道は巡って (bear glasses)
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道は巡って

今より数十年前。魔族が現れ、人類に宣戦布告を行った。

現代(いま)を生きるコアの光主たちは自身にできることを力の限りし続けた。

硯秀斗も、兵堂剣蔵も、

 

⋯紫乃宮まゐも。

 

 

 

「ねーねーおばあちゃん!」

「なあに?」

「おばあちゃんはなんで結婚しなかったの?」

「そうねえ⋯大切な、大切な人がいたからよ」

 

所は孤児院。「おばあちゃん」と呼ばれた白い髪に()()()が特徴的な老婆と、黒髪の少女が話をしていた。

 

「⋯?なんで大切な人が居たのに結婚しなかったの?」

「⋯遠いところに行ってしまったからよ」

「そっかあ⋯ねえ、おばあちゃん」

「なあに?」

「その人のお話、私にも聞かせて欲しいな。ダメ?」

 

と、可愛らしく小首を傾げるあざとい少女にしかし、老婆は

 

「だぁーめ。これは秘密なのよ?」

 

と、少女の頭を撫でた。

 

「おばあちゃんのケチー!!」

 

それに少女は怒って部屋を飛び出してしまった。

 

「ふふ、可愛いこと」

 

 

一月後、老婆はその90年の生涯の幕を閉じた。

 

 

―――――――

 

 

 

気づけば花園に立っていた。

 

 

「⋯え?」

 

おかしい、自分は死んだはず。と、手を見る、そしてまた驚愕する。

 

「⋯若返ってる?」

 

そう、嗄れた手は張りが戻っていて、見た感じならば17の頃ほどだろうか。

理屈は分からないが、現実?なのだろう。

 

「⋯っ!」

 

脇をパタパタ、と蝶が飛んだ。

 

緑に輝く蝶だ。ふと、追いかけなければならない予感がした。

 

はたり、はたりと飛ぶ蝶を追いかけた。

 

 

――――――――――

 

 

全て、終わった。

ギデオンを討ち、新次元の方にも希望の種は出来た。

十二宮も世界に返した。

気付けば、花園に居た。

 

「⋯ここは」

 

美しくて、どこが懐かしい。

 

「⋯!」

 

自身の周りを、白く輝く蝶が飛ぶ。

周りを飛ぶと、遠くに飛んでいこうとする。

追いかけなければ。と直感的に感じた弾は、白い蝶を追い掛ける。

 

 

 

 

――――――――

 

 

追い掛けて、追い掛けて、追い掛けて、

 

 

「⋯!嘘⋯」

「⋯なんで⋯」

 

そうして、2人は出会った。

 

「⋯⋯弾」

「⋯⋯まゐ」

 

白い蝶と緑の蝶は、絡まるように飛んで、飛んで、消えていった。

 

「どうして、ここに?」

「分からないわ。老衰で死んだと思ったら、ここに居たの」

「⋯そうか」

「弾。私ね。頑張ったよ⋯色んな戦場で、子供たちを保護して回ってね。魔族との和解も頑張ったし、最後には孤児院だって作ったんだから⋯だから、だからね⋯?」

 

ちょっとだけ、甘えてもいいかなあ?

 

震える声で、涙の滲んだ瞳で、彼女は告げた。

 

「勿論」

 

弾はまゐを抱き竦める。

まゐは弾を抱き返して、胸に顔を埋めて、静かに嗚咽を漏らす。

 

「許さない、許さないんだからね、置いてって、勝手に、一人で何とかして、許さないんだからあ⋯!」

 

嘘だ。彼は誇りだ。私の最愛だ。彼の決断も、覚悟も、全てが尊く美しいものだ。

わかってる。けど、今だけは、そう、今だけは。

ただの少女として、貴方に愚痴を言わせて欲しい。

 

「すまない」

 

ダンは困ったように、まゐの頭を撫でている。

 

そうして、暫くして泣き止んだ。

 

「⋯ずるい」

「え?」

「ずるいずるいずるい!私だけ泣くなんて不公平よ!弾も泣いて!」

 

そこには、歳を経て、美しく瀟洒になった彼女の面影など無く、寧ろ幼い頃の出会いたての彼女を思い出すような雰囲気だ。

 

そして彼女は、ダンを抱きしめて頭を撫でた

 

「頑張ったね⋯偉いよ。弾。ありがとうね、もう、もう、無理なんてしなくていいんだよ」

 

これは彼女の偽らざる本音。世界ごと抱き締めるように未来を救った彼は。

きっとその身体には収まらないような覚悟と重責を背負っていたのだろう。

だから、少しでも、今だけでも。彼を解放してあげたい。

ただの馬神弾に、してあげたい。

 

「なに、言ってるんだよ。無理なんて、してる訳⋯訳」

 

ひく、と嗚咽が漏れる。

嗚呼、駄目だ。抑えなくては、彼女の前では、泣きたくは、泣きたくは⋯

そんな彼の見栄など関係なく、彼の心根はその言葉に解放された。

 

嗚咽が漏れる。抱き締める力が、強くなる。

 

嗚咽が無くなるまで、彼女は彼を抱き締めていた。

 

 

「⋯」

「⋯どうしたのよ。弾」

 

弾は、ムスッとしていた。

まゐの前で泣いたのが余程きつかったのだろうか。

 

「なんでもない」

「何でもなくないじゃない」

「なんでもないって言ってるだろ!?」

 

そんな子どもっぽく怒る彼に、笑顔が盛れる。

そう、そうなのだ。彼は元来こんな性格で。

子どもっぽくて、負けず嫌いで、優しくて。

そんな、人なんだ。

 

 

「なんだよ⋯」

「⋯ううん。なんでも、ないの」

 

 

嗚呼、嗚呼なんて。

嬉しいことなのだろう。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

彼らの少し遠くで、

 

「⋯全く。世話の焼ける」

「⋯幸せそうで良いじゃありませんか」

 

白と緑は笑いあって。

 

「おっと、転生しなければならないようだな」

「みたいですね」

「⋯幸せに、な」

「⋯幸せに」

 

ふわりと、消えた。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

遥か、遥か、上空の星空で。

 

赤い人馬の光と、赤い雄牛の光、白い獅子の光、白い水瓶を持つ人間の光、緑の蟹の光、緑の牡羊の光、紫の山羊の光、紫の双魚の光、黄色の乙女の光、黄色の双子の光、青の蠍の光、青の天秤の光が、彼らを見守っていた。

 

「全く、世話の焼ける相棒だ」

「素直じゃないな。鼻声になってるぞサジット」

「世界を救った人には、それだけの幸せがなければ不公平というもの」

「キュンキュンするわ〜〜〜!!!」

「仲良しっていいね」

「再会できて嬉しいね」

「⋯幸せそうでなにより」

「そこだ!キス!キスしろ!」

「何を言うかタウラス。ここは✕✕✕まで「殺されたいかボルグ」すまぬキャンサード。頼むからその鋏しまってくれ」

「幸せの感情を検知。私も幸せだ」

「⋯ったく。ガキみたいな顔しやがって」

「そういうスコルも嬉しそうな顔してますよ」

「そんな顔で毒なんて意味ないのに」

「黙れピスケ!ガレオン!」

 

 

「さて、我らの力を使うとしよう」

「ああ。彼らが来世でも、出会い、愛を育めるように尽力しなければ」

「これくらいは許されないとね」

「むしろこれじゃあ足りないくらいだが」

 

赤の光が。白の光が。緑の光が。青の光が。黄色の光が。紫の光が。

星空を彩り、力を放つ。

 

光となった英雄の幸せを願い。

12の星々はただ1人の幸せのために大いなる力を使用した。

 

 

 

――――――――

 

 

 



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