異世界はネカマのおっさんと共に (斉藤 幸助)
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プロローグ

 仮想現実の世界で冒険を繰り広げるDMMORPG『ドラゴン・ファンタジア』

 今も増え続ける1000種類以上に進化するドラゴンを育成し、共に冒険して戦うだけではなくドラゴンに乗ってゴールを目指すドラゴンレースやドラゴンのカッコよさ、美しさ、可愛さなどを競うドラゴンコンテストなど幅広い種類のゲームを楽しめるソフトだ。

 全てのプレイヤーは誰もが同じ龍の卵を羽化させて幼龍『ベビードラゴン』を育てることから始まる。

 ドラゴンはリアルタイムに対応しており、プレイヤーとの接触時間やドラゴンの生活環境によって変貌して進化する。

 つまり、意図的に同じドラゴンには成長させる事が不可能なのだ。

 

 自分だけのオリジナルドラゴンを育成し。

 ライバルとなる世界中のプレイヤー達と競い合いながら、モンスターや悪人であるNPCが跳梁跋扈するファンタジーの世界を駆け回る。

 このようなゲームがヒットしないはずがなかった。

 

 発売して数日。人気は想定していた中高生の学生以外にまで広がり、マスコミの煽りを受けて異常人気にまでなった。

 そして、当然の流れであるが日本以外にも世界中でリリースされ、アメリカやアジア各国でも大流行となり、発売して数年が経過した今も世界中の人々を熱狂させているのだった。

 

 ★

 

 ドラゴン・ファンタジアの草原地帯に、二人のプレイヤーが立っていた。

 カイトという名前が頭に表示されたプレイヤーである青年とキャサリンと表示された金髪の美女だ。

 ここは、ゲームのプログラムによって作られた仮想現実の中である。

 

 カイトはポケッ〇モンスターやドラ〇エなどの育成系RPGを愛する大学生で、発売初期からゲームをしているプレイヤーだった。

 アバターは古参プレイヤーとは思えないほどの簡素な物で黒い軽鎧に長いズボンにロングブーツ。

 後は、ドラゴンの紋章の入った指抜きグローブだけだけであり、武器の類は装備していない。

 見た目は黒い髪に紅の瞳をしたイケメンだった。

 

 そんな彼の近くに立っているのはいかにも魔導士な格好をした女性プレイヤー。

 彼女のアバターは、キラキラと輝く紅の宝石が埋め込まれた首飾りに黒いマントと規制ギリギリのミニスカートを装備していた。

 

 「こんにちは、キャサリンさん。

 今日のイベントはよろしくお願いします」

 

 「カイトさんもこんにちはでーす!私の方こそ、よろしくお願いしまーす!!」

 

 頭を下げて挨拶をするカイトに、キャピキャピと返事をする女性プレイヤー。

 彼女は動画サイト【Me tube】で活躍するドラゴン・ファンタジアの人気実況プレイヤーである。

 そんな人気実況プレイヤーであるキャサリンとカイトが共に居るのは今回のイベントの為に行ったPT募集の選考で、彼がキャサリンに選ばれたからだ。

 故に、これから二人はもうすぐで開始されるイベントのプレイ動画を撮影する為に集まったのだった。

 

 「でも、あの有名なカイトさんとイベントに参加できるとは思えませんでしたよ!」

 

 「そ、そうですか?」

 

 口の動かないアバターから聞こえてくる可愛らしい声に、緊張しながらも照れたように返事を返すカイト。

 そんなウブな反応を見せるカイトにふふふ♪と笑いながら、キャサリンは楽しそうに話を続ける。

 

 「そうですよ!カイトさんは有名な《ドラゴン使い》ですからね!!

 貴方に強化されたドラゴンはまさに最強ですから!!」

 

 「あ、ありがとうございます!」

 

 人気実況プレイヤーである彼女に自分が手塩にかけて育てたドラゴンを褒めてもらえた。その事実に、とても嬉しくなるカイト。

 しかし、不安要素を思い出してしまい、浮かれた心は少しだけ陰ってしまう。彼にはプレイヤーとして致命的な弱点があるからだ。

 当然、募集に応募する為に彼のステータスデータは彼女にメールで送ってある。だが、それでも不安に思ってしまったカイト。

 彼は生放送の最中で、彼女に迷惑を掛けないようにする為、自分の致命的な弱点について報告をする為に声を掛けた。

 

 「た、確かに、俺のドラゴンは強いです。そこには誰にも負けない絶対の自信があります。

 でも、その強さに比例して俺のアバターは……」

 

 「大丈夫です!!カイトさんのアバターはドラゴンの強化と補助を目的としたビルド構成であることは知っていますので、私が魔法で守ります!!

 禁止エリアでは任せてください!!」

 

 「そうですか……なら、安心ですね」

 

 彼女の言葉に安堵の息を吐くカイト。

 そう。カイトの職業は戦闘職でない、育成職と呼ばれる職業【ドラゴンライダー】。

 ドラゴンの育成とドラゴンの操作をメインに楽しみたいプレイヤーの為に用意された上位職である。

 ステータスはドラゴンを操作する為の【器用】とドラゴンのステータスを一時的に強化・補助するための魔法をに必要な【知識】と【MP】に特化している。

 その為、ドラゴンが傍に居れば無類の強さを発揮させる事が出来るのだ。

 しかし、この職業には致命的な弱点が存在する。アバターの【筋力】【防御】が非常に弱い上に武器や盾などを装備する事が出来ないのだ。

 そして、ドラゴン・ファンタジアにはドラゴンの種族によっては先へと進む事の出来ないエリアが必ず存在している。

 つまり、ドラゴンを連れて歩けない禁止エリアの中では育成職であるカイトはただのお荷物に過ぎないのだ。

 

 「じゃあ、そろそろイベントに参加する為の登録をしましょうか!!」   

 

 「はい!」

 

 キャサリンに励まされ、元気が出たカイト。

 彼はPTのリーダーであるキャサリンの隣に並び、彼女がイベントに参加する為に必要な登録をコンソール画面で操作している姿を見守る。

 

 (声も可愛くて、性格も優しいなんて……キャサリンはマジで最高の女性だっ!!

 中の人も、きっと美人か美少女なんだろうなぁ……。そうでなくても、付き合いたいと思っちゃうよ。

 これを機会にフレンド登録して、オフ会で会えないかな?

 いや、ゲームの世界で知り合ったグラビアアイドルとゲームオタが結婚できた事例もあるんだ!!

 これは、神様が童貞である俺にくれた人生で最大にして最高のチャンスかもしれない!!

 イケるっ!!イケるって、コレっ!!イベントクリアと人生初彼女ゲットっ!!

 やってやる!!絶対にこのチャンスを物にしてみせるっ!!)

 

 カイトが、ゲーマーの意地と下心を燃やしている間にキャサリンは最後の確認ボタンをタップする。

 すると、二人の目の前にイベント参加の通知画面が表示された。

 

 『イベント【ドラゴンキングダム】の参加を確認しました。

 これより、イベントを開始いたします』

 

 数秒程だろうか?通知画面が表示された後、強い風《・・・》がカイト達の頬を撫でた。

 

 「うおっ!なんだこれ!?もしかして、イベントの演出ですか……ね?」

 

 突然の強風に驚いて、隣に居るキャサリンに声を掛けるカイト。

 しかし、彼は隣を見た瞬間にポカンとした表情を浮かべた。

 

 「一体何が起こったんですかね?あれ?何で、声が……」

 

 彼が固まってしまうのも無理はない。

 そこには人気実況のキャサリンの姿はなく、彼女の居たはずの場所には……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死んだ魚の様な瞳と無精ひげを生やした……おっさんが居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

草原を強く撫でる様に吹いた風と共にカイトの隣に現れた、謎のおっさん。

 無精ヒゲに濁った黒い瞳と漆黒のマントに紅の宝石が埋め込まれた首飾り。

 下半身にはボーボーのすね毛が生えた汚らしい生脚と、運営が規制するギリギリの丈で設定されたミニスカート……を履いたおっさんだ。 

 

 「カイトさん。一体何が起こったんですかね?あれ?何で、声が……。

 やっべっ!!変声機が壊れた!?イベント登録の前に生放送のアプリを起動させちゃったよ!!マジでやっべっ!!

 急いでログオフしないとっ!!今月の広告収入が!!」

 

 不思議そうにカイトを見たおっさんはかなり焦った様子でコンソール画面を開こうとしている。

 その姿を見て、カイトの純情な感情と表情筋が死んだ。 

 

 

 

 

 



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1話

 キャサリンはネカマでおっさん。その事実はカイトの心を深く抉った。

 

 「あー、コンソールが開かないよ。まさかのバグ?これってもう取返しが付かないよな?

 絶対に炎上してるよ……。あー、炎上で視聴回数はいつも以上に稼げるかもしれないけど、その後はどうしよう。

 バイトでもしようかな……」 

 

 一方。表情が死んだカイトを無視して、コンソール画面を出そうと躍起になっていたおっさんだったが、もう時は既に遅いと諦めたようだ。

 そして、ここでようやく彼は気が付いた。

 

 「にしても、やけに足元がスースーするな……って、なんじゃこりゃ!?

 キャサリンのすね毛がボーボーになってるじゃねぇか!?どうなってんだよ、クソ運営!?」

 

 ようやく自分の状況に気が付いたのか、自分の姿に驚きを見せるおっさん。

 慌てた彼は、同じ境遇であるカイトに詰め寄った。

 

 「これって……ゲームのバグじゃないよな。

 だって、すげぇ感覚がリアルだし。下半身がスースーするんだよ。

 って、俺ノーパンじゃん!!大事な物を履いてねぇよ!!どうしようコレ!?ねぇ!?」

 

 緊張感がまるでないおっさんの言葉にプルプルと体を振るわせるカイト。

 そして……。

 

 「じゃあ、パンツ持ってない!?できればトランクスがいいんだけど―――」

 

 「うるせぇよ、ネカマの変態野郎!!」

 

 

 ついにキレた。

 カイトはおっさんの胸倉を思いっきり掴んだ。 

 

 「ふざけんなよ、このド変態野郎っ!!返せっ!!俺の希望と夢を返せぇぇぇええ!!」

 

 「仕方ねぇだろ!!こっちだって、生活が懸かってるんだよ!!動画配信に命を賭けてんだよ!!

 それに、騙される童貞のお前が悪いんだろうがっ!!こっちはスカートの上にノーパンなんだよ!!寒い上に大事な所をブラブラさせているんだよ!!

 三十にもなって、変な趣味に目覚めそうなんだよ!!」

 

 「テメェの下半身なんて、どうでもいいんだよ!!もうヤダっ!!運営っ!!早くこの変態を垢バンしてくれぇぇぇえ!!」

 

 草原のど真ん中で醜いケンカが繰り広げられるが、いくら時間が経過しても運営からの連絡は彼等の元には来なかった。

 

 ★

 

 ケンカに疲れた二人は荒くなった呼吸を整えながら、冷静になってお互いの状況を確認し合う。

 

 「なあ、おっさん。このゲームって色々と規制が入っているよな?」

 

 「ああ。性的なモノに対する規制な。俺のキャサリンのスカートを短くするのに苦労したぜ……。

 だが……」

 

 そこで、再び強い風が二人元に届いた。

 草原の緑を大きく、なびかせた風はおっさんのスカートを捲り上げた。

 

 「まるで機能をしていないな」

 

 「そうだな。俺の逞しいガ〇ラが丸見えだぜ」

 

 「見栄を張るんじゃねぇよ!!おっさんの小さな汚いイチモツと、正義の怪獣であるガ〇ラを一緒にするな!!

 謝れ!!空を飛ぶ亀の怪獣と、当時熱狂した平成の子供達と俺に謝れよ!!」

 

 「うるせぇよ!!見栄じゃねよ!!ちょっと風が涼しくて縮みあがってるだけなんだよ!!

 本気を出せば凄いんだよ、俺のイチモツは!!」

 

 「お前はもう黙れよ!!テメェの汚い汚物はどうでもいいんだよ!!

 重要なのは規制がまるでなくなっている事だ!!胸倉を掴んでいた、手も痛くて風も肌で感じる!!

 いくらリアルが売りの仮想現実でも、痛覚の再現なんて脳にケーブルをぶっ刺していない限り出来ないはずだ!!

 だが、その技術はまだ研究中で実現していない!!つまり……」 

 

 「ここは現実って事か?」

 

 二人は出した結論に動かなくなった。ネットに慣れ親しんだ二人は自分達がどういった状況に置かれているのかを理解する。

 そして、理解した二人は現実にキレた。

 

 「どうしてくれるんだよ、俺の夢の異世界ライフ!!

 ノーパンの変態と一緒に外に放り出されてから始まる物語なんて、聞いた事ねぇよ!!」

 

 「うるせぇよ、クソガキ!!俺だって不本意なんだよ!!

 なんで、ガキの頃の夢だった異世界でノーパンで女装させられなくちゃならねぇんだ!!

 俺だって異世界ぐらいはカッコ良く、生きたいよ!!魔王を倒して、ドラ〇エのアリ〇ナやビア〇カみたいな美女と結婚してぇよ!!

 動画配信者から勇者に転職したいんだよ!!」

 

 天に力いっぱい吼えた二人は、ゆっくりと地面に両手と膝を付けた。

 

 「ちくしょう……。不安定な動画配信者から勇者に転職できると思ったのに……。

 なんで俺は変態に転職してんだよ……。三十のおっさんが、可愛い女の子のアバターで遊んだのがいけないのかよ……」

 

 「こんなのってあんまりだ……。異世界だろ?なんで女装したおっさんと召喚されるんだよ。

 俺だってノーパンで女装したブ〇イじゃなくて、ビア〇カやアリ〇ナと冒険したいよ……。

 童貞が夢を見たら駄目なんですか?こういう異世界で定番のご都合主義やテンプレはどこ行った?」

 

 悲しみに沈む二人。

 しばらく顔を防いていた二人だったが、ゆっくりと顔を上げる。

 そして、顔を上げたのが同じタイミングだったようで、お互いに顔を見合わせて最初にカイトが口を開いた。

 

 「街に行こう」

 

 「ああ、街に行こう」

 

 二人は立ち上がり、お互いに向かい合う。

 

 「短い付き合いになるかも知れないが、俺は川口 ヒロシ。

 職業は動画配信者」

 

 「俺は九頭竜《くずりゅう》 海人《かいと》。

 大学生だ」

 

 こうして、青年は帰る手段を求め……。おっさんはパンツを求め……。

 街を目指す事になったのだった。

 

 



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2話

 

 街に行く事を目標に定めた二人。

 だが、彼等には重大な問題があった。

 

 「おっさん。アンタも気づいて居ると思うが、ここは異世界ではあるが普通の異世界じゃない」

 

 「ああ、ここはいわゆるゲームの中ってヤツだろ?

 俺達の姿が、リアルの姿に変わる前と風景が同じだからな」

 

 「加えて、変わったのは見た目だけで装備はゲームのまんまだ」

 

 コンコンと黒い軽鎧を叩いてみたり、自分の首にぶら下がっている首飾りを手に取って、確認する二人。

 

 「つまりだ。【ドラゴンライダー】である俺はドラゴンを呼び出して操る事が出来るかもしれない」

 

 「そして、【賢者】である俺は魔法を扱えるようになっているかもしれないわけだ」

 

 真剣な表情をしながら思案する二人。

 その頭の中は異世界で活躍する自分自身の姿。

 ヒロインとドラゴンに乗って、天空を駆ける自分。

 魔法を使って、ヒロインと共にモンスターを粉砕する自分。

 そして、自分の思い描いたヒロインと共にホテル街【ガンダーラ】へと、ハードボイルドな感じに消える自分。

 

 「よ、よし!じゃあ、おじさんは魔法を使ってみようかな!!

 モンスターが出てきたら、怖いけど戦わないといけないし!!」

 

 「お、俺も!俺もドラゴンを召喚してみようかな!!モンスターが出てきたら困るし!!」

 

 モンスターを言い訳にして、腐った現実を打ち破り、自分達の妄想を実現に変えられる力が宿っていると疑わない二人。

 彼らはとても良い笑顔で、それぞれの固有の力を扱おうと試《こころ》みる。

 その表情からは彼等が言うようなモンスターへの恐怖や戦闘に関する悲壮感などは、微塵も感じられない。

 

 「いくぜ!!定番の【ファイヤーボール】!!」

 

 「来い!!【召喚《サモン》】!!」

 

 期待を胸に膨らませ、いい年をした二人の男が呪文を行使する。

 カイトが叫んだ直後に現れる巨大な魔法陣。自分の中から何かが抜けていく様な感覚と共に、それはゆっくりと顕現した。

 一軒家程の大きさを誇る巨躯に、最高位のドラゴンである証の白い鱗と頭部からは後ろへと真っすぐに伸びる角。

 背中には蝙蝠を彷彿させる巨大な翼が生え、丸太の様に太い手足にはすべてを切り裂く鋭い爪があった。

 ドラゴンはグルル……と小さく唸りながら、自分を呼び出したカイトを黄金の双眸で見つめていた。

 

 そして、神々しいドラゴンと平凡な青年の隣では悲痛の表情を浮かべるおっさんの姿があった。

 

 「もう一度!!【ファイヤーボール】!!」

 

 足を軽く広げ、右手を付き出した状態の川口が苦痛と焦りを孕んだ声を上げながら、呪文を口にした。

 そして、彼が叫んだ直後に右掌に出現した米粒程度の炎の塊。

 マッチやライターの炎を彷彿とさせるそれは真っすぐと飛び始めると、すぐに風に吹かれて鎮火した。

 川口はうぅ……えぐっ、と嗚咽混じりの声を出すと、炎が鎮火した場所を涙を流しながら見つめている。

 カイトはしばらくの間、川口に声を掛ける事が出来なかった。

 

 ★

 

 生きる屍の様になってしまった川口。彼の心はへし折れてしまったようだ。

 街に行く目的も忘れ。何も映さない死んだ魚の様な瞳で、草原のど真ん中で体育座りをして動かない。

 

 「へへへ……これは夢だ。きっと、夢に違いない。

 だって、平凡なチェリーが成功して俺が失敗するはずがないだろ?

 それともアレか?夜のお店で、卒業したのが駄目だったのか?

 チェリーじゃないと魔法は発動しないのか?中途半端に卒業したからダメなのか?」

 

 ブツブツとホラー映画に登場する化け物の様に闇に染まってく川口。

 その姿にはカイトはもちろん、世界にその名を轟かせる【白き龍神】と呼ばれるドラゴンも引いていた。

 特に、聴力が良いドラゴンには辛いのだろう。ドラゴンは召喚主であるカイトの頭を鼻先で軽く突いた。

 

 「え?何?俺に何とかしろって?」

 

 【ドラゴンライダー】のジョブによる恩恵のお陰なのだろうか?カイトはドラゴンの意思を表面上ではあるが理解する事が出来た。

 ドラゴンと意思疎通が出来る事実は素直に嬉しい彼だったが、目の前で負の感情をオーラにして纏っている汚れたダー〇ベイダーの相手にするのは嫌だ。

 

 (……いっそのこと、このまま見捨ててしまおうか?)

 

 自分よりも年上である大の男が、いつまでもメソメソとして情けない姿を晒している光景にうんざりしてくるカイト。

 最初は魔法が使えない事に同情していたが、今では怒りが湧いてくる。

 メソメソしている川口を見捨てる事を視野に入れ始めた時。

 彼等の近くで甲高い悲鳴が上がる。

 

 「おい!今の悲鳴、聞こえなかったか!?」

 

 「ああ?何の?俺の心の悲鳴だったら、さっきから凄い事になっているけど?」

 

 「うん!おっさんに聞いた俺がバカだった!!」

 

 役立たずの川口を無視して、カイトは悲鳴が聞こえた方角へと走り出す。

 すると、草原地帯に存在する大きな街道があり、そこには小型のドラゴンに乗った沢山の人間に囲まれる複数の馬車の姿が目に映った。

 

 「あれって、盗賊か!?」

 

 装備品や乗ってドラゴンの特徴からゲームに出現する盗賊であると判断するカイト。

 

 (本当にゲームを忠実に再現した様な世界だ……)

 

 自分の力で扱える魔法とドラゴン。そして、草原地帯に現れる分かりやすい敵の姿と襲われ、悲鳴を上げながら助けを求める人々。

 まさに、さっきまで彼が妄想していた舞台の一つだ。しかし、現実は妄想の様には行かなかった。

 緊張で乾く喉と、硬直する体。所詮、現実ではこんなものである。

 事件が目の前で起こっても、実際に動ける人間は少数だ。動けない者は自分に仕方がないと言い訳し、手に持ったスマホで現場を撮影する。

 

 それが、少数ではない現代社会に生きる人間の姿である。

 

 カイトはチラリと、自分の後ろを付いてきたドラゴンを見る。

 レベルアップと進化・転生を繰り返し、バカげた火力と頑強な肉体を持った暴力の化身。

 彼単体ならば、確実に敵を滅ぼす事が出来るだろう。

 

 (……大丈夫なのか?【雷光《らいこう》】が幾ら強くても俺は紙装甲なんだぞ?

 攻撃手段もなく、中堅クラスの戦闘職にやられる雑魚だ)

 

 しかし、暴力の化身であるドラゴンはプレイヤーであるカイトが近くに居なくては戦えない。

 襲われている人々を救う為には、相棒であるドラゴンの背に乗って戦わなくてはならないのだ。

 

 (くそ、ふざけんなよ!!)

 

 一人、また一人と盗賊に斬り捨てられる中で、カイトは屈んで待機してくれていたドラゴンの背にスルスルと上った。

 雷光の首の付け根に設置された鐙の上に騎乗し、彼とドラゴンは空を駆ける。

 

 「待って!!待ってぇぇぇぇええ!!悪かったから!!おじさんが悪かったから!!だから、おじさんを置いて行かないでぇ!!」

 

 必死な形相で地上を走るおっさんを無視……。

 

 「お願い!!何でもするから、おじさんを見捨てないでぇぇえええ!!」

 

 しようかと思ったが、隙を作るのに使えるかもしれない。と考えたカイトは雷光の片手におっさんを鷲掴みにする。

 

 「え!?ちょ、ちょっと待って!!マジで怖いんだけど!!おじさんも背中に乗せてくんない!?」

 

 「何でもするって、言ったよな」

 

 「え?」

 

 反論は許さないと言わんばかりに睨み付けてくるカイトを見て、川口の背筋は凍った。

 





 今日の攻撃魔法

 【ファイヤーボール】

 どのゲームでも登場する有名な魔法。
 球体の炎を相手にぶつけると爆発して燃え上がるぞ!!


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3話

 草原地帯に存在する【サールズ街道】を、三両の龍車が掛けていた。

 生活用品を積んだ龍車は王国で上位に位置する【トルトン商会】の物で、そこらの龍車よりも豪奢である。

 龍車の横には龍車を引くドラゴンと同じで、戦闘力は低いが大地を走る事を得意とする翼のない二足歩行のドラゴンに乗った冒険者の姿があった。

 

 そんな、冒険者達に護衛をされている龍車の中には身なりが良い、一人の男が座っていた。

 

 男はチョビ髭を生やしたシブい顔をした中年男性。ジョン・トルトンは【トルトン商会】のトップを務めるやり手の商人だ。

 本来なら中間管理職である部下がやる仕事であったが、最近になって各地で多発する事件を調査する為に同行している。

 その事件の一つは王都の治安は悪化させており、それが本当であるならば経済にも影響を及ぼしかねないからだ。

 

 「やれやれ。本当にこんな事が各地で起こっているのか?」

 

 各地で支店を任せている部下達がまとめた報告書を片手に、疑わしいモノを見るかの様に目を通すジョン。

 何度見てもバカらしい内容に溜息が漏れる。

 

 そんな彼の心境を他所に龍車は街道を力強く走っていたのだが、ふいに龍車の速度が落ちてきている事に気づく。

 ジョンは御車台に居る部下に声を掛けようとした……まさにその瞬間。

 

 「盗賊だっ!!」

 

 「全員っ!戦闘態勢へ移れ!!」

 

 「魔術師は魔法の準備をしろ!!」

 

 「ひぃぃぃいい!!?」

 

 部下達が悲鳴を上げて慌てる中、護衛の為に雇った冒険者達が己の武器を引き抜き、迎撃態勢へと移る。

 こうして、王都へと向かう街道で冒険者と盗賊達の戦闘が始まったのだ。

 

 「ちっ!完全に囲まれてやがる!!」

 

 「しかも、外からチクチク攻撃して来やがって!!」

 

 「奴らは、被害を最小限にする為に俺達をジワジワと追いつめて嬲り殺しにするつもりなんだ!!」

 

 「雇い主である会長は、何としても絶対に逃がせ!!」

 

 防御が手薄な所を斬り込まれ、こちらが反撃に転じた瞬間に矢が放たれて、接近していた盗賊が離れていく。

 盗賊とは思えないほどの優れた戦術と計画的な犯行である。

 

 敵に損害を与える事が出来ないまま、ジョンが雇った冒険者と部下達は次々と盗賊たちの凶刃に倒れていく。

 もはやこれまでか。

 

 誰もがそう思ったこの時。空からナニかが、落ちて来た。

 地面に落ちたそれはズダンっ!と、激しい音を立て、土煙を舞い上がらせる。

 モクモクと舞う土煙に誰もが視界を奪われるが、直ぐに風によって土煙は取り除かれた。

 視界が晴れて、誰もがソレを警戒し。この場に居る全員が地面に降り立ったモノに注目する。

 そして、全員が驚愕と恐れを心に抱いた。

 

 「……外道にはいつか報いが必ず訪れる。それを今、おじさんが丁寧に教えてやるよ」

 

 そう、コキッ!と指の関節を鳴らしながら現れたのは盗賊たちを前にして、不敵に笑う女装をしたおっさんだった。

 突然現れた変態に思考を奪われた盗賊達であったが、あまりにもふざけた格好にブチ切れた。

 

 「ふざけんなよ、変態が!!」

 

 「ぶっ殺してやる!!」

 

 「上を見ろ!!もう、お前たちを倒す準備は整った!!」

 

 鬼の形相で盗賊たちが、川口に襲い掛からんとした瞬間。

 襲われそうになると思った川口は上空を指さした。

 そして、誰もが上に注目する。

 

 「な、何だよアレ……」

 

 「白い……ドラゴン」

 

 「美しい……」

 

 天空を舞う、白き巨大なドラゴン。

 今から始まるのは、偉大なるドラゴンによる悪党へと下される神罰。

 現代における神話の再現。この場において、誰も抗う事の出来ない暴力の化身。

 

 「お前は……一体何者なんだ?」

 

 自分の運命を悟った盗賊のリーダーは、小さな声で目の前の変態に問いかける。

 しかし、その返事を聞く前に彼は頭上から降り注ぐ光によって、彼等の服は塵となった。

 

 ★

 

 カイトの思惑通り、空からいきなり現れた変態の登場にざわめく戦場。

 その上空ではドラゴンと視界を共有するカイトの【ドラゴンアイ】と呼ばれる魔法によって、敵の情報を収集していた。

 

 「【弓兵】が十に【剣士】が十三。頭目だと思われる斧を持った巨漢の【戦士】が一人。

 それぞれが、機動力のある騎乗タイプのドラゴンに乗っている……か」

 

 旋回しながら、敵の位置情報と戦場を把握する事に成功したカイト。

 

 (確実に盗賊を倒す為におっさんを巻き込んだ。覚悟を決めろ!!)

 

 必死に自分を奮い立たせる彼は共に戦う相棒と一体になる感覚に身を委ねる。

 そして、吐き気をこらえながらも、カイトは雷光に手をかざし、攻撃命令を下す。

 

 「【ブレイク・ボルト】!!」

 

 すると、彼の命令に応える様に雷光の両翼に展開される無数の魔法陣。

 そこから雷撃が狙った獲物へと向かって放出される。 

 

 これで終わった。

 

 雷光から放たれた雷撃によって、塵となった盗賊達の服。

 残ったのは黒焦げとなってピクピクと痙攣をしながら呻き声を上げる全裸の盗賊のみ。

 その光景に、殺さずに済んだ安心感と殺すかも知れない恐怖に心臓を鷲掴みにされたような気持ち悪さを覚えながら、必死に今後の事を考えようとする。

 

 (この世界にはモンスターだけじゃない。アイツ等みたいなのがウヨウヨと存在しているんだ。

 人間を殺すよりかはマシだが、この世界に居る限りは今後も似たような事が絶対に起る……。畜生っ!!

 何がチートだ!!何がハーレムだ!!現実は結局、異世界であってもクソだ!!

 仕方がないじゃあ、すまないぞ!!なんで異世界に召喚された主人公は躊躇せずに、人間を攻撃出来るんだよ!!

 サイコパス過ぎるだろうが!!仲間を探し求める勘違い系アンデットパイセンよりも怖いわ!!)

 

 しかし、駄目だった。

 平凡な大学生に過ぎないカイトの心を蝕む気持ち悪さはしばらく抜ける事はなかった。

 

 





 今日の攻撃魔法

 【ブレイク・ボルト】

 相手の装備を破壊し、麻痺の異常状態を付与する雷属性の魔法。
 レベル差と相手が装備している武具の耐久値によっては、全ての武具を破壊できるぞ!!


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4話

 カイトが上空でシリアスに浸っている頃。川口は盗賊達を見て冷や汗を流していた。

 

 (アイツやべぇよ……。マジで装備による防御力が発揮されて居なかったら死んでたよコレ。

 そして、どうしよう……。俺、三十にもなって脱糞しちまった……。

 現実は異世界でも俺はクソだった……う〇こだけに)

 

 パラシュートなしのスカイダイビングからの頭上に降り注いだ落雷。

 二重の恐怖を短時間で味わった彼はう〇こを漏らしており、彼の近くでは危険な匂いが漂っていた。

 

 「貴方には本当に助けられました……。

 是非、お礼をさせてください」

 

 盗賊達の注目を集めた以外は何もしていない脱糞野郎を命の恩人だと思ったジョンは川口にお礼を言って近づいてくる。

 

 「い、いや!結構です!!たまたま通りがかっただけなんで!!落ちて来ただけなんで!!」  

 

 これ以上こちらに来るな!と、追いつめられた犯人の様に右手を伸ばす川口。

 バレるわけにはいかないと彼も必死である。 

 

 「い、いやいや。御謙遜なさらずとも大丈夫ですよ。

 貴方のパートナーであるドラゴンは本当に素晴らしい活躍でした。

 それに、私は商人ですので、貴方の希望に沿った報酬を渡せるかもしれませんよ」

 

 助けた人間にしてはやけに怪しい素振りを見せる川口にジョンは不信感を抱いた。

 勿論。そこに転がっている盗賊達の仲間であるとは思っては居ない。

 もし、そうであるのならば口封じの為に全員を殺して居るはずだからだ。

 ジョンが気になったのは目の前の変態が、最近多発している別の事件の関係者ではないかと言う点だ。

 彼は、目の前の変態に探りを入れる事にする。

 

 そして、川口はジョンの商人と言う言葉に反応していた。

 もしかしたら目の前の人物は自分が欲して止まない【ズボン・パンツ・トイレットペーパー】の三種の神器を持っているかもしれないと思ったからだ。

 しかし、川口にとっては非常に頼みずらい状況だった。こんな頭のイカれた格好をしているのだ。

 ズボンとパンツに関しては納得してもらえるだろう。しかし、トイレットペーパーは別だった。

 何で必要なんですか?と聞かれたら答えられる自信がない。馬鹿正直に漏らしましたと言うのは当然の如く、論外だ。

 どうやって脱糞した事実を隠し、トイレットペーパーを入手するかに脳をフル回転させる。

 

 「ところで……ご職業は何をなさっておられるのですか?

 ご恰好から察するに……男性店員が女性の恰好をして接客する夜のお店ですかな?

 あのドラゴンは相当に珍しいですが……貴方が育てたのですか?」

 

 最初に口を開いたのはやり手の商会長であるジョン。

 

 「え?えっと……何でいきなり職質??」

 

 「いえいえ、お礼をする為にも相手の身分や職業を知らなくてはならないので……」

 

 突然の質問に戸惑う川口と息をするように嘘を吐くジョン。

 その姿は商人ではなく、悪質な詐欺師の様だ。

 

 「職業は【賢者】で……。この格好は不可抗力と言うか、何と言うか……」

 

 言い辛そうにしている川口の姿にジョンの目が光る。

 

 「ほう?不可抗力ですか……。もしかして、服や装備品を販売する店で男物を試着すると破裂する不可抗力ではないですよね?」

 

 「それって、どんな不可抗力!?」

 

 ジョンは確信した。この変態は事件に関わりのある人間であると。

 彼は今、巷で人気の推理小説に登場する主人公の様であると気分を高ぶらせていた。

 

 「もう、誤魔化しても無駄ですよ。

 貴方は各地で起こっている男物の衣類を時には盗み、時には試着して衣類を破壊して回る謎の盗賊団の一味ですね!」

 

 「いや!意味わかんねぇよ!!そいつらは男物の服や装備品に何か恨みでもあんの!?

 そんな、ふざけた盗賊団なんて聞いたことも見た事もねぇよ!!

 俺をそんな変態集団と一緒にするんな!!つーか、初対面の人に失礼すぎじゃね!?」

 

 突然の言いがかりに脱糞した事を忘れて反論する川口。

 実際、彼には身に覚えのない事である。

 

 「え?どこからどう見ても変態じゃないですか」 

 

 「うぐぅ!?」

 

 本当に変態にしか見えない恰好をしている川口は一瞬で言い負かされてしまった。

 まさにぐうの音しか出ないはこの事である。

 

 「それに、その盗賊団には彗星の如く現れた。女装をした変態が数頭の強力なドラゴンを使って盗賊達をまとめたと言う話です!!

 貴方が幹部の一人なんでしょう!!」

 

 「違うから!!アレは俺のドラゴンじゃないから!!つーか特徴がざっくりし過ぎじゃね!?」

 

 最近になってようやく幼馴染を彼女に出来た名探偵のお義父さんに等しい推理力で、犯人であると決めつけるジョン。

 日頃のやり手な姿は何処へやら、完全にこのシュチュエーションに酔いしれていた。

 そして、我慢していた川口もついにキレる。

 

 「ふざけんじゃねーぞ、クソ野郎!!お望み通りにしてやるよ!!ちょっと、ズボンとパンツをよこせや!!」

 

 「ついに本性を現したな!!や、止めろ!!ズボンから手を離せっ!!

 後、なんか臭っ!?」

 

 「ちょ、ちょっと落ち着けよ!!いい年何だから……って、臭っ!?」

 

 「どうしたリーダー!?本当に臭いぞ、何だこれ!?」

 

 「は、離せ!!俺は無実だぁぁぁああ!!」

 

 護衛対象であるジョンを救う為に、ズボンにしがみつく川口を引きはがそうと近付く冒険者達は風に乗って漂ってくる悪臭に鼻をやられながらも川口を取り押さえた。

 こうして、おっさんは暴行の現行犯によって逮捕されたのだった。

 

 ★

 

 おっさんの悲鳴を聞いてシリアスから現実へと意識が戻ったカイト。

 彼は下の様子を見て、驚きの表情を浮かべた。

 

 「観念しやがれ、変態盗賊団めっ!!」

 

 「いやいやいや!?確かに俺は女装してるけど、それは誤解だってば!?」

 

 「この後に及んで嘘をつくな!!あれほどのドラゴンが貴様に育てられるわけがないだろ!!

 ドラゴンも盗んだものだな!!」

 

 必死の説得もむなしく、問答無用で拘束される哀れな川口。

 その逮捕劇を見届けたカイトは事情を聴く為に、いそいで地面に降り立った。

 

 「おおっ!助けに来てくれたのか!!」

 

 家程の大きさを持つドラゴンが下りた事で、こちらを警戒する冒険者と自分の窮地に救いに来てくれたカイトに喜色満面の笑顔を向ける川口。

 

 「この変態の仲間か?」

 

 「俺はカイト。そこに居る変態と一時的にPTを組んでいる者だが、なにやら不当な扱いを受けている様なので事情の確認にきた」

 

 「何だと?」

 

 「そう。確かにそのおっさんは女装をした変態で、顔を見えないことを良い事に純情な少年達の心を弄んで、荒稼ぎをしたクソ野郎だ!!

 だが、今回の事に関しては不幸なすれ違いによるものではないかと、俺は思っている」

 

 「お、おう。君の言っている事は詐欺被害者が犯人の余罪を暴露している様にしか聞こえないんだが?」

 

 川口を助けようとしたが、途中でネカマの件を思い出したせいで逆に追い詰める形となった。

 どうやらキャサリン事件は彼にとって、酷いトラウマになったようだ。

 

 「本当は犯人を追いつめる為に来たんじゃないかと思うんだが……結局この男は犯罪者なんじゃないか?」

 

 「そうだな……。個人的には他人を騙すネカマは死刑になればいいのに、と思っている」

 

 「ちょっとぉ!?」

 

 冒険者の言葉を肯定するかの様な返事に仰天する川口。

 寧ろ、この男は自分を嬉々として処刑台へと送ろうとしているのではなかろうか?

 

 「でも、その変態がアンタ達を助ける為に体を張ったのは本当だ。

 見た目も怪しいし、臭いし、気持ち悪し、臭いけども、ちょっとは信じてくれないか?」

 

 「うむ……」

 

 「ねぇ。なんかいい感じの雰囲気になってるけど、なんで二回も臭いっていったの?

 おっさんだから仕方がないじゃん。悲しい事実だけど、人類は加齢臭からは逃れられないんだよ」

 

 立派なドラゴンに騎乗していたカイトの言葉で冒険者はようやく折れた。

 釈然としないが、川口が依頼主と自分達冒険者を助けてくれたのは事実だ。

 盗賊団の幹部である可能性は保留にし、ひとまずは川口の拘束を解くことが決定された。

 

 

 

 



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