あなたと奏でる物語 (Clear2世)
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初投稿です(ラブライブ作品は)よろしくおねがいします!!!

虹ヶ咲同好会の話がもっとみたい。
アニメが放映すればもっと増えるだろうけど、我慢できず書きました。
いっぱい虹ヶ咲のSSが増え続けるまではがんばります……多分。

そんなわけで虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の作品持っと増えろ。増えて。書いてくださいなんでもしますから!


夕焼けの赤く染まった日差しが、窓から差し込み室内を赤く照らす。目の前にある書類の束からわずかに上へと視線を壁時計にやると、時刻は17時を回ったところだった。

開けきった窓からはなんらかの運動部が活動しているようで、掛け声やら叫び声が聞こえる。

青春ですなぁ……朝から授業がぶっ続けであったのにも関わらず、元気なこって。うちの学校は文化部も運動部も力を入れていて、部によっては全国、関東大会常連だったりするしな。

中学時代、サッカー部所属のチャラ男が女子に「俺って、サッカー部のキャプテンなんだ!関東大会ベスト8まで行ったことあるんだぜぇ」なんて自慢げに言っていたが、俺は思わず「でも全国には行けなかった」と言ったら黙り込んでしまった。

真実は常に残酷なのよね。

 

それはともかく、俺の目の前に置いてあるサッカー部の活動報告書なわけですが……練習試合、遠征の回数を増やし強豪校との練習試合を増やす事でレベルアップを図りたい……と。

 

「却下じゃ」

 

否認用のケースに用紙を放り込む。

レベルアップ?その向上心は褒めてやるが、おじさん知っているんだからね!てめぇらタダで遠出して、地方の女の子を漁りに行こうって魂胆わな!!この間サッカー部のまともな後輩から聞いたんだからな!

その後輩君には昼飯奢った&サッカー部を退部してフットサル部に転向した方がいいんじゃないかと進めました。

うちのサッカー部、まだ男子が少ないせいかめっちゃ弱いのよね。

正直無所属の俺の方が上手い自身ある。

幼馴染からも一年の時に参加した球技大会のサッカーで、「あなたのシュート見惚れちゃった」なんて言われたぐらいだし。

ハットトリックなんてワイに掛かれば完食前さっ☆

ていうか、そんなことする前に普通に練習する方が良い思うけどなぁ。弱っちいサッカー部のでさえ、練習機材や設備は十分すぎる程整っているし。

他の学校から見たら物欲しそうに指加えて見てくるぞ。

 

 

 

 

「……やっぱり、まだ残っていたんですね」

 

1人黙々と書類作業を熟していると、入り口に一人の女子学生が立っていた。

やや小柄な身長。眼鏡の奥からこちらを見つめているパッチリとした瞳にモデルと思われてもおかしくない程に整った顔立ち。全体的にやや小ささ&幼さを感じさせるが、出るとこ出て引き締まっているそのスタイルは、密かに話題に上がっていたりする……らしい。

ぶっちゃけると美少女がいた。

 

「それはこっちの台詞ですぜ会長。会長こそ生徒会長なのに残っていていいんですかい?」

 

「生徒会長だからこそですよ。総悟さんこそ帰らなくていいんですか?」

 

そう。彼女が俺の通う学園、虹ヶ咲学園生徒会長。中川菜々である。

……あ、俺は虹ヶ咲学園2年生生徒会役員会計兼書記の兼副会長の仲橋総悟です。

そう3つ役職を兼任してます。去年まではもう一人が会計の3年がいて、俺が書記だったのが引き継ぎの時に俺へと引き継がれ……そして同じく3年の副会長引退時に俺へ役職を押し付けてきた。

なんでかって?去年の選挙で立候補者がいなかったからだよ。俺一人で捌き切れると判断した生徒会顧問がそのまま俺を兼任にしやがって……今に至る。

その分恩を売ってると考えりゃいいけどさ。

 

「今日中までに処理しておかなきゃいけない申請書があったから。ホントは午後の内に片しておきたかったんだけど……」

 

「あー……総悟さん人気者ですしね。今日もまた何処かの部活に?」

 

「今日はバスケ部。ったく、俺は部に所属する気はないと何度も言ってるってのに」

 

束になっている書類を手にし、察したような顔を向けてくる。

人気者かどうかは知らんけど、毎度俺の手が空いている時、ここぞとばかりに様々な部の連中が俺を呼んでくるのだ。それこそ部のカテゴリーを問わずに。

 

「……ちなみに、女子バスケ部の方ですか?」

 

「ん?そうだけど、それがどうし――――待って。肩パン地味に痛いんだけど。その拳下ろしてくれませんかね?」

 

何かが彼女の気に触ったのか、右肩を殴ってくる。

ふくれっ面で事に及ぶ姿はかわいらしいのだが、普通にいてぇ。ハッシーこのままだと肩が上がらなくなっちゃう☆

……や、今のキモイからなしね。

 

「むーっまた女の子ですかっ」

 

「またってなんだまたって。人をタラシのように扱うんじゃありません」

 

「だってそうじゃないですか!昨日も一昨日も女の子達と楽しく汗を流していましたし!」

 

なんでこの会長といい、ドイツもコイツも人の事を俺の近くには必ず女子が近くにいるみたいな事を言ってくるんだ。

俺は悪くねぇぞ。色んな人と仲良くなっておけば、コネとかパイプとか繋がりができるわけじゃん?

ヒトとの繋がりは大事って創作の中の人が言っていたような言わなかったような気がする。

 

「や、あれは練習を見てくれって言われただけだし。てか、女子だけじゃなくて男子の方も付き合ってたんじゃが……」

 

「私がひとり寂しく、山の様に積まれた書類にひとり寂しく向き合っていたと言うのに……あなたは色んな女の子に囲まれて楽しくしていたなんて……」

 

「……聞いてねぇ(なんで2回言った)」

 

……出ました。会長十八番の暴走モード。

この会長割となんでもそつなくこなす(印象があるだけ)タイプなのだが、今のように一つの事に気を取られ周りが見えなくなる時がある。

 

「ふふっそうですよね。こんな狭い空間で私なんかと一緒に過ごしたくないですよね総悟さんだって男の子ですからたくさんのかわいい女の子に囲まれている方がいいですよねでも私だって女の子なんですから少しは見てくれてもいいじゃないですそれよりいつまで私の事会長だなんて役職名で呼ぶんですか名前で呼んで下さいって随分前から言っているのに未だに苗字すら呼ばれた事ないんですけどもしかして私誰にでも呼ばせるような軽い女だと思われてますそれは心外心外ですっ前々から思っていましたけど総悟さんは女心がわかっていなさすぎですこれは会長権限を行使して総悟さんを」

 

……今日の会長モードはいつにも増して凄まじいな。

早口すぎて何言ってるか聞き取れないけど、会長が快調なのは良く分かった。

……今のもなしね。あーもう。あのダジャレ好きギャルのせいでこっちまでしょーもない事を思いつくようになってしまったじゃねーか。

それはさておき、今はこの壊れた会長を直さないと。

 

「斜め45度っと」

 

「ひゃっ!さ、触りましたね!?同年代の男の子に頭を触られるなんて○娠したらどうしてくれるんですかっ!責任とってお嫁になってくれるんですかっ!あ、お嫁になってくれればもう会長って呼べないですもんね!よしっ、では思う存分私に触れて下さい!!」

 

やべぇ、角度間違ったかもしれねぇ。

なんかキャラ崩壊と言うのが生ぬるく感じるくらいに目の前から圧倒的狂気を感じる。

……初めて会った時の会長に対する第一印象は【なんでもそつなくこなすぜ才色兼備なやや近寄りがたい堅物生徒会長】みたいな印象だったのが、今となっては【なんでもそつなくこなせるように見えて、時折全速前進で暴走しだす人懐っこい生徒会長】である。

それに、この会長サブカルチャーが趣味だったりする。

両親共に厳格な方らしく、家では漫画やアニメと言ったものは置けず、この生徒会室に隠し置いていたくらいだ。

そのことを知っているのはどうやら俺だけで、両親はもちろん他の人にも知られたくないとのこと。

まぁ、誰にだって隠したい事の10個や100個あるだろうしね。俺だってそうだしな。

 

 

「30度でいってみよう」

 

「いたっ……あ、あれ?総悟さん?…………わ、わひゃぁ!?ち、ち、ち近くありませんか!?!?」

 

正気に戻ったと思ったらとんでもない速さで引かれた。

………めっちゃ傷つくんだが。

 

「菜々さんや。いくら俺の顔が顔面偏差値40低だからってそんなに拒否反応示さられると……ちょっとそこの窓から羽ばたきたくなるじゃない」

 

「ま、待ってください!色々と誤解ですから早まらないでください!総悟さんのお顔綺麗で優しそうな雰囲気ですし、私は好きですから!……あれっ?それよりも今私の事菜々って……」

 

「はいこれはしょーにん。よーし、全部片付いたー!んじゃ、菜々会長。お先失礼するわ。鍵の返却よろしく」

 

「あっ、はい……お疲れ様です」

 

心残りもないし、帰るとすっか。

生徒会室を退出した後、なんか歓喜の叫び声が聞こえた気がするが、聞こえなかったことにしよう。

あ、俺って基本異性の事名字呼びの人だから。

会長……菜々とは生徒会繋がりで一年近い付き合いだから、さすがに名前で呼んだほうがいいかなーと思ったからね。

そんだけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仲橋せんぱーい、おつかれさまでーす!」

 

「先輩ー!今度はうちの部にも見に来てくださいねー」

 

「仲橋ー!!たまにはこっちにも顔出してくれよー!あとこの間借りた3000円明日返すわーーー!!」

 

「仲橋、気を付けてかえれよー。寄り道すんなとは言わんが、嫁さん困らすことはするなよなー」

 

校内から出て、校門まで歩いていると色んな生徒から声がかけられる。

その層は男女部活年齢問わずだ。

この一年、生徒会で色んな部と関わったりしてたからなぁ。実は特待生で入学していることもあり、教師からは割と期待されていたりする。

こう見えてもおじさん、勉強できますからね。勉強嫌いだけど。

 

「おーう、おつかれさーん。んじゃ、明日遊びに行くわー。せんぱーい、では明日借金の取り立てに行きますからねー!それとその台詞昨日も聞いたきがしまーす!先生!俺ぁまだ先生と同じく独り身でごぜーますよー」

 

ホントはお金のやり取りはしないほうがいいんだけどね。金銭のトラブルはホントめんどいから。

まぁ、貸す人は選んでるし、貸すことあっても一度だけだけど。

昨日聞いた台詞をついさっき言ってた先輩だけど、根は真面目だからそこは心配していない。変態だけど。

余計なお世話だー!と声を上げている三十路手前の先生(女性)

人をからかう暇があったら、婚活に励めと言いたい。そんなんじゃ、婚期を逃しま――――せんよね?なんか今、後ろからとんでもない殺気が向けられた。先生がいた方角から放たれた……気がする。

ニュータイプかな?

 

 

 

 

 

 

「あっ……総くーん!」

 

脳内を読み取る先生にも知らずうちにゴ〇ゴ化としていた自身に恐れオノノクスしていたら、前から手を振りこちらに向かってくる女生徒が一人。

この学園内で……いや、その名で俺を呼ぶのは一人しかいない。

 

「歩夢か。今帰りか?」

 

「うん。あなたを待っていたの。総くんってば、ずっとメッセージ送っていたのに、見てくれないんだもん。てっきり、帰ったかと思っちゃった」

 

「マジでか。気づかなかった。……おい、歩夢。お前、メッセ送ったの30分近く前じゃねぇか」

 

「え?そうだけど?」

 

「や、30分も返信なかったら、先帰るだろフツー」

 

「うーん……そうかな?」

 

「そうだよ。……とりあえず帰るか」

 

「うんっ♪」

 

そう笑顔で返事をし、隣に並ぶ。

上原歩夢。かれこれ10年近く付き合いのある同い年の女の子。いわゆる幼馴染ってやつだな。

見た目よし、性格よし、女子力高し、性格よし。幼馴染でなければ、間違いなくお近づきになれないくらいに良い子だ。

幼稚園、小、中と同じ学校で同じクラスで、高校となった今でも同じ学科で同じクラス。どんな確率だよ。

登校時はほぼ毎日一緒で、下校時もこうやってたまに帰宅するくらいには仲が良い。…………良いよね?

実は俺がギャルゲーの世界の主人公なんかではないかと思っちまうくらいだわ。ていうか、たまに同級生から言われたことがあるくらいだし。や、役者不足もいいとこっしょ。

主人公とか勇者とかになるくらいだったら、俺は村人Aとかでいいや。村にやってきた勇者に「ここにはなにもない、まっさらな村じゃ」とか言って一生村に引きこもっていたい。

 

 

「ねぇねぇ。今日っておばさん帰ってくるの遅いんだっけ?」

 

「あぁ。今日も母さん朝から仕事で帰るのは10時過ぎだってさ」

 

「なら、お夕飯作りに行ってもいいかな?」

 

うちの両親……てか、母さんは夜遅くまで働いている。アパレルショップの定員だ。それなりに有名所に勤めているようで、週5、6で働くくらいには忙しいようだ。

親父は俺が幼稚園に上がる前か上がった後かは忘れたが、そんくらいに離婚している。

なので、仕事で忙しかった母さんは自宅にいることは多くはなかった。

家がお隣同士である上原家とはどうやら、母同士が学生時代からの親友だということもあり、俺が上原家に預けられることも多く、今では家事力もあり世話焼きとなった歩夢がこうして足を運んで飯を作りに来てくれるというのだ。

ギャルゲーかなんかかよ。

 

「お、いいのか?歩夢の飯はめっちゃ美味いから、こっちとしてはありがたいけど」

 

「いいのいいの。遠慮なんてしないで、幼馴染なんだから。腕によりをかけて作っちゃうんだから」

 

そういって腕をまくって、むんっと力を入れてアピールをする。その細身の腕に力こぶなんて作れはしない。

かわいい。

 

「それに、総くんおばさんがご飯用意してないと、カップラーメンとかですませちゃうでしょ」

 

「……ソンナコトナイゾー」

 

「すっごい棒読み!もうっ、そんなのばかり食べてたら栄養が偏っちゃうよ」

 

「大丈夫だ。ラーメン食ったら次はカップ焼きそばとかカップスープとかにして、週休制とってるから!」

 

「そういう問題じゃないよぉ……ふふっ、総くんってばほんとしょうがないんだから♪」

 

何が嬉しいのか、鼻歌まで歌い始める。

隣を夕日に照らされながら楽しそうに歩く歩夢はこれまで数えきれないくらい見てきた。

ほんと飽きずに俺なんかの為に自分の時間を割いてまで……何度考えても俺にはもったいないくらいの幼馴染だよなぁ。

俺の知ってる幼馴染というのはその人のスペック次第で態度を別人のように変え、幼馴染が一世一代の告白をしてきても、あなたと幼馴染ってだけでも人生の汚点よ!と言って壮大に振るといった感じなんだけどな。

やべぇ、歩夢にそんなこと言われたら死にたくなるわ。翌日、生徒会室で首を吊る未来が見える。

 

「それじゃあ、スーパーに寄って行っていいかな?総くん家の冷蔵庫朝見たとき空っぽだったし」

 

「そうだっけか。母さん、昨日買い出し行くっつってたのに、忘れやがったか」

 

こんなこと言っても、歩夢に言われるまで把握してなかった俺が言うのもアレだけど。

 

「じゃぁ、行くか。お財布と荷物持ちは任せろー」

 

「あ、お金なら大丈夫だよ。おばさんから今日の朝受け取ったから」

 

「え、そーなの?…………ちょっと待て。ってことは今日最初からそのつもりで……」

 

「……勘のいい総くんも好きだよ」

 

そこは嫌いじゃないんだ。なんとも優しい歩夢らしいが。

つーか、このくらい勘が悪くてもわかるだろ。

 

「何か食べたいものとかある?ハンバーグがいい?それともカレーがいいかな?」

 

「そのチョイスならハンバーグカレーかな。あ、おかしは何百円まで?」

 

「300円まで……といいたいとこだけど、総くんが買いたいのって、あのちょっと高いボトルガムでしょ?」

 

「よくわかったな……前買ったのが切らしちゃってなぁ」

 

「幼馴染だもん。総くんのことならなんだってわかるよ」

 

幼馴染ってすげーなー。

俺だって歩夢の幼馴染だけど、なんでもはわからないな。知ってることだけしかわかりません。

 

 

 

 

……そんなこんなで、歩夢と地元のスーパーで買い物した後、一緒にハンバーグカレーをメインに作りましたとさ。

あ、俺自分の分だけ料理を作るのがめんどいだけで料理ができないわけじゃありませんから!

 

 

 




あなた 虹ヶ咲学園2年生。普通科の特待生。高いコミュニケーション能力と文武両道な男子高校生。
後輩からは懐かれ、先輩からはかわいがられ、同級生とは幅広い交友関係を築いている。教師、生徒からの信頼も厚く次期生徒会長候補として噂されているが、本人は生徒会長になる気は全くない模様。

↑がスクスタ風プロフィ。
↓からはこの小説風

仲橋総悟。スクスタでいうあなたちゃん的なポジション。あなた君かあなた様か……とはいっても、性別は違えどスクールアイドルの子からはあなたと呼ばれるのはおそらく共通。
アニメ公式発表絵のあなたちゃんはかわいいが、この主人公はかわいくない。顔面偏差値は58くらい。
現状、先生から信頼されてるように描かれているが、「仲橋は成績も良いし、授業も真面目に受けてるし、優等生ではあるんだが……たまにとんでもないことを言ってくることがあるからな……」と先生からの評価はこんな感じだったりする。
前副会長曰く、「中川さんを支えられるのはあなたしかいないの!」と妙に含みのある言われ方をしてそのまま、副会長の肩書も入手することに
過去に生徒会所属をいいことに、好き放題学園祭やら体育祭やらイベント毎を盛り上げるために、引っ掻き回した経験有。
なお、生徒には大変受けがよかったこともあり、それを含めて生徒からの人気もあったりする。


生徒会長 中川菜々……いったい、何せつ菜なんだ……?スクスタの事前情報で虹ヶ咲学園の所属スクールアイドルをリサーチしていた方なら、ストーリーの一章で彼女初登場と同時に正体がすぐわかったであろう。
この小説では既にあなたくんにアニメ好きなのが知られている。……が、まだ正体は知られていない。
主人公もアニメやらゲーム等好きな為、漫画の貸し借りやラノベの感想などを話し合ったりと関係は良好だったりする。
ちなみに、生徒会室には漫画やらアニメを隠しているが、そのうちのいくつかは主人公の物も置いてあったりする。人目を忍び、生徒会室に鍵をかけて二人でサブカルチャー文化に勤しんでいたりするのは二人だけの秘密とのこと。仕事しろ。


幼馴染 控えめに言って天使。歩夢ちゃんみたいな幼馴染が現実で欲しかった……スクスタ本編ではややヤンデ――――――あなたちゃんに依存気質が見え隠れしてるけど、それでも天使だと思うんだ。
あなたくんにも変わらず、朝のお出迎え、放課後のお迎えは変わらず。好感度表記があったら、当然ながら振り切っている。
あなたくんの母親からすでに合鍵を受け取っている……が、さすがにお小遣いまでは母親が自らあなたくんに手渡し
をしている。
誰かあなたちゃん(くんでも可)が他のスクールアイドルの子とイチャコラしているところを歩夢ちゃんが目撃して、あなたちゃんからもらったキーホルダーかなんかを使って黒歩夢ちゃんとヤミ化したSSでも書いてくれていいのよ?
取り合えずもっと虹ヶ咲の作品増えろー(´・ω・`)


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番外編
トキメキのはじまり?


はい、そんなわけで待望の3年生組が全員登場する話です!





















ってんなわけないだろぇー!
そんなわけけねーじゃん!
このSSがそんなテンポ言い訳ないだろいい加減にしろ!

はい、すみません。そんなわけでサブタイから察するにアニメ回です?
アニメ回ていうか、侑ちゃん回というか……当然ながら本編とは全く関係のないお話です。
すまぬ、エマさん、果林さん。今回(君たちの出番は)ないです

※12月4日22時追記。 確認したところ、文章上部に入っていないといけない箇所がなぜかまるごと下部に入っており流れが意味不明な字の文となっていました
現在は修正しましたので、その前に読んでいただいた皆様に混乱させてしまい、すみませんでした。


「トキメキだよ!!」

 

開口一番目の前の女はそんな事を言ってきた。

新しい玩具を買い与えられ、家に帰ってから箱を開けるのが待ち遠しくて堪らない子供のように目を輝かせていた。

その隣には『ゴメン。止められなかったよ』と両手を合わせ申し訳なさそうな顔でいる少女が立っていた。

 

どちらも彼此れ10年来の付き合いだ。家はマンションの部屋が隣通し並び合っていて、互いの両親は学生からの付き合いがあり、その子である俺たちの仲が深まらないわけもなく……高2になった今も変わらず関係は良好……であるはずだ。多分。

 

 

俺達のような関係を幼馴染と世間一般には呼ばれているな。

幼馴染……それはアニメや漫画、ギャルゲーやらお子様ご禁制のむふふなゲームでかなりの割合で登場する設定だ。

物語開始時にこれでもかと言うくらいに主人公への好意が高く、朝は優しく体を揺すってくれて「おはよう。もう朝だよ〜朝ごはんできてるよー」なーんて朝食の準備もしてくれたり。

そのまま朝のお世話をしてもらった後は同じ学校へと仲良く通学し、偶然にも同じクラスでたまたま席が隣の幼馴染だった主人公君は午前中も同じ空間で時間を過ごす。

放課後はもちろん、同じ部活であろうがなかろうが下校時も当然一緒で、夕食は幼馴染と一緒に作ったり……そしてそのまま良い雰囲気になったりして食事の前に幼馴染を頂いたりする展開とかもあったり。

お風呂のアフターサービスだって当然あるさ。幼馴染だもん。

現実ではありえないようなスタイルをバスタオル一枚だけを巻き、扇情的な姿でやってきた幼馴染に背中を流してもらい、途中でスポンジで洗っていたと思っていたら実は別の物で洗っていたり……そのまままた良いムーディーになったら前もキレイキレイにしてもらったり。

長風呂でお互いのぼせ気味だけど、夜はまだ始まったばかり。主人公のベッドに腰を下ろし、二人の距離が肩がくっつくくらい近く、一つのスマホで動画を見たり。

「この恋人たちこんな事してるんだ……私たちも……する?」と風呂上がりだけが理由じゃないのぼせきった表情で幼馴染が提案してきて、そのまま幼馴染の肩を抱いて……昨晩はお楽しみでしたね!と母親から宿屋の店主みたいな台詞を言われたりなーんて。

 

とか色々と想像が膨らむあの幼馴染だ(世間一般的には)

中には主人公の顔を合わせただけでツバを吐かれたり、勇気を出して告白をしてみたら、あなたが幼馴染だというだけでも人生史上最大の汚点だわ!みたいな事を言われて振ってくる幼馴染もいるみたいだけどね?

……まぁ、今上げたものも全部創作の中の産物であるが。

 

そんな都合の良すぎる展開なんてありはしないのです。

現実は何時だってこんなんじゃないんだ!現実(リアル)は何時だってクソで妄想(バーチャル)はどんな時だっておれらの願いを叶えてくれているんだ!みたいな事をどっかの執務官みたいなやつが言っていたような気がする。

 

 

この目の前の黒髪……黒髪なのかコレ?先端が緑かかってるけど。いつぞやか本人に聞いてみたら「かわいいでしょ!トキメいちゃった?」と答えられたので、そうだねかわいいねと答えて考えるのをやめた。

こいつのトキメキ発言は今に始まったことじゃないが、未だに良くわからないので適当に流すに限る。

トキメキってなに?トキメキでメモリアルなの?トキメキがエスカレートなの?よくわかりません。

 

黒髪と仮定するとして、このツインテ幼馴染の方がさっき語った幼馴染の人種に属するかと聞かれたら、そんなことはないと言ってやる。

間違いなく美少女であるとは思うのだが……こいつの今朝の行動を振り替えて見るとしよう。

 

 

 

 

『朝だぞー起きろー!!歩夢の作ったご飯が冷めちゃうぞー。お、き、ろー!』

 

 

乱雑に掛け布団を取り去って、腹の上にダイビングし熱烈にシェイクしてきた(しかも自分ももう一人の幼馴染に起こしてもらっておいてだ)

 

『おいしー!やっぱ歩夢の作った卵焼きは最高だね!あ、総悟食べないの?じゃあ私が食べてあげる!……え?後で食べるつもりだったのにって?知ってるよー。総悟ってば好きな物を後にとっておくタイプだもんね。でもざんねーん私の目の前でのんびりしてるのがいけないんだよ〜。怒んない怒んない。ほら、私のソーセージ上げるから。はい、あーん』

 

後の楽しみにとっておいたおかずをかっさらっていきやがったり(その後もう片方の幼馴染から卵焼きを食べさせてもらった)

 

 

『……むぅ。ちょっとちょっと。何歩夢と二人で話してるのさー。私も仲間に入れてよ〜。……え?今日英単語の小テストがあるから出題範囲の確認をしてた?……そ、そっかー。それなら仕方ないね。邪魔しちゃ悪いね。うんうん。え?この単語の意味?えっと、desert?楽勝楽勝。馬鹿にしないでよね。デザート!(食後の)』

 

電車内でもう一人の幼馴染から英語の小テストについて聞かれたので、英単語帳を持った幼馴染と話していたらツインテの方が構ってちゃんオーラを出して引っ付いてきて邪魔してきたり(一応言っておくとdesertは砂漠である。デザートはdessertだ)

 

 

……あれ?もう一人の方が理想的な幼馴染じゃないか?

いや、言うまでもなかったな。彼女は天使だ。それは俺とツインテの共通認識である。

こっちのツインテの方はあれだな。幼馴染と言えども、強いていうとするなら――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。よかったな」

 

 

――――悪友だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トキメキだよ!!」

 

 

そして冒頭に戻る。

……わけではなく、場所は玄関前から移って我が自宅のリビング。

素早く判断を下し、速攻で閉めだそうとしたのだが……そこは長年付き合ってきた仲なのか、俺の行動は予測済みだったようで

 

 

 

『させるか!』←ドアの隙間にすかさず足を挟む

 

『くっ……猪口才な!』←追い返したいのに本気でやろうとすると万が一怪我されても困るので力加減を抑えている

 

『よし、今だよ歩夢!やっちゃって!』

 

『えぇ……私がやるの……?』

 

『ムカつくけど歩夢がするのが一番効果的だから!』

 

『うぅ……そ、総くん!』

 

『なんだ!歩夢もこいつにガツンと言ってやってくれ!』

 

『おねがい……ここをあけてくれないかな……?』←両手合わせの上目遣い

 

『……こふっ!(吐血)』

 

 

 

 

歩夢のおねだりには勝てなかったよ……くそぅ、歩夢を使うのはずるいだろ。昔から歩夢にはなんか弱いんだよな俺。

普段はほんわかとしてて人当たりが良く、自分の意見よりも俺ら幼馴染の意見を立てる傾向がある歩夢なのだが……今回は歩夢もウチに入る要件があった為、奴の思惑に乗ったようだが。その当人はエプロン(うさぎプリンツ)を制服の上から身につけ、キッチンにて手際よく料理している。さっき言った要件というのがコレだ。

週に何度かこうして歩夢が手料理を振る舞ってくれるのだ。俺的にはめちゃくちゃ美味いし有り難いのだが、自分の貴重な時間まで割いてもらってしてもらうのは少し気が引ける。

歩夢的には料理の勉強になるから、むしろ嬉しいと言っていたけど。食費はさすがにこちらが出しているが(俺というか俺の母親だが)

 

 

「もうね!あの時の感動と衝撃は未だかつてなかったよ!燃えるような熱い衝動がボーって湧き上がってきて、見ているだけで叫びたくなるくらいだった!」

 

 

そしてこちらの幼馴染……高咲侑はというと、テーブルの俺の対面に座りこちらに身を乗り出してくる勢いで本日起きた出来事を喜々として語っている。

こいつがここにいるのも俺と同じく、歩夢の手料理をご相伴に預かろうとしているからである。

 

 

「これまでのトキメキを遥かに上回るトキメキだったよ!」

 

「あぁ、はいはい。いつものトキメキ症候群ってわけね。あゆむー、今日のメニューは〜?」

 

「総くんの好きなクリームシチューだよー。もちろん、ジャガイモも多めにしてるからね」

 

「愛しているぜ歩夢」

 

「うぇぇっ!?も、もう……何を言ってるの。そんな……愛しているだなんて…………わ、私もあいしている……けどっ

 

「相思相愛だな。これはもう婚姻届を役所に提出するしか――――」

 

「コラーッ!私を放置してイチャつくんじゃなーい!それに歩夢は私のだから!総悟にだって渡さないんだからねっ」

 

「ちょ、侑ちゃん。今はお料理中だから危ないって……」

 

 

後ろから抱きつきにかかる侑を注意する歩夢だが、満更じゃなさそうな上にやめろとは言っていない。

火もちゃんと止めている辺り、嬉しいのは違いないな。

あまりにも仲が良すぎる為中学時代、この二人がデキているんじゃないかと一時期噂されることもあったな。本当に噂が立っていただけで、そんなことはなかったみたいだが(実際に本人たちに聞いてみたら、そんなわけないじゃんと顔真っ赤にして半ギレ気味で言われた)

 

 

「スクールアイドルねぇ……そういやニジガク(ウチ)にも同好会があったな」

 

「そう!そうなんだよ!優木せつ菜ちゃんって言うんだって。ほらほら、この動画がね――――」

 

そう言って今度はこちらにやってきて、身を寄せるようにしてスマホの動画を見せてくる。

その際にキッチンから「優木、せつ菜ちゃん!?」と悲痛染みた声が聞こえた。恐らく自分は呼び捨てなのに、ポットでの輩をちゃん呼びかなとはどういうことなの!とかそんな感じだろうか。

 

 

頬がお互いくっつく程の距離で動画内のスクールアイドルの事を楽しそうに説明をする侑。

やたらめったらトキメキがどうとかのたまって騒いでいるツインテは高咲侑。快活で頭で考えるよりも手が出る行動派タイプで、相手の求めている事を自然と行動できるコミュニケーション上手なクラスに一人はいるムードメーカーな奴かな。

 

俺、歩夢、侑の三人は幼稚園の頃からの付き合いがある。幼稚園、小、中、高からずっと同じ学校を通っていた。ずっと3人同じクラス……というわけではないが、遊ぶ時はだいたい三人セットでいることが多かった。

さすがに高校生になってからはお互いに人間関係やら勉学やら学園行事などで一緒にいる時間は減ったが、こうやって今日みたいに三人で飯を食ったりしている。

 

 

「はーい、付け合せの切り干し大根だよー」

 

「おっ、美味しそう!いただきまーす!」

 

「おい、それ俺の分だろうが」

 

「細かいことは気にしなーい。むぐむぐ…………うんまーーーい!歩夢!私のために毎朝お味噌汁を作って!」

 

「えっ!?う、うん。侑ちゃんが望むなら……いいよ」

 

どっからツッコメばいいかわからんかったので、いただきますと一言言い俺も頂くことにする。

侑の野郎が俺の皿から持ってきやがったので、俺も侑の皿から取る。

細かく切り刻まれた大根と人参それに油揚げを箸で摘んで口にひょいと入れる。

 

「ん……と、どう、かな?総くんもお嫁さんにしたいくらいには……美味しい?」

 

「美味いな。味が奥までしっかり染み込んでるし、食べてるとなんかホッとする優しい味わいって感じだな」

 

嫁云々には触れずに感想を伝える。

俺的には歩夢が嫁でも一切問題ないどころか、バッチコイなのだが、ここでんなことを言ってしまうと侑の奴がうっさくなるのは目に見えている。

 

 

「えへへ……そうかな?」

 

「あぁ。作り手の人格が現れてるんだな。真心とか大量に込められてる気がする」

 

「もちろんだよ!総くんと侑ちゃんへの愛情はいつもたーっぷりと凝縮しているもん」

 

「真心を二つか……つまりそれは二心を抱いているという宣言の他ならないわけであって……」

 

「あ~!そんなこというんだ。そんなイジワル言う総くんなんかクリームシチューの具抜きなんだからっ」

 

「おいまてそれただのホワイトソースだろ。白米にでもかくけろってか」

 

「そうだそうだー!コック長にイチャモン付けるクレーマーは切り干し大根もホワイトソースも白米も抜きの刑にしょーす!」

 

「もはや何もねぇじゃねぇか。なんだ?皿か?皿でも食えってか?」

 

「いや、お皿を食べる発想に行きついたことにびっくりだよ……」

 

 

なんてやりとりをしていたら、俺の分の皿に盛られた切り干し大根が全て侑の腹の中に吸収されていた。

そして自分の分の皿もちゃっかり回収し、平らげようとしていた。

 

……片や食い気が強い幼馴染で、片や家庭的で嫁力の高い幼馴染。

何気なく二人の顔を見比べてしまう。

……歩夢と侑。どっちも違ったタイプの可愛さを持つ美少女だろう。幼馴染フィルターを外してみても、間違いなく5本の指には入るレベルのルックスだろう。

クラスの男子からは二人ともかなり人気があるみたいだしな。

…………そして視線は少し下に落ち、おとこにはない部分へ。

片や制服越しだとなくはないが、あるとも言い難いくらいの膨らみが。片や制服エプロンと言うこれまたぐっとくる格好の上からでもわかる見事なおもちが二つ焼けましてーな物が。

……世の中とは常に無情で非情な物で固まっているんだな。

 

 

「(む、総悟から邪な視線を感じた!)今私と歩夢を見て比較したでしょ!」

 

「良くわかったな。歩夢の女子力は53万なのに侑の女子力はたったの5……いや、マイナス5か」

 

「なんで今言い直したの!?わ、私だって料理くらいできるやい!」

 

「俺は忘れないぞ。半年前、調理自習でお前と一緒の班になって食わされた代物の事を」

 

「(あ、侑ちゃん胸の事についてはぐらかされちゃってる。うん、黙っておこ。たまに侑ちゃんから親の敵でも見るような目で私の胸見てくる時あるし……)あれは……嫌な事件だったね」

 

「あ、あれは……た、たまたま!普段はもっと華麗に動けたし!」

 

「いや、動くもクソもお前米を洗剤で洗おうとしてたじゃねーか」

 

「……調理道具が私の手に馴染まなかったんだよ!私じゃないの。私は悪くない!」

 

「お前の料理の腕が悪いのはどう考えてもお前が悪い。さらに言うと侑が切った具材は細切れになってたな」

 

「うん……なってたね。………………………まな板ごと」

 

「いやぁーあの時総悟から貸してもらったる○剣にはまっちゃって~」

 

「だからって料理の時にやらないでも……」

 

「だって総悟はアバ〇ストラッシュって叫びながら斬ってたじゃん!私にだって九頭〇閃くらいできると思ったんだよ!トキメキを感じたんだよ!!」

 

「どこにトキメける要素があったの!?殺伐としかしてないよ文字の並びからして!」

 

「ア〇ンストラッシュじゃない、ソ〇ゴストラッシュだ」

 

「伏字にしてあたかも実在しているかのように言っちゃだめだよ!!」

 

「ま、やるにしてもせめて包丁の持ち方ぐらい覚えておけ。あんときスラム外の路地裏でストリートファイトしてるチンピラみたいな構え方してたろ」

 

「うぅ…………わ、私には歩夢がいるから料理なんてできなくたっていいんだーー!!」

 

「え、えぇ!?」

 

「開き直ったよこやつ」

 

 

からかいすぎたのか、歩夢の背中に回って顔だけを出してこちらを涙目で睨みつけてくる。

まぁ……侑が料理できない理由の一つとして、歩夢が甘やかしまくって侑に色々作って食べさせてやってたのもあるからなぁ。そりゃぁこんだけ料理上手の幼馴染がいて、身の回りのお世話も喜んでやろうとするんだから料理しようとは思わんわな。

そんでもって侑の母親も料理上手と来たら、やらないわな。

 

俺?俺は歩夢ほどではないが出来るぞ。元々知らないことは覚えたがる質だし、覚えておいて損はないしな。

ちなみにだが、当時の調理実習で最終的に俺たちの班がありつけたのはライスなし具なしカレーであった(要はルーのみ)

歩夢が班員にいてくれたら、もっとまともな食事にありつけれたと思っている。食材を無駄にしてしまったことでその時の評価は最低評価を下されていたが、漫画やアニメみたいなメシマズヒロインの料理が出来なかっただけ褒めてもらいたいとこだわ。

 

 

「総悟のばーかばーか!私と歩夢は仲良くオランダで暮らしてやるんだから。仲間に入れてって言っても入れてあげないんだからね!」

 

「英語すら喋れんやつが片腹痛いわ」

 

「ぐぬぬぬ……こ、こうなったら……歩夢やっちゃえ!先制攻撃だよ!」

 

「えぇ!?また私!?」

 

「歩夢ならやれるよ、出来る子だもん。さぁ、とびかかる攻撃だ!」

 

 

ポケットでモンスターなトレーナーみたいに、歩夢の後方に下がっていった侑は俺に指を向けて指示をくりだしていた。

 

▼ゆうのしじにあゆむはおどろきとまどっている!

 

 

「うぅぅ……と、とびかかれって言ったって……」

 

律儀にやろうとする歩夢。めちゃくちゃ恥ずかしそうにこちらをチラチラ見たり、もじもじと手を擦ったりしている。

 

 

「嫌なら嫌だと言って(トレーナー)の貧相な体をかみくだいてやってもいいんだぞ」

 

「ぷっちーん。怒りました。キレました。あたまにきました。頭に来たよあたしゃ!歩夢!とびかかるなんて生ぬるい手じゃダメ!おそいかかるこうげきよ!!」

 

「……もう侑ちゃんが自分でやったほうがいいんじゃないかな……」

 

 

うん。俺もその通りだと思う。

自慢のチャームポイントと自負していたツインテールは逆立ってツノみたいに見えるし、目はにらみつけるさんも裸足で逃げだしそうな程ギンッと吊り上がっていた。

 

でもなんだかんだいって、素直に侑の言うことを聞いちゃう歩夢であった。

恥ずかしそうに縮こまりながらも両手を怪獣のように構え、侑の頼みとはいえ羞恥がなくなるわけでもなく、ぷるぷると震え、両目をぎゅっと閉じて赤くなった顔で言い放ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「が、がおー……た、食べちゃうぞーっ」

 

 

「(かわいい)」

 

「(かわいい)」

 

 

今まさに侑と心がシンクロした瞬間であった。

取り合えず写メをパシャリと。うん、これは永久保存確定だな。

 

 

「あっ!今写真撮ったでしょ!?」

 

「かわいかったからな。ホントは動画に収めたかったんだが」

 

「あう……か、かわいいって……!そ、そんな言葉で納得しないんだからっ。画像消してー!」

 

「ナイス、総悟!その画像後で私にも送って!」

 

「300円」

 

「買ったー!」

 

 

ものすごい勢いで財布を取り出し、100円硬貨3枚手渡してきた。交渉成立である。

成立の証に先ほどの剣呑な雰囲気など嘘のように、握手を交わす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「買っちゃダメー!!!」

 

 

涙目で詰め寄ってきた歩夢により、画像を消さないとクリームシチューは食べさせないと言われたので大人しく画像を歩夢の目の前で消すのであった…………が、画像は既に侑のスマホに送信済みであった。

後ほど侑から歩夢がおーのポーズという題名で画像を送ってもらった。

クリームシチューは3人仲良く美味しくいただきました。




侑ちゃんがこれじゃない感があるのは作者のイメージが先行したからです。
本当はアニメに沿ったお話を書くつもりはなかったんですが、侑ちゃんと総悟君が同列世界にいて幼馴染だったらこんな関係になるかなーとか妄想してたらこんな話が出来てました。
正直、アニメ版はメンバー間と侑ちゃんだけで完結してる上にその間にオリシュー君である総悟君をぶっこんでも、ただのカカシになりかねない居ても居なかろうがあんま変わらないと思うんですよね。というか自分の技量では上手く書けないと思うんですよね。
そんなわけで続かないです。多分
侑ちゃんかわいいよ侑ちゃん。




でもキャラ紹介はするんぢゃ!


主人公 中橋総悟。おおまかな設定は本編と変わらないが、自分の目でライブを見たわけじゃないので、本編よりかはスクールアイドルへの関心は薄い。幼馴染が興味を持っているものなので、スクールアイドル……ふーん。まぁ、悪くないかな?といったくらい。
マンションの部屋割りは ぽむ 侑 総悟 といった感じ。

あゆぴょん あゆぴょんだぴょーん。でも今回は幼馴染怪獣あゆぴょんだがおー!
こんなかわいい怪獣にだったら襲われたい。衣装はデレマスのみゆさんみたいなエッロイやつで実装お願いします!
アニメと変わらず侑への性別の垣根を超えた思いは同じだが、それと負けじと総悟に対する好意も本編と変わらず重い……じゃなかった想いは高い。
3人でずっと一緒に過ごせたらなぁと切に願っている。

ズットイッショ……


アニメ版のあなたちゃん みんなで決めるアニメのあなたちゃん!作者は応募どころか投票すらしてません。高咲侑とかセンス良すぎ。
今回の話では作者のイメージのせいで料理下手とひんぬー、飯泥棒の称号を得てしまった。
アニメではあれ?そんな活躍してない……と思っていた作者がアホでした。メンバーの欲している言葉を迷いなくかけたり、些細な発言から重大なフラグを立てたりと有能さはゲームアニメと変わらず。
三人の子供のころからの関係性は侑と歩夢が二人手を繋いで横並びに走って、その前を総悟が二人の手を引いては走っている感じ。
過去が語られるどころか、そもそも現在の話すら語られるか怪しいが。

ソウゴストラッシュ 具材は死ぬ。良く斬れていたらしい


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新たな輝きの始まり
1話


スクスタって無課金には無情ですけど、課金ユーザーには比較的優しいとは思うんですよね。天井ありますし、月額課金あるし、最上級レアリティ排出率が5パーだし。限凸アイテムが全レアリティ共通だし。
惜しむらくはそのピックアップ率の低さでしょうか。
0.5てなんやねん。


「今日は付き合ってくれて、ありがとう。すごく助かっちゃった」

 

ある日の休日。俺は歩夢と一緒に秋葉原へ繰り出していた。

特に予定もなかったので、溜まっていたアニメの消化したり菜々会長から「読んでみてください!あなたなら絶対にハマるはすですから」と半ば強引に押しつけられたラノベ全巻セット(電撃な文庫なので一冊が分厚い。しかも20冊近く)を読破しようと自宅でゴロゴロしていた所を歩夢が家にやって来て、買い物に行こうとなった……というわけですよ。

 

落ち着いた色合いのワンピースに身を包まれていた歩夢は新しく新調したのか、誘いにやってきた時はそわそわと落ち着きがなかった。

裾の部分を持ち上げてみたり、腰回りのリボンを気にして後ろを何度も見たり、こっちを期待を込めた目でチラチラ見て来たり……と。

 

ハッシーコレ知ってる!いつぞやかに歩夢の家で読んだ少女漫画のヒロイン……主人公?どう言ったのが正しいか知らんけど、その彼氏とデートに行く女の子が、デート前日に悩みに悩んで決めた服を着て、当日彼氏の前に立って、いつまで経っても服の事に触れてくれなかった彼氏にやきもきしてた描写と同じだよ!

 

まぁ、俺と歩夢は彼氏彼女なんて関係じゃなく、唯一ぬにの幼馴染なんだけどね。

取り敢えず歩夢を思いつく限り言葉で褒めちぎり、ムツゴ○ウさんみたく、わーしゃわしゃと頭を撫でまくりました。

リンゴみたく顔を真っ赤にしてされるがままだった歩夢が可愛すぎて死ぬ。

 

「なーに、こっちこそ誘ってくれてありがとな。新刊も買えたしいい気分転換になったよ」

 

「そう言ってくれると嬉しいな。あなたとお揃いのパスケースも買えたし……明日から使おうね」

 

「あぁ。……しかし、おそろいか」

 

「……もしかして、嫌だった……?」

 

「まさか。デザインもシンプルで俺好みだし、嫌だったら最初のうち言ってるさ。なに、歩夢とお揃いのこのパスケース……俗に言うぺあるっく!と言うやつではないかとだな」

 

「え、えええええっ!?ぺ、ペアルックだなんて……私たちはまだ幼馴染だしいやいやでも全然嫌だなんてことはなくてむしろあなたがそう思ってくれるならとっても嬉しいし…………えへへへぇ」

 

想ったことをそのまま口にしたら、幼馴染がその場でトリップしだしたでござるの巻。

だらしなく頬を緩めておってからに……かわいい。

 

「さーて、この後はどうすっか。まだ帰るにしては早いし……歩夢は他に行きたいとことかあるか?」

 

「へっ?あ、ううん。特にないかな。それよりも総くんこそ休まなくて大丈夫?私の荷物も持ってもらっているのに……」

 

あっちの世界から戻ってきた歩夢から気を使われるが、全然余裕である。

そんな重いもん持ってるわけじゃないし、それなりに重さがあると言えば自分で買った漫画とかだし。

 

「へいきへいき。こんくらい余裕だし気にすんな」

 

「そう……?疲れたり休みたかったら、遠慮なく言ってね」

 

こんなに気を配れて、控えめに言って超絶美少女が幼馴染だなんて……こんなの普通じゃ考えられない……!

 

「……ん?なんか向こうの所が騒がしいな」

 

「ほんとだね。人もいっぱい集まってるみたいだし……」

 

「時間もありあまってるわけだし、ちょっち行ってみないか?」

 

「うん。私も気になるし、行ってみよう」

 

そんなわけで、やたら人がいる場所へと行くことに。

イベントかなんかだろうか?

まぁ、行ってみりゃわかるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人だかりの最後尾まで来てみると、より一層熱気が漂ってくる。

付近の人の会話を聞いてみる感じ、どうやら街頭ビジョンに映し出される何かを待ってるみたいだけど……

 

「人がこんなにたくさん……何かのイベントかな?」

 

「まだ始まっていないみたいだが、おそらくそうだろうな。……あの、すみません。この人だかりって何か催し物でもやるんですか?」

 

「えぇ、μ'sとAqoursの合同ライブよ。会場から全国に生中継されるの。……貴方たちこれを見に来たんじゃないの?」

 

知らないのなら聞いてみろってね。スマホで検索してもよかったんだが、こういうイベント行事とかって、せっかくなら参加してる人に声かけてみたいじゃん?

 

近くにいたOL風のお姉さんに声をかけてみたが、親切に教えてくれた。

この人えぇ人や(ちょろい)

 

「いえ、僕たちはこの人だかり気になって来たので。……歩夢、みゅーずとあくあって……もしかしてスクールアイドルの?」

 

「うん。今テレビでも話題になってる注目のスクールアイドルだよ」

 

スクールアイドルは知っているが、μ'sとAqoursってのはメディアで軽く知っている程度しかなかったので、歩夢に確認してみる。

全国でスクールアイドル活動が盛んなのは知ってたが……全国生配信ってすげぇな。

生半可な努力ではそこまで至れないだろうというのに。

 

「そうそう!私大ファンなのよね!μ'sの高坂穂乃果ちゃんとAqoursの高海千歌ちゃんが特に好きでね!ああいったパワフルな子を見ているとこっちまで元気が湧いてくるというか!チームのみんなを引っ張っていくのってリーダーとして大変だと思うのよね!でも穂乃果ちゃんと千歌ちゃんは1人じゃなく皆で横に並んで走っていってる感がもうホンット良くってね!!!」

 

「μ'sとAqoursのリーダー……」

 

人が変わったかのようにμ'sとAqoursの事を熱く語るお姉さん。

ふーん……スクールアイドルの高坂穂乃果に高海千歌……か。

たしか、虹ヶ咲にもスクールアイドル部――――いや、同好会があったな。今は部員一人しか活動していない為廃部寸前の崖っぷちに立たされている状態だが……

 

「なになに?ひょっとして興味が出てきちゃった?少しでも興味があったら、ここで見ていくといいよ。絶対に楽しいから!……あ、それとこれ私の連絡先。もっとスクールアイドルの魅力を知りたかったら、いつでも聞きに来てね」

 

名刺を俺たちに渡して、ウィンクをしてからお姉さんは奥の方へと去っていった。あ、やっぱOLだったんだ。

 

「ああ言ってたし、見てくか」

 

「うん……ねぇ、総くんっていつもあんな感じなの?」

 

「あんな感じって?」

 

「えっと……その、初対面の女の人から…………あっ!そろそろ始まるみたいだよ!」

 

めちゃくちゃ下手なはぐらかし方をされてしまった。

え、なに?何が聞きたかったの?ちょいと気になるけど、ここで追求して変な空気になるのもアレだし、後で聞いたとこでこの感じだと「なんでもないよ」と言われるだろうし……聞かなかった事にするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「…………」

 

いやぁ……想像以上だったわ。

人は本当に感動すると言葉がでなくなると聞くが、まさにその通りだわ。スクリーン越しだというのに現地にいるかのような迫力。周囲の人の盛り上がりもあって熱気やら興奮やらが冷めないような胸の内から湧き上がって来る衝動。

世の中スクールアイドルが人気になるのもわかるな。

 

「……これほどとはな」

 

「楽しめた?」

 

「あぁ……アマチュアとはいえ、学生の身分でこんなにも完成度の高いステージを演出できるなんてな。周りの人の声援もすんごかったし……感無量っつーか……うん、圧倒されたわ」

 

「そうだね。すごい一体感だったよね!」

 

どうやら歩夢もライブの熱に当てられ、多少なりとも興奮してるようだった。

もう一度街頭ビジョンへと目を向けると、18人の少女たちが映っていた。

誰が誰だかさっぱりわからんが、それでもこんなに楽しめるもんなんだな。

 

「……もしかして、見つけれた?」

 

ずっとビジョンを見ていたせいか、歩夢が俺の方へと見上げていた。

 

「……わからん……が、これほどまでに衝撃を受けたのは初めてかもしれん。頭をモーニングスターで殴られた気分だ」

 

「死んじゃわないかなそれ……うん。総くんが熱中できるものだったら、私どんなことでも応援するし、些細なことでも力になりたいから」

 

ずっと前にも聞いた言葉。

むかっしから何事にも本気で打ち込めずなーなーで生きてきた俺に対し、変わらず笑顔で励ましてくれた。

……ホント、俺なんかにはもったいない最高の幼馴染だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとな、歩夢。そんじゃさ、帰ったらさっきお姉さんがくれた名刺から、スクールアイドルの事聞いてみようぜ」

 

「…………………うん。私なんだって協力するからね……」

 

あれ?なんか端切れ悪くなってません?

 

 

 

 

 

 

そして、今日の夕食のおかずが一品減った。

解せぬ。




なぞのおねえさん 穂乃果と千歌の大ファン。25歳会社勤めのOL。職場からは同僚にも好かれ、男子職員からの人気も高い仕事できる年上のお姉さん的な感じ。
今後登場する予定はなし。


嫉妬丸出しな歩夢ちゃんを書きたかったんや。
仲の良い異性と出かけておきながら、この男初対面の女性に声をかけるという。
歩夢ちゃんでもご機嫌斜めになると思うんです。



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2話 其の一

バレンタインだけどしるかぁ!
余の現実はバレンタインイベントを堪能するだけだ!!わるいかぁ!!


大それたサブタイだけど、内容は薄いです。
どのくらい薄いかというと薄さ0.01mmを目指すくらいです、


前後半わけないと、無駄に長くなりそうだったので分割投稿です。



人の三大欲求。大多数の人が強い衝動に駆られやすい物を示し、一般的には食欲、睡眠欲、性欲。この3つが当てはまると言われている。

十人十色という熟語があるように、下半身を駆使する行為よりも美味いもんを食べて裁定を下す美食家きどりの美味○んぼのツンデレお父さんもいれば、食べる事よりも生きているうちの半数以上……具体的には4年間寝続けないとサイキックパワーを発揮できないおっさんもいるわけだし。

つまるところ、結局は人それぞれなのかもしれんよね。

俺的には金!暴力!S○X!だと思ってる。

って、これ違うやつや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじゃましまーす……あれ、総くん?起きて……ううん。ちゃんと寝た?」

 

まぁ、今の俺は睡眠を欲しているんですけどね。

くっそねみぃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺と歩夢が人生初のスクールアイドルのステージを見た(画面越し)翌朝。

昨日歩夢と一緒にお姉さんへ電話でスクールアイドルのことやスクールアイドルフェスティバルの事を聞いて、歩夢が帰ったその後も俺は一人でモニターの前に座って、スクールアイドルの事を調べ続けていた。

そして、気が付けば夜も明けて……朝になっていましたとさ。

 

いつものように朝早く、俺を起こしに来た歩夢は俺の格好(パジャマっ子スタイル)を見て寝たかどうか心配してきた。

ちょ、歩夢さん。眩しいからカーテンは閉めたままでもええんやで……!

 

「おう。ついさっき起きたとこ」

 

盛大にうぉっ、眩しっ!をくらった後しれっと寝ていたと虚言を吐く。

夜通しぶっ続けでスクールアイドルの事を調べてましたーなんて歩夢の前で言ってみろ。

めちゃくちゃに体調を心配されて学校は休んだ方が良いとぜってー言われる。その気づかいは嬉しいが、今はいらない。

学校を休む羽目になって、その事が母さんの耳にでも入ってしまったら、面倒な事になるのは確定的に明らか!

すまんな歩夢。純粋なお前に嘘つくのは心苦しいが許してくれ……

 

「そっか……寝てないんだね。今日は学校休む?」

 

……あれ?おかしいな。俺は寝起きだと言ったよな。

なんで歩夢は携帯を取り出したのかね。

俺、まだ休むとは言っとらんよ?

 

「あのー歩夢さん?俺昨日は寝たって言ったんですが」

 

「うそ。隠そうとしたってわかるんだからね。いつもより声に元気がないし、眉も2ミリくらい下がってるし、目の下クマも化粧水を使ってごまかそうとしてるのもわかってるんだからね」

 

おい、どんな観察眼をしてんだこの幼馴染は。

眉毛のタレ具合なんて普段から見ててもわかんねーよ。

なに、白○でも使ってるの?上原一族にのみ使える血継限界なの?俺も写○眼とか予○眼とか蛇王○眼とか使えるようになりたい。

……あ、最後はカラコンつけりゃできるか。

 

「それに総くん何か後ろめたいことがある時って、必ず左目を瞑るんだよ。知ってた?」

 

「え、噓!?マジ?」

 

「うん。うそだよ♪」

 

「…………」

 

どうやら俺は予想以上に寝不足なようだ。

心理戦で歩夢に一歩遅れを取るなんて。……つっても、この幼馴染割と心理戦は強かったりするんだけど。

昔からトランプとかアナログ系のゲームをそれなりにやってた俺の影響で歩夢と一緒にやってたしな。

トランプでバレないようにイカサマをするのも教えてたりする。例えば、初期手札はシャッフルする仕方次第である程度コントロールするコツとかだったりね。

そんなわけで、俺が教えたコツは大体歩夢も知っている為、歩夢と一対一でカードゲームをする時はイカサマをしないことにしてる。基本バレるし。

 

「(本当は左目じゃなくて、右目なんだけどね)それで夜ふかししてまで、いったい何をしてたの?」

 

「スクールアイドルの事をもっと知りたくて調べてたんだよ。歴史やら有名どこのスクールアイドルとかスクールアイドルフェスティバルの事とかをな」

 

「私が帰った後もずっと?」

 

「ずっとってわけじゃないけどな。小刻みに風呂入ったりはしてたし」

 

「でも寝てないんだよね?」

 

「……寝てま――――せん。寝てないです!全然寝てないけど登校は出来るし問題ないないから学校に連絡はしないでくださいお願いします」

 

なんでもはしないけど白状はします。

だからその学校の電話番号を早く閉じて、ダイヤルキーから手を離すんだ。

 

「もう……総くんが大丈夫ならいいんだけど……辛かったらすぐに私に言ってね」

 

「あぁ。眠いっちゃ眠いが俺には【必見!これを読むだけで世界360度変わって見れる!108の便利スキル】によって習得した半球睡眠があるからな。半分起きつつ半分寝る事なんて造作もない」

 

「あのすっごい読みにくくて難しい本の事だよね。私にはまったく読めなかったけど……」

 

「オススメなのになぁ。これを読んだおかげで世界が一周回って輝き出したというのに……まぁそんな感じだ。準備するから歩夢は先に――――っと。もしかして朝飯出来てたり?」

 

「うん。今日はおばさん時間に余裕があったみたいで、作り置きしてあったよ。一緒に食べよう」

 

だからいつもの時間よりも早く歩夢が来たのか。歩夢が朝飯作ってくれる時は俺が多く睡眠を取れるように作り終わった後に起こしてくれるからな。

 

んで、今日は母さんの飯か。作ってくれるのは段前ありがたいのだが、ぶっちゃけた話俺が作った方が美味いもん作れる自信ある。

ていうか、ものぐさな母さんが料理作るって稀だしな……仲橋家では外食や買ってきたものが食卓に並ぶことが多かったのである。

それも俺と歩夢が大きくなる前までの話だけど。

今じゃ歩夢が作ってくれた方が嬉しいし、一日のモチベーションも高まるってものだ。

 

よし……眠気を覚ますよう両頬を叩き、気合を入れ直す。

さっさと着替えるとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん?なにぼーっとしてんだ歩夢。着替えるから先にリビングに行っててくれ」

 

「……えっ。着替えのお手伝いはいらないの?」

 

「……逆になぜいると思った」

 

「だって頭が回らない状態で着替えて、ボタンかけ間違えたり、シャツ上下逆に着たりしたら大変だし」

 

「そんな心配いらないから!そんな着替えに補助がいるレベルで眠いわけでもないし!ほら、早く出てった出てった。早くしないと見苦しい物を見せちまうぞ?」

 

「大丈夫!総くんの体に見苦しいところなんてあるはずないよ!」

 

問答無用で追い出した。野郎のボディを見ても何のメリットもないだろうに。普通逆だろ。こういうシチュは。

あの子まれにアホの子と化すことがあるのよね……

 




おばさん 歩夢がおばさんと言うとお義母さんでいいのよ~とやんわりと言う。
息子がおばさんと言うと拳が飛んでくる。
そんなどこの家庭にもいそうなありふれたお母さんです。
仕事で多忙な一児の母だが、自分なりに愛情を持って息子を育てようと頑張っていた。
まだ未登場。そのうち出てくるかもしれない。




「このくらい幼馴染なら普通だよね!」

普段はまごころ溢れる優しい女の子でも、こういうことにも興味は出てくると思うんだ。だって幼馴染だもの(すっとぼけ)
最近(歩夢の中では)あなたくんとお風呂に入れないのがちょっと残念でいつかまた一緒に入りたいと思っているらしい。
やんやんしてハイライト消してるあゆぽむも良いと思うけど、こんなにモンモンとモンモランシーしてるあゆむんも良いと思うんだ。
まだ二人しか虹ヶ咲の子出てない……いつになったら全員揃うんだろうね(´・ω・`)


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2話 其の二

忘れた頃に投稿よー(´・ω・`)


授業中をなんとか半寝半起き状態でいたが、特に問題なく授業終了。

ほぼ全ての時限で先生たちに「仲橋ー。寝不足なら保健室に行ってっもいいんだぞー」と言われたが、大丈夫です。起きてますからと言った感じで切り換えしていたので、恐らく問題はない。ちゃんとノートもとってあるし(めっちゃ汚いがなんとか読める)先生に当てられた時もちゃんと答えれてたしな。

全員俺が夢の世界へ誘われていたのを見抜かれてるとは思わなんだ……ハハッ。

 

そんなこんなで、あっという間に放課後ティータイム。

HR終了と同時に歩夢から早く帰って寝たほうが良いと言われ、一緒に帰らないかと誘われたのだが、野暮用……スクールアイドル同好会の様子を見に行くと伝え、歩夢には先に帰ってもらった。

何やら悟ったような表情をした後、いつものように満面の笑みを浮かべ、送り出してもらった。

いい……笑顔です。

 

んで、今日は生徒会の用も他の部に顔を出す用もないので、

スクールアイドル同好会の動向を探ってみようと言うわけなのですよ。同好会だけに!!

………………うん。何しょーもない事を考えてんだ俺は。

これは早急に用を終わらせて、さっさと横になったほうがいいわな。

眠気はだいぶ吹き飛んじゃったけどね。というか、そんなに眠くない。気持ちが昂ぶっており、今ならなんだってできるくらいにテンションがアゲアゲなんですわ。

ひょっとしたら、血液も沸騰してるんじゃなかろうか。

これなら積年のライバルだって、負けフラグを立てても危うげなく蹴散らすことだって出来るんじゃなかろうか。

まぁ、俺にはサートシ君とかシゲル君みたいな間柄のライバルなんておりませんけど。

幼馴染はいるけど、ライバルって感じじゃないもんな。

 

「スクールアイドル同好会は部室棟の方だったよな……だったよね?」

 

思わず繰り返し呟いてしまう程、虹ヶ咲学園(ウチ)の規模の大きさには何度だって驚いてしまう。

こんな馬鹿でかい校舎……敷地内かな。何処に何があるかどころか、下手すりゃ彷徨い続けかねないくらいにこの学園全体は広い。

今年の新入生アンケートの結果、迷わず目的地にたどり着ける自信があるかと集計を取ったところ、半分以上は自信がないと回答(何人かは既に迷ったと書かれてたり)されるほど広いし、色んな学科とか部屋もある分下手なアトラクションの迷路より迷路してる。

さすがに俺も入学当初は覚えるのに時間かかったからな。

今では色んな部に顔出したりしてるし、生徒会役員が道わからないのはさすがにマズイからな。

頭ん中に地図を描けるくらい造作もありません。

 

「ここか」

 

以前まではスクールアイドル自体に興味がなかった上に、他の部と違って向こうから声をかけられることもなかったからな。来たのは初めてかもしれない。

 

スクールアイドル同好会の部室は部室棟2階の端。立地からしてあまりよろしくないこの感じ、廃れてる感に拍車をかけてる気がするな。

部室棟に来ることはそこそこあるが、スクールアイドル同好会は末端にあるせいで他の部のついでに寄るってこともなかったし。

そんじゃまー、ノックをしてもしもーしと。

 

「はーい。どなたですかー?かわいいかわいいかすみんにごようですかー」

 

扉の向こうからこれまた聞き覚えのあるやや甘ったるい返事がきた。

ああ、そういやスクールアイドル同好会に入部したって言ってたっけな。

あちらはまだ俺だと気づいていない様子。まだノックしかしてないから当然と言えば当然か。

……ちょっと悪戯心が湧いてきたな。

んんっ。咳払いをして、声の性質を整えってっと。

 

「こんにちは。私は生徒会の者です。スクールアイドル同好会さん。今日は折り入ってご相談したいことがあって伺いに来ました(cv 楠〇ともり)」

 

菜々会長の声をお借りしました。

イメージするのはまだあったばかりの時のお堅い生徒会長。

知的でクールな不用意に近づく者をバッサリ斬り落とす感じのお堅そうなvoiceで。

 

「むむっ!わざわざ来てもらってすみませんがお引き取りお願いします!部室を明け渡すのは月末の約束だったじゃありませんか!」

 

完全に生徒会長だと信じ込んでいるようだ。顔は見えなくともわかる。俺の変声技術も絶好調である。

……が、このままだと門前払いされそうだ。なんか聞き捨てならん事も言ってたわけだし。

早いけど種明かしをさせてもらうとしますか。

あ、向こうから開けてくれた。

 

「いいですか!スクールアイドル同好会はぜったいに、ぜーーーったいに廃部になんかさせませんからっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「もう!先輩なら先輩だってちゃんと言ってくださいよー。かすみん、てっきりあの鬼の生徒会長が来たのかと思って泣いちゃいそうだったんですからね」

 

「悪い悪い。少し魔が差しただけだ。先輩として、かわいい後輩の為にサプライズの一つや二つ手土産にしなきゃいけんと思ってだな」

 

「むぅ……今のかすみんからしたら、ちょっと洒落にならないサプライズでしたけど。でもっ、かすみんがかわいいならしょうがないですね!特別に許して上げます!」

 

怒りのボルテージが少々溜まっていたようだったが、かわいいの所を強調して謝ったら、すぐにボルテージは収まったようだ。

やだ、このこってばチョロすぎ……!?

 

 

俺がスクールアイドル同好会を潰さんとする生徒会の手先という誤解も早々に解け、部室へと入れてもらっている。

「好きな所に座っていいですからね。今かすみんが先輩の為にとっておきの一杯を披露しちゃいますから」

と楽しそうに飲み物を用意してる後輩ちゃんの後ろ姿を眺めつつ、全体を見渡せる壁際のソファーに腰を下ろす。

 

部内を見渡すと、物は綺麗に整頓されてるし、その辺にゴミも落ちておらず、目の前のテーブルもピカピカに磨かれている事からからいつ誰が来ても……いや、いつ戻ってきてもいいようにか。掃除もちゃんと行き届いているのがわかる。

うーん、同好会として全体の活動はしていないが、彼女みたいに部室に足を運び個人での活動はしている……そんな感じだろうな。

 

 

「それにしても先輩がスクールアイドル部に来るなんて珍しいですね。いつもだったら私から先輩のとこに行くんですけど」

 

ティーポットと二人分のティーカップを載せたトレイをテーブルに置いて、そのまま俺の真横に腰をかける。

…………なんでわざわざ隣に?しかも密着するように。

普通に対面側の方に座りゃいいだろうに。

 

「たまには俺から会いに行くのも良いと思ってな。……それよりちょっと近すぎやしないか?」

 

「そんなことありませんってば。かすみんと先輩の仲じゃありませんか!それよりもほらっ先輩の為に淹れた、愛情たっぷりのスペシャルアッサムティーですよーほらほらっ、ぐいっといっちゃってください!そ・れ・と・も、かすみんの口移しとかが良かったりします?」

 

「いただきます」

 

こっちの分のティーカップに手を伸ばしてきた手よりも早く、手に取る。

そこまで嫌がらなくても……とやや不満げにしていたが、早く飲んでほしいのか、食い入るようにこちらを睨むように見てくる。

……こうも見られていると飲み辛いな。

つーか、この紅茶何か怪しいもんでも入っていないだろうな。媚薬とか睡眠薬とか振る舞われたりしてないだろうか。

 

「年頃の女の子が気軽にそんなこと言うんじゃありません。俺と君は入学式に迷って半泣きの後輩を案内したただの一般生徒会役員だ」

 

「そ、その事は忘れて下さいって言ったじゃないですかー!」

 

しかも生徒会に入ってる時点で一般生徒じゃないですし!とかなんか言って、余裕そうな態度から一変、目に見える程顔が赤くなる。

 

このやたらかわいいを連呼し、自らをかすみんと名乗る少女は中須かすみ。通称かすかす(呼ぶと怒る)

今年入学し、虹ヶ咲学園の制服に袖を通したばかりのピッカピカの一年生。

さっきちょろっと言ったが、このグイグイ来るかわいい少女とは今年度の入学式の時に出会った。

先生に頼まれて、資材を運んで仲庭を通っていたんだけど、女の子がキョロキョロと半泣きで彷徨っていたとこを見かけた。大方新入生で迷子になったんだろうと思い、そのまま放置するのはどうかと思ったので、声をかけ話を聞いたところ、案の定入学式を行う場所がわからなくなったみたいなので案内したというわけだ。

制服のリボンが黄色だったことからして、新入生なのはすぐにわかったし、毎年こういう事が起こっているのはわかっていたからな。

 

「ふーん、アッサムティーか。普段そんなに飲まないけど中々イケるんじゃねーの」

 

「ほんとですか?ふっふーん。ですよねですよね!かすみんが先輩の為に淹れたんですからね。マズイはずがあるわけないですもんね。褒めてくれっちゃってもいいんですよ?」

 

「おう。ありがとうな。こんな美味い紅茶淹れてくれて、さすがは中須かすみだな」

 

「えへへー……って、なんでフルネーム呼びなんですかっ!」

 

「だってこないだは名字呼びは嫌がったやん」

 

「だからってフルネーム呼びはないと思いますっ。かすかすって言われてるみたいで、嫌です。かすみんか、かすみちゃんかもしくは私だけのオンリーワンな呼び方を所望します。……あ、撫でる手は止めないでいいですからね」

 

「んじゃぁ…………親しみを込めてカッスーで」

 

「ひぎゃぁっ!それもダメですー!ぜんっぜんかわいくありませんし、却下です却下!!」

 

まぁ、このような感じでじゃれ合うくらいには懐かれているんじゃないんですかね。

入学式以降、校内をうろついていると彼女がやってきて色々話したり、部活の事も話したりしてくれたし。

最近はその頻度も減ってきたような気がするが……うーん、もうちょいこっちからも気にかけておけばよかったかもなぁ。

 

「はぁ、はぁ……それで、先輩のご用件ってなんなんですか?はっ!もしかして、同好会に入ってくれるんですか!?」

 

「や、入部する気はないけど」

 

「えぇー……かすみんの力になってくれるんじゃなかったんですかぁ……」

 

露骨にガッカリと肩を落とす。

スクールアイドルに興味を持ち始めた言うても、部活やら同好会に入りたいかって言われたらNO!って感じだしな。

 

「それも含めて話を聞きに来たんだ。スクールアイドル同好会が潰れそうって聞いたんだが――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――というわけなんです」

 

「……なるほどな」

 

中須から今までの出来事を聞き、おおよそだが事情が見えてきた。

元々スクールアイドル同好会は中須含む5人で活動していたということ。最初は順風満帆に取り組んでいたが、途中で全員のやりたいことの方向性が違う事に気付き上手くまとめることができず、そのままギクシャクし自然消滅しかけてる感じか。

 

で、そんな弱りきってるとこを生徒会からまともに活動していないのなら、さっさと他のやる気のあるとこに部室を譲ってやれよ……と。

だいたいこんな感じか。

ふーむ……生徒会に所属してるし身だが、そんな話は来ていなかったけどな。

俺の知らない所で話が進んでいたと考えるのが自然か。……少し調べてみるとするか。

 

 

 

「ううぅ……せっかく虹ヶ咲学園に入学して、大好きなスクールアイドルになれたと思ったのに……このままステージにも上がれないまま終わっちゃうなんて……そんなの嫌です!!」

 

目の端に溜まっていた涙を袖で拭い去って立ち上がる。

 

「子供の頃からスクールアイドルに憧れていて、かわいい衣装を着て、歌って踊ってたくさんの人たちにかわいいねって言われたいのに……!」

 

両手を握りしめ震える声で本音を打ち明ける彼女の言葉からは強い意志を感じた。

スクールアイドルが心の底から好きで絶対に諦めたくないという強い想いも。

……あの時と同じだ。μ'sとAqoursの合同ライブを見た時に俺の胸の奥から湧いてくる熱い何か。

彼女たちについてはあって、俺にはない何か。

 

「ごめんな」

 

「えっ……な、なんで先輩が謝るんですか?」

 

「中須……いや、かすみに困った事があれば俺を頼れとか言っておきながら、このざまだ。こんなんじゃ先輩失格だよな」

 

思えば、最後にかすみと話した時俺を同好会に入らないかと言ってきたが、あの時はいつもと違って少し遠慮してた気がしなくもない。

……それが彼女のヘルプサインだったのかもしれない。そこで普段と様子が違っていた事を聞いていれば……いや、たられば話はきりがないか。

 

「そ、そんなことないです!先輩は……先輩は私の事をずっと気にかけてくれてました!あの日だって……先輩の他にも何人か上級生らしき人は通りました。……でも、先輩みたいに声をかけて来てくれる人は誰もいませんでした。先輩だけなんです。かすみんのことをケムッたがらないで、話してくれたり、相談に乗ってくれる……先輩は」

 

ぽつりぽつりと思い出すかのように話してくれる。

まさか彼女がそこまで慕ってくれていたなんて。まだ出会ってからそんなには経っていないはずなんだけどな……よし。

立ち上がり、彼女の頭の上に手を起き膝を曲げて目線を合わす。

 

「ありがとうな。そこまで頼りにしてくれていたなんて思わなかった」

 

「ふ、ふんっ。か、勘違いしないでくださいよねっ。別に先輩の事なんて、頼りにしてるわけじゃないんですからっ」

 

「そうか。じゃぁ、帰るわ」

 

「ま、ま、ま待ってください!冗談です!冗談ですってば!男の人は古来からこういうツンデレなキャラに弱いって聞きましてですね……!」

 

「古いよその情報」

 

どこかで聞き覚えのあるセリフを言い放つと、ガーン!と効果音が表示されそうなくらいに衝撃を受けていた。

うん。この子にはやっぱ元気で笑顔を見せてくれる方がずっとかわいいんじゃないかな。

さて、と……後輩にここまで言わせといて、なにもしないというのは先輩の名が廃ると言うもの。

 

「んじゃ、行くとすっか」

 

「行くって……どこにですか?」

 

「決まってんだろ。同好会を存続させる為に直談判しに行くのさ」

 

扉に手をかけたところで、後ろから聞いてくる。

俺は首だけを振り返ったままかすみにこう告げ、扉を開けるのであった。

 

「生徒会にな」




かすみん かわいいに拘る普通にかわいいJK。
アホの子に見えて、家庭的だったり常識が割とあったりする。
ウザいとこもあるけどなんやかんやでかわいいから許せるよね。二次元だからかもだけど。
このSSではあなたくんを慕う後輩ちゃん(1号)
あなたちゃんと異なってる箇所は事前に知り合いだというとこ。
たまにウザいとこもあるけど、ワンコみたいに尻尾をブンブン振って付いてきてくれる様を書きたい。


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2話 其の三

10連無料ガチャチケット受け取りましたが、最低保障しかでませんでした。
やっぱガチャってks(ry



なんか無断に長くなっちゃいました。
いつになったら9人揃うんでしょうね。

04/13 良く見なくても明らかにおかしい所があったので修正。最終チェックがgbgbですまない……


放課後ながらも生徒から賑わいの声があちらこちらから聞こえてくる。だが、生徒会に近づくにつれて廊下から談笑の声が減っていき、生徒の数も減っていく。

この辺は部室として構えている部も少ないからなぁ。それに一般生徒からしたら、生徒会や職員室と言った場所にはなるべくお世話になりたくないだろうし。

そんな場所に話があるから後で来るようになんて言われてみろ。厄介事を持ってこられるか、説教されるかってマイナスの想像をしちゃいますよ。

 

「あの鬼会長とまた会わなきゃならないなんて……はぁ」

 

隣を歩く後輩ちゃんもその類に含まれるのだろう。

憂鬱そうにため息をつく。

 

「別にかすみまでついてこなくても、俺一人で話をつけてきても良かったんだぞ」

 

そう。元々は俺一人で菜々生徒会長のとこへ足を運ぶつもりだったのだが、スクールアイドル同好会の部室から退出した後俺の前に両手を広げて立ち塞がり、一緒に行くと言い出したのだ。

 

「何水臭いこと言ってるんですか!先輩とかすみんはもう一心同体。共に同好会の廃部を防ごうと未来永劫誓いあった仲じゃないですかぁ。先輩は一番近くでかすみんの事を見ていられる由緒正しきメンバーなんですからね♪」

 

「力を貸すとは言ったが、仰々しい誓いを立てたつもりはないからな。てか、さり気なく頭数に入れようとすんな」

 

過去の出来事を大いに捻じ曲げて語るかすみ。

俺の左腕に両手腕で抱きついて、舌を巻くチロッとだしウィンクしてくる仕草が小悪魔チックというか。

しがみつくように引っ付いてくるかすみを引き剥がし、デコに人差し指と中指を当てて軽く押してやる。

 

「えー!あの流れで入ってくれないんですか!かすみんのためなら、この命を投げ捨てても惜しくはないって言葉は噓だったんですか!?」

 

「嘘も真もそんな事を言った覚えはありませんが」

 

「あっ、やっぱ今のはなしで。先輩が死んじゃったら私、かなしくて、かなしくてなみだが出ちゃいそうですもん……」

 

「なんで自分で言って自分で取り消してるんすかね。それと既に涙浮かんでるから。あーもう、じっとしてろ」

 

さっきまで辛い出来事を話していたせいなのか、妙に涙脆くなっているご様子。

上着の内ポケットからハンカチを取り出し、涙を拭ってやる。

周りに誰もいなくてよかった。こんな光景第三者が見たら、俺が泣かしたと思われてもおかしくないし。

 

「な、泣いてなんかいませんからっ!これは涙にみせかけた……あれ?先輩、そのハンカチ……やけにかわいいデザインですね」

 

「ん?あぁ。これは幼馴染から貰ったやつだよ。男の俺が使うにしては気恥ずかしいとこはあるけど、せっかく実用性のあるものをくれたんだ。使っておきたいじゃん」

 

このピンク色の花柄のハンカチは去年の俺の誕生日に歩夢がプレゼントでくれた物だ。

毎年欠かさず、ケーキも自作して祝ってくれてる歩夢にはもうトキがムネムネトキメキエスカレートですわ。

男友達曰く、誕生日を祝ってくれる異性なんて母親しかないわ!!って聞いた時は歩夢が幼馴染でいてくれたことに天に祷りを捧げようと思ったくらいだ。

歩夢は天の御使い……天使じゃなかろうか?いや、実際天使なんだけれども。

 

「幼馴染!?そんな人が先輩にいたなんて……女の子ですかぁ?」

 

なんだか関係を怪しんでいる様子。

声のトーンも先程とは違い明らかに落ちている。

 

「野郎がこんな乙女チックなハンカチを選ぶと思うか?」

 

仮に男からプレゼントで貰ったとしても、使おうとは思わん。

好意でくれたとしてもだ。

というか、好意で渡してきたらそいつのセンスを疑うし、嫌がらせとしか思えない。

 

「むむむ……幼馴染。そんな強属性を持った人がいるだなんて。しかもそのハンカチ……刺繍されてるのってベゴニアですよね」

 

「そうみたいだな」

 

「……先輩。ベゴニアの花言葉って知ってます?」

 

「や、知らんけど」

 

薔薇とかサボテンとかのは聞いたことはあるけどな。

花言葉って花の種類だけじゃなく、色や本数でも意味合いが違ってくるみたいだし、調べ始めたらそれこそ時間がなくなるだろう。

というか、かすみのやつはいったい何が言いたいんだ?

ベゴニアの花言葉……スマホで検索してみるか。

 

「あっ!調べようとしてますね!?ダメですよ!文明の機器に頼るのは卑怯です!!」

 

……が、スマホを弄っていた俺の腕はかすみに掴まれてしまった。

本人は力を入れているつもりなんだろうが、この程度力を込めずとも軽く振り払える。

さすがにせんけど。

 

「あんな意味深に言われたら気になるだろ」

 

「気になっても調べちゃダメです。先輩はそのままずっとベゴニアの花言葉は知らないでいてください」

 

「なんてピンポイントな禁止令なんだ……」

 

渋々ではあるが、スマホはしまう。

家に帰ったら調べりゃいいか。

 

「かすみんの目が届かないと思って、家で調べるのもダメですからね。先輩の事、信じてますから」

 

「ぐっ……姑息な手を使ってくるじゃないか」

 

「どうしても知りたいのなら私に聞いてくださーい。せっかく目の前に知ってるかわいいかわいい後輩がいるんですからぁ」

 

「じゃ、教えてくれ」

 

「ま、知っていても教えませんけど。敵は増やさないに限ります」

 

理不尽だ。

つーか、敵って何?見えるけど見えないものなの?死角からの刺客なの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生徒会室……またここに戻ってきちゃいました。でも!今回は先輩が一緒ですからね!もう何も怖くなんてありませんよー!」

 

生徒会室の扉を前にし強気な発言をするかすみ。

その発言はしちゃいかんやつや。

 

「さぁ、先輩。開けちゃってくださいな」

 

「俺が開けんのかい」

 

さっきの勢いはどこ行った。

まぁ、いいけど。

まずは索敵から始めますか。情報収集は大事よ。扉に張り付いて耳を当てて……感覚を研ぎ澄ますんだ。

 

「人数は一人。場所は奥。会長一人だけかな。……ちょうどいいな」

 

「え、ちょっとまってください。なんでわかるんですか?」

 

「付け加えていうと、ペンを走らせている音も聞こえるから、書類作業かなんかをしているというのが想定できる」

 

「……先輩ってスパイか暗殺者かなんかですか?」

 

ドン引きしている後輩にただの善良な一般学生と答える。

かすみんや、なんかさっきよりも(物理的に)遠くないかね。

まったく。こんなの【必見!これを読むだけで世界360度変わって見れる!108の便利スキル】通称「必読スキル」を熟読すれば誰だって出来る汎用スキルなのに。

失礼しちゃいますわ。

 

「生徒会の身とはいえ、この学園の生徒の長。生徒会長に話を付けに行くんだ。ちゃんと行儀よく入室しないとな」

 

「おぉ!公私混同はしっかり分けるんですね。さすがは先輩ですぅ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御用改である!生徒会長よ、逃げ場はないぞ!神妙にお縄につけぇい!!」

 

「せんぱーーーい!?数行前の行儀の良さとは何処に行ったんですか!?」

 

フハハハハ!!この台詞、人生で一度は言ってみたい台詞ベスト10にランクインしているのだよ。

さぁ、覚悟せぇい!菜々会長よ!イニシアチブはずっと俺のターンなんだぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御用改である!生徒会長よ、逃げ場はないぞ!神妙にお縄につけぇい!!」

 

な、なんですかいきなり!?

早く総悟さんが来ないかと待ちつつ一人で作業をしていたら、扉を蹴破る勢いで変な事を口走りながら入ってきて――――って総悟さん!?

来るのが遅い上に、十手と縄跳びなんて持ってどうしたんですか!

 

「な、なんですかいきなり!」

 

考えていた事がそのまま口に出ちゃいました!

でも仕方ないですよね!ずっと待ちわびていた人が十手と縄跳びを持って立っているんですから!

十手はいいですけど、縄跳びが絶妙に合ってないです!!

 

「俺の名は高天ヶ原弁財天六右衛門!貴様に名乗る役職はない!」

 

総悟さんはたかまがはらべんざいてんろくえもんさんだった……?

名前は名乗ってくれるんですね。長い上に呼びにくいです!

 

「生徒会長……いや、今はこう呼ぶべきか。悪の秘密結社『トオイセカイ』を統べる親玉」

 

私はそんな組織の親玉だったんですか。トオイセカイって……あ、生徒会を読み替えたんですね。

……ちょっと上手いかも。

 

「ナナ=カナガワ!貴様の贅沢悪行三昧はこれまでとしれぃ!」

 

誰ですかー!ナナ=カナガワって!会長呼びを止めたと思ったら今度はアナグラム呼びですか!!

 

「学食メニューのルー2、白米8のカレーだけにするなんてそんな残虐非道な行為白米好きアイドルが許してもこの俺が許さんぞ!」

 

いえ、私もそんな比率のカレーは嫌ですけど。

……それにしても、総悟さんはさっきからどうしたんでしょうか。

普段は意味もなくこんな事は言わないと思うんですが……

 

「この聖なる力を宿した十手が、魔王!お前を引き裂く!さぁ、裁きの光を受けよ!」

 

……!待ってください。この台詞、たしか私がこの間総悟さんに貸したラノベの主人公が魔王と対峙して言い放った台詞では!?

はっ……!そういうことなんですね……読んだ感想を話し合う前にこうやって物語と同じシチュエーションを経験しとくことで、さらなる余韻に浸れるということを!

いいでしょう。私だってまだスクールアイドルなんです!演技力だって磨いてきたんです。

いつもの成果をお見せしちゃいますよー!

 

「くくっ……吠えるではありませんか。貴様なんぞ我が力でねじ伏せてくれる。一寸の光も届かぬ深淵の闇へと落として差し上げましょう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」←見てはいけない物を見てしまったかのように目を見開く

 

「…………あっ」←ここでかすみがいることに気付く

 

「光ある場所に闇はあり。闇がある場所に光はある。輝きが失われおうとも何度だって照らし続けるだけだ。いくぜ!失われた輝ける聖槍(ロストシャイニングランサー)!」←気にせず、ノリノリで演じ続ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後俺の熱弁により、生徒会長を上手く丸め込――――説得することができた。

言葉にすると軽く思われてしまうかもなので省略するが、苦楽困難、紆余曲折。難題を解決する度にまた新しい問題が立ちふさがっきたが、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は部員を多数確保する事ができ、離れていた4人も取り戻すことが出来た!

これにより、学園から正式な部と認められ、スクールアイドル同好会から部にと昇格した。

これで俺の役目も終わりだ。俺がいなくても、スクールアイドル同好会……違った。もう同好会じゃないんだった。

虹ヶ咲学園スクールアイドル部は上手くやっていけるだろう。後はひっそりと見守らせてもらうとしますかね。

 

 

……これにて1つの物語(ストーリー)が終着した。

だが、そう遠くない未来に虹ヶ咲学園スクールアイドル部が新しい伝説(ストーリー)を紡ぎ出すのだが、それはまた別の話である……

虹ヶ咲学園学園スクールアイドル部の活動はまだまだこれからだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って何勝手にお話を終わらせようとしているんですかぁ!まだかすみんたちの伝説は始まってすらいませんよ!!」

 

「そうですよ!私は同好会の存続を認めていませんから!」

 

「人のモノローグに茶々いれないでくれませんかね」

 

二人からすごい反発をくらってしまった。

えー、駄目でござるかぁ?4話目にして、打ち切りとか斬新で良くない?終わり時を見損なって、ダラダラ長く目新しい展開もなく続ける方がアレだと思うけどなぁ。

で、ワ○ピの結末はいつになったら見れるんです?

 

「いいわけ無いです!なんか良い感じに終わらせようとしてますけど、先輩がいなくなってますから!そんなのぜんっぜんハッピーなエンドじゃないですし!良くてビター、悪くてバッドエンドですよ!」

 

「でも、映画とかじゃ悲劇的な終わり方の方が映えない?色々あって結ばれた主人公とヒロインだけど、最終的にはヒロインが病で亡くなったり、コールドスリープしちゃったり、世界を救うための犠牲になったりさ」

 

「ありますけど!でもそれは創作の中だからであって、現実はゼッッタイにハッピーエンドの方がいいんです!先輩(主人公)(ヒロイン)が幸せな結末で終わるストーリーが!」

 

「最後は幸せなキスをして終了的な?」

 

「そう!それが理想です!」

 

……かすみんは純粋だなぁ。

 

「その場は幸せなシーンで終わるからハッピーエンドと言う。あくまで1つの区切りにすぎないということ。つまり、その後の展開は絶望と悲しみで彩られたストーリーになるのかもしれない。……具体的には主人公がサブヒロインにNTRれ、二人が幸せなキスをしているのを目撃したヒロインが最後に」

 

「にゃああああぁぁぁ!な、な、なななんてことを言うんですかぁ!!思わず想像しちゃいましたよ!?かすみん大敗北ってレベルじゃないです!!そんな昼ドラよりドロッドロした鬱ストーリーなんていらないです!」

 

事を具体的に想像したせいか、半泣き状態であった。

胸ぐらを掴みかかる勢いでこちらに迫ってくるが、如何せん身長が足りておらず、胸元を叩いてくるので精一杯なご様子。

 

「……とにかく!!部員が揃っていない以上同好会の存続は認められません!仕事の邪魔なので早々に出ていってください」

 

机の上を叩き、いつも以上にトゲトゲしい物言いで睨んでくる。メガネ越しから迫力のあるその眼差しは耐性のない者では容易にぼうぎょりょくが下げられてしまうことだろう。

現にかすみなんて悲鳴を上げて俺の背中に隠れだしたし。

 

「ちょ、ちょっと先輩!さっきまでのノリノリだった魔王は何処に行っちゃったんですかぁ。別人みたいじゃないですか!今の生徒会長、かすみんの知ってる鬼より怖い生徒会長なんですけど……」

 

「魔界の彼方へ消え去ったんじゃないかな」

 

かすみは魔王菜々にビビりまくっているが、会長をよく見ると威厳を出そうと振る舞っているようだが、頬が紅潮してるので羞恥を感じているのがわかる。

 

「そう睨みなさんなって魔王カナガワさんよ」

 

「中川です!……んんっ。中川です」

 

かすみという一般生との手前だからか、咳払いをし落ち着こうとする。

こっからは真面目にやれってことだろう。チラッとこちらに目線を送ってきたし、しょうがないからその案に乗ってやるとしますかね。

 

「スクールアイドル同好会。今は部員が減って活動しているのは1名のみ。それでも実績を作ろうとめげずに足を痛めてまで練習に打ち込んでいるんだ。やる気がないならまだしもやる気のある生徒から活動の場所を削り取るのは酷じゃないかね」

 

「(……!先輩、私が捻挫してる事気付いていたんだ)」

 

「……たしかにそうかもしれません。ですが、我が虹ヶ咲学園には同好会や非公認の同好会等、部室を与えられてない所が多数あります。彼女たちだけ優遇するわけにはいきません」

 

「オカルト、おさんぽ、ワンダーフォーゲル、お宝研究、ご飯研究、囲碁、チェス、ニトロ研究、ボウリング、百人一首……把握してるだけでもこれくらいはあるな」

 

「(……そんなにあるんですね。なんかいくつか怪しい集団がありましたけど)」

 

「そのとおりです。様々な事情があるとはいえ、活動拠点を欲してるのは事実です。やる気のあるところならいくらでもあります。条件を満たしているのであれば、そちらに譲るのは明白なのでは?」

 

「そうだな。……他に最低人員数を確保しているのであればな」

 

「……っ」

 

あからさまに顔色を変えたな。

これはやはり黒……か?まぁ探るのは後でもいいか。

 

「ま、別にスクールアイドル同好会を贔屓しろとは言わないさ。部室の明け渡しも……そのままの期限でいい。けど、存続させれる明確な条件を提示してもらおうか」

 

「条件?」

 

「そ。一定人数部員確保しろとか指定の大会に入賞とか誠意を見せろだとか色々あるだろ?」

 

「……最後のは違うような……」

 

「こまけぇことはいいんだよ。達成できなかったら潔く部室明け渡し。達成できたらスクールアイドル同好会は晴れて部に昇格」

 

「……やけに肩を持つんですね。今までスクールアイドルに興味すらなかったと記憶していますが」

 

記憶ってなんやねん。変な物言いしているのはかすみがこの場にいるからなんだろうな。

違和感ホントすげぇわ。

 

「まぁ、心境の変化というか最近興味が出てきたというか……俺は別にスクールアイドル同好会の「そうです!先輩はかすみんの専属マネージャー。新たな新入部員なんですから!」おい」

 

手伝いと言おうとしたのだが、かすみに遮られてしまった。

ちょっと、何言っているかよくわからないです。

 

「……総悟さん?」

 

いつもののほほんとした雰囲気は何処に……絶対零度(アブソリュート・ゼロ)より冷めた視線をこちらに向けてくる

……うん、脳内厨二病吹き替えはここまでにしとこう。

めんどいわ。

 

「や、違いますけd「くっふっふ〜生徒会長!もう私たちの居場所を奪えるとは思わないことです!先輩にかかればどんなことでも」かすみんや。ちょっと静かにしようや?」

 

これ以上余計なことを喋ればお口を縫い合わすぞ。

かすみの口を手で塞ぎ、もう片方の腕を首に回す。結構アレな構図かもしれんが、手段を選んじゃいられないんだ(迫真)

 

「……以前他の部や同好会に入るのは面倒だからパス。とおっしゃってませんでしたか?」

 

「うん言った。決まった部に入りたくなかったからな。そもそも生徒会にすら入りたくなかったし」

 

事実を言っただけなのに、ますます菜々会長の周囲の温度が下がった気がする。

やだこの部屋こんなに冷え込んでたっけ?

 

「この後輩に頼まれてちょっと手伝いを買って出ただけだ。仮入部、助手、パシリ、好きなふうにとらえてくれ」

 

「ふがふがぁ(先輩先輩!かすみんのマネージャーが抜けてますよ!)」

 

その5文字でどんだけ長い意味が込められてんだ。

あと手を舐めようとしないでくれ。くすぐったいから。

 

「……生徒会を抜けるわけじゃないですよね?」

 

「そりゃもちろん。居心地も悪かないし、今まで通り職務を全うするさ」

 

「それを聞けて安心しました。そうですね……10人。10人部員を集めることが出来れば同好会の存続を認めましょう」

 

菜々会長から提示されたのは予想通り部員の増員。

10人……同好会、部として必要な最低人員よりも多く指定してきたか。

 

「ぷはぁっ!10人も集めなきゃいけないんですか!?同好会は5人いれば成立じゃないですか!」

 

無意識に力を緩めていたのか、拘束から抜け出したかすみが菜々会長に向けて抗議する。

 

「そうですね。でも、今現実に5人が1人になってしまっているのです。また同じ人数では二の舞になるのではないですか?10人もいれば同じように5人が活動しなくなっても、残りでなんとかできるという判断の下です。……私の所まで直談判しにくる情熱があれば難しくないのでは?」

 

「うぅ……無茶言わないでくださいよぉ……」

 

いやその理屈はおかしい!

今回はたまたまこういうケースになってしまったが、また同じ事が起きるとは言えない。逆を言えば起きる確率も0ではないけども……それならば、そういった異常事態が発生しないよう顧問やら部長とかを配置して全体をまとめるようにすりゃいい。

まともに活動していない、人数が足りてない部活や同好会があれば、一定の人数を下回われば廃部やら活動停止にすりゃいい。

 

ていうか、部の規約に載ってないのが問題だろコレ……時間がある時にでも先生たちと相談しつつ、この辺の身直しをしなきゃなー。

今回みたいに揉める事が起きないようにせんと。

 

「せんぱぁい……」

 

まぁ言いたい事はあるが、今回は口には出さないでおく。なんか菜々会長の思惑がありそうだしな。

なんかかすみがどうすればいいんでしょうと言わんばかりにこまりマックスな顔を向けてくる。

10人……ねぇ。かすみを除いた初期メンバーを連れ戻せたとしても5人必要。部室立ち退きの期日を考えると、スケジュール的に余裕はあるわけでもないわけでもない……か。

 

 

 

前方からは普段とは違う雰囲気をまとってはいるが、彼ならば壁を乗り越えてくれるだろうと、どこか期待しているような目で。

隣からは今後の展開に不安を抱きつつも、先輩ならばなんとかしてくれるだろという安心感があり、彼を信じきった目で見上げていた。

ちょっとした好奇心から始まり、虹ヶ咲学園(我が校)のスクールアイドルの様子を見に行っただけだったが、今までの縁と運が重なり、妙な出来事に巻き込まれた。

なんだかんだで面倒見が良く、好奇心旺盛な彼の返事は決まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わかった。やってやるさ。必ず期日までに部員10人揃えてみせるさ。今度は大人数で押しかけてきてやるから、覚悟しとけ。行くぞかすみ!」

 

「ま、待ってくださーい!」

 

 

様々なIFが重なり、初めは小さくても後に結末を変えるような大きさに成長するかもしれない。

これはそんな1つのIFが奏でる物語の始まり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふふっ。総悟さん期待していますよ……?あなたを含め、必ず10人揃えてきてくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう……俺は何度だって蘇る。その度に必ず奴の前に立ち塞がってやるさ」

 

「先輩先輩。もう演技はしなくていいですってば。あとセリフが三下風情の悪役です」




「先輩にはかすみんを近くでサポートできる専属マネージャーの権利を上げちゃいますぅ」

「いや結構。遠慮させてもらうぜ」

こんなやり取りもあったらしい。


高天ヶ原弁財天六右衛門 ひょっとしなくても厨二病。
言わんでもわかるけど架空の人物。

ナナ=カナガワ 会長の名を並び買えただけ。夜な夜な怪しい活動をしたり、学園を裏で牛耳ってるなんてこともない。


やたら右腕が疼いて闇の炎を発言するくらいの厨二病回&強引なタイトル回収回。
ゲームのあなたちゃんはイケメンだったのに。この主人公はコレである。


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3話 

忘れた頃に投稿。
サブタイでネタバレだけど、それくらいはどの作品にだってあるさ。この作品だってそうだしね。でも、そんなことはどうだっていいんだ。重要じゃない。
……まぁ、原作に沿って書いてる作品なので、現状ネタバレもクソもありませんが。


それにしても、13章が追加されましたね……ストーリーをちゃんと読んでる人もそうでない人も、クリア時はUR確定チケットがもらえるので、やっとくことをオススメします。
UR歩夢欲しかったけど来なかったよ……
フェス追加はよ( _・ω・)_バンバン




04/04 読み返していて発見した明らかな誤字と、違和感有る箇所をサイレント修正。ほかにもあったらすみま千円。


「そんなわけで新しいメンバーが加わったぞ!ではどうぞ!」

 

「上原歩夢、2年生です。スクールアイドルの事はあんまり詳しくないですけど、一生懸命頑張るのでよろしくお願いします」

 

「うむ。彼女はスクールアイドルに関してはまだ入学したてのピッチピチな一年生だ。だが、真面目にコツコツと努力するひたむきな姿勢は秀でてる物がある。諸君もウカウカしていると抜かされてしまうかもだぞ?では!これにて解散!」

 

「いやいや待ってください。色々と聞きたいことありますし、出て行こうとしないでください」

 

出来る顧問を演出し、華麗に部室から退出しようとしたのだが、かすみに引き止められてしまった。

それっぽい事を言って後はご両人で親睦を深めて、どうぞ。作戦は失敗に終わった。

まぁ、そんなわけで見ての通りだが歩夢をスクールアイドル同好会に勧誘することが成功し、かすみとの顔合わせをしているわけですが……

 

「なんだねかすみ君。私はこの後ネットオークションにて転売しまくってる奴を通報しまくるという崇高な業務がだな」

 

「それは先輩がしなくても運営さんが対処してくれるので大丈夫です。……その人は?」

 

訝し気に歩夢を見る。なんか初めてかすみと出会った時にもこんな視線を向けられた気がする。

人懐っこい割には初対面の相手だと距離を測りかねるタイプなのかもしれない。

 

「幼馴染、新入部員、天使。OK?」

 

「最後なんかおかしい気が……え?この人が先輩の言ってた幼馴染の人?」

 

「そ。入部してくれそうで且つ人数合わせではなく最後まで頑張っていける人って誰かいないかと考えてたら、真っ先に彼女が思い浮かんだ。これはかなりの即戦力だと思うぞ」

 

「むぅ……先輩がそんなに信頼してる人なんですね。」

 

なにやら受け入れ難いと渋ってるご様子。じっと値踏みしてるかのようなかすみに対し、朗らかな笑顔を向ける幼馴染。

いい……笑顔です。

 

「どうだ?彼女のような努力家は貴重な人材だ。周りにも良い影響を及ぼしてくれるだろうし、スクールアイドルとしても輝ける原石じゃないかと俺は睨んでいるんだが」

 

この台詞なんかプロのスカウトマンっぽいよね。

あ、でも世間的にはあまりスカウトマンの印象って良くないんだっけか。路上での過剰な客引き行為、スカウトは禁止です!

 

「…………」

 

おや?俺が想像していた反応と違う。

ここは「やりましたね!さすがは先輩。この調子でどんどん集めて、あの生徒会長にぎゃふんと謂わせてやりましょ☆」といつものかすみんスマイルを浮かべると思っていたんだが。

俺の想像とは裏腹に、見るからにご機嫌ななめと言わんばかりに頬を膨らませていた。

 

これはアレだ。昔、歩夢ばかりと遊んでいて男友達との交友頻度が減ってきた小学生高学年の頃。

思春期入りたて特有のチヤホヤされたいけど素直になれないガキ大将的なアレ。周りには「女とばかりイチャついてんじゃねーよ」と囃したてられていたが、当時の俺はそんなしょーもない煽りに見事につられ「そっ、そんなんじゃねーし!」……ることはなく、幼馴染なんだから仲が良いのは当然だろ?と開き直っていた。

そんな冷めた反応しかしなかった俺に対し、気に食わなかったのか、クラスに一人はいるジャイアン的なポジションのガキ大将から「怖いのか?こいよ。女にケツ振ってるなよなよしたモヤシ野郎なんか上原に相応しくねぇ。プライドなんか捨ててかかってこいや!」と校舎裏に呼び出されて、一対一で喧嘩を売られたのだが、逆に泣かしてやった。

 

どうやったのかって?簡単だよ、トリックだよ。

ひたすら煽りに煽りまくり、血管が浮き出る程激情させ「誰がテメェなんか……テメェなんか羨ましくねぇ!!……やろう、ぶんなぐってやらぁああああ!!」と襲いかからせたところで、偶然にもあゆぽむ登場。

そっからは……言わんでもわかるだろ?

……って、なんかすげー脱線してしまった。これは然程重要じゃないわ。結論からではなく過程から話しちまったよ。

出来るネゴシエーターは簡潔に結論から話すって何処かの見知らぬおじさんが言ってたのを知り合いから聞いたような聞かなかったような。

 

まぁ、色々ヤムチャしていた時期があったのだが、その後そこそこ仲の良かった男子友達から付き合いわりぃんじゃねーの?と言われ、たまには男子たちと何でもありのノールールサドンデススポーツに付き合うのも良いか。と歩夢をほっぽり出して、男子たちとサワヤカな汗を流していましたとさ。

結局はガキ大将君の思う通りになってしまったわけですが……

学校生活の8割は歩夢一緒に行動していたのだが、それがいつの間にか比率が逆転して6:4(歩夢と一緒:男たちと一緒)になっていた。

……アレ?今考えるとそんなに変わってなくない?

 

「サッカーやろうぜ!俺がボールな!」「何言ってんだ!ここは磯野がいるんだから野球に決まってんだろ」「磯貝です」とクラスの野郎が多数集まったものの、意見はバラバラで収束が付かなかったのだが、最終的には俺が口にした「キックベースで良くね?」が鶴の一声となり、放課後の時間を目一杯使って遊んだその日の帰り道。

泥だらけの状態で一人夕焼けをバックにし、家までの道を歩いていた時の事。

 

『フンフンフフーン。フンフフーン。かんっぜんにフルハウスーん……おっ、歩夢じゃねーか。どうしたん、そんなとこで?』

 

『……』

 

『うぉっ!?ど、どうした。急に。汚れてるから、あんま引っつかないほうがいいぞ?』

 

『そうくんは……』

 

『う、うん?』

 

『私のこと、飽きちゃったの?』

 

『……うん?』

 

『私よりも他の男の子を選ぶの?』

 

『待て、落ち着け。Waitだ。冷静になれ。その台詞なんかおかしい』

 

『おかしくないもん!最近そうくんってば私よりも他の知らない男狐と一緒に遊んでるじゃない!』

 

『なんだ男狐って……知らない男ってか、クラスメイトだからな?いったいどうした。なんか変だぞ歩夢』

 

『変じゃないよ!最近そうくんが構ってくれないって恋華ちゃんに相談したら、「それは浮気よ!浮気に違いないわ!!浮気なのは確定的に明らか!!!この雑誌にも書いてある通り、カレが素っ気なくなったらそれは浮気の予兆です(確信)仲橋君はきっと男の子たちとあんなことやこんなことを……キャーッ///」って言ってたもん』(プ○ンみたく頬を膨らませて)

 

『本田ァ!歩夢に何吹き込んでんだァ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう何年も前の記憶だと言うのに、印象深い出来事ってのは割と覚えてるもんなんだな。あの後、俺に抱きついたせいで汚れ一つなかった歩夢のワンピがいたる所に泥が付着してしまい、歩夢のお母さんから「あらあらあら〜二人仲良く泥んこまみれになっちゃって。ほらほら、二人ともお風呂に入っていらっしゃいな。総悟ちゃんは大丈夫?一人でぬぎぬぎ出来る?おばさんが手伝って上げようか??」……なんて小学生高学年男子に向ける態度じゃない接し方をしてきたのだ。

めっちゃ恥ずかしかったけど、日頃から良くしてもらってたから特に抵抗せず、されるがままだったよな。

……それに便乗して歩夢も参戦して来た時はさすがに焦ったが。止めましたが何か?

で、その後仕事から帰ってきた母さんから歩夢ちゃんを心配させんじゃないよ!と頭に一発拳を叩き込まれたんだっけな……前者のインパクトが強すぎて、こっちの方は詳しく思い出せないんだけどな。

ゲンコツもらったというのにね。

 

 

ここまでの体感時刻は約3秒!回想シーン中はどんなに長くても、現実での時間はほんの数秒なのは良くあること。負けフラグとか尺取りすぎだとか言われてる回想シーンさんだけど、貴方がいないと作品によってはキャラやストーリー掘り下げができないからね。

俺は応援しています。多分。

 

「かすみんだってがんばれますもん」

 

やっぱりね(確信)

これが鈍感系主人公なら、お得意の難聴スキルで聞き逃すんだろうけど、これはノンフィクション。現実救いはないね。

俺の地獄イヤーならどんなにちっこいdB(デジベル)でも聞き取ってみせますよ。

 

「心配すんなって。かすみの頑張りは見て無くとも、わかるさ」

 

頭の上に手を置き、そのままゆっくりとなぞるように撫でる。

……おぉ、ちょうどいい高さに手が置けるせいか、なんか撫でてるこっちが楽しくなってきた。

一つ年下とはいえ、歩夢以外の異性の頭を撫でるなんて初めてだったが、振払われたりはしてこないので、嫌ではないみたいだ。

 

「部室を奪われそうになっても一人で居座り続ける根気も。部員が一人になろうともめげずに練習に打ち込むやる気も。俺が手を貸す要因にもなってるんだ。かすみなら一緒に頑張れるってな」

 

「そ、そうですかっ。わかってればいいんです!」

 

ふんすっと胸を張る。うん、機嫌は戻ったみたいだ。

あの時も撫で続けていたら、歩夢のふくれっ面も落ち着いていたしな。撫でるってしゅごい。

でもやる相手とやり方を間違えるととんでもないことになると思うんだ。

節度と頻度を護って適切に使用しましょう。

 

「ふふっ、やっぱりあなたって凄いなぁ」

 

「え、そう?先輩後輩の間柄だし、こんなもんじゃねーの?」

 

何が凄いかよくわからんが、かすみとじゃれ合うとこを見てたくらいだし仲の事を指しているとは思うんだが……歩夢は何処か誇らしげにしつつ微笑みを浮かべていた。

 

「そうかな?誰とでもすぐに打ち解けちゃうのは総くんの魅力だと思うな。後輩の子も総くんを慕ってくれてるのがその証拠だよ。それに昨日スクールアイドル同好会を見に行くって言って、廃部を防ごうと頑張ってるんだもん。すごい行動力だよ!」

 

「もちろんです、副会長ですから」

 

すげぇべた褒めの嵐である。真っ直ぐこっちの目を見ながら言ってくるから、気恥ずかしくなり、ドンパチB級映画に登場する大佐の台詞を口走ってしまう。

いやぁ……あの作品は名言だらけでしたね。

 

「もしかして……照れてる?かーわいい♪」

 

なんてことも目の前の幼馴染にはお見通しだったようで、頬を人差し指でつついてくる。

 

「ぐぬぬぬ……これが幼馴染の余裕というやつですか……強い!」

 

くっ、なんだこの羞恥プレイは。後輩に見られてるというのに、気にも止めず連続攻撃を続けてくる歩夢。

俺の事を凄いとかなんだの言っているが、歩夢の方がやっぱすげぇよ。略してあゆすご。

 

「えぇい!そんなことより!誘っておいてなんだけど、本当に良いのか?実は勢いで頷いちゃいましたーとかじゃなく?」

 

ではここから再度回想シーンスタート!ほわんほわんほわわーん(セルフエコー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

昨夜、俺は家が隣同士であるのを良いことに、自室のベランダから歩夢の部屋へと何時ものように飛び移り、頼みたい事があるんだとお邪魔させてもらった。

ちゃんと玄関からお邪魔しなさいとか夜遅くになにしてんだとか言いたい事があるだろうが、そんなことはいいんだ。重要じゃない。

この手段は昔から使っているし、今まで失敗して落ちたこともない。

一応念の為お互いの両親が、落ちた時の事を考えて互いの敷地内に人つづマットは敷いてあるしね。

何か用がある時は相手の窓に向かって、ベランダの脇に置いてある熊手でコツンと叩くのが、俺と歩夢ならではの合図。

ちょっと今から会いに行ってもいいかな?と小さい頃二人で決めた秘密の合図。

 

昔、歩夢が両親に叱られて夜遅くに泣いていた所を、俺が隠れて歩夢に会いに行ったのが切欠だった。

歩夢のベッドに二人で潜り、一晩中歩夢が目を閉じるまでずっと喋っていた。

最終的には翌朝俺を起こしに来た母さんが、もぬけの殻となっていた部屋を見て、両家巻き込んで騒然な騒ぎとなったが。

なんて危ない事するんだって、母さんはもちろん、おじさんにおばさん全員にしこたま怒られたっけな。

なんでこんな事をしたのかと聞かれ、母さんのゲンコツ食らって、痛みに耐えながらも理由を答えたら許してもらえた気がする。

二度とこんな事するなと言われたのだが、その後日からさっき軽く触れた、マットが敷かれていたもんだから、俺がまた同じ事をするんだろうと見越していたんだろうな。

今では歩夢も飛び越えてるしな……

 

 

 

『熱心に勉強してるところ悪いな』

 

『大丈夫。ちょうど切りが良くなったところだから。何か用事?』

 

『あぁ。ちょっと歩夢に頼みたいことがあってな――――そこの問4、途中から計算がずれてるぞ』

 

『えっ?…………あ、ほんとだ。ここ足さなきゃいけないのに引いちゃってる』

 

『良くあるケアレスミスだな。なんかわからないとこがあったりするか?こう見えても学年の主席にいるんだ。サクサクっと高速周回みたく手軽に教えますぜ』

 

『いいの?なにか用があったんじゃ……』

 

『急ぎでもないしな。今なら時間外でも無料で教えれる、優秀な講師がここにいるぞ?』

 

『……それじゃあお願いしようかな。よろしくお願いします。先生♪(えへへ……私だけの専属家庭教師かな?ちょっと眠かったんだけど、眠気に負けないで頑張ったかいがあったなぁ)』

 

 

 

 

 

 

 

『……それでだな。歩夢。頼みがあるんだg』

 

『いいよ。なんでもしちゃう』

 

『……まだ何も言ってないし、そう男の頼みを易易と引き受けるもんじゃないぞ』

 

『あなたの頼みだもん。変な事を言うわけがないし、総くんの前でだけだし、変な事でも総くんのなら受け入れるよ?』

 

『そ、そうか(なんか最後変な事言ってたが……気のせいだよね?)実はだな、スクールアイドルに――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

「昨日も言ったでしょ?総くんの頼みならどんなことだって。確かにスクールアイドルをしてみないって言われた時は不安を感じちゃったけど、総くんが側にいてくれるなら大丈夫かなって」

 

回想シーン終了。

そしてこの幼馴染の鋼鉄の意志である。

いやまぁ、個人的には話が楽でありがたいんだけどね?なんだろうか。この言い知れぬ感じの不安は。

……この先選択肢にミスったらどうしようもないBADENDに辿り着くか、NiceBoatも震え上がる壮絶な修羅場に陥り悲しみの向こうへと進行しそうな……アレ?どっちもBADENDな上に、やけに具体的じゃね?

 

「まぁ、(部員が揃うまでは)やるからには全力でサポートするさ。……ん、入部届確かに受け取ったわ。これを提出さえすれば歩夢も晴れて正式な部員だな」

 

「うんっ。これからは放課後も一緒に過ごせるね。私、総くんの為にも精一杯頑張るから、側で応援しててね!」

 

「あぁ。歩夢なら大勢の人を笑顔にできるさ……これからもよろしく頼む」

 

「私こそ、あなたの事いっぱい頼っちゃうかもしれないけど、よろしくね」

 

今後ともよろしくの意味を込め右手を差し出すと、大切なものを取るように下からそっと両手で包み込むように握られた。

歩夢の笑顔を見ていると心が温かくなるような安心感がある。

それは優しく暖かな心を持つ彼女だからこそなのかもしれない。

幼馴染補正も入っているだろうが、この似たような気持ちをスクールアイドルとして届けることができれば、大成するんじゃなかろうか。

個人的には顔も知れぬ不特定多数の人間に振り舞うって考えると、多少イラつきにも似た感情が湧いてくるが、それよりも大きな舞台に立つ歩夢の姿を見てみたいという気持ちが勝る。

 

「俺もスクールアイドルに関しては新米のペーペーだ。スタートはほぼ0からだが……」

 

「一歩一歩、一緒に進んでいこうね」

 

何もかもが初めてだらけの事だろうが、歩夢なら……いや、俺たちならどんな困難でも大丈夫だろう。

諦めず一歩一歩堅実に、少しづつでも歩みを止めなければきっと夢は叶うのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いつまでお二人の世界を作り出しているんですかぁ!かすみんもいる事を忘れないでくださいよぉ!」

 

「あっ、ご、ごめんなさい。つい……」

 

「遅いぞかすみ。何時になったら割り込んで来るのかと待っていたんだからな。次はもっと早く自己主張するように」

 

「す、すみません。…………あれ?なんで私が謝っているんだろ?」

 

俺はちゃんとかすみの事を認識していたぞ?素で謝ってる感じ、歩夢は忘れていたっぽいが。

 

「さっきも言ったが、俺と歩夢はスクールアイドルに関してはまだまだひよっこだ。学年はこちらが上でも、スクールアイドル歴ではそちらが先輩。頼りにしてるぞ、かすみ」

 

「そ、そうですか?仕方ないですねぇ〜。先輩にそう言われちゃいましたら、かすみんお役に立てるように張り切っちゃいますよぉー」

 

不機嫌そうな顔から一転、甘ったるい声を出し右手を上げ左手を頬に当てて、片足を曲げてポーズを取る。

いわゆる、がんばるぞーポーズなのだろうが、ぶりっ子感が半端ないとはいえ普通にかわいいもんだから何も言えない。

そんでもってチョロい辺り、それを差し引いてもかわいい(確信)

 

「後輩ちゃんもよろしくね。えっと、お名前は……」

 

「そういえば自己紹介がまだでしたね。私は中須かすみって言います。新入生で一番かわいいと噂されていますが、何を隠そうそれは私のことだったのです!」

 

 

 

「(えっと……そうなの?)」

 

「(しっ、取り合えず頷いておくんだ)」

 

かすみに聞こえないようなボリュームで聞いてきた歩夢に、アイコンタクトで返事をする。

長年一緒にいたせいか、それだけで歩夢には通じたようだった。

 

「そうなんだ。中須さんってそんなに有名なんだね」

 

「もう、歩夢先輩。これからは一緒に頑張ってく仲間なんですから、そんな堅苦しくしないでかすみんって気軽に呼んでくださいよ〜」

 

「え、でも同好会では中須さんの方が先輩だし……」

 

「そんな些細なこと気にしないでいいですってば。フレンドリーにいきましょうよー」

 

「フレンドリー……うーん、あだ名とか?中須かすみちゃんだから……かすかす?」

 

……それは一番呼んじゃいけないあだ名だと思うぞー、歩夢よ。

 

「ギャーー!なんで昔のあだ名を知っているんですか!?なしです!そのあだ名だけは絶対に禁止です!!」

 

猛烈に拒否反応を示すかすみ。やっぱり過去にそう呼ばれていたのね。俺も初めて名前を聞いた時はかすかすって呼ばれて弄られていたんだろなーって思ったし。

呼びやすいとはいえ、カス呼ばわりされているみたいだし良い気分はしないわな。

ていうか……

 

「あだ名はかすみんのままでいいだろ。難易度が高そうなら名前呼びでいいんじゃないか?」

 

「そ、そうだね。ごめんねかすみちゃん。なんか嫌なこと思い出させちゃったみたいで」

 

「だ、だいじょうぶです。かすみんこんな事じゃめげませんからっ」

 

「そういうわりには涙目になってんぞ」

 

「な、なってませんし!」

 

なってんじゃん。

 

「……ま、なんにせよこれで部員は3人だ。会長が指定してきた人数にはまだまだ足りないが、それでも1人増えたんだ。数字としては小さいかもしれんが、これはスクールアイドル同好会にとっては大きな一歩となるだろう。この調子でドンドン同好会勢力を拡大してくぞ!」

 

「「おー!!」」

 

同好会なんざじゃ満足できねぇぜ!目標は部への昇格!




恋華ちゃん 本田恋華ちゃん。 小学生でのお友達。親が所持する恋愛♂小説に影響されてこんな年から腐ってしまった子。こんなんでも清楚系の美少女である。

プリン ふうせんポケ○ン アニメ初出は街の人たちが眠れないとかなんとかの会だった気がする。当然ながらこの作品で実物が出ることはない。




歩夢は原作通り純情で従順な優しい子です!
かすかs――――かすみんは変わらず慕ってくれるかわいい後輩です!
歩夢のおかあさんって絶対歩夢似の温厚そうで優しく癒やしてくれそうなおっとり系だと思うんだ(願望)


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4話 



せっつー分が足りなくて書きなぐっていたら、1万3千と文字数がエラい事に。
分割したかったけど、切れドコロがなくてそのままそぉい!




 虹ヶ咲スクールアイドル同好会に歩夢が加入してから数日後。  

 午前中の数学、物理、英語という学生の中でもトップクラスに受けたくない配置順の授業を受けて、昼休み。

生徒会で歩夢が作ってくれたサンドウィッチを方手に食しながら、副会長としての職務を果たしていた。

 

「『図書室で一々貸し出しカードを書く手続きが面倒で仕方ありません。もっと手軽に貸し出しできれば、利用者も増えると思います。書籍含め全て電子化にして下さい。副会長、どうかご決断を』まぁ、言わんとする事は分からんでもないが、電子媒体より紙の本に触れる事が好みの人だっているしなぁ。俺だってそうだしね。今の情報化社会の波に乗ろうとする姿勢は悪くないが、全ての物を一斉に変更するのは時間も金もいるしな。この案は見送りって事で。……しかし、貸し出しカードを書くのはめんどいのは同意なんだよなぁ。貸し出し情報はデータで管理しといた方が俄然楽だろうし……これくらいは打診しておくか。菜々会長、それでいいかー?」

 

「えっ?……あ、はい。そうですね……」

 

 菜々会長の許可も取ったし、次のご意見番はっと。

 ……にしてもこのタマゴサンドめっちゃウメェ。

 卵の半熟具合は申し分なく、ふんわりとなめらかな味わいの中に黒胡椒のちょっぴりピリッとした刺激が適度にマッチしており、卵の量も過不足なく食パンとの黄金比率をバランス良く保たれている。

 これがどれ程の手間と時間をかけて作ったかなんて想像に難くない。しかも、登校前の貴重な朝の時間に作ってくれているのだから、ホント出来すぎた女の子だ。

 

 作業片手間に頂いているが、ちゃんと作り手(歩夢)と食材には最大限の感謝を込めております。

 ちゃんと食べる前にはいただきますを。食べ終わった後にはいただきますはしような!周りに人がいようがいなかろうが、これは最低限のマナー……いや、人としての道徳として欠かしちゃいけないものだゾ。

 副会長との約束だ!

 

 そんなわけで、歩夢に感謝のメッセージを送っておこう。

 スマホを取り出し、アプリを起動して素早く打ち込む。

 

そうごん:サンドウィッチめっちゃ(゚д゚)ウマー

 

そうごん:アユム、カンシャ!オレ、オマエ、スウハイスル∩(´∀`∩)

 

これでよし。では次のお便りに行ってみよう。

2年生女子、P.N『姉はハワイでダンスを習っていたからな』さんから。

 

「『食堂のコロッケ蕎麦が不味いです。コロッケが汁でgzgzになるのが耐えられません。副会長!なんとかしてください!』ばっか、こいつわかってねーなぁ。その汁で衣がgzるのがいいんじゃねーか。コロッケの魂まで浸透させるのが通の食べ方だってのに。そんなにgzるのが嫌ならgzgz言ってないで蕎麦とコロッケを別にして頼めばいいじゃねーか。ま、俺はgzラーではなく何も乗っけない素朴派なんだが……奈々会長はどうだ?gzラーか?それとも素朴派?」

 

「ぐ、ぐずらー……?コロッケ蕎麦は美味しいと思いますけど……」

 

 ふむ。会長はgzラーではないが、ある程度のgzgzは受け入れると。

つーか、意見を寄せてくるやつらみんなこぞって副会長、副会長って指名してくるんじゃないよ!ハンドルネームとか別にいらんっての。確かに全校集会でご意見番を募ったとき、気軽に「気軽に投稿してくれよなー。ラジオ番組みたいにリスナーからのお便り感覚でいいから、ドシドシ応募してくれ。めんどい事は全部会長がなんとかしてくれるからさ」とは言ったけども。あれは比喩だったんですよ生徒の皆さん!

こんなに俺と皆で認識の差があるとは思わなかった……!

 

あん時菜々会長を生贄に捧げて、俺が楽する権利を生贄召喚したはずなのに。なんで余計に仕事が増えているんですかねぇ。菜々会長に会長宣言、略して会宣でも伏せられていたのだろうか。

そういえば、今ってもう生贄って用語じゃなくて、リリースしてアドバンス召喚になってんだっけな。俺的には生贄って言葉の方がなんか、少年心をくすぐる感じで好きなんだけどな。

ウィンかわいいよ、ウィン。ウィンちゃんデッキと言っておきながら、今で言う禁止制限をこれでもかというぐらい詰んで、色々な決闘者を蹴散らしたのは良い思い出。

 

 ……お?スマホから振動が。さっそく歩夢からの返事が来たかな。

割と機械類には苦手意識のある歩夢だけど、メッセージを打ち込む速度はめっちゃ早いんだよな。今どきのJKって感じがする。

 紛う事なきJKなんですけど。

 

ぽむ:ワタシ、トッテモ、ウレシイ(≧▽≦)

 

ぽむ:生徒会のお仕事はどう?何か手伝える事があったら、なんでも言ってね☆(ゝω・)v

 

ぽむ:次にあなたは「ん?今、なんでもって」と言う

 

そうごん:ん?今、なんでもって────( ゚д゚)ハッ!

 

ぽむ:(*´ω`*)

 

 

 ああ見えてノリの良いとこある歩夢マジ天使。

 最後の顔文字みたく、俺の顔もほっこりとしていることだろう。

 あ、いつの間にかサンドウィッチなくなってんじゃん。

 どうやら夢中で食べていたらしい。ご意見番もこれで全部目を通したし、一段落したかな。

 

「ごちそーさんでしたっと。……ンーッ!午後からの授業も適当に頑張りますかぁ」

 

 立ち上がってそのまま大きく伸びをする。

 午後の授業までは時間があるが、どうすっかなぁ。同好会の部員探しと称して、学園内をうろつくか、それともかすみの様子を見に────じゃなかった。からかいに行くのもいいか。

 なんて、なにをしようかなと次の行動を考えていると、俺が退出するのかと思ったのか、菜々会長が焦った様子で声をかけてきた。

 

「あ、あのっ!総悟さん」

 

「ん?どうかしたか?」

 

「えっと……その…………きょ、今日も良い天気ですねっ!」

 

 なんだその会話に困ったら取り合えず天気の話題を振ってから話を膨らまそうと言わんばかりの定型的な文は。

 取り合えず菜々会長に合わせることにする。

 

「そうだな。こんだけ天気が良いと、外に出て思いっきり体を動かしたくなるな」

 

 なんか言ってて体がうずうずしだした。この後グラウンドに出て、軽く体を動かすのもありだな。

 時間的にそんな長くできないが、軽く食後のシャトルランとかしてもいいかもな。

 

「そ、そうですよねっ。こんな日は絶好のスク────」

 

 思わず言いかけようとして、慌てて口を塞ぎだす菜々会長。

 言いたい事があるならズバッと言っちまった方がええんやで?

 

「絶好のスク……なに?」

 

「絶好の……絶好の…………!そ、そう!スクールライフ日和ですねっ」

 

「そう……そうか?確かにそうと捉えられなくもないが……なぜそこだけ英語?」

 

 絶対に今思いついただけだな。途中まで目が泳いでいたし。

 学校生活日和ってなんだろうか。……普段よりも授業の内容が頭に入りやすくなるとか、良いイベントが発生しやすくなって経験点もらったり、やる気が上がりやすい日の事?

俺のやる気は常に表情が黄色以下だけどな。

 ……にしても、なんかさっきから様子が変だな。

 

「そ、それより!調子は如何ですか?」

 

「すこぶる健康だが?今なら手刀でボトルチャレンジが出来るくらいには」

 

 これまた無難な事を聞いてきたが、素直に答えておく。

 俺だって触れずにキャップを開けることくらい訳無いですよ!菜々会長!

 

「そうなんですか!?それは是非見たいです!……じゃなくて!違う、私が聞きたいのはそういう事じゃなくて〜!」

 

 三つ編が左右に振れる程に頭を抱え出す。

 ……とてもじゃないが、他の生徒が持つ生徒会長への印象と、今目の前にいる生徒会長では180度像が違うよな。

 かすみと一緒に生徒会へ乗り込んだ時での会長は違和感しかなかったし。

 かすみ曰く「あの生徒会長、学園に通ってる生徒全員の名前と顔を覚えているんですよ。かすみん、そんな人間離れした所がちょっと苦手だったり……そういうところも含めてなんかロボットみたいで」とのこと。

 知ってはいたが、改めて聞くととんでもないわな。

 一応言っておくと、俺は覚えているわけがない。そもそも、全員分なんて端っから覚える気がないしな。

 生徒会絡みで知り合った生徒や、部に顔出して話した生徒とかは覚えてるが、関係のない人物までは……ねぇ?

 

「同好会です!スクールアイドル同好会の調子ですよ。その、部員集め……捗っているのかと」

 

 聞き辛そうに、髪を撫でながら聞いてきた。

 一応気にかけてはいるのか。それが生徒会長としての責務なのか、それとも中川菜々個人としてなのかは……この場合は後者だろうな。

 

「順調も順調。同好会はメンバーが3人に増えたところだ。この調子なら、あっという間に10人揃っちまうかもな」

 

「そうですか……部員増えたんですね」

 

「これも俺の日頃の行いとコネのお陰さ。……ちなみにだが、菜々会長的にはどう思ってんの?スクールアイドルについては」

 

「学生生活の限られた時間の中で歌やダンス、パフォーマンスを磨いて大勢の人に笑顔を届ける。素晴らしい活動だと思っています。大好きな事を思う存分にやって、大好きをたくさん伝えるこれ以上にないくらい素晴らしい手法ですし、1日じゃ語り尽くせないくらいギューッと魅力がたくさん詰まっている…………と、世間一般では思われている事を私も思っています」

 

 絶対お前の意見だろ。

 最後の方に取ってつけたような事を言っているが、何時もの暴走する時と同じ勢いだし。

 今まで口にして無かっただけで、さてはスクールアイドルファンかなんかか。

 知ってから間もない俺とは違い、かなり詳しそうだ。

 ……どうやら、スクールアイドルに関心がある事を隠したがっているような……?同好会についてはどう思ってんだろ。

 

「ふーん……それじゃ同好会(ウチ)についてはどうよ?」

 

「……総悟さんは同好会がなぜ活動停止になった経緯についてはご存知ですか?」

 

「あぁ。おおよその事情はかすみから聞いた」

 

 以前まではいた4人のスクールアイドルについてもさらに詳しく聞いた。

 桜坂しずく、エマ・ヴェルデ、近江彼方、優木せつ菜。かすみから聞いた話だけでも一人一人の個性が強く、初ライブ前に各々のやりたいことが上手く収束できず、散り散りになっていったと。

 良くバンド活動なんかで聞く音楽性の違い……方向性が皆違っていたのだろう。個性が強いってことはそれだけ他人には譲れない何かがあるってことだろうし。

 

「ま、意見の相違からのすれ違いなんて良くあることだ。新入部員確保は当然として、離脱した4人にはしっかりと戻ってきてもらうさ。かすみもそう望んでいたしな」

 

 かすみからの話からすると、自ら退部を申し出たとかスクールアイドルに対する熱が冷めたとかではなさそうなので、呼び戻せる可能性は低くはないと思っている。

 

「そうでしょうか?優木せつ菜という人は自分の意見を押し付けて、スクールアイドル同好会を崩壊させようとしたんですよ?」

 

「捉え方によってはそう捉えられなくもないだろうが、かすみはその優木のせいだなんて一言も言っちゃいないぞ。意見の衝突、すれ違いなんてそんなん日常茶飯事だ。……委員会同士の会議や予算会議だってそうだろ?」

 

「……」

 

「大事なのはその後だ。活動の方向性を定めるなり、当人の意思を聞いたり話し合ったりしたか?話さなくても伝わる事もあれば、話さないと伝わらない事だってあるさ。……ま、菜々会長に言ってもしょうがないだろうが」

 

「いえ……そんなことはないです。とても為になりました。優木せつ菜さんに会う機会があれば伝えておきます」

 

 そう言ってペコリと頭を下げてくる。

 

「そうしてくれ。……あぁ、それとだ。スクールアイドル同好会はまだ崩れちゃいない。倒れかけた柱を立て直そうと皆で必死になってるから、はよ戻ってこいと伝えてくれ」

 

「ふふっ……わかりました。総悟さんなら大きくて、もう崩れないような物を築き上げてくれますもんね。……そう、それはきっと空高くそびえ立つ天空のお城のように!!」

 

「や、期待してるとこわりぃんだけど、ラ○ュタは無理だっつの。神の雷とか出せないから」

 

「そうでしょうか……?総悟さんならザ○ル!と言って手から電撃を出すことくらい造作もないのでは!?」

 

「君は俺をなんだと思っているんだね?」

 

 サ○ス!と言ってメモ用紙を紙飛行機へと折った物を手のひらをこちらにドヤ顔で向けている菜々会長目掛けて飛ばす。

 それをラ○ルド!と唱え、ノートを盾に構えたが紙飛行機はまるで意思を持つようにゆっくりと上に傾き、菜々会長の頭上についた途端エンジンが切れたかのように落下していった。

 ふんっ、貴様の行動なぞお見通しよ。

 

 

 あいたっと涙目で頭を擦る菜々会長を眺めつつ、先程から感じていた違和感について考える。

 なんかやたらスクールアイドル同好会の事を気にかけてる節があるし、俺よりも詳しいんだよな。いくら生徒会長だからといって、部内の出来事にそこまで詳しくなるか普通?

 外に情報が漏れて人づてから聞いた可能性もあるが……だとしてもだ。同好会が廃部になりかけているという事実は広まっているとしても、誰が、何をして、なんてまで深いとこまでは広まらないはずだ。

 それも大事になってるわけでもなく、人知れず同好会は消滅しかけていったって感じだ。なおさら噂とかが拡大していくのは低いと思うんだがな。

 ……はっ、まさか!

 

「そうか……謎は全て解けたぞ」

 

「あいたた……紙とはいえ、先端は痛いですよ……総悟さん?」

 

「そういう事だったんですね、中川さん。あなたがあの時、なぜああいった行動を取ったのか、私には不可解でなりませんでした」

 

「(コ○ン君の世界に登場してきそうな探偵みたいな事を言い始めました……)私には今の総悟さんの行動原理が不可解なのですが……」

 

「なに、初歩的な事だよナカソン君」

 

「ナカソン………………え、もしかして私の事!?」

 

「おかしいと思ったんだ。去年の半ば頃からか。貴方が学園中どこを探しても見つからない事が多々あった。生徒会の仕事がない時や急を要さない作業であったり……放課後等時間を確保出来る時間帯なんかは特に……まるで人に見られたくはない何かをしてるかのようにね」

 

「(き、気付かれていた!?確かにその頃からスクールアイドルの活動をしたくて、時間を見つけてはレッスンしたりしていたけど……そ、そうだ!)そ、それはどうしても見たい漫画とかがあったからですよ!総悟さんも私の家の事、ご存知ですよね?」

 

「残念だがその供述には既に裏が取れているのだよ。この生徒会に隠しおいてある漫画やアニメのブルーレイ数々……ある日の朝、数を数えておいて放課後の時と数が合ってるかどうか描く人をしたのさ。それも君がいなくなったという報告を生徒から受けた日にね」

 

「た、たまたまここにはない作品を読んでいたのではないでしょうかっ。いやぁ〜総悟さんが貸してくれたハ○ターハン○ーの続きが気になって、持ってきていたんですよ!」

 

「それもないな。その日は形だけとはいえ、月1の持ち物検査があった日だからね。そんな日にわざわざ不要物を持ってくるか?いやない。あなたは聡明な人物だ。所々抜けているとこがあるとはいえ、この個性的な人物たちが集う学園の長。生徒の会の長、生徒会長なのだよ。それでいて、あなたの家は趣味ですら規制をかけてくる程の厳格な両親。……学園から素行について問い合わせのリスクがあるような行動を取るはずがない」

 

「うっ……そ、それは」

 

「まぁ、長々と語ったが……一番の根拠はこれだな。……菜々程のお人好しが人の目を盗んでまでして、漫画とか読む人間じゃないってな」

 

「あ……」

 

 迷探偵(誤字にあらず)ごっこたのすぃぃぃぃいい!

 言葉に詰まり、俯いていた菜々会長だったが、俺の言葉に顔を上げる。

 これぞ持ち上げまくって上げに上げて、奈落の底へと叩き落とす……作戦の逆、厳しく叱った後にわーしゃしゃしゃしゃよーしよーしとしっちゃかめっちゃかに褒めまくる戦法!

 自身の口調の気持ち悪さにやや鳥肌……寒イボがやばいが、是非もないよネ!

 

 なんか菜々会長の瞳が潤んでいて頬は上気し、俺を見てくる視線が有象無象の同級生なんかに向けちゃいけないような感じがするがいいのかい?そんなホイホイと信用しちゃって?俺はお前みたいな秩序・善属性なんかではなく、背中を向けた師に対して背後からブスリ♂と刺しちゃう(意味深)悪属性・混沌な奴なんだぜ?

 

「以上の事から導き出される答えは一つしかない。真実はいつも一つなのだよ。会長!さては、さては────」

 

「(……はっ!?なんて見惚れている場合じゃなかった!もしかして、総悟さんにバレた!?元々感が良くて頭の良い人だとはわかっていたけど……でもどうしたら?人数が集まってない以上私の正体を明かすのはまだ早い気がするし……で総悟さんならなんとかしてくれるんじゃないかと期待してる私もいて……どうしよう!?ここはどう答えるのが正解なの!?教えてください安○先生!)」

 

 大きく息を吸って、そのまま貯めた後金○一みたく菜々会長を指して、高らかに告げる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────スクールアイドル同好会(ウチ)に入りたいんだろう!!」

 

「はいっ!仰るとおり私が………………………………………………はい?」

 

 ふっふっふ……図星過ぎて言葉を失っているな。

 見よ、このビーンソルジャーが鳩鉄砲を食らったかのような間の抜けた表情!冷血機動会長と呼んでビビってる生徒たち2見せてやりたいね。

 

「今まで隠れてスクールアイドルになる為の特訓をしていたんだな!まったく……水臭いじゃないか。言ってくれればすぐに仲間に迎えたというのに。……いや、人の良い会長の事だ。かすみに対して冷たい態度を取ったから言いづらかったんだな。だが案ずることはないぞ!我が同好会は来る者拒まず!去る者理由があれば追わず!例え敵対関係にあったとしても、最終的には手を取り合う。うむ、菜々会長が大好きな王道展開というやつだな!」

 

 まぁ、俺はどっちかというと仲間やヒロインの為に、勇者が最後の力を振り絞って自爆特攻をして、魔王と共に永遠の眠りに付き……世界は救われたけど大切な者が失ってしまったみたいな後味悪い話も好きだったりするけどな。

 この事をいつぞやかに歩夢に話して、あの菩薩みたいに慈悲深い歩夢が引きつった笑みを浮かんでたけど。

 

 さぁ、菜々会長よ。何も迷うことはない。お前の座右の銘である好きな事を好き放題やる絶好のチャンスだぁ!生徒会長であるアンタが加入してくれたら、融通が聞くだろうし、色々無ちゃだって押し通れる。

 歩夢にかすみ、見ていてくれ!最高の成果を二人に捧げまいと奮闘する俺の勇姿を!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(え、えぇー……これはどうするべきなんでしょうか?)」

 

 私、中川菜々……いえ、優木せつ菜はかつてない窮地に立たされていました。

 総悟さんが一手一手と逃げ道を塞ぐように切り返してきた時は焦りましたが、私の事を信用してくれると知った時は天にも昇ってしまいそうな気持ちになりました。

 ……それもほんの一時だけでしたけど。

 

 安○先生……助けてください。どうすれば私はこの窮地から逃れることが出来るのでしょうか?

 的を射た推理を披露しながらも、結論は的を叩き壊すくらいにズレていた名探偵さんに対して、どう返答すれば傷つけずにこの場をやり過ごせるのでしょうか。

 安○先生でなくてもいいので、何方か私に知恵を授けてください!

 

『諦めたら?そこで試合終了ですよ』

 

 あ、安○先生!?なんか区切り方がおかしくありませんか!?

 それに先生、そんなに痩せていましたっけ……?

 

「さぁ、菜々会長!ここに名前を記入するだけで、今日からスクールアイドル同好会の一員だ。俺達と共にスクールアイドルの覇道を共に歩もうではないか!」

 

 は、覇道……!な、なんて心躍る響きなんでしょうか!

 私の脳内に現れた安○先生?にバッサリと見捨てられていたら、いつの間にか総悟さんがこちらに近づいてきていました。

 うぅ……なんて真っ直ぐな目なんでしょうか。その熱意に屈してしまいそうで、私の手がサインしようと震えてしまっています!

 

「む、どうした手が震えているぞ?……ははーん。さては新たな一歩を踏み出すことに不安を感じているんだな?安心しろ。我が虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会では初心者でも楽しく安全に、そして最高のパフォーマンスが出来るように俺がいる限り、最大限のサポートをするしな!」

 

 総悟さんがマンツーマンでスクールアイドル活動の補佐をしてくれる……?

 ……………………ヤバいです。想像するだけで楽しいが溢れて止まらないです。サイン……すごくしたいです。でもまだ10人集まっていないのに、条件を提示した私がそれを覆すのは良くないですよね……あぁ、なんか頭がクラクラしてきました……考えすぎて知恵熱が出ちゃいそうです。

 ……あれ?総悟さん?なんでそんな私をじっと見つめて──

 

「……ちょいと失礼」

 

 ────止める隙もなく、伸ばしてきた腕に反応できず眼鏡を外されてしまいました。

 こ、これは私が優木せつ菜だとバレてしまうのでは!?

 

「思ったとおりだ。会長眼鏡なくても全然イケるじゃん。眼鏡かけて知的でクールな感じも似合っていたが、こっちの方が素朴で幼さをちょっと出してるところがいいな。うん、悪くないかな。俺としては(こういうスタイルも)好きだな」

 

「……はぇ?」

 

 どうやら私が見バレする心配はなかったようでいやいや待ってください。今総悟さんはなんと言いました?知的?クール?そんなことは全然ありません。両親にスクールアイドルをしている事がバレないよう振る舞っているだけであって…………好き?スキ?それともスキー?え、違う?好き?

 …………………………………………………………う、うぇえええええええええぇぇぇ!?す、すすすすす、好き!?そ、総悟さんが私の事をスキナンデェェェェェ!?

 

「知名度を集めるには一つでも多く武器を持っといたほうがいい。個性で話題性を集めるスクールアイドルもいれば、普通じゃ考えられないような意外性で注目を集めるのもいる。……が、それも一定ラインのルックスは必要だろう。それもアイドル……人の理想像が生み出すとなる偶像ならな。そう考えると菜々会長はかなりの基準値を叩き出しているだろうな……ふむ、肌もきめ細やかときた。歩夢から聞いたが、女性の肌の手入れは俺達男が想像するよりもずっと大変だと聞く。むむむ、努力値もかなりの物だと見受けられるな」

 

 はわわ!?今度は頬を触られました!?

 そ、そ、そ総悟さん!いくら私たちの仲とはいえ、これはやりすぎなのでは!?あぁいえ嫌ってことはぜんぜんまったくそんなことはないんですけれどちょーっと触り方がこそばゆくてですね────

 

「ひゃっ」

 

「うぉっ、す、すまん。…………って俺はさっきから何をしてるんだ!断りもなく異性に勝手に触れたりして……すみません生徒会長様土下座でも靴の裏を舐めたりでもなんでもしますから通報だけは……どうか通報だけは……!」

 

 総悟さんの大きくてちょっとゴツゴツした手が私の頬に当てられていたのですが、そのまま親指でゆっくりとなぞられてしまい、思わず声を上げてしまいました。

 び、びっくりしました!いえ、さっきからもう心臓がバクバク鳴りっぱなしなんですけども!

 その後の総悟さんのバックステップで距離を取られからの鮮やかな謝罪土下座コンボにも驚いてますけど!

 あまりにも自然な流れで、躊躇なく地面に頭を擦りつけて謝ってくる姿にはこれがジャパニーズDOGEZAです!とエマさんに見せたいくらい見事な土下座でした。

 

「ど、土下座なんてしないでいいですから!通報なんてしませんし、服が汚れちゃいますから早く立ってください!」

 

「そ、そうか。本当にすまん。ちょっとテンション上がりすぎた。あまりにも無遠慮すぎたってかデリカシーに欠けてたっていうか……」

 

「いえ!そ、その………………べ、別に嫌だったわけではないので……」

 

「え?」

 

 うぅー……!難聴スキルとか今時のラブコメ主人公ですか!

 今の私絶対顔真っ赤になってるよね……は、恥ずかしいけどここは伝えておかないと総悟さんが落ち込んじゃうかもしれないし……

 

「で、ですから!……嫌ではなかったですから。……総悟さん相手だと」

 

「そ、そうか。なら、良かった……のか?」

 

 気恥ずかしそうに、そっぽを向きながら頬をかく総悟さん。

 …………か、かわいいです!いつもの自信たっぷりで私の事をからかってくるあの総悟さんがこんな表情するだなんて。

 

「……」

 

「……」

 

 お互い言葉を発せようとせず、沈黙が続く。

 話題がないだとか、話が続かないとかそういうわけではなくて……どこかふわふわと浮ついたかのような空気。総悟さんとアニメ鑑賞していた時とはまた違う感じがするけど、この感じ……嫌いではないです。

 ……そういえば、総悟さんさっきなんでもするって言っていたよね?……ちょ、ちょっとくらいなら……おねだりしてもいいよね?

 

「もう一度……」

 

「え?」

 

「もう一回だけ……さっきと同じ事、してくれませんか?」

 

「同じ事って……え、何を?」

 

 ……この人はわざとやっているのでしょうか?

 

「頬に……手を、添えてくれませんか……?」

 

「あー……いや、無闇やたらに異性に触れるのは良くないと思われ」

 

「最初に触って来た人が言うんですか。……さっき、なんでもするって、言いましたよね?」

 

「……言ったっけ?」

 

「言いました」

 

「いいか、会長よ。なんでもするって言うのはそれは本人の出来る範囲のことでしか叶えられないしこういう時のなんでもしますってのは大体ネタで終わるかなんやかんやでウヤムヤにするかで何が言いたいのかというとそのまま鵜呑みにするのは良くないとおもいm」

 

「お父さんに同級生の男の子に触られたといいます」

 

「喜んで触れさせていただきます」

 

「そう、それでいいんです。……あ、あとなるべくでいいんですけど……雰囲気はちょっとロマンティックにお願い……できます?」

 

「無茶振り……!」

 

 このくらいは……いいですよね?

 たまにはこうしてコミュニケーションを取るのも良いのではないでしょうか?総悟さんの周りには何時だって、色んな人がいます。総悟さんにとっては、私なんて大勢いるうちの一人でしかないかもしれませんけど……

 私にとっては……こうして素の私を見せられる人は……あなたしかいないんですよ?

 少しくらいあなたを独り占めしても……いいですよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロマンティック、ロマンティック……こういう感じでやりゃぁいいのか?会長……いや、菜々」

 

「は、はいっ!」

 

 ま、まさかの名前呼び……!

 じっと真剣な表情で見つめてくる総悟さんに、私はガチガチに緊張しながらも見上げます。

 ……こんなにも異性の顔を間近に見るなんて、お父さんを除けば初めてかな……

 

「菜々……」

 

 あ……総悟さんの大きい手が私の頬に……どこか暖かくて、優しく包み込んでくれるような感覚に見を包まれます。

 

「んっ……総悟さん」

 

 この時間がずっと続いてくれるよう、私は目を瞑ってこの幸せな気もちを噛み締めます。

 はふぅ……こんなに幸せでいいんでしょうかぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、何度ノックしても返事がなかったのですが、急ぎの要件が………………何をしているのですか?」

 

 とある漫画の登場人物の台詞でこういうのを見た覚えがります……幸福な時間は突如として終わりを告げる物だと。

 

「…………うぇええぇ⁉こ、これはですね、そのそういうのじゃなくて……ち、違うんですよ!」

 

「違うとは?私の目にはお二人が今にも口づけを交わそうとしているように見えますが」

 

「くくく口付けぇ!?」

 

 口付けってキス?接吻?マウストゥーマウス?チュー?

 ………………………(さっきまでの自分の姿を客観的に捉える)はぅあ!!

 ち、ちがいますよ!別に私は発情していただとか恋人の関係でもないのにキスを強請っていただとかはなくてですね!これは昔見た少女漫画のワンシーンに憧れて私もしてもらいたくなったなーとかそういうわけでは!

 …………ゴメンナサイ。少し……いえ、かなり憧れていましたです、はい。

 

「……」

 

 あぁああ!彼女の私たちを見る目がますます辛辣な物に!

 どどど、どうしましょう!?

 

「落ち着け。疚しいことをしているわけじゃないんだし、堂々としとけばいんだって」

 

 私だけに聞こえるよう小声で呟き、最後に任せなと言い残して総悟さんは彼女の元へ向かって行きました。

 ……頼もしい反面、総悟さんは私のようにドキドキしたりしてなかったのはちょっとモヤモヤします。

 ……それと私は疚しい気持ちが少しありました。本当にすみません……

 

「やー、わりぃわりぃ。お見苦しいとこを見せちまって。以前見せてもらった演劇部の稽古が凄くてな。生徒会長にもその現場で見た俺の感動を共感してもらおうとな」

 

「ここでですか?それならば体育館や講堂等、もっと相応しい場所があるのでは?」

 

「それだけの為に使うのはちょっとな。それに体育館は食後の運動って事で他の生徒たちが使ってるし、講堂はその演劇部から使用申請が出てるしな。移動すんのも面倒だし、ここでやる方が手間も省けるし……ってことだったんだな」

 

「なるほど。そういうことだったのですね。……ですがここは生徒会室です。私のような生徒だけではなく、先生がいらっしゃる可能性も大いにあります。リスクを避ける意味でもあまり意味の無い事は慎むべきなのではないのですか?」

 

 それは目の前の総悟さんと言うよりも、私に言っているように見えた。

 一瞬ですけど、話してる最中に私に目を向けていましたし。

 ……黄色のリボン。背筋を綺麗に伸ばし上級生にも物怖じせずに話し、言葉の節々からも彼女が誠実で真面目な人だというのが伝わってくる。

 確か、彼女の名前は────

 

「一理ある……が、三船。別に意味のない事をしていたわけじゃないさ。ああやって関係のないこと、一息入れることによってリフレッシュとなるんだからな。頑張りすぎてもアカンし、休憩は大事よ?」

 

 そうだ。三船さん、三船栞子さん。

 今年入学した新入生の中でも、彼女は有名だ。

 入学式での新入生代表の挨拶を彼女が努めていたし、彼女の家は日本でも有数な名家での出身。

 生徒会に興味でもあるのか、たまにこうして生徒会に足を運んで来るんですよね。

 

「だからといって不純異性交友は」

 

「なーに言ってんだ。俺等はただ劇の物真似をしていただけ。不純も何もないさ。それともなんだ?俺たちが空き教室でたまに見かけるカップルたちみたいなことをしてるとでも?」

 

「……何方か伺っても?」

 

「言うわけないだろうが。恋愛は個人の自由。場所はちったぁ、考えろといいたいがな」

 

「あなたが言えた言葉ではありませんね」

 

「これは手厳しい」

 

 な、なんかいつの間にか話が終わろうとしています……さすが総悟さんです!全く動じずにこの窮地を切り抜けるなんて!

 

「それで本日の要件ですが、昨日頼んでおいた件の進捗具合を聞きに」

 

「あぁ、各部の活動状況と予算の件だろ?やっといたぞ。ちょっとまってな」

 

「……もう、終わったのですか?」

 

「あぁ。各部の部長に確認も昨日のうちに取れたしな。ほれ、全部リストにまとめといた」

 

 そう言って総悟さんがキャビネットから取り出したのは一つのキングファイル。

 ……かなりの枚数の用紙が挟まっているんですが……あの量を一日で?

 

「中を拝見しても?」

 

「あぁ。その為にまとめといたんだ、思う存分見な。それといつまでも突っ立ってないで、座ったらどうだ?その量の重さを立ちながら見るつもりか?筋トレしたいっつーなら止めはせんが」

 

「……ではお言葉に甘えさせていただきます」

 

 入口近くの椅子に座り、三船さんは真剣な表情で読み始めました。

 

「……一言言ってくれれば、手伝いましたのに」

 

 見たか!と言わないばかりにピースしながら、こちらに戻って来た総悟さんに不満を隠さずに私は聞いてみました。

 

「あの程度なら一人でどうにかなるしな。生徒会長様の手を煩わせる必要もないと思ったんだよ」

 

「あの程度って……私なら数日はかかりますよ……」

 

「ふっふっふ、こんなんでも特待生兼副会長だからな」

 

 今に始まったことじゃないですけど、総悟さんのスペックの高さには脱帽します。

 ……私よりもよっぽど生徒会長に向いているのではないでしょうか?

 

「……文章も見やすく、項目も綺麗に分けられています。この完成度をたった一日で……」

 

 三船さんもあまりの出来の良さに目を見開いています。

 そうでしょうそうでしょう!総悟さんはものすっっごく優秀なんですから!

 

「正直侮っていました。遊び歩いているだけではなかったのですね」

 

「おいおい、失礼なコト言うじゃないか。俺ってそんなにぷらぷらしてるように見える?」

 

「私があなたを見かける時、あなたは女子生徒中心に話し込んでいたと記憶しています」

 

「……総悟さん?」

 

「え?なんでそんな目で見るん?ここは総悟さんの仕事っぷりに評価を改めるとこじゃないの?ていうか、この学園は女子の比率が男子よりも多いんだし、仕方ないだろ。つまり俺は悪くねぇ!」

 

 まったく総悟さんってば……それが総悟さんの仕事に繋がってきてるのは知ってますから、わかってはいますけどね。

 ……でもやっぱり不満は出ますけどね。

 

 

 

「……やはり見込んだ通りです。……あなたならば、きっと」

 

 三船さん?

 

「三船?なんか言ったか?」

 

「なんでもありません。資料についてはありがとうございました。想像以上の出来でした」

 

「副会長だからね。再度言うが、その資料は」

 

「持ち出し厳禁。読むなら生徒会室か、生徒会役員になることですね」

 

「わかってんならいい。そろそろ午後の授業も始まるし一旦ここまでだな。他のメンバーに話をしとくから、誰かいる時間帯なら何時でも読みに来ていいぞ」

 

「わかりました。ではまた後ほど伺います。生徒会長、副会長失礼しました」

 

 そう言って綺麗にお辞儀をし、三船さんは出ていきました。

 

「ったく、あいつは頑張るねぇ……役員でもないのにようやるわ」

 

「総悟さんは三船さんと知り合いだったんですか?」

 

「んー……顔見知り以上友達未満って感じだな。良く学園の事情を知ろうと生徒会室に来るだろ?そん時に一言二言話すくらいだ」

 

「そう……なんですか?」

 

 私と話をした時はちょっと冷たい印象でしたけど、総悟さんと話している時とは三船さんの表情が柔らかかった気がするんですよね。

 ……まぁ、生徒会長モードの私が事務的すぎるってこともあるのかもしれませんが。

 

「そ。……それより、そろそろ予鈴が鳴るな。早く教室に戻ろうぜ」

 

「うわっ、本当です!急がなければ!」

 

 このお昼休みで色々ありましたが、私のことも。……さ、さっきの総悟さんとのやり取りも有耶無耶になっちゃいましたし、結果オーライなのかな?

 よし!午後の授業もはりきって受けないと!

 

 




最近虹ヶ咲学園のSSが増えてきましたね。
この調子でドンドン増えてきてホスィです。
ゲームの方はもうちょっとでランク100に届きそうです。スキップチケットはほとんど使用してないです。称号カウントだれんもん……(´・ω・`)
なんで修正したんや!



おまけ もしも菜々と恋人関係でちょめちょめするような関係だったら(時系列めちゃくちゃ)
※以下壮絶なキャラ崩壊含むので注意!!





























『そうごさぁんっ!もっと、もっと奥にください……っ』

『まったく、生徒会長たるものが生徒会室でこんなに乱れるなんてな。他の生徒が見たらどう思うんだろうな?』

『いやぁ……そんなこと……んっ、言わないでぇ……♡こんな姿見せるのは……あなただけ……ですからぁっ♡』

「……あの人たちは……まったく。あれだけ時と場所を選んでくださいと言いましたのに」

「あれ?しお子?どうしたの、そんな扉に張り付くようにして」

「この方が中の音を聞き取りやすいので。……あなたもどうですか?」

 なぜかこんなやり取りが頭の中に急によぎったので書いた。


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5話

「さて、演劇部演劇部っと」

 

今、演劇部を求めて早歩きしている俺は虹ヶ咲学園に通う普通の男子高校生だ。

強いて違うところを上げるとするなら、生徒会副会長でスクールアイドル同好会の手伝いをしているってとこかナ。

 

そんなわけで、放課後。講堂で稽古をしている演劇部に会いに行こうとしている。

理由は簡単、昼休みに菜々会長とのやり取りを三船に『生徒は見た!』と目撃されてしまい、そのフォローに演劇部をダシにしたからな。

後で三船が探りを入れて、追求されるとめんどいのでその裏付けを取りに……と言うわけだ。

……お、やってるやってる。何人かはステージに上がり絶賛稽古中みたいだ。ステージで演技をしてない人たちは台本を持って、シナリオについて話していたり、劇に使うと思われる小道具なんかの整備をしていたりと。

素人目ながらも、演劇部がちゃんと力を入れて活動しているのがわかる。

 

そうやって、汗水垂らして頑張っている姿を青春だなぁと思いながら、入り口で見ていると一人の部員と目があった。

その男はこちらを見るや否や両手を大きく広げ、こちらへゆっくりと近づいてきた。

 

「やぁやぁ、我が愛しのジュリエットじゃないか!久しぶり!ここに来るなんてどうしたんだい?まさか、この私に会いたくなったのかな?」

 

「さっきまで一緒に教室にいたけどな。今日は副会長としての仕事みたいなもんだよ。演劇部の様子を見にな」

 

「おぉ……なんということだろう!中々私たちの聖域に顔を出してくれないジュリエットが……これは何か運命的なものを感じるね。そうは思わないかい?」

 

「思わない。あと暑苦しいから離れろ。そんでもって誰がジュリエットだ」

 

「なに、君と私の仲じゃないか。かの愛の女神アフロディーテすら羨むほどに、私たちの燃え盛る愛を皆に見せようじゃないか!」

 

『キャーーーーー!!!薫様ーーーーーー!!』

 

「一人で、どうぞ」

 

……黄色い声を上げたファンらしき子達へ顔を向けたのを見計らい、やつの腕から抜け出す。

さっきはスルーしていたが、それなりの数の女子が席に座ってるのだ。うちの生徒だけかと思うが、違う制服が混じっているので他校の生徒もいるみたいだ。

本来なら用もないのに他所の生徒が学内に入るのはダメなんだろうが……うちはどんな用件であれ理由さえあれば、見学できるので来訪者申請さえしちまえば、学生なら誰だって入れる。

少しでも入学希望者、編入希望者を増やす為だって言っていた。

 

「ふふふ、今日も私の妖精たちは可憐で愛らしいね。この私が美しすぎて、見惚れてしまうのはわかるけど今は私ではなく、彼に目を移してほしい。彼は永遠の愛を共に誓いあった私の生涯の友、仲橋総悟だ!」

 

『キャー!!!総悟さんよーーー!』

 

「誓い合ってないっての。嘘を言うな、嘘を」

 

肩を抱かれ、やつの元へ引き寄せられる。

あーあ、こうなるからあんま演劇部には顔を出さないんだよ……

ファンの子はもちろん、日頃の稽古の賜物なのか声量が無駄にデカイせいで演劇部の連中からも作業を中断しこちらを見てくる。

皆さんすみません。大事な稽古の邪魔をしてしまって、この馬鹿には後で言っておきますから。

……去年から俺達のことを知っている部員からは温かい目で見たり、鼻息荒く「薫×総悟!!」なんて言ってる人もいる。

腐ってやがりますねぇ。

 

きょとんとしている子たちは新入部員だろうな。ざっと見た感じ、制服のリボンも黄色だし。

 

 

 

この言動、行動、容姿全てが私は物語に出てくる王子様ですと言わんばかりのナルシスト男は北条薫。一応俺の友人である。

モデル並みのスタイルに、182cmという恵まれた身長。サラッサラのプラチナブロンドのヴィジュアル系ヘアーとかお前日本人じゃないだろ。

なんだあの髪質と言い。日差や照明に照らされると、眩しいんだよ。眩しくて見えないだよ。

ツラに関してはもう言うことはない。てか、さっきのファンの子たちで察せ。

そんな神が自ら手掛けて作りましたと言わんばかりの恵まれた容姿を持つ薫だが……致命的な欠点が一つある。

もう先程のやりとりからわかるとは思うが……

 

 

 

「愛しの妖精たちに、私の美しさを披露するのもいいが、総悟、君と午後のティータイムと洒落こむのもいいかもしれない」

 

ホモである。学年学校問わず女子に笑顔を振りまいて、行く先ゆく際ファンの子を連れている薫だが、ホモなのである。

そう、なぜか俺をターゲットにしているホモなのである。

大事なことなので3回言いました。

こんなに女の子を選り取り見取り大勢引っ連れていながら、野郎……俺にしか興味がないと言うんだぜ……?

一途に思われるんだったら、どうせなら女の子にしてほしかったわ。しかもよりによってテレビに出てくる俳優よりもイケメンと言う。

世界は何時だってこんなんじゃないはずだ……!

 

 

こいつの第一印象は童話の世界に出てきそうなとんでもないイケメン君だったのが、話しているうちに俺に野獣のような眼光を時たま向けてることがわかり……ある噂を堺に異性には興味がないことが発覚した。

おまえホモかよぉ!

 

俺個人としてはどんな趣味嗜好をしてようと、十人十色と言うように構わないのだが、その対象としてロックオンされるのは

話が別。ネタとしては良いけどね。アニキやら阿部さんとかTDNコスギとか好きよ?TDNアーマーとか着てみたいわ。

俺が着てもガチ♂ムチな筋肉質な体型じゃないから、ストーンと落ちると思うが。

だから、ネタとしては好きな方ではある。ネタとしてはな。

ガチなのは……俺を対象としなければよかとですよ(尻を抑えながら)

 

この見た目完璧超人は自身がホモだと言うことをカミングアウトしてると言うのに、女の子のファンは減るどころか増えていく傾向にある。なんでなんだろうね?過去に一度、薫のファンらしき女の子が告白している、青春の甘ずっぱいリア充必要な犠牲となれ的なシーンに遭遇したことがあるんだけど……

まぁ、案の定振られたというか、私は特定の女の子だけを愛することができないだとか、私には恋い焦がれている男性がいるのだとか言ってたな。

俺ん中で薫がガチホモだと確定した瞬間だった。それまではただの噂だったけど、数多の女の子からの告白を断った事からある噂が立っていた。

実はブ○専!?とか、すでに婚約者がいるのかもだとか……まぁ、良くある噂だな。振られた腹いせなのか、モテない男子のひがみからなのかは知らんが。

で、一番濃厚視されたのがもうお解りいただけてると思うが

 

『ホモなんじゃね?』

 

彼は立派な男性同性愛者だった……

まぁ、うん……あの時聞いてしまったのは事実だが、俺が広めたわけでは断じてないぞ?

狙われるんじゃないかと薄々感じてはいたものの、危害を加えられたわけでも憎んでいたわけでもないしな。それに薫が本格的にホモだと広まったのはもっと後だったしな……2桁を余裕で越える数の女の子からコクられていりゃ、そのうち誰かに聞かれるわな。現に俺がそうだしね。

 

……で、その振られた女の子達に関しては大半が薫信者……信者は言いすぎか、薫のファンはやめないという。

これは薫本人から聞いた話だが、告白の返事は嘘偽りなく話しているとの事。

真正面から想いをぶつけて来てる相手に、私もそれに答えて正直でありたい……と。

その心意気は素晴らしいな。

でもさ、君のファンの子たちが俺に向けてくる目が怪しいんだよね。これはどういう事なのかな?

断りを入れつつ腐女子化させるような話術はしてないよね?……してないよな?

 

 

そんなホモなのによく友人でいられるなだって?まぁ、うん。ライオンの群れの中に肉を胴体に巻きつけられた牛を放り込むような事だとは思う。

……けどなぁ。

 

「いいわけないだろ……視察に来てるようなもんだし、いつも通りにしてくれ。張り切りすぎずとも、手を抜かずともな」

 

「おや、残念。だが、愛しの妖精たちも来てくれているんだ。彼女たちを放って私だけが楽しむわけにはいかない。諸君!すまないね、どうしても我が友人を皆に認知してもらいたくて、時間を取らせてしまった!気にせず己の作業に戻ってくれた前!舞台の皆は妖精たちと彼を観客だと見立てて、本番だと意識して取り組んでくれたまえ!」

 

……根は良いやつなんだよなぁ。薫の指示で、演劇部のみんなは俺が来た時みたく、何事もなかったかのように稽古へと戻っていった。さすが、次期部長と言ったところか。

ホモは嘘つきだとか、ホモはせっかちだとか(一部の)世間では言われているが、薫にそれは当てはまらない。

知り合った当初はこいつの行動言動に警戒していたが、去年の宿泊研修での時。

自由行動兼部屋割りの編成で薫と同じ班になり、当時は童貞よりも処女を先に散らすのかと絶望していたのだが……班が決まったその日の放課後、どうやって風邪を引いて休んでやろうかと108の策を考えていた所を薫から屋上に来てほしいと誘われ、

 

『安心してほしい。確かに私は同性愛者……まぁ、俗にいうホモという奴だが、私はお互いの同意もなしに一つになろうとは思わないさ。あなたの事は深く敬慕している。それは紛れもない事実さ。……しかし、あなたは私の事をそういった目で見ていない。私は普段は追われる身であるけれど、たまには追う側なのも悪くないと思っているのさ。……なに?話が長いから結論だけ言え?ふふっ、愛しのジュリエットは気が短いようだ。まぁ、そうだね。つまるところ、あなたが振り向いてくれるまで私が君の寝込みを襲うような男ではないということだよ』

 

なんてことを暴露されたのだった。

なんとなく直感で、コイツは嘘を付けない奴なんだと思い、それを聞いてからちょっとは安心し宿泊研修の時も一緒に話す回数が増え……口調と恋愛趣味はアレだが、話してみるとイイヤツなのがわかったので、去年と同様今年も同じクラスなこともあり……今に至ると。

 

 

「あぁ……なんと美しいのだろう。舞台の上で少女たちが演技に打ち込む姿というのは。うん、素晴らしい。何もしなくても絵になる彼女たちだが、今はより一層輝いて見えるよ」

 

「その台詞お前だから良いものの、俺とかゴリラが言うと気持ち悪さしかないな」

 

「彼は自分の欲望に忠実だからね。だが、総悟なら大丈夫さ。むしろ、君はもっと自分をさらけ出したほうがいい。言葉に言い表せない開放感が身を包むことだろう」

 

「あいつみたいに理性を失うのはちょっとなー……そういや、あいつ今日はバイトないとか言ってたよな?」

 

「ゴリなら今日は街へ素敵な出会いを見つけてくると意気込んでいたよ」

 

「ナンパか……懲りずにようやるわ」

 

部員たちが稽古の再開をするのを見ながら、薫と他愛のない話をする。

ゴリラと言うのはゴリラだ。それ以上でもそれ以下でもない。

この場にいない野獣(ノンケ)の事を頭から追い出し、薫から渡された次にやる劇の台本に目を通そうとしたら

 

「あの……」

 

一人の女子が立っていた。パッと目に移るのは髪を後ろに結ぶ為に使った大きな赤いリボン。

さっきまでステージに上がっていた娘だよな?薫にでも用があるのかと思ったが、彼女の視線は明らかに俺を向いている。

 

「おや、ティターニアじゃないか。どうかしたのかい?何か相談でも?」

 

「なぜにティターニア……」

 

ティターニアと言えば、ウィリアム・シェイクスピアの作品『夏の夜の夢』に出てくるオーベロンの妻だよな?

なんで薫にそう呼ばれているのか。

 

「ふっふっふ。なぜ彼女がティターニアと呼ばれたのか気になっているね、ジュリエット」

 

「なんかややこしくなるから、普通に呼んでくれ。普通に」

 

「何を隠そう、彼女はこの演劇部の期待のホープ!私の次の次の次のそのまた3つくらいの次に美しさと才能を兼ね備えた、妖精の中の妖精なのだよ!!」

 

「なるほど。わからん」

 

基準がようわからん。

ティターニアと呼ばれるのはなんとなくわかった。確か妖精の女王でもあったはずだからな。

演劇部の女子の中でも一番演技が上手い子……で、かわいい子なんだろう。

よく見なくても、彼女の容姿は10人中9人は美少女と声を揃えるくらい整っている。

一年生なんだろうが、同じ一年のかすみとはまた違ったタイプの美少女だ。

かすみは自他ともに認めるかわいい路線を突っきているが、彼女はかわいさを交えた清楚感が全面に出ている。

そう思うのは彼女の手入れが行き届いているであろうサラッサラのロングヘアーとどことなく幼さを残した優しげな顔立ちだからかもしれない。

……第一印象ってやっぱ大事だよなぁ。

そういう人ほど裏で何をやってるかわからないって言うけどな。実はこう見えて、男をとっかえひっかえしてるいわゆる清楚系ビッ○なのかもしれない。

 

「あの……あまり薫さんの言葉を真に受けないで下さい。私はまだまだ未熟者ですし、薫さんは……その、新人の人にはみんなに仰ってますし」

 

訂正。見た目通りの良い子だ。

俺が薫の言ってる事を意味不明だと思ったのか、困った顔でフォローしてくれた。

 

「手当たり次第かよ……何人女王がいるってんだ」

 

「おぉ!そんなダンカンを見るマクベスの様な目で見ないでくれたまえ!初々しい妖精たちにはつい言ってしまうんだ!これも彼女たちが魅力的で美しいのがいけないのだ。そして、その彼女たちをも虜にしてしまう私……あぁ、神よ!神はなんて罪深く残酷なんだ!こんな彫刻より美しく、完成された私という一つの作品を世に生み出してしまうなんて!」

 

「……ところで、何か用があるんじゃないの?」

 

完全に自分の世界に入り込んでしまい、周囲にファンの子達が群がってきたので薫を置いて、彼女と共に少し離れた所へ行く。

彼女と向き合うと、少し言い難そうにしながらも、やがて話し始めた。

 

「急にこんな事を言うのは変だと思うかもしれないですけど……私の事、覚えていますか?」

 

「……覚えて?」

 

え、何?ひょっとして前世ではお互い命を奪い合った宿命のライバルとかなんか?今世では気付かれる前にヤッちまおうぜ☆的なやられる前にヤルなの?

ひょっとしたら、失われた記憶が俺にもあるのかもしれない。欠落した記憶を取り戻す為にも(脳内設定)彼女の顔を見つめてみる。

…………ふむ。この容姿に加え、演劇部に所属しているということは演技力もあるはず。

…………逸材じゃね?ヘッドハンティングとかしちゃダメかな?

 

「その……どうでしょうか?」

 

「あぁ、すまない。もうちょっと待ってくれ……」

 

「は、はい」

 

ガン見しすぎたせいか、居心地が悪そうに顔を赤くしている。

同好会の未来の為にも、この子を引き抜きたいのだが今は一旦保留にして、過去の出来事を真面目に振り返ってみる。

……うーん、昨日は歩夢とあつ○りで島に招待したし、その前の日はかすみとスクールアイドル談義していたし、さらにその前は菜々会長と鬼滅○刃鑑賞会してたし…………もっと前に遡って……初対面、美少女、後輩。

これらに当てはまる過去の出来事と言えば……そういや、数ヶ月前の祭日に私服姿の子がいたよな?

…………あ。

 

「もしかして、受験票の時の?」

 

「はいっ!その節はありがとうございました」

 

思い……だした!

数ヶ月前に中庭で泣きそうに受験票を探していた子だ!

そういや、あの時とはリボンの色が違っていたけど、確かにこんな感じの子だったような……人の顔を覚えるのが面倒だとはいえ、覚えておけよ俺。

 

「あなたがあの時、一緒に探してくれなかったらきっと、ここに私はいませんでした。……本当にありがとうございます!」

 

「いやいや、感謝されることじゃないさ。来訪者用カードもぶら下げずに構内をうろついている不審者さんに声をかけただけだしな」

 

「あ、あはは……でもあなたが声をかけてくれて、手伝ってくれて……すごく、安心したんですよ?あの時はもう頭の中がいっぱいいっぱいでパニックになってしまいましたから」

 

「目に見えて慌てていたもんな。ま、なんにせよまずは合格おめでとう。これで君は俺の後輩となったわけだ」

 

「ありがとうございます!……先輩、先輩。中橋、総悟先輩……」

 

「さすがに俺の名前は知ってるか」

 

「知ったのは最近なんですけどね。全校集会で先輩の姿を見たときは驚きましたよ。副会長だったなんて、やっぱり先輩は凄い人です!」

 

この後輩ちゃんは俺の事を過大評価しすぎじゃないかな?

尊敬します!と言わんばかりに目がキラキラしてるし……生徒会に入ったのは特待生で入学する時の条件で部活。もしくは生徒会に所属しないといけなかったわけで……

それに、あの時去り際に名前を聞いてきたけどさそれに対して『無事試験をパスして、虹ヶ咲の生徒になってまた再開したらな』なんて言ったけど、本音はきっと会うことないだろうし、個人情報露出は避けなきゃね。なんだからな。

俺ってば本当にクズ。

 

「本当はもっと早く、お会いしたかったんですけど……先輩、教室にも中々いないですし、校内を歩き回ってもばったり出くわすこともありませんでしたし……」

 

「あー……うん、タイミングが悪かったんだよ、きっと」

 

その目は探しに来てくれても良かったんじゃないのかと訴えてきてるように感じた。

薄情な男ですみません。

 

非難するような視線に目を逸らしていると一息ついた後、意を決したのか真剣な顔で本題を切り出してきた。

さすがは演劇部と言うべきなのか。先程までとはまとっていた雰囲気がまるで違う。

 

「ようやく……ようやく、名乗ることができます。あの日からずっとこの瞬間を待ち望んでいました。先輩、私の気持ち、どうか受け取ってくますか?」

 

……ここだけ聞いたら、告白のシーンみたいだな。

そんなことは微塵もない名前を教えてもらうだけなんだけど。

これが演劇部のルーキーの実力か。思わず勘違いしてしまうほどに迫力がすごいな。

 

「あぁ。俺は中橋総悟。虹ヶ咲学園2年生生徒会所属副会長だ。改めてよろしく」

 

「私は虹ヶ咲学園1年生演劇部所属、桜坂しずくです。こちらこそよろしくお願いします!」

 

「……え?」

 

「え?」

 

「桜坂しずく……君が?」

 

「は、はい。……先輩も私の事ご存知だったり……?」

 

桜坂しずく……だと?

 

「いやー、すまないね。私があまりにも美しいばかりに……おや、ミスしずくに総悟?どうしたんだい?」

 

……世間は狭いってのは本当だなぁ。




ようやくしずくが出せた……そろそろ本編関係なく好き勝手に書きたくなってきた。
いつまでたっても9人揃わないもん(´・ω・`)

ナルシスト 友人A。とある音ゲーのキャラがモデルのイケメン。イメージはその方が男になった金髪のイケメン。
ホモであるが、野獣先輩とは違い睡眠薬を使ったり卑劣な手は使ったりしない、ポリシーのあるお方。
主人公とイチャラブ合意○○○○するのが夢。
あぁ、夢とはなんと儚いのだろう……

後輩 言わずとしれた清楚系真面目ツッコミ担当1年生。いつ編入してきたのがわからなかったので、今回の話はかなり無理がありそうだったけど強引に書き上げました。
スクスタで時系列は気にしたらアカンのやな……
個人的にお気に入りキャラなので、ちょっと贔屓するかも……w


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6話

書き方を変えたので初投稿です。


「全員飲み物は手に持ったな。それではこれより『第一回虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会チッチキチーお菓子や飲み物だってなんだってあるんだよ親睦会』を始める。我ら同好会の今後の活躍と発展を願って……乾杯!」

 

『かんぱーーい!!!』

 

「って、まだ10人集めれてないのにこんな事してていいんですかぁ……?」

 

スクールアイドル同好会の中心になりつつある総悟が、黄色い液体(Re○lGOLD)でなみなみと注がれた紙コップを掲げ、乾杯の音頭を取る。

お菓子やらジュースの入ったペットボトルが大量にテーブルの上に置かれており、総悟を含めた女子3人でテーブルを囲っていた。

 

開催の宣言を高らかに行った自分の先輩に対し、その場のノリで自分も紙コップを掲げたのはいいが、ふと冷静になって現状を顧みるようにかすみは呟いた。

口ではそんなことを言っているのだが、既に目の前に置いてあったお菓子を開封しており、ポッキーを咥えていた。

 

「いいに決まってるさ。この短いスパンで歩夢と桜坂の2人を仲間に加えることができた。順調に事が進んでいるわけだし、たまにはこうやって頭の中を空っぽにして騒ぐ事だって必要さ。それにちゃんと生徒会にも許可を得てるしな。派手に騒いだってお咎めもらうこともない」

 

「そうですか?それなら今日はたーっぷり楽しんじゃいますよぉ!先輩、かすみんといーっぱいおしゃべりしましょう」

 

「うむ。ノリの良い後輩は俺は好きだぞ。好きなだけ食べて、飲んで、騒ぐと良い。もちろん、みんなで遊べるゲームだって取り揃えてあるぞ」

 

通学用のいつもの慣れ親しんだ鞄を手に取って、その中から据え置きゲーム機やらボードゲームの数々を出していく総悟。

その鞄の大きさからして、明らかに収まるサイズではなかったのだが……せっかくの楽しい空気に水を差すのはどうかと思ったので、かすみは気にしない事にした。

かわいいかすみんは空気だって読めるのです。

 

ちなみにだが、この日の為に副会長権限を行使して、本来なら3日前までには提出しなければならない持ち込み申請を前日に提出し、ゴリ押しで生徒会長に許可を得ていたりする。

しかもその内容もボードゲームを備品として、お菓子を災害時に備えての食品等と偽っていたりしていた。

たちの悪い事にちゃんと災害用食品をきちんと持ってきてる辺りが無駄に徹底している。

 

「私、今日の為にクッキーを焼いてきたんだ。みんな良かったら食べてね」

 

「えぇえ!歩夢先輩が作ってきたんですか?てっきりお店で買ったものかと思っていました」

 

「歩夢の作るクッキーはそりゃもう絶品だぞ。一度味わったらそんじょそこらで売ってる所の物では満足……そう、サティスファクションできないくらいにな!」

 

「もう、褒め過ぎだよ」

 

「なんでそこだけ英語なんですか……ではかすみんもお一ついただきまぁす…………美味しい!これとーっても美味しいですよ!」

 

「えへへ、良かった。いっぱいあるから遠慮しないでね」

 

巾着袋のように可愛らしい小袋を広げると、見事な焼き色をした様々な形のクッキーが顕にした。丸型、星形、ハート型、定番の型もあれば天秤や弓矢と言った、星座を型どった物まで選り取り見取りだ。

クッキーの上には色とりどりのマーブルチョコやトッピングシュガーが乗せられていた。

物によっては星型のクッキーに顔が出来ていたり、ハート型の物に縁枠をなぞるように描いて二重の物になっていたりとチョコペンによって一手間加えられていた。

造形によって見るだけではなく、食べる側に飽きさせないように何重にも手間をかけ作るのは丁寧で細かく、歩夢ならではの物である。

 

何度も食べている総悟はやはり歩夢のクッキーは最高だと絶賛しなている。

店にまで出向き高い金を払うよりも、その倍の額を歩夢に支払って、作ってもらうほうが断然良いと思っていた。

普段から、朝食やら弁当といい知らずうちに歩夢に胃を掴まれているのであった。

初めて歩夢のお菓子を食べるかすみもその魔性の魅力を持つクッキーに、虜にされたのか一つ。また一つと手に取り、かわいいかわいい小さな口の中に運ばれていった。

総悟とかすみが自分の作ったクッキーを笑顔で食べているのを見て歩夢は喜んでくれてよかったと安堵していた。

そんな中――――

 

「どうしたのしず子?早く食べないとなくなっちゃうよ」

 

「あ、はい。えっと……頂いてもよろしいですか?」

 

同好会に加入したてであるしずくはお菓子に手を出さずに、紙コップを両手に持ったままだった。

そんな様子に隣に座っているかすみが気付き、歩夢お手製クッキーを頬張りながら何かあったのかと声をかけた。

しずくが同好会に復帰した時は、なぜ急に来なくなったのかとかすみに詰め寄られひと悶着があった。

スクールアイドルをやめたわけではなく、むしろスクールアイドルとしてステップアップをする為に一度演劇に集中し、今以上に表現力を磨く為に武者修行に出ていた……とのことであった。

それを聞いたかすみはちゃんと言って欲しかったとやや怒り気味であったが、しずくが辞めたわけではないと確証が得れた事に安心していたという事を総悟は見抜いていた。

 

「なんだ遠慮しているのか?遠慮はいらん。全部俺の奢りだ。歩夢が作ってくれた物は対象外だが……まぁ、些細なことだ。ほら、今日の主役の一人がそんな顔してるのはいただけんな。くいねぇ、くいねぇ」

 

「主役……ですか?」

 

「さっき総君が親睦会って言ってたけど、私としずくちゃんの歓迎会も兼ねているんだって」

 

「それに加えてスクールアイドル同好会の復活記念もですよぉ!このお菓子の数々は先輩と一緒にかすみんが選んだんだよ」

 

「そ。本当は2人の手を煩わせたくはなかったんだが、手伝うってどうしても聞かなくてな……完全サプライズにする予定だったんだがな」

 

「……ということはわ、私だけ何もしてないのでは……!?」

 

「だから気にすんなっての。主役はドーンとえっらそうに構えてりゃいいんだって。それにこの企画も桜坂が戻ってくる前日に決まったものだからな。知らなくて当然だ」

 

そうは言っても、一人だけ何もせずにお祝い事に参加するなんて真面目で責任感が人一倍強い彼女には余計に居心地が悪くなってしまったようだった。

再開してから数日しか経っておらずまともに会話したわけでもない総悟だったが、コヤツ真面目な委員長タイプか。そんでもって教師に良いように使われる断りきれずに溜め込むタイプだなと、様々な人と関わってきた経験から洞察していた。

そんな総悟が取った行動は

 

「ほら、口開けな」

 

しずくの口の前にクッキーを差し出す……いわゆるアーンであった。

 

「えっ、え、えええぇぇえ!?」

 

「そ、総君?」

 

「なっ!」

 

総悟の突拍子のない行動に女性陣は三者三様な反応を取る。

邪気のない表情と共に目の前に差し出されたクッキーに顔を赤らめつつ、戸惑うしずく。

幼馴染の予想不可能回避不可能な行動に慣れてはいるものの、目を見開く歩夢に。

こちらも驚きで目を見開き、勢いよく立ち上がり二人の行動を凝視しているかすみ。

 

「なんだ食わないのか?クッキーは嫌いか?」

 

「い、いえ!そういうわけでは……」

 

「ならなんの問題もないな。あーん」

 

周りの視線なんて気にもせず我を押す通す先輩に、そういう問題ではないような……と混乱する頭の片隅にてしばし冷静になるしずくであったが、その理性の一方で「何を迷う必要があるの!ユー、食べちゃいなさいよ!先輩の指ごと!」と自分の中の悪魔が囁いていた。

 

入学前から再開することを心望み、あの時助けてもらったお礼を出来れば、それだけで満足です……と考えていたしずくであった。

……が、彼女も恋に憧れる花の女子高生。それも昔から演劇に打ち込み、恋愛物の小説や劇を見たのは少なくはない。

あわよくば親しい関係になれたら……と期待していなかった?と問われれば嘘になる。

目の前には憧れの先輩が、自分にお菓子を食べさせようとしている。好きな異性にしてもらいたいことTop10にランクインしているシチュエーションを目の辺りにしたしずくは頭がおかしくなりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ……あ~ん」

 

あぁ、どうやら欲望には勝てなかったよ。

真面目な彼女だってガス抜きは必要だからな。

目に見えてわかるくらいに顔を真っ赤にしながらも、目を瞑り小さな口を開く。

あまり大きく開けると、はしたない子だと思われないかな?等と心配する辺り、恋心が芽生え始めた女の子と言うべきだろうか。

 

「うんうん。素直な良い子は好きだぞおじさんは。あーんっと」

 

しばらく顔を合わせていない親戚のおじさんの様な事を言いつつ、餌を待つ雛鳥のように待ち構えるしずくにむせ込まないよう気をつけながらもクッキーを放り込んだ。

この男、しずくとは対象的に羞恥を感じていない辺り妙に手慣れているように見えるのは気のせいではない。

 

「どうだ、美味いか?」

 

「は、はい。とっても美味しいです!」

 

味なんてわかっていない程衝撃が強かったのだが、反射的にそう答えていた。

先程の総悟の(素直な良い子は)好きだゾを聞いてしまったせいで、舞台表で万雷の喝采を受けた時と同等の喜びを感じてしまっていたのだ。

 

「だろ?なんせ、歩夢が、作ったクッキーだからな。好きなだけ食べるといい」

 

しずくの返答に満足げに頷き、クッキーが置かれた皿をしずくの元へと近づける。

俺も食べるかなーと、クッキーを摘まんだ総悟だったが自身の口に運ぶよりも先に待ったの声をかけた人物がいた。

 

 

「あの……先輩。もう一度食べさせて……いえ、あーんをしてもらってもいいですか?」

 

「なんだ、お兄さんに食べさせてもらうのが癖になったってか?ま、桜坂は今日の主役だからな。姫様のお言葉に従うのが道理。いいぞ。今日一日なら何度だってしようジャマイカ」

 

「あ、ありがとうございます。それと差し出がましいかもしれないのですが……私のことはしずくと呼んでもらえないでしょうか?」

 

「名前呼びかー……あんま女子の名前を呼ぶのはちと抵抗があるんだけど……まぁ、いいか。……しずく」

 

「は、はい!」

 

「しずく、しずく、しずく、しずく、しずく、しずく、しずく、しずく、しずく」

 

「あ、あうぅぅ」

 

「ではこれは?」

 

「ふぇ?えっと……もずく?…………はっ!せ、先輩!」

 

そうあなたの理想のヒロインことしずくであった。

中々自分の欲を表に出さず、内に溜め込むタイプなのだが一度

極上の品を味わってしまえば、何度だって味わいたくなるのが人間である。

彼女も例外ではなく、1年近く募らせていた想いが溢れ出したのか、周りが気にならなくなる程積極的に攻めていた。

そんな急にグイグイ来出した後輩に対し、まったくブレることなく接する総悟。

そのもずくはどこから取り出したんだ。

 

「もずく……じゃなかった。しずく、あーん」

 

「むぅ、今わざと間違えましたよね。……あ〜ん」

 

意地の悪い笑みを浮かべる総悟に、頬を膨らませるしずくであったがそれも一瞬だけ。憧れの先輩に食べさせてもらうというシチュエーションには真面目な後輩でも勝てなかったよ……餌を待ち詫びる雛鳥と化した後輩に、心がほっこりしつつ、総悟は2枚目のクッキーを手に取り、しずくの口の中に入れようと近づけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すきありっ、はぁーむっ」

 

「あ」

 

……が、その(クッキー)は無情にも雛の口に入ることはなかった。外野から虎視眈々と機械を窺っていた(かすみ)に啄まれてしまった。……総悟の指ごと。

かわいいかすみんを差し置いて、しず子とイチャついている総悟を見て、ふくれっ面になっていたのだが、総悟が2度目のあーんをする所を見て私に良い考えがある!と言わんばかりにひらめき、迷うことなく作戦を決行した。

 

「はむ……あむ……ちゅぱっ。にひひっごちそうさまでしたぁ。先輩、とーっても美味しかったですよ!」

 

「あー、うん。そいつは良かった」

 

突然の出来事にやや呆気にとられる総悟であったが、かすみのしてやったりな憎たらしくもかわいい笑顔を見て、唾液で多少濡れた指を気にかける暇もなく空返事をした。

そんな中総悟よりも状況を把握できずにポカンとしている人物が1名いた。

 

「…………?先輩?…………かすみさん……?」

 

しずくであった。視覚を遮断していても聴覚は聞き取れるのだから気付かないのはおかしいやろ。と思うかもしれないが、一度集中してしまえばたちまち自分の世界を展開し、見る物を魅了させ周囲すらも自分の世界に取り込むようにと演劇にて見についた集中力は伊達ではなかった。

つい先程までは完全にしずくの独壇場であった。

 

何時まで経っても口の中にクッキーが来ない為、まだかまだかとご主人様の帰りを玄関の前で出待ちする愛犬のように待機していたしずくだったが、一度目を開くしずく。

先程まで右手に持っていたクッキーは消え、その代わりと言ってはアレだが、指に誰かの唾液だと思われるものが付着し手首を抑えてい総悟に、今までずっと様子を見ていた歩夢は自分のポケットを探り何かを取り出そうとしていた。

どういう状況なのか理解が遅れるしずくであったが、ゆっくりと顔を見上げるとそこには勝ち誇った笑みを浮かべるかすみがいた。

 

「ふっふーん♪しず子のクッキーはかすみんが美味しくいただいちゃいましたぁ」

 

しずくは激怒した。

 

 

 

 

 

 

 

「かすみさん!横取りするなんて卑怯ですよ!」

 

「そういうしず子の方こそ!私たちを蚊帳の外にして先輩を独り占めするなんて!かすみんだって先輩とイチャイチャしたいんだから!」

 

「い、イチャイチャなんて……そ、そんなことしてません。これは……先輩と後輩のスキンシップ……ですよ?」

 

「自分で疑問を感じてる辺りぜんっぜん説得力がなーい!仮にスキンシップだったとしてもそれならかすみんだってかわいいかわいい後輩だもん。先輩とあーんなことやこーんなことをしちゃうんだから」

 

「あ、あーんなことやこーんなこと……!?そ、そんなのダメダメダメ!許しませんから!」

 

「ふーんだ。しず子のお許しなんていらないもんねー。今度はかすみんのターンなんだから!」

 

「あんなことやこーんなこととか……人前でなんて……か、かすみさんにはまだ早すぎると思います!」

 

「しず子ってばいったいなにを想像したの……?ていうか、私には早すぎるってどういうこと!?今絶対かすみんの体型見て言ったでしょ!」

 

「……そ、そんなことはないですよ?」

 

「嘘!ものすっごく目が泳いでる!しず子だってそんなかすみんと変わらないはずなのに……!そ、そうだ。先輩はどう思います?かすみんとしず子のどっちが――――」

 

「ふきふき……うん、これでよし。綺麗になったよ。それと総くんもあまり食べれてないよね。はい、あーん」

 

「って聞いてないですし!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、それじゃ今後の事について話そうと思う。」

 

「今後の事……ですか?えっと、このカードは初めてですよね。うーん……では『オズワルド』で」

 

「オズワルド……?誰なのそれ。しず子の友達?かすみんが引いたのは……これまた初めてですよね。『かすみん騎士団精鋭部隊員』に任命します!」

 

「それって名前じゃなくて役職だと思うんだけどなぁ……総くん、引き続きメンバー集めでいいんだよね?」

 

「あぁ。基本方針は変わらん。だがメンバー集めは俺がメインで動くつもりだ。みんなはスクールアイドルとしてやるべきことをしてほしい。ちなみにオズワルドと言うのは今までの流れからして、シェイクスピアが残した作品に出てくる架空の登場人物だろう。お笑いの方じゃないからな?一応言っとくが」

 

「うっ……なんでバレたんですk」

 

「そうです!さすが先輩です!オズワルドはリア王の登場人物なんです!もしかして、先輩読んだことあるんですか?」

 

「一応な。これでも副会長だしな。有名なやつとか教師に勧められたもんは一通り読んだ」

 

「!!そ、そうなんですね!あ、あ、あの!先輩ってミュージカルや演劇に興味があったりしますか?もし少しでも興味がありましたら私と一緒に――――」

 

「はーいしず子。いったん落ち着こうねー。趣味が合いそうだからって先輩に迫らないの!かすみんたちを置いてけぼりにしないで!」

 

「あはは……しずくちゃんの気持ちもわかるけどね。自分の好きなものに興味を持ってもらえるのって。あ、次は私の番か。えーっと……この子ってたしか」

 

「はいはい!かすみん覚えてまーす。その子は『かすみん騎士団親衛隊隊長』です!」

 

「あれ?そうでしたっけ。それは別のカードに名付けていませんでした?」

 

「そうだな。愛・地○博のマスコットキャラみたいな奴につけてたな。そいつのは俺がつけた」

 

「『ギブソン・上村』だよね?」

 

「歩夢、正解」

 

あれから時間が経過し、結構な量があったお菓子も大分減った頃。4人は総悟が持ってきていたテーブルゲームに興じていた。

人生すごろくやトランプ、UNOと言った定番な物もやっていたが今行っているのはまた別のゲームだ。

 

中央に置かれた山札から順に一枚づつ捲って皆に見せるように置いていく。引いたカードの絵柄が初めてのものだった場合、引き当てた人物がそのカードに名前をつけて場に置く。それを繰り返していき、名付けられた既存のカードを引いた場合、その名前を言い当てる事ができたプレイヤーが今まで重ねられたカードを入手できる。

最終的に持っているカードの数が多かった者が勝利というものである。

詳しく知りたい人はなんじゃもんじゃでググれば良いと思うよ。

現在の順位は一位から順に総悟、歩夢、しずく、かすみである。

 

「むぅー!歩夢先輩良く覚えてましたね……先輩が付けた名前ってすっごく覚えにくいです!」

 

「そうかな?私は印象に残りやすいけど」

 

「そうか?最初の名前よか覚えやすいだろ」

 

「そりゃそうかもしれませんけど……なんなんですか。そのカタカナと漢字を付け足した売れない芸人みたいな名前は……」

 

「始めたては名付け親の先輩と歩夢さんしか答えられませんでしたものね……」

 

『九重茎の木パイナップル』『親戚のお兄さんの妹さんの旦那さんの初恋だった人にそっくりな異星人』『ガ○ル地方でメタモルフォーゼしてそうな人気投票万年最下位暫定王者』etc……とにかくなんの関連性のない滅茶苦茶な名前を付けていた総悟であったが、名付けた本人と総悟の事なら9割型知り尽くしている歩夢にしか答えられなかった為、(本人曰く)簡単な名前へと変えたのだ。

 

「これも個性さ。それで活動方針についてだが、みんなはレッスン……この場合は自主トレか。そっちに力を入れてほしい」

 

「え?メンバー集めの方はいいんですか?先輩だけじゃなくて、かすみんたちみんなで探した方が良いと思いますけど」

 

「かすみちゃんの言う通りだよ。総くんだけに負担をかけるわけにはいかないよ」

 

「大丈夫だ、このくらいどうってことはない。それにメンバー探しをするなって言ってるわけじゃないさ。多少気にかけてくれたらこっちとしても助かる……が、それにかまけてばかりと言うのも良くない」

 

「そうですね……スクールアイドル活動を疎かにして、後々響いてきたら困りますよね」

 

「でもでも!それで人数が足りなくなったら元も子もないんじゃ……」

 

「安心しな。同好会を廃部になんてさせんし、何も考えなしに提案してるわけじゃないさ。次のメンバーの当てだってある」

 

そう言いながら山札を捲る総悟。同好会に加入してくれる人物に心当たりがあることに一同首を傾げていた。

3人の中から代表として歩夢が誰の事か尋ねようとした矢先来訪者を告げるノックの音が響いた。

 

「中に誰もいませんよー」

 

「失礼します」

 

「むむっ、生徒会長じゃないですか。わざわざ部室にまで来て何か用ですかー?」

 

予期せぬ来訪者とは書類の束を抱えるこの学園の生徒会長だった。

かすみのあからさまに歓迎していない態度にも関わらず、軽く受け流して会釈をしていた。

そんな中こちらもあからさまなネタ発言を交えた返事をした総悟だったが「誰もいないって言ったんだが……」と小声で言いつつ生徒会長ジト目で見ていた。

 

「か、かすみさん。失礼ですよ」

 

「何言ってるのしず子!この人は私たちの居場所を奪おうとしている敵なんだよ?愛想良くなんてできないから」

 

「随分と嫌われてしまいました。中橋さん、部員集めの調子は如何ですか?」

 

野良猫が毛を逆毛て外敵を威嚇する様に敵意を剥き出しにしているかすみにしずくが袖を引っぱり宥める。

しかし、そんなかすみの事なぞ意に介した様子もなく、総悟に話しかけていた。

こういった露骨に敵を作ろうとした発言をするから誤解を生むんだなと何処か他人事の様に考える総悟であった。

 

「見てわからんか?ご覧の有様だよ!」

 

「それは私が言うべき物だと思いますが……余裕そうですね?」

 

ちらりとボードゲームやお菓子が置かれたテーブルを一瞥する生徒会長。

どう見ても廃部に追い込まれた部の光景ではない。

 

「な、なんですか?何か言いたい事でもあるんですかっ」

 

「かすみちゃん落ち着いて。どうどうどう……」

 

「そうですよ。私の分のお菓子上げますから」

 

「かすみん馬じゃないですし、お菓子なんかで誤魔化されないからね!…………あ、このチョコレート美味しい」

 

「……見てのとおりだ」

 

「なるほど。部員同士の結束力を深めていたのですね」

 

確かに最初の方でも親睦会と言っていたが、半分は自分が騒ぎたいだけだと言うのは黙っておくことにした。

 

「演劇部員の桜坂しずくさんも戻ってきているようですし、これなら期日までに10人集まるのも夢ではありませんね」

 

「当然。もとよりそのつもりだ。……って、もう行くのか?」

 

「えぇ。どうやらお楽しみの所をお邪魔してしまったみたいですし」

 

「まぁ、待て。お茶の一杯くらい飲んでけ……とは言わんが、菓子の一つくらい食っていったらどうだ?」

 

「お言葉は嬉しいですが遠慮して――――」

 

「まぁまぁそう言わずに!」

 

用はもうありませんと踵を返そうとした生徒会長だったが、客人の一人もてなさないのは同好会としての沽券に関わると思った総悟は引き止めた。

そもそも廃部寸前だと言うのに地位も名誉もあったものではないが。

頑なに拒む生徒会長に、口を開けたその瞬間目にも止まらない速さで歩夢のクッキーを投げ込んでいた。

 

「んんっ!?……な、なにをするんです…………」

 

「歩夢」

 

「うん。生徒会長さん。アッサムのストレートティーです」

 

「あ、どうもありがとうございます……」

 

急に口の中に感じた異物に戸惑う生徒会長だったが、吐き出すわけにもいかなかった為そのまま咀嚼する。

幼馴染に名前を呼ばれただけで、言いたいことを全て把握した歩夢は事前に準備していた紅茶の入ったティーカップを差し出す。

ほぼ反射的に受け取った生徒会長は立ちながらだが、それでもゆっくりと気品と品性が感じられる手つきで飲んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美味しい……」

 

その自然と漏れた呟きに総悟は部員全員にアイコンタクトを交わす。

 

『客人だ!盛大にモテなして味方につけようぞ!』

 

『『『おーっ!』』』

 

結局菜々が開放されたのは、自身を呼びつける放送が流れるまで足止めされるのであった。




時にはこういう寄り道的な話も。
次回はきっと新メンバーが出る予定。
投稿は未定。


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7話

スクスタ一周年おめでとうございます!
……まぁ、一周年はまだなのですが当日に投稿することはないと思われるのでちと早いですが、祝いの言葉を。
一周年記念ムードが漂ってる中、この小説は平常運転です。


よう、俺だよ俺!俺だってば。久しぶり、元気にしてたか?俺は元気だ。もう元気すぎて三日三晩寝ずに全力でトライアスロンしちまうぐらいには元気だよ。……え?睡眠はちゃんと取った方が良いって?大丈夫だ問題ない。適宜脳の半分を休ませてるからな。

……けど俺は元気100倍バイキ○マンなんだけどよ、親父の方がちょっとな……それで相談があるんだ。こんな事頼めるのはお前しかいないんだ!もう頼れるのはお前しかいなくてさ……え?私に出来るなら何でも言ってくれていいって?ありがとう!やっぱ持つべきものは頼れる友人だな!それじゃあ、会って話したいからさ今から指定するとこに来てもらっていいか?場所は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……だからって名乗らない相手の言う事を鵜呑みにするのはどうかと思います」

 

「大急ぎで来たのにそれはナイっしょ!?」

 

思わず敬語になってしまいましたわ。

振り込め詐欺や上手い話には気を付けような!何事も疑ってから話しを聞くのが良いと思うんだ。

俺だよ、中橋総悟だよ。

今日は前回話したスクールアイドル同好会に入部してくれそうな生徒とコンタクトを取ろうってことで、ターゲットを空き教室に呼び出し、メンバー総動員でお出迎えしております。

 

まったく……いくらお人好しだからってそうホイホイと付いてきちゃダメでしょうが。通話相手の名前が表示されていたとしても、それが当人とは限らないんだからな。

もしも相手が薄い本にでも出てきそうな脂ぎったおっさんだったり、ボッサボサの髪で如何にもな裏で何やってそうかわからない陰険男子生徒とかだったらどうすんだ。

副会長として心配ですよまったく。

 

「ごめんね愛ちゃん。総君が『多少のインパクトはないと宮下に失礼だ』って。悪気はないの。怒らないであげて」

 

「へっ?あー、違う違う。愛さん怒ってなんかないって。心配はしたけど、このくらいいつものことだし。それにナッシーのしてくれる事って一味違うし、楽しみにしていたりもするしね」

 

「ナッシー言うな」

 

この俺の事をヤシのみポケ○ンみたく呼ぶのが、宮下愛。

腰に手を当て、からかうようにニヤついた笑みを浮かべているのだが、不思議と嫌な感じはしない。

これも彼女の持つ人柄なんだろうな。

 

見た目はちょいと派手めなギャルって感じではあるが、その中身は見知らぬ初対面の相手でも関係なく、フレンドリーに接し数分後には警戒しまくっていた相手も即オチマブダチにするくらいコミュ力が高く、近所のお姉さんが大好きなお洒落よりも駄洒落が好きな人懐っこいおばあちゃんっ娘だったりする。

学内でも彼女の名は広がっていて、同学年ならば一度くらいは耳にしたことはあるくらいには有名だ。

 

俺の場合は去年から交友があった。

クラスは違えど、彼女の連絡先を知る程度には仲が良く(こいつの場合そのへんのボーダーは低いだりうが)歩夢とも俺繋がりで初対面というわけではなかったりする。

実際今も歩夢が申し訳なさそうに謝ってるし。君は俺の保護者かなんか?

 

「この人が宮下愛さんですか?」

 

「おっ、そっちの二人はナッシーの後輩?歩夢みたいなお嫁さんがいるのにかわいい後輩二人も引き連れているなんて、ナッシーも隅に置けないねー♪」

 

「人聞きが悪い事言わんでもらえます?ナッシー言うな。任○堂に訴えられたらどうすんだ……改めて紹介すると、こいつがだzy――――宮下愛だ。みんなの力になってくれるはず」

 

いかんいかん。ついいつものように呼ぶとこだった。

紹介するように宮下の方へ手を向け、みんなの方にと振り向く。

しずくは丁寧に自己紹介を行ったが、かすみは「ほっほー……かすみんがかわいいだなんて、そんな自然のセツジの事を言っても何もでませんよぉ」と隠しきれない喜びが既に全身から出ていた。後セツジじゃなくて摂理な。

そして我が最大限の信頼を置ける幼馴染はというと「やだなー愛ちゃんったら……そんな、新婚さんだなんて……気が早すぎるよー」と頬を両手で抑え、身悶えていた。

なんか微妙に宮下の発言を捻じ曲げて捉えてる気がするが……この状態の歩夢に何言ってもダメそうだし、放っておこ。

 

「みんなの力に?なになに、どったの?」

 

「あぁ。ちと頼みたい事が……いや、コホン。宮下。きみにたなびたいことがあるんだ」

 

「(先輩、どうしてわざわざ言い直したのでしょうか)」

 

「(えっとね、しずくちゃん。総君はアニメとかゲームの作品に影響されて、真似することがあるから)」

 

「(アニメやゲーム……あんまり馴染みがないなぁ……今度先輩に聞いてみようかな?)」

 

む、なんか後ろで歩夢としずくがコソコソ喋ってる気配が。

やっぱこのネタは古かったか?

 

「頼みたいこと?何でも言って!他ならぬナッシーのお願いなら、愛さん何でも聞いちゃうよ!」

 

「ナッシー言うな。それと話を聞く前に安請け合いはするもんじゃないぞ……実はな――――」

 

ん?今、なんでも、するって(ゲス顔)

お約束のやり取りを脳内でして、顔には出さないように宮下へ説明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどねー。それでアタシを誘いに来たってわけだ」

 

「うん。愛ちゃんなら決まった部活に所属してなかったから、ひょっとしたら入ってくれるかもって」

 

一通りの事情を話すと、宮下は合点がいったとばかりに頷く。

反応自体は悪いわけではない宮下に歩夢が、どうかな?と期待に満ちた目を向ける。

 

「んーー、ナッシーと歩夢が入ってる同好会かー。ものすっごく惹かれる物はあるんだけど……アタシがスクールアイドルねー……」

 

腕を組んで目を瞑る宮下。どうやら、自分がスクールアイドルになって、衣装に身を包みステージの上でライブでもしている姿を想像しているのだろう。

 

「んー……やっぱり想像できないなぁ。ゴメンね。誘ってくれたのは嬉しいけれど、遠慮しとくよ。やっぱ決まった部や同好会に入るのはいいかな」

 

「なんでですか?」

 

「色んなことを経験したいからかな。とにかく楽しいことをいーっぱいやりたいの!」

 

改めて宮下の全身を見てみる。

なごうことなき美少女である。……いや、それはそうなんだけどさ。

つーか虹ヶ咲学園に所属している女子……や、男子もか。ある一定以上の容姿を持ったやつばかりが多いんだよな。

ここにいる女子はジャンルは違えど、モノホンのアイドルに負けじと劣らずルックス抜群だし。演劇部にいる薫の奴だって他校のファンがいるほど人気がある。

 

……その中に放り込まれたフツメンの私。どういうことなの?俺だけ顔面偏差値55くらいですよ?や、すんません盛りました48……いや、50!50はあるはずだ!少なくとも顔面インスマス面ではないはず!

……そうやって自分に言い聞かせるように無理やり完結させる。

まったく、なんだってんだ……これが合コンで良く聞く、美男美女の中に一人は冴えないのも入れておく事で、周りがより一層輝きを増す為の引き立て役の気分ってやつ?

くそぅくそぅ!顔だけが全てではないはず……!世界はいつだってこんなもんじゃないはずだ!

 

なんて俺が人知れず暗黒面(ダークサイド)に落ちようとしていると、歩夢から「総くん?」と袖を引っ張られる。

おっと、いけないいけない。危うく無の煉獄に囚われるとこだった。

この流れだと宮下に断られるのは確定的に明らか!

みすみすと大きな獲物を逃がす訳には行かない。

 

「それについては百も承知だ。以前聞いたからな。俺はその宮下の飽くなき好奇心を満たせると思っての上で、こうして勧誘に来ているんだ」

 

「覚えててくれたんだ。嬉しいなぁ。うーん、スクールアイドル同好会かぁ。……って、あれ?ソーゴって愛さんと同じで特定の部や同好会には入らないんじゃなかった?」

 

「まぁ、そうだったんだが……ちと事情が変わってな。今は虹ヶ咲学園生徒会所属副会長兼スクールアイドル同好会……の仮入部員ってとこだ」

 

 

「え?センパイってば、かすみんたちと運命を共にした正式なメンバーじゃ」

 

「(しーっ!かすみさん、今は先輩に全部任せましょう!)」

 

 

「あっはは。なにそれー。んー……スクールアイドルかぁ。アタシにできるかな」

 

「何事も挑戦、だろ?ま、宮下なら何の問題もないとは思うが

な。宮下めっちゃかわいいし、ルックスに関しては非の打ち所がないといってもいい」

 

脳内で容姿における考察をしていたせいなのか、スラッとそんなことを言ってしまう。

ルックスもスタイルも両方合わせ持つ宮下なら、どんな衣装でも着こなしてファンを魅了できるだろう。

 

「ゔぇっ!?あ、アタシがかわいいって……あ、あははー。ソーゴってば何言っちゃってるのかなー!あー、あっつ!この部屋ちょっと暑くない?」

 

見るからに動揺し、片手で顔を扇ぎつつ。空いているもう片方の手で襟をパタパタとさせ扇ぐ動作をする。

……制服のリボンを大きく緩めているせいで、胸元が大きく開いているので非常に目のやり場に困る。

本人は大胆な行動を取っていることに気づいていないようだが、ジッと見ているのもどうかと思うので顔を逸らし――――

 

「総くーん?」

 

「先輩!私には中々かわいいって言ってくれないのに宮下先輩には淀みなく言うのはどういうことなんですか!かすみんの方がかわいいですよね!?」

 

「先輩は宮下さんのような女性の方が好みなんですか……?先輩が望むなら私……」

 

現スクールアイドル同好会のメンバーが非難するように見ていた。

なんでそんな目で俺を見るん……?俺はただ同好会が人知れず廃れていくのを防ごうとしているだけなのに。

よかれと思ってやったんだ。だから、そんな目で俺を見るな。

 

「……とにかくだ。宮下。お前のその持ち前の明るさとノリの良さはスクールアイドルにおける強力な武器だ。歌やダンスといった技術は後付でどうとでもなるが、性格はそうもいかない。天賦の才と言っても良い。どうだ?スクールアイドル同好会でその才を活かし、新しい景色を見てみたくはないか?」

 

「う……ソーゴってばグイグイ来るねぇ。」

 

「当然。宮下程の逸材を放っておくわけがないさ。ここで逃して、他の得体の知れないところに掻っ攫われたら、たまったもんじゃないし」

 

「得体の知れないって、そんな怪しい部ばっかじゃないでしょー!」

 

なーに言ってるんだかと、手をぷらぷら振る宮下。

この学園、幅広い分野に力を入れているわけであって、色んなとこから生徒を取り入れているからな。

かなり規模がでかく、生徒数もそれに比例して他の学園と比べると生徒の人数は圧倒的に多い。

それ故、個性的な生徒も多く……非公式である同好会ならば、あれこれ言われることもないので(部員さえいれば)割と好き勝手やったり怪しげなことに手を出してるとこも少なくはなかったりする。

生徒の自主性をモットーにしていると言えば、聞こえはいいだろうが、悪く言えばそれは放任主義とも捉えられるのよね。

 

「そっかー、そんなに愛さんのこと買ってくれているんだー……そっかそっか。……うん、ここまで言われたら断るわけにはいかないっしょ!いいよやったろーじゃん!」

 

「ホントですか!?やりましたねセンパイ!これで5人です」

 

「ありがとう愛ちゃん。これから一緒に頑張ろうね」

 

宮下愛がスクールアイドル同好会に加入した!

ここがゲームとか創作の世界ならこんな感じのテロップが表示されるだろうな。

それにしても宮下が入ってくれたのはかなり大きい。

人数合わせはもちろんのこと、その持ち前の明るさと誰とでも気兼ねなく接せる宮下のフレンドリーさは同好会の雰囲気をプラス方向に持っていってくれるだろう。

ほら、現に進んでみんなの輪に入ろうとしてるし。

 

「えっへへーみんなよろしく!愛さんガンガン、頑張ってアイドル活動やってくよー!愛さんだけにアイ、活!なーんちゃって」

 

「えっ?あ、は、はい。よろしくおねがいします……?」

 

宮下の唐突なダジャレによる自己表明に、誰よりも早く反応したしずくがなんとも言い難い表情をしていた。

そして困ったような顔でこっちを見てきた。

この宮下愛というギャル。こんな見た目でダジャレが3度のカラオケよりも大好きという。

 

暇さえあれば俺に新たなダジャレを考えてみたんだー!きいてきいて!と邪気のない楽しそうな笑顔でやってくるからな……俺とか歩夢は割と聞き慣れて、耐性がついているがかすみとしずくは宮下の唐突なぶっこみに若干引いてるっぽい。

 

「どぉどぉ?ソーゴ、アタシのダジャレ。今日のは中々良いキレ出してたと思うんだけど」

 

こんなふうに。

 

「そうだな……80点くらいかな」

 

「おぉ!めずらしく高得点!これはやっぱりダジャレコンボのおかげだったり?」

 

「あぁ……80点だ。800点中な」

 

「100点満点じゃないの!?」

 

むしろ10分の1も与えているんだから大分甘めに採点したと思う。

宮下のダジャレを初めて聞いたかすみは「妥当だと思います。かすみんちょっと引いちゃいましたし」とのこと。

かわいいを追求する甘いスクールアイドルはダジャレの評価は辛いようだった。

 

 

「これで5人。指定された人数の半分まできた。そろそろ伸び悩む頃かもしれないな……宮下は良い宛あったりするか?」

 

交友関係が広く、それでいて深く付き合うタイプの宮下だ。

ひょっとしたら入部してくれそうな人物に心当たりがあるかもしれないので、聞いてみる。

 

「あ、うん。とびっきりの面白い子が一人いるよ。一年生なんだけどね」

 

「一年生かぁ。まだ部活とかに入ってなかったりするのかな」

 

「どうでしょう。入学してからそれなりに日が経ちましたし、虹ヶ咲学園は最初から目標を持った人が多いですし……」

 

「そんなに気にしないでも大丈夫さ。俺なんて志望動機は自宅から一番近い学園だったからだしな。それに他のとこに所属してようがいまいが関係ないさ。しずくみたく掛け持ちしてもらうか、引き抜けばいいだけだしな」

 

「えぇっ!?そんな理由で入ったんですか!?」

 

「あはは……たしかにそれが一番の理由って言ってたもんね……でも特待生になれば学費が全額免除されるのも入学を決めた一手じゃなかった?」

 

「まぁな。学費だって半端じゃなく金取られるわけだし、少しでも安くできるんだったらそれにこしたことはないわけであって……って、俺の話は今はどうでもいい。重要じゃない」

 

自分語りをさせられそうな流れだったので、強引に話を打ち切って宮下に知り合いを連れてきてもらうことに。

その時に歩夢以外のメンツから、続きを話してくださいよーとか促されたりしたが、また今度なと言っておいた。

 

宮下の言うとっておきか。どんな子だろうと一人でも部員は増やしておくに限るしな。逸材じゃなかったり適性じゃなくても入るだけ入ってもらうだけでもオールオッケー。

飽きたりやる気がなくなったりしたら、やめてもいいよとか言っときゃいいしなー。

うん。宮下みたいな特級の逸材が入部したせいか、次に加入する人はそこのお前でも全然いいよー。奴がいるからなーてきな。もうアイツ一人だけでいいんじゃないかな現象が起きているようだった。

うん。期待しないで待っているか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ、私がスクールアイド「  採  用  !!!」はぇっ!?」

 

宮下が引き連れてきた、彼女……女だよな?うん、制服からして女子生徒だ。めっちゃ失礼な事を考えてしまったわ。彼女と目と目が合う瞬間に(多分合った気がする)俺に衝撃が走った。

 

なんなんだこの子は!こんな子入学式の時、壇上から見てたがいなかったぞ!

マスク?違うな。仮面……でもないな。お絵描き版か。いやそんなことはなんだっていいんだ!重要じゃないわけじゃないけど今はどうでもいい!

こんな個性的な子が他にいただろうか?いや、いない!

 

小学校の給食の時に余った牛乳をクラスのガキ大将とジャンケンでどっちが飲むか勝負して勝った時に俺の脳がその牛乳は飲まない方が良いと訴えかけてきた時と同じくらいの俺の第六感が訴えかけてきている!

この子を絶対逃がすな……と。ころしてでもにゅうぶさせる!

 

「きみのような生徒が現れるのを俺は待っていたんだ!スクールアイドル同好会(うち)に入ってくれないか!君ならば間違いなく皆と共にスクールアイドルの頂点を目指せる筈だ。その気がなくてもこの書類に名前を書くだけでいいんだ!そしたら後は歌やダンスのレッスンしたり、たまに部室に顔を出すだけでいいんだ。あと気が向いたらライブなんてやってくれると嬉しい。頼む!スクールアイドルをやってみてはくれないか!30000円上げるから!!」

 

「そ、総くん落ち着いて!その子びっくりしちゃってるから!」

 

「センパイキャラ変わりすぎじゃないです!?あとちょっと妥協してるように勧誘してますけど、それだけやっちゃえば立派なスクールアイドルですからぁ!」

 

「そのおサイフは仕舞ってください!ダメですよ!そのお金はいざという時の為に、自分の為に使わないとですよ!」

 

「今がその時なんじゃーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ〜……まさかここまでソーゴが喜ぶとは。りなりーが褒められてるみたいで愛さんも鼻が高いよ〜」

 

「あ、あの……愛さん。あの人、止めないでいいの……?」

 

「歩夢がいるからなんとかなる……とは思えないね。ちょっと行ってくるよ」

 

みんなにしがみつかれながらも宥められ、落ち着いたところで改めて勧誘しました。

天王寺璃奈と言うらしい。スクールアイドルをやっていける自身がないと言っていたが、その溢れる個性なら強力な武器になるとか顔前にあるお絵描き板(璃奈ちゃんボードと言うらしい)を世に知らしめようじゃないかみたいな事を言って入部してもらいました。

顔芸系……いや、らくがき系スクールアイドル……か?とにかくこれは他のスクールアイドルにはない超強力な武器……いや、兵器だ!

一日で一気に二人も魅力的な部員が増えたし、これは良い風が来てる!このままのペースで部員を増やしていくぞ!

 




愛さんとりなりーがスクールアイドル同好会に加わった!
なんかりなりーの出番少ない気がするけど、気のせいだよね!


※しずくとかすみんのあなた君に対する口調がたまに被ってわからなくなることがありえるので、呼び方を変えることにしました

かすみんはセンパイとカタカナ表記に
しずくは先輩と漢字表記に

台本形式じゃないが為に、強引な修正。すまんの(´・ω・`)


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8話 其の一

いやぁ、虹ヶ咲のアニメが始まりましたね(2週間前)
スクスタのストーリーとは展開も違い、各キャラの知り得なかった一面とかも見れて、楽しく見させてもらってます。
OPもEDも個人挿入歌も出来の良い作画で良きかな良きかなだZoy。
強いて不満を上げるとするなら、2DやらアニメOPをねじ込むのではなく頑張って3Dにしてアニメ挿入歌をスクスタで実装して欲しかったかな?
……高望みしすぎかな?



前置きが個人的アニメの感想ですみませんが、本編です。
書きたいこと書き殴ってたら余裕で一万文字超えてたので分割はジャパ○ット投稿です。




「点呼ー」

 

「1♪」

 

「にぃー」

 

「3!」

 

「よん!愛さんを呼んだだけにーよん!」

 

「ご、5」

 

「よしよし、虹ヶ咲学園スクールアイドル5人全員揃っているな」

 

満足そうにうんうん頷く虹ヶ咲学園生徒会所属副会長兼虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会部員(仮)の中橋総悟。

新たに2人の部員が加入してから数日後の放課後。彼を含めた計6人がグラウンドの一角に集まっていた。

 

「むぅ、センパイ。かすみんたちスクールアイドル同好会はセンパイを含めた6人ですよ!センパイが数えられてないです」

 

「所属人数だけで言ったらな。だが、スクールアイドルなのは俺を除いた5人だ!よって!俺は何一つ間違ったことは言ってない!」

 

「……先輩もスクールアイドルをやればいいのでは?璃奈ちゃんボード「ハテナ?」」

 

「それだ!それだよりな子!」

 

「「それだ」じゃねー!やるかぁ!俺は絶対にやらんからな!」

 

総悟がクラスバーサーカーに変換するくらい絶賛したその勢いと、慕う先輩の推薦により加入したばかりであるりな子こと天王寺璃奈。

チャームポイントの璃奈ちゃんボードを捲り、疑問符を浮かべた顔が描かれたページを掲げ、私たちと契約してスクールアイドルをやろうよ!的なことを言う。

それを皮切りにかすみを始めとした一年生組が

 

「先輩がスクールアイドルに……いいんじゃないでしょうか」

 

「だよねだよね!しず子、今度演劇部からよさげな衣装持ってきてよ」

 

「これで先輩も私たちと同じスクールアイドル」

 

中橋総悟スクールアイドル化計画を練ろうと盛り上がっていた。

ちなみにだが、総悟がイメージしているアイドル像はフリッフリのフリルであしらわれた、正統派アイドルが着そうな女性用の衣装を身にまとって、ステージで熱唱を行っているというもの。

対する一年生組は各々によって異なるが、総悟に見合った男性用の衣装を着ていた。

 

そんな互いの考えが食い違っている事に気付けず、良くない流れに総悟は冷や汗をかいていたが……

 

「それで総くん。今日はどうしたの?朝に放課後は動きやすい格好をしてグラウンドに全員集合って言っていたけど」

 

そこは信頼と実績のある幼馴染。総悟が困っている事を誰よりも早く察知した歩夢は話の流れを変えようとここに集まった目的を尋ねた。

長年の付き合いは伊達ではない。歩夢のナイスパスにGJ歩夢!と内心、両手を上げゴールへシュートを決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(総くんがアイドルに…………うん。悪くないかも)」

 

……どっちの衣装で脳内に描いていたのかは本人のみぞ知る。

 

 

 

 

 

「そーそー。どったの?アタシたちをこんな格好で呼び出したりしてさ」

 

「こんな格好て……普通の体操着だろうが。誤解を招く様な発言をするんじゃありません」

 

総悟を除いた女子5人は学園指定の体操着を着ている。

学校指定ではあるが、制服の時よりも素肌の面積は多くなっているので、普段とは違った印象が受けられるであろう。

総悟はというと、ジャージである。なんの変哲の無いジャージである。

 

「センパイ、センパイ。かすみんの体操着姿を見るのは初めてですよね?どうですどうです?あまりのかわいさにセンパイのハートを打ち抜いちゃいましたかぁ」

 

 

 

そう言って総悟の前でかわいくポーズを取るかすみ。

白と赤のコンストラストの半袖短パン。自身とは長さも太さも異るほっそりとした手足に色白さも相まって嫌でも異性だと感じさせる。

 

 

 

「あぁ。かわいいぞ。今のかすみを見ているとなんかこう……運動会に応援してやってきた父兄の気持ちが湧き上がってくるような」

 

「保護者目線じゃないですか!?」

 

……が、それが恋愛対象として見れるかどうかはまた別の話である。現時点でのかすみでは手のかかる妹としてしか見られなかったようだ。

かわいいのは間違いないみたいだが。

 

「なんでしょうか、このなんとも言えない煮えきらない気持ちは……センパイにかわいいって言われたのにすっっっごい複雑……」

 

「まぁまぁ。かすみさんの魅力は先輩に伝わっていると思うよ」

 

「元気出して!璃奈ちゃんボード「ファイトっ」」

 

「ふぇ〜〜ん。しず子、りな子〜〜」

 

一年生組の絆が深まった!!

二人に抱きついているかすみを横目に、本題へと話を切りだした。

 

「諸君らを呼び出したのは他でもない……我が同好会に足りない物を補う為だ」

 

片手で抱えたクリップボードをペシペシとボールペンで叩く。

 

「足りない物……ここで新しいメンバー探しをするんです?」

 

「確かに部員は足りていないが違う。そんな目に見えているものじゃぁない。それは見えないけど、確かに存在するものだ」

 

「見えないけど存在するもの……なぞなぞ?」

 

いまいち要領を得ない……もったいぶって話の中枢に触れようとしない総悟にかすみと璃奈は首を傾げる。

他のメンバーを見渡してみるが、どうやらピンと来ていないようだ。そんな彼女等に総悟は

 

「見えないけどそこにはあるもの!スクールアイドルに必要不可欠な物で、我が虹ヶ咲スクールアイドル同好会に足りてない物!それなーんだ!?」

 

「え、えぇっ?」

 

クイズ番組の司会者みたくノリノリで、手で握っているボールペンを璃奈に向ける。

突然回答を求められた璃奈ちゃんはあたふた。アドリブには弱いのです。

それでも璃奈ちゃんボードのページを変えることだけは欠かさない。

 

「えっとえっと……お、お金?」

 

「No!たしかにアイドル活動とかするにあたって費用は必要かもしれんが。だが違う!」

 

「おー!費用だけに必用!あっははは、やるじゃんソーゴ!」

 

「はいそこのダジャレ。うっさいよ!」

 

「はいはいはい!センパイ!かすみんわかっちゃいました!」

 

「大変元気があってよろしい。ではかすみ君。What do you say?」

 

「へ?え、えーっと……」

 

おい、中学生レベルの英文だぞ。

先程の勢いが嘘みたいに消沈し、そのままフリーズするかすみに、総悟はそのうち勉強会を開いたほうがいいなと考えるのであった。

 

「かすみさん。先輩は答えを待っているんだよ」

 

「い、言われなくてもわかってるし!」

 

小声でフォローをするしずくは良い子(確信)

 

「そ、れ、はぁ。マスコットキャラです!山梨県の○ナッシーみたいな何かを象徴するかわいくて愛嬌のあるマスコットキャラが必用なんだと思います!同好会で一番かわいいのはこのかすみん!つまり私のかわいさを全面的に押し出したイメージキャラなんかを作るべきだと思います」

 

「それはまた今度な!歩夢!お前は何だかわかるか?」

 

かすみん渾身のボケ(本人は至ってマジメ)を軽くあしらわれガーンとショックを受けるかすみ。

 

「うん……マスコットキャラとか作るなら、そもそもグラウンドに来ないで室内でやると思う」

 

「かすみさん……あの梨のキャラクターは山梨県生まれじゃないからね……?」

 

「えっ、うそ!?」

 

「そっちのナッシーは千葉県だからねー。虹ヶ咲のナッシーならそこにいるけどね!」

 

補足すると全国で梨の生産量が一番多いのは千葉県であったりする。梨の一文字が入っているからと言って特段梨に関わった何かがあるわけではない。

 

「グラウンドに体操服。それにスクールアイドルに必要な物……体力かな?」

 

「Marvelous!Exactly!!スクールアイドルだからってキラキラ綺麗に光り輝いているものだけではない。泥臭い事の一つや二つはある。だって人間だもの。μ'sやAqoursがあんな素晴らしいパフォーマンスを行えるのも基礎体力があってこそ。そう!我が同好会に足らず、スクールアイドルに必要不可欠な物とは体力!!スクールアイドルとは1に体力2に体力。3と4が努力と根性に5が体力!これらがあれば誰だってスクールアイドルになれる!」

 

選挙活動における立候補者みたく、マニュフェストを高らかに掲げる。

言っていることが完全に体育会系のノリであるが、間違ったことは言っていなかった。正しい共言い難いが。

 

「まー、スクールアイドルって歌って踊るわけだしね。それも笑顔で。生半可な体力じゃやっていけないか」

 

「そうですね。これは演劇にも言えることですが稽古をするにも発声練習をするにも体力がいります。何事にも基礎体力は重要かと」

 

「私、体力に自信ぜんぜんない……いまさらだけど、スクールアイドル私にできるのかな……」

 

「大丈夫だよ、璃奈ちゃん。私も体力あるほうじゃないし、いっしょに頑張ろう」

 

「くふふー、かすみんは今までスクールアイドルになる為にいっぱい練習してましたからね。体力だって自信ありますよー!」

 

「期待しているぞ。かすみ。ま、そんなわけで今日は体力作り兼皆の身体能力調査が主だ」

 

「私たちの身体能力ですか?」

 

「そ。みんながどれ程動けてどこまでやれるか把握しておきたくてな。練習メニューを考える際の参考にしたくてな」

 

「なるほどー。……あれ?でもそれだったらこの間やった体力測定の結果をセンパイに見せれば」

 

かすみの言った通り新年度の恒例行事として、体力測定が全学年で行われていた。

その時の結果が書かれた紙を総悟に渡せばと、良かれと思って発言したのだが――――

 

 

「それでも構わないが……たしか体力測定には他にも色々と載っているだろ?見せても良いっつーなら受け取るが……」

 

「色々って………………あ」

 

思い至った様子。かすみだけでなく全員が顔を真っ赤にし俯く。

そう体力測定は運動能力だけでなく、自身の成長具合も測られる。身長はもちろん、座高や体重。それに女子ならバストも測るわけであって……たかが紙切れ一枚と侮ることなかれ。乙女の秘密と言う名の個人情報が記載されているのだ。

 

 

 

「よーし、そいじゃ時間も惜しいことだし始めるとすっか。んじゃまずは軽く慣らしで。全員グラウンド20週!」

 

『ええー!!』

 

当たり前というべきか、全員から悲鳴が上がる。

虹ヶ咲学園のグラウンドはかなり広く、今現在も様々な部や同好会が活動に使用している。運動部がたまに外回りを走る事があるが、部員曰く一周約2kmはあると言う。

 

「一周2キロ、合計40キロ……!?愛さん、ごめんなさい……私の冒険はここまで……璃奈ちゃんボード「ガクッ」」

 

「り、りなりー!しっかり!愛さんたちの物語はまだまだこれからだだよ!」

 

「ふぅー……大丈夫、落ち着くのよ私。演劇部でも一日10キロは走っていたもの。それが4倍になっただけだと考えれば……い、いけるはず!」

 

「し、しずくちゃん?足がすっごい震えてるけど大丈夫!?」

 

あまりの距離の長さに目眩がし、膝から崩れ落ち、走る前から戦意喪失する璃奈の肩を抱き、呼びかける愛。

普段やってることの延長線だとやればできる絶対できると頭で言い聞かせているしずくだが、体は正直なようで拒絶反応を出していた。

その尋常じゃない震えっぷりに歩夢が心配そうに駆け寄っていた。

 

これは余談だが、一般的な駅伝の一人が走る距離はおよそ20km。テレビの駅伝中継では走り終えた男子大学生が疲労困憊な様子が映されてる事がざらにある。

その倍近い距離を走り慣れてない女子高生にやらせようとしているとか、鬼畜の所業である。

鬼!悪魔!総悟!と言われたとしても仕方があるまい。

 

「せ、センパイ?20週は冗談……ですよね?」

 

「あぁ。冗談だ」

 

青い顔で聞いてくるかすみに対しあっけらかんと答える総悟に一同はコケる。

一度は言ってみたかったんだよね。青学の部長の気持ちが少しはわかった気がする。と付け加えつつ、お前らは今日から全員虹学の柱となれ!と気分は完全に古傷を抱える最強の人であった。

 

なお、歩夢(総悟の影響)愛(多趣味)璃奈(サブカルチャー興味有り)は元ネタを知っていた為、メガネをかけた某中学生には見えない中学生を真似ているんだとわかったが、元ネタを知らないかすみとしずくは……

 

「虹学の柱……!良い響きです。皆さんが支えなくても、かすみん一人でセンパイを支えられるようがんばっちゃいますよぉ」

 

「私だって負けないからね。先輩を強く支えるのはまだ厳しいかもしれないけど、寄り添って優しく支えるくらいなら私にだってできます」

 

やる気が上がっていた。

やや微妙に方向性が違う気もしなくもないが、火が付いている所に水をさすのは野暮なので、気にせず説明をすることにした。

 

 

「まずはストレッチをして、体を解してから向こうのトラックで50mを走ってもらう。で、その後に長距離……取りあえずはグラウンド半周かな」

 

現実的な数字に胸をなでおろすメンバー。

そして新生虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会(仮)の初となるレッスン(陸上部)が始まったのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




メンバーが増えると思った?
そんなことは全然ないんだぜ!
投稿してから半年は経っているのに、未だに全メンバーが仲間になってないとかどうなんだろうね(´・ω・`)


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8話 其の二

連続投稿にマニアワナカッタ……



「はっ、はっ、はっ……!ゴーーッル!1位だよ、イェーーイ!」

 

両手を上げ、さながらマラソン選手がゴールテープを切るようにと俺の前を通過したのは宮下だった。

彼女が横切ったのと同時にタイマーを止める。

 

「4分02秒か。さすがだな。運動部に所属していないってのにこのタイムとは」

 

その場で膝に手を当て休む宮下にお疲れさんと声をかけ、ちょうどいい感じに冷えたタオルを首にかけて上げ、キンッキンに冷えたスポーツドリンクを手渡す。

 

「おー、ありがとー!気が利くじゃーん」

 

「ふっふっふ、宮下の旦那の為にあちらのクーラーボックスにてキンッキンに冷やしておきましたぜ」

 

「誰が旦那かー!そこは姐御でしょー。……ひゃー!冷たくてきもちぃー」

 

「ほらほら、人仕事を終えて一杯やる気持ちはわからんでもないが、クールダウンが先だ。そこらへんを歩いて、いい感じに落ち着いたらストレッチをしといてな」

 

ランニングとか長距離走後のクールダウンが必須と言われているのは血の循環を良くする為だ。

体を動かしている最中は全身に素早く血液を送っていく為に心臓に加えて筋肉もその役割を担う。

が、急に立ち止まったりして歩みを止めて筋肉の使用を止めてしまうと、血液を行き渡らせる為に働いていた筋肉が動かなくなるわけで……そうなると今まで相方がいた心臓が急なコンビ解消宣言されて一人になってしまう。

筋肉が動きを止めていても、血の周りはすぐ様にスピードを落とせないわけで……通常の穏やかな血の流れに速度を戻そうと、その役割を全部心臓が負担することになるわけだ。

車の急ブレーキみたいなもんだ。あれって車にもダメージいくらしいし、乗用者にだって言わずもがな。

で、血の流れが悪くなるとどうなるか?一時的に貧血が起きることだってあるし、心臓にも少なからずダメージを負ってしまう。

そういった事を防ぐために、運動をしたあとは急にスピードを落とすんじゃなく、ゆっくりと徐々にスピードを落とす……つまり、今の宮下みたいに多少動いて、呼吸が整うまで筋肉を動かしたほうがいいというわけだ。

これらを簡潔に一言で済ませると、(激しい運動後には急に)止まるんじゃねぇぞ……と言う事だ。

 

(仮)とはいえマネージャー的なポジションの俺だ。こういった豆知識でだってスクールアイドルのみんなをフォローだってできるんですよ!オルガさん!

所長かわいいよ所長。普段強気の女性が見せる脆い一面って良くない?

 

「はーい。……なんかソーゴが出来るマネージャーに見える!」

 

「副会長だからな」

 

このくらいは虹ヶ咲の副会長ならば造作もない……と謎の決め台詞を残し、定位置に戻る。

次の生還者は……

 

「はひっ、はひぃー……あ、愛先輩、は、早すぎますよぉー……」

 

かすみであった。スクールアイドルとしては先輩であるプライドなのか、だいぶ張り切りすぎたようでかなり息が荒い。

 

「お疲れ。そういうかすみもかなり良いタイムだぞ。ほれ」

 

そう言って宮下と同じく膝に手を当て、息を整えるかすみにタオルとスポーツドリンクを手渡す。

 

「と、当然ですよ!このくらい……か、かすみんにはなんて事……ないです!」

 

「そいつを聞けて安心した。次はシャトルランをやってもらうから、それまで休んでおけよ」

 

「ゔぇっ!?」

 

「冗談だ。今日はここまでだ。クールダウンはしっかりとな」

 

せんぱーい!と頬を膨らますかすみの頭にタオルを置いて、先程の場所へと戻る。

練習後のクールダウンの重要性をちゃんと理解しているのか、タオルに鼻を近づけ、スンスンと鳴らした後ゆっくりと歩き始める。

おい、なんで今臭いを嗅いだ?なんで残念そうな顔してるんだ?ちゃんと新品で買った物だから、大丈夫だっての。

使用済み(意味深)の男臭いタオルなんて渡すわけないでしょうに。

 

なんだかんだ言っているかすみであるが、スクールアイドルの為の努力は惜しまない。同好会が休止していても、自分磨きはしっかりとやっているのを何度か見かけた事あるしな。

その成果がちゃんとこうやって結果に繋がっている。良きかな良きかな。

 

 

しっかりと記録を書き残していると、次にゴールをしてきたのは後ろに結った髪を揺らしながらリズム良く走るしずくだった。

その数秒後には少し後ろでしずくの背中を追うように走っていた歩夢が続け様にゴール。

 

二人のタイムを確認すると、一般女子の平均よりも若干速い。

演劇をやっているしずくは見た目によらず体力があるのはわかっていた。演劇って観客に聞こえるように声量を鍛えなきゃならんし、役によっては動き回ったりするし長時間立ちっぱなしでなきゃいけない時があるからな。

歩夢も未所属にしては勿体ないくらいの成績だ。買ったばかりのHDDみたく、まだ真っ白な状態でデータの吸収し甲斐がある。本人の頑張り屋な性格も相まって、この中では一番将来性が高そうだ。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……どうだったかな。総くん……」

 

「お疲れ歩夢。運動部でもないってのに、よく走ってくれたよ。ほら、タオルとポ○リ」

 

「わぁっ、ありがとう。……ね、ねぇ、良かったらなんだけど、この後ストレッチを手伝って――――」

 

「しずくも。遠慮せず受け取れ」

 

「ありがとうございます!ふぅー……如何でしたか、先輩?私、先輩のご期待には添えられていたでしょうか」

 

「あぁ。さすがは演劇部のホープ。しずくの頑張りは走りを通して伝わってきたよ」

 

「そ、そうですか?えへへ……頑張ってよかったぁ」

 

「……」

 

「ん?どうした歩夢。ドラ○エで肉を与えたのは良いが、求めていたモンスターとは違う奴が起き上がったのを見たような顔をして?」

 

「どんな顔なのそれ……なんでもなーい」

 

手を組んで、はにかむように笑みを浮かべるしずくの頭を撫で回したい気持ちをグッと堪えていると、歩夢が不満そうに声を上げてそっぽを向いていた。

 

歩夢ちゃんよ、拗ねたようなその態度でなんでもないは通じません!それに俺はどこぞの鈍感系ラノベ主人公みたいな難聴スキルは持ち合わせていません。俺の耳はバリバリ仕事を熟す健聴スキルなんですよ?

しずくに声をかけて、ストレッチを一緒にやろうと頼んでいる歩夢の背後を取り、耳元に顔を寄せて

 

 

 

「それは家に帰ってから……な」

 

 

 

 

 

「あ、歩夢さん?急にヘタり込んでどうしたんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからさらに数分、みんなより大きく遅れてやってきたのは

 

「はひ、はひ…………も、もう……ダメ」

 

ふらふらとした足取りで、目(璃奈ちゃんボード)をぐるぐると回した天王寺だ。

 

「おっと。お疲れさん。最後まで良く走りきったな」

 

「わたし、こんなに走ったの……体育の授業を除いて……初めてかもしれない」

 

ゴールと同時に頭から倒れそうになるが、倒れる前に体を支える。

宮下から聞いてはいたが、天王寺はアウトドアよりもインドア趣味万歳のバリバリの理系女子らしい。

現状の部員の中では一番体力が低いが、彼女の自信を失くさないようにフォローしつつ体力を付けるのが今後の課題ってとこか。

行きも絶え絶えな様子の天王寺だが、しっかりと璃奈ちゃんボードを手放さないのは正直尊敬の念を抱きかねない。

 

 

「どうだ天王寺?クールダウンはできそうか?」

 

「ごめんなさい……今は何もしたくないです。璃奈ちゃんボード「ガクッ」」

 

天王寺を支えて、ゆっくりとみんなの方に歩きながら聞いてみるが、返ってきたのは某ボクサーみたく真っ白と灰のように全てを出し尽くしたような璃奈ちゃんボードであった。

うーむ、気持ちはわからんでもないが最低限のストレッチはしてもらわんと後に響きかねないからな……よし。

 

「なら俺が天王寺をストレッチさせてやろう。ほら座って座って」

 

「おねがいしまーす……」

 

了承を得たので、天王寺の背中に周る。

だらーんと体を投げ出すように座っているのを見ると、相当堪えた様子。

本当なら、立った状態で軽く屈伸を行った後でやったほうがいいんだが、しょうがないか。

前屈運動をする為に、天王寺の足を持ち、両足を開かせる。

……ん?

 

「脹脛のとこ、だいぶ張ってるな……天王寺。かなり無茶して走っただろ?」

 

「……わかるの?」

 

「あぁ。走ってる最中攣るような感覚がなかったか?」

 

「……あったかも」

 

「慣れない運動のせいで体への負担が大きかったか……ちょっとくすぐったいかもしれないが、我慢してな」

 

「え?……ひゃわっ!」

 

天王寺の横に移動して、脹脛を中心にマッサージを始める。

弱すぎず強すぎず、力を調整しながら筋肉を解していく。

男の俺の足とは違い、細くてしなやかな足だ。とても同じ人間だとは思えないくらい手触りが良い。

 

「どうですかお客さん。かゆいとこはございませんか?」

 

「それは散髪の時の台詞……あ〜〜〜、でも先輩のマッサージきもちぃぃ……なんだか眠くなってきちゃった……璃奈ちゃんボード「ねむねむ……」」

 

「そいつは良かった。いい感じに解れてリラックス出来てる証拠だ。…………こんなもんか。次は左足だな」

 

「は〜い……おねがいしますー」

 

完全にリラックスし、間延びした声で反対の足を差し出してくる。

そのまま自然な流れで、マッサージを続ける俺だが……ふと、気になった。

顔を上げて、天王寺の顔を――――璃奈ちゃんボードを見てみるとまるで温泉に浸っているかのような緩みに緩んだ顔に変わっていた。

……今の俺って第三者から見たら、どう思われるんだ?

疲れきった後輩に付け込み、ストレッチと称して異性の体に触れ、あまつさえ衣類を脱ぐようにと強要し乙女の柔肌に触れている不埒者……とめっちゃ悪く見ればそのように捉えられなくもないか?

俺的には医療目的でやってるわけだから、疚しい気持ちなんてないけど。

天王寺もそんな知り合ってから日も浅いと言うのに、特に拒んでいるわけでもないみたいだし。

……疲れて思考が回ってないだけなのかも知れないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むむむ!りな子めー。新米のくせにかすみんを差し置いて、センパイから手ほどきを受けるなんてズルイ!こうなったら邪魔をしに――――」

 

「ほらほら、よそ見しないのーかすかす」

 

「愛センパイ!かすかす言わないでくださ――――ってあいだだだだだだっ!い、いたいですいたいです!そんなに押さないでくださいぃ―!」

 

「ソーゴのマッサージかー。なんか疲れがめっちゃ取れそう!アタシも後でやってもらおーっと」

 

「な、何言ってるんですか!愛センパイぜんっぜん疲れてなさそうじゃないですか。ここはいい感じに疲れが溜まってるかすみんがですね――――ってだからいたいですってば!そ、そんなに伸ばせませんって!!」

 

 

 

「マッサージ………私も言えばやってくれるのかな……?」

 

「うーん……どうだろう。総くんのことだから、必要だったらやってくれると思うけど、無闇に異性に触れるのはよくないとか言うかも」

 

「そうですか……いいなぁ、璃奈さん」

 

「(総くんってば、誰とでもすぐに打ち明けちゃうからなぁ……良いことなんだろうけど、ちょっと複雑……)」

 

「歩夢さん?手止まっていますよ?」

 

「あ、ごめんね、しずくちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も天王寺にマッサージを続けるのであった。

疲労が大分回復し、思考も回ってくるようになった天王寺は「冷静になって考えてみると……私ってばすっごく恥ずかしい事をしてもらっていたり……!?」なんて言っていたが、是非もないよね。

宮下とかすみたちが私たちにもマッサージしろだとか言ってきたが、本日の営業は終了しましたと突っぱねたが、是非もないよネ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

「んっ、んっ……こんなものかな」

 

私はお風呂に入った後、自室でストレッチをしていた。

総くんから、入浴後に軽くストレッチをしておけって言われたからね。疲れを翌日に持ち越さないように……だっけ。

……ストレッチかぁ。

 

「総くん来てくれるかな……」

 

一緒に下校した時は総くんその話は出さなかった。

せっかくお風呂にも入って、寝間着もお気に入りのかわいいやつを着ているのに……!?

 

「って、何考えているの私!」

 

これじゃまるで、そういう事を期待しているみたいじゃない!

違う!違うんだよ総くん!私達はまだ幼馴染なだけであって恋人とか夫婦とかそう言う事をする関係でもなくて、あ、でも一緒にいる時間はどんな関係にも負けないくらい長くてもしも総くんがそういう事をしたいのであれば私も吝かではなくてというか願ったり叶ったりなわけで――――

 

「お、ちゃんと体のケアをやっているな。関心関心―――」

 

「きゃああああああ!?そ、総くん!?ソウクンナンデ!?」

 

「ガチ悲鳴!?ちょっ!まだ窓閉めてねーんだからお静かに!声のボリューム落としてっ」

 

い、いけないいけない。夜遅くに悲鳴が聞こえたなんて、事件だと勘違いされちゃう。

慌てて口を抑えると、ホッとしたように息を付いてベランダかから私の部屋へと移ってきた。

 

「お邪魔しますよーっと。何度来ても歩夢の部屋はなんか落ち着くなー。自分の部屋よりも安心感があるというか」

 

「えへへ、総くんに喜んでもらえて嬉しい。自分の部屋だと思ってゆっくりしていっていいからね」

 

「なんかめっちゃ良い匂いもするしな。俺の部屋とは大違いだよホント。これが歩夢の匂いなのか?」

 

「も、もう何言ってるの!これはアロマの香りだよ。ほら、そこの机の上にあるでしょ?」

 

「ほぉー、これがか。アロマポットというやつか。ふむふむ香りを楽しむのはもちろんだろうけど、見た目も中々にいいじゃないか。視覚でもヒーリング効果を高めようとするとは侮れんな」

 

興味深そうにアロマポットを観察したり、本棚に置いてある少女漫画を手に取ったりと、部屋を物色し始める。

これも私と総くんにとっては何気ない日常の一コマだったりすする。

お互いの部屋に気軽に行き来し、どちらかの部屋でのんびりと一緒に過ごす。

こうやって総くんと同じ時間を共有する時間が私はとても好きだ。

 

……それにしても、総くんもおっきくなったなぁ。

小学生の頃は私の方が身長は高かったのに、いつの間にか抜かされちゃった。

今の総くんはちょっと大きめのダボッとした半袖の紺色のパジャマを着ている。下は黒のハーフパンツで、総くんの引き締まった足が惜しみもなく出ている。

総くんもお風呂に入った後なのか、いつものミディアムヘアーも湿っていて、ちょっと上気している顔が私の心臓の鐘を揺らしてくる。

うぅ……普段着だとはいえ、すっごい目のやり場に困るよぅ……幼馴染相手に色っぽいと思っちゃう私は変態なのかな……?

 

 

「って、今日は本を読みに来たんじゃなかった。めがっさ続きは気になるが、今は重要じゃない」

 

パタンと漫画を閉じて、こっちに顔を向ける総くん。

私が邪な気持ちを向けていたのがバレちゃったのかと思って、ドキッとしてしまった。

ごめんなさい、総くん……そんな純粋な目で私を見ないで!

 

「つーわけで始めるぞー。さ、ベッドの上で横になって」

 

「……へ?」

 

「なーに呆けた顔してんだ。今日言っただろ?クールダウンは家に帰ってからって」

 

「あ……」

 

あれってその場しのぎの言葉じゃなかったんだ……あの時のもやもやした気持ちなんて比じゃないくらいに嬉しさで胸がいっぱいになる。

えへへへ……総くんはやっぱ優しいなぁ……昔からそういうとこ全然変わってないよね。

私たちが大きくなって、ちょっとづつ周りの環境が変わっていているけれど、私が大好きな総くんは総くんのままだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そいじゃうつ伏せになってなー」

 

……あれ?うつ伏せ?総くんが手助けしてくれるのはストレッチだよね?

ちょっと疑問には思ったけど、私はなんの疑いもなく言われるままにうつ伏せになる。

んっ……ちょっと胸が擦れて痛いかな。少し体勢を楽にしてっと。

私がもぞもぞと体を動かしていると、私の足の上に総くんが跨ってきたみたいで、総くんの重みが感じる。

 

 

「あの後ネット上でプロの整体師が教えるマッサージ動画を見たり、この『猿でもわかる特選整体術集完全版』を読み込んだからな。どんな凝りでも瞬時に揉みほぐせること風の如しだ」

 

え!マッサージ!?ストレッチじゃない!?

えぇ!?その手の動きどうなっているの!?関節の動きとか普通じゃなさすぎるような……

って、それよりもマッサージってことは……あんな所やこんな所や人に言えないような場所とかも総くんに触られたり……?

あ、あうぅ……そ、総くんが触りたいって、どうしてもって言うなら……いいかな。うん。

他ならぬ総くんのお願いだもん。

 

 

総くんが手に触りたいって言ってきたら、喜んで手を差し出して手を繋いで上げるし。

総くんが太ももを撫でたいって言ってきたら、何も言わずに膝の上を叩いて、総くんの好きにさせて上げるし。

総くんが胸を触りたいって言ってきたら、ちょっと恥ずかしいけど、好きなだけ揉ませてあげたいし。

総くんが裸を見たいって言ってきたら、その場で服を脱ぐ―――のはさすがに場所を選ぶかな。うん。他の知らない男の人に見られるなんて、想像するだけで鳥肌が立つ。

でも総くんのして欲しいことはなんだってしてあげたい。

だって、総くんはワタシの大切な幼馴染で――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは凝ってるポイントを探すからなー。ちったぁ痛いかもしれないが、我慢してなー」

 

「え?あっ、っっっ!い、いっっったーーーーーー!?」

 

私の想像とは裏腹に、総くんのマッサージは色濃い沙汰とは程遠い物でした……それに総くんがしてくれたのは足の部分だけでした。

……変な事考えてた自分がはずかしい……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

「……イガクノハッテンニギセイハツキモノデース……」

 

いや、こんなこと言ってるけどマッサージ(オペ)は成功したんだけどね。

きっと朝起きた時には体力の最大値とかステータスが上がっていることだろう。

 

最初は痛みによる悲鳴の方が多かったが、続けているうちに歩夢の気持ちいいツボを把握できてきた中盤には苦痛の声よりも、リラックスしきった間延びしたやちょっと色っぽい声が漏れるようになっていた。

そしてマッサージを初めてから数十分後。うつ伏せとなった歩夢からは規則正しい寝息が聞こえてきていた。

 

これで今日の疲れを明日に持ち越す心配はなくなったかな。

えーっと、髪はちゃんと乾かしてあるし、明日の授業の準備も…………してあるみたいだな。

そーっと、起こさないように細心の注意を払いって……首の裏に手を回し、膝の裏にも手を入れて、ゆっくりと持ち上げたら……はい、お姫様抱っこの完成ですよっと。

 

「軽いな。何食ってたらこうなんだ?」

 

50キロもないんじゃないのか?なんて、本人に言ったら顔を真っ赤にして頬を膨らませかねない事を考えつつ、腕の中にいる歩夢の顔を覗く。

 

「まったく、人の気も知らんできもちよさそーに寝おってからに」

 

掛け布団を一度下げてから、歩夢をベッドの上に戻した後掛け布団を掛け直す。

 

幼馴染とはいえ、一応俺だって男なんだがな。歩夢が体を触られるのは嫌だって口にするなり、態度に表していたら即座にやめたんだが。

……歩夢のすべすべとした柔らかい足の裏とか脹脛とか触れていて、内心ドギマギしていたんだけどな……てか、今さらだけどコレってセクハラになったりしない?

エロ同人みたいなエロマッサージ師みたいに、この後無茶苦茶○○○○したみたいな一文が添えられてもおかしくなかったりするこの状況?

いや、せーへんけど。つか、したら俺が死ぬわ(社会的に)

 

……今日の天王寺も拒否ってこなかったうえに、あの後宮下とかすみが自分にもアフターケアしろだの言ってきたけどさ、普通同年代の異性に体を触られるって抵抗あるもんじゃないのか?

うーん、年頃の女子の考えは良くわからん。

 

さてと、目的は果たしたとこだし、またベランダから自分の部屋に戻るとすっか。

明かりを消してっと。

……あぁ、そうだ。最後にもう一つすることがあったわ。

体を回れ右して、そのまま扉の方まで進んで……扉の向こう側にいる人に向けて一言。

 

 

「それじゃお邪魔しました〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あらあら〜。総ちゃんってば気付いていたのね」

 

歩夢の部屋から悲鳴と嬌声が聞こえ、ついに娘と息子(のようなもの)が致してしまっているのね!とふんすと鼻息荒く興奮を隠さないまま、紙コップ片手に部屋の外から盗み聞きをしていた歩夢母だったが、総悟には気づかれていたのであった。

自分の想像していた事が起きてなかった事に、やや落胆する歩夢母であったが、娘と息子(血の繋がりなし)が仲良くスキンシップすること自体は良いことなので、プラスに考える歩夢母なのであった。




Q.このSSってヤンデレ属性あるの?

A.ないです。

このくらいはヤンデレなんて呼べないよね。ほんのちょっびっと、ちょこっと、ちまっとだけ愛が重たいだけなんだよ。
ヤンデレ作品ならこのSSで補充しなくても、他の作者さんが書いているヤンデレ専門作品のほうを見る方が絶対いいよ。

歩夢のメインヒロイン化が止まらない。
まぁ、スクスタでもスポットライト浴びてますし、このくらいは、ね?

最後でぽむのママンことママぽむが出てきてますが、名前に関してはあえて触れていません。そのうちアニメででてくるかもしれないからね。仕方ないね。名前が出るとも限りませんが。


さて……パレードの続きしなきゃ(白目)


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9話 其の一

アニメも折り返し地点についたというのに、この小説ときたら……一章すら終わってないんですよね(´・ω・`)

書きたいことをひたすら書きなぐっていたらまた1万文字超えてしまったので、キリがめちゃくちゃ悪いですが、前回と同じくスクリーンディバイド投稿です。


気が付いたらお気に入り100件いってました!特になんかやるわけでもないけどYEAHHHHHHHHHH!!
登録していただいてる皆さま、高評価していただいた皆様には感謝しております!!


「やっぱアイリちゃんが一番だよな!あの大きなおっぱいに引き締まったエッロィボデーにむっちりとした桃尻!幼さを残したあどけない表情がまたソソるんだよなぁ〜〜たまりませんなぁ、オイ!」

 

「はぁ?何言ってんだよゴリラ。あんな脂肪の塊をぶら下げた雌豚のどこがいいんだい。そんなんだから体毛もチ○毛が毛深いんだよゴリラ」

 

「毛深くねーし!!この間刈り取ったばっかだからぜんぜんだし!それよか、アイリちゃんに向かって雌豚呼ばわりだとぉ!?だったらテメーの推しを言ってみろやこのロリコンメガネ!」

 

「ロリコンとは心外な。僕はただちょっとミニマムで、胸も平坦で、舌立ったずで保護欲が湧いてくるような女の子に興味があるだけさ。ちえちゃんとか特にいいよな、うん」

 

「それをロリコンだっつってんだよ!陰険ロリメガネ!」

 

「やれやれ……君たちは食事の時くらい静かにできないのかい?それに女性にそういった目線で語るのはあまり好ましくないね。ここは私たちだけでなく、同じ学び舎の同胞が利用する場なのだと理解したほうがいい」

 

「ぐっ……心なしか女子たちの俺たちを見てくる目が冷たいような」

 

「またしても心外だ。そこの毛むゴジャラはともかく、僕まで同じ様に見られるとは」

 

「毛むゴジャラって何!?何その気持ち悪い呼び名!」

 

「大方、けむくじゃらとゴリラを足したんじゃないかな。君みたいな体格が良くて、毛も神経も腕も太い密林の王者の君にはぴったりだろう」

 

「直接触れてないだけで完全にゴリラって言ってるよね?どう考えてもゴリラだよねそれ。後さり気なく図太い奴扱いしなかった?ちくしょう!ちくしょう!!俺の周りには誰も味方がいないのか……!?いや、まだだ。総悟!お前からも何か言ってくれ」

 

「………………………………………ん?聞いてなかったわ。すまんな、毛むゴジャラ」

 

「いや、聞いてるじゃねぇか!!」

 

 

同好会の人数が5人になってからさらに数日後の昼休み。

俺は薫を含めた4人の同学年の男子と一緒に、食堂の陽当たりの良い端っこの席で昼食を食べていた。

ちなみに俺が食べているのは片手で飲めるゼリー飲料水である。他の3人はちゃんと食堂のメニューから頼んでいて、配膳も置いてあるのに俺の目の前には何も置いてないと言うね。

 

歩夢はどうしたのかって?宮下を中心とした女子グループと食べている。

そりゃ四六時中歩夢といるわけでもないし、弁当だって毎日作ってもらうとか負担をかけるわけであって。

 

それに今日は調べたい事もあったから、一人ボッチ飯にしようとお手軽10秒チャージをコンビニで買っていたんだが……教室から出る前にこのゴリラに捕まり、今に至る。

 

 

「俺の心の拠り所はアイリちゃんしかいねぇんだ……あぁ〜アイリちゃん。どんなことがあっても俺だけは君の味方だからなっ」

 

 

一応紹介しておくと、スマホを両手で握りしめて唇を液晶に向けている控えめに言っても気持ち悪い行動を取ってるゴリラにしか見えないゴリラはゴリラだ。

それ以外の何者でもない。

 

 

「いやちゃんと紹介しろよ!お前ゴリラしか言ってないじゃん!!俺人間だからね!?列記とした日本人だからね!」

 

 

このように人の言葉を話す大変珍しいゴリラで、虹ヶ咲学園に入学できるくらいの知能指数はあるみたいです。

好きな物はバナナで、趣味は人の女の子の尻を追っかけることとアイドルを追っかけることだそうです。

 

 

「いいじゃんバナナ!美味いじゃん!」

 

 

だからって毎日持参してくることはないと思います。

今だって学食に来てるってのに、バナナ持ち込んでるし。

それにしても、このゴリラ人の心を読める力があるなんて中々に芸達者なゴリ君だなゴリ。

何処かのサーカス団に売れば良い値で買ってくれるのではなかろうか。このゴリラは見た目通りに知能は低いが身体能力は相応にある。アメーバ並みに思考回路はよろしくないが、野生本能よろしく感が良い。

 

 

「口に出してるから!さっきから思いっきり口に出しちゃってるからね!?あれ?なんかこの口に出すって響きなんかエロくね?口に出すゾイ!くちゅくちゅだゾイ!みたいな!?」

 

 

周りの女子たちがゴリラを見る目が完全に不審者を見る目つきになった。……あ、一人の女子が先生呼びに行った。

 

 

「さて、僕は先に失礼させてもらうとするよ。次の授業の準備があるからね」

 

 

巻き込まれるのはゴメンだと言わないばかりに、トレーを持って席を立つのは田中山。情報科の生徒で、こいつとは1年の終わりの頃にゴリラ繋がりで知り合った。趣味は情報収集らしく、依頼すればどんな情報でも集めてくる男。

ギャルゲーで言うヒロインの情報を教えてくれるポジションの友人枠ってとこだろうか。

トレードマークの瓶底メガネをかけ奇麗な比率で分けられた七三分けの髪型は道行く人を振り返らす事だろう。

実際俺は二度見した。どこで買ったそのメガネ。

 

 

「待った。逃げる前に一つだけ聞きたいことがある。薫にもな」

 

「逃げるとは人聞きの悪い。なんだい?」

 

「私もかい?君の知りたいことならスリーサイズや好みのタイプ、なんだって答えるさ」

 

 

野郎のスリーサイズなんて知ってどうすんだ。周りの女子たちが目を光らせちゃったじゃねーかおい。

先に情報料として500円硬化を田中山に向けて弾く。

田中山はトレーを片手にもう片方の手で難なく受け止める。

情報料としては申し分なかったのか、ニヤリと口角を上げメガネを光らせる。

 

 

「平日の学園生活の中で優木せつ菜を見かけたことはあるか?」

 

「ほう……」

 

 

その言葉に田中山は興味深そうに声を上げる。

優木せつ菜。同好会が発足された初期メンバーのうちの一人で、スクールアイドルとしてはそれなりに知名度がある実力派スクールアイドル。

彼女のプロフィールには虹ヶ咲学園所属となっているのだが……

 

 

「放課後、スクールアイドル同好会の活動で何度か見かけたことはあるけど、ここで言う君の知りたい解は」

 

「HR、授業中、小休憩、昼休み。スクールアイドル活動を除いた学園生活の中でだ」

 

「ない。彼女のファンとされる生徒にも聞いたことはあるが誰一人も姿を見かけた事はないと言っている」

 

「……やっぱりか」

 

 

田中山の返答は俺の予想通りであった。

学園内でその姿を見かけた人はほとんどいないという。

それどころか、学園七不思議になりつつもあるくらいである。

 

同好会の人数が集まり始めてきたので、この間から優木せつ菜 の事について調べていたのだが……生徒名簿に記載はされてなく、ネットに上げられていた顔写真。念の為の確認で今回情報通の田中山に話を聞いたが……うん。なんで今まで誰も気付かなかったんだろうな。

いや、気付いてない振りをしてるのかそれともそこまでには誰も興味がなかったのだろうか。

彼女の言動からの推測ではあるが、おおよその目的は検討がついている。だが、今はまだこの話題に触れない方が良さそうだ。

最低でも部員を9人揃え、優木せつ菜を除いた初期同好会メンバーを復帰させてからだな……詰まるところ、やる事は今までと変わらずだ。

 

 

「私もないね。乙女には1つや2つトップシークレットがあるというものさ。あぁ……可憐な花園の奥底にはいったい何が隠されているんだろうね?」

 

 

……俺の真横で薫が椅子に片足を乗っけ顔に手を当て仰々しくポージングを取り始めるが、いつもの事なのでスルー(周りの薫ファンの女子たちがスマホで写真を撮り始めたのが、これもいつものことなので気にしない)

 

 

「知りたい事はこれだけかい?前払いでこんなに貰ったし、もっと聞いてもいいよ。……彼女のスリーサイズなら、ここに」

 

「いらんわ」

 

 

周りに聞こえないように声のボリュームを落として、俺の目の前にくしゃくしゃに丸められた紙が置かれた。が、そんなもん今は必要ないので田中山に目掛けて投げ返え

 

 

 

 

 

 

 

「なになに!?スリーサイズ!?ずるいぞぅ!俺にも教えてくれよ!この新鮮なバナナの皮を上げるからよぉ!もぎたてピッチピチのバナナの皮だぞおおおおおぅうううう!?」

 

 

ボールをゴリラの額にめがけてシュゥゥゥーッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気絶したゴリラを先程女子生徒が呼んできた生活指導の先生に差し出し、食堂を後にした俺は現在中庭に足を運んでいた。

俺以外の生徒はいない。それというのも現在時刻は次の授業の3分前。大多数の真面目な生徒は次の授業の準備をしているからである。

俺?俺だってたまには魔が指す時だってありますよ。

 

大きな青空のもと、陽が燦々と降り注ぐ日光。煩わしい程の暑さではなく、ちょうどいい感じの暖かさと言うべきか。

絶好のサボり日和……じゃねーや。昼寝日和。

 

 

「あ、歩夢からメッセ来てる」

 

 

次の授業もう始まっちゃうよ!具合でも悪いの?等と歩夢からの通知が5分前から10件以上届いていた。

次の授業は移動教室で基本出席を取らない先生だったな。あの手の先生は自分の授業を恙無く進行できれば良しとするタイプだ。テストで良い点取れればサボろうが寝ていようが黙認してくれる。

ま、それを見越した上で俺がここにいる訳なんだけど。

 

次の授業は大切な用があるから抜け出すわ。何も言ってこないとは思うけど、先生がなんか言ってきたら中橋君は生徒会の件で欠席しましたと伝えといてくれ……っと。

何も言ってこなかったら黙っていていいからな……はい、送信。

速攻で既読が付いた。真面目な歩夢の事だ。今頃どうすべきかうんうん唸って悩んでいそうだ。

 

 

「ふはぁー、今日もいい天気〜」

 

 

スマホの電源を切って、外部とのやり取りを完全にシャットダウンし、木陰になっているベストポジションの芝生に腰を下ろし、大の字になって寝っ転がる。

良くも悪くも最近は色んな事があったからなぁ。

たまにはこうして頭の中を空っぽにして、時間を気にせずのほほんとするのも悪くないだろう。

 

 

「あの雲しずくがつけてるリボンに似てる」

 

 

ボーッと雲を眺めていると心地の良いまどろみに、瞼が閉じかけあくびが何度も出てしまう。

やっばいな。この陽気といい、たまに吹く肌を優しく撫でるようなそよ風のコンボは悪魔じみている。

同好会の手助けをするようになってから、色々と調べる事が多くなってきたからなー……半球睡眠をしているとはいえ、睡眠時間を削っていたのがここに来て顕著に現れてきたか。

ふわぁ……寝よ。この睡魔には抗う気はまったく起きませんわ……

 

 

 

 

睡魔という悪魔の誘いに何の抵抗を示す事も無く、俺の意識は夢の中へと沈んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の授業はこれでおしまーい。早く帰って勉強しないとなぁ……およよ?きもちよさそーに寝ている男の子はっけーん。うりうりー、幸せそうな顔で寝おってからにー。…………なんだか彼方ちゃんも眠くなってきたかも〜……おやすみなさーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………っ!?P○S5が応募者全員サービスで無料配布だと!?これは是非にでも応募せねば!!

はっ!?…………なんだ、夢か。あまりにも現実味がない夢だったから、夢の中でもきっとこれは夢なんだろうなと思っていたけど、案の定夢だった。

夢から覚めなきゃ幸せなままでいれるのになっと。

 

どうやら大分寝てしまったようだった。既に夕焼けにより空が薄っすらと赤く染まってきていた。

起き上がろうとして体に力を入れて――――

 

 

起き上がれなかった。あれ?なんで?寝起きだからとはいえ、いくらなんでもそこまで力がでないはずが……もう一度試してみる。

……が、ダメ。

なにこれ。これが俗にいう金縛りってやつ?思考は出来るけど、体が動かない、声は出せない。

試しにあ~って言ってみても

 

 

「あ~」

 

 

出たわ。てか体も一部位だけなら動かせるし。

手をグーパーグーパーと開いては閉じたり、腕に至っては問題なく動かせる。金縛りなんてなかったんや!

……いやでも、なんで起き上がれなかったんだ?

つーかなんかめっちゃ良い匂いがするし。寝る前には感じられなかった柑橘系のコロンのような……それに加えて、腰回りに感じる柔らかく暖かな感触。

なにかにガッチリとホールドされているような、絶対に逃さないという意思が伝わってくるかのような感覚。

首は動かせるみたいだったので、首を上げて視線を下に向けてみると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Zzzzz」

 

 

俺の腰回りをガッチリ掴んで寝息を立てている三年生の女生徒がいた。

 

 

「ふぅー……」←ゆっくりと深呼吸して空を見上げる

 

「チラッ」←腰に丸まるように抱きついている女子生徒を見る

 

「……」←第三者からどう見られているのだろうと辺りを見渡す

 

 

 

「先輩!起きてください先輩!!」

 

 

俺は慌てて先輩を揺さぶる。

さっき見かけた女子生徒二人組に「抱き合って寝てるー!」「仲睦まじいカップルだねー」なんて言われていた!

急いでスマホの電源を入れて時間を確認すると、現時刻は17時を回っていた(同好会のグループメッセージや個別メッセージがとんでもなく来ていたが、取り敢えずスルー)

先輩がいつからいたかは知らんけど、どれほどの生徒がこの光景を目撃したかは想像するに難くない……!

 

 

「むにゃむにゃ……もう食べられないよ〜」

 

「そんな古典的な台詞はいいですから!」

 

 

起こそうと試してみるが全然起きる気配がない……!

何時何処でどんな状況下であろうと寝れる人だとは聞いていたが……あー!身じろぎしないでくださいこれ以上強く抱きしめようとしないでください!!

先輩めちゃくちゃスタイルいいんですから!

くそぅ、これ先輩から抱きついているから今まで通りかかった生徒に何も言われてないのかもしれないが、逆の状況だったら間違いなく通報されているよね?

つーか、先生の目にも耳に入っているはずだろうに誰も起こしたりしてくれないのはどういうことだ!

えぇい!これ以上有りもしない噂を広げるわけにはいくか!(もう手遅れ感あるが)

えー……コホン。この手を使ってもダメならば、枕を勢いよく抜き取って顔面に叩くしかないんですよいいんですか先輩!!

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんなんて……だいっっっきらい!!(ロリボイス)」

 

 

「はっ!お、おきるーおきるからー!お姉ちゃんの事嫌わないで遥ちゃーん!」

 

 

こうかはばつぐんだ!

普段ののんびりとした様子からは想像できないくらいに俊敏な勢いで起き上がる。

 

 

「……あり?遥ちゃん?」

 

「残念ながらここに貴方の愛しの妹さんはおりません」

 

「あー起きたんだねー。おはよ〜気持ちよく寝れた?」

 

「はい、おかげさまで――――じゃなくて、なんで貴方がここにいるんですか?」

 

「むむー、そんな貴方、なんて他人行儀な呼び方はきらいだな〜」

 

「先輩」

 

「……ふわぁ……彼方ちゃん、なんかまた眠くなってきたかも〜」

 

「近江センパーイ」

 

「……すやぁ」

 

「…………おねえちゃん(ボソッ)」

 

「おおおおおおっ!?す、すごいよっ。彼方ちゃんシャキーンと完全に目が覚めちゃった!遥ちゃんから呼ばれるのとはまたなんか違って……よし、それじゃあ今日から彼方ちゃんが君のお姉さんになってしんぜよ〜」

 

「では先輩僕はこれにて……」

 

「あーん、つれないぞ〜」

 

 

先輩のウィークポイントでもありgood point(流暢な発音)である姉属性を突いてみたのだが、これがかなり突き刺さったようで寝ぼけ眼から一転

 

 

( ✧Д✧)

 

 

カッとこんな感じに開眼し、先輩の拘束が解かれたことで俺はこの場から離脱しようと立ち上がったのだが、今度は足にしがみつかれた。

この先輩めんどくせぇ!

 

 

「ほらほらー少しお話していこーよー」

 

 

片腕でしっかりと俺の足をホールドしながら、隣の芝生をポンポンと叩く。

くそぉ……その上目遣いと服の上からでもわかる程の立派な物を当ててくるダブルコンボは反則ですって!

 

さっきからずっと伝わってくる幸せな感触と香りに理性がガリガリと削られているのがわかってしまう。

でも俺はNoと言える日本人。

一時の感情や快楽に流されるのは良くないって、まこと君が身を持って体験していたからね。NiceBootなドロドロベトベトンな展開は誰も望んじゃいないのよ……なんでアニメは芋エンドとかじゃなかったの?

 

 

「しかたないですね……少しだけですよ」

 

「わーい。そうこなくっちゃ〜」

 

 

……あれ?

 

 

「ほらほらー座って座って」

 

俺の意識とは裏腹になぜか承諾の言葉が出てしまい、先輩は嬉しそうに俺の手を引っ張り、隣へと座らせてきた。

 

 

「……先輩、家に帰らなくていいんですか?妹さんがお腹を空かせて待っているんじゃ?」

 

 

自分の意志の弱さにイラッとしていたのか、暗に俺なんかに構わずさっさ帰れよと言ってしまった。

そんな俺の憎まれ口に対し、先輩は気にしてないのか伝わってくいないのか、にんまりと猫みたいな笑みを浮かべる。

 

 

「心配御無用ー。遥ちゃんからは今日帰りが遅くなるって聞いてるからね。なので気にせず真也君とお喋りできるのだー」

 

「え?真也君?」

 

「え?」

 

互いにきょとんとする。

……いけね。そういや俺近江先輩にはそう名乗っていたんだった。

 

初めて先輩と出会った時……半年ほどくらい前か、俺がまだ一年で近江先輩が二年生になった頃の事だ。

つまらん先生のつまらん授業をサボタージュし、良い昼寝スポットがないか学内を徘徊していた。

陽当たりもよく、芝生の長さもちょうどいい感じに切りそろえられている場所を中庭で発見できた俺は惰眠を貪ろうとして、目が覚めたら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知らない女の人が隣で寝ていた!!

 

な、何を言っているのかわからねーと思うが俺も寝起きだったかし理解できなかった……アニメや少女漫画の見過ぎで遂に夢と現実の境目を区別できなくなったのかと思って、頭がどうにかなりそうだった……妄想だとか夢落ちだとかそんなチャチなもんじゃねぇ。

何度も頬をつねったりしたが、紛れもない現実だった……いや、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……!

 

 

「や、俺は大和ですよー。大和。宇宙戦艦ですって」

 

 

脳内ポルナレフごっこで解説を済ませて、自分は連合艦隊旗艦なのだと暗示をかける。

あの時もいつの間にか俺の隣で幸せそうに寝ていた(今みたいに抱きついてはいなかったが)先輩を起こし、先輩から開口一番

 

 

『きみぃ、だーれ?』

 

大和真也(やまとまや)です』

 

 

なんて聞かれたので、息を吐くように自然と偽名を名乗ってしまったのだった!

知らない人に名乗っちゃいけませんってマザーと歩夢マザーと歩夢から言われてたからな……上から呼んでもやまとまや!下から呼んでもヤマトマヤッス!

 

 

「それでねそれでねー遥ちゃんがね、「さっきのホラー映画が怖くて、一人で寝るのが怖くなっちゃって……おねえちゃん、一緒にねていーい?」って自分の枕を抱きしめて言うんだよ〜?かわいくない!?」

 

 

どうせそんなに絡むこともなさそうだし、今回みたいな事なんてこれっきりだろうと思っていたんだけどなぁ……それが一度きりどころか、俺が学内で昼寝をしていると決まって近江先輩が隣で寝ているのだ。

 

気になって、聞いてみたのだが

 

 

『んーとねー、彼方ちゃんが一番のお昼寝スポットで寝に来ようとすると、君が先に寝ているんだよね〜。私のベストスポットレーダーはすっごい精度だから、君もお昼寝スポットを探すのが上手いんだよ〜』

 

 

とのこと。とはいえ、いくらなんでも付き合ってもいない年頃の女子が異性の隣で無防備に。そんでもって抱きつくのは如何なものかと言った事もあるのだが……

 

 

『うーん……なんでだろーね?君の隣で寝ると、いつもよりもスッキリ寝れるんだよね〜。隣にいるだけで、そんな効果だからもっと近くで、触れ合って寝たらさらに効果が倍ゾ〜!って思って試したら、思ったとおりだったんだー。今までクラスの男の子とかにはそんなことしようとも、感じたこともないんだけどね。……あ、君が嫌だって言うんだったら、彼方ちゃんあなたを抱き枕にするのは泣く泣く諦めるけどー』

 

 

だとさ。俺は安眠効果を催促する人間型枕だったのかもしれない。

歩夢も同じような事を言っていたし、現実味が増した。

言うまでもないが、その時の俺の返答は俺が未だに近江先輩の抱き枕にされているのが解である。

見え透いた解答だな!

 

 

「―――ねー、聞いてるー?無視するなんて、彼方ちゃん寂しいゾー」

 

 

そんな事が何度も続き、昼寝仲間として繋がりが結ばれ……近江先輩と色々と話す間柄にはなったというわけだ。

……半年経った今でも本名を明かさずにいるが。切り出すタイミングが掴めなくてだな。

……ていうか、俺全校集会でも副会長として壇上に上がっているんだけど?この人もこの人でどうなのかと思うが。

……まぁ、どうせ寝ているんだろうが。

 

 

「聞いてますよー。先輩の妹さんがかわいすぎて夜も寝れないってことですよねー」

 

「そうなんだよ〜……遥ちゃんが目に入れても痛くないくらいかわいいせいで、彼方ちゃん最近寝不足なのー……じゃなくて、夜遅くまで起きてるからなんだー」

 

 

今の今まで寝ていたというのに、口に手を当てあくびを噛み殺す。

なんでこの人がいつもこんなに四六時中眠そうにしているのかというと、勉学に励んでいるからと先輩本人から聞いた。

俺とは学科が違うが、近江先輩はライフデザイン学科の特待生であり、学費を免除されている。

なんだかんだで、虹ヶ咲学園は専門系の分野には力が入っている為特待生として入学(先輩は編入したらしいが)するとなると求められるボーダーはかなり高い。

それは入学後でも変わらず、一定の成績もしくは成果を出さないとならない為、先輩は常に成績上位をキープする為夜遅くまで勉強している。

近江先輩と同じ学科の先輩に聞いたことあるが、授業中は眠そうにしながらも真面目に受けているらしい。

授業をサボって昼寝してる俺とは大違いである。

 

 

「そうなんですか?なんか悩み事でも?俺でよければ聞きますよ。後輩であれど、先輩の力になれるかもしれやせんし」

 

「お、おぉ〜。君はなんて良い子なんだ〜。よしよーし。いいこいいこ〜」

 

「く、苦しいですって……」

 

 

頭を両手で抱きかかえられ、近江先輩の胸元に引き寄せられ頭を撫でられる。

 

 

「もー、そんなこと言っちゃってー。ほんとは嬉しいんでしょ?男の子はこう優しくされると喜ぶって雑誌に書いてあったんだよ〜」

 

「そういうのは思ってても口にしないのも優しさだと思います」

 

 

なんて憎まれ口を叩くが、先輩のされるがままでいる。

恐らくだが、これはこれで近江先輩の気晴らしになるだろうと思ったからだ。

ほら、あれよペットと動物との触れ合いで癒やしを求める人とかいるじゃん?アニマルセラピー的なやつ。

あれと同じ――――じゃないな。すまん。アニマル諸君に失礼だ。

とにかく、そんな感じの効果を狙ったわけであって……年上の美人な先輩に甘やかされたーいだとか、約得だとか、そんな事は……うん、思ってるわ。

俺だって健全な男子だもの。

 

 

「くんくん……君ってなんか良い匂いもするんだね〜。今からでも私の弟にならない?」

 

「……俺を調理しても美味しくありませんよ?」

 

「そんなことしないよ〜。彼方ちゃんがおねむの時に、抱き枕になってくれればいいだけだからー」

 

「それで、近江先輩。悩みの種とは?」

 

 

割とガチめに俺をお持ち帰りしようとしそうだったので、先輩の腕からするりと抜け出す。

名残惜しそうに腕を伸ばしてきたが、なんとか欲を抑えてくれたのか、先輩は話し始める。

 

 

「最近ねー、成績が落ちちゃったんだよねー……」

 

「ありゃ、そうなんですか?直近だと……中間か。テストの点がよろしくなかったり?」

 

「そーなの!全部ってわけじゃないんだけど、でも理系……特に数学が悪くて……」

 

「え、そんなに悪いんです?」

 

「うん。全然だめ。わけわかんない。数学のせいで、順位がガクッと下がるくらいにヤバい」

 

「今の状態で数学が勝負をしかけてきたら、耐えられます?」

 

「む〜り〜。彼方ちゃんの目の前がまっくらにー」

 

 

間延びした声のせいで、危機感が全然伝わってこないのだがいつもの先輩の時の表情と比較するに、所々疲労感が見て取れた。

結構切羽詰まっているのかもしれないな。

 

 

「次の期末で挽回しないとヤバイ……好きなことも我慢して勉強してるけど、数学がわからなすぎてヤバイ……証明ってなにさ~~えらい人が既に証明しているんだし、彼方ちゃんが一から解き明かす必要なんてないでしょー!」

 

 

んなこと言ったら、高校で習う数学の内容の大半が不要なものになるんですが……まぁ、言わないで置こう。

……えらくまいっているみたいだしなぁ……たまに先輩から手作りお菓子とかもらったりしてるしなぁ。

専門店に並んでいてもおかしくない美味いお菓子をタダで、見返りなしでくれてるし。

……よし。

 

 

「あの、近江先輩。俺でよければ今度教えましょうか?」

 

「え!?いいの?」

 

「専門的な科目なら話は変わってきますが、5教科なら一学年上の内容でも教えれるかと。俺も一応特待生ですから」

 

 

副会長ですしね。

普段なら付け加えているだろうが、近江先輩は知らないみたいなので黙っておく。

 

 

「ありがと~!君がいれば百人力……いや、百点満点だよ~」

 

「えぇ。やるからには高いハードルじゃないと。ちなみに、教えてる最中に寝たら容赦なく叩き起こしますからね?」

 

「……お姫様を眠りから覚ますには優しく起こさないとだよ?」

 

「永遠の眠りにつく前に覚醒させて上げますから大丈夫です」

 

 

扱いについてやや口をへの字に曲げていたが、不安は取り除けたみたいなのか先輩はほっと息を吐く。

 

 

「でも、これで同好会には戻れそうかな~。ここ最近はほんと余裕がなくて、顔も出せなかったけど久しぶりに部室に行こうかな~」

 

「そういや、近江先輩ってなんか入っていたりするんです?」

 

「あれ?言ってなかったっけ。彼方ちゃん、実はスクールアイドルなんだよ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




登校日から半年かけて、やっと3年生が登場(一人だけ)
アニメで彼方さん回見ましたが、遥ちゃんの所属高校と出てきた女の子二人ってスクフェスのキャラだったんですね。私はスクフェスの方は触ってないので、EDでキャストを見た時知らない名前があったので気になって検索してみたら……今明かされる衝撃のしんじつぅ!!
ってわけでした。彼方さんかわいいよ彼方さん。



ゴリラ ゴリラB。まちがった、友人B。吾輩はゴリラである。ゴリラがバナナを好物ってイメージあるのDKの影響だよね。野生のゴリラはバナナ食べないだとか。
きっと彼の名字は近藤なのかもしれない。
今回は女の子に発情するシーンしかなかったが、実は密かに女の子に人気があったりする。
ゴリラなので、たくましく、筋肉もすごいので頼りがいがあるように見えるだとか。
1年からは彼の株は悪くない。
なお同級生と先輩からは……


情報屋 友人T。じゃなかった友人C。田中山。新聞部所属の情報通。彼に弱みを握られたら最後。財布まで握られてしまうので注意だ!
……なんて、そんなに畜生眼鏡なわけでもなく数百円渡せば口外することはない。
彼曰く、「僕にとって大事なのは金額よりも信用なんだ。タダで大事な情報を渡すのもお互い信用できないし、多額の金額を要求しても僕の信用に関わってくるからね」とのこと。
男子から特に女の子の情報で利用されることが多く、男子からの人望は高い。
女子からは……


イケメン 忘れた人用に。北条薫。演劇部。
常識人ぶった発言してたけど、ホモである。ファンクラブが存在するくらい女の子に人気がある。

大和真也 しんやではない。主人公が適当に名乗った偽名。先輩相手に何のためらいもなく偽名を名乗れる人間のクズ。

( ˘ω˘)スヤァ 近江彼方。居眠りキャラでいつもぽややーんってしてるけど、ハイスペックで嫁力高い眠りのお姫様。
何も知らない人からしたら、夢遊病者なのかと言いたくなるがあえて言おう。


俺は大好きだ―!!!!……と。


ローディングのプロフで最近虹ヶ咲学園に編入したばかりって書いてあるけど、総悟の発言だと彼方さんとは彼女が二年生の時に出会ったと証言しています。
最短でも半年って最近に入るよね?よく昨日のことのように思い出せるって言うけど、何十年前の話を回想シーンで語ったりするアニメとかあるじゃん?
つまりそういうことですよ!















許してください。書き終わった後に読み返して自分で彼方さんのプロフ思い出したんです(´・ω・`)



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9話 其の二

投稿する頃にはアニメ最新話が終わってそう


前回までのラブライブ!(虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会)

いつもは気が利いて優しい美少女幼馴染と昼飯を食べる事が多い俺こと中橋総悟だけど、ゴリラと情報屋と薫たち男4人集で学食へ飯を取った。存在そのものが卑猥で歩くR-18とも名高いゴリラは教育指導先生に引っ張られて行ったような気がするけど些細な事だった。

腹は膨れたわけじゃないけど昼寝がしたくなった俺は

 

 

「そうだ。授業をサボろう」

 

 

後のことをフォローもできる素晴らしくて愛らしい幼馴染に任せ、俺は中庭で一休みする事にした。

そして目が覚めると、そこには見たこともない見知らぬ見覚えのない(重要なので三段活用で強調しました)先輩が隣にいた!

 

なんやかんやで話してみると彼女、近江彼方先輩はスクールアイドル同好会に所属していた初期メンバーだった!

この世の全てのかわいいを詰め合わせ体現した後輩少女かすかすから、近江先輩の事は聞いていたが、まさかそれが目の前にいる眠そうな先輩がそうだったなんて!

近江先輩はいつも眠そうな三年生の先輩で、彼女の作るお菓子は絶品で、遥という2つ年下の妹を溺愛している人だとは聞いていたけど……まさか先輩がその近江彼方だったなんて……!

今年に入ってから一番の目から鱗な出来事に衝撃を受けつつ、今の同好会がマジやばい。廃部の危機に瀕してマジやばい。もう同好会にいるみんなが天使すぎてヤバい。と先輩にどれだけピンチな状況か伝え、なんやかんやで同好会に戻る事を決心してくれた先輩を部室に引き連れて行った。

 

メンバー総出で先輩を手厚く歓迎し、先輩の休部せざる得ない事情を聞いてそれなら仕方ないねと寛大な心を持つ皆さんはまるで菩薩の生き写しなんじゃないかと錯覚した。背後に菩薩様が見えたのはきっと気のせいじゃないと思う。

そんなこんなで、近江彼方先輩と合流することが出来て、後3人で同好会存続が確定!

この調子でドンドン行こうぜ!と一同に気合を入れた俺は引き続き同好会に加入してくれそうなメンバーを探しに、クールに立ち去るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せーんぱい♡どこに行くおつもりですか?」

 

「モノローグで上手いこと逃げようたってそうは行かないぞー?」

 

「かすみんたちを持ち上げてもダメなんですからね!あとかすかすって言ったのでもう許して上げませんから!」

 

 

しかし、まわりこまれてしまった!

くそぅ、こうなったら窓から逃げて――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総くん?ちゃんと説明してくれるよね?」

 

 

ヒェッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでー?」

 

「この写真についてどういう事か説明してもらえますか?」

 

 

魔王(幼馴染)からは逃げられないのだよ……

逃亡に失敗した俺はその場で正座させられ、歩夢、かすみ、しずく、宮下に包囲されていた。

天王寺は4人の発する強烈なプレッシャーにびびっているのか、涙目になっている璃奈ちゃんボードを持って隅で震えていた。俺もマナーモードに切り替わりそうだわ。

 

かすみから目の前に突き出されたスマホには寝ている俺に近江先輩が抱きついている画像(足絡ませver)が映っていた。

この人こんな隙間なく密着していたのかよ。俺が起きた時は足は解かれていたよな?つーか、出回るの早くね?流したやつぜってぇ許さねえからな。

君らも全員がその画像をダウンロードしてるのもどうなのよ。みんな同じ画像開いて、スマホを片手に持ってるの怖い。

 

 

こんな画像知らない!俺は知らなかったんだ!俺は悪くねぇ。俺は悪くねぇんだ!と、俺は何一つ悪くない事をみんなに懇親丁寧説明し事なきを得た。

いやぁ、やっぱ言語でのコミュニケーションって偉大だわ。人でよかったって思える瞬間だよホント。

 

 

 

 

 

 

 

 

「総くん?そうやってふざけているのはどうかと思うかな?かな?」

 

「すんません」

 

 

俺の幼馴染がこんなに怖すぎるわけがない。

目からハイライトを消して顔に影を作り、にっこりと微笑んでくる幼馴染にかつてない恐怖を感じる。それって二次元の世界にしかできない産物だと思っていたんだがな……。

オヤシロさま的な何かが降臨したのだろうか。笑顔だけど笑顔じゃないよ。最近放映してるレナさんが過去よりも怖さのレベルが上がってマジやばい。

笑顔は威嚇の一種でもあるって聞いたことがあるけど、どうやらホントだったらしい。

 

 

「で、彼方先輩とはどういうご関係なんです?センパイ」

 

 

かすみん如何にも怒っていますと目に見えるように頬が膨らみ、睨みつけてくる。

見ての通りだよと言ってやりたくもなったが、これ以上ふざけていると大変なことになりそうなのでさすがに自重する。

 

 

「ただの先輩と後輩だが」

 

「先輩と後輩ィ!?かすみんを差し置いてそんな関係だなんて認めませんよ!」

 

「いや、俺とお前も同じだろ」

 

 

君は何を言っているのかね?というか君の許しが必要なの?

 

 

「そうだよ〜彼方ちゃんと〜君は〜仲のいい先輩と後輩なのだー」

 

「んなっ!?」

 

 

天王寺と一緒に離れて退避していた近江先輩がするりと近づいてきて、背中にしなだれかかるに抱きしめてきた。

かすみが大口開けて変な声を上げると同時に、周囲から怒りのボルテージが上がるのが伝わってきた。

なんで周りを煽るような事を自然とするんです?

あ、ちょっと頬を擦り寄せないでくださいって!

 

 

「んふふ〜。真也君ってば暖かいね〜」

 

「……彼方さん。今は先輩と大事なお話をしていますのでそんな羨ましい――――じゃなかった。抱きつくなんて私だってしたこともない妬ましい事――――でもなかった。……先輩から離れましょうね?」

 

 

おい演劇部員。

本音がだだ漏れだぞ。……しずくは案外甘えん坊だったりするのか?

俺が抱きつくのは通報待ったなしだから出来んが、しずくから来るのはオールオッケーなんだけどな……言わんが。

しずくもまた怖いくらいににっこりと笑顔を貼り付けたまま、近江先輩を力づくで引き剥がした。

あのおしとやかなしずくまでが……なんでそんなにキレてんの?

 

 

「まったくこの朴念仁は……その顔はまるでわかっていないなー?」

 

「誰が朴念仁だ」

 

「ん?」

 

 

やだ、このギャル怖い。一言しか発してないのに圧がすごかったぞ。覇王色まとってるよこの人。

あ、ちょっ、首に手をかけようとしないで。

 

 

「まったく。こーんなかわいい幼馴染や後輩がいるのに、美人の先輩が現れたらすぐ鞍替えー?ソーゴってば手が早いんだねーふーん。へぇー」

 

「いや、手を出してきたのは向こうって画像見ればわかんだろ」

 

「どーだか。抱きつかれて満更でもないんじゃないのー?」

 

「なわけあるか。こんなわけわからん事になるくらいなら、どんな美女だろうがお断りだね」

 

「……大きいおっぱいは好きかい?」

 

「うん、大好きSA!」

 

「……」

 

「おい!今のはずるいだろ!」

 

「何がずるいだー!この変態巨乳好き透けこまし副会長がー!!」

 

「おい待て広まるから変な呼び方すんじゃない!」

 

「このー!胸か!?そんなに大きいおっぱいのほうがいいのかー!?」

 

 

後ろからヘッドロックを決められ、頭をグリグリと押しつけられる。

……二重の意味で押し付けられているのだが、これは何か?

近江先輩に対抗してなのかそれとも怒りに任せてなのだろうか?

後者な気がするが、痛いのと柔らかい感触が伝わって死ぬ!

 

 

「なぬ!?センパイ!無駄に大きい脂肪なんて将来的には垂れるだけの悲惨な異物ですよ!かすみんくらいのがちょうどいい大きさだと思います!」

 

「……ほほーう?そんな事を言う生意気な口はこれか〜?」

 

「ふえぇー、ひっはらないでくらはーい!」

 

「……彼方さん。ちょっと失礼しますね?」

 

「えー?……ひゃんっ!うぇええ!?ししし、しずくちゃん!?」

 

「わぁ……柔らかくて、重い……でもこれならまだ私にも希望が……!」

 

「な、なになに〜!?はぅんっ、そ、そんなに揉んじゃダメ〜」

 

 

 

 

 

 

 

「……」←ぺたぺたと自分の胸を触る。

 

「…………」←女子一同の胸に視線を送る。

 

「……璃奈ちゃんボード「ガックリ」」←不条理な現実に打ちのめされる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたた……首が上半身とおさらばするところだったぜ。大丈夫?ひん曲がったり、分裂したりしてないよね?」

 

「う、うん。特に痣にもなってないし大丈夫だよ」

 

 

宮下のしめつける攻撃から開放された俺はわちゃわちゃと密集してる空間から逃げ出すことに成功した。

首を回したり、手を当てて問題がないか確認してると歩夢が近づいてきて、首筋の所に触れてきて確認してくれる。

まぁ、宮下も悪ふざけでやっただけだろうし、痕に残る程強くやるわきゃないわな。

それでも痛かったが。

 

 

「……あ、あの。総くん」

 

「んー?あぁ、あの写真についてか?言っておくけど俺と近江先輩はお前らが想像しているような仲でもなんでもないからな?」

 

 

伏し目がちに聞きづらそうにしている歩夢に、先程からみんなが知りたそうにしている事実を話す。

俺は寝ているところを近江先輩にホールドされただけである。

俺から手を出したわけじゃないし、言ってしまえば被害者なだけだ。

 

 

「ま、そうだよねー。ソーゴにそんな度胸も甲斐性もあるわけないもんねー」

 

「……あれ?でも愛さん。画像を見た時、『彼女なんていないって言ってたじゃーん』って」

 

「うわわわわ、りなりー!しーっ!しーっ!!」

 

 

「センパイセンパーイ。かすみんだけは信じていましたよーぅ。センパイが寝ている彼方先輩を襲うはずがないって!」

 

「か・す・み・さん?最初に画像を見つけて大慌てで部室に入って来たのは何方だっけー?」

 

「そ、そうだったけ?かすみん覚えてないなー……うそうそかすみんの早とちりでしただから頬をつまみゃないでぇー!」

 

 

「そっか……よかった……」

 

 

 

 

ふぅ、これにて一件落着ってとこか。皆には画像のデータを消してもらうように言っておく。

田中山にデータの出処と流した輩を調べてもらわなきゃ。データ消去はもちろん、拡散させたクソ野郎を見つけて消去―――じゃねーや。データもろとも抹消――――でもねーや。

やろうぶっころしてやらあああああ!!(お仕置きしなきゃ)

 

 

「ふぅ、ふぅ……変な扉が開くところだったよ〜……しずくちゃんがあんなことしてくるなんて、真也君ってばモテモテだね〜」

 

 

こちらもしずくからのホールド攻撃(一部位)から開放されたようで、近江先輩がそんな事を言ってきた。

……からかうつもりで言ってきたのだろうが、制服の一部分が皺のまま、艶っぽい息を付き上気した顔で仰られましても……胸元のリボンなんか完全に解かれちゃってるし。

この先輩、のんびりしてそうな割には妙にエロティック(巻き舌)な雰囲気醸し出してるよなぁ……年が一つ離れているだけでこうも違うものなのか。

 

 

「モテモテって……そんなんじゃありませんよ」

 

 

モテモテっていうのはだな、自分から近寄らなくても自然と異性が寄ってきて、何をしても異性に好意を抱かれたり、笑顔を見せたり撫でるだけで異性に魅了をかけるニコポ、ナデポの持ち主で、異性から向けられる好意に全然気づかないような見ていてイライラするような鈍感系ハーレム主人公みたいな奴らのことを指すんですよ!

俺なんかとは格が違うんですよ格が!

その点リトさんはすっげーよな。展開的にはハーレムっぽいけど、一途に一人だけを愛そうとする姿勢はほんとかっけーわ。

見習うつもりは全然ないけど。

 

 

「ご謙遜を〜。彼方ちゃんも真也君を抱き枕にしちゃいたいくらいには好きだぞ〜?」

 

 

基準がよくわからん。

好きと言われて悪い気はしないけれども、喜んでいいのか謎だ。

なんて首をひねっていると歩夢が戸惑いがちに近江先輩に声をかけていた。

 

 

「えーっと……近江、彼方……さん?」

 

「そだよ〜。彼方ちゃんって呼んでー。私も歩夢ちゃんって呼ぶからさー」

 

「あ、はい。あの、彼方さん。さっきから総くんの事を真也君って呼んでるみたいですけど……」

 

 

…………さてと、生徒会室にでも言って菜々会長を弄くりにでも行くとすっかな。

こないだ借りたラノベも返さんとだし。

 

 

「えー?だって真也君は真也君でしょー?大和真也君じゃないのー?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 

沈黙が室内を占領する。大和真也って先輩の口から出ると、天王寺が吹き出した。

あぁ、アイツなら元ネタ知ってそうだしな……

 

 

「…………真也くーん?」

 

 

背中に突き刺さる冷めた視線の数々。俺の偽名を呼んできた近江先輩の声も心なしか冷え切っている気がする。

そんな世間の冷たさにも負けずと、俺は最上級の暖かさを提供するかのように、ゆっくりと近江先輩の方に振り向いて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大和真也?知らない子ですね。私の名は中橋総悟ですよ?」

 

 

――――最上級の笑顔を浮かべ、名乗るのであった。




彼方ちゃん正式復帰回&総悟君お仕置き回(ご褒美?)でした。
初のフォント変更機能を使ってみたり。
現状、りなりーの出番が若干少ないのが否めませんが、他のみんなと違って総悟君との繋がりがほぼほぼないからです。
他の皆は同好会発足前に少なからずとも関わっていたからな……すまんりなりー。メンバー全員揃ったらもっとスポットライトを浴びれる話も書くはずだから許してヒヤシンス。

次回はみんな大好きあの人が出ます多分。この話の流れなら、スクスタのストーリー見た人なら誰かわかるかな?




魔王 あなた君を思うがあまりに覚醒してしまった幼馴染のもう一つの姿。暗黒のオーラをまとい、正面に佇む姿はまさにラスボスの風格。
……なのはあくまで、総悟の恐怖心から生み出された幻影的な何かである。
実際に他の人からはちょっと怒っているなーぐらいにしか見えない。思いやりのある優しい女の子なのは変わらない。天使である。
ちなみに管理局の砲撃魔とか可愛いものに見境のないナタ好き中学生とは一切関係はありません。

変態巨乳好き透けこまし副会長 変態だっていいじゃないか。だって男の子だもん。
大きいのも好きだが、小も美も好きなストライクゾーンが割と広い。
実際には好きな人が出来たら、その人のが好きになるタイプ。
絶賛彼女募集中。


怖いギャル 怒りの沸点は高いみたいだが、今回ので70℃くらいまでは上がったらしい。
おっぱいの大きさについて総悟をしばき倒していたが、実は公式の設定だと彼方さんとあんまり大差ないという。


かすかす 今回やたらと口やら頬やら引っ張られる。
大きい胸をdisる発言をしていたが、あわよくばその巨乳の人からもぎ取れないか画策したりしなかったり。

彼方ちゃん 寝るのも大好き、後輩をいじるのも大好き。遥ちゃんは比較対象にするのがおこがましいくらい大好き。
しずくに揉まれまくって、ややイケない気持ちになったらしいが、踏みとどまった。

しずく キャラ崩壊しかねない行動に出てしまった演劇部員だが、レズではないので悪しからず。
どっかのμ’sの副会長みたいな趣味を持っているわけでもないので(ry
結構嫉妬深い一面があったりするけど、女の子なら普通だよきっと(適当)

りなりー 周りがとんでもないだけであって、決して君が小さいわけじゃないさ!
画像を見て多少なりともムムッとしたなんとも言い難い気持ちにはなったらしいが、他面子程ではない。


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9話 其の三

サンタせっつー……気が付いたら4000近くあった石が800近くに……
あれ、おかしいな。お知らせ当初は引く気なかったはずなのに……あるぇ~?








それはともかくとして、今度こそ本編の続きです。
同好会全員揃うまでようやく現実味を帯びてきた……
ガチャ結果?虹演出一つすら見れなかったよ……


「こんにちは〜みんな久しぶり!元気にしてた〜?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このっこのー!先輩に対して偽名を名乗るとはどういう了見だー!」

 

「ぶひゃっははははははっははは!お、俺は悪くねぇですからね!むしろ目が覚めたら知らない人が横で寝ていたとかどんなホラーですかと言いたいくらいで!」

 

「ほほーう?まだそんな生意気な事言うんだー。かすみちゃーん、しずくちゃーん」

 

「す、すみません先輩。失礼します」

 

「にっしっしー。かすみんのくすぐりテクニックセンパイに披露しちゃいますよー!」

 

「こ、後輩を洗脳するなんて見損なったぞカーネぶわっはははははははははは!ちょっ、ストップストップ!ステイステうははははっははははははっっ!て、てめっ宮下どさくさに紛れて参加してんじゃねー!」

 

「ほれほれー。ここがええんかー?こちょこちょこちょー!」

 

「いいぞーみんなー。やっちゃえー。彼方ちゃんの事を名前で呼ぶまでやめないぞー」

 

「そうだそうだー!カナちゃんと私とりなりーも名前で呼べー!いつまで名字で呼ぶんだこのー」

 

「ひぃっひぃっ……お、俺は脅しやテロになんて屈しない!要求を飲むくらいなら死んだほうがマシだ」

 

「……中橋先輩そんなに私達の事名前で呼びたくないんだ」

 

「よーしお望みどおり(笑い)殺してあげる。みんなーやっちゃえー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ!みんなとっても楽しそう。私も混ざっていいかな?」

 

「えっと……今は落ち着く待ったほうがいいかも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近江先輩――――じゃねーや。彼方先輩と先輩の忠実な下僕達からの拘束くすぐり攻撃が終わり、俺はなんとか彼方先輩たちの許しを得ることができた。

お互いの事を名前で呼ぶ事(どさくさに紛れて宮下と天王寺も)が条件とされてしまったが……くすぐりには勝てなかったよ。

まさか現実でくっころを使う日が来るとはな……男の俺が。

 

 

「わたし、スイスに一時帰国していただけなんだけど……手紙置いていったよ?」

 

「えっ、あれ……あれもしかして、エマ先輩の置き手紙だったんですか!?……かすみんてっきりライバルからの怪文書かと」

 

 

俺がくすぐられている最中に何時の間にかやってきていた女子生徒。

同好会メンバーの一人であるエマ・ヴェルデ先輩から同好会を離れていた理由を現在かすみたち初期メンバーが聞いていた。

俺?みんなから離れたとこで身だしなみを整えています。

くそぅあいつら、遠慮なしにくすぐってきやがって……いやそれにしては妙に制服の乱れが多いような気がしてならないんだが……最終的に天王寺―――いや、璃奈か。なんかなれねーわ。

璃奈と歩夢も参加していたみたいだし。

結束力が高まるのはいいことだけど、何もヘイトを俺に集めた時に発揮しなくてもいいと思うんだ。

 

 

「あーん!ごめんなさーい!かすみんの早とちりでしたー!」

 

「エマさんは戻ってきてくれたし、全然いいよ。結果オーライだよ」

 

 

ふぅ、こんなもんか。ネクタイは……めんどいから外すか。

外そうとしたら歩夢が正面に来て、ネクタイを直してくれた。

うーん、この新妻力よ。

あまりの自然な動作に他のメンバーが口を開きっぱなしじゃないか。

 

……でだ。聞いている限りだと、エマ・ヴェルデ先輩は同好会を辞めていたわけではなく、故郷のスイスに一時的に帰国していただけだという。

生粋の外国人か……全国どころか、世界からも生徒を募集している虹ヶ咲学園からすれば珍しいことじゃないけど、改めて見ると日本人離れした容姿だな。

めっちゃ肌白いな。背も高いし。どんな服を着ても似合いそうだが、和服を着てみてもイケそうな気がする。

こう……和と洋が混ざりあったコンストラストも趣があるといいますか。

……あ、目が合った。ニコッと人懐っこそうな笑顔を浮かべ両手を広げこちらに走ってきた。

……え、両手?

 

 

 

「エストイコンテンタ!やっとあえたよ~」

 

「ファ!?」

 

 

そしてそのまま熱いハグを交わしてきた!

デカーい!説明不要!……いや、この状況に説明がほしいのだけれども!

突然のことに後退り、後ろに倒れそうになったがなんとか踏ん張る。

え、何々?どういうこと?なんでこの人は急に抱きしめにきたんだ!?というか、俺今日一日だけで何回抱きつかれているの?

なんかすっげー良い匂いするし、今までに見たことがないほどの凶器を押し当てられて頭がどうにかなりそうだったが、なんとか平静を保つ。

目の前の先輩はもう離さないと言わんばかりに強く抱きしめてくる。

 

 

「あの時はありがとー。あなたが助けてくれなかったら、お昼抜きになるところだったよ~」

 

「あの時って…………あ」

 

 

思い……だした。

赤髪のおさげ。色白の肌。うっすらと付いたそばかすに……昼抜きという単語でピンときた。

あれはたしか食堂で――――

 

 

「券売機の前で困ってた人?」

 

「せいかーい。思い出してくれたんだね」

 

 

抱きついたままにっこりと至近距離でこちらを見つめてくる。

邪気なんていっさいないようなくりくりとした綺麗な瞳だ。そんなに話したことはないんだが、雰囲気からして小さい子供に好かれそうな優しいお姉さん的なオーラが感じ取れるな。

今までに俺の周囲にはいないタイプの人種だ。

 

 

「本当にありがとうね。初めて使う機械だったから、買い方全然わからなくて~」

 

「いえいえ、別にお礼言われるようなことでもないですし……」

 

「きみからしたら大したことじゃないのかもしれないけど、わたしからしたらすくいのいって?だったんだよ。後ろに並んでる人はいっぱいいて、早く買わないとって気持ちですっごく焦ってたんだよね。周りの人も教えてくれなかったし、ほんとどうしようもなくって……それでもあなたはわざわざわたしのとこに来てくれて教えてくれたよね。すっごく嬉しかった」

 

 

大事なものを両手で救い上げるようにゆっくりと当時の想いをまっすぐにぶつけてくる。

う……な、なんだこれ。なんかめっちゃ顔が熱い。こんなドストレートに気持ちを伝えてくるなんて……これも文化の違いなんですか!?

教えてくれ安〇先生!

 

 

『人はそれを愛と呼ぶのですよ。ベッドイン(ゴール)はすぐ目の前ですよ』

 

 

あ、あん〇いせんせーい!?

教師たるものがそんな不純異性交遊を進めるような事を言っていいんですか!?

雲の向こうで親指を立てている安〇先生は俺の知っている安西〇生よりも脂ぎっていた。

 

 

「そういえばあなたの名前まだ聞いていなかったね。なんて言うの?」

 

「な、中橋総悟です」

 

「総悟くんだね。よろしくね!わたしの事はエマって呼んでね~」

 

「よ、よろしくっす。ヴェルデ先輩」

 

「エマでいいって〜」

 

「……先輩」

 

「エ・マ〜」

 

「…………エマ先輩」

 

「うん!えへへ、総悟君あったかいなぁ。弟たちよりもあったかくて、きもちがいいよ」

 

 

さらに抱きしめる力が強くなり、胸元に顔をうずめてくるエマ先輩。

な、なんなんだこれ!この少女漫画に出てくるイケメン美男子が主人公に甘い言葉をささやくシーンを見ているかのようなぞわぞわとするような甘酸っぱい空気は!

エマ先輩は俺の方が温かいとか言っているが、俺からしたら彼女の方が温かい。

俺から抱きしめることはまたあらぬ誤解が生じかねないので、両手は上げたままだが。

ゆっくりと顔を上げてきたエマ先輩の目はとろんと何かに浮かれたような熱を帯びており、何かを期待するような……色白の肌も朱に帯びていた。

この世界には俺とエマ先輩の二人しかにいないような。まるで固有結界でも張られているような―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こらー!かすみんたちを放って二人きりの世界に入らないでくださーい!!」

 

「そうだぞ〜。エマちゃんだけずーるーい〜。彼方ちゃんにも湯たんぽを使わせろ〜」

 

錯覚をしていただけだった!

 

「ふぇ?あ、ご、ごめんねー!あなたの顔を見たら、どうも我慢ができなくなっちゃって」

 

第三者等の介入により、展開されていたEMフィールドは消失しエマ先輩もハッとし、正気に戻ったようだった。

俺から離れ、申し訳なさそうに謝ってくる。

この人見た目によらずグイグイと押してくるタイプなのかもしれないな。

 

 

「い、いえ。びっくりはしましたけど、嫌ではなかったので……」

 

「そ、そう?……それならもう一回ギューーーッてしてもいいかな?ダメ……?」

 

 

ぐっ……!その捨てられた子羊のような上目遣いはずるい!

いや、やってる本人には自覚がないのだろうけども。前屈みになっているせいで、先程まで俺の体に押しつぶされていた物体が強調され、非常に目のやり場に困る……!

落ち着け俺!落ち着けもう一人の僕!!歩夢から以前聞いた言葉を思い出せ!

 

 

『女の人は男性が思っている以上に視線に敏感なんだよ?いやらしい視線とか邪な感情がある時は特に。……え?具体的にどこかって?も、もうっ!そ、そんなの言わなくてもわかるでしょっ。とにかく、必要以上に女の人をジロジロと見るのはだめっなんだからね?……………わ、わたしならいくらでも見ても……いいんだよ?総くんにだけなら』

 

 

歩夢と映画館にて少女と雪の女王を見た後、帰る時間にはまだ早いってことで街をぶらぶらと二人でぶらついている時、やたらと肌の露出が凄く彩りも目に悪くなるような色のボディコンを着た、スタイルがとんでもなく良いお姉さんが街中を歩いていたのを見かけた。

周りの男どもは隣に彼女がいようが、子供を肩車していようが関係なくその女性に目を奪われ鼻の下をだらしなく伸ばしていた。彼女持ちのリア充はその後彼女に耳を思いっきり引っ張られたり、足の指を踏まれたりしていた。ざまぁ。

 

俺はというと、まっ昼間からあんなド派手な服を着ていて恥ずかしくないのだろうか?とか、ここを歌舞伎町やネオンの凄い夜の街かと勘違いしてるんじゃないのかと別の意味でその人に釘付けだった。

歩夢にはそれが、俺も嫌らしく鼻の下を伸ばしている野郎どもの一人と思ったのか、かわいらしく頬を膨らませて先程の様な事を言ってきた。

 

私怒っているんだよ?でも遊びに誘った手前私が不機嫌そうにしちゃ悪いし……顔に出さずに顔に出さずに……なーんて結局顔に出ちゃってる幼馴染かわいい!

頬が緩むのを自分で感じながらも歩夢に

 

 

『俺は露出の多い服よりかは肌面積が少ない清楚な服とかの方が好みだから。あんな街中で不特定多数に見られかねない服装の方はちょっと……痴女だろあんなん』

 

 

と言った。

露出狂を見るぶんにはなんら問題ないが、自分の好きな人にはあんまやっておいてほしくはないな。

それが生き甲斐だというのなら、俺は受け入れるだろうが……

 

 

まぁ、そんなわけで。歩夢に教わった共感を活かし、俺はエマ先輩から視線をそらすことに成功した(ダイス値1クリティカル!)

視線の先には歩夢がなんとも言えないような顔でこっちを見ていた。

うん、あれは恐らく幼馴染が人気者で嬉しい気持ちがある反面自分の元から離れていくような消失感……そんな大事なお兄ちゃんを学園のマドンナに取られつつある妹のような気持ちなんだろうな、うん。

後で帰りにクレープでも奢ってやるか。めちゃくちゃにトッピングされた高いやつ。

 

 

「ちょちょちょっとエマ先輩!センパイを独り占めするのはダメですよ!センパイはかすみんだけの……じゃなかった。私の専属マネージャー……でもなくて。(今は)みんなのセンパイなんですからねっ」

 

「???あ、そっか。かすみちゃんも寂しかったんだね。だいじょーぶ!私もかすみちゃんのこと大好きだよ〜。ほら、ぎゅーってしちゃう」

 

「うぇ?い、いえ。センパイはセンパイであってエマ先輩の事を指すわけじゃむぎゅっ!」

 

 

「うーん……ぬくぬく〜。エマちゃんの気持ちも彼方ちゃんわかるなぁ。真也君……じゃなかった。総悟君あったかーい。一家に一人は欲しいよ〜……zzzz」

 

「か、彼方さん。あんまり先輩を抱き枕代わりにするのは失礼じゃ……」

 

「zzz……ん〜?それなら、しずくちゃんを枕にしちゃお〜」

 

「え?あ、あわわわ!彼方さん!?」

 

 

俺に引っ付いていた先輩2名は後輩の尊い犠牲によって離れ、新たな抱き枕へと引き寄せられれ行くのであった。

……さっきまでの暖かで柔らかな感触がいざなくなるとなんか寂しい気持ちがあるような。

 

 

「もうちょっと抱きつかれていたかったとか、そんな事考えているっしょ」

 

「んなことねーよ」

 

 

エスパータイプかこいつは。

腰に手をやってどこかつまらなそうにしている宮下……いや、愛か。

こいつとは歩夢を除いた異性で言えば、学園内で二番目に付き合いが長いやつになるんだよな。

 

 

 

「どーだかー。アタシは嫌だぞー。副カイチョーがヘンタイチョーなんて」

 

「虹ヶ咲学園生徒会副変態長……うん、すっごいヤダ」

 

「俺も嫌だわ」

 

 

変態会長はゴリラだな。

いや、ゴリラは今はどうでもいいんだ。重要じゃない。

脳内ですり寄ってくるゴリラを脳外へバナナを投げて退場させる。

……さすがに一年以上付き合いのある友人的なやつを他人行儀で呼ぶのは良くなかったか?

い、いや距離感近いギャルとはいえ異性を気安く名前で呼ぶのは俺の心情に反するし……今さらすぎるか。

 

 

「まったく、何を気にしてんのか知らんが愛も璃奈も全員落ち着け。今から軽くミーティングをすんぞ」

 

 

騒ぎの元凶であるお前が言うなって言われそうだったが、皆特に何も言わずこちらに注目する。

その中で愛は屈託のない笑顔を浮かべ、璃奈は璃奈ちゃんボードで照れを表現していた。

うーむ、女子を名前呼びするのは避けていたつもりだったんだけどな。歩夢を除いた同好会メンバー、名字で呼んでたはずが全員名前呼びですよ。

名前を呼びあえば友達だってな○はさんじゅうきゅうさいが言っていたから、避けていたんだが……男女間の友情は成立しないもんだと思っているのでね。

 

 

「これでメンバーは8人だね!こんなにも早く集まるだなんて思ってなかったよ」

 

「うむ。我が同好会の誇るスクールアイドルはこれでセブン。お台場セブンスシスターズと名乗ってもいいかもしれないな」

 

「先輩。その発言はぎりぎりすぎるかも……」

 

「うん?そうか?まぁ、気にすんな」

 

「(先輩、ナチュラルに自分を数えていないね……)」

 

「(これはメンバーが集まったら逃げるパターンだよしず子。どんな手を使ってでもセンパイを引き止めなきゃ!)」

 

 

某アイドル育成ゲーを引き合いに出してみたのだが、ゲームネタに強い璃奈は口元をへの字に、目元が逆ハの字の璃奈ちゃんボードを掲げていた。

しずくとかすみはひそひそと話し合ってる。あの二人初期メンバー勢で学年も同じだから、タイプは違えど仲は良いのかもな。

 

 

「そんなわけで規定の人数まで後二人となったわけだが……うん、歩夢を誘ってからと言うもののかなり順調なペースで事が運んでいるな。一番初めに歩夢に声をかけたのは正解だったな。ありがとな歩夢」

 

「そんな……私はなにもしてないよ。……でもあなたがそう言ってくれて本当に嬉しい……」

 

「先輩方!安心するのはまだ早いですよ。次はせつ菜先輩の説得に行きましょう!これだけ人数がいれば戻ってきてくれますって」

 

「んー……いや、優木せつ菜の説得はまだ早い。後もう一人メンバーが加わってからにしたほうが……都合は良さそうだしな」

 

「都合って……誰の?」

 

 

歩夢の問いかけには答えず、視線を移動し扉へと向ける。

正確には扉の向こう側へといるであろう人物なのだが……皆が視線を向けるよりも少し早く、廊下を走り去るような足音が聞こえてきた。

 

「今のって……」

 

「もしかして、入部希望者じゃないですかね!?今からでも捕まえ――――ぐにゅぇっ!」

 

「まぁ待て。ステイだ」

 

駆け出そうとしたかすみの襟元を掴み、留まらせる。

スクールアイドルにあるまじき鈍い声が出たが大した問題じゃない。

 

「大問題ですよ!かすみんのかわいらしいキュートボイスが発せなくなったらどうしてくれるんですかぁ!」

 

「素で心を読むな。安心しろ。かすみのラブリーなボイスは風邪で鼻声になってもかわいいから無問題だ」

 

「そ、そうですか?それなら許してあげなくもないです」

 

なんかかすみの扱い方がわかってきた気がする。

 

 

「誰が盗み聞きしようとしてなかろうと今の俺たちがすることは変わらない。と言うわけで、今回は新たに勧誘しようと思うんだが……心辺りある人は挙手願います」

 

「はーい!わたし入ってくれそうな人に心辺りあるよ〜」

 

「本当ですか!?」

 

「今から会えたりしますかね?」

 

「待っててね。今聞いてみるから」

 

元気よく挙手してくれたのはエマ先輩だった。

嬉しそうに声を上げる歩夢に続き、かすみがアポを取れるか確認する。

 

「どんな人なんでしょうか?」

 

「えっとね、朝香果林ちゃんって言ってねわたしの友達で、とっても綺麗で素敵な娘なんだ〜」

 

「あ!愛さん知ってる!確かドクモやってる先輩っしょ?」

 

メッセージアプリでやりとりをしているであろうエマ先輩は手元を動かしながら、しずくへと返答をする。

しかし、読者モデルときたか……個性的なメンバーが集まる傾向があるとは思っていたがここまで来るとなんらかの意思が働いているようにしか思えないな。

 

 

「ドクモ、どくも……毒蜘蛛?」

 

「読者モデル。ファッション雑誌なんかの特集でモデルをする人の事」

 

よくわかっていそうにない彼方先輩にフォローをする璃奈。

 

「モデル経験者ってことは知名度もそれなりにあるはず。そんな人物が加入してくれれば、それは大きなアドバンテージを得れる事だろう」

 

ルックスやスタイルも相当良いはずだろうしな……とは言わないが。

 

 

「今美人なんだろうな〜とか期待してたでしょ?」

 

「んなことねぇよ」

 

やっぱこいつエスパータイプだよ。間違いねぇよ。人が良すぎるとこもあるしエスパータイプだって。

いやでもさ、モデル経験ありって言われたらそう思うだろ普通。誰だって推測できることではあるじゃん。

そもそもさ――――

 

「ここにいる全員が美人、美少女にカテゴライズされるメンバーだろ。普段からかわいいって連呼しているかすみはかわいさの追求してるせいか可愛いってとこがあると思うし、愛だって周囲の人間と話している時楽しそうに笑うとことか自分のダジャレを笑顔で披露する姿とか見ているこっちまで楽しくなるしな」

 

 

スクールアイドルになろうとしてる時点でルックスは皆高いんだよなぁ……動画でスクールアイドルを見たりしてみたが、美少女美女の割合が高いという。

正直テレビに出てる芸能人有名人なんか軽く凌駕する程まである。

スクールアイドルだからなのか、美少女だからスクールアイドルなのかどっちかはわからんが。

 

 

「う……あ……」

 

 

今までに見たことがないほど愛の顔が赤くなっていた。

他のみんなを見てみると愛と同じように顔が真っ赤になっていた。かすみのやつはなんか後ろを向いていたが、耳がめっちゃ赤くなっていた。

思った事を言っただけなのに、なんでそんな嬉し恥ずかしそうにしてるんだか。

これからスクールアイドルになって、ファンにわーきゃー崇め褒め讃えられる偶像になるわけだってのに、そんな耐性で大丈夫か?

 

 

「OKだって〜今から会えるってさ」

 

「よし、善は急げです。その朝香果林という人を勧誘しに行きましょう」

 

「うん!……あれ、みんなどうしたの?顔すっごいまっかだけど……」

 

スマホでやりとりをしていたエマ先輩の耳には入っていないようだったのか、首を傾げていた。

 




みんな大好きエマーマ参戦回。
アニメでもそうだったけど、エママにお世話されたい人生だった……
次回はもう言わないでもわかるよね?
リンボーボコれる機会が来たせいで、一切執筆してないけど仕方ないよね。
12月って色々ゲームの販売やらソシャゲーのイベントラッシュとかで忙しいんや……
そういやまだアニメの水着回すら見てないや。早く見ないとー(´・ω・`)




エママ スクスタでエマさんの家族の話が出るたびに、ワイも弟になって甘やかされまくりたいと毎回思ったりする。
アニメ放映前は編入時、見慣れない外国人がきょろきょろと学園入り口前にいたところを総悟君が声をかけて……みたいな展開を考えていたのですが、その役割は果林さんがやっていたので主人公君のお役目はサヨナラバイバイとなり、今回のような感じに。
どうしようもなく困っている所に救世主がやってきてくれるとめっちゃ嬉しいと思ったり。それが異国の地ならなおさら。

どっかのSSで、同好会が廃部寸前になっている時に同好会を守っていたのがかすみんだけで、先輩である彼方ちゃんは何をしていたの?とエマ先輩がまじおこになっている作品を見て結構ビビった覚えがあったり……




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10話 其の一

今年度も皆さんお疲れ様でした!
年が明ける前に投稿できてよかった……


そんなわけで、朝香果林さんとの待ち合わせ場所にやって行きましょうというわけなんですが……

 

「なんでお前等までいるん?」

 

虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会だよ全員集合!

なぜか俺とエマ先輩だけでなく、8人という大世帯でやってきていた。

通行の邪魔にならないようにはしているが、こんなにぞろぞろと引き連れて来なくても良かったのではと思ったり。

まぁ、俺が来てくれと言ったわけじゃないのですが。

 

「まーまー、良いじゃん良いじゃん。ソーゴがどう勧誘するか気になるし?」

 

「あ、かすみんも気になります!センパイがどんな手を使って籠絡させるか、参考にしちゃいますよぉ」

 

「何に役立てるつもりなの……」

 

「籠絡とは人聞きの悪い。俺はただ普通に同好会へ入部してくれと頼んでるだけだ」

 

『普通に……?』

 

「おい言いたい事があるなら言え」

 

エマ先輩を除く全員が訝しげに首を傾げる。

まったく失礼な奴らだ。今まで俺がどんなに清く正しく懇親丁寧にスカウトしてきたかわかってないな!

意見、意義など申し立てたいことがあえばどうぞと言うと、一人だけすっと手を上げた愛がじゃあさーと続ける。

 

「アタシを同好会に誘おうとして教室に呼び出した手口って覚えてる?」

 

 

手口言うな。なんかあの手この手を使って騙し上げたみたいじゃないか。

そんなもん覚えてるに決まっている。

3話前の事とは言え、昨日食べた夕食が何だったかと思い出す事みたいに造作もない事。

 

 

「大事な話があるから来てくれって言ったな」

 

「抜けてる!アタシを呼び出す為に長ったらしい質の悪いトークしてたでしょ!」

 

「トークにジョークを挟むのも必要なことだと思うんだ」

 

「ちょっと上手い!でもこの話の流れだと60点ってとこだね」

 

高得点じゃねーか。

 

「私の時は……先輩が今とはまるで違う人のようだった」

 

「センパイ、お財布まで出してましたからね。あの時の先輩街中であやしいお店に連れて行こうとするしつこい男の人みたいでしたよ」

 

「うん、怖かった」

 

「えっ……酷くない?」

 

「そ、それだけ先輩は私たちの為に必死になってくれていたんだよ」

 

「しずくは良い子だなぁ!ほれ、おにーさんが200円やろう」

 

「えっ!?お、お気持ちは嬉しいですけどお金は頂けないですよ!」

 

 

辛辣なコメントをする一年生組の中、たった一粒の清涼水であるしずくのフォローに頭を撫でようと右手が伸びかけたが、なんとか思いとどまった。

後輩とはいえ異性の頭を撫でるのは良くないからね。

でもなんかしずくのやつ妙に残念がった表情してないか?あれだよね。もらった金額が予想以上に少なくて、シケてやがんぜ!的な感じだよね?……それはそれでしずくとの今後の接し方に悩むとこだが。

 

こんな事を言っているけど、以前かすみを撫でた事はあるというね。でもかすみはなんか手の掛かる妹みたいっていうか、褒められるのを待っているペットの猫って言うか……ね?

本人が聞いたら噛み付いてきそうな事を考えつつも、撫でる代わりに渡した硬貨2枚を俺に返却しようとしてきたしずくだったが――――

 

 

「しずくちゃん。心配しなくてもそれはお金じゃなくてチョコレートだから」

 

隣にいた歩夢から物の正体を言い当てられてしまった。

むぅ、歩夢の目を欺けることは出来なかったか。

 

「そ、そうなんですか?」

 

「うん。ほら、ここから剥がせればぺりぺりぺりーって」

 

「あ、本当だ……」

 

歩夢が指した場所通りに、しずくが不慣れな手付きでゆっくりと剥がしていくと銀色の外装から剥けた円型の物体は茶色のチョコレートへと変貌した。

 

「わっ、なつかしー。それって駄菓子屋で売ってるやつだよね?」

 

「あの10円で買えるやつだよね〜。彼方ちゃんも昔は遥ちゃんに買って上げてたな〜」

 

「日本のだがしってこんなに丁寧に作られているんだね〜。わたし、本物とぜんぜん見分けがつかないよ〜」

 

「でもこれは100円玉……100円玉のって売っていたっけ?璃奈ちゃんボード「ハテナ」」

 

「そう言われてみたら、りな子の言うとおり見た事がないような……あるような」

 

「ないと思うよ。それ総くんの手作りだし」

 

『手作り!?』

 

まだ銀色のままであるもう一枚の100円玉チョコレートを皆が興味深そうに見て、駄菓子談義をし始めたのだが愛が自分の財布を取り出してモノホンの100円と比較をしたりしていると、歩夢がなぜか自慢げにネタバラシにかかる。

 

「うそっ、これをソーゴが!?」

 

「まさに職人芸……商品化されてもおかしくない」

 

「総悟君ってば器用なんだね〜。ご褒美に彼方ちゃんを抱きしめれる権利を与えてしんぜよ〜」

 

「…………」

 

「センパイ?なんで手を出したり引っ込んだりしてるんですかー。そっちじゃなくてこっちの方がきーーーっと柔らかくて抱き心地が良いと思いますよぉ?」

 

「やわら……かい?」

 

「りな子!今どこを見て言ったの!?」

 

 

 

そんな感じでわいわいと話していると、気が付いたら目的地に到着していた。

……のだが。

 

 

「えっとね……果林ちゃん近くにいるみたいなんだけど、まだ掛かりそうだっていうから、わたし迎えに行ってくるね〜」

 

 

目的の人は来ていませんでしたと。

エマ先輩がスマホで連絡を取ってくれて、この付近にはいるみたいらしいが……なぜエマ先輩が迎えに行く必要があるのか。

待ち合わせの場所を指定してきた本人が来ていないと考えると……まぁ、トラブルや事故だったらエマ先輩がもっと慌てているだろうし、その朝香果林って人が方向音痴か指定した場所を自分で勘違いしたとかか。

 

この待ち時間暇だな〜……喉も乾いたし、自販機で飲み物でも買ってくるか。せっかくだし、みんなの分も買ってくるか。

朝香果林って人のもだ。

みんなに一言伝えてから近くの自販機に行く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当に近くだったし、付いてこなくても良かったんだぞ?」

 

「私もちょうど喉が乾いていたんだ。それに人手は多いほうがいいでしょ?」

 

「なんのことだかわかりませんね」

 

「とぼけちゃって。総くんの事だからみんなの飲み物を買ってこようとしてたんでしょ?わかるよ、幼馴染だもん」

 

「……そんなにわかりやすいか、俺」

 

 

ちょっと飲みもん買ってくるとしか言ってなかったはずなんだけどな……歩夢には最初から目論見が見抜かれていたようで、あの場で一緒に行くと言ったのだった。

 

 

「てきとーに選んでいきますか。俺は……これにするか」

 

ポチッと硬貨を自販機に投入してからボタンを押したのは多量のフレーバーが混ざった炭酸。

人によって評価が偏る一品だ。ちなみに俺は嫌いではない。好きでもないが。

でもなんかたまに飲みたくなるんだよね。

 

「歩夢はー?どれがいい?」

 

「えっと、私は――――」

 

「言っておくけど俺の奢りだからなー。好きなの選んでいいぞ」

 

「……もう、自分の分は自分で払うのに……ありがとう。みんなの分、私が半分だそうか?」

 

「それじゃ歩夢に奢る意味ないだろ。ほれ、早く決めな」

 

「んー……ならそこの緑茶かn――――」

 

「わかった緑茶の下にあるこれだな」

 

 

 

ピッ、ガコンっ!

歩夢が言い切る前にとあるメニューが置かれてあるボタンを押す。

取り出し口からそいつを握ると、手のひらにじんわりと暖かさが広がってくそいつは――――

 

 

 

「ほら、ご所望の品ですぜ姫」

 

「……………………あの、総くん。これって」

 

「言うな!俺にはわかる。わかるともさ!そいつが欲しかったんだろ?歩夢好きだったもんなそれ」

 

「うん。確かに好きか嫌いかって聞かれたら好きって答えるけど、今は別にいらないかな」

 

「なに?好き嫌いはよろしくないぞ。なんでも食べてもっと大きくならんと!」

 

「さっき自分で言った事思い出してみて」

 

 

一通りツッコミを入れるとため息を吐き、俺から受け取った缶をまじまじと見つめる歩夢。

その歩夢が呆れるほどの物とは――――

 

 

「おでんだよね……これ」

 

 

ラベルに書かれた具材の数々と共に書かれたひらがな3文字。

360度どこをどう見てもおでんである。

 

「なんでこんなものが自動販売機にあるの……」

 

「こんなものとは失礼だぞ。おでんのスープってめっちゃうまいじゃん」

 

「いや美味しけどね!だからって缶単位でまるまる飲みたいかって聞かれたら……」

 

「おい見ろ歩夢!これ卵の代わりにうずらの卵が入ってるみたいだぞ!」

 

「えぇぇ……どこに食いついてるの」

 

「ま、冗談だけどな。ほら、歩夢が飲みたかったのはこれだろ?」

 

「あ、うん。ありがとう……」

 

今度はちゃんとした緑茶を歩夢に向ってひょいと投げ渡す。

他のみんなのやつは直感でなんか好きそうなやつを選んでいくとするか。

 

「それで総くん。このおでん缶は……」

 

「かすみにでもあげとけ」

 

「えぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて事を言う総くんだけど、きっと総くんの事だからかすみちゃんのは別で買うんだろうなぁ。

……そうだ。さっきの駄菓子で思い出した事があったんだけど、総くん覚えているかな?

 

「ねぇ、覚えている?昔のこと」

 

「どれくらい昔かによるなー。16年前とかって言われたらちと怪しいが」

 

「そんなに前じゃないよ。えっとね……小学校に上がる前くらいの頃なんだけど」

 

私が話しかける間も総くんはみんなの飲み物を買っていく。その後ろで私は昨日の出来事を振り返るかのように語っていく。

 

「二人で商店街の駄菓子屋に行った時の事。覚えてない?」

 

「いや、覚えてないな。そんなことあったっけ」

 

あ、この感じ絶対覚えているやつだ。一瞬だけど総くんの動きが固まったもん。

私はそれに意に介さず話を続ける。

 

「総くんがおばさんからお金をもらったんだって大はしゃぎしていたんだよね。それで私にお菓子をご馳走してくれるって言ってくれて」

 

「あー……そういやそんなこともあったようなかったような……」

 

物凄く微妙な顔をしながらも出てきた飲み物を私に手渡してくる。

総くんが私に生まれて初めて自分のお金で奢ってくれた事だもん。忘れるはずがないよ。

 

「意気揚々と駄菓子屋に来たのはいいけれど、手持ちのお金だけじゃ一人分しか買えなくて、総くんは自分の分を我慢して私の分だけを買ってくれたよね」

 

「そりゃその為に行ったわけだしな……母さんのやつ、歩夢にお菓子でも買ってあげなさいとか言っておきながら駄菓子一人分の金しかくれないとか、今考えるとどうなんだって話だよな」

 

まぁ、金の有り難みとか俺が人並みの心を持っているかどうかとか試したんだろうけどさと付け加える総くん。

おばさんそういうとこは厳しいもんね。総くんには自由にさせてたり私に優しくしてくれたりするけど、勉学とか常識には厳しい教育ママって感じかな。

最近おばさんと話していないし、たまには会ってご飯とか一緒に食べたいなぁ……

 

「それでその帰り道総くんはこう言ったんだよね」

 

「なぁ、歩夢さん。過去の思い出話に浸るのも良いんですが、それくらいにしない?飲みもんもほらこの通り買い終わったわけだしさ」

 

この話題……私が次に言う事に余程触れられたくないのか、話を切ろうとする。

でもダーメ。覚えてないって嘘をつく人のことの言う事なんて聞く耳もちませーん。

 

「そうだ!お金がなければ自分で作ればいいじゃん!って」

 

「やめろぉ!俺の黒歴史を掘り返すんじゃない!」

 

腕の中に抱えている飲み物の数々がなければ今頃総くんは頭を抱えていたかも。それぐらいに総くんは大きな声で叫ぶ。

ふふふ、あなたからしたら思い出したくないかもしれない出来事なのかもだけど、私からしたら素敵で大切な思い出の欠片なんだよ……?

 

「あの頃の俺は青かったんや……子供の頃はなんだって出来るんだって普通に思ってたし、好奇心と直感には逆らえなかったんだ……」

 

「昔から総くんって気になったらすぐ様に行動するよね。えっと……あれは小学5年生の夏休みだっけ?街のホームレスさんが何しているか気になるって言い出して」

 

「夏の自由研究の題材にしたな。歩夢と一緒に気前の良い駅前在住ベンチ横住まいのおっさんにあれこれ聞いたよなー。懐かしいわなー」

 

私が危ないからやめようよって止めても「安心しろ。いざとなったら不審者撃退用の催涙スプレーと簡易スタンガンと防犯ブザーもあるから、最悪歩夢だけ逃げりゃいいしヘイキヘイキ!」と色々な防犯グッズをバッグや服の中に装備して行く気満々だった。

懐かしむようにどこか遠くを見る総くんだけど、今考えてもとんでもない事をしてたよね……普通に誘拐案件だもん。

あのおじさんが良い人だったから良かったものの……一歩間違えれば警察沙汰になるし。

 

結局夏休み明け、自由研究の発表の時私を含めた周りの子はおばあちゃん家の実家での出来事や植物の観察日記等々……極めて普通の題材が発表される中、一人だけホームレスの一生と称した研究タイトルは一際異質を放っていた。

私今でもあの時の担任の先生の顔覚えてるもん……前の生徒の発表まではニコニコしてたのに、総くんのタイトルを聞いた途端に笑顔が消えて、真顔になってたし。

 

最終的に総くんは先生に呼び出しを受けて両親共々お説教を受けていた。

その後私が同伴していた事を隠していたけれど、おばさんにバレてたんこぶの数を倍に増やしていたよね。

私とお母さんに頭を下げてきたおばさんに、私は総くんを怒らないで上げてって言って、お母さんは気にしないでって笑っていたっけなぁ。

 

 

「って昔話もこれくらいにするか。そろそろエマ先輩が連れてきてもおかしくないかもしれんし」

 

「あ、うん」

 

そう言って総くんは先に行ってしまう。

……かと思ったら少し先で立ち止まって、私の方に振り向き。

 

 

「ほら、行くぞ歩夢」

 

「……うん♪」

 

私はその横に並ぼうと駆け出す。

……やっぱり総くんは総くんのままだなぁ。子供の頃お金を作る事は断念した総くんだけど、中学2年生の時にあの頃のリベンジだと言って、100円玉のチョコレートを作って……私にくれたよね。私の為だとは決して言わず。なんでって聞いてもやりたくなったからやったとだけ。

総くんからしたら本当に自分の為なのかもしれないけど。

総くんの周りにはたくさんの女の子が増えてきて……総くんの事を想う女の子もその中にはいるみたいだけど、私が幼馴染なのは変わらないもんね?

スクールアイドル……私にできるか不安だけど、総くんが喜んでくれるなら私もみんなに負けないように頑張ろう!

みんなより出遅れている分、一歩一歩着実に……総くんと一緒に歩き進んで行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




果林さん回……のはずが本人は登場していないというね。
どっちかというと歩夢回&総悟くんのちょっとした思い出話回。
結局年内に同好会メンバー顔合わせならず……か(´・ω・`)


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10話 其の二

滑り込みセーフ!
皆様この作品を見ていただきありがとうございます!おきに、高評価、感想、誤字報告してくださった方々に多大な感謝を!



 

 

そうして歩夢と戻ってくるとエマ先輩の隣にネイビー色の髪をした見知らぬ女性が立っていた。

恐らく彼女が朝香果林さんなのだろう。

彼女に軽く挨拶を交わしつつ、みんなに飲み物を歩夢と渡していく。

一人一人お礼を言ってきて、人によっては財布を取り出したりしてきたが押し留める。

うんうん、お礼を言えるのは個人的にポイントが高い。お兄さん嬉しくなっちまうよ。

世の中には当たり前のことを出来ない人もいるからなぁ。

 

 

あ、ちなみにかすみには最後に特別な物を用意してあると、期待させた後におでんを上げました。最初は歩夢から渡して欲しかったのだが、まだ歩夢には難易度が高そうなので、俺から渡すことに。

受け取る前は贔屓扱いされている事に、かわいいかすみんですから仕方ないですねぇ!なんて言ってそわそわと落ち着きがなかったのだが、渡したあとの反応は……なんということでしょう。

 

「え、おでん?……おでん…………おでん!?おでんってどういうことですか!?かすみんそんな芋芋っぽく見えますかぁ!?いえ、おでんは好きですけど……ってそうじゃありませんよ!かわいいかすみんであることを除いたとしてもうら若き女子高生に渡す飲み物がおでんって……そこ!わらうんじゃなーい!」

 

おでん缶を受け取り、物を眺めしばし固まったあと御怒り心頭で詰め寄ってきた。

エコ贔屓ハンターイとブー垂れていた愛と彼方先輩筆頭に、お似合いだよーと笑われ、空気が良い感じに緩む。

笑いの渦が広がる中、俺は視線を悟られないよう注意しつつ、朝香果林さんを観察する。

 

 

エマ先輩と並んで佇む姿は姿勢も綺麗で、立っているだけで注目を集めそうなくらいに一般人とは違うオーラを感じ取れる。

モデルをしているというだけはあり、やはりとんでもなくスタイルが良い上にタッパもある。今の彼女の緩めの服からでも腰の細さがわかるし、出るとこ出て引き締まったとこは引き締まっていると言うべきか。つか、そのショートパンツから出ているおみ足も凄いが、肩から胸元までの露出すごかない?

あのほくろとかなんかえっちくないですか?

ぶっちゃけ目のやり場に困るわ。

 

露出の多い服はあまり好きじゃないのだが、不快感は全く感じないのは彼女の雰囲気もあるのかのしれない。

美人は立っているだけで得とは聞いたことはあるが……

同好会にいる先輩二人とは対極の位置にいそうなタイプか。いわゆるクール系お姉様って感じかな。

 

……でもなんだろかこの言い寄れぬ違和感というか不安感というか……副会長という役職柄、色々なタイプの人を見てきていたが彼女からは……こう、見た目だけでは判断しちゃいけませんよと俺の観察眼が訴えてきている。

ぶっちゃけるとポンコツの香りが漂ってきているんだよなぁ……ウチの生徒会長(中川菜々)と同じ匂いがしますねぇ……彼女も周りから出来る人間だと思われがちだが、中身はアニメや漫画に影響されやすいスピードの限度のないF1カーだからな。

まぁ、でも俺的には欠点の1つや2つあった方が女性は愛嬌が増して良いとは思うけどね。

 

なんて、考えていたら向こうもこっちを観察していたらしい。

目と目があい、興味深そうに声を上げた。

 

 

「あなたがエマの言っていた男の子ね……」

 

「中橋総悟。2年生普通科生徒会副会長です。以後お見知りおきを」

 

「えぇ。よろしくね。エマから聞いているとは思うけど、私は朝香果林。ライフデザイン学科の三年よ。……ふむふむ」

 

自己紹介を終えると、またこちらをじろじろと見定める様に見てくる。

……え、なに?

 

「あの……何か変なもんでも付いてます?」

 

「あぁ、不躾でごめんなさいね。エマが会いたいっていう男の子だからつい」

 

「か、果林ちゃん!しーっ、しーっ!」

 

エマ先輩がわたわたと手をばたつかせて俺と朝香先輩の間に入ってくる。

それ以上は言わないでと人差し指を立てていた。

エマ先輩の事だから変な事は吹き込んでいないとは思うが……

 

 

「ねぇねぇ、大丈夫なん?」

 

「ん?何がだ?」

 

後ろから袖を引っ張ってきたのは愛だった。心配そうにこちらを見ている。

内緒話でもしようと手を口元に当て、こちらの耳に届かそうと爪先を伸ばしてくる。

 

「アタシが聞いた話だと果林って、色々な部や同好会に誘われた事があるらしいんだけどどれも全部断っているらしいよ」

 

「せやかて愛だって特定のとこにはいろうとしなかったじゃん」

 

「そりゃぁそうだけど……」

 

「安心しろ。さっきも話してたが俺の勧誘術に死角はない」

 

「いやさっきの振り返りのせいで不安しかないんだけど。死角しかシカイにないんだけど」

 

「……さてはお前、そんな心配してないだろ」

 

「あはっ、バレたかー」

 

 

両手を頭の後ろに組んで、ニッコリと笑顔で下がる。

こいつがダジャレを挟んで来る時ってだいたい本人に余裕がある時だしな。

さて、エマ先輩と戯れていた朝香先輩だったが、エマ先輩もこちら側(同好会組)の方に来たとこで勧誘が始まる。

 

 

「それにしてもスクールアイドルね……エマが活動していたのは知っていたけれど、私に出来るかしら」

 

「大丈夫ですよ。ここにいる彼女等、歩夢と愛に璃奈。最近加入したばかりの3人ですが、最初は同じ不安を抱えていました物の今では立派なスクールアイドルですよ」

 

「は、はい!私もスクールアイドルなんて到底出切っこないと思っていたんですけど、総くん……彼と一緒なら頑張れるって思ったんです」

 

「そうだよ!一緒に私たちとスクールアイドルやろうよ果林ちゃん。困ったことがあっても総悟くんがいるし、絶対に楽しいよ!」

 

誰だって初挑戦の事に大なり小なりと不安はある。

少しでもそれが解消されるようにと実際に最近加入したてのルーキーの名前を出す。私と同じ立場の人でも出来るんだと思わせることが大切だ。

歩夢とエマ先輩の援護射撃もあって、朝香さんの不安はさらに削られただろう。

それは有り難いのだが、貴方達揃いも揃って俺に全面的な信頼置きすぎじゃありません?歩夢は長年の付き合いだからわかるけど、エマ先輩はそうじゃないですよね?

 

 

 

 

「(立派なスクールアイドルって……私たちライブどころか、本格的なトレーニングすらしてないのに……)」

 

「(それは言っちゃ駄目だよりなりー!アタシたちはまだデビュー前ではあるけど同好会に入った時点ではスクールアイドルには違いないんだからさ!)」

 

 

おいそこー余計な事は言わないでいいからなー。

俺は何一つ嘘はついちゃいないぞ。立派なんてもんは人によって受け取り方が違うしな。

この場合での意味合いだと愛が言った通り、同好会に加入したその瞬間にてみんな立派なスクールアイドルだ。

立派な(新人)スクールアイドルである。

 

「……かすみさん?先程から胸を撫でてどうしたんですか?」

 

「……かすみんは思うんだ、しず子。神様ってどうしてこうも不公平なのかなって」

 

そして後ろから聞こえる少女の悲痛な声は聞こえておりません。

てかやっぱ女性の目から見ても朝香さんってスタイル良いんだな。

 

 

 

「そうね……スクールアイドルに興味はあるけど……」

 

興味はあるけどって、断る手段の常套句じゃね?

朝香さんの反応からしてだと脈はありそうって感じはするけど。

 

「でも私でいいの?フリフリの可愛い衣装とか私、似合わないわよ。体のラインが出るような衣装とか露出の高い衣装なら自信あるけど」

 

「ろ、露出ですか……」

 

今までの経験からなのか自身有りげにクール系の衣装が似合いうと強気に言う朝香さんに対し、逆にふんわりとしたピンクで彩られたかわいい系の衣装が似合う歩夢から、困惑気味に呟かれた。

歩夢あんま露出の激しい服って普段から着ないもんな。

目の前の朝香さんなんて、既に歩夢からしたら刺激が強すぎるだろう。

うーん、朝香さんはこう言っているが清純派スクールアイドルが着てそうな衣装も似合うと思うけどな。

というか、スタイルの良い彼女からしてみればどの衣装を着ても大体着こなせる気もするが。

 

 

「そう。例えば……彼が気にはなるけど凝視するのは失礼だから、なんとか目を背けようとしている胸元のほくろ……とか」

 

やべぇ、バレてた。

自身の胸元のほくろを指差して、こちらにウィンクを飛ばしてくる。

そして同好会メンバーからは冷ややかな視線を飛ばしてきているのを感じる。

 

 

「総くーん?」

 

この間注意したばっかだよねと呆れを含んだ視線と一緒に向けてくる幼馴染。

いや、こればっかは仕方ないでしょ。俺だって健全な男子学生だし。

 

「や、まぁ……こんだけ綺麗な人な上に、そんな自ら強調されてる服を着てたら気にはなるっての」

 

「ふふっ、お褒めに預かり光栄だわ。気になるんだったら遠慮せずにもっと近くで見てもいいわよ」

 

バツが悪そうにして答えると、俺の反応に気を良くしたのか朝香さんは楽しそうにこちらへと近づいてくる。

腹部に手を当て、前屈みになって近寄ってくるもんだから先程よりもインパクトが凄い。

え、なに何なの!?彼方先輩とエマ先輩といい虹ヶ咲の3年生はスキンシップが過剰な傾向があったりするの?初対面の異性に素肌を晒すのも厭わないとか露出願望とか視姦されたかったりするの?ビッ○だったりするの?サノバ○ィッチなの?

なんにせよガン見していると現同好会メンバーからの評価が下がるので、直視しないよう目をそらす。

っておい誰だ俺の背中つねった奴!声には出さずに済んだが、いたかったぞ!

 

「照れているのかしら?ふふふっ、かわいいとこあるじゃない」

 

逸らした視線の先に回り込むようにして、朝香先輩が下から覗き込むように見てくる。

どうしてもこの人は俺をからかいたいようだ。

 

「もうっ果林ちゃんってば総悟くんをあんまりいじめちゃかわいそうだよ〜」

 

「そうですよぉ。そんなセクシーな身体を使ってかすみんのセンパイを誘惑するのはやめてください!」

 

そんな俺を見兼ねたのかエマ先輩が俺の前に庇うように立ち、かすみが私の所有物だと言わないばかりに右腕を抱きしめてくる。

いつから俺は君の物になったと言うのかね?

 

「かすみさん。ちゃっかり先輩を専有しようとしないの」

 

まともな事を言っているように聞こえるが、君も同じ事してるよね?

反対側である左腕をそっと控えめな力ではあるが、抜け出させまいとしないばかりに両腕で組んでくる。

 

ていうかこれどんな状況よ。俺は朝香さんをスカウトしにきただけだったのに、いつの間にか後輩の女の子を二人侍らす(ように見える)二股野郎に成り下がってない?

こんな場面を他の生徒に目撃されたら、俺は明日からどんなレッテルを貼られるのだろうか。

 

 

「あらあら、取られちゃったわ。仲がいいのね」

 

微笑ましそうにこちらを見る朝香さん。

アカン。このままでは流れが完全に向こうの方に行ってしまっている。

交渉事で相手にペースを持ってかれるのはあってはならない。

少しでも有利に、より確実にこちら側として好条件で引き込むのが上手い交渉術だ。

ここらで流れを変えるべく一発パンチのある発言をしなけれ。ば

名残惜しくはあるが、二人に離してくれと言って一歩強く足を踏み出す。

 

 

「朝香さん!」

 

「ど、どうしたの急に大声を上げて」

 

ビクッと肩を跳ね上がらす朝香さんを強く見つめながら、彼女をビシッと指を指して俺は大きく息を吸って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お ま え が……ほ し い!!」

 

「!?」

 

『!?』

 

シンプルイズベスト。長々と前置きを語るのも大事だと思うが、このように飾らない言葉をストレートに投げ込むのも有りだと思うんだ、うん。

これは俺の直感なのだが、この人は難しい言葉を並べるよりも簡素な言葉で熱く想いをぶつける方が効果有りだと思ったからだ。

朝香さんの顔を見る限り、ハトが46cm砲を食らったかのような表情をしてるし、インパクトは抜群だっただろううん。

 

「そ、そ、そそ総くん!?いったい何を言って……!?」

 

「お~……なんて熱くて情熱的な言葉なんだー。でもこれってスカウトじゃなくて、告白じゃないの~?」

 

「センパイ!勧誘ですよ、か、ん、ゆ、う!こ、告白じゃないです!」

 

現同好会メンバーから動揺の声や非難の声などを浴びせられる。

告白だと?君らは一体何を言っているのかね。

 

「告白じゃない。勧誘であってるぞ。俺らが彼女を欲しているのは事実じゃないか」

 

「事実だけど言い方!さっきの言葉をどう受け止めれば勧誘だと思えるのさ!」

 

「あえて、『我がスクールアイドル同好会はモデル経験のある』を抜いて見たんだが……伝わらなかったか」

 

「伝わるわけないっしょ!たこ焼きを作ろうとして、タコ抜きで作ろうとするくらい省いちゃいけないものでしょうが!」

 

愛から怒涛のダメ出しを食らう。

言いたいことはわかるが、もんじゃ焼き屋の看板娘ならもんじゃ焼きで例えた方がいいんじゃなかろうか。

わかりやすい例えだけど。

 

 

「……い、今までいろんなお誘いをもらったけど、こんな情熱的なのは初めてよ……」

 

顔を手で扇ぎ、赤くなった顔の体温を下げようとしている朝香さん。

お、なんか満更でもなさそうな感じでない?

どうだ!ほれみろーと!みんなに顔を向けてみるが、誰一人喜んだ顔はせずものっすっごい形容しがたい微妙な表情をしていた。

うんまぁ、自分で言っておいてなんだがあの流れからのこの発言はないよね。

一部始終を見ていた同好会メンバーならまだしも、何も事情を知らない人が一連の流れを見たら『美少女を大勢連れ歩いている上に女生徒二人を侍らしているクズがさらに美女を手籠にしようとしている』図にしか見えないよね。

やだ、私ってばほんとうにクズ……

 

「あの中橋総悟君からお誘いを受けるなんてねー。それもエマの探し人が君だなんて」

 

「なんかやけに持ち上げられているみたいですが、俺はただの虹ヶ咲学園生徒会所属副会長兼スクールアイドル同好会(仮)部員なだけですよ」

 

「それだけ長い肩書を持っているならただのって言わないんじゃないかしら……ちょっとまってちょうだいね」

 

ごそごそとやたら高そうな洒落ているショルダーバッグの中を漁り、何かを探している。

何を出そうととしているんだ?

 

「これよこれ。ほら、このページ」

 

雑誌を取り出したかと思うと、付箋が張られてあるページを開きこちらに見せてくる。

目の前に差し出されたので、後ろにいるみんなも覗き込むように指された箇所を見ると――――

 

 

 

「これセンパイじゃないですか!?」

 

「もう、そんなわけないじゃないですか。まったく、かすみさんってば…………うそっ!?本当に先輩だ!」

 

「えぇっ!?わ、私にも見せて!」

 

「なになに……『新学期新入社員新生活。昨日までの古い自分とは今日でさよなら。新しい自分へと踏み出そう!絶対に失敗しない春の心機一転コーデ!!』……この見出しソーゴが考えたの?」

 

「なわけないじゃん」

 

俺だった。

俺を除く同好会メンバーが驚きに目を丸くさせ雑誌と俺を交互に見ていた。

でかでかと1ページ存分に使って、春服の特集が書かれていた。

上は白の長袖Tシャツに下はデニムのブラックジーンズ。その上にライトブルーのステンカラーコートを羽織り、黒のレザーブーツを履きスカした態度で写っていた。

いわゆるちょい背伸びをした落ち着き目系のコーデだった。

つーか、ご丁寧に俺のプロフまで載ってんじゃん。誕生日に好きな物、嫌いなもんまで。

 

「実は私もあなたには個人的に興味があったのよ。たまたま読む機会があったから読んで見れば、自分の通う学園の副会長が載っているんだもの。同業者だと思って、毎月同じ雑誌を買っていたのだけれど……あなたが載っているのはこの一冊のみ。モデルじゃないの?」

 

「正式なモデルではないですね。これは母のツテでたまたまやっただけですよ。本来は俺なんかよりも断然イケメンなモデル君がやる予定だったらしいんですが、突如辞めてしまって……その代打ですよ」

 

虹ヶ咲学園に入学する前のある日の休日。母さんから立ってるだけでいい本日限りのバイトがあるんだけどどうする?と言われ、どうせすることもなかったので二つ返事で了承した。

昔から交友関係が広く、人付き合いが好きな母さんはたまにこうして俺に短期のバイトを持ってくる事があり、今回もそれなんだろうなーと予想していた。

バイトの内容は仕事場に付くまで母さんは教えてくれなかったが、到着するまで自分で考えていたら、まぁ写真撮影かなんかだろうなと思ったら案の定だったんだが。

 

母さん曰く、学生時代の後輩が元モデルの元スタイリストをしていたようで、今回の話を母さんに話し誰か紹介できる人がいないかと聞いた結果俺に話がきたというわけだ。

正直、俺みたいなフツメンよりも立ってるだけで絵になる男なんて山ほどいるだろうと、意見はしてみたが母さんと後輩さんは――――

 

『むしろそっちの方が衣装映えするからいいわよ!』

 

といい笑顔で告げてきたのだった。

まぁ、イケメンが雑誌に載るのってどこの雑誌でもあることだろうし、話題性は出るだろうよ。喜んでいいかわからんが。

 

服の選択権は俺にあって、そっから良い感じに仕上げていくっていう話だったのでせめてもの意趣返しに上は緑のなアロハシャツ。下は緑の短パンと言う全身グリーン一色の陽気なハイカラ短パン小僧コーデで行ってみたら、その雑誌に載っているコーデに大幅変更された挙げ句、母さんには盛大に笑われ写真撮影を取られるという失態を犯してしまったが。

そのコラムには俺が選んだコーデとか書かれているが、俺が選んで着たものと言えば靴下だけである。

写っていないけど。

 

 

「そうだったのね。……でもあなたも中々かわいい顔してるわよ?私は結構好みだし、自信を持ちなさいな」

 

「えっ?あ、はいどうも。ありがとうございます?」

 

なんかよくわからんフォローをされた。

結局俺ってイケメンじゃないのね。わかっていたけど。

 

「なんで疑問系なの……さっきの殺し文句といい面白い子ね」

 

「あの、一応言っておきますけどさっきのはスクールアイドル同好会として、あなたが欲しいと言ったわけであって俺個人としてで言ったわけでは……」

 

「あら、ざーんねん。あんなに内から燃え上がるような想いは初めてだったのに……お姉さん悲しいわ」

 

「うっ……い、いや。多少個人的な感情がないとは言い切れませんけど!でも割合的には圧倒的に同好会としての側面が強くてですね!具体的には6:4くらいの比率で……ってあれ?邪な感情結構抱いてないか俺」

 

悲しそうに呟く朝香さんに、いたたまれなくなった俺はそれだけではないと早口で付け加えた。

くっ、普段であれば年上の女性であれど適当に話をぶった切って打ち切りエンドとするんだが……今回はこっちが勧誘してるからな。あんま不用意な発言をして彼女の機嫌を損ねて拒否られても困る。

なんかいい感じのアドバイスをもらったり、上手い具合に割り込んだり誰かしてくれないかな。みんなの方に助けを求めるべく目を向けると

 

 

「せっかくだし、写メとっておこっと」

 

「あ!愛先輩、かすみんにも後で送ってほしいです!」

 

「わ、私にもお願いします!」

 

「ねぇねぇ果林ちゃん。今度この雑誌わたしも読んでみたいんだけど、貸してくれないかな〜?」

 

「彼方ちゃんもエマちゃんの次に借りたいで〜す」

 

「この雑誌まだ販売されてたりするかな……」

 

「うーん……去年のだしブック○フとかじゃないと置いてないかも……」

 

 

おいなんで花に群がる虫みたいに雑誌を見ているんだ。

俺が写ったコーデとか見てどうすんねん。

あ、これ以上拡散させたり二次配布はすんじゃないぞ。このメンバー内だけで止めておけよな。

愛辺りにはそこんとこ言っておかないと友達に見せたりしそうだな……いや、個人情報が載ってるからさすがにしないか。

 

 

「賑やかなメンバーね。私はもう読み込んだから好きにしなさいなー」

 

読み込んだってそのページだけじゃなくて、雑誌そのものを何度もって事ですよね?

そこのページだけ付箋があるのはたまたまですよね?

聞いてみようと思ったが、遠回しに俺の事興味ありまくりなんですか?と言ってるようなものなのでやめた。

まぁでもこれで流れはこっちにきたみたいだし、結果オーライとしよう。

 

 

「それでスクールアイドルの話ね。なってもいいけど一つ条件があるの」

 

条件か。今まで勧誘しメンツからは特に条件提示されてなかったとはいえ、これは予想の範囲内だ。

むしろ廃部する可能性があるのに、無条件で加入してくれたあいつらの人が良すぎるだけだ。

いや、別に朝香さんが図々しいとかそんな事を言ってるわけじゃないけどね?

 

「私は、私の目指すスクールアイドルになりたい。それでもいい?同好会には入るけど、グループ活動はあまり得意じゃないっていうか……」

 

「ソロ活動中心でいきたいと。問題ないですよ。むしろウチはその方針で行くつもりでしたし」

 

こちらとしては願ったり叶ったりの条件だ。

金を要求したり、モデルをまたやってみないかとか言われる想定もしてなかったといえば嘘になるしな。

前々から考えていたことだ。かすみから同好会が散り散りになった話と原因を聞いて思った事。

みんなにはこの場で伝えておくとするか。

 

「そういうわけだ。聞いていたと思うが虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は……グループ、ソロ。その概念に拘らない活動方針とする!」

 

『え?』

 

朝香さんを含めた全員の手が止まり、こちらに視線が向く。

まぁ、誰にも一切伝えていなかったからな。

 

「スクールアイドルと言えば、ユニット活動をしているイメージは強いわけではあるが、決してソロ活動がないわけじゃない。そうだよなかすみ?」

 

「は、はい。多くはないですけど、ソロで有名なスクールアイドルはいますね」

 

「以前の同好会で皆考える事やりたい事は違うけれど、それはそれで味があって面白いと。そんな感じだったよなしずく」

 

「えぇ……それで前は上手くまとまることができずに……」

 

「そう、それだ。そういうことだよ。こんだけ個性的なメンツが集まっている中、それぞれが定まった方向性を持った上で無理にグループ活動をしようとしたから上手いこと行かなかったんだろうよ。だから、個々が同好会に集まり一つにまとまりはすれど……進む方向性は別々で良いと思う。最強のスクールアイドルを目指すのもよし、最かわのスクールアイドルを目指すのもよし、自身の描く理想のスクールアイドルを目指してお互いが切磋琢磨し、時には協力して高め合う。そんな感じでどうよ?」

 

要は自分の好きにやっていいよーってことだ。

他の運動部で言えば……そうさな、水泳部を上げるとするか。大会で個人の得意な種目に参加する人もいれば、団体戦で一つのチームとして参加する人もいる。

それと同じだ。思い思いにやりたいことをやって、気が向けば皆一つになってユニットを組むなりしてグループ活動すりゃいいと思う。

個性の固まりである全員を制御するよりかはそっちの方がらくで――――もとい、強みを薄めてしまうからな、うん。

 

「めっちゃ良いこと言う〜彼方ちゃんもそれに賛成ー」

 

「はいはーい!かすみんも賛成で〜す。最強にかわいくて驚異的にキュートなスクールアイドル目指して頑張りますから、応援してくださいね、センパイ♡」

 

「かわいいよりもゴツさがすごい気がする……でも私も賛成。まだどんなスクールアイドルになりたいかはわからないけど……みんなとなら頑張れそう。璃奈ちゃんボード「むんっ」」

 

 

「わたしもそれで良いと思うよ。グループとしてはまとまらなくて良いってことだよね?」

 

「えぇ。正直まとまろうがまとまらなかろうがどっちでもいいんですけどね。そこは然程重要じゃないですし。そこら編は縛られずに、自由気ままに好きな事をやっていきましょ。グループ活動はまぁ、気が向いたらとかでいいんじゃありません?」

 

言いたい事は全部伝えたし、改めて朝香さんの方へと向きなおる。

同好会の方針について異を唱える人はいないみたいだし、今後はソロ活動主体で行く事になるな。

俺はこの勢いのまま、朝香さんの方へと手を出して伝える。

 

「朝香さん。スクールアイドル同好会のメンバーとして共にスクールアイドル界に今までにない刺激を!旋風(センセーション)を巻き起こしましょう!」

 

「今までにない刺激……ふふっ!いいわよ、面白そうね。そういうことなら喜んで入部させてもらうわ!」

 

差し出した手は俺よりも小さくしなやかな手で。それでもしっかりと握られたのだった。




初投稿から約10ヶ月。ようやく全メンバーを登場させることができました……!
次回できっと最終回かな(すっとぼけ)


生徒会長 最近出番があまりない。原作だとそろそろスタンバっているはず。

クール系お姉様 朝香果林さん。アニメだとシャニマスの咲耶みたいな事してて笑いそうになったけどイメージにはあってた。
スクスタだとシナリオやイベントストーリーが出てくるにつれ、ポンコツ度が増してく人。
負けず嫌いだったり内に秘めた情熱が凄かったりと、知れば知るほどクールとは程遠い感じもしなくはない。
でもそこがいい。

美少女を侍らすクズ (スカウトに)手段を選んじゃいられないんだ!モデル経験があったり駄菓子作成術を持ち合わせていたりとスキルは高い。


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11話

今年度初投稿です。
音沙汰ないように見えますがちまちま続き書いたり過去話を更新したりしてます。
誤字報告していただいた方々へこの場をお借りして御礼申し上げます。結構な頻度で誤字ったり、間を開けて更新しているせいか矛盾点が生まれてしまっていたりするので、ホント見ていただいている人に申し訳ないです(´・ω・`)




俺が生徒会に所属する切っ掛けなんてのはそんなたいそれた事なんかじゃない。

内申点が欲しいわけでも、学校をより良くしていこうとかそういった情熱があるわけでもなかった。

何かしらの部や同好会、委員会に入るというのが特待生として入学する条件の一つだった為だからである。

体を動かす事は嫌いではなかったが、顧問にあれこれ五月蠅く指示されるのは性に合わないし、やりたい時にやりたい身としては特定の部に入って行動を縛られるのは避けたかった。

 

 

 

 

ならばどうするか。そんな時に俺の思考回路にふと割り込んできた考えが一つあった。

 

 

『そういや、アニメキャラで優秀な人って大概生徒会長とか生徒会の人間だったりするよな』

 

 

 

 

である。

我ながら何言ってんだこいつ。となるだろうが、自分の中では大真面目で既に所属先は確定していた。

そこからの行動は早く、思い立ったが吉日と言うように即座に担任に生徒会への事を聞きに行った。

うちの担任が生徒会顧問だった為より詳細に生徒会の内容を教えてくれたのは僥倖だった。

生徒会の話を教えてくれる中、加入動機を聞かれたりしたが、馬鹿正直に話した所滅茶苦茶笑われた。

 

そしてその日から先生からアニメトークを振られるようになった。

極度のアニオタだったみたいで、生徒会の中には誰もアニメを見ていないようで話しを触れずに悶々としていたとのこと。

好きなアニメはCLAN○ADだと言っていたので、「あぁ、あのれってドラゴ○ボールみたいですよね。光の玉集めますもんねー」と言ったら先生のオタ魂にガソリン投下してしまったようで、特別授業の時間が発生してしまったのは別の話。

俺的には智代がよかったな智アフ?知らんな。

 

いずれ先生とのコネを作ろうと思っていたので、図らずとも共通の話題を振れる材料を入手できたのは嬉しかったりする。

この日から先生達から色々頼み事をされる事が多くなった。

 

詳しく話を聞いてみると生徒会へはすんなりと入れるみたいだった。書記と副会長の枠が一つ空いているということだったので、書記でお願いしますと即座に答えた。

一年から副会長就任ってのもなんだかなーって思ったし、やるにしても書記として一通りの流れを把握してからの方が良いと思ったからである(やるとは言ってなかった……のだが今では副会長になったものだから、人生とは何が起こるかわからないよね)

単にめんどいから嫌だってのもあるけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてあれよあれよと話が進み、生徒会メンバーと顔合わせをする事に。

俺は特段緊張するわけでもなく、失礼しますとノックを行い返事が返ってきたのを確認して生徒会室に入室。

そこには一人の男子生徒と数人の女子生徒が座っていた。

まずは自己紹介からと軽いプロフィールと役職を各自言っていく中、俺はふーんと適当に聞き流しつつとりあえずは顔と役職だけインプットしときゃなんとかなるだろと考えていた。

 

 

 

筒がなく進んでいく中、最後の一人が自己紹介する前に当時の生徒会長が言った言葉。

 

「なんとぉ、この子は君と同じ一年で副会長に就任しているんだよ。ちょっと愛想がなくてとっつきにくい娘かもしれないけど、同じ一年生同士仲良くしてね。困ったことがあればなんでも彼女が教えてくれるから!」

 

「普通科一年……組の中川菜々です。副会長を務めさせてもらっています。よろしくおねがいします」

 

おちゃらけたように話す生徒会長に淡々と必要最低限の事しか話さない副会長。

それまでは生徒会なんて適当に必要範囲内の事だけやりゃいいだろと考えていたが、この二人を目にした時俺の中のシックスセンスがこう告げていた。

積極的に関わっていけば面白いことになる……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お待たせしました」

 

学園の屋上の手すりに背中を預けて、赤く染まった空を見上げているとキィ……と扉の開く鈍い音がし、呼び出した目的の人物がこちらへと歩いてきた。

歩くと同時にゆらゆらと揺れる彼女のおさげを見ていると、編み込むだけでもセットに時間かかりそうだよなー。女子の朝は時間が足りないとなんかのアニソンの歌詞にあったような気がすると、しょうもないことを考えていたりしたがそんな事を気取られないように自然と彼女の瞳に視線を移す。

 

「悪いな。急に呼び出したりなんかして。これはその迷惑料だ」

 

ほれ、と事前に買っておいた缶のリンゴジュースを下から投げ渡す。

咄嗟の事にややびっくりしながらもキャッチする菜々。気にしないでいいですのに……と遠慮気味の菜々だったが、俺が一度奢った物を突き返しても受け取らない事を知っている菜々は俺の隣に来て、俺と同じように手すりに背中を預けるといただきますとお礼を言ってから、プルタブに手をかけちびちびと飲み始める。

それを横目で確認すると俺も自分の分の缶コーヒーを開けてグイっと飲む。

甘い物も嫌いじゃないけど、このスッと入ってくる苦味の方もやっぱいいな。生徒会室でゲー厶――――雑務を熟しながら片手には一杯のコーヒー。お供に歩夢お手製のクッキーを添えて……考えてたら涎が垂れてきてしまいそうだ。

帰ったら歩夢にお願いしてみようかな。今度一緒に荷物持ちとか一緒に菓子作りをするとかで手を売ってもらうかな。

 

 

 

お互いに一息つき、無言が続く。菜々は両手で缶を握りしめたそのまま視線を下の缶に向けている。

俺が話し出すのを待っているのだろう。

機を見計らって一度缶を手すりに置いき、話を切り出すことにした。

 

 

「同好会の人数は8人。新規4人に既存メンバー4人。……俺も数えたら9人。菜々の指定してきた人数に王手をかけたわけだが」

 

「!……さすがは総悟さんですね。総悟さんなら必ずやり遂げてくれるとは思いましたが……こんなにも早く集めてくるとは思いませんでした」

 

「副会長だからな。これくらいは造作もないってことよ」

 

「はい!総悟さんが頼りになる人だというのは……あの時からずっと知っていますから」

 

 

力強く返事をし、瞳からは全幅の信頼を置いてますと真っ直ぐに見つめてくる。

あの時……菜々はこう言っているが、言うて特別なイベントが発生したわけではない。

 

学校の帰り道に見るからに頭の悪そうななりをしたDQNに囲まれてる所を都合よく、颯爽と助けに入るだとか……先生に頼まれ事をされ、明らかに一人で終えれる量ではないのに自身の人柄から引き受けてしまい、遅くまで校内の教室に一人で残って作業している所を偶々見てしまって、一緒に作業を手伝うだとか……そんなドラマティッーーックで素敵嬉し恥ずかしブルーゥスプリングゥ(あおはる)なイベントとかでは決してない。

そんなギャルゲみたいなイベントが発生するのは主人公(おもとこう)君だけだろいい加減にしろ!

ギャルゲェの世界へようこそなんて世界でもなんでもなくただの現実と言うなのクソゲーだからね。

もしも俺が転生チートとかで異世界とか現実に再転生するならセーブ&ロードが欲しいわ。俺だってやり直したいセーブポイント(箇所)の一つや二つや300万くらいあるんですよ……

 

 

「……俺が頼りになるのはその通りだろうけど、あの時ってただ菜々会長が生徒会室でサボって漫画を読んでるのを見ただけだけど」

 

「な、何度も言ってますけどサボっていたわけじゃないですから!あれは休憩していただけですっ」

 

「俺が休憩時間でジャ○プ読んでた時は注意してきたじゃねーか。当時副会長だった中川菜々さん?」

 

「当たり前です!他の皆さんがいる中で……しかも先生がいる目の前でなんてダメに決まってます!校則違反ですよっ」

 

「学園に不要な物の持ち込みは禁止。ジャ○プは自身の欲を満たすだけじゃなくて、人と人の繋がりを紡ぐ貴重なコミニュケーションツールだ。現に顧問の教師はそれでさらに仲良くなったし」

 

「さ、さすがに人の目と言うのをですね……」

 

「まぁまぁ、細かい事は気にすんな。それに俺が堂々と見てるお陰で菜々がコソコソと隠れて見てるのがバレても誰も咎めたりしないって」

 

「そういう問題じゃなくてですね……」

 

「あ、そうそう。この間菜々が見たがってた魔王城○おやすみの新刊だけど、生徒会室のいつものとこに置いといたから」

 

「ほんとですかっ!?ありがとうございます!今から取りに行ってきます!!」

 

「いや、まだ俺の話は終わっちゃいねーから」

 

この手の平クルーである。

回れ右して駆出そうとする菜々の肩を掴む。

向き直った菜々は恥ずかしそうに頭をかいていた。

相変わらず好きな物に関することとなると周りが見えなくなるヤツだな。

 

 

まぁ、そんなわけである。当初副会長で今よりも周囲に塩対応だった頃の中川菜々と距離が縮んだ出来事とは。

なんてことのない日常の一幕。去年の放課後生徒会室で作業を終えていつも通り持ち込んだ漫画を読んでいたのだが、校内放送で呼び出しをくらい……そのまま呼び出された場所に向かった。

呼び出された内容はさておき、呼び出してきた先生の要件が終わり時間も帰宅するにはちょうど良い時間だったので、帰るかと生徒会室にまとめて置いた荷物を取りに戻ると……

 

 

 

『そこです!相手の追撃が飛んでくる前に必殺の一撃を!……あぁ!後ろから奇襲なんて卑怯な!』

 

 

俺が机に置き去りにしていた漫画を食い入るように閲覧している中川菜々(副会長)がおられましたとさ。

生徒会室に入ってきた俺に気が付かないくらいに熱心に見ていたよな。心境がそのまま声に出るくらいだったし。

この出来事から俺と菜々の距離が以前よりも近くなり、菜々が周りに自分の趣味を隠す理由を俺に話してくれたので、『俺は家でも見れないのなら生徒会室で見ればいいじゃん。読みたい見たいのがあれば持ってくるぞー』と提案し……彼女の中の理性と欲望の天秤が後者に傾いた瞬間であった。

 

それから生徒会で作業したり何もせず駄弁った後や俺たち以外の生徒会メンバーが帰った後とか休日。まぁ、二人しかいない時にこっそりと菜々とアニメを見たり漫画やラノベの貸し借りをして読み合ったりする密会?が始まったわけだったりする。

 

 

 

 

 

さーてと、空気がいい感じに緩くなったとこでそろそろ本題に入るとするか。

 

 

「回りくどい事はめんどいから単刀直入に言う。優木せつ菜 、スクールアイドル同好会に戻ってこい」

 

ここに菜々会長を呼び出した用はただ一つ。スクールアイドル同好会の最後のメンバーである優木せつ菜の呼び戻しだ。

朝香果林さんをハンティングした翌日の放課後。同好会メンバーで優木せつ菜を捜索しに行こうとなったのだが、それに俺が待ったをかけその件は俺に任せてほしいと頼んだのだ。

誰もが彼女の姿を学園生活で一度も見たことがない。学園七不思議の一つになっているだとか、生徒会長の陰謀で優木せつ菜 は監禁されてるだとかあることないことを口々にしてたが、心当たりがあると言うと、皆俺を信じてくれて同好会から快く送り出されたというわけだ。

 

「……やはり総悟さんにはわかってしまうんですね」

 

ふぅとため息をつく菜々会長――――優木せつ菜だったが、どこか嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。

彼女のトレードマークと言えるメガネを外し、結っていたお下げを解くと……

 

 

「えぇ。お察しの通り。私が優木せつ菜です」

 

ネットに上げられていたライブ映像や画像で見ていた優木せつ菜が目の前に立っていた。

 

 

「ま、そうだろうな」

 

「……あれなんか反応が薄くないです?こういう正体バレって『ま、まさかお前が……そんな……!?』みたいな仲間だったキャラが敵サイドについているなんて熱い展開があったりするものでは」

 

「お前は何を期待しているんだ……菜々会長と優木せつ菜が同一人物だと気付いたのは最近だが、ライブ動画を見てすぐにわかったぞ。MCでの挨拶や大声を上げてる時なんて、菜々会長がアニメを見てる時に奇声を上げてる声質とまったく同じだったからな」

 

「き、奇声じゃないです!あれは私の作品に対する大好きが抑えきれずに溢れてしまっただけで……でもそうですね。ファンのみんなへお礼を言う時はライブの余韻もあって、そこまで気にすることもなかったですね」

 

「普段は才色兼備の完全無欠で冷酷無慈悲な生徒会長(笑)で通ってるからな。あまりにもイメージがかけ離れすぎているから、菜々会長がボロを出さない限りは身バレする心配はないと思うぞ」

 

「最後の(笑)はいらなくないですか!?た、たしかに総悟さんに比べたら至らない点が山ほどありますけど……」

 

「いやいや、そんな卑屈にならんでいいっての。褒めてるんだからさ。よくもまぁ、一年近く正体を隠せてスクールアイドルをやれたもんだなと。実際問題俺以外にはまだ知られてないんだろ?」

 

「は、はい。こうして言い当てられたのは総悟さんが初めてです」

 

「ま、俺が菜々会長と近しかったのもあるだろうな。他の生徒じゃ『貴方が優木せつ菜ですね?』なんて直接聞けんだろうし」

 

「そうですね!総悟さんは私のかけがえのない唯一無二のご友人です。どんなご質問であれ総悟さんの為ならばなんでもお答えしちゃいますよ!」

 

「そんで?返事はどうなんだ。Yesかはいか仲間になるか。特別に三択の中から選ばせてしんぜよう」

 

「あれ……おかしいですね。こういう時は『ん?なんだって』とか『いま、なんでもするって言ったよね?』とか言って私を辱める権利を入手するシーンではないのでしょうか……?今読んでるラノベではサブヒロインの子がそうやって主人公を手中に収めていたのですが」

 

「どんなラノベだよそれ……てか何お前そんな事されたい願望でもあんの?被虐体質なの?」

 

「か、勘違いしないでくださいよねっ!こんな事総悟さんだけに言っているわけじゃないんですからねっ。他の人たちにも言っているんだから、総悟さんが特別ってわけじゃないんだからっ!」

 

「今の自分の発言をよーく考えてみな。ツンデレでもなんでもないただのビッチじゃねぇか」

 

「…………はっ!?ち、ち、ち違いますからね!私そんな尻軽女じゃありませんから!誤解しないでくださいよねっ!」

 

「そこもツンデレキャラなのかい」

 

ツンデレっていうキャラが広まってから15年近くは経つんだよなー。ツンデレ全盛期のアニメを世界最大河川Primeで見たけど、くぎゅーさんいいよねくぎゅーさん。炎髪灼眼に密かに憧れていた3年前のあの日の夏……視力悪くなるからカラコン早めた方がいいよと歩夢にマジレスされた悪意のない善意は効いたあの日の忌まわしき記憶よ……!

 

虚無の記憶に囚われたりしたが、いつものように他愛のない話を繰り広げる。このやり取りの間だけで菜々会長の表情は笑ったり困惑したり恥らったり素っ頓狂になったりところころと変える。

……去年の菜々副会長とは想像がつかないくらいの変わりようだよなぁ。いや、こっちの方が素の菜々だと思うけどさ。

 

 

「総悟さん?」

 

懐かしむように過去の菜々副会長を思い浮かべていると、至近距離で俺の顔を覗き込むように首を傾げていた。

こうして見ると菜々ってけっこうちっこいよな……かすみとほぼ大差ないような。……そういや、前生徒会長なんかミニマム会長って呼んでていたっけ。その度に菜々がファイアーさんもびっくりなにらみつけるで黙らせていたけど。

背はそうでもなくても胸部はかすみと比較にならないものをお持ちでいらっしゃる……と。スクールアイドルって皆かわいかったりスタイルがいいもんなのか……?

……いかんいかん。煩悩退散煩悩滅却悪霊退散悪霊退散ドーマンセーマン……ってこれは違うわ。

 

 

「……それで、さっきから何を渋っているんだ?スクールアイドル同好会の復興は菜々会長――――いや、優木せつ菜の望んでいたものじゃなかったのか?」

 

 

言葉にして指摘するとピタッと固まり、落ち着きがないように視線を左右に逸らす。

彼女が本心を語るまで俺は黙って目を逸らさずに顔を見続けていた。

……やがて決心したのか、ぽつぽつとゆっくりと話し始めた。

 

 

「はい……あの時も本当は皆さんとスクールアイドルを続けていきたかったです。私はもちろん他の皆さんもスクールアイドルの事が大好きでしたから。……でも私はスクールアイドルが大好きなのだからと言って自分の中のスクールアイドル像を押し付けてしまった!皆さんの本当になりたかったスクールアイドルの事を気にする事ができないまま……こうしたほうがスクールアイドルらしい。こう魅せる事でファンの人たちも納得できるパフォーマンスになる……と。私のスクールアイドルが大好きな気持ちを抑えきれずに、好きって気持ちを共有したかったから色々と無理を言ってしまいました。そういうのはダメだって、良くないことだってわかっていたはずなのに我慢できなくて……皆さんとどんどんぎこち無くなっていって――――」

 

「同好会は自然消滅するような流れになったと」

 

「……はい」

 

優木せつ菜から聞いた内容はかすみたちから聞いていた話と同じものであったが、本人から聞くのとでは全然違う。

これで優木せつ菜が同好会の事をどう思っていたか知れたし、旧同好会メンバーとの想いとの差異を確認することができたな。

……それに一番重要であるスクールアイドルへの気持ち。やはり優木せつ菜はスクールアイドルを諦めたわけじゃなかったようだ。そんなことはないとわかってはいたが、こうして直で聞いてみるとやはり安心はする。

彼女の大好きな気持ちは一切揺るぎないものであった。

 

話し終えた優木せつ菜はりんごジュースを手に取り、乾いた喉を潤そうと一気に飲み干した。

飲み終えて一息ついたとこで俺は問いただす。

 

「俺に部員を集めるように言ったのはお前自身同好会への未練……解散となった原因が自分による物だと思っているからか?」

 

「……こうなってしまったのは私のせいですから……私の身勝手な振る舞いのせいで皆さんのスクールアイドルへの想いが失われてほしくなかったですから」

 

「お前自身の気持ちは?」

 

「え……?」

 

「負い目を感じて自責の念に駆られるのはわかる。だがそれはもう過ぎてしまった事だ。それにお前の中ではもう十分に反省したんだろう?過去を振り返って自分を見つめ直すのは悪いことじゃない……が、いつまでもその場に立ち止まって歩みを止めるのは良くないな。過去の反省を活かし、より良い未来に向かって走り出す方がカッコよくないか?……もしも踏み出す一歩を恐れているなら俺が背中を押してやる。力を貸す。恐怖も不安も俺が受け止めてやるさ。……優木せつ菜。他の誰の意見でもない貴方自身はスクールアイドルを続けたいか、否か」

 

 

責任感が強く真面目な彼女の事だ。スクールアイドルを続けたくても続けられなかったのだろう。

同好会を解散にさせてしまった身なのに自分だけスクールアイドル活動をするには如何なものかと。

他メンバーよりも知名度が高いにも関わらず、同好会が解散した以降の優木せつ菜の動画は一切配信されていなかった。

……生徒会で彼女の近くで作業をこなしていたから分かった事だが、こいつは何をするにも一直線すぎて真面目すぎる。

 

本人から聞いた話では趣味のサブカルチャーについて両親にも隠しているって言っていたからな。この様子だとスクールアイドルに関しても間違いなく言っていないだろうな。

スクールアイドルは世間に知れ渡ってきているが、当然全ての人に受け入れられている訳じゃない。好意的に見ている人もいれば、生産性も将来性のない意味のない事をするべきではないと否定的な人もいる。

特に菜々の両親は厳しい家柄だと言う。知られてしまったらスクールアイドルを辞めるように菜々に訴えかけてくるのは想像するに難くない

優木せつ菜と芸名をつけてスクールアイドル活動しているのも、両親の耳に入らないように徹底しているのだろう。

 

 

「それと、勘違いしているようだから言っておくぞ。旧メンバー……かすみにしずく、彼方先輩にエマ先輩。皆誰一人として優木せつ菜のせいだとは言っていなかった。むしろなんで同好会に来なくなったんだと心配していたくらいだ」

 

「皆さんが……」

 

彼女等が人間出来ているというのもあるだろうが、優木せつ菜を責め立てたりする者は一人とていなかった。

俺は優木せつ菜が不安材料としている事を一つづつ潰していくように話を続けていく。

 

「スクールアイドル。続けたいんじゃないか?好きな事を好きなように好きなだけやりたくはないのか?……大好きな気持ちを隠すのはおかしいんじゃなかったのか?」

 

「……あ」

 

はっとしたように顔を上げる。

最後に言った「大好きな気持ちを隠すのはおかしい」これは去年俺の置いていった漫画を読んでいた菜々会長が俺に言った台詞だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうです……そうなんですよ!私はこういった漫画やライトノベルが大好きなんです!いけませんか!?普段口煩く注意している私がこういうのを読んでは!?』

 

『個人的には問題ないが、パブリック的には良くないな〜生徒会室で不要な物を持ち込んで読み耽るなんて』

 

『はうっ!そ、それは……ってこれあなたの私物ですよね!?』

 

『……それよりも随分とはっきりと大好きだって口に言えるのな。こういうのって言い淀んだり、誤魔化したりするもんだと思っていたんだが』

 

『それは違いますよ。大好きな物を大好きだと叫ぶのは決して恥ずかしいことなんかじゃありません。むしろ大好きな気持ちを隠すのはおかしいと思います!』

 

『……ふーん。でも今までそんな素振りは一切見せてなかった件についてはどうなの?』

 

『あうっ、それはですね……普段の私には似合わないだとか副会長はそういった物とか絶対読まなそうだよねーとか生徒の皆さんがそう言っていたのを耳にしたので……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの時あんな風に茶化してしまったけどさ、内心菜々会長の事をすげぇと思ったんだぜ?」

 

「総悟さんが……私を?」

 

「あぁ。俺は菜々会長みたいにはっきりと口にして大好きだと言えるようなものはないからな。ひたむきに熱心に打ち込める様は輝かしく素敵だと思うぞ」

 

以前から一つの事に打ち込んだり、情熱を捧げる物事なんてなかった。

今では興味が湧いてスクールアイドルに関して調べたり、同好会の手伝いをしている身ではあるがスクールアイドルが大好きかと問われたら俺は否と言えるだろう。

……あの時μ'sとAqoursの合同ライブを見た時に感じた湧き上がる衝動。

あの想いをまた感じることが出来るのだろうか?俺は目の前の彼女みたく胸を張ってスクールアイドルを……もしくはそれとは別の何かを大好きだと言える事ができるのだろうか?

……俺は探す事が出来るのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「できますよ」

 

「え?」

 

両手をそっと優しく包み込まれるように握られる。

口に出していないはずだというのに、目の前の彼女の瞳は見透かすように……でも優しい眼差しで見上げていた。

 

「きっと総悟さんも大好きだと言えるものが見つかります。いえ、むしろ私がスクールアイドルを大好きだと言えるように総悟さんの隣でスクールアイドルをやっていきますよ!」

 

「それって……いやてか俺声にしてなかったよな」

 

「出していませんでしたよ。でも総悟さんが私の事を理解してくれているように私だって――――」

 

握っていた手を解いて、背を向けたまま駆け出す。

赤く輝く夕日をバックに菜々――――いや、優木せつ菜はくるりと振り帰りかつて無いほどの眩い笑顔を浮かべて、こう叫ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私だって総悟さんの事を誰よりもわかっているんですからねーーーーーー!!」

 

その迷いのない真っ直ぐな想いに不覚にも、ファンになっちまいそうじゃないかと胸が熱くなるのであった。

 

 

 

 




投稿がめっちゃ遅れたのはせっつーをどう復帰させるか迷ったからです。迷った末にこんな展開にしちゃいましたが……これなら原作風にしたほうがよかったかな……いやそれだとなんかアレだし……と答えが行き着かないまま気がついたらもう2月……って感じでした。





↓ちょっと遅れた聖ウァレンティヌスネタ(ややえっちぃ感じがあるので注意よー)

































歩夢「はい、ありがとうの気持ちとあなたへの想いをたっぷりと込めたチョコだよ♡……え?愛情はどれくらいあるのかだって?も、もう。そんなの言わなくてもわかるでしょっ。……あ、あとねこれとは別にもう一つプレゼントを用意してあるんだ。…………え、えーっとね。ちょっとの間だけ部屋の外に出てもらってもいいかな……?」
※もう一つのプレゼントとはスクスタのURぽむ『ぎゅってつかまってもいい?』のサイドエピソードと同じ物とだけ言っておきます






せつ菜「トラーーーーーッイ!!恋もチョコも全力でいきますよ!さぁ、私の気持ちを受け取ってください!!……え?熱意はわかったからその叫びは色々とまずいからやめておけ?よくわかりませんがわかりました!それよりも早く開けてみてください。優木せつ菜会心の一作ですから!……ま、まぁこの一つを作り上げるまでに多数のチョコが犠牲になってしまいましたが……μ'sの皆さんとAqoursの皆さん、ニジガクの皆には感謝してもしきれませんね。……あの、どうして十字を切っているんですか?……え?チョコが私の熱に耐えきれずドロドロに溶けてしまっている……!?そ、そんな!あんなに頑張って作ったのにぃ……あなたへの想いが込もるよう抱いて寝るのがいけなかったのでしょうか。ご、ごめんなさい。せっかくのバレンタインデーですのにチョコがこんなになってしまって。……え?このチョコでも使いようはある?…………あ、あのなんか目が怖くありません?どうしてチョコをすくったりなんかして……あ、あのあのあのちょ、ちょっと落ち着いてください!確かにこういう展開は少女漫画にもありまして私も興味がないと言えば嘘になりますがあっ――――」






しずく「あ、あのっ……チョコレート受け取ってください。べ、別に深い意味はありませんから。糖分補給の為ですよ糖分補給のためっです!……せ、先輩?どうしてこの世の終わりみたいな顔になっているんです?え?恋人のしずくから貰えると思って今日一番の楽しみにしていたのにまさかの義理だったなんて?そ、そんなわけないじゃないですか!先輩が仰ったんじゃないですか。『ちょっとツンケンした態度で本心を隠して渡してくる娘にグッとくる』って。薫さんからそう聞きましたよ?……そ、その……だからですね……そのチョコレートには今私が出来る限りの気持ちをたっぷり込めて作りましたので。あ、い、今開けちゃうんですか?うぅ……は、恥ずかしいですね……美味しいですか?えへへ……よかったです。頑張って作った甲斐がありました。……?どうしたんです先輩。チョコレートを口に含んで……!?んっぅ……ん……ちゅっ……ふぅ、ちゅぱっ。…………あまい味がしました。……今度はしずくを味わいたい?……………………チョコレートを食べ終わってからでなら……いいです、よ?」







以上A・ZU・NAの3名でお送りいたしました。
え?なんでこの3人だけなんだって?
投稿する前咄嗟に思い浮かんだのがこの3人だからです(´・ω・`)
残りの人メンバーは……うん、まぁ、他の作者さんが書いてるだろうし……ね?いいでしょ、許してなんでもしますから!


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