チート付き転生者は生き延びたい (ラッへ)
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プロローグ

初投稿+文章力皆無になりますが頑張りますので生暖かくお願いします。




 突然だが、俺は神様転生をした! 

 そう、よく二次創作にあるみたいに神様から異世界を救って下さいと頼まれるような流れだ。

 俺は死んだ後に神様から宝くじならぬ転生くじを引かされ、見事に異世界転生を当てて転生することが決まった。もちろん、特典付きでだ。

 そのときの俺はそれはもう大はしゃぎしたもんだ。なんせ、前世では自宅に押し入って来た強盗に殺された俺が、今度はチート付きの異世界転生を果たせると来たんだ。はしゃぐなという方が無理というものだろう。

 そこで前世の分も遊び尽くそうと考えた俺は、特典に技術チートを選んだ。

 なに? そんなものより戦闘系チートや召喚チートの方がマシだって? ……甘い! 甘っちょろすぎる! 

 いいか? いつだって未知なる異世界で生き延びれる奴は頭が賢い奴らだ。力や武器が有っても社会的に生き残ることは不可能だ! 

 

 俺はこのチート能力を屈指して、ファンタジー世界に自分だけの科学王国を創り出す! アイディアを商品化し、特許で何兆円という巨万の資産を築くのだ! 世界は高度な発展を成し遂げ人々は喜び、俺も美女を連れワイン片手に高笑い!! 

 素晴らしい! 素晴らしいぞ俺!! 

 話を聞いてくれていた神様も百点満点のニッコリ顔だ! 

 さあ、準備は整った! 待っててくれ異世界よ! 今行くからな! 

 フハハハハハハハハッ!! 

 

 

 

 

 

 

 

 ……帰っていいかな、この世界。

 

 さて皆さん。ちょと長引いてしまったが俺の話を聞いてくれ。

 

 俺の名前は造田博(ぞうたひろ)。ロマン・イリニフというロシア人の父を持つ、父子家庭の長男だ。

 只今父にベビーカーに乗せられ散歩しているのですが、辺りを見渡せば近未来な建物が建っており、魔法の魔の字も見当たりません。

 ……あれ? ここファンタジーの世界じゃないの? 魔法は? ファンタジーは? 一体何が起こって──

 

「着いたぞ、ここが俺の職場だ!」

 

 ベビーカーを引いてくれていた父がそう叫ぶ。俺も釣られて上を向くと、目に入って来たのは炎のマークが施されたログマークが。ログマークの隣にはSF.鉄血工造と書かれていた。

 

 

 

 ……って、ここドルフロの世界かよ!! 

 チキショ────────!!!! 

 

 

 この後、俺が余りのショクに泣き出してしまい父にあやされること数十分、なんとか泣き止んだ俺は父と共に自動ドアを潜った。

 

 さて、この移動中に今の状況をざっくりと整理していこう。

 まず、何故俺の名前が日本語なのかというと、単純にいうと母が日本人だったからだ。戦争中、父が偶然敵国である日本から母を見つけ、そこから恋に落ちたとかなんとか。いやすげーなうちの家族。ただ、母は俺を産んで数ヶ月も経たずに亡くなった、敵兵に射殺されてしまったんだ。

 それまでは仕事が忙しかったからとあまり会う機会がなかった父も、母が亡くなった事が原因で、一気に親馬鹿丸出しの父となった。いやまあ、数ヶ月間家族を置いて一人仕事に熱中してた父も父なんだけどね……。

 

 さて、そんな父は今日赤ちゃんの俺を連れて仕事場に連れて行ってくれるとのこと。先日世界大戦が停戦したらしくそのお祝いパーティーなのだとか。

 

 てか、父は随分前から俺は大企業の幹部として働いている! ってほざいていたけどまさかの鉄血かよ……。

 確か、鉄血は胡蝶事件により人類に反乱をかっし、鉄血で働いていた全従業員が殺害された筈だ。年代は2061年に蝶事件発生、そんで今は戦争停戦から推測すると2051年第三次世界大戦停戦……って、タイムリミットは残り十年ってことか! 待って、じゃあ俺は今から十歳になるまでに何とかしないと鉄血は反乱、父もその子どもでもある俺も無事死亡って事でオーケー? 

 はっはっは、無理ゲー乙。よし、最悪、俺だけでも逃げよう。

 ただまあ、幸運な事はここが技術チートを発揮出来そうな世界だったことか。近未来の世界を舞台にしたこの世界は技術力も上がっており、そのせいで一見技術チートを生かせないように見えるかもしれない。しかし、裏を返せば技術チートを生かすためのレベルと材料が揃っている事にもなる。

 

 よし、ならば当分の目標は十歳までに胡蝶事件を食い止めること、それでも無理だったら素直に逃げる。逃亡先は未定。よし、これだ、これで行こう! 

 

 あ、考え事してたら眠くなって来たな。うーん、残念だが赤ちゃんは眠気には勝てぬのだ。てことで、おやすみなさー……グー。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ご機嫌よう、ロマン・イリニフ様。本日は朝早くご参加いただきありがとうございます。……ところで、そちらの子は?」

 

「おお、代理人じゃないか! お出迎えご苦労。こいつは前から紹介していた俺の息子、造田博だ! どうだ、寝顔が可愛いだろう? それでだ、少しお前に頼みたいことがある」

 

「はあ、なんでしょう」

 

「こいつを、俺の息子を当分の間気にかけてやってくれないか? こう見えて俺は忙しい身なんだ。お前は新造されたばかりで大した仕事はないだろ? 他の奴らは全員忙しくて断られてな。だから、暇なときに面倒を見てやるだけでいい。頼めないか? もちろん、既にこのことは根回しもしている」

 

「わかりました、それなら構いませんよ。どのみち、今は接客か調整ぐらいしかありませんし。ただ、人形の私に頼んでもいいんですか?」

 

「かまわん構わん。どうせここ0号基地(・・・・)じゃあ信頼して頼める人間はおらんからな!」

 

「そうゆうことでしたら」

 

 

 

 ──これは、パンドラの箱でもある技術チートを自重する事なく活用し続けるとんでもない神様転生者物語の始まりである。

 



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人型機動兵器開発計画書

一週間に一、二回のペースで最新していき……いけたらいいなぁ。


 とある鉄血工造が所有する工廠の勤務室に、一人の男が頭を抱えて蹲っていた。彼の名はロマン・イリニフ、幼い息子を持つここ工廠の所長である。彼は元は軍人だったが、その優れた才能と頭脳を鉄血に買われ、いまでは工廠の最高責任者の座を手にし、また今は亡き愛しき妻と三歳になる息子に恵まれることが出来た。

 ならば、何故そんな幸せな人生を歩む彼が頭を抱えて蹲っているのか──それは、今彼は左遷の危機に立たされていたからだ。

 

 彼は鉄血工造が進める戦術人形の研究・開発に理解を示しているように見え、内心ではそれをあまり快く思っていなかった。確かにAIは戦闘では有能な兵器だろう。しかし、だからといってAIに頼り過ぎのも良くないと彼は考えていた。

 戦争とは人間同士のエゴのぶつかり合いであり、その為の兵をAIに任せてしまっては、戦争がいつまで経っても終わらなくなる。あくまで人間が始めた戦争は人間が終わらせるべきだと彼は結論付けていた──は、あくまで表向きの話であり、実際はただ単に超カッコいいロマン兵器を開発して操縦したい! という欲望に塗れた物だった。

 もちろん、彼の表向きの考えは民を守る兵もない者たちや、豊富な感情を持つ人形が存在するこの世界では受けいれられるわけもなく、逆に彼が働く鉄血工造で発覚した場合左遷されることだってあり得る。

 彼からしたらこれは大変困ったことだ。せっかく工廠を手に入れたというのに、肝心のロマン兵器を開発することが出来ない。……そもそも、鉄血工造でロマン兵器を開発しようとする事自体がお門違いもいいところだが、既に彼からはそれを考えられるだけの理性は欲望に駆逐されてしまっていた。

 

 彼は似たり寄ったりな考えを持つ人材を集め開発チームを結成し、秘密裏にロマン兵器の開発を命じた。とにかく大きく、強く、それでいて眺めているだけで厨二心溢れる漢の兵器を。

 しかし悲しきことかな、開発チームが設計、開発したどの兵器もガラクタばかり。中にはどう見ても車輪に花火がついたような見た目にしか見えない英国の某珍兵器も存在したが、彼が望む兵器は開発出来ず終いだった。

 このチームに費やされた私的流用の資金も残り僅かとなり、出来て残り一回。私的流用した資金が発覚しいつ左遷されるか分からないこの状況には、流石の彼も頭を冷やす結果となり、今年で三歳となる愛息子の為にも、ここいらで計画を打ち切る事を真剣に考えていた。

 そんな彼には、今日の楽しみがあった。

 

「クックック、遂にうちの息子がお絵かき出来るようになったのか……これは報告してくれた代理人には報酬を渡さんとな!」

 

 そう、彼の愛息子である造田博が遂にお絵かき帳を使ってお絵かきを始めたと、代理人から報告が来たのだ。

 これには親馬鹿丸出しの彼にとってはノーベル賞受賞並の号外であり、是非とも見てみたい一品でもあった。

 

「……来たか」

 

 彼は廊下から響いてくる足音に反応し、前方を見据える。

 間も無くして、ノック音と共にドアが開いた。

 

「失礼致します、ロマン・イリニフ様。例の物を持って参りました」

 

「正直なところ、私目も是非ご覧になりたいのですが……ご本人から見ちゃダメと仰せられているので」

 

 入って来たのは博の面倒を頼んでいた代理人、いつものメイド服を着た彼女は丁寧に厳封された封筒を大事そうに抱えていた。心なしか満悦の表情が顔に滲み出ているように見える。

 

「なるほどな……それまでして見せたくない絵。よくぞ回収してくれた! 代理人!」

 

「身に余る光栄です、ロマン・イリニフ様。今回は博様がお留守の間を狙い、いつの間にか自宅に住み着いていた見た事ない民用ペットロボット『ハロ』の監視網を潜り抜ける為にボールの如く蹴っ飛ばし、やっと掌中に収めることが出来た最高の一品になります」

 

「そうか、そこまでしてくれていたのか……ご苦労であった。報酬に休暇を与えるから、もう下がっていいぞ!」

 

 彼は代理人から伝わってくる動作と様子からなみならぬ過激な任務だったのだろうと見抜き、休暇を与える事にする。

 報酬に休暇を与えられた代理人も、顔をほころばせながら頭を下げる。

 

「わかりました。それではこれにて失礼します」

 

 代理人が音もなく退出したところで、彼は厳重に厳封された封筒をゆっくりと慎重に剥がして行く。

 中から取り出したお絵かき帳の表紙には、メーカーのデザインだろうか、縁部分には水色を配し、中央には白地に赤で大きくVの文字が記されていた──それが某作品の作戦マニュアルの表紙と一致している事を、知るものは居なかった。

 

 彼は胸が高鳴るのを抑え恐る恐るページを開いてみると、最初のページには「人型機動兵器=モビルスーツ開発計画書」と子どもの字で書かれていた。

 

「もう漢字が書けるようなったのか! うちの息子は天才だな!」

 

 彼は、自分の息子が漢字を書けるようになったのを知りハイテンションで次のページに目を通し──そして、そのあまりにも途轍もない内容に意識が遠のいた。

 

「何だ……これは」

 

 絵描き帳の絵を見た彼は驚きの声をあげる。そりゃそうだろう。彼が幼児の絵だと思い見た紙には、今まで見たこともないような兵器の図面が描かれていたのだから。

 

 



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暴露の会

なんとか今週も間に合わせる事が出来ました……!




 口径120㎜を受け付けない装甲に、ビーム兵器を標準装備された高性能機体。彼はそのあまりの内容に失神しかけるも、耐えながらお絵かき帳に目を通していく。

 そして、一通り目を通し終えたところでお絵かき帳を机の上に置き、椅子に体を預け──。

 

「……素晴らしい」

 

 ただその一言を呟やき、天井を見上げた。

 

 

 彼はこの機体の設計者に会いにいく為、出掛ける用意を始めるのだった。

 

 机の上に置かれたお絵かき帳には、最初に書かれていた兵器。

『RX-78ガンダム』

 言わずと知れたロボットアニメの代名詞「ガンダムシリーズ」における初代ガンダムが、本来関わる筈のなかった世界で産声を上げようとしていた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 やあ皆んな! 

 

 異世界転生を果たしてウキウキしていた気持ちも、ドルフロの世界に転生した事を知ってウキウキが帰りたいに大変身した造田博だ! 

 

 この世界に転生して早くも三年目を迎え、元いた世界と色々違うことに興奮してました。

 それでだ、俺は冷静になって人生最大の難関蝶事件の食い止め方を模索してみたわけだが、結論からいうと今の俺では食い止めるのは不可能だと結論付けた。

 

 そもそも胡蝶事件とは、エリザとかいう(今の俺からしたら)クソガキが、国家安全局の武装勢力が襲撃してきた際に起動し、全ての鉄血製自律人形のコントロールを奪取。その後鉄血内の敵と従業員を全員抹殺したのが発端だった筈だ。

……まあ、もっと深くいくとオーガスシステムの封印がなんたらとか複雑な話になるんだけどね。

 

 それならエリザの開発を食い止めればいいじゃん、っていう案があったがAl『エリザ』は戦争中には既に基礎が完成しており、開発者のリコリスをどうにかしようにも三歳の俺には居場所すら掴めない状況だ。

 じゃあ襲撃してきた国家安全局もとい正規軍とかをどうにかする案も、三歳の俺にどうしろと? という事で没。

 結局、今の俺では食い止める事が不可能だって事がわかった。

 

 とりあえず技術チートだけは達者でその他は子どもの思考で出来ている俺は、一旦この問題は未来の俺に任せて、今は子供の生活を楽しもうと考え始めたのが一歳頃からだった。

 それからは技術チートを制御する為の努力の毎日だ。

 ガンダムの絵を描こうとしたら何故か設計図を描いていたり、家にあった設備を使用して何故かハロを開発してしまい、時々自宅に訪れてくれる代理人に買ったものだと言い訳したりとそれはもう苦難の日々だった。

 そうして三歳になりチートを制御出来るようになってからは、さっきも言ったように子供の生活を楽しんでいた。

 

 

 そんな俺は今、何故か父と対面しております。

 

「お父さん、連絡なしに帰って来るなんて珍しいね。どうしたの?」

 

 俺は勤めて冷静に問い掛けてみるも、父は何も答えずにただじっとこちらを見つめて来る。やめろ、恥ずかしいじゃないか。

 数日に一回ぐらいしか帰って来ない父が突然昼過ぎに帰って来て、大事な話があると切り出してきた。自宅の一部屋で机を挟んで座っており、ハロも暇なのか俺の周りを跳ねていた。

 

「今日は博に聞きたい事があってな、これについてだ」

 

 そういって父が取り出したものは……げげっ、あれ俺が書いた兵器開発書じゃないか! なんでそんなものが父の元に……まさか。

 俺は留守の間見張りを頼んでいたハロを横目で睨みつけると、

 

『ハロ!ゲンキ!ハロ!ゲンキ!』

 

 と返事をしながら何処かに跳ねていった。ちげーよ、そっちじゃーねよ! てかなに逃げてんだあのボール!? 

 そんなやり取りをしていた俺たちに父は厳しめで問いかけてくる。

 

「これは博が書いたものだな。それに、さっきの民間ロボット『ハロ』っていうロボットも、此方が調べた限りではどこの店も販売してない事がわかった。そもそも、ボール型のロボを開発しているメーカーを俺は聞いた事がなくてな。……済まない、こんな事を聞いてしまって。ただ、教えてくれ、博は何を隠しているんだ?」

 

 そう問いかけてくる父親は真剣な目で、それこそ嘘を見抜いてきそうな程の真剣な表情でこちらを見つめて来る。それにしても、流石は父親だ。まさかこんな短時間のうちにバレてしまうなんてな。俺は何処かで大人を舐めていたんだと思う。うーむ、こうなったらこちらも腹を括くるしかない様だ。多分ここで嘘をついても、全部父に暴露る、そんな気がするんだ。

 

「わかったよお父さん。実は……」

 

 そうして、俺は語りだした。自分の技術チートについてや、この後に起こるであろう悲劇について。

 前世や転生については断じて話さない。話したらもっとややこしくなるだろうし、話す気もないからな。

 真面目に話を聞いてくれていた父は、俺になぜ鉄血人形が暴走すると推測したのかを問い、俺はあながち嘘じゃない「リコリス」が作ったAlは不完全な物だったからと答える。そして、俺は起こるであるこの事件を食い止めたいと父に説得した。

 父は少し考える素振りをみせてから、納得した様に頷くとおもむろに自分の鞄から大量の書類を机に置いてきた。

 

「この書類には我が鉄血が設計、開発している標準戦闘ダミー、小型粒子兵器、エリザを頂点としたピラミッド構造の指揮系統の関連資料が記されている。

 これらの情報を元に、その事件に影響されない新たなシステム、人形と兵器のスペックアップをしてみるといい。出来たらそれをうちの工廠で従業員と共に開発してみるも良し、難しいと思うが鉄血からリコリスを追い出す材料にもなる。好きなようにやってみろ」

 

「うん、分かった! ありがとうお父さん!!」

 

「ははは、可愛い息子のためだからな。これぐらいは当たり前だ!」

 

 そういって元気になった父はまだ仕事が残っているからと立ち上がり、部屋を出る前にこの事はピラミッド構造に組み入っている代理人にも話さない方がいいと教えられた。

そっか、もし蝶事件が起こったら代理人も敵になっちゃうのか。なら一層食い止めないといけないな。

 

 よーし、それならこの世界の明るい未来の為に、俺の輝かしい未来の為にもここは自制する事なく技術チートを使っちゃうぞー! 

 原作なんて知った事か! これには俺の未来が掛かってんだ、やるならとことんやってやるぞ。

 

 

 それにしても、鉄血のノーマル人形の資料を見ていると分かるのだが本当に鉄血の設計は良く出来ている。此方があまり手を加えられない程には精密に出来ているし、加えるとしても外観は厳しいな。

 

 仕方ない、取り敢えずはノーマル人形からだ。まずは蝶事件に影響されない為に鉄血の指揮体系から外し、新たに個々が独立して動けるよう設計し直す。

 そんで新たに感情モジュールを搭載し、ついでに高度に訓練された兵士のモーション・キャプチャ・データも搭載して戦闘態勢や布陣に役立ててみるのもありだな。

 脳内に行動抑制チップを埋め込んでみるのもありだ。

 

 それから人形の外観を弄るのは一旦放置。代わりとして見分ける為に白い装甲服を着せてみるか。装甲服にはスターウォーズに登場する個人的に外観が好きなフェイズIIクローン・トルーパー・アーマーを参考に設計。

 

 ノーマル人形が持つ射撃武器も従来の粒子兵器をブラスターに変更する。ブラスターは開発に時間は掛かるだろうが、十歳までに間に合えばそれでいい。

 後は所々を微修正すれば完成だ。今のところはこの程度で充分だろう。

 いやー、これは我ながら厨二病もいい所のロマン兵器になってしまったな。しかし、これだけやっても生き残れるか不安なところなんだ。備えあれば憂い無し! よし、驚く父の面でも拝みに行くか! 

 

 



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新型人形と愉快な仲間たち

あのとき一週間投稿をするといったな?



あれは嘘d(殴


 2057

 IOPの下部組織として正式に「16LAB」という技術研究所が設立。

 

 これに対抗し、鉄血工造は更に戦術人形に力を入れていく事になる。

 

 

 俺があのノーマル人形の改造案を父と話し合った結果、改造案のノーマル人形はうちで製造。

 

 それと今の「エリザ」を頂点とした指揮系統の問題点を本社に送る事にした。結果、改造案は三年後の2057年にやっと二四体だけ製造する事ができ、父は今の体制にいちゃもんを付けたとして肩身が狭くなったとさ。

 

 ……うん、お父さんまじでごめん。でもさ、こっちは原作知識と技術チートを使って問題点を思いつく限り洗いざらいにして指摘したんだぞ? それなのに本社の奴らと来たら。

 

『I.O.Pに遅れを取るな!』

『上位AI「エリザ」完成の暁には、I.O.P製の戦術人形を上回る戦闘力を発揮できる! 何故それがわからん!?』

『システムは万全だ。こんな事件が起こるわけがないだろう!』

 

 とのこと。

 ……こいつらはアホしか居ないのか!? 

 

 人形は自分で思考したり行動する事が出来るんだぞ! それなのに人形一人に全鉄血戦術人形を統括する権利を与えたらどうなるかなんて火を見るより明らかだろう!? 

 何が万全だ! 原作知識持ってるこっちからしたら不安しかないわ!! たかがリコリスが撃たれただけであのエリザは暴走しやがって、Alどうなってるんだよ! メンタル脆すぎだろ!? リコリスどんな作りにしてんだよ! ちきしょおおおおおおお!! 

 

 と、いう事がこの三年間の間にあった出来事になる。

 

 流石にこれじゃあやばいと感じた俺達は、もし胡蝶事件が発生したときに備えて、密かに脱出艦を建造する事にした。

 開発していた人型機動兵器、工廠勤務の人員を一斉に運べるだけの艦をだ。やっぱり、ガンダムにしても帰るべき母艦は必要になる。

 まあ、名前はまだ決まってないから秘密ということで。

 

 父もこの出来事があってからというもの鉄血から身を引く事を真剣に考え始めたらしく、古い友人を頼って新しく会社を設立する事を目論んでいるらしい。

 

「いやいやいや、逃げる気満々じゃん!」

 

「ははは!この会社じゃあ俺の肩身も狭くなってきてな。取れる手段が減ってきてるんだ。

 ここは一つ、安全な新天地でその事件を食い止める方法を模索してみようと思う」

 

「あーなるほど。

 それに自動工場に極秘で部品を発注していたことも、ばれたらクビだけで済みそうにないしね」

 

「それもあるな」

 

 そんな会話をしながら、今回完成した代物を見つめる俺たち。

 目の前にはまだ起動していない人形が作業台の上に横たわっていた。

 二四体の「リッパー」と「ヴェスピド」だ。

 

「それで後は起動するだけか」

 

「そうだね、必要な知能や面倒な設定も工廠で既に入れたはずだし。

 後は起動させるだけで目覚めるはずだよ」

 

 工廠勤務の人達にチラッと目配せをすると、あちらも準備が出来ているらしくグットサインを送ってくれる。

 

「我が鉄血で初の自立思考型搭載のノーマル人形。

 本社が知ったら頭がひっくり返る程驚くだろうな」

 

「まあね」

 

 このノーマル人形は発言の通り自立思考型。

 つまり従来のノーマル人形とは違い感情があり、自分で考えて行動をする事ができる人工頭脳を持っている。

 これまでのノーマル人形達は、簡易的で自我がなく、所詮「第一世代型戦術人形」と定義されている。

 しかしこのノーマル人形達は、自分で考え経験を積み重ね思考する意思のある人形達。

 この世界にはない新しい人工頭脳を備えた彼女らが起動すれば、強力な助っ人になってくれるはずだ。

 

 ただ本来着せるはずだったアーマーやプラスターはまだ開発出来ておらず、見た目は従来のとさほど変わらない。

 

 唯一違うのは「リッパー」には目を隠すゴーグルがなく、「ヴェスピト」にはヘルメットが着用されていない点だ。

 

「それじゃあ起動させようか。お願いします」

 

 俺が要請すると、待ってましたと言わんばかりに起動スイッチ担当の人達が勢い良くレバーを下げた。

 

 すると突然周りが揺れ始め、機器などからは爆音が響き始めた。

 その爆音に思わず周りにいた人達は驚き、何処かに掴まってないと転びそうなほどだ。

 

「博! これは一体!?」

 

「大丈夫! 特に意味はないけど、起動するだけじゃあ面白くないから揺れと爆音を加えてみたんだ! 

 時期に収まるけど、スリルが合って面白いでしょ!?」

 

「「な訳あるかぁ!!」」

 

 俺の真面目な解説に周りにいた人達から総ツッコミを入れられてしまった。

 なるほど、今度から気を付けることにしよう。

 

 そんなこんなで近くにあった柱に掴まっていると、揺れと爆音が収まってきた。

 

 完全に収まったところで、人形達が一斉に目を開け起き上がり始めた。

 そのまま流れる様に寝ていた作業台を退かし、開いたスペースに隊列を組んで並び出したのだ。

 

 その突然の行動に呆気に取られた俺たちを他所に、先頭に立っていた一人のリッパーが前に進みでて口を開く。

 

「お初目にかかります、将軍。総勢二十四体ただいま起動しました。御命令を」

 

「「おおー!!」」

 

「こ、これは驚いたなぁ。将軍って僕たちのこと?」

 

「その通りです」

 

 マジか。彼女らを設計した自分がいうのもなんだが、まさかここまでとは思てもいなかった。

 もっとこう、民生用人形みたいな親しみやすい性格だと思ってたが……どうやら、インプットされた兵士のデータから性格まで影響されてしまったらしい。

 将軍呼ばわりも全くの予想外だ。これじゃあアーマーを着せちゃたらスターウォーズのクローン兵と見分けがつかなくなるぞ。

 

 

「ところで将軍。我々にはまだ名前が付けられてないようですが……」

 

「そういえばそうだったな。博、彼女らの名前はどうする?」

 

「えっ、あ、うーん、それじゃあ……先頭の君の名前はアレクシス。人類の擁護者(侵害、危害から守る人)っていう意味なんだけど、どうかな?」

 

 突然父から名前を振られた俺は、テンパって咄嗟に思い浮かんだ言葉を発言してしまった。

 くそっ、何やってんだ俺! これで場が静まりかえったら一生の恥晒しだぞ! 

 

「アレクシス、アレクシス……おぉ、とてもいい名前ですね! ありがとうございます。一生大事にしていきたいと思います!」

 

「そ、それならよかった」

 

 どうやら名前を気に入ってくれたらしい。心ばかりか表情も笑顔になっており、他の人形から歓声が上がった。

 その後は、見守ってくれていた父から二十四体分の名前を付ける権限を与えられてしまい残りの人形に名前を付けていった。

 もちろん、彼女らにとって名前こそが同じ顔の中から自分を証明する物になる。怠ったりはしない。

 

「じゃあ、これから宜しく頼むよアレクシス」

 

「承知しました将軍。名前に恥じない、素晴らしい活躍をして見せます」

 

 アレクシスに釣られ、他の人形達も一斉におー! と声を上げる。

 

 どうやら特に問題なく起動しているようだ。

 突然暴走したりはないだろうが人格についてはまだわからない。こればっかりはもう少し時間を掛けて様子を見るしかない。

 まあ、特に変なプログラムは組んでないし、性格も特に問題ないだろう。

 

「俺たちも負けないぜ! 鉄血なんてぶっ飛ばしてやる!!」

「ヒュー! いいね、鉄血共に引導を渡しに行こうぜ!」

「俺たちに歯向かう奴らは皆殺しだ!」

 

「「ちょとまてぇ!?」」

 

 前言撤回、口を挟んできた人形達から早速問題発言が出た。

 



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タノシイタノシイお出掛け Ⅰ

今回の話は想像以上に長引いてしまったため、数話に分けて投稿させていただきます。




 新型人形を建造してからというもの、俺たちは新型人形の調節や新型兵器の開発に大忙しだった。

 一部性格がやべぇ人形を再教育したり、乗り物や兵器などの教練、人形達との交流、データ集めなどをしていた。そうそう、彼女らの新型人形という名称なんだが、新たにドール・トルーパーと命名。

 商品名を付けて売る気はさらさらないが新型人形というややこしい名称よりは断然いい。

 

 そして兵器についてだが、ついにフェイズIIクローン・トルーパー・アーマーなどの装甲服やブラスター兵器が完成。これで装備の面なら鉄血、いや正規軍にだってひけをとらない。

 しばらくの間歩兵分野はこの辺で十分だろう。

 

 後は脱出艦として建造している艦をなんとか飛ばせるぐらいに完成させれば、父は鉄血を辞める事ができる筈。

 ただ、うちの基地って本社に近いし、艦もうちの設備じゃああと一年ぐらいは掛かりそうだしな……。

 

 

「失礼します! 将軍」

 

 

 しばらく自室でもの思いにふけているとノック音と共に扉が開き、アレクシスが入ってきた。

 アレクシスは新しく出来上がったARCトルーパー・アーマーを着こなしており、ヘルメットは外していた。カーマには携帯用武器のDC-17ハンド・ブラスターをしっかりと装着している。

 服装はトルーパー、顔はドルフロの敵役リッパーなだけあってインパクトが強烈だ。

 ……はて、今日は特に用事はなかった筈だが。

 

「アレクシスが直接来るなんて珍しいね。

 まさか、今の武器だけじゃあ飽き足らず新しいのをねだりにきたんじゃあ……」

 

「私はそんな戦闘狂じゃないですからね!?」

 

 心外な言葉に不機嫌に頬を膨らませるアレクシス。

 

「それよりも! 将軍は最近外出してないようですが、お体に悪いですし一度出掛けた方がよろしいかと」

 

「あー、そういえば最近行ってなかったね。

 ただ、出掛けるにしても行く当てはないし……」

 

「それなら、近くの市街地に買い物に出掛けてみるのはどうでしょう?」

 

「おお、そういえば近くに街があったな。懐かしいなぁ、あそこはよく代理人と行っt……」

 

「……」

 

「……アレクシスも良かったら一緒に行ってm……」

「はい!喜んでお供します!!」

 

 他人の話をした途端にアレクシスの目が虚無的になりかけたため急遽話を逸らすと、掌返しの如く目を輝かせ誘いに飛びついてきた。

 え、なにこの子怖いんだけど。

 

「よ、よし、じゃあこれで決定だね。ただアレクシスの顔は……流石に鉄血の最新型でもあるリッパーと同じ顔なのは拙いかも」

 

「それならヘルメットを被って顔を隠せば良いのでは?」

 

 こんな感じにとヘルメットを被って見せるアレクシス。

 うーん、完全にスターウォーズのトルーパーだ。

 

「確かにトルーパーのお買い物は一度見てみたい気もするけど。折角のお出掛だし、ヘルメットなしで色んなものを見て回ろうよ」

 

「将軍がそういうなら構いませんが、問題は解決していませよ?」

 

「大丈夫、俺に良い考えがある。

 

 

 

 だから、ちょっと面貸して?」

 

 

 

 

 

 

「え……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「眼球と髪、変えるなら何色が良い?」

 

「ヒィッ!?」

 

 意識的に口角を釣り上げ今世一番の笑顔を作ってみたのだが、何故か怖がられてしまった。解せぬ。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 翌朝。

 近くの市街地にはガンダムシリーズに登場する電気自動車エレカを一台使って行くことになった。

 当初は二人だけでは危ないからと親バカな父が止めてくるとも思ったが、意外とすんなり許可が下りる。

 なんか企んでそうだったのは除いてだが。

 

 そして、肝心のアレクシスはというと──

 

「まるで生まれ変わったみたいです!! 

 将軍、ありがとうございます!」

 

「そ、それは良かった」

 

 エレカの補助席から横をチラッと見てみると、黄金色の髪が風でふわふわとたなびいており、碧眼の目は嬉しくてたまらない様にキラキラ輝やかせているアレクシスが、ハンドルを操縦していた。

 

 そう、なんて事はない。リッパー特有の紫色ヘアカラーと紫目をちょっと弄って色を変えてみただけだ。たったそれだけかと思うかもしれないが、これだけでも大分印象は変わる。

 これにアレクシスの豊かな表現が合わされば、真顔にでもならない限り気づかれないだろう。

 

 お出掛けが終わった後にでも色を戻す予定だったが、当の本人は大変気に入ってくれた様なのでこのまま彼女のアイデンティティーとして残す事になったとさ。

 なお、他のトルーパーに自慢し布教しようとするも他はやりたくないと断られた模様。

 

「アレクシスは隊員のキャプテンなのに皆んなからハブられちゃたね」

 

「なぁ!? 急になにを言い出すんでか将軍!」

 

「皆んなにも広めようとして、笑顔で突っぱねられてたのは見ててくるものがあったよ」

 

「わー! わー! わー! 聞こえなーい! 私はなにも聞こえてませーん!!」

 

 そんな下らない会話をしている二人を乗せたエレカはガタボコと酷道を抜け、市街地の近くにある古びた駐車場に止まる。

 ここの市街地は比較的戦争に見舞われなかった様で街のあちこちで人々の賑わいを感じられる。余談だが、裏路地には難民や持ち主の居ない人形などが集まり闇市を開いていたりする。

 

 それはともあれ、市街地に着いて先ずは服装からだ。俺の分はいいが、アレクシスは製造されたばかりで日常生活用の服が足りていない。今だってARCトルーパー・アーマーで代用している程だし、側から見たら子供を連れた不審者にしか見えない。

 

 

「将軍、こんなのはどうでしょうか!」

 

「うん、いい加減露出の多い服を選ぶのはやめようか?」

 

「えぇ〜、私は似合うと思うんですけど……ほら、これを隊員の皆さんで着たら似合うと思いませんか?」

 

「ただの痴女集団になるからやめなさい」

 

 服屋に入ってからというもの、アレクシスが露出の多い服しか持ってこない件について。やめてくれよぉ……、店員さんがすっげーヤバイ物を見る目で見てくるから早くまともな服を選んでくれよぉ!(絶望)

 おかしいな、常識的な事とかはちゃんとインプットされてる筈なのになんでこんな天然になったのかな。起動したばかりの頃はもっと真面目だったはずだけど……まあ、考えても仕方ないか。

 

 結局、俺が紺色の軍服ワンピースを選び、購入すると共にアーマーから着替えた。勿論、護身用のDC-17ハンド・ブラスター二丁を忘れずに携帯させる。

 そして遂に昼時になり、俺たちは料理店に入店する。

 

「将軍は何にしますか? 私はこの照り焼きハンバーグにします」

 

「じゃあ俺はデミグラスハンバーグで。しっかし、どれを見ても合成食品ばかりで生鮮食品が恋しくなってくるな」

 

「仕方ありませよ、こんな時代ですから」

 

 アレクシスの返答に俺は思わず苦笑いを溢す。返す言葉がみつからない──

 

 

 




C◯c◯s「包み焼きハンバァ〜グ♪」(by青狸)




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タノシイタノシイお出掛けⅡ

評価レバーが……色付きになってる……だと!?

評価してくれた方々本当にありがとうございます!





 あー……トイレ行きてぇ。

 

 俺は料理を待っているひとときに、そんなことを考えていた。

 せっかくのお出掛けに来た俺だが、実は朝にトイレに行くのを忘れて来てしまい、現在料理店にてリラックスしてる時に突然、尿意に襲われたのだ。しかもこの街を見て回って気付いたことだが、何処にもトイレがない。店にもない。結果として、俺の膀胱が狂喜乱舞に陥っている。

 これはいけない。

 この街の人々にははしっかりトイレを設置しなかった罪を認識し、新しくトイレを設置するべきだ。

 欲を掻けばT○T○製の腰掛大便器を、そしてウォシュレットが付いてたらもう何もいうことはない。なんなら金を払ってでも使う。いや使わせてください。ただし、トイレに駆け込んで○塗れの便器なんかだったら戦車で踏(ry

 

 

「将軍、時々武装した集団を見かけますが、あれが正規軍ですか?」

 

 ふと、窓の外を見ていたアレクシスがそんな質問を投げかけてくる。

 なんだ、トイレ業者か? 

 

「あー、違う違う。あれは民間軍事会社にも属さないただの寄せ集め傭兵集団達。人手が足りないPMCに雇われて都市の警備でもしてるんだろ」

 

 残念、野生の傭兵だった。

 窓の外から見える武装した一個小隊の傭兵グループは、勤務中にも関わらず酒を飲みながら道路の真ん中を堂々と歩いていた。下品な笑い声を上げ、道行く人達には怒鳴り、美人な人形にはナンパをしている。

 

 傭兵達の装備も統一性がなく、多様な武器や私服、迷彩服を装備している。見ただけでは何処ぞのテロリストよりも印象は最悪だし、統一感もない。てかなんであんなに酒飲んでるのにトイレに行きたがらないの? 羨ましいなおい。

 

「なるほど、要するに関わらないことが一番ですね」

 

「まあ、そうなるな」

 

 そう言うアレクシスは未だ気に落ちない様な顔を浮かべていたが、こんな世界ではごく当たり前のことだ。時期になれるだろ。

 

 

「へい、二名様分のお水を持ってきたよ!」

 

 と、金髪ツインテールの店員さんが二杯分のコップをテーブルに置きさっさと厨房に戻っていった。

 ふむ、トイレに行きたいこの状態で水を飲むのは些か気が進まないが、とりあえず気分を紛れさせる為にも……!?!?!? 

 

 死ね。

 まじで死ね。

 これコーヒーじゃねぇか!! 

 よりにもよって尿意を我慢している人にカフェインとカリウムが大量に入ってるコーヒーを渡してくるとか、もう人がやっていいことを遥かに超えている! 

 いや待て、一旦落ち着け。

 ここは冷静になって考えるべきだ。あの店員さんは注文ミスでコーヒーを持ってきてしまったんだろう。どうやったら真っ黒な液体を透明な液体と間違えるかは知らんが、ここは冷静に対応を──

 

「大変長らくお待たせしました〜! こちら特級品のスイカだよ!!」

 

 ス イ カ!? 

 そんなもん注文表にもなかっただろうが!! 

 

 

「……アレクシス」

 

子どもにコーヒーは体によくありません将軍はまだ六歳児なんですよそれなのにコーヒーを渡してくるなんていい度胸してるじゃないですかあの金髪ツインテールの人形許さ……あっはい! 如何致しましょう?」

 

「やれ」

 

「イエッサー」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 腹を満たした俺たちは引き続き買い物をしていった。といっても、アレクシスは遠慮をし俺もトイレを探しに街を見て回るだけっだったが。

 それでも色んなものを見て回ることができたし、尿意も歩いていたら大分収まってきた。

 そう思ったときだった。

 

 ──おわぁあ!? 

 

 突然、前方の道から悲鳴が上がる。

 

 道行く人たちが何事かと集まり人だかりが形成される中、人だかりの中心には例の傭兵達がいた。

 なんだろう、簡易トイレの設置……ではなさそうだが。

 

「この野郎!」

 

「なに? 今忙しいんだけど」

 

 聞こえてくる喧嘩に俺たちは顔を見合わせ、取り敢えず現場に行ってみる事にする。

 人混みをかき分け目を向けると、そこには顔を真っ赤にした傭兵達がある一人の人物を囲っていた。

 

「歩きながらコーヒーなんか飲むんじゃね! ぶつかって服に溢れちまっただろうがぁ!?」

 

「……前を見てなかった貴方達の不注意じゃん。

 あいにく、今急いでいるから」

 

「なんだと!?」

 

 声からすると、囲まれている人物は女性の様だ。

 背が足りない俺はアレクシスに頼んで肩車してもらい、囲まれている女性を確認してみる。

 

 傭兵に囲まれている女性は頭によく分からん猫耳を付けており、白衣を羽織っている。手にはコーヒが入ったカップに、何らかの書類を抱えていた。

 へー、あんな変な格好をした人がいるなんて……ドルフロ、猫耳、白衣、コーヒー。

 んー、なんか見覚えしかない組み合わせだぞ? 

 

「てめぇ、ぶつかってコーヒー溢したんならまず謝るのが先だろ?」

 

「うるさいなぁ。その緑色と茶色の変な服に茶色を足してあげたんだから逆に感謝してほしいね」

 

 わお、あの女性コーヒーを溢したくせに相手を挑発し始めたぞ。流石は見た目が変人な人、銃を持った傭兵に囲まれてもびくともしないなんて。

 ただこれ以上はやめて欲しいな、傭兵達の顔が徐々に般若になっちゃてるから。

 

「こいつ、黙ってりゃ好き勝手言いやがって……」

 

「黙ってないよね?」

 

「ぶっころっすぞ!?」

 

 仲良いなおまえら。

 ただこれ以上ここで喧嘩してもらってもこの先に進めないし……ん? 

 なんか道の先に見覚えのある長方形の箱が……

 

 仮設トイレだ!! 

 

 まさかこんな近未来な世界にも仮設トイレが残っていたとは、日本企業様々だ! きっと参勤交代の人たちもこんなトイレが欲しかったに違いない。

 

 それはともあれ、あの揉めてる傭兵たちをどうにかしないと通れそうにないな……。

 仕方ない、なんとか退いてもらうようお願いするか。

 

「えっあ、将軍!?」

 

 俺が肩車から下ろしてもらい歩き出すと、アレクシスも慌てて付いてくる。

 なーに、心配ない。話し合えばきっと分かってもらえる。 

 

 

「あ? なんだ小僧、こいつの知り合いか?」

 

 気づけば、その場の視線が一斉に俺たちに集中していた。子どもが先頭に進み出して来たことに、注目が集まってしまったらしい。

 やめろ、恥ずかしいじゃないか。(震え声)

 と、とにかく! 今は何とかこの場を収めて、トイレに駆け込もう。その為にも、何とか通してもらねば。

 

「すみませんちょっと横通りますね」

 

「おうちょと待てや」

 

 揉め事の真っ最中にある現場に断りを入れて通り過ぎようとすると、モヒカン頭の大男が、俺たちを呼び止めてきやがった。

 

「お前、ガキのくせによく口が回るじゃねえか。その見上げた根性、すげ〜ムカつくんだよなぁ」

 

 見上げた根性って意味知ってる? 一回国語辞典で調べてきた方がいいよ? 

 てかいっその事その頭からやり直せ。なんで傭兵の癖にモヒカンにしてんだよ、世紀末かよ。

 

「こちらに非があったら謝罪します。お詫びとして貴方に必要な物もプレゼントします」

 

「なんだぁ、てめぇ。俺に必要な物だと?」

 

「はい、国語辞典とバリカンになります」

 

 出来るだけ相手を刺激しないように、慎重に言葉を選んでいく。

 が、それが余計に相手を刺激してしまった様だ。

 

 モヒカン頭の男と仲間達はみるみるうちに顔を真っ赤に染め上げ、各自の得物を構え始めたのだ。

 ……ふむ、とりあえず冷静に見せる為に手を顎に当てて考えるポーズでもとってみるか。

 

「女一人のためにケンカ売ってくるなんてなぁ、いい度胸だぜお二人さん」

 

 お、この流れはもしかしなくても見逃してくれるんじゃあ……! 

 

「だがなぁ」

 

 モヒカン男はホルスターから一丁のコルトM1911を取り出し、グリップを握る。

 

「ケンカ相手を見間違えるんじゃあ、とんだ馬鹿野郎だな! お前たち!」

 

「「うおおおおおおぉ!」」

 

 モヒカン男の言葉に傭兵達は一斉に雄叫びを上げ、各自の得物のセーフティを外しだす。

 あーもうどうしようもねぇな。

 

「将軍、射撃許可を」

 

 うん、君も一旦落ち着こ? 

 ここで俺が水戸黄門よろしく「懲らしめてやりなさい」なんて言ったが最後、「もういいでしょう」って言った後には死骸しか残らない気がするからやめなさい。

 いや、逆にこれはチャンスなのでは? 

 アレクシスが傭兵たちを引き付けている間に、俺はトイレに駆け込んで用を足す。

 よし、これだ。これで行こう。

 

 とりま、アレクシスには傭兵たちの無力化を頼む。

 

「イエス・サー!」

 

「おいおい! なんだ何だぁ! あのガキ怖気付いたかぁ!?」

 

 アレクシスがたった一人で立ち向かうのを尻目に、俺は一目散に目的地(トイレ)へ駆け出す。

 あーそうだ、何とでも言うがいい! 俺は自分恋しさに部下を囮にして逃げ出す卑怯者だ。

 しかし、俺には……やらなくてはいけない使命(用を足す)が有るんだ!! 

 

 

 



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タノシイタノシイお出掛けⅢ

お久しぶりです。大変長らくお待たせしました。
最初は週一投稿を目指していたのが、少し実生活が忙しくなっただけで小説の書き方がわからなくなってしまう始末……。


 あーあ、まーた仕事クビになっちゃた。

 これで何回目だろう……。

 

 路地裏にて酷く落ち込んで座り込む一人の金髪ツインテールがいた。

 一見、仕事をクビにされ落ち込んでいるはかない少女に見えるだろう。実際、その年頃で失敗するなんてよくある話だ。人間は失敗する生き物、それを認めて次の糧にすればいい。本来ならこれだけで済む話だ。そう、彼女が人間だったらの話だが。

 

 だが、彼女は人形だった。

 感情はあれど、彼女達は人間に作られたもの。いくら給料を貰える存在だとしても、何度も失敗する道具を手元に残そうと考える人は果たしているだろうか。

 否、最低でも彼女が出会ってきた人達にはそんな人はいなかった。こんな毎日生きるのがやっとの時代に、不良品を残す人などいるわけがないのだから。

 

「うええ……お腹すいた」

 

 彼女は疲れ切っていた。回収車から命からがら逃げ出してから、もう数ヶ月もたつ。

 買取られた故郷のソ連基地から逃げ出し、南に続く道をひたすら走り、途中盗んだバイクにも跨って走り続けた。結果、バイクは途中で燃料切れになり川に捨て、それでもなお歩き続けた。

 

 追っ手を振り切り、新しい街に着いた。だが、今度は体の動きが鈍り始めたのだ。街に着く間に彼女は川の水を飲み、空き家からは貴重品を盗んだ。そうして彼女はなりふり構わず泥棒などに手を染め、なんとか生きながられてきた。

 

 だが、それでも彼女に足りないものがある。

 それがバッテリーだ。

 

「バッテリー、どっしようかなー……」

 

 人形はバッテリーがないと機能しない。彼女はそれを知っていたからこそ、この地区に着いてまず探したのが仕事先だった。

 元々の社交性の性格を活かし、何とか仕事にはありつくが、失敗ばかり。そうして仕事先を転々と繰り返しているうちに、優しい人が運営する飲食店に雇われる事ができた。

 

 彼女は自分なりに上手くやってこれた、もしかしたら私はこうして一生を過ごすのかもしれない。と思える程には給料は安定していた。

 

 しかし、彼女は今日、重大なミスを起こしてしまう。

 それは彼女の注文ミス、たったそれだけが二人のお客の怒りを買ってしまい、今でも忘れられない……厨房に乗り込んできた一人の人形に絞め殺されかけたのだ。

 

 おかげで彼女は給料日前日という日にクビにされ、途方に暮れたのだ。

 明日買えるはずだったバッテリーを絶たれた彼女の四肢は、思うように動かすことが出来ずにいる。

 でも、それでも──

 

「ううん! こんな事でクタクタしてちゃダメ。あたしならきっと乗り越えられる!」

 

 彼女は持ち前の元気の良さで立ち上がり、大通りに踏み出そうと──

 

 

「クビになったてんだな、お前」

 

 ポンと、背後から肩を掴まられた。

 

「えっ!?」

 

 驚いた彼女は、鈍く感じる体に鞭を打ち前に飛ぼうとするも、肩を完全に掴まられ体を引っ張られてしまう。

 顔を上げると、そこにいたのは見ず知らずの大男だった。

 上は作業ジャケットで、下にはオイルで汚れたであろうズボンをはいている。

 何かに怒っているらしく、眉間にシワが寄っていた。

 

「ええと、私何かしたかなーって、なはは……」

 

 覚えなら幾らでもある。前に戸締りが緩い家に忍び込んだのがバレたのか、それとも闇市で物を盗んだことが見つかったのか、どちらにせよ酷い目に遭わされるのは仕方ない……と身構える彼女を他所に、男は予想外のことを言い出す。

 

「クソ、クソクソくそぉ! あの部長の野郎、低賃金で雇える人形を雇ったと思ったら俺はお役御免ってか? クソォッ! お前ら人形のせいだぞ、このクソガキガァッ!?」

 

「うっ、ご、ごめなさ……い」

 

 こうゆう場合は抵抗して何かを言わない方がいい。普通の人形は人間に手を出す事は出来ないし、反撃したところでこの大男の感情を逆撫でするだけだ。

 が、この無抵抗の姿勢が大男を逆に怒らせることになってしまう。

 

「へっ、抵抗しないのか。じゃあ遠慮なく、解体させてもらうぜ」

 

「……え?」

 

「なんだ、お前仕事クビになったんだよな? じゃあお前の主はいねぇーし、解体したところで問い詰めるやつはいねぇよなぁ?」

 

 今度こそ、彼女はこの男が何を言っているのか分からなくなった。

 しかし、彼女の本能が危ない、と告げていることだけは分かった。

 逃げなければ。

 

「だ、誰か! 助けてー!!」

 

 声を絞って、彼女は助けを呼ぶ。

 しかしこれまたどうしたのか、大通りは騒がしいというのに、人が一向に来る様子がない。それどころか耳を澄ませば逃げろ! と声が聞こえるではないか。

 

「助けなんてこねぇーよ。この街の警備は最近ばったりと見なくなったからな」

 

 しかし、この大男はそんなことどうでもいいらしく、尻ポケットから解体ハンマーを取り出す。

 解体するのにハンマーなんて、正気の沙汰じゃない事は確かだ。

 

「俺は元解体業者だ。へへっ、そうだな……人形を解体して売れば稼ぎになる……」

 

 大男は逃げようとする彼女の腕を掴み、まるで部品を床に散らかすように彼女を床に突き飛ばす。

 

 やめてくれ、と彼女は素直に思う。

 でも、私は悪い事をしてきた悪党だ。こうなるのは定めだったのかもしれない。……でも、あたしはただ生きたかっただけだ! 

 こんな夢も希望もない世界で、いつか戦争のない平和で楽しく過ごせる場所に辿り着けると思っていた。そう想うことが出来たから今まで頑張って来たのだ。

 それがこの仕打ちなんで、到底納得出来ない! 

 

「神には祈り終えたかぁ? それじゃあ、死ねえええええ!」

 

 だからこそ、やめてほしいと思う。

 ……殺したくなるから。

 

 古びたジャンパーの内側に手を伸ばし、そこから一丁のサブマシンガンを取り出した。

 全長27センチしかない、サブマシンガンとしては最小クラスの大きさであり、持ち運びにはもってこいの大きさになる。

 この銃の名前はVz 61スコーピオン。

 ……あたしが故郷で違法改造され、その時に渡された銃だ。

 

「なっ……」

 

 大男は一瞬なにを向けられたか理解できず、振りかざす手を止めてしまう。

 しかし、その正体に気がつくと大男は嘲笑うかの様にハンマーを振り下ろそうと、覆い被さるように襲いかかってくる。

 

 彼女は思いを固め、安全装置を確認しセレクターを前に押してフルオート射撃に切り替えた。

 

「人形が撃てるかぁ!?」

 

 殺気を漲らせて襲いかかってくる大男の迫力に、負けじと手にしたスコーピオンを強く握り、引き金を引き絞った。

 

 パパパパパッ! と、数発の銃弾が大男の肩から手までを襲う。

 7.65mmと口径は小さいながらも超至近距離からの銃撃。それは、大男を無力化させるには十分な火力だった。

 

 大男は痛みに地面をのたうちまわる。しかし、それだけで体を鉛玉が貫通した痛みを取り除くことは出来ない。例え治療を受けたとしても、傷が完全に治る確率は皆無だ。

 この男は人形だからといって相手を侮たり、敗北したのだ。

 唯一幸運だった事を言えば、発射された数発の銃弾が最後の弾だったことぐらいだ。

 

「はははっ、ザマあみやがれ!」

 

 彼女は立ち上がり、薄汚い路地裏で苦しみ暴れる大男の腹に一発蹴りを入れ、すっかり静かになった大通りに走り出した。

 

 

 

 しかし、彼女は気づいていない。自分がある重大なミスを犯してしまったことに。

 

 ……そう、曲がりないにも彼女は大男を喋れる状態で見逃してしまったのだ。つまり、大男が今回のことを告発すれば──

 

 

 

 ◇

 

 

 

 路地裏から大通りに踊り出た彼女をさかず出迎えたのは、大勢の群衆……は居らず、代わりに数十人もの倒れ伏した傭兵たちがいた。

 

 

「ん? なにこれ?」

 

 この光景に、彼女はラッキーと感じた。

 本当ならこのまま直ぐに離れたいところだが、何か良いものを持ってるかもしれない。あたしはそんな思いから、先ずは一番近くに倒れ伏していた傭兵の元に歩み寄り、脈を測ってみる。……死体漁りはしたくないし。

 うーん、脈は流れてるから生きてるね。ただ傭兵の体がビクンビクンいっててなんか可愛い。

 それなら遠慮なく漁らせてもらおう。えーと、何か目ぼしいものは……お! 身分証明書発見! これは高く売れるぞ〜。

 その時、遠くから何かが走ってくる音が聞こえてきた。

 

「えっ、こっち来る……!」

 

 驚く事実に目を見開き急いで隠れる場所を探す。

 残りのバッテリーの事を考えると余り遠くには行けない。先ほどの路地裏なんて論外だ。

 そして、首を忙しく回し目に留まったのが、近くのゴミ捨て場に置かれた大量のゴミ袋だった。

 この量なら体をすっぽり埋めれる。

 もはや選り好みしている余裕などなかった。

 

 

「くそぉ! お前たち!! ここに倒れてる奴らも運ぶぞ!」

「へいっ!」

 

 どかどかと、数名の男たちの声が聞こえる。

 げっ、この声って最近この街に居座ってる傭兵のモヒカン頭のやつじゃん。あたしあいつ苦手なんだよねぇ。

 

 

「隊長、あの人形はなんなんすかぁ!? 何で人形がレーダー銃みたいのを使ってるんですか! 青いリングが発射されたかと思ったら当たった奴らが倒れやがった! ここの奴らだって!!」

「うるせぇ! 今俺たちはあの人形に隊を壊滅させられて、見逃されたんだぞ! さっさと倒れてる仲間を回収して拠点に戻るぞ!!」

 

 傭兵たちの気性の荒い声が響いてくる。

 へー、あの傭兵達負けたんだ。なんだかんだいって弱いんだね。

 

 

「くそぉ、せめてあの女とガギを人質にできてたら!」

 

 此方に一人向かってくる足音が聞こえたと思ったら、怒り任せにゴミ袋の山を蹴っ飛ばしてきた。

 衝撃でゴミ袋の山が少し崩れ、表面のゴミ袋を退かして無理やり身体を捻れただけの私は、山から左腕が顕になってしまった。

 

「……あぁ?」

 

 ま、まずい!? どうしよ銃で威嚇しようか!? いや、こんな状態じゃ直ぐに動けないよ! 

 

「ったく、誰だ可燃ゴミの日に人形をゴミ捨て場に捨てたのは」

 

 考えあぐねていると、一向に動かないあたしに傭兵は廃品だと思ってくれたらしく、何とかゴミ捨て場から離れてくれた。あ、危ねかった! 

 

 ……ただゴミだと思われたのは心外だ。こちとら金がない時だって、接客の為にわざわざ体を洗うため川に赴いていたというのに。このまま飛び出して抗議したかったが、そんなことをしたらどえらいことになってしまう。

 今は居なくなってくれるまでじっとしてよう、大人しく聞き耳をたてる。

 

「でもよぉ親分、このまま黙って泣き寝入りするんすか? 今回の方が広まれば俺たちの評判は──

 

「馬鹿野郎、泣き寝入りなんかするかよ」

 

 おおと歓声を上げた彼らは、次にモヒカン男の喋る台詞に耳を傾ける。

 あたしは次に発せられた言葉を聞き、驚愕した。

 まるで、時間がゆっくりと曖昧に過ぎ去ったかのような、あらゆる音が無に変換されていく。気づけば、傭兵達の騒がしい声はもう聞こえてこない。代わりに、頭からは先ほどの会話が壊れたラジオみたいにリピートしていた。

 

 

「以前破棄された基地から略奪したやつ……″ AA-02 アレス″を使うぞ‼︎

 この街から奴らが出る前にカタをつける!」

 

「しかし親分。それじゃあ街にも被害が」

 

「はっ、こんな陳腐な街が一つ消えたところで誰も気にはしねぇよ!!どのみち住民共には今回の失態を見られてる、皆殺しだ!」

 

 





愚作にも関わらず最後まで読んでいただきありがとうございました。
今回、まさかのAA-02 アレスの登場です。これに対し主人公組は何を繰り出すのか。
それにしても、まさか少女視点だけでほぼ1話分が終わってしまうなんて。全く話が進まない……次回でこのパートが終わるといいんですがねぇ(他力本願)
それと、もしかしたら今回のお話のサブタイトルを変更するかもしれません。
それでは、また次回お会いしましょう。


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タノシイタノシイお出掛けⅣ 前編

お久しぶりです。実生活が忙しいあまり、またもや1ヶ月以上も間を開けてしまいました……。


追記:この度は、『タノシイタノシイお出掛けⅣ』は前編と後編に分けて再投稿をさせて頂く事にしました。理由としましては、深夜テンションで書き上げた後半部分が後々見返すと納得のいかない仕上がりであったために、後半部分だけを後編に分け改稿版として書き直すためです。
作者の勝手なご都合ながら申し訳ありません…。




 これは……いつのことだろう。

 

 室内の大きな休憩所らしきところで、あたしは座っていた。

 地下のため窓はない。広々とした空間には、ベンチや机、ジュースの販売機に、鍛えられた兵士たちと、長袖のつなぎを着た整備士が、思い思いに休憩している。

 こんな広々とした空間なのに、あたしだけ隅っこに座っていた。

 

 私はメモ帳を読んでいた。

 小さなメモだ。手のひらに収まる、小さな紙を数枚、グリップで留めた程度の簡易なメモ帳。それでいて、このメモ帳は私の生命線とも言えた。

 私がこのメモ帳を見つけたのは、実験場からだった。

 いつも座っていたあの憎たらしいコックピットの座席後ろに、偶然置かれていたのを発見したのだ。

 もうこの世には居ない持ち主の代わりに、私がこうして食い入るように読んでいる。

 

「はやく、はやく覚えないと……」

 

 私は紙をまた一枚めくる。

 

 ……思い出せない、あたしは何を真剣に読んでいたんだろう。

 あたしには読書をする習慣なんてなかった。ましてや、他の人のメモを持ち立してまで読むなんて尚更するわけがない。

 でも、何故か、この光景には心に引っかかりを覚える。もう少し……眺めて見よう。

 

 

 私はドジだ。軍に買われて実験人形になってから、担当する実験で何度も失敗をしていた。

 いや、これは私が悪いわけじゃない。軍の開発したプログラムか、ソフトウェアとハードウェアの整合性が未完成だったからだ。

 このメモ帳の持ち主だった前任も、相次ぐミスによって失敗作と見放され、今頃粉砕機で粉々に磨り潰され体の一部をリサイクルされているころだ。

 

 前任は私よりずっと優秀だった。真面目な性格で、新入りの私にも優しく接してくれて、製造されて間もなく軍に入荷された私に外の世界の話を沢山してくれた。

 

 だからかもしれない、このメモ帳を拾ったのは。

 このメモ帳には、私たち人形をあるビークルのパイロットに仕立て上げる、そのビークルの起動方法や操作方法が書き記されていた。プログラムが未完成な時点で操縦なんて無理なのに、前任は諦めず事細かに書き写している。

 

 私は実験の後、いつも端の席に座ってこのメモ帳を読むのが習慣になっていた。

 無駄だとは分かっている。でも、一度でいいからあの重機を動かしてあっと皆を驚かしてやりたかった。

 

「お前がAA-02アレスのtest pilot 05だな。そんな物をみて何になる?」

 

 不意に私は誰かに声をかけられ、顔を上げた。  

 そこには、白髪を生やしたガタイのいい強面の巨漢が立っていた。軍服を着こなし怖そうな顔をしている、幾度なく戦場を潜り抜いてきた歴戦の男のように見える。

 

「あなたは誰?」

 

 男は不本意ながら答える。

 

「エゴールだ」

 

「エゴールたん?」

 

 ぶふぉ、と遠くから見ていた数人の兵士が飲み物を吹く。はて、私は何かいけない事を言っただろうか。心なしかエゴールたんのこめかみが浮いてるようにも見える。

 

「……エゴール、大尉だ」

 

「エゴールたん!」

 

「エゴール大尉だ」

 

「エゴールたんだね!」

 

「もういい! それより質問に答えろpilot 05」

 

 気づけば、周りの人は大爆笑していた。「あの隊長が人形に遊ばれてる」とも聞こえてくる。どうやら、エゴールたんは偉い人らしい。

 

 私は少し考えた末に、答える。

 

「他に、やることがないんです」

 

「なに?」

 

 エゴールたんは嘲笑うかのように、いや、おかしなものを見るような顔で私を見た。

 

「おかしな人形だ。嘘ならせめて納得できるものにしろ。この部屋には娯楽用のテレビや雑誌、他の人との雑談、そんな薄いメモ帳より面白い事がごまんと──

 

「他の人とお話しても良いの!?」

 

 いつの間にか、私は机から身を乗り出してまでエゴールたんに詰め掛けていた。もしかしたら、皆んなと楽しく会話できるかもしれない。その事実に、私は居ても立っても居られくなっていた。

 

「……当たり前だろう。何のために休憩所にいると思っているんだ」

 

「わ、私そんな事命令されてないよ!」

 

「はっ、そんな事教えてもらう必要もないだろう。

 人形のメンタルはそんなこ──」

 

「よっしゃあああああ!!」

 

 私は、自分でも驚くほどの声を上げていた。命令されたこと以外でも、自分で勝手に行動しても良い。こんなこと、作られてから一度も考えたことがなかったからだ。

 

「おい、人の前で大声を上げるなんてなにを考えている? あまり分をわきまえないようなら──」

 

「それじゃあ、エゴールたんがあたし(・・・)の最初の友達だね♪」

 

「……なに?」

 

「私さ、生まれてからずっと姉貴的存在だった前任と、無愛想な研究員としか会話した事がなかったんだ。だから、エゴールたんが私の初めてってわけ!」

 

 

「……言った筈だ。あま──

 

「「話は聞いたぜお嬢さん!」」

 

 いつの間にか、集まっていた兵士達がエゴールたんを遮るように間に入ってきた。

 私は驚いてそちらを向く。今まで遠回しにしか此方を見ていなかった兵士達が、今は私を囲って会話をしている。それがどうしようもなく、何故か嬉しく感じた。

 

「仲良くしようぜpilot 05。今まで話しかけて良いのか分からなかったが……肩苦しい軍隊にこんな可愛い人形と友達になれんだ、こんなうまい話はねぇや!」

 

「お前たち! これは任務の一環であって……上等兵! 貴様もか!?」

 

「大尉! 一人だけ抜け駆けしようなんて見損ねましたよ!」

 

「馬鹿なことを言うな。オレには幸せな家庭があ……」

 

「は?」

 

「へ?」

 

「大尉?! その話を詳しく聞かせてください!?」

 

「大尉! 子どもは何人を予定しているのですか?!」

 

「上等兵、それはあまりにも失礼な質問だと思わないのか!?」

 

「それじゃあ、エゴールは何人子どもを産むんだ?!」

 

「タメ口を使えという意味ではない! 後オレを女にするな!!」

 

「あー、何か大尉の話を聞いてたら酒が飲みたくなってきたな。pilot 05、今からみんなで酒を飲みに行かないか?」

 

「え! いいの!?」

 

 私は初めて聞いた酒の言葉に二つ返事で頷いた。

 

「良いわけないだろ! ここをどこだと思っているんだ!?」

 

「みんな、大尉を飲みに連れて行く方法がある。オレらで大尉を両側から担いで持ち上げれば、大尉は何もできなくなる!」

 

「っ! 馬鹿なことを、今から将軍に報告をしな──

 

「酒を呑んだら報告なんて出来まい。みんな持ち上げるぞ。あ、pilot 05は右腕を頼む」

 

「わかった!」

 

「おいやめっ……」

 

「「せっーの!」」

 

「ま、まて、や、やめ、う、うぉおおあああ!?」

 

 その後、私たちは時間が許す限り酒を呑んでお話をした。今まで赤の他人だったのに、今はまるで崩壊した世界で偶然出会った戦友と酒を呑み交わすような、とても楽しく心暖まる時間を共有した。

 

 

 だがその数日後、私はここから逃げ出した。

 

 

 

 

 あたしの解体が決定したからだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 目が覚めると、あたしはゴミ袋の山に埋まっていた。

 隙間から外を見るも誰もいない。ゴミ袋の山から脱出すると、体に付着した生ゴミの臭いに思わず顔を顰める。

 

「うぇぇ、生臭い……」

 

 あたしの呟きは誰にも届くことなく宙に舞っていった。

 人が居ないか辺りを確認してから、静かに歩き出す。

 それにしても、先ほど見た映像は何だったのだろうか。少なくとも、あたしがあれを経験した覚えは……ない筈だ。それとも、何か大事なものを忘れている……? 

 あたしはなんとも言えない脱力感に襲われながら、道に沿って歩いていく。

 

「それより、今はバッテリーをなんとかしないと……」

 

 そうだ、今はそんなことよりもバッテリーを調達しないと。今日中にバッテリーを手に入れなければ、多分あたしはその辺の道端に落ちているぬいぐるみのように、袋にゴミと一緒に袋に詰められ、今度こそゴミ処理場に運ばれることになる。それだけは、絶対に嫌だ。

 

 あたしはふらふらとした足取りでこの場を後にする。バッテリーを探すために人の住居に忍び込もうかと考えたところで、後ろから誰かが走ってくる音が響いてきた。

 

「えっ、また!?」

 

 あたしが本能的に隠れようと背後を振り向いたところで、その人はあたしに声をかけてきた。

 

「はぁ……はぁ……やあ。また会ったね」

 

 そこには、あたしを半殺しにした人形の持ち主の男の子が、全身びしょ濡れの状態で立っていた。

 

「へ?」

 

 なぜこの子はずぶ濡れなのだろうか、そんな疑問をさて置いて彼は話し出した。

 

「……君さ、もしかしてスコーピオンって名……いや! それよりここは危険だ、早く離れよう!」

 

「えっ?」

 

あたしは彼に手を引かれ、訳も分からず走り出した。

 

 

 




愚作にも関わらず最後までご覧いただきありがとございました。


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