総武高校生徒のある人物に兄弟姉妹がいるのはまちがっている。 (銅英雄)
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1人目

兄弟姉妹……。それは千葉ならば互いに支えあい、苦楽を共に生きていく。その絆は夫婦や親子よりも大きいだろう。

 

かくいう俺も小町と苦楽を……あれ?主に苦の部分俺にしか来てなくない?まぁそれで小町を少しでも楽させてやれるなら……!

 

「俺は小町の為なら幾らでも苦の人生を進む」

 

「この男は何を言っているのかしら……」

 

「あはは……。ヒッキーのシスコンっぷりも相変わらずだよね」

 

「決め顔で言っても全然決まってないですよ先輩」

 

俺の呟きは三者三様に流された。

 

「……っつーかなんで一色が此処にいるんだよ。生徒会の仕事はどうした?」

 

「今日はもう終わりました~」

 

「ならサッカー部行けよ……」

 

「まぁまぁ、いろはちゃんもたまにはゆっくりしていきなよ」

 

一色はほぼ毎日此処でゆっくりしてるだろうが……。

 

 

コンコンコン。

 

 

あん?依頼人か……?

 

「どうぞ」

 

「失礼致します」

 

入ってきたのは女子だった。

 

「此処が奉仕部で宜しいでしょうか?」

 

「ええ、此処が奉仕部よ。貴女は……?」

 

雪ノ下が知らないという事は小町と同じく今年入ってきた新入生か?或いは俺や材木座のようなタイプの人種かもな……。

 

女子生徒を見ると銀髪をポニテにしていて、小柄ながらも堂々としていて貫禄がある。

 

「比企谷君?女生徒を視姦とは……。今警察を呼ぶわね」

 

「ヒッキーサイテー!」

 

「先輩……」

 

雪ノ下からは通報されそうになり、由比ヶ浜からサイテーと言われ、一色からは蔑まれた目で見られる。俺が何をしたと言うんだ……。

 

「……比企谷?もしや貴方が比企谷八幡さんでいらっしゃいますか?」

 

「あ、ああ……」

 

女生徒は俺を見て目を輝かせた。しかも俺の手を握ってくる。えっ?なんで?

 

「お噂は聞いておりました。比企谷さんなら……!」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

「どうかしましたか?」

 

由比ヶ浜が女生徒に静止をかけるが、当の本人は俺の手を握ったままきょとんとしている。なんだよその表情可愛いかよ。

 

「あの、えっと、どうしてヒッキーの手を握っているのかな~?なんて……」

 

「そうですよ!先輩の手を握るのは後輩のわたしの役目です!」

 

「どさくさ紛れに何を言っているのかしら?一色さん?」

 

「ひえっ……」

 

雪ノ下に睨まれた一色は蛇に睨まれた蛙みたいになっている。

 

「……一色生徒会長の言い分が正確ならば、学年的に私も比企谷さんの後輩に当てはまるのでは?」

 

「はっ……!」

 

いや、何を墓穴掘ったみたいな顔してるんだよ。あと君はいい加減俺の手を離してくれるとありがたいんだが……?

 

女生徒も戸惑っている俺を見て手を離す。しかし独特な喋り方だな……。

 

「とはいえ突然失礼しました比企谷さん……いえ、これからは比企谷先輩と呼ばせて頂きます!」

 

「あ、ああ……。それは良いんだが、おまえは……?」

 

「申し遅れました。私は今年度から総武高校に入学した新入生で名前は……」

 

 

ガラッ!

 

 

「はっはっはっ!八幡!!」

 

女生徒が名乗ろうとすると喧しい声が聞こえたので、見てみると材木座が入ってきた。うぜぇ……。

 

揃いも揃って材木座を生ゴミを見るような目で見ている。女生徒に至っては呆れ混じりで溜め息をしている。材木座の知り合いなのか……?

 

「……何の用だ材木座。悪いが今は依頼人が来ているから、今すぐ帰れ」

 

「何を言うか八幡!今度こそ我の自信作が出来たのだ!これで声優さんとの結婚間違いなしだ!!折角だから相棒にもその自信作を見せてやろうと……」

 

 

ドガッ!

 

 

え……?今女生徒が材木座を蹴飛ばしたんだが?雪ノ下も由比ヶ浜も一色も目を点にしているんだが?俺も目が点だよ。

 

「……貴様はまだ比企谷先輩にあの紙屑を読ませているのか?毎度毎度自信作だとほざいては駄目出しをくらっている癖に」

 

「き、貴様は材木座義昭(よしあき)!!」

 

「大声で私の名前を呼ぶな!!」

 

さっきまでの温厚そうな感じとは正反対で冷酷な表情で材木座を睨む。ん……?材木座?

 

「こほん……!失礼致しました。改めて材木座義昭と申します。先程の光景からある程度は察しているかと思いますが、そこにいる材木座義輝の妹にあたります」

 

は?

 

『えっ!?』

 

雪ノ下達は女生徒の正体に驚きの声をあげるが、そのまま話し続ける。

 

「奉仕部の皆さん……特に比企谷先輩には底の愚兄が大変お世話になっていると思います」

 

「お、おう……」

 

「比企谷先輩と出会った後の愚兄は毎晩毎晩電話やLINEでやれ八幡が、やれ相棒がと鬱陶しいくらい聞いていました。そんな比企谷先輩に会えて光栄です!」

 

「そ、そうか……」

 

やばい!材木座妹が物凄いキラキラした目で俺を見ている。なんか浄化されそう……。

 

「あ、あの、八幡……?」

 

「まだいたのか愚兄め……。今日は私が比企谷先輩と話しているのだ。ちり紙ならまた後日で良かろう?」

 

「断る!我は早く八幡に……!」

 

「聞こえなかったのか……?私が怒る前にとっとと失せろ!!」

 

「は、はい~!」

 

材木座妹の迫力に負けて材木座は勢い良く走り去った。哀れ材木座……。同情はしないけど。

 

「……度々お見苦しいところをすみません」

 

「い、いえ、大丈夫よ……」

 

あの雪ノ下が若干びびってる……。まぁ無理もないか。俺も怖かったし、由比ヶ浜と一色なんて雪ノ下の後ろで怯えてるもんな。

 

「そ、それで材木座さんは何か依頼があるのかしら……?」

 

「そうですね……。強いて言うならば比企谷先輩と話しをしてみたい……というのが依頼になるかもしれませんが、依頼の内容を変えたいと思います」

 

「依頼の内容を変える……?」

 

なんだろうか……?

 

「兄の様子を見る限りだと度々奉仕部に……というよりは比企谷先輩に絡んできているのでしょう?」

 

「……そうね。彼の担当は比企谷君に一任しているわね」

 

「ちゅうにの相手はヒッキーにしかできないよ」

 

「ですです!」

 

「おい、俺を材木座担当みたいに言うのはやめろ。今日は妹さんが来ているんだぞ」

 

「いえ、私の事は気になさらず……。兄が散々比企谷先輩達にご迷惑をかけているのはさっきの光景で見てわかります」

 

材木座妹は遠い目をして溜め息を吐いた。

 

「……ですが、あんなのでもたった1人の兄なんです。これからもご迷惑をかけると思いますが、これからも兄をよろしくお願いします」

 

そう言って材木座妹は深く頭を下げた。

 

「……ああ、わかったよ」

 

彼女も千葉の妹なのだろう。足蹴にしながらも嫌いにはなれない。本当に兄を大切にしているのが見ていて伝わる。

 

「それでは本日はご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」

 

もう1度深く頭を下げて彼女は退室した。

 

「……すごい子だったね~」

 

「……わたしあの子の怒鳴り声が怖かったですよ。あれで年下の女子なんですね。身長は小学校中学年くらいなのに」

 

「おまえそれを絶対に本人の前では言うなよ?材木座みたいに怒鳴られるぞ」

 

……この時の俺達はまだわかっていなかった。これを皮切りに妹だけじゃなく弟や兄、姉が続々とこの奉仕部に訪れる事を、そして奉仕部が混沌に巻き込まれる事を……!



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1人目(あふたー)

今日はなんか疲れたな……。

 

「たでーまー」

 

「お帰り~お兄ちゃん!」

 

「おう」

 

家に帰るとマイシスターでありながら、俺の2大天使の1人の小町が出迎える。

 

「……お兄ちゃんどうしたの?なんか疲れた顔して」

 

「やっぱり小町にはわかっちまうか……」

 

「当然だよ。何年お兄ちゃんの妹をやってると思ってるの?お兄ちゃんの事はお見通しだよ。あっ、今の小町的にポイント高い!」

 

「……最後のがなければな」

 

このようなやり取りも最早定番だ。もしかして材木座兄妹もこのようなやり取りをやっているのか……?

 

「だから話してみそ?」

 

「……そうだな。聞いてくれるか?」

 

「もっちろん!」

 

俺は小町に今日奉仕部に来た客の事を話した。

 

「……まさか義昭ちゃんのお兄さんがあの中二さんだったとは」

 

「俺もそう思ってるよ。……っつーか小町は知ってるのな」

 

「同じクラスだしね。小町は昭ちゃんって呼んでるよ」

 

「そうなのか?」

 

「うん。あと昭ちゃんって高校生でありながらもプロのラノベ作家なんだって!」

 

「は……?」

 

材木座妹がプロのラノベ作家……?マジで?そういえば材木座妹から小説の原稿を貰ったような……。

 

 

~回想~

 

部活が終わり帰ろうとすると材木座妹に出会った。

 

「あっ、比企谷先輩!」

 

「お、おう……」

 

「今奉仕部の活動が終わったところですか?」

 

「まぁな……」

 

先程の光景を見てしまうとどうしてもこの材木座妹に気圧されてしまう。

 

「……それでそっちは何してたんだ?」

 

「私も部活の帰りです。文芸部で少し創作をしていたら下校時刻になっていて……」

 

改めて材木座妹を見てみると大人しそうな小柄の女の子だ。だからこそ先程のあれにはビビったが……。

 

「……比企谷先輩、よろしければこちらを受け取ってください。先程文芸部部室で書き上げた原稿です」

 

そう言って材木座妹に渡されたのは小説の原稿だった。なんか嫌な予感しかしないんだけど……。俺の表情を見た材木座妹は何かを察したようで……。

 

「……比企谷先輩のお気持ちはわかります。愚兄と同じ様に小説の原稿用紙を渡されるとその様な顔をされるのも。ですが私も創作者の端くれ……。兄が毎日の様に比企谷先輩ついて語っているので、私も比企谷先輩からの感想がほしくなったんです」

 

「……」

 

「時間がある時、気が向いた時で良いんです。読んで感想を頂けたらと……。あの紙屑よりかはマシだと思いますので」

 

材木座義輝が作家病名のと同じ様に、また材木座義昭も作家病なんだろう。最後に一言毒を吐くのもまた彼女らしくも思う。まだ顔合わせ2回目だけど……。

 

「感想は私のメールアドレスを教えますのでそちらに送るか、後日私に直接言ってくだされば幸いです」

 

材木座妹は一礼して歩いて行った。見た目幼女なのに、夕焼けと共に移るその後ろ姿はかなり様になっていた……。

 

 

~現在~

 

(最初受け取った時は材木座と同じ駄作かと思ったが、まさかプロのラノベ作家から直々に原稿を貰うとはな……)

 

後で小町に聞いた話だが、材木座妹は文芸部で部活動をしながらもラノベ作家として創作もしているらしい。まだ高校1年生なのに凄い奴だ。

 

(どれどれ……って嘘だろ!?)

 

俺は材木座妹のペンネームを見て驚愕した。



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2人目

昨日は衝撃な事実を知った。奉仕部に訪れた見た目幼女が材木座の妹で、小町と同じクラス、しかもプロのラノベ作家で、俺の好きな作家さんだった。

 

「ひ、比企谷先輩が私が執筆している小説を好きと言ってくださるとは……大変恐縮です!」

 

いやいや、それはこっちの台詞だっての。今日も材木座妹は奉仕部に訪れており感想は昨晩メールでも送ったが、改めて本人に伝えたかったが故に奉仕部まで来てもらったのだ。

 

「……比企谷君、材木座さんが貴方の好きな作家なのはわかったけれど、少し距離が近すぎないかしら?」

 

「そうだよ!」

 

「先輩のその距離感はわたしの筈なのに……!」

 

雪ノ下達が何か言っているが、そんな事は気にしない。

 

「……しかし比企谷先輩に好評で良かったです。よろしければお三方にも私が書いた小説を読んでもらっても良いですか?感想は多い方が書いた側としては嬉しいので……」

 

材木座妹は雪ノ下達にも小説の原稿を渡した。その瞬間由比ヶ浜が嫌そうな顔をして、それに釣られる形で一色も微妙な表情を浮かべた。おい、失礼だぞおまえ達。

 

「……これは面白いのかしら?」

 

「そうですね……。愚兄が以前奉仕部に渡したちり紙よりはマシとだけ言っておきます。これも奉仕部への依頼としてお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「そう……。わかったわ。奉仕部部長として承ります」

 

「ありがとうございます。兄と違って期限には拘りませんので。感想は私のメールアドレスを教えますからそちらに送って頂くか、もしも会う機会がありましたら私に直接言ってくだされば幸いです」

 

雪ノ下は受ける事に決めたようだ。由比ヶ浜と一色は否定的だが……。

 

「……あの、別に強制はしませんよ?もしも活字が苦手ならまた別の人にお願いしますので」

 

材木座妹はそれを察したようで、由比ヶ浜と一色に可能であればと伝える。

 

「そ、そんな事ないよ!ねっ!いろはちゃん?」

 

「そ、そうですよ!可愛い後輩の依頼を断る訳ないじゃないですか~!」

 

慌てるように2人は原稿を受け取る。だから一色は部員じゃないだろ……。

 

すると材木座妹は何かを思い出した様に手を叩く。

 

「……すみません。実は今日奉仕部に依頼したいという人がいるんですよ」

 

「そうなのか?」

 

「はい。ですので私はこれからその人を迎えに行きます!」

 

そう言って材木座妹は慌てて部室を飛び出した。一礼してゆっくりと扉を閉めて……。律儀だな。

 

 

~そして~

 

 

コンコンコン。

 

 

ノックの音が響き渡る。材木座妹が依頼人を連れて来たんだろうか?

 

「どうぞ」

 

「し、失礼します!」

 

緊張した様子で入ってきたのは男子生徒。後ろに材木座妹もついていた。

 

(ざ、材木座さん。やっぱり僕には……)

 

(何を言うか。貴様が奉仕部に依頼したいと言ったのだろうが!)

 

(で、でも……)

 

男子生徒が材木座妹と何やら話している。というか2人の身長差凄いな……。

 

男子生徒を見ると身長は180くらいあり、材木座妹と並ぶと違和感しかない。男子生徒の方は材木座とヒソヒソ話をする為に態々しゃがんでるし。

 

「こほん……っ!それでそちらの男子生徒は何か依頼があるのではないのかしら?」

 

雪ノ下が咳払いをして場を整える。材木座妹と一緒にいるのと、雪ノ下が知らない事を総括するとこの男子も1年生か……?

 

「し、失礼しました……。僕は1年生の……です」

 

ち、小せぇ……。全然声が聞こえないぞ。

 

「声が小さいっ!もっと腹から声を出せっ!!」

 

同じ事を思ったのか材木座妹が超デカい声で男子生徒を叱る。その声で由比ヶ浜と一色がまた雪ノ下の後ろに隠れちゃったじゃん。

 

 

ガラガラガラ!

 

 

「いろはす~!」

 

扉が開けられて入ってきたのは戸部だった。なんか一色に用事があるようだが……?

 

「なんですか戸部先輩?わたし今超忙しいんですけど~?」

 

いや、おまえめっちゃ暇そうにしてるだろ。

 

「忘れたん?今日はマネージャーの集まりがあるからって。隼人君が連れて来てほしいって言ってたっしょ」

 

「げっ!すっかり忘れてた……」

 

おい、奉仕部寄ってる場合じゃないだろ。

 

「ん~?あんれ~?どうして卓がいるん?」

 

ん……?

 

「と、戸部っちってそこの男子の事を知ってるの?」

 

由比ヶ浜が俺達が気になっている事を戸部に指摘する。良いぞ由比ヶ浜。流石同じグループに属している事はある!

 

「丁度良いから紹介するっしょ!そこのメガネかけてるのは俺っちの弟で……」

 

「と、戸部卓(すぐる)です!兄がいつもお世話になってます!」

 

『はっ!?』

 

戸部兄弟のカミングアウトでこの場にいる材木座妹以外は信じられないような顔付きで戸部兄弟を交互に見る。

 

「……卓の兄でしたか。私は卓と同じ文芸部で部活動をしています材木座義昭と申します」

 

「そうなん?いや~、卓が何時もお世話になってるっしょ!俺っちは卓の兄で戸部翔!これからも卓の事よろしく頼むわ!」

 

「私がそれに応えられるかはわかりませんが、同じ部活の部員として気にかけるつもりです」

 

「そう言ってもらえるとありがたいっしょ!卓は見ての通り内気な部分もあるから義昭ちゃんみたいな子に引っ張ってくれると卓も嬉しいと思うんよ」

 

「ちょっ、兄さん!?」

 

……なんか戸部兄弟と材木座妹が無茶苦茶自然に会話してるんだけど?いち早く立ち直った雪ノ下が再び咳払いをする。

 

「……戸部君?弟さんは奉仕部に用があって来ているのよ。貴方も急ぎの用事があるのは伝わるけれど、ノックはしてちょうだい」

 

「べ~。それはごめんっしょ。ほらいろはす、早くサッカー部の方に行くべ?」

 

「え~、本当に行かなきゃ駄目ですか?」

 

「行かなきゃ先生に怒られるっしょ。それに生徒会長がそれだと色々不味いべ?」

 

「うっ!戸部先輩の癖に……」

 

おまえ戸部の扱い酷くない?いや、でも戸部だしこんなもんか。

 

「先生に雷が落ちる前にさっさと行った方が良いっしょ!」

 

「はーい……」

 

戸部と不服そうな顔をした一色は部室を後にした。嵐のような戸部だったな……。

 

「……それで戸部卓君だったわね」

 

「は、はい!」

 

「貴方は奉仕部に何か用があるのでしょう?依頼かしら?」

 

「え、えっと……」

 

戸部弟は口籠る。こうして見ると戸部の弟とは思えん。眼鏡をかけている事からまだ海老名さんの弟だと言われた方が説得力があるな。

 

「……卓、貴様は私が奉仕部の事を伝えると強い瞳で自分も行きたいと言っていたな?」

 

「材木座さん……」

 

「その瞳からは卓なりの覚悟が見えた。あれは嘘だったのか?」

 

「…………」

 

材木座妹が戸部弟の背中を押す。良い話だなー。俺達蚊帳の外だけど……。

 

「そう……だよね。……僕が奉仕部に来たのは依頼……ではなく、兄が以前奉仕部にした依頼に対する謝罪です」

 

「戸部君のした依頼に対する謝罪……?どういう事かしら?」

 

「……それについては兄が奉仕部に依頼した『海老名先輩に告白したいけど、振られたくないから告白を成功させてほしい』という依頼について話したいと思います」

 

戸部の依頼だと……?

 

「まずは兄の無茶振りとも言える依頼を受けてくれてありがとうございました。ですがあの依頼は本来断るべきだと思いました」

 

「えっと、どういう事かな?弟君?」

 

「考えてみてください由比ヶ浜先輩。振られたくないからと言って他人に頼る男と付き合いたいと思いますか?」

 

「……それはちょっと嫌かなって思う」

 

「この事に関して兄は僕に相談してくれました。自分はあの時舞い上がっていたと……。でも折角受けてもらったからには海老名先輩と恋人になりたかったと……」

 

先程までオドオドしていた戸部弟とは打って変わって芯の通った目をしていた。

 

「……昨年の冬前くらいに兄の忘れ物を総武高校に届けに来た時にある噂を聞いてしまいました。『ヒキタニという生徒が告白の邪魔をした』というものを」

 

「…………!」

 

「…………!」

 

修学旅行での嘘告白の事だろう。雪ノ下と由比ヶ浜が暗い顔をする。かくいう俺も冷や汗をかいている。

 

「噂を耳にした僕は兄に尋ねました。告白の件はどうなったのかと。すると兄は奉仕部に……特に比企谷先輩には悪い事をしてしまったと言っていました」

 

……そういう事だったのか。だからあの時戸部は俺に土下座をしていたのか。

 

「比企谷先輩を悪人にしてしまった事を後悔した兄は学校では何時ものグループで普通に過ごせていますが、それは紛れもなく奉仕部の……比企谷先輩のおかげだって」

 

「……それは買い被り過ぎだ戸部弟。あの時の俺はおまえの兄貴の一世一代の告白を台無しにした。それは事実なんだ」

 

「ヒッキー……」

 

「比企谷君……」

 

「……そうですね。でもそんな事をさせたのは元はと言えば兄が依頼をしたからだと思いますし、兄もそう言っていました。ですので弟である僕からも謝罪します。奉仕部に亀裂を走らせて申し訳ありませんでした!」

 

戸部弟は土下座していた。

 

「お、おい、土下座は止めろ。……俺も悪かったよ。兄貴の告白を遮ってしまった事」

 

「兄は自身の力で告白すべきでした……。それは本人も悔いています」

 

「そうか……」

 

「ですのでもしもまた兄が海老名先輩に告白する事があれば、その勇姿を見ていてあげてほしいんです」

 

戸部弟も兄貴の事を想っていての謝罪とお願いなんだろうな。昨日の材木座妹の時もそうだった。この2人はやはり兄の事をとても大切にしているんだろう。

 

「……ああ。告白の邪魔をした俺にそんな資格があるのかはわからないがな」

 

「そんな事はありませんよ。兄はもう一度告白する時は真っ先に比企谷先輩達に伝えると言っていましたから」

 

「ふっ、そうかよ」

 

「それでは僕はこれで失礼します。奉仕部の皆さん、今日はこの場を作ってくれてありがとうございました」

 

そう言って戸部弟は退室して、材木座妹も一礼して退室した。昨日も思ったが、材木座妹はあの兄に比べてしっかりしすぎなんだよな……。

 

「……はぁ」

 

「あたし、知らなかったよ。戸部っちがヒッキーに土下座してたの……」

 

「……あの時は呼び出されて何されるかわからんかったからビックリしたぞ。戸部に関しては殴られても文句は言えなかったからな」

 

「それを助長させたのが戸部君の弟さん……という事なのかしら?」

 

「……多分な。その影響もあって噂はなくなって、葉山グループから謝罪をしてきたのも驚いたがな」

 

「それであたし達もヒッキーが嘘告白してきた理由もわかったもんね……。ヒッキー、あの時は本当にごめんね」

 

「私も……。ごめんなさい」

 

「俺も悪かったよ。あの依頼は奉仕部にも依頼人にも落ち度はあったんだ」

 

「そうね……」

 

「……あたしも軽はずみに依頼を受けようとするのは止めるよ」

 

あれ以来奉仕部も無茶な依頼は受けないようにしたもんな。……まぁその時は一色のクリスマス会の依頼の真っ最中だったけどな。

 

後日戸部に呼び出されて俺はまた土下座された。



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3人目

戸部弟の襲来の翌日。俺は材木座妹が書いている小説を、雪ノ下は材木座妹から貰った原稿を読んでいる。

 

「……比企谷君、貴方が読んでいるのは材木座さんが書いている小説かしら?」

 

「ああ。雪ノ下が読んでいる原稿を本にしたやつだ。まさか俺が普段愛読しているラノベの作者が材木座妹だったとはな……」

 

「……材木座君の原稿があれだったから構えていたけれど、彼女のものは面白いし、中々共感出来る部分があるわ」

 

「材木座妹によるとこの小説は実体験を元にしたフィクションらしいぞ」

 

「……それでこの内容が書けるとは。彼女はどのような学校生活を贈ってきたのかしらね」

 

「本人も辛いものだったんだろうな……。耐え抜く痛みについては俺も読んでて感動したぞ。マジで」

 

和気藹々と雪ノ下と話していると由比ヶ浜がなんか頬っぺたを膨らませていた。

 

「むー!」

 

「どうした由比ヶ浜?」

 

「ヒッキーもゆきのんもあたしを除け者にしてない……?」

 

何を言うかと思えば……。

 

「俺と雪ノ下が読書をしているのは何時もの事だろうが。雪ノ下に至っては材木座妹の依頼を受けてるだけだし」

 

「確か由比ヶ浜さんも材木座さんから原稿を貰っていたわよね?それなら貴女もそれを読む事が出来ると思うのだけれど……」

 

「そ、それは……」

 

おい、目が泳いでるぞ。どんだけ本読むの嫌なんだよ……。

 

「……漫画だったら読めるんだけどなー」

 

「コミカライズの可能性ってあるのかしら?材木座さんこの作品なら漫画になっても面白そうだけれど……」

 

雪ノ下がここまで肯定的なのも珍しいな……。確かに材木座妹の小説がコミカライズ化すれば間違いなく買うと思うが……。

 

「確かに面白いだろうが、それまでの道は無茶苦茶険しいと思うぞ。この小説はかなり売れてはいるみたいだが、コミカライズ化するにはこれの10倍以上は売らないと厳しいぞ」

 

「そうなのね。創作の道というのも中々大変なのね……」

 

それにしても雪ノ下が材木座妹の作品のみとはいえラノベに興味を示すとは……。世の中何があるかわからないものだ。

 

 

ガラガラガラ!

 

 

「ひゃっはろー!」

 

……魔王が現れた。何故?

 

「……何の用かしら姉さん?」

 

「今俺達忙しいのでお帰り願います雪ノ下さん」

 

「雪乃ちゃんも比企谷君も冷たいなー」

 

何故雪ノ下さんが此処に来たんだ?

 

「それにしても熱心に何を読んでるの?」

 

「奉仕部の依頼として小説の原稿を読んでいるのよ」

 

「へぇ~」

 

雪ノ下は珍しく雪ノ下さんよりも原稿に集中している。

 

「そんなに面白いの?お姉ちゃんにも読ませてよ~!」

 

「あっ、ちょっ……」

 

雪ノ下さんは雪ノ下から原稿を引ったくろうとしている。おいおい……。止めるべきか?だが村人が魔王には勝てんし……。

 

「……そこまでにしておけ雪ノ下」

 

どう止めようかと考えていると扉から雪ノ下さんを止める人物がいた。同じ大学の人か……?

 

「いいじゃん。これも姉妹のスキンシップだよ~!」

 

「その妹さんが嫌がっているのだが……?」

 

「え~?」

 

おお……。あの雪ノ下さんと渡り合ってる。何者なんだあの人?

 

「済まないな妹さん。家でもコイツが迷惑をかけているだろう?」

 

「い、いえ。私は1人暮らしですので……」

 

雪ノ下もあの人に気圧されてるな。

 

「そうか。コイツの魔の手から逃れる為に1人暮らしを……。その気持ちは大いにわかるぞ」

 

「……君は私の事をどう思っているのかな~?」

 

「人を玩具にする悪魔だと思ってるよ」

 

……この人も雪ノ下さんの被害者なんだな。雪ノ下もなんか頷いてるし。

 

「あ、あの……。貴方は一体……?」

 

先程まで空気になっていた由比ヶ浜が質問する。

 

「……紹介が遅れたな。俺は相模雄一(ゆういち)。この学校に通っている妹と弟がこの奉仕部に世話になったらしいからな。本来なら高校時代にお世話になった平塚先生にアポイントを取って訪れようと思ったんだが、そこの悪魔に見つかってしまってな……」

 

自己紹介と共に遠い目をしている。この人も苦労してそうだな……ん?あれ?相模?

 

「相模って……もしかしてさがみんの妹ですか?」

 

「そのさがみんというのが南の事ならそうだ。文化祭では妹とそこにいる悪魔が迷惑をかけたな。兄として謝罪する」

 

どうやらこの人はあの相模の兄らしい。まぁ微妙に面影があるから意外ではないな。材木座妹と戸部弟に比べると驚きは薄い。

 

「し、謝罪は大丈夫ですあの件には私にも落ち度はありましたし……」

 

「そうそう!雪乃ちゃんも張り切り過ぎただけなんだよね~!」

 

「おまえはもっと反省しろ!そもそもおまえが妹さんを焚き付けなければこんな事にはならなかったんだぞ?」

 

「わかったって~!静ちゃんにもその件で散々絞られたんだからこれ以上は勘弁してよ~」

 

「平塚先生が怒るのも尤もだ。寧ろこれまで甘やかされてきたんじゃないのか?優等生だからだって……」

 

す、すげぇ。あの雪ノ下さんに説教をしている。相模兄、恐るべし!

 

 

~そして~

 

あれから15分くらい相模さんの説教は続いた。その間雪ノ下さんはぶー垂れていたし、雪ノ下はもっとやれと言わんばかりの表情でイキイキとしていた。

 

「うう~!足が痛い……」

 

「大学でも好き勝手やってたからな。先生からも雪ノ下の母親からも抑制を頼まれるこっちの身にもなってくれ……」

 

「お母さんとも繋がっていたとは……」

 

「俺だって好きで雪ノ下の母親と繋がっている訳じゃない」

 

この人が段々規格外に見えてきたな……。雪ノ下も尊敬の眼差しで相模さんを見ている。

 

「妹さん、これは俺のメールアドレスだ。コイツに対する愚痴とかがあったら吐き出してくれ」

 

「有り難く頂戴します」

 

「雪乃ちゃんを口説いてるの~?まずは私を倒してから……」

 

「おまえは少し黙れ……」

 

雪ノ下さんを黙らせた相模さんは再び俺達の方を向いた。

 

「……改めて奉仕部には妹や弟が迷惑をかけたな。オマケにコイツも。これからも迷惑をかけるかもしれんが、よろしく頼む。あんなんでも俺の家族だからな」

 

……やはりこの人も妹と弟を大切にしてるんだな。

 

「……はい」

 

「あ、あたし達に出来るかは不安ですけど……」

 

「奉仕部として精一杯頑張ります」

 

「うんうん、良い話だね~!」

 

「……再三言うが、妹の件はおまえにも原因がある事を忘れるなよ。ほら行くぞ!」

 

相模さんは雪ノ下さんの首根っこを掴んで退室した。

 

「……凄い人だったな」

 

「……ええ。あの姉さんと対等に渡り合っている人を初めて見たわ」

 

「さがみんのお兄さん、凄い苦労してそうだったね」

 

俺も雪ノ下も相模さんを偉大に感じた……。そんな1日だった。



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2人目(あふたー)

ある休日の事。俺は暇潰し用に読む本を求めて本屋へと立ち寄った。目当ては新刊のあの本だが……。

 

(おっ、まだ残っていたか)

 

どうやら目当ての本はあと一冊だったらしく、俺はそれに手を伸ばす……。

 

 

ピトッ。

 

 

……誰かと手が重なった。こういう時って漫画とかなら美少女と取る本が被ったとかで互いに譲り合う展開の筈なんだが。

 

「ひ、比企谷先輩……?」

 

(いやなんでだよ……)

 

手が重なった相手は戸部弟だった。何これ?海老名さんが近くに潜んでるのん?

 

「……おまえもこの本を買いに来たのか?」

 

「い、いえ、それは僕じゃなくて……」

 

戸部弟が相変わらず小さい声で何かモゴモゴと言っている。本当コイツ兄と性格が真逆だな……。

 

「卓、本一冊取るのにどれだけ時間をかけているのだ?」

 

戸部弟の背後から材木座妹が声をかける。

 

「ざ、材木座さん……。これはその……」

 

「……いや、何があったかは大体察する事が出来る。大方私が買おうとした本が最後の一冊で、取ろうと思ったら比企谷先輩と目的の本が被ったという訳だろう?」

 

いや凄いな材木座妹。実は見てたんじゃないの?

 

「……比企谷先輩、失礼致しました。この本は比企谷先輩にお譲りします」

 

「いや、そっちだってこの本が目的だろ?俺は急ぎで読みたい訳じゃないし、そっちが持っていってくれ」

 

「いえ、そういう訳には……」

 

「いやいや、そうしてくれ」

 

俺と材木座妹は互いに本を譲り合い、戸部弟はどうして良いかわからずにオロオロとしている。どうしたもんかな……?

 

 

~そして~

 

それから十数分の譲り合いの末本は材木座妹の元に渡った。俺はというと他の本を数冊買って近くのカフェで読み耽っている。ちなみに材木座妹と戸部弟も一緒。

 

「……先程はありがとうございます。読み終わり次第に比企谷先輩にお貸しします」

 

「いや良い。気にしないでゆっくり読んでくれ」

 

此処でも譲り合いが発動。話題を変える為に気になった事を聞いてみる。

 

「そういえば2人はなんで本屋にいたんだ?」

 

「え、えっと……。その……」

 

またもや戸部弟はモゴモゴと。俺が言うのもなんだが、色々と大丈夫なのか?その光景を見て溜め息を吐いた材木座妹が代わりに説明する。

 

「……執筆の方が一段落したから、気分転換に本屋に行こうとした途中で卓に会ったのです。行き先を言うと卓が買い物に付き合ってくれると言ったので、先のように本屋で私の手の届かない所にある本を卓に取ってもらおうと……」

 

材木座妹は諦めた目をして「ほら、自分はこのような背丈ですので……」と言っていた。

 

「材木座妹は休日でも制服なんだな」

 

「はい。私服で出歩くと背丈のせいで小学生と間違われる事が多々ありまして……。慣れはしていますが、そのままだと色々不便ですので、対策として常に制服で彷徨いています」

 

成程な……。羽川さんみたいな事情がなくて良かったぜ。

 

「それよりも卓、貴様は比企谷先輩に会ったら伝えたい事があるのではなかったか?」

 

「そ、そうでした……。比企谷先輩!」

 

「お、おう……?」

 

「兄を救ってくださってありがとうございました!」

 

俺が戸部を救う……?覚えがないんだが。

 

「どういう事だ……?」

 

「……兄はあの修学旅行……いえ、もっと前から比企谷先輩に救われているんです。兄はその事に気付いてはいませんが」

 

「修学旅行よりも前だと……?」

 

マジで覚えがないんだが……?

 

「それは去年の夏前に兄の携帯に送られたチェーンメールです。当時僕の様に人の顔色を伺う事しか出来なかった兄が僕に相談してきたんです。このままだと俺がチェーンメールの犯人にされてしまうと……」

 

……奉仕部に訪れた時から思っていたが、随分と頼られているんだな。あと戸部は弟に頼り過ぎだろ……。

 

「……俺はチェーンメールの問題を先延ばしにしただけだぞ?」

 

「ですがそのおかげで兄がチェーンメールの犯人に仕立てられずに済みました。兄と同じサッカーの葉山先輩も「比企谷に助けられた。あいつは凄い奴だよ」とも言っていました」

 

まさか葉山とも繋がっていたとは……。戸部弟、恐ろしい子!

 

「……さっきも言ったが、俺は問題を先延ばしにしただけだ。修学旅行の件もそうだが、礼を言われるような事はしていない」

 

「それでも……。僕が言いたかったので、言わせていただきます。ありがとうございました」

 

「ふっ……。そうかよ」

 

戸部弟は兄の事を本当に大切にしているから、本気で心配していた……。やはり千葉の兄弟姉妹は総じてブラコン、シスコンなんだな……。

 

「……卓の兄も幸せ者だな。こんなに心配してくれる人間もそうはいないぞ」

 

「ぼ、僕はそんな大層な人間じゃ……」

 

「胸を張れ卓。家族を大切にするというのは誇れる事だぞ?」

 

「……ありがとう。材木座さん」

 

……どうでも良いけど、俺の前でイチャイチャしないでくれる?



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3人目(あふたー)

ある日の事。俺は雪ノ下と相模の兄こと相模雄一さんと一緒に喫茶店に来ている訳だが……。

 

「あいつは本当に自由奔放だからな。高校から一緒だったんだが、あいつと出会ったのが運の尽きだ……。あっちこっち振り回されてな……」

 

「わかります。私もあの姉には振り回されっぱなしで……」

 

「何が問題かと言うとあいつの外面が優秀で完璧な生徒という仮面で周りを欺いているからタチが悪い……!俺も平塚先生も迷惑をかけられた」

 

「私も幼少期から姉には振り回されていました。ですので相模先輩の気持ちには激しく同意です」

 

……なんか雪ノ下と相模さんが意気投合して雪ノ下さんに対しての愚痴を言い合ってるんだが。

 

「……比企谷君もわかるでしょう?貴方も姉さんに目を付けられた人だもの」

 

止めて!俺に飛び火しないで!!

 

「なんと……。比企谷君も雪ノ下陽乃の被害者だったか。あいつは年頃の男子に思わせ振りな言動をしてくるから、思春期の純情な男子が皆あいつに騙されるんだ。高校の時も、今でも雪ノ下陽乃の親衛隊みたいなのがあってそれはもう……」

 

「……姉はそんなものまで作っていたんですね」

 

「いや……。あいつが作った訳じゃなく、あいつの外面に騙された被害者達が挙って雪ノ下陽乃の手となり足となり……」

 

「その人達も可哀想に……。姉さんの本性がわからなかったのね」

 

な、なんか雪ノ下さんの実態が相模さんによって暴かれようとしてるんだが……。

 

「雄一君も雪乃ちゃんも私の扱い酷くないかな……?」

 

そこで颯爽と雪ノ下さんが降臨!

 

「何を言うか雪ノ下陽乃。おまえがこれまでにやってきた事を妹さんに伝えただけだ」

 

「姉さんは高校の時から相模先輩や平塚先生に迷惑をかけたのでしょう?恥を知りなさい」

 

しかし相模さんと雪ノ下の追い討ちは続く。普段の恨みをこれでもかとぶつけている。

 

「あれ?なんかお姉ちゃんの扱いが更に酷くなったぞ?比企谷く~ん!雪乃ちゃんと雄一君が酷いんだよ~!」

 

雪ノ下さんはまるで某眼鏡少年が某猫型ロボットに泣き付く様に俺の胸に顔を埋めてきた。ちょっ、近い近い良い匂い!

 

「……離れろ雪ノ下。比企谷君が戸惑っているだろう」

 

「ぶ~!」

 

泣き真似をやめた雪ノ下さんはケロッとした感じで俺から離れた。ふぅ……。

 

「それでおまえは何時から此処にいたんだ?」

 

「雄一君が私の事を自由奔放って言った辺りからかな?」

 

ほぼ冒頭からいたんですね。俺もビックリな気配遮断スキルですよ本当に。

 

「そうかそうか。盗み聞きとは相変わらず趣味が悪いな」

 

「相変わらずって何よ。雄一君が私の何を知っているって言うのよ!?」

 

「何も知らんし、知りたくもない。未来永劫な」

 

雪ノ下さんが声を荒げて言うが、相模さんはそれを一蹴。即答で否定した。何この寸劇?

 

「……あ~あ。やっぱり雄一君には通用しないか~」

 

「何度も似た光景を体験したからな……」

 

「おっと、もうこんな時間。私これから用があるから、これで失礼するね。雄一君も、雪乃ちゃんも、比企谷君もまたね~!」

 

「出来れば2度と会いたくないがな」

 

「残念だけど、雄一君とは同じ大学で、同じ学部で、取ってる授業も一緒だから無理かな~」

 

「そうだった……。何時になったら俺はこの悪魔から解放されるんだ」

 

「あっ、そうそう!雄一君の事をお母さんが気に入ったから家に来てほしいって言ってたよ!」

 

「はっはっはっ。面白い冗談を言うな雪ノ下」

 

「残念ながら冗談じゃないんだよね~。お母さんが1度ゆっくりと話してみたいって言ってたからね!」

 

「勘弁してくれ……」

 

「じゃあ今度こそ失礼するね~!」

 

そう言って雪ノ下さんは早足で喫茶店を出た。相変わらず嵐のような人だな……。

 

「……はぁ。俺もそろそろ出るかな。2人共、迷惑をかけた詫びだ。会計は俺が払っておく」

 

「そんな……。悪いですよ」

 

「気にするな。それにしても妹だけじゃなくて弟も奉仕部に迷惑をかけてるからな。大富豪で脱衣を強要させるとか身内として恥ずかしい……」

 

ああ……。遊戯部の相模弟か。

 

「いえ、もう済んだ事ですので。……それに私達の代わりに比企谷君が脱衣を請け負ってくれましたから」

 

「…………」

 

「そうか……。比企谷君には南の事と言い苦労をかけるな」

 

「……いえ、俺も別に気にしてませんから」

 

「まぁ比企谷君も雪ノ下の妹さんもこれからはよろしく頼む」

 

相模さんは優しく微笑んだ。この人イケメンだわ。なんなら葉山よりも全然。

 

「……主に雪ノ下陽乃の被害者として。なんなら会合を開こう」

 

……この所々出てくる残念な雰囲気を覗けば。嫌過ぎるぞその会合……。

 

「是非私も入会させてください」

 

おい!雪ノ下もそんな会合に入らなくていいから!!



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4人目

今日由比ヶ浜は三浦達と遊びに行くと言って休み。一色も生徒会で頑張っている。後で駆り出されないだろうな……?

 

 

ガラガラガラ!

 

 

「ひゃっはろー!」

 

……魔王が現れた。何このデジャブ?

 

「姉さん、今すぐ帰りなさい」

 

「……ねぇ雪乃ちゃん雄一君に会ってから冷たくなってない?」

 

「何時まで雄一先輩に寄生するつもりかしら?恥を知ってほしいわ」

 

ちなみに雪ノ下は相模さんの事を名前で呼んでいる。あの喫茶店で愚痴を言い合って以来名前で呼ぶようになった。相模さんも雪ノ下の事を名前で呼ぶ。2人に恋愛感情がある訳じゃなくて、雪乃さんによる被害を愚痴り合ってはまるでソウルメイトのようになっていた。

 

「そ、それよりも雪ノ下さんは何か用があるんじゃないんですか?」

 

とりあえず話題を変えよう。このままだと色々不味い!

 

「あっ、そうそう!雪乃ちゃんに重大な発表があるんだよ」

 

「……どうせくだらない事でしょう?」

 

「そんな事ないよ~」

 

雪ノ下さんの重大発表は微妙に気になるな。茶化すような言い方じゃなくて真剣な表情してるし。

 

「実はね……」

 

「勿体振らないで早く言いなさい」

 

「……じゃあ言うね。なんと雪乃ちゃんにはもう1人お姉ちゃんがいます!」

 

『は……?』

 

俺と雪ノ下の声が重なった。雪ノ下にもう1人姉がいるだと?

 

「驚いたでしょ?実は私も最近知ったんだよね」

 

雪ノ下さんも最近まで知らなかったらしい。

 

「今日はその子と一緒に来てるから、雪乃ちゃんには会って話をしてほしいんだ」

 

「い、いきなりそんな事を言われても……。そもそも向こうだって突然でビックリしてるに決まってるわ」

 

「その子も承知の上で来てもらってるよ」

 

あの、それって俺がいて良いの?今すぐ帰った方が良くない?

 

「比企谷君も話を聞いてもらうよ。私もいるから心配しないでね!」

 

なんで……?しかも雪ノ下さんもいるとか不安しかないんだけど……。

 

「じゃあ私はその子を連れてくるから」

 

雪ノ下さんは雪ノ下のもう1人の姉なる人物を呼びに行った。

 

 

~そして~

 

「紹介するね。今は氷上家で暮らしているけど、雪乃ちゃんの双子の姉の……」

 

「え、えっと……。ご紹介に預かりました。氷上水乃(ひかみみずの)です」

 

「ゆ、雪ノ下雪乃です……」

 

……なんだこの気まずい空気。

 

氷上水乃と名乗った雪ノ下の双子の姉は海浜総合の制服を着ており、雪ノ下と並んで見ると確かに瓜二つだ。外見の違いは氷上の方は雪ノ下がしているリボンをしてないくらいか……?

 

「……本日は陽乃さんの我が儘を聞いてくれてありがとうございます」

 

「敬語はなしで大丈夫よ水乃さん。……ごめんなさい。いきなりの事過ぎてまだ貴女を姉だと認識出来ないのだけれど」

 

「ああうん、そうだろうね……。私も陽乃さんの突拍子に巻き込まれる側の人間だから、雪乃さんがそう思う気持ちも良くわかるよ」

 

氷上が物凄く遠い目をしている。きっと雪ノ下さんに引き摺られて来たんだろうな……。

 

「そんな水乃さんには『雪ノ下陽乃被害者の会』の会員に招待するわ」

 

いや、本当に相模さんとその会合を作ったのかよ……。

 

「えっ……?」

 

「ちなみにそこにいる男子生徒も会員メンバーよ」

 

だから俺を巻き込むな!

 

「あ、あの?雪乃ちゃん?本人がいる目の前でそんな事を言われても困るんだけど……」

 

「あら、まだいたのね姉さん。さっさと帰ったらどうかしら?後は私達で十分よ。突然知らされたとはいえ、水乃さんとゆっくり話してみたいから……」

 

良い事言ってる風だけど、しれっと雪ノ下さんに帰れって言ってるよね?邪魔者扱いしてるよね?なんか相模さんと出会ってから雪ノ下が逞しくなったな……。

 

「うんうん、良い事を言ってる風だけど、お姉ちゃんを邪魔者扱いしてるよね?」

 

「だとしたらどうなのかしら?」

 

あっ、雪ノ下さんが崩れ落ちた。

 

「……ごめん水乃ちゃん。私これから用事があるから帰るね」

 

「えっ?あっ、はい。わかりました」

 

「ごゆっくりー!!」

 

雪ノ下さんは魂の叫びをあげて退室した。……これ後が怖くないか?

 

「……水乃さん、貴女は何時から私達が血の繋がった姉妹……それも双子だってわかったのかしら?」

 

ねぇ、これ俺もいて良いの?帰るタイミング逃しちゃったから帰り辛いんだけど……?

 

「う~ん……。どこから話せば良いのか……」

 

氷上はその事を話すのに抵抗はないみたいだが、どの部分から話せば良いのか悩んでるみたいだ。

 

「……まずは私がどうして雪ノ下家にいないのかを話す必要があるね。17年前に超大型の台風が来たって話は家族から聞いた事があるかな?」

 

「……その話は以前父から聞いたような気がするわ。小学6年生くらいかしら?そういえばその時にお姉ちゃんがいたと言っていたような……」

 

「うん、私もそれくらいの時に父さんからその話を聞いた。初めて聞いた時はそんな話ある訳ないって思ったよ」

 

どうやら雪ノ下と氷上は同じくらいのタイミングでそれぞれの父親から同じ話を聞いたらしい。

 

「その台風によって私は流されてしまったんだ……」

 

「そうなのね……」

 

17年前の大型台風の話はかなり有名な事件で千葉の復興がかなり遅れたらしいな。まぁその頃の俺達は手のかかる赤ん坊だったけど……。

 

「……そこで私を拾ってくれたのが今の父さん。父さんは私の事を捨て子だと思っていたようで、私を育てる事にしたんだ。まぁそれは数年後に勘違いってわかる訳だけど……」

 

ラノベとかで良くある展開だな。氷上って実は主人公気質?

 

「……そして小学6年生の夏頃に父さんから真実を告げられた。その時は何を言っているのか理解出来ずにいたよ。何せいきなり血が繋がってないって言われたんだからね」

 

「……その話を聞いて水乃さんはどう思ったのかしら?」

 

「……話を聞いた当時は色々な感情がグルグルしてたから、訳がわからなくなって、感極まって家を飛び出したんだ」

 

まぁ気持ちはわかるな。俺も小町と兄妹じゃないって言われたら飛び出し……いや待てよ?それなら小町と結婚出来るんじゃ……ないな。余計な事は考えないでおこう……。

 

「……暫く頭を冷やして考えた結果、私の家族はやっぱり父さん達なんだって思ったよ。経緯はどうであれ私を育ててくれたのは今の父さんと母さんだしね」

 

「そう……。水乃さんは強いのね」

 

「……私は全然強くないよ。寧ろ弱い。陽乃さんを見ていると改めて自分は弱いんだと実感するよ」

 

「……それでも私からすれば水乃さんはとても強いわ」

 

「……ありがとう雪乃さん」

 

良い話だな……!俺そろそろ帰って良いかな?

 

「水乃さん、良かったらこの後私の家で話さない?」

 

「えっ?でも雪乃さんは大丈夫なの?」

 

「問題ないわ。私は1人暮らしなの。水乃さんは大丈夫なら……」

 

「……実は私も今親元を離れて1人暮らしをしてるんだ。自立する為にね」

 

「その事も詳しく聞きたいわ。是非私の住んでるマンションに来て」

 

「……うん、わかった。陽乃さんに言われて此処に来た感はあるけど、血の繋がった妹ともっと話がしたいから」

 

「では行きましょう」

 

「わっ……!」

 

雪ノ下はイキイキとした表情で、氷上はそんな雪ノ下に引っ張られていった。氷上の方は俺を見て申し訳なさそうにしている。

 

「……俺も帰るか」

 

いる意味なかったな。俺……。



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妹達(しすた~ず)

こんにちは!比企谷小町です!今日はクラスの友達である義昭ちゃんこと昭ちゃんと一緒にショッピングです!

 

昭ちゃんと一緒に遊ぶのは初めてなんだけど……。

 

「昭ちゃんって休みの日も制服なんだね……」

 

「……私は見ての通り幼児体型だからな。制服じゃないと小学生に見られてやりにくい」

 

「はえ~。昭ちゃんも大変なんだね」

 

「身長も130でピタリと止まってずっとこのままだ。私服も無くはないんだが、私がきても小学生の遊戯会だと思われるのが関の山だよ」

 

……等と言う理由で昭ちゃんは休みの日も制服なのです。神様って残酷なんだなぁ。およ?あれって雪乃さん?

 

「雪乃さーん!」

 

雪乃さんを呼んだんだけど、雪乃さんは気付いてないみたい。もっと近くに行った方が良いのかな?そんな時に小町の背後から声がした。

 

「小町さん?」

 

「えっ?雪乃さん……?何時の間に小町の後ろに?でも前にも雪乃さんが……」

 

「……なんとなく小町さんが戸惑っている理由がわかったわ。彼処にいる人を私だと思ったのでしょう?」

 

「えっ?ええ……?」

 

な、何がなんだかわかんない……。

 

「何をしている小町。雪ノ下先輩に用事があったのではないのか?」

 

「材木座さんも一緒だったのね。私達はこれから喫茶店に行こうと思うのだけれど、良かったら貴女達もどうかしら?」

 

「邪魔にならなければ是非。小町はどうするんだ?」

 

はっ!一瞬トリップしてた!と、とにかくあの雪乃さんそっくりの後ろ姿をした人の正体が知りたいけど……。

 

「勿論小町も行きます!」

 

今は雪乃さんとの親睦を深めないとね!

 

「決まりね。では私は彼女に詳細を話してくるわ」

 

そう言って雪乃さんは小町が声を掛けようとした人の所へ歩いていった。雪乃さんの知り合い……?

 

 

~そして~

 

「紹介するわ。こちらは……」

 

「ああ良いよ。自分でやるから。……氷上水乃です。信じられないと思うけど、雪ノ下雪乃の双子の姉になります。学校は海浜総合高校に通ってるよ」

 

「えっ……。ええーっ!?」

 

「……まぁ小町さんはその反応になるわよね」

 

「雪乃も数日前に知ったもんね……。それも唐突に」

 

雪乃さんの双子のお姉ちゃん!?でもなんで名字が違うの?いきなりのカミングアウトで頭がパンクしそうだよ!

 

「一卵性双生児ですか?凄く似ていますね。雪ノ下先輩と会って然程日数が経っていない私はどう反応したら良いかわかりませんが……。材木座義昭です。雪乃先輩には以前小説の原稿を見てもらいまして……」

 

「小説の原稿?」

 

「材木座さんはプロのライトノベル作家なのよ」

 

「へぇ~。私ラノベはよく読むから凄く興味あるよ!良かったらその事についても色々聞きたいな。どんな作品を書いてるの?」

 

「……氷上さんが御存知かわかりませんが、◯◯……という小説を執筆しています」

 

「嘘っ!?私あの小説の大ファンなんだよ!まさか大好きな小説の作者さんがこんな身近にいたとは……」

 

小町が放心している間に雪乃さんの双子のお姉ちゃんの水乃さんは昭ちゃんと会話を弾ませていた。

 

「……驚いたでしょう?」

 

「はい……。にしても滅茶苦茶似てますね。後ろ姿だけだと判別出来ませんよ……」

 

「私にはよくわからないのだけれど、そんなになの……?」

 

「最初水乃さんの事を完全に雪乃さんだと思って声を掛けようとしたくらいですから……」

 

危なかった~!雪乃さんが後ろから声を掛けてくれなかったら小町が恥ずかしい想いをするところだったよ……。

 

「……という経緯で私と雪乃は離れ離れになったんだけど、数日前に再開して今に至るって訳」

 

「成程……!この展開は参考になりそうですね!」

 

「おっ、もしかして◯◯のキャラの設定に載せてくれるの!?」

 

「はい。流石に真相を丸々載せる訳にはいきませんのである程度はぼかしておきますが、丁度小説内に雪乃先輩のようなキャラも存在していますから上手く組み込んでみましょう。只そのキャラの追加は大分先にはなりますが……」

 

「いやいや、◯◯の設定に使ってくれるなら話して良かったと思うよ!」

 

「……本来なら他人の私が聞く話ではありませんでしたね。申し訳ありません」

 

「気にしないで。雪乃も信用出来る人になら話しても良いって言ってたし。材木座さんとは初対面だけど、信用出来ると一目でわかったしね。それは私が材木座さんのファンだからじゃなく、材木座義昭という1人の人間を見て私が判断したからね」

 

和気藹々と昭ちゃんと水乃さんが小説についてのあれこれを話していた。小町と雪乃さん空気だな~……。

 

「水乃さん、立ち話もなんだし喫茶店の方に行かないかしら?」

 

「それもそうだね。材木座さんもごめんね。立ち話を長くして」

 

「いえ、気にしてませんよ」

 

「それで雪乃さん、これから行く喫茶店ってどんな所ですか?」

 

「私も詳しい場所はわかっていないのよね……。だから水乃さんに着いて行く形になるわ」

 

「今から行くのは私の穴場だよ」

 

「それは楽しみですね」

 

それから小町達は水乃さんの穴場だという喫茶店に行って色々な話をした……んだけど、殆んどが昭ちゃんの小説についてで小町は空気になる事が多かったです。まさか雪乃さんまでもが昭ちゃんの小説に釘付けとは……。

 

昭ちゃんの小説……お兄ちゃんに借りて読もうかなぁ?



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