宇宙戦艦ヤマト2199 連邦の危機 (とも2199)
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連邦の危機1 プロローグ

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「連邦の危機」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」の続編になります。


「全艦マルチ隊形。続いて、波動砲発射体制への移行を通達せよ!」

 山南の乗るアンドロメダは、第二艦隊を引き連れて、その二つの波動砲口を煌めかせながら、その中心に位置取りをしていた。そして、古代の乗るヤマト率いる第三艦隊と、スコーク率いる北米第七艦隊は、第二艦隊の後方につけ、撃ち漏らした敵に更に波動砲を撃ち込んで殲滅する作戦だった。

 こうして、各艦隊の波動砲搭載艦、計二十隻が、艦隊の前に前進し、並列に位置取りを始めた。事前に取り決められた典型的な複数の艦船による波動砲の発射体制である。

 

「エネルギー充填、百二十パーセント」

 ヤマトの機関長、徳川太助が慌ただしく、波動砲発射準備を進めていた。

「ターゲットスコープオープン。電影クロスゲージ、明度二十。敵艦隊、波動砲の軸線に乗りました」

 北野が、敵に狙いをつけて、波動砲の発射準備を終えようとしていた。

「艦長、本当にこれで良かったんでしょうか?」

 北野は、ここで波動砲を使用することで、相手との泥沼の戦争に突入する未来が見えていた。それを思って、苦しそうな声で言った。

 古代自身も、同じ疑問を抱いていた。全面戦争の火蓋が切って落とされ、大切な雪と我が子が危険にさらされる可能性に苦悩した。しかし、今ここで降伏しても、何も変わらないと、一時の迷いを打ち消した。艦長として、強い意志で部下の迷いを断つ必要があった。

「北野。我々は、ここで絶対に敗北することは出来ない。地球を守るために必要なことは全てやる。この決断が間違っていないと、今は信じよう」

古代は、厳しい表情で北野だけでなく、第一艦橋の全員に、冷静に語りかけた。

 しかし、古代を振り返る全員が、不安そうな顔をしている。それでも、古代はやらねばならなかった。

 

 第三艦隊の主力戦艦コンゴウの島も、ヤマトの横に並んで波動砲の発射用意を整えていた。

「やるしかないのか。本当に? 俺が迷ってちゃ駄目だよな」

 島は、心の中の不安を必死に打ち消そうとしていた。コンゴウの艦橋の皆を鼓舞しなければ、と島は決意した。

「皆、どんなことがあっても、必ず地球を守るぞ。そして、無事に家に帰ることを考えて集中しろ!」

 

「波動砲、発射準備完了しました」

 山南は、南部から報告を受けた。山南は、振り返って艦長席を見る南部に頷いた。南部の表情は、決意に満ちていた。

「そのまま、土方総司令の命令あるまで待機!」

 山南は、緊張感で張り詰めた艦橋の士官全員を見回した。その自身の額には、嫌な冷たい汗をかいていた。

「こいつを、人間に向けて撃つときが、こんなに早く来るんなんてな。俺も、覚悟を決めないとな」

 山南は、自らの緊張を和らげる為、独り言を口にして、スクリーンに映る一千隻の敵艦隊を睨んだ。

 

続く…




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


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連邦の危機2 疑心暗鬼

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「連邦の危機」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」の続編になります。


 大音響とともに、火柱が上がった。

 空母シナノの飛行甲板で祝辞を行っていた地球連邦大統領チャールズは、爆発に巻き込まれて、その体が宙に浮き、甲板に叩きつけられた。

 甲板上は、大きなきのこ雲が上がり、破片が空から降ってきていた。

 騒然とする甲板上に集まった地球連邦の政府高官たちは、警備の連邦軍の兵士によって、甲板上から退避させられていた。大統領チャールズの周囲には、大勢の人々が集まり、血塗れとなった彼を抱き抱えて、その場から連れ出した。

 大統領の後方近くにいた土方も、爆風に巻き込まれ、尻餅をついていた。

「一体、何が……」

 土方は、裂けた上着も構わず、立ち上がって自力でその場から逃げ出した。

 逃げる途中、外務長官のライアンの姿を見つけ、彼の背中を押して一緒に走って行った。

「大丈夫ですか?」

 頭から血を流したライアンに、土方は声をかけた。

「貴方こそ」

 ライアンは、土方の軍服の上着が裂けて、肩や胸から血が滲んでいるのを見て言った。

「私は、軍人ですから」

 その二人の目前で、駐機していたガミラス軍の飛行挺が発艦していった。土方とライアンが見上げると、式典に参加していたガミラス大使のランハルトの姿が見えた。彼も脱出していったのだろう。

 二人は、それを見届けて、甲板上のハッチから、格納庫に降りていった。

 格納庫内部では、燃え上がった天井やその床に、スプリンクラーで水が散布されて、消化隊が水を撒いたり消火器を噴射したりしていた。そして、逃げ惑う人々が右往左往し、騒然としていた。

「せっかくの新造宇宙空母が、酷いことになった」

「敵に攻撃を受けたと思えば、この程度、直ぐに修復出来ます。それよりも、大統領が心配です」

 ライアンは、ため息をついた。

「副大統領に至急連絡をとらなければ。軍の方は頼みましたよ」

「承知しました」

 ライアンは、やってきた防衛軍の兵士に囲まれて、外へ連れて行かれた。土方にも、兵士がやって来たが、それを下がらせて格納庫の様子を眺めた。

「嫌な予感がするな……」

 

「ガミラス戦争終戦記念日の式典は、大惨事となりました。式典でお披露目となった地球防衛軍の空母シナノの甲板上で、爆弾テロと思われる爆発が発生し、チャールズ大統領を含む、政府高官数名が重軽傷を負いました。連邦軍は、犯人と思われる不審な男を射殺しました。連邦捜査局は、現在も捜査を行っていますが、犯人の身元を特定する手懸かりはまだ発見されていません。爆弾は、祝辞を行っていたチャールズ大統領のすぐ近くの甲板下の格納庫天井に仕掛けられたものと思われます。重傷を負ったチャールズ大統領の安否については、未だ予断を許さぬ状況のようです。連邦捜査局本部からは以上です」

 

 連邦捜査局長官のエマーソンは、報道を確認してから、テレビを消した。ふーと息を吐き出してから、彼は立ち上がって執務室から出ていった。エレベーターで地下に降りると、目的の場所に顔を出した。

「どうだね?何か分かったか?」

 そこは、数名の検死官と捜査官が、遺体を取り囲んでいた。

 検死官は首を振った。

「エマーソン長官。身元を特定するようなものは何も見つかっていません」

 捜査官も報告を行った。

「捜査局の犯罪者のデータベースとも照合しましたが、身元を特定出来ません。現在、DNA鑑定も行っています」

 エマーソンは、彼らに頷いて、その遺体を眺めた。遺体は、歳の頃は二十代と思われる白人の男性だった。事件の直後、格納庫で不審なこの男を兵士らが発見し、射殺したのだった。

「大統領の殺害を狙った凶悪犯だ。身元の特定を急いでくれ」

「わかりました」

 エマーソンは、そう言い残して部屋を出ていった。

 

 地球連邦政府のあるワシントンでは、防衛軍本部の地下で緊急会議が行われていた。

 政府からは、副大統領のダグラスと、防衛長官のウィルソンが中心となり、事件の概要と今後の対応が話し合われていた。

 後からやって来た連邦捜査局のエマーソンは、会合の面々に軽く挨拶をしながら席に着いた。

 ダグラス副大統領は、エマーソンに説明をした。

「先ほど、私が大統領職を引き継ぐことを宣誓した。君の報告を頼む」

 エマーソンは、頭を振って言った。

「では、ダグラス大統領。まだ、犯人と思われる遺体の身元の特定は出来ていません。遺体は、二十代白人男性です。既に軍の方にも情報を送ったので、暫くすれば何かわかるでしょう」

 そこへウィルソン防衛長官が発言した。

「十中八九、テロ組織の者でしょう。問題は、どの組織の者か、ということです。現在、陸海空軍をいつでも動かせるように準備中です。組織の場所が特定出来たら、すぐにこれを叩けます」

 ダグラス副大統領は頷いた。

「それでは、どのような結果になっても即応出来るよう、パターン毎に今後の対応について確認しておこう」

 

 数日後、モスクワでも、同様の政府高官を狙った爆弾テロが発生した。幸い、軽傷者だけで済んでいた。地球連邦捜査局は、モスクワにも飛び、捜査を行った。監視カメラの映像により、そこでも、同様に二十代白人男性が目撃されていた。その男は、体に爆弾を巻き付けた状態で政府の要人に接近し、自爆したのだった。

 

 この二つの事件が起きてから数日後、世界中の各地で、同様の事件が続けて発生した。

 更には、太陽系内の月面基地や、土星のエンケラドス基地でも爆弾テロが発生し、混乱が続いた。

 

 こうして、犯人の身元の特定が出来ないまま、一ヶ月が経過し、連邦捜査局のエマーソンは、ダグラス副大統領に呼び出されることになった。

「捜査状況は、どうなっている?」

 エマーソンは、冷や汗をかいて報告をした。

「まだ進展はありません」

「これだけの事件が起こって、まだ何もわからないと言うのかね! 今、連邦各国では、疑心暗鬼に捕らわれ始め、内戦も起きかねないほど緊張が高まっている。世論も、政府や連邦捜査局への不信感が高まってきている。連日マスコミが騒いでいるのを、君も知っているはずだと思うが? 今後の方針を聞かせてくれ。納得出来なければ、君に責任をとってもらって、更送するしかないだろうな」

 エマーソンは、彼に聞こえないように、小さなため息をついた。

「大統領。さすがに、私もおかしいと感じています。それで、一つ案があります」

 ダグラス副大統領は、少し興味を示した。

「言ってみたまえ」

「ガミラス大使館を通じて、身元の調査を行ってみたいと考えています。ご許可を頂けますか?」

 ダグラス副大統領は、驚きを隠せなかった。

「君は、犯人がガミラス人だと言うのかね?」

 エマーソンは首を振った。

「それは違うと考えています。ただ、これだけ捜査しても新たな情報が出てこない以上、犯人が異星人という可能性も視野に入れた方が良いということです。我々よりも、彼らの方が、その辺りの事情に明るいのは、間違いありません」

 ダグラス副大統領は、暫くその案について、思案していた。

「わかった。大使館には、私からも一言言っておこう。すぐに始めてくれ」

「承知しました」

「だが、もしも、本当に異星人だとわかったとしたら、ガミラス戦争以来の重大な危機が迫っていることになる。マスコミに嗅ぎ付けられないよう、慎重に行動してくれ」

 エマーソンは、頷いて、急いでその場を立ち去った。

 

 ガミラス護衛艦隊旗艦、戦闘空母ダレイラに招待されたエマーソンは、会合の場所となった艦長室で、大使のランハルトと初めて直接対面した。

「デスラー大使。この度は、ご協力に感謝します」

 地球式の握手を交わした二人は、早速本題に入っていった。

「既に、そちらから提供された情報を、本国に問い合わせている。本国でも、身元の特定は出来ないと報告があった」

「そうですか。残念です」

「だが」

 エマーソンは、そこで話を止めたランハルトの表情を窺った。

「本国の調査で、わかったことがある。わざわざ、ここまに来てもらったのは、それが重大な情報だったからだ」

「その情報とは?」

 ランハルトは、そこで少し間を開けた。

「鑑定の結果、九十パーセントの確率で、テロの犯人は、イスカンダル人の可能性が高いそうだ」

 エマーソンは、一瞬、ランハルトが何を言っているのかわからなくなっていた。

「私の知識では、イスカンダル人は、スターシャ女王と、ユリーシャ第三皇女の二人しかいないはずですが? しかも、犯人は男性ですよ?」

 ランハルトは頷いた。

「その知識は間違っていない。だからこそ、この情報は我がガミラスでも驚きを持って受け止められている。そちらでも、情報を限られた人物のみで共有してもらいたい。今の段階では、一般の地球人には、決してこの情報は知られたくない」

 エマーソンは、呆気にとられていたが、そのことを了承した。

「わかりました。しかし、今後の対策を検討する上で、政府や軍では、この情報は共有する必要があります。予め承知おき下さい」

 ランハルトは頷いた。

「心得た。こちらも、対策を検討中だと、副大統領には伝えておいてくれ」

「承知しました」

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


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連邦の危機3 探査宙域

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「連邦の危機」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」の続編になります。


 太陽系外の探査任務が、遂に決定し、アンドロメダと主力戦艦ムツの二隻は、太陽系から遠く離れた宙域を航行していた。主な任務は、銀河系の正確な星図の作成と、未知の宇宙規模の事象や、未知の文明の探査である。

 この任務は、ようやく波動エンジン搭載艦を複数完成させた、北米第七艦隊からも、同様に二隻の艦が派遣され、アンドロメダとは異なる探査領域を担当していた。

 

「山南艦長。ここは、二十一世紀頃に、謎の電波を受信した方角にある星系です。よろしければ、少々詳しく探査をさせて頂きたいのですが」

 アンドロメダの技術科長には、真田が就任していた。暫く防衛軍を離れていた真田は、藤堂の呼び掛けで、現在の科学技術省の立場のまま、この任務に参加していた。

 山南は、笑顔で真田に頷いた。

「もちろんだ。念入りにやってくれ」

「はっ」

 山南は、通信長の佐藤に、主力戦艦ムツに星系探査で少し留まる件を伝えるように言った。

 真田は、艦内通信で技術科にいる新見薫に連絡し、協力を要請した。そして、航海長の仲村は、真田の指示に従って、その星系にアンドロメダを進入させた。

 アンドロメダには、真田の他に、南部が戦術長として就任していた。その南部は退屈していた。

「真田さん、謎の電波でも何でも、不審なものを見かけたら、すぐに教えてくださいね」

「わかっているよ。しかし、何故わざわざ聞くのかね?」

「いやあ。このままじゃ、腕が鈍ってしまいそうで」

「君が忙しくなるような事態は、誰も望んでいないと思うよ」

 真田は、南部の方を振り返りもせずに言っていたが、心なしか、真田は楽しそうに見えた。

 山南は、二人のやり取りを見て、元ヤマト乗組員の絆の深さを目の当たりにしていた。

「他の連中も、あんな風になれると、いいんだけどな」

 山南は、そっと独り言を口にした。

 

 通信長の佐藤が、山南の方へ振り返って言った。

「艦長、地球防衛軍司令部から連絡です。北米第七艦隊から探査に派遣されたアンティータムとチャンセラーズビルから定時連絡が無いとの連絡があります」

 アンドロメダとムツは、亜空間通信リレーを設置しながら移動していた。銀河系の星図を作るのと同時に、地球との通信ラインの確保するのも、彼らの任務だった。

「防衛軍本部の要望は?」

「もう少し様子を見て、それでも連絡がつかないようなら、確認に向かって欲しいということです」

 山南は、真田が探査に忙しく動いているのを眺めながら考えた。

「わかった。要請が無ければ、少なくとも真田くんの探査が完了するまでは、俺たちはここで活動を続ける」

「それから、それとは別に、個別に話したいと藤堂長官がおっしゃっているようです」

「俺と個別に?」

「はい」

 

 山南は、艦長室に移動して、端末の電源を入れた。地球連邦防衛軍極東管区司令部に接続すると、すぐに相手に繋がった。

「藤堂長官」

 端末のスクリーンには、藤堂長官が映っていた。

「山南くん。暫くぶりだな」

「どうも。どうされました?」

 山南はにこやかに話しかけた。しかし、その藤堂の表情は浮かなかった。

「山南くん。実は、地球ではいろいろな事件が立て続けに起こっている」

 山南は、藤堂が、何か大事な話をしようとしているのに気が付いた。

「連続でテロ事件があり、大統領が重体となっている。その時、土方くんも負傷した」

「ええっ?」

「大統領は、今も意識不明の重体だ。今は、副大統領が代行で動いている。土方くんの方は心配はいらんよ。少しの間入院していたが、既に復帰している。それよりもだ。君にその連続テロ事件の犯人に関しての極秘情報を伝えておく」

「極秘……ですか?」

「取り扱いに注意してくれればいい。最初の事件の犯人は、軍が射殺したのだが、連邦捜査局では犯人の身元がどうしてもわからなかった。そこで、試しにガミラス大使館に問い合わせて、遺体のDNA鑑定などの情報を伝えたところ、イスカンダル人の可能性が高いとの報告があったそうだ」

 山南は、驚いた。

「イスカンダル人ですって?」

 藤堂は頷いた。

「しかも、テロを行っているのは若い男性だ」

 次々に信じがたい情報が伝えられて、山南は困惑していた。

「つまり、我々の知っているイスカンダル人以外の生き残りがいて、テロ活動していると言うんですか?」

「そういうことになる。ガミラス大使館側は、ガミラスやイスカンダルを排斥しようとする勢力を警戒して、この情報を極秘扱いにして欲しいと要請があった」

「なるほど」

「北米艦隊から探査に派遣した航宙艦二隻の通信が途絶えている件、どうも私は、嫌な予感がしてならない。この事件と関係があるとすれば、何か大きな問題が降り掛かろうとしてる可能性がある」

 山南は、黙ってその情報を咀嚼しようとしたが、頭の整理がつかなかった。

「わかりました。では、我々のきりがいいところで、北米の艦の様子を見に行って来ます」

 藤堂は、複雑な表情で頷いた。

「頼む。ただし、くれぐれも気をつけてくれ」

「了解。では、通信終わり」

 山南は、そのまま、消えた端末のスクリーンをぼんやりと眺めた。

「イスカンダル人ねぇ……」

 

 翌日、探査を終えた真田は山南に報告していた。

「この星系について、一定の詳細な探査が終わりました。少なくとも、資源を採掘可能な惑星が複数あることがわかりました。居住可能な惑星は存在せず、異星文明の痕跡も見つかりませんでした。残念ですが、科学的な新たな発見は特にありません」

 山南は、にこやかに頷いた。

「ご苦労様」

 山南は、マイクを掴んで全艦に向けて通信を行った。

「諸君、星系探査の件、ご苦労だった。終わったばかりですまないが、これより、消息を絶った北米艦隊二隻の探査宙域に様子を見に行くことにする。今から一時間後にワープ、全艦、準備にかかってくれ。以上だ」

 マイクを切った山南は、南部に指示を出した。

「南部、ワープを開始する時に警戒体制に移行。よかったな、退屈してたんだよな?」

 南部は、少し焦って否定した。

「そ、そんなことありませんよ? ご命令は、承知しました!」

「もしかしたら、戦闘配置に移行するかも知れない。そのつもりで準備を頼む。頼りにしてるぞ、戦術長」

 南部は、少し疑問を感じつつ、立ち上がって敬礼で答えた。

「はっ」

 

 アンドロメダと主力戦艦ムツは、数回のワープで、北米艦隊二隻が最後に連絡を取った座標に到着した。

「二隻の航跡を追えるかね?」

 山南は、真田に声をかけた。

「既に、波動エネルギーの航跡を探知しています。仲村くん、センサーのデータを送るので、艦をそちらに移動させてくれ」

「承知しました」

 山南は満足そうに様子を窺った。

「よし、では発進させてくれ」

 アンドロメダとムツは、波動エンジンを咆哮させて、北米艦隊を探しに発進した。

 

 レーダー手の橋本が報告してきた。

「遠距離レーダーに感あり。艦船と思われます」

「見つけたか。仲村、すぐに艦をそこへ向かわせてくれ。それから佐藤、通信で呼び掛けを行ってくれ」

「わかりました」

 佐藤は、通信機のパネルを操作して、防衛軍の通信周波数で、北米艦隊二隻に向けた連絡を送っていた。山南は、頭上のスクリーンを注視しながら、佐藤の様子に耳を傾けた。

「艦長、前方の艦船は応答しません」

「わかった」

 山南は、心の中の不吉な予感が、強くなっていった。

 アンドロメダのスクリーンには、徐々に艦船の様子が見え始めていた。艦船の周囲には、破片が多数漂っており、艦体が大破しているのがわかった。

「南部、戦闘配置に移行」

 南部は、即座に反応して、艦内通信を行った。

「全艦、戦闘配置。これは訓練ではない。繰り返す。全艦、戦闘配置!」

 アンドロメダとムツは、更に接近して、二隻の残骸が目視出来る所で停止した。

「真田くん、波動防壁展開準備」

「了解、波動防壁展開用意」

 山南は、北米艦隊の一隻が艦体中央部から真っ二つに裂けているのを確認した。もう一隻は、穴だらけになって艦体が黒く染まっていた。完全に沈黙しており、航行不能になっているようだった。

「生存者の捜索を行う。南部、至急救助隊を編成してくれ」

「了解です!」

 

 アンドロメダとムツから、コスモシーガルが発艦し、二隻に向かった。救助隊が、それぞれの艦の内部に進入し、捜索を始めた。その矢先、レーダー手の橋本が叫んだ。

「レーダーに感! すぐ近くに複数の機影がワープアウトしてきます!」

 南部は、すぐに指示を発した。

「パルスレーザー砲台、迎撃用意!」

「南部、命令あるまで、発砲してはならん!」

 山南は、慌てて叫んだ。

「わかっています!」

「四機の航宙機が現れました! 本艦に二機、ムツに二機が急速に接近!」

「真田くん、波動防壁展開!」

「了解、波動防壁を展開する」

 二機の航宙機は、真っ直ぐ正面からアンドロメダの艦橋をかすめて、高速に後方に飛び去った。同様に、残りの二機もムツの頭上付近を目掛けて高速に接近して飛び去って行った。

 機体を観測していた真田が報告をした。

「艦長、あの機体を分析しました。ガミラスでもガトランティスのものでもありません。初めて出会う異星文明のものと思われます」

 レーダーを注視していた橋本が叫んだ。

「四機とも、反転して戻ってきます!」

 山南は、このままでは、無防備な救助隊が危険だと考えていた。しかし、接近する機体が、北米艦隊を破壊したかどうかもわからない状況で、攻撃を加えるべきか判断出来なかった。

「救助隊を帰還させる。南部、航空隊を今すぐ発艦させ、帰還を援護させろ!」

「了解、航空隊に通達、緊急発艦せよ!」

「航空隊にも、俺が命令するまで、発砲を控えるように伝えておけ」

 数十秒後、アンドロメダの下部、艦載機発着口が開口し、コスモタイガーが次々に発艦した。

 それぞれ、敵機と思われる航宙機と同数の航空隊の機体がその後方につけ、追跡を始めた。

「よし、今のうちに、コスモシーガルを帰還させろ! 佐藤、奴らに接近する目的を確認したい。すぐに呼び掛けを行ってくれ!」

「はい、わかりました!」

 しかし、四機はあらゆる周波数のチャンネルで呼び掛けたが応答は無かった。

 そして、コスモシーガルの帰還が成功したころ、ようやく敵機と思われる四機は遠ざかって行った。そのまま、レーダーの探知圏外へと飛行を続けた為、山南は航空隊にも帰還命令を出した。やがて、レーダーからも反応が消えたのだった。

 

「報告を頼む」

 艦長席にやって来た南部が、山南に報告した。

「残念ですが、救助隊からの報告では、生存者は発見出来ませんでした。航空隊からの報告では、敵の機体には、ミサイル等の武装と思われる装備が見えたようです。これらは、撮影も行っている為、後で分析にかけます」

 山南は複雑な表情で頷いた。

「わかった。ご苦労だった」

 南部は、疑問を口にした。

「一体、何があったんでしょうか。北米艦隊の二隻とも、奴らにやられたんでしょうか?」

 真田もそこにやってきた。

「先程の機体だけでは、あの二隻をここまで大破させるのは難しいと思います。あの二隻にも波動防壁は装備されています」

 山南は、腕を組んで考えていた。

「残念だが、正体不明の敵の艦隊にやられたと考えるのが妥当だろうな。先程の機体が何も関係が無いとは考えられない。恐らく、偵察機ってところだろう。しかし、何も証拠がないから、先制攻撃も出来んからなぁ。参ったな、宇宙探査を始めたばかりだと言うのに、早速敵性異星文明とコンタクトすることになるとは。至急、防衛軍司令部にこれを伝えなければ」

 山南は、防衛軍司令部に何と報告するか思案した。

「あれが偵察機だとすると、敵の艦隊がここに戻って来る可能性が高いでしょう。状況から判断して、ここに留まるのは危険です。観測用の小型の監視装置を設置して、この場を一度離れてはいかがですか?」

 山南は、ため息をついた。

「真田くんの言う通りだな。装置を設置したら、一旦ワープでここを去ろう。準備急げ!」

「はっ」

 

 こうして、アンドロメダとムツは、急いでその宙域を離れていった。北米艦隊の二隻の残骸は、虚しくそこに残され、宇宙を漂っていた。

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
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連邦の危機4 民族の末裔

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「連邦の危機」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」の続編になります。


 何もない空間から、小さな航宙機と思われる機体が現れ、太陽系外縁パトロール艦隊の駆逐艦に接近して接舷した。

「なんだ? あれは?」

 たまたま、外を眺めていた別の駆逐艦の乗組員が、それを見つけた。

 太陽系外縁パトロールを担当していた艦隊旗艦のヤマトでは、艦隊の駆逐艦からその報告を受けて、急遽その機体を捕らえることに成功した。

 ヤマトの医療室のベッドに、拘束された状態で意識を失って眠っている男は、DNA鑑定の結果、大統領襲撃犯の男との類似性が高く、同一種族の者と断定された。

「これがイスカンダル人の男性ねぇ。本当なのか? 古代」

 佐渡は、第一艦橋からやって来た古代に聞いた。

「佐渡先生。僕だって信じられませんよ」

 その男は、保安部の者に拘束される際に顔面を殴られた為、顔が若干腫れていたが、確かに白人男性にしか見えなかった。

「とりあえず、目が覚めたら私からも尋問してみたいと思いますので、上に連絡を頂けますか?」

「わかっとるよ」

 古代が医療室を出て行こうとすると、佐渡が呼び止めた。

「そういやぁ、古代。森くんはどうしてる? お前、子供出来たんだってなぁ」

 古代は、振り返って照れた様子で頭をかいた。

「地球の自宅にいます。三ヶ月だそうです」

 佐渡は、古代の背を叩いてきた。

「おめでとさん。大事にしろよ」

「ありがとうございます」

 古代は、笑顔で軽くお辞儀をして、その場を去って行った。

 

 この報告を受けた防衛軍司令部は、遂に生きたまま捕まえた犯人を、地球に連れてくるように、ヤマトに指示をした。別の艦に艦隊のパトロールを任せたヤマトは、急ぎ地球へと帰還の途についたのだった。

 地球に帰還したヤマトは、衛星軌道上で待機し、地球から連邦捜査官が来るのを待っていた。そこにいち早くやってきたのは、同じく軌道上で待機していた、ガミラス護衛艦隊だった。

 ヤマトにガミラス戦闘空母ダレイラからシャトルを飛ばして乗り込んで来たのは、大使のランハルトと彼の護衛の兵士だった。

 それを出迎えた古代は、二人と地球式の握手を交わして、拘禁室に連れていった。

 ヤマトの保安部員が見守る中、狭い拘禁室には、目を覚ました男が両腕を後ろ手に拘束されたまま、ベッドに座っていた。

 古代とランハルトは、拘禁室に用意された椅子に座り、男に尋問を始めた。

「貴様、一体何者だ。どこからやって来たのか、俺たちに話せ」

 男は、酷く怯えた様子だった。古代とランハルトが、暫く尋問を行ったが、彼らの問い掛けに何も答えようとしなかった。

「話にならんな」

 ランハルトが、苛つきを隠そうともせず、男を睨み付けると、怯えが更に酷くなったようだ。

「デスラー大使。酷く怯えているので、少し間をおきましょう」

 古代は、ランハルトの肩を叩いて、部屋から退室させた。

 

 ちょうどその頃、遅れて到着した連邦捜査局のエマーソン長官と捜査官二名も到着した。古代は、ランハルトを伴って迎えに行き、エマーソンと二人の捜査官と握手を交わした。

「エマーソン長官。少し我々でも尋問をしてみましたが、何も話してもらえませんでした」

 エマーソンは、古代に笑顔を向けた。

「なるほど。では、後は我々に任せて下さい。地球に移送して、我々のチームが対応します」

「よろしくお願いします」

「あと、彼が乗ってきたという航宙機、異次元から出現したとか。軍に引き渡す前に、我々にも見させて頂けますか?」

「それも問題ありません。よろしくお願い致します」

 

 エマーソンと別れて艦長室に移動した古代とランハルトは、少し情報交換した。

「大使、あの男がイスカンダル人だというのは、本当なんですか? この話は、箝口令が敷かれている為、ヤマトでも私と衛生長の佐渡先生と限られた数名しか知りません」

「ああ。本当だ。俺だって信じがたいと思っているがな」

 古代は、最後にイスカンダルを訪れた時のことを、ランハルトに確認した。

「前にイスカンダルに行った時、スターシャさんは、デスラー総統と共に旅立って行きましたが、行き先が天の川銀河、つまり我々のいるこの銀河系に向かったと聞きました。何でも、ガミラス人とイスカンダル人の同胞を探して訪ねる為とか」

 ランハルトは頷いた。

「そうだ。ガミラスには、約千年ぐらい前のイスカンダルが帝国主義を捨てて平和主義に変わった時代に、一部のガミラス人とイスカンダル人が別の銀河に旅立ったという伝説が残っている。その同胞を発見して、共に新たなガミラスを作ると叔父は言っていた。捕まえたあの男が、その同胞の可能性が高い」

「しかし、イスカンダル人が、あのような攻撃的な種族だとは思えません。ガミラス人ならともかく……」

 そこまで言ってしまってから、はっとして手で口元を押さえた。古代は失言だったと発言を後悔した。ランハルトは、苦々しい表情をしていたものの、古代を責めることはしなかった。

「言ってくれるな……。まぁ、ガミラス人のことは否定はしない。それに俺も、イスカンダル人がそのようなことをするとは思っていなかった。だが、千年も前に本星と袂を分かった先祖の末裔の話なのでな。イスカンダル人が、今のような平和主義の国家へと様変わりした微妙な時代の話だ。どんな可能性だってある」

 古代とランハルトは、暫く二人とも黙り込んだ。

「お前も知っていると思うが、この銀河系の中心部の二大星間国家、ボラー連邦とガルマン帝国のことだが、我々もあまり詳しい情報は持っていない」

 古代は頷いた。

「大使もご存知の通り、今の地球連邦の仮想敵国として、その二国からの最低限の防衛を目標に、艦隊の増産を急いでいます。何故、今その話を?」

 ランハルトは、少し声のトーンを落とした。

「以前、ガミラスが銀河系方面軍をこちらに派遣していた時に、司令官だったゲール少将が、ガルマン帝国に接触したことがある」

 古代は、その情報に少し驚いた。

「ゲール少将は、相手が強大な国家だとわかってからは、彼らの勢力圏に侵入しないことを約束し、それ以来、接触を行っていない。しかし、接触した際の報告では、相手の艦隊の司令官は、ガミラス人と良く似ていたという証言がある」

 古代は、ランハルトが言わんとしていることが、何となくわかってきた。

「つまり、ガルマン帝国は、ガミラス人とイスカンダル人が、千年前に天の川銀河を訪れて建国した国家だと言いたいんですね?」

 ランハルトは、重々しく頷いた。

「これまでの情報から推測すると、そういう結論になる」

 古代は、驚くと同時に少々慌てだした。

「それが正しいとすれば、一連のテロ事件は、ガルマン帝国からの侵略、ということになってしまう……」

 ランハルトは、ため息をついて、腕組みした。

「その通りだ。しかし今、ガミラスはマゼラン銀河のことだけで手一杯の状態だ。ガルマン帝国と対立するようなことは誰も望んでいない。同盟を結んでいるとはいえ、お前たちを手伝うのは、難しいと考える者が多い。しかし、聖なるイスカンダル信仰との間で揺れ動いている。イスカンダル人が、戦争行為に参加しているのだけは見過ごせない、とな。バレル大統領以下、政府閣僚の間で、真相を確かめる為に軍を動かすべきかどうか、検討を行っているはずだ」

 その時、ヤマトの艦体が突然揺れた。

「何だ?」

 古代は、慌てて艦内通信のマイクを掴んだ。

「どうした。今の揺れについて報告してくれ」

 少し間があってから、応答があった。

「拘禁室で、爆発があったようです」

「何だって!」

 古代とランハルトは、顔を見合わせた。

 

 拘禁室に向かうと、捕らえた男が入っていた室内で、男の体が爆発したものと思われた。ばらばらに四散した男の体が、室内を血の海に変えていた。

 拘禁室の前には、エマーソン長官と、二名の捜査員が待っていた。

「どうも。艦長、残念な知らせです」

 駆けつけた古代とランハルトに、エマーソンが報告した。

「恐らく、体内に小型の爆弾を埋め込んでいたんでしょう」

「怪我人は?」

「誰もいません。我々が、彼を移送しようと、中に入ろうとした矢先に爆発しました。危ないところでしたよ」

 ランハルトはため息をついた。

「これで、何も聞けなくなってしまったか。奴が、どこから来たかを聞き出したかったのだが」

「それですが、彼の機体を調査して、少しだけ情報をとれました」

 エマーソンは、得意気に話をした。

「何ですって?」

 古代とランハルトが驚く中、彼は自分の携帯端末を取り出した。

「彼の機体の電算機に接続して、中のデータの閲覧に成功しました」

 エマーソンが見せてきたのは、星図のようだった。

「取れたのは、これだけです。恐らく、これが、地球までの航路。彼の出発地点は……ここのようです」

 エマーソンは、航路図を指でなぞった。

 ランハルトは、乱暴にその端末を奪って、食い入るように図を眺めた。ランハルトの背後から、古代もその図を眺めた。

「これは……」

「大使?」

「出発地点は、ガルマン帝国領の端だ。ここを見ろ。ボラー連邦とガルマン帝国の両端と接する中立地帯、と書かれている場所を通過している」

 ランハルトは、自分を注視する古代とエマーソンの視線に気がついた。

「すまん。この星図、ガミラス語で書かれている」

 古代とエマーソンは、目を丸くした。

「これで、もう間違いない。奴は、ガルマン帝国からやって来た。そして、我がガミラスとイスカンダルから分派した同胞の末裔だ」

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


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連邦の危機5 中立地帯

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「連邦の危機」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」の続編になります。


 それから、一週間が経過した。

 

 地球連邦政府は、今回発覚したガルマン帝国の侵略とも言えるテロ活動に対して、どのように対処すべきか協議を重ねた。そして、まずは真意を確認し、正式に政府として抗議するのが筋だろうという結論となった。

 テロ活動を行おうとしていた航宙機から得た情報によって、ボラー連邦とガルマン帝国の中立地帯の存在を知った政府は、地球連邦外務省から事務方を派遣し、その地で外交ルートの構築を模索することに決めた。

 そして、この任務の特務艦として、ガミラス戦争やガミラス同盟で活躍したヤマトを、再び単艦で派遣する事が決定した。更には、今回の事態を憂慮したガミラス政府からも協力を得られることが決まり、デスラー大使のガミラス護衛艦隊がこの任務に共同であたり、ガミラス政府と共に、ガルマン帝国との接点を作れないか模索する。

 

 一方、土方が座乗する空母シナノを中心に、艦隊の再編が行われた。艦隊は、地球近傍のラグランジュポイントの一つで集結し、次の行動に備えることになった。この艦隊は最悪の場合を想定し、ガルマン帝国の明確な侵略行為に対抗するために編成される。部隊は、主に極東管区の極東艦隊を中心とした戦力に、北米艦隊も加わり、ヤマトの任務遂行中に、艦隊連携の確認をする訓練などが行われる予定だ。

 

 それから、更に二週間後――。

 

 ヤマトとガミラス護衛艦隊は、銀河系中心部のガルマン帝国領付近を通過していた。星図にあった中立地帯まであと少し、という位置につけていた。

 古代は、相原に声をかけ、ガミラス護衛艦隊のガゼル司令を呼び出した。

 スクリーンに映るガゼル司令は、少し疲れた表情をしていた。

「古代艦長、何かね?」

「どうかされましたか?」

 ガゼル司令は、古代に見透かされたので、表情を引き締めた。

「こっちのことだ。何だね?」

「偵察機を飛ばそうと思いますが、よろしいですか?」

「そうだな。それなら、我が艦からも出そう」

 ガゼル司令は、後ろを振り返って、バルデス艦長に声をかけていた。

「これでいい。偵察機の報告を受けてから、中立地帯に侵入するぞ」

「わかりました」

 古代は、通信を切ると、北野に指示を出した。

「北野、航空隊に偵察機を出すように伝えてくれ」

「了解です」

 北野は、艦内通信で航空隊の待機所に連絡した。

 連絡を受けた篠原は、ヤマト航空隊の隊長に就任していた。

「よーし、野郎ども、偵察に出てくれってさ」

 篠原が振り返ると、坂本が、自分に指を向けて期待の目で見ていた。

「偵察はさ、繊細な奴が向いてるんだよ。お前は、戦闘にならない限り、ここで待機な」

 坂本は、がっかりと項垂れた。篠原の視線は、沢村を通り過ぎて、その隣にいた男に向いた。

「揚羽ちゃん、お前、行ってみる?」

 篠原は、今回の任務で初めてヤマトに配属されて来た新人にウインクして見せた。

「私ですか?」

 篠原は、驚く揚羽の肩を叩いた。

「そ、お前だ。防衛大を優秀な成績で卒業したんだってな。いい経験になるから、お前が行ってこい」

 揚羽は、真面目な顔で頷いた。

「わかりました!」

 そのまま、勢い良く、待機所を飛び出していった。

 坂本は、悪態をついていた。

「なんで、あいつが良くて、俺が駄目なんすか?」

「だから言っただろ? 繊細で、真面目な奴がいいんだって。俺みたいにさ」

 篠原は、にやりと笑って見せた。

 

 揚羽のコスモタイガーは、数十秒後に発艦して行った。ヤマトの下方から上昇して、揚羽のコスモタイガーは、高速でヤマトの舷側を通過して行った。

 古代は、第一艦橋から、飛び去る彼の機体を眺めた。

「篠原の奴、新人を出すとはな」

 古代は、少し心配をしつつも、昔の自分もあんな感じだったのに違いないと思い直した。

 古代は、何となく砲術長の座席を眺めた。南部がアンドロメダに異動となったため、そこには新人で揚羽と同期の土門が座っていた。航海長の席には、太田が座っており、すっかり部門長らしくなっていた。防衛軍を去って運輸省に異動していた島は、予備役として今回の一件で防衛軍に呼び戻されて、別の艦の艦長に任命されていた。

 そして、気象長の席には太田に代わって大島夏樹が、船務長として雪の代わりに西条未来が、そして、技術長の桐生美影がいた。山崎が別の艦の艦長となった為、機関長の席には徳川の息子の徳川太助がいた。そして、立場も役割も昔と同じなのは、通信長の相原だけだった。

 航空隊も、加藤が本土防衛軍空軍に異動となり、古代は、本当は山本に隊長を務めて貰おうと思っていた。しかし、空母シナノの完成と共に、彼女から異動届けが提出された。

「長い間、お世話になりました。航空隊に転属させてくれたこと、一生感謝します」と言って敬礼した彼女は、一人ヤマトを去っていった。古代は悩んだ末、篠原を隊長に任命したのだった。

「随分、様変わりして、新人も増えたな。沖田艦長も、俺たちをこんな風に見てたんだろうな」

 古代は、独り言を口にして、時の流れを実感していた。

 

 コスモタイガーを飛ばす揚羽の側に、ガミラス空母から発艦した航宙機が一機接近してきた。

「こちら、ヤマト航空隊の揚羽。暫くの間、よろしく。よかったら、名前を教えてくれるかい?」

 揚羽の問いかけに、ガミラスのパイロットは、短く応えた。

「こちら、空母ダレイラ偵察隊のルカだ」

 通信機から聞こえてくる声は、女性のものだった。揚羽は、少しだけ驚いたが、ガミラスには凄腕の女性パイロットがいる噂も聞いていたので、違和感は無かった。

「よし、じゃぁ飛ばすぞ」

 二機の偵察機は、速度を上げて一気に中立地帯へと飛び込んで行った。

 

 そこは、一つの恒星系だった。二機が飛行する恒星系の外縁で、長距離レーダーに反応があった。

「こちら、ルカ。気をつけろ、何か接近してくるぞ」

 揚羽の機体でも、機影を捉えていた。少しすると、通信が入ってきていた。その通信を受信すると、聞いたことのない言語で呼び掛けられた。応答しないでいると、今度は、聞き覚えのあるガミラス語だった。揚羽の翻訳機がやっと反応し、言葉がようやく理解出来た。

「こちら、アマール防衛軍だ。訪問の目的を述べよ」

 どうやら、この恒星系の軍隊によるパトロールと思われた。ガミラス語で呼び掛けられたため、ルカが応答を返した。

「こちらは、ガミラス護衛艦隊所属のルカ。一緒のもう一機は、同盟国テロン軍所属のパイロットだ。ここへは、外交交渉にやって来た。我々の艦隊は中立地帯の外の宙域で待機している。攻撃の意図は無い。この宙域への進入の許可を頂きたい」

 ルカは、簡潔に訪問目的を伝えた。相手は、少し沈黙し、何か確認をしているようだった。そして、暫くして、相手からの返事があった。

「貴君らの艦隊を監視衛星で捉えたので、我々はここへやって来た。まずは、君たちと面談し、いろいろ確認を取らせてもらいたいが、よろしいか?」

 揚羽は、緊張しつつも、返事を返した。

「こちら、地球連邦防衛軍所属の揚羽だ。申し出を受け入れる。案内して頂きたい」

「承知した。我々についてくるがいい。近くの宇宙基地に案内する」

 

 揚羽とルカの航宙機は、それほど遠くない場所に存在した宇宙基地に案内されていた。

 その基地は、多くの異星の宇宙艦が接舷しており、そこが異星の人々が集う場所であることがすぐにわかった。

 宇宙基地の内部に入り、それぞれの機体を降りた揚羽とルカは、そこで初めて顔を合わせた。

 揚羽は、ヘルメットをとったルカが、頭を振って赤茶色の長い髪を翻すのを見た。

「何を見てる」

 ルカが睨んで来た為、彼女に見とれていた揚羽は、少し赤面して目を反らした。

「何でもない。行こう」

 二人は、少し離れたところで待つアマール防衛軍のパイロットの元に進んだ。

 アマール防衛軍のパイロットは、少し色黒の肌の中東アジア人のような見た目の人種だった。

 暫く一緒に基地内部を進むと、何人かの異星人がいる受付と思われる場所にやって来た。

「ここの受付で手続きを済ませれば、誰でもアマールを訪問出来る。ようこそ、我が国に」

 案内してくれたアマール防衛軍のパイロットは、そう一言挨拶をして、その場を去っていった。

 当惑した二人は、顔を見合わせて、恐る恐る受付に向かった。

 受付のカウンターの向こう側に座る浅黒い顔のアマール人の女性は、一瞥してガミラス語で言った。

「そちらは、ガルマン帝国の方ですか?」

 ルカは、自分に向けられた視線によって、ガルマン帝国人と思われていることを知った。

「いいえ。マゼラン銀河のガミラス星の者です」

 訝しげな表情をした受付の女性は、次に揚羽の方を見上げた。

「そちらは?」

「私は、地球からやって来ました」

 受付の女性はため息をついた。

「地球人は初めての訪問ですね。それにしても、最近はマゼラン銀河からの訪問者が増えて来ましたね。こちらの書類にサインをして下さい。すぐに入国許可証を発行します」

 受付の女性は、少し大きめの板状の端末を差し出した。揚羽は、拍子抜けして、サインを書きながら言った。

「こんなにあっさりと許可をしてくれるんですか?」

 受付の女性は、不思議そうな表情で揚羽を見上げた。

「あまり状況がお分かりじゃないようなので言っておきましょうか。このサイラム恒星系は、ボラー連邦とガルマン帝国に挟まれた中立地帯です。戦闘行為は禁止されています。我が国の軍はもちろん、それぞれボラー連邦とガルマン帝国の軍も駐留していますので、不法行為が目的の訪問は自殺行為です。その点をお忘れなきよう」

 揚羽は、納得して返事をした。

「そういう事ですか。理解しました」

 揚羽に続いて、ルカもサインをした。

「マゼラン銀河からの訪問者が増えているのか?」

「ええ。ガミラス星やザルツ星の方が時々訪れていますね」

 ルカがサインを終えると、受付の女性は、IDカードを差し出した。

「必要に応じてそのIDを見せれば、大抵の所へは行けますよ。宇宙艦は、一隻だけお通り下さい。複数艦での訪問も禁止しています」

 

 揚羽とルカは、受付の部屋の角に設置されていた通信機を使って、艦隊に連絡をした。

「こちら揚羽。訪問許可証を受領したので、星系に進入出来る。一隻しか通さないようなので、どの艦を使うか決めて入ってきて下さい。我々は、ここで待機しています」

 少しして、相原が返事をしてきた。

「ヤマトで向かう。揚羽は、そこでそのまま待機していてくれ」

「了解です」

 

続く…

 




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連邦の危機6 アマール

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「連邦の危機」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」の続編になります。


 数時間後、ヤマトは、サイラム星系の第四惑星アマールの軌道上に進入していた。

 

 地球連邦政府は、外交交渉の担当者として、外務次官のキャッスルを派遣しており、彼は、第一艦橋にやって来ていた。

「デスラー大使、ガゼル司令、今回はよろしくお願い致します」

 第一艦橋にいたその二人は、キャッスルに応えた。

「任せておけ」

 ランハルトは、自信たっぷりに頷いた。一方のガゼル司令は、疲れた表情で言った。

「私よりも、精鋭の若い兵士を行かせた方がいいのではないか?」

 キャッスルは、笑顔で言った。

「とんでもない。今回のメンバーは、私も含めて若い者ばかりです。外交交渉では、貴方のような威厳ある方がいらっしゃった方がいいのです」

 ガゼルは、ふんと鼻を鳴らした。

「わしが一番の年寄りだから、と言いたいのか?」

 ランハルトの横にいたケールが、笑顔でガゼルに話しかけた。

「少し違います。なめられないように、こわもての方がいた方がいいと仰っていると思います」

 ガゼルは、少し不快な表情をした。

「秘書風情が、しゃしゃり出てくるな」

「そんなぁ」

 ケールが、ガゼルの袖を掴んだ。

「くっつくんじゃない」

 その様子を見ていた古代は、ガゼルの疲れた表情の原因がわかったような気がした。ランハルトの方を確認すると、彼は知らんぷりを決め込んでいるようだった。

 先ほど偵察機を飛ばしていたルカは、古代を見て会釈してきていた。彼女は、大使の護衛として同行するようだった。

 キャッスルは、古代の方を向いた。

「それから古代艦長。ガミラス同盟の一件以来ですが、久しぶりに一緒に行きましょうか。同行するメンバーは、艦長が選んで下さい」

 古代は、当惑した表情で言った。

「今回は、いい経験になるので、副長の北野に行ってもらうつもりでしたが」

 キャッスルは、両腕を大袈裟に広げて言った。

「ガミラスからは、ガゼル司令にご足労頂いたんですよ? こちらは提督クラスの方が同行しておりませんので、少なくとも、艦長が行かなければ、釣り合いが取れません」

 キャッスルは、にこやかに皆を見回してから、急に真面目な顔になって言った。

「こういう時は、肩書きや威厳が大事なんですよ」

 古代は、小さくため息をつき、北野の方に目配せした。その北野は、笑顔で応えていた。

「わかりました。では、私の他には、桐生くんと揚羽くんに一緒に来てもらいます。桐生くんは、異星言語の解析が出来るので。揚羽くんは、先ほど偵察に出たので、引き続き護衛として連れて行きます」

 第一艦橋に来ていた揚羽は、ルカの方を向いて会釈した。そのルカは、表情を変えずに彼の方を一瞥していた。

「異星文明とのファーストコンタクトとかわくわくするね」

 桐生美影は、嬉しそうに揚羽に話しかけていた。

「そ、そうですね」

 ルカを気にしていた揚羽は、少し上の空だった。

「艦長、先に降ろした保安部員から、問題なしと報告が来ています」

 相原は、古代に声をかけた。

「わかった。では、皆さん出発しましょう。舷側のコスモシーガルの格納庫にご案内します」

 古代は、北野に声をかけた。

「北野、後は頼んだぞ。危険を察知したら、我々を待たずに、艦の安全を最優先にしてくれ」

「了解です」

 北野は、敬礼で応えた。

 

 コスモシーガルで、惑星アマールの宇宙港に降り立ったキャッスル以下のメンバーは、保安部員と合流すると、辺りを興味深く見回していた。

 そこは、異星のあらゆる人種でごった返していた。宇宙港に駐機していた機体も、様々なデザインで統一性がなく、ボラー連邦とガルマン帝国に所属する様々な星系の人種が訪れているのは、間違いがないと思われた。

 ガミラス人は、その様な光景に慣れていたが、地球人は皆、異星の人種のるつぼを見るのが初めての経験で、驚きを隠せなかった。

「何か、凄いですね。銀河系って、こんなにいろんな知的生命体がいたんですね」

 桐生は、目を輝かせていた。

「桐生くん。そんなに、じろじろ見ない方がいい」

 古代は、彼女をたしなめた。

「あ、そうですね。ごめんなさい」

 そんな一行の前に、一人のアマール人と思われる男性が近づいて来て、ガミラス語で話しかけられた。

「ガミラスと地球からやって来た方々ですね?」

「はい、そうです。アマール政府の関係者の方ですか?」

 キャッスルは、にこやかに彼に返事をした。

「はい、そうです。政府の事務次官の一人が時間が取れるそうです。これからすぐに向かってもよろしいですか?」

「もちろん。よろしくお願いします」

 

 一行は、アマール政府の関係者という人物が用意したバスのような輸送車両に乗せられ、宇宙港からアマール星の首都と思われる場所に移動していた。途中、異星の建築物や文化を見た地球人たちは、何を見ても驚いていた。

 そんな古代たちの様子を見たランハルトが、一言苦言を呈した。

「落ち着きが無いな。さっき言っていた威厳とやらは、どうしたんだ」

 キャッスルは、少し興奮した表情で返事をした。

「そう言われましても。我々、ガミラス星以外で、こういうところに来るのは初めてですから」

 少し呆れたランハルトは、それ以上は何か言っても無駄だと思っていた。ふと、隣に座るケールの様子を見ると、珍しく表情が固く、落ち着かない様子だった。

「どうした?」

 ケールは、はっとしてランハルトの方を見た。何か言おうとしていたようだったが、その表情は、少し暗かった。

「大使。嫌な予感がしています」

「そうか……。しかし、今更止める訳にはいかない」

「そう、ですよね」

「十分に注意しよう。何か気が付いたら、すぐに教えてくれ」

「はい。そうします」

 

 一行は、首都の街の中心部にあった政府の庁舎と思われる建物に通された。

 案内された会議室で、暫し待っていると、一人のアマール人の若い女性が訪れてきた。

「皆さん、初めまして」

 挨拶をした女性は、ガミラス人を見て、少し驚いた様子を見せた。それにいち早く気が付いたルカは、ランハルトとガゼルの背後から耳打ちをした。

「どうやら、ガルマン帝国人と我々がそっくりな人種のようです。最初の宇宙基地でも、間違えられました」

 ランハルトとガゼルは黙って頷いた。

「初めまして。急な訪問にご対応頂き、助かりました。地球連邦政府代表の外務次官のノーマン・キャッスルです。こちらは、ガミラス政府代表のデスラー大使です」

 キャッスルは、握手しようと手を差し出したが、相手のアマール人の女性は躊躇していた。

「これは失礼、いつもの癖で。地球の挨拶のやり方で、友好の証として、右手を差し出して、握り合うのです」

 キャッスルは、そのまま手を伸ばした。

 アマール人の女性は、戸惑いながら、その手を握った。

「これで合っていますか? 私は、異星交流担当事務次官のイリヤと申します」

 イリヤは、ランハルトらにも、同じように手を差し出して、地球式の挨拶をしていった。

 

 一同は、一通りの挨拶を済ますと、会議室の席についた。

「今回の訪問の目的ですが、改めてご説明頂けますか?」

 キャッスルは、ランハルトに目配せしてから、話し始めた。

「それでは、私から。我々は、この天の川銀河の端にある太陽系の第三惑星地球からやって来ました。我々は、数年前からようやく星系外に進出可能な技術を持ち、あなた方のような同じ銀河系の星ぼしとの交流を強く望んでいます。今回は、そのような異星交流に慣れたガミラス政府の協力を仰ぎ、同行してもらいました。ついては、事務レベルの交流をまずは深めて、政治的な交渉や協議が出来る道筋をつけるのが、今回の訪問の目的です」

 イリヤは頷いた。

「ご説明ありがとうございます。しかし、単純に交流を深めたいだけでしょうか? ここは、ご存じかわかりませんが、少々複雑な歴史や政治的な状況が進行中の場所です。それに、そちらのガミラス政府の方々が一緒にお越しになっているということは、それ以上の目的があるように見受けられます」

 ランハルトは、ちらとキャッスルの方を見た。事前の約束では、イスカンダル人によるテロの問題や、ガミラスとイスカンダルが過去に分派した同じ民族がガルマン帝国を作ったという件など、核心をついた内容は、混乱を招いてしまう可能性があるため、状況を確認しつつ、タイミングを見計らう方針だった。

 イリヤは、更に話しを続けた。

「デスラー大使。お噂は、こちらの銀河系でも聞いています。何でも、ガミラス星はマゼラン銀河を制覇した覇者とか。一時は、ボラー連邦やガルマン帝国とも小競り合いがあったと聞いています。地球連邦も、存在は知っていますよ。近年、ガミラス星と同盟を結んで、急速に勢力を拡大しようとしていると情報が入って来ています。地理的に近いガルマン帝国は、そのことを懸念しているようです」

 キャッスルとランハルトは、驚いていた。

「なるほど。そこまで知られているなら、あまり遠慮する必要はないな」

 ランハルトは、不敵な笑みを浮かべていた。キャッスルは、慌ててそれを否定しようとした。

「ちょっとお待ち下さい。我々にガルマン帝国と対立する意図はありません。それは、ガミラス政府も立場は同じです」

 ランハルトは、面白そうにキャッスルの表情を窺った。

「大使!」

「わかっている。彼の言っていることは本当だ。我々は、既にこの銀河系からは撤退している。地球人とはいろいろあって、今でも仲良くやっているが、天の川銀河で勢力を広げようなどと、現政府が考えることは無いだろう」

 イリヤは、二人の様子を不思議そうに眺めた。

「わかりました。では、このサイラム星系とアマール星について少しお話ししましょう。ここは、ボラー連邦とガルマン帝国の対立によって、長い間戦争に巻き込まれてきた歴史があります。近年、双方の休戦協定が結ばれ、ここが戦闘を禁じる中立地帯に決まってから、この銀河系で唯一の平和的な交流が可能な場所になりました。私たちのアマール星では、双方の軍の駐留が条件とは言え、自治権も認められています。しかし、いつ再び双方の国家がこの地で戦争を始めてもおかしくありません。ここは、そういう場所なのです」

 イリヤの表情は暗く陰った。

「ボラー連邦もガルマン帝国も、所属する星系は、彼らに侵略され、植民地と化しています。圧政に苦しむ人々の唯一の希望は、私たちが神と崇めるマザー・シャルバートへの信仰です」

「マザー・シャルバート?」

 キャッスルとランハルトは、突然出てきた名前に興味を持った。

「失礼。宗教のことは、あまりお話しすべきことじゃありませんね」

 古代は、そこで割り込んだ。

「イリヤさん。ぜひ、聞かせて頂けませんか? 人々が圧政に苦しんでいると聞いて興味を持ちました」

 古代は、真剣な眼差しでイリヤを見つめた。その瞳を見たイリヤは、普段なら話さないようなことを話し始めた。

「わかりました。シャルバートは、かつて強力な力で銀河に平和をもたらしていたそうです。そして、滅び行く星ぼしに救済の手を差しのべ、あまねく星ぼしに平穏をもたらしていたそうです。今こそ、マザー・シャルバートは姿を現し、皆を救ってくれると信じられています」

 その話しを聞いたガミラスと地球の一行は、シャルバートとイスカンダルのイメージが重なっていることに動揺した。

「その、マザー・シャルバートとは、ボラー連邦領かガルマン帝国領内に実在する人物なのでしょうか?」

 古代は、もう少し詳細を知ろうと粘ってみた。

 イリヤは、小さく首を振った。

「まさか。これは、あくまでも信仰、伝説です。そのように信じられているだけです。人々は、それほどまでに追い詰められているのです。かくいう私も、もし今、マザーが来てくれたら、と考えることがあります」

 キャッスルは、そこまで聞いてから、全員の顔色を窺った。

「イリヤさん。あなたのお話しに、我々は心を打たれました。我々の本当の目的をお話しします」

 イリヤは、突然の申し出に驚いていた。

「実は、我々の地球は、ガルマン帝国からのテロ行為によって、多くの死傷者が出ています。我々がここにやって来たのは、その真意を確かめるべく、外交ルートを構築するのが目的です」

 イリヤは、その話しに真剣な眼差しで応えた。

「やはり。そのようなことだと思っていました」

 そしてキャッスルは、今日、最も話したかったことを語った。

「どうにか、ガルマン帝国と話しをしたいと思っています。アマール政府から仲介をお願いすることは出来ないでしょうか?」

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


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連邦の危機7 末裔の末路

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「連邦の危機」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」の続編になります。


 イリヤとの会談を終えた一行は、街に出て休憩をとっていた。物資の交換を条件に、現地通貨を入手し、まずは街のレストランやカフェで食事などをとることにした。

 

「これ、美味しい!」

 桐生美影は、テラスのテーブル席で、手掴みで食べる現地の軽食にかぶりついていた。

「揚羽くんも食べてみない?」

 桐生は、両手でパンのようなものに、現地の食材を挟んだ食べ物を、揚羽の顔の前に差し出した。

「き、桐生さん。結構ですから」

 揚羽は、口許に両手を差し出して、遠慮する旨を伝えた。

「えー。これ、本当に美味しいのに」

 桐生は、思いを共感したかったので、不満そうに手を引っ込めた。そして、次にルカの食べている皿を物色した。

「ルカさん、それ、美味しい?」

 ルカは、長い髪を邪魔そうに片手でかきあげて、もう片方の手に持ったスプーンのようなもので、皿の中身をすくっていた。

「なかなか美味だな」

「ひ、一口!」

「何?」

 ルカは、怪訝な表情で、スプーンですくった食べ物と、桐生の顔を交互に見た。そして、面倒そうに、スプーンを桐生の口許に差し出した。

「ありがとう」

 桐生は、自分の食べていた物を急いで飲み込み、ルカのスプーンを口に含んだ。

「うわっ。こっちの方が美味しい!」

 満足そうに桐生は、ルカに笑いかけた。その様子を、飲み物を飲みながら、揚羽はじっと見つめていた。それに気が付いたルカは、揚羽の方にもスプーンを差し出した。

「アゲハ、お前も食べたいのか?」

 揚羽は、食べようと顔を近づけたが、先ほど桐生の誘いを断ったのを思い出して、顔を引っ込めた。

「い、いや。大丈夫。遠慮しておくよ」

「そうか? 欲しそうに見えたのだが」

 ルカは、揚羽の表情を窺いながら、手を引っ込めて、自分の口に入れた。

「いやぁ。楽しいなぁ」

 桐生は、楽しそうに笑顔を二人に振りまいた。

 揚羽は、少し残念に思いながら、桐生を尻目に、隣のテーブルで食事をとっている古代たちの方を見た。

 

 ガゼルは、同じ様に食事を食べているキャッスルと古代の方を鋭い眼光で見ていた。

「あっちを、気付かれないように見て見ろ」

 ガゼルは、僅かに首を動かして、横の方を指し示した。キャッスルと古代は、少しだけ顔を向けて、横目でそちらの方を見た。少し離れた別のテーブルで、ガミラス人のような風貌の二人組が食事をとっていた。軍服のような制服を着ていた為、彼らの目にも軍人だと推測出来た。

「ガルマン帝国の軍人でしょうか?」

 古代は、低い声でガゼルに聞いた。ガゼルは、小さく頷いた。

「恐らくな。確かにガミラス人と見分けがつかん」

 古代は、制服を良く観察してみた。

「軍服のデザインも、ガミラスの将校のものに似ていますね」

「私が話しかけて見ましょうか?」

 ガゼルは、キャッスルの方を真っ直ぐに見て言った。

「やめておけ。例え相手が将校だとしても、軍人と話しても、我々の必要な情報は得られんだろう。トラブルになるのが関の山だ。それよりも、気になることを見かけたので、少し観察した方がいい」

 キャッスルと古代は、食べながら時々ちらちらと観察をした。

 すると、そのテーブルに、別の二人の男たちがトレイにのせた食べ物を持って近づいていた。シンプルなデザインの軍服を着ており、白人男性のような見た目だった。

「あれは……」

 古代は、ガゼルに更に小さな声で言った。ガゼルは、頷いて低い声で言った。

「あれが恐らく、ガルマン帝国のイスカンダル人の兵士だと思う」

 観察を続けると、二人は持ってきたトレイを、ガルマン帝国の将校の前に差し出した。そして、二人はテーブルの脇で、直立不動の姿勢でそのまま立っていた。二人にはお構い無しに、ガルマン帝国の将校と思われる二人組は、運ばれてきた食べ物を、談笑しながら食べ出した。

「どう思う?」

 ガゼルは、油断なく目を光らせながら、聞いた。

「明らかに、上下関係がありますね」

 キャッスルは、ガゼルに小声で話しかけた。

「単に上司と部下の関係でしょうか?」

 古代は、とりあえず見た目でわかる感想を言った。

 そこに、ランハルトとケールが、自分のトレイに食べ物をのせたものを、テーブルに置いて席についた。

「お前たち、あれを見たか?」

 ランハルトは、小声でテーブルに座る面々に話しかけた。ガゼルは頷いて答えた。

「うむ。皆で観察しているところだ」

 ランハルトは、食事に手をつけながら、話し出した。

「先ほど、立っている二人の男たちが食事を購入している様子をすぐ近くで観察して、二人の会話を聞いた。イスカンダル語で話していたな」

 古代は、ランハルトに質問してみた。

「どんな話しをしていましたか?」

 ランハルトは、不快な表情になった。

「気分が悪いな。奴等は、『早くしないと怒鳴られる』とか、『俺たちは、一生奴隷なのかな』などと話していた。あまりにも卑屈な態度で、あれがイスカンダル人だと思うと、とても不快な気分にさせられた」

 ガゼルは、少し驚いた表情でランハルトに言った。

「奴隷、と言っていたのか?」

 ランハルトは頷いた。

「あれが普通の両者の関係だとすると、事態は由々しきことだ」

 古代は、以前捕まえたテロの犯人の様子を思い出した。

「大使、前に尋問した彼のことを思い出しました。私たちが尋問している最中、恐怖とも言える表情を浮かべて怯えていました。もしかしたら、あれは、大使がガルマン帝国人に見えたからでは?」

 ランハルトは、そう言われて、その時のことを思い返した。

「言われてみれば、そうかもしれんな」

 暫く観察していると、食事を終えたガルマン帝国の将校は、立ち上がってその場を去って行った。二人のイスカンダル人と思われる二人の男たちは、結局食事をとることもなく、その後について一緒に去って行った。

 それを見届けて、ようやく全員緊張感から解放された。

「ガミラス人の末裔は、イスカンダル人の末裔を奴隷扱いしている可能性がある。事例があれだけでは、決定的ではないがな。辻褄は合うというものだ」

 ランハルトは、食べながら普通の声で話しをした。

「自爆テロをやらされていたのが、彼らだったこともな」

 全員が、しんとなって食事の手が止まっていた。

 そんな時、古代は、ランハルトの背後を通り過ぎる小柄な男に、見覚えがあるのに気が付いた。古代は、そちらの方を目で追うと、見れば見るほど見覚えがある後ろ姿だった。

 男は、誰かを探すように、周囲をきょろきょろと見回した。

 その小柄な男の顔を見た古代は、驚愕して、つい大声で叫んでしまっていた。

「薮! 薮じゃないか!」

 その小柄な男は、呼び掛けられた相手の姿を見て、向こうも驚愕の表情となった。一目散にその場を逃げ出した彼は、レストランのテラス席を走り抜け、その向こうにいた人物と合流した。

 ランハルトとガゼルは、その向こうの人物に見覚えがあった。

「おい、あいつフラーケンじゃないか?」

 ガゼルは、慌ててランハルトに確認した。

「俺も一度しか会ったことが無いが、間違いない」

 ガゼルは立ち上がって、そちらの方を見た。

「おい、フラーケン!」

 ガゼルと古代の姿を認めたフラーケンと薮は、振り返って走って逃げ出した。そして、すぐに通りの角を曲がってその向こうに消えて行った。

「どうします? 追いますか?」

 古代は、警備の保安部員を呼び寄せた。しかし、キャッスルは、古代を止めた。

「やめておきましょう。お二人とも座って下さい。あまり目立つのは良くありません。せっかく、イリヤさんにガルマン帝国の政府関係者を紹介される手筈になったので、騒ぎを大きくしたくありません」

 古代とガゼルは、渋々席についた。

「彼は、最初のイスカンダルへの旅の途中で立ち寄ったレプタポーダという惑星で行方不明になっていました。亡くなったものと考えていたのですが」

 古代は、伊東と薮の姿を最後に見た時のことを思い返していた。伊東が亡くなったのは、ユリーシャが目撃していたが、薮がどうなったかは、誰も見ていなかった。

「フラーケンもな。ガトランティス戦争後から、行方不明になっていた。何で奴がこんなところにいるんじゃ」

 ガゼルは憮然とした表情で憤慨していた。

 ランハルトは、最後にフラーケンと会った時のことを思い返していた。

「叔父の船で、ガス生命体を白色彗星にぶつける作戦を話し合った時が、俺が最初で最後に会った時だった。そう言えば、もう一人の男も彼と一緒にいたように思う。確か、ザルツ人だと紹介された」

 そこに、ルカが、ランハルトの傍にやってきた。

「そう言えば、ここの受付で、最近ガミラス人とザルツ人が、時々ここを訪れて来ると聞きました」

 古代は、日本人に似た風貌のザルツ人のことを考えた。

「ザルツ人。そうか、なるほど……。しかし、一体どういうことでしょう?」

 ランハルトは、何かに気づいたようだったが、ただ笑っていた。

「そうだな。思ったより、面白いことが起きそうだ」

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


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連邦の危機8 イスガルマン

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「連邦の危機」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」の続編になります。


 それから更に数日後、アマール政府の異星交流担当事務次官のイリヤの仲介で、ガルマン帝国の大使館を訪問することが許された。

 一行が応接室で待っていると、態度の大きな中年の男性がやって来た。

 

「我がガルマン帝国が、君らの星系でテロ活動だと?」

 ガルマン大使のベラミーは、高笑いを始めた。

 のっけから、キャッスルがその男に核心をつき始めたからである。その為、古代や、桐生美影と揚羽は、キャッスルの挑戦的な語り口に、そわそわと心配をしながら見守った。

 一方、ランハルトやガゼル、そしてルカは、黙って事の成り行きを見守っていた。

 キャッスルは、表情を変えず、微笑を絶やさず冷静に対応していた。

「ベラミー大使。そこまでは、我々も言っておりません。ただ、このような男たちが目撃されており、彼らの持っていた星図が、ガルマン帝国領を出発地点と指し示していたものですから」

 キャッスルは、目撃されたテロ活動の犯人の写真を紙に出力したものをテーブルに広げた。

 ベラミーは、一瞥して鼻で笑っていた。

「ベラミー大使。我々も、まさかガルマン帝国ともあろうものが、我々のような小国を気にするとは思っておりません。ただ、幾つかの証拠が、帝国領内の何者かが暗躍している可能性を示しています。そのような、政府の方針に反する活動を行うような組織は、是非とも取り締まって頂きたいのです」

 ベラミーは、キャッスルの方を初めてまともに見つめた。

「我々は、ガルマン帝国との友好関係を望んでおります」

 キャッスルはだめを押した。

 ベラミー大使は、再び高笑いを始めた。

「ガルマン帝国の同盟国になりたいのなら、大歓迎だ。君の言っているテロ活動を行った組織だか星系だか知らぬが、我がガルマン帝国領内にあるのなら、すぐに調べさせよう」

 ベラミーは、急に真剣な表情になって、キャッスルに言った。

「その代わり、是非とも、我らと一緒にボラー連邦と戦ってくれたまえ」

 今度は、キャッスルが笑いだした。ベラミーは、一緒になって三度目の高笑いを始めた。

「ご要望は、承りました。さすがに、私の判断の及ぶことではありません。持ち帰って検討させて下さい」

「お話し中、失礼します」

 話の途中で、応接室の入り口から、若い男女が入ってきた。そして、ベラミー大使と一行の席のテーブルの上に、お茶を並べ始めた。

 明らかに、イスカンダル人の末裔と思われる男女が、黙ってお茶を並べていた。

 キャッスルとベラミー大使は、互いに微笑を浮かべたまま、睨み合った。

「失礼しました」

 男女が出ていってから、キャッスルは、ゆっくりとテーブルの上の写真を掴んだ。

「今の方々、どちらの星系の方ですか?」

 ベラミー大使は、努めて冷静に語りだした。

「あの者共は、我々ガルマン人に古くから仕える使用人の民族、イスガルマン人だ」

 ベラミー大使も、テーブルの上の写真を掴んだ。

「君の言いたいことはわかる。この写真の者に確かに似ておるな。調べさせよう。一部に、反抗的な者がいるのは、確かなのでな」

 キャッスルは、にっこりと笑った。

「よろしくお願いします。我々も、今回のお話を持ち帰って検討致します。次回の会談を楽しみにしています」

 

「うわー、キャッスルさん、私、心臓がばっくばくでしたよ」

 桐生美影が、キャッスルの横にやって来て、肘で脇をつついていた。

 会談を終えた一行は、ガルマン帝国大使館を後にして、再びイリヤと話すため、アマール政府の庁舎へと歩いて向かっていた。

「はっはっは。出来る限りの事はやってみました。次回の会談の約束を取り付けたので、まずは成功と言っていいかも知れませんね」

 その横にランハルトがやって来て言った。

「なかなかやるな。しかし、あんな約束、奴らは守る気がないだろうな」

「いいんですよ。我々だって、守る気が無いんですから。まずは、離れて顔も見えなかった国同士が、知り合いになった、ということが重要なのです。これで、会談を引き続き行うことが出来れば、容易にテロ活動など続けては来ないでしょう。そして、いつか政府の政治レベルの協議まで持っていければ、この危機も回避出来るかも知れない」

 ランハルトは、少し心配になって言った。

「わからんぞ。逆に、本気で攻めてくる可能性だってある。奴らは、どうやら、お前たちをボラー連邦との戦争の駒にしたいようだからな」

 その後ろを歩いていた揚羽は、ルカが浮かない顔をしているのに気が付いた。

「どうかした?」

 ルカは、そう言われて、堰を切ったように話し出した。

「さっき、大使館で帰りにトイレに寄った時に見てしまったんだ。先ほど、お茶を運んできたイスガルマン人の女性が、頭から血を流して泣いているのを! あれは、ベラミー大使の怒りを買って、暴力を振るわれたのに違いない」

 後ろを歩いていた古代も、その話しに興味を持った。

「ルカ少尉。それ、皆に聞いてもらった方がいいな」

 前を歩いていたキャッスルやランハルトも立ち止まっていた。皆の注目を浴びた彼女は、静かに語りだした。

「わかりました。私が、トイレの個室から出ようとすると、彼女がやって来ました……」

 

 ルカが、トイレの個室を出ようとしていると、後から入ってきた女性のすすり泣く声が聞こえた。気まずさも覚えつつ、ルカは個室を出ると、手洗いの鏡に映った彼女の頭から血が流れているのを目撃した。

 ルカは、慌てて逃げようとする彼女の腕を掴んだ。

「待って、ひどい怪我だ」

 ルカは、持っていたハンカチを出して彼女の流す血を拭き取った。

「いったい、どうしたのだ?」

「な、なんでもありません!」

「何でもなく無いだろう。貴女は、先ほど茶を運んだイスガルマン人だな? まさか、あのベラミー大使にやられたのか? よかったら、事情を話してくれないか。我がガミラスは、ガルマン帝国よりも、ずっと大きな強大な国家だ。何か力になれるかも知れない」

 その女性は、ルカに渡されたハンカチで涙を拭うが、後から後から涙が溢れた。

「わ、私たちイスガルマン人は、遠い昔から、そして、これからもずっと、ガルマン人の奴隷なのです。気にする必要はありません。奴隷は、彼らに逆らって生きていくことは出来ないのですから。これが、私たちに与えられた運命なのです」

「一体、どうして? このような扱いに立ち上がって戦おうとする人はいないのか?」

 彼女は、憂鬱な表情で言った。

「遠い昔、私たちイスガルマン人は、ガルマン人を奴隷にしていたそうです。ある時から、立場が入れ替わり、それまでの私たちの行いをガルマン人は許そうとしませんでした。そうして、私たちは彼らの奴隷になることで、罪を償っているのです。未来永劫、私たちの民族が滅びるまで、これは続くでしょう」

 ルカは、救いの無い彼女の心を想い、手を握って寄り添うことしか出来なかった。

「心配なさらないで。救いなら、私たちにもあります。私たちガルマン帝国や、ボラー連邦で暮らす人々は、皆、マザー・シャルバートへ祈りを捧げます。いつの日か、私たち全員を救いに、マザーが現れてくれると。私たちは、それを心の拠り所にして、これからも耐えて行くのです」

 

 ルカは、話し終えると自らも涙を溢れさせた。

「未来永劫、奴隷だなどと彼女は言った。決して救いなど来るはずもない信仰を拠り所にすると。私は、結局彼女に何もしてやれなかった」

 そこにいた皆が、ルカの気持ちを痛いほど理解した。最初に、ランハルトが口を開いた。

「そういうことか。ガミラス人は、かつてイスカンダル人の奴隷だったということなんだな? だからといって、千年も昔のことを今でも引きずるとは、とても同じ民族だとは思えん。俺は、ガルマン人を絶対に許せない」

 ガゼルは、ランハルトに言った。

「気持ちはわかるが、これほど大きな国家に戦争を仕掛ける体力は我がガミラスには無い」

「そんなことはわかっている。だが、イスカンダル人が、あのような不当な扱いを受けているのを、マゼラン銀河の皆が知ったらどうだ?」

 熱く語るランハルトの背後に、ケールが血相を変えてやって来た。そして、押し殺した声で言った。

「大使。まずいです。引き返して下さい。アマール政府の庁舎を、ガルマン帝国兵が囲んでいます!」

 

 その頃、アマール星の衛星軌道上にいたヤマトでは、不穏な動きを掴んでいた。

 西条未来は、レーダーに多数の艦船が映って、ヤマトの周囲に集まってきているのを発見した。

「北野くん! 艦種不明の艦船三十隻、ガルマン帝国艦隊と識別! 囲まれてる!」

「何だって? おい、シンマイ! 波動防壁展開用意!」

「了解しました!」

 桐生の代わりに第一艦橋にいた新米は、波動防壁の展開準備を指示した。

「艦長には、艦の安全を最優先にしろと言われているが、どうする? 艦長たちを置いて逃げるしかないのか?」

 北野は、険しい表情で既にスクリーンに捉えたガルマン帝国艦隊の映像を睨んだ。そして、西条未来も、心配そうに北野を見つめていた。

 

続く…




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
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連邦の危機9 脱出

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「連邦の危機」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」の続編になります。


 少し前――。

 

 ガルマン帝国大使館では、大使のベラミーが、去って行く地球連邦とガミラスの一行を窓から見つめていた。

 不機嫌な表情で振り返ったベラミー大使は、部屋に呼び出した軍の将校に言った。

「バスク少将、平和的なやり方で地球連邦を同盟国にする試みは難しいということがわかった」

 バスク少将は、黙って冷ややかにベラミー大使を眺めていた。そして、静かな口調でベラミーに語りかけた。

「イスガルマン人にやらせた工作で、奴らをここに誘き寄せるのには成功している。交渉で懐柔するのが難しければ、次のプランに移るしかないな」

 ベラミーは憤慨した。

「うちの使用人が、交渉の場にしゃしゃり出てきたせいだ。あの程度の連中にわしが舐められるとは!」

 バスク少将は、冷徹な瞳でベラミー大使を見つめた。

「地球連邦は、急速に勢力を拡大し始めており、なかなか魅力的な戦力を持っている。我が西部方面軍が展開する宙域では、ボラー連邦が攻勢を強めており、戦線を維持する新たな協力者を求めていたところだ。今回の話し合いの状況を見守らせてもらったが、彼らの後ろ楯になっているガミラスの連中。はっきり言って、彼らは邪魔な存在だ。地球連邦に手出しをすれば、同盟国の彼らが黙っていないようだからな」

 ベラミー大使は、気になっていたその事を尋ねた。

「ガミラスの扱いを軍はどうするつもりなんだ?」

「軍の情報部の情報によれば、マゼラン銀河を支配する強大な国家だということはわかっている。この天の川銀河にも進出していた時期もあったようだが、国内で民主化運動があってだいぶ混乱しているようだ。こっちに戦力を裂く余裕は無いはずだ。しかし、地球連邦の為にどこまで彼らが動くのかは未知数だ」

 ベラミーは、もう一つ気になっていた事を聞いた。

「奴らが、我々と同じ民族だ、という噂については、何か情報はあるかね?」

 バスク少将は、少し考えを巡らせているようだった。

「我々が、千年前にマゼラン銀河から移民して、ここにガルマン帝国を興したという伝承については、恐らく真実だと思っている。彼らの姿を見る限り間違いなさそうだ。しかし、そんな昔のことが、今の我々に何か関係があるかね? これが、真実だとしても、既に彼らと我々は別の民族だよ」

 そこに、ガルマン帝国兵が部屋に入ってきた。

「バスク少将、西部方面軍司令部と連絡がつきました。プラン変更が承認されました」

 バスク少将は、微笑を浮かべた。

「ありがとう。では、ベラミー大使。これから、忙しくなるので、失礼させてもらうよ」

 そう言い残して、バスク少将は大使の執務室を出ていった。残されたベラミー大使は、ため息をついた。

「あの使用人ども。どうしてくれようか」

 ベラミー大使は、暗い怒りを再び沸き上がらせていた。

 

 アマール政府の庁舎では、庁舎を取り囲むガルマン帝国兵と、アマール軍の兵士が睨み合いを行っていた。

そこへ庁舎から出てきたアマール政府の関係者が抗議を行った。

「一体、どういうことですか? ここは、中立地帯です。戦闘行為は禁じられています」

 ガルマン帝国軍を率いていたリーダーがそこにやって来た。

「申し訳ない。我がガルマン帝国に対する破壊工作を行う者がいるという情報が入って捜索している。数日前にアマール政府の庁舎を訪れたという情報があってね。少しの間、邪魔をするよ」

「ここで、騒ぎを起こせば、ボラー連邦だって黙っていないかもしれない。こんなところで揉め事は起こさないで欲しい。すぐに退去して頂きたい!」

「君もせっかちだな。少しの間だけだと言っているだろう。それよりも、アマール軍の兵士が、我々に銃を向けるのを止めさせて欲しいのだが?」

 そこに、ガルマン帝国兵の伝令がやって来た。

「隊長! 発見しました。二ブロック先の通りを移動しています!」

「わかった! 皆、二ブロック先の通りだ。行け!」

 数十名のガルマン帝国兵が、一斉に移動を始めた。

 アマール政府の関係者と、アマール軍の兵士らは、唖然としてその様子を見守った。

「上に報告する。君らは、そのまま庁舎周辺の警戒を続けてくれ」

 アマール軍の兵士たちが周辺に散らばるのを見守って、政府の関係者は庁舎に引き返した。

 

 古代やランハルトを守るヤマトの保安部員は、彼らを庁舎とは別の方向へと誘導していた。

 しかし、彼らを取り囲むように、ガルマン帝国兵が周囲から迫って来ていた。

「一体、どうするつもりだ?」

 ランハルトは、兵士たちが自分たちに銃を向けるのを見た。

「ひぃ! ちょっと、まずいんじゃないですか?」

 桐生美影は、小さく悲鳴を上げた。

「発砲する気配はありません。我々を捕獲するのが目的だと思います」

 古代は、ランハルトに低い声で言った。

「何のために?」

 ランハルトは、古代に問い返した。

 そこに、ガルマン帝国兵のリーダーが近づいて来た。

「地球連邦とガミラスの者だな? 我々は、ガルマン帝国西部方面軍、アマール駐留軍の者だ。君らには、ガルマン帝国に対する破壊工作を企んだ疑いがある。我々と一緒に来てもらおう」

 それを聞いた古代は、少し考えてからランハルトに言った。

「恐らく、適当な理由をつけて捕虜にして、地球連邦に対して何か要求するつもりでしょう。あなた方ガミラスに対しても同様だと思います」

 ランハルトを守るように、彼の前に進み出たルカは、取り囲んだガルマン帝国兵の姿を見て、目を丸くした。そして小声で、ランハルトに報告した。

「デスラー大使。リーダーの男以外は、全員、イスガルマン人です」

 ランハルトと古代は、確かに一般兵たちが、イスガルマン人なのを確認した。

「なるほど。危険な役目は、全てイスガルマン人にやらせているんだな」

 ランハルトは、先ほど感じた怒りが、再び沸き上がるのを感じた。

「艦長! どうします?」

 銃を抜いてキャッスルの傍にいた揚羽が叫んだ。その揚羽に、冷静に古代は返した。

「発砲するな。銃を下ろせ」

 そんなやり取りをしている間に、ガルマン帝国兵のリーダーの目の前に、ゆっくりとガゼルが進み出た。

「おい、お前止まらんか!」

 ガルマン帝国兵のリーダーは、銃を向けて慌てて叫んだ。

 そのガゼルは、男が向ける銃口の目の前で腕を組んで仁王立ちしていた。そして、恐ろしい形相をして、その男に雷のような大きな声で言った。

「貴様ら、我々がマゼラン銀河を支配する大ガミラス帝星の者だと知って、このような愚行を犯しているのか! どれほど身の程知らずなことをやっているか、わかっておるのだろうな?」

 そう言って、ガゼルは、周囲を鋭い眼光で眺めた。ガゼルと目があった者は、恐怖心を露にしていた。

 そして、ガゼルはゆっくりとリーダーの男の方を再び真っ直ぐに睨み、低い声で言った。

「その銃を撃った瞬間、お前たちは大ガミラスとの全面戦争の引き金も引くことになる。その勇気があるなら、引き金を引いてみろ」

 ガゼルの眼光が、リーダーの男とぶつかり、彼は震えだした。そして、その震えで銃を向ける方向が定まらなくなっていた。

 古代とランハルトは、その様子を呆気にとられて見守っていた。

 そこに、ガルマン帝国兵の背後から、バスク少将がやって来た。

「これはこれは。見たところ、ガミラス軍の将校とお見受けするが。我が軍の兵士が失礼をしたようだ。まずは、嫌疑を晴らすためにも、我々と同行頂けますか? 因みに、私は……」

 バスク少将は、銃をガゼルに向けた。

「ガミラスなど恐れていませんよ?」

 ガゼルとその将校は、そのまま睨み合った。

 ガゼルは、ため息をついて言った。

「なるほど。どうやら、そのようだな」

「若い兵士を簡単に恐れさせるその威厳、感服致しました」

 バスクは、振り返って全員を連行するように指示をした。

 しかし、突然、そのバスク少将の足元に、何かが投げ込まれてきた。転がるそれを見たバスク少将は、慌てて大声を出した。

「伏せろ!」

 しかし、それは爆発はせずに、大量に煙を吐き出した。数秒で辺り一面が見えなくなるほど、煙が充満した。ガルマン帝国の兵士たちは混乱し、中には発砲する者もいた。

「馬鹿者! 味方に当たるぞ、撃つんじゃない!」

 バスク少将が叫んだ。

 煙の中、さすがに慌てたガゼルの腕を、突然誰かが掴んできた。

「こっちだ!」

 その誰かは、ゴーグルとマスクを着けており、ガミラス軍の制服を着ていた。その男は、古代やランハルトにも声をかけて、全員を誘導していった。そして、煙の中から抜け出すと、一気に走り出した。そして、少し離れたところに、ガミラス軍の揚陸挺が駐機していた。

「急げ! 脱出するぞ!」

 全員が、揚陸挺に乗り込むとすぐにそれは発進した。

 一行は、揚陸挺の後部の兵員用の座席について一息ついた。

「助かったー!」

 息を切らしていた桐生美影が、真っ先に言った。

 少し落ち着きを取り戻したガゼルは、連れ出してくれた男に礼を言った。

「助かったぞ。我が空母は、いつの間にこの星まで来ていたんだ?」

 男は、ゴーグルとマスクを取った。

「お、お前……」

 その男、フラーケンは不適な笑みを浮かべて言った。

「ずいぶんご無沙汰だったな、提督」

 

 揚陸挺は、アマールの上空に向けて急角度で上昇を続けた。しかし、地上から、ガルマン帝国軍と思われる航宙機が上がってきていた。

「隊長! 不味いです! 奴ら追ってくるみたいです!」

 操縦席からの声に、フラーケンが返答した。

「飛ばせ! 絶対に追い付かれるな!」

「これ、戦闘機じゃないんですよ? 無理です」

「それを何とかするのが、貴様の役目だろう!」

 泣き言を言う彼に、フラーケンは叫んだ。

 古代は、コックピットから聞こえる声が、薮のものと気が付いた。

「薮! 今まで一体、何をやっていたんだ?」

 古代は、薮に声をかけた。

「ごめんなさい! でも、今それどころじゃないです!」

 見かねたルカが、後部座席から立ち上がって、急いでコックピットに入っていった。副操縦席に滑りんだルカは、薮に言った。

「私に代われ! 早く!」

「あ、あんた、誰?」

「早くしろ! 死にたいのか!」

 薮は、頭をぶるぶると振って、操縦桿から手を離して、操縦を副操縦席に渡した。

「全員、シートベルト着用!」

 ルカが大声で叫んだ。その直後、上昇をしていた機体が、大きく傾いた。

 地表から上がってきたガルマン帝国軍の戦闘機は速度が早い為、急角度で方向を変えた揚陸挺を、一気に追い越して行った。

 そこでルカは、機体を立て直して、大気圏脱出用のブースターに点火した。シートベルトを装着した一行は強烈なGを感じていた。機体は、再び急角度で上昇して行った。旋回して戻ろうとしていたガルマン帝国の戦闘機は、今度は逆に揚陸挺に追い越されてしまった。

「おい、お前、名はなんと言う?」

 操縦桿を力一杯引き寄せながら、ルカは薮に声をかけた。

「や、ヤーブです」

「よし、ヤーブ! 大気圏外に出たら、どこに行けばいい? 母艦の位置をナビゲーションしろ!」

「あ、あっちです」

「あっち? ずいぶんと適当な指示だな? お前、それでもパイロットか!」

「ほ、本業は機関士なので……」

「はあ?」

 

 アマール星の軌道上では、ヤマトは三十隻程のガルマン帝国艦隊に囲まれていた。

 ヤマトのスクリーンには、ガルマン帝国艦隊の指揮官が映っていた。

「地球連邦の艦船に告ぐ。ガルマン帝国西部方面軍、アマール駐留艦隊司令官のキトロである。お前たちの降ろした乗員が、地表で我が帝国への破壊工作を行おうとしていた疑いがある。今すぐ、我々の臨検に応じるのだ」

 北野は、そのキトロ司令とスクリーンを介して対峙していた。

「こちら、地球連邦防衛軍航宙艦のヤマト副長の北野だ。我々は、外交交渉を目的にやって来た。そのようなことはするはずがない。申し訳ないが、臨検は拒否する!」

 キトロ司令は、不敵な笑みを浮かべていた。

「臨検を拒否するのか? ならば、強制的に停船させて乗り込ませてもらうしかないな」

 新米は、センサーの表示を見て叫んだ。

「敵艦隊の武器システムが一斉に稼働したと思われます!」

 北野は、歯を食い縛って相手を睨んだ。

「一分だけ待ってやろう。大人しく臨検を受けるか、その間に決めたまえ」

 唐突に通信が切れた。何も映っていないスクリーンを、北野は見つめ続けた。

「副長! 艦長に連絡がつきました!」

 相原が突然報告してきた。

「本当ですか、相原さん! 艦長たちは今どこに?」

 相原は、古代と会話をしているようだった。

「や、薮? はい、はい……」

 相原は、北野に再び報告した。

「艦長たちは、地上でガルマン帝国軍に捕まりそうになって、脱出してきたそうです。間もなく大気圏外に出るそうです」

 北野は、期待を込めた眼差しで、西条未来の方を振り返った。

「レーダーにも捉えました。ガミラス軍の揚陸挺が、すぐ近くに上がって来ます!」

 北野は、それを聞いて決意を固めた。

「よし、その近くに行くぞ! 太田さん、頼みます!」

「了解、よーそろー」

 ヤマトは、補助エンジンを咆哮させて、ゆっくりとその場を離れた始めた。

 

「司令! 敵艦が移動を始めました」

 キトロ司令は、その動きに呆れていた。

「この数の艦隊に囲まれて、逃げられると思っているのか? 沈めるつもりではなかったのだが、仕方がない。全艦、後部エンジン噴射口を集中して狙え! 攻撃開始!」

 

「攻撃、来ます!」

 敵の艦隊の陽電子砲が、一斉に火を吹こうとしているのを新米は感知していた。それを聞いた北野は、即座に指示をした。

「波動防壁、展開開始!」

「了解、波動防壁展開します!」

 北野は、続いて指示を出した。

「太田さん、古代さんたちが乗る揚陸挺に、攻撃が当たらないように、盾になるように移動してください!」

「任せろ!」

 太田は、レーダーと連動して表示される三次元モニターを見ながら、舵を切った。

 

 その時、ガルマン帝国艦隊が発射した陽電子砲のビームが、一斉にヤマトに着弾した。いずれも、ヤマトの波動防壁に阻まれて、全く効果を与えなかった。

「全弾命中! ……敵艦は無傷です!」

「なんだと?」

 キトロ司令は、その報告に驚いていた。

「何か、バリアのようなものを展開しているようです」

「バリアだと? 何という忌々しい船だ。全艦、そのまま攻撃を続けろ!」

 

 ルカは、大気圏に飛び出した途端、激しい攻撃が飛来していることを確認した。

「見ろ! ヤマトが、攻撃されているぞ!」

 そのヤマトは、ゆっくりと揚陸挺に覆い被さるようにして航行していた。

「ヤマト……」

 薮は、その懐かしい姿に郷愁を覚えていた。

「ヤーブ!」

 フラーケンは、薮に声をかけた。

「は、はい! ハイニ副長、こちらヤーブ! 今すぐ浮上して下さい!」

 薮が通信機で呼び掛けると、その相手が応答してきた。

「お、おう。ヤーブ、何か、そっちやばくね?」

「いいから、早く!」

「しょうがねぇなぁ。おい! 野郎ども、次元タンクブロー!」

 十数秒後、ゆっくりと次元潜航艦が異次元から姿を現した。

 

「レーダーに感! 目の前にガミラス軍の次元潜航艦が現れました!」

 西条未来が驚きの声で叫んだ。

「次元潜航艦だって?」

 北野も、目前に次元潜航艦が現れたのを目撃した。

「太田さん!」

「わかってる!」

 ヤマトは、その場で急制動をかけて、右舷に旋回して停止した。敵艦の陽電子砲から、今度は次元潜航艦を庇っていた。

 

 フラーケンは、ルカに叫んだ。

「次元潜航艦の後部に接舷しろ!」

「了解!」

揚陸挺は、急激に速度を落として、次元潜航艦の後部甲板に接舷した。

「ハイニ! 急速潜航!」

 フラーケンは、操縦席までやって来て、副長のハイニに指示をした。

「了解、隊長。おい、ベント開け!」

 次元潜航艦は、急速に潜航を始めた。

 

ヤマトでも西条未来は、次元潜航艦が完全に潜航したことを確認した。

「副長、次元潜航艦、レーダーから消えました!」

 北野は、すぐに徳川に指示をした。

「徳川! 波動エンジン始動! 俺たちもアマール星を脱出するぞ!」

「了解!」

 徳川太助は、機関室に艦内通信で伝達した。

「波動エンジン、全力運転だ。急げ!」

 やがて、ヤマトは波動エンジンを咆哮させて、アマール星を離れ始めた。

「北野くん! ガルマン帝国艦隊が追って来る!」

「わかった!」

 北野は、冷静に太田に言った。

「太田さん、ワープして星系外のガミラス艦隊と合流しましょう」

「了解、副長」

 太田は、北野に親指を立てて付き出してきた。

「お前も、指揮官らしくなったな」

 太田は、ワープの準備を進めながら言った。

「そ、そうですかね?」

「未来ちゃんは、北野をちゃんと副長、って呼ばなきゃダメだぞ」

 太田は、西条未来の方を振り返ってにやりと笑った。

「あ、そ、そういえばそうですね……ごめんなさい、北野くん、じゃなかった、副長」

「あ、ああ。西条さん、俺は別にいいんだけど……」

「はいはい、その話は後でね! ワープ十秒前!」

 ヤマトの後方から、陽電子砲のビームが次々に飛来していた。

 しかし、ヤマトがワープした為、虚しく虚空にビームが伸びて行った。

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


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連邦の危機10 それぞれの思惑

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「連邦の危機」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」の続編になります。


 画面越しに三人が顔を付き合わせて、やり取りをしていた。それぞれの主張は平行線で、まとまりがなかった。

「中立地帯で戦闘行為は禁止しています。あなた方は、このサイラム星系におけるルールを破った」

 アマール政府のサリム外務次官は、ガルマン帝国のベラミー大使に抗議していた。

「駐留軍に加えて、三十隻もの艦隊をこの中立のサイラム星系に入れるとは、どういうつもりかね? そちらが、そのつもりなら、我々も黙っている訳にはいかない」

 ボラー連邦のジャミラロワ大使は、冷たい視線を画面から向けていた。

 二人の言い分を聞いたベラミー大使は、笑いながら言った。

「我が国に対して破壊工作を計画している者がいると情報が入ったのだ。確認すると、我々の帝国の外からやって来た者たちだった。しかも、艦隊をこの星系付近まで連れて来ていた。逮捕して尋問したり、船の臨検ぐらいする権利はあるはずだ」

「それはわかっています。そのような行為は、我々アマール政府とあなた方三者の条約によって、認められています。私がお話ししているのは、戦闘行為のことです。特に、戦闘機で追い掛けたり、ましてや、艦隊で砲撃戦など、言語道断です」

「奴らが、逃げるので、仕方なくやった処置だ」

 ベラミー大使は、面倒そうな表情になった。

「ならば、我々も、星系に駐留させる軍を増強して、有事に備えさせてもらわなければな」

「ジャミラロワ大使。それも、条約違反です。アマール軍の艦隊や兵士などの五パーセント以下しか、両者共に駐留は認められていません。既に、五パーセントの上限一杯まで、駐留していますよね」

 ジャミラロワ大使は笑いだした。

「ならば、政府間の条約改正に関する話し合いの場を設けよう」

 ベラミー大使も、つられて笑った。

「そうだな。ぜひ話し合いで決着をつけよう」

 アマール政府のサリム外務次官は、不快な表情になった。

「これ以上は、我が国の主権に関わる問題です。ここアマール星は既に、銀河系中のあらゆる民族が平和的な交流と貿易を行う為の重要な拠点になっていて、自治権が認められています。これ以上の紛争の火種は、互いに何のメリットもないはずです」

 ベラミーとジャミラロワの二人の大使は、サリム外務次官を見て静かに笑った。

「君の言うとおりだが、ここは、あくまでボラー連邦とガルマン帝国の話し合いによって成立している場所であることを忘れてもらっては困る」

「むしろ、両国が軍隊を増強した方が、不法行為を行う輩を、今回のようにすぐに排除出来る。これは、検討に値すると思わんね?」

 サリム外務次官は、静かに笑う二人に怒りを感じていた。

「いいでしょう。いずれにせよ、三者での会合は行いましょう。少なくとも、今のルールでは、条約破りなのは、間違いありませんから、すぐに艦隊をお引き取り願います」

 

 その頃、ガルマン帝国のバスク少将は、アマール駐留軍に一時的に合流していた西部方面軍第十五艦隊旗艦に通信で連絡し、サイラム星系からの離脱を指示していた。

「西部方面軍司令部から、プラン変更が承認された。これより、地球連邦政府に対して、本格的に武力による圧力を加える。まずは、本隊から派遣される別の艦隊と合流し、彼らの勢力拡大阻止に向かって欲しい。再び我々との交渉のテーブルにつかせるのが目的だ。地球連邦は、我がガルマン帝国の一部となってもらうのが、最終目標だ。彼らの同盟国ガミラスの動きによって、更なるプラン変更もあり得るが、現時点で司令部は、ガミラスは戦力をほとんど裂くことはないだろうと予想している。彼らの動きにも注意しつつ、作戦を遂行してくれ」

 ガルマン帝国第十五艦隊は、その指示を受けて、別の艦隊との合流地点へと向かって行った。

 

 一方その頃、ヤマトはワープしてアマール星を離脱し、サイラム星系外に待機していたガミラス護衛艦隊と合流していた。

 その艦隊の集結する中央に、次元潜航挺は堂々と浮上していた。

 フラーケンの部下は、揚陸挺に乗り込んで来ると、古代やランハルトの一行と対峙していた。

「では、ガゼル提督。それから他の皆さんも。ここからお引き取り願いたい。この揚陸挺を使ってもらっても構わない」

 ガゼルは、フラーケンに問いただした。

「何を馬鹿な。お前は、どうするんだ?」

 フラーケンは、不敵な笑みを浮かべて言った。

「俺たちは、もともとディッツ提督から、隠密行動で自由に行動をする裁量を与えられている。そのうちに戻ると言っておいてくれ」

 ランハルトは、ガゼルの横でフラーケンを見つめていた。

「……お前たちは、叔父と一緒にいるんだろう?」

 フラーケンは、にやりと笑った。

「さあてな。さっきは助けてやったのだから、あまり俺たちの事は詮索して欲しくないな」

 古代は、薮に話しかけていた。

「薮。ヤマトで反乱を起こした者たちは、地球帰還後に全員情状酌量を持って許された。戻っても何も問題はない。戻って来ないか?」

 それを聞いた薮は、一瞬心が揺らいだ。しかし、意を決して言った。

「古代さん。確かに帰りたくないと言ったら嘘になります。でも俺は、ここに居場所を見つけたんです。まだ、しばらくは隊長たちと一緒にやって行きたい」

 フラーケンは、薮の方をちらりと見て言った。

「いいのか? それで」

 薮は、フラーケンを見て恐る恐る言った。

「隊長、嘘をついてすいません。俺、本当はテロン人だったんです。許されるなら、まだ一緒にやっていきたいんですが……」

 フラーケンは、笑った。

「薄々は気づいていたさ。お前、ザルツ語もガミラス語も喋れなかったからな。お前がいなければ、この艦は動かん。引き続き、よろしく頼むぞ」

「隊長……」

 薮は、嬉し涙を浮かべていた。

 それを見た古代は、小さくため息をついて言った。

「わかった……。司令部の藤堂長官にも、君が正式にガミラス軍への異動を希望していると伝えておこう」

 薮は、フラーケンと古代の顔を交互に見て、涙ぐんだ。

「いろいろと、ご迷惑をおかけして、ごめんなさい」

 古代は、フラーケンの方を向いて言った。

「薮のこと、よろしくお願い致します」

「今のこいつの名は、ヤーブだ。よろしくも何も、ヤーブは俺の大切な部下だ」

 古代も、笑顔で言った。

「ヤーブ……。では、また会うのを楽しみにしています」

 古代は、二人を真剣な表情で見つめて、静かに敬礼した。

 

 ヤマトに戻った古代とキャッスルは、亜空間通信で、地球連邦に連絡をしていた。艦長室の端末のスクリーンには、ライアン外務長官が映っていた。キャッスルは、ライアンに促されて報告をした。

「どうやら、ガルマン帝国は、我々とまともに話し合う気は無いようです。我々が破壊工作を計画していると嫌疑をかけられ、それを理由に捕まりそうになりました。たった今、やむを得ず脱出してきたところです」

 ライアンは、報告を思案していた。

「ふむ。そうなると、普通に交渉するのは難しい状況だな。大統領にも報告して、今後の対策を検討するよ。一度帰還してもらうしかないな。古代艦長、軍にも言っておくので、ヤマトを帰還させてくれ」

「わかりました」

 

 報告を終えた古代は、第一艦橋に行くと、すぐに相原に声をかけた。

「ガミラス艦隊のガゼル司令に繋いでくれ」

「はい。少しお待ち下さい」

 スクリーンに、空母ダレイラのガゼル司令とランハルトが現れた。

「デスラー大使、ガゼル司令。地球連邦政府に今回の報告をしました。対策を検討するため、帰還命令が出ました」

 ガゼル司令は、頷いて言った。

「そうだろうな。こちらは、大使とも話し合ったが、別行動をすることにする。暫くこの付近の宙域に留まるつもりだ」

 古代は、少し意外に思っていた。

「どうされるおつもりですか?」

 今度は、ランハルトが口を開いた。

「俺たちも、本星に今回のことを報告して、指示を仰ぐ予定だ。本星に亜空間通信が可能な宙域がこの近傍にあるので、まずはそこに向かう」

「なるほど、わかりました。くれぐれも、お気をつけて」

「そっちもな。単艦での行動は慣れているとは思うが」

「ありがとうございます。ではまた。通信終わり」

 古代は、敬礼して通信を切った。

 古代は、艦内通信のマイクを掴んで艦内に指示を伝えた。

「皆、聞いてくれ。ガルマン帝国との交渉は不調に終わった。帰還命令が出ているため、これより地球に向けて出発する。総員、発進準備」

 古代は、マイクを切ると、第一艦橋の乗組員に声をかけた。

「太田、徳川、ワープしてここを離脱する。すぐに準備して、発進させてくれ」

「了解、艦長」

「わかりました」

 ヤマトは、波動エンジンを咆哮させて、ゆっくりとガミラス護衛艦隊から離れて行った。

 

 空母ダレイラでは、ヤマトがワープしてレーダーの探知範囲から消えたのを確認していた。

 ガゼル司令は、全艦に通達した。

「我々は、これより、以前放棄した銀河方面軍基地に立ち寄って、本星と連絡を取る。発進準備急げ!」

 通信を切ったガゼル司令は、ランハルトに話しかけた。

「本星は動くと思うか?」

 ランハルトは、艦橋の窓の外の宇宙を見ながら考えていた。

「イスガルマン人の問題を、せいぜい訴えてみるさ。だが、それでも、その余裕は無いだろうな」

「ガルマン帝国は、恐らく地球連邦に何か仕掛けて来るだろう。本星が動かなければ、巻き込まれぬよう、我々も一時退避するしかない」

 ランハルトは頷いた。

「わかっている。同盟国だというのにな……」

 

 暫くすると、ガミラス護衛艦隊も、発進してその宙域を離れ、ワープして消えた。

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
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連邦の危機11 北米第七艦隊の死闘

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「連邦の危機」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」の続編になります。


 北米第七艦隊は、僚艦アンティータムとチャンセラーズビルが撃沈された太陽系外の探査宙域に到達していた。前にアンドロメダとムツが設置した小型の監視装置に反応があり、土方の極東艦隊との合同訓練を抜けて、全艦でこの宙域を訪れていたのだった。

 この第七艦隊は、米国として初の波動エンジン搭載型艦船のみで構成された艦隊である。

 波動砲搭載型巡洋艦五、ミサイル巡洋艦五、そして駆逐艦十、補給艦と特務艦五の二十五隻からなる艦隊だった。

 艦隊旗艦の特務司令艦フィラデルフィアの戦闘指揮所では、艦隊司令官のフレデリック・スコーク宙将が、艦隊のイージスシステムをフルに稼働させ、周囲の警戒を強化させていた。

「無人機を出して、周囲の監視を強化しておこう。波動砲搭載艦は、全艦で波動防壁展開を用意。それ以外の艦は、イージスシステムが頼りだな。全艦に警戒を怠るなと言っておいてくれ」

 小型無人機を多数搭載した特務艦から、一斉に無人機が飛び立った。これが周囲に展開すると、レーダーの探知範囲が通常の二倍に延びるのだ。

 こうして北米第七艦隊は、監視の目を強化して暫くの間その宙域に留まっていた。

 

「スコーク宙将。レーダーに感。接近する艦隊がいます。艦種識別出来ません。未知の宇宙艦隊です」

 スコーク宙将は、戦闘指揮所のスクリーンに映るレーダーの表示を確認して、冷静に指示を出した。

「全艦に戦闘配置を通達。お客さんだ」

「接近する艦隊、五十隻程レーダーが艦影を捉えました。無人機による映像を出します」

 別のスクリーンに、無人機が撮影した映像が映っていた。

「この映像を、極東艦隊のヤマトが中立地帯で収集したデータとの照合は出来るか?」

「既に照合中です。今、結果が出ました。一部の艦が同型艦と出ています。陽電子砲を複数門装備した駆逐艦クラスの艦船です」

 スコーク中将は、やはりと思っていた。

「ガルマン帝国艦隊で間違いないな」

 

 ガルマン帝国西部方面軍第十五艦隊と第十三艦隊からなる艦隊でも、北米第七艦隊を捉えていた。

「キール司令、地球連邦の艦隊を発見しました。撒いた餌に食らいついたようです。敵は、二十五隻からなる小規模艦隊です」

 艦隊司令のキールは、すぐに全艦に通達した。

「全艦に通達! 地球連邦の艦隊に警告を与える。全艦戦闘配置につけ!」

 

「スコーク宙将、先方から通信が入っています」

 スコーク宙将は、傍にあった通信機のマイクを掴んだ。

「繋いでくれたまえ」

 通信士の士官が、通信を受信すると、戦闘指揮所のスクリーンに、ガルマン帝国艦隊の司令官と思われる人物が映し出された。

「こちらは、ガルマン帝国西部方面軍艦隊のキールである。そちらは地球連邦の艦隊だな? ここで、何をやっている?」

 スコーク宙将は、ガミラス人のような風貌の相手を見て、情報通りと思っていた。

「こちらは、地球連邦防衛軍北米第七艦隊、艦隊司令のスコークだ。すぐ近くに二隻の残骸が漂っているのがわかるかね? 何者かに撃沈された我々の僚艦だ。これを、誰がやったのかを調査している」

 キール司令は、頷いた。

「我々ではないな」

 スコーク宙将は、冷静に返答をした。

「地球連邦の星系内でも、最近何者かによるテロが繰り返され、調査の結果、貴国内のイスガルマン人が実行犯と断定するに至った。我々は、僚艦の撃沈も、貴国内の何者かが実行したと疑いを持っている」

 キール司令は、余裕たっぷりに回答をした。

「スコーク司令。我がガルマン帝国は、地球連邦政府がアマール大使館を通じて、テロの被害を受けたと訴えていると報告を受けた。しかし一方で、大使館にやって来た者たちは、我が帝国に対する破壊工作を企んでいたと情報を得ている。それが発覚しそうになると、逃亡してしまった。そして今度は、艦船の被害も我々のせいだと言うのかね」

 スコーク宙将は、相手が言い掛かりをつけてきているのを認識して、努めて冷静に話した。

「そこまでは言っていない。今は、疑いを持っている、という段階だ。それから、我々が破壊工作をやろうとしていたという件は、事実無根だ」

「それはどうかな? 自作自演をして、我々に攻撃する口実を得ようとしているのではないか? これが我がガルマン帝国政府の見解だ」

 スコーク宙将は、怒りを感じて不快な表情になった。

「それは、根拠のない言い掛かりだ」

 キールは、薄ら笑いを浮かべて言った。

「我がガルマン帝国は、地球連邦に対して強く抗議する。その為、現在我が国の艦隊が、地球連邦に向かおうとしている。我々は、その先陣としてここにやって来た。しかし、ここで発見した君の艦隊は、既に我が国に対する攻撃を準備しているものと判断せざるを得ない。我がガルマン帝国に対する不当な行為が、何をもたらすか、身をもって理解するといい」

 唐突に通信が切れた。

 スコーク宙将は、急いで全艦に通達した。

「全艦、ガルマン帝国艦隊の攻撃が来る! 迎撃に備えよ!」

 

 通信を切ったキール司令は、全艦に通達した。

「全艦、地球連邦艦隊に向け、攻撃開始!」

 ガルマン帝国艦隊の二十余隻の駆逐艦は、一斉に陽電子砲の砲撃を開始した。

 

 北米第七艦隊では、イージスシステムが敵艦隊の陽電子砲の砲撃を探知し、自動迎撃システムが稼働した。

「敵艦隊の陽電子砲の砲撃を探知、自動迎撃システムが同時に三十の目標に迎撃を開始します」

 艦隊のミサイル巡洋艦五隻から、一斉に三十発の陽電子砲無効化用迎撃ミサイルが発射された。

 スコーク宙将は、黙ってスクリーンに映るイージスシステムが捉えた目標群の光点を、固唾を飲んで見つめた。

「迎撃ミサイル、各自システムが決めた所定の位置で自爆して陽電子砲を無効化します」

 北米第七艦隊の少し離れた場所で、一斉に迎撃ミサイルが自爆した。陽電子砲のビームは、自爆した場所で無効化され、ビームが消滅した。

「迎撃成功! 効果は一分間持続します」

「よし! ミサイル巡洋艦は、次弾装填して待機」

 その間にも、ガルマン帝国艦隊の砲撃は止まず、次々にビームが迎撃ミサイルが生成した無効化空間に吸い込まれて行った。

 

「キール司令、敵艦隊の目前で、陽電子砲のビームが消失しています!」

 キール司令は呆れていた。

「また、バリアだというのか? 地球連邦の艦隊は、そんな装備を全艦に搭載しているというのか? 駆逐艦は、そのまま砲撃を続行! 合わせて巡洋艦からミサイルを一斉に発射しろ」

 ガルマン帝国艦隊の巡洋艦十隻が位置を変え、上部ミサイル発射口から、一斉にミサイルが発射された。

 

「間もなく、陽電子砲の無効化空間が効力を失います。システムが自動的に判断して、ミサイル巡洋艦から次弾発射しました」

「敵艦からミサイル三十基の発射を感知。イージスシステムが一斉に目標を捕捉。波動砲搭載型巡洋艦より、通常迎撃ミサイル三十基発射されました」

 スコーク宙将は、スクリーンに映る敵ミサイルに向かう自軍の迎撃ミサイルを祈るような気持ちで見つめた。

 戦闘指揮所の乗員も、全員でそれを見守った。一人の士官が一言呟いた。

「当たれ……」

 北米艦隊の直上から接近していた敵ミサイルに、次々に迎撃ミサイルが命中して爆発した。まるで、太陽が出現したかのように、真っ暗な宇宙空間が明るく照らし出された。

「敵ミサイルの撃ち漏らし三基接近!」

「パルスレーザー砲台、撃て!」

 北米艦隊を護衛する駆逐艦群は、一斉にパルスレーザー砲をミサイルに向けて発射した。レーダーに連動して自動追尾して、艦隊のすぐ近くでミサイルは撃破された。

「敵ミサイル、迎撃成功です!」

 スコーク宙将は、マイクを掴んで全艦に通達した。

「我々は、明確な敵艦隊の攻撃を受けた。これより、反撃を開始する。全艦、全武器システムを起動!」

 駆逐艦と巡洋艦各艦は敵艦を捕捉して、ショックカノンの砲門をそれぞれ向けた。

「まずは、無人機の攻撃準備!」

 最初に射出した無人機は、一斉に敵艦隊の真上に移動し、一定の離れた位置で静止した。

「スコーク宙将。無人機、位置につきました。想定通り、敵艦隊はデブリと誤認識していると思われます」

「いいぞ、今だ! 攻撃開始!」

 敵艦隊の直上に展開した無人機から、一斉に小型ミサイルが発射された。

 

「キール司令! 艦隊の真上に敵のミサイル多数!」

「何だと! 至急迎撃しろ!」

「間に合いません!」

 無人機から放たれたミサイルは、対空機銃によって、一部が撃墜されたが、次々にガルマン帝国艦隊のすぐ近くの真上で爆発した。

「敵ミサイルの爆発の影響でレーダーが破損したようです。レーダーが正常に表示されません!」

 キール司令の顔は青ざめた。

「馬鹿な……。これでは、我々は敵の的だ……」

 

「各艦、陽電子砲、およびショックカノンの照準の自動追尾設定完了しました!」

 スコーク宙将は、全艦に通達した。

「全艦、砲撃開始!」

 北米第七艦隊は、一斉に砲撃を開始した。

 陽電子砲と、ショックカノンのビームが、ガルマン帝国艦隊に向かって行った。

 

「回避ー!」

 全艦に響き渡ったその声も虚しく、北米第七艦隊の放った砲撃が、ガルマン帝国艦隊の駆逐艦に次々に命中した。

 この攻撃で、駆逐艦三隻が撃沈して、大爆発を起こした。他の駆逐艦にも、砲撃が命中して、一部は、大破して航行不能になっていた。

 航行不能になった駆逐艦では、指揮官のガルマン人が、脱出しようとしていた。

「お前たち、後は任せた。何とかして艦隊を守るのだ」

 そう言い残したガルマン人の艦長は、脱出ポッドで脱出して行った。

 残されたイスガルマン人の士官らは、困惑していた。

「現在のこの艦の最高位の者は?」

「中尉、あなただよ」

「まさか、俺が?」

「ガルマン人の偉いさんは、全員脱出した」

「そうは言っても、この艦は航行不能だ」

「的になってでも、艦隊を守れと言う命令だろう?」

「俺たちも脱出しよう」

「お前、知らないのか? そんなことをすれば、味方に敵前逃亡で処刑される。ここで死んだ方がましってもんだ」

 イスガルマン人の士官たちは、嘆きながら、大破した艦に留まっていた。

 

 スコーク宙将は、ガルマン帝国艦隊の一部を撃沈したことを確認して、相手に通信を送った。

 すぐにスクリーンに、再びキール司令が映っていた。彼は、憎々しげな表情で、スコークを睨んでいた。

「キール司令。我々は、これ以上の戦闘は望まない。撤退して頂きたい」

 キールは、にやりと笑っていた。

「こんなことをしでかしておいて、随分余裕があるではないか。我が国に対する宣戦布告と受け取ってよいのだな?」

 スコーク宙将は、冷静に返答をした。

「我々は、攻撃を受けて危険を感じたので、艦隊の防衛をしたまでだ。これ以上の戦いは本意ではない」

 キールの表情は、怒りに染まり、わなわなと震えていた。

 その時、ガルマン帝国艦隊の背後から、何かが現れ始めた。

 戦闘指揮所の士官が、通信中に報告を入れてきた。

「スコーク司令……。敵艦隊の増援がワープで現れました。更に五十隻、合計百隻以上の反応があります」

 キール司令の表情は、再び緩み始め、にたにたと笑っていた。

「やっと来たようだ。本隊の増援部隊だ。この数を相手に、どうするかね? スコーク司令」

 スコーク宙将は、即座に通信を切ると、全艦に指令を出した。

「全艦、これ以上ここに留まると、全滅の恐れがある。ワープで離脱して地球の極東艦隊と合流するぞ」

 北米艦隊は、艦を回頭させ、一斉に後退を始めた。

 キール司令は、全艦に指示をした。

「逃がすな!」

 しかし、一歩早く地球艦隊の方が先に動いた。

「ワープ!」

 地球艦隊は、一斉にワープして、その場から消えていった。

 

続く…




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


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連邦の危機12 連邦の決断

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「連邦の危機」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」の続編になります。


 ワシントンの地球連邦政府では、関係者全体が集まった会合を行っていた。そこは、これまで収集した情報を共有し、ガルマン帝国に対する対応策を検討する場だった。

 連邦捜査局のエマーソン長官が発言していた。

「中立地帯に派遣した極東艦隊のヤマトの報告により、テロ活動を行っていたのは、ガルマン帝国に属するイスガルマン人と断定するに至りました。これまでのガミラス政府から提供された情報では、ガルマン帝国は、千年前にガミラス人とイスカンダル人が別れて建国された国家で間違いありません。ガルマン人は、ガミラス人と同一民族、そして、イスガルマン人は、同様にイスカンダル人と同一民族です。ガルマン人は、長年、イスガルマン人を奴隷のように扱ってきており、自爆テロを行っていたのも、ガルマン人の命令である可能性が非常に高いでしょう」

 その後を、外務長官のライアンが引き取った。

「ヤマトで派遣した外務省の事務次官の報告によれば、外交交渉は、完全に失敗に終わりました。少なくとも、アマール駐在大使を始めとして、西部方面軍と呼ばれる軍人は、虚偽の報告によって動いています。その目的は、我々をガルマン帝国へ取り込み、ボラー連邦と戦う戦力としようとしていることは明らかです」

 続いて、ウィルソン防衛省長官が発言した。

「北米艦隊は、ガルマン帝国艦隊の攻撃を受け、初めて交戦しました。先ほどの虚偽の報告、つまり我々が自作自演でガルマン帝国に危害を加えようとしていると、交戦した艦隊指揮官の発言もありました。撃沈された北米艦隊の二隻も、我々の自作自演だと言っております。地球連邦への抗議の為、艦隊を差し向けているとの発言もありました。間違いなく、地球連邦を強制的に併合するか、植民地化するつもりでしょう。北米艦隊が確認した百隻以上の艦隊が、既に地球連邦に向けて移動中と推測されます。もはや、一刻の猶予もありません」

 それぞれの報告を受けたダグラス副大統領は、深く刻まれた眉間の皺を伸ばしていた。

「こんな時に、チャールズ大統領は、まだ意識不明の状態だとは。私が、こんな重大な事を決めなければならないのか?」

 ウィルソン防衛省長官は、そんなダグラス副大統領に追い討ちをかけた。

「大統領。考えている余裕はありません。亜空間通信用の小型リレーに載せたセンサーが、太陽系から十数光年の位置で、何者かが接近していると感知しています。ワープすれば、数日以内に来れる距離です。地球防衛艦隊を出すしかありません」

 ダグラスは、苦しそうな表情で言った。

「どう考えても、敵に対して艦隊の数が足りんだろう。外交交渉で、何とかする道は無いのか?」

 ライアンは、残念そうに首を振った。

 勢い込んで、ウィルソン防衛省長官は捲し立てた。

「その為の波動砲搭載型艦船です。新型の拡散波動砲は、一隻で数百隻の艦隊と戦う能力があります。先制攻撃で、我々に手を出すとどうなるかわからせて撤退させるのです!」

「それで? 我々の手の内を全てさらけ出して勝利した後は? 敵は、何十万隻もの艦隊を抱えている可能性があるのではなかったかね? それに打ち勝つことが本当に可能なのかね? どうなんだ?」

 その問いに、会議の場は、静まり返った。ウィルソンだけが、それに返答した。

「波動砲搭載艦があれば、ある程度の数であれば持ちこたえられると思います。ボラー連邦と対立しているガルマン帝国が、全軍で地球に攻めてくる可能性は低いでしょう」

 それでも、ダグラス副大統領は、一つの懸念を口にした。

「問題はまだある。イスガルマン人の存在だ。もともと、波動砲を先行して開発したのは、イスカンダル人だ。ガルマン人の奴隷のように扱われている彼らが、波動砲を開発させられているとは、思わんのかね?」

 勢いよく話していたウィルソンが、押し黙った。そして、苦渋の表情でそれに回答した。

「防衛省でも、その懸念は既に検討しました。確かにその可能性はあります」

「防衛省では、どのぐらいの確率と考えているのかね?」

 ウィルソンは、言い難そうにしていた。

「言いたまえ!」

 ダグラス副大統領は、会議テーブルを思い切り叩いた。

 仕方なく、ウィルソンは、渋々それに答えた。

「およそ、七十パーセント程度と考えています」

 ダグラス副大統領は落胆した。

「もし、ガルマン帝国が、波動砲搭載型艦船を抱えているとしたら、戦う前から結果はわかっている。我々の完全な敗北だ……」

 ダグラス副大統領は、助けを求めるように、ライアンを見た。

「同盟国のガミラスに、我々を支援するように依頼出来んのか?」

「ガミラス政府とは、現在コンタクトが取れません。大使館も大使が不在で、沈黙を続けています。彼らの事情は、私もよくわかっています。いくら同盟国とは言え、自国のことで手一杯で、こちらに裂く充分な戦力は無いでしょう。それに、ガルマン帝国と対立するような事を構えるつもりは無いでしょう。申し訳ありませんが、今は我々だけで何とかするしか無いと思います。引き続き、コンタクトは続けてみますが……」

 ダグラス副大統領は、ライアンに向かってため息をついた。

「こんな時に、ガミラスは何の役にも立たん。波動砲の技術供与をしてやったと言うのに……。引き続きコンタクトは続けてくれ」

 ダグラス副大統領は、周囲を見回した。それぞれの省の代表者や、軍の高官らが、各々勝手に議論を始めて、議場はざわざわとしていた。

 政府の中枢のこれだけのメンバーが集まって、確実に連邦が有利に事を運べる情報が出てこない。このままでは、せいぜい、全力で戦いに挑んで、勝利の可能性にかける程度の結論しか出せそうもない。ダグラスは、つくづく、大統領職など、有事の際に引き受けるものではない、と後悔の念に襲われた。もはや、一刻の猶予も無く、ここで決断を下さねばならなかった。

 ダグラスは、末席に座って発言を控えている一人の東洋人の方を見た。その人物も、静かに自分の方を見ており、目が合った。二人は暫し目を合わせたまま、互いの心中を探ろうとしていた。

 そして、ダグラス副大統領は、意を決してその人物に話しかけた。

「……藤堂くん。君の意見を聞かせてくれないか」

 会議に極東管区防衛軍代表として参加していた藤堂長官に話がふられた。

「大統領。我々、極東管区は、政府の決定に従うまでです」

 ダグラス副大統領は、手を振って言った。

「綺麗事はいい。君らは、ガミラス戦争で我々の地球を救った最後の希望だった。このような時だからこそ、是非、君の意見を聞きたい」

 藤堂長官は、ほんの少しだけ思案して言った。

「それでは、失礼を承知で私の意見を述べます。……防衛艦隊を出すべきでしょう。先程の、ガルマン帝国が、波動砲搭載型艦船を持っているかどうか、という点ですが、私が思うに、ガルマン帝国は、とうの昔に、ボラー連邦との戦争に勝利しているでしょう。戦力のバランスは崩れ、圧倒的にガルマン帝国が有利になっているでしょう。ただの推測に過ぎませんが、彼らが波動砲搭載型艦船を持っていない証拠だと考えます。もし仮に、波動砲を使えることが分かったのであれば、その場で降伏するしか無いでしょう。彼らの目的は、我々がボラー連邦と戦える戦力として活用しようというものです。そうであれば、我々が降伏した場合でも、ある程度主権は侵害されるでしょうが、ガミラス戦争の時のように、国民が死に絶える恐怖に怯える必要は無いと思います。ならば、ここは一縷の望みにかけ、彼らを撤退させる戦いに賭けるべきだと、私は思います」

 藤堂長官は、強い意思を持って副大統領に具申した。

 ダグラス副大統領は、うっすらと笑みを浮かべた。

「ガミラス戦争が始まった時、早々に前線に出た我々米国を始めとした大国は、早い段階で全滅した。後衛にいた君ら日本艦隊が、最終的に人類を救う事になるとは、当時は全く期待していなかったことだ。今日のような絶望的な会議は、本当に久しぶりだ。どうしても、思い出してしまってね。君らに期待してしまうのだよ」

 ダグラス副大統領は、寂しそうに遠くを見る目をしている。

 藤堂は軽く会釈をした。

「わかりました。ありがとうございます。ならば、この場に、極東艦隊の指揮官の土方を呼んでもいいでしょうか。直接、彼に政府の方針を伝え、士気を上げてやりたい思いますが、よろしいですか? 大統領」

 ダグラス副大統領は頷いた。

「人類を救ったキャプテンオキタの盟友だろう? すぐに呼びたまえ」

 藤堂長官は、頷いて端末を操作し、極東艦隊と通信回線を開いた。

 会議場の大スクリーンに、土方が映し出されいた。

「大統領?」

 土方は、少し戸惑っているようだった。

 ダグラス副大統領は、椅子に座り直して、小さく咳払いをした。

「これより、地球連邦防衛軍に、防衛出動を命じる。君が、全軍の指揮をとってくれ」

 土方は、開いた口をそのままに、暫く黙っていた。

「……お言葉ですが、大統領。北米第七艦隊のスコーク宙将が適任と思いますが」

 ダグラス副大統領は、頭を振った。

「君が適任だ。土方宙将、もう一度、人類を救ってもらいたい」

 土方は困惑していた。

「大統領。前に人類を救ったのは沖田です。私ではありません」

「君は、沖田がどのような戦術で、ガミラスと渡り合ったかすべて知っている」

「それは……。よく存じております」

「スコークはまだ若い。君が率いて、勝利に導いてくれ」

 土方は、これ以上の謙遜は、逆に失礼だと思って、決意した。

「承知しました。では、全軍をガルマン帝国艦隊との決戦に向かわせます」

 ダグラス副大統領は頷いた。

「頼んだぞ。今回のガルマン帝国の侵攻は、地球連邦政府として、人類存亡の危機と判断する。ここに、大統領命令を発令する。波動砲使用を含む、全戦力を持ってガルマン帝国を撃退することを指示する。波動砲封印については、人類存亡の危機においては、適用されないという、イスカンダル条約の解釈によって、ここにその使用を許可するものである。全力で戦ってもらって構わない」

「承知しました」

 土方は敬礼で応えた。

 土方がスクリーンから消えると、ダグラス副大統領は、深く息を吐き出した。

「これでもう、後戻りは出来ん」

 藤堂長官は、極東艦隊の面々を思い、胸が痛んだ。土方にも、死地に追いやることになるやも知れぬと、申し訳ない気持ちで一杯になっていた。

 

 中立地帯から戻っていたヤマトは、土方の命により、ガルマン帝国艦隊との決戦に向かう準備を進めていた。

 数時間後には、補給を完了して、波動エンジンを搭載した地球連邦防衛艦隊の約三分の二が、出航する予定だった。残された艦隊は、多数の波動エンジン非搭載艦と共に、地球防衛の最終ラインを死守する任に就く。

 

 極東艦隊は、第一から第三艦隊の三つの艦隊として再編されていた。第一艦隊は土方の空母シナノを中心とし、防衛艦隊全体の指揮をとる。土方の艦隊には、波動砲を搭載した主力戦艦が五隻、駆逐艦が二十隻、補給艦と特務艦が十隻といった陣容だった。そして、山南のアンドロメダを旗艦とする第二艦隊、古代のヤマトを旗艦とする第三艦隊がそれぞれ編成され、波動砲を搭載した主力戦艦が四隻づつ、ミサイル巡洋艦が十隻、駆逐艦が二十隻の編成である。

 ここに、探査宙域から戻った北米第七艦隊二十五隻が加わり、総数百三十一隻からなる大艦隊であった。

 しかし、敵艦隊も百隻以上が接近中との情報があり、予断を許さぬ状況だった。

 

 古代の第三艦隊には、徐々に艦が集結していた。そのうちの一隻から通信が入っていた。

 スクリーンに映るその男は、笑顔で話しかけてきた。

「古代、久しぶり」

「島! 来てくれたんだな」

 島は、真剣な表情になって、スクリーン越しに敬礼をした。

「艦隊司令就任、おめでとうございます!」

 古代は、少し戸惑った。

「よ、よせよ、島」

「異例の大抜擢だろ。さすが我らがヤマト艦長だな」

「……防衛軍は人手不足だからな。お前だって、とうとう艦長じゃないか」

 島は、気取って艦長の証である帽子を被り直した。

「どうだ? 似合うだろ?」

 古代は、笑顔で応えた。

「ああ。似合ってるぞ」

 島は、そこで真面目な表情になった。

「これ以上は、周りに示しがつかないから、普通に話したいところだが……」

「何だ?」

 古代は、神妙な顔になった島の顔を覗き込んだ。

「古代、お前、雪さんと今回の件、話したのか?」

 古代は、そう言われて困惑していた。

「う、うん」

 島は、困ったような表情になった。

「話してないんだろう?」

 古代は、口ごもっていた。第一艦橋の乗員の目を気にして、周りを見たが、諦めて言った。

「彼女は妊娠中なんだ。不安にさせたくない」

 島は、呆れていた。

「お前なぁ。もしものことがあったら、どうするんだ? 顔ぐらい見せてやれよ」

「どうせ、任務のことは参加できない彼女には話せない」

「それがどうした? お前ら、夫婦だろ? 彼女のことだ。何も心配ないさ」

 古代は、完全に島に言い負かされていた。

「……わかったよ」

「それでこそ、古代進。森くんの旦那だ」

 

 古代は、相原や太田に冷やかされながら、第一艦橋を後にして、艦長室に上がっていた。椅子に深く座ると、端末を操作して地球の自宅に連絡した。

 しばらくすると、端末の小さなスクリーンに、雪の姿が映った。

「古代くん?」

 雪は、結婚してからも、古代くん、と呼ぶのを止めなかった。

「珍しいね。どうしたの、いったい?」

 雪は、笑顔で言った。

 古代は、少し照れ臭そうに口を開いた。

「久しぶり。どう? 体調の方は?」

 雪は、少し首を傾けて考えていた。

「今はつわりも落ち着いてるし、体調はいいかな?」

 雪は、少し後ろに下がって、自らのお腹を見えるようにした。

「見て。だいぶお腹大きくなったでしょ?」

 古代は、目を細めて、雪の姿を見ていた。

 雪は、古代の様子が少しおかしいのに気がついた。

「何かあったみたいね。危険な任務に行くの?」

 さすが、ヤマトの船務長だと古代は、思った。そして、さすが僕の妻だと、心の中で感心していた。

「知ってるだろ? 任務のことは、話せないんだ」

 雪は、気丈にも明るく振る舞った。

「そっか。そうだよね。じゃぁ……近況を話すね」

 雪は最近、加藤一家とよく会っているようだった。加藤の妻の真琴とは、度々買い物に一緒に行ったり、懇意にしているらしい。真琴の息子の翼は、既に五歳の誕生日を迎えていた。夫である加藤は、かなり子煩悩な父親のようだ。

 古代は、雪の話に幸せを感じていた。いつの日か、互いの子供と一緒に出掛けたりしてもいい。そんな未来を想像しつつも、古代はこれから行う辛い現実との狭間で、気持ちが苦しくなっていた。

「加藤さんだけど……って旦那さんの方だよ? 先日、招集が来て、宇宙艦隊に呼び戻されたみたい。真琴さん、心配してた。翼くんにも泣かれて困ってるって。何で今日もパパは帰ってこないの? って」

 そう言ってから、雪は自ら暗くなる話題をしていたのに気がつき、急に話題を変えて、笑顔になった。

「この間、検診に行ったら、性別がわかるって言われて、聞いちゃったの。女の子だって。それを聞いてから、名前とか勝手に考えちゃった。ごめんね? 美雪っていう名前がいいかな。私よりもずっと綺麗で、心も美しい子になって欲しいなって思って考えたの。どうかな?」

 古代は、言葉が詰まっていた。幸せが、手の中からこぼれ落ちて行くような感覚があった。

 古代は、笑顔を作って言った。

「ああ、いい名前だと思うよ」

 雪は、寂しそうにため息をついた。

「本当、あなたって、嘘をつけないんだから。そこが、いいところでもあるけど」

 雪は、不安そうな表情になるのを、懸命に打ち消した。

「防衛軍の義務で、任務に参加していない者に任務のことを明かせないのはわかってる。かなり危険なことをしようとしているってことも、あなたの様子からわかる。でもね、だからこそ、私とこの子の為にも、絶対に無事に帰って来なきゃ、許さないからね?」

 古代は、心を簡単に見透かされて、逆に心を落ち着けることが出来た。

「わかってる。必ず無事に帰るよ。きっと、そんなに長くはかからない。終わったら、休暇を取るから、それまで、大人しく待っててくれ。その……美雪のこと、頼んだよ」

 雪は、最後に笑顔を見せた。

「必ず、勝ってね」

 そう言い残して、通信が向こうから切れた。

 何も映っていない、端末のスクリーンを、古代は、暫く見つめていた。

「勝ってね、か。本当に、何でもお見通しだな」

 古代は、艦長室の窓の外を眺めた。百隻以上の艦隊が集結する様は、頼もしい限りだった。ガミラスとの戦争の時とはまるで違う、波動エンジンを搭載した強力な艦隊が、そこにはあった。

「勝つさ、必ず。皆んなの為にも、絶対に負けるわけにはいかない」

 古代は、決意を新たにして、第一艦橋に降りるため、立ち上がった。

 だが、この戦いに勝ったとしても、これから待っているのは、長く続く全面戦争かも知れない。果たして、たったこれだけの戦力で、強大なガルマン帝国を相手に、地球を守り抜くことが本当に可能なのだろうか? 古代は、不安を打ち消しながら、第一艦橋へ向かった。

 

 最終防衛ラインと決まった火星軌道では、一部の波動砲搭載型艦船を中心として、八十隻程の艦隊が、土方たちの太陽系防衛艦隊が旅立って行くのを見守っていた。

 

 極東艦隊以外にも、北米艦隊や、欧州連合艦隊、中国、ロシア艦隊などから、波動エンジン搭載艦が、五十隻以上集結していた。それ以外に、波動エンジン非搭載艦が三十隻以上おり、総数八十隻を越える艦隊だった。太陽系外に旅立つ土方の艦隊にもしものことがあった場合の最後の砦だった。この最終防衛艦隊は、北米第五艦隊が中心となり、束ねることになっていた。

 艦隊の中核を成す主力戦艦ナガトも、太陽系に残る艦船だった。艦長大村は、去っていく土方や山南、そして古代を思い、黙って不動の姿勢で敬礼を続けていた。

 また、別の主力戦艦の艦長に就任した山崎も、最終防衛艦隊の一員として、見送っていた。

「古代。頑張れよ」

 山崎は、艦長席で古代や徳川太助などのヤマトの乗員それぞれに思いを馳せ、腕を組んでスクリーンに映る艦隊の後ろ姿を見守った。

 

 やがて、土方の艦隊は一斉にワープして、火星宙域から去っていった。

 

 太陽系内外に点々と敷設された亜空間通信リレーに内蔵されたセンサーは、ガルマン帝国艦隊と思われる物体の移動を感知していた。

 刻々と太陽系方面に迫ってくるその物体の予想到達地点を割り出し、土方率いる太陽系防衛艦隊は、予定した目標宙域を目指して航行を続けた。移動する物体との邂逅地点まで、約一日程度の距離である。

 土方は、空母シナノの戦闘指揮所で、各艦隊の指揮官と予め決めた作戦の確認を行っていた。

 戦闘指揮所のスクリーンには、第二艦隊の山南、第三艦隊の古代、そして北米第七艦隊のスコークが一画面に分割して映っていた。

 土方は、別の画面に星図を表示して、各艦隊の指揮官と会話していた。

「古代。まず、邂逅予想宙域には君の第三艦隊に向かってもらう。少し距離を置いて、偵察隊を出して敵艦隊の陣形を確認してくれ。スコーク宙将が確認した百隻以上の艦隊が固まってやってくるのか否かによって、その後のどの作戦プランを選択するかを決定する」

 土方は、山南とスコークの顔を見つつ言った。

「艦隊が別れてやって来ていることが判明すれば、君らには、それぞれ個別に対処してもらうことになる」

 スコークは、土方を真剣な表情で見つめていた。

「アドミラル・ヒジカタ。先日の初の交戦時の印象では、彼らの戦術は、数による力押しではないかと推測している。我々を舐めているに違いない。私は全艦で固まって来ると思うよ」

 山南は、土方にいつもの調子で話しかけた。

「土方総司令。奴らが固まって来たらどうします? いきなり波動砲をぶっぱなしますか?」

 土方は、憮然とした顔をした。

「山南。何度も同じ事を言わせるな。波動砲は、最後の武器だ」

 山南はにっこりと笑って頷いた。

「気が変わってなくて、安心しました。ヤマトですら、人に向けて初めて撃ったのは、あの白色彗星に対してだけです。それが最初で最後ですからね」

 古代は、恐縮していた。

「あの時は、ガミラスとイスカンダルが全滅する瀬戸際でしたから。使うしかありませんでした」

 土方は、古代に目線を向けた。

「古代、今のお前の話は、非常に重要な教訓だ。今回の戦いは、ヤマトのイスカンダルへの旅とは大きく異なっている。沖田もいつもと全く違う戦術を取っていることが、艦長日誌などの記録からわかっている。必要であれば、最小限の戦闘は行うが、そうでなければ、逃げる戦法だった。例えば、多数の艦隊に囲まれた場合などが顕著だ。波動防壁を活用して、最短距離で正面突破して逃げる戦い方が多かったはずだ。それに対して本土防衛というのは、負けることが出来ない戦いだ。そこに留まって、可能な限り死守しなければならない。俺は、そうなれば、躊躇なく波動砲を使う。そうしなければ、人類が滅亡するやも知れないからだ」

 土方は、各人に話が浸透するのを待ってから、続きを話し始めた。

「ガルマン帝国艦隊が、本当に百隻程度の艦隊だけか、というのは甚だ疑問だ。彼らの国力から推測すればガミラス並の数十万隻の艦隊を抱えているはずだ。我々の星系に侵攻するにしては、数が少なすぎる。俺は、このことに疑いを持っている。もし、数の上で圧倒的に不利だと判明した場合、アンドロメダと主力戦艦の拡散波動砲を、躊躇なく使うことになるだろう。各自覚悟を決めておいてくれ」

「はっ!」

 土方は、立ち上がって、戦闘指揮所の狭い場所を歩き回り出した。

「そうならなければ、最初は、予定通り通常兵器で戦うことになる。各自航空戦力は有効に活用してくれ。第一艦隊の我が艦、シナノには、北米艦隊からライセンス供与された新型攻撃機、コスモイーグルが搭載されている。ガミラスの重爆撃機に着想を得て開発された機体だ。大型の対艦ミサイル二基を積んだ対艦船用の攻撃機だ。これを使いこなすために、本土防衛軍の加藤を呼び戻した。今頃、機体の整備に忙しくしていることだろう」

 古代は、加藤が呼ばれた理由を理解した。新型戦闘機の扱いでは、彼より上手く出来る者はいないだろう。

「我が北米艦隊の空母はまだ開発中だ。我々としては、アドミラル・ヒジカタが新鋭攻撃機イーグルを有効活用してくれるのを望んでいる」

 スコークは、にやりと笑ってウインクした。

 土方も、重々しく頷いて応えた。

「最後に、これまでの情報から、相手の艦隊の乗員のほとんどが、イスガルマン人である可能性は高い。彼らの論理からすれば、例え敗北しても、艦隊司令クラスを数名失う程度の感覚かも知れない。奴隷のように扱われているという彼らの人命を奪うことになるかもしれんが、我々も敗北は許されないのだ。君らもいろいろ思うところはあるだろうが、俺の指示に従ってくれ。そして、何とかこの難局を乗り切ろう。諸君、私からは以上だ」

 

 空母シナノの格納庫では、その加藤がまさに機体整備を行っていた。

「ねぇ、隊長!」

 加藤は、機体の下の方から、聞き覚えのある声がしたので、後ろを振り返った。その加藤の顔は、機体の油で黒く汚れていた。

「何だ山本か。どうした?」

 山本は、機体の側面をぽんぽんと叩いた。

「こいつってどうなの? 北米艦隊で設計した機体なんでしょ? 使えるの?」

 加藤は、機体にかけていたタラップを降りてきて言った。

「少なくとも、コスモファルコン並の性能はある。何度か訓練で飛ばしてみたが、悪くないぜ」

「でも、あれでしょ? 対艦ミサイルを積むと、遅くなるって聞いた」

「ミサイルの動力源が発する重力のせいらしい。敵に追いかけ回されないように、お前ら戦闘機隊が守ってくれるんだろ?」

 山本は、少し笑って自分の胸の辺りを叩いた。

「任せて。隊長のお守りはちゃんとするから」

 加藤も、にやりと笑った。

「頼んだぞ。でも、その、隊長はやめてくれ。お前は、第一戦闘機隊の隊長、俺は、第一攻撃機隊の隊長だ。立場は対等だからな」

「わかってるって!」

 山本は、加藤に拳を突き出した。その拳に、加藤も拳で応えた。

 山本は、どこか楽しげに去っていった。

「これから、地球を死守する戦いだってのに。それにしても、何であいつは、ヤマトを降りたんだか……」

 

続く…




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


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連邦の危機13 偵察

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「連邦の危機」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」の続編になります。


 邂逅予想宙域付近に到達したヤマトは、偵察機を飛ばしていた。この宙域は、近傍の星系の周囲に漂う小惑星帯があり、艦隊を隠すには絶好の場所だった。

 

 航空隊は、篠原と揚羽のコスモタイガー二機が発艦して、小惑星を迂回しながら目標宙域に接近していた。

「ナビ子ちゃん、長距離レーダーに切り替えてくれる?」

「承知しました。長距離レーダーの探知範囲内に敵影はありません」

「この邂逅予想座標、間違ってたりしませんかね?」

 揚羽は、不安げな声で、通信機で篠原に尋ねた。

「宇宙は広いからねぇ。外れてたら、俺たちを通り過ぎちゃうかもしれないな」

 篠原は、わざとのんびりした口調で言った。揚羽は、必要以上に緊張しているようだったからだ。

「もし、敵影を捉えたら、通信は禁止だからな。今のうちに、言いたいことがあれば言っておきな」

「だ、大丈夫です」

「じゃあ、この辺りを周回して、暫く様子見だな」

 二機のコスモタイガーは、旋回しながら、ゆっくりと飛行していた。

 

 ヤマトの第二艦橋の戦闘指揮所では、新米が亜空間通信リレーのセンサーのデータを注意深く見守っていた。

「反応がありません。最後に反応があったのは、かなり遠い宙域です」

 新米は、古代の方をちらっと振り返って言った。

「わかった。注意を怠るな」

 西条未来も、レーダーを注視していた。

「長距離レーダーにも反応ありません」

 古代は、西条の方を見て頷いた。

「ありがとう。そのまま、注意を続けてくれ」

 そう言いつつ、古代も本当にここに現れるか、疑問を持っていた。

 緊張感が張りつめた第二艦橋で、太田は、北野にいつもの惚けた調子で軽口をきいていた。

「緊張したらトイレ行きたくなっちゃった」

「何言ってんですか。もうダメですよ」

「夏樹ちゃん、ちょっと操縦代わってもらってもいい?」

 太田は、気象長席の大島夏樹も巻き込んだ。

「だ、ダメに決まってるじゃないですか!」

「わかったよ。じゃぁ、北野は確か航海科も担当したことあったよな。お前に任せるから」

「だから、ダメですってば」

「代わりに土門が、戦術長やればいいじゃん」

 土門は、急に話をふられて、一瞬自分のことだとわからなかった。

「お、俺ですか? い、いや。新米の俺じゃぁ」

「大丈夫だって。あそこにいる古代さんだって、最初は新米で戦術長だったんだぞ」

 古代は、自分にまで話をふられるとは思っていなかった。太田のお陰で、皆の緊張が解れたので、にこやかに言った。

「太田。トイレに行きたければ行っていいぞ。僕が操縦を代わるから」

「あー、何かおさまったみたいです」

 第二艦橋の乗員に笑顔が溢れた。

 古代は、思っていた。これでいい。これから、本当の意味で、気の抜けない時がやって来るのだから。古代は、ムードメーカーの役割を果たしてくれた太田に感謝した。

 

 ヤマト率いる第三艦隊三十五隻の各艦が、今か今かとガルマン帝国艦隊の発見の報を待ってじりじりとしていた。

 島が艦長を務める主力戦艦コンゴウでも、それは同様だった。島は、艦内通信のマイクを掴んで、全艦に連絡した。

「皆、聞いてくれ。こういう時こそ、リラックスが大事だぞ。落ち着いて対処すれば、訓練通りやれるからな。主計科は、炊き出しをやって乗員に握り飯、それとお茶の配布を頼む。腹が減っては、戦は出来ぬと昔から言うだろ? いいか、落ち着けよ。艦長から以上」

 島は、艦橋の乗員にも声をかけた。

「大丈夫かー? 皆!」

 艦橋の乗員が、皆、島の方を向いた。人手不足の防衛軍の乗員は、島よりも年下の若者ばかりだった。乗員は新人も多い。皆不安げな表情をしている。無理もない。この数年の間で、実戦を経験した者などガミラス戦争以前から軍にいる者しかいないのだから。軍は明らかに人手不足だった。

 それでも、このコンゴウの艦長に就任した島は、多くの乗員に慕われていた。ヤマトの航海長だった経験を、皆が期待しているのだ。

「心配するな。必ず、俺が無事に家に返してやるさ」

 島は、にっこりと笑った。自身の内心の不安など、おくびにも出せず、ストレスは最高潮に達していた。それを、決して悟られないように、彼は明るく振る舞った。

 

「警告。長距離レーダーに反応がありました」

「揚羽、電波管制、パッシブレーダーに切り替える」

「了解!」

 篠原は、すぐに通信機を切った。

「よーし。じゃぁ行くかね」

 篠原は、風防越しに、手振りで揚羽に合図した。

「ちゃんとついてこいよ」

 篠原と揚羽は、エンジン出力を抑えて機体をステルスモードに移行させた。可能な限り接近出来るようにするためだ。

 パッシブレーダーが、敵の電波を捉えて、敵影がレーダーに映っていた。レーダーに映る光点は、徐々に数を増して行った。

 揚羽の機体でも、その様子を確認していた。

「ワープで出現しているのか?」

 揚羽の心臓は、激しく高鳴り始めていた。

 

「艦長、偵察中の篠原からの合図で、敵艦隊出現の報がありました。既に電波管制中のため、連絡は取れません」

 古代は、ついに来たか、と内心の緊張が高まっていた。

「相原、第三艦隊全艦に通達。戦闘配置に移行」

「はい。全艦に通達しておきます」

「新米、イージスシステムの全艦とのリンク確立を確認」

「問題ありません。リンク確立正常です」

 古代は、静かに頷いた。

 北米管区で開発されて、北米第七艦隊に最初に配備された宇宙戦闘用のイージスシステムは、艦隊戦闘における運用の要だった。このシステムを使用することで、敵からの攻撃による多数の目標に対して、全自動で迎撃を行うことが出来る。現状では、波動砲搭載型艦船にしか波動防壁が搭載されておらず、艦隊の防衛はこのシステムの運用に全てがかかっていた。単艦での戦いには慣れた古代らヤマト乗員も、艦隊戦は、今回が初めての経験だった。

「太田。ここからは、おふざけは無しだ」

 太田は、古代を振り返って、声のトーンを落とした。

「……わかってますって」

 

 ガルマン帝国艦隊は、地球連邦の太陽系防衛艦隊が予想した宙域に概ね正確に現れていた。そこには、続々とワープアウトした艦船が通常空間に現れていた。そこには、北米第七艦隊が目撃した、百隻以上の艦隊が出現していた。

ガルマン帝国西部方面軍第十五艦隊と第十三艦隊の司令官キールの座乗する大型空母もワープアウトし、その姿を現していた。

「ワープ終了」

 報告を受けたキール司令は、頷いた。

「全艦に通達! 我々は、一時ここに留まり、地球連邦侵攻に向けた最後の確認を行う。艦隊各艦の艦長は、作戦会議に出席してくれ。以上だ」

 

 ガルマン帝国艦隊の大型空母の作戦司令室では、第十五艦隊のキール司令を始めとした各艦の艦長らと、第十三艦隊の指揮官を始めとした、各艦の艦長が通信で会議に出席していた。

「諸君。いよいよ、地球連邦侵攻作戦を開始する。地球連邦は、既に恒星間航行可能な技術を独自に持ち、急速に勢力を拡大しようとしている。現段階では、我がガルマン帝国軍の敵ではないが、彼らを帝国の一部にすることが出来たなら、強力な戦力として、大いに役立ってくれることであろう。ガルマン帝国西部方面軍司令部では、地球連邦を植民地化するため、作戦プランを変更して、今回の侵攻を決定した。まずは、地球連邦防衛艦隊を撃滅し、敵の戦意を喪失させる。しかる後に母星である地球を占領して、植民地化を完了させる。彼らの持つあらゆる施設や資源は、植民地化した後、有効に活用するため、攻撃目標にはしない。我々が対処するのは、反抗するであろう敵艦隊だけだ」

 第十三艦隊の指揮官であるヤビルシアが発言した。

「キール司令。今回は君に全艦隊の指揮を任せることになっている。地球連邦の同盟国ガミラスがどう出てくるかによって、作戦の変更がある認識だ。その点について事前に確認しておきたい」

 キール司令は、ヤビルシアに対して少しだけ偉そうな態度をとっていた。

「もちろんだ、ヤビルシアくん」

 キール司令は、そこで少し思案してから発言を続けた。

「ガミラスが地球連邦の防衛に参加している場合でも、いない場合でも、基本的には侵攻作戦は継続する。作戦変更を行う可能性があるのは、ガミラスが本気で我が帝国に対して、戦争を仕掛けてくる疑いを確認出来た場合だ。これは、ガミラス軍が一定規模の艦隊を派遣してきた場合に判断する」

「一定規模とは?」

「明確に数字を言うなら千隻規模の艦隊が現れた場合だ。西部方面軍司令部では、それはあり得ないと分析しているがね」

 ヤビルシアは、まだ疑問があった。

「キール司令。後は、たったこれだけの艦隊で、地球連邦を相手にするのかね? いささか、規模が小さ過ぎるようだが」

 キール司令も、その点には不満を持っていた。

「確かに。西部方面軍司令部は、ぽっと出の地球連邦侵攻はこれで充分と考えているようだ。一応、援軍の依頼はしているが。先日初めての交戦した限りでは、奴らは侮れんということがわかっている。だが、今回は切り札を大勢乗せて来ている。彼らを活用すれば、この規模でも充分に戦える」

「なるほど。イスガルマン人のあれを使うのか。全く、本当に役立ってくれるな」

「ボラーとの戦争で戦力を裂けない我々にとっては、大いに便利なものだ。対抗策をとられないうちに、初戦で一気に叩くのがセオリーだ」

「ま、納得したよ」

 

 ガルマン帝国艦隊が作戦会議を行っている最中、篠原と揚羽の偵察機は、長距離レーダーの探知圏内に侵入していた。

「どうやら、ばれていないようだ。篠原さん、何処まで接近するつもりなんだ?」

 揚羽は、横を飛ぶ篠原の機体を横目で眺めた。

 敵艦隊に接近すればするほど、発見される可能性が高い。

 篠原は、レーダーに映るガルマン帝国艦隊の光点を見ながら、周囲を旋回するように迂回し始めた。周囲を全周して、艦隊がここにいる全てかを見極めようとしていたのだ。

「揚羽の奴、だいぶ緊張してたけど、大丈夫かね。この程度、前にバラン星の偵察をした時に比べたら、軽いもんなんだが」

 二機は速度を落としたまま、周回を続けた。

 

 古代は、土方らに通信で連絡して、ガルマン帝国艦隊出現の報を伝えていた。

「偵察隊が戻れば、敵の全容が判明しますが、今は電波管制中で連絡が取れません」

 第二艦橋のスクリーンに映る土方が頷いていた。

「問題ない。全艦隊に発令。全艦、戦闘配置に移行せよ」

「了解しました」

 山南は、にやりと笑って返事をした。

「了解」

 スコーク宙将も、真剣な表情で応えた。

 

 そうしているうちに、ようやく篠原と揚羽が戻ってきた。

「電波管制を解除。敵さんは、百十二隻発見。固まって一ヶ所で停船してるぜ」

 相原は、篠原の通信を受け取った。

「艦長、敵百十二隻発見。一ヶ所に集結して停船しているそうです」

 古代は、頷いた。

「わかった。土方総司令に連絡を入れてくれ。作戦オプション選択の連絡を待って、作戦開始だ」

「了解!」

 相原は、通信機を操作して、空母シナノを呼び出した。

 

続く……

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


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連邦の危機14 帝国艦隊との攻防

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「連邦の危機」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」の続編になります。


 空母シナノでは、発艦準備に追われていた。舷側に設けられた艦載機用のエレベーターは、フル稼働しており、ひっきりなしに昇降して、発艦予定の機体を飛行甲板に移動させていた。飛行甲板では、待機位置に移動する航宙機と、それを誘導する甲板員でごった返している。

 発艦位置に着いた機体は、エンジンをフル回転させ、今にも飛び立って行こうとしていた。

「こちら、第一戦闘機隊の山本。発艦準備完了。指示があり次第発艦する!」

 空母シナノの戦闘指揮所にいた土方は、戦闘機隊や攻撃機隊の発艦準備が整ったとの報を聞いていた。

「先に行かせた早期警戒管制機は、位置に着いたか?」

「確認します。はい。敵艦隊付近の目標宙域に到着して待機中です」

 土方は、報告したレーダー手に大きく頷いた。

「航空隊に通達。第一波発艦!」

「了解。第一波発艦許可がおりた。繰り返す、第一波発艦を許可する。続けて、第二波発艦準備に取りかかれ」

 この指示を切っ掛けに、飛行甲板に駐機するコスモタイガー、そしてコスモイーグル各機が、次々に飛び立って行った。

 その頃、極東第二、第三艦隊、そして北米第七艦隊は、それぞれ離れた宙域で戦闘配置を完了して待機していた。極東第一艦隊空母シナノが艦載機を発艦したのと時を同じくして、アンドロメダとヤマトの艦載機発着口からも航空隊が発艦していた。

 空母シナノから発艦した第一、第二戦闘機隊と攻撃機隊が六十機、そしてアンドロメダとヤマトから発艦した戦闘機隊それぞれ十機は、複数の方向から、一斉にガルマン帝国艦隊がいる宙域に向かって行った。

 空母シナノの戦闘指揮所で全体の様子を見守る土方は、総数八十機の航空隊が敵艦隊に攻撃を加えるべく飛行する様を鋭い眼光で見つめていた。

「第二、第三、北米第七艦隊に作戦の第二フェーズ移行を通達。それぞれ、敵艦隊の右舷、左舷、艦底方面から接近して距離を詰めろ。我が第一艦隊は、正面から接近する。航空隊による攻撃で陣形が崩れたところを、四方からの一斉砲撃によって、敵艦隊を撃滅する」

 空母シナノの通信長は、すぐにこれを伝達した。

「了解。各艦隊に総司令の命令を通達……」

 

 第二艦隊の旗艦アンドロメダでは、通信長の佐藤から山南に、命令が伝わった。

「佐藤、第二艦隊、全艦に通達。敵艦隊右舷方向から接近する」

「了解しました!」

 続けて山南は、自艦の艦橋の乗員に指示をした。

「仲村航海長。アンドロメダ発進」

「了解。アンドロメダ、発進します」

 その時、振り返って山南を見つめていたのは戦術長の南部だった。南部の表情は、緊張感で強張っていた。山南は、南部に言った。

「いよいよだな。お前をヤマトから引き抜いたのは、こんな時が来た時の為だ。俺の期待に応えてくれよ」

「もちろんです。任せて下さい!」

 南部は、そう答えると、前を向いて目の前の宇宙空間を睨みつけていた。

 そんな南部の様子を、技術長の真田が、黙って心配そうに見守っていた。

 艦橋の士官らの張り詰めた空気を感じ取った山南は、自身も緊張感で胸が一杯になっていた。

「いよいよだな。頼むぜ、相棒」

 山南は、艦長席の機器を撫でて、アンドロメダが期待通りの働きをしてくれるよう、心の中でそっと祈った。

 

 その後、飛び立った航空部隊は、偵察機が確認した敵艦隊の索敵範囲まであと五分、というところまで接近した。

 土方は、通信機のマイクを掴んで通信長に、ガルマン帝国艦隊に繋ぐよう指示をした。暫くすると、通信が接続され、スクリーンに、北米第七艦隊が交戦した時と同じ敵の司令官が映っていた。相手の表情は、少し驚いている様子だった。

「こちらは地球連邦、太陽系防衛艦隊司令の土方である。太陽系に接近するガルマン帝国艦隊に警告する。これ以上の接近は、地球連邦への脅威と判断し、攻撃を開始する。我々は、貴国との交戦を望んでいない。速やかに、この宙域から引き返して欲しい」

 土方は、このような話で相手が引き下がるとは思っていなかった。これは戦闘開始を相手に通告する手続きとして行ったものだ。

 ガルマン帝国艦隊のキール司令は、にやりと笑って口を開いた。

「ガルマン帝国西部方面軍第十五、十三艦隊司令のキールである。貴官の申し出は受けられない。我が帝国に対する自作自演の謀略と、破壊工作を画策する地球連邦を脅威とみなし、ここに艦隊を差し向けたものである。我が帝国の軍門に下り、降伏を勧告する」

 土方は、表情を変えずに黙って相手を睨みつけたままだった。土方は、航空部隊があと僅かで敵の索敵範囲内に到達するのを、別のスクリーンで確認し、最後通告を行った。

「そのようないわれの無い、虚偽の事実に基づき行動する貴国の言いなりになるつもりはない。ここで引かぬと仰るのであればやむを得ない。攻撃を開始する。以上だ」

 土方は、そこで通信を一方的に切断した。

「全艦、および飛行中の航空部隊に発令! 作戦第三フェーズ開始!」

 

 一方的に通信を切られたキール司令は、まだ作戦会議中だった。慌てたキールは、全艦隊に指示をした。

「地球連邦は、奇襲攻撃を加えて来る気だ! 全艦、戦闘配置!」

 しかし、その指示は少し遅かった。キール司令は、作戦司令室のスクリーンに、太陽系防衛艦隊が放った航空部隊が一斉にレーダーに捉えられ、光点として現れるのを見た。艦隊の四方八方から、多数の敵の航空部隊が接近している。

「いかん。至急、こっちも艦載機を発艦させろ!」

 

 加藤は、第一攻撃機隊を伴って敵艦隊の下方から一斉に敵艦隊に襲いかかろうとしていた。

「野郎ども、俺について来い!」

 十五機のコスモイーグルが、編隊を組んで真っ直ぐに敵の駆逐艦に目標を定めて接近していった。攻撃機隊の目的は、敵艦隊を守る駆逐艦を攻撃して陣形を崩し、艦隊の主戦力となる敵のミサイル巡洋艦や空母を裸にすることだった。防衛軍の艦隊は、それを狙って砲撃し、敵の主戦力を一気に奪う作戦だった。それでも敵の戦意が喪失しない場合、更に第二波の航空部隊が攻撃を加えることになっている。

 敵の駆逐艦は、加藤らの部隊に機関砲による迎撃を開始した。しかし、時すでに遅く、加藤らの攻撃機隊は、それぞれの目標を定めて、腹に抱える対艦ミサイルの狙いをつけた。

「各機、攻撃開始!」

 加藤は、照準器に捉えた駆逐艦に向かって急速に接近しながら、操縦桿上部の蓋を親指で開くと、発射ボタンを押した。

 コスモイーグルは、横に広がりながら、一斉に一発づつ対艦ミサイルを発射した。この対艦ミサイルは、ヤマトの艦首魚雷と同等の炸薬がセットされており、命中すれば敵の艦船と言えど、大きな被害は免れ無い。

 攻撃機隊から放たれた対艦ミサイルは、次々に敵の駆逐艦に命中した。ミサイルを受けた駆逐艦は、次々に大爆発を起こしていた。この一度の攻撃で、駆逐艦二隻が大破し、四隻が中破、五隻が小破の被害を敵に与えていた。

 対艦ミサイルを放った加藤の攻撃機隊は、反転して一度艦隊から離れて行った。そして、戻って残りのもう一発を見舞う為、旋回した。

「皆、無事だな? もう一度行くぞ!」

 加藤の攻撃機隊の護衛で随伴していた山本率いる戦闘機隊は、一緒に旋回していた。

「加藤隊長! 敵の艦載機が発艦したみたい」

「こっちもレーダーで確認した。頼むぞ、山本! 俺たちは、もう一度敵艦隊にミサイルをお見舞いしに行く」

「任せて!」

 敵の艦載機が多数向かって来るのが見えていたが、加藤の攻撃機隊は、それを避けずに真っ直ぐに、敵の駆逐艦に再び向かって行った。

 山本率いる戦闘機隊は、接近する敵の艦載機に向かって飛んで行き、それを引きつけるように敵機を煽った。双方の対空ミサイルが飛び交い、一帯は航空部隊による乱戦の様相となっていた。

 山本は、早々とミサイルを全基撃ち尽くして、機関砲による攻撃に切り替えていた。敵の艦載機の背後を取るため、互いに旋回や蛇行を繰り返し、背後を捉えた瞬間、敵機を撃墜した。山本らの戦闘機隊は、散り散りになってしまっていたが、どうにか敵機を撃退していた。

 山本が、加藤の攻撃機隊の様子を確認すると、どうやら全機無事なようだった。しかし、更に次の敵機が接近していた。戻ろうとする山本らの戦闘機隊にも、別の部隊が接近していた。

「くっ! これじゃ、戻れない!」

「山本! 戻れるか? ダメならミサイルを放棄して俺たちも空戦に加わる!」

 すると、加藤らの攻撃機隊を守ろうと、別の地球連邦の戦闘機隊が近づいてきて、戦闘を始めていた。

「篠原か!」

 加藤は、やって来た編隊が、ヤマト航空隊のものだと気がついた。

「加藤隊長、ミサイルは捨てずに、敵艦隊に撃っちゃって」

 篠原は、にやりと笑って加藤に通信で伝えると、すぐに敵編隊に向かって行った。

「皆、攻撃機隊を守るぞ!」

 篠原の指示で、ヤマト航空隊が一斉に加藤らの攻撃機隊に接近する敵機に襲いかかった。

 

「土方総司令、航空部隊の戦果を報告します。敵の駆逐艦三隻が撃沈、大破十二、中破十五。味方にも被害が出ています。航空部隊のうち十二機が撃墜されました。この戦闘で、敵艦隊は、陣形が崩れて混乱しています」

 土方は頷いた。

「予定通りだ。作戦の第四フェーズを開始する。全艦隊に砲雷撃戦用意を通達!」

 

 ガルマン帝国艦隊は、地球連邦太陽系防衛艦隊の奇襲攻撃を受けて大混乱に陥っていた。

「消火急げ! 艦を沈めたいのか」

 大破した駆逐艦では、艦橋のガルマン帝国軍士官が、火災発生区画まで降りてきて、イスガルマン人の乗員に、延焼を止めるように命令していた。

「駄目です! 火の広がりが早くて手の施し様がありません!」

「仕方がない。隔壁を閉鎖しろ! その区画を放棄する」

「逃げ遅れた仲間がまだ向こうに!」

 その士官は、区画放棄に反対するイスガルマン人の乗員をいきなり殴りつけた。そして、床に倒れた彼を蹴りつけて、隔壁の向こう側に転がした。

「これで、仲間と一生一緒にいられるぞ」

 ガルマン人の士官は、壁のパネルを操作して、隔壁を閉鎖した。

 隔壁の向こう側で、扉を叩く音がしていたが、彼は更にパネルを操作して、その区画の外壁の一部を爆破した。区画内の空気が宇宙空間に一気に吐き出され、ようやく火災の延焼が止まった。先程まで扉を叩いていた音は、既にしなくなっていた。

「馬鹿な奴らだ。こんな所で一緒に死ぬのはごめんだ」

 そんな彼の近くに、数名のイスガルマン人がやって来て、隔壁の扉に向かって祈りを捧げ始めた。

「マザー・シャルバート。どうか彼らの心を救いたまえ」

 彼らは、死んでいった同胞の為に祈って涙を流していた。ガルマン人の士官は、呆れた表情で彼らを見た。

「俺たち士官は、これから脱出するだろう。祈っている暇があれば、お前たちだけで艦が動くように修理をしておけ!」

 そう言い残して彼はその場を立ち去った。彼の頭の中は、今すぐに脱出することしか考えていなかった。

 残されたイスガルマン人たちは、嘆き悲しんでいた。

「俺たちも、ここで死ぬのか?」

「ボラー連邦との戦争で死んでいった仲間も、きっとこうやって、ガルマン人に見捨てられたんだろう」

「今こそ、マザーが来てくれたら……。この世に救いはないのだろうか……」

 

「状況報告!」

 ガルマン帝国艦隊のキール司令は、敵の奇襲攻撃で複数の駆逐艦が撃沈されるか大破して航行不能になっているのを確認していた。

「どうするかね?」

 作戦司令室のスクリーンに、第十三艦隊司令のヤビルシアが映っていた。キール司令は、憮然とした表情で、その顔を覗き込んだ。

 その時、司令室の別のスクリーンに敵艦隊接近の警告表示が出ていた。

「キール司令! 敵艦隊、接近して来ます!」

 艦隊は、四方から迫って来ていた。このままでは、一斉砲撃の餌食だった。

「ヤビルシアくん。まぁ、そこで見ていたまえ」

 キール司令は、努めて冷静に彼に言った。

 キールは、前回の交戦で彼らが精度の高い迎撃技術を持っていることを知った。しかし、彼にはまだ奥の手があった。

「これは避けられまい。前にお前らの艦を沈めたミサイルだ。ミサイル巡洋艦全艦に通達! 集束弾頭ミサイルを使用する。接近する敵艦隊に即時攻撃開始!」

 ガルマン帝国艦隊の中央にいたミサイル巡洋艦十隻から集束弾頭ミサイルが四基づつ、計四十基が一斉に発射された。ミサイルは、巡洋艦の上部ミサイル発射口から飛び出し、弧を描いて、地球連邦艦隊それぞれに十基づつ接近していった。

 

 地球連邦の各艦隊では、イージスシステムが反応し、自動的にそれぞれの目標を捉えて一斉に迎撃ミサイルが発射された。

 第三艦隊のヤマト第二艦橋では、西条未来がイージスシステムが捉えた敵ミサイルの光点に、ミサイル巡洋艦から放たれた迎撃ミサイルの光点が向かって行くのを注視していた。

「迎撃ミサイル、間もなく命中します」

 古代も、スクリーンを見ていた。

「迎撃が成功したら、砲撃を開始する。北野、土門。敵艦隊への照準、自動追尾そのまま続行。敵ミサイルの迎撃も準備しろ」

「了解しました! パルスレーザー砲台は、迎撃準備」

 その時、西条未来が報告した。

「迎撃ミサイル命中!」

 しかし、一部の光点が消えずに更に接近していた。

「敵ミサイル二基、前衛の駆逐艦の直上から接近中。至近距離です!」

 しかし、レーダーから、光点が二基とも突然消えた。

 

 ガルマン帝国艦隊が放った集束弾頭ミサイルは、第三艦隊の駆逐艦の直上から接近中に、突然弾頭を残して分解した。そして更にその弾頭の外装が分解すると、内部から、数え切れないほどの小型爆弾が飛び散った。

 小型爆弾が降ってきた複数の駆逐艦では、対空機銃やパルスレーザー砲によって、一部を撃墜した。しかし、小型爆弾の数があまりにも多く、雨のように真上から爆弾を浴びることになった。高速に飛来した小型爆弾は、駆逐艦の装甲にばらばらと突き刺さると、ひと呼吸置いて、一斉に爆発した。

 三隻の駆逐艦は、一斉に大爆発を起こして撃沈してしまっていた。

「艦長! 駆逐艦三隻が、一瞬にして沈みました」

 古代の顔面は蒼白になっていた。しかし、すぐに気を取り直して、全艦に指示をした。

「至急、生存者の救助に向かえ!」

 

 北米第七艦隊でも、同様の被害を受けていた。艦隊司令のスコーク宙将は、この攻撃によって、思い当たることがあった。僚艦アンティータムとチャンセラーズビルが撃沈されたのは、このミサイル攻撃に違いないと確信していた。

「やはり、奴らの仕業だったか……」

 ミサイルは、第一、第二艦隊でも、同様の被害を出していた。

「状況報告!」

 土方は、険しい表情で、周囲を見回した。

「各艦隊とも、先程のミサイル攻撃によって前衛の駆逐艦に相当数の被害を受けています。全艦隊の駆逐艦のうち、十隻を失いました。他に、大破、または中破した駆逐艦が五隻!」

 土方は、現状のイージスシステムでは、この攻撃を完全に避けるのは困難だと判断した。

「全艦に通達。作戦を一時中断して、少し後退する。敵のミサイル攻撃圏内から、一時離脱!」

 

「キール司令! 敵艦隊が後退して行きます」

 キールは、ほっと安堵していた。未だにスクリーンに映っていたヤビルシアは、キール司令に話しかけた。

「お見事。次はどうされますか?」

 キール司令は、少し考えたが、敵艦隊の能力が想像していた以上に高く、これ以上の戦闘は自軍の被害も甚大になる可能性があった。

「うむ。少し早いが、切り札を使おう。特務艦に通達! 出番だと伝えろ。準備出来次第、全艦で敵艦隊に向けて前進する」

 

「土方総司令、敵艦隊が前進して来ます」

 土方は、敵艦隊の動きを注視していた。

「もう一度、敵の隙を作って立て直す。航空部隊に通達。第二波攻撃を行う。発艦準備急げ!」

 空母シナノでは、第一波の攻撃に向かった航空部隊が次々に着艦していた。甲板上は、発艦準備と着艦する航空部隊とが錯綜し、慌ただしく甲板員が航空部隊を誘導していた。

 その時、空母シナノの戦闘指揮所では、レーダー手が慌てた様子で土方に報告した。

「土方総司令、敵艦隊の増援が現れました!」

「何?」

 土方がレーダーが表示されているスクリーンを見守ると、光点が次々に現れていた。その数はどんどん増え、数えきれない程の光点が出現していた。

「敵艦隊の増援部隊、続々とワープアウトして来ます!総数約一千隻!」

 さすがの土方も、それには驚きを隠せなかった。

 そこに、敵艦隊から通信が入っていた。

「総司令、敵の司令官からの通信です」

 土方は、スクリーンに表示される敵艦隊の光点を睨みながら、暫し沈黙していた。

「繋げ」

 戦闘指揮所のスクリーンに、再びキール司令の姿が浮かび上がった。

「やっと増援が来たようだ。土方司令。我々としては、降伏を勧告したいと思うが、いかがかね? それとも、本気で我がガルマン帝国とやり合うかね?」

 土方は、憎々しげに相手の顔を鋭い眼光で睨み続けた。

「我々は、地球を守るという使命を帯びてここにいる」

 キール司令は、にやにやと笑っていた。

「降伏するぐらいなら、全滅を選ぶと言うのかね? 頭を冷やしたまえ。少し、考える時間をやろう。五分後にまた連絡する」

 通信が一方的に切れた。

 戦闘指揮所は、しんと静まり返ってしまっていた。土方は、僅かな時間沈黙し、考えを巡らしているようだった。そして、決意を固めたのか、通信長に命じた。

「至急、全艦隊に通信を繋げ!」

 通信長は、慌てて通信回線を開いた。

 戦闘指揮所のスクリーンに、山南、古代、スコークが呼び出されていた。

「諸君。私は、もはや通常兵器での戦闘で、勝ち目は無いと判断した。ここで、波動砲の使用を決断する」

 全員が驚きを持って、その話を聞いた。だが、一千隻規模の敵艦隊が現れたことは、皆が知っていた。

「異議はないな。もう時間が無い。艦隊を集結させ、艦隊の波動砲搭載艦は、すぐに発射準備を始めろ」

「了解!」

 山南、古代、スコークは、スクリーン越しに敬礼した。

 通信を切った土方は苦悩した。

 とうとう、この決断を下してしまった。

 本当にこれで、地球を守れるのだろうか?

 ここで勝利出来たとしても、ガルマン帝国との全面戦争がこれから始まる可能性が高い。

 だが、ここで降伏するということは、地球人類の自由と尊厳を、たった今ここで捨て去るということだ。

 そんなことは出来ない、と土方は思い直した。

 たとえ茨の道が待っていようと、まだ諦める訳にはいかない。

 土方の眼光は、更に鋭くなっていた。

「第一艦隊に通達。波動砲発射用意!」

 

続く……

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
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注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


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連邦の危機15 絶望の未来

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「連邦の危機」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」の続編になります。


 キール司令は、降伏を勧告して悦に入っていた。

「さすがに、自軍の十倍の艦隊に立ち向かう程のバカでは無かろう。念の為、惑星攻撃用プロトンミサイルの発射用意をしろ! 奴らが諦めていないようなら、ど真ん中に、プロトンミサイルを撃ち込んで殲滅する」

 ガルマン帝国艦隊の超大型ミサイルを抱えた特殊艦艇がゆっくりと動き出した。艦の前方の前衛艦隊は、ミサイルの軌道を確保する為、道を空けていた。

 その正面で、地球連邦の太陽系防衛艦隊は、一箇所に集結を始めていた。

 

 土方は、苦悩しながらも、全艦隊と地球防衛の責任を背負って、この戦いに勝利することだけを考えると決めた。 

「全艦マルチ隊形。続いて、波動砲発射体制への移行を通達せよ!」

 山南の乗るアンドロメダは、第二艦隊を引き連れて、その二つの波動砲口を煌めかせながら、その中心に位置取りをしていた。そして、古代の乗るヤマト率いる第三艦隊と、スコーク率いる北米第七艦隊は、第二艦隊の後方につけ、撃ち漏らした敵に更に波動砲を撃ち込んで殲滅する作戦だった。

 こうして、各艦隊の波動砲搭載艦、計二十隻が、艦隊の前に前進し、並列に位置取りを始めた。事前に取り決められた典型的な複数の艦船による波動砲の発射体制である。

 

「エネルギー充填、百二十パーセント」

 ヤマトの機関長、徳川太助が慌ただしく、波動砲発射準備を進めていた。

「ターゲットスコープオープン。電影クロスゲージ、明度二十。敵艦隊、波動砲の軸線に乗りました」

 北野が、敵に狙いをつけて、波動砲の発射準備を終えようとしていた。

「艦長、本当にこれで良かったんでしょうか?」

 北野は、ここで波動砲を使用することで、相手との泥沼の戦争に突入する未来が見えていた。それを思って、苦しそうな声で言った。

 古代自身も、同じ疑問を抱いていた。強大なガルマン帝国との全面戦争の火蓋が切って落とされ、大切な雪と我が子が危険にさらされる可能性に苦悩した。しかし、今ここで降伏しても、何も変わらないと、一時の迷いを打ち消した。艦長として、強い意志で部下の迷いを断つ必要があった。

「北野。我々は、ここで絶対に敗北することは出来ない。地球を守るために必要なことは全てやる。この決断が間違っていないと、今は信じよう」

 古代は、厳しい表情で北野だけでなく、第一艦橋の全員に、冷静に語りかけた。

 しかし、古代を振り返る全員が、不安そうな顔をしている。それでも、古代はやらねばならなかった。

 

 第三艦隊の主力戦艦コンゴウの島も、ヤマトの横に並んで波動砲の発射用意を整えていた。

「やるしかないのか。本当に? 俺が迷ってちゃ駄目だよな」

 島は、心の中の不安を必死に打ち消そうとしていた。コンゴウの艦橋の皆を鼓舞しなければ、と島は決意した。

「皆、どんなことがあっても、必ず地球を守るぞ。そして、無事に家に帰ることを考えて集中しろ!」

 

「波動砲、発射準備完了しました」

 山南は、南部から報告を受けた。山南は、振り返って艦長席を見る南部に頷いた。南部の表情は、決意に満ちていた。

「そのまま、土方総司令の命令あるまで待機!」

 山南は、緊張感で張り詰めた艦橋の士官全員を見回した。その自身の額には、嫌な冷たい汗をかいていた。

「こいつを、人間に向けて撃つときが、こんなに早く来るんなんてな。俺も、覚悟を決めないとな」

 山南は、自らの緊張を和らげる為、独り言を口にして、スクリーンに映る一千隻のガルマン帝国艦隊を睨んだ。

 

 土方の空母シナノでは、再び敵の司令官からの通信を受領していた。

 土方は通信長に頷き、スクリーンにキール司令が浮かび上がった。

「五分経過した。君らの判断を聞きたい。降伏か、全滅か、どちらか選び給え」

 土方は、不敵な笑みを浮かべた。

「我々は、降伏などしない。そちらこそ、今すぐに撤退を勧告する」

 キール司令は、心底驚いていた。

「ほう? 一体、何が出来ると言うのかね?」

「君たちは、我々の力を侮っている。このまま戦闘を続ければ、全滅するのは、そちらの方だ」

 キール司令は、呆れた表情になった。

「そうか。その程度の判断力しかないとは思わなかった。後悔しても、もう遅いからな」

 唐突に通信が切れた。

 土方は、マイクを掴んで全艦に通達した。

「波動砲で攻撃を開始する! 山南、お前の艦隊から撃て!」

 

 その連絡を山南から聞いた南部は、第二艦隊全艦に指示を出した。

「総員、耐ショック、耐閃光防御! カウントダウン開始、発射十秒前!」

 それを聞いた山南は、ゆっくりと耐閃光鏡を装着した。艦橋の全員が、一斉に耐閃光鏡をかけた。

「八、七、六……」

 アンドロメダの砲術長のカウントダウンの声だけがその場に響いていた。

 

 通信を切った直後、キール司令は、プロトンミサイルの発射を指示していた。

「バカめ! これでお前たちは終わりだ」

 キール司令の大型空母でも、プロトンミサイル発射のカウントダウンが始まっていた。

「五、四、三……」

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


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連邦の危機16 女神降臨

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「連邦の危機」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」の続編になります。


 キール司令の空母のレーダー手が、新たな発見をした為、急いで報告した。

「司令! レーダーに反応、周囲に新たな艦隊がワープアウトして来ます! ……総数、約五千隻!」

 キールは驚いて作戦司令室のスクリーンを凝視した。スクリーンに映るレーダーの表示は無数の光点で自軍の艦隊が囲まれていた。

「艦種識別。これは……ガミラス艦隊です!」

 キール司令は真っ青になった。

「ま、まさか……。地球連邦の応援に来たというのか……」

 キール司令は、ミサイルの発射カウントダウンが行われているのを思い出し、慌てて指示を叫んだ。

「至急、プロトンミサイルの発射を中止しろ!」

 

 地球連邦の艦隊でも、同じ状況を把握していた。

 土方は、驚きつつも、急いで指示を出した。

「全艦隊に告ぐ、波動砲の発射を中断しろ!」 

 連絡を受けた山南は、慌てて全艦に命令した。

「第二艦隊全艦に通達! 波動砲発射中断!」

「は、はい」

 南部も波動砲の発射装置のトリガーに置いた指を外して、耐閃光鏡を外した。

「発射一秒前だぞ、危ない所だった」

 南部の手は震えていた。

 山南も、大きく息を吐き出した。

「ぎりぎりじゃないか。橋本、艦種識別!」

 レーダー手の橋本が回答した。

「あれは……! ガミラス艦隊です」

 山南は、一瞬信じられない、といった表情になった。

「同盟軍の援軍……ってことか。来てくれるなら、早く教えて欲しかったな……」

 山南は、ほっと息を吐き出して、帽子を取って額の冷や汗を拭った。

 真田は、艦橋内の安堵の空気を尻目に、センサーの表示を確認していた。

「山南艦長。センサーの表示によれば、あれはガミラス正規軍では無いかも知れません」

 山南は、驚いて真田の方を見た。

「どういうことだ?」

 真田は、幾つかの艦船の艦種に注目していた。

「敵味方識別装置は、敵と判断しています。それに、ガミラス軍で既に廃止された親衛隊の艦船がかなりの数混じっています」

「な、何だって?」

 そんな中、通信長の佐藤が報告してきた。

「ガミラス軍と思われる艦隊から、周囲に映像通信が送信されています!」

「繋いでくれ!」

 

 キール司令の空母でも、通信を受領していた。

「受信しろ!」

 作戦司令室のスクリーンに、映像が映った。

 そこには、ガミラス将校の制服を着た中年の男が映っていた。彼は、狡猾な笑みを浮かべながら、手に持つ鞭を片方の手に打ちながら口を開いた。

「ガミラス回遊艦隊司令のグレムト・ゲール少将である。貴様らに速やかな戦闘中止を勧告する」

 キール司令は、真っ青になって相手を見つめた。

「お、お前は……」

 ゲールは、にやりと笑った。

「ほう、お前、見覚えがあるぞ。私が、銀河方面軍司令長官をやっている時に、会ったことがあるな。前は、沸湯を飲まされたが、今回はそうはいかんぞ」

 ゲールは、高笑いを始めた。

 

 同じ通信を受領していたヤマトでも、ゲールの出現に驚いていた。

 古代は、考えを急いで巡らせていた。

「彼がいるということは、この艦隊は……」

 西条未来が、新たな艦船の出現を報告した。

「艦長! 次元の揺らぎを探知! 次元潜航艦です!」

 古代は、その報告で確信した。

「間違いない。このガミラス艦隊は、デスラー総統の艦隊だ!」

 

 ゲールの乗るガイデロール級航宙戦艦ゲルガメッシュでも、次元潜航艦浮上を確認していた。

「来たな。皆の者、我らが聖なる女王のお言葉がある! しかと、心して聞くのだ!」

 ゲールは、そう言って映像通信を終了した。

 そのすぐ後に、そこにいた全艦隊へ、新たな映像通信が送られた。そして、それを受信した艦船のスクリーンに映ったのは、一人の女性の姿だった。

「ガルマン帝国の皆さん、そして、地球連邦の皆さん。私は、イスカンダルのスターシャ」

 スターシャは、イスカンダルの女王の衣装を纏い、威厳に満ちた表情で、堂々たる態度で現れた。

 

 土方は、立ち上がってスクリーンに映るスターシャの姿を眺めた。

「これは一体……」

 あらゆる想定をして臨んだこの会戦で、それを超える人物が現れたことに、土方も驚きを隠せなかった。

 ヤマトでも、古代は、眩しいものを見るように、目を細めた。

「スターシャさん……」

 

 キール司令は、映像の女性を呆気に取られて眺めていた。

「……あの女は何者だ?」

 彼には、首を傾げてこの初対面の女性の姿を見た。確かに威厳のある美しい女性だったが、それが意味するものが、彼には理解出来なかった。

 しかし、作戦司令室にいた、一部のイスガルマン人の乗員たちが、色めき立っていた。彼らは、自分の隣にいた同胞とひそひそと会話しており、何度もスクリーンの方を凝視していた。

 そのうちの一人がひそひそと呟く声をキールは聞いてしまった。

「教会のマザー・シャルバートの像に似ていないか?」

 キール司令は、その像のことは知っていた。信仰を禁止しても、彼らは地下に潜って教会を新たに作り、何度も、政府が教会を取り潰していたのだ。教会から押収したマザー・シャルバートの像については、彼も覚えがあった。それを思い出しながら、スクリーンに映る女を再び眺めた。

 なるほど……。

 確かに似ている気がする、とキールは思っていた。

 スターシャは、再び話を続けていた。

「ここにいるガミラス艦隊のゲール少将を始めとしたガミラス人と、私たちイスカンダル人の故郷は、双子星。あなた方が、かつて、千年前に私たちの星から旅立って、この天の川銀河に居城を築いた同胞であることも知っています」

 キール司令は、伝説が真実だったことに少しだけ反応したが、対して興味を示さなかった。

「……それが、どうかしたかね? それが真実だとしても、君たちと我々は、既に別の民族だ。千年という時間は、非常に長い。もはや君たちとは、何の関係も無い。ここを立ち去って貰いたい」

 スクリーンに映るスターシャの表情は、不快感を隠そうともしていなかった。

「いいえ」

 スターシャの鋭い視線が、射殺すようにキール司令に突き刺さった。彼は、その視線に少したじろいだ。

「ガルマン帝国の皆さん。私たちは、あなた方が、帝国内で圧政を強い、多くのほし星を従えているのを知っています。かつて、私たちや、ガミラス政府も同じことをしていました。しかし、私たちは変わったのです。イスカンダルは、千年前にそのような帝国主義は捨てました。ガミラスも同様です。現在、新たなガミラス政府は、帝国主義を捨て、民主化を推進しています」

 スターシャは、そこでひと呼吸置き、息を吸い込んで強い口調で言った。

「私は、あなた方ガルマン人が、イスカンダル人の末裔であり、私たちの同胞であるイスガルマン人を奴隷のように扱っていると知りました。私は、そのことに強い憤りを感じています。そして、私たちは、イスガルマン人だけで無く、あなた方が圧政を強いて支配する全てのガルマン帝国のほし星に住む人々の解放と、救済に立ち上がることを、決意しました」

 スターシャは、ほんの少し、優しい目をして言った。

「ガルマン帝国艦隊に所属する、イスガルマン人と、彼らに支配されたほし星に住む皆さん。私たちは、あなた方の味方です。どうか、今こそ立ち上がって下さい。自らの幸せは、自分自身で勝ち取るしかありません。私たちが協力します。共にこの理不尽な仕打ちに立ち向かい、自分たちがここで自由に生きる権利を取り戻すのです!」

 キール司令は、スターシャに不快感をあらわにした。

「ふざけたことを。皆、我々に忠誠を誓っている者ばかりだ。貴様らの言うことに、耳を貸す者などいない!」

 しかし、キール司令のいる作戦司令室にいたイスガルマン人の乗員は、スターシャの映るスクリーンに、魅入られたように集まって来ていた。

「何をやっておるか、貴様ら。持ち場に戻れ!」

 キール司令の一言で、作戦司令室のガルマン人士官が、集まって来て、イスガルマン人の体を無理やり、持ち場に帰らせようとしていた。そのうちに、イスガルマン人の一人が、叫んだ。

「マザーだ! マザー・シャルバート様が遂に来てくれたんだ!」

 他のイスガルマン人が、続けて叫んだ。

「そうだ! 彼女こそ、マザー・シャルバート様だ! 伝説は、本当だったんだ!」

 ガルマン人士官は、一層強くイスガルマン人の乗員たちをスクリーンの後ろに下がらせようとしていたが、その彼らの手を振り解き、激しく抵抗し始めていた。

 スクリーンには、スターシャの横に、別の男性が現れていた。

「まったく。彼女をこんなに怒らせるとは、命知らずにも程がある。私も、全面的に彼女に協力するつもりだよ」

 スターシャの横に並んで、デスラー総統が余裕の笑みを浮かべていた。

「諸君、母なるガミラスの総統だった私が、君たち全員を救うと約束しよう」

 そこで、デスラーは、胸に手をあて、横にいるスターシャに少し頭を下げた。スターシャは、そのデスラーに微笑みかけていた。

 キール司令は、怒り心頭に達して、叫んだ。

「全艦隊に通達! ガミラス艦隊に攻撃する!」

 その指示で、ガルマン人士官らが、艦隊全体に攻撃命令を伝えるが、艦隊は動けなかった。何故なら、士官らこそ、ガルマン人で占められていたが、実際に艦隊を動かすイスガルマン人や、他の星系の兵士らが、動こうとしなかったからだ。

「貴様ら、故郷で人質にしている家族がどうなってもいいのか!」

 ガルマン人士官らがそのことを伝えると、イスガルマン人らの乗員たちは一瞬怯んだが、多くの者がそれにすら動じなかった。そのうちに、誰かが叫んだ。

「今、やらなければ、未来永劫、何も変わらない。今こそ、立ち上がる時だ!」

 その言葉に多くの乗員が突き動かされ、ガルマン人士官らに襲いかかった。

「奴らを追い出せ! 俺たちの人生を取り戻すんだ!」

「俺たちには、マザー・シャルバート様がついているぞ!」

 ガルマン帝国艦隊の全艦船で、同様のことが一斉に起こった。

 こうして、いつしか艦隊全てのガルマン人士官らは拘束され、艦隊は、多くのイスガルマン人と、残りの他の星系の人々が支配するに至っていた。

 

 次元潜航艦に座乗していたデスラー総統は、少し拍子抜けしていた。

「おやおや。一戦交える気で来ていたのだが、どうやら、君の言葉だけで戦いが終わってしまったようだね」

 スターシャは、くすりと笑っていた。

「アベルト、それは無理でしたでしょう? 五千隻もの艦隊など、ここにはいないのですから」

 次元潜航艇の艦橋では、敵艦隊が映るレーダーの光点が、急速に消滅していき、元の百隻強の数に戻っていた。

「偽物の艦隊か……。奴らも、我々と同じか」

 フラーケンは、デスラー総統にそのことを報告した。デスラーは、その報告にやや眉をひそめていた。

「くだらんね。いいだろう。こちらも、無益な戦闘は避けたかったところだ」

 スターシャは、デスラーに笑いかけながら言った。

「アベルト。地球連邦の皆さんにも、ご挨拶しておきましょうか」

「そうだね。彼らも、驚いていることだろう」

 デスラーもまた、スターシャに笑顔を向けていた。

 

続く…

 




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連邦の危機17 流浪の住人

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「連邦の危機」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」の続編になります。


 ガミラス旧銀河方面軍基地――。

 

 デスラー率いるガミラス回遊艦隊のスターシャの招待により、地球連邦の太陽系防衛艦隊からヤマトが単艦で、ガミラス旧銀河方面軍基地を訪れることになった。

 ヤマトの任務は、スターシャやデスラーらの活動の真意の確認だった。艦隊総司令の土方は、この件についての全権を古代に委ねることにし、艦隊を太陽系へと引き上げることを決めた。

 こうして、太陽系防衛艦隊は、地球への帰還の途に着いた。

 

 ガルマン帝国艦隊西部方面軍との艦隊決戦は、スターシャとデスラーの介入によって、イスガルマン人らの反乱が発生したことで唐突に終結していた。双方の大量破壊兵器による殲滅戦がぎりぎりで回避され、一時的にもガルマン帝国との全面戦争の始まりは、寸前の所で回避された形となった。

 あの直後、イスガルマン人らが占拠したガルマン帝国西部方面軍の艦隊は、ガルマン帝国領内に引き返していった。彼らは、ガルマン人らの乗員をガルマン帝国軍に引き渡すことを条件に、人質となっている家族の解放交渉に利用することになる。また、地球連邦の同盟国であるガミラスが、本気で対抗してくる可能性を喧伝することになるだろう。この情報で、地球連邦への侵略が困難であるとガルマン帝国が認識すれば、これが抑止力となって、暫くの間は帝国が侵略してくることも無くなると予想される。

 そして、イスガルマン人を始めとした圧政に苦しむ人々には、マザー・シャルバート実在の報が伝えられ、各地で反乱が起こる事が予想される。スターシャとデスラーは、彼らが必要とする支援を行い、これから本格的にガルマン帝国の解放に乗り出すことになるだろう。

 

 ガミラス旧銀河方面軍基地は、ガルマン帝国とボラー連邦の中立地帯のサイラム星系の近傍にある、アケーリアス文明の遺産である銀河系のゲートを挟み、その反対側の宙域に存在した。

 かつてのガミラス帝国の銀河系侵略の拠点として、大規模な艦隊や乗員を受け入れることが可能な大型の宇宙基地だった。既に、現在のガミラス軍は、銀河系から撤退している為、この宇宙基地は、遺棄された形になっていた。

 ヤマトや、デスラーの艦隊は、基地に接舷して、基地内部で会談することになっていた。

 

 古代は、数名の保安部員と、桐生美影と揚羽を伴って基地に降り立っていた。艦船用のゲートでは、ガミラス人の士官が迎えに来て、その内部へと案内された。

 艦船用のゲートの通路を抜けると、内部は複数の階層がある、非常に巨大な施設だということがわかった。吹き抜けとなっている円形の中央広場で、古代らは、天井まで、五階層はあるだろうという内部を興味深く見上げていた。

「凄い基地ですね」

 揚羽が感嘆の声を上げた。

「揚羽くん、ほらあそこ、なんかお店もあるよ」

 桐生美影も、興味津々であちらこちらを眺めては指を指していた。

 古代も、これには驚いていたが、そもそも遺棄されたと聞いていたこの基地に、生活感が溢れているのが意外だった。

 彼らを興味深く見つめるのは、通りかかるガミラス人たちも同様なようだった。中には、ガミラス人でもない、見たことも無い種族もちらほらと歩いていた。

 そこに、中央広場の反対側から、見覚えのある人物が古代らの元にやって来た。

「あれは、デスラー大使じゃないか」

 古代は、桐生美影と揚羽にも、声を掛けた。

「ガゼル司令と、それにルカさんも一緒だね」

 桐生美影は、揚羽に嬉しそうに話し掛けた。揚羽は、ルカの姿を認めると、安心したように口元を緩めた。

 ランハルトらは、古代たちの目の前まで来ると、右手を上げてガミラス式の挨拶をしてきた。

「どうやら、無事だったようだな」

「大使たちは、あれからずっとここに?」

 ランハルトは、頷いた。

「この基地の設備を利用して、本国と連絡をとろうとしていたんだ。だが、遺棄されたはずのこの基地が稼働していることに俺たちも驚かされた」

 すると、別の艦船ゲートから、デスラー総統が、スターシャとヴェルテ・タラン、そして何故かランハルトの秘書ケールを伴ってやって来た。

「ヤマトの諸君。久しぶりだね。最後にイスカンダル星で会って以来だ。あれから、どのぐらいたったかね?」

 タランが口を開いた。

「総統。約三年ぶりです」

 古代は、若干緊張の面持ちで彼らに話し掛けた。

「デスラー総統。そして、スターシャさんも。大変ご無沙汰しております」

 スターシャも、久しぶりの再会となった古代に微笑を浮かべていた。

「久しぶりですね。古代さん」

 デスラー総統は、手を差し伸べて、自ら案内を始めた。

「諸君、案内しよう。ここは、今や、勝手知ったる我が家として使わせてもらっているからね」

 

 一同は、少し大きめな会議室に通された。

 スターシャとデスラー総統が、遅れてやって来るとのことだったので、その間ランハルトらと古代らは、情報交換を行っていた。

 古代は、ケールの話を聞いて驚いていた。

「君が、ガルマン帝国の住民?」

 ランハルトが、割り込んで言った。

「俺も、ここに来てから本人が言うまで、知らなかったことだ。お前が本当は、ガルマン帝国からやって来たと聞いた時は驚かされたぞ」

 ケールは、苦笑いした。

「ガルマン人は、無理やりイスガルマン人に子供を産ませています。僕もそうやって生まれた一人です。運良く、僕はアマールを訪れたガミラス艦に密航して脱出することが出来ました。ちょうど、ガミラス軍は、銀河系から撤退するところだったみたいで、僕は運がよかったんです」

「お前の心を読んだり、幻覚を見せたりする力は、ハーフなら誰もが持っているのか?」

 ケールは首を振った。

「いいえ。ごく稀な希少種らしいですよ、僕らは。これを知ったガルマン人は、兵器に転用する研究を行っていました。皆さんが対峙した、ガルマン帝国の一千隻の艦隊は、僕らのようなハーフが見せる幻覚を、広範囲に働くように増幅装置を使っています」

 古代は、驚いた。

「あれが?」

 ケールは頷いた。

「僕もあの場にスターシャさんたちと一緒にいたんです。僕も、同じことをしましたから。デスラー総統の艦隊は、せいぜい三百隻程度しかいませんでしたから、圧倒的な数だと、彼らに思わせる必要がありました。タラン閣下が、既にその幻覚増幅装置をこちらでも使えるように開発していましたので、あんなことが実現出来ました」

 

 暫くすると、デスラー総統が、スターシャを伴って会議室にやって来た。各人が挨拶を済ませて着席すると、スターシャが最初に口を開いた。

「皆さん、改めてここでお話しておきましょう。私たちは、天の川銀河にアベルトたちと共に訪れて、ガルマン帝国に住む人々が、私たちイスカンダル人とガミラス人の末裔だと、すぐに知ることになりました。しかし、やっと会えたと思ったイスカンダルの同胞の、目を覆うような窮状が明らかになりました。そして、ガミラスの同胞の行き過ぎた純血主義とイスカンダル人に対する差別も」

 スターシャは、そこで話を区切って、皆の様子を窺った。

「私は、これを知って決して許す訳にはいかないと思いました。アベルトは、すぐに武力に訴えようと考えたようですが、仮にも彼らは同じ民族なのです。それに、ガミラスに匹敵するほどの国力を持つ彼らに、アベルトを慕う少数の戦力では、とても太刀打ちが出来ません」

 デスラー総統は、スターシャの話に頷いた。

「残念ながら、ガルマン帝国の我らが同胞は、下品な生き物だったからね」

 スターシャは、更に話を続けた。

「この数年、何か方法がないかと、アベルトたちと一緒に検討を行ってきましたが、なかなか良い案がありませんでした。無情にも時は過ぎて行き、最近では、諦めることも考えるべきかと、私も考え始めていました」

 スターシャは、ここでランハルトの秘書ケールに手を差し伸べた。

「それも、つい先日までのことです」

 ケールは、恥ずかしそうに、少しもじもじとしていた。

「イスカンダル人の血を引く彼に出会って、私たちが今、成すべきことを知りました」

 スターシャは、ケールに話すように促した。ケールは、頷いて立ち上がって話し始めた。

「僕は、先日アマール星に行った時に、ガルマン帝国で圧政に苦しむ人々が救いを求める信仰の対象、マザー・シャルバートとは一体何なのかを調べてみました」

 ケールは、スターシャの方をちらと見てから話を続けた。

「ヒントは幾つかありました。かつて強大な力を持っており、いつか再び現れて、苦しむ人々を救済すると言う伝説です。正にこれは、イスカンダルのこと、それも、千年前に実在した女王のことを言っていると確信しました。現代に置き換えるなら、マザー・シャルバート様に相当する人物は、ここにいらっしゃる、スターシャ様しかいません」

 スターシャは、少しだけ謙遜して言った。

「そんな大役が務まるかは、今でもわかりませんが」

 ケールは、首を振った。

「スターシャ様。間違いなく、現代のマザー・シャルバートは、あなたしかいません。遺棄された銀河方面軍基地に、スターシャ様たちが拠点を築いていらっしゃるのには驚きましたが、初めてお会いした時に、はっと気が付きました。今こそ、信仰の対象であるマザー・シャルバート様が実在すると、人々が知ったらどうなるかと。ガルマン帝国の住民だった僕が保証します。長年、自分たちの運命を諦めていた人々が、目を覚まし、立ち上がってくれると僕は信じます」

 スターシャは、頷いて後を受け取った。

「ケールさん、ありがとう。私は、イスカンダルを旅立ってから、既に女王の地位は捨てました。今、皆さんの前にいるのは、ただの一人の女に過ぎません。しかし、こんな私でも、役に立てるならと思い、決意を固めました。今、ここで皆さんに誓います。ガルマン帝国で圧政に苦しむ人々を、私たちの手で救済すると」

 スターシャは、そこまで言うと、立ち上がって、ケールの傍にやって来た。そして、その彼の手を握りしめ、彼の顔を覗き込んだ。

「ケールさん。よかったら、これからも私たちに力を貸して下さい」

 ケールは、スターシャに見つめられて、頬を染めていた。

「僕でお役に立てるなら。喜んでお力をお貸しします。マザー・シャルバート様。今だけは、あえてそう呼ばせて頂きます。僕たちは、ずっとこの時を待っていたんです」

 ケールの瞳は潤んでいた。

 その様子を見守っていたデスラー総統が口を開いた。

「君は、我々にとっても、象徴的な存在だ。ガミラスとイスカンダルの架け橋。二つに別れた国が一つになる未来そのものだ。私からも、協力をお願いするよ。ガルマン帝国を、第二のガミラス、そして第二のイスカンダルが導く新たな国家に生まれ変わらせるまで」

「デスラー総統。ありがとうございます」

 ケールは、ランハルトの顔色を窺った。

 ランハルトは、目を閉じてゆっくりと頭を振った。

「叔父を助けてくれるというのなら、俺は構わない。俺からも頼む」

 デスラー総統は、ランハルトを不思議そうに見た。

「お前は手伝ってくれないのかね?」

 ランハルトは、急に慌て出した。

「お、俺には地球の大使としての役割がある。手伝いたいのはやまやまだが……すぐには出来ない」

 デスラー総統は、微笑んだ。

「ランハルト。冗談だよ。お前は、お前でガミラス本星の為に、頑張ってくれ給え。地球人とも、随分仲が良くなったようだ。私は、ガミラスの未来は、お前に託した。役目を果たすことを願っているよ」

 ランハルトは、恐縮して頷いていた。

 デスラー総統は、今度は古代に話し掛けた。

「確か、ヤマトの艦長の古代……といったね?」

 古代は、デスラー総統に対する内心の恐れを見せないように返事をした。

「はい。ヤマト艦長の古代進です」

 デスラー総統は、続けて語りかけた。

「ランハルトが、本星のバレルくんに連絡するというので、私も彼と話をしてみたよ。彼は、地球人のことを本気で心配していたが、ランハルトが艦隊の派遣を要請しても、断られてしまった。今は、マゼラン銀河のことで忙しいようだったのでね。私にも、バレルくんの気持ちは良くわかる。どれだけ大変な事か、ということもね。だが、ランハルトが酷く落胆しているのでね。見兼ねた私が、地球人を助けることを提案したんだよ」

 古代は、意外なデスラー総統の告白に驚いていた。

「あなたが? 我々を?」

 デスラー総統は、目を閉じて微笑していた。

「これからは、君たちにも協力を求めたいと思っている。それには、地球人に貸しを作った方が手っ取り早いからね」

 スターシャは、デスラー総統に言った。

「アベルト。そういう態度、改めるんじゃなかったの? もっと素直になった方がいいわ」

 デスラー総統は、苦笑していた。

「スターシャ。困ったね。少しは、私の威厳を保たせてくれると、ありがたいんだがね……」

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
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連邦の危機18 連邦の提案

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「連邦の危機」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」の続編になります。


 地球――。

 

 土方は、太陽系防衛艦隊を帰還させた後、地球連邦政府の会議に呼び出されていた。

 副大統領のダグラスを始めとした、関係者一同が、再びワシントンの連邦防衛省地下にある司令部へと集まっていた。

「重篤な状態だったチャールズ大統領だが、峠を越して意識が戻ったそうだ。まだ入院が必要な状態の為、引き続き私が大統領職を続けることになるが、数カ月後には、復帰出来る見込みだ。しかし、次期大統領選も迫って来ている。残念だが、このまま、引退を考えているそうだ」

 ダグラス副大統領は、始めに大統領の容態について説明した。

「私としても、残念なことだが、情勢は待ってはくれない。これまでの状況を確認し、次の動きを決めておこう。アドミラルヒジカタ、本当にご苦労だった。早速だが、報告を頼めるかね?」

 土方は、脱いだ軍帽を脇にどけ、資料を手に取った。

「はい。それでは、私から報告致します。既にご連絡したとおり、太陽系から離れること二光年の宙域で、侵攻中のガルマン帝国艦隊と交戦しました。既に、彼らの艦隊は撤退しましたが、この戦闘で当方の駆逐艦十五隻が大破、または中破の損害を受け、一二五名の死者、そして三六七名の負傷者が出る結果となりました。このような結果を招いたことを、まずはお詫び申し上げます」

 土方は、立ち上がって頭を下げた。

「ヒジカタ、頭を上げ給え。私は、太陽系への侵攻を食い止めた貴殿の手腕に大いに感謝している。彼らは、祖国の為に命をかけて戦った英雄だ。これから、一人一人の家族に、私から感謝の意を伝えていくつもりだ。また、ガルマン帝国から地球を死守した軍を讃える式典も開くつもりだ」

 土方は、再び深く礼をした。

「大統領。ありがたいお言葉に感謝します。亡くなった者たちも、その言葉に救われるでしょう。そしてそれは……。私自身も、ですが」

 土方は、痛恨の極みといった苦渋の表情で頭を上げた。

「本当にご苦労だった」

「ありがとうございます。それから、今回、デスラー元総統のガミラス回遊艦隊の支援があったことで、それ以上の死傷者が出ることを防ぐことが出来ました。今後、彼らにも、何らかの礼をしたいと思います」

 ダグラス副大統領は、作戦の成功を誇示するよりも、死傷者を出したことを嘆き、他の者の手柄を話す土方の姿を、不思議に思っていた。

 日本人の謙虚さに、いつも驚かされる。

 今回の件は、もっと、自分を誇ってもいいはずなのだが……。

 彼は、つくづく、この惑星に、連邦という組織があり、イデオロギーの異なった国家が一つに束ねられていることは、奇跡のようなものだ、と感じていた。

「そのデスラー元総統の件ですが」

 ウィルソン防衛長官は、ダグラスへと話しかけた。

「以前のガミラス戦争時代に、我々の銀河系へと進出していたガミラスは、銀河方面軍を編成して派遣していました。銀河系の亜空間ゲート付近には、彼らの拠点として使われた大きな宇宙基地が存在しています。既に、彼らは銀河系から撤退していますので、宇宙基地は遺棄されてそこにそのまま存在しています。大マゼラン銀河を出て放浪していたデスラー元総統らは、銀河系に辿り着き、その基地を無断で利用しているようです」

 ダグラス副大統領は、訝しげな顔でウィルソンを見た。

「デスラーは、かつて我々の地球を死の星にしたガミラスの前の指導者だ。本当に信用出来るのかね?」

 ウィルソン防衛長官は、両手を広げて首を振った。

「今は、一〇〇パーセントとは言えませんが。ヒジカタの報告によれば、信用して良いと思います」

 土方は、その件について補足した。

「デスラー元総統は、先のガミラス・ガトランティス戦争の時に、ガミラス本星とも、我々とも共同作戦をとっています。また、彼らが抱えている回遊艦隊と呼ばれる艦隊は、以前の親衛隊などに所属していた反乱軍が中心となっていますが、三百余隻の艦隊しか保持しておりません。もはや以前のような地球侵攻を考えることは無いと思います。仮に、地球連邦と戦うことになったとしても、現在の我々の保有戦力で、充分に撃退可能だと考えます。何よりも、あのイスカンダルのスターシャ女王が同行していますので、そのような事態は考えにくいと思います」

 そこで、外務長官のライアンが話を始めた。

「私から、この件で提案があります。今回の戦争の危機は、デスラー元総統らの手で一旦は回避出来ましたが、今後も同じような事態が起こらないとも限りません。ボラー連邦とガルマン帝国との外交ルートを構築する為にも、中立地帯に外務省の人間を送り込めないかと考えています。デスラー元総統らのいる基地は、中立地帯にもかなり近く、まずは基地への人員配置を検討することは出来ませんか?」

 ウィルソン防衛長官は、腕を組んで意見を考えていた。

「うむ。それはいい。ボラー連邦とガルマン帝国を監視する目的で、前哨基地を設けられれば、今回のような事態への対処は、より素早く可能になる。軍をそこに常駐出来れば、安全保障の観点からも望ましいと思います」

 ダグラス副大統領は、その意見を思案していた。

「確かにいいアイデアだな。外務省と防衛省で協力して、検討を進めてくれ。だが、懸案は、既にデスラー元総統がそこを使っているという事実だ」

 ライアンは、微笑していた。

「ガミラスの現政府に正式に交渉してみましょう。あれは、あくまでも、ガミラス正規軍の所有物ですから、我々の方に権利がもらえる可能性が高いですね。その上で、勝手に使っているデスラー元総統とは、何らかの交渉が発生するとは思いますが……」

 ウィルソンは、更に意見した。

「そこに宇宙艦隊を配置するなら、それなりの規模が必要でしょう。建造中の空母型主力戦艦を一部そちらに割くことを考えたいですね。それから、ヒジカタが先程報告したように、兵士たちの人名が失われれば、いくら艦隊の数を揃えても運用出来なければ意味が無い。現在構想中の無人艦隊の配置も、検討に値すると思います」

 最後に、エマーソン連邦捜査局長官が手を上げた。

「連邦捜査局も、この話には参加を希望したいですね。これからは、事件は宇宙規模で起こりうる、というのが今回の一件で明らかになりました。宇宙連邦捜査局の創設を提案します。捜査官を、基地に派遣しておけば、今回のような事態にすぐに対応出来ます」

 土方は、隣に座っていた藤堂長官と顔を見合わせた。

「土方くん。何やら、急にいろいろ決まりそうだね……。極東管区から基地に派遣する人員を割く可能性が高いと私は思うが、何か君から意見はあるかね?」

 土方は、その話に腕を組んだ。

「異星人と仲良くするのが上手くて、そういうことが好きな士官がいることはいます。しかし、その士官を出せば、艦隊の戦力ダウンは避けられません」

「ほう。君がイメージしているその士官とは誰のことかね?」

「優秀な若い艦隊指揮官で、地球を救った英雄ですよ……」

 

続く…




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


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連邦の危機19 エピローグ(最終回)

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「連邦の危機」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」の続編になります。


 ガミラス旧銀河方面軍基地――。

 

 古代たちは、デスラー総統たちとの会議を終え、暫く銀河方面軍基地の内部を散策していた。

 

 桐生美影は、揚羽とルカを誘って、基地内の商店などをはしごして歩き回っている為、古代は、一人窓の外の宇宙を眺めてもの思いに耽っていた。

 デスラー総統とスターシャは、本気でガルマン帝国内部で反乱を起こして政権を打倒する戦いを始めるらしい。本当にそんなことが可能なのだろうか?

 いくらデスラー総統と言えども、三百隻規模の艦隊しか保持しておらず、その戦いは困難を極めるだろう。しかし、彼に付き従う部下の兵士たちの士気は高い。彼らなら、本当にやってのけてしまうかも知れない。

 地球連邦は、未だ戦力は乏しく、そのような争いに加わる力もない。それに、ガミラス戦争を経て、不戦の誓いに近いものを立てている。自ら争いに飛び込んで行くようなことはあり得ないのだ。それでも、今回のような侵略行為には徹底的に抗うだろう。二度と、地球を赤茶けた死の星にしてはならないのだから。

 

 古代がそんなことを考えていると、どこからか現れた五歳ぐらいの女の子が走って来て、古代にぶつかった。

 古代が驚いてその子を見ると、床に倒れたまま、古代を見上げていた。

「オジサマ、だあれ?」

 古代は、膝を曲げて、しゃがむとその子の脇に手を入れて立ち上がらせた。

「僕のことかい? 困ったな。おじさんに見えるかい?」

「オジサマはオジサマだよ」

 物怖じもしないその子は、どこか日本人のようにも見えた。

「君の名前は?」

「サーシャだよ」

 古代は、はっとした。この子は、スターシャの子供だと気が付いた。

「そうか……。えーと、僕の名前は……古代。古代進」

 サーシャは、それを聞いて何か思い出そうとしているようだった。

「変なの。お父さんと同じ名前!」

 古代は、複雑な気持ちになっていた。兄、守の娘、サーシャ。

 そうか。こんなにも、大きくなっていたんだね……。

 古代は、温かい気持ちになって彼女を見つめた。

「お母さんと一緒にいなくていいのかい?」

「最近、忙しそうにしてて、全然構ってくれないの。オジサマ、サーシャと遊んでくれる?」

 古代は、頭をかいた。

「ああ、いいよ。何して遊ぶ?」

 サーシャは、満面の笑みを浮かべた。

「じゃぁ、鬼ごっこ!」

 そう言って、彼女は走り出した。

 古代は、彼女の走る後ろ姿を眺めながら、感慨に耽っていた。

 

 これから始まる人類の新たな時代。サーシャや、雪との子供こと。地球連邦は、これからも、他の異星人との共存や戦いを繰り広げて行くにちがいない。その新たな時代を思いつつ、あのような子供たちの未来を守って行かねば、と古代は決意を新たにしていた。

 

 

宇宙戦艦ヤマト2199 連邦の危機

 

完――。

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
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注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


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