その翼は何処へ (フェネック)
しおりを挟む

その鳥は何処へ

初めまして、フェネックです。今回がハーメルンでの初デビューになります。応援よろしくお願いします。


 

1930年代後半から、世界へと侵攻を開始した異形の敵「ネウロイ」。

 

開戦当初、人類はネウロイの破竹の進撃を止めることが出来ずに、欧州大陸からの撤退を余儀なくされた。

 

だが、数年を経て人類は反撃を開始。

ネウロイと同等に戦える「魔女」たちの活躍もあり、欧州大陸各地に点在するネウロイの巣を破壊し、

 

遂には、カールスラント首都ベルリンにあった大型の巣を破壊。人類はネウロイとの戦いに勝利した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────2015年/7月25日/リベリオン

 

 

 

『────マンバ3。撃て、撃て、撃て!』

 

 

『────標的5体を破壊。マンバ3、旋回して再度掃射態勢に入れ。マンバ2、続け』

 

 

仲間の声が無線から響く。

俺は操縦桿を引く。すると、機首が上向きになり機体が上昇────ぐんぐん、と上がる高度。

高度計を一瞥し、表示された高度に達すると機体を水平に戻し安定させた。

少し機体を傾けると、キャノピー越しに眼下の地上を見下ろす。サボテンと少々の木々、雑草などが点々とした荒野が視界に広がる。

 

その荒野の上空では、仲間の機体が地面すれすれを低く飛んでいたり、急降下しては地上にある陸戦型ネウロイのイラストが描かれた標的に対し攻撃を行っていた。

 

 

『────マンバ4。掃射完了、BDA(爆撃効果判定)を頼む。オーバー』

 

『マンバ4、標的6体を破壊。無力化は4体、旋回してマンバ3と交代せよ。オーバー』

 

 

澄み切った青空を背に、低高度を飛ぶ機体。

その機体は他の戦闘機とは外見が大分違う。もちろん「攻撃機」という点でも、だ。

細長い胴体に大量の兵器を搭載可能な長い直線翼、主翼後方胴体上面という妙な位置にあるGE製ターボファン・エンジンを2基持ち、機首下部には如何にも獰猛そうに描かれているシャーク・マウスと絶大なる威圧感を放つ7砲身の大口径多砲身機関砲が特徴的な機体。A-10“サンダーボルトⅡ”だ。

 

 

 

『────マンバ6、こちらマンバ2。そちらから新たな標的は確認出来るか?オーバー』

 

 

「ネガティブ。こちらからは確認出来ない。周辺区域はクリア、演習終了」

 

 

A-10乗りの一人であるウィルバート・プライアー中尉はそう報告すると、基地に帰投中の味方機体に合流する為に降下してゆく。

今回のプライアーの担当は演習の映像記録収集であり、機体の兵装ステーションには専用ポッドしか搭載していない。プライアーの対地演習は後日の予定となっていた。

 

プライアーの機体が味方の編隊と合流すると、まっすぐに所属基地へと向かった…

 

 

 

 

 

 

 

18:21:44/リベリオン/デビスモンサン空軍基地

 

 

アリゾナ州にあるリベリオン空軍の基地デビスモンサンに帰投した彼等は到着するや否や街に出掛ける者、基地内にある映画館へと足を運ぶ者と、皆別々だった。

 

一人だけ、プライアー中尉だけは自分の機体を点検する為に残り、整備班と共にチェックしていた。

 

 

 

「───よし、プライアー!アヴェンジャーの調整は済んだ。あとはそっちが終われば終了だ」

 

スパナ片手にそう言う整備班長。

 

「サンキュー班長。あとは簡単だから、俺に任せてそのまま帰っていいですよ」

 

「わかった。じゃあ、先にあがるな」

 

 

整備班長を先頭に格納庫から出て行く整備班。

広い格納庫に一人残ったプライアーはA-10のコックピットで機器の設定し直しを行い終えると、シートに凭れ掛かる。

 

初期型からC型へ、そしてこの最新型のEでは更に最新機器へと更新されたグラスコックピット。本来なら機体状態や搭載兵装が映し出されるであろう各ディスプレイはプライアーが電源をオフにした為、沈黙している。

 

 

「────明日は、ウィッチとの合同演習だったな。…アイツも参加するのかな?」

 

脳裏に浮かんだ幼なじみのウィッチの姿、プライアーはそう呟くと胸ポケットから一枚の写真を取り出し眺める。

 

その写真に写るのは幼き頃のプライアー、幼なじみのウィッチ、そしてプライアーの親父だ。

 

プライアー自身にとっても忘れられない日。

 

 

プライアーがまだ初等学生時代。

ある日、親父に連れられて来たのはネバダにあるネリス空軍基地だった。

最初こそはふてくされていたプライアーだったが、いつの間にか、基地所属の曲芸飛行隊のアクロバティックな動きに目を輝かせ空を見上げていた。

 

永遠に広がっていると思うような青空にぎりぎりの機間隔で編隊を組み、一糸乱れぬ飛行をし続ける。通常機部隊とは別隊のウィッチ達もそれ以上に切れがあり、美しい飛行を見せていた。

 

隣にいた親父がどうだ?と聞いてきたのに対し、俺は「僕もウィッチになる!」と言って幼なじみと親父が腹を抱えて笑ったのはあまり良い思い出ではない。

 

だが、あの航空祭でパイロットに憧れ、空を自由に飛び回りたいと心に決め、今こうして夢が叶い念願のパイロットとして、空を飛んでいる。

 

 

「…親父にはいろいろ迷惑掛けた挙げ句に孝行出来ないまま逝かせてしまって、すまない」

 

ハイスクール時代に必死にパイロットに関する勉強をしていた俺を見続けていた親父はある日、元空軍属という立場を利用して元同僚の…士官学校の教官に頼み込んで17歳と偽り(当時16)士官学校に入学させてもらった。

最初は入学出来たことに歓喜し、親父に感謝した。

親父は微笑み、ただ「頑張れよ」と言った。その頑張れよの言葉の中に深い意味があったことはその元同僚の鬼教官に直接会うまで分からなかったが…

 

 

 

 

そして、入学して1ヶ月も経たない内に────親父は永遠のフライトに旅立った。

 

あの葬式の日、隣で泣く幼なじみを慰めつつ、初めて親父の死に顔を見た。満足げに口元に笑みを作り眠るような…そんな表情を。

母は『…ウィル、あなたの夢が叶ったことをお父さんはきっと、きっと天国でも喜んでいるわ』と目に涙を浮かべ掠れた声で言った。

 

 

 

 

 

親父のことを片時も忘れたことはない

 

 

 

 

 

A-10のコックピットの中で、プライアーはいつの間にかに静かに寝息をたてていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

7月26日/リベリオン/アリゾナ州

 

昨日に引き続き、飛行にとっても演習にとっても絶好の青空が広がり燦々と照りつける太陽の光に目が眩む。

 

 

『────マンバ1よりプロフェット。演習区域デルタ29(ツー・ナイナー)上空にて待機中、指示を求む。オーバー』

 

 

『プロフェットよりマンバ1。そちらに向かっているガンファイターズと合流後、次の指示を下す。ブレイク、ガンファイターズはそちらから3時方向から接近中。オーバー』

 

 

編隊長機からの問いに間を置かずして答える観測機。第355戦闘航空団第306戦闘飛行隊ブラックマンバ隊は6機編成のデルタ編隊で5000フィート上空を飛行していた。

 

 

『わざわざアイダホからアリゾナへようこそ、だな。ガンファイターズの奴ら』

 

『昨日は隣のCVS(キャノン空軍基地)にいたんだろ? 俺の彼女がいるんだが、あとで聞いてみようかな』

 

 

プライアー機の右前と隣を飛ぶマンバ3と4があれこれ話していると、無線に女性の声が入る。

 

 

『────こちらガンファイター1。ブラックマンバ1、応答を。オーバー』

 

 

『おいでなすったようだな』

 

 

『マンバ3、私語を慎め。マンバ1よりガンファイター1、聞こえる。オーバー』

 

 

『マンバ1、そちらから3時方向にて並走中』

 

 

その言葉に自然と右を振り向くプライアー。

視界にマンバ4と5が入るが、その向こう側の雲の切れ目から金属系の煌めきが見えたと思うと雲から飛び出すF-15ジェットストライカーを穿くウィッチたちの姿。

 

計5名のウィッチがマンバ隊と同じくデルタ編隊を組んだまま、こちらへとゆっくりと接近してくる。よくストライカーユニットを見れば、ユニット胴体側面部が膨れている。…CFT(コンフォーマル・フューエル・タンク)と呼ばれる増槽と、下部にLANTIRN(夜間低高度赤外線航法・目標指示システム)ポッドが装備されているE型ストライク・イーグルだとわかる。

 

 

 

『────ガンファイター3より、マンバ6』

 

 

無線から聞こえる懐かしい声。

ガンファイターのウィッチが一人、こちらへと手を振っているのを視界に捉える。その表情は明るい笑顔を浮かべていた。

 

 

『久しぶり。…ウィル』

 

 

プライアーの幼なじみである彼女───シェリー・ホワイトアウェイは現在、アイダホ州にあるマウンテンホーム空軍基地の第366戦術戦闘航空団のウィッチ隊に属している。ちなみに3つ年下の17だ。

 

彼女もあの日、空に魅せられた1人だ。

 

今、目の前にいる彼女はあの士官学校入学以来からだいぶ容姿が変わり、腰ほどまであったブロンドの髪は肩に掛かる程度に短く切られ、風に煽られ靡いていた。

 

 

「あ、あぁ久しぶりだな。シェリー」

 

 

少しの間、惚けていたプライアーは今まで上げていたバイザーを下ろし、平静を装う。

今の彼は惚けていた気恥ずかしさに顔が赤くなっていた。シェリーは頭にハテナマークを浮かべ、首を傾げていた。

 

 

『え!?何?プライアー、彼女誰よ?』

 

『前言っていた幼なじみのウィッチだろ?というか、ブライアン。声荒げんなって』

 

『ウィル。ウィッチに知り合いがいるなら教えてくれよな?只でさえ、会う機会も少ねえんだから』

 

 

プライアーとシェリーのやりとりにブラックマンバ隊の男性陣の会話が無線越しに飛び交う。それに見兼ねた編隊長がストップを掛ける。

 

 

『お前らそこまでだ。演習を開始するぞ、ガンファイターの彼女たちに遅れをとれば基地外周を俺が良いと言うまで走ってもらうからな』

 

 

 

『『『『り、了解しましたぁぁぁ!!!』』』』

 

 

 

マンバ隊の男性陣の様子にガンファイターのウィッチたちはクスクスと笑っていた。

 

プライアーも何か声を掛けようとした。

 

 

 

だが、編隊が雲の中に入った瞬間────プライアー機のコックピット内は危険を示す警告音が鳴り響く。

 

 

 

「なんだ!?」

 

 

ガタガタと振動し始めるA-10。

プライアーが操縦桿を握り抑えようとするが、機体の振動は止まらない。コックピットの各種計器も異常を来たし、多目的ディスプレイに映し出された機体状況は機体全体が損傷を示す赤一色に包まれ、燃料計、高度計のデジタル表示も有り得ない数値やゼロを繰り返していた。

 

 

異常に気付いた仲間の声が無線に響く。

 

 

『────!?ウィル!どうした!!!』

 

 

「機体トラブル発生!!!畜生!機体が言うこと効かねえ────!!!」

 

 

『機体を保って雲から出ろ!!!』

 

『4!プライアー機が見えるか!!』

 

『ダメだッ!!!雲が濃くて下手に動けない!』

 

『各機、水平を保ちつつ飛行し続けろ。編隊を崩すな!────プライアー、状況報告』

 

マンバ隊のメンバーがプライアーの身を案じて声を掛けてくる中、編隊長からの指示にプライアーは絶望的な機体状況を告げた。

 

 

「機体を水平に保てません!各種計器にも異常が発生して高度も方向もわかりませんッ!!!……っ───!?両エンジンの推力が低下している!」

 

先ほどまで快調に金切り声を上げていたTF34ターボファン・エンジンの推力が徐々に低下していき、

 

 

 

遂に、その回転が完全に止まる。

 

 

 

 

「エンジン停止!!!エンジンが死んだ!」

 

『プライアー!脱出しろッ!!!脱出だ!』

 

プライアーが念の為、墜落時の機体爆発を押さえる燃料防漏システムのスイッチをオンにし、脇にある射出座席のレバーを引く。だが、現実は無情で、射出座席は機能しなかった。

 

 

「ダメだ。射出座席もイカれてやがる…」

 

『まだ何とかなる!諦めるなッ!!!』

 

『プライア…き…んとか……!…』

 

 

無線にもノイズが走り始め死に間際に、せめて最期まで聞こえて欲しかった無線もダメになったことに

プライアーは覚悟を決め、そっと目を閉じる。

 

 

「………親父、母さん……すまない」

 

 

今まで苦労を掛けてきた両親に謝罪し、残されるであろう母とシェリーのことを悔やむ。

 

 

 

『………ウィル!!!ウィル─────ッ!!!聞こえたら返事を……!』

 

 

無線から聞こえるシェリーの声。

 

 

 

 

「……シェ──────」

 

 

 

 

次の瞬間、彼が乗った機体は眩い光の中へと突っ込み、

 

 

 

彼も、完全に意識を手放した……

 

 

 

 

 

 

 

 

─────1942年/夏/アフリカ/ハルファヤ峠

 

 

北アフリカの重要地点『ハルファヤ峠』

人類にとっても北アフリカをネウロイの魔の手から守る為に部隊を配備している前線。

 

 

 

だが、その前線も今まさにネウロイの猛攻を受けていた。

 

 

 

 

「────1時方向から突っ込んで来るゴキブリがいやがるッ!!!アハト・アハト!狙え!」

 

「照準よし!!!」

 

「撃てェ!!!」

 

合図とともに広大な砂漠に響き渡る砲声。

カールスラントの傑作高射砲である8.8cm砲、通称アハト・アハトが迫り来るネウロイの大群に必殺の砲弾を放つ。

狙われた陸戦型ネウロイの正面装甲を貫く砲弾、陸戦型はそのまま光の破片と化し消えゆく。

 

だがそれも無限とも思えるほどに群がるネウロイの1体を破壊したに過ぎない。

 

眩い赤い一筋の光がハルファヤ防衛部隊の陣地内に着弾すると、爆発が起こり防衛部隊の兵士たちを吹き飛ばす。負傷したまま“運悪く”生き残ってしまった者もじわじわと身体を走る激痛に顔を歪め、ただ呻くことしか出来ない。

 

「待ってろ!今、助けてやる!!!」

 

「よせ!今出ればお前も死ぬぞッ!!!お前が死ねば誰が負傷者の手当てをするんだ!?」

 

仲間の制止を振り切ってまで助けに行こうとする衛生兵を数人掛かりで押さえる。観念した衛生兵が「必ず助けてやる!それまで踏ん張れ!死ぬなッ!!!」と叫びつつ、塹壕内に身を隠す。

 

気休め程度の言葉だと、彼らは知っている。

いっそのこと、敵でも味方でもいいからこの激痛から解放してくれと願う者も多数いた。

 

カールスラント、ブリタニア、ロマーニャの国々から編成された防衛部隊が必死の抵抗を見せるものの、ネウロイは陸戦型だけではなく空からも飛来してきたフライング・ゴブレットが防衛部隊の兵士たちに弾丸の雨を降らせていた。

 

フライング・ゴブレットに対し、陣地内にいたオープントップの砲塔を持つヴィルベルヴィントが搭載の20mm対空機関砲で弾幕をはるが、如何せん数が多く返り討ちに会う車両もいた。

 

「シャイセ!(クソ!)このままじゃ…」

 

「諦めるなッ!!!『アフリカの星』は必ず助けに来てくれる!そうだろ!?」

 

塹壕内から身を乗り出して、例え効果が無かろうと手持ちの火器で最大限の銃撃を浴びせていた彼ら。

例え絶望的な状況だろうと、彼らは諦めはしない。

何故なら、彼らには希望の光があるからだ。

 

「来るぞ──────!!!」

 

陣地内に侵入した陸戦型の1騎が、砲身を向ける。

こちらに向いている砲口が赤く光り始めだすと、誰も彼もが塹壕内に身を潜め、目を瞑り、祈る。

 

突然────けたたましい銃撃音が鳴り響く。

続く爆発音、異変に気付いた兵士たちが塹壕から顔を上げると先ほどの陸戦型が撃破されていた。

なにがあったのかと、呆然と見ていた兵士たちの頭上を何かが通過し、地上の黒い陰が続く。

 

見上げた兵士たちの瞳に映るのは鷲の姿────ではなく、大空を優雅に飛ぶ鷲のように飛行しては長い銃身を持つ機関銃の短連射で次々と忌まわしいフライング・ゴブレットを叩き落とすウィッチ。

兵士の一人が歓喜の叫び声を上げる。

 

 

「『アフリカの星』────カールスラント空軍のハンナ・ユスティーナ・マルセイユ中尉!!!」

 

 

「あの『黄の14(ゲルベフィアツェーン)』なのか!?」

 

 

絶望から立ち直り始めた兵士たち。

ハルファヤ峠防衛部隊指揮官の“教師”のあだ名を持つヴィルヘルム・バッハ少佐は損傷した88mm砲の復旧作業を行っていたが、その様子を見て歓喜に震えた。

 

 

「『アフリカの星』が来てくれたか!だが、敵の数は・・・・」

 

「少佐!あれを」

 

 

ブリタニア軍属の副官であるシンプソン大尉が陣地の一角を指差す。

バッハ少佐が双眼鏡で見やると、陸戦ストライカーユニットを履いたブリタニア陸軍のウィッチたちが陸戦型ネウロイを蹴散らしていた。

 

 

「ブリタニア王国陸軍第4戦車旅団C中隊マイルズ少佐────以下12両!到着です!」

 

塹壕内からこちらを見上げる兵士たちにそう宣言したセシリア・グリンダ・マイルズ少佐は、40mm砲を構えると発砲。狙われた陸戦型ネウロイは魔力で強化された徹甲弾を受け破壊される。

マイルズ少佐を中心に横一列隊形を組んだC中隊12名は前進しつつ、次々とネウロイを屠る。

 

空のフライング・ゴブレットは『アフリカの星』ことマルセイユ中尉が撃墜していき、地上の陸戦型ネウロイはマイルズ少佐たち陸戦魔女たちが撃破していく。

彼女たちの活躍に負けていられるかと、勢いづくハルファヤ防衛部隊の兵士たち。

 

 

「よし!このままいけばハルファヤは───」

 

 

バッハ少佐が勝ちを確信した次の瞬間、空を我が物顔で飛んでいたマルセイユ中尉に向け太いビームが放たれる。シールドで防ぐマルセイユ。

 

「────チッ・・・・!」

 

あまりの威力によろめきつつ舌打ちする。

 

 

「マルセイユ中尉、一旦離脱します!」

 

 

マイルズ少佐が前方を確認すると、四つ脚陸戦型ネウロイに混じり迫って来る巨大な黒い陰。

 

 

「大型陸戦ネウロイ・・・・だと!?」

 

 

陣地にいるすべての兵士がその巨体に圧倒された。

二脚でゆっくりと移動しつつ、その巨大な砲塔を防衛陣地に向け、発射する。

放たれた実体弾はマイルズ少佐たちの部隊に至近弾として炸裂、大量の破片をシールドで弾く。

 

 

「奴の装甲は分厚いわ!徹甲弾を一カ所に集中させて!装甲がなるべく薄い下腹部を狙って!」

 

 

陸戦魔女の40mm砲や防衛陣地の兵士たちが携行するすべての火器が火を吐くが、大型陸戦ネウロイには蚊に刺された程度でしかない。

 

一度離脱していたマルセイユも頭上からMG34の弾丸のシャワーを浴びせていたが、あまり効果が無く、そうこうしている内にカチリと、虚しい金属音が鳴り響く。

 

 

「黄の14、全弾消耗!」

 

 

マルセイユからの報告を受けたマルセイユたち陸戦魔女は一層の集中射撃を喰らわせるが、装甲は少しずつしか削れない。

だが、彼女たちは諦めなかった。

 

 

そんな思いを神は受け止めたのか、同じ箇所付近に命中し続けた結果────赤いコアが露出。

 

 

「弾が切れた!誰か!誰かッ!!コアを狙ってェ!!!」

 

 

マイルズ少佐の叫びに呼応する砲声が一つ鳴り響いた。

 

 

 

次の瞬間には露出していたコアに音速の速さで飛来した砲弾が直撃。直撃を受けたコアがガラスか陶器のように砕け散ると、ネウロイが光の破片となって消えた。

 

マイルズが砲声がなった防衛陣地を振り返り見ると、たった1門のみ残ったアハト・アハトの姿が見えた。

 

 

 

「バンザイッ!!!」

 

 

 

アハト・アハトを操作していた兵士の一人が叫び、次なる砲弾を用意していたマルコ中尉は88mm砲弾を降ろす。

 

 

「尾栓を覗いての直接照準…こいつがよくあたるんだよ」

 

 

顔の汗を服で拭ったバッハ少佐が満足げにそう言う。

 

静まり返るハルファヤ峠。

負傷者の救護に彼方此方走り回る衛生兵。塹壕内にいた兵士たちも手を貸そうとしていた頃合いに、不意に誰かが大声で叫んだ。

 

「おい!まだ終わっちゃいねえ!!!」

 

先ほど撤退していった陸戦型ネウロイの群れは、一カ所に集結しつつあった。

その陸戦型の奥に見える2つの大きい陰。

先ほど、撃破するのに手間取り苦戦したあの大型陸戦ネウロイだ。

 

「嘘だろ・・・・」

 

「あんなのが2騎も・・・・」

 

再び彼らを襲う絶望。

マイルズたちやマルセイユも苦虫を噛んだかのような顔つきになる。

弾も尽き、残り少ない魔力では到底勝ち目は無い。

 

 

 

人類は、アフリカ防衛の要である『ハルファヤ峠』を失う─────それは戦線瓦解と、ネウロイによるアフリカ制圧の可能性が決定打となる。

 

 

 

「ここまでか…」

 

 

この様子を見ていたバッハ少佐は、怒りに震える手を抑制しつつ、撤退命令を出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

───────そこに、突然、金属音が響く。

 

 

 

 

マルセイユかと、思ったバッハ少佐は空を見上げる。

だが、瞳に映ったモノはマルセイユでは無く、今まで見たこともない飛行機が空を飛んでいた。

 

 

「なんだ・・・・あの機体は・・・・?」

 

 

その呟くような問いに誰も答えられなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side.プライアー

 

 

 

深い闇の中から意識が戻り始めたプライアーはまず、耳につんざく警告音に目を開ける。

 

 

「…う、此処は…?」

 

 

意識がはっきりしてくると、機体が反転しておりコックピットが地上に向けられていることに気付き、操縦桿を握り立て直す。

コックピット内のディスプレイは正常に動いており、高度計も燃料計などの表示もだ。HMD(ヘルメット・マウンテッド・ディスプレイ)も暫く経つとイルミネーターが復活し、バイザーに投影される。

 

 

「俺は死んだんじゃないのか…?だとしても、此処はどこなんだ?」

 

 

タッチパネル式のディスプレイにGPSによる現在位置が映し出される筈だが、表示されたのは『NO SIGNAL』の文字のみ。飛行ルート表示のウェイポイントすらも出ない。

近くにいるであろう仲間や基地に通信で呼び掛けるが、無線は沈黙し続けた。

 

「参ったな…って、アレは?」

 

 

3時方向の地上に数回煌めく光。

続いて閃光と爆発による黒煙を確認した。

 

 

「…演習か?行ってみるか」

 

 

右旋回をしつつ高度を少し落とす。

いつもと同じ様に見えた演習区域だが、プライアーは異変に気付いた。

 

 

「ん?……な、アレは!」

 

 

演習区域だと思われた地点にいたのは巨大な鉄の塊と例えられる姿をした大型陸戦ネウロイだ。

 

そのネウロイの足元周辺に蟻のごとく随伴する四つ脚陸戦型ネウロイの群。

 

 

「コイツらどこから現れやがった!?」

 

 

プライアーは同時にそのネウロイが向かっている場所には軍部隊のと思われる陣地が見えた。

陣地内は既にボロボロで各所から煙が上がり、防衛部隊の砲火はごく疎らだった。

 

 

「やるしかないみたいだな・・・・!」

 

 

タッチパネルを操作し、A-10のマスターアームをオン。搭載兵器を撃てるようにする。

 

今度は使用武器を選択、AGM-65“マーベリック”対地ミサイルを選ぶ。

 

 

「────こちらリベリオン空軍所属、マンバ6。ネウロイと交戦中の地上部隊へ。聞こえるか?オーバー」

 

 

だが、無線は沈黙したまま。

 

 

「無線が故障しているのか?…仕方がない、攻撃態勢に入るからな。聞こえていたら頭を下げていろよ!」

 

 

大型陸戦ネウロイと地上部隊の距離が近く、上昇している隙が無かったため低高度を維持したまま、アプローチする。

 

 

マーベリックの画像赤外線シーカーが大型陸戦ネウロイの熱を捉える。

 

 

「マンバ6────ライフル!」

 

 

対地ミサイル発射のコールを言い、ミサイルの発射ボタンを押す。

 

A-10の長い直線翼にある3連ランチャーに懸架されていたマーベリックミサイルの1発がランチャーから切り離されロケットモーターに点火、音速を超えるスピードで標的へと突き進む。

 

更にもう1発を同目標に発射すると、兵装を機首に搭載されている“アヴェンジャー”30mmガトリング砲に切り替える。

 

 

数秒後、マーベリックは大型陸戦ネウロイの上部装甲部に命中────続けて2発目が胴体右側面に命中し弾頭が炸裂。

爆発とともに舞い上がる黒煙。

ミサイルを食らったネウロイは叫び声にも聞こえる独特の鳴き声を放つ。まるで痛みに耐えかねるように。

 

 

黒煙がうっすらと晴れると、ミサイルの直撃部分は大きく抉られており、その箇所に半分露出している赤いコア─────それをプライアーは見逃さない。

 

 

「マンバ6、撃て、撃て、撃て!」

 

 

HUDに表示されたガンレティクルを合わせトリガーを引くと、機首下部から顔を覗かせる30mmガトリング砲がスピンアップし始め、うなり声をあげる。

 

音速で放たれる砲弾は秒間65発……毎分3900発という驚異的な速度で次々と発射されては、大型陸戦ネウロイの抉られた箇所───コアに向かう。

 

 

 

一瞬後、ガラスが割れたように赤いコアが砕け散ると消滅してゆく大型陸戦ネウロイ。

 

 

 

「─────初めて見たな。これが実戦…」

 

 

アヴェンジャー掃射後に上空へと退避したプライアーは、その光景をしばらく見つめる。

 

すると、もう1騎の大型が地上にいる陸戦魔女の防衛戦を強引に突破しようとしていた。

それを見たプライアーはそれを阻止するべく機体を旋回させ、斜め上からの降下を始める。

A-10の30mmガトリング砲による機銃掃射の基本で、50度以上の角度から陸戦級の薄い上部装甲部分を狙い、効果的に破壊するためのものだ。

先ほどのように水平状態で機銃掃射を行うとアヴェンジャーの凄まじい反動で数ノットほど速度が落ちる。A-10の逸話の一つだ。

 

 

ぐんぐんと降下し続ける機体。

HUDとキャノピー越しに見える大型陸戦ネウロイの砲塔上部にガンレティクルを合わせる。

 

 

「マンバ6、撃て、撃て、撃て!!」

 

 

─────ヴアァァァァァァァァ!!!!!!

 

 

轟然と火を吐くアヴェンジャー。

砲口から飛び出す鋼鉄の約2.5倍の密度を持つ劣化ウラン弾芯の徹甲焼夷弾(PGU-14)が上空からネウロイへと次々と命中し、装甲の薄い上部はどんどん抉られてはネウロイの修復が始まるが、30mmによるダメージ速度が速かった。

 

 

雨のように撃たれる30mm弾にネウロイは悲鳴をあげ、遂に運命の1発が内殻に浸透、コアを貫く。

 

 

その瞬間、地面を耕していた巨大な脚が止まり、大型は静かに光の破片へと消えていく。

 

 

「────やったか・・・・」

 

 

ふぅ、と、一息つくと地上を見渡す。

大型が消えたことで中型、小型陸戦ネウロイの群れは反転し、砂塵を撒き散らしながら逃げていく。

一安心したプライアー。

だが、彼は自身の機体に迫って来た航空魔女の姿を見て、表情が固まる。

 

現在速度は巡航時の550km/h。

そのA-10の後方から右側へと飛んできたウィッチとプライアーはキャノピー越しに顔を見合わせる。

 

 

黒い服に身を包んだ彼女は、その長い白い髪を風に靡かせ、その青く勝ち気そうな目でこちらを見つめていた。

その容姿に思わず息をのむプライアーだったが、それとは別なことが頭の中を行き交う。

 

 

「────何故、レシプロ…なんだ?」

 

 

彼女が履くストライカーユニットを見て、そう言った。訓練部隊用のユニットなのかと考えていたが、ユニットの側面に描かれていた国籍マークを見て再び眉を顰める。

 

 

「あれは…鉄十字か?帝政カールスラント時代のものじゃないか。リベリオンにカールスラント部隊が来たなんて聞いていないが…ん?」

 

 

気づくと、彼女がこちらに顔を向けながら耳元を押さえ、口を動かしていた。

 

 

「…無線か。でもチャンネルには問題ないはずだが……たしか魔導インカム用の周波数は…」

 

 

ディスプレイを何度かタッチし、周波数を検索する。

 

 

『─────だ。聞こえたら応答しろ』

 

 

無線から響く女性の声、隣にいる彼女からだと思うと呼び掛けに応じた。

 

 

「こちらリベリオン空軍第355戦闘航空団所属、コールサイン、マンバ6だ。そちらはどこの部隊だ?オーバー」

 

 

俺からの返答に彼女はキョトンとした顔をする。

 

 

「リベリオン空軍…?こちらはカールスラント空軍JG27────統合戦闘飛行隊『アフリカ』所属のマルセイユだ。リベリオン軍の機体が何故此処に?」

 

 

彼女────マルセイユの言葉に違和感を覚えるプライアー。

 

 

「此処?どういうことだ?それに何故カールスラント部隊がリベリオンにいる?」

 

 

「リベリオン?何を言っているんだ?」

 

 

プライアーの質問にマルセイユは呆れたように次の言葉を述べた。

 

 

 

 

 

「此処はアフリカ────ネウロイの侵攻を防ぐ人類の前線だぞ?」と、

 

 

 

 

 

 

「……………は?」

 

 

 

プライアーはなんとも間抜けそうな声を出した。

 

 

 

 

 

 

 

砂漠の真上にある太陽は、彼を歓迎するかのように燦々と暑い日差しを照りつけていた……

 




どうでしたか? 感想お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その鳥は砂漠の海へ

どうも、フェネックです。
私の想像機であるA-10Eのプライアー機の搭載兵装(タイムスリップ直後)を記しておきます。

機首GAU-8/A“アヴェンジャー”30mmガトリング砲x1174発(PGU-14/B徹甲焼夷弾&PGU-15/B訓練弾混合)

9,3番兵器ステーションにLAU-88/A3連ランチャーを介してAGM-65G3“マーベリック”空対地ミサイルx6発

8,4番ステーションにBRU-62/Aスマートラックを介してGBU-44 SDB-L(レーザー小直径爆弾)x4発

10,2番にLAU-131/A 19連装ロケットポッド(FFAR弾種はM264RP)x2基38発




 

 

 

 

「最初はハリウッドの映画撮影に巻き込まれたと思ったよ。・・・・間違いだったがな」

 

─────ウィルバート・プライアー アフリカ漂着日にて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………は?」

 

 

 

思わず間抜けな声を出す。

それはそう、彼女が此処はアフリカだと言っているのだ。

失礼だが、彼女はこの暑さで頭がイってしまったのだろうか?

もし、正気だとしたら……何て声を掛けたらいい?

 

 

「……冗談を言うからにはもう少しマシなのを考えてくれ。ハリウッドの撮影か何かか?だったら上に話を通しておいてくれ」

 

 

『撮影? 何を言っているんだ…?まぁ、いい。此処(空)より地上で話したほうがいいだろう……ついてこい』

 

 

彼女…たしかマルセイユと言ったか。

その彼女が手招きし、身体を捻ると緩やかに右旋回を行った。

 

プライアーは所属基地のデビスモンサンに帰投したかったが、GPSは「NO SIGNAL」の表示。そして通信も繋がらなかった為、しぶしぶ彼女についていくしかなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

15:08:22/アフリカ/要衝トブルク近郊

 

 

 

マルセイユと言う名の彼女に案内された基地は、砂漠のど真ん中に存在した。

 

ハリウッドスタッフが作った手の込んだ飛行場だなぁ、と考えていたが、こんな滑走路に降りて大丈夫か?と心配した。着陸輪を下ろし、ゆっくりとアプローチすると速度を徐々に落とし、滑走路先端にギアが着陸すると念の為のドラッグシュートを行った。

 

 

滑走路から格納庫のある手前の位置まで機体を進ませ停止すると、後ろヒンジ式キャノピーを開け外に出ようとする、が

 

 

 

 

彼は、こちらに銃口を向ける兵士たちを見て、ただ苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

side.プライアー

 

 

 

「……冗談だろ……?」

 

 

プライアーは呟く。

目の前にいる兵士たちの服装や手にしている銃を見て、半ば呆然としていた。

帝政カールスラント時代の砂色の軍服に身を包み、半世紀も前の銃を使っているのだ。

 

 

 

「両手を挙げろ!────ネウロイめ!」

 

 

 

おいおい…ネウロイ…? どこがネウろ────あぁ…

 

 

 

「…ちょっとヘルメットを外すから、撃たないでくれよ?」

 

 

プライアーがヘルメットに手をやった直後、身構える兵士たち。

酸素マスクの留め金を外し、ヘルメットを取る。

砂漠の砂が混じった風と、真上から照りつける太陽の光をその肌に感じる。相変わらず、兵士たちは銃を構えたままだが。

 

 

 

「────加東大尉!!」

 

 

一人の兵士が声を上げる。

ふと、目をやると白と赤の服装をした女性が一人、こちらに歩いて来る。

首にはカメラを下げ、頭にはゴーグル、肩の部隊章には鷲と思われる鳥と星が描かれていた。

 

彼女が兵士たちに指示を下す。

 

 

「銃を下ろして。この人のことはマルセイユから聞いたわ。…貴方は私について来て、軍規に関わるからその銃は渡して」

 

 

彼女の言ったとおりに腰にあったM9拳銃の入ったホルスターごと彼女に渡した。

 

 

「……くれぐれも、変な気は起こさないでちょうだい」

 

 

「したくても出来ないのが現状ですよ、大尉殿……はぁ」

 

 

そのまま、二人は幾つもの天幕がある場所まで歩いていく…

 

 

 

 

 

 

 

 

「……話すことは、わかっているわね?」

 

 

無数にある天幕の一つ。

その中で互いに椅子に座り相対する彼女は質問する。

 

 

「リベリオン空軍航空戦闘軍団第355戦闘航空団第306戦闘飛行隊所属、ウィルバート・プライアー。階級は中尉です」

 

 

「扶桑皇国陸軍アフリカ派遣独立飛行中隊────今は第31統合戦闘飛行隊『アフリカ』の隊長をしている加東圭子よ。階級は大尉」

 

 

互いに自己紹介が済んだことで早速、加東が質問を始める。

その様々な質問にプライアーは一つ一つ答えていき、自分が未来から来たこと、此処に飛ばされてしまった経緯を話した。

最初は半信半疑だった加東も、プライアーの話や所持していた軍用電子端末機などの説明を受け、彼が話すことを全て真実として信じた。

 

 

それに対してプライアーは加東から此処は1942年のアフリカで第二次ネウロイ大戦の最中であることを告げられる。

 

 

「……1942年か。随分と昔に飛ばされてしまったんだな、俺は。神様も意地が悪い」

 

 

加東から渡されたコーヒーを飲み干した直後、プライアーは苦笑混じりに答えた。

 

加東は先ほどからコーヒーを啜っていては、プライアーの顔をまじまじと見ていた。

 

 

「なんですか、大尉?」

 

「貴方、本当に20になるの?すごく若く見えるのだけど……」

 

 

加東が何か言い掛ける途中に、それは起きた。

 

突然、テント内の気温が急激に下がり薄暗くなった。同時に化学薬品系のキツイ臭いが漂いだす。

 

プライアーが異変に気づき立ち上がり、辺りを見渡す。

 

 

 

「やぁ、初めましてプライアー中尉」

 

 

 

突然の声に振り返ると、リベリオン空軍の迷彩服ABUを着ている長い白い髪の男が一人、椅子に座っていた。

 

プライアーは加東に振り向くが、彼女はコーヒーを片手にまるで停止ボタンを押したかのように固まっていた。

 

 

「大丈夫ですよ。ただ、時間を少し止めているだけですから」

 

「……お前か、俺を此処に飛ばしたのは」

 

「おや?察しが良いですね。それなら話をしやすいですね」

 

 

男が机にカップを置き、胸元のポケットからメガネを取り出しつける。それにプライアーは少し距離を置き、話を切り出す。

 

 

「何が目的だ、俺に何をしろと?」

 

「まぁまぁ、落ち着いて」

 

「何故俺だ。それにお前は何者なんだ?」

 

「出来ない質問もありますが、まぁ、多少は上も大目に見てくれるでしょう。……あなたを選んだのは私の上司の気まぐれです。そして、私は…そうですね、管理局と呼ばれる組織の一員です。ようは平社員です」

 

 

平社員?と呟き頭を傾げるプライアー。

 

 

「私達『管理局』の人間に与えられている仕事は“歴史の修正”…バグ取りみたいなものです。歴史の中で本来起きるはずのないエラーを修正して、元に戻す仕事です」

 

 

男がそう言い、間をおいて次を話す。

 

 

「少し前に大規模なエラーが起きまして」

 

 

「…そこで、貴方にはその修正に協力してもらいます。まぁ、修正で片付けて良いことではないのですがね……」

 

 

男が気まずそうに頬をかく。

 

 

「……どういうことだ?」

 

「実は、うちの管理局の……私の上司が提案した解決策なんですが…修正ではなく、近未来装備と人材を利用した──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────“未来を変える”ことです……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後……

 

 

加東と“管理局の局員”と名乗る男との会話を終えたプライアーは一人、滑走路近くの小さな砂丘にいた。

 

 

見上げる空はすでに夜を迎えており、雲はなく月と星空が砂漠を静かに照らす。

 

 

「未来を変える、か」

 

 

男が言った言葉が脳内で木霊する。

プライアーがあの後、未来を変えることの危険性を質問したが、彼はこう答え、直後に忽然と姿を消した。

 

 

 

『───それについては御安心を。過去改変後の対策は“我々”が最大限サポートします』と

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 

俺が溜め息を吐いた瞬間、背後から声を掛けられた。

 

 

「どうしたんだ?溜め息なんか吐いたりして」

 

 

振り返り声の主を確認したプライアーは再び溜め息を吐いた。

 

 

「なんだ………マルセイユか」

 

「なんだとはなんだ?」

 

 

少しカチンときたらしいマルセイユがふんっと言い、プライアーの隣に腰掛ける。マルセイユは星空を見上げていた。彼女の白く長い髪が風に靡き、流れる彼女の匂いと美しさにどぎまぎしてしまう。

 

しばらくお互い黙っていた二人だったが、マルセイユが静寂を破る。

 

 

「ケイから聞いたよ。お前は未来から来たそうだな。未来の世界はどうなっているんだ?」

 

「それについてはノーコメントで頼む。あまり未来話を聞かせるとろくなことがない、と小説とか映画で知ったからな」

 

 

それを聞いたマルセイユが唸り声を出しジト目でこちらを見つめてくるが、プライアーは気にもせずにその場で寝っ転がる。

 

日中は暑い砂漠も日が落ちれば極寒の世界に早変わりする。プライアー自身もある程度厚着ではいるが、それでも少し物足りない。

 

 

 

(………星が綺麗だな……)

 

 

 

すると、今まで頬を膨らませ不貞腐れていたマルセイユが話しかけてきた。

 

 

「ケイが明日からのお前の処遇について頭を抱えていたが……。お前自身はどうするんだ?」

 

「今はわからない。そちらから助け舟が来るのなら、俺はそれにただ乗るしかない。それに……」

 

 

 

 

 

 

 

「俺はひとりぼっち、だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、プライアーは格納庫に居た。

機密保持の為か、ところどころカーキ色のシートが掛けられている自分の愛機に歩み寄ると、タラップを上がりコックピットへ入る。

 

事前に加藤大尉との取り決めでA-10には誰も触らせない、との約束をしていた為整備に関しては今のところプライアー自身がやるしかない。

 

電源をオンにすると、多機能ディスプレイやHUDなどが起動し機体状況を映し出す。

 

 

「計器はクリア。油圧や燃料もOK、APU(補助動力装置)異常なし、兵装は……ガンが残り740発、マーベリックが4発、SDBが4、ロケットポッドが2基で38発か。1戦闘分くらいはあるな」

 

 

ディスプレイに表示される機体状態を真剣な表情で細かくチェックしていく。プライアー以外この機体の面倒(整備云々)を見れる奴がいないのが現状だから仕方がない。

普段から整備班と共に作業しているプライアーだが、さすがに本格的な整備となれば話は別、本職の人に頼むしかない。いないがな。

 

 

「戦闘による被弾が無くて良かった。当たりどころさえ悪くなければコイツ(A-10)は平気だからなぁ。他のジェットならこうはいかない」

 

 

自分で確認出来る範囲を調べたプライアーは電源をオフにし機体から飛び降りる。

 

 

「…ったく、あの自称管理局員は少しは自称管理局員らしく支援物資とかを……!」

 

「呼びました?」

 

「どわあぁぁぁぁああ!!!!??」

 

 

呟いている最中に突如背後から声が聞こえたプライアーは盛大に驚き叫ぶ。驚き過ぎて右主脚収容ポッド先端部分に後頭部をおもいっきり打ってしまって痛みに呻く。

 

 

「お、お前なぁ、現れるなら現れるで正面に出てくれ!心臓に悪いんだよッ!!!」

 

「そ、そう言われてもなぁ……」

 

 

少々困惑した表情で頬を掻く自称歴史の“管理局員”のあの男がそこに居た。

 

 

「……うーんと、ところで何か私に用があったのではないでしょうか?プライアー中尉?」

 

 

「あ、そう言えば……えーと…」

 

「ロジェックです」

 

「え?」

 

「私の名前ですよ。仮ですがね……ロジェック(仮)!」

 

「唐突にどうした!?」

 

「変な電波を受信したもので……あれぇ、15年までは流行っていたような気がしたんだがなぁ………」

 

後半をなにやらぼそぼそと呟くロジェックを気味の悪いヤツだなと思ったプライアーが質問する。

 

 

「サポートすると言ったが、具体的には何処までだ?」

 

「我々と言いましたが実質、貴方のサポートに回るのは私だけです。サポート範囲は主に物資ですね。機体の整備用品から燃料、兵器だけ、です。今後の行動、戦力、戦術に至っては貴方の判断に任せます。ただし、物資は2年で期限切れです。2年間で貴方がどれだけ、この戦争の早期終結に貢献したか叉は活躍をしたかに懸かっています」

 

 

 

 

「場合によっては、貴方は不適格と判断され“消されます”」

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 

つまり自分の命が懸かった“ゲーム”だと、そういうことだ。

目の前の男は救いの手を差し伸べた天使ではなく、悪魔だ。

 

いや、死神か。

 

 

 

「はい。これは冗談ではありませんよ?……それでは、またいつの日かお会いしましょう。プライアー中尉」

 

 

「ちょっと待て!せめて整備士を何人か送れ!」

 

 

 

やれやれと溜め息混じりに呟くと、ロジェックが言う。

 

 

「これが最初で最後、だと思ってくださいね」

 

 

「それだけで十分だ。お前の上司とやらに吠え面かかせるまで生き抜いて戦争を終わらせてやるさ」

 

 

自信に満ちた目で見つめそう言うと、ロジェックは少しだけを口の端をつり上げプライアーの言葉に応える。

 

 

 

「なら結構です。幸運を、中尉」

 

 

そう言うと、ロジェックは何の音も出さずにスゥゥゥっとまるでSFの光学迷彩のように姿を消した。よくありがちな影が動いたり、その箇所だけ妙に背景とズレていたりといったような事は無かった。

 

まるで幽霊のようだと、プライアーは静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約2時間後、俺は天幕の前に立たされている。

 

格納庫で暫くの間ぼーっとしていた俺をKAK(カールスラント・アフリカ軍団)の制服を着た一人のウィッチが呼び掛けたのだ。

 

なんでも、カトー大尉から俺を連れてくるよう頼まれたそうだ。面倒くさいことにならなきゃいいがと、少し顔をしかめる俺を見たウィッチは「大丈夫ですよ」と微笑みながら言った。

 

そのウィッチに案内された天幕の前に到着し、カトー大尉に俺を連れてきたことをウィッチが告げに中に入っていった。そして今に。

 

 

 

「……暑い死ぬ、帽子を誰か……」

 

 

たった数分その場で立っているだけなのに、既に着ているデジタルタイガーの別称ことABU(Airman Battle Uniform)迷彩服は汗で少しずつ肌に張り付いてくる。

 

プライアーの頭の中はクーラーやら冷えた飲み物やらで一杯だったが、テント入り口から先ほどのウィッチが顔を出す。

 

「お待たせしました。これから貴方のことを皆さんに紹介するので、どうぞ中へ」

 

彼女に続いてテントの中へ入るプライアー。

中に入ると、数名のウィッチが椅子に座り此方を見つめていた。それぞれKAKの制服と扶桑のウィッチ用の紅白装束に身を包んだ彼女たちだ。

 

一番奥の壇上の椅子に座っていた加藤大尉が起立し、俺を手で指しながら話し始める。

 

 

 

「紹介するわ。先日の戦闘にてハルファヤ防衛に参加し重陸戦型ネウロイ2騎を破壊したリベリオン空軍のプライアー中尉よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今言われたウィルバート・プライアー中尉です。たぶん、カトー大尉からいろいろ話は聞いていると思いますが……よろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 




戦闘なし、でしたね。
そしてグダグダになってきたような自分は思います。次回はアフリカの星と共に戦闘回やりたいですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その鷲は雷電と共に

昨日は夢の中で久しぶりにマルセイユが出てきたんですが、目にハイライトが無かったんですよね……


 

 

 

 

……1942年/夏/アフリカ/ハルファヤ峠近郊

 

 

 

 

 

 

 

 

それは稲妻のように飛び、雷鳴の如き鉄槌を下す“鳥”

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、ただの鳥ではない。

全体を灰色で塗装し、すらりとした長い胴体に直線翼。

後部胴体上部左右の位置にポッド式に装着されている推力40.34kN(静止最大推力)を誇るTF34高バイパス比ターボファン・エンジン。アルミ合金が主のミモノコック構造の機体だが、重要各部防弾部には12.7mmから38.1mmの装甲に覆われ、コックピット周りは23mm口径の砲弾にも耐えうるチタニウム合金を施している鋼鉄の鳥……。

 

 

機首にペイントされたシャークマウスには、太陽の光もあり幾度となく反射する7門もの砲身を束ねた大口径機関砲が絶対的な威圧感を放っていた。

 

 

 

『─────目標の位置確定。機銃掃射《ガンラン》に備えろ』

 

 

 

地上にてブリタニア陸軍補給部隊の車列を蹂躙していたサソリ型の陸戦ネウロイが、今正に舞い降りようとしている鋼鉄の怪鳥に気付いた。

 

 

迫り来る怪鳥にテール先端部から赤色の速射式ビームによる弾幕を形成し立ち向かうが、

 

 

 

 

 

相手は、サソリにとって天敵である存在《鳥》だ。

 

 

 

 

 

ただばらまいただけのビームに掠りもせず、悠々と飛び続ける怪鳥は次第に迫り大きくなるその姿をアピールする。

 

 

 

 

 

『────目標確認……機銃掃射開始』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪鳥は、舞い降りた。

 

 

 

─────ヴアァァァァァァ!!!!!!ゥゥゥゥンンンン……!

 

 

機首に装備された“アヴェンジャー”こと7砲身30mm機関砲が真っ赤な火を吐き咆哮する。立ち込める発射煙が機体を包む。

 

コンバット・ミックス。

つまりは劣化ウラン弾芯の徹甲焼夷弾PGU-14/Bと曳光弾としての役割を果たすPGU-15/B訓練弾を使った弾種混合のこと。

秒速988mを誇る劣化ウラン弾芯のAPIが秒間65発と言う発射速度で発射され、狙われたサソリ型ネウロイを蜂の巣となる。

 

立ち上る無数の砂煙……。

 

30mm機関砲による掃射は凄まじく、掃射コース上に居た複数のネウロイを白い光の破片へと変えていた。何騎かのネウロイは移動に必要な部位を失ったことでもがいていた。

 

 

 

『こちらブリタニア陸軍補給部隊ベイカー1だ。上空の友軍機へ、残存ネウロイは撤退した……支援に感謝する』

 

『了解したベイカー1。ハルファヤ防衛部隊が間もなくそちらに到着する。負傷者の移送準備を頼む。オーバー&アウト』

 

 

高度2000フィートにて眼下の地上部隊を中心に旋回していた“ウォートホッグ(イボイノシシ)”の愛称ことA-10攻撃機。

 

 

そのコックピットにて機体を操縦するプライアーは、HMDS(Helmet Mounted Display System)付きフライトヘルメットのバイザーを上げキャノピー越しに地上を見下ろす。

 

 

「レイウルス級は思ったより装甲が薄いな。徹甲弾に対する耐性がついているパラドゥス級より脅威ではない、か」

 

 

先程の、主に砂漠に現れる強襲陸戦型ネウロイ“レイウルス”のやられ具合を思ったプライアーが呟く。

 

 

「ガンは……残弾610か、2秒掃射で終わってよかった」

 

 

安堵の溜め息を吐くプライアー。

秒間65発の大飯喰らいのアヴェンジャーだ。残りの30mm弾をものの9秒ちょっとで撃ち尽くしてしまうだろう。

 

 

「あの男が話していた物資が何時来るのか分からない以上、弾薬の節約をしなきゃならないしな。……さて、帰投するか」

 

 

スティックを右に倒し引き緩やかに戦域を離脱するコースをとるウォートホッグ。

 

 

「マンバ6よりアフリカHQ(HeadQuarter:本部)へ。B補給部隊を奇襲したレイウルス級ネウロイの撤退を確認、これよりき……」

 

 

ピーッと、コックピット内に警告音が鳴り響く。

 

 

「っ…航空型ネウロイか!?」

 

 

眼前にあるMFD(多機能ディスプレイ)の一つに機体下方から接近しつつある航空型ネウロイが表示される。

これはUHF/TACANアンテナ(取り外し済み)直下胴体下面に収められているEOTS(Electro Optical Targeting System:電子光学目標指示システム)が捉えたものだ。

 

EOTSはF-22やF-35と言った最新鋭機を生み出したロッグヒード・マービン社のミサイル&火器管制部門が開発したF-35用のセンサーで7面のガラス張りで構成されたカヌー型フェアリングをしている。内部には空対地用のFLIR(前方監視赤外線追跡装置)、空対空用のIRST(赤外線捜索追跡装置)、レーザー・スポット追跡装置、アクティブ・パッシブ測距、高精度座標生成機能などを収めた電子光学機器だ。

 

 

プライアーが操縦するA-10Eには試験的に搭載されたEOTSが装備されているが、胴体中央にある6番兵器ステーションに600ガロン増槽があれば使用出来ないとの欠点がある。使用するには増槽を投棄するしかない。

 

 

 

話が逸れた。

 

 

 

そのEOTSで捕捉されたブリップは赤い△で囲われ、右上には敵種である『ENEMY_NF-03』との数字が表示される。

 

 

「NF-03……ケリドーン高速小型か!」

 

 

士官学校時代に見た航空型ネウロイ識別表を思い出したプライアーが叫ぶように言った瞬間、真下から突き上げるように上昇してきたケリドーン型ネウロイ3機の機首にある機銃が火を吐く。

 

 

「くそっ……!」

 

 

左翼付近を掠めた曳光弾に、機体を右に倒し旋回。

スロットル・レバーを前進させ、ジーニアス・エレクトロニクス製TF34ターボファン・エンジンがファンを高速回転させ唸り声を上げる。数秒で最大推力状態となった機体がケリドーンの追尾から逃れようと降下する。

 

高度は5000フィートから2000フィートへ。

 

時速750km近くで飛行するA-10の後ろを200kmほど遅い速度で追いかけてきながら機銃を撃ち続けるケリドーン3機。

 

 

「サイドワインダー(AIM-9X)があればッ…!!」

 

 

確かにA-10には両翼端付近にある1,11番ステーションにLAU-114ランチャーを使用することで最大4発のAIM-9X“サイドワインダー”視程内射程空対空ミサイルを搭載可能だが、今は無い。

 

 

するとEOTSのIRSTが再び脅威情報を告げる。

光学機器が捉えたものをズームアップでディスプレイに表示する。前方から4機のケリドーンが向かって来ていた。

 

 

「マジかよッ!!!クソッ!」

 

 

思わず悪態を吐くプライアー。

相対しているケリドーンとの距離が詰まっていく。

 

 

 

プライアーが手段の一つであるアヴェンジャーによるガンキルを行おうと、兵装切り替えをした時だった。

 

 

 

 

前方にいたケリドーンの1機が銃撃を喰らい墜ちていった。

 

 

『やっぱり私がいないとダメみたいだな────ウィル?』

 

 

同時にヘッドセットから響く聞き慣れた声に自然と笑みを浮かべ言い返す。

 

 

「俺は対地専門なんだよ、マルセイユ!」

 

 

また1機、“アフリカの星”と呼ばれるカールスラントウィッチのハンナ・ユスティーナ・マルセイユの銃撃を受けたケリドーンが火を吐き撃墜された。

 

 

『敵、ケリドーン型4機散開、2機撃墜』

 

 

マルセイユとは別な声がヘッドセットに響く。マルセイユの僚機であるライーサ・ペットゲン少尉だろう。追従する彼女がマルセイユの撃墜成果を逐一無線で報告する。

 

 

『9時の方角、上方よりケリドーン型3機!』

 

 

プライアー機を後方から追っていたケリドーンが追跡を止め、最優先目標をマルセイユたちに指定したのだろう。

 

上方のケリドーンが発砲。だが、マルセイユはそれをひらりと身を捩らせ回避すると手持ちのMG34機関銃の単連射で1機屠る。続いて来た2機目にも単連射、片翼を失った敵機はクルクルと回転しながら墜ちていき地上に激突する。

 

残存3機中2機のケリドーンが左右から、1機がマルセイユの背後から迫る。

 

 

「マルセイユ!」

 

 

思わず叫ぶプライアー。だが、次の瞬間には其れは心配無用だったことを気づかされた。

 

 

 

左右から迫った2機が同時に発砲する、その瞬間を狙ったマルセイユが静止状態から一気に減速し、下に逸れる。

左右の2機は相対している為、互いの銃撃を浴び散華する。後方からのケリドーンに対しマルセイユは反り返りMG34のトリガーを引き発砲、7.92mm弾を喰らった敵機は穴だらけになり爆発四散、空中に光の華を咲かす。

 

 

「……さすが、“アフリカの星”だな」

 

 

彼女の戦闘を目の当たりにしたプライアーは賞賛する。

全機撃墜するのに要した時間は僅か10分足らず、流石はエースウィッチ、と言ったところか。

 

 

戦闘を終えたマルセイユがライーサを引き連れ、此方に来る。

プライアーがスロットル・レバーを後退させ推力を絞る。A-10の速度は時速550km台になる。ニヤニヤとした表情でコックピットの直ぐ隣を並進する。

 

 

『だから言ったろ? 私の援護が要るって』

 

「あぁ、今さらになって分からされたよ。今度からよろしくな」

 

『こちらこそ』

 

「さて……基地に帰投するか。カトー大尉に報告しなきゃな」

 

『だな、ライーサ、基地に戻るぞ』

 

『了解』

 

 

翼を翻し帰投コースへ針路を変えるA-10と二人のウィッチ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此処アフリカに“無理やり”連れてこられて一週間は経つが、未だに砂漠の生活には慣れない。

 

この一週間で俺、ウィルバート・プライアーは二度の戦闘を経験した。一度目は此処に来た日、二度目は3日前にトブルクからハルファヤ峠へのMSR(主補給路)を移動中のブリタニア連邦陸軍の補給部隊車列がネウロイ地上部隊の待ち伏せをうけた時だ。

 

俺は『アフリカ』の指揮官である扶桑陸軍の女性ウィッチ────いや、エクスウィッチ(元魔女)の加東大尉から要請を受けて出撃した。

 

『アフリカ』の彼女たちウィッチのストライカーユニットより時速300kmほど早いA-10で現場に一番乗りで到着し、補給部隊の車列を攻撃していた蠍《サソリ》に似た強襲型陸戦ネウロイ数体に機銃掃射を行い破壊叉は撃退した。

 

途中、飛来したケリドーン高速飛行型ネウロイの編隊と交戦したが、“アフリカの星”ことマルセイユが駆けつけものの10分ほどで7機を全機撃墜した。

 

ともあれ、彼等の働きにより補給部隊は安全にハルファヤまで荷を届けられた訳であったが……

 

 

 

 

「─────暑い……」

 

 

 

今はこうして、真上から照らす太陽の光に汗を流し、格納庫の隅でうなだれているプライアー。

 

手にしていた水筒に残った水を最後の一滴まで飲み干すと、自身の周りにいる整備士たちを見る。自分とは違い砂漠の生活に慣れた彼らは黙々とストライカーユニットの整備、点検をしていた。

 

 

「……慣れって、いいな……」

 

 

羨ましそうに彼らを見つめるが、すぐにぐったりして地べたにべたーっと倒れ込むが、そこに格納庫の入り口から中を覗き込む影に気づくプライアー。

 

キョロキョロと格納庫内を見渡してその人物の二つの目が、プライアーをロックオンするや、ニヤリと口元に笑みを作る。

 

 

プライアーにとって其れはスパイク(“レーダースパイク”要はレーダーロックオンを喰らった状態)であり、RWR(レーダー警戒受信機)がひっきりなしにピーッと警告音を出しているだろう。顔が引き攣るプライアー。

 

 

「此処に居たかウィル。さぁ、私と空戦でしょ……」

 

「違うでしょ? ティナ」

 

「むぅ……仕方ない」

 

 

黒い飛行服に身を包んでいる彼女、ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ中尉は猛禽のような目で相変わらずプライアーに勝負を挑もうとしたが連れ添っていたマルセイユの僚機を務めるライーサ・ペットゲン少尉の止めに大人しく従った。

 

 

「で、何だ? マルセイユ」

 

「ケイから召集だ。すぐに来てくれ、だそうだ」

 

「今度はなにがあるのやら……」

 

 

そう言うと水筒を片手にプライアーと二人は丘と丘の間にあるあの一際大きい天幕へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お呼びでしょうか、カトー大尉」

 

 

天幕に入ると目の前にある土嚢を改造したソファに座る加東大尉とオリーブドラブ色のカールスラント軍熱帯野戦用の将校姿の男性がいた。男性のすぐ傍にある小さな机の上にはゴーグルが付けられた将校制帽があった。

 

 

「閣下、彼がプライアー中尉です」

 

 

加東大尉がそう言うと隣にいた将校が立つ。

 

 

「初めましてプライアー中尉。私はエルヴィン・ロンメル。カールスラント・アフリカ軍団、通称KAKの司令官をやっているよ」

 

「り、リベリオン空軍航空戦闘軍団第355戦闘航空団所属、ウィルバート・プライアー中尉であります!」

 

 

穏やかな表情で話し掛けてきた目の前の人物がまさか歴史上でも偉大な人物であり、第二次ネウロイ大戦中アフリカ戦線での活躍から『砂漠の狐』と呼ばれたカールスラント陸軍中将 エルヴィン・ロンメルが、手を伸ばせば届く距離にいるのだ。

 

マルセイユ達との邂逅の際、プライアーは彼女たちが歴史上の有名人であることは知っていたがあまり興奮や驚きと言った感情はあまり出なかった。

 

リベリオン人にとっての歴史上の有名人、特に第二次ネウロイ大戦で名を馳せた人物なら自国の人物なら知っていたりするが、他国の者なら話は別。まったく知らなかったりする場合もある。

 

だが、プライアーの目の前で相対している人物なら空軍野郎でも知っている有名人だ。

 

 

ロンメルが話す。

 

 

「あの日、君がこの地に来なければ我々は今この場所には立っていなかっただろう。礼を言う……りがとう」

 

「いえ!自分はただ……」

 

「そう謙遜する必要はないよ。現に君はハルファヤの防衛部隊やブリタニアの補給部隊を助けた。十分胸を張れるよ」

 

「恐縮です」

 

 

自ら手を伸ばしたロンメルにプライアーは握手に応える。すると、加東大尉が喋る。

 

 

「閣下、そろそろ……」

 

「あぁそうだったね。では、プライアー君、また今度」

 

 

入り口付近にて立っていた副官らしき将校と共に天幕を後にするロンメル中将。

 

 

「さっき、ロンメル中将に話をしたの」

 

 

加東が再びソファーに腰を下ろすと話し出す。

 

 

「話?」

 

「今後の貴方の処遇について、よ」

 

「あぁ……」

 

「とりあえず、貴方には『アフリカ』の隷下として今後の活動を共に動いてもらうわ。それでいいかしら?」

 

「行く宛が無い以上、この世界で一人は辛いし、何も出来なくなれば元も子もないからな。大尉の提案に賛成するよ」

 

「ありがとうウィル。それと、ケイでいいって言ったでしょ? その堅苦しい言葉使いは禁止、禁止よ」

 

 

ヤダヤダと言ったような感じでパタパタと手を振る加東。

 

 

「わかったよ。……ケイ」

 

 

「ウィルー! 今日は飲むぞー!」

 

 

その言葉に加東は微笑む。が、次に天幕に入って来たマルセイユの一言に頭を抱えて深い深い溜め息を吐いた。

 




E型A-10に関しては後々に詳細書きます。

最近は作業BGMに茶太さんの「笑顔の約束」を聴いてます。この曲が一番落ち着きます。1分30秒ほどしかありませんが(苦笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その鳥の居場所は、今

閑話的な話です。


 

 

 

 

2015年/8月2日/リベリオン/アリゾナ州/デビスモンサンAFB.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は昼を少し過ぎたあたり。

いつもと変わらぬ青が広がるリベリオンの空の下、アリゾナ州にあるリベリオン空軍基地デビスモンサンでは基地に所属する第355戦闘航空団の各飛行隊は訓練に明け暮れていた。

 

 

基地内の一画にあるエプロン(駐機場)近くにあるカマボコ型の簡素なハンガー内にて、二人の整備士が格納されているA-10Eを整備していた。

 

 

「……なぁ、聞いたか?」

 

「何をだ…?」

 

 

左主翼に上がり左エンジンのファンブレードを点検していたデジタル・タイガーパターンの迷彩柄の作業服姿の男が、カウリング下部を開きエンジン本体の油圧ポンプや配線をチェックする同僚だが、服装の違う男に話し掛ける。

 

 

「プライアーの捜索が打ち切られた、そうだ…」

 

 

男の言葉に手の動きが止まる。

 

 

「……マジかよ。まだ、残骸すら発見出来ていないのにか?」

 

「あぁ、お偉いさんからの指示らしいぞ、サエキ」

 

 

サエキ、と呼ばれた男が潤滑剤の入ったスプレーを静かに作業台に置くとモンキー・スパナ片手に脚立に腰を下ろす。

 

 

サエキ────本名は佐伯 義一(サエキ・ヨシカズ)で、扶桑国防空軍の航空団整備補給群に所属する扶桑軍人だ。何故、扶桑人である彼がリベリオン空軍基地に居るのか?と言われれば、人材交流プランの一環として来ているといえる。

 

ペットボトル内の飲料水を飲み干した佐伯が口を開く。

 

 

「……あれから一週間か……」

 

 

第355戦闘航空団第306戦闘飛行隊に所属するパイロット ウィルバート・プライアー中尉が消息不明となって一週間が経つ。

あの日、最後に機体信号が確認された位置に捜索救難部隊が向かったが要救助者であるプライアーは疎か墜落機の残骸すら発見されなかった。ベイルアウトした信号を受信してないことから既に死亡していると仮定してはいる、が、せめて遺体だけでも回収出来ればと一週間粘った結果が、捜索の打ち切り……。

 

 

「それに」と言って主翼から降りたのはデビスモンサン基地第355戦闘航空団整備中隊技術軍曹のバーナード・クルスだ。

 

 

「どうもお偉いさん方は残骸すら発見出来ないことに訝しんだらしくてな。プライアーをネウロイのスパイじゃないかと疑いだしたんだよ」

 

「どうかしてるだろ……」

 

 

消息不明になったパイロットをネウロイのスパイと決めつけるとは……9.11から神経質になったリベリオン政府の今か、と心の中で思った佐伯が俯くが、直ぐに顔を上げると視界の隅にいた此方に背を向け空を見上げている人物を見つける。

 

 

「彼女は、その話を……?」

 

疑問に思ったことをクルスに問うと案の定の答えが返ってきた。

 

「あぁ知ってるよ。可哀想に…」

 

 

彼等の視線の先にいる彼女は照りつける太陽の光の眩しさに、右手の掌で顔を隠しながらも見上げるのを止めなかった。

 

 

「…あの日からずっとあんな調子だよ」

 

 

クルスが呟くように言った。

 

 

佐伯は腰を上げるとハンガーの隅にあるクーラーボックスを開け中から炭酸飲料が入ったジュース缶を手に取る。

 

 

空いた片手で作業台に置いていた扶桑国防空軍識別帽を被る。その識別帽には整備補給群修理隊を表すエンブレムの他に銀髪で目を瞑った横顔のメイドさんらしきキャラが刺繍されたバッチがつけられており、2本のナイフがクロスしている箇所には「ELEGANT SERVANT」との文字が入っていた。

 

それは扶桑で人気のとあるキャラなのだが、この基地にいる者は佐伯以外知らない。当然だろうが。

 

 

佐伯が空を見上げ呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も暑くなりそうだなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、彼等は知らなかった。

 

 

 

自分たちも、その消息不明の仲間入りを果たすことを……。

 

 





バーナード・クルス技術軍曹(20)
リベリオン空軍デビスモンサン基地所属
航空戦闘軍団第355戦闘航空団隷下第1整備中隊第3小隊整備士

佐伯 義一(サエキ・ヨシカズ)一等空曹(20)
扶桑国防空軍新田原(ニュウタバル)基地所属
航空総隊隷下西部航空方面隊第5航空団整備補給群第1修理隊所属整備士


階級の割に年齢若すぎじゃないかと思われますが、其処は御了承を御願いします(苦笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その二人は、翼を癒やす者

佐伯とクルスが主の話ですね


2015年/8月4日/15:30:11/デビスモンサンAFB.

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日のフライトは全部キャンセルだ」

 

 

第355戦闘航空団副司令が言った。

今日もいつも通り機体の整備点検に駆り出されていたクルスと佐伯の2人がその言葉に顔を見合わせ苦笑する。それもそうだ、訓練実施部隊の装備取り付けや補給を済ませたばかりだった。

 

副司令に中止理由を問うと中東でのネウロイの動きが活発となっているらしく、此処(355FW)の部隊を派兵するかもしれない、だから、それを選定する為のお偉いさん方がこの基地に足を運んでいる、とのこと。

 

 

「中東かぁ……」

 

 

佐伯が呟く。

 

 

「もしも派兵ってなれば、サエキはどうなるんだ?」

 

 

資材運搬用のドリーの荷台にて寝っ転がっていたクルスが聞く。

 

 

「どうだろうな。  このまま部隊について行くか、別な基地の航空団整備中隊に回されるかのどちらかだろうな」

 

「いい経験になるぞぉ?  実働部隊の整備は」

 

「コイツ(A-10)の装甲交換がどれだけ大変なのか知ってるだろう?  俺は勘弁願いたいね」

 

 

そんな会話を続けていると、低バイパス機特有の甲高いジェットの音が聞こえてきた。滑走路を見やると足にF-15E戦闘攻撃脚“ストライク・イーグル”を履いたウィッチ隊とそれに続くのはクルスが知らなく、佐伯は幾度となく見たことがあるユニットを履いたウィッチ隊だ。

 

先頭のウィッチ隊“ガンファイターズ”がタッチダウンする。

 

ガンファイターズが滑走路から誘導路に入ると後続のウィッチ隊が着陸し同じ様に誘導路に進む。

 

 

「あれは何処のウィッチだ?」

 

 

「扶桑国防空軍のウィッチだよ。  あのストライカー・ユニットはF-3A戦闘攻撃脚、第5世代ジェットストライカーだ。  クルスは実物見るのは初めてだったか?」

 

 

「F-3……か、いや、初めて見たな。 話には聞いていたが…」

 

 

「まぁ、知らないのも無理ないだろう。つい1年前に本格量産が始まって半年前ぐらいに実用部隊に配備されたからな」

 

 

先にエプロンにあるウィッチ専用の簡易ハンガーに入った『ガンファイターズ』のメンバーはユニットケージに戦闘攻撃脚を固定させ降りる。直ぐに第1中隊第1小隊の男女混成整備班が駆け寄り整備に取り掛かる。

 

すると、1人のウィッチが佐伯たちに歩いてくる。

 

 

「整備お疲れ様二人とも」

 

 

ブロンドの髪をたなびかせ、その空のように青い瞳で此方を見つめるのは『ガンファイターズ』3番機担当のシェリー・ホワイトアウェイ中尉だ。

 

階級では彼女が上なので敬礼した2人にシェリーが答礼すると、いつもの口調で互いに話し合う。

 

 

「演習お疲れさん、シェリー。  調子は?」

 

「少し精密爆撃をミスっただけであとはいつも通りよ」

 

「何か飲む?  炭酸と果汁ジュース、どっちがいい?」

 

「果汁、オレンジある?」

 

「ほいよ」

 

佐伯からオレンジジュースの入った缶を受け取るとタブを起こし戻すと口をつけ飲み始めるシェリー。

 

 

「……そーいや、シェリー、あのフソーのウィッチ隊は?」

 

 

ミネラルウォーターの入ったコップを呷っていたクルスが問う。

 

 

「演習空域で会ったのよ。  W-AWAC(Witch-Airborne Warning and Control:空中警戒管制ウィッチ“ウォーワック”)からの指示で今日は此処で補給と休みをさせてやれ、と」

 

 

「 今の時期でW-AWACが居てステルス脚で演習する基地ってなれば……ネリスか」

 

 

顎に手をやり呟くクルスをよそに、佐伯は次第に近づいてくる扶桑部隊を見つめ疑問に思う。

 

 

「……ありゃ第9航空団のウィッチ隊じゃないか…?  でも“八咫鳥(ヤタガラス)”の連中が扶桑本土から離れたって前例は聞いたことがないな…」

 

 

彼女たちが履く黒く塗装されたF-3AユニットのV字型尾翼に……扶桑では“太陽の鳥”と呼ばれる八咫鳥が灰色で描かれた部隊マークが見える。その名、マークを持つ航空部隊は扶桑最強の精鋭部隊の証、と、呼ばれている

 

彼女たちの装備を事細かに観察する佐伯。

扶桑皇国陸軍時代からの伝統である白衣と緋袴、手甲と脚甲というのが正装なのだが、白衣と緋袴はステルス性を意識したような黒を基調としたデジタル迷彩だ。黒衣と黒袴と言うべきか。

手甲と脚甲は外見上では変わりないように見えるが、おそらく最新の軽量化された物だろう。

手にしている銃器はレールシステムを施した89式小銃のようで様々なアタッチメントを取り付けている。

 

注目したのは頭部で、扶桑国防空軍で普及しているウィッチ用の10式ヘッドセット(帽子型のHMD)ではなく、クロスボウ型のHMDゴーグルだ。

 

 

「……」

 

 

無言の佐伯にシェリーが缶ジュース片手に話し掛ける。

 

 

「どうしたの?  サエキ」

 

「いや、ちょっと……な」

 

 

その言葉に首を傾げるシェリー。

すると、簡易ハンガー傍に停車したドリーから第3整備班長が降り、周囲に向け大声で喋る。

 

 

「第2、3小隊は今すぐに集まれ! 急げ!!」

 

 

班長の掛け声に整備用具一式を持ち、集合場所まで走る……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……PM21:47:03

 

 

 

 

 

 

その夜。

ハンガーでは日が沈んでも、作業を続ける2人の影があった。

 

 

「─────っと、APU(補助動力装置)チェック」

 

 

機体下面カバーを戻しチェックリストに✓印をつける佐伯。

 

 

「EOTS」

 

「チェック」

 

「空調」

 

「チェック」

 

「アヴェンジャー(GAU-8/A 30mm機関砲)」

 

「駆動モーター、チェック。 あとは送弾ケースだけだ」

 

 

佐伯とクルスの息のあった連携プレーにより、着々と片付いていく整備リスト。あの召集から数時間経った今で通算7機目のA-10のフルメンテナンスが終わろうとしている。

 

 

余裕の表情の2人。

 

 

「射出座席異常なし、チェック。 本日の仕事終わりっと!」

 

 

コックピットから飛び降り、着地したクルスが言った。

 

 

「よし……22時前か、兵舎に戻って寝るか」

 

「えぇーBARに行こうぜサエキー?」

 

「昨日も、だっただろ? さすがに2日連続はキツいし、俺は溜まったゲームを消化しなきゃならんからパスな」

 

「一杯! 一杯だけ!……いいだろう?」

 

 

顔の前で手を合わせこちらに上目づかいでお願いするクルス。

 

 

「やめーい、野郎の上目づかいなんてやめーい。誰得だよ」

 

 

ハンガー内を消灯した佐伯が外に駐車していたハンヴィー(高機動多用途装輪車両)に乗り込む佐伯。それに続くクルスが助手席側から乗る。

 

 

「つれないねェ。 そんなに付き合い悪いと彼女できねぇぞ?」

 

「元から諦めてるよ。 俺の天使が部屋で待ってるんだよ」

 

「画面の向こうに、だろ?」

 

「ヽ(*゚д゚)ノ<カイバー」

 

「かい…なんだよソレ」

 

「悪い。 変な電波を受信したみたいだ」

 

「またわけの分からないことを……はぁ、早く帰るぞ」

 

 

ドアの縁に肘をつき頬杖をついたクルスに佐伯がケラケラ笑いながらキーを回し、ハンヴィーのエンジンが掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

その時だ。

 

 

 

 

 

 

 

前方からろくに目も開けられない程の眩しい光が、2人の乗るハンヴィーを照らす。

あまりの眩しさに2人は手で顔を隠す。

 

 

 

「なんだよ!?」

 

「眩しくてッ…! 何も見え──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強烈な光が周囲を一瞬、真っ白にさせるほど発した次の瞬間には、辺りは静寂を取り戻した。

 

 

 

 

何も変わり映えのないように見えるその景観で、唯一変わった……いや、“無くなって”しまった物は一つだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………う……ッ!」

 

 

暗い意識の中から抜け出した佐伯は目を開けるが眩しさに目が眩み、小さく呻き声を上げる。

 

 

だんだんと鮮明になっていく視界で最初に見えた物はハンドル。二日酔いのような頭痛に頭を押さえる佐伯が視界の隅に前に平伏すように倒れているクルスを捉える。

 

 

「ッ────おい、クルス! 起きろ!」

 

 

彼の身体を揺さぶる佐伯。

 

 

「ん……? グッ……ってぇなぁ…サエキ? 無事か?」

 

 

佐伯と同じ様に頭を押さえるクルスに佐伯が背に手をかける。

 

 

「俺は大丈夫だ。 お前は?」

 

 

「なんとか……頭の中に声が反響する、二日酔いみてぇだ」

 

 

「俺もだ。 さっきの光は一体なんなん…ッ─────!?」

 

 

「どうした? てか、いつのまに朝に……ってぇ!?」

 

 

 

途中でお互いに驚愕の表情が浮かべる佐伯とクルス。

 

それもそうだろう、ガラス越しに見つめる先には銃口をこちらに向けた兵士たちがいるのだから。

 

 

 

 

 

「なんの冗談だよ……?」

 

「ルートミスったァ……」

 

「お前はこんな時に何を言ってやがる」

 

 

呆れたように溜め息を吐いたクルスは佐伯を一瞥すると、再び目の前に顔を向ける。

こちらに銃口を向ける男たちはどうやら軍人のようだが、えらく装備や服装が古い。クルスはソレがカールスラントが帝政時代の物だとわかったが、

 

 

(コイツら何なんだ? 撮影のキャストか何かか?)

 

 

頭を働かせるクルス。

やがて、その思考の海から連れ戻される事態が訪れた。

 

 

兵士たちを掻き分け、目の前まで来た人物は、2人がよく知っている人物だった。

 

 

 

 

 

「──────サエキ……クルス……?」

 

 

 

 

2人の名前を口にする人物。

 

それに対し2人は酷く呆けた表情で、彼の名前を言った。

 

 

 

 

 

 

「「───────ウィルバート・プライアー?」」

 

 

「何故フルネーム?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十数分後、3人は大きな天幕の中に居た。

あの後……多数の人だかりを見かけた加東が何があったのかをプライアーに問い、話を理解した加東が周りの兵士たちに事情を説明し解散させた。

 

 

天幕の中にはプライアー、佐伯、クルスの3人を始め加東やマルセイユと言った『アフリカ』の面々が揃っていた。

 

 

「……なるほど、そんなことがあったのか」

 

 

プライアーの話を聞いたクルスが言った。

 

 

「1942年の第二次ネウロイ大戦の真っ最中、か。 所謂タイムスリップをしたわけだな俺たちは」

 

 

『アフリカ』の一員である稲垣真美(いながき まみ)軍曹から水の入ったコップを受け取った佐伯。

 

 

「えーと、ウィル、この人たちは?」

 

 

まだ両名の名を知らぬ加東がおそるおそるっといったような感じで聞いてきた。2人が立ち上がる。

 

 

「リベリオン空軍第355戦闘航空団第1整備中隊第3小隊所属、バーナード・クルス技術軍曹です」

 

 

「扶桑国防空軍西部航空方面隊第5航空団整備補給群修理隊所属、佐伯義一1等空曹です」

 

 

切り替えスイッチの入った2人が敬礼しながら所属、氏名を言った。それに加東も答礼する。

 

 

「扶桑皇国陸軍アフリカ派遣独立飛行中隊隊長の加東圭子よ。 今は統合戦闘飛行隊アフリカの隊長も兼任してるわ」

 

 

加東圭子、その名を聞いた佐伯の表情が変わる。

もしや、と呟くと加東に尋ねる。

 

 

「あのー……もしかして扶桑海の電光と呼ばれた加東圭子大尉でしょうか?」

 

 

「えーと、一応そうだけど」

 

さその言葉を聞いた佐伯がプルプルと震えだし、次の瞬間には拳を突き上げ歓喜の声で叫んだ。

 

 

「いやっほ──────ッ!!!」

 

びくりと佐伯以外の全員が身を震わせ、女性陣は少し引き攣った顔になっていた(マティルダ以外)

 

 

「扶桑海事変にて“巴御前”の穴拭智子や“扶桑海の隼”加藤武子と共に戦い、23機撃墜を成し遂げた歴史上の人物が……今、目の前で! 息をして俺たちに敬礼してくれている! 俺の人生の中で今は絶頂期だッ!!!」

 

 

「あ、今後についてですが……」

 

 

一人だけテンションが高めの佐伯を無視したプライアーの言葉に全員が苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

1942年夏、プライアーがこの世界に降り立って9日……二人の整備士が砂塵の戦場へ足を踏み入れた。




今後から少し日を使って投稿します。
話に出てきた“八咫鳥”やF-3などについては、今後出す設定話にて。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その鳥は鋼鉄の翼で空を飛ぶ

戦闘回です。
皆様の感想、お気に入りを受け、作者も奮闘していきたいと思います。


 

 

1942年/夏/アフリカ/統合戦闘飛行隊アフリカ基地

 

 

 

 

 

 

 

佐伯義一(さえき よしかず)とバーナード・クルスの両名がタイムスリップして数時間後の現在。翌朝となった。

 

プライアーの具申により2人はこの基地のカールスラント・扶桑皇国陸軍整備班の所属(居候)にしてもらった。一時は歓迎ムードで盛り上がっていたが、その後、2人はこの時代の主力戦脚であるレシプロストライカーの整備の仕方を教授してもらいキ61、Bf109ストライカーの癖や砂漠に欠かせない冷却調整等を一つ一つ覚えていった。もっとも、2人はリベリオン空軍の練習飛行脚T-6B“テキサンⅡ”を整備練習脚として散々腕を磨いた為、慣れるのは早かった。

 

 

 

 

 

「ん──────エンジンは、問題無さそうだ。ウィル」

 

 

先程までBf109ストライカーの整備をしていた2人は作業を終え、今はプライアーの乗機であるA-10の整備をしている。

エンジン・カウリング下部を開き、LEDライトで照らしながら圧縮機やタービン、油圧ポンプ等をチェックしていた佐伯が言う。

 

 

「まぁ、コイツ(A-10)のエンジンはFOD(Foreign Object Damage:異物吸引によるエンジン損傷)対策が完璧だし湾岸やペルシアでの成績見りゃ一目瞭然だろう」

 

 

コックピットにて電子機器とシステムチェックをしていたクルスの声がハンガー内に響く。

 

第二次ネウロイ大戦以降────人類とネウロイは双方共に大規模な戦闘が起きず睨み合いの状態が続いた「冷戦」に突入した。

途中、限定的で小規模な戦闘や人類同士……国家間での“喧嘩”等があった。その冷戦期に、A-10は生まれた。

連合軍が懸念していた大規模な陸戦ネウロイ群の存在に対し、波を食い止める攻撃機(叉は攻撃脚)としてA-X(次期攻撃機・脚)計画で開発されたA-10。

だが、デビュー当初とは裏腹にその十数年後の評価は一変していた。

冷戦の集結である。

冷戦後のA-10の扱いは惨憺たるものだった。「醜い姿だ。 あれがサンダーボルト(雷電)かね? とてもそうのように見えないが(笑)」「あんな低速度では対空型陸戦ネウロイや航空型ネウロイに直ぐに叩き落とされるに決まっている」「羽食い虫」と、当時の議員や空軍将校たちの口癖がこれだった。この評価は後に訂正されることになった。

 

 

1991年に勃発したペルシア・オストマン・ウルク地域に於ける「湾岸ネウロイ戦争」の開戦である。

 

 

1月15日から開始した「デザート・ストーム」作戦中に記録した144機のA-10攻撃機叉は攻撃脚を履いたウィッチの働きは、19,545戦闘飛行時間、8,775コンバットソーティ(出撃機数)。確認されたネウロイに対する攻撃効果の成果は陸戦輸送型ネウロイ1,106騎、戦車型987騎、大砲型926騎、APC型501騎、拠点型212、レーダーサイト型96騎、長距離ミサイル・ランチャー型11騎、対空型20騎、航空型12機と戦果を上げ、これには「A-10不要論」を口にする者達も脱帽した。

 

今では中東を舞台とした戦場で活躍中のA-10だが、そろそろ統合打撃戦闘機・脚であるF-35“ライトニングⅡ”にその座をバトンタッチさせる日が近づいているが、それまでは第一線にて飛び続けるであろう。

 

 

プライアーが機首側面に背中を預け水筒の水を飲む。

 

 

「まさか、お前らが来るとは思わなかった」

 

「まったくだぜ。 こっちもまさか、そんな大仕事に回されるとは予想していなかったし、来たくもなかったね」

 

 

溜め息混じりに答える佐伯。

 

プライアーから時間の管理局員であるロジェックと言う男について話を聞いていた2人。

 

ハンガー入り口付近に停めてあるハンヴィーから工具を持ってきた佐伯が前脚横に腰を下ろし識別帽を被り直す。

 

 

「……仮に過去を変える、としてバタフライ効果とかは大丈夫なのか?」

 

「バタフライ・エフェクト?」

 

「例えば、扶桑の東京で蝶が羽ばたいて起きた小さな風がリベリオンのワシントンに大雨を降らせる。 小さな出来事が大きな変化をもたらすってことだよ。 まぁ、既に俺達が歴史に絡んでいる以上、もう、後戻りは出来ない」

 

 

その言葉にプライアーは苦笑を返すのみ。

 

 

 

「さて、と」と言いながら腰を上げた佐伯が工具箱に手をやった瞬間だった。

 

 

 

 

突如として、基地内に警報が鳴り響く。

 

 

「ハルファヤからブロークン・アロー(全力魔女支援要請)!」

 

 

1人の若いカールスラント整備士がストライカーユニットがあるハンガーに走りながら周りの整備士たちに聞こえるよう叫ぶ。

基地施設から飛び出すようにハンガーに向かう整備班。

天幕の方からはマルセイユを先頭に身なりを整えながら、走る統合戦闘飛行隊アフリカの面々。

 

 

対して、プライアーはハンヴィーのルーフに置いてあった耐Gスーツに手を伸ばす。今日のプライアーはアラート待機ではないが、万が一の事態に備えて基地内ではABU迷彩服ではなくフライトスーツを着ている。装備を整えている間、佐伯とクルスはA-10の開いていたカウリングを素早く閉じ、搭載兵器の安全チェックを行う。

 

 

「よし!」

 

 

装備したプライアーがHMD付きフライトヘルメットを掴み、機首左舷にある乗降用梯子を使いコックピットに乗り込む。

佐伯が梯子を仕舞うと前脚の車輪止めを退かす。

プライアーが酸素供給ホースやマイク用コードが付けられたらコネクターを左コンソールに接続し、計器盤にある電源起動スイッチを押す。多機能ディスプレイに機体状況が映る。

キャノピー越しにヘッドセットを取り付けた佐伯に話し掛ける。

 

 

「WSC(兵器の安全チェック)?」

 

『クリア』

 

「フラップ、エルロン、エレベーター、ラダー?」

 

『…動翼動作確認。クリア』

 

「APU(補助動力装置)を起動させる。…APUオン」

 

 

スロットルレバーにあるAPUのスイッチを押す。

 

A-10は後部胴体内にAPUを装備しており、高度15,000ft(4,572m)以下なら始動出来る。発電機と油圧ポンプが駆動することで地上支援機材無しでエンジンを始動させることが出来る。自立運用が出来るA-10の大きな強みの一つだ。

 

APU作動から少し経った時点で次の段階へ進む。

 

 

「エンジンスタート。右エンジン始動」

 

 

スロットルレバーにある右エンジン始動スイッチを押す。かキイィィィと言う音と共にファン・ブレードが回転を始め低圧圧縮空気を吸引し徐々に推力を得て目覚め始めたTF34。

 

 

『右エンジン、クリア』

 

「左エンジンも始動させる」

 

 

同じくレバーにある左エンジンの始動スイッチを押す。

 

 

『左エンジン、クリア』

 

「両エンジン、アイドル。 計器、グリーンライト」

 

 

眼前にあるディスプレイの一つに映る機体全体を俯瞰視点から見た図には搭載兵器の位置、種類、数、安全ピンの有無が表示され、違うディスプレイには燃料量やエンジン回転数、現推力、各種センサー情報やバックアップシステムを操縦者に伝える。

プライアーが酸素マスクを固定するとバイザーを下ろす。

ヘルメット外側にある起動スイッチを押すと機体とオンライン化され、画像生成されイルミネーターがバイザーに機体情報を投影する。

 

 

「HMDバイザー、オン。 機体とリンク、異常無し」

 

『了解、ファイナルに入る』

 

 

佐伯とクルスが再び機体全体を見て回りさ最終チェックを行う。

いくら電子機器が優秀であろうと、人が作った物に変わりはない。誤った情報を機体が示す可能性もある為、このような最終確認は常に行われる。

 

 

『ファイナルチェック、クリア。 ハンガーアウトせよ』

 

「了解《ラジャー》」

 

 

クルスが機体前方に走ると両腕を使い、前に進め、の合図を行い誘導する。

 

 

プライアーがスロットルレバーを前進させA-10をハンガーから出す。ハンガーから出た機体が徐々に陽の光を浴び始める。

幾度となく反射するA-10。

クルスの誘導の下、エプロンから誘導路に進む。

 

 

クルスが機体前方から離れ、横に逸れる。

 

 

無線のスイッチを入れるプライアー。

 

 

「かんせ……いや、アフリカHQ。 こちらマンバ6、離陸に備えてエプロンから誘導路に入った。滑走路への進入、離陸許可を要請する。オーバー」

 

『こちら加東よ。 マンバ6、離陸を許可します』

 

「了解」

 

 

間髪入れずに返ってきた無線にプライアーが答える。

機体は誘導路から滑走路へと進入する。

横目でエプロンにてストライカーの始動準備中のマルセイユたちを一瞥すると、スロットルレバーをエンジン最大推力位置まで前進させる。

甲高いエンジン音を響かせ、加速し滑走を始める機体。

プライアーが操縦桿を引くと機体が反応し、滑走する感覚がなくなり浮遊感が身体に伝わる。

0を示していた高度計の数字が増えていく。

ある程度の高度に達すると降着装置のハンドルを上げ、前脚と左右の主脚が収納される。

 

 

「マンバ6、離陸完了。 戦域に急行する」

 

 

方向を変え、ハルファヤ峠のある地点まで向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AM10:04:51/アフリカ/ハルファヤ峠

 

 

 

 

 

 

 

「────マンバ6よりハルファヤ防衛部隊、応答を」

 

 

戦域に到達したプライアーはハルファヤ峠上空5,000ft(1524m)を旋回し、キャノピー越しに見下ろす。

眼下の地上ではブリタニアとカールスラントの混成部隊が、蟻の如き数で群がってきている中型クラスの陸戦ネウロイとフライング・ゴブレット(飛行杯)に対し必死の防衛戦を展開していた。

無線にノイズが走り、声が響く。

 

 

『マンバ6!こちらハルファヤ防衛部隊ドッグ1だ!現在、敵陸戦ネウロイの猛攻を受けている!!至急、航空支援を……来るぞッ!!!』

 

 

無線からは爆音や銃声または砲声が鳴り響き、それに混じって兵士たちの怒号も度々聞こえる。再び無線。

 

 

『航空支援を要請する! やってやれッ!!!』

 

「了解したドッグ1。北からアプローチする」

 

 

地上部隊の要請を受けたプライアーがマスターアーム(兵器安全装置)をオンにすると、ディスプレイにはSAFEの文字からARMへと切り替わり、各兵器が準備万端を示すRDY(READY)になる。

 

ウォートホッグの主任務であるCAS(Close Air Support:近接航空支援)は通常、地上部隊に随伴する前線航空統制官(Forward Air Controller:FAC)が伝える9行ブリーフィングを持ってその目標に対する攻撃を行うが、この世界にはいない。

 

南から進入するホッグ。

プライアーが見るディスプレイにはFLIRで捉えた対地赤外線画像に映るは蠢く無数の陸戦ネウロイ。

正面から見れば左から迫るネウロイの群れが右にあるハルファヤ峠に向かう様子だ。つまり、ネウロイはこちらに対し無防備な側面部を見せてつけていることになる。

 

 

「アヴェンジャー準備よし。 アプローチ」

 

 

兵装切り替えでGAU-8/Aを選択するとRDY-GAU-8の文字と共に残弾数が表示される。

 

 

緩やかに降下し速度を上げる。

HMDバイザーに投影されたガンレティクルには射撃不可を示す2本の斜線が出ていたが、今消え、射撃可能となる。

十分な距離に達しプライアーが操縦桿のトリガーを引く。

高速でスピンアップした7砲身ガトリング砲から30mmAPI(徹甲焼夷弾)が吐き出され、射線上のネウロイを凪払う。

 

ワンバースト射撃(2秒間射撃)後は一旦距離を取り、その間に1分間の風速冷却を行う。

 

旋回しながら成果確認を行うと、射線上にいた陸戦ネウロイは一掃されていたが、既に後続のネウロイが埋め尽くす。

 

 

「マーベリックを使う。……マンバ6、ライフル!」

 

 

翼下のランチャーから切り離された2発のAGM-65空対地ミサイルがロケットモーターに点火し、数秒後には赤外線画像シーカーがネウロイのコアが発する熱源を捉え群れの中で着弾。

弾頭重量136kgの爆風貫通型の成形炸薬弾が命中、炸裂し辺りを吹き飛ばす。直撃を受けたネウロイと共に数騎を葬る。

だが、それでも勢いは止まらない。

 

 

「何処かに指揮型は居ないのか……?」

 

 

FLIRをフルに使った索敵を行う為、ディスプレイをタッチ操作するプライアー。

 

 

すると、少し離れた砂丘の後ろにて身動き一つせず、車体上部に円錐形の物を光らせるネウロイを発見した。

 

 

「アレか! SDBスタンバイ」

 

 

主翼付け根部分付近にある兵装ステーションに搭載されているGBU-44 SDB-L(レーザー小直径爆弾)が用意される。

GPS(全地球測位システム)やINS(慣性航法装置)を誘導装置として持つGBU-39 SDBに赤外線レーザー誘導装置を先端に取り付けた滑空爆弾である。

 

 

兵器搭載状況を示すディスプレイにはSDB-Lが準備完了を知らせる赤い点滅を繰り返していた。

 

 

プライアーがEOTSを起動させる。

指令を受けたEOTSから目標指示用の赤外線レーザーが照射され、投下に備える。

 

 

「SDB-L……投下」

 

 

投下ボタンを押すとスマートラックからSDB-Lが切り離され滑空用の飛翔翼が展張、後部制御フィンも展開すると滑空を開始。

通常落下爆弾と違いSDBはその滑空により70km以上先の目標に到達することが可能だ。

 

 

迫り来るSDB-Lに気づいたネウロイがアウトトリガーのような部位を収納し動き出したが、もう遅い。

 

 

赤外線レーザー誘導により目標を捉えたSDB-Lは高速で突き進みネウロイの上面に直撃。190mmの弾体に搭載された弾頭は19kgのトリトナル炸薬で、これは900kg級航空爆弾に匹敵する破壊力を持っている。薄い上面装甲を易々と引き裂きコアを破壊、動きを止めたネウロイはそのまま光の塵と化す。

 

 

指揮ユニットを失った為か、突如としてくるりと反転しもと来たルートに戻っていく陸戦ネウロイ群。

 

 

「ふー……SDB命中、目標破壊、敵部隊撤退確認、と?」

 

 

ふと離れた上空を見上げると無数の白い航跡と爆煙が幾つか咲いていた。マルセイユたちが航空ネウロイと交戦中なのだろう。

 

 

HMDに表示されたのは残り1機……いや、撃墜されたようだ。

 

 

静寂を取り戻す砂漠。

今日も任務を果たしプライアーは操縦桿を操りマルセイユたちのアフリカ航空部隊と合流すべく翼を翻した……。

 




なんか終わり方がアレですが(´ω`)気にしないでください。
誤字脱字等ありましたら報告お願いします。訂正は夕方になります。仕事があるもんで(泣) 作者は感想があれば頑張れます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

八咫鳥の一羽【閑話】

ちょい本編待ってくだしぃ(´・ω・`)


2015年/8月6日/アリゾナ州

 

 

 

 

 

 

「司令、こちらカタナ」

 

 

私は真夜中の空にいた。

時折雲間から顔を覗かせる月が私を静かに照らす以外、空は漆黒の闇が支配する。

 

 

「現在位置アルファ・ナイナー・ツリー・ツリー上空4000フィート(1,219m)にて巡航。EOTSオン・ノーマル」

 

 

装着するヘッドセットから伸びるブームマイクを軽く掴み、離れた地点にある基地内の指令ユニットに向けそう言った直後HMDバイザーにEOTSからのスキャン結果が映る。

 

 

 

「─────司令、こちらカタナ。 EOTSが微量の魔法力を感知しました。司令の予測通りです」

 

 

『やはりか』

 

 

 

ヘッドホンから聞こえる女性の声。

私の所属する航空団のボスだ。彼女はこのアリゾナの隣の州であるネバダのネリス空軍基地にいる。

この通信は扶桑魔女のみ……リベリオン側には盗聴出来ないよう魔法針を用い、幻聴術も加えた徹底ぶりだ。軍用衛星やフリーサットは使えない。他国の陰気臭い話を盗み聞きするリベリオン諜報機関が聞き耳立てている為だ。

 

 

 

『2日前にはカットラスがNESTとSEALsを積んだナイトストーカーズ(第160特殊作戦航空連隊)のヘリを確認している』

 

 

NEST(Nuclear Emergency Support Team:核緊急支援隊)とSEALs(リベリオン海軍特殊作戦部隊)、この2部隊の名を聞けばこの地域で“何か”が起きていることは確かだ。

 

 

 

「やはり何か事件が、ですか」

 

 

『それをあちらさんが教えてくれない以上、こっちから探るしかないでしょカタナ?』

 

 

その言葉に、無線の向こう側で笑みを浮かべ好奇心を隠せられない様子のボスの姿が目に浮かぶ。頭を押さえる彼女(カタナ)

 

 

 

「厄介事は御免ですよ“カーミラ”?」

 

 

ボスのあだ名を口に出す。

女性ばかりを襲いその血を吸うことでその美貌を保たせ、永遠の時を生き長らえる女吸血鬼の名を。

 

 

「や、やめてよ(汗)その名前は。 ちゃんと自重はするから、ね?」

 

 

「はぁ……本当にお願いしますよ? 司令」

 

 

「はいはーい」

 

 

「はいは1回です」

 

 

「はい了解よ。 帰投してちょうだい。明日はサタン・エンジェルズ(第57航空団)のウィッチ隊とのDACTよ」

 

 

「カタナ了解。RTB」

 

 

 

体を横にし旋回する。

帰投方角に向けると水平に戻しIHI製F-6魔導エンジンを唸らせ、圧縮されたエーテルがスラスト・ベクタリング・ノズル(推力偏向式排気口)から吹き出させ上昇してゆく。雲を抜ければ、目の前に広がる無数の星々と月が瞳いっぱいに映る。

 

 

地上を隠すように覆う雲の上を這うように飛行するF-3ジェットストライカーを履く航空魔女を月は静かに照らすのみ。




謎の動きを見せるリベリオン軍にいち早く気づいた扶桑国防空軍第9航空団第157飛行隊、通称“八咫鳥(やたがらす)”のウィッチ。

どう絡ませていくかは、まだ未定です。場合によっては出さないかもしれません(苦笑)。

それと今後の本作ですが、少し投稿日に間が空くかもしれません。その場合は自分が高校時代に書いていたSSを代替え手段として投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歴史改変部隊(前編)

約7ヶ月ぶりの投稿です。

お待たせして申し訳ありません


1942年/AM09:22:14/統合戦闘飛行隊アフリカ基地

 

 

 

 

 

 

 

「......まさか、こんな形で送ってくるとは......な」

 

 

格納庫の天井まで積み上げられた大量のコンテナを見上げていたプライアーが呟いた。

 

 

「まぁそろそろ燃料も切れそうだったし、交換パーツもごまかし程度に保たせていたが、これで十分整備出来るな」

 

 

隣に立つ佐伯がコンテナのリスト表をペラペラと捲りながらそう答える。

 

2時間ほど前に、突然加東大尉から呼び出されたプライアー。

 

「貴方宛てにリベリオン軍から荷物が届いているわよ」と最初に聞いた時は首を傾げた俺だったが、加東が次に言った「貴方の事、一言もリベリオン軍には言ってないのだけれど」との言葉に、その荷物の中身に心当たりがあった俺は急いで空きの格納庫へ搬入中のコンテナを確認した。

開けてみれば、其処に入っていたのは大量の兵器、機材、燃料等だった。そして、冒頭に戻る。

 

 

「アヴェンジャーの給弾機材からTF34の予備まで......って、とりあえず言える事は俺たち2人だけで兵器取り付けから整備をやらねえといけないのかよ」

 

 

クルスが髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き回し唸る。

まぁ、そりゃそうなるよな、と心の中で同情するプライアー。

最初は俺が単独で送られ、その後2人が送り込まれたわけだが、合計たった3人(+攻撃機1機)の寂しい歴史改変部隊だ。あのいい加減野郎(ロジェック)には、これが終わり次第たっぷりと痛めつけてやらないと気が治まらない。

 

 

「...先ずはJP-8のタンクを......どうする?」

 

 

「アフリカ整備班に手伝ってもらって地下にやるか?」

 

 

「いや、重機がなきゃキツイ。  土嚢と砂でタンクを覆うしかないな。そっちのほうが手っ取り早い」

 

 

「りょーかい、りょーかい」

 

 

クルスと佐伯の2人が話し合いながら格納庫の奥へ歩いていく。

2人を見送った俺はA-10のある格納庫へと足を運ぼうとして、背後から呼び止められた。

 

 

「ウィル」

 

「マルセイユか」

 

 

声の主へと振り返ると其処には我らがアフリカの星がいた。

彼女が格納庫入り口から俺に対し手招きをする。何だ?

俺が歩み寄るとポケットから何かを取り差し出す。

 

 

「これは?」

 

「ケイがウィルに、と。  お前もアフリカの一員だからな。今後はそれを身に着けておけよ?」

 

 

マルセイユが差し出したのは統合戦闘飛行隊アフリカの部隊マークのパッチだ。アフリカ軍団の盾ベース内に扶桑の日月紋、中央にワシ、その上に星、そしてAFRICAの文字が入ったやつだ。

マルセイユから受け取った俺はパッチをまじまじと見つめたあとABUのベルクロに貼り付けた。

 

 

「ありがとうマルセイユ」

 

 

「礼ならケイに言ってくれ。私はただ渡しただけだ。 …あ、そう言えばケイからついでに呼んでくるよう言われていたな」

 

 

「さて、今度はどんな仕事なんだろうな」

 

 

「さぁ?」

 

 

いたずらっ子のような笑みを浮かべたマルセイユがわざとらしく肩をすくめ、両手を上げると背を向け、天幕へと歩き出す。俺も天幕へ行くため彼女についていく。

 

 

「そーいえばウィル、朝食は?」

 

 

「あ、食ってない...」

 

 

「もうマミが片付けたぞ」

 

 

「......ちょっとマミに頭を下げに行ってくる」

 

 

その後、俺はカトー大尉に会う前に食器を洗う途中だったマミに頼んで朝食を作ってもらった。マミは「わかりました」と微笑みながら言い、作ってくれた。マミはやさしいなぁと思わず涙が出そうだった俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「防備を固めることに専念?ネウロイが?」

 

 

いつもの天幕内でケイから切り出された話は前線のネウロイの行動の変化に関することだった。

 

 

「ブリタニアの挺身隊も確認したそうよ。ハルファヤより東側でのネウロイは攻勢を控えているっぽいわ」

 

 

加東が言う。

挺身隊とはブリタニアのLRDG(長距離砂漠挺身隊)のことだろう。覚えている限りでは確か特殊部隊の部類に入るんじゃなかったか? まぁともかく、加東が言うにはここ数日のA-10による近接航空支援、BAI(戦場航空阻止)等により損害ばかりを被るネウロイはA-10とアフリカのウィッチを警戒し、前線の向こう側で防衛線を構築中らしい。なんとも迷惑な話だ。

 

扶桑茶の入った湯飲みを置いた加藤が話を続ける。

 

 

「マルサーマトルーフ辺りまでの複数箇所に拠点型ネウロイが点在していると、モンティは考えているらしいわ」

 

 

マルサーマトルーフはトブルクより東にあるキュレナイカ、エジプト国境線近くにある町サッルームよりさらに東の海岸沿いにある。敵中のアレキサンドリアまでの中間に位置する。

 

 

「ウィルのおかげか」

 

「ウィルさんが頑張るから」

 

「まぁ...仕方ないですね」

 

「俺の所為かよ!?」

 

 

マルセイユはともかく。真美、ライーサにそう言われるのは予想

外だった為かなり心的ダメージを受けた。

 

 

「......とにかく、これ以上、ネウロイに陣地を構築させる余裕を与えさせるわけにはいかないわ。  ロンメル将軍とも話したけど、ブリタニア軍にも要請して戦線を一気に上げる為に先ずは確認された拠点型の2箇所に仕掛けていくわ」

 

 

加藤の言葉にその場の全員が頷く。

すると椅子に座っていたマルセイユが尋ねる。

 

 

「ネウロイの場所は?」

 

 

「ハルファヤから東南東に約30kmの位置よ。これが私たちとカールスラント軍の担当で、もう一つは北東にあるけどそっちは第8中隊とブリタニア軍が担当するわ」

 

 

「シュレーアの部隊か。アイツなら大丈夫だな」

 

 

「ウィル、貴方にはいつも通り対地攻撃に専念してもらうわ。航空ネウロイに関しては任せてちょうだい」

 

 

「了解ですよケイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、作戦が開始された。

北東にある拠点型にはマルセイユに次ぐアフリカのエース航空魔女ヴァンデリーン・シュレーア中尉がいる第8中隊とセシリア・グリンダ・マイルズ少佐率いる第4戦車旅団C中隊を主力とした部隊が向かい、加藤たちとKAKの機甲戦力からなる部隊は東南東にある拠点型へと進撃した。

 

 

『見えた!』

 

 

『11時上方、高度4000に新たなネウロイを確認! ケリドーン型、8機、降下してきます!』

 

 

マルセイユとライーサの声が無線から聞こえる。

拠点型の周囲に群がる四脚の陸戦ネウロイに対し爆撃を行っていた俺は機首を上げ一旦上昇する。眼下の地上ではKAKの機甲部隊が砂丘を利用した被弾面積を減らすハルダウン(稜線射撃)戦法で陸戦ネウロイに対し熾烈なる砲撃戦を展開していた。

 

彼等の上空ではマルセイユたちが白い航跡を引き、ヒエラクスやケリドーンと言った航空ネウロイとのドッグファイトを行う。

 

 

『真美、左翼の地上部隊の援護に向かって!』

 

『はい!』

 

『ライーサ、右のやつは任せた!』

 

『ヤヴォール!(了解!)』

 

 

上空から急降下してきた真美が、その小柄な体格には合わないボヨールド40mm機関砲を構えると1発、2発と撃ち込む。放たれた砲弾は吸い込まれるように敵陸戦ネウロイ車体上部に命中、撃ち抜かれたネウロイは少し間を置いて光の破片となる。

 

 

『よくやったわ、真美。 ......! マルセイユ、3時下方に中型飛行ネウロイ! 低空で機甲部隊に接近しているわ。おそらく爆撃機だわ』

 

 

機体を反対方向に傾け確認する。

兵装の照準センサーが目標を捕捉するとHMDバイザーに低空を飛行するネウロイを赤い△の枠で囲いマーキングし、表示する。

 

同時にセンサーが解析した目標をMFD(多機能ディスプレイ)の一つに敵脅威情報として映し出し、NB-03“ケファラス”中型爆撃機ネウロイと判明する。

 

それが3機、編隊を組んで機甲部隊側面から迫っていた。

 

 

『分かっ......っ!クソ!』

 

『12時直上よりケリドーン型7機、接近!』

 

 

無線から察するにマルセイユたちは敵戦闘機型に手一杯の様子だ。手遅れになる前に、と、ケイ大尉に呼び掛ける。

 

 

「加東大尉、こちらマンバ6。マルセイユたちは敵戦闘機型の相手を、こちらは接近中の爆撃機型を撃墜する」

 

 

『了解。頼んだわよ』

 

 

了解、と答えると機体をロールさせ降下を開始。

ケファラスと同高度に迫ると水平飛行に移り、使用兵器を2連ランチャーに懸吊している視程内射程空対空ミサイルのAIM-9Xサイドワインダーに切り替える。赤外線シーカーが標的を睨む。

 

標的のケファラスは尾部の対空ターレットでこちらを狙ってきているが当たりはしない。

 

イヤフォンに長い電子音が鳴り始め、標的の熱をシーカーに焼き付けたサイドワインダーがロックオンしたことを告げる。

 

 

「FOX2!」

 

 

発射ボタンを押すとパシュッと音を立て、ランチャーから発射されたサイドワインダー。相手は時速400kmそこらで飛んでいる為、狙われたケファラスは数秒後にはミサイルに食いつかれた。

 

シーカーが反応し爆薬が起爆すると複数の鋼鉄製ロッドが四散し、ケファラスの翼を引き裂くようにダメージを与える。

 

バランスを崩したケファラスはどんどん高度を落とし地面に叩きつけられ消滅した。

 

 

「スプラッシュ1! ロックオン...FOX2!!」

 

 

撃墜報告後に次のケファラス対し再びサイドワインダーを発射。

白い航跡を描き、マッハ2で迫るガラガラヘビを避ける事が出来るはずがないケファラスに呆気なく命中し撃墜する。

 

その直後に残ったケファラスが胴体上部のターレットから1条の赤い輝きを放つビームをこちらに撃ってきた。

 

 

「うおっ!?」

 

 

咄嗟に機体を横に傾ける。

機体の直ぐ傍をビームが掠め左主翼の上面が少しだけ消失した。

 

ビシュウゥゥッ!!

 

ビシュウゥゥッ!!

 

少し照射時間を長めで撃ってくるケファラスに対し機体を左右に振ったりロールしたりと回避機動をとる。

 

同時に尾部の速射式ビームガンターレットで追い討ちを掛けてくるケファラスにHMDバイザーの照準システムで狙いを付ける。

 

ジ...ジ...ジ...ピーッ!

 

イヤフォンに響くロックオンの電子音。

 

 

「喰らえクソッタレッ...! FOX2!!」

 

 

罵声を吐くと同時に発射符丁をコール。

残ったサイドワインダー2発を続けざまに発射した。

発射されたミサイルが互いにどちらが先に命中するかを争うように突き進む中、ケファラスがピッチアップ、上昇しつつ3箇所のターレットで弾幕を張るが無駄だ。逆に上昇したことで少なかった“余命”を更に縮ませてしまったな。

 

 

獲物を目の前にして、牙をおさめるヘビはいねぇよ。

 

 

左右から挟み込むようにアプローチしたサイドワインダーがほぼ同時に炸裂し、無数の鋼鉄製ロッドの雨が襲い掛かった。

 

高速で放たれたロッドに為す術も無く、機体を無惨に切り裂かれコアを損傷したケファラスは短い悲鳴をあげると消失を始めた。

 

その様子を見届けた俺は無線を加東大尉に繋げた。

 

 

「マンバ6より加東大尉へ。敵爆撃機、全機撃墜。これよりKAK機甲部隊への航空支援に再度移る。オーバー」

 

『こちら加東、良くやったわマンバ6。支援に向かってちょうだい。こちらはあと少しで戦闘機型を排除完了出来るわ』

 

「了解。アウト」

 

 

加東からの指示にそう答えた俺は、いったん機体を上昇させた。

地上の様子を伺うとKAKの機甲部隊がネウロイを蹴散らしながら進撃を続けていた。例の拠点型まであと数kmと言ったところか。

 

彼らが無事にたどり着けるように援護に向かう。




こんな遅更新な作者の為に待ってくれる人なんているのだろうかと心配しながら書いていましたが、半年以上も更新してない申し訳なさの方がでかかったのでなんとか仕上げました。

本当に申し訳ありません!

今度からはACE WITCHESと平行してどちらとも早く仕上げて更新を続けたいのですが、仕事の方で少し部署変えがありまして......今後も遅れるかもしれません。すいません。

1ヶ月には2話更新出来るようには努力します。

で、友人から提案を出されてですね。
随分前に私が書いていたストライクウィッチーズのSSを更新日までの暇つぶしとして出せばいいんじゃないの?と。

2年前くらいに書いたSSで、ヒロインはミーナ中佐の話なんですが......出した方がいいですかね?

まぁ......手持ちタイトルが増えるのは少し躊躇いが出てくるのですが、どうですか皆さん?


感想でお待ちしてます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歴史改変部隊(後編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『正面に多数の戦車型を視認!』

 

『指揮車よりフント全車へ。ブライトカイルを維持しつつ敵戦車型に仕掛ける。距離300まで引きつけて砲撃開始』

 

『トミー(ブリテン兵)より獲物を多く狩ってやれ』

 

『フント2(ツヴァイ)、ヤボール(了解)!』

 

『フント6(ゼクス)、ヤボール』

 

『フント10(ツェーン)、ヤボールッ』

 

 

空は雲一つ無い快晴。

頭上から容赦なく太陽の陽光が照りつける広大な砂漠を砂塵を撒き散らしながら突き進むKAK(カールスラント・アフリカ軍団)機甲部隊。Ⅲ号戦車やIV号戦車等で構成された戦車部隊はブライトカイル(広翼逆楔隊形)と呼ばれる隊形でネウロイを攻撃する態勢をとり、備える。

 

此処まではネウロイの小規模部隊による障害を航空部隊の支援のもと突破しており、損害は軽微だった。

 

彼らKAK機甲部隊の頼もしい味方は空だけではない。

 

 

「ヴィクスン1(アイン)よりフント1へ。こちらは側面を警戒しつつ正面の戦車型に攻撃します」

 

 

KAKでも重宝されるカールスラント陸戦ウィッチ隊。

ロンメル将軍の虎の子の戦力と呼ばれる彼女たちは、ここぞと言う時に戦車部隊に随伴し陸戦ネウロイを凪払う役割を担う。

 

計8名の陸戦ウィッチ隊はそれぞれ4名で1隊編成でカイル(楔形隊形)で左右に展開し戦車部隊より少し前を走行していた。

 

 

『こちらフント1、ヤボール。気をつけろよヴィクスン』

 

『露払いはオレ達に任せなって言いたいが......な』

 

 

彼らは陸戦ウィッチに比べればネウロイに対し不利だ。

その為、彼女たちの陸戦ウィッチの助けが必要不可欠なのだが、彼ら戦車乗りは自分たちの代わりに彼女たちが負傷するのを凄く嫌っている。犠牲になるのは自分たちだけでいい、と。

 

だが、その思いを知っている彼女たちは彼らの為に戦い続ける。自分たちの事を一番に心配し奮戦する彼らの為に少しでも負担を減らすように、と。

 

陸戦ウィッチの指揮官が無線スイッチを入れる。

 

 

「私たちなら大丈夫です。その気持ちだけで戦えますから」

 

『感謝しても足りないぐらいだよ、いつも』

 

「ふふっ」

 

 

そんな会話をしている中、前方から照射されたビームが掠む。

彼女がずっと先の砂丘に目を細め見つめると、砂丘にポツポツと明らかに砂の色とは違う黒い物体が出ていた。

 

 

「敵は稜線射撃でこちらを削るつもりね」

 

 

彼女がそう呟くと、もう1隊の同僚たちを無線で呼ぶ。

 

 

「ヴィクスン1よりヴィクスン5~8へ。前方12時方向に中型陸戦ネウロイを確認、数15、距離400、左翼から回り込んで」

 

『『『『ヤボールッ!!』』』』

 

 

戦車部隊を挟んで反対側に展開している陸戦ウィッチ隊が指示を受け速度を上げる。

 

するとタイミングを見計らったように10時方向から潜んでいたらしい陸戦ネウロイが数十騎、回り込もうとした陸戦ウィッチに襲い掛かった。小型種が左右で攪乱するように攻撃を仕掛け、大部分を砂に埋め被弾面積を減らした中型ネウロイが実体弾、ビームを混ぜた砲撃を行い釘付けにしたのだ。

 

 

『こちらヴィクスン5(フュンフ)......ッ!』

 

「ヴィクスン5、一旦下がって!」

 

『フント1、こちらフント3(ドライ)。第1小隊は左翼のヴィクスン隊を援護したい。許可を』

 

『フント3、こちら1。許可する、やってやれ』

 

『フント3、ヤボール。奴らを鉄屑に変えてやるよ』

 

 

戦車部隊から離れた小隊が待ち伏せしていたネウロイ部隊に砲撃を開始し吶喊する。

 

一方で、12時のネウロイ部隊との距離が300を切ったフント1指揮の他の隊は合図とともに一斉に砲撃を開始、ネウロイのいる砂丘は爆発による爆煙に包まれ一瞬だけ攻撃の手が止んだが、煙が晴れると再開した。

 

右翼側のヴィクスン1~4の陸戦ウィッチ隊も魔導照準を展開し照準をつけると手持ちの50mm対装甲砲や75mm対装甲砲を撃ち始め、1騎ずつ片付けてゆく。

 

 

『徹甲弾装填! フォイアッ!!(撃てッ!!)』

 

『敵戦車型1撃破!』

 

『フント8(アハト)被弾!無事かッ!?』

 

『なんとかな...! だが履帯と転輪がヤられた、行動不能だ』

 

『フント10、フント8の乗員を回収後、後方へ下がれ』

 

 

損傷を受けた戦車の傍に仲間の戦車が停車し、乗員を車体上部に乗せ後方へと下がり始めた。

 

敵の砲火が後退中の戦車に集中するが、援護に回ったヴィクスン隊のウィッチが2名、シールドを展開して敵弾を弾く。

 

ヴィクスン1と他1名は最大速度でネウロイとの距離を詰める。

 

 

「ヴィクスン2、左の2騎を任せた!」

 

『ヤボール、ヴィクスン1』

 

 

陸戦ネウロイが砂丘の陰に隠れた隙に50mm対装甲砲の空弾倉を新しい弾倉に交換させる。ヴィクスン2が砲塔を覗かせた陸戦型に徹甲弾をお見舞いし破壊する。

 

ヴィクスン1は魔導エンジンの出力を一気に上げ、砂丘の向こう側へ突っ込み飛び出した。

 

 

「もらったッ!!」

 

 

空中で態勢を整え50mm砲を真下の陸戦型に発砲。

 

ドンッ!!ガウンッ!!

 

砲声に次いで装甲を貫く音が辺りに響き渡り、瞬時に光の欠片と化す陸戦型に構わず次の標的に再び50mm徹甲弾を放つ。

 

1発目は車体側面部を穿つように貫通し脚部を1つ失う陸戦型。バランスを崩した事でヴィクスン1に向け放たれたビームは虚空へと消え、その砲塔部分に着地した彼女が50mm砲を発射、至近距離で発砲された徹甲弾がコアを貫き粉砕した。

 

 

「敵2騎撃破ッ!!」

 

『ヴィクスン1、此方も片付いた』

 

『主目標までのルートに障害認めず。ヴィクスン1』

 

「ヴィクスン1よりフント1へ障害を排除しました。主目標である拠点型までの進行ルート上に敵影認めず。これより......ッ!」

 

 

無線で報告をしている最中に木枯らしのような音が聞こえ、集結中のヴィクスン隊の直ぐ傍で爆発が起こる。

 

 

『くっ......!』

 

『ちょっ! 何々ッ!?』

 

 

突然の事態に混乱するのもつかの間。

再びひゅうぅぅぅっという音とともに真っ黒い塊が数個飛んでは地面に落着すると凄まじい爆発を引き起こし辺りを吹き飛ばす。

 

少し冷静さを取り戻したヴィクスン1が事態を把握する。

 

 

「敵からの長距離砲撃よ!散開してッ!!」

 

『いったいどこからッ......て!』

 

『何なのよ、アレ』

 

 

回避行動を続ける彼女たちの視線の先には巨大な黒い塊が砂塵を撒き散らしながら此方へと移動していた。

 

以前ハルファヤ峠防衛戦に於いて出現した大型陸戦ネウロイを更に大型化したようなネウロイだった。全体的に2体分の大きさで、ずんぐりとした太い4脚で歩行して胴体上部には巨大な連装砲を持ち、背中には数本の柱が伸びている......それが火を噴いているとなると恐らく榴弾砲だろう。

 

それだけならまだしも、その陸戦型後部から飛び出すように航空型ネウロイが射出されているのだ。

 

 

「まさか......アレが拠点型なの!?」

 

『自走可能な拠点型ってなんだよッ!?』

 

『かなり装甲が硬そうね。手持ちの徹甲弾足りるの?』

 

 

呆然する彼女たち。

そんな彼らに待ったを掛けないネウロイではない。

拠点型から自走可能となった巨大陸戦型ネウロイは小型、中型陸戦ネウロイと航空ネウロイを引き連れ、ゆっくりと迫って来る。

そして、その巨大な連装砲が旋回するのを見たヴィクスン1が全員に指示を叫ぶように伝えた。

 

 

「来るわ! 皆避けてッ!!」

 

 

その直後、巨大陸戦型の主砲が火を噴いた。

砲声と衝撃波が大気を震わせ、あまりの反動に巨大陸戦型自身も少し後ろに下がったように見えた。砲弾の飛来する音が聞こえ始めそれが次第に大きくなると着弾し炸裂した。

 

着弾地点から数十メートル範囲を吹き飛ばし、辺りに爆風とそれにも伴い金属製の弾片が撒き散らされる。

 

 

『きゃああああっ!』

 

『クソッ!』

 

 

ヴィクスン隊のウィッチは着弾に備えてシールドを張ってはいたものの、あまりの衝撃波に相殺することが出来ず数人が吹き飛ばされ地面に転がる。

 

 

「......なんて威力なのよ!」

 

 

着弾地点に出来たクレーターを見たヴィクスン1が言う。

まるで戦艦か列車砲のような大口径砲弾並の威力にヴィクスン隊は驚愕していた。

 

遅れて到着したフント戦車隊もその光景に言葉が出なかった。

 

気を取り戻したフント1が無線で全隊に告げる。

 

 

『フント1より全車。ヤツがまた砲撃する前に仕留めるぞ!』

 

『ヴィクスン1、此方が随伴ネウロイを引き付ける。その間にヤツに接近して可能なかぎり砲弾を叩き込めッ!!』

 

 

フント1の指示に動き出した戦車隊。

最大速度を維持したままの行進間射撃など当たりはしないが、それに巨大陸戦型周囲の中・小型種が反応し足元から離れる。

それを見たヴィクスン1は再び隊に指示を出す。

 

 

「負傷した者は後方に! それ以外は私について来て!」

 

「行くわよ! パンツァー・フォー!!(戦車、前へ)」

 

『ヤボールッ!!』

 

 

行動開始する彼女たち。

そんなヴィクスン隊の動きに気づいた航空ネウロイが編隊を組んで上空から襲い掛かって来るが、突然、数機が火を噴いて撃墜された。

 

 

「え?」

 

 

ヴィクスン1が思わず見上げたその先には1人の魔女の姿。

長い白い髪を靡かせ黒い飛行服に身を包んだ彼女の履くストライカー・ユニットには黄色で『14』の数字。

 

 

「マルセイユ中尉!」

 

『何とか間に合ったようだな。大丈夫か、ヴィクスン』

 

 

迫っていた敵機を機関銃の短連射で撃墜してゆくマルセイユ。

後方に敵機がついても身を翻し一瞬で背後を取り、仕留める。アフリカの星と称される彼女の他にも統合戦闘飛行隊「アフリカ」所属の航空魔女たちが続々と飛来した。

 

 

『マルセイユとライーサはそのまま上空の戦闘機型をお願い。真美は戦車隊の援護に向かって!』

 

『『『了解!!』』』

 

 

扶桑人の隊長の指示に応答する各員。

マルセイユ中尉とその僚機を務めるペットゲン少尉が上空の航空型ネウロイを相手にするなか、小柄な体格の扶桑人のウィッチが対空砲に使われる機関砲を抱え陽動戦をしているフント戦車隊への援護に向かう。

 

彼女は上空から逆落としに降下を始めるとその機関砲を構え陸戦型ネウロイの上部に1、2発叩き込み撃破する。一旦離れては上昇して降下、狙い撃つを繰り返す度に1騎、また1騎と破壊した。

 

そんな彼女たちよりも異質な存在が現れた。

 

ヴィクスン隊の頭上を白い噴煙を噴く何かが高速で飛び越えてゆき、巨大陸戦型に2度の閃光が走り爆発が起きた。

 

 

『何だ!?』

 

『変な筒みたいな物が凄いスピードでヤツにぶつかったよ?!』

 

『...!後ろから何か来てるよッ!』

 

 

その言葉に振り返ると「ソレ」が見えた。

 

低空で飛行している灰色の航空機。

機首にプロペラは無く、長い直線状の翼の下に複数の筒状の何かを持っており、後ろに樽のような物が2つ付いている。

 

それが私たちの上を通り過ぎると甲高い音が辺りに響く。

 

航空魔女やプロペラ機の音がブーンなら、あの機体はキーンという感じなのだ。

 

ヴィクスン隊のメンバーはそれがプロペラ無しでどうやって飛んでいるのか不思議で仕方がない様子だった。

 

 

「あの機体は......?」

 

『そういえばヴィクスンは初めて見るんだったな』

 

 

ヴィクスン1に上空のマルセイユ中尉が答える。

 

 

『あれは遠い未来から来た航空機だ』

 

「遠い......未来?」

 

『あぁ、半世紀以上先だそうだ』

 

 

マルセイユ中尉が言う事に頭が混乱してきたヴィクスン1。

無理もない。いきなり現れた未知の航空機が未来から、しかも半世紀以上先から来たと言うのだ。普通なら精神が参ってしまったのか、と疑われるレベルだ。

 

頭の中が?だらけになりつつあったヴィクスン1の無線機に見知らぬ男の声で通信が入る。

 

 

『ヴィクスン1、こちらリベリオン空軍所属機、コールサイン、ブラックマンバ6。これより貴隊への航空支援を行う。オーバー』

 

 

声の主はあの機体に乗っている者だろうとヴィクスン1は思いつつ、距離300m近くまで巨大陸戦型に迫り徹甲弾を撃ち込む。だが、砲弾は装甲の表面を少し破壊しただけで、あまりダメージを与えていない様子だった。

 

すると、先ほどのリベリオン軍機が旋回して戻って来た。

 

 

『マーベリック発射』

 

 

見れば、機体の翼の下に吊されていた筒状の物が噴煙を出しながら切り離されもの凄いスピードで巨大陸戦型に突き進む。まるで光の矢とも言うべきそれは命中とともに爆発。脚の一つを消失させた。

 

その威力に目を見張るヴィクスン1。

 

そのまま低空を維持し続けるリベリオン軍機が機首を少し上げたかと思えば、機首下部が真っ白い煙に包まれ多数の曳光弾が巨大陸戦型に吸い込まれるように次々と命中した。

 

巨大陸戦型が苦しむかのように甲高い叫び声を上げた。

 

これを好機と見たヴィクスン1がメンバーに伝える。

 

 

「ヤツの被弾箇所に徹甲弾を集中させてッ!!」

 

 

ヴィクスン1の発砲を合図に陸戦魔女たちが巨大陸戦型の負ったダメージ箇所に対して集中砲撃を実施した。次々に命中する砲弾を受け続けた箇所は更に損傷を悪化させ遂には、赤く光を放つコアがその姿を現した。

 

 

『コアだ!』

 

「全車、撃ち込んでッ!!」

 

 

最後の1発まで撃つつもりで砲撃を続け、放たれた砲弾の1発がコアを貫通した。動きを止めた巨大陸戦型は静かに光の欠片へと徐々に崩壊を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとかやったな......一時はどうなるかと思ったが」

 

 

機甲部隊の上空を旋回しているプライアーがバイザーを上げる。

EOTSで捉えた地上のズーム画像には巨大陸戦型を仕留めた陸戦魔女たちや戦車兵たち。戦場は歓喜に包まれていた。

 

巨大陸戦型に随伴していた中・小型種のネウロイは子機であったらしく、マスターである巨大陸戦型がコアを撃ち抜かれた時点で一気に消滅した。

 

通信によれば第8中隊とブリタニア軍が担当した拠点型も撃破したとの情報が回ってきた。これで暫くはゆっくりできそうだ。

 

隣を飛行するマルセイユから無線が入る。

 

 

『帰ったら一杯やるぞ~?ウィル』

 

 

......この飲んだくれめ。

 

 

「作戦の事後報告書はどうした?」

 

『そんなものケイに任せれば......』

 

『マルセイユ......あんたねぇ』

 

 

大尉の額に青筋が......知らないぞ?マルセイユ。

 

 

『まぁ、いいわ。早く基地に帰りましょう。疲れたわ』

 

『同感だな』

 

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『......こんな夜中にどうしたんだ?』

 

『緊急の案件だ。至急ISA(情報支援活動隊)の1ユニットを貸せ』

 

『...いきなりだな。情報の収集ならラングレーだろう?』

 

『それとも、例のデビスモンサンの件か? あれだったら既にお前の要請でブラボーユニットを派遣していたはずだが?』

 

『違う。ホワイトマン基地にだ』

 

『ホワイトマンに?何故......まさか!?』

 

『あぁ......』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『スピリット・オブ・リベリオンが“消滅”した』




どうでしたか?

ちなみに登場した部隊名は

フント=犬
ヴィクスン=雌狐

です。

ヴィクスン隊がA-10を始めた見たのは今作戦からで、今まで彼女たちと共同で戦った事が無かったからです。

ちょっとおかしいなぁ?と思える箇所、質問、誤字・脱字等がありましたら感想の方で受け付けます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編
設定集【兵器】


本作品に登場する兵器類を載せます。
殆どがオリジナル要素を含みますので、御了承を。
アドバイスなど、有りましたら感想のほうに書いてください。皆様の意見等を取り入れたりするかもです。

更新通告は投稿話の前書きや活動報告でお伝えします。または、編集日で示します。


【航空機】

 

A-10E “サンダーボルトⅡ”

製造:ファインチルドレン・リパブリカン

用途:攻撃機・近接航空支援機

全幅:17.53m

全長:16.03m(機首機関砲・尾部航法灯含む場合16.26m)

全高:4.47m

主翼面積:47㎡

自重:9,433kg

運用自重:11,068kg

最大離陸重量:20,866kg

エンジン:ジーニアス・エレクトロニクスTF34-GE-110x2基

定格静止最大推力:40.34kN

機体搭載時推力:39.60kN

機内燃料最大搭載量:6.466ℓ

増槽:2.271ℓx3

固定武装:GAU-8/A 7砲身30mmガトリング式機関砲x1門

最大ハードポイント:11箇所

機外最大兵装搭載量(燃料満載時):6,505kg

最大速度:750km/h(武装無し)

禁止速度:833km/h

巡航速度:556km/h

戦闘時限界高度:12,040m

戦闘行動半径:350nm(Mk82x6発+戦域1時間滞空)

フェリー航続距離:2,440nm(増槽x3本時)

 

概要:リベリオン空軍初の近接航空支援を主任務とした攻撃機A-10の近代化改修型。アビオニクスや搭載装置を一新させたE型の特徴は、ロッグヒード・マービン社製の電子光学目標指示システム(EOTS)を胴体下面に搭載したことだ(EOTS搭載により、機首右舷にあるAN/AAS-35“ペイヴ・ペニー”レーザー照射追跡シーカー及び装着部が排除)。グラスコックピット化され、主計器盤に多機能ディスプレイ(MFD)がC型の2画面から5つに増やし、パイロットの負担を軽減している。

 

航空ウィッチ用のファインチルドレン・ドルナウA-10E攻撃脚では最大推力を上げ、使用魔法力量を更に抑えたジーニアス・エレクトロニクスTF34-GE-200W アフターバーナー無し高バイパス比ターボファン魔導エンジンに換装し、ミニEOTSと呼ばれる装置を内蔵しており魔法力を利用することで目標指示、対空・対地索敵が出来る。(装置作動中は使用者の頭部左右に魔導針方式に浮かび上がる)

 

 

》ブラックマンバ隊(Black Mamba Squadron)

概要:リベリオン空軍ACC(航空戦闘軍団)第355戦闘航空団第306戦闘飛行隊。ニックネームは“ブラックマンバズ”

1978年7月20日に創設。

部隊エンブレムは蜷局を巻いたブラックマンバ。

所属基地デビスモンサン。

ウィルバート・プライアー中尉が所属する部隊でA-10を実用する。ニックネームの由来となった部隊エンブレムは、初代部隊長であるショーン・グレイ中佐が考えた。現部隊長はジェフリー・E・コンラッド中佐。

初の実戦参加は1991年の湾岸ネウロイ戦争。

後に、2002年ペルシアでの不朽の自由作戦、2003年ウルク・ネウロイ戦争でのウルキ・フリーダム作戦、2011年にはキュレイカ異変に参加している。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空高く舞う死神

勤めている会社の同僚が一気に部署変えしたので、受け持ちの仕事が増えたという最近の事情。すみません(泣)

一応、これは昔書いたやつですね。


2011年5月2日 午前1時 パシュトゥニスタン・イスラム共和国

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇が支配する空。

それが私達の庭であり狩り場だ。午前中ずっと燦々と輝いていた太陽は既に地平線の彼方へと消え、地上を照らすものは満点の星空と月だ。我々は雲の中に隠れるように上手く飛んでいる。

 

 

 

『ガントレット2ー1よりリーパー0ー2。目標の戦域パパ・ブラボー411に進入した。…ガンレディ』

 

 

 

数百メートル先の前方を飛行する僚機からの無線通信がヘッドホンに響く。操縦輪を握る手に力が入る。同時に呼吸のスピードが早くなり、心臓の鼓動音が耳に入ってくる。…落ち着け。いつもどおり、いつもどおりにすれば無事に終わる。

 

そう自分に言い聞かせても、まだ鼓動が早い。この役割を与えられて様々な任務に従事しては戦闘を経験した。

 

それでも戦闘に怯えたり、手が震えるのは私がまだ子供だと言う事か?

 

 

 

『───リーパー0ー2。ジャック(バグラム基地コールサイン)から通信…既に味方の特殊部隊が交戦中とのことだ。状況を開始する。オーバー』

 

「0ー2、了解。アウト」

 

 

私の隣にいるコ・パイロットがそう答えると、暗視装置を装着する。

 

先頭を行く『ガントレット』と距離が段々と離れ、オービット旋回と呼ばれるこの機体特有の対地攻撃時の為の左旋回を開始する。

 

 

 

 

 

────ACー130U“スプーキーⅡ”

 

 

 

 

ロッグヒード社の輸送機Cー130“ハーキュリーズ”に大量の重火器を搭載させた局地制圧用攻撃機(ガンシップ)

 

U型の武装は毎分3600発以上のGAUー12 25mm5砲身ガトリング砲1門、ボヨールド40mm機関砲1門、M102 105mm榴弾砲1門を搭載しており、この火砲により形成された地上攻撃は半端ではない。

 

そして『リーパー0ー2』のコールサインを持つ機体に搭乗する“彼女たち”……“ウィッチ”のみで編成されたスプーキー・ウィッチーズ(またはガンシップ・ ウィッチーズ)だ。

 

その機体の機長を務めるアメリア・ウェンライト少佐は魔法力を発現させると、自身の固有魔法である魔眼を使い、味方の地上部隊を探す。

 

…魔眼とは言ったものの彼女の魔眼にはネウロイのコアが見えたりすることはない。そのかわりに十数キロ先の目標すらはっきりと判別出来る超視力を持つ。

 

 

 

「───見つけた。……回収地点から北に約2.5……ガンナー、確認出来る?」

 

 

ウェンライト少佐の問いに数秒経ってTVオペレーターから返事がくる。

 

 

『確認。報告にあった特殊部隊数名と護衛対象……他数名はおそらく対象の護衛かと。それと爆発および曳光弾を確認、部隊近くに歩兵ネウロイ多数、およそ一個中隊規模』

 

 

無線を切り替え眼下の地上部隊に呼び掛ける。

 

 

 

「リーパー0ー2よりコヨーテ1。応答を」

 

 

 

『こちらコヨーテ1、リーパー0ー2!よく聞こえ───ク ソッ……左から5体来るぞ!!ライトガンナータイプ、やらせるなッ!!!』

 

 

無線越しに聞こえる散発的な銃声と怒声───そして爆発音が響く。超視力を使い部隊を注視する。

 

 

護衛対象と特殊部隊数人を中心に他の隊員が扇状に陣取り、山の麓からビームガン、機銃を撃ちながら登ってくる歩兵型ネウロイ“ハンター”に銃撃を浴びせていた。

 

巧みに配置された特殊部隊員が互いの死角をカバーする十字砲火をおこない、対象から先に少しずつ後退する光景にアメリアはとても真似は出来ないと思うと同時にウィッチでもないのにネウロイを次々と屠る特殊部隊員に尊敬の念を抱く。

 

 

『───長!…機長!ウェンライト少佐!交戦許可はまだですか?早く撃たせてくださいよー!』

 

 

少しの間おもわず呆けていたアメリアはTVOの声で現実に戻る。ブームに手を掛けると僚機のガントレットへ無線を繋ぐ。

 

 

「ガントレット2ー1、こちら0ー2。ジャックから交戦許可は?オーバー」

 

 

『0ー2少し待て。…ジャック、こちらガントレット2ー1。味方特殊部隊と護衛対象を確認した。航空支援が必要だ。交戦許可を』

 

 

『───ジャックよりガントレットおよびリーパー。標的への交戦を許可する、繰り返す交戦許可。良い狩りを』

 

 

バグラム基地指令所のオペレーターが口に出した言葉におもわず口元に笑みを浮かべているであろう隣のコ・パイを見やるアメリア。

 

思った通りに不気味な笑みを浮かべていたコ・パイのオーブリー・オルブライト大尉を見たアメリアは溜め息つく。それにオーブリーが不思議そうに首を傾げる。

 

 

「何ですか少佐?」

 

「いや、ちょっと……ねぇ」

 

 

再び首を傾げるオーブリーを放って、FCO(火器管制官)に指示を出す。

 

 

「FCO、ターニャ。交戦許可が下りたわ。後は任せる」

 

 

『了解したわ少佐』

 

『FCOよりオールガンズ。狩りの時間よ、いつもどおりに仕事をこなし、いつものようにお客さんを……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『焼き尽くせ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 地上  シャヒコト渓谷 リマ1377点

 

 

 

─────MSG. B.Reyes

 

 

 

 

『デルタ・フォース』

 

 

 

正式には第1特殊部隊作戦分遣隊デルタ(1st Special Forces Operational Detachment-Delta)と呼ばれ、リベリオン軍切っての精鋭である彼等の任務は敵戦線後方からの奇襲や要人救出など……通常の戦闘部隊では達成出来ない、不可能な任務に彼等は従事する。 だが、その活躍は公には出ない。リベリオン政府がデ ルタを公式に認めていないこともその要因の一つだろう。

 

 

他国でさえ持たない最新装備や新型火器、車両、システムを使うことも要因に加えるがもっとも知られたくない要因の一つは彼らが請け負う任務に“汚れ仕事”が あることだ。

 

 

メディアには悟られたくない事実が多々ある特殊部隊を隠す為にリベリオン政府が彼らに背負わせた十字架は重い。世界中の憧れでヒーローまたはアイドルであるウィッチとは距離が離れすぎている。

 

 

 

 

 

ウィッチの光にデルタの影あり───。

 

 

 

 

 

だが、汚れ仕事ばかりでは彼らは納得しないし、暴れたくもない。

 

パシュトゥニスタンでのコマンダー型ネウロイ(前線指揮官型)の捜索および排除を目的として動いていたデルタに今回回ってきた任務は要人の救出。しかも敵地のど真ん中と言っても過言ではないほどの危険地帯に赴くのだ。

 

 

 

当然、彼らは狂喜し了承した。

 

カンダハールからナイト・ストーカーズ(第160特殊作戦航空連隊)のMH-60ブラックホークに乗り、南に位置するネウロイ回廊こと『シャヒコト渓谷』に向かい────現在に至る。

 

 

 

デルタ隊第一分隊指揮官のブランドン・レイエス曹長は対象である要人を背後に伏せさせ、自身が持つHK416カービンで狙いを定め十発前後をハンター部隊に発砲し、2体を排除する。

 

 

「ウィル、ランドン後退しろ!ベネット、デニスは援護だッ!!!」

 

 

レイエスの指示に即座に行動開始するデルタ隊員たち。一番前にて銃撃していた二人が全速力で駆け上がり始め、その二人を援護する為の激しい銃撃が開始され、ハンター数体が光の塵と化す。

 

右翼を担当している第二分隊も同様な動きで徐々に後退してはハンターに銃撃を浴びせていた。

 

10キロ近くある分隊支援火器(SAW)のMK48機関銃をハイレディで持って走って来るランドンが岩場へ滑り込むと、依託射撃でハンター部隊を釘付けにする。 一足先に位置についていたウィルは20インチモデルのHK417で7.62mm弾をハンターのコアがある胸のど真ん中や頭を的確に撃ち抜いては歓喜の声で叫ぶ。

 

ハンターも負けじと、その数に物を言わせ濃密なビー ムガンや機銃による弾幕でデルタ部隊に攻撃する─── 応戦するデルタ。

 

 

「1時方向に新たなライトガンナー!」

「任せろッ!!」

「次、10時のアサルト!……よし!」

 

 

数々の修羅場を経験してきた彼らは銃撃されているのにも関わらず、生き生きしている。

 

アドレナリンが煮えたぎっているのか、それともおかしくなってしまったのか。 第三者から見ればおおよそこう思うだろう。

 

 

 

だが、これが『デルタ』であり─────精鋭を表す“戦闘スタイル”だ

 

 

 

レイエスが数発ずつハンターに撃っていると、マガジンが空になる。 空になったマガジンを背中のバックパックの中に素早く入れ、ポーチから新たなマガジンを取り出し装填する。その動作はものの数秒以内、熟練した動きだ。

 

レイエスが再び応戦しようと銃を構えた瞬間、背後で発砲音が響いた。彼が振り向くと後ろの岩場に隠れていた要人がAKS-74Uを構え、2~3発ずつの射撃をおこなっていた。

 

全身白装束で顎髭が長く伸びている男は先ほどまでの少し怯えていた様子とは変わり、その目は戦士のように……猛禽のごとく鋭かった。

 

 

「伏せていてくださいッ!!あなたは───」

 

「私も戦士だレイエス曹長。たとえ私が死のうがそんなことは関係ない。こんな老いぼれ、此処でこの命散ろうが悔いはない」

 

 

レイエスは尚も食い下がろうとしたが応じる気はないのだろうと諦め、「では、お願いします」と自分の隣へと移動させる。

 

位置につくと射撃を続行し始める彼は……パシュトゥニスタンの対ネウロイ組織『アル=カーイダ』の司令ことウサーマ・ビン・ラーディン大佐(リベリオン軍 上層部による特別階級)だ。

 

80年代のネウロイ・パシュトゥニスタン侵攻時には 『ムジャーヒディーン』の一員として戦って勝利に貢献したベテランだ。

 

侵攻時に数々の武勲を成し遂げたことによりパシュ トゥニスタン以外の中東の国々でも英雄としてその名 が知られており、政治的にも影響力は大きい。

 

なんでも、カーブルでの会議に参加するために輸送機で移動中にネウロイに襲われたらしい。運が悪い。 ……そんな彼を失うことを恐れたリベリオン政府は付近で任務中のデルタに救出を命令したのだ。

 

レイエスも銃撃に参加すると、機関銃を装填中のランドンを援護していたウィルが何かに気づき報告する。

 

 

「12時より新たなハンター部隊ッ!!!約2個中隊規模。コイツらゴキブリかよッ!!」

 

 

ウィルの言葉にレイエスは頭を上げソレを視認する。

 

 

「ガントレット!出番だ。すぐに火力投射を要請する!標的はストロボより南にいる奴らすべてだッ!!」

 

 

『了解したコヨーテ。頭を下げてろ』

 

 

 

その無線が聞こえた次の瞬間には、地上に無数の花火が咲き乱れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地点上空.3000m

AC-130U SpookyⅡ ──CS.“Reaper0ー2”

 

 

 

 

 

 

操縦席にいるウェンライト少佐の命令によりFCO(火器管制官)のタニア“ターニャ”マッカートニー軍曹が攻撃担当クルーたちに指示する。

 

 

「TVO(TVオペレーター“ガンナー”)カルル。地上部隊より目標指示、標的はストロボより南にいるサーマルすべてだ。準備できしだい撃て」

 

 

「だから『カルル』じゃなくて『カール』です よッ!!ダ────もうっ!」

 

 

そう叫ぶのはこのスプーキー・ウィッチーズ唯一の男性乗組員のカール・アイブリンガー軍曹だ。彼はカールスラント連邦空軍から研修目的に派遣されたガンシップクルーで、ウィッチーズからは『カルル』の愛称で呼ばれる。本人は気に入っていないが。

 

彼の隣にいる赤外線検出担当官のフィオナ・エインズワース軍曹が肩をぽんぽんと叩き、話掛ける。

 

 

「───大丈夫……私は気にしないから」

 

 

「いや、俺が気にするから」

 

 

『もう慣れたろーカルル?そんな一々気にすんなって。こんな“美”少女たちから呼ばれるんだ。ありがたいと思え、金払え』

 

 

「何故『美』を強調する『美』を!つか呼ばせたら金とるのかッ!?」

 

 

『さっさと撃て!カルル』

 

 

「ダ────ッ!!!わかったよ。FCS異常なし、標的確認。味方が近い、最初は40mmでヤるぞ。発射」

 

 

カールがディスプレイのサーマル映像に映し出された標的(ハンター群)に照準を重ね、スティックのトリガーを引く。

 

ドウッドウッとボヨールド40mm機関砲が最初の火蓋を切り、40mm砲弾の速射をハンターへと浴びせる。 初弾と数発は至近だったが、残りがハンター部隊に直撃し十数体を排除する。

 

機内にある貨物室だった場所にはスプーキーの攻撃の要である砲熕兵器と砲弾が所狭しと搭載され、装填兼魔法力注入要員である砲手たちが各武器に位置につき、今は砲手の一人が40mm砲弾のクリップを新たに装填する。

 

 

「前衛の標的群に直撃弾多数。グループ1はほぼ無力化、グループ2は散開……3は未だ密集している。3を105mmで叩く。105mm、ガンレディ?」

 

 

『105mmガンレディ(準備良し)』

 

 

武装を切り替え、発砲する。

 

音速で放たれた砲弾が標的群の中央に着弾すると着弾点近くにいた十数体がかき消え、爆発による衝撃波と爆炎、破片がサンドイッチされたパンチをその周りにいるハンターへと喰らわせる。効果は絶大だ。

 

爆炎がおさまると着弾点付近のハンターは十数体程度しかおらず、残念なことに生き残ってしまったハンターが地面に倒れ、もがいていた。

 

 

 

「グループ3無力化」

 

『支援に感謝するリーパー!これより移動を開始する』

 

 

 

チカチカと点滅する赤外線ストロボを付けたデルタとアル=カーイダの民兵たちが護衛対象のビン・ラーディン大佐を守る態勢のまま渓谷中腹にある回収地点へと向かう。

 

すると、ハンター部隊の中から噴煙を吐きながら突き進む何かが高速でデルタ部隊の左至近に着弾した。

 

 

 

『ATタイプのロケット弾攻撃を確認』

 

 

「見えた。グループ2……40mm撃て」

 

 

 

砲弾を受けたATハンターが吹き飛ぶ。残存ハンターはそれでも追い続けていた。

 

 

『────0ー2、こちらガントレット。別の戦域上空を飛行中のプレデターが渓谷に移動中のトライジャ級陸戦ネウロイの群れを捕捉した。……本機はこれより味方航空部隊と共に迎撃に向かう。オーバー』

 

 

『0ー2了解。アウト』

 

 

ガントレットが旋回し、離れていく。これで戦力は半減したが任務に支障はない。

 

順調に進む地上部隊を監視しつつ旋回するスプーキーⅡだったが、IR担当官のフィオナが新たなセンサー情報を報告する。

 

 

「…IRに反応。地上走査レーダーにも。低空で地上部隊に接近中の機体を捕捉」

 

「見えた。ネッサー(航空ヘリ型ネウロイ)だ。数2、味方部隊がヤられる前に始末するぞ。イコライザーレディ」

 

 

カールがスティックのカーソルボタンでGAUー12 25mm5砲身ガトリング砲の俯角を調整する────発射。

 

 

 

ヴアァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 

砲身が高速で回転し始めたと思うと、けたたましい射撃音と同時に真っ赤に火を吐き、毎分3600発以上の25mm徹甲焼夷弾が地上へと“鋼鉄の雨”を降らせる。

 

雨の直撃を浴びたネッサーはテイル部分をもがれ安定性を失い、地面へと叩きつけられ消滅。何とか回避しようとジグザグに飛行していたもう1機にも雨が容赦なく降り注ぎ穴だらけとなり墜落する。

 

 

『よくやったカール』

 

 

ウェンライト少佐の褒め言葉に笑顔を作り頬をかくカール。

 

 

「い、いやぁ───ぐぼッ!?」

 

 

フィオナが隣の席からカールの腹部へと拳を叩き込んだ。突然の奇襲により腹を押さえ呻き声を上げ、床でジタバタする被害者(カール)

 

 

 

「………」

 

「お…俺なんか悪いこと……したかな?」

 

 

「知らん」と一言呟いたターニャはニヤニヤと笑みを浮かべる。ターニャが再びディスプレ イに目を向けると、ヘッドホンや機器から突如として警告音が鳴り響いた。

 

コックピットでも同様に鳴り響いていた為、機長であるウェンライト少佐が声を出す前に電子戦担当官(EO)が叫ぶ。

 

 

 

「ロックアラート!?回避、回避ッ!!」

「畜生!どっからだ?!」

「カール!索敵急いでッ!!!」

 

 

忽ちに騒然と化した機内。ウェンライトがオービット旋回を中断し、回避態勢に入った直後、一定間隔で鳴っていたアラート音がミサイル発射を示す鳴りっぱなしモードに切り替わる。

 

 

「アクティブジャマーオン!」

 

 

EOのオドワイヤーが機外に装備されているQRSー84対赤外線ジャマーを作動。地上から突き上げてきたネウロイの赤外線誘導ミサイルがシーカーを惑わされ、あらぬ方向へと進み起爆する。

 

 

「クッ……!」

 

「次来るぞッ!!!」

 

 

ウェンライトが機体を操り必死に急旋回しているが元は輸送機。期待通りの機動性が無いので動きが鈍い。

 

アクティブジャマーが迫り来る4発のうち2発に効果を発揮するが、残りの2発はそれでも突っ込んでくる。

 

 

「フレア!フレアッ!!!」

 

『フレア発射!』

 

 

ディスペンサーからマグネシウムの光を放つ欺瞞弾であるフレアが散布され、ギリギリの距離でミサイルがフレアに食いつき、爆発。至近距離だった為、飛び散った細かな破片が機体に当たる。

 

 

「見つけた!シュヴェル(対空車両型)だ。数1、機長!旋回を」

 

『今やっているわ!』

 

「……よし射線確保!105mm発射!!」

 

 

照準内におさまった戦車の車体を利用した対空車両型に向け、必殺の105mm砲弾を喰らわせる。

 

直撃を受けたシュヴェル級は砲塔が宙高くへと舞い上がり、まるでガラスか陶器物を割ったかのように光の破片と化し消滅する。

 

静まり返った機体。 ただ、エリソン社製T56ターボプロップエンジンの呻り声のみが響く。

 

緊張感から解き放たれたクルーたち。その事をよそにウェンライトのヘッドホンに地上部隊からの無線が入る。

 

 

 

『───こちらコヨーテ1。回収ヘリに搭乗、対象は無事だ。……リーパー0ー2、いや、ガンシップウィッチーズ───支援に感謝する。オーバー』

 

 

特殊部隊員からの言葉に胸を撫で下ろすウェンライトは一息つくと言った。

 

 

 

「こちらリーパー。私たちのおかげだけじゃないわ。地上で対象を守った貴方たちの方がずっと立派だったわ。 また、どこかで会えばその時は……よろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「0ー2───アウト」

 




多分ですが、もしかしたらまたこんな感じの番外編を投稿するかもしれません。あぁ……肝心の本編続きは鋭意執筆中です。ネタ探しに何かおすすめの本とかありませんかね?

ではでは、またいずれ。今度は出来るなら本編で


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 50~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。