僕は麻帆良のぬらりひょん! (Amber bird)
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第1話

 過去に「にじふぁん」で連載・完結した作品です。10話ずつ纏めているので文章が重複する部分がありますのでご注意下さい。
 全部で9話あり毎日朝9時に1話ずつ掲載していきます。


 唐突に目が覚めた……眩しい。それに頬に柔らかな風を感じる。

 明るい方から逃げる様に体を捻ろうとして鈍い痛みで目が覚める。

 

「う……む……」

 

 何故か動かし難い手で目を擦る。暫くしてボンヤリとしていた視力が回復し……

 窓から差し込む光や、風に揺れるカーテン。そして、皺クチャな手が見えた。

 

「えっ?何だ、この手は……僕の?何なんだよ、この腕はさぁ」

 

 握って開いて振り回して、思い通りに動かせるならば、やっぱり僕の腕なのか? 

 掌を額に当ててコメカミを揉むと、フサフサの眉毛を……眉毛?

 恐る恐る両手で顔をペタペタ触る。フサフサの眉毛、髪の毛が少ないぞ。生え際が何処まで下がってるんだ……

 髪の毛を掻き毟ろうとしたら、不自然に纏められた髪の毛が?

 

 握って上に引っ張る。

 

「ちょチョンマゲ?僕にチョンマゲが有るぞ」

 

 更に後頭部が随分と長いんだけど……嗚呼、頭の長さが倍以上有るぞ。

 

「ははは……老人になるまで寝た切りで、怪我で体も変になったのか……」

 

 僕は薄れゆく意識の中で、つい最近だった様に記憶しているアノ事を思い出した。

 裏山で小遣い稼ぎのキノコを取りに行って、イノシシにはね飛ばされた事を……それと後頭部が大きくて、仰向けでは寝難い事を……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 遡る事、数日前の麻帆良郊外の山中。

 

 

「ガンドルフィーニ君、もう一踏ん張りじゃ!来月にはネギ君が。ナギの息子が来るんじゃ!それまで麻帆良学園は無事でなければならん」

 

 ナイフと拳銃を構えて戦う魔法先生に激を飛ばす!

 

「勿論です。我らがネギ君の成長を見守る為にも、ここで敵を倒さねば!しかし敵の数が……」

 

 突然、真っ昼間から結界を超えて悪魔・魔物が襲撃!しかも数カ所同時に……

 侵入した術士に召喚された悪魔達が麻帆良に大挙して襲って来た。生憎とタカミチ君は海外に、他の魔法先生達も所用で外していた。

 残って居るのは、刀子・ガンドルフィーニの両魔法先生。残りは関係者の真名と刹那、それにエヴァと茶々丸だけだった。

 だからこそ、普段は前線に出ない近右衛門が自ら戦っている。

 魔法は秘匿をせねばならず、しかし昼間は魔法先生・生徒として一般人の中に溶け込んでいる。

 急に仕事や授業を放り出して現場に駆けつける事は出来なかった。

 

 初動で遅れを取るのは、防御側としては致命的だ!

 

 エヴァは茶々丸とコンビでも、一カ所の防衛で手一杯。刀子先生には、真名と刹那がフォローに。

 こちらに応援に来るにしても、時間が掛かるだろう。襲い来る悪魔達を一体一体倒しているが、戦局は芳しくない。

 

「むぅ……偶然じゃないのぅ。麻帆良が手薄の、このタイミングでの強襲。

謀られたか……それに結界をこうも容易く抜けてくるとは。かなり組織的・計画的な襲撃かの?」

 

 今は、その様な事を考えている暇は無い。ジリジリと消耗する魔力。無限とも思える、召喚された悪魔達。迎えるは2人の魔法使い。

 関東魔法協会の長としての力を持つ近右衛門にしても、戦局を覆すには至らなかった。

 

「ぐぁ……」

 

 背後を任せたガンドルフィーニが、複数の悪魔にのし掛かられている。

 

「ガンドルフィーニ君!しっかりするのじゃ」

 

 彼にのし掛かり、小山になった悪魔の群れを魔法で吹き飛ばす。

 

「ガンドルフィーニ君!おい。しっかりせい」

 

 呻いてはいるので、まだ生きている。しかし早急に治療をしなければ危ないだろう。彼を庇いながら、悪魔の群れを睨み付ける。

 

「そろそろ出て来たらどうじゃ?それとも儂が怖くて、姿を見せられんのかのぅ?」

 

 未だに現れぬ黒幕に声を掛ける。その間にも悪魔達が、その牙をその爪を……はたまた刀や槍と言った獲物を振りかぶりながら儂に殺到する!

 

「ふんっ!まだまだじゃよ」

 

 一重二重と魔物に包囲され波状攻撃を掛けられる。

 流石の儂もガンドルフィーニを庇いながらの戦いでは、遂に手傷を負わされてしまった。

 左腕を魔物の爪で抉られた……しかし傷自体は浅い。

 

 手傷を負わされてから、魔物達の包囲網が少し広がった。

 

「ぬう……お前さんが黒幕かのぅ?儂が傷付けられてから、漸く姿を表しおって。じゃが儂は、まだまだ戦えるぞ!」

 

 敵の親玉を倒せれば、召喚された悪魔や魔物は元の世界に送り返される。

 

 チャンスだ!

 

「関東魔法協会の長よ。我らの積年の怨みを晴らしにきたぞ」

 

 神官の服を着た壮年の男が、林の中から滲み出る様に現れる。

 

「ほう?儂に怨みをじゃと?マギステル・マギを目指す者としては、思い浮かばんのぅ……」

 

 油断なく相手と対峙する。

 

「我らの怨み!

それは貴様のせいで関係の無い戦いに駆り出され、大切な者を失った怨みよ。しかも、その謝罪無く関西呪術協会が悪いとの扱い。

今の長は腑抜けよ!関東の言いなりよ!だから我らは立ち上がったのだ。我が息子夫婦の怨み。貴様の命で償うが良い」

 

 大戦の傷を忘れられぬ奴らか……

 

「婿殿も跳ねっ返りの部下を押さえられんか……だらしないのぅ。

しかしお主を倒せば、今回の騒動は収まるの。悪いが大人しく捕まってはくれんか?」

 

 召喚主を倒せれば、召喚された悪魔・魔物は消える。

 

「ふふふ。余裕な顔も何時まで続くかな?

貴様が責任を負わず、認めずのらりくらりと逃げている為に……我らの憤りが、我らの気持ちが!

分かるか貴様に?我が息子と嫁の、物言わぬ骸と対面させられた親の気持ちが!我が子を先に喪う親の気持ちが!

だから、貴様には特別な呪いを掛けてやろう。我らが同志は、全てこの襲撃の為に命を捧げた。

この悪魔共は同志達の魂を糧に召喚した者達よ。我は貴様と共に朽ち果てよう……輪廻の輪から弾き出してやるわ!」

 

 そう言うと、儂を傷付けた魔物が奴の胸を貫いた。

 

「ぐっ!

ふふふ……きっ貴様の血と俺の心臓を触媒に呪いをかける……呪いは返せぬぞ。その為に俺も同じ呪いを受ける。

人を呪わば穴二つ……だが、共に同じ呪いなら返し合っても同じ事。

貴様を道ずれに出来れば、俺の魂が消滅しても構わない。共に輪廻の輪から弾かれろ!」

 

 呪いの発動を止めようと術士に近寄ろうとするが、残りの悪魔・魔物達が妨害して辿り着けない。

 呪いに対抗しようと精神集中すらさせてもらえず、呪いは完成してしまった。

 

「しまった……」

 

 遠のく意識の中、誰かが入れ替わりに儂の体に入り込むのを只見ているだけだった。

 薄れゆく意識の中で、術士の狂喜の笑いだけが響いている……

 

「儂は間違った事はしておらん!ネギ君すまない……君を立派なマギステル・マギに……」

 

 近衛近右衛門と関西呪術協会の術士の魂は、この世界の輪廻の輪から弾き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 近衛近右衛門と関西呪術協会の術士が壮絶な戦いをしていた同じ時、同じ場所……麻帆良とは違う、所謂平行世界と言われる日本国の埼玉県の某所。

 当然魔法の世界など無く、麻帆良学園など存在しない……此方の世界では奥深い山々に囲まれた山村地帯だ。

 山村故に娯楽も無く、娯楽を求めて街に出るにも金が無い。

 ならばと、祖父母が生活の足しに山に登り山菜やキノコを取ってくるのを真似て山に入った。

 親に渡せば、幾らかのお小遣いが貰えるから……自然溢れる田舎に暮らす、典型的な高校生。

 何度も祖父母達と山に登り収穫をしている為に、この山々は庭みたいな物だ。何も危険は無いと思っていたが……

 

「なっ何でこの時期にイノシシが麓近くまでー?絶賛うり坊育成中だから、気が立ってるー」

 

 育児期間の野生動物は凶暴だ。我が子を守る為に、外敵に果敢に攻撃する。しかし危険な場所にも近寄らない筈だ。だから彼は、全く運が悪かった。

 

 偶然、うり坊の一匹が母イノシシからはぐれてしまい探しに麓まで降りてきたのだ。

 偶然、母イノシシがうり坊を見つけた時に目の前に出てしまった。

 偶然、うり坊も驚いて鳴いてしまった。

 

 不幸な偶然が重なってしまった……殺気立った母イノシシにとって、彼は敵でしかなく……結果、突進して突き飛ばした!

 

 崖の外へ……

 

 たまたまの偶然の一致か?同じ時、同じ場所で!

 片方は呪いにより、その世界から魂を弾き飛ばされ、片方は不慮の死で魂が体を離れてしまった。

 彼は死を回避したいと強く願い、それは違う世界で叶えられた……15歳の魂を齢70歳以上の老人の体に定着させる事によって。

 

 

 

 

 

 グキュルルルル……気を失っていてもお腹は空くのか。

 

「腹減ったな……」

 

 周りを見渡すと、先ずは壁に掛かっている時計を見た。

 

 11時45分。

 

 窓から差し込む日差しは暖かい。つまりはお昼前だ。他に情報が無いか見渡す。

 前は気がつかなかったが、手首にタグが付いている。血液型や名前、それに何時入院したのかが……

 

「近衛近右衛門……このえ、ちかうえもん?このえちか、うえもん?偉く古風な名前だな……って違うよ、僕の名前じゃない。

2002年1月?僕の記憶が正しければ、今年だ。こんなに年を取る程、時間は経ってない。

僕は……僕の体は……どうなっているんだよ?」

 

 グキュルルルル……

 

「悩んでもお腹は空くのか。でも僕は、老人だ。まるで別人の体に入ったみたいだ……」

 

 突然、扉が開いて看護士さんが入って来た。

 

「あら?近衛さん、意識が戻ったんですね。今、先生を呼びますから……」

 

 慌てて走っていく看護士さん。

 

「今……僕を見て近衛さんって言った。つまり僕は近衛と言う老人になっているんだ」

 

 もしかして夢か?夢で有って欲しい。考え込んでいたら、先程の看護士と白衣を着た壮年の男性が入ってきた。

 

「近衛さん。気分はどうですか?」

 

 ベッドの脇の椅子に座り、カルテを見ながら質問をしてくる。

 

「……急に年を取った感じです。それとお腹が空きました」

 

 何やらカルテに書き込みながら質問をしてくる。

 

「年を?それは感覚的な事ですか?それとも肉体的な事?」

 

「はぁ……肉体的にです……先生、僕は……」

 

「近衛さん。

貴方は急に職場で倒れられて、ここに運び込まれました。今日で2日目です。

しかし、検査では体に異常は無い。そのお年で、全くの健康体です。

しかし体に変調をきたしていると感じるなら、一度精密検査をおこないましょう。

点滴で栄養は補給していましたが、胃には何もいれてませんからね。

おい、近衛さんに食事を……回復食を出すように連絡を。

では近衛さん、また後で」

 

 一礼して介護士を伴い、部屋を出て行った。

 

「やはり僕は、近衛と言うジジイなんだ……しかし僕には僕だった頃の記憶が有るんだ。

記憶……何だ……別の記憶も有るぞ。

はぁ?

魔法使い、関東魔法協会の会長……西の者に倒された……僕は狂ってるのか?

魔法なんて漫画かアニメの世界だ。僕は……」

 

 結構長く物思いに耽っていたみたいだ。看護士さんが食事を持ってきてくれたのを気がつかなかった……

 

「近衛さん、お食事ですよ。2日間絶食でしたからね。回復食です」

 

 そう言いながら、先程の看護士さんがトレイを持ってきてくれた。ベッドの上で座り込み、補助机を出してトレイを受け取る。

 

「ゆっくり食べて下さいね」

 

 看護士さんは忙しいそうに出て行った。目の前のトレイを見る。メニューの紙が置いてある。

 

「五分粥・寄せ豆腐・野菜ジュース・高カロリーゼリーそれに漬け物か……」

 

 これじゃ断食道場の回復食と変わらないな。文句は有るが、絶食の後に普通の食事を食べたら胃がビックリするからな。

 

 一口、粥を啜る……悔しいが、美味い。

 

 夢中で他の物にも箸を伸ばす。ほんの五分位で完食してしまった……トレイを脇に押しやり、ベッドに横になる。

 突き出た後頭部の為に、枕を首の後ろに来る様に置く。これで少しは楽だ……

 

 さっきの記憶をもう一度思い出してみる。

 

 魔法……関西呪術的協会……この体の老人に向ける憎悪……全く他人の体に憑依(仮定だが)したので、脳が記憶している事は思い出せる。

 逆に本来の僕の記憶が有るのが不思議なんだけど……先のキーワードの記憶を探って行くと……

 

「このジジイ……悪いジジイだ……この悪行を全て僕が引き受けないといけないの?」

 

 権力は有りそうだ。財産も沢山有る。

 

 しかし……

 

 若さと魅力が全くねぇ!

 

 まだ15歳なのに……これから彼女を作って、あはは・うふふ!って、したい盛りなのに!

 こんな外見でジジイの彼女に、若く可愛い娘がなってくれる訳が無い。

 せいぜいが茶飲み友達のオバアチャン?しかも肉体的に、男としての機能が衰退しているし……

 

「枯れ果ててるじゃねーかー!僕の青春を返えせー!」

 

 やりたい盛りの高校生が、金と権力は持っているが男としては終わっている体に放り込まれたのだ……

 彼は悲しみの余り、枕を涙でビショビショにした。

 

 

 

「近衛さん。回診ですよ……あら?どうしたんですか、泣いてます?」

 

 僕の担当なのか、同じ看護士さんが来てくれた。脈拍と体温を手際良く計っていく。

 

「明日の朝には退院出来ますよ。ご家族の方にも、意識が戻られた事は連絡してありますから」

 

 そう言って病室から出て行った。ご家族?

 記憶を探ると、大和撫子然として美少女が思い浮かぶ……孫娘か。

 自分の娘を先の大戦で英雄と言われた男にあてがって生まれた娘……自分の娘を戦争の英雄と言う、大量殺戮者に与えて彼を取り込んだ。

 しかも、強引に関西呪術協会の長に据える……孫娘は、膨大な魔力を保有するも知らされていない。

 記憶によれば、大戦の中心的な人物の息子にあてがう考えだ……

 

「こいつ……身内も全て権力の駒かよ」

 

 関東魔法協会とは、悪の秘密結社なんだな。これから先の事を考えて、絶望した……ふて寝しよう。

 

 

 

 

 

「お爺ちゃん、起きてや!お爺ちゃんったら」

 

 ユサユサと体が揺すられる感じで目が覚めた。

 

「お爺ちゃん!木乃香やで、お爺ちゃんったら起きてや」

 

 目の前に、記憶の中に有る美少女が居た。

 

「お爺ちゃん、良かった。うち心配したんや」

 

 そう言って美少女に抱きつかれてしまい固まってしまう。人生初のハグは、大和撫子からだった!

 

 うほっ!

 

 髪の毛から良い匂いがするし、涙目で見上げてくる美少女……思わず抱きしめてしまう。

 

「……お爺ちゃん?」

 

 しまった!彼女は孫娘だった。

 

「あっああ……こっ木乃香……お爺ちゃんは、もう大丈夫だ。明日には退院出来るそうだ……いや、そうじゃ」

 

 くっ口調が難しい。発音も怪しい感じだし……誤魔化す様に頭を撫でる。

 

 ナデナデ……さらさらした艶のある髪の毛だ。

 

 ナデナデ……この娘を英雄の息子にあてがうのか。

 

 ナデナデ……なんて勿体無い。

 

 ナデナデ……

 

「お爺ちゃん、禿げちゃうよ。そんなに撫でたら」

 

「ああ……すまんのぅ。木乃香の髪の毛がサラサラで気持ち良くてな」

 

 ヤバいヤバい。極上美少女を相手に理性と自制が怪しかった。

 

「そうなん?じゃあお爺ちゃん、うち帰るね。元気そうで良かった。それと、何か優しくなった気がするよ」

 

 そう言ってスカートを翻しながら部屋を出て行った。優しくなった?

 記憶では、大体こんな対応だった筈だけど……何か違和感が有るのかな?

 しかし、中々お目にかかれない美少女だったね。記憶ではもう一人、元気印の美少女が居るな。

 

 記憶を封印した、魔法世界のお姫様……か。

 

 ニヤニヤとしていた僕を看護士さんが不審者を見る目で観察していた。

 

「近衛さん……可愛いお孫さんですね」

 

 この看護士さん。気配が分からないんですけど?普通、部屋に入る時って声を掛けないかな?

 

「木乃香ですじゃ……可愛いじゃろ?自慢の孫娘じゃよ」

 

 慣れない老人言葉で応える。

 

「その孫娘を見る目は、チョット普通では有りませんでしたよ……余り寝過ぎると、夜寝れなくなりますよ。

ベッドの背もたれを起こしておきましょうね」

 

 そう言ってベッドを操作して背もたれを上げる。要は寝てばかりいてはいけないって事か……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 パソコンに向かい何やら仕事をしている担当医に話し掛ける。

 

「先生……特別室の近衛さん。少し老人性痴呆症の症状が有りませんか?情緒も不安定ですよ」

 

 先生は画面から目を離さない。

 

「近衛さんは特別だからね。それに体調は悪くない。早く退院させよう。

それにボケは入院を必要とする病気じゃない。それは別の……ケアマネージャーとかの領分だよ」

 

 体が正常なら、早く退院させろって事ね。確かに病院は老人ホームじゃないけれど……金持ちの年寄りだから、ボケたら大変よね。

 義理の息子さんは関西だと言うし……お孫さんとも別居らしいけど、彼女これから介護とか大変よ。

 

 そうだわ。必要な資料は渡してあげましょう。

 

 医療に携わる彼女は、近衛の異常性に気がついた。しかし、ボケが始まっているのだと考えてしまった。当然だろう。

 中の人が入れ替わっているなんて、普通は考えないから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夕食までの間、時間が有るからコレからの事を考えていた。この高齢の体は、多分もう10年も保たないかもしれない。

 しかもボケる心配や、足腰が弱って寝たきりになる可能性も有る。

 元の体に戻れるアテもないし、戻られたとしても崖から落ちて五体満足の筈も無い。つまりは、残された時間は少ないのだ。

 

 では、ナニをしたい?ナニが出来る?財産は有るから贅沢は出来るだろう。

 

 旅行は……無理だ!こんな頭で出歩くなんて他人の目が気になってしまう。

 

 ネットで通販をするか。物欲を満たす位しか思い浮かばないな。

 

 引き籠もってしまおう。かなり後ろ向きだが、変な頭を見られる恥ずかしさを考えれば引き籠もって好きな事をしよう。それしかないと思った。

 

 

「近衛さん。夕飯ですよ」

 

 昼と違い夕食は普通らしかった。

 

「ああ、楽しみは食べる事だけだよ」

 

 何時もの看護士さんが、変な顔をした。

 

「近衛さん。何か趣味は有りますか?体を動かす事は大切ですよ。まだまだ元気でないとお孫さんが悲しみますからね」

 

 慈愛の籠もった目で見られてる……

 

「はぁ……帰ったらネットでもしようかと」

 

 補助机を出してトレイを乗せてくれる。

 

「パソコンね。指先を動かしたり、考えたりする事は良いわね」

 

 そう言って出て行った。

 

「いただきます!」

 

 手を合わせて食材に感謝の意を表する。

 献立は……エビしんじょう・小松菜のピーナッツ和え・カジキマグロの照り焼きとお吸い物か。ご飯はアサリの炊き込み御飯だ。

 

 しかし……食っちゃ寝ばかりだと、この体だとボケないかな?

 

 明日は退院だし、少し体を動かしたりした方が良いかもしれない。

 夕飯をきっちり完食し、歯を磨いてから床に入る……目が覚めたら元の体に戻っている事を祈りながら。

 

 

 

「二日目の知ってる天井だ……」

 

 何故か言わねばならない、お約束な台詞を言ってみる。確かに昼寝のし過ぎだったのか、夜は寝付きは悪いし朝早く起きてしまった。

 病室は個室だから、周りに気を使わない所が良かった。

 起き上がって体を解す様に首を回し、腕を回し、腰を捻る……この体だが、老人の癖に鍛えられている。

 これなら杖が無くても歩き回れるか……備え付けの洗面台で顔を洗い、歯を磨く。全て自前の歯だ!入れ歯でなくて本当に良かった。

 

 朝食まで時間が有るので、病室を出て、当てもなく廊下を歩いてみる。

 昨日は気がつかなかったが、かなり立派な病院だ!この規模だと、前の世界では大都市に行かないとお目にかかれない様な……

 

「近衛さん!近衛さん、どうしたんですか?」

 

 当直だったのか、昨日の看護士さんが駆け寄ってくる。

 

「おはようございますじゃ!何となく早起きして暇だったので病院を探索しようと思いまして……」

 

 ふーっと深い溜め息をつかれた。

 

「良かった。徘徊かと思って肝を潰しましたよ。では朝食までには病室に戻って下さいね」

 

 にっこりと微笑みながら言われたが……

 

「看護士さん?徘徊って僕は未だボケていませんよ!」

 

 文句を言うも、彼女の背中は既に視界に無かった。適当にフラつきながら、病室に戻る。

 簡単に掛け布団を直し、背もたれを上げて補助机を出す。

 

 準備は万端だ!

 

 楽しみに待っていた朝食は……クロワッサン2個・ハムサラダ・卵スープにヨーグルト……バターは無いが、ジャムが付いていた。

 後はパック牛乳。此方に来てから、初めての洋食だ!

 

 しかし塩分控え目な為に、バターが無いのが寂しいな……モグモグと食べていると、偉い巨乳の美人さんが訪ねてきた。

 たしか、源しずな先生か?

 

「学園長、おはようございます。お目覚めになられたなら、何故連絡を下さらなかったのでしょうか?」

 

「……連絡?あっ、そう、そうじゃったのう。すまなんだ。ちと、忘れてしまっての。今日にも退院出来るんじゃよ」

 

 やべー、忘れていたと言うか……爺さん、この巨乳美人を私設秘書みたいに使っているみたいだった。

 

「病院の方の手続きは、此方でしておきます。今日は家に帰られて、明日は学院の方に顔を出して下さい」

 

 そう言えば治療費の支払いとか、普通現金だよね?その辺どうなんだろう?

 

「では失礼します」と、頭を下げて出て行く彼女を見ながら思う。

 

 明日は仕事に行かなければならないのか、と。

 朝食を終えてボーッとしていると、担当医が来て簡単な問診をして帰って良いと言われた……

 付き添いの看護士さんに、支払いは?と聞いたが、全て済んでいるそうだ……

 

 身嗜みを整えてロッカーから財布や携帯を取り出す。因みに着物だったが、ちゃんと着れた。

 財布の中身は20万円近く有り、見た事もないカード類が沢山有る。MasterCardにVISAにNICOS……流石は金持ち爺さんだ。

 

「さてと……では未だ見ぬ我が家に帰りますかn」

 

「がくえんちょー!ご無事でしたかぁー!」

 

 厳つい黒人が走り込んで来た。誰だっけ……ああ、魔法先生のガンドルフィーニさんか。この爺さんと最後に一緒だった人だ。

 確か怪我をしてたのに、元気そうだけど?てか怖いんですけど……

 

「あっああ、ガンドルフィーニ君。おはようございますじゃ」

 

「学園長、ご無事でなによりです」

 

 厳つい黒人に迫られて、僕ピーンチ?

 

「ガンドルフィーニ君も怪我は平気かの?」

 

 確か怪我を負って倒れていたはず……

 

「治癒魔法で何とか……あの後、エヴァ達が駆け付けて直ぐに我々を仲間の下へ運んでくれたのです。

治癒魔法で怪我を治しても、学園長の意識は回復しなかった。

治癒魔法は万能ではない……なので、表の大学病院に運び精密検査をして貰ったのです」

 

 なる程……目で見える外傷は治せても、脳とか内蔵とかに損傷が有れば分からない場合も有るのかな?

 

「儂はもう大丈夫じゃよ。今日は休むが、明日は仕事に出るつもりじゃ」

 

 心底安心した様な顔をしてるな……そうか!確か、この人を庇って戦ったんだっけ。

 

「そうですか!では家まで、お送りします。さぁさぁ」

 

 言われるままに連れ立って歩く……変な頭の和服老人と、厳つい黒人……

 

 あっ!世話になった看護士さんだ。

 

「お世話になりましたの。退院しますじゃ」

 

 何故かカルテを胸に抱いて後ずさる?

 

「ボッ、ボディガードですか?でっては近衛さん。しっかりと励んで下さいね(ボケ防止に……)」

 

 お辞儀をして前を通り過ぎる。

 

 

 

 ヒソヒソ……

 

「金持ち爺さんって聞いたけど、堅気じゃないんだな……」

 

「ヤクザ?いや黒人だしマフィア?」

 

「あんなに可愛いお孫さんが居るのに……」

 

 

 

「ガンドルフィーニ君……早く出ようかの」

 

「はっ!後で失礼な連中には、認識阻害と記憶の改ざんを……」

 

「駄目じゃ!お世話になった人達じゃぞ。単に我々の外見が宜しく無いだけじゃ。何もするでないぞ……」

 

 全く、何でも自分の都合の為に魔法使うなよ……

 

 ナニ?自分が厳ついから、マフィアと思われたのが気に入らないの?

 僕だって結構美人なお姉さんだな!って思っていた看護士さんを怯えさせちゃったのよ。

 

 迎えの車は黒塗りのベンツでした……あはははは……こんな車で迎えにきて、運転手は厳つい黒人か!

 どうみても、ヤクザの親分の退院風景だよね。周りの患者さんも遠巻きに見ているし……

 

 

「ママ見てぇ!昨日のテレビで見たよ。アレって大親分と手下でしょ?」

 

「ユマちゃん!ダメでしょ?指差しちゃ……早くコッチに来なさい」

 

 一般人の母娘に指差さされて、ヤクザの大親分認定されました……てか、認識阻害の魔法が常時展開しているって記憶に有るけど?

 それをしても、僕の頭は気になる程に異常なのか……やっぱり引き籠もって暮らそう。

 

 元高校一年生に、この環境は辛いです!

 

 

 

 黒塗りのベンツに乗り込み、厳つい黒人に運転させています。いや本当にヤクザの大親分な気分ですよね……

 

「学園長!先日の侵入してきた奴らですが。やはり関西の……」

 

 そう言えば、縄張りに他勢力が攻め込んできたんだよね。報復活動?仕返し最高?

 

「断定は出来ないが状況証拠では、そうじゃ。しかし罠の可能性も有るのぅ」

 

 この爺さんに、彼は関西呪術協会の一員だと言った。息子の恨みを晴らす為にと……でも、どう考えても爺さんが悪いと思う。

 だから彼らを……彼らの所属する関西呪術協会を責める気にはならないんだ。本来なら此方が頭を下げて補償なりを払う立場じゃないの?

 

「それは……関西呪術協会のせいにして、我々と仲違いをさせる勢力が居ると?」

 

「さて……だから慎重に動かねばならないんじゃ」

 

 そう言って目を閉じる。これ以上は誤魔化しが利かないから……それから10分程走ってから、デカい日本家屋の前に停車した。

 

 そう!これが爺さんの家だ。

 

「ガンドルフィーニ君、助かったよ。では明日……」

 

 まだ何か言いたそうな彼と別れる。玄関にはお出迎えのお手伝いさんが控えている。

 

 流石は金持ちだ!

 

 お手伝いさんなんてドラマの中でしか知らないよ。取り敢えず私室に入り、飲み物を頼んだ。

 炭酸飲料が大好きなんだけど、爺さんは日本茶が好きだった……つまりお茶が来ましたよ。羊羹を添えて。

 

 夕飯は病院食がサッパリしていたので、脂っこい物が食べたいと伝えた。

 これで記憶に有るメニューから考えて、多分中華料理になるだろう。何故、自宅に執務机?

 

 それに座り日本茶を啜り一息つく。そして羊羹をパクり!

 

 んまい!

 

 何と言うか、初めて食べる味わいだ。きっと銀座か何かの老舗の和菓子なんだろう。

 羊羹を食べ終わり、お茶をおかわりして落ち着いた。これからの事を考える……

 

 明日は魔法先生を集めて、今後の話になるだろう。

 この爺さんに憑依した僕が言えた義理ではないが、出来れば関西呪術協会とは穏便に関係回復をした方が良いと思うんだけど……

 それと戦争の英雄ナギ・スプリングフィールドの息子の扱いだ!

 

 正直、妬ましい羨ましい子供だ。

 

 10歳で女子中の先生って、何てエロゲ設定だよ!既にハーレム要員を集めて有り、それをあてがう予定だし。

 麻帆良の魔法先生達は彼の為に、この世界の人間をどうしても良いと思っている……

 

 英雄の息子の為だ!立派なマギステル・マギにしなければ!

 

 正直、余所の世界の英雄を何故育てなければならないのか?彼は狙われている、危険だから守らなければ!

 では迷惑を被る、この世界の人達に補償は?まぁ僕もこの世界の人間じゃないから、言えた義理は無いんだけどね。

 

 でも木乃香は渡さない!

 

 彼女は僕の癒やしなんだ。この爺さんは、孫娘の部屋にネギ・スプリングフィールドを住まわせるつもりだった。

 つまりは保護者公認の同棲生活だ……

 

 ふざけんな!

 

 僕が15歳にして、不能な童貞として余命10年有るか無いかなのに……完全に逆恨みの八つ当たりと自覚は有るんだ。

 しかし、僕は君をエロゲの主人公でなくて熱血漢漫画の主人公として育てる!

 英雄なら、その方がよっぽど「らしい」じゃないか。熱血バトルヒーローに、魁た男の塾にヒロインは要らない。

 あてがわれた女性でなく自分で探せばいい。魔法使いの娘さんをね。

 

 教育方針は決まった!

 

 だけど彼に酷い事をすれば周りが五月蝿い……だから真っ当な理由を付けて、ネギ君には漢の園で暮らして貰う。

 そして、先にも述べた様に硬派な男子に鍛える予定だ!

 

 真っ当な理由か……何だかんだで、記憶の中の魔法先生は彼に甘い。

 

 ガンドルフィーニ先生。

 石頭で柔軟性が無い。しかしナイフと銃を扱うらしいから武闘派だ。

 

 タカミチ君。

 魔法が使えないが、爺さんが戦闘面で一番信頼している男。そしてマギステル・マギになれない代わりに、英雄に憧れている男。

 護衛として麻帆良に貼り付けておきたいのに、何故か海外を飛び回っている……爺さん的には、コイツが一番ネギ君に執着心が有るとみていた。

 

 つまり危険人物か……

 

 彼のハーレムを潰したら反対するかな?それとも武術の教育担当にすれば喜ぶか?

 

 神多羅木君。

 ヒゲのグラサン。しかし風の攻撃魔法の使い手だ。ネギ君も同じ属性の魔法らしいから、魔法を教えるなら彼だな。

 それと防御・サポート系の魔法なら瀬流彦君か……この2人が魔法面を鍛えれば良い。

 

 武力面2人、魔法面2人の構成なら良いだろう。彼らとて英雄を自ら育てられるなら光栄だろうし。残りの魔法関係者は……

 

 刀子さんとシャクティーさんか。

 2人共美女だから却下だ!それに既に指事している魔法生徒もいるし……ん?ガンドルフィーニ君にも魔法生徒が居たな。しかも美少女が2人もだ!

 

 不味いぞ……

 

 んーそうだ!ネギ君の事は、ナギに息子が居る事はトップシークレットの筈だ。

 何故か皆さん知ってるけど……だから彼に、魔法関係者として接するのは指導する4人だけにしよう。

 情報はどこから漏れるか分からないから、彼を守る為にも厳守だ!

 そうすると、残りは明石教授と弐集院君か……大学教授に電子妖精使いだから、関係は薄いよね。

 

 ヨシ!「ネギ・スプリングフィールド君教育計画」は全く女っ気無しの硬派で逝く!

 

 それと忘れちゃならない、本来の目的。日本で教師として働く事だけど……麻帆良男子中学の臨時教師にしよう!

 正直な所、僕の学校の先生達を思い出すと良い先生と悪い先生が居た。

 良い先生は、授業が分かり易かったり僕は怖かったけど不良達をちゃんと叱っていた先生。生徒の為に行動していた。

 悪い先生は、事なかれ主義で生徒に余り関わりを持ちたがらない先生。授業も退屈でテストの点が悪いと嫌みを言われた。

 たかが10歳児に、思春期の僕達を教えられるのかな?高校進学を控えた三年生なんて無理だよ。

 

 だから一年生にしよう。

 

 これなら生徒は去年迄は小学生だったし、最悪教師として失格でも他の先生方が引き継いで頑張れば、生徒達の教育指導は挽回出来るだろう。

 皆さんに迷惑も掛からないから良いよね!

 

 さて、問題は片付いたから念願のネット通販を……机の上に有るノートパソコンの電源を入れる。

 記憶では、魔法世界の品物を取り寄せるサイトが有るらしい。パソコンが立ち上がったので、インターネットに繋げる。

 

 ブックマークを調べると……これだ、まほネット!ふーん。購入履歴には、魔法薬や札に……良く分からないな。

 さて、今週のオススメは……

 

「赤いあめ玉・青いあめ玉・年齢詐称薬」だってぇ?

 

 一粒二千円か……これを飲めば若返る事が出来るのか?忙しくマウスを操作し、買い物カゴに入れる。数量は大人買いの5瓶だ!

 これで、これで爺さん生活にもピリオドを打つ事が出来るんだ!

 

 ヒャッホー!やったぜ、早く届かないかなぁ……

 

 ワクワクしてたら結構な時間が掛かったのだろう。お手伝いさんから昼食の準備が出来たと連絡が有った。

 この体になってから、楽しみは食べる事だけだ。食堂に行く途中からも、良い匂いが漂っている……何だろう?

 

 暖簾を潜り席に座る。日本家屋の和室だが、畳の上に絨毯を敷いてテーブル席になっている。老人に優しい配慮が嬉しい!

 テーブルにつくと、直ぐに白米をよそった茶碗が出される。

 

 並べられた料理を見れば……鳥の唐揚げ甘酢かんかけ・卵と木耳の炒め物・海鮮と野菜の炒め物にフカヒレスープだ!本格的な中華料理だ。

 前はバーミヤン位でしか食べれなかったのに……

 

 鳥の唐揚げを一口食べる。ジュワっとした肉汁が口の中に広がる。しかも甘酢あんかけが掛かっているのに、皮はパリパリだ。

 ご飯をかっこんで咀嚼する……スープを一口!これも高級そうで美味しかった。

 海鮮と野菜の炒め物には、もしかしてアワビ?が、大ぶりの切り身で入っていた。

 

 初めて食べたよアワビ……感動で涙が出そうだ。

 

 全ての料理を完食し、ご馳走と言って私室に戻る。幸せな満腹感に浸る……満足じゃ。

 うつらうつらしていると、突然携帯が鳴りだした。

 

 画面に表示された文字をみれば「タカミチT高畑」となっている。仕方ない出るか……

 

「もしもし……高畑君か?」

 

「学園長、ご無事でしたか!良かった」

 

「ああ、心配かけたのぅ。そちらはどうじゃ?」

 

「僕の方の仕事は完了しました。これから戻りますので、明日の朝には麻帆良に着きます」

 

「そうか……では、明日高畑君が戻ったら今後の件を皆で相談しようかの」

 

「では明日……」

 

 ふぅ……明日は正念場だな。もう少し下調べをしておくか。爺さんの記憶は確かに共有している。

 しかし、頭の中に百科事典が有るのと同じように項目を思い浮かべると関連の記憶が浮かんでくる。

 だから何を思い出したいかを調べておかないとダメなんだ。

 

 これは面倒臭い。

 

 爺さんが何を企んでいたか分からないんだ。例えばネギ君の教育方針とか具体的な事を考えると、関連事項が出てくる。

 今僕が知らない事は調べられないんだ。鍵の場所とかパスワードは分かる。

 しかし会った事の無い人は、その名前を知るとか実際に会った時に思い出せる。

 連想ゲームみたいに次々と思い浮かべる事は出来るから……致命的では無いけど、端から見たらボケて物忘れが酷い老人と思われそうだ。

 

 んでネギ君だけど……メルディアナ魔法学校から報告書が来ている。

 

 過去10年で最高の成績。2学年をスキップして主席卒業。性格は勤勉で努力家。

 温和で……今は日本に来る為に、日本語を勉強中。ほぼ取得済みらしい。

 

 ナニコレ?他国語を僅か3週間で取得?

 

 努力家って範疇じゃないよね……本物の天才少年かよ。でも過去に住んでいた村が悪魔達に襲われている。

 しかも家族や知り合いを石化され、自身も殺されそうな危機をナギに……父親に助けられ、その杖を譲り受けた。

 その影響か攻撃魔法に多大な関心が有り、禁書を密かに読んでいる。既に悪魔をも倒せる魔法を取得済み、か。

 

 つまり才能溢れる天才なのに、石化した家族を直す魔法を探さずに敵討ちの手段を禁を犯してまで学ぶ。

 

 周りはそれを黙認しているのか……それとも彼には、治癒魔法の素質が無かったのかな?

 でも調合で作る魔法薬には属性は余り関係ない筈だけど……もしかして、とんでもない負けず嫌い?

 敵討ちは自分の手で?いや報告書には、模範的なイギリス紳士だと書いてあるんだよな。

 

 一体どんな子供なんだろう?

 

 僕より年下なのに、とんでもなく頭が良くて魔法の才能に溢れていて性格も良くてイギリス紳士で……完璧人間だよね。

 こんな奴が実在する事に驚いている。

 

 ネギ君と比べると僕なんて……うん、かなり凹んだ。

 これが選ばれし英雄って奴なんだね。でも、この麻帆良ではハーレムは作らないで下さい。出来うる限りの人員で教育しますから!

 

 でも直ぐに課題クリアしそうだなぁ……そうしたら一人前の魔法使いとして、イギリスに凱旋させるから良いか。

 元々メルディアナ魔法学校の校長からも表向きは、日本で教師をする事って頼まれたんだし。

 関東魔法協会に所属してないし、所属させて貰えないだろう。こんな有望株を手放す筈なんてないし……

 

 でも何で日本に寄越したんだろう?

 

 普通、手元に置いて大切に育てるんじゃないかな。大人の事情とか、複雑な何かが有るんだろう。厄介事を引き受けた気がします。

 さてネギ君の事は、考えると自分が悲しくなるから良いや……

 折角インターネットが使えるんだから、ネットサーフィンをやりたかったんだよね。

 何せ前は田舎に住んでたから、パソコンなんて家に無かったし。携帯だって厳しく使用料を決められてたから……最近人気急上昇はっと。

 

 おっ!

 

「ネットアイドルちうたん」

 

 可愛いなぁ……大都市だと、こんな娘がコスプレを公開してるんだ。次々と彼女のコスプレ画像を表示する。

 彼女のコスプレの数々は、僕の隠された性癖を浮かび上がらせたみたいだ。僕はメガネ属性に、獣耳・メイド属性も有ったのか?

 心はこんなに震えているのに、体は全く反応しないなんて……男として、悲しい現実を突きつけられた感じだ。

 その日の午後はネット三昧で、夕食は会席料理を堪能した……金持ちって素晴らしい!

 

 フカフカの羽毛布団にくるまれて、深い眠りにつく。明日も頑張らなくちゃ……

 

 

 

 夢を見ている……

 

 多分夢だと理解しているけど、状況は記憶に有る僕がこの体に憑依する前の爺さんの最後の記憶だ。記憶では知っていた。

 関西呪術協会の刺客が、麻帆良に攻めてきた。それは前大戦の時の報復の為に……今、爺さんは傷付き相手の術士と対峙している。

 

 相手は壮年の男。瞳に狂気を宿している。

 

 

「ふふふ。

余裕な顔も何時まで続くかな?貴様が責任を負わず、認めずのらりくらりと逃げている為に……我らの憤りが、我らの気持ちが!

分かるか貴様に?我が息子と嫁の、物言わぬ骸と対面させられた親の気持ちが!我が子を先に喪う親の気持ちが!

だから、貴様には特別な呪いを掛けてやろう。我らが同志は、全てこの襲撃の為に命を捧げた。

この悪魔共は同志達の魂を糧に召喚した者達よ。我は貴様と共に朽ち果てよう……輪廻の輪から弾き出してやるわ!」

 

 そう言うと、魔物が男の胸を貫いた。

 

 初めて見た残酷シーン……

 

 夢で有りながら、記憶とは違う迫力というか臨場感が有る。

 

 

「ぐっ!

ふふふ……きっ貴様の血と俺の心臓を触媒に呪いをかける……呪いは返せぬぞ。

その為に俺も同じ呪いを受ける。人を呪わば穴二つ……だが、共に同じ呪いなら返し合っても同じ事。

貴様を道ずれに出来れば、俺の魂が消滅しても構わない。共に輪廻の輪から弾かれろ!」

 

 明確な殺意を爺さん(僕)に向けている血だらけの男……怖い、心の底から恐怖を感じている。

 記憶では知っていた……しかし怖い本を読むような感覚だった。

 

 今度は夢で見た。

 

 夢と理解していながら、こんなにも恐ろしく感じている。多分、その場にいたら恐怖で動けず座り込み失禁してしまうだろう。

 それ程、胸を鷲掴みにされる恐怖……

 

「儂は間違った事はしておらん!ネギ君すまない……君を立派なマギステル・マギに……」

 

 そして爺さんは、関西の人達を巻き込んだ事を悪いとは思っていない。心の底から……

 しかもネギ君の為に用意した麻帆良という箱庭を彼の為だけに、マギステル・マギを作り上げる為に何をしても良いと思っている。

 英雄の為なら、皆が全てを投げ出すのは当たり前だと……理由を知らされていない相手でも同様。

 普通の生活を送っている彼女達をこんな狂気の世界へ巻き込むつもりだ……ネギ君の、ナギの息子の為だけに。

 

 僕だって嫌だ。

 

 夢でさえ、こんなにも怖いのに……全く知らない世界の英雄の為に、知らない内に巻き込まれる事に……

 

 何で僕達が……

 

 

 

「はっ……夢か……夢だよな?ふぅ……夢を見ただけなのに、こんなにも手が震えているなんて……」

 

 置き時計を見れば、午前三時を差している。もう一眠り出来るだろう。深呼吸を何度かして、バクバクいってる心臓を落ち着かせる……

 

 剣と魔法の世界!

 

 初めは小説の主人公になれたみたいにワクワクしていたのも事実だ。なりは爺さんだが、金持ちであり権力者だ。

 今までみたいな退屈な暮らしから一転、刺激的な毎日を送れると……でも実際は、権力争いのど真ん中!

 何時殺されても不思議じゃない立場だった。しかも周りを平然と巻き込む、悪の集団のボスだ……

 

「戻りたい……元の世界に。会いたい、両親に友達に……何でミュータントみたいな爺さんになったんだよ。

何で人殺しばっかりの世界なんだよ……何で僕が、こんな目に会うんだよ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ピピピピピっと電子音が聞こえる。

 

 目覚まし時計のベルで目が覚める。どうやら泣きながら寝てしまったみたいだ……枕とシーツが涙と涎で、偉い事になってしまっている。

 目元も真っ赤になってるんだろうな……泣き腫らした爺さんなんて、洒落にもならないや。

 

 ゴシゴシと目を擦る。

 

 今日は、魔法先生達と会議が有る。今後の僕の生活に関わる大切な話し合いだ。

 兎に角、厄介者のネギ君は真っ当な試練を経て速やかにイギリスに送り返す。麻帆良の生徒達は巻き込まない。

 

 関西呪術協会とは……

 

 関係回復が急務だ。放っておけば、また刺客を送られそうだ。

 今度来たら、僕では勝ち目なんかないから速攻死亡だろうね……お手伝いさんの用意した朝食をモグモグ食べながら考える。

 

 因みに献立は、えぼ鯛の干物に温泉卵、板わさにエビ団子野菜あんかけだ。それと味付海苔か……

 心の癒やしが、孫娘の木乃香ちゃんと食べ物だけって嫌だな。

 

 枯れた人生だ……

 

 そうこうしている内に、お抱え運転手の車に乗せられ麻帆良学園女子中等部に向かっている。

 車窓から見る景色……目に見える街並みが、本当に日本かよ?って程に……

 テレビの旅番組で見たイタリアのフィレンツェの街並みとそっくりだ。

 車の脇を、女生徒達が走ったり自転車やスケボーを利用したりと色々な方法で通学している。もう女子校エリアなのだろう。

 そして一際大きい煉瓦調の造りの、本校女子中等学校が見えた……在校生二千人を超えるマンモス中学だ!

 

 一学年24クラスで七百人以上居るからね。まさに女の園だ!

 

 ブレザーにチェック柄のミニスカートから健康的な足が晒されて……黒のハイソックスが良い味を出している。

 この爺さんも良い趣味してるよな。この女子校エリアだけでも、一万人近い女の子達が溢れているんだよね。

 そんな女子中等部の中に、学園長室は有る。甘ったるい女子の香りが満載している廊下を歩きながら学園長室へ。

 途中で会う生徒達が行儀良く朝の挨拶をしてくれる。こんな妖怪みたいな格好の爺さんにも、良い笑顔を向けてくれるんだ。

 前はクラスの女子とも挨拶すら出来なかった僕には、新鮮な感動だ。彼女達に萌えても、精神年齢は近いのだからロリコンじゃない!

 学園長室に入り、執務デスクに座って一息つく。

 

 そして思い出した!

 

 この麻帆良学園都市全体にかけている認識阻害の魔法……これってもしかして、爺さんの異様な頭を学園都市の人達が気にしない様にしているんじゃないか?

 なっ何て自己中心的な爺さんなんだー!

 

 

 

 放課後の学園長室……

 

 主要な魔法関係者が集まって居る。

 タカミチ君・ガンドルフィーニ君・伊集院君・神多羅木君・瀬流彦君・明石教授・シスターシャクティ……そして刀子君だ。

 魔法生徒と先生方から嫌われているエヴァは呼んでいない。彼らは一様に緊張した表情だ。

 僕が、学園が襲撃された後の初めての集まりだからだ。

 

「学園長!先ずは先日の襲撃の報告をして下さい」

 

 タカミチ君……君を僕は一番警戒しているんだ。英雄の、力の信奉者として……

 

「先日、真っ昼間から術士に召喚された悪魔・魔族が麻帆良の結界に侵入してきた。

彼らは西の関係者の線が濃い……しかし東と西の仲違いを目論む連中の線も捨てがたいのじゃ。

何故なら大規模な襲撃には、それに見合うバックアップが居る筈じゃ。

今回の件は、事前に儂らが手薄になる時期が知られていたし、侵入経路も謎が多い。よって調査結果が出る迄は自重するのじゃ!」

 

「あまい!学園長、貴方も意識不明の重体まで追い込んだ相手ですよ。然るべき措置が必要です!」

 

 机を叩いて威嚇する、ガンドルフィーニ君……正直、この黒人は怖い。

 

「そうじゃな……今回の大規模襲撃の首謀者達は、己の魂を糧に悪魔達を召喚した。

かなりの数が居たはずじゃ。つまり、敵対する多数の者達が命を落とした。暫くは手を出す余裕はあるまい……」

 

「だから、様子見の間に証拠集めですか?」

 

 刀子君は、神鳴流の剣士……関西との繋がりが深い。だから、即敵対は反対の筈……

 

「今回の襲撃者達は、先の大戦で身内を亡くした者の集まりだった……それが組織的に動いた。

つまり手引きをした奴らは生き残っている。迂闊には手を出せんのじゃ。

先ずは結界の強化と見回りを充実させる。

一度婿殿とは、正式な場で話さねばなるまいて……ネギ君が、英雄ナギの息子を麻帆良に迎えるのじゃ。

不確定要素は出来るだけ無くしたいのぅ……」

 

 ネギ君の名前を出すと、ざわつき出した。やはり英雄の息子は大切なのか……

 

「学園長、ネギ君は来月にも麻帆良学園に来ますよね?我々の対応は?」

 

 既に襲撃事件はそっちのけでネギ君の話をしたがるとは……

 

「2月に入りネギ君は、ここ麻帆良学園に先生として赴任してくる。僅か10歳にしてメルディアナ魔法学校を主席卒業した天才児じゃよ」

 

 流石はナギの……マギステル・マギは彼にしか……呟く様に、彼を持ち上げる台詞が零れていく。

 

「学園長。それで、ネギ君をどの様に扱うのですか?」

 

 キラキラと腐り輝く目を向けるなタカミチ君……決まってるだろ!漢の園に放り込んで、硬派に鍛え直すんだよ!

 

「ネギ君は、本来なら魔法学校で魔法の矢と武装解除しか習わない筈だが……

独学で他の魔法も習得済みじゃ。しかも禁書を読み解き、悪魔をも滅ぼせる呪文も身に付けておる……」

 

 違法な行為を公表したのにも関わらず、彼に期待を向けているな。

 

「凄いじゃないですか!英雄ナギも魔法学校をスキップして卒業したと言いますし、やはりカエルの子はカエルなのかな」

 

「我々も、うかうかしていられません!彼を立派な魔法使いに……」

 

 良い年した大人が10歳児の才能を誉め千切ってるよ。コイツら大丈夫かよ。

 

「魔法の才能は、父親を超えるやもしれん。しかし、メルディアナ魔法学校の先生方は彼の教育には失敗したと儂は思ってるのじゃ」

 

 この発言に、キツい目を向ける。

 

「何をおっしゃるのですか、学園長?ネギ君の才能は素晴らしいではないですか!」

 

「そうですよ。メルディアナ魔法学校の先生方の教えのお陰じゃないですか!」

 

 魔法第一主義……怖いぞ、この人達って。

 

「タカミチ君……ナギは、今の話のネギ君と同じだったかのぅ?彼はもっと自由奔放で有り我が儘だった筈じゃ」

 

 お前さんの信奉する英雄ナギは、実はバカで短気でガキっぽくて……そして人を惹き付けるカリスマが有った。

 優等生のネギ君とは真逆の性格だった筈だ。

 

「確かに、一緒に旅をしたナギさんは自由奔放で唯我独尊でしたね」

 

 昔を思い出しているのか、少年の様な目で天井を見詰めている。彼にとってネギ君とは、ナギの代わりか……

 

「そうじゃ!

選ばれし英雄の素質が有るネギ君じゃが……少々優等生過ぎるし、小細工が多いのじゃ。

ナギならば、禁書が読みたければ堂々と言うだろう。

しかしネギ君は、幼なじみを巻き込み見張りをさせ夜な夜な家を抜け出して禁書を読み耽ったそうじゃ。

コソコソと隠れてな……それを気付いているのに、知らん振りをしていたのがメルディアナ魔法学校の先生方じゃ」

 

 一旦、此処で言葉を切って周りを見渡す。なる程的な目、何を言ってるんだ的な目。

 視線が会うと威嚇する様に見返す目……正直そろそろ精神力が切れそうです。

 

 熱血漫画の内容をパクリながら話しているけど、この人達は魔法関係者として実際に荒事を行う人達……

 もし僕が爺さんに憑依してるのがバレたら?想像したくない未来しか無いだろう……

 

「魔法を覚えたいなら、儂らが教えれば良いのじゃ!

しかし今のネギ君は頭デッカチで、魔法の知識のみ追い求めている。本来は肉体も鍛えなければ一流にはなれん。

なので、ガンドルフィーニ君とタカミチ君でネギ君を肉体的に鍛えて欲しい。

神多羅木君は風の魔法を……瀬流彦君は防御と補助の魔法をそれぞれ教えて欲しいのじゃ。

健全な肉体にバランスの取れた魔法のバリエーション……これがネギ君育成計画の基本方針じゃ」

 

 ネギ君の教育担当を言い渡された連中の顔は……何故かニヤリとしたり、決意の籠もった目だったりと一様だが、喜んでいるのは確かだ。

 これで今日の話は打ち切ろう。

 

「では第一回ネギ君育成計画会議は終了じゃ。選ばれた4人以外の魔法先生達も彼らに協力して欲しい。

ネギ君は魔法世界の宝じゃし、長年教育者として過ごしてきた儂の……最後の生徒になるじゃろう。

どうか、この爺さんの為にもネギ君の教育に協力してくれ。この通りじゃ」

 

 そう言って頭を下げる。

 

「学園長……其処まで考えて、我々に指導を頼むのですね」

 

「勿論、魔法世界の至宝ネギ君を立派なマギステル・マギに育てましょう」

 

「早速育成計画を考えなければ……」

 

 皆さん、納得してくれたみたいだ。足早に学園長室を出て行く。

 

「胃が……胃が痛い、いや本当にキリキリ痛いんだけど。

そして僕に向けるプレッシャーが厳しいんだけど。誰か僕を労って下さい」

 

 僕の胃が無事な内にネギ君をイギリスに送り返せるか心配です……

 

 

 

 

「第2回ネギ君育成計画会議」

 

 メンバーは昨日と同じ方々です。具体的に言うと、キラキラと腐り輝く目をしているタカミチ君。

 厳つい黒人さんだが、ノートにビッチリ訓練内容を書き連ねている真面目で頑固なガンドルフィーニ君。

 良く分からないヒゲグラだかグラヒゲの神多羅木君。ちょっとイケメンで優しそうだけど、好きにはなれそうに無い瀬流彦君。

 その他の明石教授・シスターシャクティ・伊集院、そして刀子君だ。

 

 てか、昨日の今日で第2回会議って……どんだけネギ君に期待しているんだよ!少しは僕も労って下さい。

 

「学園長!

早速ですが、ネギ君の訓練メニューです。タカミチ君とも打ち合わせしました」

 

 分厚い資料を僕の前に置く。周りの先生方にも配ってるね……

 

 

「ネギ君特訓メニュー」

 

 

 表紙を捲る。

 

 早朝トレーニング(平日)

 6時〜7時 マラソン10キロ

 7時〜8時 腕立て伏せ・腹筋・スクワット各50回×3セット

 

 夜間トレーニング

 20時〜21時 マラソン10キロ

 21時〜22時 模擬戦 特殊トレーニング

 

 休日トレーニングメニュー(特別版)

 5時〜6時 マラソン10キロ

 6時〜7時 柔軟体操

 7時〜9時 模擬戦

 9時〜10時 休憩

 10時〜12時 魔法(座学)

 12時〜13時 休憩

 13時〜18時 魔法(実技)

 18時〜20時 休憩

 20時〜21時 魔法(応用)

 

 資料をパタンと閉じる。

この内容の説明を……

 

「学園長!

肉体的訓練は日々の積み重ねです。なので平日は朝晩毎日、僕とガンドルフィーニ先生で密着個人教授します」

 

「逆に魔法に関しては、集中講義を行います。僕と神多羅木先生で週替わりでみっちりと……」

 

 コレなんてイジメ?幾らネギ君でも、この訓練内容はキツいよ……でも天才児なら、こなせるのかな?

 

「採用!

先生方の熱意には頭が下がる思いじゃ。しかしネギ君とて人間……週に一度は完全休日を設けようぞ。

それと、忘れてはならないが彼は教師として麻帆良学園に赴任してくるのじゃ!

平日鍛錬を少し減らし、教師としての仕事の時間を作るのじゃ。

後は、訓練場所じゃな……一般人が立ち入れない場所を用意しようかの。魔法関係者だけが入れる場所を。

その方がネギ君の訓練を我々も気兼ねなく見れる訳じゃ……弐集院先生、手配を頼みますぞ」

 

 ネギ君、少しだけ僕の優しさを受け取ってくれ。こんなシゴキなんて、漫画の中だけだと思っていました……

 もう止められない。

 

「分かりました。流石は学園長ですね!これなら、ネギ君も修行に専念出来る」

 

 訓練については、後は彼らに一任すれば勝手にやってくれるだろう。次が難問なんだけどね。

 

「それと……ネギ君は、本校男子中等部の一年生のクラスの副担任にしようと思うのじゃ」

 

 これには、タカミチ君が猛反発した!

 

「学園長!彼は、ネギ君は本校女子中等部の2-Aに、僕のクラスの副担任になる筈です。それを何故?」

 

 バンバンと机を叩いて威嚇するタカミチ……思わず目を逸らしそうになる。

 元々、眉毛で隠れてるし糸目なんだけど……本気で怖いです、彼は。

 

「タカミチ君、落ち着くのじゃ」

 

「これが落ち着いていられますか!何故、2-Aじゃ駄目なんですか?あのクラスには……」

 

 やはり、コイツ我が心の癒やし木乃香ちゃんをネギにあてがうつもりか?それは、断じて許さん!

 

「タカミチ君……

儂らはネギ君を誰もが認めるマギステル・マギに育てたいのじゃ。いずれは英雄として、魔法世界を背負って立つ漢になって欲しい」

 

「なれば従者が……」

 

 興奮するタカミチ君以外の先生方を見る。何故、こんなにもタカミチ君が興奮してるか不思議そうな目で見ている……

 タカミチ君以外は、あのクラスの目的を知らないのか?

 

「子供とはいえ、思春期の女生徒の群れの中に彼を放り込んだらどうなるのじゃ?

彼の人格形成に多大な影響が出るぞ!刀子君、シスター・シャクティ……」

 

 この会議の女性陣の方を見る。

 

「「何でしょうか?」」

 

「容姿・能力は同じ。片方は、スカして女性の扱いが上手い。片方は、友情を大切にする熱血漢。どちらが好みかの?」

 

 黙り込む2人……

 

「……後者ですね」

 

「私も後者です」

 

「他の先生方は?」

 

「確かに女性の扱いが上手い色男は、一部に反発を生みますね」

 

「うーん。でも英雄色を好むって事も……」

 

 意見は分かれた……でも大多数は友情を大切にする熱血漢だろう。大抵のヒーローはそうだ。

 エロゲのハーレム主人公を作りたい訳じゃないし。

 

「ネギ君はのぅ……イギリス時代に同年代の同性の友人が居らなんだ。だから彼とも年の近い一年生のクラスを受け持たせたいのじゃ。

それに、修行時代に女性は邪魔にこそなれ有益な事では無いじゃろ?

2-Aは特殊過ぎるクラスじゃ……お祭り大好きな、あのクラスにネギ君を放り込んだら?大騒ぎで修行どころではあるまい?

彼の人格形成をする大切な時期に女性に囲まれてオモチャにされたら……

タカミチ君。

仮に、仮にじゃ。ネギ君が仮契約をしまくり、ハーレム従者を率いてイギリスに凱旋。

メルディアナの学校長から、ネギ君を麻帆良に送ったら色事しか学んで来なかった!そう言われたら、君は責任を取れるのか?」

 

「しっしかし……」

 

 タカミチ君は、ネギ君をどうしたいんだろう?10歳児をハーレムマスターにしたいのか?

 

「ナギも、恋人がサウザントマスターとか言われていたが……実際は違うじゃろ?

いずれネギ君にも従者は必要になるじゃろう。しかし、今は女性に現を抜かす時期ではないのじゃ。

皆も良いな?ネギ君には極力女生徒との接触は避けねばならぬ。彼は英雄として、友情を仲間を大切にする熱血な漢として育てるのじゃ!

間違ってもハーレムマスターなとにしてはならない。そうなったら、麻帆良の魔法関係者の恥と思わねばならないのじゃ!」

 

 それでもタカミチ君は不満そうだが、他の先生方は納得してくれたみたいだ。

 タカミチ君……暫く海外に行っていて貰おうかな。絶対何か企んでいる目をしているし。

 

 

 

 英雄の息子、ネギ君の教育方針は決まった。

 彼は魔法世界の最重要人物だし、この扱いは決して間違ってはいないだろう。

 才能有る子供先生を、関東魔法協会が総力をあげて教育するんだし……

 周りの人達だって幾ら英雄の忘れ形見とは言え、まだ何にも活躍してない子供が周りに女の子を侍らせていたら悪感情を抱く。

 

 親の七光りだと。

 

 だから、ネギ君が実績を積み始めたら従者を考えれば良い。木乃香ちゃんは駄目だ!

 勿論、麻帆良の一般人も駄目だろう、普通に考えて。

 あんな殺し合いを日常としている世界になんて……進んで紛争地域に子供を行かせる親は居ない。

 

 従者は魔法関係者がなるべきだ。イギリスに居る幼なじみとか、候補は向こうにも沢山居るよね……てか、写真で見ると可愛い娘が居るよね?

 ネカネさんにアーニャちゃんだっけ?全く羨ましくて妬ましい。

 タカミチ君が、どうにも納得していない感じだ。彼は海外にNPOとして、活動に行って貰おう。

 

「それとネギ君の住居だが、流石に10歳児を一人暮らしにはできまいて……教員宿舎よりは、賄い付きの男子寮の一室に入って貰おうと思うのじゃ。

それとも誰か一緒に暮らすかの?勿論、女性陣は不可だし娘さんが居るガンドルフィーニ君は駄目じゃな……」

 

 残りの独身男性陣を見渡す。タカミチ君が、腐り輝く目で僕を見詰めている……イヤイヤ、君は麻帆良に殆ど居なくなるから。

 それに、ネギ君が後悔する位に変な子になりそうな気がします……だから却下!

 食生活が充実しているのは、弐集院先生かな?

 

「学園長……ネギ君の修行には、一人前の社会人になる事も含まれていると思います。

しかし、成長期に栄養のバランスを疎かにする一人暮らしはお勧め出来ません」

 

 確かに、僕だってお手伝いさんが料理を作ってくれなかったらコンビニ弁当が精々だよね。

 又はホカ弁か……確かに栄養のバランスは悪いだろう。

 

「ネギ君には、同世代の子供達との交流を含めて男子寮に入って貰おう。ウェールズでは同性の友達も少なかったと聞く。

良い機会じゃ。狭い社会では学び難い人間関係の勉強に良いじゃろう……」

 

 これでネギ君の生活面も決まったな。

 

「残りは、日本に来る本題の教師についてじゃ。ネギ君を立派な教師にする為に、何か案は有るかの?

予定通り本校男子中等部の一年生のクラスの副担任にしようと思うのじゃが……かの学校には魔法関係者が少なくての」

 

 何故か、魔法関係者は女子校に集中している。皆、スケベって事だね。

 

「我々の誰かも、男子中等部に赴任しましょう。ネギ君のフォローの為にも、誰か1人は魔法関係者が居ないと不味いだろう」

 

「では誰が良いんだい?受験生を抱えていない連中なら、この時期に移動しても影響は少ないが……」

 

 候補は弐集院先生か瀬流彦先生かな。人当たりも良さそうだし、ネギ君と一緒に居ても違和感が無い。

 どの道タカミチ君は、海外に行って貰うから……

 ガンドルフィーニ君と神多羅木先生は……共に強面だし、ネギ君も四六時中こんな厳つい連中と一緒じゃ辛いだろう。

 

「では、弐集院先生と瀬流彦先生のお二方にお願いしようかの……2月1日にて移動の辞令を用意するぞ。

あと2-Aのクラスは、新田先生にお願いしようかの……タカミチ君にはフリーとなって、ネギ君の為に色々と動いて欲しいのじゃ」

 

 これでネギ君へのフォローも問題無いと思う。あとタカミチ君は、木乃香ちゃんから離す!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 学園長が出て行った室内には、まだ呼ばれていた魔法先生達が残っていた。

 テーブルを囲み出された日本茶を飲む者、茶請けの羊羹を食べる者……瀬流彦が湯呑みをテーブルに置いて、一息ついてから話し掛ける。

 

「弐集院先生……大役を担ってしまいましたね。公私共にネギ君のフォローをする事になるとは」

 

「瀬流彦先生は、魔法の指導も有りますから。僕が、ネギ君の食生活の面倒を見るよ。肉まんの美味さを教えてあげないとね」

 

 茶請けの羊羹を頬張りながら答える。男子中等部に移動する2人は、これからの事に前向きだった。

 

「しかし、不思議よね?今迄の学園長だったら、きっと誰かに一任か自分で全てやるわよ。私達を集めて、相談とかしない人だわ」

 

「それだけ、ネギ・スプリングフィールドは……英雄の忘れ形見は大切なのでしょう。

言われた事は、もっともですし方針も悪くは無い。これなら立派な魔法使いに、マギステル・マギになれるでしょう」

 

 女性陣2人は、らしくない学園長に気が付いていた。しかし、それだけ大切なナギの息子なんだし慎重になっていると思った。

 

「しかし!

しかし、何故2-Aの彼女達と接触を禁じたんだ?彼には、ネギ君には特殊能力を備えた彼女達が必要になる筈だ」

 

 未だに納得せず乱暴に湯呑みを置いて、苛立ちを隠さない。

 

「タカミチ先生……あのクラスには、私の娘も居るんですよ。

裕奈には……娘には魔法世界に関わって欲しくはないんだ。自分勝手とは思うけどね」

 

 しみじみと大切な娘の事を持ち出されては、タカミチと言えども何も言えなかった……

 明石教授の奥さんは魔法使いで有ったが、裕奈が幼い頃に亡くしている。それ以来、裕奈には魔法に関わらない様に育てて来た。

 それを学園長の方針を無視して、2-Aに拘るタカミチに違和感を感じた。

 

 何故、そこまで彼女達に関わらせたいのか?

 

 学園長の教育方針でも十分な成果は出るだろうし、言っている事は至極真っ当だ。

 わざわざ女の園に放り込む必要は全く無いし、これから思春期を迎えるネギ君にとって害悪でしかない。

 明石教授は、この男の動向には気をつけようと思った……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 先生方が、そんな話し合いをしているなか、近衛近右衛門に憑依した彼はノンビリと放課後の学園を歩いていた。

 社会の裏側で暗躍する、魔法関係者の方々って本当に迫力が有るし怖いよね……これで暫くは、あの人達と会わなくて良いよね?

 来月、ネギ君が来たら大変なんだろうけど……今はノンビリしたいし。

 この頭でも、認識阻害の結界内の麻帆良学園都市の中なら気にせずに歩ける。

 

 実際に女子校エリアを歩いていれば「学園長先生、さよーならー!」「さよならセンセー!」「あっ学園長。サヨナラです」見た目にも可愛い生徒達が、挨拶をしてくれる。

 

「ほい、さようなら!気を付けて帰るんじゃぞ」

 

 この瞬間だけは、憑依して良かったと思う。あとは、ご飯を食べている時だけだけど……中世の街並みを模した、学園内を見て歩くのは楽しい。

 記憶には有るけど、実際に自分の目で見るのは格別だ。

 自分の育った町では、一番大きな建物は公民館か役場位しか無かったから……しかし、本当に日本なのか?

 

 常々、思うけどね。

 

 暫く歩くと目的の屋台が見えてきた。弐集院先生、お勧めの肉まんを食べさせてくれる店だ!

 何故か、爺さんはオーナーの超という娘を警戒している。つまり配下ではない、魔法関係者なのだろう。

 でも食べ歩きしか楽しみが無いので、構わず行きますけどね。

 



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第2話

 公園のベンチに座り、買ってきたばかりの肉まんにガブリと食い付く。ホカホカの皮とジュっと広がる肉汁に、思わず火傷しそうになる。

 

「あちち……舌が火傷するよ!でも美味いな」

 

 黙々と肉まんを食べ続ける……2つを食べ終わり、落ち着いたので買っておいた缶コーヒーのプルタブを開ける。

 カシャっとした小気味良い音をしながら開けて一口……本当は、炭酸飲料が飲みたい!

 

 しかし、人目が有るし爺さんにサイダーは似合わないだろう。口の中の肉汁を流し込む様に、缶コーヒーを飲み干す。

 ベンチの隣に有るクズカゴに捨てて、大きく伸びをする……

 

「良い天気じゃのぅ……」

 

 未だに慣れない爺さんの口調を真似てみるが、微妙に違う気もするんだ。誰も違和感を抱いてないのかが不思議だ……

 もしかしたら、何時もと違うな?って感じている人も居るかもしれない。

 

 問い詰められたら、どう誤魔化すか……

 

「実は違う世界で死んだ高校生なんですが、目が覚めたら爺さんでした!」

 

 ……駄目だ。ボケ老人として介護施設に直行だ!

 

「年かのぅ?段々昔の事を思い出せなくなってのう……」

 

 まさに老人性痴呆症が進行中です状態。介護施設に直行だ!

 

「儂は変わっておらん!昔のままじゃ」

 

 老人性痴呆症の症状として、怒りっぽくなるそうだ。これも介護施設に直行だ!

 

「駄目だ……何を言っても、ボケ老人で納得されてしまう」

 

 これからの見通しは、真っ暗だ……しかし、今は悩んでいても仕方ない。勢い良く膝を叩いて立ち上がる。

 綺麗に整備された公園内を見回しながら歩き出す。

 冬の時期だが、それなりに緑が有り目を楽しませてくれる……そう言えば、憑依してからこんなにノンビリしたのは初めてだ。

 たかが高校一年生が、あんな化け物みたいな連中と話し合いをしたんだ!それだけでも大した物だろう。

 一応トップだから周りも気を使っているが、半端ないプレッシャーを正面から受けたら間違い無くボロがでるよ。

 少年漫画のノリで話を進めたけど、後は彼らにお任せしよう……彼らは本職の教師でも有るんだ。

 僕がとやかく言うよりは、余程効率的な教え方を知っているだろう……しかも大切な英雄の息子さんなんだし。

 

 餅は餅屋、教育は教師の仕事だよね。

 

 石畳の歩道をノンビリと歩き、住宅街を抜けたら我が家が見えた。洋風建築が建ち並ぶのに、ここは純和風だ!

 まぁ着物を着た爺さんが、洋風な屋敷に住んでいたら違和感が有り過ぎるか……ベルサイユ宮殿に、髷を結った着物姿の爺さん。

 

 確かに似合わない……

 

 逆にドレスアップした貴婦人が、和室でコタツに入っている。こっちも変だ……見てくれに会わせれば、日本家屋が一番か。

 お手伝いさんに迎えられて私室に入ると、机の上に小包が……アレが来たのかな?

 

 宛名書きを見れば、まほネットから送られてきている。間違い無くアレだ!

 

 しかし、今はお手伝いさんも居るし夕飯とかで顔を会わせるから……開けるのは、寝る前の時間帯だな。

 チクショウ、我慢出来るか分からないぜ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 家の者達が私室に戻り寝静まった頃に、漸く書斎に置いてある小包に向かい合う……ワクワクと包装紙を破いて中身を確かめる。

 まほネットで取り寄せたアレ!

 

「赤いあめ玉・青いあめ玉・年齢詐称薬」

 

 一粒二千円の怪しい薬だ!しかし、成長させる方は要らなかったな。僕は若返りたいんだよ!

 先ずは説明書を読む。ナニナニ……赤いあめ玉を食べると年を取り、逆に青いあめ玉を食べると若返る。

 効果は幻術により周りに年齢変化を感じさせる事で、実際に年を取ったり若返ったりはしない……何だ、見せ掛けだけなのか。

 

 試しに一粒食べてみる。

 

 ボフンっと言う音と共に効果が現れたみたいだ。期待に満ちて鏡を見る。どれだけ若返ったのか?

 

「アレ?全く変わって無いよ……」

 

 爺さんだから一粒じゃ駄目か。もう一粒食べてみる。同じ様に、ボフンっと音がして効果が現れた。

 

 鏡を見る……

 

「余り変わってない……いや、少し若返って爺さんからオッサン?」

 

 説明書には、一粒で10歳前後の変化が有ると……70歳を越える爺さんが、二粒食べて50〜60歳。元の年齢になるには、あと四粒位か?

 ひょいひょいと二粒を口に放り込む……何故か先程より反応が?

 

 一際大きくバフンッと音がすると……中々精悍な少年が立っていた。鏡を見て喜びが湧き上がる!

 

「ヨッシャー!成功だ。若いし、頭の形も普通だ!やった、成功だよ。

チクショウ、爺さん若い頃はイケメンじゃねぇか!金持ちのイケメンかよ。モゲロよ!いや、今は僕のだから駄目だ!」

 

 心の底から湧き上がる喜び!普段より、いま前の体の時もこんなに高揚した感覚は無かったんだけど?

 

 妙にハイテンション!

 

「ヒャッハー!部屋になんて閉じこもってられねーぜ。くっくっく……夜の麻帆良を探検だぜー!」

 

 落ち着いて部屋になんて居られない。興奮して体が熱いぜ!丁度冬だし、外で体を冷やそうか。

 自分の体を見回す……着物かよ、ダセーぜ。衣装箪笥を引っ掻き回しても着物ばかりか……

 

 おっ?

 

 何だ、この古い学生服は?ああ、爺さんの青春の思い出か……少し防虫剤臭いけど、構わないや。

 洋服に身を包み、財布を持って屋敷を出る……久し振りに爺さんじゃない格好で、しかも憑依前よりイケメンで出歩けるなんてな!

 

「麻帆良よ……俺は若返って帰って来たー!アーッハッハッハー!サイコーにハイってヤツだー!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 気分は高揚している!

 

 足取りも軽く徘徊するが、所詮は学生の街。夜遅くに開いている店もなければ、人通りすら無い。

 

「おっ?灯りが点いている店が有るな!……MAGGY?コンビニか?」

 

 夜中の街を徘徊するのも飽きたし、コンビニで立ち読みでもするか。この世界の漫画ってどうなんだろう?

 ネギ君の教育資料として、魁る男の塾とか熱血漫画が有るのかな?等と考えながら店のオートドアを潜ろうとしたら、声を掛けられた。

 

「近衛君?近衛君でしょ?」

 

 女性の声で呼び止められた……

 

 

 

 

 まほネットで取り寄せた、年齢詐称薬……四粒飲んで十代の姿に若返った僕は、生まれて初めての高揚感に身を包み、夜の麻帆良に飛び出した!

 しかし、所詮は学園都市……学生が多く住む街は、生活サイクルが昼間を中心としているのだろう。 

 深夜に開いている店を探すのが大変だった。漸く見つけたコンビニに入ろうとした所で、女性の声で呼び止められる……

 

「近衛君?近衛君でしょ?」

 

 耳元で聞こえた声に振り返れば……話し掛けてくれた相手が居ない?

 

「……アレ?幻聴かな……」

 

「反応してくれたって事は聞こえていますよね?近衛君、私です。相坂です」

 

 声はすれども姿は見えず……相坂……相坂だって?相坂と言う単語に反応し、爺さんの記憶が浮かび上がる……

 相坂さよ。爺さんの初恋の相手だ……

 

「相坂……さよ……」

 

「そうです!相坂さよです。近衛君、60年振りですね!

良かった、やっと話せる人を見つけられて……それで近衛君は何故、姿が変わってないの?」

 

 

 いやいやいや……声のする方を気合いを入れて見詰めると、ぼんやりと少女の姿が見えた。

 古風なセーラー服を身を包んだ、中々の清楚で大人しい感じの美少女だ!

 

 幽霊?自縛霊?

 

 幽霊の存在は、記憶で居ると理解している。しかし実際に見えるとなれば、驚きだ!

 

「いや儂……いやいや僕は近衛だけど近右衛門じゃなくて……ああ、違うんだよ」

 

 コンビニの中から店員が不審な顔で見ているのに気が付いた。

 

「ちょっと待ってて……」

 

 取り敢えず携帯を開いて持ちながら店内に入りパタンと閉じる。オーバーリアクションだけど、携帯で通話していたアピールだ。

 店内をぐるりと周り、缶コーヒーを二本持ってレジへ。未だに不審顔の店員を睨み付ける様にしてカウンターに置く。

 

 大学生位の店員は、慌ててバーコードを商品に当てて「240円になります!」て言ってきた。

 

 コンビニ袋に入れて貰った商品を受け取り外に出る……

 

 オートドアの脇に居た相坂幽霊に「人目が無い所まで付いてきて……」と言って先に歩き出す。

 

 暫くは無言で夜の町を歩く……見える人が見れば、幽霊に取り憑かれた人に見えるだろう。

 コンビニから少し歩いた所に有る公園に入りベンチを探す。少し街灯から外れたベンチを見付けて、そこへ行く。

 多少暗い方が、相坂幽霊が良く見えるかも?と思ったからだ。

 

 ベンチの端に座り、隣を見ると相坂幽霊も座っていた。姿がハッキリ見えるのは、焦点が合ってきたからかな?

 二本買った内の一本を差し出す。

 

「ごめんなさい……私、飲めないから」

 

 俯いてしまった彼女の脇に、プルタブを開けて置く。

 

「一人だと飲みにくいからね。付き合ってよ」

 

 そう言って自分の分もプルタブを開けて一口……少し冷めたが、ほろ苦い味が口の中に広がる。

 

「相坂さんは……幽霊なんだよね?」

 

「もう60年以上も幽霊をしています。近衛君は……生きてるみたいだけど、昔のままだね。もしかして、不老不死なのかな?」

 

 何故か嬉しそうな顔をしている。

 

「相坂さんの言っている近衛君とは……近衛近右衛門は、僕の爺さんだと思う。

君の事は、爺さんが飾っている写真で知っていた。でも幽霊とは……正直、今でも信じられないよ」

 

「じゃあ、近衛君はもう……」

 

 さっきとは一転、悲しい顔をする。

 

「いや、元気に生きてるよ……」

 

 爺さんの魂が、意識が何処に有るかは知らない……しかし、体は元気に生きて居ます。

 

「そうなんだ!元気にしているのね?」

 

 それから、黙ってしまい並んで座るだけ……

 

「近衛君……私の事が怖くないの?私、地縛霊……じゃないけど幽霊だよ」

 

「うーん?幽霊だけど、相坂さん可愛いし怖いって感じじゃないんだ。何だろう?素直に言えば、珍しい?」

 

「めっ珍しい?確かに私は幽霊だから、珍しいのかな?」

 

 顔を見合わせてクスクスと笑う。

 

「私ね……私を見える、見てくれる人を探していたの。

昼間は2-Aに居るんだけど夜は暗くて怖いから、コンビニかファミレスの前に居るんです。

色々な人に話し掛けるけど、誰も気がついてくれないから、寂しかったんだ」

 

 そう言って儚く笑う彼女は紛れもなく美少女だ。

 

 神様……

 

 何故、枯れ果てた爺さんの体に押し込んだのに美少女と引き合わせるのですか?しかも木乃香ちゃんは、血の繋がった孫娘。

 さよちゃんは、既に亡くなっている幽霊。

 

 何故なんですか?

 

「ゆっ幽霊なのに、暗がりが怖いって?相坂さん、面白いですよ」

 

「いえ、笑い話じゃないんですよ。それに暇なんです。だからバトントワリングの練習したり……」

 

「バトントワリング?」

 

「ペン回しです。結構上手なんですよ」

 

 幽霊が、教室で黙々とペン回しの練習?シュールだ……

 

「他に何か出来るの?」

 

「気合いを入れると、ポルターガイストや血文字を浮かび上がらせる事が出来ます!」

 

 力こぶを作る様に腕を振り上げる!

 

「ポルターガイストに血文字……怪奇現象だよね?他には何か出来るの?」

 

 振り上げた腕を下ろして、シュンとうなだれてしまう。

 

「他には何も……」

 

「いや、普通それだけでも凄いから!相坂さん凄いなー」

 

 誤魔化すように言って、手に持っていた缶コーヒーを飲み干す。すっかり冷えてしまっていた。

 近くのゴミ箱に投げ入れる……しかし入らない。

 入れ直そうと立ち上がるが、空き缶はフワリと飛び上がってゴミ箱の中へ。

 相坂さんの方を見れば、眉間にシワを寄せて意識を集中しているみたいだ……

 

「えへへ!ポルターガイストです」

 

 微笑んでくれた彼女は、本当に儚げで優しい女の子だった。

 

「コレ、どうしましょう?すっかり冷えてしまったけど、私は飲めないから……」

 

 彼女の脇に置いてあった缶コーヒーを持つと、一気飲みをした。今度はゴミ箱に歩いて近付いて入れる。

 

「ゴミはゴミ箱に、ね?」

 

 二人で微笑み合う。

 

「また会おうね。今日は遅いから、帰るよ。相坂さんは、これからどうするの?」

 

「私は……コンビニかファミレスの方に行きます。やっぱり教室は暗くて怖いから」

 

 彼女は60年間も、そんな生活をしているのか……

 

「それじゃ!また会おうね」

 

 手を振って別れの挨拶をする。

 

「うん!また会って下さい。私、昼間は女子中等部に居るけど夜はコンビニかファミレスの前に居ますから……」

 

 そう言って律儀に歩いて行った。飛んだり消えたりは出来ないのだろうか?

 

「相坂さん、か……今時珍しい、大和撫子な娘だな。

いや木乃香ちゃんもそうだけど、彼女は結構ヤンチャな気もするんだよな」

 

 麻帆良に来てから美少女遭遇率が高い。しかし、決して結ばれる事はない女の子達だけどね……

 

 

 

 相坂さよ……

 

 60年間も幽霊をしている、幽霊なのに暗がりが怖いと言う優しい娘。

 普通なら、其処まで現世に括られたか未練が有るから成仏出来ないと思う。

 そして執着から悪霊化するのが、ホラー漫画の定番なんだが……彼女は生前の優しさを持っている。

 しかし非常識な魔法使いが居ると思えば幽霊か……非常識の単語に反応して、記憶が浮かび上がる。

 

 忍者、ロボット、吸血鬼、カンフー娘、スナイパー、アダルトバディな女子中学生、園児体型の女子中学生……次々と非常識な連中が、頭に思い浮かぶ。

 

 この麻帆良って、非常識のびっくり箱だ!

 

「はっ、ハックション!ううっ寒い……真冬の夜に学生服だけじゃ寒いか。何かテンションも落ちたし、帰るか……」

 

 そう思った瞬間に、ボフンっと音がして年齢詐称薬の効果が切れた。

 

 ちょうど良いや、帰ろう……ポケットに手を突っ込み、来た道を戻って行く。

 あの年齢詐称薬の効果か副作用なのか、妙にハイテンションになった。

 普段なら幽霊と言う知識は有っても、ああも自然に話が出来たか分からないし……でも相坂さんとは、また会いたいな

 

「じっジジイ?何て格好をしてるのだ?コスプレか!」

 

「学園長……そのお年で、その格好では変態と呼称されても反論は不可能かと」

 

 いきなり後ろから、失礼な言葉を掛けられた?

 

 振り向けば……「エヴァと茶々丸か……」黒いマントを羽織ったエヴァと、制服姿の茶々丸が居た。

 

 エヴァの表情は、驚愕で目を見開いている。目線の先は僕……そして、今の自分の格好に思い至る。

 学生服を着たジジイ……コレナンテ、イメージプレイ?

 

「いっいや、コレは違うんじゃ!いや違わないけど、そういう意味でのプレイじゃなくて……」

 

「寄るな、変態ジジイ!茶々丸、画像を録画しているか?」

 

「はい。嫌々ですが、最高画質で録画中です」

 

 ちょ、お前なに言ってるの?

 

「じゃあな、ジジイ!変態プレイも程々にしろよ?」

 

 そう言って、人の話を聞こうともせず飛び立って行った。

 

「コラ!洋ロリ、戻って来い。ふざけんな、ロリババァ!お前だって600歳の癖に女子中学生じゃないか。変態はお互い様だろうが!」

 

 飛んでいった空に向かい暴言を吐く!

 

「誰が洋ロリだー!貴様こそ、変態ジジイだろうがぁ」

 

 踵を返し戻ってきた。600歳の癖に、短気で怒りっぽい。ボケの徴候だよエヴァ!

 

「儂は老い先短いから、昔を懐かしむつもりで学生服を着てみたのじゃ!断じて変態的な意味合いは無い。

エヴァこそ、深夜にエロエロな格好にマントだと?露出狂とは頂けないのぅ」

 

 彼女は中々刺激的な黒のアンダーコスチュームだ。病的なまでに白く細くしなやかな手足を極限まで晒して、裸足にマント!

 洋ロリ好きには、堪らないご馳走だ!

 

「こっこれは吸血鬼の基本的なスタイルだ!」

 

「嘘だ!普通はもっとゴシック的なドレスとかだ!

下着姿に近い格好で彷徨くのは、変態に襲われたい更なる変態だ!普通の吸血鬼は襲う方だろうが?」

 

 ハァハァと顔を近付けて怒鳴りあう。あと10センチでキス出来そうな位に……はっ、と気付いて顔を話す。

 

「ジジイ……変わったな。前はもっと飄々として掴み辛かったが!

口喧嘩など、暖簾に袖通しだった筈だ。どうした?悪い物でも拾い食いしたのか?」

 

 ヤバい?つい素で言い合いをしてしまった!

 

「嗚呼、マスター……あんなに楽しそうに学園長とお話するのは初めてです、ハァハァ」

 

 ……茶々丸さん?そんなキャラでしたか?記憶では、貴女は無表情クール美少女ロボだったはずですよね?

 ああ、ロボでなくガイノイドだっけ?

 

「わっ儂は変わっては……いや、変わったかのぅ。

エヴァよ。

600年生きて、お前は変わったのか?儂は高々100年にも満たないが、変わりつつある……」

 

 激高した表情を引き締め、訝しげに此方を睨む。

 

「……ジジイ?本当に平気か?おい茶々丸、ジジイは本当に平気なのか?」

 

 直立不動で隣に居る茶々丸に声を掛けるが

 

「学園長の体温・心拍数共に正常数値内です。声紋確認、本人の物です。

最後にお会いした時の画像と現在との身体的特徴の差違は2%以下です。この変態は学園長と同一人物と認められます」

 

 ……サラッと変態とダメ押しされた?流石に肉体的には爺さんだから、憑依して中の人が別人とは気が付かないのか……よかった。

 しかし、この子?も爺さんの野望の被害者なんだよな。力を封じ込めて学園に括り、ネギ君の成長の道具にしようとしてたし……

 

「儂は、そろそろ関東魔法協会の会長を引退しようと思うのじゃ……

麻帆良に括られ、儂の比護の下に居るお前さんじゃが、儂が引退したその後どうするのじゃ?その呪いが解けた後じゃよ?」

 

 鳩が豆鉄砲を喰らったみたいな顔だ。外見は洋ロリの美幼女のエヴァがすると、正直可愛いと思う。

 

「ジジイ、本気か?」

 

 本気です。危険な立場からは引退して、余生を好きに生きたいんです。後10年位しか寿命が無いと思うし……

 

「お前さんの呪いは……もはやナギでも解けんじゃろ?

アヤツは魔力は馬鹿デカいが繊細な制御など出来んかった。力任せの固結びの様な歪な呪いじゃ……

解く事は出来ん。ただ力ずくで引き千切る位が精々じゃろ?」

 

「ジジイ……

ナギは死んだ。しかし、ナギの息子が来るだろ?ソイツの血を死ぬまで啜れば解けるかもしれんぞ?

どうする?英雄の息子に害なそうとする私を……」

 

 洋ロリと見詰め合う。彼女は何を考えているのだろうか……

 

「エヴァ……」

 

 万感の思いを込めて、声を掛ける。

 

「マスター、学園長……その話し合いは場所を変える事を提案します。

下着姿のロリと学生服を着込んだ老人。深夜の密会は、面白過ぎるネタでしかありません」

 

「「どんな突っ込みだー!」」

 

 声を揃えて突っ込みを入れた!

 

「このポンコツ従者め!ネジを巻いてやる」

 

 茶々丸に襲い掛かるエヴァ!

 

「嗚呼、マスターご無体な!ハァハァ……学園長がイヤラシい目で私を眺めてます」

 

 何故か恍惚と喜ぶ茶々丸……君はM子か?

 

 

 

 お父さん、お母さん。お元気ですか?先立った不幸をお許し下さい。

 僕は貴方達よりも更に年上な爺さんの中に入り、悪の組織のトップに君臨しています。

 まだ一週間程ですが、前の世界では考えられない程の4人の極上な美少女達と出逢いました。

 

 しかし……しかしです。

 

 1人は、この体の持ち主と血の繋がった孫娘。

 1人は、60年物の幽霊。

 1人は、齢600年の吸血鬼。

 そして最後は、M子なロボっ子です。

 

 極上の美少女達なのに、どう足掻いても結ばれる事の無い彼女達……この世界の神様に、正面から喧嘩を売られた気持ちです。

 まぁ枯れ果てた爺さんだから、恋愛要素は皆無の人生なんですけどね。

 

 

 あの後……

 

「ジジイ……何を考えているか知らないが、話は落ち着いた場所でするぞ。明日の夜、私のログハウスに来るが良い」

 

 夜に美幼女の家に招待されました。女子の家に呼ばれるなんて初めてなのに……しかも洋ロリ。

 等と考えながら、ネギ君に手紙を書いています。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 拝啓、ネギ君。

 

 儂は、麻帆良学園の学園長を務める近衛近右衛門じゃ。君が来月から修行で来る事は連絡を受けている。

 失礼ながら、君について調べさせてもらった。

 君がナギの息子で有り、彼を追っている事を……そして君の成長の記録を……

 君は、君の年では習う事を禁じられている魔法を内緒で学んでいるのう?

 それ自体はいけない事じゃが、君の生い立ちを考えれば致し方ない事だ。

 その年で、其処まで力を得たのは才能と努力の賜物じゃろう。

 しかし、君は大切な事を置き去りにしている。

 

 それは、努力・友情・熱血じゃ!そもそも、独りで出来る事は少ない。

 

 君の父親であるナギでさえ、仲間と共に行動したからこそアレだけの偉業を達成出来たのじゃ。

 

 しかもメンバーは脳筋の筋肉馬鹿、むっつり剣士、変態魔法使い、ダンディー親父、老魔法使い、これらのアクの強い連中を纏め上げて、率いていたのだ!

 

 君は、人との繋がりが少ない。今の君では、彼らのような連中を率いる事は出来ないじゃろう。

 それは環境を考えれば、仕方の無い事だ。幸いな事に、麻帆良は学園都市じゃ。君と年の近い同性の子供達が沢山居る。

 此処で君には、人との絆の大切さを学んで貰う。その為に、本校男子中等部一年の副担任として赴任して貰う。

 君には期待しているのじゃ!だから先に資料を送ろう。分かり易い様に漫画じゃ!

 しかし、ネギ君の不足している物が沢山詰まっているのじゃ!

 学ぶ物は、君自身が読み取って欲しい。

 先に、これだけの内容を教えるのには訳が有るんじゃ!君には、正規の試練の他にもう一つの試練を与える。

 それは、一般人についてと女性についてじゃ!

 麻帆良学園は学園都市故に、男女共に沢山の生徒達が居る……女性の誘惑が多いのじゃ!

 

 ナギも女千人切りのサウザントマスター!とか、英雄色を好む!とか言われたが、あれは全くの誤解じゃ。

 その証拠に、君の母上以外とは結ばれていない。

 ナギには、やんちゃ坊主で生意気で……それでいて人を惹きつける魅力が有ったのじゃ!

 決してハーレムやモテモテ君を望んでいなかった。

 もし君が従者ハーレムを作るつもりならば、世界の半分を敵にすると思え!

 勿論、そうなれば儂も全力でネギ君と敵対するじゃろう……

 君には、タカミチ君が色々な手段で麻帆良の一般人の女生徒と引き合わせようと画策するじゃろう。

 

 残念な事に、彼はロリコンと言う心の病なのじゃ!そして君を悪のエロエロハーレムマスターにしようと目論んでいる。

 だからネギ君はタカミチ君が偶然を装い、あの手この手で女生徒に引き合わせようとするのを断るのじゃ!

 

 特に仮契約など言語道断!

 

 これが失敗したら、試練は即刻中止。イギリスに帰って貰う。

 あとタカミチ君がロリコンで、君を悪の道に引きずり込もうとしている事を知らない様にするのじゃ!

 時には味方を欺いても達成しなければならない事も有る。

 辛い事じゃがな……彼もまた、エロの被害者なのじゃ。

 彼の罪を暴かずに、そっとしておいて欲しい……それもまた一つの正義じゃよ。

 大変じゃと思うが頑張って欲しい。

 参考の資料本を同送するので、来日迄にしっかり予習をしてくるのじゃ!

 

 リングにかけろ!あしたのジョー!はじめの一歩!巨人の星!エースをねらえ!!魁男塾!聖闘士星矢!

 

 このスポ根&熱血バトル漫画で、漢らしい少年に育って欲しいのじゃ。

 

 君に期待する爺さんより

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 これで良いだろう。タカミチ君の牽制にもなるし、本人が女生徒と接点を持ったら警告。

 仮契約をしたら退場。報告書通りの真面目な子なら問題無いね。後は極力タカミチ君は海外出張だ!

 

 さてと……

 

 今夜はエヴァの家に招待されている。話はネギ君の対応と、登校地獄って変な呪いだ。

 爺さんの記憶によれば、麻帆良の警備をする者が欲しいとナギに零したら、エヴァを捕まえてきたんだ。

 当初の呪いでは弱体化は無かった。当然たよね、警備を頼む相手を弱らせてどうするの?

 しかし爺さんは、エヴァが反抗しても平気な様に首輪を付けた。

 それが、麻帆良にかかる魔法陣と電力による魔力弱体化の呪いだ。エヴァの膨大な魔力を麻帆良の結界に利用。

 

 大した爺さんだよ、本当に……使える者は骨までしゃぶるつもりかね?

 しかしエヴァのお陰で、麻帆良の結界が維持出来る。

 それは僕の安全にも直結しているから、おいそれと解く訳にはいかない……ならば、どうする?

 

 爺さんの記憶と知識では、幾つか解く方法が有る。流石は東洋の呪術士の流れを組む近衛家の当主。

 呪い的な事は、得意分野だった。登校地獄を解いても、麻帆良を離れない理由と麻帆良の結界の維持。

 

 これを両立しなければ……んー思考が爺さん的になっている気がする。

 普段なら可哀想だから!とか言って後先考えずに、呪いを解くとか考えた筈なのに……魂が肉体に影響されているのかな?

 僕も、段々爺さん的思考の持ち主になるのかな?

 

 んー、何だろう……ヤバい気がする。

 

 なまじ権力を持ってるから、こういう思考は拙くないか?

 僕が悪の首領的な思考になり……いや、実際に立場はそうなんだけど。

 自分が自分で無くなる?本当は怖い筈なのに、全然怖くないんだ……それが当たり前な気持ちが何処かに有る。

 昔の僕なら、絶対に考えなかった事なのに……僕は……僕は、どうなってるんだ?

 

 

 

 自分の性格が、知らず知らずの内に変わっていく恐怖……

 この体に憑依してから未だ一週間に満たない筈なのに、何故か謀略と言って良い思考をする様になっている恐怖……

 

 しかし、それを!

 

 その異常を普通だと考えてしまう恐怖……この街に来てから一介の高校生の僕が、悪の組織に染まりつつ有るのか?

 深く考えないと、それが普通だと思ってしまうからたちが悪い。

 きっと時間が経つと、こんな悩みや恐怖も薄れてしまうのだろう……これが彼らの言う、認識阻害なのか?

 早く今の立場を退いて、麻帆良を出ないと危険かもしれない。

 

 しかし……先ずは今晩の、エヴァとの話し合いだろう。

 

 エヴァンジェリン……

 

 真祖の吸血鬼。齢600年の悪の大魔法使いでありドールマスター。

 茶々丸とチャチャゼロと言う2つの殺戮人形を操る。今は魔力が足りず、チャチャゼロは動かせない。

 しかし動力源を科学に頼る事により、茶々丸は普通に動く。

 学園の魔法先生達も、忌み嫌っているが実力は一目置いている厄介な相手だ。

 

 彼女の枷は……

 

 麻帆良に括る登校地獄。魔力を抑える結界。この2つを持って、何とかしているんだ。

 魔力を抑える結界は、その魔力運用により麻帆良を守る結界の維持もしているから、誰も簡単に解放なんてしない。

 

 皆、自分が大切だから……

 

 僕だって、自分の護りを弱めるのは嫌だ。登校地獄を何とかする方法は幾つか有る。

 

 契約の精霊を誤魔化せる手立ては……

 

 ①卒業させる。これなら麻帆良に括られず解放される。

 

 ②通信教育に切り替える。直接教室に行かなくても、通信手段さえ有ればオーケー!何処に居ても良いが定期的なやり取りをすれば良い。

 

 ③臨時教職員として採用。麻帆良に括り、仕事も頼める。ある程度の自由も今よりは有るだろう。

 

 ④今のままで良いじゃん!これは、人間的にどうかと思います。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 そして、現在エヴァのログハウスの玄関扉の前です。結局、考えは纏まらず此処まで来ました……

 

 では、呼び鈴を「いらっしゃいませ、学園長。マスターがお待ちです」がチャリと扉が開いて、メイド服姿の茶々丸が出迎えてくれた。

 

 取り敢えず、この人差し指はどうしたら……

 

「ああ、お邪魔するぞい……」

 

 何となく負けた気分で、家の中に入って行く。玄関から入り、直ぐ先の応接間に通される。ソファーに座ると直ぐにお茶が出される。

 

「粗茶ですが……」

 

 出された日本茶を一口。うん、安いお茶です。最近肥えた舌に突き刺さる、懐かしい味わい……つまり茶々丸さんには、歓迎されていませんね。

 黙々とお茶を飲む……

 

「お代わりをお持ちしましょうか?」

 

 甲斐甲斐しい言葉と裏腹に、手には「おーいお茶」のペットボトルが?

 

「……いや、もう結構じゃよ」

 

 これ以上は、主に僕の心にダメージがデカいから。

 

 暫く待つと「待たせたな、ジジイ。今日は何時もの服装だな。昨夜は肝を冷やしたぞ。遂にボケたかとな!」ニヤリとしながら、向かいに座る洋ロリ。

 中々にサディスティックな表情ですね。

 

「いやはや、エヴァにしてみれば儂など鼻タレ小僧じゃろうに……今夜は露出は無しじゃぞ」

 

 挨拶代わりの嫌みの応酬……やはり僕の性格が変わっている。吸血鬼なんて伝説上の怪物と差し向かいでも、恐怖を感じていない。

 

「ふん!普段通りか……しかし昨夜の話。ジジイ、現役を退くつもりか?」

 

「そうじゃの……儂がトップに居続ける弊害が出て来たしの。ネギ君の試練が終われば、引退も良いかの」

 

 黙ってお茶を飲み合う。エヴァには何時の間にか紅茶が用意され、僕の前にはお茶のペットボトルが置かれていた。

 ペットボトルの蓋を開けて、湯呑みに注ぐ。

 

「茶々丸、ジジイにちゃんとしたお茶を淹れてやれ」

 

 見かねた?エヴァが、茶々丸に頼んでくれた。

 

「はい。学園長、失礼しました」

 

 今度こそ、来客用の玉露を淹れてくれる……

 

「この仕打ち……年甲斐も無く泣きたくなるのぅ」

 

 淹れてくれたお茶を一口。

 

「ふむ、美味いの……」

 

 高々一週間で、随分と口が肥えたものだ。

 

「それで、関東魔法協会の会長を辞めてどうする?麻帆良をどうするんだ?」

 

「後任が本国より来るじゃろう……それ迄に、お前さんの事をどうするかじゃ!

まさか儂が居なくなっても、麻帆良の警備員を続けられるとは思っていまい?」

 

 下手したら、正義を掲げる魔法使い達に襲われるだろう。魔力を封じられたエヴァなら、もしもの事も有り得るし……

 

「私が自分にかけられた呪いについて何も調べてないと思うのか?来月、ナギの息子が来るだろう?奴の血を吸えば、この忌々しい呪いは解けるやもしれん」

 

 確かにネギ君の血には膨大な魔力が有る。吸血鬼の特性として、一時的に魔力が物凄く高まれば呪いに打ち勝つやもしれない……

 

「じゃが、どれだけの血液を必要とするのじゃ?ネギ君は精々が40キロ前後の体重……血液の総量は3リットル位じゃ。

人は急激に出血すると死ぬ。仮に二割を吸ったとしても0.6リットル。これ以上、一度に吸えば死ぬぞ。

仮に全てを吸い尽くしても3リットル程度で呪いを解けるのか?

エヴァよ……英雄と祭り上げられたナギの息子を殺害すれば、いくら儂では庇いきれん。呪いが解けても死を待つだけじゃ……」

 

 エヴァは黙り込んでしまった。高々3リットル程度では、呪いを解くには至らないだろう……

 

「ジジイ……正義の魔法使いにしては、随分な台詞じゃないか!英雄に祭り上げられた、か……他の奴らが聞いたら、どう思うかな?」

 

 確かに正義と言う免罪符を掲げた魔法世界の連中に、ナギと言う英雄は絶対的だろう。

 

「反発するじゃろ?エヴァよ……お前さん、呪いが解けたらどうするのじゃ?何かしたい事が有るのかのぅ?」

 

 あっさりと肯定した事に、少し驚いたみたいだ。

 

「くっ……したい事だと!この忌々しい呪いが解けたら、この地を離れて自由に暮らすだけだ!」

 

「エヴァよ……お前さんに自由は無いじゃろ?解っている筈じゃ。本国に目を付けられておるのだ。麻帆良と言う枷を無くせば……」

 

 彼女は確かに真祖の吸血鬼。強い力を持っている。しかし個人が組織に勝てると言うのは難しい。

 ナギだって勝った訳じゃない。ただ組織側が彼に利用価値有りと、英雄に祭り上げただけだ!彼女だって600年も追われ続けたのだ。

 

「エヴァよ……また逃げ回る生活が始まるだけじゃよ」

 

 彼女は何も答えなかった……

 

 

 

 深夜の応接間で向かい合う、洋ロリと爺さん。祖父と孫としては似ておらず、そこに甘い雰囲気も無い。

 仄かに漂うは殺気のみ……エヴァに、自由にはなれないと伝えた。実際には無理だろう。

 彼女は本国にも目を付けられている。自由になるには、何処かの組織の比護を頼むしかないが……そこに自由は無いんだ。

 吸血鬼の真祖にしても、ままならぬ世界。

 

「ジジイ……其処まで言うからには、何か考えが有るんだろうな?私を虚仮にしたんだ。何も無いじゃ許さないぞ」

 

 洋ロリに威嚇される。しかし見た目が可愛いので怖くない。其処まで本気で威嚇していないんだ。

 

「さての……お前さんの立場を明確にして、多少の義務を負えば見合った自由は確保出来るかもしれん」

 

「今だって麻帆良の警備員として働いているだろう?」

 

 確かにエヴァは外敵の排除をしてくれている。しかし立場は微妙で、周りも敵対こそしないが受け入れてもいない……

 

「エヴァよ……儂が居なくなっても後任とそれなりに付き合えるか?

お前さんのワガママを聞いてやれるのは儂くらいじゃ。本国のお堅い奴が来てみい。どうなんじゃ?」

 

「それは……奴らは私を始末するだろうな。だから自由と力を!」

 

「取り戻しても同じじゃろう……エヴァ程の力が合っても、600年も追われ続けたじゃろ?それとも次は逃げ切れると思うてか?」

 

 ダン!っと机を叩く!

 

「では、貴様等に飼い殺しにされる現状を受け入れろと言うのか?誇りある悪の魔法使いの私が!偽善者に頭を垂れろと?」

 

 誇りある悪の魔法使いを自認するエヴァには受け入れがたいだろう。茶々丸は、僕とエヴァを交互に見てオロオロしている。

 

「儂がお前さんに提示出来る事は2つじゃ。女子中学生に囲まれて、卒業と共に忘れ去れてしまう事は回避出来る。

永遠に繰り返すママゴトを止める事はの……

 

1つは通信教育に切り替える。毎日学校に行かずとも、通信手段さえ構築していれば後は自由じゃ!もっとも麻帆良からは出れんがの……

 

もう1つは、教職員として働くかじゃ。今よりは自由が利くし、確固たる身分保障になる。我らとて同僚は護るよ……これは呪いを解くのでは無く誤魔化す事じゃな」

 

「そんな事で誤魔化せるなら、いっそ卒業すれば!」

 

「麻帆良に括られずに済むやもしれん……しかし、お前さんを卒業させるなど本国が許さんよ。それは枷を外し自由にするのと同じじゃからな」

 

「マスター、お話に割り込んで済みません。学園長、2つ目の提案を呑んだ場合はどうなるのでしょうか?」

 

 大人しくエヴァの後ろに直立不動で聞いていた茶々丸が質問してくる。

 

「っ茶々丸、何を……」

 

「構わんよ。その場合は、麻帆良学園として表の顔……そうじゃな。お前さんの見てくれだと事務員とかじゃろうか。

裏の顔は魔法関係者として今まで通り麻帆良に侵入する輩の排除じゃ。

メリットは、学生でなくなる事により彼女達の卒業と共に記憶から無くなる事は無い。

正式な職員なれば、儂の比護を堂々と受けれる。表も裏もな。

デメリットは……お前さんが納得出来ない事じゃろうか」

 

 エヴァは神妙な表情で、しかし確固たる意志が有るのだろう。

 

「ジジイ……

それは、それは出来ない。私にも培って来たプライドも有るし貫いてきた生き方その物に関わる。私が私で無くなるよ。今更無理だ……」

 

 キッパリと言った。

 

「マスター……」

 

 茶々丸は微妙な表情だ……己の主人の安否に関わる事だから。出来れば受け入れて欲しかったのか?

 

「私が私で無くなる……」この一言は、僕にも当てはまる事だ。

 

「エヴァよ……直ぐにとは言わぬよ。儂は4月には職を辞そうと考えておる。お前さんには出来るだけの事はしよう。

しかし、今のままでは駄目じゃ。独りは弱い。茶々丸やチャチャゼロも居るじゃろう。

しかし、もっと沢山の絆を見付けてみてはどうじゃ?さすれば、誰にも干渉されない力も得られよう。では、帰るかのぅ……」

 

 よっこらせっと言いながらソファーから立ち上がる。

 

「ジジイ……ジジイは私と絆が欲しいか?」

 

「エヴァとの絆は既に有るじゃろ。絆とは人と人との繋がりじゃ。

それが利害関係・主従関係・友情・愛情・信頼……憎しみだって絆には違いないじゃろ?

今の儂とお前さんを繋ぐ絆はなんじゃろうな?良く考えてな」

 

 応接間を出て玄関まで歩いて行く。エヴァはソファーに座ったままだが、茶々丸は見送りをしてくれた。

 

「それじゃエヴァに宜しくの」

 

 片手を上げて挨拶をする。

 

「学園長。次に来られた時には最高のお茶をお出しします。マスターをお願いします」

 

 そう言って深々と頭を下げる……

 

「この爺さんの現役の内なら力になろう。しかし時間は少ないぞ」

 

 そう言って、後ろを振り返らずに歩き出す。道は示した。後はエヴァが判断する事だ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ジジイは帰ったのか?」

 

「はい、先ほど……」

 

 学園長を送り出し応接間に戻って来ても、エヴァはソファーに座ったままだ。

 

「ジジイは……

関東魔法協会の会長の座と麻帆良学園都市の学園長の座の両方を辞すると言った……本気なのだろうな。

悔しいがジジイ以外の相手では私は扱えないだろう。茶々丸……私はどうしたら良い?

私は、今更人との絆なんて……」

 

 頭を抱えて悩むエヴァ……溜まらず茶々丸は声を掛ける。

 

「マスター……

私はマスターの安全を優先させたいと思います。お話の間、学園長の心拍数・体温・発汗などを全て調べていました。

その数値を検討するに、学園長は嘘を言っていないと判断します」

 

 あの提案は偽りなき言葉だったのか……

 

「そうか……ジジイは嘘を言っていないのか。

しかし……そう簡単には生き方を変えられんよ。

ジジイは私に何をさせたいんだ?ただ私の為に提案する程、善人では無い筈だ。必ず裏が有る……」

 

 普段(憑依前)の行いからか、100%は信じて貰えなかった。

 日頃の行い、日常の積み重ね……これは双方にとっても、歩み寄りを妨げる一因で有り自業自得でもあった。

 

 

 

 エヴァのログハウスを後にして、トボトボと歩く……1月の夜風は、爺さんには厳し過ぎる寒さだ。

 彼女が、どんな答えを選ぶかが気になる……どんな結果で有ろうとも、最悪でも通信教育には切り替えてあげよう。

 結界の維持は、代替え魔力が無いから……

 

 魔力……

 

 魔力か……居るじゃん、2人も!ナギをも凌ぐ魔力タンクが!

 

 でも駄目だ。

 

 木乃香ちゃんは、こんなヤクザな世界とは関わり合いを持たせない。

 そしてネギ君を麻帆良に滞在させ続けるのも不可能だし、そもそも不味い事にしかならないだろう。

 アレは疫災の火種だ!色々な問題を抱え込む……それは英雄への試練。

 そして彼を利用するつもりの無い僕には、厄介事でしか無い。

 

 我が孫娘、木乃香……彼女が、麻帆良に居る意味って何なんだ?父親は、魔法世界から遠ざける為に魔法使いの街に送った……

 

 うん、バカだな!ムッツリ剣士は。

 

 しかも護衛は子飼いの刹那1人だけ……アレが関西呪術協会のトップで平気なんだろうか?

 こりゃ下を抑え切れずに、関東にチョッカイかけてくる訳だ。しかし爺さんはそれを踏まえて、彼が御し易いと見込んだ。

 単純バカだが、英雄の一翼だったからな。しかも戦力として数えられる。下が暴発したら、武力鎮圧も可能とみたか?

 

 僕の現役引退は、ハードルが高過ぎないか……先ずは関西呪術協会との関係改善が急務だな。

 

 謝罪と補償!これが一般的な大人の対応だ。

 

 しかし爺さんの個人資産は、僕の老後に必要だ。ならば有る所から、引っ張れば良い。

 学園都市麻帆良には、どれだけの資産が有るのかを調べるか……補償はこれで良し。

 では謝罪は?僕が責任を取って辞職する……後は公的な場所で謝罪会見かな?

 

 そして、ムッツリ剣士も一緒にクビだ!これなら関西の関係者も納得はせずとも誠意は伝わるだろう。

 後は時間が解決してくれるのを待つ。憎しみが風化する頃には、首謀者の僕はボケ老人か……既に、この世に居ないだろう。

 

 帰ったら、早速学園都市の資産を調べるか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 学園長室にて、仕事の傍ら調べ事をする。学園都市麻帆良の経済状況は凄いです。億単位の予算が、幾つも動いてます。

 しかし資金の流れに不透明な部分や、一部の部署に流用されている。汚職かと思えば、慈善事業も多々有る。

 表に出せないお金で助けている場合も多い。流石は正義の魔法使い!やる事は、ちゃんとやっています。

 

 んー難しい。一体幾ら要るんだ?

 

 関西の被害者家族は、百世帯位か?いや、もっと居るのか?1人頭2000万円として、百世帯で20億円か。

 例え倍にしても賄える資金が有るから平気かな?後はタイミングと、補償を認めさせるにはどうするかだ……

 正義に拘る連中だから、自分達が謝罪や補償を受ける側だと信じている。 

 これを覆すのは、並大抵の事じゃない……いきなり詰んだかな?

 

 パソコンを前に頭を抱える……

 

「真っ当な手段では納得しないだろう。ならば私財を投げ打って補償する事にしよう。しかし、流石にそんな金は無いから……業務上横領をする!」

 

 兎に角、金を押さえて補償する。横領でも何でも良いや。関東魔法協会の会長が私財を投げ打って補償した!

 この事実が重要だから……しかし犯罪行為だし、手段が限られるな。

 嗚呼、平気で犯罪行為をしようって思考に……やはり僕は狂ってるのか、狂い始めてるのか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 エヴァとの話し合いの後、今後の展開について考えた。残りの問題は金・カネ・かね……爺さんの個人資産は10億円程度。

 近衛の実家を頼れば、更に20億円は有る。これは資産の全てを売却した値段だ……

 

「詰まる所、どんな世界でも金が物を言うのか……」

 

「学園長?話を聞いていますか?」

 

 ん?目の前に巨乳が?いや源しずな先生か……

 

「ああ、すまんの。ちと考え事をしておった。で、何かの?」

 

「この書類の決済をお願いします」

 

 胸に抱え込んだ紙の束を机に並べる。

 

「校内階段手摺新設工事」

 

「本校高等部ドッヂボールコート新設工事」

 

「桜並木通り公園施設改修計画」

 

 年度末で予算が余ったので、来期に予定していた工事を繰り上げて起案した件か……決済承認の欄に押印する。

 この金額だけでも補償金に回せたらなぁ……裏金作りか。

 

「学園長?良からぬ事を考えていませんか?」

 

 しずな君は、勘が鋭いのかな?何時もドキッとする事を言うね……

 

「いや、全く考えてないぞ……ドッヂボール部が全国制覇したそうじゃな。

ウルスラだったか……コートの新設も仕方無しじゃ。

校内には階段に手摺が無い場所が多い。安全対策は必要じゃ。

桜並木通りか……夜は薄暗い部分が有るから、照明の増設は良いの。

それに夜は立ち入りを禁止する柵も良い考えじゃ。夜の公園なぞ危ない事になりかねん。

用無くば、立ち入り禁止措置が妥当じゃ……ちゃんと真っ当な事を考えているぞい」

 

 失礼しました!と、しずな君は書類を持って出て行った。何だろう?

 何かフラグを潰し捲った気がしてきたな……誰の何のフラグだ?まぁ良いか……

 爺さんの記憶を掘り下げでいったら……有りました、裏金。使途不明金として、プールし続けた予算です。

 多分、魔法世界関係で必要になった時に使うのだろう……後は、この国の政府関係者の賄賂とか?

 これだけの学園都市を丸々維持してる訳だし、外の常識を照らし合わせると色々不味い物も有る。

 工作費用は必要悪だね。自称正義の味方の連中は、この金については知らないみたいだ……これを補償にあてよう。

 有る所には有るものだね……しかも、この金は爺さん名義だし。やっぱこの爺さんは、誰が何と言おうと悪の首領だわ!

 この積み重ねた負債の清算を僕がするの?誰か味方に巻き込まないと危険かも知れないな。

 誰が良いかな……

 

 

 

 昔の自分の家程も有る広さの和室……寝室だけで広さは12畳だ。前は2DKに親子三人が暮らしていた。

 憑依してから、人との距離が開いた感じがする。

 

 近衛近右衛門……

 

 この昔話に出てくる妖怪の様な容姿の老人。裏の顔が、関東魔法協会のトップ。表の顔は、学園都市麻帆良の学園長。

 関西呪術協会の連中から憎まれている。僕は、何時ボケるか何時体が老化で動けなくなるかの不安と戦っている。

 

 男としてのパトスも……

 

 既に枯れ果てて、漢としては終わっている体。容姿も、恋愛事にはハンデにしかならない。魂は15歳なのだ!

 外観相応の相手だと、既にお婆ちゃんしか居ないだろう……恋人をすっ飛ばして茶飲み友達だ!

 

 それに……

 

 この体に染み付いた前の持ち主の思考が、僕にまで影響しているみたいだ。僕はごく普通の田舎で暮らしている、ただの高校生だった。

 日常は長閑で退屈で……毎日同じ時間が流れている様な単調な生活。

 精々が裏山から猪や熊が降りてくるのが事件扱いな平和な寒村だった。

 それが今では魔法と言う非日常的な力を持ち、戦争や権力争いが普通に有る世界の一勢力の長だ!

 そんなテレビか漫画の世界に僕は居る。しかも、性格が変わってきている。

 

 こんな異常な世界を当たり前に受け止め、そして謀略や犯罪ギリギリな行為を許容している。

 あまつさえ、魔法先生と言うヤクザな連中と会議で渡り合える程に……

 僕は、もう僕ではない違う誰かになっている。常識と言う認識がズレてきているみたいだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「おはよう。

明日、いよいよナギの息子。ネギ・スプリングフィールドを麻帆良学園に迎え入れる。皆の準備はどうじゃ?」

 

 一同に集めた魔法先生をグルリと見回しながら話し掛ける。今はネギ君の対策会議だ!

 皆期待に満ちた顔をしている……そんなに英雄様の息子が来るのが嬉しいのだろうか?

 彼には彼の責任ではない厄介事が、沢山有るんだよ!

 

 

 

 僕の目の前に陣取っているのは……

 

 タカミチ君。コイツは、明日居ない様に面倒な事件の……規模のデカいテロ組織の撲滅を頼んだのだが、本拠地壊滅と言う力業で早めに帰って来やがった。

 腐り輝く瞳で此方を見ている。一番危険なのは彼だろう。

 

 ガンドルフィーニ君や神多羅木君、それに瀬流彦君はネギ君の育成プランを嬉しそうに報告し合っていた。

 

「学園長!明日は私がネギ君を迎えに行きます」

 

 ニヒルな外見の癖に、人の良さそうな笑みを浮かべながら立候補するタカミチ君……渋いイケメンだけに余計にムカつく。

 

「いや、儂が出迎えをするぞ。本校男子中等部の校長は一般人じゃ。儂が行って色々と彼に便宜を図る様に頼まねばなるまい。

それにネギ君には話も有る。彼は田舎暮らし故に、魔法の秘匿に疎い傾向が見られる。

その辺も良く説明せねばなるまい。まさか、魔法が一般人にバレてオコジョ刑では洒落にならんからのぅ……」

 

 ネギ君の様な問題児を人任せにするのは危険だ!

 

 彼に先入観を……学園長たる僕が、一般人を巻き込むのを凄く凄く嫌っている事を分からせねばならない。

 

 何事も最初が肝心だ!

 

「しかし!学園長は忙しい筈です。ここは僕がネギ君を出迎え、学園長室に案内を……」

 

「学園長室は、女子中等部の中じゃ!

ネギ君には、一般人の女生徒との接触を極力避けさせるつもりじゃ。特にお祭り騒ぎの2-Aの連中には会わせん!

どうみても彼女達は、ネギ君の成長に悪影響しか及ぼさない。これは決定事項じゃ!分かったな、タカミチ君?」

 

 凄く不満そうだ!

 

 コイツ、やはり木乃香ちゃんや明日菜ちゃんと引き合わせるつもりだな。

 彼のパートナーにする様に仕向けるんだろう。当初の爺さんもそうだったから、急に方向転換した僕を疑っている……

 いっそお前がパートナーになれば良いじゃん!

 

「弐集院先生、瀬流彦先生。転勤の件で問題は有るかね?」

 

 この2人は先日辞令を出して本校男子中等部の先生として送り込んだ。ネギ君のサポートをさせる為に……

 

「問題有りません。僕のクラスの副担任としてネギ君を受け入れ、指導します」

 

「僕も同学年の担任になりましたから、慣れない彼を同僚としてフォローします」

 

 この2人は、比較的常識を弁えている。彼らなら変な優遇も甘やかしもしないだろう……

 

「うむ。彼の試練は、日本で先生をする事!本来は、コレを順調に行わせなければならん!魔法指導はついでなのじゃ。

表向きはの……

彼が麻帆良学園にいるのは僅かな期間じゃ!しかし関東魔法協会として、ネギ君に良き指導をしたと認められねばならん。

彼を一人前の漢として、イギリスに送り返せるようにじゃ!先生方も、そのつもりで宜しく頼むわい」

 

 

 一同、礼をして席を立って行った……

 

 刀子君やシスター・シャクティなどは無言だったが、反対意見は言わなかった。

 しかし表向きネギ君を優遇し過ぎているのが気に入らないのか?彼女達は、ネギ君とは接触させないから不満なのかな?

 

「学園長!やはり僕は納得出来ません。ネギ君は……マギステル・マギに、英雄にする子です。だから従者には」

 

「木乃香と明日菜君か?」

 

「そうです!彼女達の特殊能力は、必ずやネギ君の力に……」

 

 英雄にする子……コイツ、そう言ったぞ。

 

 やはり爺さんとタカミチの中では、イギリスから魔法使いの試練で日本に来たネギ君を関東魔法協会の手で英雄にするつもり……

 は麻帆良に関係する者達を従者にする事で関係を強めるつもりなんだな。

 

「タカミチ君や……

ネギ君をナギの息子の彼は、必ずや英雄になるだろう。しかし儂は、ハーレムを率いた英雄は万人受けはしないの考え直したのじゃ!

ナギは……

生意気で我が儘で自己中なクソガキだったが、不思議と人を惹きつける魅力が有った。

しかし報告書のネギ君は歪な優等生じゃ!魔法の習得の為なら禁書も無断侵入で読んでいる。

しかも幼なじみの女の子を巻き込んで……こんな姑息な手段は、ナギならしなかった!

分かるか、タカミチ君?先ずはネギ君を漢として再教育をするのじゃ!

漢の道に女は不要。

ネギ君が漢道を極めたなら……女など幾らでも集まるじゃろう。しかし、今は駄目じゃ!」

 

「漢道……ナギさんと同じ……分かりました、学園長!ネギ君を立派な漢に育てましょう」

 

「そうじゃ!

タカミチ君。君もネギ君を導くのじゃ。彼に漢の素晴らしさを伝え、ガキ大将だったナギと同じ英雄に……君が導くのじゃよ」

 

「僕が、僕の手でナギさんの様に……」

 

 腐り輝く瞳で、譫言の様にナギさんナギさん言ってるコイツも被害者なんだろうな……僕には理解は出来ないけどね。

 しかし、これで準備は全て整った。

 

 さぁ来い、ネギ君!

 

 

 

 久し振りに帰ってきた、家のソファーで寛ぐ。

 

 マールボロをくわえ火をつけ、紫煙を吸い込む……ふーっと吐き出し、バーボンを一口。

 グラスを傾け、ニヒルな仕草で漢の時間を楽しむ……先程の会議の内容を考え直す。

 

 学園長は変わられた……当初、ネギ君を。ナギさんの息子を2-Aの、才能ある女の子を集めたクラスに放り込むつもりだった。

 ご自分の孫娘をも巻き込んで、英雄たるナギさんの息子も英雄にする、と……しかし考え直したと言い、全く正反対の男の園に放り込んで教育すると。

 ナギさんは、確かに女性にはモテモテだった。しかし、いつも僕達仲間と馬鹿をやっている方が楽しそうだった。

 学園長の言ったガキ大将……まさにナギさんはガキ大将だった。

 しかしネギ君は歪な優等生と……優等生?ナギさんとは正反対だ!彼はカリスマ不良だろう。

 

 なる程、学園長は良く考えている。ナギさんのナギさんたる根本的な部分を僕は分かっていなかった……

 ならば、ネギ君を立派な漢にしてみせよう!

 まだ10歳だからな……酒も駄目だし煙草も駄目だ。

 

 ならばどうする?漢道とは何なのだ?分からない……品行方正な優等生をナギさんの様に変えるには……荒療治が必要だな。

 まほネットで、漢のキーワードで検索するか……久し振りにパソコンに電源を入れる。

 

 検索キーワードは「漢と教育」だ!

 

 

「漢字検定特訓、漢字検定はやわかり、漢字検定絶対合格……漢に字と書いて、何故漢字なのだ!

ああ?可笑しいだろう!漢字ならば、おとこじじゃないのか?」

 

 

 ハァハァ……このキーワードは駄目だ!今更ネギ君に漢字を教えても無駄だろう。

 

 

 次のキーワードは「漢と修行」だ!

 

 

「ふむふむ……滝行?滝に打たれる修行か。

深山幽谷に分け入り厳しい修行を修める事により、超自然的な能力が開化する、か……ネギ君を麻帆良周辺の山へ連れて行って鍛えるかな。

序でに僕もラーメン道の修行を行い、彼に究極のラーメンを食べてもらおう。

ふふふ……ネギ君と修行か、良いかもしれないな。ナギさんにも稽古をつけて貰った事もあったな……ナギさんの息子を僕が鍛える、か」

 

 思わず頬が緩む。

 

 それと、たかみちラーメン……世界を巡り自身で研究をしているが、イマイチ納得出来る物が無い。この麻帆良で究極のラーメンを作ってみせる!

 

「ふははははぁ!ネギ君、僕が君に究極ラーメンを食べさせてあげるからね」

 

 タカミチに究極のラーメン、世界チンミー麺への道が開けた!ネギに食中毒のフラグが立った!ネギにオッサンと山籠もり修行のフラグが立った!

 一つのドラム缶で、オッサンと混浴イベントが発生します。それは、某女忍者との修行フラグがへし折れた瞬間でもあった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 弐集院先生のお薦めの居酒屋で、明日から始まるネギ君の修行について話し合う。しかし、焼き鳥の匂いが気になり話に集中出来ない。

 

「瀬流彦先生!先ずは一杯どうぞ。お話は、少し食べてからにしましょう」

 

 そう言ってビール瓶を僕の方へ傾けてくれた。

 

「いただきます、弐集院先生。すいません。つい焼き鳥の匂いに気を取られまして……」

 

 話に集中出来なかった事を詫びてからビールを注いで貰う。焼き鳥にはビール!これは鉄板だ。

 

「いよいよ明日、ネギ君が麻帆良に来ますね。しかし……学園長が意外とマトモな対応をしているので驚きました」

 

「そうですね。学園長は……普段は良い教育者ですが、イベント事になると、羽目を外す傾向が有りますからね。

しかし、流石に学園長もナギの息子には真面目に対応したのでしょう」

 

 普段の学園長ならネギ君を使い、周りを引っ掻き回そうとするだろう。

 彼の成長の為にと周りを巻き込んでの、お祭り騒ぎになると危惧していた。しかし今回のネギ君への対応はマトモだ!

 

「そうですよね。

ネギ君に何か有ったら大変な事になりますからね。学園長もこのまま真面目のままで、いてくれれば良いのですが……」

 

 長い付き合いの彼らは、何時学園長が騒ぎを起こすかを心配していた。

 

「でも我々に指導を託したのです、学園長は。ならば期待に応えねばなりませんね」

 

 丁度来た焼き鳥の盛り合わせが運ばれて来た。ハツ・タン・レバー・皮・ポンポチにツクネにネギま!

 その中からネギまを取り、かじりながら答える。

 

 ネギま……ネギ君?

 

 葱って野菜の葱だよね。何でナギは息子の名前を食べ物にしたんだろう?

 イジメは名前がヘンだから!とか簡単な事でも始まる。

 

 彼の受け持つクラスは、中等部一年生……去年までは小学生だったのだ。

 そんなクラスにネギなんて野菜の名前を持つ彼が来る……ネギ、カモとネギ、カモネギ?

 そう言えば在校生に鴨志田とか鴨川とか名字を持つ子が居たな……2人並べば、カモがネギ背負ってカモネギか?

 

 これはイジメられるかも知れない!

 

 彼らが出会わない様に、気を付けて監視をしないといけないな。

 

「明日から大変かも知れませんが、頑張りましょう!瀬流彦先生」

 

「分かりました、弐集院先生!ネギ君が、野菜の名前だからってイジメられない様に注意して監視します!

それに鴨の名を持つ生徒を近づけさせません」

 

「イジメ?野菜?鴨?何を言ってるのですか?瀬流彦先生、大丈夫ですか?」

 

「ネギとカモ……カモネギ?駄目だ!彼の周りにヘンな名前のヤツを近づけては……」

 

 ブツブツと呟きだした、瀬流彦先生を冷や汗を流しながら見詰める弐集院先生……ここにもネギの為に逝ってしまった漢が居た。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 いよいよ明日、ネギ君が来る。明日は早朝から忙しくなるので早めに就寝する。

 無駄に広い和室の真ん中に布団がひいてある。フカフカの敷布団に、これもフカフカの羽毛布団。

 何とも寝心地が良い寝具だ……気持ち良い布団にくるまれながら、明日の事について考える。

 ネギ君を迎えに行くのは、僕としずな君と……ゴネにゴネたタカミチ君だ!

 そして男子中等部に連れて行く。

 

 ネギ君……

 

 君には悪いが僕の妬みと嫉妬と八つ当たりの為に、男の園で暮らしてくれ!

 ちゃんと試練は達成させるし、短期でイギリスに帰れる様にするから安心して下さい。しかし、麻帆良学園の女生徒は1人も君にはあげないからね!

 

 

 

 明日いよいよネギ君が麻帆良学院に来る。考え出したら寝れなくなったので、年齢詐称薬を4粒飲んで学生服に着替える。

 

 この薬の影響なのか、ハイテンショーン!

 

 軽やかに屋敷を抜け出し夜の街へ……久し振りに相坂さんに会いに行こう。

 前に言っていた、夜はコンビニかファミレスに居るって……だから初めて会ったコンビニに向かう。

 まだまだ冷え込む為に、吐く息が白い……街灯しか照らす物が無い夜道にぽっかりと明るい建物。

 

 コンビニエンス・ストアのMAGGYだ!

 

 目を凝らして見ると……居た!相坂さよさん。入口の脇に、ボーっと突っ立っている。

 彼女に「今晩は!」って小声で挨拶しながら店内へ……今日の店員は前回とは違う人だ。

 缶コーヒーを二本買って店を出る。

 

 入口では、彼女が僕を見詰めていたので「この間の場所へ行こう」そう小声で声を掛けてから脇を通り抜ける。

 

 横目で見た彼女は嬉しそうな顔をしていた。

 ドキドキするが、彼女は幽霊なんだよな……こんな美少女と知り合えても、相手は幽霊で僕の本性は枯れ果てた爺さん。

 生産性の無い出会いだ。人通りが無い道を2人並んで歩く……

 

「今晩は!相坂さん、元気してた?」

 

 彼女は月明かりに照らされてボンヤリと輪郭が光っている……

 

「幽霊に元気してた?は、変ですよ。近衛君は最近どうだったんですか?」

 

 逆に聞き返された。当たり障りの無い会話。うん!美少女にも臆せず話せるなんて……

 

「僕の方は大変だったよ。何でもお偉いさんの息子を強引に学園で働かせる為の準備を手伝わされてね。

しかも、そいつイケメンで天才なんだぜ!やってられないよ、全くさ。妬ましい羨ましい」

 

 つい彼女に愚痴を言ってしまった。

 

「近衛君、学園の仕事を手伝ってるんだ!凄いね。……近衛君も……その……格好良いよ。

だっ、だから僻まなくても……それに学生なのに学園の手伝いもしているんでしょ?凄いですよ」

 

 そうにっこりとフォローしてくれた。良い娘だなぁ……これで幽霊なんだから勿体無いよね。

 

「有難う。そう言って貰えると、少し落ち着いたよ。でもソイツってさ……」

 

 暫しネギ君の愚痴を彼女に話し……彼女は黙って僕の愚痴を聞いてくれた。

 30分位話しただろうか?手に持つ缶コーヒーがすっかり冷たくなってしまった……

 

「有難う、相坂さん。話を聞いて貰って、何かスッキリしたよ。明日の朝に彼を迎えに行かなくちゃならないんだ。

でも相坂さんに話を聞いて貰えたので、彼に普通に接する事が出来そうだ。本当に有難う……」

 

 そう言って頭を下げる。

 

「近衛君、お礼を言ってばっかりですよ。ふふふ……私、死んでからこんなに長い話をしたの初めて。私も楽しかったから……だから良いです」

 

 何とも心地良い空間だ……幽霊とホノボノ?心は温かくなったが、体は冷え切ってしまったみたいだ。

 思わずクシャミを連発してしまった。

 

「近衛君?大丈夫ですか?もう遅いから帰りましょう。ごめんなさい。私、幽霊だから寒さとか感じなくて……」

 

 恐縮しまくりの彼女に大丈夫だから!と言って別れた。

 彼女と話したら大分気持ちが落ち着いた……これなら明日、いやもう今日か。

 ネギ君と会っても普通に接する事が出来るだろう。

 大戦の英雄を父に持つ、天才少年か……どんな感じの子何だろうか?

 写真と報告書で知っている少年は、真面目で頑固。魔法の素養と魔力保有が凄く、本人も努力家。

 しかもイギリス紳士として振る舞っているらしい……10歳にして英語と日本語をマスターしている。

 写真を見れば今は可愛い系だが、将来的にイケメンになる事を約束された顔立ちだ!

 

 くっ……これが噂に聞く主人公属性ってヤツかな?

 

 まぁ良いや。ネギ君には漢らしく、漢臭い教育を施そう!

 丁度公園に差し掛かった所で年齢詐称薬の効果が切れた……ボフンと言う効果音と共に元の姿に戻る。

 

「やっぱり老人に学生服は似合わないな」

 

 自身の姿を見て呟く。

 

「そうでしょうか?ギャップ萌え……ならばギリギリ通用するかもしれません」

 

「狂ったかジジィ?まさか毎夜そんな姿で徘徊してないよな?」

 

 振り返って見れば、驚愕の表情の2人……しかし、直ぐに表情を変える。エヴァはニタニタ。茶々丸は無表情だが、どうみても録画モードだ!

 

「エヴァ、茶々丸……お主らも暇じゃな。何で毎回会うんじゃ?しかも夜の公園で」

 

「ふん!私は夜の眷族だからな。散歩だよ」

 

「学園長、マスターは呪いを自力で解こうと血を頂ける女生徒を物色している最中です」

 

 オイオイ……明日から英雄様の息子が来るんだぞ!問題を起こすなよな。

 

「悪い事は言わない……明日からは暫く大人しくしてるんじゃ!ナギの息子のネギが来るんじゃぞ。

闇の福音と言われたお前さんがコソコソ動いては、他の魔法先生も黙ってはいまい。面倒事はご免じゃぞ……」

 

 ネギ君大事な連中から、彼に危害を加える危険性有りと思われるだろ?

 

「ふっ、ふん!私が何をしようと私の勝手だ」

 

 真っ赤になりながら反論する幼女!

 

「ご心配有難う御座います、学園長。しかし、未だ目的は達せず誰の血も吸っていませんので大丈夫です」

 

「ちがーう!何故か公園内に人が居ないんだ。

不審に思って掲示板を見れば、公園内の整備工事で立入禁止になるじゃないか!私は夜桜の中で吸血行為をしたいんだ」

 

 なんて五月蝿い吸血鬼だ!血を吸う状況の拘りなんか聞いてないですよ。

 

「いくら学園都市とは言え、不審者は多い。じゃから変質者が好む暗がりや人気の無い場所は立入禁止だ!」

 

「私は不審者でも変質者でもないわー!」

 

「ああ、マスターがあんなに元気になって……しかも学生服の老人と掛け合い漫才。

こんな貴重な映像は心のハードディスクに焼き付けます。そしてマスターと学園長。今まさにお二人が不審者で変質者です。

セクシーランジェリー幼女と学生服を着た老人。どんな需要が有るのか皆目見当もつきません。

ターゲットはロリ層なのか?はたまたジジ専なのか?嗚呼、これが人の不条理と言う事なのでしょうか」

 

「「違うわー!ボケロボットがー」」

 

 しかし、端から見れば三人共に不審者で変質者でしかなかったのだが……

 

 



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第3話

 深夜の公園を舞台に異質な三人が向かい合っている……

 

 メイド服の茶々丸。セクシーランジェリー幼女エヴァ。学園最高責任者の近衛近右衛門、学生服バージョン。誰もがマトモでない面子だ!

 

「ふざけるな!儂は頭以外は普通だ。エロ幼女にロボメイドと同列にするでない」

 

「ジジィ狂ったか?老人が学生服を着ている時点で変態だ!私のは夜の眷族としての様式美に則った衣装だ」

 

「全くです。マスターに仕える私がメイド服姿なのは当たり前田のクラッカーです。マスターと学園長の様な趣味のコスプレではありません」

 

「「…………」」

 

 茶々丸の発言に黙り込んでしまう。

 

「茶々丸?お前、私をそんな風に思っていたのか?」

 

「エヴァ……茶々丸のネジを巻くぞ。過剰な位に魔力を込めて……」

 

 目線を合わせ頷き合う二人。ジリジリと茶々丸との距離を詰めていく。

 茶々丸も少しずつ後退していくが、直ぐに樹木に邪魔をされ下がれなくなってしまった……

 

「お二方?その、本気と書いてマジでしょうか?」

 

 無表情なのだが、オロオロ感を良く表している茶々丸……加虐心が、何か新しい世界が開けそうな感じがする。

 

「「茶々丸、覚悟!」」

 

 彼女に襲い掛かろうとした瞬間、強力なライトと詰問調の声が掛けられる。

 

「お前たち、何をしているんだ?そこのメイドさん、大丈夫か?」

 

 見回りか?

 

「エヴァ、茶々丸。面倒事になる前に逃げるのじゃ!」

 

「茶々丸、学園長を家に持ち帰るぞ」

 

 何故か茶々丸に担がれてエヴァのログハウスに連行された……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 応接間に通されソファーに座る。直ぐに茶々丸が、約束の玉露を煎れてくれた。

 最初は少し温めを大きめな茶碗で。次は少し熱めのお茶を。最後は熱いお茶を煎れてくれる。

 

 石田三成の三茶汲みか?儂、秀吉?ぬらりひょんから猿に格下げか?

 

「学園長、お約束のお茶は如何でしょうか?」

 

 メイド服から茶道部のユニフォームの和服に着替えた茶々丸が三つ指ついて畏まっている。

 

「いや、最高のお手前で……旨かったぞ」

 

 前回訪問の時に、次は美味しいお茶を煎れてくれると約束したのを守ってくれたのか……確かに最近肥えた舌でも十分美味しいかった。

 茶請けの豆大福も、手作りだと言うが老舗和菓子屋の味に負けていない。

 一家に一台、茶々丸シリーズが発売されればヒット商品間違い無しだな……

 

「ジジィ、待たせたな」

 

 二階の私室から着替えたエヴァが降りてくる。フリフリの飾りのついたパジャマだ。

 

「ほぅ……随分と愛らしいパジャマじゃな。良く似合ってるぞ」

 

 西洋人形の様な外観を持つ彼女は、ゴシック系が良く似合う。

 

「ふん!たまたまコレしか無かったらから仕方無しに着たんだ」

 

「マスターはフリルを多用した可愛い系を好まれます」

 

 主の秘密をバラす従者……茶々丸はエヴァを敬ってはいないのだろうか?

 

「精神は肉体に引っ張られる、か……若いままで永く生きている君は、何時までも乙女なんだろうね。羨ましいと思うよ」

 

 思わず素の口調で話し掛けてしまった……何時までも若い肉体。永遠の命……余命幾ばくもない死にかけ老人に憑依した僕から見れば、彼女は眩しすぎる。

 

「ジジィ?何を言ってるんだ?本当にボケてはしないだろうな?悪い物でも食べたのか?」

 

 結構失礼だな君は……

 

「いや、平気じゃよ。年寄りの僻みと思ってくれれば良い。それで……何か話が有るのじゃろ?わざわざ儂を拉致ったのだから」

 

 茶々丸が煎れ直してくれたお茶を飲む。フーッと息を吐いて落ち着かせる。僕が爺さんに憑依した他の世界の人間だとバレたら厄介だからね。

 

「明日、ナギの息子が学園に来るな。確かネギ・スプリングフィールドか……ジジィはヤツをどうするつもりなんだ?」

 

 魔法使いの機密保持を本気で心配した!

 

 情報だだ漏れ、これは他の勢力にも知れ渡っていると考えるべきか……

 

「メルディアナの校長からの依頼は、彼を日本の学校で教師として認められる事じゃよ。

だから本校男子中等部一年のクラスの副担任にする。新学期が始まる迄の、僅かな期間じゃがな。

その間でクラスに認められれば、晴れて試練達成。イギリスに凱旋じゃな……」

 

 一気に話してから、お茶を啜る。茶々丸が茶請けの練り菓子を出してくれる。今回はサービスが良い。

 

「男子中等部!ジジィ、あの騒がしいクラスに入れるのではないのか?」

 

「まさか……火に油どころの騒ぎでは有るまい。それこそ火薬庫で花火遊びをする位、確実に騒ぎを起こすぞ!」

 

 何を馬鹿な事を言っているんだ的な表情をする。

 

「あっ、いや……確かに騒がしい連中だからな。でも、本当に良いのか?」

 

 多分、ネギを麻帆良に繋ぎ止めるには彼女達との縁を結ぶのは有効だ。序でに従者候補も沢山居るからな……

 

「ネギ君には、本国の意向が付き纏うじゃろ?確かに魔法使いならば、彼は特別じゃ……しかし、彼には厄介事が多過ぎる。

学園を預かる者としては、安全を考えても早くイギリスに帰したいのぅ……」

 

 そう言って顎髭を扱ごく。

 

「だが、最高の駒でも有るだろう?ヤツを抱き込む……」

 

「必要は無い!彼が居ては関西呪術協会との交渉も儘ならぬ……魔法使いの象徴が、大戦の英雄の息子が居ては纏まる物も纏まらんわい!」

 

 エヴァが言い終わる前に否定の言葉を被せる。僕の死亡フラグをへし折る為にも、彼は早くイギリスに帰したいんだ!

 

「勿論ネギ君の修行には全面的に協力するし、彼には魔法先生を何人か宛てがって勉強もさせる。

大分歪な天才少年らしいからな……矯正には骨が折れるやもしれん」

 

「ジジィ……私はどうしたら良い?闇の福音、真祖の吸血鬼たる私は……」

 

「会わない方が良いじゃろうな……今のネギ君にとってエヴァは悪でしかない。正義の魔法使いマギステル・マギを目指す彼に闇の福音は刺激的過ぎるじゃろ?」

 

 そう言って微笑む。何もわざわざ波風を立てる必要も無いだろうし……

 

「それを含めての男子中等部に赴任なのか?」

 

「ネギ君は立派な漢として再教育するのじゃ!男の園で男臭く生きる。エヴァ達可愛い女の子には一切の接触を禁じている。破れば強制送還じゃ」

 

 ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。悪の組織のトップたる儂の笑みに、エヴァはどん引きだ!

 

「そっそうか!分かった、ネギには関わりを持たないと誓おう。……それで、先日の提案の件なんだが。

その、ジジィは私を本当に受け入れてくれるのか?学園に雇われれば……」

 

 学園の教職員になれば、僕の学園長たる爺さんの比護を堂々と受けられる。表も裏も……しかし、それは彼女のプライドと折り合いが付けばの提案だったが。

 

 モジモジする幼女には、妖しい魅力が溢れていた。

 

 

 

 両手を交差して、モジモジしている洋ロリ……コレなんて可愛い生き物?とても齢600歳の真祖の吸血鬼とは思えません!

 先程迄はエヴァの後ろに控えていた茶々丸が、僕の後ろに回り込みモジモジしているエヴァを熱心に録画している。

 

「ハァハァ、マスター素敵です。萌え、これが人の萌えと言う感情なのですね……」

 

 茶々丸は秋葉原仕様に変化しつつあるのかな?

 

「エヴァ……それは学園に雇われると言う事で良いのか?」

 

「義務は今迄とそう変わらないからな。それに……今のクラスの奴らは気に入っている。

この15年で最高にぶっ飛んだクラスメイト達だからな。彼女達の記憶に残るなら、それも良いさ」

 

 このプライドが高い洋ロリは、人との触れ合いや絆に飢えている。特殊過ぎる自身の境遇から、無意識に受け入れられない事に恐れを抱いているんだよな。

 本人に自覚が有るかは疑わしいが……

 

「エヴァ……

それは来年の卒業間近の方が本当は良いのじゃろう。彼女達とまだ一年近く過ごせるからのぅ。しかし儂には時間が無いのじゃ。

エヴァの学園での立場を固めてから辞するとなると……直ぐにでも教職員として雇わなくてはならないが。良いのか?」

 

 正直な所、タイミングが悪い。ネギ君が来る時に、闇の福音をフリーにする……端から見れば、何か企んでいると疑われても文句は言えない状況だ。

 しかし、来年度迄は待てない。僕の寿命的な意味で……

 

「良いだろう……ヤツらには学園に居る限り会えるからな。しかし、ネギを副担任にするんだろ?なら私は何をするのだ?」

 

 エヴァの、洋ロリに出来る事?何だろう……常識的に見れば、何も無いな。

 労働基準法・労働安全衛生法・学園の労働規則……全てに抵触するよね。

 

 んー幾ら非常識の塊な麻帆良学園でも、対外的に目立つ部署は無理、か……それに魔法使いにも跳ねっ返りは居るし……

 彼女なら返り討ちも可能かもしれないが、それはそれで良い排除の理由にしかならない。

 

「エヴァ……

普通の教職員は無理じゃろ?お前さんの容姿ではな。なら儂の護衛を兼ねた秘書的な仕事を表として。

裏は、今まで通り侵入者の対処。裏の魔法関係者には、儂が近くに居る事を条件に融通をきかせられる。

しかし……

表の理由は、儂がロリコンでエヴァを侍らせているみたいじゃな。これは問題じゃぞ」

 

「…………確かにな。私がジジィの傍に居るとなると……幻術で成長するか?相応の年齢ならば問題無いだろ?」

 

 美人秘書ゲット!

 

 それはそれで反感を買いそうだが……どうせ2カ月程度だから問題無いかな?

 

「良いじゃろう?エヴァは学園長秘書として雇い入れよう。茶々丸はどうするのじゃ?」

 

 直立不動でエヴァの脇に立つ茶々丸に声を掛ける。

 

「私は常にマスターと一緒ですから……秘書二号でお願いします」

 

 正直、秘書としてのエヴァは役立たずだと思っていた。しかし、茶々丸とセットなら十分だ!これで有能な護衛と秘書を雇えたぞ。

 

「では、しずな先生に手続きを頼もうかの……給料や待遇については色を付けよう。

あと魔法関係者の根回しもしておく。くれぐれも問題を起こすでないぞ」

 

「分かった。しかし、幾ら雇われといっても私のポリシーに反する事は了承しない」

 

 いえ、エヴァに求めているのは僕の護衛だけです。それ以外は求めていません。

 

「構わんよ、それで。こちらも無理強いはしない。あくまでも儂の護衛じゃ。儂も一度狙われているから、それの用心じゃ。

しかし闇の福音が儂に雇われたと言う情報は広まるぞ!それは良いじゃろ?」

 

「今更だよ、それは……私が此処に居る事は調べれば直ぐに分かる。何故居るか?

学園長が了承せねば、私は此処に居られない。私とジジィが繋がっているのはバレてるよ」

 

 そう調べれば分かる……調べる?何だ?

 

 連想で思い浮かぶ記憶は……警戒……超……茶々丸の制作者……茶々丸を傍に置く事は、彼女に情報が流れる……

 

 得体の知れない女。

 

 麻帆良の最強頭脳……この警戒心と焦燥感は……

 

「ジジィ、ジジィ?どうした?大丈夫か、ボケたのか?」

 

 エヴァに肩を揺すられて意識が戻る……

 

「あっああ……すまないのぅ。儂も年かの……」

 

「ツマラナい冗談はよせ!私とジジィは共犯者なんだぞ!しっかりしろ」

 

 ん?共犯者?雇用関係だよね?

 

「雇用者と非雇用者じゃぞ。儂は清廉潔白な老い先短い老人じゃ。面倒事は遠慮したいのぅ」

 

 そこんところヨロシク!

 

「ふん!ジジィが何かを企んで私と茶々丸を引き込んだと周りは思うだろう。真実よりも状況を周りは信じるぞ」

 

 ニヤニヤしやがって洋ロリがぁ!しかし、気になる事が有るのだが……

 

「エヴァよ。超とはどうなのだ?

茶々丸の制作者であり麻帆良の最強頭脳……魔法関係者は彼女を過剰に警戒しておる。

彼女は、儂らと敵対するかの?それとも不干渉かの?」

 

 エヴァは顔をしかめながら「超鈴音、か……私にも彼女が何を考えているのかは分からない」と言った。

 

 2001年に麻帆良学園に入学してから、数々の功績を残す才女。資金も豊富、自身も有能。

 若くして成功した、ネギとは対極の天才少女。爺さんは彼女が敵対すると感じていた……

 

「敵対しなければ良いのじゃが……最悪でも不干渉で居たいの……」

 

 何故か茶々丸の目を見て話してしまった。茶々丸の制作者なら、彼女の記憶……データを閲覧出来るだろう。

 だから茶々丸を通して、超に質問を投げかける。

 

 どうでる?麻帆良の最強頭脳さん。

 

「考え過ぎではないか?超は確かに胡散臭いが、敵対する意志はないぞ」

 

 

「今、はね……儂も学園長として、辞する迄は学園を守らねばならないからのぅ。どんな手を使っても……」

 

 エヴァと茶々丸は、僕が過剰な程に超鈴音を警戒している事に疑問を持ったみたいだ。

 彼女等にすれば、超鈴音は茶々丸の制作を通じて協力関係に有るからね。無意識下で仲間と思っている節がある。

 しかし関東魔法協会の力をもってしても、入学前の一切の情報が掴めない。完璧過ぎる程、過去に存在した痕跡が全く無い。

 これは異常な事だ。彼女は、僕にとって敵なのだろうか……

 

 

 

 ログハウスの応接室。

 

 先程まで居た学園長を送り出しても、まだ主従は残っていた……

 

「茶々丸……ジジィは余程、超鈴音を警戒しているのだな。何故だと思う?」

 

 あれ程の露骨な警戒……あの喰えないジジィがだ。

 

「私の制作者の1人、超鈴音……麻帆良学園に入学する前のデータが有りません。人1人の痕跡を完璧に消すのは難しい。

特に……あれ程の有能な人物が今迄ノーマークなど有り得ないのでしょう」

 

「得体の知れない天才少女、か……」

 

「それに……」

 

 茶々丸が珍しく言い澱んでいる。

 

「何だ?何か気になる点が有るのか?」

 

 何故か言い辛そうに口を開いた。

 

「訳有りの天才少年を迎え入れなければならない学園長からすれば、胡散臭い超鈴音は警戒する相手かと……

それも踏まえて、ネギ・スプリングフィールドを男子中等部に放り込んで彼女達からの接触を極力避けさせる。

序でに超陣営側と目される私達を学園側に引き込みにきたのかと……一連の行動は理に叶っています。そして、超陣営よりも学園側に……

学園長に付いた方が私達のメリットは大きいかと考えます」

 

 この寡黙な従者が、珍しく長い台詞を言う。しかし内容は、そう言われれば確かに納得出来る部分も有る。

 我々を仲間に引き込む。又は中立の立場を取らせる為に譲歩した。

 

「やはり喰えないジジィか……しかし登校地獄を緩和させられるのは、今のところジジィのみ。

ジジィは……

関東魔法協会の会長の座も、麻帆良学園のトップの座も辞すると言った。本気なのは分かるのだが……」

 

 手に持っていた、冷めた紅茶を一気に飲み干す。

 

「どちらにしても、我々はジジィに雇われた身……無理な要求でなければ割り切ってやるしか有るまい」

 

 それにジジィは……

 あの喰えないジジィが私を本気で心配していた。私が人の感情の機微に詳しくなったのは、追われ始めてからか……

 600年の逃亡生活の中で培った、人の表情や動作で感情を知る技術。まだ力の弱かった時には、随分と助けられたのだ。このスキルに……

 だからこそ確信が持てる。ジジィは、私を本気で心配していた。

 自分が引退した後に、私がどうなってしまうのかを……年老いた事で、ジジィの感情が変わってきたのか?

 それとも麻帆良学園を去る前に、私を何とかしようと思ってくれてるのか?

 

「茶々丸……ジジィは変わったな。良い方に……

以前の様な得体の知れない感じがしない。感情が素直になっている。何故なのだろうな?」

 

「何者かの変装、薬物や魔法による人格操作……いずれの兆候も認められません。

学園長は本人で有り、何かしらの精神操作も認められませんでした……」

 

 私のスキルでも偽物ではないと思った。科学的なデータでも、それは裏打ちされた、か……

 つまりジジィは本心から私を心配し、何とかしようとしていると言う事か。

 

「まぁ良いだろう。ジジィが引退する迄の間に、身の振り方を考えよう。

ヤツが心配してくれているのだ。最悪丸ごと面倒を見て貰おうではないか」

 

 今まで15年も麻帆良の為に働かされたのだ。それ位は押し付けても良いだろう。案外ジジィも、それを見込んでの心配やもしれん。

 

 しかし……

 

 茶々丸やチャチャゼロ以外で心配されるなど、何時以来だろうか?

 

 そもそも真祖の吸血鬼を

 

 賞金首のお尋ね者を

 

 心配するヤツなど居なかった。

 

「ふっ……まさか最初に心配してくれた相手がジジィとはな。笑い話にもならないな」

 

 そう毒づきながらも、頬が緩むのが分かる。ジジィと私との絆とは何なのだろうか?

 雇用者・非雇用者?騙し騙され、利用し利用される腐れ縁?

 

「茶々丸……誰かに心配されるとは、妙な気分だな」

 

「それが学園長なら、尚更でしょうか?」

 

 静かに笑い合う、主従2人であった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 エヴァのログハウスを後にして、ゆっくりと自宅に向かい歩いて行く……エヴァと茶々丸が、こちら側に付いた。

 彼女の力は、僕にとってどう影響を及ぼすのか?護衛としては、タカミチ君に次いで強力だ。

 秘書として、またサポートとしての茶々丸も心強い味方になるだろう……だが、情報は超鈴音にも流れてしまう。

 彼女が何を企んでいるのかは、分からない。

 僕が引退をすると知れば、それ以降にアクションを仕掛けてくるか、後任との引き継ぎのドタバタで仕掛けてくるか……

 何らかの動きは見せるだろう。

 

 それか……

 

 ネギ・スプリングフィールドが来る明日以降に。やはり厄災の元はネギ君だと、ヒシヒシと思う。

 爺さんのカンなのか、僕の不安がそう思わせるのか……準備と警戒を更にしておく必要が有りそうだ。

 全く、余生を穏やかに過ごしたいだけなのに……余計な事ばかり降り懸かってくるよね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 某未来の火星人のラボ

 

 

 

 茶々丸から転送されたデータを見て呆然とする超鈴音……

 

「何故?何故カ?学園長が引退?ネギ・スプリングフィールドが男子中等部の副担任?

そんな事は……そんな過去は知らないネ。

そもそもネギ坊主が、2-Aの連中と絆を持たなければ私自身が生まれてくるかも疑問ダ。拙いネ拙いネ拙いネ!

私が来た事によって学園長の警戒心を引き上げてしまったカ?」

 

 自分も全ての過去を知っている訳ではない。当時の記録が全て残されている訳ではないのだから……

 しかし、茶々丸のデータやその時代の他の記録等を総合的に考えて推測していた。

 

 しかし、しかしだ!

 

「やはり、この過去はおかしいネ!ネギ坊主は2-Aの副担任となり彼女達と絆を結び、魔法世界に送り出さねばならないネ」

 

 計画を大幅に変更しないといけないネ……先ずはネギ坊主と明日菜を引き合わせて。それから順次2-Aの連中と引き合わせる。

 クラスで会えないなら、個人的な出会いをさせれば良い。私が偶然を装って彼女達に会わせまくれば良い。

 あのラッキースケベなネギ坊主の事だ。次々と彼女達との絆を結んでいくだろう。

 

「こんな事で、私の計画を潰させないネ!」

 

 全く迷惑な未来人だった……

 

 

 

 そして、ネギ・スプリングフィールドが……この物語の中心人物が、麻帆良学園の大地に降り立った!

 

 

 

 麻帆良学園の登校風景は絶景だ……

 

 何百人と言う女生徒が、走ったり自転車に乗ったりローラーブレードやスケボー等、色々な移動手段を使い各々のクラスに向かっている。

 一部、普通なら持ち込み禁止の物を使い登校しているのだが……歩くロボットに乗ってるのは、どうなんだ?没収すべきだろうか?

 何故、登校時間帯に女生徒達の流れに逆らって車を走らせているかと言えば……単純にネギ・スプリングフィールドの出迎えだ。

 

 彼はイギリスから飛行機で成田空港へ到着。天才少年は事前に色々と調べていたらしい。

 そしてモノレールや在来線でなく、空港から発車する長距離バスをチョイスした。

 確かにバスなら乗り換え無しで大宮までこれるのだが……周りの人達に話し掛けながら、どのバスに乗り何処へ行きたいかを聞いたのだが何故か大崎駅に着いたそうだ。

 

 埼玉県の麻帆良市に行きたいので「大宮駅」に行きたい、が。

 埼玉県の麻帆良市に行きたいので「大崎駅」に行きたい、と。

 

 聞いた人も間違いを教えた訳ではあるまい。確かに埼京線の始発駅でもある大崎駅からなら、大宮駅まで繋がっている。

 ネギ君も途中で目的地が違う事に気付いたが、大宮駅まで行ける事を確認出来たので問題無いと思ったらしい……確かに初めての外国。

 日本に来て、日本語で会話しながら此処までのルートを調べたのは10歳としたら大したものだろう。

 

 しかしネギ君は日本の通勤事情を舐めていた。特に埼京線とは、混雑と痴漢がハンパない電車なのだ……

 彼は可愛い外見が災いして、また外国人の少年と言う珍しさからか?

 通勤中のOLや女生徒達から揉みくちゃにされたらしい……大崎駅から大宮駅までの間、ずっと。

 

 早朝のラッシュ時だと45分は掛かる。その間、女性に揉みくちゃにされていたそうだ。

 周りの乗客も子供だし、痴漢行為では無いと思って微笑ましく眺めていた。しかし大宮駅でJRの駅員さんに助け出された時には、半裸でキスマークだらけの彼は女性恐怖症のごとくしゃがみ込んで怯えていたそうだ……

 気の毒に思った駅員さんが目的地で有る麻帆良学園に連絡を入れて、ワザワザ最寄りの麻帆良学園都市中央駅迄同行してくれたのだ。

 連絡を受け、直接話した彼は涙声だった……

 しかも駅員さんは、ネギ君が麻帆良の小学校に転校したと思っているので彼が先生として赴任したと言い出した時に酷い精神的ショックを受けているので救急車を呼びましょうか?とか言い出したのだ。

 

 僕が早く迎えに行かなければならない。麻帆良学園の学園長たる僕が行けば、大事にはならないだろうし保護者として僕以上の者は居ないのだから……

 お抱えの運転手さんを急かせて麻帆良学園都市中央駅に付いて、駅員さんに声を掛ける。

 

 人の良さそうな駅員さんは「ああ、あの少年の保護者の方ですか?彼は駅務室に居ますよ」そう言って案内してくれた。

 

 改札の奥の駅の事務所?に入ると、ネギ君がソファーに座り缶の紅茶を飲んでいた……確かに強姦魔に襲われた様にボロボロだ。

 

「ネギ君や。ネギ・スプリングフィールド君。大変だったみたいじゃな。儂が近衛近右衛門じゃ。麻帆良学園の学園長じゃよ」

 

 捨てられた子犬の様に縮こまっていたネギ君が顔を上げる。

 

「わーん!学園長さん、怖かったです」

 

 そう言って僕に抱き付いて来た。正直、ショタでも何でもない僕は困ってしまったが、空気を読んで軽く抱き締めると背中をポンポンと叩いた。

 

「さぁ麻帆良学園に行こうかの……お世話を掛けました。彼は儂が連れて行きますので」

 

 周りで見守る駅員さんにお礼を言って、ネギ君と手を握り外へ出る。

 

「僕、1人で混んでいる電車に乗っちゃ駄目だよ。今度は気を付けてね」

 

 駅員さんに暖かい言葉を掛けて貰い、ネギ君も落ち着いた様だ……取り敢えず待たせていた車に乗せる。

 ネギ君は、リムジンが珍しいのかキョロキョロしていたが後部座席に座ると俯いてしまった。

 暫くは無言で目的地に向かう。流石に赴任先の学校には行かずに、学園長室が有る本校女子中等部にだ。

 既に授業は始まっており、生徒はクラスの中。ネギ君と無人の廊下を歩き学園長室に入る。

 先ずはソファーに座らせて落ち着かせる為に話し掛けた。

 

「大丈夫かの?今日は簡単な説明と住む所や同僚の紹介で終わりにしようかの?」

 

 この状態では、授業は厳しいだろう。幸い荷物は先に届いており、彼の部屋に運び込んである。

 今日は麻帆良学園の事や注意事項、明日からの説明で終わりにしよう。

 

「あっ有難う御座います。僕は……イギリスでも田舎のウェールズ育ちなので、人があんなに沢山乗る電車なんて初めてで……

それに、あの女の人達の目が……」

 

 自分の肩を抱き締めながらブツブツ言い出したぞ!トラウマになってしまったのか?

 

「ネギ君、大丈夫じゃ!もう此処には君を襲う女性は居ないぞ」

 

「はぁはぁ……すみません、学園長。もう平気です」

 

 精神的に不安定なせいか、魔力が漏れ出してるな。目に見えて分かる位に……その時ドアをノックする音と共に、しずな先生が入ってきた。

 

「学園長、ネギ先生の手続き書類をお持ちしました。あら?

貴方がネギ・スプリングフィールド君ね。宜しくお願いします。私は源しずなです」

 

 そう男性なら頬を緩ませる様な微笑みを浮かべて、ネギ君に手を差し伸べる。

 

「おっ女の方……女性、いや僕はオモチャじゃない……そんな所を触らないで……」

 

 いかん!魔力の高まりが!

 

「はっハックション!」

 

 クシャミと共に、ネギ君から魔力の奔流が溢れ出し……しずな先生のシャツを吹き飛ばした!

 

「オオ!ワルダフルな双子山が……ブラは薄紫色じゃ!」

 

 思わず前屈みでガン見してしまった。

 

「あわわわわ……」

 

 自分の魔力の奔流に呑まれてか、足元が覚束ないネギ君がしずな先生のはだけた胸へとよろめいた。

 ボフン!と擬音が出そうな弾力の双子山に顔を突っ込むネギ君。正直、羨ましい。

 この一連のラッキースケベ状況をただ見詰めるしか、僕には出来なかった。大人の女性とは、なんと素晴らしき物をお持ちなのだな、と。

 気が付けばネギ君は、しずな先生のビンタを受けて壁に吹っ飛んでいった……

 

 しずな先生?魔力か気で身体強化なんて出来ましたっけ?

 

 はだけたシャツを前に寄せて、豊満な胸を隠した彼女に羽織りを渡す。勿論、目線は避けたままで……

 

「学園長?このチカン少年がネギ・スプリングフィールド君で間違い無いのですか?」

 

 壁に張り付き「女の人、コワい。コワいよう……」と呟いているネギ君……

 

「そうじゃ。間違い無くネギ・スプリングフィールド君じゃ。

しかし……女性恐怖症なのにラッキースケベか。これから大変じゃの」

 

 主人公属性たるラッキースケベ。女性との縁に困らない、このレアスキルを持つ少年は女性恐怖症だった。

 僕は彼に漢としての教育を施すつもりだった。

 しかし、女性恐怖症を治さないと大変なトラブルを引き起こさないか、彼は?

 女性に慣れさせる教育もしなければならないのかな……既に入念に考えた筈の教育計画が破綻した音が聞こえた気がしました。

 

 

 

 緊急召集、そして緊急会議が始まった。

 皆の期待を背負った英雄の息子ネギ・スプリングフィールドが、麻帆良学園にやって来た。

 それ自体は喜ばしい事なのだろう、彼らにとっては……しかし彼は、日本に来ていきなりトラウマを背負ってしまった!

 天才少年は成田空港から自力で麻帆良学園に向かった。

 

 埼京線に乗って……

 

 そこで彼は、主人公属性+ラッキースケベのスキルが誤発動したのか?周りのOLさんや女学生さん達に揉みくちゃにされたらしい。

 普通に考えれば、満員電車内で若い女性に囲まれてウハウハだろう?

 しかし大宮駅で駅員さんに発見された時、彼は半裸でキスマークだらけだったらしい……何が有ったのかは、彼しか知らない。

 しかし女性全般が恐怖の対象になる位の「何か?」が、有ったのだろう……僕が迎えに行った時は捨て犬みたいだった。

 

 しかし、流石は主人公属性のラッキースケベスキルは半端ねぇ!

 

 学園長室にやって来た、しずな先生に発動。魔法の暴走で彼女のシャツを吹き飛ばしブラを露出させた後に、足のもつれを装い胸の谷間にダイブ!

 まだ誰も触れた事がなかろう彼女の巨乳にパフパフしたのだ。間近で見ても信じられない、まさに奇跡の様な出来事だった……男として羨ましい!

 

 

「学園長!聞いているのですか?これは一大事ですよ。ネギ君に女性恐怖症を植え付けるなんて!」

 

「そうです!どうするんですか?」

 

 タカミチ君とガンドルフィーニ君のダブル口撃に、一瞬怯む。僕の執務机をバンバン叩いて威嚇するのは、どうかと思います。

 僕は一応、最高責任者ですよね?ああ、だから責任を取らないといけないのか……不条理だ!

 

「どうにもこうにも……まさか痴漢被害にあってトラウマになりました!それでは通じないじゃろうな、本国は……」

 

 本国と言う言葉に皆が黙り込む。

 

「トラウマの記憶を消しましょう……普通の治療、メンタルケアでは間に合わない」

 

 明石教授が良い事を言った!人間として問題有りだ。でも記憶消去とか操作って痕跡が残るよね?

 それに無意識に膨大な魔力で抵抗するネギ君に通用するかが問題だな。

 

「しかし……副作用が出たら、どうしますか?正規の治療の方がリスクが少ないのでは?」

 

 弐集院先生……常識的です。本当に彼は、この中ではマトモな部類だ。

 

「しかし時間が……本当に情報が本国に行く前に治さないと大変な事になりますよ」

 

 これも本当です。英雄予定のネギ君の経歴にキズが付くのを周りは認めないだろう。

 彼を綺麗な英雄にしたいのだから……ナギの過去の武勇伝とかは捏造されたしな。

 本当は魔法学校を中退。武者修行と力試しの一環で戦争に介入。

 

 そして実は魔法は……呪文を覚えるのが苦手で、常にアンチョコを持ち歩き使える呪文も数が少なかった。

 ただ膨大な魔力に物を言わせた技術的には劣等生だったのだ。

 しかしネギ・スプリングフィールドはメルディアナ魔法学校をスキップして主席卒業!呪文の習得も順調だ。

 本当の意味でのサウザントマスターを継げる可能性を持っていた。

 

 ここで失敗は許されない。

 

 しかし平気で記憶操作を行おうとする発想は……今更驚かないのは、僕が爺さんの思考に染まりつつあるのだろう。

 これが最善と思ってしまうところも……

 

「兎に角、早急な治療が必要じゃ。

しかし記憶の消去や操作は痕跡が残る……これを調べられれば我々が、関東魔法協会がネギ君の記憶を良い様に作り替えた。

自分達の都合の良い様に改造したと思われたら危険じゃ!我らに謀反の疑い有り!そう思うじゃろう……」

 

 本国に変な疑いをかけられたら大変だ。

 

「確かに本国からすれば、ネギ君を……大問題ですね。では、どうします?」

 

「記憶を弄るのは良くないです。やはり自然な方法で治療を……」

 

 

「我らに謀反の疑い有りとは大袈裟じゃないですか?たかが記憶の消去位で」

 

「それこそ本国にバレる前に魔法での治療を急ぐべきだ」

 

 

 意見が真っ二つに分かれた……弐集院先生・明石教授と女性陣は反対。ガンドルフィーニ君・タカミチ君と瀬流彦先生は賛成。

 いや瀬流彦先生は保留か?この辺に魔法使いのモラルと言うか、考え方がはっきり分かるよね。

 トラウマがバレても処分、魔法で記憶を弄って治療してもバレたら処分。通常のメンタルケアでは時間が掛かりすぎる。

 治る前にバレても処分。

 

 処分・処分・処分……しかし記憶を弄るのはリスクが高すぎる。

 

 ここは時間との戦いだが、メンタルケアで対応するしかないかな……

 

「記憶を弄るのはリスクが高過ぎるのぅ。ここはシスター・シャクティーとその教え子達の魔法生徒にお願いしようかの。

シスター・シャクティーは聖職者で有るから適任じゃ。それに教え子達魔法生徒もネギ君とは年も近い。どうかの?」

 

 シスター・シャクティーの目を見ながら話す。ネギ君に女性を会わせない当初の計画は変更するしかない。

 幸いシスター・シャクティーは聖職者だし教え子達も魔法生徒。最悪、ネギ君の従者となっても一般人ではないから仕方ない。

 それにラッキースケベスキル所持者が女性恐怖症など笑い話にしかならないぞ。スキル発動→女の人怖い。

 考えただけでも騒ぎが大きくなるよね。

 

 スケベな事をされたのに、犯人は被害者を怖がるなんて……

 

「分かりました。私と美空、それにココネの三人でネギ君のメンタルケアを行います」

 

「おお、やってくれるかの!良かった、任せたぞ。他の先生方も良いな?

ネギ君の治療はシスター・シャクティーが担当する。皆、彼女に協力するように……」

 

「1つ条件が有ります。私は聖職者ではありますが、医師では有りません。

専門の医療機関の協力をお願いしたいのですが、宜しいでしょうか?」

 

 それは当然だ……何で気が付かなかったんだろう?

 

「勿論じゃ!費用その他必要な物は、全てこちらで持とう。では宜しく頼むぞ」

 

 彼女が頷くのを見て、少し安心した。これで上手く行けば良いのだが……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 魔法関係者が一同に集まって喧々囂々と話し合っている頃、ネギ君は宛がわれた部屋で荷物整理を終えて不足品の買い出しに街に向かっていた。

 

「はわわー!初日から失敗して学園長に心配を掛けてしまいました。明日からは頑張るぞー!」

 

 決意を新たに街に繰り出すネギ。しかし彼は狙われていた。ネギ・スプリングフィールド漢化計画に反対する自分の子孫から。

 

 超鈴音……

 

 彼女はネギ・スプリングフィールドが歴史通りに2−Aの連中とバカ騒ぎの末に、彼女達と魔法世界に行く事を望んでいる。

 自分の未来知識が使えなくなる様な、自分の知らない歴史はお断りだから……

 

「こんな歴史は知らないネ!私が来た事で歴史が変わるなら、自分の手で修正するネ!」

 

 

 

 超鈴音……

 

 麻帆良の最強頭脳。僅かな期間で成功し、成果を上げ続ける天才少女。

 しかし麻帆良に来る前の記録が一切無い警戒すべき相手。

 彼女程の人物が過去に話題にならないのが不思議だし、あれだけ有能な人物が疑われるのが分かっている様なミスをするだろうか?

 ハッキングでも何でも電子記録に自分の過去を捏造する位は簡単な筈だ。

 人付き合いの少ない、人の入れ替わりが激しい都会なら疑われずに存在した記録は残せるかも知れないのだから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 彼女はネギ・スプリングフィールドが2−Aの連中と自然に出会える様に、先ずは何人かの生徒に引き合わせる事にした。

 それから話題を作り、他の連中が興味を持つ様にする……朝倉辺りが食い付けば、楽にクラス全員に広まる。

 

 後は彼女達を焚き付ければ簡単だ!

 

 お祭り大好きな連中だから、こんなイベントは見逃さないだろう。

 

「ふふふふふ……私を舐めたら駄目ネ!」

 

 そう言ってネギに張り付けている監視ロボから彼の現在位置を確認する。彼は商店街の方へ向かっているみたいだ。

 先回りしてネギが何か買う所で偶然を装って話し掛けよう。

 先ずは直接話し掛けてみて彼の性格等を確認し、これからの対策を練れば良い。送られてくる位置情報を確認しながら彼に近付いて……

 

「何あるかネ?あの格好は……幾ら麻帆良が田舎とは言え、アレは絶滅危惧種……いや既に絶滅しているはずネ……」

 

 超の目線の先には!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 時間を少し遡り、ネギ・スプリングフィールドが宛てがわれた部屋にて届いた荷物を整理していた。

 学園長が送ってくれた漫画。努力・熱血そして漢臭い友情の物語。

 日本の漫画・アニメ文化は世界が認知する程で有り、イギリスの田舎に居たネギも情報は知っていた。

 

 しかし……実物を読むのは初めてだった。

 

「これが、僕に足りない物なの?どうしたら良いかな?確か日本の諺には……

 

 郷に入っては郷に従え!先ずは形から入る!なんて言葉が有った筈だ。だから、この本の主人公達の衣装を取り寄せよう。

 そう考えて取り寄せた衣装に袖を通す……

 

「今日も元気にドカンを決めたら洋ラン背負ってリーゼント!……洋ランと長ラン。それに短ランとか漢の装束って難しいです」

 

 ネギは80年代の不良……所謂ツッパリのファッションが漢の装束と勘違いしていた。

 厳密には洋ランも長ランも彼の身長では長さが足りず、見た目はブカブカでサイズの大きい……

 それこそ、お兄ちゃんのお古を着て背伸びをしたい少年のようだった。

 そして、その格好で街に繰り出せばショタなお姉様方の注目を一身に集める事となる。特に委員長とかは堪らないだろう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 折角のネギ・スプリングフィールドとの接触だったが、あんな珍妙な格好をしている事に呆然として見送ってしまう……

 歴史では、この時代のネギは父親と違い品行方正なイギリス紳士だった筈だ。それが、一昔前の日本の不良スタイルをしている。

 

「何が……何が有ったネ、ご先祖様?もしかして歴史書は捏造されていて、実はネギもナギと同じだったのカ?」

 

 呆然と見つめる先には洋ランの裾を自分で踏んでしまい、よろけるネギが居た。

 よろける先にはウルスラの制服を着た、女子高生のお姉様が!彼女は少年がよろけるのを屈んで受け止めてくれた。

 

「あらあら、僕大丈夫?」

 

 微笑ましい一幕だ……周りの人達も精一杯背伸びをしたい少年と、転びそうな彼を助けた彼女を微笑ましい物として見ている。

 

「はわわわわっ!すみません、有難う御座います……おっ女の人ですかっ?」

 

 しかし抱き止められたネギが、彼女の髪の毛に鼻を擽られたかクシャミをした。そのクシャミと同時にネギの体から魔力が溢れ出す……

 

「はっハックション!」

 

 結果、彼女の制服は吹っ飛び下着姿になってしまう。

 

「キャー!なっ何で服が突然?それに……魔力?」

 

「「「ウォー!」」」

 

 どよめく観客達……見目麗しい女子高生のストリップが白昼堂々と見れたのだから!

 

 眼福、眼福。

 

「うわーん!女の人、怖いですー」

 

「ちょちょと僕?私に何をしたのよー?コラー、まてー」

 

 何故か加害者のネギが、あたかも被害者の様に傷付いた様子で叫びながら逃げ出して行った……

 残されたウルスラの女子高生には、周りのオバサンが優しく上着を掛けている。

 しかし公衆の面前でストリップショーをさせられた彼女は、どれだけ傷付いているのか分からない。

 私だって、同じ事をされたら羞恥心で死にたくなるだろう……騒ぎを聞きつけた魔法関係者が集まってくる。

 私が此処に居るのを見られるのはマズい。

 それに魔法関係者が来たならば、記憶操作処置をするので彼女は大丈夫だろう……

 

「しかし……アレがネギ・スプリングフィールドの持つ伝説級のスキル、ラッキースケベ?何、あの迷惑スキル?」

 

 もし自分に発動したら……

 

「毎回、衆人環視の中でストリップショーをさせられるのカ?」

 

歴史書で読んだ「伝説のストリッパー!クマぱんつ明日菜」「ウルスラの脱げ女!露出狂高音」の二大痴女伝説とは……

 

「ご先祖様のせいカ?てっきり彼女達が変態性癖の露出狂と思ったガ……毎回脱ぐんじゃなくて、脱がされたのカ?」

 

 こんな歴史は知らないし、女の敵のネギを2−Aの連中に引き合わせて平気なのカ?

 私は史上最大の女の敵を育てようとしてはいないカ……

 

「分からないネ……アレをこの世界の中心にして、本当に良い事なのカ?私は間違っているのではないカ?」

 

 自問自答しても、正しい答えが返ってくる訳はなかった……魔法関係者の努力も虚しく、ここに新しい伝説。

 

「麻帆良の商店街通りのストリッパー伝説」が広まる。

 

 犯人は80年代の不良に扮した子供で、若い女を片っ端からストリッパーに仕立て上げる!

 

 その被害者は10人を上回った。全てが若い女性だ。

 このネギ・スプリングフィールドが起こした騒動を沈静化する為に、近衛近右衛門は苦労と苦悩をする……

 散々記憶操作はいけないと言いつつも、一般人達から被害者の女性達がストリッパーで無い事を……

 そんな破廉恥な事件が無かった事にしなくてはならないから。手っ取り早いのは、駄目だと言った記憶操作しかなかった。

 

「ネギ君……君、普通なら試練失格だから……早くイギリスに帰ってくれよ……」

 

 近衛近右衛門に憑依した主人公の苦労は続く。

 

 

 

 ネギ・スプリングフィールドのトラウマ対策会議の最中に、その当人が一般人を脱がしていると言う報告が入った。

 

「はぁ?ネギ君が商店街で女性の服を脱がしている?何を言っているのじゃ」

 

 電話先の魔法関係者は巡回中に騒ぎが起こった場所に向かえば、丁度ネギ君が魔力の奔流で一般人の服を吹き飛ばした瞬間だった。

 慌てて人払いの結界を敷き、当事者達を眠らせて現場を保存したそうだ。その間にネギ君は走り去ってしまった。

 被害者や周りの一般人も記憶を操作せねば、大事になるだろう……

 

「兎に角、儂が行くまで現場に居るのじゃ!人払いの結界の維持と目撃した一般人は確保しておくのじゃぞ」

 

 電話を切ると、皆が不安そうな顔をしている。特にタカミチ君などは、信じられない顔をしている。

 

「学園長……今の電話は?」

 

 心配そうな顔で弐集院先生が聞いてくる。漏れ聞こえた単語だけでも不穏な内容だ……落ち着かせる様に周りを見回してから答える。

 

「ネギ君が街で一般人相手に魔力を暴走させているそうじゃ。トラウマが引き金になったのか……兎に角、落ち着くのじゃ!先ずは情報を把握するぞ」

 

 一応、服を脱がしたと言う破廉恥行為は濁して伝える。いらん不安を煽っても仕方ないからね。

 

「まっまさか?誤報ではないのですか?まさか英雄の息子が問題を起こすなど!有り得ないでしょう」

 

 彼らの色眼鏡は危険域を越えているのかもしれない……無条件でネギ君が正しいと信じ、現場の報告を疑うなんて!

 現実を突き付けても信じないんじゃないのか、コイツらは?これは危ないぞ……僕にとっても、ネギ君にとっても。

 

「仕方ないの……では直ぐに現場に向かうんじゃ」

 

 口で言っても駄目なら、現実を見せるしかない。率先して現場に向かおうと立ち上がったその時、携帯が鳴る……

 ディスプレイに表示されているのは、先程とは違う魔法関係者の名前だ。

 嫌な予感を思い浮かべながら携帯の通話ボタンを押す。相当慌てた声が聞こえる。

 

「がっ学園長!大変です。

ネギ君が魔力を暴走させながら街中を走っています。凄い勢いで……認識阻害の魔法が追い付きません。

一般人にも不審に思う連中が出始めて……学園長?学園長、聞いてますか?」

 

 目の前が真っ暗になるとは、この事か……何やってるんだネギ君?

 

「分かった。儂らも直ぐに其方に向かう。兎に角、ネギ君から目を離すんじゃないぞ」

 

 電話を切って皆に向かう。

 

「現時点でネギ君が重大な違反をしている事は明らかじゃ!

しかし今は、そんな事はどうでも良い。兎に角、暴走したネギ君を確保する。

そして、この事件の収束を速やかに行うんじゃ。

葛葉先生と神多羅木先生、それにタカミチ君はネギ君を速やかに取り押さえるんじゃ!気絶させても構わん。

ガンドルフィーニ先生とシスター・シャクティは儂と現場に向かい一般人への対応じゃ。

記憶消去・操作は致し方ないが安全には十分注意して欲しい。各々任されている魔法生徒を使っても良いぞ。

緊急事態じゃからな。弐集院先生はインターネット上に情報が流れ出さない様に対応して欲しいのじゃ……

何人もの女性が被害にあっているのじゃ。既に情報が流れているやもしれん。茶々丸君を手伝わせる。協力して当たってくれ!

皆も色々言いたいじゃろうが、今は事態を収めるのが先じゃ!」

 

 そう言うと皆が部屋の外へ走り出した。自分も走りながら携帯で茶々丸君に電話をする。

 

「……もしもし?儂じゃ。不味い事になっての。ネギ君が街中で暴走した。

それで弐集院先生を手伝ってインターネット上の情報を潰して欲しい。それとエヴァに代わってくれんか?」

 

 茶々丸が協力してくれれば、弐集院先生の方は問題無いだろう。

 

「どうした、ジジィ?随分と慌てているな」

 

 呑気な声が聞こえる。全く人事だと思いやがって……

 

「ああ、エヴァか?すまんが頼まれて欲しい。ネギ君が街中で暴走してしまっての。

インターネット上の情報操作は弐集院先生と茶々丸君なら問題無いじゃろ。

しかし……

ネギ君の鎮圧に葛葉先生と神多羅木先生、それにタカミチ君が向かった。

しかし英雄崇拝のタカミチ君は不安じゃ。陰ながらフォローしてくれぬか?」

 

 手出しを遠慮しては、鎮圧も時間が掛かる。早くぶっ叩いてでも止めて欲しいんだよ。

 

「ふん。英雄の息子に手を出すなと言ったのはジジィだぞ?この貸しは高く付くぞ」

 

 楽しそうにしやがって……

 

「分かった!秘蔵の酒と、3日間の自由を約束しよう。勿論結界の外に出れる自由じゃ」

 

「本当だな?嘘をつくなよジジィ!本当にだな?」

 

「勿論制限は付けるが本当じゃ!だから早く頼むぞ」

 

 携帯を切って、気が付けば僕も無意識で魔力で身体強化をしている事に驚いた。

 学園から走り続けても息切れ一つしないとは、便利だな魔法……そう言えば、この体に憑依してから魔法を使ったのは初めてだ。

 年齢詐称薬はマジックアイテムだからな。

 

「学園長、急いで下さい。そろそろ最初の現場です」

 

 さて、英雄の息子の尻拭いを始めるか……全く面倒ばかり起こしやがって。

 

 ネギ君、恨むぞ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 学園長が一番最初の現場に辿り着いた頃、ネギ君を取り押さえる役目をおった連中も、彼を見付けていた。

 ただ膨大な魔力を垂れ流す痕跡を追えば良いだけだから、ネギ君を見付ける事自体は比較的簡単だ!

 

「高畑先生……どうする?」

 

「どうするも……傷つけずに取り押さえるには?先ずは声を掛けて」

 

 男共の消極的な行動に、葛葉先生が切れ気味にどやしつける!

 

「兎に角、ネギ・スプリングフィールドを取り押さえなければ!私が行きます」

 

 愛刀に手を掛ける彼女をタカミチが押さえる。

 

「待て、刀子君!ネギ君を傷付ける事は許さない」

 

「馬鹿なっ!あの暴走状態では、話し掛けても無駄だし普通の手段では無理です!」

 

「2人共、言い争いは後だ。ネギ君が公園の方に向かった。人気の無い場所に行ったら取り押さえるぞ」

 

 下らない言い争いの最中にネギは遠くへ行ってしまった。

 

 そう……エヴァの待ち構える公園の方へ。

 

 

 

 暴走するネギ・スプリングフィールド。捕縛しようにも、追跡者達は彼を傷付けない様にする為にまごついていた……

 

「高畑先生……ネギ君の格好だが、何だろうか?昔の不良学生みたいなんだが」

 

 ドカンに洋ランの格好は彼にしても懐かしい。

 

「不良学生……不良?優等生?

そうか!ネギ君は自分で気付いたんだな。そう!ナギさんは不良だった。その選択は正しい」

 

 まるで80年代にタイムスリップした格好を誉めるタカミチ。

 

「馬鹿を言わないで下さい。ネギ・スプリングフィールドは教師として麻帆良学園に赴任したのですよ!

それが不良学生で良い訳ないでしょう」

 

 阿呆な話し合いを始めた男2人に苛立ちが隠せない。

 彼女はお堅く生真面目な為に、また被害者が同じ女性なので早くネギ・スプリングフィールドを捕縛したいと焦っていた。

 

「葛葉先生。ネギ君はナギの様な英雄になるのです。

彼は品行方正な優等生では無く、ちょい悪な不良だったのです。ネギ君の選択は正しい」

 

 イラッとして白黒が反転した目でタカミチを見る。神鳴流の剣士は興奮すると白目と黒目が逆転する。彼女は興奮状態に有った!

 あの女の敵をブッ叩きたいと……

 

「2人共、言い合いは終わりだ。ネギ君が公園に入った。内部は人目も少ない。一気に取り押さえるぞ」

 

 影が薄かった神多羅木先生が、2人を宥めて一気にネギ君との距離を詰める!

 

「高畑先生……居合拳を放ってネギ君の前方を攪乱。

その隙に葛葉先生が接近して峰打ちで彼を気絶させて下さい。私がサポートします」

 

 暴走して正気で無い相手は気絶させて捕らえるのが安全だ。見境が無い分、危険な行為も行ってしまうのだから……

 

「「分かった(りました)」」

 

 流石は実戦慣れした魔法教師(葛葉先生は剣士だから違うが)!方針が決まれば行動も早い。

 公園の中央へと暴走するネギ君を捕縛するフォーメーションを組み彼を追い詰めて行く……

 

「いくぞ、ネギ君!居合拳」

 

 ネギの進路を阻む様に居合拳を放つ。着弾した衝撃と轟音、それと粉塵で一瞬ネギの動きが鈍る。

 

「なっ?道が爆発した?」

 

 その衝撃と爆音で正気に戻った。その隙を見逃さず、神多羅木先生が風の捕縛魔法を唱えネギ君の動きを止める。

 

「えっ?何、何なの?体が動かないよ」

 

 葛葉先生が彼との距離を詰めて愛刀を構えて、ネギの正面に突っ込む!

 

「えっ?女の人……痛いっ……きゅう……」

 

 愛刀一閃!

 

 ネギを峰打ちで昏倒させる。ネギは衝撃音で正気を取り戻した。

 その後直ぐに興奮で目の白黒が反転した怖い顔の刀子先生が、目の前に現れて気絶させられた……

 彼の女性恐怖症に拍車が掛かったのは、仕方ないのだろうか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 一連のチームワークでネギ・スプリングフィールドを確保した魔法先生。

 居合拳で壊した公園に、簡単な人払いの結界を施してから立ち去る。後で魔法関係者が直しにくるのだろう……それを木の上から見詰めるエヴァ。

 

「ふむ……流石は実戦慣れした連中だな。ネギ・スプリングフィールドを捕縛したか。

てこずったのは英雄の息子に遠慮してか?ジジィ、大変だな。アレの面倒を見るのか……」

 

「確かに学園長の心配された通りの問題児ですね。学園長の苦労が目に見えます」

 

 音も無く隣の枝に降り立つ茶々丸……君は忍者か?

 

「茶々丸か……そっちの首尾はどうだ?さぞ面白い情報が溢れていただろう?」

 

「はい。麻帆良学園に表れた、ヤング性犯罪者。怪人脱がし坊主。

果ては、強制ストリッパー男などなど……ネットの沈静化には、今しばらく掛かるかと」

 

 どれも10歳児には酷いあだ名だ……しかし、やってる事は一般人女性を無差別で脱がしているのだ。

 理由はどうあれ、性犯罪者には変わらないだろう。

 

「私の出番は無いな。茶々丸、ジジィに報告をしておけ。ネギ坊主は魔法先生方が捕まえたと。

私は何もしなかったが、見守りはしたのだから報酬は頂くとな」

 

 ジジィは麻帆良の外へ3日間出してくれると言った。何もしなくとも約束は約束だ!

 ニンマリしている姿を自分の従者が無表情だが熱心に録画していた……

 

 気付けよ、エヴァ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ネギ・スプリングフィールド捕縛が成功した頃、事件に関わった一般人の記憶操作も終わった。

 人払いの結界を敷いて、魔法で眠らせた人達に記憶操作の処置をしていく。手慣れた感じだ……

 中には被害者の女性もいるが、ちゃんと破かれた衣装も着替えさせた。

 学生服なら同じ物が用意出来るが、私服の場合は似たような物を。みなテキパキと行っている。

 こちらは普段から問題が発生すれば、していた措置なので対応は早い。

 そして記憶操作後、ボーっとしながら人払いの結界の外に歩いていく人達を見ながら思う。

 

「ネギ君の場合は記憶消去・操作の危険性を解いて止めさせた……しかし一般人の彼らには行ってしまった。

幾ら被害者の為とは言え……女性に辱めを与えてしまった事を無かった事にする為とは言え……

謝罪も無しに、ただ此方の都合だけで頭の中を弄くりまわしてしまった。しかも大勢の人達を……これは罪ではないのか?」

 

 何事も無かった様に処置が終わった事を報告に来たシスター・シャクティを見て思う。

 僕も既に爺さんの思考に捕らわれている。つまり同罪だ……悪い行為だと認識していても、仕方ない・当然の処置だ!そう思っている。

 もう一刻の猶予も無いだろう、僕が僕で無くなるまでに……魔法関係者達に労いの言葉をかけてから解散させる。

 ネギ君の暴走により、脱がせた女性は六人。周りに居て目撃した人は五十人から居た。

 全ての人から事件に関する記憶を消して、普段の騒がしい何時もの事の様な騒ぎが有ったと認識させた。

 

 何時もの事って何?

 

 そう言われると思い出せないのだが、それでも不思議に思わないのが認識阻害の結界効果だ。

 この街は狂っている。そして僕も狂い始めている。もう僕に出来る事は、西との関係を改善させ大戦の被害者に保証をする。

 問題児のネギ君を速やかにイギリスに送り返す。

 そして僕自身もこれ以上影響を受けない様に麻帆良から出て行こう。

 この麻帆良と言う学園都市が、どうしようもなく怖いんだ。最低限の義務と死亡フラグを回避したら逃げよう。

 

 しかし……

 

 相坂さんとエヴァ、それに木乃香ちゃんは何とかしてあげないと。僕はどうしたら良いのだろうか?

 

 

 

 現実とは常に予想を上回る物だ。そして、それは大抵悪い方に……

 

 昔、会社勤めの父さんが家で良く飲んで居た時に「課長のバカヤロー!」とか呟いていた。

 爺ちゃんも飲んで居た時に「最近の若い者は……」とブツブツ言っていた。

 お母さんは「大人になると、どうしようもない理不尽さを飲み込まなければならないのよ」と言っていた意味が分かりました。

 

 僕も飲めないけど酒に逃げたいと思った。ストレスの発散にお酒が効果的らしいし……爺さんの秘蔵の酒でも今夜呑もう。

 でも、その前に解決しなければならない問題が山積みです!

 

 

「学園長!惚けてないで、はっきり言って下さい。彼に責任は無いと!トラウマは病気なのです。仕方が無かったのです」

 

 タカミチ君の雄叫びで、現実に引き戻される。ここは学園長室。何時ものメンバーが僕を取り囲んでいる。

 あの後、家に帰りたかったが事後処理と方針を決めないといけないので、何時もの関係者を集めた。

 ネギ君は彼の私室に運び魔法で眠らせている。

 そしてタカミチ君が警戒しているのは、今回の騒ぎで彼の試練が失格にならないか!これに尽きるのだろう。

 聞き流しているが、彼が仕方無く今回の騒ぎを起こしたかを言っている。

 

「……と、言う訳でネギ君は悪くない。それに騒ぎも収まったではないですか!何の問題も無いのです」

 

「しかし……この先の事も考えて注意はするべきでしょう」

 

 明石教授が、やんわりと言う。彼もネギ・スプリングフィールドが麻帆良にこれからも滞在する事が前提だが……

 他の先生方を見回しても複雑な顔だ。赴任初日にこの騒ぎだ。幾ら英雄の息子でも問題児には変わりない。

 しかし悪く扱う事は出来ない。何故から、それを言えば自分に非難が集まるから……

 

 学園長室に静寂が訪れる。

 

 正直、ネギ君は試練終了イギリスへ強制送還が普通の対応だろう。しかし、それは出来ないのだ。

 関東魔法協会の会長でも、麻帆良学園都市のトップでも出来ない力が、彼には働いている。

 

「ネギ・スプリングフィールドの起こした今回の騒動じゃが……公には出来ない。理由は皆も承知の通りじゃ」

 

 この発言にタカミチ君は頷き、刀子先生は鋭い視線を僕に向けた。

「じゃが……

これから先も彼が麻帆良に居る限り、今回の様な問題は発生するじゃろう。

ならば我々が出来る事をするしかあるまい。彼の試練達成は約束されているのじゃから……」

 

 そう!この試練は出来レース。彼の順風満帆な成長は約束されている。逆らう事の出来ない力で……

 

「今回の騒動……トラウマが直接の原因かもしれない。しかし魔力の暴走癖は治さねば、これからも問題を起こすじゃろう。

ならば当分の間、女性との接触を極力無くす。そして魔力制御を覚えさせるしかあるまい」

 

 本校男子中等部には、表の試練として行かねばならない。しかし、裏の試練は魔力制御だけに絞るしかあるまい。

 

「シスター・シャクティ。

すまんが、君がネギ君のトラウマ治療担当と言ったが外れてくれ。アレでは女性は悪影響しかない。

変わりに……明石教授、お願いします。外部の医療スタッフと連携して治療に当たって下され。

それと彼の魔法指導だが……魔力制御にのみ絞って指導するのじゃ。

まさか膨大な魔力を持ちながら、あそこまで制御が拙いとは……メルディアナ魔法学校では何を教わったのじゃ?

これは先が思いやられるわい」

 

 取り敢えず、彼への処分は保留か無し。周りは、そう受け取ったみたいだ。

 

「学園長……ネギ・スプリングフィールド。この先、問題を起こさないと思いますか?もし問題が起きた時に責任はどうされるのですか?」

 

 ネギ君は必ず問題を起こすだろう。そんな確信にも似た思いが、僕の中に有る。刀子先生の問いに答えねばならない、か。

 

「彼は……

その特別な生い立ちや、育った環境故に中々この学園都市には馴染めないじゃろう。必ず問題を起こす!

しかし、彼をイギリスには返せない。ならば、彼が問題を起こし捲っても試練を達成させイギリスに送り返す。

それまでの責任は……儂が取ろう。4月になったら儂は職を辞する事にする」

 

 最早、一刻の猶予も無い。あと2ヶ月でネギ君の試練を終えて、僕も麻帆良学園を離れる。

 それ迄に出来るだけの事をするしかない。

 

「がっ学園長、本気なのですか?」

 

「責任とは言いましたが、解任しろとは……」

 

 流石に権力を牛耳る学園長の、突然の引退は仰天するだろうね。でも僕には必要無い立場だから……

 

「まだ2ヶ月は有る。後任については色々考えておるよ。

それと、儂の最後の仕事として関西呪術協会との関係改善をするつもりじゃ」

 

 これには、皆さんビックリしてますね。僕は麻帆良を離れたら、近衛本家の有る京都に木乃香ちゃんを連れて行くつもりだ。

 本当は他の場所に行きたいのだが、不自然過ぎる。怪しまれるのは不味いから……

 

 しかし、向こうは関西呪術協会のお膝元。

 

 幾ら名家の近衛本家当主と言えども、関係改善をしなければ命に関わる。だから例の計画を実行する。

 謝罪と補償、そして誠意を見せて職を辞する。これ以上は無いだろう。

 エヴァと茶々丸は、麻帆良での立場を明確にして呪いの効果を弱める。木乃香ちゃんは関西に返す。

 

 相坂さんは……

 

 今夜にでも聞いてみようかな。爺さんの知識では、寄り代?ヨリシロ?を用意すれば、この地から移動出来るらしい。

 しかし彼女の意思を無視する事も出来ない。成仏したいのか、現世に残るとしても麻帆良に括られたままか、僕と一緒に京都に行くか……

 

 

「さて、ネギ君には儂から厳重注意をしておく。次は無いからな、と……彼本人は真面目な努力家じゃからな。悪い子ではないのじゃ。

しかし、それと今回の一般人に迷惑を掛けた件は別じゃよ。それについては、諭さねばならない。これは大人の仕事じゃ」

 

 パンパンと手を叩いて、話し合いは終わりとアピールする。今日は早めに帰って、爺さん秘蔵の酒を呑もう。

 大人のストレス発散を試してみよう。そう、正直に言えば少しワクワクしていました!

 

 しかし、まさか自宅に来客が有ろうとは……

 

 

 

 ネギ・スプリングフィールドがこれから暮らす学生寮。女子部の学生寮に比べると明らかに差別感が漂う。

 無機質な鉄筋コンクリートの五階建。味も素っ気も無い建物が団地の様に並んでいる。

 女子寮はお洒落な外観で設備も凄い。大浴場など老舗の温泉旅館並だ。こっちは精々がユニットバスだろうか?

 

 此処にも男女差別が有ったよ……

 

 暫し老朽化した建物を前に貧富の差とは何か?を考えさせられた。来期の予算は、女子部を少し削り男子部に回そう。

 それ位はしても罰は当たるまい。思考を切り替え、彼の部屋に行く為に鉄製の扉を開けて中へ。キィと軋みながら、扉が開く。

 明るい外から薄暗い室内に入った為か、目がショボショボする。連絡が行っていたのか、初老の管理人が出迎えてくれた……

 

「学園長!わざわざご苦労様です」

 

 緊張した面持ちだが、学園都市のトップがいきなり来たのだから仕方ないかな。

 

「お出迎えすまんの。で、彼のネギ君の部屋は何処じゃな?」

 

「五階の角部屋、510号室です」

 

 案内すると言う彼に丁寧に断って1人で向かう。一応エレベーターが有るから楽だ。

 これで階段だけだったら……いや考えるのはよそう、今は。五階に上がり廊下を歩いて行く。

 歩きながら表札を見れば、2人でひと部屋か。手前の二部屋が不在なのは気を利かせたのか?

 

 510号室の前に立ち呼び鈴を押す。ブーブーと音がするが、返事は無い。まだ寝ているのか?

 暫く思案するが、ノブに手をかけて回してみる。ガチャガチャと音がするが開かない。

 

 彼を運んだ魔法関係者は、ちゃんと戸締まりまでしたのか……管理人に鍵を開けて貰おうかと思ったが、魔法で寝かされているのなら起きないかもしれない。

 僕が来た旨を手紙に書いて、ドアに付いている新聞受けに入れておく。

 明日、本校男子中等部に行く前に僕の屋敷に来るように……念の為、管理人にも言付けておこう。

 

 先生として働く前に、これからの事をちゃんと説明をしなければなるまい。さて、今夜は一人酒でストレスを発散するか!

 お手伝いさんに夕食は軽めにして、酒の肴を頼んでおこうかな……缶酎ハイや麦酒位は飲んだ事があるけど、本格的に飲むのは初めてだ!

 このワクワク感がストレス発散の効果なんだろうか?男子寮から帰る足取りは軽るかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「学園長、先ずはご一献……」

 

「む、すまんの……」

 

「ジジィ、秘蔵の酒とは日本酒か。確かに旨いな」

 

 夕食を終えて私室に戻り、お手伝いさんが酒の肴を届けてくれたら……直ぐに僕の影をゲートにエヴァと茶々丸が来ました!

 この屋敷って何重にも結界が張ってなかったかな?

 それとも弐集院先生達と同じ様に彼女を学園長付の秘書としての辞令をだした事で契約の精霊を誤魔化したかな?

 僕の所に来る事は、仕事として捉えたか……プライベートが侵害された気持ちだ。

 今度、無闇に移転しない様に注意をしておくか。

 

「ささ、学園長。此方の料理もお食べ下さい」

 

 茶々丸が持参の重箱から小皿に料理をのせて渡してくれた……和洋折衷の料理が詰まっている重箱は、魅力満載だ。

 

「ああ、すまんの……これは何じゃ?」

 

「白魚とフキの玉子とじです。此方は春野菜の炊き合せ。それとナマコの茶ぶりです」

 

 綺麗に並べられた料理の説明をしてくれる。しかも本格的だ!

 

「ジジィ、茶々丸の料理は素晴らしいぞ!味わって食べるが良い」

 

 ご機嫌の幼女とメイドコスの茶々丸と暫く酒と料理を楽しむ。この体に憑依してから、お酒は初めてだ。

 飲んだ事の無い日本酒でも美味しく感じている。そして、この体は結構な量を飲んでも酔わないみたいだ。

 

 楽しい時間が過ぎていく……

 

 ほろ酔い加減で頬を赤く染めたエヴァが、此方を見詰めている。幼女を酔わせる背徳感にクラッとくる……ヤバいかも知れない。

 

「で、ジジィ?何時なんだ、私が自由になる3日間とは?」

 

 エヴァはポツリと言ってそっぽを向く。素っ気無いのは、そんなに気にしてないアピールだろうか?

 ああ、ネギ君の捕縛の条件のアレか……待ちきれずに催促に来たのね、今夜の件は。

 しかし、ネギ君の件は実際には監視と報告だけしかしてない。茶々丸の方はバッチリ協力して貰ったが。

 従者が役立って、マスターたる自分がイマイチだったのを気にしているのかな?それで茶々丸の料理とお酌を付けたのか!

 

 借りを作らないのが、彼女なりのプライドか……しかし美少女の手料理とお酌を付けられては、文句は言えないよね。

 

 エヴァ、恐ろしい娘。この待遇では、誰だって男なら断る事は出来ないだろう。

 

「エヴァよ。儂は京都に、関西呪術協会の総本山に行く。後、近衛の本家へ……それに護衛として同行して欲しいのじゃ」

 

 一瞬ポカンとして、それから怒った顔をした。表情がクルクル変わるね!

 

「なっ?何だと!仕事に行くのか?約束が違うだろう!」

 

 約束って……君を首輪無しで自由になんて出来ないでしょ?プンプン怒る幼女を宥める。

 

「まぁ聞くのじゃ!どの道エヴァを1人で自由に麻帆良の外へは出せないじゃろ。

それは理解出来るな?仕事と言っても二泊三日の行程じゃ。初日で移動と用事は済む。

二日目は京都での自由行動を約束しよう。三日目は帰るだけだから、半日位なら好きにするが良い。どうじゃ?」

 

 必要なのは行き帰りの護衛と、京都での移動時の護衛だ。二日目は総本山か本家に籠もれば安全だろうから……

 

「くっ……3日間の約束が半分じゃないか!しかし、何故京都に行くんだ?ジジィが乗り込むには問題が有る場所だろう?」

 

 関西呪術協会は、僕をこの爺さんを嫌っている。それこそ殺したい位に……あの記憶が蘇り、胸が苦しくなる。

 純粋な憎悪と殺意。だから、断ち切らないと駄目なんだ。この憎しみの原因を……

 

「謝罪と補償じゃよ。大戦のな……」

 

 ポツリと言ってから、茶々丸が注いでくれた日本酒を煽る。先程までは美味しく感じた日本酒。しかし、今は苦い味がした……

 

 



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第4話

 頭上に輝く月を見上げながら、夜の眷属とその従者は歩く。

 

 見事な満月だ……

 

 先程まで、麻帆良学園のトップたる近衛近右衛門の所に。楽しみにしていた、束の間の自由を手に入れる為にジジィの屋敷を訪ねた。

 

 行き先は京都……

 

 日本に来てから、日本の文化に触れて行きたいと思っていた古都だ!3日間の約束が実質半分になってしまったが、それは仕方ないだろう。

 この時期に私を麻帆良から出す事の意味は、十分理解している。それはジジィが同行するから可能な話だ。

 

 ジジィは……

 

 関西呪術協会と近衛本家に行くと言った。先の大戦から、関東魔法協会と関西呪術協会は仲違いしている。

 原因の一つが魔法世界の戦争に、此方の世界の連中を巻き込んだから……それを行ったのは、確かにジジィだ!

 

 しかしジジィと言えども、本国の意向には逆らえない。増援を送れと言われれば、従うしかないだろう……

 極東の島国の呪術士・魔法使いを束ねる立場と言えども、彼らに逆らうのは無理だから……

 しかし関西呪術協会の連中はジジィを憎しみの対象として、その先のヤツらを見ていない。

 

 本当の原因たるヤツらを……

 

 ジジィが言った、謝罪と補償。謝罪し、責任を取る為に職を辞する。補償とは、金銭的な物だろうか?

 働き手を大戦で亡くした遺族達の生活は、困窮しているそうだ。

 だが西の連中は、救済には力を入れず復讐に心血を注いでいる……彼らは受け入れるのだろうか?ジジィの謝罪を。

 

 私は……

 

 同行し、跳ねっ返りがジジィに危害を加えない様に護衛するのが仕事か。やはり喰えないジジィだ。

 仕事の報酬が、次の仕事絡みなどと冗談ではない!

 

「しかし……しかし、だ。ジジィに雇われたからには、ヤツを守ってやろうではないか。

闇の福音が親善大使の護衛とは笑い話だな、全く」

 

 独り言の様に呟くが

 

「はい。学園長の行動は、昔からは考えられない事です。

闇の福音と言われたマスターが同行する事は、賞金が取り下げられた今でも良く思っていない連中に対して楔になります。

正義を掲げる彼らに取って、付け入る口実を減らせますから。気休め程度ですが、表立っての行動は抑えられるでしょう。

仮に何か仕掛けてきた連中を返り討ちにしても、正当防衛の理由が立ちます」

 

 寡黙な従者が答えてくれた。

 

 果たしてジジィは、そこ迄考えていたのだろうか?贖罪に同行させる事によって、私の立場を固めるつもりか……

 でも、それは本当に私に取って幸せなのか?このまま正義の魔法使い側に取り込まれて良いのか?

 悪の魔法使いを自負している私が?

 

 分からない。分からないが、昔の私なら突っぱねただろう。

 

 フザケルナ!

 

 私は闇の福音、ドールマスターと数々の異名を持つ悪の魔法使い。偽善者とは、正義の魔法使いとは馴れ合わない!

 しかしジジィに悪意は無く、私を心配しての事だ。自分なりの答を探す為にも、暫くはジジィに付き合おう。

 ジジィの本心を確かめる為にも……

 

「これが人との絆なのかな?面倒臭いし悩ましい。1人の方が断然楽だ!しかし……悪い気はしないのが又悔しいな」

 

「学園長が最終的に私達をどうするのかは不明です。しかし着実に表の世界での立場を固めています。闇の世界の私達が、です」

 

 でも、このままジジィの言いなりは……やはり癪に触る。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 エヴァと茶々丸は帰って言った。美少女と美幼女とお酒を飲むとは楽しい事だな。食器や空の酒瓶が散乱するテーブルを見て思う。

 しかし途中でお手伝いさんが、追加のお酒と料理を持ってきてくれた時は驚いていた。1人で飲むと言ったのに、女性が居たのだから。

 

「ほほほほほ……ごゆっくり、明日の朝に片付けに参ります」

 

 そう言って出て行った。アレは完璧に勘違いをしている目だった……考えてみれば、夜に自宅に女生徒を……

 いや今は学校をやめて学園の職員だから、部下の女性を自宅に呼んで酌をさせるエロジジィか!

 しかも茶々丸はメイド服だったし、エヴァはゴスロリだった。まるでコスプレコンパニオン、15歳以下バージョンじゃないか!

 

 通報されたら逮捕だよね?青少年育成条例的に?

 

 この悪の大幹部の爺さんが、性犯罪として扱われるなんて事も有り得る?

 

 通報されたら、即逮捕!

 

 しまった、失敗した……明日の朝、お手伝いさんと顔を合わせるのが怖い。

 

「良い年をして、益々お盛んですね?」何て言われたら、恥ずかしくて死にたくなるぞ。

 

 エヴァと茶々丸が真剣にこれからの事を悩んでいる同時期に、全くくだらない事で此方も悩んでいた……ゴロゴロとローリング悶える見た目は爺さん。

 しかし、お手伝いさんは三人が居る部屋がガタガタし始めた音を聞いて、とんでもない勘違いをしていた。

 

「老いて益々お盛んなんですね。しかもあんな幼女を相手になんて……」

 

 お手伝いさんは見た!勤め先の主の禁断の性癖を……

 彼女の勤め先、お手伝いさんの派遣会社の同僚達に面白可笑しく話し、ちょっとした噂話になる。

 勘違いなのだが、金持ち爺さんの爛れた性活を。この噂話が魔法関係者の耳に入ったら、大変な事になるだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 今朝はネギ君が訪ねてくる。少し早起きをして、昨日の事件の報告書を読む。大事にはならなかった。

 しかし一般人への被害は甚大だろう……関係ないのに頭の中を弄られたのだから。

 薄い報告書を読み終えて、執務机の引き出しにしまい込む。どうしたものか?

 

「旦那様、お客様です。ネギ・スプリングフィールド様がいらっしゃいました」

 

 お手伝いさんが呼びに来た。朝起こしに来てくれた時は、普通の態度だった。

 

 これが某ドラクエの宿屋みたいに「夕べはお楽しみでしたね……」とか言われたら最悪だろう。

 

 幸いにして、彼女の態度は普通だ。まぁ枯れ果てた爺さんだから、精々が若い娘と飲みたかったんだろう。程度に思ってくれたのかな?

 

「分かった。客間にお通ししてくれ。それと2人分の朝食をお願いしますじゃ」

 

 固い話は少しにして、食事を一緒に食べるか。机の上の時計を見れば、丁度7時を差していた。

 

 

 

 爺さんの屋敷に来たネギ君を見て、正直に言おう。驚いた!

 僕の周りでも絶滅した、今では手に入れる事すら難しい洋ランにドカン……報告書には、こんな奇天烈な格好をしているとは書いて無かったよ。

 応接室のソファーに座って下を向いているネギ君は、80年代に流行?した不良ファッションに身を包んでいた。

 

「ネギ君や……その格好は何じゃい?」

 

 話し掛けられて、パッと此方を見るネギ君。何故か目が輝いている。

 

「学園長の送って頂いた漫画の中に有りました。魁る男の塾の衣装です。

日本人は、郷に入っては郷に従え!物事は形から入る!ですよね?だから頑張って探したんです。大変でした」

 

 何を「えへへへっ」て可愛く照れてるのかな?紅茶のお代わりを持ってきてくれたお手伝いさんも、微笑ましく見てますよ。

 そう言えば報告書に有った被害者は、皆さん美女・美少女の若い女性だったな……

 彼のラッキースケベのスキルって、もしかして発動に年齢制限が有るのかな?

 今もお手伝いさんには発動せず、にこやかにカップに紅茶を注いで貰ってるよ。中年とは言え、立派な女性なんだけど?にこやかに会話もしてるし……

 

 いや、考え過ぎだ。10歳の少年が、被害者を選り好みする訳ないか……偶然だよね。

 

 思考を先程の学生服の件に戻そう!確かに僕は漫画を送った。しかし教師として来るのに、何故学生服なの?

 

「ネギ君……君は勘違いをしておるぞ。

魁る男の塾は、熱き漢達の友情・努力・そして戦いの漫画じゃ。それを学んで欲しかったのじゃが……

君は教師として、麻帆良学園に赴任した筈。何故、学生の改造制服を着てるんじゃ?」

 

「……あっ!しっしかし、あの漫画での先生方は旧日本軍の軍服でしたし。学長は和服でしたし……」

 

 ネギ君なりに苦労して探したんだね。でも消しきれなかった噂に、80年代の不良ファッションを着た少年のストリッパー伝説とか何とか……

 変な噂が出回っているから、その格好は駄目だよ。カンの良い連中にバレるかも知れない。

 そんな格好なんて、麻帆良学園だって居ない……いや、何だろう?爺さんの記憶には、同じ様なツッパリ君が居るらしい。

 

 豪徳寺……うーん、世界って広いな。居るんだ、まだツッパリ君が。

 

「ネギ君……普通なら、今回の不祥事で試練は中止。イギリスに帰る位の騒ぎじゃった。でも、儂らはそれをせん。分かるかい?」

 

 試練が中止と聞いて、真っ青になる。順風満帆だった今迄の人生で、初めての挫折なのかな?

 

「ぼっ僕は……女の人が怖くて。でっでも好きでやった訳じゃ」

 

 何か言い訳めいた事を言い出したネギ君を止める。

 

「済んだ事じゃ……儂らもナギの息子を落第させる事は出来ないのじゃ。分かるかの?」

 

 黙って首を振る。

 

「大人の事情じゃよ。これから先も、君が失敗してもフォローされるじゃろう。

確かに君には才能が有り、努力もしている。だが何故、魔力が暴走するなら制御を学ばなかったんじゃ?」

 

「僕は……魔法を沢山の魔法を覚えたかったんです。父さんに追い付く様に……」

 

 捨てられたも同然の扱いを受けても、周りの影響と劇的に助けられた事実が、ナギへの憧れになっているのだろうか……

 

「ネギ君、麻帆良学園に居る間は魔力制御だけを学ぶのじゃ。それと女性恐怖症の治療を行おうかの……なに、儂らが付いておるから平気じゃよ。

全てはこれからじゃ。しかし女性恐怖症が治るまでは極力女性に近付いては駄目じゃぞ。それだけは約束して欲しい。

それと昨日の事を反省するのじゃ。女性が怖いと言って服を脱がすのは最低じゃよ。理由はどうあれな。

君だって、知らない人が沢山いる場所で裸にはなりたくないじゃろ?

同じ事だよ。さて、難しい話は此処までじゃ!朝食でも食べようかの。まだじゃろ?」

 

 黙って頷く彼を見る。反省している様だ……話してみれば素直だし、年相応な感じだ。

 もう会えない甥っ子達も、こんな感じだったな……しかし何故、彼の行動はああなるのだろうか?

 何か原因か理由が分かれば良いんだけど……そもそもラッキースケベって何なんだ?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 イングリッシュブレックファースト。ネギ君に合わせて、洋風の朝食を用意した。

 料理が不評なイギリスでは、朝食を三回食べれば良い!そう言われる位に人気が有るメニューだ。

 僕の感覚で言えば洋風な朝食だとトーストと珈琲なのだが、お手伝いさんの用意した物は気合いが入っていた。

 

 ミルクティーに一皿に盛られた料理。ソーセージ・オムレツ・焼きトマト、それにいんげん豆のトマト風煮込み……

 これはベークトビーンズと言ってイギリスでは一般的な家庭料理らしい。

 それと食パンを揚げた物。こちらはフライドブレッドと言うそうだ。ボリュームも有る!

 

 朝から重すぎるかな?しかしネギ君は美味しそうに食べている。祖国の料理だし、口に合うのだろう。

 

「ネギ君は、メルディアナの魔法学校では友達は居たのかな?」

 

「はっはい!アーニャと言う幼なじみが居ます」

 

 アーニャ?ああ、報告書に有った女の子か……

 

「他には誰か居たかの?」

 

「えっと……ネカネお姉ちゃんに……アレ?他の友達……アレ?」

 

 ネカネさんも年上の美人さんだよね。美女と美少女としか交流が無いのか、ネギ君?

 

「その……なんじゃ……麻帆良学園の男子中等部は男の園じゃ。教師と生徒と言う垣根は有るが、沢山友達を作るのじゃよ。

ネギ君は限られた社会に居たから難しいやもしれんが、それがコミュニケーションを養うのじゃ」

 

 小さい頃から美女・美少女と暮らしているんだよね?ネカネさんとアーニャちゃんは、ネギのラッキースケベの被害には合わないのかな?

 

「分かりました!僕、頑張ります」

 

 フォークにソーセージを突き刺しながら、前向きに答える彼を見て一抹の不安を覚える。

 しかし男子中等部エリアには、そうそう女性は入らない。居るのは仕事関係が殆どなんだけど……

 

 美味しそうに料理を食べる10歳児を見て思う。

 

 何で本人はエロい事をしても怒られずに、周りが被害を押さえなければならないのさ?

 これが主人公属性って奴なのかな……稀代の女運を持つ子供、ネギ・スプリングフィールド。

 

 それが女難なのかは謎だが……

 

 

 

「おはようございます!今日から、このクラスの副担任になるネギ・スプリングフィールドです。イギリスのウェールズから来ました」

 

 廊下から窓越しにネギ君のクラスデビューを観察する。隣には、この男子中等部の校長も居ます。それと弐集院・瀬流彦両先生も……

 

「幾らテストケースとは言え、未だ若い彼に教育の現場を任せるのは少々不安ですな」

 

 此方の校長は一般人であり、ネギ君の事は深くは知らない。ただイギリスの姉妹校とのテストケースとして、彼を短期で受け入れた……

 そして、彼の親が学園のスポンサーの1人だと嘘をついた。多額の寄付金を貰ってるから、ネギ君の扱いには注意する様に言い含めて。

 普通では、こんな説明では納得出来ないだろう。認識阻害の魔法やら何やらで誤魔化してはいるが、やはり言葉にはトゲが有る。

 

 不満に思っているのだろう……

 

 しかし次年度の予算に色を付けると言って、納得はしなくとも受け入れはしてくれた。やはり金の力は大きい。

 校長と大人の都合の話をしている内に、ネギ君の質問大会になっていた。中々会話が弾んでいるみたいだ……

 

「予算の件は了解しておるぞ。代わりに彼の事はくれぐれも頼んだぞ……大切な大口スポンサーの息子じゃ。

故に世間知らずな所も有るから、フォローは頼むぞ」

 

 利害が一致すれば、何とかなるのが大人の世界。ネギ君の修行は3月一杯だ。彼が、クラスと打ち解けられれば試練達成。

 

 イギリスに凱旋だ!

 

 トラウマの治療と魔力制御は、出来るだけ行う。僕に出来るのは、此処までだろう。努力家の彼なら、それなりの成果を上げるだろう。

 

「お任せ下さい。既に彼の為に教師2人も受け入れています。最大限の配慮をしますよ」

 

 横に黙って立っていた2人をチラリと見ながら答える。慇懃な校長を置いて、彼のクラスから立ち去る。

 

「瀬流彦先生、弐集院先生……頼みますよ、本当に」

 

 先にこの学校に赴任させた、2人の教師に声を掛ける。直接苦労をするのは彼らだ!

 手当金も付けている。苦労を強いるなら見返りは必要だ。それで責任感が高まれば安いものだし……

 魔法使いとしては、比較的まともな彼らだから大丈夫だろう……

 考え事をしながら歩いていたら、送迎のリムジンまで辿り着いた。お抱え運転手さんが、降りてきて扉を開けてくれる。

 

 流石は金持ち!リアルお抱え運転手なんて夢の様だ!

 

 昔はチャリンコか徒歩だったからな。車に乗り込み、フカフカの本皮シートに体を埋める。

 

「本校女子中等部まで行ってくれ」

 

 静かに走り出すリムジン……窓の外を見れば、今にも雨が降りそうな暗い雲が立ちこめている。

 

「一雨来そうじゃな……」

 

「はい、学園長。降水確率は午前中60%、午後80%。雨は夜半まで降り続くと思われます」

 

 キリリと髪を結い上げ、伊達メガネに秘書ルックの茶々丸が応えてくれる。

 

「ジジィ、大変だな。アレのお守りか……くっくっく、まさかナギの息子があんな子犬みたいな奴とはな」

 

 此方はエヴァ……約束通り幻術で10歳程年をとっている。つまり二十歳前後の美女だ……美人秘書(兼護衛)を従えた金持ち爺さん。

 これが僕への周りからの評価でしょう。

 朝迎えにきた車に、彼女らが居た時のお手伝いさんの顔は忘れられない。

 昨夜はロリだったのに、今朝はアダルトなのね?彼女の目が訴えていました……口止め料として給金を弾まなければならないかな?

 

「ネギ君は……話してみたが、素直で真面目じゃな。それ故に周りの影響を受けやすい。父親に傾倒しておるせいか、正義や正しい行いとかに敏感じゃ。

勿論、その反対の悪や悪い行いにも……正義感の強い天才児じゃな。しかし、彼は無意識に周りにエロい事をする癖?が有る。

ラッキースケベと言う笑い話みたいなスキルじゃ。此方の対策の方が大切な気がするのじゃが……」

 

「心配しすぎだろ?ただのエロガキじゃないのか?」

 

 エヴァは、その目で見てないから呑気なんだよ。アレは、そんなチャチな物じゃなかった!

 

「無意識で美少女を脱がし、美人の胸にダイブする。この目で実際に確認したからこそ、彼の厄介さが分かるんじゃ。

悪気が無いのも最悪だ……叱られても、怒られても、本人が注意しても発動するらしい。

直接話を聞いたが、イギリスでもネカネと言う姉の着替えを覗いたり、胸を触ったりは日常だったそうだ。

アーニャと言う幼なじみも同様に……彼女らはネギ君に好意を抱いていたのだろう。騒ぎにはしなかった。

しかし、麻帆良の女性達は果たしてそうかな?」

 

 どうなの、その辺?知らない子供から、そんな悪戯をされたら?

 

「前言撤回しよう。なんだその不条理なスキルは……幾ら厄災の魔女の息子とは言え、周りの迷惑が半端無いではないか!」

 

「私もガイノイドで有り、羞恥心は無いのですが……彼に関わりたくはないと思います」

 

「…………いや、本人は至って真面目な良い子なんじゃよ」

 

 ネギ君が可哀想になってきた……僕からすれば羨ましいスキルだが、女性恐怖症の彼からすれば苦手な者が寄ってくるんだよね。

 例えば、ガチムチのホモが……

 

「ジジィ?真っ青だが、平気か?」

 

「学園長?血の気が引いた症状が見受けられますが……若干の震えの症状も。風邪の初期症状と思われます」

 

 違うんだ……昨日の事件を女性とガチムチのホモと置き換えて想像したら……ダメだ、また想像したら吐き気が……

 

「おい、ジジィ?平気か?運転手、病院に向かってくれ!ジジィが変だ」

 

「学園長。リバースするなら、此方のエチケット袋へ!さぁ我慢せずにドバッと!さぁさぁ」

 

 何故だろう?エヴァがマトモで茶々丸がヘンに思えた。ホモをグッと思考の外へ追い出して、深呼吸をする。

 

「すーはーすーはー!もう平気じゃ。茶々丸、そのエチケット袋はしまってくれ」

 

 残念そうにエチケット袋を畳む茶々丸さん……何が残念だったのかな?グダグダの内に学園長室の有る、本校女子中等部に着いた。

 さて、茶々丸に裏金の処理と支払い方法とかを相談しよう。彼女はこの手の処理が得意そうだしね。

 

 

 

 学園長室は女子中等部の中に有る。男子関連の校舎より全般的に設備は整っている。この学園長室もそうだ。

 調度品も内装も品良く纏められている。

 窓の外では、絶滅危惧種のブルマを着た女生徒達が運動を……アレの伝統は、後世に伝えねばならないと思う。

 

 スク水も……

 

「何を女子中学生を見てニタニタしてる?ジジィ、春が来たのか?」

 

「マスターの言葉を聞いて、学園長の心拍数が跳ね上がりました。若干の発汗も認められます。

確かに学園長は、女子中学生を見て興奮していたと思われます」

 

 茶々丸さん……科学的に僕が女子中学生を見て喜んでいた事を検証しないで下さい。

 

「ちっ違うぞい!彼女らを守らねばならないと、考えていたのじゃ。決して嫌らしい目で見てはいない!」

 

 確かに僕だって可愛い女の子は好きだ。特に、この学園には前の暮らしでは一寸見れない位の美少女が沢山居る。

 それこそアイドル顔負けの娘達が……気を取られるな!と言う方が無理だよ。

 でも爺さんの記憶でも、毎日窓から外を眺めて楽しんでいたんだよ。爺さんは、ブルマとスク水を守るつもりでいた。

 だから絶対にスパッツに変えて欲しいと言う要望書には、判を押してない。僕もそれには賛成だ!

 多分年頃の男子なら分かる筈だよね?

 

 

「ジジィ、黙り込むな。気持ち悪い」

 

「マスター、学園長の心を抉り込む仕打ち……ハァハァ流石です」

 

 この新人秘書は、雇い主を敬う気持ちが無いらしい……

 

「ウオッホン!それで?どうなんじゃ、引き継ぎは問題有るのかの?」

 

 しずな先生と、引き継ぎ業務をしている茶々丸に訪ねる。エヴァはソファーで本を読んでいる……フリーダムなロリめ!

 ああ、今は幻術で美人秘書だけど。

 

「問題有りませんわ学園長。しかし、良いのでしょうか?絡繰さんを秘書にするなんて……」

 

 先週まで中学生だったからね。

 

「問題有りません」

 

「まぁ本人が言うのでしたら、私は気にしませんが……」

 

 そう言って彼女は、ファイルを抱えて学園長室を出て行った。しずな先生も本業の教職が忙しい筈だから、引き継げる部分は茶々丸に引き継いで貰った。

 

「茶々丸、お茶をくれ!玉露が良いぞ」

 

「分かりました、マスター。学園長も淹れましょうか?」

 

 茶々丸の問いに、湯のみを持ち上げて答える。センサーで温度管理が出来る茶々丸の淹れてくれたお茶は美味い。

 そしてお茶を飲みながら、自分の机の上に有る書類と格闘する。知識は爺さんの記憶から引っ張ってこれるが、やはり時間が掛かる。

 昨日の騒ぎで仕事をしてなかったから、今日は夕方まで事務仕事で終わりそうだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 2-A教室内

 

 

 担任で有った高畑先生が、急遽移動となり学年主任の新田先生が変わりに受け持つ事となった。麻帆良学園で一番のイロモノクラスだ。

 

「なぁ明日菜。最近お爺ちゃんが変なんよ」

 

 授業の合間の休み時間。クラスメートとの他愛ない話で終わってしまう。普通なら……

 

「学園長がヘン?何時も変じゃない?」

 

 一般的な見解として、近衛近右衛門の評価とはこんな物だった。掴み所の無いヘンな老人……

 表の世界も裏の世界も、彼の評価は変わらない。ヘンな老人が一番しっくりくるだろう。

 

 外見的にも……

 

「んー確かに変なんだけどな。この二週間、見合いの話をせえへんのや。週末になると五月蝿い位に勧めてたのに……」

 

 確かに木乃香は毎週必ずと言って良い程、見合いをさせられていた。本人に、その気は全く無いのにだ。

 

「ふーん……確かにヘンかな?でも私は高畑先生が担任じゃなくった方が大変よ。

学園長、何を考えてるのよ。しかも変わりが、新田先生なんて……」

 

 机に突っ伏して、憧れの高畑先生が移動になった事を嘆く。恋する乙女が此処に居る。

 ツインテールがピコピコ動き、うなだれた。彼女の心情を表している……

 

「高畑先生、何処に移動になったんかな?お爺ちゃんに聞いてみよか?明日、一緒に食事するんよ」

 

 ガバッと起き上がり、木乃香の腕を掴む。

 

「ホント?お願い聞いてよね!」

 

 ブンブンと両手を握り振り回す、現金な明日菜。

 

「うん、ええよ」

 

 親友の頼みを快諾する。

 

「木乃香さぁ、序でに聞いて欲しい事が有るんだけど良いかな?」

 

 そんな友人2人の他愛ない話に割り込む。

 

「朝倉?何よ?ヘンな噂話とかはお断りよ」

 

「まぁまぁ明日菜、落ち着いて。実はさ、男子中等部に変わった先生が赴任してきたらしいのよ。何でもアダナが子供先生らしいんだ」

 

「子供先生?子供店長じゃあるまいし本当に子供じゃなくて……童顔とか背が低いとかじゃないの?」

 

 明日菜がマトモな事を言った!

 

「んー、どうやら先生達に聞いてもタブーみたいな感じなんだわ。だから学園長なら知ってるんじゃないかな?頼むよ、木乃香!」

 

 両手を合わせ、拝むようにお願いする。

 

「ええよ。子供先生……可愛い感じなのかな?」

 

「それと……ちょっと気になる事も有って。いきなり炎上して、直ぐに沈静化した噂が有ってさ……

そっちも子供らしいんだよね。ツッパリ学生服を着た子供が、女性を脱がしまくるって噂の。

同じ時期に子供の噂が2つも……どうにも、ね」

 

 魔法関係者が躍起になって揉み消したのだが、朝倉のアンテナには引っ掛かっていた。

 

「ツッパリ学生服?子供先生は先生なんだから、学生服は着ないでしょ。関係無いんじゃない?」

 

 明日菜がマトモだ!バカレッドを返上出来るぞ!

 

「ええよ。両方聞いてみる。子供先生とツッパリ学生服の少年だね?うちも気になるから」

 

「それ、本当だヨ。私も見たよ、学ランを着た子供だよネ」

 

「珍しいわね?超が私達に話し掛けるなんて……」

 

「私も気になってたネ。あの学ランの少年、手品みたいに女性の服を吹き飛ばしてたヨ」

 

 超鈴音……

 

 此処で木乃香を唆し、学園長の反応を見る事にした。学園長が、大切な孫娘にどう説明をするのか、を……

 

 

 

 麗らかな土曜日の朝……基本的に土日は学校はお休み。

 殆どの学生は学校に行かないが、一部の部活は朝早くから活動をしている。

 まぁ殆どの学生が、ゆっくりと眠りについている。休み位は朝寝坊したいのは、誰でも同じだろう。しかし例外も居る。

 早朝の新聞配達を終えて部屋に帰って来た明日菜。彼女の帰りに合わせて朝食を作る木乃香。

 まだ殆どの寮生は寝ている時間だ……

 

「木乃香、今日だっけ?学園長との食事会って……」

 

 ゴソゴソと部屋着に着替える明日菜。朝食を食べたら、直ぐに寝るつもりだ。

 

「そうや。でも食事会とか大袈裟じゃなくて、たまには一緒にご飯でも食べて話をしよう!とかやな」

 

 フライパンを火にかけながら答える。今朝の献立は、目玉焼き・ソーセージ・サラダにトースト。それにホットミルクだ。

 普段、土日は時間が有るのでご飯を炊いて和食にしたりもするが、今朝は忙しい。故に簡単な料理だ。

 

「ふーん……でも高畑先生の事は絶対聞いてよね!」

 

 卓袱台を用意しながら、憧れの先生の行方の確認に念を押す。

 

「了解や……さ、食べよ」

 

 卓袱台の上に料理を運びながら、友達の初恋に協力しようと思う木乃香だった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 此方は、その今日の食事会のお相手の方……体は爺さん、心は少年の方だ。久し振りに、木乃香ちゃんに会える。

 この体に憑依してから、癒やしは幽霊と孫娘だけと言う寂しさだ……2月とは言え今日は穏やかな陽気で有り、春が近い事が感じられる。

 のんびりと過ごすには、丁度良いだろう。のんびりと過ごせれば、だが……

 

「でだ、ジジィ。2月の京都と言えば、梅だ!北野天満宮の梅祭りに行きたいんだ。『東風吹かば、匂ひおこせよ梅の花。主なしとて春を忘るな』

大宰府に跳ばされた菅原道真を思い一夜で飛んだ飛び梅伝説さ。麻帆良に捕らわれた私の様ではないか?」

 

 何が飛び梅伝説ですか……見かけは洋風なロリの癖に、日本人より日本の文化に詳しいよな。

 

「エヴァよ……遊びに行く訳じゃないんじゃぞ。それに儂は同行出来ぬので、余り関西の連中を刺激するでない。観光も程々にな……」

 

 小脇に抱えたガイドブックの束には、付箋が沢山付いている。日本に来てから、殆ど自由が無かったのだ。楽しみで仕方ないんだろうね。

 朝からガイドブックを持ち込みで、訪ねて来たのも、そんな話が出来るのも僕だけだからだろう……

 

「マスターが、あんなにハシャぐなんて……ハァハァ、マスター素敵です……」

 

 壊れ気味の茶々丸が心配だ。コレはコレで危なくないかな?

 

「さて……儂は昼飯を木乃香と食べるでの。エヴァ達は、どうするんじゃ?」

 

 放っておけば、何時までも居残りそうな2人に話し掛ける。

 

「ああ、あの娘か……流石は近衛の直系だけあり、凄い魔力の内包量だな。キャパだけなら、小僧より上だろう?」

 

「…………気付いていたか。魔法の知識無く、才能はネギ君を凌駕する。

あの娘も身の振り方を考えさせねば危険じゃからな。儂と一緒に関西へ帰るつもりじゃ。今日は、その説明じゃよ」

 

「あの娘に、魔法の存在を教えるのか?」

 

 彼女は良いにしろ、悪いにしろ魔法の事を知らなければ駄目だと思う。自分の立場を知らずして、この先暮らしてはいけないだろうから……

 

「今は教えるつもりは無いの……向こうに帰ってから、ゆっくり教えるかの」

 

「ふん!孫娘に対しては流石に慎重か……ある意味、ネギ以上に利用されやすい。精々注意する事だ!」

 

 憎まれ口調だが、彼女なりに心配してくれているのだろう。

 

「エヴァも木乃香には気を掛けてやってくれんか?元クラスメートじゃし、これも儂の護衛の延長じゃ。報酬は用意するでの」

 

「ついでだ。面倒はみてやるが、付きっ切りは無理だぞ」

 

「それで構わんよ」

 

 イマイチ信用出来ない魔法先生より、明確に利益で結ばれているエヴァの方が安心だ。付きっ切りでは魔法先生達を刺激するが、気に掛ける程度なら構わんだろう……

 

「それで、京都行きは何時にするんだ?」

 

「来週末にしようかの……それまでに根回しをせねばならぬからな」

 

「そうか!来週か……準備が間に合うかな……」

 

 楽しそうにブツブツと呟き始めたエヴァに、何時もの如くマスターを熱心に録画する従者。

 

「エヴァよ。儂は、そろそろ出掛けるぞ。お主等はどうするんじゃ?」

 

 ん?と言う感じで首を傾げる幼女は魅力的だった。これで爺さんの数倍。本来の僕からなら、数十倍も長生きなんだから不思議だ……

 

「これから茶々丸は定期検査だ。超のラボに行ってくるぞ」

 

 超鈴音、か……定期検査と言う事は、茶々丸のデータは向こうに渡るとみて良いだろう。

 なので裏金操作の相談は出来ずにいる……バレたら業務上横領で逮捕されそうだし。敵か味方か分からない相手に弱みは見せられない。

 

 今更だけどね……

 

 未だに沈黙する彼女だが、何か動きは無いのかな?

 

「エヴァよ。最近の超はどんな感じじゃ?」

 

「んー、何か悩んでいたな……女の敵を育てて迄、達成しなければ駄目だとか何とか?ヤツにしては、悩む姿を見る事自体が珍しいのだがな」

 

 女の敵?育てる?女の敵と言えば、ネギ君だよね?育てる?彼を、か……超鈴音の育成計画とは?

 

 彼女は魔法使いではないのは、確認済みだ。爺さんの記憶でも、念入りに調べていた。

 つまり魔法使いへの教育の線は薄い。なら、天才少女が天才少年に教える事って何だ?

 

「エヴァよ……女の敵とは、ネギ君絡みじゃないかの?その辺をそれとなく聞いてくれんか。出来れば、彼女とは敵対したくないのでな」

 

 彼女もネギ君を利用して何かを企んでいるならば……僕に取って迷惑以外ではない筈だ!

 幾ら責任を取って辞任を表明したけど、被る罪は少ない方が良いに決まっているからね。

 やるなら彼がイギリスに帰った後か、僕が辞めた後にして欲しい……

 

「相変わらずジジィは超鈴音を警戒してるな。分かった、それとなく聞いてみよう」

 

 そう言って、茶々丸を連れて出て行った。軽く頭を下げながら出て行く茶々丸を見て、本気でメイドロボが欲しくなった!

 控え目で礼儀正しく料理が上手で美少女だ!アレを欲しがらずに、何を欲しがれば良いのかな。

 そんな彼の物欲しそうな目線を茶々丸はしっかりと録画していた……

 

 

 

 木乃香ちゃんとの食事会の場所へと向かう。勿論、お抱え運転手にお願いして車を出して貰っています。

 

 高級車って凄い!

 

 静かだし、振動が少ないし……フカフカのクッションに埋まりながら外を見る。

 最近見慣れてきた、日本なのにヨーロッパみたいな街並み。そして溢れる少年と、それ以上に沢山の少女達……

 幾ら学園都市ては言え、誰がこのコンセプトを考えたのかな?などと考えていたら、今日の会場のホテルへと着いた。

 

 見上げる程の、高層で高級なホテル……此処は外部からの来客用に用意したホテルの中でも、最高級のランクだ。

 爺さんは、このホテルの最上階の会員制レストランの会員でも有る。相当なブルジョワだ……

 木乃香ちゃんと此処で食事するとエヴァに話したら、行きたがっていたな。彼女も相当な食通なんだろう。

 茶々丸の料理の腕をみても分かるけどね。アレに文句をつけるんだぜ!

 

 有り得ないだろう……

 

 次の報酬は、このレストランに招待するかな。ホテルの前に車を横付けにすると、直ぐにドアマンが開けてくれる。

 このVIPな対応には、元々が小市民な僕には慣れません。

 ホテルマンの案内で最上階迄向かい、レストランの前からはウェイターが個室まで……チップとか必要なのかな?

 爺さんの記憶では、特に渡してはないみたいだけど……用意された個室に入り席に着く。勿論、ウェイターが椅子を引いてくれる。

 

 暫く木乃香ちゃんを待つ……

 

 テーブルは六人座ってもゆったりするサイズ。クロスはシルク?みたいに輝いているし、食器はクリスタルっぽい素人目にも高級品と分かる物が並んでいる……

 室内も落ち着いた感じだ。

 

「ファミレスと段違いだよね……最もファミレスも何回しか行った事ないし、前はラーメン屋か定食屋が殆どだったし……」

 

 住む世界が違います。

 

「爺ちゃん、お待たせな」

 

 ウェイターに案内された、木乃香がやって来た。普段のお見合いは着物だが、今日は淡い桜色のドレスを着ている。

 

「良く似合っとるよ。着物も似合うが、洋服も似合うの……」

 

「いややん!お爺ちゃん、うち恥ずかしい」

 

 素直に誉めたのに、何処からか取り出した小槌で殴られた!

 

「イタタタタ……これ木乃香?何をするんじゃい」

 

 殴られた場所をさすりながら、一応抗議する。爺さんの記憶でも、無理強いすると殴られてた。でも今回は、誉めただけなのに……

 こうして、老人と孫娘の食事会が始まった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 未来人のラボ……

 

 メンテナンス中の茶々丸から、色々なケーブルが伸びて機械に繋がってる。

 それらはモニターに繋がり、彼女の状態を表示していた。その間、茶々丸は黙って目を閉じている。

 まるで眠っている様だ……

 

「超よ。ジジィが随分と警戒しているぞ。まるで何かするのが分かっている様にな」

 

「決め付けは良くないヨ!私は無実ネ」

 

 パソコンに向かい、何やらカタカタと打ち込んでいる超にエヴァが話し掛ける。

 学園長から、それとなく聞いてくれと頼まれた筈だが、直球だ!

 

「それで?私と茶々丸は、ジジィに買収されてるぞ。敵対するのは面倒臭いのだが……」

 

「学園長が、辞めるって本当カ?」

 

 何を?とは言わない。超は魔法使いではない。だから、関東魔法協会の事を表立って聞く事は出来ない。

 

「ああ、本当だよ。4月には職を辞するそうだ……どちらも、な」

 

 麻帆良学園の学園長も、関東魔法協会の会長も、どちらも、だ。

 

「何故?学園長が今、辞めるのカ?面白い子供も来たのに、何故ネ?」

 

 超は、ネギ・スプリングフィールドの存在を知っていた……やはり彼女は、何かを企んでいるのか?

 

「あの小僧は4月にはイギリスに返すそうだ。面白い?はた迷惑な子供だぞ?ジジィも頭を抱えていたな。

最悪の問題行動を自然とするヤツだ。私は関わり合いになりたくはないな」

 

 公衆の面前でストリップなどお断りだ!

 

「かっ返すのカ?4月……バカな、そんな事は知らないネ!」

 

 ネギの試練は、日本で教師として働く事。与えられたクラスと打ち解ければ、試練達成!イギリスに凱旋だろう。

 

「まぁ男子中等部に居るからな。超が知らなくても仕方ないだろう?」

 

 ネギはあくまでも男子中等部に赴任した教師。よって2-Aの、超達との接点は限り無く少ないから……

 

「そうだネ。私とネギ・スプリングフィールドとの接点は無い。

しかし気になるネ。英雄の息子を簡単に返すなんて……あの学園長がカ?」

 

 今迄の学園長なら、こんな楽しい駒に手出しをしない筈がない……お祭り大好き企み大好きな、それでいて謀略が一番好きな暗躍ジジィだ。

 

「さて、な。ジジィは変わったよ……

もう年だからな。余生を穏便に暮らしたいのだろう。解決出来る問題は解決し、難しい物には手を出さないんじゃないか?

ジジィは4月には学園を去る。それまでは大人しくしているが良い。穏便になっても、ジジィはジジィだ。

逆に刺激すると思わぬ反撃をするやもしれん。人間は、自分の平穏を乱す奴に容赦ないからな……」

 

 人間はささやかな生活を乱される事を最も嫌う。

 

「それは、永きに渡り生きてきたエヴァだからの忠告カ?」

 

 600年の齢を重ねたエヴァだからこその言葉……それには説得力が有った。

 

「ふん。そうかも知れんな」

 

 そう言って、椅子に深く座り目を閉じてしまう。寝た振りだが、これ以上話す事は無い!そんなアピールだろう。

 ヤレヤレと顔をしかめて、茶々丸のメンテナンスに戻る。しかし彼女のデータから、学園長の関連部分を抜き出す事は忘れない。

 

「歴史と違う麻帆良学園の流れ……原因は私カ?それとも資料と一番違う学園長カ?

彼は何を考えているネ……

ネギ・スプリングフィールドが2-Aの皆と絆を結び魔法世界に旅立たないと大変な事になるネ。私は世界の為に、敢えて悪になるヨ」

 

 どうしても、自分の望む未来にしなければならない。でなければ、此処に来た意味が無い。

 

「先ずは一番の異端な人物を徹底的に調べるネ。学園長……貴方は怪し過ぎるヨ。一体何を考えているのネ?」

 

 麻帆良の最強頭脳は、世界の歪みの原因に思い当たった!

 

 

 

 麗らかな土曜日の昼……

 

 普段の悩み事を忘れる為に、孫娘たる木乃香ちゃんを昼食に誘った。兎に角、癒やしが欲しい。

 確かに憑依してから、金と権力は腐るほど手に入いった……特別待遇を受け、高価で美味しい物も食べれた。

 しかし、それは自分の寿命50年分位と交換に、だ!

 

 しかも死亡フラグ満載。問題事も満載。そして寿命は、後僅か……

 

 確かに向こうでは死んでしまったのだから、生きてるだけでも幸せなんだろう。

 向こうで50年頑張っても、この地位になるのは不可能だろうし……暫しトリップして考え込んだが、気を取り直して現状で出来る事をしよう。

 先ずは、目の前の美少女との食事を楽しむ。彼女は慣れた手付きでコース料理のスープを飲んでいる……

 んー、女の子の食べる仕草をマジマジと見るのは初めてだ。

 

 あの口の動きは……何かグッと来るね!

 

「お爺ちゃん、どないしたん?じっと私を見て……」

 

 彼女は不思議そうな顔で僕を見る。

 

「いっいや、アレじゃ?ホラ?久し振りに会ったから、良く顔を見ておこうと、な……」

 

 はははっと誤魔化す。まさか君の物を食べる口がセクシーだったから、見惚れていました!

 なんて孫娘を対象に言ったら、変態だ!最低な爺さんと思われるだろう……

 

「木乃香や……大事な話しが有るのじゃ。儂は3月中をもって、麻帆良学園の学園長を辞める事になる。

まだオフレコじゃよ。それに伴い関西に戻る。木乃香もじゃ……」

 

 そう言って、彼女をじっと見る。木乃香ちゃんは、ビックリした顔をした後に……悲しそうな、泣きそうな顔になる。

 

「それは……何故なん?お爺ちゃん、私の中学卒業まで待てないの?」

 

 仲良くなった友達と一緒に卒業したい。友達と離れたくない。理由は沢山有るのだろう。

 

「木乃香や……すまんな。近衛本家の直系跡取りは、木乃香だけなんじゃ。

関西でお前を狙う連中が居て、危険なので関東に非難したんじゃが……何とか目処がたった。儂が直接話をつけに行く事でな……」

 

 本当に危険なんです。無防備な魔力タンクなんて、魅力的過ぎるから……

 

「お爺ちゃんが見合いを勧めなくなったのも、関係有るん?」

 

 お見合いは、ただ僕が嫌だったんだけどね。

 

「木乃香の関東での地盤を固める為に、関東で有力な者達への顔見せも兼ねてじゃったが……それも意味をなさなんだ」

 

 無理矢理な笑顔をしながら

 

「それなら仕方ないなぁ……うち、関西に戻る。セッちゃんは、どうなるん?」

 

 セッちゃん?刹那……桜咲刹那……ハーフ……烏族……オデコちゃんな美少女の情報が浮かび上がってきた。

 

 桜咲刹那……

 

 木乃香ちゃんの父親が遣わした、彼女の護衛。烏族とのハーフであり、幼なじみか……

 

「勿論、一緒に関西へ帰るよ。まだ彼女には伝えてないのじゃが、問題無いじゃろう……元々、木乃香の護衛の為に麻帆良学園に来たのじゃからな」

 

 魔法の世界から遠ざける為に、魔法使いの街に来たんだよ君は。そして護衛は、彼女だけ……どれだけ危険か分かるかい?

 

「セッちゃんが?私の護衛なん?友達なのに……そんなの知らなかった……」

 

 確か、木乃香ちゃんと桜咲刹那は距離を置いていた。多分、ハーフで有る事に負い目やコンプレックスが有るんだろう……

 

「じゃから木乃香と距離を置いていたんじゃろう?護衛対象と近過ぎては、護衛は務まらんからの……

儂からも話しておくぞ。向こうに帰れば、昔の様な関係に戻れるじゃろう」

 

 桜咲刹那と話す必要が有るだろう……彼女が木乃香ちゃんの護衛なのは確かだが、爺さんに良い様に使われていたし……

 護衛の者を対象から離して、警備をさせるとか。彼女も疑問に思わなかったのかな?

 大切な幼なじみとの復縁の可能性が見えてきたからか、食事を楽しむ余裕が出来たみたいだ。

 

 暫くは料理を楽しむ……老人と美少女に合わせてか、量も味付けも丁度良い感じで久し振りの外食を満喫した。

 

 うん。最初、関西に帰るって言った時は泣きそうな顔だったけど……今は心底楽しそうに微笑んでいる。やはり美少女の微笑みは素晴らしい!

 

 食後の紅茶とデザートを楽しんでいる時に、思い出した様に木乃香ちゃんが爆弾を落とした……

 

「お爺ちゃん、あのな……私達の担任だった高畑先生って、何処に移動になったん?」

 

 思いもよらない名前に、咽せてしまう。

 

「ケホケホ……タカミチ君じゃと?何故じゃ?」

 

「明日菜がな……高畑先生と会えないって、寂しがってるんや。何とかならへんかな?」

 

 確か明日菜ちゃんてタカミチ君に憧れていたんだっけ……オジコン?年上好み?年齢二倍位有るけど……

 

 ん?待てよ、爺さんの記憶だと彼女もネギ君や木乃香ちゃん並みに扱いが難しい娘だった……亡国の姫君・完全魔法無効化能力者。

 大戦時にナギ達に保護され、タカミチ君と共に麻帆良学園に来た。過去の全て忘れる事により、平穏を得た少女……

 

 少女?アレ?大戦時に?20年も大戦時に幼女?アレ?今の彼女は、女子中学生だよね?

 

 確かに見た目は、それ位の感じだが……長寿の一族?若作り?王族の血筋?

 でも何故爺さんは、二十歳過ぎの女性を中学生扱いにしてるのかな?……ああ、そうか!

 ネギ君と絡ませる為に木乃香ちゃんや他の特殊な少女達と合わせたのか……

 爺さん、明日菜ちゃんが全てを無くしても平穏を求めたのに、最初からネギ君に……

 自らが育てる英雄に関係を持たせるつもりだったのか……

 

「お爺ちゃん?黙り込んで、どうしたん?」

 

「木乃香や……明日菜ちゃんには内緒じゃが、タカミチ君は心の病なんじゃ。

真性のロリ・ペドじゃ。年下が大好きなんじゃよ。だから明日菜ちゃんにもチャンスは有るかもしれん。

しかし彼は若ければ、若い程大好きなんじゃよ。彼女が成長すれば捨てられるやもしれん。

エヴァをクラスから離したのも、そのせいじゃ……彼は幼女なロリが大好物じゃからな。

悲しい事じゃが、彼の心の病が治るまでは距離をおくのじゃぞ……そして秘密じゃよ、コレは。

まだ彼は犯罪者ではないのでな。更生の道を閉ざしてはならん」

 

 すまん、タカミチ君!君が悪いんだよ。

 

「……びっくりやな!高畑先生が、そんな変態さんなんやて?」

 

「そうじゃ!暫くは男子中等部の方に送り込む予定じゃ。男臭く、男塗れになれば良いのじゃイケメンめ!」

 

 木乃香ちゃんはブツブツと何か考え込んでいる……流石に、嘘とバレるかな?

 

「なぁお爺ちゃん。もう一つ聞きたいんや」

 

 木乃香ちゃんの質問には、なるだけ答えてあげよう。色々と考える事も有るだろうから、疑問を解決してあげよう。

 答えられる範囲だし、真実を教えられるかは分からないけど……

 

 

 

 心の癒やし……ストレス塗れの現代人には必須項目ですよね?

 体は老人、中の人は少年の僕……近衛近右衛門と言う妖怪ぬらりひょん?に憑依した今となっては、美少女孫娘との触れ合いが一番です。

 

 後は……美少女幽霊・美少女ロボ・美幼女吸血鬼と、可愛いのに変な付加価値が付いた娘ばかり。

 

 普通の娘との出会いは有りません!

 

 まぁ爺さんだし、男としての自信を取り戻すには頭とナニを何とかしないと駄目なんだ……

 

「なぁお爺ちゃん。もう一つ聞きたいんや」

 

 彼女の……木乃香ちゃんの質問に我に返る。食後のデザートを食べ終えたのか、口元をナプキンで拭いている彼女を見る……

 

「なんじゃ?」

 

 タカミチ君の事を聞かれて、関係を持って欲しくないから……彼をロリでペドな変態に仕立てたからな。次はどんな質問なんだか?

 

「巷で噂になってる子供先生と子供性犯罪者なんだけど……お爺ちゃん何か知ってるん?」

 

「なっ?」

 

 思わず黙り込んでしまう……ネギ君の事だ!しかし……隠蔽はしていたのに何故?何故、木乃香ちゃんが知ってるんだ?

 手に持つカップがカタカタと揺れて……

 

 いかん!落ち着かないと……

 

「黙ってもうた……お爺ちゃん、何か知ってるんだね?」

 

 飄々とした爺さんと違い、僕は動揺してしまった。これは肯定と同じだ。カンの鋭い彼女の事だから、何か有るとバレたか?

 ここは事実を少し曲げて説明するか。

 

 しかし……

 

 どのルートでバレたんだろう?隠蔽工作は上手く行った筈なのに……

 

「そうじゃな……確かに子供先生は知ってるぞ。麻帆良学園の学園長の儂が知らない先生は居ないからの。

木乃香や……誰から聞いたんじゃ?男子中等部の話じゃし、接点はないじゃろ?」

 

 彼女は可愛らしく首を傾げながら「クラスの友達からだよ。お爺ちゃんと食事するって言ったら聞いて欲しいって……良くない話なの?」少し不安げに此方を見詰めてくる。

 

 この表情と仕草は……イケナイ魅力が溢れてますね!

 

「木乃香や……これは大人の事情が有る話なんじゃよ。

子供先生……確かに本校男子中等部の副担任として、1ヶ月間だけテストケースとして受け入れたんじゃ。

彼は大口スポンサーの関係者でな……儂ですら断れなかった。

だから一年生のクラスの副担任にしての。学生の将来には影響が少ない様にしたんじゃ」

 

 ふーっと息を吐き出しながら言った。如何にも困ってる風に……本当に困ってますが!

 あの信じたくないラッキースケベ君にね。

 

「学園長のお爺ちゃんが断れないの?影響って、そんなに問題有るん?」

 

 アレ?子供先生でも問題無いと思ってますか?認識阻害の効果なのかな?

 

「受験や進学を控えた三年生は論外。一年生なら、去年迄は小学生だったし勉学にも影響は少なかろう。

いきなり自分達と変わらない外国人が、副担任になっても……どの道騒ぎになるなら、せめて学業が大変でない一年生が良いじゃろ?」

 

 彼女は、何か感激しているみたいだ。両手を胸の前で合わせて……「お爺ちゃん、やっぱり教育者なんだね!ちゃんと生徒の事を考えてるんや」そう言ってくれた。

 

 可愛い娘に尊敬されるなんて、初めての経験だ!

 

「それでも迷惑を掛けてしまうんじゃ。だから、なるべく周りに知らない内にイギリスへ返したいんじゃよ」

 

 早くウェールズに送り返したいんです!

 

「ふーん。その子ってイギリス人なんやね」

 

「そうじゃよ。木乃香や……誰かの?木乃香に子供先生と子供性犯罪者を教えたのは?」

 

 此処で犯人を知って釘を刺しておかないとマズい……ズルズルと噂は広まるだろう。

 

「うんっと……その、お爺ちゃん。教えても相手を怒らない?」

 

 上目使いに此方を見詰めてくる……優しい子だな。きっと彼女に教えた相手が叱られないか心配なんだ……なるべく優しい表情と声で応える。

 

「勿論じゃ!ただ事情が事情だから、周りに広げない様に注意するだけじゃよ……

それで朝倉君かな?麻帆良のパパラッチだったか?情報通らしいからの」

 

 問題ばかり起こすクラスの名簿は確認している。それに爺さんの記憶でも危険人物認定されてた。

 報道部で他人の秘密を嗅ぎ廻る奴なんて、魔法を秘匿しなければならない我々からすれば……

 迷惑以外の何者でも無いだろうし。記憶に浮かぶ容姿は、勝ち気で押しが強そうな感じがする……

 

 何だろう?ビッグな何かは、クラス№4って?

 

「うん、そうや!だから酷い事はしないでね。あと超リンが、女性を脱がし捲る子供を見たって言うてたよ」

 

 超だって?あの要注意人物が、ネギ君の事を知っていた?これは問題だぞ……

 

「お爺ちゃん、怖い顔をしてる……」

 

 木乃香ちゃんを怯えさせてしまったか。

 

「女性を脱がす?そんな危険人物なら、儂に報告が有る筈じゃが?未だに報告は無いぞ?まさかガセかのう……」

 

 子供先生なら、何とか誤魔化せる。しかし性犯罪は無理だ……常識的にみても、即警察へ通報だ!

 僕達が揉み消したなんて言える訳がない……

 

「でも不思議なんよ。普段は余り話さないのに、急にお爺ちゃんに聞いてくれって……でも本人は見たって」

 

 超鈴音……

 

 やはり彼女は魔法の存在を知っている。当たり前だ……エヴァと共に茶々丸を作製したのだから。

 そしてネギ・スプリングフィールドの事も……あの時、周りに居た一般の人達には記憶操作を施した。

 つまり無かった事になっているんだ、ネギ君のエロい騒ぎは……

 

 それを敢えて「私はネギ・スプリングフィールドの奇行を知っているんだぞ!」と、学園長たる僕に知らせて来た……

 

 つまり、何か行動を起こした訳だよね。交渉か脅迫か……どちらにしても友好的な関係にはならないし、不干渉も止めたのだろう。

 

「木乃香や……朝倉君と超君には、儂からも話をしておく。

だから、何か聞かれたら学園に無用の心配事を広めない様に言っておくれ。勿論、実際に子供先生を見に行こうとかは駄目じゃ。

彼も周りから騒がれたら嫌じゃろ?本人は良い子なんじゃよ。だから穏便にすませたいんじゃ……」

 

 木乃香ちゃんは頷いてくれた……美少女との楽しい食事会。

 しかし、新たな問題が発生してしまった……朝倉君は、何とかなるだろう。

 報道とは、時に無用な不安を煽らない為に自主規制する事も有る。

 それでも調べたり無闇に話したりするのは……報道者では無く、たちの悪い噂好きだ。

 木乃香ちゃんを女子寮に車で送る時に、何気ない会話をしながら考えている事は問題を起こしそうな2-Aの事だ。

 既に彼女達には、既にネギ君の事が知れ渡っていると考えた方が良い。

 

 朝倉に超か……何を企んでいるんだ?

 

 

 

 美少女との楽しい食事会……やはり木乃香ちゃんは可愛い娘だ。ストレスは随分と減った。

 しかし、新しいストレスの種も教えてくれたんだ……食事を終えて自宅に戻る。

 エヴァと茶々丸は、メンテナンスの為に超一味の所に行っている……茶々丸に記録させた、僕のメッセージを見ている頃だろう。

 不干渉を願ったが、相手は事を構える様な……木乃香ちゃんを使い、此方に揺さぶりを掛けてきた。

 つまり、今迄みたいな不干渉では無くなったのだ。

 

 後は、何時の段階で接触を持つかだ……彼女達、超一味は……超鈴音を筆頭に、葉加瀬聡美。

 彼女は間違い無くマッドで有り、最後まで超に付くだろう……古君や五月君は、料理繋がりだが魔法の件はしらないから問題は少ない。

 

 やはり……超は魔法世界の人間で間違い無いだろう。

 

 此方の世界では過去の痕跡が分からなかった……でも魔法世界なら連合や帝国、我々と交流の少ない部族や種族も居る。 

 魔法に科学的アプローチをする天才だが、此方より彼方の方がしっくり来る。当然、魔法世界の何処かの勢力と繋がりが有るだろう……

 

「全く……1ヶ月位大人しく出来ないのかな?僕が引退するのは知ってる筈なのに、今のタイミングで接触するなんて……」

 

 僕はお手伝いさんが「夕食の準備が出来ました」と、呼びに来るまで薄暗い部屋で物思いに耽っていた……

 

 ネギ君の事、関西呪術協会の事……そして超一味と、序でに朝倉君の事を……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 お昼を豪華なレストランで食べて来たが、このお手伝いさんの料理の腕も凄いと思う。

 今夜は鍋だ!1人鍋……しかも、スッポン鍋?

 

「あの……儂もう年寄りじゃし、スッポン鍋はちょっと……」

 

 食べた事なんてないが、如何にもな精力増強料理ですよね?生き血のお酒割りとかも置いてあるし……

 

「ほほほほほ……旦那様には必要ですよね?老いて益々アレですし……お盛ん?」

 

 呼び出しにパタパタと来たと思えば、とんでも無い事を仰りましたよ?

 エプロンで手を拭きながら、老人に精力増強料理を勧めるお手伝いさん……イジメですか?

 

「ははは……」

 

 と、誤魔化しながらスッポン鍋は下げて貰った。次に出て来たのはしゃぶしゃぶだ!

 薬味は、紅葉おろしに胡麻ダレにポン酢だ。断然ポン酢派です。肉と野菜をバランス良く食べてから、締めはうどん!

 これを生醤油とネギだけで食べるのだ!

 

「げふっ!御馳走様でしたの……」

 

 お腹をさすりながら、1人鍋を食べ終えた。少しだけ、本当に少しだけ寂しいと感じる。昔は家族全員で鍋を突っついたんだ。

 肉は少なく野菜や豆腐ばかり食べさせられたけと……不思議と高級食材を食べれる今より、美味しかったし楽しかったな。

 食後のお茶を貰い、デザートのカットフルーツを摘む。

 苺・キュウイ・パイナップルにブルーベリー……ブルーベリーを生で食べたのは初めてだ!

 それと柑橘の女王「不知火」一個何千円だか分からないけど、確かに美味しい。

 

 お腹も膨れた所で「御馳走様でした!」と言って私室に戻る。

 

 お手伝いさんは……エヴァと茶々丸の事を誤解しているのだろう。

 本当に何でもないのだが……どう説明したら分かってくれるのか?を悩みながら部屋の扉を開けたら、その元凶達が居ましたよ。

 

「ジジィ、邪魔してるぞ!」

 

「学園長、夜分失礼致します……」

 

 洋ロリとメイドロボが、寛いで居ましたとさ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 時間は少し遡り、メンテナンスの為に工学部にあるラボに来た。ここは、技術が10年位進んでいる感じがする。

 研究者達が、未だ二足歩行が可能なロボが最先端の筈なのに……遥かに進んだ技術を研究していた。

 その一角に、超と葉加瀬のラボが有る。

 

 茶々丸が生まれた場所……

 

 彼女は今、メンテナンスを受けている。幾つかのコードがモニターと彼女を繋いでいる。

 様々なデータがモニターの上を走る……それを眺める超と葉加瀬。

 

「特に問題は無いネ」

 

「そうですね……チェック項目は全て正常値です」

 

 茶々丸の創造者達が、彼女の状態が万全だと太鼓判を押す。それを椅子に座り聞いているエヴァ……手には珍しく缶コーヒーを持って。

 

「そうか……」

 

 缶コーヒーを弄びながら、気のない返事をする。そうこうしている内に茶々丸のメンテナンスが終了し、マスターたるエヴァの下に来る……

 

「お待たせ致しました……メンテナンスは終了です。問題は何も認められませんでした」

 

 律儀に報告をしてくれる従者を労る様に軽く手を上げる……

 

「世話になったな、超……」

 

「別に良いネ。それより2人して学園を辞めたのは何故ネ?」

 

 学園長に雇われた為に、中学生を辞めた2人……

 

「ん?ああ、このふざけた呪いを緩和出来たのでな。オママゴトな学生生活を終わりにしたのだ」

 

 登校地獄と言うフザケタ呪いは緩和されている……彼女は学園の関係者として正式に雇用された。

 勤務条件を記載すれば、有る程度は麻帆良学園内を自由に行動出来る。

 

「学園長が良く許可したネ?最近の学園長は大分変わったヨ……」

 

 自身のデータ……過去の学園長の行動とは、随分違っている。

 

「ジジィか……来月には、麻帆良の学園長の地位と関東魔法協会の会長職を辞するそうだ……」

 

「そっそれは本当カ?だって学園長は……」

 

「ああ……過去の大戦の責任を取る為に辞めるそうだ。今後は関西との関係回復に、力を入れるんだろう……」

 

 何を言ってるんだ?ネギが正式に教師となり、関西に修学旅行に行く理由の一つが関西との仲直りの筈……それをフライングして進めるだと?

 

「そっそんな馬鹿な話は知らないネ!学園長は一体何を考えているネ?」

 

 思わず叫んでしまう……

 

「超よ……学園長から伝言だ。ジジィは来月には学園を去るから、大人しくしていて欲しい……とな。確かに伝えたぞ」

 

 そう言って、茶々丸を伴いラボを去った……超は彼女達に掛ける言葉が無かった。

 

「あと一月じゃ準備が間に合わないヨ。計画を練り直す必要が有るネ……私は諦めないヨ」

 

 エヴァ達を見詰めながら、一年近く掛けた計画が破綻した事を理解した。しかし軌道修正すれば良いと考えている。

 

「このままでは……このままでは、終わらせないネ……」

 

 

 

 まほネットでもしながら、夕食後の一時を楽しもうと思ったら……人外秘書コンビが先に寛いでいました。

 和室に座布団を敷いてだらしなく座るエヴァと、行儀良く座る茶々丸……和の雰囲気に金髪と緑髪の美少女&美幼女?

 

「えっと……何故じゃ?」

 

 せめて理由を教えて欲し……「お茶のお代わりをお持ちしました」お手伝いさんが、ナチュラルに盆に湯呑みを3つと茶菓子を持って来たよ……

 

「えっと……何故じゃ?」

 

「有難う御座います。後は私が……」

 

 茶々丸がお盆を受け取り、各人の前に湯呑みを置いていく。

 

「では、ごゆっくり……ニヤリ……」

 

 何事も無かった様に湯呑みからお茶を飲むエヴァ……食べれないので、自分の分の茶菓子もエヴァに渡す茶々丸……

 

「えっと……何故じゃ?」

 

 答えてくれる迄、同じ台詞を繰り返すしかなかった。

 

「何を呆けてるのだジジィ!普通に玄関から来たぞ。これから夕食だから共にと誘われたが、断って待たせて貰ったのだ」

 

 ああ、誤解されているな……だからスッポン鍋か!僕に彼女達をどうしろって言うんだよ?

 どう見ても無理なのに、無茶な誤解を受けている。

 確かにゴシックロリータ調のドレスを着込んだ金髪な洋ロリのエヴァ。

 髪の毛こそ緑色と奇抜だが、ロング丈の古風な感じのメイド服にメガネな茶々丸さん……

 確かに妖しい趣味が全開のコスプレプレイと言われても、反論が出来ない状況証拠が揃ってますね。

 明日の朝、誠心誠意に話し合う必要が有りそうだ。

 

 お手伝いさんと……僕の性癖、もとい爺さんなんだから土台無理なんだよ、ナニはと言う事を!それは置いておいて、再度問い掛ける。

 

「えっと……何故じゃ?」

 

 同じ問いを繰り返す。こうなれば自棄だ!

 

「ジジィに頼まれた超への伝言を済ませたのだ。有り難く思えよ」ふんぞり返って言われても……薄い胸板が強調されてますけど?

 

「超さんは……何故か困っていました。まるで予定と違う様な感じで……私の知っている……とは違う……とか。

呟き程度ですし後ろ向きだったので、それ以上は解りませんが……」

 

「ああ、そうだな。ジジィが辞めると話たら、馬鹿な……とか言っていた。まるで自分の予想が外れた様な……」

 

 なる程ね……爺さんは権力に固執するタイプみたいだったし。すんなり引退なんかしない程度は調査済みかな。

 だけど僕が辞めて後任が来る時期なら、学園はドタバタして不安定な筈だから……何か騒ぎを起こすなら、やりやすくないのかな?

 記憶の中で学園長の後任候補は何人か思い浮かぶけど、皆さん微妙な能力だ……悔しいけど爺さんは良く学院を纏め、対外的に睨みも効かせていた。

 

「なぁ……儂はそれなりに学園を纏め、対外的にも睨みを効かせていた筈じゃ。

儂が第一線を退く方が、何かを企む奴はやり易くないか?何故、超君は儂が辞めてしまうのが問題なんじゃ?」

 

 そう僕よりも超鈴音と付き合いの長い彼女達に聞いてみる。

 

「確かにジジィは食わせ物だし、引退するなら待つ方が有利だな」

 

「または……企みに学園長も必要だから……それとも学園長本人に何かしら企てたいのかも知れません」

 

 見た目によらず、結構毒を吐く茶々丸……しかし超鈴音の目的が、ネギ君でなくて僕か……恨みを買い捲っている爺さんだから、可能性は低くない。

 寧ろ、ネギ君と言う厄介者が居る今だから、対応に追われる僕に仕掛けるチャンスが有るからか!

 

「なる程の……確かに超君の狙いが儂なら、ネギ君と言う扱いの難しい者が居る今がチャンスだ。

彼の為に隙も多いし、動かす駒も少ない。

やはり彼女は大戦時に儂に恨みを持つ者の関係者か……復讐の相手が引退など、フザケルナと言う事か……」

 

 恨みを持つ相手が、呑気に引退じゃ納得しないわな。

 

「超が魔法関係者だと?アレ自身に魔力は感知出来なかったぞ。でも体捌きを見ると、何かしらの武術を収めていそうだな」

 

「科学的な方面に特化してますが、確かに旧世界なら……此方では個人データは必ず何処かに記録される物。

どんな小さな痕跡でも……それが全くないのは、魔法世界の住人と思った方がしっくり来ますね」

 

 幾ら調べても分からない筈だ……戸籍や個人データの管理と言う、概念の低い向こうなら有り得る。

 

「今日、木乃香から聞かれたんじゃ。超君から、子供性犯罪者……つまりネギ君の事を教えて貰ったとな。

超君は儂に対して揺さぶりを掛けて来た。つまり、もう静観はしない。儂に行動を仕掛けて来たんじゃ」

 

 一年も前から復讐の準備を進めて来ただろうが、相手が引退では話にならない。だから無理にでも行動を起こしたのかな?

 

「ジジィ、どうするんだ?」

 

「学園長……どうなさいますか?」

 

 2人は僕を爺さんを心配してくれてるみたいだ……素直に嬉しいと思う。しかし大戦の関係者なら、会って真意を聞くしかないよね。

 爺さんだけでなく、ナギ達にも恨みが有るかもしれないし。冷えたお茶を一気飲みして、無理矢理落ち着く……

 

「エヴァよ。済まぬが、超君にアポを取ってくれぬか?直接会って話を聞こう。儂に非が有るならば、一方的に攻める訳にはいかないて……」

 

「私も立ち会うぞ。今ジジィに死なれては、私達が困るんだ」

 

「確かに。今更学園長が亡き者になってはマスターと私の生活に問題が発生します。私も同行します」

 

 えっ?コレって、生き死にの問題まで発展するの?ただ会って話をするだけじゃないの?

 

「そっそうじゃな……魔法先生方に同行して貰うのは問題有りじゃな。エヴァと茶々丸に立ち会いを頼もうか。

しかし、あくまでも話し合いじゃ!武力で解決はしない、させないで頼むぞ!」

 

 本当に頼みますよ、エヴァさん、茶々丸さん!話の流れ的に会う方向にしたけど……超との対談をイメージしてみる。

 

 

「儂に恨みが有るのか?」

 

「当たり前ネ!死んで詫びるが良いヨ!」

 

「あっ……アーッ!」

 

「バッドエンド!嗚呼、近右衛門よ……死んでしまうとは何事だ?」

 

 

 そんな流れで殺されるのは真っ平御免だよ!

 

 



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第5話

 ネギ・スプリングフィールド……

 

 大戦の英雄の息子。破天荒な父親と違い、真面目で努力家。魔法の才能は親譲り!

 そしてトラブルメカーとしても、両親の血を色濃く引いていた。

 

 ラッキースケベ&女性恐怖症……

 

 なし崩し的にエロい事をしてしまうのに、被害者の筈の相手を怖がる。相手の女性は、やられ損な感じが漂う迷惑な存在だった!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 そんなネギ君も、麻帆良男子中等部一年に赴任した副担任。担当教科は英語。日本の学校で教師になる事が試練の内容だ!

 学園長より、徹底的に教師として行動する様に本人も周りも言い含めている。

 魔法に関しては、魔力制御と基礎体力作り。まさに健全な肉体には健全な精神が宿る……かも知れない生活だ!

 

「「「おはよーございます!ネギせんせー!」」」

 

「はい、皆さんおはよーございます!では出席を取りますね……」

 

 麻帆良に来てから一週間。学校にも慣れて、朝礼から出欠席の確認。連絡事項の確認など、副担任として様になってきた。

 

「……では、今日は此から健康診断が有ります。皆さん教室で準備を始めて下さい」

 

 そう言って教室を出て職員室に向かう。男ばかりの男の園では、彼のスキルも無用の長物だ!

 職員室で割り当てられた机に座り、次の授業の支度をしていると、同僚の男性教諭から声を掛けられる。

 

「ネギ先生。大分慣れたようですね?」

 

「ネギ先生。中々様になってますよ」

 

 学園長が、ネギ君の同僚として送り込んだ弐集院先生と瀬流彦先生だ。彼らはネギ君の監視とフォローが仕事!

 さり気なくネギ君のストーカーをしている。

 

「ああ、弐集院先生・瀬流彦先生、有難う御座います。大分慣れて来ました。やっと生徒さん達の顔と名前が一致する様になりました……」

 

 エヘヘッっと照れる彼は、ショタ好きには堪らないご馳走だ!残念ながら、ここは男子中等部。

 男の為の男の園……養護教員から一般教員に至る迄、全員男!完全男の環境だ!

 事前に年配でも性別が♀の方は、学園長が穏便に異動して頂いた。

 

 英雄の息子、ネギ・スプリングフィールドの為だけに用意された「完全なる(男)世界」なのだ!

 

 だから幾らショタっ子成分をバラ蒔いても、何の障害も無い。ラッキースケベも発動する切欠すら、完全に無い!

 誰得なのか分からない、不思議な世界なのだ……

 

「それは良かった。あと三週間ですが、頑張りましょうね」

 

「はい!有難う御座います」

 

 元気よくお礼を言って授業に向かうネギ君を見て、ポツリと呟く……

 

「弐集院先生……学園長からの連絡をどう思いますか?」

 

「ああ……超君が学園長のお孫さんに、ネギ君がヤング性犯罪者と教えた事だね。

超君か……何か得体の知れない娘だよね。警戒するしか無いかな。

ネギ君は、教師生活を楽しんでいるし。このままイギリスへ帰してあげたい」

 

 学園長は魔法関係者に、超鈴音の事を報告している。ネギ・スプリングフィールドに絡んで来た事を……

 そして彼女が魔法世界の関係者だと考えている事も。但し直接の手出しは控えて、あくまでも監視重視でと厳命した。

 原作より早々に危険人物として警戒され、監視も付けられた超鈴音で有った……

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 授業を終えて職員室に戻り、定時を迎えて寮に戻る……帰り道で部活動で残っている生徒達が挨拶をしてくれる。それにイチイチ律儀に挨拶を返す!

 

「「「ネギ先生さよーなら!」」」

 

「はい、さよーなら!暗くなる前に帰るんですよ」

 

 僅か一週間だが、ネギは麻帆良学園を気に入っていた。此処には英雄の息子と言う色眼鏡で見る連中は居ない。

 メルディアナ魔法学校で感じていた、周りの連中のよそよそしさも無い。同年代の男の子達と、こんなに楽しく接したのは始めてだ。

 何時もネカネお姉ちゃんとアーニャとしか、親しく話していない。

 しかも彼女達は、事故で胸や尻を触ったりすると途端に変な雰囲気になる……

 

 何故彼女達は、にじり寄ってくるのか?捕食される生き物の気持ちになるんだ。

 

 だから真っ裸で……いや、マッハで逃げる。

 

「学園長の言った事は間違いじゃないんだ!前に比べたら此処は天国です。僕は此処で漢とは何たるかを学び取るぞ!

男の園、バンザーイ!男だけの世界、バンザーイ!」

 

 一つ間違えれば、ショタホモだ!ご機嫌で帰路に就くネギを見守る不審者が居る。

 

 超鈴音……彼女は埒があかない現状を打破する為に、直接ネギに接触を試みるつもりだ。

 

「なっ?やはり、この世界のネギは変態ネ!男だらけを喜ぶなんて……私、もしかしたら産まれないかも知れないヨ……」

 

 声を掛けようとしたが、ネギの魂の奇声に気勢を削がれた形になる。

 

「まだ餓鬼の癖に、男だらけを喜ぶ変態ネ!阿部さんが聞いたら拉致られるヨ」

 

 呆然と見送るネギは、本当に男だらけな環境を楽しんでいるのが分かった。

 道行く男達を親しげに挨拶を交わすネギ……しかし男同士の友情は、不思議と余り感じられない。

 男達と和気藹々(わきあいあい)と楽しんでいるよりは、男だらけの環境が嬉しく感じているみたいだ……

 

 ネギ・スプリングフィールド……

 

 餓鬼の癖に早々に従者ハーレムを作った男の敵。しかし実際は男の味方……「ドキッ!男だらけの麻帆良学院・ポロリも有るよ!」状態だ……

 

「アレは、もう放っておくネ。私の計画の要だったが、居なくても良い方法を探すヨ……」

 

 世界に魔法の存在をバラすだけなら、あの変態に関わらなくても良いネ。

 最悪、目的が達成されるなら私は産まれてこなくても構わないヨ……もはや、どうにも知っている過去じゃない世界。

 

 ならば違う方法を探せば良いだけだ……

 

 此処に来て未来人は、根本的な目的を達成する為にネギ・スプリングフィールドとの関わり合いを切った。

 超鈴音にとって、魔法の存在を世界中にバラすだけなら修正可能だから……

 そっとネギ・スプリングフィールドから目線を外し、逆方向に歩き去る超鈴音を何人かの魔法関係者が確認していた。

 怪しい行動をする超鈴音。この報告は、直ぐに学園長に伝わる事になる……

 

 

 

 超鈴音が、ネギ・スプリングフィールドとの関わり合いを諦めた頃、学園長はオデコちゃん……桜咲刹那に対して、どう説得するかを悩んでいた。

 彼女は関西を裏切る様な形で関東に、麻帆良学園に来た。

 それは爺さんと婿殿と言うか、関西呪術協会の長の思惑の元に……烏族とのハーフで有る事を悩む、真面目で堅物の女の子だ。

 

 何と背中に羽根が生えるらしい。しかも白い羽根が……

 

 しかし爺さんの記憶には、もっとビックリな連中が居るし、可愛い女の子に羽根が生える位では驚かない。

 それよりも萌え……そうモフモフ萌えが芽生えそうだ!

 昔は家で飼っていたアヒルのお尻のプリプリな所に、萌えを感じていたんだ!

 是非とも触り捲りたい!クンカクンカしたい!心行くまで、モフりたいんだけど……

 

 残念ながら見た目が爺さんの僕が、女子中学生の背中にのし掛かって羽根をモフモフしたりクンカクンカしたりする事は……

 残念ながら出来ないだろう。普通に考えても即アウト!性犯罪者として扱われて変態の烙印を押される。

 

 爺さんだって、可愛い物が好きでも良いじゃないか!

 

 モフモフっ娘にクンカクンカしたって……いや、それはマズいよね?

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 そんな桜咲刹那の背中の羽根について妄想していると、学園長室に呼び出していた彼女が来た。

 

「学園長、お呼びにより伺いました」

 

 ドアをノックする音と共に、幾分固い感じの声が聞こえた……羽根モフモフ娘が、やって来たぞ!

 

 彼女の見えない白い羽根に心をかき乱されながら「開いてる……」「開いてるぞ!早く入れ、桜咲刹那」僕の声に被せる様に、エヴァが入室の許可を出す。

 

 今日は年齢詐称薬か幻術かは知らないが、アダルト秘書バージョンだ!

 

「……?失礼します……あれ?絡繰さん、どうして学園長室に?」

 

 幾分緊張した感じで部屋に入ってきた刹那君だが、茶々丸を見て固まっている。

 しかし魔法関係者には、連絡を廻して有る筈だけど。エヴァと茶々丸の待遇についてを……まさか、回覧を読んでいないのかな?

 

「桜咲さん、お久し振りです。私とマスターは、学園長に雇われて秘書兼護衛の任に就いています」

 

「そうだそ!桜咲刹那、久し振りだな」

 

 アダルト秘書バージョンのエヴァに話し掛けられて、余計動揺している?

 

「まぁなんじゃ……エヴァも何時までも女子中学生をやらせておく訳にもいかないからな。

呪いを緩和して、学生でなく職員にしたのじゃ。連絡は廻して有る筈だが?」

 

 無駄に幻術で立派になった双子山を仰け反らすエヴァ!己の胸元に目線を送り、憮然とした顔の刹那君……

 

「すみません……確認していませんでした。しかし、学園長!闇の福音を職員になど、何を考えているのですか?」

 

 今更なんだけど……彼女もエヴァに関しては、他の魔法先生と一緒の反応か……いや、木乃香ちゃんに害をなすかもしれないと思っているのかな?

 エヴァは、そんなに悪い娘じゃない。意地っ張りでプライドが高く、扱い辛いが寂しがり屋な一面を持つ永遠のロリータだよ。

 

 僕には、未だ怖い時も有るけどね……

 

「エヴァの賞金は既に取り下げられている。それに……何時までも呪いのせいで、学生をやらせ続けるのも忍びないでな」

 

「しかし……」

 

 ガンドルフィーニ先生並みに頭が固い娘だな。

 

「今日呼んだのはの……木乃香の事じゃ。来月、儂と共に関西へ帰る事にした。勿論、君もじゃよ」

 

「なっ?何故です?そんな急に……」

 

「儂は関西呪術協会と和解する。婿殿も、西の長を辞する事になるじゃろう……儂も関東魔法協会の会長職と、麻帆良学園の学園長を辞する。

これは関西へ対しての誠意と贖罪じゃ。大戦の被害者と、その家族への保障もするつもりじゃよ」

 

 桜咲刹那には、木乃香ちゃんの護衛を引き続きして欲しい。だから真実を話す。

 

「学園長!そんな事をすれば、お嬢様を守る力が……」

 

「権力では守り切れない事も有る。儂と婿殿を恨む連中は多い……だからこそ、我らの側から謝罪せねばならぬ。

家族を木乃香を巻き込まない為にもケジメは必要じゃ……負の連鎖は断たねばならない。だからこそ、君にも関西へ戻って貰いたい」

 

「わっ私は……常にお嬢様の側に……」

 

 彼女は木乃香ちゃん第一主義だ。しかし裏切り行為とも取れる関東への移籍……関西には戻り辛い筈なのに、気丈に答えている。

 その白く細い手が、僅かに震えるのを見て見ぬ振りをする……

 

「そうか!一緒に帰ってくれるか。すまんの……関西を半ば裏切る様な形で関東に来たのに。

それと木乃香には、魔法の件を教えるぞ。もはや何も知らないでは、身を守れない……

刹那君。

すまぬが、より一層木乃香の側に居て欲しい。今の様な護衛体制では駄目じゃ」

 

 ここで護衛を引き合いに、微妙な距離を無くす。

 正体がバレる事への恐怖か知らないが、中途半端な護衛は無意味だし当人達にも辛いだけだし……ベッタリ張り付いて欲しいんだ。

 そして仲良くして欲しい。記憶に有る昔の様に……

 

「お嬢様に魔法を?でも、お嬢様には何も知らずに幸せに暮らして欲しいと……」

 

 自分が狙われているのを理解してるか、してないか……これは大きな問題だよ。

 

「超鈴音……

何やら木乃香に接触し、彼女にネギ君の事を教えた。知っての通りネギ君は、ナギ・スプリングフィールドの息子。彼女が何を考えているか分からない。

それに関西と何時までも仲違いしては、木乃香に危険が迫るやも知れん……だから関西との関係回復で有り、護衛体制の変更じゃ!

木乃香は刹那君を受け入れてくれるじゃろう。優しい娘じゃからな……今はその彼女を悲しませているのじゃよ、君は。分かるな?」

 

 俯いて両手を握り締める彼女は、何も言わなかった……簡単には解決出来ないだろう。

 刹那君は、木乃香ちゃんに自分を否定されるのを恐れているから……

 

「わ……わたしは……その、お嬢様の近くに……でも私は……私が傍に居ては……お嬢様が……」

 

「木乃香にも危険が迫っているのじゃ。どうか、この通り孫娘を守って欲しいのじゃ」

 

 そう言って頭を下げる……真面目で石頭であるからこそ、年配者に頭を下げられれは困る筈。

 

「わっ分かりました!しかし、直ぐには……今まで避けていましたし……」

 

「その辺のフォローは儂からもしよう。昔の様に仲良くして欲しいのじゃよ……それだけで、木乃香は強くなるじゃろう。本当にすまなんだ……」

 

 これで少しは彼女達が幸せになれる確率は上がった。後は僕と周りの大人達の頑張りなんですが……木乃香ちゃんと再び仲良く出来るかも知れない。

 しかし正体を知られ嫌われるかも知れない。そんな心が揺れ動く彼女を見ながら、昔飼っていたアヒルを思い出した……

 

「ガァ吉、元気かな?ああ、モフモフしてー!クンカクンカしてー!」

 

 ブツブツ呟く僕を不審者を見る様な眼で記録する茶々丸が居た……

 

「学園長……流石は変態ぬらりひょん!お二方がドン引きですよ……」

 

 

 

 美少女モフモフ娘も、関西に帰る事を承知してくれた……しかし立場が微妙な娘なので、フォローは必要だろう。

 魔法については木乃香ちゃんに、ちゃんと教えるつもりだ。才能と言う点では、ネギ君にも劣らない。

 

 勿論、保有魔力もだ……今から教え込めば、ある程度は自衛も出来るだろう。

 

 嗚呼……最近、爺さんとの融合が進んでいるのを感じる。

 

 一寸前は普通の中学生だったのに、それなりに爺さんとしての立場と仕事がこなせているんだ。社会人になってない子供がですよ?

 精神?魂?が、肉体と記憶に引き摺られているのかな……もう僕は、爺さん(の記憶と肉体)と融合しているのだろう。

 

 最近、魔法の練習もしているんだ。

 

 体が記憶しているのだろう、魔法は思ったよりすんなり使えた……西洋魔法の他に東洋の呪術も使える。

 爺さんは、かなりの使い手だったから記憶をトレースするだけで良いんだよね。

 しかし所詮は他人の記憶を宛てにしているから、いざ戦闘とかは無理だと思う……言うなれば、仮免練習中なのにレーシングカーに乗ってるんだ。

 気を許せば、簡単に事故るよ。始めて魔法を使えた時も、喜んで制御を疎かにしてしまい片手が燃えたから。

 勿論、興味本位で魔法の練習をしているんじゃない。相坂さんを何とか出来ないかな?と考えた末に、辿り着いたのが依代だ!

 

 憑代・依代・憑り代・依り代……

 

 言い方は色々有るが、日本の古神道では全ての物に神が宿る。八百万の神々が居たと考えられていた。

 つくも神とかも、そんな考えから来てるのかも知れないし……だから魂が宿れる物を用意すれば、可能性は高い筈んだ。

 相坂さんの憑依出来る依代を用意すれば、彼女は麻帆良学園から出れると思う。

 

 出来れば人型を用意してあげたいけど……人型……人形……ドールマスター?

 

 エヴァなら何か作れるかも知れないな。今度聞いてみよう!

 勿論、本人の同意は必要だし何故そこまでするの?って言われても、僕だって分からない……同情なのか、爺さんの初恋の相手だからか?

 

 全く難儀で厄介な人生だ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 木乃香ちゃんで癒やしを貰ったら、次は相坂さんだ!

 年齢詐称薬を飲み、夜の麻帆良へ繰り出した……まだ春先とは言え、夜は冷え込む。

 学生服のポケットに両手を突っ込み、背を丸めて歩いて行く……目指すは相坂さんの居るコンビニ。

 前に言っていた、夜はコンビニかファミレスに居るって……だから二回程会ったコンビニに向かう。

 まだまだ冷え込む為に、吐く息が白い……街灯しか照らす物が無い夜道にぽっかりと明るい建物。

 

 コンビニエンス・ストアのMAGGYだ!

 

 目を凝らして見ると……居た!相坂さよさん。

 ボーっと店内を眺めている相坂さんの隣に立つ……この時間だと店内は無人だ。店員も奥に引き籠もっているのかな?

 店内に入ればセンサーチャイムも鳴るから、出てくるだろう……

 

「今晩は!相坂さん、ちょっと待っててね……」

 

「今晩は、近衛君。久し振りですね」

 

 気持ち嬉しそうな彼女の脇を通り店内へ。自動ドアが開くと共に、軽快な電子音が鳴り響く……

 

「いらっしゃいませー!」

 

 気の抜けた声で挨拶をしながら、奥から若い店員が出てくる。毎回違う店員だが?

 いや、コンビニのバイト君なんて毎日同じじゃないし、夜間シフトはローテーションか?

 どうでも良い事を考えながら、ホットドリンクコーナーへ……僕は同じ珈琲だが、相坂さんにはココアを選んだ。

 飲めなくても、女の子だし珈琲よりは甘いココアが良いかなって。支払いをして店を出る……

 

「何時もの公園へ行こうか……」

 

 そう声を掛けてから、夜の麻帆良を歩く。何故だろう?一緒に居て一番しっくり来るのが相坂さんだ……

 何も喋る訳でも無いが、心地良い時間が流れる。

 何時ものベンチに辿り着き、何時もの様にココアのプルタプを開けてから彼女の前に置く……

 

「温かくて美味しそうですね……でも勿体無いですよ。私は飲めないのに……」

 

 彼女の横に座りながら、自分の缶コーヒーを開けて飲む。

 

「1人で飲むのも気が引けるし……相坂さんは、お供え物として食べたり飲んだりは出来ないの?」

 

 良く仏壇に供えたよ。果物とか、あと炊きたてのご飯を……

 

「良く分かりませんが……こうして近衛君が置いてくれた物は、何となく味が分かる気がします。お供え、なのかな?」

 

 相坂さんは、へへへって笑ってくれた……暫くは一方的に、僕からの近状報告だ。しかし、他の女性と会っている事は言わない。

 例えば木乃香ちゃんと食事したとか、モフモフ娘の桜咲刹那君とお話したとか……あと、見た目を誤魔化した美人秘書とロボ娘な美少女秘書の事とか。

 それ以外だと、ネギ君の事が必然と多い……

 

「でね……そいつ本当に本人は良い子なのに、周りに迷惑を掛け捲りなんだ!全く、何とかして欲しいよ……」

 

 そう言って一旦話を止める。僕だけが一方的に話してるだけじゃ嫌だからね。

 

「相坂さんは……最近、変わった事が有ったの?」

 

 缶に残ったコーヒーを一気飲みする。冷たくなっているが、喋り過ぎた喉を気持ち良く通って行く……

 

「私の方ですか?そうですね……ちょっと前に、変な子を見ましたよ。

小さな子供なのに、ダブダブの学生服を着てました。何なんでしょうか?」

 

 ネギ君だ……何故、男子エリアに押し込めているのに相坂さんが知ってるの?

 

「ふーん……お兄ちゃんの学生服を黙って着てしまった弟君?微笑ましいね」

 

 取り敢えず誤魔化す……

 

「うーん……微笑ましくは無いかもしれません。何故か女性に悪戯して、叩かれてましたから」

 

「悪戯?はははっ……カエルでも見せたとか?」

 

 ネギ君、何をやってるんだよ?

 

「いえ……転んでスカートを脱がしてましたね。アレは恥ずかしいと思います」

 

 話題を変えよう……この話を続けると、トンでもない事になりそうだから。

 

「そっそうだ!相坂さんは、麻帆良学園の外には出れないんだよね?もし……学園の外に出られる方法が有ったら、どうしたい?」

 

「わっ私がですか?」

 

 彼女は、ビックリした顔で僕を見詰めていた……

 

 

 

 嗚呼、僕は相坂さんと離れたくないんだ……護身の為に関西へ引き籠もるから、彼女を連れて行きたいと思っている。

 正直に言えば、爺さんの初恋の相手であるのも関係してそうだが……僕と爺さんの気持ちが混じり合ったからか?

 兎に角、彼女を関西に連れて行きたいんだ。

 

 そして相坂さんは……いきなり麻帆良学園の外へ出たいか?何て聞かれて複雑な顔をしている……

 

「近衛君?何を急に言い出すの?

でも……近衛君が連れて行ってくれるなら、麻帆良学園の外に行ってみたいと思うわ。

私は……もう何故死んだのかも分からないし、何故この麻帆良学園に括られているのかも分からないの。

でも何故か外へは出れないし、出たいとも思わなかった……何故かしら?」

 

 不思議そうに首を傾げている……この地を離れる発想が無いのは、地縛霊だからかな?

 それとも、本当に麻帆良の土地に括られているのかな?

 

「もう擦り切れた記憶だけど、私が死んだのは1940年……当時15歳だったわ。

日本は激動の時代に突入し始めた年……翌年には第二次世界大戦に突入していった。

辛い時代が続いたの……だからかも知れないわ。私の記憶が曖昧なのは、きっと辛い事を忘れたいのかもしれない……」

 

 確か真珠湾攻撃が、1941年の12月だっけ?それから日本は大変だった筈だ。

 彼女は幽霊だったが、周りの人達の苦労を見ていたんだろう……だからかな?辛い時期の記憶が薄くなるのは……

 

「世界中が辛い時代だったんだよね?僕は戦争の事とか、資料でしか知らないけど……

でも、僕は関西に行ったら多分戻ってこれない。だから、相坂さんには一緒に行って欲しいんだ……」

 

 僕が居なくなると、彼女はまた一人ぼっちだし……勿論、僕も離れたくは無いし。

 

「私と一緒に?私、幽霊だよ?」

 

「暫くは成仏しないんでしょ?なら色々楽しまなきゃ!麻帆良も良い所だけど、関西だって楽しいよ。京都とか奈良とか神戸とかさ……」

 

 女の子なんだから、神社仏閣よりもお洒落な場所の方が良いんだろうけど……生憎と僕は気の利いた事は言えないんだ。

 

「楽しそうね……そんな方法が有るのなら、私を連れて行って欲しい」

 

 そう優しく微笑んでくれた……月に照らされた彼女は、正にこの世の者とは思えない美しさだった。

 これは依り代作りを頑張るしかないと思った……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 木乃香ちゃんとモフモフ娘……それに相坂さんに話もしたし、そろそろ関西呪術協会との話し合いを進めたい。

 遺族達への補償の裏金も用意出来たし、後は婿殿……近衛詠春さんの説得だけど、どうしようか?

 

 記憶に有る、つまり爺さんが考えていた彼の人物像は……エロに弱い・詰めが甘い・生真面目で堅物。

 そして騙し易く、扱い易い……何て言うか、アレな人なんだな。

 

 記憶に有る実の娘さんは、かなりの美人さんだ!

 

 彼女と関西呪術協会の長の座を提示されて、籠絡されたと見るべきかな?

 

 うん……駄目だ、この人は……爺さんに良い様に扱われているし、下の連中には煙たがれている。人望も無さそうだよ。

 

 大戦の英雄の肩書きは、日本では役に立たないからね……本人に組織を運営する能力が有るなら別だけど、爺さんの言いなりじゃ無理だよね。

 本人も組織改革とか、配下の人達と上手くやろうとか思わないのかな?

 関西呪術協会は、読んで字の如く呪術を扱う集団だ……それを神鳴流の剣士が長ってだけでも変だ。

 普通は呪術的な実力が高い人とか、最大派閥の頭首とかがなる役職でしょう……それを近衛家の入り婿とはいえ、大戦の英雄を据えるなんて!

 

 爺さんは、既に関西に喧嘩を売ってますよね?

 

 しかも関東魔法協会の下の位置付けっぽいし。まぁ逆に考えれば、2人して責任を取る為に職を辞すると言えば、案外納得しそうだ……

 役職に固執してないから、何とかしようとも思わなかったのかな?お飾りの長なんて、辛いだけだったろうに。

 

 ん?爺さんの記憶だと、綺麗どころの巫女さんを侍らしてるだと?

 

 しかも接待をする時は、彼女達にお酌迄させるだと?

 うっ羨ましい……でも呪術を扱う巫女さんって、本来は神楽を舞ったり御神託を受けたり祈祷したり。

 

 多分、彼女達は力ある巫女さんだと思う。

 

 神社の神事や神主さんの補佐などは、明治以降の巫女さんの仕事だ……こんなキャバ嬢みたいな扱いは、彼女達を怒らせてないかな?

 言わば有資格の技術者に、畑違いの夜の接待を強要してるんだから。その辺は、即改善しないと駄目だよね。

 後は、事前に日程を教えておいて最低限の共を連れて行くだけだ。エヴァと茶々丸とも打合せしないと。

 特にエヴァは京都行きを楽しみにしてたし。急に言うと、準備が未だだとか言われそうだよ。

 

 最近のエヴァの行動を思い出す……

 

 学園長室に入り浸ってガイドブックを読み漁り、慣れない手付きで茶々丸に教わりながらパソコン検索をしていた……

 旅の予定表を何回も作り直していたし。彼女にすれば、15年振りの麻帆良からのお出掛けだからね。

 ご機嫌を取ってから、相坂さんの依り代の件を相談しよう……

 ドールマスターとして茶々丸達を造ったエヴァなら、相坂さんの依り代について、何か良いアイデアが有る筈だ!

 勿論、見返りも要求するだろうけどね。そんなに無茶は言わないと思う……費用はコッチ持ち。

 そして完成の暁には同じ様に、希望の場所へ外出を約束すればどうかな?

 確かに彼女は吸血鬼の真祖であり、長く生きている。また生きる為に、襲ってきた奴らを返り討ちにしてきた。

 

 でも、彼女から襲った事は……調べた限りでは無いんだよね。

 

 吸血衝動の為に、処女を襲い殺したりはしない娘だよ。だから相坂さんの現実を知れば、手伝ってくれる筈だ。

 照れながら悪態をついたりするけど、暫く一緒に居たから分かる。

 エヴァは良い娘なんだ……僕が、こんな事を考えていたら、彼女はクシャミが止まらないだろうね?

 

 

 

 関西呪術協会への交渉準備は順調だ。既に先方には、訪問の理由も日程も伝えて有る。

 それは長で有る詠春さんへの他に、関西呪術協会宛てにも書式で通達済みだ。

 詠春さんだけに知らせてると、何か面倒臭い感じがするんだ……

 

 こう、何時もの様に「お前らだけで、やれば良いじゃん!」じゃ駄目なんだよね、今回は。

 

 ちゃんと関西呪術協会の幹部連中にも、同席して貰わないと意味が無い。

 そこで言質を取らないと駄目だと思う。

 

「私達は知らなかった」

 

「また勝手に話を進めてるだけだろう」

 

「だから、この話は無効だ」

 

 こういう言い逃れを無くす為にも、今回の話し合いは広く皆さんに伝えて欲しいんだ。勿論、僕が襲われ難くなる為にです。

 これだけ誠意を持って話をしたのに、僕を襲う奴らが居れば……エヴァ&茶々丸が撃退しても、ある程度は言い訳出来るから。

 学園長室で午後の日差しを浴びながら、ノンビリと報告書を読み進める……流石は巨大学園都市。

 

色んな案件が有るなぁ……承認印を押しながら、僕が辞めた後の麻帆良学園がどうなるのか?

 

 考えてみたけど、僕の後任って誰なのかな……本国から派遣されるのは、間違い無いだろう。

 関西に戻れば、多分だけど……関東とは疎遠になる。これは仕方無いと思う。

 

 関東魔法協会の後任は、本国から来るガチガチな魔法使い。多分だけど、正義の魔法使いを自称してる連中の誰かだと思う。

 逆に関西呪術協会の方は、彼らの中でも実力を伴った者が長になる……互いに積極的に仲良くしようなんて、絶対思わない。

 

 今回の件で、ある程度の道筋や交渉のラインは残しておくけど……下手をすれば、僕の謝罪は無い物になるかもね。

 

 プライドの高い自称正義の魔法使い達が、大戦について非が有ったなんて認めないかも……散々貢献した爺さんも、スッパリ切られても可笑しくないんだよね。

 だから、裏金の全てと利権の幾つかは貰って行くんだ。それに、実は関西呪術協会は神鳴流や日本政府にも太いパイプを持っている。

 関東魔法協会も持ってはいるが、担当は全て爺さんだった。そして麻帆良学園の存在を認めさせるだけだから、大して太くも無い。

 

 現地政府と上手くやっていけば、日本政府から見れば麻帆良学園は異物だ……上手く煽れば排斥運動を起こせるよね?

 

 最悪、僕が去った後に関東魔法協会と敵対する事になれば……あの閉鎖した好き放題の学園を攻める手立ては、色々有ると思うよ。

 出来れば穏便に済ませたいが、僕の老後の幸せの為なら……利権の幾つかを関西呪術協会に譲渡しても良い。

 この腹黒い爺さんは、関連企業の株をかなり握っているし……技術的な部分も、異常な位に進んでいるから。

 きっと日本政府は関西呪術協会に付く。関東魔法協会も、魔法と言う直接的な武力で威圧するだろう。

 

 それは関西呪術協会も、同じ事が出来る。

 

 しかし関東と違い関西は、ピンポイントで個人に呪いをかけると言う手段が有る……果たして役人達が、どちらも武力を持って圧力を掛けてきた場合。

 自分が直接的に呪われる危険が有る、関西呪術協会を邪険に出来るかな?

 まぁ直ぐにどうなる訳でもないし、僕の命尽きる迄は劇的に動かないと良いな……引退した爺さんを引っ張り出す事も無いよね?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ご機嫌な洋ロリが、授業の始まった麻帆良学園の廊下を歩いている……後ろにはメイド服を着た茶々丸が付き従う。

 

「ふふん!前は学園に来るのも嫌々だったが、今は何も感じないな」

 

「登校地獄……ふざけた呪いのせいですね。しかし……私達は学園を去った身ですので、余り目立った行動は控えた方が良いかと」

 

 彼女達は、学園長により転校扱いになっている。それを私服で校内を歩いていれば、不信に思う者も居るかもしれない。

 

「なに、転校先で必要な書類を貰いに来たとか言えば問題無い」

 

 必要な書類?京都や奈良のガイドブックを小脇に抱えて、書類?

 

「……何か言いたそうだな?」

 

「いえ……週末から京都に仕事ですね」

 

 主の機嫌が良くなる話題を振る茶々丸……

 

「そうだ!京都旅行だ、観光だ!」

 

 両手を振り回し、喜びを表すエヴァ!すっかり仕事→旅行と書き換わっているが、大層な喜び様だ……

 

「嗚呼……マスターが幼子の様に無邪気にお喜びになって……ハァハァ……」

 

 主の様子を熱心にハードディスクに録画する従者。暫くこんな遣り取りをしながら学園長室に辿り着いた……ノックもソコソコに部屋に入る。

 

「邪魔するぞ、ジジィ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 学園長室の執務机に座り、校庭を走り回るブルマ集団を眺める……

 源しずな先生を秘書っぽい仕事から解放した為、目の保養が洋ロリとロボ秘書しか居なくなった。

 なので、やはり校庭でキャーキャー聞こえると目をやってしまう……運動場では、ドッヂボールに興じる女の子達が!

 

「魔力で視力の強化……まるで目の前で見学してる様なダイナミック感が有るよね……

オゥ!激しいアクションは女子校ならではの無防備さですか?」

 

 爺さんは絶対ロリコンだった筈だ!こんな素晴らしい環境を用意しているのだから……

 勝敗がついてコートから出て行く彼女達を見て、覗き見を止めて机の上に開きっ放しの書類を読み始める。

 いよいよ週末は関西呪術協会へと向かう。ある程度の仕事は終わらせておかないと……

 

「邪魔するぞ、ジジィ!」

 

 元気良くエヴァが入ってくる……随分とご機嫌だ!

 

「なっなんじゃい?いきなりじゃな……」

 

 良かった……また僕がブルマに見取れていたなんて思われたら、からかわれて最悪だったよ。

 

「ジジィ……週末から京都旅行だろ?」

 

「旅行って……エヴァよ、遊びに行くだけじゃないんじゃぞ」

 

 すっかり観光気分だね。

 

「別にどっちでも良い!それで……出来れば着て行く服とかを買いたいのだが……」

 

 この洋ロリ、僕に服をねだっているのかな?報酬として服位なら、買っても良いけど……

 

「ああ、良いぞ。服位なら買ってやるぞ」

 

「ちがーう!買って欲しいんじゃなくて、買いに行きたいんだ。麻帆良内の店じゃなく、都内に行きたいんだ」

 

 えっと……確かに僕に同行すれば、比較的簡単に呪いは誤魔化せる。秘書として、雇用主と共に出掛けるのなら……

 

「いや……エヴァよ。それは……」

 

 マズいと思うんだ。ただでさえ、君を関西に連れて行くのも反対されてるのに……

 

「時に学園長……学園長、ドッヂボールをする女子中学生に興奮されるのですか?激しいアクションは女子校ならでは?とか?」

 

 何故、僕の呟きが?まるで変態性欲者を見る様な茶々丸。両手で自らの肩をかき抱き、後ずさるエヴァ……

 

「きゅ急に都内に行きたくなったぞ!それも渋谷とか、何処でも良いんだけど……うん、出掛けたいなー」

 

「では、私達も同行させて頂きます」

 

 深々と頭を下げる茶々丸……きっと下を向いたその顔は、ニヤリとしているのだろう……

 

 

 

 

 ルート別エンド さよ

 

 僕の覗き見をネタに茶々丸に脅迫されました……仕方無くエヴァの買い物を麻帆良学園以外でする為に、車を出して都内に向かってます。

 

「なぁジジィ?老いて益々お盛んなのは構わないのだが……私をその対象にするなよ。

知っているか?麻帆良学園の学園長は、ロリコンって言う噂を」

 

 はぁ?なにそれ?僕は本来なら15歳のピチピチボーイ!女子中学生達を眺めて楽しんでも、全然おかしくないぞ!

 

「なっ何でじゃ?」

 

「他にも、ロリコンからコスプレ迄を網羅する絶倫翁!などと一部の方々から噂が広まってます。主に、屋敷で働くお手伝いさんからでは?」

 

 直接的な口止めはしなかった……だって無実だし、それを口止めするのは認めたって事じゃないか!

 

「……他には?」

 

「取り敢えずは、そんなモノかな。クックック……噂を聞いた魔法関係者はどう思うかな?

まさか闇の福音に誑し込まれたのか?とか、騒ぎ出すかもな」

 

 何て不名誉な噂だ……

 

「茶々丸さん?何故、貴女のマスターも噂のネタなのに止めないんですか?コレってインターネット上の話では?」

 

 和風メイド服を着込んだ茶々丸さんに尋ねる……敬語口調で。

 

「マスターは酷い風評被害を学園長絡みで受けています。全く許し難いのですが……

今まで浮いた噂一つ無かったマスターに、色恋沙汰?の噂は面白い……いえ、珍しいので静観しています」

 

 ナニその放置っぷりは!

 

「エヴァよ……お前の従者が面白い壊れっぷりじゃぞ!エヴァも変な噂が広まって困るじゃろ?早く茶々丸を何とかせい!」

 

 呑気に車窓から景色を眺めてないで、何とか言って下さい!足を楽しそうにブラブラさせない!

 

「ん?ああ……放っておけば沈静化するだろ?

それよりも、麻帆良はヨーロッパ調だが外は不調和な程に和洋中入り乱れた街並みだな……あのネオンなど綺麗じゃないか!

何なんだ?ピンサロ、ヘルス、ハプニングバー……ハプニング?落ち着いて酒が飲めない店なのか?」

 

 歓楽街のネオン看板をガン見する洋ロリ……

 

「お主には、まだ早いわ!」

 

 慌てて目を塞ぐ。情操教育に良くないぞ!その点、麻帆良には学園都市故にイカガワシイ店は無いからな……

 

「えーい、放さんかジジィ!抱きつくな。あっコラ……ドコを触ってるんだ!だから変な噂が立つんだぞ!」

 

 腕の中で騒ぐ洋ロリを何とか窓際から離す……齢600年とはいえ、エッチな店を興味深く見るのは良くないぞ。

 

「あっ痛い!噛んだな、この洋ロリが!噛みやがったな!」

 

「黙れ、ロリコンジジィ!いきなり抱き付くなんて変態以外の何者でもないわ!」

 

 ギャーギャーと騒いでいたら、目的地に着いてました!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 案内されて来たのは、都内某所に有るゴスロリ専門店……「closet ch○ld」だ。

 

 古着等の本格的な輸入ゴスロリ衣装や、廉価版の合成繊維系の物も有る。

 その外にもコスプレでも使えそうなメイド服や大正時代の袴や巫女服に……チャイナ服やアオザイとか、僕が分かるだけでも色々有ります。

 

 うん!見てるだけで楽しいかも……元々ゴスロリでキメている洋ロリに、和風メイド服の……これは茶々丸のお手製な衣装なんだが。

 その道を極めたみたいな金髪ゴスロリ美幼女と、付き従う和風メイド美少女……それに変な頭の和服老人。周りの視線を集め捲りだ!

 

「店主!店主は居るか?衣装を合わせたい。お薦めを持って来てくれ」

 

 人に命令するのが板に付いているエヴァ……何人かの店員に店長らしき人が集まって来る。

 途端にファッションショーの如く着せ替えが始まった。試着した服を無造作に放り投げては、新しい服を着させて貰う。

 店員さんも、これほどの洋ロリ美幼女は初めてなのだろう……着替える毎に写真を撮っている。

 勿論、茶々丸は最前列で撮影中だ……エヴァも何気にポーズをキメてカメラ目線だし。

 確かに可愛いし楽しいのだが、少し居辛い。

 

「あのお爺ちゃんが保護者なのかしら?」

 

「孫娘と使用人?さんにコスプレさせるなんて……」

 

 ヒソヒソ話に耳が痛いですねー!店長さんに選んだ服は全て買うからと伝えて、茶々丸にカードを渡しておいた。

 ブラックのカードを見た店長は、変な気合いが入ったみたいで……倉庫に走っていった。

 

「秘蔵品を出しますわー!上客キター!」

 

 とか騒いでいたが……まぁ高くても何百万なら、今の僕には安い物だ。変な雰囲気になった店を出て、待たせている車に戻っていよう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 店を出て前に路駐させている車に乗り込もうとしたら

 

「お爺ちゃん、ちょっとすみませーん」

 

 何とも間延びした口調の女の子に話し掛けられた。彼女もロリータファッションで小さめなメガネをチョコンと鼻に乗せている。

 ふわふわな感じの女の子だな……さっきの店のお客さんか関係者かな?

 

「儂に何か用かな?お嬢ちゃん」

 

 ニコニコと近付いてくる。

 

「本当は強い女の子が好きなんですがー、えぃ!」

 

 彼女がそう言った後に、鋭い痛みが下腹部を襲う……見ればお腹から血が吹き出している?

 

「なっ何を……」

 

 見上げれば、既に何処にも彼女は居なかった。

 

「油断した……な。簡易的な認識阻害の魔法はかけていても……麻帆良の外で……単独行動を……するから……か……」

 

 ズルズルと座り込む。視界の隅に、慌てて車から降りる運転手さんが見える。

 嗚呼、携帯で救急車を呼んでくれるんだ……

 

 でも……もう……無理そう……だよ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 気がつけば、僕は見慣れた麻帆良学園の公園に立っていた……彼女に殺されて、僕は幽霊になったのだろう。

 手を見れば、皺が全く無くてツルツルだ!

 これは元の僕の姿に戻ったのかな?服装は……多分爺さんの思い出の学生服だと思う。

 顔や頭をペタペタと触れたので確認したが。

 

 うん!あの変な頭じゃない。普通の形だよ!

 

 しかし鏡や水溜まりにも映らないから、顔が分からない。触った位で、どんな顔なのか分からないんだ……

 服装は爺さんの学生服。手も若返っている。しかし顔がどっちなのか分からないんだ。

 爺さんの若い頃なら、悔しいがイケメンだったからな。そっちが良いんだけど……ボーっと考えていたら、辺りが真っ暗になっていた。

 

 時間の感じ方が早い様な……

 

「幽霊って、時間の進み方が違うのかな?」

 

 人気の無い公園から離れ、明かりが点いている建物へと移動する。

 うん、足で歩いてるけど……ピョンピョン飛び上がってみたが、飛べないみたいだ。

 

「幽霊一年生は、全く能力無し?」

 

 相坂さんは、ポルターガイストや血文字が書けるらしいが、僕には才能が無いのかな?

 

「こっ近衛君?近衛君、幽霊になってますよ?」

 

 振り向けば、驚いた顔の相坂さんが居た。近衛君?やったぞ、幽霊だけどイケメンになれたぞ!

 

「今晩は、相坂さん。事故でね、死んじゃったんだ。気が付いたら、あの公園に立ってた」

 

 まさか、実は殺されたんだ!とか言えないよね。

 

「そんな……事故って……痛くないんですか?」

 

 心配そうに、遠慮がちに胸の辺りに手を当ててくれる……彼女の奥ゆかしい優しさが嬉しい。

 

 アレ?手を当てて?彼女の手を両手で握り締めてみる。

 

「きゃ?あの……近衛君?恥ずかしいよ」

 

 顔が真っ赤になるが、それでも振り払わない彼女……

 

「触れるね……幽霊同士なら触れ合えるんだね。相坂さん!幽霊の先輩として、これから宜しくお願いします」

 

 名残惜しいが、彼女の手を離し頭を下げる。

 

「先輩ですか?でも、これからは独りぼっちじゃないんですね?嬉しい……」

 

 泣き出した彼女を軽く抱き締める。嗚呼、こんな美少女を抱き締める事が出来るなんて幸せだ!

 

「これからは、ずっと一緒だよ。成仏が2人を分かつまで……なんてね」

 

 駄洒落を言って彼女を笑わせようとしたが、失敗したみたいだ……彼女は僕の腕の中で身を固くしている。

 古風な彼女だし、スキンシップし過ぎたかな?

 

「ごめんね。嬉しくてつい……だって前は、相坂さんに触れる事も出来なかったし……」

 

 そう言って素直に詫びました。

 

「そっその……嫌じゃないんですが、恥ずかしいです」

 

 はにかむ彼女を見て、改めて可愛いと思う。しかも触れるし、もう年も取らないんだよ。

 

 最初の人生は、平々凡々だった。

 

 二度目の人生は、波乱万丈の爺さん憑依の悪の首領生活。

 

 三度目?の人生は、楽しくなりそうだ。

 

 僕らは取り敢えず、初めて出会ったコンビニに向かった。何故かって?やはり幽霊でも暗い所だと、変な気持ちになっちゃうからね!

 相坂さんは古風な美少女だから、きっと恋愛事は奥手な筈だ……時間は無限に有るから、ゆっくりと仲良くなれば良いから。

 コンビニの駐車場に並んで座り、これからどうするかを話し合う。

 

 先ずは新居を探すかな……2人での生活は、これからだから!

 

 

 さよルートエンド 終了

 

 

 

 茶々丸さんの脅迫のせいで、都内へお出掛けする羽目になった……

 

「エヴァよ。麻帆良学園都市の外は危険じゃぞ。どうするのじゃ?」

 

 認識阻害位しか使えないし、女性の買い物に付き合うのは大変なのは理解している。

 

「ふむ、護衛か。確かに茄子頭のジジィは目立つからな……この時期に無用な問題を起こすと、京都旅行にも影響がでるか……」

 

 ウンウンと悩む幼女。お持ち帰りしたいです。

 

「茶々丸の見立てなら、エヴァも納得するのではないのか?彼女なら、何か有っても対処出来るじゃろ?エヴァは儂と留守番じゃな……」

 

 当たり障りの無いプランを提案する。

 

「ふむ……茶々丸頼んだぞ。そうだな、黒を基調にした物でロング丈が良いな。京都はまだまだ寒そうだからな」

 

「畏まりました……では学園長、マスターを頼みます」

 

 一礼して出掛けようとする茶々丸を呼び止め、カードを渡す。茶々丸名義のクレジットカードだ。

 

「これは京都への護衛の報酬じゃ。序でに茶々丸の服も買うと良いぞ。

メイド服や秘書ルックも良いが、たまには年相応のお洒落もしてみてはどうじゃ?」

 

 苦労を労う提案だったのに……茶々丸さんが無表情にドン引きしてますが?ポーズがね、大袈裟なんですよ……

 

「学園長?年相応とは、私は制作されてから一年と少し。つまり赤ちゃんプレイを私に望むのですか?」

 

「「違うわー!ボケロボットがー!見た目相応って意味だー」」

 

 思わずエヴァとシンクロしてしまった。アレ?この言い回しは、某エヴァンゲリオン?

 

「分かりました、お爺ちゃんバブー。有難う御座いますバブー」

 

 すっかり赤ちゃんプレイな感じで、茶々丸が出掛けて行った……

 

「エヴァよ……従者の教育はしっかり頼むぞ。最近の茶々丸は、弾け過ぎてないか?」

 

「私は貴様の性癖の幅が心配だ。茶々丸は貸さないしやらないぞ。赤ちゃんプレイもお断りだ!

あれは大切な従者だからな。変な癖をつけられては困る」

 

「茶々丸は欲しいが、性的な意味は断じて無い!無いったら無い」

 

 人が一生懸命否定しているのに秘書用の机に座り、ぎこちない操作でパソコンを起動させている。

 どうやら京都観光のプランの最終調整をするのだろう……

 

「ジジィ、お茶くれ!」

 

 何てフリーダムな幼女だ。仕方なく来客用のお茶を淹れてやる。端から見れば、孫娘に頭が上がらない駄目爺さんだよね?

 暫くはカチャカチャとマウスを操作する音だけが、室内に響く。僕も仕事の続きをしているし……

 

「なぁジジィ?」

 

 パソコン画面から目を逸らさずに、エヴァが話し掛けてくる。

 

「何じゃ?おやつの時間迄は、まだ暫くあるぞ?」

 

 今日は濡れ煎餅を用意している。あのネチャネチャ感は堪らない。

 

「違うぞ、おやつじゃない……その、何だ。もし関西との関係回復が上手く行けば、ジジィは関西に帰るんだろ?」

 

 関東と関西の関係回復でなくて、僕と関西の関係回復なんだけどね……

 

「そうじゃな……近衛の本家に戻って、余生を気楽に過ごすよ」

 

 それが僕の最終目的!悠々自適な老後の為に、頑張ってますから。

 

「新しい学園長は……本国から来るんだろ?私は……麻帆良には居たくないな」

 

 今は僕が、最高責任者の爺さんが庇護と言うか周りを抑えている。しかし、僕が居なくなったら?

 彼女は又、登校地獄と言うふざけた呪いに苦しむのか?それとも迫害されるか?

 

 確かに、エヴァを残したら碌な未来が無い……か。

 

「前にも言ったが……関西に来ても良いんじゃぞ?

お前さんは関東の、魔法使いの連中からは煙違われている。つまり関西からすれば、悪くない相手だ。

言葉は悪いが西洋魔術を使うが、西洋魔法使いを沢山殺している。それに過去の大戦に関わってないし、な……」

 

 その分、関東と関西は仲良くはならない。別に仲良くならなくても、僕は極論なら構わないけどね。

 

「私と茶々丸、それにチャチャゼロと共に……」

 

「儂と一緒に来るか?その代わりに木乃香に魔法を教えたり、儂の護衛を引き続きしたりと自由は無いかもしれんよ」

 

 呪いについては、関西呪術協会に派遣扱いとすれば何とかなりそうだ。

 あの呪いは、ナギ・スプリングフィールドの性格と同様に馬鹿みたいな力が有るが、大ざっぱだ!

 誤魔化す事自体は、難しく無いと思う。

 

「ふっ……ふん!ジジィの為じゃないぞ。京都は素晴らしい。そこで生活したいだけだからな!勘違いするなよ」

 

 ツンデレ乙!そうだ!

 

「それと……エヴァは2-Aの出席番号1番、相坂さよを知っているかの?」

 

 直球で聞いてみた。

 

「ああ、あの妙に隠密性の高い幽霊の事か?長い間、麻帆良に居るが暫く経ってからだな。アレに気付いたのは……」

 

 エヴァでも気付いたのが遅かったのか?僕は、何故彼女を見れたのかな?

 

「彼女は15歳で亡くなり、以来70年以上独りぼっちで幽霊をしているんじゃ。儂らが居なくなれば、下手すれば除霊されるやも知れん……」

 

「しかし……見た感じだがアレは、この地に括られているぞ」

 

 流石に良く見てるなぁ……

 

「だが、依り代を用意すればどうじゃ?ドールマスターと言われたお主なら」

 

 何やら複雑な表情で考え込む幼女……

 

「何故、そこまでするんだ?何十年も放置していたのだろ?今更だな……」

 

 それは爺さんで有り、僕は未だ出会って1ヶ月位ですよ。

 

「関西に行けば、再び麻帆良学園に来る事は無いからの……出来るだけの事はしておきたいんじゃ」

 

 こんな非常識な街には近付かないよ!

 

「ふん!序でだからな、面倒を見てやるよ……しかし材料の調達と時間が足りないな。いや時間なら別荘を使えば……」

 

 何やらブツブツと独り言を始めたけど、依り代制作の事みたいだからな。

 少し早いが、お茶と茶請けの濡れ煎餅の用意をしてあげようかな……「よっこらしょ!」っと魔法の言葉を言いながら立ち上がる。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 その頃の茶々丸さんは、エヴァに似合いそうなゴスロリ衣装を何点か購入。学園長に言われた、自分の為の衣装を吟味中だ……

 

「赤ちゃんプレイ……検索では自身が赤ちゃんとなり、母親役の女性に甘える変態行為。

しかし学園長は私にそれを求めた。つまり赤ちゃんプレイではなく、母親プレイが?

いや、しかし……あのお年で学生服を着る方ですから。もっと深い意味が……」

 

 なにやら赤ちゃんコーナーで、涎掛けを手に悩んでいた。

 

 周りからは「偉い若いお母さんね……できちゃった結婚かしら?」「まさか未婚のママ?」と、物議を醸し出していたのは別のお話しで……

 

 

 

 茶々丸を買い出しに向かわせてる間中、エヴァは学園長室に入り浸っていた。

 確かに表向きは秘書として雇ったから、それはそれで良いのだが……

 

「ジジィ……京都御所の見学には事前申し込みがいるそうだ。何とかならないか?」

 

「エヴァよ……無理を言うな。儂でも無理じゃ」

 

「ちっ……こんな時だけ真面目ぶるなんてな」

 

「あれだけ事前に調べておきながら、何故申請しなかったんじゃ?」

 

「急にジジィが日程を決めるからだ!」

 

「んー旅行会社を利用すれば、団体で事前に申し込みをしてるから見れるぞ」

 

「ツアーか?駄目だ、アレは見たくない所も廻るし自由が無い」

 

 確かにツアーは楽だけど、名所を廻るのと同じ位、お土産屋も廻るし……自由行動の時間も短いからな。

 

「京都観光は電車やバス、タクシーを利用した方が良いぞ。エヴァはどんな所に行きたいんじゃ?」

 

 しまった!目が爛々とし始めたぞ。これは長くなる……

 

「何だ?ジジィも気になるのか?

そうだな……先ずは六波羅蜜寺は外せない。定番だが清水寺から二年坂三年坂。

それと最近は茶わん坂も渋めの焼き物屋が軒を連ねてるそうだ……安倍晴明の縁の晴明神社や……」

 

 長い、長いぞエヴァ!それに一日半では廻り切れないだろう。茶々丸が帰って来たら、行動予定表を作らせるか……所謂「旅のしおり」だな。

 両手を振り回し力説するエヴァを見ながら、のんびりと考えていた……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「只今帰りました」

 

 茶々丸が帰って来るまで三時間以上か?随時と旅行談義を一方的に聞かされていた。正直、辛かったです。

 

「おかえり、茶々丸。良い物は買えたかの?」

 

 両手一杯に紙袋を下げている彼女に聞いてみる。

 

「はい。定番物を少しと、春の新作が出ていましたので……」

 

 早々に袋を漁るエヴァを手伝いながら、律儀に答えてくれる。

 袋から出された衣装を見れば、エヴァが着れば西洋人形の様に似合うセレクトだった。

 彼女の見立ては素晴らしい……暫し、服を体に当てて確認しているエヴァを見て和む。茶々丸は録画モードだ!

 

「ん?何だ?これは私のではないな……茶々丸の服か?」

 

 エヴァの手にはワンピースが……アレ?これは茶々丸さんのかな?淡い桜色のシンプルなワンピースと、薄緑色のスプリングコートだ。

 

「それは茶々丸のかの?お前さんが普通の服を着ているのを見た事は無いが、髪の色にも合っているし春待ちの色で良いと思うぞ」

 

 彼女は半分コスプレイヤーみたいだったし、普通の服を着ているのを見た事なかったな。茶々丸がワンピースか……新鮮かもしれない。

 

「申し訳有りません。学園長の依頼品であるベビー服は私では着用が難しく……

逆に涎掛けやおしゃぶりしただけでは、興が削がれると思い断念しましたバブー」

 

 全然残念じゃないよね?

 

「儂は幼児プレイなどせん!」

 

「はい。幼児プレイとは、学園長が幼児に変装し母親役の女性にセクハラする性癖。

残念ながら、私を幼児と見立てのプレイは……母親プレイ?」

 

「違うわー!そのプレイから頭を切り離せ!儂はノーマルじゃ」

 

 アレ?茶々丸だけでなく、エヴァまで信じられない物を見る様な目で?

 

「ジジィ……その、なんだ。学生服を着て夜な夜な徘徊する性癖がノーマル?」

 

「そのお年で、未だ現役ノーマルプレイ?」

 

「……もう良い。早く帰れ!」

 

 実年齢は15歳のピチピチボーイに酷い扱いだ!未だエロ本だって見た事ないんだぞ!純情ボーイなんだぞ!

 笑いながら出て行くエヴァを見送りながら、心の中で涙しました……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 大宮駅……

 

 待ち合わせは大型オブジェ、「行きかう・線」通称「豆の木」の前だ。何故に待ち合わせ?

 

 エヴァ曰わく「旅行とは待ち合わせから始まるのだ!遅れるなよ」とか言っていたけど、コレってデートの心得では?

 

 又は行けなかった修学旅行をなぞってるのか?

 兎に角、車で大宮駅まで送ってもらい待ち合わせの場所に10分前に到着した……既にエヴァ達は居ますね。

 

「おはよう、エヴァ……早いの」

 

 遠くから見てもハイテンションのエヴァ。

 

「ジジィ!遅い、遅いぞ!」

 

「お早う御座います、学園長。マスターと共に一時間前から待っていました」

 

 ゴスロリ服にマントを羽織ったエヴァ。ちょっと寒いのに、先日購入したワンピースとスプリングコートを着ている茶々丸。

 彼女には寒暖差は関係無いのだが、端から見れば少し寒そうだ。

 

「新幹線の発車迄は30分は有るが、早めにホームに行くかの?」

 

「そうだな……土産物屋で駅弁やお菓子を勝っておくか。たまには市販の弁当も食べてみたいからな」

 

 さっさと改札に向かうエヴァの後を追う……

 

「学園長、有難う御座います。マスターがあんなに楽しそうなのは、初めて見ます」

 

「15年振りの遠出だしの……多分エヴァは日本での観光は初めてじゃろ?前は直ぐに麻帆良に来た筈じゃし……」

 

 ナギ・スプリングフィールドの罠に嵌り、そのまま連行された筈だよね……走り出すエヴァは、周りの視線を集めて居る。

 金髪ゴスロリ洋ロリに、緑の髪の美少女。そして変な頭の和服の爺さん……周りの連中は、僕達を見て何を考えているのやら。

 

 どう見ても血縁関係は無さそうだしね……

 

 茶々丸に教えて貰い、新幹線の改札口から中に入ってるエヴァを見ながら、アレが600歳とは思えない!

 肉体に精神が引っ張られるのは有るんだなー。僕もすっかり爺さんの肉体に引っ張られてるなー。とか感じていた。

 

「ジジィ、ボケたのか?早く来い」

 

 そんな見掛けによらぬ言葉使いに、周りを驚かせながら騒いでいる彼女に手を振る……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 新幹線に乗っても、彼女のテンションは下がらなかった。駅の売店で買った弁当をガサガサと開け始めた……

 

「エヴァよ……まだ出発して間もないのに、もう食べるのか?」

 

 さっそく一つ目に取り掛かっている彼女に聞いてみる……時刻は9時を回ったばかり、昼頃には京都に着く。

 向こうでは、懐石料理の名店を予約しているのだが……

 

「懐石弁当大人の休日・春か……2000円もするだけ有り、季節を感じさせる品数の多さだな」

 

 人の話なんて聞いていないな。

 

「豪華大宮弁当か……埼玉県の名産品を集めた幕の内弁当だな。地元だからか、目新しさは無いが美味いな」

 

「幸福弁当……煮物が多くヘルシーだが、白米に自信が有る弁当だ。日本人は米を食わねばならない!」

 

「あさりおこわ弁当か。ふむ……あさりの身も大きく食べ応えがあるな。悪くは無いな」

 

「東京笹寿司?何故、埼玉で東京なのだ?これはジジィにやるぞ」

 

 そう言って、包みも開かずに投げて寄越す……しかし僕の膝の上は、エヴァが少しずつ食べた弁当達が有る。

 

「あのな……幾らなんでも食べかけの弁当を渡すんじゃないぞ。結局全て食べ切れてないではないか?」

 

 取り敢えず、懐石弁当大人の休日・春を食べ始める。エビフライや唐揚げなど、メインだが油っこい物は残して有るな……老人を高血圧で殺す気か?

 

「ふん!ジジィみたいなロリコンにはご馳走だろ?美少女の食べ残しは……」

 

 ニヤニヤしながら、茶々丸がポットから入れてくれたお茶を飲みやがって!僕にもくれるんですか?有難う御座います。

 ズズーッとお茶を飲みながら、一つ目を食べ終わる。

 

「美少女じゃなく美幼女じゃな……しかし老人には2つで目一杯じゃ。これらは残すかの……」

 

 そう言うと、茶々丸が包装紙で包み直す。

 

「ふむ……捨てるのも忍びないし、誰かにあげようかの?」

 

 そう言った瞬間に、周りの温度が上がった。暑苦しい位に牽制し合う乗客……

 

「お祖父様、その残りの弁当は私めが処理を致します……」

 

「いやいやいや!俺、俺が食べるって!」

 

「ふん!卑しい連中め……爺さん、俺がキチンと食べてやるぜ」

 

 比較的若い男達が名乗りを上げた!

 

「ふむ……では仲良く分けるんじゃぞ?」

 

 そう言って茶々丸を目で促し、彼らに弁当を渡し……た?直ぐに取り合いが始まったが、気にしない事にする。

 

「もう小田原か……ジジィ、車内販売を勝ってよいか?」

 

 僕はハイテンションなエヴァに、ただ頷くしかなかった。

 

 

 

 昔の人は言った……旅の楽しみは食べ物だと。

 大宮駅で駅弁を買い漁り適当につまんだ後、車内販売の笹蒲鉾をくわえてはしゃぐ洋ロリ……和みますね?

 周りからは、孫娘と旅行を楽しむ金持ち爺さんな感じになってます。

 

 流石は認識阻害!

 

 緑の髪の茶々丸も、変な頭の僕も問題無く馴染んでいます。エヴァは海が見えてきた辺りから、窓にがぶり寄りだ。

 茶々丸が靴を脱がせて居る。シートに横向に正座をして窓を眺める美幼女……そろそろ他の車両にも噂が広まったのか?

 前の通路を無闇に通おる連中が増えて来た。因みにグリーン車だから、そんなに通れる筈はないんだけどね……

 

 あっお前!

 

 何気無く携帯を見ながら歩いてる振りをして、録画モードだな。仕方ないから、僕の後頭部をアップで撮らせてやるぞ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 流石に名古屋を過ぎた辺りから疲れたのか?茶々丸の膝の上で眠ってしまった。

 マスターの髪を梳きながら、僕と向かい合わせで座る茶々丸……2人とも言葉は少ないが、長閑な時間が流れていく……

 

「学園長……学園長が引退して、私達が関西に行くのは賛成です。しかし、本当に麻帆良学園を去るのですか?」

 

 ん?茶々丸は爺さんが麻帆良学園に愛着が有り、本当に二度と来れなくても良いのか……そう聞いてるのかな?

 

「儂は、儂の立場は微妙じゃからな。一度離れれば、麻帆良に立ち入る事は難しい。

何しろ、正義の魔法使いを目指す者が大戦の非を認め関西呪術協会に謝罪するのじゃから……頭の固い彼らは納得出来ないじゃろ?」

 

「そうですね。未だにマスターに隔意有る人達ですから……学園長が去った後の、私達の扱いは酷いと思います」

 

 あれだけ周りを説得したが、エヴァに向ける隔意は変わらなかった。シスターシャクティーや弐集院先生や明石教授位かな?

 態度を軟化させたのは……ガンドルフィーニ先生は、警戒が必要だ!って騒いでたなー。

 

 半ば強行した関西行きだが、基本的に魔法先生達は関西呪術協会に興味が薄い……島国の一呪術団体位な位置付けなんだろうね。

 

「登校地獄……確かに強力だが、大雑把じゃからな。騙す事は難しくない。それに感じているじゃろ?

麻帆良学園を出てから……エヴァの魔力が強くなってないか?」

 

 エヴァが麻帆良を離れる。つまり彼女の魔力を縛る結界が作用しない。逆に、その膨大な電力を結界に回せるんだ。

 エヴァの魔力を押さえ付けられる程の電力だ。結界の強度は下がるが、さほど心配する程でなはい。

 

 逆にエヴァが騒ぎ出さないのが不思議だった……

 

「ふん……知っていたよ、私の魔力を押さえている小細工が有るのを。初めて麻帆良に来た時は、魔力は普通に使えた。

それが急に使えなくなったのが不思議だった。当時は呪いの一部と思ったが、ジジィの仕業だろ?」

 

 そうなんだ……爺さんが結界の強化に流用したんだよね。序でに彼女に首輪を付けたんだ……

 

「そうじゃ……

魔法世界で半ば伝説のお前さんが、幾らナギが連れてきたからと言っても受け入れはしない連中が多かったからの。

だから麻帆良学園に呪いで括り、尚且つ力を封印したのじゃ……悪かったとは思っている。

暫く様子を見て、魔法関係者が軟化すれば或いは解除もと思ったが、な」

 

 いえ、爺さんは結界強化を緩めるつもりは無かった……つまりナギやネギ君とかがエヴァを解放しない限り、自分からは解く事はしなかっただろう……

 でも彼女達を麻帆良に残して行けば、悲劇しか無いだろうね。

 下手をすれば、弱体化したままネギ君の踏み台として討伐されそうだ……ネギ君は善悪とか、その辺の考え方が固いから簡単に騙されるだろう。

 

「まあ良い……ジジィも関西に同行する護衛が、最盛期の私ならば都合が良いのだろ?

なにせ西洋魔法使いの嫌われ者を関西に引っ張るんだ。連中への牽制や意思表示には丁度良いな。

これならジジィは関東魔法協会に見切りをつけたと言っても良いしな。考え方次第では、今度は向こうに喧嘩を売ってるぞ」

 

 くっくっく……私はそれでも構わないがな!とか、怖い台詞を言われたけど……

 

 本当に解放したエヴァを関西に連れて行くのはマズいのかな?

 連中からすれば頭の痛い存在が居なくなるのだから、良くないのかな?

 

「マスター……

学園長は私達を残していけば、必ず迫害か討伐をされてしまうのを理解して関西同行を許したと思います。

どちらにしても、関東魔法協会の会長職を辞して関西に戻るのですから。

彼らからすれば裏切り行為……戦力は多い方が良い。そう言う事ですよね、学園長?」

 

 えっ?アレ?僕は死亡フラグを潰して、関西で余生を楽しく過ごしたいんだけど?

 

 何だろうか……所謂、魔法世界の本国に敵対する事になってますよ?

 

 職業選択の自由が有りますよね?退職の自由だって有りますよね?ね?

 

「大したジジィだよ!全く私達をこうも簡単に自軍に引き込むとはな……

まぁ私達にもメリットはデカいし、ネギ・スプリングフィールドの扱い方を見ても魔法使い側で無いのは理解しているよ。

まぁジジィが死ぬ迄は関西呪術協会に雇われてやる。その代わり、呪いを本格的に解く研究に協力しろ!

呪術の本家なら、何かしらのヒントが有るだろう」

 

 さっきまでは旅行を楽しむ幼女だったのに、今は凄い勘違い理論を展開してる幼女だぞ!

 

「いっいや……エヴァ、それは違う……」

 

「皆まで言わせるな……大丈夫だ!誰が来ても守ってやるよ。なぁ茶々丸」

 

「はい。

先立って姉さんと、デストロイモード装備一式を宅配便で送って有ります。軍隊でも持って来いや!この野郎状態です」

 

 はぁ?姉さん?チャチャゼロさん?デストロイモード?軍隊って戦争するの?

 

「いや、その、何だ……穏便に、な?

儂も関西と仲良くしたいから、今回の訪問なんだし……端っから喧嘩モードは良くないと思うのじゃよ……」

 

 なにその分かってるから安心しろや!みたいな態度は?

 今回は確かに、関西の跳ねっ返りの護衛とエヴァへのご褒美の意味で同行して貰ったんだよ。

 そんな深い考えは無かったし、そもそも引退して余生を楽しむ所じゃ無いよね?

 

 そんな未来設計は嫌だー!

 

 

 

 古都京都……

 

 現在は国際的に観光地として有名だが、かつては日本の政治と文化の中心だった都だ。

 関西呪術協会と言う日本古来の呪術集団と、京都神鳴流と言うトンでもない剣士集団が居る魔都だ。

 兎に角、京都神鳴流とは刀一つで魔法にも匹敵する攻撃力を発揮する連中だ。

 ピンキリだが、桜咲刹那を見ればどんな集団かは見当がつくし、今のトップは歴代最強だそうだ……

 短く感じた新幹線の旅も終わりが近付いて来たみたいだ。

 車内の電光掲示板に、next station Kyoto の文字が走っている。周りの景色にも古い寺社仏閣が見えている。

 

「アレが京都タワーか……古都京都には似合わないな。

ふむ、東寺……いや教王護国寺の五重塔が見える。素晴らしいな。

ジジィ知っているか?あれは真言宗の総本山であり、弘法大師空海の……」

 

 エヴァの蘊蓄を聞き流し、降りる支度をする。新幹線は滑る様に京都駅のホームに入る……小さな手提げ鞄一つの僕。

 手ぶらなエヴァ。そして大きなトランクを軽々と引き摺る茶々丸……どんだけ荷物あるの?

 ホームには事前に連絡しておいた為に、近衛本家からの人員が待機していた。

 

「近右衛門様。お久し振りで御座います」

 

「うむ……世話になるぞ」

 

 数人の厳つい和服連中を見て、何処のヤクザの大親分かと周りが遠巻きに警戒している。

 

「ジジィ、お迎えか?」

 

「学園長、近衛本家の方々ですか?」

 

 その後ろに居る金髪幼女と緑髪美少女の存在に、アレは何なんだ?みたいな空気が流れる……

 

「ヤクザの大親分の孫娘か?しかし外人だから、マフィアか?」

 

「どう見ても似てないし、洋ロリだぞ?」

 

「緑の髪の毛?美少女コスプレイヤー?あの爺さん、何者だよ?」

 

「写メったら怖いお兄さんに連行されるかな?」

 

 認識阻害の魔法が効いても、この程度の騒ぎにはなる……しかし普通なら、僕の頭を見て驚くだろうから……それなりに効果は有るんだよね。

 近衛本家の連中に先導され、ターミナルに停めてあるリムジンに乗り込む。全部で二台だ。

 

 エヴァも茶々丸も同じ車に乗り込む……音も無く走り出すリムジン。流石は高級車だけあり、車内は静かだね。

 

「近右衛門様……屋敷の方に近代兵器一式と……可愛い人形が届いてますが、アレは何んでしょうか?」

 

 ああ、さっき聞いたアレか……

 

「武装一式は私の装備です。アレなら軍隊でも止めてみせます」

 

「人形は、私の従者だよ……魔力回路は繋がったからな。そろそろ動き出しているだろう……」

 

 茶々丸とエヴァを見て、本家の方々が微妙な表情を浮かべている。

 

「何じゃ?彼女達は儂の護衛じゃよ。多分じゃが戦力的には最高クラスじゃ」

 

「闇の福音……実在したのですな。都市伝説の類かと思っていました。

そろそろ屋敷に着きます。暫し休まれてから関西呪術協会にお送りします」

 

「姉さんと話すのは、別荘の外では久し振りですね」

 

「ふん。アヤツも存分に暴れさせてやらねばな」

 

 何やら不穏な台詞が?

 

「エヴァよ……専守防衛じゃぞ?くれぐれも穏便にな……」

 

 良い笑顔を浮かべる洋ロリに念を押す。勿論、茶々丸にもだ!

 未だに爺さんを良く思ってない連中が居る都市だが、取り敢えずは何も無かった。

 仕掛けるなら移動中か夜か……そう思い警戒していたが、流石に昼間に街中では仕掛けてこないのかな?

 気を付けないといけないのはコレからだけどね……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 京都の近衛本家……

 

 

 客間の和室で寛ぎながら、雪見障子越しに遠くの山々を見れば、未だ雪が積もっている。

 近衛本家は爺さんの実家だ……普段は麻帆良に単身で居るが、それなりの人材・それなりの結界で守られている。

 

「ケケケケケ!久シ振リダナ、オイ」

 

「姉さん、刃物を振り回すのは危ないです」

 

 そして居間には、自慢?の獲物の手入れをする人形姉妹?が居た……

 割と広い和室を二間続きで使用しているのだが、隣の部屋を占領する機材の山と刃物の山。

 チャチャゼロは大振りのナイフの手入れをしている。中には、我が家に有った日本刀の類も有る。

 見た目はエヴァよりも更に幼女だが、彼女曰わく男女とかの区別は無いそうだ……どう見ても女の子だし、服装も女の子なんだが。

 球体関節が、彼女を人形と思わせるのだが……正直な感想を言えば、抱き締めたい。

 

 そんな愛らしさが有ります。

 

 チャチャゼロのゼロとは、エヴァはチャチャシリーズでも造ってるのだろうか?その集大成が茶々丸か?

 その茶々丸はと言えば、チャチャゼロの隣でデストロイモード装備を組み立てて居る。

 まるでバックパックウェポンだ……多分だが、重機関銃とか言うのを組み立てている。

 ウチの連中が本体だけでも10キロ以上、弾倉を含め30キロを超える機関銃を軽々と振り回す茶々丸に拍手を贈っていた。

 他にも色々な武器弾薬が並んでいるのだが……携帯ロケットランチャーやら色々と危険なブツが並んでいます。

 

 こんな物が宅配便で送られて良いのか?

 

「あの……茶々丸さん?そんな重装備では、街中を歩けんぞ?

どうするつもりじゃ?チャチャゼロも、そんなに刃物を帯びては……」

 

 どう見ても、職務質問から逮捕の流れしか思い浮かばない……

 

「ケケケケケ!細カイ事ヲ言ウジャネェカ?」

 

「学園長、大丈夫です。此方で待機し、マスターに召喚して貰いますから」

 

 ああ、契約のカードか……アレって便利だよね!アイテムも貰えるしさ。

 しかし、そんな過積載みたいな装備を背負った茶々丸を召喚出来るのか?

 

「ケケケケケ!心配スンナッテ。敵ハ皆殺シニスッカラ、安心シロッテ」

 

「何てフリーダムな従者達じゃ……エヴァ、エヴァよ。何とかして欲しいのじゃが?」

 

 物騒な従者2人を従える吸血鬼の真祖は……のんびりとお茶を啜っていた。

 

「ふん!苦労性だなジジィ……さて、そろそろ時間ではないか?では、関西呪術協会の総本山に行こうか!」

 

 すくっと立ち上がり、決め台詞を言うエヴァ……頼もしいのだが、口の回りにみたらし団子の餡がべったり付いています。

 

 僕達の分まで、1人で食べていたからなー。

 



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第6話

 京都の近衛本家……

 

 爺さんの実家で有り、本来なら関西呪術協会に所属する力有る旧家だ。

 現当主は、近衛近右衛門。つまり爺さんであり、僕でもある。そして僕は、関東魔法協会の会長だ。

 だから爺さんは大戦の英雄の1人を入り婿として、関西呪術協会の長に据えた……詠春さんは、本当にお飾りな長だったみたいだ。

 

 何も改革せず、配下と打ち解けもせず……ずっと爺さんの言いなりだった。

 

 辛く無かったのかな?嗚呼、巫女さん侍らせてウハウハだったっけ。例え巫女パラダイスでも、僕なら針のムシロみたいな生活は嫌だよ。

 だから僕は、関東から逃げ出す準備をしてるのだから……凛々しく関西呪術協会の総本山に向かおう!

 そう言ったエヴァは、口の回りを茶々丸に拭いて貰っている……みたらし団子を1人だけで食べたからだが。何とも締まらないな。

 

「ケケケケケ!頭ニ乗ルゼ。何ダヨ、安定悪ナァ」

 

 チャチャゼロが、僕の頭によじ登って来た。凹凸が有り面積の大きいこの頭なら、安定すると思うんだけど?

 

「いや、お前さんはエヴァの方に……」

 

 人形本体+刃物だと結構重いんです。

 

「チャチャゼロは護衛だよ。くっくっく……まるで人形好きな変態ジジィだな」

 

「姉さん、学園長を宜しくお願いします。私は、この屋敷で待機していますので……」

 

 茶々丸さんはお留守番です。しかし既に完全武装済みで、何か有れば当然の様に参戦するつもりですよね?

 本当に心強いです。実はもう一つ……茶々丸は、未だに怪しい超鈴音に情報が行きそうだから話し合いには不参加です。

 それも今更なんだけどね……

 最初から記録出来るガイノイドを同伴するのも、先方に要らぬ警戒心を抱かせそうだから。それも理由の一つだけどね。

 何て考えているけど、頭の上に幼女人形を乗せている僕。何とも微妙な格好で、先方に向かう事になった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 近衛本家は、左京区に有る。どちらかと言えば、琵琶湖に近い。大文字山の付近と言えば分かり易いだろうか……

 それなりの広さの屋敷を構えているので、京都市内では場所の確保が難しい。

 それに、呪術を扱うので人目に付かない人里離れた山間部が都合が良かったのだ。

 

 リムジンに分乗し、関西呪術協会に向かう……

 

 流石のエヴァも緊張しているのか、お気に入りの京都の街並みを見てもはしゃいではいない。

 頭の上のチャチャゼロは、たまに「ケケケケケ」と奇声を上げているのがきになるのだが。

 

「ジジィ……これからが本番だな。最悪、話が拗れたら強制的に相手を薙ぎ払い脱出するが良いな?」

 

「なるべく穏便に進めたいのじゃが……どちらかと言えば話し合いに参加する連中よりは、参加しない連中の襲撃が問題じゃな……」

 

「む、そうだな……ジジィと話す事は無い!とかの連中か」

 

 そうなんだ……僕がこの体に入る原因を作った連中は、話し合いの場に出れる様な奴らでは無い気がするんだ。

 実際に命を捨てて爺さんの魂を消滅させた連中は、居なくなっても分からない奴らだった……調べてみたが、行方不明者を特定出来なかった。

 襲撃の犯人は、実際に肉親を亡くした人達なんだよね。

 

つまり実行部隊としての兵士達……さほど重要な地位には居ない、現場を支える人達なんだ。

 

 だから、この話し合いでは彼らは納得しないかもしれない……先ずは贖罪の一歩目だ。

 

「実際に肉親を亡くした連中からすれば、受け入れ難いじゃろ?」

 

 そうこうしている内に、車が目的地に着いた様だ……ドアを開けて外に出る。

 リムジンは、長い長い階段の下で停まっていた……コレを登るのか?

 爺さんの体に優しくない立地条件だよね。

 我々が到着したからか、階段脇の灯籠に火が灯る……此方の面子は、僕とエヴァにチャチャゼロだ。

 近衛本家の人達は、車を移動して他の場所で待機。

 

 エヴァは軽々と階段を登り、僕は魔法の呪文を唱えながら登っていく……

 

「よっこらしょ!全く老人に優しくない場所じゃな……」

 

 登る事、百段以上。五分以上かけて登りきった!

 

 そこには正門が有り、既に門は開いて左右に巫女さん達が並んで居る。

 その最奥に、婿殿……西の長、詠春さんが待っていてくれたけど。巫女さん達は能面の様に表情が無い。

 彼女達は、この扱いに不満が有るんだよね……

 

「義父さん、良くいらっしゃいました。それに……エヴァ!驚いたよ、君が来るなんて」

 

 にこやかに迎えてくれたけど、今日は正式な訪問だから……これは拙い対応だよ。

 

「詠春殿。本日は、関東魔法協会の会長として正式な訪問じゃ。その対応は拙いぞ。

それと……今は義理の父として言わせて貰うが。彼女達は、古来よりの神秘の力を受け継ぐ巫女じゃ。

現代風の巫女さんとは違うのじゃ。接待には使ってはいかんぞ。そう手紙でも書いた筈じゃよ……

力を持つ者を適材適所に配するのが長の務めじゃ。まぁ固い話は、話し合いの場所でしようかの……」

 

 詠春さん……

 

 巫女さんを接待に使っちゃ駄目だって、手紙に書いたよね?

 

「詠春よ。相変わらずムッツリスケベだな……巫女を侍らせて楽しいのか?

アレらは本来違う働きをする連中だよ。巫女と戯れたいなら、そう言う店に行くのだな」

 

 エヴァにトドメを刺されど苦笑いの詠春さん……笑い事じゃないんですよ。

 既にメンバーは揃っているらしく、僕達が最後みたいだ……会場まで詠春さん自ら案内してくれたが、コレも拙いんだよね。

 

 本来立場は対等。

 

 別に優劣も上下関係も無いのに、この持て成しは詠春さんが爺さんより下と考えていると思われてるよ。

 

 廊下を歩いているとエヴァが「殺気を抑えられない連中が多いぞ。ジジィ、気をつけろ」そう助言してくれた……

 

 アウェーだからか、最初から辛い立場だね。

 

「義父さん、此方へ……」

 

 長い廊下の突き当たりに会場が用意されていた。和室だが100畳位有るんじゃない?

 最初に見事な襖絵が目に入ってきた……歴史有る関西呪術協会の総本山だけ有り、何か凄いって感じがします。

 

 さて、いよいよ本番だ!

 

 頑張らないとね。僕の楽しい老後の為にも……

 

 

 

 詠春さんに先導されて、話し合いの場に入る。100畳位有る広い和室だ!

 其処には向かい合う様に座布団が並べられ、小さな座卓が置いてある。

 んー洋風?今時?な会議室に慣れてると、座布団に座りながらの話し合いって新鮮な感じがしますね……

 

「皆さんお待たせしました……さぁ此方へ」

 

 案内してくれたのは上座だろうか……コの字形に並べられた席の中心に当たる部分だ。そこに席が3つ並んでいる。

 

 詠春さん、僕とエヴァのだろう。

 

「時間に余裕を持って来たつもりじゃが、待たせてしまったみたいじゃの……」

 

 一言添えてから座布団に座る。そして頭の上のチャチャゼロをそっと膝の上に乗せる……

 

「ケケケケケ!何ダヨ、ジジィノ膝ノ上カヨ」

 

 誰もチャチャゼロの扱いに突っ込まないね。厳つい人達が多いんだけど……

 座卓の上に、湯呑みが直ぐに置かれる……驚いた事に、チャチャゼロの分まで用意してくれた。

 これも巫女さんなんだが、ぺこりと頭を下げる。普通なら嬉しいけど、詠春さんは本当に巫女さん好きなのか?

 お茶汲みにまで巫女さんを使うとは……

 

「ああ、有難う」

 

 僕とチャチャゼロとエヴァ、そして詠春さんの順番に湯呑みが置かれる。

 何か置く順番にも隔意が有りそうな……コホン、と咳払いをしてから出席者を見回す。

 

 やはり力有る連中だけあり……正直怖いです。

 

「では、先ずはこの話し合いの場を設けてくれた事に礼を言おう……」

 

 進行役が誰だか分からないから、取り敢えず僕が進めるしかないのかな?でも皆さん無言です!怖いです……

 

「単刀直入に言おう……儂は関東魔法協会の会長職を辞する。後任は本国から適当な人材が来るだろう。

そして、詠春だが……共に関西呪術協会の長の座を退いて貰う」

 

 相手をしてくれないなら、言いたい事を言うしかない。流石に関東と関西のトップが辞めると言えば、反応は合った。

 

「それで?主が関東から撤退し、関西呪術協会の長にでもなりたいのか?」

 

「ふん。何を考えているのかな。全く笑い話にもならんな」

 

 しかし、冷たく突き放すお言葉です……詠春さんは驚いて固まっており、エヴァはニヤニヤしている。

 チャチャゼロは……お茶を飲んでいるね。

 茶々丸は食事は出来ないのに、チャチャゼロは飲み食い出来るんだよね……

 もしかして、長く生きてるから妖精化とか九十九神化とかしてるのか?

 

「ナンダヨ、酒ハ無イノカヨ。ツマンネーナ」

 

 チャチャゼロの頭をポンポンと軽く叩く。うん、少し怖さが和らいだよ……

 

「別に何も企んではおらんよ。儂も、もう年じゃからな……この辺で権力の座から退いて後任に託すつもりじゃ。

詠春殿には悪いが、近衛の名を持つからな。共に職を辞するのじゃ」

 

 僕と言うか、爺さんが退けば詠春さんが長で居る意味も力も無いだろう……クーデターとか下剋上の前に、共に居なくなろうね。

 

「ふん……成る程な、関東で何か失敗でもやらかしたか?関西に逃げ込むつもりかな」

 

「全く問題を押し付ける物よの。毎回な……」

 

 完全に悪意でしか見られてない?爺さん、相当恨まれてるぞ。

 

「別に失策はしてないつもりじゃよ。もう年じゃからな……此処に居る連中で、儂より年上は居まい」

 

 そう言って周りを見る……大体が40〜60歳位かな?爺さんは80前後は年食ってる筈だからね。

 皆さん年下です……

 

「なれば……黙って辞めれば良かろう!何故、我らを集めた」

 

「そうだな……何時も、そこの長と勝手に決めてるじゃないか!」

 

 発言をするのは20人近く居る中で、6人だけだ。それも下座に近い連中……では僕に近い位置に居る連中は、何を考えて沈黙してるのかな?

 

「儂が皆を集めた理由は……大戦の時に、多くの人材を死地に送った事を謝罪する事と……残された遺族に補償をしたいからじゃ」

 

 そう言って土下座をする。ちゃんと座布団から下がってだ……

 

「なっ?」

 

 空気が固まった気がする。

 

「遺族達の事は主等の方が把握してるじゃろう……下世話な話じゃが補償金も用意している。リストを貰えれば対応しよう……」

 

 未だ頭を下げて、言いたい事を言う。これは気持ちの問題だからね……

 

「フザケルナ!今更、都合良く謝罪だと」

 

「引退目前で許しをこうだと!我々は貴様の事を許すつもりは無い!」

 

 嗚呼、やはり無理か……謝罪をしたら雰囲気が更に悪化するって、何でだよ。

 

「いや儂は許しを……」

 

「黙れ貴様ら!ジジィのお陰で、魔法世界のキチガイ共から直接の被害が無いんだぞ!

あの大戦で、メガロメセンブリアの元老員共は日本の魔法関係者に援軍を求めた!

いち極東の魔法勢力のトップが彼らに逆らえる訳があるまい。

逆に人員を送ったからこそ、奴らも要らんチョッカイを此方にしてこないんだぞ。そのジジィが関東魔法協会の会長職を辞する。

後任には、本国の意向がかなり反映された人材が来るだろう……もうジジィと言う防波堤は居ないぞ。

どうする?極東の呪術士達よ?」

 

 エヴァが、凄い気合いの入った説明的台詞を言ってくれた!しかし、そんなに深く考えて無かったケド?

 

「いや、そんな深い考えは……」

 

「今まで好き放題していた癖に、我らが為だと?」

 

「その大戦の英雄さんを担ぎ上げて、日本の西と東を牛耳っていたのにか?」

 

 僕の言葉を遮り、凄い剣幕でエヴァを睨んでますね……僕、要らない子?

 

「ふん!

魔法世界の戦乱が一応収まり、メガロメセンブリアの連中が目を外へ向け始めた時に。

いち早く大戦の英雄の1人を引き抜き、関西呪術協会の長に据える……元老員の奴らも、お前らに手は出し難かっただろうな。

何せお飾りでも英雄様だしな。そしてジジィが関東魔法協会の会長となり、奴らからの要求をのらりくらりとかわしていたのだそ。

大体、乗っ取りを考えているならとっくに貴様等など殺しているぞ!

それで?

何かお飾りの長以外に実害が合ったのか?搾取されたか?無用な役を押し付けられたのか?

本国の魔法使い共を要職に派遣されたか?精々が詠春の巫女遊び位だろ?それとて手込めにしてなかろう。

木乃香の異母兄弟姉妹が居ないのだから……」

 

 そう言われると、爺さんは関西の人達に何かしてるって記憶は無いな……でもそんなに親切な理由も無いと思うケド?

 それまで沈黙していた上座の連中が、初めて此方を向いてきた……威圧感がハンパないです。

 

 思わずチャチャゼロの両脇を掴んでしまう……

 

「近衛近右衛門殿。成る程、言われれば貴殿のお陰で忌々しい魔法使い共からの接触は無かった」

 

「お飾りの長殿も、居るだけで組織の運営には口を出さなかったのも貴殿が言い含めての事か?」

 

 何か、良い方向へと進んでいる?

 

「いや、全ては過ぎた事……何も言わんよ」

 

 言ったら拙い事が、沢山有りそうだから……

 

 このまま有耶無耶に進めた方が「ならば、何故今更職を辞して関西に来るのだ!これからの事はどうする?まさか、引退するから後は頼むではなかろうな?」ああ、この人達も責めるんですね?

 

 僕のお気楽極楽隠居ライフは風前の灯火だ……

 

 

 

 遂に関西呪術協会の面々と話し合いの場につけた……しかし、端っから敵対ムードが漂っている。

 そんな中で、エヴァが凄いフォローをしてくれた!

 

 まるで……僕は要らない子の様に。

 

 良いぞエヴァ、もっと言ってやって下さい。僕は黙って聞いてますから!

 エヴァは、何を言っても懐疑的と言うか否定的な連中を睨み付けている。何て頼りになる洋ロリだ!

 

「何から何までジジィ頼りとは情けないな。貴様等、それでも東洋の呪術集団か?

ジジィ、言ってやれ!貴様の考えを。これから関東魔法協会、いやメガロメセンブリアを敵に回しでもってやっていける考えを!」

 

 えっ?そんな考えなんて有りましたっけ?今まで僕は要らない子扱いだったのに……エヴァさん、いきなり無茶振りですよ。

 

 泣きそうな顔でエヴァを見詰める。

 

「ふん……ジジィも人が悪いな。自らは言わない気か?

お前等、何故私がジジィと同行していると思う?闇の福音、ダーク・エヴァンジェリンがだ」

 

 仄かに殺気を纏い、目の白黒が反転して糸切り歯?犬歯?をキラリと光らせたエヴァが周りを威嚇する……

 周りの面々も見た目に騙されていた幼女が、吸血鬼の真祖と思い付いたのだろう。腰を浮かせて臨戦態勢になる……

 

「落ち着くのじゃ……エヴァは西洋魔法使いで吸血鬼じゃ。

しかも齢600歳の真祖のな。しかし、儂と共に関西に来ている。この意味は分かるじゃろ?」

 

 関東魔法協会で最強の魔法使いが同行する。本音は僕の護衛に、一番強い人に頼んだんだ。

 でも先程のエヴァの話を元に考えれば……結構ヤバい人選だった!

 

 ならば、この状況を利用しよう。エヴァも勘違いだけど、その気になってますから……

 

「なる程……戦力の引き抜きか。しかしドールマスターの異名を持つにしては可愛い人形だな」

 

 僕の膝の上のチャチャゼロを見ながら、名家の1人で有ろう壮年の男性が言う……揶揄しているのかな?

 

「ケケケケケ!」

 

 奇声を上げてチャチャゼロが消えたと思えば……先程の男性の首筋に大振りのナイフを当てている!

 ちょ、エヴァ止めて……頼みの綱のエヴァは、パクティオーカードを構えていた。

 

 嗚呼、デストロイモード茶々丸の登場か……

 

 そして僕の前に、殺戮兵器を構えた茶々丸が居た。

 

「老害共よ……指一本動かせば蜂の巣にします」

 

 重機関銃を両手に構えた茶々丸さんが、静かに宣言してくれました……

 

「エヴァ、落ち着かんか……茶々丸とチャチャゼロもな。

儂らは喧嘩をしに来た訳じゃないのだが……しかし彼女達の力は分かった筈じゃよ?

これだけの力を持ちながらも、エヴァを押さえ付けていた連中と敵対するのじゃ。問題は多いのは理解したじゃろう?」

 

 そう言うとチャチャゼロは僕の頭の上に戻り、茶々丸は両手を下げた。

 

 エヴァは……まだ吸血鬼モードだね。

 

「ケケケケケ!コイツ等弱イゼ……役ニ立ツノカ?」

 

 チャチャゼロが挑発する。彼女?の両脇に手を入れて持ち上げ、膝の上に座らせる。

 

「敵は強大じゃよ……しかも彼らは、日本に意図的に溶け込もうとしているのじゃ。

魔法使いだと黙って此方の世界の住人と結婚する連中も居る。その子供達の扱いは?

偽善者の建前論を振りかざせば、彼らを受け入れる口実になるのう……奴らは正義の魔法使いを名乗っている。

呪術と言う、人を呪う術を持つ我らとは相容れないじゃろ?やがてこの世界にも進出してくるだろう……

彼らは亜人を含めて12億人じゃ。我らでは……我ら単体では勝負にもならないじゃろう」

 

 話を大きくして、彼らの不安を煽って見た。チャチャゼロと茶々丸さんの先走りを帳消しにする意味でも……

 武器を納めた事に、より彼らも落ち着いたのか?席に座り直して、話し合いを進める体制になった。

 

 もう後戻りは出来なさそうです……

 

「ジジィは日本政府を抱き込めって言ってるんだよ。地球には50億からの人間が居るからな。

数なら魔法世界の連中を圧倒しているだろう?要は魔法使い達を弾き出せば良いんだ。

そもそも関西呪術協会とは、時の権力者と密接な関わりが有ろう?関東での現政府とのパイプは、ジジィが一任しているからな。

奴らが日本国に、いや地球に進出し始めたと言えば……かなり面白い展開になるだろう」

 

 やっと周りの連中も、腕を組んで考え始めたり目を瞑りながら天井に向いたりして思案し初めた。

 先程迄のプレッシャーが、嘘の様に無くなった……やっと僕も一息つく。

 

「ふぅ……やれやれじゃな」

 

 膝の上のチャチャゼロが、三色団子を食べているが?

 

「チャチャゼロよ……その団子はどうしたのじゃ?」

 

 そもそも人形サイズで人間用の団子って……比較すると、僕だとソフトボール大の団子?いやいや、何処から団子が?

 

「……どうぞ」

 

 巫女さんが、僕にも三色団子を三本のせた皿を置いてくれました。

 

「いや、お主等にお茶汲みの様な真似は……」

 

 自分の分を食べ終わり、僕の皿に手を伸ばすチャチャゼロを牽制しながら巫女さんに言うが……

 

「ほんに可愛らしい人形どすな……それに力も感じますえ」

 

 お代わりの皿をチャチャゼロに差し出しながら、巫女さんは下がっていった……やはり呪術系女子には、呪い人形は人気なのか?

 両手で団子を掴むチャチャゼロを撫でながら考える……巫女さん……素晴らしい!

 

 詠春さんの気持ちが、一気に理解出来た!

 

 しかし彼女達は、お茶汲みや接待・雑用から外さないとね。エヴァも団子のお陰で落ち着きを取り戻したみたいだ……

 思案中の連中にも、麩饅頭やら水羊羹やらが並んでいる。

 

 皆さん甘党なのか?

 

 団子を食べ終えたエヴァが

 

「そうそう……

今、麻帆良学園にはナギ・スプリングフィールドの息子が来ている。アレを取り込めば、魔法世界ではデカい顔が出来るだろう……

偶像の英雄の息子か。しかしジジィは、ヤツを……ネギ・スプリングフィールドを男子中学校に押し込んだ。

試練の内容が、麻帆良で先生をする事なんだと……全くフザケテるな。正義の魔法使い様は。

私がジジィを信用したのは、大戦の英雄の忘れ形見の扱いだ!ネギを自陣営に引き込むなら、孫娘と仮契約させれば手っ取り早い。

しかしジジィは、ネギを一般人に極力迷惑を掛けずに、イギリスに送り返す手筈にしたよ。これで魔法使い側に未練が無いのは明白だろ?」

 

 あーエヴァさん、それは多大な誤解です。

 あのラッキースケベのスキル持ちは、女性から隔離が必要だったんです!

 皆さんも、なる程とか、嗚呼とか、納得してますが……偉い勘違いですよ?

 

 

 

 関西呪術協会の関係者が、一同に会してお茶と和菓子を食べている……不思議な空間が出来上がっています。

 エヴァ御一行が偉く活躍し、僕は要らない子状態で話が進みました……

 ネギ君の件も話題になり、扱い方にも多大な勘違いが有りましたが、概ね纏まりました。

 

「近衛殿……貴殿の今までの行動は、大体納得はした。

しかし、ならば何故に向かった刺客達にその話をしなかったのだ?かなりの人数が、返り討ちにあっただろう……」

 

 ああ、確かに記憶に浮かぶだけでも結構な回数襲われている。爺さんの自業自得だけど……

 

「しかし、それは……」

 

「ふん!そいつ等はジジィの言う事を素直に聞いたか?

悪いが話しても無駄だったよ……私も何人か、侵入してきた奴らを撃退した。

それに組織のトップが、そんな甘ちゃんでどうするんだ?時には非情にならねば、纏まる物も纏まるまい……」

 

 エヴァが、僕の台詞に被せて言ってくれた!彼女も侵入者として、過去に襲撃犯を撃退しているから……他人事では無いんだよね。

 

「……そうじゃな。可哀想とは思うが、儂も死ぬ訳にはいかぬからな。それに最後の襲撃は、白昼堂々と進攻して来ての……

一般人にも被害が出そうじゃった。だから、今回の件を急いだのじゃよ」

 

 そう言ってお茶を飲む……ヤバいな、手が少し震えているよ。本音は、先の襲撃が怖かったんだ。

 自分を犠牲にしてまで、あんな純粋な憎悪を向けられるのは……記憶を思い出しても、怖かったんだ。

 もうあんな思いは嫌だし、次に襲撃されれば……撃退出来る自信は無いよ。

 僕はタダの中学生だったんだ……爺さんの体に憑依し、肉体や知識を得ても無理だと確信している。

 

 肝心の心が弱いから……

 

 

「そうか……先の話で遺族への補助金の事が有ったな。出来れば襲撃犯の遺族にも慈悲をかけて欲しい。

我らは……情けないが、復讐に捕らわれ残された人達の事は二の次だったな」

 

「しかし憎しみは消えぬよ……理由はどうあれ、復讐心を糧に生きてきた連中も居るからな。すまぬが全ての連中が納得はすまい」

 

「だが、各々の派閥の連中は抑えよう……本当に恨む相手は、メガロメセンブリア。

連中との戦いは、これからになるのか……長い戦いになりそうだな」

 

「では遺族リストを……対応は早めにしよう」

 

 やっ、やっと僕に優しい言葉が聞けた!これで、いきなりグサッと刺される心配は減ったね。

 後は残された人達に見舞金を配って誠意を見せれば、少しは良くなるかな?

 

 この話し合いは上手く行った……

 

 後は徐々に表舞台から引いて行けば、お気楽極楽な老後ライフが過ごせるよね?

 こうして関西呪術協会との話し合いは、ある程度の成果が有った……後は今後の対応で誠意を見せれば、平気かな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 近衛近右衛門と詠春、それにエヴァ御一行が部屋を出て行った。

 残された面々の感情は微妙だ……上座に座っていた六人こそが、実質的に関西呪術協会を動かしている。

 お飾りの長が辞めるとなれば……

 

 

「近衛近右衛門……今の話が全てではなかろうが、確かに我々はいけ好かない魔法使い達からは距離を置けていたな」

 

「ふむ。確かに野心家ならばナギ・スプリングフィールドの息子を放ってはおくまい。

取り込めば、大いに役立つのは確かだ……しかし、奴の若い頃を知っている私としては、俄には信じ難い。

ただの善意?まさか!必ずそれ以外の目的が有る筈だよ」

 

「つまり……今は我々と利害が一致している訳だな」

 

「それに闇の福音と殺戮人形達か。確かに戦力としては使えるな」

 

「ならば、奴の話に乗ろう。どちらにしても悪い提案では無い。

関東魔法協会の会長職は辞しても、西洋魔法使い共の矢面には立って貰おうか」

 

「そうだな……日本政府との関係を強めるか。それと京都神鳴流。詠春殿に動いて貰うか。

あの連中を抱き込めれば力強い。逆に西洋魔法使い側に付かれたら厄介だ。

基本的に金で雇える連中だし、財力負けでは笑えぬからな……最悪はサムライマスター殿と、その義理の父親に動いて貰うか」

 

「奴も嫌とは言えぬだろう……義理とは言え身内。

しかし、あまり神鳴流と癒着されても困るな……適度に距離を持たせねば」

 

「後は……奴に鈴を付けよう。人材は奴を恨んでいる方が良いな……

謝罪をしてきたが、信用出来ぬから調べるのだ!とか言えば、我々の言う通りに動く駒が良いな」

 

「ふむ……身寄りなく奴に復讐心が有り、しかしそれを隠して行動出来るだけの能力が有る者を。

子供か女の方が、奴も扱い辛くて良かろうな……」

 

「さて……誰が良いかの?

私の配下では両親が亡くなり、憎しみの全てを西洋魔法使いに向ける娘がいるぞ。

娘と言うには少し年をとっているが、中々に強かな奴がな。皆も思い当たる人選は有るだろう?」

 

「まぁな……それとは別に、もう一つの問題も話し合わねばな!」

 

 

「「「「「「誰が次の長になるかだな!」」」」」」

 

 

 この話し合いは長くなるだろう……近衛近右衛門。古巣には、彼を良く知る連中が居た。

 つまり強かで欲深い彼が、善意だけの行動だとは端から信じていなかった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 エヴァ御一行と詠春さんを伴い、近衛本家に帰って来た……あの話し合いの中で、全く無言の詠春さん。

 実は彼をかなり蔑ろにした様な話し合いだったので、気になっていた……あの人達もお飾りお飾り騒いでいたし、詠春さんも辛かった筈だから。

 取り敢えず帰ってから、応接室に集まる。皆に日本茶が配られてから今日の反省会をする……

 

「皆、お疲れ様じゃった……婿殿もご苦労じゃったな。すまぬな、お飾りお飾りと連呼させてしまった。

しかし、関西呪術協会を奴らの影響下から引き離すには仕方なかったのじゃ……」

 

 素直に頭を下げる。

 

「良いんですよ、お義父さん。私は人の上に立つ器ではなかった……

しかし巫女さんに囲まれて暮らす10年以上の歳月は、有り余る幸せでした」

 

 目がね……ヤバいんだよ、詠春さん!アレはタカミチ君の腐り輝く目と同じなんだ……

 彼は巫女さんと言う魔性の職業に魅せられた被害者なのだろうか?

 

「嗚呼……緋袴からチラリと見える柔肌が……清楚な黒髪……ファンタスティック巫女パラダイス!」

 

 駄目だ、コイツも腐ってやがる!早すぎたんだ……

 

 

 

 美幼女吸血鬼御一行in京都!

 

 

「ふはははははー!これが自由、そして日本文化の原点。そうだ!京都だ!」

 

 ハイテンション幼女、京都駅前で騒ぐ。周りから生暖かい目で見られています。

 

「あらあら……随分と可愛い外人さんね」

 

「間違った日本文化を覚えて帰らなければ良いけどね」

 

「ハァハァ……エヴァたん、かわゆす」

 

 若干名、変なのが混じってはいたが概ね友好的だ。彼女は詠春さんの秘蔵コレクションの巫女服を来ていた……

 彼は真っ当な変態巫女フェチで有り、京都観光なら和服で!そして寺社仏閣を巡るなら巫女服。それ以外は日本文化の冒涜でしかない!

 

 ビバ・巫女さん!

 

 そう力説し、エヴァ・茶々丸・チャチャゼロのサイズピッタリな巫女服を用意していた。

 元々着物とは、ある程度の幅は何とか許容できるのだが丈はそうはいかない……

 しかしチャチャゼロの人形サイズから茶々丸の普通サイズまで、難なく用意出来るコレクションを持っていたのだ。

 

 僕は、詠春さんを好きになれそうです。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 彼の秘蔵本やコレクションを見せて貰う為に、彼の私邸を訪問。エヴァ達とは別行動になってしまったが、後悔はしていない。

 なに、サムライマスターが護衛として居るのだ。それに近衛本家からの護衛も居る。

 関西の跳ねっ返りは昨日の話し合いで、抑えてくれているだろう……

 

「ふはははは……婿殿のコレクションには感心しきりじゃ。

特に市販の写真集でなく、オリジナルアルバムのクォリティーの高さときたら……

これを出版社に持ち込めば、ミリオンセラー間違い無しじゃ!」

 

 大切に自費で書籍化したのだろう。

 

詠春コレクション

 

 「巫女そして桜吹雪」

 

 「巫女の美と夜祭り」

 

 「巫女と哀愁の紅葉」

 

 「巫女フォーエバー粉雪」

 

春夏秋冬・巫女祭り、この四巻セットは圧巻だ!

 

 四季折々の景色に溶け込む巫女さん……時に喜び、憂いを帯び、哀愁を漂わせ、そして清烈な美貌をさらけ出す。

 この写真集には、一年を通じての巫女さんの魅力が満載だ!

 これは関西呪術協会に所属する巫女さんだけでなく、近隣の神社の巫女さんも網羅しているのは間違い無い!

 

「ふふふふふ……義父さん。マニアとは人が持ってない物を自慢するのが楽しみなのです。

私の10年間の集大成は、私だけの物なのです。分かりますか?」

 

 なる程、これだけの写真集を独占するとは、な……サムライマスター詠春。空恐ろしい漢よの。

 

「分かる、分かるぞ!婿殿、他には何か無いのか?」

 

 マニアとは、コレクターとは自慢のコレクションを見せるのも愉悦な筈。

 詠春さんは、次々と自慢のコレクションを奥から持ってきてくれる……

 

「これは、木乃香と刹那君が幼少の頃から着させていた巫女服の記録。言わば娘の成長のダイアリー!見ますか?」

 

 なっなんと!和風美少女木乃香ちゃんとデコ翼っ子の巫女服姿だと!

 

「けしからん!けしからんですぞ、婿殿。では、早速……」

 

 手渡されたアルバムを開く……くーっ、幼い木乃香ちゃんの巫女姿!ハァハァ……刹那ちゃんも、この頃は自然に笑っているね。

 

「けしからんクォリティーじゃな……しかし、この頃の刹那君は自然と笑っておる。関西に連れ戻したら、彼女の件も考えねばならないの……」

 

 半分裏切る様に関東魔法協会に所属した彼女は……僕程じゃないが、此方の人達からは良くは思われてはいないだろう。

 しかも烏族とのハーフだからね……あのモフモフは素晴らしいのにな。

 

「これは……婿殿、このアルバムは何じゃ?他よりは仕上がりが雑みたいじゃが?」

 

 これは普通の市販のアルバムだ……これまでの手の込んだ作りでは無いけど、未整理写真かな?パラパラとページを捲って見る。

 

 何だ?この破廉恥な改造巫女服は?

 

「なっなんじゃ?このいかがわしい改造巫女服は?婿殿……何処の風俗娘じゃ?この様な巫女服は……断じて巫女服とは認めぬぞ」

 

「流石は義父さんですね……私も同意見です。

彼女は関西呪術協会に所属する術士なのですが……それを仕事着としています。

私としても、正統派巫女服を勧めたのですが……意趣返しか、着ぐるみを着る始末。

しかし捨てるのもコレクターとしてはどうかと思い、適当なアルバムにしまっておきました」

 

 着ぐるみ?

 

 アレかな?

 

 ドン・キホーテで売ってるスエット生地の、カエルとかイヌとかの安っぽいヤツ?

 

「それは……婿殿、配下の連中の教育がなってないのではないか?

写真を見る限りでは、彼女は中々の美女じゃ。こんな破廉恥な改造巫女服など着なくても、正統派巫女服で十分似合うじゃろ?」

 

 全く勿体無い……このキツめなお姉さんに、正統派巫女服を着て欲しいな。きっと似合う筈だよ。

 

「彼女は……天ヶ崎千草と言ったかな?両親を大戦で失っているのです。だからでしょうか?私に対してキツいのは……」

 

 ああ……彼女は被害者なのか……それなら無理強いは出来ないな。

 

 あんな破廉恥な格好も、心の平穏の為に仕方なく着ているのかも知れないのだから……

 

「そうか……今度会ったならば、謝罪と補償をしなければならないな。我らの為に彼女は不幸になったのじゃから……」

 

 天ヶ崎さんに正統な巫女服を着せるのは難しい。不本意だが、あの破廉恥な格好を認めよう。

 

「婿殿。関西土産に、木乃香と刹那君に巫女服を贈りたいのじゃが……勿論、撮影し送るぞ。何か良い服は有るかの?」

 

「義父さん!ならばこの巫女服を……これは愛娘とその友人の為にこさえました。これを着せて下さい」

 

 それはそれは、見事に鮮やかな緋色と白色の巫女服だった……

 

「ハイクォリティー!素晴らしい出来映えじゃな……婿殿よ、約束しよう。

必ず木乃香と刹那君に着させるぞ。そして彼女達の写真を送る事を約束しよう……」

 

 さて、父親からの贈り物だよ!そう言って渡すかな……そしてビデオレターを送るからと着替えさせる!完璧だ、まさに完璧だよ。

 

 そうだ!

 

 エヴァ達が帰って来たら、彼女達の写真も撮ろう!老後の楽しみは写真だね。早く引退して趣味に走りたいなぁ!

 

 

 

 そう言えば、茶々丸にクレジットカードを渡していたんだ。観光都市の京都は、結構小さい店でもカード支払いが出来る。

 そして荷物持ちには、大の男顔負けの力持ちの茶々丸が居るので……

 

「帰ったぞ、ジジィ!」

 

 茶々丸は両手一杯に土産物を持っていた。

 

「只今帰りました、学園長」

 

「ケケケケケ!久シ振リノ自由ハイイゼ」

 

 チャチャゼロも、流石に両手一杯に荷物を持っている茶々丸には乗らず、エヴァに貼り付いていた。

 

「ああ、楽しんできたかのぅ?明日は京都駅に3時には着いていたいのじゃが……明日の予定はどうじゃ?」

 

 早速、巫女服姿の三人を撮影する……後で茶々丸には、今回の撮影した画像データを貰おうかな。

 

「なぁジジィ……私達を撮ってどうするんだ?いや、回答しだいでは許さんぞ」

 

「いや……巫女服の魅力を此処まで引き出すとは、流石ははエヴァと言うべきかの」

 

 ささっとデジカメをしまい、室内に誘う……僕も何か趣味を見付けようかな。

 

「ジジィが、遂に変態に成り下がってしまったのか?」

 

 何やらエヴァが、ブツブツと失礼な独り言を言っているが気にしない。

 

「明日は世界遺産を廻る予定だ!ジジィ知ってるか?京都には世界遺産に認定された物が沢山あるのだ。

西本願寺に東寺。清水寺に金閣寺・銀閣寺、二条城に下鴨神社。

竜安寺に仁和寺なども有名だ!足を延ばせれば、醍醐寺や平等院も良いな……」

 

 流石は京都に恋い焦がれたエヴァ……流石だ!

 

「流石じゃな……だが、そんなに時間は無いぞ。西本願寺に東寺……それに二条城辺りかのぅ?」

 

「ふむ……仕方無いか。今日は予定通り清水寺から二年坂・三年坂をのんびりと廻ったぞ。

その後、石塀小路とねねの道を通って円山公園へ……名物のいもぼうを食べた!

今の時期は里芋でなくエビ芋を棒鱈と炊き合わせてな……それは美味だったぞ!その後は八坂神社へ……」

 

 両手を振り回し、今日の出来事を説明するエヴァ!相当楽しかったのだろう……

 

「疲れているんじゃろ?先ずは休んで風呂にでも入ったらどうじゃ?」

 

 そう労って家の中へ招く……今日の夕飯は賑やかになるだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌朝、エヴァ達は早起きをして観光に向かった。僕は別行動で、詠春さんと京都神鳴流に向かう。

 記憶に有る京都神鳴流の連中の非常識さ!それと金で雇える厄介さを考えて、一言現当主に話しておくのだ。

 最悪、金にあかせて彼らを大量投入されたら厄介だからね……実際は彼らだって馬鹿じゃないから、そんな利用のされ方はしないだろう。

 しかし僕と詠春さんが、揃って引退するのは説明しておかないと……最悪、変に勘ぐられても困るからね。

 此方にもサムライマスター詠春さんと、翼っ子刹那君が居るのだから……残念ながら、歴代最強の青山鶴子さんは不在らしいので親書を届けるだけだ!

 どんな怖いお姉さんか知らないけど、全盛時の詠春さんでも勝てないらしいから……多分、凄い人なんだろうね。

 

 そうだ!

 

 京都神鳴流の人達は、男は浅葱・女は緋の袴が基本じゃった……ただ親書を届けただけだったけど、中々に有意義だったと記しておく。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 京都旅行?最後の日……別行動だったが、有意義な内容だった。エヴァと京都駅の空中経路で待ち合わせ。

 デパート棟に向かい、最後のお土産買い物タイムとお茶を堪能した。

 因みに木乃香ちゃんと刹那君には、一三やの本つげ櫛と髪留め……それとお手入れ用の椿油のセットです。

 魔法関係者には、纏めて京都銘柄の詰め合わせ。会議の時にでも配るつもりです。

 源しずな先生には、お世話になりっぱなしだったので本つげ櫛を用意しました……最後の京都を堪能し、新幹線のホームで詠春さんと別れを惜しむ。

 

 この集団は目立つ……

 

 変なジジィに着物姿の壮年の男性。美少女・美幼女・美幼女人形……全員が普通じゃない。周りも遠巻きにチラチラと視線を送ってるし。

 中にはカメラを構える奴もいるが、事前に察知した僕と詠春さんの後頭部と尻しか写せてないだろう……

 しかし僕の頭を不思議に思わないとは、コッチの方が不思議だと思う。

 

 これが認識阻害か……後で写真を見たら、どう思うのだろう?変な後頭部の写真を。

 

 茶々丸は駄目押しでエヴァが買った土産物を大量に持っている。殆どを宅配便で送ったのにだ!

 月末のカード決算が心配だよね……多分だが、月限度額一杯だと思います。

 

 まぁ良いか……

 

 僕は、この関西訪問ですっかり仲良くなった詠春さんに向き合う。

 

「婿殿、いや詠春殿……来月には京都に戻ってくるので、例の研鑽の結果を頼みますぞ」

 

「義父さんも、プレゼントを着た彼女達の写真をお願いします」

 

 ガッチリと握手をしながら、次回までの互いのノルマを確認した……詠春さんは、すっとmicroSDを差し出し

 

「それと……これは先程行った時に盗撮した、京都神鳴流の袴姿の女性達です。

所属する私が言うのも何ですが、良い衣装だと思いますね。日本人は着物をもっと着なければならない」

 

「ふむ。あれだけ警戒されていたのは、詠春殿の盗撮に関してだったのじゃな……流石はサムライマスター!その名に偽り無しじゃ」

 

 有り難くmicroSDを貰う。麻帆良に帰ったら、早速チェックしなければ……そうだ!

 相坂さんにも巫女服を着せたいな……大和撫子な彼女なら、似合うのは間違い無いと思うけど。

 

「学園長、そろそろ新幹線の出発時刻です。車内の方に移動をお願いします」

 

 丁寧な口調だけど、僕の襟首を掴んで引き摺って……

 

「首がっ!茶々丸さん、首が痛いから……詠春殿、ではまたのぅ」

 

 記憶に有るサムライマスターは、凄く楽しい人だった!これは京都に引き籠もっても、楽しい生活が送れそうだね!

 ニコニコしながら指定席に向かう……2人席を続けて予約した筈だが、誰かが先に座って居るよ?

 席の前まで進むと、座っている人物が立ち上がった。

 

「天ヶ崎千草どす。関西呪術協会より派遣されましてな。よろしゅうお願いします」

 

 まさかの改造巫女服の女性が居た!勿論、あの破廉恥な巫女服は着ていないが……アレは仕事着だと言っていたから。

 

 

 

 

 天ヶ崎千草……

 

 先の大戦で両親が殺された。身寄り無く、しかし術者として力を付けてきた彼女だ。

 並大抵の苦労では無く、勿論直接の原因の爺さんを……僕を恨んでいるだろう。

 彼女の態度が、そう言っている。

 目を合わせないとか、会話に参加しないとか……貧乏揺すりとか、それはもう不機嫌さのオンパレードですね。

 仕方無く同行してやってるのだと。気持ちを考えれば分かります。

 

 しかし……

 

 あの改造巫女服については、何とか正統派巫女服に替えて欲しい。

 彼女のアイデンティティが、あの破廉恥な巫女服なのだろう……いつか間違いに気付くまで、見守るしかあるまい。

 貴女には、正統派巫女服が似合います、と。

 

「あの……その……なんじゃ。何故、君が同行する話になったのじゃ?儂らは聞いてないぞ。それに連絡も無いのじゃが……」

 

 取り敢えず向かいの窓側に座る天ヶ崎さんに聞いてみる。

 因みに僕は通路側。窓側の隣にはエヴァ。僕の正面に茶々丸&チャチャゼロ。その隣が天ヶ崎さんだ!

 

 彼女は視線を中々僕には向けてくれない……車窓からの眺めを楽しんでる訳でもない。

 

「……これや」

 

 此方を見ずに、ぶっきらぼうに手紙を渡してくる。和紙にくるまれた手紙。宛名は、近衛近右衛門殿……つまり僕宛てだ。

 

「読まさせてもらうかの……」

 

 手紙を受け取り、断りを入れてから読み始める。エヴァが気になるのか、肩に顎を乗せて覗き込む……

 ああ、幼女とは言え美が付く幼女とスキンシップ?は嬉しく思います。若干ニヤニヤしてしまう……気が付けば茶々丸の視線と絡み付いて?

 

「やはり学園長はロリを超えたペド……しかしマスターは実は年上です。

学園長はロリなのか、実は老け専なのか……私に赤ちゃんプレイを要求したりと、実に複雑怪奇です。

プレイに幅が有りすぎて特定出来ないなんて!これが人間の不条理……姉さんは、どう思いますか?」

 

 頭の上に乗っているチャチャゼロに問う……

 

「ケケケケケ!元カラ変ダカラナ、変態ニ進化シタカ」

 

 酷い言われようです。無視して手紙を読む。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 近衛近右衛門殿

 

 先の話し合いについて、有意義な内容で有った事を双方が理解したと思う。

 

 永きに渡り不仲と言われていた、関東魔法協会と関西呪術協会の友好の為に。

 

 また相互のコミュニケーションを円滑にする為にも、関西呪術協会から人員を派遣する事とする。

 

 彼女は、天ヶ崎千草。

 

 術者として平均以上の能力を持っている。上手く活用して欲しい。

 

 

 

 

 これだけ?確かに話し合いは前進したし、双方に利の有る内容で有った。

 しかし、実は関東魔法協会とは僕が職を辞した後、敵対する可能性も有る。この時期に、人員派遣とは……

 

「天ヶ崎殿……この内容、確かに関東魔法協会としては有り難いが……先の話し合いは、お主も知らされているじゃろ?

この時期に派遣され、しかも儂と共に来月に関西へ戻る。そう考えて良いのかのう?」

 

 嫌々そうな顔で、漸く此方を見る彼女……

 

「なかなか鋭いどすな……そうどす。来月には、いけ好かない西洋魔法使いの街から帰ります。

あくまでも近衛はんの監視の意味を含めての派遣どす。私は嫌々や……」

 

 全く、何でウチが行かなならんのよ……気色悪いんよ、何がが詰まってる頭とか……そうブツブツと文句を言われました。

 面と向かって女性に嫌われるのは……正直、凹みます。

 なる程、鈴を付けられた!要は信用出来ないから監視を付けた。

 

 そう言う意味か……

 

「お主の扱いについては、儂の秘書で良いな?どちらにしても、儂の周りに居ないと意味が無いじゃろ?

それと、衣食住の面倒はみよう。適当な住居と、当座の資金。

仕事は実質は無いが、茶々丸から教えて貰うのじゃな……彼女の方が、秘書としては先輩じゃからな」

 

 隣に座る茶々丸をマジマジと見ている。そして、頭の上のチャチャゼロを見てから……ため息をついたぞ?

 

「秘書?先輩?全く、こんな若い娘を侍らすなんて!長と良い、近衛の方は変態どすな」

 

 もう話す事は無い!そんな感じで首を振りながら、キツい毒を吐かれた……詠春さん、この人に相当警戒されてる?

 きっと盗撮の件は、関西呪術協会の巫女さん達にはバレていたのだろう……

 

「くっくっく……天ヶ崎と言ったな。

お前も目先の相手に捕らわれ過ぎて、本当の敵には何もしないとは!見ていて滑稽だよ」

 

 エヴァが、サラリと毒を吐いた!もう景色は見飽きたの?

 キッと言う感じで、エヴァを睨み付ける天ヶ崎さん……その幼女、危険につき気を付けて下さい。

 

「なんどすか?捕らわれの吸血鬼の癖に、分かった様な事を言わんといてや!」

 

 かなりイラッと来ています……両親の間接的な敵を目の前にして、冷静じゃいられないか。

 

「本当に大戦でおまえ等を殺したのは……魔法世界のメガロメセンブリアの元老員の連中さ。

だけどおまえ等は、末端のジジィだけを恨んで何度も刺客を差し向けた。

目先の敵に釣られてな……このジジィが居なくなれば、連中は都合が良くなったと地球に侵出するぞ。

それを防いでいたのはジジィだし、これからの対応もジジィが中心だ。結局、おまえ等はジジィは殺したい。西洋魔法使いは嫌い。視野が狭いな」

 

「「なっ?」」

 

 何だと?僕のお気楽極楽老後ライフを乱すのか?エヴァよ、見損なったぞ!僕は関西でニートになるんだ!

 

「ちょ、おま、それ違う……」

 

「ふざけるな、吸血鬼!おとんとおかんを殺したのは西洋魔法使い。魔法世界に送り込んだのは、このジジィや!」

 

 天ヶ崎さん!周り、周り見て!大声を出したがら、他の乗客が気にし出したよ。

 認識阻害の魔法だって万能じゃないんだ。変な風に記憶に残ると大変なんだって。記憶操作とかは、やらないんだよ僕は……

 

「天ヶ崎殿、周りから注目されとるぞ。落ち着かれよ。エヴァも挑発するでない。

儂が彼女の両親達を死地に送ったのは事実じゃよ。しかし、儂も年じゃからの……

関東魔法協会の会長を辞する前に、今後の事を何とかする為に動いておる。それは天ヶ崎殿も理解しておるな?」

 

「ふん。悪かったどすな」

 

「くっくっく……随分と丸くなったなジジィ」

 

 ふてくされ美女とニヤニヤ美幼女。無表情でマスターを見詰める従者に、ケケケケケ笑う呪い人形……

 新幹線で行きも帰りも目立つとは。変な噂が立たないと良いけど……

 

 

 

 関西呪術協会との話し合いは、まずまずだった。互いの立場も認識出来たし、主力派閥の跳ね返りは抑えて貰える。

 後は組織を抜けて来る連中だが、そうは居ないだろう……個人での襲撃なら大した脅威は無い。

 バックアップする組織が面倒なんだと思う。

 今、バックアップしてただろう組織は、今後の展開で僕を亡き者にしたデメリットが大きいのを理解させた……

 しかし連中も只では済まさないのだろう。

 

 天ヶ崎千草……

 

 彼女を押し付けた意味を解りかねている。どう見ても復讐者だと思うんだ。

 僕に鈴を付けたのか?何か有れば彼女をけしかけるのか?単なる厄介者を押し付けたのか?

 色々考えられるが、今は彼女の居場所を手配しなければならない。

 携帯で源しずな先生に連絡をする為に、断りをいれて席を立つ……携帯の通話は連結部でするのがマナーですから。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 近衛近右衛門が席を立った為に、エヴァ一派と天ヶ崎千草だけとなる。元々エヴァは、彼女の事など気にしていない。

 早々に車内販売のお姉さんを呼び止め、お菓子やら飲み物を購入!

 

 勿論自分達だけだ……

 

 茶々丸に麦酒のプルタブを開けて貰い、自らお菓子の封を切る。

 

 

「なんだ?やらんぞ、そもそも西洋魔法使いから施しは受けないだろ?」

 

 サキイカをかじりながら、エヴァが問う。片手に麦酒を持ち、サキイカをかじる幼女……これじゃオヤジ臭が漂うぞ、エヴァ!

 

「見かけによらずオヤジどすな。うちらにも情報が来てますな……麻帆良に捕らわれし闇の福音様。ええ様どすな」

 

「ああ、復讐に捕らわれた陰陽師も大差ないな。私の拘束は既に解かれたも同じだよ。お前はどうなんだ?」

 

 嫌みの応酬だ!

 

「ふん!うちは行きたくなかったんや。西洋魔法使いの街なんて、お断りや!」

 

「くっくっく……切れやすいな。だからあいつ等に利用されやすい、か」

 

 グビグビと麦酒を飲み干し、空き缶を握り潰す。クシャっと小さな音がして、ピンポン球位の塊に……それをヒョイと彼女に投げる。

 

「黙れ小娘!たかだか30年位しか生きてなくて、大きな口をきくなよ。今の私なら瞬殺出来るのだぞ?」

 

 殺気を乗せて天ヶ崎千草を威圧する。半端ないプレッシャーだ……

 

「……ほんまに嫌やわ。西洋魔法使いは……」

 

 流石の彼女も黙り込む。その握り締めた手が僅かに震えてるのは、仕方無いだろう。

 新幹線の座席は向かい合わせに出来る。

 その対面の至近距離で、エヴァの殺気に晒されたのだ……実戦経験が有るからこそ、力の差に恐怖した。

 

「うちはオバハンやない!まだまだ20代や!ピチピチどす」

 

 いやピチピチも古いから……

 

「ジジィは、関西に良かれと動いている。詰まらぬ事で邪魔するなら……潰すぞ、陰陽師よ」

 

 駄目押しに恫喝された……天ヶ崎千草、涙目だ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 源しずな先生と話をしてから席に戻る。彼女には秘書の仕事から離れて貰ったのに、悪い事をしたなぁ……席に戻ると変な雰囲気だよ?

 

「待たせたの。天ヶ崎殿には、麻帆良滞在中はホテルを用意させてもらうぞ。

最大1ヶ月じゃし、朝食付きの長期滞在プランじゃ……ホテルには温泉ではないが、大浴場も有る。

麻帆良は学園都市じゃから各種食堂も安くて美味いから……不便は感じぬじゃろ?」

 

 宿泊代位は面倒をみましょう。生活費は秘書業を本当にやらせるか、出来るかで違うけど……まぁ一月だし30万も有ればお釣りがくるよね?

 

「……どうしたんじゃ?怯えているようじゃが?」

 

 天ヶ崎さんの態度が微妙なんだけど?席に付いて訪ねるが、先程みたいな尖り感が無いよ。

 

「あれだ。少し脅しすぎたかな。しかし、コイツが何かすれば折角纏まった今回の話も微妙になるからな。

釘を刺したのさ。天ヶ崎千草と言ったな。問題を起こしたら?分かるよな」

 

 キラリと牙を見せるエヴァ……本当に僕は要らない子状態だよね。

 

「ふむ……天ヶ崎殿、儂が関東魔法協会の会長を辞めると、確かに関西呪術協会にも影響が出るのじゃ。

だから問題は起こさない様に頼むぞ。特にネギ・スプリングフィールドとの接触は禁ずる。

お前さんも西と東が全面戦争など困るじゃろ?」

 

 あの子に手を出せば、魔法関係者は黙っていない。ネギ君に関しては、やり過ぎでも関係無いばかりに暴走するだろう……

 それよりも彼女の貞操が心配だ!

 幾ら破廉恥改造巫女服を着てると言っても、人前で裸にひん剥かれるのは勘弁だと思うし……

 

「いけ好かない西洋魔法使いになんて、会いまへん」

 

「ネギ君には……ラッキースケベと言う不思議スキルが有るんじゃ。アレは危険じゃよ……

お主も公衆の面前で全裸にされたくはなかろう?露出気味な改造巫女服を着る様だが……

警告はしたぞ!アレに接触するのは、女性としての終わりを意味するだろう」

 

 凄い微妙な顔で此方を見ています。何だろう?握り締めた両手に力が籠もって……

 

「そんな性犯罪者を野放しにするなー!うちは頼まれても近づかんわ!」

 

 そうだよねー……普通に考えても、即逮捕か即補導だよね。

 立ち上がった天ヶ崎さんを見上げながら、茶々丸から貰った麦酒を開ける。

 

「ん!」

 

「すまんの……サキイカか。お酒のお供に最適じゃな」

 

 エヴァが差し出したサキイカの袋から何本か貰いかじる……

 

「そう言えばエヴァは日本は初めてじゃ無いと聞いたが……」

 

 確か、昔に合気道を習ったとか何とか?

 

「ああ、百年近く昔だが、チンチクリのオッサンに習ったんだ。武田惣角と言ったかな、あのチンチクリは。

合気柔術と言ったら良いかな……日本語も、その時に覚えたよ」

 

 武田惣角?あの有名な?確か1930年位まで東北地方を中心に教えていたんだっけ?

 

 すると教えて貰った後に、百年以上研鑽したのか……この洋ロリも実際は凄いロリだよね。

 

「やはりエヴァは凄いな!何て言うか別格のロリじゃな」

 

「ふふふふふ……もっと誉めて構わんぞ!最近になってジジィも漸くと私の素晴らしさが理解出来たのか?」

 

 無い胸を逸らしながら嬉しそうに話すエヴァ……伊達に600歳じゃないって事だ!取り敢えずパチパチと拍手を送っておいた……

 

 

 

 僅か3日間……僅か3日間で、この始末書の山になるのは何故だ?

 

 関西呪術協会との話し合いは、一応の成功だ!各派閥の長に謝罪し、此からの対応を説明出来た。

 後は彼らから末端の構成員まで話が伝わる。それと大戦の被害者の遺族達に補償する為に、リスト作成もお願いした……

 実際に補償金が貰えれば、僕に対しての態度が有る程度は軟化するよね?

 それとメガロメセンブリアを悪役として、日本を守るのは関西呪術協会しかないんだ!

 

 そう吹き込んだ……彼らも自分達の利権の為に、必死に動くだろう。

 

 それは良い……それは良いのだが……執務机の上の始末書の山に、正直うんざりです。

 

「学園長はんも大変やなぁ……里帰りから戻ってみれば、始末書の山や。ほんにお気の毒どすえ」

 

 全然やる気無く、急拵えの秘書机で日本茶を啜る天ヶ崎さん。

 

「全くネギ・スプリングフィールドか……ナギより始末が悪いな。何なんだ?この魔力暴走による痴漢行為の山は!」

 

 此方も応接セットで日本茶を啜るエヴァ。パラパラと始末書を流し読みしている。

 

「ふむ……

女性恐怖症により、自身に触れた相手を脱がすのか?そもそも本当に女性恐怖症か?

楽しんで脱がしてるとしか思えないな。しかも脱がす基準が有るのか、若く美人ばかり……

暴走しながらワザワザ人の密集する方に走り出すとは……まさに厄災の一人息子な訳だ。くっくっく……」

 

 ポンと机に始末書を投げ出すと、そのままソファーにゴロリと横になる。白く細いふくらはぎが丸見えだ!

 両足をブラブラさせるのも良いが、残念ながら向きが……ね?

 

「大戦の英雄の息子……誰が見ても性犯罪者どすな。コレを放っておくなんて、学園長もお優しいどすな」

 

 此方は非難を込めた視線です……

 

「まぁ公には出来んよ。だからネギ君には、魔力制御とトラウマ治療を最優先させていたのじゃが……

あと三週間。何としても無事に過ぎて欲しい」

 

 やっぱりどうにもならへんな……そう言いながら女性誌を眺めだした天ヶ崎さん。

 エヴァ同様、働く気持ちは少ないのか?僕は仕方無く、始末書の山を切り崩す事にする。

 午前中は、この書類の処理で終わるかな……頼みの綱の茶々丸さんは、エヴァのマッサージ中。

 だらしなく寝転んだ幼女を肴に仕事をする……

 兎に角、始末書だけでは状況が分からないので魔法関係者を集めての対策会議をしなければならない。

 

「全く……たかが3日間も大人しく出来ないとは。弐集院先生達は、何をしていたんじゃ?」

 

 思わず愚痴を言ってしまうのは、仕方無いだろう……先ずは机の上の書類の片付けが先だ!

 漸く茶々丸も専用の事務机に座ってくれたから、少しは事務処理も捗るだろう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 放課後になり、学園の業務が一段落した先生方を会議室に集める。

 

 タカミチ君に弐集院先生、瀬流彦先生に明石教授。刀子先生に、シスター・シャクティ。それにガンドルフィーニだ!

 指パッチンの神多羅木先生は、魔法関係の仕事で麻帆良学園を離れている。

 

 続々と会議室に集まる関係者達……彼らが全員席に付く迄、黙って居る。

 此方はネギ君の事を聞きたい。しかし、彼方は関西呪術協会との事を聞きたい。

 

 そんな感じで集まった面子だ……

 

 最後に弐集院先生と瀬流彦先生の男子中等部派遣組が到着し、全員が集まった。コの字型に並んだ机に、各々が座る。

 一応ネギ君の件についての召集とは伝えている。一同の顔を見回してから、問いただす。

 

「皆の者、忙しい中すまぬの。じゃが、儂が麻帆良を離れて関西に向かった3日間……

僅か3日間で、前回以上にネギ君が暴走した。そう報告と始末書が来ているが、何故じゃ?理由を聞こうかの……」

 

 この中で、反ネギ君っぽい刀子先生に聞いてみる。

 

 刀子先生は、何故かばつの悪そうな顔で説明してくれた。

 

 「今回のネギ・スプリングフィールドの暴走は……高畑先生が一番お詳しい筈です。何せ二人きりで修行をなさっていたのですから?」

 

 修行?ネギ君の修行は、魔力制御だけの筈だけど……

 

「学園長!今回の件は、僕とネギ君が修行の為に人里を離れていたのですが……

ちょっとした行き違いで、ネギ君が1人で人里に降りてしまったのです」

 

 人里を離れた?修行?山籠もりでもしたのかな?

 

「ネギ君の修行については、結界を敷いた訓練所で魔力制御を学ばせていた筈じゃが……山籠もりとは、何故じゃ?」

 

 スポコン漫画みたく山籠もりって初めて聞いたんだけど……ああ、タカミチ君の目が、腐り輝き始めた。

 

 また遅すぎたのか……

 

「学園長!漢として育てるのには、修行は必須。

修行と言えば、滝に打たれたり険しい山道を走ったり熊と戦ったり……

そんなシュチュを求めて僕が強制的にネギ君を山に連れて行きました。修行は順調でした。

特に蜂蜜をめぐっての熊とのおいかけっこは……ネギ君に忘れられない経験になった筈です」

 

 何やら異常な展開になってますよ?熊に襲われたのか?忘れられない経験って、トラウマを増やしてどうするのさ!

 

「たっタカミチ君……それはネギ君にとって迷惑以外では……」

 

「そして修行の一環として川で魚を捕り、山で山菜を探して自給自足の生活……僕もチンミー麺を彼に振る舞いました。

最後は、星が降る様な夜景の中で入るドラム缶風呂……ネギ君と十分なスキンシップが出来たのです……」

 

 はぁ?何言ってんのコイツ!こんな変態が指導しながら、熊に襲われ変なラーメンを食べさせられ……一緒にドラム缶風呂に入るだって!

 まさか、夜は同じテントで2人で寝たのか?さっきから席を立ち熱弁を振るう、この腐り輝く目をした男を見る。

 ネギ君に、これ以上変な事はしてないよね?

 

「そっそれで……夜はどうしたのじゃ?」

 

 一番大切な事だ!もしネギ君が傷物になっていたら……僕らは只では済まないんですよ!

 

「勿論、同じ寝袋に入り漢とは何か!それを話し合いましたよ」

 

 爽やかに言ってんじゃねーよ!まさか、おホモな漢じゃないだろうね?

 

「……それが、何故今回のネギ君の暴走に繋がるんじゃ?」

 

「ああ、それはですね学園長……熱く語り過ぎて僕が翌朝寝過ごしたら、ネギ君が居なかったのです。

何故か1人で山を降りたらしく……それで麓で問題をおこしまして……」

 

 はははははって、爽やかに笑ってんじゃねーよ!お前が嫌だから、ネギ君は逃げ出して暴走した。

 

「全部、お前が悪いんじゃねーか!」

 

 僕の叫びに、タカミチ君以外の先生方が頷いた。いや、貴方方も止めて下さい。皆さんにネギ君の修行を任せた筈ですよね?

 

 

 

 僕が関西に行っている僅か3日間で、ネギ君が問題を起こした……

 たったの3日間も大人しく出来ないのかとムカついたが、それには理由が有ったんだ。

 タカミチ君みたいな真性の変態と、山籠もりで2人っきり?変態云々なら詠春さんの方が全然無害だったな……いや有益でさえ有った!

 特にコレクションは素晴らしかったぞ。

 兎に角、僕ならタカミチ君と山籠もりだけでも嫌々なのに……

 しかもタカミチ君はネギ君に熊と追いかけっこをさせたり、食べ物を自分で取ってこさせ……いや、これはサバイバルなら当たり前かな?

 最後に、あの狭いドラム缶風呂に2人で入って一緒の寝袋で……だっ駄目だ、寒気がしてきました。

 

「タカミチ君……ネギ君の扱い方が酷過ぎるぞ!他の皆も何故止めなかったんじゃ?儂ならオッサンとミチミチドラム缶風呂なぞお断りじゃ!」

 

 目を逸らしたり、下を向いたり……彼らも悪いとは思っているのかな?

 

「兎に角、今回に関してはネギ君も被害者じゃ!この始末書の通りで致し方ないじゃろ。記憶操作などは本来はやりたく無いのじゃが……な」

 

 山籠もりとタカミチ君から逃げ出す為に暴走した。これは仕方無い事だ!自分が、もしネギ君と同じ立場なら……やっぱり逃げ出すよ。

 

 貞操の危機だよ。

 

「学園長!ネギ君には修行が必要です。もっと、もっとです!学校の先生をしている暇はないのです。

僕と2人でナギさんの様な英雄に、ちょい悪なワイルドな漢に……」

 

 ネギ君と修行して、変なスイッチが入ってしまったのかな?腐り輝く目が、どんよりと濁り輝いている……タカミチ君の暴走が止まらない。

 

「ナギさん……貴方も僕を修行と言って、谷に突き落としたり色々やってくれましたが。

あのシゴキには、こんな意味が有ったのですね?ああ、ナギさん……」

 

 見知らぬ彼方に精神を飛ばした真性の変態は放っておく。他の皆さんにも、良く言い聞かせないと駄目だ。

 ネギ君とも、今夜辺りに話し合いをしなければ……

 

「兎に角、ネギ君の修行は決められた場所だけじゃ。変更は禁止する。それと魔力制御だけを叩き込むんじゃ。

彼が来てから、まだ二週間だが暴走したなら成果は無いと同じ……あと三週間じゃ!我々に残された時間は、三週間しか無いのじゃ。

各員、一層の努力をする様に!

それと葛葉先生とシスター・シャクティは、タカミチ君の監視を任務に追加する!

この逝っちゃってる変態をネギ君に近付けるな。本国にバレたら、儂らは英雄の息子を変態に育ててしまったと非難されるぞ」

 

 本当に頼みますよ!今でさえ女性恐怖症なのに、変態恐怖症が追加なんて笑い話じゃないよ。

 

「「……分かりました」」

 

 凄い嫌々な感じで返事をしてくれました。

 

 シスター・シャクティは十字架を握り締めて「これは神の試練なのですね……」とか言ってるし、葛葉先生は「変態を私に押し付けるのですか?変な頭の貴方が……」とか言ってます。

 

 彼女達も、タカミチ君には警戒しているのですね……しかし独り言とは言え、もう少し僕に配慮して下さい。

 

「それで学園長……

関西呪術協会の方は、どうだったのですか?向こうから1人、秘書として受け入れた人材が居るらしいですが?」

 

 ダンマリを決め込んでいたガンドルフィーニ先生が、このタイミングで質問するとは……

 腕を組んで厳つい表情で黙っていたから、ネギ君の件で騒ぎ出すと思ったのに。

 

「関西呪術協会との関係回復は……一応の目処がついた。向こうは謝罪を受け入れ、被害者達に補償や今後の事を話せる土台は作ったよ」

 

「謝罪!我らは悪く無い!全ては正義の為の尊い犠牲だ。それを分からぬとは」

 

 机を叩いて興奮してます……もうヤダ、この人達は。

 

「ガンドルフィーニ先生……彼らに魔法世界の戦争や英雄等は関係ないんじゃ。

儂の様に西洋魔法に恩恵を受けている訳でもない。彼らにしてみれば、知らない国の内戦の犠牲になっただけじゃ……」

 

 爺さんの様に、関東魔法協会の会長として富と権力を得た訳じゃないし……

 

「あの大戦を……我らを侮辱するのですか?」

 

 戦争に正義なんて無い。大義名分が有れば……それだけで、勝てば何とでもなるんですよ。

 僕も爺さんの記憶と、この現状で嫌でも理解した……魔法世界の連中の我が儘を。

 

「ガンドルフィーニ先生……

関西呪術協会の関係者の為に、命を掛けられるかの?

例えばお主の身内が強制的に彼らの勢力抗争に無償で協力し、命を落としても当然と言えるかの?

無理じゃろ?彼らは儂と違い、西洋魔法に・本国に……何の義理も借りも無いんじゃよ。

そんな彼らを魔法世界に行かせて、殺した……ガンドルフィーニ先生なら、逆の立場になったら納得するかの?」

 

 爺さんは早い段階から魔法世界と関係を持ち、恩恵を受けていた。

 だから、本国と言うかメガロメセンブリアからの出兵要請を断れず、関係の無い関西呪術協会を巻き込んだんだ。

 

 全ては爺さんが悪だ!

 

「そっそれは……」

 

 此処まで言えば、自称正義の味方を目指す彼らは何も言えないかな。

 

「関西呪術協会から派遣された者……天ヶ崎千草。彼女は先の大戦で、両親を亡くしている。無用な接触は避けて欲しいのじゃ。

彼女は此方の監視も兼ねている。儂らが本当に関係回復を望んでいるのかを、の……」

 

 こう言って会議を締めくくった。天ヶ崎さんを刺激して欲しくないし……彼女は、こう……何故か、オチ担当の様な気がするんだ。

 騒動を起こしては、何故か上手く行かずに自身が被害を被る様な……物事を大袈裟にしてしまう様な……兎に角、彼女にも大人しくしておいて欲しい。

 

 残り三週間……

 

 僕の引退まで、騒ぎを極力抑えてね。

 さて、詠春さんから預かった巫女服を木乃香ちゃんとモフモフ刹那君に着せて撮影会を行わなければ……

 実の父親と直属の上司からの贈り物だ!彼女達も断れないだろう。

 

 何処で着替えて貰い撮影するかな……やはり自宅に呼ぶのが安全かな?

 

 僕の新たな趣味、巫女服探訪の活動は始まったばかりです。

 

 



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第7話

 魔法関係者集めてのネギ・スプリングフィールド対策会議……もう何度目だろうか?

 高畑先生の暴走により、彼の育成計画は大きく後退中だ。折角、魔力を制御する訓練をしても暴走させては意味が無い。

 意味が無い事をしたのに、独り爽やかに笑う張本人に周りの殺意が膨らんだ。

 

 学園長は出て行かれた……今は我々だけだから。コの字に並べた机……

 その一角で高笑いを続ける異様な漢、高畑Tタカミチ。デスメガネの異名を持つ学園最強の男。しかしネギ君に向ける熱意は異様だ……

 

「高畑先生……暫くは自重して下さい。

ネギ君の修行は、決められた時間と場所で行います。くれぐれも暴走しないで下さい。

この次に暴走したら……女性陣に力ずくでも止めて貰います」

 

 瀬流彦先生が良い事言った!後半が他力本願で有り、女性陣に任せるとフェミニストからすれば失格だ!

 

「瀬流彦先生……ネギ君と我々には時間が無いのです!彼には、もっと学ぶ事が多い。もっともっとだ!」

 

 狂気の笑顔に周りがドン引きだ!

 

「いっいや高畑先生……学園長も言っていたではないですか。少し様子を見ましょう」

 

 弐集院がフォローする。

 

「落ち着く?僕は何時に無く落ち着いてますよ」

 

 普通に受け答えているが、狂気の籠もった瞳は健在……いや、より一層ヤバい方面に向かっている。

 笑顔を浮かべ、両手を広げ、にこやかに話しているが……目だけが腐り輝いている。

 彼の瞳の先のネギ・スプリングフィールドは……いや、ネギ君を突き抜けてナギを見ていた。

 魔法先生達は、彼にこれ以上何を言っても無駄だと理解させられた。

 ヤレヤレと彼を残して会議室を出て行く……そんな中で葛葉刀子とシスター・シャクティは、最悪武力を用いても彼を止める事を……

 

 嫌々ながら心に決めた!

 

 そして愚痴と憂さ晴らしの為に、2人して居酒屋に繰り出す事にする。

 呑まなければ、やってられない……これが組織の縦社会不条理か。

 翌日、刀子さんは二日酔いに悩んだが、シャクティさんは宗教上の戒律の為か痛飲せずに普通だった!

 

 

 

 ネギ・スプリングフィールドのイギリス凱旋まで、あと三週間……果たして彼は、タカミチの魔の手から逃れて普通の漢として生還出来るのか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ネギ・スプリングフィールドのフォロー……彼のフォローをしておかないと、今後に差し支える。

 なので彼の住んでいる学生寮を訪ねる事にした。前回は不在ですれ違ってしまったので、携帯電話で連絡をとった。

 携帯電話は仕事用として支給した物だ!

 今の時代、携帯電話は必須アイテムだしネギ君も初めて持つハイテク機器に喜んでいた。

 彼は趣味でアンティーク魔法具をコレクションしているそうだ。僕も最近、女性の写真を撮り始めよう。

 アルバムを作成しようと思っているが、女性恐怖症のネギ君には話せない……そんな事を考えていたら、彼の住む学生寮の前に到着した。

 

 お抱え運転手付きの高級車は素晴らしい!

 

 数少ない爺さんになった事での恩恵だ。車を降りて学生寮を見上げる……

 

「アレ?外壁に足場が組んで有るけど、工事中か?」

 

 ポツリと零すと「はい、急に予算申請が通りまして、外部の塗装と防水工事……それに水回りの改装が始まりました」訪ねる旨を報告しておいた為か、前回対応してくれた管理人さんが出迎えてくれた。

 

「それは良かったの。どうにも女子寮との格差が目立ったから、確かに申請書を承認したが……この学生寮だったのか」

 

 爺さんは、かなりの数の男子関係の要望書を放置していた。

 緊急を要する物などは即日承認していたが、確信犯的に急を要しない物については先送りだったよ……やはり爺さんは、女子に依怙贔屓していた。

 管理人さんに挨拶をしてから、ネギ君の部屋に向かう。工事は始まったばかりなのか、殆ど前に来た時のままだ……ネギ君の部屋の前に立ち、呼び鈴を押す。

 

 軽快な電子音の後に「はーい」と声が聞こえ、玄関扉が開いた。

 

「学園長さん、わざわざ有難う御座います」

 

 ペコリとお辞儀するネギ君は、タカミチ君との悪夢な山籠もりの影響が無さそうだけど?

 

「お邪魔するぞい。コレは土産じゃ」

 

 某スナイパー推薦の餡蜜を渡す。

 勿論、某スナイパーの事など記憶にしかないが、かなりお勧めで彼女に仕事を依頼する時にサービスで料金以外に渡していたのを覚えていたから……

 これを渡した時の彼女は、ほんのりと嬉しそうだった。

 普段は大人びた彼女が、だ……女子供には甘い物。それは古来より不変だ!当然、ネギ君も嬉しそうに箱を開けている。

 

「餡蜜じゃ。食べながらでも話すかの」

 

 そう言って備え付けのテーブルに向かい合って座る。脇にはお茶セットが用意されていた。餡蜜には日本茶が合うと思います。

 しかしネギ君が淹れてくれたのは紅茶だ。イギリス紳士として、紅茶は外せないのだろう?

 

「これはイギリスから取り寄せた、僕のお勧めなんです。ウィリアムソン&マゴーと言って老舗メーカーの紅茶です。象を模した缶が面白いんですよね」

 

 そうにこやかに言いながら、準備をしてくれる。なかなか手際が良いね……しかし、この缶は面白いな。正面からみると、確かに象だ!

 

「どうぞ……先ずはストレートで飲んでみて下さい。後はお好みでミルクと砂糖は此方に……」

 

「いただきます……」

 

 最近、漸く高級な日本茶に慣れてきたけど……正直、午後ティー世代の僕には良し悪しが分からないけど、確かに美味しい紅茶です。

 半分をストレートで飲み、砂糖を足して残りを飲む……

 

「ふむ……日本茶には慣れていたが、こんなに美味しい紅茶を飲んだのは初めてじゃよ。お代わりを貰えるかの」

 

 次はミルクと砂糖を入れて飲みたい。そう思える程に、コクと香りの強い紅茶だね。

 

「気に入って貰えて嬉しいです。僕も、この銘柄はお気に入りで……嫌な事が有っても、これを飲めば落ち着くんです……」

 

 なっ何だか様子が?ネギ君の様子が変だよ……

 

「たっタカミチさんの……ミチミチのドラム缶風呂に入った時に……気持ちの悪い何かが、僕に……

僕に当たって……ヒゲ、ヒゲみたいなジョリジョリが……」

 

 ネギ君がカップを握り締めて、小刻みに震えだしたぞ!なっなんかヤバい状況だ!タカミチ、貴様ネギ君に何をしたんだ?

 

 

 

 タカミチに拉致られ山籠もり紛いの修行をさせられたネギ君。

 彼の下から逃げ出し麓で魔力を暴走させ、また女性を脱がし捲ったラッキースケベ小僧。

 しかし今回ばかりはネギ君も被害者だと思い、彼の様子を見にきた。

 最初は普通に接してくれて、お気に入りの紅茶まで振る舞ってくれたのだが……

 

 タカミチ君の話題を振ったとたんに、目の色が虚ろに変わり小刻みに震えだしたぞ!

 

 こっこれって所謂酷い目に有った事を思い出してしまい、精神の安定が怪しくなったアレか?まっまさかタカミチの野郎、ネギ君の貞操を……

 

「学園長……」

 

「なっなんじゃ?」

 

 下を向いたままボソリと呟く様に呼ばれた。

 

「学園長が言われた漢道とは……僕には無理かもしれません。あんな事をされたら……ぼっ僕は……」

 

 何かを耐える様に震えているネギ君。どうみても性犯罪の被害者でしかない。

 

「ネギ君……タカミチ君に何をされたかは聞かない。

しかし、タカミチ君は処分させて貰うから安心せい。直ぐに、直ぐにでも冥府の門を潜らせるから……」

 

 そう言ってから携帯電話を取り出す。タカミチ君以外の魔法関係者と、エヴァ御一行に連絡だ!

 

 タカミチ君……明日の朝日は見られないからね。

 

 未だに震えるネギ君の肩をポンポンと叩いて安心させる……

 

「冥府?潜らせる?何ですか、学園長?

タカミチは僕に、父さんの事を教えてくれたんです。

タカミチは昔、父さんと一緒に旅を続けていたって!

そこで今回の山籠もりと同じ修行をつけて貰ったって言ってました!」

 

 見上げたネギ君の目が……何だろう?純真だった彼の瞳の奥に、腐り輝く光を見つけてしまったんだ……

 

「タカミチは、父さんと一緒にドラム缶風呂に良く入ったって!

そこでジョリジョリするアレを擦り付けたり、擦り付けられたりしたって!

父さんは、タカミチを修行の為に崖から突き落としたり、滝に打たせたり……」

 

 ジョリジョリ?なっ何かジョリジョリで、何を擦り付けたり擦り付けられた?

 

「僕は着実に父さんに近付いてるんだ!だって父さんを良く知るタカミチが言うんだ。ナギはヤンチャだった!唯我独尊だったよって!

そしてどんな敵にも向かって行ったって……僕も父さんみたいに、強くなるんだ!

だから今は怖い女の人に単身向かっていったんだ……でも怖かったんだ。

僕は父さんみたいに強くなれない……こんな僕は嫌だ……もっともっとタカミチと修行して、女の人に負けない漢になるんだ!」

 

 嗚呼、ネギ君が壊された……タカミチの野郎。ナギ・スプリングフィールドをネタにネギ君を壊しやがった……

 

「父さんみたいにサウザントマスターになるんだ!

女の人を千人切りすれば、サウザントマスターだってタカミチが言ったんだ。

僕はまだ30人位しか脱がしてないから道は遠い。でもでも、麻帆良学園には三千人以上の女の人が居るって……

あと三週間で何とか……お髭がジョリジョリ、ダンディーなんだよね……」

 

 ブツブツと危ない台詞を呟くネギ君に眠りの魔法をかける……至近距離から油断した状態だったから、良く眠ってくれたみたいだ。

 さて、どうすれば良いのかな?ネギ君は最悪の腐り具合だ……タカミチのせいで。

 

 これは四の五の言わずに、タカミチとの空白の三日間を完全削除だ!

 

 ただジョリジョリがヒゲだったのは僥倖だ。彼はまだ清い体なのだから……多少の疑問は有るが、今はネギ君の呟きを信じる。

 

 いや、信じたい!

 

 握り締めていた携帯電話で、エヴァに連絡を……いや茶々丸に連絡する。

 これを魔法関係者に話したら……いや待てよ。

 エヴァだけに頼るのは危険だ。などと考えていたら、呼び出し音が止まり、茶々丸が出てくれた。

 

「今晩は、学園長。どうかしましたか?」

 

 彼女の落ち着いた言葉に、少しだけ動揺が治まる。

 

「ああ、茶々丸か……儂じゃ。最悪の問題が発生した。エヴァを連れてネギ君の部屋に来て欲しい」

 

 そう頼んで電話を切ると、次は明石教授に連絡を入れた。

 武闘派は駄目だ……カッとなって何をするか分からない。何とかに刃物が多いからね。

 

「もしもし?明石教授か?

今、ネギ君の様子を見に来たのじゃが……タカミチに最悪の洗脳をされておった。

他の皆には内緒で、弐集院先生と瀬流彦先生に声をかけるのじゃ!ネギ君の部屋に急いで来て欲しい」

 

 仕方無いが、ネギ君の記憶を弄るしか有るまい。英雄の息子が……まだ十歳の子供が、こんな変態になるなんて。

 それと、どうしても確認が必要な事が有る。それを知る為に、心の友に連絡をとる……

 最近良く掛ける為に、履歴から直ぐにダイヤル出来るのだ!

 

「もしもし……詠春殿か?いや夜分にすまぬ。実は、こっちに居るタカミチが暴走してな。

聞きたいのだが……ナギはタカミチに修行をつけておったのか?」

 

 彼の言うナギから受けた修行内容の確認だ。酷い捏造だったら、タカミチは極刑でも温いだろう……

 

「珍しいですね。義父さんがナギについて聞きたいなんて……ナギがタカミチに修行ですか?

んー基本的にガトウがタカミチを鍛えてましたから……

ああ、たまに暇つぶしでタカミチ君を的に攻撃したり崖から落としたりしてましたね。

アレは修行と言うよりは、イジメ?イジリ?兎に角、その様な事はしてましたね」

 

 なっ何て奴じゃナギは……タカミチも被害者なのか?

 

「それで、ナギはタカミチとドラム缶風呂とか一緒に入っていたのかの?」

 

「ははは……女好きのナギが、タカミチと?そんな事は有りませんでしたよ。

それより義父さん!例の服を木乃香と刹那君に着せましたか?」

 

 あの素敵衣装の事を忘れていた!

 

「すまぬ……問題が山積みで未だじゃ。今週中には必ず写真は送るぞ。其方はどうじゃ?」

 

 僅か1日だから、未だ何も動きは無い筈だ。

 

「ああ、あの後にですね。青山鶴子が戻って来まして、説明がてら会いに行きましたよ。彼女の袴姿もバッチリです!」

 

「なっ何じゃと?婿殿は、ドエライ漢じゃな!それで編集作業は?進んでいるのか?」

 

 話に聞く青山鶴子さんは、中々のしっとり美女と聞いてますよ!何て漢なんだ、詠春さん!流石はサムライマスター!

 

 そこに痺れるし、憧れちゃうぜ!

 

 

 

 魔法世界の作られた英雄の息子。ネギ・スプリングフィールド……

 

 実際に会ってみれば、年相応な部分を残した真面目で礼儀正しい子供だった。

 しかし、彼はラッキースケベと言う奇跡のスキルを持っていたが……日本の通勤電車の洗礼を受けてしまい。

 逆痴漢と言うか、女性にオモチャにされたせいで女性恐怖症となってしまった……女性に何かとイヤラシい事をするのに、当人は被害者を怖がる。

 子供だと言う事を考えれば、女性の方が加害者っぽく見える変な感じだ!

 

 当人達にとっては、迷惑でしか無いのだが……トラウマ発動→魔力暴走→痴漢行為!

 

 この負のスパイラルを打破する為に魔力制御を教えているが……1人の変態の為に台無しになってしまった。

 

 高畑・T・タカミチ。どうしてくれようか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「義父さん、聞いてますか?後で青山鶴子の画像を送っておきますね。

それと彼女から伝言と言うか、お願いが有りまして……」

 

 お願い?何だろう?特に彼女とは、爺さんの記憶でも接点は殆ど無いのだが……

 

「その神鳴流の女傑が、儂に頼みとは何じゃ?」

 

「義父さんが関西に、刹那君を連れて帰ってくると……葛葉刀子が関東に独りで取り残されますよね?

彼女を説得し、関西に連れ戻す事。そうすれば、今後関東魔法協会からの要請も一考するそうです。

青山鶴子と葛葉刀子は、友人同士らしいですね」

 

 なる程ね……彼女は反対を押し切り、半ば裏切る様に西洋魔法使いと結婚し……そして本人達が納得済みで円満離婚らしい。

 しかし、旦那が出世の為に本国。魔法世界へと帰るのを一緒に行きたくないから、別れたと聞いてるんだ。

 

 これは普通なのだろうか?単身赴任でも良かっただろうに……あれだけ騒いで駆け落ち同然に結婚したんだよね。

 

 簡単に離婚出来るのかな?僕の知らない大人の事情が有るのだろうか……

 

「刀子君か……確かに此方に独り残るのは寂しかろう。分かった、説得しよう」

 

「有難う御座います。では先方に、その旨伝えておきますね」

 

 そう言って電話を切った。詠春さんも中々遣り手じゃないか?京都神鳴流と交渉が纏まりそうなのは嬉しい。

 あんな非常識刃物使いは、味方か中立にさせないと危険だからね……そうこうしている内に、エヴァ御一行が転移して来ましたよ。

 

 便利だよね、影を利用した転移魔法ってさ!

 

 エヴァを先頭に茶々丸が影から出てくる。何時もの吸血鬼ルックではなくフリフリパジャマだ……思わずポケットの中のデジカメを取り出す。

 

「見るなジジィ!貴様が最悪の自体だからと急がせたから、着替える時間も惜しんだのだ。コラ!写真を撮るな……」

 

 最近必ず携帯しているデジカメで、フリフリパジャマのエヴァをバシャバシャ撮影。

 デジカメを奪おうとするエヴァから取られない様に、片手を上げて距離をとる。

 ぴょんぴょん飛んで取ろうとするエヴァ!それを撮影する茶々丸……後で、その画像下さいね。

 

「遊びは終わりじゃ……タカミチの暴走のせいでネギ君が変態した。いや、変態化したのじゃ。

明石教授や瀬流彦先生、弐集院先生も呼んでいる。対策を考えねば……」

 

 変態と同衾した記憶を完全に消すつもりです。しかし、一応何人かに相談してから実行する。

 独断専行やエヴァ達だけと対処するのは、ガンドルフィーニ先生や刀子先生が煩いからね……

 

「学園長、お待たせしました」

 

 ハァハァと息を切らせながら、明石教授達が部屋に入って来た。これで主要なメンバーは集まった!

 

 これから対策会議だ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「……と、言う訳でタカミチ君の山籠もりが原因でネギ君は女千人切りを目標としてしまった。

これは大問題じゃ!しかもタカミチ君ばりの腐り輝く瞳を……もはや記憶消去もやむを得まい。

我々は英雄の息子を変態性犯罪者にしてしまったのじゃよ」

 

 早く対策を練らねば、最悪の自体はタカミチと合流してパワーアップしかねない事だ!

 なまじ肉体と魔力のポテンシャルが高い。放っておけば、加速度的に手に負えなくなるよ。

 

「「「なっ?なんだってー!」」」

 

 ハモる程、驚いてくれて有難う御座います。茶々丸さんだけは冷静ですね?

 

「学園長……で?

ネギ・スプリングフィールドと高畑・T・タカミチの両変態を何時殺りますか?

この性犯罪者を駆逐しなければ、学園全体の危機です!サクッと殺りましょう……」

 

 オゥ!

 

 茶々丸さん、静かに暴走してませんか?それは最悪の手ですよ!

 

「それは駄目じゃ!」

 

「チッ!」

 

 舌打ちされた?

 

 スヤスヤと気持ち良そうに眠るネギ君を見て「ネギ君には悪いが、寝ている間に記憶を消すしかあるまい。悪夢の山籠もりの……」多少記憶が混乱したり、疑問に思うかもしれない。

 

 しかし変態よりはマシだ!

 

 魔法先生に、記憶消去の魔法を頼もうと思った時にネギ君が寝言を……「たっタカミチ、駄目だよ……んーそれは……ジョリジョリいやー……」魘されているぞ。

 

「「「……………?」」」

 

 何か嫌な事を夢に見ているのだろうか?コホンっと咳払いしてから

 

「さて……では記憶消去の魔法を頼みますぞ」

 

 弐集院先生、瀬流彦先生、明石教授、最後にエヴァを見回す……

 

「がっ学園長?彼は夢を見ています。今なら高畑先生に、ネギ君が何をされたかが分かります……」

 

「駄目じゃ!知ってしまえば、取り返しのつかない事態になる!知らないから、分からないから良い事も有るのじゃ!」

 

 ネギ君のトラウマを抉る様な事は、したくないし知りたくない……

 

「ふん!知らねばならぬのが責任者だよ。面白そうだからな。いくぞ、ジジィ!」

 

 満面の笑みで、ネギ君の夢の中に入る呪文を唱えているエヴァ……

 

「ばっ馬鹿!ショタでニヒルなボーイズがラブかも?なんて需要は無いんじゃよ。やめんかー!」

 

 エヴァの高笑いを聞きながら、自分も耐えられない眠気に襲われた……これで目覚めたら、ネギ君の夢の中なのか?

 意識を手放しながら、そんな事を考えていた……

 

 タカミチに浚われたネギ君の、悲劇的な記憶を消してしまおう!もう全てを無くしてしまおう!

 そう考えた矢先に、エヴァにより山籠もりの時の事を夢見ているだろうネギ君の夢の中に連行された……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 急な眠気から覚めれば、どうやら山中の藪の影に身を潜めていた……地面に付いた掌から、リアルな土の感触が有る。

 

「ここは……」

 

 お約束のセリフを言おうとして「静かにしろ、ジジィ……どうやら成功だ!ほれ見ろ。小僧とタカミチだ……」小さな指で差した先には……

 

 何やら熊に追われるネギ君と、腕を組み仁王立ちのタカミチが見える……

 

「ほっ……普通のシゴキじゃな。まぁ許容範囲内ギリギリかのぅ」

 

 スパルタ山籠もりとしては定番の獣との戦い。普通にスポコンしてるね。

 

「小僧の奴、完全に熊を恐れているな……あのデカい杖は飾りか?」

 

「いや10歳児には辛かろう?あの熊は本気でネギ君を喰おうとしてるぞ」

 

 はた目にはコミカルな追いかけっこも、鬼は文字通り牙と爪を持っている……一発当たれば重傷……その後は捕食だよ?

 

 あっ?ネギ君が急に素早く距離を取って向き合い、魔法の矢で熊を倒したぞ!

 

「ふむ……魔法で身体強化。距離を稼いで魔法の矢でトドメをさしたか。まぁまぁか……」

 

 エヴァにまぁまぁと言わせるとは、ネギ君も中々なんじゃないかな……暗転して場面が切り替わる。

 今度は川で魚取りをしている様だ。ネギ君が川の中ほどで膝まで水に浸かり、魚を手掴みで取ろうとしている。

 

 いくら何でも無理だろう……それを岸に、これまた仁王立ちで眺めているタカミチ。

 

「ネギ君、気合いだ!気合いで魚を圧倒するんだ。そうすれば魚は怯えて動きが止まる。

そこを掴むんだ!ナギさんは軽々とこなしていたぞ」

 

 いやネギ君、騙されるな!そんな無茶振りを10歳児にするなタカミチ!某忍者娘だって無理だ。

 道具を使え!人間は道具を使って、自然に向かっていったんだ!

 

「父さんが?分かったよタカミチ!」

 

 分かっちゃダメダー!

 

「ジジィ……あの師弟、馬鹿だろ?」

 

 エヴァが呆れ顔で聞いてくる。

 

「タカミチに師事などさせぬわ!この夢を見終わったら、エヴァが責任取ってネギ君の記憶を消すんじゃ」

 

 決めた!誰が何と言おうと、ネギ君の記憶は完全に消す。

 

「なっ何で私が?」

 

 何を仰るのですか、エヴァさん。

 

「同然じゃ!他人の夢に断り無く入ったんじゃ!彼のトラウマ位、消さんか」

 

「良いのか?英雄の息子に闇の福音が魔法をかけても?」

 

「改めて確認しても、ネギ君の魔法抵抗力は凄い。他の魔法先生では荷が重いの……全盛時のエヴァだからこそ、根こそぎ消せる。そうじゃろ?」

 

 そうなんだ!ネギ君の潜在的な力は凄い。魔力も豊富だ!

 普通の魔法先生が記憶を消そうとしても、彼ならレジストしそうだ……それに魔法先生では遠慮も有るだろう。

 中途半端に消す可能性が有る。

 

「ちっ!この報酬は別に貰うぞ。良いな」

 

 強欲な美幼女め!

 

「静かに……変態師弟に動きが……」

 

 エヴァと話し込んでる内に、ネギ君とタカミチに動きが有った。無謀な魚取りを強いられたネギ君は疲労困憊で岸に倒れていた……

 当たり前だ!水に使って動き回れば、水の抵抗分だけ余計に疲れるだろう。

 

「ネギ君……ダメダメだな。では教えてあげよう!ナギさん流の魚の取り方を……ふん!いくぞ、居合い拳!」

 

 そう言うと、タカミチは川に向かって居合い拳を放った!馬鹿か?あの居合い拳は100mの滝も真っ二つに割るんだぞ!

 それを魚取りに……凄い水しぶきを上げながら、川の形が一部変わってしまった。

 

 確かに大量に巻き上げられた水しぶきと共に、沢山の魚も岸に散乱しているが……

 

「見たかネギ君!これがナギさん流の対応だ。ナギさんは馬鹿だったので、解決策は何時も何時も力ずくだった!

常に強気の全力全開。周りの迷惑、二の次だ!これがナギ・スプリングフィールドの生き方だー!」

 

「「ちっ違うわー!」」

 

 思わず茂みの中で叫んでしまった!タカミチ、ネギ君をお馬鹿な傍若無人にする気だな!

 確かにナギにも、そんな傾向は有った。馬鹿だから深くは考えない……しかし善悪の最低限は有ったぞ!

 そんな自分が全て正しく、力ずくねじ伏せて切り開くぞ、周りの迷惑なんて関係ねー!なんて程、流石に酷くはないわー!

 

「そうなんだ!力ずくで解決。昔の僕なら考えられない解決策だね。流石は父さんだ!」納得するなネギ君!

 

 ネギ君とタカミチは、食べ切れるだけの川魚を取ってから立ち去って行った。

 2人で仲良く並んで歩きながら……端から見れば、仲の良い親子か年の離れた兄弟に見える。

 彼らを黙って見送っていると、周りが暗転し始めた……次の夢へと移るのだろう。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 次夕食のシーンだった。

 

 焚き火の周りには、串に刺されて川魚が焼かれている。そして何処から用意したのか、鍋が有る。

 コポコポと吹き出していて、如何にも美味しそうだ……焚き火の周りには、テントと問題のドラム缶風呂が見える。

 

「タカミチ、他に父さんの事を教えてよ!」

 

 串に刺さった川魚をかじりながら、ネギ君がタカミチに聞いている。

 

「ナギさんか……

そうだね、昔仲間と同じ様に鍋を囲んでいた時、ラカンと言う筋肉馬鹿が攻めてきて返り討ちにしたって聞いたな。ボコボコにしたそうだよ」

 

「ラカン?僕も噂で聞いた事有るよ。凄い強い人だよね?父さんは、そのラカンさんをボコボコにしたんだ!凄いよね」

 

 殆ど会った事も無い父親の事を楽しそうに聞くネギ君……何て哀れなんだ。

 その変態に聞いても歪曲されたナギ・スプリングフィールドしか教えて貰えないんだぞ!

 

「ジジィ……夕食は普通だな。まだネギは……それ程は腐って無い。やはりアレか?ドラム缶風呂イベントが元凶だな」

 

「そうじゃな……

今でもアウトじゃが、あの腐り輝く瞳は、もっと最悪な壊され方をされた感じだった……やはりドラム缶風呂とテントで同衾が問題か……」

 

 仲良く話しながら食べる彼らの周りが暗くなりだした……いよいよ次がドラム缶風呂イベントだろう。

 見たくないが、此処までくれば……毒を喰らわば皿までだ!

 

 

 

 魔法と言う物は、本当にとんでもない物だ……まさか他人の夢に入れるなんて!

 普通はこんな話を周りにしたら、詐欺かキチガイと思われるだろう。良くて頭の中がお花畑かメルヘン野郎だ…… 

 しかし、現実に僕はネギ・スプリングフィールドの夢の中に居る。そしてネギ君とタカミチは、今現在進行形で……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夕食を終えた2人は、ドラム缶風呂を沸かしている。流石にタカミチも風呂を沸かす事は、力ずくでは無理だろう。

 初歩的な魔法も使えないのだから……なのでネギ君が魔法で火を点けて風を送っている。

 パチパチとくべられた薪が、音をたてて燃えて……まだ前の体の時に、野焼きした記憶が蘇る。

 あの頃は平凡だったが、楽しかったな。

 焼き芋や焼き栗を食べたり、川で魚を釣っては焼いて食べた……ド田舎だったけど、楽しみ方は沢山有ったよ。

 今は会えない懐かしい家族を思い出す。

 

 ボーっと焚き火を眺めてしまった!

 

 人口の灯りが何もない山中では、焚き火のユラユラした灯りが頼り。2人の影を微妙に揺らしながら、静かに夜が更けていく……

 

「タカミチ、僕はお風呂が苦手なんだ。どうしても入らないと駄目なの?」

 

 何と、ネギ君は風呂が嫌いだって!日本人としては、信じられない感性だ。どちらかと言えば、温泉大国日本人は風呂好きが多いと思っている!

 

「イギリス紳士を気取る癖に、不衛生じゃな……」

 

 普段、紳士を気取るネギ君にしては不衛生じゃないか!

 

「英国人が不衛生と言う訳では無いぞ。文化の違いも有る。

日本人は入浴に癒やしやリラックス効果、共同浴場では他人との触れ合いとかも含んでいる。

外国人で多いのは体を洗う作業に重きを置いているからな。それにシャワーとかで済ます事も多い。湯船に長く浸かる事も珍しい。

風呂好きで有名なのは、日本人とローマ人か?どちらも文化として捉えているしな。

知っているか?

ヨーロッパでは昔、入浴行為が異教徒的と非難されたんだぞ。何でも堕落の温床なんだとさ!

笑わせるな。

湯船に浸かれば異端審問だと……その後になると、風呂に入ると常在菌が洗い流されて病気になると信じていた。

所謂、香水で匂いを誤魔化していたのは本当だよ。今から見れば、王侯貴族でさえ臭い連中だったんだ」

 

 流石は日本大好きなエヴァだ……しかもサラリと世界の歴史蘊蓄まで語り出したぞ。

 良く分からないが、お風呂一つにも宗教絡みとか話が深いな!

 

「エヴァよ……日本人より日本人らしいの。しかも博学じゃ!

知らんかったぞ、中世ヨーロッパ文化が不潔だったなどと。それは、それで置いておいて……

彼らの件じゃが、最悪ホモホモワールドに突入したらどうするのじゃ?

儂……ネギ君の貞操が散らされるのは見たくないぞ」

 

 ビジュアル的にも、受け入れ難いです。

 

「私だってお断りだよ。ヤバくなったら触りだけ見て終わりにするさ。

何、原因が分かれば良いのだから……ジジィも事実を知れば、他の魔法関係者を説得し易いだろ?」

 

 それは……しかしこんな秘密を共有する連中は、少ない方が良いだろう。

 バレる危険は少ない程良い。魔法の秘匿状態を見ても、彼らの情報漏洩は高い確率でおこる……

 僕の引退までは、最低でもバレない様に気を付けないと不味いし。

 

「詳細を彼らに教えるのは難しいじゃろ?何処かで秘密はバレる可能性は有る。

そこに生々しい情報は、余計な騒動になるしの。タカミチはネギ君に過剰な訓練を強いたのじゃよ。分かるな?」

 

 どうせバレるなら、内容を改竄すれば良いよね。その方が皆さん幸せだろうし、ネギ君もそうだ!

 

「事実は闇の中か……確かに、その方が周りも小僧も幸せか。まさか自分の貞操をオッサンに奪われたなどと……」

 

 くっくっく……ネタとしては最高じゃないか!などと邪悪な笑みを浮かべるエヴァを叩く。

 

「馬鹿者!

そんな秘密を握れば、破滅の階段を転げ落ちるぞ。奴らにバレれば……まぁ必死で隠蔽するじゃろ?

魔法世界から、ホモホモの記憶を持つが故に粛清などお断りじゃ!」

 

「面倒臭いな……英雄を作るのは」

 

 ヤレヤレと2人で溜め息をつく。本当にネギ君関係は面倒臭いんだ!そうこう言っている内に、向こうでは進展が?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 それは不思議な光景だった……

 月明かりと焚き火の仄かな灯りを頼りに、2人の漢が全裸でポージングをしていた。

 幻想的で美しい自然の景色の中で、異彩を放つタカミチとネギ君……世界は彼らに汚されてしまった。

 

「フンフンフン!ネギ君、自らの殻を突き破る様にポージングを決めるのだ!ナギさんも良くアリカ姫に肉体を魅せ付けていたぞ!」

 

「「はぁ?ナギが露出狂だって?」」

 

 タカミチの目を背ける様な薄汚いナニかを見ないようにしていたが、衝撃の発言に思わず凝視してしまう……

 

「うわっ?目が、目がぁ……」

 

「くっ!汚された……ジジィ、責任を取れ!私の目が汚されたぞ」

 

 月明かりの中で、変なポージングをするタカミチを背後からガン見してしまった……思い出したくも無い、汚い尻も見てしまったじゃないか!

 

「こっちも同じじゃ!そもそもエヴァが、ネギ君の夢の中に入ったのが原因じゃろ!責任を取って欲しいのは儂の方じゃよ」

 

「くっ……

あのタカミチのポージングは、ダイ○ード2のスチュワート大佐の真似か?

確かに作中の奴は漢らしかったが……タカミチが真似てもお笑いだぞ」

 

 エヴァめ、誤魔化しおって……確かにスチュワート大佐は、ネギ君に見習って欲しい漢だったが。

 リアルにアレをやられると恥ずかしいを通り越して、痛々しいな……

 目線を少しずらした先には、タカミチとネギ君が真っ裸でポージングに勤しんでいる。

 

「なぁジジィ……もう帰りたいぞ!何か面倒臭くなって来たし眠くなってきたよ」

 

 ゴシゴシと片目を擦りながら、ポソリと言う。エヴァめ、目を擦りながら萌え台詞か?

 

「もう少し、もう少しじゃ!毒を喰らわば皿までだ!ドラム缶風呂イベントを見る迄は帰らないぞ」

 

 此処まで来たら、一蓮托生・呉越同舟だ!エヴァには悪いが、ネギ君の最後を見届ける迄は帰れないよ。

 そして観察されている2人は、僕らに気付かずに話を進めていた……

 

 

 

 遂にネギ・スプリングフィールドと高畑・T・タカミチのホモホモワールドの全貌が明らかに?

 ダイ○ード2のスチュワート大佐の真似を散々披露してくれは2人……しかしタカミチは兎も角、ネギ君は似合わない。

 

 子供だし筋肉の具合もイマイチだ!

 

 そもそもネギ君は、魔法の知識追求に重きを置いていた為に、肉体的・精神的な鍛錬がイマイチだ。

 体の出来上がっていない子供だから、筋肉を付けるにも無理が有るしね。

 だから暴走する頻度も高い。日本に来てから、変なトラウマ……

 女性恐怖症を患い、元々持っていたラッキースケベのスキルと共に被害を周りにバラまいている。早くイギリスに返したいんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 子供らしいスラリとした肉体のネギ君が、幾らポージングしても様にならない……

 それを理解したのか、自身のポージングを止めて腕を組み思案顔のタカミチ。

 

「ネギ君……残念ながら君に、このポージングはマスター出来ない。諦めよう」

 

 本当に残念そうに言いやがる。

 

「そんな事は無いよタカミチ!僕だって出来るよ」

 

 ムキになってポージングをするが、脈打つ筋肉が無いネギ君では貧弱ボーイのままだ……

 

「ふん、ふんふんふん!どう、どうかなタカミチ?僕のポージングは?」

 

 ヤレヤレ顔のタカミチ……

 

「ネギ君無駄だ……君はナギさんにはなれないようだ……残念だよ、本当に……」

 

 そして本当に悲しそうな表情だ。タカミチ、それは高等な洗脳テクニックだよね?

 最初に持ち上げて、その気にさせる。そして有る程度たってから、ダメ出しする。本当に残念がって……

 そうすれば相手はムキになって否定し、そしてのめり込んで行く。ネギ君は、タカミチの術中にハマった。

 もうタカミチの言う事をムキになって実践するだろう……

 

「ネギ君……君が其処まで言うのなら、これを飲むが良い!」

 

 タカミチが、フォースを信じるんじゃ!的な感じで、何かを尻から取り出した!

 

 尻から?

 

 真っ裸で何も持っていなかったよね?

 

「エヴァよ……タカミチは、尻から瓶を取り出したぞ!何故、どこに隠していたんじゃ?」

 

 魔法とは、四次元ポケット的な事が可能なのか?それとも尻タブの間に、挟んでいたのか?

 

「知らん、知らん!私は見ていないぞ。股関から出した瓶など!絶対に見ていないぞ」

 

 股関?何を言っているんだ、エヴァよ。どう見ても、尻の間から出したぞ!

 

「いや……儂は尻から出した様に見えた。アレは尻タブに挟んでいたんじゃ!」

 

「どっちでも関係無いわー!あんな瓶など知らん」

 

 小声で顔を突き合わせて言い合いをしてしまった……確かに、どうでも良い事だよね。

 あんな汚い瓶なんて……瓶?

 

「なぁエヴァよ……あの瓶の中身に見覚えが有るのじゃが」

 

「赤と青の玉か……年齢詐称薬だな。でも、どうするんだ?」

 

 多分アレだ!ネギ君に飲ませて成長させるつもりか?漢が匂うダンディーな年齢に……

 タカミチめ、僕の癒やしである相坂さんに会うのに必要なアイテムを尻に挟んでいやがった。

 僕と相坂さんの絆の魔法薬を汚しやがって……許さない、必ず後悔させてやる!

 

「じっジジィ?いらん殺気がだだ漏れだぞ!落ち着くんだ」

 

 ああ、どうやら止められない感情の高ぶりが……これが復讐心か。なる程、理解したよ。確かに抗えない感情の高ぶりだよね。

 

「すまんな、エヴァ……感情の高ぶりを抑えられなんだ。タカミチよ、起きたら覚えておくんじゃな」

 

 深呼吸を数回してからネギ君達を見ると、丁度幾つかの年齢詐称薬を飲んで変化するどころだった。

 ボフンと煙をあげて変化したネギ君は……まんまナギ・スプリングフィールドその人だ!

 

 幾つ飲ませたのかは分からないが、見た目20代後半だろうか……丁度エヴァを学園に連れて来た時に瓜二つだな。

 

「…………ナギ…………いや……そうか……」

 

 隣に居るエヴァが、僕の着物の裾を掴んで放心状態でナギに似ているネギ君を見詰めていた。

 裾を掴む手が、僅かだが震えて……「エヴァよ……」思わず声をかける。

 

「ジジィ……分かっていたさ。ナギは迎えに来ると、呪いを解いてやると言って私から去っていった。

しかし、私を迎えに来ずに呪いも解かず……

ふん!小僧の母親と宜しくやっていたんだな。そして先に逝った……私の事は、それ程は大切では無かったんだな」

 

 エヴァさんがナイーブに?ヤバい泣きそうだ!

 やはりエヴァにとって、ナギ・スプリングフィールドとは特別だったのか……でも彼女の呪いを解かずに、ネギ君をこさえてたんだよなー。

 他の女と仲良くして、エヴァを助けに来なかった。ある意味、最低な男だよねナギって。ネギ君の育児も放棄して他人に押し付けてるし。

 事情は有れども無責任と言われても仕方ない、か……

 

「エヴァよ……ナギはな……」

 

 出来るだけ優しい声で話し掛ける。

 

「…………じっジジィ!タカミチが小僧に襲いかかってるぞ!」

 

「なっ何だってー?」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 年齢詐称薬を飲まされ、十数年の年齢を嵩ましされたネギ……まさにナギ・スプリングフィールドだ。

 

「わぁ?周りの景色が違って見えるよ。

それに……手足も長いし、何か変な感じだよ。タカミチ、どうしたの?」

 

 タカミチはブルブルと震えている……しかし、突然叫び声を上げた!

 

「なっナギさーん!」

 

 真っ裸なネギに抱きついた!

 

「タカミチ、落ち着いて!僕は父さんじゃないから……うわっ、ヒゲがジョリジョリで気持ち悪いよ!アレ?僕にもヒゲが?」

 

 憧れのナギそっくりに変化したネギを見てしまったのだ……興奮するのは、仕方無いのだろうか?

 

「ナギさん、さぁさぁ風呂が沸いてます!背中を流しますから此方へ。ハリーハリーハリー」

 

 ネギ君を強引にドラム缶風呂の脇に座らせると、お湯を掛けながら背中を流し出した……すっかりナギと思い込んでいるのか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 そんな彼らを呆然と見詰める2人……

 

「互いにジョリジョリとは、ネギ君を年齢詐称薬で成長させた為の偽ヒゲか……原因が分かったのか?」

 

 違う意味でブルブル震えているエヴァ……

 

「ジジィ……帰ろう、私は疲れた」

 

 未だに僕の裾を握るエヴァさんが、本当に疲れ切った顔で見上げている。

 

 「タカミチ、気持ち悪いよバカー!」

 

 ネギ君の魂の雄叫びと共に、暴走しただろう膨大な魔力がタカミチに襲いかかっていた……

 

「何て威力だ……女の子には暴走して脱がせ、変態には直接的攻撃。やはりネギ君は暴走の効果を意図的に変えられるのか?」

 

 横たわるタカミチに、何度も襲いかかるネギ君の魔力……変な風に捻れながら吹っ飛んで行った。

 

「「アレを喰らって死ななかったのか?」」

 

 翌日、ピンピンしていたタカミチを思い出して彼の不死身さに恐怖した……

 

「はぁはぁ……ネギ君、やっと理解したね……ナギは唯我独尊で我が儘なガキ大将だった……

何事にも全力であたる……嫌な事は、力ずくでも……排除して……おふっ」

 

 息も絶え絶え、ピクピクしながら……サラリとナギ批判?したよね?

 

「タカミチ……身を挺して僕に教えてくれたんだね。嫌な事は力ずく……キモいオッサンを力ずくで倒してほめられた。

つまり怖い女の人も、力ずくでぶち当たれば……僕は父さんに近付くんだ!」

 

 少年漫画の最終回なノリで、とんでも無い結果に結びついたよ!

 拳を握り締めて、中々漢らしい表情のネギ君だが……決意は正義の魔法使いの真逆を爆走していた。

 この後、タカミチが復活しテントで同衾イベントが始まるのだろうが……もはや、どうでも良かった。

 

「エヴァ……帰ろう、現実世界へ。そして早々にネギ君の記憶を消すんじゃ!消し過ぎても構わんぞ」

 

「ああ、綺麗サッパリ消してやるよ」

 

 エヴァと見つめ合いながら、互いの決意を確認する。あのアホ達の頭ん中をカラッポにしてやるわ!

 エヴァと手を繋ながら、現実世界へと帰還するのだった……

 

 

 

 ネギ・スプリングフィールドを腐らせた原因が追求出来た……

 まさかの年齢詐称薬を用いた、擬似ナギ・スプリングフィールドにセクハラしたからだ、と。

 ネギ君はタカミチを撃退し、力ずくで勝ち進む道を歪曲して学んでしまった……これは大変宜しく無い。

 こんなねじ曲がったネギ君にしてしまったタカミチには、厳罰が必要だろう。

 しかし、ネギ君の魔力暴走をマトモに喰らってピンピンしているタカミチに……普通の罰が効くのだろうか?

 

 一抹の不安を抱えながら、ネギ・スプリングフィールドの夢の世界から脱出した……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 どうやら精神はネギ君の夢の中だったが、肉体は外で眠りについていたみたいだ……仲良くエヴァと並んで眠っていた。

 途中から手を握っていた為に、有らぬ疑いを持たれたみたいだが……

 

「クソ野郎!ジジィの分際で、マスターとオテテ繋いで仲良く昼寝ですか?そうなんですか?死にますか?」

 

 茶々丸さんが、静かに暴走してました!無表情だけど、怒りを理解出来てしまうプレッシャー!

 背後に何か、どす黒い物が渦巻いているのが見えるのです……正直、怖くなり土下座をしてしまった。

 

「良くは分からんが、兎に角すまんかったです」

 

 なまじ起きがけに、エヴァが真っ赤になって手を振り解くから……余計にややこしい状況だ。

 しかしエヴァは、長年待っていて迎えに来てくれなかったナギ・スプリングフィールドを思い出したのだろう……

 此方の騒ぎも上の空で、少し沈んでいる様な気がします。

 確かに長年迎えに来るのを待っていた、ナギそっくりのネギ君を見てしまったんだ。

 気持ちも乱れるだろう……彼女は暫く放っておいて、律儀に待っていた明石教授達に夢の中の出来事を報告する……

 如何にしてタカミチが、ネギ君に悪影響を与えたか!

 

 それを正確にジェスチャーを交えながら……

 

「なっ!高畑先生が?スチュワート大佐ばりのヌーディストパフォーマンスですか?

チクショー!そんなに肉体を見せ付けたいのか、あのヒゲ野郎!」

 

「ケツから瓶?何ですか、その変態マジックは?僕ならもっと上手く瓶を出せます!例えば、脇の下からとか口の中からとか……」

 

「ナギ・スプリングフィールドと瓜二つ?流石は息子と言う事か……だからこそ、彼をマトモに育てなければならないですね。

学園長、頑張りましょう!」

 

 アレ、アレレ?誰とは言わないが、マトモな反応をしてくれたのは1人だけ?

 魔法関係者の中でも、比較的マトモな連中を呼んだ筈なのに……マトモな反応が1人だけ?

 

 チクショー……

 

 関東魔法協会には、西洋魔法使いは、変態ばっかりじゃねーか!

 

「兎に角、ネギ君の忌まわしい記憶をガッツリ消去じゃ!それは……全盛期の力を取り戻したエヴァにやって貰うぞ。皆も異存はないな?」

 

 魔法先生方を見回しながら宣言する!中途半端な威力じゃ駄目だ!力一杯、変態タカミチの記憶を消してやる。

 

「闇の福音に、英雄の息子に魔法を掛けさせるのですか?確かに我々では、魔力が異常に高いネギ君に何処まで干渉出来るかは……」

 

「私は異存は有りませんが……果たして、他の先生方が……」

 

「いや、今消さないと取り返しが付かない!やりましょう、学園長」

 

 今回の回答はマトモだ……良かった。西洋魔法使いも捨てたもんじゃないね!

 

「エヴァ!エヴァよ、話はついた。

ネギ君の記憶を……変態タカミチの存在を頭の中から、綺麗サッパリ消して欲しいのじゃ」

 

 ボーっとしていたエヴァに話を振る……

 

「ん?ああ、タカミチを殺るのか?極大氷結呪文を喰らわせれは良いのか?」

 

 ぼんやりと、しかしトンでもない事をボソリと言う洋ロリ……

 

「違うぞ!

夢の中でも頼んだが、ネギ君の記憶を消すんじゃ!タカミチとの山籠もりの3日間の記憶を全て消去じゃ。

ネギ君には……その後で病院に連れて行って入院させる。目が覚めたら、こう説明するつもりじゃ!

前々からタカミチはロリコンと言う心の病だったが、ショタコンも併発してしまった……

彼に襲われたネギ君が、魔力を暴走させて彼を撃退!

しかし同時に彼の居合拳を受けて昏倒。直ぐに入院させたが、今まで目を覚まさなかった……そしてずっと魘されていた、とな!

ネギ君は、良く言えば素直。悪く言えば世間知らずじゃ!周りが皆、同じ事を言えば信じるじゃろ?

タカミチの戯れ言も信じたんじゃ。

それと……今後のネギ君の修行は、儂が監督する!周りには任せられん。

ネギ君には、普通に魔力制御を学んで貰い……そしてイギリスに送り返す。儂の最後の仕事じゃ……」

 

 押しの弱い彼らでは、暴走タカミチは止められない。あの変態は諦めていない。

 必ずまたネギ君に接触するだろう……彼は自分の洗脳が成功していると思っているからね。

 皆が頷くのを確認し、エヴァに頼む。

 

「では、ネギ君の記憶消去は頼んだぞ。

それと儂は入院の手配や、関係各所に今回の件の根回しをするので一旦外に出るが、明石教授らは立ち会いと確認を頼みますぞ!」

 

 そう言い含めて、一旦廊下に出る。明石教授達を同席させるのは、連帯責任を意識させる為だ……

 

「私は知りませんでした!エヴァが、学園長が勝手に!」

 

 なんて言わないと思うが、念の為です。早速携帯で、魔法関係者が運営する病院に連絡を入れる……

 医師から更に説明をして貰えれば、ネギ君も疑わないだろうから。

 それと他にも目撃者を用意しておくか……などと考えていたら、先方と電話が繋がった。

 

「もしもし……儂じゃ。ちと頼み事が有るのじゃが……我らの存続に関する大問題じゃよ。実はな……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あれからネギ君の入院手配や、まだ彼に知られていない魔法関係者に目撃者で有る事を頼み終えた……

 やれやれと廊下の手摺に捕まり外を見る。すっかり夜も更けている……見渡す限り洋風な建設物の窓から灯りが見える。

 

 綺麗な夜景だ……

 

 ネギ君の件は問題無いだろう。入院後、明日にでも目が覚めて医師の説明を聞いた後で儂が更に現状の説明をすれば……

 幾らネギ君でも疑わないだろう。

 念の為、今夜タカミチの襲撃に備えて人員は配置しておくかな……

 

 

 

 麻帆良には学園都市としての機能が充実している。

 医療や科学の分野では、他の追従を許さない程に進みすぎている。

 茶々丸を見れば分かると言うものだ……その関連の病院に、ネギ君を入院させている。

 

 あの後、エヴァが「喰らえ、小僧!こ・れ・が・私の……全力全開だー!」とか騒いでいたが、精密な記憶の消去を完璧に行っていた。

 

 エヴァはノリノリで楽しそうだったな。まぁあの奇天烈な体験を忘れる為にも、ハッチャケたんだろう……

 ネギ君には悪いが、3日間の記憶は何も無い。綺麗なままのネギ君に戻ったのだ!

 そんなネギ君だが、先ほど魔法関係者が経営する病院から連絡が有った。

 

 ネギ君が目覚めたようだ。

 

 医師から嘘の状況説明を聞いたネギ君は……少し混乱したみたいだが、概ね納得したようだ。

 やはり第三者的な立場で、社会的地位もそれなりな医師からの話には説得力が有ったのだろう。

 その後に、詳細な嘘の出来事を刷り込んでゆく……悪夢のタカミチワールドは綺麗サッパリ消えたのだ!

 タカミチは、事実を知った魔法関係者一同で袋叩きにした。

 いくら紅い翼の一員とはいえ、目の反転した刀子さんの狂刃やシスターシャクティの遠慮ない神の裁き……その他の連中が一斉に襲い掛かったのだ!

 

 無傷な訳が無いじゃないか。

 

 しかし、現実は……驚くべき事に、効果は全く無かったのだ!のらりくらりと避けては、腐り輝く笑顔で此方を嘲るのだ!

 

 正直、イラッとした。

 

 最後はエヴァの全力全開で氷柱にしてやった!これなら流石に効いただろう。

 何とか溜飲を下げたのたが……ヤツは、不思議な位にあっさり回復。

 皆の胸の中に、モヤモヤとした敗北感が広がってしまったのだ……

 しかし元々公開出来る情報では無いなでに、お仕置きはそれ迄とし中東の武装勢力の鎮圧に向かわせた。暫くは大丈夫だろう。

 

 だと思うが……大丈夫だと思いたい。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 報告を受けてから、件の病院に急行した。流石は麻帆良学園から援助を受けているだけあり、立派な病院だ。

 中に入ると、仄かな消毒液の香りがする……幾つになっても病院は苦手だなぁ。

 特に歯医者は大嫌いだったよ。あの歯を削る音とか、最悪の思い出が蘇りそうだ……

 

 だがしかし、今はそんな感傷に浸る場合では無い!

 

 総合受付カウンターに向かい、ネギ・スプリングフィールドの関係者だと伝え病室を確認する。

 

「ネギ・スプリングフィールド君の日本での保護者じゃが……彼の病室はどこじゃ?」

 

 お見舞い用の名簿に記帳しながら訪ねる。受付のお姉さんは、チラリと記帳した名前を見ると……多分連絡は入っているのだろう。

 

「近衛さんですね?ネギ・スプリングフィールドさんはA棟の8階、個室です。8階のナースステーションで訪ねて下さい」

 

「有難う御座いますじゃ」

 

 そう言ってエレベーターホールに向かう……言われた通りに8階に付くと、ナースステーションに向かう。

 中で書き物をしていた看護士さんに声を掛ける。

 

「すみません。ネギ・スプリングフィールド君の保護者ですが、彼の病室はどこかの?」

 

「ああ、あの子供の保護者の方ですか?あら……近衛さんじゃないですか?あれから体調はどうですか?」

 

 ん?良く見れば、僕が爺さんとして目覚めた時に対応してくれた看護士さんだ!

 

「おお……その節はお世話になりもうした。お陰様で体調は良いですぞ。して、ネギ君は何処の部屋ですかの?」

 

 彼女は思い出す様に首を傾げる。

 

「ネギさんは827号室です。この先を進んで突き当たりを左、3つ目の部屋ですよ」

 

 丁寧に道順を教えてくれた彼女にお辞儀をして、ネギ君の部屋に向かう……教えて貰った道順を進み、827号室の前に着いた。

 確か僕も、このフロアの個室だったな。ドアをノックしてから中に入る……

 

「邪魔するぞ……ネギ君、体の調子はどうじゃ?」

 

 ベッドの上に座り、ボーっと窓の外を見ているネギ君に声を掛ける。彼は此方を向いてペコリと頭を下げてくれる……

 

「学園長、わざわざ有難う御座います。何か酷い目に有ったらしく記憶が……先生のお話では、記憶の混乱が有ると。

ショックにより寝込んでいた為に、ここ3日間の記憶が無いんです」

 

 ヨシヨシ。

 

 流石に病院で目覚め、医師から説明されれは信じるよね。彼は自分の置かれた立場が良く分からないのだろう……ただ、ボーっとしていた。

 

「ネギ君……入院したと聞いて驚いておったが、体調は良さそうじゃの」

 

「はい。痛い所も有りません……先生も、もう平気だって言ってました」

 

 少しボーっとしてるけど、受け答えは普通だ。後はネギ君が、何処まで覚えているかだけど。

 確認しないと先に進めないよね。備え付けてある椅子に座る……目線がネギ君と一緒くらいになった。

 

「ネギ君……何が有ったのじゃ?何か覚えているかの?」

 

 ネギ君は、少し考える様な仕草をして

 

「僕は……三日前に授業を終えて、職員室で明日の授業の準備を終えて帰るまでの。

下駄箱で靴を履き替え様としてからの記憶が……サッパリ思い出せないんです」

 

と、教えてくれた。

 

 つまりタカミチは、帰宅途中のネギ君を学校で拉致ったのか……学校の関係者で、ネギ君とタカミチが一緒だったのを目撃している人が居たかもしれないな。

 これは……ある程度の信憑性を持たせないと駄目かな。

 後でタカミチと会っていたなんて、誰かに教えられたらマズいからね。

 

「ふむ……ネギ君、前に儂がタカミチの病気について話したのを覚えているかの?」

 

 手紙で教えたんだっけ?

 

「うん。タカミチが救いようの無いロリコンで変態だって話だよね?でも更生の可能性を信じて普通に接してあげてって……」

 

 尻つぼみに言葉が濁る。タカミチって名前に、何か反応したのかな?さり気なくネギ君の様子を窺うが、普通だ。

 ヘンなトラウマにはなっていないと良いけど……

 

「ネギ君……君の身に何が有ったのか、教えよう。君は……」

 

 ネギ君には悪いが、嘘を信じて貰おう。「アナタの為だから!」何故か、某CMのフレーズが頭をよぎった……

 正確には、「我々の為だから!」なんだけどね。

 

 

 

 変態タカミチの尻拭いの為に、苦労を強いられてます。

 本来なら、そろそろ木乃香ちゃんやモフモフ羽根娘に巫女装束を着せて撮影会をしたいのに……

 話の流れ的に、ネギ君の修行の面倒を見なければならない感じです。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 エヴァに記憶を消去させ、魔法で寝かせたネギ君を入院させました。

 目が覚めた所で、医師に嘘の内容を話して貰った。

 後は僕が肉付けをしたストーリーを説明すれば、タカミチから受けたセクハラは何とかなるだろう……

 

「知らない方が幸せなんだよ!」とは名言だね。

 

 全く10歳児に背負わせるトラウマにしては酷すぎる。最も僕だってネギ君の五割増ししか生きてないけど…… 

 爺さんの記憶と混じり合って、随分と長く生きてる様な感覚も有るんだ。

 既に僕と爺さんの記憶と肉体は……融合しちゃったんだろうな。

 

 さて、目の前でベッドにボーっと座っているネギ君の為に、捏造したストーリーを説明するかな。

 

「ネギ君や……」

 

 声を掛けると、漸く彼が此方を意識したのか首を向けてきた。

 

「……何ですか?」

 

 微妙に反応が悪いのは、記憶消去の影響だろうか?

 

「先ずはスマンと謝っておく。本当に済まんかった……儂らはタカミチを、タカミチの変態度を甘くみていたんじゃ。

究極ペド野郎を……アレでも大戦の英雄の一員じゃからな。

何とか真っ当な性癖にしようと頑張ったのじゃが……アレは我々では荷が重かったのじゃ」

 

 ネギ君は、いきなり謝られて驚いている。目を見張り、漸く何時ものネギ君らしい表情になってきた!

 

「タカミチが?でもタカミチは父さんと同じ英雄なんだよね?それが、何故そんな風に言われるの?」

 

 ネギ君は……ナギと共に活動した彼らを無条件で素晴らしい人々と思ってる?

 

「凄い活躍をしたお父さんの仲間なんだもん!きっと偉いんだ!」

 

 とか?実際の紅い翼の連中は、ロクデナシばかり……いや、曲者ぞろいの通好みばかりだよね?

 

 あんな人達とは、普通なら関わり合いになりたくないと思うけど?魔法関係者からすれば、失礼極まりない事を考えていました!

 あんな記憶に有る人物とは、普通は距離を置かないか?

 又は遠くで見る分には良いけど、リアルにお知り合いはご遠慮したいと思いますが……その思考は一旦、心の棚に置いておこう。

 先ずはネギ君のケアが優先だからね。

 

「ネギ君……人はの、変わっていく生き物なのじゃ。当初、儂もエヴァに発情する彼をペドなロリコン野郎と考えていた。

彼も良い年じゃし、早く相応な娘さんと一緒になり落ち着く頃じゃと……

しかし、タカミチは悉く見合いを断りおった。つまり、普通の娘さんは用無しで幼女を寄越せって事じゃな」

 

 酷い捏造だ!しかし、タカミチの女性の好みは分からない。アレでも大戦の変態の一員だし、強さは本物。

 見た目もイケメンだから、真面目に探せば美人の嫁さんを貰えた筈なんだよね。

 それを何故、頑なに結婚しなかったのか?やはりロリコンと言うのは、的を得ていたのかな?

 

「タカミチも……僕と同じで、女の人が怖いのかな?」

 

 何やら見当違いと言うか、善意の意見を貰いました。怖いのでなくて「嫌い」かな……その前に「幼女以外」が付きそうだけど。

 

「いや……タカミチはの……幼い女の子が大好きで、育ち過ぎた女性は嫌いだったんじゃよ。人としての存在が危険な人物じゃな……」

 

 色恋事には、多分まだ目覚めてないネギ君には理解が難しい話だよね。イマイチ分からない顔をしているし……

 

「僕には、難しくて分かりません。でもタカミチが幼い女の子を好きなのは分かりました。

アーニャとか紹介すれば、仲良くしてくれるかな?ネカネお姉ちゃんは、嫌いなのかな?」

 

 この子は……あのド変態に幼なじみのアーニャちゃんや、姉と慕うネカネさんを紹介するつもりなのか?

 

「ネギ君……タカミチに女性を紹介しても無駄なのじゃよ。

彼は幼女を突き抜けて、少年が好きになってしまったのじゃ……この場合の好きとは、ネギ君を電車で襲った女性達の好きと同じじゃよ。

だからネギ君は、魔力を暴走させて……襲い掛かったタカミチを撃退したのじゃ。そして……

此処からは憶測じゃが、彼に襲われた恐怖で記憶が混乱ないし、嫌な記憶を自分で消した可能性が有るんじゃ。

それは……体が精神を守る為に行った行動じゃろう」

 

「襲われた……僕が?タカミチに?何故ですか、学園長?タカミチが、僕を襲うなんて……だってタカミチは、父さんの仲間だったんだよ!」

 

 盲信……自分の父親に対して、変な理想を持ってるのか?

 父親の仲間なら何をやっても正しい?身近で父親に接していれば、理想と現実の差を少しは感じるのに……

 ネギ君は、父親の……ナギの事を周りの情報からしか知らない。

 英雄、英雄と崇める奴らからしか……後は村が襲撃された時に、悪魔・魔物を薙ぎ払い彼を助けたヒーローだ!

 

 だからなのかな?彼の歪さは……ネギ君は、何処か壊れている。

 まなじ才能が有り努力家で、性格も真面目そうだ。しかも英雄の息子……何時か壊れるか弾けるかも知れないね。

 まぁそれは魔法関係者と本人の問題だからね!引き籠もり予定の僕には関係無いや。

 此方を不審そうに見ているネギ君に、駄目押しをしよう。

 

「タカミチ君は……ネギ君の様なショタ……いや、少年が大好きなんじゃよ。日本に来てサブカルチャーにハマってしまっての。

初めて麻帆良学園に来る途中で、電車でネギ君を襲った連中と同じなんじゃ。もう、遅すぎたんじゃ……腐ってるんじゃよ」

 

「あっあの女の人達と同じ病気何ですか?だってタカミチは男だし、僕も男ですよ?」

 

 未だに信じられないのか?此方の言葉に、否定しかしないな……

 

「日本ではの……受け・攻め・ボーイズラブ・萌え・擬人化と言う不思議な文化が有るんじゃよ。

そこでは不思議な掛け算をして、男同士や男と物までも恋愛感情が有るそうじゃ……魔法世界で言う「禁書」じゃな。

アレも危険じゃから、読むのも研究するのも禁止じゃろ?しかしタカミチは、その危険な書物を紐解いてしまった……

分かるね、ネギ君?タカミチには近付いてはいけないぞ!」

 

「禁書……あの女の人達は、文化の暗黒面に墜ちたの?僕は、そんな人達に狙われてるの……」

 

 アレ?目の焦点が合わず、ガクガク震えだしたよ……アチャー……ヤベェ、失敗したか?

 

 

 

 病的な迄に、周りから英雄と称えられる父親を盲信する子供……魔法関係者から見れば、理想的に成長しているのだろう。

 

 時代を担う英雄に!

 

 ナギが亡くなった後、周りの期待と希望が集まるのは本人が望むと望まないと生涯付いて回る。

 それを完全に断ち切るのには、相当な覚悟と努力が居るだろう……ネギ・スプリングフィールドは、何処か歪んでいる。

 本人のせいでは無く、周りの接し方に問題が合ったのは確かだ!

 父親を慕い、周りの期待に応え、そして歪んでしまった天才少年。

 僕が感じたネギ・スプリングフィールドとは、そんな少年だ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 タカミチには悪いが、一方的にロリペドのショタ変態に仕上げた。

 しかし、ネギ君は英雄たる父親の仲間なんだから……そんな感じで、イマイチ彼の危険性を感じていないみたいだ。

 これ以上、ごり押ししても無意味で逆効果だね。

 ベッドでヤバい感じにガクガクしているネギ君には、今日の所は言う事はもう何も無いな。

 てか、これ以上言うと更に壊れそうです……現在進行形でヤバい独り言が始まってます。

 つまり誘導を失敗してしまった訳ですね?ごめんね、ネギ君。

 

「ネギ君や……今日はゆっくりと休むが良いじゃろう。

明日、退院出来る様に手続きをしておく。それと迎えを寄越すから、そのまま儂の家まで来るんじゃ。

では明日……」

 

 ブツブツと聞き取れない声で囁いているネギ君をそっとベッドに横にする。

 

「この病院は安全じゃ。誰もネギ君を傷付けない……分かるね、ネギ君や?此処は安全じゃ。

儂もネギ君の味方じゃ。だから安心して休んで良いぞ。

さぁ、少し横になって眠った方が良かろう。軽い眠りの魔法をかけるぞ。良いな?」

 

 僕の手を握りながら頷くネギ君……彼の額にもう片方の手を添えて、眠りの魔法をかける。

 少ししてネギ君は、安らかな寝息をたてながら眠りに付いた……

 タカミチの変態修行を消去したら、大元の女性恐怖症を刺激してしまったか?

 早急にネギ君の育成計画を練り直す必要が有るね。短期詰め込みで、とっととイギリスへ……は、無理だ。

 ちゃんと最低限の修行と言うか、心のケアはしなけれはならない。

 

 さて、どうするかな?

 

 困った時のエヴァえもんと茶々えもんに相談するか……最近、彼女達も僕に対して大分軟化してくれたし。

 魔法制御の良い修行方法を知っているかも……彼女達の直接の指導は無理だが、又聞きでも効果は有ると思う。

 なんたって600年の研鑽は伊達じゃない。

 吸血鬼の真祖と言うのを差し引いても、彼女は優れた魔法使いだからね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 関西から帰宅して、漸く落ち着いて自宅で寛げるよ……そう思いながら、送迎の車の中で後部座席に埋もれながらコメカミを揉む。

 

「疲れた……本当に疲れたよ……何故、エヴァえもんが車に居るのかを突っ込まない位に燃え尽きたんだ……あと五分、寝かせて下さい……」

 

 現実逃避をさせて下さい。

 

「起きんか、ジジィ!寝たら死ぬぞ?戯言で無く、氷柱になって明日の朝刊を飾りたいか?ええぃ起きんか?

それにエヴァえもんって何なんだ?私は未来の青狸とは違うぞ?おい、起きんかジジィ!」

 

 ユサユサと体が揺すられる。どうやら夢では無く、現実だったのか……

 ゆっくりと瞼を開くと、エヴァえもんが詠唱に入っていた……

 

 詠唱?

 

「わー、待て待つんじゃ?起きたから!物騒な呪文の詠唱は止めんか!」

 

 エヴァさん、その詠唱ってタカミチを氷柱にした極大氷結呪文だよね?

 僕は見掛けは人間離れしてるけど、タカミチみたいに人間を止めてないから!普通に、そんな呪文を受けたら死にますから!

 

「ふん!だったら早く起きろ。車に同乗しているのに、何も反応が無いなんて酷い扱い方だぞ!」

 

 妙にプンプン怒ってるのは、無視されたから?

 大きめな後部座席のソファーに、仰け反りながら座るエヴァに備え付けの冷蔵庫からジュースを渡す。

 濃縮還元100%のオレンジジュースだ……

 

「ジジィ……私を子供扱いするな!まぁ頂くがな」

 

 プルタブを開けて渡すと、ぞんざいに受け取りながらも、コクコクと飲み始めた……小動物みたいで癒やされますね。

 自分は缶コーヒーを取り出して飲む。流石にコーラは用意されていないから、残念……しかし車内に冷蔵庫って良いよね!

 

 ブルジョア万歳だ。

 

「ジジィ……小僧の様子はどうだった?私の記憶消去は完璧だったろう?」

 

 前を見ながら、しかし当たり前だろう的に言ってくれました。確かに記憶消去は完璧だった。

 しかし、僕の不用意な対応で大分ヤバい精神状況になっちゃったけど……

 

「ああ、完璧じゃったよ。しかし……ネギ君には、タカミチは劇薬だったのだろう。

彼の変態振りを教え込んだら、何故かトラウマの女性恐怖症に飛び火してな……今は、結構ヤバい精神状態じゃ」

 

 ふぉふぉふぉと、笑いながら誤魔化す……

 

「あほかー!ジジィ、何をやってるんだ?あんなガキでも魔法世界の重要人物だろ。

ヤバい事にならないだろうな?今の時期でジジィが失脚など笑えんぞ。

それにいい加減、あのぬるま湯に漬かった小僧を見るのも業腹だ!とっととイギリスへ送り返せ」

 

 後頭部をスパーンと叩かれました!手加減はしてくれてるだろうけど、痛い。一瞬だけど星が散ったよ!

 

 ああ、涙が出てきた……

 

「エヴァよ……老い先短い老人に暴力を振るうとは!何てドメスティックなロリだ。

ロリでSは需要が有るらしいが、儂はノーサンキューじゃ!

儂にも癒やしが欲しい。フカフカでモフモフな癒やしが欲しいんじゃ」

 

 ああ、前の暮らしで戯れていたアヒルのガー吉のお尻周りのフカフカを撫で捲りたい!

 ワサワサと、あのお尻を触る様に手を動かす。そうだ!アヒルを飼おう。そして癒やしのモコモコを……

 

「こんの、エロジジィがー!放さんか変態ジジィ」

 

 オゥ!酷い衝撃を受けて、また大量の星が散ったぞ。

 

「いっ痛い、痛いぞエヴァよ……もうホント、勘弁して下さい……」

 

 どうやらエヴァの脇腹を撫でくり回していたみたいです。

 衣服を乱して、真っ赤になって握り拳を振り上げるエヴァは……誰が見ても性犯罪の被害者だった。

 

「正直スマンです……反省しています」

 

 車内なので土下座は出来ないが、精一杯頭を下げさせて頂きました。

 

 



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第8話

 タカミチがネギ・スプリングフィールドにやらかした、セクハラの尻拭いをさせられている。

 全く何で僕が、そんな苦労を強いられるんだよ!

 ネギ君もネギ君だ。もっと自分の立場って者を自覚して欲しいよ。

 君は魔法関係者にとって、希望であり厄介事なんだから……

 って10歳児に言う事じゃないけど、僕だって見た目は爺さんだけど実年齢は15歳なんだけどさ。

 ラッキースケベなんて奇跡のスキル持ちなんて、男として羨ましいに尽きるんだぜ?

 何で、そんな羨ま妬ましいスキル持ちなのに女性恐怖症?馬鹿なの?何て勿体無いの?

 

 ハァハァ……

 

 言いたい事を言ったから、少し落ち着いた。しかし、ネギ君の事ばかり言ってみても気が付けば僕もエヴァにセクハラをしていた!

 これじゃ同類だ……人の振り見て我が振り直せと言うが、僕も欲求不満なのだろうか?

 ペットのガー吉のモフモフお尻を思い出し、エアーアヒル尻を撫で捲っていたら……何故かエヴァを膝の上に乗せて、脇腹を撫で回していたそうだ。

 

 自覚が無いから始末に負えない……

 

 僕も妄想癖を治さないと駄目だ。現在進行形でエヴァに対して、頭を下げ捲っています。

 

「全く……少し前は飄々として、掴み所の無いジジィだったのに。最近はやたらと私にセクハラを働いてないか?ああ?

あのデカい胸先生を秘書みたいな事から外したのは……まさか私の肉体が目当てか?シネ、ジジィ!」

 

 エヴァは百年位前に日本を訪れた時に、変なオッサンから合気道を学んでいる。それを自己鍛錬で技の研鑽を怠らなかったから……

 

「イタっ……いたたたた……エヴァ、止めてくれ!腕はそんな方向には……人体の構造上無理……

いや、無理やり曲げないで……本当にスマンカッタ!反省してますから……」

 

 小さな体で器用に僕の利き腕を捻り上げるの止めてー!それ合気道じゃなくて、違う格闘技入って無い?

 

「全く……猛省しろ、変態ジジィ。別に用が無くて来た訳じゃないぞ。

あの関西から連れてきた露出度の高い巫女服ババァだが……何やら調べ初めて居るぞ。

茶々丸が目を光らせているが、西洋魔法使いの事や大戦の事。それなら黙認するつもりだが、ジジィの身辺も調べ始めたぞ。

あの女、何か関西の連中に言い含められてそうだな……殺るか?いや拉致るか?」

 

 天ヶ崎さんか……ただの手伝いじゃないとは思っていたけど。

 でも、着任そうそう此方に行動がバレるって、あんまり有能じゃないのかな? 

 関西の連中だって僕を警戒してるのはバレバレなのに、差し向けた彼女にこんな行動を取らせるなんて……

 いや、寧ろ彼女が自主的に動いているか?そう仕向けられているのか?この時期に油断は出来ないね。

 

「なる程の……彼女は、その……ちゃんと隠密行動をしてるのか?まさか能力が低くてバレバレなのか?」

 

 それにより、対応を考えなくては駄目だ。ただ、己の復讐の相手を調べたいのか?何か関西の連中と示し合わせているのか?

 

「ん?それなりに動いてはいるが、この学園都市で一般レベルのハッキングじゃバレバレだろ。

まして茶々丸が管理しているジジィのデータベースにアクセスなど……散々苦労して、つかんだデータは、アレだ。

詠春から貰った「春夏秋冬巫女祭り」だったか?それは悲惨な顔をしていたぞ」

 

 くっくっく……

 

 破廉恥な巫女服ババァには、あの写真の美しさとは真逆な格好だからな……とか凄い良い笑顔で、とんでもない事を言いやがった!

 

「儂のお宝映像を勝手に見せたんか?ああ?アレは良い物なんだぞ!」

 

 この洋ロリめ!もしデータが破壊されていたら大変だ。アレは無理を言って詠春さんから貰ったデータなんだ。

 アルバムも有るけど、やはり高画質の物はそれなりな環境で見たいから……

 

「ああ、茶々丸がジジィが映した私の画像を吸い上げていたな。

変わりに、何か圧縮されたデータを入れたと言っていたが……兎に角、ジジィは今後私にセクハラを働くのは禁止だ!

じゃあな……この報酬は、例のホテルのディナーで手を打とう」

 

 そう言って、影をゲートにして移転していった……僕の大切なデータ!

 早く帰って確認しなければ。しかし簡単にはハッキング出来ない筈だぞ!

 それを考えると、天ヶ崎さんはソコソコ有能なのかな。後は真意を確認しておかないと……本当に上手く行かないね。

 

 ヤレヤレだぜ、まったく……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 漸く自宅に帰る事が出来た。

 

 馴れた手付きで着物を脱いで、少しラフな感じの普段着用の着物に着替える……帯を結わいながら、本当に馴れてきたなと思う。

 居間に行きソファーに沈み込む様に座ると、すかさずお茶が出てきた。

 

 新しいお手伝いさんだ!前任の方は、情報漏洩の責任により穏便に変わっていただきました。

 

「うむ、有難う……」

 

 お茶と共に豆大福が2つ乗った皿を静かに置いて、一礼して立ち去る。

 前の方も有能でしたが、今回の方も中々良くしてくれますね。流石は金持ち相手の家政婦派遣会社。

 あくまでも家政婦であって、メイドさんではありません。残念ながら……

 豆大福をモグモグと食べながら、今後について考える。明日、ネギ君を迎えに行って彼に今後の事を話さなければならない。

 既にこの学園での修行は破綻している。巻き込まれたとは言え、授業を私用で休んでいるのだ。

 

 しかし!「そんなの関係ねー!」と頭に海パン一丁の芸人のようなイメージが浮かんだ!

 

 この時期にパンイチ?どんな猥褻物陳列罪だよ!しかし「そんなの関係ねー!」の通りに修行達成して貰いますよ。

 後は彼自身の修行についてだ…

 もはや女性恐怖症については、これ以上の記憶操作は危険だからね。

 正直、打つ手がない。後は魔力制御。これは……しまった!エヴァに修行方法を聞こうとしてて忘れたよ。

 

 しかし、彼女達に頼りっきりだよね。周りの連中がイマイチ信用出来ないから。

 だから、魔法関係者から一線を引いている彼女達を信用している。最初は、彼女の解放を餌に交渉したんだっけ?

 関西同行から、関西呪術協会の連中との交渉に護衛。他の魔法関係者から、あれだけ嫌われ恐れられ……

 悪の魔法使い、闇の福音、齢600年の吸血鬼の真祖なのに。僕にとっては一番信用出来る相手とはね。

 

 不思議な洋ロリだよ、全くさ。

 

 

 

 病院の退院手続きとは?大体朝食を食べてから担当医からお話が有り、そして退院だと思う。

 家族が迎えに来たり、自分で帰るかは別の話だ。ネギ君の場合は自力で帰れないから、僕が迎えに行く。

 入院費用とかは僕、と言うか学園持ちだ。

 だからネギ君は僕が行くまでは帰れないし、退院するにしても昼前位になるだろう。一応、病院にはネギ君の迎えは昼前と伝えた。

 そして僕は、麻帆良学園女子中等部の中に有る学園長室に居る。

 ネギ君の煩い保護者で有るネカネさんとガールフレンドだろうアーニャちゃんに送るビデオの編集中だ。

 日本は時代はCDとかDVDなのだが、イギリスはどうなんだろうか?

 麻帆良学園の科学は進みすぎてるから、もしかしたらウェールズはビデオが普通かも知れないし……

 念の為に、ビデオを編集したらCDにも焼いて渡そう。

 何を送るかと言えば、麻帆良学園男子中等部でのネギ・スプリングフィールドの盗撮……いや、修行の記録だ。

 彼女達は、ネギ君の真綿で首を絞める様な魔法関係者の態度を知っている。

 

 英雄になるんだ!なるべきなんだ!父親の様になるんだ!その為に生まれたんだ!

 

 彼女達は自分達も思っているけど、それを苦々しく思う良心も持っている。

 だから日本では、こんなに普通の少年の様に過ごしてましたよ。同性の同世代の友達も沢山出来ましたよ。

 人間として最低限必要なコミュニケーションを学びましたよ。

 そう訴える意味で……このビデオを編集してます。

 

 茶々丸さんが……

 

 カタカタと軽快なタッチでパソコンを操作し、瀬流彦先生と弐集院先生が撮り貯めた画像を編集しています。

 その場に有ったコメントや音楽を流したりして、一寸したネギ君の麻帆良成長記の完成です。

 

 Vシネマ並みのクォリティーが有ります。

 

「流石は学園長です。

これを見れば、我々はネギ・スプリングフィールドに人並みの幸せと人間関係の構築方法を教えたダケに見えます。

実際はショタコンの団体に襲われ、タカミチと言う規格外の変態に襲われた。

しかも自身はラッキースケベ&女性恐怖症と言う免罪符で女性を襲う。なんて哀れで滑稽な英雄の息子なのでしょう」

 

 無表情で毒を吐く茶々丸さんには、中々慣れません。

 

 ラベルをテプラで作り、簡単な紹介文を添えて完成した「ネギ・スプリングフィールド君の麻帆良学園成長記」をそっと僕に渡してくれた。

 

 ああ、今日の茶々丸さんは巫女服です。エヴァもチャチャゼロも巫女服。多分、天ヶ崎さんへの当て付けなんだろうけど……

 

「茶々丸……ご苦労様じゃった。しかし、もう少しオブラートに包んでくれんか?表現が痛々しいぞ」

 

 ビデオが完成し、CDの作成に入った茶々丸さんにお願いする。確かにイギリスに無事凱旋しても、何をしていたのか? 

 そう聞かれるとヤバいし、ネギ君も向こうで暴走するやもしれん。いや、するだろう……

 しかし、暴走癖は従来からだ!トラウマの原因なんて、管理時間外の出来事だ!

 僕らは、ちゃんと修行で必要な事は全てなし終えたんだ!

 

 だから、コレが証拠ですよ。的な意味でのビデオ報告書です。少しは役に立ってくれるだろう……

 

 何せ、ネカネさんアーニャちゃんはネギ君を溺愛し甘やかしている。

 ラッキースケベのセクハラを度々受けても、傍を離れないなんて大した愛情だ!

 それ所か、セキハラを発動すると妖しく迫ってくるらしい……余程、ネギ君を愛しているのだろう。

 

「ほんに学園長はんは、お人が悪いどすな。

あんな変態小僧に育て上げた責任を回避する為に、小細工をなさるなんて……最低どすな」

 

 ほほほほ、と口に手を添えて高笑いする天ヶ崎さんは……彼女は、あの改造巫女服を着てある。

 中々の巨乳で有る彼女が仰け反って高笑いすると、際どく開いた胸元には目が逝って……いや行ってしまいます。

 

 だって男の子だもん……

 

「今のネギ君に育てたのは儂じゃないぞ。それに彼を襲ったショタコンの群れも関係無いぞ。

あくまでも麻帆良学園とは無関係じゃよ。しかもウェールズ魔法学校からの依頼は、ネギ君を教師として育てる事。

完璧な教師振りじゃろ?何の問題も無い筈じゃ」

 

 もはや残り二週間を切った状態では、ネギ君にしてやれる事は少ない。精々が、残りの学園生活を楽しく過ごして貰えるかだ。

 

「ふん!信じられまへんな。うちに、裏の仕事着を着させて侍らす変態は!」

 

 仕事もせずに、女性誌ばかり読んでる貴女に言われたくはありません!

 

「フザケンナ!貴重な儂の、お宝映像記録を消しおって!ああ?貴様がハッキングした記録は残ってるんだぞ。

それを破廉恥な巫女服を着ただけで許しているのじゃ!

嫌ならマトモな巫女服を着て「春夏秋冬巫女祭り」の様な、素晴らしい巫女の方々の表情が貴様に出来るのか?

無理じゃろう?あの一瞬の切なさを捉えた、素晴らしい表情は!破廉恥な天ヶ崎殿では不可能じゃよ!

何故ならば、神聖な巫女服を破廉恥に改造するなど、神が許しても儂は許さないからじゃ!だから、せめて目の保養位させんか」

 

 昨日、エヴァの報告の後に大切なデータを調べたら……見事に消されてました。

 だから茶々丸に証拠を示して貰い、天ヶ崎さんに詰め寄りました。

 

「何故、素晴らしき巫女達の記録映像を消したのか?普通なら貴様の存在を消しても釣り合わない大罪だぞ!どうしてくれるんだ?」

 

 最初は白を切ってたけど、巫女達の素晴らしさを訴え改造巫女服を止めるように言ったら

 

「ふざけるな変態!あんな破廉恥な画像なんて消えて無くなれば良いんどす。それに私の巫女服にもファンが……」と、自爆しました。

 

 やはり天ヶ崎さんは能力が有るのに、性格で損をするお間抜けタイプだった!

 

「消えてしまったデータは甦らない……ならば新しい巫女画像で補填するか、貴女の命で購うか……どちらが良いのじゃ?」

 

 そう脅したら、渋々改造巫女服を着てくれた。何だかんだ言っても、ちゃんと改造巫女服を持ち歩いてる天ヶ崎さんが少し好きになれそうです。

 因みに「春夏秋冬巫女祭り」の画像データは、当然バックアップは複数とっています。

 コレクターとして当たり前の行動でしょう。天ヶ崎さんが消したのは、観賞用の一部改竄し際どい物は省いた物……

 だけど彼女の行動を制限する為に、やっちまいました!

 

 わが学園長室は、美女・美少女・美幼女が巫女服を着て侍ってくれるパラダイスになりました!

 

 

 

 巫女服について、天ヶ崎さんと良く話し合える事が出来た。彼女の改造巫女服も、まぁ見慣れれば味わいが有るのかもしれない。

 

 変化球的な意味でだが……

 

 渋々と仕事を始めた彼女と、素晴らしき着こなしの茶々丸&エヴァを見る。

 この素晴らしき空間を守る為に、詠春さんは関西呪術協会所属の巫女さん達を侍らせたのか……今、彼の気持ちを理解した。

 成る程、あの魅力にあがらうのは難しいだろう。

 カリカリと静寂に包まれた学園長室で至福の時間を味わう……ああ、パラダイス……だが、僕の至福の時間もドアをノックする音で終わりを告げた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「失礼します」

 

 そう言って学園長室に入ってきた刀子先生は、何故か固まっている。メガネも少しずり落ちている様な……

 彼女はキリリとしたビジネススーツを着込み、手には何故か刀袋?アレって日本刀だよね?

 

 彼女もキチ○イに刃物なのか……

 

 モフモフ刹那ちゃんも常に刀袋持ってるし、もう少し周りを気にして下さい。

 

「葛葉先生?どうしたんじゃ、固まって……今日呼んだのは、聞いておるかの?」

 

 授業の空き時間に来てくれって言ったけど、来た早々に固まられても……

 

「葛葉先生?」

 

「学園長!何ですか?この巫女服を着た彼女達は?」

 

 再起動したら叱られた。

 

「いや、仕事着じゃが?葛葉先生も、京都神鳴流の一員じゃろ?普通に巫女服を着ていたはずじゃが、何か問題でも?」

 

 葛葉先生の巫女服姿か……現代の巫女さんの適齢期にはギリギリアウトだけど、葛葉先生の巫女服姿を見てみたいな。

 

 隣で天ヶ崎さんが「コイツは西洋魔法使いと駆け落ちした裏切り者やないか?」とか呟いている。

 

 彼女の情報収集能力か記憶力は中々なんだろう……まぁ葛葉先生は、その筋では有名らしいけど。

 

「いえ、確かに京都神鳴流に所属している者は男女共に袴姿ですが……それを学園長室で着せる事に意味は……」

 

 別に悪い事はしていないから、言葉も最後は萎んで行くよね。でも刀袋を握る手には、力が入ってます?

 

「それよりも葛葉先生。日本には銃刀法違反と言う言葉があっての。

いくら麻帆良学園の中とは言え、日本刀を持ち歩くのは問題が有るぞ。刹那君もそうだが、少しは自重せんか」

 

「こっこれは……高畑先生対策です!あの変態は、今度何か変な事をしたら……チョンギリます」

 

 ナニを?ナニをチョンギるの?

 

「その……なんじゃ?彼は今、海外に出張中じゃし落ち着いてな」

 

 明らかに殺る気満々な表情だ!

 

「それは、それとして……葛葉先生。先ずは落ち着いて座りたまえ。茶々丸さん、お茶を頼むぞ」

 

 彼女にソファーに座る様に勧める。失礼します、と座る彼女の前に座り茶々丸さんの淹れてくれる日本茶を待つ……

 

「粗茶ですが、どうぞ……」

 

 粗茶と言えども、センサーで温度管理して淹れたお茶は最良の状態で出してくれる。

 和解してなかった一寸前は、ペットボトルのお茶を出されたからなー。一口、お茶を啜ってから話し出す。

 

「葛葉先生。儂らは……儂と木乃香、それに刹那君やエヴァに茶々丸。勿論チャチャゼロもじゃが、来月には関西に戻る。

関東魔法協会の会長の座を辞するのは知っての通りじゃが……葛葉先生はどうするのじゃ?

出来れば一緒に関西に戻って欲しいのじゃ」

 

 貴女を連れて帰れば、京都神鳴流は味方に引き込める。最悪でも中立だ。

 

「なっ?やはり本気なのですね。しかし……私は、関西を裏切る様に此方に来た女。今更戻るなんて……」

 

 彼女は手に持った湯呑みに視線を落とす。落ち込んでいるみたいだ……

 

「葛葉先生にも都合が有るじゃろ。しかし儂が関西に行けば、この麻帆良学園も変わるじゃろう。

後任は、本国から来るのは確実じゃ。葛葉先生の立場は微妙になるじゃろう。

しかし、儂らと一緒に戻るならば関西の連中は受け入れてくれるぞ。その為に、先日関西に話をつけにいったのじゃ。

それと……青山鶴子女史からも、君の事を頼まれておる。どうじゃ、葛葉先生?一緒に関西に戻ってくれぬか……」

 

 長い説明を一気に話して、彼女の目を見る。端から見ても悩み捲ってるのが分かる。

 足を組み直したり、お茶を飲んだり……だけど葛葉先生が話し出すまでは、じっと様子を見る。

 葛葉先生が関東に残る事は、彼女にとってマイナスしか無い。

 シスターシャクティとは仲良くやっているみたいだが、別に関西に戻っても友誼は壊れないだろう。

 実際に、葛葉先生と青山鶴子は友人関係を続けているし……

 

「わっ私は……関西には戻れません。駆け落ち同然に、裏切る様に関東に来たんです。今更、どの面下げて戻れるのですか?」

 

 正論だ……考えに考えたであろう回答は、大人の常識から言ってもその通りだろう。

 

「じゃか……葛葉先生が関東に残れば、辛い事も多くなるじゃろう。

立場的にも微妙じゃし、後ろ盾も無い。それに一緒に関西に戻るならば……

近衛一族の総力を持って、好条件の再婚相手を探し出す用意が有るのじゃ。

具体的には、紹介出来る見合い相手がダース単位で居るのじゃが。どうかのう?」

 

 近衛一族でも、適齢期の独身男性は沢山居る。葛葉先生は刃物キチ○イだが、それを打ち消す美人さんでもある。

 元々裏家業の近衛一族だし、京都神鳴流の青山鶴子との繋ぎの意味でも彼女を嫁に望む者は居る。

 

「儂の一族じゃから身元はバッチリじゃ!しかも裏家業に理解も有るし金も持っている。

例えば、こやつ等はどうじゃ?年下じゃが、儂の経営する関連企業で……」

 

 用意していた見合い写真を並べて行く。気の無い振りをしているが、視線は写真に釘付けだ!

 大分、揺らいで来たな。もう一息、仕方無いじゃないと言う理由を用意してあるんだよ。

 

「葛葉先生……それに刹那君の事も有るのじゃ。彼女は、木乃香の為に一緒に関西に戻る事を了承してくれた……

でも1人では辛いじゃろう?だから彼女の為にも一緒に戻ってはくれぬか?

勿論、向こうでの立場は儂が保証するし悪くはしない……どうじゃ?」

 

 刹那君の為……この大義名分ならどうだ?

 

「彼女の為に?」

 

「そうじゃ!刹那君の為にも、この老いぼれの頼みを聞いて欲しいんじゃ」

 

 頭を下げた時に見た葛葉先生は……見合い写真に手を伸ばしていた。

 この前、一般人の彼氏と破局したのを知っているからこその口説き文句だけど、上手く行きそうだ……

 頭を下げたまま新世界の神の様に、ニヤリと笑ってしまった。

 

 

 

 婚期を焦る女性とは、扱いが大変難しいのであろう。

 しかし、このお見合い写真を真剣に見詰める女性は……此方に引き込むのは意外と楽だった。

 葛葉先生は、そろそろ結婚適齢期ギリギリな人なので我が近衛一族の独身男性の写真とプロフィールに食い付いています。

 興味の無さそうな振りをしていますが、写真を選別する仕草。

 コレと思った写真を凝視しつつも、他の写真と見比べたりと……

 まぁ見てくればイケメンを集めたし、お見合いして成功するか・しないかは、関西に戻ってからの話だからね。

 

 「後は若い者同士2人切りで……」そんな使い古されたフレーズが似合う様な感じでしょうか?

 

 まぁ僕には結婚なんて無理な話だから、羨ましいです。

 仮に僕と結婚して良いとか言う若い女性は、完全に財産目当てでしょう……だって見た目は爺さんだもん。

 実年齢に合う女性は、流石に無理でしょ?かと言って、見た目相応な女性は無理だし。だから僕は、結婚は諦めてます……

 

「葛葉先生……写真はお渡しするので、ゆっくり選んで下され。

希望の相手が決まりましたら、関西に戻った後で彼方にて会場のセッティングをしますぞ。

では、葛葉先生からも青山鶴子女史と刹那君へ関西へ共に戻る旨を知らせて下され……」

 

「えっええ……私はどうでも良いのですが……仕方無いですわね。教え子の為ですから……」

 

 口の端が笑うのを懸命に堪え、退出する葛葉先生を見送りながらポツリと零す……

 

「あれだけの美人でも結婚は儘ならぬのか?世の適齢期を迎えた男女は大変じゃな……天ヶ崎殿には、良いお相手は居るのかの?」

 

 突然話を振られた彼女はキョドっている?

 

「う、うちの良い人どすか?いや、まぁ……居ますけど、未だ……いややわ。そんな事を聞くなんてセクハラどすえ、エロジジィ」

 

 ああ、居ないんだな。生暖かい目で、見守りますよ。

 

「なんやねん、その目ぇは?うちにも居ます!それはそれは、立派な旦那様が!ただアンタに言う必要が無いだけどす」

 

「ふん、無様だな」

 

「天ヶ崎さんの体温・心拍数・発汗状態を総合的に判断し、彼女が嘘をついていると断定します」

 

「ケケケケケ!露出狂ジャ男ヲ捕マエルノハ無理カヨ」

 

 エヴァファミリーに一斉にダメ出しされたよ!

 

「ふっふざけないでおくれやす。そんなに言うなら、アンタはどうなんどす?」

 

 真っ赤になってアタフタしてますが、否定はしないんですね?

 

「ふん。吸血鬼の真祖と添い遂げようなんて物好きはいないさ……」

 

 えっ?エヴァさんはSな洋ロリでしょ?もれなく茶々丸も付いて来るんでしょ?幾らでも需要は有るじゃん!

 

「ふん!600年もいかず後家どすか?哀れどすな……」

 

 天ヶ崎さん、何を真っ向から喧嘩売ってるの?

 

「ほう……では死ぬか?今の三対一の戦力比で喧嘩を売るとは、中々見所が有るよ……」

 

「ダーッ!落ち着かんか2人共。

2人共タイプは違うが、どちらも美人なんじゃし本気で恋人を探せば引く手あまたじゃろ?だから落ち着かんか!」

 

 天ヶ崎さんだって、黙っていれば美人だしエヴァはエターナルなロリだ。しかも今は巫女服だし。

 このまま秋葉原で恋人募集って叫べば行列が出来るって!

 

「「ふん!余計なお世話どす(だ)」」

 

 何故、仲裁した僕が叱られるの?だから恋愛絡みの女性は大変なのね……

 

「……すまんの。儂、ネギ君を迎えに行くから。後は頼むぞ」

 

 そう茶々丸に言って、この異様な空間から逃げ出す。さっきまでは巫女パラダイスだったのに、どこで間違えたんだ?

 

「行ってらっしゃいませ」

 

 行儀よく送り出してくれる茶々丸だけが、癒やしです……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 自家用のリムジンに乗ってネギ君の病院に向かう。今日は1人だ。

 お昼前だからか、街中はガランとしている……学園都市だからか。

 大体の住人は学校関係者か生徒だ。今は授業中だから、逆に出歩いているのは限られた連中だろう。

 フカフカの後部座席に埋まり、先程の事を考える。

 

 葛葉先生について……

 

 関西に連れて戻るのは問題無いだろう。その後で、何回かの見合いをセッティングすれば良い。成功するかは、本人次第だ。

 

 天ヶ崎さん……

 

 イマイチ行動が掴めない。しかしパトロンや黒幕は居なさそうだ。ウッカリ属性を持つ人だよね。

 ハッキング中に僕の巫女画像を見て驚いて消しちゃうなんてさ。動揺してたのか、痕跡が残り捲りだったそうだ。

 「基本的に悪人に成り切れてない中途半端」とは、エヴァの評価だ。

 確かに根っこの所が、優しく善人なんだろうね。彼女は監視を続けていれば平気だと思う。

 

 最期に、ネギ・スプリングフィールド……

 

 予測がつかない。この先どうするか?既に見捨てると言うか、工作ビデオは送った。依頼された修行は成功しつつある。

 後は生徒との感動の別れのシーンを撮影し送れば、彼に甘いウェールズの連中は感謝するだろう。

 特にネカネさんやアーニャちゃんは。後は彼のトラウマを何処まで処置出来るか?もう魔法制御迄は見込めない。

 欲張るよりは、ヤバいトラウマ解消一本に絞るべきだろう……僕がネギ君にしてやれる事は、それだけだ。

 

 方向性が纏まった所で病院についた。先ずは受付でネギ君の退院手続きをする。

 医療費を清算してから漸くネギ君の病室へ……エレベーターで八階に上がりナースステーションに顔を出す。

 

「すまんですが、今日退院するネギ君の……ネギ・スプリングフィールド君の迎えに来たのじゃが……」

 

 何だろう?今日は看護士さんが誰も居ないぞ。暫く呼び掛けると、漸く奥から人が……彼は魔法関係者で有り、ネギ君の担当医だけど。

 何故か慌てて此方に……

 

「ああ、近衛さん良かった。今、報告しようと……

ネギ・スプリングフィールド君ですが先程病室を抜け出した所でウチの看護士に見付かり部屋に連れ戻そうとした所で……

何故か暴走し武装解除の魔法をかけまくり何人かの看護士を脱がせました。今は医療行為?による頭部への鈍器の様な物で痛打し取り押さえています。

すみません。女性に会わせない様に配慮していたのですが……」

 

 なっナンダッテー?

 

「それで被害者は?処置はどうしたんじゃ?」

 

 あのセクハラ小僧!何人脱がせば良いんだよ?

 

「幸いな事に脱がされた看護士は魔法関係者です。隔離病棟でしたので、他の連中に見られずショックは受けていません。

元々仕事柄、その程度では動揺しませんがネギ・スプリングフィールドが一般病棟へ走り出したので、近くにあった鈍器の様な物で彼を痛打。

現在、拘束中です」

 

 へなへなと、その場に座り込む……良かった、女性への被害は最小限か。

 しかしネギ君の女性恐怖症は悪化している。もはや手段は選べない……

 

 

 

 ネギ・スプリングフィールド……

 もはや女性にとって厄災でしかないレベルに昇華したラッキースケベ+女性恐怖症のコンボ。

 これは繰上卒業をさせないとヤバいかもしれない。看護士さんのナイスな鈍器攻撃により昏倒しているネギ君を見ながら思う。

 

「もう、無理。実家に帰って下さい……」

 

 記憶消去に抵抗は有るので、ネギ君を昏倒させた看護士さんの件は固く口止めをした。

 何たって一部で噂の英雄の息子様だ!怪我をさせたなんて知れたら?

 

 ガンドルフィーニさんとか、ガンドルフィーニさんとか、騒ぎ出しそうだし……

 本当の意味でネギ君の暴走を止めた英雄の看護士さんに迷惑は掛けられない。

 病院関係者に再度、固く口止めをして病院を去る。勿論、ネギ君を連れてだ。

 近衛一族の黒服護衛に背負われて、取り敢えず自分の宿舎へ送って行く事にした。

 この病院に、もう迷惑は掛けられないから……瀬流彦先生と弐集院先生には連絡を入れてある。

 兎に角、付きっ切りで男性の監視が必要だ。リムジンに乗り込み、隣でスヤスヤと寝入るネギ君を見る。

 後頭部にデッカいタンコブが有るが、仕方無いだろう。

 

 申し訳程度に塗り薬の後が……流石は白衣の天使。こんな無意識セクハラ小僧にも、ちゃんと接してくれているんだ。

 

「むにゃむにゃ……お父さん……」

 

 端から見れば可愛い寝言なんだろう。可哀想だが、来週末に試練達成→生徒達と涙の別れ→そしてイギリスへ!

 

 この三連コンボを決めさせてもらうよ。携帯電話を取り出し、麻帆良学園男子中等部の校長へ連絡する。

 

「ああ、儂じゃ。すまんな、ネギ君の事で苦労をかけて……ネギ君か?過労じゃったよ。

10歳児を他国で1人働かせているんじゃ。疲労も溜まるじゃろ?肉体的にも、精神的にも。

じゃから彼のクラスに来週でネギ君がイギリスへ帰る事になったと伝えて欲しいのじゃ。

勿論、感動的な別れのシーンを演出し、それをスポンサーたる彼の保護者に送る。

それでお終いじゃよ。では、頼んだぞ……」

 

 これで良いだろう。彼は一般人であり、ネギ君は麻帆良学園の有力スポンサーの息子と言ってある。

 だから、早々に厄介者が居なくなるなら万々歳だね。後は、魔法関係者への連絡と僕の心のケアだ!

 

 心のケア……

 

 今夜、木乃香ちゃんを夕食に招待したんだ。それとモフモフの刹那ちゃんも。

 彼女は木乃香ちゃんが一緒だと最初は躊躇した。まだ自身の秘密を受け入れてくれるのかが、不安なんだろう。

 

 しかし、四の五の言ってられない状況だ。

 

「この先、関西に戻ったら木乃香は魔法関係者として自覚させなければならんのじゃ。

刹那君には悪いが、今後はベッタリ警護しなければならないんだぞ!今までの警備体制は忘れて、これからは常に一緒位の覚悟が必要じゃ。

勿論、こちらもサポートするし詠春殿も了承しているぞ」

 

 そう言って納得させた。

 

 彼女は……まだ少し戸惑いを見せていたが、それでも最後は嬉しそうに微笑んでいたよ。

 魔法関係者なら、魔法世界には異形の方々も居るし日本にだって人外の人達は居る。

 一部の連中とは意志の疎通が出来るし、悪い人達じゃない。今までは一般人として木乃香ちゃんを育てる!

 だから烏族とのハーフたる彼女は、本性を知られるのを恐れた。でも今からは大義名分が有るからね。

 大手を振って木乃香ちゃんと一緒に来るだろう。

 そして、そして実の父親と自分の師匠から託された……この巫女服を着て貰うんだ!

 

「やっぱり巫女服って良いよねー!」

 

 思わず奇声を上げてしまうのも仕方無いだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 木乃香ちゃんとモフモフ刹那君が来る。

 日本人的な美少女が家に来てくれるなんて、昔なら考えられなかっただろう……まぁ祖父と仕える組織の長としての関係なんだけどさ。

 今日のメニューは、若い娘さんの好みを考えてイタリアンにして貰いました。

 前の家政婦さんは和食と中華が得意だったけど、新しい彼女は洋食全般を得意としていた。

 

「ギクシャクしている孫娘と、その友人の仲を取り持つ為に夕食に招待したい」

 

 そうお願いしたら「若い娘ですしマナーに五月蠅くないイタリアンが良いでしょう。イタリア料理には自身が有りますから楽しみにしていて下さい!」そう請け負ってくれた。

 

 イタリアンは……コッチに来てから、食べた事がなかったな。前の時は、精々がファミレス位だったし。

 本格的なコース料理を用意するって張り切っていたから、僕も楽しみだ!

 書斎で、食後の撮影会に必要な機材の手入れをしていたら彼女達が来たと報告が有った。

 では、僕の心のケアで有る美少女2人と夕食を楽しもうかな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「おお、待たせたの。今日は木乃香と刹那君の仲直りを兼ねての夕食会じゃ。遠慮はいらんぞ」

 

 食事処はイタリアンの為にテーブル席だ。和食の時は和室と、食べる場所にも爺さんは拘っていた。

 

 流石はブルジョワだ!

 

 今回は四人席用のテーブルを用意し、木乃香ちゃんとモフモフ刹那君が並んで座れる様に配慮。既に座っている彼女達の距離は近い。

 

「お爺ちゃん、いややわ。ウチら仲良しだよ」

 

「こっこのちゃん……近いです。学園長、今日はお招き頂き有難う御座います」

 

 刹那君の腕を抱え込む木乃香ちゃんは、とても嬉しそうだ。

 刹那君は、スキンシップが馴れてないのか挙動不審で赤くなっているが……これはこれで、その……

 

「はい、チーズじゃ!」

 

 最近持ち歩く様になった麻帆良謹製のデジカメを取り出し、パシャりと一枚。うん、良い写り具合だ。

 

「なんなん?お爺ちゃん、カメラの趣味あったん?」

 

「学園長、いきなり写真は恥ずかしいです」

 

 不躾だったけど、そんなに嫌がって無いね。良かった。これなら、あの作戦も……

 

「いや、婿殿から愛娘の成長を写真に収めて送って欲しいと頼まれての。

それと2人の事を話たら、昔、お揃いで着ていた服を仕立て直したので着て欲しいと言ってだぞ。

服は用意して有るから、昔を懐かしんで着てみてはどうじゃ?婿殿も2人の晴れ姿を楽しみにしていたぞ」

 

 ヨシ、自然な感じで詠春さんに全てを押し付けた!反応はどうだ?

 

「せっちゃん、何だろう?楽しみだね」

 

「このちゃん、毎回抱きつくのは……」

 

 食い付いたー!これで心の友の依頼達成かな?

 

 

 

 美少女2人が、隣の部屋で生着替えをしております。

 

「いやや、せっちゃん。そんな所を触っちゃ!うち、くすぐったいやん」

 

「このちゃん、動かないで下さい。これをこうして……あら?」

 

「いややー、脱げてしまったん」

 

 ガールズトーク炸裂中!ああ、僕は正座をして待てば良いのでしょうか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 新しい家政婦さんのイタリア料理は、素晴らしい物でした。

 元々イタリアンなどパスタやピザ、それにティラミス等のデザート位しか知らなかったんだけど……

 コースで出された料理は、どれも素晴らしかった!

 先ずは食前酒だが、ランブルスコと言う銘柄の甘めなワインが出た。

 本来は食欲を増進させる為に薬草の入ったお酒や、発泡ワイン又はビール等が一般的らしい。

 まぁ今回の主賓は女子中学生だから、甘くてアルコール度が低い天然弱発泡性の赤ワインだそうだ。

 

 彼女達も「このちゃん……これお酒?」「せっちゃん、大丈夫や。これ、甘くて飲みやすい」そう言ってグラスを空けてましたし。

 

 ほんのり頬が赤くなっているのは、女子中学生だから当たり前ですね。

 これがエヴァみたいに、見た目幼女の酒豪とかは勘弁して欲しい。ギャップ萌えも良し悪しだ。

 

 次は前菜。

 

 ハムやチーズ・燻製やカルパッチョ等、少量づつ綺麗に盛り付けられている。

 特にチーズは数種類、癖の有るブルーチーズ等は無く割とアッサリした物がチョイスされていた。

 マスカルポーネやモッツァレラやリコッタ等、日本でもお馴染みの物だ。

 お酒が入って緊張が無くなったのか、2人でキャッキャ言いながら食べている。

 

「このちゃん、コレは何でしょうか?」

 

「せっちゃんチーズ苦手なん?じゃウチが食べさせて……」

 

 是非、私めにアーンして欲しいです。正直、会話に入り辛くて寂しい。

 しかし、美少女達が物を食べるのを見ているだけで……こう、何て言うか、幸せ?な感じがしますね。

 

 さて次は主菜だが……

 

 プリモ・ピァットとセコンド・ピァットに分かれているらしい。

 直訳すれば、主菜の一皿目・二皿目と言うらしいのだが……そんなに食べれるのだろうか?

 食を極めたイタリア人らしい、主菜は一種類では無いのだよ!的な事だろうか?

 

 一皿目は、アランチーニと言うイタリア風ライスコロッケが出た。

 イタリアでは米は、小さなパスタと同様に扱ったりデザートにも使用したりするんだよね。

 

 二皿目は、コトレッタ・アッラ・ミラネーゼ……洋風カツレツだろうか?

 

 そして副菜としてサラダが出ました。

 

 日本だと最初の方でサラダを食べるけど、イタリアでは主菜と共にオーダーするそうです。

 そう言えば、主菜の皿の付け合わせにも野菜は無かったね……イタリアの食文化って、本当に奥が深い。

 

 大の大人でも結構食べでがあったのに、向かいに座る少女達は完食していた!

 その細い腰のどの部分に、あれだけの食材が収まるの?全く女体の神秘だ!

 

 次はお待ちかねのデザート!今風ならスィーツ?

 これは女性陣も目が輝いていた!配られたお皿には、数種類の焼き菓子が綺麗に並べられている。

 

 先ずはカンローノ。

 これはシチリア島で一番有名な焼き菓子だ。本来は謝肉祭の時に供される季節料理らしい。

 

 次はアマレッティ。

 これも焼き菓子だが、少しビターな感じがします。語源も「少し苦い」らしいですよ。

 

 最後にスフォリアッテラ。

 パイ生地を重ねて、中にチーズやクリームを挟んでカリカリに焼いた菓子。

 

 それに珈琲が一緒に出た。

 マッタリと珈琲を啜りながら、目の前の百合百合しい2人を見つめる。

 木乃香ちゃんは、麻帆良に来てから余所余所しくなった刹那君との時間を取り戻す様にベッタリだ!

 今のも、真っ赤になっている刹那君の腕に絡みついている……

 

「こっこのちゃん、少し離れて下さい。学園長が見てます」

 

「いや!」

 

 即答です。これで仲良くなってくれれば幸いだから……楽しい時間は過ぎて、最後に食後酒だ!

 

 マラスキーノと言う、度数は比較的弱い果実酒です。

 これはサクランボを原料にしたお酒で、日本ではチェリーブランデーとも言われています。

 木乃香ちゃんも刹那君も堪能してくれたみたいだ。食後酒をチビチビと飲みながら、今日の本題に入る。

 ……でも2人共、大分真っ赤だな。少しお酒を飲ませ過ぎたか?

 

「さて……2人共、食事は楽しんで貰えたかの?」

 

「はい学園長、有難う御座いました」

 

「お爺ちゃん、美味しかったえ」

 

 僕も百合百合しい君達を見れて、ご馳走様です。

 

「そうかそうか……木乃香と刹那君が、ギクシャクしてると聞いてな。

来週には関西に戻る関係で、今後は刹那君には木乃香にベッタリ張り付いて貰わねばならん。今夜の様子を見れば、問題は無いの……」

 

 ベッタリ張り付いて、の件で2人が別々な反応をしたが……どちらも嬉しい反応だから構わないでしょう。

 素直に喜ぶか、テレが入っているかの違いだ。

 

「最後に、婿殿から……詠春殿から、君達への贈り物が有るんじゃよ。隣の部屋に用意してある。

何でも、幼い頃は2人で良く着ていた着物らしいの……それを仕立て直したので、着せて欲しい。

そして写真を何枚か撮って送って欲しいそうじゃ。今から着て貰っても良いかの?」

 

 そう言って麻帆良謹製のデジカメをテーブルに置く。

 

「お父様が?」

 

「長がですか?」

 

 黙って頷くと「良えよ。お父様のお願いなら。せっちゃんも良えよね?」「はい。長の頼みなら……でもお揃いの着物とは?」そう言いながら隣の部屋に行き、扉を閉める時に

 

「お爺ちゃん!覗いちゃ駄目やよ」そう言って、パタンと扉を閉めた。

 

「ヨッシャー!大成功だぜ!」

 

 思わずガッツポーズをする。

 

 隣の部屋からは「なっ?何で巫女服なんですか!」「わぁ久し振りやん。ねぇねぇ、せっちゃん早く着よう。ウチが脱がしたるわ」「だっ駄目です……このちゃん、落ち着いて」

 「嫌よ嫌よも好きの内や!パーッと脱がんかい」最初はノリノリの木乃香ちゃんだったが、途中から攻守が逆転し刹那君が攻めに回ったのでした……

 

「有難う、詠春さん!最高の写真を撮るからね!」

 

 着替え終わった2人が出て来るのが、待ち遠しいです!

 

 

 

 美少女2人が、壁一枚を挟んで生着替え……こんな時、漢ならドカッと構えているべきか?

 それともアクティブに攻めるべきか?いやいや、木乃香ちゃんとは血が繋がっているんだ!

 

 自重しろ!

 

 でも刹那ちゃんがモフモフの羽を出していたら?いやいや、まだ木乃香ちゃんに知られたくない筈だから……

 でも関西に戻って魔法の事を木乃香ちゃんに教えたら、刹那ちゃんの出生の秘密は教えないと。

 守られる者が、守る者の事を知らなすぎるのは大問題だ!だからモフモフは、関西に戻れば?

 

 ウヘヘヘヘ……

 

 などと真剣に考えていたら、扉が開きました!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お爺ちゃん、何故か巫女装束が入ってたんよ。お父様、私を巫女さんにしたいん?」

 

「あの……これって京都神鳴流の装束ですよね?何故、長は私とこのちゃんのサイズを把握してたのでしょうか?」

 

 ほろ酔い美少女キター!

 

 この時の為に用意したデジカメを使用し、連続撮影で舐めるように2人を激写する。

 

「ふむ……流石は婿殿と言う事かのぅ。大切な愛娘と、愛弟子の事は把握してるんじゃろ?

ほら刹那君、表情が固いぞ。

木乃香や……少し刹那君に絡んで緊張を解すのじゃ。うん、素晴らしいぞ!

目線を此方にゆっくりと……そうじゃな。自然な感じで抱き合うのじゃ!

いや、恥ずかしい事じゃないぞ。友愛じゃよ……

ほら、刹那君も婿殿に木乃香と上手くいってる事を知らせる為に。

そうじゃ!

頬と頬を合わせる様に……グレイッ!

素晴らしいぞ2人とも。次は椅子をアイテムに……そうじゃ!

木乃香は、座る刹那君にもたれ掛かる様に……

フォー!

これは2人の友愛が溢れちょるぞ。次は……」

 

 もつれ合う様に座る2人を激写!何て素晴らしいんだ!ようこそ、巫女パラダイスへ。有難う巫女服!

 

「お爺ちゃん、うちら本当にお父様の為になってるん?」

 

「学園長……その、嬉しいのですが恥ずかしいです」

 

 少し拗ね気味の木乃香ちゃんと、逆に頬を染めてモジモジする刹那君!

 

「モチのロンじゃ!この後、電話で確認しても構わんぞい。

さっ続きじゃ!

刹那君、もちっと上目使いで……良いぞ良いぞ。木乃香も拗ねては可愛い顔が台無しじゃぞ!

もっと刹那君に寄り添う様に……フォーキター萌っ娘巫女姉妹キター!

ふははははー!

詠春さん、見てますかー!貴方の理想が、今ここに!刹那君、木乃香の頬に軽くキスじゃ!

照れるで無い。あっコラ、木乃香!

急に動いては……嗚呼、マウス・トゥー・マウスに!これは、これで……2人とも真っ赤じゃぞ!

 

だが、そ・れ・が・よ・い!仲良き事は、良い事なり」

 

 最後に最高のサプライズが有ったけど、大成功だー!

 かなり百合百合しい展開になってしまったが、当人達のわだかまりも薄れただろう……

 

「木乃香や……今日は刹那君とウチに泊まっていくと良いぞ。

2人で風呂に入り、一緒の部屋で寝れば……もう昔の様に垣根の無い仲良しに戻れるじゃろ?刹那君も良いな」

 

 そう言って部屋を出る。

 これだけスキンシップを重ねれば、刹那君も自身の出生に拘らず木乃香ちゃんと仲良く出来るだろう。

 仲良くなり過ぎた感も有ったけど……早速、この画像データを保管し編集が済んでから詠春さんに送ろう!

 今夜は夜更かしかもしれないな……いそいそとデジカメを持って、書斎に向かう変態1人。

 

 こゆい人達に染められてしまったのだろうか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何だか良く分からない内に、学園長の屋敷に泊まる事になってしまった。このちゃんと一緒に……

 今は寝室に通され、既に敷かれていた布団に座っている。隣では、このちゃんがウンウンと悩んで?

 

「なぁせっちゃん……お爺ちゃん、少し変態じゃなかったん?」

 

「はぁ……かなり変態でしたね。孫娘のこのちゃんと一緒に、私なんてを写しても」

 

 あの迫力に呑まれ、つい言う通りの仕草をしてしまい、最後は……こっこのちゃんと、キス迄しちゃったし。

 

「いややわ!きっキスまで、このちゃんと……せっ責任取らなくちゃ」

 

「落ち着いてな、せっちゃん。キスは恥ずかしかったけど、うち……せっちゃんとなら嫌じゃなかったんよ」

 

 嗚呼、私は性転換を受けなくてはならない!しかし性転換可能な魔法は聞いた事がない。

 年齢詐称薬なら有るのだが……それならお金を稼いで、モロッコで性転換手術を?

 いやいや、ブロー博士は既にお亡くなりになってるそうですし……ならばシンガポール?でも、あの国の医師は荒っぽいと。ならばタイしか!

 

「えぃ!」

 

 突然、どたまに痛みが?

 

「こっこのちゃん?その手に持ってるのハンマー?」

 

「せっちゃん?目がグルグルして、何か妖しいの言葉がだだ漏れだったんよ。お爺ちゃんより変態っぽかったんで心配やった」

 

 学園長より変態?それは、物凄くショックです!

 

「このちゃん、すみません。大丈夫です!ちゃんと責任を取りますから、安心して下さい」

 

「……?なんや分からんけど良いよ。待っていれば良いん?」

 

 嗚呼、このちゃん……ちゃんとタイで男になって来ますから!待っていて下さい。

 

「ええ、待っていて下さい。高校卒業迄には何とかしますから」

 

 最悪は学園長にお願いして、依頼料の前借りを……

 

「ほなお風呂行こう!お爺ちゃんの家の風呂な、露天も有るんよ。そうだ!久し振りに流しっこや!」

 

「なっ流しっこ?分かりました。ご一緒します……」

 

 このちゃんとお風呂!何時以来だろうか?学生寮のお風呂では、警戒の為に近くには居たが流しっこなど……エヘエヘ!

 

 真・刹那覚醒!

 

 何やら妖しい職業にシフトチェンジが始まった。

 近衛木乃香、幼なじみと久し振りに仲良く出来ると喜ぶも相手は自分の婿になろうと突っ走っていた!

 互いの気持ちが交わっていそうで、実は微妙にズレていた。刹那が性転換手術をする迄の猶予は、後三年と少し。

 木乃香は彼女の間違いを正してあげれるのか?

 

 

 

 カタカタとキーボードを打ち、マウスを忙しくクリックする。木乃香ちゃんと刹那君の画像編集だ!

 この内容だと、幼気な美少女の百合百合しい物語になってしまうが構わない。

 詠春さんは刹那の美しさを盗撮という形で残すが、僕には気配を断つとか無理だからモデルを頼むしかない。

 でも彼女達には、今後も友情を確かめる為にも撮影を続けねばなるまい。これは肉親としての義務だ!

 

 あれ?何故か僕も変態道を爆進してない?

 

 あれあれ?僕って、こんなキャラだっけ?

 

 悩んでも仕方ないから、編集済みのデータを詠春さんに送信する。エンターキーをポンと押すと、直ぐに送信完了の表示が!

 初めての撮影だから、イマイチかも知れない。だから詠春さんの評価が楽しみだなぁ……きっと有意義な意見交換が出来る筈だ!

 などと夢を膨らませていたら、机の上の携帯がピロピロと軽快な電子音を奏でる。

 

 やれやれ、また魔法関係者が何かしたのか?かったるく携帯電話の通話ボタンを押す……

 

「もしもし……儂じゃ」

 

「義父さん!木乃香が、木乃香が!どどど、どう言う状況なのですか?」

 

 凄いな、詠春さん。まだ送信してから、三分位だよ。

 

「どうじゃ?儂の作品は?中々良いじゃろ。木乃香と刹那君の、甘酸っぱい友情が溢れて……」

 

「けしからんですぞ!妖しい迄の幼気な美少女の痴態。これは近衛一族の家宝として……いやいやいや。門外不出にしなければ!」

 

 詠春さん、気に入ってくれたんだ。良かった、頑張った甲斐があったね。

 

「気に入って貰えたかの?実は、まだ送ってないハプニング集があってな」

 

 木乃香ちゃんと刹那君のキスシーンですよ!バッチリ撮影してますから!

 

「ななな、何と?義父さん、それは何時出来上がるのですか?」

 

 時計をチラリと見る。もう23時を過ぎている、か……もうひと頑張りすれば、日付が変わる前には送れるかな?

 

「そうじゃな……日付が変わる頃には送れるじゃろ。

凄いぞ、ハプニング集は?何と、木乃香りと刹那君がキッスを……

詠春殿?

どうしたんじゃ?何か凄い音がしたぞ?おい、大丈夫か?」

 

 何故か電話越しに凄い音が?

 

「義父さん!」

 

「なっ何じゃ?」

 

「ハリーハリーハリー!私はパソコンの前から動きませんから、早くその画像を送って下さい!」

 

 そんなに気に入ってくれたんだ!ヨシ、頑張るぞ!

 

「まかせるんじゃ、詠春殿!速攻編集し送るぞ。ではな!」

 

 電話を切ってパソコンに向かう……気が付けば、先程まで騒がしかった客間が静かになったな。

 流石に女子中学生には、この時間は遅いのだろう。

 既に寝たんだね……お風呂場からもキャーキャー騒がしかったが、2人共楽しんでいるのだろう。

 流石に入浴シーンや寝顔は撮影出来ない。最低限のモラルとして、許可がなければ撮影しない。

 彼女達は、まだ女子中学生なんだからね。

 

 エヴァ?彼女は600歳だし問題無いでしょ?

 

 天ヶ崎さん?元々露出が趣味なら撮影されれば、逆に喜ぶんじゃないの?

 

 そう思うと、詠春さんが関西で嫌われていたのは盗撮癖が有るからかな?

 仮でも組織の長が、配下の女性達を侍らせ盗撮し捲るなんて……詠春さん、自業自得だよ?

 

 僕は……幾ら趣味でも自重しよう。

 

 そして妖しい雰囲気のキスシーンを編集し、詠春さんに送信した……

 送信後、暫くは詠春さんから連絡が有ると思い待っていたが、流石に0時過ぎでは連絡は自重したのだろう。

 僕は今日の、いやもう既に昨日だが……撮影したデータを複数コピーし保存した。

 一つはCDにコピーして、更に紙に印刷して金庫にしまう。ハッキングもネットに繋げなければ無理だろう。

 

 完璧だぜ!

 

 こうした処理を終えて、やっと布団に入る。今夜は良い夢が見られそうだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お早う御座います、義父さん」

 

「お久し振りですね、近衛老」

 

 早朝、我が屋敷に関西から来客が有りました。詠春さんと、記憶では随分前に会った事が有ったかもしれない……青山鶴子女史が居ました。

 2人共、京都神鳴流の正装?たる袴姿で。

 

「……何故じゃ?」

 

 朝も5時過ぎで、まだ街は寝静まっている。季節的にも日の出は6時過ぎだから、暗い!それを京都から公共交通機関も動いてないのに?

 

「婿殿?何故、今時期に関東魔法協会のお膝元。麻帆良学園に?不味いじゃろ?

それに京都神鳴流の青山鶴子が同伴とは……再婚の許可は出来ない……いや、すまぬな。老人の戯言じゃよ。

まぁ上がってくだされ」冗談を言ったら、トンでもないプレッシャーが……

 

「ほな、お邪魔します」

 

「義父さん、上がらせて貰います」

 

 意味不明な2人を客間に案内する。家政婦さんは起きていたので、お茶を出して貰い3人になった所で、来訪の意味を……

 鶴子さん、やはり妖艶な魅力が有るな。流石に袴姿も着慣れているし、キリリとした感じが良いな……

 

「それで?関西の重要人物がアポ無しの訪問は何故じゃ?」

 

 しかも早朝ですよ?お互い良い大人なんですから、常識を弁えましょう。

 

「青山殿は、私があの写真を見せてしまったので……」

 

「近衛老……昨晩はお楽しみどすな?」

 

 アレ?この2人って繋がってたの?

 

「婿殿?確かにお主も京都神鳴流の剣士……青山殿との繋がりは有るのだろう。しかし、あの写真を見せる程の仲だったのか?」

 

 あれ?目が泳いでいるよ……

 

「先日、京都神鳴流に訪問し青山殿の袴姿を盗撮……いえ、撮影した事がバレてまして……

ははは、刹那君に送った袴は青山殿が用意してくれたのですよ」

 

「そうどす。刹那はんの事は気に病んでたました。

だから彼女達が仲良くする為に、袴を用意していた詠春はんを手伝いましたが……結果がアレどすか?」

 

 あーキスシーン見ちゃった?

 

「ふぉ?アレは仲良くなり過ぎたハプニングじゃよ。本人達も気にしておらんし……

偶然に、接触しただけじゃ!ノーカンじゃよ」

 

 鶴子さんて厳格なのかな?ならばマズかったか……

 詠春さんも詠春さんだよ。何で正直に見せるかな。

 

「義父さん。今回の訪問、関東の魔法関係者にはバレてません。

我々の隠密能力をもってして全力で侵入しましたから……直ぐに帰りますし、安心して下さい。

エヴァにはバレてしまいましたが、説得しました。後ほど連絡が入るでしょう」

 

 コレって2人で僕を説教パターン?

 

 

 

 早朝に来訪と言う、社会人としてどうなの?仮にも組織のトップに居る連中なのに、非常識で良いの?

 そう思ってしまうのも仕方ないだろう。

 しかも隠密盗撮特化型な詠春さんと、歴代神鳴流最強と言われる青山鶴子さん……この2人が本気で麻帆良に侵入してきたよ。

 バレてしまえば、関西が関東に侵攻したって言われても仕方ないんだよ!

 

 でも……エヴァ一味を押さえている今ならば、麻帆良制圧は可能だろう。

 

 問題は侵攻後に、この地を守り切れない事。変態タカミチの行動の予測不可能さ。

 それとタイミング的に、ネギ君が滞在中な事。この事を考えても、穏便に済ませたい。

 しかし呑気に出されたお茶を飲む詠春さんと、優雅にお茶を嗜む鶴子さん……先ずは来訪の意味を確かめたいんだけど。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「義父さん、何て羨ましい妬ましい作品を作り上げたのですか?これは、ヤバいですよ木乃香が!」

 

「近衛老?刹那はんの扱い……ほんまに貴方に任せても平気どすか?」

 

 ああ……何となく分かった。詠春さんは、ただの暴走で麻帆良に強襲。鶴子さんは、刹那ちゃんが心配で来たのか。

 

「お二方も知っておろう。大切な孫娘の木乃香は、ナギを凌ぐ魔力を保有しておる。

対する刹那君は、その木乃香を守る為に麻帆良学園へ、半ば関西を裏切る様に来てしまった……」

 

 2人の様子を確認すれば、頷いて先を促す仕草をしている。

 

「彼女達も、幼少の頃から仲が良くての。

しかし此方に来るに当たり、儂らは木乃香が魔法を知らない普通の生活を送る事を望んだ。

そして刹那君に護衛を頼んだのじゃ。知っての通り、刹那君は烏族とのハーフ。

つまり魔法関係者じゃ……だから彼女は、木乃香から距離をおいて守る事とした。

それには、自身の秘密がバレて拒絶されるのを恐れる気持ちも大きかったのじゃろう。

しかし……儂らは、その気持ちを利用したのじゃ。彼女が辛い立場になるのを承知で、な」

 

 詠春さんは苦々しい顔をして、鶴子さんは笑っている……目がね、笑ってないけど。

 

「しかし木乃香の立場が、そんな事で良くなる訳もなかったのじゃよ。

守られる者が、その危険さも理由も知らず……守る者が近くに居ない。これでは幾ら平和ボケした日本でも危険じゃ。

だから儂らは関東に見切りを付けて、関西に戻るのじゃよ。これからも刹那君には、木乃香を守って欲しい。

それも近くでじゃ!

しかし、一旦距離を置く事に慣れてしまった刹那君には……中々、木乃香と昔の様に接する事は出来なんだ。

自然と壁が出来てしまったのじゃな……」

 

 ここで、一旦話を切る。

 

儂でなく儂らと言ったのは、責任の所在の分散化です。被害は詠春さんにも均等に受けて貰わねば……

 

「だから一気に仲良くさせる為の百合百合しい行為を強要させた。流石は義父さん!そこに痺れる憧れるー!」

 

 詠春さん、フォローになってません!鶴子さんの笑顔も変わりません!

 

「違うぞ!しかし、真面目と言うか頭の固い刹那君は一度作ってしまった壁を粉々に砕く必要が有ったのも事実。

現に、あの後は仲良く風呂に一緒に入り一緒の部屋で寝たんじゃよ……アレ?ヤバいかの?」

 

 何か男女なら危険な不純異性交遊まっしぐらな展開か?

 

「ふふふふふ……近衛老?つまり刹那はんと木乃香はんの仲を取り持つ為に、あの様な行為に及んだ、と?」

 

 ああ、プレッシャーが収まらないよ……喉が、喉がカラカラだ。

 

「そうじゃよ……彼女達は、後で様子を見るがよい。

もうすっかり昔の雰囲気を取り戻しておる。このちゃん、せっちゃんと呼び合っていた頃にの……」

 

 お願いだから僕の為に、百合百合しくない様に仲良くなっていて下さい。

 

「流石は義父さんだ!そんな考えがあったなんて」

 

 ナイスフォローだよ、詠春さん!

 

「勿論じゃ!彼女達には幸せになって欲しいのじゃよ。大人の都合で振り回してしまったが、これからは昔の様にの……

それに魔法の事を自分の置かれた立場を理解すれば、刹那君のコンプレックスを拭う事も可能じゃろ?

儂はもう長くない……出来るだけの事をして上げたいのじゃ」

 

 そう言って鶴子さんを見れば、漸くプレッシャーを収めてくれました……はぁ辛かったです。

 美人の笑顔が、こんなにも怖いなんて……

 ここで携帯が鳴り、表示されたディスプレイを見れば魔法関係者の1人だった……

 目線を2人に向けると、鶴子さんが頷いたので通話ボタンを押す。

 

「儂じゃ……」

 

「学園長!先ほど麻帆良内に結界を破って侵入した者が居ます。痕跡を追っていますが、特定出来ません。気を付けて下さい」

 

 気を付けるも何も、当の侵入者は目の前に居ますよ。

 

「分かった。引き続き探索を頼むぞ。こちらも警戒しておく」

 

 そう言うって電話を切る……流石に結界に触れた事は隠しきれないか。

 でも、そこからウチに来る迄の道筋は追えない様にしているのは流石だ。

 

「さて、帰りは気を付けて下され。まさかお主らが捕まるとも思えぬが、の……」

 

 この2人なら、強行突破も難しくないだろう。しかし技を使うと京都神鳴流とバレてしまうので、見付からない様にお願いしますよ、本当に……

 

「近衛老……刀子はんから連絡が有ったんや。何でも見合いをセッティングしてくれたらしいどすな……近衛一族の者を」

 

「ふぉ?身元が確かで、裏の事情に理解有る男など儂の関係者が最適じゃろ?

儂はの……木乃香と刹那君の事を大切に思っている。次代を担う彼女達を……ならば、最善の人事じゃろ?

刹那君も葛葉先生と一緒なら心強い筈じゃ。彼女達の事は、鶴子殿も頼みますぞ。

京都神鳴流から破門や裏切り者扱いはしないで欲しいのじゃ……」

 

 もう、モフモフ娘もキチガイに刃物美人も纏めて面倒見ますって!毒を食らわば皿までじゃ!

 

「ふふふふ……良いどすな。近衛老の企みに乗りまひょ。刀子はんと刹那はんの事、頼みましたで。

京都神鳴流は、関東魔法協会とは距離を置きますよって、安心しておくれやす……では詠春はん、帰りますどぇ」

 

 そう言って、スッと立ち上がった。

 

「義父さん、では帰ります。此方の魔法関係者には、接触しない様に戻りますからご安心を……

では、また木乃香と刹那君の写真をお願いします」

 

 そう言って、気が付けば既に姿形が無くなっている……さて、魔法先生方は大混乱だろうな。

 身元不明な者が、侵入して脱出した事は結界の構成上分かるだろう。

 

 そうだ!エヴァと口裏を合わせないとマズいね……

 

 携帯を取り出し、彼女に連絡を入れよう!口止めしないと、関西の最高戦力が麻帆良に武力侵攻してきた!と、言われても仕方ないのですから……

 

 

 

 謎の勢力が麻帆良の結界を破り侵入し、一時間後に又結界を破り撤収して行った……

 今の結界はエヴァの膨大な魔力を転用した訳じゃなく、彼女を抑えつけていた結界の電力を元にした結界に変更してある。

 結界の弱体化は危険だが、どの道エヴァは麻帆良学園から去るのだから……

 最悪、敵対するかも知れない勢力の守りを強化する意味も無いから放置だ。

 麻帆良に侵入した当の本人達は悠々と帰って行ったので、エヴァには理由を説明しなければならない。

 

 電話では、盗聴などの可能性も有るから「先程の侵入者の件で、急ぎ話が有る」と伝えた。

 

 魔法関係者との会議の前に、対策を練って口裏を合わせておこう。

 

 これなら彼ら……詠春さんと鶴子さんの事はバレない。だから、魔法関係者の慌て振りは凄い事になっているだろう。

 正体不明の何かの出入りを許してしまったんだ。今日は緊急で対策会議をしないと疑われる。

 学園長は何か知っているんじゃないか?学園長は何か隠している?彼らも無能ではないし、その考えに行き着くのは容易かも知れない。

 

 何せ、ネギ・スプリングフィールドという爆弾を抱えているのだ……周りが、彼に危険が有るのでは?

 

 なんて騒ぎ出す……だろうな。

 

 この辺を良く打ち合わせておかないとマズい。暫し考えに耽っていたら、エヴァが影を使ったゲートで執務室に現れる。

 全くアクティブでアグレッシブなロリめ……しかし頼りになるロリでも有るからね!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「それで?奴らは何が目的で、麻帆良に侵入したんだ?」

 

 ソファーにふんぞり返り、尊大な態度で聞くエヴァさんは……需要の多いSなロリだ!

 

「ふむ……詠春殿は、只の親バカじゃな。木乃香と刹那君の仲良くし過ぎた写真に興奮して……本能的に暴走したんじゃろう」

 

 コレじゃよ、と言って昨晩撮った百合百合しい2人の写真を見せる。思わず写真を見て呻く洋ロリ……

 

「うっ!これは……ジジィの孫娘はヤバい系か?まさかの女の園が、危険な遊戯に手を出す切欠に?

まぁ人それぞれだからな、性癖などは。案外、刹那は男装が似合いそうだな。お似合いか……

祝福しようではないか!女×女のカップル誕生に。だが、青山の化け物は何故来たんだ?」

 

 全く失礼な!木乃香ちゃんと刹那君は健全な関係だぞ!ただ一寸、刹那君が暴走気味な気も……

 

「青山殿は刀子君の事が心配だったんじゃろ?

彼女の見合い相手に、儂の一族の若者を見繕って写真を見せたら……偉い食い付いてな。早速、青山殿に報告したんじゃろうな。

だから心配した……このまま近衛一族に引き込んで、何をさせるのかを確認しに、の」

 

 あのプレッシャーは辛かった……今でも良く耐えたって自分を誉めたい気持ちで一杯です。

 しかし端から見れば、女心を利用したと思われても仕方ないからね。

 鶴子さんの心配も最もだ!男を餌に親友が誑かされていると思ったんだろう。

 

「ああ……何でも一般人の恋人に振られたらしいな。しかし直ぐに新しい男に食い付くとは……

飢えていたんだな、ヤレヤレ。で?本音は、あの刃物キチガイを取り込みたいのか?」

 

 刀子さん……貴女への周りの認識は、刃物キチガイですよ!少しは考えないと駄目なんじゃ?

 

「まぁ刹那君の為じゃな……同じ京都神鳴流の剣士じゃし、立場も互いに裏切り者扱い。

じゃから刹那君の為に手元に呼ぶのじゃよ。木乃香の護衛としても有能じゃろ?」

 

 能力は上位だし、女性の護衛に女性をあてるのは色々と都合が良い。刹那君も良くやってくれるけど、未成年だから。

 成人女性だと色々と有利な面も多いからね。

 

「それを納得して帰ったと?あの化け物にしては、甘くないか?」

 

 武力と知力は別物だと思うけど?でも日本最大の武装派組織?を束ねているのだ。有能なのは間違い無いか……

 

「メリット、デメリットを考えての納得じゃな……

しかし関東魔法協会への協力を控える事や、刹那君と刀子君の京都神鳴流での立場に付いて助力してくれるそうじゃ……

京都神鳴流を抑えられるのはデカい。最悪中立でもな」

 

 あんな刃物キチガイの集団を……ああ、僕も彼らをそう思っていたのか。考え直さないと駄目だね……

 でも手近な見本が刀子君と刹那君では、ねえ?色々と彼女達の報告は聞いているし……口よりも太刀で会話するんだもん、あの2人。

 

「なる程な。だがジジィ、何故あの2人が一緒に来たのだ?

今の話だと個別の理由で確認に来たんだろ?幾ら詠春が、神鳴流の剣士でも変だぞ?」

 

 エヴァって、結構鋭いよな。確かに、あの2人が共闘する意味が分からないよね、普通は……

 

「それは……詠春殿が鶴子殿に頭が上がらない。彼女に此方の情報を教えたら、その後に一緒に行動したんじゃな……」

 

 ポカンとした顔も、中々可愛いな。あっ再起動した……

 

「…………?尻に敷かれているのか?」

 

 そっちに考えが向かったのか?僕も最初、冗談でそう言ったんだよね。

 凄い殺気を貰って、鶴子さんは色恋沙汰の戯言は言っちゃ駄目だと理解したんだっけ。

 

「盗撮の件がな……バレたんじゃろう」

 

 あっ今度は蔑む様なSの目つきに。

 

「……なぁジジィ?」

 

 ソファーに対面で座りながら、足を組み替える高等チララズムテクニックを披露するエヴァ!残念ながら、僕には幼女趣味は無いから不発だ。

 

「なんじゃ?」

 

 酷く冷静に聞き返す。

 

「近衛一族は変態ばかりなのか?」

 

 ふん!って吐き捨てる様に言われました!まさかエヴァは僕を調教するつもりか?いやしているのか?

 

「普通じゃろ?ただ少し趣味に対する手段も方法も、色々持っているから問題も有るんじゃよ」

 

 あっ!ソファーからずり落ちたぞ。捲れ上がったスカートから、色違いの何かが見えたが……そこは大人の対応でスルーだ!

 

「エヴァよ……兎に角、エヴァが結界に侵入した痕跡を捉えて現地に向かったが、既に現場には誰も居なかった。

付近を捜索するも、別の場所から結界を抜けるのを知覚したが追跡は無理じゃった。そして今、儂に報告に来た……で、よいな?」

 

 捏造だが、本当の事を言えば西と東で戦争になるかも知れないからね。

 

 ニヤリと笑いながら「随分と沢山の貸しが出来たが?どう返してくれるのか楽しみだな」ソファーでふんぞり返る洋ロリが、何を要求してくるか不安で一杯です。

 

 

 

 ネギ・スプリングフィールド……

 

 魔法世界で知らぬ者が居ない程、有名な両親を持つ才能溢れてる子供。しかし、この世の神は彼を祝福しなかった。

 才能は有れども、環境が最悪だったのだ。それに神から与えられた要らないギフトも厄介だし……

 

「ラッキースケベ!」

 

 伝説級のレアスキルも、足されたトラウマの女性恐怖症で相殺された。いや、相殺どころかオーバーキル状態だ……

 あの後、ネギ君が病院で暴走してからは、彼は完全に女性から隔離させた。

 彼の通う、男子中等部と学生寮を中心に半径二キロに及び女性の立ち入り禁止。

 弐集院先生と瀬流彦先生を常に完全密着させた。しかしネギ君は、その隔離した環境が良かったのか?

 それからは暴走する事も無く、副担任としての職務を全うし今日晴れて魔法使いの試練を達成した!

 

 強引にした!

 

 いや、させた!

 

 今、彼は多くの生徒に見送られている……今日はネギ・スプリングフィールド先生が、イギリスへ帰る日だ。

 クラス全員と打ち解けたんだろう……彼を見送る為に多くの学校関係者が校庭に集まり、今まさに送迎の車に乗り込もうとしている彼と別れを惜しんでいる。

 彼は、ネギ君は多くの問題を抱えていたが、教師としては及第点を与えても良い程に頑張っていた。

 

 才能と努力……方向さえ間違わなければ、彼は正しく英雄になれる素質が有る!

 

「頑張れ!ネギ君。君のコミュニケーション能力は、男性限定で向上したのじゃ!

イギリスでも男友達を沢山作って、女性には近付かないんじゃぞ!」

 

 学校の屋上から、本人には聞こえないだろうエールを贈る!何も対面で別れを惜しむだけが全てでは無い!男の別れとは、ただ密かにエールを贈る。

 

 これも有りだろう。見た目は爺さんだが、ハードボイルドにキメて見る!

 

「学園長……人それを問題先送りないし丸投げと言います」

 

「ケケケケケ?完全ニ他人事ダナ、アノ餓鬼ニアレダケ懐カレテタノニ切リ捨テカヨ」

 

「ジジィ。漸く帰ったな……小僧は、イギリスに帰る前に機内か空港で騒ぎを起こすぞ。ジジィの願いは、直ぐに破綻するだろうな」

 

 エヴァ御一行の厳しい指摘をスルーする。屋上の手摺の部分に4人並んでネギ君を見送る。

 エヴァも茶々丸もチャチャゼロも女性?だからね。

 折角纏まろうとしているんだから、わざわざネギ君のトラウマを刺激する必要も無いのだから……

 

「それに対しては万全な手を打ったぞ。ネギ君はイギリスまでは、完全に女性と隔離して行動出来る手筈じゃ……

後は……全ては、時間と本来の保護者達が解決する問題じゃよ。儂らは、やれる事はやったのじゃ……」

 

 春の日差しを浴びながら、ボンヤリと他人事の様に呟く。僕らの麻帆良学園生活も今日で終わりなんだ……

 僅か数ヶ月にも満たない爺さん憑依生活だが、楽しい老後は此から始まるのだから!

 

「頑張るんじゃぞ、ネギ君!お互い頑張ろう。有難う、そしてサヨウナラ……」

 

 もう会う事もないだろう英雄の息子に、もう一度手を振る。屋上に吹く風は、大層冷たかった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 僕は、漸く一人前の魔法使いになる試練を達成した!

 学園長さんは喜んでくれて、此方の校長に掛け合ってクラスでお別れ会を催してくれました。

 初めて出来た、同性の生徒(友達)さん達。初めて出来た、同僚の先生方。

 

 そして、初めて僕を一個人として接してくれた学園長さん……

 

 学園長さんには、不条理だけど英雄の息子だから皆が優しく接してくれるんだ!

 皆が期待をかけるんだ!皆が僕を利用しようとしているんだ!

 

「だから、もっと周りに気を付けなくては駄目だぞ。ネギ君の未来はネギ君だけの物じゃ!良く考えて行動するのじゃぞ」

 

 最後の別れをわざわざ僕の中等部まで来てくれて、しかもアドバイスまでしてくれて、色々教えてくれた優しい人だ。

 本当のお爺ちゃんの様に接してくれた。今迄で初めての人。

 僕が何度も失敗しても、悪い所を教えてくれてフォローしてくれた。

 僕が、こうして幸せに試練を乗り越え沢山の友達と居られる様にしてくれた人。

 

「ネギ先生!向こうでも頑張れよな」

 

「ネギ先生!メール送れよ、忘れずに。僕達も送るから」

 

「今度また日本に来る事が有れば、麻帆良学園に顔を出せよな!」

 

 暖かいエールを教え子達から貰って、全員と握手をして……寄せ書きやプレゼントを幾つも貰って……

 出来れば、ここに……麻帆良学園で、みんなと暮らしたい。

 

 でも、僕にはお父さんの様な立派な魔法使いになる夢が有るんだ!

 

 別れは凄く寂しいけど、それを振り払い、僕は学園長が用意してくれたバスのタラップに片足を乗せて振り返る。

 皆が笑顔で、僕を送り出してくれていた!

 

「みんな、有難う!僕が一人前になれたのは、みんなのお陰です。本当に有難う!」

 

 そう言って深々と頭を下げた。別れは辛いけど、立派な魔法使いになったら、また日本に来れば良いんだ! 

 だから暫くの別れだけなんだ!そう考えて、もう一度両手を振って別れを惜しんだ。

 

 扉が閉まったので、最後尾の席まで行って、みんなが見えなくなるまで手を振っていた……

 三分もしない間に、みんなは見えなくなったので、そのまま最後尾の座席に座る。

 

 このバスは初めて日本に来た時に、僕が埼京線で痴漢に合ったと話した学園長さんが、わざわざ用意してくれたバスです。

 成田空港まで送ってくれるって!しかもイギリス迄の飛行機も貸切で用意してくれたらしいんだ。

 今も、学園長の一族の方がイギリス迄……向こうで迎えに来てくれるネカネお姉ちゃんやアーニャに引き渡す迄、同行してくれるんだって!

 

 何から何まで有難う、学園長さん。

 

 僕は日本の電車が怖いから、会わすに送って貰えるのは嬉しい!学園長さんには、お礼がし足りない。

 今度、何か僕に出来る事が有るか聞いてみよう!

 

 ネギ・スプリングフィールドを乗せた貸切バスは、一路羽田空港まで走って行く……完全に女性との接触を絶つ段取りで、イギリスまで一直線だ!

 今、やっとネギ君はイギリスへ凱旋するのであった!

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 遠く道路を走るバスをネギ君が教師として頑張っていた学校の屋上から眺める……彼の帰国を悲しむ者も沢山居るが、喜ぶ者はもっといますよ。

 

「漸く……漸く、ネギ君が帰ってくれたか……」

 

「ヤレヤレ……厄介者が、やっと帰ったな。しかし、随分と懐かれていたではないか?

何だかんだ言っても、あの小僧をまともに扱ったのはジジィだけだったからな。

英雄の息子様に懐かれるとは。小僧は、また問題をおこしそうだぞ?」

 

 くっくっく……と、嫌な笑顔で言ってくれました。確かに、ネギ君は妙に僕に懐いていたな。

 

 何故だろう?

 

 彼の乗るバスを見送りながら我々も今日、関西に旅立つ事になっている。

 

 

 エヴァと茶々丸、それとチャチャゼロ。刀子さんに刹那君。それに僕と木乃香ちゃんと一緒に……

 

「さて、儂らも行こうかの……大宮まで詠春殿と鶴子殿が迎えに来てくれている。待たせる訳にはいかぬのでな」

 

 半ば強引に引き継ぎをして、後任の学園長が来る前に関西に戻る事にした。

 業務に影響は無い様にしてあるから平気だと思いたい……タカミチは、イギリス方面のテロ組織鎮圧に向かわせている。

 

「ネギ君の帰る国を綺麗に掃除しておく様に。暫く滞在しても良いぞ。来週にはネギ君も帰るからな」

 

「学園長!任せて下さい。必ずネギ君を立派なナギにしてみせます!」

 

「儂は……その件については、担当を離れるからの。後は自己責任じゃぞ!」

 

「勿論です!」

 

 そう言って男の園で頑張って副担任をしているネギ君に、チョッカイかけようとした彼を国外追放にした!

 序でに、この遣り取りも茶々丸に録画させている。責任回避、大切ですから。

 

 そうそう。

 

 辞任を公表した後、超鈴音から接触が有った……茶々丸の定期メンテナンスの時に同行し話を聞いた。

 彼女とは、茶々丸の点検や修理の関係で縁は切れないからね。

 

「学園長。私は、私と仲間の為に麻帆良の学園祭で行動を起こすヨ!誰にも止めさせないヨ」

 

 そう言って、此方を睨んでいた。

 

「好きにすればよい。儂らには、もう関係無いのでな。精々頑張るんじゃな」

 

 他人事の様に言ったら、凄い慌てていた。

 

「魔法を世界にバラすネ!大混乱だヨ」

 

 多分、実行する迄は秘密にしなければならない事を教える程に、彼女は大混乱だった。

 

「儂ら関西呪術協会にとって、魔法をバラすのは大歓迎じゃ!

元々この国を呪術的に護ってきた歴史と実績が有るのだから……しかし、呪術など非科学的なまやかしだ!

そんな事が有る訳ない!そう言われてきた。しかし、西洋魔法がバレて麻帆良学園の事が知られても、儂らは困らない。

何故なら……彼らを侵略者にする事は簡単だし、我らは平安の時代から国を護ってきた一族じゃ。

ならば、その実績を公表するだけじゃな」

 

 儂は、元麻帆良学園長として責められるかも知れないけどね。

 超は、壊れた様に笑っていた……どうやら、僕達が彼女を止めると思ったらしい。

 

 僕達が居なくなり、ネギ君やタカミチがイギリスに行ってしまった麻帆良学園に超鈴音を止められる人材が居るとは思えない。

 超には、後任の学園長が来てから行動を起こす様に頼んだ。

 

「分かったヨ!この極悪人、しかしお互い干渉は無しネ」

 

 お互いの不干渉を約束し、超一味と別れた。もしもの時の為に、茶々丸の整備関連のデータを貰って。

 此方はタカミチをイギリスに追いやる事を条件とした……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 漸く、漸く麻帆良学園から、西洋魔法使いから離れて関西へ戻れる。

 大宮駅に向かうリムジンの中は、エヴァ・茶々丸・チャチャゼロ・刀子さん・刹那君そして木乃香ちゃんと美女・美少女・美幼女とパラダイス状態だ!

 ああ、オマケで天ヶ崎さんも乗っている。

 

 あの改造巫女服で……

 

 彼女は、復讐心を利用されたスパイらしかったが、根っこがドジで優しい為に行動を起こす前に関西に帰る事になった。

 つまり僕の目の保養要員だった訳だね。車窓からヨーロッパの街並みみたいな麻帆良を眺めながら、ふと思う。

 体は爺さんだけど、これだけの女性達を侍らす?事に成功した。

 京都に戻ったら、詠春さんと京都中の神社の巫女マップを作る予定だ。京都が完成したら、関西圏そして全国版だ!

 

「ジジィ!京都に行ったら花見をするぞ。嵐山に円山公園、哲学の小径……夜桜の下で宴会だ!」

 

 そうか、前回は梅が満開だったけど今回は桜か……

 

「うむ……皆も良いかのう。木乃香や、茶々丸と料理を頼むぞ。儂は秘蔵の酒を出すか……勿論、未成年者は酒は駄目じゃぞ」

 

 彼女達と花見か……楽しみだね!

 

「エヴァよ。超の企み……

学園祭の時期は五月蝿くなりそうじゃな。どうじゃ?ハワイにでも行かぬか?勿論、木乃香達も一緒にの」

 

 青い海、白い雲、輝く水着の彼女達……

 

 実際は早めに遊びに行って、何か有れば帰国だけどアリバイ作りには良いよね。何たって海外なんだし、超とグルとは思えまい。

 

「ハワイか……そうだな、修学旅行で行けなかったからな。ハワイにリベンジだ!」

 

「お爺ちゃん、うちらパスポート持ってないよ。どうするん?」

 

「うちは行きませんよ。何であんた等と、行かなあかんのや」

 

 賑やかで騒がしいけど、これが幸せなんだろうね。

 

「詠春殿、先ずは北野天満宮からじゃな!」

 

「そうですよ、義父さん!我らの活動は始まったばかりですよ」

 

「「先ずは京都府内全ての巫女さん(の画像を)をこの手に!」」

 

 周りの女性陣は諦めているのか、ただただ溜め息だけをついていた……

 

 

 後書き

 

 最後まで、この誰得?な老人憑依小説を読んで頂き有難う御座います。

 

 この作品は、二次創作で大抵嫌われ者である麻帆良のぬらりひょん!

 

 近衛近右衛門が、綺麗なぬらりひょんになったら?

 

 ネギ・スプリングフィールドが女性恐怖症だったら?

 

 他の方が考えないだろう、ひねくれた発想から始めました。

 

 ネギ君の周りから2-Aの原作女性陣を一切接触させないという暴挙(笑)

 

 そして問題一杯なのに、エヴァさん達と関西に引き籠もる最後。

 

 続編も書ける終わり方ですが、此処で一端の終了とさせて頂きます。

 

 暫くしたら、関西に戻って嫌々と対関東対策をさせられる主人公とか。

 

 超さんの活躍とか、ネギ君のその後とか書こうと思います。

 

 最後まで読んで頂いた方には、最大限の感謝を!

 

 

 



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最終話

 関東魔法協会に所属する魔法使いの総本山。

 麻帆良学園都市の学園長を辞してから2週間が経った……木乃香ちゃんと刹那君、エヴァと茶々丸にチャチャゼロ、おまけの刀子先生と天ヶ崎さん。

 知らない内に、何故かウチの所属になっていた天ヶ崎さんはブーブー言って働きません。

 あの後、ネギ君をイギリスに送り返してから関西に戻った。近衛一族の本家は、神鳴流総本山の近くに有る。

 僕こと近衛近右衛門は、近衛本家のトップだから本家に居を構えた。

 

 何故か食客?

 

 扱いでエヴァ一行が一緒に居ます。勿論、護衛として彼女達の存在は大歓迎です!

 木乃香ちゃんも刹那君も一緒に住んでいます。刀子先生も、いや今は刀子さんですが入り浸りです……

 

 我が一族の若手とのお見合いは順調ですし、刹那君と一緒に居て貰った方が、2人の立場的にも良い事ですから。

 少しずつ関西の連中と馴染んで欲しいものです。しかし彼女は年内に近衛姓となり、我が一族の末席に収まりそうですね。

 

 彼女と彼女の友好関係を取り込めるのは、僕にとって大きなメリットだ!

 特に青山の鶴子さんとか、鶴子さんとか……あの刃物キチガイの一族を取り込めるなら安いものだ。

 

 刃物で会話する様な連中と交渉するのは大変だからなぁ……そんなこんなで、問題は多いけど毎日が充実しています。

 例えば毎朝、美女・美少女と一緒に食事とか。昼食と夕食は全員は無理だけど、前みたいに一人で食べる味気なさは無い。

 あと、エヴァと連日夜桜を見に京都各所に出向いた。

 有名な哲学の小道や下鴨半木の道をそぞろ歩いたり、円山公園などでドンチャン騒ぎをしたり……

 こんなに楽しく過ごしたのは、此方の世界に来てから初めてだった。

 

 詠春さんとの巫女さん巡りも順調に進んでいる。

 しかし僕は真面目に交渉してから写真を写すのに、詠春さんは気配が消えたと思えばベストショットを撮りやがる。

 これが盗撮特化型の英雄詠春の実力か……詠春さん、恐ろしい漢。

 既に2人で200人以上の巫女さんの姿を収めた……ゴールデンウイークには京都府全域の巫女さんMAP及び写真集を出版出来ると思う勢いだよ!

 

 

 でも一つ……一つだけ、麻帆良に心残りが有るんだ……

 

 相坂さよちゃん。

 

 彼女を麻帆良に、残してきてしまった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 近衛本家も平安時代から続く名家だ。京都府内に広い屋敷を構えるだけでも分かるだろう。

 庭には池が有り、辺には桜が満開!月明かりに照らされた水面には、桜の花びらが浮いている幻想的な空間だ。

 屋敷の縁側に座り、庭を眺めて独り酒。茶々丸謹製の摘みに、爺さん秘蔵の日本酒。

 茶々丸さんは、すっかりウチの女中頭というか……女性従業員の取り纏め役に収まった茶々丸さんが作ってくれた3段のお重を摘みに独りで呑む。

 和の惣菜で纏められた料理は、流石というか旨い。

 京都に来てから此方の料理を学んでいるらしいです。

 彼女は人をエヴァを取り巻く人々の世話をする事に、喜びを見出しているみたいに感じます。

 茶々丸は戦闘人形でなく、エヴァの世話好きなお姉さんなんだろうね。

 すっかり慣れた飲酒癖、今夜は「純米吟醸山田錦」を一升瓶から直接コップに注いでいる。

 

 しかし全然酔わない……

 

 相坂さんの笑顔を思い浮かべると、心の奥がギシギシと痛む。

 あれから色々と調べたり爺さんの記憶を探したんだけど、彼女は密室連続殺人事件の被害者だった。

 事件は未解決で、既に60年も前だから時効だ……彼女も何故自分が麻帆良に居るのか分からないみたいだったし。

 地縛霊とも考えられるし、麻帆良学園に括られているとも考えられる。

 彼女は、このまま麻帆良に居ても幸せなのだろうか?それとも成仏した方が良いのかな?

 僕は、この姿でなく魔法薬で若返った姿で相坂さんと会っていたから……だから僕は、関西に戻る事を彼女に伝えられなかった。

 彼女と仲良くしていたのは、実は若返った近衛近右衛門本人だったって嘘がバレるのが怖かった。

 普段なら美味しいと感じるお酒を煽るが、ちっとも楽しくないんだ。

 

「相坂さんは、まだ麻帆良で夜の教室やコンビにの前に居るのだろうか?」

 

 日本酒を煽りポツリと零す……

 

「何が居るのだ、ジジィ?」

 

 気が付けば、エヴァが切子細工のコップだけ持って隣に座って居た。日本びいきのエヴァは、京都に着てから着物ばかりを着ている。

 金髪碧眼和装幼女は、巷で噂になりつつある。オタクが喜ぶ都市伝説だ!

 

 そんな彼女が無言で差し出すグラスは……

 

「コレって秘蔵の江戸切子じゃない?」

 

 爺さんのコレクションの中に有って、価値は知らないけど綺麗だなとは思っていた奴だ。

 チシャ猫の様にニカッと笑う彼女に「純米吟醸山田錦」を注ぐ……クピっと小さな口で呑んでから

 

「なに……道具は使われてこそ、その存在価値が発揮されるんだよ」

 

 そう言って、懐から僕用の江戸切子を差し出す。自分のグラスの酒を飲み干し、差し出された切子を受け取る。

 小さい癖に、片手で一升瓶を軽々と持ち上げ僕の切子に注いでくれる……2人で縁側に座り、夜桜を見ながら黙々と酒を飲む。

 

「なぁジジィ……」

 

「なんじゃ?」

 

 酔わないと思っていても量を飲めば酩酊感が……

 

「私は今、幸せだ……此処には自分の居場所が有る。自由で束縛されず、殺伐もしていない。吸血鬼が求めてはいけない世界だな」

 

 チラリと盗み見るエヴァの表情からは、何を考えているかは分からない。

 

「何でもない日常か?しかし吸血鬼だから、妖怪ぬらりひょんだから、幸せになっては駄目とは限らんじゃろ?」

 

 エヴァの切子に酒を注ぐ……黙って半分位、飲み干す幼女。どんだけ酒が強いんだ!

 

「千人単位の人殺しが私だよ。例えそれが正当防衛でもな」

 

「エヴァの過去など興味ないのう……今、儂の近くに居てくれる。それだけで満足じゃよ」

 

 600年の重みは、たかだか15年の僕には分からない。でも今のエヴァなら、全然オッケーだ!

 

「ふん!貴様が老衰でくたばる迄は居てやるよ」

 

 あと10年くらいかな?死因は老衰で、畳の上で死にたいね……

 

「ふぉふぉふぉ……精々長生きするつもりじゃよ。なに、エヴァにも遺産分配する様に遺言書を残して逝くから心配するでない」

 

 詠春さんに木乃香ちゃん、それとエヴァに遺産を残すつもりだ……

 

「ふん!口の減らないジジィめ……で?相坂とは、相坂さよの事か?」

 

 どうやら独り言を聞いていたらしい……エヴァは相坂さんの事を知っているのかな?

 

 

 

 自宅の庭で池に映る桜を摘みに洋ロリと呑む。既に「純米吟醸山田錦」は飲み終わり、「久保田の万寿」を開けた。

 

 ヤバいなぁ……

 

 殆ど一升瓶を独りで呑んでしまったよ。思考能力が危うい程に低下してる……ああ、でも懺悔するには良いのかな?

 隣に座る洋ロリに、心に残るジクジクを話す。

 

「エヴァよ……相坂さよを知ってたのか?」

 

 この洋ロリは、酒に酔う事が無いのか?僕が注いだ日本酒を早いピッチで呑んでいる。

 

「タカミチが持っていた出席簿にも書いてあったぞ。それに何年も同じ教室に居たんだからな。

気付いてはいたが、波長が合わせ辛いのか……その存在を確認していただけだ」

 

 僕はしっかりと会話出来たのに……何か理由が有るのかな?

 

「儂は……彼女を知っていながら、麻帆良に残して関西に来てしまったのじゃよ。

彼女とは最近、やっと会話が出来る様になっていたのに……」

 

 魔法薬で若返った、偽りの体でね……

 

「ふん!麻帆良に残してきた女の事で、鬱ぎ込んだのか?随分と遅い春だな」

 

 エヴァさん、少し不機嫌ですか?お酒のピッチが上がりましたよ。

 それに、ソレは僕の取っておいた若鮎の佃煮……その、う巻きも僕の……ああ食べ散らかさないで!

 

 口の周りを出汁でベタベタにしたエヴァにハンカチを差し出す。

 

 茶々丸謹製のお重の二段目迄無くなりましたよ。あっこら、勝手に三段目に突入しない!

 結局、ベタベタな口の周りは僕が拭きました。

 

 この洋ロリは「んーんー、ご苦労!ほら、注がんか」とか胡座をかいてコップを突き出してくるし……

 

 ヴァって酒乱か絡み酒だな。

 

「飲み過ぎじゃぞ……」

 

 そう言ってコップの八割位に日本酒を注ぐ。そして自分のコップにも……

 

「それで?どうするんだ?」

 

 どうする?僕はどうしたいんだ?彼女に事実を知らせるのは怖い。それは本当の僕ではなく、爺さんでも無い。

 偽りの姿で会っていた事を知られるのが怖いんだ……

 

「エヴァよ……相坂さよは……儂がまだ学生だった60年前の同級生じゃ。

記憶が定かでは無いのじゃが、当時世間を騒がせた密室連続殺人事件の被害者が彼女じゃよ。

結局事件は未解決で時効……儂も記憶の片隅に押し込んでいた事じゃ」

 

 多分だが爺さんの初恋の相手だった。この謀略腹黒の爺さんの記憶の中で、暖かい思い出の相手だったから……

 

「儂は……

自分の死期が近い事を悟り、昔を懐かしむ様に大切にしまっておいた学生服を着たんじゃ。

馬鹿らしいと思うかの?しかし寿命ある人間とは、最後に一番輝いていた頃を思い出すものじゃよ……」

 

 本当は、爺さんの体が嫌で嫌で堪らないから若返りの薬と思い……年齢詐称薬を取り寄せたんだけど、見た目だけの幻術だったんだ。

 

「あの時の学生服プレイの真相か?それが?なんて変態ジジィだ」

 

 僕の精一杯の告白を鮪の粕漬けを食べながら、バッサリ切りやがった!

 

「何だと、エヴァも露出狂いのアダルト下着だったじゃないか!」

 

思わず口調が素になってしまったが、エヴァだってマントの下は大胆な下着姿だったじゃないか!

 

「黙れ黙れ黙れ!あれは闇の眷族としてポピュラーなんだ」

 

 全く普段は着替え中を撮影しようとすれば制裁する癖に、自分から見せるのは良いのかよ?

 

「はぁはぁ……話を戻すぞ。確かに端から見れば、大人気ない行動じゃ。

しかし儂は、昔懐かしい学生服を着て幻術で若返った姿に興奮して……夜の麻帆良へ飛び出したのじゃ」

 

 (若気の至りよのう……)

 

 (いや死にかけジジィだろ?)

 

 心の中の呟きにまで、突っ込みを入れられた!

 

「…………こほん。そんな時じゃ、何と相坂さよから話し掛けてきたんじゃ。

最初は声はすれども姿が見えずじゃったが……こう、目を凝らすと姿が見えたんじゃよ」

 

「ふーん。それで?」

 

 今、盛り上がる途中の話を振ったのに、枝豆をポリポリ食べながら素でふーんとか言われたよ。

 手に持っていたコップを一気に煽る、日本酒は温く人肌になってしまっていた。エヴァが珍しく注いでくれる。

 

「儂は……若かりし頃の姿で、相坂さよに会って……

気が動転していたのか?若いままの彼女に、老いた自分を見られたくなかったのか……

近衛近右衛門本人でなく、孫じゃと嘘をついた。後はズルズルと嘘をつき通したんじゃ」

 

 老いに対する恐れが無い彼女達には分からない感情だろう。

 

 見栄?

 

 いやもっと根本的な気持ちの問題だ。

 

「なんだ。何度も幽霊と逢瀬を重ねたのか?リアルな牡丹灯籠だな」

 

「良く古典的怪談を知っておるの……逢瀬ではなく、ネギ君の愚痴を延々と聞いて貰ったんじゃよ。

随分と気持ちは楽になったぞ。あの時は、本当にストレスが酷くてな」

 

 今思えば、良く胃潰瘍にならなかったと思う。変態タカミチ、刀キチガイ刀子先生。

 頭の固いガンドルフィーニ先生を筆頭にした西洋魔法使いの連中。

 

 暗躍していた超君。

 

 そしてラッキースケベで女性恐怖症のネギ・スプリングフィールド……ため息しか出ないや。

 

「昔の初恋の相手には、老いて醜く変形したカボチャ頭は見せられないか?それで騙して愚痴を聞かせ捲ったのか?」

 

「ひどっ酷いぞエヴァ!儂は、そこまで醜くはないわい!まぁ……概ねは、その通りじゃよ。

儂は関西に帰る事を彼女に一緒に来て欲しいとも言わなんだ。

一緒に来れば嘘がバレる。怖かったんだよ、あの天真爛漫な彼女に嘘がばれるのがさ……」

 

 全てを話たら、何だか気持ちが楽に……ならないで、はっ吐きそうだ!

 

「ぎぼぢばるい……」

 

 思わず、その場に屈み込んでしまう。

 

「ちょジジィ!待て、吐くのか?ここじゃダメだぞ。おい、耐えるんだ……ちゃ茶々丸、来てくれ!ジジィが漏らすぞ」

 

 エヴァが酷い事を騒ぎ出していたが、体はお酒に負けてしまった……何を言われても無理だよ。

 

 ああ、このまま眠りたい……

 

 

 

 翌朝、ちゃんと自室の布団の中で目が覚めた。しかし寝間着には着ておらず、昨夜の倒れたままの格好だ……

 

「頭、頭が割れる様に痛いぞ……これが二日酔いか?」

 

 初めての二日酔いに、もうお酒は飲まないと誓う。頭の上に置いてあった水差しの水をコップに注いで一気に飲む……

 幼女に愚痴を聞かせて、情けない秘密をバラして、酒に酔って醜態を晒してしまった。

 どんな顔でエヴァに会えば良いんだ?しかしズキズキ痛む頭では、解決策など思い浮かばなかった。

 

 

 

 全く独りで煤けて酒を呑んでいるから心配して……

 

 いや、気になって……

 

 いやいや、興味を惹かれて……

 

 いやいやいや、鬱陶しくて……

 

 そう!

 

 鬱陶しいから何を黄昏ているのか聞いてやろうと思った。

 途中で変な雰囲気になったが、老い先短いジジィの為に死ぬまで一緒に居てやると言ってやった。凄い驚いていたな……

 僅か十数年の話だから永遠に生きる私には、ほんの僅かな時間でしかない。

 このぬるま湯の様な生活も、十数年でしかない。しかしジジィは、自分が死んだ後も私の為に遺産を遺すとか言っていた。

 詠春と木乃香に遺せば良いだろうに……気を使い過ぎだと関心してみれば、気を使っている女が居やがった!

 

 相坂さよ……

 

 その存在すら希薄な幽霊は、ジジィの初恋の相手。

 しかも相手は若いままの姿で、自分は年齢詐称薬のお陰で若い頃の姿で出逢ってしまった……

 本来なら感動の再開だが、醜いカボチャ頭を恥ずかしがって本人でなく孫として接したとか。

 

 不条理だな、全く。

 

 しかし、それを悔やんでいるが相坂さよに嘘をついたのがバレるのを恐れて足踏み状態か……前の私だったら放っておいただろう。

 それ所ではない悩みが有ったからな。

 

 登校地獄……

 

 ふざけた名前の呪いだよ。その枷を取り払い自由をくれたジジィには、報わねばならないだろう。

 悪の魔法使い、闇の福音・ドールマスター……数々の悪名を名乗り、千人単位の人殺しの私を……今の私が居れば良いと言ってくれたんだ。

 

 誰からも拒まれ否定され迫害され、危害を加えられて反撃すれば悪と決めつけられた私をだ……

 この私にすがりつきゲロを吐いている汚いジジィだが、何とかしてやるよ。

 

「あっコラ!ドサクサに紛れて太ももを触るなエロジジィ」

 

 思わず後頭部をゴツいてしまった。どうせ明日は二日酔いで頭が痛いだろうから構わないだろう?タンコブの1つ位は……

 

「茶々丸、見てないでこの汚物塗れのジジィを部屋に放り込んでおけ。

私はシャワーを浴びてくる。全く寝ゲロをするわ、触り捲るは……何てジジィだよ、全く」

 

 後は茶々丸に任せれば良い。私は、別荘の書庫で探し物だ。

 地縛霊か浮遊霊かは分からんが、古来より依り代に魂を移す手段は有るのだ。

 魂の核となる物を私の作った人形に閉じ込めれば、或いは麻帆良から連れ出せるかも知れないな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 マスター……

 

 緊急で呼ばれて見れば、寝ゲロを吐く近衛老を膝に抱きしめて?それは何というプレイなのですか?

 

 汚物プレイ?

 

 私には消化器官が無いので、マスターのお相手は出来ません。なので存分に近衛老でプレイをなさって下さい。

 私は後片付けを請け負いますから……このヘベレケで酔いどれで泥酔した老人を綺麗に介護すれば良いのですね。

 

 分かりました。お任せ下さい。

 

 私はマスターが何処まで堕ちても一緒ですから……例え老人相手の汚物プレイでもバッチコイです!

 

 さて……

 

 先ずは脱がせて服と体を洗い、また着させて布団に放り込んだ方が面白いですね。では、さっさと脱がしましょう。

 近衛近右衛門は、自宅とは言え縁側で全裸にされて風呂まで運ばれて行った。

 当然だが、茶々丸は一連の流れを全て画像として記録している。

 

 ゲロを吐き、幼女に縋る老人……トンでもない脅迫ネタを握った瞬間だった!

 

 これで近衛近右衛門とエヴァ一味の結束は、これまで以上に固まった。後は、このネタを何時のタイミングで使うかだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 漸く頭痛がひいてきた……頭部を撫でさすると、瘤が1つ増えている様な?何だろう?

 良く聞く酔っ払って何処かにぶつけたか転んだかしたのかな?

 布団の上に胡座をかき、昨夜の事を思い出す。独りで酒を呑み、相坂さんの事を後悔していた。

 そこへエヴァが来て、なし崩し的に2人で呑んだ。

 

 うん、大丈夫だ。記憶を無くす程は、酔ってないな……

 

 それから、エヴァが相坂さんの事を聞いてきて。酒の力を借りて、エヴァに告白したんだ。

 年齢詐称薬を使い、自分の孫と偽り彼女と会っていたと……

 

 うわぁ!

 

 恥ずかしいなんてもんじゃないぞ、コレは。エヴァに会わせる顔が無いじゃないか!

 

 その後……

 

 その後、何をした?エヴァに、彼女に縋りついて吐いたよね?

 

「…………終わった。儂の人生は、幼女の膝の上で幕を閉じた。悔いも有るが、未練も有る。鬱だ……引き籠もろう」

 

 そう言って布団の中に戻ろうとした時に、ドアが開いて茶々丸さんが入って来た!

 

「近衛老、朝食の準備が整いました。マスターと皆さんがお待ちです。起きて下さい」

 

 無表情だが、無表情なんだが、何かニヤニヤを感じるよ?

 

「茶々丸か……すまぬが二日酔いらしくての。今日はこのまま寝かせてはくれんか?」

 

 ダメ元で聞いてみる……

 

「昨夜はお楽しみでしたね?マスターに呼ばれ後片付けをしたのは私です。さて、近衛老……マスターがお待ちです」

 

 つまり昨夜の事は記録しましたって事?

 

「…………分かりました。起きますです」

 

「では、コレが着替えです。皆さん揃ってますのでお早めに……

それと女性の膝がお好きでしたら、私と姉さんもオッケーですからマスターの負担を減らして下さい」

 

 そう言って、自分の膝を軽く叩いてから出て行った……

 

「…………鬱だ、死のう」

 

 何て言ったけど、死にたくないから足掻いたんだ。恥ずかしいのを我慢して食堂に向かう。

 死刑囚みたいに、足が……足が前に動かないんだけどね。

 

 それに茶々丸さん……

 

 茶々丸さんの膝枕は大歓迎だけど、チャチャゼロはマズいでしょ?幼女人形に縋る老人だと?

 アレは完全に全ての情報を握っているな。この屋敷で一番偉いのは、実は茶々丸さんなのだー!

 

「近衛老、早く支度をして下さい」

 

「はい、分かりました。茶々丸さん……」

 

 

 

 美幼女に縋り、美少女に弱みを握られ、美幼女?人形に慰められる。これ何てプレイ?

 

「ケケケケケ!妹カラ聞イタゼ。偉イ痛イ事ヲ知ラレタジャネーカ。マァ飲メヨ」

 

 あの後、茶々丸さんの呼び出しに急いで食堂に向かえば、木乃香ちゃんと刹那君はお出掛け。

 刀子さんは護衛の為に同行して行った。広い食堂には、少し頬が赤いエヴァとチャチャゼロしか座ってなかった。

 茶々丸さんは給仕として忙しく動いている。

 

 今朝のメニューは……

 

 茶粥と京野菜の炊き合わせだ。完全に二日酔い対策のメニュー。茶々丸さんの労りをヒシヒシと感じます。

 同時に、朝から「純米吟醸山田錦」がテーブルにドンっと置いて有るのは……悪意を感じます。

 

「ホラ、呑メヨジジィ!俺ノ膝枕ハ高イゼ」

 

 ケケケケケっと笑いながら、テーブルの上で胡座をかき、膝を叩くチャチャゼロ。

 何処まで知ってるの?黙々と茶粥を啜るエヴァは、此方を見もしない。

 

「生殺しは止めてくれんか?ズバッと望みを言ってくれ」

 

 周りに人が居ない、このチャンスで話を纏めなければ!ズルズルと引っ張ると、取り返しがつかなくなる気がするんだ。

 レンゲで茶粥を啜る手を止めて、エヴァが僕を見詰めてくる……

 

「…………エヴァさん?」

 

「ジジィ、貴様の家の宝物庫に案内しろ」

 

 直球キター!

 

 爺さんの秘蔵品を根こそぎ狙うんだね?エヴァ、恐ろしい娘……でも現金以外で必要な物なんて分からないから良いか。

 

「分かった……では食事が終わったら案内するぞ」

 

 ああ、何でも良いから貰って下さい。その代わりに、あのネタの画像を渡してくれれば……その日の朝食は、珍しく会話が無かった。

 何時もは賑やかなんだけどね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 近衛本家の宝物庫。所謂、蔵だ!

 

 ただの蔵ではなく、歴代の当主のみが立ち入りを許される。

 

 他にも幾つか……

 

 現金や金塊がしまってある蔵や、エヴァが昨夜持ち出した一般的な美術品がしまってある蔵も有る。

 だけどエヴァは、魔法関連の品々がしまってある蔵に入りたいと言った。

 記憶に有る防犯システムの解除方法を辿り、蔵の警備を解除していく。呪術的な守りや、機械警備の両方だ。

 最後の扉の鍵を解除して、宝物庫の中に入る。照明を点けてからエヴァを見る。

 

「どれでも好きな物を選んでくれ。何でも構わんぞ」

 

「使える物が有れば良いのだが……」

 

 エヴァは、お宝を前にしては興奮した様子も無く、ブツブツを言いながら棚の端から丁寧に並べられた品物を手に取り吟味している。

 

「これは……ダメだな。これは?いや、邪念がこびり付いている。

アレが取り込まれてしまう……うむ、コレは良いな。でもイマイチなキャパだな……」

 

 何かをブツブツと言いながら探している。

 

「エヴァよ……何を探しているんじゃ?」

 

 エヴァは、候補に上がった2つの品物を見比べている。

 アレは……爺さんの記憶によれば、平安時代の貴族の姫様が愛用していた珊瑚の飾りと……

 もう1つは、江戸時代に造られた御守り用の小刀だ。

 どちらも古美術品としての価値も有るが、長年力ある所有者に大切に扱われていた為に、それ自体が力を帯できた物だ……

 あの手の品物は、魔道具を造る時の核として利用出来る。いわば力の源になる物だから……

 

「ジジィ、これなら……さよの依り代の核として使えそうだそ」

 

 ニカッと刃物を此方に向けない。

 

「えっ、依り代?核じゃと?」

 

「そうだ。魂だけの存在のさよには、核となる物が必要だ。この2つは、多分力有る女性が持っていたんだろう。

まだ自我を持つ迄の力は無いが、その方がさよと融合し易いだろう。どうするんだ?相坂さよを助けるのだろう?」

 

 ああ、エヴァちゃん……有難う。僕は、君が口止め料をせしめる為に宝物庫に来たと勘違いしていた。

 

 うう……嬉しくて膝に力が入らないよ。

 

「こっコラ!また昨日みたいにしがみつくな。ばっバカ、胸に顔を擦りつけるなー!」

 

 ツルペタだって、心が豊かならバインバインと同じ……

 

「誰がツルペタだー!」

 

「こっ心の中を読まないでー!」

 

「だったら離れんかー!このエロジジィめ。茶々丸も見てないで、このエロジジィを放さんかー」

 

 幼女に泣きすがるジジィ……新たな弱みを握った茶々丸は、無表情な彼女らしかなぬニヤリとイヤらしい笑みを浮かべた……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 二日酔いの頭痛に物理的な頭痛が加わった……頭を振って起き上がれば、見慣れた自室だ。

 目の前には……巫女装束に白衣を羽織り、黒縁の伊達メガネをかけたエヴァと茶々丸が!

 

「おぅ!レア画像ゲットじゃ!」

 

 常に幾つか仕込んでいるデジカメでパシャパシャと彼女達を激写する。

 あれ?溜め息をつかれたぞ?

 

「気が済んだら説明を始めるぞ……」

 

「説明?」

 

「相坂さよの事だ!忘れたのか?早く座れ」

 

 ああ、すまんすまんと応接セットに座るエヴァの前に移動する。すかさず茶々丸がお茶を差し出す……

 

「良く聞けよ。一度しか説明はしないからな!」

 

 そう前振りをして、エヴァが相坂さんの救済プランを語り出した……

 

「地縛霊か浮遊霊か良く分からないが、魂だけの存在の彼女を麻帆良から移動させるぬは……誰かに憑かせるか、何かに憑かせるかしかない」

 

 そう言って、珊瑚の飾りと護りの小刀をテーブルに置く。

 

「コレに?」

 

「そうだ。この2つは、長年力有る女性に大切に使われたのだろう。力を帯び始めている。

コレより強い物だと、アレの自我を食い潰すからな。先ずは相坂さよをこのどちらかに憑かせる。

これは相性の問題も有るから、その場にならないと分からない。もしかしたら、この2つでは駄目かもしれん……」

 

 エヴァは真剣そのものだ。きっと彼女の技量を持ってしても、難しいのだろう。

 しかし、エヴァは相坂さよの事を助けようとしてくれている。思わずエヴァの真剣な表情に見とれ……デジカメを取り出し叩かれた!

 

 

 

 真剣な表情で説明するエヴァに思わず見とれる……彼女は相坂さよの事を助けようとしているのが分かる。

 思わず真剣な表情の彼女を写そうとデジカメを出したら叱られた!

 

「持ってるデジカメを全て机に置け!じゃないと説明しないからな!」

 

 そうお怒りの彼女の前に、肌身はなさず持っている3台のデジカメを並べる。両袖と懐に仕込んでいるヤツだ!

 これは超から賄賂として貰った、彼女謹製の逸品。しかし手持ちのデジカメを取り上げられても、何の問題も無いのだ。

 この部屋の防犯カメラはエヴァをちゃんとロックオンしている!画質は劣るが、編集は可能なのだ。

 

 つまり、僕が既に心の中で決めている「巫女服×白衣!説明天使エヴァちゃん!」のアルバム製作には、何の問題も無いのだ。

 

 因みに我が家のお手伝いさんのまとめ役に就任している「我が家の和風メイド、茶々丸さん!」も詠春さんと製作を進めている。

 

 雑巾を絞っている姿や、食器を洗っている姿とか……

 おにぎりを握っている姿や、包丁で惣菜を切る姿等は独身男性のハートを鷲掴みにする筈だ!

 

 家事に勤しむ美少女とは、今までに無い斬新なテーマだと思う。オマケは我が家の猫達と戯れる姿とか、日常の彼女だけの写真集だ!

 

 ただ……

 

 詠春さん曰わく隠し撮りの筈が、全てカメラ目線だったらしいです。

 茶々丸に聞いたら、サーモグラフや足の裏で感じる微弱な振動とかで分かるとか!

 気配を断っても物理的な事で分かるのか……ニヤニヤとエヴァを見ていたが、彼女は気付いてないのだろう。

 

「全く最近少し色気付いてないか?まぁ良い。良く聞けよ。

仮に相坂さよの魂をこれらの品物に憑かせても、定着する迄は数年から数十年は掛かるかもしれん」

 

「そんなに掛かるのか?」

 

 数十年って、僕は死んじゃってるよ!

 

「当たり前だろ!新たな人工生命を最初から生み出すなら……

既に知られた方法が幾つか有る。しかし、既に自我を持つ魂を新たな人工生命に定着させる事は……

不老不死と変わらない事なんだ。私だって、これから別荘を併用して研究しなければならないんだぞ!」

 

 うがーって感じで叱られてしまった。

 

「そうか……仮に成功しても、彼女には会えないのじゃな。すまんな。何十年もエヴァに迷惑を掛けてしまうな」

 

 彼女は、不老不死……だから僕が死んでも相坂さんの為に研究を続けてくれるのだろう。

 

「なぁジジィ……不老不死に興味が有るか?」

 

 キラリと犬歯を覗かせて聞く彼女の本意は?

 

「アレか?吸血鬼になれば、今のままの姿で不老不死か……もう老人の儂では興味が薄いの」

 

 この頭と、この年齢で不老不死は……あと30年若ければ、或いは考えたかもしれない。

 

「本来、不老不死の研究は時間が掛かる。だから私みたいな者が研究するのが望ましい。

しかし……

不老不死の者が、不老不死について研究などはしない。意味が無いからな……」

 

 確かに結果が欲しくて研究するのに、人間の命はたかだか100年未満。これでは不老不死の研究は進まないね。

 誰かに研究成果を譲渡するとか、連綿と研究を続けるとか……

 

「あと30年も若ければ或いは、その申し出を受けたかもしれぬ。しかし年老いた姿での不老不死は……拷問じゃよ」

 

 多分、死を求めると思う。

 

「相坂さよで、魂の存在から人工生命に転写する方法は研究出来る。ジジィが、ジジィが望むなら……

私がジジィが死ぬ前に、若い体を用意して魂を移す事は可能かもしれんぞ」

 

「はぁ?」

 

 なっ何を言ってるんだ?若返る?人工生命?

 

「いや……それは……」

 

「もっ勿論、相坂さよの研究の序でだ!別荘を使っても、5年……いや4年位で成果は出せるだろう。

何なって別荘は普通の24倍だ。100年も研究すれば、多分ジジィを私の下僕にする事が出来るぞ」

 

 ドヤって顔で、無い胸を張られてもな……でも若返る事とは、今の近衛近右衛門の全てを捨てなければならない。

 それは、他の人達との繋がりを断つ事だ……

 

「なっなんだ!私と永遠の時を生きるのは嫌なのか?」

 

 難しい顔で考えていたからか?普段は強気な幼女の、縋る様な目は……

 

「エヴァよ……儂が儂で無くなるのじゃな?このジジィが若返るなど、有ってはならない事。

自然の節理ではな……しかし、儂だって意地汚く生に縋りたいのじゃ。

仮に、仮にじゃ……老衰で大往生するのが儂の望みじゃが、その時に魂を転写出来るのか?」

 

「近衛近右衛門としての生命が閉じた後でか?何故まどろっこしい事を?」

 

 エヴァの両隣に、茶々丸とチャチャゼロが並んでいる……

 

「儂にも絆が有るからの……転生不老不死など、ヤバい事には違いない。

ならば、彼らを巻き込まず絆を断つしか有るまい。だから一度は、近衛近右衛門は死ぬ必要が有るのじゃよ」

 

 公然と、そんな事をしたら大変だ!でも僕は、エヴァの提案に縋りたい……

 

「一度、近衛近右衛門として死に絆を断てば……エヴァと共に長い年月を生きるのも良いじゃろ」

 

 ポンポンとエヴァの頭を叩く……

 

「ふん。精々長生きしろ!一度死んだら私達しか絆は無いのだからな」

 

「近衛老……遂に具体的にマスターを食う計画を?」

 

「ケケケケケ!新シイ体ハ強クシヨウゼ。羽トカ牙トカ付ケヨウゼ!」

 

 エヴァの両隣から危険なセリフを聞いたが、何れは4人で暮らすんだ。我慢しよう……エヴァが抱き付いて来た?

 

「全く口の減らないジジィだが、必ず不老不死の方法は見付けてやるよ」

 

 ポンポンとエヴァの頭を叩く。こんな美幼女に抱きつかれても反応しない体を何とかしてくれるなら……それも良いかな。

 

「マスター……良かった。老人プレイと汚物プレイから卒業ですね?嫌だけど近衛老は、美男子に作り替えねばなりませんね」

 

「ダカラヨー!ヤハリ爪トカ伸ビタリ、火ヲ吐カセヨーゼ」

 

 エヴァ達と行動を共にする為にも、残りの人生で資産を増やさなければ駄目だな……

 それにメガロメセンブリアの連中とも戦える様に、関西呪術協会の力を蓄えなければ。

 せっかくの不老不死が、好ましく無い世界で暮らすなんて嫌だから……エヴァの両脇に手を差し込み、高い高いをする!

 

「なっコラ!放せ、下ろせ、恥ずかしいだろ!」

 

 エヴァを持ち上げて、クルクルと回る。爺さんに憑依した時は、どうかと思ったが、若い肉体がもらえるなら御の字だ!

 

「良かろう!美男子に作るのじゃぞ!牙とか羽とか爪も要らないが、皆を守れる位の力は備えてくれ」

 

「分かった、分かったから下ろさんか!あっコラ、袴が捲れ……茶々丸、ジジィのデジカメで写すなー」

 

 一度目の生は一般市民。

 

 二度目の生は悪の首領。

 

 三度目の生は?美幼女吸血鬼の仲間か……それも良いな!

 

 

 

 麻帆良学園都市……もう二度と来るとは思わなかったのだが、1ヶ月も経たずに来ました!

 感慨深くは……無いですね。

 今回来たのは相坂さんの救出と言うか、折角話せる様になったんだから独りぼっちにせずに一緒に関西へ行こう!と言う自己満足による行動です。

 あれから散々考えましたが、やはり相坂さんには僕が近衛近右衛門本人ではなく孫と言う路線で行きます。

 どの道、エヴァの説明によれば魂を核に定着させるだけで数年から数十年らしいですし……

 多分僕も老衰で大往生するので、相坂さんの覚醒には間に合わない。

 ならば多少の無理は有っても、若返ってから会うのだから良いかなって?

 

 因みに新しい体は、爺さんの若い頃の物を頼みました。

 

 僕の細胞とかを培養すれば、多分遺伝子の関係で似たような姿形になる……と思う。

 エヴァ達は、根性無しとか、卑怯者とか散々言われた……でも恥ずかしいから、それで押し通します!

 因みに麻帆良学園都市への訪問は、僕と茶々丸さんだけです。

 エヴァや刀子さん、勿論詠春さんや天ヶ崎さんは同行しません。

 護衛は茶々丸さんで充分だし、最悪エヴァが影を使った転移魔法で来てくれる段取りだ。

 訪問理由は、麻帆良内で使っていた屋敷の売却と引っ越し。

 

 それと関係各所への挨拶廻り……

 

 急な引退の為に、まだ次の学園長は就任していない。

 本国から来る予定だが、プライドの高い連中だけに旧世界の一学園都市の長とは、左遷か島流しと同義なのかも知れません……

 下手したら、現地採用の代理学園長とかも有りかも?屋敷は科学的、呪術的防御を施していたが全て引き払った。

 広大な敷地の日本家屋……土地単価的には高いが、住居としての用途は低い。何故なら需要が無いから。

 

 多分、解体して別用途の建物が建つだろう。土地の狭い学園都市で、住宅用途だけの土地など無駄だから……

 こんな物は、学園都市のトップだった爺さんのみに許された特権だろう。

 複数の企業が競り合い、ソコソコの価格で売れました!不動産屋で諸々の手続きを済ませたら、後は自由だ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 滞在しているホテルを抜け出す。

 爺さんのままでは目立つから、部屋で年齢詐称薬を服用し学生服に着替え済みだ。

 キーは茶々丸に預け、フロントに出掛ける旨を伝えて二部屋分を預けて貰う。

 茶々丸さんには、つかず離れずで護衛と監視のチェックだ!

 因みに超には連絡済みの為、無用なチョッカイは無しだ。

 

 先ずは、初めて出会ったコンビニに向かう……居た!前と同じ様にコンビニ前の駐車スペースに。

 

 久し振りに相坂さんに近付いて挨拶する。

 

「今晩は、相坂さん。また少しお話しよう」

 

 そう言って店内に入り、何時もの缶コーヒーを2本買う。店を出る時に「何時もの公園に行こうか?」と声を掛ける。

 

「久し振りだね、近衛君」

 

 そう少し嬉しそうと思うのは、僕の願望だと思うが返事をしてくれた。2人で夜の公園迄、暫しの散歩……

 周りに人気は無いので、端から見れば独り言を言う変な奴と思われずに済む。

 

「ごめんね、暫くこれなくて。一寸、いや色々忙しくてね……」

 

 変態タカミチとか、問題児ネギ君とか……

 

「近衛君……眉間に皺がよってますよ。何か嫌な事でも?」

 

 ああ、彼女は本当に優しい娘なんだな……何時のベンチに着いたので、並んで座る。

 少しだけ冷えた缶コーヒーを開けて、1つを相坂さんの前に置く。

 

「嫌な事って言うか……頭と胃が痛い連中とオサラバ出来てね。ホッとしてるんだ!」

 

 彼女は少し驚いて、だけど「そんな事を言っちゃ駄目ですよ」冗談めかして叱られた……

 

「そうだね。人の悪口はダメだの。まぁ問題児が2人、イギリスに帰ったんだよ。だから、ホッとしたの」

 

「そうですか……イギリスと言うと、近衛君が世話をする事になった人がですか?」

 

 彼女には、ネギ君の事をボカシて愚痴ったっけ?

 

「そう!イケメンの問題児でね。女性問題で随分と苦労したんだよ……」

 

 本当に、苦労したなぁ……

 

「女性問題?それは、いけない人だったんですね……」

 

 珍しく彼女が、眉間に皺を寄せている。ネギ君をナンパか浮気性と思ったのかな?

 

「まぁ……問題は多かったけど、無事に送り返せたんだ」

 

「そうですか。良かったですね」

 

 そう、綺麗な笑みを浮かべてくれた……多分、彼女には邪念は無いのだろう。

 

「それで……僕はお役御免になったんだ。だから、関西に。近衛本家に帰る事になったんだ」

 

 相坂さんは、ハッとこちらを振り向き……僕の顔を正面から見てくれた。普段はベンチに並んで座って話すから、対面での会話は少ないから……

 少し表情が曇っているのは、喜んでも良いのかな?

 

「だっだから、一緒に来てくれないかな?」

 

「それは、寂しくなり……え?」

 

 タイミングが悪く、セリフが被ってしまった。

 

「わっ私は……もう60年も麻帆良に居るのよ。他の土地に移動なんて……」

 

 出来れば、彼女の手を握り締めてお願いしたい。しかし……ベンチに置いている彼女の掌に、自分の掌を乗せでもって素通りだった。

 

「方法は有るんだ!でも、相坂さんが嫌がるなら諦めるよ」

 

「私は……えっ?方法が有るの?」

 

 こんなビックリした彼女は、初めて会った時以来かな?

 

「その前に聞かせて欲しい。僕と関西に一緒に行ってくれる?」

 

 僕のプロポーズとも取れる言葉に、両手で口元を隠しながら驚く!暫く沈黙が流れる……すっかり冷えた缶コーヒーを一気に飲む。

 

 苦いや。

 

「近衛君、私は幽霊だよ。多分、それは憑かれるって事だよ?一生だよ?」

 

 美少女幽霊に憑かれる!男のロマンじゃないか!

 

「勿論オッケーさ!じゃ相坂さんは、僕と一緒に関西に行ってくれるんだね」

 

 真っ赤になって頷いてくれた……ヤベェ、今すぐお持ち帰りしたい。ナニコノ可愛い幽霊!

 

「有難う。相坂さん、近衛一族は平安の時代から現代まで続く呪術を扱う一族。僕もそうなんだよ」

 

 そう言って懐から札を取り出し、簡単に火をおこしてみせる。

 

「えー?近衛君って陰陽師さんなの?」

 

「うん、そうだよ。そして魂を核に憑かせて、擬体に宿す事が出来る。つまり肉体を持たせる事が出来るんだ……」

 

 本当は、エヴァに丸投げなんだけど……

 

「生き返る事が出来るの?」

 

 驚く彼女に、僕はゆっくりと頷く。

 

「そんな大変な事……私なんかに何故なんですか?」

 

 確かに生き返れると同じ事だ!普通に考えたら大変な事か、大ほら吹きだよね。でも相坂さんみたいな純朴な娘には、直球でいかないと駄目だ。

 

「君が好きだから。離れたくないから。駄目かな?」

 

 ボッと分かる位、瞬間的に沸騰して真っ赤になった!2人共だ……

 

「わっわたわたわた、私をすすすす好き?」

 

 黙って頷く。これは僕にとって、初めての告白なんだ!

 

「そそそそ、そうですか!すっ末永く宜しくお願い致します」

 

 地面に三つ指ついて、お辞儀されてしまった。

 

「顔を上げて下さい。ね?本当に、早く顔を上げて……」

 

 散々お願いして、顔を上げてくれた相坂さんは……綺麗な涙を零していた。

 何故か、それは拭こうとした僕の指にも感じられた。

 こうして相坂さんの了解を取り付けた僕は、エヴァに教えて貰った手順で相坂さんを珊瑚の飾りにとり憑かせる事が出来た。僕の掌に有る珊瑚の飾りは、ほんのりと暖かい。

 一度憑かせると暫くは定着するまで、そのままだそうだ……全てを終えると、バフンと煙が上がり爺さんの姿に戻った。

 

「ギリギリだったな。相坂さんの承諾を得る前に元に戻ったら大変だった」

 

 ホッと胸を撫で下ろすと、茶々丸さんが現れた。

 

「甘酸っぱい青春劇を有難う御座いました。リアルタイムでマスターに中継しております。

マスターから、早く帰って来いと伝言が有りました。では、此方に着替えてホテルに戻りましょう」

 

「ええー?何やってるの、茶々丸さん!」

 

 紙袋を僕に手渡すと、スタスタと先に歩き出す茶々丸さん。僕は、慌てて着替えて後を追った……

 

 

 

 

 エピローグに続く!

 

 

 

 相坂さんを関西に同行させる事に承諾させてから……事態はゆっくりとだが、確実に動いていった。

 

 ネギ・スプリングフィールド。

 

 英雄の息子は、何処まで行っても利用しようとする連中は居るのだ。

 何故かネギ君に懐かれていた僕は、何度か手紙のやり取りをしている。その報告の中で、頭の痛い項目が幾つかあった。

 

 

 先ずは、ネカネさんとアーニャちゃんの事だが……帰国後、直ぐに空港で我が近衛一族の者がネギ君を彼女等に引渡した。

 そして、直ぐにロビーでトラウマ発動!

 ウェールズのカーディフ国際空港は年間160万人程度が利用する小規模な空港だが、それでも利用客は居る。

 

 女性だって沢山居る訳だから……

 

 ネギ君のトラウマ発動で女性を脱がす癖を事前に教えていなかったので、空港は開港以来のパニックとなった。

 100人規模の女性が脱がされたのだ。

 

 テロリストの多い国だけに「国際空港にエロリスト現る!差別女性脱がし魔襲撃」と紙面を賑やかしたそうだ。

 

 コレにたいして彼女等から猛烈なクレームが来た。

 

 だから正直に

 

「麻帆良学園に来た初日から、女性の服を脱がし捲くり此方が迷惑していた。しかも何度もだ!

だから女性から隔離して、男の園で試練を与えたのだ。彼に脱がされた女性には、此方で記憶操作をしたが大変心苦しい思いをした。

もともとラッキースケベと言う奇跡のスキルを所持してるとも聞いていない。何故だ?」

 

 と聞いてみた……有耶無耶で誤魔化された。

 

 次に、タカミチの奇行だが……正直にどうでも良かった。

 イギリスで燻る不穏分子達を粉砕し捲くったのは、流石は腐っても英雄だろう。

 しかしネギ君の凱旋に合わせて、かつての英雄の一角が露払いとも思える行動を取ったのは意味深だった。

 タカミチは、まんまとネギ君に合流。そして彼の従者に納まりやがった!

 

 キスが仮契約なんだぞ!

 

 どんなおぞましい行為が有ったかは、想像に難しくない。

 しかもネカネさんとアーニャちゃんに、トラウマ克服にはその根本を知る必要が有る。

 そう説き伏せたらしく、ネギ君は……ネギ君は……ネギちゃんになった。

 

 つまりは「男の娘」か女装趣味になった訳だ。

 

 基本的に中性的と言うか、華奢で女顔のネギ君だったから同封の写真は驚く位に美少女だった!

 本当にどうでも良いのだが……

 ネギ君曰く、折角僕が男の何たるかを教えてくれたのに、毎日毎日彼女等にお化粧されて着せ替え人形にされ……半端ないストレスを抱えているそうです。

 

 返信の手紙には「頑張って生きるんだ!」涙で滲んだ文字しか書けなかった。

 

 ネギ君は、タカミチの指導の下に男子中心の従者を集めて契約し捲くっているらしい……

 男の娘が率いる、美少年・美中年集団の「薔薇の翼」とか出来そうで嫌だ!

 しかし2-Aを中心とした従者団を作れば、美少女ハーレム団になった可能性も有った訳だから……

 本当にどうでも良いので、その後ネギ君が彼らを率いて魔法世界に行った後の事は知らない。風の噂では、頑張っているらしい。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 僕の方は、案外早く寿命が来た。日本の男性の平均寿命は、79.84歳だから大体80歳。

 僕は、憑依当時で既に75歳だったから残り10年とはいかなかった。

 相坂さんを珊瑚の飾りにとり憑かしてから関西に戻り、暫くしてから定期健診で初期の癌が有る事が判明。

 投薬と放射線治療で対処したが、再発の危険を指摘され……78歳で再発した時には、手術に耐えられない程に衰弱していた。

 既に打つ手は無く、延命治療を施される日々……関西呪術協会の連中も、末期癌の僕を担ぎ出す事はしなかった。

 彼らの監視が緩んだ隙に財産の整理に取り掛かり、木乃香ちゃんや詠春さんに分配する旨の遺書や法的手続きを行う。

 勿論、半分以上はエヴァの別荘に現金及び金塊としてストックしている。

 隠し財産・不正貯蓄が多かった爺さんだから、人生を何十回繰り返しても平気な金額だ!

 魔法関係の道具も殆ど別荘に持ち込んだ。こうして転生後の準備も万全に済ませる事が出来た。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 病院から治療の施し様がなく、自宅療養を許可されたので近衛本家に帰って来た。

 80歳を目の前に、平均的な寿命を終えようとしている。

 

 大往生だろう……

 

 庭の見える縁側に椅子を出してもらい、夜の月を見上げている。

 

「ああ、そろそろお迎えかのぅ……可愛い夜の一族が見える。マントの中は、ツルペタボンテージかの?」

 

 静かに僕の隣に佇むエヴァ……

 

「ふん。口の減らないジジィだな……準備は全て整ったぞ。さよも魂の定着が順調だ。

先にジジィを蘇らせてから、彼女も擬体に転写する。感謝しろよ。辻褄が合う様に、先に転生させてやるのだから」

 

 月を見上げながら話すエヴァは、本当に初めて会った時から変わらない。ツンデレ美幼女吸血鬼は健在だ!

 

「そうじゃな……有難う、そして迷惑を掛けるが宜しく頼むよ。

もう……

お迎えが……

ああ、そうだな。

もう……この体は……良く頑張ったよ……」

 

 ゆっくりと遠のく意識と、視界の隅で僕の魂の核となる魔石を構えたエヴァを見ながら……近衛近右衛門は、78歳の生涯を終えた。

 

 関西で権力を振るった大妖怪。

 

 ぬらりひょんこと近衛近右衛門の葬儀は盛大に執り行われ、後を継いだ詠春さんは……

 既にオタク限定でカリスマ写真家としての、確固たる地位を得ていたので……直ぐに家督を木乃香ちゃんに譲りやがった。

 後見人に、青山鶴子と葛葉刀子が付いているので安心だけどね。

 彼女達も、それぞれが写真集を出して結構な人気が出ていた。

 本人達は嫌がる素振りをみせるが、満更ではないだろう。

 刀子さんは近衛一族の若者と結婚し、男の子を出産した。

 

 予定通り、近衛一門に取り込めた訳だ!

 

 平成の大妖怪ぬらりひょんも、死して三年も経てば皆の記憶の片隅に追いやられてしまうだろう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ガラスの水槽の中で、意識が覚醒する。

 

「がぼがぼがぼ……」

 

 息が出来ずに暴れるが、直ぐに水槽を満たしていた水が無くなる。

 

「うーLCLって、こんな感じだったのかな?」

 

 うずくまっていると、水槽がどけられて毛布が掛けられた。毛布を体に巻き付けて、漸く周りを見る。

 

 先ずは茶々丸……

 球体間接がなくなり、より人間的になっている。何故か表情が嬉しそうに見えるのは……成長の証かな?

 

 そしてチャチャゼロ……

 うん、相変わらずだ。ケケケとナイフを弄くっているし、刃物キチガイは変わらずか……

 

 そして水槽の相坂さんを見る。

 うん、スッポンポンで浮かんでいる。グッジョブ!彼女は意外にも着痩せするタイプだったのか!

 

 

「僕と彼女をスッポンポンで並べていたのかい?エヴァのエッチ!」

 

 久し振りに見る美幼女吸血鬼に、微笑む。

 

「黙れ粗○ン野郎!誰が苦労して若返らせたと思うんだ!」

 

 巫女服に白衣、それにメガネと言う僕のリクエスト通りの装束で、ワナワナと震えている彼女を見詰める。

 

「久し振りだねエヴァ!有難う」

 

 頭を軽くポンポンする。

 

「全く大変だったんだぞ!別荘を利用しても一年近く掛かったんだ。本当に大変だったんだぞ……」

 

 涙を流してポカポカと胸を叩くエヴァを抱きしめながら「ただいま、僕の大切な吸血鬼……」と言って、背中をポンポンと叩いた。

 

「ああ、あのな……その肉体だけど、強化し過ぎて保たなかったから……その……吸血鬼化したんだ」

 

 テヘッて舌を出して、可愛く教えてくれた!

 

「なっ、何だってー!」

 

 彼女は、チシャ猫の様に笑いながら「良いじゃないか!私達と永遠の時を歩むのだろう?それに力を欲したのもお前だ。だから……

お帰り、私の大切な吸血鬼!」と見惚れる笑顔で宣ったんだ!

 

 

 

 僕の新しい家族……

 

 真祖の吸血鬼に家事万能ロボ、そして殺戮人形。一見すると不思議な面子だ!

 そして僕は、作り物の体に魂を定着させて生き返った人工生命体だ。

 何故か制作者が僕を強化し過ぎて、祖体が耐えられず仕方無く吸血鬼の因子を混ぜたらしい……仕方無くだそうだ。

 この強力な体を使いこなせる様にと、毎日が死を前提とした特訓だ!

 無駄に膨大な魔力に飽かせた攻撃魔法を打ち捲る美幼女吸血鬼。

 無表情に銃器で狙撃する美少女ロボ。

 そしてブレードハッピーな美幼女?人形。

 三位一体のしごきに耐えていますが、成長は緩やかだそうです……

 

「ちくせう。何時かヒィヒィ言わせたるからなー!」

 

 出来もしない事を夕日に向かって叫ぶ、生後1ヶ月の新米吸血鬼が僕だ。

 

「騒いでないで、早く来い!今日はさよを復活させる日だぞ」

 

「はーい!今すぐ行きまーす」

 

 僕が、この体に慣れたら復活させる約束をしていたんだ!今日、初めて三人の攻撃を15分耐えたので許可がおりたんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 別荘の地下に設えた、エヴァ専用のラボ……その薄暗い部屋の中央部に、相坂さんの人工の肉体が浮いている。

 

 勿論、スッポンポンだ!そう、スッポンポンなんですよね相坂さんは。

 

 何度かこのラボに来ているので、何度も彼女のスッポンポンを見ている。エヴァの技術は大したものだ。

 僕の場合は、本人の遺伝子や肉体の一部を提供できたが……

 彼女の場合は映像資料もままならないのに、エヴァは完璧に相坂さんの姿形を再現した。

 唯一の資料は、2-Aの出席簿に貼ってあった写真だけだ。この写真だって、どうやって手に入れたんだ?

 顔はそっくりだが、体は想像の域を出ないだろう。茶々丸さんに聞いたら、彼女のサイズを参考にしたそうだ。

 

 つまり、リアル茶々丸バディ……ハンパないっす茶々丸さん!

 

「コラッ小僧、エロい目でさよを見詰めるな!本当に若返ってから節操が無いぞ」

 

 全く、昨夜もハッスルしたくせに……何かブツブツとヤバい発言が有ったが、スルーだ!

 

「ゴメンゴメン、でもエヴァだって彼女をスッポンポンで水槽に浮かべてるし……目のやり場に困るんですよ」

 

 そう言って水槽から離れて、壁を背にもたれ掛かる……

 

「全く、そこで大人しく見ていろ!」

 

 本当に、このツンデレ幼女は可愛い。これで合法ロリなんだから最高だ!

 エヴァが何やら呪文を唱えだすと、床面に魔方陣が輝きながら浮かび上がる。

 

「……………………」

 

 小声でリズム良く、しかし何を言っているかが分からない呪文を唱え続けている……

 5分程だろうか、薄っすらと額に汗を滲ませたエヴァが気合?を込めて魔力を放出する。

 エヴァの掛け声と共に、水槽の中の相坂さんが目覚めたのか……ガバガバと悶えているのは、溺れそう?

 

「ちゃ茶々丸さん、水槽の水を急いで抜いて!」

 

 僕と同じように、水が抜かれた水槽の底にしゃがみ込む相坂さん。

 

「けほっけほっ……あれ?息、息が出来ますよ……あっ、有難う御座います……って、わたし裸ですよ?」

 

 茶々丸さんが差し出した毛布で体を包み、周りを見渡す相坂さん……エヴァが一歩前に出て、相坂さんに話しかける。

 

「体の調子はどうだ?私が調整したんだから完璧だろ?」

 

 巫女服に白衣、それに伊達メガネを掛けたエヴァを不思議そうに見詰める相坂さん。

 

「アレ?エヴァンジェリンさんですよね?それに……絡繰さんも?」

 

 元クラスメイト達の存在に気付いてビックリしている!

 

「お久し振りです、相坂さよさん」

 

 少しだけ表情が人間臭くなった茶々丸さんが、優雅にお辞儀をする。それに釣られてペコペコと頭を下げる相坂さん……

 んー和みますね、美少女達の何気ない所作は。大分落ち着いたみたいなので、そろそろ声を掛けようかな?

 

「相坂さん、久し振りだね!」

 

 彼女が気が付かなかったのは、僕が死角に居たからなのだが、いきなり声を掛けたのは不味かったか?

 

「えっ?近衛君?どこ?」

 

 慌てて振り返った為か、体を包んでいた毛布がパサリと床に落ちる……

 

「あっ……」

 

「……えっ?」

 

 スッポンポンの彼女を正面から見詰めてしまった。

 意識の無い彼女の裸は見放題だったし気にしなかったのだが、意識ある彼女の羞恥の表情と合わさると……

 

「……こっ……こっ……こっ……」

 

 彼女は真っ赤になって、こっこっと呟いているけど?

 

「こ?コケコッコー?」

 

「ニワトリの真似か?」

 

 僕とエヴァのダブル突っ込みに……

 

「近衛君のばかー!エッチー!」

 

 鋭いフックが僕の左脇腹に突き刺さる……

 

「ちょ、ごめっ痛い痛いから、ごめん。不可抗力だから……おぅ!」

 

 女の子が怒ってポカポカ殴るのでは無く、本格的なパンチをボディ重点に喰らい……僕は膝をついた。

 強化した筈の肉体でも、彼女のパンチで蓄積されたダメージは素晴らしかった。

 

 もたれ掛かる様に、彼女の豊満な胸に顔を突っ込ませたが「近衛くんの変態!もう……ばかー!」地を這う様なフルスイングのアッパーが、僕の顎を捉えた!

 

 しかし、しかし夢の柔らかオッパイは堪能出来たんだ。

 

「責任取ってくれるんですよね?よね?」

 

 パニックになっている相坂さんを横目に、僕は意識を手放した。目が覚めれば、新しい家族を祝う宴が始まるだろう……

 しかしダメージは深刻な感じだ。夕飯までに回復が間に合うかは……微妙かも知れない。

 

 

 「僕は麻帆良のぬらりひょん!」

 

 ここに2回目の完結とさせて頂きます。

 

 最後までお付き合い頂き、有難う御座いました!

 

 

 

 おまけ

 

 

 

 ナギ・スプリングフィールド。

 

 嘗て魔法世界で戦争が有った。長き戦乱は国と民を疲弊させた。それを終息させた英雄達のリーダー。

 サウザントマスターと呼ばれた半分伝説の人物だ。ネギ・スプリングフィールドは、彼の忘れ形見。

 そんな英雄の息子が「男の娘」となり、美少年から美青年。果ては美中年までを従者として従えて魔法世界へ凱旋した。

 

 今、マホネットで一番ホットな話題だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 エヴァのお陰で新しい体を手に入れた僕とさよ。実は東京で学生生活を満喫しています。

 未だ近衛近右衛門で居た頃に、偽の戸籍を幾つか用意していたんだ。

 若返りが可能と知った時に、この情報社会で戸籍は必ず必要になると思った。

 だからコチラ側として生きて行く為に数種類を用意したんだ。

 バレたら次の人物に代えていく。極力目立たず騒ぎには介入せず。のんびり平和に生きていく為に……

 だけど魔法世界の情報を知る為に、マホネットは引いている。

 

「近衛君、お早う御座います」

 

 そう、僕は今でも近衛を名乗っている。普通は疑われるから替えるよね?でも何故か愛着が有るのか続けて同じ名前を使ってます。

 

「おはよう、さよさん。エヴァも茶々丸もおはよう」

 

 朝食を食べる為にキッチンに行けば、セーラー服にエプロンを着たさよさんとメイド服の茶々丸が料理をしていた。

 エヴァは食卓にノートパソコンを持ち出して、何かを調べている。彼女は最近になり漸くインターネットを使える様になった。

 

「ああ、おはよう。面白い特集が有るぞ。あの小僧……

女性恐怖症が突き抜けたのか、男を率いて魔法世界に凱旋したぞ。完全なる男の世界だな」

 

 何故か三つ編みに伊達メガネのエヴァが、パソコンを反転して画面を見せてくれた。その画面には……

 

「タカミチだ。相変わらず腐り輝く瞳だけど……あれ?隣の美少女って、コレまさかネギ君?」

 

 その画面には中央に男の娘のネギ君?ネギちゃん?を据えて右側にタカミチ。

 左側に、確か麻帆良学園の蛮カラ連中の……ポチ君だっけ?その周囲を美少年から美中年が囲っている不思議な空間だ。

 因みにネギちゃん?は何故か麻帆良学園の女子中等部の制服だ。ご丁寧にカツラ?まで被り見た目は可憐な美少女になりすましている。

 僕だって何度かの文通で同封されていた写真を見てなければ分からない。

 

 完璧な美少女振りだ……

 

 それに麻帆良学園で一般人だけど異能を持つ連中は従者としてスカウトしていったのか?知らなかったぞ。

 

「なになに……今、一番ホットな話題!

大戦の英雄ナギ・スプリングフィールドの忘れ形見、ネギ・スプリングフィールドちゃんと薔薇護衛団。魔法世界に凱旋」

 

「逆ハーレムを率いた英雄、魔法世界に凱旋」

 

「ネギちゃん写真集、空前絶後の大ヒット!書店へ急げ、緊急増刷決定」

 

 画面には色々な方面からネギちゃん?を称える記事の山だ!しかし薔薇護衛団?護衛?

 確かにシャツの胸元が不自然に開いている奴や、口に薔薇をくわえたり胸ポケットに差したりしてるナルシーな連中ばかりだけど……

 その道の方々なのかな?まさかネギ君……タカミチと一線は越えてないよね?よね?でも護衛団って時点で、ネギ君が護衛対象って事か。

 つまり彼は、それほど強くない御旗の役割なのかな?

 

「話題騒然、マギステルマギに一番近い若き英雄。数々の事件を仲間と共に解決、か……」

 

 エヴァが鼻で笑ったな。そこにはネギちゃん?の経歴が書かれている。

 僕等もネギ君には困らされたけど、一応最低限の指導はした筈だ。だけど権力者達は、民衆にウケる経歴を捏造した。

 そこに僕等の苦労と努力は無いんだね。まぁ放り出した僕が言えた義理は無いけどさ。

 辛く胃の痛い記憶が蘇る。

 

 嗚呼、ストレスの日々よ……

 

「仲間と共にって言うか、タカミチのごり押しで解決って感じだな。しかし捏造された経歴が凄いぞ。

メルディアナ魔法学校を最年少で主席卒業。

試練では麻帆良学園で多数の生徒達を導き、指導者としても優秀な事を示した。

近衛学園長が引き止めるのを世界を救う為に此処に留まる訳にはいかないと断る。

学園長はネギ・スプリングフィールドを次期学園長にする為に引退を表明した。

が、理由を聞いて涙ながらにイギリスへ送り出した。送別会は麻帆良学園都市全体をあげての盛大な物であった。

その後イギリスに凱旋してからはNPOとして旧世界の紛争を収める……

見事な迄の捏造だな。

奴の麻帆良学園での破廉恥行為が見事に無かった事になってる。確かに英雄様が性犯罪じゃ民衆は納得しないな」

 

「はい、近衛君」

 

 さよさんがネギちゃん?の話題をスルー。具沢山味噌汁をよそってくれた。赤出汁にほうれん草と油揚げの味噌汁だ。

 

「有難う、さよさん」

 

 取り敢えず椅子に座り、彼女が渡してくれた味噌汁を受け取る。今朝は和食、メニューは紅鮭に板ワサ、それに温泉卵だ。

 

「ほら、大盛りだぞ」

 

 エヴァがよそってくれたご飯を受け取り食べ始める。暫くは咀嚼する音だけがキッチンに響く……

 ネギちゃん?が魔法世界に凱旋か。

 でも実際は旧世界と言われる此方の世界が、魔法世界の連中を締め出し始めた。

 だから本国は彼を適当な功績を付けて呼び戻したんだ。僕が引退した後、対魔法世界との駆け引きは此方が有利。

 此方に居る魔法使い達は緩やかに数を減らすだろう……

 

「近衛君、部活の方はどうですか?」

 

 少食の為か既に食事を終えたさよさんが質問してきた。

 

「ん、科学部の事。面白いよ、実験とか」

 

「なんだ、体育会系じゃないのか?折角の運動力だろ、活躍しないのか?」

 

 僕の体はエヴァが造ってくれた特注品。しかも半分吸血鬼の真祖化している。だから運動能力はハンパないけど……

 

「僕の体で真面目に運動したら世界新記録が乱立するでしょ!体を調べたいとか言われたらどうするの?」

 

「そうですよ、エヴァさん。ただでさえ近衛君は格好良いから人気なのに、スポーツ万能とかだと大変です」

 

 確かに僕は人気者だ。常に近くにいるさよさんの為に、他の女子は僕から一歩引いている。

 そして嫉妬に狂った一部男子に熱烈な歓迎を受けているんだ。主に八つ当たりとして……

 

「ほぅ?聞いてないな、モテモテだとは……」

 

 ヤバい、エヴァの目が白黒反転してるぞ!

 

「そうなんですよ!何故か私に良く話し掛けてくる人達に大人気なんです。私に内緒で放課後とかに校舎裏に呼ばれたり。何をしてるんですか?」

 

「はぁ?お前、それって……」

 

 一気にエヴァの怒りが憐れみに反転した。

 

「マスター……近衛さんは、さよさんに不埒な思いを寄せている男子にイジメを受けているのです。

マスターとさよさんを二股してるゲス野郎には、当たり前の対応かと……」

 

「ゲス野郎って……」

 

 茶々丸さん、それは言い過ぎでは?テーブルにガックリと伏せる。確かに大和撫子な美少女が常に近くに居るよ。

 でも戸籍上は兄妹だよ。

 天涯孤独な未成年の男女2人が同居するより、兄妹が一緒に住む方が世間的には受け入れられる筈だ。

 只でさえ見た目良しなんだから……しかも、さよさんは兄妹の設定なのに近衛君とか呼ぶし。

 異母兄妹で名字が違って最近知り合ったって、苦しい言い訳も僕の迫害に拍車を掛けていた。

 

 つまり、リア充シネ!だ。

 

「ふん、まぁ良い。お前達は大学進学を目指すんだろ?」

 

「ああ、最終学歴が高卒でも良いけど普通の会社勤めは無理。自営業でも接客業は無理。

お金は有るから働く必要は無いけど、世間的に無職で金回りが良いは目立つ。

だから実業家とか投資家として最低限の知識と経歴は必要だよね?」

 

 これは皆で何度も話し合った。

 

「御馳走様。さよさん、そろそろ出掛けようか」

 

「そうですね。エヴァさん、茶々丸さん。では行ってきます」

 

 さよさん特性のお弁当を鞄にしまい出掛ける準備を終える。

 

「今日は休日だろ。何故学生服を来て2人で出掛けるんだ?」

 

 エヴァは茶々丸に淹れて貰った日本茶を啜りながら、不思議そうな顔をしている。

 確かに土曜日の早朝から学生服で出掛けるなんて、今までは無かったからね。

 

「私達、今日と明日はセンター試験なんです」

 

「そうなんだ。大変だけど頑張ってくるよ」

 

 家を出ると、さよさんが腕を絡めてくる。端から見れば仲の良い兄妹か、それとも初々しいカップルか?

 これが嫉妬の原因なんだけど全然構わない。魔法絡みのイザコザなんて僕等には、もう関係無いんだ。

 彼女達と平和で平凡な日常を過ごす。

 

 僕の三回目の人生は順風満帆だ!

 



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