ダンガンロンパ 絶望エクスプレス 〜希望駅8時発 絶望行き急行列車〜 (MOGIぴー)
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Prologue『絶望列車、発車します』
Prologue『絶望列車、発車します』Ⅰ


【注意】
 ダンガンロンパの二次創作です。また、作者は文章力がありません。そして、悲しいことにストーリーつくりも決して上手ではありません。内容が薄かったり、無理矢理だったりするかもしれません。暴力的・流血シーンも多数存在します。本家様のネタバレが含まれている可能性もあります。ご理解のほどよろしくお願いいたします。

 次ページから始まります。




「お前そんなん書いてんのか、きっも」

 

「あんたみたいなやつに小説は書けないよ」

 

「はやく金よこせよ!」

 

「あぁん? 力もない奴がヒーロー気取ってんじゃねぇぞ」

 

「空閑、お前こんな問題も解けないのか?」

 

「なんだよ、中二病かよ」

 

「近寄らないで、貧乏が伝染するわ」

 

「…99点!? バカ野郎、すべてのテスト満点取れってあれほどいっただろ!」

 

 

 

 

 

「あなたなんて……生まれてこなければよかったのに……」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「…ん?」

 等間隔に体が揺れる。とても心地がいい揺れだ。

 その揺れと同時に金属音が、これもとても優しく耳の中に飛び込んでくる。

「あぁ…」

 意識がはっきりしてきたみたいだ。

 僕はひとつ欠伸をして、辺りを見渡した。

「そうか。僕、列車に乗ってたんだったな…」

 揺れと音を感じながら、僕は眠る前までの映像を頭の中で再生した。

 …それにしても、何だろう。夢でも見ていたのだろうか。体がとても疲れているようだ。そうか、疲れているせいで眠くなったのか。でも、朝はちゃんとコーヒーも飲んだし、結構シャキッとした気がしたんだけどなあ。まさか寝てしまうなんて。

 振り返っていると、ふと気がついた。

 

「あれ、他の人がいない…」

 

 たしかにこの列車に乗った時に、他の乗客もいたはずだ。

 僕が眠っている間に全員途中の駅で降りてしまったのか。

 こういう状況になると、ミステリー脳の僕としては何か事件に巻き込まれたんじゃないかとか、もう僕は死んでるんじゃないかとか、いろいろ考えてしまう。僕の悪いところだなぁ。

 まぁ、普通に生活してて事件なんてそう簡単に起きることはないと自分では思ってる。

 だけど、どうやらその簡単に起こるはずのない事件が起きてしまったと気づいたのは、車窓を目にした時だった。

「ま、窓に鉄の板がはめられてる…」

 自分の席だけではない。この車両全体の窓が塞がれている。

 さすがに異常だと思った。窓を鉄の板で塞いで走る列車がいるはずがない。やはり、他の乗客がいないのも関係があるのか。それにまだ学園には着かないのだろうか。

 腕時計を確認しようと手首を見ると…。

 な、無い。僕の腕時計が…。誰かに盗まれたか? たしかに左手首にはめてきたはず…。

 …なんだ。どうなってるんだ、この列車は…。本当にこれが学生の希望を象徴する「ホープエクスプレス」なのか?

 僕はすぐに立ち上がって、もう一度車内を見渡す。

 やはり人っ子一人いない。まさか僕は監禁でもされたのか。それとも誘拐?

 頭の中で言葉が次々と生まれ、そして消えていく。

「そうだ…。他の車両にはまだ人がいるかもしれないな…」

 その可能性に賭けてみることにしよう。そう、まだこの列車に乗っているのが僕一人だけと決まったわけじゃない。

 この列車は結構長かったような気がする。少なくとも、十両編成はあったはず。僕が乗っているこの車両はその10のうちの1だ。まだ、人がいる可能性は大だ。

 おそらく進行方向になっている方面へ進んでみよう。

 

 

「う…」

 隣の車両へ通じる扉を開けた瞬間だった。

 突如、眩しい光が僕の視界を覆いつくした。しかし、その光はすぐに消えていき、やがてきらきらと煌めいているものを写し出した。

「し、シャンデリア…?」

 大きなシャンデリアだった。列車内にシャンデリアがあるなんて、どんな豪華列車なんだ…。自分がいた車両とは雰囲気がまるで違う。

「おい、お前」

 不意に声がする。声のする方に目を移すと、そこには十数人もの人間がこちらを見ていた。

「お前か!? オレたちをここに閉じ込めたんは!!」

「え?」

「とぼけるんじゃねぇぞお前、今すぐ八つ裂きにしてやらぁ」

「ちょっとやめなよ。決めつけるのは良くないよ」

「まぁ、せっかちそうな顔してるもんね」

「あぁ!?」

 いきなり怒られるから何かと思ったけど。今の僕と同じ状況下にあると見ていいみたいだ。どうやら、あのロン毛の人が言うには、閉じ込められてるみたいだな…。

「あ、もしかすればもしかすると、わしらと同じく閉じ込められてるんちゃう?」

「え、あぁ…うん。そうみたいだね」

 ん? よく見るとここにいる人たち、僕と同い年くらいの人ばかりだ。まさか…。

「もしかして、みんなって叶能学園の生徒…?」

「じゃあ君もボクらと同じなんだね!」

「生徒だって…? ワイはまだ信じないぞ…。簡単に人間を信用したら痛い目に遭うんだ」

「ちょっとお前、人間不倫すぎねぇか?」

「不倫じゃなくて不信でしょ」

 

「はーい、オマエラちゅうもーく!」

 

 何だろう。この耳障りな声。なんだか、無性に腹が立ってくるというか、イライラするというか、妙に神経に障る何とも言えないこの声。その声質が何かを企んでいるような感じがして、僕はとても落ち着かない。

「あれ、オマエラどうしたのさ、ボクを物珍しそうな目で見てさ。そんな目で見ても何も出てこないよ」

「ぬ、ぬいぐるみがしゃべってるぞ…」

「ぬいぐるみじゃない!!! ボクはモノクマ、この列車の車掌であり私立叶能学園学園長だよ」

「が、学園長って人間じゃないのな…」

「中に人工知能でもいれてあるんでしょう」

「えー、車掌ならちゃんと外を確認しないと…ボクでもできるよ」

「いちいち言うことに文句つけなくていいの!」

「それよりさ、モノクマとやら」

 自分の意志とは反して、僕の口は勝手に動いていった。

「どうしてまだ学園につかないのかな」

「え~? 着くわけないじゃん」

「え?」

「だってだって~」

 

「今から~」

 

「オマエラには~」

 

「ワックワクで~」

 

「ドッキドキで~」

 

「エクストリームな~」

 

 

 

 

「コロシアイをしてもらうからね!」

 

 

≪次回へ続く≫




どうも。
前の創作論破が頓挫した感じになったので、新しく始めました。よろしくお願いします。


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Prologue『絶望列車、発車します』Ⅱ

【注意】
 ダンガンロンパの二次創作です。また、作者は文章力がありません。そして、悲しいことにストーリーつくりも決して上手ではありません。内容が薄かったり、無理矢理だったりするかもしれません。暴力的・流血シーンも多数存在します。本家様のネタバレが含まれている可能性もあります。ご理解のほどよろしくお願いいたします。


 僕の名前は空閑薫(くがかおる)。どこにでもいる高校生だ。見た目だけは。

 そう、僕は、かの私立希望ヶ峰学園から「超高校級の推理作家」として、スカウトをもらったのである。私立希望ヶ峰学園といえば、入学した者には人生の成功が約束されると言われることで有名だ。生徒たちはそれぞれ「超高校級の才能」を持っており、その才能において学園側から認められた者だけが入学できる。一般人から見れば、スカウトされることすら夢のまた夢。僕だって、この希望ヶ峰学園にスカウトされるなんて思ってもみなかった。

 先述の通り、僕は「超高校級の推理作家」としてスカウトされたわけなんだけど、実は日本では名の知れた推理作家だ。本名、空閑薫をそのまま使っている。最初は趣味で小説を書いてただけだった。でも、とあるサイトで投稿してた「吊り人」という自作の小説がまさかの大賞を受賞。「吊り人」は僕の記念すべきデビュー作となった。「吊り人」の内容は主人公の探偵が、身の回りで次々に人が首を吊るという呪いの少女と出会い、いろいろな事件にせまりながらその少女の謎を解き明かしていく、といったどこにでもあるようなベタなストーリーだ。内容がもはや「普通」だったので、まさかこの小説で世界に名をはせることになるとは思いもよらなかった。

 そして、僕の推理作家としての才能は、ついに国内トップレベルの学園にも認められてしまうこととなった。

 未だに信じられない。僕があの学園に入学することが。あの、絶対に手の届かなかったはずの学園に。

 これが現実だということに何度も驚きながら、僕はホームで列車を待っていた。でも、希望ヶ峰学園に行くために列車を待っていたわけじゃない。

 実は、私立希望ヶ峰学園は姉妹校を全国に置いているらしく、僕の地域で一番近くにあったのが私立叶能(かのう)学園というところ。その学園に向かうために僕は列車を待っていたのだ。

 その列車は「ホープエクスプレス」という名前で、叶能学園まで走っている。なんでも、叶能学園が完成した際に、記念としてこのホープエクスプレスを期間限定で運行したらしいが、生徒や地域住民の人たちの要望により、現在は月に一度運行しているそうだ。

 列車に乗り込み、席に座った時にどっと眠気が僕を襲った。列車の発車時間が早朝だったので、その分早起きをしてしまったからだろう。まぁ、学園に行ってからは寮生活が始まるはずなので、ここまで早起きをする必要も無いわけだ。その点は安心。それにしても、他の生徒たちはどんな才能を持っているのだろう。才能だけじゃない。性格、人間性だって気になるし、一番心配なのは仲良くできるかどうか、それに限る。

 でも、おそらく今から楽しい楽しい学園生活が始まる…。

 僕はそのまま眠りについた…。

 

 

 

 楽しい楽しい学園生活が始まる、、、、

 

 はずだった、、、

 

 ~~~~~~~~

 

 そのぬいぐるみから発せられた言葉に、僕の頭は理解が追いつかなかった。そう、今まで自分が描いてきたミステリーよりも難しい。そんな気さえした。

 思考が停止してしまったのは僕だけじゃないようだ。この場にいる全員があのモノクマを見て、固まってしまっている。

「…は?」

 一人がただ一言、バカらしいという口調で発した。

「コロシアイ…? 一体何意味分かんねぇこと言ってるんだよ」

「え~? コロシアイなんて今時、ミジンコでもわかるよ~?」

「…もしかして、文字通り殺し合うってことどー?」

「そういうことさ。なーんにも難しくないよね?」

 何を言ってるんだこのぬいぐるみは…。

「ちょっと待て。…なぜ未来を約束する学園のトップともあろう学園長が、今から学園の『超高校級』の生徒である自分たちにそんなコロシアイをさせるんだ」

 穏やかな口調の生徒がモノクマに訊く。たしかにこの自称学園長であるモノクマが言ってることは無茶苦茶だ。

「『超高校級』だからこそ、このコロシアイに意味があるのさ。さぁ、つべこべ言ってないでさ、オマエラ、胸ポケットに入ってる物を確認してみるクマ」

 モノクマに言われ、視界は胸ポケットへと高速で移動した。

 これは…? カードとスマホのような機器だ…。…あのモノクマ、一体何をするつもりなんだ…?

 今感じているのは不安感オンリーだ。

「そのカードはその『電子生徒手帳』のロックを解除するものだよ。本人のカード以外では解除できないようになってるから」

「この薄型の電子機器が生徒手帳なの?」

「そう! その生徒手帳の中には、自分のプロフィールとこの列車の案内地図、校則などが掲載されてるよ。あ、基本的に生徒手帳は持ち歩いてね」

 …やるしかないか…。僕はカードを電子生徒手帳の隙間に素早くスライドさせた。

 パッと画面が明るくなった。かと思えば、メニューとおぼしきものが画面に映し出された。

「校則を開いてほしいクマ。それを読めば、ミジンコ以下の超高校級の君達でも理解できるはずだからね」

 「校則」と表示された部分をタッチした。

 すると長々と文字が現れた。

 

 1.生徒達はこの列車内もしくは学園内、指定された敷地内だけで共同生活を行いましょう。共同生活の期限はありません。

 

 2.夜10時~朝7時までを「夜時間」とします。

 

 3.就寝は列車内もしくは学園の寄宿舎に設けられた個室でのみ可能です。他の部屋での故意の就寝は居眠りとみなし罰し

   ます。

 

 4.叶能学園及び希望ヶ峰学園について調べるのは自由です。

 

 5.学園長ことモノクマへの暴力を禁じます。また、監視カメラの破壊も禁じます。

 

 6.仲間の誰かを殺したクロは「卒業」となりますが、自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません。

 

 7.生徒内で殺人が起きた場合は、その一定時間後に、生徒全員参加が義務付けられる「学級裁判」が行われます。

 

 8.学級裁判で正しいクロを指摘した場合は、クロだけが処刑されます。

 

 9.学級裁判で正しいクロを指摘できなかった場合は、クロだけが卒業となり、残りの生徒は全員処刑されます。

 

 10.電子生徒手帳の他人への貸与を禁止します。

 

 11.コロシアイ学園生活で同一のクロが殺せるのは、2人までとします。

 

 どういうことなんだ、これ…。クロとか卒業とか意味が分からない文章が並んでいる。でも、ルールをザっと読んだ感じ、まるで…。

「デスゲームですね…」

 …僕たちは参加させられてしまったんだ。

 超高校級の才能たちによる、醜いデスゲームに。

「うぷぷぷ、わかってくれたクマ~?」

「…誰かを殺せば、ここから脱出できる。ということか」

「そういうことだよ!」

「冗談じゃない…」

「…でも、この列車は叶能学園に向かっているのでしょう? そこに着くまでの辛抱なんじゃないの」

「だから、着くわけないって言ってるじゃん! この列車は既にボクが占拠してるからね! まぁ、オマエラが何を叫ぼうが何をわめこうが、コロシアイ学園生活は終わらないよ!」

 そうか、既にこのモノクマに自分たちの自由は奪われているのか…。

「じゃあオレたちはどうすれば…」

「あんたバカじゃないの? ちゃんと校則に書いてあるでしょ、ここを出たかったら誰かを殺せってね」

「まさか本気でそんなこと言ってるわけじゃないよね?」

「まぁまぁ落ち着いて…」

 大混乱、という言葉がこの場面にぴったりだった。このモノクマの言動、電子生徒手帳に記載された校則。これがまさに混乱の原因である。

「うぷぷ、じゃあしばらくゆっくりしててクマ。学園が近づいてきたら、ボクがお知らせしてあげるクマよ。『まもなく3番線に絶望エクスプレスが参ります。黄色い線の内側までお下がりください』なんつって、おっと、これは駅のアナウンスだったクマね」

「あの学園長にわかだ」

「うるさい! ほら、さっさと誰かを手にかけて待ってな!」

 そう言って、モノクマは消えた。

 どこへ、というか、本当にすっとその場から消えた。

 

≪次回へ続く≫




どうも、MOGIぴーです。
次回にPrologue3話目と、生徒名簿を投稿する予定です。


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Prologue『絶望列車、発車します』 Ⅲ

「あいつ、消えたぞ」

「えっと…一体何が起こってるんだろう」

「あのぬいぐるみが本当に学園長とは思えませんね…」

 モノクマが消えた後も、一同は不安を隠せなかった。

 実は夢の世界なんじゃないか。そう思って頬をつねろうとしたが、そう思える時点で夢ではないような気がしたのでそこで手を止めた。いや、光景がはっきりしているし、感触もある。間違いなく現実だろう。

「…困惑するのはわかるけどさ…。とにかく自分の素性を明かしたほうがいいんじゃない…? これじゃお互いの名前も分からないし…」

 一人が少々自信なさげな声で提案した。

「自己紹介ってやつだね!」

「でも、まだあなたたちのことを疑っているというか何というか」

「いちいち疑ってたらオレら何も始まらんと思うけどね」

「でもワイはまだ誰も信じないよ…」

「…空閑薫。超高校級の推理作家として学園からスカウトされたよ。何か心配なことでもあったら僕に言ってよ。まぁ、何でも解決できるわけじゃないけど」

 僕の口はいつの間にかそう動いていた。自分の意思に反して。

 いや、むしろここで率先して身分を明かすほうが、全員の警戒を緩めることことができるかもしれない。

「普通に言うんだね…。もう少し疑う心を持っててもいいと思うけど」

「…でもさ、ここでずっと疑心暗鬼のままってのも馬鹿らしくない?」

「お願いだよ、みんな。何が起きるのかわからないけど、ここから脱出するためにはみんなのことを知る必要があると僕は思うんだ」

 …静寂。

 僕の言葉に誰か…。誰か反応してくれ…。

「うん、あたしは賛成かな」

 僕はその声の主のほうを見た。

 水色の長い髪の毛。赤いセーラー服を身にまとっている。

「あたしの名前は、水宮琴魅。周りからは【超高校級のアナウンサー】なんて呼ばれてるよ。何かあったら頼ってくれていいよ!」

 水宮琴魅…といえばたしか有名なテレビ局のアナウンサーだったっけな。中学生にしてアナウンサー育成学校を飛び級で卒業したといわれるあの水宮琴魅。

「なるほど、有名なアナウンサーとまさかこんなところで出会うとはね」

「…オレはテレビ見てねぇから知らねぇな」

 水宮さんが名乗ったのもあってか、生徒たちは少しずつ自己紹介を始めた。

「オレは【超高校級の画家】、最上斎一って言うどー。よろしくしてくれどー」

 最上斎一…。どうやら彼が学園の掲示板に載っていた超高校級の画家らしい。個人的な意見だけど、見た目は画家とは程遠いような…。

「なんか語尾についてるね」

「土砂崩れでも起きてんじゃね」

「ちょ、ひどいどー!」

「ボクいいかな。ボクは四十万鉄伽、【超高校級の列車マニア】だよ、みんなよろしくね~。あ、性別は女だよー」

 四十万鉄伽…。彼女が超高校級の列車マニアか。ちょっと想像してたのと違ったなぁ。でも名前くらいなら少しだけ耳にしたことがある。

「…裏の顔怖そう」

「大丈夫だよ、これがボクの真の姿だよ」

「真の姿って…覚醒でもしたのかよ…」

「はいはい、私のほう注目。私は【超高校級のスタッフ】、夕道久未って言うんだ。みんなからは明るすぎるって言われるけど、それが私の唯一の取り柄なんだ」

 夕道久未…。あぁ、よくテレビに出演してるスタッフか。テレビで見るよりも明るい印象を受ける。

「テレビスタッフの人か、よくテレビで見てるよ」

「ワイは信じひんで…」

「…君…何だったら信じるんだい」

「そんな目でワイを見ないでくれ…、ちゃんと名前言うから…。伊野吉介、【超高校級の人間不信】…」

 伊野吉介…。風変わりな才能の持ち主だなぁ。人間不信そのものが才能って、どういうことなんだろう、と僕は頭の中で考えを巡らせる。

「人間不信も才能認定されるとはよっぽどなんですね」

「…だから言いたくなかったんや…」

「次わしか。【超高校級の盆栽職人】の江吉良誠隣。わしー、よく物を壊すからそこのところ注意してくれな」

 江吉良誠隣…。なるほど、女子の盆栽職人だったのか。先入観で男子だと思っていたが…。

「一人称がわし………。鳥か」

「違うと思うどー」

「次は俺かな。俺の名前は闇色の奇術師、紫神改六。【超高校級のポエマー】などという意味不明な称号をつけられた悲しみ…。あぁ、神よ…」

「長い長い」

 紫神改六…。中二病感満載、とはまさにこのことか。まぁ小説だったら結構目立ちそうだからキャラクターとしてはバッチグーな雰囲気だ…。って僕は何を考えているんだ。

「闇色の奇術師って…。マジックでもすんのか」

「…瞬間移動なら」

「できるのかよw」

「え、次? おう、邑田禅だ。【超高校級の陸上部】としてここにやってきたわけだ。お、どうした、まるで蛇に睨まれたナメクジのように動かないな」

 邑田禅…。超高校級の陸上部はちょっと頭の回転が遅い、頭が悪いとは聞いてたけど…かなりなような気がする…。うん、これ以上は言わないでおく。

「ナメクジじゃなくて蛙だよ」

「…ナメクジって…睨まれてなくても遅いじゃねぇか」

 あはは、たしかに。

「あ、自分か。自分は泊金人。【超高校級の落札者】とか呼ばれてる」

 泊金人…。アメリカのオークションでよく高額で買い取るあの泊金人か。

「あ、金持ちの方ですね」

「…いや、お金に関してはあまり自身が無くてね…。あ、次どうぞ」

「おっけー。私は【超高校級の美容師】、狩切真転。髪を切られたい奴はここに出てきなー」

 狩切真転…。彼女の美容院は予約3年待ちという話を聞いたことがある。3年もたったら、髪の毛のびまくってると僕は思う。

「鉄伽ちゃーん、その長そうな髪切らせてよ」

「ちょっと、ハサミ振り回さないで~」

「…なんか面倒くせぇけど、一応。亜麻崎伴、巷では【超高校級の当たり屋】なんて言われてるが、そんな誇れるものでもねぇがな…」

 亜麻崎伴…。彼があの有名な当たり屋か。想像してたのより、穏やかそうだ。

「当たり屋~? あんた相当警察に世話になってんじゃないの~?」

「あぁ。もはや刑事と仲いいくらいだ」

 そんなにか…。たまげたなぁ…。

「えっと、相模貴勝って言います。【超高校級のドッグトレーナー】をさせてもらってます。なんか大変なことになっちゃったけどよろしく~」

 相模貴勝…。よく動物の番組で目にする。超一流のドッグトレーナーで、言うまでもなく犬をこよなく愛してるらしい。

「…自分猫派なんだよね」

「ええ!? 犬より猫だなんて…しょぼーん」

「あ、あたしは犬派だよ! うん!」

「本当!? ありがとう!! お礼にこのドッグフードをあげますよ」

「え? あぁ、あ、ありがとう…」

「ちょっと、そこもういい?」

「あ、はい、どうぞ」

 初対面だけど、だんだんと疑心暗鬼は薄まってきているみたいだ。

 やっぱり僕の自己紹介の判断(意思に反して口走った)は正しかったみたいだね。

「【超高校級のモデラ―】の七井入弥ちゃんでーす。入弥ちゃんって呼んでね!」

 七井入弥…。どこかのホームページだったかどこかで見かけたことがある。そう、たしかモデラ―って…。

「モデラ―? モデルとは違うのか?」

「全っ然違うから! そんなのもわかんないわけ!? モデラ―ってのは模型を製作する人のことを指すんだよ」

「…ボク、鉄道模型だけが守備範囲なんだよねぇ」

「模型に守備範囲ってあるんだ…」

「次は私ですね…。【超高校級の囲碁部】、狂来理囲です。囲碁だけなら誰にも負けませんよ」

 狂来理囲…。囲碁の全国大会で7連覇してるあの高校生棋士か。

「囲碁? うーん、将棋なら勝てる自信があるよ」

「オレはオセロ以外やったことねーわ、当たり屋だし」

「機会があれば、お相手になりましょうか」

「「え」」

 こうして全員の自己紹介が終わった。そう思って辺りを見回すと、隅にずっと景色の見えない窓を眺めている女の子が目に入った。

「あれ、あの子は…?」

 僕の声に全員が反応し、その女の子に視線を向ける。しかし、彼女はこちらを見るどころか、ピクリとも動かない。

「胡乱。この二文字が彼女の体の周りを漂っているよ…」

 僕はその無言の圧というか何というかわからないけど、重い重い重圧の中を歩いて彼女のそばへ足を運んだ。

 すると、気づいたのか、それとも最初から自分たちの動向を見ていたのか、その女の子は突然僕のほうへ首を向けた。そして一言、こう放った。

「何?」

 ええ…。内心僕はそう思った。

 何だろう。この人には悪いけど、不愛想を絵にかいたような…。そういう雰囲気を受け取った。

「あ、あのー。君はまだ自己紹介してないよね」

 恐る恐る、言葉を一つ一つはっきりと口にする。

「…どうして自分の素性を明かす必要があるわけ?」

 …なんだか機嫌が悪そうだなぁ。それともそう見えるだけか。

「おいそこの女ぁ」

 当たり屋だと名乗った亜麻崎君が、こちらへ歩いてきた。え、大丈夫かな。突然一触即発の事態になったりしないよね…。心配になりながら、僕は亜麻崎君の次の言葉を待った。

「こっちは疑心暗鬼の中で自分の名前、んで才能も晒したんだぞ。なのに何でお前は言わない?」

「…必要ないから」

「はぁ?」

 本当に怖いな…。とてもヒヤヒヤする。

「ったく。疑心暗鬼に陥ってた自分が言うのもなんだがな、オレは協調性がないやつが大嫌いなんだ。オレは今のお前の態度がとても気にくわないね」

「そう、気にくわないなら殴るなり蹴るなりしてみれば?」

「お前…オレの体当たりがどれだけ強力か知らねぇみたいだな。すぐに思い知らせてやるよ」

「ちょ、ちょっと」

 亜麻崎君の手が出そうになったので、さすがに危ないと思って間に割って入った。

「なんだ。お前はこの女の態度になんとも思わねーのか?」

「いや……何も思わないわけじゃない。ただ、今は本人が嫌がってるし、自然と自己紹介するようになるまで待つべきなんじゃないかな」

 僕がそう言うと、亜麻崎君は僕のほうを見たまま黙り込んだ。そして…。

「…わかったよ。お前の顔に免じて、許してやる」

「ありがとう亜麻崎君」

 亜麻崎君が戻ろうとしたその時、

「わかったわ」

 ため息ととともにその女の子の声が聞こえた。そして彼女は立ち上がって僕たちのほうへ体を向けた。

「…一度しか言わないから。…名前は蒼城暮羽。…これでいいわね…」

「え、まだ才能をきいてないよ」

 四十万さんが首をかしげる。

「…ここでは言いたくない」

 僕のほうに目線を向けながら、蒼城さんは静かな声で言った。

「言いたくない…? …何かやましいことでもあるのか」

「やましいことじゃない。…だけど、まだ暮羽は言いたくない」

 そう言って、再び蒼城さんは椅子に座ると、窓を眺め始めた。

 これ以上は何を言っても無駄みたいだ…。

「…放っておいても時間が経てば才能が何か話してくれるどー。少なくともオレはそう願ってるどー」

「そうですね。むやみに聞き出すのは最善ではないように思えますね」

 そんな声が全員から聞こえるようになった。蒼城さんが才能を話してくれる日が来るかはわからないけど…なんだかわからないけど僕も信用してみようという気持ちになった。

 気になるのは…、彼女は才能を明かしたくないと言ったとき、目線はみんなのほうではなく…僕に向けられていた。ミステリーの読みすぎかもしれないけど、彼女は僕を見て才能を明かしたがっていないように思えてきた。

 僕の杞憂か? でもたしかに蒼城さんはずっと僕を見ていた。どこかで会ったことがある? いや、確実に初対面だ。恨まれる覚えもなければ喜ばれる覚えもない。

 …今はそんなことを考えたところで無駄か…。

 結論に辿り着いた瞬間に後ろから肩をたたかれた。

「空閑君…でいいんだよね」

「え、うん。……えっと君はたしか…水宮さんだったかな」

「すごいなぁ、一度聞いただけですぐ覚えちゃうんだ」

 話しかけてきたのは、水宮さんだった。

「ところで、どうかしたの? もう、自己紹介は全員終わったはずだし…」

「うん。何だか、この列車の探索でもしてみようってことになってさ」

「探索…?」

「それで、肩書を見て一番頭がキレそうな空閑君にいろいろ聞いてみようと思って…」

 列車内の探索…。たしかに重要かもしれない。もしかしたら秘密の脱出口があるかもしれない。といっても走行中の列車から外に脱出することができるかどうかはとても怪しいけど。

 

「…わかった。僕にできることならぜひ協力させてよ」

 

次回へ続く…



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叶能学園生徒名簿

叶能学園生徒名簿

 

【超高校級の推理作家】空閑薫 ~くが かおる~

・性別 男 ・身長 172.2cm ・体重 59.8kg ・胸囲 79cm ・血液型 A

・誕生日 3月20日

・一人称「僕」 ・呼び方 男…(苗字)君 女…(苗字)さん

・好きなもの 推理小説、協調性 ・嫌いなもの ジェットコースター、写真撮影

・出身校 鐘巻中学校

・見た目 赤みがかった茶髪でショートヘア。アンテナ毛あり。黄土色の上着、グレーのTシャツ、ジーンズ、スニーカー

 

本作の主人公。半年ほど前にある小説投稿サイトで投稿した「吊り人」という小説でデビュー。その後何作ものベストセラーを生み出した。誰に対しても優しく接し、とても温厚だが正義感が強い。現実で人を殺す人を許さない。小3の時、我が家で強盗に襲われ、両親と兄、そして自身の笑顔を失っている。その事件以来、彼は天涯孤独である。殺人は絶対に許せないと思っている一方で、家族を殺した犯人に強い殺意を抱いている。両親からは虐待を受けており、学校でも過度ないじめにあっていた。その両親が殺されても彼は「いくら虐待されようと自分の親だから」と言って、犯人を憎んでいる。

 

「それは違うよ!」「その言葉、僕が斬る!」「人殺しは僕が絶対に許さない」「犯罪に美しさとか賢さとか…あるわけないよね…?」

 

 

【超高校級のアナウンサー】水宮琴魅 ~みずみや ことみ~

・性別 女 ・身長 152.5cm ・体重 47.3kg ・胸囲 82cm ・血液型 AB

・誕生日 10月7日

・一人称「あたし」 ・呼び方 男…(苗字)君 女…(苗字)さん

・好きなもの マイク、しゃべること ・嫌いなもの トマト、狭い場所

・出身校 夢声学院附属中学校

・見た目 うすい水色でロングヘアー。前髪が右側に寄っている。右側にマイクの形をした髪飾り。赤を基調としたセーラー服と膝丈スカート、黒いハイソックス、学校靴

 

本作のヒロイン。最近テレビで知名度を上げている新米アナウンサー。アナウンサー育成学校を飛び級で合格。頼れる姉貴のような見た目だが、ドジっ子な面も多々。イケボよりの声だが、ドジをすると上ずる。早口言葉がとても得意。頭脳派では無いので、難題の前になると他の人に頼りがち。

 

「あたしに全部任せてよ」「え…つまりどういうこと(笑)」「友情はもろいって言うけどあたしは違うと思う」「何で嘘ばかりつくの?」

 

 

【超高校級の???】蒼城 暮羽 ~そうぎ くれは~

・性別 女 ・身長 154.1cm ・体重 49.0kg ・胸囲 78cm ・血液型 O

・誕生日 1月2日

・一人称「暮羽」 ・呼び方 男…呼び捨て 女…(苗字)さん

・好きなもの ??? ・嫌いなもの 恋愛、野菜全般

・出身校 亜鳥中学校

・見た目 ピンク色のミディアムヘアー。前髪はぱっつん。右側に星型の髪飾り。長袖で文字の書かれた白シャツ、膝上のショートパンツ、上着のベージュ色のセーターを腰に巻いている。白いソックス、黒い厚底靴

 

物静かな少女。何故か能力を明かさず、集団行動を避ける。落ち着いた声で、冷静沈着。感情を顔や行動にあまり出すことがないためか、常に無表情。怒っているときは、爪を噛む癖がある。

 

「蒼城暮羽。それ以外に言うことはない」「何? 用事が無いなら話しかけて来ないで」「言っている意味が分からない…」「…別に」

 

 

【超高校級の画家】最上斎一 ~もがみ さいいち~

・性別 男 ・身長 178.8cm ・体重 62.7kg ・胸囲 84cm ・血液型 A

・誕生日 2月28日

・一人称「オレ」 ・呼び方 男…呼び捨て 女…呼び捨て

・好きなもの クレヨン、スケッチブック ・嫌いなもの 男勝りな女子、意味が分かると怖い話

・出身校 絵宙中学校

・見た目 黒髪の長めのショートヘアー。こげ茶色のコートにグレーと白のボーダーのシャツ、鼠色のスラックス、サンダル

 

日本中を駆け回り、絶景を見つけては絵を描いている。雰囲気は好青年。明るい口調でポジティブ思考。本人曰く、めちゃくちゃハマってることがあるという。語尾に「どー」が付く。

 

「なんなら、みんなの絵をオレが描いてあげてもいいどー」「語尾は気にしなくていいどー」「あ~れ、またやっちゃったどー」「悲しくなったらとにかく笑うのがいいどー」

 

 

【超高校級の列車マニア】四十万鉄伽 ~しじま くろか~

・性別 女 ・身長 149.7cm ・体重 45.2kg ・胸囲 83cm ・血液型 A

・誕生日 8月17日

・一人称「ボク」 ・呼び方 男…(苗字)君 女…(下の名前)ちゃん

・好きなもの 鉄道、列車のガタンゴトンっていう音 ・嫌いなもの 撮り鉄、ねずみ

・出身校 桜野宮中学校

・見た目 ライム色のロングヘアー、耳の後ろで髪が輪っか状に結ばれている。左側に列車の髪飾り。深緑色のパーカー、グレーのミニスカート、黒い横線の入った白ニーハイソックス、学校靴

 

列車に詳しい列車マニア。日本中のいろんな列車に乗って旅を楽しんでいる。常識人で、リーダーシップもあるが、鉄道のことになると興奮状態に陥り、周りの声が聞こえなくなる。

 

「この機関車は電気で走るんだね!」「面白いね~! 君!」「列車のことを侮辱した人にはこの蒸気機関車用に使う石炭をあげます!」「ふわああ、ボクの愛したボディ…」

 

 

【超高校級のスタッフ】夕道久未 ~ゆうどう くみ~

・性別 女 ・身長 155.5cm ・体重 48.7kg ・胸囲 89cm ・血液型 B

・誕生日 4月11日

・一人称「私」 ・呼び方 男…(苗字)君 女…(下の名前)さん

・好きなもの ミシン、人形 ・嫌いなもの 乗り物、占い

・出身校 斧月中学校

・見た目 茶髪のポニーテール、ピンク色を基調としたセーラー服とスカート、首に青色のスカーフ、白ハイソックス、スニーカー

 

世間が注目するテレビスタッフ。物事に対する積極性は誰にも負けない。趣味は人形集めで、嫌なことがあった時は人形に語り掛けている。常に元気で、他人の勇気づけが得意。

 

「これくらいできなきゃテレビスタッフやっていけないよ」「ハイ、お説教おしまい!」「私、人形と心が通じ合えるのよ」「こんなところで諦めてていいの!?」

 

 

【超高校級の人間不信】伊野吉介 ~いの よしすけ~

・性別 男 ・身長 176.1cm ・体重 59.9kg ・胸囲 77cm ・血液型 O

・誕生日 7月27日

・一人称「ワイ」 ・呼び方 男…(苗字)君 女…(苗字)さん

・好きなもの 寝ること、クイズ ・嫌いなもの 人間、集合体

・出身校 夜川総合学園附属中学校

・見た目 シルバーのショートヘアー、前髪少し長め、フード付きの黒い上着、デニム、スニーカー

 

信頼していた友人に裏切られ極度の人間不信に陥ってしまったため、他の人間のことを信じようとしない。男子としては高めの声。その声とは対照的に挙動や発言はネガティブ。

 

「ワイは誰も信じない…」「裏切られることが一番嫌いなんだ…」「友情ほど哀れで脆いものって無いと思うよ…」「そうやってワイを貶めようとしてるんじゃないよね」

 

 

【超高校級の盆栽職人】江吉良誠隣 ~えぎら せりん~

・性別 女 ・身長 151.2cm ・体重 47.0kg ・胸囲 81cm ・血液型 A

・誕生日 5月5日

・一人称「わし」 ・呼び方 男…(苗字) 女…(苗字)

・好きなもの 盆栽、ラムネ ・嫌いなもの チューリップ、まつ毛

・出身校 腐島(くさしま)中学校

・見た目 明るいオレンジ色のロングヘアー。前髪で左目が隠れている。紺色セーターの上に花柄のブルゾン、焦げ茶色のガウチョ、サンダル

 

日本盆栽コンテストで最優秀賞を受賞し、名をはせた高校生盆栽職人。正義感が強いが、天然キャラ。よく物を壊してしまう、うっかり屋でもある。周りが見えなくなることも多々。関西弁。

 

「すまーん、それわしが壊してもうたわ~」「人の命を奪うっちゅーのはちゃうと思うで」「ほな盆栽でも見て落ち着きな?」「わしは絶対にそんなことせーへんで~」

 

【超高校級のポエマー】紫神改六 ~しがみ かいろく~

・性別 男 ・身長 146.5cm ・体重 44.4kg ・胸囲 69cm ・血液型 AB

・誕生日 11月29日

・一人称「俺」 ・呼び方 男…(苗字) 女…(苗字)

・好きなもの ピーマン、コーヒー ・嫌いなもの 光、高い場所

・出身校 聖メビウス宗教学院附属中学校

・見た目 目が隠れるまで長いクリーム色のショートボブ。紺色のスーツに半分赤半分白のネクタイ、スーツに付属するズボン、ビジネスシューズ

 

常に詩的(?)な表現で会話をする。動作にいちいち無駄がある。感情表現は豊かだが、かなりナルシストな雰囲気を醸し出している。なお、本人は気づいていない模様。

 

「天使が舞い降りてきたわけじゃないんだねぇ」「コーヒーの香りこそ、至高なのだ」「青い空、白い雲、そしてこの俺氏…」「俺は闇なんてものは持ち合わせていないんでね」

 

 

【超高校級の陸上部】邑田禅 ~むらた ぜん~

・性別 男 ・身長 177.3cm ・体重 62.8kg ・胸囲 85cm ・血液型 A

・誕生日 7月25日

・一人称「オレ」 ・呼び方 男…(苗字)君 女…(苗字)ちゃん

・好きなもの 走ること、宝石 ・嫌いなもの 悪党、謎解き

・出身校 神衛中学校垂水石分校

・見た目 左側が青色、右側が赤色のショートヘアー。白の運動着、白ソックス、運動靴

 

陸上部の全国大会で、何度も優勝へ導いた。出身校の陸上部ではトップの実力を持つ。実力にプラスを振った分、頭の回転速度や知識量は一般人より劣る。とにかく元気。

 

「オイオイ、100m13秒のオレをなめてもらっては困るぜ」「病気ならしたことないぜ」「30×40? 70だ! あ、ちげぇや1200だ」「宝石集めしてみてぇなぁー」

 

 

【超高校級の落札者】泊金人 ~とまり かなと~

・性別 男 ・身長 170.7cm ・体重 58.1kg ・胸囲 77cm ・血液型 B

・誕生日 12月2日

・一人称「自分」 ・呼び方 男…(苗字)君 女…(苗字)さん

・好きなもの 英語、落札すること ・嫌いなもの 兄弟、暗い場所

・出身校 ???

・見た目 深緑色のショートヘアー、アホ毛あり。抹茶色のパーカー、デニム。金色のネックレスとピアス

 

オークションで数々の芸術作品を買い取ってきた猛者。落札する瞬間が一番幸せなんだとか。自分に自信が無く、オークション以外では強気な発言や行動ができない。穏やかな口調。

 

「自分はオークションしか…」「落札したときの爽快感を忘れることなんてできない!」「お金…? ああ、欲しいならあげるよ」「自分は落札するだけで幸せだから」

 

 

【超高校級の美容師】狩切真転 ~かりきり まころ~

・性別 女 ・身長 171.4cm ・体重 50.0kg ・胸囲 90cm ・血液型 O

・誕生日 4月24日

・一人称「私」 ・呼び方 男…(苗字) 女…(苗字)

・好きなもの ハサミ、ギャップ ・嫌いなもの メンヘラ、蜘蛛

・出身校 綿毛中学校

・見た目 ベージュ色のセミロング、後ろで少しだけ髪を結んでいる。ベージュ色の腰丈コートの下に緑の生地に白のラインが横に入ったセーター、すそをまくったデニム、ボーンサンダル

 

現役高校生でありながら、美容院を営んでいる。その美容院は予約が3年待ちだという。かなりの自信家で自分の腕に絶対の自信がある。髪の毛を目にすると、切りたい衝動にかられる。

 

「その髪、私に切らせてよ」「私の手にかかれば、どれだけぼっちな君でも明日から人気者だよ!」「世の中、ギャップが大事だと思うよ」「蜘蛛とかマジで早く絶滅すればいいのに…」

 

 

【超高校級の当たり屋】亜麻崎伴 ~あまさき ばん~

・性別 男 ・身長 184.3cm ・体重 65.8kg ・胸囲 92cm ・血液型 A

・誕生日 8月11日

・一人称「オレ」 ・呼び方 男…(苗字) 女…(苗字)

・好きなもの 札束、ヒーロー ・嫌いなもの 優柔不断

・出身校 河原中学校

・見た目 紫色のショートヘアーにポニーテール。黒いTシャツ、膝丈ズボン、グレーのクロックス

 

有名な当たり屋軍団「アメノマムシ」のメンバーの一人。刑事と顔見知りになるほど、彼は当たり屋として活動している。気が強いことを装っているが、むしろ誰よりも優しい。

 

「お前がいると目障りなんだよ!」「その代わり後で何かおごってもらうからな!」「あぁ…思いだしたくもねぇ」「自分が言える立場じゃねぇのは分かってるが…人を殺すことは絶対に正しくねぇ」

 

 

【超高校級のドッグトレーナー】相模貴勝 ~さがみ たかまさ~

・性別 男 ・身長 176.9cm ・体重 61.1kg ・胸囲 79cm ・血液型 AB

・誕生日 6月30日

・一人称「僕」 ・呼び方 男…(苗字)君 女…(苗字)さん

・好きなもの チワワ、餃子 ・嫌いなもの 頭を使うこと、雨

・出身校 厘光学院附属中学校

・見た目 青緑色のショートヘアー。紺色の生地に胸の部分に犬の顔のが付いているセーター、部屋ぎのような黒ズボン、スニーカー

 

最近テレビで顔を出し始めた一流ドッグトレーナー。どんな犬でも絶対に従わせることができる。通常は優しい口調だが、機嫌が悪いと暴言を吐露したり八つ当たりしたりする。他人と会話するときは基本的に敬語。

 

「ほら昼御飯だよー、おいでー」「あれ、君は猫派ですか? じゃあ犬のことをもっと知ってもらわなきゃ」「いやいや、僕はすごくなんてありませんよ」「は? 指でもくわえて黙ってろや」

 

 

【超高校級のモデラ―】七井入弥 ~なない いりや~

・性別 女 ・身長 150.2cm ・体重 44.9kg ・胸囲 87cm ・血液型 B

・誕生日 3月2日

・一人称「入弥」 ・呼び方 男…バカ(苗字) 女…(苗字)

・好きなもの 担々麺、ドライバー ・嫌いなもの ポップコーン、お面

・出身校 時雨中学校

・見た目 金髪のセミロングにツインテール。ベージュを基調としたセーラー服とスカート、黒いタイツ、小さめのブーツ

 

どんなものでも正確な模型を作ることができる。手先はとても器用。かなり毒舌で考えたことをすぐ口走る傾向がある。気が強く、男を黙らせる。物事に興味が無いときは自分の紙をいじる。

 

「モデルとは違うから。そんなこともわからないわけ?」「誰がギャルだ」「あいつぶっちゃけ脳内お花畑でしょ」「一緒にしないでくれる?」

 

 

【超高校級の囲碁部】狂来理囲 ~くるき りかこ~

・性別 女 ・身長 160.4cm ・体重 49.2kg ・胸囲 90cm ・血液型 A

・誕生日 4月15日

・一人称「私」 ・呼び方 男…(苗字)君 女…(苗字)さん

・好きなもの 恋愛ドラマ、和菓子 ・嫌いなもの 日本の怪談、心霊現象

・出身校 暮島中学校

・見た目 こげ茶色のミディアムヘアー。前髪はぱっつん。グレーを基調とした、少し着物風なセーラー服、膝丈スカート、白い足袋、下駄

 

日本一に輝いたこともある囲碁のプロ。全国大会で現在7連覇中。常に敬語であまり表情を変えない。真面目でまわりに流されにくいタイプで、同調圧力にも屈しない。たまに囲碁用語を使う。

 

「あなたと私はトビ以上に離れた次元の人ですね」「…自分も相手も互いに動けないセキの状態…」「もう少し自分の意見を主張してみては?」「こういう時こそ肯定的に考えるべきです」

 

 

【学園長・車掌】モノクマ

・一人称「ボク」 ・呼び方 男(苗字)君 女…(苗字)さん

・好きなもの コロシアイ、絶望 ・嫌いなもの 感動、希望、団結力

 

みんなご存じ、突如として姿を現したコロシアイのゲームマスター。クローンが何体もいる。とにかく希望が嫌いで、こよなく絶望を愛する。

 

「うぷぷ、ボクはモノクマ」「ザナドゥ、ファザナドゥ」「ワクワクでドキドキだねぇ」「エクストリームすぎて動悸が止まらないクマ…」



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CHAPTER1 クローズド学園
(非)日常編 Ⅰ 


「それにしてもよぉ、ここシャンデリアついてるけどよ、本当に列車なのかこれ」

 亜麻崎君が上を見上げる。僕がここに入ってきたとき真っ先に目に飛び込んできたのはこの巨大なシャンデリアだった。どこかの怪人のお話で登場するあのシャンデリアにはもちろん大きさは劣るが、それでも天井を軽く覆ってしまうほどだ。

「おそらくこれは寝台列車っていうやつだね」

 列車マニアの四十万さんの目がきらめいているのがわかる。

「寝台列車というのはその名前の通り、車両の中にベッドが付いているんだよ」

「つまり、長旅用の列車ってわけか」

「その通りだよ泊君。長距離を走る列車だからベッド以外にも、食事ができる食堂車だとか外の景色を眺めながらくつろげるスペースもあるし、カフェ、バー気分を味わえるラウンジも兼ね備えてるんだ」

 まさに走るホテルってわけだ。バー気分を味わえるラウンジか…。おっと、とてもそこで執筆をしたい気分だが、今はそんなことを考える場面ではない。

「じゃあこの車両は?」

「うーんくつろげるスペースなのかなぁ。こんなに壮大なシャンデリアは初めて見たし…この列車の雰囲気も初めましてなんだよね」

 ここがくつろげるスペースだって…? シャンデリアのせいでくつろげる気がしないね。そういえば、僕が目覚めた車両もくつろぎスペースだったのだろうか。ホープエクスプレスに乗った時座ったのは普通の座席だったはずだけど…。

「とにかくまずはこの列車をいろいろと探索する必要がありますね」

「ワイはもう休みたいね…」

「そういえばあのモノクマが言ってなかったっけ、電子生徒手帳に案内図が載ってるって」

「ああ、あのぬいぐるみ、そんなこと言ってたかもねー」

 僕は再び電子生徒手帳の電源をオンにし、メニュー画面が現れると、「列車の案内図」という項目をタッチした。

 画面に表示されたのはたしかに列車を上からみた図、案内図だ。1号車には何も書かれていないから運転席のみがある動力車と考えてよさそうだ。2号車はラウンジカーとなっているみたいだ。そして3号車から6号車までは個室が一つの車両につき4つずつあるようだ。3号車、4号車の個室は空白だが、5号車、6号車の個室には生徒の名前が書かれている。そして食堂車、ダイニングカーを挟んで8号車、9号車にくつろぎカー、10号車から13号車までが個室のある車両となっている。今度は10号車、11号車の個室に名前が記されている。

 それぞれ名前が書かれているところが自分の個室ってことか。

 そして自分たちがいるここが8号車のくつろぎカーだということも一目瞭然だ。

「おおおお、こんな列車が世の中にあるなんて、邑田禅、感激だ!」

「まぁ、存在くらいなら知ってたけど…。ねぇ、美容室カーは無いわけ? 私定期的に誰かの髪切らないとアトピー出るんだけど」

「ナニソレコワイ」

「でもこの図だけじゃまだわからないことが多いどー」

 

ピーンポーンパーンポーン

 

 突然車内にチャイムが響き渡った。みんながきょろきょろと周りを見る。

 

『あー、マイクテス、マイクテス』

 

 その声はつい何十分か前にも耳にしたあの声だった。

 

『オマエラ~、学園には明日の朝ごろに到着する予定なので、それまで自分の個室で休んでてね~。鬱憤が溜まってる人とか、復讐したい相手がいる人とかは今のうちにさっさと誰かを殺したほうがいいよ~』

 

 それだけ言って車内は再び静かになった。

「あいつ…」

「まぁまぁ亜麻崎君。ここから出たいのは山々だけど、僕たちが先に仕掛けてしまったら相手の思うつぼだよ」

 僕はそう言って亜麻崎君を手で制した。

 相手は僕たちにコロシアイをさせようとしている。何が目的なのかはわからない。しかし、ここでがむしゃらに相手に突っ込んだり、下手に何かをしたりすれば確実に僕たちの命が危ない。ここは僕たちの…自分たちの命の安全が最優先だ。

「…自由時間ってことだよね?」

 特定の個人ではなく、ここにいるみんなの誰かに問いかける形で水宮さんは言葉を発した。

「正直ここから早く出たいけど、事を急くのも危ない。なら従うのには抵抗があるが、あのモノクマの言うとおり、個室で時間を過ごしたほうが良さそうだね」

 電子生徒手帳を眺めながら言う泊君の声はとても冷静で透き通る声だった。

「…てことで自分は先に個室に行くわ」

 泊君は電子生徒手帳をデニムのポケットに入れ、9号車の方へ消えていった。

「…とりあえず解散…かな?」

 夕道さんの声を合図にみんな各々に自分の個室があるであろう方向へ消えていく。

 僕は…。とにかく疲れた。目が覚めたのはまだ1時間前だというのに、この疲労感。

 僕はすぐそばにある椅子に座り込んだ。

 くつろぎカーというだけあってか、椅子は柔らかくて座り心地が良い。だが、それだけでこの疲労感がすべてぬぐえるわけもなく、一気に脱力した。この状況をまだ呑み込めていないこと、モノクマの声が耳に障ること、その他もろもろが疲労感の原因だろう。

 …というかどうしてこんなことになったんだ…。僕は叶能学園に行けることをただただ楽しみにしていた。小学校よりも中学校よりも楽しい生活が待ってると思っていた。なのに、僕の前に現れたのは楽しい学園生活なんかではなく、モノクマとかいう悪魔だ。コロシアイ? 卒業? 突然現れて意味不明な校則を確認させられて…。

 ため息をつく。

 本当、人生ついてない。どうしてこんなに不運なんだ。僕が何をしたって言うんだ…。

 二度目のため息。

 生きていくことが辛い…。こう思ったのはこれで何回目だろうか。数えきれないほどに僕は人生を苦しく感じた。いっそ楽になってしまいたいと考えたこともある。その度にいつも僕に優しい声をかけて救ってくれたのが姉だった。両親から殺意を宿した目で見られる中、姉だけは僕と優しく接してくれた。ケガをしたらいつも治してくれたし、僕がいじめにあったらいじめてきた連中を自力で見つけては怒鳴りつけていた。

 しかし、今、もうここに姉はいない。いや、どこに行っても姉はもう助けてくれない。

「空閑君」

 自分の名前が呼ばれたことに気付き、顔をあげるまでには少々のタイムラグがあった。

 顔をあげたその先では水宮さんが心配そうな顔をしてこちらを見つめていた。

「ああ、水宮さん。大丈夫、ちょっといろいろ考え事をね」

 必死に、そして無理矢理に口角を上げて笑顔を作った。

「それなら安心なんだけど…。ねぇ、空閑君。…一体何が起こってるのかな…この列車」

「何が起こってるか、ね…。今はあのモノクマとやらが何かわめいてるだけだけど、今後どうなるかはわからない。…むしろ僕の中では嫌な予感までしてる」

「い、嫌な予感…?」

 そう、推理作家をやってる中、何かと現実世界でも嫌な予感が的中することが多い。現実に比べれば、小説みたいな創作物の展開はある程度の予想がつく。しかし、創作は創作。現実は何が起こるかなんてわかりっこない。

「…モノクマは本気でコロシアイをさせようとしてるのかな…」

「…あの声の調子じゃ冗談にも聞こえるけど、走る列車に閉じ込められている事実がある以上、本気だと考えて行動したほうがいいかも」

 モノクマの声から感じるものは普通ではなかった気がする。ただ耳障りが悪いだけじゃない。その不気味な声の奥に狂気じみた快楽をかすかに感じることができた。命を奪うことに対して躊躇いを感じない。むしろそれを娯楽、自己満足だと認識している。それがあの声からは読み取れる。

「空閑君はすごいよね」

 突然の自分への称賛の声に思わず彼女を見る。

「すごいって…?」

 自分自身、褒められたことは数少ない。そもそも身の回りに自分の才能を認めてくれる人がいなかった。そのためか、褒められるということにまだ体が慣れていない。それに他の生徒の方が自分より優秀に決まっている。自己紹介を進んでしたのも無意識だし、称賛されるほどのことはしていない。

「あのモノクマにこの絶望的な生活を強要されて、みんな最初は何も理解できないで冷静さを欠いていた。でも空閑君だけは違った。この状況を、落ち着きながらゆっくりだけど瞬時に見極めて、みんなをまとめる形にした。あたしは空閑君が一番頼れそうって思ってるんだ」

 まさか超高校級のアナウンサーにここまで褒められるとは思ってもいなかった。それに水宮さんは多種多様な才能を持っている生徒たちの中で僕を頼ってくれようとしている…。

「ありがとう、水宮さん。でも水宮さんほど僕は秀でた存在でもないし、世間の人たちの役に立っているわけでもないよ」

 やはりいつになっても自嘲癖が抜けることはなさそうだな。こういうところが自分の悪いところだというのは重々理解しているつもりだが、それでも簡単に悪いところを改善できないのが僕だ。

「…君は自分のことを過小評価しすぎだよ」

 水宮さんはそう言った。別に過小評価をしてるわけではないと思っている。なぜなら事実だから。どう足掻いても僕はこの超高校級の生徒達より上の存在になることはできない。

「でも僕には他人に誇れる取り柄が何もないんだ。そう、ただ平凡な小説を書くことしかできない」

「本当にそうかな。出会ってまだ半日もたってないけど、あたしは空閑君が他の人より何かに長けてるって確信してるよ。絶対にもっとみんなに誇れることがあるよ」

 眩しい…。水宮さんの笑顔が眩しい。まるで真夏の太陽のように、そして野原に咲くヒマワリのように。この人の顔を見ていると、何かが浄化されていくような…。何か癒し効果が働いているのか…。

「だからもっと自分に自信をもってさ、誇れることは誇ろうよ」

「…ありがとう、水宮さん。…なんだか少しだけだけど目が覚めた気がするよ」

 水宮さんの持つ癒しの魔力。恐るべし。

 

 

 僕は水宮さんに礼を言って自分の個室の前で別れた。

 そして電子生徒手帳のロックを解除する際に使ったカードを、個室の扉に取り付けられている認証機にかざす。ピッという機械音がして、扉が自動で開いた。どうやら扉は自動開閉らしい。扉の内側からもこのカードを認証機にかざすことで自由に開閉ができるようだ。つまりは、扉を開けるときも施錠するときもこのカードが無いとまずいわけだ。

 個室内は想像してたものよりも広々としていた。

 高級と言わんばかりのランプとベッド。天井の照明はプロペラ付きで壁は西洋風、床は見渡す限りに絨毯が敷かれれている。高級ホテルじゃないか…。

 逆に落ち着かないとはこういうことを言うのだろう。今日からここでずっと体を休めなきゃいけないというのはある意味では地獄かもしれない。いや、列車に閉じ込められている時点で既に行先は地獄だけかもしれない。

「なっ、これは…」

 これで終わりでは無かった。ベッドの傍らにある棚に推理小説が隙間なくおさめられていたのだ。

 驚いた。あの有名な推理作家から知名度の低いマイナーな作家までほぼすべてがそろっている。まさに空閑薫に特化した部屋と言える。

 これもあのモノクマが仕組んだことなのだろうか。そうだと仮定するならば、一体あいつは何者なんだ…?

 棚に入っている小説は全部自分の好みのものだ。それすらもあのモノクマは網羅してるというのか…。…本当にただコロシアイをさせたいがためにここまで用意しているというのは……異常だ。僕たちを相手はどこまで調べつくしているんだ。

 一度は癒しの力で回復したものの、再び僕を不安の底へと突き落とす。

 …今いろいろ考えたところで進展することは何もない。そう考えた僕はベッドに身を投げた。

 

 

 時計は夜の7時を指し示していた。そろそろお腹が、空腹で悲鳴をあげそうだ。

 何か食料が無いか、僕は個室を出て食堂車へと向かった。

 そしてたどり着いた食堂車には一人の生徒の姿があった。

「蒼城さん…?」

 僕が声をかけると蒼城さんはこちらに気付いた。が、すぐに視線を手元に戻した。手元には料理が置かれていた。

「その料理は…?」

 2人しかいない空間に何だかとても気まずい空気が流れる。本当に気まずい。

「…適当に冷蔵庫をあさって見つけたものでちょっと軽い食事を作っただけよ。何か文句ある?」

 ええ…。どうしてこの人はいつもツンツンしてるんだ…。

 と、とにかく何か会話を…。

「…え、えっとその料理、蒼城さんが作ったんだね」

「…これくらい普通じゃないの?」

 僕はスクランブルエッグを作る自身も無いんですが…?

「えーっと…す、すごいね。そうだ、ちょうど僕も夕食を食べに来たんだけど、いいもの何かあったかな?」

「…」

「ほら、もうすぐみんなも夕ご飯を食べにやってくるだろうし…」

「…」

 蒼城さんはずっと手元を見ていて、一切僕と目を合わせてくれない。なんだか…ちょっと困っちゃうよね…。なんて話しかけたらいいのかなぁ…。

「…あ、そうだ蒼城さん。ちょっとその料理食べさせてよ」

「え?」

 よし、ようやく顔を上げたぞ。

 このまま強引に料理を食べさせてもらおう。あとは褒めてあげたら、少しは仲良くなれるのでは…。

「じゃあ早速いただきまーす」

「あ、ちょ」

 僕は料理の隣にあったフォークを手に取り、丁寧に切られているハンバーグの一切れに刺し込んで、持ち上げた。そしてそのまま口の中にハンバーグを放り込んだ。

 こ、これは…。

 めちゃくちゃおいしい…。冷凍されていたハンバーグをただ熱しただけのものとは明らかに違う。

 思わず仰天した。

「すごくおいしい!」

「…あ、そ、それは…どうも…」

 蒼城さんは頬を赤らめて目を伏せる。さっきまで仏頂面だった蒼城さんの照れる顔を見られて、少しうれしくなった。

 うれしくなったのが影響したのか、それともハンバーグが美味すぎて味覚が興奮したのが影響したのかわからないが、頭の中にひとつ考えが浮かび上がった。

「蒼城さん! みんなの分の料理も作ってあげようよ!」

「え。……な、何を言って…」

「ほら、今はみんな蒼城さんへの接し方があまり分かってないけどさ、料理を振舞うことでぐっと仲良くなれるかも」

「い、嫌よ…」

 最初は断っていた蒼城さんだったが、何度も僕が頼んでいるうちに、

「…仕方ないわね…」

と最終的に蒼城さんが折れる形で決着がついた。

 

 

「す、すごいどー! これ、空閑と蒼城が作ったどか!?」

「ま、まるで高級料理ですね…」

 僕と蒼城さんで作った料理はとても絶賛された。

「いやいや僕は手伝っただけ。ほとんどは蒼城さんが作ったんだよ」

 蒼城さんは僕の隣で、今にも蒸気が耳から出てきそうなくらいまで真っ赤になっていた。

「え、めっちゃうまいんだけど。蒼城さんすごい」

「ワイは信じんぞ…。こんなおいしいもの…」

「おいしいって言ってんじゃねぇか」

「今度僕の家のチワワ用のドッグフードでも作ってもらいましょうかねぇ…」

「じゃあわしも盆栽用のエサでも作ってもらおうかなー」

「盆栽用のエサって何…」

「うーん、ま、この入弥ほどの実力ではなさそうね」

「七井さん、声が震えていますよ」

 その後、蒼城さんはみんなに話しかけられ、とても戸惑っていた。

 

 ~ ~ ~ ~

 

ピーンポーンパーンポーン

『オマエラ、おはようございます。朝ですよー、8号車のくつろぎカーにお集まりくださーい。来なかった奴はオシオキするクマよー』

 

 陽気なチャイムと狂気の声で、僕は目を覚ました。

 結局、あの夕食パーティーのあとも何も起こることはなく、本当に朝になったようだ。

 あの声をずっと耳にするのはかなり抵抗があるが、ここから生きて脱出するためには仕方ない。

 予め用意されていた寝巻きを脱いで、シャワーを浴び、普段着に着替える。

 部屋を出る際に、水宮さんと出会ったので、一緒に8号車へ向かった。

 

 

「全員そろったクマねー、それにしてもさ、夕食の時に何みんなでキャッキャウフフしてんのさ、ボクも混ぜてよ」

「いや知らないよ!」

 8号車に16人全員が集まると、モノクマは口火を切る。

「さーてさて、あと30分で学園に着くんだけども」

「…叶能学園に着くのか?」

「だからそれは昨日も言ったとおり、叶能学園には着きません!」

「じゃあどこの学園なんですか」

 モノクマは数秒程黙ったままだった。そして…。

 

「…叶能学園悪魔分校だよ~!」

 

 そう言った。

 

 このとき僕はまだ知る由もなかった。

 悲しき惨劇が起こるなんて、これっぽっちも…。




どうも、好きな元素は酸素、MOGIぴーです。
やっと(非)日常編の投稿ができました。
実は(非)日常編の話の部分はおおまかな流れが最初に作ってあるわけではなく、パッとその場で思い浮かんだ形で進めているので、起承転結が上手くできていなかったり、謎な展開が多かったりしてて、作ってる自分自身も「微妙だなぁ」と思うこところがたびたび見受けられます。
それでもどうにかこのCHAPTER1を完結させることをまず目標に頑張りたいと思います。よろしくお願いします!


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(非)日常編 Ⅱ

「あ、悪魔分校…?」

 悪魔分校…モノクマはそう言った。

「そう、わかるぅ?」

「フン、気味の悪い名前だな」

「ちょっと!! 命名したの僕なんだけど!! 学園長への冒涜はやめてよね!!」

「どうでもいいからさ、その分校が何だって言うのかしら」

 モノクマは、コホンとわざとらしい咳をしてから話し始めた。

「まぁ簡潔に言うとね、今からオマエラは悪魔分校に監禁されるわけなんだよ」

「か、監禁…!?」

 車内はどよめく。だが、冷静な者もいた。

「…既に自分たち、監禁されてるし…今更驚くことじゃないと思うよ」

 ため息混じりな泊君の発言に「相変わらず動揺しないね泊クンはさ」とモノクマは称えるように言う。

「しかし、私たちの監禁場所をその分校に変えることに意味なんてあるのですか?」

 たしかに、狂来さんの言うとおりだ。

 モノクマは何を考えているんだ…?

「いい質問クマねぇ、採用! お答えしましょう! …悪魔分校にオマエラが囚われたあと…殺人が起きたら、そこから解放してあげます!」

 解放。その言葉に全員が反応するのにそう時間はかからなかった。

「こ、ここから出られるの!?」

「だけどさー、学級裁判だっけ? あれでクロ当てないと入弥たち生き残れないんでしょ?」

「もちろんだよ。でもオマエラさぁ、解放してあげるって言葉の意味をはき違えてるんじゃない?」

「ど、どういうことです?」

「悪魔分校から解放してあげるっていう意味で、オマエラを解放するわけじゃないクマよ。勘違いしないでよねクマ」

 そうか。ようやく理解できた。殺人が起きるたびに、監禁される場所が変わっていくんだ。悪魔分校で殺人が起き、学級裁判が終われば次の場所へ移動するってわけか。

「そういうことだよ、空閑クン」

「え? …僕今声に出てた…?」

「ボクはエスパーだからね」

 意味不明なことを言っているモノクマ。

 

「エスパーって何だどー?」

「車の窓についてるあれじゃね」

「それワイパーだよ!」

「えーっと…サッカーでゴールの前守ってる人かな…?」

「それはキーパーだよ水宮」

 

「あーもううるさいよ! 学園長の前で私語なんて許さないよ!」

「…うるさいわね、あなた」

「はぁ? もう、次私語言ったやつおしおきね!」

 モノクマはかなり憤慨している様子。

「ほら、もう悪魔分校に着くよ」

 ほら、と言われても…窓には鉄板がはられていて外を見ることはできない。

「ご乗車ありがとうございました。まもなく、悪魔分校前、悪魔分校前です。お乗り換えはありません」

「乗り換えないなら言わなくていいよ」

 即座に飛んできた四十万さんのツッコミは、この空間がまだ穏やかであることを象徴しているかのように思えた。

 重力が横にかかり、崩れそうになる。列車が徐々にスピードを下げているのだろう。

 ここに連れてこられてから初めて、ついに、外の景色を見ることになるかと思うと、何だか少し安心する。特に状況が変わるわけでもないが、自分自身どこかで安堵していることに気付いていた。

 車輪とレールの間から吐き出される音だろう。女性の甲高い叫び声のような音が車内に響く。やがて、少しづつ、横にかかる力と音が消えていく。そして、ついにその二つは止まってなくなった。

「はい、着きましたよ~」

 モノクマの声と同時に扉がスーッと音もたてずに横へスライドした。

 扉の先は眩しい光が覆っていた。僕は安心しながらも、微塵の警戒心を捨てずに先へと進んだ。

 

 

 

「ここは…」

 扉を抜けた先は簡易的なホーム。そして真正面には巨大な建物がそびえていた。

「これがワイらが今から監禁される…悪魔分校…」

 しかし、見た目は決して悪魔では無かった。名前が全くと言っていいほど外見と似合っていない。それに周りに見えるのは青い空と…。

「え…」

 僕の目に飛び込んできたものを理解するのには、時間が必要だった。

「お気づきになったかな、空閑君。そう、この空間はね、檻に覆われているのです!」

 僕たちの真上から地平線にかけて黒い格子状の檻が、僕たちを見下ろすかのように存在していた。

「監禁とはそういうことだったのですか」

「文字通りでしょ? どう? この青い空の中に不釣り合いで、でもとっても映える檻は!」

「…檻とも言えるけど…『籠』にも見えるね」

「か、籠だと…?」

「ほら、鳥籠ってあるだろ。鳥籠も格子状だ」

「つまり、僕たちはその巨大な『鳥籠』の中って訳か…」

「呑み込みが早いね。オマエラが籠の中の鳥だとするなら、差し詰めボクはその鳥たちを世話する飼い主ってとこだね!」

「いや、あんたも檻の中じゃん…」

「その鳥籠の中にこんな大きな校舎が佇んでいるとはね」

 たしかにそうだ。

 「鳥籠」という名の檻の中には僕たち16人の高校生とモノクマ、そしてこの学園生活の舞台である悪魔分校が収まっているのだ。

「じゃあオマエラ、ちゃっちゃと荷物を持って、分校内にある自分の部屋に移動させてね。あ、もちろんここでの行動に制限は無いよ。何といっても、この檻がある限りは脱出することなんて不可能なんだからね」

 そう言ってモノクマは先にスタスタと歩いていってしまった。

 ここから出られないなら、仕方がない。

 僕は荷物を肩にかけて、分校へと歩き出した。

 

 

 

 僕は荷物を床に置いた。そしてすぐに部屋を見渡した。

 列車の個室ほど豪華ではなかった。むしろ「普通」だ。壁紙こそヨーロッパを感じさせるが、ベッド含めた家具等、床や天井は「普通」だった。列車と比べれば質素だ。だけど、僕はこちらのほうが落ち着く。

 おっと、グズグズしてる暇なんてないんだった。

 

 

 

 ~食堂~

 僕が食堂に着いた頃には全員がそろっていた。

「遅いぞ、空閑」

「ご、ごめん」

「いいんじゃないの、ヒーローは遅れてやってくるって言うし」

「はは、それは俺のことかい…」

「あー入弥、このナルシスト苦手だわ」

「あ、あたしも…」

「…悲しい…しかしそれもまた一興だ…」

「変人を絵に描いたような雰囲気だどー」

「あのさ、そんなことを話しに自分たちは集まったわけじゃないだろう」

 呆れた様子で泊君は頬杖をつく。

「自分たちはこの悪魔分校の探索をするために集まったんだ」

「それは承知してるわ…」

「わしももちろん」

「…あ、すまねぇ、話聞いてなかった」

「今からこの校舎内の探索をグループに分かれて行う。グループは自分が決めておいた」

「仕事が早いですね」

「…ここにいる生徒たちをまとめられるのは自分しかいない…って勝手に思っただけどけどな…」

「で、グループはどうなってるの?」

「亜麻崎君、伊野君、相模君は西側の1階2階。江吉良さん、狩切さん、狂来さんは西側の3階。夕道さん、四十万さん、七井さんは東側の3階。邑田君、紫神君、最上君は東側の1階2階。そして自分、泊金人と、空閑君、水宮さん、蒼城さんが北側の1階2階」

「おー、よろしく頼むで」

「任せとき、しっかりと髪を切ってあげるから」

「た、探索じゃないのですか…」

 江吉良さんのグループは少し心配だ…。狂来さんが一番頼れそうだ。

「よろしくな」

「お願いします。あ、猫派は嫌いです」

「え、ワイのこと…? こ、怖い…」

 こっちは亜麻崎君のグループ。相模君がまともそうだし、おそらく上手くやってくれるだろう。

「鉄伽さん、入弥さん、頑張ろうね」

「よろしくね! 楽しみだなぁ!」

「…え、何が?」

 こっちは夕道さんのグループ。超高校級のスタッフである夕道さんがいるし、心配はなさそう。

「よーし頑張るどー」

「ついに俺の真の力を開放するときが来たみたいだね…」

「真の力? まさか、ビームでもうてんのか!?」

 えっと、こっちは最上君のグループなんだけど…。大丈夫かな。

「ということで、よろしく。空閑君」

「あぁ、うん、よろしく」

「空閑君と泊君の二人と一緒かぁ、とっても頼れそうだから、頼らせていただくね!」

「え、最初から他力本願する気満々じゃないか…」

「…」

 最後にここは泊君のグループで、僕もその中の一人。

「ところでさ、このメンバーにした基準ってあったりするの?」

「…いや、男子は男子で、女子は女子で固めただけ。後は余った4人を一緒くたにするだけだし」

「じゃあ別のグループのメンバーも適当?」

「そういうことになるね。明らかに混ぜたら危険とも言えるグループもあるみたいだし」

「あたし心配になってきたよ…」

「…まあ安心して大丈夫だと思うけどね…」

 泊君の適当なメンバー決めに多少の不安はあるが、謎に大丈夫な気がするのは僕も同じだ。

 僕と泊君の思考は似ているようだ。

 …泊君を見ていると何だか不思議な気持ちになってくる。そう、なぜかわからないけど、少しだけ懐かしさも感じる。泊君とは初対面のはずなのに…僕が感じているこれは何なんだろう。

「どうしたのかな、空閑君」

「え」

 つい見入ってしまっていたみたいだ。

「自分の顔に何かついてるかい」

「いや、何もついてないよ!」

 そう返した。泊君は不思議そうな顔でこちらを見つめる。

「じゃあ早速探索に行こうよ」

 水宮さんは先にスタスタと歩いていく。相変わらず無表情な蒼城さんも、数秒後に水宮さんの後を追うように歩いていく。二人に続いて僕と泊君も歩き出した。

 

 

 

「北側には保健室と職員室があるみたいだね」

 北側の1階は保健室、職員室、端には事務室などがあるみたいだ。

 2階には会議室が複数ある。どうやら北側は教員が主に使用する部屋が多いらしい。

 そして僕たちがいるのは職員室だ。部屋の大半が山積みの書類が置かれたデスクだ。しかし、誰一人として教員はいない。もちろんここは檻の中だから。

「うわ、デスクの上汚いね」

「中学校の職員室もこんなだったよ」

「…そのまま人だけ消えてしまったみたい」

 人がいないことを除けば、普通の職員室だ。しかし、その人がいないことが異常すぎるのだ。

「疑問に思うなぁ」

 突然泊君が口を開いた。

「え、何が?」

「この悪魔分校ってのは、あのモノクマってやつが用意したコロシアイ生活の舞台のはずだ。なのに、こうして目の前には至って普通の職員室がある。教師が誰もいないこの世界で、こんな職員室をわざわざ作る必要があったのかな」

「言われてみればそうだね」

「より本物の学校ぽく見せる演出とか?」

「あんな性格のやつがそんなことするかな…」

 職員室の存在はたしかに謎だが、それなら、会議室だって謎だ。保健室はけがをした時に手当てをするためにあるんだろうけど、会議室なんて絶対必要ない。

 考え込んでいると、誰かが横をすっと過ぎていった。

 その主は目の前にあるゴミ箱をあさり始めた。

「あ、あの…蒼城さん…?」

 僕の声にかまわず、彼女、蒼城さんはゴミ箱をあさる。

「…捜査は捨てたゴミから……」

 え…。小さい声で彼女はたしかにそう言った。

 捜査は捨てたゴミから…。その言葉って…。

 トンと肩をたたかれて、僕の思考は停止し、また引き戻される。

「…これ」

 蒼城さんはそう言って、紙切れを差し出してきた。

 困惑した。何かよくわからない紙切れを渡されていることに。

 おそるおそるその紙切れを受け取ってみてわかった。そうか、ゴミ箱から見つけたものだったのか。どうやらこの紙切れは新聞紙の一部のようだ。

 

「―――脱—————生――者は―――――」

 

 ただ、ほとんど読めない。まわりは破り取られているし、文字の至る所がシミで汚れていて読めやしない。見た感じは何の役にも立たなさそうだが、なんとなくこの新聞の切れ端は何か重要な情報を持っているような気がしてならなかった。僕の推理作家としての勘が「何かある」そう言っていたのだ。

「何だ、その紙切れ」

「あぁ、どうやら新聞紙の一部みたいで」

「でも破れてるし、シミも多くてほとんど読めないね」

「何かの記事みたいだが…。ここから何かを読み取るなんて不可能だろう」

「うん…でも僕の勘が言ってるんだよね。この切れ端が後で重要になってくるって」

「…あたしは空閑君がそう思うならそれでいいと思うよ」

「自分もそれでいいと思うよ。何だかわからないけど、君に任せてると上手くいく気がする」

「ありがとう」

 自分が信用されている…。こんな感覚……。

 

 あれ…。

 

 こんな感覚…。

 

 前もどこかで…。

 

 …。

 

 僕は考えるのをやめた。

 

 僕の脳みそが考えることをやめさせようとしてきたんだ…。

 

 危険信号を送っている…。

 

 怖い。

 

 僕は首を振って、

「さ、次の探索行きますかっ!」

 奇妙なくらいの陽気な声で、自分でもびっくりするくらい陽気な声で3人に言った。

 




どうも、忙しいMOGIぴーです。
みなさん外出自粛期間はどうされていましたかね。俺は遊んでました()。
久しぶりの更新ですね。早く裁判パートが書きたくて、進めてます。
次の更新もいつになるかはわかりませんが、よろしくお願いします。


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(非)日常編 Ⅲ

 北側の探索を終えた僕たちは東側へ移動し、そこの担当のグループと合流した。2グループとも既に探索を終えていて、ここで待機していたという。

「1階2階とも普段生活する教室がこれでもかってくらいズラっと並んでたどー」

「3階は科学系統の教室ばっか。入弥、つまんない」

「薬品倉庫にはドクロのラベルが貼られた小瓶が沢山あったよ」

「ど、毒…?」

「…こんな状況だし…毒薬があってもおかしくないどー」

 東側はクラスルーム棟兼理科棟になっているようだ。たしかに向こうまで教室が続いている。

 

 昼になった頃、僕たちは西側のグループと合流した。

「3階は美術室や音楽室、それからパソコン室もありました」

「1階も家庭科室とかいろいろあったぜ。この突き当りは物置になってるよ」

「この上は?」

 泊君が階段を指さして言う。

「階段のすぐ脇に書庫みたいなのがありますよ。図書室と言ってもいいかもしれません」

「そういえば」

「え、どうしたの? 狩切さん」

「うん、3階に一つだけ開かない扉があってさ」

「開かない扉…? 金庫とか?」

「モノクマに訊いてみたらわかるんじゃないのかな」

「ボクに何か用?」

 僕が言い終わった瞬間、突然モノクマがどこからともなく現れた。

「うわぁ!?」

「ひどいなー、そんなに驚くことないでしょ空閑君!」

「そ、そんなことより…。開かない部屋があるらしいけど、なんなの」

「えー、秘密だよ。言っちゃったら面白くないからね、うぷぷ。ていうかさ、ボクを呼び出すなら電子生徒手帳からできるんだけど」

 え? すぐに僕は電子生徒手帳を取り出して電源を点けてみた。

「ホーム画面の『アラーム』の下に『モノクマ呼び出し』っていう項目があるでしょ。それ押してくれたらすぐすっ飛んでくるからさ、今度からはそれで呼び出してよねクマ」

 ホーム画面にはたしかに「モノクマ呼び出し」という項目がある。いや、普通に声で呼んでも飛んでくるじゃないか…。いや、むしろそっちのほうが手っ取り早いまであるよ。

「これアラームついてたんか、知らんかったわ~」

「あぁ、それ使っても使わなくてもどっちでもいいよ。バイブが欲しいなら、使えばいいよ」

「バイブ付きかよ。ったく、携帯電話じゃあるまいのによぉ」

「電話もできるクマよ」

「本当にできるみたいですな…」

 妙に使い勝手がいいのがちょっと腹立つ。

「てことで、今度からは電子生徒手帳使えよ。アディオス」

 そしてまた姿が消えた。

 

 ドタンバタン!

 

 突如耳に飛び込んできたのは何かが床に落ちたような音だった。

「上から聞こえてきたけど…」

 狩切さんが言うと、泊君が真っ先に階段を駆け上がり始めた。僕もそれを追う。

 階段を登り切って左側から光が漏れている扉があった。さっきの音はこの中のようだ。

 泊君は勢いよく扉を開けた。

「いってて…」

「い、伊野君…?」

 そこにはお尻をさすっている伊野君の姿があった。

 そばには脚立…。どうやら、脚立からバランスを崩して落ちてらしい。

「おい、大丈夫かよお前」

「…あ、あぁ…。ちょっとバランスをね…」

「危ないですよ! 頭から落ちてたら死んでますよ?」

「それにしても…本が多いね…」

 見渡してみると、かなりの数の本棚が並んでいる。

「さっき言ってた書庫ですよ。まぁ書庫と言っても、最初はただの物置だったところに沢山本を移しただけだろうけど」

 壁と本棚のデザインがマッチしていないことから、一目瞭然だ。

「伊野君は脚立なんか使って何してたの?」

「ワイか…? その本棚の上に置いてある本が気になったんだよ…」

 そう言われて、全員の目は本棚の上に注がれる。

 そこには周りとは明らかに雰囲気が違う、分厚い本が置かれていた。

「背表紙に…『希望ヶ峰学園事件ファイル』って書いてあるんだよ…」

 希望ヶ峰学園事件ファイル…?

「事件ファイル…? しかも希望ヶ峰学園の…?」

「何か不祥事でも起こしてたのでしょうか…」

「ふむ…」

 わざとらしくつぶやいた泊君は颯爽と脚立を上り、颯爽とその本を持って降りてきた。

「見たほうが早いだろう?」

 泊君は適当なページを選んで開いた。

 

 〈File.16 叶能学園本校生徒会11人惨殺事件〉

 〈File.17 叶能学園闇光分校男子生徒転落死事件〉

 〈File.18 ホープエクスプレス脱線事故〉

 〈File.19 叶能学園予備学科生連続失踪事件〉

 

「な、なんだよこれ…」

「…おそらく、希望ヶ峰学園やその姉妹校である叶能学園、それに関する事件事故が全部これに記載されているんだろう」

「物騒すぎねーかこれ…。特に生徒会惨殺事件なんて…普通じゃねぇだろ…」

 生徒会11人惨殺事件…。名前だけで恐ろしさが嫌というほど伝わってくるのがわかる。

 事件名の下にはその事件の起きた時期と時間、被害者の名前など詳細が事細かに記されている。

「転落…事件…」

 夕道さんが震えた声で呟いていることに僕は気づいた。表情もうかがってみると、強張っているのがわかる。だが、下を向いてしまい、表情は分からなくなった。

 僕はこの時何かを感じていた。嫌な予感なのかもしれない。妙な胸騒ぎ。ひょっとしてこの本は……”コロシアイをさせるために置かれている”のか…?

 

 

 学園内を一通り調べ終わった僕たちは再び食堂に集合した。特にすることも無さそうなので、泊君の提案で自由行動となった。

 自由行動とは言うものの、僕はあまり動こうとは思わなかった。もちろん、まだこの非日常的な生活に慣れていないこともある。しかし、先ほど目にした謎が僕の頭から離れてくれないのである。他のことを考えている余裕はない。

 その謎というのも、例の希望ヶ峰学園事件ファイル、それから職員室で見つけた謎の新聞紙の一部。希望ヶ峰学園事件ファイルには、僕らの記憶の中にもある、希望ヶ峰学園での事件が発端である「人類史上最大最悪の絶望的事件」を筆頭に数々の事件や事故が記載されていた。その事件が収束したのちに、希望ヶ峰学園はリニューアルし、現在は日本各地に姉妹校、兄弟校、分校を置いている。叶能学園もその一つだ。しかし、そんな事件がまとめられた書物がこの叶能学園の分校に置いてあるのは不自然だ。

 新聞記事の一部と思われる紙切れに関しても、情報を得ることは全くできない。

 というようないつまでも答えの出ない謎を繰り返し考えていた。三十分ほど。

 考えても無駄か。結論にたどり着いた僕は、そこで思考をやめ、特に意味もなく校舎の西側へと歩いた。何を考えるでもなく、ただひたすらに足を進めていると気づいたときには突き当りの物置の前までやってきていた。何気なく物置をのぞいてみると、そこには亜麻崎君がいた。

「亜麻崎君」

 僕は声をかけてみた。声に反応して、彼は僕のほうを振り返る。

「おぉ、空閑」

「何してるのこんな物置で」

「いや、少し思い出にふけってただけだ」

 そう言って再び明後日の方向に顔を動かす。

「思い出?」

「あぁ。思い出って言っても、大していい思い出じゃねぇ。むしろかなり悪い思い出だ」

 少し意外だった。このメンバーの中で一番強そうな亜麻崎君が…。

「…何か、唐突にお前にこの思い出を話したくなった。こっち来い。聞かせてやる」

 本当に唐突だな。

「あ、はいじゃあ遠慮なく…」

 僕は箱の上に腰かけている亜麻崎君の隣に、箱を持ってきて座った。

「…お前は最初にオレのことを見て、才能を知って、どう思った」

「ど、どうって…?」

「他の奴らは将来有望な、まぁ素晴らしい才能であふれてる。だが、オレに与えられた才能は『超高校級の当たり屋』だ。世間一般的に認められた才能じゃねぇんだ」

「…」

「確かにオレは中学の時から当たり屋をやってたさ。オレには当たり屋の才能があるって、自惚れてた。当たり屋を始める前から大分荒れててな。家庭環境も最悪だった。まぁいろいろあって中学を中退、んで当たり屋になったわけだ」

 家庭環境、か…。

「あの頃は自分自身も荒んでた。当たり屋の才能があると勘違いしてた時期があったのも、その荒みが原因だよ。高1のときだったよ、自分がどれだけ社会から不必要とされているか、自覚したのは」

「…」

「中学の時の親友にばったり出くわしたんだ。…それだけならオレが自分の荒みを自覚するには至らなかっただろう。でも、その親友は刑事を目指して猛勉強をしてる最中だったんだ。オレとあいつは中学まで同じ場所にいたのに、いつの間にかあいつがオレよりずっと上を進んでいた。あいつは夢に向かって励んでいるってのに、オレは何だって。オレは悪事で今を満足してるだけの愚か者じゃねぇかって気づいたのさ」

 亜麻崎君の声は震えていた。

「だからオレは自分を変えようと思った。当たり屋をきっぱりやめて、今まで遅れた分を全て取り返す勢いで勉強したんだ。そう、この希望ヶ峰学園に通うために。その結果、希望ヶ峰学園からスカウトされた。だが、才能の肩書は当たり屋だって…。一度は肩を落としたよ。あの希望ヶ峰学園からもそう認識されてしまっていたことにね。でも、そこから努力して印象を変えてやるんだっていう親友の助言で、ここまで来たんだ。それなのに、こんな意味の分からねぇゲームに巻き込まれて…」

 言いたいことを全部吐き出したのか、亜麻崎君の声は途切れた。そして、はっと我に返ったかのようにこちらを見る。

「すまねぇ。いろいろと…」

「大丈夫。…僕だって、その、荒んでた時期があったから、その気持ちは痛いほどわかるよ」

「お前もあったのか」

「いろいろとね。いっそ死んでやりたいなんて思ったこともあったよ」

「…でもお前は推理作家としてこうしてスカウトされてる。オレよりずっとましさ」

「そんなことないよ!」

 僕は慌てて否定する。事情は僕と似通ったところがあるけど、勇気や実行する力に関しては彼のほうが断然上だ。

「なんだか気が楽になったぜ。ありがとな」

「あ、うん、どういたしまして」

「今度機会があれば、お前の話も聞かせてくれよ。もちろん気が進んだらの話だが」

「わかったよ」

 僕はそう言って物置を後にした。

 



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