ハッピーエンドを希望します (小池蒼司)
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1.

 

ーーびっくりした。

 

眩い光と共に目を覚ましたロロはまるで、生まれた時からここで過ごしていたかのように初めての景色に馴染んでいた。

どれもこれも今まで住んでいた日本の景色とは全く違う。けれどどこかで見覚えがあり、懐かしくも感じる。これはとんでもない事だと頭では理解していたが、それよりもだ。

 

「……生きてる」

 

ロロは自身の手を見つめてゆっくり動かす。開いて、閉じて。一本ずつバラバラに動かした後、足もあげてみる。身体が動く。今自分は生きている。

 

「うっ……」

 

自然と込み上げてきた涙は止めることが出来ず流れた。泣くことも出来てしまうのか。

サァ、と風が吹いて伝った涙の跡が冷たい。風を感じれる、歩ける、動ける。ロロは涙を拭って深呼吸した。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

傍から見れば情緒不安定な女。そんなロロに一人の男が声をかけた。心配そうに見つめる眼鏡の男はどこかで見たことがあるような気がした。

 

「……大丈夫です。すみません」

「こちらこそ急にすみません。……叫んでる人や混乱してる人は沢山いるけど、泣いてる人は貴方だけだったから」

 

だから声をかけた、と男は口にする。

 

「なんだか目を覚ましたらここにいて、びっくりしちゃったんです。記憶も曖昧で」

「そう、ですよね」

「でも不思議ですね。私はこの場所に来たことがある気がします」

 

この空も、雰囲気も、建物も全て知っている。それが何なのかは思い出せないが。

 

「……〈エルダー・テイル〉を知りませんか?」

 

男は少し驚いた顔で問いかけた。ロロは首を傾げて聞き返す。それはなんですか、と。

 

「知らない、わけない。だって貴方はLv90だしかなりやり込んでるはずだ。記憶の混乱で思い出せないだけか……?でも周りの人達はみんなゲームの世界だと理解してーー」

「ーーあの、」

 

ゲームの世界?。恐らく彼の独り言であろう言葉に反応して思わず繰り返してしまった。

 

 

 

ーーその時だった。

 

「くぁっ、あぁ、うぅぁあ!」

「!?」

 

酷い頭痛がした。頭が割れるように痛みだし咄嗟に頭を抱える。唐突な痛みに悶え苦しむロロに男が必死に声をかけた。ーー自分を呼ぶ声が聞こえる。しかし次第に意識は薄れていき、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『エルダー・テイル?』

 

兄が持ってきた一つのゲームは、当時夢を諦めすっかり憔悴しきっていた私に光を与えてくれた。

エルダー・テイル内にあるアキバに降り立ったロロというキャラクターは、実物の容姿に似せてキャラメイクを行った。最初は操作も戦闘もめちゃくちゃで兄には下手くそと罵られながらの進行だったが、初めてから五年も経つとゲーム内では名の知れたプレイヤーにさえなっていた。

 

 

ーー八年。

 

ロロというキャラクターとしてゲームを始めてから八年が経った。兄は社会人として多忙な日々を送り、ゲームは卒業している。

そして私は______

 

 

 

 

 

 

 

パチリ。ゆさゆさ揺れる感覚に目を開けると、ロロは誰かの背中におぶさっているようだった。

まだ朦朧としている意識の中、小さく声を出すと揺れが収まり、ゆっくりと地面に降ろされた。

 

「大丈夫ですか?ロロさん」

 

ロロを背負っていたのは先程まで共に居た眼鏡の男性で、その隣には見知らぬ鎧を着た男性が立っていた。

 

「すみませんまたご迷惑をおかけしました」

「いえ、大丈夫です。それより頭痛の方は……」

「はい、今はなんともありません」

 

頭に手を当て、苦笑する。

気を失っていた自分を放っておけず背負ってきたと説明する男性に、何度も頭を下げた。右も左も分からない世界で、自分を見捨てないでいてくれる人がいるのはかなり心強いからだ。

 

 

「それより、どうして私の名前を?」

「おでこあたりを凝視するとステータスが確認できるんです。って言ってもまだエルダー・テイルの記憶さえもあやふやか……」

 

ロロはじっと男性のおでこを見つめる。すると名前、職業、HPなどRPGゲームでよくある表示が視界に写った。あまりにも現実離れしたそれに思わず声が出る。

 

「おいおい大丈夫かよ。つかエルダー・テイルを知らないのになんでここにいるんだ?あとぱんつ?」

「違うよ直継、彼女は知らないんじゃなくて覚えてないんだ。それにぱんつは今は違うよ」

「悪い悪い。ま、レベルが九十で何も知らないはないか……」

 

直継もロロのステータスを確認して呟く。

ロロは直継と目が合うと少し後ずさった。

 

「……あの、その事なのですが。どうやらさっき倒れた時にエルダー・テイルについて少し思い出したみたいで」

「え!?」

「私はどうやら8年ほど前に兄に勧められてこのゲームを始めたみたいです。といっても、残念ながらエルダー・テイルというゲームがあって、私はそれをやっていたということしか……」

 

しかしながら、眼鏡の男ーーシロエ曰くレベルが上限に達しているのを見る限り相当やり込んでいるのは間違いないらしい。

 

「知識がない九十レベって力のある子供みたいなもんか」

「すみません本当に……ここまで運んでもらっておいて申し訳ないのですが、ここから先は私一人で何とかしますので」

「いや流石にそれは無理だろ!とりあえず俺たちでパーティ組んでおこうぜ。女子一人…しかもその感じで放っておくのは流石に怖い」

 

直継とシロエは慣れた手つきでパーティ登録を行った。この二人もロロと同じく突然この世界に来たはずなのにやけに落ち着いて見える。ゲームの知識の差なのか、それとも耐えているのか。ロロには分からないが、今確実にこの二人を頼るしか生きていく術がない。

 

 

 

 

 

 

「よろしく、お願いいたします……」

 



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