103th Fighter squadron『Folgore』 (COTOKITI JP)
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在りし日の平穏

またもや性懲りも無く新作を始めました。
エタらないといいなぁ……(遠い目)


《1988年 7月 9日 『名も知らぬビーチ』 10:24AM》

 

いい眺めだ、と飾り気の無いビーチベッドに背を預けながらストローでソーダを一口飲んだ。

 

自分は、空が好きだ。

空が好きだから今のようにして空の上で働いている。

仕事が増えて地上にいる日も大分減ってしまったがそれでも空は嫌いになれない。

 

とか言いつつも、実は海も好きだったりする。

こうしてリラックスしながら波音に耳を傾け、不定形で膨大な水溜まりを延々と眺めつつ昨日、若しくはそれよりも前の日を振り返る。

こうやって時間を過ごすのも悪くはない。

 

海か空か。

どちらが好きかと聞かれたらきっと自分は両方以外選べないだろう。

 

そんな自分を心の中で強欲な奴だなと罵りながら隣にいる友人へと視線を移した。

 

「……どうだここは。 俺のお気に入りなんだが」

 

パラソルの影でよく見えないが、隣にいる彼は半身を起こしてこちらを向き、微笑を浮かべつつ周りを見渡し、漸く口を開いた。

 

「うん、景色は良いし潮風も気持ち良くてサイコー!」

 

やけにオーバーなリアクションを取る黒髪短髪の男を横目に見ながら自分もまた微笑み、少しの間目を閉じる事にした。

 

彼も自分の瞑想を邪魔する訳にはいかないと、喋るのをやめた。

後に残ったのは、名も知らぬ鳥の鳴き声と波音、そして波打ち際から聞こえてくるビーチにやってきた観光客達の楽しげな声だった。

 

 

一時間か、二時間経ったのか分からないが取り敢えず起きたので隣の彼に現在時刻を聞こうとしたら、既に彼はいなくなっていた。

 

本来ならば慌てる所だが、これと同じ展開を何度も経験してきた自分は取り敢えず人の多いビーチの方を見た。

 

彼は直ぐに見つかった。

あんなに彼の周りに人だかりが出来ているのだから見逃しようが無い。

 

「もう昼飯にするか」

 

ビーチベッドに寝ていた事で乱れた黒のジャケットを直し、石の階段を降りて下のビーチへと向かう。

 

まだ7月に入ったばかりだと言うのにこんなにも人が多いとは思わなかった自分はまるで対空砲火のように飛び交ってくる人、人、人を躱しながら人だかりの奥へと進む。

 

人だかりの先にいたのは、予想通りあの赤色のスーツという目立つ格好をした悪趣味なセールスマンのような男であった。

 

しかも手品ショーの真っ最中だったらしく、彼は自分が出したのであろう何羽もの鳩に襲われており、観客は爆笑している。

 

もしこれも彼の計画通りだと言うのであれば、カリスマ性に優れた人物として賞賛に値しただろうが、多分、それは無いだろう。

 

彼の手品なんて精々ああやって偶に観客を集めるか、又はパーティーの賑やかし程度にしか使われない。

 

ちょうどよく彼の手品が終わったみたいなので、彼の元へ歩み寄り、昼食を取りに行く事を伝えた。

 

「昼食かぁ〜ここのオススメは何かな?」

 

「一番人気なのはハーベンのサンドイッチだな。 アレを食わずしてこの街は語れない」

 

「よしじゃあ行こう!今すぐ行こう!」

 

「おいおいそんなに急がなくたって店は逃げねえよ」

 

これは、嘗て俺達が望んでいた在りし日の平穏である。



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蒼空の稲妻

エンジンの振動で小刻みに揺れるコックピット。

乱れていく息遣い。

急旋回によって失われていく速度。

 

後ろから曳光弾が前へと通り過ぎて行く度に、恐怖心は増していき、呼吸と共に悲鳴めいた弱々しい声が漏れる。

 

敵戦闘機、『P-51マスタング』の銃火からその身を縦なり横なりと三次元機動で逃れようとしているのは明らかに性能で劣っている『マッキ MC.202』。

 

オマケに追加武装の20mmMG151機関砲のせいで空気抵抗は増し、速度性能は更に下がり、運動性能も格段に落ちていた。

 

本来ならば彼等は爆撃機への攻撃を担当しており、護衛機は別の機関砲持ちではないMC.202が食い止める筈だったが、高性能な護衛機と大火力の爆撃機の防護機銃のせいでとっくの前に壊滅している。

 

どう見ても敵側が優勢なのは見て分かる。

機体の性能差があまりにも酷すぎたのだ。

 

相手は最高時速700kmは出るのに対し、こちらは精々500km以下位しか出すことが出来ない。

 

《ひ、被弾した!!エンジンが煙を噴いてる!!助けてくれぇ!!》

 

《ふざけんじゃねぇ!!援軍は……援軍はいつ来やがんだよ!?》

 

《どこを見ても敵機しかいない……! 包囲されてるんだ!!》

 

次々と墜ちていく仲間達、何時自分の番が来るのかと恐怖しながら生へ執着し、操縦桿を握る力が強くなった。

 

一方、マスタングに乗る彼等はと言えば、この退屈な狩りに飽き飽きとしていた。

 

相手は性能で劣っている割にはパイロットの腕が良いのか数回の射撃を行って未だ致命傷を負わせる事が出来ないでいた。

 

「クソっ、ちょこまかと逃げやがる!」

 

《二番機、落ち着け。 じきにこんな奴ら全滅するだろうよ》

 

《よっしゃあ!一機落としたぞ!》

 

《ハッハァ!くたばれテロリスト共が!》

 

やたら騒がしい無線のやり取りに溜息を零しつつ、目前の敵機に意識をやる。

 

ここ最近でパイロットの大規模な補充が行われたので、新米パイロットが多くこちらにも配属されてきた。

 

厳しい訓練を積んできたので練度にそこまで問題は無いが、どうやら訓練所では道徳心は学ばなかったらしい。

 

暫く経って漸く敵機の動きが鈍くなってきた事に気が付いた。

あのパイロット、かなりのGに参っているようだ。

 

あんな機動繰り返せば無理も無い。

寧ろよくここまで頑張れたと褒める位だ。

 

彼もまた、エースパイロットの素質があったのかも知れない。

もしここで、彼を落とさなかったらどうなるのだろうか。

 

その素質を遺憾無く発揮し、歴史に名を残すエースパイロットにでもなれただろうか。

 

今からその未来のエースパイロット候補をこの手で殺してしまうのだからつくづく惜しいと思う。

 

「良く頑張ったよ、悪いがここで墜ちてくれ」

 

そう言って引き金を引こうとしたが、真上から聞こえた突然の音に思わず上を見上げる。

 

彼が最期に見た光景は、こちらに真っ直ぐ向かってくる、銀色の戦闘機だった。

 

《に、二番機が撃墜された!!》

 

《他の戦闘機とは違う!MC.202じゃない!》

 

まるで稲妻にでも撃たれたかのように爆散した二番機の姿を見た者達は、先程の余裕も忘れてただ最強と謳われていたマスタングが撃墜されたという事実に驚愕していた。

 

それから直ぐに、反転しようとしたマスタング達に、更に上から急降下して来た敵機が襲い掛かる。

 

《クッソォ!後ろに着かれた!》

 

《空賊の分際で!!ぶっ殺してやる!!》

 

《落ち着け、慌てるな! 相手はただの空賊だ!!》

 

あの敵機と戦って、気付いた部分がある。

性能が先程のMC.202とは桁違いに高いと言う事だ。

 

そのあまりの速さに、機体の全容が捉えにくかったが、彼らの中に一人、機体に描かれたエンブレムを見た者がいた。

 

《アイツらのエンブレムを見た……間違いない! アイツらは!》

 

《助けてくれ!死にたくない!!うわぁっ!ギャアアアアアアアアアア!!》

 

知らない筈がなかった。

傭兵や自警団、軍隊ですら恐れた空賊の名を。

 

稲妻を両手に持った神を模したエンブレム。

 

《アイツらは!『フォルゴーレ隊』だ!!》

 

それを見た者で生きて帰った者はいなかった。

 

「散々なやられ方だな」

 

先程の急降下で一番目にマスタングを撃墜した戦闘機、『G.55 チェンタウロ』のパイロットは味方の損害状況を見ながら呟くように言った、

 

《あぁ全くだ。 よぉし、お前ら!利子は倍にして返してやろうぜぇ!!》

 

《了解!》

 

フォルゴーレ隊第三小隊の一番機がバンクを振りながらマスタングの群れに突っ込んでいく。

 

それに続いて僚機も次々と突撃体制に入っていく。

 

自分もそれに加わろうかと考えたが、後ろから聞こえてくる聞きなれたエンジンの音に気付き、操縦桿を右に倒した。

 

それから一秒足らずで後ろにいるマスタングから銃声が聞こえて来た。

被弾を避ける為にただの横旋回だけでなく、縦方向への機動も入れて捻じるような機動で敵弾を回避する。

 

彼はここでマスタングとチェンタウロの速度差を利用する事にした。

 

操縦桿を引き起こし、かなりの急角度で上昇を行う。

予想通りマスタングはこちらに釣られて上昇してきた。

 

距離は縮んできてはいるものの、マスタングが撃ってくる様子はない。

 

「必中狙いか……ならば好都合だ」

 

互いの距離が徐々に縮む。

恐らくあと五秒後には敵機は撃ってくる。

 

だが、その五秒後にはあのマスタングを彼が撃ち落とす。

 

五、速度計が300を切った。

 

四、敵機のプロペラの枚数が数えられるくらいには距離が縮んでいる。

 

三、もうマスタングのパイロットは撃とうとしているだろう。

 

二、間も無くこちらの機体が失速する。

 

一、……今。

 

瞬間、エンジンの出力を一気に絞り、フラップを全開にした。

失速する寸前まで速度が下がり、マスタングがチェンタウロの真下へ潜り込んだ。

 

「コレでちょうど三百機目だ」

 

失速によって機首が勢いよく下がる。

 

その瞬間にマスタングを照準器に捉え、すれ違いざまに機関砲を浴びせる。

 

MG151三門から放たれた20mm弾はエンジン、コックピット、機体後部という順で抉り、吹き飛ばした。

 

原型を留めない程に空中分解したマスタングは、真っ赤に燃え盛りながら地へと墜ちていった。

 

《敵戦闘機、爆撃機部隊の殲滅を完了。 全機、RTB》

 

この戦闘は、『開門戦争』開戦より何年も前に行われたものである。

この頃から開門戦争にて反動勢力に加担していた彼はイレギュラーとしての片鱗を見せていた。



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unknown

《1975年 12月 9日 『ラハマ南西 高度1500』9:35AM 》

 

ここ、イジツは季節による気候の変動がかなり激しい。

夏になれば猛暑がやって来て、冬になると途端に極寒の地と化す。

 

勿論ラハマも例外ではなく、今も尚空を飛ぶ彼女ら(・・・)も冬の季節を実感していた。

 

「へっ……へーくしょっ!!」

 

《大丈夫かキリエ?》

 

《風邪でも引いたんじゃないの?》

 

「こんな朝早くから出撃なんて聞いてないよ! ぶぇっくしっ!!」

 

冬の空に浮かぶ綺麗な編隊。

それを構成しているのは六機の戦闘機、『隼一型』である。

 

仲間達の心配の声に対して文句とくしゃみで少女、キリエは、疾風迅雷とも呼ばれ、あのイケスカ動乱(・・・・・・)でも()の破壊に際してそれを阻止しようとした敵の隊長機を撃墜する等、多くの戦果を挙げ、勝利に貢献していた。

 

そして、彼女らがこんな朝早くから出撃している理由もまた、穴に関する事であった。

 

《皆、見えたぞ。 穴だ》

 

目前に見えたのは、地上より僅かに離れた高度にある巨大で先の見えない真っ黒な穴だった。

 

《妙ですわね……普通なら暫くすれば自然消滅する筈ですのに……》

 

《それに、今までの穴とは比べ物にならない位大きいね。 僕が観測した中で最大かも》

 

この女性づくしのメンバーの中で唯一の男である少年、アレンはケイトの操縦する赤とんぼの後部座席からその様子を見ていた。

 

アレンも言っていた通り、この穴はあまりにも大き過ぎた。

恐らく今は亡き飛行船、羽衣丸を横に並べても六隻位は易く通れる程の直径があった。

 

穴の様子を注意深く観察している中、ザラが何かに気付いた。

 

《レオナ!穴のちょうど下辺りに人工物があるわ》

 

《なに!?》

 

他の僚機もそれに気が付いたらしく、機体を僅かに傾けて穴の真下にある人工物へと目を移した。

 

「アレって何かの基地じゃない?」

 

《滑走路がある、飛行場の可能性あり》

 

確かに滑走路があり、管制塔らしき建物や格納庫、所々にある点にしか見えない物は恐らく対空砲だろう。

 

そこにあるのは明らかに飛行場だった。

まだ確証は掴めないが、一つの可能性が頭に浮かぶ。

 

《まさか……ユーハングが来ているのか!?》

 

『ユーハング』。

それはイジツとは別の世界からあの穴を通じてやって来た者達であり、航空機をこの世界に広めたのも彼等である。

しかし、ユーハングの人々はなんの前触れもなく忽然と姿を消してしまったのだ。

 

穴の真下に飛行場なんて建てていたら、皆普通はユーハングが来たと思うだろう。

 

飛行場は遠目に見てもちゃんと整備されているらしく、今も機能しているようだ。

 

《これは早くラハマに知らせないと》

 

《上から何か来ますわ!!》

 

真上からの突然の奇襲。

僚機の反応が早かったお陰で奇襲は何とか回避する事が出来た。

 

《ケイト!今すぐラハマに戻って隼に乗り換えて来い!》

 

《分かった》

 

自分達とは反対方向に逃げていく赤とんぼを見送り、先程攻撃を仕掛けてきた戦闘機に目を向ける。

 

それは彼女らの知らない戦闘機だった。

大まかな機体の形状は、九七式戦闘機と零式艦上戦闘機を足して二で割った様な見た目をしていた。

 

武装は機銃が機首に二丁、両主翼に二丁ずつ備えられている。

今まで多くの空賊と戦ってきたが、このような戦闘機は一度たりとも見た事も聞いた事も無かった。

 

「うわっちょっヤバい!こっち来たァ!」

 

合計六丁の機銃を持つ敵機は、キリエに向かって単純計算で隼の三倍の火力を浴びせて来た。

 

それだけでは無い。

機体性能その物も優れていて、隼と格闘戦になっても中々後ろが取れない。

 

《気を付けろ!機体性能も高いが、中にいる操縦手も練度が高い!》

 

何時ものように二機一組で分かれ、敵機と格闘戦に入る。

早速キリエが敵機の後ろに着き、機銃を撃つが横旋回で一射目を回避した。

 

旋回中を狙い、主翼へ向けて二射目を放ったが、今度は機体を翻してスプリットSで回避した。

 

三射目もバレルロールで躱されてしまい、焦り始めてきたキリエは何とか四射目で仕留めようとした。

 

敵機はそれらしい回避機動を取ろうとはせず、それを好機と見たキリエは徐々に近付いてくる(・・・・・・・・・)その機影に向かって発砲した。

 

「あっ!」

 

気付けば、オーバーシュートを起こしてしまい、敵機は自分の後ろにいた。

撃つ側と撃たれる側が逆転し、キリエは7.62mmと12.7mmの反撃を食らう。

 

「うわぁっ!!」

 

左主翼とエンジンとその周りを撃ち抜かれ、左主翼はボロボロ、胴体からは燃料が漏れだしていた。

 

キリエはすぐさま旋回して逃げようとするが、エンジンにダメージが入った挙句に主翼のエルロン部分にも被弾したらしく、上手く旋回が出来なかった。

 

どうやら敵機も万全な状態の隼と格闘戦をするのは避けたかったようなので、翼がやられた事を知りこれ幸いと二射目を放とうとした。

 

《キリエ!!避けろ!!》

 

レオナが叫ぶが、その間にも敵機はある程度の偏差は付け終わり、機銃の銃口が火を吹こうとした、その時だった。

 

何が起こったのかキリエには分からなかった。

本来ならば自分が撃墜されていた筈なのに、後ろを見れば大破炎上した敵機が落ちていくのが見えた。

 

「えっ?何? 何が起こったの?」

 

困惑するキリエ。

しかし、答えが返ってくる事はなく、それ所か彼女を更に困惑させる事態が起きた。

 

《真上に更に機影だ!数は五機!》

 

《アイツらがキリエの後ろにいた奴を撃ったんだ!》

 

呆然としているキリエのすぐ側を先程後ろにいた敵機を撃ち落としたと思われる不明機が下へと通り過ぎる。

 

狙いはコトブキ飛行隊ではない。

あの敵機だった。

 

《どうやら加勢してくれるようですわ!》

 

加勢、とは言ったものの、その後の展開は一方的だった。

あの不明機は格闘戦はせずに一撃離脱戦法のみを使って敵機を撃ち落としていた。

 

「アレってもしかして飛燕?」

 

《いや、よく見たら飛燕とは翼の形が違う。 私達の知らない戦闘機だ》

 

《それに武装も違うみたいね。 あの飛燕もどき、翼下にガンポッドが搭載されてるわ》

 

それだけではなく、機銃の威力もかなり高いようだ。

12.7mmですら歯が立たなかったあの敵機がたった数発で空中分解を起こしている。

恐らくは20mmクラスの機関砲を搭載しているのだろう。

 

《あっ最期の一機が墜ちた》

 

チカの間の抜けた声と共に爆散した敵機の残骸が舞落ちていった。

 

敵機を殲滅した事を確認するや否や直ぐに帰ろうとする不明機にレオナが慌てて無線で会話を試みた。

 

《救援に駆け付けて頂き感謝する。 こちらはコトブキ飛行隊の隊長を務めているレオナだ。 出来れば其方の所属を伺いたい》

 

言い終わってから暫くしても返答が来なかったので、無視されたのかと思いきや、漸く返答が来た。

 

《礼は必要無い。 元より我々の意思で行った事だ。 それと、申し訳ないが所属を明かす事は現時点では出来ない。 まぁ、いずれ直ぐに知れ渡るだろうがな……》

 

《……? どういう事だ?》

 

それ以上、あの不明機が話す事は無く、編隊を組みながら遠くの空へと去っていった。

 




とうとうゲーム版コトブキ飛行隊に海外機、『F6F ヘルキャット』と『BF109E型』が実装されましたぞぉ!!


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帰還報告

《1975年 12月 9日 『フルグル飛行場』11:43AM》

 

先程コトブキ飛行隊を助けた戦闘機隊、第245飛行中隊、通称『フルグル隊』と呼ばれる彼等は、既に全機飛行場への帰還、格納庫への機体の運び入れも済ませ、少しの休憩を挟んでここの司令官の元へと報告に来ていた。

 

「では『クレメンテ』大尉、報告を始めてくれ」

 

執務机で両膝を突いてこちらを見据える老け顔の基地司令、『バイロン』大佐を前にして、クレメンテは報告書片手に口を開く。

 

「今回の()周辺の偵察任務に際し、六機の敵戦闘機と交戦。 機種はいずれもシダルカ所属のP-36Gだった」

 

「敵と交戦……あっちから襲ってきたのか?」

 

問を投げかけて来るバイロン大佐に対して堂々と言い放つ。

 

「いや、所属不明の隼一型六機が襲われており、不明機側の不利を察したから俺の独断ではあるが仲間の要望もあって助けに行った」

 

「あー……いや、分かってたよなんとなくな……」

 

本来独断で部隊を動かすなど言語道断なのだが、このフルグル隊に於いてはそれがあまりにも頻発する為に、ある程度黙認されている所がある。

 

処罰を与えようにも彼等は皆立派なエース部隊なので前線から引き戻す訳にも行かないので仕方なくトラブルを起こさない限りはお咎め無しという事になった。

 

何とも杜撰な組織体制だが、そもそもこんな軍隊ごっこをやっている武装勢力にちゃんとした秩序を保ち続けろという方が無理がある。

 

穴を潜ってここにやって来てから一度も大きなトラブルが起きていないのだから寧ろ奇跡的とも言えるだろう。

 

「んで?お前らの戦果はどれ程だ?」

 

「六機撃墜、こちらは被弾した機体は無い」

 

「帰還する時につけられてねえだろうな?」

 

「帰還時に何度か周囲の索敵を行ったが、機影は一つたりとも確認出来なかった。 それ所か不明機からは無線で礼を言われた」

 

ある程度状況を把握したバイロンは安堵したのか大きな溜息を零し、表情を僅かに緩めた。

 

「にしても隼一型か、確か別の部隊に隼の部隊がいなかったか?」

 

「確かにいるがアイツらももうすぐ機種転換が始まるしアイツらが乗ってるのは一型じゃなくて三型だ」

 

「なんだ、機種転換しちまうのか。 格好良いのに勿体ねぇなぁ」

 

バイロンの言ってる事も分かりはする。

だがいつまでも時代遅れな機体に乗せられるパイロットの身にもなれと言いたいものだ。

 

観賞用に置くのは良いとしても、あんな時代遅れな機体で戦わされたんじゃ溜まったものでは無い。

 

確かに隼は見た目は良いが、全体的な性能でさもう他の戦闘機に置いてかれてしまっているのが現状だ。

どんなに見た目が良くても、結局は性能で善し悪しが決まるのだ。

 

「まっ、取り敢えずもう帰っていいぞ。 あと報告書は置いてけよ」

 

「分かってる」

 

執務机に報告書を放り、執務室を後にする。

まだ門を潜ってこの世界に来てから間も無く、部隊全体の動きは覚束無いようだ。

 

原因の一つとして地理的要因があるだろう。

地質調査などでここが嘗て海底であった事は分かっているが、その地形が劣悪にも程がある。

 

水は地下水でどうにかなったが、問題は食料とそれを確保する為の移動手段だ。

文字通り山あり谷ありなこの場所で輸送車なんてとてもじゃないがリスクが大き過ぎて出せない。

 

と言うと残る移動手段は空しか無いのだが、一番可能性があるとはいえこれもこれで危険だ。

 

ウチの飛行場には空中でも航空戦力を展開出来るように『飛行母艦』が一隻あるが、飛行防空艦ほど対空兵装は充実していない。

 

なので進出し過ぎれば最悪、袋叩きにあって我らが『マックス級』飛行母艦三番艦『ベネディクト』と運命を共にすることになる事は明白だ。

 

飛行母艦を動かしたいのであれば軍の主力が前線をフロンティアを押し広げて尚且つ制空権を確保してくれれば飛行母艦による物資の輸送も可能なのだが。

 

作戦司令本部もそっちに意識を向けているらしく、近々大艦隊を編成してこの『レッドランド』奥地に踏み込むらしい。

 

勿論前線にいるフルグル隊も例外ではなかった。

 

「おい、クレメンテ!」

 

建物を出た途端に待ち構えていたのか、一人の男が声を掛けてきた。

彼もクレメンテの僚機の一人である。

 

「どうした? 『クラウディア』」

 

「飯が出来たぞ!早く食堂に来い!」

 

腕時計の時刻を確認し、本当に昼食の時間であることが分かると、クラウディアの後に続いて食堂へと向かった。

 

コンバインドローラで平らに整備された滑走路の傍らにはマックス級飛行母艦三番艦、ベネディクトが鎮座していた。

 

要塞の如きその船体を見ると、ベネディクトの初陣が少しばかり楽しみになった。



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進行開始

〈1975年 12月 17日 『フルグル飛行場 南東 高度4500』 4:29AM〉

 

本日、遂にこのレッドランドでの最初の攻勢作戦が発動した。

目標は門を通ってフルグル飛行場より南東に140km離れた所にやって来た我々『ヴェストヴィント』と敵対する武装勢力、シダルカが飛行場を建設し、しかも飛行駆逐艦を二隻、飛行巡洋艦二隻に飛行母艦を一隻という大部隊を停泊させている。

 

現在確認されている他の飛行場でも同様の動きが見られたらしい。

 

誰がどう見ても大攻勢を仕掛ける気満々である。

 

そこで攻撃を仕掛けられる前に、こちらが先制攻撃を行う事になった。

フルグル飛行場からだけでなく、最寄りの飛行場からも爆撃隊などがやってくる。

 

既に別部隊とは飛行場から約70kmの地点で合流が完了している。

飛行場も間も無く見えてくる頃だろう。

 

《……見えたぞ!飛行駆逐艦が二、飛行巡洋艦が二、飛行母艦が一! 間違いない、情報通りだ!》

 

《迎撃機は確認出来ない!安心して爆撃出来るぞ》

 

《急降下爆撃隊、爆撃に備えろ!》

 

雲の隙間から見える飛行場を見据え、念の為にもう一度機体の状況をチェックする。

 

計器を一つ一つ確認していくが、異常は一つたりとも見つからない。

整備員が真面目に働いてくれている証拠だ。

 

確認を終え、前方を見ると、急降下爆撃機『SBD ドーントレス』の編隊の隊長機がバンクを振った。

 

爆撃を行う合図だ。

 

それから間も無くして隊長機とその僚機が機体を翻し、雲の下へと飛び込んで行く。

他の護衛機も降りて行くのでこちらも僚機に指示を送る。

 

「全機、突入するぞ」

 

機首を真下の雲へと向け、急降下でドーントレスの後に続いて飛び込んで行く。

雲の下に出てもう充分敵の対空レーダーの範囲内に入っている筈だが、対空砲が撃ってくる様子は無い。

 

やはり明朝に攻撃を仕掛けて正解だったようだ。

敵の反撃を食らうことなく、ドーントレスの群れはそれぞれの編隊に分かれて停泊している飛行艦へ攻撃を仕掛ける。

 

まずは最重要標的だった飛行母艦にドーントレスの1000ポンド(453㎏)爆弾が降り注ぎ、船体上部で大爆発が起きた。

 

飛行母艦は空中でも航空戦力の展開が可能な代わりに装甲が薄く、小規模の爆撃でも内部のガスに引火して大爆発する可能性もある。

 

《うおお! 飛行母艦が吹っ飛んだぞ!》

 

今まさに起きている光景がそれだ。

クラウディアの歓声と共に飛行母艦が原型を残さず木っ端微塵に爆ぜた。

 

燃え盛る飛行母艦の残骸から飛行場の滑走路に目を移すと、漸く戦闘機が離陸を始め、対空砲も発砲を開始した。

 

と言っても最早後の祭りだ。

飛行母艦を撃墜した次は飛行巡洋艦と飛行駆逐艦が狙われ、いとも容易く撃墜された。

 

「俺達は戦闘機を狩るとしよう」

 

《BF109F4にかかればP-40なんてただのカモだな!》

 

滑走路に並ぶ戦闘機の列に照準を合わせ、銃弾を空から浴びせる。

ガンポッドを付け足したBF109F4の火力は凄まじく、戦闘機の列が尽く火の海と化した。

 

「酷いワンサイドゲームだなこれは……」

 

火の海と化した飛行場。

そこで逃げ惑うパイロットや整備員達。

 

彼等ごとドーントレスが飛行場の施設を焼き払っていく。

爆炎で炭化した死体がそこかしこに転がり、赤色の大地に黒胡麻のような小さな黒点を作っている。

 

《はははっ! まるでアッチの世界(・・・・・・)の文献にあった真珠湾攻撃みてぇだな!》

 

「よせよクラウディア。 それだとこの後俺達負けるぞ」

 

談笑と共に行われる殺戮。

クレメンテからすれば、ここまで一方的な戦いも珍しいものだった。

 

この攻撃の成功に一番貢献したのはやはり空を覆い隠す雲だろう。

作戦司令本部も今日辺りの天気を粗方予測していたのだろう。

雲を利用してレーダー網を掻い潜るのは昔からあった戦法だ。

 

《目標の殲滅を確認!トンズラだ!帰るぞ!》

 

あっという間に作戦が終了し、編隊は帰路につく。

今頃、遠い所にいる別の部隊もシダルカの飛行場を制圧した所だろうか。

 

 




BF109とスピットファイアシリーズってやたらバリエーション豊富だよね。


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稲妻の渡来

《1975年 12月 30日 『ラハマ』1:00PM》

 

ここ最近で、ラハマとその周辺の街は随分と慌ただしい雰囲気となっていた。

その原因はただ一つ、周辺空域に於ける所属不明機同士の大空戦だ。

 

機種も不明、所属も不明な戦闘機やら爆撃機やらが突然複数の穴からやって来て、途端にドンパチを始めた為、議会の方も対処に困っているそうだ。

 

そんな中、キリエ達コトブキ飛行隊は仕事があるかないかと言えば

 

「あぁ〜暇〜」

 

無かった。

本拠地にしていた羽衣丸は穴を塞ぐ際に吹っ飛ばしてしまったし、ドンパチ騒ぎも議会から手を出すなと釘を刺されているのでやる事が無い。

 

話に拠れば大空戦に巻き込まれて逃げ出してきた空賊までいるらしい。

 

しかしそれでも逃げた先はラハマよりは程遠い場所。

コトブキ飛行隊は完全にお休み状態となっていた。

 

エンマは家の庭にあるソメイヨシノの手入れで忙しいし、レオナは孤児院に方に用事があって今はそこにいる。

ケイトはアレンのお見舞いに行ってるし、チカもどこかへ行ってしまった。

 

今残されているのはキリエただ一人だけである。

 

「あぁ〜」

 

もう何度目か分からない呻き声を上げながら何皿目か分からないパンケーキを一口口に放り込む。

 

恐らくこの世で最も辛いのは退屈なのではないかと思い始め、最後の一口を食べ終わる。

 

それと同時にこの店の店員がやって来た。

 

「キリエサン、電話ガ来テマスヨ」

 

やけに片言な喋り方だが、もうとっくの昔に慣れているので軽く聞き流しつつ受話器を取る。

漸く仕事の一つでも来てくれたのかと淡い期待を込めながら電話先の相手、マダム・ルゥルゥの話へと耳を傾けた。

 

「はーい、キリエでーす」

 

《あらキリエ?隊長はいないの?》

 

「隊長どころか私以外皆用事でいないよ」

 

《……まあ仕方ないわね。 貴方に頼みたい事があるの》

 

「なに?」

 

《ラハマより南西の方角から所属不明の戦闘機が一機近付いてきているわ。 恐らく穴からやってきた例の戦闘機よ》

 

「一機?」

 

《えぇ、貴方にはその戦闘機の元へと向かって欲しいの》

 

「えぇ〜。 それくらい自警団にやらせればいいじゃん」

 

《生憎自警団の機体は今全機定期のメンテナンス中で出せないのよ。 迎撃する訳でもないから行ってきてくれないかしら?》

 

マダムの言葉に少し唸るキリエだったが、どうせ暇だからと承諾した。

 

《ありがとう、貴方の機体は既に出撃準備を整えてあるわ。 出来そうならウチの滑走路まで案内して欲しいわ》

 

「まぁできる所までやるよ」

 

《頼むわよ》

 

その言葉を最後に電話は切れた。

やっとやる事が出来たキリエは軽い足取りで飛行場へと向かった。

 

飛行場には電話で伝えられていたとおり自分の隼が既にエンジンの掛かった状態で止まっていた。

 

隼のコックピットに乗り込み、計器を確認し、シートベルトを付けてキャノピーを閉じた。

 

エンジン出力を上げ、滑走路を速度を上げながら直進する。

速度がどんどん上がっていき、揚力が強まって尾翼が浮き上がり。 次にとうとう空へと完全に浮き上がった。

 

飛行機が離陸した時の独特な感触を味わいながら、機首を南西へと向けて進む。

エンジンの振動を全身で感じながら適当に作った鼻歌でも歌いながら目的地へと向かう。

 

イケスカ動乱以降、仕事が滅多に無かったので、操縦桿を握るのが久し振りにも思えた。

 

とはいえ彼女もエースパイロットの端くれ。

腕は未だに落ちてはいない。

 

「ん〜」

 

目的地周辺に来た頃、目を細めながら周囲を見渡す。

 

「ってん?」

 

辺りを見渡すと空中で動く何かしらの物体を見つけた。

明らかに鳥ではなく、飛行機である事は明白だ。

 

「いたっ!」

 

急いで不明機の元へと機首を動かして不明機の上後方につく。

 

機体を僅かに傾けて不明機の全容を確かめる。

機種は相変わらず分からない、だが見覚えはあった。

 

飛燕にも見えるが主翼が角張っており、翼下にガンポッドを下げている。

胴体と主翼には左側から吹く風を模したエンブレムが描かれていた。

流石にあの状況でエンブレムまでは見れていなかったので改めて覚え直した。

 

キリエは早速無線機をオープン回線に繋ぎ、不明機に呼び掛ける。

 

「そこの不明機!」

 

《あぁ……お前はいつぞやの隼乗りか。 シダルカの戦闘機隊相手によく生き残れたものだな。 見事だったぞ》

 

「あ、ありがとう……ってそうじゃなくてアンタ何者でなんでこんな所にいんのよ! それといつぞやってまだそんなに経ってないわっ!」

 

《そうか? すまないな、記憶力には自信が無いもんでね》

 

特に意味の無いやり取りをした後、本題を持ち出したのは不明機の方だった。

 

《本題なんだが、少し頼みがある》

 

「頼み?」

 

《そちらの飛行場へ着陸させて欲しい。 それもなるべく早くだ。 エンジントラブルでコイツはもうじき墜ちる》

 

相手はエンジントラブルで飛行場への緊急着陸を求めている。

自分の独断で着陸させていいのだろうか。 と考えるが、不明機に無線越しに急かされたので仕方なく誘導する事にした。

 

「着陸する時はアンタが先に降りてよ」

 

《了解、誘導感謝する》

 

滑走路へと降りて行く不明機。

それを飛行場の上を周回しながら見つめるキリエ。

 

滑走路から不明機が退いた事を確認し、キリエも着陸体制に入る。

 

機首と滑走路を真っ直ぐに合わせ、スロットルを絞りながらゆっくりと高度を下げる。

 

着陸する時には完全にエンジンを切り、速度に任せて滑走する。

機体を通して伝わって来る衝撃をその身で感じながら格納庫付近で着陸する。

 

格納庫に運び込まれる隼を見送りつつ、不明機の方を見ると銃を持った男達に囲まれていた。

 

色々話を聞きたいし今死なれると困るのでキリエは不明機の元へと駆け寄った。

 




近々新勢力でも出そうかな?


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北風

兵器の名前って偶に被ってるのあって紛らわしいですよね。


《1975年 12月 30日 『独房の中』9:58PM》

 

自警団とやらに取り囲まれたクレメンテは、戦闘機から引きずり降ろされ、隼乗りの少女の説得も虚しく衣服以外の持ち物を剥ぎ取られた後に独房にぶち込まれた。

 

いや、着陸した時からこうなる事はある程度予測していた。

自陣にのこのことやって来た所属不明の戦闘機のパイロットの扱いなんてどこもこんな感じだろう。

 

そんな事よりもこの世界の住人と実際に会って話す事が出来た事が大きな成果だ。

言語は我々の物でも通じる。

街の様子としてはウチと大差ないように感じられた。

ただ場所が場所なのでエラく汚く見えてしまうのが難点だが。

 

しかし自警団の連中、ボディチェックもしないとは随分と杜撰なものだ。

お陰でブーツの中に隠していたアーミーナイフや野営等で使用する携帯式の火打石に護身用のレミントン・デリンジャーと予備の弾は取られることは無かった。

 

ただ脱出する気は無い。

脱出した所でBF109F4は完全に自警団の手中にあるだろうし、彼等とヴェストヴィントが対立する要因にもなりかねない。

 

今後の物資の補給は現地で行うしかない以上、現地の人々と友好関係は保っておきたいのは作戦司令本部も考えている。

 

たった一人のパイロットのミスで貴重な取引相手を失ったりなんてしたら目も当てられない。

 

ここは暫く展開が動き出すまで待つしか無かった。

一先ず今日はもう何も出来る事が無いので寝心地の悪いベッドに身を預け、意識を手放した。

 

眠っている間にもシダルカが動き出しているのを、クレメンテも、ここに住む彼等も知らなかった。

 

《1975年 12月 31日 『独房の中』5:34AM》

 

熟睡していたクレメンテは飛び上がらせたのは凄まじい爆発音だった。

狭い僅かな窓からしか外は見えないか、耳に入ってくる情報が全てを物語っていた。

 

「空襲か……」

 

この街に空襲を仕掛けてきたのは何者か?

候補として上がった内の一つはシダルカか、又はそれと同じ武装勢力。

とは言っても今後の取引相手にもなる可能性のある街の住人をわざわざ攻撃する事にメリットは無い。

 

そもそもシダルカはそんなリスキーなことをする程大雑把な性格はしていない。

シダルカは近年、物資の不足に悩まされている。

 

だから現地での入手先を模索しているのだ。

攻撃なんて以ての外である。

 

他の武装勢力に関してはまだ飛行場や部隊が発見された報告は挙がっていないそうなので何とも言えない。

 

一番確率が高そうなのはこのレッドランドに住まう未知の第三勢力によるものだ。

ついこの間も別の部隊が所属不明の戦闘機小隊と交戦したらしい。

 

作戦司令本部は所属不明機の機種や練度から彼等を『空賊』と暫定している。

 

奇妙なのは空賊の使用する機体がどれも日本機だという事だ。

 

「まだ逃げてなかったのか!? 早く来い!逃げるぞ!!」

 

考え込んでいたら扉の方から鍵を解錠する音が聞こえ、吹き飛ぶように扉が開き、そこにはクレメンテを捕らえる際に団員を指揮していた自警団の男がいた。

 

自分達で拘束した癖にここにまだいる事も忘れていたらしい。

ともあれ、ここでじっとしてる訳にもいかない。

今は脱出が最優先だ。

 

建物から連れ出される際に空を見た。

明朝でまだあたりは暗く、ぼんやりとしか見えないが空を飛ぶ複数の航空機を視認した。

 

「アイツら、アンタらの知り合いか?」

 

「知らねぇよ!!見た事もねえ機体(・・・・・・・・)に乗ってるし、少なくともここいらの空賊じゃねぇ!!」

 

「成程な、じゃあ何処に逃げる?」

 

「なんでお前そんなに冷静なんだよ!とにかく、この先に長い間使われてない防空壕がある!皆そこに逃げてる筈だ!」

 

確かに辺りを見ると殆どの人間がクレメンテ達と同じ方向に逃げている。

 

防空壕まで完備されている所を見ると、どうやらこの世界の兵器の主力はやはり航空機らしい。

 

となると、行ったことは無いが他の街にもこのように防空壕や飛行場があるのだろうか?

 

観察すればする程面白い世界だと思いながら入口に半ば飛び込むように入っていった自警団の男に続いてクレメンテも階段を駆け下りて下に降りる。

 

その際に、少し立ち止まって空襲を仕掛けてきた航空機の正体を確かめようと空を見た。

 

その独特な形状をした機体は、シルエットだけでも分かった。

今も街を焼き払っているその機体を眺めながら呟く。

 

「B17か……なかなか面白い機体を持ってくるものだな」




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