欠陥空母になりまして (うどん麺)
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1.欠陥空母って、それマジ?

 

 

意識が浮上する。

 

───────海だ。

 

───────見渡す限り一面海だ。回りに陸地が一切ない。

 

そんな馬鹿な。

 

「あり得ない」

 

自然と声が溢れた。でも、それは俺の声では無かった。

俺じゃない、女みたいな高いソプラノの声。

 

「そんな······」

 

自分の身体を見て驚いたと共に頭が冷えたような感覚に陥った。

 

「何で、胸?あるんだよ······」

 

訳が分からない。寝て、目が覚めたら海の上に浮いていて、しかも女になっていた。

正直に言えば、海の上に“立っている”という状況の方が“女になった”という事実よりも俺には奇怪に映った。

 

「まさか、な」

 

海の上に立つ。そんな非常識な現象に思い当たる節がある。

それは、『艦これ』、もしくは『アズレン』か。更にはそれ以外か。とにかく海の上に立つ何てそんな世界くらいしか思い浮かばない。

『艦これ』ならばある程度知っているが、『アズレン』はアニメしか見ていない。

どっちの世界なんだ?

 

て言うか、自分自身が海の上に立っているってことは、俺自身が艦娘か、鑑娘か。

確かめる方法は、『艦これ』の世界ならば妖精さんが居るだろう。

 

「妖精さん、居るかい?」

 

数分待ったが妖精さんは出てこなかった。もしかして、アズレンの世界?

いやいや、そもそもその二択で決め付けるのにはまだ早い。というより、さっさと何かしら行動しないと。

 

「えっと······」

 

あれ、そういえば艤装展開ってどうやるんだ?

そもそも俺は艤装を持っているのか?

 

「艤装展開!!」

 

取り敢えず叫んでみた。やっぱりこんなんじゃ展開するわけな──────した!!?

 

何処からともなく艤装が現れた。飛行甲板?を模したようなデザインがあしらわれた黒いコートが現れ、腰辺りに艤装が現れた。

その艤装はやけに近代的で、アングルドデッキだった。

 

てことは、現代の空母?

 

よし!艤装を展開したからもう一度だ!

 

「妖精さんいる?」

 

「はい、お呼びですか?」

 

うおっ、いきなり肩に艦これで良く見るような妖精が現れた。

 

「う、うん。君は?」 

 

「私は艦載機のパイロットをしています」

 

「そうなんだね······じゃなくて!君の名前は?」

 

俺が名前を尋ねると、妖精さんは首を傾げて言った。

 

「名前、ですか?私たち妖精には名前はありません」

 

「そうなのか······じゃあ、名前つけても良いかな?名前ないと、呼び分けるときに分かりにくいから」

 

「ええ、そういうことなら」

 

妖精さんから無事に名付けの許可をもらえたので、俺の乏しいボキャブラリーから捻り出してこれだー!と思ったものを付けた。

 

「それじゃあ、ミカ、でいいかな?」

 

「はい。それでは私はミカです」

 

「良かった。それで、ミカ。早速なんだけどここって何処か分かる?」

 

「いえ、私では分かりませんが、レーダー妖精なら分かると思いますよ。呼びましょうか?」

 

「へぇ、そうなんだね。是非お願い」

 

「分かりました」

 

そう言うとミカはフッと消えて、暫くしたらまた現れた。ミカに良く似た顔をした妖精が。

 

「その子が?」

 

「はい。良ければ彼女にも名前を付けてあげてください」 

 

「勿論だよ。それじゃあ、そっちの子はユミ、でいい?」

 

「それで、いい」

 

ユミはちょっと寡黙なようだ。

 

「ユミ、早速なんだけど、現在位置って分かる?」

 

「調べる。だから、しばらく待ってる」

 

それだけ言うとユミは消えてミカだけ残った。

 

「すみません素っ気なくて。ユミはあんな感じなんで」

 

「大丈夫だよ。あれはあれで可愛いから」

 

しばらくミカと雑談しながら待っているとユミが戻ってきた。

 

「調べ終わった。今、グアム島沖100キロメートル」

 

「グアム······」

 

グアムはアメリカ領だが、深海棲艦が跳梁跋扈しているだろうこの世界ではどうなっているのかは分からない。

そういえば、まだ自分が何者なのかも把握してなかった事を思い出し、それでは敵と遭遇したときに装備も分からなくて戦えないと思い、妖精さんに尋ねた。

 

「ねぇ、ミカ。今更なんだけど、俺の名前は?」

 

「貴女の名前は“ジェラルド・R・フォード級航空母艦一番艦”の“ジェラルド・R・フォード”ですよ」

 

········はい?

 

たっぷり数秒間の後、漸く自分の名前を理解した。

 

“ジェラルド・R・フォード級航空母艦”

 

言わずと知れたアメリカ合衆国の最新鋭原子力航空母艦で、『欠陥空母』と揶揄される。

その主な理由は最新鋭技術の電磁式カタパルトで、それに対応する航空機の少なさがある。

最新の艦上機であるF-35-Cを搭載できず、アメリカ国内でも二番艦の“ジョン・F・ケネディ”にF-35-Cが搭載できなければ受け取らないし、違反とする法律すら成立する有り様だ。

そんな欠陥空母の搭載機数は70機。

あれ?少ない?と思うかもしれないけど、艦載機の性能の向上で、少い機数でも同等かそれ以上の攻撃能力を有するようになったので無問題だ。

 

搭載機はF/A-18E/Fスーパーホーネット(戦闘機)、F-35C(戦闘機)、E-2C/D(早期警戒機)、EA-18G(電子戦機)、MH-60R/S(ヘリコプター、対潜戦)である。

ミカに聞いたところによるとそれらはそのまま搭載しているらしい。

 

「それじゃあ、警戒しつつ、先ずは日本を目指しつつ、グアム島に寄ろうか」

 

取り敢えずはその方針に決め、原子力機関を始動した。

 

 



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2.欠陥空母だけど、戦ってみた

 

現在グアム島に向けて約30knotで航行中だった。流石に原子力機関であるだけ機関はとても強力で、この速度をずっと維持できている。

これが前時代の駆逐艦や戦艦やらならばずっと全力航行とはいかずに、巡航速度というものに従うのだろうが、原子力機関であるからこんなものだった。

 

「現在、グアム島沖50キロメートル、敵影、なし」

 

ユミの淡々とした報告が聞こえてくる。ユミはこうして逐次、状況を知らせてくれている。

正直にこれは凄くありがたい。勿論のこと海の上を航行する経験なんて人生初めてのことだから方向感覚なんてあったものではないから、ユミが教えてくれる情報がなければ今ごろはとっくに遭難していただろう。

 

「ありがとう、ユミ。引き続き警戒をお願い」

 

「了解、戻る」

 

そう言うとユミは再び姿を消した。ユミは居なくなったがミカはあれからずっと俺の肩に居る。

ミカも戻ろうとしたが、俺が話し相手が居なくて寂しかったのでそのまま居るようにお願いしたのだ。

 

「ミカ、敵に出会うと思う?」

 

「そうですね······仮にもグアム島は深海棲艦の勢力圏ですから、そこに着くまでには出会う可能性は高いですね」

 

「そうなんだね······」

 

覚悟はしていたことだ。こんな沖合いにいて深海棲艦と未だに出会っていないこの状況が奇跡なのだろう。

果たして俺は、深海棲艦と出会ったときにまともに戦えるのだろうか。

 

「フォーちゃん?」

 

ミカが俺の様子を見て不思議そうに名前を呼ぶ。

 

フォーちゃん。というのは俺がいつまでも『貴女』とか呼ばれるのに耐えられなくなって、名前で呼んでと頼んだらフォーちゃんになった。

フォードさんとか呼ばれるよりはましだったので、取り敢えずそれで妥協していた。

 

「ううん、何でもない」

 

大丈夫。相手は現代兵器は持っていない。技術的には俺にアドバンテージがある。

怖がるな。

 

 

 

それから結局何事もなくグアム島に到着した。

 

拍子抜けだったが、出会わないに越したことは無いのでその幸運に感謝した。

グアム島へはおよそ一時間半程度で到着したのだが、やはり予想していた通り米軍の基地は無人で荒廃していた。

おそらく深海棲艦の跳梁を阻止できずに放棄されたのだと予想される。

だからと言って別段このグアム島の米軍基地が深海棲艦に占拠されているということもなかったので、ありがたくその一角を借りて身を休めていた。それと周囲の探索を偵察機でしてもらっていた。

 

「取り敢えず、グアム島及びその周辺海域に深海棲艦の姿はありませんでしたよ」

 

数時間の偵察の後にミカが報告をくれた。それによればこの近辺には深海棲艦は一隻も居ないという。

 

「本当に?流石に深海棲艦の勢力圏なのにそれは偶然すぎるような気がするんだけど」

 

「確かに、出来すぎた状況ではありますが、別に海が埋め尽くされるほどの数の深海棲艦が居るわけではないので、こうして一隻も見えないことだって確率的には有り得ない事ではないと思いますよ」

 

「うーん······ま、そうだね。確かにいくら考えても埒が明かないから、考えるのは止め止め!」

 

「それはともかくフォーちゃん。これからどうします?」

 

「そうだねぇ。特段ここに長居するわけでもないから、もう少し休んだら日本に向けて出発するつもりだよ」

 

「そうですか。それではそれまでもう少しお話でもしましょう」

 

それから数十分間の会話の後、俺たちはグアム島を発った。

 

「それにしてもいい天気だなぁ······」

 

こんなに澄み渡った空を見上げていると、人類と深海棲艦が戦争しているという現実を忘れてしまいそうになる。それほどまでに綺麗な青空だった。

 

相変わらずユミは淡々としているが、ミカは俺に親身にも話し掛け続けてくれている。

そんな此方に来てから平和な時間を過ごしていたが、そんな幻想はユミから放たれた一つの報告によってあっさりと終わりを告げた。

 

「報告。レーダーに感あり。数、十。レーダーの動きから見て戦闘中の模様。ここから北北東50キロメートル」

 

それは交戦中の艦娘と深海棲艦の発見の報告だった。俺は直ぐ様に戦闘機を発進させた。もしかしたら大丈夫かもしれないが、何事も万一を考えて行動するようにこの世界では心掛けたいところだ。

戦闘機は流石に音速を越えるだけあって直ぐに戦場へと到着した。

 

「これは······」

 

どちらが劣勢か、それは一目ですぐに判断できた。ほほ無傷の深海棲艦。そして明らかに損傷の目立つ艦娘。

俺は即座に艦載機の発艦を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

「状況は最悪だな」

 

この海域に遠征任務で訪れていた天龍はそう毒づいた。

 

「本当ね。まさか倒した後に更に増援が来るなんて······」

 

そう言って苦悩を露にするのは龍田。

 

その他、電、雷、暁、響の編成だった。

対して深海棲艦は戦艦ル級、重巡リ級、駆逐イ級二隻の合計四隻で、そのうちイ級の一隻は沈んでおり、数の上で艦娘側は優位に立っていたが、何分先の戦闘で弾薬を消耗しており、更に損傷も出ていたので全力を発揮できないでいた。

 

「······龍田」

 

「どうしたの?天龍」

 

「すまねぇが、お前はあいつらを連れて撤退して増援を呼んでくれ。ここはオレが殿を務める」

 

「ダメよ!!そんなことをしたら天龍!沈んじゃうかも知れないのよ!?」

 

「分かってくれ、龍田。ここは、誰か一人が囮にならなきゃ、全員轟沈したっておかしくない。それに、この中じゃオレが一番損傷が少ない」

 

「それでもダメよ!!だって、そんなことしたら、私······」

 

「ゴメン、龍田。オレはアイツらが沈むのは見たくねぇんだ」

 

「······分かったわ。その代わり、沈まないって、戻ってくるって約束して」

 

「分かってるよ。必ず帰ってくる!だから安心して待ってろ」

 

「それじゃあ、頑張ってね、天龍」

 

「ああ」

 

短いやり取りを終えて、龍田は駆逐艦の子達を連れて戦場を離脱しようとし、それを逃すまいと動き始めた深海棲艦達を、行かせるかと覚悟を決めた天龍。

天龍が沈む覚悟をもって深海棲艦に先制を与えようとした時、突如空からミサイルが飛んできて、それはそのまま戦艦ル級に突き刺さった。

そのあまりの威力はル級を一撃で轟沈させた。その後、リ級、イ級にも降り注ぎ、瞬く間に敵艦隊を壊滅させた。

 

何事かと天龍や、轟音に驚いた龍田達が空を見上げると、そこにはどう見てもジェット機である戦闘機が空を舞っていた。

 

「あれは何なんだ?」

 

天龍はそれを見て一抹の不安を抱えた。

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

「良かった。間に合ったか」

 

俺は一先ず間に合ったことに安堵の息を漏らした。

それにしても本当に間一髪だ。あのままでは恐らく天龍が撃沈されていただろう。

 

それはともかく、このままでは天龍達が戸惑っていて動ける気配では無さそうだったので、その戸惑いを晴らすべく、俺は天龍達の方へ向かった。

 

 

 



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3.欠陥空母、出会う

 

 

俺は天龍たちの元へと向かいながらも、内心非常にドキドキもワクワクもしていた。

その理由は勿論、元の世界では2次元の存在でしかなかったのが、本当に生きて動いている様子を見られることだ。

先程は戦闘機を通して間接的にしか見れていなかったから、こうして実際に会うことになるとこう、非常に緊張するというものだ。

 

「ねぇ、ミカ。今更だけどさ、俺って何処かに所属してるなんてこと無いよな?」

 

「そうですね。そうなんですけれど、フォーちゃん。いい加減自分のこと“俺”って言うの止めた方がいいですよ。あとその口調もです。正直凄く違和感がありますよ」

 

「えっ?そうなの?」

 

「はい。それはもう。少なくとも一人称は“私”にしておいてください。今のままでは初対面で変な印象を抱かれかねません」

 

今の今までずっと“俺”で通してきたけど、ミカからすればどうも違和感があるらしい。当の俺もこの声で俺って言うのは正直何だか似合わない感じはしていたが、結局そのまま使い続けていた。

別に俺は一人称を“私”にするのに抵抗がある訳では全くない。別に前の世界でも目上の人と話すときや、初対面の人と話すときは“私”を用いていたので、今更女になったからといって、使わない道理はない。

 

「うん、それもそうだね。今まであんまり気にしてなかったけど、考えてみたら確かにね。じゃあ、これからは“私”って言うようにするよ。口調の方は一朝一夕にどうにかなるとは思えないから、まあゆっくりね」

 

「はい。その方向でお願いします」

 

「報告。天龍から、通信」

 

唐突にユミが現れてそう報告する。どうやら天龍からの通信を傍受したようだ。

 

「分かった、繋いで」

 

「了解······繋がった」

 

「ありがとう」

 

『こちら日本国国防海軍佐世保鎮守府所属、天龍だ。貴艦の所属を教えてくれ』

 

『私はジェラルド・R・フォード。私は何処にも属していないよ』

 

『何だと?それは本当か?』

 

『本当だよ。とにかく、そっちに向かうから待っててくれるかな?』

 

『······了解した』

 

『ありがとう』

 

俺は通信を終了した。

 

「よし、それじゃあ行こうか、ミカ、ユミ」

 

「はい」「了解」

 

 

 

それから数分で天龍たちを目視圏内に捉えられた。

 

「お前がジェラルド・R・フォードか?」

 

天龍が俺に問いかけてきた。

 

「そうだよ。私のことはフォードって呼んで。それじゃあ長いから」

 

「そうか分かった。改めてオレは天龍だ。フォードがあの戦闘機を飛ばしたのか?」

 

「そうだよ」

 

「そうか······ありがとう!!」

 

そう言って天龍は俺に対して頭を下げた。

 

「ちょっと、どうしたの!?」

 

「本当にありがとう!!お前が居なければ今頃オレは沈んでた!そうなったらアイツらが悲しんでたからな······感謝してもし足りない!!」

 

「そう。頭を上げて」

 

俺は天龍にそう言って一先ず頭を上げさせる。

 

「私は、本当にたまたまこの海域に居ただけで、天龍達が襲われてたから助けただけ。仲間として当然のことをしただけだよ」

 

「それでもだ。本当にありがとう」

 

「うん。感謝はちゃんと受け取っておくよ」

 

「天龍~。私たちにも彼女を紹介してくれないかしら~」

 

俺と天龍が話をしていると、龍田の間延びしたふんわりとした声が掛かった。

 

「ああ、悪い。彼女は────」

 

「自分で言うよ」

 

天龍が俺のことを紹介しようとしてくれるのを遮った。自己紹介ぐらいは自分でしておきたいからね。

 

「そうか」

 

「うん。初めまして、私はジェラルド・R・フォード。航空母艦だよ」

 

「こちらこそ初めまして~。私は天龍の妹の龍田です。よろしくね~」

 

「此方こそよろしく」

 

「私は暁よ。その、さっきは助けてくれてありがとう······」

 

次は暁が自己紹介してくれた。そして恥ずかしいのか顔を赤らめながらお礼を言ってくれた。端的に言って非常に可愛い。

 

「どういたしまして。私はジェラルド・R・フォード。フォードって呼んでね」

 

「分かったわ、フォード!」

 

そして暁の次は響が自己紹介してくれた。

 

「私は響。さっきは助けてくれて感謝している。よろしく頼む」

 

「うん、よろしくね。響も私のことはフォードって呼んでね」

 

「了解した」

 

響はクールビューティーって感じだった。やっぱり可愛い。今はっきりと自覚したが、やはり俺も駆逐艦(ロリータ)愛好者だったようだ。我ながら業が深いものだと思った。

 

「私は雷よ。くれぐれも『かみなり』って呼ばないでよね!······それはそうと、助けてくれてありがとう。感謝してるわ!」

 

「ふふ。分かったよ。よろしく、雷ちゃん!私のことはフォードって呼んでね」

 

「これからよろしくね、フォード!」

 

雷ちゃんは背伸びしてる子供感が凄い良かった。やっぱり可愛い。

 

「あの、私は電なのです。あの、助けてくれて、ありがとう、ございます······」

 

「ふふ、よろしくね、電ちゃん。私のことはフォードって呼んでね」

 

「はい、その、よろしくお願いします。フォードさん」

 

大!正!義!

 

電ちゃんは最推しで!!!生で見るその健気な美少女感は誰をも魅了してしまう。

俺は一発で陥落した。他の天龍や龍田もどうやら既に陥落させられていたようで、ちょっとアブナイ顔をしている。

 

「くふっ。よ、よろしくね、電ちゃん」

 

いけない、いけない。危うく鼻血が出る羽目になるところだった。恐るべし幼女(最終兵器)

 

「て、フォードはどうしてこんなところに居たんだ?」

 

次に天龍から飛んできた疑問は至極全うなものであった。

 

「うーん、どうしてって言われても、私、気付いたらグアム島の近くで、それで取り敢えずグアム島を目指したけど誰も居なかったから今は日本本土を目指してて、それでたまたまその途中で天龍たちを見つけたんだ」

 

「そうか、グアム島で·······って、グアム島!!?フォード!お前、そんなところからここまでよく無傷で来られたな!!」

 

「いや、たまたま深海棲艦に出会わなかったからさ」

 

「そうだったのか······それにしても気付いたら、か。済まないがこれ以上はここで話していても進みそうにない。だから、ちょっとオレたちと一緒に佐世保まで来てくれないか?」

 

天龍の口から飛び出た提案は今の俺にとって渡りに船だった。正に天の助けだ。

 

「うんお願いするよ。正直行く当てもなかったし、これからどうしようって思ってたんだ」

 

「そうか、それじゃあ出発するぞ!」

 

こうして俺は天龍たちと共に佐世保鎮守府に向かうことになった。

 

 

 



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4.欠陥空母、佐世保鎮守府にて

 

 

 

あのあと、俺は天龍たちを護衛しながら、天龍たちの案内で針路を佐世保鎮守府に向けて航行した。

佐世保に着くまでの間に、天龍たちからはこの世界の基本的な情報を聞き出しておいた。艦これの世界とはいえ、完全なる異世界である以上、原作の設定と違うことがあるかもしれないからね。

 

それで、聞いたところによると、やはり艦娘として現れるのは第二次世界大戦前後に存在した艦だけで、基本的には工廠で妖精さんが資材と資源を用いて建造してくれるらしい。

なぜ人形になるのかは現在でも未解明であるが、人権などの問題もあってそれを調べるのには難航しているらしい。後はたまに深海棲艦との戦闘後、海上に突然現れる艦娘もいるようで、そちらははぐれ艦娘と呼ばれる。

ゲームで言うところのドロップ艦だ。

 

それ以外に、この世界では深海棲艦が現れてからまだ20年ほどで、現在は2020年ということだ。

丁度20世紀末に現れ始めたことになる。当初はエイリアンだとか騒がれていたらしいが、その存在(深海棲艦)が航行中の船舶を襲ったことにより、国が軍艦を派遣したが、あっけなく敗北。その軍艦は沈められた。

 

それからというもの、深海棲艦は世界各地に現れ、ありとあらゆる海上交通網を寸断し、今では世界の海は深海棲艦のものとなっているらしい。

しかし、そんな絶望的な状況の中で、突如妖精と今日呼ばれている存在が現れ、人類に『艦娘』という戦力を提示した。

初めは見た目が完全に女の子のそれであるから、本当に対抗できるのか?と疑問視する声もあったようだが、人類が今の今まで敵わなかった深海棲艦を撃退に成功したことにより、人類はこぞって妖精と友好関係を築き、艦娘を人権に配慮し、待遇にも気を付けた上で運用を始めた。

彼女らは深海棲艦と戦う存在であっても、人間と同じように考え、感情を持つ同じ人類だと、艦娘を指揮する存在である提督にはその事を強く指導している。

もしも艦娘を『兵器』として扱った時が人類の最期だとして。

 

しかし、すべての国がそのように深海棲艦に対抗できたわけではなかった。旧時代に三大海軍国と呼ばれたアメリカ合衆国、連合王国、日本国の三国は時期早に戦力を整えることに成功したが、それ以外の国ではフランス、イタリア、ドイツ、ロシアなどが精々だった。

 

しかも、三大海軍国と呼ばれる三国でさえ、自国の領土を維持するのがやっとで、アメリカ、イギリス、日本、それぞれ離島などの遠隔地は放棄せざるを得なかった。

 

内陸国はそもそもどうしようもないが、海に面している国家は多かれ少なかれ、被害に差はあるものの、ほぼ例外なく深海棲艦による攻撃を受けていた。

特に中国などは日本国に助けを求めている。自国では有力な艦娘を揃えることが出来なかったからだ。

元来関係の良くない間柄だったが、日本政府側はこれを国の問題と捉えず人類の危機とし、中国政府に対しても、できる範囲での深海棲艦の排除を行ってはいるものの、やはり限定的な効果しか生んでいない。

しかし、そのお陰で日中間の関係は比較的良好である。

 

しかし、日本としては海上封鎖されては堪ったものではなかった。元々、日本は他国と貿易をしなければやっていけるような国ではなかった。

資源も食糧も他国からの輸入で賄っていたがゆえに、海上が封鎖されてからは国内が荒れに荒れたが、艦娘が揃ってきた頃には最低限の領海の確保には成功しており、その為、韓国を経由しての中国から資源や食糧の輸入は再開したが、やはりアメリカとの貿易再開は絶望的だった。世界は新大陸側と旧大陸側とで分断されたのだ。

 

 

 

■■■■

 

 

 

「着いたぜ。ここが佐世保鎮守府だ」

 

遠目から見ても大きな建物だと思っていたが、実際に近くで見てみるとその大きさが段違いだと思った。

だがまあ、佐世保はそもそも国内有数の国防海軍の基地であるからその規模が大きいのは当然のことだったのだが。

因みに、この世界では日本国の防衛組織は自衛隊から国防軍に改称され、それぞれ日本陸軍、日本海軍、日本空軍と称する。

海軍内ではそれを国防海軍と自称している。

 

「それじゃあ提督のとこまで案内するから着いてきてくれ」

 

「分かったよ」

 

俺は天龍に従い、後について提督室まで向かった。

 

「提督、失礼するぜ」

 

天龍はノックも無しに扉を開いてからそう言った。

 

「天龍······いつもノックしてから開けてくれって言ってるだろう」

 

「悪い悪い」

 

提督が苦言を呈するのに対して天龍は悪びれる様子もなくそう返した。

 

「で、そちらに居る方が君たちを助けてくれたのかな?」

 

そう言うと提督は俺の方を見た。ここで始めて提督と顔を合わせた。

提督は思った以上に若く、30代前半と見える。

 

「ああ、そうだ」

 

「そうか、本当にありがとう」

 

そう言うと提督が頭を下げた。

 

「いえいえ、本当に私は当然のことをしただけで····」

 

「謙虚なんだね。それはそうとして、天龍からの報告によれば君は何処にも属していないそうだが、本当にそうなのか?」

 

「はい。目覚めたら海の上で、最初は何が何だかで戸惑いましたから、よく覚えてます」

 

「そうか······そういうことなら、君は天龍たちの命の恩人でもあるから、この佐世保鎮守府へ歓迎するよ」

 

「はい!ありがとうございます!!」

 

「いやいや、お礼をするのはこちらの方だよ。それよりも自己紹介がまだだったね。僕は金城慎(きんじょうまこと)。この佐世保鎮守府で提督をしている」

 

「私はジェラルド・R・フォードです。ジェラルド・R・フォード級航空母艦の一番艦です」

 

俺が自己紹介をすると、金城提督は不思議そうな顔を浮かべた。

 

「ジェラルド・R・フォード級?」

 

「あれ?ご存じ無い?」

 

「いや、聞いたことも無いんだが······」

 

「本当に?」

 

「本当だ」

 

どうやら本当に知らない様子なので、軽く説明することにした。

 

「私はジェラルド・R・フォード級航空母艦で、ジェラルド・R・フォード級航空母艦はアメリカ合衆国が建造した最新鋭の原子力航空母艦です。搭載機数は70機前後。カタパルトは電磁カタパルトを採用しています」

 

簡略に纏めた基本性能だけを伝えたが、開いた口が塞がらない様子だった。

 

「いやはや、まさか原子力航空母艦だとは······それに、電磁カタパルトだって?」

 

「はい。でも、対応している機が少ないので、蒸気カタパルトもあります」

 

「······あとで詳しく性能を纏めた資料を用意してくれないか?」 

 

「はい。そんなものでしたら直ぐにでも用意しますよ」

 

「まあ、何はともあれこれからよろしく頼むよ」

 

「はい!此方こそよろしくお願いします!!」

 

こうして俺は佐世保鎮守府に所属することになった。

 

 

 



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