神を愛し、神に愛された男!!イエェ(ry (鴨熊hyuu)
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A.01

サ〇シャインのネタを使ったことに特に意味はない。


いつも通りの月曜日。別段おかしなこともなく、今日も今日とて南雲ハジメは可哀そうな運命のもとにいる。まったくもってあの能天気お姫様は、見ていて面白いものだ。

 

さて、うちのクラスにはとても分かりやすく、天之河光輝とか言うゲームの主人公を中心にしたトップカースト組がいる。男子2人と女子2人、それも明らかにゲームの主人公パーティである。

主人公勇者の天之河、明らかに戦士な坂上龍太郎。そして僧侶兼ヒロインの能天気お姫様、白崎香織、盗賊で保護者ポジな八重樫雫。

完全に主人公パーティである。

 

そして、南雲ハジメはオタクと呼ばれる人種だ。別にキモオタと呼ばれるような見苦しい身だしなみなわけではない。ただ、毎日遅刻ギリギリに登校したり、授業中よく居眠りをしているだけだ。

それだけならただの不良生徒として認識されるのだが、学校で二大女神とかいうあだ名をつけられるほど美人な、白崎にかまわれると男子から敵意が向く。さらに白崎に注意されておいて態度を変えない南雲に対して女子は不快に感じているらしい

 

1度でも白崎が南雲に話しかければ南雲にとても厳しい眼光が集中する。男子は嫉妬、女子は嫌悪。

白崎は面倒見はいいが特定の誰かの面倒を見続けるということはしない。実際かなり居眠り気味な俺にはああいう対応をしないのだ。

おそらく南雲に多少の気があるのだろう。白崎をみてなぜ誰も気づかないのかが不思議なのだが、白崎が南雲を好くという発想に行かないのだろうか。

だとしたら白崎も報われないものだ

 

 

♦♢♦

 

1,2時間目を寝て過ごし、3,4時間目を適当に受けて昼休み。

南雲がまた白崎に絡まれているのを横目に見ながら弁当をつつく。白崎はとても楽しそうに南雲に話しかけるのだが、南雲の顔はわかりやすく引きつっている。

 

その2人を見ているのはとても楽しいのだが、天之河や坂上が関わると頭が痛くなってくる。天之河は白崎に気があるらしく、白崎はかけらもその気がないのだ。

天之河の誘い方といい、あまりに視野が狭すぎて見ていてイライラしてくるので、携帯を取り出し、某有名チャットアプリを起動し、鉏比売(すきひめ)と雑談を始めた。

 

鉏比売。というのはあだ名のようなもので、本名を胸鉏比売(むなすきひめ)、幼名を田心比売(たごりひめ)という、1柱の神である。十羅刹女なんて呼び名もあるが、これは仏教徒統合されたときについた名前なので俺はあまり好きではない。

さて、唐突に神様なんて突飛なものが出てきたが、実は大して珍しいものではない。八百万というだけあって神様はかなりの数いる。そのため探そうと思えばいくらでも見つかるものなのだが、誰も神の存在を本気で信じていないせいで見つからないのだ。俺は幼いころに鉏比売を見つけて、関わっていたため今でも神が見えるのだが、関わっていない人間は、成長につれて信じなくなっていくものである。

 

で、鉏比売と、俺がどういう関係で、なぜ気軽にチャットをしているかというと、答えは単純で、所謂、恋人関係にあるからである。

突飛な話ではあるが、極めて珍しいというわけではない。神への供物として伴侶を送るという話は珍しくない話だ。

 

閑話休題

しばらくチャットにて雑談に興じていると、突然神力や霊力と似たエネルギーを感じ、鉏比売に神力の反応があることを知らせ、発生源を探すために立ち上がったところで、白く輝く円環と幾何学模様の魔法陣らしきものが天之河の足元に現れた。

そこから膨大なエネルギーを感じたため、何が起こるかわからないが嫌な予感がしたため、鉏比売に助けを求める旨のチャットを送り、天之河を突飛ばそうとした瞬間、純白の光が教室を塗りつぶした。

 

♦♢♦

 

眩しさに瞑っていた目を開けると、とても広い空間にいた。

大理石のような白く滑らかな石で作られた柱や壁、ドーム状になった天井、そして何よりも目を引く、金髪を靡かせ中世的な顔立ちをした人物が描かれた巨大な壁画。全体に無駄に凝った装飾を施してある。おそらく海外の大聖堂のような建物なのだろう。

 

壁画に嫌悪感を感じながら辺りを見回すと、30人は下らない人々が俺たちに対して膝をつき、両手を腕の前で組み、祈りをささげていた。

おそらく一神教の宗教で、壁画に描かれていた金髪の人物が信仰されている神だろう。

 

今更ながらにクラスメイトを確認する。

予想はしていたが、教室にいた人は全員転移したらしい。

 

すると祈っていた人々の中で一番派手な恰好をした1人が、手に持った錫杖を鳴らしながら声を出した。

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同法の皆様。歓迎いたしますぞ。私は、聖教協会にて恐慌の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

そういって好々爺とした微笑を見せながらイシュタルと名乗った老人は礼をした。

 

♦♢♦

 

誰も大して騒ぐことなく、イシュタルに先導され晩さん会をするような大広間に通された。ここも煌びやかに装飾され、正直目にうるさいのだが、それを言ってもしょうがないので気にしないことにした。

10メートル以上ありそうなテーブルがいくつも並んでおり、上座に近いほうに生徒と雑談をしていて教室にいた畑山愛子先生が座り、そこからカースト順に座っていった。途中であいていた席に適当に座ったら白い目で見られたりしたが、些事なので気にしない。

 

全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドさんが入ってきた。思わずうわ…とつぶやいてしまったが、誰にも聞かれてなかっただろうから良しとする。

正直俺らに媚びを売る気配しかしなかったのだが、健康な男子高校生たちは美少女メイドさんの誘惑に敵う筈もなく、男子全員がメイドさんを凝視していた。そして、そんな男子を見る女子の視線が冷えていたのは当然の帰結である。

 

全員に飲み物が行き渡ったことを確認したイシュタルは説明を始めた。

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞きくだされ」

 

曰く

 

トータスと呼ばれるこの世界には、大きく分けて三種族あり、人間族、魔人族、亜人族で、その中の人間族と魔人族は何百年も戦争を続けている。

魔人は一人一人が強いものの、数が少なく、人間は一人一人はそこまで強くないものの数が多い。そうやって拮抗していたため大規模な戦争は数十年起きていなかった。

だが魔人族が魔物を使役し始めてから事態は変わった。

数のアドバンテージが無くなったことにより人間族は滅亡の危機に瀕しているらしい。

 

そして、イシュタルはどこか恍惚とした表情を浮かべてこう言った。

 

「あなた方を召還したのは”エヒト様”です。我々人間族が崇める守護神、聖教協会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前にエヒト様から信託があったのですよ。あなた方という”救い”を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、”エヒト様”の御意思の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

イシュタルによれば人間族の9割以上が聖教協会の信徒らしく、たびたび降りる信託を聞いた者は例外なく聖教協会の高位の地位に就くらしい。

 

さて、テンプレだなと思いつつそれに巻き込まれていることに若干の焦燥を感じながらも、早々にこの世界の歪さに気が付く。

 

ラノベっぽくタイトルをつけると「異世界召喚された国の人間が全員狂信者だった件」みたいな感じだろうか。ここまでわかりやすく至上だとか、唯一神だとか、創造神だとか。信託を聞くだけで教皇になれるんだとしたら信者全員がありえないほどエヒト様を信仰していないと認められないだろう。

 

そんな風に現実逃避していると愛子先生が猛然とイシュタルに抗議した。

 

「ふざけないで下さい!結局、この子たちに戦争をさせようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私たちを早く帰してください!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

言っていることは最もなのだが、全くシリアスムードにならない。

何せ愛子先生は合法ロリなのだ。身長150センチほどで童顔のボブカットという、見事なまでにロリっぽいのだ。

いい先生ではあるのだが、どうしても見た目が可愛らしすぎるせいでやることなすこと微笑ましく見えてしまい、本人の目指している"威厳のある教師"になれないのだ。

 

ほんわかとした気持ちでイシュタルに食って掛かる愛子先生を眺めていたのだが、次のイシュタルの発現にはどうしようもなく言葉を失ってしまった。

 

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 

少しばかりの静寂。誰もが理解したくなかった。

 

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!?喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

愛子先生が叫んだ。

 

「先ほど言ったように、あなた方の召喚をしたのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

「そ、そんな…」

 

愛子先生が脱力したように椅子に腰を落とす。

 

状況を理解すると、一瞬、膨大な恐怖を感じた。しかしすぐに、解決策を考えるように頭が切り換えれたのは、幸運だった。

そのエヒト様という存在は異世界に干渉できるらしい。ということは神という種族なら異世界に干渉できるということだ。ならば鉏比売と永遠に会えないということはないだろう。

行動派の彼女ならどうにかして会いに来てくれるはずだ。そうすれば、帰還する方法はおそらく見つけることができる。一つ懸念があるとするなら鉏比売が帰還手段を考えずに来ることだが、そこは祈るしかない。

考えずに来た場合はエヒト様とやらに頼むしかないのだが、そのための対価がないと神という存在は動いてくれない。ならば戦争に参加するしかないのだが、戦争をするということは人を殺すということだ。それが俺にできるのだろうか…

 

そうやって考えをまとめようとしていると、バンッと少し大きな音がして、現実に引き戻される。どうやら天之河がテーブルを叩き、立ち上がったらしい。

天之河は全員の注目が集まったことを確認すると、おもむろに話し始めた。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人たちが滅亡の危機にあるのは事実なんだそれを知って、放っておくことなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば返してくれるかもしれない。……イシュタルさん?どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力あるんですよね?ここにきてから妙に力が張っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救って見せる!!」

 

帰れないと言われた時よりも、言葉が出なかった

 

戦うということの意味を分かっているのだろうか

 

戦争というものを義務教育で習うというのに

 

戦争とは、ただの殺し合いだというのに

 

なぜそんな顔で、高らかと宣言できるのだろうか

 

俺は初めて天之河を本気で軽蔑した。愚かな奴だと思ってはいたがここまで救いようがないとは。自分の発言力も、影響力もかけらも考慮せずに堂々と宣言してしまったせいでクラス全員が戦うことに肯定的になってしまった。

ここで声を上げたとても、この流れを変えることはできないだろう。

ならば全員が戦うとして、1人でも死人を減らすようにしなければならない。

幸い俺は恵まれている。どうにかして、この楽観的な集団から、死から守らなければならない。

 

そのためなら、そのためになら、戦ってやろう。

なるべく殺さないように

なるべく死なさないように

 




駄文でした。
亀更新していくのでよかったら見てやってください


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A.02

ステータスプレートってどういう仕組みなんだろね


経緯はどうあれ、戦争に参加することを転移した全員が決意してしまったため、戦う技術を学ばなければならない。イシュタル曰く俺たちはチートらしいのだが平和ボケした日本人ではどう頑張っても戦えない。

しかしその辺の事情は織り込み済みらしく、聖教教会本山のある【神山】の麓の【ハイリヒ王国】に受け入れ態勢があるらしい。それならなぜハイリヒ王国に召喚しなかったのか疑問だが何か理由があるのだろうか?

 

ともかく神山を下山しハイリヒ王国に行くために、俺たちはしばらく歩いて聖教教会の正面門にやってきた。

凱旋門もかくやというような、無駄に荘厳な門をくぐり辺りを見回すと、そこには雲海が広がっていた。

雲海が見える高度にいるにもかかわらず、何の違和感もなく過ごしていたのである。普通なら気圧の変化でいろんな症状が出るものだが、そういったものがないところを見ると、霊術的な力が働いているのだろうか。なんにしろ平地に召喚すればそういう術を使う必要もなかったのでは?とさらに疑問が膨れた。

 

しばらく歩くと、イシュタルに促され柵に囲まれた円形の大きな台座に乗らされた。台座には所謂魔法陣と呼ばれるような模様が描かれていてみんなはきょろきょろと魔法陣を覗き、ファンタジーに胸を躍らせているようだった。

 

そしてイシュタルが何やら呪文のようなものを唱えると霊力がはじけ、まるでロープウェイのように丸い台座が動き出した。

霊力に働きかけるのに言葉を要するのを見ると、この世界の魔法というのは宗教に近いものなのかもしれない。

そんなことを考えていると雲海を抜け、都市が見て取れた。おそらくあれがハイリヒ王国なのだろう。

 

 

♦♢♦

 

 

そのあと、国王に謁見したり、晩餐会があったりしたのだが、正直大して地球との差異はなかったのでつまらなかった。だが少なくとも、国王よりも、教皇のほうが権力があるらしかった。

 

そして今、俺は各自に1室ずつ与えられた部屋で今日会ったことの整理と同時に、お守りの勾玉に霊力を込めて鉏比売を呼んでいた

 

「来ない…」

 

のだが、かれこれ30分近くも勾玉に霊力を込め続けているというのに一向に来る気配がない。一度海に落ちた時などは、霊力を込めた瞬間すっ飛んできたのだが、流石に異世界ともなるとなかなか来れるものでもないのだろうか。

 

「はぁ…」

溜息を一つこぼし、やけくそ気味に霊力を流した瞬間、勾玉は閃光を放って砕け散った。

 

「っ!」

閃光は一瞬で収まり、思わず投げてしまった勾玉はなくなったが、そこには美しい女性が立っていた。

 

「驚きすぎですよ、龍也。」

「いきなり勾玉が砕けたら驚くだろうが…」

「まったく、たったあれだけの光で怯むようではまだまだ修行が必要ですね。」

 

 

まるで弓道着のような和服と長く伸びた黒髪、そして白崎がかすんでしまうほどに美しい顔立ちをした、女神。胸鉏比売が笑顔で俺を真正面から見つめていた。

 

 

「…へいへい」

「まあそれはともかく、今朝ぶりですね。今日は異世界まで旅行ですか?」

「唐突だったからどうしようもなかったんだよ。というかL〇NE送っただろうが。」

「学校には来るなといったのは龍也です。ついでに言うと、文面で"やばいすごい霊気"、といわれてもわかりません。それだけの情報じゃ対処のしようがありませんし、そのあとすぐに転移してしまったので本当にどうしようもありませんでした」

 

ぐうの音も出なかった。

「…確かにそういわれると何も言えないけど。連絡というか、念話できなかったのか?」

「30分前に勾玉に霊力が入るまであなたのいる世界がどこかすらわからなかったんですよ?何かあったらすぐに勾玉を触れと言いましたよね。」

「それは、唐突だったから考えつかなかっただけというか。場所わかったら念話できるんだったらさっさと念話しろよ。そしたら俺も驚かなくて済んだのに」

「それは、その…場所が分かって安心したら泣いてしまったというか……ま、まあ、そんなことはいいんです。」

「泣くほど会いたかったんだ。」

「あ、当たり前です!一日ずっと反応がないから死んでしまったかと思って焦ってたんですからね!」

「そんなに心配してくれてたんだ。」

「それは、まあ、一応、あなたの恋人ですし、心配ぐらいしますもん」

 

閑話休題(イチャイチャするのは後にして)

 

「こほん、とりあえずは現状の説明をしてもらってもいいですか?」

「えーと、魔人とか亜人ってのが人間のほかにいて、人間は今魔人と大戦争中。そんで魔人が強かったんだけど数が少なくて、人間のほうが多かったから拮抗してた。

でも魔人が魔物を使役し始めたんで数的有利が無くなって人間大ピンチ、まずいから上位の世界から強いやつ呼ぼうってなって俺のクラスがほぼ全員転移。でいろいろあって、不本意ながら戦争に参加することが決まったとこ。」

「なるほど。テンプレっぽい感じですね。」

「え、ラノベ読んでるの?」

「あなたの買った本を多少。」

 

なんか以外だ

「そんなことより、神はいましたか?」

「今のところは確認できてない。けど宗教があった。一神教みたいだったから、あんまり気にしなくていいと思う。ついでに言うと、異世界召喚もその神様の仕業って言ってたけど、霊気を使ってたから召喚自体は人間がやったことだろうね。」

「まあ一神教の神はただの傍観者ですからね。ただ一神教の宗教の信者は面倒なのが多いのであまり関わりたくないですね。」

「でも人間の大体が聖教教会、さっき言ってた宗教の信者らしいから関わらないわけにはいかなそうだけどね。」

「うーん、それは面倒ですね…。まあでも選択肢は3つですね。戦争に参加するか、すぐに帰るか、観光するか。」

「戦争に参加しないか、だろ。観光って言うな」

「でも参加しないってなるとそれぐらいしかやることないですよ?」

「それはそうだけどさ……まあ選択肢は戦争に参加する、だな。いくらこの世界じゃ強いからといって高々日本の高校生が戦争に参加したところで犬死がせいぜいだろ。」

「素直じゃないですね。」

「うっせ。まあともかく、方針としては戦争に参加して一人でも多く死者を減らす、だな。」

「了解です。あと、ここまで霊気を使うことに慣れている人間がいると私が見られてしまう可能性があるんですけど…どうします?」

「そうなのか。うーん、クラスメイトもいるし、念には念を入れて隠れてろ。またみられると面倒くさそうだ。」

「そうですね。もうあんなのはころごりです。」

 

普通の人間は、神様を見ることはできない。だが神格を落とせば人間でも見ることができるのだ。一度だけ、神格を落として鉏比売とデートをしたのだが、何せ鉏比売が美人だったためいろいろと面倒ごとが起きたのだ。それ以来、デートはしていない。

 

「まあ方針も決まったし寝るとするか。ベットはシングルだから狭いけど、まあいいか。」

「いつもより狭い程度ですし、問題ないでしょう。今日はしますか?」

「疲れたから寝よう。明日もいろいろあるだろうし。」

「わかりました。またしてくださいね?」

「一昨日したじゃん…お休み」

「ふふふ、はい、おやすみなさい」

 

 

♦♢♦

 

 

翌日から座学と訓練が始まった。鉏比売は自室に待機させている。

招集された訓練場に全員が集まるとスマホよりも少し大きいぐらいの銀色のプレートを渡された。

プレートを観察していると、訓練を指導してくれるという騎士団長のメルド・ロギンスが説明を始めた。

 

「よし、全員に配り終わったな?このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?

プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。"ステータスオープン"と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とかは聞くなよ?そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」

 

聞きなれない単語に天之河が質問する

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたといわれている。」

 

ということはこの世界の魔法技術は衰退したということだろう。一神教の神は一度も地上には降りてこない。作るだけ作ってあとは観察するだけの傍観者が一神教なのでアーティファクトと呼ばれるものを作ることはできるということなんだろう。

 

「そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトといえば国宝になってるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな。」

 

なるほど、と頷き、指に針を刺し、魔法陣に血を擦り付けた。

すると魔法陣が一瞬だけ淡く輝き、表に数字が表示された。

 

==========================

日碕 龍也 17歳 男 レベル:1

天職:神子

筋力:90

体力:80

耐性:50

俊敏:80

魔力:240

魔耐:180

技能:■■■■の寵愛[対軍戦闘時ステータス4倍][防衛戦時ステータス2倍][海上戦闘時ステータス1.2倍][航海術(風読み)(時化除け)(波読み)][隠密(気配遮断)(忍び足)(幻踏)][弓術(狙撃)(弓矢生成)(イメージ補正力上昇)(消費魔力減少)(高速生成)(纏魔)]・水属性適正・全属性耐性・弓術・魔力感知・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+魔力障壁]・高速魔力回復・格闘術・言語理解

==========================

 

文字化けしていた。寵愛となると鉏比売以外の心当たりがないので、鉏比売の寵愛なんだろうが、なぜ文字化けしているのだろうか…

後で鉏比売に聞こうと決めていると、メルド団長からステータスの説明がなされた。

 

「全員見れたか?説明するぞ?まず、最初に"レベル"があるだろう?それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示してると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力をすべて発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

つまり、レベルは成長率の割合で、ステータスが上がるからレベルが上がる、ということだ。ゲームのように経験値があるというわけではなさそうだ。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!

次に"天職"ってのがあるだろう? それは言うなれば"才能"だ。末尾にある"技能"と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

なるほど、では俺はどちらだろうか。神子ということは神に仕えるものなので、非戦系天職っぽいが(かんなぎ)となると口寄せなどもできるという。戦闘系天職に入ってもおかしくはない。

そんなことを考えているとメルド団長から更に説明がなされる

 

「あとは……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな!全く羨ましい限りだ!あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

訓練内容ぐらいなら自分で考えたり鉏比売に考えてもらったほうが効率的なのだが、まあいいだろうと思い報告しようとメルド団長に目をやると、天之河が報告をしていた。

 

==========================

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

==========================

 

「ほ~、流石勇者様だな。レベル1にで既に3桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め!頼もしい限りだ!」

 

勇者という似合いの天職に納得しながらステータスを計算すると、合計600。俺の合計は720である。

更にいうと技能の数も段違いで俺のほうが多い。

 

 

あれ?神子強くね?

 

 

ステータスの合計値だけで言うと、アル〇ウスと600族的な差が生まれている。

驚きながらも報告の順番を待っていると、メルド団長がハジメのプレートを見て、なぜか笑顔のままかたまり、目を疑っていた。

 

そしてものすごく絶妙そうな顔をしてプレートをハジメに帰した。

 

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛冶職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

 

歯切れの悪いメルド団長をみてハジメを目の敵にしている男子たちがにやにやとしながら嗤っている。

そんな中、俺が勝手に子悪党4人組と呼んでいるハジメに突っかかる子悪党その1、檜山大介が声を張り上げた。

 

「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か?鍛冶職でどうやって戦うんだよ?メルドさん、その錬成師って珍しいんすか?」

「……いや、鍛冶職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

「おいおい、南雲~。お前そんなんで戦えるわけ?」

「さぁ、やってみないと分からないな」

 

檜山も白崎を好いている筆頭で正直情けないこと極まりないと思うが高校生なんてこんなものだろう。

しかし、それよりも、わかってはいたが、クラスメイト達の愚かさに辟易する。

戦争に参加するというのに、全く持って危機感のない檜山にイライラしつつも、自制していたのだが檜山は、俺が思っていた何倍も子供で、愚かだった。

 

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボい分ステータスは高いんだよなぁ~~?」

 

メルド団長の表情から内容を察していたろうに、わざわざ執拗に聞く檜山。まったくもって外道のような性格をしている。さらに取り巻き三人がはやし立てる。

ハジメは諦めたような顔をして投げやりにプレートを渡した。

ハジメのプレートを見て、檜山は爆笑し、取り巻き三人も爆笑していた

 

「ぶっははは~、なんだこれ!完全に一般人じゃねぇか!」

「ぎゃははは~、むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな~」

「ヒァハハハ~、無理無理! 直ぐ死ぬってコイツ! 肉壁にもならねぇよ!」

 

ここまで小学生のような子供じみた行動をされると、言っても意味がないことがわかる。なので、鉏比売に教えてもらった隠密歩行法でひっそりと、メルド団長に報告がてらにこの状況に収拾をつけることにした。

 

 

「メルド団長、」

「おわっ!どうした」

「見苦しいので事態を収拾します。ステータスを見たら声を出して下さい。」

「あ、ああ。わかった…」

「感謝します。」

そういってメルド団長にステータスプレートを見せた。

 

「んん?!」

そういってメルド団長は俺からステータスプレートを取り上げた。

 

「神子だと?!しかも寵愛を受けている?!しかしこれは……」

おそらくわざとではなく、素だろう。

思い通り、メルド団長に注目が行く。でも驚くの神子のほうなんだな。ステータスのほうに驚くと思ってた。

 

「どうしたんですか?」

八重樫が声を出し、子悪党4人組もハジメいびりをやめ、こちらを見た。

やはり八重樫は頭が回る。

 

「いや、龍也の天職と技能に驚いただけだ。龍也、見せてもいいか?」

やはりステータスを無断で公開するのはマナー違反だったようだ。

納得しながらうなずく

「いいですよ。」

 

「天職"神子"。持っているだけで教会で高い地位を頂けるだろう。十万人に一人、いるかいないかという貴重な天職だ…

しかも寵愛を受けている。なぜか名前は読めんが、かなりの量の技能が詰まっているようだ…」

 

「あの、そろそろいいですか?」

少し恥ずかしがるふりをしてステータスプレートを返してもらい、メルド団長に尋ねた。

 

「これって、聖教教会に見せたほうがいいですか?」

 

メルド団長は少し悩んでから答えた

「…いや、いい。お前達は違う世界から来たんだろう?高い地位に入ると帰りにくくなる。こいつが神子だということは秘密にしておいてくれ。みんなもステータスを勝手に公開するのはマナー違反なので注意するように。

では今日はこれで解散。明日も訓練がある。しっかり休めよ。」

どこか不自然に自分をかばって、そのまま話を切り上げると、メルド団長は訓練場を去っていった。

その後、少しだけクラスメイトに話しかけられたが、適当に受け流し、自室に戻った。

帰る途中でハジメにお辞儀をされたが、無視することにした。




会話文が書けない


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A.03

オリ設定の説明回


訓練が終わったので自室に戻ると、鉏比売が出迎えてくれた。

 

「おかえりなさい。訓練はどうでしたか?」

「今日は顔合わせみたいなもんだから、何もしてないよ。ただ身分証みたいなものをもらっただけ。」

「身分証ですか?」

ポケットからステータスプレートを取り出し机の上に置き、指をさす。

「これ。」

「なるほど、能力を数値化して成長度合いを見る霊具ですか。」

「ステータスプレートだとさ。あと霊具とか神器のことはアーティファクトっていうらしい。」

「アーティファクトですか。」

「ま、長いから霊具でいいだろ。で、このステータスなんだけど、"ステータスオープン"」

そういって鉏比売に俺のステータスを見せる。

 

「この寵愛って多分お前のことだよな?」

「そうですね。文字化けしてますが、内容からしても私の寵愛でしょう。改めて寵愛というと少し恥ずかしいですね…。」

「で、だ。なんでこれ文字化けしてるんだ?」

「無視ですか…まあ、いいですけど。それで、理由ですけど、大体はわかります。」

「ほう。」

「訓練の待ち時間が暇だったのでこの世界の神に挨拶しようと思って"神の目"で探していたのですが、この世界、神がいないんですよ。」

「神がいない?だとしたらなんでこの世界は存続してるんだ?」

「変なのがいるんです。人間より上位なんですけど、神よりは全然下位の存在がいるんです。」

 

普通、世界や星というものは神様がいる。神様がいない星に虚構を持った生命体が生まれると、虚構*1の重さに耐えられずすぐに星が自壊してしまうのだ。虚構を神が支えると、星や世界は安定し、虚無を持った生命体と共に進化していく。すべての星がそうやってできているのだが、鉏比売曰く、神はおらず、代わりにおかしな存在がいるらしいのだ。

 

「つまりは、そのおかしな存在、まあ神もどきでいいか。その神もどきが、神の役割を担っているってことか?」

「おそらくですが、そういうことでしょう。文字化けはおそらく、神もどきよりも上位な、私の名前をこの世界で言うところの魔法が理解できないんですよ。」

「なるほど。虚構を受け持っている存在より上位の存在は受け入れないのか。ってことはこの世界の人間はお前のことが見れないんじゃないか?」

「はい。そういうことです。これで龍也と一緒に行動できますね。」

「それは良かった。退屈しなくて済む。」

「ええ。これで一緒に鍛錬ができます!最近は休日しか鍛錬ができませんでしたからね!」

「お、おう………話を戻すけど、その神もどきはどうにかしなくてもいいのか?」

「うーん、あんまり気にしなくてもいいですど…神もどきは神ではないので、死ぬんですよ。

この世界で何と言うかは知らないですが…黄泉の国に入れなくて、消失してしまうのです。」

 

神は死ぬことはない。虚構がある限り、死ぬことはないのだ。

それは神という概念的存在が虚構の中に取り込まれ、神の本質が概念と物質の両方になるからである。

 

「神もどきは神よりも下位なので、神のように本質を重ねることができないんです。

だから物質的な体が死んだら神もどきは死んでしまいます。今は概念として存在しているようですが…もし物質的な体を持ってしまうといずれ死んでしまうでしょう。

問題なのはそのあとなんです。虚構を支える存在がいなくなると、人間の魂が虚構と混ざって消失してしまいます。」

「ってことは、神もどきが死んだら人間も亜人も魔人も死ぬってことになるのか?」

「はい。でもまあ、今は物質的な体を持っていない状態なのであまり気にする必要はないでしょうけど」

「でも一応の対策はしといたほうがいいだろ?知り合いができたら寝覚めが悪い。」

「対処できないわけではないですよ?神がいれば神もどきは死んでも人間は死にませんから。」

「……まあ、おいおい考えるか。」

「あら、別にそれでもいいですよ?半神でも神の役目は務まります。なんなら今からしますか?」

「しねーよ!あほか!心読やめろ!第一、鉏比売が行動できなくなったらかなり行動が制限されるだろうが!」

「確かにそうですね…私が36ヶ月も戦えなくなると大変です…」

「…………はぁ…まあそれは最終手段としてだ、こっちに連れてこれる神様のあては?」

「神がほかの世界を気にするとでも?」

「わかってるよ…お前が特殊なことくらい」

 

神という存在は、自分の守護する領域外にはてんで興味がない。

例として、日本神話の神様は海外の人間に興味がない。

それは異世界であろうと同じで、異世界がどうなろうとどうでもいいという神様が多い。例外的に博愛主義の神様もいる。だがそういう神様はみんな忙しそうで、いつも何かの業務に追われている。

鉏比売はかなり人間的な考え方をする珍しい神様なのだ。

 

「まあ、地球に帰ったとしてもいつでもここに来ることはできるので、あんまり気にしなくてもいいですよ。」

「わかってるよ…」

 

 

 

♦♢♦

 

 

あれから2週間がたった。

鉏比売の尋常じゃない鍛錬に何とかついて行って、ようやくレベル8である。

天之河は俺より鍛錬の量が少ないのにレベル10になっていた。正直キレそうだった。

鉏比売によると「龍也はもとから鍛錬をしていたのをむりやりレベル1にしたのでちょっと成長しにくいのかもしれないです」とのこと。尚更キレそうになった。

 

まあでも、地球でも弓は鍛錬していたし、胸鉏比売の寵愛により技能が付きまくっているので、地球よりいろんなことができて面白かった。戦争のことを考えると憂鬱だが、鉏比売には戦神の一面もあるのでその加護があると思えば多少は気が楽になる。

 

魔法は、水属性の適正しかなかったが詠唱はいらなかった。魔力操作という技能のおかげらしいのだが、そもそも地球でも霊力の操作はある程度鍛錬していたのでもとからできたのだが、とても驚かれた。俺からすれば詠唱なんて相手に何をしようとしているかばらすようなものなので考えられないことなのだが…

 

まあともかく、神子というレア天職は、レア度に見合ったステータスと技能を持っていたのだ。

 

 

ステータスはともかく、俺は基本的に弓を使って戦うため矢が当たらなくては意味がない。

そのためメルド団長の組んだメニューとは別に、鉏比売と自主練をして過ごしている。

 

「0.6mm下、次。……0.3mm上、次。」

 

これは苦行じゃなかろうか。

0.3mmというのは、的の中心からの距離である、動く的の。

動くというのもただ上下左右に動くだけではなく、斜めや、円形、八の字など、変なふうにしか動かないのである。当たっている時点でかなりすごいことはわかっているのだが、鉏比売曰く、「0.1mmもずれたら殺しちゃいます。気絶させられません」とのこと。どういうことだよ。

 

(合計4.6mm、平均は0.3。昨日よりはよくなってますね。じゃあ、いったん休憩にしますか。)

(はぁ……毎回言ってるけど厳しすぎないですかね?)

(でも、なんやかんや言いながら一回誤差0出したじゃないですか。もうちょっとですよ。)

(その、もうちょっとを2年前から聞いてるのは気のせいでしょうかねえ?)

(さあ、気のせいじゃないですか?)

(…さいですか)

 

そんな雑談をしているとハジメが訓練場に入ってきたのが目に入った。

 

(ハジメはどう?)

(あまり直接言うと失礼ですが…戦えないでしょうね。ただ素振りをしているだけで強くなれるというわけではないので…もっと細かい技術を素振りから身につけることができるのは才能がある人だけです。)

(お、おう…思ってたよりズバッと言ったな……)

(最初に失礼といったでしょう?それに事実を言うことは悪いことではありません。)

良くないことはあると思う

 

(あっ…龍也。)

唐突に鉏比売が声を上げた。目線の先に目をやると、檜山達子悪党4人組がハジメの脇腹を殴っていた。

(ッ、これから戦争だってことわかってんのか…!)

戦争(殺し合い)に参加することが決まるときに止めなかったのは確かに俺ではあるし、戦争に参加することが決まっている以上今更士気を下げるのも問題だ。

しかし、仕方ないとはいえ、腹が立つというものだ。

(……はあ、もうちょっと大人になってほしいもんだ)

(この年頃だとおかしくはないでしょうけど…とりあえず速く行ってあげてください)

(ああ……)

 

思春期の男子がいきなり大きな力を持ち溺れるのは仕方のないことではあるが、少し考えればその行為に意味がないことぐらいわかるだろうに。

イライラした心を落ち着けるため深呼吸をしてから、檜山達に声をかけた

 

「何してるんだ?」

小さく声をかけると檜山達はぎょっとした顔をして構えていた魔法を解除した。

「っ!く、訓練だよ。ほら、攻撃を受ければ耐性が上がるかもしれないじゃないか」

「ふ~ん。じゃあ、俺が訓練してやるよ。この中で一番ステータスが高いのは俺だしね」

そういって弓を構えると、檜山達はおびえた様子で声を出す

「や、その……」

「なんだよ?やらないのか?」

「い、いや、俺は、いいよ」

 

檜山は焦ったようにそう言ってそそくさと立ち去って行った。

そして、それにつれたって逃げていく他の3人を見てため息が出た

 

 

「はぁ…」

「…ありがとう、日碕君。この前もだけど、かばってくれて。」

「別にいいよ。あいつらがガキ過ぎるだけだ。白崎に好かれてるお前をひがんでるだけだろ。見苦しいったらありゃしない」

「あはは……好かれてるわけじゃないと思うけど…」

「ま、気にすんな。殴られた場所、大丈夫か?痛むようだったら白崎のとこにでも行けよ。」

「うん、大丈夫。本当、ありがとう」

「だからいいって言ってるだろ?俺は鍛錬に戻るから」

 

一方的に会話を切りそのまま鉏比売が座っている横に座る。

 

(お疲れさまでした。ずいぶんイライラしていましたね。)

(ただでさえみっともないってのに。ましてやこれから戦争に参加する人間があんなことやってる暇ねえだろうが。)

(まあまあ、落ち着いてください。全員が悲観してネガティブなムードになるよりはましですよ。)

(それはそうなんだけど………はぁ…)

(いざとなったら私が何とかしますよ。神様を舐めないでください。)

(はいはい、最終手段だけどな。)

(さて、そろそろメルドさんの訓練が始まるので私は部屋に戻りますね。)

(ん。じゃ、あとで)

(あ、そうです。渡すのをすっかり忘れていました。はい。)

(ん?ああ、勾玉か。サンキューな)

(いえいえ。私のためでもありますので。それでは)

(おう。また)

 

 

♦♢♦

 

訓練が終了した後、いつもなら夕食まで自由時間なのだが、今日はメルド団長から伝えることがあると引き留められた。生徒たちが注目する中でメルド団長は野太い声で告げた

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

そういってすぐに帰ってしまったメルド団長の後ろ姿を眺めながら、これからのことを思うと溜息が出た。

 

*1
この場合数字や文字など、物質的に存在しないものを表す




駄文しか書けない
設定は適当


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A.04

Korokingさん
誤字報告ありがとうございました
これからも誤字脱字等ありましたらご報告いただけると嬉しいです


…感想などもいただけると嬉しいです




【オルクス大迷宮】

 

全百層からなるといわれる七大迷宮の一つである。階層が深まるにつれてモンスターの強さも上がっていく。

そして、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に人気がある。それは階層の深さによって、モンスターの強さを測りやすいからである。またモンスターの核である"魔石"が迷宮の外の物よりも良質なのだ。

 

魔石とは、いわば霊力の銅線のようなもので、質のいい魔石ほど抵抗のない銅線になるのだ。魔石は粉末状にするなどして魔法陣を作ると普通に描いたものより3倍以上強くなるという。

そして、良質な魔石を持っている魔物ほど、強力な固有魔法を使う。固有魔法とは、詠唱や魔法陣を使えないため霊力はあっても多彩な魔法を使えない魔物が使う唯一の魔法である。…のだが俺はなぜか詠唱なしで魔法が使える。しかし俺は魔石を持っていないので協力な魔物は霊力操作を持っているのでは?と推測している。気になるので魔物にステータスプレートを使ってみようと思っている。

 

閑話休題

 

俺たちはメルド団長率いる騎士団と共に、【オルクス大迷宮】へ挑戦する冒険者たちのための宿場町【ホルアド】に到着した。新兵訓練に使う王国直営の宿屋に泊まり、明日から迷宮に挑戦する。

 

同室になったハジメと挨拶をし、返事も待たずにベッドに座る。訓練初日の夜に王国の宝物庫に入れておいた、愛弓、生之機弓(いくのしかけゆみ)を取り出し霊力を込めると、ガシャガシャと音を立て変形していく。

十束剣の姿になった生之機弓を眺めてからもう一度弓に戻し、動作を確認しているとハジメに声をかけられた。

「ね、ねえ!なにそれ!」

 

…こんなに目がキラキラしてるハジメは初めて見た。

 

「…生之機弓。俺の愛弓」

 

言ってから気づく。愛弓と言ってしまった。

「変形する弓⁉剣⁉カッコいい‼」

 

興奮しているようでそこまで気にしてないらしかった。トータスにきてから一番焦ったかもしれない。

 

「弓にも剣にもなるって聞いてたからさ、試してみたかったんだよ。」

袋にしまうと残念そうな顔をされたが、これ以上失言をすると嫌なので無視して立ち上がる。

 

「トイレ行ってくる。触んなよ?」

 

そういって部屋を出る。

廊下で白崎とすれ違い、誰の部屋に行くのかと気になって振り返ると、ハジメと俺の部屋に入っていくではないか。

さっさと付き合えと思いながらもトイレにこもる。

 

(焦っったーーーーー…)

(別にばれてもどうってことないでしょう?)

(…確かに。でもなんにしろ説明が面倒だったし逃げてよかった。)

(なんでもいいですけどね。ともかく、整備ができたなら早く戻って寝てください。)

(わかってる。でも、ハジメと白崎がなんか話してたし、もうちょっと時間潰してからな)

(本当に、あの子たち好きですね…)

 

そのあと30分ぐらい時間潰してから戻ると、ハジメはもう寝ていたので俺もすぐに寝ることにした。

 

 

♢♦♢

 

次の日、俺たちは【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に集まっていた。

 

入口は以外にしっかりしていて、博物館の入場ゲートのような門があった。受付まであり、制服を着た女性が迷宮への出入りをチェックしている。

 

ここでステータスプレートをチェックして出入りを記録することで死亡者数を把握するらしい。

 

俺の天職がばれると面倒なことになると思いどうやって隠すか考えていたのだが、流石に勇者一行が来ることは伝達してあったらしく、メルド団長が受付の女性に一言いうとそのまま迷宮に入っていった。

 

迷宮の中は松明などの明かりがなくても先が見える程度に明るかった。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしい。

 

ぞろぞろと隊列を組んで進んでいると、広間に出た。警戒しながら壁の割れ目から大量の灰色の毛玉が出てきた。

気配でわかる。魔物だ。

 

すぐに弓を構え、技能で矢を作る。弓につがえ、弓弦を引きかけたところで鉏比売に止められる。

(訓練ですよ?あれくらいの魔物ならみんな倒せます。)

(確かに。反射的に構えちゃった)

 

弓をしまいながら話していると、メルド団長が声を上げた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ!交代で前に出てもらうからな、準備しておけ!あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

さて、天之河たちのお手並み拝見というところか。

 

天之河は純白に輝くバスターソード、"聖剣"を振るい、数体まとめて葬る。

剣筋は正直で、対人戦での本気の切り合いとなると駆け引きに劣るだろうが、ある程度はステータスで補えるだろう。まだ伸びしろはあるが、確かにリーダーになるに足る動きだった。

 

坂本は天職"拳士"に似合う立ち回りで拳撃をラットマンに浴びせるがやはり甘い。空手部らしいが、空手という武術は人間を殺すための技術なので魔物相手には微妙だが対人戦となると天之河にも劣らないだろう。

 

八重樫は侍というのが似合う、美しい太刀筋で魔物を切り伏せる。しかし彼女は剣道という道の技術だ。抜刀術などの技術もあるが、殺す、という点においては非効率といえる。

まあ、その技術はかなりの練度で、坂上と同じように、一騎討においてはかなり強いだろう。

 

 

数秒間の天之河たちが足止めをしている間に詠唱が響き、三人同時に魔法を放つ。螺旋状に渦巻く炎がラットマンを燃やしつくし、ラットマンは全滅した。

 

常套手段ともいえる作戦は見事なもので、火力も高く、殲滅力もある。個人個人の伸びしろはあるが、十分に戦力になるだろう。

あとは、人を殺す覚悟があるかだけが懸念材料だが、彼らが成長することを願うしかない。

 

「ああ、うん、よくやったぞ!次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ」

 

予想よりも天之河たちが強かったのか、苦笑いしながらメル団長が声をかける

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収の念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

なるほど、魔物と戦うときは魔石回収もあるか。オーバーキルに越したことはないと思っていたので認識を改めておかないと。

 

(どうだ?)

(うーん、まだまだですね。動きに無駄がありすぎます。魔法に関しては目も当てられないです。)

 

神様目線は大変手厳しい模様。もうちょっと甘くていいと思う。神様という種族は人間に求めるものが大きすぎる傾向がある。まじで、もうちょっと鍛錬優しくしてほしい。

 

 

それから交代で戦闘を繰り返し、順調に階層を下げていった。

俺はパーティーを組んでいないため、最初は騎士団の人がサポートに入ろうとしていたのだが、サポートに入る間もなく終わってしまうため、メルド団長は驚いていた。

 

そして、一流の冒険者かどうかを分けるといわれる、20階層にたどり着いた。

現在の最高到達点は65階層らしく、それも100年以上前の冒険者がなした異業だそうだ。

今は超一流は40階層、20階層まで降りれば十分に一流扱いだという。

 

皆がここまでかなりの速度で進軍できたのはチートと、騎士団員のおかげとしか言いようがない。

というのも、迷宮において一番恐ろしいのはトラップで、場合によっては死に直結することもある。

トラップの対策として"フェアスコープ"というものがあり、霊力の流れからトラップを感知するというものだ。迷宮のほとんどのトラップは霊力を使用したものなので、これを用いれば8割以上のトラップは発見できる。

とはいっても索敵範囲が狭くスムーズに進むには索敵範囲の選別をしなければならないので、結局は経験がものを言うということだ。

 

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ!今日はこの二十階層で訓練して終了だ!気合入れろ!」

 

メルド団長の掛け声を上げる。しかし、幾人かの生徒は調子に乗っているようで、へらへらと雑談をしていた。

こういう油断がピンチを招くというのに気づくのはもう少し経験がいるだろう。

 

しばらく20階層を探索していると最奥の部屋にたどり着いた。

鍾乳石のようなつらら状の石が壁から飛び出したり、溶けていたりと複雑な地形をしていた。この先に階段があり、そこを降りると21階層にたどり着く。

 

そこまで行けば今日の実践訓練は終わる。あとは引き返すだけだ。

 

せり出した鍾乳石のせいで横に隊列が組めないため縦列になって進む。先頭に天之河たちが並びそこからカースト順に並んだ。

こんな時までカースト意識があることに若干恐怖を覚えながらも、最後尾に隊列を組んだ。

 

少し進んだところで戦闘の天之河たちとメルド団長が立ち止まる。どうやら魔物がいるらしい。

気配を探り、強さなのかを探る。

 

まだまだ弱い。手出しの必要はないだろうが念のため弓に手をかける。

 

「ロックマウントだ!腕に注意しろ!剛腕だ!」

 

メルド団長の声が響く。

坂上が人壁となり天之河と八重樫が取り囲もうとするが、足場が悪く取り囲めそうになかった。

するとロックマウントは後ろに下がって仰け反りながら大きく息を吸った。

 

直後、ロックマウントは多少の霊力と共に強烈な咆哮を発した。

あれが固有魔法の"威圧の咆哮"らしい。

天之河たちは怯んでしまい、ロックマウントに隙を与える。もちろんその隙を許すはずがなく、ロックマウントはステップをして横に飛び、傍らにあった岩を白崎たちに投げつける。怯んでいた前衛組の頭上を越えて白崎に迫る。

避けるスペースがないと判断した白崎たちは杖を構え、岩を迎撃しようと試みる。

 

しかし魔法を発動させようとした瞬間、岩が動いた。岩だと思っていたものはロックマウントだったのだ。

空中で回転し、両腕を開いて白崎に飛び込む。こころなしか鼻息も荒く、目も血走っているように見える。ルパンダイブさながらに突っ込んでいくゴリラ。

ここまで気持ち悪いと心の底から思ったのは初めてな気がする。

それを至近距離から見た白崎たちは相当に気持ち悪いだろう。

「こらこら、戦闘中に何やってる!」

メルド団長が慌てながらロックマウントを切り捨てる

白崎は謝るも、予想通り相当気持ち悪かったらしく顔が青褪めていた。

 

そんな表情を見て死への恐怖と勘違いしたのか、天之河がキレた。

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

(龍也、相殺を。)

(了解…!)

あのバカ、あの霊力量はやばい。運が悪いと全滅する。というか鉏比売が注意したということは本当にまずい。崩落の可能性がかなりある。

 

 

 

考える。

縦に列を組んでいる。普通に矢を撃つことはできない。

 

 

考える。

矢を通す道は上か左右。壁から生え出た鍾乳石が邪魔なので上。

 

「万翔羽ばたき、」

 

考える。

落下を待つのでは速度が足りないので天井に反射させる。

威力を相殺するために霊力を放出する。

必要な構造は2つ、あとは技術次第。

 

 

「天へと至れ──」

 

弾力、調整、霊力を込める。矢はできた。あとは打つだけ

 

息を吸う。弦を引き絞る。天井を狙って、強く、強く、

 

 

「──"天翔閃"!」

 

撃つ

 

 

天之河が大上段から振り降ろした光を纏った聖剣は、その光が斬撃として放たれる。ものすごい霊力量を込められたその斬撃を止めるものはなくロックマウントを両断した

 

一方、俺の放った矢は狙い通り、比較的に平らな天井にあたった後、ロックマウントの少し奥に向けて進んでいった。

しかし、予想より少し奥にずれてしまった。

放たれた光の斬撃の少し奥で地面に矢が衝突し、霊力を放出する。斬撃の火力は4割程相殺したが、それでも止まらず、奥の壁にあたってひびを入れて消失した。

 

52点といったところか、予定通りにいけば完全に相殺できたはずだった。

(82点ぐらいでしょうか)

(…予想より点が高くてびっくりしてるよ。)

(現状の能力からすればこれくらいです。完全相殺は流石に難しいですからね。反射撃ちはまだまだ鍛錬が必要ですね。あと、龍也の狙い通りに成功したとしても完全相殺はできません。読みも甘いです。)

(そうか、まだ鍛錬が必要か…)

(でも、崩落を防げる程度にはなってるんです。もうちょっとですよ。)

(要求のレベルも高いと思うけどね。)

(いずれ半神になるんです。これくらいのことはできてもらわなければ)

(あ…はい。)

というか半神ってどうやってなるんだよ。

 

 

そんなふうに反省会をしていると、唐突に檜山の声が響いた。

「だったら俺達で回収しようぜ!」

 

どうやら希少な鉱石があったらしい

そう思って目をやると、確かにきれいな石だった。

大方、白崎が「キレイ」だとか、「素敵」なんて呟いたんだろう。

そう思っていると、鉏比売が焦ったように念話をしてくる

(止めてください。罠です)

 

「こら!勝手なことをするな!安全確認もまだなんだぞ!」

メルド団長が慌てたよう叫んで注意するが、それでも檜山は聞こえないふりをしてひょいひょいと登っていく。

まずいと思い駆け出すが、それよりも早く檜山は鉱石にたどり着いた。

 

「団長、トラップです!」

騎士団員が警告をするが、時すでに遅し。檜山は声が届く前に鉱石に触れた。

 

瞬く間に魔法陣が部屋全体に広がり、輝きを増していく。

 

「くっ、撤退だ!早くこの部屋から出ろ!」

 

メルド団長の叫びもむなしく、部屋の中が純白の光に包まれる。

まるで召喚された日のようだった。だが、召喚された日のような浮遊感がない。

恐る恐る目を開けると、先ほどと同じい広間にいた。

 

しかしそこには、クラスメイトも、騎士団員もいなかった。




変形武器はロマン

オリ主も中二病なとこが出てしまった


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A.05

グレンテッセン


鉏比売を見る

「いや、その、転移しないように勾玉を、呪いました…」

 

俺と目を合わせないようにしりごみしながらつぶやいた内容は、反応に困るものだった。

 

「えっと、それは何というか、不運な、事故だね…」

「…いえ、すいません。予想できる事態でした。」

「いや、別にいいんだけどね、うん。」

 

ものすごくありがたいし、嬉しいけれど、今はみんなに同行したほうが良かった。本当に不運な事故だった。

あとなんで呪ったんだ……普通の加護じゃダメだったのか…?

 

「ふぅ…スゥ―、ハァ―…」

溜息をついた後深呼吸をして、気を引き締め直す。

 

「とりあえず、その話は置いておいて。みんながどこに行ったか分かるか?」

「ちょっと待ってくださいね……いました。65階層です。

それと、かなりのレベルの魔物がいます。今の彼らでは太刀打ちできないレベルの」

 

「…了解。最短ルートでどれくらいかかる。」

「ノンストップで行けば1時間かからないぐらいでしょうか。」

「加護ありだったら?」

「頑張っても40分ぐらいですね」

「手荒でもいい場合は」

 

「…神力を使った場合は、65階層まで穴を開けてショートカットする、ぐらいでしょうか。5分くらいでたどり着けると思いますよ?」

「ならそれで。早くいくぞ」

「了解です。後悔はないですね。」

「だれかが死んだらそれまでだ」

そう強く言い切って鉏比売の目を見つめる。

 

「…わかりました」

少しの静寂が過ぎ、小さく肯定の声が響いた。

そして、どこからともなく装飾のない和弓を取り出した。

 

 

「では…」

深呼吸をすると、矢を持たないまま弦を引く。そして少しだけ下に照準を合わせ、深く息を吸う。

すると弦を引く右手が淡く光り、そこから光と共に真直ぐな矢が現れる。

(やじり)が淡い光を纏い、そこから異常なまでの霊力を感じる。

しかし、すぐに込められた力が変質し、それと共に鏃が一層眩く光る。

久しぶりに感じる神力の凄まじさに圧倒されるながらも、すぐに来るであろう衝撃に備えて全身を強化する。

身体強化が終わるや否や、鉏比売が引き絞った力を解き放つ。

 

鉏比売が矢から手を離した瞬間、すさまじいエネルギーがあふれ出す

 

 

 

力強く、暖かく、美しい。青々と燃える緑、雄大な生き物達の闘い。

生命が生まれ、関わり合い、そして死ぬ。

全ての生き物がいつか生まれ、またいつか死ぬ。

繰り返す

人間の感情

暖かい、柔らかい、優しい感情

冷たく、刺々しい、悲しい感情

全てがそこにあり、そこには何もない

どちらでもあるからこそどちらでもない

人間には理解できない場所、状況、意味、公式、法則

ぼんやりと、何かが見える。

誰だろうか

金と黒が入り混じったような髪

俺と同じくらいの背丈

顔はぼやけてはっきりと見えない

しかし、直観でわかる。神様だ、

何も言わずにこちらを見つめてくる

数秒間見つめ合っていると、どこからか声が聞こえてきた

神様は声を聴くと踵を返して、歩き出す

 

 

 

「龍也」

呼び止めようとして鉏比売に肩を揺らされている事に気づく。

初めて神力に触れた時よりも数倍短いが、意識が飛んでいた。しかし最後の神様は初めて見たものだ。何かの予言だろうか。

後で鉏比売に聞くしかないだろう。しかし今はみんなを助けに行かないといけない。

深呼吸をして大丈夫だと伝え、状況を確認する。

矢の当たった場所は消失し、60㎝ぐらいの穴が開いている。あれだけのエネルギーを放出した割には小さい気もするが、何か細工をしたのだろうか。

 

「早く入ってください。すぐに穴が塞がります。神力の痕跡を残さないようにいろいろ細工をしたんです。」

「なるほど、じゃさっさと行くか」

 

 

穴に飛び込み、滑り台のように滑り降りる。上を見ると、入り口からまるで巻き戻しのように穴がふさがっていく。神力の奇跡には毎度畏敬の念を覚えるが、鉏比売曰く、いずれ半神にさせられるらしいので畏敬の念も捨てたほうがいいのだろうか。

そんなことを考えていると穴の底に到着する。

 

「まだ誰も死んでないよな?」

「はい。まだギリギリで踏ん張っていますね。」

「了解。急ごう、いやな予感がする」

「そういうこと言わないでくださいよ、こっちです」

 

鉏比売に先導されて走り出す。

65階層というだけあって、20階層の魔物とは比較にならない強さの魔物がいる。

 

しばらく走っていると、前方にビーバーよりも大きいネズミのような魔物が岩陰に隠れているようで、岩から尾がはみ出ていた。

霊力を使って探ってみると、4匹が左右に隠れているようで、奇襲を仕掛けるつもりらしい。

矢を創りながら距離を測る。ネズミたちの隠れている岩まであと8mほど。弓に矢をつがえて3歩、霊力を矢に込める。少し体を開いて右足で地面を強く蹴り、さらに加速。飛びかかってきたネズミを二匹まとめて撃ち抜く。

体を傾け左から襲ってきたネズミをかわし、ブレーキをかけながら弓を十束剣に変形させる。

着地したネズミに向けて振り下ろした剣は何の抵抗もなく首を吹き飛ばす。

続けざまに最後のネズミの頭に剣を突き刺す。

 

 

「……ふぅ」

ネズミが動かなくなったことを確認して溜息をつく。

そのまま魔石の回収もせずに走り出す。

 

「94点。合格です」

(割と高いな。でもナビ優先してくんない?)

「いえいえ。反省というのはとても大事ですから。あ、そこ右です」

(自由っすね…)

「立ち止まらずに討伐出来たら100点でしたね。」

(ちなみにどうすればよかったんですかね?)

「今の龍也の実力だと、反転から切り降ろし、そのあと切り上げ、それで反転。みたいな感じですかね。」

(突きの時間が無駄だったわけね。次があったら生かしますよ)

「はい、ぜひそうしてください。

あとちょっとで着きます。かなりギリギリなので急いでください」

(了解)

 

 

 

♢♦♢

 

 

「道なりに行くとと広い空間があります。大型の魔物の奥にクラスメイトの方々がいるので攻撃は慎重に」

「了解…!」

 

身体強化でさらに速度を上げる。道を曲がると、巨大な影が、魔法を受けてたじろいでいる。

大量の霊力がはじけている。みんな頑張って抵抗しているようだ。

 

広い空間に出る。魔物は魔法をこらえ続けている。

 

間に合う。

 

魔物が霊力を前方に集め、障壁のように展開し走り出した。

魔法が途切れたのか。なんにしろ早く殺さないと。

地面をけり、飛び上がる。

弓を構え、矢を創る。

引き絞る。

しかし、矢を放つ寸前、地面が砕けた。

どうやら石畳の橋だったらしく、魔物の強力な攻撃によって崩れてしまったらしい。

橋の下はとてつもなく深く、底まで落ちてしまえば上ってくることはできないだろう。

しかしそんなことはどうでもいい。

 

南雲が、崩れた橋と共に落下していくのが目に入った。

「鉏比売‼ハジメを‼」

俺では間に合わないと察し、鉏比売に助けを求めるが、鉏比売は動かなかった。

なんで、と声が出そうになったが鉏比売は大丈夫と念話を送ってきた。

 

どう考えても大丈夫には見えないが、胸鉏比売という神様は嘘を吐かない。信頼していいんだろう。

となるとさっさと向こう岸にわたったほうがいい。

弓につがえていた矢を創りかえる。霊力で縄を作り、矢をつなげる。そのまま対岸に矢を放ち、ペグのように突き刺す。そのまま縄を上り、大量の魔物を生み出していた魔法陣を破壊する。魔法陣は陣でしかないので、壊してしまえば機能を失う。

思っていた以上にもろかったので少し驚いたが、それよりも現状確認が先だ。

メルド団長や後衛職の生徒たちが驚いた表情をしながら見つめてくる。

 

白崎が気絶しているようだったが、命に別状はなさそうだ。

どうやらハジメ以外は無事らしい。緊張が解け、溜息をついてしまう。

 

「タツヤ!なんで向こうから…いや、そんなことは後だ。今は生き残ることだけ考えろ!撤退するぞ!」

さっきまでの驚いた表情が嘘だったかのようにメルド団長は声を上げる。その声に反応し皆はのろのろと動き出す。

「メルド団長、残りの魔物は全部俺がやるんで、皆の護衛頼みます。」

それだけ言い切って、矢を構える。

「ああ」

メルド団長はうなずくと、騎士団員に指示をし始めた。

 

鉏比売の寵愛に、対軍戦闘時4倍とかいう技能があった。言葉通りだとすればこういう状況において俺は、普段の4倍の力を発揮できるということだ。

さて、弦を引きながら自分の体に感覚を研ぎ澄ます。確かに圧倒的に力が高まっているのを感じる。

そういえば、魔法陣を壊した時も同じようにステータスが上がっていたのだろうか。

淡々と処理しながら鉏比売に尋ねる。

(寵愛のステータス4倍って今発動してる?)

(はい。結構上がってますね。こちら側にわたった時点で発動してました。)

(なるほど)

 

予想通りステータスが上がっていたらしい。どういう基準でステータスが上がるのか検証しておきたいが、どうやって検証しようか。まあ、今考えている場合ではないだろう。帰ってからじっくり考えることにした。

そういえば、ハジメはどうなるのだろう

(彼はとても強いです。多少変化はあるでしょうが無事に帰ってきますよ)

(未来視?)

(はい。助かることが分かってる人を助けるために神力を使うのは意味のない行為です)

(それならよかった。じゃ、さっさと帰るかな)

(そうですね。あっちの階段を昇れば20階層まで一直線です)

(え、それあるんだったら神力使わなくてよかったのでは?)

(滑ったほうが早かったですから。)

(さいですか…)

先に説明しておいてほしいと思ったが、とりあえず帰還することを優先しよう

 

「終わりました。とりあえず、あっちの階段から帰れますよ」

「ああ。頼む」

「了解です」

 

簡潔に返事をして階段へ先導する。

 

 

確かにここを降りるより、穴をあけて滑ったほうが早くつくのが納得できるほど長い階段だった。

ただでさえ疲れていたクラスメイト達は、薄暗く狭い空間でさらに気が滅入ってしまったのか、階段を昇る足音しか聞こえてこなかった。

 

しばらく進むと上方に魔法陣の書かれた扉が見えた。

クラスメイト達の顔に、少しだけ生気が戻る。

 

(あれは?)

(さっき転移した部屋につながってます。霊力を籠めればあきますよ)

(了解)

 

扉の魔法陣に手をかざし、霊力を込めると、扉は隠し扉のように回転し奥の部屋につながる。

鉏比売の言う通り、20階層のトラップのあった部屋にたどり着いた。

 

クラスメイト達は、安堵の吐息を漏らす。

一番ステータスの高い天之河でさえ、壁を背にもたれかかっていた。

 

「お前達!座り込むな!ここで気が抜けたら帰れなくなるぞ!魔物との戦闘はなるべく避けて最短距離で脱出する!ほら、もう少しだ、踏ん張れ!」

 

メルド団長は休みたいという愚痴を一睨みで封殺し、クラスメイト達は渋々立ち上がり、歩き始めた。

 

道中の魔物は、発見次第俺が射抜いていったのでみんなの体力の消費は最小限にできただろう。

そしてついに1回層の正面門まで帰還すると、クラスメイト達は安堵の表情を見せた。

 

(ひとまず、お疲れさまでした)

(お疲れ。で、いろいろやった方がいい?)

(ですね。まあ、宿に帰ってからやりましょう)

 

♢♦♢

 

 

 

その後、一行は一直線に宿に帰り、ほぼ全員が泥のように眠った。

 

そんな中、俺と鉏比売は宿の部屋に忍び込み、これからの活動に支障が出ないようにするため細かい記憶を改ざんするという、なかなか非人道的な行為を行っていた。

俺が目立ちすぎたところを都合よく改ざんし、異常に思われないようにしているのだ。

実はこの作業は怨霊退治で目撃者が出るたびに行っていたのだが、ここまで個人的な理由で記憶を改ざんするのは初めてだったりする。

 

「なんか、自分のために記憶改ざんすんのはちょっと罪悪感わくな」

「その割には迷いがないですよね」

鉏比売が眠っている生徒に手をかざすとほんのりと光を放ちそのまま消えていく。

「何なら改ざんしようって言いだしたの龍也ですし」

「どうせ鉏比売もやる気だっただろ」

「そうなんですけどね。これ以上二人で一緒に入れる時間が減っては困るので」

「嬉しいけど、神様として正しいのか甚だ疑問だね」

「神様なんてそんなもんですよ。よし、終わり」

「よし、戻るか」

玄関のドアを閉め、盗んだマスターキーで鍵を閉める。

 

部屋に戻り布団に入ると、鉏比売に襲われた。

次の日、起きてすぐに問い詰めると、神力を使って疲れたので襲ったとのこと。

 

どうせ疲れてないだろうと思うが、良かったので許すことにした。

 




戦闘シーンは難しいし、今までで一番駄文だった気がする。

誤字脱字等あったらご報告宜しくお願いします。
あと感想とか書いてくれると嬉しいです。

ちょっと変えました


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