少女さとり 〜 Another Story of the Depths. (冥界寺吹雪)
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序幕

▼Attention!! この小説は、にじファンで公開していた『少女さとり 〜 Saint Girl's Territory』のリメイク作品です。コピペ&修正だけの部分もあれば、全く新しい話を書き足す部分もあります。予めご容赦下さい。

▼Iiwake!! 気付いたらにじファンが無くなってました。音速が遅いですね。それで、せめて完結してるこの作品だけでも移転しようと考えました。ですが4年前の作品という事もあり、読み返すと若干の眩暈を覚えたので、いっそリメイクを!といった次第です。万が一にも原作の移転希望があれば、そちらの移転も一応考えてはいますが・・・多分ないでしょう。あとタグの付け方誰か教えて下さい。


 雨が降りしきっていた。滝のような雨が、コンクリートの黒を更に深めようと打ちつける。

 

 真冬の夜。身に染みるような寒さの中、一人の男が暗い夜道をひたすらに走っていた。傘も差さずに鞄を頭に抱え、厚手の黒いコートを靡かせている。

 すでにずぶ濡れの様子だったが、それに追い打ちをかけるように雨は一段と激しさをましていく。

 

「つー、参ったな」

 

 男は青年らしい、まだ若い声で誰に言うでなく呟いた。

 

 チカチカと点灯する街灯が、淡くコンクリートを照らす。白い機械的な光からは、一切の温もりを感じる事が出来ない。

 男は恨めしそうに街頭を一瞬見ると、また雨を避けるように頭を下げる。

 

 一台車が通り過ぎると、氷の中を駆け巡ってきたような冷たい風が、既にかじかんだ手や頬に針で貫いたような一撃を与えていく。

 息も荒れてきたようで、吐き出される白い息の間隔が短い。

 

「止めばいいんだが……」

 

 男は言うと、脇道にひっそりと構えるバス停へ逃げるように走り込む。

 木造の古い屋根は、それでもしっかりと雨を防いでくれるようなので男はホッと一息をついた。

 

 腕時計を見ると、針は午後9時半を指している。続いて時刻表に目をやると、今から最も早いバスが10時過ぎとなっている。

 まだまだ時間はある。男はゆったりと塀に寄り掛かると腕を組み、時が過ぎるのを待つことにした。

 

 屋根があるとはいえ、風は容赦なく男の身を襲う。水が滴るコートが余計に体温を奪い、かといって脱いだら脱いだで寒い。

 

 

 

「あら、あの子なんか丁度いいかもしれないわね」

 

 

 

 不意にした女性の声に思わず振り向くが、そこにはバスの時刻表が佇むのみ。慌てて裏を確認するが、人の気配はなかった。

 

 

 男は突如、頭が重くなる程の眠気に襲われた。瞼がまるで自分の器官でないかのに重く、徐々視界が薄れていく。

 睡眠薬を飲んだような、明らかに不自然な睡魔。しかし、何が原因かを考える余裕を与える間もなく、瞼が閉じてゆく。

 

 もはや抵抗する余地もなく、男は塀に持たれかかると、そのまま意識を失った。



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第一話 人間と妖怪と

そして二人は出会う。


 酷い頭痛がして、大きく頭を抱えた。どうやら、随分と長い間寝てしまったらしい。

 寄り掛かっていた壁からゆっくりと離れようとして……そうして自分が今仰向けになっていることに漸く気付く。

 

 慌てて体を起こすと、そこはさっきまでいたバス停とは全く違う、薄暗い小さな部屋のようだった。

 部屋というよりは洞穴と言った方がいいだろうか、周囲は土壁で囲まれ、床は石畳で覆われている。四隅にひっそりと揺れる蝋燭が唯一の明かりらしく、照明器具といったものも見当たらない。

 

 なによりわからないのは首元まで丁寧にかけられていた毛布、そして場に似合わない柔らかな弾力性を持ったベット。

 寝起きのせいか、頭がよく回らない。これはつまりどういうことだ?

 

 

 とりあえず立ち上がり、ぐるりと室内を見回す。そして目に飛び込んできたのは石造の扉だろうか。幾重にも連なる曲線の文様が刻まれ、古代文明の遺跡なんかに行けば見られそうな造りだ。

 まず、ここがどこなのかを確認したい。真っ先に頭を過ぎったのがそれだったので、この背丈の倍以上はある扉を何とか開け、部屋を出てみることにした。

 

 扉の向こうは先程の室内となんらかわりない風景で、土壁が延々と続く廊下の先は暗く、見えない。

 閉鎖的な空間では不安が煽られ、あまり居心地はよくない。早いところ抜けたいと思うと、自然と足どりも早いものになっていった。

 

 

 

「これは……」

 

 思わず声に出してしまう。

 長い廊下が漸く終わったかと思うと……これを何と表現すればいいだろうか。

 何本もそびえ立つ立派な石柱、何処までも続く大理石のような美しい石畳、いたる箇所に配置された松明。そして、何十本もの石柱に支えられる巨大な屋根に、しばし目を奪われてしまった。

 先の扉もそうだったか、この施設は何かとスケールがでかい。この石柱と屋根なんて、見上げれると立ちくらみが起きる程だ。

 

 それに目を奪われていたせいで、俺は思わぬ不意打ちを受けることとなる。

 

「どうやら、もう平気のようですね」

 

 しっとりと落ち着いた声にも関わらず、思わず肩を震わせてしまう。人がいたのか、半分の安心と不安の最中、振り返る。

 

 

 

 そこには少女が立っていた。

 見た目だけに限定して言うなら、まだ成熟しきっていない子供というのが第一印象。

 服装は、水色でふわふわと裾の揺れる洋服に、薄い桃色のスカート。とてもこの厳かな施設には似つかわしくない。

 唯一、胸元に付けている瞼のようなアクセサリーが非常に印象的だった。変な、と言っては失礼かもしれないが、この年頃の子がこんな装飾品を好むのだろうか?

 

 

「どうも、初めまして。私はこの地霊殿の主、古明地さとり。あなたはどうやら人間のようですが、何故このような辺鄙な場所へ?」

 

 その容姿から吐き出された言葉は実に丁寧で、大人びていた。本当にこの少女が喋っているのか?そんな疑問さえ過ぎる程だ。

 だが、質問に質問で返す訳にもいかない。まずはこの問いかけに、素直に答える事にする。

 

「どうしてって言われてもな、俺にも何が何だか分かってないんだが」

 

 他人の施設に無断で入り込んで、何を訳の分からない事を。

 普通ならそう返されてもおかしくないような返答だったが、少女は何故か納得のいったような面持ちで、小さく頷いて見せた。

 

「なるほど、いまいち状況が掴めていないようですね。まあ無理もないでしょう。あのような場所で倒れていては」

 

「倒れていた?」

 

「丁度そこの刻印柱の辺りでしたか。ずぶ濡れでぐったりとしていたんですよ、あなたは」

 

 少女が指し示した場所を見ると、巨大な六角形の柱が天井を突き破るようにしてそびえていた。

 周囲にある石柱とは比べ物にならない程太く、その表面にはどこの言語だろうか?見たこともない文字の羅列がくっきりと刻まれている。

 

 考古学が好きって訳でもないが、これほど立派な物を目の当たりにしたら、誰でも興味を惹かれるんじゃなかろうか?

 そっと近づき、まじまじと文字群を見つめてみる。うーん、何が書いてあるか全く分からん。

 

「何か思い出しましたか?」

 

 そういえば質問が投げかけられっぱなしだったのを思い出し、慌てて考える。

 

「うーむ。確か仕事が終わって、雨に降られて……そうそう、確かバスを待ってたんだ。その時急に眠気が襲ってきて」

 

「……バス?」

 

 怪訝な表情でこちら睨みつけてくる少女。

 何かまずい事でも言ったか?訊き返そうと口を開こうとするが、それより先に少女。

 

「まさか、外の世界の人間?なるほど。だとしたら、その見慣れない服装も納得出来ますね」

 

「さっきから何を言ってるんだ、あんたは」

 

 人間。外の世界。それらのワードは、まるで少女が人間ではなく、ここが人間の住む世界ではないように聞こえた。

 

「察しの通り、ここはあなた達人間の支配する世界ではありませんし、私はあなたのような人間ではありません。そうですね、簡単に言うのであれば、『妖怪』といったところでしょうか」

 

「妖怪?」

 

 少女が何を言ってるのか、よく理解出来なかった。

 確かにこの巨大な施設は、現実離れした歴史のありそうな場所だ。普段暮らしている街、少女が言うところの『外の世界』と比べれば、別世界と言えなくも無い。

 しかし『妖怪』ってのは流石に納得がいかん。俺はその手のホラー物は結構詳しい方だが、流石に空想と現実の区別位はついてる。

 そういう幻想に夢見る年頃、っていう感じでもないし、どうしてそんな下手な嘘を付くのだろうか。

 

 

 

「どうしてそんな下手な嘘を付くのか。そう受け取りましたか」

 

「っ!」

 

 

 思わず顔を歪ませた。

 確かに、あまりに突拍子も無い少女の言葉に疑いの眼差しを向けてしまったかもしれない。

 にしても、だ。俺が思った事を言葉を、一字一句間違えずに分かるか、普通?

 

「分かってしまうんですよ。何故なら私は『妖怪』だから」

 

 

 

 

 妖怪か。そういえばいたな、人の心を読む事が出来るっつー、とんでもない奴が。

 かなりマイナーな妖怪だったと思うが、確か名前は

 

(さとり)。外の世界の人間の割には、なかなか私達に対する知識があるようですね」

 

「そうだ覚!って、ホントに心を読みやがるのか……」

 

 小説や映画でなら見たこともあるが、実際にいるなんて思った事も無い。だが、目の前のコイツが心を読むっていうのは、どうやら事実らしい。

 三度に渡って考えてる事を的中させられちゃー、偶然って可能性は限りなく低いだろうしなぁ。

 俺は少女の瞳をじっと見つめて、こう問いかける。

 

「信じられん話だが、本当に妖怪なのか?」

 

 少女は答えず、無言で頷いた。その目は何故か、とても悲しそうな色で染まっていた。

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

 

 

 

 

 

 

 さとりと名乗った少女が案内したのは、俺が最初に目覚めた部屋だった。改めて見ると極端に狭い部屋で、テレビや照明機器はおろか、時計や窓すらもない。

 

「さあどうぞ。座って下さい」

 

 と言うとさとりはベットに腰を据える。

 俺が寝かされていたベットだが、こうして見るとかなり古い物のようだ。ぼろいというよりはアンティークと言った方がいいだろうか。丁寧に扱われているのか傷一つ見受けられないが、見た事もない花と弦の彫刻がなされていて、少なくとも最近の物ではない。

 

「さて、訊きたい事が山のようにあるでしょう。どれから訊いても、私は構いませんよ」

 

 確かに聞きたいことは色々あった。ここ地霊殿の事とか、ここから帰る方法とか。

 でもそれ以上に、まずは一番興味を惹かれていた事を訊いてみる事にする。

 

「あんたは、ここで暮らしているのか?」

 

 さとりは意外そうに目を細める。

 

「この地霊殿を管理して数百年といったところです。普段はこの部屋で生活していますね」

 

「こんな狭い部屋でか?」

 

「狭いと感じたことはありませんが。いつも一人ですし、広すぎるというのも落ち着きませんしね」

 

 話していると、人間と話すのと何ら変わりないことに気がつく。

 その口調はやはり容姿と掛け離れたものだが、その点を除けば彼女が妖怪だなんて信じられない。

 少女は続ける。

 

「そういえば、あなたの名前を聞いていませんでしたね」

 

「ああ、そうだったな。俺は月蔵貫斗(つきくらかんと)。二十年程人間をやってるよ。あんたはどれくらい生きてるんだ?」

 

「私ですか。あまり定かではないのですが、おおよそ千年程度ですかね」

 

「千年!」

 

 純粋に驚いた。こんな少女のような格好をして、ある種の詐欺じゃないのか?

 

「見えないな。妖怪ってのは皆そうなのか?」

 

「妖怪にも色々な種類がありますからね、それによって容姿もまた異なるのですよ。私の場合は長らく外で活動してませんから、どんな容姿であれ、これといった障害はありません」

 

「その言い方だと、姿形を自由に変えられるのか?」

 

「可能な妖怪も少なくありませんね。とは言っても、この世界の妖怪の殆どは、私のような人間の格好をしています」

 

「それじゃあんたは、何でそんな子供みたいな姿をしてるんだ?妖怪ってのはもっとこう、大きくておどろおどろしいイメージだったが」

 

「大きな体では、活動するのに余計なエネルギーを使ってしまうでしょう?その点私のような少々幼い体型なら、力を効率よく使う事が出来ますから。……後この方が、他人受けもいいですし」

 

「……なんだか納得出来るようなできないような」

 

「ある程度は嘘ですから、納得しなくていいんですけどね」

 

「嘘かよ!」

 

 もしかして、おちょくられているのか?

 さとりは口元を緩めると、ほんの僅かに笑ってみせた。今まで無表情を決め込んでいただけに、その表情には少しながら惹かれるものがある。

 

「……。それで、他に聞きたいことは?」

 

 何故か、妙な間を開ける彼女だったが、引き続き質問を投げかけてみる。

 

「こんな広い施設なのに人っ子一人見かけなかったが、あんた以外誰もいないのか?」

 

「近くにはいませんね。少々離れた所なら、ペット達がじゃれていると思いますが」

 

「ペットなんて飼ってるのか。一体何の」

 

 と言って言葉を切る。

 妖怪が飼っているペットだ。普通の女の子が飼うような犬とか猫とかとは、訳が違うんだろう。もっとこう恐ろしい、悍ましいペットに違いない。

 

「とんだ偏見ですよ、それは。まあ確かに、ちょっと変な子もいますけど」

 

「あれか、使い魔のフクロウとかか?」

 

「それは魔法使いしか飼いませんよ」

 

 そりゃそうか。……って、いやいや、魔法使いってなんだよ!こっちは妖怪ってだけで腰抜かしそうになったんだぞ?

 

「魔法使いなら、普通の人間でもなれるはずですが。外の世界では珍しいのですか?」

 

 珍しいってか、聞いたことないから!

 

「私のペットは猫とか鴉なんかですね。殆ど放し飼いのようなものなので、特別世話をしている訳ではありませんが。たまにじゃれてくる姿なんか、実に可愛いものですよ」

 

「鴉……はともかく、猫とは案外普通だな。是非見てみたいものだ」

 

「そうですね、私も数十年程姿を見ていませんし、そろそろ様子を見に行ってもいいかもしれません」

 

「……死んでるだろそれ」

 

「最初に言ったでしょう。ちょっと変な子もいる、と」

 

「突然見たく無くなってきたな」

 

「ふふふ……さぁ、こちらへ」

 

 さとりはそう言うと、悪戯に小さく笑って見せた。

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

 

 

 

 

 刻印柱のあった広間を抜け、更に下の階段を下る。だんだんと気温が高くなっているようで、インナーに汗がにじむ感覚がなんとも気持ち悪い。

 一方でさとりはそんなことお構いなしのようで、何故か楽しそうにステップを踏んでいた。

 

「こりゃまた、随分と荒れてるな」

 

 そうしてたどり着いたのは、倒壊した石柱が散乱する閑散とした場所だった。残されたのは建物だったであろう物の枠組みくらいで、その周囲には瓦礫が積み重なっている。

 この場所で戦争でもあったのだろうか?そう思わせるには十分な惨状である。

 薄暗い為天井は見えないが、恐らく存在するのだろう。さっきから足音がどこからとも無く反響してくる。

 最初の部屋といい、刻印柱の大広間といい、ここといい、一向に空が見えないところを見ると、ここらが地上よりも遥か下である事は容易に想像がつく。

 

 で、肝心のペットの話だが

 

「こんな所に、本当にペットなんているのか?なんつーか、生き物が住めるような場所には見えないんだが」

 

 割と失礼な事を言ってる気もするが、どうせ心を読まれるんだ。最初から思った事を話した方がいい。

 その考えが伝わったのか、ふむと小さく相槌を打つと、無表情だった顔が僅かに和らいだ。

 

「……ほら、あそこにいますよ」

 

 そう言ってさとりが視線を投げた先には、結論から言えば猫がいた。

 猫なのは間違いない。間違いないのだが、なんというか、こう、言葉に出来ない違和感があった。何より照明のように発光する瞳は、見るだけで吸い込まれてしまいそうな恐怖さえ覚える。

 

「あー……色々言いたい事はあるが、とりあえずあれだ。猫の目ってあそこまで光るか?」

 

「普通は光りませんね。外の世界の人間では、力をつけた動物を見る機会も無いでしょうし、この子の遊び相手になるのは、大変かもしれないですね」

 

 言い終わると同時、その猫は突然直視できない程の強烈な光を纏ったのだ。思わず手で目を覆ってしまったがその発光は一瞬で、次に猫を見た時には驚愕し、声を上げてしまった。

 

「人間!?」

 

 目の前にいたはずの猫の姿は綺麗さっぱりいなくなり、代わりに頭に猫のような耳を生やした少女が立っていたのだ。

 年齢は、見た目から推測すると俺と同じか、それ以下ってところか。

 しかしさとりは数十年姿を見ていないとか言ってたし、実際はそれ以上は生きているだろうな。俺からすればペットというか、立派な妖怪である。

 

「久しいですね、お燐。元気そうでなによりです」

 

「さとり様じゃないですか!こちらこそお久しぶりでー。こんな辺鄙な場所まで、わざわざどうしたんで?」

 

 はきはき喋る猫だった。ペットは基本的に喋らないような気もするが、目の前で喋ってるしなぁ、まー喋るんだろう。

 

「わぉ、これはなんですかい?新しい死体?」

 

 と、お燐と呼ばれた少女は俺の方を指差して言う。

 

「おいおい死体扱いかよ」

 

「しかも活きが良いときた!こいつはあたいへのプレゼントで?」

 

「そうです」

 

「おい」

 

「冗談です」

 

 くすくすと喉を鳴らすさとり。さっきから俺をからかって楽しんでるよなこれ。

 

「しかし、死体を集める猫ねぇ。これじゃあまるで……」

 

「へぇ、火車(かしゃ)の事も知っているんですね」

 

「そうそう火車!てーこった、やっぱりこいつも妖怪って事か。すげぇな、ホントに実在してるなんて……俺はずっと、ただの昔話だと思ってたよ」

 

「昔話というのは、あながち間違いではないんですけどね」

 

 と、小さく俯きながら呟くさとり。

 まただ。さとりと話していると、たまにこんな悲しそうな表情をする。何か、彼女を傷つけるような事言ったか、俺?

 

「でー、あんさんはなんだい?ただの人間……なんて事はないよね?」

 

 微妙な空気になりかけたが、助かる事にお燐と呼ばれた猫妖怪が気さくに訊いてくる。

 早速答えようと口を開きかけたが、どうやらその必要は無かったようで、

 

「察しがいいですね、お燐。彼は、なんと外の世界からやってきた人間です」

 

「そ、外の世界から!?」

 

 大袈裟に驚くお燐。なんだなんだ、ここじゃあ人間はそんなに珍しいものなのか?

 

「いやや、外の世界の人間さんなんて初めて見たよ。こんな地底までよく来なさった!ささ、ここの案内はお姉さんにまっかせなー!」

 

「いややや、案内とか頼んでってえええーー!?」

 

 ものすごい力で腕を引っ張ってくるものだからそんな声をあげてしまった。流石は妖怪、見た目は華奢な女の子だが、なるほど確かに人間離れした力を持っているようだ。

 

 ……って、感心してる場合じゃ無かった!助けを求めようと慌ててさとりに視線をやるが、いってらっしゃいと言わんばかりにひらひらと手を振られてしまっては、がっくりと肩を落とす他ない。

 

「わわ、分かったから走るなってぇ!」

 

 結局、意気揚々と走り出すお燐に、ぬいぐるみのように扱われる羽目となってしまったのである。




思えば、地霊殿が発売してからもう4年経ってるんですね。つい最近の事だと思っていたのに。


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第二話 牢乎たる意思

リメイク版オリジナルの話。こんな感じの話が多分何話もあると思います。


「地底へ来たらまずはここ、等活(とうかつ)地獄跡!」

 

 と言われ案内されたのは、最初にお燐と出会った空間(ほぼ廃墟)となんら変わらない広場だった。

 無駄にだだっ広いが、これと言った施設や、最初の施設にあった刻印柱のようなシンボルもない。結構走らされた割には、なんとも殺風景な場所に連れてこられたな。

 

「漂う哀愁、長年利用された施設の悲しき末路……あんさんも感じるかい?ここで果てた人間達が発した、悲痛の叫びが!」

 

「いや恐いから。てか何だよその等活地獄ってのは。さっきからやけに蒸し暑いし、わざわざ紹介するような場所なのかここ?」

 

「さとり様や火車の事は知ってるのに、八熱地獄を知らないのかい?外の人間ってのは、知識が偏ってるんだねぇ」

 

 チッチッ、と人差し指を左右に振りながら答えるお燐は、瓦礫の隙間に転がっていた平たい鉄片を拾い上げる。

 どこからどうみても単なる赤錆びた鉄屑だが、俺がそう思うのを見越してか、お燐は得意げに説明を始める。

 

「こいつはこの等活地獄の管理人が持っていた大鎌の一部さ。色が赤黒いのも納得いくだろう?」

 

「大鎌って、ちょっと待て。さっきから地獄地獄言ってるが、まさかここは本当に……?」

 

 想像しただけで、背筋がぞくっとした。もしかして、俺がこんな場所に来てしまったのは、地獄に堕とされたって事なのか?このお燐ってのが実は死神かなんかで、さとりは閻魔とかその類だったりするのか?

 

 ああやばい、余りに事が平和的に進んでたもんで、心の準備ってやつが全く出来てない。

 俺、地獄に落とされるような事したかなぁ。少なくとも、殺生をした記憶はこれ一切ないんだが。

 

「最初に言った通り、ここは等活地獄『跡』!ま、今はご覧の有様で一切機能してないからさ、そんな怯えた顔しなくてもいいんじゃない?」

 

「ああ、なるほどな……」

 

 地獄跡って言われても、それはそれで恐い。恐いが、ここが営業中の地獄ってのよりは余程マシだな、うん。

 

「で、ただの人間を地獄跡に案内するあんたは何者なんだ?」

 

 火車っつー妖怪ってのは分かっているが、俺が聞きたいのはそんな事じゃない。

 そう付け足そうとしたが、お燐も質問の意図を汲み取ってくれたようで、一転して真面目な表情でこちらを見つめてくる。

 

「あたいが死体を集めるのは、今でこそ趣味なんだけどね、昔は立派な業務だったんだよ。少し前までは、死体を集めては地獄に運んでたものさ。だけどねぇ……」

 

 ははん、なるほど見えてきた。つまり、ここらの地獄が閉鎖されちまったから、絶賛失業中って訳か。この辺はデリケートな話だよなぁ、少し話題を逸らした方がいいか。

 

「そういや、あのさとりってのはアンタの主人なのか?向こうはアンタの事ペットとか言ってたが」

 

「とんでもない!主人なんて言葉じゃとても足りないさ。何てったってさとり様は、あたいの命の恩人だからね!」

 

「命の恩人?」

 

「そうとも!さとり様がいなければ、今のあたいは無かったからね」

 

 何だかよく分からないが、いつも以上に目をキラキラ輝かせて語るお燐からは、嫌ってほど熱意が伝わってくる。さとりの事、本当に尊敬してるんだな。

 

「聞くも涙、語るも涙の話で……っと、外の世界から来たあんさんにこんな事話しても仕方ないかな」

 

「いや、興味あるな、その話。是非とも聞かせてくれないか?」

 

 というと、お燐は意外そうに目を丸めて凝視してくる。

 

「……珍しい人間もいたもんだね」

 

「え?」

 

「いやぁ何でもないよ、悪かったね。それじゃあ少し長くなるから、次の名所まで歩きながら聞いておくれ」

 

 そういうと、お燐は歩みを進めながら静かに語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

 

 

 

 

 

 

 この世界で、ただの動物が生きていくのは至難の業だ。うっかり妖怪の縄張りにでも入り込もうものなら、大半は問答無用で攻撃してくる。

 何より辛いのが、私達動物は言語を持たないという事だ。意思疎通が出来れば、まだ事前に危機を回避出来る可能性もあるのだろうが……。

 

 以前私が妖怪に襲われそうになった時は、身振り手振りで敵意が無い事を伝えようと試みて、何とか見逃してもらえた。だが、それはかなり運が良い方で、とある私の同族は妖怪の山に足を踏み入れて以来、姿を見ていない。

 そのせいもあってか、私の中で『妖怪は危険』という認識は、より一層深まっていった。

 

 

 

 

 

「やぁやぁこれは可愛い猫さんだ。こんな山奥をうろついていては、恐ろしい妖怪に食べられてしまうよ?」

 

 とある日暮れの山中。私が初めて出会ったその人間は、私の小さな体を抱きかかえて歩き始めた。私は人間には『猫』と呼ばれているらしい。

 妖怪に怯える私だが、人間は受け入れる事が出来た。人間もまた、妖怪に命を脅かされる存在であり、何となく私達動物と同じような境遇だと思えたからだ。

 

 

 

「ここが私の家だ。全財産をはたいて建てた、私の宝物なんだ。少々小さな家ではあるが、お前と私で暮らすには十分な広さだろう」

 

 そう言って私を連れ帰ったその人間は、何と食事を与えてくれた。丸々と太った魚を丁寧に捌いて差し出されたので、私はそれを喜んで平らげた。こんなに美味しい食事は久しぶりだ。こんなに美味しい食事を与えてくれる人間は、良い人に違いない。

 

 人間から考えれば、なんとも現金な話かもしれないが、仕方のない事だ。だって私はただの猫。生き抜く事が全てなのだ。生きる為には、食事が全てなのだ。

 

「ふふ、いい食べっぷりだ。……お前のような動物でも、一人でいるよりは気が紛れるだろうからな」

 

 今までは自分自身で食事を摂る必要があっただけに、人間が全て用意してくれるというのは、まさに天国にでもいるような気分だった。

 何も言わずとも世話をしてくれるので、自分の方が偉いのではないか?と錯覚を覚える程だった。勘違いも甚だしいが、私にはそれを確かめる術がない。しかし、確かめようとすら思わなかった。何故なら、ただ待っているだけで幸せな生活が送れるのだから。

 

 

 

 

「邪魔するぞー……って、誰もいないみてーだな。こりゃツイてる」

 

 ある日の昼下がり。見知らぬ声に、夢の世界から目を覚ます。

 ふと視線を引き戸の方へやると、そこには大柄の人間が立っていた。この家の主人とはまた違った人間で、右手には鋭い銀色の物が握られている。

 そいつが周囲をぐるりと見渡すと、どうやら私の存在に気付いたらしい。こちらをじろりと睨み付けると、ふっと小さく笑い飛ばした。

 

「何かと思ったら、猫じゃねーか。けっ、こんな奴かっぱらった所で、一銭にもなりゃしねぇ」

 

 言ってる意味は良く分からなかったが、不快になる口調ではあった。

 

 私が暫く黙っていると、そいつは急に室内の棚を開け、中を物色し始める。

 一体何をしているのだろうか?気にはなったが、私にはそれを問う術がないので、やはり沈黙を続けながらその様を見つめていた。

 あれでもないこれでもないと棚の中身を放り投げ、気付けば室内は、大量の備品や食料が散乱していた。何かを探しているのだろうか?

 

 と、突然何か思いついたように手を叩く人間。すると、手に持った鋭い銀色の物を器用に使い、床や壁に丁寧に傷をつけ始めた。それらは決まって4、5本の線をまとめて引くように傷つけられていたが、それに一体どんな意味があるのだろう?私にはとても理解出来なかった。

 

「まーこんなもんだろ。そんじゃありがたく頂いてくぜ、可愛い猫ちゃんよ!」

 

 あちこちに傷をつけ終わった人間はそう言うと、そそくさと家を後にする。私は訳も分からず、物だらけになった部屋の真ん中でその様を眺める事しか出来なかった。

 

 

 

 

 程なくして帰ってきた家の主人の顔は、今まで見たこともないような悍ましい表情で満ちていた。

 主人が部屋を一通り見渡すと、私と視線ががっちり合う。すると物凄い剣幕で近づいてきて、私の首根っこを捕らえると、そのまま壁に押し付けた。息が詰まる程容赦のない握力が、私の身体を襲う。

 

「お前……これだけ手をかけてやったというのに、この仕打ちか!小さな家だがなぁ、建てるのにどれだけの苦労をしたか、お前に分かるのか!?この動物風情が!!」

 

 もしかして、この部屋を荒らしたのは私だと思っているのだろうか?だとしたら、大きな勘違いだ。これをやったのは見ず知らずの人間で、私は何もやっていない!

 何とかそれを伝えようと、宙ぶらりんになった前足を必死に動かしてアピールしたが、それが逆効果だった。主人は更に語気を強め、罵声を浴びせてくる。

 

「それか、その足か!その足で部屋中こんな傷だらけにしおってからに!あのような傷をつけられるのは、お前のような猫を置いて他におるまい!」

 

 分からない。主人が何を言っているのか、さっぱり分からない。それでも私は懸命に力を振り絞り、手足を動かす。それが無意味だと分かっていても、私が他人に意思を伝えるには、これしかないのだ。

 

「これだけ暴れて、まだ足りないというのか?貴様はどこまでっ……!」

 

 不意に、私の身体がぶわっと宙を舞う。首を絞めていた力がすっと抜け、息苦しさから解放されたと思ったのも束の間。背中に走る強烈な衝撃は、焼け付くような痛みを全身へと駆け巡らせ、呼吸すらままならない。

 

 苦しい!痛い!違う。私じゃない!私じゃ……

 

「まだ暴れるか!クソ、所詮お前にとってこの家は、ただの雨凌ぎだってか?この恩知らずめ、次は外に叩きつけてやろうか!」

 

 そういうと主人は、私の後ろ足を無造作に掴み、乱暴に持ち上げる。引き裂かれるような激痛が足を襲う。

 

 ああ、どうして人間は、こんな酷い事をするのだろう。

 ああ、どうして人間は、私の言いたい事を分かってくれないのだろう。

 私が、部屋を荒らす人間を止めなかったから?

 私が、私の見た事を伝えられないから?

 

 

 ―――ああ、どうして私は、誰とも分かり合えないのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 冷たい。

 

 その感覚に目を覚ました私は、続いて身体中から押し寄せる激痛に身を丸めた。

 雨が降っている。滝が流れ落ちるような雷雨は私の全身を濡らし、体温を奪う。

 

 辺りを見回すと、そこは見慣れぬ森林だった。木々が生い茂り、鬱蒼としたその雰囲気には、恐怖すら覚える。

 

 妖怪の山に入った同族の事を思い出す。ここなんて、まさに妖怪が棲んでいそうな場所だなぁ。私もその同族のように、ここから帰る事が出来ないのだろうか。恐ろしい妖怪に見つかる前に、早く安全なところへ行かなければ。

 そう思って身体を起こそうとすると、(きり)を刺すような痛みに見舞われて転倒してしまう。見ると、酷い出血で地面を赤く染め上げていた。これではとても、立ち上がる事なんて出来ない。

 傷口を見てしまったのがいけなかったのか、今まで以上に足がズキズキと疼く。ダメだ、もう我慢出来そうにない。

 

 

 痛い!痛い!誰か!助けて!

 

 

 無意味と分かっていても、心はそう叫ぶ。こんな時、人間のように話すことが、どれだけ良かっただろうか。

 

 ……いや、もし話せたとしても、こんな薄気味悪い場所にいるのは妖怪だけ。どっちにしても、私は助からなかったのだ。

 そう考えると、何となく諦めがついた。

 

 

 

 

 

 ふと、身体が地面からふわりと離れる。何かが私を持ち上げた。

 と同時に、背中から伝わる温かい感覚が、途切れそうな私の思考を現実へと呼び戻した。

 

「これは、かなり酷いですね。早急に手当てしたい所ですが、これ以上地上に留まる訳にも……」

 

 それは、人間の少女の風貌だった。あえて曖昧な表現をしたのは、単純にこの不気味な森とこの少女が不釣合いだったからだ。

 人間の姿をした妖怪も多い。恐らく彼女もその類だろう。私達の事など食料程度にしか思っていない、残忍で、怖ろしい妖怪!

 

「……確かに、妖怪の中にはその様な者が多くいるのも事実です。いえ、あなたから見れば、私もその内の一人なのかもしれませんね」

 

 あれ。どうして彼女は、私の考えていた事が分かったのだろう?

 私は猫であり、動物だ。人間や妖怪と意思疎通するなんて、とても出来ない。弱い私たちは、ただ強いものに怯える事しか出来ないはずだ。なのに

 

「弱い、だなんてとんでもない。あなたは、あなたの意思を伝える為、痛みも苦しみも物ともせず、その身体で人間に主張を続けたのでしょう?あなたは十分強い」

 

 私が、強い?妖怪からは逃げ、人間には虐げられる、そんな私が、強い?

 

「そう、強い。その強さがあれば、今まで以上に強くなる事だって出来るかもしれない。その可能性の芽を、たった一人の人間によって摘まれてしまうなんて、勿体無いと思いませんか?」

 

 

 彼女が放つ言葉は、私の胸に浸み込み広がってゆく。

 強くなりたい。強くなるには、生き延びなければならない。なら、生き延びる為に今私が出来る選択は?

 

 実に簡単な問いだ。その答えを導くのに、十秒とかからなかった。

 私は頭をゆっくりと起こし、雨水が滴る彼女の顔を見上げる。すると彼女は、暗がりに浮かぶ太陽のような微笑みを見せて、一言こう言った。

 

「必ず治してみせますから、ゆっくりお休みなさい」

 

 それを聞いた私は、緊張の糸が切れたように意識が闇の中へ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

 

 

 

 

 

 

「そんでこっちに来てから怨霊を貪り食ってたら、なんか妖怪になれましたとさ」

 

「台無し!最後の台詞で台無しだから!」

 

 怨霊を食べてる時点で最初から普通の猫じゃねーだろ!という突っ込みは、多分野暮なのでしないでおく事にする。

 思いっきり調子を狂わされてしまったので、軽く咳払いをして平常心を取り戻そう。

 

「ごほん。えっと、怨霊うんぬんの話はともかくだ。あんた、結構大変だったんだな。そんな苦労を乗り越えて妖怪になったってのは、素直に凄いと思う」

 

 てっきりさとりの事を言われると思ったのだろう。お燐は何故か、少しだけ頬を赤らめながら言い返してくる。

 

「えっ?……あ、あたいの話はどーだっていいの!それより凄いのはさとり様だよ。不可侵条約があるってーのに、あの後危険を冒してその場で治療してくれたんだよ!いやー、やっぱりさとり様はすごいっ!」

 

 途中でなんか聞かない単語が出てきた気がする。不可侵条約?

 ……んまーよく分からんが、お燐のさとり愛はこれ以上ない程よーく伝わった。こんだけ愛されてるさとりは、かなりの幸せ者なんだろうな。

 

「ああ、本当に凄い。俺って奴は、妖怪っつーのはもっとこう皆暴力的で、怖ろしい奴らかと思ってたよ。さとりはあんたのような動物にも平等に接してくれる、心の優しい妖怪なんだな」

 

 俺がそう言うと、二股に分かれた尻尾を嬉しそうに左右に揺らすお燐。てか揺らされて初めて気付いたが、人間型になってる時でも一応尻尾はあるのな。人から尻尾が生えてる様は、お遊戯会で動物の衣装を着た子供みたいで、ちょっと可愛い。

 

「へぇ。あんさん、人間の割に物分りが良くて面白いねぇ!どうだい、あたいの事お燐って呼んでもいいから、あんさんの名前、教えてもらってもいいかい?」

 

 ああ、そういやお燐にはまだ教えてなかったんだっけか。

 

「俺は貫斗。あんたみたいな人に語れる過去は今んとこ無いが、よろしくな」

 

「違う違う!あたいの事、ちゃんとお燐って呼んでくれなきゃ不平等だろう、貫斗?」

 

 こいつはうっかりしてた。慌てて言い直す。

 

「おっとっと、それもそうだなお燐。よろしく頼むぜ」

 

 今まで、あまり他人を下の名前で呼ぶ事が無かったから、少々むず痒いというか、小っ恥ずかしかったりするんだよな。だが一度言ってしまえば気持ち良いもんだ。

 死体を集める妖怪って聞いた時はどんな怖ろしい妖怪かと身構えたが、少々勝気な良い妖怪だ。こんな妖怪なら、是非とも仲良くしていきたい。

 

「よろしく、貫斗!」

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・

 

 

 

 

 

 

 

「……で、いつになったら次の目的に着くんだ?」

 

「今歩いてきた距離と同じ位だね。次はもっと素敵な地獄跡だから、期待していいんだよ!」

 

 え、次の名所も地獄跡なの?さっきみたいな廃墟?

 

「えーっと次向かうのが釜茹でで有名な叫喚(きょうかん)地獄跡で、その次が友人が管理してる焦熱(しょうねつ)地獄跡!それで次が―――」

 

「ああ、もういい……。楽しみは後に取っておくよ……」

 

 屈託の無い笑顔で行き先を告げるお燐。きっと、俺に喜んでもらおうと考えてくれたプランなのだろう。それを無下にするなんて事は出来ないさ。出来ないのだが。

 

「怨霊の頭首は最後まで取っておく派なのかい?そういう事なら着いてのお楽しみだね!それじゃ叫喚地獄跡に向けていざ!」

 

「何だよそのハンバーグのにんじんは最後まで取っておく的な……って、待て!引っ張るな!手を引っ張るなってえええぇ!!」

 

 その後何時間と、お燐のドタバタ地獄巡りツアーに付き合わされたのは言うまでも無い。



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