直死よりも透視の魔眼が欲しいです。ええ、使い道はもちろん女の子のパンツを見るためです (白黒パーカー)
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雄英入学編
0話:透視って男のロマンだよね。つまり女の子の隠れたパンツは秘宝です


「————()()

 

 吐いた言葉に寒さを感じる。閉じた瞳には熱が篭もる。

 瞼を開ければ、視界にある様々な色が全て落ちていくような感覚に襲われる。

 しかし、何も見えなくなったわけじゃない。

 ただ俺の眼に見える景色に、線と点が浮かび上がるだけのこと。毒々しいその線と点は建物も目の前にいるロボットも、周りでロボットと戦っている人ですら例外なく張り付いている。

 そして、今からすることに何の支障も起きない。

 ——ただ殺すだけ。

 少し文句を言うなら女の子のスカートに隠れているパンツを透視できないとか、(しき)さん的にマイナス点だと思います。

 ほんと、直死の魔眼よりも透視の魔眼のほうが絶対いい。

 

「さあ来いよ、ロボットヴィラン。彼女みたいに生きてる神様は殺せないけどさ。動いてる機械ぐらいなら俺でも殺せるさ」

 

 目の前にいる機械に声を掛けながら、片手に持った定規(じょうぎ)をゆるく構える。

 敵であるロボットヴィランは3体。それぞれの機体には他の景色と同じくいくつかの線が脈打ちながら絡んでいて1箇所だけに点がある。

 

『目標確認、ブッコロスッ!!』

「ああっ、殺してみろよ! とっくに俺は死んじまったけどなぁ!」

 

 それがスタートの合図だった。

 1番近くにいた一体が物騒な言葉を吐きながら、俺に向かって真っ直ぐ突撃してくる。

 キャタピラで移動するくせに思いのほか速い。

 しかし、

 

『ブッコロッ……!?』

 

 数秒で目の前まで距離を詰めてきたロボットヴィランは俺に対して右腕を振り上げてくるが遅かった。

 その時には、俺は横にズレながら機体側面に絡む線を定規でなぞる。脈打つ線。それは死の線だ。()()()()()を持つ俺にしか見れず、触れることさえできない万物の(ほころ)び。

 本来なら硬くて包丁ですら切り込めないはずの機体は、定規によってあっさりと何の抵抗もなく切り抜かれた。

 ガラガラと機体を崩す音が後ろから聞こえてくる。俺は振り返らず、血のついた刀を払うように定規を横に振るった。

 

 虹色に揺れているであろう瞳で残りのロボットヴィランを見る。

 

「さて、次はお前たちの番だ。殺す覚悟はできてるか?」

 

 もちろん俺はできている。

 心の中でそう呟いて、俺はロボットヴィランに向けて駆け出した。

 

 ——俺はこの殺すことしかできない魔眼でヒーローを目指す。それが今、俺がすべきことだから。

 

 

 

 

 

     ◇◆◇◆       

 

 

 

 

 

「————直視」

「直視じゃないよ、このバカっ!」

 

 学校の校門にボコっと鈍い音が響く。それは俺の頭から鳴っていた。

 

「いったぁっ! …………もう、痛いよ一佳(いつか)。幼馴染だからって容赦なく頭を叩かないでよさ。ちょびっとだけ一佳のパンツとかイロイロをギリギリのラインで見ようとしただけなのに」

「お前は幼馴染の前に常識で行動を判断しろ。というかどう考えてもアウトだよ、変態(しき)

 

 中学3年目の冬になり、雪は降らなくても程々に寒い冬空の下。

 学校帰りの前に一佳のスカートの下を覗こうと顔を下げたら、頭に手刀が振り下ろされた。

 痛い。すごく痛い。

 涙目になりながら制裁を下した彼女、一佳を軽く睨む。

 だって、一佳がこんな真冬なのにスカートだけしか()いてないんだもん。寒いんだから、スパッツぐらい穿()けばいいのに。それはもう俺に太ももを見せるため、もっと言えばパンツを覗けと言ってるに違いない。

 

「違うからな? スカートは学校の校則だし、スパッツは動きにくいから穿いてないだけだぞ」

「一佳、よくわかったね。もしかしてテレパシーの個性でも発現したの?」

「そんなわけあるか。こんなのいつものことだからそれぐらいのことは分かるよ。小学生の時から色は何も変わらないし」

 

 まあ、確かにいつものことか。1度目とは違って精神的な成長もそこまでなし。2度目の世界に生まれて1番付き合いが長い友達は一佳だけだから。

 

 拳藤一佳(けんどういつか)は小学生からの幼馴染だ。

 サイドポニーに纏めたオレンジ色の髪。中学生にしては出るとこは出て、締まるところは締まってるプロポーション。

 ムチッとしながらも鍛えられた分引き締まった体はとても魅力的だ。

 

 小学生からの付き合いだけど、ここまで成長するとは思わなかった。知識と体験じゃやっぱりギャップがある。

 知り合いながら鼻が高いと色さんは思います。透視の魔眼があればぜひブラやパンツ姿を見てみたいぐらい。

 改めて見ても、一佳の身体はしっかり鍛えられてるな。あの日から一佳は夢を叶えるためにずっと努力してきたことが服越しからでもよく分かる。

 

「どうした、色?」

「いや、一佳もずいぶん成長したと思って」

 

 

 俺が黙っているからか、一佳が不思議そうに声を掛けてきたから素直に思ったことを伝える。

 すると、彼女は一瞬呆けた顔をしたが俺の言葉の意味を理解したのか、クスリと微笑んだ。

 

「ん、まあね。ここまで強く成長できたのも、アンタが私のために手伝ってくれたおかげだよ。いつも馬鹿なことばっか言ってるけどさ、私はすごく色に感謝してるん――」

「ほんっと透視の魔眼でもあれば、じっくり見たくなるぐらいムッチムチになったよね。……ほんと、なんで俺は直死の魔眼なんだろう。透視の魔眼ならその身体もたっぷり見れぇ痛い、痛いイタイっ! 頭割れそうで痛いんですけどっ! 個性はダメっ、大きな手で潰さないでぇっ!」

「感謝しようとした私がバカだったよ! この変態!」

 

 声を荒らげる一佳の大きくなった手で頭を鷲掴みされて、すんごい痛い。個性は卑怯だよ。

 女の子なんだからもう少し優しくお淑やかに……でも、お淑やかな一佳とか想像できない。あれ、なんだか締め付ける手が強くなって……い、く。

 

「あ、あのー、どんどん締め付ける手が強くなってるんですけど? 冗談抜きで頭が割れちゃうから。蒼崎(あおざき)さんみたいに頭が弾け飛んじゃうからっ!」

「色、お前また余計なこと考えたろ。言ってみな? 内容次第では許してあげるから」

 

 クラスメイトの前では姉御肌の一佳さんも、俺の前では凶暴になっちゃうとか。マジ怖い。そんな特別な関係いらないんですけど。

 でも、内容次第では許してくれるのは優しさでは?

 ここはやっぱり一佳が喜ぶこと言った方がいいよね。たぶん。

 

「一佳みたいな、……お、女の子のスベスベした手で、頭を握りつぶされるなんて……、我々の業界ではご褒美です! あ、嘘です。痛いですっ。Mじゃないからとっても痛いんですけどっ!」

「こんのバカッ!」

 

 あー、あーおーざきー。

 

 

 

 

 

     ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「あー、いたかった」

「反省しなよ、もう。色は普段から真面目にしてくれたらいいのに」

 

 しばらく頭を鷲掴みされた後、一佳には一応、お願いを1つ聞くことで許して貰えた。どうせいつも通り受験に向けた実技試験の特訓だろうけど。

 さっきまでのはちょっとした茶番だった。

 今は一佳と隣になって一緒に歩く。道路には自分たちと同じく帰ろうとする生徒や大人。パトロール中のヒーロー達がいた。

 

「ほんと馬鹿なことばっか言って。……毎度毎度同じことばかり言われるこっちの身にもなってよな」

 

 どこか呆れたような表情で言ってくる一佳。

 うん、全く持ってその通り過ぎて反論することが出来ない。

 でも、なんだかんだ離れていかない一佳のその姉御度の高さは彼女の魅力だと思います。

 さっきまでの行為はいつものやり取り。アレも毎日やってることだから、ルーティンワークみたいなもの。

 やめろと言われてはい、そうですねと、やめるには少しばかり惜しい。

 

「そこは勘弁して欲しいかな。欲望に忠実に生きるのも、この色さんにとってのしょうもない願いみたいなものだからさ」

「願いっていうか欲望でしかないけどな。しかも、色欲マックスの」

「まあ、否定はしないけど」

 

 一佳のツッコミにゆるく肯定する。

 欲望に忠実に生きるということはただの欲求。これは生きるために必要なモノなだけ。願いではあるけれど、これは当たり前のものじゃないといけない。

 それでも、今の俺にとっては確かな願いなのだ。

 

「一佳は今でも願いは変わらない?」

 

 気になって俺は一佳に質問する。少しだけ力が入ったのか瞳がじわりと熱くなり視界の認識がズレる。

 一佳も俺の眼の変化に気づいたのか、少しだけ一佳の雰囲気が真剣になる。虹色に揺らめく瞳で、線と点が絡む一佳の答えを待つ。

 

「……うん、変わらないよ。私はヒーローになる。だから、雄英高校に受験する! 絶対に雄英に合格して夢を叶える!」

 

 一佳は真剣に、それでいて嬉しそうな声で夢を語った。

 死の線と点が絡んでいてもその笑顔は素敵だった。

 その願いはとても綺麗なモノだった。

 だから、それをもう少し近くで見てみたい。ついでに一佳のパンツも見てみたい。彼女は今でもキャラクターパンツなのかどうかを確かめたい!

 

「そっか。その願いが叶うことを楽しみに待ってるよ。……まあ、高校も一緒だろうからよろしくね一佳。今度こそ一佳のパンツを見てあげるから」

「反省してないな、こいつ……。というか、もう受かった気か? しかも私と色の2人も。さすがに雄英を舐めすぎじゃないか? あの高校はオールマイト含めプロヒーローばかりだす名門校だぞ?」

 

 視界を切り替えると、一佳はいつものように呆れたような笑みを浮かべて訪ねてくる。

 でも、その言葉には全く持って心配は感じられない。

 

「きっと大丈夫だよ一佳。俺も一佳も願いのために色々と積み重ねているからさ。雄英ぐらい余裕で受かるさ」

「根拠もなにもないな。……でも、そうだな。油断はしないけど自信ぐらいは持って受験に取り組もうかな」

 

 ああ、大丈夫だろう。

 そもそも一佳は雄英高校ヒーロー科に受かることは知っている。俺がこの世界に転生して多少の変化はあろうとも大丈夫なはずだ。

 逆に言えば、俺が入れるかどうかのほうが不安だが。まあ、そこは何とかなるだろう。

 素敵な女の子のパンツを見るためなら、この直死の魔眼で神様だって殺してみせるさ。

 そんなことを考えてると、一佳がいつも見せる男勝りな笑顔でニカッと笑う。

 

「そのためにも色。帰ったら実技用の特訓手伝ってくれよな?」

「いいとも。お代は一佳のパンツでどうだい? 今ならお安くしとくよ」

「懲りないなぁ。……まだ締め付けが足りなかったか?」

「はい冗談です。ぜひとも、特訓させてください。だから個性で手を大きくしないで」

 

 軽い冗談を言って、笑いながら帰りの足を進めた。

 

 

 そして、俺と一佳は雄英高校ヒーロー科を受験する。

 

 

 

 

 




続くかどうか分からないけど頑張ります。
それはそれとして、見えないものを頑張ってみようとするギリギリ感はいいですよね。スカートに隠れたパンツとか。


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1話:そして魔眼は起動する。見えないモノを見るために

「……パンツが見たい!」

 

 寒空の下、俺は白い息を吐きながら呻いた。

 パンツが見たい。女の子のスカートの中に隠れている秘宝を見たくて仕方がない。

 透視さえあれば。透視の魔眼さえあればすぐにこの悩みも解決できるのに。

 

(しき)、またバカなこと言ってる」

 

 そんなことを考えていると、隣から容赦のない言葉が飛んできた。

 そちらを見れば、オレンジ色の髪をサイドポニーに纏め、学校の制服に身を包む一佳(いつか)が冷めた目で俺のことを見ていた。いつも通り、彼女はスパッツを穿()いておらず、そのムッチリした生足を覗かせていた。

 

「いいじゃんかよ、一佳。俺はさ、パンツが好きなんだよ。スカートの下にあるパンツにときめいちゃうんだよ。そういう(さが)なの、個性とか起源的にたぶん。——そういうわけで一佳、パンツ見せて」

「そんな個性ないし、堂々とセクハラをするな」

「ぐぇっ」

 

 冷静にトッ、と俺の首に手刀を叩き込まれて喉から変な声がでる。

 いつもの調子でお願いしてみたがダメだった。相変わらず一佳さんは容赦(ようしゃ)がない。基本的に頭の回転が速く姉御気質の委員長だけど、最終的にはパワープレイに辿り着つくんだよなぁ、この人。

 

「……ひどいよ一佳。その手刀、人によっちゃ気絶しちゃうからね? 試験前なのに首がすごい痛いんですけど」

「色がいつもふざけたことばかり言うからだろ。されたくなかったらもう少し普段から真面目にしろよな」

「いやいやいや、色さんはいつでもどこでも真面目ですから。本気で一佳のパンツを見ようと頑張ってますけど」

「なお、タチが悪いわ。この変態!」

 

 最初は冷静に対応していた一佳だが、すぐ耐えきれなくなったのか「あー、もー!」と叫びながら、自分の髪を掻きむしる。

 それから俺のことを睨みつけてきた。美人な人に睨まれるとすごく怖いんですけど。

 

「おい、色! 私たちはこれから雄英の実技試験を受けに行くんだぞ! お前も今日ぐらいは、バカなこと言ってないで、試験の対策とか色々考えろ!」

 

 そう。彼女の言う通り、今日は雄英高校ヒーロー科の実技試験日だ。

 

 ヒーローを目指すものなら誰もが目指すヒーロー育成学校。平和の象徴であるオールマイトを含め、多くのプロヒーローを排出していることから彼らに憧れた多くの子どもたちは、雄英高校を受験する。

 

 俺と一佳も今日は朝早くから試験会場である学校を目指して足を運んでいる。

 隣で睨みつけてくる彼女を見る。普段から怒ると怖い彼女だが、今日は特段とピリピリしている。さすがの彼女も緊張してるんだな。

 俺は笑いながら、一佳に言葉を返す。

 

「おいおい、一佳。俺のこと舐めちゃあいけないぜ。普段はまぁ、ふざけてる色さんだけど、何も対策をしていないわけじゃない。一佳もそれは知ってるだろ?」

 

 俺がそう言うと、一佳は睨むのをやめて複雑な顔になる。

 

「はぁ? まあ、確かに普段のバカを除けば、色がすごいことは知ってるけどさ。その全てを変態性が塗りつぶしちゃってるんだよな……」

「ふふん、それが俺の願いに近い行動だからね。ま、それは置いといて今日はね、実技試験のためにまとめノートを持ってきたんだよ」

 

 そう言ってドヤ顔をする。

 俺自身2度目の人生で何をすればいいのかを模索した。

 まとめノートにはこの世界に来てから、自分にできることを増やすために取り組み続けた情報が(まと)められている。たとえば効率的に走る方法だったり、戦闘で使える格闘技、ナイフ術。直接戦闘に変わらないものなら、相手の緊張をほぐすやり方や他人の感情を推測する方法などもあり、様々な分野について記録されている。

 

 それもこれも資料を集め分析し、それらに詳しい専門家に聴いたり、実践してみて反省をしてと小さな頃からコツコツ積み重ねてきたおかげだ。

 ただまぁ、それを極めようとしている人と比べればしょぼい。要はできない人より、少しできるだけのこと。俺はそう思っている。

 

 そして、ノートの数は膨大(ぼうだい)で何冊かのまとめノートがあり、今回はそのうちの1つを、鞄の中に入れてきた。

 さっきまで怒っていた一佳も目をパチクリさせて、興味深そうにしていた。まぁ、彼女には今まで秘密にしていたことだ。どことなくワクワクしているところがまた年相応で可愛らしい。

 

「へー、それは初耳かも。良かったらさ、私にも見せてもらっていい? ダメなら仕方ないけどさ」

「いいよ。ちょっとだけ待ってね。いま鞄から出すから」

 

 肩にかけた鞄に手を突っ込んで、ガサゴソと探していると硬く平ぺったいノートらしきものに触れた。これかな?

 

「えーっと、あーこれじゃなかった。これは一佳ママに頼んで撮らせてもらったコスプレ集だ。えっと、ノートノート……。あ、あった。はい一佳、これが色さん特製のまとめノート」

「…………」

「一佳?」

 

 間違って出してしまった一佳ママコスプレ集と書かれたアルバムをしまって、探していたノートを見つけ出す。それを隣の一佳に渡すが、一佳はノートを受け取らない。それどころか足を止めてしまった。

 声を掛けてからしばらく様子を見ていると、一佳は俺の肩に両手を置いた。その顔は無表情だった。

 

「おい、色。さっきのはなんだ?」

「さっきのって、なに?」

「まとめノートの前に出してたやつ」

「あー、あれはアルバムっていうかコスプレ写真集だよ」

 

 無表情のまま淡々と言う一佳にそう答えてみると、俺の肩を激しく揺らしてきた。

 おおう。ゆれりゅー。

 

「そうじゃなくて! なんで!うちの母さんがコスプレしてて、その写真集をお前が持ってるのかって、聞いてるんだよッ!」

「あうヴぁっ、いつ、か……そんな激しく、揺、すると。話せない……」

 

 ガクガクと体を縦に揺らされて、頭がシェイクされる。

 一佳ママのコスプレ写真集。それには谷より深いわけがある。

 一佳とは小学校からの知り合いだが、お互いの家は割と近いところにある。当然、付き合いが長くなれば互いの親とも関わりができ、コスプレ写真は一佳ママにダメ元で頼んだものだ。

 

 そして頼んでみたところ、意外とオッケーされてできたのがこのコスプレ集だ。原作では一佳のヒーローコスチュームがチャイナ服で似合っているのを知っていたから、チャイナ服とか、色々なものを着てもらい撮らせてもらった。俺にとっての癒しのバイブルなのだが、今は割とどうでもいい。特に深いわけでもなかった。

 

「何なのアレッ! 私、あんなの撮ってたの知らないんだけどッ!」

「まあ、一佳に見られたら止めてたでしょ? いないときに撮らせてもらった。後悔はない」

「当り前だバカ! これから私は、母さんのことをどんな目で見ればいいんだよッ!」

 

 さっきまで緊張していた一佳も今はいつも通りの様子に戻った。少しやり過ぎた気もするが、まぁいい。

 緊張することはだめなわけではないけどさ、一佳。それが過度になれば身体の調子が悪くなる。身体の動きが固くなる。

 それならいっそリラックスしていつも通りに行動できるほうがいい。いつも通りに動けるのなら、彼女は必ず雄英に受かるはずだから。

 

 それはそれとして、一佳ママは一佳以上にナイスバディで素敵なパンツでした。

 

 

 

 

     ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「マジで一佳さん、怖かった」

 

 動きやすい服装に着替えた俺は、パーカーのポケットに両手を突っ込みながら、ため息をこぼす。

 一佳をリラックスさせるために見せた一佳ママコスプレ集が思ったよりも効果を出したからだ。リラックスどころか怒りゲージマックス状態。

 試験の説明会場に着き周りにも他校の生徒がいた事で、取り敢えずその場では怒りを収めてもらえたが、まだ怒りが燻ぶっていたのか、俺の顔に自分の顔を近づけながら、周りに聞こえないように一佳はボソッと言葉を零した。

 

 ——色、どういうことなのか詳しく教えもらうからな? ()()()()()()()()

 

「……どーしよう。次、一佳に会ったら殺される」

 

 無表情ながら低い声で言った一佳の言葉を思い出し、背筋に寒気が走る。

 殺されないよね? ヒーロー志望な子がそんなことしないよね?

 ……怒られないように言い訳を考えておくか。

 

 ほぼ無駄なことを考えながら、俺は周りの受験生に目を向けた。

 俺が今いるのはG会場。原作通り、試験内容も1Pから3Pのロボットヴィランを倒す加点方式、0Pのお邪魔ロボットヴィランも存在を確認した。そして、同じ学校で協力されないように一佳とは別会場に分けられていた。いや、ほんと今の一佳と離れられてよかった。

 

 動きやすい服装に着替えた生徒たちはこれから始まる試験に向けて各々、準備運動をしていたり、瞑想(めいそう)などをしていた。そして俺はその集団の中にいる2人に注目した。1人は腕がセロハンテープみたいになっているしょうゆ顔の少年。もう1人は2本の大きな角がチャーミングな外人少女だ。その2人とは学校は違うけど、俺は一方的に知っている者たちだった。

 

瀬呂範太(せろはんた)にB組の角取(つのとり)ポニー……。一佳以外の原作キャラ見るとなんか新鮮だなぁ」

 

 ヒロアカの世界に来たって感じ。

 それに含めてさっきの説明会場で見た緑谷くんたちの原作通りのやり取り。俺というイレギュラーがいても、さして物語の流れは変わってないみたいだ。うん、なんか知らない人ばかりの中で知っている人がいると、テンションが上がる。

 他にも原作キャラがいないかと周りに視線をキョロキョロさせると、不可思議な光景というか前世でも見たことがあるような様子に視線が釘付けになる。

 

「よーし、本気出して行くぞー! えっと、手袋とブーツも脱ごっと!」

 

 試験会場にも関わらず、集団の端側に女の子の服が散らかっていて、何もいないはずなのにそこから女の子の活発そうな明るい声が聞こえてきた。

 

「————()()

 

 そっと魔眼を起動する。

 すると、何も無いはずの空間には死の線と点が絡み、数秒すれば女性の体を形成した。俺は彼女のことを知っている。瀬呂と同じくA組になるはずであろう生徒。そこには葉隠透(はがくれとおる)がそこにいた。

 彼女の個性は『透明化』。人から見えないというそのままの個性だ。それが常時なのか発動なのかはさておき、物語の中ではっきりとした姿は見えていない、のだが……。

 

「…………わーお」

 

 思わず声が()れた。

 一応容姿は出たことがない。それでも設定では()()()()()とかなんとか言われてた気がする。

 しかし、今、目の前に見えるのは何なのだろうか?

 直死の魔眼は死の線と点を見るだけで透明人間の姿を明確に見るような能力はない。それでも、死の線は見えない葉隠に絡みつき体を形作り、その神秘を視覚化していた。どんな顔付きなのかはわからない。でも、絡みついた線のおかげで端正な顔つきのなのは分かる。

 原作での葉隠は見えないながらスタイルはいいということは分かっていた。でも、これは一佳にも負けてない。それどころかタイプムーン世界に出てくる美人美少女らと比べても負けてないんじゃないの? 葉隠さん、マジぱねぇっす。

 

 誰にも見えないはずの葉隠透。しかもスッポンポンにしてありのままの姿つまり裸を、間接的とはいえ()()()()()()()()()()()()()()

 おー、これはなんというか見てはいけないモノをこっそり見ているようなイケナイ気分だ。普通にイケナイことか? これはホントに見ていいモノなのか?

 数秒沈黙する中でできる限りの速度で思考する。うーん。

 うん、大丈夫だ。これはきっと合法だ。葉隠は自分の意志で裸になって、俺はたまたま直視の魔眼を起動した。

 どちらも自分の意志でやってることならば、全く持って問題はないのだ。というわけで、試験が始まるまで見ていよう。

 

 しばらく葉隠の裸をじっくりと見ていると、葉隠の顔がこちらの方を向いたような動作をする。

 それからキョロキョロと周りを見て、もう一度俺の方に顔を向けると、しばらくしてこちらに近づいてきた。

 

「あれれ? もしかして私のこと見えてる?」

 

 目の前までくると(いぶか)しげに尋ねてくる葉隠。傍から見えていないだろうが、うーん、と腕を組み(あご)を撫でる動作をしながら体ごと横に傾ける姿は活発的な性格で彼女のノリの良さが見て取れた。

 どうしよう。葉隠の質問になんて答えればいいんだろう。

 一佳なら、一佳の裸見てたとか素直に答えれば手を大きくして制裁をしてくるぐらいの仲だけど。

 さすがに初めてあった女の子に一佳と同じようなことは言えない。というかこれが一佳にバレたら余計に怒られてしまう。ただでさえ朝の件で怒られているんだ。いずれ雄英に通いだしたことを考えたら、バレた時のことが物凄く怖い。

 ……ここは、適当に誤魔化すか。

 

「ううん、見てないよ。君の大きなおっぱいとか予想外のくびれとか、はっきりしていないけどすっぽんぽんだろう下半部とか全く見てないよ」

「うわーっ! やっぱり私のこと見えてるじゃん!」

 

 ごめんなさい。やっぱり(さが)には(あらが)えませんでした。

 

 あわわ! と慌てながら胸を隠す葉隠。

 なんていうか、今まで見えてないから全く気にしてなかった女の子が、こうやって異性に見られて初めて恥を自覚するみたいなシチュって、なんかいいよね。

 

「大丈夫大丈夫。普通の人には見えてないし、俺自身もはっきり姿が見えてるわけじゃないから。だから、安心してそのままでいて」

「だ、ダメだよー! こういうエッチなのはダメだと思うな! ていうか、そんなに見ちゃダメ~ッ!」

「あー、はいはいごめんなさい。だから、一旦落ち着いてくださいお願いします。見えてないはずなのに、周りの目がすごく痛いんですけど」

 

 気づけば周りからジトッとした目で見られてなんだかすごく気まずい。雄英高校に入学する前に刑務所に行きそうで胸がドキドキする。

 すぐに直死の魔眼を切ると、ふうと息をつく。

 しかし、あわあわしていた葉隠は俺の顔を見て照れが引き、疑問の声を上げる。

 

「あれ、さっきと目の色が変わった? もしかして私の姿が見えていたのって君のこせ——」

「それじゃあ、おふざけもほどほどにしとこうか。そろそろ試験始まると思うからまたね。お互い試験頑張ろっか」

「え?」

 

 一佳と同じく()()()()()()()()()葉隠にそう伝えて、俺はG会場にいる試験監督者に目を向ける。葉隠の裸を見ながらもチラチラ先生のことを見ていたから、雰囲気が変わった先生に気づいたし、まもなく試験が始まるのだと予測した。

 

 やっぱり過度な緊張をしていてはいつも通りのパフォーマンスは出せないよな。試験だろうと本番だろうと無駄に緊張させないのはヒーローとしては必要な要素だ。

 うん。まとめノートに書いたことはしっかり実践できてる。

 それにいざ雄英に受かっても、知っているキャラがいないと寂しいし。

 

『はいすたーと!』

 

 そして予測した通り試験監督の唐突な開始の合図を出し、俺は1人加速した。

 後ろでは原作通り困惑する生徒たちの声とそんな彼らを急かす監督者の声が薄く聞こえてくる。

 

 もちろん予測だけではなく原作を知ってるからこそできた対応。しかし、これを卑怯とは思わない。

 そもそもせっかく知識というアドバンテージを持ってるんだ。活用しないのはもったいない。

 それに俺はみんなみたいに正義感とか持ってないし、フェアを重んじるスポーツマンシップに誓っているわけでもない。

 

 使えるモノは何でも使うさ(生かすさ)

 所詮、殺すことしかできない魔眼を持つ元一般人。

 転生したからといって、主人公補正があるかどうかもわからない。そんな中でヒーローを目指すなら、これぐらいはやらないとやってけないはずだ。

 

 さっきのことで後悔するなら、もう少しだけ慌てる葉隠とおっぱいを見ていたかった。あのおっぱいはマジでやべえ。

 

『目標発見!』

『ブッコロス!』

『コロスコロスコロスッ!』

 

 1人前に進んでいると3体のロボットヴィランが現れた。

 

「————直死」

 

 ポケットの中から定規を取り出し直死の魔眼を起動する。

 ヒーローを目指すため、自分の願いを叶えるため。これから破壊する敵に向けて、俺はナイフを構えるように定規を握った。

 

 

 

 

 

 




なんとか2話目も書けました。
一佳さんとのイチャイチャが書きたいのに、別のキャラと絡ませてしまう。
まぁ、葉隠みたいに見えなくて色々な想像ができるキャラは好きだし、書いてて楽しい。




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2話:正義はない。けれど、そこにはおっぱいがある

「シッ!」

『ブッコロォ……⁉︎』

 

 コンクリートの上を滑るように駆け抜けた先。

 目の前にいるロボットヴィランに絡む線を定規(じょうぎ)でなぞり、機体は真っ二つに裂かれていく。

 

『目標確認ッ!』

 

 顔を上げれば建物の影からまた新たに一体、ロボットヴィランが自分に向かって突撃してくる。さっきのより大きくて線をなぞるだけではすぐに止められない。

 

 なら、点で殺す!

 

 ロボットヴィランの突撃を(かわ)してすぐに、機体に張り付いている脈々しい点に向けて、レイピアのように定規を放った。その攻撃に対しロボットヴィランは声を上げることもなくボロボロと体を崩れ落ちていった。後に残るのは使い物にならない装甲とパーツの残骸(ざんがい)。どれもボロボロと(ちり)のようになった。

 

 あー、何もかも逝ってしまった。

 そりゃあ、死そのものである点を突いたんだから、当たり前といえば当たり前だけど。

 

 何はともあれ、今のロボットヴィランで60P。雄英高校ヒーロー科に合格するには十分な点数を確保できたんじゃないか?

 爆豪ほどの凄い個性ではないが、鍛え上げた体と技術で後半も体を動かし続けることができているなら、十分だろう。

 

 それでも倒す速度が速い理由はこの眼のおかげかもしれない。

 (まぶた)にそっと手を触れる。今は虹色に輝いているはずのその瞳を。

 

 ——直死の魔眼。

 

 それは死を視覚情報として捉えることができる魔眼の名だ。

 

 死は線と点で視覚化し、この世界で俺だけが見て触れることができる。

 

 死の線は存在の死にやすいラインを示すもの。その線をなぞり断てば、どんなに硬かろうと切断する。

 死の点は死の線の源、これを突けば存在の意味を殺すことができる。

 本来なら、こことは違う世界にあるはずの力ではあるけれど、これがこの世界で言うところの個性なのかどうかは分からない。

 今世の両親が持つ個性とは全く能力が違うものだし。

 特に問題はないから俺は気にしてない。

 

 まあ、それはそれとしてあんまり使い道がないんだよね。これ。

 お料理で使いたくても食材どころかまな板まで切断してしまうし、人に直接使えば殺人鬼として即逮捕される。いや、この世界ではヴィランかな。

 逆に良いところをあげようと思ったら透明人間の裸がほんのり見れることと、眼がカラコンを入れたみたいで、綺麗でカッコイイ、モテそう! ってことぐらいだ。

 

 うん、やっぱり透視の魔眼が1番だな。誰にもバレないし迷惑もかけない。端っこの方でおっぱいとかパンツとかを静かに見れるだけで幸せになるよね。きっと。老後までのんびり生活を送りたいぐらい。

 

「どう考えても、直死の魔眼より透視の魔眼のほうが欲しいわ。色さん脳内満場一致で透視決定なんですけど」

 

 欲望に忠実に生きる。女の子のパンツを覗く。()()()()()()()()()()()()()

 やっぱり願いを叶えたいなら何事も貫くことが大切だよね、色々と。

 それに一佳とも約束をしたんだから。それを守るためにも雄英高校に入学しなくてはいけない。

 

「他のみんなも大丈夫かな?」

 

 直死の魔眼を起動したままに、周りを見渡せばそこには個性を使ってロボットヴィランを倒そうとする受験生たちが目に入る。

 スタートでは大きく差をつけたつもりだが、今では周りが人とロボットでいっぱいだ。

 

 その中にはスタート前に見つけた原作勢も揃っていた。この会場にいる原作キャラは瀬呂(せろ)角取(つのとり)葉隠(はがくれ)の3人だ。

 瀬呂は個性のテープでロボットヴィランをぐるんぐるんに巻いてた。とても使い勝手のいい個性というか。なんというかロボットヴィランが女の子だったら束縛されてて、えっちーのに。

 いや、でもロボットが女の子だったらそれはそれでアリな気もする。

 

 角取に関しては頭に生えてる2本の角を飛ばして、ロボットヴィランを突き刺したり、持ち上げて落としたりと、結構、エキサイティングしていた。確か角砲(ホーンホウ)とかいう個性だっけか。ロボットヴィランとはいえ、角で押し込めるだけのパワーがあると思うと恐ろしい。あんな純粋無垢そうな顔して、割とえげつないことをしていたとか。

 

 葉隠はまあ、うん。ぶるんぶるんしていた。透明人間で見えないはずの葉隠だが、魔眼を起動した俺の視界では、死の線と点が絡むことで、人の体を作り上げていた。お陰で俺には葉隠のスタイルの良さから髪型、おっぱいの形などがよく分かる。今の俺には、彼女が体を動かす度に、おっぱいが自由にぶるんぶるんと揺れるのが見れる。もうそれが自然体というか当たり前すぎて、貞操観とか大丈夫かと言いたくなるぐらいには激しく揺れていた。

はい、目の保養ですね。ありがとうございます。

 

「よし、いいもの見たし。残り時間もロボットヴィランを斬って突いて、殺りまくるぞーおぉおッ⁉︎」

 

 突然の揺れに足元が掬われる。

 この揺れが来たということはアレがもう登場するってことか。

 そして、近くの建物から破壊音が響き渡った。

 

 

 

 

 

     ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 震源先であろう方向を見れば、そこには予想通りビルを崩壊させながらゆっくりと移動する0Pロボットヴィランの姿が確認できた。

 突然に、近くから現れたところを見るに、出現場所がここだったということか。

 

 鋼鉄(こうてつ)で巨大な機体。周りのビルを粉砕しながらゆっくりと移動している。

 

「いや、さすがにこれはデカすぎでしょ」

 

 思わず1人で突っ込んでしまう。

 確かに原作通りなんだけど、思ってたよりもデカすぎじゃない? なに作ってるの雄英。

 周りの生徒たちもあの巨体さにビビってしまい、軽いパニック状態になって我先にと逃げだしていた。

 

 一応、直死の魔眼であの巨体を観察してみたが……どうしようか。

 俺自身、合格するだけのポイントは稼いだわけだし、戦う必要もない。

 そもそも、()()()()()()()()()()()()()()

 死の線をなぞろうとしても足元だけしか殺せないんじゃバランスを崩して倒れてくる。死の点を突こうにも機体の上半身に死の点があって俺だけでは届かない。

 

「逃げの一択かなぁ。でもなあ、うん……殺ろうと思えばできるけど。危ないし。そもそも必要なモノを今すぐ探さないといけない上に時間が足りない。……逃げるか」

 

 あっさりと結論を出す。

 まあ、仕方ないよね、届かないんだし。ヒーロー目指してるけど、別に正義感とか自己犠牲精神とかそういった類のは持ち合わせてないし。今は倒す必要性もない。

 

「ちょっとちょっと! 君も早く逃げないと危ないよっ!」

 

 慌てたような声と共に葉隠がこちらにやって来た。

 本来なら透明人間で誰にも姿が見られることのない彼女は腕をぶんぶんと振りながら声を掛けてきた。それに同調して、ブラもなにもしていないおっぱいが上下に揺れる。

 

「おっぱいさ、凄い揺れてるけど大丈夫なの? 痛くない、それ?」

「も、もう! さっきも言ったけどさ! そういうのはセクハラって言うんだよ⁉︎ って、今はそれどころじゃないから!」

 

 あまりの揺れ方に思わず質問してしまった。いや、悪くはない。彼女のことを気遣った質問だから悪くない。

 

 透明な体なのに片腕で自分の胸を隠す葉隠は、もう片方の手で俺を掴み、「早く逃げるよっ!」と焦って引っ張ってくる。

 女の子の手ってぷにぷにしてて柔らかい。一佳(いつか)の手とはまた何か違った感触に俺の脳は刺激されまくり。

 さすがヒーロー志望。どんな時でも市民をリラックスさせる行動を選ぶとは意識が高い。

 

「た、助けて! う、動けない、の……ッ」

「え、今の声⁉︎」

 

 2人で逃げようとした瞬間、後ろから震えてか細くなった声が聞こえる。

 ロボットヴィランに気を取られて気付かなかったが、どうやら自分たち以外にも逃げ遅れた受験生がいたらしい。そこには腰を抜かした女の子がいて涙を流していた。その後ろから0Pロボットヴィランが落石を生み出しながらこちらに向かって歩いてくる。

 

 それを見た葉隠は何の迷いもなく女の子のほうへと走り出した。

 

「まだ逃げ遅れた人がいたんだ。助けないと! 私行ってくるから君は先に逃げてね!」

「あ、ちょ、待てよ! お前1人じゃ助けられないって! もう、聞いてないんですけど!」

 

 もう! 一佳とか原作の緑谷もそうだけど、ヒーローを本気で目指してるってやつは必ず自己犠牲的な行動をするものなの! そこが彼らの魅力でもあるから色さん的には大好きだけどさ。

 

 先に飛び出した葉隠を追いかけ、動けない少女の元までたどり着く。

 葉隠はその少女に言葉を掛けながら肩を貸していて、俺もそれを手伝おうとする。——が直前でその動作をやめて定規を握りしめる。

 

「おい、はが……おっぱいちゃんと、そこの女の子頭下げてろッ!」

「え、あっ! うん!」

 

 0Pロボットヴィランが意外にも速かったのか割とすぐ近くにまで移動していて、その機体の腕が掴んでいたビルが一部崩壊した。

 そのうちの大きな落石が丁度、俺たちの真上に落ちてきた。

 

「シッ!」

 

 俺は動く落石に狙いを定め定規を勢いよく上に突き出す。その定規は正確に巨大な落石に張り付く死の点を刺すことに成功した。

 ポロポロと塵のように崩れ落ちた石粉が俺たちの上から舞い下りる。

 

「あ、ありがとう……。助かったー!」

「いいから、早くその子連れて行くよ。はが……おっぱいちゃんの反対側からその子支えるから」

「さっきも思ったけど。お、おっぱいちゃんって何! もしかして私のこと言ってるの⁉︎ やだよ、そんな呼ばれ方―!」

「じゃあ、痴女(ちじょ)で」

「痴女でもないよ! 私には葉隠透(はがくれとおる)っていう素敵な名前があるんだもん!」

 

 緊迫する中、しょうもないやり取りをしながらも俺たちは腰を抜かした女の子に肩を貸して急いでその場から動き出す。

 取り敢えず、ロボットヴィランから離れればこの子は大丈夫だろう。

 

 後はこのまま逃げればいいだけなんだけど。なんかあのままやられっぱなしってのはムカつくよね。ヒーローにはそこまで興味無いけども、色さん的には倒しておきたいと思い始めた。もしかしてこれが意味のある願いの始まり。なわけないですよね。ただの欲求です。

 というか勝負にすらならいとか嫌なんですけど!

 

「おい、お前ら大丈夫かよ」

「オゥ、大丈夫デスカ?」

 

 脳内1人芝居をし始めた俺たちの元に見覚えのある2人がやってきた。

 逃げていったはずなのに、俺たちを見て助けに戻って来たのか。

 もー、ホント君たちヒーローしすぎなんですけど。

 

 でもちょうど良いよね。わざわざ、探す必要もなくなったんだから。あのロボットヴィランを倒すピースがここに揃った。

 これであのデカブツロボットヴィランをボコボコにできる。

 口の端が少しだけ上がる。

 

「ねえねえ、2人とも。あのデカブツ倒すための秘策があるんだけど、……協力してもらってもいいかな?」

 

「なんだか悪い顔シテマスよ。この人」

「魔王みたいな顔してんな、というか本当にあんなデカいやつ倒せるのかよ」

 

 おいコラ、2人とも聞こえてるんだからな。もう少しコソコソ言いなさいよ。俺の顔をいつも見ている一佳だって、一度もそんなこと言ったことないんだぞ!

 あと、そこで笑ってる葉隠さん。はっきり見えなくても笑ってることぐらい分かるんだからね。おっぱい見せろや。ああ、もう素っ裸でしたね!

 

 

 

 

 

     ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「グルグルに巻いたから、上に行っても外れないと思うけどさ。……ホントにやるのか、コレ」

「もちろんやるさ、瀬呂っち。それにこんだけ巻いとけば、空から落下しても、スポン! って抜けることはないでしょ。……大丈夫だよね?」

「いや、俺が聞いてるんだけど」

 

 俺は腕と一緒に巻かれている角を見ながら、改めて名前を教えてもらった瀬呂と話す。まあ、大丈夫だ。自分を信じろ。

 それから横を見て、角取に指示を出す。頭には2本の角がなくなり新しいものが生えようとしていた。

 

「よーし、角取。もうそこまで時間が残ってないから、アイツの頭の上まで一気に飛ばしてくれ」

「ハーイ、私の『角砲(ホーンホウ)』は2本マデしかコントロールできナイですけど、人をあそこまで運ぶことぐらいはできマース」

 

 近くには葉隠と腰を抜かした女の子がいて、俺のことを見ていた。

 

「無茶とかしちゃだめだよ、気をつけてね! ……えっと名前なんだっけ?」

「それ、葉隠には言われたくないんですけど。まあ、終わったら、また教えるよ」

「行きマース!」

 

 角取の合図と共に巻きついた角に体が引っ張られ浮かび上がる。そして、0Pロボットヴィランの頭目掛けて一気に飛び上がった。風がすごくて下手なジェットコースターよりもスリルがある。

 今からやる作戦は至ってシンプル。瀬呂の個性で角取の2本の角を俺の両腕に巻き付けて、角取の個性で俺自身を敵の急所まで飛ばすことだ。とっても簡単。でも効果的。

 俺は爆豪みたいに飛べないし、緑谷みたいに鋼鉄をぶっ飛ばすパワーもないけど。

 

「だけど、2人の力を貸してもらえば、今ここで、この眼でお前を終わらせることぐらいはできる」

 

 ————()()

 

 すでに直死の魔眼は起動しているが心の中でそっと呟く。

 現実と認識がズレた視界で赤黒い線と点が絡み合う機体を見下ろす。既に俺は彼女の個性で持ち運べる限界なのかそれ以上は上がらなかった。

 でも、それでいい。俺が飛び乗るのには十分な距離まで近づけられていた。

 

「角取ー! 個性を一旦解除してくれー!」

「ハーイ、わかりまシタ」

 

 遠くから聞こえる声とともに腕を引っ張っていた角から力が抜ける。

 体に来る浮遊感。しかし、それも数秒のこと。0Pロボットヴィランの頭部に落ちて、鋼鉄の足場に着地する。

 

 アナウンスからカウントダウンが始まっている。

 さっさと殺さないと。

 

「俺が死として理解できるものならどんなものでも殺せる。それが直死の魔眼。たとえそれが人であろうと物であろうと、やろうと思えば神様だって……。どんな(イロ)であろうと、数多の色はどれも平等で、等しく殺せるんだぜ」

 

 死の線が絡んだ足場を踏みしめながらながら、目的の死の点にたどり着く。

 俺は定規を逆手に持ち直し、静かに、でも確かに振りかぶった。

 そして機体は——()()()()

 

『終了ー‼︎』

 

 監督官の終了合図と同時に、巨大な機体は急速に崩壊を始めた。

 0Pロボットヴィランは塵を散らすように身体がボロボロと崩れていく。

 

 取り敢えず、試験はこれで終わり。

 色さん的にはロボットヴィランを倒して、欲求も満たせてやり切った気分だ。

 足場がなくなり落下していく自分。それもしばらくすれば腕に巻き付けた角に力が戻り体が引っ張りあげられる。そのまま角取によって俺は丁寧に下へと降ろされていく。

 

「わー、戻ってきた! なにあれ、なんだったの!」

「なんだよアレ! どうやってあの巨体を粉みたいに消したんだよ!」

「お疲れ様です。色サンはすごかったです」

 

 地面に着くと葉隠と瀬呂は俺がしたことに対して子どものように質問を投げかけてきた。

 もっとこう、なんか労りの言葉とかないのかよ。

 そして角取さんはマジ天使。この子には一佳とか葉隠にするような普段の対応ができないです。

 

 まあ、取り敢えず。

 

「お疲れ様。どうやったって言っても、個性というか魔眼というか……。まあ、そんなとこだよ」

「えー、もっと教えてくれてもいいじゃん! ねえ、瀬呂君とポニーちゃんもそう思うよね?」

「ホントホント、あんだけ凄いことやったのになんで秘密にするんだよ。俺たちも手伝ったんだから教えてくれよ!」

「確かに私も気ニなります。チリチリになりましたね、あのロボット」

 

 しばらくの間に随分と仲良くなった3人は、俺のことをじっと見て答えてくれ言わんばかりに待っていた。ううん、これは仲良くて素敵ですね。葉隠はいまだにおっぱいが見えてるけど。

 

「また後で教えるから。今は少しだけ疲れちゃった。……というかおっぱいちゃん、そんなことよりも俺に聞きたいこととかないのかな?」

「だからー! 私はおっぱいちゃんじゃなくて葉隠透っていう素敵な名前が……」

 

 俺の言葉にプンスカと腕とついでに胸を振って、抗議してきた葉隠だったが、唐突に言葉を止めて、「あ!」と声を上げた。

 ようやく気付いたのか、このおバカさんめ。

 

「そうだ、名前ー! 試験終わったら教えてもらうんだった! 大変過ぎて忘れてた。私たちの名前はもう教えたんだから、君の名前も教えてよー!」

 

 葉隠以外の2人は特に何も言わないが同じ気持ちなのか、俺のほうをじっと待ってくれている。

 ふふん、色さん。こう見えて根が深いタイプなんですよ。約束とか絶対に果たすまでやる人だ。

 だから、俺は笑いながら彼女たちに自分の名前を告げた。

 

 

「俺の名前はね、極彩色(ごくさいしき)って言うんだよ。苗字は長いし呼びにくいから(しき)って気軽に呼んでよ。そしたら色さん的にすごく嬉しいから」

 

 

 

 



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