モンスターハンター~狩人の狂気~ (金科玉条)
しおりを挟む

0.歩みの始まり

今回から連載でもしてみようかと書き始めたモンハンオリ小説。
更新ペースもゆっくりですし、ゆるりとお付き合い願えたらいいな…なんて
文章力無さ過ぎて辛いヒィヒィ言いながら書いております、よろしくお願いしますです


陽光の差す断崖の上、ユクモ村へと向かう荷車の御者は、鼻歌交じりに手綱を操っていた。

操られるのは丸々と太ったガチョウのような鳥竜種、ガーグァ。

荷台には二人の人間がいて、御者は猫。

これらをいちいち解説するならば――

御者、すなわち直立二足歩行する猫は、アイルーと呼ばれる獣人種のモンスター。人語を解し、人の手助けをする、この世で最も人に近い生き物。

荷車を引く鳥、ガーグァもまた、モンスター。

鳥竜の名の通り、その足には竜を想起させる鱗がある。

それ以外は至って普通のガチョウだが……

そして最後に、荷台に背中合わせに座る男女。

いや、双方ともに顔立ちにあどけなさを残しているため、少年少女―――と形容するのが正しいかもしれない。

振動に揺られ、瞳を閉じて、剣を抱く少年。

空を見上げて、溜息をつき、槍を抱く少女。

そんな少年少女の姿は、まるで違和感なく、風景に――原生林と、そびえる山々を背景にした、美しい辺境の風景に―――溶け込んでいた。

少年の名をセルク、少女の名はクルア。

二人は、ハンターと呼ばれる存在のうちの、二人だった。

 

 

 

 

この世界には、竜がいる。

いつからいるのか、どうしているのか。

そんなことはどうでもよかった。

誰も知らないのだから、当然ではあるが。

竜は人を喰う事を旨として、強大な力で人を襲った。

絶望して逃げ惑う人々の中に、いつからか、戦う者が現れた。

刃を手に、竜と闘う彼らを、人は狩人と呼んだ。

それがいつのことなのか、正確にはわからない。

ともかく、竜は人を喰い、人は竜を狩った。

そうして、世界は保たれてきたのである。

 

 

 

 

「…クルア」

「何よ、寝てたんじゃないの」

いささか手厳しいような語り口は、彼女の性質とも言えた。

「綺麗なところだね…」

「そうね、雪山を見慣れてきた目には新鮮だわ」

やはり眠いらしく、少年は眼をこすった。抱えた剣が揺らぐ。

「おっ、と…危ない」

そんなセルクを――狩人としての相棒であり、姉弟として育ってきた少年を一瞥して、クルアは眼を閉じた。

この二人の間に、長い会話が生まれることはそう多くなかった。

クルアの喋り方の問題でもあったが、それ以上に、言葉で多くを伝えなくとも伝わる、強固で柔軟な信頼関係がある為である。

セルクもそれをわかっていて、黙ってクルアの横顔に集中していた。

凛とした、という表現が最も似合う顔立ち、濡れ羽色の長髪、なによりも昏い瞳。

どこにいても、どんな環境でも、彼女はいつも美しく輝いていた。

誰にも渡したくない、と思う程に。

もちろん、それは恋愛感情とはほど遠かった。物心ついたときからずっと一緒だった彼女に、思えばそんな感情を抱くはずなどなかったが。

セルクにとってのクルアは、頼れる姉であり、尊敬の対象であり、何よりも大切な家族であり、支えられ支える表裏一体の関係であり――――

とどのつまり、彼の全てであるのかも知れなかった。

モンスターの襲撃で故郷を奪われ、親を奪われ、孤児院で唯一友達になれた彼ら二人は、どこへ行く時も一緒だった。

その話はおいおい語るとして―――

そんな、二人で独り、孤独な狩人の二人組を乗せた荷車は、眠気のようにゆっくりと、ユクモ村――辺境の温泉村に、向かっていた。

 




伏線も何もあったもんじゃねえ、書きたかっただけだろうこんちきしょう
と、言われても仕方ないですねはいすいません
こんな調子になると思うのですが…
まあ…皆さんの心の広さは知ってますからね、はい

…ありがとうございました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1、吹雪と氷雪、悲哀と別離

前回の舞台から遥か北、凍土のお話。
これから繋げていきます…ゆるりとお付き合いくださいな


吹きすさぶ寒風が、窓をガタガタと揺らして吹き抜ける。

それでも、今日は珍しく雪も霰も雹も降っていない…

つまり、外に出るときにも重装備でなくてよい、ということである。

それは幸いなことであった。何しろ、終わるともしれない旅に出るのであるから。

旅…いや、放浪する、と言ったほうが正しいだろうか。

居場所を捨て、自らの全てを捨て、彼は歩み出そうとしていた。

 

否…歩み出せるのだろうか。

彼は、逃げようとしているのかも知れない。

小さな家の中には、何も無い。

必要と思われるものは全て荷物として詰め込み、そうでないと判断したものは全て、彼が壊してしまっていた。

もう何もいらない…と、そう、決めていた。

彼には何も残っていなくて、何もいらなかった。

「ソーシア…」

ふと漏れたのは、愛しい人の名。もうここに居ない、誰よりも愛しい名前。

何を壊そうとも、忘れられるものではない。

半ば諦めながらも、忘れたらどうなるのかが怖くもあった。

何よりも、忘れたくない…

 

いつも通りに、鎧、篭手、腰当、具足をつけていく。

防具というにはややファッショナブルな、白くエスニックな意匠の施されたソレは、白兎獣と呼ばれる牙獣種のモンスターの毛皮から削りだされた装備品である。

この地域では普段着に等しいが、ハンターの使用、すなわちモンスターの攻撃にも耐える代物であった。

もうどれくらいになるのだろうか。この永久氷雪地帯で、初めてこの鎧を着て、初めてモンスターと対峙して、初めての狩りを成功させて――

怒涛のような思い出の渦も、彼を引きとめる事はできない。

巨槍を背負い、彼は永い事住み家としてきた家を出る。

銀の風と吹雪がいつも通りに挨拶をし、フードを被ることでそれに応える。

全くいつも通りだった―――誰にも称賛もされず期待もされず、実りの乏しいこの地に居座って刃を振るい続ける彼は、誰の見送りも受けたことがなかった。

ただ一人見守るように笑んでくれていたひとも、もういない。

…やめよう。

振り切るように、扉を乱暴に閉めた。

軋むちょうつがいを止める者はいない。

夜の闇が、白く舞う薄片に色を奪われて紫に滲んでいた。

それでも、彼の目を滲ませるものはない。

真っすぐに、ただ、進むべき道のみを見据えて―――

自嘲気味に、唇をゆがめる。

亡き妻の面影は、とうの昔にこの地に果てているのかもしれない。

それでも、やはり諦めきれずにいるのだった―――

彼には、娘がいた。名を、ガリシアと言う。

2年も前になるだろうか…母、ソーシアの死から1年と少し。

彼―――凍土の専属ハンター、ジュート・ロウ・エルゼルペインは、失意の底にあった。

今になって思えば、ジュートは娘に負担をかけすぎていたのだろう…

ソーシアの影を引きずり、娘をないがしろにして。

その面影を色濃く残す娘を、果たして愛していると言えるのだろうか。

それは本当に、ガリシアへの愛だったのだろうか。

耐えきれず逃げ出したガリシアを責めることなど、彼には到底できない。

そして今、彼は何をしようとしているのか?

答えは単純だった。

ガリシアを探し出すこと。

そして、諦められない負の連鎖から逃げ出すこと。

逃げ出すために逃げるとは、こりゃまた傑作だ…と、ジュートはフードの中のひさしを降ろした。

ぽつぽつと降り出した霰の中、ジュートは歩きだす。

行くあては、なかった。ただこの場所から遠ざかりさえすればそれで良いと思った。

否―――漠然とした目的地は、彼の中に設定されているのだった。

「…ユクモ村、ねえ」

ここから遥かに南、山の中にぽつりと存在する辺境の温泉村。

ハンターはいるのだろうか―――

寒かった。考えに立ち止まったのも悪かったが、なにより心の内が冷たくふぶいていた。

氷点下でも適温に変えるこの装備も、内からの凍風には効果を発揮しない。

これを埋める暖かさが欲しかった。

人でもいい、温泉でもいい―――

冷たさから脱し、温かさに触れたかった。

ユクモ村についたら何をするか――と、今の内から妄想に心を膨らませ。

どこか小さく期待していた―――ガリシアがいるんじゃないか、と。

会えたところで、どうにかなるものでもないのに…

なぜなら、彼女が自由へと逃げ出した時と、彼が何も変わっていないから。

最低な家族だな、と零し、今度こそジュートは止まらずに歩きだす。

むしょうに人が恋しかった。

抱え込んだ思いを理解してくれるような、友と呼べる存在が欲しかった。

それでも――何を得るにしても、まずは歩きださなければならない。

ますます強まる霰の中、慣れ親しんだ悲しみの里に別れを告げ。

一人の男が、門をくぐった。

 

セルクとクルアがユクモ村へ向かい始める、数週間ほども前の事である。




寒さって、寂しいものですよね
今日は雪が降りました…僕の住んでいるところでは珍しいです、むちゃくちゃ寒かったです
ジュートさんの境遇を想うまではいかずとも、ある程度は理解できたかな、なんて…
読者様には、前回の分も合わせて、ありがとうございます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2,水面の想い1/2

前回ジュートさんの回想の中にちょこっとだけ出てきた娘さんのオハナシ、第一弾。
きっとハンターって、思っている以上に大変なお仕事なんでしょうね。
ハンターって打とうとしてはにゃーって打ってしまったので死んできます



刃を振るって敵を知り

  

   刃を知って敵を断つ

 

       敵を断って命を知り

  

          命を知って刃を断つ

 

             刃を断って死を感じ

 

                 死を知ってなお、生きようとした

 

 

 

…っ…

ぼやけた霧の漂う孤島の村の朝、ベッドの上でガリシア・ウル・エルゼルペインは眼を覚ました。

誰の歌だろう。窓の外から、遥かに薄く、遠く、小さく…何か聞こえてくる。

 

 

 

理を知って現を愛し

  

   愛を理って現を知った

 

        愛を知って理を愛し

 

            愛の理に現を抜かす

 

                理を抜かして現を見て

 

                    愛を逃して、現へ帰った

 

 

 

男の声―――だろうか、きっとそうだろう。

よく通る、それでいて涼やかでのびのびとしていて、美しい。

吟遊詩人だろう…孤島には、そういった類の人間が立ち寄ることが多い。

隔絶された空間には、伝承歌やなんかが、きちんと継承されていることが多いからである。

そんなことを教えてくれたのは父だったか。

思い出したくない父親の顔はしかし、上手い具合にぼけてかすんでいて、上手に思い出せなかった。

安堵の息を漏らして、ベッドから降りる。

彼女が凍土の街を抜け出してから早一年、孤島の小さな村の専属ハンターとなったガリシアは、細々と暮らしていた。

よそ者に対しての風当たりが非常に強く、迷信も多いこの村で、彼女の存在は悪い意味で神と同等であった。

つまり、そこにいて、ありがたい存在でありながら、触れる事はしない…否、したくないといわんばかりに。

どこか、壁や仕切りを置いて接したがるのである。

仕方がない、と言えば仕方のない事であるのかもしれない。ガリシアも、そこは受け入れていた。

だけど、ふらっと立ち寄っただけの人が嫌がらせや迫害を受ける姿は、見ていてとても辛いし、嫌な気分になる。

やっぱり自分には合わないのではないだろうか―――と、一年目にしてようやく気付いたガリシアはしかし、どうすることもできないと感じていた。

それに、なによりも強い想いが一つあった。

父親に、見つかりたくない。

この小さな村に身を潜めていれば、絶対に見つからないだろう。

そうして、ガリシアは独りで生きてゆきたいと願っていた。

死んだ妻と娘を、重ねて見るような父親など、もう二度と会いたくなかった。

だけど、なぜだろう。

この澄んだ歌声を聞いているうちに、いてもたっても居られなくなる。

手早く上着をつっかけただけの姿で、彼女は家を出た。

 

 

色をつけて人を見て

   色を見て人につき

      人を見て色をつけ

          色を…

「おい、シル。いつまで歌ってんだ?船が出るぞ」

一枚岩の上で、空を見上げて歌っていた細身の青年は、目を細めて声の主を見た。

見上げるほどの大男で、岩山のように屈強な肉体を持っていることが一目でわかる。

体にまとった、同じく岩のようなゴツゴツの鎧も、彼の性格を裏打ちしているようだった。

シル、と呼ばれたその青年は、年齢に反して銀灰色の長髪をなびかせて、薄い岩を降りる。

日の下で見ると、肌は異様に白く、青い瞳と相まって、ともすれば女に見えないことも無いほどだった。

「ゼル、もう少しくらいいいじゃないか?」

そう言いつつも、シル――シルギスの名を持つハンターは、もう歌うつもりはないようだった。

ゼル、と呼ばれた大男も、踵を返して彼に続く。

「ここはいいところだね、ゼル」

「ああ、まあ…そうだな」

とはいえ、彼は景色を楽しむ精神を持ち合わせていない。

「ユクモ村へ行くんだろう?こんな所で燻ぶるつもりか?」

「ううん…まあ、正直なところ、ユクモへ行くのに期限はないからね」

「…ま、俺は戦えればそれでいい」

「これだから戦闘狂は…」

やれやれ、と溜息をつき、シルギスは村のはじ――船着き場へ、向かう。

 

 

 

「待ってください!」

そんな二人の背中に声をかけたガリシアは、にこやかな好青年の笑みに、毒気を抜かれて立ち尽くす。

「なんですか、お嬢さん?」

「あっ…ああ…いえ…」

「何か用か?」

変わって応対したゼル――ゼルローンは、打って変わって酷く無愛想である。

そのことで逆に勢いを取り戻し、ガリシアは続けた。

「先ほどの唄は…?」

とはいえ、少し尻すぼみになるのは仕方のない事であった。

恥ずかしそうに、シルギスが頬を掻く。

「僕ですが…すみません、騒がしかったですよね」

「そう…なんですか、とても、素敵でした」

「…聞いたかい、ゼル」

「ああ、聞いた」

「いくらだっけ?」

「…500だな」

「それじゃ、今すぐ払って貰おうか」

今度はゼルが、やれやれと肩をすくめた。懐を探り、硬貨を出す。

「ほらよ」

「やっぱり僕が勝っただろう?」

「うるせえ」

「…あの…」

おずおずと切り出したガリシアに、シルギスは再び微笑んだ。

「ああ、すみませんね…ちょっと、賭けをしてまして」

それは見ればわかるって、と心で突っ込みを入れるガリシア。

「じゃ、俺達は急ぐんでな」

と、ゼルは背を向けたが、シルギスは動かない。

「それで?僕の歌を褒めて下さった素敵なお嬢さんの要件はなんですか?」

どうやらかなり気を良くしているらしく、その笑みが途切れる素振りは少しも無い。

「…どこかへ、行かれるのですか?」

初対面で、いきなり何を言い出すのだろう――そんな疑問も、一瞬で消えたらしい。

「ちょっとユクモ村までね」

「おい、シル。余計な事を言うな」

「負けた君こそ黙っていたまえ」

ぴしゃりと言い負かして、また笑む。

「それで何かな?僕たちと共に来るかい?」

んなワケねえだろうが、と、ゼルは顔をそむけて吐き捨てる。

「――――っ」

浮かんだ父の顔が、今度こそいやらしく笑っているようで。

閉ざされたこの島に、いつかやってくるんじゃないかと思えて。

「行かせて、くれるんですか?」




一話で終わらせるつもりが、長くなってしまった+疲れた+何やってんだかわからなくなった+間が空いてしまって申し訳ない
ので、二話にわけて語ることにいたします
どうぞ、ゆるりとお付き合いください


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。