天才で病弱な男の奮闘記 (宮川アスカ)
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随時更新していきます。


 潮崎束(しおざきたばね)

 

 烏野高校 2年1組

 ポジション→本職はウイングスパイカー、烏野ではミドルブロッカー

 身長→183cm 体重→65.4kg

 誕生日→3月20日

 好物→コロッケ

 最近の悩み→最近やたらと、アリサが原宿で女装デートしようと言ってくる事。

 

 

 能力パラメーター(5段階)

 

 パワー→3

 バネ→4

 スタミナ→1

 頭脳→5

 テクニック→5

 スピード→4

 

 

 周りの人との関係性(?は関係はあるけどまだストーリーに出てないキャラ)

 

 作者→テクニックは高校生で1番上手い。恐らくフルセット戦えれば高校生ナンバー1プレーヤー。

 潮崎束→日向翔陽……素質を感じる。基礎を磨けばもっと光る! 

 日向翔陽→潮崎束……ボールを扱う技術を教わり中。

 潮崎束→影山飛雄……トスのズレが無い分、空中での選択肢が広がるからやりやすい。

 影山飛雄→潮崎束……攻撃のパターンが多いからトスを上げてて楽しい。

 潮崎束→月島蛍……最近バレーへのやる気が垣間見えて微笑ましい。烏野のブロックの要になれる存在。

 月島蛍→潮崎束……実は試合中、束のブロックを1番観察してる。

 潮崎束→縁下力……次のキャプテンは縁下しかいない。2年生のおかん。

 縁下力→潮崎束……束がいなくなったら、2年バカ2人を制御できる自信がない。

 潮崎束→灰羽アリサ……愛してる。たまに独占欲が働いてしまうのが困りもの。

 灰羽アリサ→潮崎束……大大大好き! バレーやってる時はもっと大好き! 

 潮崎束→木兎光太郎……良い先輩。並に乗ると、牛島さんレベルで手が付けられなくなる。

 木兎光太郎 →潮崎束……ユース合宿で会ったすげー奴! まぁ、俺の方が凄いけどな! 

 潮崎束→赤葦京治……仲良し。木兎さんブレーキその1。けど偶におかしな発言するよね。

 赤葦京治→潮崎束……気が合う。仲良し。第3体育館組2年生コンビ。

 潮崎束→牛島若利……本当の意味で唯一、自分より上だと思う選手。絶対に勝ちたい相手。

 牛島若利→潮崎束……自分とは違うスタイル。上手い。白鳥沢に来るべきだった。

 潮崎束→佐久早聖臣……犬猿の仲。バレーにおいては1番認めている。

 佐久早聖臣→潮崎束……犬猿の仲。バレーにおいては1番信頼してる。

 潮崎束→古森元也……仲良し。ユース組のまとめ役。

 古森元也→潮崎束……ユース組。多分、佐久早の1番の理解者。これからも佐久早をよろしく。

 潮崎束→宮侑……???? 

 宮侑→潮崎束……???? 

 潮崎束→星海光来……???? 

 星海光来→潮崎束……????




疑問に思った事、この人との関係が知りたいなどありましたら教えてください。


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プロローグ

はじめまして!駄作ですが良ければ読んでみてください


 いつ、どんな時も勝者は天を見上げ、敗者は地に項垂れる。

 それは、とある体育館でも同じだった。

 

 烏野 31-33 青葉城西

 

 セットカウント1-2の末に烏野高校の夏が終わった。

 

 

 

 

『すまん。潮崎』

 

「大地さん、謝らないでくださいよ。むしろ僕の方が何の役にも立てなかった」

 

 握りしめたスマートフォンから、くぐもった主将の声が聞こえた。

 3年生の大切な試合に僕はただ病室で結果を聞くことしか出来なかった。

 僕は持病持ちで、最悪な事にインターハイ予選を目の前にして、入院を余儀なくされた。

 決勝トーナメントの頃にはまたバレーが出来ると伝えたら、大地さん達は、絶対に僕を決勝トーナメントまで連れていくと言っていた。

 全くもっておかしな話だ。3年生の先輩達が2年生の僕を連れて行くなんて……

 だから余計に悔しかった。何も出来なかった自分が。

 

 大地さんとの電話を切る。不思議な事に涙は込み上げてこなかった。

 ただでさえ厄介な病期を持ってる僕は次に向けて準備を整えなくてはならないのだ。

 

 コンコン

 

 ドアを叩く音が聞こえ開かれれた扉から金髪の女性が顔を覗かせていた。

 

「アリサ。何時もごめんね。わざわざお見舞いに来てくれて」

 

「別に私がしたくてしてるだけだもの。束くんが謝る事じゃないわよ」

 

 灰羽アリサ。ロシア人とのハーフで灰色に近い金髪を腰辺りまでの伸ばしている彼女は僕のガールフレンドだ。

 贔屓目なしに見ても相当な美人で、最近バレーを始めた弟がいるらしい。よく僕にも自慢してくる。

 まぁ、彼女自身、バレーに関してルールは把握している位で細かい事はよく分かって無いみたいだから、僕がバレーの話をすると頭の上に疑問符が沢山浮かんでいる様子。けど、そんな彼女が僕の心の支えであり、バレーを続けられる理由だ。

 

「束くん、そろそろ宮城に戻っちゃうのね。嬉しい様な寂しい様な」

 

「ハハハ。遠距離恋愛の難しい所だね」

 

 僕は親の転勤で中学卒業と同時に東京から宮城に引っ越した。

 今は東京の病院に入院してるけど、退院すればまた烏野高校がある宮城に戻る。

 

「束くん、カッコよすぎるから心配」

 

 ムーとしているアリサの頭を優しくなでる。

 

「大丈夫。僕は何処にいてもアリサの事が好きだよ。それにほら、今年の春高は東京開催だろ? その時は近くで応援してよ」

 

「束くんの所って強い学校いっぱいあるんでしょ?」

 

 顔を真っ赤にしたかと思ったら今度は心配そうに此方の顔を覗き込んでくる。

 

「僕を誰だとお思いで?」

 

「ふふ。そうね! 束くんなら絶対大丈夫って信じてるわ!」

 

 あぁ、本当に癒される。

 そして僕は無事に退院出来た。

 

 

 烏野高校の夏は終わった。だけども僕の夏はまだ始まったばかりだ。



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第1話 遠征初日

何やかんやで書きました。
主人公の名前の読み方はたばねです!
それではどうぞっ!


 さて、僕は無事退院し宮城に帰るはずが何故か東京にいます。

 理由としては、大地さんから送られて来た一通のメール。

 

『梟谷グループが主催している練習試合に参加する事になった! 

 詳細は後々連絡する』

 

 そう。烏野高校まさかの東京遠征である。

 前監督の烏養監督が辞めてから烏養監督経由で練習試合をしていたチームとの縁が切れたウチのチームがこんな強豪ぞろいのチームと共に練習できるとは。

 こんなチャンス中々ないな。

 

 更に追い討ちを掛けたのがうちの両親からの連絡だ。

 

『一学期の授業休んだ分の課題出てるから! 二学期の始業式に夏休みの宿題と一緒に提出だって!』

 

 そう。僕は2年生になってから休学している。とは言え僕も立派な学生である。学生の本文は勉強。期末試験は無いにしろ休んだ分の課題はしっかりとあるのだ。

 

 正直僕は西谷や田中程馬鹿ではない。

 ただし、天才と言う訳でもない。しっかり授業を受けた上でなら出来るが、授業で習ってない事をやれと言うのは無理難題だ。

 しかし、僕には救世主がいる事を思い出した。そう、アリサだ。

 アリサは現在19歳。高校の勉強なら多分出来るはず。幸いな事に、祖父母の家は東京にある。

 この思考にたどり着いた瞬間、課題を祖父母の家に宅配してもらう様親に頼み、僕は宮城に帰ること無く、東京に在住する事を決意したのだ。

 

 

 

 

 

 まぁ、退院してからの期間、何やかんやあったけど無事、合宿初日の朝を迎えた。

 眠むい目を擦りながら、音駒高校を目指す。

 今日久しぶりにバレーが出来る。そう考えるだけでワクワクが止まらない。

 退院してから、徐々に徐々に運動を再開し始めたし、入院中だって僕のプレースタイル的にも、ボールを触り続けた。

 だけど、試合なんて久しぶりだし、何よりずっと1人のトレーニングだったから、チームでの練習が楽しみで仕方ない。

 

 

 音駒高校に着くと、小型バスが校門の前に停まっていた。

 すると、そのバスから見慣れた男2人が現われる。

 

「「おぉー! あれは、あれはもしや! スカイツリー!?」」

 

 ただの鉄塔を見ながらそう叫ぶ2人を見て思わず苦笑いをしてしまう。

 

「ほんと、2人とも元気だね!」

 

 僕はそう言うと、後ろから近づき、ガバッと2人の肩を組む。

 

「やっ、久しぶり。西谷、田中」

 

 急な事に驚いた2人がこちらを振り返ると目を見開き、口をパクパクしている。なんか金魚みたいだな。

 

「なっなんで潮崎がここに?」

 

 先に口を開いたのは縁下だった。

 

「久しぶり、縁下。あれ? 聞いてない? 僕この遠征から練習復帰するんだけど……」

 

 えっ? と思い大地さんの方をむく。

 

「よっ。退院おめでと」

 

「ありがとうございます。まさか伝えてなかったんですか?」

 

「俺達は知ってたけどな」

 

 ひょこっと、スガさんが顔を覗かせる。

 どうやら3年生組は知っていたそうだ。

 

「大地が当日のサプライズにしようって言ってな」

 

 Mr.ガラスのハート。東峰さんが申し訳なさそうにそう言ってきた。

 

「あの、あの人は?」

 

 潔子さんの隣にいる女の子がこちらを見て、潔子さんに問いかける。

 あの子は新しいマネージャーかな? よく見たら金髪のチャラそうなお兄さんや初めて見る顔の子が何人かいる。

 それに気づいた大地さんが俺に自己紹介を促す。

 

「1年はまだ知らないんだったな。潮崎、とりあえず自己紹介頼む」

 

「はい。はじめまして。潮崎束、2年生です。ちょと病気で入院してた為、休学、休部をしてました。好きな食べ物はコロッケ。ポジションはリベロ以外ならどこでもやります。詳しく聞きたい人は後ほど聞きに来てね。よろしくお願いします!」

 

 自己紹介を終えると、音駒の主将さんの指示に従い移動し、準備をはじめる。

 僕も例に漏れず準備をしていると、武田先生に呼ばれる。

 そこには先程の金髪のお兄さんがいた。

 

「はじめましてだな。俺は烏養繋心。今年からバレー部の外部コーチをやってる」

 

「よろしくお願いします。潮崎束です」

 

「澤村達からある程度の事情は聞いてる。因みに、今のとこどのくらいなら、ぶっ通しでプレーできる?」

 

「大体1セット分ですね。それ以上は一旦間入れないともたないです」

 

 これは僕の病気に関わる話だ。

 僕は生まれた時から体があんまり強くなくて、長時間の運動が出来ない。

 今烏養コーチに言った通り、1セットぶっ通しでプレーすると体にガタがくる。少し休めば一応、動ける様にはなるけど、それでも間1セット分位の休憩は欲しい。

 これは僕の、いや、スポーツ選手からしたら大きな欠点だ。

 

「分かった。まぁ、今日は練習初日だし、体ならす意味も込めて、お前は基礎練で。様子みて、最後の1セット出る形でいくか」

 

「分かりました」

 

 

 話を終え、体育館に向かっていると後ろから

 

「ヘイヘイヘーイ!」

 

 何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「久しぶりですね、木兎さん。知ってる人がいて安心しましたよ」

 

「よぉー、潮崎! 元気してたかー!?」

 

「まぁ、ぼちぼち。今日は最後の試合しか出ないんで、梟谷とは明日になりそうですけど、その時はよろしくお願いしますね」

 

「おう! 絶対負けねーぞ!」

 

 この人は木兎光太郎。梟谷のエース。性格は少し抜けている所があるけど、バレーのセンスはトップクラスであり、全国五本の指は伊達じゃない。

 

 

 木兎さんと別れ、チームに合流する。

 

 

「「「お願いシャース!!!」」」

 

 体育館に入ると各々のチームがアップを始めてる。

 うーん。どのチームもアップ見ただけで基礎の高さが伺える。流石全国トップクラスのチームだね。

 僕がキョロキョロ周りを見ていると、ある1人の選手に目が止まる。

 灰色の髪に緑の瞳をした長身の少年。あれは……

 

「集合!」

 

 僕が考えていると大地さんの集合の声がかかる。

 

「アップ終わったら、全チームローテーションでゲーム。

 1セット事に負けた方はペナルティでフライング、コート1周だそうだ。

 気合い入れていくぞ!」

 

「「「おぉ!!!」」」

 

 

 

 

 

 さて、早速始まった1試合目。初戦の相手は先程の木兎さん率いる梟谷学園。

 うーむ。分かってはいたけど中々苦しい試合展開だな。

 まぁ、梟谷が普通に強いチームってのはある。けど、ウチも決して弱い訳じゃない。基礎もしっかり出来てきてる。ただ、どーにも得点力にかける。あとは……

 

「経験の少なさ、かな……」

 

 まぁ、そこはこの絶好の機会を使って、少しでも伸ばすしかない。

 

「それにしても、スガさんがセッターなんだね。凄い上手い1年生がやってるって聞いてたんだけど」

 

 僕は疑問に思い、隣にいる木下に問いかける。

 

「あぁ、実はな……」

 

 木下の話によると、そのセッターともう一人の変人コンビと呼ばれてる2人組は期末試験で赤点を取り補習を行っているらしい。

 まぁ、僕も課題出てるし、人の事言えないんだけどね。

 

「それにしても、良く西谷と田中は合格出来たな」

 

「まぁ、そこは縁下を中心に頑張ったよ。それでも赤点ギリギリだったけどな」

 

「あぁ、なんかお疲れ様」

 

 木下はそう言い遠くを見つめている。何となく想像つく所が辛いところである。

 

「けど、日向と影山も田中のお姉さんがここまで運んでくれるらしいから。

 多分潮崎も、あの2人の速攻みたら驚くと思うぜ!」

 

「へぇー。楽しみにしてるよ」

 

 そうこうしてる内に、試合は梟谷のマッチポイント。

 相手のスパイクを西谷が上げるも、東峰さんが打ったスパイクは相手ブロックに捕まり、16-25でウチの負けが決定した。

 うーん。流石に強い。

 さて、僕もフライング1周しますかね。

 

 ペナルティを終え、次はウチは休み。

 生川と森然、音駒と梟谷か。

 

「うぉ、凄いサーブ」

 

「生川高校、毎日練習終わりに100本サーブやってるらしいよ」

 

 俺の言葉に清水さんがそう教えてくれる。

 サーブこそが最強の攻めって事か。

 

「それはまた……。中々キツイですね。あんな強烈なサーブ、この細腕で取れるのやら……」

 

「ふふ。潮崎なら取るって信じてる」

 

 清水さんがそう笑いかけてくる。

 うん。アリサがいなかったら恋してたかも。

 

「おっ、上がった」

 

 生川の主将が放った強烈なサーブを森然の主将が上げてみせる。

 すると、森然の選手達が同時に動き出す。

 

「へぇ。シンクロか」

 

 しかも、相当卓越されてる。シンクロはチームの意思、タイミングが合わないと難しい攻撃。

 それをこんなに、綺麗に決めるとは。森然は相当コンビネーションに力入れてるらしい。

 

 もう1コートは……

 言わずもがな、この5校の中で1番強いであろう、梟谷。

 チーム全員のスキルが高く、その全員でチームのエースである木兎さんを輝かせるチーム。

 それにしても、いつ見ても強烈なスパイクだな。正直僕には真似出来ない。

 けど、そんなスパイクを恐ろしい程に拾う。

 こちらも、音駒全員のレシーブ能力が高い。とにかく、拾って拾って拾いまくる。そして最後に決める。

 相当、地盤が固まってなきゃ出来ないバレーだ。

 それにしても、あのミドルブロッカー……

 

 

 うん。絶対、アリサの弟のリエーフくんだよね……

 

 

 何度もアリサに写真を見させられたから分かる。

 けど、まぁ、今は試合中だし今夜にでも話しかけてみようかな。

 

 さて! 次の試合まで僕は基礎練でもしますかね! 

 




需要あるか分かんないけど、とりあえず書きたいんで、アリサとのお勉強会はどっかで書く予定です!
評価や感想くれると励みになります!


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第2話 主役は遅れて登場するものです

某エースストライカーの豪〇寺しかり、やっぱ主役は遅れて道場しますよね!
まぁ、そんな話は良いとして、今までは束くん視点で書いていましたが、今回は三人称視点です。
その場その場で、書きやすい様に変えていきたいと思います。読みにくかったらごめんなさい。
それでも良いよって方は見ていってください!


 今日、何度目か分からないペナルティ。

 束自身、試合に出てはいないものの、中々キツイものがある。

 

「どうよ烏野」

 

「別に弱くは無いんだけど。普通、って感じ」

 

「すげぇ1年ってのは? 音駒の買い被りすぎか?」

 

 他校の選手の会話に谷地がソワソワしていると、

 

「ガコッ」

 

 というと言う音と同時に扉が開き、田中の姉、田中冴子が顔を覗かせる。

 

「おぉー! まだやってんじゃん! 上出来!」

 

 それを見た西谷が「姉さん!」と目を輝かせる。

 

「無事で、よかったぜ」

 

 そう呟く田中の視線の先には、赤点遅刻組。日向と影山が立っていた。

 

 

 

 

 

 日向と影山もアップを終え、今日最後のセットは、烏野高校対森然高校。

 

「主役は送られて登場ってかー? 腹立つねー」

 

 黒尾が呟いた一言に澤村がニヤリと笑い、バンと束の背中を叩く。

 

「頼むぞ、本日もう一人の主役!」

 

「大地さん、痛い! まぁ、久しぶりで緊張してますけど、チームの為に全力をつくしますよ」

 

「頑張りすぎてぶっ倒れんなよ!」

 

「酷いっ。うん。多分1セットなら大丈夫」

 

 西谷の言葉に涙目になりながら、13番と書かれたゼッケンを着る。身長は183cm、ヒョロりとした細い体型に、黒髪黒目の爽やかそうな風貌の少年は、そう言いながら背中をさする。

 

「おし。じゃあ、今回のスタメンな! 基本は何時も道理。潮崎は試しに月島と変わってミドルブロッカーで入ってくれ!」

 

「分かりました」

 

 

「おい、影山、日向! まずは挨拶がわりに1発かましてやれ!」

 

「「うっす!」」

 

 ポジションにつく中、澤村の言葉に2人は嬉嬉として頷く。

 

 

 今日最後のセットを終え、今回休憩の木兎が呟く。

 

「お前らー、今回の烏野の試合、よーく見とけ!」

 

「あの遅れてきた2人ですか?」

 

「それもあるが違う」

 

 梟谷のセッター、赤葦の言葉に木兎は首をふる。

 

「潮崎、あのゼッケン13番のプレーだ」

 

 

 

 ピィー! 

 

 

 木兎の二カッとして呟くのと同時に笛がなり、今日最後のゲームが開始される。

 

 森然が放ったサーブを西谷が綺麗に上げる

 

「ナイスレシーブ!」

 

 レシーブが上がったのと同時に走り出す日向に、影山のピンポイントのトス。

 日向が振り抜いたスパイクはブロック、レシーブが反応出来ずに、ボールが地面に叩きつけられた音だけが響く。

 

「「「しゃあ!」」」

 

 烏野のメンバーが喜ぶ中、音駒、烏野以外のこの体育館にいる全員が驚愕する。

 烏野とは言ったが、勿論ベンチでそれを見ていた束も驚愕で目を見開いていた。

 

「どうだ潮崎! 凄いべ!?」

 

「はい……。あれは初見じゃ取れないですね……」

 

 菅原の言葉に束は頷く。

 速攻。と言うにはあまりにも速すぎる攻撃。変人速攻と呼ばれているのも頷ける。

 

(こんな凄い1年が入ってきたのか。月島と言い、あの2人と言い。確かに青葉城西にフルセット戦えるだけの実力はあるな。

 ふぅ。これは僕もうかうかしてられないかな)

 

 

 

 ピィ! 

 

「ナイス日向ー!」

 

 日向のスパイクが決まり、ローテーションする。日向が後ろに周り、西谷が前衛に行くローテ。

 つまり……

 

「やっと僕の出番か!」

 

「頼むぜ! 束!」

 

「おう」

 

 西谷とハイタッチを交わし、束がコートに入る。

 

(やっと、やっとだ。久しぶりの試合。やばい、ワクワクがとまらない)

 

「あれ、今回は11番じゃないんですね」

 

「あの13番、いるなあぁとは思ってたけど、出てきたの、今日はじめてじゃねーか?」

 

「何はともあれ、ここ1本集中して取り返すぞ!」

 

「「「おぉ!」」」

 

 森然高校の主将、小鹿野がチームを引き締める中、烏野の面々も束の元へ集まる。

 

「おっしゃあー! 頼むぜ潮崎!」

 

「潮崎、無理しない程度にな」

 

「相手の度肝抜いてやれ」

 

(うーん! やっぱいいなぁ。泣けてくる)

 

 田中、東峰、澤村の言葉に涙を流す束。

 

「おっ、おい、何泣いてんだ」

 

「いや、久しぶりすぎて。チームの温もりにジーンときました」

 

 そう言うと、目元を抑えていた腕を外し、日向と影山の方を向く。

 

「2人ともよろしく! いやぁ、2人の速攻には正直ビビったよ。僕も今日初試合だからお互い頑張ろうね」

 

 どこか、緩い感じの束に、日向と影山も気持ちが何だか緩くなる。

 

「とりあえず、日向はナイスサー。影山は良いトス頼むよ」

 

「「ウッス!」」

 

 

 ピィ! 

 

 

 笛が鳴った瞬間、先程までの雰囲気が嘘かのように、コート全体にゾワリという感覚が響き渡る。

 その感覚に、烏野、森然、両チームの集中力が一瞬にして引き締められる。

 その感覚の発端である少年は、静かに、しかしその瞳は、獣が獲物を駆らんばかりに集中していた。

 

「日向ナイッサー!」

 

 しかし、その掛け声も虚しく、日向のサーブはネットに当たり、自陣に落ちる。

 

「すいません!」

 

「どんまいどんまい! 気にすんなー!」

 

 束は明るい雰囲気で日向にそう言う。

 

(なんだったんだ、さっきのプレッシャーは。今は全く感じない。気のせいか?)

 

 小鹿野がそう考えている間に、日向がサーブミスした事によって、日向が外に出、西谷が中へ。

 

 森然のサーブを西谷が上げる。少し乱れるも、影山がしっかりとカバーにはいる。

 

(取り敢えず、1本……)

 

「潮崎さん、頼んます!」

 

 最初の澤村の助言通り、ふんわりとした打ちやすいボールがセンターへと上がる。

 

 しかし、森然もしっかり対応し、3人がブロックに入る。

 

(おーおー。完全に殺す気で来てるねー)

 

 完璧なるkillブロック。吹っ飛ばされない様、指先まで力が入った手に、これでもかと、前に出された腕。

 誰もが、止められると思った、ブロック。

 

 束が放ったスパイクは、ブロックの手首辺りに辺り、ネットとブロックの間を通り落ちていく。言わいる『吸い込み』

 

「だー!! すいません。腕前出しすぎた!」

 

「どんまいどんまい。今のはしゃーない。どんどん狙ってこー!」

 

 

 

「ラッキーですね。完璧な壁でしたし、もし、捕まって落とされてたら、投入された直後ですし、かなりメンタルにきますね」

 

 試合を見ていた、赤葦はそう呟く。

 

「分かってねーなぁ、赤葦! 確かに、傍から見たらラッキーだよな! 

 けどな、あいつ、今の狙って打ってるぞ」

 

「「「は!?」」」

 

 木兎の言葉に梟谷のメンバーは「まぁた、訳の分からない事を言い始めた」と思う。

 

「いや、何その目!? 本当なんだって」

 

「いや、普通信じられます? 吸い込みを狙って打つなんて。

 例え、狙って打ったとして、普通あんなに上手く決まりませんよ」

 

「だけど、潮崎はそれが出来るんだよなぁ! ボールを直前まで見て、打つギリギリまで思考する。

 そして、打つ時にプランを変更出来るほどの尋常じゃない程の柔軟性をもってるんだ」

 

 それに関しては赤葦自身、何となく分かるものがある。

 赤葦も、トスの選択、特に木兎に上げる際は短い時間で最善のパターンを考える。

 

(だけど、それとこれじゃ、難易度やパターンの数も考えても別物じゃ……)

 

「まぁ、そう言われても中々信じられないよな! 俺も最初は信じられなかったし!」

 

「まぁ、それが事実だとして、何で木兎さんはそんな事知ってるんですか?」

 

「え? 去年の全日本ユース強化合宿で一緒だったんだよ。あれ? 俺、スゲー奴が居たって言わなかったっけ?」

 

「は!? 全日本ユース!?」

 

「たっ、確かに言ってたけど、名前は言ってなかったし、基本、お前なんでも凄いって言うじゃん!」

 

 梟谷のメンバーが驚くのも無理はない。全日本ユース強化合宿と言えば、去年、牛島若利や佐久早聖臣なんかも呼ばれた、未来の日本代表候補を選ぶための合宿であり、日本の15・16歳の有望株たちが集められた合宿だ。

 

「あれ? そうだっけ? 

 まぁ、潮崎は持病持ちだし、フルセット丸々戦えないけどなぁ。

 それに今回は、入院してたから、代表入りはしなかったみたいだしな!」

 

 そんなカミングアウトにチームメンバーの頭がついて行かない。

 そんな中、赤葦は1つの事に気づく。

 

(まてよ。フルセット丸々戦えない? 裏を返せばフルセット丸々戦えないにも関わらず、日本代表はあの13番を欲しがっているのか!?)

 

 そう。束にはフルセット戦えないと言う大きな欠点をもっている。

 そんな選手に、選抜メンバーの貴重な1枠を使えるか? 否である。

 しかし、それでも選ばれると言うのは、それをカバーする程の実力、1セットだけで試合の流れを変える事が出来ると言う事だ。

 それが、潮崎束と言う選手なのである。

 

「また、とんでもない選手がこの合宿に参加しましたね」

 

 赤葦は束を見て、冷や汗を流しながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

「何か、先輩達が潮崎先輩の事凄いって言ってたから、どんな派手なプレーするのかと思ってたけど……」

 

「案外地味、か?」

 

 山口がポツリと呟いたセリフに、菅原が反応する。

 

「えっ、あっ、いや、そんな事は……」

 

「まぁ、言いたい事は分かる。実際、日向達の変人速攻の方が目立ってるしなー。

 けど、潮崎も結構、凄いプレーするよ。最初の吸い込みも狙って打ってるし」

 

「えっ!? あれ狙って打ったんですか!?」

 

 菅原のセリフに山口と月島は驚く。

 

「それに、潮崎と変わった、月島は何となく気づいてるべ?」

 

「……はい」

 

 正直、今の束のプレーは菅原が言った通り、変人速攻に隠れて、余り目立っていない。

 実際、しっかりと観察しないと分からないが、コート内に立っている選手達は、束のプレーをジワジワと実感している。

 

「ワンタッチ!」

 

(くっそ、めっちゃやりずれー!)

 

 森然の選手たちのスパイクが中々決まらない。

 

「マネージャー。今ので潮崎が触ったの何本目だ?」

 

 外から見ていた烏養も異変に気付いた様で、清水に問いかける。

 

 現在のスコアは、15-22

 

 確かに、日向、影山の変人速攻を軸に点は取れている。しかし、森然も実力校。にも関わらず、差が開きすぎているのだ。

 その理由は束にある。

 前衛では甘いスパイクにはしっかりドシャットを決めるし、多くのスパイクにソフトブロックでワンタッチをしてみせる。

 後衛でも、よくその細腕で腕がもげないなと言うほどに拾う。とにかく、徹底的に相手に気持ちの良いスパイクを打たせない。

 実際、清水が取っているデータからもそれが伺える。

 このプレーがこの点差を作り出しているのだ。

 

「こりゃ、期待以上だな」

 

 烏養は、嬉嬉としてそう呟く。

 

 

 

 

 

 ピッ、ピッピー! 

 

 18-25

 

 烏野は9セット目にして、初のペナルティ無しを勝ち取った。

 

「随分、あの2人に翻弄されてたな」

 

 生川高校の主将、強羅がペナルティを終えた小鹿野に話しかける。

 

「うるせぇ! 実際、目の前で見たら、何起きてるか分かんねーから! 

 ……それに、1番やべーのは13番だわ」

 

「13番? 確かに、そつなく何でもこなしていたが……」

 

「確かに、試合しながら、横目に見てる分にはそうかもな! 

 けど、あいつの前じゃ、ブロックが機能しないし、何よりあいつのスパイク、めっちゃ取りにくいんだよ」

 

「このタラコが!」と小鹿野は強羅に言い放つ。

 

 

「いやぁ、今年は面白くなりそうだなぁ!」

 

 2人の話を聞きながら、木兎は楽しそうにそう呟いた。

 




2件の感想と3件の評価ありがとうございます!


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第3話 人は変化無しに進化を得ることは出来ないらしい

朝起きて気づいたらバーが赤色に!
テンション上がって勢い任せに書いてしまった。後悔はしてない。
誤字脱字が酷いかもしれませんが、お許しください。


「横文字の名前。かっけーなぁー」

 

 トイレにむかって歩いると、何か呟いている日向を見つけた。

 

「やぁ、日向。どうしたの?」

 

「潮崎さん! トイレ行こうと思って! 潮崎さんもですか?」

 

「当たり」

 

 そう言い、日向とトイレへ向かう。

 

「気になってたんだけど、日向は何で、あのスパイク打つ時、目瞑ってるの?」

 

 僕は、今日の最後のゲームでみた日向の速攻について疑問に思った事を聞く。

 

「いやぁ、恥ずかし話、俺自身、あの速い速攻のタイミング分かんなくて。

 そしたら、影山がボール見ずに空いてるスペースに全力で跳べって言ってきて、取り敢えず、1回信じて跳んだら、本当にそのタイミングでボールが手に当たったんです」

 

 なるほどね。技術も経験もない。けど最高のバネとスピードを持つ、日向をの力を最大限に引き出す為に生み出されたのが今のスタイルな訳か。

 それにしても、それを完璧にこなすって……。今日の1ゲームだけでも、影山のトスの精度が凄いのは実感出来たけど、こりゃ、凄いなんてレベルじゃないな……。

 

「けどさ、日向は今のままでいいの?」

 

「えっ?」

 

 僕はそう問かけ、トイレのドアを開ける。

 するとそこには、ドアにのてっぺんに頭が届きそうな程の長身がたっていた。

 急に現れた巨体に日向がテンパっていると、

 

「烏野の10番」

 

 その少年は日向に声をかける。

 

「日本語!? お、俺、日向翔陽! 1年!」

 

「俺は、「灰羽リエーフ」……え?」

 

 僕は少年、灰羽リエーフの自己紹介に割って入り込む。

 

「灰羽リエーフ、1年。ロシアと日本のハーフで姉がいる。日本生まれ日本育ちでロシア語は話せない。どう? 合ってる?」

 

「合ってる。けど、何で俺のこと……」

 

 日向は「えっ? えっ? 知り合い?」と僕とリエーフくんを交互に見てる。

 まぁ、確かに、知らない人にいきなり自分の情報当てられたら、恐怖以外の何ものでもないよね。

 

「僕は潮崎束。君のお姉さんのアリサと付き合ってる」

 

「えっ? ねーちゃんの!?」

 

「潮崎さん、彼女いたんですか!?」

 

「うん。凄い可愛い彼女がいるよ。

 リエーフくんの事は色々とアリサに良く聞かされてるよ。彼女、弟大好きだから」

 

「たっ、確かに、ねーちゃんに彼氏がいるのは知ってたけど、まさか烏野にいるなんて……」

 

「うん。僕も今朝君を見つけた時はびっくりしたよ。

 まぁ、色々話したい事もあるけど、今は日向に用があるみたいだから、また今度」

 

 僕はそう言い、トイレの中に入っていた。

 

 先程の話はリエーフくんに遮られてしまったけど、実際に今のままでいいのかい? 日向。

 僕達は守りに入って、安定に戦えるほど強くはない。そんなチームが1番やってはいけないのは、退化じゃない。変化しないことなんだよ。

 烏野はそれに何となくは気づきはじめている。

 

「あと必要なのはきっかけだね」

 

 そう考えていると、「ゴン!」と言う鈍い音が聞こえる。

 え? 何事? 

 音がした方を見てみると、日向がしゃがみこみ、頭をさ擦りながら唸っている。

 

「はは。何やってんだか」

 

 トイレを済ませ、出ていこうとすると、丁度日向がリエーフくんと別れたとこだった。

 僕は日向の頭をに手を置き、くしゃくしゃと撫でる。

 

「エースも良いが少しは焦れよー。今の烏野を見た感じ、僕がスタメン奪うとしたら、日向か月島っぽいからね。

 確かに、変化をみせて退化するのは怖い。けどね、変化無くして進化する事はできないんだよ」

 

 僕はそう言って日向を見つめる。

 日向は一瞬呆気に取られた様に見えたが、直ぐに力強い目でこちらを見てくる。

 

「絶対負けません! 俺は、1分1秒でもコートに立っていたいから!」

 

「うん。その調子」

 

 きっと、日向はこのチームを変える火種になってくれる。

 

「さて! 僕は眠いし寝るとするよ。日向もしっかり寝て、体力回復するんだよー」

 

「はい!」

 

 僕は日向の返事を後目に歩を進めた。

 

 

 

 

 ──────────────────────────────

 

 

 

 

「今日の初戦の相手は音駒だ! 日向と影山は久しぶりの音駒戦だな。ここらで1発かましてこい!」

 

「「はい!」」

 

「潮崎は今日から色々な奴と変えてどんどん使ってく。今回は取り敢えず田中と変わってウイングスパイカーで入ってくれ!」

 

「はい!」

 

 その言葉で澤村は東峰の方をみる。

 

「俺たちもウカウカしてらんないな」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

「ナイスレシーブ」

 

 日向の速攻はスタート直後しっかり決まりはした。

 

「ドンマイ、リエーフ! 惜しかったぞ!」

 

 しかし、山本が言う通り、音駒のブロックはあの速攻に追いついてきているのも事実。

 特にリエーフの長身と手足の長さを使ったブロックは、すでにあの速攻を触りかているのだ。

 

 

 

 

(あっ、これ間に合わないな)

 

 山本のスパイクに間に合わないと判断した束は、クロスだけを確実に閉めることに専念する。

 触れないなら、塞ぐしかない。

 

(甘いブロックじゃ通用しない。確実に、そして正確に。ストレートへ誘導させる為のブロック)

 

 クロスを完全に塞がれた、山本はストレートに打ち込むも、そこには澤村が待ち構え、しっかりと上げる。

 

「大地さん、ナイスレシーブ!」

 

 澤村が上げ、日向も走り込み、AからCへ跳ぶ。

 普通なら引っかかるとこだが……

 

「おいおい、まじかよ?」

 

 束は思わず声を出してしまう。

 日向のジャンプに一瞬で反応し、リエーフは斜めに跳ぶ。

 

(なんつー。反応の速さ)

 

 リエーフに捕まったボールは、日向の後ろでゆっくりと落ち、バウンドした。

 

「おっしゃー!」

 

(2本目にしてもう捕まったか。対応が早いな)

 

 喜ぶ音駒を後目に、束は思考する。

 

(まぁ、一旦、応急処置。普通の速攻増やしてくしかないか。

 影山と速攻なんて、殆ど合わせた事ないけど……。影山なら良いトスくれるだろうし、多少のズレなら修正出来る)

 

 しかし、そんな付け焼き刃な作戦が音駒相手に、そんな上手く決まるはずが無い。

 研磨も普通の速攻が増えると予想し、リエーフを呼ぶ。

 日向を囮に使うが、研磨にリードブロックを促されたリエーフは、つられ欠けるも、何とか対応し、東峰のスパイクを触ってみせる。

 

「ワンタッチ!」

 

「チャンスボール」

 

 そして、夜久が上げたボールを、研磨がセットし、最後はリエーフがしっかり仕留めた。

 

 

 ピィー! 

 

 

「まぁ、落ち着けお前ら。最初から速攻は警戒されてんだ。取り敢えず音駒相手には、東峰と潮崎のレフト中心で攻めてけ!」

 

「「はい」」

 

 タイムアウトを取り、烏養はそう促す。

 しかし、烏養自身、その選択に自信が持てない。

 確かに、このまま、あの速攻を使っても捕まるだろう。しかし、それは守りに入っていないか。弱腰になってはいないか。

 

(まぁ、今はそれで行くしかないか。ところで当の本人は……

 うん。問題なさそうだね)

 

 束が日向を見ると、日向は嬉しそうに笑っていた。

 束としては、落ち込んでしまったかと思って見てみたのだが、どうやらそんなことは杞憂だったらしい。

 

 

 

 

「ブロック2枚!」

 

「ウォラァ!」

 

 山本が打ったスパイクを影山が滑り込んで上げる。

 

「ナイス影山!」

 

 拾われたにしても、1本目をセッターに触らせたのだから音駒からしてみれば悪くないスパイク。

 

「オッケー」

 

 しかし、そのボールに束が中に入りこみ、スパイクモーションにはいる。

 

(はぁ!? あのまま打つ気かよ!)

 

「ブロック入れ! あいつなら打ってくるぞ!」

 

 黒尾の言葉に、山本、リエーフ、海がブロックに入る。

 

(うぉ、速いな。どうする? このままじゃ確実に捕まる。

 じゃあ、リバウンドか? けど、影山はまだ体制戻れてない)

 

 束が、超速で思考を働かせ、一瞬チラリと横をみると東峰と目が合う。

 

(これしかないな)

 

 束はぐるりと、体を90度反転させ、スパイクモーションからオーバーハンドパスに切り替える。

 

「あの体制から、トス!?」

 

 普通に考えて、空中でこんなに体制を変えることは出来ない。

 しかし、この読み合いと、無理な発想を実現させる柔軟性とテクニックこそが、束の最大の武器

 多くの選手が驚愕し、山本とリエーフが釣られて跳ぶ中、海は釣られず、一瞬遅れるも逆サイドへ走り出す。

 

(流石、音駒の副部長。冷静だな。けど……)

 

「1枚なら敵じゃないですよね! 東峰さん!」

 

 体育館が湧き上がる。

 東峰が得意な、たっぷりと取った助走に、山なりで高めのトス。

 完璧なセットアップだった。

 しかし……

 

「えっ?」

 

 ゾワリと。得体のしれない怪物に出会った様なそんな感覚。

 意識的にか無意識かは分からない。しかし、日向はエースからボールを奪うかのように、ボールに向かって跳んでいた。

 

 ドスッ! 

 

 と、言う音と共に、東峰と日向が接触する。

 

「おいおい。なにやってんだよ」

 

「どうしたって翔陽が吹っ飛ぶんだからな」

 

 東峰と日向が青ざめて謝りあってる中、束と西谷は苦笑いをする。

 

「ちゃんと周り見ろボケェ! なんの為の声掛けだ、タコ!」

 

「はい。すみません」

 

「ボケ! 日向ボケ!」

 

「まぁまぁ、抑えろ影山」

 

 澤村が一旦、中立に入り、影山をなだめる。

 

「それにしても、スゲーの上げたな! 束!」

 

「いやぁ、たまたまだよ、たまたま。正直、最初のスパイクで虚をつけると思ったけど、しっかり反応されたし、次のトスも2番は引き剥がせなかったしね」

 

「バッカ! まず、トスに切り替えられる時点ですげーんだよ!」

 

 そんな話を束と西谷がしていると、

 

「ギュンの方の速攻。俺、目瞑んの辞める」

 

 日向が影山にそう言い放った。

 

 日向の一言で、殻にヒビがはいる。

 今が、彼らにとって、進化の時なのかもしれない。




4件の感想と、14件の評価ありがとうございます!


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第4話 進化の時

ハイキュー4期面白いですよね!皆さんは、ハイキューで誰が好きですか?
自分は宮侑が好きです。
ハイキュー見返してると、青城戦とか白鳥沢戦とか早く書きたくなります!
まぁ、合宿編すらまだ終わってないんですけどね…
取り敢えず第4話です!どうぞっ!


 烏野 21ー25 音駒

 

 あの衝突からどうにもチーム全体が噛み合わず、結局ズルズルと試合が進み、負けてしまった。

 

「フライング1周ー!」

 

「「「あーい!!」」」

 

 

「潮崎、さっきの件でお前にも来て欲しいんだけど今いいか?」

 

 ペナルティが終わると、スガさんが日向と影山を連れて僕の所に来た。

 あの件って言うと、速攻で目を瞑るのを辞めるって話かな? 

 日向に進化する事を促したのは僕だ。物凄く、相談に乗ってあげたいんだけど……

 

「はぁ、はぁ。ちょっと、今キツいんで。先、行ってて貰ってもいいですか?」

 

「あぁ、悪い! 大丈夫か? 無理しなくて大丈夫だからな」

 

 やばい。1セット戦ってのペナルティは流石にキツい。嫌な汗流れて来た。

 呼吸するの普通にキツいし、膝に手やんないと、まともに立ってらんない。

 

「潮崎さん、だっ、大丈夫ですか!?」

 

「あっ、あぁ、谷地ちゃん。ありがとう」

 

 僕は谷地ちゃんに貰った水を流し込む。

 大丈夫。落ち着け。ゆっくり、少しずつ肩を使いならがら呼吸を安定させていく。

 

「ふぅ。何とか落ち着いてきた」

 

 重い体を何とか動かしながら、スガさん達が向かった、扉の方へ向かって行く。

 その途中。影山とすれ違った。

 あの様子を見るにダメだったかな? 

 

「……スガさん。どうなりまし「調子が良い時は、スローモーションに見えるんです」……た?」

 

 ドアに手をかけ、顔を覗かせると、日向がポツリと呟いた。

 

「青城と練習試合やった時も、最後の1点。大王様の、及川さんの顔が見えました。目が、見えました」

 

「3対3ではじめて速攻決めたときも、向こう側が見えました。てっぺんからの景色が見えました」

 

 へぇ。なるほどね。

 

 

「ねぇ、ひなt「あぁ、いた。次、始まりますよ!」……」

 

 日向に話しかけようとすると、後ろから大地さんがそう告げる。

 あれ、何か僕、さっきからめっちゃ話遮られてない? 

 

「あぁ。今行きます!」

 

 そう言い、日向とスガさんは体育館の中へ向かう。

 

「ほら、潮崎も行くぞ。肩貸すか?」

 

「すいません。ありがとうございます」

 

 僕も大地さんの肩を借りて次のセットへと向かった。

 

 

 

 

 

「成田! 次、日向と変われ」

 

「えっ、あぁ、はい!」

 

 烏養コーチはそう言うと、日向の方を向く。

 

「お前にも考えがあるだろうが、今日は一旦頭を冷やせ。

 今の状況じゃ、上手くいくとも思えんし、このまま続けて、またさっきみたいな接触で怪我されても困るしな」

 

「ッ! ……はい」

 

「潮崎! お前は、ベンチ座って少しでも体力回復しとけー!」

 

「はい」

 

 2セット連続は流石に厳しいので、タオルを頭をに被せ、谷地ちゃんの隣りに座る。

 

「ごめんね。こんなに汗臭いのが隣に座っちゃって」

 

「い、いえ。そんな事ないです!」

 

 うん。なんて、良い子何だろう。

 谷地ちゃん。マネージャーとして、この部活に入って来てくれてありがとう。これで来年の烏野は安泰だよ。

 

「あの、日向と影山くんがギクシャクし始めたのって、気のせいじゃないですよね……」

「うん。それに、あの衝突からチーム内がピリピリしてる」

 

 谷地ちゃんが清水さんにそう問いかける。

 

「……皆、何となく感じてた事を日向に突きつけられたんじゃないかなー」

 

「感じてた事、ですか?」

 

 僕の言葉に谷地ちゃんは首を傾げる。

 

「そう。今のままじゃ駄目だってやつ。皆それを分かってるけど、中々行動に移せて無かったみたいだから……」

 

「そんな中、1人だけいつも通りのプレーをしてたのは誰かしら?」

 

「ハハハ。さぁ? 誰でしょうね」

 

 正直、僕も焦ってないわけじゃない。今はただ、自分の実力だけで何とかしてるだけ。まだ、連携も何も出来ていない。

 チームから離れた数ヶ月で、烏野は新1年の加入も相まって、新たなチームとしての形を作り始めた。

 ほぼ輪郭が出来始めたチームに、短期間で新たな異物を溶け込ませるのは難しい。

 だから、進化し、新たな形を作ろうとしているこの期間に、僕は新生烏野に馴染まなくてはいけないのだ。

 

「まぁ、間違いなく言えるのは、さっきの試合は、ウチにとっての大きなターニングポイントになったでしょうね」

 

 

 

 

 

「4番きます! せーのっ!」

 

(あっ、これフェイントくるな)

 

 予想通り、木兎さんはフェイントでブロックを避けてくる。

 

「ナイスレシーブ!」

 

 僕が上げたボールはセッターの元へ向かい、影山のトスをそのまま田中が撃ち抜いた。

 

「しゃー!!」

 

「こら、田中! 服脱ぐな!」

 

 服を脱いで騒いでいる田中を大地さんが説教している。

 まぁ、それは何時もの事として……

 

「いゃあ、木兎さんのフェイント分かりやすいなぁ」

 

「なんだとぉ!!」

 

 煽り過ぎも良くないけど、熱くなりすぎた木兎さんって読みやすいからね。

 まぁ、木兎さんの攻略法の1つだよ。

 

「烏野に焦りが見え始めたと思ったんですけど……

 潮崎は大分冷静ですね」

 

「んぁ? あいつが焦ってる所なんて見た事ねーよ。おっしゃ、ドンマイドンマイ! 次1本とるぞ!」

 

「ドンマイドンマイって。木兎さんのフェイント読まれたのがきっかけですけど……」

 

「ウギッ! 赤葦、余計なこと言わなーい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「あざっしたー!!」」」

 

 

 

 体育館へ挨拶をし、東京遠征の全日程が終了した。

 結局、中々上手くいかず、負け越しだったけどね。

 

「はぁ。悔しいな……

 帰ったら、反省会だな」

 

 僕の中での恒例行事。1人反省会。

 あぁ、勿論、チームでの反省もしっかりするけどね。

 例え1セットのゲームだとしても負けは普通に悔しいしヘコむ。

 負けたのには、絶対理由がある。それを放っておく訳にはいかないし、負けるのが当たり前になる。僕は、その感覚が何よりも怖い。

 

 次は夏休み明けの、春高予選前最後の、1週間の長期合宿。

 この遠征で多くの課題を見つけた。

 次の合宿を通して、そのピースを1つ1つはめていく必要があるな。

 

「今更だけど、そっちも3年全員残ったんだな」

 

「おう。あのままじゃ終われねーし、期待の星も帰ってきたからな!」

 

 バン! と澤村さんに肩を捕まれる。

 えっ、何!? ビックリするんですけど! 

 

「潮崎束か。木兎に聞いたぞー。U19の代表候補だろ? 通りで上手いわけだわ。

 次はぜってー、ドシャット決めてやるから覚悟しとけよー!」

 

「黒尾さん。僕も絶対負けませんよ」

 

 この人、ミドルブロッカーの中でもトップクラスだし、ブロック凄い上手いからな。マジで、絶対負けたくない。

 

「で? そっちは、インターハイ予選、2日目に去年の優勝校と当たったんだっけか? 日向に聞いた」

 

「! 聖臣の所ですか……」

 

 佐久早聖臣。去年の全日本ユース強化合宿で一緒だったけど、化け物級に上手い。正直、高校バレーでは牛島さんと並んで頭1つ抜けてる。

 

「そう。お陰様でベスト8止まりだわ……」

 

「東京都のベスト8とか、普通にスゲーな」

 

「勝ち残んなきゃ意味ねーよ」

 

「……だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、お疲れ様でしたー」

 

「「「したぁ!」」」

 

「明日は、体育館に点検作業が入る予定なので、部活はお休みです! 

 この所、休み無しでしたので、ゆっくり休んでください」

 

「「「はい!」」」

 

 

 うーん! 久しぶりの宮城! 数ヶ月ぶりの学校! 

 やっぱ良いね! 落ち着くわ! 

 早速、久々の我が家へ帰ろうとしていると、顔を真っ青にした谷地ちゃんがこちらに向かって走ってくる。

 

「潮崎さーん。死ぬぅ。日向と影山くんがぁ。死ぬぅ。死ぬぅ!」

 

「えっ? え? なっ、何? 怖い。怖いから、谷地ちゃん。一旦落ち着いて」

 

 

 

 

「てめぇ! 俺のトスが悪かったって言いてぇのか!」

 

「違う! 完璧だった! なのに止められた! 

 俺が! 今のままじゃ、上にはもう通用しないから!」

 

「うぉ、なにやってんのお前ら!」

 

 谷地ちゃんに連れられ、体育館に来てみると、影山と日向が取っ組み合いをしていた。

 

「いい加減にしなさい!」

 

 日向と影山の間に入り、一旦落ち着かせる。

 

「2人とも、一旦、頭冷やせ」

 

「「……すいません」」

 

「ねぇ、日向。日向は、調子が良い時は、スローモーションに見えるって言ったよね」

 

「えっ、あっ、はい」

 

「あと、相手の顔が、目が見えたって」

 

「青城戦のあの1回だけですけど……」

 

「烏養コーチやスガさんは、そんな気がしただけって言ってたけどね、僕にはその感覚分かるよ」

 

「えっ?」

 

「だって、僕、試合中はしょっちゅう、そんな感じだもん」

 

 まぁ、勿論、試合中ずっとではないけど。

 相手がスパイクうつ瞬間とか、逆にこっちがスパイクうつ瞬間。

 冷静になればなるほど、その瞬間は多く訪れる。

 

「だから、日向。僕が培ったことをフルに活かして、今の日向に足りないもの、経験、その多くを教えてあげるよ」

 

 確かに、影山が言う事は間違ってはいない。

 けど、このままでは勝てない事は、この2日を通して自分達が1番良く分かってるはずだ。

 小さな雛鳥が進化をしようとしてるんだ。そんなの、僕達先輩が支えるしかないでしょ。

 

「そんなわけだから影山! トスの練習しとけよー! 春高までに、日向をお前が言う、勝ちに必要な奴にしてみせるから」

 

 なーんて、言ったはいいものの。

 いきなり言われても処理おいつかないよね。

 

「取り敢えず2人はもう帰りな。明日1日休みだし、良く考えると良いよ」

 

 僕はそう言い、2人を帰らせる。

 帰り道で2人がまた喧嘩しないか心配だったけど、一旦落ち着いたみたいだし、谷地ちゃんもいるから多分大丈夫でしょ。

 

「さて、僕は今からこれを1人で片付けるのか……」

 

 目の前に広がる、ボールやネットをみて大きなため息を1つつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──おまけ──

 

「ただいまー!」

 

「あら、おかえりなさいレーヴォチカ。遠征どうだった?」

 

「ただいま、ねーちゃん。強い人いっぱいいて、すげー楽しかった! 

 あっ、あと、潮崎さんも居たよ。姉ちゃんの彼氏なんでしょ?」

 

「束くん!?」

 

「えっ? う、うん。そう」

 

 束の名前を出すと急にグイッと寄ってくる姉にリエーフは若干ひく。

 

「……るい」

 

「な、何? ねーちゃん」

 

 目の前でアリサがプルプル震えはじめ、何か呟いている。

 何を呟いているのかと、リエーフが聞き返すと、

 

「ずるい! レーヴォチカだけ、束くんに会ってズルいわ!」

 

 そう言うと、アリサはリエーフの肩をつかんで、前後にグラグラと揺らす。

 

「ちょ、ちょっと待って。落ち着いて、ねーちゃん

 えっ、何? 知らなかったの?」

 

「知らなかったわ! レーヴォチカが梟谷グループ? と合宿があるのは知ってたけど、そこに烏野が来るなんて、私聞いてないもん!」

 

「もんって。そもそも、俺もねーちゃんの彼氏が潮崎さんで、烏野にいるなんて、はじめて知ったし……」

 

 その後、リエーフは小一時間ほど、合宿での束の様子を、アリサに質問され続けた。

 そして、思うのであった。

 

(潮崎さん。ねーちゃんが弟大好きって言ってたけど、潮崎さんの事になると、それ以上じゃないですかー!!!)

 

 その後、クタクタになったリエーフがアリサの部屋から出てきた姿が目撃されたという。

 




4件の感想と23件の評価ありがとうございます!


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第5話 プライドが原動力

遅くなってごめんなさい。色々、忙しかったんです。
それにしても、何か急に伸び始めてビビりましたね。
今回は、原作からあんま変えられなかったので繋ぎの話です。
なので気楽に読んでもらえるとありがたいです。


「日向。昨日、烏養監督のとこ行ったんだって?」

 

「はい!」

 

 遠征から帰って来てからの初練習。

 烏養コーチが昨日、烏養監督の所に日向を連れてったのを聞いた。

「退院したばっかなのに暴れやがって」と烏養コーチは愚痴っていたが、自分もそうだったから笑えない。

 

「で? なんて言われた?」

 

「テンポの話と、影山以外の誰とでも合わせられる様にしろって。あとは、常にボールに触っておくよう言われました!」

 

「うん。流石烏養監督。説明されただろうけど、ボールに触るのは本当に大事だよ。僕だっていつも触ってる」

 

 バレーはボールを持てない球技。ボールに触れるのは、ほんの僅か。故にボールに慣れることは必要不可欠。

 僕みたいに、その僅か数秒を操る事を武器にする選手にとっては特に。

 

「まぁ、言っちゃなんだけど、日向は経験も技術もまだまだ。僕も教えるとは言ったけど、僕が教えられるのは、今の日向の次の段階だ。

 だから、今は烏養監督の所でみっちりしごかれてきな。僕もトスあげるの手伝うからさ」

 

「えっ? 潮崎さん、トス上げれるんですか!?」

 

「まぁ、影山やスガさん程じゃないけどね」

 

「後は、良く考えてプレーする事! 本能と直感は違うからね」

 

「はい!」

 

 まぁ、当面は烏養監督に任せれば大丈夫かな。僕も僕でやらなきゃいけない事が山積みだし。

 

 

 

「これって、ブラジルの攻撃の動画?」

 

「うぉ、いっせいに動き出した」

 

「確か、森然の攻撃がこんなだったよな」

 

「シンクロ攻撃ですね」

 

 各々がやりたい練習が多すぎて、第2体育館だけでは収まりきらないため、第1体育館を女子バレー部の練習終わりに貸してもらい、烏養コーチが持ってきたタブレットでシンクロ攻撃の動画をスガさん、田中、大地さんと一緒に見る。

 今の僕に必要なのはコンビネーション。シンクロ攻撃は絶対に僕一人ではどうにもならない。チーム全体が噛み合わなければいけない攻撃だ。

 後は、少しでも戦える時間を延ばす為にも、圧倒的に体力作りが必要かな。

 

 ふと、ネットを挟み反対側のコートを見ると、影山がトスの練習をしている。

 何をしようとしているのかはイマイチ分からない。けど、何かをやろうとしているのは事実。日向だけじゃない。影山も含め、チーム全体が変わろうとしている。

 

「うーん! いい傾向だねー。まっ、1人を除いて、だけど……」

 

「ん? どうした潮崎、練習すんぞ」

 

 おっと、つい声に出してしまっていたらしい。

 

「すいません、今行きます!」

 

 僕はそう言い、練習に頭を切り替えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、なぁ、スカイツリーどこ!? 

 あっ! あれってもしかして東京タワー!?」

 

 日向が鉄塔を指さし、音駒のセッターに尋ねている。

 うーん。凄いデジャブ。

 あと日向、ここ埼玉だからね。

 

 今回の合宿は前の2日間と違い、森然高校でやるらしい。

 その名の通り、自然豊かな場所にあり、涼しい環境でプレー出来る。

 

 

 

 

 

「今回は、どんどんメンバー変えてくから、そのつもりでな!」

 

「「「はい!」」」

 

 初日の1セット目は今回も梟谷。

 

 

 

「あの変な速攻来るぞー!」

 

 木兎さんの読み通り、日向、影山は速攻を仕掛けたんだが……

 影山のトスは日向の元へ届く事なく、手前で落ちる。

 

「ドンマイ影山!」

 

「うっ、すんません」

 

 おっとー? 影山がミスるなんて珍しいけど、なんだあのトス。急激に落下する様なトスだったけど。

 次の速攻はトスが長すぎるが、今度は日向が咄嗟に左手を伸ばし反応する。

 うん。ボール毎日触ってる成果だね。烏養監督の所での練習がきっちり生きてる。

 

 その後も東峰さんのジャンプサーブに、西谷のバックゾーンから踏み切ってのトス。

 

 

「あっ!」

 

 練習を始めたシンクロ攻撃も、スガさんのトスは悲しい事に、僕の頭上を越えていった。

 

「スガさん、すいません! 入るタイミング早かった」

 

「すまん! 俺のトスも高かった!」

 

 新しい事は、まったく持って上手くいかず、結果は16ー25。

 

「おうおう。どうした潮崎! 烏野の調子悪いのかー?」

 

「いやぁ、どうですかね? ウチ、成長期なもので」

 

 木兎さんの問いかけにそう答えると、頭に疑問符を浮かべ、ポカンとした顔をしている。

 はたから見たら、確かに調子が悪く見えるだろう。

 けど違う。僕達は今、新たな事を取り入れ、超速で進化していっている最中なのだ。

 

 

 

「今回のペナルティは、森然限定、【さわやか! 裏山森緑坂道ダッシュ!】だ、そうだ」

 

 体育館を出ると、そこには聳え立つ巨大な緑の坂。

 マジですか。これダッシュすんの? 

 

「それじゃあ、GO!」

 

 まぁ、ウダウダ言っても仕方ない! 負けは負け! 

 大地さんの合図と共に、いっせいに走り出す。

 

 

 

 

「草、気持ちい」

 

「大地さーん! 潮崎死んでます!」

 

 今日の全日程を終え、本日最後のペナルティ。坂を走り終え、地面に突っ伏す。いやぁ、見事に全敗。

 いくら涼しいとは言え、季節は夏。ジリジリとした太陽が余計に体力を奪っていく。無理。死ぬ。動けない。

 

「大丈夫か、束」

 

「生き返れー」

 

 西谷と田中が僕の元へ来て、田中がスクイズボトルでピューと頭に水をかけてくれる。

 中々に気持ちい。

 

「ちょっと、烏養さんにタブレット借りて、シンクロ攻撃の練習すんべ」

 

「そうですね」

 

 大地さんの言葉に反応し、僕は起き上がる。

 

「うおっ! 復活はやいな!」

 

 いきなり起き上がった僕に水をかけていた田中はビクッとする。

 まぁ、キツイけど勝つためには練習あるのみだ。

 

 東峰さんは、サーブ練習へ。僕と大地さん、スガさん、田中はシンクロ攻撃の練習をしに体育館へ向かう。

 その途中、練習をあがる月島の姿が見えた。

 

「大地さん、月島の事どう思います?」

 

「ん? どうって?」

 

「いや、月島の事で気になる事があって。

 確かに、月島は冷静沈着でクレバーなプレーが売りな選手なのは分かっているんですけどね。

 どうにも、合格点は取りつつも、完璧を目指してないように感じるんですよね……」

 

「まぁ、確かにな。

 けどな、俺は、最初の3対3をやった時からそこまで心配してないよ。だから信じて待とう。それが俺たち先輩の役目だろ?」

 

 3対3が、何なのかはよくわかんないけど、大地さんがそう言うならそうなのだろう。

 

 

 

 合宿2日目。我ながら驚く程に華麗なる全敗。

 チーム自体、やる気に満ち溢れているが、それが逆にチーム内での衝突を起こそうとしていたが、今日最後のゲームで東峰さんが1本のスパイクでチームを引き締めていた。

 いつもメンタルの弱い東峰さんだけど、ここは、流石エースと言う一言につきる。

 

「ヘイ、メガネくん。今日もスパイク練習付き合わない?」

 

「遠慮しときます」

 

 木兎さんが、月島を自主練に誘っているが月島は一言いれ、その場を去っていった。

 うん。分かるよ。木兎さんのスパイク練って、際限ないもんね。まぁ、月島の場合はそういう理由じゃないだろうけど。

 

「えー。じゃあ、くろおー、しおざきー」

 

「「えー」」

 

「まだ、何も言ってねぇだろ!」

 

 月島が断った事により、その飛び火が僕と黒尾さんの元へと飛んできた。

 

「木兎さんのが終わったら、潮崎にもトスあげるから、頼まれてくれないか?」

 

 すると、赤葦が僕に近寄り、そう頼んでくる。

 うーん。まぁ、そういう条件なら参加してもいいかな。

 

 

 

 

「もう1本!」

 

「もう1本!」

 

 赤葦が上げ木兎さんが打つ。これを永遠に繰り返す。際限がない理由が分かったでしょ? 

 まぁ、やるからには、ガチでやる。

 

 クロスをきっちりと閉める。

 ストレートを打ちたくなるような、甘い甘い誘惑。

 そうして、罠に引っかかり、ストレートに打ってきた所を、確実に仕留める。

 

「だぁああ!」

 

「さっすが、潮崎。やるねー」

 

 リエーフくんのレシーブ練をしている、黒尾さんがそう言い、口笛をふく。

 

 そんな事をしていると、扉の前に1人の少年が現れる。

 

「おや?」

 

「おやおや?」

 

「おやおやおや?」

 

「おやおやおやおや?」

 

 僕としては、その少年、月島がここに来た事に驚いた。

 その目には何かもやが晴れた様な表情。覚悟が見受けられる。

 ふむ。この短時間で何かあったのかな? 

 

「あの、質問良いですか?」

 

「「「いいよー」」」

 

「! ……すみません。ありがとうございます。

 お二人のチームは、そこそこの強豪ですし、潮崎さんも上手いと思います。

 けど、全国優勝するのは難しいですよね。

 ……これは僕の単純な疑問何ですけど、何でたかが部活にそんなに頑張れるんですか?」

 

「メガネ君さぁ、「月島です」……月島くんさぁ、バレー楽しい?」

 

「いえ。特には」

 

「それはさぁ、下手くそだからじゃない?」

 

 うおっ、凄いストレートに言うな。正直こんな事言われたらグサッと来るぞ。

 

「俺は3年で、全国にも行ってるし、お前より断然上手い! 

 けどな、バレーを楽しいと感じ始めたのは最近だ。

 今まで得意だった、クロスを止められまくって、悔しくてストレートを練習した。

 そんで、次の試合で、同じブロック相手に全く触らせずに打ち抜いた。

 その一本で「俺の時代キタ!」くらいの気分だったね!!」

 

 木兎さんは、そう言い、高らかに笑ってみせる。

 しかし、次の瞬間、目から鋭い光を放ち、プレッシャーが溢れ出す。

 

「その瞬間が有るか、無いかだ。

 将来がどうだとか次の試合で勝てるかどうかとか、一先ずどうでもいい。

 目の前の奴ブッ潰すことと、自分の力が120%発揮された時の快感が全て。

 もしもその瞬間がきたら……」

 

 そう言い、月島を指さす。

 

「それがお前がバレーにハマる瞬間だ!」

 

 正直、ゾクリとした。これが五本の指。通りで強いわけだわ。

 

「まぁ、その自慢のストレート、今さっき僕に捕まってましたけどね」

 

「おい、潮崎! 俺がせっかくカッコイイ事言ったのに、それじゃあかっこよさが薄れちまうじゃねーか!」

 

 だが、自分でカッコイイとか言っちゃう辺り、木兎さんらしい。

 

「はい! 質問おしまーい! 質問答えたからブロック飛んでねー」

 

「えっ、ちょ……」

 

 こうして、また1人、犠牲者が増えた。

 

「月島、次は僕も打つからよろしくね」

 

「……お手柔らかにお願いします」

 

 ニコリと笑い、僕がそう言うと、月島はペコリとお辞儀した。

 

(……良い目してるじゃん)

 

 どうやら大地さんの考えに間違いは無かったらしい。

 




束くんの持病持ちが、良いと言ってくれる人が結構いて嬉しいです。
この様な設定にした理由としては、まず第1にかっこいいから(ここ重要)。
次に、上手い主人公を書きたかったけど、最強すぎると、チームバランスやゲームバランスが崩れてしまうと思ったからです。
更に、ストーリーの進めやすさ的にも、烏野に入れたかったのですが、烏野のは、一人一人にスポットの当たった物語がある為、あまりスタメン等のメンバーを変えたく無かった。
なので、フルセット丸々戦えない様にしてバランスを保つことにしました。
この辺りが大きな理由ですね。


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第6話 歯車

おまたせしました!
合宿編は書きたい所意外、ボチボチはしょって書いてます。
その辺ご了承ください。
それでも良い方は見てってくださーい!


 合宿6日目。未だに負けが多いものの、徐々に徐々に、勝てるようにはなって来た。

 それに、負けは負けでも初日に比べればだいぶ、点差が縮まって来た方だ。

 

「潮崎、自主練つきあって」

 

「? 別にいいですけど、3対3やってるんじゃないんですか?」

 

 黒尾さんの誘いに僕はそう答える。

 影山の提案で、影山と日向が別練習になってから、確か、月島とか木兎さん達と昨日から3対3をやってるって聞いたんだけど……

 

「それが、昨日リエーフが夜久のレシーブ練から脱走して、今日は捕まってんのよ。

 だから、リエーフがこっち来るまででも良いから、3対3参加してくんない?」

 

「あぁ、なるほど。そう言う事なら」

 

 何となく想像がつくね。

 

 黒尾さんに連れられ、第3体育館に着くと、そこにはいつものメンバー+日向がいた。

 

「じゃあ、潮崎はこっちチームなー」

 

「よろしくお願いします」

 

「うん、よろしく」

 

 僕が入ったチームは黒尾さんと月島。そして相手チームが、木兎さんに赤葦、日向というチーム。

 多分だけど、僕の枠がリエーフくんだったんだよね……

 

「なんか、身長のバランスおかしくない?」

 

「練習だし、いつも出来ないことしたいだろ?」

 

 僕の問に、黒尾さんはそう答える。

 まぁ、確かに。こういうのって、こういう機会じゃないと出来ないよね。

 

「そんじゃあ、揃ったことだし、早速始めようぜー!」

 

 木兎さんのその言葉で、各々がコートに入り、ゲームがスタートする。

 

 

 

 

 

「レフトレフト!」

 

「ワンタッチ!」

 

 木兎さんのスパイクを、黒尾さんが拾う。

 

「月島、取り敢えず高めのちょーだいっ!」

 

 月島がアンダーで、要求通りの高めのボールを繋げる。

 ブロックは日向1枚。クロスに打ったスパイクは木兎さんがレシーブに入るものの、その腕を弾き、このセットはこっちチームの勝ち。

 

「だぁー! まじ、潮崎のスパイク取りずれー!」

 

「確かに、潮崎はスパイクって異様に取りにくいよな」

 

「あの、潮崎さん。最後のスパイク、木兎さんがレシーブに反応した様に見えたんですけど……」

 

 休憩がてら、ドリンクを飲んでいると、月島がそんな質問をしてきた。

 

「ん? あぁ、そういう回転かけてるからね」

 

「回転、ですか?」

 

 僕の言葉に、日向が不思議そうに聞き返してくる。

 

「そう。打つ瞬間に、こう、クイッと手首使って、回転かけるの」

 

 僕はそう言い、日向と月島に軽く打ってあげる。

 

「これを、通常の回転の中に何回か織り交ぜてあげると、ちょっと回転が違うだけでめちゃくちゃ取りずらくなるんだよね。

 特にこういう攻撃は、音駒に良く効く」

 

「確かに、ウチみたいなチームからしたら、ホントっ嫌なスパイクだよ」

 

 黒尾さんは、皮肉めいた声でそう告げる。

 音駒は、ただ、スパイクを拾いまくるだけでなく、その殆どが、セッターが極力動かなくて済むように、Aパスを完璧にこなす。そういうチームだ。

 こういうチームには、このスパイクが驚く程に良く刺さる。

 音駒が、ここまでレシーブに力を入れる理由は、先程も言った通りセッターにある。

 故に、このスパイクは、血液を破壊する事によって、間接的に、チームの脳にダメージを与えることができるのだ。

 

 まぁ、僕は聖臣みたいに、コースの打ち分けは出来るものの、あそこまでの回転の打ち分けは出来ないんだよね。あいつの手首の柔らかさは異常だから。

 だから、こうやって、普通の回転の中に上手く織り交ぜて、感覚を徐々に徐々に鈍らせていくのだ。

 

 そんなこんなしてると、レシーブ練から解放されたリエーフくんが来たので、リエーフくんと交代。

 僕はダウンがてら、この練習をみるとしますかね。

 

 

 

 

 

「赤葦カバー!」

 

 リエーフくんが来た事によって、休憩は終わり、ゲーム再開。

 日向がひろったボールを赤葦がカバーし、木兎さんにあげる。

 しかし、そのトスも少し低く、リエーフくんと月島が囲い込む様に、しっかりブロックにはいる。

 

「今日もでけーなー! 1年のくせに!」

 

 木兎さんのスパイクは壁に当たり、ふわりと戻っていく。

 しかし、今のスパイクは、わざと軽く壁に当てている。

 

「おっ、リバウンド」

 

 僕は木兎さんのプレーに思わず呟く。

 そしてそのまま、木兎さんが赤葦に返し、赤葦のトスをしっかりと決める。

 

 リバウンド。体勢が不十分だったり、ブロックに捕まりそうな時に使う技。

 1度、ブロックに軽く当て、体勢を整えた所で、もう一度打ちに行く。

 まぁ、失敗するとそのままブロックに落とされるけどね。

 

 

 

「赤葦ナイスー! 

 チビちゃん! ラスト頼んだ!」

 

 リエーフくんのスパイクを赤葦が辛うじて拾い、木兎さんが日向に繋げる。

 日向が助走に入るが、

 

「うわっ、大人気なっ」

 

 日向にたいし、ブロック3枚。190cmの壁が、完全にキルブロックで止めに来ている。

 壁と言うか、もう傘である。

 

 しかし日向は、スパイクを上に打った。

 そのスパイクは、リエーフくんの指先に当たり、見事ブロックアウト。

 

(! 今の狙って打ったのか?)

 

 多分、成功したのはマグレだろう。けど、その思考に至った事が既に成長だ。

 空中で落ち着き、戦い方を探す。

 僕が求めていた第1ステップに、日向は足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────

 

 合宿最終日

 

「これが最期の1セット! 負けっぱなしのこの合宿! 最後はこの合宿最強の梟谷から1セットとって終わろうや!」

 

「「「しゃぁああああ!!」」」

 

 エンジンを組み、澤村の掛け声でチーム全体の士気が上がる。

 この合宿、青城戦の時の実力ならもっと勝っていたかもしれない。束の加入により、いくつかの勝ちは拾えているものの、進化を始めた烏野にとっては負け続きの合宿である。

 

「取り敢えず、梟谷戦は木兎さんに気持ち良くスパイク打たせない事を意識していきましょう」

 

 束がチームにそう促す。ドシャット出来なくても、触り続ける。それが梟谷攻略への近道である。

 

 

 

「ラストよこせー!」

 

 前半は、点差がはなれる事なく試合が進む。

 木兎に上がったボールに、影山、束、東峰がブロックに入る。月島がいない今、現状最も高い壁。

 しかし、その壁を、木兎は肩をしならせ超インナーに打ち込む。

 3枚ブロックへのインナーへの強打。その難しいスパイクを難なく決めてみせた。

 

「くっそ、キレキレかよ」

 

 殺すつもりで跳んだブロックを抜かれ、束も思わず声にでる。

 

 

 ローテーションが周り、日向が中に入る。

 

 そして、日向が入った1本目。西谷のレシーブに影山のトス。このコート上の誰もが強打を打つと思った中、それを嘲笑うかのように、日向のスパイクはブロックの上を超え、真下に落ちる。

 

(うぉ、木兎さん直伝の必殺技を梟谷戦でやるとは、やるな日向)

 

 日向のフェイントを見て、束は昨日の木兎と日向のやり取りを思い出しながら、苦笑いをする。

 

 

 

 烏野 7ー9 梟谷

 

 木兎に感化されたのか、チーム全体の調子が良い。

 そんな中、影山は思考する。

 

(朝食ったものが、腹に無くなった感じがする。

 

 でも、まだ腹は空かない。

 

 いつもより身体が良く動くし、周りの動きもよく見える。

 

 自分の調子が良い事が、自分で分かる。

 

 日向の調子も良い。無駄な動きもない。今なら……)

 

 そんな時、日向が走り出す。あまりにも早いテンポでの助走。まるで速攻をやるかのような、そんなタイミング。

 

(あの速攻やる気か? でも今ミスったらチームの良い流れを崩すかもしれない。

 新しい速攻は、もっと成功率を上げてからに……)

 

「やんねーの?」

 

 日向の言葉が鮮明に影山の元へ届く。

 影山の脳内練習の日向と動きが重なる。

 まるで、2人だけの空間。

 

 そして、影山は日向にトスをあげた。

 

 滑らかに進むボールは、日向の元へ向かい、そして止まる。

 

 日向が振り抜いたスパイクは、相手に反応させる事なく、地面へと落ちた。

 

「歯車、1つ目!」

 

 

 

 

 とは言え、新しい速攻は未だ成功率は低い。

 

 日向がワンタッチしたボールを影山が拾うと、西谷が走り出す。

 

「オーライ!」

 

 そして、バックゾーンから踏み切り、トスを上げる。

 

「うっ、変な音した」

 

 菅原がそう呟くが、ドリブルはとられていない。

 そして、リベロのトスからエースのバックアタック。

 

「歯車、2つ目!」

 

 

 最終日、最後のセットにて、チームの形が出来上がっていく。

 

 西谷があげたボールに、澤村、東峰、束、田中の4人が一斉に走り出す。

 各々が自分にボールが上がると信じて跳ぶ。

 そうすれば、自ずとブロックは的を絞りずらくなる。その一瞬の迷いが致命的となり、影山が上げたトスを田中が撃ち抜く。

 

「「「おっしゃぁああああ!」」」

 

「歯車、3つ目!」

 

 

 

「影山、東峰さん」

 

 束が影山と東峰を呼ぶ。

 

「どうした?」

 

「いや、ちょっとやりたい事がありまして」

 

「やりたい事?」

 

 影山が首を傾げるのを見て、束はニヤリと笑う。

 

「目には目を歯には歯を。ってやつですよ」

 

 

 ピィー! 

 

 

「大地さん、ナイスレシーブ!」

 

 相手のサーブを澤村がしっかり拾い、影山がセットアップに入る。その瞬間に、

 

「んん? 旭と潮崎がスイッチ?」

 

 菅原の言葉通り、東峰と束がクロスする様にポジションを入れ替える。

 影山がレフトにトスを上げ、束がしっかりと取った助走から跳ぶ。

 しかし、流石は梟谷。スイッチに一瞬驚くも、しっかり3枚ブロックを仕上げてくる。

 

 しかし、束の腕は鞭の様にしなる。

 そして、超インナーにスパイクを叩き込む。

 そう。それは先程、木兎がやったのと同じスパイク。

 まるで、その位自分も出来ると言う様なスパイクを束は放ってみせる。

 

「くぅー! やるなぁ! 潮崎!」

 

「いやぁ、僕も負けてられないんでね」

 

 おそらく、この合宿トップ2の両者。ネット越しに、木兎と束の視線がぶつかり合う。

 

 

 ピィー! 

 

 これには梟谷も思わずタイムアウト。

 

 烏野 18ー18 梟谷

 

 梟谷相手に終盤まで同点で来ている。

 ここに来て、チームの歯車が一つ一つ噛み合い始めている証拠だろう。

 

 そんな中、束はチラリと梟谷ベンチを見ると、そこには段々アツくなって来ている木兎の姿が目に映る。

 それもそうだろう。特に束が徹底的に木兎のスパイクに触る事で、木兎は中々気持ち良くスパイクを打てていない。

 

(よし、結構アツくなってきてるし、仕掛けるならそろそろかな)

 

 タイムアウトも終わり、アツくなりだした木兎のサーブは虚しくも、ネットに突き刺さる。

 徐々に徐々に、梟谷に不穏な空気が流れはじめる。

 

「田中、木兎さんはどっからでも狙ってくるし、サーブで狙って牽制しよう」

 

「おう」

 

 田中が狙ったサーブは、ラインギリギリ、恐らくアウトだろうが、今の木兎は冷静さに欠けている。田中のサーブを木兎が拾い、赤葦にトスを要求する。

 

(少しアツくなり過ぎた木兎さんにトスを上げた場合……

 

 A.普通に決まると問題なし。

 B.ミスる、又はブロックに捕まると、何時もより割増でテンションが下がる可能性あり。

 C.上げ無かった場合、いじける恐れあり。

 

 ……Cが1番めんどくさいな)

 

「木兎さん!」

 

 この間僅か0.5秒。思考のすえ、木兎にトスを上げるが、それを読んでいる男が1人。

 

「分かるよー。確かに、木兎さんに上げないとめんどくさいもんね。

 けど、だからこそ読みやすい」

 

(マズイッ!)

 

 赤葦が気づいた頃にはもう遅く、束の指示に従い、タイミングを合わせて跳んだ3枚ブロックに、木兎のスパイクは捕まり、叩き落とされる。

 このタイミングで、烏野逆転。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 そうしていると、急に木兎の様子がおかしくなる。

 

(えっ、もしかして?)

 

(あっ、あれ来ちゃった?)

 

(うっそ、はやくねー?)

 

(えっ、もう?)

 

(はやいな……)

 

(あー、来た)

 

「赤葦。今日はもう、俺にあげんな!!」

 

(((でたー! 木兎しょぼくれモード!!)))

 

 こうして、ゲーム終盤。木兎の弱点の1つが発動されたのであった。

 




長くなりそうだったので一旦切ります!
多分、次辺りで合宿編は終わるかなー?って感じですね。


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第7話 BBQ

お久しぶりです!
投稿出来てない期間も感想とか貰えると、やはり励みになりますね。
後は、ハイキューの最新話見てモチベ上げております。


 説明しよう。木兎しょぼくれモードとは、木兎の気分の上がり下がりが激しく、アツくなりすぎると冷静さを欠いてしまうだけでなく、その状態でスパイクが決められない回数が続くと拗ねてしまい、その時に発生する木兎の弱点の1つである。

 

「てなわけで、木兎さんは今機能停止なので、この間にどんどん攻めてきましょう」

 

 木兎の特性を知っている束はそう、チームに促す。

 

(とは、言ったものの。流石、梟谷。全然崩れないな……)

 

 木兎が不調になるなんてよくある事。チーム全体の地盤が出来ている梟谷は、5人でも崩れる事なく、赤葦のツーアタックで、再び逆転。

 梟谷は、エースである木兎が引っ張るチームではなく、木兎を伸び伸びプレーさせる為に、木兎を引っ張るチームなのである。

 

 

 烏野 23ー24 梟谷

 

 取り敢えず1点を取り、デュースに持ち込みたい烏野のサーブは、東峰。

 しかし、このミスれば終わる状況に臆したのか、東峰は守りに入ったサーブを打つ。

 

「オーライ!」

 

 小見が上げたボールを赤葦がセットアップに入る。

 

(烏野はそろそろ、ウチのチームがどういうチームか分かってきたはず。

 つまり、木兎から気がそれ始める時間帯……

 更に、木兎さんは打ちたくてソワソワし始める頃)

 

 そして、赤葦はレフトにふんわりと山なりのトスを上げる。

 

(! ヤバい!)

 

「影山! ストレートしっかり閉めろ!」

 

 一瞬反応が遅れた束は、影山に指示を出し、ブロックに入り込む。

 しかし、木兎相手にブロックは1.5枚。

 

(((美味しい所はくれてやる! だからさっさと復活しろ、エース!)))

 

 ギリギリ追いついた束だが、木兎のスパイクは束のブロックを弾いて、地面に叩き付けた。

 

「くっそ!」

 

 

 ピッ、ピィー! 

 

 

 烏野 23ー25 梟谷

 

 烏野高校、強豪梟谷を追い詰めるも、最後は木兎の強打によって敗北に終わった。

 

 そんな中、束は悔しがりながらも、赤葦の方をチラリと見る。

 束と目が合った赤葦は頷きながら、他のチームメイトともアイコンタクトをとる。

 

「いやぁ、流石木兎さん。最後のスパイク、完全に押し負けたなぁ」

 

「よっ! エース!」

 

「かっこいいね!」

 

「やっぱ、最後はエースですなぁ」

 

「きゃー! 猛禽類!」

 

「ミミズクヘッドー!」

 

 そして、先程までしょげていた木兎は、煽てられた事によって、不意に笑い出す。

 

「やっぱり、俺って最強ー!! ヘイヘイヘーイ!」

 

(ハハハ、やっぱ、木兎さんって単純だな……)

 

 あまりの木兎の復活の速さに、束は、ある意味流石だな、と思いながら苦笑いをする。

 

 この烏野と梟谷の試合をもって、東京合宿の全セットが終了。

 

 烏野は最後の最後もペナルティで終わったが、練習を頑張った者にはご褒美が待っているものである。

 

 ジューと肉が焼ける音といい匂いが広がり、各チームの選手達が集まる。

 

「1週間の合宿お疲れー、諸君。空腹にこそ美味いものは微笑む! 存分に筋肉を修復しなさい!」

 

「「「いただきまーす!!!」」」

 

 猫又のありが対言葉と共に、BBQと言う名のお肉争奪戦が幕を開けた。

 

 

 

「分かっているな、龍、虎」

 

「当然だぜ!」

 

「はい! 師匠!」

 

「このタイミングで浮かれついでに、潔子さんに近づく輩を、決して許すな!」

 

「「仰せのままに!」」

 

 そう言う、西谷、田中、山本は、凄い形相で謎のオーラを醸し出している。

 

「何やってんだお前ら」

 

「そんな事やってないで肉食え肉」

 

 しかし、縁下と束によって、3人は頭を叩かれる。

 

「おぉ、流石、2年のオカン2人組」

 

「しっかり、手懐けてるな」

 

 それを見ていた木下と成田が感心するようにそう呟く。

 烏野の2年は、田中と西谷と言う暴走2人組を抱えている。後の4人は比較的まともだが、その暴走2人組を止めるのは縁下と束の役割であり、その中でも縁下は筆頭だ。

 ここだけの話、3年が抜け、もし今回の様に束が居ない時、2年と1年の曲者達を自分がブレーキをかけないといけないと考えると、縁下は胃に穴が飽きそうな思いである。

 

 

「あっ、強羅さん。スパイクサーブの安定させるコツ教えてくれて、ありがとうございます」

 

「おう、潮崎。こっちもブロックのコツ教えてくれて助かったわ。ウチはサーブ&ブロックが主軸だからな」

 

 束はこの合宿中、ちょくちょく、強羅にスパイクサーブを教えて貰っていた。

 束自身、スパイクサーブは打てるものの、試合後半に連れて、若干安定性に欠けていた為、生川の中でも特にサーブが上手い強羅に聞いていたのだ。

 

 

 

「おい、なんか、あそこの絵面がヤバい」

 

「うぉ、町中だったら通報されそうですね」

 

 小鹿野と千鹿谷の視線の先には、巨人の密林に迷いこんだ小さな少女がいた。

 別に、東峰達は親切心で話て居るのだが、バレーで鍛えられた巨人達に囲まれては、はたから見たらただのエグい絵面である。

 

「あぁ、俺はあっちに囲まれてー」

 

 小鹿野が次に目が行ったのは、各々のチームのマネジャー達が集まっている場所である。

 

「我が、梟谷グループのマネちゃんズはレベルが高いが烏野が加わって、更にそれが上がったとおもうが、どうだろうか?」

 

「異論ないです」

 

 そんな女子の花園に、1人の少年が入り込む。

 

「おい! 潮崎が行ったぞ!」

 

「なっ! うらやまけしからん!」

 

 別に束自身、飲み物が切れたので、ついでに皆の分の飲み物を貰いに行っただけである。

 

「烏野の3年生って、真面目そうですよね」

 

「まぁ、エースはメンタル弱いけどね」

 

「えっ、あんなに怖そうなのに……」

 

「けど、単細胞エースよりはマシでしょ」

 

 マネちゃんズがそう話していると、

 

「それにしても、潮崎くんって、爽やかで、いかにもイケメンって感じだよねー」

 

 先程、飲み物を取りに来た束を見ながら、白副が幸せそうに、お肉を食べながらそう呟く。

 

「確かに、バレーも上手いし、人当たりも良い。モテる要素が詰まってるわよね」

 

「実際、潮崎、彼女いるしね」

 

「えっ、そうなの!?」

 

 清水の発言で、話がヒートアップしていく。女の子はいつになっても恋バナが好きなのである。

 

 そんな話をされているとはつゆ知らず、爽やかイケメンは、単細胞エースがいる元へ、飲み物を持って行く。

 すると日向がキラキラした瞳で木兎に話かけていた。

 

「うぇえ! 全国で五本の指!? すげぇー!」

 

「だろー?」

 

「でもお前らの所の牛若は3本の指に入ってくる奴だぜ?」

 

「3本!?」

 

「おい! そんな事言ったら俺が霞んじゃうじゃねーか!」

 

「3本って事は後2人いるんですよね?」

 

 木兎が黒尾にそう言うと、リエーフが肉をほうばりながら、黒尾に問いかけてくる。

 

「東北の牛若、九州の桐生、関東の佐久早。これが今年の全国高校3大エース」

 

「因みに、五本の指の残り1人は、稲荷崎高校の尾白アランさんだね」

 

 飲み物を配りながら、黒尾の言葉に束が付け加える。

 

「潮崎さんは、あんな上手いのに、五本の指に入ってないんですね」

 

「まぁ、僕そんなに、認知度高くないしね」

 

 月島の疑問に、束は笑いながらそう答える。

 

「それに、個人が強いからって、チームもトップ3とは限らないぞ?」

 

「まぁ、聖臣がいる井闥山は優勝候補筆頭ですけどね」

 

「「じゃあ、それを倒せば日本一ですか!?」」

 

 黒尾と束の話しを聞いた日向とリエーフのセリフが被る。

 

「言うねぇ、下手くそトップ2」

 

 黒尾はニヤリと笑い、そう答えるのであった。

 

 

「じゃあ、またな」

 

「おう。また」

 

 太陽が沈み始め、空が茜色になる中、黒尾と澤村は言葉を交わす。

 宮城から来ている烏野は、一足先に帰ることになる。

 他の選手達に見送られる中、烏野高校の東京合宿、全日程が終了した。

 

 

 

 

 

 烏野は、予選で2回勝てば、10月の代表決定戦に参加出来る。

 

 

 あるチームには、2mが。

 

 あるチームには、小さな巨人が。

 

 あるチームには、鉄壁が。

 

 あるチームには、大王様が。

 

 あるチームには、全国3本の指の大エースが。

 

 

 様々な選手、多くの思いを持ったチームが集まる。それが春高。

 

 8月11日。全日本バレーボール高等学校選手権大会。通称、春の高校バレー。宮城県代表決定戦1次予選。ついに開幕。



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第8話 高いだけじゃ勝てない世界

お久しぶりです。エタってないですよー!
夜中にこっそり投稿です。結構殴り書きなんで誤字あったらすいません。


 ブッスー

 

「潮崎、見事に不貞腐れてんな……」

 

「まぁ、久しぶりの公式戦だし。朝から張り切ってたしなぁ」

 

 僕を見ながら、木下と縁下がそんな事を話してる。

 はぁ。だって仕方ないだろ? 春高1次予選、1回戦目の扇南戦。僕、潮崎束は、試合に出れなかったんだから! 

 

「そう、ヘコむなって。安心しろ! お前が出ずとも俺らが勝ってやるから!」

 

「おい、田中! それ逆効果だから! トドメ刺しちゃってるから!」

 

 縁下がいつも道理、頑張ってツッコミしながら、僕を慰めてくれる。

 いやね、分かるよ? 僕のスタミナを考慮してくれたり、僕の存在を出来るだけ隠したかったり、烏養コーチにも色々考えがあるのだろう。

 けどね? もし次の試合も出られない何て事があれば、次の公式戦は数ヶ月後。

 

「あぁ、気が遠くなりそうだ……」

 

 そんな僕の独り言は、体育館に鳴り響く歓声と共に消えていった。

 

 

 

 

 

 2回戦目、ウチの相手は角川学園。

 

「うわー。ネット挟んでみると、余計にデカく見えるねー」

 

 角川の9番。聞いた話しだと、2mもあるらしい。

 恵まれた体だ。バレーボールにおいて、高さは正義だ。身長が高いと言うだけでそれは才能の1つになり得るほどに。

 

 各チーム、アップを済ませ、整列をし、両チームの選手がポジションに着いた所で、試合開始の笛がなる。

 えっ、僕はって? まぁ、分かってたけど、案の定ベンチスタートですとも。はぁ、泣きたい。

 

 月島のサーブで試合が始まる。角川はサーブを落ち着いてボールを拾い、セッターがレフトへ。そこに待ち受けて居るのは、2mの巨人。

 まずは、エースのド直球勝負。それだけ、向こうにはブロックを打ち抜けるだけの自信があるのだろう。

 

「んなっ……!」

 

 しっかりと助走を取った9番は、セッターがあげた山なりのトスを、影山、日向、田中のブロック3枚の上から叩きつけた。

 予想はしてたけど、凄いな。

 

 そこから試合が進んで行くが、スパイクは勿論、ブロックに押し合いと、圧倒的なまでの高さで、角川は点を取っていく。

 一方ウチは、相手のサーブミスでなんとか1点を取る形になった。

 

(けど、ウチはただ高いだけの相手に負ける程弱くはない)

 

 

 

 角川学園 4ー1 烏野高校

 

 早速、ウチはタイムアウトを取る。

 まぁ、流れを止めたいってのもあるだろうけど、大地さん達も気づいたっぽいし、そっちの話がメインだろうな。

 

「角川の9番、多分ストレート打てないっぽいですね」

 

 スクイズを渡しながら大地さんに話しかける。

 

「あぁ、おそらくコースの打ち分けは出来ないんだろうな」

 

「体の向きそのまま、クロスに打ってる感じですね」

 

 予想通り、大地さんも西谷も気づいていたようだ。

 

「練習見た感じ、9番はまだ、バレー始めて間もないんだろう。だから、次からは9番のスパイクはストレート捨てるぞ!」

 

 烏養コーチの指示どうり、ストレートを捨て、クロス1本に絞る。

 

 これによって、攻撃は防げる。後は、どう攻めるか。

 

 しかし、その問題はいとも簡単に解決される。

 それは、日向と影山の変人速攻。それも新しい方の速攻。

 バレーを始めたての9番にとって、マイナステンポの速攻は、ボールを見てから飛ぶのでは追いつけない世界。

 

 

 

 21ー24

 

 速攻が決まるようになり、試合のペースを掴み、マッチポイント。

 

(おぉー、影山、今日は特に調子いいみたいだな。新しい方の速攻も良く決まってる)

 

 角川も何とか食らいついてるけど、日向の速攻が決まり、第1セットはウチが取る形となった。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────

 

 

 

 1セット目を取り、烏養は、チラリと何処かソワソワした様子の束を見る。

 

(はぁ、流石に限界が近いかねぇ)

 

 ため息を1つつき、選手達に集合をかける。

 

「潮崎、次のセット、日向と変われ」

 

「! はいっ!」

 

 その言葉に、束は一瞬ピクリと反応し、満面の笑みで返事をする。

 

 

 

「あの、良かったんですか?」

 

 選手達がコートに入って行くのを見ながら、武田が烏養に問いかける。

 

「まぁ、この作戦に関してはあんま期待してなかったし、我慢させ過ぎて、ストレス抱えられるよりはマシだからな」

 

 今の烏野は、多くの武器を身に付けた。変人速攻以外にも点を取れる現状、烏養としては、束の存在は2次予選まで隠して起きたかったのが本音だ。

 しかし、当の本人はそんな事お構い無しに、この試合、このたった1セットでこの体育館の全ての人を魅了する事になる。

 

 

「ありゃ? 烏野の10番代えちまうのか? 折角リズム出来てきたのに」

 

「ホントだー。なんで翔ちゃん代わっちゃったんだろ?」

 

「何かひょろひょろ〜」

 

 烏養一繋の隣で試合を見ていた大野屋の言葉から始まり、その更に横に居る子供達もそんな事を話し出す。

 いや、この3人だけでは無い。恐らくこの試合を見ている殆どの人間が思っただろう。「何故?」と。

 第1セットの烏野の得点源の殆どが日向と影山による変人速攻だ。その攻撃で試合のリズムも掴めている。そんな中でその片割れを代えてまで、出てきた選手は特別背が高いわけでもない、パワーがとんでもなくある訳でも無さそうな、細身の少年なのだから、疑問を抱くのも当然だろう。

 

 しかし、そんな疑問も束の間、観客の殆どの疑問が晴れぬまま第2セットは始まる。

 影山は早速、束を使うが、日向との様な速攻では無い故に、百沢はしっかりとブロックにつく。

 

「あぁ、ほら言わんこっちゃない」

 

 圧倒的に束の打点より上にいる百沢のブロックに、大野屋はそう嘆く。

 

「お前達、チビ太郎みたいな攻撃が出来ないと勝てないのか聞いたな?」

 

「え? はい」

 

 烏養は自分の教え子を見ながらそう呟いた。

 

「いいか、烏野のシンクロ攻撃なんかは、圧倒的な高さに勝つための手段の1つだ。けどな、チビ太郎とは別にああやって、個の力で捩じ伏せる戦い方もある事を覚えておくんだぞ」

 

 烏養がそう言ったのと同時に、束のスパイクは上に向かって放たれ、ボールは百沢の指に当たり、そのままコート外へと吹っ飛んでいった。

 それは日向が合宿中にリエーフ相手に使ったスパイク。しかし、それとは似て非なる程、無駄のなく、偶然でもまぐれでも無い、完璧なまでのブロックアウトであった。

 

「「「しゃあ!」」」

 

 烏野の選手達の喜びが静寂に包まれた体育に響き渡る。

 

「うぉぉぉ!」

 

「おいおい、なんだよあれハンパねぇ!」

 

「何あれ、狙ってやったの?」

 

「あんな選手、烏野に居たか!?」

 

 その喜びの声が火種ななり、会場のボルテージは燃え上がり始める。

 

「潮崎さん、ナイスキーです」

 

「ありがとう。影山もナイストス。今日はいつにも増して調子良いみたいだね」

 

「お前らもっと喜べよ!」

 

 こんな中でも、冷静でいる2人に、田中はついツッコミを入れてしまう。こう見えて田中は意外とツッコミ役なんだぞ。と、束は影山に話していた。

 

 

「うおぉ! すげぇな今のスパイク! 烏養さん、あんたあの13番の事知ってたのか?」

 

「あぁ、昨年少し烏野の練習見る事があってな。ちょっと、体が弱い見たいだけどあの頃から頭1つ抜き出てたよ」

 

 大野屋の問に、烏養はそう答え、「そんでもって」と付け加える。

 

「俺が教えてきた選手の中で唯一化け物と呼べる存在だよ。潮崎は……

 アイツにとって、ただ背が高い相手じゃ、壁にはなり得ない」

 

 そこからの試合の流れはあっという間であった。

 基本的に遅めのテンポの攻撃がメインかと思えば、虚を突くようなタイミングで速攻。百沢のブロックは主に皿で対応し、特に、跳ぶタイミングを遅らせ、体を仰け反るようにして触ったブロックが角川のコートに入った時の体育館の盛り上がりは最高潮に達していた。

 

 蓋を開けて見れば圧勝。圧倒的な技術の前に、角川学園は為す術なく第2セットを落とし、これが潮崎束にとっての春高の初陣となった。

 これによって、烏野高校、春高1次予選突破が決定した。

 

 

 百沢雄大にとってバレーとは高さだけで勝てる単純なスポーツだと思っていた。

 しかし、そんな甘いスポーツでは無い事をこの試合で、変人速攻や束の存在に思い知らされた。

 この試合は、百沢が進化する為のターニングポイントとなり得る試合となったのだ。

 

「角川の9番。次会った時は相当化けてるかもね」

 

 束の言葉はまたもや、体育館に響き渡る熱狂の渦の中へと消えていった。

 



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第9話 久しぶりデートと突然エンカウント

オリジナルストーリーです。
正直上手く書けてるかは分かりませんが是非読んで見てください。


『ブーッブーッ』

 

 灰羽アリサがお風呂から上がり、自室に戻ると、ベットの上で充電されているスマホが電話によって振動していた。

 

「誰からかしら?」

 

 そう思い、スマホを見ると、そこには彼女がこの世で1番愛している男性の文字が浮かんでいた。

 アリサさ嬉嬉として、その名前、潮崎束の文字を見た瞬間に通話ボタンを押し、スマホを耳に当てる。

 

「もしもし!?」

 

『あっ、出た。今忙しかった?』

 

「うんん。大丈夫よ」

 

 普段は自分からの電話に秒で出る彼女が中々出なかった為、忙しかったのかと思ったが、「お風呂入ってたの」と言うアリサの言葉に束は、「なら良かった」と返事する。

 

「それで、どうしたの?」

 

『あれ? 何か用事がなきゃ電話かけちゃ駄目だった?』

 

「えっ、全然そんな事ないわよ!」

 

『あはは、冗談冗談。ちょっとからかっただけだよ』

 

 その言葉に、「ムー」と少し拗ねるアリサに束は「ごめんごめん」と少し笑いながら謝る。

 

『まぁ、冗談はさておき。明日って予定空いてる?』

 

「明日? 空いてるけど……」

 

『それは良かった。じゃあデート行かない?』

 

「えっ!? どうして急に!?」

 

『明後日からまた東京で練習試合あるんだけどさ、急遽明日練習休みになっちゃったからさ。一足先に東京行って、久々にアリサとデートしたいなぁと思って。嫌?』

 

「い、嫌じゃない! 嫌じゃないわ! 行きましょう!」

 

『了解』

 

「ところでどうやってくるの?」

 

『新幹線で行こうと思ってる』

 

「じゃあ、東京駅ね。迎え行くわ」

 

『そう? ありがとう。じゃあ、また連絡するね』

 

「ええ」

 

『ピッ』と言う音と共に、通話を終了する。

 

「ふふっ。久しぶりの束くんとのデート! 気合い入れなくっちゃ!」

 

 アリサはそう言うと、スマホを操作し、デートのプランを考えるのであった。

 

 

 

 

 

「たーばーねーくんっ!」

 

「ごふぅ」

 

 翌日。束が改札を出ると、勢い良く束の方に向かって走ってくる物体。基、灰羽アリサが束の名前を呼びながらハグと言う名のタックルをかましてくる。

 束はそれを何とか受け止め。頭を撫でるとアリサはニコリと顔をあげる。

 

「久しぶり、アリサ。待たせちゃた?」

 

「久しぶり。大丈夫よ」

 

「それよりアリサ。抱きついてくれるのは嬉しいんだけど、そろそろ離れようか。ここだと視線がね……」

 

 いつもより、少しオシャレな彼女。普段から周りの視線が集まりやすい美女がいきなり男の名前を呼びながら抱きついているのだ。

 通り過ぎる人々がチラチラと見てくる状況に、束は少し苦笑いをしアリサもそれに気づいたのか、恥ずかしそうに離れる。

 

「それじゃあ、一旦、僕の家に向かおうか」

 

「いえ、ここから今日の目的地にそのまま向かうわ!」

 

「えっ? でも荷物は?」

 

「大丈夫よ。預けれるし。何より久しぶりのデート、いっぱい束くんと居たいじゃない?」

 

 とびっきりのアリサの笑顔に、束は少し見惚れてしまうが、直ぐに何時もの何処か余裕のある笑みをこぼす。

 

「そうだね。そう言う事なら従いますよ、お嬢様」

 

 束はそう言うと、キャリーバックを掴んでいない空いている方の手をアリサと繋ぐ。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────

 

 

 

 あの後、アリサに目的地を聞き、たどり着いたのがこと。ラ〇ンドワンである。

 多くのスポーツが出来、カラオケや、ゲームセンターなかんも内蔵されている。更には、大型ショッピングモールの中にある施設な為、ショッピング等も楽しめる。こういうのは宮城には仙台まで行かなきゃ無いから素直に羨ましい。

 

 受け付けでお金を払い、コインロッカーに荷物を入れる。練習試合で使う練習着があるので、それと貴重品を持ち、更衣室に移動する。

 着替え終わり、外で待っていると、「おまたせっ」と言う声が聞こえる。

 スマホを操作していた指を止め、顔を上げると、そこには、何時も腰あたりまで伸ばした灰色に近い金髪を結び、ポニーテールにしているアリサが立っていた。

 スラッとしたモデルの様な体型。178cmほどある身長は、女性の中では高い方だろう。男のプライド的に、こういう時に関しては背が高くて良かったと思う。

 今日は運動をする為か、何時もより少し薄めの化粧。まぁ、そもそも元の素材が相当良い彼女はあまり化粧はしていないが。

 運動着のせいか、彼女の白い肌が何時もより出ており、身体のラインもハッキリしている。

 まぁ、これ以上の彼女の身体の特徴は僕だけの秘密としておこう。

 

「何ボーっとしてるの? 早く行こ!」

 

「ごめんごめん」

 

 アリサに見惚れていた、僕の手を掴んだ彼女は、そう言うと腕を引っ張りながら笑顔で駆けて行く。

 本当に楽しそうだ。彼女の笑顔を見ていると僕も自然と笑ってしまう。

 そして、改めて実感する。あぁ、僕は彼女の事が好きなんだと。

 

 

 

 

 

「……私、初めてなんだけど上手くできるかしら」

 

「大丈夫。僕が手取り足取りおしえるからさ」

 

「本当? よろしくお願いしますね先生」

 

「先生は言い過ぎじゃないかな」

 

 そう言うと、僕とアリサの体が密着する。

 

「じゃあ、まずは右手で棒の柄の部分をしっかり握って、左手の親指と人差し指で先端を軽く掴んで」

 

「こう?」

 

「そうそう。そしたら、左手はそのまま固定しながら、棒を前後に軽く擦るように……」

 

「こうかしら?」

 

「うん。じゃあ後は、こうやって、白いのを発射させるだけ」

 

「わっ! 上手くいったわ!」

 

「流石アリサ。上手だね」

 

 僕はそう言うと、アリサのそのサラサラの髪を撫でる。

 え? 何してるんだって? そんなの、会話の流れで分かるだろ? ビリヤードだよビリヤード。ここには、こういうボードゲーム類もあるらしい。

 それにしても、やっぱりアリサは運動神経が良い。どのスポーツも飲み込みが早い。

 そんな事を考えていると、ビリヤードを教えるのに密着していた為、アリサが顔だけ振り向き、こちらを見てくる。そして次の瞬間、

 

「チュッ」

 

 少し状態を起こした彼女の柔らかい唇が僕の唇を塞いだ。

 

「なっ!」

 

 初めての行為ではない。しかし、いきなりの出来事に僕の思考が一瞬にして固まる。

 

「ふふっ。いつも落ち着いてる束くんの赤面。可愛い」

 

 アリサは一瞬チロリと舌なめずりをしながら妖艶な笑みでそう言い放つ。

 彼女は偶にこう言う所がある。本当に心臓に悪い。

 

「嫌じゃないけど、場所は考えようね?」

 

「はーい」

 

「あと、その顔は僕以外には見せちゃダメだよ」

 

「? ごめんなさい?」

 

 僕の言った言葉の意味が分からなかったのかアリサは顎に手を当て、首を傾げる。

 ほら、そういう仕草とか。少し彼女の大学生活が心配になる。

 僕は意外と独占欲の強い男なのかもしれない。

 

 

 

 その後、ある程度のルールを理解したアリサとビリヤードをし終わり、次は何をしようかと移動しながら話していると、何やら揉めている複数の男性を見つける。

 

「だーかーらー。俺達この後試合なの。だから先に俺達に使わせろっていってんの。分かるか?」

 

「……そう言う問題じゃないだろ。……順番は守れよ」

 

「まぁまぁ、少し落ち着けって」

 

 明らかに一触即発の様子。おそらく大学生であろう、ガタイのいい男が3人とどちらかというと細身な男が2人。

 近づくにつれて、声も聞こえてき、そんな中で何処かで聞いた事ある声が2つ。

 

 そして、その中の1人の男と目が合う。

 

「「あっ」」

 

 僕と男の声が重なり、言い合いしていたもう1人の男がこちらを向くように振り返る。

 

「あっ? ……何でお前がここに居るんだよ」

 

「それはこっちのセリフなんだけど?」

 

 僕を見ると同時に、男はため息と共に悪態をついてくる。

 

 ここで言い争いをしていた内の2人組は、僕に悪態をついてきた男、基、井闥山学園の佐久早聖臣と聖臣を宥めていた古森元也であった。




長くなりそうなんで、ここで切ります。
次には終わらせる予定です。


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第10話 ハイタッチ

想像以上に長くなってしまった。


 前回のあらすじ。

 

 春高、1次予選を通過した我ら烏野高校は約2ヶ月後に迫った2次予選に向け、東京へ練習試合があるのだが、前日の練習が急遽休みになった為、僕は一足先に東京へ。

 そこで久しぶりに彼女である灰羽アリサとデートをしていたら、大学生らしき3人組と言い争いをしている井闥山学園排球部に所属する佐久早聖臣と古森元也とばったりエンカウントしたのであった。

 

 回想終了。

 

 

 

「それで? 古森達はどうしてここに? しかも男2人で……」

 

「久しぶり、潮崎。

 別に2人って訳じゃなくて、部活の奴らと久しぶりのOFFだし遊びに来ててさ。そんで、先輩に先、バレーコート並んどいてって言われて並んでたらさ、この状況よ」

 

「うん、古森も聖臣も久しぶり。で? それだけじゃこうはならないでしょうに」

 

「……こいつらが、後から来たのに先に使わせろって言うだよ。ホントなんなんだよ……」

 

「まぁまぁ、そう言うなって。何か、今日ここでバレーのイベントがあるらしいんだけど、この人達はそれに出るから先にコート使わせて欲しいんだって」

 

 聖臣の言葉に古森が補足を入れてくれる。まぁ、少し聞いた感じ、向こうの言い方も言い方だけに、聖臣は気に入らないんだろう。

 まぁ、首も半分突っ込んじゃったし、知り合いのよしみだ。少しは手助けしますかね。

 

「お兄さん達、お兄さん達もバレー選手ならバレーで決着つけるのはどうですか?」

 

「あ? んだ、お前。だからこっちはこれから試合なんだって言ってんだろ。こいつらと遊んでる暇ないだよ」

 

「じゃあ、彼らもそのイベントに参加するなら?」

 

「はっ、別に俺らは一向に構わねぇが、イベントは3対3。受付はあと10分位で締め切ると思うぜ?」

 

「だってさ。ここは一緒に来てる人でも誘って出てみたら?」

 

 僕がそう言うと、古森はスマホを見ながら「うーん」と悩む。

 

「んな事言っても、今から先輩達呼んでも10分じゃ間に合わないよなぁ。けど、それが1番平和的な終わらせ方だろうし……」

 

 古森は少し悩みながらも、「あっ」と呟く。

 

「じゃあ、潮崎が一緒に出てくれよ」

 

「は? おい、何で俺がこいつと組まなきゃいけないんだ……」

 

「いや、僕、デート中なんだけど?」

 

 聖臣が嫌そうな顔をするが、嫌なのは僕もだから。

 

「あれ? よく見たら君、めっちゃ美人じゃん! ハーフ!? 良かったら一緒に遊ばない?」

 

「えっ? えっと……」

 

 そんな事していると、大学生のうちの1人がアリサの肩を掴み、そう話しかけている。それを見た瞬間、僕の手は勝手に反応した。

 

「すいません。この人僕の彼女なんで、その汚い手、離してくれませんか? 

 そもそも、貴方、今から試合なんでしょう?」

 

 大学生の手首を掴み、笑顔でそう言うと、ギロリとこちらを睨んでくる。

 

「は? お前が彼氏とか有り得ねぇわ。正直釣り合ってねぇぞ?」

 

 今の言葉には正直イラッと来た。

 

「ねぇ、アリサ。デート中ごめんなんだけど……」

 

「その続きは言わなくて大丈夫。気にしないで! 私が1番好きな束くんはバレーをしてる時の束くんだから」

 

 僕の言葉を途中で遮った彼女はニコリと笑った。今日ばかりはこの笑顔に甘えさせて貰おう。

 

「ありがと。ねぇ、古森。古森の提案乗った。僕も参加するよ」

 

「……おい待て、お前何勝手な事言って……」

 

「あれれぇ? もしかして君、負けるのが怖いのかなぁ? まぁ、しょうがないよね。だって君、弱そうだもん」

 

 僕の言葉に反応した聖臣に、大学生の1人が煽ってくる。

 

「チッ、……束、今回だけ組んでやるよ」

 

 彼の言葉が聖臣にとってプツンと来たんだろう。こうして僕達3人の即席チームが結成した。

 

 

 

 

 

 イベントのルールは、3対3の25点先取、ワンセットマッチのトーナメント形式。

 僕達より前の試合を見てたけど、流石に、遊ぶ為の施設である為、そこまでガチの人は参加してない。それに3対3なら結構、点も入りやすいし、そこまで長引きはしなさそうだな。

 

「あっ、あのユニフォームどっかで見た事あると思ったら東山大学じゃん」

 

 古森がそう言いながら、先程の大学生達を指さす。参加者はユニフォームかビブスの着用しなくてはいけなく、大学生達は深緑のユニフォームを着ていた。

 

「東山大学?」

 

「そっ。大学バレーの中じゃ結構強いチームだった気がする」

 

「……それ、高校出てプロになれなかったって事だろ。興味無い……」

 

 聖臣はこんな事言っているが、古森の話しでは結構強い大学みたいだし、口だけじゃないのかもしれないな。

 

「でも、何でそんな大学がこんなイベントに?」

 

「さっき、チラッと見たんだけど、ほらあそこ。カメラあるだろ? 何かの取材なんだと。だから、この気に乗じて、バレー部の宣伝とかじゃない?」

 

「……周りからしたらいい迷惑だな」

 

「それ僕達も言えないから」

 

 確かに、楽しさ目的でイベントに参加してる人達からしてみればいい迷惑だろう。けど、それは僕達もおなじだろう? 正直僕も含めて、この3人がバレーで手加減できるとは思えない。

 

「それにしても、よく聖臣がこんな人がいっぱい居るとこ来たね。意外なんだけど……」

 

「……こいつに騙されたんだよ……」

 

 聖臣はじろりと、古森の事を見る。あぁ、何とかなく予想はついたよ。

 聖臣は重度の潔癖症で、人混みの様な人が多くいる場所は大嫌いな奴だ。こいつが自主的にここに来るとは思えないからね。

 

 そんなこんなしてる内に、次は僕らの試合。東山大学の人達とは順当に行けば、当たるのは決勝だしね。ここはいっちょ、頑張りますか。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────

 

 

 

 イベントは、お互い危なげもなくトーナメントを勝ち進めていき、決勝まで駒を進めた。

 束達の試合を見ていたアリサの元に、1人の眼鏡をかけた、何処か気弱そうな男性が近づいてくる。歳はおそらく、アリサと同じくらいだろうか。

 

「あの、今から試合する彼らと一緒にいた人ですよね?」

 

「? そうですよ?」

 

 おずおずと聞いてくる青年に、アリサは首を傾げる。すると、青年は「バッ」と思い切り頭を下げる。

 

「すみません。ウチのチームメイトが迷惑をかけてしまって」

 

「えっ、ええ? それはもう大丈夫ですけど、貴方は?」

 

「あっ、すみません。僕は、東山大学排球部のマネージャーをしています」

 

 いきなりの事にテンパるアリサに、青年はそう言う。そして、「お隣よろしいですか?」と許可を取り、アリサの隣に腰を下ろす。

 

「彼ら。高校生ですよね?」

 

「はい。束くん、あっ、あの13番の子は高校2年生です。後の2人の事はよく分からないですけど多分高校生だと思いますよ」

 

「そうですか。高校生とは思えないくらい、あの3人は上手いですね。個人技ならおそらくウチより上かと」

 

 青年はそう言うと、「でも」と付け足す。

 

「恐らく、彼らはウチに勝てませんね」

 

「えっ?」

 

 アリサの驚きの声に、「見てください」とコートを指さす。

 そこには、東山大学の選手が打ったスパイクを拾った佐久早がいた。

 

「ナイス、佐久早」

 

「古森カバー」

 

「オーケー」

 

 佐久早が上げたボールに、古森がセットアップに入り、トスを上げる。

 しかし、次の瞬間聞こえたのは、スパイクを打った音ではなく、「ドスッ」と言う鈍い音だった。

 

「いったぁ。ねぇ、何で急にバックアタックしてくるのかなぁ?」

 

「……今のは俺のボールだろ……」

 

「いや、僕のでしょ」

 

「おいおい、またかよ。一旦落ち着こうぜー」

 

 鈍い音の招待は、ボールに向かって跳んだ束と佐久早が衝突した音であった。

 

「ほら、あれですよ」

 

 その光景を見て、東山大学のマネージャーである青年はそう呟く。

 

「確かに、彼らは個人の力は相当強いです。それで今までは勝てていましたが、今回の相手は今までとはレベルが違う。

 どんなに、個人が上手かろうが、バレーは繋ぐスポーツです。特に10番と13番。彼らにはチームワークが圧倒的に足りない。勝つのは厳しいでしょうね」

 

 青年の言う通り、この様な事は今回だけではない。時には、古森が上げたレーブをどちらも、セットアップに入らずスパイクモーションに入るなど、数え出したらキリがない。

 ここまでのトーナメントは個の力で勝っていたが、今回の束達の相手は、大学バレーでは有名なチーム。古森が何とかカバーしているものの、そんな相手に個の力だけで勝てる程バレーはあまくない。

 

 しかし、アリサはその言葉に「大丈夫ですよ」と答える。

 

「束くんは、約束してくれましたから。もう絶対負けないって」

 

 

 

 

 

 しかし、アリサの言葉とは裏腹に、気づけば、点数は、20ー8。

 束達のプレーは何も改善される事なく、試合は終盤を迎えていた。

 

「佐久早、潮崎。このままじゃ、負けるぞ。合宿での試合と、この試合は別か? ただのイベントだから別に負けても良いのか? 違うだろ?」

 

 この状況を見かねた古森は、束と佐久早にそう問いかける。

 高校No.1リベロと名高い、古森元也はユース合宿にリベロとして呼ばれる、まとめ上手で大人気のある人物だ。

 

 その言葉に、頭を冷やしたのか、束は少し溜め息をつく。

 

(たしかに。負ける訳にはいかないよね。中学の頃、アリサと約束したし)

 

「ごめん、古森。少しアツくなりすぎた」

 

「いいって、いいって。けど、この試合絶対勝とうぜ」

 

「うん」

 

 佐久早は何も言わないが、2人は何も気にしない。2人は知っているのだ。佐久早聖臣と言う男が超がつくほど負けず嫌いと言う事を。

 

 

「ナイスレーブ」

 

 相手のサーブを古森が綺麗に上げる。そこからは一瞬の出来事だった。

 ボールの下に移動した束は、レフトに速いトスを上げる。

 

「速攻!?」

 

 東山大学の選手が、驚いた時には、佐久早は既に空中でスパイクモーションに入っていた。

 しかし、束のトスは、佐久早の最高到達地点の少し下を通りすぎる。

 

((!!))

 

「チッ……」

 

 2人に走る違和感。だが、何とか佐久早が左手でカバーし、ボールは相手コートに落ちる。

 

「ドンマイドンマイ! まぐれだまぐれ。切り替えてこー」

 

(……)

 

 東山の選手の煽りなど、気にも止めることなく、束は古森の元へ向かう。

 

「古森、次もちょうだい」

 

「あいよー」

 

 古森は束の要求どうり、次のサーブもきっちり束にAパスする。

 そして、先程と同じ様に、一瞬で佐久早にトスを上げる。

 

「また速攻!」

 

「気にすんな! どうせ決まんねぇ! 落ち着いて対処しろ!」

 

(……うるさいな)

 

(ユース候補なめんな)

 

 佐久早が振り抜いた右腕は今度はしっかりとボールを捉え、相手コートに叩きつけた。

 ただ、先程と違うのは、束のトスが少し高かったと言う事。

 

 深視力と言うものがある。目標までの距離を目測で性格に図る力。潮崎束と言う男は、その深視力と空間認識能力がずば抜けていた。

 束がセッターをやらない理由。それは、烏野には影山と言う優れたセッターが居ること。そして何より、彼の1番の武器が判断力の高さとその柔軟な身体を生かした空中戦だから。

 彼はセッターが出来ないのではない。やらないのだ。

 

「ったく。前より高く跳べるなら言って欲しいんだけど?」

 

「……1年経ってるんだ、当たり前だろ。まず、お前なら言わなくても出来るだろ……」

 

 そう言った2人の手は「パシンッ」と言う音と共に、お互いの手を叩き合った。

 

 そこからの展開は、あっという間であった。束達は1点も取らせることなく、17点を取りきった。

 

 

 潮崎束と佐久早聖臣は犬猿の仲である。

 

 バレーの事になると、己を曲げないし、すぐ張り合おうとする。

 しかし、彼らはお互いがお互いの事を認めあっている。

 去年のユース合宿で見つけたのだ、同じ学年で、自分と対等に張り合える、自分を奮い立たせてくれる存在を。

 

 潮崎束と佐久早聖臣は犬猿の仲である。しかし同時にライバルでもある。




結構無理やり終わらせた感が凄いですが、次回からはまた原作ストーリーに戻ります。
2次予選までで特に書くことも無さそうなので、次から2次予選開始かなと考えてます。
何か意見等がありましたら遠慮なく言ってください。


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第11話 化け物

誰かトリックプレーとかで何か案あったら教えてくだせぇ。
良いなってのがあったらどこかで採用させていただきたいです。お願いします_○/|_


 日向翔陽は知っている。トイレは危険人物と遭遇する場所だと。

 

 1番最初にそれを体験したのは、中学の頃。彼にとって中学生活最初で最後の公式戦で影山飛雄に遭遇した。そして、高校に上がり、夏の合宿で灰羽リエーフに、春高1次予選では十和田良樹との遭遇。

 故に日向は慎重に、仙台大会のトイレの前で身構える。

 

「何してんの?」

 

 しかし、危険はトイレの中だけではなかった。

 

 日向がその声に、恐る恐る振り返ると、そこには、青葉城西高校の主将、及川徹と、エースである岩泉一が立っていた。

 

「試合になるとこのチビちゃん、本当厄介だから今のうちにどっか埋めちゃう?」

 

「しっ、失礼しますぅ!」

 

 及川の冗談半分の脅しに、日向ビビりながら走り去るが、そこで「ドン」と1人の男とぶつかる。

 その相手を見た瞬間、日向から声にならない様な悲鳴があがる。

 その人物は、白鳥沢学園の主将であり、エースであり、ユース日本代表。牛島若利であった。

 

「日向翔陽……。と、及川、岩泉か」

 

「何このタイミング……!」

 

「知るか……!」

 

 インターハイ予選で決勝を戦った両者に険悪な雰囲気が流れる。

 

「お前達は高校最後の大会か。検討を祈る」

 

「ほんと腹立つ」

 

「全国行くんだから最後じゃねぇんだよ」

 

 及川と岩泉の言葉に、牛若は首を傾げ、「全国に行ける代表枠は1つだか?」と呟く。彼は別にふざけてる訳でも、馬鹿にしている訳でもない。悪意も無ければ嫌味でもない素直な言葉。

 それ程、牛島若利は自分が負ける事に疑いを持っていない。

 いや、この場合は、勝つ事への圧倒的な自信だろうか。

 

 険悪な雰囲気にギャラリーが集まり、視線が日向達に集まる。

 

「かっ、勝つのは烏野で」

 

 日向も負けじとそう言うが、3人の圧のある視線に再び萎縮してしまう。

 アワアワしながら後ろに下がると、再び衝突。見上げると、そこには伊達工業高校、伊達の鉄壁の1人、青根高伸が立っていた。

 

「誰だろうと、受けて立つ」

 

 そう言い放ち、牛若がこの場を去ろうとすると、トイレのドアが開く。

 

「あれ、何してんの日向。てか、牛島さんに、及川さんと岩泉さん。それに伊達工の1番まで。

 えっ? 何この状況」

 

 このピリついた空気を壊すように、少年、潮崎束はタオルで手を拭きながら、トイレの中から現れた。

 

「……潮崎」

 

 束の登場で牛若の足が止まる。

 日向も束が現れた事によって、少し落ち着いたのか、束に事の成り行きを説明する。

 

「あぁ、だからこんな険悪な雰囲気なのね……」

 

 あはは、と少し苦笑いをしながら納得したような素振りを見せる束は、「あっ」と呟き、牛若の方を見る。

 

「そう言えば牛島さん、去年、何で僕が白鳥沢に来なかったのか聞きましたよね」

 

「ああ。東京ではなく宮城に来たのなら、間違いなくお前は及川同様ウチにくるべき存在だった」

 

 その言葉に、日向と岩泉はピクリと反応する。

 

「あはは。それは嬉しいお言葉ですね。けど、牛島さんの質問の答えは大して難しい話じゃないですよ。

 まず烏野に行ったのは、単純に家から近かったから。次に白鳥沢に行かなかった理由。これはもっと簡単です。

 牛島さんは僕と中学の時、試合したの覚えてますか?」

 

「ああ。だから、俺は去年のユース合宿でお前に声をかけた」

 

「だからこそですよ。僕が負けず嫌いなの知ってるでしょ? 確かに、将来プロになれば牛島さんと戦えるかもしれないけど絶対じゃない。

 けど何の偶然か、僕が引越して来たのは牛島さんがいる宮城県。

 なら最短ルート突っ走るしかないでしょ? 

 

 牛島さん、僕は貴方を倒したいんですよ」

 

 一瞬、ゾクリとした感覚が駆け巡る。束の言葉が向けられていた牛若だけでく、他の4人にも。

 普段の束からは考えられない。彼が時折見せる獣のような目。

 だか、その瞳に、臆するだけの牛若ではない。

 

「そうか。お前がどう考えようとも、その選択が間違えだと思う程に、再び完膚なきまでに叩き潰そう」

 

 牛若はそう言うと、この場を去って行く。

 

 牛島若利は試合に勝つという思いはあっても、チームをましてや個人に勝ちたいと思う事はあまりない。それは自分が勝つと言う圧倒的な自信があるから。

 しかし彼は、潮崎束と言う男には、その感情を向けていた。絶対に勝ちたい相手。完膚なきまでに圧倒したい。そんな相手。

 

 

 潮崎束は中学2年の全国大会で、牛島若利に敗れた。

 高さとパワーと言う純粋で最強なバレー。病弱な自分とは真逆の戦い方をする牛若の強さに憧れた。

 憧れと言うのは、その人の様になりたい。その人と肩を並べてみたいと思うものだか、遅かれ早かれ、皆、ある真実に気づく。

 それは、憧れていた人を超えなくてはいけない日が来ると言う真実。

 大抵の人間はどんなに早くてもその思考に至るまでにある程度の時間がかかる。

 しかし、潮崎束という男は、その思考に辿り着くまでの速度が尋常ではなく早かった。

 彼は、牛若に憧れたと同時に牛若に勝ちたいと思ったのだ。

 

 

「あーあっ。潮崎に言いたい事全部言われちゃった」

 

「すいません、及川さん」

 

「いーよっ。てか、おたくら、白鳥沢倒す前に、順当に行けばウチと先に当たると思うんだけど?」

 

「そうですね。けど、負けませんよ。今の烏野は強いですから」

 

「あっそう。だからと言って、烏野にも伊達工にも白鳥沢にも、何処にも負ける気なんてさらさら無いから。行こう岩ちゃん」

 

 及川の言葉に岩泉は「ああ」と答えるが、束ねの前に立つ。

 

「潮崎。絶対に負けねぇ」

 

「望むところです」

 

 それだけ言うと、岩泉も及川と共にこの場を去って行った。

 

「それじゃあ、僕達も戻ろうか」

 

 青根とお辞儀している日向に、束はそう言い足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 烏野の初戦は条善寺高校。インターハイ予選ベスト4と言う実力高。

 

 試合は主審の笛と、東峰から放たれるサーブによって始まった。

 

 この数ヶ月間磨かれた東峰の強烈なサーブに条善寺のレシーブが乱れるが、何とかカバー。

 

「照島ラストー!」

 

「チャンスボール!」

 

 繋がっては居るものの、乱れたボールによってチャンスボールだと思った烏野のだが、その言葉を打ち砕くように、照島はエンドラインから振り向きざまに強打を打ち込む。

 急な出来事に烏野は反応出来ず条善寺に先制点が入る形となった。

 その得点を火種とし、どんどん出てくるトリックプレーの連発。

 ネットにかかったボールを足であげるなどして、得点を積んでいく。

 

「なんか、こう、体育ですげー運動神経の良い野球部と試合してる感じだな」

 

「確かに、型にはまって無くて、何してくるか分かんない感じがそうですね」

 

 菅原の呟きに、縁下がそう答える。

 しかし、それだけでは無い。条善寺と体育でのサッカー部や野球部との違いは、それをまぐれでは無く、狙ってこなしていると言う所である。

 

「不確定要素は条善寺にとっては当たり前で、レシーブが上がりさえすればどんな状況でも攻撃に変えられる。そんな感じですね」

 

「だな」

 

 束の言葉に菅原は静かに頷く。そんな事を話していると、条善寺のサーブミスで烏野に点が入る。

 

「それじゃあ行ってきますね」

 

 束はそう言うと、西谷とハイタッチをし、コート内へ。

 

「月島ナイサー」

 

 月島の放ったサーブを東山が上げる。そこから二岐と飯坂の速攻。

 

「ワンタッチ!」

 

 束が触るものの、そのボールはコートの後方に落ち、条善寺の得点に。

 

「あちゃー。当然だけど普通の速攻もできるのか。反応遅れちゃったな」

 

「すまん、潮崎。対応遅れた」

 

「いえ、僕も取り切れなかったですし、切り替えて行きましょう」

 

 澤村の謝罪に束は笑顔でそう答える。

 

 

「……あの突然の速攻の中で13番だけが反応してたな」

 

「……」

 

 スタンドから試合を見ていた二口の言葉に青根は無言で頷く。

 周りから見れば、たかがワンタッチに見えるかもしれないが、ブロックに力を入れている伊達工だからこそ分かる。あの普通とはかけ離れたプレーの連続からの虚を突くかのような普通の速攻。その状況下であのスパイクに反応できるのはヤバいと。

 

 

 条善寺が点を取った事によって、月島が下がり再び西谷IN。

 

 条善寺のサーブはネットにかかるも烏野のコートへと落ちていく。

 

「ラッキー」

 

 照島は入ったと思ったが、田中が何とか拾う。

 

「ナイス田中!」

 

「カバーカバー!」

 

 乱れたボールを影山が何とか繋ぐ。

 

「潮崎さん! ラスト頼んます!」

 

 ギリギリの繋ぎに、束は十分な助走が取れぬまま、コートの外から中へと、ネットと隣り合わせになるように跳ぶ。

 

「クロスクロス!」

 

 無理な体制に、クロスにしか打てないと読み、条善寺のブロックはクロスを閉める。

 しかし、束は体の向きそのままに、腕だけを使い、ボールをストレートに打ち込んだ。

 

 体育館が静寂に包まれる。彼がスパイクを打った後はいつもこうだ。その枠に囚われないプレーは観客を魅了する。

 烏野の選手を含め、この体育館にいる束以外の全ての人がクロスに打つと思った。いや、クロスにしか打てないと思ったのだ。

 しかし、それを嘲笑うかのように打ち込まれたストレート。

 

「皆動きが硬いですよー。まぁ、確かに相手のプレーは何をしてくるか分からないですよね。

 

 けど…… 不確定要素が当たり前で枠に囚われないプレーは皆が1番近くで見てるじゃないですか」

 

 歓声へと変わるまでの静寂の中、潮崎束(化け物)はニコリと微笑みそう言った。

 



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第12話 質実剛健

お久しぶりです。忘れた頃のこっこり投稿。


「ナイスキー!」

 

 ほんっと、しつこいと言うか、やりにくいと言うか……

 囮にはつられてくれるし、点は取りやすいんだけど、どうにも点差が離せない。

 条善寺は全員が全員、サボること知らない感じ。だから中々にしぶといな。

 

「任せろー!」

 

「カバー!」

 

 とかなんとか考えてたら、4番と5番が2人で取りに行って衝突……

 あれ? 何か凄い既視感あるんですけど。

 

 

 烏野 19ー17 条善寺

 

 僕を囮に使った、東峰さんのバックアタックを条善寺のリベロが拾う。

 さて、何処に上げてくるかだが……

 

(んなっ、ツーかよ!)

 

 リベロが上げたボールにセッターがそのまま跳ぶ。

 しかし、それを影山がギリのところで反応してくれる。

 

「ナイス影山! って、……え?」

 

 結果的に言うと、影山のブロックは相手コートに落ちた。影山の鼻血付きでだが……

 どうやら影山のブロックは顔面ブロックだったらしい。

 

「タイム!」

 

 鼻血が出た事により武田先生のタイムの声がかかる。

 

「大丈夫か影山」

 

「死ぬな! 影山!」

 

「勝手に殺すなよ」

 

 落ち着いた対応の大地さんとは真逆な日向に、思わず田中がツッコミを入れる。

 

「まぁ、血止まるまで出れないし、一応見てもらった方が良いかもね」

 

「鼻血なんて出てないです!」

 

「いや、出てるから」

 

 どんだけコート離れたく無いんだよ……

 

 しかし、血が出てるのに試合に出れる筈もなく、清水さんに連れて行かれる。

 

「まっ、ここは先輩に任せときなって」

 

 そう言いながらコートに入るスガさん。

 

「スガさん、良いトスお願いしますね」

 

「任せとけ潮崎! どんどんあげてくからな!」

 

 まぁ、スガさんとの連携に関してはそこまで心配してない。

 実際、トスあげて貰った数なら、影山より多いわけだしね。

 

 

 

「潮崎!」

 

 スガさんからセンターへの山なりの高いトス。

 空中での選択権を持つ僕にとってはベストなトスなのだが……

 

「あれ? 条善寺、ブロック誰もとんでない」

 

 誰が言ったのかは分からないが、その言葉通り、条善寺は僕のスパイクにブロック付かずに、全員がレシーブの体制に入っている。

 

 なるほど。ブロック付いても抜かれるんなら、ブロック無しにして視界をクリアにした状態で全員で取ろうって事か。

 

 けど……

 

 その対策じゃ50点かな

 

 僕のスパイクは相手のレシーブを弾き飛ばし、コートの外に落ちる。

 

「「「しゃあ!!」」」

 

「おいおい。あの13番、強打も打てんのかよ」

 

 条善寺の1番の言葉が聞こえる。

 確かに、普段から僕は強打を打たないし、強打を得意としてはいないが……。はて、僕がいつ強打を打てないと言っただろうか。

 まぁ、牛島さんや東峰さんの様に普通に毎回毎回、強打を打てるわけでは無い。

 ただ、高い打点から、身体を反るようにしならせれば強打は打てる。

 だけどそれは、ブロックが入れば、そんな余裕もないし、ブロックに捕まるリスクの方が大きいから普段はやらないだけ。

 つまり、条善寺は自分達から僕に強打を打つシーンを作ってくれたわけだ。

 

 

 

 

 烏野 21ー19 条善寺

 

「照島ナイスキー!」

 

 1番のノータッチエースにより、条善寺に点が入ったところで、再び1点差。

 この手の相手はあんまり、調子に乗らせたくないんだけど……

 

「おっ、影山戻ってきた」

 

 鼻血も止まり小走りで戻ってくる。

 しかし、アップゾーンに入ったと言う事は、恐らくこのセットは、このままスガさんでいくのだろう。

 

 

 

「チャンスボール!」

 

「オーライ!」

 

 僕が上げたボールにスガさんがセットアップに入る。

 その瞬間、スガさん以外の全員が動き出す。

 スガさんバージョンのシンクロ攻撃。

 一瞬身構えた条善寺はブロックに跳ぶことが出来ず、そのままライトに上げられたボールを大地さんがしとめ、マッチポイント。

 

「潮崎ナイスサー!」

 

 僕のサーブを条善寺のリベロが上げたわけなんだが……

 

(えっ、ウソ……)

 

 条善寺の選手達が一斉に動き出す。

 まさかの条善寺もシンクロ攻撃。

 そして、1番のバックアタック。

 

 は、そのまま彼の頭上を超えていき、トンッと言う音と共に、ボールは条善寺のコートに落ちる。

 なんだろう。またしてもデジャブ。

 

 ピッピー

 

 主審の笛が第1セットの終了を知らせる。

 

 ……恐らく、条善寺にとってあれが初めてのシンクロ攻撃なのだろう。

 てか、それをこんな大事な場面でやるかね普通。

 

 ほんっと、怖いねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────

 

 

 第2セット。烏野は束と日向を交代。

 

「あっれ? あの13番変わっちゃったの!? せっかくこれからだったのによぉ」

 

「あっ、あの!」

 

「ん?」

 

 照島の言葉に日向が声をかける。

 

「俺は確かに、潮崎さんや刈り上げさんみたいなとんでもプレーはできません」

 

「刈り上げさんって、変な渾名「でも!」無視!?」

 

「俺は飛べます!!」

 

「! ……まっ、次はウチが遊び勝つ!」

 

「俺達も負けません!」

 

 日向にはまだこの力では束や照島には勝てないだろう。

 でもチームでなら負けない。日向は本気でそう思っているのだ。

 

 

「ピッ!」

 

 

 第2セット開始の笛がなる。

 

 

「東ナイッサー!」

 

「西谷!」

 

「おっしゃい!」

 

 条善寺のサーブを西谷があげる。

 そして、それと同時に日向が走り出す。トスが上がる前に跳ぶ、マイナステンポの速攻。

 第1セットでは無かったマイナステンポでの速攻に、条善寺のブロックの足は完全に止まる。

 

 影山の手からボールが離れる。

 後は、日向が腕を振り抜けば決まるはずだったのだが、影山のトスは日向の打点を超えていく。

 日向は瞬時に、腕を伸ばし、ボールを触ろうとするがその右腕はボールに届かない。

 

 しかしその次の瞬間━━━

 

「ふっ!」

 

 日向の後方か出て来た、澤村が拾い、何とか相手コートに返す。

 

(あっ、大地さんあれ読んでたっぽいな……)

 

 早すぎる澤村の反応に、コートの外から見ていた束は、思わず苦笑いをしてしまう。

 

「大地さんナイス尻拭い!」

 

「その言い方辞めろっての!」

 

 西谷のセリフに澤村がツッコミを入れる。確かに今のはナイスカバーだが、条善寺からしてみればチャンスボール。しっかりと繋ぎ、多少無理な体制ではあるが、助走に入った照島がしっかりとミートさせる。

 が、そのスパイクを読んでいたかの様に、澤村がコースに入りレシーブをあげる。そして、そのボールを日向と影山の速攻により、今度こそ決まる。

 

「すっ、すいません。ナイスカバー」

 

「あざっす」

 

「どんなに落ち着けって言っても、お前ら一発目は絶対やらかすと思ったんだよね」

 

 影山と日向の言葉に、澤村は笑いながらそう答える。

 

 澤村には、ド派手なプレーはない。束や日向や影山の様に、周りより秀でた特別な何かを持っている訳でもない。

 しかし、周りがプレーしやすい環境を、土台を作ることが出来る。まさに質実剛健。チームを支える根強い根っこ。この点においては、束すらも凌駕する。

 それが澤村大地と言う男。先に進めば進む程、敵が強くなればなるに連れて、チームに無くてはならない存在なのだ。



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第13話 考える事と遊ぶ事

稲荷崎戦を見て衝動書き。大変お待たせ致しました!
この作品どういう風に書いてたか、正直忘れております。違和感あったら申し訳ないです。


 烏野高校対条善寺高校。

 第2セットも試合は中盤に差し掛かってきた。

 

 ……徐々に徐々に、点差を離していけてるな。

 

 ウチが相手の攻撃に慣れて来たってのもあるけど、ここに来てバレーボールにおける基礎の重要さが出てきてる。

 

 確かに、派手な攻撃やカタにはまらない攻撃ってのは良いものだと思うよ。

 派手な攻撃は見ていて楽しいし、観客を魅了する。そうやって、観客達を自分達の方へと引き寄せる。カタにはまらない攻撃も、相手のテンポを崩し自分達の流れに持ち込めるからね。

 

 けどね、それは下手をすれば自分達のテンポも崩しかねないんだ。

 バレーボールはボールを持てないスポーツだ。ボールを繋ぐスポーツだ。だから基礎が最も重要なスポーツとも言っていい。

 そういう中で、カタにはまらないバレーをするなら、それ相応の基礎とチームを支える基盤が必要だ。

 

 そこがウチと条善寺の決定的な違い。

 多分、彼らは今、焦って、楽しい時間が続いていなくて、それを自覚しながら目を背けている。

 

 気合いや根性だけで乗り切れるほど、バレーは甘くないよ……

 

 

 ピー! 

 

 

 おっと、条善寺タイムアウト取ったか。どうやら向こうの監督さんは、堅実でよくコートを見てらっしゃるようだ。

 条善寺からしたら明らかに悪い雰囲気だし、ここでのタイムアウトは定跡だよね。

 

「それにしても、条善寺の1番の彼。彼の最初のプレー見た時、ちょっと期待したんだけどな……」

 

「ん? どうした潮崎」

 

「ん? あぁ、いや。何でもないよ」

 

 どうやら声に出てしまっていたらしい。縁下の言葉に誤魔化すように僕は手を横に振る。

 

「──こいつらのケツ叩いてくれって頼まれてるんで!」

 

 そんな時だ。条善寺のベンチからケツと言う言葉が聞こえてくる。そう、ケツと。しかも女の声でだ。

 

 え? 何事? 

 

「潔子さん。なんかよく分かりませんが俺らの事も叱ってくれませんか?」

 

「出来れば罵るように」

 

「しません」

 

「「じゃあ!」」

 

「尻も叩きません」

 

「「はぅ! 潔子さんのお口から、尻いただきましたぁ!」」

 

 田中と西谷がケツを向けたかと思うと、何だかとても幸せそうな顔をしている。

 

「縁下。……あの馬鹿2人はなにやってんの?」

 

「さぁ? けどあの2人が馬鹿なのはいつもの事だしな……」

 

 まぁ、確かに。けど試合が始まればスイッチ切り替わるのも事実だし。田中と西谷からすればあれが平常運転か。

 

「相手に大分焦りが見えてきてるし、この試合このまま上手くいくかもな」

 

「うーん。どうだろうね。バレーも他のスポーツ同様、何が起こるか分からないしね。ただまぁ、1つ言える事としては、現状では流れを握れてるウチが有利かな」

 

 タイムアウトも終わり、コートに戻っていく選手達の背中を見ながら、隣に来た木下の言葉にそう答える。

 

 しかし、その次の瞬間──

 

「!!」

 

 ブワッ! というプレッシャーが身体を駆け巡る。

 プレッシャーの正体を目で追うと、そこには条善寺の選手達の姿が。

 

「……木下、前言撤回。この試合、戦況はまだ五分だ」

 

 タイムアウト中に何があったかは分からないけど……

 さっきまでの雰囲気とは打って変わって、あの目は、獲物を狩取りに来る獣の目だ。

 

 多分、コートに立ってる選手達は肌で感じているだろうね。少しでも隙を見せれば一瞬で飲まれてしまう事に。

 

 

 

 

 

 烏野 19ー15 条善寺

 

「二岐!」

 

 月島のスパイクを2番がワンタッチし、7番がレシーブする。すると、ネット間際まで上げられたボールをそのまま打つように3番が入り込んでくる。

 影山が対応するも、3番はスパイクではなくトスを上げ、後ろから走り込んで来ていた1番のバックアタックが決まる。

 

「……遂にブレイクされたか」

 

 嫌な予感と言うのは良く当たるもので、点差は縮められてはいないものの、離せ無くなっている。確実に此方の背中を追いかけて来ていて、このタイミングで遂にブレイクされてしまった。

 タイムアウト開けから、どうにも条善寺の調子が良い。若干の基盤の荒れは相変わらずだが、落ち着いて周りを見てプレーしだした。非常に厄介だな。

 

 

「ナイスレシーブ! 大地さん!」

 

「! ……おいおい。ここに来てまた、スパイクノーマークで来んのか!」

 

「第1セットで、潮崎にやられてるのに」

 

「いや、この作戦はちゃんと考えられてますよ」

 

 スガさんと縁下はそう言っているが、今回は先程とは少し違う。

 日向はあの状況から僕の様に強打を打てるわけでは無い。それをこの第2セットで理解した上でやっている。

 そして、上げさえ出来れば……

 

「多少崩れても、返せると……」

 

 非常に理にかなった作戦だな。

 

 

 烏野 20ー18 条善寺

 

 2点差まで縮められたか……

 日向のスパイクはまだ軽い。ここから先の数点。影山は日向をどう使うか。

 そもそも、日向はこの状況をどう打開するのか。そこにかかっているけど……

 

「日向!」

 

 おぉ、早速使ってきおったよ。

 

 影山から上げられたボールを日向はしっかりと目で追う。しかし、ここで見ているのは、ボールだけでなく相手のコートもしっかりと確認する。

 そして、空いているスペースへ確実に打ち込む。ブロックが居ない分、スパイクは打ちやすいし、際どいコースとなれば、ノーマークでのスパイクを拾う事はそう容易ではない。

 

 そうそう。それだよ日向。大胆な作戦には必ず穴があるものだ。その欠陥を見つけ出し、今自分が持っている武器で何が出来るかを考える。

 そうすれば、格段に強くなれる。

 

 その後も、日向の強打への警戒を逆手にとったフェイントでマッチポイント。

 よし! 条善寺の調子が上がってるけど、ウチも負けてない。

 

 

 烏野 24ー20 条善寺

 

 11番がサーブを上げると、条善寺全員が走り出す。

 

 んなっ! 第1セット同様、落としたら終わりの土壇場で、またシンクロ攻撃。

 

 付け焼き刃だ。付け焼き刃だと分かっているのに恐ろしい。

 

 恐らくだけど、彼らは今、失敗した時の事なんて考えていない。今を楽しむ事、成功した時の快感だけに全てを注いでいるんだ。

 

 調子が良い時の木兎さんなんかは、この典型的な例。そういう選手は怖い。

 

 完璧なトス。完璧な助走。完璧なタイミング。

 

 大地さんの脇を抜き、1番が振り抜いた完璧なストレートは、ほんの数センチ、ボール1個分ではあったが、コートの外へと落ちた。

 

 

 ピッピー

 

 

 

「「「よっしゃぁあああ!!!」」」

 

 

 試合終了を知らせる審判の笛と共に、僕達はベスト8進出を果たした。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────

 

 

「あの!」

 

「あん?」

 

 試合終了後、撤収している条善寺に、束が声をかけた。

 いや、彼らにと言うよりは、照島に、と言った方が正しいか。

 

「えーっと、確か……「照島」あっ、そうそう。照島くん。

 君は多分、カタにはまらないと言うプレースタイルとしては、僕に1番近い存在だと思う」

 

 オールラウンダーと言う点において、束は、1番自分とバレーボールにおける根本が近いのは星海だと思っている。

 だけど、プレースタイルと言う点においては、今まで見てきた選手の中で彼が1番自分に近いと感じた。

 最初はただ、漠然としたものだった。けど試合の後半、特に最後の彼のスパイクを見た時、それが確信に近いものに変わった。

 

 最後の条善寺のシンクロ攻撃は完璧だった。照島のスパイクも決まっていてもおかしくなかったと束は思っている。

 

「第2セットのタイムアウト開けの条善寺は、考えて思考を巡らせた上での、君たちで言う所の『遊び』だったよ。

 多分条善寺は、照島くんはもっと強くなれる。来年のインターハイを楽しみにしてるよ」

 

 束はそれだけ言うと、スタスタと歩いて行く。

 

「なっ、なんだったんだあいつ?」

 

「さっ、さあ?」

 

「台風みたいな奴だったな……」

 

「けど、すげーじゃん! 照島ぁ! あんなうめぇ奴に認められるなんてよ!」

 

「うっせぇよ! 茶化すな!」

 

 照島はそういうものの、内心満更でも無かった。別に照島自身、自分のプレースタイルが間違ったものだとは思っていない。

 だけど、上手い奴にそう言われるのは素直に嬉しいし、頭の中のシュミレーションと現実が一緒になる事に快感を覚えていた。

 

「おい!」

 

 照島の叫びに、少し離れてしまった束は足を止め、照島の方を振り返る。

 

「また遊ぼうぜ! そんの時は俺が遊び勝つ!」

 

 その言葉に、束は一瞬驚いた顔をするも、笑顔で照島に手を振り、再び歩き出す。

 

「名前、聞いとけばよかったなぁ」

 

 照島が小さく呟いた言葉は、体育館へと消えていく。

 

 条善寺高校。春の高校バレー、宮城県代表決定戦2次予選。

 

【敗退】

 




鬼滅の方も恐らく近日中には投稿します。


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第14話 綻び

 春高宮城県予選2日目。対戦相手である和久谷南を見ながら、烏養は渋い顔をする。

 

「? 烏養くん、どうかしました?」

 

「気ぃ引き締めるぜ先生。これは俺の直感だが、多分この和久南ってチーム、ウチと相性悪いから」

 

 和久谷南高校。烏野同様3年が残ったこのチームは、完成度が高く、守備力と粘り強さが強い。

 粘って粘って、粘り続けて、自分達のペースに持ち込んだ所で、相手の隙を伺う。チームのスタンスとしては音駒に近い。

 

 ピー!! 

 

「「「お願いします!!!」」」

 

 烏野高校対和久谷南高校。主審の笛と共に、2日目の生き残りをかけた戦いが今始まる。

 

 

 

「さっこーい!」

 

「ナイスサー!」

 

 この試合最初のサーブは花山。

 

「オーライ!」

 

 そのサーブを澤村がしっかりと上げていく。そして、まずは烏野のお決まりの形。

 日向のマイナステンポの助走からの、日向影山の変人速攻。

 日向のスパイクはレシーブに入った中島の腕を弾き、烏野先制。

 

「おーしっ! 次1本切るぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

 しかし、初見での変人速攻に、和久南が動揺する様子はない。

 彼らは烏野を格下などとは見ていない。相手の実力を理解した上で、自分達のバレーをする。だから驚かないし、侮らない。これが和久南の強さの1つ。

 

「日向。お前、強豪校に警戒されてるんじゃないか? きっと研究とかしてるんだぞ」

 

「!」

 

 澤村の言葉を聞いた日向は、ピクリと反応する。

 

「あーあ。俺達霞むな〜」

 

「!」

 

 そして、わざと聞こえるように発せられたその言葉に、今度は田中が反応する。

 

(うわ〜。大地さん、上手くヤル気のツボを刺激してるなぁ)

 

 澤村の言葉で、俄然ヤル気を出した単細胞2人組を見て、アップゾーンで試合を見ている束は思わず苦笑いをしてしまう。

 

「影山ナイスサー!」

 

 影山から放たれたジャンピングサーブ。影山自身、手応えを感じていたサーブだったが、それを中島が上げる。

 

(くぅー。強烈!)

 

「ナイスレシーブ!」

 

 花山のトスに、川渡が後ろから回り込んでのスパイクが決まる。

 

 これが和久南の武器の1つであるコンビネーション。和久南はそこまで平均身長が高いわけでも、スパイクが強いわけでもない。

 それでも、安定して常に上位に立っているのは、この磨きあげられたコンビネーションによるものと言える。

 

 ただ、それだけでは優勝は狙えない。そんな中で、今年の和久南が強いと言われている理由は──

 

「猛! ラスト!」

 

「止めるぞ! せーのっ!」

 

 澤村のタイミングに合わせた3枚ブロック。

 しかし、中島のスパイクは日向の手に当たり、そのままコートの外に落ちる。

 

 そう。この中島のブロックアウトこそが、今年の和久南が優勝を狙えると言われている理由。和久南の2つ目の武器である。

 

「……うまいな。よく見えてる」

 

「見えてる?」

 

 束がぽそりと呟いた言葉に縁下は首を傾げる。

 

「うん。ブロックの事をよく見えてる」

 

「……日向みたいに。って事か?」

 

「どうだろう。日向は指とかをピンポイントで狙ってるって感じだけど、1番はブロックに当てる角度を意識してるんじゃないかな」

 

「うわ……」

 

 束の言葉に、月島は心底嫌そうな顔をする。

 当たり前だ。止めに行ったブロックが相手の点に変わる確率が跳ね上がるのだ。ブロッカーからしたら嫌なことこの上ない。

 

 

 

 

 烏野 15ー15 和久南

 

 第1セット。日向、中島による次世代小さな巨人対決が勃発。お互い2点差以上離れぬまま、ここまで来ている堅い試合展開。

 

「和久南のブロックは必ず日向君に1枚コミットで対応していますね」

 

「ああ。日向を完全に止めるのは不可能だと割り切ってはいるが、だからといって自由にプレーはさせないブロック。リードとコミットでスタイルは違うが、ブロック時にやっている根本的な部分は月島や潮崎と同じだ」

 

 しかし烏養はその後に、「ただ」と付け加える。

 

「潮崎の場合は最初っから割り切ってなんかいねぇ。あれは、完全に止める気で跳んでやがるんだ。

 そんで、スパイカーと退治した時にはじめて、コースを切るのか受けるのか殺すのかを判断してる。しかもそれを実行に移せてる上に、毎回、当たり前にやってんだから恐れいるぜ。まったく」

 

 束のネット際でのプレーは、駆け引きをしている様に見えて、実際やっている事は後出しジャンケンと同じだ。

 

「それに、コミットブロックにも穴はある」

 

 コミットブロック。主にセンターからの速攻に対して、山を張ってアタッカーより先に跳んでいるのだ。

 故に、日向には必ずブロックがついている。しかし、裏を返せば、他の攻撃はブロック2枚で対応しなくてはならい。

 

 つまり……

 

「ウチのエース止めるんなら、鉄壁でも持ってこいや!」

 

 烏野で1番火力が出るレフトの、東峰のスパイクをそう簡単に止めることは出来ない。

 

 その後も打ち合いが止まることは無い。烏野は東峰、田中のレフトの攻撃も増え、徐々に攻撃に幅ができ始めている。

 

「タビ!」

 

「っしゃあ!」

 

「2番2番! バックアタック!」

 

(和久南のパイナップルくん。スピードとバネはあるけど、1番の坊主くんみたいに、頭脳やテクニックはないみたいだから……)

 

「ハァアア!?」

 

(ここは殺しにいくでしょ)

 

「潮崎ナイスどしゃっと!」

 

 束のブロックにより、この試合初めての2点差。

 

(よし。ここがチャンスだ。勢いに乗ってこのまま押し込みたいんだけど……)

 

 束はそう思いながら、チラリと和久南のコートを見る。

 

「おい、タビ」

 

「あ?」

 

「向こうの右端3列目にめっちゃカワイイ娘いる」

 

「マジで!? マジだ! うぉおおお! 俺にガンガンよこせー!」

 

 和久南に不穏な空気が流れている感じは一切ない。いや、中島がその微かな不穏を一瞬で拭ったと言うべきか。

 

(……あの煽り文句いいな。今度田中に使ってみよ)

 

 一方、束はと言うと、よく分からない事を考えていた。

 

 条善寺との試合は、攻撃人達によるネット際での遊び対決。その裏で、土台となる存在の有無で勝敗が別れた。

 しかし、今回は澤村と中島。主将同士の完全なる土台勝負。

 

「センターセンター!」

 

「上がった! タビ、ナイスレシーブ!」

 

 花山のトスに鳴子が合わせるも、田中がそれを拾う。

 

「ナイス田中! カバーカバー!」

 

 しかし和久南も負けていない。東峰の強烈なスパイクをリベロである秋保が拾う。

 

「切らすな切らすな! ここ絶対獲るぞ!」

 

 長いラリー。ここを落とすなという澤村の直感。

 

「猛頼む!」

 

「ブロック3枚!」

 

(また、ブロックアウト……!)

 

「大地さん、ナイス!!」

 

 澤村が何とか触ったボールを西谷が繋ぐ。

 

(第1セットも終盤だってのに、今日1番の長いラリー。しんどい……)

 

(潮崎の体力が限界に近づいてるな。ここらで決めに行きたい)

 

 アドレナリンだろうか。先程のブロックアウトへの反応もそうだが、このラリーでの束の足が若干重くなっている事まで。今日の澤村は良く見えている。

 

 だからだろうか。西谷の上げたボールに、いの一番に反応したのが澤村だった。

 

 ドカン! と言う音と共に、ボールはネットに引っかかり、和久南のコートに落ちる。

 

 しかし──

 

「大地さん……?」

 

 田中と声と共に、烏野コートには、うずくまって倒れたまま動かない澤村の姿が全員の目に映った。

 

 長いラリーは制したものの、主将対決。先に綻びを見せたのは烏野高校の方であった。

 



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第15話 主将代役

「……大地さん?」

 

「大地!」

 

「大地さん!」

 

「澤村!」

 

 最初に口を開いたの田中だった。その言葉を皮切りに、他の選手達も澤村の元へと駆け寄っていく。

 ザワつく体育館の中、一瞬の出来事に何が起こったのか把握出来ている人は殆どいなかった。

 

 ──接触

 

 ボールを取りに行った田中と澤村が激突したのだ。どちらが取りに行くのか際どい所ではあった。いや、田中の方が若干近かっただろうか。しかし、好調で調子が上がっていた澤村には、そのボールに真っ先に反応してしまった。

 その結果、先にボールに触れた田中の肩が、澤村の左頬を強く打つ形となった。

 

「ッ〜……! いってぇ〜」

 

 倒れた澤村が、頬を抑えながら起き上がったところに、烏養や武田も駆けつけてくる。

 武田の質問に、澤村は1つずつ答えていく。記憶に問題はなさそうだが、頭も打っている。この試合、場合によっては澤村の続行は厳しいだろう。

 

「……」

 

「田中!!」

 

「イッツ!?」

 

 誰もが澤村を心配する中、束にはそれより心配な人間がいた。

 束は、そんな田中の背中を強く叩く。

 

「……潮崎」

 

「アホか田中。前向け前。大丈夫、大地さんは絶対戻ってくる。見なよ、田中がさっきの返したおかげでウチは20点台乗ったんだ。今は大地さんが戻ってこれる様に試合に勝つことだけを考えよう」

 

 田中のメンタルは強い。しかしそれは自分のプレーに関してだ。自分のせいで誰かを怪我させた場合は話しは別だ。

 澤村が抜ける以上、田中にここで折れてもらうわけにはいかない。

 

 しかし、この試合、田中が折れずとも誰が澤村の穴を埋めるのかと言う事になる。プレーの質は勿論、澤村は烏野をまとめあげ、チームの士気を上げることのできる存在だ。そう言う主将気質な人間はプレーの上手さだけではカバー出来ない。

 

「……ツーセッターとかか?」

 

 2階席から試合を見ていた岩泉の言葉に及川は難しい表情をする。

 

「普段から2人体制の練習してるとか攻撃も守備もWSに勝るセッターが居るなら別だけど、そうじゃないならぶっつけでやるのは微妙でしょ。選手のポテンシャルで言うならメガネくんを入れるのが無難だろうけど、彼MBだからね。正直あのポジションを任せられるとしたら潮崎くらいだろうから、おちびちゃんとメガネくんがMBで潮崎がWSが理想だけどこのセット中は並び変えられないからね」

 

 こういう時、烏野の選手層の薄さが響いてくる。潮崎をWSで使おうにも次のセットは使えない。

 しかし、コート上の彼らには、誰が入るかなどある程度の目星はついていた。

 

「お前しかいない! 頼むぞ!!」

 

 菅原の声と共に押し出されたのは縁下であった。

 明らかに重い足取り。当たり前だ。この場面、更に澤村の代役を務める。のしかかるプレッシャーは普段のそれとは比にならない。

 しかし、そんな縁下とは裏腹に、コート上な5人はケロッとした表情で縁下を迎える。

 

「まっ、やっぱここで入れるなら縁下だよねぇ」

 

「縁下さん、最初から早い攻撃上げても大丈夫ですか?」

 

「力ァ!! 1番、外にふっとばして来るから気をつけろよー!!」

 

 束、影山、西谷の言葉に縁下は少し驚きながらも返事をする。縁下が不安になるのは当然の事だ。しかし、束達は縁下が入る事になんの疑問も思っていないし、特にこの3人は既に勝つことを考えている。

 

「縁下、潮崎の言葉で吹っ切れた……すまん。頼む」

 

「……?」

 

 田中の言葉に、縁下は一瞬首を傾げるが、その次の瞬間何かを察したように口を開く。

 

「すまん。って何だ? 今のはどっちが怪我しててとおかしくなかった。俺たちから言える事は──」

 

「お前に怪我がなくて良かったです!」

 

 縁下がチラリと東峰にアイコンタクトを送ると、東峰はそう答える。

 田中は吹っ切れたと言っていたが、それが嘘な事なんて誰が見ても分かるほどだった。

 しかし今の田中の顔は幾分かマシなものになっている。

 

(流石だね)

 

 そんな縁下を見て、束は少し前の事を思い出す。

 部活の帰り道。きっかけは烏養のとある言葉からだった。

 

 ──春高までは3年が仕切る形で変わんねぇけど、一応2年の中でもそれとなく考えとけよ。次の主将。

 

 

 

「次の主将ねぇ〜」

 

「力で良いんじゃねぇーの?」

 

 束の呟きに、西谷はアイスを食べながらそう答える。まさか自分の名前が出てくるとは思っていなかった縁下は目を見開く。

 

「は!? なんでだよ!?」

 

「なんとなく!!」

 

 西谷の答えになっていない答えに、縁下はため息をつきながら頭を抑える。

 

「ノヤっさんも向いてる気がするけど、ルール上リベロはゲームキャプテンできないんだもんな」

 

「それを言うなら田中もだけど今メインで出てる1年3人組の性格をみるとどうしてもな……」

 

「……うん。冷静な奴が頭にいないとって思うよな」

 

「理解は出来るが釈然としないんだが。つーか、お前ら自分も選択肢に入れろよ」

 

 木下と成田の言葉に田中はそう答えるが、2人はイヤイヤイヤイヤと手を横に振る。

 

「そもそもそれなら潮崎でいいだろ。バレーも上手いし普段から冷静だろ」

 

「いやぁ、僕はこんな身体だから。いつこの間みたいに部を離れるか分からないし」

 

「……でも、俺は逃げ出した。そんな奴がチームのトップに自信もって立てるわけないだろ」

 

 束達がまだ1年だった頃の夏休み。丁度少しの期間、烏養元監督が練習をつけていた頃だ。

 烏養元監督の練習は厳しく、当時の1年でも練習についていけてたのは、中学の頃から有名だった西谷と学年でも1番根性のあった田中。別メニューとは言え、出されたメニューはしっかりとこなしていた束の3人だけだった。

 次の日から当時の1年は2人辞め、成田、木下と部活を休みはじめ、その数日後、中学からずっと続けてきたバレーを縁下は初めて仮病で休んだ。

 1日だけだと思っていたサボりも、その快感に触れてしまえばそう簡単に手放す事は出来ない。それでも、バレーをしていた時の快感もまた、同じ様に忘れられるものでは無いのだ。

 結局、縁下を含めた3人が部に戻ったのは新学期が始まって少したった頃。今でも部を辞めた2人を見て、昔より活き活きしていると縁下は思う。

 どちらが正しかったかなんて分からない。それでも3人にはバレーをやっている時より、やっていない時の方が苦しかった。

 

「……でも、逃げたって言う追い目は一緒消えないと思うから」

 

「だからじゃない?」

 

「え?」

 

「僕はバレーが好きだから。練習が辛いと思った事も、辞めたいと思った事もない。勿論そういう人がいるのは理解しているし、寧ろ僕みたいな人の方が少数派だと思う。ただ理解はしていても根本的な部分を理解して寄り添って上げることは多分出来ないと思うんだ。だから僕は縁下がむいてると思う」

 

「だな! 俺も自分と違うタイプの奴の事はよく分かんねぇけどよ、多分お前はどっちも分かる奴だ!」

 

 束と田中にそうは言われたものの、縁下の中ではいまいちピンと来ていなかった。どうせ根性なしには務まらない。それにまだ先の話し。

 

(──そんなふうに思ってたのにな)

 

「サッ! コォオオオオイ!!」

 

 彼は今、戦闘の最前線に立っている。



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