ハイスクールフリート~鋼鉄の鳥~ (疾風海軍陸戦隊)
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プロローグ1

op「High Free Spirits」

ED「鋼鉄ノ鳥」


「ここは・・・・・・どこ?」

 

僕は頭をさすりながら起き上がる。確か僕は近所の公園でジャングルジムに上って遊んでいたはずだ。それでてっぺんまで登ってはしゃいでいたら足を滑らせて落っこちて・・・・その後の記憶がない

 

「ここ・・・・・家じゃない」

 

僕が横たわっているのは見慣れた自室ではなかった。そしてすぐそばの窓を覗くと海が見えた。するとドアが開いて

 

「あら?気が付いたの?」

 

と、そこへ知らない女の人が入ってきた

 

「・・・・だれ?」

 

「それは私が訊きたいところだけど・・・・・まあいいわ。とりあえず体は大丈夫?」

 

「う・・・うん」

 

女の人の言葉に僕は頷くと女の人は安心した表情をし

 

「よかった。あなた海の上を漂っていたのよ?たまたまブルーマーメイドの人が発見してくれたからよかったけど。とりあえず、名前と歳を聞いてもいい?」

 

「うん。僕の名前は森守(もりまもる)。9歳・・・・」

 

「そう森君ね・・・・君はどこから来たの?お家はどこ?」

 

「どこって‥‥東京だよ?」

 

「東京のどこ?」

 

「東京の江戸川区だよ?」

 

「え?・・・・森君。悪いけど江戸川区はもちろん東京都はほとんど海の底にあるのよ?ほら」

 

っそう言って女性の人はタブレットを出すと日本の地図を見せる

 

「?だって僕うちの近くのジャングルジムで遊んでいたんだよ?それにこの地図おかしいよ。日本のほとんどがなくなっているよ?」

 

「・・・・・・・・」

 

その言葉に女性はじっと僕を見つめる

 

「どうしたの?」

 

「・・・・・あなた・・・本当にこの世界の人間?」

 

「え?」

 

「森君の認識と私の認識がまったくかみ合わない・・・。まるでまったく別の世界の話をしているようなのよ」

 

「・・・違う・・・・世界?」

 

僕はわからず首をかしげると女性の人は首を横に振り

 

「・・・いや、この話は止めにしましょう。お互いに混乱するだけだわ」

 

「う、うん・・・・」

 

僕は彼女の言葉にうなずくと、ドアが開き

 

「お母さん。あの子の様子はどう?」

 

「母さん。あの子のために温かい飲み物を買ってきたよ」

 

「ましろも。がんばったよ!」

 

と、そこから三人の女の子が入ってきた。一番下の子でも僕と同い年・・・かな?

 

「あ・・・あの・・・・」

 

「そう言えば紹介していなかったわね。私の名前は宗谷真雪。そしてこの子たちは私の娘の真霜。真冬。そして一番下の子がましろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから二週間がたった。どうやら僕は違う世界に来てしまったらしい。あれから時間が経てば経つほど今まで自分がいた世界との決定的な違いが浮き彫りになる。まず違うのは日本の歴史が違う。僕が学校で習った歴史では日露戦争の後に二つの大きな戦争、つまり世界大戦が起きているはずなのにここではそれが起きていないという。それにこの世界の日本はほとんど沈没しているらし、ブルーマーメイドという知らない組織があったりする

 

「なんか大変なことになっちゃったな・・・・・」

 

僕が独り言をつぶやいていると

 

「守。いる?」

 

「ん?どうかしたのましろ姉ちゃん?」

 

僕は今、宗谷家の居候として生活していた。最初の一週間はましろちゃんに警戒されていたけど真霜さんと真冬さんが『よかったねましろ。弟ができたのよ』『よかったな!』と、いわれてから少しづつ警戒されなくなり今ではなんか弟のようにかわいがられている。何でも年齢が僕よりも半年年上だそうだ。まあ僕も一人っ子だったし姉ができてうれしいと思っているのでさほど気にはしなかったが

 

「お母さんがご飯できたって。だから一緒に食べよう」

 

「うん!いこう姉ちゃん」

 

と、まあこういう日が続いた。ある時は

 

「うわぁ~ん!!」

 

「どうしたのましろ?」

 

「ましろ姉ちゃん?どうかしたの?」

 

泣きながら帰ってきたましろ姉ちゃんに俺と真冬姉ちゃんが訊くと

 

「近所の男子に帽子を取られた上にぶたれた~!!」

 

「なんだと!許せねえ奴だな!」

 

「姉ちゃん。泣かないで!僕が取り返して姉ちゃんをいじめたやつをやっつけてくるよ!!」

 

とある時は真冬姉ちゃんと一緒にましろ姉ちゃんをいじめた相手に仇討に行ったり・・・・

 

「帽子が風で飛ばされちゃった!」

 

「ハラショ!!」

 

ある日、宗谷一家で一緒に大和を見に行ったとき、ましろ姉さんの被っていた帽子が風で飛ばされたとき俺はそう叫びハイジャンプをしてキャッチする

 

「ほら、姉ちゃんの帽子取ったよ」

 

「ちょ、守。その先は・・・・・海よ?」

 

「・・・・・え?て、うわっ!?」どぼーん!!

 

「うわっ!?守!!!??」

 

と、まあ海に落ちたりした。そしてある時

 

「ごめんね守。私、昔からついていなくて・・・・・」

 

しょげて言うましろ姉ちゃんに僕は

 

「大丈夫だよ姉ちゃん!姉ちゃんはついて無くないよ!姉ちゃんは堂々としなよ!もし何かまた姉ちゃんに不運が来たときは僕が姉ちゃんを助けるからさ!」

 

「守・・・・ありがとう」

 

と、嬉しそうに言うましろ姉ちゃん。こういった幸せな時間が過ぎていく。僕がこの世界に来て一か月がたとうとした。今日はましろ姉ちゃんたちと一緒にブルーマーメイドのフェスタを見に行ったのだ。あの時、横須賀に来た戦艦大和や比叡を見たときは興奮したのを覚えている。そして自室に戻った時

 

「・・・・・ぐっ!!」

 

頭が、割れるようにいたい。

 

「ぐっ・・・ああ・・・っ!!」

 

 

バットで殴られるような激しい痛みに、立っていられなくなる。僕はあっという間にバランスを崩し、床に倒れこむ頭を押さえて激痛に苦しんだ

 

「い・・・痛い!!頭が・・・・・・」

 

激しい痛みに僕は苦しんだ。そして最後に出た言葉が

 

「ましろ・・・・姉ちゃん」

 

そう言った瞬間、僕の意識は消えるのであった

 

 

 

 

 

「・・・・・ん?」

 

ましろが廊下を歩いていると弟分である守の部屋のドアが開いているのに気づいた

 

「守?ドアが開いているよ?」

 

と、そう言いそっと中を覗くと部屋には誰もいない。もしかしてドアを閉めるのを忘れてどこかへ出かけたのだろうか? ましろはドアを閉めて血はつながっていないが実の弟のようにかわいがっている守を探し始めた。

だがどれだけ探しても弟である彼を見つけることはできなかった。

 

なぜなら、彼はもうこの世界には存在しないのだから・・・・・

 



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プロローグ2

あれから9年後、世界は再び世界大戦へと突入した。新ナチスドイツを名乗るテロリスト軍団が世界征服を企み、侵略戦争を始めた。それを阻止するため国際連合はテロリスト軍と交戦。いわゆる第三次世界大戦が勃発した。

だがこの戦争には奇妙な規定条約があった。それは

 

「使用できる兵器は1945年8月15日までに設計が完了し、試作に着手しているもの。また多少の改造は認める」

 

というものであった。そんな奇妙な規定がある中、両軍は激しい戦闘を繰り広げているのであった

 

 

南太平洋のとある島

 

「懐かしい夢を見たな・・・・・・」

 

浜辺で寝ころんでいた俺はそう呟く。9年前、小さいころに体験した不思議な出来事。こっちの世界に戻ったとき、自分は病院のベッドの上だった。 母さんの話ではなんでも一ヶ月意識不明だったらしい。 公園のジャングルジムで遊んでいたら天辺から落ちてそのまま病院へ・・・という流れだったそうだ。

 

「今になっても信じられないな・・・・自分が異世界に行っただなんて・・・・」

 

「何をぶつぶつ話しているんだ?」

 

俺が独り言をしていると、隣からつなぎ服を着て白い帽子をかぶった小柄の女性がジト目で俺を見て隣に立っていた

 

「ああ、ナツオ整備長」

 

「まったく。南の島にいるからって少し気が緩んでいるんじゃないか森少尉?」

 

目を細めて言う彼女に俺は苦笑し

 

「体を休めるときは休める。それが戦闘機乗りってものだよ整備長」

 

「はぁ~・・・・あの343航空隊の疾風大尉の受け売りか?まあ、私にはどうでもいいがな」

 

肩をすくめそう言う彼女に俺は

 

「それで、整備長。なんか用?」

 

「あんたの二水戦の整備が終わったから。それを伝えに来た。恐らくすぐに出撃命令が来ると思うからな」

 

「ありがとうナツオさん」

 

「構わないって。それより聞いたか?欧州へ派遣された343航空隊のこと?」

 

「ああ、ニュースで見た。ナチス相手に派手に暴れまくっているみたいだね」

 

「ついさっきまではこの南太平洋で暴れていたのにね~あいつら結構にぎやかで楽しかったんだけどな。あんたも本来そこに配属にされるはずだったんだろ?」

 

「そのはずだったんだけど。ちょっと上ともめてな。配属の話は無しになってここに左遷させられた。まあ職業は同じ戦闘機のパイロットだからいいけどな」

 

「確か前は零戦に乗っていたんだよな?大丈夫か水上戦闘機で?」

 

「二式水戦も立派な零戦さ。まあ確かに下駄(フロート)を履いてはいるが、翼にはベルト給弾式の20ミリ機関砲。機首には12・7ミリ機銃が備え付けられてしかも旋回性能もいいと来たもんだ。俺にとっては心強い相棒だよ」

 

「そうか。お前がそう言ってくれると二水戦も喜ぶよ。ああ、そうだ森少尉。お前の愛機なんだけどさ。少し改造しといたぞ」

 

「改造?どんな風にだ。まさか変形してロボットになるっていうんじゃないだろうな?」

 

「違うよ。第一それじゃあ規定違反だろうが、そうじゃなくてお前の二式水戦。エンジンを少しいじくって速度をupさせといたぞ」

 

「まじか!?どのくらいだ?」

 

「大体、560キロ。零戦52型と同じ速度だ。エンジンも52型や22型のを使用しているしな。それともう一つが翼が折りたためる。しかも特殊攻撃機晴嵐のようにな」

 

「え?速度が上がったのは嬉しいがなんでそんな機能を?」

 

「万が一潜水艦で運ぶときのことを考えて試験的にやってみた。翼にある補助フロートも折りたためるように改良した」

 

「それって意味があるのか?」

 

「私の勘だ。きっとその機能が必要となる日が来る!」

 

「来ないと思うけど・・・・まあいいや。とにかくありがとな」

 

絶対に必要ないと思うが俺はそう思いながら頭を掻くと

 

「森少尉はいるか!」

 

そこへ士官服を着た男性がやってくると森は敬礼をし

 

「はっ!ここにおります!!」

 

「うん。司令がお呼びだ。すぐに士官室に来い」

 

「了解しました!」

 

俺がそう答えると男は去っていった

 

「どうやらお呼びのようだな少尉」

 

「ああ、じゃあちょっと行ってくる」

 

「ああ。行ってこい」

 

そう言い俺はその場を離れようとすると、胸ポケットからペンダントが落ち、それを見たナツオ整備長は

 

「おい、森。ペンダントを落としたぞ」

 

「え?ああ、すまない」

 

そう言い俺はペンダントを受け取り、懐かしそうな表情をする

 

「大切なものか?」

 

ナツオ整備長がそう訊くと

 

「ああ。大切な人からもらったものだ」

 

「へ~彼女かい?」

 

「いいや。違うよ。俺が姉と慕う人からもらったんだよ。ほら、この人だ」

 

そう言いペンダントの蓋を開けるとそこには小さな写真が貼られてあり。その写真には幼き頃の自分と隣に自分と近い年齢のポニーテイルの女の子が一緒に写っている

 

「その子がそうなのかい?」

 

「ああ・・・・」

 

俺が頷くと整備長は

 

「そうか・・・・それでその人はどこにいるんだ?元気にしているのか?」

 

「9年前に別れたきり会っていないからわからないけど、たぶんどこかで元気に過ごしていると思うよ」

 

「そうか・・・・・また会えるといいな」

 

「ええ。俺もそう思ってます。では行ってまいります」

 

そう言い俺は士官室へと向かうのであった。

数分後、俺は二式水上戦闘機に乗り込んだ。二式水上戦闘機。それはあの零式艦上戦闘機、零戦にフロートを取り付けた水上戦闘機だ。俺は二式水戦のエンジンをかけて飛び立った。

それを見たナツオ整備長と整備兵が

 

「強行偵察ですか・・・・・・整備長」

 

「ああ、なんでもナチス海軍のUボートや小型艦艇がまだうろついているんだとよ。それで発見次第基地に連絡するのと翼に吊るしてある60キロ爆弾で少しでもダメージ与えろだとよ」

 

「大丈夫なんですか?単機出撃なんて?」

 

「あいつの腕なら大丈夫だ。森守海軍少尉。撃墜数は72機。大半は爆撃機を撃墜した爆撃機キラーであり、水戦でも戦闘機相手も奮戦したエースパイロットだ。そう簡単にはやられないよ・・・・おーし!あいつが戻ってきた時すぐに整備できるように準備するぞ!!」

 

「は、はい!」

 

整備士たちが行く中、ナツオ整備長は振り返り

 

「・・・・・幸運を祈る少尉」

 

と、小さくつぶやくのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、強行偵察に向かった俺は辺り周辺を飛行していた。

 

「う~ん・・・・いないな。U-ボートならともかく。そろそろ敵艦艇か航空機と遭遇してもおかしくないのに・・・・・」

 

俺は辺りをきょろきょろ見ながら敵の船を探していた。雲一転もない青空に青い海そして聞こえる二式水戦のエンジン音。それを覗けば極めて静かなものだった。俺はポケットから間食用のおにぎりを出してそれを食べる。

 

「・・・・・・平和だな・・・今のところは」

 

俺はそう呟きながらおにぎりを頬張る。すると後ろから何かエンジン音が聞こえ始めた。

 

「・・・・ん?なんだ?」

 

俺は振り向くとそこには一機の戦闘機がこちらへと向かってきた。その戦闘機は液冷エンジンで翼には鉤十字の国籍マークがあった。それはドイツ。しかもナチスドイツのBF109戦闘機であった

 

「ナチス!!」

 

迫ってくる戦闘機が敵機だと分かった俺は手に持っていたおにぎりを後ろへと放り投げ操縦桿を握ると急上昇し、BF109は急上昇した俺の機体を追いかける。そしてBF109は俺にめがけて機銃を放つが俺は今までの戦闘で培ってきた技術で必死にそれをよける

 

「くっ・・・この!二式水戦の機動力をなめるな!!」

 

俺はそう言い操縦桿を握り旋回する。二式水戦は水上機ではあるが、機体のベースである零戦並みの旋回能力を持っていた。俺は機動力を生かし、Bf109の背後に回り込んでありったけの機銃や機関砲を叩き込む。そして銃撃を受けたBf109の翼に弾丸が当たり、翼から炎が上がってBf109は炎に包まれ落ちていき海面へと墜落する。

 

「よしっ!」

 

俺はそう言い背後を見る。戦闘機乗りにとって戦闘機の後ろは死角であり、戦闘では撃つときも撃った後でも必ず背後に敵機がいないか確認することが大切だからだ。そして背後に敵がいないことを確認した俺は安心し、ほっと一息つく。そして燃料を見ると残りが少なくなっているのに気づく

 

「ここらで、戻るか・・・・・結局戦闘機は一機撃墜したものの、目的の敵艦艇は見つけられなかったな・・・・・」

 

そう言い基地に戻ろうとすると太陽の光が降り注ぎ一瞬視界はまぶしくて見えなくなり俺は一瞬目をつぶってしまう。すると太陽を背にしていたのか突如もう一機のBF109戦闘機が急降下してきて銃撃する

 

「うわっ!!?」

 

その瞬間、激しい揺れとガラスが割れる音、そして体中に激しい激痛が襲った

 

「くっ・・・・・」

 

激しい痛みの中俺は目を開けると機内の窓ガラスは割れて、肩と足には銃弾を食らったのか赤黒く染まっていた。そしてガラスで切ったのか頭も流血していることに気づく。そして俺は自分の機が被弾したことに気づき高度計を見るとどんどん下がってきたうえに油圧も下がっていた。それを見た俺は

 

「くそっ!動け!!」

 

操縦桿やスロットルレバーを動かしたが二式水戦はどんどん落ちていき、そして挙句の果ては翼から炎が上がった。その瞬間、俺は自分の死が近いことを悟った。そしてその瞬間、炎に包まれる機体の中にいる俺の頭には走馬灯のごとくいろんな思い出が浮かび上がった。そして俺が出た言葉は

 

「・・・・・・・・・ましろ姉さん」

 

悲しみと絶望の入り混じった顔で俺は実の弟のようにかわいがってくれた人の名前をそう言う。もし・・・・神が許してくれるのであれば、最後にもう一度、あの人に会いたい・・・・俺を家族として温かく迎えてくれたあの家族にもう一度会いたい・・・

それが俺が最後に思ったことだ。炎に包まれる中、俺は自分の最期の運命を受け入れ。瞼をゆっくり閉じる。たった15年の命ではあったがこれも運命だ・・・・そう思い俺の意識は消えるのと同時に凄まじい爆音が響いたのであった・・・・・・




感想をいただけたらとても嬉しいです

因みに守の乗る二式水上戦闘機改は零戦22型にフロートをつけたような機体です
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登場人物

森守(もり まもる)

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cv(加藤英美里)

所属:日本国海軍ラバウル航空隊301部隊

        ↓

第五航空戦隊「瑞鶴」戦闘機部隊

        ↓

ソロモン諸島第452海軍航空隊、第三水上戦闘機小隊『新選組』隊長

階級:少尉

生年月日:2004年8月10日

出身:東京都江戸川区生まれ

趣味:釣り

好きな食べ物:基本甘いもの

苦手な食べ物:なし

好きな色:紫紺

愛機:零戦22型甲→二式水上戦闘機改

年齢:15歳

身長:155㎝

体重:56キロ

血液型:A型

性格:温和で頭の切れる優等生タイプ。しかも運に強い

好きな戦闘機:零戦11型

通称:若頭、ボンバーキラー、シーウルフ。ソロモン諸島の狼

座右の銘:面白きない世を面白く、悪・即・斬

所持品:スマートフォン、M1911A1拳銃、小太刀

資格:銃刀所持許可書、旭日双光章、船舶・航空機整備士免許、危険物処理免許、レンジャー勲章

パーソナルマーク:波を背にして遠吠えをする青い狼

【挿絵表示】

 

 

今作の主人公で6歳のころ、ある事故で一度ハイスクール・フリートの世界に転移し、保護してくれた宗谷家にお世話になっていた。元の世界に戻った後は平凡な毎日を送っていたが第三次世界大戦が勃発すると、13歳で軍に志願し、霞ケ浦航空訓練所に入隊する。厳しい訓練の中、中の上あたりの成績で卒業し、准尉からスタートし、いきなりの激戦地であるニューブリテン島のラバウルに配属になり、当時、『ラバウルの狂犬隊』の異名をとる301飛行隊の隊長を務めていた杉田清美曹長の二番機として着任する。ラバウル時代では上司であり先輩である杉田に空戦技術を習い。初戦で敵戦闘機を二機撃墜する。戦闘機乗りとしての腕はかなり良く。上官が杉田に「部隊を移動する際、もし連れていきたい一番の部下は誰だ?」と訊かれたとき彼女は真っ先に「それは森准尉だ」とはっきり答えるほどである。

その後、杉田とは半年近く共に戦い、杉田が海軍戦闘機隊の精鋭部隊の343航空隊に配属されるとき、森も一緒に配属になるはずであったが、杉田を快く思わない上官が杉田の悪口を言ったとき、その上官に猛抗議し、そしてその上官との模擬空戦では杉田を馬鹿にした腹いせに模擬戦の際、上官の戦闘機のアンテナを銃撃し圧し折ったことがきっかけで杉田とともに343航空隊に行くことは無しになり、代わりに最前線にある小島の防衛任務に就く第452海軍航空隊に左遷された。

小島に左遷された後、階級が准尉から少尉の特務士官となり、彼の愛機は零戦から水上戦闘機に二式水戦へと変わり。愛機が変わっても敵機を撃墜し続けた。

撃墜数が共同も含め72機であり、そのうちの6割が爆撃機、3割が水上戦闘機での撃墜記録となっており、敵爆撃機隊や味方からは爆撃機(ボンバー)キラーと呼ばれており、水戦の時は銃弾が空になった時はフロートで敵爆撃機にぶつけて撃墜をしている。記録では72機であるがほとんどの撃墜戦果を新人に譲っていたため、当時の上官や彼と戦った敵曰く150機以上は敵を撃墜しているとのことであり、戦後の海軍戦闘機部隊の撃墜王ランキングではでは疾風大尉、杉田曹長と並び第3位となっている

 

ある時、強行偵察の際、敵戦闘機と交戦しそのまま未帰還となり、そのまま戦死扱いとなっている。

当時、欧州で戦っていた杉田は彼が戦死したことを知ると「惜しい奴を無くした。あいつなら私の後釜を任せられたのに・・・・」ととてもショックを受けていた。

パーソナルマークは尾翼に波を背にして遠吠えをする青い狼のマークがあったことから敵からは『シーウルフ』と呼ばれていた

容姿は完全に女性じゃないかと疑われるような中性的な顔立ちで、自身も良く女性と間違えられることをとても気にしており苦悩している。また杉田の上官であり同じ悩みを持つ疾風村正大尉ともそのことについて相談し合ったりしている。

性格は温和だが家族や仲間の誰かが危ない目にあったり傷つけられると激しく怒り、たとえ自分より年上だろうが立場が上の人だろうが構わず鉄拳制裁をするほど仲間思いの性格。

胸にはかつて幼いころハイフリの世界に転移したときにましろと一緒に撮った写真を埋め込んだロケットペンダントを吊るしており、とても大切にしていてお守り代わりにしている。

幼いころお世話になった宗谷姉妹のことは敬愛しており、一人っ子であった守にとって本当の姉のように慕っていて、特に一番仲の良かったましろのことは心の底から敬愛し慕っている。もしまたあの世界に行けるのであれば真っ先にましろに会いたいなどと語っていた。

また上司がヤクザであるため極道や任侠については詳しい

所持品はスマホとソーラー充電器のほか軍の支給品であるコルトM1911A1(警察予備隊また自衛隊の予備兵器)と杉田が343に転属になる際に彼女から貰った日本刀(小太刀)を所持している

 

容姿モデルはバカとテストと召喚獣の木下秀吉をイメージしてください

 

 

 

 

 

 

寿ナツオ

cv:大久保瑠美

所属:日本国海軍整備部隊

階級:中尉

生年月日:不明

出身:東京浅草

年齢:不明

身長:145cm

趣味:機械いじり

守の所属する戦闘機部隊の整備部隊の整備長である女性で、幼い見た目だが、彼女曰くすでに成人しているらしい。荒っぽい口調だが、根は極めて優しく何かと守に対して気軽に相談に乗ったりアドバイスをしたりと結構気にかけている。

整備の腕は良いが343航空隊にいる中嶋聡子整備長をライバル視している。また博打にすごく強く、足りない部品や燃料代なんかは賭博場で稼いでいるらしい

 

 

杉田清美(すぎた きよみ)

cv(小松未可子)

所属:日本国海軍343航空隊501戦闘部隊副隊長

階級:曹長

愛機:零戦52型甲→紫電21型

生年月日:2003年10月7日

出身地: 東京浅草生まれ

趣味&特技: 特技喧嘩や英語。趣味は釣り

好きな言葉:「喧嘩上等」

通称:『ラバウルの狂犬』『組長』

年齢:16歳

身長:155㎝

体重:??

座右の銘:ニッコリ笑えば必ず墜す

所持品:軍刀、ルガーP08、スマートフォン。

 

守のかつての上官である軍人でラバウルに着任したばかりの守に空戦の極意を教えた。激しい戦闘の仕方から敵や味方からは『狂犬』と呼ばれ恐れられている。階級的には守が上だが戦闘での経験は彼女が上のため、彼にとって師匠のような人でもある

性格は活発だが正義感の持ち主。喧嘩が大の得意で大の大人が相手でも負けたことがない。ちなみに実家がヤクザで組長の娘でもあり彼女も極道者である

守のことは部下として弟分として可愛がっており、彼の空戦能力を見て自分の後継者は守じゃないかと期待をしていたが、守が戦死したと知った時はものすごくショックを受けていた。そして守が戦死した後、空戦の中、仲間を庇って被弾し行方不明となる

 

 

 

 

 

 

疾風村正

cv(松岡禎丞)

所属:日本国海軍343航空隊501戦闘部隊隊長

階級:大尉

生年月日:2004年10月7日

出身地: 熊本県熊本市生まれ

愛機:零戦22型→紫電21型→試製紫電32型改

年齢:15歳

身長:165㎝

体重:58キロ

通称:「レッドファイター」

趣味&特技: 読書と剣道、5か国の言葉を話せる(英語、ドイツ語、ロシア語、フランス語、イタリア語)

 

守に負けず劣らずの女性よりの中性的な顔立ちが特徴の少年で「世界最強の戦闘機乗り」の異名を持つエースパイロット。空戦の腕は強く最高撃墜数は爆撃機、戦闘機を含め871機となっている。性格は穏やかで心優しく、面倒見が良く仲間想い。そして少しいたずら好き。また仲間を助けるためなら自分の命を懸けることもある。あまり怒らない体質でよほどのことがないと怒らない。また、他人をさげすむ者を嫌う。仲間や家族のことを馬鹿にされると誰であろうと殴りかかるか殺気をぶつける

守とは何度か面識があり年も近いせいか気軽に話し合える仲である

欧州に派遣された後、爆撃機の迎撃の最中、機銃の暴発し『ワレ、機銃筒内爆発ス、諸君ノ協力ニ感謝ス、ワレ疾風一番』という電文を残し行方不明になる。

 

 

 

 




次回、本編に入ります!!


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登場人物紹介2

宗谷 真雪

cv:甲斐田裕子

宗谷真霜、真冬、真白の母。

元ブルーマーメイド所属で9年前は旗艦「大和」の艦長を務めていた。

15年前、領海内を荒らし回った武装船団を単艦で殲滅した事から「来島の巴御前」と呼ばれ、第一線を退いた現在においてもブルーマーメイドはもちろん、海上安全整備局に対しても発言権及び特別発動権限を持ち萎縮させるほど畏敬の存在とされている。

現在は横須賀女子海洋学校の校長を務めている。

9年前に守を保護した人物であり保護した時に守が異世界人だといち早く気付いた人物。守のことは実の子のように思っており、いろいろと気にかけている。9年前に守に帰るところがなければ養子にしようと考えていた

 

 

宗谷 真霜

CV:中原麻衣

宗谷家長女。安全監督室の室長であり一等監察官。ブルーマーメイドの現最高責任者。真面目な性格で苦手な科目はないという優等生で、海洋学校では主席入学・主席卒業という偉業を成し遂げた。

真雪の依頼を受け、様々な事態の調査に奔走している。

守のことは実の弟のように溺愛しており、守や家族に手を出す輩は容赦しない

年齢はましろと守より9歳年上とのこと

 

 

 

宗谷 真冬

cv:優希知冴

宗谷家次女。ブルーマーメイド所属でインディペンデンス級沿海域戦闘艦「弁天」の艦長を務めている。体育会系の気質で髪はショートにし、なぜかマントを羽織っている。本人は黒色を好むらしく、制服や帽子、マントなども黒色のものを着用している。

「船乗りは尻が命!」という持論の下、妹や興味を抱いた女の尻を揉む性癖がある。血のつながらない守のことは可愛がっており、セクハラをしようにも守にお仕置きをされるのがいつものお約束となっている。

 

 

福内典子

CV:櫻庭有紗

安全監督室情報調査隊に所属する平賀倫子の同僚で、宗谷真霜の直属の部下。タヌキ耳のカチューシャを付けているのが特徴のブルーマーメイドに所属する女性。

インディペンデンス級沿海域戦闘艦みくらの艦長。

平賀とは高校生時代からの仲。

 

 

平賀倫子

CV:野村真悠華

ブルーマーメイド安全監督室情報調査隊所属の二等監察官で役職は部長。

福内や真霜と一緒に行動を共にする事が多い。宗谷真霜の直属の部下であり、陸上勤務中心の真霜に代わり情報収集などを行っている

性格は至って温厚で、6年前の海洋学生時代、宗谷真冬(当時からマントを着用。「根性注入」と称して他人の尻を揉む癖がある)に胸を揉まれた際も抗議せず、真冬が自らの性癖を糾弾され間宮への立ち入りを禁止された際も、一貫して真冬を庇い、出禁を解除させたほど

守のことは福内同様、弟のように思っている

 

 

 

 

 

 

 

ハイルヴィヒ・イイノデビッチ・ゾル

cv:榊原良子

ドイツ・ベルリン出身

27歳

女性

第四帝国武装親衛隊大佐、研究機関アーネンエルベ武装部隊「SHOCKER(ショッカー)」指揮官。

通称「ゾル大佐」

性格は殺人を楽しむ残忍な性格である反面、部下の服装の乱れを叱責するなど生真面目な面があり、失敗した部下も一度だけ挽回を機会を与えるなど情にも熱い面がある

左目にアイパッチをしており、過去に狙撃兵に討たれて負傷し失明する。

変装の名人であり、写真と音声があれば、どんな人物にも変装できる

総統の密命を受け、ハイスクール・フリートの世界で暗躍する

 

 

 

エルザ・ヘル

cv:千葉紗子

ドイツ・ミュンヘン

21歳

ドイツ第4帝国武装親衛隊大尉、研究機関アーネンエルベ武装部隊「SHOCKER(ショッカー)」副官

仇名「地獄大尉」

ゾル大佐の副官的な存在であり、破壊工作の陣頭指揮を執ることが多い

人間性が豊かで、激情的でありつつも洒落た物言いを好んだり、それなりの地位にいる人間にはそれなりの敬意を示す面がある

しかし、全体的に軽率でオッチョコチョイな所があり、上司であるゾルからも「そそっかしいところがある」と言われている

 

 

 

バイオレット・ヴォルフ・クラーケン

cv:園崎未恵

ドイツ・ヴュルテンベルク州ヴァイスザッハ

ドイツ第四帝国海軍・第3潜水艦隊

ナチスドイツ海軍中佐であり、UボートXXI型の艦長であり「猟犬」の異名を持つ。性格は権力を振るう輩を毛嫌い、それが上官であろうとも構わず反発する性格の持ち主。潜水艦乗りらしく、我慢強さと粘り強さを持っており、戦闘での臨機応変さ、そして冷静な判断力を有している。

偵察任務中、謎の海流に巻き込まれはいふりの世界へと迷い込み、そこで出会った晴風と交戦する。晴風に関しては「沈め甲斐がある」と、高く評価し、さらには知床鈴の船の操作にも「いい腕をしている」と評価している。最後は晴風の爆雷により損傷はしたものの沈没は免れ、最前基地があるポートモレスビーへと向かった

ゾル大佐とは何らかの面識がある模様

 

 

 

 

 

山口章香

cv:藤田咲

日本、神奈川県横須賀市出身

日本国防海軍少将 第七航空戦隊司令官

年齢28歳

かの闘将山口多聞の孫娘であり、性格は質実剛健。平時でも厳しいことから祖父同様『人殺し多聞丸三世』と呼ばれているが、決して非情な性格ではなく。優しい性格も垣間見えることがあり部下には恐れられているが同様慕われてもいた

趣味は相撲。学生の頃、相撲大会で何度も優勝している

本人曰く子供好きだが目つきが怖く、小さい子にも怯えられるため目つきをよくしようと努力したりしている



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漂流物

今から100年ほど前、日露戦争の後日本はプレートの歪みやメタンハイドレートの採掘などが原因でその国土の多くを海中に失った結果、海上都市が増え、それらを結ぶ海上交通などの増大に依り海運大国になった。

 

その過程でこれまで海軍が建造してきた軍艦は民間用に転用され、戦争に使わないという象徴として艦長は女性が務めた。

やがて、艦長だけでなく、乗組員も女性だけと言う艦が多くなり、女性の軍艦乗りは「ブルーマーメイド」と呼ばれ、日本における海の治安を守る女性の職業として女子学生の憧れの職業となっていった。

 

同様に海の治安を守る男性の職業も存在し、そちらは「ホワイトドルフィン」と呼ばれている。

 

そして、女子学生にとっては花形の職業と言う事で、ブルーマーメイドになりたいと言う女学生が此処近年急激に増え、文部科学省は将来のブルーマーメイド育成の為、専門の学校を作った。

そして、かつての軍艦のなかにはブルーマーメイドを育てる教育専用の船、教育艦として使用される軍艦が登場し、将来のブルーマーメイド達の育成に尽力した。

 

そんな世界の中、ある一通の知らせが 海上安全整備局へと届けられた。通報内容は硫黄島付近の海域を偶然に通った漁船が海に漂う不審な物体を発見したというのだ。海上安全整備局はもう一度それを発見した漁船に聞くが

 

「あんなもの見たことがない」

 

の一点張りで、海上安全整備局は直ちに調査の為、ブルーマーメイドに出動を要請した。調査に向かったのは、インディペンデンス級沿海域戦闘艦みくら以下3隻であった。そして戦闘のみくらの艦内ではネコミミを模したヘッドセットを装着した女性でこのみくらの艦長である福内典子とその隣にいる同僚でありブルーマーメイドの隊員である平賀倫子が、先ほど通報を受けた海域へと向かっていた

 

「もうすぐ着くわね・・・・・・一体何かしら?その漂流物って?」

 

「わかりません。漁船の人たちに聞くと水上スキッパーぽいものだが全く違う。とのことです」

 

「引き上げはしなかったの?」

 

「小型の漁船だったのと何よりあまりの怖さに飛んで帰っちゃったみたいです」

 

「情けないわね・・・・まあ仕方がないと言えばないけど」

 

軽くため息をつく福内。そしてみくらは硫黄島付近へと到着しレーダーや双眼鏡などで探すがそれらしきものは見当たらなかった

 

「見つかりませんね・・・・・もしかして悪戯だったのでしょうか?」

 

「あるいは海流に乗ってどっか遠くに行っちゃったかしらね?」

 

と、そう話し合っていると

 

「艦長!11時方向の岩礁に不明物を発見!!」

 

「「っ!?」」

 

見張り員の言葉に二人は驚き、双眼鏡で言われた場所を見ると、硫黄島近くの岩礁に何か不明なものが座礁していた。

 

「きっとあれね。確かに見たこともないわ」

 

「はい。一見水上スキッパーに見えますけど?」

 

「とにかくまじかで見て調べないとな」

 

そう言う。そしてその先は浅くみくらでは行けないため数名の隊員が水上スキツパーに乗りその岩礁へ乗り上げている物体のところまで近づく。そして隊員たちがその岩礁へと降りるとその物体に近づく。それは白と灰を混ぜたような色をした大きな水上スキーのようなもので、胴体には翼みたいなのがつけられていた

 

「ほえ~近くで見るとますます水上スキッパーみたいな物体だね?」

 

「ほんと。でも窓みたいなところのガラスは割れているし、胴体も結構穴が開いているね。まるで銃撃されたみたい」

 

「でも何のために?これが何かもわからないのに?それに尻尾みたいなところに書かれているこのマークは何だろう?狼かな?」

 

隊員たちは初めて見る謎の物体に首をかしげていると、先ほど窓の付いている部分を見ていた隊員が何かに気づいた

 

「あ・・・・・」

 

「どうしたの?」

 

「さっき。人影みたいなのを見ました」

 

「なんですって!?」

 

そう言うと隊員はその臆することもなく物体によじ登り、その窓の中を覗くと目を見開く

 

「班長!この中に人が乗っています!!」

 

「なんですって!?」

 

そう言い班長格の隊員もよじ登り窓を覗くと

 

「・・・・・・・子供?」

 

その中には中学生ぐらいだろうか、頭に帽子とゴーグルをかけた女の子と思しき子供がぐったりと倒れていた

 

「ちょっと!あなた大丈夫!?しっかりしなさい!!」

 

そう言い隊員はその人物の体に触れると、何やら冷たい感触がした。そして隊員はその人物に触った手を見ると

 

「・・・・血!?」

 

その手は赤く染まっていた。だがそれは自分の血ではなかった。よく見るとその人物の肩や足は赤黒く染まっていてさらにはその人物の頭から血が流れているのを見て先ほど手に血たちはその人物の血であることがわかり

 

「この子、怪我をしているわ!すぐにみくらに連れてって治療しないと!」

 

「あの、これはどうするんですか?」

 

「一緒に持っていくわ。たぶんこの子の持ち物だと思うから。ほら、急いで!この子死んじゃうわよ!!」

 

「は、はい!!」

 

そう言い隊員たちはその人物を引き出し、その謎の物体とともにみくらへと持ち帰るのであった

 

 

 

 

 

 

数時間後、

 

「なんなのよ・・・・これ」

 

横須賀ブルーマーメイド安全監督室ではブルーマーメイドの統括者である宗谷真霜が先ほどみくらに送られた謎の漂流物の資料を見て驚いていた。

 

「はい。硫黄島付近の海域の岩礁で乗り上げているのを発見しまして、そしてその漂流物の中から中学生らしき女の子を救出したとのことです」

 

「これに人が乗っていたの!?それでその女の子はどこに!?」

 

「はい。今は横須賀の病院に搬送されています。医者によれば体のあっちこっちから7・92ミリほどの銃弾が摘出されたみたいで、発見が遅ければ命は助かっていなかったとのことです」

 

「銃弾!?何でそんなものが!?」

 

「わかりません。それは本人に聞かないと、どうも・・・・ただ、例の物体のほかに彼女の身分を証明するものと所持品が見つかったとのことです」

 

「どんなの?」

 

部下の言葉にそう言い真霜はタブレットを動かすと、そこには救出された人物の所持品らしきものが写っていた。スマートフォンに拳銃、そして日本刀など

 

「どうして、子供がこんなものを・・・・・・・んっ!?」

 

不思議に思う中、真霜はあるものを見た。それはロケットペンダントであった。それを見た真霜は少し驚くと

 

「ねえ・・・・・このペンダントは・・・・?」

 

「は、はい。救出された子の胸に掛けてあったものです。そしてペンダントの中には写真が貼られていました」

 

「写真・・・・・もしかしてその写真も撮ってある?」

 

「はい。次のページに」

 

部下がそう言い真霜はタブレットをスライドさせると、そこにはペンダントがあかれた写真が写ってありそしてペンダントの中には一枚の写真が貼られていた。それは小さな短い髪のこと黒いポニーテイルの写真の子が一緒に写っている写真であった。

それを見た真霜は目を見開き

 

「・・・・・まさか・・・・・これって・・・・・」

 

「あ、あの?どうかされたんですか?」

 

部下の人が不思議そうに首をかしげると真霜は

 

「ねえ、その子がいる病院って横須賀のどこ?」

 

「はい。氷川病院にいます」

 

「そう・・・・わかったわ。後で私も行きますので、あとまた詳しい情報が入ったらすぐに報告して」

 

「了解です」

 

部下が一礼して部屋から出ると真霜は、そのペンダントと、そして救出された子の写真を見て

 

「・・・・・・・もしかして・・・・・・マーちゃん?」

 

と、どこか懐かしさと驚いた表情でその資料を見るのであった

 

 

 

 

 

 



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目覚め、再び異世界へ

守がブルーマーメイドに救助されてから数時間後、

 

「む、宗谷一等監察官。そんなに慌てなくても!」

 

「そう言うわけにはいかないわ。すぐにでも氷川病院へ行かないと」

 

「ですけど、ほかにも仕事が・・・・」

 

「そんなもの、もう終わったわ!」

 

と、真霜は平賀にそう言う。漂流物とその漂流物に乗っていた人物のことを聞いてから彼女の様子がおかしかった。無論。仕事はいつもより、むしろ早く終わらせていた。そして彼女は車に乗り氷川病院へと向かおうとしていたのだ

 

「ほら。運転して!」

 

「わかりました・・・・・」

 

運転手は困惑し、しぶしぶ氷川病院へと車を走らせるのであった。そして真霜は車に乗りながら考え事をしていた

 

「(写真で見る限り、そして確実なのはあのペンダント。やっぱりあの保護された子は守君・・・・・マーちゃんだわ。でもなんでマーちゃんがあそこに・・・・)」

 

険しい顔をし私は考える。9年前、母である真雪がどこからか保護した謎の少年。森守。年齢はましろより少し下だが、どこか人懐っこい子であり不思議な子でもあった。たった一か月ではあったがほんとの弟みたいな存在であった。次女の真冬も特に末っ子のましろは彼のことを本当にかわいがっていた。だが彼は突然と姿を消した。

お母さんは『元々いる家に帰った』と、言ってはいたが、真冬はそれが信じられず体中ぼろぼろになるまで探し回ったり、特にましろは大泣きしながら夜遅くまで守を探していたのをはっきりと覚えている。

そして6年たった今、守じゃないかと思われる少年が病院にいる。すぐにでも自分の目で確かめたかった。そんな焦りが襲う中、私のポケットから電話が鳴る。電話の相手はブルーマーメイドの技術者の夕張さんからだ。私は電話を取ると

 

「もしもし・・・・夕張さん?」

 

私がそう訊くと夕張さんは

 

『あ、もしもし、真霜さん?さっきみくらから送られた変な物体。一応調べたわよ』

 

「そう・・・・で、なんなの?」

 

『其れがさっぱり。何のためのものか、何のために作られたのかは謎だ。ただ胴体に12・7ミリ機銃が二丁とその胴体にある翼みたいなところから20ミリ機関砲、それに60キロ爆弾が二個が発見されてなおそらくあれは何かの兵器よ。それに胴体に製造会社と名前が書いてあったわ』

 

「名前?」

 

『ええ、二式水上戦闘機って書かれていたわ。それに製作会社はスバルって書かれていたわ』

 

『スバルって・・・あの自動車会社の?で、向こうと連絡はしたの?」

 

『したけど、社長も含め『そんなもの作ったことがない』て言われてね。もうなにがなんだかわけがわからないわよ。長年、飛行船やスキッパーなんかの仕事をやって来たけど初めて見る分野の代物よ。まあもう少し調べてみるよ』

 

「そう・・・・お願いね」

 

そう言い私は電話を切る。そして軽くため息をつくと

 

「マーちゃん・・・・あなたは一体何者なの?」

 

と小さくつぶやくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9年前

 

「ほら、マーちゃん。ましろ。もッとよってよって」

 

「うん。こう?真霜お姉ちゃん?」

 

「そうそう言い感じよ二人とも」

 

横須賀の三笠公園で俺とましろが戦艦三笠を背にして並んでいた。そして正面には真霜姉さんがカメラを構えていてシャターを押す。そして真霜姉さんはにっこりと笑い

 

「はい。撮れたわよ二人とも」

 

「え?本当お姉ちゃん?」

 

「ええ、はい」

 

ましろ姉さんがそう言うと真霜姉さんはにっこり笑ってカメラに収めた写真を見せるとましろ姉さんは嬉しそうに笑う。

 

「ねえ、ねえお姉ちゃん」

 

「わかっているわ。少しだけ待っててね。夜にはできると思うから」

 

と、そう言い真霜姉さんはどこかへ行ってしまった。

 

「ねえ、ましろ姉ちゃん。なんで真霜姉ちゃんここで写真を撮ったの?」

 

俺は不思議そうに首をかしげてそう訊くとましろ姉さんはニコッと笑って

 

「それはもうすぐわかるよマーちゃん」

 

とそう言った。因みにマーちゃんは俺の仇名だ。その後、家に帰って自室でゆっくりしていると、突如ノックの音がし

 

「マーちゃん。いる?」

 

と、ましろ姉ちゃんの声がした

 

「ましろ姉ちゃん?開いているよ?」

 

俺がそう言うとましろ姉ちゃんが部屋に入ってきた。その顔はにこにこと笑っていた

 

「お姉ちゃん。どうしたの?何か嬉しいことでもあったの?」

 

俺がそう訊くとましろ姉ちゃんはポケットからロケットペンダントを出すと

 

「はい!マー君にプレゼント!!」

 

笑顔で俺に渡す

 

「え?これ僕に?」

 

「うん!マーちゃんいつも私を助けてくれたからそのお礼!」

 

そう言い姉さんは俺の手にペンダントを置く

 

「・・・・・・本当にいいの?」

 

「うん!あっ!そうだマーちゃん!そのペンダントの蓋開けてみて!」

 

「え?うん」

 

そう言い開けてみるとそのペンダントの蓋を開けてみると先ほどましろ姉さんと一緒に取った写真が埋め込まれていた。すると姉さんが

 

「もし・・・・・もしだよ。マーちゃんが家に帰っちゃって寂しくなったら、それを見て私を思い出してね」

 

と、少し寂しそうな顔をする姉さん。俺はこの家に保護されている子だ。もし保護者が見つかればその人とともに家に帰らなくちゃいけない。だが・・・・

 

「ありがとう姉ちゃん。でも大丈夫だよ!僕。ずっと姉ちゃんと一緒にいるから!」

 

「ほんと?」

 

「うん!約束するよ!だからそんな寂しい顔しないでよ姉ちゃん!姉ちゃんには笑ってほしいからさ!」

 

「うん!ありがとマーちゃん」

 

と、姉さんは嬉しそうに笑うのであった。それは俺が元の世界に帰る前日のことであった・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「ん・・・・・」

 

何か光がさしたと思い俺はうっすらと目を開ける

 

「なんか、デジャブるなぁ・・・。」

 

目を覚ますと、また俺はベッドに横たわっていた。

 

「また病室か・・・」

 

白一色で統一された部屋は6年前もお世話になった病室を思い出させる。

 

「どうやら・・・・・生きているみたいだな・・・・俺」

 

メッサーシュミットの銃撃で負傷して二式水戦もろとも海面に突っ込んだことまでは覚えている。もしかして運よく機体から放り投げられ海を漂っている最中、サメに食われず味方に救出されたのかな?

小さい時から運がいい方だったが、この時も運に助けられたみたいだ

 

「目が覚めたかしら?」

「・・・?あ、看護士さん・・・ですか?」

 

「ふふ、白衣の天使じゃなくてごめんなさいね

 

と、そこへ海保とか海自に似た白い制服を着た女性二人が入ってきた。というよりその一人がなぜか猫耳カチューシャをつけているんだが・・・・・

 

「えと…貴女たちは?」

 

「私たちはブルーマーメイドの福内よ。そしてこっちが同僚の平賀よ。さっそくで悪いけど事情聴取してもいいかしら?」

 

「え・・・・・あ、はい」

 

ブルーマーメイド?あれ?それ、どこかで聞いたような・・・・・・

 

「じゃあ早速だけど、貴方の名前を聞かせてちょうだい。」

 

「は、はい。森守。年齢は15歳で東京江戸川区出身。所属は日本国海軍452航空隊。階級は少尉です」

 

「「・・・・え?」」

 

俺は素直に言うと二人は目を丸くする

 

「え?どうしたんですか二人とも?」

 

「えっと・・・森守君だったわね?出身もそうだけど、大日本帝国海軍は1945年に解体されているわよ?」

 

「いや、俺は旧海軍じゃなくて日本国で新たに設立された対テロ用防衛部隊の日本国防海軍の出です」

 

「その対テロ用防衛部隊って?」

 

「それは2005年9月1日ドイツ国内で「ナチス第4帝国」と名乗る武装テロ集団が現れて、それに対抗するために自衛隊の陸海空に続き、臨時に作られた部隊です」

 

「そう・・・・・」

 

そう言うと福内さんは目を細め何やら怪しむように俺を見ていた。俺としては事実を全部言って虚言は一切言っていない。それに彼女たちの様子だとまるでテロリスト戦争ことなんて知らないみたいな表情だ。現に福内さんの後ろにいる平賀さんなんかは話についていけないのか唖然とした表情をしていた

そして

 

「森君。一つだけ聞いてもいいかしら?」

 

「・・・・・なんでしょう?」

 

「貴方は何者なの?」

 

「何者って、先ほど名乗った通り俺は日本国海軍の・・・・・」

 

俺がそう言おうとしたとき福内さんは首を横に振り

 

「残念だけど日本にはそのような組織は存在しないし、ナチス第四帝国とかいうテロリスト集団もいないわ。それにあなたは江戸川区出身といっていたけど江戸川区は今は海の中なのよ」

 

「え!?」

 

海軍がない?それにナチスも存在せず。しかも俺の住んでいる江戸川区が海の中・・・・・・・て、あれ?なんかデジャブを感じる。確か同じようなことが前にもあった気が・・・・・

俺が頭の中を整理する中、福内さんはタブレットを動かし

 

「それと、これ、あなたが乗っていたものだけどこれは何かしら?」

 

そう言い俺にいせたのは岩礁に乗り上げている俺の愛機である二式水戦であった

 

「これって・・・・・二式水戦のことですか?」

 

「二式水戦?」

 

「ええ、正式名称は二式水上戦闘機。機首に12・7ミリと翼に20ミリ機関砲を備えた水上戦闘機です」

 

「戦闘機?それはどういうものなの?」

 

「え?どういうものって、航空機の一種で、機銃や機関砲を備え敵戦闘機や爆撃機と交戦するために作られた機種です」

 

「なるほど・・・・・それで航空機とはどういうものなの?」

 

「え?航空機を知らないんですか?」

 

「ええ、初めて聞いたわ・・・・」

 

その言葉に俺は驚く。子供でも知っているはずの航空機を知らない・・・・・あれ?この文化というか場面をどこかで見たような・・・?

 

 

回想9年前

 

「ねえ、真冬お姉ちゃん」

 

「ん?なんだ守?」

 

「ここ、飛行機が飛んでいないね?」

 

「飛行機?なんだそれ?」

 

「飛行機は飛行機だよ。空を飛んでいる乗り物」

 

「ん?空を飛んでいるのは気球か飛行船だぞ守?」

 

「・・・・・・・・え?」

 

回想終了

 

 

 

「あ・・・ああああああああああああああああ!!」

 

「「っ!?」」

 

俺の叫び声に二人は驚く

 

「そうか・・・・・そう言うことか」

 

俺は納得した。俺は再びあの世界に来たんだと・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

数分後、

 

「それで、平賀二等監察官。その子について何かわかったの?」

 

数分後、真霜が病院につき出迎えた平賀に保護した少年のことを訊くと

 

「は、はい。宗谷一等監察官。一応簡単な聴取はできはしたのですが・・・・その何と言いますか・・・・」

 

「なに?何か問題でもあったの?」

 

「はい。本人曰く『異世界から来た』・・・・だそうです」

 

「異世界から?……まあ、それはいったん置いときましょう。それで名前は?」

 

「はい。名前は森守15歳で東京都江戸川区出身。何でも自分のいた世界では軍人をしていたとのことです」

 

「(森守・・・・・・やっぱりマーちゃんだわ。でも異世界ってどういうこと?それに軍人って・・・・)それで今、その子はどうしているの?」

 

「は、はい。何でも過去にもこの世界に来たらしくその時お世話になった人に会いたいとのことです」

 

「会いたい人?その人の名前は?」

 

「は・・・はい。何でも横須賀に住む宗谷一家だそうです。あ、あの宗谷一等監察官もしかしてお知り合い・・・・・」

 

平賀がそう言いかけた時、真霜は目を見開き

 

「ねえ!その子のいる病室はどこにあるの!!」

 

「え?ええ。ここをまっすぐ行って突き当りにある501号室です」

 

「っ!!」

 

「あっ!ちょっと待てください宗谷さん!!」

 

平賀の言葉を聞くや否や真霜は急いでその病室まで走るのであった。そして突き当りについたとき

 

「・・・・・・ここね」

 

501と書かれた部屋についた真霜はそっとドアを開けるのであった。そしてドアを開けると別途の上に女性みたいに華奢で幼い顔のした少年が座っていた。そして少年は真霜を見ると目を見開く。それは真霜も同じであった。そして少年が口に出した言葉は・・・・

 

「・・・・・・真霜姉さん?」

 

「っ!?」

 

その言葉に真霜はその少年に絶対な確信をもった。今目の前にいる少年は9年前に行方不明となった自分の弟が今、目の前にいたのだから・・・・・・

 

 



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再会

病室で暇を持て余していると、突然ドアが開きそこから平賀さんや福内さんと同じ制服を着た女性が入ってきた。その女性に俺は見覚えがあっった

 

「・・・・・・真霜姉さん?」

 

忘れもしない。9年前にお世話になった真雪さんの娘さんで弟のようにかわいがってくれたあの三姉妹の長女である真霜さんだった

俺が真霜姉さんの名前を言ったとき、真霜姉さんは驚いた顔をし

 

「もしかして・・・・マーちゃん・・・・森守君!?」

 

俺の言葉に驚いてそう言う真霜姉さんに俺はゆっくりと頷く

 

「本当に・・・・・本当に・・・・・マーちゃんなのね?」

 

涙を流しながらそう言う真霜姉さんに俺は

 

「・・・・・お久しぶりです。姉さん」

 

「マーちゃん!!」

 

俺がそう言うのと同時に姉さんの目から涙があふれると同時に俺に抱き着く

 

「もうっ!9年間、別れも言わないでどこに行っていたの!心配したのよ!!」

 

「・・・・ごめん。真霜姉ちゃん。心配かけて・・・・・」

 

俺は泣いて抱き着く真霜姉さんにそう言う。よくよく考えたら俺って別れも告げずにいきなりいなくなったんだよな。俺はそっと真霜姉さんの肩をたたき

 

「ごめん…ごめん真霜姉さん。ちゃんと訳を話すから・・・・・」

 

俺がそう言うと

 

「もう!宗谷一等監察官!廊下は走っちゃだめですよ!」

 

「そうですよ。もし患者さんにぶつかったらどうするんですか!」

 

と、先ほど俺に事情聴取をしていた福内さんと平賀さんが入って来たんだが・・・・・

 

「「・・・・・何をしているんですか宗谷一等監察官?」」

 

二人の目に映ったのは自分の上官がこれから再び事情聴取する相手に抱き着き泣いている姿であった

 

 

数分後

 

「えっと・・・・・つまりこの森君は宗谷一等監察官の弟さんということですか?」

 

「はい。9年前に宗谷さんのところでお世話になっていました」

 

「本当なんですか宗谷一等監察官?」

 

「ええ、血はつながってはいないけど。私も妹も彼のことを本当の弟みたいにかわいがっていたのよ」

 

あれから少し落ち着き、再び事情聴取が始まった。

 

「さて、マーちゃん・・・・いいえ森君。あなたのことはさっき平賀から聞いたけど。異世界から来たってどういうこと?」

 

真霜姉さんが神妙な顔で俺にそう訊くと俺は

 

「姉さん・・・・これから言うことは信じられないことかもしれないけど真実だ」

 

と、俺は真霜姉さんに説明する。自分は別世界の人間で幼いころなぜかこの世界に来てしまった事、そして自分のいた世界では真霜たちのいた世界とは違い日露戦争後、いろんな戦争が起き、特に三回にわたる世界大戦争が起きたこと。そしてその第二次世界大戦でほろんだナチスドイツが復活し、第三次世界大戦が勃発し、その戦争では第二次大戦で使用されたものを使用すること、そしてその第三次世界大戦で自分もその戦争に兵士として従軍したこと。南太平洋でのナチスとの死闘。そして単独での強行偵察中に敵戦闘機と交戦し、被弾して墜落し死んだ思ったら再びこの世界に戻ってきたことを話した。

その話を聞いた三人は信じられないような顔をしていた

 

「世界大戦・・・・・しかも三回も」

 

「ドイツと戦争だなんて・・・・」

 

と、平賀さんと福内さんは信じられない表情をしていた。確かに普通ならおとぎ話かSFの類の笑い話になる。だが、これは事実だ。

 

「信じられない話でしょうが事実です・・・・・普通は信じられないと思いますけど」

 

俺はそう簡単に信じてもらおうなんて思っていなかった。もし逆の立場であったならきっと同じ表情をしただろう・・・・・すると真霜姉さんは

 

「ねえ、守君・・・・・私の目を見て」

 

「え?」

 

「いいから見て」

 

そう言われ俺は真霜姉さんの目をじっと見る。一体、姉さんは何をしようとしているのだろ?俺が不思議に思っていると姉さんは

 

「守君・・・・・私、あなたの言葉を信じるわ」

 

「え?ほんと姉さん?」

 

「ええ。あなたの目を見て嘘をついているような目じゃなかったわ。それに自分の弟が嘘をついているなんて思ってもないもん」

 

「本気ですか宗谷一等監察官?」

 

「ええ。今思えばマーちゃん・・・・守君が突然現れて、突然消えた理由も納得がいくし、何よりも、守君と一緒に運ばれた例のあれが決定的な証拠になるわ」

 

「あれっといいますと・・・・あの変な物体ですか?」

 

「そうよ。あのようなもの、この世界にあると思う?」

 

「それはそうですけど・・・・」

 

「アルもの?」

 

俺は姉さんたちの話していることに首をかしげると姉さんはタブレットを動かし俺に見せる

 

「守君・・・・・これ、あなたが乗っていたものだけど。これ守君の世界のものだよね?」

 

そう言って見せたのは二式水戦であった。それを見て俺は頷き

 

「ああ・・・・二式水戦・・・間違いなく俺が乗っていた機体だよ」

 

「守君。その二式水戦って何なの?それにさっき事情聴取で航空機とか言っていたけどそれは何?」

 

「そうか・・・姉さんたちの世界には航空機は存在しないんだっけな。航空機というのは気球や飛行船に使われている水素やヘリウムを一切使用していない空飛ぶ乗り物だよ。そしてこの二式水上戦闘機は第二次世界大戦で使用された水上戦闘機で、もともと艦上戦闘機であった零式艦上戦闘機を水上機化させた戦闘機です」

 

「水素やヘリウムを使わないで飛ぶですって!?」

 

平賀さんは驚いてそう言う。確かに気球や飛行船しかない世界の人にとっては信じられないだろう。すると真霜姉さんは

 

「守君・・・・その航空機が誕生したのはいつのころ?」

 

「え?確か日露戦争より少し後にライト兄弟という兄弟が初の有人飛行機を発明して、その後第一次世界大戦で航空機が活躍し始めてそして第二次世界大戦では航空機を主流。つまり空の戦いが中心になっていたな・・・・・」

 

「でも、私たちの世界ではライト兄弟という兄弟は聞いたこともない。恐らくその人たちは飛行機を発明できなかったのでしょうね。それに第一次、第二次、そして第三次世界大戦も起きていないから、守君の言う飛行機は登場せず。この世界には気球と飛行船しか存在しないというわけね・・・・」

 

「そういうことになりますね。でも俺にとっては平和でいいと思います。日露戦争後は世界中どこも戦争なんてしていないのだから・・・・・・」

 

少し寂しそうに俺は言う。正直この世界が羨ましいと思った。飛行機はないが代わりに血で血を洗う血生臭いあの悲劇的な大戦争が起きていないのだから・・・・

 

「守君・・・・・・」

 

「そうね・・・・それを考えると私たちの世界は少し恵まれているわね」

 

と、軽くため息をつく真霜姉さん

 

「それで姉さん。俺の二式水戦は・・・・・」

 

「今は横須賀のブルーマーメイドが所有する倉庫に保管されて解析されいるわ。もし行きたかったら行けるように手配させてあげるから安心して」

 

「そうか・・・・・」

 

俺はほっと息をつくと、平賀さんが

 

「ところで守君・・・・守君はこれからどうするの?」

 

平賀さんの言葉に俺は今後、どうするべきが考える。病院を退院した後俺はどうするべきか。この世界は俺にとってもう一つの故郷のような世界。だが俺はもともとこの世界の人間ではない。だから住む家もないし当てもない。いわば漂流者だ。どうするべきか困っていると

 

「それなら問題ないわ。守君は家で面倒を見てあげる。6年前もそうだったし」

 

と、ニコッと笑う。確かに9年前俺は宗谷家に住んでいた。だから俺を引き取っても大丈夫だと姉さんは言った。それに何かあった時にすぐそばに入れるから問題ないと言う

 

「ふふっ・・・・楽しみね。真冬もましろもマー君が帰って来たと知ったらきっと喜ぶわ」

 

真霜姉さんはウキウキしながら嬉しそうにそう言う。真雪姉さんとましろ姉さんに会える。それは俺にとって嬉しい話だった。特に俺はましろ姉さんに会えることをうれしく思った。だが、すぐにあることに気が付く。そうだ。そうだった・・・・・俺はもう・・・・

 

「?どうしたの守君?暗い表情をして?嬉しくないの?」

 

俺が暗い顔をしているのに気が付いた真霜姉さんは顔を覗き込むようにそう訊くと俺は手に持ったシーツをぎゅっと握りしめると・・・・・

 

「真霜姉さん・・・・・・一つ頼みがあるんだ」

 

「ん?なになに?どんな頼みなの?」

 

少しお茶らけてそう言う姉さんに俺は真剣な表情で

 

「姉さん・・・・・俺がこの世界に戻ってきたことを真冬姉・・・・・・特にましろ姉さんには秘密にしてほしいんだ・・・・・俺は姉さんたちには会えないよ」

 

「っ!?」

 

俺に言葉に真霜は目を見開き驚くのであった

 




あんなに会いたがっていたましろに会わないと言い出した守。なぜ彼はそんなことを言い出したのか・・・・・

次回も頑張って書きたいと思います。感想、指摘などお待ちしております


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血塗られた罪

「え?・・・・・会えないって。どういうことなのマーちゃん!?」

 

守の言葉に姉さんは驚愕し、守にそう訊く。きっと守のことだから絶対に会いたがるはずだと思っていた。しかし守は覇気のない顔色で

 

「ごめん・・・・・姉さん」

 

「謝ってちゃ、わからないわマーちゃん。マーちゃんは真冬やましろに会いたくないの!?」

 

「会いたいよ・・・・真冬姉さんやましろ姉さんには会いたい・・・・でもダメなんだ。俺は姉さんに会う資格はないんだ」

 

「マーちゃん・・・・」

 

虚ろな目でそう言う。その顔を見た真霜は

 

「(おかしい。私の知っているマーちゃんじゃない。それにマーちゃん。なんでそんな悲しい顔をしているの?)」

 

真霜は守るのその表情を見て疑問に思う。いつも無邪気で元気な彼じゃない。昔と違ってどこか悲しい顔をする彼の顔を見て真霜は

 

「ねえ、マーちゃん。なんで二人に会えないか話してくれる?」

 

優しく促すように言うと守は

 

「姉さん・・・・・俺は・・・・・俺は人を殺しているんだ」

 

「「「っ!?」」」

 

守の言葉に真霜やその場にいた平賀や福内は驚く

 

「姉さん。俺の世界で戦争があったっていうのは話したよね?」

 

「え、ええ・・・・マーちゃんも兵隊として従軍したって・・・・・まさか」

 

「ああ。その時に俺は数多の人の命を奪った。戦争とはいえ俺はたくさんの人を殺したんだ。つまり俺は血で汚れた殺人者なんだよ。姉さんも見ただろ?俺の乗っていた機体に武器が積んでいたのを・・・・つまりそう言うことなんだよ」

 

そう、守が会いたがらない理由はそれだった。子供だった昔とは違い今の自分は軍人。国を守り、そしてそれを害する人を殺す立場だ。そして守は戦時中にたくさんの敵戦闘機を落とした。そして上官に撃墜数を誉められ、ある時は国から勲章をもらったこともあったが、自身はそれがあまり嬉しくなかった。なぜなら撃墜した数だけ……いやそれ以上の人の命を奪っての勲章なんか貰っても嬉しくなかったのだ。

 

「姉さん。だから俺は真冬姉やましろ姉さんには会えない。こんな人殺しの俺が姉さんたちにどの面で会えばいいのか・・・・」

 

「・・・・・」

 

苦しみながら、守はそう言う。姉たちに会いたい。でも会えない。血で汚れた自分が敬愛する姉のもとに堂々と会いに行けるはずがない。これは今まで人を殺してきた自分自身への罰だ。自分の犯した罪なのだ。守はそう思っているのだ

それを聞いた平賀たちは何も言えなかった。自分たちも海の平和を守るブルーマーメイドの仕事についているがまだ本格的な戦闘もましては人を殺したことなど一度もなかった。だが他人事ではない。現在使用している武器はテロリストたちを捕獲するためにスタンガンや麻酔弾を使用しているが、もし自分たちも守のいた世界のようにどこかの国と戦争になり実弾の武器を取っって相手を殺すことになったらと考えると自分たちはその引き金を躊躇なく引くことができるのか思うとゾッとした。

そして守は光のない目で

 

「・・・だから真霜姉さん。俺は真冬姉たちには会えない・・・・」

 

「じゃあ、マーちゃんは一人これからどうするの?」

 

真霜が心配そうに聞くと

 

「・・・わからない。ただ、これ以上迷惑はかけられないし。いっそのこと自決して・・・・」

 

このまま苦しく生き、姉さんたちに迷惑をかけるくらいなら自決した方がいいかもしれないそう思い言葉を漏らす。そう言った瞬間、乾いた音が鳴り響く

 

「「っ!?」」

 

その音に平賀は驚く。そして守の頬は赤く腫れ、そして真霜は手を挙げていた。そう先ほどの音は真霜が守の頬を平手打ちしたのだ。そして真霜は

 

「マーちゃん・・・・・命を粗末にしちゃダメよ!!」

 

「ね・・・姉さん・・・・・」

 

頬を押さえ驚く守に真霜は

 

「マーちゃん。そんな簡単に命を捨てちゃだめよ!軍人ならなおさら命の重みを知っているはずでしょ!?」

 

「でも、姉さん!俺は・・・・俺は!!もう昔の俺じゃないんだ!今の俺は殺して奪ってきた命を糧に生きている人間なんだ。そんな俺が・・・・」

 

涙を流しそう訴える守。そう言うと真霜は険しい顔で守に近づく。また平手打ちをするのかと思い平賀たちは止めに入ろうとすると

 

「マーちゃん・・・・」

 

そう言った瞬間。真霜は守を抱きしめた

 

「よく頑張ったねマーちゃん・・・・・苦しかったね。辛かったね・・・・・でも。大丈夫よマーちゃん。私がいるから・・・・真冬やましろや母さんもいるから・・・・・」

 

まるで子供をあやすかのように頭をなでながらそう優しく言う

 

「姉さん・・・でも俺と姉さんたちは本当の・・・」

 

「本当の姉弟じゃないわ・・・・・でも、それが何だっていうのよ。たとえ血がつながらなくってもあなたは私たちの可愛い弟なのよ・・・・だから・・だから死ぬなんて…殺人者なんて、そんな悲しいこと言わないで」

 

「真霜姉さん・・・・・」

 

真霜のその言葉に守は大粒の涙を流し

 

「う‥うわぁぁぁぁー!!」

 

真霜に抱き着き大声で泣いた。今まで心に無理やり押し込めていたつらい思いを全部吐き出すように涙を流しながら泣いた。

二人の様子を見ていた福内と平賀は涙ぐみながらその様子を見ていた。

そして守はしばらく泣いた後

 

「真霜姉さん。ごめん見苦しいところを見せちゃて……」

 

「いいのよ。マーちゃんの可愛い泣き顔を見れたからそれで良しにするわ」

 

ニコッと笑う真霜に守は

 

「ねえ、姉ちゃん。そのマーちゃんていうのは……」

 

「え?もしかして嫌だった?」

 

「いや、いやじゃないけど、なんか恥ずかしい……」

 

「いいじゃない。私は気に入っているんだから。気にしない。気にしない」

 

と、笑顔で言う真霜。その時、守は『ああ、これは絶対に言い方変えない顔だな』と悟った。

 

「ところでマーちゃん。真冬たちのことなんだけど、本当に会う気はないの?」

 

真霜がそう言うと守は頷き

 

「ああ……やっぱり心の整理ができない。もう少し自分の心に整理ができたら会おうと思っているんだ。だから真霜姉さん……」

 

「わかったわ。マーちゃん。二人には言わないでおくわ。でもなるべく早く会いに来てね。あの二人。マーちゃんがいなくなってすごく心配していたんだから。特にましろなんかはしばらくご飯も食べずにずっとあなたを探していたのよ」

 

「ましろ姉さんが・・・・・」

 

守はそのことを訊き、自分がどれだけこの家族に心配させてしまったことを悔やんだ

 

「ごめん。心配かけて……」

 

「マーちゃんのせいじゃないわ。意図的じゃなくていきなり元の世界に帰っちゃったんでしょ?」

 

「ああ。いきなり頭痛がして気を失って、目が覚めたら元の世界に戻っていたんだ」

 

「そう……」

 

真霜がそう言うと、看護師さんが入ってきて

 

「お話し中、申し訳ありませんが、そろそろ面会終了の時間です」

 

看護師さんがそう言い外を見るといつの間にか日が落ちて暗くなっていた

 

「ああ、すみません。宗谷一等監察官。そろそろ・・・」

 

「そうね。名残惜しいけど・・・・・・マー君。また来るからね」

 

「うん。ありがとう真霜姉さん」

 

守がそう言い真霜たちは部屋を出た。そして部屋で一人になった守は先ほど叩かれた頬をさすり

 

「まだ痛い……どうやら夢じゃないな……俺は……俺はまたあの世界に戻ってこれたんだな」

 

守は窓の外を見て横須賀の海を眺める。

 

「俺は再びあの世界に戻ってこれたんだな。第二の故郷であるこの世界に……ましろ姉さんのいる世界に……」

 

守はそう呟く。守は正直言ってましろに会いたかった。だが、やはり自分には会う勇気がなかったのだ。だが、いずれは合わなければいけない。その時、ましろはどう思うのだろうか・・・・・今となってはわからない。ただわかるのは自分は再びこの世界で生きなければいけないということだ

 

「さて・・・・・俺はこの後どうなるのかな・・・・・」

 

小さくそう呟くのであった

 

 

 



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イレギュラーの処遇

「……これね。マーちゃんの乗っていた航空機って……」

 

あれから翌日、横須賀の倉庫で真霜は硫黄島から引き揚げられた二式水戦を見てそう呟く。

 

「これが本当に飛ぶのかしら?」

 

真霜は二式水戦を見ながらそう言う。弟である守の言葉を疑うわけではないが、航空機のない世界に生まれた真霜にとってはどう見たってこの鉄の塊が空を飛ぶとは想像しにくい。そして真霜は二式水戦をぐるりぐるりと回りその機体をよく見る。すると、あることに気づく

 

「これって……弾痕?」

 

二式水戦の機体にはあっちこっちに弾丸によってあけられた穴が開いており戦闘の痛々しさを物語っていた。真霜はその穴の開いたところにそっと手を置く。そして昨日、守が見せたあの悲しい表情を思い出す

 

『姉さん……俺は人を殺したんだ……』

 

あんな悲しい顔をした弟の表情を始めてみた真霜は彼が戦争でこの機体に乗ってどんな思いをしながら戦ったのか想像もできなかった。その気持ちを分かってあげられない自分の無力さに少し苛立っていた

 

「(マーちゃん……)」

 

深刻そうな顔をすると

 

「あれ?来ていたんですか宗谷監察官?」

 

と、そこへつなぎ服を着たポニーテイルの女性がやって来た

 

「夕張整備長?」

 

真霜が彼女の名前を言う。彼女の名は夕張。ブルーマーメイドの技術者でありすきっぱーや飛行船などの整備を担当する整備長である。すると夕張は

 

「それにしてもこれはすごいわね。いろいろ見ていたけど、ねじ一本まで軽量化されてしかも骨組みまで穴をあけて軽量化されていたわ。それにこれに取り付けられていた武装もなかなかだわ特に20ミリ機関砲。通常のエリコン20ミリよりも軽いし、使われている20ミリ弾も徹甲弾だけじゃなくて榴弾みたいなものまであったわ」

 

夕張は二式水戦を興味津々で触り真霜にそう言う。

 

「それにこの真下にあるフロートのようなものに燃料が入っていてその燃料の管はあの黒いところの中にあるエンジンに繋いであったわ。なんか翼みたいなのがあるし、もしかしたらこれ空を飛んだりしてね。もしそうだったら飛行船を・・・・いいやヘリウムや水素を使った飛行する乗り物を凌ぐ世紀の大発明だわ。いったい誰が作ったんでしょうね?」

 

「そ、そうね・・・・」

 

流石に異世界の乗り物とは言えず真霜は苦笑いすると

 

「それで監察官。例の保護された子は今どうしているの?何かわかった?」

 

「マ・・・・・彼は今は横須賀の病院で入院中よ。しばらくすれば退院できるみたいよ」

 

「そうなんですか・・・・・ん?彼?保護された子って女の子じゃないんですか?」

 

「ええ、見た目は女の子みたいなんだけどちゃんとした男の子よ」

 

「そ、そうなんですか…写真を見る限り女の子だと思いましたよ」

 

「アハハハ……(まあ、マーちゃんて確かに女の子寄りの顔だから……)それでこれはどうなの?」

 

「銃弾で傷はついているものの。エンジンみたいなのは無傷みたいだし、計器や操縦席みたいなところはあっちこっち壊れたところもあるけど部品を取り換えれば、そうね・・・・だいたい一週間で直るわね」

 

「そう……じゃあ、修理はお願いね」

 

「ええ、任せて頂戴。未知の物を直す。これは気合が入るわね~」

 

ウキウキしながら言う夕張に真霜は

 

「それじゃあ私はそろそろ」

 

「あれ?この後ご予定でも?」

 

「これから例のこれと彼の処遇について海上安全整備局の各部署の局長や室長クラスの幹部を集めて会議をするのよ」

 

「あ~あの堅物連中たちとですか。大変ですね監察官も」

 

「ええ。正直言ってやりにくいわ」

 

と軽くため息をつき倉庫を後にした。そしてその後、真霜は本部の会議室で幹部たちと会議を開いたのだが、報告書を読んだ幹部たちは

 

『そんな意味不明なものにいちいち付き合ってられん』とか『どうせ水上スキッパーの出来損ないだろ?』『空を飛ぶ?ばかばかしい。妄想も大概にしたまえ』だとかそんなに二式水戦については興味を示さなかった。そして中には興味を示したものもいたが

『もし、それが本当だとしたら、その技術は我々にとって宝石が詰め込まれた宝箱を見つけたのと同じだ。ならその技術を我々のものにすればいい。ん?その機体の所有者のこと?そんな奴は知らん。死のうが生きようがどっちでもいい。もし邪魔な存在であれば口をつぐませればいい。入院中に体の具合が悪化して亡くなることも珍しくない』

 

と、興味を示さなかった者よりも悪質なことを言いニヤニヤと薄ら笑いを浮かべる男性幹部達に真霜は冷ややかな目で見ていた。そして先ほど二式水戦の操縦者を技術独占のため口を封じ暗殺しろと言った幹部に真霜は殺気を含んだ眼で見た

 

「(この下衆ども・・・・・マーちゃんになにかしたら絶対に許さない)」

 

殴りかかりそうな衝動を何とか抑える真霜。血はつながってはいないが実の弟のようにかわいがっている守の命を狙おうものなら真霜は彼を守るためなら射殺しても構わないと思っていた。そして真霜は

 

「お言葉ですが、今回の件案はブルーマーメイドの管轄であり、不明物と保護された人物の関しては私に全権があります。今回皆さんにお集まりいただいたのは報告と処遇についてだけです」

 

と、そう言うと一人の幹部。しかも今いる中でも最高位の人物が

 

「ならば、引き続き君が面倒見たまえ。宗谷一等監察官」

 

「本部長!何を言っておられるのですか!こんな小娘に!!」

 

納得のいかない幹部は声を上げると本部長は

 

「この件は確かにブルーマーメイドの管轄下で起きたものだ。ならばその最高責任者である宗谷一等監察官に任せるのが筋というものだ。我々がいたずらに土足で入り込むことではない。それにだ。その保護された少年の命を軽んじる輩もこの中にいるみたいだしな。そんな者たちに任せるより保護をした彼女に任せるべきだと私は思うのだが?」

 

と、先ほどの幹部をじろりと見る本部長に幹部たちは黙り込んでしまう。そして本部長は真霜を見て

 

「宗谷一等監察官。君の言い分はわかった。全責任を君が持つというのなら、この件、君に任せよう。それでいいかな?」

 

「はい。ありがとうございます山本本部長」

 

「よし。ならば話は決まりだ。この件はブルーマーメイド、及び宗谷一等監察官に任せることにする。本日の会議はこれまでとする」

 

そう言い、会議は終了となるのであった

 

 

 

 

「ふう・・・・・」

 

会議が終わり。一息つく真霜。何とか守の命だけは守ることはできたという安心感のものだった。すると急に着信が入り確認すると自身の妹であり、宗谷家の次女、宗谷真冬からであった。

 

「どうしたの?真冬」

 

『ああ、姉さん。なんでもつい最近、硫黄島で変なものを見つけたらしいな?』

 

「あなたどこでそれを?」

 

『私にもそれなりの情報筋があるんだよ』

 

真冬は真霜たちと同じブルーマーメイドであるため、どこからかその情報を得たのだと真霜は察した

 

「そう……でもそのことはあまり言いふらさない方が身のためよ真冬」

 

『それは重々承知しているよ。だからこうして姉ちゃんに訊いているんだよ。それにさ。保護された子っていうのも少し気になってな。なんかロケットペンダントを持っていたって聞いたからさ』

 

「それが何なの?」

 

『いや……その保護された子ってもしかしたら守じゃないかって思ってさ』

 

「あなた。守・・・・マーちゃんのこと覚えているの?」

 

『当たり前だろ?一時たりとも忘れたことなんて一度もないよ。なんだって弟なんだからさ。ずっと探しても見つからないしさ。それで今回その話を聞いてまさかと思ってさ』

 

「そう……それで真冬はその子がマーちゃんだったらどうするの?」

 

『それはもう決まっているだろ?6年間心配させた罰にたっぷりと根性を注入した後、思いっきり抱きしめてやるさ『何処に行っていたんだ心配したんだぞっ!』ってな。シロもきっとそう思うぜ』

 

「そう……あ、あのね真冬。実は……」

 

真霜はその保護された子が守だと言いたかったが、病院で守が自分のことを姉の真冬やましろに秘密にしてほしいという言葉を思い出す。

 

『ん?どうしたんだ姉さん?』

 

「え?ああ……ごめん真冬。そのことについてもノーコメントなのよ」

 

『そうか……それは残念だ。守じゃないかと少し期待していたんだけどな』

 

残念そうに言う真冬。守自身も本当は会いたいと思ている。ただ彼には少し時間が必要なのだ。だから真霜は彼の頼み通り、守のことは伏せておいた。

真冬との通信を終えた真霜はその場を後にし、守の入院する病院へと向かうのであった。そして真霜は先ほどの真冬とした会話を思い出し

 

「……ごめんなさい真冬。ましろ」

 

とポツリと呟くのであった。

 



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海鷲の入院生活

俺がこの世界に来てから三日が立った。今のところ俺は傷を治すため病院で入院生活を送っている。まあ、先生の話では退院も近いとのことだ。俺の見立てではせいぜい一週間ちょいくらいかな?

俺は今、この世界の歴史について書かれた本や雑誌なんかを読み漁っていた。この世界がどういう世界なのかは9年前に知ってるが、その時はまだ子供で詳しくは知らず改めてみるとこの世界は世界大戦はおろか、朝鮮戦争やベトナム、中東、湾岸やイラク戦争なんかは勃発しておらず。代わりに海賊らのテロ行為が起きているぐらいで、正直言って平和そのものだった。

 

「うむ・・・・ここまでとは予想外だったな……杉さんが訊いたらきっと驚くだろうな」

 

俺は本を読みながらポツリと呟く。因みに杉さんとは俺のかつての上司で空戦を教えてくれた杉田清美曹長のことだ。階級的には俺が上だったが、杉さんのほうが俺よりも一年以上の戦っっているので俺にとっては大先輩だ。俺が今あるのも杉さんのおかげだな。あの人、欧州でどうしているのだろうな・・・・・

そんな昔のことを思い出していると、ノックの音がした

 

「開いてますよ?」

 

俺がそう言うとドアが開き

 

「こんにちわ森君」

 

「こんにちわ」

 

そこへ福内さんと平賀さんが入ってきた。彼女たちはあれからちょくちょく時間を見つけては俺の見舞いに来てくれた。

 

「はい。これ差し入れ」

 

「いつもありがとうございます」

 

福内さんはフルーツの入ったかごをそばにある机に置く

 

「それで、どう?ケガの様子は?痛いところない?」

 

平賀さんが心配そうに聞く

 

「大丈夫ですよ。杖を使ってはいますが、普通に歩けますよ」

 

「そう良かった」

 

平賀さんは安心してそう言う。そして福内さんは俺のそばで積んである本を見て

 

「森君。歴史の勉強をしていたの?」

 

「はい。それと海の治安を守るブルーマーメイドやホワイトドルフィンがどんな活動をし、そして航海に関する法律や現在使われている信号等の通信関連なんかの参考書も見てました」

 

「勉強熱心ですね?」

 

「勉強は好きな方でしたから。特に読書も好きでしたし」

 

「そうなの。なら航海に関する事教えてあげましょうか?」

 

「え?いいんですか?」

 

「もちろんよ」

 

と、そう言い福内さんたちは参考書に書かれている海上での法律や旗信号などの専門用語を教えてくれた。そしてしばらくすると

 

「ちょっと休憩しましょうか」

 

「は。はい」

 

福内さんの言葉に俺は頷くと平賀さんが

 

「それにしてもすごいですね森君は。あれだけの資料をここまで理解し覚えるなんて」

 

「別に大したことはありませんよ。自然に頭に入っただけですから。それに・・・・」

 

「「それに?」」

 

俺の言葉に首をかしげる二人。そして俺は

 

「覚えなければ、死ぬような世界で生きてきましたので……」

 

「「あ……」」

 

そう、俺のいた世界では戦争があり、そして俺は戦闘機乗りのパイロットだった。空戦こそ最大の勉強ッと、誰かが言っていたのを覚えているただ、学校での普通の雑学とは違い学びそこなえば待つのは死のみ。わかりませんじゃ生き残れない。できませんじゃ死ぬ。そう言う世界で俺は必死に空戦技術を覚え生き残ろうとした

俺の言葉を察したのか二人は少し悲しい顔をしていた

 

「(覚えなければ死……そう言えば森君は戦争で兵隊として戦っていたって言っていたわね……でも)」

 

「(まだ中学生ぐらいな子が武器を持って戦場に出るなんて……いくら何でも悲しすぎます)」

 

二人は守が戦争で戦っていたというのを本人から聞いていたため。守の表情を見て少し悲しく思ったのだ。それに気づいた守は何かすぐに話題を変えないとと思ったとき

 

「はぁ~い、マーちゃん、元気?」

 

「真霜姉さん?」

 

そこへ真霜が見舞いに訪れた。その明るい雰囲気に先ほどまで暗かったのが消えた。そのことに三人はほっとすると守は苦笑いして

 

「姉さん。そのマーちゃんていうのもう決定なんだね?」

 

「いいじゃないこの呼び名好きなんだから。ん?あら?これって参考書?勉強していたんだ。えらいわね~マーちゃん」

 

真霜は守のベットの上に置いてある参考書や本を見てこの世界について勉強をしていることに感心し、真霜は守の頭をなでると守は顔を赤くし

 

「ちょっ!?よしてくれ真霜姉さん。子供扱いしないでくれ!!」

 

「えぇ~私より年下なんだし、それに弟なんだから、素直にお姉ちゃんに甘えて良いんだよ?あっ!何なら今夜一緒に寝る?」

 

「いや、病院じゃできないだろ!?て、そうじゃなくて人目もあるんだからさ。恥ずかしいって!」

 

「も~この子はいつの間にそんな口を利く子になって生意気な~」

 

「だから、撫でないでってば///!!」

 

そう言い真霜は再び、守の頭を撫でまわす。守も否定の声を出すがまんざら嫌でもなく抵抗しないで真霜に頭をなでられていた。それを見た福内と平賀は微笑ましく見ていた。

 

「そ、それで姉さん。何しに来たの?」

 

「あら?要件なしに来ちゃいけないの?ちょっと寂しいわね~」

 

「いや、別にそう言う意味じゃ。ちょっと気になってさ」

 

「わかっているわ。実わねマーちゃん。実はマーちゃんに会ってもらいたい人がいるのよ」

 

「俺に?……まさか」

 

「大丈夫よ。ましろたちじゃないわ。まだ会う心の準備できていないんでしょ?」

 

「ああ…‥姉さんには悪いけどまだ会えないよ。でも姉さんたちじゃないって言うことは誰なの?」

 

「それはねマーちゃんがよく知る人よ」

 

「え?」

 

守は首をかしげると、病室の扉が開くと、そこから一人の女性が守の病室に入って来た。福内と平賀は反射的にその女性に対して敬礼する。女性も二人に返礼し、福内と平賀は手を下ろし、女性を見た守も驚いて目を見開きベッドから起き上がろうとすると、

 

「あっ、そのままでいいわよ」

 

「いえ、自分は大丈夫です」

 

そう言いベッドに正座をする。そして守はその女性に頭を下げ

 

「……お久しぶりです。真雪さん」

 

「本当に……本当に守君なのね?真霜から聞いてびっくりしたけど。面影があるわね」

 

女性はにっこりと笑ってそう言う。そうその女性は真霜たちの母で9年前、守を保護し家族同然に接してくれた宗谷真雪であった

 

「話は真霜から聞いたわ。守君。まさかと思っていたけど本当に違った世界から来た子だったのね」

 

「え?お母さん。マーちゃんが異世界人だってこと知っていたの!?」

 

「っ!?」

 

「ええ。初めて守君と会ったとき彼の話を聞いてこっちの常識を知らないことを言っていた。それに守君が家で生活をしているとき、守君のことを調べたんだけど戸籍上に守君の存在は日本に存在していなかったわ。その時悟ったの守君は文字通り別世界から来た子だって」

 

その言葉に守は驚いた。既に彼女が自分の正体が異世界の住人だということを知っていたのだ。だが今にして思えば守は6年前に真雪に『もし帰る所がなかったら家の子になる?』と訊かれたことがあった。もしかしたらその時に自分が異世界人だということを知っていたのかもしれない

 

「そうだったの・・・でもなんで、あの時……マーちゃんがいきなり消えた時に言ってくれなかったの母さん?」

 

「いえなかったのよ。『異世界に帰った』って言ってもきっと信じなかったと思ったから」

 

「それはそうだけど・・・・・・・・・・」

 

まあ真雪さんの言うことももっともだろうと守は納得していた。そして真雪は

 

「守君。あなたのいない9年間。あなたに何があったのかは真霜から聞いたわ。いろいろ辛かったでしょうね?でも安心して頂戴。全部忘れろとは言わないわ。この世界にいる間、ゆっくり心の傷を癒してちょうだい」

 

「ありがとうございます。真雪さん」

 

守は真雪に深々と頭を下げて彼女に礼を言うと、真雪は

 

「それで守君。話は聞いているけど、本当に真冬やましろ……そして家に来る気はないの?」

 

「はい。心遣いとても嬉しいんですが。やはりまだ姉に会う心の準備ができていないのと家にお世話になれば自然とましろ姉さんたちに会っちゃうから……」

 

「あ~、それもそうね」

 

「でもそれだけじゃないでしょ守君?」

 

「はい。今の月を見れば受験シーズン。ましろ姉さんは受験勉強の真っ最中だ。その時に行方不明になった俺に会えば勉強どころじゃなくなる。姉さんの邪魔をしたくはない」

 

守は今が受験シーズンで姉と慕うましろが今、受験勉強をしていると聞き、今会えば勉強の邪魔になると思い合うことを断ったのだ。それを聞いた真雪は

 

「あなたは昔から姉想いな子なのね。わかったわ。でもたった一か月とはいえあなたは宗谷家の家族であり身内よ退院後、何もないところに放り出すわけにはいかないわ」

 

「じゃあどうするの母さん?」

 

「私の学校の寮の近くに使われていない部屋があるのよ。そこに一時的に住んでもらうわ」

 

「一時的?」

 

「ええ。守君がいつか家に帰ってきてもいいようによ。いつか……いつかは真冬やましろに会いに家に帰ってくれるわよね?」

 

「はい。もちろんです。あの家は俺にとってもう一つの故郷で、姉さんたちは大切な家族なんですから」

 

「そう。じゃあその時を楽しみしているわ守君」

 

と、微笑んでそう言う真雪。その後、面会終了時間となり、各自はそれぞれ帰路についた。帰りのタクシーの中で、真霜は

 

「どうだった母さん。久しぶりにマーちゃんに会えて」

 

「ええ。昔と変わらず元気そうで安心したわ……でも」

 

「でも?」

 

「昔と違って少し悲しそうな眼をしていたわ。きっと元の世界で起きた戦争が関係しているわね。たった15歳で戦場に出てあの子は何を思ったのだろう……今となってはわからないわ。なにせ異世界の出来事だから。願わくばあの子がこの世界で安らかに過ごしてくれることを願うしかないわね」

 

「母さん……」

 

「湿っぽい話をしちゃったわね。忘れて頂戴。真霜。早くあの子が宗谷家()に帰ってくれるといいわね」

 

「ええ。そうね」

 

と、二人はいつか必ず守るが帰ってくることを願いそしてその日が来るのを楽しみにしながら家へと帰るのだった。

 



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新たな生活

退院が近くなったとき、俺のところに真霜姉さんがやって来た。やって来た目的はというと・・・・・・

 

「え?私服?」

 

「そうよ。マーちゃん」

 

姉さんがやって来た理由は。退院後、住む寮に行く前に私服を買いに行くということであった

 

「マーちゃん。突然この世界に来て服持っていないでしょ?着ていた服も穴が開いて血がついているしボロボロになっているし。直すのに時間がかかるし、それにそれ一着だけだといろいろと不便でしょ?」

 

「それもそうだな……」

 

確かに姉さんの言う通り、俺の飛行服はメッサーシュミットの銃撃で穴だらけになっていると思うし、もともと持っていた予備の服は元の世界の兵舎に置いてあるし、ここにいる今俺には替えの服がない

 

「でも、姉さん。俺、金あまり持っていないよ?」

 

一応、この世界の通貨は俺のいた世界のと同じで使用できるのは幸いだ。しかし。今俺の財布にあるのはほんの僅かだ。カードも持っていたが異世界であるこの世界では使えないし、銀行に預けた給金を下すこともできない。俺が困っていると

 

「大丈夫よマーちゃん。私が買ってあげるから」

 

「でもな。姉さんにこれ以上世話かけるのも……」

 

「も~そんな遠慮しない!姉弟なんだから助け合わないと!」

 

「で、でも・・・・・・」

 

「つべこべ言わない!返事は、はいっよ!!」

 

「は、はい!!?」

 

真霜姉さんの威圧で俺は不動の姿勢になり、そう答える。真霜姉さんのこういう姿を見ると杉さんや源田中佐を思い出してしまう。ああ、これはあれだ言い出したら絶対に聞かないな。まあ知っていたけど

 

「とにかく。マーちゃんは退院後、もう軍人じゃなくて普通の男の娘として生活するんだから。服もちゃんとしないと」

 

「姉さん。今、男の子の字を間違っていなかった?」

 

「気のせいよ。気のせい!男ならそんなこと気にしないの」

 

真霜姉さんがにっこりと笑うと俺は軽くため息をつきロフストランドクラッチ杖を取る

 

「あら?マーちゃん。歩くの?」

 

「ああ、リハビリだよ。たまには歩いて海を見たいからね」

 

「そう、なら手伝うわ」

 

「大丈夫だよ姉さん。前に比べて回復しているしね。一人で大丈夫だよ。ただ、この病院から海がよく見える場所がどこにあるか知らなくてね。案内してくれる?」

 

「ええ。それならお安い御用よ」

 

そう言い俺は杖を突き、姉さんとともに海の良く見える場所へと歩くのであった。

 

そしてしばらく歩き海がよく見える屋上へと着く。俺は海が大好きだ。特に高いところから見る海原は最高にいい。俺が飛行乗りになったのも、ただ単に鳥のように自由に空を飛びたかっただけ。俺は早く空を飛びたかった。その時に目に入ったのが航空兵募集のポスターだ。それで俺は親の反対を押し切って海軍航空隊に志願した。普通の航空会社に入る道だってあったがそれだと高校卒業まで待たなければいけない。俺はそこまで待てられずに軍に志願した。空を飛びたいというその願いは叶った。しかしそれと代償に多くの仲間を失った。そして俺自身が奪ってきた命も・・・・・

 

「マーちゃん。どうしたの?また悲しい顔をして?」

 

すると真霜姉さんが心配そうに顔をのぞかせる

 

「え?ああ。大丈夫だよ姉さん。ところで姉さん。俺の処遇と俺の愛機はどうなるんだ?」

 

「マーちゃんは海上安全整備局と日本政府の指揮のもと私たちブルーマーメイドが保護することになったわ。マーちゃんの乗っていた飛行機も私たちブルーマーメイドの管轄下に置かれるわ。でも管理下に置くだけで使う事は無い筈よ。私たち飛行機について何も知らないから」 

 

「でしょうね。それで姉さん。俺の持ち物は?」

 

「ちゃんと大事に預かっているわ」

 

「そうか。よかった」

 

「何か大切なものでもあるの?」

 

「ああ、俺の上司から餞別としてもらった刀があるんだよ。俺にとって大切なものだよ」

 

「そうなの……」

 

そう言い、俺と真霜姉さんはしばらく海を眺めている。すると真霜が少し笑う

 

「どうしたの姉さん?」

 

「いえ、なんか。昔のことを思い出しちゃったわ。覚えている?諏訪神社で母さんやましろたちと一緒にこうしてよく海を眺めたこと」

 

「うん。よく覚えているよ」

 

「その時ましろが被っていた帽子が風で飛ばされたときマーちゃんジャンプしてその帽子を取って危うく崖から落ちそうになったのよ?」

 

「あはは……あの時はましろ姉ちゃんに怒られたっけな」

 

真霜姉さんの言葉に俺は笑ってそう言う。確かあれは桜が咲いていたころのことだったけ、宗谷家と俺で諏訪神社のほうへ行った時のことだ。真雪さんがましろ姉さんにブルーマーメイドの帽子をかぶせ、ましろ姉さんが嬉しそうにしていた時、突如、突風が吹きましろ姉さんの被っていた帽子が吹き飛ばされ、俺がそれをジャンプしてキャッチしたのだがその先は崖で危うく真っ逆さまに落ちるところだったが間一髪、真冬姉さんたちが俺の足を掴み、助かった。その後ましろ姉さんに

 

『帽子が飛ばされるより、マー君が怪我した方が一番いやだ!』

 

と、めちゃくちゃ怒られたのを覚えている。あの時はましろ姉さんに悪いことをしたって今でも思っている。そんな思い出話をした後、俺と真霜姉さんは病室に戻ったのだが……

 

「……姉さん。その手に持っているメジャーは何なの?それになんで部屋に鍵を?」

 

部屋に戻るや否や真霜姉さんは病室に鍵をかけ、なぜかメジャーを持ち怖いくらいの笑みをしていた

 

「何って、決まっているじゃないの。服を買う前にマーちゃんのサイズ測らないとマーちゃんに会う服のサイズわからないでしょ?」

 

「ふ、服のサイズなら俺が知っているから、あとで紙に書いて……」

 

「だ~め。私は自分の目でマーちゃんの体をしば・・・・いいえ測りたいのよ。それにマーちゃんがどのくらい成長したか見たいしね?」

 

「今、縛るって言いかけなかった姉さん!?」

 

「気のせいよ。あなたの気のせい。さぁ!覚悟なさい!お姉ちゃんが隅の隅までマーちゃんの体を測ってあげるから!!」

 

「ギ、ギヤアァァーーーーーーーーーー!!!!」

 

その後、俺は真霜姉さんにセクハラまがいに体中をあっちこっちを触られた。まあ貞操だけは守ることだけはできたが、なんか俺が所属していた452航空隊でかわいい子を見たら女装させないと気が済まない、山中さわ子中佐に自作のコスプレを着せられて以来の辱めを受けた気分だ。今思えば真霜姉さんと山中中佐って似た者同士だと思う。そう言えば、俺と同い年であり杉さんの上司でもある疾風中尉も同じ悩みを持っていたな。たまに会ってそのことについてお互いに相談したっけ……

 

「終わったわよ。マーちゃん」

 

「はあぁ~……」

 

姉さんの言葉に俺は魂の抜けたような表情をする。

 

「(それにしてもマーちゃんって見た目は女の子だけど、やっぱり男の子ね~。顔を赤くしちゃって可愛いわ~」

 

少し涙目で顔を赤くする俺を見て姉さんは何を思っているのか笑っていた。正直言って怖い。その後、姉さんは

 

「じゃあ、マーちゃん。また来るからね。服の件、楽しみにしてね」

 

「言っておくけど、女物の服はダメだからね」

 

「……チッ」

 

「なぜ舌打ち!?」

 

舌打ちをする姉さんに俺は突っ込む。もしかしてほんとに女性ものの服を買うつもりだったのか?そんなことを不安に思いながら姉さんは帰っていった

 

 

そして数日後、退院の日。姉さんがやってきて俺に着替えの服を渡す

 

「……」

 

俺は紙袋に入れられた服を見る。大丈夫だろうか?女の子の服じゃないよな?俺が不安に思うと真霜姉さんが

 

「どうしたのマーちゃん?」

 

「え?いいや。何でもないよ」

 

ここは姉さんを信じよう。そう思い俺は紙袋を開けると中に入っていた服は国防色の長ズボンに白いYシャツだった。

 

「(よかった。女物じゃなかった)」

 

それを見た俺はほっと安心するように息をつくと、真霜姉さんは俺の思考を呼んだのか

 

「大丈夫よ。弟の嫌がることはしないわ。ちょっと惜しいと思ったけど」

 

と、にっこりと笑ってそう言う。惜しいってなんだよ……それはともかく俺は姉さんの買ってくれた服を着た。そして病院の人たちにお礼を言うと俺と姉さんはタクシーに乗って、俺が住む寮へと向かうはずだったのだが、ついた場所はなぜか大きな屋敷……そう、かつて俺が世話になった宗谷家の屋敷であった。そしてタクシーは建物の陰になる場所へ止まる

 

「姉さん……これは」

 

「ちょっと寄り道よ。寮に行く前にあなたに見せたい者があったから」

 

「見せたい者?」

 

「ええ。そろそろよ」

 

と、真霜姉さんがそう言うと家の門の前からセーラー服を着た少女がやってくる。その少女はポニーテイルの少女で俺はその少女に見覚えがあった

 

「(ましろ姉さん……)」

 

そう、間違いない。大きくなっているがましろ姉さんだ。

 

「寮に行く前にあなたにどうしても見せたかったのよ。ましろが元気にしているって、でもましろはいまだにマーちゃんのことを心配しているわ」

 

「……」

 

「マーちゃん。今すぐとは言わないわ。でもできるだけ早くあの子たちに会いに来てね」

 

真霜姉さんの言葉に俺は頷く。そしてタクシーはそのまま走り出し、再びついた場所は海がよく見える学校と思をしき場所の隣にあるアパートであった。タクシーを降り寮の中に入り二階へ上がりとある部屋に入った。その部屋は6畳間でガス代や洗面台のある部屋だった

 

「ここはあまり使われなくなった横須賀女子海洋学校の寮のそばにある職員や警備員の宿泊寮よ。職員や警備員については母さんがすでに話をつけているわ。食事は一階にある食堂に行けば大丈夫よ。それ以外で何か困ったことがあったら連絡して」

 

「ありがとう姉さん」

 

俺は姉さんに礼を言うと姉さんは去っていった。そして残された俺は

 

「さて……新たな生活の始まりだな。まずは掃除に荷物の整理かな?」

 

そう言い俺は新しく住む部屋の掃除や荷物の整理をし始めるのだった。再び異世界に来た俺、果たしてこの先どういう人生を歩むのかはわからない。だが、この時の俺も、そしてこの世界に住む人たちもその後、とんでもない出来事が起きるなんてことはまだ知らなかった……

 



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海狼、海鷲と再会する

この世界にきて新たな生活が始まって、早一週間近くが過ぎた。この生活にも9年前と同じ慣れていき。何不自由なく暮らしている。だが、働かざるもの食うべからず。衣食住は真霜姉さんらブルーマーメイドに保証されてはいるがただじっと部屋でゴロゴロとするのは俺は嫌で、俺は姉さんに頼み、今はこの横須賀女子海洋学校の警備員としてバイト扱いで働いている。まあ、普通に学生として生きることもあった。戦争のせいで小卒で終わった学生人生。一度は憧れはしたんだが、軍人として生きた今、今更そう言うのには戻れずに警備員という道を選んだ。まあほかに理由があるとすれば学費云々でこれ以上姉さんに迷惑をかけたくはなかったっていうのが本音なんだけど。

かといって勉強は怠っておらず、夜には中高大の参考書を買って勉強をしている。わからないところがある場合はたまに部屋を訪問してくれる海洋学校の先生に教えてもらっている。

 

「ふう……やっぱり海を眺めてのお茶はうまいな……」

 

現在俺は自室でお茶を飲みながら海を眺めていた。今日は警備員の仕事もなく、参考書も高校までは覚えた。というより、さっきのセリフなんか年寄り臭かったな

 

「はぁ……少し散歩でもしようかな?」

 

会おういい俺は立ち上がると部屋を出て階段を降り学校へ出ようとすると

 

「あら?森君。お出かけ?」

 

「あ、どうも古庄先生。はい。少し周辺を散歩しようと思いまして」

 

そこへこの学校の教師であり元ブルーマーメイドで暇な時間にはよく俺の勉強を見てくれる古庄薫さんが声をかける。声をかけられた俺は古庄さんに海軍式敬礼をすると古庄さんも返礼する

 

「それで森君。勉強のほうは捗っっているの?」

 

「はい。古庄先生のおかげで今は高3までの内容を理解しました」

 

「そ、そうなの……あの短期間ですごいわね」

 

俺の言葉に古庄さんは苦笑する。まあ確かにあの短期間で覚えられる時点でおかしいと思うしな。俺自身も少し驚いている

 

「それで今日は気分転換にこの街を散歩しようと思いまして」

 

「そうなの。楽しんできてくださいね」

 

「はい。ありがとうございます」

 

そう言い俺は敬礼をし、古庄さんと別れると俺は学園を出て横須賀の町を歩いた。そして俺がまず最初に思ったことは

 

「横須賀は何度も言ったことがあるけどやっぱりこの世界の横須賀は少し違うな……」

 

俺は小声でそう呟く、俺は前の世界ではラバウルに配属される前は霞ケ浦航空学校卒業後、横須賀海軍航空隊で数か月の訓練をしたことがあった。そして訓練終了後ではよく仲間と一緒に横須賀の町を歩いたものだ。

 

「(やはり、日露戦争後、日本が水没しているから狭く感じるのかな?それにあっちこっち人工島も見えるし、海洋都市とはよく言ったものだ)」

 

俺はそう思いながら街中を歩く。歴史や日本水没ということを除けば自分の故郷の日本となんも変わりはない。しかし、日露戦争後なにも戦争が起きていないっというのは本当に奇跡に思えた。もし俺の世界でも第三次大戦が起きなければ今頃は普通の学生として高校受験に勤しんでいただろうな……そんなことを考えながら俺はとある神社に来ていた

 

「諏訪神社か……確か合格祈願の神社だっけ。そう言えばましろ姉さん今年受験だっけな。ちょうどいいか」

 

そう言い俺は石段を上がり、神社の前に立つ。どうやらこの世界の諏訪神社も同じようだ。そう思い俺は鈴を鳴らし。お賽銭に5円玉を投げて手を叩きお辞儀する

 

「(どうか、ましろ姉さんが志望した学校に合格できますように……)」

 

俺はましろ姉さんが無事に受験に合格できるように諏訪神社の神様に祈った。今はましろ姉さんに会えない俺にできることと言えばこれしかなかった。俺は神社に祈った後、その場を後にする前にもう一度神社に礼をし、その場を去った。

 

「さて……次はどこに行こうか……そうだ。せっかく横須賀にいるんだから三笠公園で戦艦三笠でも見に行くか」

 

俺は次に行く場所を決め、戦艦三笠がいる三笠公園へと向かおうとしたとき、ポケットに入れてあるスマホから着信音が鳴る

 

「ん?」

 

俺はポケットからスマホを出し手相手を見るとそれは真霜姉さんからだった。

 

「もしもし、姉さん?どうしたの?」

 

『ああ、出たわね。マーちゃん。今日は暇?』

 

「え?ああ。暇だよ」

 

『そう、それならちょうどいいわ。マーちゃんの乗っていた二式水戦?だったけ?それの修理が終わったみたいだから。来てくれる?』

 

「え!?本当か姉さん!」

 

『ええ、場所はブルーマーメイドの倉庫にあるから、場所は今からメールで送るわ』

 

「わかった。すぐに行くよ」

 

俺はそう言いうと、すぐに姉さんからメールが来てメールを見るとそこには先ほど話していた二式水戦のある倉庫が記されている地図が表示される

 

「そこか……三笠公園の近くだな。よし!」

 

そう言うと俺はスマホをポケットに入れ、目的地である倉庫へと向かった。そして目的地に着いたのはよかったのだが……

 

「ここはブルーマーメイド以外立ち入り禁止よ。子供が入っていい場所じゃないわ」

 

「いやですから……」

 

案の定、そこはブルーマーメイドの施設なので何も知らないブルーマーメイドの隊員の人に入ることを止められてしまう。真霜姉さんの関係者だといっても全く信用してもらえずに俺はどうしたものかと困っていると

 

「あら?森君。来ていたの?」

 

「あ、福内さん。それに平賀さんも」

 

そこへ施設から福内さんたちがやってくる。するとブルーマーメイドの隊員は

 

「福内三等監察官。この子とお知り合いなのですか?」

 

「ええ。あの倉庫に置いてある例の物の持ち主よ。今回はそれを見に来てもらったのよ。通してあげて」

 

「えっ!?こ、この子が!?し、失礼しました!」

 

と、隊員は慌てて俺を中に通した。そして平賀さんは

 

「森君。待っていたわ。宗谷一等監察官も中で待っているから」

 

そう言うと俺は頷き二人と一緒に倉庫へと向かう。そして倉庫につき中へ入ると倉庫の中央に一機の水上戦闘機が置かれていた

 

「二式水戦……」

 

俺は二式水戦に近づく。明灰緑色のボディーに零戦22型と同じ栄21エンジンを搭載した機体。そして何より尾翼に描かれている波を背にした青い狼のマーク。間違いない俺の乗っていた二式水戦だ。俺は懐かしそうにその機体を触ると

 

「あら、マーちゃん。もう来たの」

 

そこへ真霜姉さんとオレンジ色のつなぎ服をしたポニーテイルの女性がやって来た

 

「ねえ、真霜。その子が例のこれの持ち主?」

 

「ええ、そうよ夕張」

 

姉さんが夕張と呼んだ女性にそう言うと夕張と呼ばれた女性は俺にニコッと笑い

 

「初めましてかな?私は夕張。ここブルーマーメイド横須賀基地で飛行船やスキッパーなどの技術班整備長をしているものよ」

 

「あ、えっと……日本国海軍少尉の森守です初めまして夕張整備長」

 

俺はとっさに敬礼すると夕張さんはフフッと笑い

 

「そんなに固くしなくていいわよ。真霜から話は聞いてはいたけれど。異世界人の軍人である上に真霜さんの弟さんだなんて今でも信じられないわね」

 

「でも本当よ夕張」

 

「わかっているわ。あなたが嘘を吐く人間じゃないことは高校の時から知っているからね。それで森君だったわね。確かに言われてみれば君の目、とても強い意志が感じられるわね」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「そう言うものよ。官としか言いようがないけど。私にはわかるわ。それで話を変えるけど。この二式水戦……だったけ?これの詳しい情報が欲しいのよ。いや、真霜からこれが空を飛ぶ乗り物だってことは聞いているんだけどね。私は君の言葉でこれの情報が知りたいのよ。教えてくれる?」

 

「え?ええ……それは構いませんよ」

 

俺がコホント咳払いすると真霜姉さんや夕張さん。そして平賀さんや福内さんは興味津々な顔で見ていた

 

「こいつの名前はスバル社製。A6M2-N型水上戦闘機。別名、二式水上戦闘機と言って旧海軍が零式艦上戦闘機を水上機に改造した戦闘機で1942年(昭和17年)7月6日に正式採用されました。武装は機首に12・7ミリ機銃2丁と翼に20ミリ機関砲が二門装備されています。機体は本来11型をベースにしていますがこいつは派生型の22型がベースの水戦で、最高時速はエンジンを改良していますから560キロは出て、航続距離はベースとなった零式戦の3,000キロよりは劣りますが1,150キロ飛べます」

 

と、そう言うと皆はポカーンとした表情をする

 

「速度が560キロって速すぎじゃない、それに1,000キロも飛べるの?」

 

福内さんが皆の言葉を代弁するかのように驚いてそう言うと皆はうんうんと頷く。すると夕張さんが手を挙げて

 

「はい!森君。ちょっと質問いいかしら?」

 

「なんでしょう?」

 

「その零式艦上戦闘機ってどんなの?」

 

「零式戦はこの二式水戦に足をつけたような飛行機です。これがその写真です」

 

そう言い俺はスマホからラバウル時代で俺が乗っていた零式戦22型の写真を見せる

 

「それが零戦?」

 

「はい。これは派生型の一つの22型です」

 

「派生型……マーちゃん。その零戦や二式水戦以外にも飛行機はあるの?」

 

「はい。軍用機で絞ると魚雷を積んだ攻撃機、爆弾を搭載した爆撃機、速度を活かして敵視察をする偵察機なんかがあります。特に爆撃機は小型なやつもあれば大きい爆弾をたくさん搭載して敵の町や工場を攻撃する大型爆撃機などがあります。確か……」

 

そう言い俺はスマホから第二次大戦で活躍した戦闘機や爆撃機。そして現在の戦闘機などの画像を保存したファイルを姉さんたちに見せると姉さんたちは驚いた表情をしていた。飛行機だけでもこんなにあるなんて思いもしなかったのだろう。すると姉さんは

 

「……で、マーちゃん。この航空機の戦果はどうなの?」

 

「航空機が一番活躍した第二次世界大戦の話をすると、まず1941年12月8日の真珠湾攻撃で旧海軍の攻撃部隊がアメリカ太平洋艦隊の戦艦を攻撃し、戦艦4隻を沈めています。そして同年の12月10日のマレー沖海戦ではイギリスの最新鋭戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルスが魚雷や爆弾を抱いた一式陸上攻撃機や九六式陸上攻撃機という大型攻撃機の攻撃で撃沈されてその海戦以降、戦艦の時代が終わり航空機の時代が始まり戦艦や軍艦は航空機の援護なしの任務では自殺行為だという常識になりました。そしてあの戦艦大和も武蔵も最期は米艦載機による空襲で撃沈されています」

 

「そんな……戦艦が撃沈。しかも大和や武蔵も……」

 

「まさか、そんな……」

 

姉さんたちは俺の言葉に驚いていた。まあそれはそうだろう要塞みたいな戦艦が小さな航空機で撃沈されるなんて誰もが思いもしないだろう。だがそれは事実だ。俺は第二次大戦での記録を姉さんに見せると姉さんも信じるしかなかった

 

「なるほど……話に聞いていたけどマーちゃんの世界ってかなり変わっているのね」

 

真霜姉さんが唖然としていると平賀さんが

 

「あれ?森君。森君は何年にこの世界に来たの?」

 

「え?20xx年だけど?」

 

「この資料を見るからにはジェット機?でしたっけ?なぜジェット機のあるのになぜ森君がいた世界の時代には第二次大戦の兵器を使っていたのですか?」

 

「「「あっ・・・・」」」」

 

平賀の言葉に姉さんはあっとした顔をし俺を見る。いい質問だよ平賀さん。

 

「あ~え~と……。第三次大戦のころに変な交戦規定ができたんだよ。それが第二次世界大戦で使用もしくは試作に着手したものを使用するというのがあって、第三次大戦では使用武器は第二次大戦のものを使用しているんだよ。まあスマホや服は規定外だから問題なかったが」

 

「なんでそんな条約で来たの?」

 

「それは俺が訊きたいくらいだよ。まあ上の事情ってやつだろな」

 

「「あ~」」

 

俺の言葉に姉さんたちは納得した表情をする。

 

「それで俺の二式水戦が直ったって?」

 

「ええ。一応は直ったけど。まだ調整するところがあるからな。飛ばすのはもうちょっと待ってくれる?」

 

「で、本音は?」

 

「もう少し、この未知の可能性である飛行機を隅から隅まで調べたい!」

 

「ゆ、夕張整備長。そう無理を言っちゃ……」

 

「いいですよ」

 

「え!?いいのマーちゃん!?」

 

「ええ、こいつを壊さなければ問題ないですよ。後、勝手に魔改造したりしなければいいですよ。調べるときは慎重にそして優しくお願いします。こいつは俺の大切な相棒なんで」

 

「だ、そうよ夕張。もし壊したりしたら……分かっているわよね?」

 

「わ、わかったわ。善処するわ」

 

姉さんの怖いくらいの笑みに夕張さんは頷き、こうして引き続き二式水戦は夕張さんらブルーマーメイドに預けることになった

 



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あゝ弟よ、彼方は何処にいるのか

今回は少し短めですが、ましろ視点です。


「ましろお姉ちゃん!早く!戦艦三笠見に行こう!」

 

「ちょっと待ってよ。マー君。そんなに走ったら危ないよ!」

 

これは……子供ころの夢なのか?横須賀の三笠公園で二人の少年少女が戦艦三笠に向かって走っているのが見える。少女は紛れもない幼いころの私だ。そしてその先を走る少年は……

 

「(守……)」

 

たった一か月の間だったが、私にとって弟のような存在であった守だった。そして幼き頃の私と守は三笠の展望台に行き、海を眺めていると

 

「あっ!マー君、見て大和だよ!!」

 

「ほんとだ!すごい!!

 

幼いころの私と守ははしゃいで横須賀の港に停泊する大和を見て目を輝かせてみていた

 

「すごいな~あの戦艦大和を撮影用の模型じゃなくて本物をこの目で見られるなんて。大和って太平洋戦争で沖縄に向かう途中で沈んだんだよな~」

 

「マー君。何を言っているの?太平洋戦争て?」

 

「え?ごめん。何でもない。何でもないよ姉ちゃん」

 

この時、私は守の言った意味がよくわからなかった。守は時々変な事を言う子であった。そして守は空を見上げていた

 

「マー君。なんで空を見ているの?」

 

「やっぱ。飛行機飛んでいないな……」

 

「え?なんて言ったの?」

 

「ああ、ごめん独り言。独り言」

 

「変なマー君?でも大和はかっこいいね~私もお母さんみたいにブルーマーメイドに入って艦長になりたいよ」

 

「なれるよ。姉ちゃんならきっと」

 

「ほんと、マー君?」

 

「うん。姉ちゃんなら絶対いい艦長さんになるよ。しかも戦艦のね」

 

「ありがとうマー君。じゃあ私が艦長になったらマー君を私が乗る艦に乗せてあげる!」

 

「アハハ!ありがとう姉ちゃん。じゃ僕は飛行機のパイロットになるよ」

 

「飛行機?何それ?」

 

「飛行機って、飛行船や気球よりも早い乗り物だよ」

 

「そんなの聞いたことないよマー君?」

 

「ほんとだよ。本当に飛行機は風を切り裂くように速い空飛ぶ乗り物なんだよ」

 

「へ~そうなんだ~。じゃあ、マー君がその飛行機のパイロットっていうのになったら一番初めに?私を乗せてくれる?」

 

「うん。絶対に姉ちゃんを飛行機に乗せるよ!そして見せてあげる空の世界を」

 

「じゃあ、約束ねマー君」

 

そう言い指切りをする私と守はその後、夕方になるまで一緒に大和を見ていたのだった。そして数日後……

 

「嘘だもん!!」

 

「ましろ。寂しいかもしれないけどマー君は家族のいる家に帰ったのよ」

 

あれは確かブルーマーメイドフェスタが終わったすぐ後だったか……突然、守の姿が消え。私と姉さんたちが探しに行ったあとしばらくしてお母さんが『守は家族のもとに帰った』と言われた時のことだ

 

「ましろ……」

 

「だって、マー君は私と約束したもん!ずっと一緒にいるって!飛行機に乗せてくれるって!だからきっとまだどこかにいるもん!きっとどこかで迷子になっているんだよ!私探しに行ってくる!」

 

「あ、ちょっと。ましろ!?」

 

私は母の制止を振り切って家を飛び出し、守といった思い出の場所やら街やら走り回った

 

「マー君!!マー君!!何処に行ったのーー!!マー君!!返事してよー!!」

 

私は泣きながら町中大声をあげて守を探し回った。声が嗄れても疲れて足が動かなくなりそうになっても私は大切な弟を探し続けた。だが、いくら叫んでもいくら探し回っても守は返事もしない。そしてその姿を見つけることはできなかった

 

「ま……マー君!!!!」

 

それでも私は諦めずに泣きながら最愛の弟の名を呼ぶのであった

 

 

 

 

「守!!」

 

私は飛び上がってあたりを見渡すとそこは自分の部屋であった。そしてよく見れば私は椅子に座って目の前には入試の参考書やノートがあった。

 

「ああ……そうだった。勉強中に私は寝ていたんだな……」

 

私はそう呟き、カレンダーを見る。横須賀海洋女子学校の入試まであと数日。ここで頑張らなければ、今までの努力が水の泡となる。それは嫌だった。絶対に合格してブルーマーメイドになる。そう約束したんだから……私はちらっと机に置いてある写真立てを見る。そこには戦艦三笠を背に守と一緒に撮った写真であった。

 

「守……」

 

三姉妹の中で一番の末っ子であった私に初めてできた弟。どんな時でも私を守ってくれた人、

 

「守……お前は今どこにいるんだ?」

 

悲しさと寂しさの入り混じった表情をし私はそう呟く。あれから6年間、ずっと探しているが守は見つからない。本当にどこに行ってしまったのか?それは私にもわからなかった。もし守がここにいてくれたらきっと励ましてくれるだろうか。そんな在りもしないことを考えている私。

 

「ええい!何を弱気になっているんだ私は!」

 

そう言い、私は気合を入れるため両頬をたたき受験勉強に集中する

 

「頑張らないと……もし合格できなければ守に合わせる顔がない」

 

ブルーマーメイドになれば少なからず、守を見つけるきっかけが見つかるかもしれない。それ以前に幼いころ守と交わしたあの約束。そう立派な艦長になるためにも私は頑張らないといけない。そう自分に言い聞かせて私は受験勉強に集中するのであった。

 

 

 

一方、とある寮では一人の少女がとある夢を見ていた

 

『よし!杉田一番!杉田一番!ナチスの敵戦闘機隊を発見!!森!西沢ら301飛行隊は私に続け!!』

 

「了解!森二番!これより戦闘に入る!!」

 

彼女の目には大空の中、見たこともないような飛行物体が激しい空中戦をしている夢を見た。その飛行物体とは彼女の世界にはない戦闘機、零戦とBf109戦闘機であった。

激しい戦いの中、一機、また一機と炎と化して墜ちてゆく。その光景は地獄絵図であった。そんななか

 

「森二番!被弾した!!これより脱出する!!」

 

そう言い、その物体の窓らしきところが開けられそこから人が飛び降りた。そしてその人の背負っていたリュックからパラシュートが飛び出し、その人物はふわふわと浮いていた。すると一機の黒い飛行隊がその人に迫ってきた

 

「くそっ!来るなら来いナチ野郎!!」

 

そう言いその少年は拳銃をその飛行物体に向け発砲するのであった

 

「っ!?」

 

その瞬間、少女は目が覚めた

 

「(なに、今の夢・・・・?)」

 

少女は先ほどまで見た夢を思い出す。どこかの国と国との戦争だろうか?だがあの空を飛んでいたものはいったい何だったのだろうか?

 

「受験を前に変な夢を見ちゃったな……」

 

と、少女、岬明乃はそう呟くのであった

 

 

 



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海狼の休日

一応、守が来た日にちは原作開始前。つまり受験が始まる3か月前となります


「はぁ~何よこれ……」

 

海上安全整備局で真霜は机に座ってため息をついていた。理由は数日前に保護した守のことだった。守を保護した後、ブルーマーメイドの隊員たちは守の持ち物を検査していた。無論、守の持っていた二式水戦もだそれ以外の持ち物はアメリカ製のM1911A1拳銃にそして小太刀くらいの長さの刀。そしてもう一つは守の持っていた手帳。そこには守の経歴や階級などが書かれていた。名前と出身地そして年齢などは真霜がよく知っているため問題はなかったが真霜が見たのはその下に書かれている経歴だった

 

階級:准尉→少尉

 

20xx年。茨城県霞ケ浦航空飛行学校に入校し中の上あたりの成績で卒業、横須賀海軍航空隊に准尉として着任。

             ↓

 

20xx年、ニューブリテン島ラバウル航空隊海軍基地に着任。301部隊に勤務を命ずる

             ↓

 

20xx年、第五航空戦隊、空母「瑞鶴」に2カ月間勤務

             ↓

 

20xx年。少尉に昇進し、ソロモン諸島、第452航空隊、201部隊第3水上戦闘機小隊隊長に着任す

現在の撃墜数。共同撃墜を含め72機。

 

と、書かれていた。それを見た真霜は

 

「マーちゃんが軍人だって言うことは本人から聞いていたけど、あの歳で小隊長なんて、マーちゃんの世界って本当にどうなっているのよ。下手をしたら私の役職よりもハードなことしているじゃないの」

 

ため息をついてそう言う。たった数年間で各地を転々として戦うなんて、いろんな意味ですごい。しかもまだ小学校を卒業したばかりの少年がこんだけの戦いを経験しているなんてとても信じられなかった。

 

「そう言えば。マーちゃん。今頃学校の警備員の仕事。がんばっているのかしら?古庄先輩からはまじめに頑張っているって聞いているけど、大丈夫かな~」

 

と、真霜は現在、横須賀女子海洋学校で警備員の仕事をしている守のことを心配するのであった。

 

 

 

 

 

 

一方、守はというと

 

「はぁ……本当に江戸川区。海の底なんだな……」

 

現在守は、休暇で自分の生まれ故郷である江戸川区に来ていた。守自身はまだ働く気はあったが、警備員の先輩や学校の先生らに『休みもとらずに働きすぎだからたまには休め』と言われて半ば強制的に休暇を取っていたのだ。そんなに働きすぎかな?大戦中に比べればのんびり仕事をしていた感じだけど。まあ確かに仕事を始めてから、姉さんたちに倉庫に呼ばれるときを除けば今日まで一度も休暇を取っていなかったけど、それで働きすぎっていうのは少し大げさな気がする。

 

「まあ……別世界とは言え、生まれ故郷を見れたからいいとするか。海の底だけど……」

 

俺は、免許を取ったばかりのスキッパーで海の底に沈んでいる街を見ていた。

 

「さて、せっかくここに来たんだし、釣りでも楽しもうかな。よく釣り場にしていた臨海公園も海の底だし、どこかいいところに。千葉あたり行けばいいポイントでも見つかるかな?」

 

そう言い俺はスキッパーに積んでいる釣竿を見てそう言う。因みに俺の趣味は釣りでラバウル時代では同じ趣味の杉さんと一緒によくしたものだ。そう言えば杉さんあの時、鮫を釣り上げたっけ、しかもメジロザメ。あの時は喰われるかと思ったな……そんな昔のことを思い出しながら俺は千葉のとある港の岸壁についた。

 

「おおっ~ここならいいのが釣れそうだな」

 

そう言い俺はスキッパーを止め、流されないようにロープをアーカイブスに巻き付けて固定する。そして俺は釣り針にオキアミをつけて糸を垂らす

 

「さて……釣りは俺と魚の我慢勝負。俺が勝つか魚が勝つか勝負だな」

 

そう言い俺は波の音を聞き鼻歌を歌い

ながら、釣りを楽しむのであった

 

 

 

 

「ほら、クロちゃん。早く来いよ!」

 

「ちょっと待ちなさいよマロン。そんなに慌てなくても魚は逃げはしないわよ」

 

「てやんでぇ!これが待っていられるかってんだ。せっかくの息抜きの釣りなんだし早くやんなきゃ損だでい!」

 

と、黒木洋美と江戸っ子口調が特徴の柳原麻侖が釣竿を手にいつも釣りをしている岸壁に来ていた。すると岸壁のほとりで一人、釣りをしている子がいた

 

「あ~もう先客が来ている~」

 

「まあ、いいじゃないのマロン。広いんだし。ほら、釣りを楽しも」

 

洋美の言葉に麻侖は頷き釣針に餌をつけて糸を海に垂らす。すると洋美が

 

「それで麻侖。あなた本当に横須賀海洋女子の受験受ける気なの?」

 

「あったりめぇだろ!クロちゃんがそこに行くなら、私もクロちゃんと同じ学校に行くって決めてんでい!」

 

「いや、別に私もマロンが一緒なら別にいいけど。でもいいの?今更だけどそんな理由で進路を決めちゃって…親とかにも相談しないと…」

 

「親には前から、クロちゃんと同じ学校へ行く!て言ってあるから!」

 

「なんか動機が不純じゃない?」

 

「宗谷って奴に憧れて行くクロちゃんに言われたくねぇ!!」

 

と、洋美の言葉に麻侖がそう突っ込む。そして二人はそのまま釣りをしていた

 

「なかなか釣れないな~クロちゃん」

 

「まあ、釣りって聞くところ我慢勝負みたいだからね。あっちの子もまだ釣れていないみたいね」

 

そう言い洋美は向こうのほうで釣りをしている子を見る。少女らしき子は鼻歌を歌いながら静かに釣りをしていた。すると、遠くの方から一隻の船がやって来た

 

「おっ!クロちゃん!あれ!あの船を見てみろよ!」

 

「あれ?『和菓子杵崎』……和菓子屋さんね」

 

「ちょうど甘いものが欲しいと思ったし、ちょうどいいや!おーい!おーい!!」

 

マロンが大声をあげて手を振ると、屋台船はマロンたちの元へやってくるのだった。そして船が岸壁につくと

 

「お~い!やってるか~い?」

 

「いらっしゃいませ」

 

屋台船から双子の姉妹の杵崎ほまれと妹のあかね、そしてその友達である伊良子美甘が出てくる。そしてあかねが

 

「それでご注文は?」

 

「団子一丁!」

 

「は~い」

 

マロンが勢いよく注文し、誉れが団子を作り始める。すると隣にいた洋美は

 

「……マロン。お金持っているの?」

 

「・・・え?」

 

洋美にそう聞かれマロンは財布の中を覗くと入っていたのは50円玉一枚だけだった

 

「うっ……江戸っ子は宵越しの銭はもたねんでぃ……」

 

「まだ、宵越していないでしょ?それに私たち千葉県民でしょうが」

 

お金がないことにガックシうなだれる。マロン。そしてお金を持っていないことを訊いたほまれは

 

「マロンちゃん。残念だけどお金を持っていないなら、お客様じゃなくてお友達だよ?この団子はお預け」

 

「お茶ぐらいは出しますよ~」

 

「うぐぐ……」

 

金がなくてはお団子は食べられない。ほまれたちの言葉ににマロンはがっかりする。すると……

 

「おい、こらぁ!!」

 

「てめえぁ!誰の許可を得て営業してんだコラァ!!」

 

『っ!?』

 

急に怒鳴られ、5人は後ろを振り向くとそこにはいかにもガラの悪いヤクザみたいな男性二人がいた

 

「な、なんだ?」

 

マロンが驚いた顔でそう言うと男の一人が

 

「おい、ここいらはな俺らのシマなんだよ。その俺らの許可なしで何、団子を売っているんだ?」

 

「す、すみません。すぐに退かせますんで……」

 

あまりの気迫に美甘がそう言うが

 

「謝って済むもんじゃねえな~ショバ代として売上金、全部寄こしな!」

 

「えっ!?そんな困ります!」

 

あかねがそう言うと洋美は

 

「払う必要なんかないわよ。どうせこいつらどこかのチンピラでしょ?私とマロンは長い間ここを釣り場にしているけど初めて見る人だわ。たぶん難癖付けて金巻き上げようとしているだけよ」

 

と、そう言う。洋美の言葉にどうやら図星なのか男二人は一瞬顔をゆがませるが

 

「う、うるせぇ!ガキのくせに生意気言っているんじゃねえ!さっさと出さねえと店潰すぞこらぁ!!」

 

そう言い二人は船に入り込んで船に置いてあった長椅子を蹴り飛ばす。そしてもう一人が

 

「おい、よく見たら、このガキ、なかなかかわいいじゃないかよ兄貴。金がないならこいつらに体で払ってもらいましょうか?」

 

「いい考えだな。なら早いところやろうか」

 

そう言い二人組はマロンたちを襲うとするが

 

「おい……そこで何やってんだよコラァ?」

 

男達の背後から、ドスの効いた声が聞こえてきた。二人組が振り向くとそこには、先ほどマロンたちより少し離れていたところで鼻歌を歌いながら釣りをしていた子が立っていた。

 

「なんだてめえはぁ!?」

 

「うるせぇよ。こちとら釣りを楽しんでいるっていうのに、てめえらのせいで魚が逃げちまったじゃねえかよ。それに屋台船の人に難癖付けて金巻き上げようとするうえ、その子たち襲うだぁ?ふざけてんじゃねえぞ?」

 

と、鋭い目で威圧する子に二人組は

 

「なんだ?ガキがしゃしゃるんじゃねえよ!!」

 

そう言い一人が船から降りて少年を殴りかけたが、少年はすらりと避け、男の腹に膝蹴りを食らわす

 

「うがっ!!?」

 

男は腹を押さえて倒れる

 

「なっ!てめぇ!何をしやがる!」

 

そう言い兄貴格の男もその少年に襲い掛かり、そしてさっきの腹を押さえた男も向かうが、少年は男二人の攻撃をすらりすらりと躱し

 

「さて……ゴミは」

 

「「うがぁっ!?」」

 

少年は攻撃をかわした後、両手をを伸ばし、指を鉤状にすると男二人の鼻に引っ掛け

 

「海で魚の餌にでもなってろっ!!」

 

そう言い二人を海へ投げ飛ばし、水飛沫が上がる。

 

「おおっ……すごい」

 

それを見たマロンたちは唖然とする

 

「「げほっげほっ!!」」

 

海面から上がったチンピラ男二人だが、先ほどのそれじゃ済まさず少年は自分より大きい男二人の頭を鷲掴みにし持ち上げる

 

「なっ!?こいつちびのくせに何処からこんなバカ力が・・・・!?」

 

「てめっ・・・・・何者だ?」

 

顔を青くしそう言う二人に少年は

 

「おれか?俺はただの一般市民(カタギ)だよ。おいてめえら。これ以上、その子らに迷惑かけるんなら顔面が分からないくらいにボコボコした上に指詰めするぞ。嫌だったら。さっさとこの場から失せろ」

 

「「ひ、ひ~!!!す、すみませんでしたー!!」」

 

顔を青くし大泣きながら男二人組は逃げていくのであった。そして少年は軽くため息をつき

 

「さて……皆さん大丈夫?」

 

「あ、はい。あ、ありがとうございます………」

 

洋美がそうお礼を言うと少年はニコッと笑い

 

「そうか。それはよかった。さてと釣りにでも戻ろうかな……いや、この調子じゃ無理かな。今日は引き上げるか」

 

そう言い置いてきた釣竿を取ろうと戻ろうとすると

 

「あ、あの・・・・・」

 

「ん?なに?」

 

美甘に呼び止まれ少年は振り向くと美甘は

 

「あ、あの・・・・・・お礼に団子でも食べませんか?」

 

「……え?」

 

その言葉に少年は驚いた表情をするのであった

 



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異世界交流

数分前

 

「(う~ん……釣れないな……)」

 

俺は釣り糸を垂らし鼻歌でラバウル小唄を歌いながら魚が掛かるのを待っていた。だが、一向に釣れる気配がない。餌が気に入らないのだろうか?そう思いながら、釣りをしていると

 

「宗谷っていう子に憧れて行くクロちゃんに言われたくないやい!!」

 

「ん?」

 

急に後ろから声が聞こえ少し振り向くと、50メートルくらい先の方だろうか?二人組の女の子たちが釣りをしていた。どうやら俺と同じ釣りに来たらしい。俺は気にせず釣りをし始めた

 

「(そう言えばさっき宗谷って言っていたけど……まあ、宗谷ていう名前結構あるし、真霜姉さんたちのことじゃないな。下手に首を突っ込むのやめよう)」

 

内心そう思いながら波の音と先ほどの二人組の女の子たちの会話を聞きながら、俺は魚が掛からないかジーと待つ。だが、一向に魚は釣れない

 

「(釣れないな……ポイントが悪いのかな?それとも……)」

 

俺は竿を上げて針を見るとそこにはオキアミがなく針だけとなっていた

 

「はぁ~……通りで釣れないわけだな。餌付け直すか」

 

そう呟き俺は餌をつけ直してまた海面へと糸を垂らす。すると一隻の小舟がこちらの方へとやって来た。船には暖簾がつけてあり名前は『和菓子杵崎』と書かれていた。どうやら和菓子屋さんのようだ。そしてよく見ると先ほどの二人組の一人、背の小さい子が両手を振って大声で呼んでいるのが見えた。たぶんあの船はあの子の声で来たのだろう

 

「(へ~車で移動営業する食べ物屋は知っているけど船の移動営業なんて初めて見るな。これも海洋国家ならではかな?)」

 

そう思っていると、急に腹が鳴る。そう言えば朝からここでずっと釣りをしてたから何も食べていないな。そう思い俺はポケットから財布を取り出し中身を見る。中には千円札と500円玉が入っていた

 

「うん。ちょうどいい時間だし、少し休憩でもしようかな?……ん?」

 

俺はその船店へ行こうとしたが、なんかガラの悪い二人組がやってきて何やら店の人に怒鳴っているのが見えた

 

「(恰好からして、どこかのヤクザ気取りの三下のチンピラか……)」

 

ものほんのヤクザを見たことのある俺はすぐに相手が三下だと気づく。なぜやくざを見たことがあるのかというと、ラバウル時代の上官、杉田曹長こと杉さんの実家はやくざであり、杉さん自身もやくざであるからだ。なによりその杉さんが率いる301部隊はほとんどがヤンキーやらやくざ者なんかの連中でほかの隊からは『空の暴走族』とか『狂犬組』なんて呼ばれていたからな……まあ、確かに強面というか不良集団的な感じだったがみんないい奴だったんだけどな

まあ、その話は置いといて、何やらチンピラたちは屋台船に乗り込んだかと思うと席を蹴り飛ばし無茶苦茶なことをやっていた。これ以上は彼女たちの身が危ないな

 

「(これは見て見ぬふりはできないな。仕方ない。少しやるか)」

 

俺は釣竿を置いて、屋台船の方へ向かい

 

「おい……そこで何やってんだよコラァ?」

 

威嚇を含めた声でそう言うとチンピラ二人は俺の方へと振り向き、何やらお決まりのセリフを言うが俺はそれを無視して腕を組み、威圧を含めた言葉で言うが、チンピラどもは屋台船から降りて俺に向かって殴りかかってきた。

しかし、敵戦闘機の銃弾を命がけで回避し続けてきた俺にとってはまるで止まって見えたしレンジャー持ちである俺にはこの程度の攻撃は大したことがなかった。俺はチンピラのパンチをよけて懐に忍び込み、膝蹴りを食らわす。そしてもう一人が殴り掛かってくる

 

「(これじゃあ、キリがないな。さっさと終わらせるか)」

 

俺はそう思い、チンピラ二人組に鼻フックを決め海へと放り投げた。そして俺は海面から顔を出したチンピラ二人の頭を鷲掴みにし持ち上げる。予科練やラバウル時代から操縦桿が空中戦の際のGで重くなった時、動かせるように筋トレしていたためこいつらの体重などあの時の重りに比べれば軽い方だった。そして俺はそのチンピラどもに杉さん直伝のやくざ風の脅し文句を言い手を離すとチンピラどもは逃げて行った。そして俺はちらッと屋台船を見ると絡まれてた子たちが唖然とした表情をしていた。

 

「(さて・・・・・この状態じゃ釣りも無理だし、それに後から警察とか来て事情徴収とか受けるのめんどくさいし、ここらで引き揚げようかな)」

 

軽くため息をつき、立ち去ろうとすると

 

「あ、あの!!」

 

「ん?なに?」

 

急に呼び止められて振り返ると黒髪で星の髪飾りをした子が

 

「あ、あの。助けてくれたお礼にお団子食べていきませんか?」

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、現在

 

「すみませんお団子ごちそうになって」

 

「いいんですよ助けてくれたお礼ですから。あ、お茶もどうぞ」

 

「ああ。ありがとう」

 

チンピラを追い払った後、助けてくれた礼にお団子をごちそうになっていた

 

「いやーやっぱ海で食べる団子はうまいね~!」

 

「人のお金だからなおさらね~」

 

「人聞きの悪いこと言うねぇ!」

 

「すみません。私たちまで団子を奢ってもらって」

 

黒木が守に申し訳なさそうに言う。二人は今、守のおごりで団子を食べているのだ

 

「別にいいよ。みんなで団子を食べた方が美味いしね」

 

と、屋台船で守とマロンたちは団子を食べていた

 

「それにしてもあんた強いね。あんな怖そうなやつを倒しちゃうなんてさ!」

 

「本当にそうですね。私びっくりしちゃいました」

 

「私もだわ。どこからあんな力が出るのかしら?」

 

「あはは……」

 

と、マロンと美と洋美がそう言うと守は苦笑する。すると美甘が

 

「あ、すみません。自己紹介がまだでしたね。私は伊予子美甘って言います。それでこっちが友達の」

 

「杵崎あかねです」

 

「同じくほまれです」

 

「私は柳原麻侖ていうんでぃ!で、こっちが……」」

 

「黒木洋美よ」

 

と、自己紹介をし守も

 

「俺は森守。よろしく伊予子さん。杵崎さん。柳原さん。黒木さん」

 

と、互いに名乗った後、5人は交流を持つこととなった

 

 

 

「へ~皆さんは横須賀海洋女子を受験するのか」

 

「ええ。でも行けるかまだ分からないけどね」

 

「クロちゃん!水を差すようなことは言いっこなしでぃ!」

 

「まあ、確かにあそこは名門だし、倍率は高いからな~」

 

「守までそんな無粋なこと言うねぇ!!」

 

洋美と守の言葉にマロンは突っ込む。

 

「アハハ、悪い悪い。で、そちらの三人も?もしかして炊事の家政科志望?」

 

「うん。料理ならちょっと自信があるし、私にも役に立てることあるかなって」

 

「私たちもどうせなら、自分の作ったものは大勢の人に食べてもらいたいし」

 

「カレーとかも一気にたくさん作ると美味しくなるっていうしね!」

 

「ああ、確かに一人で食べるカレーよりみんなで食べたほうが美味いからな」

 

杵崎姉妹と美甘の言葉に守はうんうんと頷く。守は軍人時代ではよく戦闘機隊の仲間と一緒にご飯を食べるときが一番好きだったため、その気持ちはよくわかった。

 

「よぉーし!そんなら皆で海洋合格するぞー!!目指せブルーマーメイド!!」

 

「「「おーーーーーー!!!」」」

 

マロンの言葉に杵崎姉妹と美甘がこえをあげる。すると美甘が

 

「あ、そう言えば守ちゃんは何処に受験するの?やっぱり私たちと同じ海洋?」

 

「え?俺?俺はどこも受験しないよ。働いているし」

 

「え!?そうなの!どんな仕事をしているの?」

 

ほまれの問いに皆も守の仕事がどんな職なのか興味があるのかまじまじと見ていた

 

「う~ん。警備員かな?」

 

「自宅の?」

 

「違うよ。学校の警備員。今日は休暇で釣りをしに来たんだよ」

 

「へ~学校の警備員なんだ。私たちと歳が変わらないのにすごいね」

 

「でも、なんで学校行かないで働いているんでい?」

 

「まあ、家の都合というかまあ、いろいろだよ。あまり詳しくは訊かないでくれ」

 

「ふ~ん。そうか。家の事情なら仕方ないね」

 

と5人は守の言葉に納得する。すると洋美が

 

「ねえ、森君。あれ、あんたの竿だよね?なんか掛かっているわよ?」

 

「え?」

 

洋美の言葉に守は竿を置いてある方向を見ると竿につけられた糸がぴくぴくっと動いているのが見えた

 

「おおっ!もしかしてかかったか!!」

 

それを見た守は急いで船から降りて、竿を持とうと瞬間、竿が急に引っ張られ海へ落ちそうになる

 

「食い逃げはさせないぞ!!」

 

そう言い守は間一髪、竿をキャッチして引っ張る。するとかかった魚は釣られまいと抵抗する

 

「うおっ!?この引き、でかいぞ!!」

 

そう言い引っ張り上げようとするが魚の抵抗が強く、持ち上がらない。逆にその強い引きに守は海へ落ちそうななったが

 

「守。手伝うぜ!」

 

「網のほうは任せて!」

 

「柳原さん、黒木さん!?すまない!!」

 

そこへマロンと黒木がやってきてマロンは守の持つ竿を一緒に持ち、黒木は網を持ってスタンバっていた。そして

 

「「うりゃぁー!!」」

 

マロンと守はともに声を上げ竿を持ち上げると、その衝撃で魚が水面から飛び出し、地面へと落ちる

 

「やった!釣れた大物だ!!」

 

「すげぇー!しかもこれ鯛じゃないか!?」

 

「すごい。ここで鯛が釣れるなんて!!」

 

守が釣りあげたのは何と大きな鯛であった。その鯛に釣り上げた三人は驚いた

 

「すごいな~。守。餌は何を使ったんでぃ?」

 

「オキアミだよ。まさか鯛が釣れるなんて。これはちょっと縁起がいいね」

 

「まさに海老で鯛を釣る…って奴ね」

 

その後、守たちは釣りあげた鯛をどうするか考えているとそこへ杵崎姉妹と伊予子たちがやってきて、その鯛を調理してくれた。そして守たちは杵崎たちが作ってくれた鯛めしを食べた後、守たちはお互いに連絡先等を交換して別れるのであった

 

 

 

そして帰る中、マロンと洋美は

 

「変わった子だったなクロちゃん」

 

「ええ、そうね。もしかしたらまた会えるかもしれないわねマロン」

 

「だな。さっきあいつ警備員とか言っていたけどもしかしたら海洋の警備員だったりしてな」

 

「アハハ…まさかそんなわけないでしょ。きっと冗談で言ったんだと思うわよ」

 

「確かに、中学生くらいの女子(・・)が警備員をやっているなんてありえないよな」

 

と、そう言い二人は家に帰るのであった。同じころ杵崎和菓子店でも

 

「森ちゃん。女の子(・・・)なのにあんな怖い人たちを倒すなんてね」

 

「そうだね。まるで男の子みたいだったね~」

 

「また会えるかな?」

 

と、マロンたちも杵崎や伊予子たちも守のことを女の子だと勘違いしたまま家に帰り受験に備えて勉強をするのであった。だがこの時知らなかった、森とは意外な形で再会することに

 

 

 

 

一方、守はというと

 

「さて、明日も警備員の仕事だな。がんばらないと」

 

と、部屋で勉強をしながらそう呟いているのだった

 

 

 

 

 




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黒人魚と海狼

太平洋の波の上に真っ黒な一隻のインディペンデンス級沿海域戦闘艦が横須賀港に向かっていた

 

「ふ~ひっさしぶりに横須賀に帰って来たな~」

 

と、艦橋の展望台でほかのブルーマーメイドの隊員の制服とは違う黒い制服をし、まるで宇宙海賊みたいなマントを着た女性が背筋を伸ばし深呼吸してそう言う。

彼女の名は宗谷真冬。宗谷三姉妹の次女で、真霜の妹であり、ましろ、そして守の姉でもある。そんな彼女は今、母港である横須賀に帰って来たのだ

 

「さて、家に帰ったら、シロの様子でも見に行くか。あいつちゃんと勉強しているかな?」

 

そう言いマントを翻し歩き出す。すると一枚の写真が彼女から落ちる。乗員の一人が落ちた写真を取る。

 

「あ、艦長。写真を落としましたよ?」

 

「ああ、すまない」

 

真冬は写真を受け取り写真を見ると、どこか懐かしいような顔をする。その写真に写っているのはと小さい少年の写真であった

 

「艦長。その写真の少年は?」

 

「ああ。こいつは私の弟の写真だ」

 

「え!?艦長、弟さんがいたんですか?」

 

「ああ。でも9年前から行方不明でな。本当にどこに行ったのやら……」

 

「そうなんですか……また会えるといいですね艦長」

 

「ああ。いつもそう思っているよ」

 

そう言い写真を胸ポケットにしまう。そして彼女たちの乗る『べんてん』は横須賀港へと進むのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは・・・・・何処だ?」

 

暗い空間の中、守は歩いていた。前も後ろも何も見えない暗い中、戦期もわからないまま守はさまよっていた。いったいどれほど歩いたのかはわからない。出口も何も見えない暗い空間の中、彼はただ歩いていたのだ。すると・・・・・

 

「守・・・・・」

 

声が聞こえ、振り向けばそこには明るい空間があり、そこには真雪、真霜、真冬。そして・・・・・

 

「ましろ姉さん」

 

自分が最も敬愛し、本当の姉のように慕っているましろであった。そしてましろはニコッと笑って

 

「ほら、何をしているんだ守。早くこっちに来い」

 

と笑顔で手招きする

 

「うん。今行くよ・・・・・」

 

守はましろたちのいる空間へ向かおうとする。だが、足が動かない

 

「え?何で?」

 

守は必死に歩こうとするが動かない。そして足になにかの違和感を感じ始めた。守が自分の足を見るとそこには血まみれの手が彼の足を掴んでいた

 

「っ!?」

 

守が驚くと空間のあっちこっちから憎悪と憎しみの声が聞こえ、そしてそこから、かつて守が撃ち落としたナチスやファシストなどの敵航空兵たちが守を掴もうと迫ってくる。守はその手を振り払い、ましろたちのもとに向かおうとするが、ましろたちは守の元からどんどん遠ざかっていく

 

「待ってくれ・・・・待ってくれ姉さん!」

 

守は必死にましろたちの元へ走る。そしてましろたちのもとにたどり着く直前。何か見えない壁が張られているのか守はその先にへと進めなかった

 

「姉さん!!姉さん!!」

 

守は壁を叩き、ましろの名を呼ぶがましろたちはどんどん守の元から離れていく。そして・・・・・・

 

『貴様があの女に会う資格なんてない・・・・・』

 

急に恨みと怨念の入り混じった声が守の頭に響き渡る

 

『自分の手を見てみろ。今まで我々を殺してきたその血まみれ手では愛する者すら抱きしめられない』

 

『その手に残っているのは血と鉄と罪だけなのだ』

 

『さあ、ともに地獄へ行こうぞ・・・・』

 

声の言葉に守は自分の手を見るとその手は赤黒い血で染まっていた。守は震える手を恐怖を抱いた顔をし、絶望する。そしてその瞬間、血で染まった無数の手が守の体を掴む。その瞬間、守は身動きが取れないまま怨念の亡者たちが群がる暗い闇に包まれるのであった

 

 

 

 

 

 

「うわあぁぁぁl-!!!」

 

守は飛び起きる、荒い呼吸をし目は瞳孔が開き体中から酷い汗を流していた

 

「はア・・・・はア・・・・・夢か」

 

守はそう言うと時計を見る時刻は朝の5時でまだ日が昇らない時刻であった。

 

「・・・・・朝飯でも作るか。今日も仕事あるし」

 

そう言い布団から起き上がり、洗面台で自分の顔を見る

 

「ひどい顔だな・・・・・・」

 

先ほどの悪夢のせいなのか若干やつれた顔をしていた。あの夢は自分が今までした罪のことを決して忘れるなという警告なのだ。そう自分に言い聞かせ守は朝食の準備をするのであった。今日の朝ご飯はトーストとスクランブルエッグとコーヒーであった。守は朝食を取り、警備員の服に着替える。そして部屋を出て自分の仕事である警備員の仕事に入るのであった

 

 

 

「マーちゃんの様子がおかしい?」

 

お昼頃、真霜はいつものように仕事をしてお昼休み頃、守がどんな様子か気になって今、母であり守が働いている海洋学校の校長である真雪に電話をしていたのだ

 

『ええ、仕事は普通以上にしてはいるのだけど、同僚の警備員や古庄先生の話ではなんかやつれたというか、元気があんまりないらしいのよ。本人は大丈夫だって言っているけど・・・・・・』

 

「そう・・・・・母さん。何か心当たりとかはない?」

 

『そうね・・・・・守君ぐらいの年頃の子はいろいろ複雑だから・・・・・もしかしたら守君は何か悩んでいるかもしれないわね』

 

「そう・・・・」

 

真雪の言葉に真霜は心配そうな表情をする。すると真雪が

 

『そう言えば真霜。今日は真冬の乗るべんてんが帰ってくるみたいね』

 

「ええ、今日の午後に横須賀港に着くらしいわ。母さん。マーちゃんにそのことは?」

 

『伝えたわ。でも結果は同じだったわ。まだあの子は立ち直れていないみたい』

 

「そう・・・・・悔しいわね。マーちゃんのことわかってあげられないっていうのは」

 

『仕方がないわ。異世界の出来事だもの。私たちにできることはあの子を見守ることしかできないわ』

 

「そうね・・・・」

 

と、その後二人は軽い会話をしたのち、電話を切るのであったそして真霜は深いため息をつくと、

 

「そう言えば今日の夕方。マーちゃん二式水戦の様子を見に行くって言っていたっけ」

 

 

 

 

午後、ブルーマーメイドの格納庫附近

 

「久しぶりの横須賀だな~」

 

真冬はべんてんを降り、久しぶりに帰ってきた横須賀の港を歩いていた。すると

 

「ん?」

 

ある倉庫に通りかかったとき、真冬はその倉庫に置いてあるあるものを見た

 

「なんだこれ?」

 

倉庫に置いてあったのはこの世界にはない航空機、二式水戦であった。それを見た真冬は倉庫に入り、二式水戦に近づく

 

「これ・・・・・スキッパーか何かか?」

 

首をかしげていると

 

「あ、真冬さん。横須賀に戻っていたんですか?」

 

と、そこへ夕張がやってくる

 

「おお、夕張さん。久しぶりだな。根性注入してやろうか?」

 

「あはは・・・・遠慮するわ。それにしても相変わらずのセクハラね~」

 

「冗談だよ・・・・・・・ところで夕張さん。これは一体なんだ?新しいスキッパーか何かか?」

 

真冬は二式水戦を見て夕張にそう訊くと

 

「ああ、二式水戦のこと?」

 

「二式・・・・・なんだそれ?」

 

「これはね。航空機と言ってね。今までヘリウムや水素を使っていた飛行船を凌ぐ空を飛ぶ乗り物ですよ」

 

「空を飛ぶ?・・・・・・・これがか?」

 

「ええ。信じられないと思うけど。速度は560キロで航続距離は千キロ以上らしいわ」

 

「らしい?これあんたらが作ったものじゃないのか?」

 

「ええ。これ実は異世界からの産物らしいのよ」

 

「い、異世界?」

 

夕張の言葉に真冬は訳が分からず首をかしげる

 

「そう。真冬さんも聞いたでしょ硫黄島で発見された謎の漂流物のことを」

 

「ああ・・・・・・まさかこれが?」

 

「ええ。真霜さんから聞いていないの?」

 

「いいやまったく。本当にこれが飛ぶのか?」

 

「まだ飛ばしてないからわからないけど、調べた結果、理論的には可能よ」

 

「ふ~ん‥‥なら、飛ばしてくれ。ホントに飛ぶならそれぐらい良いだろう?」

 

真冬は夕張に二式水戦を飛ばしてくれというが夕張は首を横に振り

 

「それは難しいかな~」

 

「なんでだ?」

 

「これを飛ばすことができるの守君だけだもの」

 

「……守?」

 

夕張の守っという言葉に真冬は反応する

 

「ええ、森守君。この二式水戦の操縦者よ。真冬さんも隅に置けないわね。あなたたちに異世界の弟がいるなん・・・・・「おいっ!」・・・え?」

 

夕張がそう言いかけた時、真冬はいきなり夕張の肩を掴む

 

「守って言ったな!もしかしてこの子か!!」

 

と真冬は胸ポケットから幼いころの守の写真を見せると夕張は

 

「ええ、写真の子は幼いけど。確かにこの子よ」

 

「夕張さん!守は何処にいるんだ!!教えてくれ頼む!!」

 

「え?え…と。確か今は横須賀海洋学校の警備員をしているみたいよ。でも確か今日の午後くらいにこの子を見に行くとか言っていたけど?」

 

「守が・・・・・・」

 

夕張の言葉に真冬は真剣な顔つきになるのだった

 

 

 

 

 

数時間後、

 

「夕張さん。来ましたよ~」

 

しばらくして守は警備員の仕事を終えて二式水戦の様子を見に格納庫に来たが、中は電気が消えて薄暗かった。

 

「あれ?いないのかな?」

 

守は首をかしげて中へ入る。そして中央辺りまで来手当たりを見渡すが二式水戦があるだけで誰もいなかった

 

「おかしいな・・・・・皆出かけているのかな?」

 

と、そう呟くと、自分の前に黒い影が伸びる。それはすぐ後ろの入り口に誰かが立って日の光によってできる陰であった。守は振り向くと、そこには黒い制服とマントを着た女性が立っていた。その女性に守は見覚えがあった

 

「(・・・・・真冬姉さん?)」

 

そう、守の姉の一人である真冬であった。そして真冬は真剣な顔つきで

 

「お前・・・・・守なんだな?」

 

と、じっと守を見てそう言うのであった 

 

 



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真冬と守、辛き再会

「お前・・・・・・守なんだな?」

 

真冬はじっと守を見つめてそう言う。守は真冬を見て少し顔を背ける。真冬はそんな守の表情に気づかず、守に近づく

 

「お前、本当に守なんだな!本当に心配したんだぞ。9年前から私とシロはお前のことをずっと探していたんだぞ。守!」

 

9年ぶりに弟分と再会し嬉しそうに真冬はそう言い守の肩をポンっと叩き

 

「なんで・・・・・なんで帰って来たんなら帰ってきたで言わなかったんだ?もしかしてあれか?すぐに会わなかったのは姉ちゃんたちを驚かそうと思ったのか守?」

 

「・・・・・・・」

 

「守。家に帰ろ。母さんや姉ちゃん。それにシロもお前の帰りを待っている。それに私もお前と話したいことがいっぱいあるんだ」

 

嬉しそうにそして少し涙ぐみながらそう言う真冬。しかし・・・・・・

 

「・・・・・・人違いです」

 

「え?・・・・・な、何言っているんだ守?面白くない冗談だぞ?」

 

守の言葉に真冬は一瞬、頬けたがすぐに首を横に振り

 

「冗談じゃありません。俺はあなたの探していた人とは違います」

 

「いいや。お前は守だ。森守。9年前私たちの家に住んでいた男の子で私たちの大切な弟だ。9年間で成長しているけど私にはわかる。お前は間違いなく守なんだ!!」

 

そう必死に言う真冬だったが、守はぐっと唇を噛み締め、辛い表情で

 

「ちがう・・・・・俺は守じゃない!!人違いだ!!」

 

「あっ!?」

 

守は肩を掴んでいた真冬の腕を振りほどき、倉庫を出て走り出す

 

「あっ!待て守!!」

 

真冬は逃げる守を追いかける、

 

「待て!待てよ守!なんで逃げるんだよ!!」

 

ようやく会えた弟分が逃げるのを見て真冬は必死に叫び追いかける。6年前も守がいなくなったあの日も真冬はましろ同様、守が帰ったことを信じずにきっとどこかで迷子になって泣いていると、体中汚れながらも必死に探し回っていたのだ。そして今、9年ぶりに会えた弟がなぜか自分の前から去ろうとしていたのだ

 

「(嫌だ!ようやく会えたのに!また私の前から消えるなんて私は認めない!!)」

 

そう心でそう言い守を追いかける。そして守が角を曲がると

 

「あそこなら近道がある。よし!先回りだ!!」

 

そう言い真冬は別の道へと回るのであった。そして真冬は先回りをし、道を出るとちょうど守の目も前に現れる形に飛び出る

 

「っ!?」

 

急に目の前に飛び出た真冬に守は驚き、一瞬だけ動きを止める。その隙を真冬は見逃さず守の腕をつかむ、守は抵抗しようとするが、いきなりのことに足を滑らせた。そして真冬は守の両手首をつかみ壁に押し当てた。いわゆる壁ドン?みたいな状態だ

 

「守!私だ!私を忘れたのか!?ほら、真冬だよ。お前の姉ちゃんだよ!!」

 

「ち・・・ちがう。俺は守じゃ、・・・・・ないよ!」

 

「いいや!お前は守だ!それに!!」

 

そう言うと真冬は守が胸から下げているペンダントを持つ

 

「このペンダントは9年前、真霜姉さんと私が作ったペンダントだ。それに・・・・・・・」

 

そう言うと真冬はペンダントの蓋を開け

 

「これに張られている写真は9年前の三笠公園でお前とシロが撮った写真だ。この写真を埋め込んだペンダントを持っているのはお前だけなんだよ守!」

 

激しい剣幕でそう言う真冬に守は無言のまま項垂れる。もう否定のしようがない。もう隠せない。もう誤魔化しきれない。

守自身も真冬には会いたいと思っていた。そして再会したときは嬉しい気持ちがこみあげていた。だがそんな気持ちはすぐに消沈した。今の自分はもう真冬の知る自分ではない。今の自分はあの戦争だったとはいえ多くの命を奪ってきた。そんな自分が

堂々と姉に会うにためらいがあった。真霜は大丈夫だと慰めてくれるが、やはり守の心の中では人殺しの自分が姉に会うことを許せない自分もあった。だから守は真冬の前から逃げた。会えた喜びを殺して・・・・・

 

「守・・・・・なんで逃げるんだよ・・・・・なんで私を避けてあんな嘘をついたんだよ・・・・・私のことが・・・・・姉ちゃんのことが嫌いになったのか?」

 

悲しげな表情をする真冬。その言葉に守は

 

「違うよ・・・・・姉さんを嫌いになるはずがないじゃないか」

 

「だったらなんで逃げたんだよ!」

 

「もう俺は昔の俺とは違うんだよ姉さん!!」

 

「何が違うんだよ!お前は私の弟だ!血は繋がっていないけど、私たち宗谷姉妹の弟じゃないか!」

 

真冬は心の底からそう叫ぶと守は

 

「俺は人を殺しているんだよっ!!」

 

「っ!?」

 

守の言葉に真冬は驚き目を見開く

 

「人を殺したって・・・・・守。それ冗談だよな?」

 

「冗談じゃないよ。俺は人を殺したんだ。一人じゃない。何十・・・・いや何百人の命を奪っているんだこの手で・・・・・だから俺は姉さんに合わせる顔がないんだよ」

 

「守・・・・お前はいったい何を言っているんだよ?姉ちゃん訳が分からねえぞ?それに人を殺したって、心優しいお前が人を殺すことなんてできるわけないだろ?」

 

「・・・・・・・」

 

真冬の言葉に守は悲しい顔をし目を背ける。その顔を見た真冬は

 

「まさか……本当なのか?……本当にお前は人を殺したのか?」

 

「……」

 

真冬の言葉に守は何も答えることができなかった。すると・・・・・

 

「そこまでにしなさい真冬」

 

「「っ!?」」

 

するとそこへ真霜と夕張がやって来た

 

「真霜姉さん・・・・なんでここに?」

 

「さっき夕張整備長から、真冬がここに来たって聞いてきたのよ。それよりも真冬。マーちゃんにいろいろ聞きたいことがあると思うけど。とりあえずはその手を離しなさい」

 

真霜の言葉に真冬は頷き、守を腕を離す。そして真冬は真霜をじっと見て

 

「姉ちゃん。その言いぶりだと随分前に守と会っていたみたいだな、やっぱり数か月前に硫黄島で保護された子っていうのはやはり・・・・・・」

 

「ええ、マーちゃんよ」

 

「だったら、なんで言ってくれなかったんだよ!なんで守のことを秘密にしていたんだ!」

 

真冬は真霜にそう問い詰めると

 

「俺が言わないでくれって言ったんだ真冬姉さん!」

 

守がそう言う

 

「・・・・・・え?」

 

「俺が真霜姉さんに俺のことは真冬姉やましろ姉さんに内緒にしてくれって頼んだんだよ。だから真霜姉さんを責めないでくれ・・・・・」

 

「守・・・・・」

 

守の言葉に真冬はなぜ自分の存在を私に秘密にするのか?と疑念を含めた目で見ていた。すると真霜が

 

「マーちゃん。マーちゃんのこと真冬に話すことになるけどいい?」

 

真霜はこれ以上は真冬に隠せないことを守に言うと守は頷く守自身も変に誤魔化すよりは正直に言ったほうがいいと判断したからだ

 

「なんだよ、守。姉ちゃん。何を話すんだよ?もしかして守のことか?」

 

真冬が首をかしげると真霜は

 

「ええそうよ。真冬。これから話す話は信じられないかもしれないけど事実よ。マーちゃん」

 

と、真霜に促され守は真冬に自分のことを話す。自分は別の世界の人間だということ、そして子供のころジャングルジムから落下したらこの世界に来ていたこと、そして一か月後になぜか元の世界に戻っていたこと、そして自分のいた世界で戦争が起きたこと、その戦争で兵士として志願し多くの命を奪ったこと、そして戦闘中になぜかこの世界に戻ってきたことなどを真冬に話した。真霜は守が話す途中で何も言わずただじっと守の話を聞いていた

 

「・・・・・・というわけなんだ姉さん」

 

「真冬。マーちゃんの言っていることは事実よ。信じられないと思うけど」

 

守が説明を終え、真霜がそう言うと真冬は一呼吸入れ

 

「信じるも信じないも、自分の弟を疑うわけがないじゃないか。信じるよ。驚きはしたけどな」

 

「姉さん・・・・・」

 

「だけどよ守。水臭いじゃないか。確かに私は戦争を経験したことがないから完全にお前のことはわかってあげられないけど、それでも・・・・それでも会いに来てくれよ。私にはお前が人殺しだ、兵士だとかそんなのは関係ない。私にとってお前は弟でしかないんだよ」

 

と、真冬は守の優しく頭をなでる。その姿に真霜は微笑み守自身もまんざらではないのか黙って真冬に撫でられ続けた

 

「で、姉ちゃん。守のことはわかったんだけど母さんやシロはこのことを知っているのか?」

 

「母さんはマーちゃんのことをしているわ。でもましろはマー君の要望で話していないわ」

 

「なんでだよ。ましろが一番守に会いたがっているんだぞ?」

 

「あなたもわかるでしょ?今のましろは受験勉強をしているのよ。もしマーちゃんに会ったら・・・・・」

 

「あ~なるほどな。シロのことだ。会えた喜びできっと気が緩むな。あいつまじめで努力家だけど詰めが甘い時があるからな」

 

「そう言うことよ」

 

「よし、守のことはよく分かった。だけどな守。受験シーズンが終わったら必ずましろに会うんだぞ。いいな?あいつが一番お前のことを想っているんだからな」

 

「うん。わかったよ姉さん」

 

と、守は頷くと真冬は

 

「よし!じゃあ、守。久しぶりに姉ちゃんが愛情たっぷりの根性を注入してやろう!!」

 

と、そう言い守にルパンダイブをし、根性注入という名のセクハラをしようとするが

 

「お・こ・と・わ・りします!!#」

 

「うぎゃーーー!!!」

 

守に咄嗟に躱されて、関節技を決められる

 

「いでででで!?ま、守!お前、いつの間にそんな技をっ!?」

 

「言ったでしょ?俺は向こうじゃ海軍の特務士官だって、軍人世界では白兵戦や格闘技は必修科目なんですよ。というよりも姉さん。まだそんなセクハラまがいのことやっていたんですか?」

 

「セクハラではない!これは根性を注入しようと・・・・・」

 

「それ、他の人にもしているんですか?下手したら痴漢容疑で逮捕されますよ?」

 

「そ、それよりも守、関節技ほどいてくれないか?姉ちゃん痛いんだけど?」

 

「もうセクハラしないというのなら解きます。3秒以内に宣言しなければもっと閉めますよ?」

 

「え!?それは根性注入は私のトレード・・・・」

 

「は~い1!」

 

「いでででで!締めるな締めるな!!それに2と3は守!?」

 

「知らないよ。人間、1あれば十分なんですよ」

 

と、そんなこんなで真冬はしぶしぶ約束をするが守は『絶対にあれは止めないな』と確信を抱きながらは~とため息をつき関節技を解くのだった

 

「いたた・・・・・」

 

「もう真冬。これからはそれは控えなさいね」

 

「善処するよ姉ちゃん。ところで守。お前は今どこに住んでいるんだ?」

 

「マーちゃんは今。母さんが務めている海洋学校の職員用の寮にいるわ」

 

「あ~あそこか・・・・・で、そこで学生でもやっているのか?」

 

「いいや、警備員だよ」

 

「部屋の?」

 

またこの質問か・・・・・

 

「違うよ。ものほんの学校の警備員だよ」

 

同じ質問をされデジャブる守だったのだった。そしてしばらく会話していると

 

「あの~姉弟仲良く話しているところ悪いんだけど・・・・」

 

急に夕張さんが声をかける

 

「ん?どうしたの夕張?」

 

「いや、本当にすまないんだけど守君の2式水戦のことなんだけど?今日飛ばす予定だったんだけど」

 

「「「・・・・・・・あ」」」

 

久しぶりの再会につい忘れていたが守がここに来たのは2式水戦に会い。そして修理を終えた2水戦の試験飛行するためであったのだったが、もう空は暗くなってしまっていた

 

「この時間じゃ、飛ばすのは無理ね。飛ばすのはいつぐらいにしようかしら。守君。次の休みはいつ?」

 

「え?確か5日後かな?」

 

「そう。じゃあ5日後にまた来てくれる?」

 

「え、ええ。わかりました」

 

こうして2式水戦の飛行は延期となるのであった。その後、守はというと真冬に連れられとある店で6年間積もる話をし、その解散し、自分の寮へと帰るのであった

 



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海の荒鷲、飛翔す

真冬と再会してから5日後、守はいつものように警備員の仕事をしていた。昼の勤務だけではなく夜間の勤務をしていたが、いたって問題もなく平和であった。

 

「は~まもなく受験か・・・・・職員の人達忙しそうに準備しているな・・・・・」

 

仕事の中の合間の休憩で警備室でお茶を飲み外を見てそう呟く守。もう数日で受験が始まる。そのため学校の先生たちはその準備に勤しんでいるのだ。すると・・・・

 

ヌゥ

 

「ん?」

 

何処からか入って来たのか太った虎猫が変な鳴き声を出して入っていた

 

「あれ?またお前か・・・・また煮干し貰いに来たのか?」

 

この猫はよく守のいる警備室に来る猫で守が煮干しをあげたのを皮切りによく来るのだ。守は来客のため戸棚から煮干しの入った袋を取り出し煮干しを手に乗せ猫に上げると猫は静かに煮干しを食べる。守はその様子を見てニコッと笑う。実は守は大の猫好きであるのだ。すると

 

「お邪魔するわよ」

 

と、そこへ古庄先生が入ってくる

 

「あ、古庄先生。休憩ですか?今お茶を入れますので」

 

「ごめんなさいね」

 

守は煮干しを床に置き、手を洗うと急須に茶葉を入れお湯を入れると、2つ湯のみを机に乗りお茶を入れる

 

「どうぞ。粗茶ですが・・・・・」

 

「ありがとう守君」

 

そう言い古庄先生はお茶を飲むとフフッと笑う

 

「どうかされたんですか?」

 

「いえ、今思っても不思議なんです。話は校長から聞いていましたが守君が異世界の人なんてね」

 

「あはは・・・・まあわかります。私も逆の立場だったらきっと同じ気持ちですよ」

 

古庄先生は真雪や真霜、そして古内や平賀同じく守の素性を知る数少ない人物である

 

「守君・・・・・」

 

「なんですか?」

 

「あなた・・・・・元の世界に家族はいるんですか?」

 

古庄の言葉に守は少し動きを止める。そして静かにお茶を一口飲むと

 

「母がいました。だが去年に病でなくなりました」

 

「お父さんは?」

 

「わかりません」

 

「わからない?どういうこと?」

 

「俺の父は海上自衛隊・・・・・・えっと。ホワイトドルフィンやブルーマーメイドみたいな防衛組織みたいなものと認識してくれればいいです。で、父はとあるイージス艦・・・たしか『みらい』という艦名の船のヘリのパイロットでした。ですが俺が2歳の時、そのみらいとともに行方不明になってその後も帰ってきてません・・・・・」

 

「そう・・・・ごめんなさい辛いことを思い出させて」

 

「いいえ、先生が謝ることはありませんよ」

 

「そうですか・・・・・・」

 

そう言い二人はお茶を飲むと古庄先生は

 

「それよりもこの猫・・・・・」

 

「猫?ああこいつですか。いつも学園をうろついていますね」

 

「ええ、ところでこの猫名前とかはあるのかしら?」

 

「名前ですか・・・・・そうですね・・・」

 

と守は煮干しを食べている猫を見て

 

「・・・・・・五十六っていうのはどうでしょうか?」

 

「イソロク?」

 

「ええ。なんか見た目というか愛嬌といいますか、かの連合艦隊司令長官の山本五十六元帥にどことなく似ているので」

 

「山本五十六?」

 

古庄先生は首をかしげる。確かに太平洋戦争が勃発していないこの世界では太平洋戦争で活躍した山本五十六元帥を知らないのも無理はない。まあともあれこの猫の名は五十六という名前に決定した。そして古庄先生は仕事に戻り、五十六はいつの間にかいなくなっていた。

 

「さて・・・・・午後の仕事は別の人に交代することになっているし、ブルマーの格納庫に行くか」

 

そう言い食器や湯飲みの片づけをした後、守は私服に着替えて、横須賀海岸の格納庫へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、森君。待ってたわよ」

 

格納庫へ着くとそこには夕張さん、真霜に福内、平賀。そして真冬がいた

 

「お待たせしました・・・・・ところで、なんで真冬姉がいるの?」

 

「なんだ?姉ちゃんがいちゃ悪いか?」

 

「いや悪くないけど」

 

「じゃあ、いいじゃないか。それにヘリウムを使わないで飛ぶっていう飛行機が動くところこの目で見たいしな」

 

「あはは・・・・・」

 

真冬の言葉に守は苦笑する。そして守は

 

「夕張さん。二式水戦の方は?」

 

「ええ。完全に整備が終わったわ。後は試験飛行するだけよ。でもさすがに横須賀(ここ)で飛ばすわけにはいかないね。人目につくし……あ、そう言えば真霜。確かここから少し離れた無人島があったわよね?そこなら大丈夫じゃない?」

 

「え?そうね・・・・・あの島は横須賀から離れているし。それにあの島は高速飛行船の試験飛行もする場所だし、試験飛行するにはもってこいね。よし、なら、みくらで運ぶわ」

 

「え?大丈夫なの姉さん?」

 

「ええ、問題ないわ。ね、福内?」

 

「え・・・ええ…大丈夫です」

 

と、引きつった顔をしてそう答える福内さん。まあ、真霜の言葉にNOといえる人はなかなかいない。守は心の中で福内さんに同情した。そして守たちと二式水戦はみくらに乗り、無人島へと向かった。二式水戦はみくらの後部飛行船格納庫に搭載された。

格納庫で守は二式水戦のエンジンや機関銃、そして計器に異常がないか見ていた。すると

 

「よっ!守!」

 

「姉さん・・・・」

 

真冬がやってきて、二式水戦を見る

 

「本当にこれが飛ぶのか守?」

 

「ああ、飛ぶよ。たぶんこの世界にある飛行船より早いと思うよ」

 

「そうか?」

 

「たぶん。まあ嘘か本当かは無人島についてからのお楽しみってね」

 

と、そう言い簡単な整備をし、そして御蔵は無人飛行船のテスト飛行に使う島に着き、二式水戦はクレーンで水上に置かれ、守は操縦席に乗りエンジンをかける。真霜たちはエンジンがかかり轟々と鳴り響くエンジン音に驚き、そして守の乗る二式水戦をまじまじと見る。本当にコレが空を飛ぶのか?と

 

「回転数異常なし、フラップ、垂直尾翼の動きも異常なし。燃料問題なし」

 

守は計器やフラップの動作に異常がないか確認し、そして

 

「行きます!!」

 

とそう言うと操縦かんを前に動かした。すると二式水戦はゆっくりと前に進み、そしてどんどん加速する。そして二式水戦は大空へと飛びあがった。二式水戦が飛んでいくのをみくらの乗員達は唖然とした顔で見ており

 

「すげぇ~本当に飛んだよ」

 

「しかもすごく速いですね・・・・」

 

真冬と平賀の言葉にみんなは頷く。そして久しぶりの二式水戦を操縦する守は

 

「やっぱり、いいな・・・・・・海の上の空は」

 

日本本土やソロモン諸島の海を飛んでいた守、特に守は南太平洋の海が好きだった。そして守は空の下、海の上を停泊するみくらの乗員たちが度肝を抜かれた表情をみると

 

「驚いているな・・・・・それじゃあ、もっと驚かせてみるか」

 

そう言い守は操縦桿を握り、宙返りや急旋回や急降下などのアクロバット飛行をするいわゆる曲芸飛行というやつだ。それを見た真霜たちはさらに驚きの声を上げ中には拍手をする人もいた。そして

 

「すごいわね・・・・異世界の技術って。速度も計測器で測ったけど500キロを超えている。一番速い偵察飛行船でも200が限界なのに。これはすごいものを見たわ」

 

「それに小回りも効いているな。もし配備されたら、ブルーマーメイドの活動範囲も大幅に広がりますよ」

 

「そうね‥‥」

 

真霜は二式水戦のこの性能を見て、将来的に二式水戦の生産とブルーマーメイド艦艇への配備を検討し始めた。ただ生産を始めるにしてもまた詳しく調べる必要があり、それには守の承認も必要だ。前に守に二式水戦の引き渡しについて聞いたが

 

『二式水戦は俺の持ち物だけじゃなく日本国防海軍の物だ。俺一人の勝手な承認はできない』

 

といっているため、守は二式水戦を引き渡すつもりはないことを真霜は知っていた。もし無理にしようものなら守はきっと二式水戦を自爆させるだろう。だが、真霜は無理やりにするようなことは一切考えていなかった。ただ引き渡しは無理でも飛行機の生産なら問題ないだろうと思っていた。そして守は

 

「飛行機・・・・・この世界でも間違った方向に行かないといいんだが・・・・・」

 

守は二式水戦の引き渡しは反対だが、飛行機の生産については別に反対ではなかったが、やはりこの世界にとって飛行機はオーバーテクノロジーに入る。過ぎた技術や兵器はやがてそれをめぐって戦争へと発展する。守はそれを心配していたのだ

 

「(飛行機の登場で俺たちのような世界にならないことを祈るしかないな・・・・・)」

 

心の中で守はこの世界の行く末を心配し、着水するため高度を下げるのであった。

その後、真霜は二式水戦の飛行試験の結果を発表したが海上安全整備局の幹部は性能については驚愕はしたが、飛行機の必要性と生産については、半信半疑で今までの飛行船でも事足りるということで航空機の生産については先送りになった

真霜は今回の会議の結果について苦虫を噛み潰したよう顔で聞いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

一方、南太平洋のとある無人島で一隻の巨大な船が座礁していた。その船は船というにはあまりにも大きくまるで軍艦のようでまっ平らな甲板でその中央に大きな大穴が開いて船体ところどころ破損していた。そしてその甲板の中、旧海軍の一種軍装を着て煙草を口に加えた女性が空を飛ぶカモメを見ていた

 

「やれやれ・・・・・一体どうなっているんだかね?」

 

と、小さくつぶやくのであった

 

 

 

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受験戦争勃発

「あれ?またあの夢?」

 

岬明乃はまたある夢を見ていた。それは前と同じ、南太平洋あたりだろうか海域で大きな船がいた。その船は戦艦みたいに大きく。甲板はまっ平らであった

 

「なんだろう?輸送船かな?」

 

首をかしげていると、別の空から無数の飛行物体がその船にやってくる。その飛行物体は腹に魚雷や爆弾を抱えていた

 

「まさかあの船を襲うの!?」

 

明乃は先ほどの輸送船?らしき船を見ると輸送船?から先ほどとは違う飛行物体が現れ、飛び立つ。その飛行物体は前の夢で見た飛行物体(零戦)であった。そしてその飛行物体は襲い掛かる飛行物体を次々と撃ち落とし、それを突破した飛行物体(雷撃機)にその輸送船を護衛する巡洋艦や駆逐艦。そして輸送船?から高角砲や機銃がその飛行物体に向かって放たれ次々と落としていく。すると・・・・・

 

『敵機、信濃直上。急降下ぁーー!!』

 

と誰かが叫ぶのが聞こえた。そして明乃は先ほどの声に上を見ると船の上空から数機の爆弾を抱えた飛行物体がサイレンを鳴らしながら急降下し、爆弾を落とす、巨大な輸送船・・・・・いや。その船、航空母艦信濃は退避行動をとるが、一発の爆弾が上昇中のエレベーターに命中し爆発。そしてその爆炎は艦内にあった艦載機のガソリンに被爆し爆発し、甲板に大穴が開き黒煙が舞い上がる。明乃はその被弾した空母を見て目を見開き顔を強張らせる甲板には無数の人が血だらけになり倒れているのが見えた。

 

「こんなのって・・・・こんなのって・・・・」

 

顔を青ざめ見る明乃。そして時間はいつの間にか夜になり、甲板にはいまだ火が消えず燻っていた。そしてその甲板には軍服を着た将校の前に船乗りたちが集まっていた。そして艦長らしき女性の人が

 

「皆。よく戦ってくれた。私たちの船は被弾し多くの戦友を失ったが、ナチス空軍の航空兵力をこちらへと集中させ、ポートモレスビー攻略部隊の上陸部隊の支援に成功した。本当に感謝に堪えない!!」

 

「山口長官!退艦してください!」

 

「ふっ、航空兵を多く死なせたうえ、この信濃までやられたんだ。誰かが船に残らないと示しがつかないだろ?」

 

「ならば私も残ります!!」

 

「私もです!」

 

「私も!」

 

と、士官らしき人と航空兵らしき人達がそう言い前に出るが艦長は

 

「私だけで十分よ。さ、早く行きなさい」

 

「提督・・・・・では何か形見を」

 

副官らしき人物がそう言うと、艦長は自分の頭にかぶっていた略帽を彼女に渡す

 

「さ、行きなさい。まだまだ戦はこれからよ・・・・・」

 

「うぅ・・・・は、はい!」

 

そう言い涙を堪え船員たちは彼女に敬礼し、退艦する。それを見届けた彼女は先ほどまで真剣な表情だったのが柔和な顔になり

 

「さて・・・・私も役目もここまでね」

 

と、そう言い軍帽を被り

 

「さて、せっかくの満月だ。最期に月を肴に一杯やるとするかな・・・・・」

 

そう言い彼女は燃え上がる船の艦橋へと入るのであった

 

 

 

「はっ!?」

 

明乃は飛び起きるとそこはあの世界ではなく自室の部屋だった

 

「まただ・・・・なんであんな夢を?それに・・・・・」

 

明乃は今まで夢に出た人たちのことを思い出した。飛行兵、船員。いろんな人を見たがその人たちの最期の瞬間が頭から離れなかった。それは悲しい顔をせずに皆笑顔だったことだ

 

「なんで、死ぬ直前だったのに笑顔だったのかな・・・・・・」

 

そう呟き時計を見ると

 

「あっ!行けないもうすぐ受験だ!急がないと!!」

 

そう今日は海洋学校受験日なのだ。明乃は制服に着替え、受験票や筆記用具をカバンに入れて受験場へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

受験・・・・・それは中学、高校生たちが志望の学校へ行くための試練であり戦争である。この試練で自分の未来が決まる。あるものは受かり学生生活を送る。またある者は不合格となり、暗い浪人生活を送る。その二つの道のどっちかに行くかは自身の勉学の努力と臨機応変さに掛かっている。受験戦争時の生徒たちの雰囲気はまさに地獄とも言ってもいい、凄まじい苛立ち感が感じられる。それが受験シーズンというものだ。

 

「ふ~やはりブルーマーメイド輩出校だけあってたくさん受験生が来ているな・・・・・」

 

校門前で守は警備員の仕事をしていた。そして校門前ではたくさんの女子中学生…受験生たちがやって来た。受験生の顔はみな緊張で強張っていてさすがに怖かった。

 

「(うわ~みんな緊張しているな・・・・・俺も高校受験があったらそんな顔になるのかな?)」

 

と、どこか他人事のように見ていた守。すると・・・・

 

「お?・・・・おっ!守!守じゃねえかよ!!」

 

と、そこへ数か月前にあったマロンと黒木、そして美甘に杵崎姉妹がやって来た

 

「ああ、、久しぶりマロンさん。黒木さん。伊予子さん。杵崎さんたち」

 

と挨拶すると黒木は

 

「本当に警備員だったんだね。森さんって・・・・・」

 

「アハハ・・・どう驚いた?」

 

「うんびっくり」

 

と、美甘がそう言う。まあそれはそうだろう自分と同じぐらいの年の子が警備員なんて普通は信じられない

 

「あはは・・・・・」

 

守は苦笑していると

 

「ほら、早くーっ!!」

 

「待ってよ~っ!!」

 

「試験に遅刻とかマジ洒落になんないーっ!!」

 

「時間はまだ大丈夫だってば~!!」 

 

「汗かいちゃった」

 

「折角朝シャワー浴びたのに‥‥」

 

「・・・・ん?」

 

にぎやかな声が聞こえ守たちは振り向くと慌てて受験会場に飛び込んできた四人の受験生が居た。

 

「も~レオちゃんてば、『大丈夫』っ言っても止まらないんだもん」

 

青みがかった黒髪にツーサイドアップの髪型の女の子が息を整えながら愚痴るかのように言う。

 

「もとはと言えばルナが寝坊したのが悪いんじゃん」

 

白いカチューシャをつけた女の子が急いでいた理由を言う。どうやら、ツーサイドアップの髪型の女の子が寝坊したのが原因の様だ。

 

「あ~全力疾走したから数式忘れたかも‥‥」

 

赤いリボンのついたカチューシャをつけた女の子が息を整えながら嘆く。

 

「あっつ~い。コート脱いじゃおうかしら?」

 

四人の中でも背の高いサイドテールの女の子は手で仰ぎながらコートを脱ごうとする。

 

「サクラ、エロいからやめな」

 

「えっ!?」

 

白いカチューシャをつけた女の子が背の高いサイドテールの女の子にコートを脱がせるのを止めたエロいと言われ、ショックを受けているような感じの背の高いサイドテールの女の子。

四人はワイワイと談笑しながら会場の中へと入っていった。どうらや、同じ中学の同期の様だ。それを見た守たちは

 

「に、にぎやかな4人組だな・・・・・・」

 

「そ、そうだね・・・・・」

 

「ま、まあ、緊張しすぎた雰囲気だらけだし、そう言う感じもいいんじゃないか?」

 

とマロン、守、美甘のそれぞれそう言うとそして守は

 

「さて、マロンさんたちもそろそろ校舎に入らないと筆記試験に遅れるよ」

 

「あ、そうだった!じゃあ行ってきます!」

 

「うん。みんな受験頑張ってね応援しているよ」

 

「ありがとう森さん!」

 

美甘がそう言い5人は校舎へと入っていった。そして受験生全員が校舎へ確認すると・・・・

 

「お疲れ森君。門番の交代だよ」

 

「あ、どうも美鈴さん」

 

と、そこへやって来たのは中国から来た警備員の紅美鈴さんだった。優秀な人なんだがよく仕事中に居眠りすることで有名な人だ。

 

「わかりました。では周辺の方を回ってみます。なんか受験票も持たずに不正にここに潜り込む受験生とかがいるみたいですから」

 

「そうみたいね。去年も二、三人いたらしいし」

 

「では。行ってまいります。言っておきますけど居眠りなんてしないでくださいよ」

 

「わ、わかっていますよ!もう校長に怒られるのは勘弁ですからね」

 

美鈴さんは恥ずかしそうにそう言う。そして俺は校門の警備を美鈴さんに任せて、周辺のパトロールへと向かうのであった。しばらく回っていると、日時計台の上に大きなどら猫が座っていた。ドラ猫は据わった目つきで守をジッと見ている

 

「おお、五十六元帥。またいたのか?」

 

と、そう言い近寄ると五十六はじっと守を見ていると守は苦笑して

 

「ごめん元帥。今日は煮干しは持ってきてないんだ。あ、でも魚肉ソーセージならあるぞ。喰うか?」

 

と、間食用にポケットに入れている魚肉ソーセージを取り出し、五十六の鼻先に出すと、五十六はな~どと鳴き魚肉ソーセージを食べる。それを見た守は五十六の背中をそっとなでると魚肉ソーセージを置き

 

「すまない五十六。仕事の途中だから俺はいくよ。あ、そのソーセージはあげるからゆっくり食べてくれ」

 

と、そう言いその場を後にした。しばらく歩いていると・・・・・

 

「あれ?」

 

守は学校の隅に小さな神社みたいな社があることに気づく

 

「なんだろう?お稲荷さん・・・・・・ではないな。それにこんな社あったけ?」

 

首をかしげてその社に近づき鳥居みたいなところに着くと帽子を脱ぎ中へ入る

 

「う~ん・・・・・なんの神様かは書いていないけど。海洋学校にあるってことはきっと航海の無事を祈る神様なんだろうな。それにしても汚れているな」

 

守は矢代周辺を見ると落ち葉やら雑草やらで正直言ってきたなかった。それを見た守は落ちている枝や落ち葉を集め雑草を抜き、社をきれいにした。

 

「よし、これで良し!」

 

と、守は汗を拭うと、社に向かって合掌し

 

「(どうか受験生たちが無事に合格できますように。ましろ姉さんが無事に受かりますように)」

 

と祈るとまた社に一礼をしその場を後にし、仕事に戻るのであった。この時、守は気づかなかったがその社に小さくそして古ぼけた文字で『時の守』と書かれていたのであった。

 



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戦争も受験も後が大変

あれから数日後、何事もなく横須賀女子海洋高校の合格発表が行われた。通常の高校と違い入学試験から僅かな期間で合格発表をするのは、この高校独自のシステム‥‥入学試験の成績によりクラスを決める為、早急に入学予定者を集める必要があったのだ。

更に合格には補欠合格もあり、横須賀女子に入学の意志がある者には直ぐに手続きを取ってもらう必要もあったのだ。そして合格発表を掲示する掲示板の前には受験生が合格か否かを見に来ていた。あるものは受かって喜んだり泣く子もいた。そして不合格だった子はまるでこの世の終わりみたいな表情をして家に帰っていった。

そして港では合格発表を見るため、マロンたちも来ていたのだが・・・・・

 

「(空気が重い)」

 

屋台船を操縦するあかねが苦笑いしていた。船内では麻侖と黒木、そしてほまれそして美甘が乗っていたが黒木は平然としているのだが、麻侖は少し落ちつきがないし、みかんはじっと黙って顔を俯かせている。まさに通夜みたいであった。すると黒木が

 

「杵崎さん、ありがとね。私達まで船に乗せてもらって」

 

「気にしないで、目的地は一緒だし」

 

「うぅぅ~‥‥き、緊張するよぉ~もし、落ちていたどうしよう~」

 

美甘が不安に言うと

 

「何言ってやがんでぃ、すっとこどっこい!!結果を見る前から落ちた事を考えてどうすんでぃ!!」

 

麻侖は、そんなみかんを勇気づける。

 

「マロンちゃん‥‥」

 

「ししししししし心配しなくても受か受か受か受か受か受か受か受かてやてやてやてやてやてでぃでぃでぃでぃでぃ」

 

「マロンちゃんが壊れた。って言うよりマロン。あなたが一番落ち着きなさいよ」

 

マロンとの付き合いの長い黒木がそう言うのであった。そして5人の乗る。屋台船は受験合格者の番号が掲示されている岸に着くのであった

 

 

 

一方、守は合格発表を見に来た受験生たちを見ていた

 

「カオスだな・・・・・飛行学校時代を思い出すな」

 

守自身も航空学生のころ、航空訓練性になれるかどうかではらはらしたのを覚えている。航空学生は合格率は非常に低い。たとえば2千人志願して合格でき訓練生になれるのはわずか100名、その中で無事に卒業できるのは半数の50名。そしてその中で戦闘機乗りになれるのは10名少々、そして花形である母艦乗りになれるのは一人か二人の割合だ。守自身も無事に合格し卒業できたことは今でも奇跡だと思っていた。

しばらく見ていると見慣れた顔がいた

 

「あれは・・・・マロンさんか?」

 

そこにはマロンと黒木、杵崎姉妹そして美甘がいた。するとマロンも守に気づいたのか

 

「おっ!お~い守!!」

 

と嬉しそうにこっちにやって来た。あの表情から見るに無事に合格したみたいだ

 

「やあ、マロンさん。その様子だとみんな無事に合格できたみたいだね。おめでとう」

 

「当然の結果でぇい!!」

 

守の言葉に嬉しそうに言うマロン。すると・・・・・

 

「うわあぁーーーーん!!!」

 

「「ん?」」

 

急に誰かが泣き叫ぶ声が聞こえたかと思ったら、一人の少女が麻侖達の列の横を走り抜けていく。

 

「人間なんてやめてやるぅ~!!」

 

「待て、ルナ!!」

 

「ルナ、人間やめるってよ!?」

 

「意味が分からん!!」

 

走り抜いていった少女を追って三人の少女達が後を追いかけていく。

 

「な、なんだ?」

 

突然の出来事にマロンは首を傾げ、黒木達も唖然としていた。

 

「あれ?確かあの先て海だよな・・・・・・まさか!?」

 

「あ、ちょっと守!!」

 

守は何か悟ったのか、急いで先ほどの少女を追いかける。そしてそれに続いてマロンたちも走り出すのであった。そして少女ルナは桟橋の方へ走り出す

 

「私は今日からお魚として生きていく」

 

「何言ってんだ!!お前は肺呼吸だろう!?」

 

「お魚さんなめんな!!」

 

後を追いかける少女らもなんかズレている事を言う。

 

「母なる海よ!!」

 

そう言って彼女は桟橋から海へとダイブし飛び込んだのだが、今は二月の中旬、海は氷のように冷たかった

 

「あばばば!!冷たいし!!寒いよ!!助けて!!母も私を拒絶するのか!!だ、誰か助けて!!」

 

自ら飛び込んだのに助けを求めるルナ。すると

 

「この馬鹿!命を粗末にするな!!」

 

と、そこへ守が海へ飛び込みルナを抱えて、岸ヘとあげる。そしてルナの友達がやってきて

 

「ああ、警備員さん。ありがとうございます」

 

「お騒がせしました」

 

と、守に礼を言うと守は

 

「全く、何があったか知らないが、まだ若いのに命を粗末にするなよ」

 

「いや、若いってあんたも若いじゃん」

 

守の言葉に若狭が突っ込む。すると

 

「さ、寒い~‥‥」

 

冬の横須賀の海に飛び込んだ留奈は寒さで身体をガタガタと震わせる。

 

「もぉ~ずぶ濡れじゃない」

 

桜良がハンカチで留奈の身体を拭くが焼け石に水である。

 

「どこかで乾かさないと風邪ひいちゃうよ」

 

広田が心配そうに言う。そこへ、

 

「何でぇ、誰かと思えば実技試験で隣に居た四人組じゃねぇか」

 

マロンたちが追いつく

 

「あっ、ちっちゃい凄い人」

 

マロンの声に気づいた四人が振り返る。

 

「ちっちゃいは余計だ!!」

 

「あの‥‥よかったら、家の船で休んでいきます?そのままだと風邪を引いてしまうので‥‥守さんも一緒にどうですか?」

 

「ああ、俺も彼女がなぜ海に飛び込んだか事情を聴きたいからな」

 

ほまれの誘いに守とルナたちは屋台船に世話になる。そして船の中で

 

「とりあえず、全部脱げ」

 

マロンはルナ着ている服を全部脱げと言うと守は

 

「え?マロン。それって追剥か?それとも・・・・・」

 

「変態!?」

 

「違わい!!濡れている服なら脱いだ方がマシだってんでい!!」

 

怒ってそう言うと皆は納得し守は立ち上がる

 

「ん?どこに行くんだよ守?」

 

「いや、ここにいるのはまずいだろ?いったん警備室に戻って私服に着替えてくるよ」

 

「いや、ここでも問題ないじゃないか女同士だし」

 

「いや・・・・俺男だぞ?」

 

「「・・・・・・え?」」

 

守の言葉に皆目を点にする。そして

 

「「「ええーーーー!!!」」」

 

皆は驚きの声を上げ、まもるは「やはりか・・・・』という表情をする

 

「あんた男だったの!?」

 

「いや、どう見たって女の子じゃん!何!?いわゆる男の娘ってやつ!?」

 

「びっくり・・・・・」

 

皆は驚いた表情で守を見ていた。確かに守は女性とほとんど見分けがつかないほどの中性的な顔立ちのため女子だと勘違いするのも無理はない

 

「そう言うこと。じゃあ俺は外に出てるよ」

 

そう言い、守はいったん警備室へと戻り体を拭き予備の服に着替えた後、タオルと美鈴さんから女性用のジャージを借りてそれを持って先ほどの屋台船へと戻り外にいた美甘にルナ用のタオルとジャージを渡すのであった。そして数分後、

 

「やっぱり・・・・受験に落ちたから海に身を投げようと?」

 

「うっ・・・・ごめんなさい」

 

ジャージに着替えたルナは警備員である守から事情を聴いていた

 

「でもさ、それで魚になろうなんて、すっとこどっこいかオメェは?」

 

マロンは事情を聞いてあきれた表情をすると黒木が

 

「でも下手をしたらマロンも海に飛び込みそうね・・・・・」

 

「「何となくそんな気がするわ」」

 

若狭と広田も黒木の意見に同調した。

 

「するか!!」

 

麻侖は必死に否定する。すると守は

 

「でも命は大事にしなよ。生きていればまたチャンスはつかめるんだからさ」

 

と守はルナを励ますが

 

「はぁ~お終いだ。いくら積めば裏口入学できるかな?」

 

「それ犯罪だぞ!?人生詰む気か!?」

 

「金を積むより徳を積め!徳を!」

 

守とマロンはとんでもないことを言うルナに突っ込む。もう打つ手はないかと絶望するルナに守は・・・・・

 

「ん?そう言えば・・・・・君は補欠合格の掲示板は見たの?」

 

「・・・・・え?補欠合格?」

 

「ああ。合格者のほかに補欠合格っていうのがあるぞ。見てないのか?」

 

ルナは守の言葉にぽかんとするとほまれが

 

「補欠合格者は通常の合格者とは別の場所に貼り出してあったと思ったけど‥‥」

 

「ああ、あそこなら合格発表が掲示されている場所から、100メートル離れた場所にあるな」

 

「うそっ!!見ていない!!」

 

ほまれと守の言葉にルナは驚きの声を上げマロンが 

 

「なにぃ!!全員立て!!今すぐ見に行くぞ!!」

 

『イエッサー』

 

「随分息が合っているな」

 

「そうですね・・・・・」

 

息の合った行動に守とあかねが苦笑してそう言うのであった。そしてルナは補欠合格者発表の掲示板を見ると自分の受験番号が張られてあった

 

「あった‥‥ほんとうにあった!!」

 

「よかったね」

 

ルナは補欠とは言え、合格して居た事に桜良に抱き付いて喜んだ。

 

「ってか、補欠合格ってなに?」

 

若狭が補欠合格とは何かと尋ねると守は

 

「まあ簡単に言えば、合格者が辞退した時の穴埋めだな。繰り上がり合格が来れば学校から連絡が来るぞ」

 

「ほんと!?私にも希望が!ありがとう警備員さん!」

 

横須賀女子に入れるチャンスがあると知ったルナは守に礼を言う中、黒木は

 

「でも、、そうそう辞退者何て出ないと思うけどね‥‥」

 

「まあまあクロちゃん。無粋な事は言いっこなしでぇい」

 

黒木の言葉に麻論はそう制す。その言葉に黒木は喜ぶルナや友達を見て

 

「‥‥そうね」

 

と、ポツリとそう呟いた。その御ルナたちはもう一度守に礼を言い、マロンたちとともに帰ったのであった

 

 

 

 

あれから数日後、守は仕事の合間、休憩室で昼食のラーメンを食べているとスマホから着信が鳴る

 

「ん?誰からだ?」

 

そう言い着信名を見るとそれはマロンからであった。そしてその携帯の画面には『無事合格』と言うメッセージと嬉し涙を流している留奈と若狭、広田、桜良の四人の画像が添付されていた。

 

「そうか…合格したか。よかった」

 

そう呟くとまた別に着信が来る。それは真霜からであった。その内容は

 

『マーちゃん。ましろ、無事に合格したわよ』

 

と、ましろが無事横須賀海洋学校に合格したことを知らせるものであった。それを見た守は笑顔になり

 

「そうか・・・姉さん。無事に合格したか・・・・良かった」

 

と嬉しそうな顔をしているのであった。その時守は知らなかった。近いうちに守は自分の姉であるましろとそう遠くないうちに再会するということを

 

 

 

 

 



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the Memory

今回は守の回想シーンです


俺は夢を見ていた。それはまだ自分が幼い時のことだ。港で海上自衛隊服を着た父が母親に抱っこされた俺に

 

『守。父さん行ってくるから母さんと一緒にいい子で待っているんだぞ?』

 

と、優しく頭をなでる。ああ・・・・そうだ。これは父さんの乗るイージス艦みらいが、大演習に向かうんだったな。そして父さんはみらいに乗り母さんや俺に対し帽子を振り、父さんの乗るみらいは出航した。そしてしばらくした後、みらいが太平洋沖で失踪したという知らせが母さんのもとに来た。母さんは小さい俺に父さんは必ず帰ると笑顔で言ってはいたが、俺のいないところで泣いているのを俺は知っている。

父さんが行方不明になってから数年後、第三次世界大戦が勃発し、日本もアジアに侵出したナチスらテロリスト軍から祖国を守るため、参戦した。そして俺自身も家族の反対を押し切って軍に志願し、航空兵になった。

しばらくは横須賀にいたがすぐに激戦地である南太平洋のニューブリテン島ラバウルに派遣され、戦闘機部隊の一つ301戦闘隊に配置された。だが初めての基地に部隊の場所がわからずうろちょろしていたら・・・・

 

「あんたか?うちに新しく配属になった新人(ルーキー)っていうのは?」

 

声を掛けられ振り向くとそこには、肩までかかった少しボサボサした短い髪で、目はまるで狂犬のように鋭い自分と同じくらいの歳の女性が立っていた

 

「あ、はい!横須賀海軍航空隊から来ました森守准尉です!」

 

「ほ~横須賀か・・・・・ラバウルまで随分長い旅だったろ?」

 

「あ、いいえ・・・・・あの・・・・」

 

「ああ、自己紹介が遅れたわね。私はラバウル航空隊301戦闘隊の先任搭乗員であり小隊長の杉田清美軍曹よ」

 

「あっ!し、失礼しました小隊長殿!」

 

俺は慌てて敬礼すると杉田軍曹はやれやれと首を横に振りため息をつくと

 

「そんな硬くならなくていいわよ。階級はあんたの方が上だし・・・・まあいいわ。とにかくついてきなさい」

 

「あ、はい」

 

そう言い俺は杉田軍曹についていくと杉田曹長は

 

「・・・・・・で、あんた実戦の経験は?」

 

「えっと・・・・・模擬空戦を何度か」

 

「そんなの実戦経験とは言わないわよ。まあ本土に勤務している時点で実戦経験がないのはわかっていたけど・・・・・・」

 

「す、すみません・・・・」

 

「まあ、いいわ。これから戦い方覚えればいいし、覚えられなければ死ぬだけだからね。あんたここでやるからにはお遊び感覚じゃ駄目だからね。ここに居たいなら・・・・生きていたいなら技術を磨いて強くなりなさい。戦いの基礎くらいは教えてあげるから」

 

「あ、ありがとうございます軍曹」

 

軍曹は無表情っというより少し微笑みながらそう言う。怖い顔して実はいい人じゃないかとそのとき俺は思った。

そして宿舎に着くと軍曹が301部隊の隊員たちを紹介してくれたんだが‥…正直言ってめちゃくちゃ怖かった。なぜなら男も女のパイロットたちも皆ヤンキーというかヤクザみたいな感じの人たちばかりであったからだ。だが、みんな以外にもフレンドリーで優しく杉田軍曹も訓練や戦闘では厳しかったが、普段はフレンドリーな人でいつの間にか俺は301部隊に馴染んでいた。

杉田軍曹・・・・杉さんともだんだんと仲良くなり、そしてともに戦ううちに自信も生き残れるぐらいの実力が付いていた。

そして俺はある時、杉さんがものほんのヤクザと知った時は正直驚いた

 

「え!?杉さん!ヤクザだったんですか!?」

 

「ええ。浅草のヤクザの組長の娘よ。私自身もヤクザだと思っているけどね」

 

「へ~・・・・・・ところで杉さん。杉さんの小指、よくできていますね?」

 

「おい、なんで小指の無いこと前提なのよ?」

 

「え?ヤクザでも小指ある人いるんですか?」

 

「今どき指詰めなんて誰もしないわよ。私たちのトレンドはホチキスで瞼をバチー・・・・・」

 

「え・・・ええ・・・」

 

軽くドン引きすると杉さんはフフッと笑い

 

「ふっ、冗談よ。私自身ヤクザだと思っているけど。指詰めも入れ墨もまだやったことはないわ」

 

と、まあこんなたわいのない話をしていた。ほかの部隊の人たちは杉さんのことを『狂犬』、『歩く人切包丁』なんて言って怖がっている人はいたが俺自身はとってもいい人だと思っている。

そしてラバウルに配属になって数か月、俺も10機以上の撃墜を記録したころ、301部隊に新たな人が入ってきた。その人は俺に負けず劣らずの女性よりの顔立ちの少年で名を疾風村正少尉といった。

何でもナチスの最初の戦闘であるポートモレスビー港奇襲攻撃から今日まで戦ってきたベテラン搭乗員で、ラバウルに来るまでは空母飛龍に乗っていたということだ。彼が配属になり、疾風少尉の階級が上のため、301部隊は疾風少尉が隊長、杉さんは副隊長となり、俺は隊長機の列機の一つの三番機についた。そして301部隊も名が501部隊と改名し、引き続きラバウルで戦うことになったのだ。

杉さんは最初は疾風少尉に対し敵対心を抱いていたが、少尉と何度か模擬戦をするうちになぜか、彼のことを認めたのか気軽に話し合う仲になっていた。俺自身も少尉とは歳が近いこともあってか階級関係なしに話し、そして女性とよく間違えられるという同じ悩みを共感したときがあった。

 

「そうか・・・・お前も女性と間違えられるのか・・・・」

 

「はい。別にこの顔は嫌いではありませんが・・・・・」

 

「わかる・・・・俺もこの顔は嫌いじゃないがやっぱり性別間違えられるのはちょっとな・・・・・・昔。それで男性に襲われたことあったし」

 

「えっ!?少尉。大丈夫だったんですか!?」

 

「ああ、そいつの顔面ぼこぼこににして叩きのめしたからな」

 

「あははは・・・・・」

 

と、戦闘の無い時はよくこうして話していたもんだ。そしてラバウルに配属になって何十日たったがいろんなことがあった。

ある時の爆撃機迎撃の際、杉さん。疾風少尉、そして新しく入った中澤凪軍曹が出撃した。そのとき俺はインフルエンザに入り無理に出撃しようとしたが杉さんに止められ、杉さんたちを見送った。そして杉さんたちが傷だらけになって戻ってきたが、空戦の達人である疾風少尉が戻ってこなかった

 

「杉さん!小隊長は!?」

 

「わからない。乱戦の途中で見失った・・・・・・まあ、あの人のことだ簡単にやられる人じゃないよ」

 

疲れ顔で俺の肩を叩きそう言う杉さん。そして日が落ち始めたころ一機のゼロ戦が戻ってきた。疾風少尉の機体であった。だがその零戦は風防が割れていてそこから目をやられたのか酷い出血で大怪我を負った疾風少尉だった。少尉はフラフラの状態の中で司令に敬礼し

 

「た・・・・ただ今帰りました。ヒトヒトサンマル・・・・南洋の上空にて…敵爆撃隊と・・・・」

 

「も、もうわかった!早く医務室に行け!早く医務室に行きなさい!」

 

そう言われ小隊長は杉さんに抱えられて医務室に行くが怪我がひどく、怪我が直るまで一時期、本土に戻ることになった。

少尉が本土に戻った後も俺と杉さんは、毎日のように襲来するテロリスト軍の戦闘機や爆撃機との激しい戦闘などいろいろあった。

そして半年くらい後に疾風少尉が戦列から復帰し戻ってくると上から欧州奪還のため精鋭部隊を設立することになり、ラバウル航空隊から人員を選ぶという話が出て、その部隊の名には疾風少尉、杉さん。そして俺の名もあった。だが杉さんのことを快く思わない奴がいた。

そいつの名は篠原というやつで階級は大尉なのだが、実戦経験はなく士官学校から上がってきたやつで部下の手柄を自分の手柄にするなど、部隊からの嫌われ者であった。ある時、あいつは大声で杉さんを馬鹿にしているのを聞いた。

「海軍のつらい汚し」だとか「女のくせに」とか酷い暴言であった。俺はそれに我慢できずに殴りかかろうと思ったが、それだと意味がないと思い。俺は大尉に模擬空戦をするようにお願いした。

そして向こうは快く引き受けた。恐らく見せしめに痛めつけようとしたんだろう。そして大尉は零戦52型に対し、俺は予備装備の零戦21型に搭乗し模擬戦をした。

模擬戦の内容は飛行場の3000mで試合を行い、搭載されたガンカメラに姿を映せれば勝ちと決められていた。

そして高度三千での空中戦で俺と大尉の機体は巴戦をし5,6回回った瞬間、激しいGが襲う。そして大尉は巴戦の旋回によるGに堪えられなかったのかまたはブラックアウトしたのかは知らないが、動きが若干鈍ったのが見えすかさず背後に回り込んだ。

この時点で勝敗は決していたのだが、この時の俺は杉さんを馬鹿にした大尉にいまだに腹を立てており、腹いせに模擬弾の20ミリ弾を大尉の通信アンテナに向けて放ち圧し折った。

その時の大尉は見ものだった。あまりの恐怖で顔が青くなり基地に着いた後もガクブルっていた。そして模擬戦の結果に仲間たちに胴上げされ・・・・・だが、この模擬戦の後、俺に左遷命令が出た。何でもあの模擬戦で大尉に恨まれたらしく、そのせいか343に行く話は無しに成り代わりにソロモン諸島の最前線へと送られることになった。

杉さんと疾風少尉はその話を聞いて特に杉さんは俺を左遷へと陥れた大尉に殴り込みに行こうとしたほど怒っていたらしい、そしてその大尉は過去にいろいろやらかした問題が明るみとなり、本土に送られ軍法会議にかけられその後は不明となっている。

その後、俺はソロモン諸島への支度をし、杉さんと別れた。

 

「すまない森、こんなことに・・・・私のために」

 

「いいんですよ。私もあの大尉は嫌いでしたし後悔はしていません。むしろすっきりしています」

 

「そうか・・・・だが、一緒に戦えなくなるというのは本当に残念だ」

 

「大丈夫ですよ杉さん。俺はソロモンで頑張っていつかは杉さんのいる欧州へ追いついてみますよ」

 

「そうか・・・・・じゃあ、その時まで・・・」

 

そう言い杉さんは小太刀くらいの日本刀を取り出し俺に渡す

 

「杉さん。これは?」

 

「餞別よ。あんたも刀くらい持ちなさい。拳銃だけじゃ心もとないわ」

 

「でも、見る限りいい業物ですよ。俺にはもったいない代物です」

 

「どう。じゃあ預けるという形にするわ。どうしても返したければ早く欧州に来なさい。それまで楽しみにしているわ」

 

そう言い杉さんは振り向き宿舎へ帰っていった。そして俺は少し涙ぐみ

 

「ありがとう・・・・ございます・・・・清美さん」

 

その後、杉さんたちは欧州へ、そして俺はソロモン諸島の最南端にある島に配属になった。

その基地は水上機用の基地であり、零式水偵や瑞雲の水偵や強風や二式水戦などの水戦が配置されていた。

そして俺が選んだ機体は二式水戦であった。皆は強風をしていたが俺はなぜか二式水戦にした。はっきりとした理由はないが何か運命的な感じがしからだ。「そして俺はこの二式水戦であの世界に戻るまでずっとともに戦い続けるのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね。守君。急に呼び出して」

 

目が覚めしばらくすると真冬さんに呼び出される。何か仕事で問題があったのか心配だったが、雰囲気からしてどうやら違うみたいだ

 

「い、いいえ・・・・それよりも真冬さん。何の用ですか?」

 

「守君。あなたの乗っていた飛行機のことは真霜から聞いたわ。それであなたに頼みたいことがあるのよ」

 

「頼み事?」

 

「実は今回の海洋実習があることは知っているわよね」

 

「はい。それと俺に二式水戦・・・・・一体何の関係が?」

 

俺が首をかしげると真冬さんは

 

「実は守君にはその二式水戦と一緒に笠原諸島に行ってもらいたいのよ」

 

 

 

 

 

 

 

運命の歯車が今動き始める



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小笠原へ

「……え?小笠原に?」

 

守は真雪の言葉に呆気にとられる。そして真雪は頷き

 

「ええ、守君。私の学校は入学式の後に航海演習をすることは知っているわね」

 

「え?はい。知っていますけどそれと俺と小笠原、いったい何の関係があるんですか?それに二式水戦も」

 

「実はねその航海演習の集合場所が小笠原の西ノ島新島に集合することになっているのよ」

 

「・・・・・・まさか西ノ島上空で曲芸飛行をしろということですか真雪さん・・・いえ校長先生?」

 

守がそう訊くと真冬はそうだと言わんばかりににっこりと笑う。それを見た守は

 

「あのですね校長先生。ただの演習に飛行機を出す必要があるんですか?」

 

「これといって意味はないわ。ただ・・・・・」

 

「ただ?」

 

「守君。あなたはそろそろましろに会うべきだっと思ってね」

 

「っ!?」

 

その言葉に守は驚く

 

「あなた。このままではおそらくずっとましろに会わないままだと思うの。もしかしたら6年前みたいに突然元の世界に戻ってしまう可能性だって否定できないわ」

 

「それは・・・・・・」

 

確かに真冬の言うことにも一理ある。守自身もましろに会うタイミングがつかめずかといって堂々と会う!なんてそんな器用なことはできなかった。それに自分は6年前と同じなぜかこの世界に転移していた。もしかしたらまた6年前に前触れもなく元の世界に戻ってしまうことも否定できなかった。

真雪はそうなる前に早く守をましろに合わせる必要があった。そして真冬は守に二式水戦を使って合同演習という名目でましろに合わせるというふうに考え提案したのだ

 

「ですが二式水戦は一応はブルーマーメイドの管轄で勝手に動かしても大丈夫なんですか?」

 

「それなら真霜と話し合ったわ。小笠原の父島にはブルーマーメイドの補給基地があるわ。だから守君はブルーマーメイドの新型機の飛行試験のついでに横須賀海洋学校の演習に参加する・・・ということにしたわ。真霜もそれがいいって同意していたしね」

 

「随分と無理やりですね・・・・・」

 

「私自身もそう思っているけど、仕方ないわ。・・・・・で守君。後はあなたの判断に任せるわ」

 

「・・・・・・・」

 

真雪の言葉に守は考える。もしこれを断れば自分はいつ姉であるましろに会えるかわからない。もうそろそろ潮時かもしれない。そう思った守は決意を固め

 

「わかりました。小笠原での航海演習の参加。引き受けます」

 

海軍式敬礼をする守。それを見た真雪は微笑み

 

「あなたならきっとそう決断すると思っていたわ守君」

 

「はい。校長のおかげでやっと決断できました。それで航海演習はいつごろに?」

 

「入学式の4月6日からよ。それで小笠原の集合地点に着く予定時間は7日になっているわ

 

「う~ん。今から半月後ですか・・・・・わかりましたではその日に伊豆大島から出発します」

 

「伊豆大島?横須賀からはいけないの?」

 

「二式水戦の航続距離は1150キロ。ここから小笠原までは1000キロ。ギリギリです。万が一のことも考えて少し手前の伊豆諸島から飛びだちたいと思います。さすがに二式水戦を小笠原に運ぶためにブルーマーメイドの船を使うわけにもいきませんし、それに機体が長距離で順調に飛べるか試したいので」

 

「わかったわ。じゃあ、お願いね守君。真霜には私が言っておくから」

 

「了解。では失礼します」

 

そう言い守は敬礼して部屋を出ると入れ違いで古庄教官が入ってくる

 

「校長失礼します。例の件ですが・・・・・」

 

「ああ。西ノ島の海洋生物の研究員を乗せる話ね。それなら向こうと話はつけてあるわ。ごめんなさいね演習で忙しいのに」

 

「いいえ、構いません校長・・・・・・それで森君はあの話を受けたのですか?」

 

「ええ。嬉しそうにしてたわよ」

 

「そうですか。それはよかったです。私自身も森君のことが心配でしたので」

 

「そう言えば古庄先生は守君の勉強を見ていたんですよね?」

 

「はい。時間が空いたときによく・・・・・それにしても驚きました」

 

「何が?」

 

「実は・・・・・」

 

そう言い古庄教官は数枚の書類を真雪に見せる。すると真冬は驚いた表情をする

 

「実は勉強を教えるついでに軽く彼にテストを出してみたんです」

 

「このテストの点数・・・・・本当なの?これは横須賀女子どころかブルーマーメイドの国家試験に出すほどの難問ばかりなのよ?なのにこの点数。全問正解しているわ」

 

「ええ、私も正直驚いています。それに戦闘時の指揮のシミレーションもしてみたんですが文句なしの戦術でした。これがその結果です」

 

「すごいわ・・・・・砲雷戦の基礎もしっかりできているし、何よりこの空から攻撃への対処法をまとめたレポート。下手をすれば今までの戦い方が一変するわね」

 

「ええ。私もこのレポートを見た時は驚きました。今までは砲撃か雷撃しかなかった戦法しかなかったので空からの攻撃について書かれたレポートを見た時は正直驚いています。もし飛行機が大量生産され、実戦に参加すれば戦艦など砲撃が主力の時代は終わるかもしれません。特にこの輪形陣なる陣形は理にかなっています。聞けば彼は戦闘機・・・・つまり飛行機という空飛ぶ乗り物で小隊長を務めていたと言っていたのもあながち嘘ではありませんね」

 

「ええ・・・・これはパンドラの箱ともいうべきレポートね。これ誰かに見せた?」

 

「いいえ。校長だけにです」

 

「そう・・・・・一応このレポートは私が預かっておきます」

 

「わかりました。では私はこれにて失礼します」

 

そう言い古庄教官は部屋を出るのであった。そして部屋に残された真雪は先ほど古庄が渡した守の書いたレポートを見ていた。それには艦隊戦のレポートのほかに『航空機による艦船への攻撃法』や『航空機からの攻撃からの防衛法』などが書かれていた。特に真冬が見たのは航空機による攻撃法だった。そしてその文章には『大和型戦艦の攻撃例』と書かれていたものだ。その文章には守のいた世界の第二次世界大戦で米軍がレイテ、沖縄戦で大和、武蔵を攻撃したときの細かい戦法が書かれていた。それを見た真雪は

 

「まさか・・・・あの大和がそんな戦法でやられるとはね・・・・・いえ、もしこの世界にも航空機があってその戦法が使われたら・・・・・大和級といえども」

 

真冬はそのレポートを見て冷や汗をかくのであった

 

 

 

 

 

 

一方、守はというと

 

「はあ・・・・・ましろ姉さんにやっと会えるのか」

 

守は6年ぶりに会えるましろとの再会を楽しみにしていた。ほかの物から見ればそんなのを待たずにさっさとましろの家に行けばいいのにと思う人がいるかもしれないが、やはり守はましろに会うのにどことなく躊躇していた。やはりまだ完全に過去に犯したことのことできっかけがなければ会えないという感情があったのだろう

 

「それにしても小笠原か・・・・・・始めて行くけどどんな島かな・・・・・」

 

警備員の服に着替えて、いつも通りに学校の周りを見回りする。守は小笠原に入ったことがなかった。守が行くはずの小笠原の父島にはブルーマーメイドの補給基地があると聞いたとき、守は

 

「父島か・・・・なんだろう。何か懐かしいというか不思議な感じだな」

 

と独り言を言う。父島といえば守のいた世界では海上自衛隊の父島分遣隊がいる島だ。もしかして自分の父のいた海上自衛隊がいた基地と同じ島だからそう思ったのだろうか、守にはわからなかった。ただ小笠原と二式水戦と聞いたとき守は何か変な運命じみたものを感じていたのだ

 

「ま、考えてもしょうがないか。それよりも仕事仕事。不審者が入らないように見回りしないとな」

 

そう言い守は仕事に戻るのであった

 

 




ちょっと無理やりでしたが何とか投稿できました


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最期の休日

あれから数日後、小笠原に行くまであと1日となった。この日まで俺はいつも通りに警備員の仕事をしていた。昼の仕事もそうだが夜勤での仕事もだ。正直言って夜勤の仕事は少し怖かったな。嫌だって、夜の学校ほど怖いものはないでしょ?薄暗いし不気味だし昼間とは違う印象で何か出るんじゃないかと少しビビりながら仕事をしていた。

そして少し時間の空いたときにはブルマーの格納庫に行って二式水戦の整備をしていたりする。基本整備は向こうがやってくれているのだけど、ナツオ整備長曰く『飛行機の整備は整備士だけに頼るんじゃねえ。自分の相棒はちゃんと自分で見てやんねえと飛行機はお前の気持ちには答えてくれないぞ』だ、そうだ。やはり長年、戦闘機や爆撃機の整備のしている人の言葉は違うな.あのとき俺はそう思った。

おっと、話が逸れました。俺は今この仕事での最後の休暇を取っていた。明日になれば俺は小笠原に行き二週間、海洋学校の航海演習に参加することになっているからだ。本当は先日だからちゃんと仕事をしたかったのだが、真雪さんや古庄先生、警備員の先輩である美鈴さんから

 

「あなたはたまには休むというのを覚えなさい」

 

とはっきり言われた。俺ってそんなに働きすぎかな?まあ休憩時間に事務室の掃除をしたりとかしていたけど、それで働きすぎというのもおかしな話だ。それとも俺の方がおかしいのかな?まあ、それはさておき俺は強制的に休みをもらい。どうしようかと考えていた。倉庫に行こうとしたんだが、平賀さんたちにも

 

『守君は働きすぎだから明日に備えて休んでください!』

 

と、言われてしまい。どうすればいいか部屋で小笠原までの最短コースを計算しながら考えていた。すると携帯が鳴り

 

「ん?だれだろう?」

 

俺は形態をとり開いてみると相手は真冬姉さんだった

 

「もしもし姉さん?どうしたの?」

 

『おお、守。元気にしているか?』

 

「ああ。元気いっぱいさ」

 

『そうか。それはよかった。でだ。守。今日お前暇か?』

 

「ああ。今日休暇で。どう過ごそうか悩んでいたところだよ」

 

『そうか。それはちょうどいいな。実は私も今日は休暇でな久しぶりに姉弟一緒にどこか出かけないかって思ってさ。ましろに声かけたんだが…ああ、守のことは言っていないぞ。でさ、全然相手にしてくれなくてよ。だから守に声かけたんだよ。ダメか?』

 

「いいや。問題ないよ」

 

『そうか。じゃあ、今からそっちに迎えに行くから』

 

「ああ、わかった。じゃあ校門で待っているから」

 

そう言い俺は私服に着替えて部屋を出る。そして学校を少し出たところにあるガードレールで待っていると

 

「おう!守!!」

 

そこへ真冬姉さんがラフな私服でやって来た。

 

「すまない待たせたか?」

 

「いいや。今来たばかりだよ姉さん」

 

本当は40分待っていたが、守は黙っていた。

 

「よし!じゃあ行こうぜ守!今日は姉ちゃんがこの街を案内するぜ・・・・・といいたいけどお前のことだからもう回っているよな?」

 

「一人だけな。でも姉さんとならどこだって楽しいよ。久しぶりの姉弟で街を歩くのも悪くないよ」

 

「お~そう言う生意気なこと言うようになったなこいつめ~」

 

「ちょ、やめてくれよ真冬姉ちゃん!!」

 

と真冬に頭をぐりぐりされる守だがそんなまんざらでもなくほかの人から見ればじゃれ合っているように見えた。そしてしばらくそんなやり取りがあった後、二人は横須賀の町を歩いた。

 

「へ~守。お前、拳法と空手が得意なのか」

 

「うん。軍学校でよくやっていたんだよ。まあそれ以前にそう言う武術に興味があったから」

 

「へ~じゃあ、今度手合わせしてくれよ。姉ちゃんも空手はできる方だぞ。こう海賊をバンッ!ドカッ!って倒したことあるんだぞ?」

 

「ああは・・・遠慮するよ。それに俺の武術は護身用だし・・・・・」

 

「アハハ!そうか。それは残念だ」

 

と二人は楽しそうに街を歩き回った。ある時は商店街で

 

「おっ!この店懐かしいな~覚えているか守。小さいころよくシロと一緒に言っていた」

 

「ああ・・・・あの駄菓子屋さんだ・・・・・懐かしい。そう言えばよくましろ姉さんと一緒にアイス食べたっけな」

 

「そうそう。あっ!そうだ覚えているか?お祭りがあった時シロのやつがお前にいいところを見せたくてお小遣い全部はたいてくじをやったけど全部外れた時のことを」

 

「うん。はっきり覚えているよ。それで俺が一回やった時に当って、姉さんの面目潰しちゃったあの時は姉さんに悪いことをしたって思ってるよ・・・・・」

 

「も~そんなこと気にするなって!それにシロはそんなこと気にしていないと思うぞ?お前は少し気にしすぎだ」

 

「すまない・・・・」

 

そしてとある雑貨屋では

 

「ねえ真冬姉さん」

 

「なんだ守?」

 

「俺子供のころから思っていたんだけどさ」

 

「うん?」

 

「なんで雑貨やってパズルとか置いてあるんだろ?」

 

「・・・・・・そう言えばそうだな?」

 

とある喫茶店

 

「へ~その杉田って人。すごいんだな?100人以上の相手を素手で叩きのめすなんてな」

 

「ああ、杉さんの暴れっぷりはラバウル部隊でも有名でさ明あから狂犬って呼ばれてた」

 

「へ~大丈夫だったのか?ひどい目にあわされなかったか?」

 

「いいや。杉さんは噂で聞くほどの悪い人じゃないよ。とっても優しくて。まあ訓練の時は厳しいけど、それは仲間が生き残るためのことだった。厳しい反面誰よりも仲間のことを大切に思っていたいい人だよ・・・・そうだ写真がある」

 

そう言い守はスマホから一枚の画像を出す

 

「俺がソロモン諸島へ行く前に撮ったものだよ」

 

「これが杉田さんか・・・・若いな。いくつぐらいだ?」

 

「俺より一つ年上だった。そして撃墜数は日本の女子戦闘機乗りでは最多の記録を持っていたよ」

 

「ということは16,7歳か・・・・・ちょうど私が海洋学校の学生だった頃に戦争を・・・・すごい人なんだな」

 

「ええ、俺にとって師匠のような人でしたよ・・・・」

 

「そうか。いい先生にあったんだな。守は」

 

俺が懐かしそうに言うと真冬は微笑ましく見ていた。そして二人は喫茶でコーヒーを飲んだ後、二人は店を出て、買い物だとか、ゲームセンターで格ゲーをやって守が圧勝して真冬が悔しがったり、ある時、守はましろや真霜のためのお土産としてケーキを買ったりなど、様々だ。そしてその時、真冬は気が付いた。今まで硬くそして悲し気だった守の表情が昔みたいにや若くそして穏やかで優し気な年相応の少年の顔に

 

「守・・・・・やっぱり守はその表情が一番だな」

 

「・・・え?」

 

「いいや。何でもないよ」

 

そう笑顔で言う真冬。そして夕暮れの時最後に二人が来た場所は港が見える丘であった。そこは6年前よく真霜や、ましろたちとよく一緒に行って遊んだ思い出の場所であった

 

「やっぱり・・・・ここの景色は好きだな。子供のころに戻った気分だよ」

 

「そうか・・・・なあ、守。明日お前、小笠原に行くんだってな。ましろに会いに・・・・」

 

「ええ、二式水戦の本格的なテストも含めてね」

 

「いけるのか?伊豆大島から小笠原まで結構遠いいぞ?姉ちゃんがべんてんで小笠原に送ってやろうか」

 

「いや。大丈夫だよ姉さん。伊達にラバウル時代で長距離飛行しながら戦っていたわけじゃないからな。問題ないよ。でも少し心配なことがある」

 

「心配?何がだ?」

 

「ましろ姉さんのことさ。6年前別れも言わずにいなくなっちまった俺は一体姉さんになんて声をかければいいのかって思ってね・・・・・まあ、それ以前に怒られるとは思うけど」

 

「確かにビンタされる覚悟はしとけよ守」

 

「ああ」

 

そう言い二人はしばらく、夕日を眺めそして真冬は守を学校の校門のところまで送った

 

「じゃあ、守。明日頑張れよ」

 

「ありがとう真冬姉さん・・・・・・あ、そうだこれ」

 

そう言い守は先ほどケーキ屋で買ったケーキの入った箱を真冬に渡す

 

「真霜姉さんやましろ姉さんたちへのお土産。特にドルフィンケーキはましろ姉さんの好きなやつだからくれぐれも前みたいに全部食べないでよ姉さん」

 

「あれ~そうだった気?」

 

「前にましろ姉ちゃんが楽しみにとっておいたおやつ姉さん平らげたでしょ?」

 

「アハハ!そう言えばそんなことあったけな。わかったよ。そんなことしないから安心しろ」

 

「そうか。それなら安心だ。じゃあ。姉さん。俺はこれで」

 

「ああ。明日の航海演習頑張れよ守。それとましろによろしくな」

 

守は海軍式敬礼をして、真冬は守の頭を少し撫でた後、返っていき、そして守も明日に備えて部屋へと戻るのであったがこれが最後の休暇になるとはこの時、守はまだ知らなかった

 

 

 

 

 

 

宗谷家

 

「姉ちゃん。帰ったぜ~。あ、これお土産な」

 

「あら、真冬。お帰り・・・・・あら、ケーキ。気が利いているわね・・・・・・で、真冬?」

 

「ん?なんだ真霜姉?」

 

そう言うと真霜は真冬に近づき・・・・

 

「マーちゃんとの買い物・・・・・楽しかった?」

 

「え!?ね、姉ちゃん。なぜそれを!?」

 

「マーちゃん楽しそうだったわね~喫茶に雑貨屋にゲームセンターに駄菓子屋・・・・本当に可愛いくらいに」

 

「・・・・・まさか!?」

 

そう言い真冬は守に内緒でこっそり小型カメラで撮った写真を確認すると・・・・画面の遠いところにちゃっかり真霜がうつっていた。しかも顔は笑っても目が笑っていない顔で・・・・・・

 

「真冬~」

 

「は、はい!!」

 

「なんで私も誘わなかったのかな~私も非番だったのにね~なんでだろうね~?」

 

「ええっっと・・・それは・・・・姉ちゃんきっと疲れているからって思ってな・・・」

 

「私はマーちゃんとお出かけなら、別に一緒に行ったわよ~ねえ、真冬」

 

そう言い。真冬の肩にポンと手を置く。その瞬間真冬の顔は強張り、そして・・・・

 

「真冬・・・・・抜け駆けはダメだからね」

 

「は・・・・はい」

 

「分かればよろしい。さ、ましろも呼んでマーちゃんが買ってくれたケーキを食べましょ」

 

真霜がそう笑顔でそう言い、その後、真霜は二階にいるましろを呼んで三人でケーキを食べたのだった(ましろには守のことは秘密にして)。

 

「ほら、シロの好きなドルフィンケーキだ」

 

「ありがとう姉さん」

 

真冬からケーキを渡されたましろは嬉しそうにドルフィンケーキを食べていた。すると

 

「(・・・・・・あれ?私がドルフィンケーキが好きだってことは姉さんは知らないはずだ。知っていたのは守だけのはずだ・・・・・・それともただの偶然なのかな?)」

 

そう疑問に思いながらましろはケーキを食べるのであった



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さらば横須賀よ

翌日の明朝、横須賀海洋女子の入学式当日、守は小笠原へ向かうため荷物を整えていた。そして服に着替え階段を降りる。ここを離れるのも少し寂しい気がするが、ほんの少しの間だけ留守にするだけだ。すぐに戻ってこれる。

そして俺は校門の前に行くと

 

「zzzz~」

 

俺と交代で警備員をしている美鈴さんが門の前に立ったまま居眠りしていた。本当にいつものことながらちゃんと仕事をしてほしいと正直に思った。俺は軽いため息をついて

 

「美鈴さん・・・・美鈴さん起きてください」

 

と声をかけるが彼女は鼻提灯を出しながら寝ていた。

・・・・・仕方がない。こうなれば奥の手だ

 

「・・・・・・・あ、校長先生」

 

「ふぁ!!??む、宗谷校長!?お、起きてます!私は起きてますから解雇処分だけはご勘弁を!!」

 

鼻提灯が割れると同時に美鈴さんはまるでギャグマンガに出てきそうな表情をし慌てて言うと・・・・

 

「・・・・・あ、あれ?守君?」

 

「おはようございます美鈴さん」

 

美鈴は目をぱちくりさせ俺を見て俺は微笑みながら美鈴さんを見ていた

 

「あ・・・・あの・・・・宗谷校長は?」

 

「え?俺しかいないよ。それよりまた居眠りですか?もし校長先生や古庄先生が見たら美鈴さん、怒られますよ?」

 

「アハハハ・・・・・それは勘弁ですよ。守君くれぐれも校長先生には・・・・」

 

「わかっていますよ。美鈴さんにはいつもお世話になっているので、目をつむりますよ」

 

「ごめんね。後で埋め合わせするから」

 

「では、いつか一緒にラーメンでもどうですか?最近美味しいラーメン屋ができたって聞いたので」

 

「あ、それ私も聞きました。では今度互いに休日が合いましたら食べましょう」

 

と、二人は楽しそうに話す。そして美鈴さんは

 

「ところで森君はもう伊豆大島に出発するのですか?」

 

「はい。出発前にいろいろ点検とかもしなくてはいけませんので」

 

「そうなの・・・でも今日は入学式だから、お姉さんに会いに行けばいいのに」

 

「大丈夫です航海実習の集合地点である小笠原で会う予定になっていますんで。まあちょっとしたサプライズですよ」

 

「そうですか?直接会ったほうがいいと思いますが・・・・まあ、守君にもいろいろと都合があるんですね?」

 

「まあ、そう言うことです。それじゃあ、行ってきます」

 

「はい。ではお気をつけて守君」

 

「はい。では行ってきます」

 

そう言い二人は敬礼しあうと守は学校を出るのであった。そして守は、水上スキッパーのある港に行く。二式水戦は昨日、伊豆大島にあるブルーマーメイドの格納基地に移動していたからだ。そして守は水上スキッパーに乗り、伊豆大島まで向かった。

 

「止まりなさい!あんたは誰!!」

 

伊豆大島の岸沿いでブルーマーメイドの職員がスキッパーでやって来た守に声をかけると、守は胸ポケットから身分証を取り出し見せる。因みに守は真霜の計らいでブルーマーメイドの臨時隊員の資格をもらっている。職員はその身分証を見ると

 

「わかりました。ご苦労様です」

 

と、そう言うと守は敬礼し先に進み、スキッパーから降りると、

 

「やあ、守君。来たね」

 

そこへ夕張さんがやってくる

 

「どうも。夕張さん。さっそくで悪いけど俺の二式水戦の方は?」

 

「ばっちりよ。あ、そうそうあんたの機体に取り付けた60キロ爆弾、そのままにしといたわ」

 

「え?何でまた?」

 

「海上安全委員会の堅物連中が『海賊が出た時にでも使ってくれ』だとさ。全く意味が分からないわよ」

 

「確かに、海賊に遭遇したら、無線で知らせればいいし、動きを止めるにも機銃使えばいいだけですからね。まあその海賊船が装甲艦だったら別ですけど・・・・・こちらの海賊ってそんなのなんですか?」

 

「いいえ、普通の海賊なら漁船をよそってやるわ。仮に装甲艦なんかで動いていたら即バレるは連中もそこまで馬鹿じゃないわよ。守君のいた世界の海賊とか密漁船は?」

 

「こっちと同じ漁船に機銃付けた程度の船ですよ。まあ、あのテロリスト戦争で本格的な軍艦使っていたナチスらのテロ軍団は別ですけどね・・・・」

 

「アハハ・・・・できればそう言う相手とは戦いたくはないね・・・・・さて、守君。二式水戦のところに案内するよ。場所はここから反対方向だから車で行くよ」

 

そう言い俺は夕張さんについていき、そして夕張産の用意したパジェロに乗る。そしてしばらくして島の反対側に着くと、海岸の砂浜の浅瀬に二式水戦が置かれていた

 

「二式水戦だ・・・・」

 

久しぶりに見る愛機に守はパジェロから降りて二式水戦へと向かう。そして夕張が

 

「燃料は満タン。機銃も全部補充しといたわ」

 

「すみません。なにからなにまで」

 

「いいのよ。私も結構面白かったし、あ、そうだ」

 

そう言い夕張さんは一般パジェロに戻りトランクから何かを出すと

 

「はい。これ、真霜から預かっていたものよ」

 

そう言い、夕張は守にあるものを渡す。それは守の着ていた飛行服と帽子とゴーグルだった。ほかには守の愛用していた刀と拳銃も一緒だった。そして守は一枚のメモ用紙を見つけ内容を読むと

 

『マーちゃん。飛行服直しといたわ。後、護身用に刀と拳銃も返すけど、絶対に間違ったことに使わないでね』

 

と書かれていた。それを見た。守は頷き、拳銃をホルスターに入れベルトに着け、そして刀はいったん抜いて刀身を見る。しばらく守は刀を見ると鮮やかでまるで時代劇のサムライのようにきれいに素早く刀を鞘に納める。その様子を見た夕張は思わず拍手する。

そして守は

 

「では、夕張さん。小笠原諸島父島まで行ってきます」

 

「うん。気を付けて行ってね」

 

「はい」

 

そう返事をし、守は二式水戦に乗り込む、そしてエンジンをかけ守は計器類を全部チェックし異常はないかを確認し次にフラップの動作チェックをし、異状ないかを確認が終わる。そして守は開いた風防を閉じて、スピードを出す。そして速度の出た二式水戦はどんどん水面から離れていき、飛び上がるのであった。その様子を見た夕張は口笛を吹き

 

「ひゅ~あっという間に飛んでっちゃったわね。さて、私は真霜に守君が飛びだったことを伝えなければね」

 

と、そう言いその場を後にするのであった

 

 

 

 

 

「さ~ら~ば横須賀よ~また来るま~で~は~」

 

空に飛びあがった俺はラバウル小唄の替え歌を歌いながら空を飛んでいた見渡す限りの青い海に青い空、白い雲がポツンポツンと浮いていて風はない。まさに飛行機を飛ばすのにはもってこいの日和だ

 

「さてと・・・・・父島までは数時間ってところか・・・・・」

 

俺はスマホで現在位置を見て進路を確認する。この世界では衛星がないため俺のスマホに搭載されているGPS は使えない。だが、この世界では気球を利用したそれに近いものがあり、そのアプリを使ってそれを頼りに飛んでいる。まあ使用できなければ昔ながらの方法でコンパスと地図を使えばいいだけなんだけどな。

 

「よし、今のところは順調。計器、燃料も問題なし」

 

俺はそう言い時刻を見る

 

「もうそろそろ入学式が始まるな・・・・・・・」

 

俺はポツリと呟く。本当は入学式を覗いてから言ってもよかったのだが、やっぱり、そこはサプライズだからな・・・・・

 

「・・・・ましろ姉さん。入学式で何か起きなきゃいいんだけど」

 

俺は姉さんのことを考えた。姉さんは何かと運が悪い。うっかりバナナの皮踏んで海に落ちなきゃいいんだけど・・・・・

 

「いや、さすがにバナナの皮はないか・・・・ギャグマンガじゃあるまいし、そんな都合よく滑って落ちているわけないしな」

 

やれやれ俺としたことが下らないことを考えてしまった。あのしっかり者の姉さんだ。もう自力で不運に打ち勝っているだろうな。そう思いながら俺は小笠原へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

一方、その頃横須賀女子海洋学校では・・・・・

 

「はぁ~入学早々ついてない」

 

学校のシャワー室の脱衣所でましろが髪をドライヤーで乾かしていた。数分前にましろはあることで海に落ちてしまったのだ。するとドアが開きそこからツインテールの少女、明乃が入ってきた

 

「下着と制服乾いたよ。此処に置いておくね、プレスもしておいたから」

 

明乃が制服と下着を渡すと、真白は恨めしそうな目で明乃を睨む。実は彼女が海に落ちた原因は彼女が一枚かんでいるのだ

 

「でも、よかった入学式には間に合いそうだし‥それにしてもバナナの皮って本当に滑るんだね、驚いちゃった‥アハハ‥‥」

 

自分の落としたバナナの皮のせいで責任を感じた明乃は明乃なりのフォローを入れるが、

 

「着替えるから出てってくれないか?」

 

「あっ、ゴメン」

 

明乃は慌てて脱衣所から出るが、一度、顔を出して、

 

「折角同じ学校になったんだから、これからよろしくね」

 

と、そう言い出て行った。それを見たましろは制服に着替えると

 

「はぁ・・・・・・ついていない・・・・・・・いや」

 

と、そう言い彼女は守と同じ小さなペンダントを取り出し開くとそこには幼いころに撮ったましろと守の写真が張られていた

 

「・・・・あのころに比べればまだマシかな」

 

そう言うとましろがギュッとそのペンダントを握り胸に抱きしめると

 

「守・・・・・守。お前は今どこにいるんだ・・・・・お前に・・・・会いたいよ」

 

と、少し悲しく今にも泣きそうな声でそう呟くのであった・・・・・

 

 



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守、父島に到着と異変

伊豆大島から飛び立って数時間後、ここ小笠原諸島父島に一機の戦闘機が着水した。彼の乗る戦闘機が降り立った父島はブルーマーメイドの船が何隻も停泊し、その島には島民のほか多数のブルーマーメイドの職員たちもその島に駐在していた。

海岸岸に止まった二式水戦を複数のブルーマーメイドの職員たちが出迎えた。

守は二式水戦から降りると彼女らに敬礼する。そして先頭に立っていた職員も返礼し

 

「ブルーマーメイド父島分遣隊所属の竹井醇子二等監察官です」

 

「森守です。少しの間お世話になります竹井監察官」

 

飛行帽を脱ぎ彼女にそう返事をする守

 

「話は横須賀女子の宗谷校長及び、宗谷一等監察官からうかがっております。ようこそ父島へ」

 

「ありがとうございます」

 

と、二人は互いに握手すると竹井は

 

「長い飛行時間お疲れさまでした。さ、中へどうぞ」

 

「ありがとうございます・・・・・あの・・・その前に」

 

「え?」

 

守は後ろに置いてある二式水戦を見て、それと同時に竹井も二式水戦を見ると・・・・・

 

「すごーい。本当にこれが噂に聞いたヘリウムを使わないで飛ぶ乗り物なのね~」

 

「うん。飛行船より速かったね~」

 

「あたしも乗って操縦してみたいな~」

 

と若いブルーマーメイドの職員たちが守の乗っていた二式水戦をまるで子供は珍しいおもちゃを見せられたような無邪気で興味津々の表情で見ていて、中にはべたべた触る人もいた。その様子に困惑した表情の守を見た竹井は

 

「わかったわ。なるべく触らせないようにするから」

 

「助かります。下手に触って壊されるのは困りますので・・・・・・」

 

守は竹井に礼を言い竹井はその後、職員たちに二式水戦をあまりべたべた触らないように注意すると守を施設に案内するのだった

 

「どうぞ守君。コーヒーです」

 

「ありがとうございます」

 

施設の二階で竹井は守にコーヒーを持ってきて。守はコーヒーを飲むと竹井は

 

「それにしても・・・・・」

 

「ん?なんですか竹井さん?」

 

「あの…飛行機でしたっけ。話を聞いたときは信じられませんでした。窒素やヘリウムを使わないで飛ぶ乗り物なんて。今までは空想上の産物だとばかり思っていましたが・・・・」

 

と、外の窓に映る二式水戦を見てそう言うと守は

 

「気持ちはわかります。私も車や戦艦が空を飛ぶと聞いたら夢物語のように感じますからね」

 

「それよりも守君。少し疲れていない?朝早く飛んだって聞いたけど?」

 

「ええ、出発してから二時間ちょい・・・・硬い椅子にずっと座りっぱなしの操縦はちょっと気疲れしましたが、ほんのちょっとだけですので問題はありませんよ。むしろ空の散歩を楽しむことができましたよ」

 

守のいた世界では、敵の襲撃を警戒しながら飛んでいたため、その時のプレッシャーに比べれば、航空機も敵機もないこの空での飛行はなんもストレスもなく。むしろゆっくりと海やきれいな空を見ながらの遊覧飛行が楽しめてラッキーだと思っていたのだ。

 

「そうですか・・・・・・守君。話は聞いていますけど今後の予定は?」

 

「予定では、明日の明朝近く、海洋実習の教育艦である猿島がここから数キロ先の西之島新島沖にて集合、その時その教官である古庄教官からの連絡で、父島海岸を出発、その後、集合地点の西之島新島沖上空にて海洋実習に参加する学生艦の上にて曲芸飛行を実行し、その後、猿島のそばにて着水し、猿島に搭乗し、7日間ともに実習に参加し、燃料補給をしたのちに横須賀に帰還・・・・・・一応が横須賀女子、ブルーマーメイド双方で決められた予定です」

 

「そうですか。お姉さんに会えるといいですね?確か航洋艦晴風に乗っているんですね?」

 

「ええ真雪さんの話によればですが・・・・(まさか陽炎型駆逐艦に乗っているとはな・・・・あの船には海上に墜落したときはいろいろ助けて貰たっけ)」

 

と、そう言うと守はそばに在った折紙を見つけ何かを折り始める。それを見た竹井とその場にいた先ほどの若い職員たちは首をかしげる

 

「何をしているの森君?」

 

「見ての通り折紙ですよ。気分を転換させるのにちょうどいいんです」

 

「へ~で、何を折っているの?折り鶴?」

 

「ははは…そこまで器用じゃありませんよ。俺が作るのは・・・・・」

 

隊員の言葉に守はあるものを作った。それは・・・・・

 

「よし、できた」

 

「守君・・・・ナニコレ?」

 

「初心者マーク?」

 

「違いますよ。これは紙飛行機です」

 

「「「紙飛行機?」」」

 

守が作ったのは紙飛行機だった。しかし紙飛行機を見たことがない職員たちは首をかしげるが

 

「ほら、こうやって・・・・・それ!!」

 

「「おおっ~!!」」

 

守は紙飛行機を投げると紙飛行機は落下せず悠々と空を飛ぶ

 

「すごい飛んだ!」

 

「紙なのにすごい!!」

 

と、驚くと紙飛行機は外の窓から吹いた風に飛ばされ窓の外へと飛ぶ

 

「ああっ!?紙飛行機が!!」

 

そう言いブルマーの職員たちが紙飛行機を追い窓の外へ見ると紙飛行機は地面に落ちていた。するとそこへ掃除係の人がやってきて箒で紙飛行機を履き塵取りの中に入れてその場を去っていた

 

「ああ、待っておばさん!それはゴミじゃないよ!!」

 

「そうよ!それは紙飛行機といって・・・・・」

 

慌ててそう言うが守は彼女らのそばに来て笑い

 

「大丈夫です。作り方教えますから」

 

と、そう言いその後、守は彼女らに紙飛行機の作り方を教え、少しの間、交流会となった。

その後守は明日に備えて二式水戦の軽い整備をしたのちに、早くに寝ることにした。

その時守はある夢を見た。

そこは自分が停泊している父島だ。だがその父島にある設備にはテレビアンテナがなく古い建物がありそばにはかなり古風な貨物船が止まっていた

 

「これは・・・・一体?」

 

守が疑問に思っていると突如どこからかエンジン音が聞こえた。守がそこを見ると父島上空に三基の飛行機が飛んでいたそのうちの二機は二式水戦。しかしもう一機はその時代にそぐ合わない双発のヘリコプター。真っ白い胴体で日の丸が付いており胴体には海上自衛隊の文字がついていた。そのヘリはまるでコブラにオスプレイの翼をつけたようなヘリであった。確かあれは・・・・

 

「海鳥・・・・・・海自の海鳥だ。なんで海自のヘリが二式水戦に追われているんだ?」

 

そう思っていると

 

『佐竹一尉!背後の射線を狙っています!!』

 

「え?」

 

突如ヘリから男性の声が聞こえた。その声に守は聞き覚えがあった。その時、二機のうちの一機がヘリに向かって発砲した。

 

『くそっ!撃って来やがった!!右急旋回!!』

 

了解(ラジャー)!』

 

もう一人の男性の言葉に返事をすると海鳥は右急旋回をして洋上に誘い込もうとする、すると

 

『佐竹一尉!もう一機の姿が見えません!!ロストしました!』

 

『上だ!太陽を背にしている!!』

 

その言葉に守は上を見ると確かに太陽を背にもう一機の二式水戦が急降下してヘリを銃撃した

 

『ぐわっ!』

 

と、悲鳴に近い声が聞こえると後方・・・・操縦席にいたパイロットは

 

『燃料も計器も問題ない。大丈夫。掠り傷程度だ。森三尉!今度はこっちの番だ!向こうが反転する前に機首を上げるぞ!』

 

「(森!?もしかして・・・・・)」

 

そう言うとそのパイロットは前方を見る。そして守も前方の操縦席を見た。その操縦席の風防ガラスはハチの巣になっておりガラスに大量の血が付着しそこに乗っていたパイロットは血まみれになっていた。それを見たパイロットと守は顔を青ざめそしてパイロットは

 

「森ぃぃぃー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父さん!!」

 

ベッドから飛び起きた守はそう叫んだ

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・夢?」

 

荒い息でそう言う守。その体は冷や汗を流していた

 

「いやな夢だ・・・・・・でもなんであんな夢を・・・・」

 

行方不明になった父の乗る船に搭載されていたヘリと自分が乗っていた二式水戦・・・・なぜあんな夢を見たのか守自身にもわからなかった。

 

「・・・・・・・」

 

守は不思議に思いながら時計を見ると朝の5時であった

 

「・・・・・起きるか」

 

そう言い飛行服に着替えて通信室へと向かうのだが・・・・・

 

数分後・・・・

 

「おかしいですね?連絡が来ない?」

 

守が通信室に来てから何十分以上も経っていたが一向に、猿島からの連絡が来ない。飛び立つ際には猿島の合図がなければ飛び立てないからだ

 

「おいおい。もうすぐ8時だぞ?集合時間過ぎている・・・・・」

 

「変ですね?深夜0時には向こうから通信があったんですが・・・・・」

 

「こちらからは連絡はできないんですか?」

 

守は通信係の人に訊くが

 

「先ほどからやっているんですが、応答がありません」

 

「いったいどうなっている・・・・・」

 

通信するのを忘れた?もしかして忙しい?いやいや。あの古庄教官に限ってそんなことは絶対にない。だったらなんで?守は不思議にそう思うと・・・・・

 

「っ!?猿島からモールスによる通信が入りました!」

 

「なんですって?で、内容は!?」

 

もしも二式水戦が飛んでもいいという内容なら『横須賀は晴れ』という電文が届くはずだが・・・・・・

 

「はい!はい内容は、『我れ猿島。学生艦晴風より攻撃を受け大破!晴風による反乱行為が発生!!』とのことです!!」

 

「っ!?」

 

その電文内容に守は衝撃を受けるのであった

 



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姉の反乱、守の決意

「・・・・・・・・」

 

「ねえ、もうあのまま二時間たつわよ森君?」

 

「仕方がないわよ。森君のお姉さんが乗る船が反乱を起こしたんだから・・・・・」

 

猿島からの通信後、守は窓の外を見つめながらボーと立っていた。その様子を見たブルーマーメイドの隊員たちは心配そうに見ていた。

 

「でも学生艦が反乱って本当かしら?そう言えば竹井主任は?」

 

「主任なら、船に乗ってさるしまが沈んだ海域に行ったらしいわよ」

 

「本当にどうなっているのかしら?これも何かの演習?」

 

「ただの学校の演習に海上安全委員会にあんな連絡はしないわよ」

 

そう話す隊員たちだが守にはその会話は聞こえず、ただ外を眺めていた

 

「(姉さんの乗る船が反乱・・・・・・・信じられない。それにあの生真面目なましろ姉さんに限って・・・・だが、古庄先生も冗談を言う人ではない・・・・・一体、俺の知らないところで何が起きたんだ・・・・・)」

 

守はいまだに姉であるましろが乗る船、晴風が反乱を起こしたなんて信じられなかった。嫌信じたくはなかった。だが現在、無線では晴風が反乱したという連絡が飛び回っている。そして今、この島にいるブルーマーメイドたちは竹井さんに連れられ猿島が沈没した海域に向かっていたのだが、今のところは幸いにも死者は出ていないらしいが肝心の晴風反乱を電信した古庄先生は意識不明で今病院に搬送されている。もし、このまま事件の真相がわからなければ、晴風の反乱行為は確定し、このままではブルーマーメイドによって武力鎮圧という最悪の状況が起きてしまう可能性があった

 

「(いったいどうすれば・・・・・・・)」

 

深く考えている守。すると・・・・・

 

「あ・・・・あの・・・森君。大丈夫ですか?」

 

先ほどの交流会で仲良くなった若いブルーマーメイドの隊員が心配そうに訊いてきた

 

「・・・・・・・え?ああ。大丈夫です」

 

「でも、辛そうですよ?」

 

「アハハ・・・大丈夫ですよ。あ、俺、外の空気を吸ってきます。では・・・・・」

 

そう言い軽く頭を下げるとその場を逃げるように出て行った。その様子をほかの隊員たちは心配そうに見つめていた。

 

 

 

 

「姉さん・・・・・」

 

外に出た守は一人海岸を歩いていた。なにか心配なときがあった時はいつも海岸を歩いていた守だが、不安や心配が消えることはなかった。

 

「(なぜ、学生艦が反乱を?・・・・もしや何か不満があってクーデターを?いいや。リストによれば演習に向かう船には金剛型級の戦艦がいたはずだ。ただの駆逐艦、しかもまだ一年生の学生が反乱を起こすとは考えにくい・・・・・・・それにさるしまの沈没場所も気になる。沈没場所は集合地点から離れた海域、もし反乱がおきたなら集合場所で起きるはずだ。この事件、不可解すぎる)」

 

そう思っていると突然スマホが鳴り、守はスマホを取り出すと相手は真霜だった

 

「・・・・・・もしもし真霜姉さんか?」

 

『ああ、マーちゃん。ね、マーちゃんも知っていると思うけど・・・・・』

 

「ああ、ましろ姉さんの乗る学生艦が反乱を起こしてさるしまを沈没させたという事件だろ?」

 

『ええ…マーちゃんはこのことどう思っているの?』

 

「俺はましろ姉さんが反乱を起こすとは思ってないよ。姉さんは?」

 

『こっちだって同じよ。でもね上の方は晴風が反乱したと完全に決めつけて、今でも撃沈命令を出しそうな雰囲気なのよ』

 

「確実な証拠もないのになんて馬鹿なことを・・・・・・それで真雪さんの方は?」

 

『お母さんも、晴風が反乱したなんて信じていないみたいよ』

 

「そうか・・・・・それよりも真霜姉さん。この事件は不可解だと思わないか?」

 

『不可解?』

 

「ああ、さるしまの沈没地点は集合場所から離れた海域、そこに向かう理由はあったのか?それに学生艦が反乱を起こす理由も見当たらない。ただドンパチやりたいってだけなら演習で砲撃演習や紅白に分かれての艦隊模擬戦もあったから、それが理由ではない」

 

『わからないわ。艦長である古庄教官も意識不明だから事情も訊けないし・・・・・』

 

「真相は闇の中・・・・・か、そう言えば他に演習に参加していた船はどうなんだ?」

 

『それがね、数隻ほど行方不明になっているの・・・・・』

 

「晴風の反乱に数隻の行方不明艦か・・・・・・これはもう演習どころの騒ぎじゃなくなったな」

 

『ええ、現在、真冬らのブルーマーメイドやホワイトドルフィンたちが晴風の他、行方不明になってなった学生艦を探しに出ているわ』

 

「そうか・・・・・・・なあ、姉さん?」

 

『ん?何マーちゃん?』

 

「もしも姉さんが晴風の艦長でこんな騒ぎになったらどうする?」

 

『え・そうね・・・・・私だったら、演習の一環だともって、一度集合場所・・・・・・て、マーちゃんもしかして晴風は・・・』

 

「うん。俺の予想だが、晴風は集合場所の西ノ島新島に向かった可能性がある」

 

『なるほど・・・・じゃあ、さっそくそこから船を・・・・』

 

「いや、姉さん。あくまで予想だ。それにその島に行くなら速度が第一だ・・・・・・」

 

『・・・・・・何が言いたいのマーちゃん?』

 

真霜が少し疑うような声色を変えてそう言うと守は

 

「俺が二式水戦で行く。ここから西ノ島新島までの航続距離は問題ないし、それに二式水戦の速度ならすぐにつける」

 

『確かに飛行機までなら船よりも飛行船よりも速いけど、マーちゃん。それ本気なの?』

 

「ああ。俺も姉さんのことが心配だし、無事を確認したい。それに空の上なら万が一砲撃されても回避できる」

 

『・・・・・・・』

 

「姉さん。俺は真霜姉さんたちとは血は繋がってはいない。けど俺にとってこの世界は第二の故郷でありそして姉さんたちのことは本当の姉だと思っている。だからこそ、姉であるましろ姉さんのことが心配なんだ。もしかしたら船の中で何かトラブルに巻き込まれている可能性だってある。俺はすぐにでも出撃して、ましろ姉さんが無事なのを確認したい。だから姉さん。頼む!!」

 

守は必死にそう言うと真霜は

 

『はぁ~あなたってそういうところはシロにそっくりね。言い出したら聞かないんだから・・・・』

 

「・・・・・じゃあ、」

 

『ええ、ブルーマーメイドの監察官としては危険すぎて反対だけどね。でもお姉さんとしてはまあ反対だけど、認めるしかないわね。それにマーちゃんはブルーマーメイドの保護下であって、部下じゃないからね。マーちゃんはあくまで日本海軍ていう組織の所属だもんね。いいわ。偵察任務として森守少尉に晴風の捜索を頼むわ。お願いできる?』

 

「はい。任せてください」

 

『でも、無理だけはしないようにね。怪我したらそれこそ許さないんだから』

 

「アハハハ…分かっているよ姉さん」

 

そう言い守は電話を切ると、強く頷き、二式水戦の泊めている海岸へと向かうのであった

 

 

 

 

数分後、海岸

 

「じゃあ、森君。お願いね!」

 

「はい!出ます!!」

 

その後守は二式水戦に乗り、父島にいる大勢のブルーマーメイドの隊員に見送られながら、二式水戦のエンジンを発動させ、西ノ島新島の海域に晴風がいないか調べるため出撃するのであった。そして二式水戦は進みだし。大きな水しぶきをあげて大空を飛びあがった

 

「すごい・・・・もう見えなくなったわ・・・・・」

 

飛び去った二式水戦を見てブルーマーメイドの隊員たちは呆気にとられた表情をしながら遠くへと飛ぶ二式水戦を見送るのであった

 

「ましろ姉さん・・・・・待ててくれ。絶対見つけて。必ず姉さんたちの無実を証明して見せる!」

 

守は強い決意を秘めながら姉、宗谷ましろの乗る晴風を探しに行くのであった

 

 

 



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逃走中の晴風、ましろの追憶

私はいつも運が悪かった・・・・・だが、そんな運の悪かった私をいつも助けてくれた男の子がいた。その子の名は森守。突然お母さんが連れてきた子で、どうやら事故に逢い家で暮らすことになったらしい。

最初私は彼のことを不審に思っていた。私の知る男の子はみな乱暴で意地悪な子が多かったからだ。だが守はとても人懐っこかった。そして真霜姉さんが

 

『よかったね。ましろ。弟ができたんだよ』

 

その言葉から、私と守はいつも一緒だった。そうまるで実の姉弟のように。守は私が何か困ったことがあったら見捨てず助けてくれた。守に姉ちゃん。姉ちゃんと言われた時は一番の末っ子であった私にとって本当の弟ができたようで、一番うれしかった

ある時、男子生徒にいじめられた時は年上相手に勇敢に立ち向かい自分が傷だらけになってもそのいじめた相手を倒した。

 

『今度、姉ちゃんをいじめたらもっと殴るからなっ!!』

 

傷だらけになりいじめっ子にそう怒鳴るといじめっ子たちは顔を青くして逃げ去った。そして私は泣きながら自分のために怪我した守に謝ったが、守は

 

『大丈夫だよ姉ちゃん。姉ちゃんは怪我してない?もう大丈夫だよ?』

 

『う・・・・うん』

 

傷だらけでにっこり笑い私を安心させようとする守。それ以来だ。そんな守に私はいつの間にか弟してではなく異性として守のことが好きになったのを、それで私は守に何かプレゼントをあげたくて真霜姉さんたいと相談したら、ペンダントをあげることにした。結果は守はとても喜んでくれた。ずっとこの幸せな日々が続いてほしいと思った・・・・・・

だが現実は非情だった。

ある日、守は突然と別れも言わずに私たちの前から消えてしまった・・・・私は必死に探したが見つけることができなかった。それ以降、守がいなくなってしまったせいか、私の不運が前よりひどく出るようになってしまった・・・・・

だが、不運になることに悲しさはなかった。

ただ、一番悲しかったのは最愛の弟を失ってしまったことだった・・・・・

 

 

 

「・・・・・ちゃん?・・・・・シロちゃん!」

 

「え!?」

 

急に誰かに声をかけられ、ましろは声のする方へ顔を向けると、そこには晴風の艦長、岬明乃が心配そうに訊いていた

 

「大丈夫?固まっていたけど?」

 

「大丈夫です艦長。少し昔のことを思い出していただけです。それより今は・・・・」

 

そう言いましろは艦橋内を見ると、さきほどの猿島襲撃について話し合っていた。

 

「なんで晴風が叛乱したことになっているんだよ!先に撃ってきたのは猿島だろう!?」

 

砲術長である西崎がそう言う。なぜそうなったかというと襲撃後無線から海上安全整備局が猿島を砲撃した晴風を反乱とみなし行方を追っているということになってしまったのだ。

そのことに西崎は納得がいかず思わず知床鈴にそう怒鳴ると

 

「うぇ!? 私に言われても‥‥」

 

鈴は西崎に詰め寄られすでに涙目。周りもそれを咎めたり、からかったりする余裕はなさそうだ。

 

「知床さんに言っても仕方ないだろう」

 

「あ。そっか、ごめんごめん」

 

西崎はましろに引きずられながら謝る。それを素直に受け取った鈴が艦橋を見回す。

 

「でも、なんで沈んじゃったんでしょう?模擬弾だったのに‥‥もしかしてこれも演習の一環なんじゃ・・・・」

 

「演習で沈没するか」

 

そう疑問を言うと幸子が 

 

「ならわざと沈没したとか? 私達、偶然にも猿島の黒い秘密を知ってしまったんですよ!」

 

幸子が何故か此処でヒートアップする。

 

「私ら遅刻しただけじゃん」

 

ヒートアップした幸子とは反対に他の艦橋メンバーは白けている。その為、艦橋内には幸子の一人芝居の声のみが大きく響く。

 

「『お前らー見たなー』『わたしたち、なにもみてましぇーん』」

 

幸子は声色と共に顔芸で独り芝居をする。

 

「『ええーいこのまま生かしてはおけーん! 砲撃開始ー!』ずどーん!『あ、逃げられた。ええ~いこのまま秘密と共に沈んでやる~』‥‥みたいな感じで‥‥」

 

「それ、全部ただの妄想でしょう?」

 

幸子の一人芝居に西崎が呆れたような表情を浮かべながら言う。

 

「それより納紗さん。タブレットの通信は切ってあるの?」

 

「はい。艦長の指示でオフにしています」

 

「通信器具が使えないのは不便だな・・・・・」

 

「でも、それで見つかっちゃたら面倒だしね・・・・」

 

「大変だと思うけど、とにかくいったんは集合場所である鳥島に行こう」

 

ましろの言葉に西崎と岬がそう言うと

 

「そ、それって・・・・・つまり私たちお尋ね者なんだよね?高校生になったばかりなのに犯罪者になっちゃったってことですよね!? こんなの嘘ですよね!? 嘘だと言って~!」

 

舵輪を握り震えながら号泣する鈴。すると・・・・・先ほどから黙っていた立石が

 

「あ‥‥う‥‥」

 

「どうかしましたか?立石さん?」

 

立石が何かを求めているのかと思った幸子が立石に声をかけると

 

「う……嘘」

 

「あ、ありがとう言ってくれて!あっ、わたしのことは鈴って呼んでくれていいよ!」

 

「鈴・・・・」

 

状況は何も変わらないのに、なぜか仲良くなってしまう鈴と立石。それを見たましろは深いため息をついた

 

「はぁ・・・・・・初航海でついてない・・・・・・こんなクラスになったばっかりに・・・・」

 

「なんだよこんなクラスって・・・・」

 

ましろの言葉に西崎が反応し、睨むと

 

「そりゃあ、確かに晴風クラスは学校合格者じゃ最底辺なのかもしれないけどさ。それはあんただって同じだろ!」

 

「一緒にするな!私は試験では全問正解していたんだ!けど解答欄を一つずらして書いちゃったから・・・・・・」

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

ましろは少し恥ずかしそうに言うとその場にいた皆も気まずそうな表情をする

 

「ついてないですね・・・・・」

 

「うるさい!」

 

 

幸子の言葉にましろはプイッとそっぽを向くと岬は

 

「そっか~私なんて受かるだけでも奇跡なのに。たまたま勉強していたところが出てまして艦長なんてね・・・・・」

 

「こちらは強運の持ち主ですか・・・・・」

 

「うぃ・・・・」

 

幸子の言葉に立石は頷く。そしてましろもどことなく悔しそうな表情をするのであった。すると晴風のそばで数羽のカモメが飛んでいた

 

「鳥・・・・・・」

 

立石がそう言い幸子は

 

「こんな時、こんなふうに学校に戻れたらいいですよね?水素とかヘリウムを使わない空飛ぶ船って作れませんかね?」

 

幸子はそうましろに言うと

 

「はぁ・・・・そんなものは空想上のさ・・・・」

 

『空想上の産物だ。ばかばかしい・・・・・』ましろはそう言いかけたが、不意にあることを思い出す。それは9年前のことだ

 

『マーちゃん。マーちゃん。なに描いているの?』

 

『ん?飛行機描いているんだよ姉ちゃん』

 

『ひこうき?』

 

『そうだよ。気球や飛行船よりも空を速く飛んでかっこいいんだよ』

 

『でも、ひこうきなんて私知らないよ?それ本当に飛べるの?』

 

『飛べるよ!こうビューンて速くね。僕大きくなったら飛行機のパイロットになるんだ!もしパイロットになったら姉ちゃんを一番に乗せてあげる!』

 

『ほんと?マーちゃん?』

 

『うん!約束するよ姉ちゃん!!』

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「あ、あの・・・・副長?どうかしたのですか?」

 

「・・・・え?」

 

「いえ、さっきも何か回想しているような表情ばかりしているので?」

 

「うん。この頃のシロちゃん。ボーとしていることが多いいよ?」

 

鈴の言葉に岬も同意すると、ましろは

 

「べ、別にボーとしていない。ただ・・・・・昔のことを思い出しただけだ」

 

「へぇ~どんな?」

 

「それは・・・・・て、関係ないだろ!?」

 

そう言いましろはプイッとそっぽを向いた瞬間、不意に彼女のポケットから写真が落ちる

 

「あ、シロちゃん。写真を落としたよ?」

 

そう言い岬は写真を拾うと・・・・・

 

「あれ?これって小さい頃のシロちゃん?それに隣にいる子って・・・・・」

 

そう言い写真を見る岬にましろは

 

「艦長・・・・返してくれますか?大事なものなので」

 

「あ、ごめんごめん・・・・・・」

 

そう言い岬はましろに写真を返すと岬は

 

「ねえ、シロちゃん。その写真に写っている子は・・・・・?」

 

「もしかして子供の時にできた彼氏ですか?」

 

そう言いほかの皆もましろを見るとましろは軽くため息をついて

 

「弟の写真だ。かれこれ9年前の写真だ」

 

「え!?副長、弟さんがいるんですか?」

 

「ああ・・・・大切な弟だ。今も・・・・昔も・・・・」

 

「そうなんだ。弟さんは今なにをしているの?」

 

「・・・・・・・・」

 

「シロちゃん?」

 

「・・・・9年前に行方不明になって・・・・・今でも見つからない。艦長。頼みますからこれ以上は聞かないでください」

 

「あ・…うん。ごめん」

 

岬はこれ以上聞くのをやめた。なぜならその時のましろの表情がとても辛そうだったからだ・・・・・



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晴風、発見!!

「見つからないな・・・・・」

 

高度三千ぐらいの高さで守は晴風の行方を捜していた

 

「そろそろ見つかってもおかしくないんだがな・・・・・」

 

守は頭を少し書き、地図を確認しながらそう呟く。

 

「それにしても、勢いで飛び出しちゃったが、60キロ爆弾外しとけばよかったな・・・・」

 

そう言う守。そして定時連絡を入れようと無線を取り

 

「こちら、二式水戦偵察機の森守。父島応答せよ」

 

そう連絡を取るが・・・・

 

ザーザーザー

 

ノイズ音しか聞こえない。

 

「ん?故障か?」

 

守は無線機をいじり周波数を変えるがあるのはノイズ音を調べてみても異常はない

 

「いったいどうなっているんだ?」

 

守は首をかしげると・・・・

 

「ん?」

 

急に何かを感じたのか守は二式水戦の風防を開ける。そして耳をそっと澄まし始める

 

「・・・・・・・」

 

守の耳にはある音が聞こえた。それは二式水戦の栄エンジンの音ではない

 

「・・・・・・砲撃音?」

 

ほんのかすかだが雷鳴に近い音が聞こえた。無論辺り一面は蒼空のため雷鳴ではないことが明らかだ

 

「距離、10キロ弱ってところか・・・・・・燃料は・・・・・うん。まだ余裕はあるな。調べてみるか。もしかしたら姉さんかもしれないからな」

 

そう言い守は、機体を大きく旋回し、砲撃音が聞こえた海域へと向かうのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、晴風は

 

「シュペー!発砲!!」

 

目的地へ向かう中、晴風はドイツの小型直接教育艦アドミラルシュペーに出会い、晴風艦長である明乃は戦闘の意思はないと伝えるため見張り員のマチコに手旗信号で白旗を上げさせたのだが、シュペーはいきなり晴風に向かって発砲したのだ

 

「なんで・・・?」

 

「艦長。エンジンも止めないとだめです!!」

 

「確かに白旗だけでは降伏にはなりませんね」

 

「でも逃げるんでしょ?」

 

明乃の言葉にましろと幸子と鈴がそう言うと明乃は頷いて

 

「うん。180度反転する。面舵いっぱい!前進いっぱい!!」

 

「お、面舵いっぱい!!」

 

明乃は鈴に指示を出すと鈴は急いで舵をきる。鈴の操作に晴風が向きを変えた瞬間晴風のすぐそばにシュペーの28㎝砲弾が着弾し白い水飛沫をあげる

そして晴風はシュペーから逃げるため速度を上げるが

 

『シュペー速度を上げてきました!』

 

「追ってきた・・・・・」

 

「早く逃げようよ」

 

マチコの言葉にましろはそう呟くと鈴は涙目でそう訴える

 

「シュペーは基準排水量12100t、最大速力 28.5ノット、28cm主砲6門、15cm砲8門、魚雷発射管8門、最大装甲160mmと小型直教艦と呼ばれるだけあって巡洋艦並のサイズに直教艦並の砲力を積んでいます」

 

『着弾!!』

 

幸子がタブレットでアドミラル・グラフ・シュペーのスペックを話している間にもアドミラル・グラフ・シュペーからの砲弾がまたもや晴風の周囲に着弾する。

 

「しゅ…主砲の最大射程は約36000m、重さ300kgの砲弾を毎分2.5発発射可能で!一発でも当たれば、一瞬で轟沈です。・・・まあ、15cm副砲でもうちの主砲よりも強いんですけど」

 

「防護と装甲は、向こうが遥かに上‥‥」

 

「うちが勝っているのは、速度と敏捷さだけ・・・」

 

「このまま、機関全開にし続けたら完全に壊れちゃうよ~」

 

さるしまの戦闘で晴風は、機関の調子があまり良くない、その為、出せる速力も限られていた。

 

「魚雷撃って足止める?」

 

芽衣が魚雷で足を止めることを提案するが

 

「もうない」

 

「だ~!!そうだった~!!」

 

魚雷は、猿島戦での一発で使い果たした事をましろに指摘され、芽衣は、頭を抱え叫んだ。

 

「こっちの砲力は?」

 

「70で5・・」

 

「7000で50mm・・シュペーの舷側装甲は?」

 

「80mmです」

 

「30・・」

 

「30まで寄れば抜けるのね」

 

「ちゃ、ちゃんと会話が成立してる・・・・・」

 

芽衣は、明乃と志摩の会話を聞いて会話が成立していることに驚いた。

 

「これが艦長の器って、やつですか・・・・」

 

「そんな訳ないだろう」

 

幸子が感心しそう言うがましろはそれを否定する

 

「マロンちゃん!!出し続けられる速度は?」

 

『第4戦速まで、でぇい!』

 

「第4戦速・・・27ノットか・・・」

 

「向こうの最大戦速とほぼ同じです。」

 

「如何したら・・・」

 

明乃がそう考えていると志摩が

 

「ぐるぐる・・・・」

 

「え?」

 

「ぐるぐる」

 

「はっ!?・・・鈴ちゃん!!取り舵いっぱい!!」

 

志摩の言葉に明乃は、名案が浮かんだか、鈴に左に舵を切る様を命じる。

 

「取り舵いっぱ~い!!・・・取り舵30度!!」

 

鈴は、左に舵を切る。

 

「何をする気ですか!?」

 

「煙の中に逃げ込むの!!」

 

そう、志摩が言いたかったのはこれだった。

 

「戻~せ、面舵いっぱ~い!!」

 

「戻せ、面舵いっぱ~い!!・・・面舵30度」

 

シュペーの砲撃を晴風は、8の字を描きながら回避行動する。

 

「一発でも当たればやられる。速度と小回りが効くのを生かして、逃げ回れるしかない!!・・・マロンちゃん機関を不完全燃焼させて!!」

 

『合点承知!!黒煙が煙幕代わりだな~』

 

明乃の作戦を麻侖は、理解する。

 

『それから逃げ回るんで、機関には負担をかけるけど、よろしくね』

 

「よろしくって‥‥」

 

「やるしかねーんだい!!」

 

洋美は機関に負荷がかかるのが不安な様子なのだが、逃げるには致し方ないと麻侖は割り切る。そして明乃は鈴に

 

「鈴ちゃん不規則に進路を変えて。できたら速度も。・・・ただしできるだけ速度を落とさないように・・・」

 

そう支持すると芽衣が

 

「止めるには実弾を使うしかないよ?」

 

と、そういう中、シュペーは晴風に攻撃し続ける中、明乃は、砲戦指示を出す。

 

「戦闘・・左砲戦30度、同行のシュペー・・・・」

 

「何を言っている。さるしまの時と同じになるぞ!!」

 

明乃の指示にましろは反対する

 

「実弾でスクリューシャフトを打ち抜くの、そうすれば足止めできるから・・・」

 

「これ以上やたら、本当に反乱になる!!」

 

「このままだと・・・怪我人が出る!!」

 

明乃はそう言うとまたも晴風のそばでシュペーの砲弾が着弾する。それを見たましろはついに決断し、明乃と一緒に実弾装填キーを回す。

 

「実弾・・・・りょうだん始め・・・・」

 

実弾装填キーが回され、主砲の砲身に実弾が装填された。

 

「まる」

 

志摩が、砲撃準備が完了した事を明乃に伝える。

 

『装填良し・・・・射撃用意良し』

 

砲術員の小笠原光がそう伝える。あとは明乃の発射命令を待つだけとなった。

 

「スクリュー撃つには、どれだけ距離を詰めれば良いかな?」

 

「水中だっと急激に弾の速度が低下するから無理だって」

 

「水中弾てのがあったでしょう」

 

「それは、巡洋艦以上でうちには、積んでないから・・・」

 

「通常形状でも、水中は、進むって聞いたよ?」

 

「理論上は、12,7cm砲弾の水中直進距離は約10m。最悪、原則装甲を抜くことを考えれば・・・・30以下まで近よってください。」

 

そして、幸子が通常弾で推進機を破壊するには、30m以内に接近するように言うと、それを聞いた鈴は驚き

 

「近づくの?怖いよ~」

 

「何を言ってる!!」

 

「だから怖いって言ってるの~」

 

ましろの怒声に鈴は怯えてそう言うと

 

「じゃあ、分かりました!!」

 

そう言い幸子は両手で鈴の目をふさぐ

 

「ふぇ!?な、何するの!?」

 

「ふふ…近づいてください♪」

 

「真面目にやれ!」

 

幸子の行動にましろがしかる。そして鈴は舵を左右に切りながらアドミラル・グラフ・シュペーに接近する。

 

「距離40・・・・38・・・・36・・・・」

 

36mまで接近したところでアドミラル・グラフ・シュペーの28㎝砲弾が晴風の第三砲塔を直撃、第三砲塔が大破した。

 

『アドミラル・シュペーから小型艇が向かってきます!』

 

「えっ!?」

 

シュペーから、何故か小型艇が一隻、こちらに向かってくると、見張り台から報告が入り、明乃が驚く。しかし、次の瞬間、シュペーの副砲弾が小型艇を直撃し、小型艇に乗っていた少女は海へ投げ出される

 

『小型艇の乗員が海に落ちました!』

 

「味方を攻撃している?」

 

「何で?」

 

マチコからの報告を聞き、何故、見方を攻撃するのか艦橋組は、驚愕する。すると幸子が

 

「『わたしは艦長の指示に従えません!晴風を攻撃するなんてあまりにも!!』『なんだとー艦長に逆らう気か!?』『ええ~い!こんな船脱出してやる~』」

 

「想像でものを言うな・・・・」

 

「私にとってはノンフィクションよりフィクションが真実です!」

 

幸子が得意気に言い放つ。すると、突然、明乃が

 

「シロちゃん・・・」

 

「宗谷さんもしくは、副長と呼んでください」

 

「ここ、任せていい?」

 

「え?」

 

いきなりの明けの言葉にましろは一瞬黙ってしまう。そして明乃は艦橋を出て

 

「ドイツ艦を引きつけっておいてね・・ココちゃん、甲板に保険委員の美波さんを呼んでおいて」

 

「何を・・・っ!まさか・・・」  

 

ましろは、明乃の元へ向かう。

 

「何で、敵なのに助ける!」

 

「・・・敵じゃないよ・・・」

 

「え・・・」

 

「海の仲間は・・家族だから・・・じゃあ。行って来るね」

 

そう言うと明乃は、ましのに被っていた艦長帽を渡す。ましろは、明乃の艦長帽を受け取った。

そして明乃はスキッパーに乗り、小型艇から落ちた少女の救出に向かった

 

「艦長、落ちた子助けに行ったの?」

 

「距離30まで近づけ」

 

「う・・・・う・・・・」

 

ましろの指揮のもと、鈴は、涙ながら舵を切る。すると・・・・・

 

『上空から何か来ます!!』

 

「なに!?」

 

マチコの言葉にましろは驚くと、それと同時に砲撃音とは違う轟音が空の上から聞こえた。

そしてその瞬間雲から一つの白い謎の飛行物体が風を切り裂くような轟音を発しながら現れたのだ

 

「何あれ!?」

 

「飛行船!?」

 

「いや違うでしょ?」

 

気球や飛行船とは違う見たこともない飛行物体に艦橋にいた皆は驚きの声をあげる。その中ましろはその空を飛ぶ物体を見て目を見開く。それは小さいころ弟の書いた絵にそっくりだったからだ

 

「ひ・・・・こう・・き?」

 

ましろがそう呟いた瞬間彼女が次に発した言葉は・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「守?」

 



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トラ!トラ!トラ!!

「見つけた晴風だ!!!」

 

砲撃音を頼りにその場に向かった俺は雲の合間から、小さな駆逐艦を発見した。船の形からして陽炎型駆逐艦。間違いなく俺が探していた船晴風だった

 

「雲の間だからよくは見えないけど、機関部にダメージがあるのか?すごい煙を吹いているな・・・・・」

 

尋常じゃないほどの煙を吐く晴風を見て俺はとにかく無線機を取り、連絡をすることにした

 

「こちら森、こちら森!晴風を発見!場所は〷海域の○○地点!父島応答せよ!!」

 

と、無線で呼びかけるが酷いノイズ音しか聞こえない

 

「くそっ!電波障害か。せっかく見つけてもこれじゃ・・・・・あ、そうだ」

 

そう言い俺は機内からあるものを取り出した。それはモールス機だった。万が一無線がだめになった時はこのモールス機を使って連絡を取っていた

そして俺はモールスで父島に向けて電文を打った

 

『コチラ森、〷海域ノ○○地点ニテ目標デアル晴風ヲ発見ス』

 

と、電文を打っているとまたも砲撃音が鳴った

 

「今のは…12・7センチ砲じゃないな・・・・・・20センチ砲か?」

 

俺はモールスを撃つのを中断し、よく目を凝らして海域を見ると・・・・・

 

「他にも船がいる・・・・・あれは・・・・ドイツのアドミラルシュペーか!?」

 

俺は晴風のすぐそばにいる海域にいる一回り大きな船を見て驚く。

アドミラルシュペー。それはポケット戦艦とも呼ばれる巡洋戦艦の一種で、第二次世界大戦では謎の爆沈をし、そして第三次世界大戦ではナチス側の戦艦とされアジア方面で暴れていたが、日本国海軍航空隊もとい連合軍初のアジア拠点のナチス海軍基地に奇襲攻撃を加えた。俗にいう真珠湾攻撃の現代版、『ポートモレスビー攻撃』にて艦爆の急降下攻撃により、大破着底し、今現在も引き上げられていない

 

「なんで、ナチスの船が・・・・・・ん?ちょっと待てよ。確か真冬さん。この航海演習でドイツの学校の船と共同で演習するとか言っていたっけ。もしかしてその船か?」

 

そう呟き、もう一度確認するとナチスの軍艦にはある甲板に書かれたハーケンクロイツのマークはなかった。どうやらあのシュペーはこの世界の船のようだが・・・・・

シュペーは晴風に向かって砲弾を打っている。28㎝の砲弾だ。駆逐艦がまともに喰らえば、ひとたまりもない。あたりどころが悪ければ真っ二つに割れて沈没する。下手をすれば死人が出る可能性があった

 

「くそっ!どうすれば・・・」

 

無線で攻撃をやめるように言えればいいが向こうの周波数が分からないうえ、電波障害で通信も不能だった。そのため無線で攻撃をやめるように言えない状態であった。

すると、晴風から一艇のスキッパーが下ろされるのが見えた。

 

「スキッパー?どこに向かう気だ?」

 

俺はスキッパーの様子を見るとその先に壊れたボートにしがみつく人影が見えた。どうやら救出に向かったらしい。するとシュペーの砲がそのスキッパーの方へと向けられていた

 

「まずい!!」

 

俺はとっさに操縦桿を握り、シュペーの方へと急降下をした。雲を突き抜け高度は1000ぐらいになったであろうか。俺はシュペーの主砲や副砲に向かって機銃掃射をした。12・7ミリと20ミリ弾が雨あられと砲台に命中するが、まるで雹がぶつかったみたいにカンカンカンと音を立てただけで、かすり傷にもならなかった

 

「やっぱり機銃じゃ豆鉄砲か・・・・・魚雷か、爆弾でも・・・・ん?爆弾?…そうだ6番爆弾があった!」

 

俺は両翼に取り付けてあった60キロ爆弾のことを思い出した。あれなら撃沈は無理でも、少しはダメージを負わせることができる。だがどこに当てるべきか。あの船は、学生の乗る船。下手なところに落とせば死人が出る可能性があった

 

「そう言えばドイッチュラント級戦艦は燃料中間タンクを加熱するための蒸気パイプが甲板上に露出していたはずだ……そこを狙うか。・・・よしっ!!」

 

俺は爆撃ポイントを決め、操縦桿を大きく倒し急旋回する。その時ちらっと晴風の艦橋が見えたが誰がいるのかまでは見えなかった。だがあの船には姉さんがいる。姉を守るため、そしてスキッパーで救助に向かった人を助けるため俺はシュペーの気をそらさなけれならない。

そしてシュペーは目標を晴風ではなく俺の方へ向け、砲撃した。俺はすかさずその砲撃を躱す

 

「すげぇな・・・・・だが・・・・」

 

太平洋戦線では数多くの軍艦の対空砲を経験した俺にとってこの程度なら難なく交わすことができた。

しかもシュペーには対空機銃がないのか、高射砲や主砲などの砲撃だけだった。無論威力はすごいが、撃つのには時間がかかる。飛行機による攻撃に対し高射砲や主砲の弾幕の他大型砲の装填時間を補うために機関銃が使用されるのだが、飛行機とは無縁のこの世界では対空機銃の必要性はかなり薄く、搭載していない船もあるみたいだ。

 

「距離500メートル・・・・・・・十分よし!」

 

そう言い、俺は操縦桿をあげ、俺の乗る二式水戦は急上昇をした。その速さにシュペーの砲台はついていけず、攻撃がいったん止み、そして俺は宙返りをし、目標であるシュペーの蒸気パイプに狙いを定め急降下をした

 

「距離1500・・・照準よし!」

 

そう言い俺はいつでも爆弾を押せるようにスイッチに指をかけた

 

「突入角度80度・・・経験のないこの角度で俺は・・・まだ、正気だ!60キロの火の玉を食らえっ!!」

 

そう言い俺はスイッチを押し、二式水戦の両翼に吊るされた二個の60キロ爆弾が投下された。そして放たれた60キロ爆弾は金切り音を発し、そして吸い込まれるように目標である蒸気パイプに命中、爆発をする

 

「よし!!」

 

命中したことを確認し、俺は旋回をすると、シュペーに搭載された一台の15センチ副砲が二式水戦に向けてはなたれは。放たれた砲弾は俺のすぐ手前で爆発した

 

「うわっ!!」

 

爆発による衝撃により、体が大きく揺れた。あまりの衝撃により俺は気絶しそうになったがその瞬間・・・・・

 

『守!!』

 

「はっ!?」

 

俺は頭の中でましろ姉さんが叫ぶ声が聞こえた。俺はこの海域を離脱する。ここで着水すればシュペーの標的になるし、何より晴風の邪魔になるからだ。幸いにもこの近くに小島があることを地図で確認したためそこで着水するため俺はこの海域を離脱したのだった。

 

 

 

赤い夕陽が二式水戦を赤く染め俺は意識すれすれの中、操縦していた。体も所々痛い・・・・恐らくさっきの砲撃で体を痛めたのだろうか・・・・

すると・・・

 

バルルル・・・・・

 

急にエンジンが息をつき始め煙を吐き始め俺は計器を見る。すると油圧が下がり始めているのに気が付いた。どうやらさっきの砲撃が原因だろう。だがそれだけではない燃料もなくなってきていた

俺はフロートを見るとフロートから小さな穴が開いておりそこから燃料が漏れていた

 

「まずいな・・・・こりゃ、落ちるな・・・・・」

 

そう言った瞬間。エンジンが止まり、プロペラも回転をやめる。そして俺の乗る二式水戦はグライダーみたいに滑空しながら海面へ海面へとゆっくり落ちていく。俺は操縦桿を引き、波があらい中俺は何とか着水に成功する。

 

「あはは・・・・何とか着水で来たな・・・・それより無線は・・・・無理か。さっきの砲撃のショックで壊れてる。モールスもケーブルが切れてる・・・・島も見えない。これは詰んだな」

 

軽くため息をつき俺は操縦席に深く座り、ゴーグルをかけただじっと座っていた。泳いでも力尽きて鮫の餌になるだけだ。ここは無駄に体力を使わず、ただ救いが来るのを待つだけだ。

 

「ぐっ・・・・」

 

体中が酷く痛む。今にも気絶しそうなくらいだ。どれだけ時間が立ってたのかはわからない空は完全に日が暮れ暗くなっていた。そしてただ一人意識がもうろうとしている中、俺は水平線にあるものを見た。それは光であったそして彼女はその光が船の光によるものであることが分かった。そして俺が最後にいたものは、

 

「駆逐艦・・・・か?」

 

そう言い俺は力尽きたのか気を失うのであったのだった。そして気を失う寸前、俺の耳には大好きだった姉であるましろ姉さんが俺の名を呼び叫ぶ声が聞こえるのであった・・・・・・・

 

 



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晴風と海狼

昨日ははいふりの舞台である横須賀に行ってきましたww劇場版で登場した三笠なんかも迫力満点ですごかったです
更新遅くなって申し訳ありません!では本編をどうぞ!!


シュペーの戦闘後、無事に戦線を離脱した晴風は、現在目的地もわからずに海面を進んでいた。

そして今その晴風の艦長である明乃は、シュペーから脱出し保護をしたミーナの様子を見に医務室へと向かった。

 

「美波さん・・・」

 

ノックをして医務室に入る明乃

 

「艦長?」

 

「様子はどう?」

 

「外傷はない。脳波も正常・・後は、意識が戻るのを待つしか・・・・」

 

「そっか・・・ありがとう、私見てるから美波さん、食事してきて」

 

「感謝、極まりない・・」

 

明乃は、そう言うと美波は、お礼を言い医務室を出る。そして明乃は、ベットで横になっているミーナを見て、微笑んだ。

そして炊飯所兼食堂室では晴風のクラスの子たちがカレーを美味しそうに食べていた。

 

「これが、晴風カレー」

 

「やっと食べられますね~」

 

鈴と幸子は、晴風カレーを見て言う。

 

「・・・・美味い!!・・・」  

 

志摩は、待望の晴風カレーを食べ、幸せな顔をする。

 

「甘がちだけど、コクがあります」

 

「ブルーベリージャムを隠し味に入れてるから」

 

幸子は、美甘に晴風カレーの感想を言う。すると

 

「美味しい!!」

 

「ん、美味しい!!」

 

光と美千留がそう言い、周りでは、美味しいと言う声が飛び交う。

 

『はぁ・…やったぁ!!』

 

それを隣の炊飯所で見ていた杵崎姉妹が喜んでいた。

 

「マッチにも持ってってあげよ~っと」

 

「何がマッチよ‥‥」

 

「美化委員長はクロちゃん派ッスか?」

 

「はぁ!?」

 

食堂室で生徒達が和気藹々とカレーを食べ、談笑している中

 

「そういえばさ~さっきあの飛んでいたのなんだったんだろうね?」

 

「あ、それ私も思ったぞな」

 

まゆみの言葉に聡子がそう言うと一気に艦内の食堂内ではさっきシュペーや晴風の前に現れた飛行物体の話になる

 

「でもかっこよかったよな~こうビューン!って!!」

 

「確かに飛行船よりも速かったですしね。それよりあの急降下見ました!まるでトンビのようでしたよね!」

 

「そうそう。それに何か落としてシュペーを小破させたよね?」

 

「うん。あれって爆弾かな?すごいよね?あれだけの砲撃を躱して、命中させるなんてね」

 

「そうそうバキューン!だったね!」

 

とわいわい話していた。そして炊事室では

 

「美甘ちゃん。みんなカレー美味しいって」

 

「ほんと?よかった~」

 

あかねの言葉に美甘は嬉しそうに言う。そして三人も自分の作った晴風カレーを食べる

 

「うん美味しい」

 

「そうだね」

 

杵崎姉妹がそう言う中、美甘も同じなのか嬉しそうに食べていた

 

「ん~これ、森君にも食べてもらいたかったな~」

 

「美甘ちゃん。森君てあの森守君?警備員の?」

 

「うん。きっと嬉しそうに食べてくれるかな~って」

 

「そうか~そう言えば森君。入学式の時いなかったよね?」

 

「あ、そうそう。代わりに立ったまま寝ていた警備員さんいたよね?」

 

と、そう話していると

 

「何を話しているんでい?」

 

「あ、マロンちゃん」

 

そこへ麻侖がやって来た

 

「あれ?クロちゃんは?」

 

「クロちゃんなら、副長にカレー持って行った・・・・・」

 

と少ししょぼんとした表情を見せたがすぐにいつもの表情に戻り

 

「・・・・で、何の話していたんでい?もしかしてさっきみんなが言っていた飛行物体か?」

 

「ううん。違うよ。守君のこと話してたのよ」

 

「あ~守か。そう言えば入学式の時いなかったな」

 

麻侖がそう言う。美甘たちは以前から守と親交がありよくメールで話したりたまに一緒に出掛けたりもしていたのだ

 

「うん。守君元気にしているかな?って」

 

「そう言えば、入学式にゃ、守の代わりになんか立ったまま居眠りしていた警備員がいたよな?」

 

「うん。すごいね立ったまま寝ている人初めて見たよ」

 

「でも残念だな~出発する前に、守と話をしたかったのに。メールも今はできないしな~」

 

あのメンバーの中でマロンが一番守と仲が良かったので残念そうに言う。そして同じく彼と仲良しの美甘も

 

「うんうん・・・・・そういえば麻侖ちゃん。さっき言ってた飛行物体って?」

 

「「私たち炊事室にいたから見てなくて・・・・」

 

「う~ん私も艦橋や見張りにいたやつから聞いたから、私もそれ見てねえんだよな~?でもなんかすごい速いらしいぞ?」

 

「どのくらい速いの?」

 

「話によれば、なんか、こう・・・・ビューンて感じらしいぞ?よくわからないけど」

 

「「「びゅーん?」」」

 

麻侖の言葉に美甘ら三人は訳が分からず首をかしげるのであった。

一方、艦橋では・・・・

 

「守・・・・・・」

 

一人、艦橋に残ったましろは舵を取りながら先ほどシュペーの前に現れた飛行物体のことを思い出していた

 

「(間違いない・・・あれは、昔守が絵にかいていた飛行機という乗り物だ。じゃあ、あの中に守が乗っているのか?・・・・・会いたい・・・でもあれは何処か飛び去ってしまった・・・・・・)」

 

ただ一人ましろは最愛の弟である守があの飛行機に乗っているんじゃないかと思っていた。すると・・・・・

 

「宗谷さん・・・・お疲れ様・・カレー持ってきたわ」

 

すると、食堂室に居た洋美がましろの為にカレーを持って来てくれた。

 

「ああ、すまない」

 

ましろは、洋美からカレーを受け取る。すると洋美は

 

「どうしたの宗谷さん?何か悩み事?」

 

「え?」

 

「よければ相談に乗るわよ?」

 

「いいや。大丈夫だ。心配してくれてありがとう」

 

「そう・・・・でも余り無理しないでね!!」

 

そう言って、洋美は、戻っていた。そんな洋美にましろは、少し嬉しかった。そして洋美に渡されたカレーを食べるのであった。

一方、見張り台では

 

「ふぁあ・・」

 

傾きかけた陽の光が、夕暮れ時の太平洋を赤く染める。穏やかな海面に反射してキラキラと光る様子はあたり一面に宝石をばらまいたような美しい景色であった。

そんな海を見ながら、見張り員の野間マチコは、本日何度目かのあくびをする

 

「そろそろ交代の時間か・・・・」

 

早くカレーを食べたいそう内心思いながら彼女はポツリと呟く。すると・・・

 

「ん?」

 

突如な皆になにか光るのが見えた。最初は海面の光かと思ったが微妙に違う。

 

(気のせい・・・?いや違う)

 

マチコは遠視用の眼鏡をはずし、よーく見ると海面になにか浮かんでいた

 

「あれは・・・・・」

 

それは白い物体であった。それを見たマチコは

 

「右舷六十度、大型の漂流物!例の飛行物体です!!」

 

伝声管で艦橋に報告を行う。その言葉は艦橋に残っていたましろに伝わり、ましろは即座に食堂にいる明乃に知らせると、その知らせを聞いた明乃とその場でカレーを食べていた晴風の乗員たちは甲板へと出る

 

「本当ださっきの飛行物体だ・・・・」

 

甲板に集まった生徒たちは戦闘機・・・二式水戦を初めて見たのかそれぞれそう言う。すると双眼鏡をもって見ていた幸子が

 

「艦長、あの物体のところに人が乗っています!」

 

「え!?」

 

幸子の言葉に明乃は双眼鏡で見ると、その物体の中に人が倒れていた

 

「鈴ちゃん!艦をあの物体に寄せてくれる?」

 

「は、はい!」

 

明乃の指示で鈴は晴風をその浮遊している物体に寄せる。船が二式水戦のそばに寄せると、明乃は二式水戦の翼に乗りコックピットを見る。そこには帽子とゴーグルをして顔はよくわからなかったが、目をつむったまま動いていなかった。明乃は風防を開けて

 

「大丈夫!?しっかりして!」

 

そう言い明乃は操縦手の動脈に手を添える

 

「脈はある・・・・・生きてる」

 

操縦者が生きていることに明乃は安心し、操縦者を持ち上げようとするが一人じゃ持ち上げることができなかった

 

「だ、誰か手伝って」

 

そう言い、彼女の言葉に西崎と志摩が手伝い甲板に運ばれる

 

「ねえ、シロちゃん。あれも持って行こ。この人の物みたいだし」

 

「え?でもどこに乗せるんですか?」

 

「魚雷用のクレーンでできないかな?置き場所もとりあえずは広い後甲板に乗せとけばいいから」

 

「わかりました」

 

そう言い二式水戦はクレーンを使用し後甲板に運ばれる。そして操縦者はタンカーに乗せられ、媛萌と百々が持ち上げるとその操縦者の胸ポケットからロケットが落ちる

 

「・・・・え?」

 

それを見た、ましろはその落ちたロケットを拾う

 

「このロケット・・・・・まさか」

 

そう言いましろはロケットを開けると、そこには写真は埋め込まれており、その写真を見たましろは

 

「っ!?」

 

驚愕した表情になり慌ててタンカーのほうに向かう

 

「どうしたんすか副長?」

 

百々が首をかしげる中、ましろがタンカーに乗せられている人物のゴーグルと帽子を外す

 

「っ!?守!!」

 

「・・・・え?」

 

突如の言葉に媛萌やモモはおろかその場にいたみんなは驚く。そんな中ましろは

 

「おい!守!しっかりしろ!守!!目を覚ませ!!私だ!ましろだ!!守!!」

 

「ちょっ!?シロちゃん落ち着いて!!」

 

今まで見たこともないましろの動揺を見て、明乃は落ち着かせる。そして百々と媛萌は守を医務室へ運ぶ。

 

「守・・・・・」

 

「シロちゃん・・・・知り合いなの?」

 

明乃がそう訊くとましろは頷き、そして彼の落としたペンダントを見て」

 

「ああ・・・・・・あいつは・・・・・あいつは森守。私の・・・・私の大切な弟だ」

 

そう言うのだった。こうしてましろは最愛の弟、そして守は敬愛する姉のましろに9年ぶりに再会するのだった。

 



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晴風撃沈命令

晴風が守を保護した同時刻。横須賀女子海洋学校、会議室では

 

「校長、海上安全整備局より連絡です」

 

「読んで?」

 

真雪の秘書の老松亮は、恐る恐る報告する。

 

「はい、今回の晴風、速やかに学内で処理できない場合、大規模叛乱行為と認定し、その際、貴校所属艦は拿捕、それが不可能であるならば、撃沈するとの事です」

 

何と、海上安全整備局から横須賀女子海洋学校に齎されたのは、問答無用の晴風への撃沈命令だった。

 

「っ!?」

 

海上安全整備局からの晴風撃沈命令に真雪は、驚く。

 

「このままでは、本当に反乱と見なされて、ブルーマーメイド及びホワイトドルフィンの本隊の治安出動もあり得ます」

 

「まだ、真実が分からないのに、生徒達を危険な目に遭わせる訳にはいかない!!」

 

ブルーマーメイドやホワイトドルフィンらの実働部隊が本格的に出動すれば学生の乗る晴風はただでは済まない下手をすれば死人が出る可能性があった。そのため真雪は海上安全整備局からの晴風撃沈命令に否定の声をあげた

 

「私達は生徒達の安全の為、あらゆる手を尽くしましょう!!」

 

「はい!!」

 

「まずは、国交省の統括官に連絡を・・・」

 

そう言い真雪は立ち上がる。そして同じころブルーマーメイド安全整備局では・・・・・・

 

「姉ちゃん!いったいこれは何なんだよ!!」

 

「お、落ち着いてください真冬さん!」

 

「艦長落ち着いてください!!」

 

真冬が真霜の胸ぐらをつかみすごい剣幕で攻めていたのを真冬の部下と平賀が抑えていた

 

「姉ちゃん!なんだよこの晴風撃沈命令って!晴風にはシロが乗っているんだぞ!それだけじゃない!守はどうなっているんだよ!あいつが行方不明ってどういうことか説明しろ!!まさか二人を見捨てて見殺しにするつもりじゃないだろうな!!」

 

「そんなわけないでしょ!!!」

 

「「「っ!?」」」

 

今までにない大声でそう叫ぶ真霜に真冬たちは一瞬固まる

 

「そんなわけ・・・ないでしょ二人とも可愛い妹と弟なのよ?見捨てるなんて絶対にないわ。それに私だってこんな事、認めたくないよ・・・・」

 

「真霜姉・・・・・ごめん。言い過ぎた」

 

真冬も先の言葉に冷静になり真霜に謝る。真霜もいやこの場にいる全員が晴風が反乱したと思っていないからだ

 

「私はどうしても晴風が反乱したとは思ってないわ。だから私は晴風の無実を証明したいわ」

 

「宗谷監督官。私たちも手伝います」

 

「あたしも手伝うぜ!!」

 

「みんな…ありがとう」

 

真霜は協力をしてくれる平賀や福内、真冬に礼を言う涙を流したかったが、今は、涙を流す時ではない。

 

「じゃまず、平賀と福内は、このまま明石と間宮と共に晴風の捜索を・・・上より先に晴風を抑えて・・・

 

『はい』

 

「あたしは、何をすれば・・・」

 

「真冬は、保安即応艦隊を率いて、晴風以外の行方不明の学生艦を捜索して、晴風が反乱したと同時に位置が不明なの、彼女らの安否が気がかりだわ。」

 

「晴風以外の学生艦の捜索なんて、気が乗らねが、確かに真霜姉の優通り、他の生徒の安否も気掛かりだ!!・・・分かったぜ真霜姉!!」

 

「じゃ、3人とも任せたわよ!!」

 

『はい』

 

「・・・・ところで姉ちゃん。守の行方は本当にわかっていないのか?」

 

「それが父島からは晴風発見の無電を機に連絡が来ていないって・・・・」

 

「晴風を発見!?どこでだ?」

 

「最後の無電によれば○○地点だそうよ・・・・」

 

「わかりました。なら私たちは間宮とともにその海域に向かいます。もしかしたら守君は晴風にいる可能性がありますので」

 

「そう・・・じゃあお願いね」

 

「はい!まかせてください」

 

こうして、真霜達は、晴風救出と守の行方を捜すため行動を開始するのだった

 

「(ましろ、マーちゃん。絶対に助けるからね)」

 

真霜は心の中で必ず二人を助けることを誓うのであった

 

 

 

 

 

4月8日17:00

 

 

 

日本近海、和歌山県沖

 

 

 

真雪や真霜達が行動をしている頃、晴風は、ドイツの留学艦アドミラル・グラフ・シュペーと奮戦後、南西へと退避し和歌山県沖を航行していた。

そして晴風の後部甲板では、数名が引き上げられていた二式水戦を見ていた。そして艦橋では

 

「本当にあれが空を飛んでいたんだね~」

 

「でもこれどう見ても飛行船には見えないよ。どちらかと言えばスキッパーぽいね?」

 

と、二式水戦を見ている明乃と芽依はそう言いうと

 

「もしかしてあれ。未来とか異世界から来たんじゃないですか?遥かな世界から異次元の嵐に巻き込まれ気が付けば…あ!別世界に!!」

 

「また、始まった・・・・・それに副長が弟だって言ってたじゃん」

 

幸子の一人芝居に芽衣は呆れたような目で見ると明乃が

 

「でも・・・・これのおかげで私たち助かったんだよね?・・・ねえ、これに乗っていた人は今・・・・」

 

明乃は二式水戦の操縦者である守のことを聞くと幸子が

 

「今、医務室に運ばれて副長がずっとそばで看護しています。でも驚きですあの運ばれた子が副長の弟さんだなんて」

 

「うん…でもシロちゃん。ずっと探していた弟さんに会えてよかったね・・・・あ、私その人の様子見てくるよ」

 

「はい。その間は任せてください」

 

明乃の言葉に幸子は頷くと、明乃は守るとましろの様子を見に保健室へと向かうのであった

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・」

 

一方、保健室では、百々たちが運ばれた守は先ほど救出したドイツ艦の子、ミーナの隣のベッドに寝かせられていた。そしてその守の手をましろは優しく握り、見守っていた

 

「(守・・・・)」

 

ぎゅっと彼の手を握るましろ。そしてましろは彼の胸にかけられているロケットペンダントを見る。

そのペンダントは9年前、ましろが彼にプレゼントとして贈ったものだ。そのことは今でもはっきりと覚えている

そして今、自分の目の前にいる少年がかつて6年前に行方不明になった守だとましろは確信していた。時がたち成長はしているがその顔にはまだ幼げで昔のような面影が残っていたからだ

 

「守・・・・・」

 

未だに目を覚まさない守にましろは不安そうな表情をしていた。もしかして一生このまま目を覚まさないんじゃないか。そう不安に思っていたからだ。一応、美波さんの診断では、軽い打撲なんかはあるが、脳や外傷はないとのことで、あとは目が覚めるのを待つだけと言われたのだが、

 

「守・・・・・目を覚ましてくれるよな?」

 

ましろはそう言うと、

 

「シロちゃん?いる?」

 

「艦長・・・・・」

 

そこへ明乃が入ってきてましろの隣に座る

 

「どう?この人の様子は?」

 

「美波さんには命に別状はないって言われた。後は目を覚ますのを待つだけらしい」

 

「そう。よかった・・・・・」

 

「はい・・・でも、もしこのまま守が目を覚まさなかったら・・・・・」

 

「大丈夫だよシロちゃん。きっと目を覚ますよ」

 

「艦長・・・・ありがとうございます」

 

明乃の言葉にましろは礼を言うと

 

『艦長、至急艦橋に来てください!!』

 

急に艦橋にいる幸子からの呼び出しに明乃は立ち上がり

 

「シロちゃん。私行ってくる」

 

「じゃ、じゃあ私も・・・・・」

 

「だいじょうぶ。シロちゃんはこの人の看護をお願い」

 

と、そう言い明乃は艦橋へと戻るのであった

 

「ココちゃん如何したの?」

 

「‥‥非常通信回線が」

 

「何所から!?」

 

「‥武蔵‥‥からです」

 

「武蔵!?」

 

武蔵の言葉を聞いて、明乃は、驚愕しながら、幸子から受話器を受け取る。

 

『こちら武蔵・・こちら武蔵・・』

 

「もかちゃん!?あたし明乃、如何かしたの!?何があったの!?」

 

明乃はもえかに話しかけるが、向こうの無線機の受信感度が低いのか、明乃の応答にもえかは答える事無く、必死に救援要請を伝える。

 

『非常事態発生…至急救援を…現在、アスンシオン島北西…アスンシオン島北西…至急救援を…至急救援を……』

 

やがて、受話器からもえかの声は聴こえなくなり、晴風の艦橋は不気味な程の静寂に包まれた。

 

「もかちゃん‥‥」

 

明乃は受話器を持ったまま固まってしまう。砲撃してくるアドミラル・グラフ・シュペーから無事脱出に成功した晴風、そして9年ぶりに再会したましろに新たに武蔵からのSOSという不可解な事態に遭遇するのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、同時刻、某海域の岩礁に乗り上げられた巨大艦にいる謎の女性がいた

 

「やれやれ・・・今日も一隻の船も飛行機も来ないか・・・・まあ、食料や水はまだあるし、何とかなるだろうな・・・・・」

 

そう言い女性ははタバコに火をつけフーと息を吐くと

 

「それにしても・・・なんだか波や風が妙に荒々しいな・・・・・これは何か良からぬことが起きそうだな・・・・そうだろ?信濃よ」

 

と、ポツリと呟くのであった



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夕焼けの海と深海の狼

「(・・・武蔵からの救援要請・・如何しよう・・・)」

 

明乃は、先程、傍受した武蔵からのSOSを聞いて、心中は揺れに揺れ動いていた。

 

「・・・・・・」

 

しばらくして医務室から戻ってきたましろが心中が揺れ動く明乃を見て舵を握りながら見ていた。ましろも少なからず、明乃の気持ちがわかっていたが、どう言えばいいのかわからなかった。

一方、甲板では艦首先で、楓が午後17時を知らせるラッパを吹いていて、幸子は、被害状況を確認する為、各部を見回っていた。

そして第一主砲塔付近では

 

「武田さん!!主砲の状況は、どうですか?」

 

幸子は、美千留に各主砲の状況を聞く。

 

「見ての通り点検中・・・大部分は、自動化されてるけど、点検が大変だよ!!・・・どう、光?」

 

と美千留は砲塔の頂上で整備をしている光に訊くとゴーグルをつけて点検をしていた光は

 

「まだぐずてるんだよね、この子・・・」

 

汗を拭いながらそう返事をする

 

「あと、どれくらい掛かりますか?」

 

「日没までは、何とかするよ!!」

 

日没までには、主砲の修理作業が完了の予定の様だ

 

「よろしくお願いします!!」

 

『は~い』

 

幸子は、主砲の修理作業を美千留と光に任せ、第三主砲塔付近に向かうと美甘が修理が忙しくて、食堂室まで食べに行けない生徒に対して、おにぎりなどを配っていた。

 

「おにぎりできたよ~!!」

 

「「「ありがとう」」」

 

皆が美甘に礼を言いおにぎりを取る 

 

「顔になってるのが梅干が入ってるやつね・・・」

 

「松永さん!!姫路さん。こちらは何か異常ありませんか?」

 

二人がおにぎりを食べていると幸子が尋ねてきた。

 

「発射管は、異常な^~し」

 

「ま~あ、魚雷が一本も無いけど・・・」

 

そう答えると幸子が美甘の持つバットの中にあるおにぎりを見る

「皆さんのお食事は、おにぎりなんですね」

 

「みんな修理で食堂まで来れないし、忙しいから・・・・・・あっ!?そう言えば武蔵から非常通信が着たって、本当?」

 

美甘は、武蔵からのSOSが着た事を幸子に問う。すると理都子と果代子

 

「私もそれ聞いたよ」

 

「他の艦って、如何なってるのかな?」

 

と、二人がそう訊くと

 

「「・・・・・あ」」

 

二人は幸子の様子が変わったのに気づく。そして幸子は・・・・・・

 

「『世界の全てが敵に回っただと!!』『武蔵を沈める訳には、いかない!!南の果てまで逃げYO!』」

 

と、いつもの一人芝居が始まったのだが・・・・・

 

「そのネタ、あんまり面白くない!!」

 

「え~!!」

 

元ネタが分からないのか美甘から、あまり面白くないと言われ、幸子はがっかりする。

すると美甘が

 

「そう言えば、あれ結局なんだったの?」

 

と、高甲板に固定され置かれている二式水戦を見て幸子に訊くと

 

「さあ?私もよくは・・・・・ただ空を飛んでいたのは事実ですよ」

 

「それはみんなから聞いたけど・・・それに誰か乗っていたんでしょ?」

 

「はい。何でも副長の弟さんだとか?今は医務室で寝ていて目が覚めていないらしいですけど」

 

果代子の言葉に幸子がこう答えると

 

「「「副長の弟?」」」

 

と、三人は首をかしげるのであった。そしてその後、暫くして、各部の被害状況を確認し終えた幸子は、艦橋へと戻ると各部の被害状況を報告する。

 

「損傷の確認、出来ました!!」

 

「状況は?」

 

ましろが訊くと幸子はタブレットを動かし

 

「現在、機関修理中・・・3番主砲使用不能、魚雷残弾なし、爆雷残弾1発・・・戦術航法装置並びに水上レーダー損傷・・通信は、受信のみ出来ますが・・・」

 

幸子はましろに各部の被害状況は、深刻で、特にさっきのアドミラル・グラフ・シュペーとの戦闘で第三主砲は、損壊し修理は、不可能。更に機関も逃げる時に無理をした為、現在修理中。弾薬も残り少ない状況だったことを報告をする。

 

「航行に必要な所の修理最優先でどれくらい掛かる?」

 

「機関だけなら後8時間くらいですね」

 

「先ずは、其処からだな・・・」

 

ましろはそう言うと伝達官へと向かい

 

「・・・機関長!動きながらで大丈夫か?」

 

伝達管で麻侖に確認を取ると

 

『何とかする~!でも、巡航以上は、出せねいぜ~!』

 

麻侖は、機関を修理しながら、答える。

 

「分かった!!・・・・・・巡航で学校に戻る最短コースで良いですね・・艦長?」

 

麻侖の言葉にましろはそう返事をし、そして明乃に言うが、先ほどの武蔵の件で動揺していて気が抜けている為、全く反応がなく、すると五十六が明乃の頭の上に乗っかるが、まったくの反応なし。それをみたましろは

 

「艦長!!」

 

今度は、大声で呼んだ。

 

「えっ!?・・シロちゃん、何?」

 

ましろの呼び出しに明乃は、ようやく気付く。

 

「はぁ、気持ちはわからなくはないですが、しっかりして下さい!!」

 

「ごめん、つい・・・」 

 

ましろはため息をついてそう言い明乃は謝るのであった。一方、通信室では鶫が鼻歌を歌いながらスマホをいじっていた

 

「・・・ん?」

 

突然、どこかの通信を傍受する。

 

「海上安全委員会・・・・」

 

傍受した内容を鶫は、スマホに記録する。そして傍受した内容をまとめた鶫はその内容を幸子に連絡する。そして幸子は明乃たちのもとに向かい

 

「八木さんが、緊急電傍受したそうです」

 

「「何所から!?」」

 

「海上安全委員会からの広域通信ですね」

 

「広域通信・・・?」

 

幸子が通信内容が書かれたタブレットをましろと明乃に見せ、それをましろが読み上げる

 

「え~と・・・現在、横須賀女子海洋学校の艦艇が逸脱行為をしており、同校全ての艦艇の寄港を一切認めないよう通達する・・・また、以下の艦は抵抗するようなら撃沈しても構わない・・・航洋艦晴風!!?」

 

内容の中に晴風の名前が記載されていた事にましろは、驚く。

 

「げ・・げき・・・」

 

「撃つのは、好きだけど・・撃たれるのは、やだぁ~!」

 

撃沈という言葉を聞いて志摩と芽衣が頭を抱え動揺する

 

「何所の港にも寄れないって事?」

 

「そう言う事だろ?・・・」

 

「私たち完璧にお尋ね者になってるよぉ~!!」

 

明乃とましろの言葉に鈴は涙目でそういうと、明乃は先ほどの武蔵の緊急通信を思い出す。

 

「もしかして、武蔵も同じ状況なのかも・・・だから、非常通信を・・・」

 

「こっちと違って、簡単に沈むような艦じゃない」

 

「でも、助けを求めてた・・だから・・・」

 

「我々の方が助けが必要だろ!!それに、実技演習もしてない私達が如何やって助ける気だ!」

 

明乃の言葉にましろはそう大声で言う。そしてましろはこう続けた。

 

「艦長。気持ちは私にも少しはわかります。ですが今はこっちを・・・・みんなの安全を優先するべきです。学校へ戻る方針を変えるべきじゃない・・・武蔵の事は、学校に報告して任せよう」

 

ましろは明乃は武蔵の艦長を心配している姿を見て、自分と守のことを重ねてたため。少しは彼女の気持ちも理解できた。しかし、現状を見て今はここ、晴風の乗員の安全を優先すべきと考えたましろは武蔵の事は、学校に任せ、我々は、学校に帰投すべきである事を告げる。

そしてそれを聞いた明乃は少し考えると小さくうなずき

 

「わかった・・・シロちゃんの言う通り、学校へ戻ろう。」

 

「うぃ・・・・」

 

明乃はそう言うと志摩もうなずく

 

「じゃあ私が艦橋に入るから、皆は、休んで」

 

「うぃ?」

 

明乃はみな休むように言うと志摩が首を傾げ幸子が

 

「今夜の当直は私と鈴ちゃんです」

 

タブレットを動かし当番の予定表を明乃に見せる。そしてましろも

 

「正しい指揮をする為には、休むのも必要です」

 

そう二人が言うが明乃は

 

「私は大丈夫だから‥‥」

 

と、いうが・・・・

 

「良いから休んでください!!」

 

「うん・・分かったよ・・・シロちゃん」

 

ましろの剣幕に明乃はしぶしぶ承諾し、休むため艦長室へと向かうのであった。そしてましろは明乃が艦長室へ向かったのを確認すると、

 

「やれやれ・・・・」

 

と、そう言い艦橋を出る

 

「あれ?副長。そっちは医務室ですよ?」

 

幸子がそう言うとましろは

 

「休む前にもう一度、守の様子を見に行く・・・・・・」

 

背を向けたまま幸子に言いその場を去るのであった。明乃にきつく言ったましろであったがその内心はいまだに守のことを心から心配していたのだった、

 

「(これじゃ、艦長のこと言えないな・・・・)」

 

軽くため息をつき、ましろは医務室へと向かうのであった。

 

そして同じころ艦長室ではベッドに転がった明乃が浮かない表情をしていた。

 

「(もかちゃん・・・助けに行きたい・・・でも、今は・・・)」

 

「はぁ~もっと艦長として、しっかりしないと・・・」

 

明乃は、そう言いながら眠りつく。

 

 

 

 

 

 

その頃、晴風のすぐそばの海域で海の中、一隻の潜水艦が動いてた。船体は黒くまるで鋼鉄のクジラのようだった。そして甲板らしきところには赤地の中央に白い丸。そしてその白丸の中央に鍵十字が書かれていた

 

「謎の海流から逃れてレーダが回復しました艦長」

 

「で?状況は?」

 

船内で一人の船員が将校服を着た女性に訊くと、女性は振り返り乗員に訊くと

 

「右舷前方、10マイルで一隻の船が航行中。エンジン音からして民間船ではありません。恐らく軍艦かと」

 

「この海域にいる軍艦は味方はいません。恐らく日本国海軍(ヤーパン)の哨戒任務に就いている艦艇です。たった一隻。絶好の獲物です」

 

「潜望鏡をあげろ・・・・・」

 

女性将校がそう言うと、潜水艦は潜望鏡を上げる。そして潜望鏡を覗く将校は・・・・・

 

「艦橋や航海灯の明かりがつけっぱなしだな・・・・・・アジアの制海権を奪還したからって油断しているのか?艦影から見るにカゲロウ(クラス)に似ているな・・・・・・よし、驚異の芽は早くに摘み取らないとな」

 

そう言うと、

 

「1番、2番。発射用意!!」

 

「Heil!!G7魚雷装填開始!!」

 

将校の命令で船内があわただしくなり兵員が魚雷発射管に魚雷を装填する

 

「1番、2番。発射用意!!」

 

「発射口、開口!!」

 

と兵員が言う中、将校が軍帽を深くかぶり

 

「ふん!恨まないでよね。こんなところで一人だけうろちょろしているあんたらに運がないのよ…Sieg Heil Viktoria」

 

そう言いにやりと笑うのであった

 



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パジャマと第4帝国の亡霊

時間は少し遡り、晴風では少し仮眠を取っていた明乃だが、突然、ベッド横の内線電話が鳴る。その着信音のブザーに明乃は目を覚まし、そしてスピーカーから。

 

『艦長、艦長!水測の万里小路さんが、何か海中で変な音がするって‥‥艦長!!・・艦長!!』

 

幸子の言葉に明乃は飛び起き制服に着替えた。そして艦橋へと向かい

 

「総員配置!!」

 

直ぐ配置の命令を下し、艦橋に上がると、艦橋には、幸子と鈴が当直をしていた。

 

「ココちゃん、報告して!?」

 

「えっと‥‥方位30に二軸の推進機音、感2‥現在音紋照合中です!!」

 

艦橋に飛び込んできた明乃と薫に幸子は現状を報告する

 

「水上目標がいないって事は…潜水艦?」

 

幸子の報告に明乃はそう言うと、

 

「ふぁぁぁ~如何したの?こんな時間に‥‥?」

 

欠伸しながら、まだ寝ぼけ眼な芽衣とアザラシの様なアイマスクを付けた志摩が艦橋に上がって来た。そして副艦長であるましろも来たのだが・・・・・

 

「シロちゃんそれ!!」

 

「何やってるんですか?」

 

二人の目の前に立っていたのは、寝ぼけた状態で鮫のぬいぐるみを抱っこしたままのましろだった。

 

「ん・・・・わぁ・・これは・・・・その、見るな!!」

 

ましろは、自分の状況に気づき顔を真っ赤にして慌てて、鮫のぬいぐるみを後ろに隠す。ましろが恥ずかしがる中、各部配置に着いたクラスの子たちが報告をする

 

「主砲、配置よし」

 

「機関は、まだ修理中。巡航以上は、だせねぇぜ」

 

「見張り異常なし・・・何も見えませんが」

 

光、麻侖、マチコが艦橋に報告する。

 

「か、各部・・・・配置に着きました・・・!!」

 

ましろは、恥ずかしがりながら明乃に言うと、ソナー室にいる楓から報告が出た

 

「音紋照合いたしましたが・・・・一切不明の潜水艦です」

 

「所属不明?」

 

音紋照合しても不明な潜水艦の存在と楓の言葉に艦橋にいた皆が首をかしげる

 

「所属不明って・・・そんなことってあるの?」

 

「もしかして新型艦‥‥それとも非合法で建造された艦なのか?」

 

「それって海賊って事?」

 

正体不明の潜水艦。それは非合法に建造された艦であり海賊かテロリストの艦である可能性もある。もし仮に海賊やテロリストならば、学校側の出た戦闘禁止命令には該当せず、攻撃を仕掛けてくる可能性もある。

 

「正体不明でも何でも、絶対に追手だよ!撃っちゃおう!」

 

不明艦が追ってだと思い込み、先制攻撃を仕掛けようと芽衣は言う

しかし明乃は芽衣の考えとは違い

 

「ココちゃん。その潜水艦と通信できないかな?」

 

「普通の電波は海水で減衰するので届きませんね」

 

「じゃあ普段、通信は如何してるの?」

 

明乃は潜水艦が水中で同連絡を取っているか疑問に思っているとましろが

 

「潜水艦だからって、いつも潜ってる訳じゃない!!」

 

「そうだよね、時々は海上の様子見ないと怖いよ~!!」

 

ましろの言葉に鈴がそう言うと明乃が

 

「シロちゃん、潜ってる時は、向こうも外の様子をソナーで探ってるんだよね?」

 

「当然だ!!」

 

「じゃあ、此方からアクティブソナーをモールスの変わりに使ったら?」

 

明乃はアクティブソナーをモールスの変わりに使う事をましろに提案する。そしてそれを聞いた楓は

 

「恐らく可能だと存じますが・・・」

 

「そんな事したら間違いなく砲撃したと思われるぞ!!」

 

楓はそう返事をしたが、明乃の提案にましろは、アクティブソナーを撃てば、間違いなく砲撃したと思われ、反撃される可能性が大だと思い、明乃の提案に反対する。

 

「ソナーでも何でも良いから撃っちゃえ!!」

 

「馬鹿なこと言うな!!」

 

と、とにかく撃ちたい芽衣がそう言うとましろが強く否定すると、明乃は楓に

 

「万里小路さん、所属と艦名、戦闘の意思は無い事を伝えって」

 

「委細、承りました!!」

 

楓は、アクティブソナーで潜水艦と通信してみる。

 

 

一方、潜水艦内では

 

「艦長。DESTROYER(駆逐艦)から、アクティブソナーが発せられています。しかもモールス信号でです」

 

「ばれたか・・・・・・で、相手はなんと?」

 

「ええっと・・・・・『此方、横須賀女子海洋高校所属、航洋艦晴風。貴艦への攻撃意思は無し』…とのことです」

 

戸惑いながら言う通信手に艦長は

 

「ふん。見苦しい電文ね。武装艦なのに学生の乗る船ですって?どうやら日本人(ヤーパン)はコメディアンの素質があるようね」

 

「で、艦長どうします?攻撃を中止するのは・・・・」

 

「NO!我がUボートに攻撃中止の命令はない。きっとあのモールスも苦し紛れの言い分でしょ。仮に今は戦争中だ。戦闘海域の中。学校の船がしかも駆逐艦がうろちょろしている時点で欺瞞だというのはすぐにわかる。予定通りあの船を真っ二つにして轟沈する。操縦手!敵のソナーにひっから無いよう潜行せよ!敵の側面に回り込み魚雷を放つ!」

 

「Heil!!」

 

「ふふ見てなさい、あんたの船はこのUボートXXI型の魚雷で轟沈してやる」

 

 

 

晴風艦橋では

 

「目標進路変換、急速に深度を増していますわ」

 

楓からの報告で潜水艦は潜望鏡深度から更に潜航している。

 

「だから言っただろう!!」

 

「でも、もしこれで、こっちの状況が伝われば・・・」

 

「それは、そうだが、私達は、もうお尋ね者なんだぞ!!」

 

ましろは、先程の海上安全委員会の広域通信で晴風撃沈命令の事を思い出す。

 

「やっぱり追手なんだって!」

 

「は、早く逃げようよ‥‥」

 

芽衣の言葉に鈴は、ブルーマーメイドとホワイトドルフィンの艦艇が来る前に潜水艦から逃げようと言う。

 

「‥‥鈴ちゃん、両舷前進微速、ソナーの邪魔にならない速度で・・・」

 

「りょ、両舷前進微速!!」

 

鈴は、明乃の指示通り、ソナーの邪魔にならない速度で潜水艦から逃げる。その中、潜水艦は晴風を追尾し直ぐに潜望鏡深度まで浮上、潜望鏡を出して、こちらの様子を見ていた。

 

「ねえ、その潜水艦に乗っているのってどんな人なんだろうね?」

 

「知るか」

 

明乃の言葉にましろがそう言うと内田は

 

「基本潜水艦は男性だけですよ。でも狭くて暑くて臭くて‥‥」

 

「わ、私には無理~!!」

 

内田の言葉に鈴が潜水艦内部ののイメージをして涙目でそういうと楓が

 

「現在、不明潜水艦そ速力17ノットでこちらを追尾中・・・・」

 

「17ノット?晴風に比べたら、全然遅いね?」

 

楓の報告を聞いて明乃がそう言うと

 

「艦長。こっちは、水上、向こうは、水中でそれだけ出てるんです。通常の潜水艦は、6ノット程度だ。それを17ノットで出るのはかなり足の速い潜水艦です」

 

「17と6・・・」

 

横から志摩が通常の潜水艦との速力の割合を言う。

 

「へぇ~、約3倍は、早いんですか!!」

 

明乃が感心してそう言う・・・・

 

 

 

 

潜水艦内部

 

「敵補足。いつでも撃てます艦長」

 

「よし・・・・・・1番、2番・・・・Feuer(発射)!!」

 

「一番撃てぇー!!」

 

「二番撃てぇー!!」

 

女将校の命令により一番管と二番管の魚雷が発射される。その発射音はソナー室の楓に聞こえていた

 

「魚雷2本いらっしゃいました!!」

 

「撃ってきた!?」

 

楓の報告にましろは驚き、明乃は

 

「マロンちゃん、出せる限りで最大戦速!!」

 

明乃は急ぎ回避行動を取ろうと機関室の麻侖に指示を出すが麻侖は、まだ、機関の修理に躍起になっていた。

 

「今は、手が離せねぇ、クロちゃん頼んだ!!」

 

「了解」

 

麻侖は、修理中の為、操作が出来ないので洋美に頼んだ。

 

「万里小路さん!発射音はどっちから!?」

 

「魚雷音方位、270。近づきます!!感2‥‥感3‥‥」

 

「了解」

 

楓は、向かってくる魚雷を捕捉しながら報告する。そして見張り台で様子を見ているマチコは楓の報告を聞いて返事をし、辺りを見渡す

すると、彼女の目には此方に接近して来る2本の雷跡がはっきりと確認できた。

 

「雷跡左30度、距離20、こちらに向かっている」

 

「鈴ちゃん!!取舵いっぱい!!」

 

明乃はマチコの報告を聞いて、左に回避する様、鈴に命じる。

 

「と、取舵いっぱーい!!」

 

明乃の回避命令に従い、鈴は急いで左に舵を切り、回避運動を取る。

 

「魚雷、衝突コースから外れます!」

 

どうやら放たれた二本の魚雷は晴風の艦尾をすり抜けたようだった。それを潜望鏡で見た潜水艦の女将校は

 

「チィ、外したか・・・・次弾急げ。次は必ず仕留めるぞ!」

 

「「Heil!!」」

 

「(夜間でのあの距離なら命中して轟沈のはずなのに、あの駆逐艦の操舵手。いい動きしやがる。これは沈め甲斐があるわ)」

 

 

 

晴風艦橋

 

「タマちゃん左砲戦準備!!」

 

Uボートの魚雷回避後、明乃は即座に主砲の発射準備を志摩に命じる。

 

「うん」

 

志摩もそれに従い砲身を魚雷が来た方向へと旋回させる

 

『目標、見えません!!』

 

マチコは真夜中のそして暗い海中に潜むUボートを視認できなかった。そして攻撃命令をした明乃にましろは

 

「撃ったら、今度こそ完全に敵対する事に・・・・・」

 

「分かってる。でも逃げ切るには・・・・」

 

「ぜ、全速が出せれば、たぶん振り切れると思うけど・・・」

 

『だから全速は出せねぇって!!』

 

「わ、分かっています~」

 

鈴の言葉に機関室から麻侖の怒声が聞こえる。全速力を出したいところだが現在、機関は修理中のため速度を上げられないのだ

 

「万里小路さん、相手の位置分かる?」

 

明乃はソナーで相手の居場所を探ることができないか楓に訊くが

 

「恐れ入りますが、もっとゆっくり進んで頂かないと‥‥」

 

「速度落としたら、やられちゃうよ!!」

 

「とにかく今は逃げ回ろう!!」

 

楓の言葉に鈴はそう言い、そして明乃は逃げることを決断するのであった。

そしてUボートでは

 

「艦長。ヤーパンの駆逐艦が逃げていきます。撃ちますか?」

 

「ここで撃ってもまた回避されるわ。ここはもっと近づいて、奴をしとめる。それにこのまま撃沈するのもつまらないわ。ジワリジワリと追いつめて苦しませながら轟沈させるわよ。Sieg Heil!!」

 

「「「「Heil Hitler!!Heil Fuehrer!!!』」」

 

将校の言葉に船員たちはナチス式の敬礼を取りUボートは晴風を追うのであった

 

 

 

「・・・・・・」

 

一方、晴風の医務室では意識を失っている守の手がぴくっと動くのであった

 



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目覚める海狼

今年で戦争終結から75年。あの戦争の悲しい歴史を私たちは繰り返してはいけない・・・・・そして後世にも語り継がなければならない。
もう二度とあの戦争のような悲劇を生まないためにも・・・・・


逃亡中だった晴風はなぜかこの世界に転移したナチスドイツの潜水艦UボートXXI型に攻撃された。そして晴風はUボートから逃げて一時間が経とうとしていた。

 

『周囲、何も見えません!!』

 

マチコから周辺に異常はなく、平穏な夜の海が広がっている報告を受ける。

 

「1時間経過か・・速度差からも、十分距離は、開いたかと」

 

「そうなの?」

 

「向こうも、最高速度でずっと水中を動けるわけじゃない」

 

ましろは潜水艦はずっと水中で動くことはできず、時たま水面から浮上していると考え、そして最初の攻撃から一時間が経過し、もう潜水艦の追尾を振り切ったと推測した

 

「じゃあ、何とか逃げられたかな?」

 

「逃げるなら任せて!」

 

「それって自慢する所ですか~?」

 

「コ、ココちゃ~ん」

 

明乃の言葉に安心してそう言う鈴に幸子が茶化する。そしてそのやり取りに艦橋は笑い声が満ちた。

 

 

 

医務室

 

「・・・・・・」

 

突如、医務室で寝ていた守が目を覚ましてた。辺りを見渡すとそこには白いベットに医療道具が置いてあった

 

「また医務室か・・・・俺ってなぜか医務室に縁があるな・・・・・」

 

頭をさすりながら、そう呟く守。すると隣にだれか寝ている人物に気が付く。それは金髪の外国人らしい少女であった。その少女を見た守は

 

「・・・・エミリア・ハルトマン?」

 

守はかつてナチス武装親衛隊に所属していたエースパイロットである彼女の名を言う、そう、その少女はそのエミリア・ハルトマンに似ていたのだ。だが

 

「いやいや・・・ここは俺のいた世界とは違う世界。あのナチス武装親衛隊のエースがこんなところに居るわけないか・・・・・・シュペーの関係者か?」

 

そう自分に言い聞かせる。すると・・・・

 

「目が覚めたか?」

 

と、そこに医務員の美波が守に声をかける・・・・・

 

「あなたは・・・・(なんでこんなところに小学生が)?」

 

「鏑木美波。晴風の衛生長だ」

 

「晴風!?ここは晴風の船内なのか!?」

 

「そうだ。お前は確か副長の弟・・・・・で間違いないか?」

 

「副長?・・・・・もしかして宗谷ましろのことか?」

 

「そうだ。それに君は噂で聞いた飛行物体の操縦手というのも間違いないか?」

 

「(飛行物体?二式水戦のことか?)あ・・ああ。日本国海軍水上戦闘機隊所属の森守少尉だ・・・・俺は一体。」

 

「(日本海軍?)艦長や副長の話によれば、海の上を漂っていたところを艦長たちが引き上げたと聞いた。それに副長はお前が目覚めるまでずっとお前の看病をしていたんだぞ。後でお礼を言うと良い」

 

「姉さんが・・・・・」

 

守が姉である、ましろがずっと看病してくれたことを美波さんから聞かされる。すると・・・・

 

「っ!?」

 

「どうした?」

 

急に何かを感じたのか守の顔つきが少し変わる。その表情に美波さんは不思議そうに訊くと

 

「(感じる・・・・殺気が・・・・あいつらの・・・ナチスの気配が)」

 

いろんな戦場を転々としナチスドイツと戦ってきた守は、艦内の雰囲気がただ事じゃないこと、そして微かに何者かの殺気を感じていた

 

「えっと・・・美波さんだったか?艦内があわただしい雰囲気だが、もしかして今は戦闘中なのか?」

 

「ああ。現在潜水艦に追われている様だ」

 

「潜水艦?潜水艦と交戦しているのか?だがこの部屋を見るからに・・・・・すまない俺の飛行服は?」

 

「ここに掛けてある」

 

「すまない」

 

そいい守はベッドから起き、飛行服を着る。

 

「・・・よし!」

 

軍刀と拳銃をつけた後部屋を出ようとすると

 

「待て、どこに行く?」

 

「艦橋だ。艦長と話がある」

 

「案内しようか?」

 

「いや、陽炎型なら以前にも乗ったことがある。それに衛生長さんは他の患者さんの面倒見なきゃいけないだろ?」

 

「そうだった。すまない」

 

「いや。艦橋の場所を教えてくれようとして感謝するよ。じゃあ」

 

そう言い守は部屋を出る。そして廊下を走り歩いているとき、晴風が大きく揺れる

 

「この揺れ、砲撃じゃない雷撃のものだな・・・・・なのにこの明るさは・・・全く何をやっているんだ!」

 

そう言い艦橋へと目指す。一方、艦橋ではまたUボートに攻撃されていた。

 

『雷跡フタ! 左120度30! こちらに向かう!』

 

マチコの言葉に晴風は旋回し魚雷を回避する

 

「また・・・・・相手の魚雷はあとどれくらいだろう・・・」

 

「こんなに直ぐ見つかるとは・・・」

 

明乃とましろは、双眼鏡で魚雷が発射された方向を確認する。すると・・・・

 

「何をしている!ここの艦長もしくは先任は誰だ!!」

 

「「っ!?」」

 

急に男性の声が聞こえ二人は艦橋内に戻ると、そこには飛行服を着た守がいた。すると幸子は

 

「今、潜水艦と戦闘中でして・・・」

 

「それは医務室で聞いた。なら、なぜ明かりをつけたまま航行している!相手に自分の場所を教えるようなものだぞ!すぐに全部に明かりを消せ、撃沈されるぞ!!」

 

軍人としての癖なんだろうか、守は現在晴風が航海灯や明かりをつけたまま航行しているのを厳しく指摘する

 

「は、はい、全部照明消して」

 

守の言葉に明乃はすぐに照明を消す。

 

「うわっ!何にも見えない!!」

 

「落ち着けすぐに赤色灯が付く!」

 

行き成り照明を消されうろたえる芽衣に守が落ち着かせると艦内に赤色灯が付く。すると鈴が

 

「でも、こんな事したら、他の船とぶつかっちゃう」

 

「大丈夫だ。海は広い。ほかに船がいたらレーダーですぐにわかる!操舵手さん。取舵いっぱい」

 

「は、はい!と、取り舵いっぱい!!取り舵20度」

 

守の指示に鈴は舵を取る。

 

「ソナー員さん。聴音を聞き逃さないように」

 

『畏まりました!!』

 

「これで少しだけ時間が稼げるが、それを逃すほど甘くはないな・・・何か対抗策を・・・」

 

守がそう呟くと・・・・

 

「・・・・守?」

 

ましろが守に声をかける。声をかけられた守はましろに方を向く

 

「本当に・・・・守なのか?」

 

ましろは不安そうな表情でそう訊く。その眼は今にも泣きだしそうだ。そして守は静かに頷き

 

「久しぶりです。姉さん・・・・・9年ぶりですね」

 

「お前・・・いままで一体どこに」

 

「姉さん。俺も姉さんの再会を喜びたいし、話したいこともあります。だが、今は交戦中です。積もる話は潜水艦を何とかした後にしましょう」

 

「あああ・・・そ、そうだったな・・・」

 

今は潜水艦と交戦中だったことを思いだしましろは頷く。

 

「本当に弟だったんだ・・・・」

 

「でも似てないね?」

 

芽衣とまゆこがそう言う。すると守は

 

「え・・・と晴風艦長は誰ですか?」

 

「え?あ、はい。晴風艦長の岬明乃です」

 

「海軍少尉の森守です。それで先ほど潜水艦と交戦と聞きましたが艦種はわかりますか?」

 

「海軍少尉?・・・・ええっと。ごめんなさい。それが分からなくって」

 

「魚雷の種類は?航跡は見えましたか?」

 

「え・・・とマチコさんが言うには航跡は見えたそうです」

 

「となると酸素魚雷じゃないな・・・・・」

 

と守は考えていると・・・・・

 

「このド下手くそな操艦はなんなんだ!艦長はだれじゃい!!・・この船はド素人の集まりか!!」

 

誰かが環境に入ってそう怒鳴る。それは、前のアドミラル・シュペーとの戦闘で救助したミーナがだった。

 

「え・・・・とお前は、誰だ?」

 

ましろは、ミーナに自分は、誰かと聞くと、艦橋にいる全員が注目する。

 

「ん、・・・・・・・・ワシは‥‥ヴィル・・・」

 

ミーナが名を名乗ろうとした時、

 

「あっ!?ドイツ艦の子だよ、目が覚めたんだ!!」

 

ミーナが名乗る前に明乃が彼女の正体を言ってしまう。そして守は

 

「(あ、やっぱりエミリア・ハルトマンじゃなかったか・・・・他人の空似って奴か)」

 

守がそう思っていると、ミーナは

 

「で・・・今は潜水艦と戦闘中と衛生長から聞いたが、すぐに明かりを・・・」

 

「あ、それ、もう俺が言いました」

 

「お、おう。そうか。すまぬの・・・・それより今は、戦闘だ!!・・直ぐに反撃の準備に移る!!・・潜水艦戦ならワシに任せろ!!」

 

「へ~」

 

ミーナの心強さに明乃は、感心する。

 

「潜水艦の本場は、ドイツだからな!!」

 

『お~』

 

更に艦橋にいる者もミーナに感心する。

 

「流石ドイツ」

 

「ドイツ」

 

「そいつ?」

 

幸子と鈴は、そんなミーナを褒めると守も

 

「俺も協力する。航空兵とはいえ、何か力になれるかもしれないからな」

 

「お主は?」

 

「日本国海軍少尉の森守だ」

 

「海軍?日本に海軍はいないはずじゃが・・・・・?」

 

「守。お前はいったい何を言っているんだ?」

 

守の自己紹介にミーナとましろは首をかしげる。

 

「ま、まあ・・・いい。まずは、ド基本の爆雷で・・・」

 

「1発しか無い!!」

 

「「じゃ、ド定番の対潜迫撃砲を・・・」

 

「そんなの積んでないって・・・」

 

「Mk32対潜魚雷は?」

 

「いつの時代だよ、てか、知らん!!」

 

「姉さん。RUR-5アスロックは・・・・ないよね?」

 

「そんなものない。というよりアスロックってなんだ?」

 

ミーナと守の言葉にましろは否定する

 

「じゃ、何があるんじゃい~!!」

 

ミーナがそう言うとそれを聞いた鈴と幸子が面白そうに笑っていた。そして明乃は

 

「そう、私達には、何もない・・・・だから、知恵を貸して欲しいの・・・」

 

明乃は、ミーナと守に知恵を貸して欲しいと頼む。

 

「水中で動くものは、何か無いのか?」

 

「う・・・ん・・・」

 

「何か!!」

 

明乃がそう言うとミーナは、明乃に水中で使用できる物が無いか問う。そして考えている明乃にミーナは、急かす。そして守も

 

「(対潜爆弾があれば、二式水戦で行けるが・・・・・)・・ん?」

 

守も考えていると、不意に椅子の上に置いてある鮫のぬいぐるみを見つけ、それを見ている大柄の猫を見つける

 

「あれ?五十六元帥?なぜ晴風に?それにあれ、姉さんのぬいぐるみのブルースか?・・・・・鮫・・・・魚・・・・・潜水艦・・・・・水中で使える代物・・・・・・あっ!!」

 

「「「っ!?」」」

 

突然守が声を上げ皆はびっくりする

 

「ど、どうしたんだ守!?急に大声を出して?」

 

ましろが守に訊くと

 

「岬艦長!方法があります!」

 

「え!?ホント!どんなの!?」

 

「魚釣りです!!」

 

「「「・・・・は?」」」

 

守の魚釣りという言葉に皆は頭の上に?マークを浮かべる

 

「え・・・とそれって」

 

「あれです!」

 

そう言い守は椅子の上に載っている鮫のぬいぐるみを指さす。それを見た明乃は・・・・

 

「・・・ああ!?」

 

鮫のぬいぐるみを見て、明乃は守の言いたいことを理解し、手を叩くのであった。

果たして守が思いついた作戦とは・・・・・・・

 

 



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晴風vsUボート、雷撃でピンチ!

Uボートでは

 

「明かりを消したな・・・・・・相手もついに本気を出したってことか」

 

「艦長。どうします?追撃しますか?」

 

「無論だ。そして魚雷装填準備を急げ。まず最初に一発撃って相手を誘導!そして次はどちらに舵をきっても当たる放射状に撃て!」

 

「了解!!」

 

そう言い艦内があわただしくなる中、艦長は潜望鏡で晴風を見て

 

「さて・・・・どうやって私を楽しませてくれる?」

 

そうニっと笑い見るのでああった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、晴風艦橋では守の「魚釣り」と聞いて何かを悟った明乃はすぐに行動を開始した

 

『掃海具用~意!』

 

明乃の指示で後部甲板に美甘、杵崎姉妹と美海掃海具の用意をする。

 

「ほっちゃん、あっちゃん手伝って・・・」

 

『分かった!』

 

更にほまれとあかねが作業に入る。そして掃海具を動かすハンドルを回し始める

 

「重い~!」

 

「腕痛い~!」

 

「頑張って・・・」

 

苦しい言葉を言いながら、掃海具の準備作業を続行する。そして見張り台にいるマチコは

  

「雷跡1つ、左150度、20、此方に向かう!」

 

掃海具の準備作業が続く中、またしても、魚雷1本が晴風に向かってきた。その報告を聞いた明乃は

 

「リンちゃん、面舵一杯!」

 

「面舵いっぱーい!面舵20度・・・」

 

明乃の指示で鈴は、右に舵を切る。そして後部甲板では晴風が右に舵を切る中、後部甲板では、美海が防雷具落下機に登り、防雷具を外そうとするが船が大きく揺れそして思わず足を滑らせ落ちそうになる。

 

「後魚雷がどのくらいあるかわからないけど、このまま右に180度回等、発射方向に正対して!」

 

魚雷の回避に成功する中、今度は、潜水艦に向けて転進指示を出す。

 

「りょ、了解!」

 

鈴は、転進する為、更に舵を右に切る。

 

「艦長!一体、掃海具で何を?」

 

 

転進する中、ましろは、掃海具で一体何をする気なのか明乃に聞くと隣にいる守は

 

「姉さん。だから魚釣りだよ。魚釣り」

 

釣りのリールを巻くようなしぐさをしてそう言う守

 

「だから魚釣りってなんだ守!」

 

「いや、だから掃海具にはワイヤーがついているでしょ?そのワイヤーを相手の潜水艦のスクリューに絡め付ければ・・・・・」

 

「そっか!身動きが取れなくなれますね!」

 

「さすがだのう、主は!」

 

幸子とミーナが納得するとましろは

 

「だが、守。そんな潜水艦との戦いなんて聞いたことないぞ!」

 

と、言うと守は

 

「姉さん。戦いは生き物。作戦や戦法は常に臨機応変だよ。常にマニュアルで通用するほど世の中上手くはいかないものだよ」

 

「そ…そうなのか?」

 

守の言葉に呆気になるましろ。そして明乃は艦内無線の受話器を取り

 

「掃海具どお?」

 

『うゎ・・・・!?』

 

「ん!?」

 

突然、受話器から悲鳴が聞こえ

 

「ミミちゃん、大丈夫?」

 

明乃がそう言う中、後部甲板では急な舵きりで思わず手を放してしまい落下しそうになった美海が何とか、防雷具落下機に捕まり、落下を回避したが、今度は、転進した為、艦がぐるりと回等し、その影響で防雷具落下機自体がグルグル回り始めた。グルグル回る防雷具落下機にしがみ付きながら悲鳴を上げる美海。

 

「何だか止めないと?」

 

「でも、船が揺れてって・・・」

 

「掃海具、外して!!」

 

2人は、美海を助けようと防雷具落下機を止め様とするが、艦が揺れている為、できそうになかった。すると美甘が掃海具を外すように指示をする。二人は掃海具を外す装置を押すと防雷具は遠くへ飛び海へと落ちる。

 

「「ふぅ・・・・・」」

 

「あ、危なかった・・・」

 

「掃海具良し!!」

 

無事に掃海具を落した美海はそう報告する

 

「あれで何とかなるのか?」

 

「多分・・・」

 

ましろは、防雷具で敵のスクリューを狙うのに不安を言い、明乃は、多分と言う。

 

「機関、一瞬だけ全速出せる?」

 

更に明乃は、機関室の麻侖に一瞬だけでも良いから、最大速力が出せるか問う。そして機関室では

 

「って、言ってるんですけど・・・」

 

機関の修理に応援に来ていた媛萌が明乃の問いにできるかどうか麻侖に問う。

 

「・・・・しかったねぇ、10秒だけ・・・それ以上は、責任もってねな!」

 

修理をしながらそう言う麻侖。そしてそれを聞いた媛萌は明乃にそのことを報告すると

 

「お願い!」

 

『は~い』

 

と、明乃は申し訳なさそうに言うと媛萌はそう返事をするのだった。そして、転進する晴風を狙うUボートは今、晴風の腹の下へと潜っていた。すると晴風が落としたワイヤーで係留されている防雷具がUボートの艦橋に衝突する。

 

「え?・・・・今、当たった?」

 

「さぁ?」

 

衝撃音が聞こえたのか明乃がそう言うがましろには聞こえなかったのか彼女は首をかしげる

 

「う~ん、もう少し、速度を落としてみる?」

 

「いや、此処は誘い込め!・・・さっきの手応えは、間違いない!」

 

ミーナの言葉に芽衣はそう言う中、守は

 

「最初の魚雷がこう・・・・そして二発目も・・・・・・」

 

「守。なにをしているんだ?」

 

先ほどから守は海図を見て幸子から聞いた魚雷攻撃場の場所を見ていた。そしてそれを見たましろは不思議がってそう訊くと守は

 

「岬少佐・・・・いや艦長。相手のUボートの艦長は左利きだ」

 

「え?」

 

「さっき書記さんから聞いた話と海図を見たが、どれも潜水艦の攻撃は左からきている。そしてさっきの衝撃音は間違いなく相手は真下にいる。そして取り舵を取って攻撃するつもりだ」

 

「ほんと?」

 

「勘としか言いようがないが二回も同じ場で攻撃しているから間違いない」

 

守がそう言うと明乃は頷き

 

「わかった。リンちゃん、あか15」

 

明乃は頷き、鈴に強速へと速度を落とすよう指示。

 

「あか15・・・」

 

鈴は、第一戦速から強速に落とす。

 

「そのまま徐々に強速まで落として・・・」

 

「ヨーソロー!」

 

明乃の指示に鈴は、ゆっくり強速まで落とす。

 

「タマちゃん、砲戦準備!」

 

そして、今度は、志摩に主砲の射撃準備命令を出す。

 

「うぃ!」

 

志摩が返事するのと同時に晴風の左方面へと回ったUボートは

 

「艦長!敵をロック!」

 

「よしっ!決めるっぞ。Schießen(撃てぇ)!!!」

 

ナチス将校の命令により。Uボートの魚雷発射管が開き晴風へと魚雷が放射状に放たれる。そしてその発射音を水測室にいる楓が捕らえた

 

「魚雷音聴知!雷数4・・・・左舷から来ます!」

 

「やっぱり左から来た!」

 

「うん!おも~か~じ!」

 

守の予想が的中し、魚雷は晴風の左から放たれた。明乃は、直ぐ回避行動に出る。

 

「探照灯・・・照射始め!」

 

続いて、ミーナの指示のもと、探照灯が照射され、海面を好走する魚雷が映し出された。

 

「見つけました!!」

 

「面舵いっぱーい!戦闘右砲戦!!」

 

魚雷発見の報告を聞いて、明乃は、そのまま舵を右に切ったまま艦体をぐるりと回等しながら、砲戦に入る。そして晴風の主砲である12・7センチ砲が魚雷の方へと砲を向ける

 

「てえぇーーー!!」

 

志摩の言葉により主砲が発射される放たれた砲弾は、魚雷の至近で爆発し、衝撃で魚雷の磁気信管が誤作動を起こし、魚雷全部が自爆した。

 

その瞬間見張り員であるマチコが何かを見つけ、双眼鏡で見る。すると水面から晴風を覗いてみていたUボートの潜望鏡を発見した

 

「潜望鏡視認、左10度25!」

 

「やっと撃て~る・・・爆雷投下!!」

 

マチコの言葉に芽衣は爆雷が撃てることに歓喜し、生き生きとした表情で爆雷投下を命じる

 

「投下!」

 

芽衣の指示により美海はそう指示し、ほまれとあかねが重いレバーを必死に操作し、爆雷を投下する。そして一個の爆雷が海へと落ちるのだった

 

「おも~か~じ!」

 

「ヨーソロー!」

 

爆雷投下後、直ぐに退避行動に出る。

 

「艦長!爆雷です!!」

 

「慌てるな。急速潜航!!」

 

爆雷を投下されたことに気づいたUボートはも爆雷の安全深度100mまで急速潜航しようとしたが、運悪く、晴風が係留している防雷具の係留ワイヤーがスクリューに絡みついてしまう、

 

「ん?どうした!」

 

「艦長!スクリューになにかが絡まって潜航できません!」

 

「なんですってっ!?」

 

Uボートの艦長は、スクリューにワイヤーが絡まり潜航出来なくなり焦り始めた、そしてそれに追い打ちをかける様に投下された爆雷が頭上で爆発した。

 

「「「「うわぁっ!?」」」」

 

爆発のショックでUボートの艦内は激しく揺れ、一時停電が起きる。そして水面では爆雷の爆発によって大きな水柱が上がるのであった

 

「左舷。気泡確認!」

 

「浮上します!」

 

マチコと楓の言葉と同時に晴風の左舷に戦闘不能となり、沈没を避ける為、急速浮上を開始したUボートが姿を現した

 

「あれはUボートXXI型!?」

 

「なんじゃと!?Uボートは太平洋にはいないはずじゃぞ!?」

 

守が浮上した潜水艦の艦名を言った瞬間ミーナが驚く。その時、守はUボートの艦橋に鍵十字の印があるのを見つける

 

「あれは・・・・ハーケンクロイツ。ナチスドイツだと!?」

 

守はこの世界にいるはずのないナチスの軍艦を見て驚く。そして守が驚く中、明乃たちは

 

「今です!・・艦長、逃げましょう!!」

 

「最短コースは既に選定澄みです!!」

 

「ワイヤー切り離して・・・・両舷前進強速!!」

 

潜水艦の浮上を確認した途端、明乃は、直ちに現海域からの離脱を指示する。

 

「取り舵一杯!20度、ヨーソロー!」

 

そして明乃は、急いで当海域からの離脱を指示。

 

「さっさと逃げようよ・・・!!」

 

鈴は号泣しながら、舵を切りる。そして晴風は浮上したUボートをを放置して、現海域を離脱したのだった。

 

 

 

 

 

そしてUボートでは艦橋に上がった女艦長が双眼鏡を覗き、海域を離脱する晴風を見ていた

 

「・・・・・・・」

 

「艦長。水密壁に亀裂・・・・通信装置も故障。修理に時間がかかります。修理ができ次第あの駆逐艦を・・・・・」

 

「いや。帰投する」

 

「え?」

 

「ポートモレスビーに戻るぞ。これ以上の追尾は不要だ」

 

「しかし・・・・・」

 

艦長の言葉に船員がそう言うと女艦長は軍帽を被り

 

「いい猟犬は、深追いしないものだ」

 

と、そう言い晴風が向かった先へ、じっと見つめるのであった・・・・・・・

 

 

 



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姉弟の再会。守とましろ

Uボートの戦いの後、明乃は保健室へと行っていた。

 

「美波さん、起きてる?」

 

「春眠暁を覚えず、魚雷に砲火の音、一服の茶をきすいする」

 

明乃が訪ねると美波は目にクマをつけ難しいことわざで答える。そして美波さんはマグカップを持ち明乃に渡す

 

「あ、ありがとう。」

 

明乃は礼を言い飲むのだが・・・・

 

「うぇ~!しょっぱ~い!?」

 

あまりの塩辛さに思わず、顔色を変えて咽こんでしまう

 

「青人魚名物、塩ココア」

 

「ひょとして、塩だけで砂糖を入れなかったの?」

 

「フっ・・・」

 

明乃が美波さんにココアに塩だけしかいれていないのか訊くと美波さんは小さく笑った

 

「美波さん。もしかしてわざと?」

 

明乃がそう言うと明乃は

 

「あ、そうだ。ところでシュペーの子は?」

 

明乃は、美波にミーナが何処にいるか聞くと

 

「何だ?・・ワシに何かようか?」

 

突然ミーナが医務室に入ってきた。

 

「さっきはありがとう。おかげで助かったよ」

 

「寝ていたところを叩き起こされたからな。それに礼を言うならあの軍服を着た少年に言ってくれ」

 

そいうとミーナはベッドに座る。明乃は彼女の隣に座り

 

「ねえ、あなたたちの艦に何があったの?」

 

「我等がアドミラル・シュペーか・・・・・」

 

「そう‥‥あっ、でも、もし、言いたくなかったら‥‥」

 

「いや、ワシもよくわからんが聞いてもらった方がいいな」

 

そう言うとミーナはあの時シュペーで何があったのかを思い出しながら明乃に話した

 

「我らの船も貴校との合同演習に参加する予定だったのは知っておるな?」

 

「ううん・・・・初めて聞いたよ」

 

明乃はシュペーとの合同演習があったなんて知らなかったため首を横に振った

 

「そうか…まあいい。ワシらは合流地点に向かっていたんだが、突然電子機器が動かなくなって調べようとしたら誰も命令を聞かなくなった‥‥」

 

「それって叛乱?」

 

「わからん。ワシは艦長から他の船に知らせるよう命じられて脱出してきた」

 

「艦長?」

 

「ああ‥帽子を拾ってくれたのは感謝している。あの帽子は我が艦長から預かった大事な物‥シュペーに戻って艦長に返さなければ。必ず‥‥」

 

そう話すミーナの瞳には明確な決意が宿っていた。

 

「分かった、私も手伝うよ!」  

 

「え?」

 

明乃もミーナが戻れるように手伝うと言うとミーナは、明乃の方を見る。

 

「同舟相救う。その船を同じくして渡りって、風にあう渡ればその相救うや左右の手の如し!!」

 

美波さんはことわざで二人にそう言う。美波さんが言いたいのは平素は敵どうしでも、いざと言う時には助け合う。つまり、敵同士でもいざと言う時は、お互いに助け合うべきだという意味だ。

美波さんの言葉に明乃は達は呆けていると明乃は

 

「あっ!そうだ。あの子は?ほら、シロちゃんの弟の」

 

明乃は守がいないことに気づき、美波さんに訊くと

 

「あの少年なら、さっき副長が連れて行った」

 

「シロちゃんが?」

 

 

 

 

 

一方、守はましろに誰もいない部屋に倉庫に連れてかれてた。そして倉庫で二人っきりになり、まず最初に言葉を出したのはましろだった

 

「おまえ・・・・・本当に守なんだな?」

 

じっと守を見るましろ。そして守は

 

「ああ。9年たって変わっちゃったけど。俺だよ姉さん」

 

守は小さくうなずくと。ましろは

 

「守・・・・・分かっているよな?」

 

ましろがそう言うと守はましろの言いたいことを理解しているのか頷いた瞬間倉庫内で乾いた音がし。守の頬は赤くなっていた。そうましろが守の頬を叩いたのだ。そして当のましろは目に涙を浮かべていた

 

「守・・・これはお前が9年前に私との約束を破った罰だ」

 

「ああ…分かってるよ」

 

守は頷く。守もましろに頬を叩かれることは覚悟していた。6年前の約束。それは守がずっと姉であるましろのそばにいるという約束だ。だが、あの時は突如、守は元の世界に戻ってしまい。その約束を果たすことができなかった

 

「守…本当に・・・・本当に心配したんだぞ・・・・・急にいなくなって私がどれだけ・・・・」

 

泣きながらそう言うましろに守は

 

「本当にごめん姉さん・・・・急にいなくなって。心配かけて」

 

守がそう言うとましろは

 

「本当だ・・・・お前は9年間何処に行っていたんだ。連絡もしないで」

 

「姉さん。そのことなんだけど。実は信じられない話なんだけど聞いてくれるか?」

 

「どんな話なんだ?言ってくれ」

 

「実は・・・・・」

 

ましろの言葉に守はすべてを話した。異世界から来たこと、いきなり元の世界に戻ってしまったこと、今回こちらの世界に来た経緯などをすべて話した。

 

「姉さん・・・・信じてくれないと思うけど、これが俺がいなくなった後の俺の経緯だよ。嘘だと言われるか頭がおかしくなったって言うと思うけど・・・・・」

 

守がそう言うとましろは

 

「・・・・守。お前が嘘を言えない子だというのは昔から知っている。だから今話したことも嘘じゃないんだろ?だから私は信じるよ」

 

「姉さん・・・・本当にごめん」

 

「謝る必要はないよ。故意でいなくなったわけじゃないんだろ?」

 

と。優しい笑みでそう言うましろ。そして守は

 

「それで、姉さん。姉さんは今、どういう状況なの?」

 

「それがだな・・・・・」

 

ましろは今の現状を守に話した。そしてその話を聞いた守は

 

「(やっぱり姉さんが反乱なんかしていないんだ・・・・それにしても遅刻程度で、しかも集合海域外の場所で古庄さんが発砲したなんてどうなっているんだ?しかも晴風撃沈命令って・・・・もしや真霜姉さんが?いやいや。姉さんに限ってそんなことはあり得ない。第一そのために俺が偵察飛行をしたんだから)」

 

ましろから晴風の反乱の真相。そして晴風撃沈命令を聞いて守は考えた。

 

「守・・・・・私たちはどうすれば」

 

ましろがそう訊くと守は

 

「たぶん・・・・大丈夫だと思いますよ?」

 

「え?」

 

守の言葉にましろが呆気な顔をすると。伝達官から艦橋にいるはずの幸子の声が聞こえる

 

『艦長、副長。・・・校長からの全艦帰港命令が出ました!』

 

「なに?」

 

「とにかく行こう。姉さん」

 

「あ・・ああ」

 

そう言いましろと守そして報告を聞いた明乃が艦橋に上がる。そして艦橋に着くと幸子が学校からの電文を読み始める

 

「えっと・・・『私は全生徒を決して見捨てない・・・皆を守る為にも全艦可及的速やかに学校に帰港せよ』との事です。」

 

横須賀女子海洋学校からの全艦帰港命令の内容に艦橋の皆は、ホッとした表情になる。

 

「(よかった・・・やっぱり真雪さんも姉さんたちが反乱してないってわかってくれていたんだ・・・・じゃあ、さっき言った晴風撃沈命令は一体・・・・)」

 

と守は安心するのと同時に姉から聞いた晴風撃沈命令を出したのは誰か考えた。真霜や真冬は除外として恐らくその上のお偉いさんが命令を下した可能性があると守は睨んだ。

 

朝食の席にて、明乃は学校からの帰港命令の内容を皆に伝えた。

しかし、深夜の潜水艦戦が影響しているのか、集まったクラスメイト達の何名かは舟を漕いでいたり、テーブルに突っ伏して寝ている者も居る

 

「学校から全艦帰港命令が出ました。晴風も学校側が責任をもって保護するので戻ってくるようにとの事です。尚、帰還中は一切の戦闘行為は禁止だそうです」

 

明乃の説明に皆はもう戦闘が無い事に安堵した表情になる。

 

「だが晴風に対する警戒は続いている。そして、現状我々は学校以外の港にも寄港できない状況だ。よって密かに学校に戻らねばならない」

 

ましろが皆にそう言うと明乃は

 

「あ、それから新しい友達を紹介します!!」

 

ある程度の説明を終え、明乃がミーナと守を皆に紹介する

 

「ドイツの・・・ヴィナブラウシュガインゲンマメ・・・あれ、何だっけ?」

 

名前が長かったせいか、明乃は途中で忘れる。それを聞いたミーナは苛立ち

 

「Scheisse! 」

 

ドイツ語でそう言うミーナに幸子とましろが驚くとミーナは今度は日本語で

 

「ヴィルヘルムスハーフェン校から来た・・・ヴィルヘルミーナ・ブラウンシュヴァイク・インゲノール・フリーデブルクだ・・・アドミラル・シュペーでは副長をやっていた。」

 

「う~ん。長いから、ミーちゃんで良いかな?」

 

「誰が、ミーちゃんじゃ!?」

 

名前が長いので明乃は、ミーナをニックネームで答える。明乃の言葉にミーナはつっこむ

 

「それともう一人います。シロちゃんの弟の・・・・えっと・・・」

 

「元海軍少尉の森守です。姉がお世話になってます」

 

と、紹介された守は礼儀正しく頭を下げると生徒たちはざわつく。皆が守がましろの弟だということに驚いていたからだ。

 

「じゃあ部屋は・・・ココちゃん、何処が空いてたっけ?」

 

明乃は、ミーナと守が寝泊まりできる様に空いている部屋が無いか、幸子に問う。

 

「う~ん・・・ベットの空きがあるのは・・・副長の部屋だけですが・・・・」

 

「あ、私は倉庫でもどこでも構いません。ミーナさんを姉さんの部屋にしてください」

 

「えっ!?・・・私の・・部屋・・・」

 

空いている部屋が自分の部屋だけだと知り、ましろは、固まる。幸子達は、ミーナをましろの部屋まで案内すると、ましろの部屋の中は何ともかわいらしいぬいぐるみがたくさん置いてある部屋だった

 

「うわぁ!?すご!?」

 

「夜いたサメさんも居ますね・・・」

 

「宗谷さんからは、想像できない部屋です!?」

 

それを、芽衣、まゆみ、幸子、が覗き、幸子は、ましろの部屋をタブレットのカメラで撮りまくる。

 

「良い部屋だな・・・今日からよろしく頼むぞ!!」

 

ミーナはましろに笑顔で礼を言う。

 

「はぁ~」

 

ましろは、顔を赤くし恥ずかしがりながらため息をつく。そして一方の守は明乃に倉庫へ案内された。ましろの部屋を除き、人が泊まれるスペースがある場所と言えばここしかないのだ

 

「では私は、倉庫で寝泊まりさせていただきます」

 

「ごめんね。ほかに部屋があったら貸せたんだけど」

 

「大丈夫ですよ。できれば毛布を貸してもらえれば助かるんですが」

 

「うん。後で持ってくるよ。・・・・あ、あと」

 

「ん?」

 

「これからよろしくね。マー君」

 

「・・・・・・はい。こちらこそ。よろしくお願いします岬艦長」

 

と、守は明乃に礼を言うのであった。そしてその後、守は岬に毛布を貸してもらい、倉庫の奥へと簡易的な寝床を作り、しゃがむ

 

「さて・・・・姉さんには再会できてうれしいけど。これからどうなるんだろうな・・・・」

 

と、独り言をつぶやくと、

 

「守。いるか?」

 

「あ、姉さん」

 

ましろが倉庫に入ってきて守のそばに座る

 

「どうだ?窮屈じゃないか?」

 

「いや大丈夫だよ。戦闘機のコックピットに比べれば快適さ。それより姉さんミーナさんの方は?」

 

「ああ・・・・まあ、気に入ってもらえたよ」

 

と少し恥ずかしそうに言う。

 

「そう言えば姉さん。なんでここに?」

 

「なんでって。弟と久しぶりに話すのに理由があるか?」

 

「・・・・・ないね。まずどこから話す?」

 

「そうだな・・・・・・」

 

そう言い二人は、幸子たちに呼ばれるまで空白だった9年分の会話をするのだった・・・・・・

 

 



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守、晴風での朝

4月13日午前5時

 

 

姉さんと再会してから明朝。まだ日の上っていない時間に俺は目を覚ます。だがその表情は冴えなかった

 

「まただ…またあの夢か・・・・」

 

冷や汗をかきそういう俺。俺が言った夢とはこの世界に来てからずっと見る悪夢。そう、自分が殺してきた敵のパイロットが呪いや恨みの言葉を発しながら俺を追いかける夢だ。そして俺も最後は自分の愛機とともに火に包まれ墜ちる‥‥そんな夢だ。

 

「敵を焼く炎はいずれ自分をも焼く・・・・・か」

 

俺はかつて先輩搭乗員だった疾風中尉の言葉を思い出す。あの人は俺と同じくらいの年齢で凄腕のエースパイロットだったがそれ以上に深い悲しみを背負った人だった。

俺もエースパイロットの端くれだが、その時は中尉の言葉はよくわからなかった。だが今ならわかる。

俺の最後もきっと火に包まれながら苦しみ死ぬだろう。そして死んだあとは天国ではなく地獄だ。夢で見た亡霊たちのいる血みどろの地獄に落ちるんだろうな・・・・・

 

「はぁ・・・・・」

 

まあ、これは仕方がないのだろう。これはきっと忘れるなっていうことなんだ。自分の犯した罪を決して忘れるな。そういうことだろうな

 

「はぁ…さて、そろそろ起きるか。ここは俺だけの部屋じゃないもんな」

 

そう言い俺は起き上がる。ここはいろんな備品のある倉庫だ。誰かが補充しに取りに来る可能性がある。俺は服といっても飛行服しかないんだが、服装やら襟とかを整えて、岬さんから借りた予備の布団と掛け布団を倉庫の隅っこにきれいに畳んで置く。

 

「よし・・・・・じゃあ、行くか」

 

飛行帽とゴーグルをかぶり部屋を出る。理由は何か手伝えることがないか探すためだ。岬艦長が言うには俺とシュペーから救助されたミーナさんはお客様という形みたいだけど。俺はここに世話になるからには、働かざるもの食うべからず。

何か、恩を返したい。昔の人の言葉にあるように一宿一飯の恩義ってやつだ。

だらだら何もせず過ごすことなんて俺は嫌だった。それが姉の乗る船ならなおさらだ。

俺は廊下を歩いていると、調理室という部屋からいい匂いがした

 

「ああ、もうこんな時間から朝食を作っているのか・・・・」

 

腕時計を見ると朝の5時。俺はそっと中を覗いて見る。

 

「おはようございます」

 

赤と青のエプロンをした二人の烹炊員が中で作業をしていた。その二人は見覚えがあった

 

「あっ、おはようー・・・あ、マー君!」

 

「あ、ほんとだ守君だ」

 

赤と青のエプロンをした杵崎姉妹がそう言う。彼女ら数か月前からの知り合いで試験シーズンでもたまに会っていた

 

「おはよう杵崎さんたち」

 

「ほまれでいいよ」

 

「私もあかねで同じ苗字だし」

 

「ああ。そうだった。もう朝食の準備?」

 

「うん。マー君はどうしたのこんな朝早くに?」

 

「うん。何か手伝えることはないかな~って」

 

俺は何か手伝えることはないかと聞くと

 

「じゃあ、盛り付けるの手伝ってくれる?今、美甘ちゃんいなくて」

 

「わかった。」

 

そう言い俺は手を洗い飛行帽とゴーグルを脱ぎ代わりに首に巻いていたマフラーを三角巾のようにして頭に巻く

そして俺はほまれやあかねさんたちと一緒に朝ご飯の調理をしていた。二人が調理をし、俺がお皿にきれいに料理を盛り付ける

 

「ほまれさん。あかねさん。盛り付け終わりましたよ」

 

「うん。ありがとう。すごいまー君。盛り付けがきれいだね?」

 

「ほんとだ。まるで料亭に出てきそうな盛り付けだよ」

 

「そうかな?」

 

二人は守の盛り付けた皿を見て驚いてそういう。守の盛った料理はまるで高級料理店のようなきれいな盛り付けであった。

 

「どこかの旅館やホテルで修行して習ったの?」

 

ほまれがそう聞くと守は首を振って

 

「いいや。ただ先輩たちの世話とかで盛り付け作業をしてたから、たぶんそれじゃないかな?」

 

守はラバウル航空隊時代では301戦闘隊の先任隊長であった杉田清美曹長の列機としてそして世話係として働いていた。

料理も普段は調理をする者がいるのだが、たまに航空兵が世話する先輩に料理を作ることがあった。

特に守の上司であった杉田はヤクザの組長のご令嬢でもあり、食事の味に関してはとやかく言わなかったが、盛り付け方には結構うるさかった。

杉田曹長曰く『服装の乱れと同じく料理の盛り付けが汚いのは心の乱れだ』そのため守は料理の盛り付けをまるで高級ホテルの料理のように盛り付けるようになった。無論簡単にできたわけではなく。盛り付け方料理の仕方は調理係の人に頼み込んでできるようなったのだ。

 

「ま、今となってはいい思い出だな」

 

「「え?」」

 

「ああ、いやなんでもないよ」

 

ほまれ、あかねは守の言葉にきょとんとするが、守は笑ってごまかす。するとあかねが

 

「でも驚いたよ。マー君って真白さんの弟だったんだってね」

 

「まあ、姉さんとは血はつながってないけどな。小さいころ、一緒に暮らしてたんだ。姉弟同然の関係だよ」

 

「そうなんだ~あ、マー君そこのお皿取ってくれる?」

 

「ああ。いいよ」

 

守はあかねのお皿を渡す。そして三人は料理の盛り付けを終えると、

 

「マー君のおかげで助かったよ」

 

「いいや。俺も仕事がなくて困ってたんだ。他にやることはない?」

 

「ううん。あとはもう私たちでできるから。ありがとうね守君」

 

「そう?じゃあ、もう俺は行くよ」

 

「「うん。ありがとうマー君」」

 

杵崎姉妹がそう言うと、守はにっこりと笑い、飛行帽をかぶり調理室を出るのであった。

 

調理室を出て守は廊下を歩くと・・・・・・

 

「ん?そういえば俺の二水戦はどこだ?」

 

急に自分の愛機である二式水上戦闘機を思い出す。そして以前、ましろが後部甲板に置いたことを言っていたのを思い出す

 

「後部甲板に行ってみるか・・・・・」

 

そういい守は、後部甲板へと向かうのであった

 

 

 

 

 

 

 

「これは‥…思った以上にやばいな」

 

後部甲板に行き二式水戦の様子を見る守。機体はあっちこっち砲弾の破片のせいなのか穴だらけで何より致命的なのは・・・・・

 

「エンジンは工具で治せそうだけど、機体のフロートに穴が開いてそこから燃料が漏れてる‥…こりゃぁ、ナツオさんが見たらレンチでぶったかられるな・・・・・・」

 

守は軽いため息をつきそういう。発動機は工具とか使えば応急処置で何とかなるレベルではあったが、肝心なのは燃料タンクにもなっているフロートだった。フロートはアドミラル・シュペーの砲撃による砲弾の破片にて直径5センチくらいの穴ができていた。そしてその穴から燃料が漏れていたのだ

 

「はぁ・・・・これじゃあ飛ばすのは無理だな。機体を見ても鋲が数か所飛んでるし計器がガタづいてるところもあるし、これは一度、戻って修理するしかないかな」

 

コックピット内も見てみると風防のガラスが割れてたり、計器の一部がガタづいていた。エンジンが修理できたとしてもこの状態で飛ばすのはかなり危ない。下手をすれば飛んでいる最中に空中分解する恐れがあった

 

「はぁ・・・・どうしよ」

 

工具は借りれば何とかなるが、だがこの機体自体を直すとなると晴風の工具で治すのは難しい。どうしようか考えていると・・・・・・

 

「守」

 

「ん?」

 

急に声がし、後ろを振り向くと、そこにはましろ姉さんがいた

 

「おはよう姉さん」

 

「おはよう。よく眠れたか?」

 

「ああ。おかげさまで。姉さんはなんでここに?」

 

「もうすぐ朝食だから起こしに行こうと思って部屋に行ったらお前がいなくてな。それで探して甲板まで行ったらお前がここにいたってところだな」

 

「そうか・・・」

 

姉さんの言葉に俺はそう返事をすると姉さんは俺のところまできて二式水戦を見ると

 

「これが守が言っていた飛行機なんだな」

 

「ああ。そうだよねえさん。これが気球や飛行船より早い空の乗り物だよ」

 

「シュペーの時見た。確かに速かったな……それで守。これはまた飛ばせるのか?」

 

「いいや。さっき点検したけどさっきの砲撃で燃料が積んであるフロートの穴ができていて燃料が漏れてた。ほかにも計器がおかしくなって所があったから、部品交換や修理しないといけないよ」

 

「そうか・・・・・」

 

守の言葉にましろは少し残念そうに言うと、守はましろに向かってニコッと笑い

 

「大丈夫だよ。まだチャンスはあるから」

 

「え?」

 

守の言葉にましろはキョトンとした表情をすると、朝ごはんができたことを知らせる食事のラッパが聞こえる

 

「あ、どうやら朝食ができたみたいだな」

 

「そうだな・・・・・行こうか守」

 

「ああ行こう姉さん」

 

そう言い守るとましろは食堂へと向かうのであった。

だが、この後、艦内でひと騒動起きることは守も姉であるましろもまだ知らなかった・・・・・

 



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神に見放された乙女のピンチです

4月13日、午前10:00 

 

日本近海、四国沖。Uボートの攻撃を無事切り抜けた晴風は、横須賀女子海洋学校からの全艦帰港命令に従い、一路、横須賀を目指していた。

そんな中、生活物資が保管されている晴風の倉庫にて、媛萌と百々が備蓄物資のチェックを行っていた。

 

「お米が120kg、缶詰肉が10箱程‥‥」

 

媛萌がタブレットに備蓄物資の量を記入していく。

 

「まだまだ余裕っすね・・・」

 

百々がこの分なら学校に着くまで物資は持つだろうと思い呟く。だが、倉庫のチェックが進んでいく中、

 

「あっ!?」

 

百々が無数の中からある段ボール箱を見つける。

 

『ん・・・・・・?』

 

媛萌も気になって、二人は、段ボール箱を覗くと

 

「あれ!?」

 

何と、段ボール箱の中は、空っぽで、段ボール箱の外側には、トイレットペーパーの絵が記載されていた。それは後に大金騒動の引き金になることになるのであった。

 

 

 

一方、艦橋では

 

「・・・・横須賀までどれくらい掛かる?」

 

ましろは、鈴に今の位置から横須賀まで掛かる時間を問う。

 

「えっ!?・・・・えっと、26時間・・・・かな?」

 

ましろの言葉に鈴はそう答える

 

「約一日か・・・・・艦長、可能な限り急ぎましょう!!・・・学校側から戦闘停止命令が出ているとはいえ、これ以上、他船と遭遇したくない」

 

確かに学校側からは戦闘停止命令が出ているが、大元の海上安全整備局からは、晴風撃沈命令は撤回されていない。

先ほどのUボートみたいに襲撃されることをましろは避けたかった。

 

「うぃ」

 

「あぁ・・・もう撃てないんだ・・・」

 

志摩もましろと同意見、それに比べて、芽衣はもう砲雷戦ができないことにがっかりしていた。

そんな中、艦長である明乃は上の空でぼーと空を眺めていた

 

「艦長?」

 

「・・・・・・・」

 

「艦長!!」

 

「!?・・あっ、御免・・・・」

 

ましろが声を掛けているのに、ようやく気付く明乃。それをみた幸子は

 

「『私、本当は武蔵のSOSに応えたいの!』『何を言っている!・・全艦学校に戻れと言われたろ!』『分かっている、でも・・・』」

 

と、明乃の気持ちを代弁するかの様に幸子が一人芝居を始める。

 

『アハハ・・・』

 

幸子の一人芝居に皆は、苦笑いをする。

 

「ううん、きっと武蔵は大丈夫!・・・私達は急いで学校へ戻ろう。」

 

幸子の一人芝居に立ち直った明乃は、武蔵が大丈夫な事を信じ、急いで横須賀女子海洋学校へと帰還しようと告げる。

すると・・・・・

 

「艦長!?」

 

『!?』

 

突然、明乃を呼ぶ声が響き、右を向くと

 

「大変!!大変!!」

 

「一大事ッス・・・!」

 

何と媛萌と百々が血相を変えて艦橋に飛び込んできたのだ。

 

 

 

 

一方機関室では・・・・・

 

「いや~守、助かったよ。ここは結構力が必要だったんだよ」

 

「いいって、お役に立てて光栄だよ機関長さん」

 

守は機関室で麻侖たちの手伝いをしていた。そしてクロちゃんこと洋美は

 

「でも驚いたわ。守君って機械いじりも得意だったんだね?」

 

「まあ、飛行機の整備とかよくしてたからね。機械いじりなら少しは得意さ」

 

「飛行機って…さっきみんなが言っていた飛んでいたやつか?」

 

「ああ。そうさ」

 

と答えると

 

「でも驚いたよ。まさか守が、副長の弟だったんだかっらね~」

 

「それは私も驚いたわ。でも名字が違うわよね?」

 

二人の言葉に守は汗をぬぐうと

 

「俺が幼いころ、宗谷家にしばらく世話になってた時があったんだよ。ましろ姉さんとはその時の縁で姉弟のような関係になったんだよ。まあいわゆる義姉弟てやつさ」

 

「へ~そうなのか・・・・でもなんで姉なんだ?副長とは同い年のはずだろ?」

 

麻侖がそう訊く。そう。守とましろは同い年なのだ。その守がなぜましろを姉と呼ぶのが不思議で訊いてみると守は

 

「ああ、それか。姉さんとは半年くらい姉さんのほうが上だし。俺の場合は敬愛の意も込めてそう呼んでいるんだよ」

 

「お姉さん思いだね‥…」

 

「大切な姉さんだからな」

 

守はそう言うと、突如伝達管から

 

「クラスのみんなは至急、教室に集まってください!繰り返します・・・・」

 

明乃の言葉が艦内に響く

 

「なんだろう?」

 

「さぁ?とにかく行こうってんでい!」

 

そう言いマロンと洋美と守は工具をしまい、オイルだらけの顔を洗った後、教室へと向かうのであった。

教室に集まった生徒達は突然の招集に何事かと思いながら席に着くと、教壇に上がった媛萌と百々が今回、全員を招集した理由を話し始めた。

 

「日本トイレ連盟によると、女性が一日に使うトイレットペーパーの長さの平均は12.5m・・うちのクラスは30人、航海実習は2週間続く予定だったので、余裕を見て、250ロールは用意していたんです・・それが・・・・」

 

「(そんな連盟あるのか?)」

 

守は媛萌の言葉にどうでもいいことに首をかしげるが、媛萌は両手をバツにして

 

「もうトイレットペーパーがありません!!」

 

『『ええぇーーーーー!!?』』

 

トイレットペーパーが無いと言う現実を告げられ、皆は、驚愕する。

 

「誰がそんなに使ったの!?」

 

「このクラストイレ使う人ばっかりなの?」

 

「1回10cmに制限すれば?」

 

「えぇ~困る~」

 

トイレットペーパーの制限案も出たが、直ぐに却下された。

 

「誰よ?無駄に使ってんのは!」

 

「あぁ~でも私トイレットペーパーで鼻もかんじゃいますね~」

 

「すいません!私、持ち込んだティッシュがなくなったので一個通信室に持ち込みました!」

 

鶫が自分の持ち場にトイレットペーパーを持ち込んだことを白状する。

 

「食堂でも見たよ、ロール」

 

「ちょこっと拭くのに便利なんだよね」

 

「うん。便利、便利」

 

「たくどいつもこいつもすっとこどっこいだな」

 

「どうしよう‥なくなったらおトイレ行けなくなるのかな‥‥?」

 

鈴が涙目で今後のトイレの不安を口にする。

一方、立石は今後のトイレ問題が深刻化するかもしれないと言うのに、手製の猫じゃらしで五十六と遊んでいる。

 

「それもこれも日本のトイレットペーパーが柔らかすぎるのがいけないんだ!だからつい沢山使ってしまう!」

 

「(じゃあ、欧州のトイレットペーパーは固いのか?紙やすりなのか?)

 

ミーナが席から立ち上がり日本のトイレットペーパーの素晴らしさを力説する中、守は心の中で突っ込む

まぁ、ミーナの乗艦予定は本来無かった事なので、何かしらの影響はあると思っていたが、その影響がまさかトイレットペーパーとは、思いもよらなかった。

 

「蛙鳴蝉噪」

 

トイレットペーパーの問題でどよめくクラスメイト達を見て美波がポツリと呟く。

 

「戦争だと!?」

 

ミーナが美波の聞こえた言葉の部分に反応する。

 

「意味は「うるさいだけで無駄な論議」ってことですよ~」

 

幸子がミーナに蛙鳴蝉噪の意味を教える。兎に角集会室はトイレットペーパーの議論が飛び交い纏まりが無くなりつつある。

一見馬鹿馬鹿しいように見えるが、トイレ関係と言う事で当事者にとってはある意味死活問題とも言える。

 

「艦長、まとめて下さい!!」

 

それを見かねたましろは、明乃に皆をまとめる様、指示する。

 

「あ、うん・・・・み、みんなおちつい・・・・・て、マー君。なんで自分の手を見てるの?」

 

明乃は守が自分の手を見つめてる様子を見てそう聞くと守は虚ろな目で

 

「ねえ…なんで人間、手が二つあるか知ってるか?それは・・・・・」

 

「早まるな守!まだ希望を捨てるな!!」

 

守のブラック発言にましろは慌ててそういうと、瑠奈、鈴、二人も絶望した表情で自分の手を見つめる

 

「え?ちょっと二人ともなんで無言で自分の手、見てるの?駄目だよ!それやったら一生後悔するよ!いいの!?」

 

二人の行動に芽衣が激しく突っ込む

 

「みんな落ち着いて!とにかく・皆!!・・・他にも足りない物、必要な物、ない?」

 

明乃がトイレットペーパーの他に何か不足している物は無いか皆に尋ねる。すると、

 

「魚雷!」

 

「ソーセージ!」

 

「模型雑誌!」

 

「真空管・・・・」

 

と、みんな的外れな注文をする。当然その注文は却下された

 

「これから学校へ戻るとすると、2日は掛かる・・・何とか物資を補給したいところだ。」

 

「燃料や弾薬は学校経由じゃないと調達できないから、薬品、食料、最低限必要な日用品だけでも、如何にかしたいな・・・・」

 

「戦闘禁止命令が出ているとはいえ、なるべく他の船には、遭遇したくないよね・・・・」

 

「位置がバレるんで、通販は出来ないですし‥‥」

 

鈴と幸子が言うと守が

 

「なら、密かにどこかに買い出しに行くしかないな・・・・・」

 

「買い出し?」

 

守の言葉に明乃が反応すると、幸子は、タブレットで何所か近くで買い出しできる場所を探す。

 

「えっと・・・確か此処に『オーシャンモール四国沖店』がある見たいですけど・・・・」

 

「買い物・・・・行きたい!行きたい!」

 

「日焼け止め持ってくるの忘れちゃったし」

 

「私もヘアコンディショナー無くなっちゃった・・・皆、私の使うんだもん!」

 

買い出しの言葉を聞いて、皆がオーシャンモール四国沖店に行きたくなる。まあ、無理もない。ずっと海の上、しかも娯楽の少ない海上生活で、買い物に出かけられると聞いたらそれは皆行きたがるのは当たり前だ

 

「艦長。今の状況で皆で楽しく買い物に行く訳には行けません!!」

 

「だね・・目立たない様に少人数で買い出しに行こう!!」

 

買い物を楽しみにしている生徒達には悪いが、此処は少人数で目立たない様に買い出しに行くしかなかった。

 

「艦長!・・もう一つ重大な問題が!」

 

オーシャンモール四国沖店へ買い出しに行く事が決まった中、突然、美海が立ち上がり、明乃に、ある重大な問題を言う。

 

「え?何?」

 

明乃が何かと問う。

 

「・・・・お金が・・・・足りません・・・・」

 

「・・・・えっ!?・・・・」

 

困った表情で、美海はそういう。そう、実はトイレットペーパーを買う資金がないのだ。そこで明乃はあることを始めた。

 

それは・・・・・

 

「トイレットペーパー募金、お願いしまーす!!」

 

それは募金活動であった。明乃は艦長帽を逆さにし、みんなに呼びかけ、みんなは財布の中を見る。そして各地に声をかけるのだが・・・・・

 

「宵越しの金は持たねえ!」

 

「小切手は使えませんよね?」

 

「ジンバブエのお金ですけど大丈夫ですか?」

 

と、みんなあまり持っていないようだ。

 

「ミーちゃんは・・・・・?」

 

「ワシはユーロしかない!」

 

ドイツから来たミーナは今持っているのはユーロしかないと明乃に言うと

 

「「ワシ?」」

 

ミーナの一人称に杵﨑姉妹が首をかしげてそういうと、皆もミーナに注目する

 

「ん?‥‥何かワシの顔に付いてるか?」

 

周囲の人が自分の顔を見ていたので、ミーナは周りの人に何かと尋ねる。

 

「ワシ~!?」

 

空はミーナの一人称がおかしかったのか、周囲から笑い声が立ち始める。

 

「な、何が可笑しいんだ・・・!?」

 

皆に笑われ、ミーナは顔を赤くし両手を上げ声を上げた。そして明乃は

 

「マー君。悪いんだけどお金持ってる?」

 

と、守に聞くと

 

「う~ん。雀の涙ほどしか今は持ってないけど。向こうに行ってATMから貯金おろせば何とかなるよ」

 

「え?でもいいの?」

 

「困ったときはお互い様だろ?それと買い物、俺もいっしょに行ってもいいか?お金おろさないといけないし」

 

「え?…うんいいけど。マー君。お金あるんだ?」

 

「学校の警備員の仕事してたからな。もらった給料は銀行にある。幸いに通帳とカードは持っているから、店に置いてあるATM使えば出せるよ」

 

守が明乃に言うと瑠奈たちが

 

「あ、そういえば。うちの学校の警備員さんだったよね?」

 

「あ、そうだった。受験でもいたよね?入学式にはいなかったけど」

 

「代わりに立って眠っている人がいたよね?」

 

「私、立って寝ている人初めて見たよ・・・・」

 

機関科四人組がそう言うとましろは

 

「守…お前、こっちに帰っていたことは聞いたが、うちの学校の警備員をしてたのか?」

 

「え?ええ・・・・うん」

 

「なぜ、私に会いに来なかった・・・・・」

 

「え・・・とその・・・・」

 

ジト目で守を見るましろに守はたじたじになる。守もさすがに姉であるましろには頭が上がらないみたいだ。

 

「はぁ…まあいい。そのことは後でじっくりと訊く」

 

と、そういわれるのであった

 

その後、買い物に行く人選を決めていた。そして話し合いの結果。行くメンバーは明乃と守、媛萌、美甘、美波の5名となったのだった。



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オーシャンモールショッピング!

急遽トイレットペーパがなくなり買い出しに行くことになった晴風一同。そして近場であるオーシャンモール四国沖店へ買い出しに行く事が決まり、

行くメンバーは晴風艦長である明乃、スキッパーの運転手兼物資の選別員としてみかんと和住、医薬品の専門である美波。そしてトイレットペーパー代を立て替えてくれるため、お金を下ろすため一緒に同行する。異世界人であり、ましろの弟、守が行くことになった

 

「それじゃあ、私とマー君、ミカンちゃん、ヒメちゃん、みなみさんとで、買い出しに行ってくるから、晴風をお願いね、シロちゃん!!」

 

明乃は、自分が艦を離れている間、ましろに指揮を委ねる。

 

「艦長!?・・・・副長もしくは、宗谷さんと呼んでください!!」

 

相変わらずあだ名で言われるのが嫌いなましろ。

 

「副長、そればっかりですね!!」

 

後ろから幸子がツッコム。そして軽くため息をつくとましろは

 

「それで・・・・本当に行くつもりか守?」

 

「ああ。それにトイレットペーパーがないと姉さんも困るだろ?」

 

「本当にごめんな」

 

「大丈夫だよ。ちょっとした恩返しさ。じゃあ、姉さん俺行ってくるよ」

 

そう言い行こうとすると・・・・

 

「待て守」

 

「ン?どうしたの姉さん?」

 

急にましろに呼び止められて振り向くと

 

「守・・・・・ちゃんと帰ってきてくれるよな?」

 

心配そうな表情でましろは守に訊く。おそらくまた自分の前からいなくなってしまうんじゃないかと不安に思っていたのだ。すると守はましろの手を取り

 

「大丈夫だよ姉さん。俺は帰ってくるから。だから心配しないで」

 

「本当だな?ちゃんと帰ってくるんだな?」

 

「ああ、約束する」

 

そう言う守にましろは安心した表情をする。それを見た幸子たちは

 

「副長のあんな姿初めて見ましたね~?」

 

「うん。でもシロちゃん。それだけマー君のことを大切に思っている証拠だよ」

 

幸子が言う中、明乃は二人の話す姿を見てほほえましく見てそう言った。

 

 

5人は、それぞれ2艇のスキッパーに乗艇する。それぞれのスキッパーに登場しているのは、まずスキッパー1号艇では操縦手に明乃、その後ろに守に美甘

第二号艇では操縦手が媛萌、乗員が美波さんとなっている。

そして買い物に行く5人はスキッパーの乗り、そしてタビットを使いスキッパーを海面に下ろし、二艇のスキッパーは目的地であるオーシャンモール四国沖店へと向かうのであった。

 

「一度、駅に寄って、バスでオーシャンモールに行くから・・・」

 

何所にブルーマーメイド、ホワイトドルフィンの目が有るか分からないので、直接では無く、駅からショッピングモールへと向かう事にした。

 

「お忍びで行く訳だな!」

 

「ちょっと、カッコイイね!」

 

「艦の話とか専門用語を出しちゃ駄目だからね!・・・それと無駄な買い物も駄目。」

 

媛萌がみんなに注意すると

 

「卵と生クリームとイチゴを買いたいんだけど・・・」

 

「駄目に決まっているでしょ!」

 

「ヒメちゃん、レバーとかチーズとか食べてる?」

 

「どっちも嫌いだし」

 

「やっぱり~ビタミンB12が足りないとイライラするらしいよ・・・」

 

「してないから!」

 

2人は、無駄な論争を始める。すると守は

 

「まあ、和住さんのビタミン不足は置いといて、確かに和住さんの言う通り、変装とかした方がいいかな?ブルーマーメイドやホワイトドルフィンの人たちのことだ晴風乗員の顔を知っている可能性がある」

 

守はもう一人の姉である宗谷真霜らブルーマーメイドが晴風乗員に危害を与えるとは思ってはいない。ただその上の海上安全整備局はそうは考えていない。もしかしたら事故と見せかけ射殺なんて最悪な状況だってある。そしてその組織がブルーマーメイドの隊員に変装してうろついている可能性があるため、守は変装した方がいいと言う

 

「でもマー君。私たち変装道具持ってないよ?」

 

「マスクや髪形を変えて帽子をかぶれば少しはごまかせる。まあ、サングラスはさすがにやりすぎだからしなくていいかな?」

 

「じゃあ、着いたら、変装しようっか?」

 

守の提案に明乃は賛同し皆もうなずく、そして二艇のスキッパーは目的地へと急ぐのであった。

そして5人は目的地に着き、

 

無料送迎の水上バスにてショッピングモールに着いた。そして4人は女子更衣室で髪型を変えた後、マスクをして出てくる

 

「やっと着いた」

 

「お茶する時間あるかな」

 

「ないから」

 

「媛萌ちゃん、サングラスはダメってマー君に言われたよね?それに目立つよ?」

 

髪形を変えたのにもかかわらず媛萌はサングラスをし、余計に怪しく見える。それを美甘に言われ。彼女はしぶしぶサングラスをとる

 

「あれ?そう言えばマー君は?」

 

「守なら先ほどお金を下ろすと言って、ATMの方に行ったぞ?」

 

明乃が守がいないことに気づくと美波がお金を下ろしに行ったという。そして

 

「お待たせ。トイレットペパー代のお金下ろしてきた」

 

守が戻ってくる。

 

「本当にごめんねマー君!助かるよ」

 

「別にいいよ。困ったときは助け合わないと」

 

そう笑って言う守。

 

「じゃあ少佐・・・・・じゃなかった。艦長。早速買い物に行きましょうか?」

 

「あ、うん!じゃあ中、入ろうか?」

 

そう言うと、5人は、ショッピングモールへと歩み出すのだった。

 

 

 

 

場所は戻って晴風では乗員全員が暇を持て余していた。

杵崎姉妹は甲板で洗濯物を干し、普段は機関室で籠っている機関委員のメンバーも水着になり甲板で日光浴をしている。

 

「麻侖ちゃんは?」

 

「機関室の方が落ち着くんだって」

 

「ええーたまには太陽を浴びないと」

 

「流石機関長殿」

 

折角の休みなのに麻侖は甲板には出ず、機関制御室で寝ていた。

艦首ではマチコ、青木、美海が写真を撮っており、マチコに抱き付いてピースサインをする青木に美海が嫉妬していた。

左舷側の甲板では、松永と姫路が漂流物をフックに引っ掛けて何か目ぼしい物は無いか確認していた。

 

「あんまり使える物流れてこないね」 

 

「トイレットペーパーとか流れてこないかな」

 

使えそうな漂流物が流れてこない事に愚痴る二人。そして艦橋では・・・・・

 

「平和っていいね」

 

「いい・・・・・」

 

トラブルらしいトラブルもなく、平穏な時間が流れている艦橋で鈴が呟き志摩も賛同する

 

「今日の晩御飯何がいいかな?」

 

「カレーが‥‥いい」

 

「今日は金曜じゃないよ」

 

そんなまったりムードが流れている艦橋、そんなムードのせいか副館長であるましろもつい、うとうとしてしまう

 

「・・・・はぁ!?・・・・」

 

だが、目を覚まし両手でほっぺたを叩いて起きる。そんな時、羅針盤の上に置いてある明乃の艦長帽に目を向ける。ましろは、誰も見てないのを確認し、羅針盤の艦長帽を取る。

 

「ちょっとトイレ行ってくる・・・・」

 

艦長帽を取ったましろは、隠しながら艦橋を出る。艦橋を出って、マストあたりで、誰も見てないのを確認したら隠していた艦長帽を被った。

一度でもいいから憧れの艦長帽を被ったましろは、喜びながらはしゃぐ。

しかし、はしゃいでいると横のハッチから洋美が現れ、ましろは、慌てて、艦長帽を隠す

 

「・・・・宗谷さん、凄く似合ってた。」

 

「え?」

 

急に洋美に褒められ驚くましろ。すると博美はましろに近づき

 

「私ね・・・・・・本当は宗谷さんに艦長に成って欲しかったな・・・・」

 

「・・・・あっ・・・・えーで、何かな?」

 

ましろは洋美が何の用か尋ねると、

 

「ミーナさんが艦内案内してほしいんだって」

 

「ああ、わかった」

 

洋美の言葉にましろは頷くと、ミーナと合流し艦内を案内するのだった。

一方艦橋では

 

「あれ?そう言えば副長は?」

 

用事を終えて戻ってきた芽衣がましろがいないことに気づきそう言うと

 

「さっきトイレ行くって出て行ったけど・・・そう言えば遅いね?」

 

鈴も同意し首をかしげると幸子は

 

「(あれ多分、嘘ですけどね・・・・こっそり艦長の帽子持って行ったし・・・恐らくは…)」

 

幸子は、ましろが艦長帽を持ち出し、そして艦長をかぶる姿を想像しながら

 

「はっ!?まさか・・・っ!!」

 

ある事に気づく。そして

 

「『宗谷さん、その帽子凄く似合ってます!』『そ・・・そうかな』『やっぱり艦長は、宗谷さんが務めるべきです!』『そうだ・・・やはり私が艦長を務めるべきなんだ!!・・・やろう!・・艦長が居ない今こそ反旗を翻す時・・・下克上だー!!』『素敵っ、宗谷さんっ!一生ついて行きます!!』『落ち着いて下さい副長!!・・反乱は・・・反乱はいけませんっ!!』」

 

一人芝居を始めた。だが、前半の最初のとこだけは少しだけ合っているのが彼女のすごいところ

 

「ま~た、始まったよ!」

 

「大変な事になってるね・・・」

 

またも一人芝居を始める幸子に2人は、呆れる。すると

 

「あ、そう言えばマー君のことなんですけど~?」

 

「切り替わり早っ!・・何か怖いよ・・・」

 

幸子の切り替えの速さに芽衣は、恐怖を感じた。

 

「あ、あの…マー君がどうしたのココちゃん?」

 

鈴が訊くと幸子は

 

「いや、マー君って何者なんだろうって思って・・・・」

 

「何者って・・・・・弟でしょ?副長の」

 

「でも、苗字も違いますし顔も似てないじゃないですか?」

 

「あ~そう言えば確かに・・・・」

 

幸子の言葉に芽衣はそうだな~という表情をすると鈴が

 

「マー君に聞いたけど。実の姉弟じゃなくて義姉弟らしいよ?小さいころマー君って副長の家にお世話になったことがあるみたいで・・・・」

 

「え!?そうなの!?」

 

「うん。マー君に聞いた話だけどね?でも確かにココちゃんの言うようにマー君ってあの飛ぶ飛行体もそうだけど謎が多いよね?」

 

「あ~確かに、自己紹介のときも『日本海軍』だとか言ってたよね~日本に海軍があったのはずいぶん昔のことなのに」

 

「・・・・・はっ!まさかっ!!」

 

幸子がまた何かを妄想する

 

「また始まるの?」

 

と芽衣はうんざりした表情をすると幸子は

 

「『姉さん!僕は…僕はね!人間じゃないんだ!はるか遠い星から来た宇宙人なんだ!』『え!?』『びっくりしただろ?』『ううん。人間であろうと宇宙人だろうと守は守じゃないか!』『ありがとう姉さん・・・・でも僕は元の星に帰らなければならないんだ。西の空に明けの明星が輝くころ一つの光が宇宙へ飛んでいく・・・・それが僕なんだ。さよなら姉さん!』『待て!行くな守!!』『アマギ隊員がピンチなんだ!デュワ!!』・・・・とな感じかと?」

 

「長いわ!!それにアマギ隊員って誰だよ!!」

 

芽衣が幸子の妄想に激しく突っ込み艦橋は慌ただしくなる。そんな中、鈴は軽くあくびをすると

 

「平和って・・・・・いいな」

 

そう呟くのであった

 




なぜ守が岬のことを少佐と呼びそうになったのは、海軍特に駆逐艦の艦長の階級が少佐なため、元の世界での軍隊生活の癖でそう呼びそうになったのである


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晴風の女子会と漂流者

皆さん。お待たせしてすみませんでした。今回は少し短めです。次回は本命を書きたいと思います


そのころ、晴風甲板では機関科と炊飯員、主計科のメンバーによる女子会の様なモノが行われていた。

 

「杏仁豆腐作ったから食べて」

 

「どうぞ」

 

杵﨑姉妹が作って来た杏仁豆腐を皆に振舞う。

 

「そう言えばさ、あの時の警備員が宗谷さんの弟だって驚いたよね?」

 

「ああ、マー君?うん。私も驚いたよ。でも名字が違うよね?」

 

「マー君が言うには義理の姉弟らしいよ?小さいころ宗谷さんの家でお世話になって、それで姉弟のような仲になったっんだって」

 

「へ~ああ、そう言えば。弟君について思ったことがあるんだ」

 

空がそう言い後甲板に置いてある二式水戦を指さすと麗央も

 

「ああ、あれね。あれで空を飛んでいたってほんとかな?」

 

「私は見たっすよ。シュペーの戦闘のとき、すっごい速さで飛んでいたっす!」

 

百々がそう言う。シュペーのとき百々は二式水戦が飛んでいるのをこの目で見ていたのだ

 

「へ~でも飛行船より早い乗り物なんて聞いたことがないよ?」

 

「確かにマー君って何者なんだろうね?」

 

瑠奈と美海がそう言うと

 

「そう言えば自己紹介のとき、「日本国海軍の少尉」って名乗っていたよね?」

 

「そう言えばそうだね?海軍があったのって随分前だよね?」

 

「少尉も昔の軍隊の階級だよね?確か・・・士官の一番下だよね?」

 

「じゃあ、マー君って兵隊であれに乗ってダダダッ!!って人を何十人も撃っちゃってたんじゃないの?」

 

「「「っ!?」」」

 

瑠奈のその言葉に皆は少し驚いた顔をするが

 

「瑠奈ちゃん。それは面白くないいよ。それじゃあマー君が人殺し家業をしている人みたいじゃない」

 

「それは流石に失言だよ瑠奈」

 

「そうだよ。それに日本に軍隊ないじゃない。瑠奈今の言葉取り消して」

 

「ご、ごめん。そんなつもりで言ったんじゃないんだけど・・・・・」

 

瑠奈がそう言うと仲のいい杵崎姉妹と機関科の三人が強く否定すると瑠奈は申し訳なさそうに言うと、瑠奈はすぐに話題を変えようとした

 

「それにしても・・・・学校に帰ったら私達怒られるのかな?」

 

「まさか停学とか退学にならないよね?」

 

不安そうな機関科の留奈の嘆きに、同じく機関科の広田がどこか悲しそうな顔をする。

お菓子やお茶が並んでいる女子会なのに何故か空気は重い。

 

「学校に着いた途端、捕まったりするのかな‥‥」

 

「ブルマーになれないとか?」

 

「ブルマー?」

 

「ブルーマーメイド」

 

「そうなったら何のためにこの学校に入ったんだって話よね」

 

美海がそう言うと周囲の皆が頷いた。

あまりにも空気が重かったのを感じたのかそれとも忘れたいのか若狭が

 

「無い無い・・・だって宗谷さん、校長の娘さん何だって!」

 

麗緒は、ましろが真雪の娘だから、ましろがいる限り、処罰が下される事はないと思った。

 

「えっ本当・・・!」

 

「あ、校長も宗谷だ!・・宗谷真雪!!・・・宗谷さん、ましろだよね!」

 

ましろが真雪の娘だと知って、2人は、驚く。そんな時

 

「「ん?」」

 

ミーナに艦内を案内していたましろと洋美が偶然、其処に居合わせて、みんなの会話を聞いてしまう。

 

「真雪とましろかぁ・・・雪は白いもんね・・・」

 

「えーでも校長の娘なのに、うちのクラス?・・武蔵とかじゃないんだ?」 

 

麗緒は、ましろが真雪の娘なのに何故、成績優秀の武蔵じゃなく、成績不良の晴風に配属されたのか、気になる。

 

「っ!!」

 

麗緒の言葉を聞いて、ましろは、落ち込む。だが、そんなましろを見て、洋美が

 

「余計なお喋りは止めなさい!!」

 

と余りに余計な一言を言っていた4人に止める様、激怒する。更にミーナも

 

「この、噂好きのドグサレ野郎共!修理する箇所がいくらでもあるだろ!・・・取り掛かれ!!」

 

『は、はい!!』

 

ミーナの一喝を受け、まるで蜘蛛の子を散らす様に皆は思い思いの方向に散っていく

 

「気にしないでね、宗谷さん・・・・」

 

7人が去った後、落ち込むましろに洋美は、慰めようとする。

 

「‥‥」

 

だが、さっきの7人のお喋りを聞いて、ましろは本当は、晴風じゃなく、武蔵に乗りたかったのに、入学試験での初歩的なミスで結局、晴風に乗る事になってしまった。そしてましろは小さいころ守ると約束をしたことを思い出した

 

『いつか、マー君を私の乗る船に乗せてあげる!!』

 

「(確かに私は自分の乗る船に守を乗せることができた・・・・・・でも、本当はこんな形ではなく、艦長になった私が守を武蔵に乗せてあげたかったな・・・・)」

 

弟である守なら『気にしない』と言ってくれそうだが、ましろはやはり姉として立派な船に弟を乗せてあげたいと思っていたのだった。

そしてましろが考え込む中・・・・・

 

「あ、アビスの箱だ・・・!」

 

漂流物を拾っていた理都子と果代子が通販会社のロゴが書かれた箱を見つけ、2人は、その箱を引き揚げる。

 

「通販の箱なんだから雑誌とか入ってないかな・・・・・・あれ?」

 

何が入っているのか、蓋を開けると、其処には蓋が開いた飼育箱があり、中からハムスターの様なマウスが飛び出して、甲板を走り去っていった。

ちょうどその頃、機銃座で昼寝をしていた五十六が、甲板を走るマウスの姿を見つける

 

「ヌン!!!」

 

猫としての本能が目覚めたのか、いつもまったりとしている五十六の目がギラリと光りそのマウスを追いかけて行った。

 

『うん?』

 

マウスは、偶々その場にいた、ましろ、洋美、ミーナの足元を通過した。

 

「鼠??」

 

ミーナが足元を見て、ましろが左を向くと、マウスを追いかけていた五十六が突進してきた。

 

「わぁ!?・・ひぃ・・ひぃ・・・ぐぼっ!!」

 

驚きの余り、尻もちをつくましろ、更に其処に五十六が腹に乗り飛び越えていった。

 

「宗谷さん、大丈夫?」

 

洋美がましろに駆け寄り心配して声を掛ける。

 

「全く、猫なんか乗せるから・・・はぁ…ついてない」

 

ましろは、つくづく自分の運の無さに悔やむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、南太平洋にて、座礁した大型艦にはいつものように軍服を着た女性が煙草を口に咥え、平たい甲板を歩いていた

 

「あれから一月・・・・缶詰も魚も食い飽きてきたな・・・・いい加減に本土の料理が食べたいものだ。それに煙草もこの一箱で終わり。買いに行きたいがまともなボートもなければここがどこなのかもわからない。はてさてどうやら私はここで天寿を全うするみたいだね」

 

と、そう呟き、そして穴の開いた甲板を見る

 

「ふ~~~。それにしても何度見ても悲惨な被害だよ。これは・・・・まあ、さすがにこいつの重装甲のおかげで弾薬や爆装は全部は吹き飛ばなかったが・・・これじゃ飛龍と山口多門だなこれは・・・・・・・・ん?」

 

煙草の煙を吐きそう言う彼女の耳に波の音とは違う何かのエンジン音が聞こえた

 

「誰か来たかな?」

 

そう呟き、彼女は艦橋の高いところに上り、双眼鏡を除くと、そこには真っ黒な船がこちらにやってきているのが見えた

 

「あれは米軍のインディペンデンス級か・・・・・妙な塗装だ」

 

と、そう言い彼女はふっと笑い

 

「これはまた面白いお客が来たものだな」

 

と、そう言うのであった

 




次回「海狼vs青人魚」


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海狼vs青人魚

オーシャンモール四国沖店

少し時は戻り、一方、晴風を捜索している平賀達は、真霜からの情報を頼りにオーシャンモール四国沖店にいた。

 

「宗谷監督官の情報によれば、晴風は、この付近の海域に潜んでいる筈!」

 

「間宮と明石、浜風、舞風に、この近海の哨戒を依頼しましょう。」

 

「そうね!・・・そうして頂戴!!・・・但し、夜まで見つからない様なら、戻って来るように伝えて・・・」

 

「はっ!」

 

「それと私達も哨戒艇にて哨戒を行います・・準備をして・・・」

 

「はっ!」

 

平賀達は間宮と明石、浜風、舞風に、この近海の哨戒を依頼する。自らも哨戒艇にて哨戒する為、桟橋へと向かう。

すると、反対側の桟橋に平賀の知る顔が見えた。

 

「(あれって・・・・森君!?)」

 

そこには森が女の子と話しながら歩いているのが見えた

 

「平賀さん?」

 

「哨戒任務は中止!!」

 

「えっ?」

 

「小笠原で晴風を探索して行方不明になった隊員を発見したわ」

 

「本当ですか?」

 

「ええ、これから接近するわよ。もしかしたら晴風の乗員について何か知っているかもしれないわ」

 

「わ、分かりました」

 

平賀達は急いで守達を追うが、既に人ごみの中に紛れてしまった。しかしながら彼女たちは守たちを追い、そして外に出ないよう出入り口を封鎖した形で後はモール内を捜索し始めるのであった

 

 

 

 

「・・・・・・・」

 

一方、守たちは買い物で抽選券を貰ったので、福引する為、福引会場に向かっていたが、守は何かの視線を感じ、そっと後ろを見る。

 

「(あの制服は・・・・ブルーマーメイド。晴風乗員を捜索しているのか?だとしたらスキッパーを置いているところは抑えられている可能性はあるな。でも真霜姉さんの部下なら・・・・いや、撃沈命令を出している上層部の犬かもしれない。慎重にやらないとな…ここは少し尋問するか・・・・」

 

「マー君?どうしたの?怖い顔しているけど?」

 

明乃が守にそう言うと

 

「みんな。驚かない様に‥‥自分達は先程から見張られている」

 

『えっ!?』

 

守が声を殺して他のメンバーに囁く。して他のメンバーは守の言葉を聞き、ギョッとする。

 

「だ、誰なんでしょう‥‥?」

 

「恐らくブルーマーメイド」

 

「ぶ、ブルーマーメイド!?」

 

和住が慌てて周囲を見渡そうとするのを守るが止めた。

 

「しっ!和住さん落ち着いて。周辺を見ないでください」

 

「あっ、はい‥‥」

 

「でも、どうしよう‥‥ブルーマーメイドに捕まっちゃったら、私達牢屋行き?」

 

美甘が不安そうに言う。

 

「大丈夫、それを回避する為の作戦をこれから皆に教えるよ」

 

そう言い守が言った作戦とは、現在明乃たちは変装をしているため顔はばれてないが守の顔はブルーマーメイドに知られているため自分が囮となりブルーマーメイドの隊員たちをひきつける。その間に別のメガフロート都市へと向かった後、そこで船かスキッパーをチャーターして晴風へと戻る指示を出した。

 

「で、でも。マー君は?マー君はどうなるの?置いていけないよ」

 

「大丈夫。どうしても確かめなければならない事が有る‥‥自分が戻らなくても晴風は学校に戻るように姉さんに伝えてくれ」

 

「でも・・・・」

 

「明乃艦長・・・・」

 

守は静かにそして真剣な表情で明乃を見る

 

「あなたのお心遣い。とても嬉しいです。ですがあなたは晴風の船員を無事、本土に戻すことが今あなたの任務です。幸い私は晴風の生徒ではないので無事やり過ごして見せますよ」

 

「でも・・・・」

 

「小を殺して大を生かす‥‥それが最善の方法だ。まして、君達はまだ学生だ‥‥わけのわからない陰謀に巻き込まれるいわれはない筈だ」

 

「で、でも‥‥」

 

「いいから、此処は自分に任せて」

 

守の真剣な眼差しにそれ以上の事は言えない明乃、和住、みかん、美波の4人であった。

 

「分かった・・・・でもマー君。無事に戻ってきてね」

 

「大丈夫です。こう見えて俺は精鋭部隊に所属しておりましたので」

 

「え?」

 

「いいえ。なんでもありません。それじゃあメガフロート都市が封鎖される前に行ってください。何かあれば連絡をしますので」

 

「う、うん・・・・」

 

そう言い、守は明乃たちと別れ別行動をとることにしたのであった

 

「あ、目標。モールの外を出ました」

 

平賀の部下の一人がモールを出た守を見て無線連絡をし、早速、守を追う。まずは一定の距離を取りゆっくりと距離を詰めて行く。

 

「‥‥」

 

守は、顔は向けずに視線を後ろに向けつつブルーマーメイドの隊員の動きを警戒する。そしてどんどん人気のない薄暗い路地を進んで行く。そしてその瞬間守は走り出し右の道へと走り出す

 

「なっ!?」

 

その行動を見た隊員は急いで彼を追い曲がると、そこには行き止まりになっていた

 

「え?行き止まり?じゃあ、彼はどこに?」

 

行き止まりのはずなのに守の姿が見えないのを不思議に思っていると

 

「ここにいますよ?」

 

「っ!?」

 

頭上から声がし上を見るとそこには両壁に手と足をかける守の姿があり、そして彼は足と両手を離し、

 

「うぐっ!?」

 

そして彼女の背後に回り拳銃の銃床で頭を殴り気絶させた。すると彼女の無線から

 

『どうしたの?応答して彼を見つけたの?』

 

と、平賀の声が聞こえた。すると守は無線機を取り

 

「はっ!たった今、彼を拘束しました場所は○○地点。彼が言うには平賀二等監察官一人で来てほしいとのことであります』

 

なるべく気絶された人物の声に近いように声色を変え、そう言うと

 

『わかったわ。すぐに行く』

 

と、返事が来た。そして守は無線を切ると気絶させた女性を運ぶのであった

 

 

 

「ここのようだけど・・・・・」

 

無線で一人で来た平賀が来た場所は建物と建物の間で狭く、薄暗く、そして人通りが少ない。すると道の角に薄暗くて顔はよく見えないがブルーマーメイドの隊員の帽子と横顔が見えた

 

「平賀隊員。こちらです」

 

と、そう言われ、その人物は路地の角を曲がり平賀は少し警戒しながらその隊員の後について行き、そして角を曲がった瞬間。急にその隊員らしき人物が平賀の足を払い彼女のバランスを崩し、バランスを崩した平賀をその隊員は袖と後ろ襟を持ち、壁に押し付け、手をねじる。

 

「イタッ!!ちょっとこれは何の冗談なの!?あなたどこの部隊!!」

 

と、そう言うと、その人物は平賀の耳元に近づきこう言った

 

「日本国海軍ラバウル航空隊であります。平賀さん・・・・」

 

「っ!?」

 

聞き覚えのある声に平賀はその隊員の顔をよく見ると、そこにはブルーマーメイドの帽子をかぶった守であった。

 

「ま、守君!?」

 

「おっと、動かないでください。動けばその頭を撃ちますので。それにしてもたったの数人で数か月前まで精鋭部隊に所属していた人間をたった一人の隊員で簡単に捕まえられるなんて、ずいぶん安く見られたものですね。平賀二等監察官殿?」

 

そう言い、彼に左手にはコルト拳銃があった。そして守のその声は、平賀が聞いた事のある守の声では無く、冷たい無機質な声だった

 

「ま…守君」

 

「‥‥久しぶりですね‥‥平賀さん‥‥まさかこんな形で再会する事になって残念です」

 

「そ、そうね‥‥でもなんで?それに他の隊員は?」

 

「あそこで眠ってもらってますよ」

 

そう言い、平賀は守が銃を向けた場所を見ると路地で倒れている隊員を見つける

 

「守君・・・・何で?」

 

「おっと・・・任務報告の前にいくつか質問をします。まず一つ。此処で何をしていた?」

 

「わ、私は宗谷監察官からの密命で‥‥」

 

「真霜姉さんの?はてさてそれは本当に姉さんからの命令かな?」

 

「どういう意味ですか?」

 

「真霜姉さんではなくその上の海上安全整備局の上層部の命令で晴風を撃沈し、もしくはその乗員を事故に見せかけ抹殺の命令を受けた・・・と私は考えているんですが?」

 

「ち、違います!!私は宗谷監察官の命令で晴風乗員を保護しに来たんです!!」

 

「口ではどうとでも言える」

 

「本当です!!信じて下さい!!」

 

「私もこの世界に戻っていろいろ世話してくれた平賀さんを疑いたくはないのですがね。ですが今が状況が状況・・・・ましろ姉さんたちの命がかかっていますのでね。本当に真霜姉さんが晴風を保護を目的とした命令なのか直接真霜姉さんに聞いてみる事にしよう‥‥電話をかけろ‥‥ただし片手でな‥‥」

 

守は片方の手で平賀の腕を拘束し、もう片方の手には拳銃を持っていた。一方の平賀も片腕は守に拘束されているがもう片方の手は使える。

しかし、守を拘束しようとすれば、その瞬間撃たれる可能性があった。そのため、平賀は守の指示に従い、器用に懐から携帯を取り出し、真霜に電話をかける。

 

「もしもし」

 

平賀からの電話を真霜は海上安全整備局にある自分の部屋で受けた。

 

「む、宗谷監察官ですか?」

 

『平賀二等監察官。どうしたの?何かあったの?』

 

通話口から聞こえてくる平賀の声は心なしか震えている。

 

「それが・・・・守君と接触しまして?」

 

『マー君…守と!?それで彼はどこに?』

 

と、そうい言った瞬間守は平賀から携帯をとり

 

「やあ、姉さん。久しぶりだな?」

 

『ま・・・まーちゃ・・・・守君?』

 

「ええ、俺ですよ。一つ訊きたいことがある。平賀二等監察官に命令した晴風の保護・・・・それは事実ですか?」

 

『え…ええ。本当よ』

 

いつもと違う声色に真霜は少し冷や汗を流しそう答える

 

「本当ですね?今回の件。ましろ姉さん達の命がかかっている。もしそれが虚言であり貴女が海上安全整備局のタカ派の連中に付き合って実は晴風の乗員の命を危険に晒すなんてことないですよね?」

 

『あ、当たり前でしょ!?小笠原でも話したじゃない!!私も母さんもましろや生徒達を助けるために‥‥』

 

「そうですか・・・・・では信じてもいいんですね・・・・姉さん?」

 

『ええ。お願い。私を信じて頂戴。マーちゃん。私たちが全力でましろたちを守るから・・・・』

 

「・・・・・・」

 

守はしばらく黙ると

 

「わかりました。ではその言葉信じましょう‥…ただし」

 

「「?」」

 

守がそう言った瞬間。守は拳銃を空にあげ一発発砲する

 

「「っ!?」」

 

「約束を違えた場合。私はましろ姉さんたちの人命を優先としてあなた方ブルーマーメイド、および海上安全整備局を一人残らずせん滅するつもりなので・・・・・悪しからず」

 

『一人でブルーマーメイドたちと戦争をするつもり?』

 

「俺は今でも軍人・・・・戦争屋だと思っています。俺にとっても第三次大戦はまだ心の奥底に残ってます。俺は大切なましろ姉さんたちを守るためなら修羅にでも殺人鬼にでもなる覚悟ですよ。それがあなたたち平和に生きた人間と血塗られた歴史を歩み続け戦争をやってきた人間との違いですよ」

 

「「・・・・・」」

 

その言葉に二人はぞっとし恐怖感を覚えた。いつもにこやかで優しい守がこのような怖い顔をし怖い言葉を発するのだから

 

『わ、分かったわ。肝に命じとくわ』

 

「そうですか・・・・・それが分かれば任務報告です」

 

と、いつもの口調に戻る守

 

「現在俺は晴風に保護されています。そして事情を詳しく聞いた結果、さるしまで事件では猿島がいきなり発砲したため晴風は自衛行為によって模擬戦用の魚雷を発射したと判明。むろん晴風乗員に反乱の意思はなし、晴風乗員は宗谷校長の指示に従い横須賀の学校に戻る予定。そして現在は在庫不足によってここで買い物をしていました。これより平賀二等監察官らとともに合流し晴風に戻ります。以上です」

 

『そ、そう・・・わかったわ』

 

と、守は真霜に連絡し電話を切ると平賀の拘束を解き

 

「平賀さん。先ほどは手荒な真似をしてしまって申し訳ございません」

 

守は平賀に深々と頭を下げて謝罪する。

 

「いえ、分かってもらえたなら‥‥でも、守君は本当にあの時、私を殺す気だったんですか?」

 

と、そう言うと守は首を横に振り

 

「いいえ、入院のときいろいろ世話になった人を殺すことなんてできませんよ。あの隊員と同じように拳銃で殴って気絶させて、逃亡するつもりでした。それに・・・・」

 

「それに?」

 

「さっきはあんなことを言いましたが、できればもう・・・・・人を殺したくはないから」

 

「・・・・・あ」

 

肩をすくめ悲しい顔をする守に平賀は何かを察した。戦争を経験した守に彼女は何を思ったのであろうか・・・・

 

「まあ、とりあえず、あなたが本気で真霜姉と同じ晴風を保護してくれるんなら助かりました。それっじゃ、これから一緒にいた晴風の乗員と合流しますので一緒についてきてください。あ、あとこれさっき気絶させた隊員さんの帽子ですお返しします」

 

「あ、う、うん」

 

そして守は携帯で明乃たちと連絡を取り事情を説明し、スキッパーのところに集合するよう言い。そして平賀さんは気絶している隊員を運びながら守とともに合流地点へと向かうのであった。そして合流した後、晴風へと帰る際、二艇のスキッパーの内、一艇は美甘と明乃がもう一艇には和住と美波は乗り、守は平賀達が使用していたブルーマーメイドの哨戒艇を使い、途中、ショッピングモール沖で待機していた間宮、明石、浜風、舞風と合流し、それらの艦艇全てで晴風が停泊している海域を目指したのだった・・・・



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襲来と闘争本能

日が落ちて海が少し荒れて来た中、守たちの帰りを待つ晴風では

 

「漂流物漁っている場合じゃなくなってきたねぇ~」

 

「うぇ~気持ち悪い~」

 

昼間からずっと漂流物を漁っていた松永と姫路であったが、荒れてきた海の中で、下を向いて作業をしていた為か船酔いを催した様子。

そして彼女達の周りには沢山の漂流物というよりごみが落ちていた

 

そして艦橋では

 

「そろそろ艦長達が戻ってくる時間だよね・・・・」

 

「此処で合流にしたんですけどね・・・・・・」

 

買い出しに行った守と明乃達の帰りが遅いのに2人は、気になっていた。そんな中ましろは

 

「(守・・・・・ちゃんと帰ってきてくれるよな?)」

 

再会したばかりの弟がまたいなくなってしまうのではと不安に思っていた

 

「あの・・・・副長?」

 

「はっ!・・・・こほん!・・・・艦長はまだか!」

 

「ひっ!?」

 

鈴が心配そうにましろに訊くとましろはほかの乗員が不安にならないように、咳ばらいをし、そして帰るのが遅い岬のことを言い。驚いた鈴は軽い悲鳴を上げてしまう

 

「まだですね・・・」

 

「何、呑気に買い物してるんだ!」

 

ましろは、余りに帰りが遅い守と明乃達に呆れ果てる。

そんな時、五十六が艦橋に突然やって来て、

 

「ん?・・・・ひっ!」

 

ましろは、何かと思い五十六の方を向くと突然、ビックリな顔をする。何故なら、五十六がある物を口の咥えていたのだ。

それは、昼間、通販会社の箱から逃げたあのマウスだった。

五十六はマウスを生け捕りにして、まるで艦橋の皆に自慢するかの様に見せた。

 

「・・・・かわ・・・・いい・・・・」

 

立石は、五十六が生け捕りにしたマウスを見て、可愛いと目をキラキラさせ、五十六が床に置いたマウスを手に取る。

すると五十六は自分の獲物を横取りするなと言いたいのか、飛びかかろうとするが

 

「こら、こら、落ち着け、五十六。ブレイク!ブレイク!」

 

西崎に抱えられ動きを封じられる。そんな中。捕らえられてたマウスは自らを手のひらに乗せてくれた立石の頬に自らの頬を寄せる。

 

「人懐っこいですね・・・」

 

幸子はマウスを見て和む。

 

「生き物は持ち込み禁止だろ!」

 

「飼い主が見つかるまで預かっておきましょうか?」

 

「うっ・・・・」

 

幸子が飼い主が見つかるまで、自分が責任を持って、預かるというとましろは何も言えなかった。

ましろと幸子がこのハムスターの様な生物について話している時、展望指揮所で見張りをしていたマチコが水平線から此方に接近して来る艦船を発見した。

 

「間宮、明石および護衛の航洋艦二隻!右60度!!距離200此方に向かう!!」

 

「また攻撃されちゃうの~!?」

 

「どうする?撃っちゃう?」

 

「いやな予感が的中した・・・・・」

 

皆が不安そうに言い合う中、立石の手にいたハムスターのような生物もその光景を見ていた。だが、その目は先ほどの愛嬌がなく怪しく目が光っていた。やがて、間宮、明石、浜風、舞風は探照灯と照らしながら晴風の左右を固める。

甲板に居た砲術委員の武田と小笠原も松永と共に不安そうに周囲を見渡す。

 

「ドマヌケ共が何をやっている!買い出し組はどうした!?」

 

「まだ戻ってきていません!」

 

「なにっ!?」

 

ミーナが幸子にそう言っている間に間宮、明石、浜風、舞風は探照灯と照らしながら二手に分かれ、更に美甘と媛萌、美波が乗るスキッパー2艇と守、明乃と平賀を乗せたブルーマーメイドの哨戒艇が晴風へと向かっていた

 

「艦長達が戻ってきました!ブルーマーメイドの哨戒艇もいます!」

 

「ブルーマーメイドって私達を捕まえに来たの~!?」

 

艦船に包囲されさらに後ろからはブルーマーメイドまで現れた。晴風の艦橋の不安と緊張がピークに達したその時、

 

「カレーなんか食ってる場合じゃねぇぇーー!!」

 

突如、艦橋に怒声が響いた。皆が声のする方に振り替えるとそこには目が赤く光り、獣のように唸り、いつもおとなしい雰囲気とはまるっきり違う立石の姿があった

 

「た、立石さん?」

 

「なんだ?カレーって‥‥」

 

幸子は普段の立石からは考えられない声を出した彼女に困惑し、ましろは今日の夕飯のメニューでもないカレーの事を口走った立石に困惑する。

 

「それより逃げないと‥‥」

 

鈴は何とかしてこの場から逃げようと言うが、

 

「何言ってんだ!逃げてたまるか!攻撃だー!!」

 

立石は攻撃をしようと言う。その好戦的な態度は余りにも普段の立石らしからぬ態度であった。

 

「おっ、撃つか?撃つのか?」

 

そんな立石の態度に疑問を感じつつ撃てるかもしれないと西崎は少し期待した目をする。

 

「止めろ、戦闘禁止だ!!」

 

ましろは、絶対に攻撃するなと言うが

 

「黙れ!!ブラコン!!」

 

「ブ、ブラッ!?」

 

完全に正気を失っている志摩は、全く聞く耳を持たなかった。ましろに至っては立石にブラコンと言われ若干ショックを受ける

 

「『もう逃げるのは嫌!』『そうよね、逃げちゃ駄目!私、戦う!』」

 

「良いから、止めろ!!」 

 

幸子がまた一人芝居を始める中、完全に正気を失っている立石をましろと西崎が取り押さえる

 

「離せぇ・・・・・・」

 

「大人しくしろ・・・!」

 

2人に抑えられ立石は、暴れ出す。そして・・・

 

「「うわっ!?」」

 

立石の物凄い力にましろと西崎は、壁に叩き付けられる。

 

「うっ!?・・・・お、落ち着け!」

 

ミーナは、立石に落ち付けと言うが

 

「!!!!!!」

 

2人を振り払った立石は、全く聞かず獣のような唸り声をあげ、そして獣のような姿勢を取り艦橋を飛び出す。それをミーナたちは追いかけるのであった

艦橋を出た立石は獣のようにデッキから魚雷発射官から更に飛び移って行く。

 

『あっ・・・・・・』

 

 

甲板で様子を伺っていた光、美千留、理都子、果代子は、飛び移る立石を見て、何かと思い立石飛び移る方向を見る

そして彼女は九六式25ミリ単装機銃の元にたどり着き、そして

 

「明石!間宮!お前らにやられるタマじゃねーんだこっちはーーーー!!!」

 

銃口の照準を明石へと向ける。

 

「本当に撃つ気だ!?」

 

西崎はてっきり立石が冗談で言っているのかと思ったが、どうやら立石は本気の様で、引き金に指をかけると、それを引いた。。そして銃口から25ミリ機銃弾が四方八方へと発射される。

機銃の乱射にデッキに居たましろと芽衣、幸子、鈴は、床に伏せ更にそれを見た光、美千留、理都子、果代子は、怯える。

だが、15発しかない25ミリ機関銃はすぐに弾切れになる

 

「ああ、撃っちゃたね!」

 

「何て事をしたんだ!・・・・」

 

ましろの中にこれで本当に自分達は反逆者になってしまったと言う絶望感が沸きあがる

 

「タ・・・タマちゃん?」

 

「守君!?これはどういうこと!?」

 

哨戒艇にいる平賀はどうことなのか守に訊くと

 

「恐らく、彼女は気が動転してパニック症状を起こしていると思うな・・・・このままじゃ怪我人が出る。俺が止めます」

 

「とめるって・・・どうやって?」

 

「こうやってです!!」

 

平賀が言い終わるや否や。守は数歩下がると助走をつけ哨戒艇からジャンプする。そして立石のいる機銃座へと見事着地する

 

「う・・・うそ?あそこまで数十メートルもあるのに・・・」

 

平賀は数十メートル離れている距離から飛び移った守の身体能力に驚いた

 

「はあぁぁ…今のはちょっと怖かったな・・・・」

 

無事に着地で来たことに安心する守。あのジャンプで機銃座につけるかは彼も自信がなかったが何とか飛べたことに安堵した。

 

「ううう~~~!!!」

 

守は機銃弾全弾を討ち尽くした立石が自分に向かて威嚇しているのを見る

 

「(どうしたんだ立石さん。いつもと違うな?)立石さん。落ち着け・・・・落ち着くんだ。彼らは敵じゃない。おとなしくするんだ」

 

「うるさい!!邪魔するなら!!」

 

そう言い立石は守に襲い掛かろうとするが・・・・

 

「落ち着けと言っている!立石砲術長!!」

 

「っ!?」

 

小柄な守の大きな怒声に思わず動きが止まる。守は15歳とは言え数々の戦地を転々とし幾度の修羅場を潜り抜けたエースでありベテランの軍人。

その気迫に彼女は思わずビビってしまうが・・・

 

「う・・・うがぁーーー!!!」

 

「いでっ!!!」

 

すぐさま守に襲い掛かり、彼の腕に噛みつく。そして噛みついた腕から血が滲み始める

 

「守!!」

 

その様子を見たましろはそう叫ぶと、守は

 

「はっ!そんなもんかよ。痛くもないぞ!!」

 

「っ!?」

 

腕に噛みついても微動だにしない(若干痛がったが)守に立石が驚く。すると  

 

「このドアホウのドマヌケが~!」

 

追いついてきたミーナが立石を守るから引き剝がし掴むと海へと投げ込んだ。

しかし、運悪く立石が落ちたところは、冷たい夜の海だった。

 

「「あっ!?」」

 

真下が海なのに気づき二人はしまったという顔をするがもう時すでに遅く、海面から水柱が上がり立石は海に落ちる

 

「タマちゃーん!!」

 

「立石さーん!!」

 

甲板からはクラスメイト達が海に投げ飛ばされた立石の安否を心配する。

 

「っ!?」

 

立石が海へと投げられるのを見た守は慌てて機銃座から飛び降り海へと飛び込み、海中へ沈む立石を拾い上げた。

 

「ぷはっ!!立石さん、大丈夫か!?」

 

「う、うぃ‥‥」

 

「よしっ!おーい大丈夫だ!ロープくれ!!」

 

「う、うん!マー君!捕まって!!」 

 

縄が着いた浮き輪が投げられ、守は立石と共にそれに捕まり、船体から降ろされた縄梯子で晴風の甲板へと戻った。

甲板には艦橋メンバーも降りて来て、立石を海へ投げ飛ばしてしまったミーナは立石に抱き付き、

 

「よくぞド無事で~」

 

「それを言うならご無事だって‥‥」

 

間違った日本語で立石が無事だった事に安堵し、西崎は冷静にミーナの間違った日本語にツッコミをいれる。

 

「あら?あなたそんな所にいたの?」

 

幸子は立石のスカートのポケットに入っていたあのハムスターの様な生物に気づく。

ハムスターの様な生物は直ぐに助けられたとは言え、一時的に海水に浸かったせいかぐったりとしていた。

 

「守!大丈夫か!?噛まれた腕は?痛むか?」

 

「俺のことは大丈夫だよ姉さん。こんな傷。ナチ公の爆撃や対空射撃に比べれば何でもないって」

 

「何を言っているんだお前は?」

 

ましろはそう言うが守が大丈夫という言葉に少し安心する

 

「タマちゃん大丈夫・・・?」

 

明乃が立石に怪我がないかを尋ねる。

 

「うぃ!」

 

「あれ、いつもの調子に戻ってる?」

 

立石は、先程の様子と違い何時ものおとなしい無口な状態に戻っていた。

 

「聞いて!・・補給艦の皆は、助けに来てくれたんだよ・・・!!」

 

「岬艦長の言う通り、明石の旗信号を見てくれ姉さん」

 

「え?」

 

二人の言葉にましろは、明石のマストを向くと、マストには、救助に来たという国際信号用の旗が掲げられ、その旗は夜風になびいていたのだった 



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補給と修理

明朝6時

 

「姉さん。紹介する。こちらの方は真霜姉さんの部署の人で海上安全整備局、安全監督室情報調査隊の平賀二等監察官です」

 

「真霜姉さんの?」

 

「ええ、私は、宗谷一等監督官の命令で貴方々に接触したんです。」

 

平賀は、ましろに真霜の命令で接触したと説明する。

 

「シロちゃんのお姉さんって、ブルーマーメイドだったんだ!?」

 

明乃は、ましろの姉真霜がブルーマーメイドだった事に驚くとましろは頷く。

 

「海上安全整備局は、さるしまの報告を鵜呑みに晴風が反乱したという情報を流しています・・・・ですが、我々、安全監督室の見解は、異なっています!!」

 

「えっ!?」

 

「先程、うちの臨時隊員である森君や艦長の岬さんからも聞きましたが、晴風は自衛の為にやむを得ず交戦したのですね?」

 

「は・・・はい・・・・て、え!?守お前ブルーマーメイドの隊員だったのか!?」

 

「まあ臨時隊員だけどね。この世界では普段は学校の警備員の仕事をしているよ」

 

「はぁ・・・・あとでちゃんと詳しく聞かせてもらうぞ守?」

 

「う・・うん」

 

ジト目で見る姉に守は思わず苦笑してそう返事をする

 

「それで、今回、攻撃した生徒は?」

 

平賀は、立石を如何したかと問う。

 

「取り合えず拘束しています。」

 

明乃は、倉庫に監禁している事を平賀に言う。

 

「そう‥‥」

 

「すみません、普段は大人しくて、あんな攻撃する子じゃないんだけど‥‥」

 

明乃は、立石の性格からあり得ないと平賀に説明する。

 

「森君が言っていたようにまた戦闘になると思って気が動転したのかもしれないわね。」

 

平賀もこれまでの経緯から志摩も疑心暗鬼になっていたのだろうと思い志摩に対して、厳罰を下す様な事はしなかった。

その頃、立石は西崎と一緒に倉庫でトイレットペーパーを段ボール箱に詰めていた。

 

「しばらく拘束されるのは仕方ないよね・・・まぁ、私も付き合うからさ!」

 

「うん・・・」

 

立石は、先ほど自分が起こした騒動に深く落ち込んでいた

 

「いや・・・良い撃ちっぷりだったよタマ!・・・引っ込み思案な砲術長だな~って思っていたけど、見直した!」

 

そんな落ち込んでいる立石に西崎は励ますと

 

「・・・・でも・・・・何であんな事したのか・・・?それに森君にも噛みついちゃったし・・・・・」

 

立石はなぜ明石、間宮に発砲したことは覚えていたがなぜそんなことをしたのかはわからなかった。

 

「心に撃て撃て魂があるんだよ!」

 

「うぃ?」

 

安定のトリガーハッピーな西崎の発言に首をかしげる立石。

だがふいに彼女は守のことを思い出す。あの時の立石は止めに来た守の腕に噛みつき、怪我をさせてしまい。そして海に落ちた時はその守に助けてもらった。

「森君に怪我させちゃった・・・・」

 

「あとで謝ればいいよタマ。私も付き合うって」

 

「うぃ・・・・」

 

すると・・・・

コンコン

 

立石達が軟禁されている運用倉庫のドアがノックされ、

 

「「差し入れで~す」」

 

杵﨑姉妹が差し入れを持ってきた。

 

「立石さんがカレー食べたがっているって聞いたから」

 

杵﨑姉妹が持ってきた差し入れは、立石が好きなカレーだった。

 

「あ‥‥と‥‥」

 

「ありがとうって言っている」

 

杵﨑姉妹の粋な計らいに不器用ながらも喜びながら、カレーを食べた。

 

 

 

 

そして場所は戻り明乃たちは平賀と話をしていた。すると・・・

 

「あ!やっぱり森君。ここにいたんだね」

 

「夕張さん!?」

 

するとそこへ、いつもオレンジのつなぎ服ではなくブルーマーメイドの制服を着ている夕張がいた

 

「夕張さん。なんでここに?」

 

「私もブルーマーメイドの隊員だからね。出動命令があれはいくわ。それに今回接触する晴風には必ず君と二式水戦がいると思ってね。ついでに修理の必要があるか見に来たのよ」

 

そう言う夕張。彼女は整備士担当ではあるが本来の仕事はブルーマーメイドの隊員であり、そして今回、守が晴風と接触したという知らせを聞いて、彼の様子とついでに二式水戦の整備に来たのだ

 

「それはちょうど助かりました。実はエンジンと燃料タンクを積んだフロートが壊れてて困っていたんですよ」

 

「分かったわ。案内して」

 

「わかりました。ごめん姉さん。俺ちょっとこの人と一緒に二式水戦の修理に行ってくるよ」

 

「あ・・ああ」

 

そう言い守は夕張とともに後部甲板へと向かうのであった。すると岬は

 

「あ、あの今後、私達はどうなるのでしょう?」

 

「その件について、先ほど言ったように海上安全整備局は猿島の報告を鵜呑みにして晴風が反乱したという情報を流しています。ですが我々安全監督室の見解は異なっており、もう一度確認をしますが、晴風は自衛のためにやむを得ず交戦したのですね?」

 

「はい、その通りです」

 

「ホントに教官艦が攻撃してきたの?」

 

明石艦長の杉本が二人に確認をするかのように尋ねる。

 

「うん」

 

「我々は演習が終わった後に合流する予定だったから状況がよくわからなかったの」

 

間宮艦長の藤田優衣(ふじたゆい)が間宮と明石の予定を伝え、あの時何故あの場所にいなかったかを伝える。

 

「じゃあどうして私達に補給を?」

 

「校長先生の指示で‥‥」

 

「お母さ・・・校長の?」

 

「我々も宗谷校長に依頼を受けたの。海上整備局の見解と違って、校長は晴風が猿島に対して先制攻撃したとは思えない、と主張しているわ。それは守君も同じだわ」

 

「守が?」

 

「ええ。あの事件のとき彼は小笠原諸島にいて、その知らせを聞いた時、『必ず、ましろ姉さんの潔白を証明して見せる!』って言って、晴風捜索に自ら志願したのよ。たった一人で・・・・・姉想いの弟さんですね?」

 

「守が・・・・・」

 

平賀はましろに説明し、そして守自身も自分の身の潔白を証明しようと動いてくれたことををましろに説明した。

 

「それと、猿島の艦長、古庄教官の意識がやっと戻ったみたいだからこれで、あの時猿島で一体何が起こったのか解明できると思う」

 

『『‥‥』』

 

明乃、ましろにして見ても、あの時、何故古庄がいきなり実弾を使用して発砲してきたのか?

何故、先制攻撃をしてきたにも関わらず、古庄は虚偽の報告をしたのか?

2人はその事実を知りたかった。

 

「後程、発砲した生徒には、聴取を行います・・・それでは、後は頼んだわね、2人共?」

 

『はい!』

 

平賀は、補給と補修の指揮を珊瑚と優衣に任せ、杉本と藤田に任せ、聴取の準備の為、一度哨戒艇へと戻って行った。

 

「ありがとうシロちゃん」

 

「!?・・・・何故、私に?」

 

「だってシロちゃんのお母さんが私達を信じてくれたから、疑いが晴れたんだもん!それにマー君も私たちのために頑張ってくれて」

 

「・・・・うちの母は自分の信念を貫く人だから・・・・それに守もあ見えて世話焼きというか・・・・困っている人を放っておくことができない性格だから」

 

ましろは、明乃に礼を言われ、拗ねる。

 

「それでこそブルマーだよね!」

 

「ブルマー?」

 

明乃の発した言葉に驚くましろ。

 

「うん、皆ブルーマーメイドの事、こう呼んでいるよ!」

 

「ブルーマーメイドを略すな!!」

 

ブルーマーメイドを略す事に反対するが、突如ましろはあるものに気づく

 

「んっ!?」

 

突然、ましろの目の前に

 

「んっ!?え、ええ??」

 

ポールの上で寝転がる五十六と配下見たいに側で寝転ぶ二匹の猫がいた。

 

「うぁ・・・猫だ~」

 

「な、何故、猫が増えてる!?」

 

二匹も猫が増えているのにましろは、驚く。

 

「あ、うちと明石の猫よ!」

 

「あっ、そうなんだ!」

 

「補給艦はネズミが発生しやすいので飼っているの・・・」

 

如何やら猫2匹は、間宮と明石でネズミ対策として、2艦で飼われている猫の様だ。

優衣と珊瑚がそう話していると2匹の猫は、突然、寝転ぶのを止めて、如何いう訳かましろの元に行き始めた

 

「来るな・・・・来るな・・・・来るな・・・・・・」

 

二匹の猫は、かわいらしい鳴き声で恐る恐るましろに近づいてくる。それを見たましろは、段々困惑して来て次の瞬間

 

「来るな・・・・・・!!!」

 

ましろは、悲鳴を出しながら逃げていった。2匹の猫もその後を追う。

 

「シロちゃんって、猫に好かれて良いな・・・」

 

明乃は呑気にそんな事を言っていた。

 

そして後部甲板で二式水戦の修理をしている守と夕張は二式水戦の期待を見て

 

「・・・・どうですか?」

 

「うん。この程度なら明石に積んでいる工具で直せるわ。一時間ほど時間くれる?ついでに弾も補充しとくわ」

 

「ありがとうございます・・・あとついでにお願いしたいことが」

 

「なに?」

 

守は夕張に耳打ちすると彼女はにっこりと笑い

 

「いいわ。それくらいのことお安い御用よ」

 

「ありがとうございます。夕張さん」

 

守は夕張にお礼を言うと、すぐそばでましろが猫に追いかけられている姿を発見する

 

「あれ?姉さん。何をやっているんだ?」

 

「猫に追いかけられているわね?君のお姉さん。猫が嫌いなの?」

 

「いや?姉さんは確か猫好きだったはずだけど?」

 

そう言い守は首をかしげるのであった

 

 

 

その頃、医務室では‥‥

 

「結局飼い主が見つからなくて。ここで預かってもらえますか?」

 

幸子が美波に例のハムスターの様な生物の面倒を頼んでいた。

 

「無問題(モーマンタイ)」

 

美波はこのハムスターの様な生物の面倒を中国語で見ると言う。

 

「ただしハムスターにはあらず‥‥」

 

美波は飼育箱に入っているハムスターの様な生物をジッと見て、この生物はハムスターではないと断言する。

 

「じゃあ何ですかね?」

 

「調べてみる」

 

美波はこの生物が一体何なのかを調べると言った。

彼女がこの何故の生物の正体を知るのはもう少し先になってからの事だった。

 

 

 

 

 

一方、横須賀女子海洋学校では、真霜が晴風を無事に保護した事が真雪に報告していた。

 

『艦長、乗員共可笑しな様子はありませんでした。』

 

「そう・・・・ありがとう」

 

『海上安全整備局にも報告を上げたけど・・・・まだ、晴風に危険分子がまだ乗船してるいのではないかと疑っているわ・・・学校に戻る前に全員拘束するべきではないかとの意見もあるの・・・・これ以上晴風に何かあると、私だけじゃなくお母さんの立場も危うくなるわ!』

 

「私の心配はしなくて良いわ・・・でも・・・・何か異常事態が発生している・・・・貴方はその解明を急いで」

 

真雪は、自分の立場が危うくなっても真霜に今回の事件を引き起こした発端を調べるよう要請した。

 

『分かっているわ!・・・それよりもお母さん。最近変な連中が動き出していると報告があるの?』

 

「まさか海賊?」

 

「ならいいんだけど、海賊にしては統率が取れているらしいわ。まだ調査中だけど」

 

「そう・・・・」

 

「それにそれだけじゃないわ。先ほど真冬たちの乗る弁天が座礁した軍艦らしき船を見つけたそうなの」

 

「座礁した軍艦?」

 

そう言いメインスクリーンにいちまいの写真が映し出される。それは夕焼けに照らされ大きな岩礁に乗り上げた大和級戦艦と同じくらいの大きさの大きい平べったい船の写真だった

そしてその他に、口にたばこを咥え、旧海軍の第一種軍装を身にまとった女性がじっとカメラを見ている写真が映し出されていたのだった

 

 

「これは・・・・・」

 

 



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晴風の休息

4月15日午前10:30

 

アスンシオン島沖

行方不明の教育艦を捜索している東舞鶴男子海洋学校の教員艦隊の哨戒飛行船が単艦で航行中の武蔵を発見する。

その報告は、直ちに旗艦あおつきに届いた。

 

「・・・哨戒船から入電です!!・・・発5分隊2号船宛旗艦あおつき 武蔵を発見・・・北緯19度41分東経145度0分で巡行中・・・無線で呼びかけるも応答なし・・・ビーゴンの反応も消えてますし、おそらく無線も含め、電装系の故障だと思われます。」

 

主任は、電子機器の故障で応答が出来ないんだと認識し、艦長席に座る教頭員に報告する

 

「武蔵の位置を横須賀女子海洋学校に連絡しろ!!」

 

「は、はい!」 

 

武蔵発見の報告を直ぐに横須賀女子海洋学校に連絡を命じる。

 

「まぁ見つかって良かった!!・・・随分と心配しているだろうな、生徒の安全確保は、優先事項なのに、複数同時に実習艦が行方不明になるとは‥‥」

 

少し安心したのかため息をつきそう言う

 

「それにホワイトドルフィンやブルーマーメイドの報告によれば太平洋各地でおかしな集団が動いているという情報が入った」

 

「それは私も聞きました。なんでもその集団のマークが赤地の中央に白い丸。そして鍵十字の印だったと・・・・・」

 

「晴風も同じ印の潜水艦と交戦したとか・・・・・教員間が行方不明になるは変な連中がうろつくはいったい何が・・・・・いや、何が起きたにせよ、直ちに武蔵の保護に向かおう!・・・哨戒船を呼び戻せ!!」

 

こうして、東舞鶴男子海洋学校の教員艦8隻は、直ちに武蔵の保護へと向かう。

 

 

 

 

 

 

一方晴風は四国沖の入り江に停泊していた。そして晴風の他に補給に来た間宮、明石とも別れ、晴風は現在、釜の温度が上がっていない事と平賀達による志摩の事情聴衆の為、この沖合で立ち往生な状態だった。

その為、暇な晴風の生徒は、終わる12時まで休息を取る事にした。

 

 

そして守と夕張は・・・・

 

「よし!これで終わり!」

 

「何とか直りましたね」

 

二式水戦の修理が終わり、顔中オイルまみれになった二人が疲れ顔でそう言う

 

「修理してから・・・・・ああ、ダメだ何時間経ったか覚えていないわ」

 

「俺もです。でも助かりました。おかげで俺の愛機も無事に直りましたよ」

 

「礼を言われるほどじゃないわ。仕事だしね。それと例の奴。ちゃんとできたわよ」

 

「ありがとうございます」

 

「いいって。いいって。お姉さん。喜んでくれるといいわね」

 

とにっこりと笑う夕張さん。そして彼女はふわぁ~と欠伸をし

 

「あ~ごめんね森君。私、船に戻って眠るわ・・・・・それで森君はどうする一緒の船に乗って横須賀に戻る?」

 

「いえ、俺はもうしばらくましろ姉さんのところにいます。真霜姉さんや真冬姉さんにも俺のことは心配しなくていいって伝えてください」

 

「分かったわ。じゃあ、森君。私はこれで」

 

「お疲れさまでした夕張さん」

 

そう言い夕張さんはブルーマーメイドの船へと帰っていった。そして守も軽い欠伸をして

 

「・・・・まずい。俺も眠たくなってきた・・・・こいつ飛ばすのは少し仮眠をとってからでいいかな?」

 

守はそっと二式水戦に触れ少し頷くとふらふらした足取りで歩きだすのだった

 

 

一方、晴風生徒の方はというと、パラグライダーで遊んだりスキッパーを使って遊んでいたりしていた

 

「イルカだ!?」

 

「生イルカっす!!」

 

スキッパーに乗る百々たちの近くにイルカの群れが通り掛かり、百々が興奮しながらその姿をスマホで撮る。

そして甲板では

 

「こら、準備運動をせずに!!飛び込んだら危ないだろ!」

 

晴風の甲板では、ましろが準備運動をせずに海へと飛び込む生徒達に注意を促が

 

「艦長もそのまま飛び込むのは、止めて下さい!!」

 

「イ、イルカ・・・・!!イルカ・・・・!!」

 

今度は、側に居た明乃が水着を着ずに飛び込むのをましろが取り押さえて、止める。

 

「対象まで距離・・5.0・・・全長は、2m30cmってとこ・・・・バン!!」

 

「バキュンとくる感じ!!」

 

「102、10度旋回!!」

 

光と順子、美千留の3人がイルカの群れに対して、照準遊びをする。そんなこんなで晴風はいたって平和だったのだ。それを見たましろはため息をつき

 

「こんなにのんびりしてて、良いのか?」

 

誤解は解けたとはいえ、まだ行方不明になっている学生艦の他。先で問題を起こした立石と付き添いに西崎が事情聴取を受けているのに自分たちは遊んでいいのだろうか?ましろはそう呟くと

 

「入学式から此処までずっと、皆緊張の連続だったしね・・・、ちょっとぐらい羽伸ばしても良いんじゃないかな~?」

 

「伸ばし過ぎだろ!!」

 

と、鳥みたいに両手をパタパタさせる岬にそう突っ込むましろ

 

「皆、ホッとしてるんだよ!!・・・私達、反乱したわけじゃないって、わかって貰えた見たいだから・・・」

 

「とは言え、速やかに学校に戻るべきだろう。」

 

ましろは、直ぐにも横須賀女子海洋学校に戻るべきだと告げるが

 

「まだタマちゃん、平賀さん達に話し聞かれてる見たいだし、釜の温度も上がりきっていないから・・・」

 

そう言う明乃。そして釜焚き場・・・つまり機関室では

 

「う・・・・・畜生、上がれてぇんだ・・・!!」

 

麻侖がうちわで扇ぎ、釜の温度を上げようとしていた

 

「私達直ぐには、出発できないよ!」

 

明乃は、ましろに状況を説明しながら、生徒達を見守る。

 

「は~い・・・撮るよ・・・」

 

美海が皆の写真を撮ったり、聡子と秀子、まゆみがビッチバレーをし、楓と鶫、慧がスイカ割りも行われており、先程、照準遊びをしていた光と順子、美千留も今度は、ライフル式水鉄砲で遊び始める。

 

「しかし、一刻でも早く、着いた方が・・・」

 

例え出港できない状況でもましろは、一刻も早く学校に帰還すべきだと言うが

 

「明石と間宮は、着いたかな?」

 

「えっ!?」

 

「武蔵のところに?」

 

ましろが問う中、明乃は、明石と間宮が無事に武蔵と合流できたのだろうか、気になっていた。

そんな明乃をましろは、唖然と見る。その様子をましろはかつて守と離れ離れになった自分と重なって見えた

 

「大丈夫です艦長。きっと間宮も明石も武蔵のところにたどり着けています」

 

「うん・・・・ありがとシロちゃん」

 

ましろの言葉に明乃はそう言うのであった。そんな中、隣では、

 

「今月の運勢は‥‥」

 

「あっ!?さそり座は、9位!!」

 

機関員四人衆は、雑誌の占い記事で自分の星座の運勢をそれぞれ確認していた。

 

「おうし座は11位‥‥」

 

「え~11位?」

 

麗緒は、自分の星座が12星座の内、下位だった事に嫌な顔をする。

 

「ビリじゃないから良いんじゃない!」

 

そんな麗緒に留奈がフォローを入れる。

 

「・・・因みにふたご座は何位だ?」

 

ましろが気になって、自分の星座の順位を尋ねる。

 

「・・・12位‥‥特に水辺では、運気が下がりますって‥‥あ、でも狼がいれば災から逃れられますって」

 

「こんな海辺に狼がいるわけが・・・・・」

 

ましろがそう言いかけた時、、光と順子、美千留の3人の水鉄砲のうちの一つが流れ弾として、ましろに当たろうとしたとき、誰かがましろの前に突然立ち、彼女の代わりに水をかぶった

 

「うわっ!?冷たっ!?」

 

「ま、守!?」

 

ましろの代わりに水鉄砲を食らったのは、先ほど修理を終えて仮眠をとっていた守だった

 

「「あっ!?」

 

「マー君。御免、御免」

 

自分の弾が守に当たった事に順子は、謝罪する。

 

「ふぅ…おかげで少し目が覚めた・・・・・」

 

ずぶ濡れになり、守は仮眠し起きた後に残っていた眠気が覚めたとそう小声で言うと

 

「ま、守!?大丈夫か?」

 

ましろが心配そうに守に言うと

 

「ん?大丈夫。大丈夫。少し濡れただけだちょっとタオル取ってくる」

 

「じゃあ、私も一緒に行こうか?」

 

「大丈夫。一人で行けるよ」

 

そう言い守は、タオルを取りに艦内へと入っていく。それを見た瑠奈たちは

 

「すご!?当たってる!!」

 

「でも、占いでは狼でしょ?マー君は狼じゃないじゃん?」

 

占いが当たった事に留奈は驚くが狼ではなくなぜ守なのか不思議に思っていたそんな中ましろは

 

「(偶然とはいえ、また守に助けられた・・・・・てあれ?そう言えば守。わざと私の前に出たような・・・・・)」

 

先ほどの守の行動。偶然にしては不自然すぎる。わざと彼が彼女の前に飛び出たようんば感じに思えたのだ

 

「あっ・・・心理テストもあるよ!・・・宗谷さん、やってみる?」

 

桜良が心理テストをましろに薦めるが

 

「やらん!!」

 

そう言いましろも艦内に入るのであった

 

「あ、知床さんやってみる?」

 

ましろが心理テストをやらんと言ったので、空は、側に居た鈴に変わりに心理テストを受けてみるかと尋ねた。

 

「え!?私!?」

 

鈴は物は試しとその心理テストを受けるのだった。

 

一方守は濡れた顔をタオルで拭き

 

「ふ~咄嗟に体動いちゃったけど、姉さんが濡れなくてよかったな・・・・おかげで目も覚めたし、姉さんもずぶ濡れにならなかったし、結果オーライだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、晴風の生徒が海水浴を楽しんでいる中、晴風の倉庫では、拘束している立石の事情聴衆が行われていた。

部屋には、調書を取る平賀と福内の他、志摩の付き添いとして芽衣が志摩の左右に座っていた。

 

「く~あ~い~な~!!あ~い~な~!!・・・私もキャッキャウフフしたいな~!!」

 

皆が海水浴で遊んでいる事に芽衣がぼやいていた。

 

「もう少しで終わるから、頑張ってね。」

 

芽衣のボヤキを平賀が返す。

 

「は~い」

 

平賀に促され、芽衣は、ぼやくのを止める。

 

「立石さん!・・・・もう一度聞くけど・・・・何故、急に攻撃したのか、如何しても思い出せないのね?」

 

福内が改めて志摩にあの時の事を尋ねると志摩は頷く

 

「うぃ‥‥」

 

しかし、志摩は、自分が何故あんな事をしたか、全く分からず、気づいていたら、既に明石と間宮を発砲した後だった。

 

「思い出せないなら仕方ないよ、タマちゃん!!・・・私だって撃てるものなら撃ってたし・・・あの状況だったらさ!」

 

芽衣もあの状況だったら、自分も撃ってたかもしれないと落ち込む志摩を慰める。

 

「ん・・・・終了しましょうか?」

 

「以上の聴取内容をまとめ海上安全委員会に報告します。」

 

長い志摩の事情聴取は、これにて終了した。

 

 

 

 

一方、太平洋のとある場所では

 

「Sieg Heil!!!」

 

「Sieg Heil・・・・」

 

数名の黒服の男性が黒い軍服に襟にssとかかれた服を着た女性に右手を上げそう言うとその女性も右手を上げ返事をする。そして

 

「どうだ?例の物は見つかったか?」

 

「い、いいえ・・・・それがまだ」

 

「早く見つけるのだ。我が第4帝国の秘密兵器を盗まれたと知れば、我々は強制収容所送りになる。何のためにここに来たか分からん」

 

「我々も探しているのですが。どうも例の物を持ち逃げしたものは日本のどこかに逃げたらしく・・・・」

 

「そこまで分かれば十分だろ?すぐに日本をくまなく探し見つけ例の物を奪い返せ。あれはまだ世間に広められるわけにはいかん。我が軍が極秘に開発した秘密兵器だぞ?」

 

「分かっています大佐」

 

「それで・・・無事保護したUボートはどうしている?」

 

「そ、それが、奴ら修理が終わり次第、すぐさま出港し、そのまま音信不通で・・・・」

 

「馬鹿な奴らだ。この世界は別世界だと伝え、我々に協力しろと言ったはずなのにな。それともssと一緒にいるのが嫌だったのかしらね?」

 

ため息交じりに言うと、一人の黒服の男が慌ててやってきて

 

「ほ、報告します!たった今、例の物を盗んだ人物のいる場所が特定しました!」

 

 

「そうか・・・・で、日本のどこだ?」

 

彼女がそう訊くと男は

 

「はっ!場所は神奈川県、横須賀の横須賀病院とのことです!!」

 



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不穏な動き

一方、雨の降る中、日本本土横須賀にある病院で、晴風を攻撃した教員艦「さるしま」の艦長であり教師である古庄教官がブルーマーメイドの隊員に晴風砲撃事件について事情聴取を受けていた

 

「晴風の反乱を最初に報告したのは猿島ですよね?なぜ反乱と断定を?」

 

「晴風が実習の集合時刻に遅れて当該海域に到着。その際こちらから砲撃を行いました。晴風は短魚雷で反撃し本艦に命中。これを反乱とみなし報告しました」

 

「遅刻程度で先制攻撃を行った理由は?」

 

「それは‥‥」

 

「他の乗員は全て艦長が命令したと証言しています」

 

「命令したことはよく覚えています。ですがなぜそういう判断に至ったか自分でも不明なのです」

 

命令したのは覚えているがなぜそのような命令をした動機は彼女自身にもわからなかった。 

ふつうはそんなことあるはずはないのだが、事実そうなのだ。

彼女自身と隊員が困惑していると、ドアからノックがし

 

「監督官の宗谷です」

 

そう言い真霜が古庄の病室を訪れた。

 

「差し入れを持って来たわ。私も古庄教官から話を聞きたいのだけど少しいいかしら?」

 

「はい。ご苦労様です」

 

真霜は、古庄から話を聞く為、しばらく2人だけにして欲しいと頼み、ブルーマーメイド隊員もそれを受け入れ、退出する。

 

「大丈夫ですか古庄先輩。救助が来るまでの間、海を漂流してったて、聞きましたけど・・・」

 

「後輩に心配かけるなんて情けないわね。ありがとう大丈夫よ」

 

「すみません、調書が完成するまでは此処に居てもらいます」

 

古庄のこの処遇は軟禁に近い処遇であった。

 

「これ、食べて下さい」

 

「ありがとう」

 

真霜は持って来た差し入れのドルフィンケーキを庄に渡す。

 

「生徒に向かって発砲したのに。なぜそんなことをしたのか思い出せないなんて自分に腹が立つわ‥‥」

 

古庄も教官としてあるまじき行為をしたと自覚しているのだが、肝心の詳しい経緯が思いだせない。

そんな自分に腹が立っていた。

 

「他の乗組員もちゃんと記憶はあるのになぜこんなことをしたのか思い出せないと証言しているのです。先輩だけじゃありません。サルベージした猿島の戦術情報処理システムもログが消えていました」 

 

真霜は事件の経緯が纏められた報告書を古庄に見せる。

 

「ログ‥消失‥13時20分から機能を喪失していたとみられる、か‥晴風は本当に大丈夫?」

 

「艦長以下全員無事です」

 

「そう・・・・」

 

真霜がそう言うと古庄は安心する。そして

 

「そう言えば森君は・・・・・小笠原に行った森君はどうなったの?」

 

「マー君・・・・・守なら、晴風が行方不明になった後、飛行機で捜索に行って、無事に晴風と合流できたそうよ」

 

「そう・・・あの子。お姉さんに会うことができたのね・・・・」

 

「ええ。接触した平賀二等監察官から、ましろに会うことができて彼自身も嬉しそうだったと聞いたわ」

 

「そう・・・良かった。小笠原に立つ前の彼、どこかしら元気がなかったから・・・・」

 

古庄は守がましろに無事に会えたことに安堵する。事情を知っている彼女も内心は守について心配していたからだ

 

「そう言えば守君は先輩の学校の警備員をしていたのですね?以前にも元気がないって母さ・・・・宗谷校長から聞いていましたけど。先輩。彼について何か知っていたりしますか?」

 

真霜は先輩である古庄に守が依然あったとき心なしか元気がないことを聞いた。それを聞いた古庄は

 

「そうね・・・・実は私も彼のことが気になっていたのよ。仕事はちゃんとしていたんだけどね。むしろ仕事のし過ぎで逆に心配になるくらいだったわ。あの子は仕事熱心な子なんだけどね・・・・・そう言えば以前こんな相談をしていたわね」

 

「相談?」

 

「ええ。前に一度だけね」

 

「それはどんな相談ですか?」

 

真霜がそう言うと古庄は若干神妙な顔になり

 

「最近悪夢を見るそうなんです」

 

「・・・・悪夢?どんな?」

 

「それは詳しく入ってはくれなかったけど、私の推測だけど、恐らく森君のいた世界の戦争のことだと思うわ」

 

「戦争・・・・」

 

「それにこうも言っていたわ。『戦争とはいえ命を奪ってしまった償いはどうすればできるのだろうか・・・』てね」

 

「マー君・・・・・」

 

二人とも守りが異世界人であり。そしてその世界では戦争があり、守も兵士として戦争に参加していたことは知っていた。だが、いつもにこやかな彼が内心心の傷がそこまで深いことには二人とも知らなかった

 

「「・・・・・」」

 

守のその心情を・・・・心傷を癒す解決策を真霜も古庄も見つけることができるただ沈黙が続いた。

そしてその沈黙が続いた病室に真霜の携帯にメールが入った。

メールの内容は武蔵発見の報告だった。

 

「先輩すいません。ちょっと急用が。それ食べてくださいね」

 

武蔵発見の報告を受け、真霜は急ぎブルーマーメイドの隊舎へと戻って行った。

そして古庄は真霜に渡されたドルフィンケーキを見てほほ笑むと部屋の外から

 

『先生!大変です!○○号室の患者さんが消えてしまいました!?』

 

『そんなバカなことがあるか!すぐに探しなさい!!』

 

「・・・・何かあったのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、とある港の倉庫で

 

「ここは何処だ!私をこんなところに連れて行って何をするつもりだ!!」

 

椅子に座らさせ、縄で縛られている病院服を着た男性がそう叫ぶと、その男をかこっている黒服、黒帽子、黒サングラスを着た男がその男の胸ぐらをつかみ

 

「黙れ。例の奴をどこにやった!!」

 

「な、何を言っているんだ早く私を開放しろ!私は海上安全整備局の海洋研究機関内開発部主任だぞ!私に一体何の用なんだ!!」

 

男がそう叫ぶと

 

「それはあなたの方が知っているはずですよ」

 

「た、大佐殿!」

 

「あなた方はゲシュタポ出身なのに尋問することもできないのですか?」

 

と、そこへ外国人らしき金髪で眼帯をしたドイツの軍服を着た女性が現れる

そしてその女はその男を見て

 

「さてと・・・・」

 

そう言い彼女は鎖でつながれた棒のようなものを取り出し、ビシッとまっすぐにする。さらわれた男性はそれは鞭でそれで拷問されるのではと思ったが、女性将校はその棒の先端にあるフックをもう片方のフックに引っ掛け簡易的なハンガーを作ると自分の着ていたコートをひっかける。どうやら彼女が持っていたのか簡単に作れる携帯式のハンガーだった様だ。

それを見た男性はホッとすると

 

「初めまして・・・・私の日本語はわかるかしら?」

 

「あ・・・あんたはいったい?」

 

「あんたに名乗る暇はないっと言いたいところだけど名乗ってあげるわ。私はドイツ第4帝国武装親衛隊所属ハイルヴィヒ・イイノデビッチ・ゾル大佐だ。では簡単な事情聴取をしましょうか・・・・・で我々から盗んだものは何処にある?」

 

「な、なにをいっているんだ?わ、わ・・・わたしにはさっぱり」

 

「よくご存じのはず・・・・・」

 

そう言い威圧を込めて静かにそう言うゾルと名乗った女

 

「我々が秘密裏に開発した生物兵器のことだ・・・・・貴様が盗み出して自分の研究として自分が開発したことにしているのは知っているのだぞ?」

 

「だ、だから私には何のことか知らん!早く解放してくれ!」

 

「私の質問に正直に答えてくだされば直ちに開放しますよ?さあ・・・・例の物は何処にやった・・・・」

 

冷たい目でそう言うゾル。そして右手にはワルサーP38が握られていた。もし喋る気がないなら殺されると感じた男は

 

「は…話したら本当に開放してくれるんだな?」

 

「ええ・・・・約束しましょう」

 

「・・・・・わかった」

 

そう言い男は話したことをすべて話した。

 

「なるほどね・・・・・あなた記録した?」

 

「はい。全部・・・・」

 

「お、おい!俺はすべて話したぞ!約束通り開放してくれ!!」

 

すべてを話したから早く解放してくれという男にゾルはその男を見てニヤッと笑い

 

「ええ…そうだったわね。約束通り開放してあげるわ」

 

そう言い彼女は自分の持つワルサーを男の頭に向けて

 

「・・・・・人生からね」

 

「っ!?」

 

そう言うか言い終わらないうちにゾルは男に向かって発砲。男は眉間から血を流し動かなくなった

 

「さっさとそれ処分しろ」

 

「はっ!」

 

「大佐どうします?」

 

「とりあえず例の居所が分かったがどこに回収されたかはわからない・・・・徹底的に探せ。最初はそうね・・・・例の海上安全整備局が流していた晴風とかいう軍艦から探せ。見つけ次第、動きを止め例の物を探す。抵抗するのであれば乗員は殺せ」

 

「無ければ?」

 

「沈めろ・・・・・」

 

「ハイル」

 

ゾルの指示で命令を受けた部下たちはナチス式敬礼を取りその場を去り、ゾルは

 

「まったく厄介なことになった」

 

とひとり呟くのであった



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歓迎会

ナチスが裏で暗躍しているとき、晴風艦内ではびしょ濡れになった服を着替えた守が艦内を歩いていた

 

「さてと・・・・どうしようかな」

 

守がそう呟く。あの後いろんなところに行って手伝いをしようかと声をかけたのだが、みんなよそよそしくなぜか避けられ断られていた

特に厨房ではなぜか杵崎姉妹や美甘に追い出されてしまった

 

「う~ん・・・・なんか嫌われるようなことしたかな?いやあれは嫌っているような感じじゃないような?」

 

首をかしげながらそう言う守。すると

 

「・・・あ」

 

「・・・あ」

 

角を曲がろうとしたとき、晴風クラスの水着を着たミーナに出会う。すると守は軽く頭を下げ

 

「V、Vielen Dank. Mina(ど、どうも。ミーナさん)」

 

「っ!?」

 

急にドイツ語であいさつした守にミーナは驚いた

 

「Sprichst du Deutsch?(お主、ドイツ語が話せるのか?)」

 

「Kann ein bisschen sprechen(少しだけ話せる)」

 

守がそうドイツ語で話すと

 

「おどろいたの~後、わしは日本語は話せるから日本語でいいぞ」

 

「そうですか。そっちの方が私も話しやすいです。それとどうでした俺のドイツ語なんか違和感ありませんでしたか?」

 

「いいや。まったくじゃ。むしろあまりの流暢さに同じ国の者と話しとると思ったぞ?どこで習ったんじゃ?」

 

「あ~学校で・・・・かな?」

 

本当は敵であるナチスドイツを捕虜にした時に尋問するために軍訓練学校で習ったとはいえなかった

 

「学校か…日本の学校は英語だけじゃなくてドイツ語も習うのか?」

 

「あはは・・・・まあ、俺のいたところはそうだったよ。ところでミーナさん。その格好は?これから海水浴に?」

 

「ああ、皆水着を着ているから、儂も貸してもらったのじゃが、どうもすこし小さくてな・・・・」

 

貸してもらった水着が小さいのかミーナは守にそう言う

 

「お主は入らぬのか?」

 

「あいにく水着はないので?」

 

「貸してもらえればいいだろ?」

 

「いいや。俺、男だから無理ですよ」

 

「何!?お主男だったのか!?」

 

「・・・・・」

 

ミーナの驚きに「またかよ…」というような表情をする守。もう慣れたこととはいえやはり自分の顔は女性よりの顔立ちでしょっちゅう女に間違われる。特に海水浴なんかでは海水浴の係員に「なんで女の子が男子の水着なんて来ているの!!」

とか言われ連行され注意されたこともしばしば

 

「ええ・・・・こんな顔ですけどれっきとした男ですよミーナさん」

 

「そ、そうか…不思議なものだな?」

 

「(なにが?)それよりもミーナさん。なんか最近、晴風の人よそよそしくないですか?なんか避けられているというか?」

 

「ああお主もか。わしもなぜか避けられている感じでな…なぜだろうな?」

 

と守とミーナは首をかしげるのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聴取が終了したのでこれで失礼します」

 

「発砲についての正式な処分は帰港した後で学校から下されると思うけど損害もなかったし厳重注意程度で済むんじゃないかしら」

 

「ありがとうございます」

 

「お疲れ様でした」

 

立石の聴取が終わり、平賀と福内は哨戒艇に乗り、帰って行った。

 

「タマちゃんもお疲れ様」

 

「うぃ~」

 

表情がとぼしい立石だったが、見るからに落ち込んでいるのがわかる。

 

「だ、大丈夫だよ、立石さん。学校にはちゃんと説明して私も一緒に謝るから」

 

「また私もばっちり付き添うよ~」

 

「うぃ‥‥」

 

明乃と西崎に励まされて少し嬉しそうな立石だった。

その時、

 

「ん?」

 

明乃は甲板で項垂れている鈴の姿を見つけた。

 

「ん・・・如何したのリンちゃん?」

 

「うっ・・・うっ・・・」

 

明乃は、如何したと問うが鈴は、何故か落ち込んでいた。

 

「・・・皆と遊ばないの?」

 

「さ‥‥さっき心理テストをやったんだけど‥‥」

 

「ん・・・?」

 

「私の性格って、真面目系クズって言う結果で‥‥」

 

「えっ!?」

 

鈴の口からなんか普段は出ないような言葉が出て来た。如何やら、空に勧められた心理テストの結果が良くなかった様だ。

 

「でも、当たっていると思う・・・だって私・・逃げてばっかりの逃げ逃げ人生だし‥‥」

 

「逃げ逃げ人生?」

 

鈴は明乃に「逃げ逃げ人生」とは、どんな人生かを話した。

 

「うん‥‥小学校の時にね・・・皆で肝試しをしたんだけど‥‥友達を置いて逃げちゃったの!!」

 

「‥‥」

 

「いつもいつも気付いたら逃げてばっかりで‥‥」

 

過去を振り返す鈴。小学校時代、下校時犬に吠えられて、逃げてわざわざ遠回りして帰り、修学旅行の時、仁王像を見て、怖くなって逃げ出して担任の先生やクラスメイト達に迷惑をかけ、今年の年始には神社にお参りに行ったら、そこの巫女さんに絡まれて、無理矢理労働を強いられて、その途中で逃げて‥‥

確かにこれまでの人生、鈴本人の言う通り、辛い目や怖い目に会った時は逃げてばかりいた。

 

「そんな時はいつも一人で海を見てた。不思議と気持ちが落ち着いて‥‥それで海が好きになって‥‥ブルマーを目指して船に乗っていれば逃げ場はないから逃げ逃げをやめられると思ってたんだけど‥‥結局また船ごと逃げ出して‥‥」

 

「‥‥逃げるのは悪くないと思うよ」

 

「えっ?」

 

リンは逃げることを岬に攻められると思っていたが予想外の言葉に顔を上げる

 

「だって、私達、3回も戦闘したのに無事なんだよ!・・・それは、リンちゃんが逃げてくれたおかげだよ!・・・的確に状況を見極めてうまく逃げるのはリンちゃんの長所じゃないかな!」

 

明乃は微笑みながら鈴の長所を言う。

 

「‥‥」

 

鈴は明乃の顔をじっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、医務室では美波が例のハムスターに似た小動物に餌を与えていた。

与えられた餌を食べ始めるハムスターに似た小動物。

すると、

 

ビィービィー

 

「?」 

 

美波の腕についている電波時計がなり、彼女はその時計に目をやると、

 

「っ!?」

 

電波時計はバグを起こした。

 

「‥‥」

 

美波はバグを起こした時計とハムスターに似た小動物を交互に見た。

この小動物がバグを起こしている原因なのかと

 

 

 

 

その頃、南方海域では、東舞校の教官艦が武蔵へと接近していた。

 

「武蔵安定して巡航中ですね」

 

双眼鏡であおつきの副長が武蔵の状況を報告する。見た所、特に武蔵には異常を感じられず、動いている事から機関も正常に稼働し、損傷箇所も見当たらない。

 

「みんな無事ならばいいが」

 

 すると、武蔵の砲塔が旋回しはじめて、東舞校の教官艦めがけて発砲してきた。

 

「撃ってきました!」

 

「四番艦から受信、機関部被弾、航行不能!」

 

武蔵の初弾で東舞校の教官艦の一隻が航行不能となる。

 

「発光信号を送っていますが応答ありません!」

 

「我々を脅威と誤解しているのか?」

 

東舞校の教頭は、武蔵の生徒が、自分達が武蔵に攻撃を仕掛けてくると思い込んでいるのかと思い、

 

「二番艦は接近し音声にて呼びかけてくれ」

 

発光信号ではなく、音声信号にて武蔵へと呼びかける様に指示を出した。

 

「武蔵の生徒諸君!我々は東舞高の教員だ。君達を保護するために来た!速やかに停船し指示に従い‥‥」

 

二番艦が音声信号をやりはじめると、武蔵は右舷の副砲を旋回させ、発砲。

二番艦は艦首に浸水する被害を受けた。

 

「‥‥砲撃をやめさせよう。どこかに穴を開けて傾斜させれば砲は仕えなくなる」

 

教頭は武蔵相手にこのあきづき型大型教員艦では不利であり、撃ってくるのであれば下手に接近も出来ない。

そこで、浸水させて武蔵の船体を傾斜させることにより給弾機を使用不能にさせる事にした。

 

「生徒の船を撃つことになります‥‥」

 

「砲を撃てなくしてから生徒を保護する」

 

「‥‥了解。対水上戦闘用意!」

 

この間にも武蔵の攻撃は続き、

 

「三番艦被弾!」

 

「対水上戦闘噴進魚雷、攻撃始め!」

 

残った教官艦から一斉に噴進魚雷が発射され、武蔵の右舷に命中する。

 

しかし‥‥

 

「目標、速力変わらず、主砲動いています!」

 

「演習弾では無理か!」

 

先程撃った噴進魚雷は全て模擬弾の為、武蔵には損傷は全くなかった。

 

 

 

 

一方、武蔵と東舞鶴男子海洋学校の教員艦隊の戦闘している頃、晴風では

 

『ええ・・艦長の岬です・・・クラス全員急いで艦首付近の前甲板に集まって下さい以上・・・』

 

明乃は、突然、生徒達を艦首の前甲板に集合するよう放送を掛ける。

 

『ん・・・?』

 

「何ですかね・・・」

 

突然の召集に何だろうと思い、兎に角、前甲板に集合する。

 

「何だ、急に召集かけたりして?」

 

ましろは、何故、急に召集掛けたか、明乃を問い質すと明乃は、

 

「あのね皆!!・・・今から・・・ミーちゃんとマー君の歓迎会を始めま~す!!」

 

何とミーナの歓迎会を始めた。

 

『わぁ・・・・!!』

 

ミーナの歓迎会に皆は、ミーナに歓迎の拍手で迎える。

 

「えっ!?ワ、ワシの?」

 

「おろ?」

 

明乃が招集内容を言うと拍手が起こった。

 

『船の皆は家族』

 

その信条を明乃は忘れておらず、イレギュラーながらも晴風の乗員となったミーナの歓迎会をする事にしたのだ。

その企画を立てたのは、学校側から行方不明になった学生艦の捜索依頼が来る前の事で、炊事委員の子らも賛成してくれたので、今更中止には出来なかった。

 

歓迎されるミーナはもちろん守も突然のサプライズに驚いている。

 

「そう言えば、まだだったわね!」

 

「お~い!!お~い!!、やちまえってんでぇい!!」

 

洋美が思い出したようにそう言い麻侖も歓迎会に賛同する。今まで、戦闘が多かったので歓迎会を開く余裕が無かった。皆拍手しながら、美甘と杵崎姉妹が歓迎用のケーキを運んで来て

 

「今火を付けるからね・・・」

 

美甘がケーキのロウソクに火を付ける。

 

「も、もしかして、コソコソしてたのは!?」

 

「なるほど、こういうことだったのか・・・・」 

 

「良いから、良いから」

 

「・・・守も来いって!」

 

「ちょ、ちょっと麻侖!?」

 

ミーナと守は、杵崎姉妹が何故、自分を避けていたのか、ようやく分かりながら、麻侖と麗緒にケーキの前へと連行される。

 

「じゃあ、私達の新しい仲間のミーちゃんとマー君から、何か一言!まずはミーちゃんから!」

 

「んっ?」

 

明乃からミーナに何か一言言う様、言われ戸惑うミーナ。

 

「・・・え・・・晴風乗員諸君!・・・全くこの晴風というのは変な艦じゃ、上下関係は、だらしない、規律は、いい加減、艦長は、全然艦長らしくない!」

 

「やっぱり?」

 

「異議なし!」

 

ミーナの言葉にましろは、その通りだと頷く。みんなが心配そうな顔でミーナを見る中ミーナはつづけた

 

「‥‥こんな如何ゆるい艦、見たこと無い・・だが・・・・・へ、へペンハイムのシュタルケンブルク城みたいで小さいが風情がある。」

 

「あのう~、例えが分かりずらいです。」

 

幸子は、ミーナの例えが理解できなかった。

 

「じゃ、ニュルンベルクのソーセージじゃ」

 

ミーナの例えに皆笑ってしまう。

 

「それに、こんな風にワシを歓迎してくれるとは…晴風乗員諸君‥‥ワシは、この手厚い歓迎にド感謝する!!」

 

と照れながらもそう言う

 

「じゃあ、次はマー君」

 

明乃の言葉に守は一礼して

 

「皆さん改めまして森守です。今回、私のようなイレギュラーに岬艦長とそして晴風クラスの皆さんに歓迎され本当に嬉しいです。これからもよろしくお願いします!」

 

ミーナと守はそれぞれ感謝の言葉を言い、そしてミーナがケーキの上に立つロウソクの火を消す。

火を消した途端、皆は、拍手する。

 

「はい!じゃあみんなでケーキを食べようね」

 

 美甘がそう言いケーキを切り分ける。こうしてミーナと守の歓迎会が始まった。

 



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歓迎会その2

二人の歓迎会が始まりラスメイト達はそこで出されたケーキに舌鼓をうっている中、

 

「ねぇ、ミーナちゃんは何で自分の事を『わし』っていうの?」

 

和住がミーナの一人称に関して、今まで疑問に思っていたのだろう。

此処で彼女に質問をした。

 

「ん?おかしいか?日本の映画を見て覚えたんじゃが?」

 

「仁義がない感じの映画ですね。『あんたは儂らが漕いどる船じゃないの。船が勝手に進める言うなら進んでみぃや!』」

 

幸子がサングラスを取り出し、例の一人芝居をする。すると、

 

「『ささらもさらにしちゃれー!』じゃな」

 

ミーナもそれに乗る。

 

「しかし、上手いなぁこのケーキ」

 

ミーナが再びケーキに口を着けていると、

 

「これ記念品」

 

「貰って」

 

杵﨑姉妹からは紅白の達磨がプレゼントされたミーナ。

 

「お、おう‥ダンケシェーン 」

 

ミーナは達磨にちょっと引きながらも折角のプレゼントと言う事で杵﨑姉妹から紅白の達磨を受け取った。

 

「あの映画シリーズ全部見たんですか?」

 

「見たぞ」

 

「私、四作目が好きで」

 

「おお、あれかあれはええのう」

 

幸子は晴風でやっと話が合う人物が見つかり嬉しそうだった。

 

「マー君はそう言うのを見たことありますか?」

 

と、幸子は守にそう訊くと

 

「俺はそのシリーズは見たことないけど、仁義切りとかは見たかな?(リアルで)」

 

「仁義切り?」

 

守の言葉に皆は首をかしげると和住は

 

「ああ、映画のヤクザが「お控えなすって」とかいうあれ?」

 

「そうそう。あれ」

 

「マー君。それ出来たりする?」

 

姫路が仁義切りをできるかどうか聞くとましろは

 

「さすがにできるわけ・・・・「できるよ」できるのかっ!?」

 

ましろは守が仁義切りできることに驚く。

 

「ちょうどここに晴風[[rb:組 > クラス]]の組長さんいるからやってみる?」

 

「マー君。私、組長じゃなくて艦長なんだけど・・・・でもちょっと見て見たいかな?」

 

「おうおう、見せてくれってんだ!」

 

「私も興味あります」

 

と、みんながそう言うと

 

「ではさっそく・・・・・」

 

守はそう言いコホンと席を立てると明乃に向け中腰の姿勢を取り、右手を明乃に向け伸ばし手の平を上に向けて、片方の手は後ろにまわし

 

「お控えなすって・・・」

 

「え?」

 

いきなり手を差し出され少し驚く明乃だったが、守はつづけた

 

「早速お控え下すってありがとうございます。艦長さんにはお久しゅうございます。手前生国を発しますは大日本。大日本の大江戸の江戸川の者でございます。家業。横須賀女子海洋学校の警備員を務めさせ、宗谷家及び晴風副長宗谷ましろの義弟。性は森。名は守。と申しまするこれからはお世話になりまするゆえ何卒よろしくお願い致します!・・・・・・」

 

「「「・・・・・」」」

 

「ど、どうだったかな?」

 

仁義切りが終わると周りは静まり返る。守は恐る恐るどうだったか訊くと・・・

 

「すごいよマー君!まるで本物みたいだったよ!!」

 

「うん!なんていうか迫力があった!!」

 

と、みんなはそう言う。どうやら守るの仁義切りは大うけのようだった。

誘て幸子やミーナも「今度やってみよう」と小声でそう言っていた。

そしてましろも

 

「私はそう言うのはよくわからなかったけど、まあ、勢いは伝わったぞ?」

 

と、そう言われた。まあいきなり無理もないか。すると幸子が

 

「あ、そう言えばマー君手。確かあれに乗ってきたんですよね?」

 

話題を変えるべく、幸子が指さしたのは後甲板に置かれている二式水戦について質問をすると

 

「あーあれ。私も見た。飛んでいたよね~」

 

「そうそう。あれマー君が操縦していたんでしょ?」

 

「どうやって飛んでいるの!?」

 

と飛行機の存在しないこの世界に生きる彼女たちには守の乗る飛行機に興味津々だ。

 

「え・・・と。その皆さん落ち着いてください。ちゃんと説明しますから一気に言わないでください。俺、聖徳太子じゃないんで」

 

と、困った表情をすると

 

「みんな落ちつけ。それじゃあ守が話せないだろ?取りあえずは順番にだ」

 

と、ましろがみんなにそう言うと、みんな返事をして一人づつ質問をすることになった

 

「ありがとう姉さん」

 

「いいや。気にすることはない。困ってたらお互い様だろ?」

 

と互いに笑い話す二人にみんなは

 

「二人とも仲いいね?」

 

「やっぱり姉弟だからかな?ちょっと妬けちゃう」

 

「でも姉弟というより、ちょっと若夫婦に見えない?」

 

「あ、確かに~」

 

と、こそこそと話していることに二人は気づかなかった。そしてみんなは守の乗ってきた飛行機について質問をし始めた

 

「ねえ、マー君。あの飛行物体ってなんなの?」

 

「あれは飛行機と言って空を飛ぶ乗り物だよ。従来の浮力で浮かぶ飛行船や気球とは違ってプロペラの回転による揚力で飛び立つのさ」

 

「でも、私たちは見たことないよ?」

 

「確かに。それがあったらニュースになってるよ?」

 

「もしかしてブルマーが新開発したのかな?」

 

と、みんなそう話し込む。たしかに気球や飛行船より早く飛ぶ飛行機が登場すればニュースになっているはず。彼女たちが不思議がるのも当たり前だ。

すると次の質問が飛んでくる

 

「あの、その飛行機ってどのくらい速いの?」

 

「飛行機のエンジンの馬力によってさまざまだが俺の乗っている機体は最大時速は560キロは出る」

 

「「「560キロ!?」」」

 

守の言葉に皆は驚き

 

「何それすごく速いじゃん!?」

 

「あれがそんなに早く飛べるの?」

 

と、驚く中、明乃は

 

「560キロって…大体どのくらい速いのマー君?」

 

「そうだな…大体一秒で160メートルの速さで飛ぶかな?」

 

「すごく速いね!?」

 

守の言葉に明乃はどのくらい速いのか理解しさらに驚いた。するとみんなは

 

「ねえ、ねえマー君!あれが飛ぶのを見て見たい!」

 

「私たちも!!」

 

と、守の説明にみんなはあれが飛ぶのを見たいとお願いする

 

「ちょ、ちょとみんな。いきなり言ったらマー君が困るよ?」

 

みんながそう言う中明乃はそう言いなだめようとするが

 

「構わないですよ?」

 

「え?いいのか守?」

 

「ああ。修理も終わったし。ちゃんと飛ぶか試験飛行をしようと思ったから大丈夫だよ姉さん」

 

そう言いニコッと笑う守。そして二式水戦は飛ぶために晴風の魚雷用クレーンで海面に下ろされると

 

「あれ?この前より窓の付いているところ長くなってない?」

 

「あ、本当ぞな」

 

と、秀子と聡子は二式水戦のキャノピーが少し長くなっていることに気が付いた。

 

「ああ、実はさっきブルマーの人にお願いして二人乗りにしてもらったんだよ。まあラバウル仕様かな?」

 

そう実は修理のとき、守は夕張に頼んで二式水戦を二人乗りに改造してもらったのだ。キャノピーを延長して操縦席の後ろにもう一つ、椅子を着けた

 

「じゃあ、私たちも乗れるってこと!?」

 

「そうかな?そうだな第三者の意見も聞きたいし」

 

「じゃあ、私が乗る!」

 

「私も私も!」

 

「ワシも乗りたいぞ!」

 

と、みんな初めての飛行機に乗りたいと守に頼みと、守は

 

「ちょっと待ってくれみんな。申し訳ないけど、先約がいるんだよ。まずはその人からでいいかな?」

 

「先約?」

 

「誰だろう?」

 

とみんなが首をかしげると、守は

 

「姉さん」

 

「え?わたしか!?」

 

先約が自分なのに驚くましろ

 

「ああ。ほら9年前に約束したでしょ?」

 

「9年前・・・・・・・・あ!」

 

守にそう言われましろは9年前のことを思い出す

 

 

 

 

9年前

 

『マー君。これ何?』

 

『これは飛行機だよ。ましろお姉ちゃん』

 

『飛行機?何それ?』

 

『飛行機って、飛行船や気球よりも早い乗り物だよ』

 

『そんなの聞いたことないよマー君?』

 

『ほんとだよ。本当に飛行機は風を切り裂くように速い空飛ぶ乗り物なんだよ』

 

『へ~そうなんだ~。じゃあ、マー君がその飛行機のパイロットっていうのになったら一番初めに?私を乗せてくれる?』

 

『うん。絶対に姉ちゃんを飛行機に乗せるよ!そして見せてあげる空の世界を』

 

『ほんと!?』

 

『うん!約束する』

 

『じゃあ、約束ねマー君』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・覚えてくれていたのか?」

 

「うん。だから。姉さんには飛行機に乗った第一号になってほしいんだよ」

 

「で、でも‥守る。私は元々運が悪いんだ‥‥だから、私が乗ったら多分飛ばないか、飛んでも直ぐに海に堕ちるから‥‥」

 

「大丈夫だってちゃんと整備もしたし」

 

「でも・・・」

 

「姉ちゃんの不幸は俺がしっかりとサポートする!昔から助け合ってきたじゃないか姉さん。だからこいつは飛ぶ。絶対に姉さんを空の世界に連れてってあげるから。だから俺を信じてよ姉さん」

 

「守……分かった。お前を信じるよ守」

 

ましろがそう言うと守はニコッと笑う。こうして守るとましろは二式水戦へと乗ろうとするのであった

 



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貴女を乗せて

初めて飛行機を動かし空を飛んだ人はこう言った

 

『初めて空を飛んだ時はとても言葉に表すことができない』

 

 

・・・・と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ましろと守は修理が完了した二式水戦へと乗り込む。操縦席が守。そして修理の際、改装し操縦席に簡易的座席があるところのましろが乗った

 

「ねえ?本当にあれ動くのかな?飛ぶのかな?」

 

「私飛ぶところ見たよ」

 

「そう?なんか想像しずらいな~?」

 

艦橋や船外にいて二式水戦が飛ぶところを見たメンバーはともかく、艦内にいた子たちは艦橋にいた子たちの話を聞いただけで、とても今目の前にある二式水戦が飛ぶようには見えなかった

 

「よし・・・・燃料は満タン。フラップは・・・・」

 

そう言い守は操縦桿と方向舵ペダルを動かすと主翼のフラップや補助翼。垂直安定板の方向舵や昇降舵が正常に動くかチェックする

 

「よし、異状なし」

 

「守・・・・大丈夫か?」

 

機体のチェックをする守に後ろ席に乗るましろが心配そうに訊くと守は

 

「大丈夫だよ、あとはエンジンをかけるだけだよ」

 

と振り向いてニコッと笑う。そして守は二式水戦のエンジンをかける

 

「エンジン始動!」

 

声とともにプロペラが回りやがてエンジンからすさまじい轟音が響く

 

「うわっ!?すごい音!!」

 

「それにすごい風!?」

 

轟音とともに拘束に回転するプロペラの風圧に皆は驚き、中にはプロペラの風によってスカートがめくれそれを必死に抑える子もいた

 

「回転数異常なし!発動機、計器の異常なし!」

 

エンジンを始動し、計器盤にあるすべての計器に異常はないか瞬時にチェックし、異常がないかを確認し、そしてエンジン音に問題はないかも確認。結果はすべて異常なしだ

守は操縦悍を動かし、そして二式水戦は動き出す。そして少し晴風から離れると、

 

「よし!じゃあ、姉さん飛ばすよ?舌噛まないようにね」

 

「え?わ、分かった」

 

守の言葉にましろは頷くと、守は頷き、一気に二式水戦を加速させる

 

「うわっ!?」

 

激しい揺れと水飛沫でましろは驚くが、速度が増してくると揺れはだんだん収まり、やがてふわっとした感覚がした

 

「え?」

 

いきなり揺れが収まり静かになったことにましろは少し驚く。すると

 

「姉さん。外を見てごらん」

 

守の言葉に恐る恐るましろは外を見ると・・・・・

 

「・・・・飛んでいる?」

 

窓の外の景色は先ほどまで目の前にあった小島の山が下に見えており、そして晴風も小さくなっていった。そう彼女は飛んだのだ。この世界の住人で初めて空を飛んだのだ。そしてその光景は晴風のみんなも見ていた

 

「おぉ‥飛んだ‥‥」

 

「本当に空を飛ぶなんて‥‥」

 

「すごい!!本当に飛んでいるよ!!」

 

と、みんなが驚いている中、ましろも

 

 

「本当に飛んでいるんだ・・・・・」

 

ましろは以前、記録係の納沙幸子が「水素やヘリウムを使わない空飛ぶ船って造れないですかね?」と聞いて来た時、「あんなもの空想の産物だ」と言いかけた。だが守と出会い、そして幼いころ守が言っていた飛行機に今自分が乗って空を飛んでいる。

もし守と出会わなければ、空を飛ぶこともましてや飛行機の存在を否定していただろう。すると操縦席から

 

「姉さん。大丈夫?怖くない?」

 

と最愛の弟の声が聞こえるその声は若干心配しているようにも聞こえたがましろは首を横に振り

 

「いいや。むしろ最高の気分だ守・・・・これが飛行機。これがこれが雲の上から見た海・・・お前が見ていた世界なんだな?」

 

「ああ。この景色を姉さんに見せたかったんだ」

 

高度4千メートルの世界の中、守はそう言う。守は元の世界で予科練性の時やラバウル時代で空を飛んだ時、この空の世界を守はずっとこのましろに見せてあげたかった。だが、ましろが高いところが平気なのか心配だったが・・・

 

「ああ。船の上では絶対に見れない光景だな」

 

どうやら、喜んでくれたみたいだ

 

「なあ、守。もっと高く飛べるか?」

 

「ああ。今は高度4千だけど。その気になれば限界高度の一万メートル行ける。でもあの世界は寒いからな防寒機と酸素マスクがないとちょっと厳しいよ」

 

守はそう言う。二式水戦改の性能なら高度一万まではいける。だがその世界はかなり寒く酸素マスクがないと下手をすれば気絶してしまう世界。飛行服を着ている守とは違い夏服の薄手のセーラー服を着たましろをそこに連れて行くことはまだできない。もし連れて行けば下手して凍傷する可能性があった

 

「そうか・・・・でも確かに少し肌寒いかな」

 

ましろは若干震えながらそう言う。真夏の暑い日とは違い空は高ければ高いほど寒い。高度4千でもましろにとっては肌寒かった。

 

「でも、見て見たいな…その世界」

 

「今度、飛行服を作って、その時またチャレンジしようよ姉さん」

 

「うん。そうだな」

 

と、そう言うましろ。だが、少し元気がなかった

 

「ん?姉さん。どうしたの?」

 

「いや・・・立派になったんだなって・・・・」

 

「どうしたの急に?」

 

急なことに守は思わず首をかしげると

 

「守は約束を果たしてくれたのに私はまだお前のとの約束を果たせてないなって思ってな・・・・」

 

「約束・・・・」

 

ましろの言葉に守は思い出す。それは昔ましろが『自分の乗る船に守を乗せる』という約束だった

 

「いや。約束は果たしていると思うよ姉さん?」

 

「確かにそうだけど。本当は大型艦の艦長をしている私が守を乗せるつもりだったんだ・・・・でも今の私は航洋艦の副長・・・これじゃあ」

 

「何を言うと思えば。そんなの気にしないし。大丈夫だよ姉さん。むしろ姉さん。副艦長も立派な仕事だよ。それに姉さんの船乗りの体験は始まったときだ。いろんな経験を積んでから艦長なのもいいんじゃないか?」

 

「守・・・・」

 

「それに飛行機乗りになっている俺が言うのもなんだけど。俺が今こうして飛行機乗りになったのは取り返しのつかないこと(・・・・・・・・・)をいっぱい積んだから・・・・」

 

「え?」

 

「いや、なんでもない。まずはいろいろと経験を積むのが大事ってことだよ。だから姉さんもきっと立派な船乗りになる。そして姉さんもいつかは艦長になれるよ」

 

「守・・・・・ありがとう。いつも励ましてくれて」

 

守の励ましにましろは礼を言う。だがましろはとある言葉が気にかかったそれはさっき言った『取り返しのつかないこと』という意味だ。

守は飛行機乗りに早くなりたいがため、海軍航空隊に志願した。そして今ある飛行技術は数多の敵機を撃ち落としたときの経験によるものだ。

守は撃ち落とした敵機を一機たりとも忘れたことはない

だからこそ今の自分の能力は人を殺したのを引き換えに覚えた技なのだ。

だが、守は姉であるましろに自分が戦争に参加したことは言っていなかった。もし言ったら彼女は自分を拒絶し怖がるんじゃないかと怯えたのだ

 

「(やっぱり、俺は弱虫だな・・・・)」

 

そう内心思っていた。そしてましろは顔こそ見えなかったが背中で悲しんでいるように見える弟を見た

 

「守?どうしたんだ?」

 

「いや。なんでもないよ姉さん・・・・・名残惜しいけど、そろそろ降りようか?多分、晴風のみんなはましろ姉さんの感想を聞きたがっていると思うし」

 

「そ、そうだな」

 

守の言葉にましろは頷くと、守はゆっくりと高度を下げた。その時ましろは

 

「(守・・・・なぜさっき。悲しい顔をしたんだ?私には言えないことがあるのか?)」

 

自分の弟が何かを隠している。それもかなり悲しいことを背負っているんじゃないかとそう思うましろ。

そして自分の過去を言いたくない守。二人が互いのことを考えている中、二人を乗せた二式水戦はみんなの待つ晴風のもとへと降りていくのであった

 



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晴風と武蔵

ましろを乗せ、守が操縦する二式水上戦闘機はしばらく飛んだあと、徐々に晴風のもとに降下していった。

そして二式水戦が晴風の傍につくとキャノピーが開き、守が出て来て翼の上に乗り後方のキャノピーを開け、後方の席に座っていたましろに手を差し伸べ

 

「姉さん。出れる?」

 

「ああ、ありがとう守」

 

守の手を取り席を立ち翼に降りるましろ。そして二人が晴風に乗った瞬間・・・・

 

「すごいよ!!マー君!本当に飛んだよ!!しかもすごく速かったよ!」

 

「ねえ!副長!空を飛んだ感じはどうだったの!?」

 

と、みんなワイワイと集まって二人に詰め寄った

 

「シロちゃん!飛んでみてどうだった?」

 

「どうっと言われると・・・・言葉にできないほどすごかったですね」

 

明乃の質問にましろはそう答えた。実際のところ初めて飛んだときは驚きと感動が混じってとても言葉に表せないのは事実だった。だからましろは苦笑でそう答えた。

 

「言葉にできない!」

 

「そんなにすごいんだ~」

 

「空の世界ってどんな感じだろうな~」

 

と、みんな空を飛んだときどんなものか想像するが、空を飛ぶ乗り物がない世界の住人ではやはり想像できなかった。すると瑠奈が

 

「あ、でもマー君に乗せてもらえばわかるかも!」

 

「あっ!そうか!!」

 

瑠奈の言葉に和住そう言うとみんなは守の方を向いて

 

「マー君!次は私が乗りたい!」

 

「私も私も!!」

 

「ワシも乗りたいぞ!」

 

「私も乗りたいぞな!」

 

と、空を飛んでみたい、二式水戦に乗ってみたいという子たちが守にそう言うと守は

 

「分かりまし。わかりました。皆さん落ち着いてください。順番で乗せますので・・・・それで次に乗りたい方は誰ですか?」

 

守は次に誰が乗りたいのか訊くと

 

「「「「はいっ!!」」」」

 

とその場にいた全員が手を上げた。それは守も大体予想は突いていたのだが思わず苦笑してしまった。すると・・・・

 

『艦長!!学校から緊急電です!!』

 

艦内に残っていた鶫が学校からの緊急伝をキャッチし、それを放送で明乃たちに知らせた

 

「何事だ!?」

 

「総員、直ちに配置について!!」

 

何事かと思い、明乃は、直ちに総員配置の号令を出す。歓迎会から一転、生徒達は、急いで配置に着く。そして二式水戦でのフライトも中止となり二式水戦はクレーンで後甲板にあげられる。そして守はドライバーを持ち二式水戦の翼にある固定ボルトを回し翼を折りたたませた。

通常の二式水戦はこんなことをすることができないが、守の乗る二式水上戦闘機は守の専属整備士であり守の所属していた部隊の整備長だったナツオ整備長によって潜水艦にも搭載できるように翼が特殊攻撃機晴嵐のように折りたためるように改造されていたのだ。

 

「いったい何事だ?穏やかじゃないな?」

 

守は二式水戦の翼を折りたたみ始めながら、そう呟き、折り畳みが終わると二式水戦に防水布をかぶせそれを固定した後、艦橋へと走り出すのだった

 

 

「電文の内容は?」

 

一方、艦橋ではましろが艦内電話で鶫に学校からの電文内容を尋ねる。

 

『北緯19度41分東経145度0分地点で武蔵を捜索していた東舞校教員艦との連絡が途絶えた・・・周辺で最も近い位置にある晴風は現地に向かい状況を報告せよ・・・なお戦闘は禁止。自らの安全を最優先する事・・・・以上』

 

「武蔵がこの近くに‥‥」

 

明乃は、武蔵の方を聞いて驚く。武蔵の艦長であり親友であるもえかの通信を聞いて以来、探していた武蔵がこんな近くに居たとは予想外だったからだ。

しかも横須賀への帰還命令から武蔵が居る海域へと向かう様、命令が変更された。

 

「艦長…分かってはいますが命令はあくまで状況報告ですよ?」

 

ましろは、あくまで状況を報告するのみだと明乃に再認識させる。ましろは明乃の気持ちがよくわかっていた。もし武蔵に守がいたらきっと同じ気持ちになっていただろう・・・・だが、今は任務が優先と考えた。そのため少し心苦しかったが、明乃にそう言う

 

「そうだね・・・・・出航用意!錨を上げ!!・・・両舷前進強速ヨーソロー!!見張りを厳に・・・」

 

明乃の指示により晴風は、急ぎ武蔵が居る海域へと向かう。

 

 

 

 

 

4月15日17:00

アスンシオン島沖

 

「増援の8隻到着!・・陣形、整いました!!」

 

あれから、武蔵と東舞鶴男子海洋学校の教員艦隊の戦闘は、熾烈さをきし、流石の教員艦隊も不利だと認識し、直ぐに増援を呼んだ。

こうして、教員艦隊は、増援8隻を得て、残存艦6隻合わせて、その数14隻になり、武蔵を取り囲む様に陣形を整える。

だが、武蔵の砲撃の前に全く歯が立たず苦戦、晴風が到着した頃には、戦闘は、膠着状態になっていた。

 

「凄い!?‥‥凄すぎます!?‥‥」

 

艦橋で戦闘状態を見た幸子が震える声で目の前の光景の感想を口にした。

それは他のみんなも同じで両艦の戦闘を見て、艦橋に居る者は、息を詰める。

 

「夾叉も無しに行き成り命中させる何て‥‥あんなのに狙われたら‥‥」

 

芽衣が夾叉もしないで目標に命中させる武蔵の砲術の凄さに驚いていた。

 

「操艦もあんなに大きな艦があっという間に針路を変えている‥‥」

 

鈴も武蔵の操艦能力を褒める。やはり、横須賀女子海洋学校の中でも成績優秀者を乗せているだけの事はある。

 

「如何して!?‥‥何でこんな事に‥‥」

 

明乃は、何故、こんな事になっているのか驚愕しながら、双眼鏡を見る。そして守も同じくその戦闘を見ていた

 

「あれが・・・・武蔵か」

 

そう守はつぶやく。戦艦武蔵、大和型二番艦にて、守のいた世界では1944年のレイテ沖海戦で爆沈している。そして第三次大戦でも大和型戦艦をベースにした戦艦はあるが、今目の前にあるのは昭和に建造されたいわば初代武蔵だ。

初代武蔵を見て守は少し驚きと興奮を覚えた。だが、やはり航空機のない世界だからであろうか兵装は両減に15センチ三連装砲搭載の就役時の姿であった。

守たちが武蔵を見ていると・・・・

 

「モカちゃん!!」

 

いきなり明乃が声を上げた。その声に守とましろが声を上げた明乃を見る。そして

 

「シロちゃん・・・悪いけど・・・後は任せて良い?・・・私・・・・行ってくる。」

 

突然、明乃は、ましろに艦を任せ、何処かへ行くと言い出した

 

「行くって何所にだ!?」

 

行き成り何所に行くのか問うましろ。

 

「武蔵のところへ・・・・・・・」

 

「・・・ば、馬鹿を言うな!・・・状況は、既に把握した確認した報告が最優先だ…」

 

ましろは、武蔵に向かう明乃を止めようとする。それもそうだ武蔵のいるところは戦闘空域、下手に行けば砲撃に巻き込まれる危険性があった。だが、明乃は、ましろの言葉を聞かずに行こうとする。それに対して、思わずましろは、明乃の肩を掴み

 

「い、いい加減にしろ!!・・・毎度毎度、自分の艦をほったらかしにして飛び出す艦長が何所の世界に居る!!・・・海の仲間は家族じゃないのか!!・・・この艦の仲間は、家族じゃないのか!!・・・如何なんだ答えろ!!」

 

遂に勝手な行動を取る明乃に切れ、明乃に怒鳴る。ちょうど艦内放送の無線が入ってて、ましろの怒鳴り声は、艦に響き渡ってしまう。それを聞いた生徒は、唖然としながら聞く。

そして守も姉であるましろの言葉を聞いてただ黙っていた

 

「・・・此処は・・・守るべき家じゃないのか?」

 

ましろは、必死に止める。ましろ自身も明乃の気持ちはよくわかっているつもりだった。もし守が武蔵にいたらきっと同じことをしていたかもしれない・・・・だが、今の自分は副長。そして明乃は艦長。晴風のトップだ。トップがいきなり仲間を置いて飛び出す。それは他の仲間にも不安が出るし、何より指揮が混乱する行為だ。だからましろは明乃にそのことを言うのだが、明乃はゆっくりと後ずさり・・・・

 

「モカちゃんが…私の幼馴染があそこに居るの・・・・大事な親友なの・・・・」

 

そう言った瞬間、艦橋は静まり変える。

 

「・・・・・ごめん、シロちゃん・・・晴風は速やかに武蔵の射程外に出て!!」

 

そう言うと明乃は艦橋を飛び出ていくのだった。

 

「・・・岬さん」

 

鈴が小さく呟き。艦橋の皆が飛び出した明乃に注目していると守は

 

「はぁ・・・・全くしょうがないな!」

 

「ま、守!?どこに行くんだ!」

 

明乃を追い艦橋を出ようとする守にましろは肩を掴みそう訊くと

 

「何って艦長さんを追いかけるんですよ」

 

「馬鹿を言うな!お前まで行ってどうする!お前にもしも何かあったら!!」

 

「だからと言って彼女一人だけ行かせるわけにはいかないだろ姉さん。それに武蔵に何が起きているか近くで確認して報告する必要があるしな。」

 

「だが、もし流れ弾にでも当たったら・・・・」

 

ましろは心配そうに守にそう言うと守は

 

「大丈夫だよ。こう見えて俺は戦闘の専門家だ。伊達に向こうの世界で3年以上太平洋の…ソロモン諸島で戦争をしてきたわけじゃないよ」

 

「・・・・え?戦争って?どういう・・・」

 

「その件は落ち着いたら話すよ・・・・・じゃあ、行ってくる」

 

そう言うと守は明乃の後を追うかの様に艦橋を飛び出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

そして前部甲板で武蔵へ向かおうとスキッパーに飛び乗ろうとする明乃に守がやってきた

 

「明乃艦長!」

 

「マー君!?」

 

「艦長。今、自分が何をしようとしているのかわかっていますか?どれだけ危険な行為をしようとしているのかわかっていますか?」

 

守の言葉に明乃は

 

「お願いマー君!行かせて!私はいかなきゃいけないの!!私の親友が武蔵にいるの!」

 

と必死にそう言うが守は

 

「行ってどうするんですか?それにどうやって武蔵に乗り込む気ですか?」

 

「それは・・・・・」

 

守の言葉に明乃は黙る。確かにスキッパーで行っても水面から武蔵の甲板まで高すぎるため乗り込むことは出来ない。いや、それ以前に先ほどましろが言ったように艦長が自分の船を離れるのは一番やってはいけないことを守は明乃に注意しようとしたのだが・・・・

 

「でも・・・・私・・・行きたいの!行って確かめたいの!だからお願い!」

 

と必死に言う明乃。こういう人物は絶対に引かない。守は元の世界で似たような人物と何度もあっていた。そのためか守は軽く呆れたようにため息をつき・・・・

 

「はぁ…そう言う頑固なところは、姉さんか杉さんだけだと思っていましたがここにもいましたか・・・・」

 

明乃の必死なお願いに根負けしたのか少し困ったように頭を掻く守

 

「え?」

 

「明乃艦長の気持ちはわかりました・・・・・艦長。発光信号は出来ますか?」

 

「え?・・・・うん」

 

明乃は頷くと、守は明乃にあるものを渡した。それは飛行機乗りが使用する携帯式の回光通信機だった

 

「そうですか・・・じゃあ、俺が運転するので、艦長はそれで艦橋にいる武蔵の艦長と連絡してください。武蔵に何が起きたのか艦橋にいる武蔵の艦長と連絡してください。ただし俺が出来るのはそれまでですよ」

 

と、守がそう言う。自分ができるのは明乃を武蔵の近くまで連れて行くこと。だがそれは武蔵の艦長と発光信号で何が起きたか確認するため、もしそれが出来なければすぐに引き返すことを守は明乃に提案した

 

「マー君・・・・いいの?」

 

「行くんでしょ?友達のために。ただしこういう無茶を引き受けるのは今回だけですよ」

 

「あ・・・・・・うん!」

 

守の言葉に明乃は頷くとスキッパーの操縦席に守が、そして後ろに明乃が座り、守の運転の元、2人は、武蔵へと向かうのだった

 



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武蔵でピンチ

武蔵の謎の反乱に疑問を持った明乃はましろの制止を振り切り、スキッパーに乗り込む、そして明乃を止めに来た守だったが彼女に根負けし、そして武蔵に何が起きたのか近くで知るために明乃をスキッパーに乗せ武蔵のもとへ行く

その姿を見たましろは

 

「!!!えー!!もう~!!取り舵一杯!!」

 

遂に自暴自棄になり指示を出す

 

「取り舵一杯!!」

 

「武蔵との距離はこのままを維持し、スキッパーの動きを追う。」

 

「艦長と弟さんを回収しなきゃいけませんからね!」

 

「でなきゃ、とっくに反転して、逃げてる!!・・・応急委員は、即応体勢、手が足りなかったら主計科の子にも手伝ってもらって!!・・・以上各班に通達!!」

 

ましろの指揮の元、守と明乃の後を追いながら、晴風は、武蔵と東舞鶴男子海洋学校の教員艦隊との戦闘の中に入る。

 

「(守!!後で説教だからな!だから・・・だからお願いだ無事でいろ)」

 

と、苦虫をかみつぶした表情で二人の方をみるのであった

 

 

 

 

 

一方、武蔵と戦闘を続けている東舞鶴男子海洋学校の教員艦隊は、既に14隻のうち既に残存艦は、4隻になっていた。

だが、一歩も引かず武蔵の前に立ちはだかる。

 

「何としても足だけでも止めなければ‥‥噴進魚雷攻撃始め!」

 

最早4隻だけでは、武蔵を止める事は出来ない、しかし、せめて航行不能にするだけでも、武蔵の行動を制限する事だけはできる。

教頭は、噴進魚雷で武蔵のスクリューシャフトを攻撃しようと発射するが

発射された噴進魚雷は、誘導装置が故障したせいか、殆んどが作動不良を起こし、空中をフラフラ飛び、海上に着弾した。

 

「なっ!?そんなバカな!?」

 

教頭が驚く中

 

「教頭!?・・・増援艦隊との通信が途絶しました!!・・・データリンクも止まっています!!」

 

今度は、通信機器や艦隊ネットワークが突如、機能を停止し、麻痺状態に陥った。

 

「バカな!?そんな・・・」

 

突然の予測不能な事態に教頭達は、驚愕する。更にそれに追い打ちを掛ける様に武蔵があおつきに向けて砲撃をする

 

「着弾します!!」

 

武蔵の砲弾が旗艦あおつきに命中、航行不能になる。

残りの3隻も旗艦が被弾や通信機器と艦隊ネットワークが機能を停止している為、混乱する。

その最中に武蔵の砲撃を浴び、航行不能になってしまったのだ。

これにより、東舞鶴男子海洋学校の教員艦隊は、全滅した。

 

 

 

 

 

「武蔵の主砲、此方に指向中!!」

 

東舞鶴男子海洋学校の教員艦隊を全滅させた武蔵は、次に接近中の晴風へとその主砲の照準を向けた。それを見た観測員の野間は伝達管で艦橋に報告する

 

『っ!?』

 

「え・・・!?」

 

マチコの報告を聞いて、驚愕する。

 

「面舵一杯ヨーソロ!!武蔵と反航にして・・・」

 

「はい!!」

 

即座にましろが鈴に退避指示を出し、鈴は、即座に舵を切り退避行動に移る。

 

「よく逃げずに頑張っているね、今日は!?」

 

「うぃ!?」

 

芽衣と志摩が鈴にいつもとは違うと言う。確かに普段の鈴であれば、「逃げようよぉ~!!」と騒ぐ筈だが

 

「艦長が岬さんが戻ってこれる様にしないと!!」

 

昼間、明乃に褒められて、ちょっとは前向きに取り組む姿勢が芽生えてきた鈴。それでも目は、やはり涙目だった。

 

「感あり!?・・・主砲弾3、此方に向かっています!!・・・10秒後艦首右前方に着弾!!」

 

晴風のレーダーが武蔵の砲撃を捉えた。それを慧がましろに報告をする

 

「な、何故だ!?」

 

慧からの報告を聞きましろは、驚愕する。そんな中、志摩は、ましろが驚愕しているうちに

 

「120の60」

 

タマが伝声管で射撃指揮所に指示を出す。

 

「撃つんだ・・・!?やっぱり撃っちゃうんだ!!」

 

主砲を撃つ事に芽衣は、やや興奮する。

 

「弾で・・・・弾を撃つ!!」

 

タマは、晴風の主砲で武蔵の砲弾を迎撃するつもりの様だ。

確かに晴風の主砲は、対空用の長10㎝高角砲。こちらの世界で初速を速くした速射砲なので、武蔵の砲弾も迎撃が可能な筈だ。

但し、それには、正確な照準と射撃指示が必要不可欠だ。

果たして可能なのか、全ては、タマと射撃指揮所の光、順子、美千留の4人に掛かっている。

 

「120度、高角60度に備え!!」

 

「砲塔回す・・・はい回した!!120度」

 

射撃指揮所ではタマの指示の元、光が目標の距離を測り、美千留が砲塔を回す。

 

「バキュンと行くよ・・・!!」

 

そして、順子が引き金を引き、目標に向かって、連続的に発射する。

 

「流石、長10㎝砲!・・・発射速度が速い!!・・・ガンガン撃てる・・・!!」

 

芽衣が長10㎝砲の砲撃速度に興奮する。もともとこの長10センチ砲は守の世界では対空用として開発された高角砲。そしてこの世界は装填速度と発射速度を上げた速射砲として開発されたため、従来の陽炎型の12・7センチ砲に比べ装填速度や発射速度も速い

 

「砲弾まっすぐ、此方に来ます!!」

 

芽衣が興奮する中、更に武蔵の砲弾が晴風に迫ってきていることを慧が報告する。

 

「面舵一杯、内側に入って!!」

 

「はっ」

 

砲弾を回避する為、武蔵の内側に入ろうとするが

 

「ダメです!!間に合いません!!」

 

間に合わず、武蔵の砲弾が晴風に迫る。最早、駄目なのかと思った途端

 

「・・・・110度発射!!」

 

タマの指示で晴風の主砲が発射され武蔵の砲弾に至近で命中した。

 

「向こうの見越し射撃に、此方の見越し射撃が当たりました。」

 

武蔵の見越し射撃に晴風の見越し射撃が命中した事に驚く。まさに危機一髪とは、まさにこの事、タマと砲術科の3人のお陰で艦は、救われた。

 

「やった・・・!!やった・・・!!イエーイ!!」

 

「うぃ!!」

 

命中に芽衣とタマは、大喜びし、ハイタッチをする。

 

 

 

 

晴風が危機を脱している頃、武蔵に向う守と明乃は晴風の無事を確認しながら、武蔵に接近していた。

 

「あっ!?」

 

そんな時、明乃が艦橋から手を振る人影を視認するそれは武蔵の艦長であり、明乃の親友である知名もえかだった

 

「もかちゃーん!!!!」

 

明乃は、大声でもえかの名前を叫ぶ。

 

「岬艦長!発光信号を!武蔵に何があったのか彼女に訊くんだ!!」

 

「う、うん!!」

 

巧みな運転さばきで障害物を避けて運転する守が明乃にそう言うと明乃は守に渡された回光通信機を使って武蔵艦橋にいるもえかに発光信号によるモールスを送った

すると、それを見たもえかは少し慌てて傍にあったであろう回光通信機で応答する

 

「マー君!返信が来たよ!」

 

「っ!?」

 

明乃の言葉に守は武蔵艦橋を見る。そして発光信号を見た

 

「(・・・・理由不明?乗員が暴走?・・・・シュペーの時と同じ?どうなっているんだ?)」

 

発光信号を読んだ守。その内容は前にミーナが言っていたシュペーの時と同じだった。守がそう思ったその時、目の前に小さな岩礁が有るのに気づく。守は慌ててそれを避けるのだが、武蔵の放った12・7センチ速射砲(こっちの世界の高角砲)が近くに着弾し、スキッパーはバランスを崩し2人は、海へと投げ出される

海へ投げ出された二人は急いで海面に顔を出す。二人が顔を出すと目の前には、武蔵がその巨体を見せていた。その姿を見た明乃は

 

「もかちゃーーん!!!!!!」

 

思わず叫ぶ。しかし、武蔵は、気づかず行ってしまうのだった。

こうして、武蔵は、反乱艦として、その姿を消す。

果たして、武蔵に何が起きているのか。それはまだ誰もわからない・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、とある岩礁に打ち上げられた巨大船の近くに停泊するべんてんの艦内で

 

「なあ、あんた・・・・・いったい何者なんだよ?」

 

べんてんの艦長であり、ブルーマーメイドの隊員でありそして、ましろ、守の姉である宗谷真冬はとある人物を事情聴取していた

その人物は旧海軍の軍服を着た女性であり、なぜかご飯とたくあんを食べていた

 

「ふむ・・・・この漬物も美味いな・・・・久しぶりの日本食だ…君。すまないがお茶のお代わりをもらえないかな?」

 

「うちは定食屋じゃないぞ?一体何者だ?それにあの船は何だ?なんで私たちをその船の中に入れようとしない?」

 

怪しむように目を細める真冬に対し、その女性は彼女を見てふっと笑うのであった



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暗雲の横須賀

4月15日18:00

横須賀女子海洋学校、会議室

 

「東舞校艦16隻が航行不能!?」

 

武蔵と東舞鶴男子海洋学校の教員艦隊の戦闘の報は、直ちに横須賀女子海洋学校の真雪の元に齎された。

 

「まさか、武蔵が本当に反乱したの?」

 

報告を聞いた真雪は、驚愕する。武蔵が反乱した事に信じられなかったからだ。確かに武蔵に乗る学生は優秀な子が多い。だが反乱を起こすような生徒には到底思えなかったからだ

しかも、それを止め様と交戦した東舞鶴男子海洋学校の教員艦隊が全て航行不能になった事に驚いていた。

 

「この報告からは、判りかねます。」

 

報告した老松も真雪と同じ意見だった。

 

「武蔵の損害は、軽微、晴風も攻撃から離脱するのが精一杯で、目標をロスト・・・教員艦は最新鋭だった筈!?・・・なのに如何して‥‥?」

 

真雪は、何故、最新鋭の艦を持つ東舞鶴男子海洋学校の教員艦隊が武蔵に敗れたのか疑問視する。

いくら武蔵の生徒が優秀でも最新鋭の機材を搭載した高性能の戦闘艦なら、勝てる筈なのに如何して敗北したのか

すると老松が

 

「電子機器と誘導弾が全て機能不全を起こした模様です。」

 

敗北した原因を告げる。

 

「乗組員は?」

 

真雪は、教員艦隊の乗員の安否を聞く。

 

「3重の安全装置は、伊達ではありませんね・・・死者は0、軽傷者数名です。」

 

3重もの安全装置を装備してたお陰で死者はなく、軽度の負傷者が出たのみだった。

 

「はぁ・・」

 

それを聞いた真雪は、はぁと安心し、武蔵の燃料と弾薬を確認する。

 

「武蔵の燃料と弾薬は?」

 

「出航時に満載状態なので、推定で、燃料、弾薬共に8割以上残っている筈です。」

 

老松の確認で何と武蔵の燃料と弾薬は、満載状態で、しかもまだ8割以上残っている状態だ。

 

「何故そんなに搭載を?」

 

「大和型の砲弾を洋上補給するのは困難ですので‥‥」

 

如何やら武蔵の洋上補給が難しいと考え、あえて満載状態にした。だが今回はそれが仇となってしまった

 

「校長!?」

 

そんな時、追い打ちをかけるように突然、教頭が会議室に駆け込んできて

 

「比叡、鳥海との連絡が途絶しました!!」

 

新たに連絡が途絶した学生艦が出たと報告した。

 

「何ですって!?」

 

教頭からの報告を聞いて、2人は、驚愕する。

 

「‥‥武蔵以外に所在不明の艦艇は?」

 

真雪は、急ぎスクリーンで行方不明の学生艦を確認する。

 

「比叡、鳥海、摩耶、五十鈴、名取、天津風、磯風、時津風ならびにドイツより演習参加予定だったアドミラル・グラーフ・シュペー、ビスマルクです。」

 

行方不明の学生艦は、先の報告を入れて8隻、それにドイツからの留学生艦2隻を入れて、全部で10隻に及ぶ。

 

「そんなに‥‥今、動かせる艦は?」

 

行方不明の学生艦が10隻も居る事に真雪は、驚きながら、現在使用可能な学生艦を問う。

 

「補給活動中の間宮、明石、風早、護衛の秋風、浜風、舞風、偵察に出ている長良、晴風、浦風、萩風、谷風のみです。」

 

「山城、加賀、赤城、伊吹、生駒はドッグに入っていて、どんなに急いでも半年以上は動けません・・・航洋艦は多少前倒し可能ですがそれでもせいぜい三か月かと‥‥」

 

現在、使用可能な学生艦は、小型巡洋直接教育艦1隻と航洋直接教育艦8隻、支援教育艦2隻のみで、他の艦艇は、全てドックに入っていて、半年ぐらいは、動かせない状態だった。

 

「武蔵との遭遇地点に向かわせられるのは?」

 

真雪は、使用可能な学生艦の中で現在、武蔵の居る海域に向かえる学生艦を確認する。

 

「晴風以外は、他の艦艇の捜索に出ているので少なくともあと数日は…」

 

使用可能な学生艦の殆んどが行方不明の学生艦の捜索に出払っている状態なので現在、武蔵の居る海域に向かえる学生艦は、武蔵を追跡している晴風1隻のみだった。

老松からの報告を聞いた真雪は、深刻そうにスクリーンに映る晴風、武蔵を見るのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、国土保全委員会では、今回の武蔵反乱の対策を練る為、幹部達が集まっていた。

 

「東舞校の教員艦が武蔵の攻撃で航行不能?」

 

「やはり学生の反乱なのか?」

 

委員会の幹部達は、今回の武蔵と東舞鶴男子海洋学校の教員艦隊の戦闘報告書や戦闘を撮影した画像、また行方不明の学生艦の所在が映ってる図を見ながら、学生の反乱なのか協議していた。

 

「今のところはまだ確定してません」

 

「しかし、早く調べないと国会議事堂や首相官邸、皇居に46cm砲弾が撃ち込まれてからでは遅いぞ?」

 

「晴風の報告によると誘導弾は効かなかった・・・大量の魚雷を浴びせるか砲撃でなんとかならんのか?」

 

「武蔵には成績優秀な生徒が集められている・・・無誘導の魚雷が射程外からそう簡単に当たるか?」

 

「難しいな・・・」

 

晴風の報告を元、武蔵に対して、主力の高性能の誘導弾が使えない。後は、通常魚雷と砲撃による通常攻撃しかない。

だが、武蔵には、優秀な横須賀女子海洋学校の生徒が乗艦している。

従がって、射程外からの攻撃は、難しかった。

残る手は

 

「だとしたら…同等の戦力をぶつけるしかない。」

 

「18インチには18インチか?」

 

武蔵と同じ火力を持つ艦をぶつけるしかなかったが

 

「だが呉の大和も舞鶴の信濃もドッグ入りしている。」

 

「佐世保の紀伊は?」

 

「駄目だ・・遠洋航海中で地球の反対側だ!!」

 

「16インチ砲や14インチ砲では太刀打ちできん!」

 

武蔵以外、大和、信濃は、ドックに入渠中、紀伊は、遠洋航海で地球の反対側にいる為、間に合わない。

かと言って、他の艦艇では、武蔵に太刀打ちできない。

武蔵に対して、如何すれば良いのか、委員会の幹部達は悩む。

 

「ブルーマーメイドの宗谷監察官に保護された少年の持ってきた空を飛ぶアレなら・・・・」

 

「馬鹿を言いたまえ。あんな小さな機械で、大型艦を止めることができる物か。第一、その操縦者はまだまだ子供ではないか?」

 

「だが、報告によれば彼は現役軍人。しかも士官であり?戦闘の経験が豊富だとか?ここは彼をぶつけてみては?」

 

「あまりにも大博打すぎる。それに一機で何ができる?それこそ数百機以上は必要ではないのかな?」

 

「いや?たとえ数機あったとしても航行中の戦艦を果たして止めることができるのか?」

 

「不可能だな。そんな夢物語。実際そんなことが起きれば今までの軍事的常識が崩れ一変する」

 

と、彼らは頭を悩ませながら終わりのない会議を永遠に続けていたのだった

 

 

 

 

一方、ブルーマーメイド作戦室では・・・

 

「まさか、こんなことになるだなんて・・・・・」

 

真霜は武蔵や他の行方不明の学生艦の対応に追われため息をついていた。

 

「はい。まさか武蔵の攻撃で東舞校艦16隻が航行不能になるなんて・・・」

 

部下の平賀が、晴風の連絡内容を知って驚いていた。

 

「そう言えば、例の不明艦を調べに言ったべんてんの方はどうなの?」

 

「はい。べんてんの船員によれば、べんてんの艦長がその船の持ち主と思われる人物の事情聴取をしていたみたいなんですが・・・・・」

 

「何かあったの?」

 

真霜の言葉に福内は少し気まずそうに目線をそらし

 

「そ、それがべんてん艦長の宗谷二等保安監督官がですね・・・・」

 

とそう言うと、すぐに何か察した真霜は

 

「はぁ‥‥真冬ったら、また人のお尻を触ったのね?」

 

実は真冬には「根性注入」と称して、他人の尻を揉む悪癖があり、ましろや海洋学校時代の同級生はよく被害にあっていた。

そして今度の事情聴取されている女性にも同じことをやったのか福内に訊くと・・・・

 

「いえ・・・実はその行為をしようとした瞬間にその女性にアイアンクローされただけでなくジャーマンスープレックスを食らわされたそうです」

 

「え?それほんと?」

 

「はい。完璧に決まっていたっと報告していました・・・・」

 

そのことに真霜は驚いた。真冬が油断したこともあるだろうが、真冬の身体能力はかなり高く、以前、海賊が出現した時は単体で数十名の海賊を素手で倒し捕縛している。そんな彼女を簡単に技を仕掛けられるなんて思いもしなかったのだ

 

「はぁ…まあその件は真冬の自業自得だけど・・・・その人物何者かしら?この写真を見るからに一般人ではなさそうだけど。それにこの船も・・・」

 

「はい。本人はまだ喋らないうえ、その船に誰も乗せようとしません。無理に乗ろうとしたらすごい形相で睨まれたとか・・・・」

 

そう言い真霜はその人物の写真と彼女が乗っていた船を見る。その女性は年齢はおそらく20代後半。恐らく自分と同い年かそれより上。そして旧海軍の紺色の軍服。階級を見れば少将クラス・・・・そしてべんてんが撮った座礁した大型船。機銃や高角砲・・・こちらの世界の速射砲が付けられていることから武装艦だということが分かるが損傷が激しくまるで戦闘をしていたかのような状態だった。

そして真霜が何より注目したのは艦尾に書かれている船の名前だった

 

「(『信濃』・・・・・・・もしかしてこの船と女性。マー君の世界の・・・・)」

 

「宗谷一等監察官」

 

真霜がそう考えていると一人のブルーマーメイドの隊員が入ってきた

 

「どうしたの?」

 

「はい。例の謎の集団について調査しに行った隊員たちの消息が途絶えました」

 

「何ですって!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある場所では

 

「これで全員か?」

 

「はい」

 

とある町の裏路地にて、複数の人物と、そして地面に横たわり血を流し死んでいる数名のブルーマーメイドの隊員がいた

 

「馬鹿な奴らだ。戦争の経験のない警備組織が我々武装ssに勝てるわけがないだろうがよ・・・・」

 

「しかも使うのはテーザーガン。まったく話にならんな」

 

拳銃をホルスターにしまう人物がそう言い

 

「おい。それより、海上安全整備局と国土安全委員会に潜入した奴らはどうした?」

 

「はい。実はこれを・・・・」

 

そう言い部下の一人が指揮官らしき人物にあるメールを見せる。そのメール内容を見た人物はふっと笑い

 

「ふっ・・・・これはいい情報が入った。おい引き上げるぞ。戻って大佐殿に報告だ。例の計画『ヴェアヴォルフ』がここでできるかもしれないとな」

 

「はっ!」

 

「それとその死体ちゃんと片しておけよ、見つかると面倒だ」

 

そう言い残し、その人物はその場を後にするのだった



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疑惑

時間は少し遡り、時系列は、武蔵を追跡中の晴風に戻る。

 

アスンシオン島沖

 

「・・・もかちゃん・・・」

 

「・・・・・」

 

2人は、スキッパーから去っていく武蔵を見る。すると、武蔵の第三主砲の1門が追跡してくる晴風を砲撃。

 

『はぁ!?』

 

武蔵の砲撃を晴風は、回避する。しかし、その為、二人は武蔵の追跡を断念する。そして守と明乃はスキッパーに乗り直し急いで晴風に戻る。

戻る中

 

『い、いい加減にしろ!!・・・毎度毎度、自分の艦をほったらかしにして飛び出す艦長が何所の世界に居る!!・・・海の仲間は家族じゃないのか!!・・・この艦の仲間は、家族じゃないのか!!・・・如何なんだ答えろ!!』

 

艦内でましろに言われたことを思い出す明乃

 

「・・・私、やっぱり艦長失格なのかな・・・」

 

明乃は、ましろの言葉を思い出し、自分は、艦長失格なのかなと思う。そんな彼女に守は何か思う顔をするが何も言わなかった

 

 

 

 

 

 

「用収よし!」

 

スキッパーが晴風に戻りそして媛萌がクレーンでスキッパーの収容を終える。

 

「くちゅん!」

 

帰還した途端、明乃は、突然、クシャミをする。

 

「大丈夫?」

 

クシャミをする明乃に鈴がタオルを手渡す。

 

「ありがとう。鈴ちゃん」

 

「マー君も」

 

「ありがとう知床さん」

 

鈴は守にもタオルを渡し、守は礼を言いそれを受け取り

 

「濡れたままだと風邪ひくよ!お風呂に入ったら?」

 

鈴が明乃にお風呂に入るよう勧める。

 

「うん・・・・でもマー君は?」

 

「俺は大丈夫だ。俺は一番最後でいいから、岬艦長は先に行ってさっぱりしてきてください」

 

そう言いタオルを頭にかぶったまま守は艦内へと入っていこうとすると・・・・

 

「マー君」

 

明乃が呼び止め、守は立ち止まり振り向くと

 

「ありがとう・・・・」

 

明乃は守が自分を武蔵のところまで運んでくれたことに礼を言うと守は不適の笑みを見せ艦内へと入るのだった

 

一方、艦橋ではましろが複雑な表情をしていた

 

「あの艦長の事だし、どうせ無事だと思っていたけど・・・まさか副長の弟があんなにスキッパーの運転がうまいなんて思わなかったよ」

 

「うぃ!」

 

芽衣の言葉に志摩が頷くと

 

「武蔵〜凄かったぞな・・・!!」

 

鈴と交代していた聡子は、先の武蔵の戦闘を見て、興奮していた。

 

「勝田さん、現在位置は?」

 

ましろは、興奮する聡子に晴風の現在位置を問うのだが・・・・・

 

「分からんぞな?」

 

「えっ!?」

 

「ぞな!?」

 

「ぞ~な?」

 

方、聡子の伊予弁の語尾に変な口調と思った二人がおかしなものを見る様な目で勝田を見る。

 

「武蔵を追いかけるので精いっぱいで位置を把握する余裕など欠片もありませんでしたぞ」

 

「んん・・被害報告と周辺状況確認!!」

 

ましろは、呆れながら伝声管で被害報告と周辺状況を確認する。

すると

 

『前方何も見えません。』

 

「左舷何も見えません。」

 

「右舷もです。」

 

『電探真っ白です。』

 

『通信も駄目でーす。』

 

『水測も聞こえません。』

 

「うう・・・一斉に言うな!!」

 

一斉に報告が来たに対して、一斉に言うなとましろは大声でそう言う。

 

「何か電子機器が全滅ぽいです。」

 

先程の報告で電子機器が機能不全を起こしたと幸子が察する。

 

「壊れたのか?」

 

「原因不明のノイズばっかりで…」

 

如何やら故障ではなく、何か電子機器に障害が発生している様だ。この場合はジャイロコンパスと天測が頼りとなる。

その時彼女たちの足元に例の五十六が捕まえたネズミみたいな生き物が走っていたのだがましろたちは気づいていなかった。

 

「星が見えまーす」

 

再び展望指揮所のマチコから空に星が見えると報告が入り、

 

「天測急いで!」

 

ましろは六分儀による天測を命じた。

 

「「了解」」

 

山下と内田が六分儀を使って天測をし、

 

「現在位置でましたー」

 

「北緯29度15分29秒、東経136度4分35秒!」

 

天測された数値を納沙のタブレットに打ち込んでいく。

すると‥‥

 

「現在地はえっーと‥‥」

 

二人からの天測で位置は分かったが、突然、幸子は、報告しにくくなる。

 

「何所だ?」

 

「あの・・・その・・・」

 

「報告は素早く正確に!!」

 

ましろの迫りに更に報告しにくくなる幸子だがましろは、早く言えと迫る。そして彼女は答えた

 

「琵琶湖中心です!!」

 

「そっかー琵琶湖か!」

 

「そうだよね。今入れるもんね。」

 

「道理で波が静かだと思ったぞな!」

 

山下、内田、勝田はなんか納得したように言うが、

 

『ってんなわけないだろ!』

 

ましろ、幸子、西崎、そしてさっき納得した勝田が山下と内田にツッコミを入れる。

 

「「すみませ~ん。もっかい調べま~す」」

 

山下、内田が天測をやり直して、晴風の現在位置を割り出し、海図へと記入した。

 

 

一方、明乃は鈴に連れられ鈴に連れられ、晴風の大浴場へと向かおうと更衣室に入る。

更衣室では、機関員四人衆の麗緒、留奈、桜良が居た。

 

「うわぁ、汗でビショリ!」

 

「さ、さとお風呂は入って、サッパリしたいね・・・」

 

3人は、機関室で受けた汗を流そうと服と下着を脱ぐ。

そんな時、明乃が更衣室に入ってきた。

その時、留奈が入ってきた明乃に気づく。

 

「あれ、艦長?・・・今は、機関科の時間だよ?」

 

今は、航海科の時間ではないのに何で此処に居るのか留奈が問う。

 

「ああ・・・」

 

明乃は、理由を言おうとした途端、隣から

 

「トップが順番を守らないのは、如何かと思いますが・・・」

 

服を脱いでいた洋美に注意される。そのことに明乃は気まずくなってしまう。その様子を鈴は心配そうに見つめ、そして何事かとミーナがやってきて首をかしげる。すると

 

「なんでぇい!なんでぇい!・・何揉めてぇね!?」

 

先に入っていた機関長の麻侖が気になって、顔を出した

 

「ん、艦長・・・あらら、びしょ濡れじゃねえか!?・・・非常時に、順番も経た暮れもあるか、さっさと入んな!!」

 

麻侖の機転のお陰でこの場は、凌げた。

 

「ふぅ・・・」

 

この場を凌いだ事に鈴は、ふぅと安心する。すると

 

「ん!?・・・あんたらもそんなところで見てないで、さっさと入んな!!」

 

『え!?』

 

後ろに居た2人に気づき、麻侖は、一緒に入ろうと誘い2人は、一緒に風呂に入るのだった。三人が着替える中、何故か、麗緒、留奈、桜良の3人が同じく服を脱いでいるミーナに釘付けになる。

その理由は胸であった。その旨は晴風の中で一番大きい桜良よりも大きかったのだ

 

「まさしくあれは46センチ砲クラスね・・・・」

 

瑠奈が小さく呟くと桜良と麗緒は頷くのだった

そしてみんなが服を脱い議題浴場の浴槽に入る。お湯の温度は暑すぎず冷たすぎずの丁度いい湯加減だった

 

「今回主砲が5インチから、3.9インチになったんじゃろう。」

 

入浴中にミーナは、晴風の主砲の事を話す。すると隣で体を洗っている桜良から

 

「5インチには、5インチの良さがあったのに・・・」

 

と、10cmより12.7cmの方が良かったのにとガックリする。

 

「しっかし、これは良いな・・・うちの艦にも欲しいぞ!!」

 

晴風の大浴場の良さを褒め、自分の艦にも欲しいと言う。シュペーは基本シャワーで済ましているためこんな風に風呂でゆったりすることがほとんどないからである

 

「6万馬力でたいた晴風自慢の風呂でぇい!!」

 

ミーナに褒められ、麻侖は自慢げに言うのだが

 

「御守りが大変だけどね・・・」

 

「しょっちゅう駄々こねるし・・・」

 

「そうそう・・・結局、出力落としてるから、高圧艦とか意味無くない・・・」

 

「艦橋からは、直ぐ全速って、言ってくるしね・・・」

 

他の3人からは、高圧機関の性能に対し不満を漏らし、更に洋美はジト目でいつも出力最大の命令を言う岬にそう言うと岬は申し訳なさそうな表情をする

 

「で、艦長、上では、如何なってんでぇい?」

 

話を和もうと麻侖が現在の状況を明乃に問う。

 

「上?」

 

「うちら釜たきは、外の事は、全然分かんね・・・こんな時じゃねっと話しが聞けねから・・・」

 

「あ・・・えっと、東舞校の教員艦が武蔵と交戦してって・・・」

 

明乃は、麻侖達に武蔵と東舞鶴男子海洋学校の教員艦隊が戦闘していた事を言う。

 

「武蔵って、うちの学校の!?」

 

「東舞校って、此間の潜水艦の!?」

 

「教員艦だから、最新鋭のでしょう!?」

 

「うちらも先生に撃たれたけど・・・」

 

それを聞いた3人は、驚愕し、さるしまの時の事を思い出す。

 

「それと、同じ状況だったって?」

 

さるしまの時と同じ状況だったのか、麻侖は、明乃に問う。

 

「分からない、だから止め様と思っったんだけど・・・」

 

それに対して、明乃は、分からないと答え、自分は、止め様と武蔵に行こうとした事を告げた。

 

「艦長なのに、また飛び出したからよ!・・・スキッパー1隻で止められるわけ無いでしょ!」

 

と洋美がそう言うと

 

「うん。それマー君にも言われた」

 

「守に?」

 

「うん。でもその代わりマー君。スキッパーに乗せてくれて私を武蔵の近くまで連れてってくれてくれたんだけど・・・・」

 

というと洋美は

 

「守君まで巻き込んで・・・・他にもっと艦長に向いている人が居るんじゃない!」

 

と、またもや明乃の悪口を言い、明乃よりも、ましろを艦長に推薦するなど、責めている一方だ。

 

「クロちゃん!!」

 

それを見かねたのか麻侖が洋美にこう言った

 

「昔から言うだろう神輿は、軽くって馬鹿がいいて、アハハハ・・・!!」

 

『うん、うん』

 

麻侖の言葉に他の3人もそれに同調する。

 

「まあ、守が運んでくれたんだったら後で礼を言った方がいいぞ艦長?」

 

「うん・・・・そう言えばマロンちゃんはマー君と仲がいいよね?」

 

「おうよ。入学前にチンピラに絡まれてたところを守に助けてもらって以来。暇なときはクロちゃんとたまに遊びに行っってたんでい」

 

「まさか宗谷さんの弟だとは思わなかったけどね」

 

「へ~機関長とクロちゃんってマー君と仲がいいとは思ったけどまさかそんな関係が・・・・」

 

守との出会いを話す麻侖と洋美に麗緒がそう言うと、ミーナは

 

「それにしても・・・・・あの守という少年はいったい何者なんじゃろうな・・・?」

 

「・・・え?」

 

ミーナの言葉に皆が注目する

 

「何者って・・・シロちゃんの弟でしょ?」

 

「確かにそうなんじゃが、見たこともない飛行機械を使ったり、潜水艦との戦いでも見事な戦術じゃった…まるで戦いに慣れている・・・・そんな感じじゃの・・・・」

 

「戦いに・・・・・」

 

「そう言えばマー君。前に日本海軍少尉って言っていたよね?」

 

「そう言えばそんなこと言っていたね?」

 

鈴が前に守が言っていたことを思い出すと、岬も頷く

 

「日本に海軍があったのは昔のことだよね?機関長。何か知ってる?」

 

「いんにゃ。守あんまり自分の昔話いわねえぇからな?」

 

「そう・・・・」

 

「まあ、いつか守の口から話してくれるんじゃねえか?」

 

と、麻侖がそう言いこの話は終わるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ましろはというと看護長である美波に呼ばれていた

 

「どうしたんだ美波さん?」

 

「気になることがある・・・・・副長の弟についてだ」

 

「守のこと?」

 

美波の言葉にましろは守のことについて聞かれ首をかしげると美波は

 

「副長の弟・・・・・森守はいったい何者なんだ?」

 

「え?」

 

美波の言葉にましろは少し困惑する。彼が異世界人であることを知っているのは晴風の中でましろだけだった

 

「前に彼が漂流してきた時、体の状態を見て副長を心配させないように問題ないと言ったが・・・・・」

 

「守に何か病気とか患っているのか?」

 

美波の言葉に守は実は体に何か患っているのか訊くと美波は首を横に振り

 

「いいや・・・・何も病気もなく健康そのものだ・・・・ただ」

 

「ただ?」

 

「彼の体中に銃創の跡があった」

 

「銃創・・・・」

 

「しかも拳銃の弾じゃない。あの傷跡は機関銃の・・・7・92ミリぐらいの物だ。それに彼の持っていた物の中には拳銃と日本刀があった。さすがに危ないから私が管理している・・・・」

 

「なんでそんなものを守が・・・・」

 

「それはこっちが訊きたい・・・・・副長。もう一度訊く。彼はいったい何者だ?」

 

美波の問いにましろは何も答えることができなかった。そして彼女の脳裏に浮かんだのは彼が明乃のもとへ行く際に言った言葉だった

 

『大丈夫だよ。こう見えて俺は戦闘の専門家だ。伊達に向こうの世界で3年以上太平洋の…ソロモン諸島で戦争をしてきたわけじゃないよ』

 

「(守・・・・・お前は私と別れて戻った世界でいったい何があったんだ・・・・?)」

 

弟である守に疑惑を抱くましろであった



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夜中の浮遊物には要注意!

明乃たちが入浴している頃、媛萌と百々、美海は、先の戦闘での損傷確認をしていた。

 

「左舷、フレーム番号135番、垂線付近に20cm×50cmの発光、僅かな重油の漏れを確認!!」

 

「うぇ、結構被害大きいッスぅね!?」

 

美海が上からライトを照らし、媛萌が損傷部分を確認、それを百々が記録する。武蔵の砲弾を浴びて轟沈しなかったのは幸いであったがやはり損傷は激しかった

 

 

そして、入浴をしていた麻侖たちはというと 

 

「あぁ~良い風呂だったなぁ~」

 

入浴を終え、ラムネを飲みながら麻侖は満足そうに戻っていった。そして同じく彼女らと入浴した。明乃、鈴、ミーナも一緒に艦橋へと戻ろうとした時、

 

「武蔵の艦長はお主の友人なのか?」

 

ミーナが武蔵の艦長は明乃の友人なのか訊くと明乃は頷き

 

「うん、幼馴染‥‥昔からの‥‥武蔵に一体何がなったんだろう‥‥どうしたら助けられるんだろう‥‥」

 

明乃がそう言うと

 

「もしかすると我が艦長と同じように一人で船を守ろうとしているのかもしれんな。武蔵の艦長も‥‥」

 

「ミーナさん‥‥」

 

(そうだよね、ミーちゃんだって自分の乗っていた艦が行方不明なんだもんね‥‥そこには当然大切な人だって乗っていた筈‥‥不安を抱えているのは私達だけじゃないんだよね‥‥)

 

「我が艦長は、テアはいつも素早く決断し毅然と行動する素晴らしい艦長じゃ‥‥きっとお主とも気が合うと思うぞ」

 

「私はそんな立派な艦長じゃ‥‥」

 

「いや、十分お主にも素質がある。もっと自信を持て、此処まで艦を引っ張って来たのはお主じゃないか。感謝しておるぞ・・・こうして此処に居られる事に・・・」

 

「そうだよ!・・・逃げ逃げだった私だって、頑張ろうって思ったし・・・」

 

ミーナと鈴がそう言うと

 

「それを言うのなら。岬艦長が拾ってくれなければ、俺も海の上で漂流しそのまま死んでいたよ」

 

と、そこへタオルを持った守がやってきた

 

「マー君」

 

「艦長が拾ってくれなければ姉さんに再会することもなかったしな。感謝してもしきれないよ」

 

守はそう言うが明乃はなぜか晴れない顔をしていた

 

「ん?どうした?」

 

その様子を気にしてか、ミーナが声をかける。

 

「あっ、いや、なんでもないよ」

 

「そうか?だが、艦長が不安になれば、艦内全ての乗員が不安になる。だからいつも艦長は、その不安を胸に押し隠し、一人で全てを背負う‥‥我が艦長はそう言っておった‥‥」

 

「一人で背負う‥‥か‥‥」

 

と少し不安げに言うと守は

 

「何も全部一人で背負う必要はないと思いますよ?」

 

「え?」

 

「人間一人じゃ限界がある。もしつらいときは仲間を頼ればいい。それに艦長。艦長の航海は始まったばかりじゃないですか。最初はそれでいい。この大きな海でいろんなことを学んでその経験で立派な艦長になればいいですよ・・・艦長にだっていろいろな人がいるんですから。岬艦長は岬艦長の信念貫いて後悔のない決断をすればいいですよ」

 

「後悔のない・・・・決断?」

 

「ああ・・・・俺は艦長さんならで来ますよ。みんなと力を合わせれば」

 

「マー君・・・・ありがとう」

 

守の言葉に明乃は礼を言うと鈴は

 

「そう言えば、マー君は何でここに?」

 

「ああ。後部甲板の二式水戦の様子を見るついでにシャワーでも浴びろうかと思ってね」

 

「あ、そうか。マー君も濡れていたもんね。ごめんね」

 

「いやいや。夏の暑い日でしたから丁度涼めましたよ」

 

「そ、そう・・・あ、お風呂あがったから次は言っていいよ。次の人が入るのまだ先だから」

 

「そうですか。じゃあお言葉に甘えて」

 

そう言い守は明乃と別れた。そしては浴室へと入り、ドアには《男子使用中》という立札を立てて湯船へと入るのだった

湯に浸かりながら守は

 

「(人望・・・・あるじゃないですかあの艦長さん。姉さんと艦長さんは互いにいいコンビになりそうだけど、あの状態じゃ・・・・どうにかできないかな・・・)」

 

そう考えながら守。そして武蔵について考えていた

 

「(シュペーに続いて武蔵も謎の反乱。もし反乱であるなら反乱を起こした側から何かに要求が出るはず。だがそれが出ない。しかも武蔵の艦長は発光信号で「原因不明」って言っていた。これは何かの陰謀を感じるな…学校の生徒じゃわからない何かが動いているのかもしれないな・・・・・)」

 

いろいろ考えても答えが出ない自問自答を繰り返しながら守は湯につかり汗を流すのであった

 

 

 

 

 

艦橋へ戻った明乃であるが、やはりましろの姿を見てちょっと気まずくなる。

それはましろの方も同じでちょっと気まずそうだ。

そこへ、

 

「あの、艦長。ちょっといいですか?」

 

通信長の鶫が艦橋へと上がって来て、明乃に声をかける。

 

「どうしたの?」

 

「さっきから全然通信が入らないんだけど艦内から微弱な電波を拾っていて‥‥」

 

「携帯じゃないの?」

 

晴風の通信機器以外の電波と言う事でクラスメイトの携帯かと思い西崎が尋ねるが、

 

「ううん、違うんだよね~?」

 

鶫が言うには携帯やラジオの電波ではない様だ。

 

「調べる必要があるね・・・・・シロちゃ・・・副長、後は、お願い」

 

「は・・・・・はい」

 

明乃は、気まずいながら、ましろに留守を任せる。こうして、明乃は、鶫の案内の下、謎の微弱な電波が流れている場所へと向かう。

そして何故か、五十六を抱いた志摩もついて行く。

その途中、楓と慧も合流し、鶫がダウジングを使って、謎の微弱な電波の発生箇所へと皆を導く。

 

「それでお分かりになりますの?」

 

楓がダウジングを興味深そうに見る。ちなみにダウジングとは、地下水や貴金属の鉱脈など隠れた物を、棒や振り子などの装置の動きによって発見できると謳う手法のことである

 

「無理でしょう・・・そんなので電波が拾えたら‥‥」

 

貴金属や鉱脈を探知する方法では電波なんて拾えるわけがないと慧が否定すると・・・・・・

 

「あっ!?こっち!」

 

『えっ?』

 

突然、鶫の持つダウジングが反応する。その反応先は・・・・・

 

「此処?」

 

何と反応先は、晴風の医務室だった。5人は恐る恐るドアをそっと開け中をのぞいてみると・・・・・

 

「うふふふ‥‥」

 

スタンドライトの灯りだけを灯し、怪しい笑みを浮かべ、あのハムスターに似た小動物を解剖しようとしている美波の姿があった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

その姿を見た慧は思わず絶叫する。

 

「あら、おばけですわ?」

 

楓はお化けと言う割には落ち着いた口調で言う

 

「いや、あれは美波さんだから・・・」

 

明乃が、冷静にツッコミを入れる。すると、開けられた医務室へもう一匹、ハムスターに似た小動物が入って来た。

 

「むっ?」

 

美波とハムスターに似た小動物が睨み合っていると、立石が抱いていた五十六の目も光り、眼前のハムスターに似た小動物へと襲いかかる。

死闘の末、マウスは、五十六に捕獲され、明乃の前に引き出された。

 

「ちび可愛・・・・・」

 

「五十六すごいね!ネズミ捕まえたんだ!あれ?色が違う‥‥」

 

明乃が五十六が捕まえたハムスターに似た小動物へと手を伸ばそうとすると、

 

「触るな。それはネズミではない」

 

美波がそれに待ったをかけた。その直後、

 

「通信回復しました!」

 

「電探復活!これでなんでも見えます」

 

「周辺の音がよく聞こえています」

 

全ての機能不全を起こしていた電子機器が機能を回復したと報告が続々と上がり始めた。

 

「え!?ひょっとして・・・」

 

報告を聞いた明乃は、今捕まえたマウスが原因なのかとマウスを見る。

 

「如何やらコイツが原因だった様だな!」

 

美波も明乃と同じ、このマウスが電波障害の原因だったと指摘する。

 

「これ何なの?」

 

明乃は、このマウスは、一体何なのか美波に問う。

 

「遺伝子構造が鼠とは、僅かに異なっていて、更に何者かに細工された形跡があった」

 

「細工?」

 

「異常な電波を発し計器を狂わせるだけじゃなく人間の脳波にある思考を植え付け洗脳し暴走させる・・・・それが砲術長が前に暴走した真相だ」

 

「洗脳・・・・」

 

「うぃ・・・・」

 

洗脳という言葉に志摩は震え

 

「だが、誰がそんなことを・・・・・」

 

「それはわからない。ただ言えることは砲術長が暴れたのも電子機器が故障したのもそいつが原因の可能性がある」

 

「じゃあそれを調べれば、対策を立てられる?」

 

「可能性はある」

 

「五十六凄い!!お手柄だよ!!」

 

真っ先にマウスが原因だと発見した五十六を明乃は、大いに褒め。

 

「今日から提督って呼ぼう!!」

 

更に五十六を大艦長から提督に昇進させる。

 

「大!!」

 

「大提督!」

 

しかも提督より上の大提督だった。

 

「勝手に提督とか付けたら不味くないですか?」

 

二人の言葉に幸子がそう言うと

 

「じゃあ、元帥はどうだ?」

 

「あ、マー君。お風呂あがったんだ」

 

と、いつの間に風呂を終えた守が立っていた。

 

「それよりどうしたの?五十六が昇進したみたいだけど?」

 

「ああ…実はね・・・・」

 

明乃は守に事の敬意を話すと守は

 

「う~ん・・・・ということは人工的に作られた物か・・・いったい誰が」

 

そう思う守は不意にナチスのことが頭をよぎったが

 

「(いいや…あり得ない。この世界ではナチスは生まれていない。ヒトラーも画家で親衛隊のヒムラーも養鶏場の主で生涯を閉じている。そんな世界にナチスがいるわけが・・・・いや、でもこの前ナチスの潜水艦に襲われたな・・・・今はまだわからないことだらけだな・・・・)」

 

そう考える中、ましろが

 

「それより学校に報告が先だろう!!」

 

と、指摘した瞬間、見張り所にいる野間が

 

「前方右舷方向に浮遊物‥‥っ!?機雷です!!」

 

野間が晴風の針路上に機雷がある事を報告する。しかも一つだけじゃない無数にばらまかれていたのだ

晴風は、電子機器が今まで不調を起こしていたので、知らないうちに機雷原のど真ん中に迷い込んだのだ。

 

「取舵一杯!!全速後進!!」

 

明乃は、直ぐに回避するよう指示する。

 

「と、取舵一杯!!」

 

鈴は、左に舵を切って、回避行動をする。

だが、時遅く機雷は、晴風の右舷に命中した。

 

『右舷にて爆発!!』

 

「被害報告!!」

 

ましろが機雷爆発の被害報告を知らせるよう命じる。だが幸いにも浸水や沈没する事はなかった。

こうして機雷に囲まれた晴風は身動きが取れなくなってしまうのであった

 

 

 

 

 

 

 



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機雷でピンチです前編

突如現れた機雷により動きを封じられた晴風。そして夜が明けると、朝靄で周辺海域はまるで雲海の様な光景となった。

 

「うわぁ・・・・綺麗・・・!!」

 

「まるで雲の上見たい・・・!!」

 

「凄いね・・・」

 

「でも、周りに機雷が有るんだよね・・・」

 

皆が景色に浮かれている頃、主計科の美甘、杵崎姉妹は、竹棒で機雷を晴風から遠ざける作業をしていた。

 

「つっついて大丈夫なの?」

 

美甘が長い竹棒で近くの機雷をつっついて晴風から遠ざける。

 

「古い触発機雷だから突起を押さなければ問題ないよ」

 

「全部爆破すればいいんじゃない?」

 

「霧が晴れないと周辺にどれだけあるかわからないし一つ爆発させてそれが連鎖したら怖いから‥‥」

 

「「大変だね~」」

 

そして、朝食の時間、食堂で朝食を食べながら艦橋メンバーは楓の測定結果を元に今後の方針を決めていた。

 

「夜のうちにソナーで周辺探索行いました。」

 

「範囲はどれくらい?」

 

「おそらく航路阻止を目的としているので比較的狭い範囲です。機雷の種類は不明ですが水深を考えると係維機雷・短係止機雷・沈底機雷だと思われます」

 

「‥‥」

 

楓が周辺海域の機雷について話している横でミーナは納豆を箸でつっついて顔を歪めていた。

 

「係維機雷って何?」

 

「ほらあれでしょ。ワイヤーで繋がってぶつかるとどかー!っていくやつ」

 

「進むには掃海する必要がありますね‥‥」

 

「掃海手順は?」

 

「説明させていただきます!」

幸子が自信満々の様子で機雷の掃海手順の説明に入る。

 

「まずは各掃海具を掃海柵で繋ぎ、展開器を水中に落とします。船が進むにつれ展開器は左右へ広がって沈降具が艦尾から引っ張られていき掃海柵に機雷が引っかかると、動いていって切断機でちょきんと切れるのです。後は浮いてきた機雷を機銃でどっかーん!」

 

「おお!!私の出番だ!早く撃たせて!」

 

 

「うぃ」

 

機銃掃射が出来ると知って西崎と立石は目を輝かせる。

 

「今は、周囲を機雷で囲まれている艦を動かすのは無理だ。」

 

確かにましろの言う通り通常の掃海手順では、晴風を動かさなきゃならないが、周囲を機雷で囲まれている現在、艦を動かす事は出来ない。

 

「き・・く・・ま・・い」

 

志摩も危険だと判断する。

 

「うん、本格的な掃海機具は、積んでないけど・・・出来る事はしないと・・・」

 

現在、晴風には、本格的な掃海機具は、積んでない。

それでも明乃は、出来る限りをする。

 

「人力での水中処分は、危険だ!!」

 

それに対して、ましろは、人力での水中処分は、危険だと反対すると、

 

「なら、スキッパーはどうかな?あれなら小回りが利くし?」

 

「ああ、確かにあれなら小さいので音響、水圧、磁器の各種の機雷に非掛かる可能性は、低いです」

 

「あ、ん、ぜ、ん・・・・・」

 

明乃の提案に幸子が同意し志摩も頷く、「スキッパー乗員には、通常装置に加えて重安全具の装着を・・」

 

2人の賛同を得て、明乃は、行き良いに自分が出ようとするが

 

「艦長は、出ないでくださいね!」

 

ましろがそれを止める。

 

「は・・・はい・・・」

 

ましろに行くなと言われて、明乃は縮こまる。

 

「それと守。お前もだ」

 

「ギクッ・・・・・」

 

ましろが守を見てそう言う。守は心情を読まれたのか

 

「な…なんのことかな姉さん?」

 

「お前のことだ。すぐに飛び出すに決まっている」

 

「あはは・・・・・」

 

幼いころから、無茶をしていた守のことを知っていたましろはそう釘をさすと守は思わず苦笑いしてしまった。実際に守はスキッパーに乗って掃海作業をしようと思っていたからだ

今は居候の身。ただ船でじっとしていられない守はいろんなところで人の仕事を取らない程度に作業の手伝いをし足りしていた。それを知っていたましろはきっと守も今回の掃海作業の手伝いをすると感じ、守が危ない目に合わないように釘を刺したのだ。

血は繋がってはいないが、ましろはそれほど守を大切に思っていたのだ

 

「‥‥うぇぇぇ~」

 

幸子が掃海手順の説明し、ミーティングが終わろうとしている中、ミーナは納豆のネバネバに吐き気を催していた。

 

「あれ?ミーナさん、納豆口に合わなかった?」

 

「いや、そういう事はないじょ」

 

「あっ、噛んだ」

 

「噛んだ」

 

「噛んだね」

 

「もしかして、ミーナさん、日本食が口に合わないんじゃないですか?」

 

お盆の上のほとんど手つかずの朝食と納豆を見てのミーナの反応から隣の席にいる守はミーナと日本食が相性が悪いのではないかと尋ねた。

 

「い、いや、そんな事は‥‥」

 

居候の身で贅沢は言えないと思ったのか、ミーナは否定するが、

 

「ここ最近、見ていたけど、ミーナさん、サラダと飲み物しか食べていないでしょう。パンの時はパンを食べていけど、米の時はほとんど残していたし‥‥」

 

守がそう訊くとミーナは

 

「・・・・・実はお主の言う通りなんじゃ‥‥実は日本料理が口に合わなくて‥‥」

 

ミーナは気まずそうに言う。

 

「ああ・・なるほど…特に納豆は外国の人にはなかなか受け入れられないからな・・・・・」

 

守はラバウルにいたころを思い出す。ラバウル基地では日本軍だけじゃなくアメリカ海兵隊やドイツ連邦空軍の基地もあり、たまに食事会をした時はやはり日本の納豆は不評だったのを思い出していた

 

「(匂いはゴマ油やオリーブオイルで消せるけど…ねばねばに関しては火を通せば問題ないと思うんだけど…やっぱりあれかな・・・・)」

 

守はミーナの姿を見て何か気づくと

 

「えぇ・・そうなの?・・・気がつかなくて御免ね!・・・じゃあ今日はドイツ料理を作ろうか?」

 

ミーナの本音を聞いて、美甘がミーナの為にドイツ料理を作るとミーナに言う。

 

「え!?ああいやいや!」

 

それに対して、ミーナは、居候の身なのに態々そこまで、して貰わなくてもと恐縮してしまうが

 

「折角、作ってくれるって言うんだから、此処は伊良子さんの行為に甘えてはどうかな?たまには故郷の料理を食べて英気を養わないと。それにミーナさんは国を離れて長いだろ?久しぶりに祖国の料理を食べるのも悪くはないんじゃないかな?」

 

「そうだよ!それに私ドイツ料理得意だから!」

 

守の提案に美甘も頷いて言う

 

「う、うむ‥‥じゃあありがたく頂く」

 

「任せて!それじゃあ、今日はドイツ料理祭りに決定!!」

 

こうして今日の夕食はドイツ料理となった。

今日の夕食はドイツ料理と言う事で、炊事委員の三人は早速夕食に向けての下拵えを始め、みかんもタブレットでドイツ料理のレシピを見ながら調理を始めるのだった

 

 

 

「さて・・・・機雷か…厄介なことになったな・・・」

 

ミーティングも終わり各自解散となった今。守は艦内を歩きながら海面いっぱいに広がっている機雷のことを考えていた

 

「まさかこの世界で機雷に悩まされるとは・・・・」

 

機雷については守は空母瑞鶴に乗っていたころに経験している。ラバウルから転属になり空母瑞鶴の戦闘機の搭乗員になって三日ぐらいのことだ。航海中にナチスの放った機雷原にはまって機動艦隊が動けなかったことがあり、掃海作業中に何人の工兵が機雷の爆発に巻き込まれ戦死するという事態を経験したことがある

 

「本当に機雷は嫌いだな・・・・」

 

どうしようもない洒落を言いため息をついていると

 

「あ、いたいた。お~いマー君!!」

 

「ん?」

 

声をかけられ振り向くとそこには芽衣と志摩がいた

 

「あれ?西崎さんに志摩さん?どうかしたんですか?」

 

守が首をかしげると

 

「ほら、タマ・・・」

 

「うぃ・・・・」

 

芽衣に軽く背中を押され志摩は一歩前に出ると守に対し頭を下げて

 

「マー君・・・・あの時はごめん」

 

「え?」

 

急に謝られ少し驚く守に、芽衣は

 

「タマ。以前にマー君の腕に噛みついたことを謝りたかったんだって」

 

「腕に?・・・・あ」

 

芽衣の言葉に守は思い出した。確かに明石、間宮がやってきたその日、志摩は暴走し、それを止めようとした守の腕に噛みついたことを

そのことに守は

 

「ああ…それなら俺は気にしていないよ。あの時は志摩さんパニックになってたんだし。俺は大丈夫だよ」

 

と、ニッコリ笑ってそう返答した。正直守は腕に噛みつかれたことは木にもしていなかったからだ。そして守は

 

「これからもよろしくね。志摩さん」

 

「うぃ・・・・」

 

手を差し伸べると、志摩は顔を若干赤くし彼の手を握り握手をするのだった

 

 

「よかったねタマ」

 

「うぃ・・・・」

 

芽衣の言葉に志摩は嬉しそうに頷くのだった。そしてその後、晴風は危険な掃海作業を始めるのだった



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機雷でピンチです後編

今日の夕食はドイツ料理と言う事で、炊事委員の三人は早速夕食に向けての下拵えを始めた。

その他の部署では掃海作業が始められた。ただ、晴風の船体で機雷の掃海は不可能と言う事で掃海作業にはスキッパーが使用される事になった。

日が昇り、朝靄が晴れていき、

 

「周辺の機雷状況も確認完了!」

 

展望指揮所からマチコが周辺海域の状況を報告し、掃海の準備が整った。

 

「掃海準備!」

 

「うんうん、掃海は安全に航行するために重要な事じゃからな」

 

ミーナは頷きながら言う。確かに機雷が漂う海を安全に航海するにはやはり掃海は必要不可欠だからだ

 

「まずは視界内の機雷を機銃で除去して!」

 

「やった、やっと出番だ!行くよタマ」

 

「うぃ」

 

明乃の指示により、はしゃぐ芽衣と志摩を見た守は

 

「あの二人、なんだか楽しそうだね?」

 

はしゃぐ二人の姿に守がそう言うと隣にいる幸子が

 

「機銃を撃ちたがっているんでしょうね。あの二人、トリガーハッピーな所がありますからね」

 

「あ~なるほど・・・・・」 

 

幸子が何故、二人があそこまでウキウキしているのか何となく察しがつき。幸子の意見に守は納得した表情をする

 

「ヒャッハー!!」

 

守は艦橋から後部甲板を覗いて見ると、芽衣が声を上げながら機銃を撃っていた。

 

「快感!実感!ジンギスカン!」

 

「ヒィー、ハァー、ラムー」

 

と、これまで以上にはしゃぎながら25ミリ機銃を機雷に向けて発射する。

 

「(本当に楽しそうだな・・・・あの二人)」

 

その姿を見た守は今後二人の将来がどんな風になるのか気になった。

 

「(ブルマーになったらあの二人自分たちの船にいろんな武装を着けて魔改造しそうだな・・・・)」

 

と、若干、二人の将来のことが気がかりになってしまうのだった。

その頃、掃海器具の固定箇所では、百々がペンキでアザラシっぽい顔を書いていた

 

「あ~可愛い!!」

 

「ねぇねぇ、名前付けようよ!」

 

「ん・・・・アザラシだから…タマちゃん!」

 

「!?・・うぃ?」

 

美甘の発した「タマちゃん」と言う言葉に反応して、志摩が振り向き、その銃口を美甘達に向ける。

 

『うわぁ・・・・・・!?』

 

「危ないッス・・・!」

 

同級生に撃たれては、かなわないので、急いで物陰へと避難する3人であった。

 

 

「でも、誰が機雷なんて敷設したんだろうね?危ないよね?」

 

艦橋では、鈴がなんでこの海域に機雷が設置されているのか疑問に思い、それを口にした。

すると、

 

「過去に敷設された機雷が時代を超えて蘇ったんだ!サルガッソに巻き込まれ消失した機雷がこんな所に。某国の陰謀に違いない!」

 

幸子が恒例の一人芝居を始める。それを聞いた守は

 

「(まあ、似たような経験を二度もしているからな・・・・姉さんたちは信じてくれたけど、やっぱり普通は言っても信じられないよな・・・・)」

 

守はこの世界の人間ではない。別世界の人間であり、幼少のころはこの世界でましろに出会い姉弟のように育ったが、突如元の世界に戻り軍隊の生活をし戦争の最中、再びこの世界に戻ってきた。

そんな空想科学小説やラノベみたいな話は普通は信じられないし。もし自分も姉であるましろに出会わなければ信じることは出来なかっただろう

 

「この辺りの機雷は恐らく・・・各国が自国の権益を守り、かつ、航路帯防御用に敷設したんだろう・・・20世紀初頭にな・・・」

 

ましろが幸子に現実を付き付ける。だが、ましろ自身も守と出会ってからはもしかしたら幸子に言うことも本当なんかじゃないかと感じていたりもしていた

 

「現実は浪漫ないですねぇ・・・」

 

ましろの現実味のある言葉に幸子はがっかりすると

 

「納沙さんはちょっとぶっ飛びすぎな思考を持っている様な気がする‥‥ブルーマーメイドよりも脚本家か小説家の方が似合っていたんじゃないかな?」

 

「えぇーちょっと酷くないですか?マー君!」

 

守の言葉にちょっとむくれる幸子。

 

「でも、戦争が起こっていたら大変だったよ~」

 

鈴がもし戦争が起きていたらとその惨状を想像すると

 

「そうだな・・・・戦争ほど悲惨な物はないよ。さっきまで戦友が目の前であっさりと死ぬ事だってあるし、引き金を引くだけで多くの命が失う。たった一個の爆弾で町が更地になるまで燃えたり、たった一個のボタンを押すだけで確実に千人以上の命が吹き飛んだり・・・そして最後の残るのは何もない瓦礫と悲しみだけ、戦争なんて何も生まれないし、なにも意味がない。そして戦争を生き残った人間に残されるのは罪と罪悪感だけ。その二つを背負って生きて一生を過ごすしかないんだよな・・・・・」

 

守は元の世界・・・・第三次世界大戦のことを思い出していた。あの戦争は忘れようにも忘れられない。いや、絶対に忘れてはいけない戦争。

あの戦争で多くの戦友を失ってきた。

朝一緒に食事をした仲間が夕方、戦闘から帰ったときにには消え、一緒に並んだ食事の席が空になり、そして日に日に空席が一つ一つと増えていく。

そして生き残った仲間は死んでいった仲間の分まで必死に生き必死で戦った。

たとえ死にぞこないの卑怯者と言われようとも・・・・・

そして仲間を失うのと同時に自分はあの戦争で多くの命を奪ってきた。

時には戦闘機、特には爆撃機、時には軍艦や陸上基地の機銃手を・・・・・

国のためとはいえ、多くの命をこの手で・・・・

血に染まったこの手は一生洗い流し、何も無かったことにすることは出来ない。戦争という泥沼の世界に入ったら、もう昔のようには戻れない

今もなお、あの出来事は毎晩のように悪夢として現れる

だがそれは一生背負わなければいけない罪であり罰だ。

そう自分に言い聞かせている。それが自分自身の心が壊れたとしても・・・・・・

 

「マー君?」

 

「マー君。まるで、戦争を経験したみたいな言い方ですね?」

 

幸子や艦橋にいるみんなは守の言葉に疑問を持つと守は

 

「・・・・あ、いや。もし戦争になったらそうなるんじゃないかって思って」

 

「そうですか?(それにしてはやけに言葉に重みがあった気がします‥‥)」

 

と笑ってごまかした。だが幸子にはそうは聞こえなかった。そして

 

「・・・・・・・」

 

ましろも幸子と同様だった。ましろは守が異世界の人だということは知っている。だが、彼本人から戦争に従軍したとは聞かされていなかった。

そして以前美波から、彼の体に銃創の跡があるという言葉を思い出し

 

「(守・・・・・お前、もしかして)」

 

彼が何を背負い悲しんでいるのか。ましろは心配でたまらなかった

 

「そうならない様、国を超え、海を守る為にブルーマーメイドやホワイトドルフィンが設立されたんだろう?」

 

ましろがブルーマーメイドやホワイトドルフィンが設立された理由を言う。それはこの世界はそうならないと守を安心させることも含めて言った

 

「ブルーマーメイドとホワイトドルフィンの主任務は、人命救助や機雷掃海とかの航路を守る事だもんね!」

 

それについて、明乃もブルーマーメイドとホワイトドルフィンの主任務を言う。

 

「海に生き・・・」

 

「海を守り」

 

「海を」

 

「往く」

 

『それがブルーマーメイド!!』

 

守以外の全員がブルーマーメイドの標語を高々に言う。それを聞いた守は

 

「(志が高いのは良い事だ‥‥だからこそ、ましろ姉達には危険な目にはあって欲しくないのだけれど‥‥もしもの時は)」

 

守はブルーマーメイドの標語を高々に言う彼女を見守る様に彼女らの将来を案じ、そして何かを決意するのだった

 

 

 

 

 

 

スキッパーの助走距離を十分に保てたので、いよいよ針路上の機雷の掃海となり、スキッパーを降ろして、更に掃海具を降ろした。

スキッパーの乗員には、明乃代わりに理都子と果代子が乗る事になった。

 

「安全には十分に注意してね」

 

明乃が掃海作業に出る二人に注意を呼びかける。

 

「「りょ~かい」」

 

スキッパーが進むと後ろの海中から掃海具が展開されて行く。

 

「掃海具展開されました」

 

美甘が艦首の方で展開を確認した事の無線を入れる。

 

「掃海開始!!」

 

「了解。全速前進~!!」

 

「あんまりとばさないでよ~!!」

 

掃海具が展開されて行くと、幸子が食堂で説明したのと同じように系維機雷の系維策が掃海具のワイヤーカッターによって切られて海上へと浮いてくる。

 

「りっちゃん浮いてきたよ・・・」

 

機雷が浮いてくるのを果代子が理都子に報告する。

 

「よ~し、どんどんやる‥‥はっ!?」

 

それを聞いた理都子は、調子に乗って、スピードを上げようとした、その時

 

ドカーン!!

 

前方の海上で爆発が起きた。

 

「何!?今の爆発!!」

 

「現状報告!!」

 

ましろが見張り台に現状を報告させる。

 

「前方で水中爆発!スキッパーが巻き込まれました!」

 

野間の報告に皆が爆発したところを見ると、前方の海上からは機雷の爆発により煙が出ている。

 

「掃海具が機雷に接触したのか!?」

 

スキッパー自体が海中の機雷に接触したとは考えられないので、考えられる原因は海中での機雷と掃海具の接触だった。

 

「救難信号が出ています!」

 

「感二つで安全装置からです!」

 

通信員の八木と電信員の宇田から報告が続く。

 

「助けにいかないと・・・」

 

明乃は、思わず直ぐに理都子と果代子の助けに行こうとするが

 

「また!?」

 

「はっ!?」

 

「また、艦長が持ち場を離れる気か!?」

 

それを見かねたましろが、また、艦長が持ち場を離れる気かと言い、助けに向かう明乃を止める。

 

「えっ・・・で、でも…」

 

ましろに言われ、明乃は、戸惑う。すると・・・

 

「私が行きます!」

 

突如、鈴が名乗り出た。普段怖がりで引っ込む鈴なのに、勇気を出し助けに行くと言い出した

 

「「艦長!手伝ってください!!」

 

更に鈴は、明乃にも協力を申し出る。

 

「は、はい!」

 

明乃は、直ぐに承諾する。

 

「副長!後はお願いしても良いですか?」

 

鈴は、ましろに留守をお願いするが

 

「えぇ!?…ああ、い、いや・・・」

 

鈴の予期せぬ事にましろは、困惑していた。だが、ましろの返答を待たず

 

「副長!後をお願いします!!・・・総員、艦の安全が最優先・・・万理小路さん、他に機雷がないか徹底的に調査を・・・」

 

『了解!』

 

ましろに留守を任せ、鈴と明乃は、2人の救助に向かう。その行動を見たましろは

 

「・・・・違う!」

 

ましろは肩を震えさせ

 

「常に艦で指揮をするのが艦長でしょ!!・・・オールウェイズオンザデッキってそういう事じゃないのか・・・!!」

 

と、またしても切れ、心の底から叫ぶ。それを見かねた守は

 

「姉さん!!!」

 

「っ!?」

 

守の急な大声にましろは守に振り向くと

 

「今は、救助が先決!艦長が救助に向かったのなら、俺たちはただ見ているだけなのか!?今残った我々は即、救助の準備をするべきではないんですか?準備くらい我々でもできるはずだ!!」

 

「ま…守・・・・・・」

 

初めて弟に怒られましろは一瞬驚く、

守はましろの行動があまりにも当たり前すぎマニュアルな行動すぎるところを指摘した。それは彼女がまだ艦艇勤務の経験が少ないのもそうだが、だからと言ってなんでもマニュアル道理の行動はおかしいと思っていた。

時には先ほどの明乃の行動が求められることがある。そのため、ただ不満を言うだけの姉の行動に守は厳しく指摘したのだ

 

「姉さん・・・姉さんが駆逐艦・・・いや航洋艦の副長なら、いまするべきことはわかっているはずだろ?指揮をお願いします!」

 

守はそう言うと

 

「あ・・・ああ」

 

守の言葉にましろは頷きましろは、不在の明乃に代わって指揮を取り、甲板に媛萌と百々と美波を待機させるよう命じた。

 

 

 

 

 

「私は、嬉しかったよ!」

 

「え!?」

 

二人の救助に向かう中、鈴は、明乃の背中に手と顔を当てながら言う。

 

「岬さんは、逃げ回ってばかりだった私を認めてくれた!!」

 

「・・・・」

 

「私は、理想の艦長がどんなのかは全然分かんない・・・でも、うちの艦長が岬さんで良かった。」

 

鈴は、自分を認めてくれた明乃が艦長で良かったと感謝する。

 

「・・・・ありがとうリンちゃん!!」

 

鈴の言葉を聞いて、明乃は、嬉しく思い、遭難した理都子と果代子の元に向かう。

その頃、作動した安全装置の筏の中で姫路が目を覚ます。

 

「あれ‥‥?私どうしたんだっけ‥‥?あっ、掃海に行ってて‥‥そうか‥‥安全装置の中‥‥」

 

姫路が何で自分が安全装置の中に居るのかを思い出した。

 

「りっちゃん?りっちゃんどこ!?」

 

姫路は同じスキッパーに乗っていた松永の事を呼ぶが、彼女の姿は見当たらない。

そして、波によって安全装置が大きく揺れ、不安が恐怖へと変わる。

 

「誰か助けに来てくれるかな‥‥?くれるよね?絶対‥‥」

 

このまま一人でずっとここにいるのか。そう恐怖心に駆られる。そんな時、出入り口のチャックが開けられる音がして、誰かが中を覗き込んで来る。

 

「きゃぁぁぁー!!」

 

姫路はとうとう恐怖に耐え切れなくなり、悲鳴をあげる。

 

「かよちゃん・・・大丈夫!?」

 

出入り口から現れたのは、2人の救助に向かった艦長の明乃だった。

 

「さあ・・・掴まって!!」

 

明乃が果代子に手を伸ばす。

 

「あっ・・・艦長‥‥」

 

果代子が明乃の手を掴み、安全装置から外へ出ると

 

「かよちゃん!!」

 

「あっ!?」

 

果代子の目の前に一緒に乗っていた理都子の姿が有った。理都子の方も既に鈴に救助されており、見た所大した怪我はない様子。

 

「りっちゃん‥‥良かった‥‥」

 

理都子の無事な事に安心したのか思わず涙を流す果代子であった。

そしてその姿を晴風の環境では双眼鏡で様子を見たまゆみが

 

「はっ!?・・・救出に成功!!」

 

『やった・・・・!!』

 

その報告に艦橋に歓喜の声が沸き上がるのだが、ましろだけは4人が無事なことに安堵しつつも浮かない顔をしていた。

そして、夕食の時間となり、みかんはミーナの為に用意したドイツ料理を提供する。

 

「えーと‥‥まず、ドイツ料理といえばコレ。アイスバイン!」

 

「うーん‥北方の料理でうちの方ではシュバイネハクセ‥‥つまりローストすることが多かったな」

 

「えっ?」

 

同じドイツでも地方によって作り方が違う様で、ミーナの故郷とは違う作り方をしてしまい、ミーナからいきなりダメ出しを受けるみかん。

 

「じ、じゃあ次は定番!ザワークラフト!」

 

「ち、ち、ち!サワークラウト。それとこれは酢漬けのキャベツじゃな。ホントは乳酸発酵させるのが本物じゃが‥‥」

 

「うっ、つ、次はカツレツ!」

 

「とんかつだね」

 

「カツってドイツ料理なの?」

 

松永と姫路がカツレツを見て、意外そうに呟いた。

 

「おお、シュニッツェルじゃな!‥‥我が国ではこんなに厚く切らないぞ」

 

ミーナは美甘の作ったカツレツの厚さを見て、ちょっと不思議がる。

 

「じゃあこれぞ真打!ドイツ料理といえばやっぱりハンバーグ!」

 

「これはフリカデレか?ドイツではあまり見かけない料理だぞ‥‥」

 

「工エエェェ!!!!」

 

ハンバーグはドイツ料理だと思っていた美甘であったが、ミーナのダメ出しで彼女の作った料理はすべて全滅した。

 

「それよりこのふかしたジャガイモとアイントプフはおいしそうじゃな」

 

ミーナは美甘の作った手の込んだ料理よりもジャガイモを使った手軽なドイツ料理を褒めた。

 

「わしは他にブルストがあれば文句は言わんぞ!」

 

「これ誰が作ったの~」

 

「「私達です‥‥」」

 

気まずそうに杵﨑姉妹が手をあげる。その事実を知り、美甘はショックを受け、

 

「ま、まけた‥‥」

 

美甘はショックのあまりにその場に倒れた。

ミーナは美味しそうに杵﨑姉妹が作ったジャガイモを使ったドイツ料理を食べ始める。

 

「まぁ、外れはしたけど、十分美味しいよ。美甘さん」

 

守が美甘をフォローしながら、彼女の作ったドイツ料理モドキを口にする。

 

「ミーナさんも美甘さんが折角作ったんだから、食べてみなよ。美味しいよ」

 

「ん?そうじゃな」

 

みんながワイワイとドイツ料理を食べている様子を明乃は、微笑むのであった。

 

その頃、晴風の医務室では

 

「一応、抗体らしき物は出来た・・・本当にこれが効けば良いが・・・」

 

美波が何かの液体が入った試験管を置き、1本の注射を手に持ち、背後に居る媛萌と百々の方へと顔を向ける。

百々は、媛萌を羽交い絞めする。

 

「これを知るは、これを行うに如かず・・・学はこれを行うに至りて、止む‥‥」

 

美波は、注射を持ち媛萌に近づく。

 

「止めて美波さん!!」

 

媛萌は、美波が手に持っている注射を自分がやると思い声を上げる。

 

「止めて・・・!!」

 

「何かあったら止めるんだぞ・・・」

 

媛萌は思わず顔を背けて目を閉じる。

しかし、いくら待っても注射針を刺される様な痛みが来ない。

恐る恐る目を開けてみると、美波は自分の腕に注射をしていた。

 

「美波さん‥‥注射を打つんなら消毒ぐらいしなよ、バイ菌が入ったら大変だよ・・・」

 

と、百々に羽交い絞めにされながら媛萌は、美波に一言そう呟いた。




次回、守の過去編を書きたいと思います


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焔を抱く若鷲その1

機雷事件から翌日の夜・・・・

 

「うぅ・・・・・」

 

守は倉庫の奥の方でまたも悪夢にうなされていた

その悪夢はいつも見る大戦のあの夢だ。

ラバウル戦線で乗っていた零戦22型。その操縦席で守は戦闘を見ていた

激しい空での銃撃戦、そして炎に包まれる敵と味方の戦闘機や爆撃機。

そしてコックピットの中では炎に包まれながら最後の断末魔を上げる搭乗員の姿であった。そして耳の中に響き渡る怨念の声。その声は決して消えることのない自分自身が犯した罪の声。

 

「・・・・・・」

 

何度忘れようも忘れられないこの地獄の光景。だが他人事ではない。守自身もラバウル戦線からソロモン諸島までの間、守は幾多の空中戦で敵を打ち落としその命を奪ってきた。

その時、風防からベタ!ベタ!と、何かが張り付くような音が聞こえる

 

「っ!?」

 

音に驚き外を見る守。そこには血にまみれた敵航空兵が窓ガラスに張り付き憎悪の目で守を睨み恨みの言葉を叫んでいた。

ホラーともいえる光景に守は恐怖に駆られる

そして、守の乗る零戦は突如エンジンが爆発し黒煙が吹き上がる

 

「っ!?」

 

突然のことに守は風防を開け脱出しようとしたが、窓がなかなか開かない

機内が炎に包まれていく。そのとき不意に守の脳裏に自分を待つあの世界・・・そう、ましろたちの姿が思い浮かんだ

 

「死ねない!!俺はまだ死ねない!!」

 

守はそう言い必死に窓を無理やりこじ開けようとするがびくともしないそして守の乗る零戦は炎に包まれる。そして守の周りには先ほどの航空兵の怨霊の腕が守の腕をつかみそして炎に包まれた守を暗い闇へと引きずり込むのだった・・・・・

 

 

 

 

「はっ!!」

 

眼を見開く。そこは見慣れた晴風の倉庫だった。

 

「はぁ・・・・」

 

先ほど見たものが夢だったことに少し軽く息を吐く。額は冷や汗をかいていて顔色も悪かった。この世界に戻ってからずっとあの悪夢を見る。

だが、それはしかないことだ。それほど自分が元居た世界でしてしまったことは本当に取り返しのつかない事なのだから・・・・・

 

 

 

 

 

 

「守の様子が?」

 

「そうなのよ」

 

その後、皆が朝食をとる中、ましろが麻侖と黒木から守の様子がこの頃おかしいと聞いた。守はいつも晴風の中をふらついているわけじゃない。晴風の乗員の手伝いをしたりして、特に麻侖の機関科の手伝いをしていた。

麻侖は入学式前からの仲であり、守にとってこの世界に来ての初めてできた友人でもある。そして麻侖と黒木は守の姉であるましろに守の様子がおかしいと報告していたのだ

 

「なんつーか。このごろ守の奴、上の空というか・・・・何か思い詰めている感じなんでい」

 

「私たちが訊いても『大丈夫』の一言で、でもそのようには見えないのよ。他のみんなも心配しているみたいで・・・・宗谷さん何か知っている?」

 

洋美も守とは仲がいいため、彼に何かあったのかましろに訊くのだが・・・

 

「いいや…守からは特に聞いていないな」

 

ましろはそう答える。機雷事件以来、守るとましろは若干気まずい雰囲気となっているためあれ以降、なかなか話す機会がなかった。

だが、確かにこの頃、守の元気がなさそうに見えた。

 

「でもありがとう。教えてくれて。後で守と話してみる」

 

「おう、その方がきっといいと思うぞ?」

 

「ええ。宗谷さん頑張ってね」

 

そう二人に言うとましろは席を立ち守を探しに行った

ましろにとって守は大切な家族であり弟であるため、弟が何か思い詰めていると二人から聞いて放っておくわけにはいかなかった。たとえ血がつながっていなくてもましろにとっては大切な人だから

 

「(守・・・・お前に一体何があった。空白の9年間でいったい何があったんだ?)」

 

別世界から来た弟・・・・たった一か月間であったが大切な弟であり、そして大切な人。そんな守が何か思い悩んでいる。

それは恐らく守が元の世界で何かあったのだとすぐに感づいた。守のいなかった9年間。いったい守の世界で何か起きたのか。

守は元の世界ではこの世界とは違い日本列島は地盤沈下していない事、そして航空機が存在すること、そして日露戦争後にいくつか戦争があったことなどは話したが、守は最後に起きている第三次大戦のことは語っていなかった。

 

「(守・・・・お前はいったい何を背負っているんだ・・・・)」

 

直接聞けば早いのだが、もし彼を傷つけたらどうしよう。辛い話だったら自分はどう接すればいい・・・・何度も聞こうとしたがそのことが頭をよぎりなかなか話せずにいた。声をかけても『大丈夫』と作り笑いをされてその場を去ってしまい、きちんと話せなかった

どうすればいいのか悩んでいると

 

「ん?ましろどうしたんだ?」

 

「ミーナさん・・・・」

 

そこへミーナが通りかかり、何か悩んでいるように見えたのか、ましろに声をかけた

 

「ふ~ん・・・・・お主の弟がの~?」

 

ましろが守が悩んでいるということを聞いたミーナは

 

「弟のことが心配か?」

 

ミーナの言葉にましろは小さく頷くと

 

「話そうとは思わんのか?」

 

「しようと思っているんだけど・・・・どう話せばいいのかわからなくて、それにあの機雷の事件の時少し言い争ったからちょっと気まずくて・・・・」

 

悩むましろにミーナは

 

「ましろ・・・・・実はワシにも弟がいての・・・・」

 

「ミーナさんにも?」

 

「そうだ。まあ、ましろや守のように仲がいいとはいえんがそれなりに仲良くやっている・・・・・昔はよくケンカとかしていたんじゃけどな」

 

「けんか?」

 

「ああ、些細な喧嘩だった。小さいとき弟が儂の船の模型を壊して喧嘩になって思わず、弟をひっぱたいてしまったのじゃ。その後、弟がワシを避けるようになっての…わしもあの後どう話せばいいのかわからないままの状態じゃったのじゃが、その時、母が出て来ての・・・・」

 

そう言いミーナは懐かしむようにあの日の出来事を思い出した。

それは弟と喧嘩した後のことだった

 

 

 

 

 

『・・・・・・何で謝らないの?』

 

母の優しい言葉に当時幼かったミーナは弟に壊された船の模型を涙目で見て

 

『だって…私のお船・・・・』

 

『ふ~ん・・・弟よりお船がいいんだ~そんなことしていたら一生話せなくなっちゃうけどあなたはそれでいいの?』

 

『ヤダ!それはヤダ!!』

 

『じゃ!やることは一つね!』

 

 

 

 

「結局その後、弟のところまで走り寄って行って二人で泣きながら謝ったんじゃ・・・・・」

 

「ミーナさんにそんなことが・・・・」

 

「まあ、ワシが言いたいのはちゃんと話し合わないと深い溝ができて永遠に話せなくなって後悔するぞということじゃ」

 

と、ぽんとましろの肩に手を置くミーナにましろは

 

「・・・・ありがとう。守と話してみる」

 

「うん。それがいい。姉弟は仲がいいのが一番じゃ」

 

ましろはミーナに礼を言い、その場を後にし守を探した。だが、どこを探しても見つからず、最後によった場所は守が寝泊まりしている倉庫だった。

 

「・・・・・守。居るのか?」

 

ノックをするが返事がないだが、鍵は開いていたため、ましろは中へと入る。そして守がいる倉庫の隅の方へ行くと、そこには守がいた。壁に寄りかかり目をつむっている。どうやら眠っているようだった。

 

「寝ているのか・・・・そう言えば朝早くからいろんなところでみんなの手伝いをしていたって聞いていたな‥‥まったく無理しすぎだな」

 

軽くため息をつきましろは守の傍による

 

「ほら、風邪をひくぞ」

 

そう言い落ちていたタオルを手に取り守にかけようとすると

 

「うぅ・・・・」

 

守の顔が歪み、額には汗が流れていた

 

「(・・・・うなされている?)」

 

守の表情を見て、ましろは守が悪夢を見ていることに気づく。苦しそうでつらい表情の守は何かうわ言を言うに呟く、なんて言っているかはわからないがそれを見たましろは

 

「守・・・・」

 

ましろはハンカチを取り出し、額に流れる汗をぬぐう。なぜ守がこんなにも苦しんでいるのか?ましろは知りたかった。だがましろは今までの守の行動。

そして最初に晴風のみんなに自己紹介した時に名乗った『日本国海軍少尉』。そして武蔵の時に言った『戦闘の専門家』『三年以上、戦争をしてきたわけじゃない』という言葉と美波が言った守の体にある銃創。そして機雷事件の時に言った言葉それを考えて出た結論は守は戦争に参加していたかもしれないという推測だった

 

「守・・・・お前は・・・・」

 

ましろがそう呟いた時、守が目を覚ます。

 

「あ・・・れ?ね、姉さん?」

 

目が覚めて最初に見た光景が自分を心配そうに見つめるましろの姿だったため守は少し驚く

 

「なんでここに?」

 

守がそう訊くとましろは

 

「お前を探して、ここに入ったらお前がうなされているのを見つけてな・・・・・それより守。訊きたいことがあるんだ」

 

「訊きたいこと?」

 

守は嫌な予感がした。だがましろは続けた

 

「守・・・・お前は・・・お前は」

 

ましろは言おうか戸惑ったが、だがいつか聞かなければいけないと思い守に問うた

 

「お前は・・・・・戦争を経験・・・したのか?」

 

「っ!?」



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焔を抱く若鷲その2

特別エンディング「ヒトリシズカ」歌:幽閉サテライト


 

 

「お前は・・・・・戦争を経験したのか?」

 

「っ!?」

 

ましろの突然の言葉に守は固まる。だがましろは続けた

 

「お前の言葉が前から気になっていた。そして美波さんから聞いたお前の体に銃創・・・・銃で撃たれた痕があるって・・・・・守。教えてくれ。向こうの世界で・・・・私の知らない9年間何があったんだ?」

 

ましろは心配そうに訊くが守は

 

「・・・なんでもないよ。姉さんには関係ないことだから・・・・」

 

そう言い立ち上がり倉庫を出ようとするが、守の動きが止まる。それはましろが彼の手を掴んだからだ

 

「姉さん・・・・・離してくれ」

 

「ダメだ。今離したら、きっとお前は人を避け続けるようになる。このままじゃ、お前の心が壊れてしまうぞ!守。辛いことがあるなら私に相談しろ。一人で抱え込むな」

 

「そんなことないよ・・・・・俺はいつも大丈夫だって・・・・」

 

ましろの顔を見ず、そう答え無理にでも出ようとする守だったが・・・・

 

「・・・・・嘘だな」

 

「っ!?」

 

その言葉に守は固まる

 

「守。私を見くびるな。お前は嘘をつくときいつもそういう顔をする。6年前もそうだ。私を守って怪我した時も私に心配させないように怪我をしていないと言っていた時と同じ顔だ」

 

「・・・・・・」

 

ましろの言葉に守は言い返すことができなかった。そして守は

 

「・・・・・姉さん。姉さんにとって俺は・・・・・どういう存在なんだ?」

 

守はましろにとって自分がどういう存在か恐る恐る訊くとましろは

 

「決まっているだろ!お前は私の大事な弟・・・・家族だと思っている」

 

「っ!?」

 

ましろの言葉に思わず守はましろの顔を振り向く

 

「確かにお前とは血はつながっていないし、一緒に過ごしたのはたったの一か月だ・・・・だが血縁が何だ!一緒にいた日にちが何だ!そんなの私には関係ない!なにより・・・・」

 

ましろが守の目を見て

 

「大事な人が苦しんでいるのを見て、放っておけるわけないだろっ!!!」

 

「っ!!!」

 

守の両肩を掴み、強い意志と言葉で守にそう言うましろ

 

「このままお前が苦しむ姿なんて見たくないんだ私は・・・・・」

 

「姉さん・・・・・」

 

悲しそうな目でそう言うましろ。それを見た守はついに決断

 

「(もう・・・・隠せないな・・・潮時だな)・・・・わかった」

 

静かに守は頷いたのだった。そして守は座り、ましろも彼の隣に座ると、しばらく守は黙っていたがやがて口を開いた

 

「姉さん・・・・・さっき言っていたよね?『お前は戦争を経験したのか?』って」

 

「ああ・・・・・」

 

「それだったら俺の二式水戦が答えだよ」

 

「え?」

 

「姉さん。あれには機銃がついている。それは知っているよね?」

 

「ああ・・・・前に守が整備して何時時に機関銃みたいのを整備していたな?」

 

ましろは以前、守が二式水戦の整備をする中、機首の12・7ミリ機銃の整備をしているところを目撃したことがあった

 

「・・・・・・ただ、空を飛ぶだけなら機銃はいらないよね?」

 

「あっ!」

 

守の言葉にましろは気づいた。確かに守の言う通り、ただ飛ぶだけの乗り物なら機関銃は不要だ。そしてもう一つ思い出したことがある。それは晴風のみんなに自己紹介する時に『日本国海軍少尉』と名乗っていたことだ

 

「守・・・・やっぱりお前は」

 

「ああ・・・・・そうだよ姉さん。俺は元の世界では軍属・・・・・軍人・・・人殺し家業をしていたんだよ」

 

そう寂しそうな笑みをこぼし守はましろに話した

 

「9年前。姉さんと別れて俺は元の世界に戻った・・・・でも俺の世界では戦争があった・・・・いわゆる世界大戦・・・・第三次世界大戦と呼ばれる戦争だよ・・・・俺は小学校を卒業した後、軍に志願した」

 

「なんで・・・・・」

 

「軍に入れば、いち早く飛行機に乗れると思ったんだよ。通常なら高校を卒業して、航空学校に入らなければ乗れなかったから。でも軍に貼って航空学校に行ければ早く飛べると思ったんだ。当時は『少年、少女兵』を募集していたから丁度良かったんだよ・・・・」

 

「少年少女兵・・・・・」

 

「平和な時代からすれば狂っていると思うけど、あの時は戦争初期に一杯人が死んだからどうしても兵員不足を補うための対策だった。無論強制じゃなく志願制だったけど」

 

「・・・・親は反対しなかったのか?」

 

「無論されたよ。でもその反対を押し切って俺は半ば家出同然に入ったんだ。まあうちは母さんだけだったかし、軍の給料は結構高かったから、少しでも母さんを楽させたいという気持ちもあったのかもしれないな・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「俺は軍の訓練場に入って基礎訓練を終えた後、航空隊に志願して、適性試験に合格して、霞ケ浦の訓練所で日夜訓練に明け暮れた・・・・」

 

守は霞ヶ浦の訓練兵時代を思い出す。毎朝日が昇る前に起床し、そして夕方になるまで訓練に明け暮れた。それはも言う地獄のような厳しさだった。毎日のように怒鳴られ、殴られ。辛い日々を送ったが。それでも守は辞めようとは思わなかった。確かに辛かったが、それでも飛行機に乗るために彼は努力し続けたのだ

 

「訓練を終えた後、俺はしばらく本土の横須賀航空隊に配属されていたんだけど、すぐに太平洋の最前線のニューブリテン島ラバウルに配属になって、そこで俺は初めて敵と戦ったんだ・・・・そこで初めて敵を撃ち落とした・・・・・」

 

「敵って…守お前は何処と戦争をしていたんだ?」

 

「・・・・・ドイツ」

 

「え?」

 

「ドイツと戦争をしていた。正確にはナチス思想のドイツのテロリスト軍団だ」

 

ミーナが聞いていたらきっとショックを受けていただろう。ましろはそう思った。

 

「・・・姉さん。言っておくけど、俺はドイツ人が嫌いってわけじゃないよ?」

 

「え?」

 

「あっちはあっち。こっちはこっち。恨むのは筋違いだよ。それに俺が嫌いなのはファシスト、ナチズム思想を掲げ虐殺や殺戮を楽しむ連中だ。ドイツ人すべてが嫌いじゃないし、それに元の世界の友人にドイツ人がいるしね」

 

「そうなのか・・・・」

 

そう、俺は実際にドイツ人を恨んだことは一切ない。俺が嫌いなのは鍵十字を掲げる連中だけだ。共に戦った戦友にもドイツ人がいるし、ドイツそのものを嫌ったり恨むことは一度もない

 

「続けるね・・・・」

 

そして守は話した。自分の世界での戦争のこと、ラバウルでの激しい激闘のこと、ラバウルを離れ空母に勤務した際の戦闘のこと、そしてソロモン諸島で二式水戦を操縦し敵の爆撃機と交戦し続けたこと、そして戦う中多くの敵の搭乗員の命を奪ったこと、そして多くの仲間の死を見てきたこと、そして毎晩のように悪夢を見ることも

 

「・・・・」

 

ましろは守の話した言葉に衝撃を覚えた。9年・・・・言葉で言うとすごく短いが長く感じるその年数。自分は平和に暮らしていた半面。守は文字通り死と隣り合わせの戦争を経験していた。しかも中学生のころから今に至るまでだ・・・・とてもじゃないが今の自分には想像がつかない。

ましろはそんな弟にどう声をかければいいかわからなかった。戦争を経験をしていない自分がどう励ませばいいか・・・・

そんな中、守は話を続け、そして、敵と交戦中に被弾し、撃墜され死んだと思ったらこの世界に戻ってきたことを話した。

 

「俺がこの世界に戻ったのは今から2か月くらい前かな・・・・気が付けば横須賀の病院にいたよ。そこで真霜姉さんに再会した」

 

「そんな前に・・・・何で姉さんは私にそのことを教えてくれなかったんだ・・・・それに守。なぜ会いに来てくれなかったんだ?」

 

「俺が頼んだんだよ。『ましろ姉には秘密にしてくれって』」

 

「っ!?なんでだ!!なんで私に秘密にしようとしたんだ!」

 

ましろは声を上げると守は顔を背け

 

「さっき言ったろ?俺は戦争で多くの人を殺めた。そんな俺がましろ姉に会う資格がない・・・・会わせる顔がなかったんだよ・・・真霜姉たちはそんなことないって言っていたけど・・・・」

 

それでも会いに行けなかった。もし会いに行ってましろが自分を拒絶するんじゃないかと恐れていたから

 

だが・・・・

 

「・・・・けいない・・・」

 

「え?」

 

小さな声で何か言ったましろに守は首をかしげるとましろは守の両肩を掴み

 

「そんなの関係ない!!!」

 

「姉さん・・・・」

 

「守!お前がたとえ軍人だとしても何であろうと私には関係ない!私にとっては大切な弟だ!だからそんな悲しいことを言うな!」

 

「でも姉さん!俺は・・・俺はもう昔の俺じゃないんだ。もう俺は血で汚れた人間なんだ!そんな俺が姉さんたちと一緒にいる資格なんて・・・」

 

苦しそうにそう言う守。今まで弱音なんて吐けなかった。自分の胸の内を言うことはしなかった。だが守はなぜか敬愛する姉、ましろにだけ自分自身の本心を打ち明ける。

するとましろは彼に対し怒ることなく優しく守を抱きしめた

 

「っ!?」

 

「守・・・・辛かったんだな…今私は悔しい。大事な弟が苦しんでいるのにお前の背負った罪も苦しさもわかってあげられることもできない・・・・私は戦争を知らないから、だからお前の人を殺したと言う重みもわかってあげられない。だがこれだけは言える。お前がそうした。そうしなきゃならなかったのは大切なものを守るためだったのだろ?」

 

「え・・・」

 

「もちろん正当な理由で殺してもいいってことじゃない。だがその結果助かった命を考える権利が関わった人にもある。無論お前にもだ。守…お前は自分が助けた人を思い浮かべる事で自分を助ける権利があるんだぞ・・・・」

 

「自分を助ける権利・・・・・でも・・・俺は結果的には人を殺したんだ。仲間を守るため・・・国に住む人を守るためとはいえ俺は・・・・そんな俺が救われる権利なんて・・・・」

 

守は涙を流しながら叫んだ。するとましろは強くは守を抱きしめ頭をなでながら言った。

 

「お前は優しい子だ。だからお前はそんなに苦しんでいる・・・だけど私はお前のその姿を見たくない・・・・助けたい。守・・・・お前はいつも私を守ってきてくれた。助けてくれた・・・・だから今度は私がお前を守る番だ」

 

ましろは守を抱きしめそして優しい言葉で囁く

 

「お前を恨み、呪う声が聞こえるなら、私が大声で叫んで聞こえないようにしてやる。お前を闇に引きずり込もうとするやつがいるなら、私がお前の手を握って守を必ず連れ戻す!!お前を拒絶する奴がいても私は最後までお前の味方でいる!お前を拒絶しない!!私が!私がお前を守るから!!」

 

「ねえ・・・・・さん・・・」

 

ましろの温かいその心に守は涙が流れた。そして守は静かに泣き、ましろはそれを受け止めた。

すると・・・・

 

『うぐっ!・・・・そうだよマー君はみんなの友達だよ!!』

 

『そうです!もうマー君は晴風クラスの仲間なんですから!!』

 

「「えっ!?」」

 

急に伝達管から声がする。声の正体は明乃と幸子だった。他にもみんなの涙をこらえる声が聞こえ明乃たちと同じことを言っていた。

その時守るとましろは気づいた伝達管のふたが開けっ放しなことに

つまり今までの会話は晴風内部にみんな聞こえていたのだ

そのことに二人は先ほどの会話を思い出しましろは守に言ったセリフがみんなに聞かれ少し恥ずかしかったが

守は嬉しかった・・・・姉であるましろは自分のことをこれほど大切に思ってくれたこと、そして晴風のみんなも自分のことを拒絶する言葉を言わず逆に仲間だと言ってくれたことに心の底から嬉しかった・・・・

 

そしてましろは

 

「と・・・とにかく!守!お前は一人じゃない・・・・えっと・・・そろそろ食事の時間だし、みんなのところに行こう」

 

そう言い立ち上がり手を差し伸べるましろに守は

 

「・・・・うん。そうだね姉さん」

 

守はましろの手を取り立ち上がり一緒に倉庫を出る。そして守は先ほどのましろの言葉を思い出した

 

『守・・・・お前はいつも私を守ってきてくれた。助けてくれた・・・・だから今度は私がお前を守る番だ』

 

「(姉さん・・・・・守られていたのは俺の方だよ。小さいころ突然この世界で一人ぼっちだった俺をいつもそばにいてくれた。だから俺はそんな姉さんを一生守ろうと決意したんだよ・・・・そしてこれからも俺は姉さんを守るよ・・・・何があっても)」

 

「守?どうした?」

 

「ううん。なんでもないよ」

 

守はそう返事をし、ましろとともにみんなのもとへと向かうのであった




次回は彼の過去。追憶話を書きたいと思います


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追憶の若鷲1「神空ノ夢」

 

あれから後、みんなの俺に対する態度は変わらなかった。いつものような日常、軽く会話したり、たまに西崎と将棋をしたり、機関科のマロンと一緒に機械いじり、ミーナさんや幸子さんに仁義切りについて質問されたりとしたりと、いつもの日常だった

 

 

 

時刻は既に午前零時を過ぎていた。

ある日の夜、守の部屋にましろがやってきて、彼に『一緒に寝よう』と誘ってきた。最初は驚いたが、小さい頃はいつも一緒に寝ることがあったため違和感というか気にはしなかった

一つの布団の上で守とましろが横になっているが、両者は未だ眠っていない。

 

「‥‥ね、姉さん‥起きている?」

 

「あ、ああ‥‥」

 

「‥その‥眠れないの?」

 

「ああ‥‥守も眠れないのか?」

 

「うん‥‥」

 

「そうか‥‥それなら、守」

 

「ん?」

 

「その‥‥守の世界の事‥‥話してくれるか?」

 

晴風でましろと再会した時、二人は9年分ぶりの会話を楽しんだが、6年という歳月を互いに語りつくすのは時間がかかり、あの時は全て語るには時間が足りなかった。そしてましろは彼が戦争に従軍していたことは昨日聞いたが大まかな説明だけで詳しくは聞いていなかった

そして守は、今ここで話すのも眠るまでの暇つぶしになると思い話すことにした

 

「‥‥それなら、ちょっと変わった体験をした話をしようかな?」

 

「えっ?変わった体験?」

 

「うん‥‥あれは俺がまだラバウルにいたころ。戦争が続くある夏の日の事だった‥‥俺達はいつもの飛行訓練を兼ねたパトロールに出ていた。新人を教育するという名目もあって、俺たちはラバウルからブーゲンビルまで飛んで、周囲の海域を警戒しながら飛んでいた。俺の横を林原の奴が飛んでいた。彼は訓練校時代からの友人で、数日前に婚約をしたばかりだったよ」

 

「えっ?婚約!?」

 

守の訓練校時代の友人が婚約したときいてましろは驚く。守の訓練校時代の友人ということは年齢も守と同年代の筈‥‥

自分よりも年下の男子がまさか婚約をするなんて‥‥

 

「ま、守も前の世界に婚約者が居たのか?」

 

「いや、俺には婚約者は居なかったけど、戦争の影響で若いうちに結婚や婚約をする人が増えていた。林原もそのうちの一人だったんだ‥‥でも、休暇が足りなくてその足で戦場へとんぼ返りしたんだ」

 

守の脳裏にはあの日のことが鮮明によみがえった。あの頃俺は、負傷し、本土に戻された疾風中尉と、一時的に行方不明になった杉さんの代わりに一小隊を任されていた。そして当時乗っていた52型甲に乗り編隊を組んで飛行していた。この空域はまだ敵がいる可能性のある場であり、敵の本拠地であるポートモレスビーに比較的近い位置にあったからだ。すると、雲の切れ間から複数の航空機が姿を現した。

 

「前方に機影を確認!!」

 

「識別を急げ!!」

 

雲の切れ間から現れた航空機には鍵十字が付けられていた

 

「敵機識別確認!機種メッサーシュミットのBf109G6。国籍はハーケンクロイツ!ナチスです!!」

 

「クッソ!奴らめ奇襲をかけてきやがった!」

 

「もぐりこまれた!ダイブして突っ込んでくるぞ!!」

 

突然の奇襲だった。穏やかな空から一変して戦場へと変わる。既に捕捉されているからには戦闘は避けることは出来ない。

 

「増槽捨てろ!敵と交戦する!!」

 

当時、臨時小隊長だった俺は無線でそう叫び増槽を捨てると他の機体も増槽を捨てて敵と交戦した

南太平洋の上空で日本の零戦とドイツのBf109のドックファイトが開始された。

しかし、もともとは訓練を目的としたパトロールだったので、日本側の零戦の数は少なく、またパイロットの中には飛行時間が少ないパイロットが居り、あっという間にBf109の餌食になる零戦が出始め、そして旋回性の良い零戦に背後を取られ撃ち落とされるメッサーシュミットも出始めた。

その光景は地獄絵図だった

 

「クッソ!格闘戦に持ち込めば零戦は無敵なのに奴さんそれに乗ってこない!!」

 

零戦パイロットの一人が言う中、敵は

 

『ゼロと格闘戦はするな!こっちは天下の一撃離脱戦法を徹底せよ!格闘性能の良い日本機と取っ組み合いをする必要はない!!』

 

敵の隊長らしきパイロットが無線で指示を出す。bf109は格闘戦に向いておらず、むしろ一撃離脱に向いた機体。速度も零戦より上だった。

だが、零戦もただやられているわけにはいかず、得意の格闘戦に持ち込み敵を撃ち落としていた

 

「クッソ!ラバウル航空隊をなめるな!ナチ野郎めっ!!」

 

「林原!!後ろだ!!二機尾いて来る!!機を横滑りさせて逃げろ!!‥‥っ!?くっ、正面から‥‥」

 

守は操縦桿を目一杯引き、機首を上げて正面衝突を避ける。しかし、その間に林原機は被弾し墜ちていく。

 

「林原!!急降下をかけて消火しろ!!林原!!」

 

守がそう叫ぶが林原機は黒煙と火を噴きながら雲の中へと吸い込まれていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥る‥‥まも‥‥る‥‥守」

 

「っ!?」

 

「大丈夫か?やはり、お前にとって前の世界は‥‥」

 

「大丈夫だよ‥‥続きを話すね」

 

「あ、ああ‥‥」

 

「大混戦で周り中、敵も味方もまるで羽虫のように墜ちて行った。俺は手練れの3機に追い回されて仲間に気を配る暇もなかった。そのうちに味方は俺だけになってしまった。それでも奴らは追いかけてくるから死に物狂いで逃げ回ったよ。手も足もしびれて来て目までくらんでもうダメだって思った。その時、突然目の前が真っ白になったんだ」

 

「真っ白?」

 

「うん‥‥光の中と言ったほうがいいかな?妙に明るいんで雲の中だと気がつくまでに随分時間がかかったよ。俺は疲れきっていて操縦する気力も残っていなかった。それなのに機体は勝手に飛んで行くんだ」

 

あの時、守が乗っていた零戦はまるで雪原を滑るかのように雲の上を飛んでいた。

 

「あれは雲の平原みたいな場所だった‥‥」

 

「雲の平原‥‥」

 

「そこはやけに静かで空が本当にきれいな場所だった‥‥ずっと高い所を不思議な雲がひと筋流れていた」

 

守は目を閉じ、あの時のことを思い出す。

 

雲の平原の更に上にある一筋の雲をジッと見ていると、下から自分同様、航空機が上がってきた。

それは先ほどまで戦っていたドイツのBf109もあれば、自分と同じ零戦の姿もあった。

 

しかし、ほんのさっきまで戦っていた筈のBf109も零戦も戦うことなく、上昇していく。

 

すると、右方向から昇ってきた零戦には先ほどの空中戦で撃墜された林原の零戦がいた。

 

「林原!!無事だったのか!?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

守は林原に声をかけるが、彼は守の声が聞こえていないかのように機を上昇させていく。

 

「林原!!待て!どこへ行く!?林原!!行くな!!婚約者が・・・・武部さんがお前の帰りを待っているんだろう!?俺が代わりに行く!!だから行くな!!!」

 

守は操縦桿を操作するが機体は上昇せずにその場から動かない。林原の零戦を含む零戦とBf109はあの一筋の雲を目指して飛んでいく。

守がよくよく目を凝らしてみると、一筋に浮かぶ雲は雲ではなく無数の飛行機だった。日本やドイツのもあればアメリカやロシア、イタリアやイギリスに台湾とあの戦争に参加したテロ軍側と連合側の戦闘機や爆撃機が無数に飛んでいた

そして零戦とBf109の合わせた数機はその飛行機の群れの中に入っていく。守はその光景をただ見ていることしかできなかった

やがて、守の乗る零戦は雲海へと沈んでいった。

 

「気がついたら海面スレスレを俺だけ1人で飛んでいたんだ。最終的に生き残ったのは俺だけだったよ」

 

「それは、きっと神様が『まだ来るな』って言ったんじゃないか?」

 

ましろは守になぜ、林原の後を追うことが出来ず、雲海へ沈んだのか?そのわけを推察する。

 

「俺には『お前はずっとそうして1人で飛んでいろ』…って言われた気がしたよ」

 

「そんな筈はない!!守は優しくいい子だ」

 

「いい奴は死んだ奴らだよ。それにあそこは地獄かもしれないしね」

 

「(そう、・・・・いい人たちはみんな先に逝ってしまった。林原も佐々木も・・・訓練所で同期だった奴もラバウルの仲間もほとんど死んでしまった・・・・そして俺は大勢の人の命を奪ってきたんだ‥‥あそこは間違いなく地獄の入り口だな。姉さんたちは天国行きだが俺は間違いなく地獄に行くだろうな)」

 

守が自嘲めいた笑みを薄っすらと浮かべる。すると、ましろが守を後ろから抱きしめた。

 

「ね、姉さん!?」

 

「私は守がこうして生きて帰って来てくれて嬉しい‥‥守はちゃんと約束を守ってくれたじゃないか‥‥前の世界でどんなことがあったにせよ、お前は私の優しい弟にかわりないんだぞ」

 

「ありがとう‥姉さん」

 

守も振り返りましろを抱き返す。

あれだけ眠れなかった筈なのに、こうして互いの温もりを感じていると次第に睡魔が襲い掛かる。

 

二人は互いの温もりを感じながら眠りについた。

 



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水の一滴は血の一滴

 

 

 

「それで?晴風のという駆逐艦の動きはどうなっている?」

 

とある場所でナチス将校のゾル大佐が兵士に訊く。彼女らはある兵器を探していた。そして例の武蔵の暴走や他の艦が行方不明になったことをブルーマーメイドに潜入している兵たちから聞いたゾルは生物兵器捜索を止め、本来の作戦を実行しつつ晴風の様子を探っていた

 

「ブルーマーメイドの探知地図をジャックし、確認しましたが、これと言って動きはありません」

 

「例の兵器に搭載したレーダーの反応はどうだ?」

 

「他の感染した艦は、反応あり、そしてこちらの思うままにコントロールは出来ています。ただ・・・晴風は反応が微弱になっています。恐らく洗脳波を遮断する箱か何かに入れられている可能性が・・・・」

 

「あれがただの生物じゃないと気づいたのか?となると厄介だ・・・・」

 

「どうしますか?始末しますか?」

 

「今ある武装は何だ?」

 

「この前のUボートは出た切り消息不明。今あるのは魚雷艇のs100二隻と試作の水上戦闘機一機と例のアレ(・・・・)だけです。魚雷艇と水戦は航続距離が足りません。例のアレ(・・・・)もまだ・・・・・」

 

「ならば…丁度いいのがある」

 

「はい?」

 

「晴風には例の計画の標的艦になってもらう・・・・・」

 

「・・・・なるほど。了解しました。直ちに晴風に距離の近い戦闘艦を晴風に向かうようにコントロールします」

 

「うむ・・・・それとだ。ブルーマーメイドに潜入している工作員にも伝えろ何か動きがあれが独自の判断で始末しろ・・・と」

 

「了解いたしました大佐」

 

と、二人がは話す中・・・・

 

「・・・・・・・・」

 

誰かがその話を盗み聞きしていたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃晴風では

守がましろに自分の世界を話した後、二人の関係はそのままだった。そして二人の話を聞いていた晴風のみんなもいつもと同じように守に接していた。ある時は機関科のマロンと一緒に機械いじり、ミーナさんや幸子さんに仁義切りについて質問されたりとしたりと、いつもの日常だった

 

だが、ある事件が晴風を襲った

 

4月22日 20:30

マリアナ沖

 

 

 

晴風、大浴場

それは、砲雷科の光、美千留、順子、楓、理都子、果代子の6人が、入浴している時だった。

 

「くうう・・・・!!」

 

「んふふ・・・」

 

「気持いー!!」

 

「全方位、泡わだね・・・」

 

「ああもう髪の毛ギシギシ!!」

 

光、美千留、順子が気持ち良さそうにシャワーを浴び、果代子が辺りが泡わだと言いながら、隣では、理都子が自分の髪がギシギシになったのを気にしていた。そんな時

 

「はあ・・・・ん!?・・・これは・・・」

 

光、美千留、順子と同じくシャワーを浴びていた楓は、ある事に気づく。

 

「まりこう、如何したの?」

 

何かに気づいた楓に如何したかと問う光。すると、楓は、シャワーを浴びるのを止め、タオルを体に巻いて

 

「お無くなりになります…」

 

そう呟くと、シャワーからお湯が出なくなった。

 

「ま…まさか…」

 

光は、震えながら、お湯が無くなったのに気づく。この日から晴風は、深刻な水不足になったのだ。

その頃、艦橋では、守と明乃達が海図と睨めっこをしていた。

 

「マークされたのが、武蔵が目撃された位置です」

 

海図の上には武蔵の目撃地点に印がされているが、法則性がなく、どの位置に居るかは、不明であった。

 

「何所へ向かうつもりなのかな・・・?」

 

「んん・・私の推測ですが、本土に近づきたいのかも…」

 

「本土に近づいてどうするつもりなんだ?む・・・・情報が少ないから何とも言えないな・・・・」

 

「学校からは、武蔵を追いかけろって言われたんだよね!」

 

「救援部隊が出てるとは言え、現在、確実に連絡が取れて、直ぐに動ける艦が我々しかないらしい‥‥」

 

ましろが今の状況を説明する。その他の艦艇は、武蔵以外の行方不明の艦艇を捜索中で、今現在、直ぐに動ける艦は、晴風のみだった。

 

「あぁ~あ、美波さんが言っていた通り、皆あのネズミっぽいのに如何にかされちゃったのかな?」

 

「恐らくはそうかもしれないな・・・・・それに」

 

そう言うと守は何か考え込む

 

「(まさかと思うが・・・・ナチスらもこの世界に来ているのか?前のUボートも奴らの艦だったし・・・・そうだとしたら)」

 

「守?どうしたんだ?」

 

「マー君?」

 

守の考え込む表情を見てましろと明乃は心配そうに訊く

 

「え?」

 

「少し怖い顔をしていたよ?どうしたの?」

 

「守・・・まさかと思うが何か心当たりがあるのか?」

 

ましろが訊くと守は

 

「いや・・・・ちょっと引っかかったことがあったけど多分。俺の気のせいだと思う・・・・」

 

「そうなのか?本当に大丈夫なのか?」

 

「ああ。今のところはねまだ確定できないから」

 

守はましろにそう言うと幸子が

 

「とりあえずは、この海域で捜索してみるしかないですね?」

 

と言う事で取り合えずは、この海域で武蔵を捜索する事になった。

そんな中、お風呂に入っていた光達からシャワーが止まったと言う連絡が入り、知らせを受けた守と明乃、ましろ、幸子、応急委員の媛萌、百々が艦底の貯水タンク室に向かう。

 

晴風、貯水タンク室

 

貯水タンク室に付き、媛萌と百々は、タンクの残水量を確認する。

すると、タンクの残り残水量がかなり減っていた。

 

「艦長・・・!!異常見当たりません・・・タンクの修理はした筈なんだけど・・・」

 

「まだ何処からか漏れてた見たいッス!」

 

武蔵との戦闘後、貯水タンクの修理はしたものの、何処かで水が漏れてた様だ。

更に運が悪く蒸留装置も今は不調で海水からの蒸留が出来ない状態となっている。

 

「補給を要請するしかないですね、かんちょ・・・」

 

「うん…そうだね・・・」

 

2人の関係は、まだ修復できていない様で、ぎこちなくどこか気まずい雰囲気だった。その様子を横で見ていた守は、2人を心配そうに見つめる

 

「はぁ・・・補給艦との合流は五日後です」

 

「それまでは節水だな‥‥」

 

「だねトイレやお風呂、洗濯に使う生活水は海水をそのまま使用し、食器は紙皿や紙コップ、割り箸を使い、出来るだけ真水を使わない様にした方がいいですね」

 

ましろの言葉に守は頷いて言う。水の一滴は血の一滴というくらい海上や砂漠での水は大切なものである。

残念ながら、補給艦と合流できるのは5日後でそれまで水は、持たないだろう。

となるとやる事は、水の使用量を減らす事、つまり節水である。

 

「納沙さん、周辺の天気で雨雲がないかを調べて」

 

「わかりました」

 

こうして五日間の節水生活が始まった。

 

「あぁ~喉乾いた~」

 

医務室のベッドで勝田が横になりながら愚痴る。

 

「ラムネを飲めばよかろう」

 

美波はパソコンを打ちながらあっさりと勝田の愚痴を返す。

 

「もう飽きたぞな~」

 

「そうか」

 

「太るしね~」

 

慧はラムネを大量に飲まない理由を話す。やはり、年頃の乙女、体重は気にするのだ。

 

「お水を使わないメニューってあったかな?」

 

講義室では、青木、和住、みかん、杵﨑姉妹が節水を呼び掛けるポスターや貼り紙を作っていた。

 

「そう言えばトイレはどうなるの?」

 

「えっ?もしかしてトイレ禁止?」

 

杵﨑姉妹がトイレの問題を心配をする。

 

「トイレ流すのは海水を使うみたい」

 

「そうなんだ」

 

和住がトイレは問題なく使用できる事を伝える。

 

「あんなにトイレットペーパー買い込んだのに‥‥」

 

オーシャンモールでトイレットペーパーを買い込んだのが何だか無駄になった気分だった。

そして出来上がったポスターや貼り紙を艦内に貼りに行ったら・・・

 

「誰だ!塩水使ったのは!出てこい!どいつだ!」

 

まだ艦内に海水を使用する連絡が行き届いていなかったみたいで、ウォシュレットを使った黒木のデリケートゾーンに海水は合わなかったみたいで黒木はトイレの中から怒声をあげる。

洋美の怒声を聞いた媛萌は、ヤバイ表情をする

海水使用の被害はトイレを使った黒木以外でも‥‥

 

「クロちゃんの話聞いた?」

 

「うぃ」

 

風呂に入る為、服を脱いだ西崎と立石。

すると、風呂の扉には、

 

『本日より浴槽とシャワーは海水を使用」

 

と書かれた貼り紙があった。

 

「あっちゃ~」

 

「うぅ~」

 

「三日ぶりなのに…洗うべきか?洗わざるべきか?」

 

海水が使われている為、風呂を諦めるか?

しかし、三日も待ったので、身体や頭を洗いたい。

そして、二人が下した決断は‥‥

 

「‥‥」ボサボサッ・・・

 

「‥‥」ボサボサッ・・・

 

「なんじゃ?その頭は?」

 

食堂で西崎と立石が爆発した頭で無言のままラムネを飲んでおり、何故頭が爆発しているのか怪しんだミーナが二人に尋ねる。

二人は海水だがやはり三日ぶりの風呂への誘惑には勝てずに海水風呂へと入った。その結果、爆発頭になってしまったというわけだった

 

「見事に爆発しちゃったね」

 

「うん」

 

ただ、海水が二人の髪に合わなかったみたいで二人の髪の毛はボサボサとなった。

そんな二人の横を‥‥

 

「髪は女の命ですのに‥‥」

 

同じ海水を使用した筈なのに楓の髪はちっとも痛んでいなかった。

 

「キラキラ‥‥」

 

「あれ?なんで?」

 

「知るか!!」

 

全く痛んでいない楓の髪を西崎と立石は信じられないモノを見たように見ていた。

 

「鯖の水煮にトマトの水煮~」

 

「ミックスベジタブルにカンパン‥‥」

 

「見事な缶詰料理だな~おい」

 

「贅沢言わない」

 

「まっ、しょうがないよ」

 

「食べよう」

 

「一雨降らねぇかな?」

 

「もう限界だよ~」

 

食事に関してもなるべく水を使わない料理‥‥というか缶詰が提供された。

とは言え、何も食べれない状況より遥かにマシなので、機関科のクラスメイト達は割り切って缶詰め料理を食べた。

そんな中、

 

「どうしよう…」

 

「パンツが潮の香りってイヤだよね…」

 

「うん」

 

「なんかね‥‥」

 

洗濯室でも洗濯には海水を使用しているので、衣類‥とくに下着を洗濯に出す事を嫌悪したり躊躇ったりするクラスメイトも居た。

そんな中、晴風の生徒達が海水で苦労しているのに、守は、難なく海水を利用している。

例えば、自分の服や下着の洗濯は、洗濯機を使わず、甲板で、たらいに海水を入れて、洗濯をするし、また、入浴など海水なのに平気で入浴する

そんな守を皆は、『なぜ、マー君は、平気なんだろう』『やっぱり異世界の軍人さんだからかな?』だと思うが、守が食堂室で缶詰め料理を平気で食べてると機関科の4人が・・・

 

「ねえ、マー君」

 

「ん?・・・如何したの?」

 

「皆が苦労しているのにマー君だけ、何でそんなに平気なの?」

 

留奈が隣で食べている守にそう訊くと守は少し考え

 

「元居た世界で俺は空母・・・・軍艦に勤務していたことがあったんだけど、必要な水以外は洗濯や風呂は全部海水だったよ。それに海上生活・・・・特に長期任務の際は水は貴重だからね。必要な時にしか使わない決りだったしな」

 

「え?なんで?」

 

「それは、任務や活動が長い時だと、いざ必要な時に、無かったら大変だろ?」

 

「でもその時は補給すればいいじゃない?」

 

「平時ならまだしも、あの頃は戦争中だったし、いつ敵の潜水艦か航空機の攻撃に会うかわからなかったからな。本当に『水の一滴は血の一滴』ていう状態だったよ・・・・・もし無断で水を無駄に使ったら男女構わず、拳骨が飛んでくるよ」

 

と、守が乾いた笑みでそう言うとみんなは苦笑してしまう。

 

「うわぁ・・・拳骨は、嫌だな・・・」

 

「さすがは軍人殿・・・説得力があるわね」

 

留奈はそう言い空も拳骨されることを想像して嫌な表情をする。

 

「それじゃあ、缶詰なんかも平気なの?」

 

「これよりもっとひどい食事をした時があった。それに比べれば・・・・ね」

 

「これよりってどんな?」

 

「あ~それは聞かない方がいい。明るい人生を送りたいのなら」

 

「それほどひどいの!?」

 

麗央の質問に守が答えると瑠奈は驚いた表情でそう言った

守はラバウルの激戦で食料の補給が届かなかった出来事を思い出した。あの頃はナチスの勢力が拡大し、輸送船や輸送機がラバウルに来ることができず一か月以上、食糧難が起きたことがあった。その時は現地調達をしていた海岸で魚が取れるのはまだいい方だったが、それがない場合は蛇やカエルや野ネズミを見つけて調理したことがあったがそれはまだましな方だったが・・・・・

 

「(さすがにコックローチのソテー食ったことは言わない方がいい…いや、絶対に言わない方がいいな・・・・・)」

 

昔のことを思い出しながら守は缶詰の鯖の水煮を食べてるのだった・・・・



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嵐の過去

守が機関科の子たちと食事をしている中、艦橋では・・・・・

 

艦橋では、ましろがラムネを飲んで、つい、げっぷをしてしまう。

 

「はっ!?」

 

げっぷをして、顔を赤くするましろ。

 

「あっ!?・・・炭酸駄目なのシロ・・・副長・・・」

 

ましろが炭酸ダメなのに気づいた明乃だが、まだ、気まずさが残っていたのか、ましろに言いきれなかった。

 

隣では、幸子が百々が作った節水に関する同人誌を読んでいた。

 

「あ、あのう・・もう直ぐ霧の中に入ります。」

 

すると鈴がもう直ぐ濃霧の中に入ると言った。

 

「あっ、うん!」

 

晴風は濃霧の中へと入って行く。

 

「サトちゃん探照灯をお願い。」

 

「了解ゾナ」 

 

濃霧の中で衝突を避ける為、聡子は探照灯を付け辺りを照らす。

 

「ココちゃん霧笛鳴らして!!」

 

「はい!」

 

更に霧笛を鳴らす。濃霧の中の霧笛は不気味に響き、探照灯の光が辺りを照らす。その光景は昔のホラー映画に出てきそうな感じがした

そんな中、守は後部甲板にある二式水戦に布をかぶせ固定させていた

 

「ふぅ・・・まさか、なつお整備長がした魔改造がこんなに役に立つとはな・・・・・」

 

守の乗る二式水戦は彼の専属整備士であるナツオ整備長が改造し、翼が特殊攻撃機晴嵐のように折りたためるようになっていた。守は武蔵の時の後、翼を折りたたんでいた。理由としてはそのままだと、邪魔になるうえ布が被せにくくなるためであった。そして守は再度、二式水戦を包んでいる布が風や波で飛ばされないかちゃんと固定されているかをチェックし終わると

 

「ふぅ…終わった。それにしてもこの霧だと・・・・降るな」

 

守がそうぽつりとつぶやく。そして・・・・・・・

 

ポタ‥‥ポタ‥‥ポタ‥‥ザァァァァー

 

雨が降り始めた。

水を求めた彼女たちからしたら恵みの雨とはまさにこのことだろうクラスメイト達は水着に着替えて甲板に出ると、雨水をためるバケツを置き、雨水を貯めた後、身体を洗った。

しばらくして、生徒達が雨に浮かれている時だった。

 

「私も手伝うよ・・・・!!・・・あっ・・・」

 

明乃がそう言い外に出ようとすると、雨が段々強くなり、更に強風が吹き、波で艦が大きく揺れ、海面は次第に荒れ始めた。

 

「うぃぃ・・・」

 

「雨水貯めると頃じゃないぞ!」

 

「いたい・・・・」

 

「揺れる・・・・」

 

「撤収ッス!撤収!大低気圧ッス・・・!!」

 

艦が大きく揺れ、甲板に立てないほどに強くなる

晴風は、低気圧の中に突っ込んでしまった様だ。これでは雨水を貯める事は不可能で出来るだけバケツを中に運び込んだ。

嵐は酷くなる一方で雷もなり始めた

そしてマストに雷がおちた

 

「・・・うわぁ・・・・!?」

 

雷が落ちた事に明乃は、怖がって蹲る。そこへ外の様子を見に来た守がやってきた

 

「これはすごい嵐だ・・・・瑞鶴以来だぞあんな嵐見るの・・・・・ん?明乃艦長?どうしたんですか?」

 

蹲る彼女に声をかける守、だが彼女は返事をしない

 

「艦長?・・・・・岬さん?」

 

「え?」

 

「大丈夫ですか?顔色が悪いみたいですけど?」

 

「だ・・・大丈夫だよ?」

 

明乃はゆっくりと立ち上がるが

 

バーン!!

 

「うわぁ・・・・!?」

 

またしても、雷が落ち、怖がる明乃は咄嗟に守に抱き付く。

 

「ちょっと本当に大丈夫ですか!?」

 

あまりの怖がりように守は心配そうに言うと・・・・

 

「艦長・・・・少しお話が」

 

その時カッパを来た美波が来た。

 

「へっ?」

 

 

 

 

晴風、艦内

 

『荒天につき上甲板の通行は禁止します・・・繰り返します・・・』

 

鶫が艦内放送で上甲板の通行を禁止する旨を伝える。

そんな中、慧とマチコは、洗濯物を運んでいた。

 

「上通れないと不便だよね!」

 

「・・・・」

 

「今日のご飯何だろう?」

 

そう言いながら、洗濯物を運んでいると

 

「でその時さ、相手の友達がね・・・」

 

反対側から麗緒と桜良がやって来て

 

『あっ!?』

 

4人は、出くわしたが道は一方通行のため・・・・

 

「どうぞ!」

 

慧とマチコは、直ぐに右側に寄り、2人に道を譲る。

 

「へへサンキュー!!」

 

麗緒と桜良は、そのまま通るが

 

「ぷぅ!?」

 

「御免ね・・・」

 

狭い艦内の為、慧の顔が桜良の大きな胸に埋もれる。

 

『うう・・・』

 

「ぷはぁ・・・!!」

 

「よいしょ・・・」

 

勢いで何とか桜良の胸から脱出する。

 

「はぁ・・・!?」

 

桜良の胸から脱出した慧は、今ので不思議な体験をした。

 

 

 

 

 

 

その頃、艦橋では、当直の明乃と鈴の姿があった。

「凄い‥‥あっ!?」

 

凄い時化に鈴が驚いていると

 

「うう・・・」

 

隣で明乃がカタカタと震えていた。

 

「岬さん、如何かしたの?」

 

心配になった鈴が明乃に声を掛ける。

 

「う、うん‥‥ちょっと‥‥」

 

明乃がそう答えた瞬間、目の前に雷が落ち。

 

「うわぁ・・・!?」

 

明乃は悲鳴を上げて、蹲る。

 

「御免…私もう・・・・当直代わって貰ってくる!!」

 

最早限界になり、明乃は、艦橋を急いで降りて行った。そんな彼女に木野もせずに大きな雷鳴が鳴り響く

 

「うわぁ・・・・・・!?」

 

降りて行く途中、またしても雷が落ち、明乃は、悲鳴を上げながら駆け降りる。その先にある晴風、売店では

 

「やだぁ・・・!!かっこいい!!」

 

マチコが寝間着姿のまま歯を磨いていて、側で美海がマチコに見とれていると

再び外で大きな雷が鳴り

 

「うわぁ・・・・!?」

 

更に明乃が悲鳴を上げて、マチコの胸に飛び込んできた。

 

「ああ・・!?わ、私のマッチが・・・!!」

 

それを見た美海は、驚愕する。

隣で美甘が美海を落ち着かせようとするが

 

「これが落ち着いていられるか!!成敗する!其処になおれ!!」

 

美海は、落ち着いていられず、マチコから離れる様、明乃に命令する。

 

「か、艦長!?」

 

「うう・・・」

 

だが、明乃は、雷で完全に怯えていた。

 

 

 

 

 

一方、副長室。ましろの部屋では守が彼女の部屋を訪ねていた。理由としてはましろが部屋に来ないか?と誘われたためである。そんな中にもう一人の客人がいた

 

「マユゲ抜くんも」

 

「同じ事なんでい!」

 

ミーナと幸子が任侠映画を見ていた。

 

「此処、えぇよな?」

 

「激しく同意であります!!」

 

2人が熱心に見ていると

 

「如何して、私の部屋で見るんだ?」

 

隣で勉強をしていたましろが何故、自分の部屋で見るのか尋ねると

 

「あっ、私の部屋にテレビ無いんで‥‥」

 

幸子の部屋には、テレビが無かった。

 

「食堂にもテレビがあったはずだけど?」

 

「今、他の科の子達がドラマを見ているんですよ」

 

守の問いに幸子が答える。どうやら、食堂で任侠映画は見ることが出来なかったから、

 

「副長も見るか?」

 

ミーナが一緒に見ないかと誘うが

 

「いい」

 

ましろは、あっさりと断る。

 

「じゃあ、守も一緒に見ないか?面白いぞ」

 

「特にこのエピソードは伝説的なんですよ?」

 

と、今度は守を誘うと守はちらっとましろを見るとましろは『好きにしろ』と目線で答える

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

そう言い守は幸子とミーナとともに任侠映画を見た。守も元の世界でテレビとか見れないときは、現地の映画で映画を見ることがあったりdvdかブルーレイを借りて見たりしていた

因みに守の好きな映画は「紅の豚」である

ましろの邪魔にならないように守が静かに見る中・・・

 

「おっ、此処じゃ、此処じゃ!!」

 

「やっぱりこのシーンはいいですね!!」

 

任侠ファンである二人は興奮気味に見ていた

其処へ

 

コンコン・・・

 

急にノックの音が聞こえた。そして扉が少し開き

 

「副長‥その‥夜分にすみません‥‥」

 

訪ねて来たのは、明乃だった。

 

「・・・何です?」

 

ましろは、今にも死にそうなくらい気分悪そうな顔で明乃に何の用か尋ねる。

 

「あ、悪いんだけど…当直代わってもらえる・・・?」

 

明乃は、ましろに当直を代わってくれる様、頼みに来たのだ。

 

すると、映画を見ていたミーナと幸子が

 

「どうしたん?」

 

「言うてみぃ!」

 

任侠映画を見ている二人はすっかりその気になっていた。

 

「ちょっと凄くて‥‥」

 

「何がじゃ?」

 

「言うてみぃ!」

 

「‥‥雷」

 

「えっ?」

 

「ほうか。わかった」

 

すると幸子が立ち上がり、

 

「ほいじゃあ行ってくるけぇの。風下には立たんけぇ」

 

幸子が明乃の代わりに当直に立つと言って部屋を後にしようとする。

 

「あっ、納沙さん、まって」

 

「ん?なんじゃい?」

 

「コレ、持って行って」

 

そう言い守は幸子にバスケット渡す。

 

中にはコーヒーが入ったポットと紙コップ、ミルクに砂糖、マドラーがあった。

 

「眠気覚ましにね」

 

そう言う守に対し、皆はいつの間に?という表情をしていたが幸子は

 

「お、おう。恩に着るけぇ若頭」

 

「誰が若頭ですか・・・・」

 

苦笑しながら、守は幸子にバケットを渡し、幸子は艦橋に上がった

 

明乃は、しばらく落ち着くまで、ましろの部屋に居る事にした。

 

「そろそろ寝たいんですが?」

 

ましろは、そろそろ寝ようとしたが

 

「そんなに雷が怖いのか?雷はヘソを盗ったりせんぞ?」

 

ミーナは、何故明乃が其処まで雷を怖がるのかを尋ねる。

 

「雷が怖いっていうか…」

 

「じゃあ何だ?」

 

「唯…思い出すの・・・」

 

明乃は、ポケットから懐中時計を出し、雷が怖い理由を2人に話す。

それは明乃が幼き日のころ、両親と乗っていたフェリーが嵐で岩礁に座礁する事故が起きてしまった。乗員には、避難命令が発令され、明乃は、両親に連れられ急いで甲板へと向かう。

甲板には、大勢の乗員が海に飛び込もうと集まっていて、下には、既に救難ボートが海に飛び込んだ乗員を救助していた。そして両親は明乃に海に飛び込み脱出するように言うが、明乃は余りの高さに戸惑う

それでも2人は、急いで飛び込むよう迫る。

だがその時、船が大きく傾斜し、甲板に居た明乃達乗員は、海へと投げ出された。

次に気が付いたら、既に救助に来たブルーマーメイドの救命ボートの上であり、目の前には座礁して左に大きく傾斜したフェリーがあった。

そして明乃は避難時に一緒に居た筈の両親の姿が無い事に気づき、救助員に訊くが何も言えなかった。この時明乃は両親を失ったのだった

 

「・・・私がもっと早く飛び込んでいたら・・・お父さんも・・・お母さんも・・・・もしかしたら・・・」

 

『・・・・』

 

話を聞いたミーナとましろは、何も言えなくなる。だが守は

 

「そんなに自分を責めない方がいいですよ。明乃艦長」

 

「・・・え?」

 

「自分を責めたところで両親が帰ってくることはない・・・・だがきっとご両親は自分を責めるより娘の姿より、幸せに生きる娘の姿を望んでるのかもしれませんよ」

 

「マー君」

 

そう言う守。すると明乃は

 

「マー君…そう言えばマー君は別の世界の人だったよね?元の世界でお父さんとお母さんはどうしているの?」

 

明乃言葉にましろは気が付く。そうだ守はもともとこの世界の人間ではない。別の世界の人間だ。だから元の世界ではきっと守の家族がいるし、戦争中だからきっと守の帰りを待っているはずだ。そう思ったが守は静かに語った

 

「俺の父親は俺が子供のころ、仲間と一緒に乗っていた船と一緒に行方不明に・・・・母親が戦争中・・・・ここに来る去年に病気で死にましたよ。俺が前線に言っている最中に・・・・最期を看取ってあげれなかった…いや最後に一緒にいてあげれなかったのが唯一の心残りです。」

 

「「「・・・・」」」

 

その言葉に三人は少し驚いた

 

「マー君は帰りたいと思っているの?」

 

明乃はそう訊くと守は首を横に振り

 

「元の世界に行っても俺の帰る場所はないですよ。それにあそこではもう俺は戦死扱いだと思いますし、それに俺にとってこの世界は第二の・・・・いや。本当の故郷のように感じています。最後はここで骨を埋めたいと正直思っていますよ」

 

「守・・・・・・」

 

守の家庭事情を知り、明乃もミーナもそしてましろも、いたたまれない気持ちになる。

 

そんな時、

 

『艦長!救難信号です!』

 

伝達管から幸子の声が部屋に響くのだった

 



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嵐の救助作戦

突如、幸子から救難信号を受信したと連絡が入り、

その連絡を聞いた4人は着替えて、急いで艦橋へと向かう。

 

「救難信号って何所から?」

 

「新橋商店街船です・・・全長135m、総トン数14000、現在、左に傾斜中し船内に浸水している模様!」

 

SOSを送信していたのは、排水量14000トンの汎用貨物艦で嵐で暗礁に乗り上げ座礁した様だ。

現在、左舷に傾斜し、船内は、浸水中とのことだった

 

「乗員は?」

 

「全乗員552名、現在避難中だとの事です。」

 

「近くに他の船は?」

 

「我々が一番近いみたいです。」

 

如何やら近くで一番早く現場に向かえるのは、晴風のみだった。

 

「ブルマー本隊に連絡して学校にも!」

 

『はい!!』

 

明乃は、直ぐにブルーマーメイドと横須賀女子海洋学校に連絡した。そして明乃は座礁した新橋の船長にも連絡を入れた

 

「此方航洋艦晴風、艦長の岬明乃です。」

 

『此方は、新橋・・・ファラロップ南東13マイル地点・・・航行中に暗礁に乗り上げました・・・座礁時刻は15分前・・・現在も船体中央部がしょくていしています・・・』

 

「負傷者は?」

 

『軽傷者が10名』

 

「浸水はありますか?」

 

『左舷側は、あると思われます。』

 

「火災は、発生していますか?」

 

『まだ確認しておりません。』

 

「了解しました・・・其方までの到達時間は約50分掛かります・・・それまで船長は、避難誘導を続けてください!!」

 

明乃が新橋艦長と通信を終える。

 

「鈴ちゃん。現場に急いで!!」

 

「りょ、了解!!」

 

晴風は、急いで現場へと向かう。

 

『達っすーる!!・・・ウルシー環礁で座礁船発生!!・・・本艦は、これより当該船舶の救助に向かいます・・・海難救助よーい!・・・砲雷科と航海科で手の空いてる人は、準備を急いで!!』

 

明乃は、艦内放送で新橋の救助に向かう事を伝える。

 

「大変!!大変!!」

 

「ビビるッス!!」

 

放送を聞いた生徒は、慌てながら救助準備をする。 新橋救助の為、救助に向かう生徒は、ダイバースーツに着替えるが

 

「キツイ・・・」

 

「太った?」

 

「太ちゃったかな?」

 

『うう・・・』

 

体重が増えた事でダイバースーツがキツクなってしまい、生徒達は、思い悩む。

救助準備をしながら50分後

 

「天気晴朗なれども波高し」

 

晴風は、新橋座礁地点に到着し、新橋が肉眼で視認できる距離まで接近する。

 

「晴れたな・・・・」

 

「低気圧は、西に移動した模様です。」

 

幸いな事に先まで猛威を奮っていた低気圧は、西へと過ぎ去った模様。

 

「傾きは40度くらいか・・・」

 

「50度を超えると転覆する危険が高まるぞ」

 

「確かに持ってせいぜい1時間ってところか…急いだ方がいい」

 

ましろとミーナと守は、双眼鏡で新橋の現状を確認する。たしかに新橋は、左舷に大きく傾斜したまま、いつ転覆しても可笑しくない状況だった。

 

「新橋の船内図です・・・3階吹き抜けて商店・・・4階が居住区・・・中央がブリッジになっています。」

 

幸子がタブレットで新橋の船内図を開き、船内の説明をする。

船内の説明を聞いた明乃は

 

『救助準備は完了した?』

 

甲板にいる救助員に救助準備は、完了したか確認をする。

 

「準備OKでーす!」

 

既に救助に向かう生徒が酸素ボンベやカッターの準備をしていた。

そして明乃の言葉を聞いた媛萌は、準備完了の合図を艦橋に示す。

 

「それと私もスキッパー・・・」

 

それを聞いた明乃は、またスキッパーで出ようと思ったが

 

『またっ!艦長が持ち場を離れる気か!!』

 

その時、この前、ましろに言われた事が頭に浮かび、一瞬、静止し、ましろを見る。

 

「・・・何ですか?」

 

明乃が見ているのに気づき、何かと問う。

 

「・・・・こういう時、艦長って如何したら良いのかな?」

 

明乃がましろに如何したら良いのかと聞く

 

「私に聞かないでください。」

 

「分かんなくなっちゃって・・・」

 

「艦長は艦に居て下さい!!」

 

「救助隊の指揮は?」

 

明乃は、艦に残るとして、救助隊の指揮は、誰がするのかと問うと

 

「んん・・・!私がやります!!」

 

ましろが自分が行くと宣言する。

 

「ワシも行こう!」

 

するとミーナがポージングしながら自分も救助に行こうと言うと・・・

 

「自分も行きます。救助隊は多い方がいいので、岬艦長は救助中、外で何かあった時の指示をお願いします。海賊が出ないとも限りませんので」

 

守も志願し、明乃に指示を出した。確かに守の言うとおり救助隊が新橋内部にいるときや救助中に外で何かトラブルがあった時、指示を出す人が必要。だから救助には副長をそして外の指揮は艦長がすることを提案した

 

「わかった。私はここで指示を出すね」

 

こうして、明乃は、晴風に残って、救助隊に指示を出し、守とましろ、ミーナは、救助隊と共に新橋へと向かう事となった。

だが、ましろは、浮かない顔をしていた。

 

そして救助隊は内火艇に乗り、座礁した新橋へと向かう

 

「私とミーナさん、砲雷科3名で艦内に入る・・・ダイバー隊は海に潜って船体の損傷の確認・・・航海科と応急員は救命ボートに乗ってる乗員を晴風に誘導・・・」

 

『はい!』

 

「救命訓練は中学で散々とやったけど、実戦は、初めてぞな・・・」

 

「ちゃんと出来るかな?」

 

「大丈夫だ!」

 

「ヘキヘキ」

 

と、不安そうに言う聡子と鶫に対しミーナと果代子は元気づけるのだが・・・・

 

「私は運が悪いのだが大丈夫だろうか?」

 

『うう・・・・』

 

ましろの一言により全員の顔が暗くなった。

 

「空気を読め・・・・」

 

「うっ・・・すまない」

 

ミーナは指摘するが

 

「大丈夫大丈夫。そう言うところは俺がフォローするから」

 

「守・・・ありがとう」

 

守の言葉にましろがそう言うと

 

「そう言えばマー君。拳銃と刀はもってくる必要あった?」

 

鶫がそう訊く。守の腰には拳銃と刀が差してあった。それは美波三から預かっていたのを持ってきたものだった

 

「万が一ってこともあるだろ?」

 

「万が一って・・・・・」

 

守の言葉に皆は苦笑するのだった。そして現場に到着し

 

「探照灯、照射始め!」

 

果代子と理都子が手持ちの探照灯を新橋を照らす。

照らした先には、甲板に避難をし、救助を待つ人や海に飛び込んで浮遊物に捕まる人で溢れていた。

それを見たましろは、驚愕してしまうが

 

「副長!」

 

「姉さん!」

 

「はっ!?・・・現場に到着しました!!」

 

守とミーナに言われ、ましろは、気づいて、直ぐに無線で晴風に状況を伝える。

 

『甲板は、人で溢れています!』

 

「甲板は、応急員に任せって、船内の生存者を確認して・・・救助・・開始!!」

 

明乃の指示により晴風の生徒による新橋の救助作業が開始された。

守、ましろ、ミーナ、光、美千留、順子の6人が船内に入り、楓、理都子、果代子の3人は、潜水具を付けて、船体の破損状況を調査、聡子は救助ボートで待機し、媛萌、百々、鶫の3人は、甲板で救助者の対応する事になった。

 

 

 

「救助は如何なっているんだよ!!」

 

甲板では、救助を待っている乗員が救助は、まだかと慌てふためいていた。

 

「ま、先ずは、人数の確認よね!」

 

「リストバンド!リストバンド!」

 

慌てふためく乗員に気を取られながら、媛萌と百々は、人数の確認をしようとすが

 

「先に怪我人の確認じゃない?」

 

負傷者の確認が先じゃないかと鶫に言われる。

 

「うあ・・!?マニュアル持ってくれば良かった!!」

 

初めての救助で慌てて、救助マニュアルを持って来なかった事に媛萌は、悔む。

 

一方、ましろ、ミーナと守は、ブリッジで船長に状況を聞いていた。

 

「晴風副長、宗谷ましろです・・・只今から船内確認に入ります!」

 

「居住区はまだ乗員が残っている模様です。よろしくお願いします」

 

ましろはミーナと守、砲術委員の小笠原、武田、日置の三人で船内捜索を行う

船内は、座礁した時の衝撃のせいか、窓ガラスが割れていたり、物が散乱している有様でましろ達は、懐中電灯を照らしながら、辺りを捜索する。

 

「スプリンクラーが作動していない‥‥」

 

辺りを捜索していると守は非常時にも関わらずスプリンクラーが作動していない事に気づく。

 

「非常用システムがやられちゃったって事!?」

 

「て、事は・・・」

 

「この船って・・・」

 

非常用システムがやられている事に5人は、疑問を感じる。

 

「船体は、第4区画前120mに渡って亀裂が入っていおり、前方の3区画は浸水している模様ですわ!」

 

外の内火艇では船体の破損状況を調査していた楓の報告から船体の破損状況は、深刻でしかも浸水がかなり進んでいるようだった

 

『此方宗谷!・・・新橋の非常用システムが動作不良を起こしている。』

 

晴風ではましろから新橋の非常用システムが動作不良を起こしている報告が入る。

 

「えっ!?」

 

「何か遭ったんですか?」

 

『分からない、でも・・・』

 

『恐らく衝撃で壊れたんだと思います・・・このままだと、恐らく・・・』

 

守からもこのままだと災厄な状況になる恐れが有ると報告が入り

 

「新橋に接舷する!急いで!!」

 

明乃は、直ぐ新橋に接舷するよう命じる。

 

「りょ、了解!!」

 

「岩礁に気を付けて、急いで中の人達を甲板へ・・・」

 

晴風は、急いで新橋に接近する。

 

 

「早く上へ・・・急げ!!」

 

新橋船内では、ましろ達が乗員を甲板へと避難誘導をしていた。

 

「乗員まもなく避難が終えます。」

 

乗員の避難が有る程度済んだ時だった。

 

「あの…多聞丸がいないんです!」

 

「気が付いたら傍に居なくて…」

 

一組の夫婦が自分達の子供(?)がいないと言って来た。

 

「まだ小さい子ですか!?」

 

「はい」

 

「姉さん。捜索していないのは第五区画、飲食店地区だ」

 

「よし、行こう」

 

「ああ」

 

「多聞丸くんは任せて!お二人は避難を!」

 

ましろは、順子に任せて、ミーナと守と共に多聞丸を探しに行った。

 

 

「乗員の避難は終了しました!」

 

「中に入った救助隊、船底を調べていたダイバー隊も船から出てきたそうです!」

 

全員の避難が終了した報告が入り、晴風の艦橋にホッとした安堵感が出始める。

ただ、次の報告でその空気は一転した。

 

「でも副長とミーナさんとマー君が船尾方向の捜索に向かったとの報告が…」

 

「えっ?」

 

「小さいお子さんが1人、行方不明だそうです・・・」

 

3人がまだ捜索に残っている事を聞いて、明乃は、不安になる。

 

 

 

 

「私はこっちを探して見る!!」

 

「じゃあ、ワシはあっちを!!」

 

「じゃあ、俺はあっちを探してみる」

 

新橋の飲食店街地区へと入ったましろとミーナと守は三手に分かれて捜索する事にした。

船が沈んでいく中、3人で探すよりも分かれて探した方が、時間短縮になる。

 

「多聞丸!!」

 

こんな暗闇の、まして沈んでいく船の中、一刻も早く両親の下へと連れ戻さなければ

ましろは、そんな思いを抱いて新橋の中を走る。

そんな時

 

「ニャ~!!」

 

突然、何かの鳴き声が何処からか聴こえて来た。

ましろは、辺りを見回すと

右側にあるコンビニの中の出入り口の前に子猫がちょこんと座っていた。

 

「‥‥小さい子って…子猫の事か…」

 

ましろは電源が落ち開かなくなった自動ドアをこじ開けて目の前の子猫を見る。すると・・・

 

「姉さん!」

 

「守・・・・」

 

そこへ守が駆けてやってきた

 

「探している際、遠くから猫の声が聞こえたから来てみたんだけど・・・・まさかこの子が多聞丸?」

 

「ああ…そうみたいだ」

 

「ニャ~!!」

 

子猫が付けている首輪には確かに「TAMONMARU」と文字が彫られていた。

人間の子供ではなかったが、子猫だって生きている。

 

「とにかく救助しよう」

 

「そうだな」

 

兎に角、子猫を保護しようとしたその時

 

「!?」

 

大きな揺れが起き、破孔から海水が流れ出てきた。

 

「はっ!?」

 

「まずい!!」

 

それを見たましろと守は、驚愕する。そして外では新橋は、船体が2つに割れ、左舷から沈み始めた。

 

「ヤバ過ぎる!?」

 

「大変どころじゃ・・・」

 

内火艇でその光景を見ていた救助隊は、驚愕する。その光景は晴風でも確認できた

 

「艦長!新橋が!!」

 

「もやいを解いて!!・・・全速離脱!!」

 

「真っ二つじゃん!?」

 

「うう・・・・」

 

「うわぁ・・・・!?」

 

内火艇の救助隊と同じ様に艦橋もその光景を見て驚愕していが、明乃は、巻き添いを防ぐ為、急いで新橋から離脱するよう命じる。

 

「艦長!まだ中に副長とミーナさんが居るそうです!!」

 

「えっ!?マー君は?」

 

「マー君もまだ中に!!」

 

何とまだ新橋には、ましろとミーナ、守の3人が残っていた。

 

「えらいこっちゃ!えらいこっちゃ!」

 

その時、先に上甲板に避難したミーナが船の縁を走って逃げていた。

 

「居た!?あそこ!!」

 

「ミーナちゃん!!こっちよ!!」

 

内火艇に避難していた救助隊が船の縁を走って逃げているミーナに気づき探照灯で照らす。

 

「ミーナ、早く逃げて!!」

 

「逃げとるんじゃい!!」

 

「宜しいですから飛び込んでください!!」

 

「グッ!」

 

ミーナは、海に飛び込み、内火艇まで泳ぎ、無事に救助された。

ミーナは、無事救助されたがまだましろと守の2人が艦内に残っていた。

 

 

 

 

 

『副長!!・・・マー君!!聞こえる?』

 

「は、はい」

 

『船体の中央部分で裂けたの!このままだと沈没する!早く脱出を!!』

 

「りょ、了解!!」

 

「わかった!」

 

通信越しにましろは多聞丸を抱き上げ、上甲板に避難しようとしその時、

突然の浸水がましろと多聞丸を襲う

 

「っ!?」

 

「姉さん!」

 

その時、守はましろを庇うように立った。

 

 

 

 

『ミーナさんは脱出されました。』

 

「副長とマー君はは?」

 

『まだ確認できていません・・・・その‥‥連絡が‥‥切れましたわ‥‥』

 

「えっ!?」

 

楓の報告を聞いて2人との連絡が途切れたと聞いた明乃は、恐怖に陥る。

 

 

 

 

 

 

一方、突然の浸水に襲われたましろと多聞丸と守は、何とかコンビニの商品棚の上に避難していた。

だが、先程の浸水の時、無線機を落としてしまった。そして・・・・

 

「守・・・・すまない・・・私を庇ったせいで・・・」

 

棚の上ではましろは泣きそうな顔で守を見る

 

「大丈夫だよ・・・こんな怪我くらい」

 

そう言い、足を押さえる守。あの時の浸水で守はましろを庇った時水に紛れていた。瓦礫で足を怪我して身動きが取れない状態であった

すると多聞丸は不安そうに鳴くと・・・ましろは

 

「怖いよな…私も怖い・・・何しろ私は・・・運が悪いし・・・」

 

ましろは、恐怖のあまり泣きそうになるが

 

「まだ、希望はあるよ・・・姉さん」

 

「え?」

 

守の言葉にましろは守を見ると守はある方を指さした

 

「あそこの通風口を行けば外に出られるかもしれない。姉さんは多聞丸を連れて、出てくれ・・・・」

 

「でも守・・・お前はどうするんだ?身動きの取れないお前を置いて行くわけにはいかないだろ!!」

 

「だからってここに残って死ぬよりはマシだろ!姉さん行ってくれ!!」

 

「ダメだ!ダメだ!お前を置いて行くなんて!!せっかく会えたのに!!ここで別れたら・・・・!!」

 

もしかしたら最悪な事態になるかもしれないと思ったましろは泣きながらそう言うましろだったが

 

「姉さんっ!!」

 

「っ!?」

 

守の怒声にましろは固まる

 

「今ここにいても溺死するだけだ!だが姉さんが先に脱出し、救助隊に知らせてくれれば、俺が救助される可能性が少しは上がる!!」

 

「でも・・・・」

 

「それに姉さんはその子猫・・・多聞丸を救出する任務があるだろ!!一つの小さな命守らないでなにがブルーマーメイドの卵だ!!今はその子の救助を優先しろ!!」

 

「っ!?」

 

守の言葉にましろは思い出した。そう今はこの子猫の救助が先、それに先に脱出して救助隊に知らせれば少なくとも守を助けられるかもしれない

 

「だから頼む姉さん・・・・行ってくれ」

 

「守・・・・わかった」

 

ましろは涙を拭いて頷き、多聞丸を抱え上げ、通風口の蓋を開けようとしたがびくともしなかった

 

「ダメだ・・・開かない」

 

ましろはそう言うと

 

「姉さん・・・ちょっとどいて」

 

そう言うと守はホルスターからM1911A1を取り出すと、通風口に向けて発砲。弾丸は通風口の蓋を固定しているボルトに当たり、ボルトは壊れ、通風口の蓋は落ちた

 

「これで行けるよ・・・・さっ!早く!!」

 

守の言葉にましろは頷き通風口に入ると

 

「守!!必ず助けるから!!だから!絶対に死ぬな!!」

 

本当は一緒にいたい。だが彼女は子猫多聞丸を救出するため、そして救助隊を呼ぶため通風口に入り守にそう言うと守は静かに頷いた。

その時の守の表情は柔和な笑顔だった。そしてましろが言って、一人になった守は

 

「さて・・・・姉さんにはああは言ったが・・・」

 

そう言いちらっと下の水面を見ると浸水により水かさが増えてい行った

 

「これは時間がなさそうだな・・・・」

 

と、小さく呟くのだった



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嵐でピンチです

晴風、艦橋

 

「副長、マー君!副長、マー君!シロちゃん!!マー君!!」

 

明乃が無線機で何度もましろと守に向けて呼び続けるが、全く応答がなく、明乃は受話器を置いて艦橋の窓から新橋を見た。その状況に明乃は今までましろが感じていたことを理解した

 

「待ってるってこんなに辛いんだね…でもシロちゃんと約束したから・・・」

 

明乃は、小さく拳を握り。

 

「救助した人に毛布をそれに食べ物と暖かい飲み物を用意して!」

 

『はい!』

 

明乃は、守とましろの無事を祈りながら、救助した乗員の面倒を見る。そして教室では杵崎姉妹や美甘が温かいおかゆ、お汁粉、生姜湯を提供し、医務室では美波さんが怪我した乗員の手当てをしていた

 

 

一方その頃、救助隊を乗せた内火艇は、新橋から晴風に戻ろうとしていた。

 

「皆、居るよね?」

 

不安そうに新橋を見ながら、全員居るのを確認する光。

 

「航海科の子達は?」

 

「救助した人と一緒に艦に戻ったよ!」

 

ましろと守以外は、殆んど晴風に収容された。ミーナは、防寒ポンチョを着て、非常食をかじっている。

 

「後は副長とマー君だけ?」

 

「副長、守‥‥」

 

ましろと守の安否を気にしているその時だった。

 

「ん!?」

 

突如、空から光が差し、皆が上を見ると、そこには内火艇を照らす無人飛行船が現れた。

 

『ブルーマーメイドだ!!』

 

そう、新橋の救助に来たブルーマーメイド隊の無人飛行船だった。それを見た救助隊は、直ぐに新橋に戻ろうと内火艇を戻す

それからすぐにブルーマーメイド隊員が乗ったスキッパーが次々と新橋へと向かって行く。

そんな中、一艇のスキッパーが内火艇へと接近する。

 

「ブルーマーメイド保安観測部隊の岸間です」

 

「晴風!砲雷科、小笠原光以下救助隊です!」

 

「ご苦労様!・・・後は任せて・・」

 

「まだ船内に2人、学生と男の子が・・・」

 

「了解!」

 

岸間は光に応える様にハンドサインを返した。

 

「要救助者2名!」

 

岸間達はスキッパーを全速で新橋に向かう。

 

 

 

 

 

 

そして一方、通気口を通るましろは

 

「(早く…速く脱出しないと守が・・・)」

 

自分一人では守を運び出すことは出来ない。だからこそ急いで脱出し、弟が取り残されていることを言わなければならない。だが一向に出口にたどり着けないその時

 

「あっ!?」

 

ましろのスカートが通風口の金具に引っかかってしまった。

ましろは、何とか放そうと引っ張るが、外れそうもなく。

 

「仕方ない・・・」

 

ましろは、止む無くスカートを脱ぎ捨て(下が水着姿になった)、先に進む

 

 

 

一方、守は

 

「これは、ますますまずいな・・・・・」

 

足を負傷し、身動きが取れず、商品棚の上にいたが、だんだんと水位が上がり、この部屋が水没するのは時間の問題だった

 

「這うことは出来ても通気口までは届かないか・・・・ははっ。海軍軍人であり航空兵の俺が溺死か。情けないな・・・せめて死ぬなら空の上か姉さんの膝の上で死にたいよ」

 

その言葉は全て諦めている様子でもなくいたって平然とした口調だった

 

「さて・・・・この状況的には非常にまずい状況・・・・どうやって打破するか・・・・」

 

周りを見る守。破孔から入ってくる海水にどんどん水位が上がってくる。かといって守自身は動けない。

 

「これは、杉さんたちより先に死んだ仲間たちのところに行きそうだな・・・・」

 

そう言い守は目をつぶる。閉じた瞼の裏に死んだ戦友たちが浮かんだ・・・・だが

 

《森准尉!生きることを諦めるな!!》

 

「っ!?」

 

脳裏に上司であり、空戦で生き残るための戦術や空戦技を教えてくれた杉田曹長の声が響いた

それはいつも曹長が守に言っていた言葉だ。戦争で一番大切なこと・・・それは生き残ることだ。生き残ればまた戦える。死んだらそれでおしまいだ何より・・・・・

 

「まだ、死ぬわけにはいかねえよな・・・・ましろ姉に約束したし」

 

そう言い胸に下げているロケットをぎゅっと握る守

 

「何か、救助が来るまで使えそうなものは・・・・・・」

 

そう言い再びきょろきょろと周りを見ると、あるものを見つけ出した

 

「・・・・・あれは」

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ましろは多聞丸とともに通気口を進んでいた

そんな時

 

「はっ!?」

 

持っていた懐中電灯の電源が切れてしまった。

 

「ははっ・・・やっぱり・・・付いてない・・・うっ・・・クソッ!!」

 

ましろは、絶望し、堆懐中電灯で通風口の天井を叩く。

 

 

 

「はっ!?」

 

一方外では転覆した新橋の船底の上では、岸間以下、ブルーマーメイドの救助隊員がましろと守の捜索をしていた。そして岸間の持つセンサーが何かしらの反応をした

 

「こっちは、どう……」

 

「駄目、見当たらないわ・・・」

 

「ハンマーもってきて!!」

 

他の隊員が捜索する中、岸間はハンマーを持ってくるように言う。

晴風艦橋では

 

「艦長…救援艦より連絡。現在、ブルーマーメイド隊が副長とマー君の捜索活動に当たっているみたいですけど・・・・」

 

幸子が連絡を聞き、明乃たちにそう言う。みんな不安そうな顔をしていた

 

「(シロちゃん・・・・マー君・・・・)」

 

明乃は、守とましろの無事を祈りつつ知らせを待つ。

 

 

 

 

一方、ましろは通気口の中で仰向けになっていた。もう疲れ果て動けない状態だった

 

「守・・・・・」

 

ましろはそう呟くと外から何か叩く音が聞こえた。それは外でブルーマーメイドの隊員たちがハンマーで船底を叩いていたのだ。

それを聞いたましろはもっていた懐中電灯の柄で壁を叩く。すると

 

『要救助者、確認よし!!』

 

『周辺確認よし!!』

 

外で声がするのと同時に何かの機材で穴を開ける音がした

 

『聞こえる!?そのまま動かないで、じっとしてて!!』

 

外で力強い声が聞こえると同時にましろは救助が来たことを理解した

 

「助かったんだ・・・・」

 

そう言い涙を少し流す。そして穴が開き、ましろは救助されたが・・・

 

「あ、あの!弟がまだ中に取り残されているんです!!」

 

「何ですって!?」

 

「足を怪我して…私一人じゃ運べなくて・・・・・・」

 

涙を流しながら、ましろは必死に隊員たちに守が取り残されていることを報告する

 

「分かりました。すぐに救助に向かいます!!」

 

そう言い岸間達は頷き、そして救助隊がましろの通った通路を進んだ。するとしばらくして、ましろが入った通気口の入り口に到着したがそこは水であふれていた。到底生きているとは思えない状態だった

 

「・・・・」

 

それを見た隊員は無線で

 

『ただいま例の少年がいる場所へ着きましたが、その地点は水没しています・・・・・もしかしたら・・・・』

 

「そんな・・・・」

 

無線越しで聞いたましろは顔を青ざめへたり込む。そして自分の不甲斐なさを攻めた。もし力づくでも彼を運んでいたら・・・・

 

「守・・・・守」

 

ましろは涙を流した。すると・・・

 

『待ってください!」

 

と再び、無線から隊員の声がした。そしてその現場にいる隊員は水没した部屋の中で気泡を見つけた。そして隊員は小型酸素マスクを口に咥え中に入る。中は案の定、水で浸っており、中は散乱し空気の溜まっている場所はなかった。これは絶望的だった。そしてその中に人影を見つけた

隊員はその人影の傍に行くとそこには守がうつ伏せになっていた。眼も閉じているその状況を見た隊員は

 

『(間に合わなかったの・・・・)』

 

最悪の状況を覚悟し彼の手を握ると、その手がぎゅっとしまった、

 

「っ!?」

 

それを見た隊員は彼の顔をライトで照らすと・・・

 

「・・・・・」

 

「っ!?」

 

ゆっくりと守の目が開いた、そしてその口にはダイバー用の酸素マスクをしていた。そうあの時守はスキューバダイビング用の酸素ボンベとマスクを発見し、水没した中それで救助を待っていたのだ。

そして隊員は無線で

 

「生きてる・・・・・生きてます!!スキューバーダイビング用の酸素マスクで呼吸を確保しています!!」

 

その連絡を聞いた岸間は安心し、そしてましろも

 

「生きてる・・・・・・」

 

守が生きていることに再び涙を流すのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、無事救助された二人は新橋、転覆した船底上にまで運ばれた。守の足の容体も幸いなことに脱臼で済んでいた

 

『副長、マー君!!』

 

やがて、引き返してきた晴風の救助隊が救助された守とましろに駆け寄る。

 

「怪我は、無い?」

 

光は、怪我が無いか問う。

 

「大丈夫・・・」

 

ましろは、岸間におぶられた状態で大丈夫だと答え。

 

「マー君は?」

 

「大丈夫。俺は、足を挫いただけで大丈夫よ。危機一髪だったけどな」

 

守も救助してくれた隊員の肩を借りて、立ちながら、大丈夫だと答える。

 

「よう生きとったの、我・・・」

 

「ニャ~」

 

「助かったにゃ~、良かったにゃ~」

 

『ええ・・!?』

 

「な、何で、ネコ言葉になっとる‥‥?」

 

つい出してしまった言葉にミーナ達は困惑していた。

そして、晴風へと戻ったましろは多聞丸の飼い主夫婦に多聞丸を無事に救助出来た事を報告する。

 

「多聞丸無事救助しました!」

 

「ありがとうございます。多聞丸」

 

奥さんがましろから多聞丸受け取ろうしたら多聞丸は逃げ出し、ましろの足元にすり寄り、そこから離れない。

 

「多聞丸、行かないと‥‥」

 

ましろは、引き離そうとするが、何故か離れない。

 

「随分懐いてるな・・・!?」

 

「ええっ・・・!?」

 

ましろに懐く多聞丸を見て、八百屋の夫婦は、驚いていた。

 

「ほら、多聞丸・・・」

 

ましろは、何とか多聞丸を離し、今度こそ八百屋の夫婦に渡そうとした時

 

「あの‥‥」

 

ましろと多聞丸の様子を見ていた八百屋の奥さんが・・・

 

「良かったら・・・」

 

「面倒・・・見てもらいますか?」

 

何と八百屋の夫婦がましろに多聞丸を譲ると言い出したのだ。

 

「ご迷惑でなければ・・・」

 

突然の多聞丸を譲ると言われましろは、驚きながら

 

「で、でも‥自分、猫嫌いで‥‥」

 

ましろは、断ろうとするが

 

「何を言うとる!!・・・沈みゆく船で生死を共にした仲じゃろうが・・・」

 

ミーナは、八百屋の夫婦の折角の行為なのだから、受け取ってやれと言われ。

 

「大丈夫だよ。だって姉さん猫好きだったじゃん」

 

と守も頷いてそう言うと、ましろは

 

「ん・・・・分かった・・・・多聞丸・・・謹んで引き取らせて頂きます!!」

 

「うむ、そう来なきゃな・・・」

 

こうして、猫嫌いにも関わらず、ましろは、多聞丸を引き取る事になった。

 

「お手数ですがそれを横須賀女子海洋学校まで届けてください」

 

美波は岸間に例のハムスターに似たあの小動物をケースごと手渡した。

 

「了解しました」

 

「それと、これも‥‥」

 

美波は更に大きめの茶封筒も岸間に手渡した。

 

「これは?」

 

「抗体と私の報告書です」

 

「わかりました」

 

そう言い、岸間はその茶封筒も受け取ろうとした瞬間、何者かが数名飛び出て・・・・

 

「動くなっ!動くとこの娘の命ないわよ!彼女の命が欲しければその生物と報告書の書かれた茶封筒を渡しなさい」

 

そう言い美波を人質にし、そう言う人物は先ほど、守を救助した隊員と、そして、STG44を持った二名のブルーマーメイドの制服を着た隊員が岸間達にそう言うのだった

 



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襲撃者

「動くなっ!動くとこの娘の命ないわよ!彼女の命が欲しければその生物と報告書の書かれた茶封筒を渡しなさい」

 

突如、美波を人質にするブルーマーメイドの隊員と他2名。そして美波を人質にしているブルーマーメイド隊員は拳銃を美波に突きつけ、岸間にそう言う

 

「み、美波さん!!」

 

騒ぎを聞きつけ、ましろやミーナたちがやってくる。そこにはなぜかブルーマーメイドの隊員数名が美波を人質にしている姿だった。

 

「おっと、あなたたちも動かないで頂戴。じゃないと一人死体が出来るわよ?」

 

「あ、あなたたち、いったい何のつもりなの!?悪ふざけは止めなさい!!」

 

「残念だけど、これは悪ふざけではないわ岸間一等保安監督正殿・・・・私たちはいたって正気だ。なんならこの子を殺して証明してあげましょうか?」

 

そう言い、その隊員は拳銃のセーフティーロックを解除する。この状態に岸間とその場にいた他のブルーマーメイドの隊員は手が出せない状態だった

 

「ああ・・・・それと艦内にいる仲間を呼んでも無駄よ。全員。私たちが気絶させた。大きな船のわりに数が少なかったから楽だったわ」

 

凶悪じみた顔をする隊員。

 

「あなたたちの目的は何?」

 

岸間がそう訊くと

 

「あんたらが知る必要はない。私たちの欲しいものは今あんたの持っているそれとその抗原が書かれたファイルと資料だけ・・・・それさえ渡してもらえれば釈補しよう・・・・・」

 

「本当に・・・・渡せばその子を返すのね?」

 

「ああ・・・・約束しましょう‥・三つ数えたら人質交換よ」

 

岸間は頷くと

 

「一つ!…二つ!!・・・・、三つ!!!」

 

そう言うと岸間は手に持っていた小動物をケースと茶封筒を渡し、隊員も美波を開放する

 

「・・・・よし・・・・じゃあ、あんたらの役目もここまでよ。死んで頂戴」

 

そう言うと背後にいた部下二名がSTG44を岸間やましろたちに構える

 

「うわっ!?銃を持ってるよこの人たち!?」

 

「今更?」

 

銃を持っていることに今頃気づいた

 

「どういうこと!?約束したはずよ!」

 

「ええ…確かに解放すると言った。だが生かして解放するとは言っていない!!その生物のことを調べ関わった時点でこのまま生かしておく我々だと思うか!」

 

「じゃあ・・・・まさかあなたが最近、動き始めていた海賊・・・・」

 

「海賊ですって?あんな無法者と一緒にしないでもらわないで頂戴ね!・・・・殺せ!」

 

そう隊員言った時、銃声が鳴り響く。だがそれはSTGを持った二名ではなかった。

 

「ぐわっ!?」

 

「いっつっ!」

 

銃声が鳴ったのと同時に、STGを持った二名の隊員は指を押さえ倒れこむ

 

「な、何事?」

 

驚いた隊員だが、そこにはコルトガバメントを手に持った守がいた。今撃ったのは守だった。しかも撃った場所は指の部分をかすめ、相手がアサルトライフルを離すように狙ったのだ

 

「くっ!このクソガキがっ!!」

 

「守!!」

 

そう言うとその隊員は守につかみかか身彼の額にモーゼルc96を突き付け引き金を引いた。その光景を見たましろは顔を青くし叫んだが。彼女の銃が火を放つことはなく何発か空撃ちした

 

「なっ!?」

 

まさかの空撃ちに驚く隊員。すると守はニッと笑い

 

「あ~すまん、。さっき救助されたときに弾を抜いといたんだよ」

 

そう言い守は手を広げると、その手から、モーゼル拳銃の弾八発が床に落ちた

 

「あんた・・・・いつから気付いた私がブルーマーメイドじゃないって」

 

睨んでそう言う隊員に守は

 

「救助されたときに気づいたのさ。右の懐が少し下がり気味だったからな。拳銃を所持していることはすぐにわかった。真冬姉のいる海賊を相手に戦う強制執行課保安即応艦隊なら実弾の拳銃かテーザーガンを持っていてもおかしくはないが、ここに来たのは救助が目的の保安即応艦隊だ。持っているのは救助道具か護身用のスタンガン。実弾拳銃を持つのはあり得ないんだよ。だからあんたがすぐにブルマーメイドに成りすましている誰かだということがすぐに分かったのさ」

 

「くそっ!!」

 

守に全部見抜かれていたことに悔しがる隊員。そしてすぐに岸間や他のブルーマーメイドの隊員に捕縛された

 

「クッソっ!このままでは済まないぞ!!私はかの研究機関に所属する武装グループだ!きっと仲間があんたらを確実に始末する!!」

 

とほかに逮捕された二名が静かだったが例の隊員だけは喚いた。そして喚く中、守は

 

「へ~それが今回の事件の黒幕か・・・・・で、なんだって?なんていう研究機関だっけ?」

 

と、そう訊くが隊員はそれ以上喋るのはまずいと思ったのか口をつぐむ。だが、守は彼女の襟につけたエンブレムバッチを見た。それはブルーマーメイドのマークではなかった。

そのマークを見た守は

 

「ほぉ・・・・・アーネンエルベときたか」

 

「アーネンエルベ?」

 

守の言葉にましろやほかのみんなは首をかしげる。

 

「お前・・・なぜそれを・・・・」

 

驚いた隊員はそう訊くと守は

 

「俺もあんたと同種ってことだ・・・・まあ、ファシストやナチ派ではないがな」

 

「・・・・・・ちっ」

 

その後、その三人は拘束され、本土のブルーマーメイドノ本部に連れていかれることになった。その際守は、岸間にある資料を即席に作り渡し、そして美波も先ほどの小動物の入ったケースと報告書や抗原の書かれた書類を渡した

そして新橋の乗員と捕獲したテロリスト三人を乗せたブルーマーメイド艦は横須賀へと戻る。

横須賀に戻る前に晴風が不足していた水も分けて貰い、水不足は、解消された。

 

 

 

晴風、艦橋

 

「ただいま・・・」

 

ましろは、汚れた制服を着替え、新しい制服を着て、艦橋に戻ってくると

 

「っ!?・・・シロちゃん!!」

 

ましろの声を聞いた明乃は、直ぐに振り返りましろに抱きつく。

 

「良かった無事で!!・・・私、待ってる間ずっと苦しかった!!・・・シロちゃんをずっとこんな・・・御免ね!!・・・御免ね!!・・・」

 

明乃はましろの胸元で泣き始めた。

 

「宗谷さん!・・・えっ・・・」

 

洋美もましろの事が心配に思い、艦橋に見に来たが、明乃の泣いているところを見て、声を掛けるのを止める。

 

その時

 

「ニャ~」

 

「あっ?」

 

何所からか猫の声が聞こえ、すると、

 

「えっ!?」

 

「ニャ~ン」

 

ましろの制服の胸元から多聞丸が出て来た。

 

『ああ・・・・!?』

 

雅か動物嫌いのましろが猫を持ってる事に艦橋にいた6人は、驚く。

 

「もう1匹・・・乗せても良いだろうか艦長?・・・」

 

ましろは、明乃に多聞丸を晴風に乗艦させて良いか問うと

 

「もちろん!!」

 

明乃は、喜びながら乗艦を許可する。

 

「うあぁぁ・・・」

 

「可愛い・・・」

 

艦橋に居た7人は、多聞丸に触り始めた。その光景を洋美は、影で見てた

 

「あれ?そう言えばマー君は?」

 

「守は今、保健室で美波さんに足を見てもらっています」

 

「え?マー君怪我をしたの?」

 

「足をひねっただけみたいだけど・・・・・」

 

と、ましろはどこか浮かない顔をしていた

 

 

 

ブルーマーメイド艦と別れた晴風は、再び武蔵捜索に戻る。

 

「本職のブルマーは流石だったな・・・」

 

ミーナは、今回の救助でブルーマーメイドが自分達より優れていた事に感心していた。

 

「私も遭難した時、助けって貰ったから、ブルーマーメイドになろうと思ったんだ‥‥それに船に乗れば家族ができると思って‥‥」

 

 

9年前、呉の養護施設

 

 

「私のお母さんブルーマーメイドだったの!!」

 

「えっ!?」

 

「お母さん言ってた・・・海の仲間は家族みたいなんだって!・・・だから、私もミケちゃんもブルーマーメイドになったらたくさん家族ができると思うの・・・・だから、約束しようよ!!」

 

「うん!」

 

明乃は幼い時に施設で出会ったもえかと約束した事を話した。

 

「だからあんなに海の仲間は、家族だっと・・・」

 

「そのもえかという子が武蔵の艦長か…ワシもうちの艦長‥‥ティアとは中学から、ずっと一緒じゃった。ウイルスの抗体もできたことじゃしな。早く助けに行きたい」

 

ミーナはシュペーに残して来たテアの身を案じた。すると

 

「そう言えば美波さんを襲った人たちって何者だったんだろうね」

 

鈴はそう呟くとミーナは

 

「そう言えば、守。お主さっきの隊員のことを「アーネンエルベ」とか言うていたが、あれはどういう意味だ?」

 

「守・・・・やはり何か知っているのか?」

 

ミーナとましろの問いに守は

 

「話すと長くなるがあの三人は俺の世界の・・・・敵側だった組織の研究機関の人間だろう」

 

守は話した。ナチスやss親衛隊。アーネンエルベなどの行っていた行為に

守の世界については以前彼から聞いていたがやはりショックだった。特にナチスが誕生したドイツ出身であったミーナは猶更だった

 

「じゃあ、あの三人はマー君の世界から来たってこと?」

 

「ああ・・・・そしてアーネンエルベの連中はあの三人だけじゃないってこともな。だからアーネンエルベやナチについての資料を真霜姉に送るよう岸間さんに頼んだ。おそらく奴らあのネズミを使って何かする気だ」

 

「何って・・・・何をだ?」

 

「分からない…ただ今の現状を考えるにしても最悪な状況は避けられないかもしれないな・・・・・」

 

そう気難しそうな顔をする守にましろは心配そうな表情をするのだった。

だが、こうしている間にも更なる脅威が晴風に迫っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、とある所では・・・・・・

 

「馬鹿ものが!!!判断は任せたが、例の物を奪うタイミングを間違え失敗した挙句、三人もブルーマーメイドにとっ捕まるとは何たることだっ!!なぜ連中が手渡した後に、横須賀に向かう途中で奪わなかった!!」

 

怒り心頭のゾル大佐は鞭を地面に叩く

 

「も・・・・申し訳ございません」

 

三人の上司らしき大尉の階級章をした人物が大佐に謝る。この人物は例の現場にいたが、三人が捕まると同時に脱出していた。

そしてゾルは

 

「日本、アメリカ!!アフリカ、オーストラリア、ヨーロッパ!!!ヴェアヴォルフ作戦で例の生物を送り出す手はずは整っている!だがお前のミスでブルーマーメイドに大きく知られれば、すべてが大きく狂う!!」

 

「申し訳ございません大佐・・・・・例の書類と生物は必ず奪え返します・・・・たとえこの命に変えましても!!」

 

大尉がそう言うとゾルは

 

「・・・・よぉし、お前のその言葉を信じてもう一度だけチャンスを与えてやろう…ただし、もう一度だけだ!!ただし・・・・私も一緒に行ってやろう。」

 

「大佐自身が?ですが・・・」

 

「ふふ・・・・そろそろ挨拶もしないといけないからな。おい。例の奴もってきたか?」

 

「はっ!」

 

ゾルは大尉の傍にいた諜報員に言うと諜報員は一枚の写真とusbメモリーを置いた。その写真は宗谷真霜の写真だった

 

「ブルーマーメイドの現最高責任者、宗谷真霜の写真とその声・・・・その2つがそろえば完璧だ・・・・敵の中に味方を潜入させる。それがアーネンエルベの武装部隊「SHOCKER(ショッカー)」のやり方であり、ことごとく邪魔者を破ってきた・・・・・」

 

そういいゾル大佐はusbメモリーを起動させるとスピーカーから真霜の声が流れる

ゾル大佐は少し微笑むと。まず手袋を脱ぎ、真霜の写真を見ながら化粧セットで髪を黒く染める。そして顔にクリームを塗り始める

 

「「っ!?」」

 

大佐が顔についたクリームを布で拭い顔が見えた瞬間、その場にいた二人は驚く。なぜなら大佐の顔は宗谷真霜の顔になっていたのだ

 

「フフッ・・・・化粧は得意な方なのよ・・・」

 

真霜の声でそう言う大佐。

 

「さて大尉・・・・・・行ましょうか横須賀に」



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追憶の若鷲2「パイロット・ハンター パート1」

ある時のころ、食堂で俺は夕食を取っていた時のことだった。

 

「ねえマー君。隣いい?」

 

と、突然、小笠原さんたち砲術員三人組に声をかけられた。俺は断る理由はないため頷くと三人は俺の隣に座ると

 

「ねえねえ、マー君て、射撃が得意なの?」

 

「?」

 

「ほら、以前。ブルマーに変装した海賊の持っていた銃を拳銃で撃ち落としたじゃない」

 

「そうそうバキューンと正確に!!」

 

と、美千留さんと順子に三に聞かれた。もしかしてあの事件で俺がナチの持っていた銃をピンポイントで狙撃して落としたときのことか・・・・

 

「あれは得意というか・・・・まあ、訓練課程でたまたま射撃がうまかっただけだよ。実戦で撃ったのほとんどなかったし、まぐれ当たりだったと思うよ?」

 

「そうには見えなかったけど?」

 

「そうそう。バキュンと狙撃兵みたいだったよ?」

 

光さんたちに首を傾げられた。確かに俺の射撃の腕はそこそこの腕前であり、実戦で撃ったのはあの時と今回の事件以外では初めてだ

まあ、俺は航空兵であって狙撃兵じゃないからな・・・・

それにしても

 

「・・・・狙撃兵か・・・・」

 

「ん?どうしたのマー君?」

 

「ああ、いや。狙撃兵で思い出したことがあったんだ」

 

「どんなの?」

 

「うん。俺が元の世界・・・・・航空兵として南太平洋の戦場にいたころのことだったんだけど・・・・・」

 

そう言い俺は彼女らに語った・・・・・空を睨むあの狙撃兵を・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南太平洋のとある場所・・・・・

 

あの時の俺は二式水上戦闘機に乗り始めたばかりのことだ。単機で偵察中に背後に気配を感じ、上を見上げるとそこには敵の戦闘機。メッサーシュミットが二機飛んでいた・・・・・

 

『パンターよりレオパルドへ、右下より敵機発見!ヤーパンの水上偵察機だ!撃墜する!援護してくれ!!』

 

『了解!!』

 

そう、メッサーの搭乗員が相棒に言うと、急降下し、俺めがけて急降下してきた。そして俺めがけて機銃と機関砲を売ってきたが俺は難なくかわした

 

『馬鹿っ!捻られたぞ!!躱された!!背後に回ってくるぞ!!振り切れ!!』

 

『はっ!相手はたかが水上偵察機だ!こちらの敵じゃない!!』

 

そう言うや否や奴は背後に回ろうとしたが俺は得意の格闘戦術、捻りこみで相手の背後を取った

 

『なっ!水上偵察機にしては機動性がいい!しかもやけに速い!?』

 

驚いた適当乗員がそう言うと高度で見物していた相方が

 

『パンター!!そいつは水偵じゃない!!噂のヤップの水上戦闘機だ!ゼロにフロートを付けた奴だ!しかも奴はベテランだぞ!!』

 

『れ、レオパルド!助けてくれ!!』

 

『待ってろ!!今行く!!』

 

俺の操縦を見て相手は熟練だというのに気が付いたのか相手は無線で会い方に逃げるように指示するが、逃げられない。そこで相棒は救援に向かうが、二式水戦の背後を取られたメッサーは撃ち落とされた。

 

『クッソー!ヤップめっ!!』

 

仲間の仇討をするため残ったメッサーは二式水戦へと向かう、だが、二式水戦特有の格闘戦術の宙返りにより、残ったメッサーの背後を取る

 

『クッソっ!!この頃のヤップの戦闘気乗りのエースたちは欧州へ向かったと思ったが、まだこんな腕のエースがいたのか!!』

 

悪態をつくメッサー搭乗員だが、守の乗る二式水戦はメッサーを射程に捕らえた。

そして守は機銃と機関砲の引き金を引き、メッサーを撃ち落とした。だが搭乗員はメッサーから飛びを降り、パラシュートで脱出した。

 

『悔しいが…負けは負けだな。もう一度チャンスがあったら、今度は勝つぜ!』

 

脱出したパイロットはそう言うが守の乗る二式水戦はパイロットの元へ戻ってきた

 

『ちっ!俺を殺さないと気が済まないのか?』

 

そう悪態つくが守は搭乗員を撃とうとしない・・・・それどころかエンジンがおかしな音を出したかと思ったが、胴体下のフロートが折れ、エンジンも煙を吐き降下していく

 

『・・・・俺か、パンターの機関砲でも当たったか?あの島に不時着するな・・・・ちょうどいい地上戦なら早打ちが得意な俺が有利だな…待ってろヤーパン!!』

 

そう言いルガーを取り出すパイロット。

そして一方フロートが折れエンジンも故障した守の機体は島の砂浜へと不時着した

 

「いてて・・・・・まさかフロートを壊されるなんて、着任早々ついてないな・・・・」

 

不時着の際、頭をぶつけたのか頭をさする守。すると・・・・

 

『Hey!!Yap!!!』

 

頭上から声がし見上げるとそこにはパラシュート降下しこちらに拳銃を向けたナチスの航空兵がいた。

 

「くっ!!」

 

守はホルスターから拳銃を取り出そうとした瞬間・・・・・

 

『グっ!!』

 

急に敵が仰け反り、拳銃を落とす。それと同時に遠くから銃声が響いた

 

「味方の狙撃兵がいたのか?弾着より音がだいぶ遅れたところを見るとかなり遠くから撃ったな・・・・・」

 

守は機体から降り、狙撃された敵兵を見ると額に穴が開いていた

 

「それにしても敵ながらいい腕だったな・・・・・敵でも味方だろうと同じ人間。最後は野ざらしよりちゃんと埋葬してあげないとな・・・」

 

そう言い、守は敵兵を埋葬しようと手を伸ばすと、守の足元に弾丸が着弾した

 

「っ!?」

 

驚いた守は海岸の岩に身を隠した

 

「俺を撃ったってことは味方じゃないってことか?」

 

驚く守はそう呟くと今度は守の乗る二式水戦に弾丸が当たる

 

「飛行機を燃やすつもりか?・・・でも第二次大戦とは違い、今使用されている日本機のほとんどは防弾板や防弾タンクつきだ。小銃弾では燃えないよ」

 

そう言うと同時に二発目が二式水戦に命中すると、二式水戦は爆発した

 

「ちょ、ちょっと冗談じゃないよ!あいつ焼夷徹甲弾を使いやがった!!」

 

守は岩陰に隠れ様子を見るが相手は動く気配はない

 

「・・・・ここにいても仕方がない。この地はまだ敵味方の戦力がはっきりしていない島。あの狙撃兵が敵か味方か調べる必要があるな・・・・・」

 

そう言い、守はコルトガバメントを手にし、島の森の中へ入るのだった

 

 

「確か、ここいら変だったよな・・・・」

 

しばらくジャングルの中を進む中、守は例の狙撃兵がいるあたりの近くまで来た

 

「近寄らない方が身のためかもしれないが・・・・人間って言うのは群れなきゃ生きていけない。人は人の傍に行きたがるものだな」

 

そう言いさらに奥地へ踏み込むと、そこにはいくつか墜落した飛行機があった。

 

「この辺りは飛行機がよく落ちるもんだな・・・・・P40戦闘機・・・結構さび付いているから見たところ第二次大戦のころか・・・・あっちはメッサー・・・・ハーケンクロイツがあるからつい最近のか・・・・」

 

傍にあったアメリカのp40戦闘機は錆ぐわいから見て結構古い物。つまり第二次大戦の物だということが分かる。だが今目の前にあるメッサーは鍵十字。ナチスの戦闘機南太平洋で飛んでいるナチスと言えば今起きている戦争だ。

 

「第二次も第三次もここは戦場のど真ん中っというわけか・・・・」

 

ポツリとそう呟くと・・・・・・

 

「動くなっ!!」

 

女性とも男性ともとれる中性的な声が後ろで響いた。後ろを向くと鉄帽のせいで顔は見えないが、明らかに同じ日本人。そして日本国陸軍の軍服だった。そしてそいつは銃剣の付いた九九式狙撃銃を俺に向けていた

 

「待て!待て!味方だ味方!!海軍航空隊の森少尉だ」

 

「見ればわかる・・・・」

 

どことなく落ち着いた声でそう答える狙撃兵

 

「どこの部隊だ?よくこんな場所にいるな?」

 

「・・・・・好きでいるわけじゃない・・・・好きで来たわけじゃないが・・・・あの沖合で船がボカチンしてな・・・・弾薬や燃料に引火してお陀仏さ・・・・・俺だけさ。部隊で生き残ったのは」

 

「ナチのUボートか?」

 

「いや。あんたらの乗る飛行機さ」

 

そう言うと狙撃兵は銃剣を取り外し俺を見る。どことなく俺を睨んでいるように見えた

 

「俺は、昔から飛行機というのは好きじゃない・・・しかも皮肉にもそいつにやられた・・・・みんな一人残らず死んだよ」

 

「あんた・・・・名は?それに階級は?」

 

「言わなきゃダメか?」

 

「一応ルールだからな」

 

「知ったことか。海軍に名乗る義理はないし、誰にも言いたくない」

 

「でも俺は名乗ったよ?」

 

「名乗ったのはそっちの勝手だろう?」

 

不機嫌そうにそう言う狙撃兵。俺はすぐに話を変えた

 

「なあ、この島に友軍はいないのか?」

 

「内陸にいる・・・・・」

 

「なぜ行こうとしないんだ?味方がいるってわかっているんだろ?」

 

「あそこまで何キロあると思っているんだ?百キロだぞ!?百キロも歩いて行けると思うか?」

 

「たかが百キロだろ?」

 

俺は何が問題なのか首をかしげて言うと狙撃兵は俺を睨み

 

「たかが!?馬鹿言うな!!あんたら飛行機乗りにとっては少しの距離かもしれないが、こちとら歩兵はな。自動車を除けば二本の足で歩かなければいけないんだぞ!!一メートル歩くのだってこの二本の足を動かすんだ!!」

 

「ご・・・ごめん」

 

確かに盲点だった。飛行機で乗れば百キロなんてあっという間だ。だが歩くとなれば話は別だった。俺は先ほど言った軽率な言葉を狙撃兵に謝罪した

 

「ふんっ!人生も生きているときも足を動かさない限り一歩も前へは進まないんだよ」

 

「そりゃそうだな・・・・・」

 

そう言うと狙撃兵は立ち止まった。そしてある場所を指さした。それは大きな大木で下には大きな空洞ができていた

 

「俺の住処だ・・・・・居たければいろ」

 

ぶっきらぼうにそう言う

 

「ほら、何をボーとしてやがるんだ!入るのか入らないのか!!」

 

「あ…ああ。お邪魔します」

 

俺はこの時思った。この狙撃兵。意外といい人なのかもしれないと・・・・・

 



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追憶の若鷲2「パイロット・ハンター パート2」

狙撃兵に案内された場所は大きな大木の下にある穴だった。

その中に入ると

 

「・・・・何だよこれは」

 

中にあったのは、たくさんの武器弾薬だった

 

「小銃は愚か、野砲まである・・・・・」

 

「海岸へ泳ぎ着いたら小銃と弾薬だけ乗せたボートが漂着したんだ。他には敵さんの分捕ったものもある」

 

狙撃兵の言葉に俺は目を凝らしてみると確かに、中にはドイツの銃器や対戦車砲まで置いてあった

だが、俺が見つけたのはそれだけじゃない棚みたいなところにたくさん並べてある飛行帽だった

 

「これは・・・・」

 

「敵の戦利品だ・・・・・飛行機乗りは生かしてはおけない・・・・・・・味方でなければ貴様も殺す所だ。本当は殺したくて殺したくてしょうがないんだ。たかが百キロなんて軽はずみに言う感覚の持ち主だからな空を飛ぶ連中は・・・・・ほら食え」

 

憎々しげに俺に言うのと同時に飯盒で炊いたご飯と缶詰を渡す

 

「・・・いただきます」

 

俺は狙撃兵に礼を言い食べると狙撃兵はハンモックに寝っ転がり皮肉そうに

 

「あんたらは爆弾を落とすときどんな気持ちだ?泥の上を二本の足で必死に逃げる人間の辛さが貴様にはわかるか?なあ小僧よ」

 

「俺は戦闘機乗りだからまだ対地、対艦爆撃はまだしていないよ・・・・・だが、飛行機から脱出した時、パラシュート降下中に敵に撃たれたことはあったな」

 

そう俺は返事をした。そう俺は何回かパラシュート降下中に討たれたことが多々あった。パラシュートで降下しているときは無抵抗だ向こうからすればふわふわ浮いているパラシュートなどいい的だ。そんな恐怖を俺は体験している

俺の心情をよそに狙撃兵は上を見上げ

 

「いいよな…おめえら航空兵ってやつは。果てしない高い空へ飛べて椅子に座って戦争ができて、椅子に座ったまま敵のところに行ってそして椅子に座ったまま帰れるんだからよ・・・・・」

 

そう言う狙撃兵は自分の狙撃銃を胸に抱き

 

「本当にいつも空から見て羨ましかったよ…羨ましくって羨ましくって仕方なかった・・・・だが、その羨ましいやつに俺の乗る船は撃沈された・・・・てきの羨ましいやつのせいで、みんな死んだんだ・・・・・もう三年以上も前だ・・・・」

 

そう言う狙撃兵の顔はどことなく悲しそうだった

 

「三年間も一人でいたのか・・・・」

 

狙撃兵の言葉に守はそれ以上何も言えなかった。三年間・・・・言葉で言うなら短く聞こえるが実際は遥かに長い時間だ。そんな時間を彼は一人でここにいたのかと。どんな思いか守には想像できなかった。

 

「「っ!?」」

 

すると外で大きな音が聞こえた。二人が外に出ると音は空から聞こえた。上を見上げると一機の飛行機が煙を吐いて墜落するのが見えた

 

「あれは・・・・ナチのメッサーシュミットだな」

 

守がそう言うとメッサーシュミットから人が飛び降りてパラシュート降下するのが見えた。

 

「ふん…おい見ろ。羨ましいのがまた降りてきた・・・・・」

 

そう言うと狙撃兵は狙撃銃を手に取る。守は

 

「俺もついてっていいか?小銃ぐらいなら訓練で撃ってたからできる」

 

「むやみに撃たれても困る・・・・・それと照準眼鏡の付いたやつには触るなよ。俺が苦心して調整したんだからな」

 

「わ、分かった」

 

そう言い守は、照準眼鏡の付いていない九九式短小銃を手にし、狙撃兵とともに敵兵が降りて行った場所へと向かう。すると気につるされたパラシュートを見つけた

 

「・・・近くだな。ここに居ろよ・・・・いいかむやみに撃つんじゃないぞ?」

 

狙撃兵に念を押され、守はその場に隠れた。すると目の前の草むらがガサガサと揺れ始めたと思ったら、数十メートル先に敵兵が顔を出し、守は驚いて思わず撃ってしまった。しかし小柄な守に対し九九式小銃の反動が強かったせいか体が反動に耐えきれずに大きくぶれ弾は外れ敵兵は草むらの中に隠れてしまった

 

「バカヤロっ!だからむやみに撃つなと言ったのに!!」

 

狙撃兵は守に怒る。そしてため息をつき

 

「はぁ・・・・やれやれ。これで敵も迂闊に動かなくなるな・・・・」

 

「俺が言うのもなんだけど、引き上げた方がいいんじゃないか?」

 

「動いたら負けだ」

 

「だが、敵が住処を見つけて武器を見つけたら・・・・?」

 

「・・・・それもそうだな。あそこには迫撃砲もあるからな・・・・ゆっくり歩け。音を立てるなよ」

 

そう言い二人は茂みの中を静かに歩く

 

「簡単には見つからないと思うけどな・・・・・・」

 

そう呟く狙撃兵だが、突如焼け焦げた匂いとパチパチと何かが燃える音がし始める。すると先ほどまでいた住処の大木が燃えているではないか

 

「しまったっ!?」

 

狙撃兵がそう言った瞬間、弾薬に引火したのか大木は爆発し、まるで花火のようにヒュルル、ヒュルル~と花火のような音を上げた。爆発時に伏せていた守と狙撃兵。そして隠れ家が跡形もなくなくなるのを見た狙撃兵は

 

「あんまり弾幕を貯めておくもんじゃないな・・・・・残った財産は体につけた弾薬だけか・・・・・おおむね百六十発ほどか…くそっ!!」

 

悪態つく狙撃兵。すると守はホルスターから拳銃を抜き立ち上がる。

 

「ん?どうしたんだ小僧?」

 

狙撃兵がそう言うと守の前に例の敵搭乗員が拳銃を持って立っていた

それを見た狙撃兵は

 

「ほぉ・・・こりゃ面白い、両方とも自動拳銃だ。やれよ。見ててやるぜ。お前が殺れたら、俺が奴を倒す。両方共とも相打ちで死んだら…まあそれでもいいな。両者ともパイロットだ。両方死ねばありがたい」

 

「「・・・・・」」

 

そう言う狙撃兵に対し両者には緊張が走り守はコルトガバメント。敵兵はルガーP08をぎゅっと握る。それはまるで西部劇のガンマンの決闘のようだった

そして二人はたがいに銃を向けて発砲。二つの銃声がジャングルの中に響き渡った。

そして銃弾に倒れたのは・・・・・・

 

 

敵の方だった

 

それを見た狙撃兵は

 

「銃を抜くのはあいつの方が早かった。だがあいつの弾丸は当たらずお前の弾丸は当たった・・・・コルトかルガー。どちらかと言えば命中精度はルガーの方が上だ、至近距離ではお前は死んでいただが、距離が離れれば、精度の他に射撃手の腕が必要となる。お前の方が敵よりも腕がよかったから。あんたは死なずに済んだんだ」

そう言う狙撃兵は倒れた敵兵を見る

 

「くそっ!こいつのせいで俺の財産がこれだけになっちまったよ。戦車が押しかけてもやれるぐらいの武器があったのに、せっかく集めた食料も含めてみんな吹っ飛んだ」

 

悔しげに言う狙撃兵に対し守は

 

「俺は・・・・百キロ歩いて友軍のところに行くよ・・・・君も来ないか?」

 

「どこへ行っても同じだ。ここに残る。それにここは飛行機のよく落ちるところだ。こんな楽しい狩場はないよ・・・・・で、あんたはいくのか?」

 

「ああ・・・・」

 

「じゃあ、俺の拳銃とお前の拳銃。換えてくれないか?できるだけいいのを持ちたい」

 

狙撃兵は拳銃の入ったホルスターを守に渡す守は自分の拳銃とホルスターを狙撃兵に渡す

 

「こんなんで良ければ・・・・」

 

「こんなの・それはどういう意味だ?」

 

守の言葉に狙撃兵は少し顔をしかめると守は

 

「今は規定で大戦時の物だけど。もしそれがなければもっといい拳銃や狙撃銃を渡したいと思っただけだよ」

 

とそう言うと狙撃兵はむっとした表情になり

 

「いまさらそんなこと言ったってしょうがないだろ!どんな銃も俺には関係ない!旧式だろうが新式だろうが、この九九式とガバメントが、俺にとって最高の武器だ!世界一と信じているんだ!!意地でも信じているからここにいる!いまさら協定の話などしても仕方がないんだ!」

 

そう言うと狙撃兵は99式狙撃銃を手に持ち上げ

 

「いいか!!これはこの世界の中で一番いい銃だ!一番優れた小銃だ!!俺にはこれしかないんだ!だからこれば一番いいんだ!!」

 

今までにない自信に満ちそして大声を上げる狙撃兵に守は

 

「そうか・・・・すまない。じゃあ、俺はいくよ・・・・達者でな」

 

そう言い守は立ち去ると狙撃兵は後ろで

 

「いいか!また飛行機が変になっても二度とここへは下りてくるなよ!!あんたが生きてたせいで俺の手順が狂った!今度降りてきたのがあんたでも撃つかもしれないぞ!!」

 

そう狙撃兵は叫ぶが守はただ黙って歩くだけだったそして狙撃兵はボルトを動かし

 

「俺の射程距離は千メートルだ・・・・・」

 

そう言い守をじっと見る。そして撃たれた敵兵を見るがそこには飛行帽だけだった

 

「しまった・・・・死んではいなかったのか?」

 

そう言うと狙撃兵はどこかへと消えた。そして例の敵兵は腕を押さえながらそばにあった木の棒を拾いこっそりと守に近づいていた。その様子を木の上に登って照準眼鏡で見ていたものがいた

 

「ちっ…あの小僧足が速いな。もう千メートル超えやがったか・・・」

 

照準眼鏡で守を狙っていた狙撃兵は悪態つき代わりに守に背後から近づく敵兵を捕らえ・・・・そして引き金を引いた。そして彼の放った鈍色の7.7ミリ弾は守を襲おうとした敵兵に命中した

 

「っ!?」

 

敵がうめき声をあげた折れることに守は驚き後ろ見るとそこには眉間に穴を開け死んだ敵の搭乗員がいた。そして気の上では

 

「新記録だ・・・・・・あんたにはわかるだろ?」

 

狙撃兵はそう言い鉄帽を脱いだ。その顔は守と歳の変わらない少年であった。

 

「・・・・・・・」

 

守は何か思ったのか暫く黙ってその場に立っていたが、その後再び仲間のいる百キロ先へと歩き始めるのであった

 

 

 

 

 

 

数日後、仲間のところへ戻った守は元の基地に戻りまた二式水戦で哨戒任務についていた。そして数日前に落ちた地点の近くまで来ると。上空から

 

「おい、エーリッヒ!左下の方にヤップの水上偵察機がいるぞ!叩き落してやるぜ!!」

 

と、二機のメッサーシュミットが守の乗る二式水戦を見つけそのうちの一機が急降下するともう一機が

 

「おい!ヴェルター!馬鹿よせ!そいつは偵察機じゃないぞ!ルーフだ!ゼロにフロートを付けた戦闘機だぞ!!」

 

相方が止めるがそれを聞かずに二式水戦へ襲い掛かる。しかし二式水戦は小回りを利かせ相手の背後を取り、銃撃する。そしてメッサーシュミットは二式水戦の銃弾で火を噴いた

 

「エーリッヒ!助けてくれ!!やられた、もうコントロールができない!!・・・脱出する!!」

 

そう言いパイロットは脱出する中、相方は

 

「そいつはプロだ!プロの乗った戦闘機を相手にする奴はバカだ!悪いが助けに行けない神に祈れ!!」

 

そう言いメッサーシュミットは逃げていくのだった。そして脱出したパイロットのパラシュートが開いた。だが、近くの島でその操縦手を狙う者がいた

 

「・・・・・・」

 

引き金を引きはなたれた弾丸はパラシュート降下中のパイロットの額に命中し、パイロットは絶命した。それを見た守は狙撃兵のいる島を見つめ

 

「・・・・・・死ぬなよ」

 

と、一声入れ、その空域を後にするのだった 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

晴風艦内

 

「と、まあこんなことがあったんだよ」

 

「へ~そんな凄腕の人がいたんだ・・・・・」

 

守が話し終えると光が少し驚いてそう言うと順子が

 

「ねえ、マー君。その狙撃兵さんとはまた会ったの?」

 

「いや。会ってないな・・・・もしあったら今頃撃たれてるかもしれないし・・・・・ただ言えることは」

 

守は上を見上げ

 

「あの狙撃兵は・・・・・今でも空を睨んでいるかもしれないね」

 

と、そう答えるのだった



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忍び寄る暗雲、激闘の横須賀

横須賀ブルーマーメイド安全監督室情報調査局

 

ここはブルーマーメイドのすべての情報が保管されている。言わばブルーマーメイドの本部でもある

その場所に一台の車が止まる。そして車のドアが開きそこから現ブルーマーメイドの責任者である宗谷真霜と外国人らしきブルーマーメイドの隊員が降りた。そして二人は入り口まで歩くと

 

「あっ!宗谷一等監督官。ご苦労様です!」

 

「ええ・・・・ご苦労様」

 

入り口を警備する隊員が真霜に挨拶すると彼女も返事をした

 

「それよりどうされたのですか?確か先ほど横須賀女子海洋学校の方へ行かれたと思ったのですが・・・・?」

 

「ああ・・・・・いえ、少しばかり急用を思い出してね。海上安全整備局 のお偉いさん方たちが例の海賊の詳細と例の事件で分かったことをすぐに報告しろと言ってきてね・・・・それで資料を受け取るのとその捕虜を私自ら聞こうと思ってね・・・・・」

 

「そうだったんですか…上もなかなか無茶を言いますね?」

 

「ええ・・・・」

 

そして隊員は真霜の後ろにいる女性に気づく

 

「ところで・・・・・そちらの人は?」

 

「ああ・・・・彼女はドイツのブルーマーメイドの方よ。今回の事件でドイツの軍か・・・・大型教習艦が行方不明と聞いてわざわざ来てくれたのよ。そして例の海賊もドイツ人と聞いて様子を・・・・」

 

「そうですか・・・・・わざわざ日本までご苦労様です!」

 

隊員が敬礼するとドイツの隊員も無言で敬礼した

 

「ところで・・・・・例の捕虜は何処に?」

 

「あ!はい!この施設の取り調べ室にて拘束しています…ただ」

 

「・・・どうしたの?」

 

「はい。実はその三人のうち二人が奥歯に毒薬を隠していたみたいでここに運ぶ途中に船内で・・・・」

 

「そうですか・・・・残りの一人はまだ?」

 

「はい。健在です」

 

「そうですか・・・・では私たちはその場に行きます・・・それと晴風から渡された報告書は・・・・」

 

「あ、はい。そのデータなら確か宗谷一等監察官の部屋のパソコンに入っていると思いますが・・・・?」

 

「・・・・・・ああ…そう言えばそうだったわね・・・・」

 

そう言うと真霜はドイツ隊員を連れ施設の中に入るのだった。そして・・・・

 

「上手く入れましたね・・・・・大佐殿」

 

「当たり前だ。宗谷真霜が今この場にいないことは調べ済みだ。さて…私は取り調べ室に・・・お前はこれで全部掃除しろ・・・・わかったな?」

 

「了解しました」

 

小声で話した後二人は別々に分かれるのであった

 

 

 

 

一方、場所は変わり横須賀女子海洋学校では、本物の宗谷真霜が校長室のドアをノックし、

 

「どうぞ」

 

中から自分の母であり、横須賀女子海洋高校校長の真雪の返答を聞き、校長室の中へと入る。

 

「失礼します」

 

「真霜‥‥あなたがここに来るということは余程のことね」

 

「ええ」

 

真霜は早速、真雪に今日此処へ来た要件を話した。真霜はカバンの中から一冊の報告書を真雪に見せた。

その報告書の表紙には、

 

『密閉環境における生命維持及び低酸素環境に適応するための遺伝子導入実験』

 

と、書かれていた。

それは紛れもなく、文部科学省海洋科学技術機構、海上安全整備局装備技術部、国立海洋医科大学先端医療研究所がRAT(ラット)を使用して行った実験の報告書であった。

真雪はこの実験の報告書に目を通した。

 

「実験艦は深度1500mまで沈降。制御不能。サルベージは不可能‥‥」

 

「‥‥のはずが海底火山の影響で押し上げられて浮上してしまった」

 

「西之島新島。ここは今年の海洋実習の集合地点よ‥‥あっ、そう言えば‥‥」

 

真雪は今回の実習の際、ある事を思い出した。

 

「何かあったの?」

 

「実習直前に教官艦猿島に研究員を乗せる手配をしたわ。西之島新島付近で海洋生物の生態を研究したいという依頼があって‥‥」

 

「でも、その研究員達の目的は実験艦からデータを回収してその後自沈させるためだった‥‥」

 

「貴女の話を聞くとそのようね‥‥」

 

「‥‥」

 

真霜は先日、古庄の見舞いと聴取を取りに至った時のことを思い出した。

古庄の聴取と見舞いを終え、病院の通路を歩いていると、ある病室から話し声が聞こえてきた。

 

『予想をはるかに超える感染力。猿島だけでは済まないかもしれないな』

 

『うちの研究員全員が入院…こんなことになるとは…上にどう報告すればいいんだ!我々の責任問題になるぞ!』

 

『し、知るか!それにあの研究は主任があるところから盗んだ物じゃないか!!』

 

そこは、猿島に便乗していた研究員が入院している病室だった。

そして、先程の会話‥‥

真霜は研究員達が何らかの事情を知っていると判断し、その部屋へと入った。

 

「随分と、面白そうな話をしていますね」

 

「「っ!?」」

 

突然の真霜の登場に狼狽える研究員。

 

「さっきの話詳しく聞かせてもらえるかしら?」

 

ダークオーラを纏い、研究員へと詰め寄る真霜。やがて、研究員達は今回の騒動の発端となった実験の事を喋った。

 

「それで私が独自に調査したんです」

 

「RAT‥‥」

 

「海中プラントで偶然生まれた生物に彼らがつけた名称です。この生物が媒介するウィルスは生体電流に影響を及ぼします。そのため感染者同士は一つの意思に従い行動する」

 

「一つの意思…まるで群体ね。蟻やミツバチみたいな」

 

「ええ。だから記憶があるのに行動が説明できない‥‥古庄先輩の記憶があいまいなのはこのためだった‥それに付近の電子機器が狂う原因もこの生体電流の影響です」

 

「付近の電子機器が狂う‥‥じゃあ、東舞校の教官艦が電子機器と誘導弾が全て機能不全を起こしたのって‥‥」

 

「このRATのせいかもしれないわね」

 

「でも、手は残されているわ」

 

「えっ?」

 

「晴風から報告書が届いたわ。この生物が媒介するウィルスあり。試作した抗体を送るので増産されたし、と」

 

「抗体を学生が?」

 

「晴風には鏑木美波が乗っているのよ」

 

「え?あの海洋医大始まって以来の天才?」

 

「飛び級でまだ海洋実習をしてなかったから今年済ませたいと言われてね」

 

「変わり者とは聞いていたけど…でも助かりましたね」

 

「感染後の経過時間が短ければ海水がウィルスに対し有効と推測される。しかし時間経過と共にウィルスが全身に行き渡った場合抗体の投与のみが効果的と思われる」

 

「それと、もう一つ厄介なことが・・・・」

 

「例の集団のことね?」

 

「ええ・・・・実はそのウィルスはもともと連中が開発していたことが分かったのよ。それを研究主任が盗み・・・・」

 

「今回の事件に発展・・・・それでその集団の正体って・・・・」

 

そう言うと真霜はもう一つの資料を私は

 

「これはマーちゃんが渡してくれたものよ・・・・」

 

「守君が?・・・・」

 

そう言い真雪はその資料を見る。それは今回の事件の黒幕についての資料だった・・・・

 

「『アーネンエルベ』・・・・かつて守君のいた世界で世界大戦を引き起こしたナチスの研究機関・・・・・」

 

真雪は資料を読み続けた。ナチスの歴史、そしてアーネンエルベの歴史・・・そして守のいた世界での第二次、第三次大戦のナチスドイツの行動など事細やかに書かれていた・・・・

 

「まさかそんな集団が存在していたなんて・・・しかもその集団がこの世界に・・・」

 

「ええ…私も驚きだけど。確かな情報だわ…現にその工作員を拘束しているわけだし・・・・」

 

「その人物から何か聞き出せたの?」

 

「いいえ・・・何もしゃべらないわ・・・・ただわかることはその連中がこの世界で何かを引き起こそうとしていることは確かよ」

 

「・・・とにかく今は例のウィルスを何とかしないとね」

 

「急いで抗体の量産を始めます」

 

「そうね、そうして頂戴」

 

真雪は急ぎ、抗体の量産を依頼した。すると真霜の携帯から電話が鳴る。真霜がそれに出るとそれは先ほど偽真霜と話していたブルーマーメイドの隊員からだった

 

「どうしたの?」

 

『あっ!宗谷一等監察官!先ほど言い忘れたことが・・・・実はドイツから来た人についてと例の報告書についてですけど・・・・』

 

「言い忘れたこと?・・・・それにドイツって・・・・何の話?」

 

『え?だって先ほど、ここにドイツからやってきたブルーマーメイドの隊員と一緒に本部に入ったじゃないですか?』

 

「あなた何を言っているの?私は今、横須賀女子に・・・・・・」

 

真霜が言いかけたとき、真霜と真雪は

 

「「(まさか・・・・っ!!)」」

 

すぐに状況を把握した

 

『あの・・・』

 

「いえ、なんでもないわ。すぐにそっちに行くからあなたはそのドイツの隊員を客間へ連れて来て」

 

『わ、分かりました・・・・』

 

隊員の返事に真霜は電話を切る

 

「お母さん!!」

 

「ええ!!」

 

そう言い二人は部屋を出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻りブルーマーメイド本部では・・・・

 

取調室

 

「いい加減話してください・・・・」

 

取調室では一人のブルマーが捕虜にした例の工作員を尋問していたが相手は一切喋らずほとほと困り果てていた。するとドアからノックがし

 

「監督官の宗谷です」

 

そう言い真霜が入ってきた

 

「私もそこの人から話を聞きたいのだけど少しいいかしら?」

 

「はい。ご苦労様です」

 

真霜は、工作員から話を聞く為、しばらく2人だけにして欲しいと頼み、ブルーマーメイド隊員もそれを受け入れ、退出する。そして二人だけになると偽真霜は

 

『・・・・ずいぶん情けない姿をさらしてくれたな・・・・』

 

ドイツ語で工作員に言うと工作員は目を見開き冷や汗を流した

 

『そ…その声は大佐殿・・・・・・』

 

震える声でそう言う工作員に偽真霜は彼女に近づき、鞭を取り出し顎に軽く当てる

 

『間抜けっ!!・・・・・本来はお前を消す所だが、ヴェアヴォルフ作戦には一人でも人員が必要だ・・・・・今回だけは助けてやる・・・わかったか!!』

 

そう言うと偽真霜は彼女の拘束具を鞭で破壊した

 

「来い・・・・それとこれに着替えろ」

 

そう言い偽真霜は工作員にブルーマーメイドの服に着替えさせ。部屋を出るのだった。そして例のドイツのブルマー・・・・大尉と合流した

 

「・・・爆弾は設置したか?」

 

「はっ!例のことについて書かれたデータとウィルスの抗体のデータがまとめられた資料室にて設置完了です。それで・・・宗谷真霜の部屋にあるというデータは」

 

「ふん…すでに消去してある。お前たちは先に戻っていろ・・・・」

 

「「はっ!」」

 

そう言い二人は先に車に乗りその場を去るのだった。そして残った偽宗谷真霜は

 

「ふっ・・・・データを処理すれば・・・・我々の計画は万事うまくいく・・・・・」

 

そう笑うと・・・・・

 

「そんなにうまくいくかしら?」

 

「っ!?」

 

背後から声がし、振り向くとそこには真雪が立っていた

 

「お母さん!!」

 

「もうお芝居は止めた方がいいわよ真霜・・・・いいえ。アーネンエルベの工作員と言った方がいいかしらね?」

 

「わ、わたしは・・・・」

 

少し驚きながらも真雪の言葉に答えようとする偽真霜だが

 

「もうネタはばれているのよ・・・・・見なさい」

 

と、指をさす方向に偽真霜は見ると

 

「なるほどね・・・・これなら他の隊員が騙されるわけね・・・・・気味悪いほど似ているわ」

 

そこから本物の宗谷真霜が現れた

 

「・・・・貴様どうやってここに」

 

「さっきあなたが入り口の前で話した隊員がいたでしょ?言い忘れたことがあったからと私に電話をかけてきたのよ・・・・詰めが甘かったみたいね」

 

真霜の言葉に偽真霜は

 

「ふふ・・・・・ははははは!!!」

 

と、大きな笑い声を出す。そして彼女らを見て

 

「ばれた以上、こんな顔は御用済みだ!!」

 

そう言い偽真霜が制服を脱ぎ捨てるとそこには親衛隊服を着た眼帯の女性が立っていた

 

【挿絵表示】

 

 

「なっ!あなたは・・・!?」

 

「ふふ・・・・改めて自己紹介させていただこう・・・・・ドイツ第四帝国武装親衛隊にて研究機関『アーネンエルベ』の武装部隊「SHOCKER」指揮官・・・・・親衛隊大佐のハイルヴィヒ・イイノデビッチ・ゾル。人は私を『ゾル大佐』と呼ぶ・・・・」

 

「あなたが例の事件の!!」

 

「その通りだ・・・・まあ、あの研究員が盗み出さなければここまで大きくはならなかったがおかげでこちらの実験ができる・・・・・」

 

「実験ですって?」

 

「そうだ・・・・この際だから教えてやろう。我々の目的は我々の世界の大戦にて開発中の生物兵器・・・・それらに出されるウィルスや音波によって人間を戦闘人間として操ることだ・・・・人間は必ずしも心がある・・・・そして戦闘の中、死の恐怖を感じれば恐れ戦えなくなる。だがそれを除けばどうなる?」

 

「…あなたまさか!!」

 

真雪が何か気づくとゾルは笑い

 

「お察しの通りだ。それさえ取り除き、そしてとある命令を出せば感染者は命令通りに動く・・ただ何も感じず罪悪感もない一人一人がただの兵器となる・・・それがヴェアヴォルフ作戦だ!!」

 

「狂っている…あなた人間じゃないわ!!」

 

「ふふ…それはこの私にとっては誉め言葉だ・・・それと狂ってると言ったが、世の中は常に狂った連中が国を・・・世界を作り続けているというのをお忘れかな?君たちの乗っている船。そして学生たちが乗っているのも元をただせば戦争の道具・・・・狂った者たちが作った産物であり、そして今いる海洋女子学生もいわば、いざ戦争になったときの兵士として育成する産物だ・・・・」

 

「私たちはそんなつもりはないわ!!」

 

「君個人はそうでも世界情勢がそれを許さないだろう…現に我がヴェアヴォルフ作戦で感染した。海洋学校の生徒たちは実にいい実験材料だ・・・・兵器として申し分ない」

 

「黙りなさい!!絶対にあなたを止めて見せるわ!!!」

 

真霜がそう言うとゾルは

 

「では訊こう。宗谷一等監察官。君は我々を探るためにブルーマーメイドの隊員を送ったが…なぜ彼女らは一人として戻ってこない?」

 

「・・・・・まさか!!」

 

「そう・・・お察しの通り、我々がすべて始末し海の底に散ったからだ。戦争を知らない、たかが警備隊ごときが戦争を経験し激戦を潜り抜けた精鋭部隊に勝てるわけがないだろう…愚かな」

 

「・・・・この!!」

 

そう言い真霜はゾルを捕まえるべく向かうが

 

「ふふ…私の名を聞き・・・素顔を見たものは必ず死ぬ!!」

 

ゾルはそう言うと持っていた鞭で真霜の顔を思いっきり叩き、真霜は倒れる

 

「きゃあ!!」

 

「真霜!!あなた!!」

 

真雪はゾルを睨むが、ゾルは手に何かのスイッチを持ちそれを押すと、建物から爆発音が聞こえた

 

「っ!?」

 

そのことに二人は驚く。すると中からブルマーの慌てた声とホースで水が出て消火作業をしているのが見えた

 

「ふふ・・・・これで例の資料やウィルスの抗体についての資料は消えた・・・・・今回はあいさつに来ただけのためここらへんでお暇しよう・・・・・ああ、それとだ我々の秘密を知った晴風とその乗員には近々消えてもらう」

 

「何ですって!?」

 

「では・・・・・auf nimmer Wiedersehen」

 

そう言うとゾルは再びスイッチを押し、また建物から爆発が起きる。そしてゾルは爆発の混乱の中、隠し持っていたジープに乗り込み逃げ出すのだった。

 

そして消火作業の中、真霜と真雪は

 

「それで真霜・・・データの方は・・・・」

 

「抗体の一部の資料は海洋研究の方に残っているわ・・・・でも残りは」

 

「そう・・・・・それにしても恐ろしい組織ね・・・・簡単にはいかなそうね」

 

「ええ・・・・それよりお母さん。ましろやマーちゃんの乗る晴風が・・・・」

 

「分かっているわ・・・・・無事だといいんだけど」

 

二人はゾルの言ったことに不安を抱えるのであった。そしてその不安は的中することになるのだった



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霧の戦艦です

ブルーマーメイドの本部を爆破したゾル大佐は

 

「さて・・・・・そろそろか・・・我々の放った偽情報で晴風が動くころだな」

 

「それで大佐。我々も晴風の始末に行くべきですか?」

 

「いや。始末するのは我々ではない・・・・・駆逐艦程度なら戦艦で十分だ」

 

そう言うとゾルはにやりと笑い

 

「皮肉なもんだだな・・・・生徒を救うために動く晴風が同じ学校の生徒に始末されるんだからな・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、晴風では

 

「お~い。麻侖。ここのバルブはこれぐらいでいいか?」

 

「どれ?・・・・・・おう!ちょうどいい具合にしまってるな!」

 

守は今、機関室で麻侖と一緒に機関の整備の手伝いをしていた。

 

「ほんと助かるわ守君。ここのバルブ結構力がいるから」

 

と、洋美も彼に礼を言う

 

「いやいや。俺、いわば居候みたいなものだし、何か手伝いしなくちゃ居心地が悪かったからさ」

 

笑顔で返す守。守はこの船で世話になっている最中、いろんなところの手伝いをしていた。特に機関科では力仕事が多いため機関科を手伝うことが多かった。そのため守は機関科の子たちと仲が良かった。特に機関長である麻侖とは彼女が入学前に出会った友人であり一番仲がいい間柄だった

 

「そう言えばマー君て・・・元の世界では軍人さんで、あの飛行機?だっけ其に乗ってたって前に聞いたけど・・・何年乗ってたの?」

 

留奈が守にそう言うと

 

「そうだな・・・・訓練期間を含めると3年・・・実戦だったら約二年ぐらい飛んでいたな・・・・思えばずっと飛行機と一緒だったな」

 

「ずっと・・・二式水戦に?」

 

「いや、二式水戦に乗り始めたのはこの世界に来る2か月前だよ。それ以外は零戦に乗っっていたよ」

 

「「「「零戦?」」」」

 

守の言葉に皆は首をかしげると

 

「零戦ていうのは零式艦上戦闘機の略で、簡単に言えば二式水戦に足付けた機体だよ・・・・はいこれ」

 

そう言い、守はスマホで撮った写真を見せる。それはラバウル時代のころの写真だった。一機の零戦に守を含む7人の搭乗員が写ったいわば集合写真であった

 

「これが零戦てやつか?」

 

「ああ。零戦22型・・・俺が長く乗っていた機体だよ」

 

そう言い懐かしむように写真を見る守。守は二式水戦意外だと、零戦の22型や52型。もしくは紫電に乗っていたことがあったが、一番長く乗っていたのは22型だった

 

「ふ~ん・・・・そう言えばマー君の他に写っている人って・・・」

 

「ああ、ラバウル時代の仲間だよ。みんないいやつばかりだったよ・・・・・」

 

「だった?・・・・・ということは」

 

洋美が守の言葉で何か察すると守は頷き

 

「ああ・・・・・アジア航空戦の中で最大の戦いだったポートモレスビー攻略作戦でみんな死んだよ・・・・写真の中で生きのこったのは俺だけだった・・・・」

 

守は思い出す。ナチスのアジア最大拠点であるポートモレスビー。その血を奪還するべく海、陸、空と激しい激闘が繰り広げられていた

「ごめんなさい・・・・」

 

「いいや。黒木さんが謝ることじゃないよ。戦争だったんだし・・・・皆覚悟の上だったんだからな」

 

そう言うと守はスマホをしまい

 

「それじゃ・・・・麻侖。俺はそろそろ行くよ」

 

「ああ・・・そういや、二式水戦で偵察飛行に行くって言ってたな?」

 

「ああ。なんでもこの海域近くで武蔵を見たって情報がブルマーから来たって話だ。それで確認のため俺が飛ぶことになったんだよ」

 

そう実は数分前に、ブルマーから晴風周辺近くで武蔵らしき艦艇が目撃されたという情報が入ったため晴風はその海域に向かうことになった。そして守はその海域に武蔵が航行しているか、確認するべく二式戦闘機に乗り偵察に出ることを明乃たちに進言したのだ

 

「そっか~がんばれよ!」

 

「おうよ!」

 

と、マロンと守はハイタッチし、守は機関室を後にするのだった。

そして麻侖は・・・

 

「無事に戻れよ・・・・守」

 

守が見せた写真を見たせいか、嫌な予感を感じたのか麻侖は友人である彼を心配するように小声でそう言うのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それでは行ってまいります!岬艦長!!」

 

甲板で飛行服に着替えた守が岬や姉であるましろに敬礼しそう言う。そして海面では晴風から降ろされた二式水戦が浮かんでいた

 

「お願いねマー君・・・・でも怪我しないようにね」

 

「それに武蔵から攻撃を受けたらすぐに引き返せ。いいな守」

 

「大丈夫ですよ。この世界に対空戦闘の概念はないし、こっちの巡航速度は500キロ出せる。撃ってきてもすぐに回避し振り切ってみますよ・・・・それに俺にはこのお守りがあるから必ず戻ってきますよ」

 

守はそう答えると、胸に下げているロケットをましろに見せる。それは9年前にましろが守にプレゼントとして挙げたものだった。それ以来守はこれをお守りにして大切に持っている。守はましろを安心させるよう笑顔を見せ、そして二式水戦に乗り込むと、守はエンジンを始動させ、飛び立つのだった

 

「守・・・・・・」

 

飛びだった二式水戦をましろは見えなくなるまで、見送った。そして何か胸がズキズキする痛みを感じた。それは何かしら嫌な予感を感じていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・雲が出てきたな」

 

晴風から飛び立って、しばらくすると先ほどまで快晴だった空が突如曇り始めてきた。そして雲の間、間を飛んでいるうちに気流が乱れているのか翼がガタガタと震えていた

 

「いやな天気になってきた・・・・・これじゃあ補足もできないし・・・・しょうがない雲の下を飛ぶか」

 

守はこの状態では危険と判断し高度を下げる。すると今度は霧の中だった

 

「霧の中・・・・これじゃあ、雲の上を飛んだ方がましだったかな・・・・・」

 

ぽつりとつぶやく。どっちにしても今現在は見えずらい状況なのは変わりはなかった。すると無線から

 

『マー君。どう?何かわかった?』

 

無線から明乃の声が聞こえ、守は無線機を取り

 

「こちら守。今、現在のところ霧のせいで艦影は見え・・・・・・ん?」

 

無線連絡中に守はちらっと何かを見つけた

 

『どうしたのマー君?』

 

「今、航跡らしきものが見えました。武蔵の可能性があるため追って・・・・・」

 

そう言いかけた時、突如無線機から大きなノイズ音が響いた

 

「ん?明乃艦長?・・・・・ダメだノイズ音で無線がつながらなくなった・・・・・とすると近いな」

 

守は今までの体験で例のウィルスに感染した船の近づいた時は皆通信機がノイズを発し電波障害を起こし通信できないことを知っていたため、感染した船がすぐ近くにいると判断した

 

「この濃霧だ。衝突しないように慎重に飛ぶしかないな・・・・」

 

守はスロットルレバーを動かし、速度を400まで落とした。これは万が一船と急接近してもすぐに回避行動に写れるための行動だった。すると目の前に大きな影が見えた

 

「っ!?」

 

守は急いで操縦桿を引き、その影を避けた

 

「なんだ!?」

 

守は旋回し、その影を見た。

 

「(形からして武装艦・・・・戦艦クラス・・・艦種は)」

 

大きさからみて戦艦だということが分かったが、それが武蔵なのかはわからなかった。

 

「(少し危険だが近づいてみるか・・・・対爆撃機の度胸試しが役に立つかも!!)」

 

守はスロットルレバーを最大にしてその船に近づいた。そして、近づくにつれその船の艦橋がはっきりと見えてきた

 

「(あの艦橋・・・・・あれって!!)」

 

守はその姿を見た瞬間、こちらに気づいたのか、甲板にある機銃でこちらに向けた生徒を見た

 

「(まずい!!?)」

 

守は回避するため艦橋と煙突の間をすり抜けようとした。そのまま旋回すれば弾丸が当たると判断した結果だ。そして艦橋と煙突の間をすり抜けようとした時、艦橋で機関銃を向けた生徒を目撃した

 

「っ!!?」

 

守が驚く中、生徒が機銃を撃ったが守はそのまま、艦橋と第一煙突の間をすり抜けた。普通ならぶつかる危険性があるため、こんな芸当は難しいが、爆撃機相手に急降下攻撃をするため一番的とぶつかる可能性があるエンジンをあたりをすり抜ける「前上方背面垂直攻撃」をよくしていたため、難なくすり抜けることに成功したのだ

 

 

 

 

 

 

 

『マー君!大丈夫!返事して!!』

 

『守!』

 

例の船から離脱した守は無線機から明乃とましろの声がするのに気づき無線を取った

 

「こちら守」

 

『マー君!突然ノイズが出て聞こえなくなったから心配したよ?』

 

「すまない・・・・例のウィルスに感染した船と遭遇してその時の妨害電波で通信ができなくなっていた」

 

『え!?船って・・・・武蔵?』

 

「いや・・・あの艦橋からして・・・・とにかくすぐに晴風に戻ります」

 

『守!怪我はしてないか!?』

 

ましろの問いに守は

 

「機銃に撃たれたけど大丈夫だ・・・ただ弾丸が翼に当たって少し煙吹いてる」

 

守は左翼を見ると機銃の弾が当たったせいか白い煙が吹いていた。そして

そして守はすぐに晴風のもとに帰るといい無線を切った

 

バルルル・・・・

 

少ししてエンジンも息をつき始めオイルが漏れているのにも気づいた

 

「・・・・・・持つかな・・・・いろいろと」

 

守はそう小さく呟く、だが問題はエンジンだけではない。守はあの時、嘘をついた。ましろには無事だと言っていたが、守の脇腹は赤黒く染まって血が流れていたのだった



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負傷

「マー君・・・・遅いね」

 

晴風の艦橋の中、鈴は小さく呟く。彼が飛んで、もう3時間以上がたとうとしていた。そして最後に無線連絡があったのは一時間半前、それ以来通信もなく、そしていまだに守の乗る二式水戦は戻ってきていなかった。

 

「守・・・・・」

 

「シロちゃん・・・・・」

 

艦橋の窓から心配そうに空を見るましろに皆は何も言えなかった・・・・

すると・・・

 

『帰ってきました!!左前方!上空に機影確認!!森君の乗った飛行機です!』

 

「「「っ!!?」」」

 

艦橋見張り台にいる野間の声に皆は外を見る。すると、青い空からエンジンの鳴り響く音が聞こえてくる。そしてそこから白い飛行機。

 

「マー君だ!」

 

「帰ってきた!!」

 

皆は嬉しそうにそう言う。その飛行機は紛れもない守の乗る二式水戦だった。だが・・・・

 

バル・・・バルル・・・・

 

「ちょっとあれ・・・・煙吹いてるよ!?」

 

「もしかして撃たれたの!!」

 

戻ってきた二式水戦の左翼が煙を吹き、プロペラも回転が止まりそうになっていた。それどころかエンジンも黒い煙が小さく漏れていた。

そして二式水戦はふらつきながらも晴風の近くに着水した。

 

「鈴ちゃん!船よせて!!」

 

「は、はい!!」

 

状況を見て明乃はすぐに晴風を二式水戦に寄せる。そして艦橋にいたみんなは二式水戦へ向かう

するとキャノピーが開き、守はふらつきながらも晴風に乗りあがると、

 

「艦長・・・・艦長はいますか?」

 

力のない声で明乃は何処にいるか言うと

 

「マー君!」

 

「守!!!」

 

皆が守のもとに集まると、守は明乃やましろに敬礼する

 

「た…ただ今戻りました・・・・・11:00・・・・濃霧の中・・・・大型艦を発見・・・・・場所・・・・xx地点・・・速度は約・・・・」

 

たどたどしく言う守、その表情は若干青くなり息も荒い

 

「守・・・どうしたんだ?」

 

「もしかしてどこか悪いの?医務室に行った方が・・・・」

 

「いえ・・・報告が先です・・・・それでその艦種は戦艦級・・・・大型直接教育艦・・・・・・ひ・・・・・・えい」

 

そう言うのと同時に守は甲板に倒れた

 

「マー君!!」

 

「守!!!」

 

守が倒れたのを見て皆、守のもとへ駆け寄り

 

「守!!どうしたんだ!!守!!」

 

ましろが抱え上げ守の名を呼ぶ。だが、彼は返事をする子ことはなくただ息を荒くしていた。その時

 

「っ!?」

 

彼の脇腹に何か濡れた感触を感じ、その手を見るとその手は真っ赤に染まっていた。そして改めて守の脇腹を見ると赤黒く染まっていた

 

「守・・・・お前、撃たれていたのか!?」

 

傷の状況からかなりひどいのは見てわかった。すると・・・

 

「ぐっ!!」

 

「っ!?」

 

守の顔が歪み息が先ほどより荒くなっていた

 

「マー君!!酷い怪我!!」

 

「マー君!!どうしよう・・・・急いで美波さんを!!」

 

かなり危険な状態だと感じた明乃たちは急いで守を医務室に運ぶのだった・・・・・

 

 

 

 

 

 

「こりゃ、ヒドイな・・・・」

 

麻侖が顔をしかめた…あの後、守は医務室に運ばれ、守の二式水戦は引き上げられ、マロンたち機関科は二式水戦の状態を見ていた

二式水戦は左翼と操縦席に無数の穴が開いていた。そして操縦席の中は血だらけであった

 

「守も・・・3時間以上の長い時間、よく飛行で来たな・・・・・」

 

麻侖が二式水戦を軽く触り深刻そうな顔をする・・・・

 

「麻侖・・・・・これ、7.7ミリ機銃の痕?」

 

洋美は胴体に空いた穴を見て、驚愕した顔をする

 

「ああ・・・・守の奴もまさか大型直接教育艦を相手にするなんて…思わなかっただろうな・・・・守・・・・・・勝手に死ぬなよ、バカ野郎」

 

麻侖は思わず涙ぐんで口にした・・・・・

 

 

 

 

 

医務室では

 

「美波さん!マー君は助かるの!!」

 

医務室では美波が守の容態を見ていたところに明乃とましろたちがそう訊くと

 

「出来ることはした・・・・・正直言って生きていたのが奇跡としか言いようがない」

 

そう言うと、美波は一枚のジャケットをましろたちに見せる。それは守の着ていたジャケットだった。そしてそのジャケットは前後に穴が開いていた

 

「服を見たが弾丸脇腹を通って貫通していた。普通なら死んでいてもおかしくはないただ・・・・・」

 

そう言い美波は守の持っていたロケットをましろに見せた。そのロケットは歪んでいた

 

「美波さん・・・これは」

 

「これのおかげで威力が弱まったのと弾道がずれて、心臓や内臓に傷をつけるのを防いだみたいだ」

 

「これの・・・・」

 

ましろはロケットを見て涙ぐむ。そのロケットはましろが守にプレゼントしたものであり、守はそれ以降大切なお守りとして持っていた物だ

 

「じゃあ・・・・美波さん。マー君は助かるの?」

 

明乃がそう訊くと美波さんは

 

「正直言って血の出血量が多く輸血が必要だったが、副長のおかげで事なきを得た・・・・あとは安静にさせた方がいい・・・・」

 

そう。守は運ばれたときは出血多量で危険な状態ですぐに輸血する必要があった。その時ましろが

 

『守と私は同じ血液だから、私の血を使ってくれ!!』

 

と、いい自分の腕を差し出し美波にそう言い、美波は輸血機材を持っていたためすぐに輸血作業が行われ事なきを得た

 

「今、彼の体を流れる血の4分の1は…副長の血だ・・・・・一応は大丈夫だ」

 

美波の言葉にましろはガーゼが張られた腕をさすった。そしてましろは守を見る腹に包帯を巻いた守は先ほどの苦痛の表情はなくどこか安らかに小さく呼吸していた

 

「よかった・・・・・よかった・・・・」

 

「シロちゃん・・・・・・」

 

大粒の涙を流し安堵するましろに明乃も若干安心した表情をする。ましろはしばらく守の手を握り看病をしていたが、何時までも医務室にいる訳にもいかず、後ろ髪を引かれる思いでましろと明乃は艦橋へとあがった。

 

「艦長、副長。マー君は大丈夫なの?」

 

芽衣が心配そうに訊くと

 

「うん・・・・美波さんの治療のおかげで」

 

明乃の言葉に皆はホッとする中、明乃は

 

「シロちゃん・・・・ごめんね」

 

「艦長が謝る必要はありません・・・・・・艦長のせいじゃないんですから・・・・あの時私が・・・」

 

謝る明乃にましろは首を横に振る。あの時、いやな予感を感じていた。だから無理にでも守を止めていれば…そう思う自分がいた

ましろは自責の念を感じていた。

 

「そう言えば・・・・マー君。大型直接教育艦に発見したて言ってたけど・・・・もしかして武蔵・・・・」

 

明乃は守が親友の乗る船に撃たれたんじゃないか・・・そう思い、自分を責めた。もし飛行偵察をお願いしなければ、こんなことにはと・・・・・

 

 

 

 

 

晴風、見張り台

 

「はっ!?」

 

一方、見張り台で見張りをしていたマチコが前方から一隻の艦影を発見する。

更に電探もその姿を正確に捉える。

 

『新たな目標を確認!!』

 

『正面に艦影!』

 

『新艦種!!』

艦橋には、艦影発見の報告が続々と齎され明乃、ましろは、双眼鏡でその艦影を見る。

 

「艦橋形状から武蔵と思われます!?」

 

更に見張り台のマチコから接近してくる目標の艦橋形状から大和型独特の艦橋だっと視認し、武蔵だと断定する。

マチコからの報告を聞いた明乃は、唖然とする。

 

「ど、如何しよう・・・回避? 」

 

「撃っちゃう?てか、これ撃たれたらヤバイよね、これ?」

 

「うぃ・・・」

 

武蔵だと判明したせいか、3人は、如何すれば良いか迷う。

 

「・・・・武蔵・・」

 

明乃もボ~としている。

 

「艦長、余裕で向こうの射程に入ってます!? 」

 

「当たったら一溜りも無いぞ!!」

 

「あっ!?・・・と、取舵いっぱ~い!!340度ヨーソロー!!」

 

ミーナとましろに言われて、明乃は、急いで回避命令を出す。

 

「取舵いっぱ~い!!、340度ヨーソロー!!」

 

明乃に従い、鈴は、左へと回避行動を取る。

そんな時、思わぬ報告が電探室から齎される。

 

『目標、距離13マイル!!』

 

「13マイル!?そんなに近い筈は‥‥」

 

電探室の慧からの報告を受けたマチコは、艦影が武蔵に比べて余りに小さく近くに居る事に驚き、もう1度、正確に視認しようと見張り台の上に登り目を凝らしウィングから身を乗り出す。

すると・・・・・

 

「武蔵?・・・じゃない・・・二連装砲主砲!!・・・金剛型!!」

 

何とマチコが見た艦影は、武蔵ではなく、金剛型高速巡洋戦艦だった。

 

『金剛型右30度、方位角70度、進路変わらず』

 

見張り台のマチコから武蔵ではなく、金剛型高速巡洋戦艦だと報告が入り、明乃、ましろは、目標を見る。

 

「あれは、うちの学校の比叡!? 」

 

ましろは、目標を見て、相手が金剛型の大型直接教育艦比叡だと視認し、そしてあれが守を撃った船だと確信するのだった・・・・・・・



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比叡でピンチです前編

4月26日
トラック諸島沖で偵察飛行に出た守は霧の中、行方不明となっていた戦艦・・・・いや大型直接教育艦比叡と遭遇した。
しかし、守の乗る二式水上戦闘機は比叡艦橋に設置された九二式七粍七機銃の銃弾を浴び被弾し、守自身も被弾する。
三時間の飛行末、守は晴風のもとへ帰ることができたが、比叡に撃たれた際の傷があまりにも深く、艦内で倒れる。
だが、晴風の衛生長及び保健委員である鏑木美波の治療とましろの輸血のおかげで命を取り留める
だが、安心したのもつかの間、晴風の前にゾル大佐らナチスによって操られ晴風を亡き者にせんと、比叡がその姿を晴風の前に表したのであった・・・・・


(ナレーター・納沙幸子(仁義のないナレーション風))


「遠くから見ると武蔵そっくりですね・・・でも大きさが全然違いますし・・・野間さんもそのせいで距離感が狂ったのでしょう。」

 

幸子は、タブレットで武蔵と比叡の艦データを見比べていた。確かにマチコが見間違えるのもしょうがない。

戦艦比叡は、金剛型2番艦にして、改装時、大和型のテストとして似た艦橋を設置され遠目で見れば、武蔵と比叡を見間違えるのは、当たり前だ。

 

「行方不明になっていた比叡がこんな所に居たとは・・・」

 

ましろは、西之島新島で消息を絶っていた比叡がこんな南の海域に居た事に驚いていた。そして・・・・

 

「(守は…あの船に・・・・)

 

ウィルスに感染されてたとはいえ、可愛がっている弟を撃ち怪我させた相手に怒りがこみ上げそうになる…だが、ましろはいたって冷静だった。なぜなら先ほども言った通り。あの船は例のラットによって感染している。いわば事故に近い物だ。心の底ではわかってはいるが何とも複雑な思いだった。

 

「ミャン~」

 

「あっ!?」

 

複雑な感情を抱く中、突然、後ろから鳴き声が聞こえてきて、ましろは、後ろを向く。

 

「ミャン・・・・」

 

すると、其処には、多聞丸が皿の横に座り、餌をくれとおねだりしていた。

 

「あぁ・・・分かった、分かった。」

 

ましろは、慌てて餌を揚げる。

 

「比叡の位置と進路を学校に連絡して」

 

明乃は、直ぐに比叡の位置と進路を横須賀女子海洋学校に連絡するよう指示する。

だが次の瞬間

 

『比叡発砲!! 』

 

「何だと!? 」

 

「うっ!?」

 

突然、比叡が晴風目掛けて、砲撃してきた。

 

「緊急回避!!最大船速!!取舵一杯!!」

 

「取舵いっぱ~い!!」

 

晴風は、急いで左に舵を切り、砲撃を回避する。だが、比叡は容赦なく砲撃を続ける。

 

「学校からの指示は? 」

 

「ブルーマーメイドの派遣要請をしてくれました・・・到着は4時間後、それまで可能な限り比叡を捕捉し続けよ・・・但し、晴風の安全を最優先にとの事です。」

 

横須賀女子海洋学校からは、比叡に対して、ブルーマーメイドに応援を要請しているが、到着は、4時間も掛かるので、それまで晴風は、比叡を見失わない様に捕捉し続けよと指示を受ける。

 

「補足・・・・・」

 

明乃は小さく呟く。相手は36センチ砲を積んだ戦艦。晴風みたいな駆逐艦などは、一撃で撃沈出来る。逆に晴風の手法では比叡に傷すらつけることは出来にくい

その為、比叡の捕捉は、命がけである。

皆が深刻そうな顔をする中・・・・

 

「ん?・・・・あっ!!」

 

隣のましろがある事に気づく。それは、多聞丸が今度は、艦橋で便を出そうとしていからだ。

 

「ああ!?トイレは其処じゃない!? 」

 

ましろは、急いで多聞丸を便所へと連れて行く。

 

「・・・リンちゃん、距離をとって大きく回り込んで比叡の後ろについて・・・」

 

「はい! 」

 

鈴は、明乃の指示に従い比叡との距離を離し回り込む。

 

「撃ってきたという事は、比叡も例のウィルスに・・・」

 

「うん、感染してるんだと思う・・・・武蔵と同じ様に・・・」

 

比叡の行動を見て、2人は、比叡が例のウィルスに感染していると推測した。

そんな時

 

「待ってください!!」

 

隣で周辺の海域情報を調べていた幸子がある事に気づく。

 

「比叡がこのままの進路、速度で航行すると・・・3時間後には、トラック諸島に到達します!! 」

 

『えっ!?』

 

何と比叡が向かう場所には、最大の要所、トラック諸島があった。

 

「トラックって・・・確か?」

 

「はい、居留人口1万を超えます・・・おまけに海上交通の要所なので1日平均千隻の船が出入りします。」

 

「ブルマーの到着は4時間後。間に合う可能性は低い」

 

ミーナがブルーマーメイドが間に合わない事を示唆する。

 

「もし、比叡がトラックへ入り、そこからウィルスが拡散したら‥‥」

 

鈴が最悪の事態を想像する。

 

「トラックの船舶利用から予測すると、世界中にこのウィルスが広がる‥‥私達で比叡を止めないと」

 

「具体的にはどうするつもりじゃ?」

 

ミーナが明乃に比叡の対処を尋ねる。

 

「晴風に引きつけてトラックへの航路から逸らせば・・・」

 

明乃は、自ら晴風に比叡を引き付けて、トラックへの航路から逸らす・・・つまり晴風が囮になると言う事だった。

 

「追尾と比べると被弾の危険性が格段に上がりますが、それでもやりますか?」

 

ましろの問いに明乃は

 

「うん・・・・それにシロちゃんも答えは出ているんでしょ?」

 

明乃の言葉にましろは静かに頷き

 

「はい・・・・守が命を懸けて偵察して見つけてくれた・・・・守の行動を無駄にしたくない」

 

「うん。それに足はこっちの方が早いし何とか、なると思う。」

 

明乃も同意する。

 

「ですが、これは追尾と比べると被弾の危険性が格段に上がる。次に砲撃戦で比叡を航行不能にするしかありませんが・・・・最悪沈没させることになっても・・・・」

 

何と晴風で比叡の足を止めるしかないと言ってきた。例え沈めても

 

『えっ? 』

 

ましろの言葉に艦橋にいる全員が唖然とする。

 

「・・・比叡の舷側装甲は、武蔵のおよそ半分・・・砲戦では、無理ですが、雷撃なら可能です。」

 

幸子がタブレットで比叡の装甲強度を調べ、砲撃では、無理だが、魚雷なら沈める事が可能だと言う。

 

「よっしゃきたぁー!!来たよー私の時代!西崎、慎んで沈めさせていただきま~す!あ~待ってました・・この時を、撃って撃って撃ちまくるぞ~!」

 

雷撃と聞いて、芽衣が自分の出番だと興奮するがましろはこう付け加えた

 

「ただ。それは最悪の事態になった時ですし、誰も沈めろとは言ってません・・・」

 

ましろは沈めるとは言ったもののそれは、あくまでも過程の話であって足を止める方法がないと言うだけの話であった。

皆はてっきり、弟である守を怪我させられた怨みで言ったのかと思っていたが、彼女はいたって冷静であり、自分を見失っていなかった

そのため仮定の話だったことに皆は少し安堵するのだったが

 

「え~~・・・・・」

 

雷撃戦はないと聞いた芽衣のテンションは下がる

 

「ですが、このままでは、距離を取りながらの追尾しかありませんが。ですがそれだと最悪晴風にも被害が出る可能性があります・・・・」

 

「・・・何とかして、沈めずに比叡の足を止めよう。」

 

「シュペーの時と同じ事を? しかしあの時ですら無理だったんだぞ!!」

 

明乃は、先のアドミラル・グラフ・シュペー戦と同じ作戦で比叡を止めようとするが、それにましろが無理だと反対する。あの時逃げられたのは黒煙を煙幕代わりにしたのと守の急降下爆撃があって逃げることができた。だが、守は負傷し医務室にいまだに目が覚めないままだ。仮に目が覚めていても今の守に飛行機の操縦は自殺行為であり何より二式水戦には爆装はもちろんエンジンが故障しているため不可能だ

 

「両舷に副砲7門ずつ・・・此方の射程まで乗せる前に蜂の巣ですね・・・」

 

幸子の言葉に艦橋にいる皆はどうすればいいか考える。そんな時

 

『あも〜邪魔ぞな!!』

 

突然、下の海図室から聡子の騒ぎ声が聞こえて来て、下を見ると

 

「ミ~ミャン!?」

 

艦橋と海図室を繋ぐパイプから多聞丸が出てきた。

 

「お前も邪魔!!!」

 

「ぬう・・・う・・・う・・・」

 

続いて五十六も出てくるが、見事にその出たお腹がパイプに引っ掛かっりじたばたする

 

「はっ!? 」

 

明乃はパイプに引っ掛かった五十六の姿を見って

 

「比叡を・・・止められるかも!」

 

明乃は、比叡を止められる案を思い付く。

 

「えっ!?如何やって?」

 

果たして、どんな案か、明乃は、ましろに説明するのだった。そして明乃は、直ぐに横須賀女子海洋学校に連絡する。

 

 

一方、ブルマー本部ではいまだに消火作業が行われる中、無事だった部屋の中にいた真霜と校長である真雪。すると部屋からブルマーの隊員が入ってきて

 

「すみません!宗谷校長!たった今横須賀女子にいる教頭からお電話が!!」

 

それを聞いた真雪は隊員から電話を受け取ると

 

『校長、晴風より通信です。』

 

『あっ!?』

 

『繋ぎます。』

 

晴風からの通信だと聞いて、真雪は、直ぐに電話をスピーカーモードにする。そして真霜も部屋にあるモニターにつなげると

 

「此方航洋艦晴風艦長の岬明乃です・・・現在、比叡監視の任務に就いていますが、比叡もさるしまや武蔵と同じ状態になっていると思われます・・・このままだと2時間以内にトラック諸島に到達する見通しなので、比叡の足を止める作戦実行の許可を下さい。』

 

明乃は自身が思いついた作戦の実行許可を真雪に要請する。

 

「晴風一隻で比叡を?しかも昼間に・・・・無理よ!・・直ちに退避を・・・」

 

一緒に電話を聞いていた真霜は、反対する。

夜戦ならば速力と機動性が有利な駆逐艦でも勝機はあるが、昼間の戦闘は視界もよく戦艦など砲戦が得意な艦が有利だ。

その時

 

「あっ!?」

 

モニターに晴風から作戦の概要が送られてきた。

 

「・・・・・・よく考えられてるわ・・・これなら実行可能ね!」

 

送られてきた作戦の概要を見て、真雪は、可能だと判断する。

 

「そんな、危険すぎるわ!・・・それにまたあの連中が乗艦している危険性も・・・・ブルーマーメイドはまだ来ないの!?」

 

真霜は比叡にゾル大佐ら武装親衛隊の兵士が乗っている可能性があるため、危険視し、ブルーマーメイドの到着を待つように言うのだが

 

『残念ながら、間に合いません・・・その為、今この海域に居るのは、私達だけです・・・やらせて下さい! 』

 

「・・・燃料は足りる?故障個所はない?」

 

『はい、大丈夫です。』

 

「クラスの子達の体調は?」

 

『問題ありません。燃料、弾薬は問題ありません。乗員については、ブルーマーメイド臨時隊員の森守さんが飛行機での偵察飛行中、比叡と遭遇し、機銃で撃たれ負傷しています』

 

「(マー君が撃たれた!?)」

 

真霜は守が撃たれて怪我を負ったことに驚く

 

「それで、その人は大丈夫なの!?」

 

『はい!衛生長の治療に一命はとりとめましたが、いまだに目が覚めていません・・・・・』

 

「(マーちゃん・・・・)」

 

明乃の言葉に真霜は不安になる中、真雪は

 

「・・・・・・わかりました。作戦実行を許可します。但しクラス全員と話し合ってからにして」

 

「わかりました。ありがとうございます! 」

 

学校側の作戦許可を得た明乃は真雪との電話をきる。

 

「いいの?お母さん。」

 

「作戦概要を見た限り決して無謀なものではなかったわ。それにほら‥‥」

 

真雪はパソコンにある物を映した。

 

「えっ?猫?」

 

パソコンの画面には五十六と多聞丸の姿が映し出される

 

「晴風の報告でね・・・RATを捕らえた猫にはウィルスは、感染しなかったのよ。」

 

「あっ・・」

 

「良い風が吹いているのかも知れないわね・・あの艦には・・・」

 

「でもお母さん・・・・マーちゃんが」

 

「分かってるわ。すぐに晴風のところに向かっているブルーマーメイドの船に一命負傷者がいることをすぐに伝えて頂戴。ことは一刻も争うわ」

 

「分かったわ」

 

そう言うと真霜は部屋を出る。そして真雪は

 

「無事を祈るわ・・・・・」

 

小さく呟き彼女らの健闘を祈るのであった

 



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比叡でピンチです!後編

 

『以上が作戦の概要です。』

 

真雪からの作戦許可を得た明乃は、明乃は、艦内放送で生徒全員に作戦の概要を説明した。

 

「其処までして、止めなきゃならないの?」

 

美海は、比叡を止めるのに、其処までする必要があるのかと疑問視する。

 

『それは・・・』

 

明乃は返事に戸惑うが・・・・・

 

『比叡はウィルスに感染している。』

 

明乃の代わりに美波が止める理由を説明をする。

 

「え!?」

 

美波の言葉に艦内全員が驚く

 

「先日の砲術長の症状を思い出してくれ、さるしまも武蔵も同じウィルスに感染したと思われる・・・これに感染したものは、自分の意思が制御できなくなる。しかし、私が抗体を開発した。』

 

「あの時のアレ!・・・抗体の実験だったんだ。」

 

美波の説明を聞いた媛萌は、あの時の人体実験は、抗体の実験だったと納得する。

 

「データは学校に届けた。だから足止めさえして置けば、比叡の生徒は、後日治療出来る筈だ・・・しかし・・・今、比叡を放置すれば、トラックの住民に感染するかもしれん・・・と成ると・・・おのずと世界中に感染が広がる。」

 

「私は皆助けたい!!・・・比叡の子達もトラックの人達も・・・海の仲間は家族だから!!」

 

明乃は、比叡とトラック諸島に住む人々の両方を助けたいと告げる。

 

「で、また1人で飛び出すつもり?」

 

それに対して、機関室の洋美がまた勝手に単独で飛び出すのかと問う。

だが、明乃は

 

「うんうん、この作戦を成功させるには・・・皆の力が必要なの!!だけど、皆にも危険が及ぶから、私1人じゃ決められない・・・皆の意見を聞かせて?」

 

1人で飛び出さず、生徒全員と一緒に戦う意思を告げる。そして明乃は、生徒全員の意見を問う

 

「比叡クラスって、優等生だよね?」

 

「私達じゃ・・無理っぽくない・・・?」

 

「大型艦だもんね・・・・」

 

「武蔵の時も怖かったし・・・」

 

明乃の放送を聞き機関科及び通信員以下殆んどの生徒が先の武蔵との戦闘で消極的になっており、作戦に賛同するか疑問に思っていた。だが、そんな時

 

「わ…私やります!頑張ります!」

 

艦橋にて鈴が目一杯の声を張り上げた。

 

「タマはどうする?」

 

「うぃ!!」

 

「私はやるよ!!ドンパチ撃てるし」

 

「うぃ!!」

 

鈴の精一杯の行動に艦橋メンバーはやる気を出した。

 

「やぶさかではありません!」

 

「わしも手伝う。他人事ではないしな」

 

「私達もやります!!」

 

「艦長は私たちを助けてくれたし!!」

 

「今度は、私達の番!」

 

『だよね!!』

 

艦橋に来た理都子と果代子も明乃への恩を返す為、賛同する。そして艦橋メンバーに次いで砲術委員、水雷委員も比叡の救出に賛同する。

 

「ま、なんとかなるぞな」

 

勝田が海図を広げる。

 

「波飛沫一滴さえも見逃さない!」

 

マチコが展望デッキにて、比叡を睨む。

 

「マッチもやる気になっているみたいだし頑張ろう!」

 

やがて、消極的だったクラスメイト達も次々と比叡救助に賛同していく。

 

「私達は…」

 

「どうすれば…」

 

「う~ん…とにかくご飯を炊こう!」

 

炊飯委員は戦勝後にクラスのみんなに心尽くしの料理を食べてもらおうと、夕食の準備を行った。

 

「でもやっぱり無茶よ!・・・機関が持つかどうか…ねぇ麻侖?」

 

各所が明乃の作戦に賛同する中、洋美は最後まで反対し、麻侖も同じ意見だと思った。

 

「・・・よ~し!やってやろうってんでぇい!」

 

しかし、麻侖は、作戦に賛同する。

 

「ええ?」

 

麻侖の作戦に賛同に洋美は、驚く。

 

「艦長ってのは、神輿よ!軽くて馬鹿でも神輿を担ぐのが江戸っ子の心意気でぇい!」

 

「いや、千葉出身でしょ、機関長殿!」

 

「でもまぁ、機関長が言うなら…」

 

「やりますか!」

 

麻侖に続いて、洋美以外の4人も賛同した。

 

「それによクロちゃん。ここで逃げたら、守に顔向けできねぇよ。それに守もきっとトラック諸島の人を助けるために同じこと言うさ・・・・私はそれに答えてぇ・・・・」

 

「麻侖・・・・」

 

麻侖の言葉に洋美は何も言えなかった。麻侖は悔しかった。自分の大切な友達が怪我したにもかかわらず何もできないことに…だが明乃の言葉にマロンは賛成した。無論、守のためだけじゃない。自分自身も明乃と同じようにトラックの人を救いたいという気持ちがあったからだ

 

「宗谷さんはどうなの?・・・・無理だと思うかしら?」

 

洋美は伝達管でましろに問うとましろは

 

「・・・互いの艦の特性を考えれば、不可能ではないと思う・・それに私も守の犠牲を無駄にはしたくない。だから・・・頼む・・・力を貸してくれないか?」

 

「宗・谷・さ・ん・・・・分かった・・・」

 

洋美は、ましろの言葉にショックを受ける。だが彼女自身も守とは親しかったため、麻侖の言う通り彼の犠牲を無駄にはできないと感じ賛成する

 

これで、殆んどの生徒が、この作戦に賛同した。

 

「艦長!・・やるからには、私も全力を尽くします。」

 

ましろがそう言うと艦橋に居る生徒達は明乃を見る。

 

「皆・・・ありがとう」

 

明乃は皆に感謝する。

 

「ニャン!」

 

すると多聞丸も賛同した。

 

「ん!」

 

明乃は、多聞丸の返事を受け取る。

 

「戦闘よーい!これより晴風による比叡座礁作戦を開始しする!!」

 

画して、晴風による比叡座礁作戦が開始された。晴風は、比叡の砲撃を避けながら、航行する。

 

「艦長! 見てください!」

 

幸子が明乃に手持ちのタブレットを見せる。

タブレットには現在晴風と比叡がいる海域の潮流と水深などの詳細のデータが出されてる。

 

「・・・凄いねこれ…」

 

明乃は、幸子から見せられたデータに驚いてる。

 

「データはより多く、より新しくがモットーでして、個人的に収集しています。」

 

「助かるよ!ありがとう」

 

「お主やるではないか!!」

 

「このへんでええとこ見せんともう舞台は回ってきませんけぇ!」

 

「間尺に合わん仕事かもしれんのぅ・・・」

 

こんな時でも何故か任侠映画のセリフを吐く幸子とミーナであった。

 

「メイちゃん、タマちゃん準備を! 」

 

明乃は、芽衣と志摩に砲雷撃戦の準備を命じる。

 

「よしきった!」

 

「うぃ」

 

芽衣と志摩は、気合いが入る。

 

「艦長!進路の候補でました!」

 

幸子は、2人にタブレットを見せる。タブレットには、比叡を座礁させる幾つかの針路の候補が表示されていた。

 

「ん・・・このルートで行こう!リンちゃんお願い!」

 

「は、はい!!」

 

明乃は、鈴にその針路に航行するよう指示し、鈴は、明乃の指示通りに、その針路通り航行する。

 

「右舷に着弾!!」

 

比叡は容赦なく晴風に向け砲撃する。

 

「と~りか~じ!」

 

「と~りか~じ!」

 

明乃は、艦橋の天井部分から身を出し、回避指示を出すとましろがそれを復唱し、晴風が取舵を切る。

 

「もど~せ~!」

 

「もど~せ~!」

 

晴風が元の進路に戻ると、比叡の砲弾は晴風の右舷後方に着弾した。

 

「シロちゃん! 砲雷撃の指示、お願い!」

 

「分かった!」

 

此処で明乃がましろに晴風の砲雷撃の指示を一任する。

 

「戦闘、右手、砲雷同時戦、発射雷数2、比叡の左舷を狙え! 当てるなよ!」

 

「難しいな・・・」

 

芽衣は、水雷方位盤を見ながら答える。

 

「主砲、砲では抜けないから当てるつもりで撃って良い・・・但し左舷寄りに着弾させて少しでも右に誘導して!」

 

「うぃ!」

 

「攻~撃~始~め~!!」

 

ましろの攻撃指示の元、晴風の第二、三主砲が比叡に向けて砲撃を開始、更に第二魚雷発射管より魚雷2本が発射されるが同時に比叡も砲撃する。

 

「予定のコースをお進みください・・・海底に障害物がありません。」

 

楓からソナーで進路上の海底には、何もない事を艦橋に報告する。

 

「此処が勝負どころじゃ…」

 

「後がないんじゃ!」

 

台詞どころか顔も任侠を意識している。

 

「あ…当たりそう~…」

 

前方から降って来る比叡の砲弾に震えながら舵を握る鈴。やがて、比叡の砲弾が晴風の左舷側の岩礁に着弾する。

 

「魚雷左右に1発ずつ・・・」

 

「頼むから通ってよ・・・ 」

 

それに乗じて、今度は、第一魚雷発射管から2本の魚雷が比叡の両側に向けて発射する。

発射された魚雷は、比叡の両舷を通過し、進路をずらす事に成功した。

 

『比叡第一ポイントへの誘導に乗りました!』

 

マチコから比叡は、予定のコースに乗ったと報告が入る。

 

「ケンジ・・・」

 

「リーベリーヒ・・・」

 

「此処で座礁させれば沈めずに足を止められる!」

 

3人は、双眼鏡で比叡が座礁するのを見守るかのように比叡を見るが

 

「抜けられた!?」

 

比叡は、座礁せず、そのまま直進して、晴風に向かって再度砲撃してきた。

 

「撃ってきた!と~りか~じ!」

 

明乃は、急いで回避命令を出す。比叡の砲弾は、晴風の左舷後方の付近に着弾。

 

『きゃあ・・・・・・』

 

着弾の衝撃波が晴風に襲い艦橋に居る全員がよろける。

 

「至近弾、左舷後方に着弾!」

 

「損害は!?」

 

『後もう少しだけ頑張って・・・』

 

明乃は、もう少しだけ持ちこたえる様言うが

 

「わぁ!?」

 

「バルブ破損!!」

 

その時、機関室の圧力バルブが破損し水蒸気が溢れ出てきた。それを見た麗緒と留奈は、急いで下に降り、手動で圧力を調整する。

 

「ヤバイって! これ以上の出力維持できないよ!」

 

「わ~てる!まだか艦長!!」

 

『あと10分だけ持たせて!』

 

「分かったけどよ・・・本当に10分でぶっ壊れるぞ!」

 

麻侖は、明乃の指示の10分間だけ何とか機関を持たせる。その10分間が最後の賭けに成るのだ

 

「比叡、第2ポイント、通過を確認!」

 

マチコから比叡を座礁させる2つ目のポイントを通過したとの報告が入る。

 

「艦長! ・・・座礁させるポイントも今度も抜けて来られたぞ! ・・・如何する!?」

 

既に2か所も座礁ポイントを躱されて、ましろが明乃に次は、如何するのか問う。

 

「まだだよ!・・・まだ終わってない!」

 

それに対して、明乃は、まだ終わっていないと言う。

 

「しかし、艦長!もう・・・」

 

だが、ましろは、もう駄目かと思うのだが・・・・

 

「超えられない嵐はないんだよ!!」

 

すると、明乃は、超えられない嵐はないと言い、諦めないことを主張する。

 

「!」

 

ましろは、明乃の言葉に何かを感じたのか、キョトンとした顔をする。

 

「と~りか~じ!」

 

明乃は、左へと針路を取る。

 

「・・・はっ!?」

 

すると、ましろがある事に気づく。

 

「さっきと同じ所に戻ってきてる・・・ 艦長!此処じゃ比叡を座礁しなかったぞ!」

 

何と、最初に比叡を座礁させようとしたポイントに戻って来たのだ。

 

ましろは、今度も同じように座礁しないと思ったが

 

「ヒメちゃん、今!」

 

『了解、バラスト排水!!』

 

その時、明乃が媛萌に艦のバランスを取ってるバラスト水の排水を指示した。

 

「バラスト捨てたら安定性が・・・」

 

ましろの言う様にバラスト水を排水した艦の重さが軽くなり、速力を出しやすくなるが艦のバランスが不安定になる。

 

「いや、これで大丈夫!!」

 

「えっ!?」

 

明乃の発言に驚くましろ。

 

「リンちゃん速度一杯で・・・」

 

「嘘・・・」

 

「お願い!」

 

「は、はい・・・!!」

 

鈴は、それを覚悟で泣きながら速力を上げる。

晴風は速力を上げながら先ほどの第1ポイントを通過しながら比叡に向けて、砲撃と魚雷を発射する。

 

「比叡、先程と同じコースに入りました!」

 

比叡は、晴風からの砲撃と魚雷を避ける様に先程と同じコースに入る

 

「速力下げてくれ! 流石にもう無理だ!!エンジンが燃えちまうぞ!!」

 

機関室から麻侖がもう限界だと速力を下げる様言う。

 

『ん・・・・』

 

だが明乃は、比叡が座礁をするのを願う様に比叡を見つめる。

 

『艦長!まだっか!?』

 

機関室からまだっかと言ってきたが、次の瞬間

 

ドゴッ‥‥ズシャァァァ‥‥

 

轟音を立てて先程躱された座礁ポイントにて比叡は座礁した。

 

『比叡停止!!』

 

『比叡の機関停止を確認しました。』

 

とうとう晴風は比叡を座礁させる事に成功させた

 

「ど、どうして‥‥」

 

「比叡が?」

 

先程は座礁しなかったポイントなのに今回は何故、このポイントで比叡に座礁したのかを明乃を除く艦橋メンバーは不思議がっている

そして明乃はみんなに説明した

 

「潮の満ち引きか!?」

 

ミーナは驚いていると明乃は頷き

 

「ココちゃんのお陰だよ!・・・オンラインの海図だったから水深の変化はリアルタイムで分かったし・・・」

 

「成程!・・・前に通った時より潮が引いて、水位が下がっていると・・・」

 

「其処まで想定していたのか?」

 

明乃は、作戦開始時に幸子が収集したデータから海域の水深の変化を確認し、それを利用して、比叡を座礁へと追い込んだ。

だが、最初は、何故、比叡は、座礁しなかったのか、それは、最初の時は、まだ、潮が引いておらず水位がまだ下がっていなかったからだ。

だから、明乃は、水位が下がる時間を見計らって、もう一度同じ場所へと比叡を誘い込み比叡を座礁させる事に成功した。

あの時、晴風のバラスト水を排水したのは、座礁を防ぐ為、艦を軽くしたのだ。

そして、比叡は座礁したショックなのか砲塔が故障し、旋回し動けない状態であり完全に沈黙した。そして晴風はブルーマーメイドが到着するまで比叡を見張ることになったのだった

 

「私、今、艦長・・だったかな?」

 

「まぁ~らしかったです・・・幾分ですが・・・」

 

今回の作戦成功で明乃は、自分が艦長らしいかっと思うとましろは、幾分だが艦長らしかったと褒め、2人は、見つめ合う。

すると・・・・

 

「副長!!大変す!!大変っす!!!」

 

百々と媛萌が慌ててましろのところに転がり込んだ

 

「ど、どうしたんだ!?」

 

ましろは二人の慌てようにどうしたのか訊くと・・・・

 

「マー君が・・・・・マー君がっ!!!!」

 

「っ!?」

 

涙目で言う媛萌にましろは嫌な予感を感じ、慌てて、守のいる医務室へと走り出すのであった



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手紙

「(・・・・墜ちる・・・・・機体がどんどん墜ちていく・・・・それに目の前が真っ赤だ・・・・俺は…ここまでなのか・・・・)」

 

 

俺はもはやこれまでかと思い死を覚悟した。そして目の前は蒼空から一転、水の中に変わった。

激しい水しぶきの音・・・・そして気泡・・・・氷のように冷たい水の感触・・・・

 

「(沈む・・・・・冷たい海底へ・・・・)」

 

機体とともに海底へと沈む守・・・・すると誰かが自分を抱きかかえ、海上へと運ぶ感じがした

 

「(温かい・・・・それになぜか心が落ち着く…この懐かしい感じは何だ?それに誰が俺を持ち上げようとしているんだ・・・誰なんだ?)」

 

守はうっすらと目を開き、上を見上げ自分を抱きかかえる人物を見る。

それは海面の太陽の光で良く見えなかったが女性に見えた・・・・だがその女性の下半身は人間の足ではなく・・・・魚のような尾ひれがあった

 

「人・・・魚?」

 

それは神話やお伽話に出てくる人魚であった。そして自分を持ち上げる人魚と目が合う。海面の逆光で顔はよく見えないが微笑んでいるように見えた。そして影が差しその人魚の顔が見えた。その人魚の顔は守がよく知る人物の顔だった

 

「(ましろ・・・・・姉さん!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

不意に俺は目を覚ました。空気が肌に触れる感触。体に伝わる自分自身の重み。そして見た事のあるような天井が目に入った

 

「俺……生きて・・・? いてっ!」

 

全身に走る鈍い痛み。体が鉛のように重い。だが、その感触こそが、自分がまだ生きている事の証明となった。どうやら自分はベッドに寝かされているようだ

 

「(どうやら、まだ死んではいないようだな……。にしても)」

 

「ここは……、確か医務室・・・そうか・・・俺は確か比叡に撃たれて・・・・・」

 

満身創痍で晴風の元に戻ったまでは覚えている。だがその後の記憶がない。だからこそ守は状況を確認する為に、体を少し起こそうとすると

ガバッ!

 

「うわっ!?」

 

急に視界が真っ暗になる。目に、もとい顔全体に何かが押し付けられ、息が苦しい

後頭部にまでも腕が回されており、頭の上にも手が置かれている

力強く抱きしめられている

自分が誰かに頭を抱きしめられ、顔が胸に埋もれていると把握するのには、少し時間がかかった

 

(や、柔らか・・・っじゃなくて! く、苦し・・・息が……)

 

「―――! ―――!」 グラグラ

 

軋む体を何とか動かして、抱きしめている相手に意志を伝えるすぐに相手は理解し、放してくれた

 

「プハッ! ハァ……ハァ……」

 

呼吸を整えて、相手が誰かを見る。そこにいたのは

 

「・・・・・」

 

涙を流し、守の顔を見るましろの姿だった。

 

「ね・・・姉さん・・・・・」

 

守の言葉に、しかし彼女は俺の呼びかけには応えず

 

ギュッ

 

「あっ……」

 

すぐにまた、ましろは守に抱きついて来た

今度は両腕を背中に回され、ギュッと、体全体を押し付けるように抱きしめられた

ましろはそのまま更に力を込めて、体を押し付けるように抱きしめてくる

 

「いだだだだっ!!姉さん!痛い!痛いって!!」

 

思った以上に力が強かったのか守はそう言うのだが、ましろには聞こえていないのか、力は若干緩んだが、彼女は離れず、更に体を密着させてくる

 

「姉さん・・・痛いって・・・・」

 

「・・・良かった」

 

「・・・・・え?」

 

「死なないで……、目を覚ましてくれて……、本当に良かった・・・」

 

「………………」

 

守は軋む右腕を何とか動かして、ましろの背中に手を回して力無く抱き返す

 

「姉さん…………ごめん」

 

「全くだ……! 本当に・・・、全く・・・心配をさせて……、全く・・・」

 

「(本当に、心配させちゃったんだな・・・)」

 

守はましろを心配さえたことに若干の後悔を感じた

 

「姉さん・・・・それより比叡はどうなったんだ?」

 

守はましろに比叡はどうなったのか訊いた

 

「安心しろ。比叡は晴風のみんなで何とか座礁させて動きを止めた・・・・」

 

「そうか・・・・良かった」

 

守は安心して幾をつくとましろは

 

「守・・・・ごめん」

 

「え?なんで姉さんが謝るんだよ?」

 

「私たちが飛行機で偵察に行かせなければ守は怪我をしなかったのに…私の責任だ。あの時私が無理を言ってでもお前を止めていれば・・・・」

 

ましろは嫌な予感を感じていたのにもかかわらず守に偵察に出させたことを謝ると

 

「マー君!!」

 

そこへ明乃や晴風のみんなが一斉にやってくる

 

「よかった~目を覚ましたんだ!!」

 

「モモちゃんやヒメちゃんが、慌ててたから、死んじゃったと思ったんだよ!!」

 

「大丈夫!どこか痛くない?」

 

「うぃ・・・・・」

 

とみんなが心配そうに言う中、明乃は

 

「マー君!ごめんね!!マー君を危険な目に…私が飛行機で出てなんて言わなければ…本当にごめんね!!」

 

明乃も守に謝るが守は首を横に振り

 

「あれは艦長や姉さんたちのせいじゃないよ・・・・飛行機での偵察は俺が志願して進言したことだし‥‥何よりこの怪我は・・・俺の慢心から生まれたものだよ」

 

守はそう言い真剣な顔をしこう続けた

 

「俺はこの世界は後期とは無縁の世界。だから対空戦闘の概念がないから問題ないと高をくくっていた・・・・・その代償がこれだ・・・油断しまんした瞬間がこれだ・・・・俺は航空兵として…戦場で戦う軍人として忘れてゃいけないことをすっかり忘れていました・・・・逆にこの怪我で済んでよかったと思っています」

 

そう、この怪我の代償は自身の油断であり慢心が原因で起きたものだと守は思っている。戦闘気乗りとして常に慢心はするなと杉田曹長に教えられてきたが、この世界では対空戦闘の概念がないと油断をしていた。

その結果がこの負傷だ。逆にこれで済んだことをよしと思っていた

 

「それよりも謝らなければいけないのはこっちの方です。みんなに心配させて本当にごめん!!」

 

と深々と頭を下げるとましろは守の頭を撫で

 

「もういいよ・・・・お前が無事で・・・ただ・・・もう無茶なことはするな・・・・お前が危険な目に合うのは見て耐えられないから・・・」

 

「ああ…分かった…気を付けるよ」

 

そう二人は笑い合う。それを見た他のみんなは

 

「(羨ましい・・・・)」

 

二人の仲の良さを羨ましがるのであった。その後守は美波さんのサイド体の診察を受けたのだが・・・・

 

「なぜが…どうしてこうなってる?」

 

と、首を傾げられた。なぜなら守の傷は思いのほか回復が早く。ふつうにあるいてもだいじょうぶだそうだ。ただ。やっぱり無理に激しい運動をすれば傷口が開くためNG。もちろん飛行機やスキッパーに乗るのも禁止された。

そして、ブルーマーメイドの到着を待つ中、晴風乗員は座礁した比叡を見ていた

 

「私達が助けたんだよね…」

 

「トラックと比叡と両方とも…」

 

「やっぱり、うちの艦長っていけるクチなのかも」

 

「いや、その誉め方おかしいから…」

 

「でも…マー君も無事でよかった…」

 

「あとでお見舞いに行こう」

 

比叡、そしてトラック諸島、ひいては世界を救った事に晴風の乗員達は歓喜した。

そして、それは彼女達にも今後の大きな自信にもつながった。そして守もましろに支えられながら座礁した比叡を見て、再度、比叡がトラック諸島襲撃をすることを阻止できて安堵していた

そんな時

 

『ん?』

 

向こうから黒い塗装をしたインディペンデンス級がやってきた。

 

「姉さん・・・・あれって」

 

「ああ・・・・・まさかと思うが・・・・」

 

ふたりは黒いインディペンデンス級を見て、雅かと不味い表情をする。

その艦は、ブルーマーメイド所属の弁天だった。

そして、弁天が晴風の横に泊まると黒いマントを着たブルマー隊員が宙返りしながら晴風に着地した。

 

「ブルーマーメイドの宗谷真冬だ・・・後は任せろ・・・」

 

それは、正しく、宗谷家の次女であり、ましろ、守の姉である宗谷真冬だった。

 

「おっ!?」

 

突然、真冬は、何かに気づく。すると

 

「シロ!じゃねぇか!?」

 

真冬は、明乃の後ろに居た妹のましろに気づく。

 

「久しぶりだな、おい!」

 

真冬は、ましろの肩を無理やり抱きながら、再会を祝う。

 

「ちょ、止めてよ姉さん!?」

 

だが、ましろは、嫌がる。

 

「成る程、名字が同じですしね!」

 

「なんだ縮こまりやがって、久しぶりに姉ちゃんが根性注入してやろうか?」

 

「根性・・注入?」

 

そして、明乃は根性注入に反応する。

 

「要らないわよ!」

 

ましろは、要らないと言うが

 

「あの!お願いしても良いですか?」

 

明乃は、真冬に根性を注入してくれとお願いする。

 

「えっ!?」

 

それを聞いたましろは、驚き。

 

「ば、馬鹿やめ・・・!!」

 

ましろも止めるが

 

「おう!任せとけ!」

 

真冬は、笑顔で任せろと言い。

 

「覚悟は、良いな?」

 

拳を鳴らす。

 

「はい!お願いします!」

 

「よ~し、先ずは、回れ右だ!!」

 

真冬は、明乃に回れ右と命令する。

 

「はい!」

 

明乃は、回れ右をする。真冬は、明乃に構え

 

「行くぜ!!・・・・・根性・・・注入・・・・・・!!」

 

明乃に根性を注入しようとするのだが

 

「やめなさいっちゅうの!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁー!!ギブギブ!!って、守じゃねえかよ!!」

 

守がすかさず真冬にコブラツイストをかけ阻止した。

 

「お前確か撃たれたはずだよな!元気じゃないかよ!?」

 

「ええ・・・・機銃で撃たれて怪我するのは向こうでよくあったので・・・・それで真冬姉・・・・横須賀の約束忘れたの?」

 

「え?・・・・」

 

守が言った約束とは。9年ぶりに再会した時、もう関原をしないという約束だった

 

「あ…あはは…でもこれは私の愛情であり、根性注入と言った鍛え方であって決してセクハラじゃ・・・・」

 

「・・・・・」

 

「いででっ!!わかった!悪かった姉ちゃんが悪かったから解いてくれ!!腕が取れる!!」

 

涙目でタップする真冬に守は技を解いた

 

「いてて・・・・お~いった~~お前は本当に容赦ないな・・・・姉ちゃん悲しいぞ」

 

「だったら今後は控えてください」

 

「悪かった…悪かったって・・・・あっ!そうだ守。お前に手紙預かっていたんだ」

 

「・・・・・・手紙?」

 

真冬はそう言って守に手紙の入った封筒を手渡す。守は受け取り宛名を見ると

そこには『山口章香』と書かれていた

 

「っ!?」

 

その名を見た守の顔色が変わった一瞬固まって細かく震え出したのだ

そして守は封を切り手紙の内容を見た

 

 

 

 

晴風という駆逐艦に乗る航空兵へ

私に接触してきた、ブルーマーメイドという組織から、この世界にはないという飛行機に乗る日本人がいると聞きこの書を認める。私は日本国防海軍少将の山口章香である。南方のニューアイルランド諸島付近の岩礁にいる。当方は大破擱座した航空母艦「信濃」とともにいる。

もしも、貴官に当方と会いたいという意思があれば下記に返信されたし

 

 

 

 

「どうしたのマー君?」

 

「守?」

 

手紙を読み固まる守に対し皆は心配そうにすると

 

「ふふふ・・・・・・あははははっ!!!」

 

急に笑い出す守に皆は驚く中、守は

 

「生きてた・・・・・生きていたんですか!!多聞丸三世めっ!!!」

 

と笑いながら空へと叫ぶのだった



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海鷲の城

4月26日

トラック諸島沖、ピケロット島環礁

武蔵を捜索していた晴風は、トラック諸島沖を航行している途中、守の二式水戦による偵察飛行にて、行方不明だった比叡と遭遇する。

比叡がトラック諸島に向かっていると分かり晴風は、単独で比叡のトラック侵入を阻止、座礁させる事に成功した。

偵察飛行の際守は比叡から銃撃を受け脇腹に怪我を負ったがましろの輸血により一命をとりとめることができた。

その後遅れてきたブルーマーメイドにより比叡は、完全に制圧されたのだった

 

「比叡は、他の支援隊が後の面倒を見る事になった。」

 

座礁した比叡は、後から来るブルーマーメイドの別働隊に任せる事になった。

 

「よろしくお願いします。」

 

真冬に対し、明乃は深く頭を下げる。

 

「でだ、我々は、引き続き、武蔵以外の不明艦捜索を続ける・・・お前達は如何するきだ?」

 

真冬は、このまま武蔵捜索を続けるが、明乃達は、如何するのか問う。

 

「如何しますか、艦長?」

 

「学校からの指示は、武蔵探索です・・・皆の異存が無ければ、そのまま続けたいと思います。」

 

明乃は、晴風の生徒全員の異存がなければ、このまま武蔵捜索を続けると言う。

 

「へっ!よ~し、よく言った!・・・唯無理は、しない様に、無理だっと思ったら、我々に連絡を入れって、避難しろ!・・・本来これは、私達ブルーマーメイドの仕事だからな!」

 

「はい!」

 

明乃は元気よく返事をし頷く真冬。そして真冬は守を見て

 

「それで守。お前はどうする?今なら姉ちゃんと一緒に来るか?近くの病院まで運ぶぞ?」

 

真冬は心配そうに守を見る。守は比叡に遭遇した時に脇腹に銃弾を喰らっていた。美波さんの治療で元気ではいるものの、やはり病院でもう一度見てもらった方がいいと促すのだが、

守は首を横に振り

 

「いいや。俺は晴風に残るよ・・・・」

 

「守・・・」

 

守の返事にましろは心配そうに言うと守は

 

「なんだか今はここは慣れちゃいけないと思ってさ。それに」

 

そう言うと守は手紙を出し

 

「これのこともあるしね」

 

と、そう言うと真冬は

 

「そうか・・・・・わかった。そこまで言うなら止めねえよ。ただ・・・」

 

そう言うと、真冬は守とましろを抱きしめ

 

「二人とも無茶だけはするな。無事にみんなで横須賀に戻ろう・・・そして9年前のように一緒に過ごそうな」

 

「姉さん・・・・」

 

「真冬姉・・・・」

 

真冬もましろ同様に守を心配しそして妹であるましろのことを心配してそう言った。それはいつもの破天荒さはなく。ただ家族を心配する一人の姉としての表情だった

そんな真冬に二人は嬉しい気持ちになっていた

その時

 

「艦長!」

 

「ん?」

 

通信員の鶫が突然、スマホを持って、此方に駆け込んできた。

 

「広域通信に正体不明の大型艦目撃情報が複数入っています!!」

 

鶫がスマホで広域通信の内容を5人に伝える。

 

「南方200マイル、アドミラルティ諸島と北東300マイル、トラック諸島方面か・・・」

 

正体不明の大型艦の目撃情報は、二つ。

一つは、此処から南の位置にあるアドミラルティ諸島ともう一つは、此処から北東のトラック諸島付近からだった。

 

「よし!・・・我々は、トラックへと向かう!・・・すまぬが、近場のアドミラルティ諸島を確認して貰えるか?」

 

「分かりました!」

 

真冬は、トラック諸島付近に向かう事に決め、明乃には、アドミラルティ諸島の方をお願いし、タラップを登り、弁天に戻る。

こうして弁天は、トラック諸島付近へ、晴風は、アドミラルティ諸島へと向かう事になった。

晴風の生徒達は、弁天に向かい手を大きく振り、それを見た真冬は、制帽を振り晴風を見送るのだった

晴風は、アドミラルティ諸島へと進路をとる

 

「よーし!やるぞ~!」

 

「単位よーけ貰えるぞな!」

 

「ねぇねぇ!ひょっとして、私達って結構やるんじゃない?」

 

「そうそう!比叡ってすっごい艦なんだよね!・・・それを止めたって凄くない?」

 

「下剋上…」

 

比叡のトラック侵入を阻止した事で、晴風の生徒達は、自信に溢れているせいか、浮かれていた。

そんな皆を明乃、ましろ、ミーナは、仕方ないなと言った表情で見る。

そんな中

 

「・・・・・・」

 

守は先ほどの手紙を見たまま、ぼ~としていた

 

「マー君?」

 

「守?」

 

明乃やましろが声をかけても返事はなかった

 

「(俺以外にも・・・・・しかもあの山口提督か・・・)」

 

手紙の送り主のことを考える中

 

ミ~ミ~

 

「ん?」

 

足元から声が聞こえ守は下を向くとそこには子猫の多聞丸が心配そうに鳴いていた。多聞丸はあの救出劇以来ましろと守に懐いていた

 

「おお・・・どうした多聞丸?」

 

そう訊くと多聞丸はましろの方を向き守はましろたちを見ると

 

「大丈夫か?ボーとしておったぞ?」

 

「マー君。大丈夫?」

 

と皆が心配そうな表情をしていた。幸子は

 

「その手紙の人のことが気になるんですか?」

 

幸子が訊くと守は静かに頷く

 

「そう言えば、守。さっきその手紙の主を『多聞丸三世』と呼んでいたけど…知っている人か?」

 

ましろがそう訊くと守は

 

「会ったことはない・・・・だけど海軍内では有名な人物だ。かの闘将山口多聞提督に負けず劣らずの機動艦隊随一の名将。そのあまりの厳しさに「人殺し多聞丸」もしくは祖父の山口多門の孫だから『多聞丸三世』と呼ばれた人物・・・・それが山口章香少将だ」

 

「そんな、すごい人物が、この世界に・・・・・」

 

明乃がそうこぼす。

守はその人物を思い出す

 

山口章香。海軍少将であり、かつては航空母艦飛龍に乗って、ポートモレスビー港奇襲作戦に参加し、アジア制海権を奪還するために機動艦隊とともに活躍した人物で、守がこの世界に戻る半年前のポートモレスビー攻略作戦で新たに乗艦した航空母艦「信濃」とともに運命を共にしたはずの人物だった

その人物がこの世界にいる。そしてこの手紙を送った。しかも空母と共に来たということに驚いていた

 

「マー君・・・・会いたいの?」

 

明乃の問いに守は小さく頷くと

 

「シロちゃん・・・・ニューアイルランド諸島ってアドミラリティ諸島に近かったよね?」

 

「はい・・・・て、艦長。まさか!!」

 

「うん。アドミラリティ諸島に行くついでにそこに行ってみようと思うんだけど・・・ダメかな?」

 

「そんな。明乃艦長。私のことは後で構わないので・・・・」

 

明乃がアドミラリティ諸島ではなく、山口提督がいるニューアイルランド諸島に行こうと言い守はそれを否定すると明乃は

 

「大丈夫だよ。それにすぐ近いし、シロちゃんはどう思う?」

 

「う~ん・・・・まぁ、航路からして問題はないと思います」

 

「はい。それに私もマー君の言っていた航空母艦という船がどんなのか見てみたいですしね」

 

「ワシも問題ないぞ」

 

とみんなは頷く。それを見た守は

 

「皆さん・・・ありがとうございます」

 

と深々と頭を下げお礼を言う。そして晴風は進路を若干変更し、アドミラリティ諸島を通過しニューアイルランド諸島へと向かった。

そしてしばらくすると、アドミラリティ諸島とニューアイルランド諸島の中間地点の岩礁に地域につく

 

「確か手紙に書かれた場所はここいら辺って書いていたはずだよね?」

 

明乃がそう言うと

 

「前方の岩礁に大型艦が座礁しています!」

 

野間の言葉に皆はその地点を見ると。全貌にある大きな岩礁に大きな軍艦が座礁していた

 

「何あれ…でかい」

 

「大和級の大きさですね?」

 

芽衣と幸子が驚いた表情でそう呟く。それは皆も同じなのか驚いた表情をしていた

 

「・・・・間違いない・・・信濃だ」

 

守は座礁している軍艦が信濃だと確信する。そして晴風は座礁している信濃の近くに留まると、晴風の乗員は皆甲板に出てその大きな軍艦。

航空母艦信濃を見る

 

「すごい・・・・・こんなにでかいの初めて見た」

 

「あっ!誰か出てきたよ!」

 

姫路がそう言うと、誰かが信濃から出て来て階段を降りて来て岩礁の上に立つ。その人物は海軍第一種軍装を来た。二十代くらいの女性だった。

守はその人物を見ると

 

「まじだ・・・・まじであの多聞丸三世だ!」

 

「ああっ!マー君!」

 

守はそう言うと晴風から降り彼女が立っている岩礁に立つと

 

「ソロモン諸島防衛部隊452航空隊!第三戦闘小隊『新選組』隊長!森守少尉であります!!僭越ながら山口少将!相撲を一番!!」

 

「ん?」

 

守がそう言うや否や、守は勢いよく山口少将と相撲を始めた

 

「何をしておるんじゃ?」

 

「なんで相撲を…?」

 

「シロちゃん?」

 

「私に聞かないでください・・・・」

 

「クロちゃんもやるか?」

 

「やらないわよマロン」

 

そして、それを見て困惑する晴風一同

 

「君は何をしているのかね少尉?」

 

「いえ、ポートモレスビー攻略作戦で戦死されたはずなので亡霊かどうか確かめるため提督の得意な相撲でぶん投げて確認しているところであります!!」

 

「なるほど・・・・少尉。君はもしかして‥・・・杉田軍曹か疾風少尉のいた部隊にいなかったか?」

 

「お二人をご存じで?」

 

「疾風少尉は私が飛龍にいた時の搭乗員だ。そして杉田隊のことは海軍航空隊では有名だ。『空飛ぶ暴走族』『空の狂犬部隊』・・・・まあ、いろんな意味で有名だったよ」

 

「ええ…少し前までラバウルの杉田隊に居ましたよ」

 

「やはりか・・・・それで少尉。戦争はどうなっている?まあ、アジアを奪還し欧州へと向かったはずだが、向かうまでには随分と準備と時間が掛かったんじゃないか?」

 

「敵を撃滅したとかなんとか聞かないあたり、さすがでありますな・・・・・」

 

「もともとあの戦いで陸軍と海軍の兵力はかなり消耗したからな。特に海軍に至っては空母も他艦艇も結構傷を負ったり、この信濃を含め沈没したりしたから・・・・なっ!!」

 

「うわっ!?」

 

その瞬間、山口少将が一歩引いた勢いで守を叩き落とした。文句なしの山口少将の勝利である。

 

「…ああ、引き落とし」

 

相撲に詳しい果代子がポツリと決まり手を呟いて、一瞬の沈黙が場を包み込んだのだった

 

 



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海鷲の城その2

とある島のとある場所、そこには無数の船が集まっていた。駆逐艦。重巡洋艦、中にはポケット戦艦もあった

それは行方不明になっていた海洋実習の生徒たちの船であった。

そしてその島の洞窟にある謎の基地に、その生徒たちが集められていた

そして生物兵器RATtにより洗脳された生徒たちはその先頭にいるゾル大佐の言葉に耳を傾けていた

 

「優秀な少女諸君。君たちは実に優秀な船乗りであり戦闘員たちだ。やがて我がドイツ第4帝国は戦争に勝利し、世界を征服したのち、この世界も支配する・・・・その時諸君らは同じ年代の少年、少女の指導者になるのだ!」

 

ゾルが鞭を向け子供達にそういうと、洗脳された生徒たちは頷く

 

「そしてまず、我々がこの世界を征服する前に邪魔なものを排除しなければならない。だが、戦艦などの戦闘間を操る君たちならたやすいことだろう。まず君たちの役目は、各都市への艦砲砲撃、もしくは他の船の撃沈などの通商破壊だ・・・・その前に君たちは我等第4帝国に対し忠誠を誓えねばならない」

 

そう言うとゾル大佐は鍵十字を掴む鷲のレリーフに右手を上げ

 

「偉大なる総統と!第4帝国の栄光のために!!」

 

そして

 

「「「偉大なる総統と!第4帝国の栄光のために!!ハイル!!」」」」

 

全員ナチスに忠誠の誓いを立て右手を挙げたのだ

 

「では作戦開始!!行けっ!!!」

 

「「ジーク・ハイル!!」」

 

生徒たちはゾル大佐にそう答えると、各自自分の艦艇乗り出港し始めるのだった。

 

・・・・一人を除いて、

それはミーナの親友であり、アドミラル・シュペーの艦長である

テア・クロイツェルだった

 

『ん?・・・・どうしたのかね?』(ドイツ語)

 

『大佐・・・・・是非、武装親衛隊に推薦したい人物がいます・・・』(ドイツ語)

 

『言ってみたまえ』

 

『ヴィルヘルミーナ・ブラウンシュヴァイク・インゲノール・フリーデブルク・・・・・・・我がアドミラル・シュペーの副長。そして・・私の親友です』

 

『ヴィルヘルミーナ・・・・そう言えば晴風にドイツ人がいたという報告があったな‥‥‥よし。では君にこことは別行動をしている武蔵とは違う別の任務を与えよう・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は航空母艦信濃に戻り

 

「それで、少尉。我々の世界は今どうなっている?」

 

 山口少将の問いに一瞬考えてから口を開く

 

「あなたが戦死して半年後に遣欧艦隊は編成され陸海空の精鋭部隊が次々にアフリカやヨーロッパに送られました。俺は残党狩りのため南太平洋に残りましたが・・・・・最近ではアフリカ戦線ももうじき片がついて、疾風中尉や杉田曹長も欧州の空でナチス相手に暴れまわっていますよ」

 

「・・・・そうか」

 

そう言うと山口少将は胸ポケットから煙草を一本取り出し火をつけ一服する。その表情は何か虚しさを感じるものだった

 

「少尉…君はこの世界をどう思う?」

 

「はっきり言って平和な世界だと思っていますよ。日露戦争以降の戦争や紛争は一切ない。まさに我々が求めた理想郷だと思っています」

 

「真霜君から聞いたが君は幼いころ、この世界に来たことがあるみたいだね?」

 

「ええ…たった一か月ではありましたが、その間にかけがえのない大事な家族ともいえる人に出会うことができました。俺にとっては第二の故郷以上に本当の故郷のように感じていますよ」

 

「・・・・そうか」

 

「提督。真霜姉・・・・・宗谷一等監察官から聞いていると思いますが、この世界にも奴らが来ています…あの忌々しき鍵十字の奴らが・・・」

 

「ああ・・・・連中は狡賢い…特に聞いたところ奴らは精鋭部隊。しかも武装ssの連中だ。この世界の軍事力・・・・ブルーマーメイドやホワイトドルフィンでは太刀打ちできまい…だが不可能ではない」

 

そう言い煙草の煙を吐き

 

「奴らを止めるすべはまだある・・・・奴らを止める軍・・・・日本海軍はまだここにある。信濃がまだここにある。そしてここに提督と・・・パイロットがいる。たった二人だけだが、七航戦だ」

 

そう言うと二人の間に風が吹いた

 

「おっと、そちらのお嬢さん方をすっかり忘れていた。彼女らが噂の晴風の乗員たちかな?」

 

「はい。居候先の船乗りたちです」

 

山口少将と目が合った明乃とましろ慌てて、それぞれの敬礼で返す。

 

「やあ、そんなに固くならんでよろしい。私は日本国防海軍少将、山口章香だ。わが軍のパイロットが世話になった」

 

「横須賀女子海洋学校。航洋艦『晴風』艦長の岬明乃です!!」

 

「同じく副長の宗谷ましろです!!」

 

「よろしく明乃少佐に宗谷大尉・・・・いや君たちは軍人ではなかったな。君たちの活躍はブルーマーメイドを通して聴いていた。なかなか優秀な船乗りだね君たちは」

 

「いえ、私はそんな大層なものでは…」

 

「いや、15,6にも満たない学生が30人でしかも駆逐艦を動かし、潜水艦やポケット戦艦、さらには戦艦比叡を相手に奮闘し、さらには事件の発端の原因を解明しそれを解決しようとするなど、誰にもできないものだ。。誇っても罰は当たらんさ」

 

「ありがとうございます」

 

「まあ、外で立ち話もあれだ。続きは中で話そう・・・・少尉にも見せたいものがある。こちらへ」

 

そう言い、山口は守以下晴風の乗員を信濃の中へ案内する。だがさすがに全員というわけにはいかず、電信員の鶫だけは連絡のため晴風に残った。

信濃の中に案内される中、幸子は

 

「すごいです!私たち異世界の軍艦の中にいるんですよ!!」

 

「落ち着けココ・・・」

 

興奮し写真を撮り幸子に対しミーナはなだめる中、明乃は

 

「(この船とあの人…どこかで見たような・・・・)」

 

信濃と山口提督をどこかで見たような気がする明乃だったがそれがどのときか思い出せなかった。そして

 

「ついた…ここだ」

 

そう言い山口提督が立ち止まった場所は格納庫でありそこには大量の航空機があった

 

「何だ・・・これは…飛行機がこんなに・・・・」

 

大量にある航空機にましろたちは驚く。

 

「彗星艦爆、天山攻撃機、零式艦戦52型甲・・・・・全て損傷機だ。まともな機体は何処にもない。だが不可能ではない」

 

「…爆装や燃料は?」

 

「ほとんど吹き飛んだ。だが、いくらかは残っている。かつての我が機動部隊もとい航戦のような戦いは出来ない。だがこの世界の技術と搭乗員育成次第では機動部隊までとはいかんがそれに近いものは出来る」

 

「それにしても…本当に信濃だ!他の乗員は何処にいるんですか?」

 

「分からん・・・・・この世界に飛ばされたとき、いたのは私だけだった。遺体一つも見当たらなかったよ」

 

「それはおかしな話ですね?」

 

「まったくだ・・・・」

 

と二人は話す中

 

「あの・・・・ところでこの船は一体何なのですか?見たところ飛行船支援教育艦みたいですが?」

 

幸子がそう訊くと

 

「そう言えばこの世界は航空機が存在しないのだったな」

 

そう言うと山口は煙草に火を消し、幸子たちに振り向くと

 

「これは空母・・・・・航空母艦。いうなれば、動く飛行機基地であり海の荒鷲たちの住む城・・・・と言ったところかな?」

 

そう言いふっと笑う山口提督だった

 



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海鷲の城その3

信濃格納庫の中

 

「それにしても・・・・すごい大穴だな~こりゃ?」

 

麻侖が上を見上げる。上の甲板は大穴が開いて日が指していた

 

「そうですね?戦艦の砲撃にでもあったんですか?」

 

幸子が山口に訊くと、これほどの大穴は戦艦の砲撃で空いたのかとみんなが重いっていたが山口は

 

「いや・・・・これは航空機の急降下爆撃でこうなった」

 

「飛行機で?でも飛行機ってこの船に比べたら小さいよね?それでこれほどの大穴が開くの?」

 

留奈が首をかしげると守も

 

「確か信濃の甲板の装甲だったら500キロ爆弾なら耐えられると思いますけど?」

 

「ああ・・・だがエレベータを上昇させるときにスキを突かれてな。そこに爆弾を落とされ、その爆炎で艦内にあった魚雷と爆弾が誘爆し、このざまだ・・・・それと、そこのお嬢さんの質問だが、確かに戦艦や空母に比べたら飛行機はとても小さい。例えるなら象と蚊のようなものだ。だが考えてみなさい魚雷か爆弾を積んだ飛行機が100、200以上で襲い掛かれたらどうなるかね?」

 

「それは・・・・ちょっと怖いかも・・・・・でも想像できないかな?」

 

留奈は少し想像し顔を青くするが、それでも信じられないという表情だった

 

「まあ、君の気持ちも分からんでもない。実際、ブルーマーメイドに説明しても理解はされなかった。この世界。我々の専門分野である現代航空機の戦いや艦対空の戦いはこの世界において、全くの未知であるという事だ。実際にズタボロになったこの信濃を見て真っ先に『おそらく戦艦辺りに砲撃されたのだろう』と判断したぐらいだ・・・急降下爆撃と艦内誘爆でこうなったと説明した時には連中ポカンとしていたよ。艦内に偶然転がっていた不発の爆弾を見て慌てながらやっと信じたが・・・・」

 

「えっ!?不発弾があるの!?」

 

「落ち着きたまえ。すでにブルーマーメイドの連中が持って行った」

 

鈴が不発弾があることに驚いたが、すでにブルマーが持ち出したことに皆はホッとする

 

「でも、信じられません・・・まさかあの航空機でこれだけの損害が出るなんて・・・・・」

 

ましろが穴の開いた甲板や、壊れた航空機を見てそう言うと

 

「私たちの異世界では戦艦の時代が終わり航空機中心の戦いになっている。1940年代はまさに戦艦の時代から航空機の戦いに変わった時代だった・・・」

 

「それで…その航空機はどんな活躍をしたのですか?」

 

幸子が訊くと

 

「少尉。君は知っているな?我々の世界の戦争のことを、まず、1941年12月8日に起きた日本のハワイ真珠湾攻撃で、日本の航空機部隊がアメリカ太平洋艦隊の戦艦部隊を大破、もしくは撃沈させ、その二日後のマレー沖海戦ではイギリスの戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルスを撃沈している。他には欧州での戦いではドイツ戦艦ビスマルクがイギリス軍艦載機の攻撃で、撃沈とはいかなかったが、操舵装置を破壊され致命的な傷を負った」

 

「そ、それは本当か!?」

 

山口の言葉にミーナは驚いた顔をした

 

「ああ・・・最後は追いついてきた英本国艦隊に袋叩きにされて沈められたよ・・・・・その後ビスマルクは我々が戦っている戦争・・・第三次大戦でも再建され登場しているが、大した活躍はまだない」

 

「そんな・・・・」

 

ミーナはさらに驚く。ミーナは守に守の世界のドイツのことを聞いてはいた。だがもう一度訊くとやはり驚きが隠せなかった

 

「そして我々の世界の戦艦大和、武蔵も、1944年のレイテで武蔵が、1945年に大和が九州沖で米艦載機の猛攻によって撃沈された」

 

「え!?嘘!!あの大和が!?」

 

「それに武蔵も!?」

 

「信じられない!?」

 

皆は驚いた表情をする。守るから守のいた世界で戦争があったことは聞いてはいたが、まさか航空機で巨大戦艦である大和と武蔵が撃沈されていたことに驚いていた。

 

「本当なの?マー君。その話?」

 

明乃が守に訊くと守は頷き

 

「ああ・・・・大和も武蔵も航空機の攻撃でなん十発の魚雷や爆弾の攻撃を受けて沈んだ・・・・大和級の46センチ砲も航空機の攻撃には成すすべがなかったよ」

 

「そんな・・・・・」

 

守の言葉に明乃は衝撃を受けた。その後、山口は明乃たちに戦後のことを話し、半ば勉強会みたいな感じになっていた。

 

「…ま、以上が我々のいた世界での出来事だ」

 

と、山口の講義?みたいなのが終わると

 

「山口提督・・・・提督やマー君の世界の日本は、資源を掘ったり、プレートのずれで低い場所が海に沈んだりとかはしてないの?」

 

「してない。そもそも、日本国内で資源が出る場所はない。メタンハイドレードにしても、主に海底深くにあって、まだ商業利用さえほとんどされていなかったはずだ。地震は多いが、陸地が沈んだりもしていない」

 

「じゃあ、東京や大阪も海に沈んでないということですか?」

 

 明乃が質問して場の空気も多少落ち着いたからか、今度は幸子が手を挙げた。

 

「ああ、こちらの世界では国土は沈んでない。だからそっちの世界のようなフロート船も存在しない」

 

「東京や大阪が海に沈んでない!」

 

「信じられない」

 

「俺たちからしたら、東京や大阪が地盤沈下して海に沈んでいる方が信じられないけどな」

 

守がそう言うと・・・・

 

「副長の弟が乗っていた飛行機やここにある飛行機の残骸から見て、その航空機とはありふれたものなのか?」

 

美波が質問をすると

 

「ああ。ここにあるものは全部軍用機だが、民間でも広く使われている。信じられないだろうけど、500人以上が乗れて丸1日あればヨーロッパやアメリカ本土まで飛んでいける。それにこの機体は80年前のモデルだ。今の主力はジェット…いうなればロケットを進化させたものであり時速1000キロ以上のが主流だ・・・・まあ、あの大戦のせいで今ある80年前の旧式兵器しか使用してはいけないという規約があるがな。なぜそう言う規定が生まれたかは訳は聞くな」

 

「速!?」

 

「スゴ!」

 

それを聞いた晴風一同は改めて航空機のすごさに驚いた。すると幸子が

 

「あの先ほどこの・・・・空母と言いましたっけ?その空母の名前が信濃なんですけど・・・・私たちの世界に戦艦信濃というのがあるんです。それと何か関係がありますか?」

 

訊くと山口は

 

「ああ。この空母は見た目は旧海軍空母信濃をベースに作られた空母だが、この空母のもととなった航空母艦信濃はもともと大和型三番艦になるはずだった軍艦だ」

 

「やっぱり…船体が少し大和型に似ていたのでもしかしたらと思ったんです」

 

「え?信濃って戦艦にならなかったの?」

 

「ああ、第二次大戦で空母が撃沈され不足になり、急遽、建造途中だった信濃を空母に改造したのだよ。まあ、その信濃も未完成のまま横須賀から呉に向かう途中、米潜水艦に撃沈されたんだがな」

 

「じゃあ、大和型戦艦は大和と武蔵だけなの?」

 

「ああ・・・こちらでは信濃と紀伊がいるみたいだが、我々の世界にはないよ」

 

明乃が質問すると山口が答えると山口は

 

「ところで・・・・さっきから気になってはいたんだが、そちらの外国人は誰かな?見たところドイツ人のようだが?」

 

山口はミーナを見て目を細めると守が

 

「あ、この人はこの世界のドイツ人です。ナチとは関係ありません」

 

「そうか・・・・いやどっかで見たような顔だったのでな。気を悪くしたのならすまない」

 

「ああ…いや、ワシは別に?」

 

山口が謝罪し、ミーナは少し戸惑う。ミーナの顔は守がいた世界のナチス空軍のエースパイロットであり、守の上官である疾風の好敵手であるエミリア・ハルトマンによく似ていたからだ。

すると、明乃の携帯から電話が鳴る

 

「あ、すみません。出てもいいですか?」

 

「構わんよ」

 

山口が頷き、明乃は電話を取る。相手は鶫からだった

 

「どうしたのつぐちゃん?」

 

明乃はどうしたのか訊き、スピーカーを大きくすると

 

『不明艦の目標が分かりました』

 

鶫から不明艦の正体が判明したと言う報告が入る。

 

「それでなんだったの?」

 

『はい!識別帯は白と黒。ドイツのドイッチュラント級直教艦アドミラル・シュペーです!』

 

「えっ!?アドミラル・シュペー!?」

 

「「「っ!?」」」」

 

何と不明艦の正体は、ドイツのヴィルヘルムスハーフェン海洋学校所属、小型直接教育艦アドミラル・グラフ・シュペーだった。

報告を聞いた晴風メンバーは驚く

中でも一番に反応したのは、他ならぬミーナであった。

 

 



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ミーナでピンチです!!前編

現在晴風は、シュペーが発見されたという海域に向かっていた。

無論、その船には守もいた。ここでじっとしていられないのが彼の性分なんだろう。

晴風が信濃を後にする際、山口少将は

 

『私は信濃と一緒にいる。時期に補給と修理で、間宮と明石がここに来ることになっていてな。シュペーが肩着いたら再びここに来ると良い』

 

煙草を片手にそう、明乃にそう言っていた。

 

 

 

場所は晴風に戻り、アドミラル・グラフ・シュペーの報告を聞いた晴風の生徒は、唖然としながら朝食をとる。

ミーナも報告を聞いてから浮かない顔をしていた。

それもその筈、アドミラル・グラフ・シュペーには、ミーナの仲間の生徒が乗艦している。

そして、その中でも特に心配しているのが、自分に退艦を命じた艦長テアの安否だ。

ミーナは、テアの事が心配で仕方なかった。

 

「今度はシュペーか‥‥」

 

再び晴風の前に立ちはだかるアドミラル・グラフ・シュペーにましろは呟く。

 

「ミーナさんが乗ってた艦ッスよね・・・?」

 

「あの時大変だったな・・・」

 

「そうスッよね・・・!」

 

アドミラル・グラフ・シュペーと戦闘した時の事を思い出したのか、媛萌と百々は、あの時の事を話題にしていた。

 

「艦長如何します?」

 

ましろが明乃にアドミラル・グラフ・シュペーにどう対処するか問う。

 

「・・・作戦は・・えっと・・・」

 

それに明乃が答えようとすると・・・

突然、教室に幸子や楓、美海、理都子、果代子、美甘、ほまれ、あかね、美波の9人が入って来て

 

「カチコミです!」

 

『おお・・・!!』

 

「助けに行きましょう!」

 

アドミラル・グラフ・シュペーの救出を進言してきた。

幸子がそう言うと楓が自前の薙刀を出して構え、美甘とほまれ、あかねが戦闘糧食を見せ、続いて美海と理都子、果代子が竹筒水鉄砲を構え、美波が白衣の裏に大量の注射器を備えてるのを自慢気に見せ、何時でもアドミラル・グラフ・シュペーの救出に向かえる構えを見せる。

 

「皆さんやる気ですね…まあかく言う俺もそうですが」

 

皆の頼もしさに守も頷く

 

「ワシの為に・・・」

 

彼女らの頼もしさにミーナは、申し訳なさそうに言う。

朝食を終えた後、明乃達は、教室でアドミラル・グラフ・シュペー制圧救出作戦を練る。

 

「具体的な、手順は?」

 

「ミーちゃん!・・・前に聞いたシュペーの足止めする方法教えてもらえます?」

 

「本気なのか?ド本気なのか?」

 

ミーナは、自分1人の為に晴風の生徒を危険に晒す様な作戦に気が進まなかったが

 

「当然です!」

 

「此処まで来たら、やるしかないでしょ、ミーナさん!!」

 

既に晴風の生徒達は、覚悟を決めていた。幸子がタブレットでプロジェクターを操作して、ミーナが映し出されたアドミラル・グラフ・シュペーの図面を元に足を止める方法を説明する

 

「燃料中間タンクを加熱する為の蒸気パイプが甲板上に露出しておる・・・其処なら晴風でも破壊可能じゃ、それを壊せば足止めできる筈じゃ‥‥」

 

「そう言えばマー君が飛行機で爆弾を落としたのって・・・・」

 

「ああ・・・・その蒸気パイプだ。ただ60キロ爆弾じゃ致命的にはなってないだろうな。あの後修理もされていると思うし・・・・」

 

守はそう言う。守がシュペーと会敵した際、晴風を守るため主翼につるしていた60キロ爆弾をそこに命中されていた。だが、60キロ爆弾では駆逐艦ならまだしもポケット戦艦じゃ致命傷にはならない。そしてあの先頭から結構日がたっているためすでに修理されていると推測する

 

「確かに・・だがシュペーは比叡に比べて砲力も装甲も速力も下だ。晴風の主砲なら・・・・」

 

「楽勝ぽいの・・・」

 

ましろの言葉に聡子が楽勝だと浮かれるが

 

「だが、巡洋艦並みの小さな体に晴風では、抜けない装甲と晴風を一撃で沈める強力な28㎝砲を搭載している・・・その上、小さいと言う事は、小回りが利くと言う事だ。危険は、大きい!」

 

ましろは、アドミラル・グラフ・シュペーは、比叡よりは、小さいが巡洋艦並みの防御力と戦艦並みの攻撃力を搭載している事を説明し、皆に危険は、大きいと言う

 

「マー君。また飛行機でできない?」

 

幸子が訊くと守は首を横に振り

 

「いいや、俺の二式水戦は比叡の時に被弾してエンジンが故障して動かないし爆装もない」

 

「それじゃ、さっき山口さんの乗っていた空母にある飛行機は?爆弾とか魚雷があったけど?」

 

留奈が訊く。確かに信濃にはいくつかの艦載機。しかも攻撃機や急降下爆撃機もあり、さらには800キロ爆弾などの対艦爆弾や航空魚雷などがいくつか残っていたが・・・・

 

「無理だな。信濃にあったのは皆、損傷機。無事な部品をかき集めて取り付けて修理しても時間が掛かりすぎる、その際にシュペーが遠くに行ってしまったら元もこうもない」

 

「ああ、そうか・・・・」

 

守の言葉に留奈は頷く。信濃にある航空機はすべて被弾時に破損した損傷機。仮に無事なのがあったとしても、ちゃんと無事に飛べるか不安だった

それを聞いたミーナは、浮かない顔をする。もう手段はないのかと・・・

 

「で如何します、艦長?」

 

如何するのかましろは、明乃に問うが

 

「・・・ミーちゃんは如何したい?」

 

明乃は、ミーナに如何したいかを尋ねる。

 

「・・ワシは‥‥」

 

ミーナの言葉に皆がミーナに注目する。それに対して、ミーナは

 

「我が艦アドミラルシュペーの乗員の皆を…そして艦長を、テアを助けてほしい!・・・晴風の皆を危険に晒す事になってしまう‥‥」

 

と言って、ミーナは、危険を承知でアドミラル・グラフ・シュペーの乗員と艦長のテアの救出を頭を下げて頼みこむ。

だが

 

「大丈夫!!」

 

「や、やってみましょう!!」

 

「やろう!!やろう!!」

 

「うぃ!!」

 

既に覚悟を決めている彼らに危険など恐れずアドミラル・グラフ・シュペーの乗員と艦長の救出しようと士気が上がっていた。

 

「一度なめられたら終生取り返しがつかんのが、この世間よのぉう・・・時には命張ってでもっちゅう性根がなけりゃあ・・・女が廃るんだわ!」

 

更に幸子がどんな危険な目に遭おうとも、友達の為なら助けると積極的に救出を決意する。

 

「俺もです。友人が困っているのに何もしなければ、海軍航空隊の名が廃りますよ」

 

「皆・・・・・ド感謝する」

 

こうして、晴風によるアドミラル・グラフ・シュペー制圧救出作戦が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、別の場所では

 

「大佐殿」

 

「どうした?」

 

「例のシュペーが晴風に接触するそうです」

 

「そうか・・・・」

 

全ての事件の黒幕であるゾル大佐は部下から、シュペーがもうじき晴風と接触するとの報告をしていた。

 

「それで大佐殿・・・本当に晴風の乗員を洗脳し我が軍の兵とするのですか?情報によれば奴らは落ちこぼれと言われていますが?」

 

「ああ・・・・だが奴らはこの事件の原因を突き止め、さらには死角として送った比叡を足止めさせた…ただの落ちこぼれとは思えない。それに逆に考えれば、マニュアルにとらわれない臨機応変に動くまさに戦場に必要な人材だ。殺すのは簡単だが、兵…特に優秀な兵の育成補給はそうそうできない。ウィルス洗脳させて、わが軍の駒として扱いたい・・・無論所属は外人部隊だがな」

 

鞭を手にパンパンと叩きながらそう言うゾル大佐。すると部下は

 

「それとですが大佐殿。例の我が兵器・・・・ratウィルスを盗んだ連中の研究員と、我々に探りを入れて捕らえたブルーマーメイドノ隊員はどうするのですか?」

 

「ああ・・・・あいつらか・・・・奴らは釈放する」

 

「え?釈放するのですか?」

 

「ああ・・・・釈放だ・・・・ただし。私のやり方でな・・・・」

 

と、にやりと笑うゾル大佐だった。一方基地の地下にある牢獄の中では研究者やブルーマーメイドの隊員が捕らわれていた。

 

『科学者、そしてブルーマーメイドの諸君!君たちはゾル大佐の寛大なお心により全員釈放することになった!』

 

「なんですって!」

 

「釈放だと!?」

 

スピーカーからの声を聴いた科学者やブルマーの隊員たちは喜んだ表情をする

 

「家に帰れる!妻や子供の顔が見られるんだ!」

 

「ああ、てっきり処刑されると諦めてたのに」

 

「本当に私たちを釈放するのね!!」

 

『そうだ!ゾル大佐は嘘は言わない!!今から10分後に大型水上バスに乗せ近くのメガフロートまで送る。直ちに出発の準備せよ!』

 

その声に皆は喜ぶのだが、一人だけ疑う者がいた。それはブルーマーメイドの設備研究課 主任研究員の 浦賀鈴留だった。

彼女は湖の事件の調査チームに同行していたのだが、他の隊員は殺されたが彼女だけショッカーに捕まっていたのだ。そして彼女は腕を組み

 

「(信じられないわ・・・・奴らの秘密を知る私たちを簡単に釈放するだなんて・・・・・)」

 

そう思い彼女は、懐から、小さな酸素マスクを取り出し

 

「(万が一の時が役に立つかもしれない・・・・)」

 

そう思うのだった。そして科学者やブルーマーメイドの隊員は大型の水上バスに乗せられ、メガフロートまで送られていった

 

「まさか、太陽を見られるとは思わなかったよ。もう一生みられないと思ったのにな?」

 

「ええ・・・青い空・・・海の色が目に染みるわ」

 

「本当にそうね・・・・」

 

みんな安心した表情をする中、浦賀は

 

「(本当にこのまま送り出すだけかしら・・・・)」

 

そう思う中、水上バスは突然止まりだす

 

「おい・・・こんなところに止めてどうした?」

 

「エンジンの故障か?」

 

「機械には強い。故障なら手伝うが?」

 

科学者たちは運転手に言うが・・・・

 

「故障ではない・・・・ここで実験を行うのだ」

 

「実験?・・・・・何のだ?」

 

「黙れ!!我がアーネンエルベは…日本の東京全都民を抹殺するための殺人作戦を行う!その前にお前たちで実験するのだ!」

 

運転手の言葉に科学者たちは

 

「違う!約束が違う!!」

 

「そうだ!ゾル大佐は私たちを釈放すると言った!」

 

科学者やブルーマーメイドの隊員たちがそう言うが、運転手は笑い

 

「確かに釈放すると言ったが、生きたまま釈放するとは言っていない!!」

 

「クッソ!!このまま殺されたたまるか!!」

 

そう言い運転手につかみかかろうとしたが目の前に壁がおりてきた

 

「っ!?」

 

皆が驚く中、バスの中に内蔵されているスピーカから運転手の声が響く

 

「この水上バスの中には一瞬にして空気中の酸素を消す酸欠ガスが内蔵されている…今から実験を開始する!!」

 

「「「っ!?」」」

 

その言葉を聞いた研究者やブルマーの隊員たちは顔を青ざめ

 

「や、やめろ!やめてくれ!!」

 

「出して!ここから出して!!!」

 

と大慌てで、窓やドアを開けようとするがビクともせず開かなかった。その瞬間内部に白いガスが勢いよく、噴出され中に充満する。

研究者や隊員は悲鳴を上げ次々と倒れていく中、浦賀は酸素マスクを取り口にはめた。そして運転手は、次々と死んでいく研究者や大尉を見て確認し無線を取り

 

「ゾル大佐。実験は成功。かつて第三帝国が開発していた毒ガスの改良型は、恐るべき威力です。これを東京に打ち込めばありとあらゆる生物が死滅するでしょう」

 

と、連絡すると

 

『くどいぞ・・・・お前の報告を待たずともすでに計算済みだ。既に武蔵の砲弾に例のガスを入れた特別砲弾を秘密裏に積ませている。後は武蔵が東京に向かい艦砲射撃をするだけだ!それよりも実験用の人間を確認したうえで処理しろ!』

 

「はっ!」

 

そう言い運転手は無線を切る。そしてしばらくしてナチスのボートがやってきて、兵たちが中に入り、死体をボートの上に乗せる

 

「・・・・あと一人か」

 

運転手がそう呟くと、兵の一人がやってきて

 

「いません!これで全部です!」

 

「馬鹿な!あと一人足りないぞ!」

 

「ですが、中には誰もいません」

 

「逃げ出せるはずがない!探せ!!」

 

「はっ!!」

 

そう言い兵士も運転手もバスの中を探し回るが見つからなかった

 

「まだ近くにいるはずだ!ここは流れが速い!おい!念のためメガフロート付近まで探しに行け!!」

 

「はっ!」

 

そう言い数名のボートが付近を探し回る中、一隻だけメガフロートまで向かうのだった。だがそのボートの下で浦賀はしがみついていた

 

「(死ねない…私はまだ死ぬわけにはいかない…このことを…この恐ろしい計画を知らせるまでは!!)」

 

そう言い彼女は必死にしがみつくのであった

 



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ミーナでピンチです!中編

ゾル大佐がウィルスの他に恐るべき殺人作戦の準備をする中、晴風は行方不明だったアドミラル・シュペーを発見していた

 

4月27日

 

アドミラルティ諸島沖

 

数時間後、アドミラルティ諸島沖に到着した晴風は、早くも航行しているアドミラル・グラフ・シュペーを発見した。やはりあの先頭ご修復されたのか蒸気パイプは元通りに直されいた

晴風は、気づかれない様にアドミラル・グラフ・シュペーの後方に付く。

 

 

 

晴風艦橋

 

「めぐちゃん!・・・シュペーの位置は?」

 

晴風、電探室

 

「前方10マイル!」

 

晴風、艦橋

 

「野間さん!・・・向こうの様子は?」

 

晴風、見張り台

 

「砲の仰角はかかってませんが・・・」

 

「確かに、此方に気がついた様子はないぞ!」

 

「よし、戦闘よーい!」

 

明乃の号令の元、楓が戦闘配置のラッパを吹き、主砲に砲弾が装填される。

 

「第四戦速!」

 

「第四戦速!!」

 

更に速力を27ノットに上げ、シュペーの左側に舵を取る。

 

「ドアホ、もう少し右じゃ、シュペーの艦橋から死角になる様に・・・」

 

ミーナは、アドミラル・グラフ・シュペーの死角に入ろうと鈴に少し右に舵を切るよう命じる。

 

鈴は、言われた通り舵を少し。右に切る

 

『・・・テア、今行く』

 

ミーナが小声のドイツ語でテア、今行くと呟く。

 

「戦闘、右魚雷戦! 30度シュペー!!」

 

アドミラル・グラフ・シュペーの死角に入ったところで明乃は、魚雷戦の号令を出す。

 

「敵針180度、敵速20ノット、雷速52ノット、写真角0度。」

 

芽衣が水雷方位盤でアドミラル・グラフ・シュペーの位置を捕捉する。

 

「距離2万で遠距離雷撃!」

 

「一番管発射雷数4、有りっ丈ぶっ放すよ!」

 

「はーい・・・!!」

 

魚雷発射一番管に乗る里都子はそう返事をする

 

晴風、艦橋

 

「発射準備よし!!」

 

「攻撃始め!!」

 

「撃てぇ!!」

 

晴風から魚雷4本がアドミラル・グラフ・シュペーに向け発射される。

 

「はっ!?シュペー!主砲旋回中!」

 

魚雷発射された直後、此方に気づいたのか、アドミラル・グラフ・シュペーの主砲が晴風に向けられる。

 

「作戦通り!」

 

作戦通りに動くシュペーに晴風のみんなは勝機を感じた

 

「リンちゃん、回避を・・ おも~かじ!」

 

「おも~かじ!」

 

晴風は、右に回避行動をする。

 

「向こうが魚雷を回避して、速度を落ちたところを主砲で狙うから見張りよろしく」

 

『はい!』

 

明乃の作戦は、此方の魚雷をアドミラル・グラフ・シュペーが回避したところで晴風が全速でアドミラル・グラフ・シュペーに突入し、弱点である蒸気パイプを主砲で再び破壊、その後、接舷して、制圧する作戦である。

 

「シュペー発砲!」

 

予定通りアドミラル・グラフ・シュペーは、反撃してきた。

 

「もーどせ!」

 

「もーどせ!」

 

明乃は、右から左へと舵を戻しながら、アドミラル・グラフ・シュペーの砲撃を回避する。

晴風の周りに3つの水柱が立つ。

 

「魚雷、シュペーに向かっている!」

 

魚雷は、順調にアドミラル・グラフ・シュペーに向かっている。

 

「魚雷に合わせて、突入!!」

 

明乃は、予定通りアドミラル・グラフ・シュペーが魚雷を回避したところで突入の命令を出そうとした。

 

「(うまくいきすぎてる・・・・本当にこのまま簡単に終わるのだろうか?)

 

あまりにも作戦通りに行き過ぎることに守は疑問を感じた。

その時

 

「シュペー回避しません!」

 

「何!」

 

何とアドミラル・グラフ・シュペーは、晴風が発射した魚雷を回避せず、そのまま直進をしてきたのだ。

 

「・・・・っ! 主砲!」

 

「うぃ!」

 

魚雷では、回避しなかったので、今度は、砲撃で回避させようとする。

晴風の砲弾は、アドミラル・グラフ・シュペーの至近に着弾したが、アドミラル・グラフ・シュペーは、全く進路を変えず、そのまま直進する。

 

「何故進路を変えない!」

 

魚雷と砲撃を浴びせているのに何故、アドミラル・グラフ・シュペーは、回避しないのか、ましろは、驚愕する。

 

「かよちゃん!次行くよ!」

 

「はいー!」

 

だが、一度目の失敗で辞める訳には、行かない。再び晴風から魚雷4本が発射される。

魚雷発射後、アドミラル・グラフ・シュペーの副砲が晴風に向けて連射してきた。

副砲弾は、晴風の左右至近に着弾し、その中の1発がまたしても晴風の第三主砲に命中した。

 

「被害報告!」

 

『三番砲大破!』

 

『二番砲被弾射撃可能ッス!』

 

『機関全力発揮可能でい!』

 

副砲の砲撃で第三主砲塔は、大破し、側に合った第二主砲塔も被害を受けたが、砲撃は、可能、機関も今のところは、異常は、無い。

まだ辛うじて、戦闘続行は、可能だ。

だが、続けてアドミラル・グラフ・シュペーの主砲が砲撃してきた。

晴風は、全速で回避する。

 

「夾叉されました!」

 

殆んどが至近に着弾したので完全に晴風は、アドミラル・グラフ・シュペーに捕捉されていた。

 

「リンちゃん、回避して!」

 

「ヨーソロー」

 

明乃は、何とか回避しながら捕捉から逃れようとする。

だが、回避中、またしてもアドミラル・グラフ・シュペーは、魚雷を回避せず直進してきた。

 

「全魚雷、シュペーの船底を通過!」

 

魚雷は、そのままアドミラル・グラフ・シュペーの艦底を通過した。

 

「回避しなかった…これじゃ弱点を狙うのは、無理だ!」

 

一度ならず2度までも失敗した事でましろは、弱点を狙うのは、無理だと覚った。

 

「(ウィルスに感染しているとはいえ感染者には意識があるし、何より乗員は晴風とは違い経験がある。以前と同じ手は通用しないってことか!)」

 

「・・・・如何しよう?」

 

「照準もバッチリだったのに…」

 

「しゅほう・・・」

 

「逃げるも嫌だけど・・・」

 

「これでは、接舷乗り込みなぞ不可能じゃ‥‥出直すべきじゃ‥‥」

 

最早、2度の失敗で作戦続行は、絶望的になり、ミーナは、撤退を進言する。

 

「ミーちゃん諦めちゃ駄目だよ!」

 

だが、幸子は、それに反対する。

 

「しかし直撃したら、この艦、一瞬で吹き飛んでしまう・・・これ以上、皆を危険に晒す訳には、いかん!」

 

だが、ミーナは、これ以上、晴風の生徒を危険に晒す事は、出来ないと断固撤退を進言する。

 

「(確かにこのままだと犠牲者が出る…だが、ここで逃せば・・・・)」

 

守も何か手はないか考えると、幸子が

 

「でも、前に行けたじゃない!」

 

と言って、前回のアドミラル・グラフ・シュペーの戦闘の事を言う。

 

「はっ!・・・艦長、副長、スキッパーなら行けるんじゃない?」

 

それを聞いた芽衣は、その時、明乃がスキッパーで砲撃を回避しながらミーナの救出に向かった事を思い出し、スキッパーならアドミラル・グラフ・シュペーに向かう事が出来るんじゃないかと進言する。

 

「確に小さくて小回りのきくスキッパーなら砲撃を避けるのは、容易です・・・ですが至近弾でも吹き飛ばされって、もう作戦続行は不可能になります!」

 

だが、スキッパーは、小型ゆえ、砲撃を回避するなぞ容易にできるが、至近弾で吹き飛ばされてしまえば、使い物にならなくなるし生徒にも危険が及ぶ。

 

「如何します、艦長?」

 

果たして救出に行くのか、それとも・・・・・艦長である明乃の決断にかかっていた。

 

「・・・私は・・・行きたい!」

 

明乃は、芽衣の進言通り、スキッパーで作戦続行を決断する。

 

そして、自らもスキッパーでアドミラル・グラフ・シュペーに向かう事を決める。

 

「・・・どうせそう言うと思ってました・・・行って下さい!!」

 

ましろは、事前に明乃のする事は、分かっていたので、それに反対せず、行くよう薦める。

それを聞くと明乃は、自分の艦長帽を取り、ましろに渡す。

 

ましろは、それを受け取る。

 

「了解です! ・・・以後の本艦の指揮は宗谷ましろ!・・・貴官に命じます!」

 

「了解です!」

 

こうして、晴風の指揮権は、明乃からましろに一時的移譲した。

 

「突入班・・・用意!!」

 

画して、スキッパーによるアドミラル・グラフ・シュペーへの乗り込み作戦が開始された。

 

明乃とミーナは、突入班の聡子、マチコ、美海、百々、楓、美波、五十六の6人1匹と共にスキッパーでアドミラル・グラフ・シュペーへと向かう。

そして、ましろは、いつも後ろで留めてる髪留めを外し、艦長帽を被る。

 

「先ずは、シュペーの目をこっちに引き付けるぞ!!」

 

『はい!』

 

ましろは、明乃達をアドミラル・グラフ・シュペーに無事に着かせる為、アドミラル・グラフ・シュペーの目を晴風に引き付けさせる作戦に出た。

 

「守・・・・」

 

ましろは隣にいる守を見るその顔は少し不安そうだった。初めて船の指揮を執ることに不安があるのだろう

 

「大丈夫だよ。姉さんならできるよ」

 

「そうか・・・・ありがとう」

 

「それに姉さん。その帽子。よくにあってるよ」

 

「なっ///っ!?」

 

守の言葉に思わずましろは顔を赤くする

とは言え、晴風は、アドミラル・グラフ・シュペーの目をこっちに向かせる為、アドミラル・グラフ・シュペーに接近する。

 

 

そして、明乃達は、スキッパーでアドミラル・グラフ・シュペーの死角に成っている岩陰を進んでいた。

 

「突入予定時間まで後30秒!」

 

「了解!」

 

明乃は、晴風の砲撃と同時に岩陰から出てアドミラル・グラフ・シュペーに突入する行動に出る。

 

「後20秒!」

 

「サドちゃん、合図を出したら突入して!」

 

「うちの腕を見せる単騎ぞな!!」

 

そして、晴風でも明乃達が岩陰から出た同時に砲撃する構えを執っていた。

 

「10秒前!」

 

「艦をシュペーに後200近づけって!」

 

「任せてー!」

 

ましろは、あと200程接近させる。

 

「4・・3・・用意!」

 

「撃て!!」

 

晴風は、アドミラル・グラフ・シュペーに向けて砲撃を開始。

 

「艦長着ました!」

 

「どんぴっしゃ!」

 

砲撃の合図と同時に明乃達が岩陰から出現。アドミラル・グラフ・シュペーの反対側から乗り込むべく向かうのだった

果たして作戦はうまくいくのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、晴風も守もまだ気づかなかった。シュペーの後部に新たに付けられたカタパルトの上に翼を休めている鋼鉄の悪魔の鳥に・・・・

 



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ミーナでピンチ!後編

晴風が囮となっている間、スキッパー部隊はシュペーへと向かっていた

 

「皆…早く射程外に出て・・・」

 

明乃は、付近で待機しながら射程外に離脱する晴風を見ていた。

 

「あないようけん水柱が! 艦長なんとかならんのかの?撹乱とか?」

 

聡子は、射程外に離脱する晴風を援護しようと明乃に進言する。

 

「艦はシロちゃんと皆に任せたから私達は突入班に何かあった時に備えてなきゃ!」

 

だが、明乃は、アドミラル・グラフ・シュペーに乗り込んだ突入隊に何かあった時に備えて、アドミラル・グラフ・シュペーの付近で待機する。

その時、晴風の前方でアドミラル・グラフ・シュペーの主砲弾が着弾し、大きな水柱が立ち、晴風の艦首が跳ね上がる。

 

「晴風が!?」

 

「シロちゃん…お願い皆を守って・・・」

 

明乃がそう思いつつ突入隊の成功を待つ。

 

 

 

 

 

「・・・まだなのかぁ、艦長?」

 

一方、晴風、艦橋にいるましろも一方的に攻撃されてる状況を我慢しながら突入隊の成功を待つ。一方、アドミラル・グラフ・シュペーに乗り込んだミーナ、マチコ、楓、百々、美海、美波、五十六の6人1匹は、マチコを先頭に次々とウィルスに感染した生徒を倒していた。

倒した生徒は、美波が1人1人、抗体を注射する。

 

「・・・・こっちじゃ!」

 

『ん』

 

ある程度、甲板の制圧が完了したところで、ミーナの案内の元、テアが居る艦橋を目指しながら艦内に入った。

 

 

 

 

その頃、晴風の機関室では、アドミラル・グラフ・シュペーの砲撃を回避する為、最大出力が出しっ放し、その結果、サウナ状態に成っていた。

 

「ああ・・湿度90ぱぁ超えた・・!!」

 

「送風機止まってない?」

 

「熱いよ・・・」

 

「温度も40度越えてる・・・ヤバイよ!」

 

室内の温度は、40度も超え、既に4人は、厚さに駄々をこねていた。

 

「まだ全開なの?外は、如何なっているのよ!?」

 

洋美は、まだ全開を続けるのか、外の状況は、如何なっているのか伝声管で艦橋に問う。

すると

 

『あと少しだ!頑張ってくれ!』

 

「宗谷さん!?」

 

明乃かと思ったが、答えたのがましろだった事に洋美は、驚愕する。

 

『今は、私が指揮中だ!頼んだぞ!』

 

「はい!頑張ります!!」

 

明乃に代わって、艦長として、ましろが指揮している状況でましろにあと少しだけ頑張ってくれと頼まれ、洋美は、頑張りますと率直に言う。

 

「あと少し、頑張ろう!!」

 

そして、駄々をこねる4人にあと少し、頑張ろうと言い。

 

『お~う!!』

 

4人もそれに声を上げるが

 

「それ・・・麻侖の仕事なのに・・・!!」

 

洋美にセリフを奪われ、麻侖は頬を膨らませるのであった。

 

 

 

 

一方、ミーナ達は、艦橋を目指すべく、艦内を進んでいたが

 

「はっ!?」

 

前方からウィルスに感染したレターナ、ロミルダ、アウレリアの3人が立ちはだかった。

ミーナは、足を止めた。

 

「ん?」

 

その時、後ろに居た楓が前に出て来て、持っていた薙刀の布を外し

 

「万里小路流薙刀術・・・・・」

 

3人に向け薙刀を構える。

 

『うがああっ!!!』

 

3人は、楓に襲いかかてきた。

 

「当たると・・・痛いですよ!!」

 

襲ってくる3人を楓は、薙刀で素早く1人ずつ倒した。

 

「うぉ・・!凄いッス・・・!」

 

3人を一瞬に倒した事に百々は、驚きながら感想を呟いた。

 

「兵は敵に因りて勝ちを制す。」

 

美波もことわざを言いながら、楓が倒した3人に抗体を注射する。

 

「あれ?」

 

その時、倒した3人の1人の服の中から例のマウス、RATが出て来て、前方へと逃げて行く。

 

「ぬぉ~!」

 

それを見た五十六は、全速でRATを追いかける。

 

「五十六!!」  

 

RATを追いかけていった五十六を百々が追いかける。

 

 

 

 

その頃、晴風は、まだアドミラル・グラフ・シュペーの射程外まで退避中であった。

 

『・・・・』

 

ましろは、まだ射程外から出られないのかと思いつつ唖然とする。

 

「シュペーから11マイル!副砲の射程外に出ました!!」

 

ようやく副砲の射程外に出たが、まだ主砲の射程内。

 

「くっ・・・まだか・・・まだなのか・・・?」

 

ましろは、耐えながら突入隊の成功をまだかまだかと待ち続ける。

 

「主砲射程外まで約10分!」

 

主砲の射程外まであと10分に成った時だった。

 

「副長、主砲弾直撃コース!」

 

アドミラル・グラフ・シュペーの主砲弾が晴風に向かってきた。

 

「回避!」

 

ましろは、今度は、躊躇わず回避の命令を出すが

 

「間に合いません!!」

 

時遅く、主砲弾は、晴風に命中しようとした。

 

 

 

その時

 

 

 

ボーン!!

 

 

 

何故か主砲弾は、晴風に命中せず、上空で爆発した。

 

『わぁ!?』

 

爆発の衝撃で艦は、揺れた。

 

「な、何だ?」

 

「空中で爆発!」

 

「如何なってんの?」

 

「うぃ!」

 

何故空中で爆発したのか、全く分からなかったが、その理由はすぐに判明した

 

「ふ~なんとか当たったな・・・・」

 

晴風の機銃座で守が安堵したようなため息をつきそう言う。そうあの砲弾の爆発は守は25ミリ機銃で撃って迎撃したからだ

 

「爆撃機の対空銃撃よけの経験がここで役に立つなんてな・・・・」

 

と、ぼそりと呟く。普通ならこんな芸当は不可能だが、爆撃機の迎撃に出てた守は爆撃機の対空銃撃をよく目にしていたため弾道がそれなりに見えていたのだ。だが確実に当てていたわけではなく来る咆哮を予測しありったけの銃弾を適当に撃っていたところ一発がその砲弾に命中したという強運が味方したことからできたことだった。

 

「岬艦長・・・うまくやってるかな?・・・・・・・ん?」

 

その時、守はシュペーから信号弾が上がるのを見た

 

「なんだ?作戦完了の合図は信号弾じゃなかったはずだけど・・・・」

 

守が不思議に思う中、シュペーの艦体後部から何か飛び立つのを見た

 

「あれは・・・・・っ!!」

 

 

 

 

 

 

その頃、突入隊は、艦橋目前の所まで来ていた。

 

「此処を上がれば艦橋じゃ!」

 

ミーナを先頭に楓、マチコ、美波、美海が艦橋に続く階段を登ろうとした時に後ろからウィルスに感染した生徒3人が迫ってきた。

それに気づいた美海は

 

「此処は行かせない!!・・・マッチは私が守る!」

 

そう言って、3人の前に通せん坊するが

 

「って!・・・多いな・・・・」

 

3人に飛び込まれて下敷きになる。

そして艦橋に着いたミーナ達は、辺りを見る。

辺りを見ると上には、射撃指揮所があって、その下にミーナと同じ士官服を着てコートを纏っい空に向けて信号銃を上げた1人の生徒が立っていた。

 

「・・・艦長!!」

 

ミーナは、その生徒に向かって艦長と呼ぶ。

その生徒は、紛れもなく、アドミラル・グラフ・シュペーの艦長であり、ミーナの親友テア・クロイツェルだった。

だが、ミーナが呼んだがテアは、ミーナの方を向いた時、テアの目がウィルスに感染した生徒と同じ目をしていたので、テアもウィルスに感染していた。恐らくあの時、ミーナがテアから退艦するよう言われた時からウィルスに感染していたのであろう。

 

Kapitän(艦長)!」

 

ミーナは、もう一度、ドイツ語でテアに呼ぶが、

 

「はっ!?」

 

「うぅぅ・・いや!」

 

テアは、ミーナに対して、容赦なく回し蹴りをする。

 

「・・・」

 

テアの回し蹴りがミーナの顔にヒットするが、ミーナは、表情を変えず足を退かす。

テアは、ミーナから離れようとしたが、ミーナは、そのままテアを抱きしめ動けない様にする。

 

その隙に美波がテアに抗体を注射する。

抗体を注射され、テアは、そのまま落ち着きを取り戻し、ミーナに抱かれたまま気を失った。

 

「・・・遅れて御免なさい。」

 

気を失ったテアにミーナは、抱きかかえたまま救出が遅れた事を謝罪した。

その後、マストに制圧完了の白旗が上がる。

 

「あっ!?」

 

「艦長! やったぞな!!」

 

海上で待機していた明乃と聡子は、制圧完了の白旗を確認し

 

 

 

 

 

「あっ!?・・・やった!! 」

 

ましろも双眼鏡で制圧完了の白旗を確認。

それを聞いた艦橋の皆は、それぞれでハイタッチをした。

だが・・・・晴風の傍で水柱が上がる

 

「な、なんだ!?」

 

皆が驚く中、艦橋横で黒い何かが横切った。皆はそれを見ると

 

「あれって・・・・飛行機!?」

 

そこには二式水戦とは違う灰色と黒のまだら模様であり胴体や翼に鍵十字が描かれた水上飛行機が晴風へ攻撃していた

 

『くっ・・・・シュペーは制圧されたか…やっぱり同胞の武装隊を乗艦させるべきだったか・・・・このまま帰れば間違いなく私はゾル大佐に粛清される・・・・ならばここで晴風を葬ってやる!!』

 

水上機のパイロットは旋回し、晴風へと銃撃する。船は沈まなくても少なからず乗員を殺すことは出来ると踏んだからだ

 

「全員伏せろ!!」

 

ましろの言葉に全員が伏せ艦橋に向けて無数の銃弾と翼に取り付けたロケット弾が降り注ぎ、艦橋の窓ガラスが割れる。

 

「きゃあぁぁぁー!!」

 

その出来事に皆は悲鳴を上げる。それと同時にどこか爆発音が聞こえた

 

「みんな無事か!どこに当たった!!」

 

艦内に緊急アラームが鳴る中、ましろが伝達管で被害確認をした

 

「う、うん・・・・艦橋はは何とか・・・」

 

『電探室。以上ありません!』

 

『第一魚雷発射管被害なし!』

 

『第二魚雷発射管、大丈夫です!』

 

と、次々と被害状況を知らせるが・・・・・

 

「副長!射撃指揮所付近です!!」

 

「射撃指揮所!無事か!!」

 

ましろがそう呼びかけるが、応答がなかった。ましろは最悪の事態を考えた・・・・・しかし

 

『あ~こちら射撃指揮所。聞こえてます。小笠原無事です』

 

『竹田。異常なし』

 

『日置。大丈夫で~す』

 

射撃指揮所は水上機のロケット弾を喰らったものの、中は緊急用のエアバックが作動し、三人とも無事だった

その知らせを聞いたましろは安心し息をつくが油断はできなかった。空を飛ぶ、あの水上機はまだ晴風を狙っているからだ。

 

「このままだと・・・・」

 

シュペーの時でダメージを喰らい、そして対空戦に慣れていない晴風では太刀打ちができない・・・・どうすればいいか悩むましろ。すると・・・

 

「副長!後部甲板にあったマー君の飛行機がありません!!それにマー君もいません!!」

 

「なに!?」

 

まゆみの言葉にましろは艦橋から後部甲板を見ると、確かにそこにあるはずの二式水上戦闘機がなかった

 

「・・・・・まさか!!」

 

 

 

 

 

機関室

 

「そう言えば麻侖?この海域に来る前に守君と一緒に工具箱持って上に上がってたけど何をしてたの?」

 

洋美が麻侖に訊くと

 

「あ?ああ・・・ちょっと修理をな!いや~意外と楽しかったよ」

 

「修理って何を・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

上空

 

『ふ・・・・・デストロイヤー・ハレカゼ!止めだ!!』

 

そう言い、トリガーを弾こうとした瞬間。背後から殺気を感じ、背後を見ると・・・・・

 

「いい加減にしやがれ・・・・・ナチ野郎!!」

 

怒りと殺気を含めた目で敵を見る守を乗せた二式水上戦闘機が飛んでいたのだった

 

 



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海鷲たちの死闘!!

 

機関室

 

「え?守君の飛行機を直していたのマロン?」

 

機関室で洋美は麻侖に訊いた。訊くところによると麻侖が守とともに二式水戦を修理していたみたいだ

 

「ああ。信濃にあった飛行機の部品と工具を山口提督から貰ってな、で、シュペーに会敵するまでの間、守と修理してたんでい」

 

「道理で姿が見えないと思ったら、そう言うことだったのね?」

 

「いや~飛行機って船とかスキッパーと違ってなかなか面白い構造だったから楽しかったよ~」

 

とウキウキした表情でそう言う。どうやら信濃にあった航空機の部品と、整備道具を山口少将に無理って持ってきてたらしい。そして戦闘海域につくまでの間、飛べるくらいまで守と一緒に修理をしていたらしい

 

「それよりもさっきの揺れは何だったのかしら?」

 

「うんシュペーは艦長たちが助けたんでしょ?」

 

留奈たちが首をひねると

 

『報告!守君が飛行機で出撃しました!!』

 

と、伝声管からまゆみの声が聞こえた

 

「何でマー君が飛行機に?マー君ってお腹怪我して飛ぶのはダメだって美波さんに言われているはずだよね?」

 

「なんかあったのかな?」

 

「とりあえず行ってみよ!!」

 

そう言い、機関科の子ら全員が階段を上って甲板へと向かうのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしろよ・・・・ナチ公!!」

 

晴風を襲撃するナチスの水上戦闘機の背後に守の二式水上戦闘機がいた

その操縦席にいる守の目は鷹のように鋭く殺気立っていた

守は怒っていた。姉やその船に乗る仲間を攻撃した奴に!

元居た世界ならいざ知らず、ここは平和な時代。しかも今回の事件を引き起こした連中の一味にその平和を踏みにじられることに

 

「なっ!いつの間に!!」

 

ナチスのパイロットは驚く。そして操縦桿を横に向け相手の射線に入らないように回避行動に出る。だが守も逃がさないとばかりに追いかける

 

「くそっ!こいつ!水上機にしては早い!!・・・・・だが!!」

 

悪態つきながらも回避行動をとるナチのパイロット。だが、ナチのパイロットは急降下する。そして右旋回すると守の背後を取った。それを見た守は

 

「水偵だと思ったが違う。あれは・・・・」

 

守は目を凝らしてその機体をよく見ると、複座と思っていたその水上機は単座だったしかも見たことのある機体だった

 

「アラドだと思ってたが・・・・こいつはヴィルガーかっ!?」

 

守は相手はドイツ。しかも水上機なら、アラド水上偵察機かと思っていたが、明らかに機影は単座の戦闘機しかも機種を見るとそれはfw190戦闘機だった。どうやらナチがフォッケウルフを水上戦闘機に改造したんだろう。零戦にフロートを付けて二式水戦を作ったように

 

「(だとすると厄介だ。武装は向こうが上、速度はこちらの最高速度に及ばないが、大体500半は出てる・・・・・)」

 

相手の武装は20ミリ機関砲4問に機首に13ミリ機銃を付けた重戦闘機だ。

そのうえフロート(下駄ばき)をして、エンジンを改造し速度を上げた二式水戦の速度についてこれると、いうことは向こうもエンジンを改造しているということだ。武装はナチが上。速度や同等、軽快さは守の乗る機体の方が上だが、いくらか空中戦をして両者はあることに気が付いた

両者の軽快な動きと、無駄撃ちしない行動。明らかに素人の動きではないことに二人は

 

「「(こいつ・・・・・ベテランだ!!)」」

 

両者が熟練のエース級だと知る。そしてナチスのパイロットは守の乗る二式水戦の尾翼に書かれているパーソナルマークを見た瞬間、目を丸くした

 

「(このマーク!まさかシーウルフ!!)」

 

パイロットはそのマークに見覚えがあった。それは別の戦地に行くため爆撃機に乗り、その地に向かっていたところ、数機の水上機に襲われた。その中で他の水上機が深緑色に対し一機だけ白い水上機がいた。数機の爆撃機の銃火による弾幕で他の水上機が近づけない中その白い水上機は高度を上げその爆撃機の真上に来たと思えば反転して急降下し、前方にいた仲間の爆撃機を銃撃して撃ち落とした。

そして次々と仲間の爆撃機が撃ち落とされ、さらには自身の乗る爆撃機も撃ち落とされた、幸い自分の乗っていた機体は味方陣地へ不時着し助かったが、他の機体は海の底へ没した。それ以来そのパイロットはあの二式水戦のことをよく覚えていた

 

「(この世界にも来ていやがったのか・・・・まあいい!ここに来てから空戦が出来ずに不満があったから丁度いい!!」

 

そう言い、パイロットは操縦悍を弾き、急旋回をする。それは戦闘機同士の一騎打ちの合図であった

 

「一騎打ちとは・・・・ずいぶん腕に自信があるみたいだな・・・・・よし!!)」

 

守も操縦桿を引き、急旋回する。そして二機はたがいをぐるぐると回り出す

そう、「巴戦」。海外ではドッグファイトと呼ばれる奴だ。だが、これは高速での急旋回をすることにより強いGがかかり、二人の体に大きな圧力をかけた。まるで心臓や内臓が締め付けられ目玉が飛び出しそうな激しい激痛が二人を襲う。しかも守は比叡での戦闘で腹の傷が癒えてなかったためその圧力で傷が少し開き服が血で滲んでいた

だが守は辞める気はなかった。それは相手に隙を与えてしまう危険があったからだ。それは相手も同じなのか一向に巴戦を辞める気配はなかった

そんな激しい空中戦を晴風のみんなやシュペーにいる明乃たちも見ていた。

 

「すごい・・・・・」

 

「これが飛行機の・・・・・空の戦い」

 

と、空の上での未知の戦いにみんな唖然とする。

 

「守・・・・・」

 

そんな中、守の姉であるましろは心配そうな表情をする。

 

「あっ!マー君の飛行機がぐるぐる回るのをやめたよ!!」

 

芽衣がそう言ったその瞬間、守の二式水戦が急上昇した。そしてそれを追いかけるヴィルガー。だが守は急上昇する際に急激な左旋回をし、相手の背後を取り守を追いかけていたヴィルガーは逆に追われる形になった。

それは旧海軍の戦闘機乗りから代々伝わる技「左捻りこみ」であった。

そして守の照準器には相手のパイロットをしっかりと捉えていた

これで勝敗が決した。

 

「ううっ!!くそっ!!!」

 

「・・・・・・」

 

鷹のように鋭い目で相手を捕らえた守は機銃レバーのスイッチを20ミリに切り替え、よーく相手を狙う

 

《ダメだっ!!守!!》

 

「(っ!?)」

 

咄嗟に脳内にましろの声が響き、守は驚いた瞬間、引き金を引いた。二式水戦の翼内から激しい銃音。20ミリ機関砲特有の爆音が響いた。そして20ミリ弾はヴィルガーのフロートに命中した。20ミリの破壊力にフロート部分は完全にへし折られ、ヴィルガーはバランスを崩す

 

「くそっ!!バランスがっ!!」

 

パイロットは焦って操縦桿をひくが目の前の海に突っ込み不時着したパイロットはキャノピーを開け、体を出すと目の前に二式水戦が迫ってきた

それを見た晴風の乗員たちは

 

「え!?まさか、あの人、撃っちゃうの!!」

 

「そ、そんな!」

 

守が不時着した敵のパイロットを撃ち殺すのかと思ったみんなは驚き

 

「守!!ダメだ!!やめろっ!!!」

 

ましろもそう叫ぶのだったが、守はそのパイロットを撃たずに素通りした

 

「なぜ・・・・・殺さない」

 

その行動にパイロットは唖然とする中、守は

 

「殺さねえよ・・・・お前には聞きたいことがあるしな・・・それに」

 

と、小さく呟いた。ここは戦争‥・人殺しとは無縁の世界。だからもう人は殺さない。守はそう決意していた。

だが守も照準を相手のパイロットに合わせた時本当に撃ち殺そうとした。

だがそれをしなかった。なぜか?頭の脳裏に姉であるましろが悲しむ顔が浮かんだからだ。もし殺しても姉さんたちはそれを望んでいない。それどころか自分も人として元には戻れなかったかもしれない

 

「(姉さんが俺を戻してくれたんだよな・・・・・)」

 

守はそう呟いた。そして守は無線を取り

 

「こちら守。今回の事件に関係する人物が漂流中の上保護を求む」

 

と無線で晴風に知らせた。そしてその後、シュペー艦内でもRATを全て捕まえ生徒の救出と艦も制圧され、作戦は、無事に終了するのだった



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Muss i denn

ゾル大佐の操るシュペーを見事、救出した晴風。シュペーから飛び立ったナチスの水上戦闘機の襲撃があったものの、守の乗る二式水戦の活躍により、見事敵機を撃墜し、そのパイロットを捕虜にすることに成功した

空は夕焼けにより茜色に染まる時刻。

 

「美波さん、もう抗体の接種、終わった?」

 

シュペー甲板で明乃は、美波に殆んどの生徒の抗体接種は、終わったか確認する。

 

「これで最後・・・」

 

美波は、これで最後だと言って、自分に注射する。

如何やら、抗体接種が終わっていなかったのは、美波だけだった様だ。

 

「明乃!ましろ!守!」

 

「あっ!ミーちゃん!」

 

ミーナが守と明乃、ましろの前に意識を取り戻したテアを連れてきた。

 

「ミーちゃん?」

 

ミーナの事をミーちゃんと呼んでいる事にテアは、不思議に思った。

 

「紹介する・・此方が…」

 

ミーナが前へと手を出すとテアは一歩前に出て。

 

「艦長のテア・クロイツェルだ・・・話は聞いた我々を救ってくれて感謝する。」

 

そう言ってテアは、明乃に手を出して明乃もそれに応えると

 

「晴風艦長の岬 明乃です・・・此方が」

 

明乃も自己紹介をし

 

「副長の宗谷 ましろです。」

 

「そして、此方が」

 

「森守です」

 

ましろと守も自己紹介をして、お互いに手を交わす。そしてテアは

 

「そうか・・・・君が例の飛行機械の操縦士か」

 

と、興味深そうな表情で守を見る

 

「全員無事でしたか?」

 

「現状は‥これからゼーアドラー基地に戻って補給と補修だ」

 

シュペーは現在、左舷のスクリューと第一主砲が破損している状況だ。

それに乗員がウィルスに感染した後、補給が一切されていない状況なので、補修と補給は急務であった。

 

「それじゃあ、ミーちゃんも‥‥」

 

「ああ。当然我々と行く」

 

「えっ!?」

 

テアのこの言葉に一番のショックを受けたのはましろと守の後ろにいた幸子だった。

幸子はそのまま夕食会に参加することなく、目に涙を浮かべて人知れず自室へ籠ってしまった。

 

「基地に戻ったら、念の為、精密検査を受けて欲しい。」

 

美波は、テアにゼーアドラー基地に寄港したら、後遺症がないか精密検査を受けるよう頼む。

 

「分かった。」

 

テアは、それを受けると約束する。するとミーナは

 

「ん?そう言えば守?頬が少し腫れているがどうした?」

 

「アハハ・・・・まあちょっとね」

 

守は頬を掻いて困った表情をし、隣にいるましろは後ろめたそうに眼をそむける

その理由は少し前に遡る

 

 

 

 

 

 

 

それは敵機を撃墜し、晴風のもとへ着水した時のことだ

 

バシンッ!!

 

晴風に戻るや否や、守はましろに右頬をビンタされた。その光景に皆が驚く中、ましろは

 

「守!これ以上心配かけさせないでくれ!!もしお前が死んだら・・・・!!」

 

涙を流しながら守にそう言った。実際守は美波さんから飛行禁止と言われたのにもかかわらず空を飛び、挙句の果てには傷口が開き出血していた

そのことにましろは守を叱った

 

「まあまあ、シロちゃんも落ち着いてください。実際マー君のおかげで飛行機の襲撃から助かったわけですし」

 

幸子がなだめるが

 

「だがっ!もしも万が一のことがあったら・・・・」

 

ましろはぽろぽろと涙を流しそう言うと守は

 

「姉さん・・・ほんとごめん!!」

 

と深く頭を下げた。守自身も悪いと思っている。だがもし出なければあの水上戦闘機に晴風は撃沈されていたかもしれないと思うと、黙ってはいられなかった。するとましろは守をぎゅっと抱きしめ

 

「本当だ・・・・昔からお前は本当に無茶ばっかりするんだから」

 

と、思いっきり抱きしめる。ましろ自身も守が出撃した気持ちを少なからず理解はできていた。だが、怪我が治っていないにもかかわらず、出撃してもし傷口が開いたら、もしも撃墜されたら・・・・そう思うと心配でたまらなかったからだ

 

「(俺って幸せ者だな・・・・)」

 

守も姉がそんなに心配してくれて、少し嬉しかった。血のつながりはなく。ましては違う世界の出身である自分をこんなに心配してくれるなんて自分は恵まれているそう感じた

 

「姉さん・・・・そろそろ放してくれる?」

 

「やだ・・・・」

 

「でもみんなが見てるし・・・・・」

 

「関係ない・・・・・」

 

といつまでもぎゅーと抱きしめてるましろの姿を見て皆は微笑ましく見ている。幸子に至ってはタブレットで写真を撮り記録していた

 

「まあ、守も姉ちゃんに心配かけた罰ってことで納得しろよな!」

 

と、麻侖がそう言うのだが

 

「それはそれでいいんだけど・・・・・・・姉さんの抱きしめた衝撃で傷口完全に開いちゃって痛いんだけど・・・・・」

 

「「「「「え?」」」」」

 

守の言葉にましろは愚か皆が目を丸くすると守の脇腹がどんどん赤く染まっていた。どうやらましろが強く抱きしめたせいで開きかかっていた傷口が完全に開いちゃったようだ

 

「うわっ!ほんとだっ!!」

 

「うわぁー守!!ごめん!!」

 

「ちょっと美波さん何処ッ!!・・・て、あー!シュペーにいたんだった!」

 

「救急箱と包帯、急いで持ってこないと!!、

 

と、シュペーに乗り込んだみんなが戻るまで晴風艦内は大パニック状態になるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は戻って

 

「まあ・・・いろいろとな?」

 

「「「「?」」」」

 

守はそう笑い誤魔化し、事情を知らないミーナや明乃たちは首をかしげるのだった

 

「ご飯できました・・・」

 

「できました・・・!!」

 

杵﨑姉妹がパーティーの準備が出来た事を知らせてきた。

初めての海洋実習でお互い色々あったが、改めて、お互いに交流しようと、交流パーティーをする事になった。

 

「これは、ラックスフィレだな!」

 

「そうです艦長!寿司とも言います。」

 

様々な料理の中でテアは、中央に置いてあった寿司に注目する。

 

『我々も手伝いました!!』

 

この寿司作りには、レオナとアウレリアも手伝った様だ。

 

「・・・・」

 

寿司に注目していると

 

「クネーデルやマチェスも乗せてみました。」

 

とレオナがそう言って、クネーデルやマチェスを乗せた寿司を出す。

 

「ああ、スシ、サシミ、カロウシってやつか?」

 

「最後のは、何か違う。」

 

テアの最後のカロウシと言う言葉に、あかねが何か違うと思う。

 

「これはアイントプフだな?」

 

続いてテアはおでんに興味を持った。

 

「そうです艦長。おでんともいいます」

 

「お、おでん?」

 

「ん?」

 

レオナとアウレリアはおでんを初めて見た様子でおでんをジッと見ていた

 

「艦長、挨拶を」

 

「うむ」

 

ミーナに挨拶をする様に促され、テアは皆の前に立つ。

 

「我々の不断の努力により、艦と自らの制御を取り戻した・・・このめでたい日に感謝して晴風艦長から乾杯の音頭を頂きたい。」

 

「えっ!?・・私・・が?」

 

「はい!」

 

テアに乾杯の音頭を任せると言われ明乃は、皆の前に立つ。

 

「じゃあ‥‥皆さん‥乾杯!!」

 

『乾杯ー!!』

 

『プロースト!!』

 

明乃の乾杯の音頭を機に守と生徒達は、一斉にそれぞれ乾杯し、交流パーティーを始める。

 

パーティーの中で山盛りのザワークラウトを見た美波は、ドン引きしたが、その山盛りのザワークラウトをテアが代わりに貰い、美波は、ホッとする。

如何やら美波は、お子様なのか、野菜の料理が嫌いの様だ。

 

 

その他、さっきレオナとアウレリアが作ったクネーデルやマチェスを乗せた寿司を洋美と百々、麗緒、桜良、留奈の5人が試食したが、口に合わなかったようで不味い様な顔をする。

そして、今回の作戦で勇敢に戦った美海にローザから賞状を送られた。

マチコの方は、アドミラル・グラフ・シュペーの生徒に囲まれ注目の的になっていた。そして守もテアから飛行機についていろいろと聞かれた。どうやら未知の機械である航空機に興味を持ったようだ

そしてその後皆それぞれ食事を楽しむ

 

「はい、艦長あーん」

 

テアは満面の笑みをしながら口を開き、ミーナからブルストを食べる。

 

「それソーセージ?」

 

「あぁ、我が艦特製のブルストじゃ!これがずっと食べたくてな・・・」

 

「はむっ、モグモグ‥‥なかなかいけますね・・・」

 

皿に残った2本のヴルストの内一本を食べた楓はうっとりしながらヴルストを食べる。

 

それを見て、ましろもブルストを取ろうとした時

 

「うむ!」

 

「あっ!?」

 

横から五十六にがめ捕られてしまった。

五十六にブルストをがめ捕られましろは、落ち込む。その光景を見て、周りは、笑ってしまう。

 

「姉さん。俺のあげるから元気出せよ」

 

落ち込むましろに守が代わりに自分のブルストを上げる事でましろに救いの手を差し伸べる。

そして、その中でミーナは

 

「艦長・・・ずっと預かっていた・・・これ…」

 

そう言って、ずっと預かっていた艦長帽を脱ぎ、テアに返そうとしたが

 

「被せてくれ!」

 

テアは、被せてくれと言って、せがみ、後ろを向く。

ミーナは、テアの後ろから艦長帽をテアの頭に被せる。

その瞬間、テアの目から涙が出てきた。

 

「艦長さん・・・」

 

「私は泣いてない! 」

 

テアは、そう言って、手で涙を拭う。

 

「しかし、其方の艦は相当酷い状態だな・・・」

 

テアは、晴風の損傷個所を見ながらそう呟く。

 

「誰のせいかな・・・・でもナイスパンチだったよ!・・・私達を倒すにはちょっと足りなかったけど・・・」

 

芽衣がテアに健闘を称える言葉を言うとテアは顔を上げ。

 

「我々と共にゼーアドラーに行って修理を受けたらどうだ?」

 

テアは、自分達と共にゼーアドラー基地に寄港しないか、明乃に提案するが

 

「いえ、私達は明石と合流する様に連絡を受けています。」

 

明乃はこの後、明石と合流する様、学校から連絡を受けていた。その場所は信濃がいるところであった

 

「そうか・・・では此処でお別れだな!」

 

「はい」

 

明乃はテアと再び握手を交わした。

 

「あっ‥‥」

 

そして、ミーナは此処で幸子が居ない事に気づいた。

その幸子は部屋で毛布にくるまって仁義のない映画を布団を被って、寂しそうに見ていた。

 

「盃はかえしますけん・・・以降わしを晴風の者と思わんでつかい・・・・帰るゆうても・・・帰えれんぞ!」

 

台詞を言いながら、ミーナとの別れを悲しむ幸子。

いつかは、別れる日が来るのは、分かっていたが、いざ別れる日が来ると悲しくて、本当は、別れたくない気持ちで一杯だった。

 

交流会が終わり、そしてシュペーは出航の準備が整い、いつでも出せる状態となる。

シュペーのメインマストには国際信号旗の『U』 『W』 『1』 の旗が翻っており、意味は『協力に感謝する。御安航を』という意味で、反対に晴風のメインマストには国際信号旗の『U』 『W』 の旗が翻っており、意味は『御安航を祈る』となっていた。

 

「八木さん」

 

「何?マー君」

 

「シュペーが出航したら、見送りにこの曲を流してもらえるかな?」

 

守は鶫に一枚のCDを差し出す。

 

「いいけど、何の曲?」

 

「ドイツの民謡で、再会を胸に別れゆく友を想う歌だよ。別れは辛い‥でも、人は再び出会う‥それを込めてね‥‥」

 

「わかった」

 

守の頼みを聞き、鶫はCDをセットする。

シュペーの左舷甲板にはミーナとテアがいた。

 

「どうした?」

 

「ココ…いえ、なんでもありません」

 

そしてシュペーはゆっくりと前に進みだす。

 

「楽しかったぞ!」

 

ミーナがそう叫ぶと明乃も、

 

「私達もです! 良い航海を!」

 

ミーナとテアに航海の安全を祈った。

 

「Gute Reisen!!」

 

シュペーがボォ―!!と汽笛を上げると、幸子は急ぎ部屋から飛び出て甲板に出る。

やはり、このままミーナと顔を合わせずに別れるのはこの先、ずっと後悔すると思い、その思いが彼女を突き動かしたのだ。

甲板から幸子の姿を見つけたミーナは、

 

「わしゃあ旅行ってくるけん!」

 

ミーナに別れの言葉を投げかける。

 

「体を厭えよ~!」

 

すると、幸子もミーナに返答する。

 

「ありがと!!」

 

ミーナは幸子に手を振る。すると晴風から一曲の歌が流れ始めた

 

「~~♪~~♪」

 

「これは、『Muss i denn』‥‥」

 

ドイツ出身のテアは瞬時にこの音楽が何の曲なのか分かった。

Muss i dennを聞き思わず口ずさむシュペーの乗員も居た

そしてシュペーは晴風と離れ旅立っていった

 

幸子がミーナを見送っていると、後ろからましろが肩に手を掛けて

 

「間尺に合わん仕事をしたのう」

 

と言って、珍しくましろが仁義のない映画の台詞を幸子に言った。

 

「…もう一文無しや」

 

と台詞で返すとましろの傍にいた守も

 

「‥‥そうか‥‥でも、出会いがあれば必ず別れは訪れる。でもその別れは永遠ではない筈‥‥別れが永遠になるか一時になるか‥‥それは全てこの後どう動くか‥だ‥‥納沙さんが、またミーナさんと会いたいと思えば、必ず会えるよ」

 

「マー君・・・・そうですね」

 

守の言葉に幸子は頷いた。Muss i dennが流れる海原で遠ざかるシュペーの姿を宗谷姉弟は幸子と共に見つめていた

 

 

 

 

そして、数時間後、守はある部屋にいた。その部屋には一人のドイツ人。明乃と大して年齢の変わらない少女が縛り付けられ、見張りに百々と和住がいた

そしてその少女は守を見て日本語で

 

「なんや・・・・やっと事情聴取かいな?」

 

と、なぜか関西弁で言うのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュペー艦橋では

 

「また会おう・・・・晴風。この恩は必ず返す」

 

とそう言いどこかへ行こうとするとミーナは

 

「艦長?どこへ?」

 

「ブルーマーメイドに報告することがあってな」

 

「報告?」

 

ミーナが首をかしげるとテアは

 

「ああ・・・・今回の事件の発端である。異世界から来たドイツのテロリスト軍団・・・・「アーネンエルベ」特殊武装部隊『ショッカー』の指揮官・・・・・

                 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾル大佐が潜伏している島の場所だ」



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追憶の若鷲「戦空の魂その1」

これは、アドミラルシュペーとの戦いが終わり、間宮や明石、そして座礁した信濃に向かっている最中の出来事である。

 

「う~ん・・・・そう来たか・・・マー君。やるね~」

 

「いやいや、西崎さんの方こそ」

 

今、守は食堂で芽依と将棋をしていた。シュペーも戦い後、飛行禁止と言われ、何より美波さんから

 

『傷が悪化する危険性があるから、抜糸して完治するまで何もするな』

 

と、きつく釘を刺され、いつものように飛行機の整備は愚か他の子たちの手伝いもダメと言われたのである。まあ、他にも守は働きすぎだから休めという意味合いもあった。何より姉であるましろと艦長である明乃にも

 

「傷が癒えるまでゆっくり休め」

 

と言われたため大人しくその指示に従うのだが、逆に何もすることがなくて日まで暇でしょうがなかった。そのことを麻侖たち機関科に相談するのだが

 

「定年退職後のサラリーマンか?」

 

と、呆れ顔で突っ込まれてしまう始末であった

だが、そんな暇を持て余していた守を見かねた水雷長である芽依が守を将棋に誘い今に至るというわけだ

 

「ほぉ~居飛車の舟囲いできたか・・・・でも!」

 

そう言い芽衣は駒を置く

 

「ここが急所なんだよね~これでマー君の船はバラバラ・・・・」

 

「フフッ…甘いですね水雷長!」

 

「なに?」

 

パチンと守は将棋の駒を置く

 

「なっ!まさかの逆落とし!?」

 

「ふふふっ・・・・船囲いの弱点は百も承知、あえて罠を仕掛けておきました」

 

「く~~~!!やるね!マー君!」

 

と、二人は将棋を撃つのに夢中になっていた。すると芽依は

 

「それにしてもマー君。将棋強いね~?誰かに習ってたの?」

 

「いや習ったというよりは、向こうの世界で将棋が趣味な先輩搭乗員とよく付き合わせられたので、よく負けては、悔しい思いをしながら秘かに一人将棋していました」

 

そう、苦笑しながら守は言う。そう言いながら守と芽依は将棋を続ける

そして将棋の駒を置く音を聞き守は思い出す

南方戦線で戦いであった戦闘機乗りを思い出すのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX年、9月3日、南方ラバウル戦線

 

この日は9月だというのにかなり暑かったことを覚えている。当時の俺はラバウルの中堅搭乗員として戦っていた。上官だった杉田曹長はいまだに行方不明。小隊長である疾風少尉は目の傷のせいで一時期、陸戦隊に配属されていた時のことだ。先輩搭乗員である二人がいないのは心細いがそれでも俺は戦い続ければならなかった。

今、俺は零戦で単独偵察飛行をしていた。

 

「今日は何もいないな・・・・・」

 

飛行偵察の目的は敵機が飛んでいないかもしくは敵の船がいないかであった

だが、敵船を発見することが少ない、内陸・・・・陸続きなら敵の部隊か戦車を見つけられるとは思うが広い海の上では相手と接敵することは結構少ない。

俺は少し退屈な気持ちをしながら昼食を取った。ご飯はかんぴょう巻き立った。

 

「戦争はつらいけど、食事がうまいのは唯一の救いだな・・・・」

 

と、つぶやきながら操縦桿を両ももに挟みながらご飯を食べるそうでないと片手にかんぴょうを食べながらラムネを飲むことができないからだ

 

「・・・・・ん?」

 

その時、俺は上で何かが光るのを見た。もしかして敵機かと思い、俺は食事を中断し。操縦桿を握った瞬間、何かが急降下して俺のゼロ戦に向かって銃撃した

 

「うわっ!?」

 

俺はすかさず、銃弾をよけ、そして急降下し、通り過ぎて行った飛行機・・・・俺を銃撃してきた機体を見た。それは液冷エンジン特有のとんがった機首をした機体だった。

最初は敵のメッサーシュミットかと思ったが胴体に日の丸を確認した

 

「あれは・・・・陸軍の三式戦闘機!?」

 

それは陸軍の三式戦闘機「飛燕」であった。どの飛燕は、緑と白のまだらであり、尾翼に鶴のマークが描かれていた

俺は無線を取り

 

「馬鹿っ!!味方を撃つ奴がいるか!!」

 

俺が怒鳴ると、三式戦は翼をくいくいと振る。それは味方機であり友軍の合図であるバンクだった

 

「今頃味方機だと気づいたのかよ・・・・・遅いんだよ、まったく」

 

呆れながら俺はため息をつく、その後、飛燕は遠くへ飛んでいき、しばらくして偵察飛行を終えて、基地に戻った。

 

「はぁ・・・・今日はボウズなうえ、味方機に撃たれるとは・・・・ついてない」

 

「まあまあ、准尉。そう言う時もありますよ」

 

無事に着陸し零戦から降りてため息をつく俺に小柄で黒髪のツインテールの子がなだめる。彼女はつい最近入った新人の女の子であり、名は中野梓。

俺の二番機についている俺の後輩である

 

「ん?あれは・・・・」

 

俺は飛行場の隅に置かれている数機の戦闘機を見た

 

「あれは・・・・陸軍の戦闘機ですね?」

 

「ああ。ここの飛行場は確か陸軍と共同だったな・・・・だけど数が増えたな・・・・増強されたのか?」

 

「機種は四式戦に…そのうち一機は三式戦ですかね?珍しいですね?一機だけ飛燕だなんて。三式戦は突っ込みが効きますけど格闘戦には不向きな機体なのに?」

 

「ああ・・・・・てっ!あの機体!!」

 

俺は隅に置かれた一機の三式戦を見た。その三式戦闘機はしろと緑のまだらとそうで尾翼に鶴のマークが描かれていた

あの尾翼の鶴のマーク間違いない!

しかもその飛燕にはその搭乗員らしき人物が整備兵と何か話していた

丁度いい、さっきのこと抗議しに言ってやる!

 

「あっ!ちょっと守先輩!!」

 

俺がその搭乗員のもとに行くのを見て中野は後を追いかけた

 

「ちょっと!そこの陸軍の戦闘機搭乗員!」

 

「……私に何か?あなたは・・・・海軍の人ですよね?」

 

俺が声をかけるとその搭乗員は振り向く。短い髪をした女性だった。眼は少し細く眠たそうな表情をしていた

 

「何か?じゃないだろ?こっちは敵と間違えられてあなたに撃たれたんですよ!!覚えていますか!!」

 

と、抗議するが彼女は何も感情のない声で

 

「・・・・・・・・ああ・・・・あの時の零戦の搭乗員ですか・・・・・すみませんナチのfw190と見間違えてしまいました。水面の光で見えにくかったが撃ちながらぎりぎり近づいてやっと味方機だと気が付いたのですが・・・・・・・」

 

「見間違えましたで済む話ですか!敵ではなく味方に撃ち落とされるのがどれだけ嫌なことか、同じ戦闘機乗りならわかるはずでしょ!それに!さっきからなんも感情もなく。失礼です!本当に申し訳ないと思っているんですか!!」

 

「ちょっ!ダメですよ!先輩!」

 

と、怒りに任せて彼女に言う俺に対し、中野は俺を止める

 

「だが、梓!」

 

「気持ちはわかりますけど落ち着いてください!それに階級!彼女の階級見てください!!」

 

「階級?・・・・・っ!?」

 

俺は冷静になり彼女の襟につけられている階級章を見た。その階級章は・・・・

 

「ちゅ、中佐!?」

 

それは下士官である俺よりも階級が高くしかも士官であり佐官であった。

 

「し、失礼しました中佐殿!」

 

俺は慌てて敬礼する。相手は士官つまり上官に当たる人物なため大声出したことを謝罪するが、彼女は首を横に振り

 

「いや、君が怒るのも無理はないし、君の言い分は正しい。本当に申し訳なかった。」

 

と、深々と頭を下げる姿に逆に俺の方が申し訳なく思ってきた

 

「あ、頭を下げないでください!下の者に対して・・・」

 

「いいや。非は私にある。お詫びに今夜空いていたらでいい。私のところに来てくれ。一杯奢らせてくれ…と言いたいが見たところ君は未成年だし、夕食を奢ることで勘弁してくれないか?」

 

「そんな悪いですよ」

 

「いいや。君の言う通り味方に撃たれるのは屈辱的なことです。それに私の気が収まりません。どうか・・・・」

 

「わ…分かりました・・・あの・・・」

 

「すまない自己紹介が遅れた渡した陸軍第67飛行戦隊、戦闘隊長の加藤静江。階級は中佐だ・・・・・君は?」

 

「えっと・・・・自分は海軍ラバウル航空隊301部隊所属の森守准尉と申します!」

 

これが加藤中佐との出会いであった



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追憶の若鷲「戦空の魂その2」

 

「敵機来襲ッ!!!」

 

ラバウルの空は常に忙しくそして激しい空中戦が数多く起きた

そして今日も、敵の爆撃機を迎撃するため俺たちは滑走路にある零戦へと向かった

 

「エンジンまわせぇー!!」

 

「おい急げッ!!」

 

爆撃機を迎撃するため陸海軍の戦闘機パイロットたちは我先にと自分の愛機へと向かう

 

「おい梓!お前の機体あっちだろ!!」

 

守も自分の愛機に乗ろうとしたがそこには後輩の中野梓が乗っていた

 

「あっちは誰かが乗っています!こういう時は早い者勝ちです!!」

 

どうやら彼女の愛機は誰かが乗ってしまったようだ

 

「降りろ!」

 

「無理です!ではお先に!!」

 

「あっ!ちょっと!!」

 

そう言うや否やは梓は発進し、そして他の戦闘機隊も発信していってしまう。そしてその瞬間空にある雲の隙間から数十基の敵機がやってくるのが見えた

 

(もう飛行機発進はできない!ならば!!避難するのみ!!)」

 

今更予備の戦闘機に乗り込んで発信しても離陸途中に敵機に撃ち落とされる危険性を感じ、防空壕か塹壕へと走り出す。

 

「撃てっ!撃ち落とせ!!」

 

対空機銃部隊が敵機に向かって銃弾を放つ。その中、敵機は機銃部隊や基地にある飛行機、そして基地にいる兵に向けて機銃掃射する

そしてその中には守も

 

「うわっ!?やばい!!」

 

背後から迫る銃弾に守は精一杯走り、そしてすぐ横に塹壕があるのを見つけ、そこに飛び込み、その後、先ほどまで自分が走っていた地面が銃弾によってえぐられ土が飛び散る

 

「ふぅ~あぶなかった・・・・」

 

軽く息をつくと

 

「お前も無事だったか准尉」

 

「か、加藤中佐」

 

自分が飛び込んだ塹壕の中には、数日前に出会った加藤中佐がいた

 

「君は出撃しなかったのか准尉?」

 

「あ・・・はい。愛機を後輩に乗られて、それで他の機で行こうとしたら敵機がやってきたので・・・・中佐の方は?」

 

「私は、飛燕が今整備中だったから出撃しなかった」

 

「他の機体にはしないのですか?」

 

「飛燕は初陣のころから使い続けている機体だから、飛燕の方が手になじむし、それ以外に乗る気はないわ」

 

「あ、そうですか・・・・・」

 

そう言いながら俺と中佐は空を見て上空で起こっている空戦を見ていた

 

「来たわね・・・・あれは・・・」

 

「メッサーシュミット・・・・機首が大きいからG型ですね」

 

「ん?二機と二機に分かれたわね?」

 

「ええ…奴らは二機でかかってくるんです」

 

「それで最後は一騎打ちかしら?」

 

「いや、連携を組んで攻撃します。加藤中佐はご存じないのですか?」

 

「すまない。私はここに来るまで大陸の赤軍相手に戦っていたから、そこでは一対一の格闘戦が多かったから・・・・・准尉。できればここでの戦い方を教えてくれる?」

 

「もちろんです・・・・」

 

と俺はここでの戦い方を教えた

 

「つまり、編隊での攻撃が主流なのね?」

 

「はい。うちでも格闘戦派が多いので一騎打ちだと思って深追いするとやられます」

 

守がそう説明する。零戦などの日本機は格闘戦では無敵だ。それは敵側も知っている。だから向こうは編隊を組んで戦う・・・・否。むしろ編隊を組んでの戦闘が今の空中戦の常識であり、一対一の格闘戦はまずない。

だが、やはり格闘戦を好むパイロットは多く、向こうが一機で旋回戦を持ち込んできたら、一騎打ちを申し込まれたと思って、その機体を追いかける。だが前方の相手に夢中になって周囲を怠った結果、別の敵機に撃ち落とされる…ということが多々あった

 

「そうか…ありがとう参考になった」

 

と、中佐が例を言うと、11時方角から大型の爆撃機が数機現れた

 

「・・・・ハインケル爆撃機だ」

 

「ええ・・・」

 

守の言葉に加藤は頷く、そしてハインケルhe111爆撃機はラバウル基地へ嫁ぐ次に爆弾を落としていき、何もできない守たちは、この様子を悔しそうに見ていたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「基地の修理は3日間かかるのか・・・・・」

 

「はい・・・・面目次第もありません森さん。」

 

基地の近くにある、レストランで後輩である中野と食事をとっていた。このレストランは航空隊行きつけの店だ

 

「いや、中野が謝ることじゃないよ。それに中隊長から聞けば敵機一機落としたらしいじゃないか?」

 

「いや。あれは中隊長が撃ち漏らした機に止めを刺しただけで・・・・」

 

「それでもお前の撃墜戦果じゃないかよ。胸を張れ胸を」

 

「森さん・・・・私には張るだけの胸はないです」

 

「そう言う意味じゃないよ」

 

と自分の胸を見てガックシうなだれる中野に守は呆れたように言うと

 

「同席良いかしら?」

 

「あ、加藤中佐」

 

「ああ・・・敬礼はいいわ。ここでは階級とかは無しにしましょう」

 

と、小さく笑う加藤中佐に守も中野も断る理由もなく同席を許し、彼女は席に座る。そして料理が来て皆で楽しく食事をしていると

 

「どうだ!今日俺は敵を5機も撃墜したんだぞ!!」

 

と、馬鹿みたいな大声を出し、周りの部下に自慢している海軍搭乗員がいた

 

「おい、中野・・・あれって」

 

「ええ。篠原大尉ですね」

 

と、いやそうな表情で大声を出す人物を見る

 

「誰なの?知っている人?」

 

加藤がそう訊くと守が

 

「篠原大尉。海軍航空隊(うち)では有名な嫌われ者ですよ。空戦能力は皆無なのに威勢だけで粗野で野蛮。他人の手柄は自分の手柄。自分の失態は部下のせいにするゴミくず野郎ですよ」

 

「そこまで言うかしら・・・・・」

 

守の説明に加藤は苦笑する中、篠原大尉の馬鹿声は続く

 

「そしてハインケル!この俺にかかれば2.3機あっという間に火だるまよ!この俺が撃墜したんだぜ!!」

 

と店内に響き渡る大声に他の搭乗員はうんざりの表情だった。どうやら彼は人望がないみたいだ

 

「…と、大尉さんああは言っちゃいるが、中野。お前いたんだろ?本当のところどうなんだ?」

 

「まったくのボウズですよあの人は。しかもフラップ出したまま飛んでいた物だから空戦場の下をふらふら飛んでいただけで何にも役に立ちませんでしたよ。むしろ邪魔でした」

 

「ああ、やっぱりか」

 

「まったく。あの人を注意する杉田軍曹や疾風少尉がいないからってあの人は調子に乗りすぎなんですよ。もう口を閉じてほしいです」

 

嫌そうにそう言うと、それが聞こえたのか篠原大尉は中野を睨みそしてこっちへ近づき

 

「おい、何か言ったかよ小娘?見れば下士官のようだが、内容によってはお話ししないといけないな~」

 

指をバキバキと鳴らし脅す大尉。すると・・・・

 

「私が言ったんですよ篠原大尉」

 

と、加藤中佐が立ち上がり

 

「馬鹿みたいに大声出して他の客にご迷惑が掛かりますので、どうかその口を閉じてください……そう言ったのですよ」

 

加藤中佐がそう言うと篠原大尉は顔をトマトのように顔を真っ赤に染め震えだす。つかみかかりたい気持ちだったが相手は陸軍中佐。自分より階級が上なうえしかも陸軍。ここで問題を起こせば軍法会議にかけられてもおかしくない

 

「ちぃ!!」

 

状況が悪いと感じた篠原は舌打ちし、レストランを出て行ったのだった

 

「すみません中佐。身内が飛んだ失礼を」

 

「いいえ。いいのよ。私もああいう奴嫌いだから」

 

「と、いうよりあの人を好きになる人なんているのでしょうか?」

 

「「ないない」」

 

三人はその後楽しく食事をしていると加藤が

 

「あ、森准尉。この後また将棋に付き合ってくれないかしら?」

 

と守にそう言う。実は守と加藤はその後、将棋をよくする仲になっており、たびたび彼女と将棋を良くしていたのだ

 

「ええ。いいですよ。でもあなたのことですから、もう持ってきているんでしょ?」

 

「あら、バレちゃった?」

 

と、そう言うと、加藤中佐は懐から携帯式の将棋盤と将棋の駒が入った袋を出し、袋から将棋の駒を出す。

 

「変わった形の将棋の駒ですね?」

 

中野が首をかしげてそう言う。その駒は銀色で不格好な形をしていた

 

「私の手作りよ」

 

「器用ですね?材料は何ですか?」

 

「プロペラよ。敵の爆撃機の。『虎は死んで皮を残し。敵機は落ちて将棋の駒となる』ってね。さ、始めましょ准尉」

 

「分かりました。中野、立会人をしてくれ」

 

「分かりました。でも門限までに勝負付けてくださいよ?」

 

そう言いながら、守と加藤は中のが見守る中、将棋を打つのであった



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