黙っていればなんとやら (si_ro)
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始まりは唐突すぎた
ーーーーー転生してから20年経った。
最初は20xx年の日本で生まれたごく普通の女子高生だったのに。
アニメやゲームでドハマリして、ソフトを買っては1週間以内でチャンピオンになる所詮ゲーマーで、いわゆるインドアオタク。
レベル?そんなもの手持ちMAX100レベルまで上げたに決まってる。
だがしかし。
学校に行こうと思い、自分の部屋を出ようとした後。
突如場面が変わる。光で包まれた私。
気付いた時にはこの世界でのパパとママに見下ろされてこの私、ネモが誕生したのだった。
3歳くらいになり、やっと自分の姿が見れる〜!と思い鏡を覗き込むと、転生ではお決まりの全く別人になってた。
超絶美少女。
しかもアルビノ。全身くまなく真っ白なのである。
目はまぁここでの両親の遺伝的なものでワインレッドのような色なのだが、将来美人になるに決まってる。だってあのママの子だし。
やーん、びっくり!な展開はそれだけではない。
9歳までは普通の女の子として、パパとママとポケモンに囲まれて生活していた。のだが。
ポケモントレーナーになる事ができる10歳の誕生日を迎えたその日。気付いたらゲームで使っていた手持ちのポケモンと、ボックスに預けていたポケモン全部が使えるようになっていた。
ここまでくればもはやチート。チートすぎる。
だってあの頑張って育てたポケモンたちがそのまま手元にきてくれるなんて、ねぇ??
とりあえず5年間は最初の相棒でもあるルカリオと一緒にシンオウ地方を放浪した。16歳になってやっと家に帰り、あたかもこの5年で捕まえて頑張ってきたんだよーと見せるかのように、両親には手持ちとボックスに預けていたポケモンたちを全て見せた。
最初は両親も驚いていたけど、さすが娘LOVE!な2人。やっぱりうちの子はすごいわぁ〜!って喜んでくれた。
ごめん、転生前にゲームでやってた、なんてことは言わないでおく。
そんなこんなでシンオウを始め、ジョウト、イッシュとジムを巡り、チャンピオンにまで上り詰めた。
そして19歳。今ではすっかりこの世界で名を馳せたチャンピオン。
チャンピオンと言っても名ばかりで、既に他の人にその座を預けた。
要するに放浪癖のある、いわゆるニートなのである。
そんな私も20歳になり、家でのんびりとテレビを見ていた時だった。
ーガラル地方にはポケモンが巨大化するのです!ー
なんと。巨大化するのか。今の時代は。
それに衝撃を受けた私は、思わず手に取っていたクッキーを落とした。そこからの行動が早かった。まず、新しくポケモンボックスを作り、手持ちを絞込み、さっさとキャリーに荷物を詰め込んだ。
ドタドタと階段を駆け下り、リビングでテレビを見ていたママへと声をかける。
「ママ!ちょっとしばらく旅に出てくるけん!ボックスの子たちお願いできる!?」
「いいわよ〜?パパには言ってる〜?」
「あー、パパにはママから言っといて!やっと帰ってきたのにー、って言い出すとパパうるさいもん!お願い、それじゃ行ってきます!」
はいはい、行ってらっしゃい〜、という言葉も聞き流し、玄関を飛び出して目的の空港へと向かう。
そうしてガラル地方へと旅立った。
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コスプレ?いえ、変装です
カラッとした空気に澄んた青空。
飛行機から降りて、スーッと、思いっきり酸素を吸い込む。そう、ついにガラル地方に着いたのだ。
カランコロンと階段を降りてくるのは、真っ白な女性。ではなく。
「いやこれ変装しといて良かったわー」
とてつもなく地味でぐるぐるメガネをかけた、茶髪の三つ編みの女性だった。
これにはちゃんとした言い訳がある。
ここに来た目的は3つある。
1つ目は、ここに来るきっかけにもなったポケモンの巨大化を見るため。
2つ目はガラルでしか見れないポケモンを捕まえるため。
そして3つ目、これが1番重要。いかに自分がバレずにジムに挑戦できるかである。
何せ私は今までに3つの地方でチャンピオンになった存在、そんな人物がいきなりバトルしましょー!なんて言ったらとんでもないVIP待遇されるに決まってる。テレビに映ること間違いない。
それに、ジムリーダーが普段どのようにトレーナーと会話しているのかを聞いてみたかった。チャンピオンにはなったものの、いろんなトレーナーとはあまり接点がなく、アドバイスくださいと言われてもなかなか上手く伝えられないからだ。
その点、ジムリーダーはトレーナーとの接点が多い。勝ち負けの中でどのようにトレーナーと対話しているのかを直接感じてみたかった。
おいそこ、今他の地方でも出来ただろ?とか思っただろ?残念だったな!ネモさんは19歳までコミュ障だったんだ!
20歳になったから恋愛のひとつやふたつ経験したいが為に、わざわざこの地で!脱コミュ障!を目指しているのだ!!
まぁ、そんなことを公に言えるわけでもないので、こうやってコソコソと変装しているわけなのだが。
前置きはさておき、本題のジムへ行きたい。
荷物を受け取りに空港のロビーへ向かう。ここのジムでもサラッと攻略をしたいものだ。
受付のお姉さんに自分の荷物の番号を伝えると、お姉さんは一旦奥へ入っていき、私の荷物を持って戻ってきた。ありがとうございますー、と伝えて出ようとしたが、一応聞いておこうと思いそのまま声をかけた。
「あの、お姉さんちょっといいです?」
「なんでしょうか?」
「私ジムに挑戦したいんですけど、ここから近いジムってどこですかねー?」
今までのジムは、手持ちのレベルが充分高かったため、どこからでも挑戦はできた。こっちでも同じだろう、と思っていたのだが。
「あら?こちらの地方は初めてですか?」
「あ、はい。私シンオウ地方から来たんで初めてなんです。」
「ならご存知ないのも無理ないですね〜。ここ、ガラル地方ではジムチャレンジをするために推薦状が必要なんですよ」
はて、推薦状とは。
「推薦状はジムリーダーやチャンピオンが書いてくれますよ!ごく稀にローズ委員長が書いてくれることもあるとか!丁度2週間後に開会式が始まりますから、それまでに間に合うといいですね!」
なるほどわかった。要するにめんどくさい。
今度こそお姉さんにありがとうございます、と伝えて空港を出た。
さて困ったな、推薦状とやらがいるのか。
とりあえずもらったマップを開いて、現在地から近いジムのジムリーダーにでも書いてもらうか。現在地に近いジムはーっと。
「ナックルシティ…」
そうぼそっと呟いて、腰に付けていたボールをひとつ掴みポケモンを出す。きゅあ!と鳴いて出てきたのは、私の古参パートナーのフライゴン。
「おはようフライゴン。こっちに来てすぐで悪いんだけど、近くのジムまで行きたいの。お願いできる?」
そう言えば、さすが私のフライゴン。とても物分りのいい子だから、二つ返事で乗せてくれた。
「あーもう!好き!大好き!フライゴンありがとう!」
背中に乗ったまま、ギューッとフライゴンの首へとハグをすると、フライゴンも嬉しいのか、きゅあっ!と羽をパタパタさせた。
それを他の人に見られているとは露知らず、
おい、あの地味女、フライゴンの首絞めてるぞ…
ほんとだ、可哀想…
なんて言葉が聞こえてきたため、急いで空へと飛び立った。
悪かったな、地味女で。
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怒り出す〇分前
フライゴンの背中に乗って空を飛ぶこと数十分、ようやくお城のような建物が見えてきた。
あれがナックルシティ。随分と大きい建物だな。
近くの広いバトルフィールドの隅に下ろしてもらい、バックからオボンのみを取り出してフライゴンにあげた。
「お疲れ様フライゴン、ありがとね」
そっと頭を撫でてから、休んで貰うためにモンスターボールへと戻した。さてと。
ナックルシティのジムリーダーに早いとこお願いして、推薦状貰わないと。あと2週間で開会式なんだっけ?
2週間のスケジュールをいろいろ考えながらポケモンセンターの前を通り過ぎて、ジムらしい場所までたどり着いた。
大きな橋を越えてすぐの入口へと向かう。
いったいどんなジムリーダーなんだろうか、ととてもワクワクしていた。ちょっと前までは。
それが10分後には失望に変わるとは思いもよらないだろう。
ウィーン、とドアか開いたその先には人が少なからずいた。奥のスタッフらしい人に話しかければジムリーダー呼んでくれるかな、と思い声をかけたのに。
「申し訳ないんですが…」
この一点張り。いやいや待て。なんで呼んでくれないの。
「だから、ジムチャレンジしたいからジムリーダーの推薦状が欲しいって言ってるの。ジムリーダー呼んでくださいよ」
「関係者じゃないようなので、そんなすぐには…」
その言葉にカチンときてしまい、とうとう怒鳴ってしまった。
「関係者じゃない?当たり前でしょ!さっきシンオウからガラルに来たばっかりなのに、知り合いなんているわけないでしょ!?さっきからそう言ってるのに貴方話通じないわけ!?もういいわ、他当たるから!」
…やばい、ついに言ってしまった。周りも私の怒鳴り声でなんだなんだとざわつきだした。目立たないように地味女の変装までしたのに、これじゃ意味が無い。
「おー、なんかさっき怒鳴り声がしたけど何かあったかー?」
鶴の一声で、ざわついていた周りもシーンとなる。が、すぐに誰か分かると、キバナさんだ!キバナが来たぞ!と来る前よりも騒がしくなった。それよりもキバナって誰よ。
奥の方から出てきた高身長の褐色肌の男。頭にはオレンジのバンダナ、ダボッと着こなしているパーカー。かっこいいとは思う、かっこいいとは。
ただ、これは私のチャラ男センサーが反応している。こいつはいわゆるパリピ属性のチャラ男、私が嫌いな部類の男だ。
男がスタッフに近寄って話をしている間、私は1人でどうやっていちゃもんつけてやるかを考えてた。いちゃもんつけるなら徹底的に文句言いまくって出て行ってやろう、そんなことを考えてているうちに、いつの間にか男が私の近くまで来ていて話しかけてきた。
「なぁお前、ジムチャレンジするために推薦状が欲しいんだってな?名前は?」
「ちょっと、初対面相手にお前って何?失礼にも程があるわよ?それに私に名前を聞く前に自分の名前名乗ったら?」
そう言うと、後ろに控えてるスタッフが顔を真っ青にして、ワタワタと私と男を見守っている。
「おっとすまねぇ、他の地方から来たってのは本当みたいだな。オレさまはキバナ、ここナックルジムのジムリーダーだ。一応ここのジムは7個目のバッジを取った後に来る、最後のジムなんだよ。だからスタッフもあんな堅いことを言ったんだ。」
「そう。私はネモ。シンオウからきたばっかりなの。それでジムチャレンジするための推薦状は書いてもらえるのかしら?」
ぶっきらぼうに答えてしまったが、しょうがない。さっきからイライラしているのだ。推薦状を貰えないのならこんな所さっさと出ていってやりたい。
「その事なんだが、ネモが推薦状を受け取るに相応しいかどうかの実力を見せてくれ」
要するにバトルってことね。まぁいいか。実力見せてコテンパンにすればいい。他の地方のチャンピオン舐めるなよ。
「実力、ねぇ。貴方後悔するわよ?」
その言葉には嘘はない。事実、私の手持ちはレベルも努力値もMAXまで上げているのだ。それを易々とジムリーダー如きにやられる訳がない。
「悪ぃが、バッチを持ってようが持ってなかろうがオレさまは全力で行かせてもらうぜ」
この男、なんて大人げない奴なんだ。
私も人のことは言えないが。
そんなこんなで、私とジムリーダーのキバナという男は奥のバトルフィールドへと向かって歩き出した。
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