東方友好録 (青い灰)
しおりを挟む

プロローグ「幻想郷へ」



暖かい目で見てください。



 

死ぬことは怖いことだと

言う人は多いんじゃないかな。

 

でも、それは苦しくて死ぬなら。

 

苦しまず、スッ、と死んだりしたら結構、

楽だったりする。

 

 

まぁ、一回きりの経験則だけど。

 

そう、オレは死んだ…………と思う。

家の階段から落ちて死んだ。

 

 

死んだ筈だ。

だけどオレは今、不気味な空間に立っていた。

 

 

暗い。まぁそれは良いとして。

沢山の目玉が、オレを見ているのだ。

 

いやぁ、怖い。

意図の掴めない目に見つめられるのは

ここまで怖いとは、初めて知ったなー。

 

 

「あら、珍しいですわね。

  私のスキマに虫が侵入したなんて」

 

「うわっ!?」

 

 

オレが振り向くと、そこには綺麗な女性がいた。

綺麗な人、としか言えないが。

 

金髪ロングで、同じ色の瞳。

リボンのついた帽子を被っており、

ドレスのような服を着た、美しい女性だ。

 

さっきの言葉からすれば、

おそらくオレが勝手に侵入してしまったようだ。

 

とりあえず、謝っておこう。

 

 

「すいません、勝手に侵入してしまって」

 

「あら、人間にしては礼儀がなっているわね」

 

「そうですか?」

 

「ええ、私の知ってる人間はケチなの。

  謝ったりなんてしないわね、あれは」

 

「えーと」

 

 

笑った方が良いのだろうか?

それとも同情した方が良いのかな?

 

 

「こほん、ごめんなさいね。

 どうやってこの世界に入ったのか、

 細かく、教えてくださらないかしら」

 

「それも分からなくて………確か、

 オレは階段から落ちて死んだと思うんですが……」

 

「あら、貴方死んだの?」

 

「は、はい。多分………

  今生きてるのも不思議で………」

 

 

女性は何か考えるように顔を傾ける。

 

 

「貴方、確かに死んでますわね」

 

「あ、そうなんですか?」

 

「ええ」

 

「1つ聞いていいですか?」

 

「良いわよ」

 

「オレ、どうなるんですか?」

 

「それは…………私次第、ね。

  うん、何となく、分かってきたわ」

 

 

なるほど、どうなるのか分からないと。

うん、分からない。

 

 

「では、説明しますわ。

 おそらく貴方は、死の狭間……

 死に切れていない状態ですわね」

 

「中途半端な存在ってことですか?」

 

「そうよ、それでおそらく、

 この世界へ入ってしまったのでしょうね」

 

 

分かった。

中途半端に死んでいる状態、と。

 

多分、ここから戻れたとしても体は死んでるから

またここに連れてこられるんじゃないかな。

 

凄い血が出てた気がするし。

 

 

「そうね…………では、行ってらっしゃいませ」

 

 

そう言う女性へ「どこへ?」

と聞こうとするも、オレは足元に現れた

穴に落ちてしまったのだった。

 

 

「妖怪の餌になるか、の垂れ死ぬか。

 死の境界を弄ってあげたけど、森に落としたし

 どうせ彼は死ぬのでしょうね。さようなら~♪」

 

 





主人公:ソラ 
 性別:男
 年齢:16歳。

 能力:不明


プロフィール
・髪黒黒目。
・元学生。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

森に落ちて



   ソラ
身長:172cm
体重:58kg

そこそこ筋力はあるくらい。



 

「いたっ!」

 

 

落とされた…………やっぱり迷惑だったかな。

というか、ここはどこだろう。

 

森だ。うん。木しかない。

空気が美味しいです。

 

 

「うーん?」

 

 

まずは姿の確認から。

服は死んだ時のままだ。怪我は無くなっている。

 

 

持ち物を確認する。

 

左ポケットには入れっぱなしだった飴玉が3つ。

で、味は?

イチゴ、オレンジ、青リンゴ味だ。

 

右ポケットには、ミステリーの小説本。

まぁ暇潰しに使える。お気に入りなので飽きない。

 

 

 

「大したものはない、か。

  まずは人を探さないと」

 

 

大声を上げることも考えたけど、

熊とか来ても困るから歩きで行こう。

 

 

「北へ~行こう、らんららん♪」

 

 

某アドベンチャーゲームの歌を歌いながら

適当な方向へ歩く。

 

こっちがだいたい北だな。うん。

太陽は真上にあるため昼のようだ。

 

昼飯を食べてから死んで良かった。

お腹はまだ空かない。

 

 

「北へ~行こうらんらら、ん?」

 

 

今、何か前を横切ったような?

気のせいかな。

 

ズバッ。

 

隣の木が大きな音を立てて斬り倒される。

 

 

「お、お見事………」

 

 

オレは目の前にいたイタチのような

生き物に言ってみる。

 

意志疎通、大事。

 

 

「キシャァァ!」

 

「ですよねー!!?」

 

 

回れ右。

全力で真っ直ぐ走る。

 

 

「キシャァァァ!」

 

「いぎぃッ!!?」

 

 

右腕の肘に電気が走るような痛み。

熱ッ熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い

痛み痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 

 

「がぁぁぁッ!」

 

「キシャァ!」

 

 

叫んで左手で顔をぶっ叩く。

思考が戻ってきて、凄まじい痛みがくる。

走り続ける。

 

 

「2回も死んで、堪るかよ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逃げ切ったことを確認して、

オレは土の地面に膝をつく。

 

 

「は、っ、は、ぁっ、か、はっ」

 

 

倒れて、空を仰いで空気を肺に取り込む。

頭がボーっとする。

痛みは、消えていた。というか。

 

 

「やっち、まったな、はぁっ、くそ………」

 

 

先程まであった筈の肘の先が消えた。

正確には。

 

 

「切り飛ばされた………、

 鎌鼬(カマイタチ)、本物、いたんだな………」

 

 

もう感覚すらない。痛みも、流れる血も。

感じなくなっている。

 

 

「何なんだよ………ここは…………」

 

 

鎌鼬………妖怪。

そんなファンタジーな世界かよ。

オレは目を閉じる。

 

 

「……あー……死ぬ………」

 

「んあー?」

 

 

声が聞こえた。だが、目は開けない。

だけど、さっきの鎌鼬と同じような感じがする。

むしろ、感じるのが強い。

 

 

「人間なのかー」

 

「………人間だー」

 

「そーなのかー」

 

 

なんだよコイツは…………

思考、安定しちゃったよ。

 

 

「手、ないけど無くしたのかー?」

 

「小動物に食べられたのだー」

 

「そーなのかー」

 

 

…………思考放棄する。

どうせ食われる。うん。

 

 

「お前は食べても良い人類?」

 

「そうなのだー」

 

「でも不味そうなのだー」

 

「酷くない!?」

 

 

オレは飛び起きて目を開ける。

なんなんだよ、全く。

 

そこにいたのは、幼女だった。

金髪ショートの大きなリボンをつけている。

白と黒の洋服、黒いロングスカートを着ている。

 

 

「食べてもお腹壊しそう」

 

「えぇ………」

 

「でも何か食べたいのだー」

 

「………じゃ、これいるか?」

 

 

オレは左手で飴玉(オレンジ)を取り出す。

左ポケットで助かった。

 

 

「何なのだ?」

 

「飴だよ、この袋を開けて、中の飴を舐めるんだ」

 

「分かったのだー」

 

 

彼女は飴の袋を開けて、飴玉を口に入れて転がす。

そして目を見開く。

 

 

「んー!美味ひいのらー!」

 

「だろ?あと2つあるけどいる?」

 

「貰っへおふのらー!」

 

 

オレの飴玉を全て渡し、オレはまた寝転がる。

眠くなってきた。多分、永遠の眠りだ。

 

 

「寝ちゃうのかー?」

 

「うん…………おやすみ」

 

「おやすみなのだー」

 

 

意識を、手放した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

紅の館

 

 

「…………ん」

 

 

目を覚ます。

両手をグーパーして生きてることを確認する。

 

あれ、両手?

 

 

「治ってる?え、なんで?」

 

「あ、おはよう。って言っても夕方だけど」

 

「うん?おはよう」

 

 

オレの横では、さっきの幼女が寝ていた。

なんで?

 

 

「腕、治してくれたのか?」

 

「繋げておいたけど、無理したら外れるよ」

 

「繋がったの!?」

 

 

腕、残ってたのか。

よく見れば、薄く黒い何かで繋がっている。

それが何か、知りたくはなかった。

 

てゆーかまた千切られるフラグ?

嫌だなー、そんなフラグ。

 

 

「それより、起きたなら案内するのだー」

 

「案内って………どこへ?」

 

「ついて来るのだー」

 

「ちょ、待ってくれよ!」

 

 

ふよふよと浮かびながらどこかへ

行こうとする彼女を追いかける。

 

追い付いて、歩く。

 

 

「そういえば、名前、名前を教えてくれ」

 

「ルーミアなのだー」

 

「オレは空。よろしく、ルーミア」

 

「うん、よろしくー」

 

 

こうして、オレはまた、

ルーミアと共に歩みを進める。

 

内心、生きてる実感で泣きそうになりながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここを真っ直ぐ行くと、家があるよ」

 

「おー!ありがとう」

 

「バイバイなのだー」

 

「じゃあなー」

 

 

森の木々が浅くなってきたところで、

オレはルーミアと別れる。

 

聞いていなかったが、

彼女も妖怪だったのだろうか?

 

 

「………ま、またいつか会えるだろうな」

 

 

そんな気がして、オレは森を抜ける。

そして、唖然とした。

 

 

「なんじゃこりゃ、赤い………」

 

 

目がチカチカしそうな真っ赤な館。

家というより、洋館のようだ。

 

 

「人は………あ、いた」

 

「あれ、珍しいですね?

  どうかしましたか、人間さん」

 

 

見つけたのはチャイナ服の少女。

人間さん、と言うのは、妖怪だからだろう。

 

ルーミアと同じようなものも感じるし。

 

 

「えーと、ちょっと森で迷って」

 

「あぁ………それは災難でしたね。もう遅いですし

 出来れば紅魔館に泊めてあげたいんですが………」

 

 

オレの姿を見て本当に災難そうな顔をする

中国風の少女。

 

 

「何か事情でも?」

 

「はい、少し色々ありまして。

  妖怪ならともかく、人間さんは不味いですね」

 

「え?」

 

「出来れば早くここから離れたほうがいいですよ、

  人間さん。死にたいなら別ですが」

 

 

死にたくはない。

先程死にかけたばかりなのに。

 

 

「じゃあ、森を回って、

 今日は湖にでも行って野宿です。

 そこに妖精がいるんですけど、

 人里を教えてくれる筈ですから」

 

「ありがとう」

 

「急いだ方がいいです………うわ!?」

 

「なっ!?」

 

 

話していた少女の頭にナイフが突然現れる。

それを辛うじて避けた少女は尻餅をつく。

 

 

「急に、ナイフが……?」

 

「あちゃあ、人間さん、全力疾走して下さい!」

 

「え?」

 

「速く!!」

「逃がさないわよ」

 

 

走りだそうとして、気づく。

オレの背後に、誰かがいた。

 

首にナイフを突き付けられ、動けない。

 

 

「何してるの、美鈴?

  ………返答によってはナイフが飛ぶわよ」

 

「たまには良いじゃないですか、

   気まぐれですよ、気まぐれ」

 

「もうナイフ飛んでるしな」

 

「黙りなさい」

 

「メイドさん、ナイフ怖いんだけど」

 

 

オレの背後にいたのは、メイド姿の少女。

逃げようと思えば外れるナイフの突き付け。

 

簡単に言うと、隙だらけ。

美鈴、と呼ばれた少女と話をしている。

 

だけどなぁ………鳩尾に肘打ちは可哀想ってゆーか。

まぁ命狙われてるし、我慢してくれ。

 

 

「ぐふっ!?」

 

「うわ!?」

 

「お邪魔ぁぁ、しまぁぁぁす!!」

 

 

ナイフメイドの拘束を外し、

チャイナ少女の横の壁を乗り越えて、

窓へ右肩から体当たりして割る。

館の中にダイナミック侵入。

 

逃げよう。

 

 

「大丈夫ですか咲夜さん!?」

 

「貴女どっちの味方なのよ………

  お嬢様の手を煩わせるわけにはいかないわ」

 

 

追いかけてくるな、兎に角、どこか遠くへ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、寝起きに虫がいるな。潰すか」

 

「っ!?」

 

 

背後から声が聞こえ、光弾がオレを狙ってくる。

オレは前に転がって回避し、姿を見る。

 

幼女だった。

青い髪のドレスを着た幼女。

 

だが、関われば死ぬ、と、

本能が警鐘を鳴らしている。

 

 

「私の館、紅魔館に侵入とはな。

  窓の弁償、お前の血で払って貰おうか」

 

「ごめん!落ち着いたら今度謝る!!」

 

「逃がすかッ!」

 

 

立ち上がり、後ろから飛んでくる光弾を

回避しながら、オレは再び逃走を始めた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

紅魔館での逃走劇


誤字修正しました。
報告ありがとうございます!


 

 

「どこへ行った!?」

 

「お嬢様!手を煩わせて申し訳ありません!」

 

「いい!今は虫を探すわよ!」

 

 

オレは息を潜めて窓の緣に手をかけて

追ってを振り切る。

 

 

「危ない場所しかないのかよ………」

 

 

振り切ったようで、窓の外から中へ戻る。

おそらくまだ見つかっていないだろう。

 

まさか2階の窓の外にいるとは思うまい。

 

 

「あ」

 

「…………」

 

 

最悪だ。目が合う。

あの幼女、ナイフメイドからも逃げ切ったのに。

もう、逃げる自信が、ない。

 

ずっと窓に掴まってたから腕がヤバい。

あーもういいやー

 

 

「自首します、どうぞ、

 煮るなり焼くなり好きにしてください」

 

「えぇっ!?いいんですかそれで!?」

 

 

なんか知らんが捕まったのは確かだ。

そのまま連行される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、紅魔館に来たと?」

 

「おう」

 

「良くやったわね、こぁ」

 

「なんか釈然としないんですけど」

 

 

ナイフメイドに再びナイフを突き付けられる。

紐で縛られているので動けない。

 

縄抜けは出来るけど、この人数差はキツイな。

 

さっきのメイド、幼女、眠そうな少女、

小悪魔、それに中国風少女。

 

逃げられない。うん。

 

 

「ほう、ならここで死ね。

 と、言いたいところだが

 ………良いことを思いついた」

 

「死なないことでお願いします」

 

「遊ぶだけだ、私の妹と、な?」

 

 

その言葉に、周りの人たちも驚く。

 

 

「お嬢様、ですが……」

 

「いいストレス発散にもなるだろう、

  咲夜、そいつを地下室へ連れていけ」

 

「承知致しました」

 

 

オレはナイフメイドに引きずられて

地下室、という場所へ向かうことに。

 

嫌な予感しかしないなぁ………

 

 

「それでは、惨たらしく死になさい?

 お嬢様の手にかからなかったこと、感謝してね」

 

「ぐえっ!」

 

 

ナイフメイドに、ドア………というより、

牢の檻のような扉の向こうに投げられる。

 

縄抜けは完了した。

 

 

「ここは───」

 

「だあれ?」

 

 

オレに声をかけた主は、視界の隅っこにいた。

濃い黄色のサイドテールの髪、赤い瞳と服。

 

特徴的なのが、

宝石のようなものが下がっている翼だ。

 

ここの主だと思われる、「お嬢様」と

同じような幼女だった。

 

 

「オレは空。キミは?」

 

「私?

 フランドール・スカーレット。

 よろしくね、ソラ」

 

「あぁ、よろしく。

  キミと遊んで欲しいって言われたんだけど」

 

 

その言葉を発した時、

オレの背筋が粟立つ。

 

感じ取ったのは、殺気に似た、ナニカで。

 

 

「そう!新しいオモチャ!

  私と遊んでくれるのね!」

 

「いや、オレはオモチャじゃ」

 

 

赤い光弾が、オレの左頬を切った。

速い───!

あの「お嬢様」よりも、もっと!

 

 

「弾幕ごっこで、遊びましょ?

  フフ、アハハハハハハハハハ!!!」

 

 

凄まじい量の光弾が浮かび上がる。

一撃一撃が、オレを殺せる威力。

 

手加減を知らぬ子供が、アリを潰すように。

 

 

「アハハハハハハ!!」

 

 

狂ったように笑う幼女が、

弾幕の雨を降らせた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フランドール・スカーレット

 

 

 

「へぇ!凄いねソラ!

  あの量を全部避けちゃうんだ!!」

 

 

フランドールが弾幕を撃ちながら、笑う。

オレは、1分間、逃げ切った。

 

今は、大きな傷はない。

 

 

「あ、ぁ、凄いなフランドール、

  あれだけ撃って疲れないなんて」

 

「フランで良いよ!

  うん、まだまだ何発でも撃てるからね!!」

 

 

地獄か。

だけど、フラン、何かがおかしい。

二律背反、とは違うような、同じなような。

 

今は、純粋に楽しんでいるのか──?

 

 

「じゃ、スペルカード!」

 

「ッ!!」

 

 

フランが光るカードを取り出す。

 

弾幕ごっこについては、ルーミアに聞いた。

この世界、幻想郷での決闘。

スペルカードは切り札で、特殊な弾幕、

必殺技を意味している。

 

 

「″禁忌『クランベリートラップ』″!」

 

「…………マジかよ」

 

 

オレは再び走り出す。

巨大な紫の弾幕が展開され、動きを封じられる。

更に、赤い弾幕がオレに襲いかかる。

 

弾幕と弾幕の隙間に走りこみ、

スライディングして逃げる。

 

だが。

 

 

「づッ!!」

 

 

弾幕は着弾すれば消えるものだが、

彼女の弾幕は速度が速い。

 

故に、オレの左脇腹が大きく抉られる。

血が吹き出す。

 

だが、スペルカードは終わった。

 

 

「次行くよー?

 ″禁忌『レーヴァテイン』″!!」

 

「っ!?」

 

 

燃え上がる炎の剣が、フランの手元に現れる。

振り下ろされるそれを転がってよけるが、

 

 

「ちっ!」

 

 

振り抜かれた剣から、弾幕が放出される。

それを走り、転がり、避ける。

 

最初から逃げ場などない。

なら、フランが疲れ果てるのを待つしかない。

 

 

「それぇっ!!アハハハハッ!!!」

 

「ぁぁぁあぁぁぁぁあ!!!」

 

 

炎の剣が、右腕を焼き潰した。

 

 

「焼け、る、熱っ………」

 

 

焼ける、焼ける焼ける焼ける焼ける熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い熱い痛い熱い痛い熱い熱い痛い熱い痛い熱い痛い痛い

 

 

「───ぁ」

 

「あれ、コワレちゃッた?

  ねーネー、もっト遊んデよー!」

 

「───」

 

 

思考が、出来ない。

 

 

「死んジゃうノ?寂しイ、寂シいよ。

  もっト、私ニ構っテヨ、遊ンでヨ」

 

「………え………」

 

 

でも、聞こえてしまった。

彼女の声が。

なんで、壊れてるんだ、彼女が。

 

 

「オ姉様モ、咲夜モ、ミンナ、

  私を怖ガっテ、嫌っテル、

  ───────死んじゃ、いやだ」

 

 

はっきりと、最後の言葉が聞こえた。

 

 

「死なないで、もウ、殺したく、ナイ。

  逃げテ、逃ゲて、やだ、やダ」

 

「…………はは」

 

 

 

思考を捨てれば、死ねるだろう。

楽になれる。

 

だけど。オレは立ち上がれた。

不思議だった。

 

焼き消えた筈の腕が元に戻っていた。

 

 

バカなんだろう、オレは。

なんで、逃げようなんて考えてる。

 

 

 

 

「目の前で泣いてるフランがいるからさ」

 

「逃げテ!!」

 

「逃げないよ。逃げたら、また泣くだろ?

  泣き疲れるまで、沢山遊ぼうか、フラン」

 

 

 

 

オレは、走り出した。

彼女が倒れるまで、付き合ってやろう。

 

 

「あ、ハァ♪

 ″禁忌『フォーオブアカインド』″ぉ!」

 

 

フランの眼球がグルリと回り、

狂気に落ちる。

 

そして、姿が歪む。

 

 

「増えた!?」

 

「「「フッ、アハハハハハハハ!!!」」」

 

 

マンガや、ゲームのように上手くは行かないか。

とことん、現実味が増す。

 

 

「鬼さん、こちらッ!」

 

「「「アハハハハハハ!」」」

 

 

3人になったフランが弾幕を展開する。

展開された弾幕はその数も3倍。

避けるのはキツくなるが…………

 

 

「アハ!?」

 

「アハハハハハハ!!!」

 

 

フラン自身、あれを、制御出来てない。

味方の分身に攻撃が当たり、一体が消滅する。

 

 

「鬼さん、こっち、おらぁ!」

 

「アァ!?」

 

 

大きく体を捻り、飛び込んできた

フランの分身の足を蹴り、頭を地面に叩きつける。

 

某ゲームの物真似CQCだ。

 

 

「残りは───」

 

 

黙って佇む、フラン。

 

 

「凄い、ね。まさか殆ど避けちゃうなんて」

 

「そろそろ、疲れてくれないかな?」

 

「次で、最後。遊び、終わらせるわ。

  遊んでくれてありがとう、ソラ。

  ────全部、避けきってみせてね」

 

 

フランが泣きながらスペルを切る。

 

 

「″QED『495年の波紋』″」

 

 

四方八方から、波紋のように広がる弾幕が

次々と放たれる。

 

走り出して、フランに接近する。

 

 

「っ!」

 

 

二重の波紋弾幕。

一撃で肉を削ぎ、抉られる。

 

だからこそ、避ける。

 

顔を逸らして。

跳躍して。

走って。

しゃがんで。

 

横からの波紋弾幕。

 

前方へ跳び、転がって避ける。

止まれば当たらないが、止まってはいけない。

 

グリュ、と、肩肉の抉られる感触。

 

 

「ッッッ!!」

 

 

歯を噛んで、走る。

 

あと、1メートル。

手を伸ばす。

 

フランも答えようと、伸ばす。

 

 

 

あと、50センチ。

波紋の弾幕が、横から腹を貫いた。

 

止まれない。

 

 

 

あと10センチ。

 

足を、腕を貫かれる。

 

 

あと、1センチ。

フランが涙を溢しているのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらな、遊び疲れたろ?

  休もうか。オレが疲れたし」

 

 

手を繋ぐ。

 

オレを狙っていた弾幕は全て消滅し、消えた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

足りなかったもの

 

 

 

「フランを狂気から

 解放したことには礼を言っておこう」

 

「………そうですか」

 

「あぁ、礼をしようじゃないか、

  別に泊まって行ってもいいぞ?」

 

 

見え見えの嘘だ。

 

フランを助けてから、

オレは再びメイドに縛られてあの部屋に

連れていかれたのだった。

 

再び、紅魔館のメンバー、

美鈴とフランを除く全ての面々が揃う。

 

 

「どうせ寝てる間にオレは死ぬでしょう」

 

「分かっているじゃないか、

  お前が生き残る道などない」

 

「…………だったら」

 

 

オレは決意を決める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分前、フランを止めた後のことだ。

 

 

「いつからここに閉じ込められてるんだ?」

 

「よく、閉じ込められてるってわかったね」

 

「そりゃあ、な?監禁だろ、こんなの」

 

 

この部屋、フランの攻撃による

大きな傷がついていない。

 

しかも、あの牢の檻のような扉には

封印の札なども貼ってあった。

 

フランはここから出ることは出来ない。

それこそ、ぬいぐるみ等の玩具はあっても。

 

 

「でもね、私がいけないから。

  私が悪い子だからなの、悪いのは私」

 

「違う、って言いたいけど、聞かせてくれよ」

 

 

オレはフランから話を聞いた。

彼女は、もう分からなくなるほどに

ここに閉じ込められており、

それはフランの能力

"ありとあらゆるものを破壊する程度の能力"

による危険性からだったという。

 

そして狂気にのまれることも多くなったとか。

 

…………あくまでもオレの考えだが、

狂気、とはストレスのことじゃなかろうか。

そりゃあこんなところにいればストレスも溜まる。

 

 

「フラン、紅魔館の人たちと喋ったりしたか?」

 

「…………んーん」

 

「そっか。辛かったな………」

 

 

ならば、合点がいった。

もしも、オレの考えが正しければ。

 

 

「フラン、お姉さんの名前は?」

 

「レミリアお姉様、レミリア・スカーレットよ」

 

「…………あぁ、分かった。

  なぁ、フラン。1つ聞かせて欲しいんだけど」

 

「なあに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決意を決めて、オレはレミリアに言い放つ。

 

 

「殴らせろ、一発でいい」

 

 

立ち上がって、拳を掌に打ち付ける。

縄脱けをして、オレはテーブルを挟んで

レミリアと対峙する。 

 

 

「ほぅ?私を殴る理由は?」

 

「お嬢様……!」

「静かにしてなさい、咲夜」

 

「答え合わせだ」

 

「答え合わせ?一体何のことだ?」

 

 

オレは、脳裏にフランのことを思い浮かべる。

最後に放ったあのスペルカード。

姉のことを守るように、自分が悪いと言うフラン。

 

だが、まだだ。

それではいけない。

 

それで、いい筈がない。

 

 

「495年のツケを支払え、

  レミリア・スカーレット」

 

「───」

 

「お前がフランを泣かせたんだから」

 

「貴様に何が分かる」

 

「知るか、オレは部外者だ」

 

「だったら、口出しするな!」

 

「やだね、関わったから。

 フランが泣いてるところを見たことあるか?」

 

 

オレはレミリアを攻め立てる。

オレは非力な人間だ。

レミリアたちには勝てない。

 

言葉の、ナイフを突き立てる。

 

 

「お前に私とフランの何が分かる!!」

 

「分かるのは!!

 お前が間違ってるって事だけだ!!!」

 

 

オレはテーブルに乗り上げる。

レミリアへ一直線に走り出した。

 

 

「………!?」

 

「咲夜、何をしている!?」

 

「…………能力が、使えない!?」

 

「余所見すんじゃねぇよ!レミリアーッ!!」

 

 

オレは速度を上げる。

 

 

「お前が間違ってるから!

 フランが積み上げようとしてるもの!

 ありとあらゆるものをゼロにしてんだよ!!」

 

「ふざけるな!!

  あの子は私のたった1人の家族だ!!」

 

 

その言葉を聞いて、オレの怒りは高まる。

 

 

 

 

「泣いてる妹を、助けない姉が家族だなんて、

 笑わせんじゃねぇよ!レミリアァァァッ!!」

 

 

 

 

溜まっている言葉を全て吐き出して、

走り続ける。

 

 

「黙れ!!」

 

 

「見てただけで!!

  泣いてる妹を助けないような奴が!!」

 

 

叫ぶ。

 

 

 

「姉を名乗んじゃねぇよ!!!」

 

 

 

叫び、右手に力を込める。

 

 

 

「黙れぇぇぇぇッ!!!

  ″神槍『スピア・ザ・グングニル』″ッ!!!」

 

 

 

赤い、巨大な槍が形成され、

オレを狙い投げられる。

 

狙いは下半身。

全力疾走しているので避けられない。

 

だが。

 

 

「邪魔だ!!」

 

 

オレの意思に反応するように、

体が青白くスパークした。

 

 

 

 

 

 

「その運命を破壊する───ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!!?」」」

 

 

オレは、紅の槍を踏み潰した。

紅の槍は四散し、テーブルが崩れる。

 

そのままレミリアへ接近し、拳を引き絞る。

 

 

 

「お前に足りなかったのは!!

   ″一歩踏み出す勇気″だ!!!」

 

「───!!!」

 

 

 

オレの拳がレミリアの顔を捉え、突き刺さる。

 

 

 

「ぶち抜けぇぇぇぇッ!!!!」

 

 

 

青白い光が弾け、レミリアを吹き飛ばした。

 

 

 

「答え合わせ、0点だ。

   レミリア・スカーレット」

 

 

 

オレはその場で言い放つ。

テストは0点。

 

 

 

「赤点だ。訂正しろ」

 

「ぐふっ…………訂正、だと?」

 

 

オレが入ってきた扉が開かれ、

美鈴に担がれたフランが現れる。

 

 

 

「…………フラン!」

 

「お姉様!」

 

 

フランが美鈴から降り、レミリアへ抱きつく。

 

 

 

「姉妹での時間を、

  取り、戻して100点、満点───だ」

 

「───!!」

 

 

オレは血を吐いて、その場に倒れた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

100点満点と、能力

 

 

 

「───」

 

 

全身が、電気が走っているように痛い。

血液の代わりに泥でも

流れているんじゃないか、体が怠い。

 

 

「ソラ!!」

 

「フ、フラン?」

 

「起きたんだね、良かったぁ………」

 

 

ここは、どこだろうか。

ベッドの上に寝かされている。

 

 

「よっこいしょ……」

 

「あ、ダメ!」

 

「ぐぇっ!?」

 

 

ベッドから出ようとすると、

フランに首を絞められる。

死ぬ。死ぬって。

 

 

「フラン、そこまでにして」

 

「あ、お姉様!」

 

「…………よう」

 

「………えぇ」

 

 

やって来たのは、レミリアだ。

頬にはガーゼが貼られている。

 

気まずい。まぁ、とりあえずは。

 

 

「殴ってごめん」

 

「え?」

 

「いや、フランのことで頭いっぱいで。

  だから許してとは言わないけど、ごめん」

 

「………ふっ、あはははっ!」

 

「あ、お姉様笑ったー!」

 

 

レミリアとフランが笑顔になる。

…………うん。なんか、見たい光景も見れた。

 

 

「謝るのはこっちよ、ソラ。

  フランを助けてくれてありがとう」

 

「まー、お互い様だろ」

 

「どうかしら?点数は」

 

「点数?」

 

 

オレは顔を傾ける。

だが、2人で笑う姉妹を見て、思い出す。

 

 

「100点、満点!」

 

「やったぁ!お姉様、良かったね!」

 

「…………うん!」

 

 

レミリアの口調が大分楽になっている。

おそらくこっちが素なのだろう。

 

そのまま、30分ほど話を続けた。

 

 

「殴られたなんて、いつぶりかしら?」

 

「霊夢と魔理沙が来たときじゃない?」

 

「誰だ?」

 

「異変解決者よ。幻想郷では時々、

 ″異変″と呼ばれるものが起こるのよ。

 それを解決するのが、解決者の仕事」

 

「お姉様が異変を起こしたこともあってね!

  それで春が来なくなったり、

  朝にならなくなったこともあったんだ!」

 

 

カオスすぎねぇ!?

幻想郷怖っ!?

 

と、扉がノックされる。

 

 

「来たわね、医者を呼んであげたの」

 

「医者がいるのか。

  レミリア、ありがとう」

 

「当然の措置よ、酷い怪我だったし。

  フラン、行きましょう?」

 

「うん!またね」

 

 

2人が出ていき、そして銀髪の女性が入ってくる。

青と赤の配色の服を着ている。

 

 

「こんにちは」

 

「あ、こんにちは」

 

「…………ふぅん、あの吸血鬼を殴った、

 って言ってたからどんな人かと

 思ったらただの人間じゃない」

 

「あれ、もしかしてオレ馬鹿にされてる?」

 

 

なんか傷つくこと言われた気がする。

医者さん、そんなこと言っていいの?

 

 

「ふふっ、冗談よ。ごめんなさい。

  私は八意 永淋。医者よ。よろしく」

 

「空です。よろしくお願いします」

 

「えぇ、早速だけど傷、見せて頂戴」

 

 

オレは腕、足など、傷を全て見せる。

そして。

 

 

「───これって………!?」

 

「え、どうしました?」

 

「貴方、腕が千切れたことがある!?」

 

 

肩を揺さぶられ、聞かれる。

あります。2回くらい千切れました。

それを伝えると…………

 

 

「…………千切れた形跡はある。

  初めは、鋭利な刃物によるもの」

 

「あー、鎌鼬にやられました」

 

「………2回目は、焼かれて、切られたの?」

 

「フランにやられましたねー」

 

 

永淋は目を丸くする。

 

 

「まるで、あったことを

 無かったことにしたみたいな………

 かなり、中途半端な再生よ、これは」

 

「なんか不味いんですか?」

 

「えぇ、なんて言えばいいかしら………

 そうね、しいて言うなら

 『腕が切られたことを拒否してる』と言うこと」

 

「腕が………拒否ってる?」

 

 

どういうことだ?

 

 

「え、腕が千切れてないけど

 千切れた跡はある。みたいな感じですか?」

 

「そうね、雑に言えばそう。

  でも…………そうか、貴方、能力は?」

 

「能力?能力って…………フランの

 『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』

 みたいな能力ですか?」

 

「そうよ、あるんじゃないの?」

 

 

いや、知らないけど。

 

 

「知りませんけど………

  そういえば、青い光が出たような……」

 

「青い、光?」

 

「はい。レミリアをぶっ飛ばした時に、

  青い光がバチバチッって感じで」

 

 

当たり前のように使ってたけど、

あれは一体何なのだろうか。

 

使えるから使った、みたいな。

 

 

「…………攻撃系統の能力?

  でもそれだと回復なんて出来ない筈………」

 

「よく分かりませんけど」

 

「今、使える?その能力」

 

「えっと………」

 

 

体に力を入れてみる。

あの時より少し薄いが、体が青く光る。

 

 

「これが………え?」

 

「どういう能力か分かりますか?」

 

「いえ………寧ろ、分からなくなったわ。

  ねぇ、吸血鬼を殴った時、何か言った?

  言葉を通して能力を発動することもできるの」

 

 

そういえば、レミリアのスペルを

踏み潰して破壊したとき───

 

『その運命を破壊する───ッ!!!』

何故、オレはあんなことを口走った?

 

 

 

「運命を、破壊する、と言ったような………」

 

「運命を………破壊!?

  まさか、いや、それなら………」

 

 

その時、扉がバンッ!と音を立てて開け放たれる。

 

 

「お姉様!?」

 

「ソラ!何があったの!?」

 

 

レミリアが飛び込んでくる。

一体どうしたんだ?

 

 

「いや、こっちのセリフなんだけど」

 

「え?」

 

「……………成る程、そういうことか………

  貴女、確か『運命を操る程度の能力』

  だったかしら」

 

 

永淋がレミリアに聞く。

なにそのカッコイイ能力。しかも凄そうな。

 

 

「そう、だけど」

 

「成る程、これで確定ね。

  ソラ、貴方の能力が分かったわ」

 

 

え、マジすか。

うん、待って、まさか。

 

 

「″運命を破壊する程度の能力″、よ」

 

 

えぇ………

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

能力と来客と


誤字修正させて頂きました。
ありがとうございます!



 

「運命を………破壊?」

 

「まさか……ソラ、青い光を抑えてくれない?」

 

「あ、あぁ」

 

 

俺は力を抜いて光を消そうとする。

光は溶けるように消えた。

 

 

「戻ったんじゃないかしら」

 

「本当ね………」

 

「待って、どういう………ごぼッ?」

 

 

胃から熱いものが上がってきて、

吐き出されてしまう。

思わず手で押さえるが、漏れだしてくる。

 

 

「「!?」」

 

「!」

 

「───え」

 

 

血が、オレの手にべったりとついていた。

意識が遠いてゆく。

 

 

「───!?」

 

「──!」

 

「─────!!」

 

 

耳鳴りがして、声が聞こえず、

呼吸が荒くなり、そして。

 

消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識の覚醒は早かった。

前に寝ていたからかも知れないが、

すぐに意識ははっきり戻り、起き上がれた。

 

 

「…………づっ」

 

 

頭痛が酷い、未だに耳鳴りも煩く、

体が重く、怠かった。

 

 

「大丈夫?」

 

「……多分、大丈夫………」

 

 

オレに声をかけたのは、部屋の隅の椅子に

座って本を読むメイド、咲夜だった。

 

 

「そう、貴方は能力の使用による

 ストレスで血を吐いたらしいわ。

 能力の使用は極力控えるように、とのことよ」

 

「使うような局面に会わないことを祈るよ……」

 

 

オレはため息をつく。

そんな局面、もうごめんだ。

 

 

「出来るだけ平和に暮らしたいなぁ……」

 

「ふふ、そうね。

  何事も平和が一番だわ」

 

「ナイフ突きつけてきた

 メイドさんが何か言ってるよ?」

 

 

全く、物騒な世界に来てしまったものだ。

 

 

「ま、もう遅いようね」

 

「ん?どういう…………」

 

 

コンコン、と扉がノックされる。

 

 

「こんばんは!

  清く正しい射命丸でございます!」

 

「はぁ………」

 

「お、羽だ」

 

 

返事を聞かずにこちらへ入って来たのは

黒髪の赤い瞳の少女だ。

 

少女しかいないのか、この世界は?

 

オレが注目したのは、彼女の背中にある黒い翼。

まるで鴉のようで…………まさか。

 

 

「………鴉天狗?」

 

「はい!その通りです!

 幻想入りしたばかりなのによく分かりますね!」

 

「へぇー!天狗!

  あれ、ちょっと待って」

 

 

なんでこいつ、オレが幻想入り?

ここに来ることか。

したことを知ってるんだ?

 

 

「なんで幻想入りしたばかりって知ってる?」

 

「あやや、痛い所を突かれましたね………」

 

「なんでだ?」

 

「実はですね?貴方が鎌鼬に襲われているとき、

 常闇の妖怪と話しているのとか、見てしまい

 スクープでしたから…………」

 

 

うーん、でも特に害とか無いし。

 

 

「そっか、で、何の用?」

 

「ソラ………貴方、少し甘いんじゃない?」

 

「そうかな?」

 

「そうよ」

 

「えーと、取材、よろしいですか?」

 

「取材?」

 

 

スクープやら取材やら、まるで記者だ。

 

 

「えぇ!私、新聞記者をしてまして!」

 

「嘘ばかりの紙クズでは?」

 

「酷っ!?」

 

「嘘を書くのは不味くない?」

 

「嘘は書いてません!

  少し誇張して書いたりはしますが!」

 

「ダメじゃん」

 

 

取り敢えず、咲夜のいるこの部屋で取材を受ける。

何でも、レミリアたちから見張っておくように

言われたらしい。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人里へ

 

 

 

「えー!?もう行っちゃうの!?」

 

「あはは、また来れたら来るよ」

 

「もう少しゆっくりしていってもいいのに」

 

 

流石にそう言う訳にもいかない。

フランの件から3日。

 

館のみんなとも仲良くなった。

だが、それは良くないことに気づく。

なので、人里に行くことにした。

 

 

「別にいいのよ、貴方は私たちの恩人なんだから」

 

「でもなー、一応見聞くらいは広めておきたいし、

  働き所も見つけないといけないからさ」

 

「紅魔館で働けばいいのにー」

 

「あんまり頼ってばかりも良くないからね」

 

 

というわけで、

オレは紅魔館を後にすることにした。

わざわざパチュリーまで出てきて見送ってくれる。

 

 

「それじゃ、ありがとう!また来るよ!」

 

 

オレは最後に大きく手を振って、

紅魔館を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲夜にもらった地図を見ながら進んで行くと、

オレは3時間ほどで人里にたどり着いた。

 

 

「へぇー、ここが人里か………」

 

 

和服の人々が村を作り、

そこで暮らしている、ということだったが。

 

 

「しまった、服」

 

 

このままの格好では目立つ。

どうしたものだろうか。

 

と、ここで目の前に誰かが現れる。

腰まで伸びた銀髪、リボンのついた帽子。

青い服を着た女性だ。

 

 

「こんにちは」

 

「お、ちゃんと礼儀は出来ているな。

 こんにちは。その姿、外の世界の人間だな?」

 

「あ、はい。多分そう言うことになりますね。

  オレは空って言います」

 

「そうか、私は上白沢 慧音。

  この人里の纏め役のようなものだ」

 

 

人間の見た目だが、妖怪の力も感じる。

やっぱり人間に友好的な妖怪もいるんだなー。

 

 

「待っていた、ソラ。人間の身で

 まさか吸血鬼の館から無事に出てくるとはな」

 

「待っていた?えーと、どういう?」

 

「昨日、あの館のメイドが来てな。

  多分、明日ここに来るからよろしく、と」

 

「咲夜………!」

 

 

あぁ、やっぱり良い人たちばっかりだ。

寧ろ、あそこに行けたのは幸運なのかも知れない。

 

 

「里を案内しよう、ついて来てくれ」

 

「よろしくお願いします!」

 

 

慧音に里を案内される。

慧音は寺子屋もやっているようで、

里の子供たちや妖精たちまで来るらしい。

 

活気に溢れていていい所だ。歩いている間も、

みんなニコニコしていて良い人たちばかりだ。

 

オレは里の外れまで案内される。

 

 

「よし、案内は一通り終わったな。

  話は変わるが、ソラはここに住むのか?」

 

「はい、出来ればですけど。

  働き所も見つけたいですね」

 

「ふむ、この先に空き家があるが………

  まだ綺麗な家だった筈だ、そこに住むか?」

 

「良いんですか?」

 

「あぁ、使っていない家だしな。

  仕事場については私が考えておこう。

  ここまで来て疲れているだろう?」

 

「何から何まで………ありがとうございます」

 

 

こうして、夕方になるまでにオレの家は

見つかり、オレはそこに泊まることになった。

 

食事まで慧音さんは用意してくれた。

聖人か、あの人は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~慧音~

 

 

今日はあのメイドが言っていた男を案内したが、

悪い人間ではなさそう、というより、

あんな20もいかない男があの紅魔館に

優遇されるとは、一体何があったのだろうか。

 

 

「………まぁ、聞けるときに聞けば良いか。

  里へ馴染むまで時間もかかるだろう」

 

 

慧音は日記に綴る。

 

3時間ほどの道のりのはいえ、ただの人間が

無傷で吸血鬼の館から人里に来れるとは思えない。

 

だが、あの男から妖気は感じなかった。

博麗の巫女の御札を持っている訳でもない。

一体、何者なのだろうか。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仕事探し


オリキャラ登場。


 

 

「うーん?」

 

「………すまんな。

 出来れば私もどうにかしたいものだが」

 

「あーいえ、オレの問題ですし。

  慧音さんが謝ることじゃないですよ」

 

 

オレが人里に住むことになって一週間。

さっそく問題が発生した。

 

 

「「仕事がない」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレは少し後悔する。

あのまま紅魔館で仕事すれば良かった。

 

今から行ってもいいだろうが、

わざわざ家までもらったのだ。

 

ここまでしてくれた慧音さんに失礼だ。

なんとかしたいものだが………

 

 

「むぅ………どうしたものか」

 

「…………あの、慧音さん」

 

「ん、どうした?」

 

 

オレは思い付いたことを言ってみる。

それは。

 

 

「自営業………居酒屋とか、どうですかね」

 

 

 

 

オレが幻想郷に来る前の話。

オレは酒屋だった父さんの息子として生まれた。

 

オレは姉貴、父さん、母さんと共に、

知り合いが止めた居酒屋を受け継ぐことになり、

オレもそこで働きながら学校に行っていた。

 

だから酒については得意だ。

 

 

 

「居酒屋か………なぜだ?」

 

「父さんと母さん、姉貴と

 外の世界で居酒屋をしていたんです。

 人里には居酒屋が無いみたいですし」

 

「酒の調達、ツマミなどは?」

 

「そこなんですけど………」

 

 

ルーミアから聞いたことがある。

なんでも、妖怪の山の河童の川では、

酒虫という水につけると酒を生み出す生物が

いるらしい。それを伝えると………

 

 

「馬鹿かお前は!?」

 

「ですよねー」

 

「妖怪の山は危険だ!

 天狗だけなら兎も角、河童とかもいる!

 それだけなら話が通じるが、

 話が通じない妖怪もいるのだぞ!!」

 

「慧音さんみたいに話の

  通じる方もいるじゃないですか」

 

 

オレがそう言うと、

慧音さんは驚いたように目を見開く。

 

 

「………!なぜ私が人間ではないと気づいた?」

 

「いや、なんか妖気?みたいなのを

 薄く感じたからですけど………

 ルーミアとかレミリアとかもでしたよ」

 

「………ふむ、まぁいい。妖怪の山には行くな。

 私が仕事を何とかして探してくるから」

 

「……………そうですか、ありがとうございます」

 

 

慧音はオレの家から出ていく。

オレはため息をつく。

 

 

 

すると、慧音が開けた扉の隙間から、

全長1メートルほどの青い蛇が入ってくる。

 

 

「あ、ミズ、おかえり」

 

「シュァ」

 

 

最近ウチに住み着いた蛇だ。

特に妖怪でもないんだろうが、

青い蛇なんて見るのは初めてだと思う。

 

ウチにある水の入った壺に住み着いているので

何となくミズ、と呼んでいる。

 

しかも返事までする凄い蛇だ。

頭よすぎ。

 

 

「さて、妖怪の山だけど………どうしようかな」

 

 

流石に仕事をしないと慧音さんに

養われている状態が続いてしまう。

 

やっぱり、黙って入るかな。

 

 

「ミズ、明日出かけるけど来る?」

 

「シャァ?」

 

「酒虫ってのを取りに妖怪の

  山に行くんだけど、ミズも来る?危険だけど」

 

「シュァァ♪」

 

 

多分、ついて来るのだろう。

オレは今日は早めに寝て、

明日の早朝に出発することにした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

妖怪の山へ

 

 

 

早朝、オレは慧音さんにもらった服に着替える。

着物と、羽織。

 

護身用、ということで、

貰った短刀も腰の帯に刺しておく。

 

 

「シュァ」

 

「ミズ、おはよう。

  朝ご飯、用意してるから食べておいて」

 

「シャ」

 

 

ミズは壺から這い出て、

近くに置いておいた小皿にある林檎を

シャクシャク、と音を立てながら食べる。

 

別に動物は嫌いじゃない。

まぁ、鼬はトラウマだけど。

蛇だってこうやって食事してるの見れば和む。

 

 

「と、自分の朝ごはん食べないと」

 

 

オレは朝食のご飯を釜戸で炊いて食べる。

まぁ炊飯器など無いわけで。

 

 

「自分の生活の便利さを知ったよなー」

 

 

魚をおかずにして、朝食を食べ終わると、

太陽が昇ってくる。

 

 

「そろそろ出ないと。

  ミズ、そろそろ行こうか」

 

「シャァ」

 

 

オレは小さな籠を紐で腰に固定して、

ミズをそこへ入れる。

あ、なんか居心地良さそう。

 

籠(大)をリュックのように背負って、家から出る。

それから気づかれないよう、村から出る。

 

 

「妖怪の山は………あっちか」

 

 

30分ほど歩くと、山の入り口のような道に出る。

ちゃんと道が作られているのか。

 

 

「そこの人間、止まりなさい!」

 

「ん?」

 

 

オレに声がかけられる。

木の上から現れたのは、白い少女だ。

纏っているのは、文に似た天狗装束。

 

耳。そして尻尾。

モフモフ…………モフモフ。うん。モフモフ。

 

 

「ここから先は妖怪の山、立ち入りは禁止です。

 神社へ行くならばもう少し時間を考えなさい」

 

「……………」

 

「なんですか。私の顔に何か付いてますか?」

 

「うん、耳がついてる。

  あと目と鼻と口がついてる」

 

「ダメです」

 

「何も言ってないけど」

 

「耳、触りたいとか思ったでしょう」

 

「よく分かったね」

 

 

なんでバレたんだ?

モフモフ。触ってもいいじゃない。モフモフ。

 

 

「じゃ尻尾で」

 

「嫌です」

 

「耳は?」

 

「嫌です」

 

「…………む「ぶっ飛ばしますよ?」さいですか」

 

 

ケチだなー、減るもんでもないのに。

まぁ最後のは冗談だけど。

 

 

「神社じゃなくて河童の所に行きたいんだけど」

 

「河童の川ですか。

 河童は今はもう起きてるでしょうが………何故?」

 

「酒虫が欲しくて。

  仕事が無くてさ、居酒屋でもして働かないと」

 

「酒虫………?

 まぁ、河童たちなら渡してくれるでしょうね」

 

 

あら、意外と友好的なのかな。

簡単に交渉できた。

 

 

「入っていい?」

 

「…………良いでしょう。

 ですが、河童の川以外へ近づかないように。

 近づいた場合は…………」

 

「近づいた場合は?」

 

「切り捨てます」

 

「怖っ」

 

 

自己紹介を軽くしておく。

うん、多分忘れられるんだろうな。

 

 

「オレは空。一応よろしく」

 

「白狼天狗、犬走 椛です。

 あ、道中の安全については保障しませんので。

 精々、の垂れ死なないよう。山が汚れますので」

 

 

…………まぁ、妖怪っちゃ妖怪だ。

人間が1人2人死のうが気にしないのだろう。

 

寧ろ襲う側、襲われないのも幸運なのかもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男が行った後、椛はため息をつく。

そして、クスリと笑った。

 

 

「天狗が侵入者を逃がす訳ないでしょう」

 

 

″千里先まで見通す程度の能力″を行使し、

椛は侵入者の監視を始める。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

交渉


オリキャラ2人目。
今の所、人の姿のオリキャラがいない………



 

 

「…………道聞いてなかった」

 

「シュァ!?」

 

 

絶賛迷い中。

ヤバい、どうしたものかなー。

3時間くらい歩いた。

食料は持ってきたので問題ないが、不味い。

 

ちょっと周りを見渡してみよう。

 

 

「うん、木しかないね」

 

「シャー」

 

 

どうしようか。

悩んでいると、後ろの茂みがガサリと音を立てる。

 

 

「………」

 

「………狼?」

 

 

出てきたのは中型、灰色の狼だ。

…………あ、これヤバいパターンでは?

 

オレはゆっくり後ろに一歩下がる。

すると、狼は一歩近づく。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

一歩下がる。

狼は一歩近づく。

 

 

「……………」

 

「………」

 

 

違和感を感じたので、一歩近づいてみる。

すると、狼は一歩下がる。

 

下がる。

 

 

「送り狼………ってヤツかな?」

 

「ワフッ」

 

「あ、正解?」

 

「ワフッ」

 

 

試しに手招きをして寄ってきてもらう。

狼は寄ってくる。

 

モフモフ。モフモフ。

撫でる。撫でくりまわす。

 

 

「ワフー」

 

「あ"ー、凄い。モフモフ最高。

  椛は触らせてくれなかったし、癖になりそう」

 

「シュァ………」

 

 

あれ、送り狼って撫でるのって良いんだっけ?

まぁいいか。噛まれたりしないし。

 

 

「取り敢えず川を探そう。

  水の音が聞こえる方向に行ってみよう」

 

「ワフ」

 

「シャァ」

 

 

お供2匹を連れて、水の流れる音のする方へ。

途中、転びそうになったが、休むフリをした。

 

送り狼は、転んだりした人を食い殺す妖怪。

だが、転んでも休むフリをすれば問題ないとか。

 

 

「シュァ!」

 

「んー、ミズ、どした?」

 

「シュァ」

 

 

ミズが籠から飛び出し、草を掻き分けて進み出す。

ついていけばいいのかな?

 

ミズについていくと、森が開け、

川が流れている場所へたどり着く。

 

中々大きい川だ。

人間なら軽く溺れるくらいの水深。

流れは緩やかだ。

 

 

「あれ、あんた人間?」

 

「ん?」

 

 

川を眺めていると、

緑色の帽子を被った青い髪と目の少女が

やって来た。

 

人間?と聞くならば。

 

 

「妖怪?」

 

「うん、私は河城 にとり。よろしく、盟友」

 

「オレは空。よろしく。

  盟友………ってどういうこと?」

 

「人間は河童の盟友なんだよ。

 人間がこんなとこに動物引き連れてなんの用?」

 

 

確かに動物引き連れてるわ。今気づいた。

 

オレは用件を伝える。

 

 

「にとり、キミたちの川にさ、

  もしかして、酒虫っている?」

 

「酒虫?いるけど?」

 

「それ、くれない?」

 

 

にとりは、うーん、と悩むような仕草をする。

交渉決裂したら終わりだな。

 

 

「別にいいけど。

  でも、タダ、って訳にもいかないなー」

 

「盟友から金を取るのか」

 

「ソラだって酒虫とろうとしてるからね。

 どっこいどっこい、お互い様、Win・Winだよ」

 

「で、何が欲しい?」

 

「尻子玉」

 

 

いや、死ぬし。

死ぬヤツじゃん、尻子玉抜かれたら。

 

 

「と言いたい所だけど………

  わざわざこんなとこまで来た盟友だからね」

 

「タダか」

 

「きゅうり。よこせ?」

 

「要求の仕方が怖いです」

 

 

よこせ?ってなんだよ。

オレは籠(大)を漁ってみる。

 

狼とミズは川で水浴びをしている。

自由か。流石は動物。

 

 

「てゆーか、交換する酒虫は?」

 

「奥だよ」

 

「いや、信用ならん。連れてけ」

 

「………チッ………うん、いいよ」

 

「え、今チッて「気のせいじゃない?」あ、はい」

 

 

怖い。盟友怖い。

ともかくオレは、にとりについていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

川の上流までやって来る。

滝が流れていた。

 

にとりは滝の裏に周り、壺を持ってくる。

ミズ、目を輝かせるな。

 

 

「これだよ、酒虫」

 

「…………山椒魚じゃん」

 

「見た目はね。飲んでみて」

 

 

オレは壺の中の水を掬って匂いを嗅いでみる。

…………高級な日本酒並みのヤツやん。

 

 

「結構良いの持ってきたよ。

  早くきゅうり頂戴?早く、早く」

 

「分かった分かった。はい」

 

「わーいきゅうりだー」

 

 

にとりはなんとそのままでガブリ。

きゅうりを生でとは、中々通な食べ方である。

 

 

「味噌に漬けると旨いのに」

 

「味噌?合うの?」

 

「少なくともオレの口には合うよ」

 

 

オレは味噌を取り出してにとりの

きゅうりを借りてつける。

 

 

「ほれ、食ってみ?」

 

「…………んん!?うっま!?うんっま!?」

 

「だろ?味噌、いる?」

 

「いるー!」

 

「酒虫追加?」

 

「するー!」

 

 

オレはにとりに味噌を。

そして追加の酒虫を貰う。

 

 

「「交渉成立」」

 

 

オレはなんと、輸出入交渉まで出来た。

 

居酒屋での売上が良い時は、

味噌ときゅうり買って、

もしくは育てて、にとりへ。

 

そして交換として、酒虫、ツマミまでくれるとか。

 

 

「シュァァ」

 

「ワフゥー」

 

 

大きな欠伸をする2匹だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帰り道



椛「…………あの人たち、何をしてるんですか………」




 

 

「ワフ」

 

「シュァァ」

 

 

なんか仲良くなってるな、この2匹。

にとりとの交渉も終え、オレたちは帰り道。

 

特に妖怪の襲撃もなく、森を歩いている。

 

 

「いやー、いい収穫だった。

  妖怪、悪いヤツばっかじゃないんだなー」

 

「シュァァ」

 

「ワフッ」

 

 

にとりから魚まで分けてもらい、

塩をふって焼いた魚で昼食を取りながら歩く。

美味しい。マスだろうか。

 

2匹も旨そうに食べているので良かった。

 

 

「んんー、特に何も無いなー。

 危険な妖怪は来なくていいんだけど」

 

「ワフッ!」

 

「ん?」

 

 

狼がオレの裾を引っ張る。

なんだ?

狼の方へ引っ張られていく。

そして、急に浮遊感を感じると。

 

 

「え、マジで!?」

 

「ワフッ!」

 

「シャアァ!」

 

 

乗せてくれた。

ライドオンとか、最高か!

 

頭を撫で回す。

 

 

「ワフッ♪」

 

「良い子だなー!名前つけようか!」

 

「シュァ」

 

 

名前、名前なぁ…………

どうしようか。送り狼。

 

…………シフ………流石に不味いか。

でも確かに灰色なんだよなぁ………

 

有名な狼の名前でいいか。

なら…………真神、かな?

なんか違うな………他は………千疋狼か。

うん。これだ。

 

 

「セン。お前の名前はセン!」

 

「ワォォォォン!!」

 

「シャァァ!」

 

 

決定。千疋狼から取って、センだ。

センが雄叫びを上げる。

 

そして、そのまま走り出す。

オレはセンの毛を掴み、前屈みになる。

 

もののけ姫ってこんな感じかぁ………!

なんかワクワクする!

 

 

「ひゃっほー!」

 

「ワォォン!」

 

「シュァァ!」

 

 

そのまま妖怪の山の道に出る。

長かった獣道もおしまい。

 

しっかし、セン、むっちゃ速いな………

フランの弾幕並みの速さ。

 

センと一緒なら全部避けられる気がする。

流石に無理か。もうあれはゴメンだ。

 

 

「ワフッ」

 

「と、ありがとう」

 

 

センが下ろしてくれる。

撫でる。

 

 

「ワフー」

 

「ははは、良い子だなー」

 

 

顔をペロペロ舐めてくる。

ザラザラしてるけど、気にならないな。

 

 

「よし、帰ろうか」

 

「シュァ」

 

「ワフ?」

 

「お前も帰るんだぞ、と?

  もしかしてお前も来る?」

 

「ワフッ!」

 

「よし、んじゃもう一回頼む!里に帰るぞ!」

 

 

オレは再びセンに跨がり、人里へと帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あ、ヤベ」

 

「ほぉぉう?昼飯を持ってきて、

 いないと思ったら、何処に行ってたんだ?」

 

「シュァ」

 

「ワフ」

 

 

里の前まで来ると、慧音さんが現れる。

しまった、帰ってきた時の言い訳………

 

 

「しかも、お前が帰って来た方角………

  そして乗っている狼…………妖怪の山だな」

 

「あ、ははは!いやだなぁ慧音さん!

  ほら、酒虫も貰ってさ!

  しかも河童と仲良くなって…………」

 

 

慧音さんがゆっくりと近づいてくる。

センはゆっくりとオレを下ろした。

 

 

「天・誅!!!」

 

「ごぁぁっ!!?」

 

 

凄まじい勢いの頭突きを食らい、

オレは意識を失ったのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

居酒屋 友



かなり短め。



 

 

 

「よし!完成っ!」

 

 

オレは巨大な筆を片手に、

看板を家の屋根に固定する。

 

周囲から「おぉ」と声が上がる。

 

 

「うん、中々良いじゃないか」

 

「ワフッ!」

 

「シャァァ!」

 

 

妖怪の山に行ってから、早1ヶ月。

オレは遂に、居酒屋を完成させた。

 

にとり経由で河童たちにも手伝ってもらい、

リフォーム、増築まで行い、

居酒屋として完成させることが出来た。

 

売り物の酒、ツマミもにとりに送ってもらい、

酒虫に酒を作ってもらった。

 

ちなみに、

センについてだが、ウチに住むことになった。

河童たちに頼んで大きめの狼小屋を作った。

 

 

「良い名前だな。幻想郷でしか成せないことだ」

 

「あぁ、これがオレの目標。

  そして、幻想郷の目標なんだろ?」

 

 

居酒屋の名前は、「(とも)」。

 

人間と妖怪、共に友人になれるような酒屋。

そんな意味を込めた。

 

巨大な筆を使い、看板に目立つよう書いた。

 

 

「よし!開店サービス!

 酒を大量に用意したから飲んで行ってくれ!

 でもちゃんと金は払ってくれよ!」

 

「「「「イェーイ!!」」」」

 

 

オレは店へ入って料理を始める。

酒、料理を運ぶのはセンに任せた。

 

河童たち、建築を手伝ってくれた人たちが

店になだれ込んで来る。

 

 

拝啓、家族の皆様。

幻想郷でオレは、居酒屋を開きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっへぇ、疲れた…………」

 

「ワフ………」

 

「シャァァ」

 

 

オレは客のいなくなった店で倒れる。

本当に酒を結構持っていかれた。

 

河童、飲み過ぎだろ…………

 

カランカラン、と、扉を開ける音が聞こえる。

 

 

「店は閉店しました………」

 

「ははは、客じゃないぞ。

  大盛況だったな、ソラ」

 

「慧音さん!?」

 

 

いや客だろ。オレは急いで立ち上がる。

 

 

「何、一つ祝いに来ただけだ。

  まさか幻想郷にこの速さで慣れるとはな」

 

「適応力は凄い高いと自分でも思いますよ」

 

「良いことだ。店はいつでも空いてるのか?」

 

「いやぁ、流石にいつもは」

 

 

無理だなぁ。幻想郷も見て回りたいし。

昼は無し。夜にだけ開けよう。

 

 

「そうか、明日は?」

 

「今日来た方が良かったのでは?」

 

「いや、友人が来たいと言っててな。

  どうせなら静かに飲みたいだろう?」

 

「静かに酒を飲むのも良いですからね」

 

 

慧音さんの友人か。

顔が広そうだからなぁ慧音さん。

 

オレは酒を用意する。

 

 

「慧音さんは辛いのが好きですか?」

 

「いいと言ってるだろう?」

 

「飲んで行って下さい。

  慧音さんには感謝してますし、タダで」

 

「言ったな?じゃあ辛いので頼む」

 

 

慧音さんに酒を渡す。

ツマミに、川で河童たちに貰った魚の塩焼きも。

 

 

「………うん、良い酒だ。

  ツマミも中々いけるな」

 

「なら良かった」

 

 

そのまま慧音さんと少し話すと、

慧音さんは扉へ向かう。

 

 

「そろそろ寝るよ。

  酒、美味しかったぞ」

 

「はい、おやすみなさい」

 

「あぁ………1つ、言い忘れていた」

 

 

慧音さんはニヤリと笑う。

 

 

「幻想郷で居酒屋を開いたなら、

  おそらく客がどんどん増えるぞ?

  覚悟しておけよ?」

 

「………ははは、それは楽しみです」

 

 

オレはまだ知らなかった。

 

幻想郷では、不定期、かつ、高い頻度で

凄まじい規模の宴が開かれることを。

 

そして。

 

この酒屋が、いずれ幻想郷中に知れ渡る

有名な居酒屋になることを。

 

過労死するレベルで、キツくなることを。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

半霊剣士と大食亡霊

 

 

 

カランカラン、と店に来客が来たことを

伝える音が鳴る。

 

時刻は6時頃。

まだ夕食には早く、客はいない。

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 

料理をしていたオレは声を上げ、

確認へ行く。

 

そこには、2本の刀を持った白髪の少女、

そして、浮いている桃色の髪の女性が。

 

何故か少女の方は不安そうな顔をしている。

 

 

「あら、もしかして貴方が店主さん~?」

 

「はい、空と申します」

 

「ご丁寧にどうも。ここは居酒屋?」

 

「えぇ、お酒を中心に扱っています」

 

「ご飯は食べれる?」

 

 

その一言は特に重要、と言ったように、

女性はオレに詰め寄る。

 

微かに、桜の甘い香りがした。

 

 

「…………まぁ、はい。居酒屋ですので。

  でもあまり大したものは出せませんよ?」

 

「大丈夫よ~、小腹が空いただけだから」

 

「幽々子様、そろそろ座りましょう」

 

「えぇそうね、ごめんなさいね、

 立ち話させてしまって」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 

オレはカウンターに座る2人をおいて、

料理に再び取りかかる。

 

なーんか、嫌な予感が………

両方から。

 

 

「なっ、妖怪!?成敗します!」

 

「ワフッ!?」「シュァ!?」

 

「困りますお客様ー!?」

 

 

早速だ。

刀、刀はダメだよ、お客さん。

 

 

「え?え?」

 

「ウチのペットですので斬らないでー!?」

 

「あら、そうだったの?

  てっきりお食事かと………」

 

「アンタ食うつもりだったの!?」

 

 

なんかもう、言葉使いとかどうでもいいや。

2匹は無事なようだ。

 

 

「ウチの配膳係です!

  噛まないから斬らないで!」

 

「え、よ、妖怪ですよ?」

 

「アンタたち幽霊でしょ!?」

 

「惜しい♪幽霊じゃなくて亡霊よ~♪」

 

「何が違うの!?」

 

 

分からんよ!?マジで!

 

 

「私は半霊ですが………え、害はない?」

 

「はい………まぁ驚きますよね」

 

 

よし、「中の妖怪に危害を加えないで下さい」

とでも書いた張り紙をするべきだろうなー。

 

 

「そうそう、注文良いかしら?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

「このお酒と、これと、これと、これと、これ」

 

「…………食べきれます?」

 

「ええ♪」

 

「少し時間がかかるんで、

  20分ほど待ってくださいね」

 

「楽しみにしてるわ~」

 

 

アホか。

頼まれたのは酒以外、全て食べ物。

ここ、レストランじゃないんだけどなぁ………

 

全ての注文品を同時に調理する。

出来たものからセンに頼んで持っていってもらう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー、ご馳走様♪」

 

「幽々子様………あの、夕飯は………」

 

「食べなくていいわ~♪

  お腹一杯になっちゃった♪」

 

 

ウチの食糧、3日分が消えたんだ。

 

あ…ありのまま今 起こった事を話(割愛)

 

凄いスピードで8~9人分の料理が無くなった。

 

 

「うん、貴方の料理とても美味かったわ~♪

  お酒も美味しいし、白玉楼に欲しいわね」

 

「え、私は?」

 

「妖夢、貴女のより美味しかったわ」

 

「うわぁぁぁん!」

 

 

どっちも酔ってるため、かなりカオス。

どうしようかな、この2人。

 

途中から来てた

周りのお客さんも引いてるんだけど。

 

 

「ふわぁ…………Zzz's」

 

「うぇぇぇん」

 

「寝ないでー、泣かないでー」

 

 

結局、閉店時間まで寝た2人。

 

1人で来た慧音さんから寝具一式を借り、

店の床で寝かしたのであった。

 

 

「お金………払ってくれるのかな、この2人」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

狸と花と酒



ぜかまし。




 

 

「おや、ソラじゃないか。おはよう。

  こんな朝早くからどうしたんじゃ?」

 

「おはようございます、マミゾウさん」

 

 

オレは早朝の町で、とある妖怪と出会う。

モフモフ……げふんげふん、大きな尻尾が特徴的な

茶髪の女性だ。

 

勿論、人間ではなく妖怪。

この町の寺、命蓮寺に住んでいる狸。

二ッ岩マミゾウさん。

 

この町に来た時から、

命蓮寺にはお世話になっている。

 

 

「少し買い物に来たんです。

 実は昨日、お客さんに食べ物が食いつくされて」

 

「んん?どんな客じゃ?

  結構な食料を買い込んでおったろ?」

 

「幽霊………あ、亡霊って言ってたっけ。

  桃色の女性と、刀を持ってる白い女の子です」

 

「あぁ………それは災難じゃったの………」

 

 

どうやら知っているようだ。

あまりよろしくないが、気になるので聞いてみる。

ちなみに、あの2人だが未だ家で寝ている。

 

泥酔しているし、センとミズが見張っている。

問題はない、だろうと思う。

 

 

「あの2人は冥界の管理者とその従者じゃよ。

  食い尽くしたのは桃色の方じゃろう?」

 

「はい。もの凄い勢いで」

 

「大食いで有名なんじゃよ。

  少し前、宴をしたときは驚いた。

  10人前は消えたぞ、奴の胃袋に」

 

「なにそれこわい」

 

 

じゅ、10人前…………

亡霊ってエネルギー変換効率悪いのか?

 

 

「だから店が開く前から出てきたのか」

 

「はい。にとりに持っていく胡瓜(きゅうり)もありませんし」

 

「感心じゃの………その年で。お主、人間じゃろ?

 妖怪でも好き勝手生きとるのになぁ」

 

「あはは………それが存在意義、

  みたいなものと聞きましたよ」

 

 

妖怪、というのは化物を表す単語ではない。

 

妖怪とは一つの概念のようなものであり、

それゆえに、肉体は丈夫であるが精神に

異常をきたすと消滅することもあるという。

 

(一部を除いた)妖怪に″死″の概念は無い。

だが、存在を忘れ去られる等、

無かったことになると本当に消えてしまう。

 

だから、妖怪は自由に生きる。

自身を変えることは出来ないから。

妖怪を変えるのは、何時だって人間なのだから。

 

────人間とは、別の意味で儚い。

 

 

「まぁそれもそうじゃな。

  自由が一番、酒が旨くなるものじゃ」

 

「また今度来てください。

  特別にサービスしますよ」

 

「それは楽しみじゃ………お、珍しい客じゃな?」

 

「え?」

 

 

マミゾウさんは唐突に眉を寄せ、

そしてニヤリと笑う。

 

オレも何となく、感じとる。

──────かなり大きい妖気だ。

 

それは、ゆっくりと此方へ近づいて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「珍しいの、お前さんが人里へ

  来るのも一年振りくらいじゃな」

 

 

 

「そりゃあそうよ、やっと異変も落ち着いたし。

 ─────外の世界から

   幻想入りした人間もいるって聞いたし、ね」

 

 

 

 

背筋に悪寒が走る。

狂気を帯びたフランと似た、

鼠を追い詰めた猫のような笑いを浮かべる女。

 

すぐに後ろへ下がる。

どんな弾幕、攻撃が来ても逃げられるように。

 

それが、意味を成さないと分かっていても。

 

 

「幽香、殺すのか?

  ………あまり感心せんな」

 

「運が悪かったのね。人間に会わないよう、

  早朝から出てきた私に鉢合わせるなんて」

 

「…………こんな早朝から美人2人に

  会えるのは、運が良いのか悪いのか、ですね」

 

 

冗談(本心だが)を言って自身を鼓舞する。

冗談を垂れ流して笑っていないと立ってられない。

 

最悪、能力も使えるように腕に力を込める。

 

 

「あら、お世辞が上手ね」

 

「………別段、お世辞って訳でもないですけど」

 

「ははは、嬉しいの」

 

「フフ、美人なんて

 言われたのはいつ振りかしら?」

 

 

威圧感は収まらない。

選択、行動、言動を間違えれば即死だ。

慎重に。

 

女は口に手を当て、

見定める様子でこちらを窺い、一歩近づく。

 

ふわり、と。風に乗って花の香りがした。

つい、口に出てしまう。

 

 

「薔薇………?」

 

「へぇ」「っ!!」

 

 

一瞬。一瞬だった。

5メートルはあった距離を詰められ、

そして肩を掴まれる。

 

 

「分かるかしら?」

 

「………」

 

 

息を飲む。

……………選択は、間違えてはいけない。

 

正直に答えるべき、だろう。

 

 

「………………薔薇の、甘い、匂い。

  その他にも、花の匂いがします」

 

「言える?花の名前、よ」

 

「………ボロニア、ヒヤシンス。どちらも甘い香り。

 春の花としては、とても良いかと」

 

 

沈黙。

 

…………幻想入りする前のこと。

酒屋をやっていて、香りが強いのは悩みの種だ。

だから花を店の外で育てていたことがあった。

 

ワインなどにも薄く薔薇の匂いが染み、

外国人からの評判が良かったことを覚えている。

 

都合が良かった。良すぎた。

幸運にしては、大吉以上のレベルだ。

 

 

「凄いわ!」

「おう"っ!?」

 

 

肩を大きく揺さぶられる。

変な声が出るが、威圧感が消えて

体から力が抜けたせいでガンガン揺らされる。

 

 

「まさか花の名前を当てられるなんて!」

 

「うぉううぉううぉううぉう」

 

「幽香、揺らし過ぎじゃ。ソラが死んでしまうぞ」

 

「あら、ごめんなさいね?」

 

 

な、なんか急に態度変わった………

てかヤバい。世界が回ってる。

ぐるぐるぐるぐる………

 

 

「うぷ」

 

「ふふ、怖がらせて悪かったわね」

 

 

緑色の髪の女性は、ニコリと微笑む。

マジで怖かった………

 

 

「ふぅ、危うく手が出てしまうところじゃったぞ」

 

「マミゾウさん、助けて下さいよ………」

 

「いやぁ、儂も幽香と戦うのは……ちとキツイ」

 

「私もご免よ」

 

 

マミゾウさん、かなりお強い。

それでも手に余るのか………怖っ。

 

 

「私は風見 幽香。話は聞いているわ、酒屋さん」

 

「ソラ、です。お店には来ないで下さい。怖い」

 

「後で行かせてもらうわ」

 

「慈悲なし」

 

 

もういいや。本音で大丈夫っぽい。

 

 

「それにしても、

  花の名前が全部分かるだなんて!

  私、貴方を気に入ったわよ!」

 

「えぇ…………」

 

「儂も驚いたぞ?」

 

 

オレは経緯を説明する。

2人とも興味深そうに聞いてくれた。

 

 

「ますます貴方のお店に行きたいわ」

 

「勘弁してくださいよ………」

 

 

結局、食料を買い込んで、マミゾウさん、

幽香さんを連れてオレは帰宅したのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

博麗の巫女と白黒の魔法使い


(原作の)主人公たち登場!
今回はMGSネタ多め。


<予告>

(今作)主人公 死す
デュエルスタンバイ!

????「じゃなーい!」




 

 

「~♪」

 

「シュァ」

 

「ワフ!」

 

 

皿を洗いながら鼻歌を歌う。

もう二匹も覚えたのか合いの手を入れてくれる。

…………マジで頭いいなー、お前ら。

 

あの後、マミゾウさんと幽香さんを店に

(半強制で)案内し、起きていた2人の幽霊と

軽く朝食を嗜んだ後、帰って行った。

 

 

「よく食うよな………幽々子さん、だっけ」

 

「ワフゥ………」

 

 

特にセンは彼女の第一印象が

捕食者だったので怯えている。獣の本能だろうか。

ミズは平気なようだが。

 

それにしても………

 

 

「なんだ、外が騒がしいような?」

 

「ワフ、ワフッ!」

 

「シャァァ」

 

 

二匹に皿干しを任せ、オレは外へ向かう。

イベント発生かな?

 

扉から出る。

 

 

「何が出るかな、っと?」

 

「ちょ、危ないわよ!!」

 

「え?」

 

 

横から聞こえた声にそちらを向いてしまう。

その瞬間、何かがこちらへ飛来。

 

 

─────あ、やべ。

 

そう感じた瞬間、みぞおちに強い衝撃。

 

 

「我が生涯に、一片の悔い無し………」

 

 

世紀末世界じゃないけどな。

拳を空へ突き上げる。

 

 

「酒屋が死んだ!」

 

「この人でなし!…………ぐはっ」

 

 

白黒の誰かが言った言葉に使命感を感じたので

コントを続け、オレは死んだ。

 

 

「FOX……!」  DIE……………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃなーい!!」

 

 

 

 

「うおっ!?」

 

「生き返った!?」

 

「まだだ!まだ終わってない!!」

 

 

はいそこ、ネタ古いとか言わない。

発売は12年前とか言うな。名作だぞ?

 

ともかく、オレは飛び起きる。

うん、死んでないよ?

 

 

「ど、どうしたんだ急に変なこと言い出して……」

 

「………使命感かな?」

 

「どんな使命感よ」

 

 

センとミズも来ていた。

 

オレに聞くのは大きい帽子を被った金髪少女。

ツッコむのは赤白の巫女服の黒髪少女だ。

何故か脇が出てるが。痴女かな?

 

それにしても良かった、黒髪いたわ。

なんか黒髪あんまりいないから寂しかった。

 

 

「巫女服、なんで脇出てんの?

  もしかしなくても痴女なの?」

 

「え、そうなのか霊夢………」

 

「もしかしなくても違うわよ!?

 なんで魔理沙まで引いてるのよ!今更じゃない」

 

 

Oh………、

巫女だしボケ担当かと思ったら意外とまとも。

中々のツッコミ………いいセンスだ。

 

ボケもいけそうな気もする。

が、話がややこしくなる、やめておこう。

 

それにしても、みぞおちがヤヴぁい。

 

 

「いってぇ………」

 

「あー、悪かったわね。こいつのせい。

  こいつの吹っ飛んだ箒があんたの腹にね」

 

「はぁ!?ふざけんな霊夢!

  私をぶっ飛ばしたのはお前だろ!?」

 

「慰謝料なら魔理沙から請求なさい、

  じゃ、私帰るか「待たんかい」は、はい?」

 

 

オレは逃げようとした巫女の首を掴む。

どこへ行くんだぁ?

 

 

「お前、オレが出てきた時に、危ない、

  ってそこの白黒より先に言ったよな?」

 

「…は……はい」

 

「お前、先にオレが危ないって

  気づいてたんじゃねぇのか」

 

「あー………えーと」

 

「…………」

 

「ごめんね♡」

「セン、ミズ、噛みつけ」

 

「ワフッ!」「シュァァ!」

 

「いたぁぁぁ!?」

 

 

2匹に命令して腕を噛ませる。

制裁。

 

 

「………私も噛まれるのか?」

 

「汝、罪を認めるか?」

 

「あ、はい。認めます」

 

「ならいいや。酒でも飲んでくか?

  これも何かの縁だし、安くしとくよ」

 

「やったぜ」

 

「なんで私だけ噛まれてるのよぉぉぉぉ!?」

 

 




TPPのカズの「じゃなーい!」で
飲んでたお茶を噴いた思い出。

MGS4でも笑ってしまった。


ごめんなさい、こんな登場の仕方で。
でも仕方ないんだ、私の作風だし。

霊夢は「黒い龍」「封戦異変」で活躍してるので、  
霊夢たちの活躍が見たい方はそちらへどうぞ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

宵闇との再開



ルーミアさんは喋り方が微妙なんですよねー。
もっと子供っぽくしていいのか、
原作では普通に喋ってますし…………うーん。




 

 

 

「ここに来るのも久々だなぁ」

 

「ワフ?」

 

 

オレは今、あの幻想入りしたときに

落とされた森を歩いている。

 

目的は、綺麗な水の確保。

本来なら里の近くを流れる川の水を使うのだが、

なんだか最近は汚れてきているらしく、

里の人たちは井戸を使うようになった。

 

霊夢に妖怪避けの札をもらい、

オレとミズ、センは霧の湖を目指して歩いている。

 

でもなんか二匹とも札を見ても

ケロッとしていたんだけど。効果が心配です。

 

 

「酷い目にあったもんだよなぁ………」

 

 

もう2ヶ月も前だ。

鎌鼬に腕を切られ、紅魔館で咲夜たちに襲われ、

フランとの弾幕ごっこで腕を千切られ、

レミリアの槍で死にそうになった。

 

あれ、オレ腕千切られ過ぎじゃね?

 

 

「よく生きてたよね」

 

「確かになぁ…………ん?」

 

「どうしたの?」

 

「いやお前誰って………ルーミア!?」

 

 

クスクスと笑い、驚くオレの前に立つルーミア。

いつの間にいたんだろう。

 

というか、とうとう御札の意味が…………

 

 

「グルルル………!」「シュァァ!」

 

「あー落ち着け二人とも、確かに妖怪だけど」

 

 

牙を剥き出す二匹の頭を押さえて落ち着かせる。

まぁ守ってくれるのは嬉しいけど。

 

 

「久しぶり、ルーミア。前は助かったよ」

 

「うん、久しぶり。また死にに来たの?」

 

「違うけど!?」

 

「あなたも二匹も美味しくなさそうだし」

 

「食わなくていいからね!?」

 

 

つーか、ミズはともかく、

センまで美味くなさそうなのか。

いや、オレは食べる気ないけどね?

 

 

「で、どうしたの?」

 

「霧の湖に行くんだ。ルーミアは散歩?」

 

「んーん。私も湖に行くとこ」

 

「じゃ、一緒に行こうか」

 

「そうね」

 

 

そう言えば、一つ気になる。

ルーミアは何の妖怪なんだろう?

 

慧音さんはハクタクだし、

レミリアたちは吸血鬼だったりと、

色々、種族があったりするらしいけど。

 

 

「ルーミアってさ、何の妖怪なんだ?」

 

「…………ふふっ、何の妖怪だと思う?」

 

「焦らすなよ、教えてくれないのか?」

 

 

オレはルーミアに笑いかける。

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───後悔するよ?」

 

 

その顔に、その言葉に、背筋が凍てついた。

薄く微笑むルーミアに、体が動かなくなる。

 

あぁ………『違う』と、脳が理解する。

決して、同じ種族ではないことを、思わせる笑み。

 

それはすぐに人懐っこい笑顔に変わって。

 

 

「なんてね、冗談だよ」

 

「───、──そ、そっか」

 

「妖怪に馴れ馴れしいからさ、

  ちょっと悪戯。怖かった?」

 

 

こちらを覗き込んでくるルーミア。

オレは額の冷や汗を拭く。

 

 

「むっちゃ怖かった」

 

「あはは、ごめんね」

 

「馴れ馴れしいって、

  ………………迷惑だったか?」

 

 

一つの懸念が浮かぶ。

彼女はオレを鬱陶しいと思っているのだろうか……

 

 

「そんなことないよ?

  寧ろ私なんかと一緒にいるのが楽しい?」

 

「オレは楽しいかな。

  さっきは怖かったけど」

 

「なら良いんだけど。

  私、人食い妖怪だしね」

 

「そうかねぇ…………あ、そうだ」

 

 

忘れるところだった。

大切なことなのに、忘れるとは危ない危ない。

 

 

「どうしたの?」

 

「オレさ、今は人里で酒屋やってるんだ」

 

「うん」

 

「今度、助けてもらった

 お礼がしたいから来てくれないか?」

 

「バカなの?」

「なんで罵倒されてんのオレ?」

 

 

何故に?

 

 

「人食い妖怪だって」

 

「夜に来れば?10時までやってるし。

  ただし、人里にいる間、人は食べたらダメだ」

 

「むー………でもなぁ」

 

「慧音さんに言っとくから、また今度来なよ」

 

「……………うん、わかった」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

で、味は?

 

 

オレとルーミア、ミズとセンの4人?は

しばらく歩くと湖にたどり着く。

森を抜けた。

 

 

「珍しい、霧がかかってないね」

 

「ん?やっぱ霧がかかるのが普通なのか?」

 

 

あったのは、森に囲まれた湖。

霧はかかっていないが………

 

 

「おい!あたいのナワバリに

  勝手に入るとはいい度胸じゃない!」

 

「ん?」

 

「あれ?片方は確かに人間だけど

 チルノちゃん、あれルーミアちゃんだよ?」

 

「あれ、ほんとだ」

 

 

空から声が聞こえ、見上げた先には

羽のようなものが生えた子供たち。

どちらも女の子のようだ。

 

この世界、女性の比率が高過ぎじゃね?

まぁオレはホモじゃないし、目の保養になる。

 

いやぁ、腕を千切られるとかグロいからね?

やっぱり可愛い女の子たちは目の保養に………

 

 

「ねぇソラ、

 何考えてるのか知らないけど顔がキモいよ?」

 

「急に辛辣!?」

 

 

ちなみにドMでもない。Sとも言ってない。

だから「キモい」とかストレートな罵倒やめよう?

 

そんな変態な目で見てたのかな、オレ。

気を付けよう。

 

 

「うわっ!?チルノちゃん!狼がいるよ!?」

 

「うぇ!?怖い!」

 

「ワフ!?」

 

「シュァァ」

 

 

怖がられるセン。なんか子供好きらしく、

近所の子供たちと遊んでいるのも見たことあるな。

 

まぁ狼だしなぁ………

あの子達も大型犬だと思ってるんだろうなぁ。

哀れ、セン。

 

 

「あの青い髪の子がチルノ。

  で、緑の髪の子が大妖精、通称大ちゃん」

 

「へー、オレはソラ。よろしく」

 

 

オレは降りてきた2人の妖精に挨拶する。

 

 

「あ!よろしくお願いします!

  ほら、チルノちゃんも挨拶しないと!」

 

「あたいはチルノ!ひれ伏せー!」

 

「ちょっ!?」

 

「ははー」

 

「うわわっ!良いんですよ!」

 

 

オレはノリでひれ伏す。

子供にはこんな感じで乗ってあげると喜ぶ。

あんまり調子に乗らせるのは良くないけど。

 

てゆーか、大ちゃん。ええ子だなぁ。

礼儀もちゃんとして、凄いな。

 

 

「よし!あんたも今日からあたいの配下だ!」

 

「了解しましたチルノ様ー。

  オレは今から湖を探索して参りますー」

 

「よーし、行ってこーい!」

 

「よし、ルーミア逃げよう」

 

「最後に本音漏れてるね」

 

 

とりあえず2人から離れる。

オレは保育士ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレたちは湖に近づく。

運ぶの大変だな………バケツごと川に流すか?

 

オレは水を汲むために水面に顔を近づけ……

 

 

「え?」

 

「え」

 

 

こちらを見上げる少女の顔と目が合った。

水の中から、こちらを、見上げる。

 

 

「「えっ」」

 

 

声が重なる。いや、えっ?

なんで水の中に………足が、ない。

 

魚の尾びれが…………

 

 

「に、人魚?」

 

「わかさぎ姫なのかー」

 

「る、ルーミアちゃん………

  なんで人間と一緒なの?おかしくなったの?」

 

「だってソラ、不味そうだし」

 

「………言われてみれば確かに不味そう」

 

「オレ悪くないのに酷くねぇ!?」

 

 

オレが何をしたというんだ………

湖の水面から顔を出したのは、

深い青髪の和服を着た人魚だ。

 

なんでもアリだな幻想郷。

 

 

「私はわかさぎ姫って言うの。

  確か、ソラ、でいいのよね?」

 

「んぇ?はじめましてじゃないか?」

 

「にとりちゃんに聞いたの。

  気の良い不味そうな人間と貿易してるって」

 

「アイツへの取り立て増やすか」

 

 

アイツ………きゅうりが

貰えるからって調子乗ってやがるな?

 

 

「ソラは妖怪の間でも結構有名なんだよ?」

 

「あれ、そうなのか」

 

「そーなのだー」

 

「幻想入りした珍しく

  不味そうな人間って有名なの」

 

「オレ妖怪に嫌われてんの?」

 

 

慧音さんとかにオレ嫌われてんのか………?

帰って飲むか………オレも。

 

というか、にとりで思い付いたんだが………

 

 

「人魚って食べたら不老不死に

  なるらしいけど、美味しいのか?」

 

「ねぇソラ、マジで?」

 

「食べないでー!?」

 

 

食べさせて貰えなかった。

 






旨すぎるッ!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

汚れた源流

 

「え?うん、そうなの………」

 

 

オレはわかさぎ姫に話を聞く。

その話というのは…………

 

 

「なるほど、川と湖の汚れは源流にあり、か」

 

 

川の汚染だ。

 

前にも言った通り、

最近、人里の川の汚れが酷い。

この川は、妖怪の山の源流から

この霧の湖を経由して流れるものなのだが………

 

 

「川も汚くなっちゃってさ。

  私たちも大迷惑なんだよなぁ」

 

「にとりたちは河童だし、

  確かに、川に住む妖怪たちも迷惑よね」

 

 

やって来たのは、にとりだ。

たまたま近くに来ていたらしい。

 

 

「私たちもその川の汚れを取り除こうとして

 水を濾過する装置を作ったんだけど、失敗だよ」

 

「そーなのかー」

 

「すげぇな河童の技術力………」

 

 

無理だったことはともかく、

なんちゅう技術力だよ。

 

河童の技術力は幻想一ィィィィ!!ってか。

 

 

「あの河童の濾過装置が失敗するなんて……」

 

「それで私含めて河童たちは意気消沈。

  やる気をなくしてグダグダさ」

 

「それは酷いな………」

 

「私もちょっと調べたんだけど、

  あの源流の辺り、凄い妖気がしたの」

 

 

そう言うのはわかさぎ姫だ。

川を登っていったらしい。

 

 

「凄い妖気?」

 

「うん。怖くて逃げてきちゃった。

 何か………とても大きかったような気がするけど」

 

「元々、あなた虫一匹殺せないような妖怪だものね」

 

 

そりゃ怖い。

無論、巨大となればオレだって怖いし。

 

え、フランとレミリアとの戦い?

あんなの戦いじゃないし、

アドレナリン全開だったからなぁ………

 

 

「じゃ、霊夢に頼んでみるか」

 

「うん、博麗の巫女ならどうにかなるね。

  最初からそうすればよかったよ」

 

「でも霊夢、がめついからなぁ………」

 

「なら大丈夫だ、霊夢、オレの店にツケあるし。

 チャラにしてやればいいだろ」

 

 

実際、魔理沙も遊びに来る。

「霊夢名義でツケで頼むぜー!」

と言って無銭飲食していくのだ。

 

オレだって悪鬼ではないし、

彼女たちが楽しそうなのは何より。

だが無銭飲食、それはダメだ。

 

オレの生活が危ない。

 

 

 

 

 

 

 

「………グルルルッ………!!」

 

「シャァァッ………!!」

 

「え、どうした2人とも?」

 

 

 

 

 

 

突然、ミズとセンが唸りだす。

何故だか分からないが、特にミズ。

首をもたげて警戒し、そこを強く睨んでいる。

 

それは、森の深い方の場所………

源流の、方向を向いていて。

 

ルーミアとにとりが目を細めて警戒し、

わかさぎ姫は慌てて水の中へ逃げ出す。

 

オレは、森から這い出てきたそれを見て、

言葉を失った。

 

 

「………なん、だ……あれ………」

 

 

絞り出せた言葉が、これだった。

現れたのは、10メートルもかくやと

思われるほどの巨大なヒトガタ。

 

 

「ォォォォォオ……………」

 

「デカい………!」

 

「不味い………あんな妖怪見たことないよ……!」

 

 

ルーミアとにとりも警戒を強める。

オレも足がすくむが、何をしてくるか分からない。

 

そして、それはこちらを向く。

目が、合った。

 

 

「オォォォォォォ………!!」

 

「どわぁっ!?」

 

「きゃぁっ!?」

 

 

オレへ突然に巨大な腕を振り下ろす。

俺はルーミアを掴んでミズ、センと

共にその場を転がって離れる。

 

 

「大丈夫!?」

 

「あぁ、だけど、なんだってんだよ!」

 

「あ、ありがとう」

 

「お互い様だよ………だけど」

 

 

あの泥の上半身。

あんなに巨大だとは知らないが、

そんな妖怪といえば…………

 

 

「泥田坊………!」

 

「シュァァァア!!!」

 

「!?」

 

 

センの頭に乗るミズが大きく吼える。

なんだ、奴を知ってるのか!?

 

 

「2人とも気をつけて!来るよ!」

 

 

オレとルーミアは再び身構える。

泥田坊、だと思われる泥の妖怪は、

大きく腕を振り上げた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

泥の巨人と水色の少女



なーんかバトル小説みたいになっちゃいました。
作者がそう言うの好きだからですけど……




 

 

「セン!」

 

「ワフッ!」

 

 

オレはセンに飛び乗る。

ミズを腕に巻き付かせて固定し、

泥田坊と思われる妖怪を錯乱する。

 

 

「はっ!!」

 

 

ルーミアが弾幕を撃って泥の巨人を牽制、

腕に叩き潰されそうになっているにとりを

オレは捕まえる。

 

 

「た、助かった………」

 

「にとり、アイツを

 どうにかする手立てはないのか!?」

 

「あるよ」

 

「あるんかい!?」

 

 

にとりはどこから取り出したのか………

て、オイ、ちょっと待ちやがれ。

 

 

「重火器じゃねぇか!!」

 

「これぞ河童の最終禁断兵器だ!」

 

 

にとりの肩に担いでいるのは、

銃を巨大化したような火器。

先端にはロケット弾が既に装填されている。

 

そう、所謂″ロケットランチャー″である。

 

 

「幻想郷にそれは不味くねぇ!?

  ガチの現代兵器じゃねぇかそれ!!」

 

「アリなんだよ、こういう時に、ね!!」

 

 

にとりはニヤリと笑ってロケランを肩に構え、

そして、凄まじい勢いで弾が発射される。

 

 

「ルーミア、離れろ!!」

 

「分かった!」

 

 

咄嗟にルーミアに避難を促す。

ルーミアが離れたその瞬間、

泥巨人の頸部に弾が命中。

 

ドゴォォォォン!!!!

 

大爆発を起こす。

 

 

「やったぜ」

 

「これでいいのか幻想郷!?」

 

 

にとりが爽やかに笑い、

オレはその威力に驚愕する。

 

 

「ワフッ!?………!!」

 

「うわっ!?」「うおっ!?」

 

 

急にセンが背中を跳ねさせ、

俺たちを飛ばす。

 

 

「セン!?」

 

「ォォォォォオ………!!」

 

「ギャウ………ッ!!」

 

 

横に薙ぎ払われた腕によって

センが吹き飛ばされる。

 

 

「…………っ!!」

 

「あっ!ちょっと!」

 

 

オレはにとりからロケランを奪って

センの前に立ちはだかる。

 

弾を再度装填する。

 

 

「この野郎が………!」

 

「やめろソラ!お前が狙われたら終わりだぞ!?」

 

「だけどコイツは………!!」

 

「オォォォォォォ………!!!」

 

「しまっ………!?」

 

 

巨大な泥の腕が、オレを押し潰す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、だった。

 

 

「え」

 

 

蛇、だった。

青い、それでいて深い、水の色をした蛇。

 

それが視界の隅に目が入る。

ミズ………!?

 

 

「何を…………っ!?」

 

 

ミズは、()()姿()()()()()()()

青く、腰まである長い髪。

水色の着物を着た少女が、そこにいた。

 

 

「妖怪?………いや、それにしては………」

 

「………」

 

 

違う。感じる力は妖怪のものではない。

何か…………外の世界では、希に感じたものだ。

 

そして、妖怪の力よりも遥かに大きい。

もはや、力の規模が違う。

 

後ろ姿のせいで顔は見えないが………

 

 

「私の川を汚し、その挙げ句には

 私の友人と恩ある家主を傷つけ………

 最早、手加減は必要ありませんか」

 

 

ゾッとするような凄みのある声。

だが………友人と恩ある家主って………オレとセン?

 

あと私の川って…………えぇ、まさか………

 

 

「オォォォォォォオ…………!!」

 

「あ、危ないわよ!」

 

「無駄です」

 

 

彼女はルーミアの忠告を無視。

そのまま泥の巨人の振り下ろされる腕に

掌を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弾ける、音がした。

 

 

その光景に、オレは再度、

にとり、ルーミアすらも言葉を失う。

 

泥の巨人の腕が、肩から弾け飛んだのだ。

更に、飛び散る泥は次々と土だけを落とし、

水だけがオレたちに降りかかる。

 

泥の巨人は危険を感じ取ったのか、

体ごと少女を押し潰そうとする。

 

 

「ォォォォォオ……!!!」

 

「川を汚す愚か者に天罰を下しましょう」

 

 

少女は避ける必要もない、と言うように

腕を振り上げる。

 

途端、地面が揺れ始める。

 

 

「な、なんだ!?」

 

「うわわわわ………!?」

 

 

にとりとルーミア、

センを引き寄せ、揺れに耐える。

 

泥の巨人が倒れる、その瞬間。

 

地面が隆起、同時に地割れが起こり、

その地割れから凄まじい勢いで水が噴き出す。

 

 

「か、間欠泉!?」

 

「んな馬鹿な!?

 この辺の地下水脈は穏やかな筈なのに!?」

 

 

にとりが目を丸くする。

水の勢いにより、泥の巨人は持ち上げられ、

そして泥が落とされて………いや、

あれは落とされてるんじゃない。

 

 

「泥が………消えてる……!」

 

 

まるで溶けるように水に飲まれて消えて行く。

やはり、こんな馬鹿馬鹿しい程の力は………

 

 

「水神様、か………!」

 

「ご名答。その通りです、ソラ様」

 

 

オレの言葉に、

水色の少女はこちらを向いて笑った。

 

噴き上がる水の竜巻が、

泥の巨人を完全に消し去る。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その後の事情聴取


投稿遅くなりすいません。


 

 

 

「そ、ソラ様?」

 

 

オレはその謎の敬語に困惑する。

え、何?オレ神様より立場上なの?

 

 

「話は後です。今は」

 

 

噴き上がる水が収まる。

そこから、何かが倒れ出てくる。

 

 

「…………」

 

「とどめです」

「無慈悲すぎない!?」

 

 

倒れた小さい泥のヒトガタに掌を向ける

水神様を羽交い締めにして止めさせる。

 

 

「放してください!

  とどめを刺さないと気がすみません!」

 

「早まるなぁぁぁ!?」

 

「ぐ、うう?」

 

 

泥のヒトガタが目を覚ましたのか、

起き上がる。

そしてこちら、と言うより、

水神を目にして目を丸くする。

 

 

「ぎゃぁぁぁ!?

 すいませんすいませんすいません!!」

 

「駄目です!!命を以て償いなさい!!」

 

「待てってんだろぉがぁぁ!?」

 

 

オレは渾身で水神を羽交い締めにする力を強める。

止めろよ妖怪ども。

俺は振り向く。

 

 

「やだよ、私も水神様を相手にしたくないし」

 

「無理なのだー」

 

「こここ、怖いぃぃ………」

 

 

おいオレ人間。

わかさぎ姫怯えすぎ。

 

 

「ひぃぃ!?」

 

「死になさい!」

 

「ストレート過ぎだろ!?

  話くらい聞いてあげろよぉぉ!!」

 

 

落ち着かせるのに

あと10分くらい掛かったので割愛。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いた?」

 

「はい。殺気だけは無理ですが」

 

「殺気くらい抑えろや」

 

 

なんとか水神を落ち着かせることに成功した

オレは泥のヒトガタ…………

もとい、泥田坊の対面する。

 

 

「えーと、なんでこんなことしたの?

  具体的には川汚したりとか攻撃とか」

 

「その辺り、おれも少し記憶が曖昧でなぁ」

 

「は?」「ひっ!?」

「落ち着かんかい」

 

「まぁいいです」

 

「記憶の最後にあるのは?

  曖昧になる前に何してた?」

 

 

事情聴取みたいだけど許してもらおう。

オレたち被害者で警察だし。

 

 

「あー、そう、確か無縁塚に行ったな」

 

「無縁塚?」

 

「確か幻想郷の端にある場所ですね。

  ですが何故、そんな場所に行ったのです」

 

「いやホラ、おれ泥田坊だし。

  ジメジメした場所が好きでさ」

 

「妖怪の性ってやつかな」

 

 

基本、妖怪は自由だ。

マミゾウさんの時も言った気がするけど。

 

 

「そこで誰かに会ったんだよ」

 

「誰か?覚えてないのか?」

 

「あぁ、確か…………金髪のな、

  なんだか、おっかない感じがしたような」

 

「金髪のおっかない奴か…………」

 

 

ルーミアを見るが、

彼女はそんなことはしないだろう。

彼女も首を振っているし。

 

 

「あの宵闇の妖怪じゃない。

  なんて言えばいいか………胡散臭い感じだった」

 

「胡散臭い………幻想郷に何人かいるからねぇ」

 

 

にとりも悩んでいるようだ。

幻想郷広いらしいしなぁ。

 

 

「それで?どうなったんだ?」

 

「あぁ、そこから記憶が曖昧になって………

 『貴方、使えそうですわね』とか聞こえたと

 思ったらこの有り様だ」

 

「『貴方、使えそうですわね』、か………」

 

 

唸る。誰だっけか…………

会ったことあるのか?

目的も何も分からんが…………妖怪か?

 

 

「催眠、みたいなもんか?」

 

「そう、だな。

 催眠とはそうであって違うような………」

 

「?」

 

「なんと言うか………

 こうすることが普通、って思ったんだ。

 ほら、妖怪は人間に恐れられるもんだろ?」

 

「まぁ、そうでしょうね」

 

 

だけどそこまでするか?

水神様も唸ってるし。

 

 

「むー、許せませんね」

 

「え?」

 

「私の恩人と友人を襲うのは許せません。

  命を以て償ってもらわねばなりませんね」

 

「重いっつうの…………」

 

 

俺は、ため息をついた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

忍び寄る影

 

 

こうして、泥田坊は山へ帰って行った。

正確には不穏なオーラを放つ水神様から

逃げて行ったように見えたが。

 

 

「さて、ソラ様」

 

「あ、はい」

 

 

水神は改まってこちらを見る。

そして正座し──────オレに頭を下げた。

 

 

「「ぶふぅっ!!?」」

 

「!?」

 

 

それを見てオレは驚きから言葉を失い、

後ろの河童少女と人魚少女は噴き出す。

 

それでオレは尚も驚く。

そんなオレににとりが走り寄ってくる。

 

 

「そ、ソラ!平伏!!平伏しないと!!」

 

「え、あ?」

 

「いえ、その必要はありません」

 

「ひゅい!?」

 

 

水神は頭を上げる。

にとりに頭を押し付けられるので

オレも一応座って視点の高さを同じにする。

 

 

「えーと、1ついいか「敬語!!」……いいですか」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「あんた……あなたは、ミズ、でいいんですか?」

 

「えぇ、貴方様からの愛称ですね!

  私、それがとても気に入っているんです!」

 

「は、はぁ………」

 

 

妙に食いつくな………

水神はニッコリと嬉しそうに笑う。

つーか貴方様ってなんすか………

 

 

「では、改めて自己紹介させて頂きますね。

 私は(みずち)。水神として一帯を治めています」

 

 

蛟………マジですか。

マジもんの水神様かぁ……

てーかオレの付けた名前、的を射てるな。偶然。

 

 

「ソラ様、今後ともミズ、と。

  その無理をした敬語もいりませんよ」

 

「あ、わかった」

 

「凄いねソラ、水神様のお気に入りじゃん。

 あ、ソラ様って言った方がいいかな?」

 

「やめてくれよ、ソラでいい」

 

 

にとりがからかってくる。

堅苦しいのはどうも苦手なんだよなぁ。

 

なんつーか、見た目が同じくらいの奴なら

凄い違和感を感じる。

慧音さんとかは別だけど。

 

 

「それで、私から………

  ソラ様に………その………」

 

「ん?」

 

「お願い、が………あるのです」

 

 

なんだろうか、水神様からの頼みとは。

オレ、ついでににとりとわかさぎ姫は息を呑む。

 

 

「私を………まだソラ様の御家に

  置いて頂けないでしょうか!?」

 

「そんなこと!?」

 

「そ、そんなこととか言っちゃうの!?」

 

 

いや別に良くね?

オレ生贄にでもされるのかと思ったけど。

心配して損した気分だよ?

 

 

「よ、良いのですか?

  私、姿を隠していましたし………」

 

「いや、一食分食費増えるくらいだし問題ないよ。

 そこまで霊夢みたいにヤバい生活してないから」

 

 

 

 

 

 

アイツ結構ギリギリの生活らしい。

 

最近は異変もないらしく、霊夢と魔理沙によると

地獄の動物の霊たちを成敗したのが最後らしいので

報酬による金が入ってこない。

 

更に、(これはオレが悪いの?)

オレの店は妖怪たちの間でも結構有名らしく、

人妖問わず飯が食べれる、酒が飲める、それで

人間と妖怪の交流も増え、妖怪退治の依頼もない。

 

霊夢はこの前死にそうな顔してたから

タダで酒と飯を出してやった。

ついでに二日分の飯を持たせたら、

泣いて喜んでたのでドン引きした。

どんな生活してんだ。

 

関係ない話に脱線したな、悪い。

 

 

 

 

 

「まぁ別に構わないよ?」

 

「よかった………ありがとうございます」

 

「さて、それじゃ………セン、傷、大丈夫か?」

 

「ワフゥ」

 

 

忘れられてなくて良かった、

というような顔のセンを撫でる。

打撲だったようだが、

モフモ……毛皮で助かったようだ。

 

 

「よし、んじゃ帰るか」

 

「うん、お疲れ様。

  気を付けて帰りなよ」

 

「さよなら~」

 

「じゃあねー」

 

 

オレはセン、ミズと共に里へと歩き出す。

まぁ色々大変だったが、問題なかろう。

里の水も綺麗になった筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪趣味」

 

 

誰もいなくなった森の中。

山の源流でリボンを外した、

成長した姿のルーミアはそう呟く。

 

源流となる池は汚染が無くなり、

美しい水が涌き出ている。

 

 

「あら、人喰い妖怪に

  そう言われると傷つきますわね」

 

 

唐突に空間に裂け目が生まれ、

そこから女性が現れる。

 

女性の背後にある空間は、

不気味な多数の目玉がギョロついている。

 

 

「遠回しに、しかも他の妖怪まで

  巻き込むのが悪趣味と言ったのよ」

 

「ふふ、それはただ、

 〝運が悪かった〟と思ってもらいたいですわ」

 

 

彼女が今回の泥田坊を仕向けた原因であると、

ルーミアは事情聴取により見抜いた。

しかも、彼女が首を狙っている者は1人。

それに河童や人魚まで巻き込んだのだ。

 

彼女が何故そこまでするのか───

ルーミアは不可解だった。

 

 

「しかもあなた───人里まで細工したのね」

 

「あら、そこもお見通し?」

 

 

今回、何故ソラがここに赴いたのか。

タダでさえ危険な里の外へ出るなら、

慧音たちが来る筈だ。

 

しかも今回、ソラは慧音に怒られることを

配慮していなかった。

前に酒屋に行ったときは

こっぴどく叱られたと言っていたのに、だ。

 

それはつまり、彼女が里全体に細工を施したから。

 

 

「それにしても、私の方が不可解ですわ。

  どうして人喰い妖怪が人間の味方を?」

 

「…………そうね、簡単に言えば、

  不味そうに見える人間を初めて見たからよ」

 

「なら嫌悪感でも抱くのではなくて?」

 

「不味そうでも嫌悪感を抱くとは限らないわ。

 …………………先入観は自己を滅ぼすわよ?」

 

 

その言葉に、彼女は目を細める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が、私の理想が、彼に敗北すると?

 ────────────あり得ない、

 そんなことが、あっていい筈がないのよ」

 

 

彼女は再びスキマの中へ。

空間の裂け目が閉じ、姿が見えなくなる。

宵闇もまた、その姿を消していた。

 

 

 

 

 

本当に誰もいなくなった源流で、

水の音だけが響いている。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

紅魔館、再び

 

 

「Zzz's………」

 

「全く、幸せそうに寝るよなこの人…………」

 

 

正確には人ではないだろうが、

よだれ垂らして立って寝るという

最早、お家芸のような門番を見ながら呟く。

 

 

「私も眠くなってきました……」

 

「ワフー、ゥ………」

 

「あはは………催眠電波でも出してんのかねぇ……」

 

 

目を擦るミズと大きな欠伸をするセン。

まぁそれも仕方ないと思う。

 

既に日は落ち、月が空で輝いている。

家を出た時はもう8時、今は10時くらいか?

本来なら店が賑わう時間帯だが、

この2人(?)はまだ慣れないようなので寝る時間。

 

 

「んん………眠いです……」

 

「今日は泊めてもらうかな………2人ともお疲れ」

 

「ワフ……」

 

 

その時、例の如くザシュッと音がする。

美鈴の額にナイフが刺さっており、血が噴き出す。

 

 

「ぎゃぁぁ!?」

 

「きゃぁぁぁ!?」「ワフ!?」

 

「あ、2人とも初めてか」

 

 

急に寝ている人の額にナイフが刺さるという

ホラーをリアルで見たら怖い。

血が噴き出すのも死なないか不思議である。

 

 

「な、なんですか!?」

 

「おぉぉ……あぁぁ……!」

 

「よ、久しぶり咲夜」

 

 

まぁこれも予想通り咲夜が現れる。

美鈴にナイフを刺したのも彼女だろう。

 

悶絶する美鈴はスルー。

 

 

「えぇ、久しぶりね。そこの犬は?」

 

「オレのペット」

 

「ワフ!?」

 

「貴女は?」

 

「居候の水神様」

 

「えっ、あ、こんばんは?」

 

「こんばんは、紅魔館へようこそ」

 

 

なんかセンが抗議したそうな顔をしてるが

今は無視してオレは美鈴に近寄る。

流石のミズとセンも結構怖がってるし、

とても痛そうなので美鈴の額のナイフを抜く。

 

 

「あうっ、あ、ありがとうございます………」

 

「………よく寝れるよな、美鈴。

  いつもやってるけど学習能力ないの?」

 

「そうよ、寝てなければ刺さないのに」

 

「もう寝たら刺すの決定なんですか!?」

 

 

そんな話をしていると、館の扉が開き

レミリアとフランが出てくる。

 

 

「あ、ソラ!いらっしゃい!」

 

「こんばんは、ソラ」

 

「おっす、吸血鬼姉妹。元気?」

 

「元気ー!!」

 

 

フランがこちらへ飛んでくる。

うーん、受け止めてもいいんだけど。

多分死ぬよね、勢い的に。

 

というわけで。

 

 

「セン、ごめん」

 

「ギャゥ゛ンッ!?」

 

「わふーっ!」

 

「ちょ、セン!?ソラ様酷くないですか!?」

 

 

センを盾にしてモフモフガード。

なんか凄い声出てた。ごめん、オレ人間だもの。

食らったら背骨ごと逝っちゃうよ?

 

 

「わー!モフモフー!」

 

「キャウゥン………」

 

「ごめんなセン、

  今度ステーキ焼いてあげるから許せ」

 

「それで、今日はどうしたの?」

 

 

レミリアがこちらへ寄ってくる。

フランがモフモフに夢中なので、

話を進めておこう。

 

 

「ん、ちょっと欲しいモンがあってな」

 

「あら、吸血鬼相手に商売?」

 

「吸血鬼でも友達なら問題ないだろ?」

 

「ふふ、言ってくれるわね。

 どうぞ、上がっていって。咲夜、行くわよ」

 

「はい、美鈴、貴女も」

 

「はーい」

 

 

皆で紅魔館へ。

そう、夜にここへやって来たのは

レミリアに用があるからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレはレミリアと咲夜に案内され、

あのオレがレミリアをブッ飛ばした例の部屋へ。

レミリアの向かいの椅子に座る。

 

ミズとセンはフランと遊ぶために地下室へ。

うん、普通に遊ぶらしい。普通に。

…………大丈夫だよな?

 

 

「で、商談を聞こうかしら」

 

「あぁ、率直に言うと咲夜だ」

 

「「は?」」

 

 

うん。

レミリアが椅子から落ちそうになる。

 

 

「ど、どういうこと?」

 

「咲夜が欲しい」

 

「「ぶふぅーっ!!」」

 

 

2人は噴き出す。

 

 

「それは縁談じゃないの!?

 ソラ、わ、私たちそんな仲じゃないでしょ!?」

 

「さ、咲夜ぁ………」

 

「ち、違いますお嬢様!!違いますって!!」

 

「………うん、幸せになってね………」

 

「違いますって!!?」

 

 

うっわナニコレすっげぇ面白い。

なんか幽香さんの気持ち分かった気分。

 

これが………愉悦か……!

もっと楽しみたいけど止めとこう。

幻想郷愉悦部入るつもりないし。

 

 

「冗談だよ、オレは商談をしに来たんだ。

  咲夜の言う通り、縁談じゃねぇよ」

 

「よ、良かった………」

 

「冗談が過ぎるわよ………?」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!?」

 

 

ちょ、ナイフ刺しはダメでしょ!?

オレ人間だっつうの!!

熱っ!!?脇腹が血で熱いッ!!?

 

 





咲夜「因果応報、愉悦カリバー」

ソラ「作品違ぇよ!!?
   マジで刺しやがったこの人!!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

紅魔の酒



えー、咲夜さんパッド説は、あくまでも説です。
咲夜さんはパッドだとは限らないので、
気分を害される方はこの話の観覧をお控え下さい。




 

 

「便利な能力ね」

 

「大分制御出来るようになったんだよ」

 

 

俺は刺された場所を能力で治療………

というか、無かったことにする。

 

傷は瞬きの間に塞がり、痛みも消える。

吐血することはないが気分は最悪である。

吐きそう。

 

 

「顔色悪いわね」

 

「全く、ただの人間に酷いことするよな」

 

「因果応ほ「すいませんでした」

  …………まぁ、分かればいいのよ」

 

 

まぁ、ともかく。

オレは要件を伝える。

 

 

「咲夜の能力を借りたいんだ。

  力を貸してくれると助かるんだが」

 

「何をするつもりなの?」

 

「そう構えるほどのもんじゃないよ。

  発酵酒、って知ってるか?」

 

「発酵酒………あぁ、ワインみたいなものかしら」

 

「おう、そういうこった」

 

 

ワインもだが、酒は蔵に置いておき、

発酵させると美味くなるのは周知の事実。

酒虫がいるので酒は出来るが、

やはり発酵した方が旨いのではないか、と思う。

 

そこで、時間を操れる咲夜の力を借りたい。

時間を進めて発酵させる。

あと出来ればワインも欲しい。

 

オレはレミリアが持っているワインを指差す。

 

 

「って訳で、レミリアが飲んでるのもワインだろ?

 どこから仕入れてるのか教えてくれないか?」

 

「私のは咲夜が作ってくれたものよ。

  ねぇ咲夜、ワイン出してあげて」

 

「承知しました」

 

 

咲夜が手にワインの入ったグラスを持ってくる。

オレはそれを受け取って匂いを確認。

 

葡萄から作ってんのか、まさか。

 

 

「そのまさか、よ。

  紅魔館のワインは葡萄から作ってるわ」

 

「むぅ、そうか………じゃ、葡萄はどこから?」

 

「あの花の妖怪から貰ってるの。

  ちょっと昔に、縁があってね」

 

「…………花の妖怪?」

 

 

最悪の人じゃないですかやだー。

えー、えー…………諦めようかな。

 

 

「ワインを売るの?」

 

「あぁ、レミリアたち、

  人里まで来る理由がないだろ?」

 

 

実際、彼女らはうちに来たことがない。

だからワインを売って彼女らが飲める

空間でも作ろうかと思ったのだ。

 

 

「ふーん、確かにフランは喜びそうね」

 

「フラン、酒飲んでいいのか?」

 

「一応ね。何があるか

 分からないから飲ませないようにしてるけど」

 

「妹様の能力で紅魔館が崩れかねませんから」

 

「なーる。ん?」

 

 

その時、ドアがバン!っと

音をたてて開き、フランが現れる。

後ろにはセンとミズもいた。

 

 

「お姉様!私に飲ませてくれないと

 思ってたらそういうことだったのね!?」

 

「フラン!?聞いてたの!?」

 

「幻想郷じゃ15歳からお酒飲んでいいんでしょ!?

 だったら私もいいじゃない!」

 

「ダメよ!私だって500まで我慢したのよ!」

 

 

我慢したのか。

つーか流石吸血鬼。年齢の桁が違う。

 

 

「お嬢様は妹様のことを思って「うるさい!

 パッドの癖に!!」ぐはぁっ!?」

 

「えっ咲夜パッドだったの?」

 

「……………」

 

 

関係ないところから腹パンして

更に悪口で傷を抉るフラン怖い。

咲夜が吐血して倒れてるんだけど。

ちょっと震えてて可哀想。

 

ミズが咲夜の背中を撫でる。

 

 

「咲夜さん?」

 

「…………はい、なんでしょうか………」

 

「元気出して下さい。

 胸なんてその内大きくなりますから」

 

「そ、そうですよ……ね………っ!?」

 

 

あ、咲夜が死んだ。

あー、ミズ、結構大きいからなぁ………

 

 

「え、あ、咲夜さん!?」

 

「ミズ…………それはダメだよ」

 

「ワフ………」

 

「えぇ!?なんでですか!?」

 

「文字通り、自分の胸に聞いてみなよ」

 

 

オレは咲夜に近寄って

肩を支えてソファに寝かせる。

奥のソファでは幼女吸血鬼2人の

キャットファイトが続いているが、大丈夫だろう。

 

と、咲夜がオレの腕を震える手で掴む。

 

 

「…………ソラ、一つ聞かせて」

 

「な、なんだ?」

 

「………無くても私は力になれるかしら」

 

 

あ、力は貸してくれるんですね。

オレはどう答えるか、少し考え…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………大丈夫、貧乳はステータスだ。

  希少価値だとオレは思ってるから安心しろ」

 

 

 

 

刺された。解せぬ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

美味しい葡萄を求めて


ゆうかりんはドS。



 

 

その後、俺たちは紅魔館に一泊。

朝食をもらい、俺たちは人里に帰った。

 

んで、俺は今はまた人里を出ました。

 

 

「憂鬱だぁ………」

 

 

そう、太陽の丘に向かっている。

あいつ………風見 幽香へ交渉へ向かうのだ。

 

レミリアによると、風見 幽香とは腐れ縁らしく、

現在、紅魔館がある土地を譲ってもらったとか。

で、幽香は今は太陽の丘にいるんだと。

元々あそこには幽香の別荘があったらしい。

 

 

「うぉ、広っ!?」

 

 

丘の上には、一面の向日葵畑が。

なるほど、太陽の丘ってそういう………

 

と、彼女を見つける。

緑色のショートヘア、燃えるような紅の瞳。

嗜虐趣味なお姉さん、ゆうかりんこと

風見幽香である。

 

 

「あら、お客さん?」

 

「…………うっす」

 

「あら、ソラじゃない。久しぶりね」

 

 

水やりをしていた幽香が嬉しそうに笑う。

 

…………帰っていいかな?

ともかく、早く交渉終わらせて帰ろう。

俺は幽香へ歩み寄る。

 

 

「で、今日はどうしたの?」

 

「葡萄くれない?」

 

「葡萄?なんでか聞いていいかしら?」

 

「ワインを作りたいんで」

 

「ワイン?」

 

 

幽香はうーん?と少し考える。

どーせまた俺をどう虐めようか考えてるんだろう。

 

そして、奴は言いやがった。

憎たらしいほど清々しい、

不覚にも可愛いと思うほどの笑みを浮かべて。

 

 

「そうね、弾幕ごっこで私に勝てたら良いわよ?」

 

「だから俺人間だっつうの」

 

 

幻想郷の奴らは無理を知らんのか。

幻想郷に基本的、当たり前を求めてはいけない。

求めた時点で終わってるから。色々。

 

 

「帰る。じゃな」

 

「いいじゃないの、別に」

 

「おうちかえる!おれかえる!!」

 

 

肩を掴むな。

嫌だ。このドSほんとイヤ。

そらおうちかえるー

 

俺は走って帰ろ(逃げよ)うとすると、

なんと向日葵たちが動きだし行く手を塞ぐ。

 

 

「ナニコレ怖っ!?」

 

「逃がすとでも思った?」

 

「いやぁぁぁ!?」

 

 

なんか向日葵ってデカイせいで怖い。

つーか幽香が迫ってきて怖い。

怖い。

 

 

「俺に乱暴する気だろ!?

  拷問みたいに!拷問みたいに!!」

 

「弾幕ごっこよ、相手は私、だ、け、ど♪」

 

「俺って空も飛べない一般人だからさぁぁ!?」

 

 

幽香が日傘を閉じ、先端をこちらに向ける。

一気に植物全てが広がり、逃げられるように。

 

日傘の先端が光り、

嫌な予感がした俺は日傘の向きから走って逃げる。

 

 

「ひぃっ!?」

 

 

先ほど俺いた位置を傘の先端から

撃たれたレーザーが地面ごと抉る。

 

傘からレーザーが出るとかおかしいだろ!?

 

 

「楽しませてちょうだいね?」

 

「ぎゃぁぁぁ!!!?」

 

 

こうして、地獄行き(生死的な意味で)の

弾幕遊戯(鬼ごっこ)が始まったのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

脆く、そして小さい



   「主人公 死す」

        デュエルスタンバイ!


はい。




 

 

「ひぃっ!?」

 

 

最悪だ。

どうしてこうなった。

 

だが………ミズとセン連れてこなくて正解だ。

あの2人でも死にかねん。

2人には店をやってもらっている。

流石に2日も店を閉めるわけにはいけない。

 

実際に幽香の弾幕、レーザーには容赦がない。

殺すつもりで………というか、当たったら死ぬよ?

くらいの気持ちだと思う。

つーか絶対そうだ。

 

 

「っだぁ!?

 いつまで逃げればいいんだよ!!」

 

「ん~、そうねぇ。

 あと1分、楽しませてちょうだい?」

 

「一分!?」

 

 

俺は既に能力を使って青い光を纏っている。

弾幕を掻き消したり、回避したりしているのだが、

レーザーは食らったら普通に死ぬだろうし、

弾幕も弾くとき、手が無茶苦茶に痛い。

 

つーかこの能力様々だ。

あー、あとでどうせ死ぬだろうな………

また吐血かぁ………

 

俺はフェイントで撃たれたレーザーを

急ブレーキして反対に跳んで回避する。

 

 

「中々やるわね~」

 

 

傘をクルクルと回す幽香が

こちらを楽しそうに見ている。

 

このドSがぁ………!

 

 

「じゃあ、これでどう?」

 

「うぇっ!?」

 

 

弾幕が止み、幽香がポケットから

スペルカードを取り出し、発動させる。

ヤバい、スペルは死ぬって!?

 

 

「花符『幻想郷の開花』♪」

 

「!?」

 

 

幽香の足元から植物の蔓が伸び、

所々に花を咲かせる。

 

その瞬間、空中に花が咲いた。

何を言ってるのか分からないと思うが(ry

 

 

「何が起きて………!?」

 

 

空中に咲いた花を警戒する。

花は空中に凄まじい数を咲かせているが、まさか。

そう感じた瞬間、俺は地面に伏せる。

 

咲いた花が、弾幕を撃ってきた!?

ということは……………!!

 

 

「避けきれるかしらね?」

 

「…………っくそ!!」

 

 

俺は悪態をつく。

この全ての花が、俺を自動で

ロックオンして弾幕を撃ってきやがるのか………!?

 

全方位360度からの、弾幕。

レーザーがないのが救いか。

幽香も見るだけで弾幕を撃ってくる気配はない。

 

 

「やべっ………あづっ!?」

 

 

頬を弾幕が切り裂く。

血が噴き出すが、気にしていられない。

余所見は命取りだ。

 

俺の能力も万能ではない。多分。

実際に弾幕を一発無防備な身体に命中したら

その部位が消し飛ぶ威力なのだ。死ぬって。

 

 

「おらッ!」

 

 

背中から熱を感じ、

振り返って能力を込めた右手で弾幕を弾く。

 

もう手も内出血か、紫色に変色している。

これ以上弾くのは無理だ。

 

 

「幽香ぁ、俺泣くぞ!!?」

 

「どうぞ?」

 

「この鬼畜が!!」

 

 

ニヤニヤ笑う幽香へ吐き捨て、

俺は目の前に飛来した弾幕を身体を

捻って回避した、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず、凄まじい熱さ感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に、声すら出ない痛みを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に、ゆっくりと、寒さを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────あ」

 

 

腹に、風穴が空いていた。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三途の川で

 

 

丸い石を積み上げる。

 

 

「………むぅ」

 

 

石が丸いため、中々積み上げるのが難しい。

少し気分転換に近くを流れる川を眺める。

 

 

「………えぇ……」

 

 

川底には何か知らんが巨大な影が蠢いている。

…………怖っ。

 

俺の周りでは小さな白い炎………人魂か?

それが俺の石の塔をまじまじと見つめて(?)いる。

時折「おぉ……」とか感嘆の声が聞こえるのは

多分気のせいだろう。

 

 

「………ん?」

 

 

ぼけーっ、としていると、

岸の見えない川の向こうから船が渡ってくる。 

誰か乗っているようだ。

 

それはどんどんこちらへ近づいて来て、

顔が見えるくらいで船が止まる。

渡し守と思われる船を漕いでいた女性は、

俺を見て珍しそうに目を丸くする。

 

見覚えのある赤い髪に同色の瞳。

確か、うちの店に来たことあるな。

かなり楽しい奴で、幻想郷について間もない時にも

色々と教えてもらったんだった。

 

名前は………

 

 

「………小町!?」

 

「ソラじゃないか、どうしたんだい!?」

 

 

小野塚 小町。

死神と名乗っていたが、だとしたらここは

………どうやら、俺は本当に死んだらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだったんだ、災難だったねぇ……」

 

 

これまでの経緯を話そう。

俺は幽香との弾幕ごっこ(虐待)中に、

油断して弾幕に腹を撃ち抜かれた。

で、気づいたらここにいた。

 

それを船を岸につけ、降りてきた小町に話す。

 

 

「でも、多分大丈夫だよ。

  ソラ、アンタは完全には死んでないから」

 

「んん?そうなの?」

 

「うん。ここに来たら普通は魂だけになるんだよ。

  だけどアンタは身体がしっかりあるからね」

 

 

なーる、道理で俺の周りが人魂ばかりだったのか。

俺は石の塔の周りにいる人魂を見る。

 

 

「………どうやってこんな高い塔を立てたんだい?」

 

「そりゃ普通に積んだだけ。暇だったから」

 

 

小町が俺を変な目で見てくる。

まぁ、暇だったし。ここで30分くらい経ったし。

 

俺の目の前には、石積みの塔………

その辺の石をかき集めて作った156段の石の塔が

そびえ立っていた。

そのせいか、河原の石が減って土が見えている。

 

俺の身長より明らかに高い(2mくらいの)

それを見て、俺はよく分からん達成感に包まれる。

 

 

「幻想郷記録だよこんなの」

 

「最高どんくらいだった?」

 

「最高でも1mくらいだったような………」

 

「よっしゃ」

 

 

なんか嬉しい。

途中を見え出した土を川の水で湿らせ、

石の接着剤にしたので崩れにくい。

 

 

「馬鹿なのかい?」

 

「ストレートな悪口やめよう?

  一番傷つくの知ってるよね?」

 

「はぁ………ともかく、

  アンタは送っていけないねぇ」

 

「ん、そうなの?」

 

「そう。映姫様に説教されたいのかい?」

 

「あ、遠慮しときます」

 

 

あれは正座で説教を聞き流さないと

いけないので正直キツイ(体験談)。

あ、なんで怒られたのかは聞かないで。

 

 

「んじゃ、冥界かな。

  そこまでは送ってあげるよ」

 

「冥界と言えば………」

 

 

あの大食いのお姫様と

苦労人の従者がいる場所、名前は白玉楼だったか。

あそこに行くことになるのかー。

 

 

「んじゃ、もう死なないようにね。

 怒られるのも嫌だし、あたいは仕事に戻るよ」

 

「えっちょ、ま」

 

 

小町の能力、"距離を操る程度の能力"により、

俺はいつの間にか何処かへ突き飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシャァァン!!という音がして。

そして、まず感じたのは。

 

 

「冷たい」

 

 

こちらを見る例の苦労人の従者の目付きと、

池に落ちて水に濡れた冷たさだった。

 

 

「何してるんですか………取り敢えず斬ります」

 

「理不尽」

 

 

刀を抜いた従者との、おいかけっこが始まった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

白玉楼

 

 

「なるほど、死にかけたと」

 

「でも店主さんが来てくれて嬉しいわ~

  とってもお料理美味しかったし」

 

「………色んなことで死にかけました」

 

 

俺は妖夢をジトリと睨む。

先ほど彼女に殺されかけ、そこを

見つけた幽々子さんに助けられたのだが、

なんと数日ここ、白玉楼に泊めてくれるという。

 

 

「すいません………つい」

 

「つい斬りたくなるのよね~」

 

「職業は辻斬りですか?」

 

「庭師です!」

 

「刀振り回す庭師がいてたまるか」

 

 

怖いわ。

まぁ辻斬り化する庭師だと思っておこう。

幽々子さんに聞いたが、

妖夢は庭師の家系なんだとか。

 

 

「まぁともかく大変だったわね~

 身体の本体はお店で探してもらうから、

 ここでゆっくりしていって頂戴?」

 

「助かります」

 

「あ、お料理はしてくれると助かるわ~」

 

「あれ、幽々子様、私は?」

 

「妖夢もやるのよ?」

 

「あっ、しなくて良い、

  ということではないんですね」

 

「…………」

 

 

まぁ、妖夢の手伝いがあるならありがたい。

…………この人食べるからなぁ。

ん、ともかく。

 

 

「多分少しの間ですが、よろしくお願いします」

 

 

こうして、俺は白玉楼で一時期を

過ごすことになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日ほど冥界に滞在した俺は妖夢と

幽々子さんへお茶を持っていく。

 

妖夢は洗濯物、幽々子さんは昼寝。

 

 

んで、少しわかったこともある。

 

なんでも、俺の魂だけが死んだため、

俺はここ、冥界に突き飛ばされたという。

地獄に長いこと不安定な魂があると、

その内に消滅するらしい。

 

アイツ(小町)も何も

考えてないわけでは無かったのか。

なんか意外。

 

つーか、俺確かに死んだような──?

腹を撃ち抜かれたのを思い出し、

背筋が凍る感覚が戻ってくる。

 

かと言って……………幽香を責めることもしにくい。

俺が死んだときの顔が……頭から離れない。

自分でやったことなのに、何故………と言うような、

自己矛盾に近いものを感じた。

 

 

「どうかしました?」

 

「思い出し恐怖だ」

 

「なんですか、その思い出し笑いみたいなの」

 

「その日、人類は思い出した」

 

「やっぱり長そうなんで遠慮しときます」

 

「(´・ω・ `)」

 

 

なんか顔文字みたいな顔になった。

と、洗濯物を干している妖夢が

何かを思い付いたような顔をする。

 

俺は妖夢に持ってきたお茶を縁側に置き、

柱に身を預けてすやすや眠る幽々子さんに

軽く布団をかける。

 

 

「そう言えば、ソラさんって人間ですよね」

 

「やっと理解してくれる人がいた」

 

「私は正確には半霊なんですが、

  提案があります、どうでしょう?」

 

「提案?」

 

 

なんだろうか、

妖夢に教えて貰えることと言えば………

 

 

「護身術です。

 ───剣を、学ぶ気はありませんか?」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

剣の修行

 

 

「ふっ!」

 

 

妖夢と幽々子さんが見ているなか、木刀を振る。

ビュン、と風を切る音が聞こえた。

 

 

「…………えーと」

 

「…………あらぁ、才能なしね~」

 

「無慈悲!?」

 

 

現実は非情である。

やっぱり俺は人間だったようだ。

 

そ、そんなにはっきり言う………?

幽々子さん、泣いちゃうよオレ。

 

 

「そうねぇ………妖夢が

 100なら……10か15くらいかしら~?」

 

「あ、あはは………ほら、人間ですから……」

 

「…………そっすね」

 

 

結構ショック。

ほら、剣は男のロマンじゃないか。

才能ないかぁ………そっかぁ………

 

 

「鍛練あるのみ、よ~?

  強くなれるかは別として、だけど」

 

「裏返せば強くなれないんですよね、それ」

 

「そうねぇ」

 

「否定してほしいなぁ」

 

 

オレは木刀を軽く振ってみる。

妖夢に聞いたのだが、

幽々子さんも武具の心得があるらしい。

 

才能がないとすぐに見抜けたのは

多分そのせいだろう。

 

 

「………そうね、妖夢と試合でもしたら?」

 

「オレに死ねと?」

 

「あぁ、私のを見て覚える、と言うことですか」

 

「そうよ。それじゃ、私が審判をするわ~」

 

「「お願いします」」

 

 

妖夢が腰の剣(短い方の白楼剣)を鞘ごと構える。

マジすか。

オレも木刀を構え、息を吐いて集中する。

 

 

「それでは

 ────────始め!!」

 

 

掛け声と共に妖夢が地を蹴り、

刀を大きく振り上げる。

刀は、実は受け流すのがとても難しい。

避ける方が確実だ。

 

 

能力を使って青い光を纏う。

 

足を後ろへ下げて、ギリギリで回避。

鼻先を風が切る。

 

 

「!」

 

「し──ッ!」

 

 

腰を落とし、下段からの斬り上げ。

だが、妖夢は刀の腹を使い、

オレの木刀の勢いを利用して大きく逸らす。

 

隙ができ、妖夢が横に振りかぶったのを確認。

逸らされた影響で崩れた体勢を利用する。

地を押すような感覚で蹴り、後ろへ跳ぶ。

 

 

「っや!?」

 

「せぇア!!」

 

 

速い………!

小柄な身体を活かした素早さで接近してくる。

妖夢は刀を大きく振りかぶり、横に薙ぐ。

 

それを木刀で防御する。が。

 

 

「しッ!!」

 

「ぐ──が、はぁ、っ!?」

 

 

木刀に命中させた瞬間に勢いを止め、

その止まった勢いの衝撃が、木刀を貫通、

オレの腹を衝撃が撃ち抜く。

 

 

────遠当て。

合気道などの応用、

気を飛ばして防御を貫通する技。

 

それを、霊力と剣の衝撃で妖夢は繰り出してきた。

 

 

衝撃に吹き飛ばされ、

受け身を取って右手に木刀を構える。

本当に死んじまうぞ!?

 

それでも審判はニコニコしながらこちらを

見ており、対戦相手からは殺気すら感じる。

 

刀の振り下ろしを後転で回避、

後転の途中で地面へ足をつける。

 

 

一か八か、やってやる。

 

 

「───!!」

 

「──っ!?」

 

 

妖夢の懐に地面を蹴った勢いで潜り込む。

妖夢は避けた後にまた追撃をしようと

していたので、こんな反撃は分からないだろう。

 

オレは木刀を振り、

妖夢の腹でピタリと止める。

 

 

「────!」

 

「勝負あり。勝者、ソラ~」

 

「か、勝った………?」

 

 

オレは呆然と立ち尽くす。

青い光が薄れ、溶けるように消えた。

 

オレの目の前の妖夢も口をパクパクさせている。

 

 

「……………」

 

「妖夢~?」

 

「ひ、ひゃい!?」

 

「あなた、油断しすぎよ~?

 真っ直ぐ斬るのは良いけど、攻めすぎよ~」

 

 

そうだ。言われてみれば、防戦一方だったが。

攻め込みの隙を晒していたのも事実。

 

 

「ソラ、あなたも良かったわよ~。

  あなたの強みはその目ね~」

 

「何度も死に目にあってますから………

 もしかしたらそれかもしれませんね」

 

 

思い出せば、フランの弾幕を回避していた時。

あの時も極限まで集中していた。

大量の弾幕の動きを観察したのだった。

 

観察力、だろうか。

 

 

「凄まじい観察眼ですね………

  動体視力には自信があったんですけど」

 

「おそらく、妖夢以上よ~?後は、

 体勢を立て直す速度が異常なくらい速いわね~」

 

「同感です。それより速く決着を

  つけるつもりだったのですが………」

 

「妖夢の速度より一歩速かったのね。

  妖夢、ちょっと欲張りすぎよ~?」

 

 

…………体勢を立て直す速さ。

多分、腕斬られたり、

腹抉られたりしてるからだろうなぁ、って。

痛みに慣れるって嫌だなぁ。

 

 

「お疲れ様~、良い試合だったわよ~」

 

「「ありがとうございました」」

 

 

何とか、妖夢には勝てた。

だがまぁ、剣術も何もあったものじゃないので

油断していなければ絶対に

妖夢が勝っていたのだろう。

 

 

結局、オレに剣の才能はないようだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鉄の味


アドレナリン切れた状態で
「腕無くなったらこうなるよ?」
ってなった主人公が見れます。




 

 

────周囲に咲く、血の華を見た。

 

炎に飲まれ、呻く人々を。

 

刃に胸を貫かれて、怒る人ならざる者を。

 

 

 

 

 

 

 

屍の山の上に、それは立っていた。

 

涙を流すその姿は、残酷で、美しくて。

 

 

思わず、手を伸ばした。

それも、オレに手を伸ばす。

 

 

────たす、けて

 

 

声が聞こえた、気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ッ!!?」

 

 

飛び起きる。

………冥界で、借りた寝床だ。

 

何か……夢を、見ていたような。

 

 

「永久に眠っていれば良かったものを」

 

「え」

 

 

声がした。

 

鼻に、その臭いがした。

手が、濡れていて。

 

 

「ひ───っ!?」

 

 

血が、月明かりに照らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左手が、無かった。

 

 

 

 

 

 

全身から力が抜け、

オレは能力を無意識で発動する。

 

 

「あ、あああああああああッ!!!」

 

 

そして、■を走る

電撃のような痛みに、絶叫する。

 

痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたいいたい

 

 

「ぎ、いあぁぁあぁあぁぁぁぁあッ!!!?」

 

 

ねつがうでをなくて、てがなくてなってて、

いたい、いたい、ない、てがない、ない

いたいあついさむいつめたいきもちわるいいたい

くるしいきついいたいあついさむい

 

 

「どうしたんですか!?」

 

「ぎ、がああああああああああッ!!!?」

 

 

つめ、たい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、っ、はぁっ、はっ………!?」

 

 

意識が覚醒する。飛び起きる。

───能力の影響か、左手は復元していた。

 

だが、まだ血はべっとりついており

オレは呼吸が詰まり咳き込む。

 

 

「げほっ、がっはっ、げほっ、はっ、はぁっ」

 

 

何とか落ち着かせて呼吸を元に戻し、

オレは周囲を確認する。

誰もいなかった。

 

幽々子さんや、妖夢は───?

 

立ち上がって、ふらつく足取りで二人を探す。

置いてあった木刀を拾い上げて、

まずは家の中を探す。

 

 

「いない………どこに」

 

 

外に出る。

足跡が、続いていた。

 

 

「………行かないと」

 

 

その足跡を辿っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!」

 

 

冥界を奥に進んでいくと、

巨大な桜の樹がそびえ立っていた。

 

その樹に、幽々子さんが縛り付けられている。

意識がないのか、ピクリともしない。

そしてその樹の下では。

 

 

「く………っ!」

 

「その程度、か!」

 

「妖夢──!?」

 

 

妖夢が誰かと戦っていた。

初老の剣士…………

 

だが、妖夢の動きがかなり鈍い。

それこそ、オレと戦った時以上に。

 

オレは木刀を握り、能力を発動。

剣士に斬りかかる。

 

 

「ぬ!?」

 

「ソラさん!?」

 

 

刀に弾かれる。

オレは少し下がり、下段に構える。

 

 

「くく、こちらの小僧の方が楽しめそうだ。

  邪魔をするなよ、妖夢」

 

「………っ!」

 

「何やってる!手伝え!」

 

 

妖夢が動かなくなる。

何かを迷っている───?

 

 

「っ!」

 

「手を斬ったつもりだったが、

  これは一体どういうことか?」

 

「黙、れ………!」

 

 

青い光が木刀を纏い、刀を受け止める。

連続で斬りつけられるが、

回避と弾きを繰り返して防ぐ。

 

 

「ふん!」

 

「ぐ……あっ!?」

 

 

横薙ぎの刀を両手で木刀を支えて防ぐが、

大きく吹き飛ばされる。

 

なんとか体勢は保てたが、剣速が速い。

防戦一方にしかならないな………

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

反撃

 

 

 

「…………っ」

 

 

無理だ。

これは、オレでは無理だ。

このジジイを倒せない。

 

更に相手は真剣。

死んでいる状態、魂だけのオレが食らったら

どうなるのか知りたくもない。

 

 

「無駄な足掻きだ」

 

「っるせぇ………!」

 

 

ジジイの剣を能力で強化した木刀で

防ぐが、それも時間稼ぎ。

 

剣の攻撃の重さが違いすぎる。

 

 

「妖夢!ボケっとしてないで手伝え!!」

 

「う………あ………」

 

「妖夢!!」

 

「…………っ」

 

 

妖夢に呼び掛けるが、狼狽えるばかり。

 

…………おそらく、このジジイは。

 

 

「………妖夢の爺さんか…………!」

 

「如何にも」

 

 

剣を弾き、後ろに下がる。

 

妖夢から、話を聞いたことがあった。

妖夢の剣の師匠で、爺さん。

先代の西行の庭師、魂魄 妖忌。

 

 

「なんで幽々子さんを拐った!」

 

「小僧、貴様に言う意味はない」

 

「話の通じないジジイが………!」

 

 

木刀を構え直す。

妖夢は棒立ち、なんでだ!?

 

 

「ぬぅあ!」

 

「ぐっ、う!?」

 

 

木刀で斬りかかってきた妖忌の攻撃を防ぐ。

ビリビリと、衝撃で手に痛みが走る。

 

 

「っ………く……!」

 

 

隙が、無い。

どう攻撃したものか、予想するが、

全て弾かれて反撃、死ぬ未来しか予想できない。

 

打つ手無し。

無謀、無駄、無意味。

 

ジジイが乾いた笑いを浮かべながら、

斬りかかってくる。

 

 

「諦めたな?」

 

「!ソラさん、逃げ──!!」

 

「ぐっ、ぎ、ぃがぁぁぁっ!!?」

 

 

右足を、斬られた。

 

 

 

 

 

……………舐められていた。

おかしい、とは思わなかった訳ではない。

だが………甘かった。

 

有り得ない速度の剣閃が、足を斬り飛ばした。

血が溢れた。感覚が消えた。

 

本能で、木刀を使って後ろへ跳んで、

距離を取った。

 

 

「ぐ、ぎぃぃっ………!

 んの、クソジジイがぁぁッ……!!」

 

「ほう?足を落として尚、口が利けるか」

 

「るっ、せぇ……!

 こちとら、何度も死にかけてんだよ……!!」

 

 

悪態をつき、正気と

痛みに塗り潰される精神を保つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無い。

 

 

 

 

 

 

 

────気づいた。

コイツは、違う。

 

尻餅をついた状態から、

木刀を地面に刺して立ち上がる。

 

 

「まだ立つか、諦めの悪い」

 

「恩と店のツケは絶対に

 忘れねぇように、親父に教わったからな……!!」

 

「なら、楽にして忘れさせてやろう」

 

「こいよ、()()が!!

 人間舐めんじゃねぇぞ亡霊もどき!!!」

 

 

吠える。

違う。コイツは妖夢のジジイじゃない。

 

偽者だ。

 

 

俺は妖夢を見る。

アイコンタクトを交わす。

 

 

 

 

「何を言い出すかと思えば

  …………口だけは達者なものだ」

 

「バァーカ!!そこ油断だ!!」

 

「ぬ……ぐぅっ!?」

 

 

妖夢が、やっと動いた。

鉄の擦れる音が響き、火花が散る。

 

 

「騙された自分が許せません………!

  ソラさん、この偽者はお任せ下さい!!」

 

「お前のせいでいらん怪我したんだから

 今度からウチの飯作り手伝えこの野郎!!」

 

「雰囲気考えて下さいよ!?」

 

 

よし。足失くなって「よし」なのか、

もう本当に感覚おかしくなってきたが、

幽々子さんを助けよう。

 

復元した足を確認、感覚を確認して俺は

桜の木へ走り出した。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たな力


まだ人間(震え声)。


 

 

「ぬぉあ!?」

 

 

桜の木へ走っている途中、

突然足元の地面がめくれ上がる。

 

 

「ひぃっ!?」

 

 

危な!?

地面から出てきた桜の巨大な根が

押し潰そうと俺の背後の地面を叩きつける。

それだけで地面が陥没、ギリギリ回避する。

 

桜の妖怪………あの偽者もあの桜が作ったものか。

 

 

「冥界怖すぎっ!!?」

 

 

能力は維持できているので、回避はできる。

なにより、あのジジイが速かったせいで

目が慣れた。

 

距離としては、50メートル、と言ったところか。

 

 

「っとぉ!?」

 

 

前の地面が割れ、桜の根が現れる。

足を踏み込み、ブレーキ。

 

腐りかけじゃねぇか、これなら行けるか──!?

 

 

「邪魔すんなァ!!」

 

 

拳を叩き込むと、いい感じに粉砕。

人間辞められる程度の能力かな?

 

 

ともかく、このまま突き進む。

今度は固そうな根が現れる。

粉砕は無理ですねクォレハ………

 

 

「でもなんか行けるような気がする──!」

 

 

できるできるなんでもできる。

思い込みが大事だ、オレ。

 

写輪眼!見稽古!水影心!

まねっこ!コピー能力!トレース・オン!

幻想片影!青魔法!完全無欠の模倣!

 

 

「おっ、らァ──!!」

 

 

 

 

 

模倣『吸血鬼の炎魔剣(レーヴァテイン)

 

 

 

 

 

名付けるならこうだろ。

あ"ー、何か魂的なものゴッソリ削られた気がする。

キッツい。

 

炎の剣を両手で薙ぎ払い、邪魔な根を破壊する。

模倣なので弾幕は出ないが、十分な威力だ。

 

 

「おぉらァッ!!」

 

 

レーヴァテインを振り回しながら桜へ接近。

目の前を塞ぐ邪魔な根を焼く。

 

横から振り下ろされる根を斬る。

 

薙ぎ払いを跳躍で回避。

 

その根に飛び乗り、木へと直接接近。

 

 

 

 

 

根から全力で跳躍する。

 

 

 

そこで剣は青い光となって霧散してしまう。

マジでぇ………?

これもう一回やんのかよ………

 

 

「っあ…………もうどうにでもなってしまえ!」

 

 

できるできるなんでも(割愛)

 

 

模倣『吸血鬼の神赤槍(グングニル)

 

 

 

次はレミリアの赤槍を模倣。

……………模倣は1日2回まで。

使いすぎると死ぬ。覚えておこう。

 

 

「ぐ、っうぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

削られる精神を気合いと怒号で封じ込め、

右手の槍を大きく引き絞る。

 

 

紫電が槍に纏わりつく。

 

 

槍が眩しい紅の光を放つ。

 

 

狙うは、この桜の核。

 

 

 

 

「偽者とはいえ、心が痛むな」

 

 

 

 

()()()を、狙う。

 

 

引き絞られた槍の輝きが更に増す。

 

能力に耐えきれず、血管が破裂。

腕の所々から血が噴き出す。

 

 

 

「ぶち、ぬけぇぇぇぇぇッ!!!」

 

 

 

腕を大きく振り抜く。

 

紅の線を引く閃光が空を飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫電を纏う紅い槍が、枯れた桜を撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せめて、貴様だけでも殺す───ッ!!」

 

 

頸を掴まれる。

この声は、あのジジイだ。

 

 

「勝負あり、だ。

 ───潔く諦めろよ、老害野郎」

 

「───!!」

 

 

オレは中指を立てる。

 

 

「空観剣───」

 

 

終わりだ。

 

 

「お前はもう死んでいる───ってなぁ!!!」

 

「六根清浄斬!!!」

 

 

妖夢の剣がジジイの腹を一閃。

とどめを刺す。

 

 

「お爺様は、一度だけ満開の

  この桜を見たことがあります」

 

 

妖夢と共に地面に着地する。

 

 

「勿論戦闘になり、お爺様は負けた。

  その理由は、お腹の古傷によるもの」

 

 

妖夢は刀を納める。

 

 

 

「古傷は消えないと言っていました。

 そんな傷が残っていない筈がないでしょう」

 

 

オレは口元の血を拭う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「物真似ならオレの方が上手だ、馬鹿桜」

 

「まだまだ模倣が甘いんですよ、阿呆桜」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

巫女服の少女


あっ、同名でTwitter始めました。
風車のアイコンです。

使い方わかんないのぉ!
(未だ、たまに音楽にカセットテープとか使う人)




 

 

「はい、あーんしてください」

 

 

オレは口を開け、差し出される焼き魚を食べる。

 

 

「うん旨い…………あと慣れた自分が怖い」

 

「あらぁ~新婚さんみたいね~」

 

「………幽々子様、辞めてください」

 

「あれ、妖夢嫌そうな顔じゃなくない?」

 

「食え!!」「ぐェ!?」

 

 

妖夢に口の奥に箸を突っ込まれる。

刺すな。ちょっとからかっただけじゃないか。

 

 

「あらあら~恥ずかしがっちゃって」

 

「ち、違いますっ!!」

 

「げほぉっ、げほっ、げほっ」

 

 

あー苦しい。

あの戦いから3日。

 

オレは見事に怪我だらけ。

能力で治そうと思ったのだが───

 

 

 

 

 

 

 

『ごがぁっ!?』

 

 

全身にひび割れるような激痛が走り、吐血。

また腕の血管が破裂。血が足りないよ。

 

 

 

 

 

まぁあの桜は完全に枯れ、

幽々子は桜の近くに倒れていた。

無事なのは良かった。

 

妖夢に食べさせてもらってるのは腕の弊害。

利き手の右手が使えないからだ。

 

 

「ご馳走さま」

 

「ご馳走さま~」

 

「お粗末様です」

 

 

食事をとり終わり、

オレは最後に白玉楼を見て回ることにした。

 

────そう、ここでの生活も、今日が最後だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん?」

 

 

白玉楼の周りを囲む庭園。

その川にかかる橋を渡っていると、

背後に誰かの気配を感じ取る。

 

妖夢かな。

 

 

「…………」

 

 

振り返ってみるが、誰もいない。

気のせい、だろうか。

確かに誰かいたような気がしたのだが。

 

 

「ま、いいかぁ………」

 

 

帰ろうと踵を返した、オレは───驚愕した。

 

 

「ぉわ!?」

 

「…………」

 

 

巫女服を着た少女が、

こちらの顔を覗き込んでくる。

 

紫色の髪、巫女服、頭の大きなリボン。

 

 

「霊夢………いや……」

 

 

違う。

とても似ているだけ、彼女は霊夢じゃない。

まさか───!?

 

 

「失礼ね、私は〝れいむ〟で合ってるわよ」

 

「嘘つけ!髪の色が違うだろ!」

 

「人違いよ!私は〝れいむ〟よ!

 あなたの思ってるのと漢字が違うの!」

 

 

あー…………桜の作った偽者かと思ったけど………

うん、なんか違うな。

 

なんか、違う………気がする。

むしろ、霊夢そっくりだ。似すぎ。

そっくりさんもしくは、ドッペルゲンガーかな?

 

 

「旧字体、って言うの?

  私の名前はそれよ、それ」

 

「霊夢の旧字体…………霊夢の先祖か何か?」

 

「違わないけど………うーん、違うかな」

 

「は?」

 

「詳しい話は後!

 折角ここまで来て要件も言えるんだし、

 まずは幽々子のとこに行くわよ」

 

「お、おう」

 

 

れいむに首裏を掴まれ、

オレは屋敷の方へ引きずられて行く。

 

…………よく見たら脇空いてないな。健全。

代々脇巫女、ってわけじゃないのか。

 

 

 

 

 

「改めてだけど、私の名前は博麗 靈夢。

 夢と伝統を保守する、()博麗の巫女さんよ」

 

 

 

 

 

 

ぎこちないウィンクだが、

何故だか安心感を覚えたような気がした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

久しぶりの家

最近SEKIROにハマりました。

2日で〝まぼろしお蝶〟倒せて調子乗ってます。
弦ちゃんと戦って死に戻りの繰り返し。



靈夢を連れて人里へ帰ってきたオレは、

とにかく早く帰りたかったので

そそくさと家へと向かう。

 

 

「あら、良い店じゃない」

 

「そう言って貰えるのは嬉しいんだが………」

 

 

店の入口に、張り紙がしてあった。

『店主が不在のため、休業と致します』

ミズの筆跡…………心配してくれていたのか、

筆跡が揺れているように見える。

 

早く帰ろう。

入口を開けて中へ入る。

 

 

「ただいまー」

 

 

中を見ると、ミズがテーブルを

拭いていたところだった。

こちらを見て硬直し、プルプルと震えている。

 

 

「遅くなってごめん、

 ちょっと色々あ「ソラ様ぁぁぁ!」ぐぉあ!?」

 

 

ミズが布巾を投げ捨て飛び付いてくる。

勢いが勢いだったので押し倒され、

胸に頬を擦り付けてくる。

 

 

「幽香さんから亡くなられたと聞いたので

 ………ひっく、冥界へ行こうにも、えぐっ、

 店を放っておくわけにもいかず………

 あぁ……良かった…………!」

 

「あははは………悪い悪い、心配かけた。

  早く帰ってこれなくてごめんな」

 

 

泣きだしたミズを慰めるように

頭を撫でて落ち着かせる。

 

 

「いえ………生きてらっしゃっただけで

 もう……十分です………!!」

 

「愛されてるわねー」

 

「神様だけどなー」

 

「ぐすっ、うぇぇぇ………」

 

「今日は美味しいもん食べような、

 そういえば、センはどこにいる?」

 

 

忘れそうになっていたセンの居場所を聞く。

あの狼はどこに行ったのだろうか。

 

 

「ワフ!」

 

「おぉ、律儀に待っててくれたのか」

 

 

顔を動かすとミズの後ろで座っていた。

マジで時折コイツ犬なんじゃないかと思う。

ミズが抱きついてきているので

ゆっくり立ち上がり、頭を撫でる。

 

 

「ワフゥ~」

 

「あー、このモフモフ安心する………」

 

 

モフモフこそ至高。

ワシャワシャと撫で回していると

靈夢が肩を叩いてくる。

 

 

「ちょっといいかしら、誰か来たわよ」

 

「早速お客さん?」

 

「張り紙は貼ったままでしょ?」

 

「その筈だけどな………」

 

 

ノックされているので入口を開けると、

そこには文とにとりが来ていた。

 

 

「おぉ、久しぶりだな」

 

「「…………!?」」

 

「ん、どうかした?」

 

 

2人が硬直し目を見開く。

どうかしたのだろうか。

 

 

「「ゆ」」

 

「ゆ?」

 

「「幽霊だぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!」」

 

「誰が幽霊じゃゴルァァァァァ!!」

 

 

道端でうるさいので取り敢えず店に

二人を引きずり込む。

全く、感動の再開で抱きつくとかないの?

 

 

「「ないです」」

 

「あ、ない…………さいですか」

 

 

まぁ煩悩がないわけでもないが。

今はミズがいるので無理かな。祟られそう。

あれ…………なんか抱きついてる

ミズさん力強くなって苦しいです。

 

 

「さっさと成仏したらどうですか?」

 

「あー………もしかして死んで妖怪になったの?」

 

「お前らまだ怒ってんの!?辛辣じゃね!?

  あと生きてるからね、オレ!!」

 

「「さっさと成仏してください。

  南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」」

 

「お経読んでんじゃねぇぇぇぇ!!!」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

炎の色


SEKIRO、一心が強い…………

剣聖(槍)ってどういうことですか、
槍の方が強いよね、おじいちゃん。




 

 

オレが家に帰ってきて数日。

里………というか、幻想郷中に広まったようで、

沢山の客が訪れた。

 

霊夢や魔理沙、紅魔館組など。

その他にも椛やアリスなども訪れていた。

 

 

「へぇー、私そっくりじゃない」

 

「ここまで似るものなのね、不思議だわ」

 

 

酒を飲み合う博麗の巫女2人。

マジでそっくりだ。

靈夢の髪の毛が紫じゃなかったら見分けつかん。

 

 

「それにしても………よく生きてたわね」

 

「まぁな………つーかお前わざとやった?」

 

「そんなつもりは「あーやっぱいい飲もう」………」

 

 

オレは幽香とサシで飲んでいるところ。

注文も大分落ち着いているので、

ミズとセンも今はゆっくりしている。

 

彼女、わざわざ謝りに来たのだ。

まぁ殺した相手に謝るってのもどうかと思うが、

謝りに来るってことは

幽香の責任感は半端じゃなさそうだし。

 

結構、良い奴だったりするんだよな。

 

幽香の杯に酒を注ぐと、酒が無くなってしまう。

変えないといけないな、俺も幽香も結構飲むし。

 

立ち上がって棚に向かう。

 

 

「悪いわね、ついでにツマミもあるかしら?」

 

「あー…………しまったな、在庫切れかよ」

 

 

酒は棚にはないようで、地下室だ。

ツマミがねぇな。

皆が一斉に来たからな…………

それもあるが、主にどっかの大食い亡霊のせい。

買いに行かないと。

 

 

「ソラー!ツマミ追加だー!」

 

「もうねぇ、今から

 買いに行くから待っててくれ!」

 

「頼んだぜー!」

 

 

魔理沙たちからの注文もあった、

さっさと買いに行こう。

 

財布を取って出口へ向かおうとすると、

幽香に肩を掴まれる。

 

 

「なんだ?」

 

「一緒に行くわ、元は私が頼んだものだし」

 

「分かった、んじゃ行くか」

 

 

幽香と共に外へ出る。

夕陽が空を赤く染め上げていた。

風が心地いい。

丁度いい酒覚ましにもなるな。

 

八百屋へ向かうつもりだが、結構距離がある。

まぁ歩いて行っても怒るまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギリギリ空いていた八百屋で色々と買い、

その帰り道。

 

 

「ソラ、あなた

 冥界でもあの桜に襲われたんですって?」

 

「あぁ、なんでオレの行く先々で

 襲われるのかねぇ………呪われてんのか?」

 

「…………それなんだけど、

 少し冥界に行って調べたのよ」

 

 

幽香も真剣な顔だ。

どんなことが出てくるのか。

 

 

「細工されていたわ、

 無理矢理に化物桜を起こしたみたいに」

 

「まさか。

 それこそお前くらいじゃないと出来ないだろ?」

 

「いえ………出来る者を、

 1人だけ知って───!?」

 

 

幽香が突然、顔に驚愕の色を浮かべる。

なんだ?

 

 

「ソラ、走るわよ!

 全速力でついて来なさい!」

 

「は!?待てって!」

 

 

突然走り出した幽香について行く。

最後の人里の曲がり道を抜ける。

 

 

そこから、最悪が見えた。

 

 

「え────」

 

「ここまでするの…………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家を、燃え上がる炎が包んでいた。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

八雲紫


LOSTWORD配信されましたねー。
チュートリアルガチャで絵しか出なかったので、
ちょっと内容が違って、ん?となりました。



 

 

「あらあら、失敗ね。

 焼き殺すつもりだったのに」

 

 

その声に振り向く。

空にいたのは……………

あのスキマという世界で出会った女性。

 

長い金髪、ふわりとした帽子。

手には扇子を持っており、顔を扇いでいる。

 

 

今の言葉で察する。

─────敵だ。

 

 

「逃げなさい、ソラ。

  紫の相手は私がするわ」

 

「紫?あいつのことか」

 

「え?名前も知らない…………紫!

 あなたは名前も名乗っていないような

 相手に何をするつもりなの!?」

 

「もう言ったわ、殺すのよ。

 名乗っていなかったから名乗るとしましょう」

 

 

笑みを浮かべる金髪の女性を前に、

オレは底知れないほどの恐怖を感じた。

 

そして、悟る。

 

 

…………この女性に関わった時点で、

   オレの死は、最初から確定していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「八雲 紫。幻想郷の管理者として、

  あなたには死んでもらうわ、人間」

 

 

人里だというのにも関わらず、

夜空を、弾幕の光が埋め尽くす。

 

 

「走りなさい!!」

 

「幽香は!?どうするんだ!」

 

「ここで紫を止める!」

 

 

無茶だ。

八雲紫から感じる力の

大きさは「余所見?甘く見られたものね」

 

 

「っぐぁ!?」

 

「幽香!」

 

 

一瞬で幽香の懐に移動した八雲紫が

閉じた扇子で薙ぐ。

幽香の身体がくの字に折れ曲がり、

家を貫通して吹き飛ぶ。

 

あの数の弾幕すら、フェイク。

力の差が大きすぎる。

 

 

「もう名前で呼び合う仲なのね。

  随分と(ほだ)されたようだけど………やはり」

 

「────っご、ぇ」

 

 

背後から脇腹への、蹴り。

速すぎる。

 

肺の空気が抜かれ、息が詰まり、

今のでおそらく、肋骨が何本か砕けた。

吹き飛ばされ、嘔吐する。

 

 

「呆気ない。

 私自ら動いた方が良かったわね」

 

「ぐ………おぇ、っ……て、めぇ……!!」

 

 

能力を全開で使い、

何とか立ち上がり左腕を引き絞る。

雷が迸り、血が噴き出す。

せめて、一撃。

 

 

「吸血鬼の、赤槍ッ!!!」

 

 

渾身、全力全霊の一手。

だった、筈だ。

 

 

「遅いわ、欠伸が出るわね」

 

 

まるで操作するように指を動かすと、

軌道が逸れ、明後日の方向へ。

 

…………駄目だ。死ぬのか。こんなところで。

こんな奴に殺されるて、たまるか。

 

 

「なんで………皆まで巻き込んだ」

 

「巻き込んだ?

 それを貴方が言うの?」

 

「───?」

 

「あぁ、そう。貴方の家にいた

 彼女たちなら巻き込むつもりはないわ。

 スキマに入れて、記憶を消しておしまい」

 

 

記憶を………そんなことが出来るのか。

あいつの能力が分かれば、対策が………

 

 

「幽香は貴方に手を貸したからね。

 残念ね、友達だと思って…………

 あぁ、これからも友達だったわね」

 

「よく、ぶっ飛ばしておいて、んなことが……」

 

「喧嘩する程仲がいい、って言うでしょう?

 …………………()()()()()()()()()()()()()()()

 

「───」

 

 

そうか、幽香の記憶を消したら。

オレのいた記憶も全て消える。

 

────え?いや、待て。

まさか、まさか……………

 

 

「幻想郷には、(こよみ)がない…………」

 

「ふふっ、良いところに目をつけたわね?」

 

 

まさか、いや、まさか。

そんな筈は、そんなことが、あっていい筈が。

 

 

 

 

「幾度も繰り返すのよ。

 記憶を消して、また再び異変がやって来るわ。

 回る回る、それはまるで輪廻のように、ね」

 

 

 

 

紅霧異変、レミリアが起こした異変があった。

その時、フランがおかしくなったというが、

魔理沙との接触で良くなった筈だ、

という話を咲夜から聞いた。

 

春雪異変、幽々子さんが起こした異変があった。

その時、あの桜が影響し幽々子が霊夢たちと戦い、

桜を枯らせる、封印したことに成功したと

妖夢が言っていた。

 

 

 

健康だったフランが、狂気に落ちていたのは。

枯れた筈のあの桜が、復活していたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全部、お前の仕業だったのか───!」

 

「くるくる、くるくる、と、

 何度だって私はこの世界を回すわ。

 だって、幻想郷は私のものなのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度も、回っていたのだ。

 

霊夢たちが幻想郷で異変を解決してしまったら、

八雲紫が、幻想郷での全ての記憶を消す。

 

優しいフランは再び狂気に落ちて、

枯れたあの桜は再び力を取り戻す。

 

 

「今回はサイクルを少し進めたわ。

 だけど、あなたという邪魔が入った。

 余計なことをしてくれたわね、本当に」

 

「余計なことだと…………ふざけんじゃねぇよ!!」

 

五月蝿(うるさ)いわよ」

 

「ぐ、がっ!?」

 

 

また、一瞬で。

接近され、扇子で顎を打ち上げられ、

踵落としを背に食らう。

 

地面に叩き落とされ、見下ろされる。

 

 

「フ、ランが、あんなに元気に、なったんだ」

 

「……………」

 

「幽々子さんが、助かっ、たんだ」

 

「……………」

 

「それを、何とも、思わねぇのか………!!」

 

 

必死に立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それがどうかしたのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────ぇ」

 

「貴方には分からないでしょうね。

 別に構わないわ、理解する必要もないもの」

 

 

扇子を、振り上げられる。

 

 

「足掻くものだから、そこそこ楽しめたわ。

  死んでも魂を潰して、楽にしてあげるわ」

 

 

振り下ろされる扇子を、

見ていることしか出来なかった。

 

 

 

背中が、引かれる。

 

 

「チッ、邪魔を………!」

 

「ウォォォォン!!」

 

「見つけましたか!ご無事ですか!?」

 

「この、声は…………」

 

 

センに、ミズ。

スキマに入れられていなかったのか?

 

 

「酷い傷…………!

 八雲 紫……許しませんよ…………!!」

 

「グルルルルゥッ………!!」

 

「本来なら消える筈だった神が二柱………

  また世界ごとやり直さないといけないわね」

 

 

二柱………センも、神様だったのか。

本来なら………そうか、オレが介入したから……!

 

すると、なんと靈夢と霊夢、幽香までも現れる。

 

 

「助かったわ、霊夢」

 

「まさかスキマに閉じ込められるなんてね。

 他のは手遅れだったみたいだけど」

 

「…………それも、何度もあったことかしら?」

 

「さぁ、どうかしらね?

 で、あなたたちは何をする気なのかしら?」

 

 

5人が顔を合わせる。

 

 

「「「「守るだけ(です)よ!」」」」

 

「ウォォォォン!!」

 

 

センがオレを背中に乗せ、

靈夢と霊夢がオレの横に浮かぶ。

 

 

「待っ、てくれ………!

 なんで、逃げないんだよ………!!」

 

「馬鹿言ってんじゃないわよ、

 死にそうな奴を見捨てるような人じゃないのよ」

 

「博麗の巫女として、

 いつも通り人間を守るだけよ」

 

「家族を見捨てることは出来ませんから」

 

「私たち、友達でしょう?」

 

「ワフッ!」

 

 

その言葉に、八雲紫は無表情で扇子を開く。

弾幕が発射される。

 

 

「殺しはしないわ、死の淵を見せてあげる」

 

 

センが走り出し、

博麗の巫女の二人が横でセンを守るように

弾幕を消していく。

 

水神と花の妖怪がそれぞれの力を駆使して

幻想郷の管理者と対峙する。

 

 

 

八雲紫()からの、逃亡戦が始まった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

逃亡戦


今回は少し短めです。




 

 

「逃げる当てはあるのか!?」

 

「取り敢えず魔界に向かうわ!

 神綺なら紫と戦えるし!」

 

「魔界!?」

 

「博麗神社の裏手の林に洞窟があるわ、

 そこの封印を解けばいける筈よ!」

 

 

幻想郷広いな………言っている場合じゃないか。

今も弾幕が飛来し、オレはセンにしがみつき、

巫女の2人が守ってくれている。

 

今は人里から博麗神社へ向かって走っている。

林を突っ切るルートだ。

 

 

「飛ばない方がいいわね、的よ」

 

「ミズ、幽香………!」

 

「他人より自分の心配をしなさ───!」

 

 

突如、弾幕が目の前に飛来する。

回り込まれた、いや違う!?

 

 

「残念だったな、逃がさんぞ」

 

 

目の前に現れたのは───妖狐だった。

確か………八雲紫の式と名乗っていた狐だ!

人里で会ったことがある!

 

 

「藍………!!

 しまった、忘れてた!」

 

「グルルルル………!」

 

「十二神将に博麗神社を包囲させた。

 魔界へ向かうのは諦めろ、お前たち」

 

「………あなたの主が何をしてるか分かってるの?」

 

 

靈夢の言葉に八雲藍は顔を少し曇らせる。

背後の弾幕は止まっている、

どうやら二人が奮闘してくれたらしい。

 

 

「…………私は紫様の式だ。

 あの方に従うだけに過ぎない」

 

「チッ、話の通じないやつね……!」

 

「霊夢、1人でいけるかしら。

 式神とはいえ十二神将、この狼だけじゃ無理よ」

 

「えぇ、すぐに突破するわ」

 

 

霊夢が藍の前に立ち塞がる。

 

 

「霊夢………悪い」

 

「酒代、これからタダでいいかしら?」

 

「生きてればな………お互いに」

 

「ぶっ飛ばすわ。

 覚悟しなさい、藍」

 

 

軽くえげつない約束をしたような気がするが、

霊夢が無事ならそれでいい。

 

藍を霊夢に任せ、

先に進もうと藍の横を抜けた瞬間。

 

 

「紫様を、頼む」

 

「え───」

 

 

そう、聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

博麗神社へ到達したオレたちは、呆然とする。

 

 

「…………ここまでするの、紫……!」

 

「酷い………」

 

 

八雲の家が、全力でオレを殺す気なのが分かる。

容赦など、する筈もなかった。

 

 

博麗神社が()()()()()場所。

最早、見る影もなく跡形もなく、消し飛んでいた。

 

 

「十二神将は…………」

 

「いないわね、藍の嘘みたい………───ッ!」

 

「!?」

 

 

靈夢が飛来した弾幕を御幣で弾き飛ばす。

今の弾幕は………まさか。

 

 

 

「な、んで…………」

 

「何故と、聞くの?

 安心なさい、殺してはいないわ。

 殺してない、だけ。そのうち死ぬけど」

 

「………………」

 

 

 

血濡れの霊夢を抱えた、八雲紫と八雲藍だった。

 

 

 

「霊夢が………負けたのね」

 

「甘いわ、人間が妖怪に勝てる筈がないのよ」

 

「…………」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

防衛戦

 

 

「…………霊夢」

 

「早いけど巫女も交代ね。

 新しい巫女を見つけないと。

 霊夢の処理は任せるわ、藍」

 

「……………はっ」

 

 

藍が霊夢を抱える。

処理………?

 

 

「その辺の妖獣の餌でいいわ」

 

「「!?」」

 

「──、───っ、はい」

 

 

明らかに藍も動揺している。

八雲紫…………!!

 

 

「ふざけんな!!妖獣の餌!?

  霊夢はお前らを慕ってたんだぞ!!」

 

「…………っ」

 

「ふぅん、()?」

 

「……………!!」

 

 

駄目だ。

コイツには、もう話を聞く気は………

靈夢が、前に進み出る。

 

 

「ソラ、霊夢をお願い」

 

「は!?お前───」

 

「出来ることをするのよ。今、私たちに」

 

 

靈夢が降り注ぐ弾幕を打ち返す。

オレは、センに跨がる。

 

 

「…………ごめん」

 

「………ワフ」

 

「いいのよ。生きて、行きなさい」

 

 

センが走り出す。

藍を追って、全速力で。

 

極光に飲まれる靈夢を置いて、林へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………すまん、霊夢……」

 

「させるかぁぁぁぁっ!!」

 

 

藍を見つける。

空から血を垂らし、妖獣たちを誘き寄せていた。

異形、異形、異形が、集まっていた。

 

吠える。

地面に落とされる霊夢を

センから跳んで抱き抱える。

 

それを見た藍が弾幕を放とうと構える。

 

 

「………」

 

「セン!!」

 

「ウォォォン!!」

 

「づッ!?

 そうか、真神か……………!!」

 

 

淡い光を纏ったセンが藍と相対する。

オレは、周囲の異形の獣から霊夢を守らないと。

 

 

「グルルォォン!」

 

「チッ………!」

 

 

センが距離を取ってオレたちから離れてくれる。

心配だが、奴も手負いな筈だ。

 

オレは能力を発動、霊夢を寝かせる。

ここで霊夢を守り通す。

既にオレにターゲットが移っている。

生きているものから襲うのは獣の性質だ。

 

 

「───気合い、入れろ。オレ」

 

 

八雲紫が呼び寄せたのか、

それとも博麗の血、その復讐に飢えているのか。

数は500を越えているだろう。

 

でも。それでも。

────────守る。守りきるために、吠える。

 

 

 

 

 

 

 

「お、ああああああああああッ!!!」

 

 

飛びかかってくる異形の口に手を入れ、

地面に叩きつけ、追撃に頭へ拳を撃ち込む。

 

背後から迫る異形を蹴り飛ばし

手を胸に突き立てて心臓を握り潰す。

 

二匹同時に挟み撃ちを仕掛けてくる異形の

頭を掴んで撃ち合い、潰す。

 

 

「ぐ………ぎっ!」

 

 

 

 

 

数が多すぎる。

肩へ噛みつかれる。

 

 

 

肩へ噛みつく異形を引き剥がし、

首を引き千切る。

 

その死体を振り回して一掃し、

死体ごと一匹を押し潰す。

 

蹴り上げ、地面に落ちた所で

頭を踏み潰す。

 

 

「ぐがぁ、っ、っクソが!!」

 

 

 

 

 

再生が追い付かない。

腹に食らいつかれる。

 

 

 

首を手刀で切り落とす。

 

飛びかかられ、押し倒してきた異形の

首へ噛みつき、脈を噛み千切る。

 

立ち上がり、回し蹴りで

異形の頭を吹き飛ばす。

 

 

「ぐ…………ぁ」

 

 

 

右足を食い千切られる。

再生する。まだ、立てる。

 

 

 

脇腹が引き裂かれる。

まだ立てる。

 

 

指が折れる。

まだ、殺せる。

 

 

耳が千切れる。

まだ聞こえる。

 

 

 

まだ、まだ戦える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、何時間、経過したか。

 

 

 

 

 

─────魂が、磨耗して。

 

全身が、悲鳴をあげる。

 

 

 

力が全身から抜け、血を吐く。

 

 

 

 

 

 

隙を晒してしまう。

勿論、異形の妖獣どもが見逃してくれる筈もない。

 

 

「く………」

 

 

死ぬ。

獣の爪が大きく振り上げられ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇が、異形の獣たちを肉塊へと変えた。

 

 

「───!?」

 

「無茶ばかりするわね、あなたは」

 

 

現れたのは、金髪の赤いリボンをつけた少女。

それが異形を弾幕で一掃する。

 

 

「ルー、ミア………!?」

 

 

宵闇の妖怪、ルーミアだった。

だが、あんなに身長は高くなかった筈だ。

 

 

「300年、待ったわ。

 やっと希望が来てくれたんだもの」

 

 

巨大な十字架を模した大剣を一閃、

異形たちが瞬時に切断され、

血の華を咲かせた。

 

 

「この好機、逃しはしない」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

撤退、そして決戦前夜

 

 

 

「300、年………!?」

 

「意識をしっかり持ちなさい。

 ここで死んだら本当に終わりよ」

 

「何、を───」

 

 

弾幕が展開、一瞬で全ての妖獣が焼き払われる。

ルーミア、こんなに強かったのか。

 

 

「フッ、フーッ………!」

 

「セン!?」

 

 

茂みの奥から背に動かない藍を乗せた

キズだらけのセンが出てくる。

勝ったのか!?

 

 

「無事か、真神の名は伊達じゃないのね」

 

「ぐ………っ、まさか、遅れをとるとは………」

 

「っ!?」

 

「迷えば死ぬわ、生きているだけマシでしょう?」

 

「……………あぁ」

 

 

藍が懐から見覚えのあるリボンを取り出す。

あれは────

 

 

「全て、話す…………マヨヒガへ、行くぞ」

 

「この後に及んで足掻く、って訳じゃないわよね」

 

「なんだ、なんの、話を……」

 

「撤退するのよ。

 藍は今は味方してくれるってこと。

 霊夢は…………ちゃんと守ってくれたのね」

 

 

ルーミアが霊夢を抱き上げる。

藍はフラフラとセンから降りて立ち上がり、

リボンでスキマを開く。

オレはセンに咥えられ、背中へ乗せられる。

 

 

そして、スキマへと入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スキマを出る。

 

そこは、霧がかった集落のような場所だった。

集落の外は霧が濃すぎて見えない。

 

あとは…………人の、妖怪の気配がしない。

 

 

 

「こ、こは………」

 

「マヨヒガ、八雲家がある場所よ」

 

「は………!?」

 

「安心しろ、もう私はお前たちの敵じゃない」

 

 

集落の一際大きい家、その隣へと入る。

すると、その中から化猫が出てくる。

 

 

「藍しゃま!?

 その傷はどうしたんでしゅか!?」

 

「………橙、客人だ、薬箱を取ってきてくれ」

 

「わ、分かりました!」

 

 

(ちぇん)と呼ばれた化猫は

そそくさと家の中を走っていく。

 

 

「藍の式よ、今は少し休まないと」

 

「……………」

 

「………二人のことは、すまなかった」

 

「…………っ………いや、いい。

 多分、そうしないといけなかっただろうから」

 

「そう言ってくれると、助かる」

 

 

家へあがり、藍と別れる。

寝室のような部屋へ案内され、

ルーミアに布団へ投げられる。

 

 

「いってぇ!?」

 

「我慢しなさい、能力で治るんでしょう」

 

「…………まぁ、そうだが」

 

「私はあの真神と霊夢の応急処置へ行くわ、

 紫に勝てるのはソラ、貴方しかいないのだから

 休める時に休みなさい」

 

「…………後で聞かせろ、色々」

 

「嫌でもそうしてもらうわ」

 

 

そう言ってルーミアは襖を閉める。

 

 

…………八雲紫に勝つ、か。

 

 

「その時は、その時か…………」

 

 

疲れていた。

目を閉じ、泥のように眠る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────さぃ、

 ────────起きなさい」

 

 

ベシベシと頬を叩かれ、

無理矢理に意識を覚醒させられる。

 

 

「…………もうちょい優しく起こしてくれよ」

 

「冗談言える程度には休めたようね」

 

「冗談じゃねぇほど痛いからな………」

 

 

まだ身体がズキズキするし。

あーもうむっちゃ噛まれたなぁ………

そんなことを考えながら起きる。

 

ルーミア、藍、センがいた。

 

 

「早速だが良い知らせと悪い知らせだ。

 悪い………いや、良い知らせになるのか、

 靈夢、先代博麗の巫女が倒された」

 

「…………どうなった」

 

「今は応急措置してある。

 無論、紫様には気づかれぬよう」

 

 

ホッとする。

良かった…………

 

 

「悪い知らせ、2つ目だが………」

 

「まだあんのかよ」

 

「1つとは言っていない。

 …………マヨヒガが封鎖された。

 紫様以外に我々はここから出ることができない」

 

「…………」

 

「つまり、我々がマヨヒガに

 潜伏していることに気づかれた」

 

 

やっぱり、か。

………………待て、今は、何時だ?

 

 

「オレは何日寝てた!?」

 

「3日よ。随分と疲れてたみたいね。

 身体(からだ)精神(こころ)も」

 

「3日…………!?」

 

「お前が寝ている間に幻想郷が

 紅魔異変が起こる前に戻された。

 お前を覚えているものは私たち以外にはいない」

 

「…………、っ………クソッ!!」

 

 

3日も寝てたのかオレは…………!

 

 

「八雲紫は屋敷で貴方を待ち構えてるわ。

 私も行ったけど、強力な結界が張られてた」

 

「…………行くのか」

 

 

立ち上がる。当たり前だ。

 

 

「行かないといけない。

 認められない、認めるわけにゃいかねぇ」

 

「マヨヒガからは外の世界に出られる。

 外の世界へ逃げ、身を隠すという手もある」

 

「逃げない。霊夢たちを

 駒みたいに扱うアイツは許したくない。

 それに、逃げたところでいつか見つかる」

 

「…………」

 

 

全員が黙る。

そして、ルーミアが沈黙を破った。

 

 

「なら、まだ座って聞いていきなさい。

 そのままでは紫にその信念ごと砕かれるわよ」

 

「今更聞くことなんて………」

 

 

そこまで言って、唖然とする。

藍が、額を床につけていた。

 

 

「頼む。聞いてくれ、聞いて欲しい」

 

「…………わかった」

 

 

夜風が、恐ろしいほどに穏やかだった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

セン


今回、衝撃の事実が発覚します。



 

 

息を整える。

屋敷の前でオレは扉を睨み付ける。

 

 

「ワフ………」

 

 

センが心配そうにこちらを見つめてくる。

結界の向こうには、

どうやらオレしか行けないようだ。

 

屈み、センと目線を合わせる。

 

 

「…………店、頼んでいいか?」

 

「…………」

 

「ミズ1人だと、寂しいだろうからさ。

 女子同士、仲良くやってってくれよ」

 

『…………はい』

 

「シャベッタァァァァァ!!!?」

 

『空気読んでくださいよ!?』

 

 

喋れたんかいお前。

真神って狼の神だし………

まぁ喋れても不思議じゃないか。

 

 

『もう………空気大事ですよ、場の空気』

 

「わかったよ。いいじゃん、多分オレ死ぬし」

 

『空気読んで不吉なこと言わないでください』

 

「死亡フラグ立てるよりマシじゃね?」

 

『…………まぁ、そりゃそうですけど』

 

「帰ったらステーキご馳走するよ、ありがとな」

 

『そういうとこですよ!!!』

 

 

以外とツッコミの上手いセンと笑う。

だが、いつまでもこんな時間は続かない。

 

立ち上がる。

 

 

『…………行くんですね』

 

「あぁ、行ってくる。

 みんなによろしく………っても、

 オレを覚えてるヤツなんていないか」

 

『安心して下さい、

 貴方は私が覚えてますから。

 絶対に忘れたりなんかしませんよ』

 

「えっ唐突にヒロインムーブ入ってきたよこの子」

 

『決戦前に頭食い千切られて死にたいんですか?』

 

「ごめん許して」

 

『許しましょう』

 

 

見事にフラグが建設された気がする。

あ、センのヒロインフラグな。

動物も意外とアリかな、とか思ってる。

 

 

『止めてくださいその顔。気持ち悪い』

 

「酷いわーウチのペットひどいわー」

 

『そんな顔するからです。

 やっぱり食い千切られたいんですか?』

 

「いやホントやめて

 戦う前に死ぬとか洒落にならんし」

 

『……………戦う前に、ですか』

 

 

センが不安そうな顔をする。

そして、俯いた。

 

 

 

 

 

 

『……………逃げてくれない、ですよね』

 

「…………」

 

『本音を言うと、ですね。

 …………………私は貴方と逃げたい。

 貴方を………死なせたくない』

 

「そっか」

 

 

センの頭を軽く撫でる。

ふわりとした毛並みが、心地良い。

 

 

『これでも神ですし、知ってるんですよ、私。

 貴方は、()()()()()()()()()()()()()

 こうやって喋ってられるのもギリギリですよね』

 

「バレてた?」

 

『えぇ、前に閻魔大王

 ………四季 映姫さんが来ましたよね』

 

「……………なーる、そういうことか。

  全部言いやがったからな、あの人」

 

 

ウチの店によく小町がサボりで訪れていたが、

その時に連れ返しに来ていたのが、

四季映姫・ヤマザナドゥ。閻魔大王の1人だ。

 

その時、オレは初対面で、無言で顔を殴られた。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

『ちょっ、四季様!?』

 

『っ、何しやがる!!』

 

『……………貴方、名乗りなさい』

 

 

酷く嫌悪感を露にされ、

更に凄まじい威圧感を感じる。

店にいた誰もが震え上がるほどに。

 

 

『………ソラだ』

 

『……………私は四季映姫・ヤマザナドゥ。

 そんなボロボロの魂は本来現世に

 あるべきではありません。

 小町、即刻、彼を地獄へ送りなさい』

 

『…………四季様、ソラは生きておりますが』

 

『それでも、です。本来死ぬべきことを

 根性だけで現世に保っていられるなんて………』

 

『ちょっと待て、なんの話だよ!?

 オレ生きてんだけど!?』

 

 

生きてるんだけど。

 

 

 

 

 

 

その間のやり取りは省かせてもらうが、

なんとかオレは(30分くらいかけて)映姫を

説得することに成功した。

 

 

 

『…………ですが、何故そんなボロボロの魂に?』

 

『オレ魂見えねぇよ』

 

『文字通り、魂を削るような行為をしなければ

 そんなことには滅多にありません。

 在り方を言えば、どんな罪人よりも醜いですよ』

 

『ナチュラルに口悪くない?』

 

 

ともあれ、そんな行為は控えるように、

とだけ言われ、オレは許された。

 

彼女が小町を引きずって店から出ていく時、

最後に、というように振り向く。

 

 

 

 

『1つ、忠告させて頂きます』

 

『ん?』

 

『その行為を続け、魂が砕けるような

 状況に陥った時。貴方は輪廻の輪に

 行くことなく、魂ごと消滅するでしょう』

 

『───了解、気を付けるよ』

 

『これは特例、努々(ゆめゆめ)、それを忘れないよう』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

「隠し事は得意だったけど

 全部言いやがって…………閻魔怖い」

 

『……………』

 

「お前、どんな顔してんのか、オレにも分かるぞ」

 

『………やめましょう』

 

 

唐突に、彼女はそんなことを言い出す。

そして、センは涙を流しながら顔をあげた。

 

 

『逃げましょう、私と。

 どこまでも、貴方を背に乗せて走りましょう。

 そして何からも逃げて………それで』

 

「やめろ」

 

『…………………』

 

「虚しくなるだけだよ、そんなの。

 逃げたところで、オレはもう手遅れだしな」

 

 

時間稼ぎにしかならない。

 

本当は、目は霞み、手は震え、足はふらつく。

だけど、だからこそ。

 

 

「オレにしか、できないことをやりたいんだ。

 時間はまだ残ってる。全部終わらせて、

 またセンに会いに来るまでの時間も」

 

『………………本当に、貴方はバカです』

 

 

腰を屈めて、センと顔を合わせる。

酷い顔をしていたと思う。

 

 

『…………頭が悪くて、無駄に正義感はあって、

 他人に頼ってばかりで、空気が読めなくて、

 無茶ばかりして……それでも、諦めが悪くて』

 

「……………悪かったよ」

 

 

 

苦笑いを浮かべる。

 

 

 

 

『料理は本当に美味しくて。

 無茶は他人のためでしかなくて。

 私にセンという名前をくれて。

 優しく、撫でてくれて』

 

「………………」

 

『神で狼なのに、私はそんな貴方が好きなんです』

 

「うん」

 

『どこまでも自分が正しいと、

 自分を生きる貴方が好きなんです。

 絶対に負けない貴方が、好きなんです』

 

「…………告白かよ、こんな時に」

 

『貴方の優しい手が好きなんです。

 雑でも、優しくても、

 私は貴方に撫でられるのが好きなんです』

 

 

………………

 

 

『私は……………貴方を、死なせたくない………っ』

 

「ごめんな」

 

 

その言葉に、感謝と、無念と、謝罪を込める。

そして、センの好意を突き放す。

 

 

「もう死ぬ人間に、そういうのは困るよ」

 

『……………っ、私は───』

 

「だから、必ず帰ってくるからさ。

 待っててくれ、オレたちの家で」

 

 

立ち上がり、センの頭をわしゃわしゃ撫でる。

 

 

『………………待ってますから。

 1年でも、100年でも、1000年だろうと』

 

「ありがとな。

 それじゃ────」

 

 

 

扉へと、歩みを進める。

最後に、振り返って。

 

 

 

「行ってきます」

 

『はい………………行ってらっしゃい』

 

 

最高の笑顔で。

 

 

扉の先へと進む。

 

 

 






衝撃の事実。

メインヒロインはセンだった………?



次回、『決戦、八雲紫』

物語は終わりに向かいます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決戦、八雲紫  序

 

 

「…………やっと来たわね、待ちくたびれたわよ?」

 

「待たせたな…………なんてな、

 お前は別にオレを待ってたわけじゃねぇだろ」

 

「あら、気づいてたのね」

 

 

扉の中は、部屋が無数にある巨大な空間。

入ってきた扉は消滅、壁になっていた。

 

入った場所のオレが立っている先、

幾つもの部屋を経由した、

かなり遠くに八雲紫はいた。

 

 

「待っていた、つーか………

 向かってきた、っていう方がいいのかね」

 

「えぇ、細工は得意でして」

 

「ケリをつけに来た。オレはお前を止めて

 幻想郷の廻りを終わらせて先へ進める」

 

「私は貴方を殺して幻想郷を廻す、と。

 ここまで対立できるなんて、人間って怖いわね」

 

「……………」

 

 

八雲紫はパチン、と扇子を閉じニヤリと笑う。

 

 

「そうねぇ、1つ、お話でも如何(いかが)?」

 

「別にいいけど?」

 

「貴方は………戦について、どう思うかしら?

 戦争、闘争、戦闘、戦い、争いについてよ」

 

 

やはり、そうか。

あの話の通りというわけだ。

 

 

「…………わからない」

 

「………ふぅん、下らない、とは思わない?」

 

「時には大切だ、とは思うけど。

 下らない戦いは確かにあるよ」

 

「そのせいで死人が出るのよ?

 尊い犠牲と貴方は切り捨てるのね?」

 

「いや、違う。

 犠牲に尊いものなんてない。

 犠牲なんて、哀しいだけだし」

 

「そうね、貴方は起こると分かっている

 戦いを知っているならどうするかしら?」

 

「そりゃ止めるさ」

 

「でしょう?」

 

「でも」

 

 

藍から話を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

『紫様は、争いのない幻想郷を目指している。

 誰も傷つくことがない世界、それが理想だと』

 

『………は?』

 

『だから、その為に紫様は幻想郷を廻している。

 異変も起こらず、起こったとしても誰も

 傷つくことがないよう、紫様は動いているんだ』

 

『それ………矛盾してるだろ。

 八雲紫は、霊夢を……………』

 

『だから、霊夢は適切な

 巫女じゃないと切り捨てようとしていた。

 争いを力で納めようとする霊夢は

 この世界、幻想郷に必要ないから』

 

『…………だったら、霊夢は

 まだ廻っていなかった、のか?』

 

『あぁ、先代の巫女の靈夢も同じだ。

 先代の巫女は紫様の力で世界から

 外されたことに気づいて……………

 …………………………………………自ら、命を断った』

 

『…………靈夢、が、自殺したのか………!?』

 

『博麗の巫女は前代が幼少期に教育する。

 紫様もそれには必ず関わるから、

 博麗の巫女は紫様を悪く思うことができない。

 だから自殺などしたのだろう…………………

 しかしそれが切っ掛けとなって、紫様は狂った』

 

 

狂った、か。

きっと、靈夢だけじゃないんだろう。

 

 

『…………自身の理想のためだと言って、

 不要な存在を次々と排除するようになった。

 例として………幻想郷には、男が少ないだろう?』

 

『…………そういえば、そうだな。

 聞いた話だと、十分の一、いないんだろ?』

 

『昔の話よ、幻想郷で

 1人の男を巡って争いが起きたの。

 紫はそれを危惧して、男を幻想郷で虐殺したわ』

 

『…………酷いな』

 

『ルーミア』

 

『分かってるわよ。私は紫とは古い仲でね。

 私もね、ある博麗の巫女と仲良くなったのよ。

 ………その時、紫は私に言ったわ、

〝妖怪と人間は相容れないモノよ〟ってね』

 

『え、それ、は』

 

『紫様は、完全に狂ってしまったんだ』

 

 

 

自己矛盾の果てに、

自分自身の世界を否定し始めた。

 

 

 

『妖怪と人が共に手を取り合って生きる世界。

 それが目的で紫様は幻想郷を創ったんだ、

 そう、創った筈だったんだ………………っ!!』

 

 

 

頭を抱え、藍は涙を流す。

八雲紫に従っていて、彼女は、

どれほど残酷なものを見たのだろうか。

 

 

 

『頼む………お前を傷つけた身で言うのは

 おかしいだろうが、頼む、ソラ………!!』

 

『私からもお願い。紫を止めて。

  私たちは、先へと進むべきなのよ』

 

 

大きく、頷く。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八雲紫、お前は…………貴女は、間違ってる」

 

 

「……………やめて」

 

 

「気づいたんだ。貴女も、もう気づいている筈だ」

 

 

「やめなさい」

 

 

「どんなに世界を廻しても、繰り返しても」

 

 

「やめろ」

 

 

「世界はおかしくなっていくだけで、

 争いは決して世界からなくなることはない」

 

 

 

断言する。

八雲紫、その在り方、その全てが間違っていると。

 

 

 

「違う………違う違う違う違う違うッ!!

 私は、間違ってなどいないッ!!!」

 

 

「0点だ、優しい馬鹿野郎。

 鉛筆削り直して、出直しやがれ!!」

 

 

「私が、私の理想が

 間違っている筈がないのよ!!!」

 

 

「だったら証明してやる!!

 人間も妖怪も神さえも!!!

 1人なんかじゃ何も出来やしないってな!!!」

 

 

 

能力を全開で発動し、走り出す。

空間を紫の弾幕が埋め尽くす。

 

 

 

 

八雲 紫(未来を捨てた者)ソラ(未来を見る者)の、

 

幻想郷の全てを賭けた、決戦が始まる。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決戦 八雲紫  前

 

 

 

八雲紫から紫の炎の弾幕が放たれる。

狂乱し、それは狙いを定めてはおらず、

部屋を破壊しながら弾幕は紫から円状に広がる。

 

それを姿勢を低く、倒れる寸前のような姿勢で

回避しながら全速力で紫へと畳を疾走する。

 

 

「私は───私は………っ!!」

 

「全部自分1人で考えるから

 狭い視野しか持てねぇんだよお前は!!」

 

「黙れ、黙れ………!!!」

 

 

弾幕が止まる。

スペルカードが来る!!

 

 

「結界……〝夢と現の呪〟!!」

 

 

藍とルーミアからスペルについては聞いている。

狂乱状態で何をしてくるか分からないが、

何とかするしかない。

 

一発当たれば即死、速度は矢並み。

使える切り札は1つ、後は自分の力で攻略の

難易度はルナティック以上の地獄。

 

 

「2つの破裂する大玉弾幕………!」

 

 

この2つの片方が追尾、片方が乱射。

ほとんど勘だが、右が追尾だと考え、

部屋を仕切っている襖を外して盾にする。

 

左の大玉に突っ込み、そして大玉が破裂する。

ラッキー。

高く跳び、大玉の弾幕を飛び越え、着地。

 

 

「次ッ!!」

 

 

次の大玉が来る。

なら次は左が追尾。交互になっている。

追尾してくる弾幕を回避し、

回避、回避、回避を繰り返す。

 

大玉を16回、避けきった!

 

 

「チッ………!小賢しい!!」

 

「自分のやりたいことを諦めねぇのは得意でな!」

 

 

また紫の炎の弾幕が放たれる。

速度が少し上がった。

そして八雲紫がまた後ろの部屋へと大きく下がる。

埒が明かないな…………!

距離をつめてもどんどん突き放される。

 

藍の話だが、八雲紫は境界を操作する。

弾幕を通してでもそれは発動するらしく、

掠りでもすれば終わりは確定だ。

 

 

「この空間で、惑いなさい!!」

 

「!?」

 

 

空間が歪み、

なんと先の部屋の天井が下になっている。

その先も同様で、畳が左や右になっていた。

まさか、重力を弄りやがったのか!?

 

 

「私の理想が崩れることはないのよ!!

 世界調律、〝不定なる空間と重力〟!!」

 

「く──!?」

 

 

部屋を抜けた瞬間、下から上に重力が切り替わる。

前の部屋では天井だった畳に背中から

叩きつけられるが、即座に転がって立ち上がり、

弾幕を回避する。

 

 

「結界………〝動と静の均衡〟!!」

 

「次のスペルか………!」

 

 

部屋を抜け、身体を捻って畳へ着地。

身体を不安定な重力に慣らしていると、

紫から大玉弾幕が発射される。

 

それはこちらを狙ったものではないが、

壁に着弾した瞬間、円を描くように

回転弾幕が発射される。

 

 

「全方向に注意するしかねぇって馬鹿だろ………!」

 

 

対策、とは言っても知っているだけだ。

知っているだけであり、

それに対する手段は切り札くらいしかない。

だからと言って、切り札を切ったら

絶対に後で死ぬことになる。

 

なら、魂を削る。

死ぬよりマシだ。

 

 

「模倣〝楽園の巫女の虹〟!!」

 

「!」

 

 

手に現れた御幣を構え、霊夢の夢想封印を放つ。

七色の光の弾幕がスペルを強制封印、

スペルカードを無理矢理終わらせる。

 

 

「っ、か、は…………っ!」

 

 

息が詰まる。

脳内がグチャグチャに掻き乱され、

一気に真っ白になる。

 

恐ろしい虚無感。

気合いで意識を取り戻すが、部屋を抜けた瞬間に

重力変化で畳へ身体が叩きつけられる。

 

息を整え、立ち上がる。

弾幕が止まっていた。

 

 

 

 

 

「…………まだ、足掻くのね」

 

 

「何度だって立ち上がる。

 三度、落陽を向かえても、ってやつだ。

 宿題終わって安心しねぇと寝れないタイプでね」

 

 

「……………何が貴方を突き動かす、

  何故私の邪魔をするの………………!!」

 

 

「お前が間違ってるからだ。

 お前を止めて、改心するまで立ち上がってやる。

 しつこいぞ、オレは」

 

 

「私の理想は負けることはない!!

 貴方を殺して、永久に世界を廻す!!」

 

 

「そうやって答えから遠ざかってんだ。

 間違いを間違いと認めろよ、八雲 紫!!」

 

 

 

 

 

弾幕の色が紫から青の炎に変わる。

 

まだ、止まれない。

 

 

 

 

 

 

どれだけ不利だろうと、力の差があろうと、

彼は、敗けを認めるまで決して諦めることはない。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決戦 八雲紫  後

 

青い炎と同時に撃たれる紫の炎を掻い潜り、

重力に身体をあずけ、疾走する。

唐突に弾幕が止まり、

部屋の壁に無数のスキマが開く。

 

 

「またスペルか………!?」

 

「結界、〝光と闇の網目〟!!」

 

 

スキマから赤と青の光の線が一直線に出現する。

と思った瞬間、スキマからレーザーが発射される。

 

 

「っ!!」

 

 

ギリギリで部屋を抜け回避。

重力を流して着々、だが

その次の部屋にもスキマが開いていた。

 

 

「おいおい、マジか………っ!」

 

 

同時に八雲紫からの弾幕も飛来する。

この限られた空間で弾幕まで避るのかよ!?

 

スペルは一回きりとはいえ、これではジリ貧。

こちらが立ち止まった瞬間にも八雲紫は空間を

拡張しどんどん距離を離される。

 

スペルも聞いていたのだけで凄まじく多い。

完全にラスボスだなこりゃ。

 

 

「とか、言ってる場合じゃねぇか!」

 

 

レーザーと弾幕を避けるのだけで地獄なのに

その速度があがる近距離まで

接近しないといけない。

 

模倣スペルで超長遠距離攻撃する手もあるが、

スキマに吸収、反撃されるのが確定する。

 

 

「……………やるしかないか」

 

 

極限まで意識を弾幕と熱線に集中させる。

その間を抜けて八雲紫まで一気に

接近するルートを探る。

 

先の部屋の向きから重力の向きを判断、

覚悟を決める。

 

 

「賭けの時間だ、行くぞ!!」

 

 

手足に能力を集中、紫電を纏う。

スキマから熱線の線が出る前に速攻で。

 

畳を蹴り、レーザーの間を抜け、

弾幕を壁を蹴って避ける。

走ってダメなら蹴って速度を一気にあげる。

 

 

「っ!?」

 

 

レーザーが発射されるより早く部屋を抜け、

弾幕は厚くなるが狙いが定まっていない。

軽く避け、そしてその部屋を抜けて

八雲紫に接近する。

 

 

「ぶっ飛べ!!」

 

「ぐ、ぁ!?」

 

 

蹴り飛ばす。

大きく後退させたが、ダメージは与えられた。

一撃で倒せるほど甘く見てはいない。

 

こちらも、倒せるか不安になってきたが。

 

 

「……ふっ、でも、まだ浅いわ」

 

「ご、ふ………っ、はぁっ、はぁっ、

 ち、くしょう、持ってくれよ、オレの身体……」

 

 

凄まじい嫌悪感、血を吐く。

身体中の傷が開き、血が噴き出す。

………不味い、眩暈がする。

 

膝をついてしまう。

 

 

「ここまでのようね」

 

「はっ、まだ、立て、るぞ………」

 

「やはり人は妖怪には勝てないのよ、

 それは絶対に覆すことの出来ない事実」

 

 

違う。まだ、まだ終わっていない。

終われるか、こんな場所で。

 

 

「たとえ貴方が運命を覆す力を以てしても、

 そこに限界はないとは限らないのよ」

 

「力じゃねぇ………根性だ……

 確かにオレは力に頼ってるけど、

 まだ終われねぇんだよ、約束したからな……!!」

 

 

藍とルーミアに頼む、と言われた。

靈夢に出来ることをするのよ、と言われた。

センに必ず帰る、そう約束した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今までもそうだった。

誰かの声が聞こえたんだ。

 

悲しい声がして。

オレはそんな声を聞きたくないから、

立ち上がったんだ。

 

 

 

紅魔館でも、白玉楼でも、あの森でも。

 

 

 

いつかどこかで、悲しい声がした。

誰かが泣いていた。

 

 

今も、聞こえるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「声が、聞こえた……」

 

 

 

そうだ、見捨てられないんだよ。

泣き声が聞こえなくなるまで、立ち続けるんだ。

 

同じだった。

染み付いてるんだ、幻想郷の、どこにいても。

同じ泣き声が、聞こえる。

 

 

 

「お前の声だ…………八雲 紫」

 

 

 

立ち上がる。

そうだ、あの白玉楼の夜に見た、

炎と屍の山の上に立って泣く少女の夢。

 

 

 

「何を…………」

 

「スキマ妖怪…………

 人の姿をした、ただ1人の妖怪。

 元から妖怪なら、

 見た目に何かしら特徴があるんだ」

 

 

わかさぎ姫、小傘、文、椛など、

最初から妖怪だったなら、何かしら特徴がある。

 

だが、元人間は一見、人にしか見えない。

慧音さん、一輪、芳香とか。

 

そうだ、

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「聞いたことがあるんだ………ごく稀に

 ()()()()()()()()()()()()()()()って」

 

「……………」

 

「半妖とか、そうらしいけど。

 八雲紫、お前、妖怪でも人間でもねぇよな」

 

「…………、……………………黙りなさい」

 

 

歯軋りの音が聞こえる。

だが、止めるつもりはない。

 

 

「何にもなれなかった、はみ出し者、ってとこか」

 

「黙れ」

 

「人間だから霊力もあった。

 霊夢はお前に霊力の扱いを教えてもらった、

 って言ってたんだ。

 妖怪がそんなこと出来るとは思えなかった、

 だけど、やっと納得がいったよ」

 

 

八雲紫は、何からも外れた存在。

妖怪、人間、神の境界にある者だ。

 

だからこそ、境界を操ることも容易なこと。

 

 

 

「やっと見つけた。

 泣き声は、お前の声だったのか」

 

「……………」

 

「ずっと気になってたんだ。

 オレ、妖怪の気みたいなのに敏感でな。

 お前の気配、全く感じなかったから」

 

 

 

彼女は、迫害され続けた少女の成れの果て。

 

だからこそ、全てにおいて達観し、

神すら恐れる力を持っていた。

 

 

何故戦う、お互いに傷つけ合うことに

一体何の意味があるの、と泣いていた。

 

 

だからこそ、自分自身も含めた全てが

幸せになれるように願い、幻想郷を創った。

 

言うなれば、幻想郷そのものだ。

 

 

 

「優しさは、一線を越えたら暴力だ。

 優し過ぎんだよ、お前は」

 

 

 

あー、やる気なくす。

家燃やされた時点では悪意しかなかったのに。

 

裏を返せば幸せを願う乙女とか。

笑うしかねぇよ、こんなの。

 

 

「黙れ!!

 貴方に私の何が分かる!!」

 

「知るか」

 

「は、ぁ!?」

 

 

レミリアとの時も言ったなぁ、と思いながら、

そう断言した。

 

 

 

 

「お前の努力も、願いも、オレは知らねぇ。

 だけどな、その結果が間違ってたら

 間違いだって言うのが何も知らねぇ他人だ」

 

 

「…………ッ!!」

 

 

「オレは幻想郷に来て良かったと思ってる。

 何度も死にかけてでも、それでも楽しいから。

 幻想郷で色んな人たちと会えたから。

 ……………でも!!」

 

 

「ふざけるな…………!!」

 

 

「幻想郷を廻すのは間違ってる。

 指摘してやる奴はいなかったんだろ?

 ならオレが、何度でも言ってやるよ!!」

 

 

 

 

 

全身全霊、立ち上がって叫ぶ。

 

これが、八雲紫にとっての

最初で最後の真の理解者だった。

 

 

 

 

 

「お前の幻想郷は、間違ってる!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫は泣きながら、それを否定する。

「私は間違ってない」と。

 

心の底では気づいていても。

叫ぶ、自身のやってきたことは無駄ではないと。

 

 

それでも彼は、血を拭って立ち上がる。

 

 

 

「なら教えてやる、

 幻想郷は、人も、妖怪も、神も!!」

 

 

 

涙が、止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「間違いを通り抜けて!!!

 未来へ、その足で進んで行くんだ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

違う、と八雲紫は弾幕を張る。

 

 

 

 

 

 

 

「間違いだって認めろよ!!!

 八雲 紫!!!」

 

 

 

最後の力を振り絞り、彼は走り出す。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決戦 八雲紫  了

 

 

 

「違う………違う違う違う!!

  結界〝生と死の境界〟!!!」

 

「いい加減にしろよ………!!」

 

「あ、ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

八雲紫が空間ごと遠ざかっていく。

更に部屋の間にあった襖が次々に閉まっていく。

先の部屋の重力が分からない。

 

こちらは既に限界。

…………覚悟はしていたが、仕方ない。

時間がない。突っ切る!!

 

 

「模倣〝魔法使いの熱光線〟」

 

 

八卦炉を模倣で作成、前に構える。

爆風と共に魔理沙のマスタースパークが発射され、

襖を破壊、弾幕を飲み込み

部屋を破壊し重力変化を解除する。

 

左腕が、焼け焦げた。

 

 

「づっ………次!」

 

 

次々に迫ってくるのは、蝶の形をした弾幕。

白玉楼で見た、命を奪う蝶だ。

 

ならば。

走り出す。

 

 

「模倣〝半霊の浮世断つ剣〟」

 

 

腰に出現した刀を鞘から抜き放ち、

全速力で壊れた部屋を疾走する。

 

飛来する蝶を、ほぼ無意識で斬っていく。

一匹残せば背後を取られる。

故に一匹残らず断ち斬る。

 

 

左腕が、肩から落ちる。

 

 

 

 

「まだだ………!」

 

 

右手はまだ動く。

銀のナイフが出現した。

弾幕を全て撃ち落とす。

 

 

「瀟洒な従者の短刀秘技」

 

 

ナイフを投げる。

瞬間、ナイフは全ての弾幕に狙いをつける。

全ての弾幕が破邪の銀ナイフに破壊された。

 

 

右腕に、無数の深い切り傷が刻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ、終わらないわ!

 奥義〝弾幕結界〟!!!」

 

 

来た。

八雲紫の、ラストスペル。

腰から、それを抜く。

 

翡翠の輝きを放つ札。

弾幕そのものが込められたスペルカード。

 

 

「お人好しはお互い様だな、幽香」

 

「!?」

 

 

跳躍し、弾幕結界と対峙する。

決して逃れることのできない、八雲紫の奥義。

 

だが、打ち消すくらいならできる。

切り札だ。

 

 

 

 

 

 

「花符〝幻想郷の開花〟」

 

 

 

 

 

 

空中に、鮮やかな華が咲く。

全自動ターゲットロックの弾幕。

 

幻想郷の開花、とは大袈裟だと思ったが。

 

 

 

「友達、だったんだろ。

 これは幽香が夢見た、幻想郷だ」

 

 

 

八雲紫の旧友だと、そう聞いた。

なら、これに込められた意味も、オレより。

 

 

 

「気づく余裕なんて

 なかったけど、今気づいた」

 

 

 

同じ花が咲いていない。

全て、違う花だ。

 

 

 

「皆が同じなんてことはない。

 だけど、こうやって共に咲くことはできる。

 争うことは皆が違うからできることで、

 争いのない世界なんて存在しないんだよ」

 

 

 

花の弾幕が、結界を破壊する。

 

 

 

「完璧なんて存在しない。

 それは悲しいことだけど。

 それでも、オレたちは前に進むんだ」

 

 

 

辛い未来を乗り越えて。

それを笑って話せる過去にするんだ。

 

 

ボロボロの右手で、スキマへ逃げようとする

八雲紫の胸ぐらを掴む。

 

 

 

「ぐ、ぅ………っ!!」

 

「思い出せよ、お前が、

 どんな気持ちで幻想郷を創ったのか!!!」

 

「…………!」

 

 

叫ぶ。

右手を離せば逃げられる。

左手は既に落ちた。

 

だが、まだだ。

 

 

 

「全ての命が、誰にも、

 忘れられないようにするためだろうが!!!」

 

 

 

幻想郷の別名は、忘れられた者たちの楽園。

 

名前とは、意味。

外の世界で忘れられた者たちは、

幻想郷に訪れるのだという。

 

外の世界で、忘れ去られた名前(意味)は、

こちらの世界で認知され、生き続ける。

 

 

この世界は、残酷で、優しい世界だった。

 

 

 

「人間も、妖怪も、神も。

 この世界だからこそ、生きていけるんだ」

 

 

 

身体に残る全ての力を振り絞る。

視界が、青い光に照らされる。

 

 

 

「未来は、誰にも分からない。

 分からないからこそ、次はああしよう、

 こうしよう、って歩みを進めていくんだ」

 

 

 

それを、誰かが決めるとするなら。

その誰かは、間違ってる。

 

 

 

 

「それが、オレたちの未来。

 未来から目を逸らすな。

 過去を恐れるな。

 お前も、オレたちも、今を生きるんだ!!!」

 

 

 

紫電がスパークする。

そして、額を紫の額へぶつける。

 

 

 

「今を生きろ、八雲紫!!!!」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

終わり

 

 

 

 

落ちる。

 

紫から手を離し、背中を畳に打ち付ける。

そして、気づいた。

 

 

「オレの、負け、か」

 

 

しかし、反応はない。

ただ、やったことは、確かだ。

無理矢理に身体を起こし、

壁へもたれかかる。

 

 

目の前には、紫が立っていた。

 

 

「あと、ちょっと、動ければ、なぁ………」

 

「…………………その必要はないわ」

 

 

涙を流して、彼女はそう言った。

 

 

「私の、負けよ」

 

「…………そうか、オレ、勝ったのか」

 

 

もう、笑うだけで精一杯だった。

彼女が清々しい泣き顔だったのが、救いだった。

 

 

「…………許して、とは言わないわ」

 

「そうだな、許すし」

 

「え………?」

 

「幻想郷、好きなんだろ?

 オレも紫が創った幻想郷が好きだからさ。

 ここを創ってくれて、ありがとう、紫」

 

 

目を見開いた彼女は、

その言葉に華のような笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あ………っ」

 

「ぐえっ!?」

 

 

紫も限界だったのか倒れる。

オレの上に。

 

 

「ごめん、なさい………もう……」

 

「大喧嘩だったからな………仕方ないよ」

 

「…………1つ、聞いてもいい?」

 

「どうぞ」

 

 

顔を上げた彼女の瞳は澄みきっていた。

 

 

「私、これから、どうすればいいかしら………」

 

「そうだなぁ………まずは、藍に謝れよ。

 多分、紫を一番心配してたのが藍だから」

 

「その後は………?」

 

「自分で決めろよ、言っただろ?」

 

「だけど………」

 

 

泣きそうな顔をするもんだから、

びっくりしてしまう。

 

 

「あぁもう、分かったよ。

 皆に謝って、それからウチで宴会しよう!

 また、集まって、な」

 

「うん……」

 

「それから、幻想郷を見て回れよ。

 スキマに引きこもって、見てないんだろ?

 楽しい場所、沢山あったからさ」

 

 

話す。

子供に言い聞かせるように、

幻想郷で、どんなことがあったかを。

 

笑い合って、改めて、思った。

 

 

 

 

彼女も、幻想郷が大好きなんだろうな、って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、そろそろ行かないと」

 

「え、まだ駄目よ、動けないでしょ?」

 

「行かないといけない場所があってな。

 もう身体は動くんだ、

 人里にスキマで送ってくれないか?」

 

「…………えぇ、分かった。

 それじゃあ、約束しましょう?」

 

「約束?」

 

 

彼女は、小指を差し出してくる。

それに、オレも小指を絡めた。

 

 

「宴会、するんでしょう?」

 

「…………そう、だな」

 

 

笑って、スキマに入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ………はぁっ、はぁっ………!」

 

 

人里の外に、スキマは開かれていた。

焼けた店の後は、残っていた。

 

だが、数十メートルの距離が、遠い………!

 

 

「行かないと、いけないんだ………」

 

 

動かない身体に鞭をうって、必死に歩く。

 

脳裏に、映姫との話が浮かんだ。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

 

『もし、貴方が能力の

 使いすぎで死亡した場合ですが』

 

『あぁ』

 

『魂は存在そのものです。

 貴方は自身の存在を削って戦っている。

 つまり、貴方が死んだ瞬間に』

 

 

 

 

 

 

『貴方の存在は輪廻の輪から外れ、

 その世界にはいなかったことになります』

 

 

 

影響は少なからず、残りますがね。

と、そう言っていた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「約束したんだ………!

 必ず、帰るって………!」

 

 

視界は既に靄がかかり、左手はない。

ふらつく足で、歩を進める。

 

 

「…ぅ……っ………!」

 

 

倒れる。

あと少し、手を伸ばす。

 

そして。

 

 

「…………お帰りなさい、ソラ様」

 

「ワフ」

 

 

涙が、零れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零れる涙を止めることなどどうでも良くて。

 

彼の伸ばした手を取る。

 

 

 

「ただ、いま…………

 わる、い、もう、ねむ、くて」

 

 

「……………はい。

 ゆっくり、お眠り下さい」

 

 

「……………クゥーン……」

 

 

 

 

 

彼は、笑顔を見せて。

 

 

 

 

 

「う、ん………おや、すみ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

目を閉じ、息を引き取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピローグ「未来」

 

夜もふけ、人里で居酒屋が開店する。

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

 

カランカラン、と鳴る扉に彼女は言う。

まだ客はいない。

この方が今日の最初のお客だ。

 

 

「…………へぇ、落ち着きのある居酒屋ね」

 

「昼は喫茶店、の方が良いかもですね。

 どうぞ、このお席に」

 

「ありがとう」

 

 

やって来たのは金髪の女性だった。

だが………彼女は妙な既視感を感じた。

 

 

「あの………失礼ですが、

 どこかでお会いしましたっけ?」

 

「………奇遇ね、私も貴女を

 どこかで見たことある気がするのよね」

 

「どこかですれ違ったのかも知れませんね」

 

 

不思議な感覚だった。

そして、妙な違和感。

 

そう、何か、足りないような…………

 

 

「ワフッ!」

 

「あっ、今行きます!

 すみません、少し外します!」

 

「えぇ」

 

 

バタバタと奥へ駆けていく青い着物の女性。

奥に行くと、大きな灰色の体毛をした狼が

どうやら皿を割ったようだった。

 

 

「あら、割っちゃったんですか?」

 

「ワフ……」

 

「大丈夫ですよ、私たち用の食器でしたし。

 ……………あれ、おかしいですね。

 食器、1つ余ってましたか?」

 

 

彼女の言う通り、食器が1人分多い。

彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()

しかもこの皿、使ったことがないような………?

 

 

「ワフ?」

 

「…………?

 あ、お客様を待たせてましたね」

 

 

彼女は床の皿を適当に片付け、

お客の元へと向かう。

 

どうやら客足も増えたらしい。

珍しいことに、紅魔館の吸血鬼がやって来ていた。

 

 

「久しぶりね。ワイン、入荷したんでしょ?

 折角だから味見をしに来たわ」

 

「あら、どこぞの吸血鬼じゃない」

 

「へぇ、珍しい。

 幻想郷の賢者もこんなとこに来るのね」

 

「お嬢様、立ち話も

 ですから、お座りになられては?」

 

「そうね、ワインお願いできるかしら?」

 

「はい、お持ちしますね」

 

 

彼女はワインのある蔵へと向かう。

そして、ふと、考える。

なぜ、ワインをうちで出そうと思ったのだったか。

 

…………ダメだ、思い出せない。

入手方も忘れてしまった。

 

 

「…………ダメですね、しゃきっとしないと」

 

 

頬を軽く叩き、ワインの樽を持ち出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確かに、彼は無かった存在として

魂が磨耗しきった結果、

誰の記憶からも消去された。

 

 

 

 

彼の行動は、誰の記憶にもない。

 

 

吸血鬼の狂った妹を救ったことも

 

川の汚染を止めたのも

 

一度死んで永遠亭に運び込まれたことも

 

白玉楼で剣士を手助けしたことも

 

森で巫女を守ったことも

 

 

────幻想郷を、信じたことも。

 

 

 

 

 

 

真の意味で消滅したのだ。

それは、外の世界でも、幻想郷でも同じこと。

 

誰からの記憶からも消え失せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、それはオレが望んだことでもあった。

 

 

救いたい人を救い、

幻想郷の人、妖怪、神に、

世界に、未来はあると示した。

 

 

十分すぎた。

 

だから、少し疲れて。

 

 

 

立ち止まった時に、消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、あの場所に居たいと願うのは。

 

皆と、守った未来で笑い合いたいと願うのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「欲張り、なのかな」

 

 

 

 

悲しそうに、誰でもない彼は呟いて、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の闇が、その残滓を最後に消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         ~完~

 

 

 





東方友好録、完結!

どうだったでしょうか。

え、終わりなのかって?


はい、終わりです。






()は自己犠牲を構わずにするタイプ。
もう消えて、そこで終わりです。

あとは、何か足りない未来が続いていくだけ。








それでは皆様、〝東方友好録〟を最後まで
お読み頂き、ありがとうございました!








目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

続編について

 

 

えー、こちらは続編について、

作者からのお話となります。

 

 

 

まぁ、東方友好録、完結!

 

ってことで感想を頂きました。

 

 

 

まぁ微妙な終わり方にしましたが、

続編を作るためですね。

 

 

彼は結局存在が消滅しましたのでもういません。

ですが。

 

やっぱ、ハッピーエンドじゃないと納得いかねぇ。

 

 

 

 

そんな皆様!!

 

朗報でございます!!

 

 

 

続編「東方再記録」投稿しましたよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

って訳で、作者の話です。

 

 

まず、東方友好録を書いたのは思いつきです。

 

設定が結構雑なのはそのせいです。

許して。

 

ですが、最終的に短い期間でUA5000突破する。

結構意外な展開になったのです。

 

私がbadendが好きなこともありますが、

最初から消滅エンドしか考えてませんでした。

 

 

 

ですが、皆様のお気に入りの数を見ると。

 

「あれ、これ消滅して終わりじゃダメくね?」

 

と思い始めまして。

 

 

 

 

だから、続きを作りました。

 

 

 

 

彼であって、彼ではない。

新たな主人公としての、彼です。

 

幻想郷の人々や妖怪たちに彼の記憶はありません。

誰1人も、です。

 

ですが、その例外は存在しました。

幻想郷を遥か昔、創造時から見守っていた存在。

 

そう、龍神です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その次は、「東方再記録」でどうぞ。

 

ゼロからのスタートです。

自分を覚えてる人はいなくとも。

 

彼は再び幻想郷を奔走します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という訳で、はっきり言って宣伝です。

 

ここまで読んで下さった皆様、

東方友好録、どうだったでしょうか。

 

 

 

 

 

彼の活躍、見苦しい醜態とギャグなど、

色々と見てくださりありがとうございました!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こっから先は雑談です、読み飛ばしても大丈夫。

 

 

 

えー、今回のテーマは〝無力〟な主人公ですね。

早速テーマを逸脱してるような気がします。

 

身を削る代わりに絶大な力を得た主人公は

ゆかりんを倒して世界は平和になりました。

無力で自己犠牲で自由で口の悪い、

それでも成し遂げた主人公。

 

 

話を逸らしましょう。

 

まぁゆかりんがラスボスなのは他の作者様の

二次創作でもありありの展開ですが、

今回は狂ったゆかりんということで、

残虐さを増してみました。

 

 

霊夢<幻想郷、という感じで

人間やら妖怪やらが争ってばかりだ。

絶望したから自分の幸せだと思えるような

世界を創ろう!

 

というのが八雲紫の歪んだ思いです。

 

 

元から霊夢よりも幻想郷を心配する描写が

原作でも多いんですよ(私の解釈では)。

 

「美しく残酷にこの大地から往ね!」

で有名な東方緋想天ですが、

霊夢より壊されそうな幻想郷の要である

博麗神社を心配してるんですよね。

 

(勝手に)要約すると、

「お前のせいで幻想郷が終わりそうだ。

 お前はやり過ぎた。許されない。○ね」

ってことですから。

 

見ての通り、霊夢の心配はしてません。

 

 

 

 

ということで、紫さんファンの方々、

こんな感じの人にしてしまい申し訳ありません。

 

次回作「東方再記録」では紫さんは

主人公とまた出会うので、ぜひとも

優しくなった紫さんをご覧下さい。

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに私は咲夜さん、ヘカちゃん推しです。

 

 

 






わざわざこんなとこまで
お読み頂きありがとうございます。
「東方再記録」もよろしくお願いしますね!

それでは皆様、さようなら!



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。