カルデア in 逃走中 (トクサン)
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全裸が相手ならば覇王沈沈拳を使わざるを得ない。

こんな地の文スッカスカな小説初めて書きました。
キャラ崩壊がヤバいので気を付けて下さい、私は言いましたからねッ!


『ではこれより、『第一回ドキッ☆偉人だらけの逃走中~ポロリもあるよ~』の開催を宣言しまぁす!』

「おいおいおい、死ぬわ、俺」

 

 場所はカルデア、何かどっかの雪山の上に建設された、「何でこんな所に建てたの? 馬鹿なの? 死ぬの?」みたいな立地の天文台である。外は常に吹雪で激寒、平服で外に飛び出せば五分であの世へゴートゥーヘル間違いなし。つまり逃げ場なし、謀ったな所長!

 

 そんな閉鎖空間で開催される逃走中――勿論鬼はサーヴァントである。

 そして追われる側はたった一人、即ち人類最後のマスターである彼、藤丸。

 

 彼の現状を語るならばこうである。

 朝食を終え、満腹になった腹を擦りながら、「あー、今日は何かもうやる気でないし周回でアーラシュ爆散させた後、水着ジャンヌお姉ちゃんのお腹に頬ずりしながら寝よ」と廊下を歩いていた所、突如館内放送が鳴り響いた。

 館内放送など警報程度にしか馴染みのない彼は、「また誰か攻めて来たのか、若しくは特異点でも見つかった?」と辟易としたものだが、其処から飛び出した言葉は彼の斜め上を行った。

 

『えー、テステス、テステス、マイクチェックわん、つー、はいおっけー! という訳で、BBチャンネルぅー! もとい、BBちゃん主催、ワクワクドキドキ、カルデア逃走大会のお時間ですよ~!』

「は?」

『はいどうも、拍手どうも、どうもどうも~! はい、さてさて、この度無事、カルデア逃走大会の開催に至った訳ですが……何と、今回の開催希望届けの数は百を超えました! いやぁ、これは祝わざるを得ない! 祝っても良いんですよぉ~? という事で諸々の事情を吹っ飛ばして、他に開催する大会なんかも沢山あったのですが、まぁこれだけ要望を貰ってしまってはやらざるを得ないですよねぇ! という訳でルール説明でぇーす!』

「えっ、何これは」

 

 よもやBBによるカルデア乗っ取りか? 処す? 処す? そんな思考を他所に館内放送は続いていく。

 

『ルールは簡単! 先輩……もとい、マスターを確保した者が優勝! 制限時間は一時間! 先輩を確保した優勝者には先輩を今日一日中好きに出来ちゃう権利が与えられまぁす! 場所はカルデア内、カルデアの外に出たりレイシフトを行う事は厳禁! 先輩聞いていますぅ? ちゃんとカルデア内で逃げ切らないと駄目ですからねぇ~?』

「は? は?」

『尚、サーヴァント同士による戦闘は厳禁です! 先輩の取り合いでカルデアが爆発したら爆笑ものですからねぇ! これを破った場合参加資格剥奪、かつ大会終了まで隔離処置を取らせてもらうのでそのつもりで~! 因みに管理委員会兼執行役員はフローレンス・ナイチンゲールさんでぇす! わぁ、ぱちぱち~!』

『はい、ご紹介に与りました、今回の管理員会兼執行役員として皆様をサポートさせて頂きます、フローレンス・ナイチンゲールです――どうぞ清く正しく、怪我無く、無理なく、今大会を過ごされます様、違反行為を確認した場合速やかに処置、隔離を実行させて頂きます、危険行為の場合も同上です、その場合怪我の危険性を僅かでも下げる為、殺してでも救って差し上げますので、そのおつもりで』

『はい! とても真面目なコメントありがとうございます! という訳でそろそろ皆さん、準備は宜しいですか? あっ、因みにカルデア内のカメラは全てBBちゃんがクラックしたので誰が何処にいて、一番に先輩をゲッチュしたのは誰か何かも直ぐ分かりますので! その場合はまた館内放送にてお知らせしまぁす! 因みにこの大会、普通にサーヴァントでしたら参加資格を有していますので、BBちゃん的にはゲイでもホモでもバイでもバッチコイです!』

「おいおいおい待てやこらァ! 百歩譲って女性サーヴァントときゃっきゃうふふなら兎も角、男サーヴァントとの絡みとか誰得だワレェ!? 俺のっ、俺のメリットは!? ねぇ、これ俺一方的に損してない!? 俺は一体逃げ切った果てに何を貰えるの!?」

『思い出?』

「男に尻狙われる思い出とかざけんなゴラァ!」

『ではこれより、『第一回ドキッ☆偉人だらけの逃走中~ポロリもあるよ~』の開催を宣言しまぁす!』

「おいおいおい、死ぬわ、俺」

 

 そして時間は現在に戻る。

 藤丸は放送終了から三十秒、カルデアの廊下を爆走していた。号泣し、鼻水を撒き散らしながら風となっていた。

 

「うわぁんお母さん! 運命(fate)が俺を虐めるぅッ!」

「おうッ!?」

 

 廊下を疾走中、硬い何かとぶつかった。筋肉である、恐る恐る顔を上げると青タイツの旦那。藤丸は弾かれたように後退し、腰砕けになって無様に這い蹲った。

 

「ひ、ひぃ、お助け、お助けぇ!」

「おいおい、マスター、どうしたってんだ?」

 

 ぶつかった人物はクーフーリン兄貴だった。若くない方の。彼は涙目で後退するマスターを訝し気に見つめ、視線を合わせるようにその場に屈む。

 

「そ、そんな顔をして俺のアスタリスクを掘るつもりなんだろう? 股間のゲイボルグで俺の貞操を穿ち貫くつもりなんだろう!? このケダモノッ!」

「何言ってんだコイツ」

「くっ、辱めを受けるつもりはない……殺せッ!」

 

 男騎士と化したマスターは悔し気に呻きながら大の字に転がる。最早此処まで、貞操を散らす位ならば命を散らしてやるッ! そんなハラキリ根性を見せつけたところで、兄貴はどこか呆れた様な視線を寄越した。

 

「……良く分からねぇが、あの放送絡みの事か?」

「えっ」

「俺ぁ別にマスターの事、どうしようだとか考えてもねぇよ、つうか何で俺がマスターの貞操奪わなきゃならねんだ、俺ぁ普通に女が好きなんでな」

「あ、兄貴……」

 

 何てことだ、全身青タイツの男が今は格好よく見える、今なら尻を捧げても――いや、やっぱり駄目だ。兎も角、兄貴は自身の尻を狙っている訳ではないらしい。藤丸は号泣し、兄貴の脚に縋りつきながら頬ずりした。このタイツ意外ととぅるとぅる。

 

「うぉぉん! うぉぉん! 兄貴、俺は兄貴を信じていたよ!」

「嘘つけテメェ開口一番疑っていたじゃねぇかよ」

「記憶に御座いませんんんん!」

 

 都合の良い脳味噌してやがる、そんな事を呟きながら肩を落とす兄貴。足に縋りついて号泣する藤丸の頭を乱雑に撫でつけ、告げた。

 

「……まぁそういう訳で俺は敵じゃねぇよ、んじゃ、そろそろ飯食いに行きてぇんでな、俺は行くぜ、不安ならマイルームにでも籠っていりゃ良いさ、そんじゃあな」

「分かったかゴリラ・ゴリラ? マイルームにちゃんと鍵かけて大人しく隠れているんだぞ? じゃあな!」

 

 藤丸は廊下を歩いていた一般通過ゴリラに指差し、忠告する。そして何食わぬ顔で兄貴の後に続いた。

 ぶたれた。

 

「何で付いてくるんだよ!?」

「いやァ! 兄貴っ、置いていかないで、俺の貞操が心配じゃないのッ!?」

「知るかよテメェの問題だろう!? つうかその争奪戦に巻き込まれる可能性が極大なんだよテメェといるとよぉ!」

「嫌じゃぁぁぁああああ余は死にとうないぃぃぃいいい! 兄貴たすげでぇぇぇぇええ!」

 

 藤丸、必死の懇願。鼻水と涙を滝の如く垂れ流しながら足にしがみ付く。しかし悲しいかな、英霊と只人では肉体のスペック差があり過ぎるのだ。あえなく引き剥がされ、床に叩きつけられてしまう。

 

「あぁん!」

「悪いが今回はマジでパスだ! 参加している連中がとんでもねぇんでな! あばよッ!」

「あっ、兄貴ぃぃぃッ!」

 

 その俊足に偽りなし、天狗の如き素早さで廊下を疾走し消える青タイツ兄貴。藤丸はその背中を見送る事しか出来ず、やがて項垂れ嗚咽を零しながら肩を震わせた。

 

「うっ、う……そんな、そんな兄貴っ……!」

 

 気分は男に捨てられた哀れな女。心の女優が泣き叫べと訴えている。そんな震える藤丸の肩に、そっと手が置かれる。振り向くと、其処には彫りの深い顔立ちをした彼が居た。

 

「ご、ゴリラ・ゴリラ……」

 

 一般通過ゴリラは藤丸の涙をごつい指先で拭ってくれる。そこからは、此方を慰める意図が透けて見えた。

 

「慰めてくれるのか?」

「うほうほ」

「ゴリラッ……!」

 

 藤丸は感謝の抱擁をゴリラと交わした。もう何も怖くない、世界は優しさで充ちている。そうだ、彼と一緒なら何だって出来る、そんな気持ちにさえなれた。

 

「――マスター」

「うひぃッ!」

 

 嘘です。

 藤丸はその声を聞いた瞬間、自身が蟻んこに劣るクソザコナメクジである事を思い出した。素早くゴリラの背後に回り込むと、声のした方へと視線を向ける。

 

「漸く見つけました……どうして、隠れるのですか?」

 

 現れたのは三大ヤベェサーヴァントのひとり、清姫。

 彼女は袖をひらひらと揺らしながら藤丸の方へと足を進め、それから手元の扇を広げた。

 

「き、きよひー……だって、どうせ大会に参加しているんだろう!?」

「? 何の事でしょうか」

 

 広げた扇で口元を隠す。ちろりと、長い舌先が端から見えた。

 唯一目視できる彼女の目が三日月を描く。

 

「私はただ、そう、マスターと二、三、話したいことがあるだけです……さぁ、此方においで下さいませ」

「ひぇっ」

 

 瞳は蛇の如く。

 正に気分は睨まれた蛙、藤丸は体を震わせて立ち竦む事しか出来なかった。話したいだけなど嘘に決まっている、これでホイホイ出て行ったら何やかんやでマイルームに連れ込まれ、そこからギシィ、ギシィとベッドを軋ませる展開待ったなしに決まっている。僕は詳しいんだ。

 

 哀れ、人類最後のマスターはサーヴァントに喰われアヘ顔ダブルピースを晒すのか……!?

 

「うほっ」

「! ご、ゴリラ」

 

 しかし、そんな藤丸の前に立ちふさがる人物が居た。

 一般通過ゴリラである。彼はその太い腕で藤丸を背後に押しやり、一歩前に出た。その背中の何と大きい事、藤丸はどこか希望に満ちた瞳でゴリラを見た。

 

「あら、新しい英霊の方でしょうか? 随分毛深い……いえ、失礼、まぁカルデアには人語を話さない方もいらっしゃいます、機械も未確認生物もいるのです、見た目ゴリラの英霊も存在するのでしょう」

「うほっ」

「ところで言葉は通じていらっしゃいますか?」

「I cant speak Japanese」

「あら、そうでしたか、それは大変失礼を」

 

 ゴリラが人語を話す訳ないだろう、いい加減にしろ!

 

「ご、ごりら……」

「うほうほ、うほ」

「こ、此処は俺に任せろだなんて……それじゃ、お前が……!」

 

 親指を立てるゴリラ。その表情は笑みであり、どこまでも余裕を感じさせる。藤丸はぐっと唇を噛み、涙を零した。

 

「ッ……ゴリラ、ごめん! ありがとう!」

 

 背中を向けて駆け出す藤丸。ゴリラはそんな彼の背を見送り、軈てゆっくりと清姫と対峙した。

 

「――英霊同士の戦闘は御法度、そう言われているのですが……退いては頂けませんか、ゴリラの御方」

「うほりんぬ」

「然様ですか」

 

 扇で口元を隠したまま、清姫は冷たい視線を投げかける。ふわりと、腕を払い長い袖を広げる。その扇にほんの小さな、青い炎が宿った。

 

「では……少々痛い目を見て頂きましょう」

 

 清姫の瞳孔が開き、肝の裾がぶわりと広がった。魔力を通したのだ、直ぐに分かった。ぎしり、と。ゴリラの肩に見えぬ圧力が掛かる。

 物理的なものではない、精神的な圧迫感。ゴリラは両手を地面につけ、足を曲げる。

 

 由緒正しい、ゴリラ同士の闘争に於ける無刑の構え、東洋では『ゴンドリウス・ゴリフォンヌ』と呼ばれる構えである。ヨーロッパのゴリラ生態研究第一人者である『ロドリゲス・テトリアーノ』によれば、その構えは無形でありながら全、人間の武道であれば脱力こそが攻撃の肝と呼ばれる様な、一見無防備に見える形こそ、尤も攻撃的な型であるという、その摂理を物の見事に表現した構えであった。(出典 『猿でも分かるゴリラの生態~異世界転生して美ゴリラと共に世界最強を目指す!~』)

 

 清姫はそんなゴリラの構えに対し、余裕の表情で扇を払った。青い炎が尾を引き、残滓が幻想的な淡い線を描く。

 

「貴方に金言を授けましょう、即ち――『バレなければ犯罪ではない』のです」

「お前それアマゾンでも同じ事言えんの?」

 

 此処に、霊長の賢者と偉人のヤベェ奴による戦いの火蓋が切って落とされた……ッ!

 

 ■

 

「うぅっ、ゴリラ、ごりらぁ!」

 

 藤丸は泣きながら廊下を走った。尊い犠牲、そう割り切れれば何と楽な事か。しかし、そう簡単に割り切れる筈がないのだ。涙は止まらず、宛らナイル川の如き様相を醸し出している。

 

「あれ、先輩?」

「ッ!?」

 

 しかし、そんな藤丸の元に聞き覚えのある後輩っぽい声が。見れば丁度廊下の反対側から、眼鏡を掛けた如何にも後輩っぽい女性が歩いてくるではないか。藤丸はその場で座り込み、後輩っぽい女性に向けわなわなと唇を戦慄かせた。

 

「で、でででで、デンジャラス……!?」

「へっ?」

「デンジャラスビーストだァぁぁぁ!」

 

 ――その威容、威風堂々。

 後輩と言えばマシュ、マシュと言えば後輩。その可愛らしいベビーフェイスで無垢なマスターを何人仕留めた事か。薄い本が厚くなる事が多いこのカルデアに於いて、最もデンジャラスなサーヴァントは誰かと聞かれれば、大抵溶岩水泳部の面々を指すだろう。

 

 しかし、しかしである。

 

 藤丸は敢えて言いたい、最初から自分の貞操を狙う気満々の者より、狡猾に顔を隠し、虎視眈々と自身のTNPを狙う者の方が恐ろしいと。即ちそう、あの一夜(デンジャラスビースト)の時の様な――あれこそがマシュの本性なのだ! 藤丸は恐れ戦き、股間を両手で隠しながら這い蹲った。

 

「し、知っているぞ俺はッ! どうせあれだろう、【先輩を狙っているサーヴァントの皆さんがこちらに向かっています! 先輩、一先ず私の部屋で御休憩を! 此方です!】とか凛々しい表情で言ってホイホイついて行った俺を食べるつもりなんだろう!? そうなんだろう!? 俺は詳しいんだッ!」

「えっと……良く分かりませんが、先輩が今日もお元気そうで安心しました」

「俺は元気ですぅううううううう、だから見逃して下さいお願いします百円上げるから! 俺は後輩にちんぽなんかに絶対に負けないッ!」

「? えっと……これから朝食に向かうので、失礼しますね、先輩」

 

 マシュは頭上に疑問符を浮かべ、それから苦笑と共に藤丸の横を通り過ぎていた。

 

「……あれ」

 

 何も起きない――手も出されない。あれ、でもマシュは大会に参加して……あれ?

 藤丸は徐にポケットから百円玉を取り出すと、そっと地面に置いた。

 

「ありがとう百円玉、お前のお陰で俺は救われた……」

「おっ、大将? 今日も元気に二足歩行してんな、歩いている大将が大好きだぜ俺は」

「! き、金時ッ」

 

 そんな時、背後から声を掛けられる。振り向くと、其処にはナイスバディ(筋肉的な意味で)で長身な金髪の男性が立っていた。金時、その人である。藤丸はゴリラと別れた寂しさから、一も二もなく彼の厚い胸板へとダイブを敢行した。

 

「うぁぁぁぁぁ金時ィぃィぃ!」

「おいおいどうした、藪からスティックに」

 

 厚い胸板、好き。ちょっと硬すぎてコンクリートにぶつかったのかな? と錯覚したがそれは兎も角。現状彼の存在は非常に心強い。藤丸は彼に大会の事、自身を狙う恐ろしいサーヴァントの存在などを吐露した。

 

「実はカクカクしかじか四角いむーぶで」

「はぁ、俺っちが寝ている間にそんな事が」

 

 金時はやや難しい表情で考え込むが、藤丸を見ると満面の笑みで胸を叩いた。

 

「よぉし、俺っちに任せな大将! 大将はどんと構えていてくれや、絶対に守りぬいてやるぜぇ!」

「やだ、男前……とぅんく、とぅんく」

 

 これは最早勝利と言っても過言ではないのでは? FGO完結! 藤丸君は幸せなキスをして終了! 閉廷!

 

「マスター?」

「―――!」

 

 が、しかし!

 

 世の中そんな簡単にハッピーエンドを迎えられる程甘くはなかった! 藤丸の背後に迫る影、咄嗟に藤丸は金時の背中に隠れ、足を内股に揃える。そして金時も釣られる様にして背後を見て――思わず顔を引き攣らせた。

 

「ら、ライコーさん」

「あら、金時、そんな他人行儀な……昔は母上、母上と呼んでくれていたのに」

「お、俺っちもそろそろ良い歳だからよぉ……」

 

 現れたのは金時の母上、ヤベェサーヴァント四天王のひとりである頼光。四天王の癖に三人しかいないというが別に四人じゃなくても四天王と名乗れるから問題なしである。世の中には「吾等、五人合わせて四天王!」などと宣う連中もいるので大丈夫、大丈夫。

 

「子の成長というものは早いものですね――ところで」

 

 頼光はいつも通りのはんなりとした表情を浮かべながら、すんすんと鼻を鳴らした。金時の背中に嫌な汗が流れる。

 

「今、此処からマスターの匂……こほん、声が聞こえたのですが」

「き、気のせいじゃねぇのか? 此処に大将は来てねぇぜ」

「いえ、確かマスターの匂……声が聞こえたのです、あれは確かにマスターの香ばしい匂、声でした、間違いありません、私がマスターの匂、声を嗅ぎ間違えるなどあり得ません、現に今もマスターの匂いが鼻腔を擽って仕方ないのです、金時、隠し立てしていても無駄ですよ、あなたの背後からマスターの匂いが漂っています」

「わりぃが、此処にはマスターのパンツしかねぇぜ、ライコーさん」

「! そ、それはッ……!」

 

 そう言って金時が取り出したものは――マスターのパンツ!

 それを見た頼光は目を見開き、思わず仰け反りながら叫んだ。

 

「ま、マスター三種の神器と謳われるパンツ、それも密着タイプのボクサーパンツ&推定脱衣から五分と経っていない脱ぎたてホカホカ御犯茶(オパンティ)ッ!」

「ライコーさんが嗅いだマスターの匂いってのは、これの事だろう?」

「な、何故貴方がそのような三種の神器を……ッ!」

「あー、実はな、さっきまで大将の部屋でピコピコをやっていてよぉ、大将最近洗濯物を溜めちまっていたみてぇで、ちと洗濯にな、その際に入れ忘れちまった奴がこれだ、今からもう一回洗濯しに行こうと思っていたんだが……」

「ご、ごくり」

 

 無意識の内に唾を呑み込む頼光。マスターの脱ぎたてパンツなど時価で幾らするか、少なくとも五億QPに勝る事は間違いない。それもボクサー、そうボクサータイプである! あの、密着するパンツは実に素晴らしい。マスターの汗や匂いを余すことなく吸収してくれているだろう。欲しい、是が非でも欲しい!

 金時はそんな頼光の心の内を予測し、白々しく切り出した。

 

「あ、あー、何か洗濯に行くのが面倒になっちまったなぁ、誰か代わりに大将のパンツを洗濯しに行ってくれねぇか――」

「そこまで言うならば仕方ありませんね、子の面倒を見るのは母の役目、えぇ、えぇ、勿論万事この母に任せて下さい、丹念に汚れを舐め――洗い流して万全の状態でお返ししましょう、それはでは金時、ちゃんとお腹を仕舞って寝るのですよ? では、また今度、母はいつでも見守っていますからね」

 

 頼光は光速で金時よりパンツを奪取すると、それを胸元に抱きしめながらこれまた目にも止まらぬスピードで消え去った。金時は数秒、じっとその場で動かずに第二波に備える。しかし、第二波来ず。頼光は完全に去ったものとみなし、ゆっくりとその肩から力を抜いた。

 パンツは犠牲となったのだ、犠牲の、犠牲にな。

 

「ふぅ……デンジャラスだぜ、ライコーさん、大将、大丈夫か?」

「おう、傷ひとつないんだぜ」

 

 下半身丸出しの藤丸はそう言って、満面の笑みで親指を立てた。

 

「……囮とは言えパンツ脱がして悪かったがよ、取り敢えず、ズボン履いてくれねぇか? 大将のゴールデンボールがゴールデンしているぜ」

「あっ、そうだ(唐突) 金時、何で空って青いんだろう?」

「大将、現実逃避は良くねぇぜ」

「えっ、ちんちん付いているかって? 付いているに決まっているんだろうが! おら見ろよ見ろよ!」

「大将……」

 

 金時はまるでトチ狂った友人を見るような目で藤丸を見守った。

 

「おやぁ……?」

「はッ!」

 

 しかし、サーヴァントの襲来はそれで終わらなかった、終わらなかったのである! まさか、頼光の次に間髪入れずコイツが現れるとは。金時は思わず体が強張るのを自覚した。

 

「これはまたぁ、張りのあるお尻だと思ったら、随分と鬼好みの二人が揃って……」

「てめぇ、酒呑!」

「ふふっ、あんさん、随分と可愛らしい逸物をぶら下げて、こんな廊下で、破廉恥やわぁ」

「うぐッ」

 

 目前に現れたのは酒呑童子、その人。盃片手に欠片も酔った様子を見せず、軽い足音と共に金時とマスターとの距離を詰める。藤丸と金時は気圧された様に退き、藤丸は股間を隠し乍ら叫んだ。

 

「確かに金時のゴールデンバッドと比べれば俺のなんて粗製かもしれないが、そんな罵倒しなくたって良いじゃないか! この鬼、悪魔、酒呑ちゃん可愛いやったー!」

「うふふ、堪忍な、うちも旦那はんの事、結構気に入っとるんよ?」

「やったぁ!」

「大将、ラリってんのか!?」

 

 藤丸の言動に金時は思わず突っ込まざるを得なかった。

 

「ところで酒呑ちゃん大会に参加とかしてる?」

「しとるよぉ」

「金時! お前の犠牲は忘れないぜ!」

「大将ぉ!?」

 

 裏切りは大事、古事記にも書いてある。藤丸は金時の背中を押し出し、そのまま背後に目掛けて全力ダッシュ。しかし、そんな藤丸を見逃す酒呑童子ではない。鬼とは人間が易々と逃げおおせる存在ではないのだ。事実、藤丸の逃走を見た酒呑は目を細め、まるで狩人の様に体を倒しながら告げた。

 

「うちから逃げられると思うてはるの?」

「今なら令呪で金髪の小僧(ライダー)も付いてくるよ」

「はよ行き」

「大将ぉぉおおオオオオオッ!」

 

 まさかの裏切り(二回目)に金時は血涙を流した。しかし悲しいかな、人理を守る(守るとは言っていない)戦いに犠牲は必要不可欠なのである。藤丸は令呪の刻まれた腕を掲げ叫んだ。

 

「令呪を以って命ずる! ライダー金時、此処に来て酒呑童子といちゃいちゃしてろ!」

 

 瞬間、三角あった令呪のひとつが赤い光と共に消失し、金時(ライダー)がその場に顕現する! 彼は丁度朝食を摂っていたのか、茶碗を片手に米粒を口の周りに付着させ、唐突に転移した事に驚きを隠せずにいた。

 

「おぅッ!? な、何だ、大将に呼ばれたのか? つか、バーサーカーの俺っちじゃねぇかよ、それに……げぇッ、お前は!? ちょ、何だ、何で体が動かねぇんだ!? た、大将!? 大将ぉぉおおオオオオッ!?」

 

 ■

 

「うぅ~、遅刻遅刻!」

 

 私、何処にでもいる普通の人類最後のマスター! 今朝まで私は普通に人類最後のマスターライフをエンジョイしていたんだけれど、突然カルデアに館内放送が鳴り響いてさぁ大変! 歴史上の偉人たちが私の貞操を狙っている!? 女性サーヴァントは私の童貞を! 男性サーヴァントは私の処女を狙っているですって!? もう本当大変! これから私、どうなっちゃうの!? 死ね!

 

「へ、へへっ、ここまで来ればもう大丈夫でゲス、追って来る奴は誰も居ないでゲス!」

「……マスター」

「はいごめんね許してちょーだいッ!」

 

 土下座ドリフト。

 全力疾走から土下座を行い、地面を滑りながら相手の方に頭を向ける高等技術である。人類最後のマスターともなればその土下座技術ですら一級品。見事な土下座ドリフトを敢行した藤丸は声を掛けた人物を恐る恐る見上げた。

 

 静謐ちゃんだった。

 

 何だ、静謐ちゃんか、土下座して損した。藤丸は溜息を吐きながら立ち上がった。すると彼女は頬を赤く染めながら、恐る恐る問いかける。

 

「あの、マスター……どうして下半身、丸出しなのですか……?」

「えっ、だって今日は『ノーパンツ・ノーライフデー』だよね……? あれ、間違っていたかな? ごめん、今日って何日? 一日早かった?」

「そ、そんな日があったのですか!? すみません、まだ現世の習わしに慣れず……」

「良いよ、静謐ちゃん、そういうのには徐々に慣れれば良いんだから」

「あの、私も下半身の装いを改めた方が宜しいでしょうか? 何も履かないというのは、少々恥ずかしいですが……」

「は? 何でパンツ脱ごうとしているの? 痴女なの? ちょっと静謐ちゃんの行動が理解出来ないわ、恥ずかしくないの?」

「えっ、えっ?」

 

 藤丸は深く溜息を吐き、周囲を見渡した。こうして遊んでいる間にも連中は虎視眈々と機会を狙っている。気は抜けない。周囲に気を配りながら藤丸は静謐に問いかけた。

 

「それで、どうしたの静謐ちゃん、何か俺に用事? ちょっと今貞操を狙われていてのっぴきならない状況なのだけれど、それをおして尚重要な御用事? ぶっちゃけ人理修復より大事な用事の最中なのだけれど、え? 何? どんな用事?」

「あ、えっと、その……」

 

 藤丸の強い口調に静謐は口元をまごつかせ、ぽつぽつと蚊の鳴く様な声で告げた。

 

「わ、私も、マスターと、その、一緒に……えっと」

 

 頬を赤く染め、目線を藤丸と床を行き来させながら身を竦ませる。実に可愛らしい、もう彼女が後輩で良いんじゃないかな。しかし藤丸はそうは思わない、静謐の言にこれまたクソデカ溜息を吐き出すと、腰に手を当てTNPを揺らしながら告げた。

 

「例えばさ、静謐ちゃんの事が好きな人が居て、自分も相手の事を憎からず想っていたとして」

「は、はい」

「それでさ、無理矢理結ばれたとして、静謐ちゃんは嬉しい?」

「そ、それは……」

 

 静謐は口を噤んだ。嬉しいか嬉しくないかと言えば――。

 

「人の嫌がる事はしない、人として当然の事だけれど、好きな人に対してなら尚更だ、そうでしょう? 俺、何か間違っている事言っているかな?」

「い、言っていない、です」

「ましてやこんな大会に悪ノリしてさ、よしんば上手く優勝したとして、性交渉をして、それで相手に嫌われちゃったらどうするの? 一時の欲望に身を任せて関係を壊すのが望み? 違うよね?」

「う、ぅぅ……」

 

 藤丸の畳みかけるような言葉に、静謐は肩を竦めて項垂れた。正しい、実に正しい言だ、正論である。幾らカルデアとは言えやって良い事と悪い事がある。男女別とは言え襲って組み伏せ無理矢理合意ックスなど犯罪行為である、はっきり分かんだね。

「静謐ちゃん、人間関係に近道はないんだ、ゆっくりと着実に、少しずつ距離を詰めていく、それくらいが丁度良いんだよ」

「ま、マスター……!」

 

 藤丸は優しい笑顔と共に手を差し伸べた。項垂れ、顔を俯かせていた静謐はその救いの手に目を瞬かせ、涙さえ浮かべる。

 

「わ、私が、私が間違っていました、マスター」

「良いんだ、間違いは誰にだってある、それを一つ一つ、正していくことが大切なんだ、ゆっくり成長していこう、おちんちんのように、一皮剥ける毎に俺達は成長出来るんだ、そうだろう?」

「は、はい!」

 

 静謐は涙を流しながら藤丸の手を取り、何度も頷いた。何と美しい光景だろうか。百億万点、きっと背後ではエンダーが流れているに違いない。しかし、そんな二人に迫る魔の手が――!

 

「あっ、マスター!」

「っ、貴様は――アストルフォッ!」

 

 ふらふらと覚束ない足取りで歩くピンク色の勇士! ピンクは淫乱、古事記にも書いてある。事実彼はマスターを見つけるや否やズボンのチャックを下ろし息を弾ませた!

 

「わぁい、マスター見つけたよぉ、あれ、何かむらむらしてきちゃったマスターえっちしよう!」

「ふざけんなこの脳味噌下半身直結英霊! 服を脱ぐなちんこを見せるなッ!」

「そんな事言って、マスターだってフルチンじゃないか! 僕とえっちな事したくて準備していたんでしょう!? 僕は詳しいんだ!」

「うるせぇ今日はノーパンツ・ノーライフデーだって言ってんだろう!」

「マスター!」

 

 しかしッ、そんな魔の手から主を守るべく静謐が立ち塞がる! 女性サーヴァントならまだしも(許すとは言っていない)男性サーヴァントとくんずほぐれつする気はない藤丸からすれば圧倒的な窮地。そこに颯爽と助けに入る静謐が今は眩しく見えた。

 

「せ、静謐ちゃん」

「先に行ってください、此処は私が」

「い、良いのか?」

「はい、私の過ちを正してくれたのはマスターです、今の私は、決して道を間違えません」

「! あ、ありがとうッ」

 

 マスターは振り向かず駆け出した。背後からアストルフォが何事かを言っている様な気がするが知った事ではない地獄に落ちろ。こうして藤丸は三度目の窮地を切り抜けたのであった。

 

 ■

 

「よう、マスター、何して……マジで何してんだ?」

「透明人間ごっこ」

「いや、普通に全裸に見えるんだが……楽しいか?」

「寒い」

「服着ろよ」

 

 廊下で棒立ちとなっている藤丸を見たアーラシュは真面目な口調でそう告げた。藤丸は全裸のままその場で華麗なターンを決め、難しい表情で告げる。

 

「いやでもさ、下半身だけ全裸っていうのも落ち着かなくて……ならいっそ全部脱ぎ捨てれば落ち着くかなって思ったんだけれど、思った以上に寒くて――靴下だけ残したんだ」

「絵面的に寧ろ悪化しているぞ、それは」

「えっ、ミロのヴィーナス?」

「同じ男からするとグロのヴィーナスだよ」

 

 靴下だけ履いた全裸のマスター、これ人類最後のマスターなんだぜ? 笑えよベジータ。アーラシュは汚いものを見る目で藤丸を眺めた後、窘めるような口調で言う。

 

「マスター、常々思っていたんだが今日のアンタは特に可笑しい……いや、そうでもないか、普通に通常運転だな、うん」

「そんな、褒めないでよアーラシュ、俺はそんな出来た人間じゃない」

「聞けよ」

「そんな事よりアーラシュ、助けて欲しいんだ」

「お前マジですげぇな、いや、本当に」

 

 人理を守る為には人の話を聞かないスキルも大事、はっきり分かんだね。

 という訳で再度説明、かくかくしかじか四角な筈がないだろういい加減にしろ! アーラシュに事のあらましを説明した。

 

「あー……そう言えばそんな放送あったな」

「そうなんだ、このままじゃ俺のちんこが捥げて爆発四散してしまう」

「マスターの股間は爆弾か何かか?」

「ある意味この状況を招いたという意味だと、核爆弾……かな(どや顔)」

「そうか(無関心)」

 

 アーラシュ、渾身の無関心。どう、この無関心っぷり、凄くない?

 

「む、マスター……それにアーラシュか」

 

 そこに現れるのはインドの大英雄カルナ。インドってすごいよね、世界七回滅ぼす武器とか持っちゃってるし、多分その内ガンダムとか創り出すんじゃないかな。そんな気がする。カルナは相変わらず抱き着くと痛そうな棘付きヒャッハー金色鎧を着込み、首周りにピンクの綿飴を身に着けていた。首回りべどべとしそう(小並感)。

 

「おう、カルナ、これから朝食か?」

「そうだ、早朝の沐浴が長引いてな――しかし、何故マスターは全裸なのだ?」

 

 カルナは全裸の藤丸を見て首を傾げた。だから今日はノーパンツノーライフデーだと言って居るだろうに。藤丸はやれやれと首を振った後、真面目腐った顔で告げた。

 

「これ? 馬鹿には見えない服」

「おいマスター、流石にそれは」

「……そうか、オレには何も見えん、これも当然か」

「信じるな信じるな」

 

 自己評価の低い英霊である。お粗末! なんやかんやあって三人は揃って食堂目指して歩く事となった。藤丸的にも英雄二人に守られた方が安心というものである。これなばらどんな英雄が来ても対処できる、最悪ステラで爆散させよ。藤丸は令呪を撫でながらニコチン。

 

「カルナ、見て見て、ちんこプター、ぶーん」

「中々に機敏な動きだ、やるなマスター」

「嘘だろ」

 

 藤丸の腰遣いにさしものカルナですら称賛の言葉を口にせざるを得ない様だ。ふん、と鼻を鳴らした藤丸は更に回転速度を上げる。おぉん! 俺は今零戦になっている!

 

「何かちょっと浮いてねぇか、マスター」

「ちんこプターの浮力かな」

「残像が見えるな、余程修練したと見える」

「お、分かる? 昨日コタロウと一緒にふろ場で三時間くらい練習したんだ」

「風魔……」

 

 アーラシュは涙をこらえるように目を覆った。どうしたのだろう、ドライアイかな? 藤丸は靴下の中に入れていた目薬をそっとアーラシュの手に握らせた。

 

「あっ、エレちゃん」

 

 ちんコプターの浮力でイナバウアー状態になっていた藤丸は、丁度背後から現れたエレちゃんを目視する。彼女は浮遊する藤丸を見るや否や、顔を真っ赤にして叫んだ。

 

「ろ、露出狂なのだわー! こういうのはもっと親しくなってから! ま、まずはそう、手とか繋いで、き、きっすとかしてからでないと駄目なのだわーッ!」

 

 叫びながら、消え去った。廊下の角を曲がってそのまま見えなくなる。その背中を藤丸一行は見守った。

 

「行っちゃった」

「中々の健脚だ」

「まぁ、そうなるわな……つうかマスターマジで服着ろよ、流石に全裸徘徊は拙いぜ?」

「お前それゴリラの前で言えんの?」

「何で此処でゴリラが出てくるのか俺には分からねぇ」

 

 アーラシュにはまだゴリラ談義出来る程の知識が足りていない様だ。やれやれと藤丸は肩を落とした。今度よくわかるゴリラ・ゴリラの生態、初級編を貸してやろう。そう心に決めた。

 

「まぁ全裸なら大会に参加しているサーヴァントでも気後れして手が出せねぇか、まさかそこまで考えて……?」

「めっちゃ寒い、カルナ、そのピンクのもこもこ貸して」

「良いだろう」

「わぁい」

 

 あ、これ違ぇわ、アーラシュは悟った。藤丸はちんコプターを止め地面に降り立つと、カルナからピンクの綿あめを受け取った。

 

「めっちゃもこもこしてる、温かい、やっぱり全裸とかクソだわ」

「マスター……」

 

 カルナは痛ましい目で藤丸を見た。何その道端に吐き捨てられたガムを見るような目は。

 

「むっ、マスター!」

「あっ、聖女だ」

 

 そんな事をしていると、今度は正面から聖女が現れた。聖女、ジャンヌ・ダルクである。藤丸はもこもこを肩に掛けながら呟いた。

 

「そのおっぱいで聖女は無理でしょ」

「私からすればその股間でマスターは無理でしょという所ですが」

「ちんこは関係ないだろう! いい加減にしろ!」

 

 この聖女には常識というものがないのだろうか? 人の股間をどうこう言うなど、人として最低である。

 

「ところで聖女様は大会に参加していたり?」

「します」

「やっちゃえランサー! あとアーチャー!」

「了解した」

「……戦いたくねぇんだが」

「あっ、ステラの方が良い?(令呪を見せながら)」

「…………」

 

 渋々と弓を取り出すアーラシュ。そうそう、それで良いのだよ。

 

「呼んだ?(テスラ)」

「呼んでねぇ」

 

 テスラは渋々と寂し気に座に帰った。

 

 唐突に始まった戦闘ムーブ、しかし当のジャンヌはやや困惑した面持ちで三名を見ている。そして旗を持っていない両手を突き出すと、待って、待ってとばかりに口を開いた。

 

「いえ、大会の運営方針で戦闘は禁止されていまして、私としても実力行使に出るつもりはないのですが……」

「あ、そうなん?」

「はい、私これでもルーラーですし」

「ルーラー(調停するとは言っていない)」

 

 まぁ世の中には亀を投げつけてぶん殴って来る聖女(ルーラー)とかも居ますし、まだルーラーしている方なのだろうか。僕わかんない。槍の矛先を下ろしたカルナがそんなジャンヌに問いかける。

 

「ならばどうやってマスターを捕まえるつもりだ?」

「それはこう、話し合いだとか、交渉だとか……」

「……件のマスターは、もう逃げたがな」

「えっ……あぁっ!」

「あんな性女と一緒に居られるか! 俺は自分の部屋に戻らせて貰う!」

 

 三十六計逃げるに如かず。

 戦いなんてクソである、何事も逃げるが勝ち、帰ろう、帰ればまた来られるから。

 しかし、そんな藤丸の進行方向に人影が!

 

「ぐはっ」

「うわっ」

 

 無論、衝突。ラブコメでも角でぶつからないと意味がないからね、仕方ないね。衝突の衝撃で藤丸は吹き飛び、ヤムチャの如き体勢で蹲った。カルデアの床にクレーターが、でいじょうぶだドラゴンボールがあれば直せる。

 

「痛たた……全く、急に飛び出して来たら危ないじゃないか、マスター」

「お、お前はデオンちゃん君!」

「ちゃんか君かどちらかにして欲しいかな」

 

 現れたのはデオンちゃん君、男か女かそれは不明、もしかしたらふたなのかもしれない。何それヤベェ、UMAじゃん。藤丸は尻と股間を抑えながら背後に後退った。それを見たデオンちゃん君は妖しい笑みを浮かべ、一歩踏み出す。

 

「でも丁度良かった、実は君に――」

「む、マスター!」

 

 しかし、それを拒むべく現れる新たな人影――スカサハスカディ。

 

「追い付きました!」

 

 ジャンヌ・ダルク。

 

「マスター、やっと見つけました」

 

 いつも大好きクールでキュートなえっっっっっっっっっちゃんが。

 

「おいおいおい、死んだわ俺」

 

 藤丸は四方を囲まれ未来を悟った。藤丸、終了のお知らせ。

 

「………」

 

 対峙した四名が険悪な雰囲気を醸し出す。これは修羅場、修羅場ですね! 藤丸は全裸靴下のままもこもこに顔を埋めて嵐の終わりを待った。全員が己の得物を構えた瞬間。

 

「違反行為を発見しました――殺菌ッ!」

 

 何者かが素早く戦場に現れ――南無阿弥陀仏ッ!

 凄まじい攻撃で以って四名を圧殺! コワイ! ワザマエッ! 手に汗握るバトルシーン! 

 

「ふ、婦長……!?」

「………」

 

 四名を瞬きの間に打ち倒した存在、それはナイチンゲール。勿論ガンダムではない、人間である。彼女は全裸で蹲る藤丸を一瞥し、顔を顰めた。

 

「何故、貴方は全裸なのですか?」

「ご、ごめんなさい、ちょっと母乳が欲しくて」

「……はぁ」 

 

 母乳が欲しくてって言えば何でも許されるって聞いた。嘘だった。ナイチンゲールは藤丸の纏っていたピンクのもこもを剥ぎ取ると、その肩を蹴飛ばして仰向けに転がした。「あぁん!」と藤丸。

 

「衣服を正しく着用せねば、体温が低下し体調を崩します、貴方には今一度衣服の重要性を理解させ、正しい生活の何たるかを教え込む必要がありそうですね」

「そ、そんな!」

 

 藤丸は冷たい口調で吐き出される婦長の言葉に顔を蒼褪めさせた。ナイチンゲール・ブートキャンプの予感。あの筋肉大好きレオニダスが、「おや、筋肉ですか? はは、確かに筋肉も大切ですが知識も同じくらいに大切です、今は線形代数と情報工学に関して学んでいる所でして、どうです? マスターもご一緒に?」などと宣い、人語を話さなかったヘラクレスが「Hello master. how are you? Im Awesome! HAHAHA!」となるくらいにはヤバい。

 

 きっと自分もそうなってしまう、多分なんかこう、「人類は、僕達が救って見せる……ッ!」みたいな正統派主人公な事を言い出すに違いない! 僕は詳しいんだ!

 

「か、勘弁して下さい! 俺には帰りを待つ妻と夫と母と父と息子と娘が居るんです!」

「駄目です」

 

 死亡確認。

 

「あっ、待って、婦長、駄目ッ、靴下、靴下脱がさないでぇぇ!」

「まずは温まる為に入浴を、序に殺菌も行いましょう、水温は――百度もあれば十分でしょう」

「だめぇぇぇええ水がふっとーしちゃうのぉおおおおおん!」

 

 靴下を脱がされ、すっぽんぽんで連行されている藤丸。それを廊下の角から覗いていたアーラシュとカルナが見て呟いた。

 

「……助けに行かなくて良いのか、カルナ」

「風呂は命の洗濯と聞く、悪い事ではないだろう」

「……そうだな、うん」

 

 この時まだ知らなかった、清姫がゴリラ・ゴリラと結託し、藤丸との婚約届を提出していたなんて。

 

 




 あなたを侮辱罪とキャラ改変罪で訴えます!
 理由は勿論お分かりですね? あなたがこんな小説でキャラを改変し、貶めたからです! 覚悟の準備をしておいてください。近い内に訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用で来て貰います。慰謝料の準備もしておいて下さい! 貴方は犯罪者です! 種火周回にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい! いいですねッ!?


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