愛してるよ!「愛」だけに! (いひょじん)
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第1話

木造の古い家や商店などが並ぶ懐かしい雰囲気がある街。

そんな中を1人の女の子が歩いてた。

 

「うぅ…お姉ちゃんどこいっちゃったの…」

 

迷子の女の子は涙を流れるのを手で擦りながらとぼとぼと特にあてもなく歩く。

歩き続けていると小さな公園の前に着いた。

そこには楽しそうにキャッチボールをしている男の子達がいた。

女の子は楽しそうにしている彼らを無意識に見ていた。

そうしているとキャッチボールをしていた1人の男の子と目があった。

すると男の子は女の子の方に走って近づいてきた。

 

「あんたも一緒にやるか?」

 

男の子はニカッと笑いながら女の子に話しかける。

 

「い、いいの?」

 

「だってあんた一緒にやりたそうに見てたじゃん」

 

「えっ?」

 

「それに3人だとちょっとつまんないからさ!」

 

「でも…私女の子だし…」

 

「女だったらキャッチボールしちゃいけないのか?」

 

「ううん…」

 

「じゃあ一緒にやろうぜ!お前らもいいよな?」

 

男の子が他の2人に問いかけると「いいよ!」と帰ってきた。

 

「じゃあ決まりだな!!」

 

そう言うと男の子は女の子の手を取り走った。

それから男の子達3人と女の子を合わせた4人でキャッチボールをしたり追いかけっこをしたりした。

初めは少し不安だった女の子も一緒に遊んでいるうちにそんな不安は何処かに消えて一緒に泥んこになりながら日が暮れるまで遊んだ。

 

「愛ちゃ〜ん!!」

 

どこかから誰かを呼ぶ声が聞こえてきて当たりを見回すと制服を着た女性がこっちに手を振っていた。

それに気づいた女の子はパァと笑顔になり女性に走っていった。

 

「お姉ちゃ〜ん!!」

 

女の子が自分に向かってくるとわかったのか女性は屈んで腕を広げ、女の子はその中に勢いよく抱きついた。

 

「もう愛ちゃん凄い心配したんだから!」

 

彼女のその言葉で女の子は自分が迷子になっていたことを思い出した。

 

「お姉ちゃんごめんなさい…」

 

「とにかく愛ちゃんに何もなくて良かった」

 

彼女が優しい笑みを浮かべると女の子もつられて笑う。

 

「それにしても愛ちゃん随分お洋服が汚れてるけど?」

 

女性に言われると女の子は目線を下に移した。

 

「あっ…」

 

「これはお母さんに怒られちゃうわね」

 

女性はクスクスと笑った。

 

「ど、どうしよう!」

 

「お姉ちゃんと一緒にごめんなさいすればお母さんも許してくれると思うわ」

 

「本当に?」

 

「ええ。だから一緒にごめんなさいしようね?」

 

「うん!!」

 

これが大和と愛の出会いだった。

 

そうしていると男の子達が近づいてきた。

 

「君達が愛ちゃんと一緒に遊んでくれたのね?」

 

「うん」

 

「ありがとうね。この子あまり外で遊んだらする子じゃないからちょっとびっくりしちゃったわ」

 

「俺は一緒に遊べて楽しかった!」

 

「うふふ、それは良かったわ。良かったらまた一緒に遊んであげてね」

 

「おう!」

 

「じゃあこの子のお母さんが心配するから私達は帰るわね。ほら愛ちゃんご挨拶して」

 

「バイバイ…」

 

「おう、またな!」

 

そして女性と女の子は手を繋いで公園の出入り口に向かって歩き始めた。

 

「あっ!そうだ!」

 

男の子が突然何かに気づいたのか2人なところへ走ってきた。

「俺の名前は稲畑大和!!(いのばたやまと)あんたは?」

 

「私は愛…。宮下愛!!」

 

「そっか!じゃあまた遊ぼうな愛!!」

 

「うん!」

 

これが大和と愛の出会いだった。

 

 

それから10年後

 

 

ティーン、ジャッジャッジャッジャッジャ、デデドン!!

 

朝7時を知らせる好きなバンドの曲が携帯からながれる。

その音に反応して目が覚め、意識が戻ってくる。

 

「ふぁ〜あ、もう朝かよ…」

 

重い目蓋を右手で擦り上半身を起こす。

まだ意識が少しボーとしているが2階にある自分の部屋から階段を降りて1階の洗面所へ向かう。

そこで顔を洗い強制的に目を覚ましてから歯を磨く。

朝の身支度を済ませるとそのままキッチンに向かう。

 

「母ちゃんおはよう」

 

「はい、おはよう」

 

いつも通り母親と朝の挨拶をして、食器棚から朝食に使う食器を取り出して朝食を作ってる母親の邪魔にならないようにキッチンに置いた。

そして冷蔵庫からお茶を取り出して家族の人数分のお茶を注いだ。

 

「あ、大和。晴菜(はるな)の分の食器はいらないわよ」

 

「えっ?」

 

「あの子部活の朝練があるからって先にご飯食べて行っちゃったから」

 

「あっそう」

 

そう言われて俺は余分に出した食器を食器棚に戻した。

ちなみに晴菜というのは俺の2つ下の妹だ。

 

すぐに朝飯が出来、母ちゃんと父ちゃんと自分の3人で食べ始めた。

 

「そういえば今日は愛ちゃん迎えに来てくれるのかしら?」

 

「俺に言われても知らねーよ」

 

「あら、そう…」

 

それから誰と喋ることなくただ黙々と朝飯を食べていた。

 

「そういえば…」

 

そこに突然父ちゃんが口を開いた。

 

「大和はいつ愛ちゃんにプロポーズするんだ?」

 

「ゴファッ!!」

 

いきなり父ちゃんがとんでもないことを言ったのでびっくりしすぎて口の中にあった米を間違えて気管につまらせてしまった。

 

「と、父ちゃん!いきなり何言い出すんだよ!」

 

「いや、お前達がいつ結婚するのかが気になってだな。うちとしてはいつ挨拶に来ても大丈夫なように準備はしてあるぞ」

 

「いや、結婚とかそれ以前に愛と付き合ってすらないからな?」

 

「えっ、そうなのか⁉︎」

 

父ちゃんはあまりにも驚いたようで目が点になっていた。

 

「そもそも俺父ちゃん達にそんなこと一言も行ったことないだろ!」

 

「だが、愛ちゃんは毎日のように大和のこと迎えに来てくれるし、よくうちにも遊びに来てくれたじゃないか」

 

「それは家が近所で学校が一緒ってだけで、俺がやめろって言っても愛がほぼ無理やり迎えに来てるだけだよ。てかうちに遊びに来てたことに関してはもう3年くらい前のことだからな?」

 

「そうか…。父さんてっきりお前達が恋人になってずいぶん長いと思っていたよ」

 

「変な勘違いしないでくれよ…」

 

「すまなかったな。だが高校生になっても毎朝のように迎えに来てくれるいい子なんだから仲良くしてあげなさい?」

 

「いや、だからあれは愛が勝手にやってるだけだって…」

 

ピンポーン

 

俺が父ちゃんに誤解を解こうとしてると家の呼び鈴が鳴った。

大体この時間に呼び鈴がなるのは愛が俺のことを迎えに来たということを家族は分かっている。

 

「ほら、愛ちゃんが来てくれたんだからさっさと食べて準備しなさい。愛ちゃんを待たせるのは男として失礼よ?」

 

「はーい」

 

母ちゃんに急かされ残ってる朝飯を口の中に駆け込んで食べ終え、弁当を受け取ってすぐに自分の部屋に戻った。

それから今日の授業に使う教科者やノートを鞄に入れ忘れ物がないか確認をし終えてから、パジャマを脱いで壁にかけてある制服に手を取る。

先にズボンから履こうと右足をズボンに入れた時だった。

 

「大和!!愛さんが迎えに来たぞー!」

 

突然愛が俺の部屋のドアを開けて入ってきた。

 

「えっ?」

 

「あっ…」

 

俺がまだ着替えているとも知らず下着姿を見てしまった愛。

そして何が起こったのかは理解していない俺。

 

「まだ着替えてたんだね、メンゴメンゴ」

 

顔の前で手を合わせて片目を瞑って謝る愛。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

家に俺の叫び声が響き、後で母ちゃんに叱られたのであった。

 

あれから直ぐに着替え、今は愛と学校に行くために最寄りの駅まで歩いている。

 

「なんか朝からすげぇ疲れたわ…」

 

「朝から元気ないと1日やっていけないよ?ほら、飴ちゃんあげるから元気出して?」

 

愛は立ち止まり、鞄の前ポケットからポーチを取り出し、そこから棒付きのキャンディーを取り出した。

 

「はい」

 

「サンキュー」

 

包み紙を外してポイッと口の中に放り込む。

 

「さっきは本当にごめんね」

 

「別にいいよそこまで気にしてないから。でも次はノックはしてくれよ」

 

「うん、気をつける」

 

そこから特に喋ることもなくただ横に並んだ歩くだけだった。

いつもなら愛の方から永遠と話しかけてくるのに珍しく愛も黙っている。

まぁそれも別にいいかと思っていると、ふとあることが頭に浮かんだ。

 

「なぁ、愛」

 

「ん?」

 

「愛ってさ、なんで毎朝俺のこと迎えに来てくれんだ?」

 

それは朝の家族との会話で話題になったことだった。

そういえば今までなんで愛が朝迎えに来てくれるかの理由を知らなかった。

 

「ん〜特に理由はないかな」

 

「え?」

 

「だってちっちゃい頃からの習慣みたいなものだからさ。それに大和を迎えに行くって目的があると私自身が寝坊とかしないからね」

 

「な、なるほど」

 

愛は本当に善意だけで俺を迎えに来てくれることに少し驚いた。

それと同時にやっぱり愛は愛なんだと少しほっとした。

 

「でも、明日から大和のこと迎えに行くの難しくなるかも」

 

全く予想してなかった言葉が聞こえてきた。

 

「な、なんで?」

 

俺は反射的に言葉が出た。

 

「あのね、私スクールアイドルすることにしたんだ!」

 

「愛が⁉︎」

 

「うん。この間スクールアイドル同好会の子に一緒にスクールアイドルやらないかって誘われてさ、それで明日から朝練が始まるの」

 

「けど、今までスクールアイドルなんて興味あるとか言ってなかったよな?」

 

「私も初めは私がスクールアイドルなんてって思ったけど、誘ってくれた子の熱意というか絶対にやりたい!って気持ちが凄く伝わってきてそこまでいうならって同好会に入部することを引き受けたの」

 

「そっか」

 

愛は自分が楽しいと思うことはなんでもやるタイプで、1つのことに全力を注ぐと他のことができなくなるからどれも程よく楽しみたいって理由で部活には入ってなかったけど、そんな愛がスクールアイドルを全力でやろうとするなんて凄い奴もいたもんだな。

 

「愛がやりたいと思ったならいいんじゃないか。応援してるよ」

 

「ありがとう!」

 

その時の愛の笑顔が俺にはとてつもなく眩しく見えて俺がちっぽけに思えてしまった。

 

「あ〜でも、私が迎えに行かないと大和遅刻とかしそうで愛さん心配だな〜」

 

「おい、元野球部を舐めんじゃねーよ」

 

「そうだったね!じゃあ心配ないか!」

 

「あぁ、だから愛は全力でスクールアイドルやってくれよ」

 

「うん!」

 




皆さん、こんにちわ。
いひょじんと申します。
今回は、虹ヶ咲での推しである宮下愛ちゃんを題材にして書いていきたいと思ってます。
僕の中で宮下愛ちゃんはなんでも出来る超人というイメージから、それに対して何が黒い部分があるといいなと思ったところから今回の作品を描こうと思いました。
いつも通り見切り発進で書き始めたので生暖かい目で見守ってください。


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