転生したのでとりあえず剣技を極め最強を目指そう (白の牙)
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序章

 

 

 

 『一緒に戦おうナダ。ソウルを・・一つに』

 

 「いや~~~~何度見てもこのシーンはいいよな~~」

 

 青年“桜井悠斗”が自宅のテレビで録画したビデオを見ていた。言葉から察するに何度も同じシーンを繰り返し見ているようだ

 

 「でも、できればもう少しだけガイソーグの活躍を見てみたかったな~。・・・ん?そろそろバイトの時間だ。さっさと支度するか」

 

 悠斗はテレビを消すと出かける用意をし、用意を終えると家から出て行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ん?臨時ニュース?」

 

 悠斗が歩いていると携帯に登録したニュースアプリに臨時のニュースが届いた

 

 「何々“OO時OO分、OO銀行に強盗が入り、盗んだお金をを持って車で逃走中、近隣に住む人々は注意してください”か。結構近くだな・・・お!遠くからサイレンの音が聞こえる」

 

 ニュースを確認し終えると遠くからパトカーのサイレンの音が鳴っているのが聞こえてきた

 

 「だったら、表の道に戻ったほうがいいかもしれないな。こういう道は逃走車が来るっていうのが定石だし・・・って、サイレンの音近くなて来てないか?」

 

 遠くから聞こえていたサイレン音がだんだん近づいてきていることに悠斗は嫌な予感を感じていると、曲がり角から車が猛スピードで曲がってき悠斗のいる方へと車を走らせてき、悠斗は意識を亡くした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・っは!?何だったんだ今のは?夢?」

 

 あまりにも現実味だった夢だったのか悠斗は身体中から汗を流していた

 

 「ようやく目が覚めたんですね?」

 

 「へ?」

 

 声をかけられ上を向くと、グラビアアイドルなんて目ではない美少女が笑みを浮かべて悠斗を見下ろしていた

 

 「(で、でかい。じゃなくて誰だこの子?つーか、後頭部から伝わってくるこの感触、まさか膝枕されてる!?)」

 

 「心配したんですよ?中々目覚めてくれないから」

 

 「あ、その、えっと、どちら様ですか?」

 

 「あぁ、自己紹介がまだでしたね。私は貴方たちが神と呼ぶ存在です」

 

 「・・・・・・・・・・はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「粗茶ですがどうぞ」

 

 「あ、ありがとうございます」

 

 少女が指を鳴らすとどこからともなくテーブルと2人分の椅子が現れ、少女は淹れた紅茶を悠斗に渡す。悠斗は椅子に座り、淹れてもらった紅茶を飲んでいくと心が少しづつ落ち着いて行っているのが何となくわかった

 

 「落ち着きましたでしょうか?」

 

 「少しですけど」

 

 「ふふ、無理もありません。では、改めて自己紹介をしましょうか」

 

 「じゃあ、俺から。桜井悠斗です」

 

 「私はさっきも言いましたが貴方たちが神と呼んでいる存在です。名前はちゃんとあるのですが、人にそれを教えるのは禁止されているんです。でも神と呼ばれるのも味気ないのでエルシャと呼んでください」

 

 「はぁ。じゃあエルシャさんと呼んでも?」

 

 「はい」

 

 「聞きたいことは山ほどありますが。取り合えず、ここは何処ですか?空もなければ地面もない。こんな場所、俺は宇宙以外知らないんですけど」

 

 悠斗は周りを見回しながらエルシャに尋ねる

 

 「ここは私が作った生と死の狭間にある転生の間と呼ばれる場所です」

 

 「生と死の狭間?ちょっと待ってください!じゃあまさか俺は?」

 

 「はい。貴方は・・・死んでいます。死因は貴方が夢だと思っていたもの」

 

 「じゃあ、あれは夢じゃなくて・・現実で起こったこと」

 

 自分が夢だと思ていたものが現実で起きたことだと理解すると悠斗は身震いする。そんな悠斗をエルシャが優しく抱きしめる

 

 「泣きたいときは泣いていいのですよ?だって人は泣けるんですから」

 

 「あ・・あ・・うわぁああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「みっともない姿をお見せしてすいません」

 

 「いえいえ」

 

 女性の前で子供のように大声で泣いたのが恥ずかしかったのか悠斗は顔を赤くして言うとエルシャはにこやかに笑っていた

 

 「それで俺はこれからどうなるんですか?やっぱり、天国か地獄のどちらかに行くんですか?」

 

 「いいえ。貴方には別の世界へと転生していただきます」

 

 「転生・・ですか?」

 

 「はい。偉業をなして天寿を全うした人や不慮の事故で亡くなってしまった人は転生をする権利を得るのです」

 

 エルシャが悠斗のこれからについての話を終え、指を鳴らすとテーブルの上に1台のガチャポンボックスが現れた

 

 「ガチャ・・・ポン?」

 

 「転生するにあたっての特典を手に入れるためにこの券を入れてレバーを引いてください。役立つものが出てくることもあれば全く役に立たない物が出てくることもあります」

 

 「つまり、運しだいってことですか」

 

 「はい。ではまず、特典の数を決めますのでガチャを引いてください」

 

 悠斗は言われた通りレバーを引くと1個のカプセルが出てきた

 

 「え~~と特典を得る数は・・・10個ですね。ではこの券を入れてもう一度ガチャを引いてください」

 

 悠斗はエルシャから10と書かれた券をガチャに入れレバーを引く。パチンコのスロットのような音が鳴り、音が止むとガチャから10個のカプセルが出てきた

 

 「さて、さて、どんなものが入ってるんでしょうね」

 

 エルシャはそういうと出てきたカプセルを開けていく。出てきたのは

 

 1個目 丈夫な身体

 2個目 膨大な魔力

 3個目 ネギまの魔法を習得できる魔導書セット

 4個目 トリコの小松の能力

 5個目 ダイオラマ球

 6個目 発動媒体セット

 7個目 物を収納できる指輪

 8個目 回復薬セット(15ダース)

 9個目 錬成魔法

 10個目 最上大業物“大倶利伽羅”

 

 

 「・・・・もしかしなくてもこれて大当たりですかね?」

 

 「もしかしなくてもそうです。ここまで当たりを引いた人は貴方が初めてですよ」

 

 エルシャはこれほどのあたりを出した悠斗の運に呆れため息を吐く

 

 「あ~~~なんかすいません」

 

 「気にしなくてもいいですよ。では、次にこの券を入れて転生する世界を引いてください」

 

 「はい」

 

 悠斗は渡された券をさっきと同じようにガチャに入れレバーを引くと転生先の書かれたカプセルが1個出てきた

 

 「え~~~といく世界は・・“魔法先生ネギま!?”の世界ですね」

 

 「“ネギま”か。なら引いた特典は結構よかったのかもしれないな」

 

 「では、転生させますね。私が出した光の陣の上に立ってください。それでは桜井悠斗さん、第2の人生を楽しんできてくださいね」

 

 エルシャが指を鳴らすと乗っていた陣から漏れ出す光に包まれ悠斗は引いた世界へと送られていった

 



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出会い

 

 

 

 

 「神鳴流奥義 斬魔剣」

 

 人々が眠りについている深夜の時間帯に1人の少年“桜井悠斗”が剣を振るって目の前にいる鬼を斬り裂いた

 

 「そっちも終わったみたいだな悠斗」

 

 「紅丸、そっちも終わったのか?」

 

 「あぁ。何体倒した?」

 

 「今ので5体だ。そっちは?」

 

 「俺も5体だ。歯ごたえがなくて10秒で終わっちまったがな」

 

 悠斗に話しかけた少年“新門紅丸”は心底つまらなさそうな顔で答えた

 

 「どうだ。久しぶりにやらないか?」

 

 「こんな場所でお前と戦ったら辺り一面廃墟になっちまう。後で爺さんに怒られるのは俺達だぞ」

 

 「っち」

 

 悠斗の返答に紅丸は舌打ちをする

 

 「そういえば明日、いやもう今日か。新しい先生が来るのは」

 

 「・・・デスメガネの歳離れた親友だったか?」

 

 「それと裏の世界での英雄の息子でもあるって話だ」

 

 「興味ねぇな」

 

 「相変わらず、興味のないことにはとことん無関心だなベニは」

 話を切り上げ立ち去っていく紅丸を見て悠斗は肩をすくめると、夜空に浮かぶ星々と三日月を見上げながら呟く

 

 「原作が始まる・・か。俺っていうイレギュラーがいるこの世界はどういった風に進むんだろうな。まぁ、波乱万丈、刺激があるから人生は楽しいってあのバグなおっさんも言ってたし、なるようになるだろう」

 

 「悠斗、何ボーっと突っ立てんだ?さっさと帰るぞ」

 

 「おう」

 

 紅丸にせかされ悠斗は足早に歩き、森から出て行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌日、正確には早朝

 

 「以上が昨日の深夜に自分と新門紅丸が倒した敵の数と成果です」

 

 「ふむ。今まで中級クラスの者が何度か来ることはあったが、同時に6体とはの~~」

 

 「この都市には相手が狙う理由が2つありますからね。そのうちの1つは俺なんですけど」

 

 「悠斗君」

 

 「学園長が気にする必要はないっすよ。自分が蒔いた種ですから」

 

 「・・・悠斗君」

 

 「まぁ、いつかは刈り取りますけどね。鬱憤も込めて一生消えることのないトラウマも刻み込む予定ですよ」

 

 「そ、そうか。こういうのもなんじゃがやりすぎんようにの~」

 

 黒い笑みを浮かべる悠斗にこの都市の最高責任者である老人“近衛近衛門”、別名“現代のぬらりひょん”は軽く引きながら言った

 

 「ん?なんか騒がしくないっすか?」

 

 「言われてみればそうじゃの?っというかこっちに近づいて・・」

 

 「学園長先生!!」

 

 ドアを壊れそうな勢いで開き、体操服を着た女子生徒が部屋に入ってきた

 

 「明日菜ちゃん?」

 

 「ゆ、悠斗さん!?何でここ(女子中)に!?」

 

 「ちょっと学園長に用があってな。木乃香ちゃんも久しぶり。しばらく見ない間にまた別嬪さんになったんじゃないか?」

 

 「ややわ~~悠兄、褒めてもなんも出えへんで~~」

 

 「そうじゃぞ悠斗君。出るとしたら木乃香の婿になるぐらい・・あいた」

 

 「もうお爺ちゃんはすぐにそっちのほうに話を持っていくんやから~~」

 

 近衛門の孫娘である少女“近衛木乃香”が何処からか取り出したトンカチで近衛門の頭を叩いた

 

 「所でそこであたふたしている子供はなんだ?」

 

 「そ、そうだった!学園長先生!」

 

 悠斗の言葉にここに来た要件を思い出したのかオレンジ髪の少女“神楽坂明日菜”が近衛門に抗議を始めた

 

 「木乃香ちゃん、説明プリーズ」

 

 「はいな。実はな・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「成程ねぇ」

 

 木乃香の説明を受けた悠斗は同情の視線を明日菜に向けた

 

 「出会って早々“失恋の相が出ている”に加え好きな人に代わって担任になるにって言われればああもなるか」

 

 いまだに抗議を続ける明日菜に悠斗は何とも言えなかったがふと時計を見ると移動しないといけない時刻になっていた

 

 「学園長、遅刻間際何でここらでお暇させてもらいます。明日菜ちゃん、木乃香ちゃん、またな」

 

 「あ、はい」

 

 「またな~~悠兄」

 

 悠斗は近衛門、明日菜、木乃香に別れの挨拶を告げると、いまだにワタワタしている少年“ネギ・スプリングフィールド”に話しかける

 

 「ネギ・スプリングフィールドだったな?」

 

 「え?は、はい」

 

 「その年で先生なんて色々と大変だろうが頑張りな。それと、これ俺の連絡先だ。ここで会ったのも何かの縁だ困ったことがあれば連絡しな。相談ぐらいには乗ってやるからよ」

 

 ネギにそういうと頭を乱暴に撫でまわして部屋から退出した

 

 「やぁ、悠斗君」

 

 「高畑先生」

 

 悠斗が部屋から出ると映画に出てきそうなダンディっぽい男性“タカミチ・T・高畑”が声をかけた

 

 「木乃香ちゃんから話は聞きました。いろいろと災難でしたね」

 

 「ははは」

 

 悠斗の言葉に高畑は苦笑いする。そして一呼吸置くと

 

 「どうかな君から見ての彼は?」

 

 「そうっすね~~、磨き上げられていない原石ってとこですかね?磨くものによって宝石にもどこにでもある石ころにもなるってところっすかね」

 

 「ははは手厳しいね」

 

 「事実を言ったまでですよ。そんじゃあ俺はこれで。これ以上は本当に遅刻しそうなんで」

 

 高畑に一礼すると、悠斗は窓を開けて外へ飛び出していった

 



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使い猫

 

 

 

 

 「ふぅ~~~何とか間に合った」

 

 ギリギリ始業ベルが鳴る前に学校、及び教室にたどり着いた悠斗は椅子に背持たれながら安堵していると

 

 「悠斗。俺より早く出て行ったのになんで俺の後に教室についてるんだ?」

 

 「学園長に中級種が複数侵入していた件を報告していたんだ。ついでに噂の英雄の子供にもあってきた」

 

 「そうか」

 

 興味がなかったのか紅丸は席へと戻っていった

 

 「ったく。そういえば、高畑先生の後任で担任をするって言ってたな。高畑先生が担当しているクラス・・・ははは、今頃、もみくちゃにされてそうだな」

 

 悠斗は高畑が担当し、これからネギが担当するであろうクラスのことを思い出し、苦笑いする。実際、悠斗の思った通り、ネギは担当クラスの女子にもみくちゃにされていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それでは今日の授業はここまでにします。全員寄り道しないで帰るように」

 

 そして、あっという間に放課後となり、担任がいなくなるとクラスの男子たちはさっそうと教室から出ていき、残ったのは悠斗と紅丸の2人

 

 「あ~~~ようやく終わったか」

 

 「大丈夫かベニ?」

 

 「なんとかな。ったく、なんで勉強なんかしないといけねぇんだよ」

 

 「そりゃあ、俺達が学生だからだな。帰りに喫茶にでも寄っていくか?」

 

 「あ~~~悪い、ちょっと野暮用があってな。そっちは片づけなきゃいけねぇ」

 

 「野暮用?・・・・・また果し合いか?」

 

 「そんなところだ」

 

 悠斗の問いに紅丸は答えながら席から立ち上がる

 

 「ほどほどにしておけよ」

 

 「そりゃあ、あっち次第だな。んじゃあ、また後でな~~」

 

 悠斗に挨拶をしながら紅丸は教室から出て行った

 

 「さて、これからどうすっかな~~?」

 

 これといってやることのない悠斗は夜の警備になるまでどうしようかと悩んだ末、喫茶店で今日、出された宿題を済ませることに決めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ただいま~~~ベニ・・っは、まだ帰ってきてないか」

 

 帰りに立ち寄った喫茶店で頼んだケーキやお茶を食べながら出された宿題を終らせて住んでいる男子寮の自室に戻ってきた悠斗だが、相方はまだ帰ってきておらず返事は返ってこなかったが代わりに

 

 「ニャ~~~」

 

 1匹の黒猫が悠斗を出迎えた

 

 「まーた、その姿で一日過ごしてたのか黒歌?」

 

 「こっちの姿のほうが楽でいいんだにゃ。それとも・・・」

 

 黒猫の身体が輝くと、猫耳を生やし着物を着崩して着ている女性へと変わった

 

 「悠斗はこっちの私のほうが好みかにゃ?」

 

 「そういうことを言ってるんじゃないんだが?それと着物を着るなら着崩さずに着ろっていつも言ってるだろう?」

 

 悠斗は自分の使い魔であり、パートナーである“黒歌”の言動に呆れる

 

 「しょうがないにゃん。ちゃんと着ようとすると動きずらくなるんだにゃ」

 

 「いや、普通は着崩した状態のほうが動きづらいと思うんだが?」

 

 黒歌の言葉に悠斗がつっこむ

 

 「そ・れ・に」

 

 「それに?」

 

 「こっちのほうが悠斗の目の保養になっていいと思うにゃ♪いた!?」

 

 「下らんことを言うんじゃねぇ」

 

 からかい言葉を言う黒歌に悠斗は氣を込めたデコピンでからかう黒歌に仕返しをした

 

 「それに、そんなことしなくてしっかりと目の保養になってるっての」

 

 「にゃ?なにか言ったかにゃ?」

 

 「何も言ってねぇよ」

 

 悠斗は目の前にいる黒歌のことが好きだ。Likeではなくlove、だがそのことは恥ずかしくて言えないでいるし、まだ釣り合っていないと思っている。だから、自分を磨き、自信が付くその日までこの思いは閉まっておくことにしている

 

 「それよりいいにおいがするな。何か作ってたのか?」

 

 「買い物に出かけたときにいいキャベツがあったから、悠斗の好きなロールキャベツを作ってたのにゃ」

 

 「買い物って、まさかお前、その格好で・・・・」

 

 「にゃ?心配しなくてもちゃんとした格好で出かけたにゃ。まぁ、すこし動きずらかったけど」

 

 「そうか」

 

 黒歌の返答に悠斗は心底安心した

 

 「どうするにゃ?もう夕ご飯にするかにゃ?」

 

 「いや、今食べたら警備の時に腹が減るかもしれないからな。もう少し後にする」

 

 「そうかにゃ。にゃらそれまで私は・・・」

 

 悠斗の返答を聞くと、黒歌は猫の姿になり、ひと跳びで悠斗の肩に跳びのる

 

 「この姿でいることにするにゃ。あと、久しぶりに毛づくろいして欲しいにゃ」

 

 「はいはい」

 

 猫の姿で甘えてくる黒歌に苦笑いしながら悠斗は自室に戻って私服に着替えると、黒歌の要望通り、毛づくろいをしてあげた





 黒歌のアーティファクトについての案を活動報告に乗せました。ぜひご協力ください


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忍び寄る蜘蛛

 

 

 「ふぅ~~~少し遅くなっちゃったわね」

 

 女の子が一人で出歩いてはいけない時間、1人の少女が疲れた表情で夜道を歩いていると、1人の少女が声をかけてきた

 

 「あれ?もしかして姫島先輩?」

 

 「あら?そういうあなたは確か明石さんでしたわよね?」

 

 「はい。2-Aの明石裕奈です」

 

 少女 明石裕奈は少女 姫島朱乃に元気よく挨拶をする

 

 「ふふ、明石さんはいつも元気ね」

 

 「元気なのが取りえですから。それに亡くなったお母さん曰く、元気は最強らしいですから」

 

 「でも、こんな夜遅くに出歩いているなんて感心しませんわよ?まぁ、それは私にも言えることですけど」

 

 「いや~~~明日提出する宿題を教室に忘れちゃって。他の先生なら軽く注意されるだけなんですけど、あの“鬼の新田”と呼ばれている新田先生の宿題ですから」

 

 「新田先生ですか。確かに厳しいですけど、生徒思いのいい先生ですよ」

 

 「そうおもえるのは姫島先輩が優等生で滅多に怒られないからですよ」

 

 「いい明石さん。怒るというのはねそれだけ生徒のことを思っているということでもあるのよ」

 

 「私達のことを思って?」

 

 「明石さんにもわかる日が来ると思うわ。それより、早く帰りましょう。こんな遅くに出歩いているの所を先生に知られればそれこそ本当のお説教よ」

 

 「はい」

 

 朱乃の言葉に裕奈は元気よく答え、共に歩き出そうとした途端、草むらから糸のようなものが出てきて2人を絡める

 

 「な、なに!?」

 

 突然の出来事に2人は訳が分からずにいたが勢いよく引っ張られる

 

 「きゃ!?」

 

 「いた!?」

 

 引っ張られた先にいたのは蜘蛛女の風貌をした巨大な蜘蛛の怪物がいた

 

 「「・・・・・・・・」」

 

 あまりの出来事と恐怖に2人は声を発することができずに身体を震わせる。蜘蛛の怪物は両手のはさみを開いては閉じ、開いては閉じを繰り返しながら、糸で捕まえた2人をゆっくりと自身のほうに引き寄せていく。怪物との距離が5mぐらいになった時、

 

 『ッ!?』

 

 突然、怪物の身体が何の前触れもなく宙に上がった。当然、糸でつながっている朱乃と裕奈の身体も宙に浮かびあがるが糸が何かによって切断され、2人は地面に落下する。そんな2人を2人の悠斗が受け止めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は朱乃と裕奈が拉致られる前まで遡る

 

 「今日の警備はアンタと一緒かエヴァンジェリンさん」

 

 「そのようだな」

 

 「桜井さん、新門さん本日はよろしくお願いします」

 

 夜の警備の仕事をするために量から出てきていた悠斗と紅丸は先に来ていた金髪の少女 “エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル”と彼女の従者を務めるロボット少女 “絡繰茶々丸”に挨拶をする

 

 「基本、私は何もしない。いつも通り見ているからお前達2人で対処しろ」

 

 「私はマスターの護衛がありますので動くことができません」

 

 「はいはい。俺とベニでやるよ。そのかわり、敵が何体でどこにいるのかの情報提供は頼むぞ」

 

 「はい」

 

 「来たようだぜ悠斗」

 

 紅丸の言葉に悠斗は愛刀“大倶利伽羅”を取り出し抜刀すると仕事を始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふん。やはり下級ではあの2人の足元にも及ばないか」

 

 空に浮かんで悠斗と紅丸の戦いを見ていたエヴァンジェリンはつまらなさそうな表情で呟く

 

 「・・・・これは」

 

 「どうした茶々丸?」

 

 「マスター多数の魔物や式が召喚されてきています」

 

 「何?それは本当か?」

 

 「はい」

 

 「だがどうやって?私とこの学園の結界はつながっていて不審者が入れば分かるはず。だが、そんな兆しはなかった」

 

 「エヴァさん、茶々丸。どういうことだこれ?倒しても倒してもきりなく出てくるんだが?」

 

 「1体1体は大したことねぇが。こう何匹もいると面倒だ。いっそのこと森事焼き払うか?」

 

 「やめぇい!監督不届きということで怒られるのは私なのだぞ!」

 

 イラついてきたのか森事焼き消そうとする紅丸をエヴァンジェリンは慌てて止める

 

 「茶々丸、センサーを最大にしてこいつらを召喚している術者を探せ!今すぐに!」

 

 「イエス、マスター」

 

 茶々丸はエヴァンジェリンの命令を聞き、探査範囲を広げ術者の位置特定を行っていると

 

 「マスター」

 

 「見つけたのか?」

 

 「いいえ、それよりも緊急の案件です。1体だけ上級が召喚され、召喚された先に一般生徒が2人います。このままでは犠牲者が出るかと」

 

 「えぇい、こんな時に!茶々丸、そこに1番近い位置にいるのは誰だ!?」

 

 「検索結果・・・・私達が1番近い位置にいます」

 

 「私達か!?桜井悠斗!」

 

 「何すか!?今2重の意味で忙しいんですけど!?」

 

 悠斗は魔物の相手を暴走しそうな紅丸の抑えに忙しく、少し声を荒げてエヴァンジェリンに尋ねる

 

 「この遅くまで出歩ている一般人の下に上級の魔物が召喚され、近づいて行っているらしい。ここは新門紅丸に任せて、お前は2人の一般人の救助に迎え」

 

 「何でこんな時間に出歩いてるんだよ!ベニ!そういう訳だから俺はそっちに行く、ここは任せた」

 

 「あぁ」

 

 「あと、めんどくさいからって森事焼き払おうとするなよ。もしやったとしても俺は責任を取らないからな」

 

 「・・・・・」

 

 悠斗の言葉に紅丸は動きを一瞬だけ硬直させた

 

 「ったく。茶々丸、最短ルートでいきたいナビを頼む」

 

 「了解しました」

 

 茶々丸に指示を出すと悠斗は身体強化を脚部に集中させ、茶々丸のナビの元一般人2名の救助の為に駆けだした。そして、現場に着くと蜘蛛女型の上級魔物が糸で拘束した2人の少女を自身の下に引き寄せ喰らおうとしている場面に遭遇した悠斗は瞬動で怪物の背後に移動し、強化した脚で怪物を蹴り上げ

 

 「斬空閃」

 

 斬撃を飛ばして2人を拘束して糸を断ち、2人に分身して落ちてきた少女を受け止めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、冒頭の戻る

 

 「大丈夫か・・・て、朱乃?」

 

 「ゆ、ユウ君?」

 

 悠斗は助けた少女の1人が自身の知人であったことに驚き、助けられた朱乃も唖然としている

 

 「いつもはこんな時間まで出歩ていないってのになんで今日に限って出歩いてるんだよ?んでもう1人は確か木乃香ちゃんと同じクラスの明石裕奈だったか?」

 

 悠斗は分身に助けられた裕奈のパニックっているのを見て苦笑いする

 

 「ゆ、ユウ君、あれは一体?」

 

 「あ~~~全部説明すると長くなるからあとでな」

 

 悠斗は朱乃を降ろす。分身もこっちに近づいてき、裕奈を降ろすと役目を終えたのか煙と共に掻き消えた

 

 「あれが上級クラスの式・・か(倒すのは訳ないだろうが、守りながらだと部が悪いな)。しゃーない」

 

 地面に落ち、立ち上がろうとのたうち回っている怪物を見て悠斗はため息を吐きながらカードを一枚取り出し、額に添える

 

 「(聞こえるか黒歌?)」

 

 『(にゃ?どうしたのにゃ悠斗?)』

 

 「(ちょっと緊急でな巻き込まれた一般人2人の護衛を頼みたい)」

 

 『(解ったにゃ)』

 

 「(悪い、んじゃあ呼ぶぞ)召喚、悠斗の従者 黒歌」

 

 悠斗がカードを軽く投げると、カードが輝き、地面に魔方陣が描かれ、その魔方陣から従者の黒歌が召喚された

 

 「にゃん♪呼ばれて飛び出てにゃんとやら黒歌、参上にゃ」

 

 「古いネタを使うな」

 

 「それで、誰を悠斗が戦っている間守ればいいにゃ?」

 

 「後ろにいる2人だ」

 

 黒歌の問いに悠斗は朱乃と裕奈に軽く視線を向けて言う

 

 「攻撃が来ても大丈夫なように結界でも張っておいてくれ」

 

 「了解にゃ」

 

 黒歌は何処からともなく4枚の呪符を取り出し、投げて陣を形成させる

 

 「霹靂天掃、急急如律令」

 

 黒歌が唱えると展開された呪符が輝き、立方体の結界が形成され、黒歌、朱乃、裕奈の3人を包み込んだ

 

 「それじゃあ、化け物退治といきますか」

 

 悠斗は大倶利伽羅を構えなおし、蜘蛛女に突っ込んでいった



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選択

 

 

 

 

 

 「んじゃあ、行くか!」

 

 化け蜘蛛に襲われていた幼馴染の朱乃と後輩の少女である裕奈を使い魔である黒歌に任せた悠斗は化け蜘蛛との戦闘を始めた

 

 「まずはあいつの意識をこっちに向けるか。魔法の射手・火の5矢」

 

 悠斗は5本の火の矢を無詠唱で放って、当て化け蜘蛛の意識を自身へと向けさせた。さらに

 

 「щ(゚Д゚щ)カモーン」

 

 化け蜘蛛を挑発する。その挑発が効いたのかは解らないが化け蜘蛛は悠斗に襲い掛かる。化け蜘蛛は多数ある足を槍にように悠斗へと突き出して攻撃していく

 

 「(さすがは上級種、一撃一撃が鋭い。だけど・・・)母さんや、叔母さん2人の鋭さに比べれば、たいしたことない」

 

 悠斗は足による多段攻撃を細かな動きで躱し、近づいていくが、ふいに動けなくなった

 

 「これは、蜘蛛の糸を使ったトラップ?いつの間に?」

 

 悠斗の足元には粘着性の高い糸で出来た罠があり、足を動かそうにも動けない。化け蜘蛛はそんな悠斗に近づき、多数の足を使って全方位からの攻撃を繰り出す

 

 「ユウ君!?」

 

 「逃げてください!?」

 

 黒歌の張った結界内で戦いを見ていた朱乃と裕奈は絶体絶命の悠斗を見て黒歌に助けるよう言うが

 

 「大丈夫にゃ。私のご主人様はあの程度で倒せないにゃ」

 

 黒歌は余裕の笑みを浮かべていた。そして全方位からの足の攻撃を受けた悠斗だったが、予想外なことに悠斗の肉体はその足の攻撃をすべてはじき返した。悠斗は火属性の無詠唱魔法の射手3本を蜘蛛の巣に放って糸を焼くと

 

 「奥義 百烈桜華斬」

 

 円を描くように刀を振るい剣風を巻き起こし、化け蜘蛛の多数ある足を斬った

 

 「これで止めだ。奥義 斬魔剣」

 

 足を斬られ、悲鳴?を上げている化け蜘蛛に悠斗は退魔の気を込めた斬撃を飛ばして化け蜘蛛を両断した

 

 「・・・・・」

 

 刀を鞘に納めつつも周囲への警戒をしていると

 

 「どうやら片付いたようだな」

 

 「エヴァンジェリンさん。術者は?」

 

 「討伐には新門紅丸を向かわせた。決着は・・・今し方ついたようだな」

 

 天へと上る炎の柱が遠くから上がるのが見えた

 

 「エヴァちゃん?」

 

 「ほう、巻き込まれた1人はお前だったのか明石裕奈」

 

 エヴァンジェリンは事件の巻き込まれた一般人の1人が自分のクラスメイトだと知り多少なりとも驚いた

 

 「ユウ君」 

 

 「朱乃」

 

 「さっき言った通り教えてくださいますわよね?」

 

 「・・・あぁ、約束だからな」

 

 「桜井悠斗、そんな約束をしていたのか?」

 

 「知ったうえでどうするかを聞きたかったんでね。場所を借りても?」

 

 「ふむ」

 

 悠斗の問いにエヴァンジェリンは一瞬思案すると

 

 「いいだろう。クラスメイトを助けてもらった借りもあるのでな」

 

 「ありがとうございます。黒歌、お前はどうする?」

 

 「私は先に帰ってるにゃ。それと後でご褒美を要求するにゃ」

 

 「俺が出来る範囲ので頼むぞ」

 

 「解ってるにゃん」

 

 悠斗の返答にいい笑みを浮かべると黒歌は胸元から自家製の転移符を取り出し、魔力を流して悠斗の部屋へと戻っていった

 

 「エヴァンジェリンさん、2人を連れて先に行っていてください。終わり次第、俺も向かいますんで」

 

 「仕方ないな。明石裕奈、それと・・」

 

 「姫島朱乃ですわ」

 

 「私はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ。では姫島朱乃、ついて来い」

 

 「う、うん」

 

 「はい」

 

 裕奈と朱乃は先導をかねて先を歩くエヴァンジェリンの後を追ってこの場から去っていった

 

 「・・・明石裕奈・・か。まさかとは思うが一応確認しておくか」

 

 裕奈の名字に思うところがあったのか悠斗は携帯に登録しているある人物に電話をかける

 

 「もしもし、明石教授ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ここだ」

 

 朱乃と裕奈がエヴァンジェリンに連れてこられたのは木造のペントハウス

 

 「寮でエヴァちゃんの姿を見たことなかったのってここに住んでたからなんだね」

 

 「そういうことだ。私のほかに茶々丸も住んでいる。あいつは私のメイドも兼ねている」

 

 「へぇ~~~~」

 

 「お帰りなさいませマスター。それといらっしゃいませ明石裕奈さん、姫島朱乃さん」

 

 「お邪魔しますわ」

 

 「お邪魔します」

 

 「マスター、桜井様から先ほど連絡があり、少し遅くなりそうなので代わりに2人に説明をしていてほしいとのことです」

 

 「私がか?面倒だ」

 

 「対価に自分の料理をごちそうすると言っていました」

 

 「・・・・茶々丸、人数分の茶を淹れて来い」

 

 「はい」

 

 悠斗が出した対価を聞いたエヴァンジェリンは悠斗に代わって2人に裏のことについて詳しく話した

 

 「この世界には魔法が存在し、悪魔等といったものも存在する」

 

 「普段ならおとぎ話や伝承と切り捨てるところですけど、実際に目にしてしまった以上、本当のことなのでしょうね」

 

 エヴァンジェリンから魔法のことなどを教えられた裕奈と朱乃は信じられなかったが自分たちが見たものが夢ではなく現実だったため信じるを得ずにいた

 

 「さて、本来なら魔法のことを知った人間は記憶を消されるのが普通だ」

 

 「き、記憶を消すってそこまでする必要あるの?」

 

 「あるんだ。噂というのはあっという間に広がるからな、さらに今は情報社会。ふとしたことで呟いたことがネットにあげられ、ばれてしまう。まぁ、私は魔法がばれようがどうでもいいがな」

 

 そう語るエヴァンジェリンに2人は苦笑いする

 

 「少し話が脱線したな。お前たち2人は現在3つの選択がある。1つは私が最初に言った通り記憶を消し、今日見たこと、聞いたことを忘れ、元の平和な生活に戻ること。2つ目は、記憶を消さずに誰にも話さないという誓約を誓い、さらに監視をされながら暮らすこと。3つ目は・・・」

 

 「マスター、桜井さんがいらっしゃいました」

 

 「すいませんエヴァンジェリンさん。2人への説明を任せてしまって」

 

 「今来た桜井悠斗と仮契約を結び裏の世界に足を踏み入れるかだ」

 

 「・・・はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「エヴァンジェリンさん、2人に説明をしてくれたのにはお礼を言いますが、何も仮契約のことまで話す必要はなかったんじゃないですか?」

 

 「私は本来はない3つ目の選択肢を与えてやっただけだ。それよりも対価だが?」

 

 「あ~~~何かリクエストでもありますか?」

 

 「そうだな・・・ならフランス料理を頼もう」

 

 「承りました」

 

 悠斗はエヴァンジェリンのリクエストを聞き、脳内でメニューをくみ上げていると

 

 「桜井さん、来るのが遅くなると電話で言っていましたが、報告に手間がかかったのですか?」

 

 「いや、報告はすぐに済んだ。遅くなったの電話をかけていたからだ。ちなみに電話相手は朱乃の母、朱璃さんだ」

 

 「母様に?」

 

 「あぁ。朱乃に魔法を含む裏のことがばれてしまったっていう報告をな」

 

 電話相手が自分の母親と知り朱乃が首を傾げたが、悠斗が告げた言葉に驚く

 

 「ちょっと待ってユウ君。母様は魔法のことを知っているのですか?」

 

 「・・・・あぁ知ってる。っというか、朱乃の家、姫島家は関西呪術協会の一員だ。朱璃おばさんは中学までは普通の学生として育って欲しかったらしくてな、裏のことは言わないでくれって頼まれてたんだ」

 

 「そう、だったんですの」

 

 「朱璃叔母さんからの伝言だ。“貴方の好きなようにしなさい”だってよ」

 

 朱璃の伝言を悠斗から聞いた朱乃は苦笑いし後で改めて電話して詳しい話を聞こうと心に決めた

 

 「マスター、この場で今すぐにどうするかを決めろというのは2人には酷だと思います。土日を使って決めさせるのが一番かと」

 

 「ふむ、一理あるな。姫島朱乃、明石裕奈、今日は寮に帰り、土日を利用してどうするかを決めろ。決まらなかった場合は強制的に記憶を消すということを頭の隅にでも入れておけ。話は以上だ、茶々丸、2人を寮まで送っていってやれ」

 

 「はい」

 

 話すことはもうないとばかりに会話を終わらせたエヴァンジェリンは茶々丸に朱乃と裕奈を女子寮まで送っていくよう指示をした

 

 「それで、遅くなったのは姫島朱乃の親に電話をしただけではないのだろう?」

 

 2人が家からいなくなったのを見計らってエヴァンジェリンが悠斗に話しかける

 

 「朱璃叔母さんに電話をしていたのは事実ですよ。その際、朱乃をお願いねとも言われましたけどね。裕奈ちゃんの名字が気になりましてね、確認の為に電話をしたんですよ明石教授に」

 

 「それで返答はなんだったん?」

 

 「裕奈ちゃんは明石教授の娘さんでしたが、魔法のことは教えていなかったん見たいで、裕奈ちゃんが巻き込まれたことを知った時はかなり慌てていました。・・エヴァンジェリンさんは当然知ってたんですよね、裕奈ちゃんの親が誰なのかを?」

 

 「まあな。明石裕奈の父親は近年稀に見るかなりまともな魔法使いだと私は思っている。・・・その様子から見るにもしもの時は娘を頼むとでも言われたか?」

 

 「・・・正解っす。エヴァンジェリンさんはあの2人はどんな答えを出すと思いますか?」

 

 「そうだな・・・・・恐らく、貴様は契約を交わすことになると私は思っている」

 

 悠斗の問いにエヴァンジェリンは自信満々な表情で答えた



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気持ち

 

 

 

 

 

 

 『悠斗君から電話で知らされて半信半疑だったけれど、本当に知ってしまったのね』

 

 「母様、では私の家が裏の事情にも関わっているという話は・・・」

 

 『本当よ』

 

 寮に戻った朱乃は家に電話して母である姫島朱璃から詳しい話を聞いていた

 

 『私達姫島家ははるか昔から魔を払う家系として裏の事情に関わっていたの。お父様、貴方のお爺様にも修行させるよう言われていたけど、せめて中学生までは普通の学生でいて欲しかったの』

 

 「そうだったのですか。母様、私は一体どうしたら?」

 

 『悠斗君にも言ったけど貴方の好きにしなさい。もし裏の事情に関わりたくないというのなら私が何とかお父様を説得してみるわ。もし関わるというのなら確か西洋魔術では“仮契約”だったかしら?それを悠斗君とするのも手だと思うわよ。確か契約を結ぶための方法はキスするだったはずよ?』

 

 「キ、キ、キスですか?」

 

 朱乃は契約を結ぶための方法を聞いて顔を赤くする

 

 『貴方は悠斗君のことが子供のころから好きだったから思いを伝えるのも兼ねて丁度いいんじゃないかしら?このままだと貴方、負けちゃうかもしれないわよ?』

 

 「負けるですか?」

 

 『えぇ。前に悠斗君のお母さんと話したとき、悠斗君に1人仮契約を結んでいる子がいてこれがかなりの美人らしいわよ?互いに惹かれているみたいだったからくっつくのも時間の問題だって』

 

 「・・・もしかして」

 

 朱璃の話しを聞き、朱乃は自分たちを守るために悠斗が呼び出した黒歌のことを思い出す

 

 『朱乃、もし悠斗君のことが好きなのならアタックしなさい。ここ日本では一夫多妻なんてものはないけど、私達の家ではそうでもないのよ。少しでも多くの後継者を残すという意味でね』

 

 「母様」

 

 『後悔の無い選択をしなさい。私から言えるのはそれだけよ』

 

 「・・・・はい」

 

 朱璃の言葉に朱乃はただ頷くことしかできなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ~~~~」

 

 朱乃が朱璃に家のことを聞いていたころ、寮の部屋で裕奈もまた悩んでいた

 

 「魔法・・かぁ~~~」

 

 「裕奈、帰ってきてからため息ばっかりついてるけど何かあったの?」

 

 どんな時も元気いっぱいの裕奈が部屋に戻ってきてからというものため息ばかりついていることに同室の少女 大河内アキラが心配そうに声をかける

 

 「え?私そんなにため息ついてた?」

 

 「自分で気づいてなかったの?最低でも10回は吐いてたよ?」

 

 アキラの話を聞き、裕奈は何処か納得した。元気が取りえの自分がそんなにため息をつけば心配もすると

 

 「ちょっとね。色んなことがあって頭がこんがらがっちゃって」

 

 「そうだね。10歳の子供が先生だなんていわれて本当に驚いたよ」

 

 裕奈が今日、転任してきたネギの話なのだと理解したアキラは苦笑いしながら話す

 

 「ねぇ、アキラ?もし、もしさぁ、空想だと思っていたことが本当でそれに巻き込まれて、秘密を共有するか記憶を消されること、そのどちらかを選べって言われたらどうする?」

 

 「私は・・・記憶を消してもらうかな?危ないこと嫌いだから」

 

 「・・・だよね」

 

 「もう遅いから私はもう寝るね。おやすみ」

 

 「おやすみアキラ。・・・・これ以上考えても答えなんて出会いから私も寝よう」

 

 アキラに挨拶を交わすと裕奈も寝るために服を着替え、ベッドに入る。暗闇の中、裕奈は自分がどうしたいのかを考えるが、すぐに意識が途切れ、眠ってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日曜日の早朝

 

 「(はぁ~~~昨日1日使って考えてみたけどどうしたらいいのか全然わからなかった)」

 

 1日を使って考えてみたものの答えは出なかった。その際、クラスの中でも特に仲のいい、アキラと他2名に心配された

 

 「ん?」

 

 「あれ?桜井先輩?」

 

 「確か明石裕奈だったな?」

 

 朝早く目が覚めた裕奈だったが、2度寝をする気にもなれず気分転換も兼ねて散歩をしていると早朝ランニングをしていた悠斗とばったり出くわした

 

 「こんな朝早くから走ってるんですか?」

 

 「まぁな。これに加え、軽く素振りとかもやってる。そういう明石は?こんな朝早くに何やってるんだ?」

 

 「えっと、散歩です。ちょっと早く起きちゃって」

 

 「ふむ・・・・ならちょっと付き合え」

 

 「え?」

 

 「ほれ行くぞ。ついて来い」

 

 「ちょ!?待ってください!?」

 

 いきなり走るのに付き合えと言ってきた悠斗に裕奈は待ってくれと言おうとしたが、それを言い切る前に悠斗が走り出し、裕奈は慌てて悠斗の後を追って走り出した

 

 

 

 

 ~数分後~

 

 「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 「たかが、2km走っただけで疲れるだなんて本当に運動部に入ってるのか?」

 

 「2、2km、も、走る、だなん、て、聞いて、ません、よ」

 

 「まぁ、言ってなかったからな」

 

 息も絶え絶えな裕奈に悠斗は予備に持ってきていたタオルを被せると、近くにあった自販機でスポーツ飲料を買うと

 

 「ほれ、ランニングに付き合ってくれたお礼だ」

 

 裕奈に渡し、自分は持ってきていたスポーツ飲料を飲む

 

 「あ、ありがとうございます」

 

 裕奈は渡されたタオルで汗を拭きながら悠斗からもらったスポーツ飲料を飲んで喉を潤す

 

 「少しはすっきりしたか?」

 

 「え?」

 

 悠斗の言った意味が解らず、首を傾げる裕奈

 

 「大方、一昨日の件でどうすればいいのか悩んでいたのは丸わかりだったからな。気分転換を兼ねて一緒に走ってもらったのさ」

 

 「そういえば」

 

 悠斗の言う通り、思いっ切り走ったお陰で頭の中のもやもやが無くなっていることに裕奈は気づく

 

 「あの、桜井先輩はいつ魔法のことを知ったんですか?」

 

 「確か・・・魔法について知ったのは幼稚園のころで、本格的に関わるようになったのはこの学園に来てからだ」

 

 「そんな小さいときから知ってたんですか!?」

 

 そんな小さいころから魔法や裏の世界について知っていることに裕奈は驚く

 

 「その、怖くはなかったんですか?」

 

 「確かに怖かったぜ。初めての実戦の時なんか手足が震えてろくに戦うことが出来ずに危うく死にそうになったからな」

 

 悠斗は初めての実戦の時のことを思い出し、笑いながら裕奈に語る

 

 「その時にパートナーになっていた黒歌に守られてな。男なのに女の子に守られて本当に情けないって思った。家がそうだったから仕方なくっていう思いから、大切なものを自分の手でちゃんと守れるような強い男になろうって決意したんだ」

 

 「なんていうか・・・」

 

 「単純だって言いたいんだろう?きっかけなんてそういうもんさ」

 

 「きっかけ」

 

 「とある人物はこう言っていた。“思い立ったら吉日、その日以降はすべて凶日だ”ってな」

 

 「それ、意味としては逆ですよね?」

 

 「まぁな。でも、本当の単語よりいい言葉だと俺は思うけどな。とにかく、後悔のないようにしろ、俺からはそれしか言えない。じゃあな」

 

 悠斗は持ってきたスポーツ飲料をすべて飲むとバックにしまうと、裕奈に別れを告げて、帰っていった

 

 「・・・私は、私の思いは・・・。よし、決めた!!」



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答え+仮契約

 

 

 

 

 「では答えを聞こうか」

 

 週末あけの月曜日の放課後、エヴァンジェリンと茶々丸に呼ばれ2人の家にやってきた朱乃と裕奈はエヴァンジェリンから答えを促された

 

 「私は裏の世界に入りますわ。高校生になってから入れられるのが多少早くなったと思います」

 

 「ふむ、理由はそれだけではない気がするが、それを聞くのは野暮というものだろう」

 

 おんなじ女だからか、はたまた見た目の割に人生経験が豊富だからかエヴァンジェリンは朱乃が家の決定だけではないことに気づく

 

 「明石裕奈、貴様はどうするのだ?」

 

 「私は・・・・・・受けることにします」

 

 「ほぅ」

 

 裕奈は数秒か口を閉ざした後、自分で考えた答えを言った

 

 「クラスの中でも十の指に入るほどの面白好きのお前だからな。こういった話に乗らないとは思ってはいた」

 

 「あははそうだろうね。だけどね目の前で生死がかかった戦いを見ちゃったからさ。面白そうって理由だけで決めちゃいけないって思って、2日かけて考えて出した答えだよ。まぁ、元気が取りえの私がこんな状態だったからアキラやまき絵、亜子に心配されたけど」

 

 親友に心配されたことを思い出したのか裕奈は苦笑いする

 

 「だけど、決定打になったのは桜井先輩の“思い立ったら吉日、その日以降はすべて凶日”って言葉かな?」

 

 「なるほど、ならば貴様は明石裕奈をこちらの世界に引き入れてしまった責任をしっかりと取らねばならないな?」

 

 裕奈の話を聞いたエヴァンジェリンは面白そうな表情で悠斗を見る

 

 「分かってますよ。どんな理由であれ、こっち側に来て、契約をする以上、責任をもって守りますよ」

 

 「ならば仮契約をさっさと済ませてしまおう。私もそこまで暇ではないのでな」

 

 「エヴァちゃん、その仮契約だっけ?それってどうやるの?」

 

 「なに簡単なことだ。桜井悠斗とお前たちがキスをするだけだ」

 

 「・・・・・へ?」

 

 エヴァンジェリンの言葉に裕奈の思考がしばし停止する

 

 「キス、接吻ともいいます」

 

 「言葉を変えても意味は同じだよね!?」

 

 茶々丸の略に珍しく裕奈がツッコム

 

 「・・・・」

 

 朱乃は事前に母の朱璃から聞かされていたこともあり表情を変えず無言でいるが内心は悠斗と合理的にキスすることができるため嬉しがっていた

 

 「キ、キスじゃないと契約は出来ないの!?」

 

 「出来ないこともないが、準備に色々と手間がかかる。キスをしたほうが手っ取り早い」

 

 「姫島先輩は嫌ですよね?」

 

 「私は別に構いませんわ。好きな殿方とキスするだけで契約が可能なら私は構いませんわ」

 

 「凄いノリ気だ!?」

 

 「茶々丸、あれを」

 

 「こちらですマスター」

 

 エヴァンジェリンに言われ、茶々丸は2本の試験管を手渡す。試験管を受け取ったエヴァンジェリンは受け取った1本を地面に落とす

 

 「ちょ、ちょとエヴァちゃん!?」

 

 「問題ない、今の私が魔法を使うのに必要なことだ」

 

 慌てる裕奈をよそにエヴァンジェリンは試験管を割った理由を告げると、床に仮契約用の魔方陣が展開された

 

 「桜井悠斗、魔方陣の中に」

 

 「・・・うっす」

 

 「では、最初は誰かおこなうんだ?」

 

 「・・私がいきますわ」

 

 エヴァンジェリンの問いに朱乃が一歩前にでて名乗る

 

 「では、姫島朱乃、魔方陣の中に入って桜井悠斗とキスをしろ。それを行えば仮ではあるが契約は完了だ」

 

 「解りましたわ」

 

 言われた通り魔方陣の中に入り、悠斗と向かい合う朱乃

 

 「ふふ、不謹慎ですが、こういった形でユウ君とキスできるなんて思ってもいませんでしたわ。右も左も知らない不束者ですが、よろしくお願いしますね」

 

 「まるで嫁入りする女性の発言だな。・・・ん」

 

 「ん」

 

 朱乃の言葉にツッコミを入れると悠斗は朱乃に一歩近寄り、キスをした。2人がキス行うと魔方陣が輝き、2人の頭上にパクティオカードが現れる

 

 「では次だ」

 

 現われたカードを回収するとエヴァンジェリンはもう1本の試験管を割り、再度仮契約用の魔方陣を展開する

 

 「次は貴様の版だ。明石裕奈」

 

 「う~~~本当にしないとだめなのエヴァちゃん?」

 

 「強制はしない。だが、また巻き込まれたときに必ず助けられる保証はないぞ?」

 

 「明石、無理にしなくてもいいぞ」

 

 「そうですわよ明石さん。女の子にとってファーストキスは大事なものですから」

 

 悩む裕奈にエヴァンジェリンはしなかった場合のリスクを話し、悠斗と朱乃は無理する必要はないと論す

 

 「~~~っ!?」

 

 「っ!?」

 

 覚悟を決めたのか裕奈は魔方陣の中に入り、自分から悠斗へとキスをする。突然のことに悠斗は驚き目を見開いてしまう。そして、魔方陣の輝きが増し、2人の頭上にパクティオカードが現れる

 

 「ふふ、1本とられたな桜井悠斗。茶々丸、録画は?」

 

 「言われた通り、全部撮っています」

 

 「ご苦労。今夜はその映像をつまみに1杯飲むとしよう」

 

 「ちょっ!?エヴァンジェリンさん?」

 

 「そう睨むな。いい物を見せてもらった礼に、私がその2人を鍛えてやる」

 

 「・・・どういう風の吹き回しですか?」

 

 無償で朱乃と裕奈の2人を鍛えるといったエヴァンジェリンに悠斗が尋ねる

 

 「言った通り、面白いものを見せてもらった礼だ。鍛えがいがありそうだと私の勘が言っているのでな。任せておけ、私が2人を大ボスをも倒す立派な中ボスに鍛え上げてやる」

 

 「「っ!?」」

 

 エヴァンジェリンの浮かべた笑みに朱乃と裕奈は言いようのない寒気を感じた



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体力づくり

 

 

 

 

 「さて、貴様たちを鍛えるに前に、仮契約で手に入れたアーティファクトを確認しろ。得たもの次第で鍛え方を考える。茶々丸、マスターカードを桜井にコピーしたカードを2人に渡せ」

 

 「はい。桜井様、姫島様、明石さんお受け取り下さい」

 

 茶々丸はマスターカードを悠斗にコピーしたカードを朱乃、裕奈に渡した

 

 「エヴァちゃん、どうやって使えばいいの?」

 

 「カードを持った状態で“来たれ(アディアット)”と唱えろ。そうすればアーティファクト、簡単にいえば魔法のアイテムが出てくる。戻したいときは“去れ(アベアット)”と唱えればいい」

 

 「では」

 

 「「来たれ(アディアット)」」

 

 エヴァンジェリンにやり方を教わった、朱乃と裕奈はカードを手に持ち、言われた通り唱えるとカードが光、朱乃は虹色に輝く白い羽衣を裕奈はデザートイーグルに似た銃が現れた

 

 「これが」

 

 「私の」

 

 「「魔法アイテム」」

 

 「ふむ、なかなか、面白いものだな。姫島朱乃、明石裕奈、手に入れたアーティファクトの名を教えろ、こちらでどのような物でどんな効果があるのか調べておきたいからな」

 

 「えっと、名前を教えろって言われても・・」

 

 「どこにも書いてありませんわ」

 

 「面倒だ桜井悠斗、マスターカードを私に貸せ」

 

 「いいですけど、ちゃんと返してくださいよ」

 

 「当たり前だ。貴様が契約したカードを私が持っていても何にもならん。“夢幻の羽衣”と“七色の銃”・・・か」

 

 悠斗からパクティオカードを受け取ったエヴァンジェリンはカードに記されているアーティファクトの名を読み、紙に書く

 

 「訓練をいつから行うのか決め次第連絡する。それまでは基礎体力を着けておくなりしておけ。それと姫島朱乃、貴様は桜井悠斗の黒猫に東洋呪術の基礎を習っておけ。それらは私では教えることは出来んのでな」

 

 「解りました」

 

 エヴァンジェリンの言葉に頷いた

 

 「では、今日は解散だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「しておけと言われたが、本当に俺が毎朝やっているメニューをやるのか?」

 

 仮契約を行った翌日の早朝。ジャージを着た朱乃と裕奈に悠斗が尋ねる

 

 「はい」

 

 「解った。取り合えず俺がいつも走っているコースを教える

 

 悠斗は地図を広げていつも自分が走っているコースを説明する

 

 「以上が俺がいつも走っているコースだ。朱乃と裕奈ちゃんにはこのコースの半分を歩いてもらう」

 

 「歩く?走るのではないんですの?」

 

 「いきなり5km走ろって言われて走れると思うか?まずはウォーキングで走れる身体にしていくんだ」

 

 「・・・解りましたわ」

 

 悠斗の指摘に朱乃は渋々納得した

 

 「あの、桜井先輩。私は部活でそれなりに走ってますから大丈夫だと思うんですけど」

 

 「この前、2km走ってばてていた子に言われてもなぁ~~」

 

 「う!?」

 

 悩んでいた時に悠斗に付き合わされ2km走らされ、バテバテになった時のことを思い出す

 

 「まずは1週間半分の距離を歩いて、慣れてきたら軽くジョギングを取り入れて行けばいいさ。それと、歩きとはいえしっかりと準備運動をするように」

 

 「「はい」」

 

 悠斗に言われ2人は準備運動を行う

 

 「それじゃあ、また後でな」

 

 1kmを過ぎたあたりで悠斗は歩きから走りに変え、あっという間に2人から遠ざかって行ってしまった

 

 「ふぅ~~ユウ君と一緒に走れるのは当分先になりそうですわね。まぁ、ユウ君は小さいころから訓練してきたのですから当然と言えば当然ですけど」

 

 『当然にゃ』

 

 朱乃が呟くと1匹の黒猫が2人に話しかけた

 

 「貴方は?」

 

 「確か、黒歌さんでしたっけ?」

 

 『そうにゃ。悠斗の新しいパートナー兼、私の後輩にあたる子がどういう子達なのかを見に来たのにゃ』

 

 猫状態の黒歌は問いに答えると乗っていた塀から朱乃の肩へと飛び乗る

 

 『ふむ・・・呪術の名門である姫島家の血を引いてるだけはあって素質はありそうね。鍛えがいがありそうだにゃ』

 

 朱乃の肩に乗った黒歌は朱乃の頬にぷにぷにの肉球付きの手を当てて、朱乃の呪術に対する素質を調べた

 

 『あれもこれもやるのは効率が悪いから今は体力づくりに専念するにゃ。余裕が出来てきたら少しづつ教えていくにゃ』

 

 「はい」

 

 黒歌から呪術の教えを約束された朱乃は言われた通りまずは体力づくりに専念することを決め、ほんの少し歩く速さを上げた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おう、戻ってきたか」

 

 30分かけて悠斗が指定したコースを歩いてスタート地点に2人が戻ってくると先に戻ってきていた悠斗がタオルで汗を拭いていた

 

 「それでどうだった?」

 

 「歩きだからそんなに疲れることはないと思っていた自分が浅はかでしたわ」

 

 「私もです」

 

 タオルを2人に渡しながら悠斗が尋ねると2人はただ歩いていただけだというのに思いのほか疲れたことに考えを改めた

 

 「歩きでも体力作りは出来るってわけさ。2人には朝と夕方にウォーキングをしてもらう」

 

 「2回も今のコースを歩くんですか!?」

 

 「別に今朝のコースを2回歩く必要はないな。朝は今のコースの半分歩いて、夕方にもう半分歩く。又は、朝、4分の3歩いて、夕方残りの4分の1歩く。自分の好きなように調整して歩くんだ」

 

 「は~~~い」

 

 「解りましたわ」

 

 「さて、俺は素振りをしていくから2人はもう帰ってもいいぞ」

 

 「いえ、せっかくなので昨日手に入れたアーティファクトで何ができるのかを自分で調べておきますわ」

 

 「あ、私も」

 

 『なら、私が練習用の傀儡をだすからそれを使って練習するといいにゃ』

 

 そういうと黒歌は猫から本来の姿に戻り、朱乃と裕奈を連れて別の場所へと向かっていき、悠斗は木刀での素振り、徒手格闘の練習を行った



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山登り

 

 

 

 

 朱乃と裕奈。悠斗の新しい従者の2人が悠斗の混じって早朝訓練を初めて5日。2人は黒歌の協力を得ながら出来る範囲で訓練を続けていた

 

 「そういえば、エヴァンジェリンさんから、『特訓の準備が出来た。来週の月曜の放課後から始める』という伝言を承ってきましたわ」

 

 「何で朱乃に伝言を頼んだんだ?普通は同じクラスの裕奈ちゃんに言うんじゃ・・」

 

 「私とエヴァンジェリンさんは部活動がおなじですから。それに私に伝えたほうが確実に伝わると思ったのではないでしょうか?」

 

 「同じ部活、朱乃は確か茶道部だったな」

 

 「はい。茶々丸さんもいますわ」

 

 「(放課後ってことはアレを使うのかもしれないな。だったら俺も準備しておくか)解った。じゃあ、明日は山登りをしよう」

 

 「「山登り?」」

 

 「まぁ、山って言っても裏山だけどな。リュックサックに飲み物とタオル、登山用の靴・・はないだろうからスポーツシューズを履いて、10時に集合な」

 

 突然山登りをすると言われ、朱乃と裕奈は首を傾げるも、頷き、その日の夕方の訓練を終わった。そして、翌日

 

 「いい天気だ。まさに絶好の山登り日だな」

 

 動きやすい恰好なところは2人と同じだが、2人と違いリュックの替わりに猫状態の黒歌を肩に乗せた悠斗が空を見上げながら呟く

 

 「それじゃあ行くか」

 

 「桜井先輩、先輩は何も持ってないですけど」

 

 「あぁ、俺のは物を収納できるこの指輪型の魔導具の中に入ってる」

 

 「え~~!?それってずるくありませんか」

 

 悠斗の返答に裕奈はずるいと言い、朱乃も同じ気持ちなのかジト目で悠斗を見る

 

 「俺は2人と違って山登りじゃなくて、走るからな。こっちのほうがいいだよ」

 

 「走るんですか」「あぁ、2人にはこれを渡しておく」

 

 身軽な理由を伝えると悠斗はアイテムボックスから登山用の杖、トレッキングポールを渡した

 

 「それを渡しておく。後は・・」

 

 悠斗は1枚の呪符を取り出し、魔力を流すと子犬型の式神が召喚された

 

 「そいつの後に着いて行けば俺がいつも行っている場所まで案内してくれる」

 

 召喚した式神についての説明をしながらストレッチを行っていると、まるで撫でてほしいように尻尾を振る子犬に苦笑いしながら悠斗は子犬の頭をなでる

 

 「っと、言うわけで先に行って待ってるぜ」

 

 2人に言うと悠斗は駆け足で裏山へと入っていった

 

 「早!?」

 

 「はぁ~~~」

 

 悠斗の行動の速さに裕奈は驚き、朱乃は呆れてため息を吐く

 

 「取り合えず私達も行きましょうか」

 

 「は、はい。えっと、案内よろしくね?」

 

 「ウォン!」

 

 朱乃の提案に裕奈は頷き、案内役に置かれていった式神の子犬をなでながら頼むと、子犬はひと鳴きすると歩き出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅ、ふぅ、ふぅ・・・・到着っと」

 

 山走りを始めて30分。悠斗は徒歩なら40~50分かけて到着する場所まで走ってきたのだ。鍛えている悠斗の足なら大体20分足らずで到着するが、悠斗は黒歌に頼んで四方から攻撃してもらい回避行動と判断力の上昇等を加え走っているため時間がかかっているのだ

 

 「お疲れにゃ悠斗」

 

 「黒歌もありがとな。お陰でいい感じに鍛えた筋肉をなじませることが出来た」

 

 「私は悠斗の従者よ。ご主人様の手助けをするのは当然にゃ」

 

 「さて、朱乃と明石がここに来るまでしばらくかかるだろうし、久しぶりに組み手でもどうだ?」

 

 「あまり汗は掻きたくないんだけど・・・しかたないにゃ」

 

 「先に5本とったほうの勝ちってことでいいか?」

 

 「いいわよ」

 

 黒歌の了承を得た悠斗は少し離れ、拳を構える。黒歌も空手で言う手刀構えで構える

 

 「せい!」

 

 悠斗は1歩踏み出して黒歌に右拳を突き出す、黒歌は回し受けで受け止めると、空いているほうの手で熊手を突き出す、その熊手を悠斗は上段受けで払いのけ、空いた胴に正拳突きを繰り出しも黒歌の底掌受けで受けるとともに拳にダメージを与えた。強く叩かれたため多少痛みはあったが、悠斗はそれを無視して黒歌の腕と服を掴み一本背負いをするが黒歌は完全に投げ飛ばされる前に抜け出して悠斗の背後に着地して蹴りを繰り出すも、悠斗は最小限の動きでそれを躱し、黒歌の足を払って転倒させ、膝で腹部を、左手で右肩を抑え込み、右拳を顔の前で寸止めした

 

 「まずは1本」

 

 「第3者から見ると悠斗が私を押し倒しているように見える光景だにゃん」

 

 「んな!?」

 

 「隙ありにゃ」

 

 黒歌の一言で悠斗の抑えが緩んだのを感じ取った黒歌は悠斗を押しのけると逆に悠斗を抑え込み、爪を悠斗の喉元に当てる

 

 「これで1:1にゃ」

 

 「・・・今のはないんじゃないか?」

 

 「あら?油断した悠斗が悪いのよ?あんな台詞で心を乱されるなんて精神の修行がたりてない証拠にゃ」

 

 「(好きな女に言われたら誰でも動揺するっての)続けるぞ」

 

 黒歌の言ったことも一理あるため悠斗はそれ以上は何も言わず、立ち上がると服に着いた土ぼこりを払ってから構え、続きを行うよう催促した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅ、ふぅ、姫島先輩、大丈夫ですか?」

 

 「えぇ、大丈夫ですわ。裕奈さんは?」

 

 「何とか。山を登るのがこんなに大変だったなんて」

 

 一方、裕奈と朱乃は最初に比べるとペースダウンしているが悠斗の残した式神の子犬の案内の元、進んでいた

 

 「ユウ君は毎週この道を走っているのですね」

 

 「多分上り始めたころは今の私達のようになっていたのかもしれませんね。それにしても少し涼しくなって来たような気がするんですけど」

 

 「・・・水の音が聞こえますわ。もしかしたらそのせいかもしれません」

 

 『わん!わん!』

 

 先を進んでいた子犬が鳴きながら2人を残して進んでいった

 

 「あ!ちょっと!?」

 

 「どうやら目的地はあそこのようですわね」

 

 先に行ってしまった子犬を見てこの先が目的地なのだと何となく理解した2人は最後の力を振り絞って歩き、辿り着くと渓流だった

 

 「裏山には初めて来たけど、こんな風になってたんだ」

 

 「まさに自然の芸術ですわね」

 

 渓流の光景に2人が見惚れていると、近くから何かがぶつかり合う音が聞こえてくる。気になった2人が音のするほうに向かうと、悠斗と黒歌が一進一退の攻防を行っていた

 

 「にゃ!」

 

 「っしぃ!」

 

 黒歌の貫き手を悠斗は前の手で防いですぐさま、後ろの手で反撃を行うも黒歌も後ろの手でその攻撃を防ぐ

 

 「夫婦手を防がれるなんてな」

 

 「何回悠斗と組み手をしたと思ってるのにゃ?次の行動を読むことなんて簡単にゃ。悠斗も何となく私の次の動きをよんでいるんでしょう?」

 

 「俺の場合は勘だがな」

 

 「随分とおそろしい勘にゃ。それでどうするにゃ?このまま続ける?」

 

 「・・・いや。ここまでにしよう。2人とも来たみたいだからな」

 

 黒歌の問いに悠斗は構えを解いた

 

 「じゃあ、私はいつもの場所で汗を流してくるにゃ」

 

 「あいよ。俺は魚を釣っておく」

 

 「活きのいいのを頼むにゃ」

 

 そういうと、黒歌は覗いていた朱乃と裕奈の手を取って汗を流しにいった

 

 「・・いつも思うが着崩した着物でよくあそこまで機敏に動けるもんだぜ。3人が戻ってくる前に少なくも人数分の魚は釣っておかないとな」

 

 悠斗はアイテムボックスから釣竿を餌を取り出すと釣りを始めた。30分かけて12匹を釣り上げ、3人が戻ってくると、収納していたアウトドア用具一式を取り出して調理し、昼食をとり、そのあとはその場でのんびりとした後、山を下っていった



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修行開始

 

 

 「来たか」

 

 「うっす」

 

 「「お、お邪魔します」」

 

 「お邪魔するにゃ~」

 

 月曜日の放課後。部活帰りの裕奈と途中で合流した悠斗と黒歌、朱乃の3人はエヴァンジェリンからの指導を受けるためにエヴァンジェリンの家を赴いた

 

 「約束の時間の10分前。明石は部活をしているからギリギリか少しばかり遅れると思っていたのだが・・まぁいい。修行を始める前に貴様たちのアーティファクトについて分かったことを教える。茶々丸、人数分の茶を」

 

 「はい」

 

 指示を出された茶々丸は人数分のお茶を用意すべくキッチンへと向かっていった

 

 「茶が用意されるまで待つ必要もあるまい。こちらで調べたことを紙に書いておいたよ~~く目を通しておけ」

 

 エヴァンジェリンは席に着くとアーティファクトの詳細が描かれた用紙を悠斗たちに差し出す

 

 「えっと、エヴァちゃん」

 

 「誰がエヴァちゃんだ。何だ明石裕奈」

 

 「読めないんだけど」

 

 「何?」

 

 裕奈の言葉を聞いたエヴァンジェリンは書かれた内容を見る

 

 「・・・・すまん。翻訳するのを忘れていた。桜井悠斗。貴様、翻訳用の魔法具を持っていないか?」

 

 「・・・あったようななかったような」

 

 「はっきりせんか」

 

 「あると思います・・・多分」

 

 手に氷の魔力を集中してきたエヴァンジェリンに悠斗は直立不動で答えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えっと、私のアーティファクト“七色の銃”は通常の魔法弾に加え、特殊な効果のある魔法弾を打つことが出来る。特殊な魔法弾の効果は1発につき3分。装弾数は9つで装填は1つにつき10秒かかる」

 

 「私のアーティファクト“夢幻の羽衣”は所有者の意思で形を変えることができ、何処までも伸びることが出来る。自動防御機能も搭載されており中級魔法までは防ぐことが出来る」

 

 「どっちも強力なアーティファクトだにゃ」

 

 「そういえば黒歌さんもユウ君と仮契約をしているのですわよね?」

 

 「そうにゃ」

 

 「どんな力を持った魔法具なんですの?」

 

 「ん~~~本当は秘密にしておきたいけど、これから一緒に戦うことになるかもしれないから教えておいたほうがいいかもしれないにゃ。“来たれ(アディアット)”」

 

 黒歌は胸の谷間からパクティオカードを取り出して唱えると七色の輝石がはめ込まれた腕輪が右腕に装着された

 

 「これが私のアーティファクト“七輝石の腕輪(セプチウム)”にゃ」

 

 「わぁ~~~綺麗」

 

 裕奈は琥珀、蒼、紅、翠、金、黒、白の色とりどりの輝石をみて目を輝かせる

 

 「効果はこの輝石に込められている魔力を使ってその属性の魔法を撃つことが出来るのにゃ。勿論、攻撃だけじゃなくて防御、味方のサポートなどオールランドに使うことが出来るのにゃ。デメリットは、魔法を使うたびに結晶に内包されている魔力を減っていき、使い切ると使えなくなることと魔力を充電するのに1日半かかるということだにゃ」

 

 「最初のころは調子に乗って使いまくってたよな~」

 

 「にゃははは」

 

 当時のことを思い出し苦笑いする黒歌

 

 「さて、それでは我が配下に連なる化け物(モンスター)にふさわしい立派な戦士・・・悪の中ボスになるための修行を始めようか」

 

 「何で中ボスなの?エヴァちゃんって大ボスじゃ」

 

 「それは私がRPGで言うところの中ボスだからだ」

 

 「え~~でも中ボスってカッコ悪い・・・」

 

 「問答無用。尚、修行中、貴様たちの服はメイド服とする!」

 

 「何でメイド服!?」

 

 エヴァの発言に悠斗がツッコミが家全体に鳴り響いた



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それぞれの修行光景

 

 

 

 

 

 「よ、ほいっと」

 

 右手に持つ魔法具の銃とエヴァンジェリンの知り合いに作って貰った銃を左手に持って裕奈は遠くに配置された的を正確に打ち抜いていく

 

 「ふむ、動かない的だとは言え3日目であの命中精度、中々の腕だな。これならば次の段階に行くのも時間の問題だな」

 

 裕奈の修行光景を見ていたエヴァンジェリンは裕奈の命中精度に関心し、次に訓練メニューに行くのにさほど時間がかからないだろうと思った

 

 

 

 

 

 「朱乃ちん、とりあえず今まで教えた陰陽術のおさらいからにゃ。身体強化、結界、軽い攻撃の術をやってみてにゃ」

 

 「はい」

 

 別の場所では朱乃が黒歌に陰陽術について教わっていた

 

 「まずは韋駄天符 飛天駿脚 急急如律令」

 

 朱乃は2枚の霊符を取り出し、呪力を込めた後、軽く放り投げると、霊符はまるで吸い込まれるような動きで朱乃の両足に張り付き淡い光を放つと消えてなくなった。符に込められた力がしっかりと両足に付与された事を確認すると朱乃は周りを駆ける

 

 「うん、ちゃんとできてるにゃ。じゃあ次は結界にゃ」

 

 「はい。隔壁遮闇 急急如律令」

 

 朱乃は別の霊符を取り出し、呪力を込めると朱乃を守るように周りの障壁が展開される

 

 「ふむ」

 

 黒歌は朱乃の張った障壁の強度を確かめるため1枚の霊符を取り出し、手ごろな石を拾うと

 

 「み恵みを受けても背く敵は篭弓羽々矢もてぞ射落とす。裂空魔弾」

 

 呪詛を唱えると拾った石に印が描かれ、浮かび上がり、黒歌の指慣らし共に弾丸の如く飛び、朱乃の張った障壁とぶつかる

 

 「障壁の硬度も問題ないにゃ」

 

 「あ、ありがとうございます」

 

 いきなり攻撃してきたことに内心びっくりした朱乃だったが、それを顔に出さないよう努めてはいたが声で丸わかりだった

 

 「次は攻撃にゃ。取り合えず、これに当てるにゃ」

 

 黒歌は空の空き缶を少し離れた位置に置き、それに攻撃するよう指示を出す

 

 「では、参ります。落雷」

 

 朱乃は霊符を取り出し、呪力を込めて空高く放り投げると、霊符から落雷が放たれ、空き缶に命中し、黒焦げにした

 

 「ふむ、攻撃のほうも問題ないにゃ。まぁ、通用するかは実際に実戦に出て使ってみないと解らなないけど、これなら次の段階にすすめそうにゃ」

 

 「次の段階ですか?」

 

 「そうにゃ。朱乃ちんには式神を創ってもらうにゃ」

 

 「式神?それはユウ君が見せてくれたあの子犬みたいなものですか」

 

 「あれは探索用の式神にゃ。朱乃ちんに創ってもらうのは戦闘用。一緒に戦ってくれる式神にゃ」

 

 そういうと黒歌はノートブックとペンを取り出す

 

 「式神を生み出すのに必要なのはイメージ力にゃ。まずはどんな式神にするのかを書いてみるといいにゃ」

 

 「・・・黒歌さんの式神はどういうのです?」

 

 「私?私のはこの子にゃ」

 

 朱乃に自分の式神について聞かれた黒歌は呪符を取り出して魔力を込めると1匹の黒猫が現れ、黒歌の肩に飛び乗った

 

 「これが私の式神の“クロ”にゃ。猫だけに猫の式神にゃ」

 

 黒歌は肩に乗っている自身の黒猫の喉元を優しくなでる

 

 「式神は偵察にも役に立つし戦闘でも一緒に戦ってくれるにゃ」

 

 「一緒に・・でも」

 

 「朱乃ちんの言いたいことは解るにゃ。こんな小さい猫がどうやって一緒に戦ってくれるのかって思ったにゃ?」

 

 「え、ええ」

 

 「ふふ、それについては朱乃ちんが式神を創った後の訓練で教えてあげるにゃ。取り合えず、今はどんな式神にするかのイメージを練るにゃ」

 

 「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 裕奈と朱乃の修行が順調に進む中、悠斗はというと

 

 「っく!?」

 

 「ケケケ、ナカナカノ反応ダナ」

 

 エヴァンジェリンが作った魔法人形であるチャチャゼロと戦闘訓練を行っていた

 

 「これでも喰らえ」

 

 「オォ!?」

 

 悠斗は刀を振るってチャチャゼロを弾き飛ばすとデコピンの構えをとり、中指に纏っている力を集中させ、弾くとともに弾丸のようにそれを飛ばしてチャチャゼロにダメージを与える

 

 「(ここだ!)」

 

 デコピン弾でさらに体勢を崩したチャチャゼロを見て好機と判断した悠斗は畳み欠けるために瞬動で距離を詰め、上段で構えた刀を振り下ろそうとしたが、体中に巡っていた力が一気に抜けていき、地面に膝をついた

 

 「(ここでガス欠かよ!?)」

 

 「ケケケ、オシカッタナ」

 

 「ふむ、難航しているようだな」

 

 「ゴシュジン」

 

 2人の戦闘訓練が終えるとエヴァンジェリンが近づき声をかける

 

 「桜井悠斗、咸卦法の持続時間はどれぐらいだ?」

 

 「・・大体20分ってっところっす」

 

 「及第点にはまだまだだな」

 

 「いやいや、20分も使えるようなら及第点じゃないっすか普通」

 

 「何を言う。タカミチなら半日は持つぞ」

 

 「高畑先生と比べないでもらいたいんですが」

 

 エヴァンジェリンの厳しい採点に悠斗は抗議を上げるが、同じものを使える人と比べられ苦笑いする

 

 「膨大な力を得るのはいいですけど、気と魔力を等しく消費するから魔法の併用も考えると長時間の使用はできないのでここぞというときの切り札にしていたんですよ」

 

 「成程。だが、持続時間が短いのは貴様の気と魔力の運用がまだまだ未熟だからだ。貴様の魔力量と気の総量を合わせ、魔法の使用も考えれば最低でも1時間は持つはずだ」

 

 「そんなに持ちますかね?」

 

「貴様の魔力量は“千の呪文の男”ナギ・スプリングフィールドに匹敵する。そのことも考慮した上での判断だ。ゆえに貴様は何もしない状態で1時間、実戦では30分間、咸卦法を維持できるよう気と魔力の運用の特訓をしろ。それができるようになったら、徐々に維持できる時間を増やしていく」

 

 「了解っす」

 

 こうして、悠斗も朱乃、裕奈、同様、自身のレベルアップのため、特訓を開始した



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試験前だというのに面倒ごとがやってくる

 

 

 

 「ふぅ~~~~~」

 

 悠斗はナイアガラの滝と同等の水が流れる滝の下で座禅を行っていた。普通であればそんな場所に人が入れば一瞬で水の圧に負け、溺れるのが常識だが、悠斗は咸卦法を使用しており、溺れずに済んでいる。だが、少しでも気を緩めれば、一瞬で水底まで押しつぶされてしまうが

 

 「・・・時間か」

 

 タイマーが鳴り、決めていた時間が過ぎたことを知った悠斗は立ち上がると、滝の中から出て、持ってきたタオルで濡れた身体を拭きながらその場から離れて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今戻った」

 

 「お疲れにゃ悠斗。はい、あったかいお茶でも飲んで体を温めるにゃ」

 

 「サンキュー」

 

 滝行から戻ってきた悠斗に黒歌が温かいお茶を渡す。お茶を受け取った悠斗は一口飲んで冷えた身体を温める

 

 「朱乃と裕奈ちゃんは?」

 

 「家で勉強をしてるにゃ。悠斗はしなくてもいいの?確かもうすぐ試験だって言ってなかったかにゃ?」

 

 「勿論する。中学最後の試験だからな。だが、その前に風呂に入ってくる。このままだと風邪ひいちまうからな」

 

 そういうと悠斗は風呂場へと歩を進めた

 

 

 

 

 

 

 

 「裕奈ちゃん、そこ間違ってますわ」

 

 「え?本当ですか?」

 

 家では自分の勉強をしながら朱乃が裕奈に勉強を教えていた

 

 「すいません、姫島先輩。自分の勉強もあるのに」

 

 「気にしなくても大丈夫ですよ。私にとっても2年生時の復習になりますし」

 

 「やってるね~~」

 

 「桜井先輩」

 

 「ユウ君。今日の鍛錬は終えたのですか?」

 

 「あぁ。取り合えず今日のノルマは完了した」

 

 悠斗は席に着き、ここに来る前によって持ってきた教材をテーブルに乗せる

 

 「でも、桜井先輩もエヴァちゃんと同じものを持っていたのには驚きました。外の家にも驚きましたけど」

 

 「家の倉庫でほこりをかぶっておかれているのをたまたま見つけてね、そのまま譲り受けたんだ。そして、外の家は俺というより爺ちゃんのもんだ。ここ(麻帆良)に行くって言った時に好きに使っていいって言われて譲り受けたのさ」

 

 「じゃあ、なんで寮で生活してるんですか?家があるならここで暮らせば」

 

 「学校と反対方向だからと、中学生で1人暮らしは色々と気にしないといけないからな。だから、外の家には週末や連休の時に使ってるんだ。後、テスト期間の時だな」

 

 「でも、中学を卒業したらここに引っ越すことになってるのにゃ」

 

 裕奈に家の使用法を説明してると黒歌が人数分のお茶をもって居間に入ってきた

 

 「そうなんですの?」

 

 「あぁ、高校生なら1人暮らししても不思議に思われないからな。っといっても、黒歌もいるから1人暮らしじゃないけどな」

 

 「買い物をしに行くのに少し不便ににゃるけど、縁側がある家だから気持ちよくお昼寝が出来て私的には無問題にゃ。でも外の家は2人で暮らすにはちょ~~とばかし広すぎだにゃ」

 

 「旧堀田邸並みの武家屋敷だからな」

 

 悠斗は祖父から好きに使っていいと言われ貸し出された家を思い浮かべながら苦笑いする

 

 「うちのクラスの委員長並みの家ですもんね~~」

 

 裕奈は自分のクラスメイトであり財閥の娘でもあるクラス委員長の豪邸を思い浮かべた

 

 「無駄話はここまでにして、勉強をするぞ。いくら高等部までエスカレーター進学とはいえ、勉強しなくてもいいってことにはならないからな」

 

 「そうですわね」

 

 悠斗の言葉に朱乃は納得し、3人は勉強会を再開(悠斗のみ開始)した

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時は過ぎ、期末試験まであと3日となった

 

 「ありがとうございました~」

 

 「ふぅ~~~ようやく買えたぜ」

 

 買い物袋を片手に悠斗がコンビニから出てくる

 

 「ったく、今日に限って俺の好物の菓子がなくなってる上に、どの店も売り切れだなんて」

 

 深~~くため息を吐く悠斗だったが

 

 「でもまぁ、6軒目にしてようやく手に入れることが出来たからよしとするか」

 

 時間はかかったが目的の物を手に入れることが出来た悠斗は寮へと戻ろうと1歩踏み出すと

 

 「きゃ!?」

 

 「おぅ!?」

 

 誰かとぶつかってしまった

 

 「す、すいません!急いでいたもので」

 

 「いや、こっちこそすまない。って君はたしか、宮崎のどかちゃんだったかな?」

 

 「ふぇ!?」

 

 「お兄さん、何でのどかのこと知ってるの。もしかして、ストーカー!?」

 

 ぶつかってしまった少女は見知らぬ男性が自分の名前を知ってることに驚き、もう1人の少女は警察に連絡すべく携帯を取り出す

 

 「ストップ、ストップ!君たちのクラスに近衛木乃香って子がいるだろう?俺はあの子の知り合いでな、前会った時に、君たちが一緒に映った写真を見せて貰ったんだよ」

 

 「そ、そう言えば前に、子供のころから仲良くしてる1歳年上の男の人が男子校に通ってるって木乃香が言ってたような」

 

 思い当たる節があるのか眼鏡をかけた少女は携帯の通話ボタンを押す、一歩手前で指を止めた

 

 「でも、もしあなたが木乃香の知り合いのお兄さんだとして、なんでここにいるの?男子寮はこことは反対側でしょう?」

 

 「寮近くのコンビニに目当ての物がなかったから探し回ってたんだ」

 

 悠斗は買い物袋を見せて言う

 

 「それより、慌ててるように見えたが何かあったのか?」

 

 「「っ!?」」

 

 悠斗の一言に2人が一目でわかるくらい身体を震わせた

 

 「はぁ~~何かあったんだな?話してみろ、もしかしたら力になれるかもしれない」

 

 「「・・・・・・・実は」」

 

 数分に及ぶ沈黙の後、2人は何かあったのかを話し始めた

 

 「つまり、3日後にある期末試験で赤点だったものは小学生からやり直しっていう噂が流れていて、君達のクラスにいる勉強が苦手な5人組、通称“バカレンジャー”が大ピンチ。そこでそのうちの一人が図書館島の奥にあると噂されている頭がよくなる魔法の本を取りに行くことを決めた。図書館探検隊の君達2人と一緒に向かった2人のナビゲートの元、本が保管されている場所にたどり着いたが、連絡が取れなくなった。こういうことか?」

 

 「「は、はい」」

 

 「はぁ~~~」

 

 2人の話を聞いた悠斗はため息を吐くことしかできなかった

 

 「取り合えず、2人は寮に戻ってクラスの皆に起きたことを教えるんだ」

 

 「は、はい」

 

 「それと、いろんなことへの覚悟を決めておくように」

 

 「へ?それはどういう」

 

 「いずれ分かる」

 

 2人にそういうと悠斗はその場から足早でいなくなった

 

 「取り合えず、高畑先生と葛葉先生に連絡しておくか」

 

 悠斗は行動を起こす前に、自身のクラスの副担任と彼女たちの副担任に連絡を入れるべく携帯を取り出した



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いざ、図書館島内部へ!つ~かここ本当に図書館?

 

 

 

 「うし。準備完了」

 

 寮へと戻ると悠斗はすぐさま必要なものをアイテムボックスに収納し、図書館島で行方不明になった木乃香達の捜索に向かうための準備を整える

 

 「なんだ、どっかに行くのか?」

 

 「なんだ起きてたのかよ?」

 

 「バタバタ動かれればいやでも目が覚める。んで、何処に行くんだ?」

 

 「図書館島だ」

 

 「図書館島?なんだってこんな時間にんなところに?」

 

 紅丸が悠斗の行き先を聞き、尋ね返す

 

 「欲に目がくらんだ生徒の付き添いで一緒に行った知り合いの子と連絡が取れなくなったらしい。だから探しに行くんだよ。すでに先生に連絡を取ってこの3日一応病欠で休むってことを伝えてある」

 

 「それずるくねぇか」

 

 「そうでもねぇぞ?変わりに1週間のトイレ掃除をやることになってるんだよ」

 

 「そりゃあ」

 

 「っま、そう言うことだから俺はもう行く。黒歌」

 

 「はいは~い」

 

 黒歌に一声かけると悠斗は黒歌と共に部屋の窓から外へと飛び出していった

 

 

 

 

 

 

 

 「それにしても試験前にゃのに、あほなことをする子達もいたもんだにゃ~~。魔法の本っていう曖昧な物に頼ろうとするだなんて」

 

 「確かに普通の人が聞いたら眉唾物だって思うだろうな。だが、魔法のことを知っている明日菜ちゃんはそれがあるのだろうと思ったんだろうよ」

 

 悠斗はとある筋からの情報でネギが就任した初日に明日菜に魔法のことがばれてしまったということを教えてもらった

 

 「就任初日で魔法使いだってことがばれるのもどうかと思うにゃ」

 

 「大学までの課程を終わらせてるとはいえまだ9歳の子供だからな。まぁ、魔法に頼り切りなのはどうかと思うが」

 

 辛口評価の黒歌に悠斗は出来るだけフォローしようとするが、出来ず苦笑いする。そして、10分もしないで図書館島にたどり着いた2人はしばしの間、入り口付近で待機していると

 

 「やぁ、待たせてしまったかな?」

 

 高畑がやってきた

 

 「こんばんは高畑先生」

 

 「こんばんは桜井君、黒歌君。それで早速行くのかい?」

 

 「えぇ。善は急げって言いますしね。それに高畑先生も気が気でしょうがないんじゃないですか?」

 

 「ははは、痛いところを突かれちゃったね」

 

 悠斗の言葉に高畑は頬を軽く掻きながら答え、ポケットから鍵を渡す

 

 「図書館島に入るための鍵だよ。期末試験の準備中だから顧問の先生にばれる心配はないだろうけど、なるべく早く返却してくれ」

 

 「了解」

 

 悠斗はタカミチから鍵を受け取ると鍵穴に鍵を差し込み、扉を開錠する

 

 「んじゃあまぁ、ちょっとした冒険に行きますか」

 

 笑みを浮かべながら悠斗は黒歌と共に図書館内へと入って行く

 

 

 

 

 

 

 「ねぇ、悠斗」

 

 「何だ黒歌?」

 

 「ここ本当に図書館?いくら世界中から貴重な本を集めてるとはいえ、いくら何でもこの罠は危険すぎるにゃ」

 

 「・・・言いたいことは解る。いたずらレベルのもあれば死人が出てもおかしくないレベルの罠もあるからな」

 

 悠斗はここまで来るのにあった罠の数々を思い出し、黒歌の言葉に同意する

 

 「ってゆうか、明日菜ちゃんと木乃香ちゃん、そしてそのお友達はこの道通って怪我してなきゃいいけどな」

 

 「確かにここまであった罠の危険性を考えたら1人や2人怪我していてもおかしくないにゃ」

 

 「・・・少しスピードアップするぞ」

 

 「え~~~っていつもなら言いたいけど、分かったにゃ」

 

 悠斗と黒歌は移動速度を少し上げ、高畑から受け取った図書館島の見取り図と、明日菜達が取りに行ったとされる魔導書の保管場所が描かれた地図を頼りに進んで行く。そして、魔導書の保管場所にたどり着いた2人が見たのは

 

 「これは」

 

 「まさか」

 

 明日菜達が持っていたと思われるバック数個と巨大な穴だった

 

 「まさかとは思うけど」

 

 「そのまさかだと思うにゃ。っで?どうするの悠斗?」

 

 「どうするって・・・行くしかないだろう」

 

 お互いの顔を見てため息を吐くと悠斗と黒歌は開いている穴を使って下へと跳び下りて行った



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