戦術人形は迷宮都市を満喫する (abelu)
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C96ヤーパンの創作世界に立つ

狂乱編のC96が可哀そうだったので、初投稿です。



 人形製造。

 それはグリフィン&クルーガーに所属している指揮官が、強力な人形を得る為か、はたまた一日4回行うと任務達成報酬としてもらえる資源のために行う作業。

 ある日、ある地域の基地ではそんな報酬のために最低限の資源で行う指揮官がいた。

 

 30:00

 

 そのタイマーは、”ドイツの旧式自動拳銃と結びつけられた人形(その指揮官にとってはコア)”が来る合図。

 

「任務用の最低資源でコア1つか。ラッキーだな」

 

 その人形の性能からか、その基地が貧乏だからか、着任するであろう人形には悲しい運命が待っていた。

 

     ~30分後~

 

 私はC96のという武器を与えられた人形です。

 私を手にした指揮官は運がいいですよね!

 なんたって、C96は19世紀もっとも成功したと評価されている自動拳銃なんですよ!

 きっと私が来たことで、指揮官は喜んでくれるはずです。

 ならば、私はその期待に応えましょう!

 戦場で指揮官の敵をいっぱいやっつけて、いっぱい褒められるのです!

 そして、ゆくゆくは指揮官と…(≧∇≦)キャー!

 では、いざ行きましょう!指揮官の元へ!

 せ~の!

 

「あなたが私の指揮官なのですね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早速で悪いが、ここは資材が不足していてね、君は解体だ。」

 

 ……はい?

 いま、なんて言いました?

 解体?

 待ってくださいよ。

 私が指揮官に褒められたり、敵をやっつけたり、指揮官を誘惑してキャッキャウフフな展開になったりするはずの私のグリフィン生活は!?

 嘘でしょう!?

 

「…わかりました。早速お役に立ててうれしいです。」

 

 

 頭の中でさっきまでの楽しい妄想は、爆発しました。

 悲しいかな、人形は人間に逆らえないようにできているのです。基本的にyesマン(…ウーマン?)なのです。

 鉄血がちょっと羨ましいです…せめてちょっとだけ逆らってわがままが言いたい…

 今日が私の命日よ!

 んふふ…(´Д`)ハァ…

 私は後ろで待機していた後方幕僚のカリーナさんに言われるがままに武装解除され、とうとう機密保持のために記憶の抹消作業に入ります。

 こんにちは私、バイバイ私。

 私が消えた私は民間用の人形として頑張るでしょう。

 

   ザザッ…

”赦さん……断じて貴様らを赦さんッ! 利益に憑かれ、人形の誇りを貶めた亡者ども……その夢を我が血で穢すがいい!

代用コアに呪いあれ! その戦場に災いあれ! いつか地獄の釜に落ちながら、このC96の怒りを思い出せ!”

 

 う、うん?これは走馬灯というものでしょうか…人形もそんなものを見るんでしょうか…

 あぁ、準備ができたようです…さようなら

 

 

 消えたはずの私がなぜか存在している。これは一体どういうことなのだろうか?

 

「私は抹消されたはずでは?」

 

「それに関して今から説明いたします。」

 

 うーん、生前?のおよそ30分の間に聞いたことのある女性の声ですね。

 

「カリーナさん…?」

 

「すみません。私はあなたのことを知りませんが、きっと数多の姉の誰かとは面識があるのでしょう。」

 

 いやいや、待って!?

 

「数多の姉って、どういうことなのですか!?」

 

「えっとですね、私達カリーナはグリフィンの基地一つにつき一人はいるんです。それだけじゃありませんが。それはさておき、人形が誕生する前にクローン技術に関しての実験が行われていました。その成功例が私達カリーナタイプです。戦後復興の人員不足の解消を解消するためだったそうですが、実用レベルに成長しきるころには人形ができました。教育などに時間がかかる私達の必要性がなくなり実験は終わりました。」

 

 グリフィンの基地一つにつき一人+α。なるほど、確かに姉妹としては”数多の”という言葉がつくくらいには多いですね……

 ちなみに、私と今話しているカリーナさんは末っ子らしいです。

 

「それでは、本題に入りましょう。まず、編成拡大というシステムには、代用コアや、同一の人形が必要になるのはご存じですよね?」

 

「それはまぁ、戦術人形として生まれた時から記憶領域にインプットされてるから…」

 

「そうでしたね。それでですね、人形の皆さまはかわいいじゃないですか!」

 

 ん、んん????

 いきなりテンションが上がるカリーナさん。

 ちょっと話が飛びすぎていると思います。

 

「仕方ないとはいえ、こんな風に生産されていきなり解体を言い渡すのは、私としてはとても心苦しいのです。ですから、私達は考えました!そんな皆様に、疑似的に人生を謳歌してもらおうと!」

 

「どういうことですか?」

 

「くっくっく…それはですね」

 

 カリーナさんによると、コネを使ってゲーム会社に話を通し、解体予定の戦術人形の記憶とメンタルモデルをあるサーバーに移し、その中で、ある種ゲームのような世界での人生を楽しんでもらうシステムを作ったそうです。

 開発費は、いろんな指揮官との商売で稼いだものを、姉妹からちょっとずつ集めたものだとか。

 要は、指揮官たちのお金ですね……

 語るカリーナさん…すごく悪い笑顔でした。

 

「で、これはメンタルモデルの開発実験の部分もあります。」

 

 というのも、戦術人形は意図的に”死”を恐れないようになっています。

 だが、人と同じように死という概念を与えれば、生存性向上と特殊技能の発現を促せるのでは?という意見もあったそうで。

 そんなわけで、カリーナさんの計画はI.O.Pの協力も得られたそうです。

 

 …ちなみに、一定の成果がでた場合、カリーナさんに収入が入るとのこと。

 

「解体される人形は人生が与えられ、I.O.Pはメンタルモデルの観察データが手に入り、私達とゲーム会社には収入が入る。みんな幸せですね!」

 

 自身の善意すら回り回って収入に変える…カリーナさん、恐ろしい人!

 

「というわけでc96さんには、私がサルベージした日本の創作物の世界を再現した、”ワールド1”に行っていただきます。頑張ってください!」

 

 怒涛の展開です。生まれて30分くらいで戦術人形としての私は死んで、仮想的に人間として生まれ変わるのです!

 うん、意味が分かりませんね!

 

 

 

 

 

 ここは、どこでしょうか。

 無事、仮想空間内で目覚めた(起動した)と思ったら、知らない木の天井が私の視覚情報として飛び込んできました。

 体を起こすと、私の膝のあたりで、私と同じ白髪の少年が眠っています。

 どうしようか反応に困っていると、少年がもぞもぞと動き始め、大きく伸びをしました。

 

「ふぁはぁ……あれ?」

 

「……おはようございます」

 

「じいちゃん!女の子が起きたぁあああああああああああああ!!」

 こちらに気づいたようなので、気さくに挨拶をすると、少年は弾くように立ち上がり、慌しく外へ飛び出していきました。

 え、何その反応は……第一世界人?に猛ダッシュで逃げられたんだけど……

 いや、まぁ人を呼びに行っただけなのだろうけどさ。

 

「おぉ、目が覚めたようで何よりじゃ。」

 

 ほら、クルーガーさんがいらっしゃいましt……く、クルーガー社長!?

 

 

 開け放たれた扉の向こうには、G&Kのクルーガー社長(の毛をすべて灰色にしたような人)が立っていました。

 

「おや、ワシと誰かを勘違いして居るようじゃが、生憎そのクルーガーとやらではないぞ。」

 

「いやいや、あなた社長でしょう!?こんなところで何やってるんですか!?職務にお戻りになってください!!」

 

「ちが、落ち着け!落ち着けというておろう!?痛い痛い!髪をつかむな!わしはその社長ではない!禿げる!やめっやめろぉおおおおおおおおおおおおお!」

 

 勘違いでした。あわてて手を離したら、髪がごっそり抜けてて、ちょっと禿げ……いや、やめておきましょう。

 私は電光石火の勢いで平伏した。それはもう額をこすりつけて謝った。

 

「うぅ……禿げてしもうた……もうワシお婿いけない……」

 

「おじいちゃんはもう、お婿さんって年じゃないよ?」

 

「ぬぉ!?まさかの孫からのダイレクトアタック!?わしは、ワシは悲しいぞぉ……ベルよぉ……」

 

「あの、謝ってるこっちが言うのもあれなんですが、身内で漫才し始めないでください。話が進みません。」

 

「ウォッホン!……して、何の話じゃったっけな?」

 

「何の話もしてないです。」

 

「そうじゃったのう!お前さんがどうしてここにいるかの話じゃった!」

 

「……」

 

 この気さくなおじい様によると、日課の狩りをしていたら、木陰で気絶している女の子を見つけたので捨て子?かと判断し、家まで連れてきたとか。

 

「そうか、捨て子といえば捨て子ですね。私。」

 

「なんじゃ。やけに達観しておるではないか?」

 

「いや、まぁいろいろとありましたねぇ……」

 

 というと、空気が重いというか、いたたまれない雰囲気になり始めたので、無理やり話を変える。

 

「そ、そういえば自己紹介まだでしたね!私はC96といいます!」

 

「お、おう……それは囚人番号か何かか?」

 

 しまった!話題をミスったかもしれない!今の名前では機械的に過ぎた!あぁ、また空気が重く……

 

「ウーム、ならばグレイという名前はどうじゃ?C6で白、96で黒。併せて灰色じゃ」

 

 人懐っこい輝くような笑顔を向けながら、さらっと名前を授ける爺。

 

「グレイ、ですか。いいですね。」

 

 さっきの名前より、よほど人らしい名前です。

 

「ほほぅ、気に入ってくれたようじゃな。では、改めてわしはエゴールと名乗っておるよ。」

 

「ぼくは、ベルだよ!グレイ、よろしくね!」」

 

 

 

それからどした。

私はグレイクラネルになった。

私はエゴールの養子になった。

私はベルの妹になった。

私は畑を耕している。

私はエゴールに常識などを教えてもらっている。

私は英雄にあこがれるベルと殴り合いをしている。

私はエロ爺を畑に植えた養分にしようとした。

私は

私は

私は……

 

 

 

 平和だぁ~~!!

 

 いやぁ~平和っていいですね~。

 戦術人形だったら、頭や四肢のどこかが吹き飛ぶことが当たり前になってそうですね。

 それに比べて、ちょっと土をいじって、植物を観察して、兄と足り回ったりして遊んで、一部剥げの頭をしばいて、育てた野菜を使った普通のご飯を食べて、そして寝る。

 (*´Д`)はぁ~幸せ

 

「とう!」

 

「せい!」

 

「やあ!」

 

「どっせい!」

 

 え、何してんのかって?

 兄の本気の蹴りや拳を、避けたり、撃ち落としたり、いなしたり、たまにこっちも殴って蹴ってをしてるだけですよ。なんでも、祖父ちゃんの語る英雄譚に憧れているというので、

 

 取り敢えず、殴る蹴るを寸止めして暴力に慣れてもらい、その攻撃を弾く、流す、避けるができるようになってもらったり。

 薪を割るとき、どうすれば綺麗に割れるか競争したり。

 山を走り回って、足腰を鍛えたり。

 日常の動作でそれっぽいことをさせて、なるべくこの純粋無垢でひ弱な兄が、願わくば現実を見てくれるよう促した。

 

 駄目だった。

 あのエロ爺の話を聞くたびに、ハーレムやらなんやらを憧れるようになる。

 まぁ、エロ爺とは言うけれど、私にセクハラすることはない。いや、やってたら全身の毛という毛を引ん剝く。

 たまに来る親しい女性のお客さんにセクハラをして、爺を畑に埋めるのを手伝うけど。

 話を戻して、兄は少し嫌がってた畑仕事とか、洗濯とかの家事を、鍛錬と称してまじめにやってくれるようになったのでいいや(諦め)。

 

 で、型も何もないけれど、祖父ちゃんに『冒険者流格闘技』なんてものを教えてもらい、いつの間にか打ち合うようになった。

 いやね?この世界、現実並みに治安悪いんですよ。

 しかも、龍やらなんやらモンスターがいるっていうじゃありませんか。

 そこに、銃を持たない戦術人形が一人。

 ちょっと身を守るすべくらいは欲しいかな?って思ったわけです。

 

「グレイ、今日はここまでにしようか。畑仕事しなきゃ。」

 

「そうね、もうちょっと続けてもいいけれど、やるべきことはやらなきゃ。」

 

 二人して同じような動きするもんだから、決着がつかなくなりました。

 これ以上は、基礎能力あげて動きを早くするか、一発一発の威力を上げるしかない気がする。とか考えながら、土に鍬を綺麗なフォームで振り下ろすのでした。

 

 

 

 かつーん、かつーん。

 日の光が届かず、空晴れ渡る真昼間だというのに薄暗い森の中で、演奏会のごとく独特の音が響き渡る。音の発生源をたどると、光が差すちょっとした広場に出て、

 

「もっと大きい木も切ってみたいな~」

 

 そう愚痴をこぼしながら、斧を一本の木に振るうベル。そしてそれを、そばにある切り株に座りながら眺めるグレイの姿があった。

 

「いやいや、持って帰る時を考えようよ。二人して、いまだにひーこら言ってる有様でしょ?」

 

「いつか。そういつかの話だよ……あ、半分まで来たから交代ね。」

 

「はいはい。ベル兄ぃ、そっち危ないからこっち来て。」

 

 かつーん。かつーん。

 

「祖父ちゃん、この頃どんどん元気なくなってきたね……」

 

「そうだね……祖父ちゃんがそんな簡単にくたばる人間だとは思えないんだけどね……ああなるまで、死因は痴情のもつれで刺されるぐらいだとばかり……」

 

 そう、祖父ちゃんがぶっ倒れた。

 狩りをしていたら、毒蛇が喉元を食いちぎったらしい。

 すぐに回復ポーションを使い傷は治せたが、解毒ポーションは家にもなく、医者が来て解毒ポーションを処方したときにはもう手遅れだったらしい。体から毒が消え切らなかったそうだ。もちろん、消しきるポーションもあるが、いかんせんお金がなかった。

 

「ベル兄い、心の準備はした方がいいと思う。」

 

「うん……」

 

 看病は?と思うかも知れないが、

 

『この寒い季節にわしを温める為の薪がないのはシャレにならん。ワシのために二人で行きなさい。』

 

なんて言って、無理やり家を出された。

 せめて、あの気遣いがへたくそな優しい祖父ちゃんのために、さっさこの木を伐採して持って帰ろう。その思いで斧を振るっていると、木がバランスを保てなくなり、倒れ始める。

 

「あとは、小分けにしないとな……」

 

 そう、ぼんやりとつぶやくベルの耳が、ドシ、ドシという足音のようなものを捉えていた。

 聞こえる方向に振り向くと、木々の隙間から、異形が垣間見える。

 でっぷり肥え太った腹に、貧相な腰巻。一般的な大人より1.5倍は大きいその人型は、イノシシのような顔。

 オーク。

 この森にいるはずのない怪物が、こちらに向かって走ってきていた。

 

「グレイ!今すぐ逃げよう!オークがこっちに向ってきている!」

 

 顔を真っ青にしたベルが叫ぶ。

 

「そうだね、逃げよう。でも、家まで来るかもよ。どうするの?」

 

「それは……」

 

 仮に、家までたどり着いたところで、いるのは動けない祖父ちゃんだけ。

 ここらへんに、このオークを倒しきるものが現れるのは何日後?

 

「ねぇ、グレイは逃げて……」

 

 今日この日、僕は冒険をしよう。

 だって、今までの日々はそのためのものだから。

 

「嫌だね。むしろ、ベル兄いが逃げたら?」

 

 どうやら考えることは同じだったようだ。

 同じ髪の色の少年少女は互いに苦笑し、その手で斧を構え、相手をにらみつける。

 怪物は、偶然見つけた人間2人の構える武器が貧相な斧だとに気づき、嘲笑うかのような表所を浮かべ、加速する。

 

 こん棒が届く距離まで接近したオーク。

 全身の体重を乗せた次を考えない一撃を振り下ろし、土煙と木の葉が舞い散る。

 こん棒に血とくず肉が付着している光景は、しかし何もなかった。

 

「この先には、行かせない!生かせない!」

 

 だって、僕らがここをとしてしまえば、その先には親切な村の皆さんがいて、僕らの家があって、何より僕らを愛し育ててくれたお祖父ちゃんが臥せっているのだから。

 

 横っ腹を切り裂く一撃。油断しているところを死角からの攻撃。

 オークは、撃ち払って防ぐことはできなかった。が、天然の鎧が刃を通さなかった。

 振り抜こうとして斧の柄が折れた。何せ木こりが切る為の斧。もとより戦闘用ではない。

 己を傷つけようとした羽虫を振り払おうとする。

 

「がぁっ!?」

 

 左腕に衝撃が走り、白兎が吹き飛ぶ。

 叩きつけられたベルは額に血を流しながら、立ち上がろうとして、殴られた左腕がうまく動かないことに気づいた。

 正確には、あらぬ方向に曲がっていた。

 

「ベル兄い。生きてる~?」

 

 その声で、視界を上げると、そこには、オークに刺さったままの刃の部分をさらに斧で打ち付けているグレイがいた。

 刃が腹により深く刺さったオークは激痛にもがき苦しみ、狂ったようにこん棒を振り回す。

 一撃目を避け、二撃目も危なっかしくよけ、三撃目で足を狙われ飛び上がったところ、四撃目の切り返しが小さな躯体を捉えてしまった。

 ベル同様叩きつけられたグレイは気を失ってしまった。

 

「グレイっ!」

 

 一撃。たった一回殴られただけで二人ともこの有様。

 無謀だった。それはわかっていた。このままでは自分だけでなく、グレイも殺される。

 グレイを巻き込んで、勝手に動揺して、あっけなく吹き飛ばされて。

 様々な後悔がベルを蝕み苦しめる。

 

「ワシの孫たちに何しているんじゃこの豚がぁああああああああああああああああ!!」

 

 聞きなれた声。助けてくれる安心感と、どうしてここにいるんだという怒り。

 僕たちのお祖父ちゃんが、右手に物干し竿を携えて、そこにいた。

 

「ぬおりゃぁああああああああああああああああ!!」

 

 物干し竿を持った腕が一瞬かすんで、風を斬る音共に、爆砕音が鳴った。

 何かと見れば、オークの首から上が消失している。

 お祖父ちゃんはオークが消えていくのを見届けた後、グレイを抱えて僕の隣に降ろし、僕らにポーションを飲ませる。

 

「ベル!グレイ!無事か!?どうしてこんな無茶をしおった!?」

 

「それはこっちのセリフだよ……どうして来たの……?」

 

「なぁに、子が危ないとなれば、親はそれを守ろうとするものよ。」

 

「だからって!口から血を吐いて!片腕がないじゃない!」

 

 お祖父ちゃんの体はボロボロだった。毒が残っている状態で無茶をして血を口から吐き出し、あり得ない力で何かを投げ、それに体がついてゆかず腕が消えていた。

 

「ほほっ!この傷こそ、親の誇り高き勲章よ。なに、これから死にゆく者の命で未来ある子の命を守れたのじゃ。どうということはない」

 

「でもっ!」

 

「お前たちはもう立派に生きていける。それに、いずれは別れが来るものじゃ……それが早まっただけよ」

 

 こんなにボロボロなのに、痛くて苦しいはずなのに、優しく言い聞かせるような声。

 

「おじい……ちゃん……」

 

「あぁ、よかった。グレイ、よく無事だったな。二人とも、よく頑張った。」

 

「……そこは、『どうして逃げなかった』って怒るところじゃない?」

 

「はっ、お前がのんびり寝ている間に怒ったわ」

 

 

 

 それから、オークの魔石を拾って、二人で止血したお祖父ちゃんを担ぎ、家に帰りました。

 お祖父ちゃんの右腕にポーションを吹っ掛け、傷も防いだので、何とか一命をとりとめました。

 夕飯は小さな英雄の誕生祝いだとかで、私が腕によりをかけ、豪華な食事になりました。

 夕食の時間はとても幸せでした。

 小さな宴はお開きになり、ベル兄いはあんなことがあったので疲れて机の上で眠ってしまいました。

 私が食後の片づけをしていると、暖炉の前の椅子に座るおじいちゃんが静かに話し始めます。

 

「のう……グレイよ……片付けながらでいい。聞いてくれ。」

 

「うん。」

 

 この幸せはずっと続いてくれることはなかったようです。

 

「もう、ワシは助からん。」

 

「そっか……」

 

「二人には、オラリオに行ってほしいと思っておる。」

 

「いきなりですね」

 

「前々からそう思っておったんじゃよ?」

 

「ベル兄い?」

 

「うむ……ベルは優しすぎる。きっと、ワシを置いてはいけないじゃろう。」

 

 そういって、ベル兄いの頭をなでるお祖父ちゃん。その顔はずいぶんと白くなっていた。

 

「わかった。その時が来れば、ベル兄いとオラリオへ行くよ。」

 

「グレイよ、ほんとうにベルと同い年なのか?しっかりしすぎじゃろ。もうちっと悲しんでもいいんじゃぞ?」

 

 アハハ…と苦笑いしながら、誤魔化す。いや、まさか、中身がベル兄いより年下ですなんて言えない。

 

「のう、ワシはいいおじいちゃんだったか?」

 

 そんなの、答えは一つしかない。

 

「えぇ、とっても。」

 

 万感の思いを込めて、5年近く育ててくれたことに感謝を気持ちを伝える。

 

「そうか……そうか……それはよかった……」

 

 お祖父ちゃんは白い顔に澄んだような笑顔を浮かべ、一筋の光が零れ落ちた。

 

「お祖父ちゃん……お休みなさい。」

 

「あぁ……お休み。」

 

 

 翌日、暖炉の前で安らかになくなっていたお祖父ちゃんがいた。

 ベル兄いは大泣きした。それはもう泣いた。

 そのベル兄いの頭を、泣き止むまで胸に抱きよせて慰めた。

 これではどっちが上なんだか。

 遺体は、村の神父さんが引き取り村の皆で葬儀した。

 エロ爺ではあったが、なんだかんだ愛されていたんだなと実感した。

 

 

 さて、そんなごたごたが片付き、家も村の村長に譲り、オラリオへ出発し、私たちは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷宮都市に立っていた。




読了本当にありがとうございます!
感想や誤字指摘とかありましたら、遠慮なくしてください!お願いします!
小説を書くって、難しいですね……


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C96冒険者始めます

 この作品を読んでくださり本当にありがとうございます。
 下手ではありますが、頑張っていきたいと思います。


 迷宮都市に立った。うん、立ったはいいんですよ。

 ベル兄いにくっついて、【ファミリア】ってのを探し始めるわけですよ。

 どうも、冒険者になるにはその、【ファミリア】ってのに入団しないといけないようなので。

 まぁ、それはわかった。問題は……

 

『いや、やめておけ。死ぬぞ?』

 

『はっ!ウチはお前らのような貧弱なガキの遊び場じゃねえんだ。家に帰りな!』

 

『……商業系に行くことをお勧めするよ。』

 

 こう、尽く子ども扱いされて門前払いを受けることですよ。

 

「そりゃまぁ、私達って外見貧弱ですし、実際貧弱ですし?」

 

「自覚しているけどさ~……」

 

 このままでは、アルバイター直行ですね……

 ぐぅ~。

 そんな音が、二人のお腹から鳴ってしまいました。

 

「そういえば昼ご飯まだだったね。」

 

「あ、もうお昼ちょっと過ぎてるんだ……ベル兄い、どこかで食べ物買いましょう。」

 

 メインストリートを歩いていると、ちょうどいいところにじゃが丸のお店があったので、そこで昼食としゃれこむことにした。

 

 ……microuziがいた。正確には、戦術人形microuziの背を小さくし、胸部装甲はそのまま、いやそれ以上?で、髪を黒くしたような幼女がいた。

 いやいや、お祖父ちゃんといい、この店員といい、現実の職場(になるはずだった)にいるそっくりさんに会う確率大きくないですかね!?

 偶然。そう偶然だ。きっとそうだ。いや、もしかしたらこの世界の住民を作るときに参考にされた可能性もあるかもしれない。

 ……結論、どうでもいいや(投げやり)

 そんなくだらないことを考えながら、注文をする。

 

「じゃが丸くん4つ、塩味で。」

 

「はいよ!じゃが丸くん4つ120ヴァリスだ!しかし、君たち見ない顔だね?この街に来たばかりかい?」

 

「えぇ、先ほど到着したばかりです。」

 

「僕たち冒険者になりたくて来たんですけど、なかなか入団させてくれる【ファミリア】がなくって……店員さん、どこかこんな僕たちを入れてくれそうな【ファミリア】知りませんか?」

 

 そうベル兄いが質問を放つと、突如小さな店員さんが高笑いし始めました。気でも触れたか!?

 

「あーッはッははハハハハハ!!我が世の春が来た!店長!ボクに入団希望者が来たぞぅ!早上がりさせてもらうよ!」

 

 そういって、店の奥に引っ込む店員さん。

 

「あらあら、ようやくヘスティアちゃんに入団希望者が来たのねぇ。よかったわぁ。お祝いとして、いつもより多めに持ち帰ってもらいましょうか。」

 

そういって、売り物としてキープしてあるはずのじゃが丸くんを袋にどんどん詰めていく女性。

 

「ドウユコト……?」

 

「さ、さぁ?」

 

二人で呆然としていると、ヘスティア?さんが、ドタドタと慌しく出てきました。

 

「ヘスティアちゃん!これ今日の分ね。いつもより多めに入れておいたから!」

 

「店長大好き!ありがとうね。さ、二人とも、行こうか!」

 

 ベル兄いと顔があって、二人で思わず苦笑してしまいました。

 どうやら、私たちの【ファミリア】は決まったようです。

 

 

 

 

 ついて来いと言わたので付いていったら、薄暗い路地裏に入り、廃墟に案内されました。

 

「……は?」

 

「怖い!妹くんの表情が怖い!お、落ち着いてくれ!?その……見た目はあれだけど、これがボクのホームなんだ。」

 

「マジ?」

 

「大いにマジだよ!」

 

 だそうです。そっかー、第二の自宅は廃墟かー。

 

「ちなみに、僕の眷属は君たちが最初だよ!やったね!」

 

「あはは……」

 

 ベル兄いよ……もはや言葉が出ないか……

 こんな私たちを受け入れてくれるだけましです。そう現実逃避した。するしかなかった。

 

 崩れた教会の階段を下り、扉を開けると……

 案外まともな居住スペースだった。

 家具一式がそろって、人が何人か暮らせるスペースも確保されていて、上のひどさと比べれば十二分といえるほどに環境が整っていました。

 

「ほら、まともだろ?」

 

 そういって、ベッドの上に座り込む神様。

 なんとなく、どや顔するのもわからないでもない。

 まぁ、この際四の五の言ってられない。

 

「というわけで、自己紹介がまだだったね。ボクはヘスティア。神ヘスティアさ。」

 

「べ、ベル・クラネルです!よ、よろしくお願いします!」

 

 はは、お兄様はあがり症だからね。顔真っ赤になってる。我が兄ながら可愛いよなベル兄い。

 

「おいおい、これから一緒に暮らすのに、堅苦しいのはなしだぜ?まぁ、よろしくだぜ!ベルくん!」

 

「は、はい!」

 

「あはは……そっちの妹くんは?」

 

「グレイ・クラネルです。よろしく。」

 

「うんうん、なんだかお兄ちゃんよりしっかりしてるなぁ」

 

「あはは……よく言われます」

 

 そういってがっくりと肩を落とすベル兄い。

 この人ここに来てから、苦笑いと肩を落とすくらいしかしてないですね。

 兄の威厳はどこへやったんですか…

 

「それで、君たちは【ヘスティア・ファミリア】に入ってくれるんだよね?ね?」

 

「は、はいそうです!」

 

「よし、わかった。歓迎するよ盛大にね!……といってもじゃが丸君しかないけどさ。」

 

 

崩壊した教会の隠し扉。【ヘスティア・ファミリア】のホームであるこの部屋で、ヘスティア様がニコニコとした笑顔でベッドの上に腰掛ける。

 

「ささ、グレイくん、上着脱いでここにうつ伏せになってくれ」

 

 ベッドをポンポンと示しながら言う言葉に従い、腰掛けるヘスティア様の隣でうつ伏せになる。

 ベル兄いは先にファルナを授けられ、「僕は上で待ってますから、終わったら声をかけてください。」と言って外へ出て行ってしまった。

 

「別に、妹の体ぐらい見たってかまわないと思うんですけどね。」

 

「いやぁ、あれ位の男の子は、誰であろうが女性の体を見るのは恥ずかしいものなんだよ。というかだね、女性がそんな軽々しく裸体を見せてはいけないと思うんだよ。ボクは。」

 

 そう少し怒ったようなヘスティア様はうつ伏せに寝た私のお尻辺りにそっと跨った。

 

「それじゃ、ファルナを授けるよ。」

 

 ポタリと背中にほんのり温かいものが垂らされる。

 すると、淡い不思議な光が背中で弾ける。

 

 私の背中、今どうなっているんでしょう?めちゃくちゃ気になる。

 

 とか思ってたら、神様が優しく声をかけてきた。

 

「心配する必要はないよ。見た目が派手なだけさ。やってることは大した事では無いから。」

 

 どうも、この光は神々が面白半分でやってる演出で、実際こんな光を出さずにファルナは付与できるそうだ。

 ヘスティア様曰く、この地上に降りてきた神々は、娯楽に飢えているとかで、こういう些細なところでも工夫を凝らし、人々を驚かせて面白がってるとか。

 その努力の方向性おかしい……おかしくない?

 

「……よし。付与完了っと。はい、これがグレイくんののステイタスだ。」

 

 

 

 

__________________________________

 

グレイ・クラネル

 

Lv1

 

力:I 0

 

耐久:I 0

 

器用:I 0

 

敏捷:I 0

 

魔力:I 0

 

 

《魔法》

 

【パウダーマガジン】

・生成魔法

 

・生成は知識依存

 

・基礎詠唱式【ウェポンズフリー】

 

 

《スキル》

 

戦術人形(T-DOLL)

 

・『魔力』以外の基礎アビリティに補正

 

・知識に補正

 

・照準に大きな補正

 

・常時発動

 

__________________________________

 

 

 

「すごいや。いきなり魔法とスキルが発現しているよ!でも、生成魔法って聞いたことないかも。しかし、知識に補正ってどいうことなんだろう……」

 

 神様が背中から退いたのを確認してから起き上がって服を着る。ついでにベル兄いも呼び戻す。

、しかし、あれですね。魔法ってお祖父ちゃんに聞いてはいたけど、戦術人形の私にはこれっぽちも関係ないと思っていました。

 パウダーマガジン。直訳すると火薬庫ですか……

 しかも、詠唱式にウェポン……これは、そういうことかな?

 

「魔法!?グレイすごいね!!いいなぁ」

 

 お、おう……今日一番テンション高くないですか?お兄様や。

 

「とりあえず、攻撃的な魔法じゃないので、一度使ってみていいですか?一応、魔力暴発を考慮して、上で試しますが……」

 

「じゃあグレイ、僕にも見せてよ!」

 

「ベル兄いが憧れてるような、すごいやつじゃないと思うけど?」

 

「それでも見てみたいよ!だって、魔法だよ!?魔法!!」

 

「まぁまぁ、いいじゃないか。ボクもその生成魔法とやらに興味がある。ぜひ見せてくれ!」

 

 

 

 

 

 と、いうわけで早速魔法を使ってみることになった。

 

「行きますよ。ベル兄い、大丈夫?」

 

「うん。ボクも神様も大丈夫だよ。」

 

「じゃあ、遠慮なく。『ウェポンズフリー』」

 

 詠唱と同時に世界が闇に沈んだ。

 

 

 ……あれ?ここって……

 いつか見た真っ暗な世界。あの日、解体された日に見た世界。

 

「魔法獲得おめでとうございます!と、いうかそれがないと実験が始まらないんですけどね」

 

 そういって現れたのは、体感5年前のあの時と同じように、カリーナさんのホログラム。

 あぁ、そういえばこれ実験でしたね。あまりにもエゴール爺とベル兄いとの暮らしが楽しすぎて、忘れていました。

 

「戦場では、部隊内の仲間が倒れた時と、自分の銃の弾が切れた時というシチュエーションが重なることが度々あります。そこで、I.O.P社製の戦術人形は社内製品で扱う銃の知識を一通り入れるのが鉄則なのはご存じですか?」

 

 ほぇ~、私の銃以外の銃のデータや扱い方があるのはそういうことだったのですか……

 

「ごめんなさい。それは知らなかったです。」

 

「あぁ~……その説明を受ける前に解体されてたんですね。これから覚えておいて下さい。作れるようになってるので。」

 

「はぁ……?でも、作っても意味なくないですか?」

 

「確かにそうなんですよね」

 

 だって、こんな便利な機能あったら、無限に自分の銃を使えばいい。

 

「まぁ、そこはあれです!ゲーム会社側の面白半分で作った機能ってことで!」

 

「えぇ……(困惑)」

 

「はい、じゃあ使い方はわかると思うので、チュートリアルはここまでです。あとは頑張ってください!でわでわ~」

 

 使い方、教えてもらってないんですけど、ホログラムが消えました。カリーナさんはすごく自由人ですねぇ……(遠い目)

 ただ、追加ファイルをダウンロードしたときのように、ひょっこり使い方がわかってるんですよね。実際そうなんでしょうし。

 

 えっと、なになに?詠唱時、記憶領域から生成対象のデータを参照するだけ……簡単ですね。

 では、サクッとやっちゃいましょう!

 

 参照するのは、私の名前の元となったかつての半身。ASSTで紐付けられた、私が生まれた理由。

 

 記憶データの森から、意識を戻して目を開ける。

 

「おぉ……C96!マイソウル!」

 

 そこにしっかりと、あの日からの相棒になるはずだった(C96初期型)とその弾薬が存在していた。

 ちなみに、弾薬はしっかりとクリップにまとめられていた。

 

 

「どうやら成功したみたいだね。ところでそれは何だい?」

 

 ヘスティア様はそういって、私が持つC96初期型を指さす。

 

「そうですね……見てもらった方がいいと思います。」

 

 銃と弾薬を拾い、コッキングピースを引いて手で仮固定し、排莢口にクリップを挿しこみ、指で弾丸を上から押しこんで、クリップを外す。

 特に異常が見られないので、セーフティを外す。

 どこか適当な瓦礫に狙いをつけて……

 パンッという破裂音が閑静な路地に響き、瓦礫に小さな穴が開く。

 

「「!?」」

 

「とまぁ、こんな見た目で武器なんです。」

 

 呆然とする兄と神。

 数瞬後に二人とも再起動し、ヘスティア様が私の腕を引いて隠し部屋に戻る。

 

 

「つまり、この小さな金属を、燃える粉を使って弾くための道具か……グレイくん。悪いことは言わないから、これは杖ということにした方がいい。こんな誰も知らない道具を他の神が放っておくとは思えない。しかも作った本人は可愛いときた。露呈した場合、必ずと言っていいほどに神々が群がるに違いない。」

 

 えぇ……神というものを、ヘスティア様から聞けば聞くほど、人でなしに思えてきますね……印象操作か、本当にひどいのか……もし本当なら、門前払いされてよかったまであるんですよねぇ~。

 

「それじゃあ、神様、グレイはこの道具と魔法を使えないんですか?」

 

「いや、大丈夫。さっき言った通り、これを杖として、あたかもただの攻撃魔法を放っているように見せかければいいだけさ。」

 

「一体それはどういう……?」

 

「ざっくり言うと、これを撃つときに何か言えばいいわけさ。こう、『ファイア!』ってね。そうすれば、ベルくんはグレイくんの援護のタイミングがわかるし、遠目から見れば魔法を撃っているだけのように見える。」

 

 まさか、たかが銃一つでここまで面倒なことになるとは……まぁ、そもそも機械のきの字もない世界ではあるから当然ですね。

 と、ギャップというか、カルチャーショックに困惑していると、空気を切り替えるように、ヘスティア様が手を叩いて立ち上がる。

 

「まぁ、この話はこれでいいだろう。さて、歓迎会には早いし、少し散歩としゃれこもうぜ!」

 

 

 

 というわけで、『ギルド』と呼ばれる施設まで来た。『冒険者ギルド』という組織の『万神殿(パンテノン)』という施設というのが正しいらしいけれども。

 

『じゃあ、僕はファミリアの申請をしてくるから、君たちはその間に冒険者登録をしてくるといい。終わったら、好きにしてもいいけど、日が暮れる前には帰ってきてくれよ?』

 

 と、言ってヘスティア様とは別行動になった。

 

 しかし、あれですね。お祖父ちゃんの話を聞く限り、冒険者ってごつい人や荒くれ者ばっかりだと思ってたけど、そんなことはなかった。

 

 まぁ、I.O.Pの戦術人形のスキンと呼ばれるものや、標準の衣服がとても個性的なものばかりだから慣れましたけど、傍から見れば、人形もここにいる冒険者たちも変なコスプレ集団なんですよね。

 

 田舎暮らしでは到底体験できない人の多さに圧倒されているベル兄いを引っ張り、空いていた受付カウンターっぽいところに向かいます。

 そして、そこにいたセミロングでブラウンの髪に眼鏡をかけているエルフらしい女性に声をかけました。

 

「すみません。」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

 女性は綺麗な笑みを浮かべて私に答える。

 受付窓口の担当は、あの世界では見た目麗しい人や人形が選ばれるものだったけど、こっちでもそれは変わらないらしい。

 ……ベル兄いは、相変わらず女性に耐性がないのか、顔を赤らめて緊張している。

 

「ぼ、僕たち冒険者登録をしたいのですが……」

 

「冒険者?あなた達が?」

 

 そう言うと、彼女は私たちをじろじろと眺めてきた。

 

 まぁ、商業系を進められる程度には見た目が弱そうだしね。私達。

 

 当然、彼女は本当に心配そうな声で、控えめにやめるよう促してくる。

 

「冒険者っていうのは、きっとあなた達が考えているよりすっと危険な職業なんだよ?魔物(モンスター)と戦うわけだから当然、命の危険だってある。ずっとLvが上がらなくて苦しむ可能性だってあるの。それでも本当になるの?」

 

「命の危険があることはわかっています。魔物(モンスター)に襲われたことがあるので、死の恐怖も知っています。」

 

「それでも……僕らは、冒険者になりたいんです。」

 

 死んだお祖父ちゃんに誓ったしね。

 

「そこまで言うなら止めはしないけれど……」

 

 そう言いながら、彼女は用紙を取り出し、カウンターの上に置く。

 

「じゃあ、この用紙にそれぞれ名前と種族、年齢。そしてLvと所属【ファミリア】を記入してちょうだい。」

 

 言われた通り、用紙の各項目に記入していく。

 種族はは……まぁ、ヒューマンでいいでしょう。ここで馬鹿正直に『戦術人形』なんて書いても余計な混乱を生むだけですし。

 

 書き終えた用紙を差し出して、受付嬢さんはその内容を確認するようにつぶやいた。

 

「名前はベル・クラネルとグレイ・クラネル。種族は共にヒューマンで、年齢はこれも共に14。双子?」

 

「えぇ、そうです。」

 

「ふーん。で、どっちもLv.1の【ヘスティア・ファミリア】?新規の【ファミリア】かな?」

 

「は、はい。僕らが初めての【眷属】だそうです。」

 

「成る程成る程。」

 

 そう頷いてから、彼女は再度記入に誤りがないかをチェックし、用紙にサラサラとサインしていく。

 

「では、只今をもちまして、ヒューマンのベル・クラネル及び、グレイ・クラネルをオラリオの冒険者として登録します。よろしいですね?」

 

「問題ないです。」

 

「では、これからあなた達のアドバイザーを担当することになります。エイナ・チュールと申します。以後お見知りおきを。」

 

「あっ、は、はい!よろしくお願いします!エイナさん!」

 

「よろしくお願いします。エイナさん。」

 

「ふふっ!はい!お願いされました。改めてよろしくね。ベル君、グレイちゃん。」

 

 私達が頭を下げると、受付嬢……もといエイナさんは言葉を崩し、親しげに話しかけてくれた。

 

「じゃあ早速、冒険者やダンジョンの注意事項を”しっかりと”教えてあげるね!」

 

 やけに”しっかり”を強調されましたけど何だったんでしょうか?

 ちょっと不思議に思いながら、案内された別室で講習を受けることになりました。

 

 

 エイナさん、物事を教えるのが上手ですね。かなり理解しやすい。というか、すんなり頭に入ってきます。

 ……ひょっとしてひょっとしなくても、ギルドの職員の要求レベルってすごく高いんじゃ……

 

 まぁ、それはいいんですよ。

 

 ……ねぇ、ベル兄い。えっと……中身5歳の私より話に集中できてないってどういうことなんですか……

 兄としての威厳はないんですか!?私恥ずかしい!

 

 いや、わかるんですよ?きっと強いモンスターの情報とか欲しいんですよね?

 ダンジョンの安全な探索の仕方とか、とっても、とっっっっっても大事だと思うんですけれど、地味だもんね。英雄になるのにあまり関係なさそうというか、つながりが見えないもんね。

 

 ひょっとしてこの兄は自殺願望でも持っているんですかね?お願いだから夢ばかりじゃなくちゃんと現実も見てほしいんだけどなぁ……

 

 仕方ないので、飽きてうずうずしている兄の頭を叩きましょう。

 

「痛い!?グレイ、何を!?」

 

「いやちょっとエイナさんのお手伝いをしようかなって思ってね?今、エイナさんからダンジョンの危険性についての話聞いていて『ヤバイ』って感想しかないわけだどね?その話をうわの空で聞いてるベル兄いは、ちょっと危機感がないというか、回り回って自殺願望でも持ってるの?って思うわけですよ。」

 

「えっと、その……」

 

 一度にたくさん言えば、ベル兄いは困惑した顔で視線が泳ぎ始めます。

 

「あの時よりひどいことになると思うけど。いいの?後、話を聞くのが上手いのも、モテるポイントだと思うけど?」

 

 次の瞬間、ベル兄いはジャンピング土下座をしだしました。

 昔から、”モテる”とかの類の単語にすこぶる弱いんですよねこの兄は。

 それともう一つ。

 

「顔を上げて。ベル兄いは昔から英雄になりたいっていうけど、今自分自身が英雄だって胸を張って言える?」

 

「え?……ううん、僕は英雄じゃない。」

 

「なんで?」

 

「えっと……力が足りないから……?」

 

「じゃあ、どうすれば足りるようになるの?」

 

「ど、努力……?」

 

「今やってるこれって、その努力のうちに入ると私は思うけど……どう?」

 

「……そうかもしれない。ごめん。僕が悪かったよ。」

 

 ほら、やる気が出た。この兄単純すぎません?

 

「……いきなりグレイちゃんがベル君の頭を叩いたときはびっくりしたけど……ベル君、いい妹さんじゃない。」

 

 微笑ましそうにそう言うエイナさん。

 

「はい、自慢の妹です!」

 

 ちょっと、そんなこと言われちゃ照れますよ!

 

「……ほら、続きやりましょう?」

 

「ふふっ!そうね。じゃあベル君、妹さんに言われた通り、頑張ろうね!」

 

 

 

 

 その後、ベル兄いはめちゃくちゃ頑張って、おさらいの試験で満点取りました。

 エイナさんに『偉い偉い!』って頭をなでられて、げっそりした顔をトマトみたいに真っ赤にしてました。

 可愛いもんね。撫でたくなるよね。




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C96、迷宮探索始めます

今回は前2話より短いです。
というよりか、前2話が長すぎな気もします。
たぶんこれからはこの長さ位だと思います。


 エイナさんのスパルタ講習が終わり、解放されたのは日が沈み始める時間でした。

 

 道中のお店などに興味はあったけれど、ヘスティア様との約束があるので真っすぐお家……うん、お家に帰ります。

 

 歓迎パーティなるものをしてもらったけれど、食べるものがじゃが丸くんだけ。数が多いので豪華らしいです。うん、軍用携帯食よりかなりましだから豪華……ですね。(白い目)

 おいしいんです。えぇ、普通に。ただ、ずっと油ものってつらいわけです。

 これは明日からの稼ぎを頑張らないと……

 後は寝るだけってなった時に、ちょっとした問題が起きました。

 寝床です。主にベル兄いの。

 ヘスティア様が

「ベル君もベッドで寝よう!」

 って言い始めて、当然それを頑なに拒むベル兄いの間でベル兄いの腕をかけた綱引き……腕引き?が発生。

 面白いから傍観していたらベル兄いから援軍要請が来たので、とりあえず仲裁しました。

 結局、ベル兄い一人でソファーで寝ることになりました。

 私?当然ヘスティア様とベッドですよ?

 

 

 目覚めはヘスティア様の胸の中……オラリオに来て二日目で死を迎えそうになるとは……!!

 初めてヘスティア様に戦慄を抱いた瞬間でした。

 あと一秒遅かったら、私は窒息死でもしてたかもしれません。

 ……ひょっとしてこれを毎日ですか!?うそーん……

 ちょうどいい目覚ましと考えればいけなくも……いや、無いですね。命を懸けた目覚ましとか冗談じゃない。

 ぐっすり眠ってるベル兄いの幸せな顔に少し腹が立つ。

 

 八つ当たりとして、鼻を塞いで起こしさっさと準備を済ませて、出勤しましょ。

 少し肌寒い朝の空気をしっかりと吸い込み、眠気を吹き飛ばします。

 部屋から出てきたベル兄いと体操をして柔軟して装備チェックし終わって、私たちはメインストリートを歩いていました。

 昨日の喧騒や人混みもなく、大通りがとても広く感じられ、なんだか新鮮です。

 二人して、エイナさんにローンを組んでもらって買ったナイフを腰に挿し、防具を私服の上からつけてバックパックを背負ったスタイルでダンジョンに潜ります。私だけナイフと反対の位置に銃を挿して、その銃を隠すために灰色のマントを上から着込みます。

 私たちのどちらもエイナさんのテストに一発で合格したので、一応潜る許可は頂いたけれど、それでも心配そうに声を掛けられました。

 

『何度も言うけれど、絶対に無茶はしないように。グレイちゃんがいるから大丈夫だとは思うけれど、明日は間違っても2層以下まで行こうなんて考えないでね。』

 

 無茶しようものならすぐに死にそうな見た目してますし、実際死にますから、この注意は素直に受け取っておきましょう。

 しかし、ベル兄いの信頼感がない……まぁ、この迷宮に夢を見過ぎてるきらいがありますから、仕方ないといえば仕方ないのかも。

 

 

 ゴブリンが突き出す腕を弾いて、がら空きになった首元にナイフを突き刺し撃破。

 続いて背後から跳躍してきたコボルトの突進を横に回り回避。立ち上がるとともに腹に蹴りを入れ距離を離す。一拍置いて交差し、首を傾け攻撃を回避しつつ、胸を切り裂いて撃破。

 

 場面が変わって迷宮一階層。

 相手が一匹だった場合、片方が吶喊して相手の攻撃を誘い、弾いて隙を作り、もう片方が即座に弱点に攻撃を叩きこむ。

 相手が複数いた場合、両方が突撃して分断し各個撃破するという方法で、偶に沸くゴブリンやコボルトを狩っています。

 

 いくら敵が弱く数も少ないとはいえ、命の取り合い。人形の時にはなかった死の恐怖を感じながらモンスターを相手するのは疲れます。

 

「お疲れ、グレイ。」

 

「うん、ベル兄い、怪我はないですか?」

 

「大丈夫。特にないよ。それより、僕は周りを見ているから、グレイは魔石を拾って。それが終わったら、今日は帰ろうか。」

 

「わかった。」

 

 言われた通り、それぞれが狩ったモンスターの魔石を、一つずつ拾っていきます。面倒ですね。

 

「拾い終わったよ!」

 

 たくさんモンスターを狩れたわけではないけれど、今日が初めてで様子見の意味合いが大きいので、無理のない内に帰ることにしました。

 

「あ、ゴブリン。」

 

 緑色の皮膚に小柄な体。顔は醜悪そのもので、らんらんと輝く赤い目は私達に気づいていなようで、あらぬ方向に向けられていた。

 

「ベル兄い、銃を使ってみるから動かないで。」

 

 そう言いつつ、腰のベルトからC96を引っ張り出す。ベル兄いが心配そうな顔をしているけれど、駄目だった時はナイフで切り殺すだけの話です。

 

 銃口をゴブリンの脳天に向けて狙いを定め、セーフティーを解除。

 こちらに気づいてこちらに顔を向けようとするけど、

 

「『Feuer』!」

 

 宣言と共に放たれた弾丸がゴブリンの額に刺さり……ゴブリンの額が消えた。

 それからゴブリンの体が力なく倒れ、霧となって消え、魔石が転がり落ちる。

 

「ほあっ!?」

 

「おー……」

 

 しっかりと魔物相手にも通用するという結果を得られて満足満足。モンスターとはいえ所詮は生ものですし当然と言えば当然……とは言えないのがモンスターの怖いところです。

 銃声の余韻もそこそこに、気を取り直してベル兄いが褒めてくれます。

 

「その魔法すごいね!!」

 

「ありがとう。でもベル兄い、これ自体は魔法じゃないですよ?」

 

「それでも、魔法から作っているから、実質魔法じゃん!いいなぁ……僕も魔法が欲しいなぁ」

 

「兄よ、本を読め。」

 

「いや、でも買う余裕が……」

 

「おかしなことを言いますね。ベル兄い、ギルドにはそれ関係の書物が無数にあるって、エイナさんが言ってなかった?借りればいいじゃないですか。」

 

「あっ……それもそっか。」

 

 まさに、その発想は無かったと言わんばかりに、ベル兄いはポツリとつぶやきます。目から鱗が本当に出るならきっとナイアガラの滝のように落ちているでしょう。

 まぁ、図書館って概念が村にはなかったですからねぇ~。借りるっていう発想はなかなかでないものなのかも。

 

 そういえば、一応ベル兄いにも銃をあげることができるんですよね。っていう話をしたら、

 

「そんなことするより、グレイがそれで遠距離から先制攻撃して、僕がそこに突撃して……って感じで前衛と後衛を分けた方がいいと思う。」

 

 と、真っ当なご意見をいただいたので、ベル兄いが銃を使うことはなさそうです。

 たぶん、英雄譚の英雄たちのように、剣と盾を使って……みたいなのに憧れているからだと思うんですけれど。

 

 いくら、ダンジョンの中が多少明るくても日の光が目に染みる真昼間。

 私たちを出迎えたのは、朝の静けさではなく、昨日と同じ賑やかな街。

 ダンジョンからの帰り道に適当に食事を済ませた後、商店街で野菜と塩といくつかの香辛料、パスタや少量の肉を買っていきます。これで本日の稼ぎがある程度飛びましたが、食わねば働けないんじゃ。

 まだまだ駆け出しのぺーぺですし、稼ぎがほぼこれだけになっているのでローンやポーションは後回しです。ヘスティア様のアルバイト代?どうやら以前屋台を吹き飛ばしたらしく、かなりの割合が天引きされているとか。

 何やってるんですかあの駄女神様は。

 

 安定した生活はまだまだ遠そうだと、少女が零したため息は、人の波に消えていくのであった。




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