Dear Welsh Dragon (黒天気)
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Dear Welsh Dragon

彼は、俺にとって太陽だった。
俺を照らしてくれた、掛け替えのない暖かい存在だった。

彼は、俺にとって星だった。
俺の行方を示してくれた、何よりも大事な親友だった。

彼は――


 意識がかすんでいく。

 力が抜けていく。

 俺の内側にいる相棒も、すでに虫の息だ。

 人語を介することすらできない木端ドラゴンとは言え、ドラゴンだ。

 この毒は俺以上に辛いだろうに、相変わらず意地だけは張るやつだ。

 

 

「無事、か、イッセー」

 

 

 声を出すだけで、もう死力を尽くすという表現が合うんじゃないかと言うほどに、声を出すことさえつらかった。

 だが、まだ死ねない。

 まだ、死ねないんだ。

 俺は、まだ、やり遂げられていないんだ……!

 

 

「当、たり前……だろ、まだ、おっぱい、揉んで、ねえ……だから、な」

 

 

 隣で俺と同じように倒れ込んでいる赤い鎧。

 兵藤一誠。通称イッセー。

 俺の親友であり、俺を天才だと呼ぶ人物であり、俺を救ってくれた人物だ。

 その彼も、今は俺と同じくサマエルの毒を受けて瀕死の状態だ。

 イッセーは赤龍帝。ドラゴンであるなら、この呪いの毒は避けられない。

 オーフィスは何とかなりそうか。

 なら、俺はイッセーを助けよう。

 ――いや、こんな俺でも、きっと障壁一枚分くらいは熟してみせる。

 

 

「禁、手」

 

『おい、冬也。何をする気だ! 今、力を行使すれば死期を早めるだけだぞ!』

 

「心配、するな、ドライグ…………お前、の、っ、宿主、くらいは……ッ、何とかするッ」

 

 

 俺の神器は『龍の手』。最もポピュラーな神器で、所有者の力を二倍にする効果を持つ。

 そう、普通の『龍の手』だ。

 亜種だったら、主役を張れたかもしれないが、そんなことはなく、中に封じられていたのもギリギリトカゲではなくドラゴンと呼べるようなヤツだ。

 そして、俺も才能があったわけじゃない。

 どこまでも平凡で、チンケで、とてもグレモリー眷属に相応しくない眷属だった。

 

 そもそも俺の駒は、半分に欠けたポーン。

 残りの半分はイッセーの中にあるから、イッセーのおこぼれ、オマケもいいところだ。

 ろくにプロモーションすらできない駒なんていらないだろうに。 

 よくリアス部長は俺を捨てないでいてくれたものだ。

 むしろ駒を摘出して、イッセーに加えてやった方がよかっただろう。

 

 ずっと足を引っ張ってきた。

 駒王協定が結ばれた、あの時からずっと。

 レーティングゲームの時も、禍の団とやりあってた時も、ずっとみんなにおんぶに抱っこされて生き延びてきた。

 アーシアのような能力もないくせに戦闘力も決して高くない俺は、グレモリー眷属のウィークポイント。俺を倒す旨味すらないから、囮としての価値すらない。

 アザゼル先生からも才能はない。諦めろって言われるくらいだ。

 

 そんな俺でも、みんなは見捨てなかった。

 何よりイッセーは、そんな俺でも、ずっと信じてくれていた。

 だから、頑張ってこれた。

 だからこそ、俺はきっとこの禁手に至れたんだと思う。

 禁手『龍の加護』、選んだものを倍加させる。

 こんな俺の禁手は亜種であった。

 きっとこの時のためだったに違いない。

 よくやったぞ、俺。

 

 だから、最期くらい気合を入れてやり切れ!

 

 

「イッセーの治癒力・生命力・抵抗力を倍加」

 

『そんなものは自分に使え! 本当に死んでしまうぞ!』

 

「俺よりもイッセーだろうが!」

 

 

 そう、俺なんかよりもイッセーが生き延びないと。

 俺が生き残っても邪魔なだけだ。

 何の役にも立たない。

 でも、イッセーは違う。

 イッセーは赤龍帝、みんなの希望だ。

 それだけじゃない。

 みんなを引っ張っていく旗印だ。寄る辺だ。

 だから、こんなところで死んではいけない。

 俺の大事な人たちを守ってくれる、俺の何よりも大事な親友。

 そんな奴を絶対に死なせてなんてやるものか。

 

 

「ドライグ、俺を取り込め」

 

『な、何を言う』

 

「俺の身体は、もうだめだ。下半身と左半身の感覚がすでにない」

 

『っ』

 

「だから、頼むよ、ドライグ。俺に、もう少し頑張らせてくれ」

 

 

 俺の身体を捨てれば、中にある駒がおそらくイッセーに吸収される。

 そうなれば、少しは状態も和らぐかもしれないし、何より本来の駒八個分のポテンシャルを発揮できるようになる。

 さらに取り込まれれば、俺の意識はおそらく神器の中へと向かう。

 そこからならば、俺がかけた倍加の力を維持できるだろうし、何よりイッセーの魂を守れるかもしれない。

 

 ドライグは一瞬悩んだ様子であったが、すぐに俺に対して了承を返してくれた。

 

 

「ありがとう、ドライグ」

 

『すまんな、冬也。俺には大したことはできん』

 

「何、言って、んだよ、冬也、ドラ……イグ。冬也、お前……っ!」

 

「ははは、すまんな。イッセー。

 ドライグ、頼む」

 

『あぁ』

 

 

 怒ったような声色のイッセーを無視して、俺の意識が一瞬暗転する。

 しかし、その次に目が明けると、そこにあったのは、白い空間。

 神器の中の世界、イッセーの持つ『赤龍帝の籠手』の中。

 イッセーが先輩たちと呼ぶ歴代赤龍帝の残留思念たちが、イッセーを毒から守っていた。

 俺は、さらにその前に立って、毒を一身で受け止める。

 

 

「ぐぉお……ぐ」

 

 

 痛みを超えた何か。

 俺と言う存在が瞬く間に削り取られていく。

 だが、耐える。耐えろ。

 

 俺と初めて会った時を覚えているか、イッセー。

 俺は覚えている。

 イッセー、一人で遊んでいた俺を遊びに誘ってくれたよな。

 あれは、本当に嬉しかったんだ。

 それからはよく一緒に遊ぶようになって、気が付くと隣にいるのが普通になってた。

 きっと俺が女の子だったら、お前に俺の全部をささげていたくらいだ。

 ありがとう、イッセー。

 俺はお前より前にいようとずっと努力を重ねてきた。

 そんな俺をお前は天才だって笑ってくれたけど、違うんだ。

 俺は必死だったよ。

 こんな俺に失望されないように、必死で必死で、ずっと怖かった。

 そんな俺をずっと親友だって言ってくれてたお前は、俺からすれば本当に救いだったんだ。

 イッセーは、俺とは違ってできるやつだ。

 

 お前だからこそ、アーシアを救えたんだ。

 お前だからこそ、部長は望まない結婚をせずに己を貫けたんだ。

 お前だからこそ、祐斗は復讐の先を見れたんだ。

 お前だからこそ、朱乃さんは自分の生まれを受け入れられたんだ。

 お前だからこそ、子猫ちゃんは黒歌と仲直りできたんだ。

 お前だからこそ、オーフィスも変われたんだ。

 

 お前だからこそ、俺もここまで来れたんだ。

 

 生きろ、イッセー。ここは、お前が死ぬ場所じゃない。

 お前は腹上死でもしてろ。

 そして、言わせてくれ。

 

 

「これまでありがとう、イッセー。

 こんなどうしようもない俺を親友だって言ってくれて。

 本当にありがとう」

 

 

 そして、俺の意識はかき消されるように、深い闇へと消えていった。

 




ついカッとなって書いた。
あまり反省はしてない。

何のこっちゃわからないような駄文ですが、失礼しました。

時間軸的にはシャルバ戦後のサマエルの毒に侵されているシーン。

本来イッセーとオーフィスだけが行くところに無能なオリ主を突っ込んだもの。

この主人公の設定としては
・神器は『龍の手』
・戦闘能力は普通、ごくごく一般的な悪魔程度
・イッセーの幼少期からの親友
・イッセーに対して憧れ以上の友愛を抱いている
・秀才?
・悪魔への転生に使用された駒は色々あって半分に折れたポーン(残りはイッセーの中)
・ヒロインなし
・イッセー盛り立て要因
くらいしか考えてない。

何て言うか、基本的に誰かとイチャラブしているのが多いので、少しくらいこうやって救いのないやつが欲しいと思って生まれたのが、どうしようもない弱い主人公もの。
主人公補正のかかっていない一般人。

このBADENDで終わる話を書こうかと思ったけども、きっとモチベーションが保てなさそうなので、こうやって短編として投稿。
その内イッセー視点くらいでは書くかも。


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Dear My Friend


アイツは、俺にとって憧れだった。
俺は対等な親友だって思ってたけど、アイツはどうだったのかな。
もしかしたら手のかかる弟って思われていたかな?
なら、嬉しいな。
俺は、兄貴みたいだって思ってたから。

アイツは、俺にとって夢だった。
一緒にいることが普通になっていた。
ありがとう、こんな俺を支えてくれて。
俺をここまで導いてくれて。

本当に、ありがとう――――


アイツは、俺にとって――――――――



「禁、手」

 

『おい、冬也。何をする気だ! 今、力を行使すれば死期を早めるだけだぞ!』

 

「心配、するな、ドライグ…………お前、の、っ、宿主、くらいは……ッ、何とかするッ」

 

 

 親友の掠れた声が僅かに耳に届く。

 俺の口からは、すでに何も出ない。

 意識がだんだんと朧げになっていくのがわかる。

 

 

「イッセーの治癒力・生命力・抵抗力を倍加」

 

『そんなものは自分に使え! 本当に死んでしまうぞ!』

 

「俺よりもイッセーだろうが!」

 

 

 聞いたことがないような、何かを決めた叫び。

 ダメだ。やめてくれ……!

 何で、何で、何でお前がそこまで俺のために頑張ってるんだよ……!

 

 

「ドライグ、俺を取り込め」

 

『な、何を言う』

 

「俺の身体は、もうだめだ。下半身と左半身の感覚がすでにない」

 

『っ』

 

「だから、頼むよ、ドライグ。俺に、もう少し頑張らせてくれ――」

 

 

 ここから俺に記憶はない。

 次に目が覚めた時には、全て終わってしまっていたのだから――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイツ――善導冬也(ぜんどうとうや)と出会ったのは、もう10年も前のことだ。

 少しばかり記憶は薄れてきてしまっているが、それでも俺は覚えている。

 

 

「なあ、お前! 一緒に遊ぼうぜ!」

 

「へ?」

 

 

 公園の端っこで暇そうにしていた冬也に声をかけたのが、全ての始まりだった。

 イリナの奴に連れまわされていた俺は、俺の味方になってくれそうな――俺と一緒に遊んでくれるような奴が他にも欲しくて、そしてそんな冬也に目を付けた。

 当時のアイツは、俺よりも小さくて、細かった。

 あとに聞いた話だが、アイツは両親から虐待を受けていたらしい。

 

 

「へ、って何だよ」

 

「いや、俺と、遊んでくれる、の?」

 

「だから、遊ぼうって言ってるじゃんか」

 

「名前も知らないのに?」

 

「おう、そっか! 俺は兵藤一誠! みんなイッセーって呼ぶからイッセーって呼んでくれ!」

 

 

 昔の俺は、こんな俺が言うのもアレだけど、馬鹿だったんだと思う。

 けど、冬也のヤツを見つけた時、俺はどうしてもアイツと遊びたくなった。

 今思うと、運命とか、そういうヤツだったのかもしれない。

 龍と竜、きっと、そういうヤツだって。

 できれば、運命の糸とかそういう運命は可愛い女の子と結ばれていて欲しいけど、それでもアイツとの出会いだけは、必然だったんだと思う。

 

 

「イッセーか。イッセー、うん。

 俺の名前は、善導冬也。好きに呼んでくれ」

 

「おう! 冬也! これで知りあいだし、俺とお前は友達だ!

 だから、俺と遊ぼうぜ!」

 

「友達……? 友達、か……そっか、そうだな! おう、倒れるほど遊ぼうぜ!」

 

「あぁ!」

 

 

 そんな出会い。

 それから俺とアイツはよく遊んだ。

 イリナも一緒の時もあったが、途中でアイツは海外に引っ越してしまい、他に友達もいたけど、一番遊んでいたのは冬也とだった。

 何て言うんだろうな……俺とアイツは妙に波長が合った、とでも言うんだろうか?

 アイツは俺よりも一つ上だったけど、それでも他の奴らよりも大人びていて、悪く言うと老けていた。

 

 一時期、酷くボロボロの時があって、暫くしてからアイツは施設に引き取られた。

 あのころはよくわかってなかったけど、父さんたちの台詞を思い出す限り、冬也の両親が捕まって、アイツが虐待から解放されたのは、その時だったんだと思う。

 

 そうやって、色々あったはずなのに、アイツはそんな影すら俺には格好ぐらいでしか見せず、気が付くと近所のガキたちの兄貴分的な存在になっていた。

 俺も、もちろんその中の一人で、その中でも一際冬也に近しい存在だったから、なぜか誇らしかったし、みんなが冬也に惹かれていくことも嬉しかった。

 俺からすれば、冬也は本当に兄貴分だった。

 あんな兄貴が欲しかった、と父さんたちに言ったくらいだ。

 

 そうやって過ごしていって、小学校、中学校と年齢は上がっていっても、俺と冬也の関係は変わらなかった。

 俺は……まあ、自分で言うのもアレだけど、周りから変態って言われるような言動をしていたけど、冬也は窘めさえするものの、俺に対する態度は変えなかった。

 後から知ったことではあったけど、むしろアイツは俺の兄貴分として俺の尻拭いをしてくれていた。

 本当に凄いヤツだと思う。

 当然モテてた。

 俺も羨ましいと思った。

 けど、冬也ならいいかなって、冬也ならそりゃモテるよなって、思えたから、それは嫉妬にはならなかった。

 純粋に、ずっと冬也に憧れて過ごしてきた。

 対等の親友ではあったけど、たった一年とは言え、人生の先輩で、それに見合ったような、俺じゃできないことを俺に見せてくれていた。

 かっこよかった。

 天才って言うのは、冬也のためにある言葉だって本気で信じてた。

 勉強も教えてもらっていた。

 おかげで駒王学園にも入れたといっても過言じゃない。

 事あるごとに冬也は、今俺があるのはイッセーのおかげだって言うけど、それは違う。

 そもそも、冬也がいなかったら、今の俺もいないんだ。

 駒王学園に入らなかったのなら、きっとオカ研のみんなには出会わなかっただろうし、何より悪魔にはならなかっただろうし、そしてリアスと、こんな関係にはなれなかった。

 

 冬也の奴は、家から近くて奨学金もいいから、っていう理由で駒王に入り、そして俺はそれを追って駒王学園に入った。

 もちろん女子率が高い、とか下心があったのも確かだけど、やっぱり冬也と違う学校っていうのも何かしっくりこなかったんだ。

 

 俺が入学し、一年が経り、そしてレイナーレとの一件があって、俺は悪魔としてリアスの眷属となった。

 夕麻ちゃんに――レイナーレに殺される時、たまたま通りかかり、俺を庇って俺と一緒に死んでリアスに転生させてもらった冬也。

 その時の冬也の駒はポーン。

 でも、なぜかポーンの半分だけだったそうだ。

 俺を先に転生させようとして、その時に勝手に一つのポーンが真っ二つに割れて、リアスが唖然としている間に半分は俺に、残り半分は冬也へと入っていったらしい。

 半分でもきっちりかっちり転生させる辺り、流石のアジュカ様だと思う。

 けど、その半分だけだった弊害か、冬也は『兵士』の駒で最も重要な能力である『プロモーション』が使えなくなってしまっていた。

 そんなわけもあってか、冬也は他の悪魔たちからは見下されていた。

 こればかりは仕方がない、って冬也は笑っていたけど、俺としてはどうしても許せないことだった。

 ライザーとのレーティングゲームの時だって、確かにリアスの政略結婚が許せなかったってのも大きいけど、それと同じくらい冬也のことを「才能のない赤龍帝のさらに才能のない残り滓」と貶したことを訂正させるためだって言うのも大きかった。

 

 そのライザーとのレーティングゲームでは、冬也は撃破数こそライザー側のシーリスとか言う騎士を倒しただけだったけど、戦術面ではリアスに助言を続けるなど面目躍如だった。

 それでも俺たちは力及ばずでライザーには勝てなかったけど、そこから冬也はグレモリー眷属の軍師っていう立場を築いていった。

 実際、グレモリー眷属内ではポーン半分だっていう理由で軽く扱われることもなく、逆に誰にも変えられない必要な存在として重宝されていた。

 その……何て言うか熱くなりやすいリアスを窘め、冷静に対戦の局面を見つめて指示を出すっていう他の奴らにはできないことをしていたし。

 戦略面で光るものがあるから、という理由でトレードの申込も一応あったらしい。それは、リアスが断ったらしいけど。

 しかし、それでも冬也は、戦いではそういった面でしか役に立たない、と自分を責めていることがあった。

 

 冬也は、たまたま俺に巻き込まれて転生したけど、神器持ちの存在だった。

 神器は『龍の手』。俺も自分の神器が『赤龍帝の籠手』と判明するまでは、最もポピュラーなものと言われてしょ気もしたけど、冬也と同じだっていうのは嬉しかった。

 神器の効果は、所有者の力を二倍にする、というもの。

 『赤龍帝の籠手』の下位互換だと侮辱されていることすらあった。

 俺と冬也は常に比べられていて、その時は冬也がずっと責められていた。

 これまで一緒にいる間では、逆にずっと俺が比較され続けていたのに。

 

 でも、冬也はそれに屈せず、ずっと自分を鍛えていた。

 だからこそ、神器もそれに応えて、禁手化に成功していた。それも亜種のだ。

 その能力は、馬鹿な俺じゃ説明しづらいものではあるけど、選んだものを二倍化させるというもの。

 それも有機物無機物問わず、強制的に二倍化させるもので、よく相手の発動前に何かやって力を暴走させたりしていた。

 頭のいい譲渡能力の使い方とはああいうものを指すのだな、と毎回それを見るたびにドライグすら感心していたほどだ。

 

 けど、そんなアイツの良さがわかるのは、アイツをちゃんと知っている奴だけだ。

 俺が強く――グレモリー眷属のみんなが強くなるたびに、アイツはアイツを良く知らない他の連中に貶されていった。

 それは敵――『禍の団』も一緒で、曹操たちは冬也のことを『グレモリー眷属のウィークポイント』とまで言いやがった。

 まあ、それに関しては、冬也の奴が曹操に一発吠え面かかせてやって訂正させていたけどな。

 ヴァーリの奴も初めは冬也のことを侮っていたけど、何回か行動を共にしている間に冬也のことを知ったからか、ちゃんと認めていたようだ。

 何でも、他の連中とは視点が違う、魔力の使い方や戦い方に新しい道を教えてくれた、などと俺のライバル様からは、認めて以来は高評価だったのだから。

 

 確かにおそらく冬也の奴がグレモリー眷属と一人ずつ戦って勝てるのはアーシアやギャスパーくらいかもしれない。

 いや、実際に戦ったのなら、きっとあの手この手と梃子摺らせてくれること間違いなしだけども。

 それでも、冬也は、俺たちの立派な仲間で、他のみんなができないことができるやつだった。

 冬也と付き合ってるんじゃないかと思うくらいに仲が良かったソーナ会長に至っては、ウィークポイントとは真逆で、アーシアと同じく生命線だと言ってくれていた。

 レーティングゲーム中だと現場指示を出してくれる冬也のいる状態といない状態とでは、戦いやすさの差が大きい。

 こう言うとアレだけど、やっぱり攻撃一辺倒なグレモリー眷属をうまく扱えるっていうのは、すごかったんだと思う。

 アザゼル先生も、才能はないって初めの頃は言ってたけど、途中からは一番相手にしたくないタイプ、あるいは真っ先に潰しておきたいタイプだと言ってたくらいだし。

 

 何があろうと、最後の最後まで足掻いて、自分を貫き通す。

 どれだけ相手が強くても、絶対に諦めない。

 そして、誰よりも他のみんなのことを考えて動いていた。

 そう、そんなヤツ。

 

 今回だって、俺と一緒になってオーフィスを守ろうと、ボロボロになりながらシャルバの前に立ってくれた。

 二人でシャルバの奴を倒したんだ。

 けど、けど、何で――――

 

 

「勝手に逝ってやがるんだよ……っ!」

 

 

 目が覚めた時、俺の身体だけじゃなく、俺の半身とも言える親友の姿もなかった。

 代わりにあったのは、冬也の黒ずんだ“完全に死んでしまっている”『龍の手』だけ。

 冬也だけでなく、この『龍の手』の中に封じられていた竜も一緒に死んでしまい、もう何の力も持たないものとなってしまっているらしい。

 それから、ドライグから語られていく俺が気絶している間のこと。

 冬也の奴が、俺の魂が汚染されないようにその命を懸けたこと。

 そして、冬也の最期の言葉。

 

 

『これまでありがとう、イッセー』

 

 

 ありがとうって言いたいのは、俺の方だ。

 何回感謝すればいいんだ、俺は。

 

 

『こんなどうしようもない俺を親友だって言ってくれて』

 

 

 これも逆だよ、親友。

 こんなどうしようもない、赤龍帝っていう肩書を無くしたら、何も残らないような俺を親友だって言ってくれて。

 

 

『本当にありがとう』

 

 

 だから、言うのは俺だよ。

 だけど……――――

 

 

「死んじまったら、もう、お前に、ありがとう、って……言えねえじゃねえか……っ!」

 

 

 鎧に魂を移されている俺は、涙が出ない。

 でも、それでも、ぽっかりと何かが欠けてしまった感覚がある。

 

 

「まだ、俺は、お前に……何も返せてないだろうが……!」

 

『相棒』

「イッセー」

 

 

 今、俺の身体はオーフィスとグレートレッドによって新しく作られているらしい。

 そこにこの鎧に宿っている状態の俺を移し直す、とのことだ。

 俺はまだ生きている。生きられる。

 冬也と先輩たちが繋いでくれた命だ。

 

 

「ドライグ」

 

『何だ、相棒』

 

「曹操たちを倒す」

 

『ああ、このまま二天龍が舐められているのは性に合わん』

 

「それだけじゃない」

 

『わかっている。託されたものはあまりにも大きい。

 何より俺もお前の中から、冬也を見て過ごしていたのだ。

 これまでなかったほどに俺も全力が出せそうだ』

 

「頼む、ドライグ」

 

 

 弔い合戦だなんて言うと、きっと冬也の奴は怒るだろう。

 そんな奴だ。

 けど、俺はお前を失って、一瞬また『覇龍』の呪文を口遊みそうになったよ。

 意味なんてなくても、つまりはそういうことなんだ。

 敵討ちって言い方がダメなら、俺の意地を通しに行くためなんだって思ってくれ。

 そして、世界に証明してやる。俺を知る全員に思い知らせてやる。

 俺の親友は凄い奴なんだって。凄い奴だったんだって。

 

 

「行くぞ、ドライグ」

 

『応。赤龍帝の友の重み、奴らに見せ付けるぞ』

 

「当然だ――!」

 

 

 この胸に空いた空虚な喪失感。

 きっと埋まることなんて二度とない。

 けど、俺は絶対にお前を忘れないよ、冬也。忘れてなんてやらない。

 リアスは泣くよ。お前が死んだのを聞いたら。

 アーシアも、子猫ちゃんも、木場も、朱乃さんも、ゼノヴィアも、ギャスパーも、イリナも、ロスヴァイセさんも、アザゼル先生も、レイヴェルも。

 ソーナ会長はもちろんだろうし、匙たちもそうだ。

 魔王様たちだって、きっと。

 みんな泣くよ。悲しむに決まってる。

 お前が死んだなんて、みんなにどう伝えたらいいんだよ。

 俺にみんなに伝えさせるだなんて、最期の最期にこれまで迷惑かけてきた仕返しみたいな、どでかいお仕置きを遺していきやがって。

 本当に、本当に。

 

 何で死んじまったんだよ、あの馬鹿野郎!

 

 

 お前がいたからこそ、俺はここまで来れた。

 だから、俺は生きて、最強の兵士になる。

 だから、俺を見ていてくれ――――

 

 

 

 誰よりも強かった、俺の大事な親友




またついカッとなって書いた。
ちょっと反省している。

何か蛇足感と駄作感が否めないけど、書きなぐってみた。
イッセー側も救われてたんだよ、っていうお話。

追加設定としては、
・両親から虐待
・イッセーたちより一歳上で、リアスたちと同学年
・イッセーからは兄貴分として慕われていた
・グレモリー眷属の軍師
・認めてくれていた人もいた
・実は我らがソーナたん――げふん、会長とフラグが立っていた

救いはないけど、意味はあったよ、としておきたいお話。
でも、ご都合主義で冬也くんがイッセーと一緒に復☆活したりはしない。
ガチ死亡エンド。

このあと、イッセーはオーフィス、グレートレッドと共に冥界に戻り、奮闘。
冬也くんの助言により、原作より若干(小手先程度)強い仲間たちと共に英雄派ギッタンバッタンと薙ぎ倒しましたとさ。
おそらくこの世界では、曹操たちは改心してもイッセーたちの仲間にはなれない……かもしれない。
だいたいそんな感じ。

実はちゃんと冬也くんの神器は持ち帰られていて、除染後に『赤龍帝の籠手』に取り込まれて、ピンチの時に効力を発揮して相手を倒す!
とまでは妄想したけど、これ以上は続かない。


んー、さて、これで書くことは書いた感じだけど、次は何を書くか……


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Dear My Fellow

side "K"night


彼は僕にとって、何だろう。
とても尊敬できる大事な先輩だ。

僕は彼にとって、何だったんだろう。
大事な仲間、あるいは後輩だって思えてもらえていたら、それは凄く光栄なことだ。

彼は、“僕ら”にとって、何だろう。
掛け替えのない、いなくてはならない人でしたよ、先輩。



 

 

 彼と初めて会ったのは、駒王学園に入学した直後のことだ。

 当時から部長は、駒王学園旧校舎の一室をオカルト研究部としてグレモリー眷属の表向きの看板とすることを決めていた。

 なので、僕も入学と同時にオカルト研究部に入部したわけだけれども、駒王学園には剣道部があり、その剣道部の実力も全国大会に度々出場するなど、なかなかなものであるらしく、確かに僕の扱うものは剣道ではなく剣術であったけれど、対人の経験の足しにはなるかな、と顔を出すつもりでいた。

 もちろんこれは入学当初の剣道部部長と話した結果得れたものであるので、何かグレモリーの力を使ったというわけじゃない。

 まあ、その剣道部部長は、どうもウチの部長に少し気があったみたいではあるけれど、それはまた別の話である。

 そういうわけで、僕は入学当初にその剣道部に赴こうとしたわけではあったけれど、この駒王学園は結構な大きさを誇る。

 有り体に言えば、道に迷った。

 そんな僕の前にふらりと現れて、剣道部まで道案内してくれたのが、彼――善導冬也先輩であった。

 

 

「キミと同じ学年に性欲に正直なとんでもない馬鹿がいるけど、関わることがあったなら、できれば仲良くしてやってくれ」

 

 

 道案内の途中での会話で、そんなことを言われたことを覚えている。

 そのとんでもない馬鹿っていうのが誰かは一か月もしない内にわかった――まあ、イッセーくんであったわけだけれども。

 

 そこで縁でも生まれたのか、善導先輩とはときどき顔を合わせ、イッセーくんほどではないにしろ、彼がグレモリー眷属入りする前から他のみんなよりは仲が良かったと思う。

 先輩然とした行動を常日頃心掛けているようで、誰にでも親切に応対し、文武両道成績優秀。

 そのくせやることはやり遂げる熱血漢的要素も持ち合わせた存在。

 女子からも人気はあったんだと思うけど、僕ら男子生徒の中でも彼は羨望の対象として認められていた。

 まあ、実際僕も頼りになる人だ、と信頼していた。

 もちろんそれは眷属入りしてからも変わらず、むしろその信頼度は上がっていった。

 運動神経やらその辺りは一般以上に優れていたけれど、それは人としてであり、悪魔としては一般的な部類の戦闘力しか持っていなかった。

 でも、彼がいるグレモリー眷属は、非常に融和が取れた居心地のいいものであった。

 

 その人の持つ価値とは決してそんな単純な力だけじゃなくて、もっと大切な部分で決まる。

 この言葉は、聖魔剣に至った契機となったコカビエルやバルパーとの一件の際に、自身の力のなさに不甲斐なさを感じていた僕に向かって、彼が言った言葉だ。

 その言葉と共に彼は、いつでも待っている、とだけ告げて、僕を諭すわけでも説得するわけでもなく去っていった。

 てっきり部長たちと同じように説教からはいるものだと思っていた僕にとっては、逆に痛烈なものであった。

 その後、僕はオカルト研究部のみんなと手を合わせて、コカビエルへと立ち向かい、僕は『双覇の聖魔剣』へと覚醒した。

 その時の善導先輩は、すでに現場指揮をしてみんなの補助をしていた。

 途中で僕らの隙を突かれて、コカビエルに気絶させられてしまった彼であったけれど、その時の彼の指示のあるなしの差がここまでになるのかと実感させられた。

 

 彼は僕らをよく見ている。

 それは修行の時にも生かされていたし、戦い方を定める良い指標にもなった。

 さっきの言葉は、貴方にもきっちりと当て嵌まるんですよ、先輩。

 貴方は決して邪魔な存在などではありませんでした。

 僕らの大事な、とても大事な頼りになる仲間でした。

 

 けれど、善導先輩はちょうどその頃から、たまに表情に陰が差していることがあった。

 きっとその頃から何だと思う。

 善導先輩が自分の力に劣等感を感じていたのは。

 僕らからすれば、先輩の力は確固たるものであったし、それこそただの暴力でしかない力とは比較にならないほど重要で、とても頼りになるものであったけど、それ以上に周囲の――外野の囁きが彼の心に少しずつ溜まっていっていた。

 それでも、そんなことがあっただなんて、僕も彼が遺した手紙を見るまでは気付きさえしなかった。

 どうして察してあげられなかったのか、今でも悔みますよ、先輩。

 特にそれを見て、ショックを受けているみんなを見ているとより一層そう思います。

 

 その善導先輩は、イッセーくんと共にオーフィスを助けるためにシャルバの元に残り、そして死んだ。

 龍門を使って、彼らを呼び寄せようとしたけれど、そこに現れたのはポーンの駒八つ。

 そう、善導先輩が持っていたはずの半分のポーンが、イッセーくんの持っていた残りのものと一つにくっ付いていた。

 それがどれか、というのは一つだけ真ん中に繋ぎ目があるものがあったので、特定は簡単だった。

 みんなそれを見て、悲嘆に染まった。

 僕たちが期待していたのは、駒じゃなかったのだから。

 彼ら二人の姿を望んでいたのだから。

 

 そこから僕らは、色々な人に励まされ、一縷の望みを持ってアジュカ様のもとを訪ねる。

 この帰ってきた『悪魔の駒』から何か掴めないか調べてもらうためだ。

 しかし、みんながみんな、著しく精神的に消耗していた。

 彼らを失った、というのは、あまりにも大きな損失で、損害だ。

 こうも、心に何かぽっかりとしたものができてしまったように思えるのだから。

 だけど、僕ら以外にも悲しみに暮れていても動こうとしている人物たちもいる。

 ソーナ・シトリー会長や匙くんも、涙を流しながらも都市防衛線に一般人の保護のために出向いている。

 特にソーナ会長も暫くはリアス部長たちと同じような状況にあったのだから。

 それでも、そこから自力で這い上がり、さらに部長を気に掛けることすらしていった会長を知り、加えてサイラオーグさんの叱咤もあって、みんな動ける程度にはどうにか持ち直せた。

 

 アジュカ様のところでは、アジュカ様の勧誘に来ていた英雄派のジークフリートと遭遇する。

 他にいた旧魔王派の連中は、アジュカ様によって葬られ、僕はジークフリートと再び相対することになった。

 ジークフリートは、イッセーくんと善導先輩を無駄死にだと嘲り、さらに先輩のことをいてもいなくても変わらなっただろう。それこそイッセーくん以上の無駄、だと罵った。

 あぁ……やっぱりそうですよ、先輩。

 僕もイッセーくんと同じだったんです。

 貴方に憧れていました。

 貴方のようになりたいと思っていました。

 イッセーくんの言うように貴方はかっこよかった。

 魅せられていました。

 そんな貴方を罵られて、僕はどうしようもないほどの怒りを覚えた。

 それは、僕に新たな力を齎してくれた。

 

 別に禁手を超えた何かを会得したとか、そういうものじゃない。

 けれど、それは僕にとって何物にも代えがたいような力となってくれるもの。

 ライザー・フェニックスとのレーティングゲーム前の修行の際に善導先輩からとある質問を受けた。

 それは、僕が創れる魔剣はどんなものかと言うこと。

 それに対して僕は、できることを素直に答えたけれど、そこで先輩から僕には思いもよらなかった答えが返ってきた。

 僕は魔剣を創る際、例えば「光を消すことが出来る魔剣」をイメージする。

 そして生まれる魔剣の能力は光を消す、というものになるわけだけれども、その分本物の聖剣や魔剣と比べると脆い、という弱点がある。

 だから、僕はそれの硬さと切れ味を上げようとしていた。

 けれど、彼はその発想を逆にした。

 まず硬くて鋭い剣を目指し、そこに能力を持たせていけばいい。

 万全で、最も基礎に相応しい最強のニュートラルを作り上げてから、派生させていけばどうだろうか、と。

 目から鱗、とはまさにこのこと。

 それにこの思想から作り上げていけば、戦闘中に能力の切り替えすら可能になるかもしれない。

 

 ゆえに僕は、いつもの修行に加えて、先輩の言ったものを目指した。

 それが成功しようがしまいが、きっとこれは無駄にならないものだと確信が持てたから。

 折れない魔剣を創りだそう。

 曲がらない魔剣を創りだそう。

 刃毀れせず、他の聖剣や魔剣を切り裂けるだけの切れ味を持った魔剣を創りだそう。

 ニュートラルなものを創るにしても、なるほど。確かにこれだけの機能があれば、それは紛うことなき魔剣の類だ。

 

 そして、今、その魔剣が完成した。

 折れず、曲がらず、刃毀れせず、万物を斬断する、能力を持った魔剣。

 

 

「僕らを導け――――!」

 

 

 そして、僕はジークフリートの龍腕の内、二本を断ち切ることに成功する。

 だが、代わりに僕も左腕を切り落とされ、出血の余り戦うことすら困難な身となってしまう。

 だけど、それでどうして諦める理由となるのだろうか。

 まだ僕には動く身体がある。剣が振れる右腕がある。

 折れない剣を求めたのは、なぜだ。

 それは相手の攻撃を弾き、みんなを守る騎士(けん)となるためだ。

 

 だが、すでにうまく剣すら創りだせない。

 そんな僕の目の前に現れたのは、イッセーくんと先輩の駒が組み合わさったもので、その駒はイッセーくんの持っていたアスカロンと化す。

 握る。暖かい波動を感じる。

 これはイッセーくんや先輩から感じていたものだ。

 イッセーくんとの約束だけじゃない。

 先輩の声も聞こえる。

 

 

 ――――きっと真っ先に死ぬのは俺だ。

 ――――けど、それで何かを守れたなら、俺は本望だと思って死ぬに違いない。

 ――――俺の死は、無駄死にと呼ばれるものとなっているかもしれない。

 ――――だが、それで守られたものがあって、その守ったヤツが何かを為してくれれば、それはきっとすごいことだと言えるんじゃないか?

 ――――だから、俺は決して立ち止まらない。

 ――――イッセーと祐斗がとある約束をしているのは知っているけど、だからこそ俺はお前たちを守りたい。

 ――――無責任な言葉かもしれないけど、頑張れよ。

 ――――頼りない先輩からの、お願いだ。

 

 

「……無茶を言う人だ」

 

 

 奮い立て。

 あの魔剣使いを黙らせろ。

 騎士とは命だけを守る存在なのか?

 それは否だろう、木場祐斗。

 託された誇りと希望を守らず、何が騎士か。

 

 この『兵士(ポーン)』の駒を皮切りにグレモリー眷属のみんなは戦意と意思を取り戻し、最終的にはグラムが僕を新たな主としたことで戦況は一変、ジークフリートを打ち倒すことに成功した。

 だけど、このあとのアジュカ様による『悪魔の駒』の解析による結果は、一つの希望と一つの絶望を僕らに知らせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 善導冬也、サマエルの血による影響と戦闘による傷により死亡。

 それが彼が持っていた半分の『兵士』の駒に残された最期の記録であった。




続きを考えてみようとして、こうなった。
何で真っ先に木場だったんだろうか。
それは永遠の謎である。
本当にノリと気分で、どうにか設定だけは破綻してないように、と祈りながら書いてる。
主に深夜テンションで。


時間軸的には微妙に進んで、ジークフリート戦。
ちょこっとだけ原作より強い木場のお話。

主人公はこんな感じで色んな人に助言してましたよ、と。
ヴァーリ云々で言ってたのもだいたいこんな感じ。
なので、この世界の『白銀の極覇龍』はさらにぶっ飛んだ性能になっている。

今回の追加設定はこちら。
・駒王学園のアニキ
・助言マン
・この騒動後に主人公宅(木場・ギャスパーと同居中)から遺書が発掘される

今更になってアザゼル製の人工神器くらい持たせておけばよかったかなぁ、と思いましたが、よくよく考えるとこの主人公才能なし補正なしなので、持っててもうまく取り扱えているかは別問題だった。


基本的にはこうやって、ちょっとずつ内容を保管していく形になっていくんだろうけど、需要はさてあるのか!
一応次回にも続くのじゃ。
次は、えーと……誰にしようか。


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Dear My……



 善導くん。
 貴方は、最高の眷属だったわ。
 それは絶対に誰にも否定させない。
 誰よりも私たちのことを考えていてくれた、私には勿体無いくらいの眷属だった。


 貴方は、イッセーくんとはまた違う形で私たちグレモリー眷属の中心でした。
 確かに貴方は私たちの大事な寄る辺を遺してくれたかもしれません。
 しかし、イッセーくんが寄る辺なのだとしたら、私たちは何物にも代え難い大事な止り木を失くしてしまいましたよ。


 善導先輩は、ちょっと不思議な人でした。
 けど、とても優しい人で、私にも親切にしてくれた人。
 お姉さまとの仲直りにも一役買ってくれた、偉大な先輩。
 またお菓子買いに連れていってくれるんじゃなかったんですか、先輩……。


 彼は、凄い人だ。
 昔の私であったら、とても考えられないような強さと凄さを持つ人物。
 キワモノ揃いの私たちをああも使いこなせる人物など他には部長以外にはいまい。
 あぁ、本当に、惜しい人を失くしてしまった……クソ。


 あの人は、私にとってお兄ちゃんみたいな存在。
 出会いはイッセーくん伝いからだったけど、たぶん向こうも私を妹として見てくれたんじゃないかしら。
 再会して悪魔に堕ちていたことがわかったときは落胆もしたけど、あの人は何一つ変わってなかった。
 ……何で、死んじゃったの、お兄ちゃん……っ!


 冬也さんは、イッセーさんと同じく私の恩人。命の恩人。
 イッセーさんとの仲を取り持ってくれただけじゃなく、他にも学校生活を始めとして色々と取り計らってくださっていたことも他の皆さんから聞きました。
 レーティングゲームの時の狙われ易い私の立ち回りも、ずっと一緒になって考えていて下さりました。
 私は、まだ全然貴方にお返しができていません。
 貴方の代わりが務まる人なんていません。
 ですが、私たちも頑張って行きます。
 それを見守っていてください、冬也さん。


 

 

 

 

 奴のことか?

 アイツは不思議な奴だ。

 力は弱い。それこそ俺にとっては歯牙にかける必要性がないくらいに弱い。

 まあ、これには少なくとも武力――しいて言うならば、暴力に関しては、というのが奴と関わってからわかったことだが。

 奴の役割は、場の状況把握と問題への打開策を見出すこと。

 その視点の多彩さで、味方の手数を増やし、勝利への道筋に奴の周囲の連中を導くことだ。

 学んだのだろう。才能こそ感じられないが、様々な分野や種類の魔術への造詣は非常に深い。

 これで奴にそれを扱い切る才能があれば、とも思うが、それは仕方がないことか。

 第一、奴は龍の軍師。ふ、まさかアルビオンすら思い付かなかったような力の使い方を考え出すとは。

 奴と語り合うのは非常にいい。

 おかげで、俺とアルビオンの目指す『真なる白龍神皇』の完成形の目処が立った。

 その点と、ここまで兵藤一誠を導いてきてくれたことには感謝している。

 それに加えて、あの曹操に一泡吹かせた男。

 そして、そこで曹操に突き付けた台詞。あれは、いいものであった。

 

「良いことを教えてやるよ、テロリスト。お前たちは英雄でもなんでもない。

 英雄とはな、人から褒め称えられて成るものだ。決して戦場の華となる強さを持った存在じゃない。少なくとも、イッセーとは違って、チビッ子に泣かれるお前らは英雄じゃない!」

 

 痛快、と言うべきか。

 あの時の英雄派どもの顔は見物だった。

 奴――善導冬也の死亡。これは大きな損失だ。

 悲しむほど友好を深めていたわけではないが、惜しい存在を亡くしたものだ。

 

 我らがライバルの心が折れていないことを祈るばかりだ。

 まあ、奴があれだけ気に掛けて、ここまで導いたのだ。

 この程度で立ち止まってしまうような奴ではないだろう。

 そうだろう? 赤龍帝――兵藤一誠?

 

 

 

 

 善導冬也、のこと、ねえ?

 一言で言うなら、天才に憧れて足掻いている凡才ってところか。

 ヤツは、基本的にはどこまで行っても一流にはなれない、せいぜいが二流止まりにしかなれないような素養の持ち主だった。

 本人も自覚はあったのか、悪魔としてだけでなく、人間としても器用貧乏な奴だった。

 神器も『龍の手』、中身なんて俺が片手間でも数千回と殺せるような木端ドラゴン。

 どう頑張っても倍加するだけが限界みたいな神器。

 隣にいた『赤龍帝』兵藤一誠と比べたら、気に掛ける必要性すら感じない存在だ。

 

 だが、ヤツはそんな中でも存在を確固たるものにしていた。

 確かに戦えば、勝てるだろう。

 堕天使の総督である俺にかかれば、一瞬で済むような戦闘能力だ。

 しかし、ヤツが敵対勢力にいるとなれば、別だ。厄介なこと極まりない。

 厭らしい手を使って、あの手この手と搦め手で戦力を削って来やがる。

 そういうヤツだ。

 

 しかし、人格面ではそんな色なんて見せず、どこまでも愚直で誠実な奴だった。

 ああ、確かにアイツは良い奴だ。

 んなもん、アイツと関わってきた時間が長い期間じゃなかった俺ですらわかる。

 加えて、アイツの思考は独特だ。

 俺の神器研究には程よい刺激となってくれた。

 

 もちろん俺も感謝してるさ。

 そんな善導のヤツが遺していきやがったんだ。

 アイツがあの世で悔むようなことにはしねえ。させねえ。

 俺の全力をアイツが遺したかった大事な連中に注いでやる。

 逆にその場になぜ自分がいなかったのか、後悔させてやる。

 覚えていろよ、善導。

 俺も、お前のことは覚えておくからよ。

 

 

 

 

 奴――善導冬也か。

 確かに名立たる眷属の溢れ返るグレモリー眷属の中では目立たい存在だろう。

 だが、奴ほど厄介なグレモリー眷属もいない。

 『僧侶』アーシア・アルジェントと同じくグレモリー眷属の生命線。

 故にリアスとのレーティングゲームでは、全力でその力を削ぎにかかった。

 しかし、俺たちの考え出した戦術は全て読み切られ、個々の力で一部圧倒したこともあって互いに眷属を削り合う試合にはなったものの、視点を変えれば、あれは我々の完敗であろう。

 そう、リアスと善導冬也に。

 それに奴は、俺の一撃に耐え切ってみせた。

 確かにダメージは大きく、動けなくなるほどではあった。

 しかし、レーティングゲームから敗退にならない程度に意識を留め、サポートに徹した。

 奴は、端から頭だけで戦うつもりなどなかったのだ。

 自分ができることを必死に考え出し、どうすれば有効な一手を生めるかを考え出した結果、ああいう立場に至っただけ。

 兵藤一誠に並ぶほどの奴は、どこまでも熱い奴であった。

 そんな奴をグレモリー眷属は――赤龍帝は失った。

 

 今の眷属に不満はない。

 だが、俺もあんな奴が仲間に欲しくなかったかと聞かれれば、それは嘘だ。

 まあ、数ヶ月前にリアスにトレードを申し出た際には断られてしまったわけだが。

 可能性の一部を千切られてしまったグレモリー眷属、少し不安に思うところもあるが、奴があれだけ全てを懸けたのだ。

 再起し、さらに上を目指してもらわねば、奴がその全てを懸けた意味がない。

 乗り越えろとは言わない。

 それを抱えたまま、前へ進め。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか。支取の夢は学校を作ることか。うん、俺に出来ることなんか知れてるとは思うけど、何かできそうなことがあったら教えてくれ。俺にもそのすごい夢、手伝わせてくれないか?」

 

 

 

 私、支取蒼那ことソーナ・シトリーが彼、善導冬也と初めて出会ったのは、駒王学園の入学前オリエンテーションのこと。

 元より学園サイドの――悪魔側の存在である私にとってはあまり必要のないものでしたが、せっかく学生の身分としてこの人間界にいるのですから、学生として義務付けられたものには参加するべきでしょう。

 加えて、眷属に加えたくなるような人物にも出会えるかもしれません。

 そう思い、参加したそのオリエンテーション。

 今思うと、本当に参加していてよかったと思えるものでした。

 

 別段早く行こうだとか思っていたわけではないのですが、往来の性格かオリエンテーションの開始時間よりもかなり早めに駒王学園へと辿り着きました。

 これに関しては、私の『女王』である椿姫にも少し苦言を訂されてしまいましたが、まあ、私ですので諦めてもらいましょう。

 学園に着き、暇を持て余した私たち。

 会場で待っていてもよかったのですが、どうにも作業をしている方々の中に多く悪魔の方々がいるようで、頻りに私たちに気を使ったような反応や視線を向けてきていて、それに少し疲れた私は椿姫を連れて、学内を見て周ることにしました。

 すでに下見を済ませていたので特に迷うこともありませんでしたが、順に主要な場所を周っているところで、一人私たちと同じように学園を見て周っている男子生徒に出会いました。

 その男子生徒こそが善導くんでした。

 

 目的も同じだったので、その後は一緒に学内を見ていくことになり、その間の会話でおそらく友人とは言えるような関係になっていたように思います。

 彼は非常に気さくで気が利き、あまり初対面の人には笑顔を見せない椿姫ですら彼には微笑み返していて、その時間は非常に楽しいものでしたね。

 時間がやってきてオリエンテーションが行われる会場に戻り、その時も彼は私たちのすぐ近くに座り、進行をしている方には少し悪い気もしましたが、時折会話を交わしながらそのオリエンテーションを過ごしました。

 オリエンテーション開始時間にやってきたせいで、私たちとは離れた席に座っていたリアスと姫島さんには、後々に見知らぬ男性と私がしゃべっていたことに驚いた、と告げられましたが、そこまで私も硬くありませんよ、まったく。

 

 オリエンテーション終了後は少し善導くんと喋っただけですぐに別れましたが、その後はすぐにまた顔を合わせることになります。

 と言っても、同じクラスだったというだけなのですが。

 一応学園側からの配慮なのか、王と女王の組み合わせでクラスが分けられたようで、リアスたちとは別のクラスでしたが、椿姫とは同じクラス。

 そして、善導くんと同じクラスでした。

 まあ、結局彼とは三年間ずっと同じクラスに配属されたのですけど。

 加えて出席番号も近かったこともあって、よく席の並びが私、椿姫、善導くんというものであることも珍しいことではありませんでしたね。

 

 友人関係となってから一番驚いたことは、どこで知り合ったのか、お姉様と善導くんが非常に仲の良い様子であったことなのですが。

 と言いますか、「セラ」と「とぉくん」と渾名で呼び合っている姿は少し妬きもしたくらいです。

 

 それからも彼との交友関係は続き、こう言うのも少し含むところもあるのですが、おそらく眷属を除けば、最も仲の良かった近しい存在と言えるでしょう。

 何度か恋仲かと勘ぐられたこともありましたが、別に彼とはそういう関係というわけではありませんでしたし。

 まあ、好意を抱いていなかったわけではないので、何かキッカケがあれば、そうなっていた未来もあったかもしれませんね……。

 善導くんはお姉様からの印象もいいものでしたし、その能力も戦闘能力こそあまり持たないものの、それを補い切れるほどの戦術眼。

 椿姫も何かに付けて焚き付けようとしてきていましたし、つまりはそういうことなのでしょう。

 しかし、それはもう、永遠と来ない不可能な未来になってしまいましたが。

 

 善導くんは、我々悪魔でも驚くくらいに色々とできる方です。

 しかし、仲良くなって初めてわかったことではありましたけど、それ以上に彼は努力家でした。

 本人曰く、ほとんど才能がないけど、才能がないなりに足掻いている、と。

 天才ではなかったのでしょうけど、努力する秀才であった彼は、確かな結果を残していきました。

 それこそがきっと彼にしかできなかったことだと私は思います。

 

 彼は、どこか人を惹きつける何かを持っていました。

 男性陣に対しては、憧れを抱かせるような何かを。

 女性陣に対しては、それこそ私自身どうしてかはわからないのですが、非常に心配したくなる、母性本能なのかは不明ですけど、そういったところを擽られるような、惹きつける何かを。

 アレも一種のカリスマなんでしょうね。

 彼の能力が認められ、『王』となっていたら、さぞや素晴らしい眷属陣になっていたのではないでしょうか。

 加えて彼は、私をチェスで打ち負かす数少ない人物でしたし、レーティングゲームでの頭の回り様。

 私のライバルになり得たのではないか、と思っていた――のに。

 

 善導冬也。生死不明。

 この報が知らされたとき、周りから見た私はどのような様子に見えたのでしょうか。

 報を聞き、それがどういうことか頭で理解したところで視界が真っ暗になったことは確かで、椿姫や匙くんから励まされるまでは、ずっと今いる場所がボンヤリと現実ではないような気分に陥っていました。

 しかし、私はただ泣いているだけではいられなかった。

 いえ、泣いているだけでなんていたくはありませんでした。

 生きているにしても、本当に死んでしまっているにしても、あの善導くんがここにいなくて、そして誰かしらに指示も出していないということは、私達の力とやりようでこの場は収められるということ。

 そして、何より善導くんが死んでしまっているとしても、私は彼に夢の達成を応援されているし、手伝ってもらいもしました。

 だからこそ、私達はこの冥界の危機を乗り越えねばなりません。

 

 私だけだったら、こんな考えには至らなかった。

 椿姫や匙くん、他の眷属たちにリアスたち……そして善導くん、お姉さま。

 これまで私と関わってきた人たちと、今励ましてくれたみんながいなければ、ここまでこれなかったでしょうし、立ち直れなかったでしょう。

 その私を変えた――前に進ませてくれた内の一人であるお姉さまは、涙を堪えながら冥界を危機に陥れる超獣鬼たちの討伐に出ました。

 聞いた話では、私以上に善導くんとの交友関係の長かったお姉さま。

 四大魔王という立場であろうとも、精神は一悪魔に違いありません。

 お姉さまも頑張っておられるのに、その妹がただただ後方で守られているわけにはいきません。

 

 

「行きましょう」

 

 

 こちらを心配そうに眺める椿姫や匙くんを横に、私はとある人物に連絡を入れます。

 彼ならば、リアスたちを呼び覚ませるでしょう。

 私には向かない作業で、それを押し付けてしまう形となりますが、そこは男の甲斐性ということで。

 

 

 ええ。決して乗り越えたわけではありません。

 生きているという確かな希望があるわけでもありません。

 そして、なぜか彼とは二度と会うことはないという確信を持ってしまっていた私は、不謹慎なのかもしれません。

 けれど、今だけは貴方の言葉を頼りに動かせてください、善導くん。

 

 

「未来を見て動いてる支取はかっこいいよ」

 

 

 貴方は格好良くないつもりだったのかもしれませんけど、私にとってはイッセーくんや他のみんなのために動く貴方も凄く格好良かったですよ。

 

 

 では、頑張ってきますね、善導くん。




まさかの四キャラ分!
今回は正直失敗したかな、って思ってる。
けど、これ以上も練り上がらなかったので、諦めて投下。

ソーナたん視点難し過ぎ。超難産。
むしろ上で書いた野郎ども3人の方が書きやすかったくらい。

気が乗ったら書き直してもいいかも、ソーナたん部分は。

前書きでギャスパーとロスヴァイセさんを書いていないのは意図的。
書く内容が思い浮かばなかったとも言う。

今回の追加設定は
・もう面倒だからセラフォルーさまとも仲良くさせておこう(錯乱)
・ミルたんとも仲良し(裏設定)
・日朝番組が大好きだった→特撮も大好き⇒つまり……?
・ヴァーリやアザゼルとはよく討論してた
・曹操たち英雄派には結構なことをかましている

ただ、もう続きを書く元気はない。
とりあえず時間が出来たら買ったまま放置の17巻読もう。

誰もしないとは思うけど、これらの作品の設定はフリーです。
お好きにご利用ください。





ただ、最後の最後にちょこっとだけ救いをして終わりです。
(あと一話で完結)


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Dear My Partner

※注意書き
 この話は蛇足も蛇足、余分なものです。
 本当に色々と余計なものまでくっ付いてます。
 お読みになる際は、お気を付けください。


















 死が終わりなら、きっと託しなんてしなかったさ。
 俺は終わりでも、お前たちには先がある。
 そこに少しでも残せるものがあったのだとしたら、それは紛れもなく、俺にとっても先だ。
 死の向こう側――未来にある希望だ。


 

 

 

 消えて、零れて、なくなっていく。

 

 一欠片も残さずに、そのすべてを犯され、踏み躙られ、あとは周囲にその記録と記憶と言う痕跡を残すだけ。

 

 これが消滅。

 

 正しく終わり、そのものにもはや意味はない。

 

 意味があるとしたら。それは後付されるもの。

 

 ゆえに、終わりは、終わりの向こう側を迎える。

 

 

「我、お前には興味ない。でも、お前に我、恩がある」

 

 

 何もない世界で、声なき声が響き渡る。

 聞こえている/聞こえていない。

 誰の声だったか/これは誰かの声なのか。

 声って何だ……わからない。

 

 

「無と無限は限りなく近い。我、無からお前を掬い上げる。

 そこからは夢幻を超えて、お前、向こう側へ行く」

 

 

 何だろうか、わからない。

 けど、知っている――気がする。

 “俺”って言うのは何だろう。

 でも、叫んでる。

 言っておけ、と。

 言わなければ、俺足りえないぞ、と。

 

 

「もうすぐイッセー、目を覚ます。だから、お別れ」

 

 

 もう“俺”にはそんな力はない。

 すでに身体はないし、魂もないに等しい。

 ないに等しい、“俺”に相応しい終わり。

 でも、そこに次を用意してくれたのなら、言うべきことは一つ。

 そして、“俺”として言っておくべきこともあと一つ。

 

 

「ありがとう。イッセーを頼んだ」

 

「ん。任された。寝るといい、■■■■」

 

 

 吹き消えるように最後の一欠片は消滅し、無が生まれる。

 無は無限と夢幻に近しい。

 ゆえに龍神は力を行使し、残滓を痕跡として向こう側へと送り付ける。

 彼はそうするに値する。

 龍神はそう判断したがゆえに己が力を行使する。

 あとは向こう側で自力で補え。

 ここまでが彼らが領分、それ以上は彼らにとってはもはやどうでもいいことで、どうしようもないことだ。

 

 ゆえにここから起きる物語は在って無いもの。

 アンコールとまでは行かない舞台終わりの、ちょっとした小話に過ぎない――一場の幻のような夢。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人で少年が遊んでいる。

 その日はいつも一緒に遊んでいる少女が用事で遊べず、他の遊び相手を探したものの誰も捕まえることができず、結果として少年はただ一人公園で遊んでいた。

 

 しかし、その程度でめげる少年ではない。

 遊ぶ友達がいないのならば、遊べる友達を今から作ればいいのだ。

 この公園は広い。

 探せば、暇そうなヤツや少年が混ざっても大丈夫そうな集まりくらいあるだろう。

 そう思い至った少年は公園内を駆けずり回る。

 

 そして、少年は出会った。

 それを見た瞬間になぜか話しかけないと、という衝動が胸の奥底から溢れた。

 

 公園の端にあるブランコで、独りでそれを揺らしている少女がいた。

 少女の容姿は大変見目麗しく、髪は銀で日本人らしくない相貌だ。

 だが、その表情は今にも不安に押し潰されてしまいそうなほど、どこか悲痛なものであった。

 

 ――話しかけないと。話しかけて――何だろう。

 少年は、そこまで考えて、思考が停止する。

 ――どうしても話しかけないといけない気がする。

 ――でも、それはどうしてだろう?

 ――話しかけて、その後いったいどうするんだ……?

 駆け出したくなる衝動の中、少年は考え込み、そして気付く。

 

 ――何だ、考えるほどじゃなかった。

 

 少年がなぜここにいたのか、そこまで思い出せば、あとは行動するだけだ。

 

 

「なあ、お前! 一緒に遊ぼうぜ!」

 

 

 言葉を考えるまでもなく、まるでそう言うことが当然であったかのように少年の口からは言葉が出てきていた。

 この言葉に対する答えも、なぜか“すでに知っている気がする”。

 

 少年の問いかけに少女は、驚愕とでも表現するべき驚きに満ち溢れた様子で固まる。

 その後、まるで信じられないと言った言葉を顔に貼り付けて、震える小さな唇から紡ぐ。

 

 

「へ?」

 

「へって何だよ」

 

 

 問いかけに対する言葉は声にならないものであった。

 少女の声、それが耳に届いた瞬間、少年の心に浮かんできたのは、とてつもない安心感だった。

 聞いたことのない綺麗な声だ。

 でも、そこじゃない。

 もっと根源的な何か、そこに在るということが凄く嬉しくて仕方がなかった。

 

 

「いや、私と、遊んでくれる、の?」

 

「だから、遊ぼうって言ってるじゃんか」

 

「名前も知らないのに?」

 

 

 そして、この時が来た。

 なぜだろうか、この時を生まれたその瞬間から待ち侘びていたような気がする。

 ――会えてうれしい――“また”巡り合えたよ。

 だから、少年は気合を入れて、宣言するかのようにその口から言葉を紡ぐ。

 紡ぐ言葉なんて考えるまでもない。

 

 

「おう、そっか! 俺は兵藤一誠! みんなイッセーって呼ぶからイッセーって呼んでくれ!」

 

 

 返しを待つ。

 きっと彼……女は答えてくれるはずだ。

 

 少女は言葉を紡いで、その声を返す前に胸の奥に押し込んでいたものが溢れて涙が込み上げる。

 少年――イッセーがこの程度で怒るはずがない。

 確信すらあった。

 でも、早く返したい。

 だから、と涙を堪えて、できる限りの答えを返す。

 

 

「イッセーね。イッセー、うん」

 

 

 少年の名前を舌の上で転がす。

 まるで恋人の名前を呟くようだ。

 そんな想いの形ではなかったけど、きっと今ではそれに近いのかもしれない。

 そして、少女も意を決して言葉を紡ぐ。

 本名ではないが、きっと許されるだろう。

 

 

「私の名前は、トーカ・ゼンドー。好きに呼んでね」

 

 

 ここに再び邂逅は果たされた。

 

 

「おう! トーカ! これで知り合いだし、俺とお前は友達だ!

 だから、俺と遊ぼうぜ!」

 

「友達……? 友達ね……ふふ、そうね! 倒れちゃうまで遊びましょう!」

 

「あぁ!」

 

 

 こうして、巡り巡って新たな物語が紡がれていく。

 この後がバッドとなるかハッピーとなるか、どう転ぶかは、彼の龍神でもわかりはしない。

 

 

 

 けれど、それは野暮なことだろう。

 

 

 

 

 きっと、次は――――








ついカッとなって書いた。
反省している。色々な意味での後悔もある。

BADENDだったけど、その向こう側がなかったとは言ってない。
これが救いとなるかは、あとは彼で彼女なあの子次第。

――と最後の最後にペンを投げ捨ててしゅーりょー!
風邪ひいて頭痛が凄まじい状態で書いているから、もはや普段のテンションではない。

オチとしては、並行世界に転生を果たした冬也くん。
そこでは冬也くんは冬也くんではなく、トーカちゃんだった!?
知っているようで全く知らない世界。
生まれから何もかもが違う境遇を生き、混乱の中、彼――彼女は大事な親友を思い出す。
彼――彼女は覚えているが、他はそうでない。
しかも、彼は今、彼ではない。
色々と思惑やら私情やらが合わさり、家を追い出された彼女は意を決して思い出の公園へ。
確かこの日だったはずだと希って、それは現実となって実を結ぶ。

――とまあ、だいたいこんな感じ。
あとこの世界の冬也くんは器用貧乏な才能なしな努力家ではなく、万能な天才な努力家。
神器はないけど、その代りとなりそうなものは山ほど持って生まれてきている。
種族的には悪魔と人間のハーフ。
ん? 悪魔と人間のハーフで銀髪……?

なお、この世界、実は設定が練ってあるというか、実は私が書きかけの他のDDのSSである。
公開予定は今のところない。

原作との差異は、
・自分が全力で戦える場所を探している超強い戦闘狂な曹操(主人公)
・みんなのアイドル戦闘狂なヴァーリちゃん(ヒロイン)
・かっこいい英雄派
・そこまで悪人じゃないリゼヴィム
・色々な意味で暴走する魔王と堕天使総督
・最後は神様シリーズほどのインフレ
こんな感じの世界。

TSってところに不快感を持つ人は当然いると思う。
でも、実はこっそりと「Dear Welsh Dragon」の時からフラグは立ててた。
礼のアザゼル発明暴発事件では良妻冬也くんが出現することを妄想するくらいには、実はあの頃からこのオチは書いていなかったけど、作ってました。
一応TSしている理由としては、魂が消えかけだったので、そのものとしては復元されなかったっていうのと、イッセーの冬也と一緒にいたかったっていう思いが龍神さまに汲み取られた結果、変な化学反応を起こしたっていうことで。

一応本作はこれにて終了。
これ以上は続きません。

それでは、ここまでお読みになってくれた方々、駄文駄作ではありましたが、皆さんの暇つぶしにでもなっていてくれれば幸いです。
機会があれば、またどこかで文章と言う形でお会いしましょう。
これまでありがとうございました。


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予告……?



お前の理想は何なんだ……?

俺か? 俺はな、ただ、全力で戦いだけなんだが……そうだな、誰もが憧れる英雄となること。
それが俺の理想かな?





安心して、イッセー。
次は絶対に貴方を導いてみせるから。
貴方のためなら、私は――――


 

 

 

「やあ、お久しぶりと言うべきか、赤龍帝兵藤一誠。

 さて、キミの全力は、俺の全力に耐えられるのか、試させてもらおうかァ――――!」

 

「ハッハッハッ、宿敵である赤龍帝と聖槍の使い手の二人を同時に味わえるなんて、素晴らしいじゃないか!!」

 

「ぐっ……勝手にやってろよ、この戦闘狂どもめ……っ!」

 

 

 

 

 

「トーカ、俺は……!」

 

「構わない。構わないの、イッセー。

 別に無理に喋ろうとせずとも私は気にしないわ。

 好きに……貴方の信ずるままに行いなさい。それがきっと貴方の真実よ」

 

 

 

 

 

 

「やぁやぁ、悪魔諸君。初めまして、今代の聖槍の所持者、『禍の団』英雄派の曹操だ」

 

「聖槍、だと……!?」

 

「その通り。全力で振っても折れないという素敵武器だ」

 

『――――はぁ?』

 

『はぁ……』

 

 

 

 

 

「今度こそ私が勝たせてもらおうか、曹操ォ!」

 

「はっ、そう言うなら俺に一発でも届かせてみろ、ヴァーリ! その白銀の鎧が見せ掛けだけじゃないことを示してみろ!!」

 

 

 

 

 

 

「なぁ……何とか言ってくれよ、トーカ!」

 

「トーカ、貴女いったい何者なの? そろそろ正体を明かしてもらうわよ……!」

 

「へぇ、すいぶんと怖い顔ね、リアス。正体と言っても単純な話――」

 

『なっ』

 

「そう……ただ私も悪魔で、本来の姓はゼンドーではなく、ルシファーと言うだけよ」

 

「るし、ふぁー……?」

 

「そうなのよ、ごめんねイッセー。つまり、今は……敵よ」

 

 

 

 

 

「うひゃひゃひゃひゃ」

 

 

 

 

 

 

「何で、何でお前たちが俺たちを庇うんだよ、ゲオルグ、ジークフリート!」

 

「さて、な」

 

「キミたちグレモリー眷属は子供たちの希望だ。だから、かな?」

 

「俺たちの理想にお前が近かった。ならば、守るのも当然だ」

 

「ははは、そうなると僕たちは『英雄』兵藤一誠のために散った者、となるわけか。それもそれであり、なのかな」

 

「まあ、あとは曹操もやってくれるさ。だから、あとは任せたぞ、兵藤一誠、木場祐斗」

 

 

 

 

 

「ゲオルグ、逝くのか」

 

「すまんな、曹操。約束、守れそうにない」

 

「やりたかったようにやったんだろ? なら、俺は咎めないさ」

 

「あぁ、だから、お前に全部託すよ、親友」

 

「ありがたく、全部託されるよ、親友」

 

 

 

 

 

 

「……そう、来たのねイッセー」

 

「トーカ、もう諦めてくれ……! 俺は、トーカとは……!」

 

「トーカ、我……」

 

「オーフィスもそっちが側、か。まったく――――ここまで思い通りになるなんて、怖いくらいだわ」

 

「さぁて、我も参戦しようか、オーフィス」

 

「お前、なぜ、ここにいる」

 

「なに、普段はあそこが落ち着くのだが、面白い催しがあるらしくてな? それに当代の二天龍はなかなかも中々に面白い。我も参加してみたくなったのだよ、この闘争に」

 

「シャルバにはすでに退場してもらったわ。つまり貴方たちの相手は私たちよ」

 

「――――そうか。とんだラスボスが来やがったな、この野郎。

 まあ、いい。お前らを倒して、トーカは連れ帰る。それから説教だ」

 

 

 

 

「うひゃひゃひゃひゃ」

 

 

 

 

 

 

「姉さん、何で姉さんはあんな奴なんかの言うことを……!」

 

「さて、ね。ただ、お祖父さまは私のことをイッセーの次くらいによく知ってくれている、というだけのことよ、ヴァーリ」

 

「――ッ、アルビオン!」

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!』

 

「来なさい。ヴァーリ……それでいいのよ」

 

 

 

 

 

 

「さて、なら、俺の全力の一撃を受けてみろ、呂布。これが俺の仲間たちを屠ってくれたお前への、俺なりのお返しだ――――!」

 

「ば、ばかな……! そんなことがありえるわけがァ!」

 

「覇輝!」

 

 

 

 

 

 

 

「うひゃひゃひゃひゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー……優しく、ね?」

 

「……そんな勘違いしちまうようなこと言うな。ホントに勘違いしちまうだろ」

 

「イ、イッセーなら、構わないわ。元からこの人生全てをイッセーのために使う気だったのだから」

 

「トーカ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方はとても『悪魔』らしかった。貴方には期待していたのですが、やはり貴方は『悪魔』に相応しくない」

 

「ぐ……」

 

「せめてもの手向けです。貴方の愛しの兵藤一誠と同じ、この赤龍帝の鎧でとどめを刺してあげましょう」

 

「――――いいえ、どうやら私はまだ死んではいけないみたいなの。だから、貴方にはこの……『龍の籠手』の試し台になってもらうわ」

 

「『龍の手』ではなく『龍の籠手』ですって……? 何ですかっ、その黒ずんだ『龍の手』は!」

 

「そう……これはね、“俺の大事な人たち”からの贈り物だ」

 

 

 

 

 

 

「うひゃひゃひゃひゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはお前の筋書きか、リゼヴィム?」

 

「ウチの孫、なかなかに面白いことやってたろォ? だから、俺ッチもそれに乗ってたろォと思ってなぁ? 途中からライターが変わってたってわけ」

 

「ま、いいさ。超越者であるリゼヴィムと戦えるなら、そんな些細なことはどっちでもいいさ!」

 

「さっすが曹操クン、シンプルでいいねぇ。でも、俺ッチに神器は――おっと」

 

「なぁに、素の力で圧倒すればいいんだろ? なら、簡単だ。

 それに、俺の全力が攻撃できる相手なんて、そういない。だから、思いっきりやらせてもらう!!」

 

「あぁら、これは不味いのを起こしたか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、最終決戦と行こうか」

 

「いつかの再戦だ。さぁ、全力の世界最強決定戦と洒落込もうじゃないか」

 

「お前らが大人しくしてなかったら、トーカも安心できないだろ。俺がお前らぶちのめしてやるよ」

 

「はっはっはっ、夢幻の力、今一度貴様らに示してやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界を命運を懸けた戦いが今、始まる……!

 

 

 ――――――のか?




何書いてるんだろうか、コレ?
ちょっとずつ書いてる例のゲテモノは、こういう流れの予定。

何か気が付くと「どこか」が来てしまいました。
まあ、安定の息抜きです。

トーカの分を練り直したら、結構な重要な位置になってしまった。
流石冬也くん。

普通に幸せになんてしてやる気ないので、冬也くんはこうなるのだ。


まあ、公開は安定して未定だけでも。

それでは、こんなよくわからん作品をありがとうございました。


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憑依曹操が行くHDD

お試し版PLOT


 

 

 

 気が付くと、俺は別の誰かとして生を受けていた。

 

 別に死んだ記憶なんてものはないし、それらしい切っ掛けも思い当たらない。

 かと言って、今生に生まれる直前は何をしていたのかと問われると答えられない辺り、この微妙な空白に秘密がありそうだ。

 

 そんなことを考えながらも月日は過ぎていく。

 どうやら、俺の名前は、何と曹操というらしく、ここがどこかはわからないが、少なくとも日本ではない場所に住んでいる。

 というか、人里離れた場所なせいであまり他の人を見かけないが、一応テレビが一台家にあるので三国志時代に生まれた、というわけではないようだ。

 親の名前もこの地域では埋没してしまうような、何でもない普通の名前だが、俺は曹操らしい。

 幼心どころか普通に疑問なので何度か聞いてみても、その度に俺が曹操だからという理由だと言われた。まるで意味がわからん。

 

 さて、そんな俺だが、物心付き始めた頃――に相当する3歳を迎えた辺りから、両親から武術を学ぶこととなった。

 何でも俺の両親はほどほどに有名な使い手らしく、二人の力を持って、俺こと曹操を真の英雄にしてみせると意気込んでいる様子だ。

 俺は半ば強制的に戦う術を学ばされ始めたわけだが、最近は自分の意志で両親から鞭撻を頂き、日々腕を磨いている。

 確かに初めの頃は嫌々であったが、この身体のスペックが異常なようで、教えられた技術はすぐに身に付く。加えて、そうやって自分のものにしていく過程が気持ちいいくらいに楽しい。

 今日はどんなことを教えてくれるのだろう。明日は何をさせてくれるのだろう、と最近は毎日が非常に充実している。

 しかし、この身体は、本当にびっくりするほどのハイスペックだな。俺には勿体無いくらいだ。

 

 

 そんな生活を続け、早十数年。

 悲しきかな俺は、あっという間に人間の範疇を超えてしまっていた。

 種族的には、まだ――たぶん“まだ”人間である、はず……。

 

 生まれてからもうすぐ二十年。

 大人の仲間入りも目前としている俺が、今何をしているかと言えば―― 

 

 

「いいぞ。ああ、いいぞ曹操! まだ私のライバルとやらには出会えていないが、ここまで心躍る好敵手に出会えるとはなぁ!」

 

「俺も、キミとの出会いは嬉しい限りだ、ヴァーリッ!」

 

 

 数日前、何度目かわからないが、俺を訪ねてきた白いドラゴンと戦っていた。

 否、わりと本気で、心から――心の底から楽しんで、全力で殺し合っていた。

 まあ、白いドラゴンと言っても、ドラゴン本体ではなく、その魂を宿した『神器(セイクリッド・ギア)』を宿した、人間と悪魔のハーフなのだが。

 そんな些細なことはいい。全くもってどうでもいい。

 俺にとって大事なのは、コイツは俺が全力を出せる相手なのか、ということくらいだ。

 

 そう、何とこの世界、ドラゴンとか悪魔とか神話の神とか、非常に倒し甲斐のある人外が非常にたくさん生活しているらしいのだ。

 生活しているといっても、そこはやはり人間社会を脅かさないように、人間には見つからないように配慮してくれているらしいのだが。

 逆に言えば、暗い裏社会なんかでは、そういう連中が平然とした顔で我が物顔で牛耳ってやがるわけだ。

 そうなると、パワーバランスにおいて人間は間違いなく下位の存在だ。

 だが、人間も全てがそこに収まっているわけではない。

 その鍵となるのが、先ほど言った『神器』というわけだ。

 神話や昔話に登場する英雄たちは、この『神器』やその他聖剣などの聖遺物を持っていたからこそ、敵や悪である怪物たちを打倒できていた、という。

 まあ、この話も俺は聞いただけで、大して興味もないんだがな。

 強いやつっていうところには興味津々だけど。

 

 ヴァーリの背中の光でできた翼が一際光を放つ。

 

 

「アルビオン!」

『Divide!』

 

「ぐっ……結構持っていかれるなぁ、それは!」

 

 

 そして、目の前のヴァーリと言う俺より少し下くらいの“少女”が持つ『神器』の名は『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』。その『神器』の中でも神を殺すことができるほど強力であるとされる『神滅具(ロンギヌス)』と呼ばれるものの一つだ。

 しかも、その力に振り回されることなく、己が我によってその力を掌中に置いている。

 相手にとって不足はなし。

 

 ゆえに俺も使おうか、俺の『神滅具』を――

 

 

「では、御開帳と行こうかァ――!」

 

 

 使っていた一応業物の槍を投げ捨て、ヴァーリに叩き付けるようにソイツを出現させる。

 

 それは黄金の槍。

 聖人を穿ち、神をその座から叩き落とす人外殺しの頂点。

 最強の『神滅具』。

 その名を『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』。

 正真正銘の、世界の覇者のみが持つことを許された究極の一つである。

 

 

「そうでなければなァッ!」

 

 

 だが、阻まれる。

 目の前の少女は、腕を交差させ、エネルギーで作られた翼をその前に挟むことで俺の一撃を食い止めた。

 この一撃はまともに決まれば神すら崩れ落ちるというのに。

 本当によくやる。

 本当に――ドラゴンっていうのは、どいつもこいつも俺を楽しませてくれる……!!

 

 

「ならば、私ももう一段階上でお前を制そう! アルビオンッ、『禁手(バランスブレイク)』!」

『Vanishing Drangon Balance Breaker!』

 

 

 ヴァーリの身体が純白の鎧に包まれていく。

 あぁ、期待が膨らむ。胸が躍る。

 

 これこそが『神器』の覚醒の一つ『禁手』。

 『神器』が持ち主の感情の高ぶりなどによって影響され、一段階上どころか完全に一つ壁を跨いだ先の力を得る現象、というか、まあ、そういった類のもの。

 一般的な雑魚『神器』では、いくら『禁手』しても似たようなものにしかならず、大して期待もできないものにしかならないが、相手は『神滅具』。

 それも、伝説の二天龍の一体『白龍皇バニシング・ドラゴン』を宿した魔王の血筋が辿り着いた『禁手』。

 胸が、心が、この餓えてやまない俺の魂が、躍らないわけがない。

 

 

「これならば、お前とも打ち合えるだろう? なあァ――曹操ッ!」

 

 

 激突。

 ヤツの放った拳と俺の振るう聖槍がぶつかり合う。

 手に返ってくる衝撃が、俺は今、生きているのだと実感させてくれる。

 今、この瞬間をどこまでも人らしく、命を散らしているのだとわからせてくれる。

 

 打ち合う。ぶつけ合う。高め合う。

 

 いつから俺は、こんなにも戦闘狂となってしまったのだろうか。

 まあ、今となってはどうでもいいことでしかないが、この時間だけは至福だ。至高だ。

 こんな、わけのわからない世界に生まれ落ちた意味があるッ!!

 

 

「うおぉォォォォォォっ!」

 

「ッ――――ぐ、一気に行かせてもらうぞ!」

『Half Dimension』

 

 

 周囲の全てがぴったり半分、ごっそりとヴァーリに持っていかれた。

 持っていかれたものは、全て糧としてヴァーリの力と変換される。

 戦い始めた時は、相手の弱体化を狙うなどと、と若干思うところがあったが、あれは違う。

 そんなちゃちなものではなかった。

 あれは、貪欲に力を求めるソレだ。

 ありとあらゆるものを飲み込んで、果てしない頂きを目指す覇者のソレだ。

 遥か高みに座す何かを下から地の底に墜としてやる、という全てを打倒したいと希う戦闘者の野望そのものだ。

 

 いくら聖槍の加護があるとはいえ、流石に禁手化したヴァーリの相手は、このままでは不利か。

 いや、無理なわけではないが、ここはある程度手札を切っておいたほうが得策か。

 何より、このままで力を出し続けるのなら、どうしても今の“アレ”ではない本来のものを使いたくなってしまう。

 それはいけない。今はまだ時じゃないのだ。

 そう言い聞かせ、俺もさらにギアを一つ上へと上げてやる。

 

 

「ここまで行かせたのは、キミで5人目だよ、ヴァーリ! 『禁手』!!」

 

 

 そして、聖槍が光と共に弾け飛ぶ。

 それはハーフとはいえ、悪魔であるヴァーリにダメージを与える類のもので、あまりの勢いに俺と打ち合っていたにも関わらず、ヴァーリは数十メートル吹き飛ばされた。

 むしろ消し飛ばなかったのは流石だよ。凡百の連中はこれだけで呆気なく消し飛んだのに。

 

 

「『真冥白夜の聖槍(トゥルー・ロンギヌス・ゲッターデメルング)』」

 

 

 これぞ『黄昏の聖槍』の本来辿り着くべき通常の『禁手』。

 聖槍は輝かしい光を纏い、それは俺の身体をも包み込む。

 

 

「これで俺に半減能力は無効となった――ッ!」

 

「私が全力で殴り掛かる分には何の関係もないッ!」

 

 

 俺に翼はない。ゆえに空は飛べない。

 しかし、相手は悪魔であるために悪魔の翼を持ち、加えてヤツの『白龍皇の光翼』はその名の通りエネルギーでできた翼だ。

 空が飛べないわけがなく、今も俺を高みから見下ろしながら、地に立つ俺にその強大な一撃を打ちに来る。

 それを禁手による聖なるオーラを纏わせた聖槍で迎撃する。

 オーラは穂先に比重を置いて集まり、槍自体を柄に見立てた大剣のようになる。

 

 

「――ぬッ」

 

 

 ヴァーリが吹き飛ぶ。

 相手は二天龍を宿した神滅具。しかし、こちらは最強の神滅具だ。

 二天龍そのものではないのだ。力負けはしない。

 

 押し負けたヴァーリは、翼を大きく広げ、砕けた鎧のヘルムの隙間から喜色に染まった瞳と勝利に餓えた笑みを浮かべた表情を覗かせた。

 ああ、そうでないとな。

 

 

「なあ、アルビオン。コイツになら使うに値するだろう」

 

『使うつもりか? まだお前でも完全に制御化には置いていないだろう』

 

「構わないさ。だが、歴代連中の残滓も私と同じく戦いに、勝利に餓えた連中だ。そして、相手は伝説の聖槍。嫌でも力を寄越すさ――だから、使うぞ『覇龍』を。

 我、目覚めるは――」

 

 

 さぁて、ここからが本番だ。

 コイツ相手なら、確かに俺ももう一段上の力を使う必要性が――――

 

 

『はぁい、そこまでにゃん』

 

 

 だが、そこで高ぶった気分の中では非常に耳障りに聞こえる、スピーカーからのノイズの入った女の声が水を差す。

 ……本当に、イイところだったのに。

 忌々しい。ああ、本当に忌々しい。

 しかし、それは今しがた禁手のさらなるもう一つ上を使用しようとしていたヴァーリも同じようで、何とも言えない煮え切らない表情で顔を顰めていた。

 

 

「まったく、曹操……お前とは星の巡りでも悪いのか?」

 

「俺もキミとなら楽しめるところだったんだがな……」

 

 

「なぁに言ってるにゃん。これ以上は周りがもたないにゃ」

 

「むしろ俺ッチと黒歌の二人で仙術の結界張って、それを曹操――てめえが連れてきた英雄派の小勢が全力で強化してんのに軽々しく結界を撓ませる――どころかアレは破損か……はぁ、こちとらが頑張ってるもんを余波だけでぶっ壊すてめえらがどうかしてんぜ」

 

 

 俺とヴァーリの戦いの邪魔をした下手人である美候と黒歌がやってくる。

 まあ、邪魔と言ってもこれ以上組織の施設を壊してしまうのだから、やむなしか。

 

 この二人は俺の所属する組織『禍の団』では、いわゆるヴァーリ派と言われるヴァーリと行動を共にしている連中である。

 どいつもこいつも癖と我が強く、全員を相手にするのは俺でも面倒な連中だ。

 なお、黒歌は猫耳に猫尻尾の黒髪和服美人である。そして、美候は締まっているんだかそうでないんだかわからない顔の、彼の斉天大聖の末裔だ。

 

 さて、俺とコイツらの関係であるが、ヴァーリの言った通り腐れ縁一歩手前の、なかなか勝負をつける機会に恵まれない間柄である。

 恋愛感情などはなく、ただただお互いに相手の全力を叩き潰したいという戦闘意欲の付き合いだ。

 俺もヴァーリも、戦闘中に精神を高揚させると共に力も随時開放してギアを上げていくタイプ。このギアチェンジの過程で時間切れとなるのが、もはやテンプレ化してきている。

 おそらくヴァーリの切り札はさっき言っていた『覇龍』だろう。アレはドラゴンとしての力を解き放つものだ。俺の聖槍とだって打ち合えるに違いない。

 

 どうやれば、ドラゴン相手に全力を振るえる機会が得られるだろうか。

 

 

 

「まぁた面倒なこと考えてるだろ、曹操」

 

「さて、何のことやら」

 

 

 俺に怒りを向けさせるのは特効薬だろうが、それは一度限りしか使えない手だろうしなぁ。

 はぁ……。

 

 

「すまんが、萎えた。今日はお暇させてもらう」

 

「ちょっと待て、曹――」

 

 

 さて、じゃあ、あとはオーフィスのところにでも行くか。

 どうせ次元の隙間に連れ込まれるんだろうけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フ。また振られたな、ヴァーリ」

 

「あぁ、全く。こうもすげなくされては、余韻で打ち震えることすらできないな。

 は、ははははは……あァ、しかし、心躍る闘争だった。身体中がアイツを求めてやまない」

 

「いや、それもどうかと思うにゃ」




というわけで、前にポロッと予告をやった戦闘狂な憑依曹操のお話第1話お試し版です。
トーカちゃんの出番はまだなし。
こんな感じのキャラでやっていく予定。
続きがいつとかわかるわけナッシング。
連載始める時は、ここから外して別枠で投稿します。


簡易設定
・曹操
 どこぞの誰かが憑依してしまった曹操。戦闘狂だが、戦闘時以外は意味深発言を連打する黒幕タイプ。性格的には熱血だと思われる。
 禁手は原作とは違い、亜種ではない正規の禁手なのでオリ設定。人外に超強い槍になる。
 実は黄昏の聖槍自体も少し設定が違う。
 その他原作との差異があれば、半分くらいはだいたいコイツのせい。
 本編前にだいたいやりたいことを済ませてしまったために本編で暗躍して、好敵手を創りだそうとしている。
 SOUSOU。

・その他原作にもいる英雄派の皆さん
 普通に英雄を目指していいことしようと心がけている熱血漢。お前ら誰だよ状態。
 その内「禍の団」から離脱する。

・ヴァーリ
 女の子。戦闘狂なこと以外は結構ロマンチストな予定。ぺったんこでもボインでもなく美乳。
 原作もより幾分か強い。原作とは違い、実姉がいる。
 性知識はだいたい黒歌に教え込まれているので、色々とおかしい。

・アルビオン
 ケツ龍皇とか言われない世界線なので心身穏やか。赤龍帝の状態には大変遺憾である。
 原作とは違う理由でドライグと和解させる予定。ヴァーリの保護者。

・ヴァーリ派の皆さん
 基本的には変わらず。しかし、やんちゃなお嬢さんであるヴァーリの保護者的一面強し。

・オーフィス
 我、曹操に負けた。敗者、勝者に従う。だから、曹操と一緒にいる。
 いつか勝つ。でも、曹操といるの悪くない。

曹操サイドはだいたいこんな面子で進行されていく予定。


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