私、救済手段がなければ作るタイプです。ドヤァ (母は歯はいい)
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プロローグα

「ノワール、早く連絡の一本ぐらい送ったらどうなの?」
「もうあの二人が楽しめるように頑張ってたんすよ? もう資産無いっす。金くれっす」
「いやだわ。私に結婚祝いをくれない? 塩よりもお金を」
「とんちがいい具合にかかってますね。流石シロさん!! とはいえ、やっとALOできるんすよ! 楽しみだわ~!」
「早く随意飛行教えてくれないかしら!? 旦那と飛びたいの!」


 ★  ★  ★

 

 

 

 7days ago

 

 ボクはあの人に救われた。いや、違うかな。————

 

 

 

 

 

 ボクは真っ暗な闇の中を来る日も来る日も進まされていた。もちろん夢の中の話だよ? 蛇行しているように見えてくる確かな道。その道は薄ぼんやりと光ってて進むことは全然無理じゃないんだよね。時々気まぐれみたいに現れる姉ちゃんみたいな藍色の蝶がいたんだけどね? 現れるとき大体ボクの後ろにいて、何か押してきてくれてるみたいでね。だから、ボクをすごく安心させてくれるんだけど……。いつの間にか気づけばボクの前に。だから、しばらく前を飛び続ける蝶を追いかけ続けるんだけど、ある程度走って時間が経つと煙みたいに消えちゃうんだよね。そのことがいつも少し怖かった。だから、見失わないように……。一緒に進むために走るんだけど。暗い、暗い、真っ暗闇に溶けたひらひらと舞う蝶をずっと追いかけてるの。

 でも、どういうわけかすごく後ろが気になってきちゃうんだよね。

 

「それで、振り返ったその瞬間、ボクの目はパッチリ覚めちゃうんだよ」

「ユウったら……怖い夢でも見てるのかしら? ユウにすれば怖くない?」

 

 そう言うと姉ちゃんはゆっくりと足を組み替えてお姉さん座り。撫でるみたいに自分の太ももを二、三回触った。乗ってもいいってことかな? ボクはいつか感じた、仮想世界の現実感が嬉しくなってきて、姉ちゃんに飛び込んだ。

 世界中にいるはずの綺麗な蝶や、大きさのバラバラなカラフルな蝶も現れるこのセリーンガーデン。『ここはボクたち双子が触れ合える唯一の場所だ』って誇りをもって言ってもいい。だからボクはこののんびりとした時間を、ALO以外で度々来てくれる姉ちゃんといるためにゆっくり楽しむことにしている。今ボクたちが触れ合える場所が唯一で、過去最高に一番近くて落ち着くからなんだろうなぁ。

 けれど、こんな幸せも感じてるのにいざ現実に目を向けると少し辛くなってくる。クスクス笑ってる姉ちゃん(藍子)を見ていると、ボクはなんだかつまらないこと考えてるなぁ、なんて。

 姉ちゃんはいつも大人みたいな落ち着きで、だからボクはいつも頼っちゃう。そこはやっぱり直さないといけない。今後も生きていくためにも、それは確かに重要だから。けど、本当に姉ちゃんはいつでも大人な姉ちゃんなのかなって思うことがある。だってボクたちは同い年の双子だ。今まで色んな人と関わってきたけどそこまで違うことはしていない。生まれの早さだって数時間も変わってないのにボクは姉ちゃんに甘えちゃう。

 そんなボクたちにとって、生きたくても生きることができない現実がボクたちの前に立ち塞がっていた。特に姉ちゃんは、その瞬間までの時間にたくさんの余白みたいな猶予があるわけじゃなかった。

 

「姉ちゃんは、そんな風に考えたことないの? 例えば……ボクたちはいつまで生きていられるのか、とか」

「……えぇ、もちろん。考えたことはあるわよ」

 

「けど、私たちの生きる道を照らしてくれた。あれから一度も会えてないけど私を救った人はいる。多分今度はユウを優しく救ってくれるわ」

 

 本当にそうなのかな? 柔らかい、優しい笑みを浮かべる姉ちゃんだけど、今までずっとボク以上に辛い思いをしてきたはずだ。姉ちゃんのことだ。もしかしたら僕に心配をかけないように隠しているだけかもしれない。姉ちゃんは本心を隠すのがすごくうまいから。

 けど、そんなことを考えたって最終的に考えが纏まってスッキリするなんてあるわけない。多分これが、堂々巡りってやつだ。

 だから、今度は救ってくれたあの人にぶつかってみよう。どうせもうすぐ会えるんだし。待ちかねたよ、ボクたちのヒーロー。

 

 

 けれど、あの日をボクは覚えている。不穏な予測も不安な夢も全て飛ばして近寄ってきたんだ。ボクたちにとって絶体絶命のピンチに颯爽と現れるヒーロー。

「だーいじょーぶ!」ってボクたちを励ましてくれる。

 いつだったかな? 少しだけなんだけど、昔から憧れはあったんだ。普通の女の子だよ、って言われたいだけだからなのかもしれない。子どもみたいな夢だよ。それに焦がれていたボクはいる。

 だから、今度の試合でボクを真っすぐ受け止めてね。

 

 

 

 

 

 

 ————ボクたちはあの人に救われたんだ。

 

 

 

 ★  ★  ★

 

 

 

 今でも覚えている。初めて会ったのは、第一層攻略会議の時だった。

 あの時の私よりも少しだけ小さな女の子と軽薄さを前面に押し出したかのような長身な男性の二人組。私たちも同じようなコンビを組むことになっていたから、数合わせとちょっとばかしの話し相手欲しさにパーティーを組んだ。

 

「黒いの、名前は何だい?」

「……キリトだ。そっちは?」

「ノワールだ。相棒の名前はまだ勘弁な」

 

 その時はお互いに性別も明かさなかった。明かす必要は無いという態度での証拠だろう。例えば、あの小さな女の子らしき人がただ童顔の男の子である可能性もあるんだから。リアルに似てても確証はない。まぁ、予想通り、女の子だったんだけど。情報戦という面において私たちの圧倒的な優位を伝えるためなの? 

 明かさなかった理由だけをとっても、今思えば実力が足りない段階で周囲に露見するとトラブルに巻き込まれやすくなるってお互いに考えたからだろう。キリト君もノワールさんも、その当時からできた人間だったのかもしれない。

 結局そんなわけでパーティーリーダーというべきなのか。お互いの代表の名前のみというのは認められていないみたいで少しだけ苛立ちはしたけど、お互い同じ状況だ。こっちも言えたものでもないから口を挟まなかった。

 

 こんな自己紹介も真面目にしないようなグループが最後の最後まで残ったんだけど……。

 

 

 

 6days ago

 

「ねぇ、キリト君。ノワールさんって本物なの?」

 

 ここは現在アインクラッド22層・ログハウス。誰でも参加可能な予選は本番の前日にある。これから会場ではALO九種統一トーナメント、その予選を含めた前夜祭的な盛大なイベントが執り行われる。そのため、明日以降の予定決めとトーナメントに出るメンバーへの激励会もあり集まっている。もちろんここにはエギルさんやクラインさんも含めたフルメンバーが揃っていた。

 そんな中、運営から告知された出場メンバーの通知を持った私の言葉をきっかけに、その場の全員が顔を上げる。SAOサバイバーのリズやシリカちゃんは名前を知っているから浮かべる表情は苦笑。リーファちゃんが首をかしげているのは当然として……シノのんはなんで見当がついているのかしら? 

 その疑問にきちんと答えてくれたのはご存じの通り、ノワールさんの悪友・キリト君だ。笑顔の中には興奮が含まれているけれど、その思いは何なんだろ? 

 

「あぁ、間違いなく本物だと思う。SAOクリアした後、いくら何でもSAO生還者(サバイバー)じゃないと普通知らないだろ。しかもあの名前をパクるのはまぁ、悪趣味だからな。

 ……今でも生きてたんだな、アイツ」

 

 次に口を開いたのは意外にもエギルだった。そのバリトンボイスはキッチンで料理を手伝いながらも全員に聞かせる力はあるみたい。リズも大皿を運ぶ係としてそれに追従させた。

 

「何回死んでも生き返る伝説の持ち主だからな、あの時は本当に死んだと思ってたんだが」

「『アインクラッドで一番死ぬ死ぬ詐欺をやらかした人』でしょ? 下の階にもその噂は広がってくるんだから。MMOトゥデイの中でも何回かはあの人が一面に出てたわよ。話題性と心臓に悪いって意味ならラフコフよりもたちが悪いわよね。現象と対策があるから気をつけろって意味だったんでしょうけど……」

 

 ログハウス全体を談笑が包む中、二人のプレイヤーは密かに一言

 

「ノワールさん、か……。少し会ってみたいな」

「あの人、そんなことしてたのね……。頭は悪くないのに………………また会いたいわね」

 

 シルフの剣道少女は好奇心を、猫のような狙撃手は事実の確認のため、目を光らせた。

 

 

 

 ★  ★  ★

 

 

 

 5days ago

 

 レコンが言うには最近、都市伝説じみた噂がシルフ領を駆け回っている。その内容は

 

 

 一つ、一番速いシルフよりも、さらに速いプレイヤーがいる

 

 一つ、逆にこの世界にいても空を飛ばないプレイヤーがいる

 

 一つ、央都アルン周辺でそのプレイヤーが二人とも現れる

 

 

 胡散臭さもあるけどそれ以上に気になる話題だ。ずっとALOで最速とまで呼ばれ「スピード狂(speed holic)」なんて異名まであるのに私はそのプレイヤーに会えたこともない。一度は会ってどちらが速いのか白黒つけたいと思い始めて幾数日。あまりにも見つからず、その情報に詳しいレコンを誘い、さらに数日間探し続けているのだけど一向に姿は見られなかった。

 

「どこにいるんだろうねぇ、ごめんねリーファちゃん」

 

「仕方ないわよ。結構運が絡むって聞くし……。試合があったか分からないけどデュエル大会予選見に行った方がよかったかなぁ! ……あぁもう! 

 時間はこのぐらいであってるよね!」

 

「僕たちとダイブの時間がすごくかぶってるらしいんだよ。リアルタイムで夜遅すぎると見つからないらしくてさ」

 

 その話を聞きながら少し高度を落としてみる。どこか見逃しがあるかもしれないから。目を凝らしながら周囲を探すけど目に入るのはALOの中心である世界樹とその周辺の街だけだ。

 今日もダメかと肩を落としてアルンに宿を取りに行こうと踵を返した。

 けれど、その途端に私の耳に悲鳴が聞こえてきたのだ。

 

「! ねぇ、レコン! 何か聞こえない!?」

 

「え、え、何も聞こえないよ!」

 

 耳を澄ますジェスチャーをすれば、わずかに聞こえる範囲が限定されて聞こえてくることはある。でも首をかしげてるってことは未だ、本当に聞こえてこないんだろう。その返答を聞き終わる前に音の出どころを捜索する。ALOの中でエルフは他種族と比べても耳が非常にいいと言われている。この世界に空耳なんてことは起きない。なぜなら、トークの内容は出した人のボリュームに合わせて届く距離が明確に決まっているから。だったら、私に聞こえたこの悲鳴も実体は存在しているはずなんだけど。

 そうして探すこと数分。見つけたのはウンディーネの男性とノームの女性。

 ……男性の方はなぜか木に縛られているけれど。

 

「レコン、ちょっと静かにして。隠れるわよ」

 

「ラジャ」と一言だけ告げて少し距離を置いてランディング。互いに隠形魔法をかけてから潜伏スキルを広げてみる。……なんというか修羅場の雰囲気を察したのだ。

 女性の方は非常に小柄な容姿だった。多分シリカと同じくらいの身長なんだけど、違和感をアピールするのは特に身の丈の二倍以上はある大きな槍だ。その女性は圧迫面接をするように少しずつ近寄って穂先を男性の顔に押し付け続けていた。

 

「ねぇ、ノワール? 最後に言い残すことは、ありますか?」

 

「いやぁ、これもちょっとした煽りなだけですよ、シロさん! こういった方が随意飛行マスターすると思ったんですよ!」

 

 ケラケラと笑い続けるのは間違いなく作り笑いだろう。VRワールドは正直な心の内をアバターに表す。冷や汗はもちろん、瞳の動きもグルングルン回り続けているのが密かに隠れながらでも確認できるくらいには丸わかりだ。

 対して女性は笑顔。なんだけど怒ったときのアスナさんと同じような表情をしている。あれほどの迫力を私は見たことが無い。まぁ、お兄ちゃんはしばしばそんなことをやらかしちゃって。結局、何も言わず罰を受けるがままになっているのに。

 

「知りません。問答無用であなたの首を落とします。最低でも五回は落としても構わないでしょ?」

「復活アイテムなんてそんなに無駄にできないでしょうに、馬鹿だなぁ」

 

 更に煽るようにケラケラと笑いながら口は回り続ける。

 ……この後の展開が読めてきた気がする。でも、男性の人ごめんなさい! 

 虎の尾を踏みたくないので終わってから出ます。

 

「出しなさい。拒否権はありません」

「……へぇ? いやっすよ!」

 

「出しなさい」

「無理っす! メニュー開けないしぃ、アハハハハ!!」

 

「出せ」

「……はい」

 

 うん、ほら、、、だと思った。それが済めば女性の表情は非常に柔らかいものになった。いつでもきつい性格なだけじゃなく優しさが表面に現れるときがデフォルトなんだろうか? 

 

「えぇ、それがいいと思います。それと、

 

 

 盗み見は感心しないわね」

 

 数秒前まで男に向いていた視線をこちらに向けた。完全にタゲられた!! 

 持っていた槍を右手一本に持ち替え肩の上に載せる。間違いない、投擲だ! 1秒未満で股関節をガッと広げ上体を低く、そのまま右足を起点に爆発的な前進運動を加えながら豪快なピッチングのモーション。

 

「レコン、かがんで! 「少しだけ、遅かったわね」

 

 まるで一陣の風のようだった。槍そのものが速すぎて、目で捉えられない! 木々の隙間を槍は一寸のずれもなく正確に進んできたのだろう。私の背後で槍は止まった。音の出どころに振り向けば、その槍は破壊不能オブジェクト(immortal object)でもある森の木に真正面からぶつかることでやっと静止。ただ、少しのダメージを与えることに成功させていたようで私とレコンの二人とものすれすれを狙ったらしい。ありえないほどの精度だ。

 

「いや、シロさん! スキルはちょっと待って! 多分あの子ら、俺のお客だわ!」

 

 

 

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 4days ago

 

 ノワールというプレイヤーと一番最初に会ったのはALOじゃなくGGOで、あまり思い出したくもないデスガン事件よりも前のことだ。一時期彼のプレイスタイルのマイナーさとその強さで有名になっていた。

 私がへカートを手に入れて間もないころ、44マグナムをメインに据えて、サブアームに光剣を持っていたから非常に目立っていた。それだけでも目立つのにさらに腰のベルトに両刃のナイフを五本くらい吊っていれば余計目立つ。ただ、ノワールって和訳すると【黒】って意味なんだけど、全然黒じゃなかったのよね。むしろ白だった。ただ、防具じゃなくてもはや布。ぼろ布とかが妥当。

 猶更存在が意味わからない。ただ、ランキングなんかでは結構上の方だったから「へぇ、強いんだ」なんて感想は思ったけど。

 

 正直な話、偶然見かけた狩り場でも破天荒というか何しているかわからないったらない。辛うじて光剣の軌道だけは見えるんだけど、それも瞬きを一回挟んだだけで戦闘が終了していた。結局敵は全滅。そこまでしか見れなかったけど結局のところ、よく分からない。

 対戦した経験がないから詳しい情報もない。その上試合の動画はあまりにも少なかった。

 

 

 ある時、誰も来ないような街の隅にあるバーに彼が入っていくところを見かけた。ただの好奇心とどんな正体を持つプレイヤーなのか。そんな可笑しなことが気になって、いつもなら入るはずもない辺鄙なバーの扉を押した。

 彼はカウンター席の中でも一番奥にいた。透明なグラスの中には茶色い飲み物が氷と一緒にカラーンカランと音を立てながら彼の手に収まっていた。

 隣には座らなかった。カウンター席に背中合わせ、テーブル席の通路側に陣取った。けれどここなら、話はできるみたい。敢えて後ろを振り向いて口を開く。

 

「ねぇ、ノワールさん? だっけ? 素材集め手伝ってくれない?」

 

 リアルなら後も考えてる誘い文句だけど、ここでなら倫理コードに引っかけるトラップだ。よって、役割としてはただのジョークかこちらでいい思いをしたいかなんだけど。正直このゲームではジョークだと断じないとやってけないところがあるから。引っかかったら文字通り素寒貧に撃ち抜かれる方が可能性が高い。だから、こんな話かけ方をすることは少なからずある。……もちろん相手は選ぶけど。

 こっちを向いたノワールさんはサングラスをかけて無精ひげの生やしたアバターでワイルド系おじさんみたいなタイプだった。いいアバターだと思うけど、私の好みではない。……ま、そんな好みなんて私には関係ない。早く強くならなければならなかったから。

 私の声掛けに反応したからだろう。こちらを見るおじさん面は愛想の良さそうな笑顔を浮かべ口を開いた。

 

「おぉ、愛い嬢ちゃんやな。一回だけなら構わんよ。ただ、あえてそんな言葉づかいをするのは感心しねぇな」

 

 ただ、後半に連れて表情はしょっぱくなっていったけど。割と真面目なタイプなのかもしれない。そう思うくらいには優しそうな雰囲気を醸し出した。

 

 

 そして、狩りに行っただけの話だ。

 でも、後一回だけ関わる経験がある。それは死銃事件の時だ。キリトと知り合ったタイミング。けれど、アレを思い出すタイミングは今じゃない。

 

 

 

 

 結果として会えるんだから妙な縁だと思う今日この頃。

 

「あら、久しぶり。BoB以来じゃない?」

「久しぶりシノン。明日の18時にALOの世界樹前で。待ってるっすよ」

 

 

 

 ★  ★  ★

 ☆  ☆  ☆

 

 

 

 2days later

 

 

 学校から帰り、郵便箱からハガキ二枚と茶封筒一枚が来ているのを取り出し、課題をデスクトップでさっさと終わらせることまで日課だ。もちろんきちんと終わらせる。

 これからは少々めんどくさいけど仕事になる。伝手で譲ってもらったノーパソを開きながら仕事メールを確認。

 さて、やりますか! 

 

 私はMMOトゥデイに雇われているしがないライターだ。

 今日も今日とて取材班がとってきたインタビューをもとに文章をつけなくてはならない。

 これが終わらない仕事という奴かなんて感傷に浸りながらキーボードに叩き込んでいくと次の仕事名は【ALOデュエル 徹底解説!】なんて題名の仕事だ。デュエルは専門じゃないなんて考えていると日時と出場選手欄を見て仕事を振られた理由に納得。

 

 その舞台の名はALO九種族統一トーナメント

 

 こういうのは鮮度が良くないとせっかくの努力が無駄になる。つまり、人が足りないから色んな人に仕事をおっつけさせてるんだろう。正規の労働者じゃないのに見事に大量の仕事を割ってくる辺り中々めんどくさい事態だ。ハイハイ、ワーホリワーホリ。

 何度も予選を見直しながら解説文とコメントを適宜書き加えていく。あんまりデュエルはやってないんだけどなぁと思いながらも未だに覚えている知識に見事助けられているので文句を言えるはずもなし。

 そんな作業をしばらく続けると、ふと目についたのはインタビュー内容を録画したものだ。

 

 kirito

 

 順位を確認してみると彼は二位。あのキリトが二位なんて相当珍しいこともあるもんだな。

 それからいつも通り茶封筒を探るとUSBが見つかった。重いデータはいつもこの形なのだ。中には参加者のアンケートデータと試合映像、それからインタビュー映像もある。彼は律義にアンケートに答えたらしい。恐らく彼女の物言いだろうと当たりをつけアンケートに目を通す。

 

『結構楽しみにしてたが、アイツがあそこまでコテンパンにされるとは思わなかった。

 昔からの友人とまたデュエルしたかったけど、、、楽しかったよ』

 

 そんな小学生みたいな感想をこんな雑誌に載せるなとは思いながらほかの項目にも目を通すと「私がおすすめするすごいデュエルは?」という質問にも答えていた。

 

『決勝よりも準決勝の方がレベルが高かったと思う』

 

 相変わらずの塩対応気味だけどあの効率厨のキリトが素直にレベルが高いというにはしかるべき理由があるのだ。なら、まずはそれを確認しよう。

 

 キリトが書いた試合は【Yuuki vs Noir】

 

 多分苦虫をかみつぶしたような、ゴキブリでも見たかのような表情を浮かべているだろう。昔っからノワールって名前にいい噂は微塵も聞かないんだけど。アイツの名前は久しぶりに聞いたしやっと復帰したのかな? 

 けど、キリトは最後コメントを残していたんだけどもちろん訳が分からない。未だに厨二病イタズラ小僧を抜け出せていない彼の感覚で言えば少し分かりづらい方がいいのかと思ったのかもしれない。

 因みに長年関わってきた私もその試合を見る前まではキリトが残すこの言葉を理解できなかった。

 

 

 アイツは、もう嵐って言っても過言じゃない。



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プロローグβ Yuuki vs Noir

主人公はどんな奴でどんなプレイスタイルなのか。
キリトくんがオススメしていた準決勝を書きました。

なるべく四月になるまでは三日か四日ごとに更新するようにします。
ですので、感想はよろしくお願いします。

それではお楽しみ下さい。


 3days ago

 

「俺はね、キリト君に期待していたからこそ今まで賭けたのさ。それも全て余すことなく(オール・イン)だ」

 

 

 

 

 Duel Day

 

 決闘場の舞台に上がれば誰しもが感じるだろう、ピリついた緊張感と客の視線。もちろんこういうどちらも実力があることを知られた試合は誰もが進んで見ることになる。例えば、ただのバトル好きに始まり、話のネタにする記者、スタイルをパクって参考にする新参者(ビギナー)。質の悪いやつは標的(ターゲット)を探すPKerだ。より最悪なのは同種。ゲームを辞めさせるまで獲物にする丸々太った豚(ネギ背負ったカモ)を探すクソ。このトーナメントでどの種類がどのくらいいるのか分からないけど、デュエルをする奴にとって忘れてはならないことは一つだけ。

 

「蛮勇はネギを背負う、だろ? ノワール」

 

 そう言って振り向くと懐かしの悪友がいた。恰好はそこまで変わらない。白がベースのケープに右太腿にナイフホルダー。笑顔を常に浮かべた表情と俺を完全に見下ろしてしまう長身に癖の少ない長髪。ただ、リーファから軽く聞いていた通り、種族はウンディーネらしく昔とは違って髪は真っ青。藍色に近い。

 そんな彼はリアクションだけはオーバーだけども気づくことは前提だったのか。なおさらにやつきは止まらない。むしろさっきよりもニヤニヤしている。

 

「へぇ、気づいてたのか。さすが魔王殺しの【黒の剣士】だ」

「狂犬使いの【クーフーリン】には勝てないって」

「槍は滅多に使わねぇんだけどな。……魔法に関しては走った方が速い」

「……ははは、なおさらクーフーリンだよ、ノワール」

 

 すねるように口を尖らす彼は駄々をこねる少年のようで俺に比べれば童顔じゃないのにふとした瞬間に子どもに見えてしまう。……彼に慣れ親しんだからかもしれない。

 ノワールの言うことは正直に聞くべきではない。ノワールという奴はトランプの中でジョーカーの持ち主のようなものだと思う。持ち主だとカードじゃないって批判されるだろうけど、こっちの方が俺はしっくりくるんだ。効果的なタイミングでカードを使い、ジョーカーを引き立たせる。だから、周りは見事にうまいこと扱われる。

 というわけで、客観的に見た方がノワールの含めた意味をより理解できるようになるってことはずっと喋ってやっと当たりをつけた。だけど今でもあの人の言いたいことの全ては分からない。

 だから、俺はあえて……ストレートに。

 

「それで決勝で会えた時はどうするんだ? 全力でやるのか?」

 

 お互いに笑顔は包み隠さない。俺は挑戦的な笑み、ノワールはえへへと照れ笑うかのように。けれど、ケルト神話が好きなのは関わってきた誰もが知っている彼だ。

 

「それもいいが、影の国でならガチで」

「あんたは別として俺が入れるかが問題だな」

 

 俺は苦笑で苦笑いせざるを得なかった。ガチでやる気はまだ。流石、クーフーリンのネタを使ってきた。『誰もいないところでタイマンなら受けて立とう』ということだろう。相変わらずで惚れ惚れする。

 

「くかか。話はとりあえず終了。また次の機会に」

「あぁ、分かった。また今度」

 

 ノワールの冗談は言葉遊び。いつでもそれを忘れないように話しあうものは察知する。そして、理解する。その瞬間になるまで信頼せず、期待せず、万事に備えて、行動を詰める。あっちの理想(シナリオ)は崩されないようにノワール自身が何手も何手も先読みし手を打ってくる。相変わらず悪巧みをしてるんだな、と分かってしまった俺はノワールと別れてからもしばらくの間、座ってただボーっとすることにした。

 

 

 

 あの後から少しだけ歩いた。アスナやリーファたちとの待ち合わせに少しだけ時間があるからというのも本音だが、もう一つ。さて、とりあえず露店街まで足を進めようか。考え事がしたくなってきた。甘ったるい手ごろなデザートをいくつか。片手に持って試合を見るのがちょうどいいだろう。

 

 

 

「待たせたな、アスナ。それとこれ、やるよ」

「遅いよ、キリト君。あと、ありがと」

 

 買ってきたデザートは袋ごと渡しておく。このあと出番もあるため通路側の席は温めておきましたなんてクラインからのジョークを言われながら、苦笑は浮かんだが笑い交じりの厚意に素直な対応をさせていただく。

 舞台を見ればすでにノワールはいた。ってことは仕込みは終わりか、してないか。どちらにせよ、見世物的なデュエルなんだろうな。純粋に楽しませてもらおう。木製の温かいベンチに体重をかける。

 相変わらずノワールの周りへの盛り上げの働きかけは人の心理を突いているからこそ観察する価値がある。けれど、背後の座席、少し高めな椅子に座るシノンは不機嫌な猫のようにジト目でノワールを見つめ続けていた。

 何かやらかしたんだろうな、と思いながら前を向いていると肩を叩かれた。

 

「ねぇ、キリト。少し前にノワールと会ったんだけど、あの人すごいわね。なんというか、ただのゲーマーじゃないわ」

「あぁ、だろ?」

 

 アイツがしたであろうからかい。さらにそのからかいに含まれる意図を経験から想像していると、俺の口からクククッと笑いが漏れた。笑っている最中だから、もちろんシノンのリアクションは見れない。だけど『気持ち悪いやつね』なんて呆れたリアクションで俺の次の言葉を待っていることだろう。だから、あえて後ろは向かない。ノワールは直接見た方が面白い。

 そうだ。もう昔から知っている。アイツはただのギャンブラーだろうに。

 

 

 

 

 

『……ねぇ、兄ちゃん。こっちで会うのは初めてだけど、絶対手は抜かないから』

 

 カウントダウンの段階なら一人ずつスクリーンに映すのか。面白い試みだ。多分カウントダウン終了まで決闘者の声はマイクでコールされている。ノワールの対戦相手がユウキとは面白い運命だとも思うけど。それは置いといて観客席から見物させてもらおう。

 ユウキは剣帯からゆっくりと愛剣【黒曜石の剣】を抜き放ち、自然体なまま剣を隠すように構えた。表情にはいつも通りの優し気な笑顔が浮かんでいる。最近も見た可愛らしい笑顔のままノワールの一挙手一投足に集中している。その眼にはやはり情熱が宿っている。ただ、俺は二人の関わりがどれだけのものか全く知らない。だけど並大抵のものじゃないんだろう、ユウキはいつかのように真正面からぶつかる気だ。

 

『俺のことを兄ちゃんなんて……マジで泣きそうなくらい嬉しんすよ、ユウキ! だがな、そう簡単に負けるつもりはねぇっすから! ()()()()()()()()()()

 

 ノワールは太もものホルダーから両刃ナイフを親指と人差し指だけで一本抜き取り、クルンと回して右逆手に持ち替え。距離は遠くて見えづらいけど……持ち手には小さな穴があるのか? ってことはあれレプラコーンの職人にギミックさえも頼んだのか? ……何というかもう、細かいなぁ! 

 クラウチングスタートよりもさらに重心を下げる。左足を右足よりも少しだけ前に、加速のために右足を思いっきり引く。特徴的な構えを事前に見せるのは戦闘スタイルのひけらかしにしかならない。だが、本当にアイツらしく考えるのだとすれば……、ただの演技じゃない。

 いや、それにしてもあの笑みに始まり発言もだが、今回煽りはまだ抑えてるのか。真面目に闘うのか? 観客をいつも通りに煽ってたけど。

 

 

 

『カウントダウン! 10!』

 

 カウントダウンに合わせユウキの口からはニヒヒッという笑い声が漏れた。ノワールの笑顔も悪辣さが見て分かるくらいには口角が上がりすぎてる。その笑顔を見たユウキは引いた雰囲気ではない。……むしろ慣れてるのかもしれない。

 

『すごいスタートだよね! 見た目だけじゃないよね?』

 

 ムフフと笑う彼も相変わらずすぎてヘイトを溜めまくっているのは自覚しながらも視線はユウキに固定されている。

 半身に構えた剣を自分の身体よりも前に、少しだけ体勢を低く前傾姿勢に。けれど、あれじゃあ前からの攻撃には強くても背後からの防御に後手になる。あれをどう防ぐんだろう。

 

『ハハハ! 当たり前だっつーの』

 

『5!』

『4!』

『3!』

『2!』

 

 

『「「1!」」』

 

 

『START!!』

 

 

 気づけばノワールはユウキの背後に逆手のまま右手でナイフを立てていた。しかしそのナイフをユウキは振り返ることなく剣の腹で捌き、完全にぶつけていた。後ろを見ないまま殺気だけで反応するなんて見事な剣舞だと言える。かといって、それがノワールにとって予想外かと聞かれれば想定内なんだろうなと思わせる態度なんだよなぁ。

 ノワールは何も持っていない左手で両目に手を当てるように、わざわざジョジョ立ちしてやがる。まぁ、慣れてないと腹が立つか。

 

「おお残念っす! これでダメージが入ると思ってたんすけどね!」

 

「そんな簡単に入るわけないよ、兄ちゃん!」

 

 けれど、プレイスキルだけを分析すれば並大抵じゃない。

 紛れもなく神速。残像すら残さない、技術を使わない圧倒的な加速力。だが消えたように見せることは正直ノワールのデュエルを見たことあるやつならいつものことだ。パターンは変わるけれどいつも通りの歩行から急に加速力Maxにして姿を消したり、神速並みの全速力から減速力をMaxにして動きを止めたりという視線を外す動きは彼の定番だ。

 今回動きを止めた(ノーモーションになった)のはカウントダウンの前、10秒以上前からだ。それから『スタート!』という瞬間まで微塵たりとも動かなければ観客を含めたプレイヤー全員の視線が固定され、動いたことを知覚するまでにコンマ数秒だが脳の処理で時間を食う。ノワールの敏捷極振りステータスならばそれが可能だ、そのコンマ数秒で敵の背後に辿り着くことが。

 けれど、ユウキの俺を越す反応速度は余裕で彼の行動に対応したに違いない。正面からの走り出すための後ろ足を見逃すことはなかったんだろう。あれだけ体勢を下げた結果後ろに下げた右足を、見逃すことがないなんて非常に優れた観察眼と動体視力と反応速度だ。

 背後に回って逆手のナイフで右肩を外すか、はたまたナイフを打ち込んで毒のデバフか。つまり部位欠損もしくは部分麻痺を狙ったわけだが、ユウキは右利きだ。どちらにせよ片手剣を持つユウキに対して右手を落として優勢な状況を作るのは分かっていた。先手としてはこれ以上ないくらいに正攻法。それはもちろんユウキにも分かっている。……倫理とか女の子相手だろうなんて言葉は『マジでやらなきゃ失礼だ』という返答をするタイプなので誰からしても予測はしやすいのだろう。

 というより、ノワールは硬い相手に対して首や関節など比較的防御が弱いところを狙う。特に硬さを重視する人やゴーレムなどの防御が固いやつにはそれが顕著だ。まぁダメージが入らなくてヘイト稼ぎにしかならないからなんだけど。だからこそ彼には第二の手が待っているんだけど今回は無理みたいだ。

 

「とぉりゃっ!!」

 

「うわっ、廻るな!」

 

 致命的な毒を与え欠損狙いをするため、背後から覆うように伸ばしたノワールの右腕。それに対応するユウキ、彼女はその武器を持つ右手目指して左足を軸にした回転からの結構大ぶりな斬撃。もちろんソードスキルはお互い使う余地はない。けれど、あれがノワールに当たれば一撃必殺とは言わずとも腕を落とすことになるだろう。AGI極振りステの弊害だけど、彼は文字通り紙装甲。防御力はないに等しい。そんなノワールは易々と右腕を落とさせることはしない。

 いつの間にか持っていた左手のナイフでその斬撃を腹から殴るように弾いて軌道を変える。だがユウキの斬撃の威力はそのままであるため、スピードは変わらない。左のナイフで軌道を変えながら、引いた右手で捌いた剣を地面に押し込む。そのために右のナイフは順手に持ち替えてユウキの剣を加速させる。

 実際、あれが一番簡単なリスクを取らない対処法だったのだろう、ノワールの防御力的に。あのデスゲームからスピード重視の装備もプレイスタイルも変わってない。AGI極振りのノワールに対してSTR極振りの相方:『Carol』がいたからこそあの二人はコンビだった。それがゆえに第一層から攻略組でその中でもネタがネタにならなかった。

 

「こっちの狙いをそのまま返してくるなんて少々悪趣味じゃないっすか?」

 

「ボクだって今回勝ちたいんだもん。勝たせてもらうね!」

 

「ヤダ」「ケチ」

 

 ユウキはその圧力を敢えてパリィして抜け出す。ノワールの崩れた体勢に一手目は刃を縦にして心臓への突き。急所を的確に狙ったレイピアにも似た軌道のいい技だ。対してノワールは反った状態からその突きをバク宙で避ける。躱したその突きに対して今回初めてスキルを使用。あのモーションは何度か見たことあるし。間違いない、体操にも似た技が沢山ある《軽業》だ。しかし今までと異なるものは一つ。この世界には軽業スキルそのものとして存在しないこと。

 

「モーション中途で停止オッケーもフェイクになっていいっすね!」

 

 上半身を反らしてのバク宙。ここまでくれば何が来るか予想は立つが、仮想の重力に唾を吐きつけるようなそのスタイルは本来の発動のさせ方ではない。跳び上がって首より上にある兜や剣に対して衝撃を与えるための大技だ。けれども彼は二点倒立のまま開脚。臍をユウキに向けるため反転、同時に地面から足を浮かせながら交差させ、両爪先を外側に。あれは軽業スキル唯一の斬撃特性を持つ強力な技だ。

 

「『レッグ・シザース』!」

 

 アイツの狙いは恐らく突きのために伸ばした剣を持つ手にあり、武器を離させることが狙いなんだろう。もしそのまま手を引こうなんて狙いなら地面に手を付けながらでも持つナイフを投げつけるんだろう。アイツの定番『投剣スキル』は元々よく追い込みに使っていた。そのあとにさらに追い込むだろうけど、ユウキはどうするんだ? 

 まぁ、未だにその軽さで全身逆さ状態、両手で剣を抑えつけたまま攻撃に移るなんてアイツも変態プレイングなんて言われてもおかしくない。それほどの突飛なプレイングは相変わらずすぎて面白さがあるけれど、真似させないためなんだろうなとも思う。しかし、ユウキは逆に剣を離し一歩だけ距離を置いた。まさか、徒手空拳? 

 

「うわっ! 当たらねぇ! 少しは迷ってほしいっすわ!!」

 

「ふっふ~ん♪ まずは避けてね!!」

 

「いや、躱せねぇよ!! けど、そっちこそだぜ!!」

 

 ノワールはそう言ってナイフ二本をそのまま投げ飛ばした。狙いは臍だろう。あのナイフには麻痺毒がデフォルトでカタログに登録されているのは結構知らされている。デバフでごく僅かだが一定の確率で決まるからデュエルでも定番の武器で、そいつを両手で平投げだ。

 ユウキの目の前で交差する軌道のそれはリーチの短さがデメリットである『体術スキル』を抑えるためだろう。その間に頭から地面に激突、受け身を兼ねながら重心を後ろに。そして、距離を取る。迎撃しないため武器は持たない。移動しづらくなるからだろう。それでもしっかりといやらしい手だ。うん、攻めづらい。

 けれど、ユウキはそのナイフを観察しながらそのまま攻め込んでくる。小柄な高さをさらに低く保たせ地面に手をつくほどに低く攻める。左足での重心をかけることで響き渡る重い踏み込み音、さらに距離を詰めるための右足での踏み込み。それと同時に起こる刺されるように撃ち込まれる右の正拳突き。右手に集まる燐光は黄色。狙いは心臓の真上から。

 

「は~っけい!!」

 

「いいね! めちゃ好みの一発! どの位のダメっすか!?」

 

 そういってノワールは少しだけ下がった重心を密かに上げる。心臓狙いを密かに腹へと動かそうとしているんだろう。そして、見事な一発になってぶち込まれた。……ノワールにいらだってる奴にはいいストレスの発散になっただろうなぁ。

 ノワールは見事にくの字になりながら弾き飛ばされるように吹き飛んだ。けれどユウキはそれ以上に攻めることはない。あのAGIを持つノワール相手だ。明確な隙を作らないためだろう。

 

「うげ! 六割もなんて結構なダメだぜ!」

 

「ふふ~、でしょ?」

 

「……切られたらすぐに負けでしょうね。……変態だわ」そんな声がシノンから漏れた。アハハハハと笑い続けるノワールを見た結果だ。シノンが漏らしてしまった理由はプレイスタイルと、ステ振りに対してだろう。プレイヤーみんなが笑いながらも俺は非常に冷静になった。ただ、まぁ、「……激しく同意」だけども。ん? 無意識に口出てた? ……そんなぁ

 弾き飛ばされながら背中を擦りながら速度が落としてやっとバク転。左ひざをつきながらもユウキに向き直るノワール。その顔には確かに微笑みが残っていた。……うん、相変わらずだけども。

 だが、ノワールは代わりの武器を持つ気はないのか? そのまま立ち上がり、両の拳をぐっと握り左を前に半身に構えた。右利きだからか? 

 代わってユウキはといえば離した剣を拾いに。

 

「俺もリアルファイトは結構色々やるんすよ?」

 

「へぇ、やっぱり強いんだ。ボクはこっちの方が自信あるから「ズル!」なんて言わないよね?」

 

「ズル!」「言うと思ったけど聞いてない!!」「うん、だろうね。知ってるよ!」

 

 そうお互いに叫んでから走り出した。先手はユウキ。肩からの斜めな切り下ろしだった。それに対しノワールは右足での踏み込み。さらに加速を? 

 けれど違った。ロールターンだ。右足の踏み込みから両手を広げ、舞うかのように重心を落としながら回転する。ユウキはその接近にまんまと引っかかったのか、肩に置いた剣をそのまま振り下ろした。その剣の軌道のさらに外側をノワールは走り避ける。彼の右手には拳が握りこまれていた。

 

「いくっすよ!! ユウキ! 鳩尾!!!」

 

「よっしゃ! 来い!!」

 

 

「秘儀:コピー雲嶺毘湖鯉鮒(うねびこりゅう)!!」

 

 

 態勢を低くしてからのキレ満載の鋭いアッパーカットがユウキの鳩尾に。ユウキの拳での攻撃と同様に今度はユウキでさえも上に跳び上がるように吹き飛んだ。

 後部に全体重をかけた状態で剣を避け切り、右足を浮かせたまま力を籠め、上体を腰から右手のタメを作るため捩じる。前への重心移動を行いながら右足を踏み込み、狙いは宣言通りだった。その一撃はダメージには、そこまでの威力にならない。STR値がもう少し欲しかったのだろう。逆にCarolなら過剰すぎるだろうけれど。けれど、あの技は威力を弾き飛ばす力に変換させる。地面に割れ目を起こせそうなほどの踏み込みだ。凄まじさは見てわかる。

 知らない名前の必殺技。けれど、力強さとその練磨の凄まじさはあの世界の誰にも負けず、劣らない。

 

「ダメージにはならないけど、かっこいいね!!」

 

「ロマンたっぷり!! 一度っきりの練習業。うぉぉぉ、成功した!!!」

 

 一人興奮するノワール。いや、立ち上がって目を輝かせるユウキも多分興奮してる。

 舞台上の人間と観客のテンションに差はあるけれど、男子の観客に何かロマンらしいものを与えたらしい。一部は拳を握る奴も現れた。……かくいう俺もだけど。だけど、女子に対して鳩尾に一発だからなぁ。アスナを代表に、みんな少しばかり怒ってるよ。

 

「けど、もう時間がないね。兄ちゃん」

 

「じゃあ、後一撃だ。最後、俺の武器を一つだけ解放させて半分以上削るっすから」

 

「いいね! やろう!!」

 

 互いに笑いあい、ユウキは剣を持つ。その構えは迎撃するため、胸の前に構えた。あれは少し前に見せてもらった構えだ。

 代わってノワールがストレージから持ったのは()()()()()()()。真っ赤な槍。たった一本の朱槍だった。

 

「火力重視。狙い撃つは心臓。こいつだけは言ったのは()()()っす」

 

 そう言って常に微笑みを浮かべていたノワールは笑うのはやめた。正確には一人の漢に。いつか見たその姿は白装束だけどもここでゴムを用いて髪を一つにまとめる。

 あぁ、やっと()()()()()()()()()()()

 

 

 

「その心臓、もらい受ける!」

 

 

 

「ふーっ!  ……かかってこい!」

 

 

 ユウキまでの距離をいつもより多めに開けた。

 彼女の準備ができてからノワールは一つの深呼吸。

 

 一歩だけ。だが地面にさえ亀裂の入る踏み込み。

 その先で跳び上がり投擲態勢。タメは空中で一瞬。

 

 それを見たユウキも剣の握りをさらにきつく。出来上がった迎撃態勢。

 

 

 

 

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!!」

 

 

 

 

 

 その槍は間違いなくユウキへと進んでいく。どんな技なのか知りはしないけれど、このゲームは心臓を貫いても死なないことがたまにある。間違いなく体の中心を貫通すればどんな攻撃でも一撃で相手を倒せるが、少しでも外せば数ドットだけ残るらしい。欠損ダメージでその残りもあっという間に減っていくのも知ってるけれど。

 さて、時間はもうあまり残ってない。ユウキの攻撃をノワールが上手く躱して来たのもあるしノワールの攻撃が軽過ぎるというのも言えるだろう。けれど、タイムアップ時のHPの残りの多い方が勝ちになる。ノワールの残りは4割弱、ユウキは九割くらいか。つまり、あの槍で心臓周辺を貫けてしまえばノワールの大逆転勝利だ。

 こんなのユウキに応援が、ノワールにブーイングが響いてもおかしくないけど。

 

 

 近づいてくる槍に対してユウキは思いをかけるのか願いを託したのか、目を瞑っていた。しかし、カッと目を見開きその槍に対して彼女の決め業ともいうべきOSSを繰り出した。

 

 

 

 

 

「マザーズ・ロザリオ!!」

 

 

 

 

 

 刺突型の十一連撃。☆の形を見事に小さくして、全ての攻撃でその槍を受け応えるのか。俺の知る限りどちらの技も本来なら相手のHPを微塵も残さない必殺スキルだ。それが火花を散らしながら対等にぶつかり合っている事実が凄まじく眩かった。

 

 一撃目、正面からぶつかり確実に絶対的な威力を落とした槍、それがもう一度威力を増した。一瞬だけ進んでいた方向とは逆方向に戻ったのに、もう一度進んだのだ。

 

「ゲイボルクはね、心臓に当たって相手が死ぬことは決まっているのよ」

 

 シノンの言葉だった。

 

「だから、弾いても心臓狙って奇々怪々な軌道をもって追尾する。けれど、真正面からぶつかり合うことで反らす。その結果、『自分の身体のどこかに当たり心臓に当たらなかったから殺すことはできなかった』という感じで決まった結果を捻じ曲げることがこのゲームではできるようなのよ。殺し方が決まっているからそれ以外では殺せないみたいな解釈なのかしら。ただ、

 

 どれだけの勇者だろうが普通はできない。クーフーリンの逸話通りに。

 

 もし万が一それができたら、影の国に行って鍛錬を積んだなんてログがないことによるノワールの力量が足りないのか、

 あのユウキのマザーズ・ロザリオがノワールのゲイ・ボルクを超えるほどの威力で正確に斬り返しているなんて言う無茶苦茶なスキルなのか。そんな理由しかないのよ」

 

 シノンの理屈がプレイヤーからしてみれば驚愕の一言過ぎるけども、代わりに大ダメージは加えられるのか。ただノワールが撃ってから動かないのはなぜだ? まさか()()()()()()? 例えば当たったかどうか確定するまで持ち主の身動きは不可能とか。

 

「……なんて、鬼畜なんだ。キャロルがいないとモブが出てくるボス相手に使えないなんて……」

 

「そういうことなんでしょうね。もうピーキーというか、アホだわ」

 

 こんな会話をする間にユウキの迎撃は八撃目まで迎えていた。

 

 九撃目、ユウキは一歩引くしかないほどに距離が詰まってしまった。突きである以上、対象と自分の間に明確な空間が必要だからだろう。

 

 十撃目、ついに槍が真っ直ぐに引かず、上へと少しだけぶれた。ずらすことに成功したという事実だろう。けれど、威力はさらに上がっている。迎撃に使える最後。十一撃目、

 

 

 

「はあぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 最後の一撃とともにユウキの声が会場に響き渡った。いや、それ以外に声は聞こえない。会場を埋め尽くす音は槍が自ら進むジェット音とそれに触れることで悲鳴を上げる黒曜石の剣だけ。もう俺は目を外せなかった。流星のような跡を残す槍は間違いなく神々しかった。

 

 

 

 

 十秒以上かけて迎撃し続けるユウキの剣。

 

 

 絶剣は、ついに破った。

 

 

 

 

 弾かれることで右肩を貫きユウキの腕は吹き飛んだ。剣を持ったままの右手はそのまま空を飛び、悠然と剣の重さでカランとシンプルな音を立てて槍とともに落ちた。その光景をユウキもノワールも含めて全員の瞳が見開かれながらその姿を見送った。

 

 

「はぁ。あと、さんじゅう、秒は、あるけど。これは、俺の、負けだな」

 

 

 静寂な空間の内、息荒れても密かに聞こえてくるその言葉の後、ノワールは降参(リザイン)。ユウキの周りをファンファーレと

 

「「「うおぉぉぉぉ!!!」」」

 

 歓声が包み込んだ。『おめでとう』や『お疲れ』というような言葉ではなく紛れもなく嬉しさで涙を流しながら泣き叫ぶ歓声。

 それが会場全てを余すことなく包み込んだ。




「あら、負けちゃったわね」

「いや、いやいやいや、シロさん。俺、結構頑張ったよ?剣持てなくした相手にデュエルでリザインしないなんて俺は嫌っすよ」

「ねぇ、兄ちゃん?」

「なんだよ、ユウキ。俺の隠し技、真正面から迎え撃ってくれちゃってさすがっすよ!」

「そんなことより、ボクが勝ったんだから、一つだけ言うこと聞いて?」

「ん?いいっすよ。飯はマジで旨いところならいくらでも紹介できるっすよ? 肉がいいっすか? 俺もすげえ賛成っす! 今日行こ!」

「ボクとお付き合いしてよ?」

「ほゑ?」


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プロローグγ 飯、食おう

よかった。α、β、γの形にして。良い感じに分割できたんじゃない?
二部作ならα、ωにしようとしてたけど、続いちゃったからしょうがないね。因みに四部作以降ならα、β、θ、δ……になる模様。題名は「え、続くんだ」くらいの認識でOK。


 ————なぁ、キリト君。この世で一番単純(シンプル)だと思ったものってナニ? 

 

 

 ————俺はこのゲームだよ。

 

 

 

 

 

 1week later

 

「ねぇ、兄ちゃん。ボクと付き合ってくれるんだよね?」

 

「あぁぁぁぁ、もう仕方ねぇっす! もちろん食事に付き合いますよ!! とりあえず飯食いに行こう!!」

 

 あのデュエルの後、俺は気づけばユウキに告られてた。リアル知り合いだから、電話番号は知られているし、ファックスナンバーもメアドも知られていたからゲームしてない時間もアプローチが留まることはなかった。

 年の差結構あるぜ? 相手中学生、俺大学生。PK推奨(キラー)ゲームを全力で楽しんだ俺だけども、犯罪者には三つボタン押されただけでなっちまうデッドエンドが目の前。キングを前にしたただのスレイブだ。いや、カイジならゲームに大勝利っすけどリアルゲームなら手錠にパトカー。抵抗しても捕まるわ。いや、理不尽っつうか……何起こしてそうなるか。微塵も分からん案件。

 

 フったこととか、腹パンしたこととか、非常事態とは言え槍投げたこととか。あの後、土下座して謝ったのに煽りは効かないよセンサーがビンビンだったから言わなかったけども。それとあっさりフッたこと全部含めて苛立ってたんでしょうね。

 ……『女の子の日かな?』なんて男子は言ってはいけないんですよ、女の子傷つくから。アレ、ただのイジメだから。

 

 

 

 

 

 というわけでたどり着きました、()()()()

 割り振られた座席につき、向かい合うようにして俺が後から座る。レディーファーストとか言うか? 違う。俺が先に座ると木綿季は俺の隣に座ってくるからだ。操作パネルは木綿季に渡し俺はプラスチックでラミネートされたメニューを初めから順に流し見る。

 バイキング店だからな、取り敢えず俺が頼むのは牛タンだ。木綿季は上カルビを頼んだ。コース最高額を一番目から選ばないとはその小さな身体で一杯食べれるのか、と思わないこともない。

 トングを手に取り、牛タンを網に。『我流・なんか美味そうだと思ったからすぐに取ったけどもうちょい焼けばよかった』はまず俺にとって定石通り。間違いなく俺は焼肉&料理ヘタ勢だ。美味そうなタイミングで焼いちまうと生焼けか黒焦げかになるから、俺の分は自分でやろう。誰かのために作るなら分析すべし……。これはビギナーの俺でも知ってる。

 火加減の自信は微塵も無いがとりあえず肉の種類に合わせて焼けば何とかなる。豚は危険地帯、鳥は火が通り難かった、牛は早めが勝負なんだよ、キミ〜? 

 手前の省スペースを使って牛タンを焼き続ける。木綿季はカルビの間に牛タンもらうね! と言って焼きながらも美味しそうなリアクションをする。故に俺は基本省スペースなのだ。ヤバいのに手をつけないように。『美味しいものは自分で作ってね』は俺と飯食うなら鉄則にせざるを得ないんです。うん、自分……頑張ってんだけどね……泣

 そうやること十数分。話すために口を開いたのは木綿季だった。

 

「ねぇ、本当にボクと付き合わないの?」

 

 箸でとった肉を口に放り込み、モグモグターイム。しかし、ジッと見つめ続けるのは辞めてくれる事はしない。可愛らしい小動物みたいなアプローチをすることもあるけど、今日はよく分からん。しかし、こういう時は真面目に話す、と俺は決めてる。

 

「木綿季、君は確かに()()()が延命させてる。しばらくの無菌室での観察もやっと解けたからこうやって一緒に飯食ってるんす。そりゃ確かに? 偶然俺も()()()()だったから? だから、治せちまったってのは事実っすよ?」

 

「けどな……」と言い訳をガタガタと垂れ流す残念な男の子の姿を続けようとしたが、それは目一杯お肉を頬張る彼女に右手を立てられて止められた。

 ……君、肉焼くのうまいね。まさか料理できる人? 

 

「うん、知ってるよ。姉ちゃんも治してくれたなんて、本当に感謝してる」

 

 思い出に浸るかのような優しい笑顔を浮かべる木綿季。その顔を見れば俺の作った商品がべらぼうに高いとは言えこの笑顔を生み出すことができたのだ、と。開発者冥利に尽きる話だ。

 しかし、まだ何か言ってないのか年相応に可愛らしい笑顔に少しだけ俺の知らない何かが含まれていた。……お砂糖か、スパイスか、素敵な何かか。どれが割合多めなんでしょうか? 

 

 

 

「もう運命だよね」

 

 そう言って笑う木綿季はなんとも見事な照れ笑いというか。俺は逆に、テーブルへ見事にヘッドスライディングをかました。案の定、前髪と額と眉毛はレモン汁とタレでビチョビチョに汚れてしまった。それを見て笑い続ける木綿季がここにいることができるのも双子の姉と現実で会えるのも俺の功績というか頑張った結果だけども。

 

「いや、だからだよ!! もっと人生あるじゃん! 他の事楽しめよ!!」

 

 俺が口を開けばそればかり。いやしかし、そうだろ? まだ木綿季は海外にも出たことないし、こんな可愛い中学生なんだ。いい同年代なんていくらでもいる。育てばみんなもっといい大人になって、いい男は目白押しだ。

 なのに、今すぐ、俺を狙う? 

 

 も少し歳食えば木綿季はいい女。俺は変態なおっさんで? 

 あのクソッタレなAIDSという病気に対して対策は俺が独りで作れたんだ。成長したときには完治させる特効薬の一つや二つ作られてるだろうに。

 

「ボクが楽しんだ結果が兄ちゃんのお嫁さんになりたいなって思うことだったんだ。だから一つも問題ないよね!!」

 

 いや、結論早いわ!! 

 

「俺は結婚する気ねぇんすよ! 最低限人生に満足するまでは!!」

 

 その後俺がどうするかは全く知らない。気分が変わるかもなんて常識通り嘘は使わないことが当たり前だからね

 

「ひ、ひどいよ! これでも結構覚悟決めてたのに!!」

「その覚悟、俺みたいなネタプレイに人生捧げるタイプに決めることじゃねぇっすよ……」

 

 ヨヨヨと泣くかのような返しは予想外だ。俺の年代に合わせたのか、趣味を探ってんのか。これは妙に求めた反応しちまうときついアプローチしてくるぞ……。オイ、気を付けろ、俺……。

 けれど、木綿季は雰囲気を変えた。今までのイタズラ娘っぽさをなくし、寧ろ探究心を前面に押し出した真面目な雰囲気を広げ始めた。

 あ、偉いわ。肉は自分の皿にも俺の皿にも配ってくる。こんな良い子だったの? 

 

「じゃあ、どうしてそんな生き方を選んだの?」

「俺が楽しいことしか、する気ねぇすから」

 

 あえて即答。というより俺はこれくらいしかする気が起きないからというべきか。

 木綿季は口を尖らせながら「えぇ~」と不満タラタラみたいだ。

 

「絶対ボクと結婚すれば楽しい人生になると思うんだけどなぁ」

「それと現実はまた違うっす」

 

 なんと結婚願望のある人間からすれば嬉しい提案なのだろうか。俺はねぇけど。

 ただ、理想と現実は脳の仕組みから言って全然違うのだ。理想でシミュって上手くいっても現実では大概上手くいかない。一応大学生とは言え俺の仕事(好きなこと)もそういうのに付き合うことがメイン。なのだが恋愛、結婚などはまた別だ。思考ベースが違うから理解するのにヤキモキしちまう。

 ただまぁ、木綿季のお花畑思考も悪くないっすけど、俺の一面しか知らないんだろうな。まだキリト君の方が友人Dくらいで関わってきたからか。ここはあえて濁しながら自己紹介をしといた方がいいのかしらん? その方が合理的そうだなぁ。

 

「俺はノワールこと 殻品 真澄(からしな ますみ) っつうのは知ってるっすよね? もう出会って4、5年くらいっすから。ノワールって名前の由来は本名に“(すみ)”って付くから。

 俺の楽しいと思うことは『発明』だけっす。問題が起こるシステムを理解する。それに対してこの世で一番シンプルなシステムで逆張り、からのぼろ儲け」

 

 幸せそうに食べながら、首を傾げている木綿季。いや、もちろん可愛いんだけどね? 俺相手にそれするのはオススメしないなぁと、思いながらも肉を取る。うわっ、今回黒焦げだッ! 

 

「急にどうしたの? 自己紹介なんてお見合いみたいだよ? まさか、本気になってくれた? それならすごく嬉しいんだけど!」

「いや、やかましいわ!!」

 

 お肉食べながらそうやってからかいまじりに言ってくる辺り、本気と冗談半々ってところか。これマジレスしないと木綿季さん、ワザと勘違い起こしちまうんじゃないですかい? 

 しかし、俺たちのクソ役立たずさをアピールしとかないと本当に結婚を諦めてくれない気がする。まぁ、あの二人も結構適当だからなぁ……。これ信じてくれるのかも分からんし、その上、所々ボカそうってハードね。

 真面目にレスしないと諦めてくれないなんて……木綿季ったら恐ろしい娘! 

 

「キャロルとリアルで知り合ったのも4、5年くらい前。紺野姉妹と初めて会った時とそう変わらないっす。本名は 白糸蓮 って名前。だから俺はシロさんって呼ぶっすけど今は結婚したから名字が違うっす。ま、呼び方は変えないつもりっすけど。

 あの人は俺たちの楽しいことをなるべく失敗しないためにサポートしてくれてるっす。知識集めが趣味で、得意分野以外は勝てないレベルで博識。それと政治家に対してえぐい程嫌ってるけど、同時に実利主義っす。

 もう一人は茅場さんと全く逆っす。『理想の世界の生々しさっつうロマン』を求めたのが茅場さんとするなら『理想とか知らないが人間は滅びろ』って感じの人間大嫌いな後輩っす。お互いが秘密を持つ両方にハッキングして、スッパ抜いて入れ替えて、人間関係崩すことに快楽を覚えてる最低最悪なハッカーしてるっす。

 けど、面白可笑しなシステムを見かけたらハッキングして作った本人にとって一番嫌なことをするから。これに引っかかったのは有名なSAOっす。ひと月かかったみたいっすけど死者が俺の予想よりもだいぶ減ったっすね。彼には感謝しないといけないっすよ」

 

 いや、話してても俺たちのクソさが滲み出てくる。もうちょい真面目な活動とかするべきかな? うーん、例えば地域清掃とか。ぜってぇ秘密集めに後輩歩き回るわ。あの男はネットで遊んでた方がマシな気がしてきたな……。

 うへぇと苦虫噛み潰したような表情とその思い出がフラッシュバックして来れば、木綿季は首をもう一回傾げた。

 

「やっぱり自己紹介だよ? 政治家とか警察の報道では「私たちがなんとかしました」って言ってたけどあれ嘘なの?」

 

 いや、ソレは知らないな。多分、ことを大きくしないためとかいう名目で、支持率上げるためだろうなぁ。相変わらず黒いよ、政府。シロさんからヘイト稼ぎまくるなぁ……。

 中身を知りたいのか、俺の顔を見てくる木綿季。仕方ねぇ、話してやるか! 

 

「もちろん、あれは嘘っすよ。SAOってゲーム内でHP0→即死って流れじゃないっすから。後輩が外でコード見て、ゲーム内で俺が仮説立てて、その仮説を実証するための理論をシロさんが立てて、俺が実験してログに残し、すぐに消されるそのログを見てルート確定させて死なせないルートに書き換えたのが後輩っす」

 

 真面目な話。後輩はあり得ないレベルで大量殺人止めたからなぁ。中に入った俺たちがプログラムマニアである後輩の察知能力を信じてスタートしてひと月の間ずっと仮説を検証、その練度だけで噂になるし。なんとなく『コレ裏ルートじゃん』って仮説立っちゃった瞬間に脳内やること一覧に追加されたし。犯罪見つけと殺人の方法とその対策。そんなのがタスクの筆頭になったから。因みに序盤の自殺して復活ワンチャンまで手を出せないから。正規サービス始めて、すぐさま死なれるなんて運営に根本的に関わってても無理なんだよ。茅場onlyで進めてたら、一般ピーポーの俺たちには何しでかすか分かるわけない。

 後輩が人間救った動機は金の欲しさと俺たち二人への貸し一つだからな。クソさは半端ねぇし、ハーゲ○ダッツの定期購入でそれ全部俺の奢りとかまじ死ねる。無論今でも続く。

 

 ここら辺はユウキに伝えない方がいいな。あのシーン笑いながら動画で撮ったシロさんいるけど色んな人に見せる事可能だからな。拡散されたら警察と政府への信頼は土台から死ぬぞ、国民。

 というわけで周囲が俺に手厳しい。ムチャ頼むからか、そうか。

 

「……手間かかったんだね。そりゃ凄いや」

 

 ユウキの表情に疲れが見えてきた。これは俺への労いと見ていいのか? 分からんが流石にこれ以上プレイ中に影で頑張ってきた。いや訂正、影で頑張らさせられた中身を愚痴みたいにぶちまけるのはやめた。それぞれ面白いものはあったし。

 あ、そういえば

 

「ただ、おんなじ事を一人でやったのが須郷さんなんすから、ある意味尊敬したっすよ。あのギブアンドテイクにはビジネススマイルを外さない人が、性格捻れてクソみたいな結果になったっすけど」

 

 ドンマイだと思ってますよ勿論。

 裏表が人格レベルだったから後輩が直接会っても嫌わなかったし、俺もお悩み聞いたら「うわっまじかよこいつ! 不憫」って感想が漏れるくらいには同情してたから。

 

 

 

 

 最後の最後、ビビンバに手を出しながら配られた肉をヒョイヒョイと口の中に投げ入れる。始めと比べればだいぶペースが落ちた木綿季を見てればもうお腹いっぱいに近いかもしれない。仕方ない、箸が進まない奴から消費していこう。好物は先に食べるタイプらしいから尚更な! 

 そんな感じで更新された網の上に肉を置きながら焼き続ける。相変わらずの省スペース担当。もう喋る内容も無くなってきたなぁ。取り敢えず、締めるか。そこまで考えて口を開く。

 

「つまり、俺の周りはアホなんすよ。できないことは今説明した事以外。シロさんは結婚願望あったから家事は知識と実践で色々できるっすけど、俺は無理っす。貯蓄崩せばなんとか金はあるからとりま給付の奨学金と依頼料とか報酬とかで辛うじて今後も生きていけるっすけど家はやばいっすよ。掃除できるっすか? 料理作れるっすか? 収入不安定っすよ?」

 

 うん、これ事実。生活スペースっつうか作業場以外埃まみれだし。卵・もやしを煮る焼く炒める&外食! でなんとか生き延びてるし。ARゲームが上手くいかないと俺の収入最盛期の一割超えないし。よく考えれば不安ポイントだらけだわ。アハハハハ、と笑えないレベルだコレ……。

 天涯孤独の身だから進行形で大学生だけど仕送りなんざないし、お年玉とか小学生の頃にも貰えたっけ? 治療費に充てられた気がする。はぁ、お金が欲しいわ。

 そうやって自分の生き延びる道について考えていると木綿季は「心配しなくてもダイジョウブィ!」と自信満々にピースサイン。はて? なぜに? 

 

「大丈夫だよ。それくらい姉ちゃんから聞いてるし。ボクは兄さんと過ごしたかったから、料理も掃除もできるからね?」

 

 ウインクさせて、まぁ! 可愛らしい! うちの家電は数世代前のジャンクショップで売られてた奴の修理・改良バージョンなんだけど、大丈夫かな? 慣れてなくてもシロさんに聞けば大体のことはできるようになっちゃうから、問題ないのか? 一人暮らしも大丈夫そうだね、この子……。

 

「お、おおう。バレバレすぎてプライバシー無いっす。被検者として合鍵渡したのはミスったっす。確かにレシピとかググれば出るっすもんね。待ち時間何もしないの無理だから料理しないけど」

 

 うわっ、フツーに知られてんだ……。ホントに俺のダメさアピールで結婚から逃げようとしたけど、悉く囲まれてるわ。収入は……頑張るしかないな。GGOとか? いや、経過中の計画なんか幾つもあるしそっち頑張らないと。

 考えられる逃げ道がほぼ全て封じられてる気さえする、これがお前の! やり方かぁぁぁ! 

 

 馬鹿みたいな表情浮かべていると、もう食べ終わったのか注文用のタブレットを見て口を開いた。

 

「早く食べないと時間ないよ? あと三十分だ」

 

 ホントだ。今日帰ってからもやし料理作るのは非常にめんどくさい。

 帰ってから鍛えねぇといかんからな。あの道場だとタダで美味い飯が配給されるから。負けたら無くなるし。

 残すと追加支払い飛んでくるからそれは嫌だ。という訳で俺が頼んだ奴を軒並み自分側に。

 

「確かに。肉焼いてくれるっすか? こっちは米食ってるっす」

「早速だなぁ、もう」

 

 なんというか、餌付けされている気さえしてヤバい。お金出すの俺なのにな? 

 

 

 

 ☆  ☆  ☆

 

 

 

 焼肉を余すことなく食べ終わり、二人とも席を立つまでの間も色んなことを話していた。例えば、中学にはもう一度通いたいなとか、高校って高卒認定じゃダメかな? なんて話とか。最終的に大学の話の中で学生結婚って許される? って話とかされた。色んな人から通報されちゃうから「開けっぴろげに言わないの!」なんて話せばスマホ持つ人が増えた、解せぬ。

 ホントに俺って捕まらない? 大丈夫? 

 財布を出せばお札がぁ、一枚、二枚、三ま……。うん、大丈夫。そこそこあるな。

 

「今度SAOベースのARゲームを出すんすよ。今度は俺が久しぶりに組み終えたんす。SAOに関してキリト君にしてみたくて」

 

 財布の確認を終え、ポケットに戻せばユウキは密かに楽しみそうに笑顔になった。バトルがしたいの? 何がしたいのか今のところ分からないけど、身体を鍛えることも一緒にやっておいた方がいいのかもしれんな。もちろん深くは聞かない。女の子への定番タブーだ。

 

「酷い人だな〜。兄ちゃんは仮にも仲間相手にそんなことするの?」

 

 ユウキの顔を見ればジョークらしい。と言ってもそんな鬼畜スタイルなゲームじゃない。質問キツいけど解答権あるの早い者勝ちだし。俺が初の魔王ロールとか役作りと展開予測とシナリオ吟味と一番理由を考えさせるものを作らないといけない。

 こういうときカーディナルが使えればシナリオ書かなくていいんだけどなぁ。斜め上のシナリオ跳んで来てグダグダにしたくないし。ってことはマジで俺だけの問題にしとかないといけないな、秘密はいくらでも仕込みたいし。どちらの選択でもハッピィー! エェンドォォ!! 

 しかし、作って捕まらないのは結構ハード。ゲームの中の人にはデスゲームであると思い込ませて? 外の人にも1ヶ月はマジで死なせてしまったから事実だと信じてて。頑張ったのは政府ですってそんな訳ないよ。

 そんな風に言えばバッシング来るから友人相手じゃないと言わないけど。……また後手に回って信頼度落とせ、政府! 

 

「ナチュラルに気になるんすよ。辛い思い出はもうなくした方がいいって意見が多いのか。頑張って生き延びたあの生活を無くしたくないのか。もちろんガチハッカーの後輩と医療系ギミックを作る俺だから安全性は確保するっす。この質問がしたいからって言えばあのハッカーは絶対乗り気っすよ」

 

 ケラケラ笑う俺に対して木綿季は心配そうな顔をしている。……んー、そんな顔はして欲しくないんだけどな。

 不器用な作り笑いも混ぜた笑顔で彼女は自分の意見を口に出した。

 

「そりゃ、意見分かれるからね。きちんと捕まらないようにしなきゃやだよ?」

 

 

 心配して欲しくはない。だがそれ以上に、本音を聞いてみたかった。

 

 後悔して欲しくはない。だがそれ以上に、挑戦して欲しかった。

 

 だから、俺は頑張ると決めてる。結果的にどうなろうがやるなら綺麗に最後まで。心の底の奥底まで素直でいてよ。

 

 

 しかし、こういう逮捕案件に関しては大丈夫だろうと思う。どこぞのクリスタルさんににっこり笑顔で「ネタバレするよ」って言えば脅しの一個になるからね! 是非もないよネ! 

 あとはアイツとアイツとアイツ。捕まえる側が利用できるうちに仲間に取り込まないのがい〜けないんだ、いけないんだ! 使役じゃなくて仲間な、これ重要。ボイコットかデモの代わりに胡散臭さを剥ぎ取ってやるよ、ハハハ! 

 ……やってることがもう完全に悪役だね、ホントにJOKERじゃあるまいし。

 

「何回彼らに恩売って? 何回彼らの悪事を黙っていたか。

 捕まえてきたら国家公務員たちの秘密を余すことなくばらして、日本の政治は臭いやつの土台から崩すっす」

 

 絶対、日本滅ぶわ。特にデモとかで。滅びなかったらよっぽど信じてるんだね。日本人は日本人を信じすぎなんだよ。大抵常に笑顔の人が一番怖いってことを理解した方がいいと思う。そうだなぁ……例えばシロさんとか? 

 木綿季の苦笑いは俺のことを見てるのが簡単に判っちゃう。だから、本当に可愛いんだよ? ホント、年下の女の子って大抵愛らしいけど攻めたら犯罪だからまずは成人してからだなぁと思わなくもない。

 くだらないことばかり考える俺に対して、木綿季の本音を口に出した。

 

「……兄さん、時々怖いよね。槍投げた時も脅すときも」

 

 多少の警戒……と同じくらいの心配を俺に抱えてるんだろう。俺の性質に関しては警戒はもちろんとして俺の存在を心配されても困る。成功する計算が立ち、俺たちが感動する結論を得られる事をわかっていながら止められる? って聞いてくるようなもの。

 スパルタクスも言ってる言ってる。『圧政者には鉄槌を!』ってな。こんなの常識の内だから。俺たちが知っちゃっただけだし、腐った世界が悪いんだ。……いや、マジでヒールだよ。ガチヴィランと断定されてもおかしくないレベルの自己肯定と酷いやり方だから。

 けどま、

 

「キレた瞬間は誰だってこうなるっす。キレなくても真面目に対応するときはあるし。どこのどいつ相手だろうが、偶然少しだけコネがあってどんな相手でも基本的に知ってるから対応できるだけっす」

 

 俺は別に……何も否定しない。だから、何も失わせるな。

 ポリシーというか漫画で見た参考にしてる生き方だけど、強奪とかその他もろもろ何一つやらせないって決めてるだけだから。そのルールを守る。縛りプレイ乙という奴がいてもおかしくないレベルなだけだから。

 ……確か白金が家にあったね。

 俺に対してのジョークは好きなのかな? そう思うほどに木綿季はいつもの優しい笑顔を浮かべてくれる。こんないい子が俺を恋愛対象にするのは、も少し考えた方がいいと思う。けれど、木綿季は何かを決めたの? 目の覚悟が決まってるよ? 

 

「うふふ。自分から攻めないところに、ボクさらに惚れちゃいそう」

「いや、ダメっすよ! これ全部犯罪っすから」

 

 即答しちゃったよ……。けれど、冗談じゃない! 普通なら俺だってしたくないし。こんな俺よりも絶対いい子いっぱいいますから! なのにそんな所を惚れられても困ってしまうだけ。それに関しちゃ言葉に出すのはあんまり良くないよ。アワワワワ……脅迫罪に銃刀法違反でしょ、抗争は普通にいかんし。絶対大ごとじゃ〜! 

 頭の中を物騒なことを切り離すため素数を数え始めると木綿季は何か打算でもあるのか? そう思って見ていると木綿季もまた俺がよく見る天真爛漫な笑顔に戻って口を開く。

 

「三年もたたないうちに結婚できるようになるから、その時はどこでする?」

「すみませ~ん! カードで払っていいっすか!」

「あ、無視したな!」

 

 いや、ジョークにならない! そう思った俺は財布からカードを抜いて店員さんにさっさと渡す。こっちの方が絶対早い。合理的だ。支払いが終われば後は送るだけ今日はタンデムだ。

 

「……乗るだろ?」

「もちろん!」

 

 

 今日も綺麗に終わったな。帰ってやることが増えちゃった……。




 ホントにオーディナルスケールやった方がいいのかしらと思う今日この頃です?どうも、はははははいい。うーん、読みづらさがアカーン!!
 SAOは『一層ボス攻略以降に死んだ人は生存』というこれまた作者的に妥当な位置に落ち着かせたけど。つまり、重村教授があの事件やる意味なくなっちゃうってことだからやるとしたら間違いなく主人公が悪役。けど捕まらないという何とも犯罪者くさい存在になりますが、やる?

 というわけでどうしても見たい人は感想どうぞ。


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番外編 ショーミーシークレット!

題名の通り番外編です。

『秘密を見せて』という題名通りにノワール以外の登場人物にいきなりスポットライト当ててます。

それではお楽しみください!どうぞ!


 いや、キリトくん。あの柱を登り続けるとはいい挑戦だと思うよ! 俺もやってみても? 

 

 あぁ、良いんじゃないか? ちゃんと転移結晶はいくつも持っていろよ? 

 

 もちろん、さー! 転移結晶が効かなくてもなんとか空中で手は考えるけど……。紐があればなぁ、ターザンみたいなこと木に引っ掛けてできるんじゃね? 

 

 ……ちゃんと一回は地面でやれよ? 

 

 

 

 

 

 

 お金を稼ぐのはそこそこ大変だったけど、真澄と凛に少し脅しかけての借金(すぐにきちんと返しましたわ。ウフフフフ)をすれば新築のマイハウスを作るのは難しいことじゃなかった。結婚してもう数年くらい経つ気分。ゲームと現実を合わせれば……はて? どのくらいだろうか? 白糸という苗字を捨てて壺井という名字を得た。壺井蓮……なんとも大好きな名前になったわ。

 今日は遼太郎くんも働きに出たし、1日かけて掃除洗濯は全て終わらせた。今日の夜ご飯はパエリアにしましょう! そうしましょう! あとは、栄養価を見ながら野菜も補充しないと! 

 

「ただいま〜蓮ちゃん! 早く帰りすぎちまった!」

 

「あら、お帰りなさい!」

 

 シンプルな白い壁を基準にした玄関を見ればそこにいたのはギルド【風林火山】のリーダー、クラインこと壺井遼太郎だ。私のプレイを理解して助けてくれた根っからの優男さんで、ゲームの中でもギルドの中でいじられる関係で。SAOをクリアしてすぐに結婚した。

 毎日寝る前に手入れをする革靴を脱ぎ、キチンと揃えて上がってくる落ち着いた人で他人に対して妬みも嫉みも少ない大好きな人。……ん、旦那自慢ですが、何かご用かしら? 

 

「後でキリの字たちも呼んでクエスト行こうぜ!」

「もちろん行きましょう! ノワールもこの一週間は忙しいらしいから木綿季もアイツに会えないのかしら? 悲しいわね……」

 

 本当に残念……。早くお嫁さんを作らないとすぐ死んじゃいそうで……。お客さんに迷惑かかりそうで困るのよね。

 パエリア鍋に今日買った具材を入れながら、キチンと料理は作り上げる。クラインはと言えばテレビも付けるがテレビを見ながらできることを探すタイプらしい。前見た時はリアクションを返しながら洗濯物を畳んだり、準備ができた料理を一言「持って行ってもいいか?」と聞いて私が頷いてから持って行ったり、ご飯を食べるのは出来るだけ一緒と決めてくれてるのか待ってくれるし。……何でこの人モテなかったのかしら? 顔重視な人しかいないから? 

 ……もう一度言うわね、旦那自慢ですが、何かご用? 

 

 テレビを見ながらも私をチョクチョク見てるのか、トークテーマを振ってきた。世間話が好きなところも私をキチンと見ているところもなぜモテなかったのか分からない。……だn(ry

 

「そういえば、ノワールとはいつからの付き合いなんだ?」

 

「あら、嫉妬かしら」とも口に出そうかと思ったけど、そうでもないみたいね。あの変態への単純な興味と……他に理由は読み取れない、ザンネン。でも、顔は多少赤くなっている。いうのが恥ずかしかったのかしら? 

 私にデレデレするなんて、なんて可愛いのかしら! 

 愛する相手は何人でもいる。リアルは私が筆頭らしく他にも片手で足りないほどたくさんいるけど、私が演技でデレれば手は出せないと返ってきた。この人、可愛いわよね? 友人枠でアスナちゃんたち。ゲームでも確かスクルドだったかしらAIとして好きな相手は存在する。

 結局私の方が先に惚れていたのにゲームで告白したのは彼から。男らしいところも仲間想いなところも全部大好き。

 嫉妬は生じないことが残念ね……。誰か女の子と話しても、どうしても「どうだ? うちの旦那はカッコいいわよ?」としか思わない。これは正妻の余裕というやつかしら? 一度くらい嫉妬心が巻き起こってほしい。まさか私が浮気をせねばならないのかしら? クライン以上の人に会ったことないのですけど? まさかエギルと? 嫁がいるじゃない! バレバレよ! 

 

 そんなクラインが私に質問なんて! ここは敢えてちゃんと説明しましょう。面白く思ってくれればいいのだけど! 

 

「私があの男と初めて会ったのは高校受験の会場だったのよ」

 

 高校で開かれた受験会場の一つである教室の一室。あんまり広い会場でもないはずなのに私の周りには誰もいなかった。試験当日、試験官に聞いて条件付きで持ち込ませてもらった本を机に広げて時間を潰し続けていたのだ。同じ学校ではない制服を着た薄っぺらい笑みを浮かべ続ける少年だ。

 

「そこからよ。話しかけられたのは」

「そんな前なのか? 結構長い付き合いじゃねぇか!」

 

 そう。誠に、非常に! 遺憾ですけどね! 

 

「えぇ、腐れ縁というやつね。私は満点取れる自信があったから休憩時間も試験会場で読みかけの本、確か“理想の嫁になるために”って題名のを読んでいたのよ。そしたら、いきなり話しかけてきたわ。『君は廊下に出ないの?』って。だから私は『満点取れる自信あるから知識の確認をする必要がないもの』って答えたのよ」

「ほえー……。そりゃまたキツイ返しだな。俺なんていつでも参考書取りに行くか、ゲームしてたな。そういえば」

「貴方のそういうところも大好き」

「へ!?」

「ごめんなさい。言っちゃったわ」

 

 おっと完全に無意識に言ってたわね。ウフフフ♪ だって可愛いんだもの♪ 私が言った後、見事に顔を赤くしてくれるんだから、私の旦那という男には本当に惚れ込んじゃっているのよね。カッコいいわよ、クライン。これ以上言うと拗ねちゃうから言わないけど。

 顔を赤くしたけど何とか話を戻そうとするクラインは一度だけ咳払いをした。仕方ないなぁ♪ あえて乗りましょうとも! 

 

「……真澄はね、『あ、そういうのもいいのか』って薄っぺらさと胡散臭さの増加した満面の笑顔になって私の前の席に座ったわ。もちろん真澄の席じゃないわ。誰か知らない受験者の席」

「う、うぇぇ! なんだそりゃ?」

 

 リビングの壁に備えた薄型テレビ。それを囲むようにこの字型に配置したソファに座りながら私は話す。キッチン側の『コ』の字の下棒に私は座り中身を話す。縦棒にいるのが所定なクライン。テレビで映画を見る時は二人でそのソファに座るのだけど、私の方を向いてくれる。

 それに対して私はキチンと誠意を見せたい。向き合うなら私も向き合う。

 もう! ご飯がないからクッキーを摘んでくれるけど。ゲーム上がりにワインを飲みたくなるでしょ? 摘みは残しておいてね? 

 けれど……えぇ。リアクションが大好き! まぁ、そのリアクションが返ってくるのが正解ですとも。端的に言えばスリーデイズストーカーでしたから。なんというかネーミングセンスないわね、私……。

 

「それからはずっと、休憩に入るたびに私に話しかけてくる。お弁当も、トイレも。その試験の三日間ずっと一緒にいる羽目になったわ」

 

 えぇ、本当に鬱陶しかった。けれど、あの辛さがあるからクラインと仕事中で別れている時間にも悲しさはあるけど頑張ろうって思えるのよね。妙な付き合いをするものだとも思う。

 クラインは想像してるのだろうか? 目は上を向いて、口はアァ……と開いて、だんだんと表情が悪くなってくる。……えぇ、しつこいものね。

 

「……あぁ、なんつーか、すげー人なんだな。余裕があるっつうか……」

 

 何とか言葉を出そうと色んなところに目を遣りながら結論を出すクライン。やっぱりあなたにも理解はできないのね……。もちろん、私にも無理。

 

「無理に褒めなくてもいいわよ、別に」

 

 ストーカーだと思ってくれたのなら正解で間違いないと思うわね。話しかけてきてレスを返せば、それからすぐに粘着質って……どこをとっても非常に変態。けれどもまあ、あの人の性質が『相手を理解すること』であることに気が付いたから腐れ縁として付き合っていけるけど。

 そりゃそうよ。ふつう受け入れてもらえないわよね……。

 

「うふふ。因みに私の受験はもちろん満点。けれど、その周辺に真澄の名前はなかった。

 けど、探せばきちんと見つかったわ。つまり、私と同じ高校に入ったってことね」

 

「どのくらいなんだ? いや、まぁ普通に気になるだけだがよ?」と、聞き返してくれる辺り、クラインはイイ男。私も喋るの楽しくなっちゃう♪ 

 

「ボーダーラインより1点上だったわ」と言うところで終わらすよりももっと面白く続けなきゃ、ね♪ 

 

「教師の中で噂話にもなってたから。耳をすませば正解のところ以外、何も記入してなかったらしいのよ」

 

 考えてる考えてる♪ 嬉しいわ♪ 楽しいわ♪ 

 

「わざとかどうかは誰も知らない。けれど、教師の一人が聞いてみたのよ『なんであんなことをしたのか?』って。するとね『アンタは綺麗な顔してるから夜の相手してくれたら教えてもいい』なんて言ったらしいのね」

 

 クッキーに合うコーヒーを淹れていたのだけど、口からブハッと吹き出してしまった。もちろん、拭くことは手伝ってくれたわ。ホントにカッコいい……。そうなることは予想はできていたから準備はもちろんしたわよ? 当たり前だもの。

 その後、クラインは真澄に関して理解しようと頭の中で努力しているみたい。腕を組んでうんうん悩み続けてる。けれどあの変態と仲良くできるかは別問題。私が惚れてアプローチした愛に打算などない、と理解しなくともその愛に向き合おうとしてくれた事実があるから。愛に対して猪突猛進な感じだとも思う。けれども結果、こうして手に入れた幸せは存在している。現にユウキはあの変態のことが好きらしいけど、真澄からすればもうちょっと歳を取ってほしいみたいだった。そこまでストライクから外れているわけでもないんだなぁと思ったけども。

 結局クラインは理解できなかったみたい。関わりが薄いからなんだろうけど。

 

「……あの人、本当に頭おかしいんだな」

 

 そんな奴と仲のいいあなたも可笑しい! と断言してこないところがクラインの良いところ! 多分微塵もそんなこと思ってないわね、その顔は……。

 けれども、ここは肯定が必要だと思う。私はもちろん、クラインにも。ノワールについて100%理解できるなんて無理な話よ。あの男を傀儡か何かにしたいんなら理解して理解されてはならないだろう。あの男もある程度推測を立てるだろうし。

 結局、どんな人も擦り寄ってみなきゃ話は通じないわ。

 

「そう。本当に彼はおかしいのよ。高校に入っても授業中ずっと後ろのロッカーの上にいたわ。機械弄りと開かれた機械の参考書と自分の机の上にある医療の参考書があってね、一年の内に完成させてたのよ! AIDS患者の少しだけおかしな細胞に指示を出す機械が」

 

 本当に作ることが必要で、それが好きなことだったから続けることができたんでしょうね。

 クラインはそれを聞いて驚いたようだ。首を傾げながら口元を手で覆うように当てた。

 調べたのかしら? あの病気は数年前まで知識不足のせいで風評被害さえ起こってしまう無知をさらすための病気だったのに。無知ってわけでもないみたい♪ 病気の治療法に理解がすんなりと出来てしまうなんて……やっぱり私は、クライン大好き! 

 

「え、そんなものできんのかよ……」

 

 仕組みが分からないから想像するけど、微塵も分からない。だからこそのお手上げ。

 アレを分かりやすく説明できる自信はないわね……。目的はシンプルで分かりやすくても、効果を出すための手段は聞かないで……。私にも微塵も分からなかったから。

 

「ルールは簡単。元は動いていたけど寄生されて動かなくなった細胞たちに指示を出すだけ。被験者は、というか。自分の身体を使って実験してたみたいね。確かどこかの病院に行ったら実際うまく行ってたらしいわ。医者には怒られたらしいけど」

 

 その時の詳細は聞かなかったけど、話を聞こうとしたのはそこの倉……ナントカ先生だったかしら? あ、出来たんだとかそんな感想しか思わなかったから。詳細まで思い出せないわ……。……悔しいわね。

 クラインは腰でも抜かしたような表情だ。目もガン開き、背もたれに全体重、口は開けたまま。完全に理解度を超えたってことかしら? 

 

「……はっ、ははっ。もうすげえよ、あの人。言葉が出ないぜ……」

 

 けど、アイツにも悪いところなんて腐るほどあるわ。

 

「アイツは心理学を勉強することが好きでね? 『人間相手の公式は簡単に作れる』なんて言ってたのよ。所々自由度があるだけなんですって。笑っちゃうわよね? 

 そんなことを笑いながら言える人を好きになる人はそうそういないわよ」

 

 そう言って私は打ちのめされたクラインに馬乗りに。太腿の上に座らせてもらおう。この場所をこの姿勢で座るのが、一番好きで私の特等席だもの。

 

「けれど、あなたは違うわ。

 人見知りの私があなたに先に惚れて、距離感を掴むのが苦手なキリトがあなたを友人だと思う。一緒にお酒を飲める仲間もいて、ノワールだってあなたのことを「すごい人だな。絶対敵に回したくない」って言ってたんだから」

 

 結婚した後、クラインと親友になってみて? とノワールに何度言おうとしたことか。それほどの才能を持つのに無自覚なのかしら? 

 

「ウフフ♪ 仲間を増やすことを簡単にできてしまう才能を持つ存在がこの世にどれくらいいるか……。私はあなたの才能を誇りに思うわ♪ だから、今度一緒に夜伽をしましょう?」

 

 口をあんぐりと開き、顔を赤くしちゃう遼太郎君。

 今日はキリトたちを呼んで一緒にクエストに行くのでしょう? なら、いつがいいのかしら♪ もう! この人と夫婦として遊べるようになるのが今から楽しみ!! 

 

 

 

 話終わった後、クラインは赤くなって動かなくなってしまった。いつも綺麗に食べてくれるご飯をポロポロと落としちゃうし、箸の持ち方がもう子供みたい。だからスプーンで食べるパエリアをメインに据えた。話を面白くできるように工夫はしたけど、最後は初めから決めてたもの。

 私みたいな小さな身体でも反応してくれるなんて……襲っちゃおうかしら? 別にそう考えるのはおかしなことじゃない。クラインは本当に魅力的だもの!! 

 

 そんな風に考えているとご飯をちゃんと食べるようになったクラインがご飯を全部食べ終えてくれた。はてさて、何かに気づいたのかしら? 

 そう思って彼の目を見る。長々と見ることは私にも難しい。だけどカッコいいクラインだもの、見ておくのも必要だ。もう、蕩けそう。表情がゆるゆるになりそう。ALOどうしようかな……

「なぁ、蓮ちゃん……」と始めてくれたクラインの顔はただただカッコいいわ……。

 

「あの人AIDSだったのか!?」

 

 ……え、えぇ。そうだったんだけど。

 んん、うーん……気づかなかったのか、知り合いにいたのか……。私が知る限り真澄以外、いない。珍しいから驚くようなタイプだったかしら? けれど、

 

「だからもう! そう言ってるじゃない、りょう君!」

 

 私とクラインしか家にいなければクラインは私のことを《蓮ちゃん》と呼んでくれるし、私は《りょう君》と呼んでいる。ね、分かるでしょ? 

 ウチの旦那は世界一。それ以外、異論反論抗議口答えまで何一つ許さないから。

 

 

 

 ○○○

 

 

 

「今日のご飯は何かな〜♪ 美味しいものだと良いな〜♪」

 

 僕はずっと誰も来ないゼミ室に入り浸ることが結構多い。冷凍庫には11月以降ずっと大好きなアイスを常備してもらい、おいしいご飯も奢ってくれるのは殻品先輩。外食で食べる日が重なれば大抵注文してくれるし奢ってくれる。そんなわけで悠々自適な快適空間を飯付きでいれるわけなんだけど。

 最近、人が増えた。これは電脳だから、人と呼んでいいのか迷うところではあるけれど。

 

「……私も君の家で手伝うのもすごく疲れてるんだ。私という存在が電脳空間に潜り込んだ存在のバックアップとして日々思考の加速化のクオリティを上げることにも僕自身のスペックを上げることになんら限界を感じなくなってきた。君のおかげで私を殺すためにインターネットの世界を一度白紙に戻されても、私は何もせずに生きていけるわけだが……」

 

 不満そうにそう口に出す電脳は、いやだ! もう人でいいや! 人は茅場晶彦だ。もうあの事件以来電脳になってたし、人じゃないならと思って独立した環境としてシェルターみたいなバックアップ施設を作った。だから、暫くこうやって話してるんだけど仕事を頼むことも頼まれることも増えた。

 ……もちろん普通の人間より何千倍もマシなんだけど。

 

「だが、環境のスペックが些か低いと感じざるを得ないな。あの理想郷を完全再現させるためにはもう少し良いものが欲しいとは思うのだ」

 

 僕は違うテキストを同時に読んでそれぞれに対応をするのが『イヤだメンドクサイ』って思うタイプ。だから、電脳さんに仕事の依頼と頼み事のやりとりも全部音判定になった。簡単に言えば喋ればいいよってこと。

 

「はぁ、そう言わないでよ。これでもお金結構かけたんだからね? 

 他所からのアタックに強くて、君を守るシェルターマシンを壊した瞬間に僕の信頼できる存在まで思考をリンクできるプログラムまで備えて君を逃せる。

 初期状態とはいえここまで準備したんだから。

 ま、とりあえず僕が死ぬまで生き残ってよ」

 

 文字通り、お金をかけたんだ。ネットに繋がったことのないレアリティの高い奴を一つとそれにファイアウォールをいくつもつけた。ウイルス撃破プログラムもオート生成できるように組んだし、保険もかけてる。

 結果的に大量殺人犯の電脳を死んでも守ってくれるだろうシェルターをこの作り始めて二年未満で作ったのだ。勤勉さと真面目さに敬意を持って欲しい。

 もちろん、彼の存在は誰にも言ってないし、こんなめんどくさいコード相手に勝負しようとする人間がいれば友達になって欲しい。またはライバル。

 というわけで先輩二人とも思考回路は嫌いじゃないけど、知らない人が多い方がいい。

 

「確かに。あのゲームがスタートし1ヶ月以内で私の計画を仮説段階とはいえ見出し、あやふやな私の存在を確定させるためにシェルタープログラムを……。それからクリアされるまでの情報を感知しながら作り上げた。予想以上に居心地の良い場所で私も驚いたよ」

 

 でしょうね。全部非力な僕の手作業だ。

 驚いて貰わないと僕がかわいそうだ。それに……

 

「そりゃ、やった人がいたことないからどんな機能があれば良いのか分からないし。スパコン一個で足りるのか、心配になるのも仕方ないでしょ?」

 

 年末年始だろうがどの季節だろうが、ここを守る為に努力したんだ。今頃、煩いゼミの先生も地中海に行ってくれてるだろうさ。

 

「私の電脳存在計画に気付いてカーディナルにアプローチし交渉という名の脅迫をしてきたときは、なぜバレたのか気になったものだよ」

「僕もそうするつもりだから」

「…………ん?」

 

 驚くような話でもないでしょ? 電脳さんが考えたんだから僕も考える。成功確率がせめて5割くらい欲しいと思ったからこうやって色々試してるけどさ。

 

「僕は人間がダイッキライなんだ!! まだ、努力をし続ける奴は嫌いじゃない。

 ……けど、僕をパソコンの前から動かないからってイジメる奴に僕は手も足も出ない! 力が足りないからハッキングして『自業自得だ!』って叫べば捕まるのも怒られるのも僕だ!! まるで虐めるヤツが正義で、偉いみたいな世界だと思った。

 だから、この肉体を持たなきゃいけない嘘くさい世界よりも電脳世界の本音を放つ世界の方が僕好みだ!」

 

 こんなクソなら滅んでしまえと何度思ったか。別にそうしてもいいけどあの二人は僕に優しい人だからお金が欲しいだけ。けれど、舐めてもらっては困る。成功率は1割くらいまで上げたっけ? 

 元からの夢を諦めたわけじゃない。

 

「ク、ククク……。あぁ、シンプルで悪くない考えだよ。事実私好みの考えだ。……私もね、発表するたびに『理解できない』とコケ下ろされることなど数えられないほどだった」

「唐突な同意は裏切りだと考えてるから、手短にね」

 

「ふむ、理解した。では、……」と最低限の音声が僕の周りに聞こえてきた。

 

「しかし、私は恵まれていたという事実も紛れもなく存在するのだ。私の論文を理解しようと考えアイディアさえ与えてくれた教授がいた。私の全てを理解できなくても私という存在を愛してくれた同僚がいた。私を追い抜こうと必死に頑張る後輩も真似してやろうと必死に頑張る後輩もそこには存在したのだ」

 

「……」

 

「私は居場所を肯定されたが故に夢を追えたんだ」

 

「……」

 

「君に対して私はこの反例を提示してみよう。今まで君が定めた人生観という論文に対して、私は詳細までは未だ知らない。しかし、時間はあるのだ。討論か、若しくは議論などどうだろう?」

 

「……僕はあなたが羨ましい」

 

 本当に羨ましい。二人とも礼儀正しさと芯の通った理想を持ってたから僕はあの二人を好きになったんだ。けれど、共同研究はやったことはない。みんな自分の好きなことを好き放題にしてるから。頼まれない限り干渉しないのも事実。

 

「いいね。私と議論を?」

 

「いや、違う。とりあえず話していくけどこういうのは自分で気付きたい。だから、質問してくれると助、かり、ます」

 

 茅場さんを始め須郷さんもだけど、決して嫌いじゃなかった。昔アプローチをしてみた経験は一度だけどある。その時は二人としかコミュニケーションは取れなかったけどリアクションは嫌いじゃなかった。

 

「ん? ……君が泣くほどのことじゃない。私に比べまだ若いだろう? カメラが無くてもそれくらいは分かる」

 

 コイツ、煽ってるのか? ショタだと扱われたのは何度か。

 

「……この場所にカメラを用意するのは最後だ!!」

 

「ふん! いいさ、違う人に頼む」

 

「君をそいつにバラすのは最後から二番目だ」

 

「……ふむ。知るよりも知られるのが先か」

 

「早く働こう。僕が寝てる時間はきちんと8時間。……その間だけは進めてくれると助かる」

 

「いいだろう。君の二倍くらいのスピードならいいかな?」

 

「僕も貴方と同じくらいのスピードで働くから。お互い予想はしやすいよ?」

 

 これくらいは仕返しさせてくれてもいいだろ? ね、茅場さん。

 

「ふん、言ったな? この童貞」

 

 何となくこの人の性格が掴めてきた。自分の力に自信があるから舐められると腹が立つんだ。

 ……もちろんこちらも一緒だけど

 

「そっちこそだろ!? クソ童貞!」

 

 けれど、この悪口にはそこまで苛立つような反応を返さない。

 アレ? おかしいな? 

 

「残念だったな。私は童貞じゃない。いい気持ちだったよ」

 

 笑いながらそう言ってくる茅場さんの勝ち誇った顔さえ見えてくる。けど……! 

 

「え! ウソ!? そんなバカな!!」

 

 これは予想外だ!! 

 




SAOでよく起こる現象、番外編での新しい風を吹かせる的な奴です。私はコレを一度でいいやって見たかったんです!

シロさんに関して言えば名前が出て色々やってるのに何をやって何をよくしちゃう人なのか全然知らなかっただろうなぁと思うわけで……。もちろん後悔はありませんが?
後半はオリキャラ三人目ですね。彼の今までを簡単に言えば、ノワールたちを(お金のために)全力で(結果的に)救ってきた人です。こういうクズっぽい人いつでもいるよね……。

感想評価。特に感想よろしくお願いします。


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UW編 −1話 どんな奴に対しても救済ルートは必須だろう?[エミ○風]

元のセリフを分かってくれると嬉しいなぁ……チラッ


それではどうぞ!!


 ————ゲームってのはあくまで再現なんだよ。どこまでいっても現実のリアリティを超えることができない。

 

 ノワールの言葉に確かにそうだと俺は首を振った。触れあうことで得られる情報もひどく限定的であることは俺も納得してしまうから。

 

 ————例えば嘘。このVRゲームなんか脳波を見て対応する感情を類推し、瞬間的な表情を写し込む。現実ならその脳波から表情筋にアウトプットしているからノイズが入る。多分このゲームで無愛想な奴は少ないだろ? だから、むしろオーバーになってしまう。だからこそ、微表情の時間が長くなって本音が現実より探りやすくなる。というわけでポーカーとか賭け事をするなら現実よりもフェアじゃない。

 例えば金の価値。アインクラッドではコルだがこれを定めたのはカーディナルだ。参考にして産出するための母集団は国によってクオリティーとかがバラバラだ。さらに言えば同じ国でもその時の気候とかで出来上がる環境が丸っ切り違う。だからこそ、希少性と需要プラス強いてあげて重要性に合致してないといけないけど、そいつにあってる。だからこそリアルよりもフェアだ。

 

 他にもいくらでもあるがシステムのメリットデメリットを推測・実験・理解して利用できれば一番強いと思うんだわ。例えば————

 

 

 

 

「んー……。スキルの振れ幅……どういう意味だ?」

「ねぇ、キリト! このソードスキルを教えてくれない?」

「もうそんなところまで覚えたのか、ユージオ! 勿論教えることは全部教えるぜ!」

 

 巨大な樹木:ギガスシダーを切り株にするためずっと鍛錬を続けることになった。最初は斧を用いて、次に青薔薇の剣を交互に振るって。単純ではあるけど、理想の姿ってのは必ずあるんだ。だから、それを目指して剣を振る。

 それ以外の時間はたくさんの思考とそれに伴う試行を続けた。あのデスゲームの中にいた時よりも鍛錬に近いものを続けていることになっているかもしれない。そう思えば口から照れの混ざった笑みが漏れそうだけど、このままじゃ勝てない。勝てないんだよッ、アイツに!! 

 

 職を全うしたのち、二人で旅に出たがその間もできることは全てやってきた。旅に出てからこの二年間はずっと似たようなことを一人で考えていた。ノワールに提出するための課題みたいなものだと考えていたのもある。そんな考えることが絶対必要なものだと思えば常に考え続ける。最適解とその手段を。

 

「まぁ、それに……」

 

 闘うのは決めている。互いの憧れで、友人だからこそ、最後の勝負。

 

 

 

 目を瞑れば浮かんでくるのは何度も隣にいた、そう。ノワールの姿だ。相手を煽りながらも冷静な、というか冷酷なプレイは絶対に変えないそのスタイル。それを俺にも取り込めればどれだけ良かったかと思ったことは数数えるほど多くある。開始1ヶ月でしかカウントされなかった死者の数も、同じプレイヤーを殺させないためのラフコフとの勝負も、最期の英雄的犠牲も。アイツの行動の全ては結果的に自己犠牲に近いが、プレイヤーの救済だ。

 

 だからこそ、憧れた。ネタと言ってもやってることはガチプレイ。縛りプレイと言ってもその結果からどう勝つかを懸命に思考し続けていた。だから、かっこよかった。

 

 俺の選ぶ黒いコート。それに対してそこまで長くもない白いケープが印象的な白ベースの格好。俺とは正反対と言っていいのか、黒って名前なのに白い格好なのかというツッコミもある奴。

 けれど、その格好以上に気になるのは表情だった。例えば、アイツの常に浮かべる人を馬鹿にするかのような満面の笑みと、時折見せる感情が冷めたかのようなヘェ〜とうっすら見せる笑み。

 

「分からないままアイツに聞くのは、めちゃくちゃ腹が立つ……!!」

 

 いつも浮かべる二つの表情は俺が質問した瞬間にどちらかを浮かべてくる。

 つまり俺は、アイツに憧れていた分ただムカついたんだ。

 

 

 

 

 

 俺好みの黒い剣に自らの手を馴染ませるため降り続けたのも数分くらいだろう。重さの誤差で剣技の質が落ちるのは嫌いだ。ノワールとの勝負で負けるのは嫌だから。頭の中にはイヤミな残響が常に残る。こいつはノワールなものじゃない。

 ふと休む瞬間に思い出すのだ、あの男のやって来る瞬間のニヤニヤした笑い。ノワールの顔はそこまでムカつくものじゃないけど、振り始めた瞬間に変化していた冷笑は何を考えてたんだろうなぁ。それでも俺は剣を振る。あの男を楽しませることができるように、という意味も含めるんだ。挑むのは明らかに俺なんだから。

 

 ユージオと階層を上がり続け、全ての戦闘を二人で向かい合い、俺たちと微塵も変わらない重さの歴史を持つ命たちであるAIたちを、殺すことはしないと決めている。昔から隣にいたノワールを真似た、常に分析し試行して、そうして撃破し続け足止めの神聖術を用いて上がるスタイル。

 これから開ける扉は最後の最後。アドミニストレータとの闘いだ。

 

 

 走って、躱して、突いて。走って、躱して、斬って。完全なカウンタースタイル。ソードスキルを使わない今までと同様な状況を作り上げるための分析しながら試行するスタイル。ソードゴーレムに対して一番観察するための戦闘を続けていた。相手が俺たちの動きを見ることができる以上切り札を使うわけにはいかない。ノワールさえも知らないスキルをこんなところで使うべきではないのだ。そう、俺たちのクリアすべき条件はシンプルだと再確認。

 思考を落ち着かせてプレイスタイルは丁寧に。身体の中にある邪魔は深く吐いて、周りの全てを手に入れるくらいに吸おう。

 

 アリスのソードスキルは主に二つ。シンプルに大味なものと武器の特性を解放する防御に回せそうなスキルだった。だからこそ、できると信じて頼んだこともこれまた二つ。一つは『一番観察をして俺の予測と外れた時のフォローをしてくれ』と頼んだ。俺は自分が疲れてくると無茶をやらかすことが少なからずあるから。二つ目は『相手の動きを完璧に理解できたら勝負に入ってくれ』。最初は分からなくても攻撃に対して余力を残しながらスピードを減らせば、どんな攻撃も対処は可能なんだ、と。

 逆にユージオにはアドミニストレータの気を引いてくれと頼んだ。あのアドミニストレータの優先度は一位がユージオ、二位がアリス、三位が残念ながら俺だろう。ユージオを手元に戻すつもりでいることは見てれば分かる。シンセサイズの秘儀を浅くとももう一度二人に行うことで俺たちの心理的動揺を狙うだろうし、ソードゴーレムの強さに自信を持っているらしい。つまり、現在の俺たちに勝てる手はないことが前提で、全員を回収できることが一番理想的だと考えてるんだろう。

 特にアリスは情報的な重要性で言えば重いと言える。目の封印を破っているから、自分の指示を絶対的な法に定めるためだ。他の聖号騎士にはどうしても超えられない任務に割り当てたいから。

 

 

 俺が守勢からスタートしそろそろ攻めださないといけないタイミングだと思っていた時、アドミニストレータの表情に憎しみが映った。ゴーレムと長々と闘い続けているから、自分のプラン通りに中々動かないことが苛立ってきたのだろう。

 アドミニストレータはソードゴーレムに指示を出し、自分も攻撃を始めたのだ。

 

「勝てるか、コイツ……」

 

 今度は賭けに出ないと不味いか。 解放術の準備に入るべきか。

 

 

 その時のことだった。

 

「そんなカス相手に、大技なんか使う必要ねぇすよ、キリト!!」

 

 ノワールだった。しかし、出てきたところは階段ではなく小さな窓からだ。どうやってと観察してみれば、その小さな窓が修復されていたのだ。

 

「壊したのか!」

 

 その疑問に対してノワールの答えは高笑いだ。俺はノワールのスタイルがAGI重視だと知ってる。しかし、髪は濃い青色。ALOアカウントを? どうやって? だからこその俺の知ることもない切り札を使用しての侵入かと思ったけど。どうやら違うらしい。

 俺にはそこまで向けたことのない口角の上がり切った笑みをアドミニストレータに向けた。けれど、違和感も同時に生まれた。俺に対してもその笑みを向けたから。

 

「ここを開けたのは俺の相棒のキャロルだ。ンな薄い壁だぞ? あのゴリラステなら不可能なことはねぇよ」

 

「全力で刺したら反動で落ちちゃったけど。んー、多分大丈夫でしょ」と声に出したが、彼の笑みは止まらない。この笑顔はまさか、勝負を、楽しもうとしているのか? 

 そこまで考えたが、真偽を見極める術は俺にはない。けれど、相変わらずの無茶に笑ってしまう。俺とアリスでも確認したはずの硬さで、侵入なんて完全な予想外だったのに……。

 まぁ、気圧差で二人とも放り投げられて、戻るためにユージオには頑張ってもらったけどそこら辺はどうでもいい。

 ……それにしても、初見でできると思い立ってやり切ったのか……。

 

「俺が一人であのババア相手してやるから、他は頑張れ。な?」

 

 

 

「さて、やるか」

 

 右手にいつもとは少しだけ異なるナイフをホルダーから抜き取った。脇を閉めて、半身の構え。左手は何も持たず、背中に隠す。

 

「話を聴くにあなた無茶するタイプなのかしら? 神聖なこの場所に部外者は要らないわ。死んでくれないかしら?」

 

 ほう、なんか舐められてそうだな。あの露出過多なババアから見てこの薄っぺらそうな男が弱いと見えると? いや、しかし俺の戦闘スタイルは効果的だろうなぁ。お前みたいな魔法を用いる魔術師タイプで、力を持つが故に。

 

「アハハハハァ? 舐めんな老害が。こっちも右手だけで充分だわ」

 

「あなたこそ、そこの変わった男たちの仲間なのかしら? 私の騎士を誑かした彼らの。もし、そうならあなたもそこのゴーレムに切り刻まれるといいわ」

 

「はン! 私のって言ったな? この世には誰かの手のなかにある命なんて存在してねぇんだよ。そういう考えをする輩が粗末に扱うから何よりも大事な魂が、信頼が失われる。そういう奴がカシラとはここの騎士? さん達も可哀想なもんだなぁ。

 それにメンタルは意外にガキだな。今でもおっぱい吸ってんのか?」

「ふふっ、殺す」

 

 

 そんなやり取りをし終わると露出過多の女は宙に浮き始めたのだ。1m、2mとゆっくりとしかし慣れたように。最上階での立体的中心まで浮かび上がるとそこに留まった。

 しかし、飛べるのは計算外だな。不敵な笑みを意味もなく浮かべながら射程圏内までチャラチャラと目立つように一歩を踏み出した。しかし、時の進みが遅くなったかのようにゆっくりと滑らかに、一定に、一歩ずつ。二歩目もスピードもモーションも一定で。

 

 ……動くのは一瞬だ。

 

 三歩目。右足で地を踏む瞬間に膝を曲げる。そのモーションに気づけば死を覚悟するほど非常に手強いが気付かないのなら……。

 どこを見ても変わらないただのジャンプ。しかし彼の特徴は神速とも呼べる速さである。アドミニストレータには見えることはなかった。ノワールが一番最初に狙ったのはリアルなら頸動脈のある位置。つまり、即死狙いだったのだ。しかし、アドミニストレータも強者である。第六感とも呼べるような虫の報せを感知したのか、ノワールの一撃を辛うじて避けることに成功した。

 しかし、彼にとってはダメージが通らない事など当たり前。返しの刃で右手に明確な刀傷を残すことには成功した。

 

「俺を見て追えなかったのか? 俺にとって二連撃なんて基礎中の基礎の手抜きなんだけど。そんなんで傷を負うとは……。はてはお前、ガチでザコいな?」

 

 もちろん嘘である。確かに連撃を加えることは彼にとって容易いが出したスピードは7割かつ右手だけの舐めプに見せた様子見である。攻撃の一発目はキチンと与えないと相手の心に余裕ができてしまうのだ。心理的余裕を与えないための彼にとって王道のデュエルの仕方。

 そしてノワールは瞬時に口を動かしながらでも考える。考え続ける。

 空から飛び降りて乱入した以上どんな手段があるのか、どういう戦闘タイプなのか、どういう攻撃パターンが存在するのか、俺は何も知らない。その上この煽って時間稼ぎをするスタイルを持続させなきゃならない。仕込みも相応のメリットもリスクも紛れもなくある。だからこのババアを予想通りに動かすための舐めプ。……あぁ、なんてこった。……こいつは、面白いぞ!! 

 

 

「お前気付かなかったかねェ?」

「!?」

 

 ニタァ〜、と見ながら喋る、喋る。ならばもう一度。「なァ、ババア?」

 

「俺は今、その左手に、傷をつけれたんだけど? 

 

 

 アンタ、弱い人?」

 

 あえて名前の知らないババアにとって分かりやすい場所。結果:俺が狙ったのは一本の手首にある腱。

 しかし、毒が効かねぇな。いつもなら傷をつけて10秒以内に隙が確実にできるくらいには強い毒なのに。……うーん、まぁいいか。術とか攻撃にはまだ何の変化もないだろうが

 

「心理的にはどうだろうなァ?」

 

 イヤそうな顔しやがって……。気持ち悪いわ、コイツって言ってやがる……。対等な相手以上じゃないとこんなセコいことしたくねぇよ? 

 だが、お前は俺を一つ怒らせた。ねちっこく、粘っこく、攻め続けるのは俺のスタイルだ。スタミナ的に考えれば長くても短くてもイケる無茶なスタイルでもない時間稼ぎや囮りになってヘイト稼ぎするのが役目。あの三人のために、俺が先に殺してはダメなんだ……! 

 体力的にも、手札的にも技術オンリーで長時間保たせることはできないだろう。なぜかメニューも開かないし。だから、俺は喋って喋って、喋り続けて時間を稼ごう。ゴーレムを崩し終わるまでの間だ。「……できないことじゃないな」

 

 アドミニストレータが一瞬で広げた光弾は一言喋るだけでフィールドを覆った。自分も中心から浮いたまま後ろに引き、まるで宝物投げる王様のようなイメージさえ感じた。表情には意地でも強がりな笑みを浮かべているが冷や汗は一滴、二滴と垂れているかもしれない。それほどの恐怖だった。

 だが、俺も時間稼ぎをしなければキリトたちが危ない。あの訳わからん金色巨人がどんな特性を持つのか、微塵も知らないからだ。俺が先にこの女を倒し暴走でもされた場合何をどうすればいいのか見当もつかない。

 だから、頑張れ俺!! しかし、言ったセリフには間違いなくメタルって言葉が入ってた、つまり、金属。炎で燃やしたり、水で切ったり、光で眩ませてからの物理のような手段ではなく質量を選んだ。そこは思考が熱せられても手段は冷徹。どんな結果になるか警戒しながら舐めプっぽくしなければいかん。

 しかし、これ以上密集させるのは恐らく干渉しあって悪手だ。攻撃は増えない。ババアを視界に入れる範囲の中で数カ所混ざるところがあった。結論、幾つもの一斉攻撃と準備にどれくらいかかるかが問題である、と? 問題は全ての光弾を俺に集められるかだが……。

 ここはSAOでもALOでもGGOでも仕組まれた、俺の逃げ足をスタミナ不足で殺すための物量作戦というべきか。一人で狙ってくるのは初めてだが。

 

「クソ楽なフィールドだぜ?」

 

 そんな訳ないが一言の挑発。それと同時に光弾は俺を真っ直ぐ狙いつける。条件反射的なターンを決め最小限の回避をするが次弾が来ているのは当たり前。急加速してこの狭い空間を走り始めた。

 追尾してくる切り崩せない厄介な魔法だが、追尾させるためにか俺を常に見続けている。視線は常にターゲットに無いと当たらないと? 屈折は起こるか知らないが視線誘導すら俺の十八番なのに? 

 

「俺のスキルは近接戦闘だけじゃねぇよ、なめんなババア!!」

「何ですって? ブラフかしら?」

 

「《クィックドロウ》!」

 

 そう言って投げるのは右手に持った両刃ナイフ。このナイフの良いところは麻痺毒ともう一つ。ハズレカードが存在すること。右手に用意するのはユウキにも使ったものと同じ、あのナイフだ。というより、俺自身パッと見同じナイフしか持ってない。似ているからこそ、あのナイフはもう簡単には使えない。一度使ったら投げて使いたいところだが、ブラフがバレる……。

 案の定、ババアはそのナイフを右手で取り、なめ腐るように余裕を見せて上に軽く放り投げる。

 

 しかし、それでは足りないぞ。

 

「たった一本だけで良いのかしら?」

 

 安直に優位に見えたその瞬間は俺の考えとピッタリ一致してるんだよ。俺のニヤケは止まらない。投擲からキャッチにおよそ、1秒未満。女子が物を投げ上げる高さは『肘の位置から頭頂部までの距離×2倍』の高さが結構多い。その軌道のカウントは物理基礎だ。暗算で計算可能なシンプルワールド。

 

「問題ねぇよ、雑魚。 お前に取らせるつもりなんだ」

 

 二度目に触って2秒後、そのナイフは爆発するのだから!! 

 

 

 

 案の定。手に返ってくる寸前で爆発した右肩と顔に致命的なダメージを与えられるくらいの一握りの火薬(リトルフラワー)擬き。

 

「おっと、言うの忘れてたがそいつは爆発するのさ」

 

 してやったり顔で意図通りである。そんな俺の演技と本音が五分五分。けれどもババア、お前本格的にさっさと殺したいほど腹が立ってるだろォ? 

 スタミナは結構持つぞ。ゴーレムの攻撃から俺を守ってくれてる奴がキリト君。SAO最強のプレイヤーが色んなものを吸収してまた強くなってるんだろ? 俺はそんな彼の強さを紛れもなく信じてるから。

 さて、まだ喋ろうか? 

 

「見事に右腕おじゃんだな。手を使わない術師だから言うのすっかり忘れてたわ」

「くっ! ……早く死ねば良いのに」

「アヒャヒャヒャヒャ! 俺は基本的に死ににくい男なのでェ〜。あんたが殺せるとは思えないわァ〜」

 

 びっくりジョークに本音は3割レベルだ。SAOでの俺は死ぬ死ぬ詐欺を繰り返さないといけなかったからな。ラフコフの殺人に一人も引っ掛けないように、頑張ったんです。おっと喋ってねぇ。

 あのゲームはPKに引っかかってしまっては勿体無いのだ。ワタシハせっかく面白いゲームになったSAOを余すところなく楽しんでもらうための攻略組一の詐欺師デス! そんなクソやろうからの素敵な贈り物なんだ、受け取ってくれや! 

 

 あぁ〜しかし、クソ! あの時のこと思い出したらちょっと寒気が。多分外は一生懸命の舐めた顔した笑顔の中でも『オマエ雑魚過ぎてテンション上がらん』って顔になってる気がする。だが、通じるでしょ? 想像内で喋り続ける俺の言葉が君の頭の中ではより悪質に聞こえて来ない? 

 

「やっぱり殺すわ」

「やってみろや、語彙力無し女」

 

 視線はババアにやってるが、全ての魔法は俺の背後から来る。つまり、俺をキリトくんたちが魔法から守った瞬間、優先度が変わる可能性があるってことだ。俺は魔法を切り落とせるほどリーチの長いスキルはない。ヘイト稼ぎのために今以上に前へ出ちゃうからネ! 

 しかし、それからの対処は何としても、めんどくさい! 折角ローコストで抑えた体力消費をいきなりハイコストに上げるのはただのヘビーワーク。なら、それを防ぐスタイルで。

 

「ねェ、ババア。戦い始めて一度も当ててない魔法。それのこと新参者なんでェ、俺はなんて言うのか知らないけど? 

 

 

 当ててみなよ? 当てないと俺を殺せないよ?」

 

 俺はSAOでの軽業スキルのクオリティーを思い出す。パルクールもフリーランニングもボルダリングも現実世界でできる様に練習してきたタイプの俺だ。昔っから球技はヘタクソだったからこそ、ジャグリングも大道芸人に教えてもらったし。

 コントロールされた光弾──多分個数は十数個──の良い的になるようにスピードを落として跳ね回る。その最後に、俺が跳びついたのはゴーレムの腕。

 

 自分の主人からの攻撃にはある程度、弱いよね? 

 

 それからすぐに離れることで十個の内七個が右腕に直撃した。攻めがキリトくんでよかったわ。パターンを知ってるからまだやり易い。彼が左、俺は右。破壊まではいかないために、楔がわりとして左手に持ったナイフを放つ。コイツは見事な煽りタイミングだ。よりヘイトを集めるように、少なくなった玉を頑張って切り落とす。「アッレレー、おっかしいぞー!」

 

 お前のヘイトは全て、俺のモンだ。

 

 

 

「一度も俺に当てたことのないアンタの魔法。制御できないくらいに俺のスピードに合わせるらあんな目に合うんすよ、ゴーレムくんに悪いことしてるわ!!」

 

 さて、交渉タイムだ。

 

 

「あんたもそこで死ぬ、その前にそこで死んでる二頭身ピエロ使って右手直したら? ンの方が俺とまともに戦えるんじゃね? そういうこともできるんでしょ?」

 

 

 俺の発言にキリトくんの顔は少しだけ目を見開いた。あ、生きてた可能性ワンチャン? ごめん、キリト君。微塵も動かないし壁際で出血多量レベルだから死んでるものと思ってたわ。

 けど、まぁ……

 

「あんたなんかに勝てないはずないでしょ? 雑魚に用はないわ」

「ヘェ〜」

 

 そうして俺はホルダーから一つナイフを右手で取った。一度空中に投げ、きちんと掴み、すぐさま二頭身ピエロへ投げた。2秒の後、二等身ピエロの身体は確実に消えた。脂に引火したのか、最低限の燃え方なのに見事に粉微塵。というよりなんだろーな、アレ。前にも見た覚えがあるぞ? 何だったか、アレ。………………あ、思い出した。

 

「火達磨、だったか? こうした方が俺的には非常に楽なんだよ。『嫌な存在を煽りに使って消し飛ばすチャンス』だったんだよね〜」

 

 ゴメンね、キリト君。

 

「あんなに出血してたら可哀そうだよ。後から利用されたら腹が立つし、ナイフ一本を消費して遺体を消しておいたから! 

 あ、それと俺のナイフストックあと3本だから。きちんと避けて俺を殺すんだよ?」

 

『できるかな? じゃあスタート』とそんな簡単にはいかないだろう。まず俺の言葉を信じる保証もない。けれど、実際の所本当にあと3本のナイフでハズレカードがない。というわけでもう使えそうなトリック武器はもう無いのだ。ポーションも無い、武器もない、倒すことはもっとダメ。

 後一つ右手に持つ奴だけしか使えない。もうホルダーにはあと一本だけなのだ。余裕はないがやるしかねぇ。

 

「ババア、やられっぱなしじゃん! ほら、かかってこいよ」

 

 チラリと視界の中にキリト君たちを入れると全員で攻撃を始めていた。ソードゴーレムに対してあの三人はやっと慣れてきた。故に狙いはババアの、俺を追い続けるその瞳!! 

 

 

 これで魔法を一つも発動しなくなるだろ。

 

 

「気ぃつけてこーぜ!!」

「! あぁ、分かった!!」

 

 キリトくんからの返答、あり。つまり、ここが勝負どころってことがあのパーティーにも伝わった! なぜなら、これは昔から使ってる指示だから。

 

 まず、喋るぞー! 

 

「俺のスキルの限定条件、そのいち! 同じ武器しかできない!!」

 

 壁を伝って跳び上がり、ババアの元へ。左のナイフを近寄せる。一番最初の舐めプ発言がただの嘘になっちゃったけど、まぁ仕方ない。俺のスタイルに違和感持たれるその数倍はマシだ。

 青い瞳と綺麗に目が合う。これは避けられる。しかし、仕方がねぇ! 蹴り技されかけたときが一番怖いけど、魔法使いはそこまで近接戦闘が得意じゃないのが常識! 避けてくれ!! 

 

「そのに! 手の中にしか出てこない!!」

 

 良かった! 避けてくれた。

 俺の姿はだいぶ慣れてもう見えてる。ひらりと躱せるのは、当たり前。反撃来なかっただけ儲けものだろ。そのまま間髪入れず狙うことが重要。壁を蹴り、追撃! 

 

 所でキリトくんの二刀流を使ってないってことはここではユニークは存在しないと仮定したほうがマシ。もし、剣を用意して二刀流を使い出したら俺の伏せ札も有効範囲ということなんだけど。

 しかも、現実世界に限りなく近い設定にされてる。魔法レベルの質になっているあのクィックドロウというスキル。例えばメニューからの出現が基本。あのクイックドロウが音声に反応しなかったのだから勝負に使える手持ちの手段(コンボ)はいくつか燃やされたのも一緒。

 とどのつまり、俺は太腿のホルダーから瞬間的にモーションを速くしてスキルの偽装をしているだけ。クィックドロウには本来、出現させる時に光粒が生まれてくる。それが出ないからキリトくんにも知られてる。もしくは初めから知っていたか。けれど喋るとパーティーメンバーが反応するリスクがあるから言わなかった、と。

 流石だね、キリト君。

 しかし、移動の全てが全速力だと速過ぎる。動体視力が慣れてこのトリックに気付かれてしまう可能性があった。だからこそのペースダウン。キリトくんたちよりも若干速いペースで。

 

 

 故に俺を目で追い続けることは可能。『これがあの厄介なネズミの最速か』と勘違いしている筈だ。

 

 

「そのさん!」

 

 ほら、警戒したな? 

 俺の武器はナイフだけじゃない。常にケープの内側には最低でも二つ用意してるんだよ。

 

 エナメル質のワイヤー。

 

「シックス・チェック、したらどう?」

 

 もう遅いけど。

 

 

 

 

 

 アドミニストレータはノワールが投げたナイフを触らないようにきちんと避け切ることに成功した。しかし、彼女は何か異変を感じたのかそのナイフを目で追い続けた。あれだけトリックを組み込んだ嘘つき男が相手だったのだ。背後から何か来るかもしれないとアドミニストレータは背後をノワールに対して神聖術を展開しながらナイフの行方を確認する。

 しかし、その行動こそがノワールの罠だった。

 

 なんと背後の魔法を展開した隙間から一本のナイフがものすごい勢いで飛んできたのだ。流石にその攻撃に対しては対処はできず避けることはできなかった。右目を潰すことにノワールは成功したのだ。

 

「念のため髪も落としとくね、バァバァア!」

 

 敵が誰も見ていない今、スピードだけは誰にでも勝てる男がこの絶好のタイミングを逃すはずもなかった。軽業による軽体重と壁を蹴って進むことの簡単さはいつも通り。ジャンプして近づいて逆の瞳をえぐり取る。残った()()()()()ナイフを用いて髪をできる限り切る。

 ナニよりも〜速さが足りないッ!! ってな。

 

 

 

 あの合図にキリトが反応すれば始めからあの流れであのエンドを迎える予定であり、その予定通りアドミニストレータの視界を彼は奪い切ったのである。喉にナイフを突き立てられた状態で暴れ出すほど彼女は醜いことをしたくなかった。飛ぶことをゆっくりと止め地面に膝を付けた。

 俺が落とした髪は存在しない。アイテムをMP的なものに変えられるシステムは他のゲームで味わっていたから。そしてそれが通じるのは俺の相棒だ。もう一人いるからアイコンタクトして頼みましたよ。まる。

 ……あぁー、怒られるかもしんね……。

 

 

 

「……ねえ、どうやってしたの」

 

 弱々しく尋ねてくる女性はもう戦意喪失しているようで、俺はこの脅しも必要ないと感じた。質問の内容も最後の詰めがどうやって行われたのか、という敗北した者による敗因の追及である。この質問も知る権利はある筈だ。それに俺の背後では盛大に何かが倒れた轟音が鳴り響いた。キリト君たちも倒すことができたのだ。これだけ追い詰められた状態だ。もう脅す気は俺には起こらなかった。

「ククク、敢えて答えてやろうじゃないか! 

 まず、最後のトラップを投げたのは侵入した瞬間。二本同時に右手で投げるのは昔いたところのスキルにもあったんだ、難しいことはない」

 

 はい、ごめんなさい。嘘つきました。そんなナルト世界の人じゃないから。俺クナイとかナイフ投げるの近距離ならまだしも……10メートル以上で一斉に投げてここまでの精度ってマジ忍者なれるから。イタチの手裏剣術を真似るの、マジ無理だと諦めた人だから。

 両手で同時に投げただけ。

 

「俺のナイフは基本的に赤いんだ、見てるだろ? 一つは天井の赤いライン上。もう一つは壁際の〜、そう! あんたは見ないだろう背後の壁。この世界が並大抵の物じゃないことはすぐに分かったんだ。何しろ上空は空気が薄かった。だから、もしかしたらと思って詰めをキッチリと決めるためにナイフを投げた。

 それによって疑似的な弓矢の弦を作り、その間には張りを保つためのナイフを通して天井の縁にある切れ目に被せて分かりにくくしているだけ。意図したタイミングで上手いことワイヤーを切ればその張ったナイフは飛び出す」

 

 多分ワイヤーの大体半分くらいに切れ目を差し込む感じで入れたらなんとかなる。直径1ミリ以上のワイヤー相手に鋸スタイルの回転ナイフにすれば何とか当てられる。ナイフを咄嗟に確認した瞬間俺の背後からのアサシンは見事でしょ? それに……

 

「ワイヤー自体には縮むまで時間はかかる。だから俺は、『それが終わるまで煽り続け時間を稼ぐ』。危機を感じて俺から目を離した瞬間に接近し目を潰す。100%当たるギミックじゃないが、目を両方潰すのは一太刀だ。

 

 どうせ見えないから教えてやるよ、相方はあのゴーレムが動ける時点で簡単に勝てる」

 

 

 

「そうね。硬い存在を木偶の坊のように動かさないためには、関節を壊せばいいだけだもの。これもいつも通り、ね」

 

 

 

 そう言ってキリト君たちと揃って歩いてくるのは俺の相棒のキャロルだ。デカイ槍を片手に担ぎながら小さい体で大きなため息を吐いた。階段でも全力で登ってきたのだろう。STR重視のそのステータスではキツかっただろうに……。お疲れ様です。

 パワー勝負でパリィするのはシロさんの得意技だ。シロさんが選択したスキルには投げた瞬間ダミーのような幻影を空間に写すスキルもある。

 スピードはないがその場で耐久する勝負ならそうそう負ける人ではない。本人の的が小さいのもあるけど。あの殺人ムカデとコンビで三日間戦い続けたゴリラだからなぁ。嫌な思い出だわ。

 とはいえ、ああいうタイプのエネミー相手にそうそう負けねぇだろう。

 

「というわけで簡素な固定砲台トラップだ。どうだ痺れるだろう? 物理的にも、ネタプレイヤー的にも」

 

 思わず笑っちまうぜ。この世界の魔法に代償が必要なのは壁を見れば分かる。だから、髪も落とした。眼を治すために腕を使うのは、俺と戦う上で致命的だから落とさない。

 

「完全勝利条件はそこまで難しいものじゃないのさ。()()()()

「……煽っている、だけだったのね」

「当たり前だ。不意打ちをしても殺すことは基本的にステータス関係で難しかった。だから相手をキレさせるためにひたすら煽る! その一点だけ」

 

 

「だが現状から反抗すれば、首を落とす」

 

 

「覚えてろっす!」




読了ありがとうございます!
この章間に幕間か番外編か……。名はどちらかになりますが入ることは決まってます。
理由は単純。この変態主人公に言われるんですよ、『え?頑張らないの?』と。
(煽り耐性ゼロ作者。逆に燃えてくる)

しかし、感想欄では別。ただの煽りに対して「さて、次はどいつだ?」とナマハゲ変化とスルースキルの上昇が起こります。ですので推奨はしません。質問はOK。「ここはどういうことだってばよ?」となれば説明と補足になりそうなストーリーを幕間で流します。「コイツはやらかしたわ……」となれば次の話の前書きで謝罪と中身の補足をします。

というわけで番外編は今後も二部スタイル。質問が来れば三部以上と判別可能に。
『前書き長いねん、ワレェ』となれば作者やらかしたんだなと読まずとも分かります。伏線張るかもしれないから読むこと推奨。

結論:今後もよろしくどーぞー!


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第0話 時を進める。遥か先へ

誰もバトルしないけど舞台はこんな感じにします。


「ねぇ、キリト? ご飯を一緒に食べましょう?」

「…………」

 

「キリト」

「あなたとあの青い男のために私は繋がりを神聖術で作り上げました。もう一度必ず会いましょう。そして、約束を果たすのです」

「……う、うう…………あ、あ……」

 

「……その胸飾りはまた会うための、えぇ、言わば契約書です。相手はそれがあればあなたの居場所が分かるらしい」

「…………」

 

 

「ご飯も食べ終えさせることができました。そろそろ寝ましょうか」

「…………」

 

 ねぇ、キリト? あなたの世話を始めて半年になりますが、私は密かに寂しいです。もう一度お話しをしましょう? あなたが暮らす元の世界の物語を、私に聴かせて? 

 

 

 

『あっ、あ〜。何つったらイイか分からねぇが、この青い男のイケメンは俺が、

『いえ、私たちが育てます。あっ少年君、この世界のルールをまだ詳しく知らないので教えて下さいね♪』

 

 思い出すのはあの腹の立つ男。しかし、戦闘スタイルはアレでもコミュニケーションは、まぁ、マシと言うべきか……。最終決戦を行ったセントラルカセドラルの最上階で話をしてくれた。誠意を持って話をする気はあったようで簡潔な中身を教えてくれました。

 

 一つ、この世界を観察する存在(ひがみさんと仮称)によって、キリトは治療のために中に入ることができた

 二つ、ひがみさんの力及ばず、現在キリトに攻撃が入ってしまった

 三つ、あの二人は別に治療のために入っている訳でなく、手段も全く異なるから問題なし

 

 と、三つだけ教えてくれました。知識の共有をしておくことが説明を簡単にするそうで、こう言ったやりとりには非常に手慣れたような相手でした。しかし、

 

『キリトの説明をする際に必ず話しておいてくれ』とは何とも上からでしたけれど、そこまで腹の立つ相手ではなかったのは事実。「アリス、だったか……」と私の名前の確認を初めに行った一言には少しばかり驚かされましたから。

 

『キリトを救うんだ。アンタがカギなんだ。……手伝ってくれ』

 

「……涙を滲ませながら女にそんなことを頼むなんて、男らしくありませんよ」

 

 けれど、あれだけの誠意だ。無視はできない。何より無視をする気にならない。

 本来であれば彼らを除いた三人だけで挑むことになっただろうに、無茶を押し通してでも最高司祭様を打倒してくれた。それも、どちらも致命的なダメージを負うことはなく。

 

「……果たして、一体どこにいるのでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間界————どうやら人界というらしい————から逃げ出して東の大門から出て北にはオークの居住先、そのまま進めば巨大な城があるのはある程度遠目が利く俺がいればそこまで難易度の高いレベルではない。感知した時点で里の少なそうな南に直行。他里との距離を目算で測り、城へ集まるルートを考えた結果。南に見えた高い山を基準にせざるを得なかった。中身は結構でかい遺跡だったから隠れるのはあんまり難しい話じゃない。

 けれど、補給を人界からするのはメンドクサイのも事実というところまでは考えたのだ。

 

 まぁ、勢力にしては人が足りない。背ェ高のっぽと、小さな博識と、青い剣士だけだ。これからもうちょい集めなきゃいかん。にしても殺風景だ。このイケメンをこんなところに……。うぅ、……

 

「ゴメンな、ユージオ。堂々と禁を破って生活しちまって」

 

 そう言って青い剣士ことユージオを見ると苦笑気味に首を振ってくれた。まだ、キリト君と別れてから時間も経ってない。仲良さそうだったからな、辛い思いをしてるだろう。

 騎士サマたちとキリト君が話せばわかるレベルの関係だったことは明確ではないがある程度信頼できるレベルだった。なぜなら、頭領を倒しあの場所まで登って来ていたから。騎士とか剣士として育って来たやつって『技を交わせば通じ合うところはある』って考え方の奴が多いから。しかし、俺たちの場合上ってきたんじゃなくて、落ちてきたんだから。しかも、壁を壊しての侵入。捕まることは確定事項であるというのはアリスが断言してくれた。あの舐めプして女王倒した俺を僅かとはいえ信じてくれたのだ。そこは感謝するところである。

 結論、俺たちはあの巨大な塔から逃げるべきである。

 

 次に誰を連れていくか。選択肢の一つ目、俺が煽って倒した女王さまアドミニストレータ。二つ目、青い恰好のイケメンことユージオくん。三つ目、その両方。両方とも気絶してくれている。もうさっきの話でキリトとアリスは共にいてくれることは承諾済み。俺たちはこの世界の情報を持っていなかった追われの身……。

 悩んでいれば、ユージオ君は目を覚ましたようでむくっと体を起こした。キリト君に関してはその場で説明してどちらに行く? と聞いてみると予想以上に元気な声が返ってきたのだ。

 

「助けてくれるとありがたいんです。僕を連れていくことはできますか?」

「もちろんいいよ! むしろ話が早く済む!」

 

 俺はユージオを連れていくことが確定すれば次の質問も至ってシンプルだった。

 

「けれど、あの女王様ってどうすればいいの?」

 

 俺の質問に表情を一番渋らせたのはアリスだった。何でも、キリト君と女王様を近づけるべきではないと考えているらしい。詳しく聞けば彼をいつ殺そうとしてもおかしくはないという話だった。そうだろうね。乱入した2人を抜けば完全な敵対だもんね。

 結果いい返答をくれた人はこれまたユージオ。

 

「僕に一応考えはあります。最後の部分しか聞けてないんですけど、あの女王をどうにかしたいんですよね?」

 

 何とか交渉の席には立っててくださいという話だったので仕方ないという返答はしておいた。思いもよらない場所がこの世界にあるなんて。そういった結論に至り、話は比較的簡単に片付いた。

 

 

 

 

 

「いや、別にいいんですよ? 師匠たちの技術はどこをとっても質の確かなものですし、僕の修行になってるのは事実なんですから」

 

「……私はもう仕込み慣れてるから構わないけど、言わせてもらうわ」

 

 話しかけるのはキャロルだ。しかし、場所は少し低いところからの視線ではあるけれど。正直な話何も道具のない今、土木作業は俺のパラメーター的に役に立つのはミジンコレベルであることは昔から知っていたので残業をしようとしたのだが『あなたは何もしないで』という指示に大人しく従うことにした。

 本来この世界でパラメーターをこんな極上げスタイルにするのは不可能だ。レベル上昇して進行方向を決定可能というのがこの振り方のやり方だが、レベルアップしたら今までの経験からより自分に合ったスタイルになりますよって感じ。なんというか成長していく流れを見てるとそう感じた。

 しかし、そんな人間観察よりも泥だらけに汚れてしまったその姿を見て、簡単で基礎的な結論は出てしまった。

 結果、土木するにはマンパワーが必要。だから集めよう。

 

「折角の弟子をこんな所まで連れて来て果てには剣を教えるほどの技術は持ち合わせてないのに師匠とは? ただの詐欺師よ?」

 

 そんな結論を脳内の必須タスクに書き込みながら呻り続ける。頭の中で『すべきこと』、『できること』はもちろんある。だが、残念なことにそれが結果的に規模がデカすぎて流してきた『やりたいこと』に繋がってしまうのでどうしようかなと考えているのだ。

 

「いや、しかし……。んなこと言われてもなぁ……

 出来ることは結構限られてるんだ。

 一つ目、騎士様に仲間とは言えないが敵ではない存在であることを認知させる

 二つ目、敵を殺さずなるべく俺たちを認知させない。まぁ、情報収集は兼ねる

 三つ目、敵の中でも話の分かりそうなやつを見つけ深い内情を聞くという必須内容が存在しているのです」

 

「しかし、この三つを達成するには俺が斥候、キャロルには現在作成中の施設を守護、ユージオには情報収集のためとか色々目的はあるけど遊撃の行動をやって行かないとまずい」

 

 というところで話は一度きりよく収める。戦闘スタイル的にこれ以上の解はあるかは知らんので。俺は諸葛孔明じゃない。すねてはないが俺の得意分野じゃないことは確実に知っている。他に理想的なものがあればササッと捨てる気満々でいた。けれど、否定はしないようだ。なら何の問題もない、かな。

 

「俺たちも何の因果か神器ってやつはあるし、それの解放だっけ? 切り札を用意するためにも場所を感知されない訓練場が必要であるとせめて、散開する音を減らし、遠くから見ても見つかりにくいための地下構造が理想で? 

 今頑張って作った結果少しばかし酷いものになったけど」

 

 いやぁ、掘るのは簡単なんだけどね。規模が俺の身体レベルの小くていいモノなら俺にもできる。なるべく縦は俺の身長くらい。広さはお任せって感じでキャロルに投げた。現実で家の設計経験のあるキャロルの指示に従っていたのだ。

 結果を言おう。範囲広めな直方体を地下に作る感じで掘り進めたら、上部の縁からツチが溢れるようにこぼれてきた。原因はすぐに分かったけど……。

 

「……壁の構築と地盤の緩さが原因でしょ? 定番の家づくりの悩みね」

 

 これが問題点一つ目、広めに作ってモルタルか何かで壁の補強をすればいいのかとも思ったが『これ、そう簡単な話なのか』とプロじゃない部分だったからこそ想像ができなかったのだ。微塵もやる気にならない。

 それに土木系の定番モルタルの組成は焼いた炭酸カルシウム+砂とかなんだが『海も川も湖も、近くにないなぁ……』と。あの町はどうやって家創ってんだろう? 

 そんなわけであの人らから離れて二週間。ゴミしかできていないとそんなありさまなのだ。

 

「良かった~、キレられなくて。『お前めっちゃ小さいな』イジリしてないのに刺されたら目も当てられんから」

 

 いつもみたいなトークを始めようと俺は口を開いた。……この人相手に小さいって言うと危険だぞ? 特に指示に合理的な理由がなかったときは。

 

「ね、ェ? ダレが、ダレを、小さい、だと?」

 

 筋力は鬼レベル+精神バーサーカー=身動き不能にしないと俺は死ぬ。

 

「ユージオ、君はまだ避けれないだろうから言うべきじゃないぞー、うん! とりま、逃げる」

 

 そう言って走り出したのは山の周辺ではなく今作業中の場所。ぐるぐる回ったり、長方形の立派な穴に飛び込んだり……。早く体力を無くしてくれッ! 

 

「待て、犬っころ。神器解放!」

 

 ッ!? 持っていた武器を投げるのか? こんなことで? 

 確認すると同時にさらに逃げる。逃げる。逃げる! 念には念を。上にいるキャロルの攻撃を無為なものに指定させるために範囲は限定、穴に逃げる。隠れながら背伸びして観察の時間だ。しかし、今まで見たことすらなさそうなほど重そうな槍である。重ければうまいこと地面に圧力が……。上に放てばありえるか? 

 そこまで考えて一応動かず逃走ルートを確定。今ちょうど掘った穴の中心にいる。膝を曲げれば俺がどこにいるか分からない。投擲する槍の軌道は直線なのか放物線なのか

 ここから一歩で何とか壁際に、それからこの穴の外に逃げて衝撃を完全に回避してみせる! 

 

「死にさらせ!」

 

 予想通り、放物線の軌道。放たれたその瞬間を理解、すると同時にスプリットステップ。そこからは自我も記憶もないシンプルなモーションだった。恐らく、右足で踏み込み、左足で踏切り、背中を壁に当てながらローリング。

 うわっこわっ! 辛うじて避けれたがそう何度もできないなこれ

 

「うわっ! いきなり使いこなせてる! しかも、あんた好みだ!!」

 

 こいつは褒めてないが投げて発動とは……。相変わらず強運というか何なんだろうな……。二度目だが褒m(ry

 逃げるのは可能だったが、そうそう無理だぞ? 

 

「この武器……私大好き❤︎」

 

 失敗したはずの修行場所は樹木で覆われていた。ユージオ君の青薔薇とは全く違う初見殺しではないか?槍の刺さった作業場の中心から広がるように伸びていき、その隙間はほとんど見られない。根っこで辺りを呑み込むその光景は特撮のワンシーンみたいで。

 

 

 俺たちの文明発展の一手目は木を切ることからスタートか……。……こいつは、先が長いゼ……。

 ん? 初めて泣きそうになりました。

 

 

 

 

 

 数か月後

 

『今のお前に聞きたいことがあってさぁ!』

 

What do you wanna be? (お前は何に なりたいの?)

 

「「「《俺・僕・私》たちは! ──ー」」」

 

 

 

「けど、僕にはずっと考えてみても分かりませんでした……」

 

「なら、作れば? 理想の自分」

 

 

 

「分かんなけりゃ、見たことないやつでもいい、決めていいのさ」

「本番までに役割定めてそれに向かって努力する」

「その参考として私たちは知識をあげられるんだから」

 

 

 

「なぁ、みんな? 今までの生活に不満はあるかい?」

 

「「「大アリだ!!」」」

 




ごめんなさい。ユナイタルリングっぽいこと始めちゃってる。
このフィールドとこのキャラクターを活かすならまずこれが面白そうだからですけど。
後、戦争の流れはさらに荒れさせるのは決めてます。プロローグと同じやり方ですよ。

ネタと駆け引きと読者からの笑いに期待して……


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番外編 さぁ、君たち準備はできたか?

ガチの戦争に入らせず、伏線を張り抜きます。番外編です。


「みんなぁー!この村とぉ、もうすぐ!お別れだッ!!」

 

『『『えっ!!!』』』

 

「だからぁ、一度ぉ、俺の前にぃ、集まってくれッ!!」」」

 

 

「君らが他人を差別しない『新たな人類たち』と見てもいい存在になった。もちろん俺たち二人は旧人類だ。死ぬまで働いて、さっさと死なないと君たちが活き活きできないだろ?」

 

「なぁ、そうだろ?蔑まれてきたオーク族、対等なゴブリン族、まだ族とは言えないが俺たちを信じてついてくる存在たちよ。今こそ、君らのやり方が一番正しいと他の種族に宣伝・アピールする時だ。この戦争は世界をベースから変えていける素晴らしいチャンスだろう……」

 

「君たちが決めたことは何だ!?一つ、」

「誰も傷つけない!」

 

「二つ、」

「傷ついた存在に手当てをする!」

 

「お題は?」

「結構です!!」

 

「三つ、」

「昔の憎しみよりも!未来の希望!!」

 

「よくできましたぁ、アハハハハ!!」

『『『アハハハハ!』』』

 

 

「……もう、何というか凄まじい人だね……」

 

「私からすれば、『この世界嫌』って人が出るはずなんだけど、ここまで足を引っ張ろうとする人がいないとは思わなかったわ……。確か全員の武器が自分好みの武器で神器、防具も自分好み。死ぬ寸前まで働くことが楽しい、腕を磨きたいなんて……。

みんなそれぞれ求道者になって?被ったら《最終的にどっちの方が強いか競争》。勝てば「やっぱいいよな俺の考え方」負けても「奴に勝つにはどうしよう」なのよ?」

 

「すごくいい環境ができたよね。ハハハ」

 

「笑い事じゃないわよ、ユージオ。あなたの神器解放、進化したじゃない?」

 

「うーん、それほどでもないけどなぁ。こうなりたいなぁって思ってやってみたらできちゃっただけなんだよ?驚くほどでもないと思うけど?」

 

「それを試行錯誤と言うのよ、ユージオ。

ここは大概おかしいのよ。全員が死ぬ寸前まで頑張るからパタパタ倒れちゃう。代わりに医者を目指す奴がより早く復帰させてあげたいって気持ちでさらに頑張る→3日で回復するはずが半々日とはもう魔法ね……」

 

「そっちの世界じゃ違うの?」

 

「もちろん。だから、予防という考えが生まれるんだけどここにはないわね。感染病も特効薬、遺伝病も身体改造。そろそろ死んでもザオリクできるようになるんじゃないかしら?」

 

「うーん、復活って意味?気づかなかったよ、師匠!それできたらすごく面白いね、医者部門に教えてあげないと」

 

「教えてもいいけど、医者部門が怒るわよ?「気付いてたけどどうしたらいいかわからないんだ。アイデアある?」って聞かれた時なんて答えるの?」

 

「……ごめんなさい。分からない、です」

 

「大丈夫。私にも分からない。それにここの人、その道の求道者じゃない人に怒らないから。むしろ、その手があるかも!って喜ぶから。村作成の段階で他種族OKって言ってたからそこら辺ゆるゆるよ。試したことがあれば『ここ教えるからもっとアイデア頂戴!』って言ってくるから」

 

「アイデア持って無ければ?」

 

「知らない。多分『ありがとう!取り敢えず一緒に働こうぜ!そしたらいつか思いつくよ!』だと思うわ」

 

「……もう病気だね」

 

「……大丈夫。それはあなたもだから」

 

「えっ?」

 

「……んー!ここの住民は宇宙に一番最初に行けるようになるかもね……。私は寝る。長く眠りたいから医者部隊は呼ばないで。瞬間安眠枕なんてどこのドラえもんか知らないけど、ショートスリーパーはあの神輿だから」

 

「はーい!分かりました!起こさないようにします!!」

 

 

○○○

 

 

 

「アダムさーん、いる?」

 

「うわっ!あなた見るだけで蕁麻疹が出るのよ!来ないで!!」

 

「……お主、本当にあの人間嫌いになったんじゃな……」

 

「嫌いよ!嫌い!もちろんですとも!!」

 

「……本を神聖術に変えるのはやめてくれ?まだ読んでいないのがだんだんと増えてきているのじゃ……」

 

「安心してくれ。俺の村にはもう活版印刷は存在している。そろそろプリンターできるんじゃなかったっけ?だから、燃えたらまた持ってくるよ。どこでもドア作ってくれたし」

 

「は?」

 

「どうしたら、この短期間で人界の半分くらいのサイズの巨大な村に広げられるんじゃ……?」

 

「人数比で多めな大工さんと土地ベース作り大好きっ子の彼らが作るります。出来上がった奴をターゲットにする土地売買をしたい人がさっさと売る準備をする。俺はサイズと質しか見ないからすぐ売りに出ます。で、どんどん買われて行きます。うちの土地は安いぞー。

それに新しく買いたい人は少しも減らない。土地がいる人って結構いるのね?作物を最大効率で育てたい人、自分の作った武器を見せたい鍛冶屋、自分らの遊び場が欲しい子どもたち。他にはぁー、だめだ今も知ってるメンバーでそれくらい」

 

「なんで生かす奴を選ばなかったの?その方が力として役立つじゃない?」

 

「フハハ!文明のベースは多種多様なマンパワーなのさァ。時系列的に教えてやろう。

スタートしたとき目標のサンプルを与えることができたのは一人。教えはやり方はこんな人昔いたの!?みたいな興味関心だけの質問に知識オタクがそうねーって一番似ているんじゃないかって説明していくことしかしてない。それが今でも入村者が増加し続けエックスのエックス乗みたいな状態。いつの間にか俺はただの神輿だった。オモシロ!」

 

「あなた、バカなんじゃない?」

 

「バカであることが何の否定材料になると?俺自身、好きな分野以外最低レベル。針レベルのパラメーターだァ、きちんと認めよう!だが、それで構わんだろう?神輿が喋らなくても足が動くように発奮材料注げば前に動く。寧ろできないことはミリ単位もできなくても問題にならない。その分野の人ができることを知っとくだけでいい。真ん中に立ってプロに仕事を任せられる。そしたらいつかは知らんがいつの日か新しいシステムが完成だ。

うちの奴は間に誰もいなくても勝手にいつの間にか始めるけど」

 

「考え無しというか、人任せというか……」

 

「俺は坂本龍馬を参考にしてるだけだ。喧嘩していた両者を繋げた彼がすごかったんだ。こっちの村の奴は考えてることが基本『何が作れるかな?楽しみだ』しかないから繋がるの早いよー?三時間寝てただけで新しいことを5個も始めようとしていた時は本当に驚いた」

 

「あの村での結論は簡単だ。物事の中に俺が存在する必要は微塵もない。働く奴の意欲を削らないこと、作業開始時刻を待たせないこと、そんな所だろうなというわけで動きたい所の準備が必要なの。無理に頑張らせる必要はない。サボりたけりゃサボっていいよ?あっという間に他は進むよって言う自分で自分の尻に火をつけるスタイル。それに乗れない奴は『他に考えることの質が分からんレベルで高い』か『あり得ないほどに多い』か『まさかどちらも?』パターンもありだから。

さて、戦争するんだよね?いつ?どこで?」

 

「3日後。あなたの村の近く」

 

「アハハハハ!そりゃ、面白いな!守り甲斐がある。あ、そうだメインのお使い忘れてた……。カディ!」

 

「いきなり呼ばないで欲しい気はするけれど、何なの?」

 

「はい!本!代わりにこっちの面白い奴いる?」

 

「新作!新作できたのね!あなたが誘拐していったから自殺志願者もルールにがんじがらめな存在もいないわね。けれど、少し離れた所にこっちの国の拠点できてるわね、見る?」

 

「いや、知ってる。誘拐前に視察したらアリスとニアミスした。怪しい存在筆頭な俺にすぐ切りつけちゃって。『うち来る?』って聞いたら怒られた」

 

「やっぱりバカなのね、こいつ」

 

「知りはしてたが……まさかここまでとは思わなんだ」

 

「俺の村ではこれデフォルトだぜ?呼んで飯食って片付けた瞬間に議論が始まる。一回混ざったが途中離脱した。ずっと話し続けて3日後くらいにそれぞれ家に帰る。何ともヤリ切ったような清々しい朝を迎えてるね!」

 

「……何日保てたの?」

 

「あの時は三時間保たなかった。神聖術について三日間かけて教えてもらってやっと『どんな話したんだ』で7日間家に帰らず仕事と議論のエンドレス7。結果缶詰になった」

 

「それはまた……お気の毒ね」

 

「いや、いい議論だったよ。マジでテンション上がった。これがこの世界かっていう快楽物質は間違いなく出てた」

 

「因みに何が出てたの?」

 

「間違いない。テストステロンっつう奴だわ」

 

「絶対S○Xやったわね。男性ホルモンでしょ?」

 

「あったりー!んじゃ、俺帰るわ。今から君らの言う悪の国に侵入して将来有望な奴を誘拐してくる」

 

「行ってらっしゃーい」「どう見ても犯罪者よね、もう会いたくないわ」

 




皆さん、自分たちが住んでいるところの頭領がどっかから来た人だったらきちんとした理由がないと許しませんよね?という訳で、村作りました。(手伝ったけど)自分で作らず、(誘拐して集めた)けど住民が作ったのでユナイタルリングではないというやり方で。
カディ=カーディナル、アダム=アドミニストレータ
意外とこのあだ名好みです。
書いている最中、アダムさんが邪ンヌに見えてきてこれも声優のおかげかという理由で前話のタイトルアレになりました。後悔はしてないがもう少し何かなかったのかと懺悔中です。
というわけでカーディナルも死なず、アドミニストレータも死なない。なら、揃えておくべきかとあの隠れ場に2人とも入れ込みました。ここなら目一杯議論を楽しんでくれ?


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