエンジェノイズを確認、これは2年前に確認された異形の個体。伝承にある智天使よ」

 

智天使。

正面に人の顔、右側に獅子、左側に牛、そして後方に鷲の顔を持つ、偉業の天使。

そして、その姿に酷似したエンジェノイズがポイントAにいるのだという。

 

「それと、ポイントCに熾天使個体よ」

 

熾天使個体。

エンジェノイズの中でも特級の個体。

その姿はシェム・ハ・メフォラシュを模しており、背中からは3対の翼を生やしたエンジェノイズである。

 

「ツァバトですか?」

「……ではないと思うわ。顔に表情がなくてマネキンみたいだから。恐らくは違うと思う」

「だが、その強さは脅威だ」

 

弦十郎さんが危惧する。

 

「一鳴くん、今回3箇所に反応が現れたのは、恐らくシンフォギア装者個人の戦力を判断するためだろう」

 

つまり敵は俺たちを試しているのだ。

あえて3箇所の戦力をバラけさせ、誰がどこに向かうのかを見ているのだ。

誰が一番強いのか。

誰が一番弱いのか。

 

「では、3人まとめて一つのエリアの対処ですか?」

 

と未来ちゃんが聞く。

 

「いや、それでは他2箇所の人命救助が間に合わない」

「そんなの、駄目ですよッ!」

「ああ、無論だ」

 

人を助けられないと知り、響ちゃんが反対する。

では、誰がどこに向かえばいいのか。

 

 

 

弦十郎さんの判断【1D10】

 

1 ポイントCに一鳴、A響、B未来ちゃん

2 ポイントCに一鳴、A響、B未来ちゃん

3 ポイントCに一鳴、A響、B未来ちゃん

4 ポイントCにひびみく、ABを一鳴ワンマン対処

5 ポイントCにひびみく、ABを一鳴ワンマン対処

6 ポイントCにひびみく、ABを一鳴ワンマン対処

7 ポイントAひびみく、Bをキャロル、C一鳴

8 ポイントAひびみく、Bをキャロル、C一鳴

9 ポイントAひびみく、Bをキャロル、C一鳴

10 熱烈歓迎

 

結果【10 熱烈歓迎】

 

 

 

「……よし。キャロルくんと、オートスコアラーの四人を現場に派遣する!」

 

弦十郎さんがそう言う。

 

「キャロルくんとオートスコアラーは二課防衛の切り札だが、背に腹は代えられないッ!」

「いいんですか、ツァバト一派に情報を渡すことになりますが」

 

と、俺が危惧する。

今回の件が、二課の戦力を見極めることなら、キャロルちゃんとオートスコアラーという情報を開示してしまうことになるが……。

 

「問題ない。キャロルくんとオートスコアラーには一つ秘密の使命を与えるからな」

「秘密の使命……?」

「それは、全てが終わったときに教えよう」

 

そして、弦十郎さんは続けた。

 

「ポイントAには響くんと未来くん、そしてオートスコアラーからレイアくんを。ポイントBにはキャロルくんとガリィくんとミカくん。そしてポイントCには一鳴くんとファラくんを」

「了解です」

「わかりました!」

「はいッ!」

 

そんな訳で。

残業の始まりである。





響ちゃんと未来ちゃんは一鳴くんたちとひとつ屋根の下に暮らしていて、二人は同じ部屋である。
そして前日、一鳴くんはマリアさんとセレナちゃんをアヘらせていた。
マリアさんとセレナちゃんは喘ぎ声がデカい、
響ちゃんはむっつりすけべ。

つまりはそういうことであった……。


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第121話 招かれざる天使は突然に(後編)


エルデンリングのDLCが来ること確定したので初投稿です。
6月にはアーマードコアも来るし、何だ今年神がかってるのか?



 

 

●ポイントA

 

ポイントAに急行するのは立花響と小日向未来。

ビルの屋上を飛び跳ね、あるいは浮遊しながらポイントAに向かう。

そして、途中で合流したのは土の力を操るオートスコアラー、レイアである。

 

「よろしくお願いしますレイアさんッ」

「派手に頼むぞ、立花響、小日向未来」

「はい!」

 

冷静さと的確な判断力、そして常識をもつレイアである。

響と未来とっては強力な仲間であるといえる。

 

足を止めずに進むこと5分、エンジェノイズの姿が見えてきた。

地には逃げ惑う人々。

その人々を狙い、エンジェノイズたちが翼をはためかせて急滑降。

 

「派手に作戦開始だ、二人とも! まずは雑魚を散らすぞ!」

 

レイアのコインがエンジェノイズに向けて放たれる。

それと同時に未来が浮遊するアームドギアの鏡からレーザーを撃つ。

響はビルの壁を蹴り、エンジェノイズに突貫する。

 

 

 

響&未来&レイアVS雑魚エンジェノイズ【1D10】

 

響【3】+5(錬金術補正)+3(未来補正)

未来【2】+5(錬金術補正)+3(響補正)

レイア【2】

合計、23。

 

エンジェノイズ【2】+7(群れ補正)

 

 

 

コインとレーザーがエンジェノイズの翼を穿ち、エンジェノイズたちの自由飛行を奪う。

空中で自由を奪われたエンジェノイズたちは、その後追撃を受け撃破されていく。

 

「小日向未来、派手にレーザーを撃って制空権を奪え。立花響は派手に智天使個体の撃破を!!」

 

レイアが指示をする。

 

「レイアさんはッ!?」

「私は地味にやることがある。負けそうになったら、私の名を派手に叫べ」

 

そう言うと、レイアはビルの影に消えていく。

 

「響、やろう!」

「え、うん! わかった!」

 

レイアの行方を気にする響だったが、未来に声をかけられ天に意識を向ける。

 

智天使個体。

正面に人の顔、右側に獅子、左側に牛、そして後方に鷲の顔を持つ、異形の天使。

その形をしたエンジェノイズが天に羽ばたく。

 

「■■■■■……!!!」

 

智天使個体の人が、獅子が、牛が、鷲が叫ぶ。

人には理解できない天使の叫びだ。

 

「いくよ、未来!」

「うん、響!!」

 

 

 

響&未来VS雑魚エンジェノイズ【1D10】

 

響【6】+5(錬金術補正)+3(未来補正)

未来【6】+5(錬金術補正)+3(響補正)

合計、28。

 

 

智天使個体【1】+17(智天使補正)

 

 

 

「響、鏡を足場にして!」

「うん!」

 

未来が無数の鏡を宙に浮かべる。

それは、智天使個体に続く道だ。

響は、未来に言われた通りに鏡を足場にして智天使個体に向けて跳ぶ。

 

「■■■───ッ!!!」

 

智天使個体が叫ぶ。

智天使個体の周囲に光の球が現れる。

その光の球から熱線が放たれ、鏡を撃ち抜いていく。

そして、その熱線は響も狙う。

 

だが。

 

「響、前に!」

 

未来が響の盾になるように鏡を移動させる。

熱線が、鏡を砕き消える。

さらに、撃ち抜かれた鏡の代わりに足場になる。

 

「ありがとう、未来ッ!」

 

響が前に進む。

天に進む。

智天使個体が阻むが、響を守るように鏡が現れる。

響の道になるように鏡が現れる。

そして。

 

「どりゃぁぁあッ!!」

 

響の拳が、智天使個体を捉える。

響の拳を覆うように鋭い鉄の棘が錬成される。

響が覚えた、錬金術を混ぜた格闘術だ。

 

 

我流・錬鉄衝拳

 

 

響の拳が命中した途端、鉄の棘がショットガンのように発射される。

その衝撃により、智天使個体が千々に粉砕される。

そして、智天使個体は灰となり消えた。

 

智天使個体を殴りぬいた響は、重力に従い地に落ちそうになる。

その響を、抱きとめたのは空に浮く事のできる未来であった。

お姫様抱っこであった。

 

「ありがと未来。えへへ、ちょっと恥ずかしい」

「お疲れ様、響。響は私の恋人だもん。これぐらいなんともないでしょ?」

 

智天使個体の羽が宙に揺れる。

月の光が、二人を照らす。

二人の顔が、少しずつ近くなり、そして……。

 

「今は派手に仕事中なわけだが」

「わーッ!?」

「レイアさんッ!?」

 

少し離れたビルの屋上からレイアが二人を見ていた。

 

「仕事中に仕事()()()、いや忘れてくれ」

「レイアさん、いつから!?」

「私の仕事が終わったのはほんの少し前だ」

 

響の慌てた質問にそう答えるレイアであった。

 

 

レイアの仕事の合否【1D10】

(5以上で成功)

 

結果【6】

 

 

 

「こいつを見ろ」

 

と、レイアが右手に掴んだものを見せる。

それは、巨大な目玉だ。

バスケットボールほどの目玉に、白い翼が一対生えている。

 

「なんです、それ」

「私達の戦闘データを敵の本陣に送る、まあエンジェノイズ製のカメラのようなものだ」

「そんなものがッ……!?」

 

未来がその目玉のエンジェノイズを見る。

ギョロ、とその目玉が未来を見返した。

 

「ひっ」

「まあ、派手に不気味だが直接の害はない」

「で、それどうするんですか?」

 

響が聞く。

 

「私達の戦闘データを敵が知りたがってる事は、マスターも弦十郎も予期していた。だから、マスターはそれを利用しようと考えたのだ」

「利用?」

「ああ、こいつがデータを送信しているなら、それを追跡すれば敵の居場所を派手に知れるということだ」

「あっ!」

「そういうこと!」

 

レイアは左手を目玉エンジェノイズに突っ込む。

目玉がギョロギョロと落ち着きをなくす。

目玉が崩れていく。

 

「……ッ。派手に自壊された」

「え、じゃあ……」

「全ての情報を追跡出来なかった。後は、残りのポイントに任せるしかない」

 

 

 

●ポイントB

 

ポイントBに向かうヘリの中にはキャロルとガリィ、そしてミカ。

ポイントBは大規模ノイズ災害により、ゴーストタウンと化した郊外である。

故にエンジェノイズの数が少なかった。

 

「なのに、マスターとガリィちゃんと、ミカの3人で向かうのは戦力過多じゃありませんかぁ?」

 

と、ヘリの中でガリィが問う。

キャロルが答えた。

 

「いや、これでいい。戦闘データを送るエンジェノイズをオレとガリィが探し、ミカがそれ以外のエンジェノイズを刈る」

「えー、アタシも探したいゾ!」

「アンタは見つけたところで壊すしか出来ないでしょうが!」

 

なんてことを言い合っていると、ヘリがポイントBに到着する。

 

「では行くぞ。ミカ、お前は派手に暴れてこいッ!」

「わかったゾ! 派手派手にやるゾッ!」

 

三人がヘリから飛び出し、エンジェノイズに向かった。

 

 

 

ミカVSエンジェノイズ【1D10】

 

ミカ【8】+10(戦闘型補正)

 

エンジェノイズ【5】+4(群れ補正)

 

 

 

ヘリから飛び出したミカが手のひらから、カーボンロッドを乱射する。

そのカーボンロッドは一発も外れずにエンジェノイズに命中、撃破していく。

 

「百発百中だゾ!」

 

空中で錐揉回転しながら、カーボンロッドを撃って行くミカ。

みるみる減っていくエンジェノイズ。

ミカの落下軌道上にエンジェノイズが飛んでいく。

ミカを止めようとするが、ミカが腕を振るうとエンジェノイズが粉砕された。

 

「弱っちいゾ!」

 

そしてまたカーボンロッド乱射。

ミカが、地面に着地する。

 

「さあまだまだいくゾ!」

 

と、両手を構えるが。

エンジェノイズは全て撃破されていた。

 

「あれ?」

「やりすぎなんだよこのバカ!」

 

と、ガリィが現れる。

その側にはキャロル。

 

「あ、ガリィ。マスター!」

「流石だなミカ」

 

キャロルが褒める。

照れるミカ。

 

「マスタァ! こいつのカーボンロッドがガリィちゃんの服を掠めたんですけどぉ!?」

「ごめんだゾ」

「軽いわボケェ!」

「あ、マスター目標は見つかったゾ?」

「無視すんなや!」

 

キャロルはため息混じりに右手を持ち上げた。

右手に掴んでいたのは翼。

その根本には目玉だ。

凍りついている。

 

「この通りだ」

「ガリィちゃんが捕まえたんですよぉ?」

「ああ、そうだな助かった」

「で、それどうするんだゾ? 壊すのか?」

「壊しちゃ駄目だろーが」

「戦闘データをどこに送っているのか調べる」

 

そう言うと、ガリィに向けて目玉を持ち上げる。

ガリィが右手を貫手にして目玉に突っ込む。

 

「はーい、データ追跡中でーす」

「おお、ガリィそんなこと出来たんだゾ?」

「マスターとエルフナインが急ごしらえで仕込んでくれまし……あ」

 

目玉が凍りついたまま、灰となり崩れ去る。

 

「あーあ、ガリィやっちゃったゾ」

「ちょ、ちが、マスタァ! ガリィちゃん悪くないですからね。たぶん、自壊システム組まれてたんですよぉ!」

「わかってる。ガリィ、どれだけ追跡出来た?」

「3割ほど、ですかね……」

「それなら、まだいいか。了子とウェルにデータを渡して解析してもらうか」

 

キャロルが月を見上げた。

 

「レイア、ファラ。頼んだぞ……ッ!」

 

 

 

●ポイントC

 

ポイントCに向かうのは俺、一鳴とファラさん。

ファラさんとは途中で合流した。

 

「よろしくね、ファラさん」

「ええ、よろしくね一鳴くん」

 

で、現場まで走りながらざっくりと作戦会議。

 

「一鳴くん、今回のエンジェノイズ襲撃が二課の戦力を分析するためだと、マスターと弦十郎は判断しましたわ」

「ええ、それは聞きました」

「二人はさらにその戦闘データを送信するカメラ役のエンジェノイズが居るのでは、と予測しましたわ」

「……ソイツを捕まえる?」

「正解です。私がそのエンジェノイズを捕まえますから……」

「俺がエンジェノイズの殲滅役と。了解です」

「では……」

 

いつの間にか。

ポイントCに着いていた。

ポイントCは繁華街だ。

帰宅ラッシュに湧いた街は今や、天使たちの狩り場となっていた。

逃げ惑う人々、それを追うエンジェノイズ。

 

「作戦変更です」

 

ファラさんがそう言う。

 

「予想よりエンジェノイズの数が多いので、私もエンジェノイズを殲滅します」

「よろしくお願いします、熾天使個体は俺がやるので」

 

俺は戦輪を構え、ファラさんはソードブレイカーを構える。

そして、エンジェノイズ殲滅を開始した。

 

 

 

一鳴&ファラVS雑魚エンジェノイズ【1D10】

 

一鳴【9】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+3(クリス補正)

ファラ【8】

合計、39。

 

エンジェノイズ【2】+9(群れ補正)

 

 

 

ファラさんの放つ風の刃がエンジェノイズを切り裂いていく。

俺も負けじと、戦輪を投げてエンジェノイズを潰していく。

次々落とされていくエンジェノイズ。

 

そうして雑魚エンジェノイズを減らしていると、天から人が落ちてくる。

それは3対の翼を生やした女性型のエンジェノイズ。

2年前のライブ会場で戦ったツァバトに、否、シェム・ハ・メフォラシュに酷似した、しかし顔が無いのっぺらぼうのエンジェノイズ。

熾天使個体のエントリーだ。

 

「一鳴くん、ここは任せても良いかしら?」

「カメラ役を探しに行くんですね? 了解です」

「では……」

 

ファラさんが、空気の偏光角度を変更して姿を消す。

カメラ役のエンジェノイズを探しに行ったのだろう。

 

「ギギギ……、シンフォギア、コロス……」

「やってみろよ。ツァバト以下のお前に出来るならな」

 

口もないのに発声した熾天使個体に、そう返した俺。

挑発に乗ったのか、熾天使個体が殴りかかる。

 

 

 

一鳴&VS熾天使個体【1D10】

 

一鳴【9】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+3(クリス補正)

合計、31

 

熾天使個体【7】+19(熾天使補正)

 

 

 

殴りかかってきた熾天使個体の拳を左手に持ち替えた戦輪で弾く。

パリィである。

体勢を崩す熾天使個体。

俺は右手で小型戦輪をメリケンサックのように握りしめると、熾天使個体の腹を殴りつけた。

 

そしてそのまま小型戦輪を回転させる。

無数の刃と炎が、熾天使個体を苛む。

吹っ飛ぶ熾天使個体。

 

立ち上がろうとするが、動きが緩慢である。

俺は左手に持ってた戦輪を両手で持ち上げた。

 

「動きが遅い! ツァバトの百倍弱い!」

 

そのまま、熾天使個体に向けて戦輪を振り下ろした。

重く大きい戦輪の刃と、熱い炎が熾天使個体の肉体を粉砕した。

灰となり消える熾天使個体。

 

「残りのエンジェノイズも焼き尽くしてやらぁ!」

 

すっかりハイになった俺は戦輪を振り回したり、投げ飛ばしたりして雑魚エンジェノイズも撃破、殲滅した。

 

「ふぅ……」

 

額の汗を拭う。

と、横から声をかけられた。

 

「お疲れ様ですわ一鳴くん」

「ファラさんもお疲れ様」

 

姿を表したのはファラさんだ。

 

 

 

ファラの仕事の合否【1D10】

(5以上で成功)

 

結果【7】

 

 

 

 

「で、それが……」

「ええ、カメラ役のエンジェノイズです」

 

ソードブレイカーに突き刺さった翼の生えた目玉。

それが、カメラ役のエンジェノイズみたい。

まだ翼がビクンビクンしとる……。

 

「で、それどうするんです」

「情報を抜き取ります、こうやって!」

 

ファラさんが左手を目玉に突き刺す。

ギョロギョロ動き出す目玉。

痙攣が酷くなる翼。

目玉エンジェノイズは、灰と化していく。

 

「自壊されましたか……」

「え、じゃあ……」

「任務は、少し成功でしょうか。データ送信先の追跡はそれなりには成功してるので。あとはこのデータを櫻井教授やドクターウェルに解析してもらうだけです」

「……うまくいくといいですね」

「おそらく大丈夫ですわ。マスターやレイアもいますから」

 

 

通信が入る。

友里さんからだ。

 

「一鳴くん、全ポイントのエンジェノイズの殲滅は完了よ。お疲れ様」

「そっちもお疲れ様です」

「レイアさんとガリィちゃんもデータを手に入れたみたいね。了子さんとドクターが待ってるわ」

「それじゃあ私は帰還しますわね」

 

と、ファラさん。

 

「一鳴くんはお家に待っている人がいるのでしょう?」

「ええ、ではお先に」

「ええ、お疲れ様」

 

そんな訳でファラさんとは別れる。

他二箇所もデータの追跡は出来たみたいだし、敵の居所もすぐにわかるだろう。

でも、敵はシェンショウジンを組み込んだ浮遊戦艦メルカバーを保持してる。

一筋縄では行かないだろう。

 

そんなことを考えながらも響ちゃんと未来ちゃんと合流。

帰宅し、そして。

 

滅茶苦茶晩ごはん食べた(迫真)

クリスちゃんにあーんしてもらった。

可愛かった(KONAMI)





エルデンリングDLCの一枚絵。
トレントの背に乗っていたのは、マリカかミケラか。

背景の黒い影の木は、よく見ると二本の木が絡み合っているように見える。寧ろ、一本の木がもう一本の木に絡みついて締め上げてるかのよう。
締め上げられている木からは黄金が流れている。つまり黄金樹?
なら締め上げている木はミケラの聖樹だろうか。

ミケラが天下取った狭間の地の話なのかな。


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第122話 夜に相対する

第120話で出た熱烈歓迎の報酬回。
敵の真意に迫れるかもしれない回です。

全てはダイスの結果次第、なのです……。


 

 

 エンジェノイズが街を襲撃し、セレナちゃんの手料理を食べて、クリスちゃんとイチャラブした次の日。

 放課後に、俺達3人は二課に呼び出されていた。

 

「お疲れ様です、弦十郎さん。それで、何があったんです?」

 

 俺が弦十郎さんに聞く。

 

「あぁ。昨日、目玉のエンジェノイズから情報を抜き取っていただろう」

「オートスコアラーの皆がやっていたやつですね」

 

 昨日エンジェノイズが街を襲撃した際、俺たちの戦闘データを会得するために送り込まれたのが目玉のエンジェノイズであり、そしてそれを逆に利用してデータを追跡して敵の居所を探ろうとしたのがキャロルちゃんとオートスコアラーであった。

 

「その情報から敵の居所を知ることが出来た」

「……ッ! 場所はどこですか?」

「ノイズ被害によって廃棄された団地の一角だ」

「そんなところに……」

 

 俺たちシンフォギア装者が現れる以前、ノイズによる被害により町一つ被害が出るということがあった。

 その後、「縁起が悪い」ということで新たな住人が現れない事がほとんどであり、そういった場所の一つに目玉のエンジェノイズがデータを送信していたようであった。

  

「21時から二課職員による捕縛を行う! 3人にはそれまで二課で待機してほしい!」

「はいッ!」

「わかりました!」

 

 響ちゃんと未来ちゃんが返事をする。

 

「その廃団地、今はどうなってるんです?」

 

 と、俺が聞くと藤尭さんが教えてくれた。

 

「データを解析できたのが今日の昼頃、それから自衛隊の監視衛星で団地を見てるけど動きはないよ」

「……もう逃げたか、待ち構えているかですね」

 

 昨日の夜に戦闘があり、それからすぐ逃げたのならそこにはもう誰もいないだろう。だが、もし目玉のエンジェノイズからデータを盗まれた事を知った上で待ち構えているなら……。

 激戦は必至だろう。

 

「一鳴くん、今回は俺も現場に出て指揮を取る」

「弦十郎さんが?」

「一鳴くんの危惧はこちらも承知、ということだ」

「なるほど、それなら安心ですね」

 

 そういうことになった。

 

 

 

 

 そんな訳で20時55分。

 俺たちは現場に来ていた。

 敵がいると思われる廃棄団地のすぐ近くにある公民館に集合している。

 俺、響ちゃん、未来ちゃんはすでにシンフォギアを纏っている。

 それと、弦十郎さんに黒服さんたち。

 黒服さんは20人ほどか。

 

「作戦を確認する」

 

 弦十郎さんが全員に聞こえるように言う。

 

「作戦内容はエンジェノイズで襲撃を仕掛けた下手人の捕縛、もしくは証拠の確保だ! データが送られていたのは、この廃棄団地の505号室だと思われる」

 

 廃棄団地は5階建ての古い建物だ。

 つまり敵は一番上の階にいた、ということだ。

 

「敵がもう逃げていたのなら、なにかしらの証拠を見つけるだけだが、もし敵が罠を仕掛けているか待ち構えているなら、エンジェノイズが出てくるだろう。その時は俺か装者の三人が相手をする」

 

 エンジェノイズは相手を炭化させないノイズである。

 つまり生身の人間でも相手できるということだが、その能力は一般人より高く、更に空も飛ぶ。

 弦十郎さん以外の二課職員は相手ができないだろう。

 俺たちで守らねばならない。

 

「エンジェノイズが出てきたらすぐに連絡しろ」

「「「はいッ!」」」  

 

 黒服さんたちが返事をする。

 そういえば、夜なのにサングラスを掛けている。

 そういうもの、なのかしら……?

 まあそれはそれとして、俺たちシンフォギア装者は黒服さんたちを守るために全力を尽くさないとならない。

 

 

 

敵陣営【1D10】

 

1 もう逃げた

2 もう逃げた

3 もう逃げた

4 待ち構えている

5 待ち構えている

6 待ち構えている

7 まだ逃げてない(慌ててる)

8 まだ逃げてない(慌ててる)

9 まだ逃げてない(慌ててる)

10 熱烈歓迎

 

結果【8 まだ逃げてない(慌ててる)】 

 

 

 

 黒服さんたちが団地に向かってから数分。

 通信が入る。

 

『エンジェノイズから攻撃を受けました! 数は3体!』

「よし、頼むぞみんな!」

「「「はいっ!」」」

 

 弦十郎さんの命令で、俺たち3人のシンフォギアは団地に向かう。

 最速の最短距離で十数秒ほど。

 団地に近づくほど、銃撃の音が聞こえてくる。

 団地前の広場にたどり着く。

 木が何本か生えており、アスファルトはひび割れている。

 その一角で、黒服さんと、エンジェノイズが戦闘していた。

 

「一人一体、いくよ!」

「うんっ!」

「わかった!」

 

 俺たち3人は3体のエンジェノイズに向かった。

 それぞれ戦輪、拳、そして鏡でエンジェノイズを倒す。

 3体だけのエンジェノイズなんてナレ死で十分なんだよオラッ!(威風堂々)

 そんなわけで黒服さんたち救出である。

 

「助かったよ、シンフォギア」

 

 黒服たちのリーダーが礼を言ってくれる。

 

「どういたしまして」

「エンジェノイズは5階から飛び降りてきたんだ。その時、部屋の中に人の影のようなものが見えた」

「じゃあ敵はまだ、部屋の中に?」

「おそらく……」

 

 と、情報交換しているとその5階の部屋からエンジェノイズが次々と飛び降りてくる。

 

「うわあっ!」

 

 黒服さんが悲鳴をあげる。

 だが、訓練された動きで後退する。

 

「シンフォギア、頼んだ!」

「今出てきたエンジェノイズを倒したら、制圧に向かおう!」

 

 と、更に黒服さんたち。

 そんな訳で、エンジェノイズとの戦闘である。

 

 

 

出てきたエンジェノイズの数【1D10】

 

結果【10】+3体

 

 

 

シンフォギアVSエンジェノイズ【1D10】

 

一鳴【2】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+3(クリス補正)

響【9】+5(錬金術補正)+3(未来補正)

未来【4】+5(錬金術補正)+3(響補正)

合計、53。

 

エンジェノイズ【4】×13(数補正)

=52

 

 

 

「目一杯呼びやがってオラーッ!」

 

 沢山出てきたエンジェノイズに向けて小型戦輪を射出。

 エンジェノイズたちの翼を撃ち抜き、落としていく。

 しかし、それで地面に追突したところで倒れるエンジェノイズではない。

 そんな地面に落ちてきたエンジェノイズを響ちゃんが殴り抜いていく。

 それをカバーする未来ちゃんのレーザー。

 完璧なチームワーク、完璧なチームワークじゃない?(自画自賛)

 まあそれはそれとして、エンジェノイズたちを倒す。

 

「よし、では俺たちは突入する! 装者は何人か着いてきてくれ」

 

 

 

突入する装者【1D6】

(偶数で突入、奇数で下で待機。全員同じ時は振り直し)

 

一鳴【2(突入)】

響【1(待機)】 

未来【4(突入)】

 

 

 

「よし、未来ちゃん俺とついてきて。響ちゃんは下で待機」

 

 俺は二人に告げる。

 

「俺先頭、未来ちゃん殿で警戒。響ちゃんが1番火力高いからエンジェノイズが落ちてきたらぶん殴って黒服さん守ってくれる?」

「うんっ!」

「わかった。……未来、気を付けてね」

 

 そんな訳で、俺と未来ちゃんは黒服さんを挟む形で突入することになった。

 響ちゃんは黒服さん数名と共に下で待機。

 もし、犯人がベランダから落ちてきたら確保する係である。

 俺たちは階段を駆け上がる。

 3階を過ぎたあたりで上からエンジェノイズが降りてきた。

 だが、狭いので一体ずつしか降りてこれないし、一体だけならナレ死で終わる。

 

「しゃいっ!」

 

 小型戦輪を手に握りメリケンサックのように使って殴る。

 もちろん、炎は出している。

 

「しゃいっ! しゃいっ! しゃいっ☆(砂のサイレンススズカ感)」

 

 殴る。

 殴る。殴る。

 殴って進む。

 進み続ける。

 

「しゃいしゃーいっ☆(芝のサイレンススズカ感)」

「ナルくん、大丈夫ーっ?」

「しゃいしゃーい(大丈夫の意)」

 

 後ろから未来ちゃんの心配する声。

 なのだが、俺はエンジェノイズを殴るのに集中してて変な返しをしてしまった。

 ま、ま、ええわ(大雑把)

 もう5階の505号室前だし。

 扉の前はエンジェノイズがミチミチ詰まっていた。

 一斉に出ようとして詰まったのか。

 まあ、的が纏まってるなら手間が省けるというもの。

 

「しゃーっ、いーっ☆」

 

 エンジェノイズ群鏖殺!

 手に握る小型戦輪を高速回転、炎が拳を包み込みエンジェノイズが黒焦げになって消滅する。

 

「デトろ、開けロイト市警しゃいっ☆」

「もう開いてますよ?」

 

 黒服さんにツッコまれた。

 まあええわ。突入よ。

 505号室は、ほとんどコンクリート剥き出しの部屋であった。

 だが、リビングは最新のパソコンや機材、寝袋が運び込まれている。

 その部屋の中に男が一人。

 黒い髪を撫でつけた、神経質そうな男だ。

 線の細い、白衣を着た若い男。

 その白衣は、ドクターウェルが着ているものに似ている。

 F.I.S.の人間、だったのだろうか。

 

「馬鹿な、エンジェノイズが全滅だと……ッ!」

「手を上げろッ!」

 

 男が震える声で後ずさる。

 その男を逃さないように、俺の後ろから黒服さんたちが銃を取り出しながら囲む。

 未来ちゃんはちゃんと入り口を警戒している。

 下からエンジェノイズがやって来るかもしれないからね、しっかりしてるね未来ちゃん。

 

「今なら怪我しなくてすむしゃい☆」

 

 俺はシャドーする。

 火の粉が男に向かって飛ぶ。

 

「ひ、ひぃ……」

 

 男はすっかりビビってるようだ。

 限界が来たのかその場でへたり込む。

 

「よし、確保!」

 

 黒服さんたちが男に向かって飛び出す。

 男を取り押さえて、手錠を掛ける。

 

 

 

シーザーの救援ダイス【1D10】

(5以上でくる)

 

結果【5(くる)】

 

 

 

「た、助けてくれツァバト……ッ!」

 

 黒服さんに取り押さえられながら、男が叫ぶ。

 その時である。

 ふと、リビングから窓を見ると、遠くから光るなにかが見えた。

 

「全員伏せろッ!!!」

 

 俺はそう叫ぶと黒服さんを飛び越えてベランダに向かう。

 だが、間に合わず。

 ベランダのガラスを突き破り、何かが突入してくる。

 

「うわっ!」

「きゃあッ!」

 

 黒服さんたちが弾け飛ばされる。

 誰かの叫び声が聞こえる。

 機材の壊れる音がする。

 ばさり、と翼のはためく音がした。

 白い羽根が飛び散っている。

 月明かりに照らされて、女神がリビングに立っていた。

 

「ふむ。無様な姿だな我が契約者よ」

 

 ツァバトが、そう言う。

 

「あ、あひ……。ツァバト、た、助かったぞ」

 

 男が呻く。

 その男をツァバトは左肩で抱える。

 米俵扱いである。

 

「う、動くな……!」

 

 ツァバト突入の際弾き飛ばされた黒服さんが一人、立ち上がりながら銃を男に向ける。

 その黒服さんを一瞥するツァバト。

 宙を舞う自分の羽根を一つ掴むと、それを黒服さんに向けて投げつけた。

 

 

 

羽根キャッチダイス【1D10】

(5以上で成功)

 

一鳴【6(成功)】

未来【2(失敗)】

 

 

 

 俺はその羽根を拳で弾き飛ばす。

 

「お前今この人エンジェノイズにしようとしたしゃい!?」

「ナルくん語尾、語尾!」

「おっと」

 

 未来ちゃんに注意された。

 無意識だったわ(震え声)

 

「シンフォギアか。まだ生きていたのか」

 

 と、ツァバト。

 

「孫とひ孫に囲まれるまで生きてやるよ」

 

 と、軽口を返しながら契約者の男を見る。

 ツァバトの陰、確保するにはツァバトを倒さねばならない。

 

「シンフォギア、ここは引け」

「それはこっちのセリフなんだが?」

「7秒」

「なに?」

「お前の仲間を皆殺しにするのに掛かる時間だ」

 

 そう言うと、右腕を肩まで持ち上げる。

 そして、右手を中心ににエネルギーが球状に展開されていく。

 

「この家屋を破壊した後、私は契約者を抱えて脱出する。この人数、お前たちに助けられるか?」

「……ッ!」

 

 ツァバトの言葉に唸るしかなかった。

 彼女の言う通りだからだ。

 この団地を崩されたら、黒服さんたちは瓦礫に埋まってしまう。

 だが、彼らを逃がすと後々更に被害が……。

 

『一鳴くん、聞こえるか。ここは彼女らの言う通りにするんだ』

 

 弦十郎さんから通信が入る。

 ……致し方なし、か。

 

「……わかった」

 

 俺は一歩下がった。

 それを見た黒服さんたちも同じように下がる。

 

「ふむ……いいだろう」

 

 ツァバトが右腕を下ろす。

 ……ように見せかけて、部屋の中の機械に向ける。

 エネルギーの奔流が放たれて機械を破壊していく。

 

「なんじゃーっ!?」

「証拠隠滅、と言うやつだ」

 

 ツァバトがそう言う。

 部屋の中の機械はすべて破壊されてしまった。

 

「では、さらばだシンフォギア。また、()()()()()()()()()()()()()

 

 ツァバトはそう言うと、自身が突入した窓から飛び立っていった。

 

「ああああぁぁぁ〜! ツァバト、僕は生身だぞ速度を落とせぇぇぇぇぇ〜!!」

 

 男の悲鳴が遠く響いていた……。

 

「行ったか……」

「うん……」

 

 俺と未来ちゃんは窓の外を見ながらそう言い合った。

 ライブ会場を襲撃し、沢山の人を殺したエンジェノイズたちを使役する男をあと一歩のところで取り逃した。

 その悔しさから、拳を握る。

 

「未来、ナルくん! 平気!?」

 

 と、玄関から響ちゃん。

 

「俺たちは無事。でも……」

「犯人に逃げられちゃった……」

 

 響ちゃんはホッと、安心した顔をした。

 

「二人が無事で良かった。下からだと窓がいきなり割れた音がしたから」

「ツァバトが突入してきてね……。しかもそいつが色々記録されてそうな機械を壊していくし……」

 

 俺はツァバトに破壊された機械を見る。

 黒服さんたちが機械の残骸を回収していた。

 

「一鳴くん、諦めるのはまだ早いよ」

 

 と、黒服さんの一人が言う。

 

「どうもあのツァバト、機械は壊したら終わりだと思ってたみたいで破壊が雑でね」

 

 そう言うと、欠片を一つ見せる。

 

「記録媒体はほとんど壊れてない」

「ええ……」

 

 ようはゲーム機の本体は壊したけどカセットは壊してない、みたいな?

 

「雑……」

「だから、これを二課で解析すれば」

「敵の情報を手に入れられる、と!」

 

 つまりまあ。

 今回の突入作戦は失敗ではなかったと言うことね。

 やったぜ。

 

 

 

 

 

手に入れた情報【1D10】

 

1 カ・ディンギルで月を壊すつもり(動力源がない!)

2 カ・ディンギルで月を壊すつもり(動力源がない!)

3 カ・ディンギルで月を壊すつもり(動力源がない!)

4 深淵の龍宮保有の高エネルギー保持聖遺物リスト(それで何するつもり?)

5 深淵の龍宮保有の高エネルギー保持聖遺物リスト(それで何するつもり?)

6 深淵の龍宮保有の高エネルギー保持聖遺物リスト(それで何するつもり?)

7 カ・ディンギルで月を壊すつもり(動力源がない!)

8 深淵の龍宮保有の高エネルギー保持聖遺物リスト(それで何するつもり?)

9 カ・ディンギルで月を壊すつもり(動力源がない!)

10 全部

 

結果【3 カ・ディンギルで月を壊すつもり(動力源がない!)】

 

 

 





いつも小説書くのに使っていたメモアプリがグーグルから「止めとけ」言われたので、別のアプリ使い始めました。
改行すると、文頭勝手に下がるので助かる助かる。

そんな訳で次回、敵が深淵の龍宮に攻めてくる話。
二課は先手取られるけど、敵の目的は高エネルギー保持聖遺物だとわかってる、そんな状態です。
ではまた、次回……。


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第123話 なお昏き深海の底へ 前編


実は最近のサブタイトルは原作無印のサブタイトルをもじったものということをお前たちに教えるので初投稿です(赤髪並感)

アーマードコア新作8月発売ですって。
最近動体視力が衰えてきたワイについていけるだろうか。
まあ、買うしやり込むのは確定なんじゃけどネ!



 

 

 

「敵の目的は、カ・ディンギルだと……!」

 

 二課の研究室で大声を出したのは風鳴弦十郎だ。

 

「ええ、間違いないわ」

 

 そう、返したのは櫻井了子だ。

 つい昨夜、エンジェノイズの使役者が残した機械の残骸から吸い出したデータから読み取ったものであった。

 

「一鳴くんや黒服たちが手に入れた機械の記録媒体にはカ・ディンギルの情報が入っていたわ。どこにあるのか、最大射程、現在の照準が月に向けられていること。それらの情報が、まるっと入ってたわ」

「なんという、ことだ……」

 

 弦十郎が慄く。

 カ・ディンギルは二課の最大の秘密である。

 櫻井了子に転生したフィーネが二課のエレベーターシャフトに偽装して作り上げた月を穿つ為の荷電粒子砲。

 了子がフィーネだと知られたときに、カ・ディンギルの事も二課に知らせていたのだが、カ・ディンギルの特性上大量破壊兵器扱いであるため、二課最大の秘密として二課職員に箝口令が敷かれているほどのものだ。

 それが、敵に知られていた。

 

「どこから情報が漏れた……!?」

「わからないわ。二課の誰かが喋ったのかもしれないし、カ・ディンギル建造の時に資材を米軍経由でF.I.S.から仕入れてたから、そこから知られたのかも」

「F.I.S.か……」

「ええ、そう。エンジェノイズを使役する男、ジュリアン・シーザーの古巣よ」

 

 黒服たちの記録していた映像から、団地にいた男がジュリアン・シーザーということは、ドクターウェルが証言していた。

 

「僕もビックリですよ。まさか、シーザーが黒幕だったなんて」

 

 そう言ったのはドクターウェルである。

 ウェルは手近な椅子に腰掛けた。

 

「ドクター……」

「彼は僕の同期でした」

 

 いつもヤケに僕に絡んでましたよ、とウェルはため息混じりに言う。

 

「でも、まさか神霊なんてものと契約していたとは思いませんでした。……本当ですよ?」

「ドクターを疑ってる訳じゃないさ」

 

 と、弦十郎は答えた。

 

「ならいいんですがねぇ」

 

 ウェルはどこか訝しげだ。

 

「ドクターから見て、そのジュリアン・シーザーという男はどんな男なんだ?」

「優秀な男でしたよ。僕を敵視してましたがね」

 

 弦十郎の疑問にそう答えるウェル。

 了子がそれを聞いて口を開いた。

 

「なんでドクターを敵視してたのかしら?」

「さぁ? まあ彼は僕の次に優秀な男で、プライド高く、なにより上昇志向も強かったのでねぇ。出世に僕が邪魔だった可能性もありますが」

「上昇志向の強い男が所属組織を切り捨てて、か」

「あるいはプライドを刺激されたのかも」

「神サマと契約したんですからねぇ。そりゃプライドを大いに満たされますよ。自分は選ばれたんだーって」

 

 三人はため息をついた。

 

「そのプライドの矛先がカ・ディンギルとはな……」

「どうするの、弦十郎くん」

「兎にも角にも、二課の防備は固めねばなるまい」

「同時に、エネルギー源になりうるモノのリストアップもしておくわ。動力さえなんとかしたら、撃てるものアレ」

「分解出来ないんですか?」

「すぐは無理。エレベーターシャフトを別に作らないと」

 

 弦十郎は了子に聞く。

 

「動力源には何が最適なんだ?」

「完全聖遺物ね。本来なら、ネフシュタンの鎧のような無尽蔵のエネルギーを持った聖遺物を使う予定だったわ。でもそれなりの聖遺物でも一発は撃てるはず」

 

 もちろんその聖遺物は塵になるけどね、と了子。

  

「そもそも向こうにはF.I.S.から掻っ払った聖遺物もありますしね。今日明日にも来るんじゃないですか?」

 

 ウェルの疑問に弦十郎が答える。

 

「いや、それはないだろう」

「なぜそう思うの弦十郎くん?」

「もし、F.I.S.の聖遺物が使えるのなら、2年前の段階でカ・ディンギルを奪取しにくるはずだ。それがないということは、F.I.S.の聖遺物は使えないんじゃないか?」

「フォニックゲインを集めてる所じゃないんですか? ほら、聖遺物をメルカバーに乗っけてツヴァイウィングやらなんやらの一流アイドルのコンサート会場上空でコッソリ集めてるとか」

「それもないと思うわ」

 

 今度は了子が答える。

 

「メルカバーは頑丈な完全聖遺物な上に神獣鏡によってステルス機能を得ているわ。そのステルス機能は神獣鏡を利用しているからこそ、フォニックゲインを弾くと考えられるわね」

「つまり、安全なメルカバーの中で聖遺物の起動実験は出来ない、ということですねぇ」

「ええ、だからこそ」

 

 了子の言葉を弦十郎が繋げた。

 

「奴らは聖遺物を他所から得る必要がある、ということか」

「そういうことよ」

 

 二課の方針は決まった。

 

「カ・ディンギル及び二課の防備を固める。と、同時に記憶の遺跡や深淵の竜宮、聖遺物研究機関への注意喚起も行わねばならなんな」

「一鳴くんたちはどうしますか?」

 

 ウェルが聞く。

 

「常に二課に詰めてもらう必要はないだろう。彼らは学生だからな。だが、なにかあったらすぐに現場に向かえるようにしておこう」

 

 そういうことになった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 色々あった4月。

 それでもまあ、なんとか小休止といったところか。

 ここ数日は平穏である。

 クリスちゃんを膝枕しながら、リディアン音楽院の昼休みを屋上で過ごす俺である。

 

「んぅ、一鳴……」

「はいはい」

 

 クリスちゃんの頭を撫でる。

 サラサラの髪を堪能する。

 慈しむように、優しく優しく。

 

「んふふ」

 

 クリスちゃんはご満悦みたいやね。

 ちなみに、もちろん周りに人は居ない。

 居たらクリスちゃんはこんなに素直に甘えてこない。

 仔猫みたいな性格だからネ。

 かわいい。

 クリスちゃんはすごくリラックスしている。

 平穏である。

 だが、平穏とは簡単に壊れるもので……。

 

「ナルくーん! あ、いた!」

 

 バァン、と屋上のドアが開いたかと思ったら響ちゃんが駆け寄ってきた。

 

「うわーッ! びっくりさせんなバカ!」

「ぎゃん!」

 

 飛び上がったクリスちゃんが響ちゃんの頭を叩く。

 スパーンと良い音。

 

「ご、ごめんねクリスちゃん。イチャイチャしてるときに」

「い、イチャイチャはしてねえよ!(震え声)」

「え、でもナルくんに膝枕してもらって───」

「いいから! なにか用があったんだろ(声だけ迫真)」

 

 クリスちゃん迫真の話題転換である。

 

「あ、そうだった。弓美ちゃんが明日の流れ星一緒に見ようって」

「あー、明日のね」

 

 明日、ナントカ流星群とやらが日本で観測出来るのだとか。

 あれよね、原作でもあったよね流れ星イベント。

 響ちゃんが未来ちゃんと約束してたけど、ノイズが来て台無しになったやつ。

 この世界なら大丈夫だろうか。

 

「クリスちゃんもどう?」

「あ、あたしもか……?」

「クリスちゃんも弓美ちゃんと仲良いでしょ」

 

 そう。

 あのアニメオタクの板場弓美、いつの間にかクリスちゃんと仲良くなってたのである。

 なんでも、同好の士とかなんとか。

 うたずきんはまだ出来てないはず。

 いや、待てよ。

 クリスちゃん割と少女趣味だから、リリカルな○はとかプ○キュアとか好きそうだし、アイツ沼に沈めおったのか?

 やりおったのかアヤツ?

 後で弓美さんとOHANASIかしら(白い悪魔並感)

 

「それはお前と未来といつもの三人と一鳴とか?」

「うん、そうだよ」

「なら、行こうかな」

「やったー」

「抱きつくなバカ!」

 

 あら^〜。

 そんな訳で7人で流れ星を見ることになった。

 

「でもどこで見るのさ」

「ここ。リディアンの屋上で見れるんだって!」

「はえー」

「楽しみだね」 

「だね」

 

 ワシャワシャと、響ちゃんの頭を撫でてやる。

 この世界では、この子も流れ星見れたらいいな。

 そう思った。

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

「あ」

「あ」

「あ」

 

 昼休み終わっちゃった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 午後の授業は遅刻しました(震え声)

 未来ちゃんから呆れた目をされました(白目)

 興奮した(超絶小声)

 

 それはそれとして放課後。

 

 いつものようにトレーニングの為に二課に寄る。

 なんでも敵の狙いはカ・ディンギルで、動力源として聖遺物を奪取する可能性が高いのだとか。

 だからこそ、二課でカラテ訓練を積み備えるのである。

 ……そういえば、デュランダルはどうなったのだろうか?

 絶世の名剣デュランダル。

 本来ならEUの経済破綻の際、日本が不良債権の一部を肩代わりする代わりに手に入れたとかなんとか。

 でもこの世界EUが経済破綻したら速攻ギリシャの神様が欧州亜大陸滅茶苦茶にしたからなぁ。

 で、調べてみたらデュランダルは日本にないみたい。

 日本に譲られる前にギリシャの神様がやらかしたというワケダ。

 

 じゃあ敵はどれを使うつもりなのだろう。

 パッと浮かんだのは、ラーヴァナの持っていた月の微笑みチャンドラハース。

 今は記憶の遺跡に安置されているのだったか。

 あれは完全聖遺物だから、デュランダルの代わりとしては丁度よいだろう。

 あとは、深淵の竜宮にある聖遺物か。

 色々あったよねあそこ。

 ヤントラ・サルヴァスパとか、アナベル人形とか。

 グラウスヴァインなんてのも居た記憶がある。

 でも俺ワイルドアームズはやったことないし知らないのよね。

 ブックオフで攻略本手に入れたのと、ネットサーフィンしてグラウスヴァインが生きた核爆弾ドラゴンというのは知ってる(震え声)

 そんなのが日本の海底にいるのか(恐怖)

 

「一鳴さん、どうしましたか?」

 

 と、資料室で難しい顔をしていた俺を心配してか、エルフナインちゃんが声を掛けてきた。

 

「ああ、エルフナインちゃん。いや、なんでもないのよ。ただ、敵はどの聖遺物を求めるのかなって」

「ああ、例のジュリアン・シーザーのことですね」

 

 エルフナインちゃんはムムムと考え込む。

 

「素人考えではありますが」

「聞かせて?」

 

 俺なんて素人以下だしねぇ。

 エルフナインちゃんは研究者。

 ジュリアン某の事はエルフナインちゃんの方がわかるだろう。

 

「了子さんの資料によると、カ・ディンギルは聖遺物のエネルギーを利用した荷電粒子砲です。ですが、そのエネルギー自体は電気エネルギーでも全く問題ないのです」

「うん」

「つまり、ボクならヤントラ・サルヴァスパでカ・ディンギルと二課の電気系統を変えて電気エネルギーで発射させますね」

「なるほど……」

 

 ヤントラ・サルヴァスパは機械をなんでも操作可能にする聖遺物。

 それを使えば、機械まみれの二課を改造してカ・ディンギルに電気エネルギーを集めることも可能、というワケダ。

 

「なんて。昨日キャロルと見たアニメから発想を得たんですがね」

「なんだ、アニメか。……電気エネルギーを利用した荷電粒子砲、エヴァかしら?」

「えへへ、正解です」

 

 ヤシマ作戦、という訳ね。

 

「日本中のエネルギー、エルフナインちゃんに預けるね」

「ええっ!? ボクが撃つんですかぁ?」

「メルカバー撃ち抜いちゃえ」

「ええっ!? ステルス張ってるから見えませんよぉ」

「弾道予測なんて藤尭さんにやらせろ(暴言)」

「……ちょっと、出来そうですよね」

 

 エルフナインちゃんがクスクスと笑う。

 

「つまりエルフナインちゃんとしては深淵の竜宮を狙う可能性が高いと考えるのね」

「はい。ですが、それは勿論ボクが知り得る知識から得たことです。例えば一部の人しか知らない情報で、無限のエネルギーを簡単に得られる聖遺物が記憶の遺跡にあったならそっちを狙うでしょう」

「それはそうね。でも、参考になった。ありがとうね」

 

 エルフナインの頭をワシャワシャ撫でてやる。

 かわいいね。

 

「どういたしまして。あ、あと聞きたいのですが!」

「なに?」

「キャロルとはどこまで行きましたか!?」

 

 おおう……。

 

「ど、どこまでとは(すっとぼけ)」

「その、キャロルと手を繋いだりとかチューとか!」

「くぅーん……(白目)」

 

 キャロルちゃんとは、キャロルちゃんとはそういうのではないのだ。

 師弟関係、師弟関係なのだ。

 

「え、でもキャロルは───」

 

 

 

キャロルのヒ・ミ・ツ♡【1D10】

 

1 一鳴の名前をそっと呟く日がある

2 一鳴の姿を目で追う時がある

3 一鳴を見て頬を赤らめる時がある

4 一鳴の名前をそっと呟く日がある

5 一鳴の姿を目で追う時がある

6 一鳴を見て頬を赤らめる時がある

7 一鳴の名前をそっと呟く日がある

8 一鳴の姿を目で追う時がある

9 一鳴を見て頬を赤らめる時がある

10 夜な夜な布団の中で一鳴を呼ぶ湿っぽい声が!

 

結果【3 一鳴を見て頬を赤らめる時がある】

 

 

 

「その、キャロルは時々一鳴さんを見て頬を赤らめる時がありまして」

 「ワ……!(赤面)」

 

 俺のほうが恥ずかしくなってしまう。

 

「それって、恋ですよね! 友里さんが言ってました! 初い初いしいわね、って言ってましたよ!」

「おのれ友里ォ!」

 

 何余計なこと言ってんだ友里さん!

 助けて友里さん!

 

「ですからここは一鳴さんの方からリードを───」

おい

 

 地獄の底から聞こえてきたような、恐ろしい声。

 

 キャロルちゃんのエントリーである。

 顔を真っ赤にしている。

 後ろには面白そうに嘲笑うガリィちゃん。

 

「何をしているエルフナイン」

「きゃ、キャロルこれは」

「まだ仕事が残っているだろう。戻るぞ」

 

 と、エルフナインちゃんの耳を掴むキャロルちゃん。

 

「あいたたた! キャロル、待って!」

「待たん! それと一鳴。今こいつが言ったことは忘れろ。いいな! 忘れろよ!」

 

 二人は行ってしまった。

 ガリィちゃんはニヤニヤ笑いながら残っている。

 

「一鳴さぁん。マスタァはああ見えても中身は乙女な云百年モノの生娘なので、たあっぷりリードしてあげてくださいね?」

 

 それではぁ、と言うとガリィちゃんはバレリーナのようにくるくる回りながら出ていく。

 うん。

 まぁ。

 

 

「帰ろ」

 

 そういうことにした。

 

 

 





戦闘までいかんかった(震え声)
次回は戦闘までいきます。

それでは次回。


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第124話 なお昏き深海の底へ 中編


ハイラルを巡っているので初投稿です。
今回も寄り道多いので嬉しい悲鳴が止まらない。
メインシナリオやってる時間がなくてェ。
執筆する時間もなくてェ。
あ、止めてロケット着けないで書きますから!




 

 

 その日は、いつものように始まった。

 天気は晴れ。

 春の陽気に夏の面影が見え始めた、少し暑い日のこと。

 人々は街を歩き会社、あるいは学校に向かう。

 今夜は流れ星が流れるという。

 人々の話題はそれで持ち切りだ。

 仲の良い者は、きっと連れ立って夜空を見るのだろう。

 そんな、平和な日。

 

 そんな日に彼らは来た。

 かの聖典によれば、怪物は海より来るという。

 だが、天使たちは海に来たりて、水底の竜宮城に向かう。

 月穿つ尖塔の、心臓を得るために。

 

 

 ◆

 

 

 ドーモ、一鳴です。

 今日は流れ星が見れるということで、リディアンも一日その話題で持ち切りでした。

 俺も楽しみ。

 流れ星なんて前世でもそんなに見れなかったしねぇ。

 

「じゃあアンタたち、18時に学校集合だからね!」

 

 と、弓美さん。

 今日はみんなで流れ星を見る約束をしていたのだ。

 俺と響ちゃんと未来ちゃん、クリスちゃん。

 弓美さん、寺島さん、安藤さん。

 7人で見る予定。

 

「ちゃんときねクリ先輩も連れてくるのよ!」

「はいはい」

 

 弓美さんはいつの間にやらプリティマイラバークリスちゃんと仲良くなっていたので気安い。

 おのれ板場ァ……。

 などと考えていたら、教室内のスピーカーから声が響く。

 

「一年生の小日向未来さん、立花響さん、渡一鳴さん。校長室まで来てください。一年生の───」

 

 放送で俺たち3人の名前が呼ばれる。

 この学園の校長は記録上の存在であり二課の作り上げた虚像である。

 なので校長室は完全な空き部屋であり、その実態は二課のエレベーターシャフトに直結している秘密通路である。

 つまりこの放送は学園の連絡に偽装した二課からの呼び出しであり、緊急の案件が発生したということだ。

 

「弓美ちゃん、ごめん。流れ星見れないかも……」

 

 申し訳なさそうに響ちゃんが言う。

 

「えーっ! 前から約束してたじゃない! アンタら何やらかしたのよ!?」

 

 声を荒げる弓美さん。

 そりゃ怒るよなぁ。

 

「ちょっと他言無用な問題でね……。ごめん」

「ごめん。流れ星はクリスちゃんと楽しんで」

 

 未来ちゃんと俺も弓美さんたちにそう言う。

 

「弓美、3人ともこう言ってるんだから」

「そうですわ。校長先生からの呼び出しなら、仕方ありません……」

 

 安藤さんと寺島さんがフォローに回ってくれる。

 

「むー、わかったわよ! その代わり、なるべくさっさと面倒事終わらせて、一緒に流れ星見るわよ!」

「うん、ありがとね」

 

 弓美さんの優しさが染み渡る。

 

 そんな訳で俺たち3人は校長室から秘密のエレベーターに乗り二課に向かう。

 二課の発令室に着いたとき、出迎えたのは八紘副司令であった。

 

「来たか。放課後早々すまない」

「いえ。で、なにがあったんです?」

「エンジェノイズが出現した」

「……ッ!」

「場所は日本近海……。深淵の竜宮直上だ」

「聖遺物を狙いに来た、ということですね」

 

 敵の狙いはカ・ディンギルにあるというのは判明していた。

 そのカ・ディンギルを動かすための聖遺物を手に入れる為に、深淵の竜宮に収められている聖遺物を狙いに来たということだろう。

 

「弦十郎とキャロルくん、オートスコアラーの四騎には、カ・ディンギル防衛のため二課に待機してもらわねばならない。深淵の竜宮の防衛は君たちだけで行ってもらう」

「「「わかりました!」」」

 

 弦十郎さんが待機してるから今回の作戦は八紘さんの仕切りとなる訳ね。

 

「現場の映像、来ました!」

 

 と、オペレーターの藤尭さんが叫ぶ。

 

「よし、映してくれ!」

 

 八紘さんがそう言うと、発令室のモニターに映像が映る。

 どこまでも青い海と空。

 そして、白い身体のエンジェノイズの群れ。群れ。群れ。

 カモメのように水面に群がる。

 海の中には大きな魚のような姿の白い影。

 あれもまた、エンジェノイズであろうか。

 

「これは……」

「こんなに……ッ!」

 

 オペレーター陣が驚きを隠さない。

 群がるエンジェノイズの数が、2年前のライブ襲撃の際と遜色ないからである。

 それだけ、敵も本気ということか……。

 

「未来……」

「響……」

 

 響ちゃんと未来ちゃんが、強く手を握る。

 二人にとってはトラウマを刺激する光景だろう。

 

「二人とも、大丈夫?」

「うん、大丈夫」

「ナルくんは?」

無問題(モーマンタイ)ヨー」

「カタコト!?」

「いざって時は絶唱ヨー」

「とんでもない事言った!」

 

 二人が俺の手を取った。

 

「絶唱って危険なんだよね。そんなことしちゃ駄目だから」

「私達がナルくんも守るから。だから、絶唱なんて止めて」

 

 響ちゃんと未来ちゃんに本気で止められてしまった。

 冗談だったんだけどね(小声)

 

「……うん、頼りにしてる」

 

 冗談抜きで。

 二人に負担をかけさせる訳にはいかない。

 絶唱せずに、エンジェノイズを蹴散らさないと。

 

「……それはそれとして、どうやって現場まで行くんです? 空からは無理でしょ」

 

 エンジェノイズがウヨウヨいる中でヘリコプターに乗って現着は出来そうにないワケダ。

 

「ああ問題ない。了子くんから案を貰ってるからそれを元に作戦を組ませてもらった」

 

 八紘さんはそう言って作戦を説明してくれた。

 その作戦とは───。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 青い空、透き通る……とはちょっと言いづらいグレーな都会の海。

 その海を背中に響ちゃんと未来ちゃんを乗せて泳ぐ俺。時速60キロでかっ飛ばしている。

 

 久々登場、深海型ギアである。

 上半身はインナーのみ、下半身は装甲が集まり人魚のような形になっている。

 背中に光る輪っかを背負い、手には先端が熱くなる銛型のアームドギアを持つ。

 水中を時速60キロで泳ぎ、背中の光輪で暗い深海を照らす。

 そんなギアが深海型ギアである。

 

 作戦はこうだ。

 深海型ギアを纏った俺が響ちゃんと未来ちゃんを乗せて深淵の竜宮まで行く。

 これで空飛ぶエンジェノイズたちはスルー可能だ。

 深淵の竜宮には隔壁があるので、浸水してもすぐに排水するという。

 そんな深淵の竜宮で響ちゃんと未来ちゃんを降ろした後、深海型からノーマルなシンフォギアに戻して、三人で聖遺物を防衛する。

 そういう作戦だ。

 

「ナルくん大丈夫、重くない?」

 

 と、背中に乗り光輪を掴む響ちゃん。

 響ちゃんと未来ちゃんも既にシンフォギアを纏っている。ノーマルな奴だけど。

 二人はまだ心象変化のギアを持っていないのだ。

 深海トレーニングが必要、必要じゃない?

 

「全然平気よ。でも落ちたら戻るの手間だからしっかりしがみついてね。体をもっと密着させて!」

「うん、こうかな?」

オッケイ(んほーたまんね)!」

「ナルくん?」

 

 未来ちゃんの視線が絶対零度である(震え声)

 

「危ないのは本当だから(掠れ声) 未来ちゃんもしがみついて、ね?」

「変態」

 

 と言いながらも体を密着させる未来ちゃん。

 控えめおっぱいがむにっと押し付けられる。

 ところで深海型ギアは装甲が下半身に集中している。

 つまり下半身のスペースはほぼゼロというわけで。

 熱膨張したご立派様が装甲に押し付けられて痛い。

 痛ぁい!

 

「ナルくん大丈夫? やっぱり二人はきついのかな」

「大丈夫だと思うよ」

 

 心配する響ちゃんと冷たい目の未来ちゃんであった。

 でも未来ちゃんそんなこと言いつつおっぱい押し付け続けてるんだけどね。

 あんたも好きね。

 股間が痛いね(震え声)

 とかなんとか言っていると。

 

「見えてきた」

 

 水平線に群がるエンジェノイズたちが見えてくる。

 

「よし。潜るよ」

 

 ここからは潜水して深淵の竜宮に向かう。

 空を飛ぶエンジェノイズに絡まれると面倒だしね。

 

「本当に大丈夫なの?」

 

 と、響ちゃん。

 水中で息が出来るのか不安なのだ。

 

「大丈夫。俺はこのギアで水深5000メートルまで行ったから」

「響、ナルくんと一緒なら大丈夫だよ」

 

 未来ちゃんが響ちゃんの手を握ったみたい。

 

「うん、そうだよね。ナルくんと一緒なら大丈夫だよね」

「うん、任せておくれよ」

 

 さて、というわけで。

 浦島太郎に助けられた訳ではないけれど。

 深淵の竜宮まで、ご案内である。

 

「さあ、行くよ!」

 

 俺は海に潜る。

 下半身の装甲からエネルギー放出、俺たちを囲むように球状に形成。

 水圧から身を守ると共に、水中でも呼吸が出来るようになる。

 どんな理屈かはわからない。

 シンフォギアって不思議!

 

「わぁ……!」

「すごい……!」

 

 背中の二人も問題なさそう。

 海の中の光景を楽しげに見ている。

 ……が、ここは既に戦場なのだ。

 

 白い巨体に大きな口の、魚のようなエンジェノイズが襲いかかってきた。

 というか見た目まんまエヴァのガギエルである。

 サイズは10メートルほどだが。

 それでもあの大きな口は脅威である。

 

「二人とも、しっかり捕まってて。ちょっと、暴れるから!」

 

 

 

 一鳴VSガギエル【1D10】

 

一鳴【9】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+3(クリス補正)

合計【31】

 

ガギエル【1】+15

合計【16】

 

 

 

 ガギエル。

 魚を司る天使と言われている。

 だから魚の姿をしているのだろう。

 大きな口を開けて、猛スピードで迫ってくる。

 それでも───

 

「───敵じゃあ、ないけれど!」

 

 俺はそれを紙一重で躱すと共にガギエルに銛を突き刺す。

 銛の先端が加熱、ガギエルの肉を焼く。

 俺はその銛を一閃し、ガギエルを分断!

 真っ二つになったガギエルは灰となって海に消えた。

 

「いっちょ上がりッ!」

「ナルくんスゴイ」

 

 ガギエルを余裕綽々で倒した俺に賛辞を送る響ちゃん。

 

「な、ナルくん。下、下!」

 

 と、未来ちゃんが俺の肩を叩く。

 言われた通り下を見ると。

 

「■■■■■ーッ!」

「■■■■■ーッ!」

「■■■■■ーッ!」

 

 無数のガギエルが大口を開けて接近してきていた。

 

「大歓迎やね(震え声)」

「言ってる場合じゃないよ!」

「どうするの!?」

 

 響ちゃんと未来ちゃんが肩をパシパシ叩いてくる。

 どうするってそりゃ……。

 

「あんな数いちいち戦ってらんない! 最高速度でぶち抜くよ!」

 

 俺は一気に加速して海の底の竜宮城に向かう。

 大口で噛み付いてくるガギエルは、ぎりぎりでかわしていくが……。

 

 

 

一鳴VSガギエル軍団【1D10】

 

1 響ちゃんが噛まれた!(響の戦闘ダイス−5)

2 未来ちゃんが噛まれた!(未来の戦闘ダイス−5)

3 一鳴くんが噛まれた!(一鳴の戦闘ダイス−5)

4 なんとか突破

5 なんとか突破

6 なんとか突破

7 なんとか突破

8 なんとか突破

9 なんとか突破

10 熱烈歓迎

 

結果【1 響ちゃんが噛まれた!(響の戦闘ダイス−5)】

 

 

 

「うぐっ!」

 

 俺の背中で響ちゃんが呻く。

 後ろを見るとガギエルの中の一体が響ちゃんの右脚に噛み付いていた。

 

「離れろッ!」

 

 俺は銛を逆手にもつと、そのガギエルに向けて投擲。

 銛はガギエルに当たり、響ちゃんの脚を開放した。

 

「響! 大丈夫!?」

「うん……。少し痛いけど、へいきへっちゃらだよ」

 

 響ちゃんは強がる。

 だが、響ちゃんの右脚の傷跡からは血が流れて海に広がっていた。

 

「響ちゃん! 大急ぎで深淵の竜宮に向かう! そこで応急処置をしよう」

「うん。……ナルくん、ありがとう」

 

 そうして。

 ガギエルの猛攻を躱しながら深淵の竜宮に辿り着く。

 本来なら潜水艦で向かうべき場所である為、深淵の竜宮には潜水艦を停めるためのムーンプールがある。

 ムーンプールとはなにか。

 お風呂で風呂桶を逆さにして沈めると、風呂桶の中には空気が残る。

 それのでっかいバージョンがムーンプールだ。

 風呂桶、もといムーンプールの下から、深淵の竜宮の内部に侵入する。

 中は薄暗く、非常電源用の赤い電気が仄かに辺りを照らすばかりであった。

 未来ちゃんが響ちゃんを支えながら上陸。

 その後、俺がビッタンビッタンしながら上陸。

 シンフォギアを解除、そしてノーマルなギアを再展開する。

 深海型ギアは陸上では無力だからだ。

 

「響、しっかりして!」

「うん、大丈夫だよ未来。……あいたッ!」

 

 動こうとした響ちゃんが右脚を押さえる。

 ガギエルの噛み跡がシンフォギアの装甲を貫いていた。

 

「この近くに医務室があったはず。そこで手当しよう。……ごめんね響ちゃん」

「ナルくんは悪くないよ!」

 

 謝る俺を響ちゃんが止める。

 

「ナルくんは悪くない」

「……うん。ありがと」

 

 不甲斐ないな俺。

 響ちゃんに大丈夫って言ったのにこの体たらくよ。

 それでも今は、反省してる場合ではない。

 

「未来ちゃん、そっち支えて」

「うん」

 

 俺が響ちゃんの右側を、未来ちゃんが響ちゃんの左側を支えて医務室に向かう。

 医務室はムーンプールからすぐ傍にあった。

 中はやはり薄暗かったが、消毒液と包帯はすぐに見つかった。

 シンフォギアを解除した響ちゃんを椅子に座らせる。

 

 海の中は雑菌でいっぱいである。

 しっかり消毒しないといけないワケダ。

 

「いたたたたッ! しみるよぅ」

「響我慢してッ!」

 

 だから未来ちゃんが響ちゃんの右脚を消毒してるのを、止めるわけにはいかないのだ(目そらし)

 

「ナルくん助けてッ!」

「お労しや響ちゃん……。感染症対策にはしっかり消毒しないと」

「ナルくーんッ!」

 

 あ、未来ちゃんが消毒液使い切った。

 それじゃ包帯巻きましょ。

 俺は響ちゃんの前で跪くと、右脚を持つ。

 右脚の膝から下に噛み跡。

 傷はそんなに深くないみたい。シンフォギアの装甲は無駄ではなかったということね。

 これなら完治したら傷跡は消えるだろう。

 

「不幸中の幸いかな」

「ナルくんがあのエンジェノイズすぐ倒してくれたからだよ」

「そりゃすぐ助けますよ」

 

 そう言いながらグルグル包帯を巻いていく。

 ただ適当に巻いてるわけではない。

 怪我をしても、歩いた時に痛みを感じにくい巻き方があるのである。

 二課に入った当初に了子さんから教わったものだ。

 たぶん、響ちゃんと未来ちゃんも出来るはず。

 

「響どう?」

「うんしょ、と。……うん、平気だよ!」

 

 未来ちゃんに声をかけられた後、響ちゃんが立ち上がり医務室の中を歩き回る。

 問題なさそうね。

 

「でもそれはあくまで応急処置、無理したらすぐ痛むから無理しないこと。というか、ここで待機してて欲しいんだけど」

「駄目だよ! 私はちゃんと戦えるから! 二人だけにやらせたりしない!」

「そう言うと思った」

 

 響ちゃんは俺たちとともに戦うと言う。

 本当は無理してほしくないんだけど。

 でも気持わかるし、放置したら絶対来るだろうしなぁ。

 連れて行くしかねぇなぁ。

 

「無理しないで。何かあったら俺と未来ちゃんにすぐ言ってね」

「うん!」

 

 ……さて、少々予定は狂ったが。

 聖遺物防衛のために、深淵の竜宮の中枢に向かうとしよう。

 中枢にはおっかない聖遺物がいくつもあるみたいだし、ね。 

 





響ちゃんの戦闘力が低下してツライツライ。
3人はこの先生き残る事が出来るかしら……。

いや、でも深淵の竜宮ってことはちょっとアレな聖遺物あるよな。
じゃあダイスとプロット次第ではアレがコレしてこーなるか。

……いけるな


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第125話 なお昏き深海の底へ 後編


泥の王冠プレイ出来てないけど初投稿です。
なんか人をノイズにするとか設定大事故起こしてそうなあらすじ見て、ちょっとビビってるゾ(震え声)

でもだからこそプレイせんとな。
響ちゃんもキャロルちゃんもカリオストロもエロかわいいし、ね?



 

 

 深淵の竜宮ムーンプールから伸びる道を走る俺。

 未来ちゃんは空を浮遊しながらついてくる。

 響ちゃんは俺が背負ってる。

 

「あの隔壁の向こうだ!」

 

 進行方向の先には浸水及び侵入者対策の為の隔壁があった。

 もっとも、無惨にも破壊されており大穴が開いているが。

 更に問題は、その隔壁の向こうで銃声や轟音が鳴っていることか。

 

「誰か、戦ってる……?」

 

 と、未来ちゃん。

 ここには俺たちとエンジェノイズ以外は居ないはずだが。

 …………あ!

 ()()()()、ここに居たな。

 

「たぶん味方! 行こう!」

 

 俺はそう言うと、隔壁を越えて深淵の竜宮内部に突入する。

 

「開けロイト市警だ!(短縮詠唱)」

 

 内部は赤い非常灯が仄かに照らす広い空間だった。

 瓦礫が散らばり、聖遺物と見受けられるものも雑多にこぼれ落ちていた。

 無数のエンジェノイズが竜宮内を飛び回る。

 そのエンジェノイズたちを撃ち落とす人型機械。

 右腕には対物キャノン。

 左腕にはガトリング砲。

 背中にはミサイルコンテナ。

 

 彼女は、かつて神霊エイワズと手を組み冬木で聖杯戦争を起こした阿礼 星乃。

 エイワズの力で完全な母となる為に人を捨て義体となり、そして敗北して深淵の竜宮に封印されたのだ。

 でもその時の彼女は頭と胴体だけだったはず。

 手脚が生えてるのは、どういうこっちゃ?

 

()()()()!」

 

 俺の呼び声に、顔だけこちらを向ける人型機械。

 その顔はかつて人間だった頃に見た阿礼星乃の顔であった。

 昔はカメラアイが4つ付いた実弾防御が高そうな頭部パーツだったのに。

 黒絹のような髪、白い肌。

 だが、瞳は赤く光った。

 

「……久しいわね、渡一鳴」

「無事だったのか」

 

 ガトリング砲を撃ちながら星乃が答えた。

 

「ええ。で、あいつらはなにかしら?」

「エンジェノイズ、エイワズの同類が生み出したものだよ」

「通りで、不思議と繋がりを感じるわけだわ」

 

 そう言いながらも、右腕のキャノン砲で大きなエンジェノイズを撃ち落とす星乃。

 

「というかその顔と手脚はどうやって直したのよ」

「菊江が見つけてきたヤントラ・サルヴァスパという聖遺物の力よ」

 

 と、背中のコンテナからミサイルを撃ち出して迫りくるエンジェノイズの群れを堕とす星乃。

 菊江さんは星乃の幼馴染の従者であり、星乃と共に深淵の竜宮に送られたのだ。

 世話するついでに聖遺物見つけてきたんか……。

 

「その菊江さんは?」

「そこの小部屋の中よ」

 

 星乃の後ろには部屋の扉。

 その中にいる、ということか?

 

「ナルくん、この人。人? 味方なの?」

 

 と、響ちゃん。

 

「かつては敵だったわ」

「今は共闘できるでしょうが」

「勝手にしなさい」

 

 星乃は素っ気なく言うと向かってくるエンジェノイズをガトリング砲で迎撃する。

 

「ご無沙汰しております、一鳴さま」

 

 小部屋の扉が少し開き、菊江さんが顔を出す。

 

「あ、お久しぶりです」

「それと、そのお二人もシンフォギア装者ですね。星乃さまの従者、菊江と申します」

「はじめまして、立花響です!」

「小日向未来です」

「菊江、危ないから部屋から出ないで!」

 

 キャノン砲をドカドカ撃ちまくる星乃。

 

「というかあなた達もシンフォギア装者なら手伝いなさい!」

 

 

 

シンフォギア&星乃VSエンジェノイズ【1D10】

 

一鳴【8】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+3(クリス補正)

響【2】+5(錬金術補正)+3(未来補正)−5(ケガ補正)

未来【10】+5(錬金術補正)+3(響補正)

星乃【5】+10(義体補正)

合計、【68】。

 

エンジェノイズ軍団【4】+40(数補正)

合計、【44】。

 

 

 

 数だけで大して強いエンジェノイズは居なかったので、特に苦もなくエンジェノイズを倒しきった。

 というか星乃が強すぎる(震え声)

 

 「取り敢えず、一段落かしら」

 

 と、星乃がキャノン砲とガトリング砲から硝煙を出しながら言う。

 

「奥にまだいるっぽいけど」

 

 敵の目的はカ・ディンギルのエネルギー源になる聖遺物である。

 それを手に入れるまでは、殲滅し切るまで撤退しないだろう。

 深淵の竜宮には他のエリアもあるのだ。

 

「星乃、あの敵は月を穿つ荷電粒子砲のエネルギー源になりそうな聖遺物を探しているんよ。心当たりない?」

「それなら、私より菊江の方が詳しいわ。ヤントラ・サルヴァスパを見つけるためにあちこち見てきたみたいだし」

 

 と、ひょっこり顔を出す菊江さん。

 

「話は聞かせていただきました」

「菊江、どうかしら?」

「心当たりはあります。ここの更に地下階に、ここより危険な聖遺物が納められたエリアがあります。おそらくはそこかと」

 

 俺たち装者3人は菊江さんから詳しい場所を聞いた。

 

「ありがとうございます、菊江さん」

「いえ、皆さんには助けてもらいましたからね」

 

 菊江さんが笑顔でそう言ってくれる。

 

「あなた達はそこに向うのでしょう?」

「そうだな」

「……気をつけなさい、今相手したエンジェノイズより大きく強力な個体がそこに向かったわ」

「忠告ありがと。二人も早く脱出して!」

「私はともかく菊江はどうするのよ」

「ヤントラ・サルヴァスパの力で潜水艦にでも変形したら?」

「そんなアホなこと……、出来そうね」

 

 目を瞑った星乃が引き気味にそう言った。

 ヤントラ・サルヴァスパは星乃の義体に格納されてるみたいだった。

 

「一鳴さま、響さま、未来さま。私達はここで待っています」

 

 菊江さんがそう言う。

 

「危うくなれば、共に脱出を。ですのでここに戻ってきてください。」

「……しょうがないわね。菊江がそう言うなら、待っててあげるわ」

 

 星乃がため息をついた。

 

「ありがとうございます、菊江さん。あと星乃」

「さっきから思ってたけど、私の扱い雑じゃない?」

「響ちゃん、未来ちゃん、行こう!」

「無視するんじゃないわよ(半ギレ)」

 

 だって星乃は元々敵だし。

 お前の起こした聖杯戦争のせいで俺の童貞はサヨナラバイバイしたんじゃい!

 そんな訳で特に気配りする気も起きないだけであった。

 それはそれとして、響ちゃんを背負い未来ちゃんと共に深淵の竜宮の奥に向かう。

 地下階に向かうにはエレベーターと階段がある。

 だが、エレベーターは停止しており、その扉はこじ開けられていた。

 おそらくは、エレベーターは破壊されているだろう。

 階段で向かうことにする。

 こういう時、浮遊できる未来ちゃん羨ましいわね(羨望)

 いや、俺も飛べるけどさ。

 

「響ちゃん、脚は大丈夫?」

「うん、大丈夫!」

 

 今は響ちゃんを背負ってるので独り善がりな高速移動はNGなのだ。

 優しく、しかし急いで地下階に向かう。

 海の底の、そのまた底に。

 開けてビックリ玉手箱、その底にある碌でもない宝物を守るために。

 

「ナルくん!」

 

 未来ちゃんが叫ぶ。

 階段が終わり、地下階が見えてくる。

 

「よし、行こう!」

「うん!」

 

 俺たち3人は深淵の竜宮地下階に突入した。

 そこは上の階よりも広く、伽藍としている。

 非常灯が赤く照らすエリアは広々としており、聖遺物はあちこちにある大きな金庫のような部屋に封印されているようだった。

 その金庫はいくつかが破壊されて、中にある聖遺物が床にこぼれ落ちていた。

 人形。

 椅子。

 なんらかの粘土板。

 割れたガラス瓶とそこから漏れる液体。

 

 それらの散らばる奥。

 とても大きな金庫がある。

 いや、あれは金庫というよりもむしろ別のエリアへの入口というべきか。

 そしてその入口を壊そうとするエンジェノイズの群れ。

 上の階よりも大きく強力な個体ばかりだ。

 その中でも特に強力な個体がこちらを振り向く。

 体長5mほどで、彫像のごとき均整の取れた肉体をした美しい若者の姿をしている。

 大きな羽が一対背中から生えており、剣と円盾を携えている。

 

「侵入者確認、排除開始」

「見た目の割に機械的だな!」

「やろうナルくん!」

 

 

シンフォギアVSエンジェノイズ【1D10】

 

一鳴【9】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+3(クリス補正)

響【10】+5(錬金術補正)+3(未来補正)−5(ケガ補正)

未来【6】+5(錬金術補正)+3(響補正)

合計、【58】。

 

エンジェノイズ:typeハニエル【8】+20(性能補正)

エンジェノイズ軍団【7】+20(数補正)

合計、【55】。

 

 

 

「響ちゃん、未来ちゃん、雑魚は任せた!」

「うん!」

「了解!」

 

 俺は響ちゃんを降ろすと、アームドギアの戦輪を振りかざしながら大きなエンジェノイズに向けて突撃する。

 それを左手の円盾で受け止める大きなエンジェノイズ。

 

「ハニエル、状況開始」

「お前の名はハニエルか!」

 

 そう叫びながら戦輪を高速回転。

 戦輪と円盾の間で火花が飛び散る。

 しかし、ハニエルの体幹は揺るがない。

 流石5m級。

 ハニエルの後から突撃してくるエンジェノイズたちは未来ちゃんがなんとかしてくれてる。

 だが、何体かは神獣鏡の攻撃を抜けてくるやつもいる。

 

「させない!」

 

 響ちゃんが地面を殴る。

 地面には魔法陣。

 攻撃を抜けたエンジェノイズたちの真下にも魔法陣が現れる。

 そして、その魔法陣から黄金の土の槍が形成され、エンジェノイズたちを貫く。

 キャロルちゃんの教えた錬金術だ。

 エンジェノイズ軍団撃破!

 

「救援要請。救援要請。至急来られたし」

「その前に倒してやるよォ!」

 

 戦輪を、さらに高速回転。

 火花がさらに散る。

 それでいい。

 互いの姿が見えなくなるくらいで。

 

「行け、戦輪!」

 

 腰アーマー展開。

 中に納められていた小戦輪が飛び上がる。

 炎を上げて高速回転しながら、小型戦輪がハニエルの背後から攻撃する。

 

「!?」

「隙ありッ!」

 

 攻撃を受けたハニエルは一瞬体制を崩す。

 そこを逃さず戦輪を振り上げる。

 相手の腕は円盾ごと跳ね上がる。

 腹が、ガラ空きである。

 

「スダルシャナパンチ!」

 

 なんのことはない、ただの炎を纏った拳を打ち込む。

 

「救援要請。救援要請。きゅうえん……」

 

 だが、それが効いたのか、ハニエルは後ろに倒れる。

 

「きゅ……え…………」

 

 そして、灰となって消えた。

 

「状況終了。二人とも無事?」

「うん。未来は?」

「うん、私も大丈夫」

 

 と、言い合っていたら。

 深淵の竜宮全体を襲う振動。

 更に何かを破壊する音。

 それは上から聞こえてくる。

 そして。

 天井が崩れる。

 

「きゃあ!」

「なんなの!?」

 

 俺は響ちゃんと未来ちゃんをかばう。

 瓦礫とホコリが舞う。

 その中から、幾条もの銀色の光線。

 俺はとっさに小型戦輪を盾にする。

 銀の光線が当たった小型戦輪が銀となって地面に落ちる。

 こんな事ができるのは……。

 

「ハニエルがやられるとは……。深海までご苦労だな、シンフォギア」

 

 神霊ツァバトのエントリーであった。

 ツァバトの両側には、顔のないシェム・ハのような熾天使型エンジェノイズが2体立っていた。

 

「ツァバト、お前こそこんな海の底になんのようだ?」

「わざわざ話す必要はないな」

 

 ツァバトたちは、目的がカ・ディンギルの奪取と月の破壊ということがバレていることに気付いていないみたいだ。

 

「それもそうだ、な!」

 

 俺はツァバトに戦輪を投げつける。

 ツァバトは戦輪をバレーのレシーブのように受け止め、弾き返してきた。

 

「油断も隙もないな、シンフォギア」

「お前相手に余裕もないからな」

 

 俺は弾き返された戦輪を掴み取りながら言った。

 

「だが一人ケガをしているな。不運なことだ」

「その分こっちでカバーするし(震え声)」

「ナルくん、私は大丈夫だから!」

 

 と、響ちゃん。

 

「響、私も一緒だよ!」

 

 未来ちゃんもそう言う。

 

「どこまでやれるか、楽しみしておこう」

 

 ツァバトがそう言うと、熾天使型エンジェノイズたちと共にこちらに攻撃してきた。

 

 

 シンフォギアVSエンジェノイズ【1D10】

 

一鳴【3】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+3(クリス補正)

響【3】+5(錬金術補正)+3(未来補正)−5

未来【2】+5(錬金術補正)+3(響補正)

合計、【41】。

 

ツァバト【6】+20(分霊補正)

熾天使型【2】+20(性能補正)

熾天使型【10】+20(性能補正)

合計、【78】。

 

 

 ツァバトの攻撃を受け止める俺。

 小型戦輪による直接攻撃や、ファンネルめいたビーム射出なども交えて多角的に攻撃する。

 これでツァバトは俺相手に集中せざるをえない。

 あとは、熾天使型2体の相手を響ちゃんと未来ちゃんが出来るかどうかだが。

 

「よそ見はいけないなぁ!」

 

 ツァバトがそれを許してくれない。

 ツァバトのチョップを戦輪で受け止める。

 高速回転する戦輪とツァバトの腕が火花を散らす。

 

「頑丈な奴め!」

「2年前のように倒れてくれるなよ!」

 

 あっチョップの圧が強い!

 押し返しきれない。

 俺はチョップを受け流しながら、小型戦輪でツァバトを攻撃。

 その隙に距離を取る。

 ちら、と響ちゃんと未来ちゃんの様子を確認。

 

「うわあああ!」

「きゃあああ!」

 

 二人が吹き飛ばされていた。

 聖遺物を収めている金庫に激突する。

 

「響ちゃん! 未来ちゃん!」

「あの2人では、熾天使の相手は出来なかったか」

 

 その熾天使型エンジェノイズ2体は、吹き飛んだ響ちゃんと未来ちゃんの元へ歩いていく。

 

「二人とも! いま助けに───」

「行かせんぞ!」

 

 ツァバトがツァバトが身体を倒しながら突撃。

 両手を地につけ、片脚を軸に蹴りが放たれた。

 メイアルーアジコンパッソ!

 

「読めてるぞ! イヤーッ!」

 

 俺は前転で回避。

 そのまま身体を倒したツァバトに戦輪を叩きつける。

 

「甘いッ!」

 

 ツァバトはそれを更に横回転で回避。

 回転の勢いを利用し立ち上がる。

 

「そこで聞いておけ、貴様の仲間の断末魔を!」

 

 ツァバトによるガトリングの如き拳の応酬。

 俺は戦輪を構えて防御。

 嵐の如き攻撃に、二人を助けに迎えない……!

 

「クソっ!」

 

 なにか、なにか手はないか。

 そう、思考していたら。

 

「■■■■■───!!!!!」

 

 獣のような唸り声が聞こえて……。

 熾天使型エンジェノイズが吹き飛んできた。

 吹き飛んできた熾天使型は俺とツァバトにぶつかりそうになったが、ツァバトが後退した隙に俺も後退し、ちょうど二人の間を飛んでいった。

 

「一体なにが……」

 

 唸り声が聞こえた方を見ると、響ちゃんが立っていた。

 

「ウゥゥゥゥ……、グゥゥゥゥゥ」

 

 響ちゃんは全身がドス黒く染まり、瞳が紅く光っていた。

 右手は握られて突き出されている。あれでエンジェノイズを吹き飛ばしたのだろう。

 左手は何かを掴んでいる。寄木細工の手のひらサイズの箱だ。

 黒いオーラが漏れている。

 

 響ちゃんは暴走していた。

 金庫の中にあっただろう左手に持った箱型の聖遺物のせいで。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

 

 暴走した響ちゃんがもう一体の熾天使型エンジェノイズを殴り飛ばした。

 

「ひび、き……?」

 

 その側にいた未来ちゃんは、呆然と変わり果てた響ちゃんを見ていた。

 

「■■■■■───ッ!」

 

 響ちゃんはお腹を押さえて苦しんでいる。

 響ちゃんの持つ箱が、原因なのだろう。

 

「……面倒な」

 

 ツァバトがそう零す。

 

「いや、アレは放っておけばいいか」

「……どういうことだ?」

 

 思わず、ツァバトにそう聞く。

 

「あの小娘の持つ箱は呪いのたぐい。持つ者も苦しめ、いずれは殺すだろうよ」

「なに……?」

「腹を押さえているだろう? 内臓が捻れて苦しんでいるのだ」

 

 響ちゃんの、内臓が……!?

 

「未来ちゃん! 今すぐ響ちゃんの左手の箱を壊すんだ!!!」

「ッ! わかった!」

 

 俺の慌てた声に未来ちゃんは、すぐに行動する。

 アームドギアで響ちゃんの左手を狙う。

 

「響、ごめん!」

 

 

 

未来ちゃんVS響ちゃん(暴走)【1D10】

 

未来【10】+5(錬金術補正)+3(響補正)

 

響【2】×5(暴走補正)+5(錬金術補正)+3(未来補正)−5

 

 

 未来ちゃんの攻撃が当たる、そう思った時。

 

「■■■───」

 

 お腹を押さえていた響ちゃんが動いた。

 右手で未来ちゃんのアームドギアを掴んだのだ。

 そのままアームドギアを握りつぶそうとする響ちゃん。

 未来ちゃんのアームドギアにヒビが入る。

 

「響ィッ!」

 

 未来ちゃんが叫ぶ。

 それに呼応するかのように、鏡型のユニットが現れる。

 鏡から光線が放たれる。

 聖遺物を浄化する、神獣鏡の光だ。

 

「■■■■■!」

 

 響ちゃんはアームドギアを離して避ける。

 後退する響ちゃん。

 だが、よろける。

 右足のケガが響いたのだ。

 そこを見逃す未来ちゃんではない。

 

「響、元に戻って!」

 

 神獣鏡の光が響ちゃんの左手に当たる。

 叫び声のような、甲高い音を立ててボロボロになっていく寄木細工。

 それに合わせて、響ちゃんの色が戻ってくる。

 黒から、響ちゃんに。

 そして、箱が完全消滅。

 気を失った響ちゃんが倒れようとするが未来ちゃんが肩を抱いて受け止める。

 よかった、無事で。

 

 と、思ったのだが。

 ドカァァァァン、と大轟音。

 振り向くと、エリア最奥の金庫に大穴が空いていた。

 ツァバトの仕業であった。

 あの野郎、俺が響ちゃんと未来ちゃん見てる間に……!

 

「未来ちゃん! 響ちゃんを連れて、星乃と脱出を!」

「ナルくんは!?」

「アイツを止める! 最悪俺は一人でも脱出出来るから二人で早く逃げるんだ!」

「……ッ、わかった! また後で!」

 

 響ちゃんを背負った未来ちゃんがツァバトが竜宮に侵入したときに空けた穴から脱出する。

 こういう時、浮けるシンフォギアは便利だと思う。

 

「ツァバト!」

 

 それはともかく。

 俺はツァバトの後を追い、奥のエリアに向かった。

 金庫を越えた先は……。

 

「さっむ!」

 

 極寒だった。

 思わず戦輪から炎を出してしまう。

 だからわかった。

 明るくなった最奥のエリアに眠る、その大きな威容を。

 

「なに、これ……」

 

 それは、竜であった。

 大きな翼の生えた、ずんぐりとした肉体。

 首は短く、手脚は太い。

 紅と金で彩られた身体は青く凍りついている。

 

「ニュークリアドラゴン、グラウスヴァインという」

 

 ツァバトであった。

 その竜、グラウスヴァインの前に立っていた。

 

「太母シェム・ハの記憶にある。先史文明期に太陽系の外から到来した、我らの知らぬ文明の兵器だ」

「……お前ら以外にも宇宙人がいるのか」

「ああ。当時も慌てたみたいでな。コイツを凍らせて封印するためにアヌンナキの1/3と大陸一つを犠牲にした」

 

 グラウスヴァインの封印のために、それだけを犠牲に……。

 というか犠牲にした大陸、ムーとかアトランティスじゃね?

 

「コイツが目覚めれば、この星全土は焦土となるだろう」

「そんなに危ないならすぐにお引取り頂きたいんですけお!」

「そういうな。すぐ終わる」

 

 そう言うと、ツァバトはグラウスヴァインの肉体に右腕をねじこむ。

 氷を砕くバキバキという音と、肉を裂くグチュグチュという音が鳴る。

 何かを探すように右腕を掻き回すと、右腕を引き抜く。

 その手には、光輝く赤い石。

 

「なに、それは」

「常温核融合体だ」

「物騒すぎるんですけど!」

 

 身体の中にそんなものがあるなんて、ニュークリアドラゴンなだけある。

 

「それ置いてさっさと帰れ!」

「それ以上近付くと、氷が溶けるぞ?」

 

 ツァバトに言われて、思わずツァバトに近づく足を止める。

 ほのおタイプの己が、今は恨めしい。

 

「今のルル・アメルではグラウスヴァインを止めるのは難しかろうよ」

 

 そう言うとツァバトは俺の横を飛んでゆく。

 

「ああ、そうだ。グラウスヴァインはもう死んでいる。封印が解けても動かんよ」

「はぁ!?」

 

 騙された。

 最悪である。

 

「待てツァバト!!!」

「また会おう、シンフォギア。我が契約者がいずれ宣戦布告するだろう時を待て」

 

 そう言うとツァバトはさっさと深淵の竜宮を脱出していった……。

 

「チクショウめぇ!!」

 

 カ・ディンギルのエネルギー源になるだろう聖遺物の保護、出来なかった。

 最悪だ。

 

「落ち込んでる場合じゃない!」

 

 深淵の竜宮はもう限界なのか、上の階から海水がナイアガラのように降ってきている。

 俺も早く逃げないといけない。

 

「未来ちゃんも逃げてるといいけど」

 

 俺はシンフォギアを深海型に再展開。

 降り注ぐ海水を滝登りの要領で遡る。

 上の階は水没しつつあった。

 壁から海水が溢れ出し、床が一メートルほど浸水している。

 

「ナルくん!」

 

 未来ちゃんの声。

 クジラのような形の潜水艦から顔を出している。

 

「未来ちゃん!」

「遅いわよ! 早く脱出を!」

 

 と、潜水艦から声。

 近付くと、潜水艦の正面に大きな女性の顔。

 星乃であった。

 

「いやもうちょいどうにかならない!?」

「仕方ないじゃない、ヤントラ・サルヴァスパの制御が難しいのよ!」

 

 きかんしゃトーマスみたいな潜水艦星乃がそう言う。

 まあ、贅沢は言えないわよね(震え声)

 

「あ、定員オーバーだからアンタはそのまま泳いできなさい」

「チクショウめぇ」

 

 そんな訳で。

 俺たちはなんとか帰還したわけだった───。 

 






◆唐突な用語解説コーナーな?◆

○ハニエル
ハニエル (Haniel) は、エノク書などに語られる天使の一人で、その名は「神の栄光」「神を見る者」を意味する。
七人の大天使の一人とされる。
魔術において、ハニエルは寵愛を勝ち取るために呼び出される。また、彼は愛と美を支配しており、愛情、平和、調和を増やす呪文に出てくる。
byウィキペディア
メガテニストとしては赤い翼で肉体を隠す青い肌の大天使。大体カズフェルとセットのイメージ。

○響ちゃんの持ってた寄木細工の小箱
コトリバコ。
2ちゃんねるの洒落怖が出典。
女子供を惨たらしく呪い殺す恐るべき呪物。
風鳴機関が昭和期に秘密裏に回収していたもの。

○グラウスヴァイン
核ドラゴン。
筆者はワイルドアームズもグラウスヴァインギアのイベントもプレイしてないので設定をでっちあげた。
体内に腫瘍のように常温核融合体を生成するやべー奴。
死んでるのが惟一の救いか……。


と、言うわけで125話でした。
未来ちゃんが暴走響ちゃんに勝てるとは思わなかった(震え声) 
愛は強しやね……(にっこり)
次回からしばらくは休養期間です。
鍛えたりイチャイチャしたりします。
ではまた次回ノシ


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第126話 友情に翳りなく


 投稿頻度上げたいので初投稿です。
 出来れば8/25までに第一部を終わらせたいねぇ。
 8/25になるとどうなる? アーマードコアの新作が発売される。
 俺はもう有給取ってやり込むつもりぞ。
 だから投稿を急ぐ必要があるんですね(震え声)


 

 

 

 深淵の竜宮でシンフォギアが暴走した響ちゃん。

 未来ちゃんの活躍で助かったあと、二課の治療室に運び込まれた。

 そして、今───

 

「未来、あ~ん」

「もう、響の甘えん坊。はい、あーん」

 

 響ちゃんは病室で未来ちゃんに甘え倒していた。

 エンジェノイズたちが深淵の竜宮を襲撃した次の日であった。

 気絶していた響ちゃんも、早朝には目を覚ましていたのだ。

 夜通し付き添っていた未来ちゃんは思わず泣いたとか。

 俺はその間、深淵の竜宮で起きたことを訃堂じいじや弦十郎さん、八紘さんに報告したり今後の相談していた。徹夜である(白目)

 で、一旦様子を見に来たら響ちゃんは甘え倒していたワケダ。

 

「思ったより元気そうね(震え声)」

「あ、ナルくん」

 

 未来ちゃんにアロエヨーグルトを食べさせてもらっていた響ちゃん。

 

「ごめんね、私あんまり覚えてないけど大変なことになったって未来が言ってて」

「なんか黒くなって唸ってたゾ」

 

 響ちゃんを暴走させた聖遺物、コトリバコなんですって(戦慄)

 そんなヤベー聖遺物がゴロゴロしてたのが深淵の竜宮なんやなって……。

 

「未来ちゃんが居なかったら響ちゃん死んでたかもしれん」

「うん……」

「響が無事で良かったよ」

 

 未来ちゃんが響ちゃんをそう言って抱きしめる。

 そういや響ちゃん、コトリバコのせいで内臓が捻れてたんだけど、大丈夫なのかしら。

 

「問題ない」

 

 病室に入ってきたのは男の人だ。

 白衣の上からわかるほど筋骨隆々で、顔立ちは濃く整っている。

 医務室の新人、ドクターK(偽)である!

 

「かつては呪いによる内臓の捻じれは治療が困難だった。だが今は違う!」

 

 ギュッ、と聞こえてきそうな気迫の男である。

 劇画に出てきそうな人で、すごく有能なのよね。

 

「ドクターK(偽)、響ちゃんを治してくれてありがとうございます」

「人を治すのは俺たちの使命だからな」

 

 頼りになるお人だぁ(うっとり)

 

「それと右脚の怪我も経過は良好だ。感染症の疑いもない。今日一日経過を観察すれば退院出来るだろう」

「何事もなくてよかった」

 

 という訳で響ちゃんは元気である。

 元気なので、これからあることを伝えないといけない。

 

「そんな二人に連絡です。響ちゃんが治り次第二人は地獄の特訓です(震え声)」

 

 二課上層部は深淵の竜宮での敗北を重く見ている。

 ようは、このままでカ・ディンギルを守りきれるかどうかということ。

 そんな訳で二人には弦十郎さんとキャロルちゃんが心を鬼にして特訓するという事だそう。

 二人とも嫌がるだろうな、と思っていたのだが……。

 

「うん、わかった!」

「私も、頑張る」

 

 と、二人とも乗り気だった。

 

「だって、私、何も出来なかったから……」

「私も……、だから頑張りたいの!」

 

 響ちゃんと未来ちゃんがそう力強く語る。

 

「……そっか」

 

 二人は、俺が思うよりもずっと強くなっていたみたい。

 

「うん、わかった。なら俺から弦十郎さんとキャロルちゃんには伝えておくね」

「うん、お願い」

「ありがとう、ナルくん」

 

 まあ、それでも今日一日響ちゃんは入院だし、未来ちゃんは付き添いだろう。

 

「俺は一度帰って、二人の着替えやら日用品やら持ってくるよ。荷物はクリスちゃんに用意してもらうね」

「ありがとう、ナルくん」

「よろしくね」

 

 今日は土曜日、学校も休みだ。

 クリスちゃんも家に居るだろう。

 今の内に連絡しておこう。

 一応、二課に帰ってきてから無事の連絡はしてるけど。

 それでも皆心配してるだろうしねぇ。

 

「あ、そうだ。ナルくんは特訓しないの?」

 

 と、去り際に響ちゃんに聞かれる。

 

「俺は別の特訓でね。完全聖遺物を使用した強化プラン、()()()()()()()をモノにしろってさ」

 

 

 ◆

 

 

 そんな訳で家に帰ってきた。

 あいも変わらず立派な門である。

 こんな立派な家が俺の持ち家なんて、といつも思う。

 でもハーレム維持には立派な家が必要なのよね(震え声)

 

「ただいまー」

 

 扉を開ける。

 

「お帰り、一鳴」

 

 出迎えてくれたのはクリスちゃん。

 

「クリスちゃん昨日はごめんね」

「流れ星はもういいよ。それよりあのバカと未来は大丈夫なのか?」

「うん、もうなんともなさそう」

「そっか、良かった」

 

 ホッとした様子のクリスちゃん。

 

「そういや、弓美さんたちとはどうだった? 問題無かった?」

「あー、それなんだが……」

 

 弓美さんたちのことを聞くと言葉を濁すクリスちゃん。

 

「あー、やっぱキレてたか」

 

 約束反故にしたから、みんな怒ってたか。

 と、思ったのだが。

 

「いや、そうじゃねえ。そうじゃねえんだが……」

「???」

 

 いまいちハッキリしないクリスちゃん。

 

「いや、まあ。取り敢えずリビングに行ったらわかるよ」

 

 と、言われた。 

 ので、まあクリスちゃんとお手々繋いでリビングに行ったわけだが。

 

「あ、おふぁえふぃ(おかえり)

 

 テーブルを前に、座布団に腰掛けた弓美さんがご飯をモキュモキュ食べながら手を上げた。

 

「お邪魔してます」

「おかえり、ズナリん」

 

 寺島さんと安藤さんも座布団に座っている。

 ちなみに『ズナリん』とは俺のニックネームである。

 一鳴の『か』を抜いて、『ん』を付け足したみたい。

 使ってるの安藤さんだけだけど(悲哀)

 まあそれはそれとして。

 

「なんでみんなここに?」

「モキュモキュ、ごくん。そりゃお泊りしたからよ」

「流れ星を見た後、雪音先輩にお呼ばれしまして」

「マリアさんとセレナさんにもお世話になったよ」

 

 つまり流れ星鑑賞会のあと、3人は俺の家に泊まったのね。

 まあ部屋はまだまだ沢山あるからお泊り会は出来るけど。

 

「あ、セレナさんお代わり」

「はーい。あ、一鳴さんお帰りなさい♡」

 

 セレナちゃんにお代わり要求する板場とお茶碗を受け取るセレナちゃん。

 今日はセレナちゃんが朝ごはん作ったのね。

 

「お帰り一鳴。響は大丈夫なの?」

「マリアさんとセレナちゃんもただいま。響ちゃんは大丈夫」

「響になにかあったの!?」

 

 と、安藤さん。

 

「ちょっちケガをね。もう治療済みで本人は未来ちゃんからヨーグルト食べさせてもらってた」

「そう……、それは良かったです」

 

 寺島さんがほっと胸を撫で下ろす。

 

 「あ、一鳴さんお腹空いてませんか? 朝ごはん一緒に食べませんか?」

 

 セレナちゃんにそう言われる。

 

「頂こうかしら」

「ちゃんと手洗いうがいしてきなさいよー」

「お前は家主か???」

 

 弓美さんに言われので仕方ない。

 手洗いうがいしてこよう。

 

「クリスちゃんはご飯もう食べたの?」

「あたしもまだ食べてる途中だよ」

 

 俺も早く食べよう。

 洗面所に向かい手洗いうがいをして、リビングに戻ってくる。

 

「一鳴さん、ご飯はどれくらいですか?」

「普通盛りでオナシャス!」

 

 セレナちゃんがご飯を盛ってくれる。

 その間に俺はいつもの位置に座る。

 簡易的に表した席順は以下の通り。

 

   一

   鳴

マリア■セレナ

クリス■弓美

 寺島■安藤

   ■

   ■

 

 あと5人は座れる大きなテーブルである。

 立派なものをマリアさんが見つけて買ってきてくれたのであった。

 

「いただきます」

 

 テーブルには目玉焼き、アジの開き、味噌汁、サラダに明太子。そして白米。

 ゴキゲンな朝食だぁ……(感嘆)

 

「うめ、うめ……」

「梅干し食べますか?」

「旨いって意味だろ……」

 

 天然ボケなセレナちゃんに突っ込むクリスちゃん。

 

「で、一鳴くん」

 

 弓美さんが口を開く。

 

「正直に答えてちょうだい」

 

 弓美さんは昨日のことを聞きたいのだろう。

 前から約束していた流れ星鑑賞会をブッチして、響ちゃんが怪我をした用事について。

 ノイズを倒すシンフォギアについて聞きたいのだろう。

 

「あなた達3人は、魔法少女なのよねッ!?」

「違うが?」

 

 コイツ一体何言ってんだ(困惑)

 

「だって昨日の夜ニュースでやってたわよ、海の方でノイズが大量発生したって! その時間と合わせるように、アンタたちは校長に呼び出された。つまりアンタたちはノイズを倒す魔法少女!」

「違、違うが?」

「隠さなくていいわッ!」

 

 なんだコイツ、無敵か?(ギャングスター並感)

 しかもそこそこ惜しいのがなんともいえん。

 

「響がケガをしたのも、アンタが朝帰りなのも、ハーレム作ってるのも! 全部魔法少女だからなのねッ!」

「ハーレムは違うが!?」

 

 俺はすがるようにみんなを見た。

 マリアさんとセレナちゃんはなんとも言えない表情をしている。

 クリスちゃんはゲッソリしている。

 寺島さんと安藤さんは苦笑いだ。

 板場はドヤ顔している。

 

「何も言わなくていいわ一鳴くん。魔法少女の活動はナイショ、だものね」

「おっ、そうだな(適当)」

 

 お、今日のアジの開きは焼き加減も良くて美味しいな。

 セレナちゃんも腕を上げたでぇ。

 

「でも私、応援してるからッ!」

「お、おう……」

 

 弓美さんが目をキラキラさせて言う。

 

「だから私も魔法少女に───」

「そんなことよりも」

 

 寺島さんが助け舟を出してくれた。

 ありがてぇ。

 

「立花さんが怪我をされたなら、入院先にお見舞いに行きたいのですが」

「お見舞いかぁ」

 

 響ちゃんが入院してるのは二課内の医務室だから、一般人立ち入り禁止なのよね。

 

「明日の朝には退院だし、大丈夫だと思うよ。ラインでも送っておいてあげて」

「そう言うことなら、お見舞いは遠慮しておきましょうか」

「魔法少女だしね」

 

 それで納得してくれるなら良いんけどね、うん……。

 

「昨日の夜からずっと言ってんだよ」

 

 と、ゲッソリしたクリスちゃん。

 

「お風呂に入ってるときに思いついたみたいで」

 

 安藤さんが苦笑いして答えた。

 

「……大変だったね(震え声)」

 

 俺はそれしか言えなかった。

 

 

 ◆

 

 

 朝食後、クリスちゃんに響ちゃんと未来ちゃんの着替えや日用品を用意してもらう。

 俺が用意すると角が立つから、ネ。

 親しき仲にも礼儀あり、である。

 それと。途中までは弓美さんたち三人も手伝っていたようだが、突然部屋を出てしまった。

 

「お、おっきなディルドが……(顔真っ赤)」

「破廉恥です……(顔真っ赤)」

「あの二人進みすぎでしょ……(顔真っ赤)」 

 

 なんて言ってたけどなんのことやら(震え声)

 ボクには何もわからないなぁ(すっとぼけ)

 

 「ほら、用意出来たぞ」

 

 と、みんなでリビングで待っていると、クリスちゃんがリュックを2つ持ちながら入ってくる。

 

「こっちのが、あのバカ。こっちが未来の」

「クリスちゃんありがとう」

「あとあの二人に部屋はちゃんと片付けるように言っておけよ(震え声)」

「はい(掠れ声)」

 

 まあ未来ちゃんはしっかりものだから双頭ディルド置きっぱなしにはしないだろう。

 犯人は響ちゃんだな(慧眼)

 

「その、入院生活でイロイロ溜まるだろうし、ディ……持っていったほうが良いんじゃない?」

「明日退院するから要らんでしょ(白目)」

 

 顔を真っ赤にして、指先をツンツン突き合わせる弓美さんが聞いてくる。

 逆に俺がそれ持って言ったら大変でしょうよ。

 

「じゃ、じゃあ私達もそろそろ帰ろっか」

 

 安藤さんがそう言う。

 

「そうですね。随分お世話になりまして」

 

 と、寺島さんが頭を下げる。

 

「対したもてなしも出来ず……」

「いえいえ、そんな……」

「いえいえ……」

「いえいえ……」

 

 セレナちゃんと寺島さんが頭を無限に下げ合う。

 

「マリアさんもありがとうございました。お化粧品の話、また聞かせてください」

「ええ、いつでも聞いて頂戴」

 

 と、マリアさんと安藤さん。

 平和だぁ(感涙)

 

「じゃあね一鳴くん。また月曜日!」

「あい、みんなまた月曜日ね」

 

 と、3人は嵐のように去っていった。

 

「さて、と。俺も行ってくるね。昼前には帰れると思う」

「わかったわ」

「行ってらっしゃい一鳴さん」

「二人にちゃんと言っとけよ(疲れ目)」

「はい(掠れ声)」

 

 そんな訳で二課に戻って響ちゃんと未来ちゃんに会いに行く。

 

 

 

ひびみく♡チャンス【1D10】

二人の数字が揃うと……交尾しとる!

 

響 【5】

未来【1】

 

 

 

「すぅ……」

「くぅ……」

 

 病室に行くと、響ちゃんも未来ちゃんも眠っていた。

 未来ちゃんは響ちゃんのベッドに潜り込んでいる。

 響ちゃんは身体のダメージあるし、未来ちゃんも徹夜明けだし、仕方ないね。

 

「二人とも、お疲れ様でした」

 

 俺は二人の頭をそっと撫でた。

 

 





あんまりイチャイチャしとらんな(震え声)
ま、ま、ええわ(柔軟な対応)

次回は修行回。
一鳴くんはデュオレリックをモノに出来るのか?
響ちゃんと未来ちゃんは強くなれるのか?
次回もよろしくね♡


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第127話 一鳴の歌


最近小説の勘を取り戻すために完全オリジナルのVRMMO物の話を書き始めました。ちなみに公表するつもりはないです。
でも3日間で15,000文字書いてました(震え声)
その熱意をシンフォギアに向けなきゃ(使命感)したので初投稿です。
ちなみにMMOはやったこと無いので勘で書いてます。ほとんどダクソ仕草だゾ(震え声)



 

 

 

「どりゃあああ!!」

 

 響ちゃんが気合を入れながら拳を振るう。

 

「功夫の練が甘いッ!」

 

 それを弦十郎さんは片手で受け止める。

 トラック同士の正面衝突みたいな轟音鳴り響いてたんだけど(震え声)

 

「俺が見本を見せてやる! 稲妻を喰らい、雷を握り潰すように、撃つッッッ!」

 

 弦十郎さんの正拳突き。

 響ちゃんが吹き飛ばされた(恐怖)

 

「立て響くん、もう一度だ!」

「はい、師匠!」

 

 二人の特訓は大変だなぁ(白目)

 響ちゃんが退院して月曜日。

 放課後から二課に詰めて、ああやって弦十郎さんと特訓である。

 未来ちゃんは別のトレーニングルームでキャロルちゃんと模擬戦。

 俺は完全聖遺物の用意ができるまで待機というワケダ。

 まあそんな訳で未来ちゃんの方を見に行く。

 

「錬金術の詰めが甘いッ! 無数の鏡を介し、光通信で錬金術を行使するというのは良い発想だが行使にタイムラグが生じている! 素人ならともかく錬金術師相手には通じないぞ!」

「はいッ!」

 

 未来ちゃんの方も厳しそうだぁ(震え声)

 キャロルちゃんだけじゃなくてオートスコアラーも揃い踏みである。

 

「一鳴くんここに居たのね」

 

 と、声を掛けてきたのは友里さんだ。

 

「友里さん、ということは」

「ええ、準備が整ったわ」

「了解です」

 

 完全聖遺物の準備が整ったようだ。

 友里さんに案内されたのは、トレーニングルームから少し離れたエリア。

 トレーニングルームよりも頑丈な、聖遺物実験場である。

 

「待っていたわよ」

 

 出迎えてくれたのは、了子さん。

 ドクターウェルとエルフナインちゃんもいる。

 

「これが、貴方がデュオレリックに使う聖遺物、『チャンドラハース』よ」

 

 翠玉の如き刀身の、月の微笑みという意味の曲刀の完全聖遺物。

 2年前にこの国にやってきた生体型完全聖遺物、ラーヴァナの携えていたものだ。

 俺がラーヴァナを倒した後、永田町にある記憶の遺跡に収められていたのを、取り寄せたのだった。

 懐かしい。

 こいつを使ってラーヴァナに大ダメージを与えたんだったな。

 

「感動の対面ってやつですか?」

 

 と、ドクターウェル。

 

「そうですねぇ。チャンドラハースなら一度使ってるんで不安は少ないです」

「はいッ! 2年前のデータから、一鳴さんのスダルシャナとチャンドラハースの相性が良かった事がわかりましたので、今回のデュオレリック実験に選出されたんです」

 

 エルフナインちゃんが熱く語る。

 

「はいはい。実験を始めるわよ」

 

 了子さんが手を叩いて言う。

 

「みんなは別室で待機。一鳴くんは合図をしたらチャンドラハースを持って聖詠を唄ってちょうだい」

「りょ!」

「頑張ってください!」

 

 エルフナインちゃんに応援される。

 チャンドラハース。

 月の刃、あるいは月の微笑み。

 翠に輝く刀身は、月の光と同じ波長であり脳と肉体との情報伝達を阻害する力を持つ。

 インドの破壊神シヴァがラーヴァナに送った神剣だ。

 それが、眼の前にある。

 美しい刀身だと思う。

 しかしその美しさは呪われた月の光でもある。

 エンキの遺した、人を守るための呪いだ。

 

 「準備オッケーよ、一鳴くん。実験を始めましょう」

 

 了子さんの声が実験室のスピーカーから聞こえてくる。

 ふと、上を見ると強化ガラスの向こうから了子さんたちの姿が見えた。

 俺は手を振ると、チャンドラハースを手に取る。

 そして、唄う。

 

「───── Sudarshan tron」

 

 唄った瞬間、エネルギーの波濤がチャンドラハースから俺に伝わり、そして。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「よう、俺」

 

 白い空間に居た。

 天も地も全てが白い空間。

 そこに、俺の影がいた。

 

「イヤーッ!」

「待って!?」

 

 俺の右ストレートを躱す俺の影。

 

「お前俺の弱い心だなイヤーッ!」

「待て待て待て! 今回は味方だ!」

 

 俺のラッシュを躱す俺の影。

 前回チャンドラハースを持ったときも現れたからなコイツ。

 でも味方ってどういうことよ。

 

「またお前を倒すなり交渉するなりするのが今回の試練じゃないの?」

「違うわ!」

 

 違った。

 

「……ごめんね」

「しょうがねぇなぁ(クソデカ心)」

 

 俺の弱い心は広かった。

 さすが俺やでぇ。

 

「じゃあ何するのさ」

「……()()()が俺たちに興味を示した」

 

 と、語りだす俺の影。

 冷や汗を流している。

 

「ある方?」

「……チャンドラハースの元の持ち主」

 

 チャンドラハースはラーヴァナが持っていた。

 神々に殺されないという能力を持っていたラーヴァナが、シヴァ神の住む山を揺らした際にその蛮勇を気に入られて送られたという。

 つまり、チャンドラハースの元の持ち主というのは……。

 

「……」

 

 いつの間にか、『彼』は結跏趺坐で浮いていた。

 もつれた髪に、額には第三の目。

 喉は青く、全身に灰を塗りたくっているので灰色の肉体だ。

 首には蛇が巻き付いている。

 腕は四本、それぞれ三叉の槍、太鼓、斧を持ち、残った一本の腕では指でチャクラムを回している。

 腰巻きは虎の皮。

 インドの破壊神シヴァである。

 

「力を示せ……。我が月の微笑み、託すに値するかの力を」

「来るぞ、構えろ!」

 

 いつの間にか、俺も俺の影もシンフォギアを纏っていた。

 シヴァの第三の目が開いた。

 

 

 

一鳴'sVS破壊神シヴァ【1D10】

 

一鳴【9】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+3(クリス補正)

一鳴の影【2】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+3(クリス補正)

合計、【55】。

 

破壊神シヴァ【7】+50(破壊神補正)

合計、【57】

 

 破壊神シヴァの第三の目から熱線が放たれる。

 すべてを破壊するパスパタだ。

 俺と俺の影はなんとか回避。

 そのまま、シヴァの側面から戦輪を叩きつける。

 だが、俺の攻撃は三叉槍で、俺の影の攻撃は斧で受け止められる。

 シヴァは武器を振るう。

 俺と俺の影は吹き飛ばされた。

 

「強……っ」

「破壊神、だからな!」

 

 と、俺の影と言い合う。

 俺の影の言う通り強い。

 だが、二人なら倒せそう。

 そんな気はする。

 

「……どうした?」

 

 シヴァがふよふよ浮きながら問いかける。

 

「その程度では我が月の微笑み、託すわけにはいかぬ」

「いいや、使わせてもらうね!」

 

 ツァバトが二課を攻めてくる可能性が高い今、デュオレリックの力は必要だ。

 

「弱い俺よ、力を合わせよう!」

「合わせてコレだぞ!」

「なら更に合わせる!」

「……わかったよ!」

 

 さあ、第2ラウンドだ!

 

 

 

一鳴'sVS破壊神シヴァ(再戦)【1D10】

 

一鳴【5】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+3(クリス補正)+3(コンビネーション補正)

一鳴の影【9】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+3(クリス補正)+3(コンビネーション補正)

合計、【64】。

 

破壊神シヴァ【7】+55(破壊神補正)

合計、【62】

 

 

 

「行くぞ!」

「おうっ!」

 

 俺と俺の影はシンフォギアのスカートアーマーを展開。

 中にある小型戦輪を射出。

 いつもの2倍の数で、シヴァに攻撃を仕掛ける。

 シヴァは三叉槍と斧を巧みに使い、小型戦輪を叩き落としていく。

 恐ろしい勢いだ。

 あっという間に小型戦輪を全機落とされる。

 というかさっきよりも強くなってない?(震え声)

 と、とにかく。

 時間を稼ぐことには成功したワケダ。

 

「行くぞ相棒ォ!」

「わかったよもう一人の俺、というべきか!?」

 

 二人で戦輪の面の方をシヴァに向ける。

 盾のように構えた戦輪から、紅い光線が放たれる。

 

───紅鏡光線───

 

 2方面から放たれた光線を、シヴァは三叉槍と斧で受け止める。

 光が弾かれるが、それでも。

 

「押し切れェッ!」

「応ッ!」

 

 光線の威力を高める。

 太く熱くなる閃光。

 シヴァの三叉槍と斧を弾く。

 2条の光線がシヴァに直撃する。

 しばらく照射したが、俺も俺の影も限界が来て光線が出なくなる。

 

「ハァ、ハァ……」

「……どうだ」

 

 水蒸気の中に結跏趺坐の影。

 シヴァは健在であった。

 

「……見事」

 

 だが、シヴァに戦意はなかった。

 傷もついてなかった(震え声)

 

「我が試練、よくぞ越えた」

「じゃあ……」

「月の微笑み、貴様に託そう」

 

 いつの間にか、シヴァの手には三叉槍の代わりにチャンドラハース。

 その手を伸ばすシヴァ。

 俺は俺の影と顔を見合わせた。

 

「取れよ、俺。皆を守るんだろ」

 

 俺の影がそう言う。

 

「ありがとう、俺の弱い心。俺の影」

「いいよ。俺はお前、お前は俺。お前の願いは俺の願いでもあるんだから」

 

 俺は頷くと、シヴァに向き直りチャンドラハースを手に取った。

 チャンドラハースから光が放たれ世界を染め上げていく。

 

「ああ、言い忘れてた。()()()()()()()()?」

 

 俺の影が意味深なことを言い、そして。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「これは……」

 

 意識は聖遺物実験場に戻っていた。

 手にはチャンドラハースは無く、しかし纏うシンフォギアからはチャンドラハースの力を感じる。

 装甲の各所から翠緑のエネルギーが水晶状に固形化して刃のようになっている。

 というか、なんか体に違和感が……。

 

「……ある」

 

 自分の胸に大きなおもち。

 ばいんっ、というか ばるんっ、というか。

 ……クリスちゃん並みにあるな。

 あと、声も少し高いような。

 嫌な予感がして、股間を弄る。

 

「……ある!?」

 

 ご立派様は健在であった。

 マリアさんまっしぐらセレナちゃん御用達クリスちゃんお気に入りのマーラ様はただそこにあり続けている。

 ふぐりも一緒だ。

 安心!

 安心か?

 

「了子さん!? 了子さーん!?」

「聞こえてるわよー」

 

 別室待機の了子さんに助けを求める。

 

「おっぱいとチンチンが同居しとる!!」

「状況は把握したわ。おそらく、チャンドラハースの力ね」

 

 シンフォギアは本来なら女性しか扱えない。

 エネルギー固着型のプロテクターは完全なる肉体を持つ者しか扱えないからだ。

 それが、XX染色体を持つ女性のみというワケダ。

 だが、俺は胎内に子宮を持つ。

 陰陽思想で言うところの太極、すなわち完全な身体を持つ事で男でありながらシンフォギアを纏うというインチキを可能としていた。

 そして、チャンドラハースはそこを強化した。

 肉体の殆どを女性に変じる事でXX染色体を持ち、しかし男根を残すことで陰陽思想でも完全な身体を体現する。

 二重の完全な肉体。

 それが、デュオレリック発動中の俺というワケダ。

 

「つまり今の俺は ふたなりドスケベギャル……!」

「一鳴くん、ここにはエルフナインちゃんも居ること忘れないでね?」

 

 了子に突っ込まれる。

 

「あ、大丈夫ですよ了子さん。一鳴さんがスケベ人間だってわかってますから!」

「クゥーン……(掠れ声)」

 

 エルフナインちゃんからの評価がお辛い。

 

「それはそれとして。今の一鳴くんのシンフォギア、エネルギーが今までより遥かに高まってるわ。絶唱……ううん、それ以上のエネルギーよ!」

 

 デュオレリック、凄まじい力らしかった。

 

「そんな事より了子さん。俺の身体は元に戻るんでしょうか?」

 

 俺にとっては死活問題だ。

 2回男として生まれ男して生きてきたので、今さらTSふたなり化は勘弁願いたい。

 

「チャンドラハースが一鳴くんの身体を変えているから、シンフォギアを解除したら治ると思うけど、その前に実験させて♡」

「解除ォ!」

 

 俺は了子さんを無視してシンフォギアを解除した。

 光に包まれる俺。

 光が収まると、下を見たときの視界がスッキリしていた。

 

「ない!」

 

 胸を触る。

 平たい胸筋のみだ。

 

「ある!」

 

 股間を触る。

 ご立派様が生えていた。

 

「戻ったぁ!」

 

 俺は右手を高く掲げた。

 右手にはチャンドラハースが握られたままだ。

 

「はーい、戻ったならもう一度デュオレリックしてね? ちゃんと実験しないと使い物になるかわからないもの」

 

 了子さんはにべもなかった。

 この後目茶苦茶実験した……(ぐったり)





タイトルの一鳴の歌。
元ネタは防人の歌。原作無印9話です。
でも書いてみたら一鳴くん聖詠しか唄っとらんな。
僕が新曲書けてないせいなんですが(震え声)
誰か作詞の仕方、教えてクレメンス。


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第128話 繋いだ愛が紡ぐもの


そろそろ第一部クライマックスなので初投稿です。

最近またDARK SOULSリマスタード(Switch版)始めました。
エルデンリングやった後だとボスが弱い。
むしろエルデンリングがやたらめったら強いのか……?


 

 

 

 チャンドラハースのデュオレリックは凄まじい力を誇った。

 スダルシャナのシンフォギアが聖なる太陽、浄化の炎の力を宿していたのに対し、チャンドラハースが月光の力、人を魅了し相互理解を乱す力。

 その2つの力が合わさった結果、何故か凄まじいエネルギーが生み出され続けることになったのだ。

 

「だって、スダルシャナは太陽。チャンドラハースは月でしょ?」

 

 了子さんが言う。

 

「それってつまり陰と陽の合一。太極じゃない! 完全の体現よ。そりゃエネルギー溢れるわ」

 

 了子さんの言う通り、シンフォギアからエネルギーは溢れるばかりだ。

 装甲各所の翠玉は成長して鹿の角の如く四方に伸び、アームドギアから漏れる炎は猛々しく燃え上る。

 

「ちょ、これヤバいんじゃないですか?」

「エネルギー400%オーバー! これ以上は実験場が保ちませんよ了子さん!」

 

 ドクターウェルとエルフナインちゃんが慌ててる。

 待って今そんなにヤバいの?

 俺は何も感じないというか、すこぶる調子がいい。

 

「一鳴くんは大丈夫でも、実験場が保たないか。一鳴くん、シンフォギア解除してちょうだい」

「わかりました」

 

 シンフォギア解除。

 装甲とおっぱいは消え失せ、右手にはチャンドラハース。

 

「ふぅ……」

「エネルギー霧散を確認しましたぁ」

 

 ドクターウェルとエルフナインちゃんも落ち着いたよう。

 とまあ、こんな具合で。

 俺のデュオレリック実験は短時間でこまめに行われる事となった。

 溢れるエネルギーが尋常じゃないみたいだしね。

 訓練室より頑丈な聖遺物実験場が保たないって、チャンドラハースのデュオレリックってヤバすぎか?

 

 そんなこんなで一週間が過ぎた。

 

 俺は相変わらず毎日デュオレリックの実験。

 ある程度戦力も把握出来たらしく、もう訃堂司令に報告したという。

 少なくとも、今まで出てきたエンジェノイズではデュオレリックには敵わないとか。

 それでも油断大敵。

 ある程度制御出来るようになってきたとは言え、もっとデュオレリックを上手く使えるようにならないと。

 

 そう思いながら今日も聖遺物実験場に来ていた。

 

「了子さん、今日の実験は?」

「今日は今までの集大成よん」

 

 と、スピーカーから弾んだ声の了子さん。

 訝しく思っていると、聖遺物実験場の扉が開く。

 

「聖遺物実験場って、ここだよね?」

「うん。あ、ナルくん」

 

 入ってきたのは響ちゃんと未来ちゃんだ。

 

「あれ、どうしたの?」

「うん、師匠から今日はここで特訓の成果を見るって」

「私も、キャロルちゃんからここに行けって」

 

 つまり、どういうことだ?

 

「来たわね二人共」

 

 了子さんが語り掛けてくる。

 

「二人共弦十郎くんとキャロルちゃんからシゴかれてきた成果を見せる時が来たわよ。二人で協力して、一鳴くん倒すこと! それが最後の特訓よ」

 

 俺はやられ役かい!

 

「だってデュオレリック中の一鳴くん、ボス敵として丁度いいんだもん」

「おのれぇ!」

「スマン一鳴くん、申し訳無いが二人の試練となってくれ」

「一鳴、悪いが頼む」

 

 弦十郎さんとキャロルちゃんから申し訳なく言われる。

 

「しょうがねぇなぁ(クソデカ心)」

 

 俺は二人の壁となる事にした。

 今の内に強大な敵と戦っておけば、エンジェノイズやツァバトとの決戦で踏ん張れるかもだしね。

 

「ありがとうナルくん!」

「ありがとう」

 

 響ちゃんと未来ちゃんにお礼を言われる。

 

「いいのよ。それじゃあ……」

 

 俺はチャンドラハースを握った。

 

「二人揃って、壁超えと行こうじゃないか(イケボ)」

 

 三人同時に、聖詠を唄う。

 

「───── Sudarshan tron」

「Balwisyall nescell gungnir tron」

「Rei shen shou jing rei zizzl」

 

 スダルシャナのシンフォギアに、チャンドラハースの力が混じり合う。

 赤銅色のギアから、翠緑のエネルギー結晶体が生えて装甲や刃のようになる。

 アームドギアである戦輪は黄金に輝き、翠緑の結晶と燃え盛る炎が刃の形を取る。

 額にはシヴァ神の第三の目を象る翠緑と黄金の飾り。

 また、肉体が女性のものとなり、胸と尻が大きくなり腰がくびれる。

 しかし、男性器健在!

 完全の体現!

 デュオレリック、顕現。

 

「な、ななな……」

「ナルくんが……」

「「女の子になったーーーッ!?」」

 

 あ、響ちゃんと未来ちゃんが目を丸くしてる。

 

 

 

ひびみくのTS一鳴くんへのお気持ち【1D10】

 

1 かわいい!

2 かわいい!

3 かわいい!

4 おっぱいでっか……

5 かわいい!

6 かわいい!

7 かわいい!

8 かわいい!

9 おっぱいでっか……

10 やらないか?

 

響 【9 おっぱいでっか……】 

未来【8 かわいい!】

 

 

 

 響ちゃんは俺の胸をジーッと見ている。

 その後、自身の胸を触る。

 

「ナルくんおっぱい大っきくない?」

「クリスちゃん並みだゾ(自慢げ)」

「いーなー! 私もデュオレリックしたらおっぱい大きくなるかな!?」

「響ちゃんもう充分大きいでしょ!」

 

 そもそもデュオレリックにスタイル良くなる効果は無いゾ。

 

「ナルくん、すっごい可愛くなってるね」

 

 と、いつの間にか近付いてきていた未来ちゃん。

 俺のほっぺたをツンツン。

 

「お肌もモチモチすべすべ。いいなぁ」

「未来ちゃんのお肌もモチモチすべすべでしょ」

 

 俺はお返しとばかりに未来ちゃんのほっぺたをむにむにする。

 かわゆい。

 

「あーズルい! 私も!」

「響ちゃんはおっぱい揉むでしょ! めっ!」

「そんなぁ!」

 

 そう言い合う間にも、響ちゃんの視線は俺のGカップに注がれている。

 すけべぇ。

 

「はいはい。百合百合してないで戦闘しなさーい!」

 

 と、スピーカーから了子さん。

 百合百合なのか。俺はTSしてるとはいえ男だし、チンチン生えてるし。

 百合過激派に怒られないかしら。

 そもそも百合とは(哲学)

 

「そういえば、二人はどれくらい強くなったの?」

 

 

 

ひびみくの特訓の成果【2D10】

(最低保証5)

 

響 【4】+【3】=『7』

未来【7】+【8】=『15』

 

 

 

「女子一週間会わざれば刮目してみよ、か」

 

 俺は二人の戦闘力を観察した。

 二人共、充分強くなっている。

 特に未来ちゃんは響ちゃんよりも強くなってる。

 これは油断できんな……!

 

「はい、ふたりともモチモチ終わりよ。俺から離れなさーい。響ちゃんおっぱい揉むなー」

「訓練終わったらまた揉んでいい?(レズっ気)」

「終わったら男に戻るんだよなぁ(無慈悲)」

 

 兎にも角にも、戦闘開始である。

 

 

一鳴VSひびみく【1D10】

 

一鳴【5】+13+3(マリア補正)+3(セレナ補正)+3(クリス補正)+50(デュオレリック補正)

合計、【77】。

 

響【10】+7+5(錬金術補正)+3(未来補正)25

未来【8】+15+5(錬金術補正)+3(響補正)31

合計、【56】。

 

 

 

「それじゃまずは、小手調べ」

 

 俺は空を飛び上がると、スカート装甲から小型戦輪を射出。

 小型戦輪もまた、デュオレリックの影響により黄金に変化し、翠緑の刃を生やしている。

 それらが無数に発射される。

 響ちゃんと未来ちゃんは冷静に対処。

 

「どりゃあ!」

 

 響ちゃんは錬金術で岩の突撃槍を無数に錬成。

 それを拳で殴り飛ばし、小型戦輪を破壊していく。

 

「そこっ!」

 

 未来ちゃんは小型の鏡を無数に浮かべ、そこから光線を発射。

 光線に当たった小型戦輪は凍りついて地面に落下。

 光通信による錬金術の行使、モノにしている……!

 

「それならこれはどう?」

 

 俺はアームドギアの戦輪を、盾のように構える。

 

 

───空鏡光線───

 

  

 従来の紅鏡光線は炎を熱線に変えて発射する。

 しかし、デュオレリックの空鏡光線は翠緑のエネルギー、すなわち月の光を伴う翠緑が混じった黄金の光線となる。

 マーブルでキレイである。

 が、撃たれる方はそうでなく……。

 

「未来ッ!」

「響ッ!」

 

 二人は散開する。

 息のあった行動。

 どちらか一方を追えば、もう片方が俺を攻撃するという事か。

 だが、甘い。

 

 

───空鏡光線・喘月───

 

 

 

 戦輪から放たれる光線が散弾に変わる。

 光線が二人を捉える。

 

「うわーッ!」

「きゃあッ!」

 

 散弾光線に撃たれる二人が悲鳴を上げる。

 可哀想だが、俺は攻撃の手を止めない。

 本気でやらないと、二人のためにならないし、ね!

 

「か、身体が……」

「なんで……?」

 

 光線を止める。

 響ちゃんと未来ちゃんは地面に倒れて動かない。

 チャンドラハースの月の光の力ゆえに。

 

「月の光は呪いの光。脳と肉体の情報伝達に齟齬を起こして、動けなくさせる」

「……え」

「詳しくは後で了子さんに聞きなさいな」

 

 俺は戦輪を振りかざす。

 戦輪に生える翠緑の刃が伸びる。

 さらに戦輪を高速回転、翠緑の刃からエネルギーが放たれる。

 

「取り敢えず、今日のところは俺の勝ち、ということで」

 

 俺は戦輪を振るう。

 翠緑の刃から、無数のエネルギー光波が放たれる。

 

 

───翠月残光波・INFINITY───

 

 

「うわあああ!!」

「きゃああああ!!」

 

 二人はエネルギー光波にさらされ、吹き飛ばされる。

 

「う、うぅ……」

「ま、だ……」

 

 だが、戦意はまだ衰えておらず。

 しかし。

 

「そこまで!」

 

 と、弦十郎さんの声がスピーカーから響く。

 

「師匠、私はまだ……」

「駄目だ、響くん。これ以上無理はさせられん」

「未来、お前もだ」

「……はい」

 

 二人の師匠がストップをかける。

 

「ふたりとも立てる?」

 

 俺は二人に聞く。

 

「うん……」

 

 響ちゃんの手を取り立たせる。

 

「……ありがと」

 

 未来ちゃんの手を取り立たせる。

 

「デュオレリック、すごいね」

 

 響ちゃんがポツリと呟く。

 未来ちゃんも頷く。

 

「相性にもよるけど、完全聖遺物使ってるからねぇ」

 

 実際、チャンドラハースの力による部分が大きい。

 無限の力、呪われた月の光。

 これは多用できない、まさしく奥の手だ。

 

「実際、デュオレリックが無いなら二人には負けてたと思う」

「……それでも悔しいな」

「うん、悔しい」

 

 と、二人。

 

「それなら、また相手するよ。何度でも」

「本当?」

「ん」

「次は、負けないからね!」

「ん!」

 

 という訳で。

 俺たち三人は確かに強くなれたのであった。

 

 

 

ちなみにこの後二人は一鳴くんに勝てたかな?【1D10】

 

1 流石にデュオレリックは強い

2 流石にデュオレリックは強い

3 流石にデュオレリックは強い

4 響ちゃんが一鳴ちゃんの胸揉んで怯ませたけど無効試合

5 流石にデュオレリックは強い

6 流石にデュオレリックは強い

7 流石にデュオレリックは強い

8 流石にデュオレリックは強い

9 流石にデュオレリックは強い

10 最終的に一鳴VS響&未来&弦十郎&キャロルになった

 

結果【7 流石にデュオレリックは強い】

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 一鳴と響、未来が日々特訓していた頃。

 5月、ゴールデンウィークが過ぎたある日のこと。

 ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスは、彼の暮らす孤児院にいた。

 ナスターシャが経営する孤児院は、彼にとっての帰るべき家である。

 もっと、帰るのは月に一〜二度であるが。

 その彼が、昼間から孤児院にいるのは、休みだからではない。

 客人が来ていたからだ。

 招かれざる客、が。

 

「待っていたよ、ウェル」

「ジュリアン、何故ここに」

 

 招かれざる客、ジュリアン・シーザーは孤児院応接室のソファに座り、紅茶を飲んでいた。

 

「ツァバトが言ってなかったか? 宣戦布告だよ」

 

 深淵の竜宮にて、ツァバトがグラウスヴァインの生成する核融合体を奪った際、一鳴に言い残したのだ。

 

『また会おう、シンフォギア。我が契約者がいずれ宣戦布告するだろう時を待て』

 

 その時が来た、と神霊ツァバトの契約者ジュリアンは言う。

 

「ジュリアン、一つだけ教えてくれ」

 

 ウェルが、かつてのライバルに聞く。

 

「なんで、神霊なんてものと契約したんだ」

()()()、なんてヒドイじゃないか」

 

 ス、とジュリアンの背後に浮かぶのはツァバト。

 かつての神シェム・ハの分霊、半ば透けた霊の姿で現れた。

 

「我は肉体がないからな、交換条件で契約しただけだ」

「交換条件?」

「ウェル、お前に勝ちたいと願ったんだ」

 

 ジュリアンが憎々しげにウェルを見る。

 

「お前は僕の人生の邪魔ばかりする! 子どもの頃から神童と呼ばれマサチューセッツ工科大学を首席で卒業し、真のエリートだけが招かれるF.I.S.に声を掛けられた! 僕は神に選ばれた者だった。そのはずだ!」

 

 ジュリアンが叫ぶ。

 顔を増悪に歪ませながら。

 

「だが、同期にお前がいた。聖遺物工学と生化学、学んだ分野は違えど聖遺物を人間と繋げる研究だった。常にお前と比べられた!」

「ジュリアン、そんなに僕が憎かったのか」

 

 ウェルはジュリアンの感情の発露に、ただそれだけ言った。

 

「憎い! お前が、憎い。僕と同じ、神に選ばれたエリートのはずなのに、英雄になって弱者を救いたいなんて子どものような夢を持つお前が! 弱者は僕たち強者が導く物だと理解しないお前が!」

「ジュリアン、お前は間違えてる」

「間違えてない!」

 

 ジュリアンは髪を掻きむしる。

 

「弱者は救えない! 弱者は所詮才能もない努力もしない愚鈍な怠け者だ! だから選ばれし僕が導く! 利用する! それだけが、彼らの利用価値だ!」

「ジュリアン!」

 

 ウェルがジュリアンの胸ぐらを掴み、立たせる。

 だが、その瞬間ツァバトがウェルの頭に人差し指を向ける。

 指の先には、白銀のエネルギー。

 

「手を離せ」

「ぐ……」

 

 ウェルはジュリアンの胸ぐらから手を離し、後ずさる。

 

「ふ、ふふふ。ふはは、見ろよウェル。神は僕を選んだ。僕はやはり選ばれた者だ。ツァバトは神だ! 僕は正しいんだ!」

 

 ジュリアンはニタニタと嘲笑う。

 

「明日だ。明日、すべてを終わらせる。そして、お前が間違っていたことを証明してみせよう。二課も、シンフォギアも、この孤児院も壊し尽くして!」

「ジュリアン!」

 

 ウェルが叫ぶ。

 ジュリアンとツァバトの姿は掻き消えた。

 孤児院の応接室は、ウェル一人だけになった。

 ウェルはジュリアンの居た場所を見やると、二課に連絡した。

 明日こそが、決戦の時だと。

 

 

 

 次回、月を穿つ





◆解◆必殺技解説コーナー◆説◆

◎空鏡光線
デュオレリック時にのみ放てるビーム砲。
戦輪を盾のように構えて放つのは同じなのだが、撃ち出すのが黄金と翠緑のマーブルビーム。
当たると脳と肉体の情報伝達齟齬が起こり身体が動けなくなる。
チートビーム。
デュオレリックだから許されてる。

◎空鏡光線・喘月
空鏡光線の散弾バージョン。拡散メガ粒子砲。
拡散しても、当たると身体が動けなくなる効果は健在。
チートやチート!
なお、水星の魔女のファラクト戦でグエルくんがやったみたいに肉体に当てずにアームドギアなどで防ぐと問題ない。
ちなみに喘月とは、呉牛喘月のこと。
暑い地方の呉の牛は夜に月を見ても暑さに喘ぐとの故事から、過度に怯えて恐れること。
実際、冷静に対処したら怖くない。
なおグエルくん並みの技量が必要な模様(震え声)

◎✝翠月残光波・INFINITY✝
一鳴がラーヴァナ戦でやったブレード光波。
その連発版。
戦輪の回転を利用して、ブレード光波を連続して放つ。放ちまくる。雑に強い。
名前の由来は、ブレード光波をいっぱい撃つのってマリアさんっぽい、という理由である。
名前はダサいが、一鳴は気に入っている。


そんな訳で次回は第一部終盤。
ツァバトとジュリアンとの決戦です。
よろしくね。


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