逃げ足だけが取り柄なんだが、いつの間にか胡蝶様に捕まってた。 (サヴァン)
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鬼ごっこ(死)
久しぶりに文を書いたので拙い部分もあるかと思いますがよろしくお願いします。
最終選別を無事通過し、早ひと月。
鬼も4体討伐し、中々の好スタートを切っていた。階級も上がって順風満帆、お給金も上がって生活も豊かになっていた。
…はずなのになぁ?
「ほら、呼吸が乱れていますよ」
隣に座る元花柱様こと胡蝶様とその妹様に挟まれて動けません。
あ、ちょっと、まって…あぁ!
────
逃げ足が早いチキンなアイツこと、榊原隆景が俺の名前である。
炎の呼吸の派生である翼の呼吸を修めている。
胡蝶様と知り合ったのは上弦ノ弐・童磨との戦闘で負傷したところだった。
見回りで街を歩いている所に鴉から
-花柱、上弦ノ弐ト交戦中!!直チニ現場二急行セヨ!!!-
との伝令を受け、移動。正直、まだ死にたくなかったしすごく行きたくなかった。
だって柱が戦うような鬼だぜ???しかも上弦とか、入隊してひと月の俺には無理すぎて吐いちゃう。
現場に移動すると、花柱様は上弦ノ弐との交戦で体の至る所に傷があった。
「(ええええ、やっぱ無理じゃん!柱でも傷おってるのに俺なんか余裕で死ぬじゃん!!!!)」
内心の焦りを隠すように深呼吸をする。
上弦ノ弐に気付かれないように建物の上に登る。…せいぜい俺に出来るのは隙を作るくらいしかない。
童磨の後方に位置し、奇襲できるように構える。注意はしていたが、恐らくこちらには気づいて居ないだろう。
丁度月を雲が隠し、あたりは暗くなる。
「(今が好機かな)」
踏み込んだ足が建物の屋根を抉る。
その姿は獲物を捕える隼の様に速かった。
童磨の頸めがけて納刀していた刀を抜く。
────壱ノ型・飛鳥
童磨はぐるりとこちらを見て、一閃を避ける。
奇襲は失敗し、首元の服が少し切れただけであった。
「危ないなぁ。もう少しで俺が怪我しちゃうところだったよ」
頸を擦りながらこちらを見る。
「はは、君は速いねぇ
でも、俺はその子を救わないと行けないから退いてくれないかな」
後ろで満身創痍な花柱様を見る。
「嫌ですね」
地面を蹴って童磨を突く姿勢をとる。
────弐ノ型・千鳥
15連撃の高速突きが童磨に見舞われる。
しかし童磨の扇にて全てを払われた。
「全く。時間が無いからその子を食べて終わりにしようと思ったのに────血鬼術・凍て雲」
咄嗟に花柱を抱え、跳躍する。
今までいた場所は氷によって覆われている。
「あんた、とんでもねぇな」
「君は偉いね、ちゃんと反応できてるよ」
俺が皮肉を込めて笑うと、童磨はにんまりと褒めるように笑う。
そのまま、こちらに歩んで来る様子だったので抱えたままだった花柱様を背中に背負い直し、走る。
「おや?鬼ごっこかい?俺は鬼だから鬼役をしよう」
なんでェ?
鬼ごっこ(鬼畜)が始まった。
軽く絶望した。
このまま街で鬼ごっこをしても被害が出るだけなので、山の方に移動する。
山には背の高い木が多く、木々を移動することに慣れていた自分には絶好の場所だ。
「やっぱり、君、今まで見た人の中でもかなり早いね」
「褒めてんのか?汗ひとつかかずによく言うわ」
付かず離れずの距離を保たれたまま山の中へ入る。木に飛び移り、走る姿はまさに俺の理想の忍者だ。(自画自賛)
「忍者だ、君は忍者だったんだね!俺、初めて忍者を見たよ」
さっきまで落ち着いてた童磨が急にキラキラした目でこちらを見る。
お前思考を読んだか?こっわ。
あと、お前元々目が極彩色なんだからさらに眩しくさせるんじゃねぇ。
「俺、ずっと座ってたからあんまり木登り得意じゃないんだよねぇ」
そう言って、走ってた足を止め、跳躍する。
さすがに高さの有利性を失うのは痛い。
まさか、と思って童磨を見る。
木の枝に足をかけて立ったと思ったら、足を滑らせて落ちていった。
本当にまさかの展開で独り言が漏れる。
「…大丈夫かよ」
「え、俺の事心配してくれてるの?え、嬉しいなぁ!俺、人に心配されたことないから嬉しくて驚いちゃった!」
パァァァァ!と擬音が出そうなほど頬を緩ませる。
「俺と友達になってよ!」
童磨から衝撃の提案をされた。
ん????おかしくない?
さっきまでお前に剣突きつけてたんだが?
「い・や・だ」
「じゃあ捕まえたら友達になってね」
はい、返答間違えましたねこれ。
嘘ォ!!!無理無理無理無理!!!!カタツムリ!
人1人背負ってる状態で十二鬼月と鬼ごっこ(死)なんてできるわけないだるぉぉお?!
「無理」
「無理じゃないよ。俺頑張るからね!」
そうじゃなぁい!!
→数刻後
「ゼェ…、ゼェ…もう無理ぃ…」
鬼ごっこ(鬼畜)が少しばかりの時間稼ぎとなったのか、雲は流れ、白み始めた空が見える。
「あーあ、あと少しだったのに夜が明けちゃうね」
童磨が追いかけていた脚を止める。
「もっと遊んでいたかったんだけどな…仕方ないから、忍者くんを鬼にするのと、その子を救うのはまた今度にしとくね!」
そういうと、童磨は笑って微かに残る闇に溶けるように去っていった。
緊張が解ける。
童磨と刃を混じえた結果、明らかに力を加減し遊ばれていたことが嫌という程わかった。
鬼ごっこの最中でさえ、鬼ごっこという体であったからかただ追いかけるのみだったのに、俺は満身創痍、童磨は笑っていた。
格の違いがひしひしと伝わる。
…とりあえず、怪我の治療を受けに花柱様を蝶屋敷に運ばなければ。
花柱様を背中に背負い直し、地面を蹴る。
その後…??
蝶屋敷にてめちゃくちゃ感謝された。
────
ということがあり、現在に至るわけだ。
ちなみに花柱様は童磨の血鬼術にて肺胞が壊死してしまい、全集中の呼吸を常中できないとして解任された。
とりあえず、''全集中・常中''ってなんですかと声に出してしまったあの時の自分を呪いたい。
その時から元花柱様が稽古をつけてくれるとのことで、蝶屋敷にて修行の日々が始まった。
これがまた思ったよりハードでしてね。
背の半分は優にある瓢箪を息を吹き込んで割れってか?そんなんできたら人外だよ。
目の前でお割られになりました。え、妹さんも????
ふと、「ゴリラじゃん…」と呟いてしまい、ぼこぼこにされたので泣いてきます。
女性にゴリラって言うのはやめようね!
ともあれ、最初は肺を大きくするために走り込みや水中での息止め訓練、呼吸による身体能力の上昇を有効に使うための柔軟性の鍛錬が始まりました。
鍛錬してると思うのは、まじで胡蝶様って身体能力が元々高いのもあるけど、技術が凄いんだよね。
やっぱ柱ってすごいよ。
でもさ、胡蝶様に指導を受けてる時、距離が近すぎて妹さんに殺されるような目で見られてるんですよ。そろそろ、ほんとに殺られる。
やめて、短気は損気よ?
「私は短気じゃありません!」
それを短気っていうのでは?ちょ、ま、刀しまって!さすがに死んじゃうよ!?
誰か助けてェ!
は…書くの難しいよ…。
小説書いている人って強すぎんね。
久しぶりに書こうとしても頭の中を整理するのは難しいですね。
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妹さんは鬼
逃げ足は物理のみに在らず。
ちょっと読みにくかったり、見返して描写くそだなってなったりしたので少し書き直しです。
書き直しとか多くなりがちなので、煩わしくなるかもですがよろしくお願いします。
蝶屋敷で訓練を受けて2週間が経った頃から、同期の間でいじられている。
要は「あんな美人姉妹と暮らしてて何もないのか」ということらしい。
馬鹿野郎この野郎!!!人は見かけで判断しちゃいけません!!
…まぁ、確かに?
世間では美人と謳われ、茶道、華道、料理をそつなくこなし、ふと気づくと屋敷の中で聴こえる筝のそりゃ上手いことと言ったら他に類を見ないかもしれない。
ちょ、痛いから蹴るなよ!
あと苛立ちすぎて刀鳴りすぎてるから、落ち着け。
…でもな、あの人は元とは言っても最上級の柱様なんだぜ?妹さんは鬼に効く毒の研究をしてる才女で在らせられる。
普通に考えて高嶺の花過ぎるだろ?
手なんか出したら殺されるじゃん。
あと普通に逆立ちしても刀で適う気がしないんだよな。胡蝶様は柱まで登り詰めた技術があるし、妹さんは力は弱いが、突きに限っては他の追随を許さない。
そんな2人に稽古でもボコボコにされてるのに他のことに気なんて回る訳ないじゃん。…決して怖気付いてるとかそんなんじゃないから!
やめろ、
くそ、てめぇらそこに直れ!叩き斬ってやる!
────
蝶屋敷に訪れた同期と鍛錬(笑)をする。
手合わせしてる時に、あまり下世話な話はしないでほしいんだが。
同期は気づいているのだろうか?
ここは蝶屋敷であの障子の奥には胡蝶様が居るんだぜ?
そんな話をしていたら、今度の稽古からどんな反応をされるか分からないんだが…。
蝶屋敷に住めて羨ましいとか、俺もここに住みたい!とか、あの鍛錬を受けてから言ってくれないかな。
胡蝶様は優しいけど、妹さんは鬼だぞ?
まじで遠慮なく叩くし、突いてくるし、怪我の八割は妹さんとの手合わせで出来てる。
だからさ、それ以上、胡蝶様達の話をするのはやめよう?下手なこと言って首が飛ぶのは俺だからさ…??
あ、どこかでバキって何かが折れる音を聞いちゃった!もしかしなくても妹さんが原因ですね、そうですね。
俺がこの後、絞られることが確定しました。
くっそ、許さん!
────
「隆景君、もうちょっと踏み込みに緩急をつけようね。いつも同じ速さじゃ、相手も慣れちゃうから、早い時と遅い時の使い分けで翻弄するの」
そう言って胡蝶様は俺の木刀を受け止める。
「確かに速い動きは何に対しても有効なんだけどね。だからこそ、遅い動きは相手の油断を誘うの。遅いってことは力の未熟さを表すから」
少し弱く踏み込み、相手の間合いに入る。
胡蝶様は木刀を振ってきたから、木刀の下を通るように右に避ける。その後、強く踏み込み胡蝶様の視界の外である背後に回り込む。
首に木刀を当てる。
「こんな感じですかね?」
「そうそう!想像してたよりいい感じに視界から居なくなって焦っちゃった。優秀な弟子で嬉しいわ」
そう言ってこちらに振り向き、頭を撫でられる。
はい、ご褒美頂きました。これで今日も生きていけるぜ!
え?何から生きるって?そりゃこちらを親の仇を見るような目で見てるあの子からですよね。
「あ、しのぶも隆景君と鍛錬したいんだって。相手してあげてくれるかな?」
oh…師匠からのお願いならば行かねばならぬのが弟子の運命。
「では妹さん、よろしくお願いします」
頭を下げ、対面する。
妹さんこと、胡蝶しのぶちゃんは鬼の頸が斬ることができない剣士だ。
しかし、侮ることなかれ。
彼女の本領はその軽さから来る速さだ。
一般隊士で彼女の一突きの速さに適うものはなかなか居ない。
「あらあら、足元がお留守ですよ。その目は飾りですか?ならその目は要らないですよね、抉りとってあげましょうか」
こっわ。
いつの間にか間合いに入っていた妹さんは木刀で足を叩く。鬼の頸が硬すぎるだけで、人の足程度なら余裕でチョンパできるんだからやめて!痛いよ!
「隙だらけですね。姉さんは甘いですけど、私はそんな調子なら殺しますよ?」
ひぇ…。ここに真の鬼がおるぞ…。
その後みっちり鍛錬しますた。妹さんの殺意で、また体の至る所にアザが出来ている…。
オデノカラダハボドボドダ!
────
日中の鍛錬を終え、夕飯を頂く。
今日は胡蝶様が作られたらしい。美味すぎて…馬になっちゃうわね。
くだらない事を考えてるのがバレたのか、妹さんにしばかれました。すみません。
この後は、俺と妹さんは各自見回りで外に出なければならない。
夜は鬼の領域だから仕方ないね。
でもなぁ、最近見回りしてると変なやつがいるんだよなぁ。別に鬼でもないしただの人なんだけど。
やっぱり今回も俺が蝶屋敷を出て少しした所で、後ろから気配を感じる。
今回も鬼でもないし、襲うような気配を感じないので放置しとく。
通常通り見回りをしつつ、街を歩く。
まだ夜も更けきってないので、夜店が賑やかだ。
行きつけの団子屋さんに訪れたり、お世話になってる胡蝶様達に簪でも買うか、と小物店に足を運ぶ。
あ、でも髪飾りあるし違うものの方がいいのか…?やっぱり、つげの櫛とか手鏡の方にしよう。
ちなみに後ろにいるやつはまだついてきている。あと、何か書いてる音も聞こえる。
え、なんで?
気味が悪くなったので声をかける。
「先程から何を書かれているんですか?」
男に話しかける。
男は焦ったように万世極楽教の信者であることを告げる。
教祖様が俺を知りたいらしく、お願いされたそうだ。
なんで万世極楽教の教祖様なんかが俺のことを知りたいのか全く分からないが、特に害を与えてきそうにもないので、提案する。
「んじゃ、そこの団子屋に入りましょう。俺自身、知られて困ることもないので簡単な質問なら受け付けますよ」
良いんですか、と笑顔をうかべる男。
-好きな食べ物は?
鰤の照り焼き
-では、好きな動物は?
俺は柴犬が好き
-好きな甘味は?
大福餅だな
-好きな女性の特徴は?
黒髪長髪。個人的には笑顔が多い人が好きだな。
ほうほう、と頷く男。
取り敢えずはこのくらいでいいとの事で話を終える。
「何か聞きたいことがあればこの辺りを散歩しているので、また来てください」
男はお礼を言って立ち去る。
見ず知らずの人に話しかけられて質問されるなんて、珍しいこともあるもんだなぁ。
────
「へぇ、忍者くんは黒髪長髪の女の子が好きなんだね!俺は優しくて、忍者くんの友達だから、忍者くんに好きな女の子を食べさせてあげないとね!」
そう言って、質問と回答を書いた紙を見ながら笑う。
「早く鬼になろうね」
────
今日は特に鬼に出会うことも無く見回りが終わった。
夜店で買ったつげの櫛と手鏡を持って蝶屋敷に帰る。
「胡蝶様、ただいま戻りました」
座敷にいると思って声をかけると、違う所から声が返ってきた。
どうやら台所で朝食を温めてくれていたみたいだ。
妹さんは俺より早く帰ってきて既に寝てしまったらしい。
朝食を頂いていると、胡蝶様は俺の横にある包みが気になったらしく、チラチラと見ている。
「それはどうしたの?」
「あぁ、見回り中に夜店で良いものを見つけたので」
どうぞ、とつげの櫛を渡す。
少し驚いた顔をしているが喜んでいるようだ。
妹さんにも、ともうひとつの包みを渡してもらうように言う。
「素敵な贈り物をありがとう」
胡蝶様はつげの櫛を胸に抱え、お礼を言ってきた。
はい、心が撃ち抜かれました。
んんんんん、それは反則でしょ。素敵!つげの櫛より俺を抱いて!
笑顔でお礼を言う胡蝶様、美しすぎますわ…
────
食事を終えた後、沸かしてあったお風呂を頂いて、仮眠をする。
ご飯も用意してもらって、任務から帰ればお疲れ様と労わられる。
もしかして蝶屋敷は極楽だった…?
微睡む中、そう考えながらあながち間違えでもないなと思った。
────
何か威圧感を感じて目を覚ます。
起きたら般若の顔をした妹さんがいらっしゃいました。
エェ!なんでェ!
極楽から地獄じゃん!まさに表裏一体とはこれの事!すみません、嘘です。思考を読まないで。え、口から出てました?
あはは…、ごめんなさい!(土下座)
「…今から聞くことに正直に答えないと首を斬ります」
誰か助けてェ!
妹さんはオチ要員
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妹から見た男
最近、うちに来た男がいる。
男の名前は榊原隆景。長い黒髪を一つにまとめている容姿端麗な男だ。
その男は、元花柱である胡蝶カナエ、つまり私の姉の命の恩人だ。
姉さんが上弦ノ弐・童磨との戦いで負傷し、そのままであれば殺されていたであろう所を助けてくれたのだ。その後、姉を背負ったまま童磨に追いかけられ、疲労困憊ながら夜明けまで逃げ切っていた。
何故、事細かに知っているかって?
…実は私もその現場にいたのだ。いたと言うだけで、彼のように童磨に刃を向けることは出来なかったが。
理由は、ただ怖かった、という簡単なものである。私は、唯一の家族である姉さんを失うことより、童磨に相対する恐怖に勝てなかった。
だからこそ、あの男が頭にチラつく度、どうしようもなくイライラする。
────
今日はあの男がここに来て最初の日だ。
全集中の呼吸・常中を知らないとのことで姉さんに稽古をつけてもらうらしい。
全集中の呼吸・常中は常に全集中の呼吸を行い続けるというもので、大幅な身体能力の上昇に繋がる。しかし、呼吸を行う上で強靭な肺が必要であり、まずはそれを鍛えることから始まる。
男は貧弱だった。いや、体格としては恵まれているのだ。常中でないにしろ、呼吸を行い童磨から逃げ切ったのだから。
ただ、常中で全集中の呼吸をしてきた私たちより肺が弱かっただけだ。
それ自体は隊士なら別段珍しくもないことなのに目に付いてしまった。
私よりも呼吸が弱いやつが姉さんを助け、上弦ノ弐から逃げたことが気に食わないんだ、そう自分の感情を分析した。
とりあえず、全集中の呼吸の効果を見せるために、目の前で瓢箪を割ったらゴリラって言われた。
さすがに酷くないですかね?
うら若き乙女を捕まえてゴリラですよ?
つまり、私と同じことをした姉さんにもその言葉は当てはまるわけで…
お前、表にでろ。
────
稽古は元柱である姉さんが基本的に行う。
ただ気になるのは姉さんの距離が近く感じてしまうこと。
ほら!姉さん近いから!もっと離れて!!
…とは思うけど、こう言ったところで姉さんは気にも止めないのは分かってる。
だから、近づくなと言うなら男に言った方が早い。
「それ以上、姉さんに近づいたら殺す」
とガンを飛ばす。
男の体は一瞬固まった。
「(稽古中だから直ぐには)無理だって…短気は損気だぞ?」
はぁぁぁあああ?
私の!どこが!短気なの!?しかも無理って何なの!?早く離れてよ!!
姉さんは渡さないんだから!
我慢が出来なくなって思わず刀を抜いてしまった。笑顔で男に刀を突きつける。
「おとといきやがれください」
さすがに姉さんに怒られた。
…仕方ないじゃない。早く離して!このままじゃ姉さんがあの男の毒牙に…!
────
男が来て2週間経った。
蝶屋敷は怪我をした隊士の治療を行うため、人の出入りは地味に多い。もちろん、隊士の中には男の同期もいて治療を受けている。
今日も男の同期が蝶屋敷に来たと思ったら、男と話し始めた。
「お前って硬派というかさ、堅物だよなぁ。あの胡蝶姉妹とひとつ屋根の下で暮らしてるのに浮いた話も何も無く2週間過ごしてるんだろ?」
「たしかに胡蝶様達は才色兼備だけど、元柱と毒の開発をする才女だぞ?俺とは釣り合わない」
「そういうこと考えるのが硬派だよな」
「ただ、今は余裕が無いのもあるけどな。鍛錬が厳しくてさ」
「そんな理由で手を出さないなんて男の風上にもおけねぇな。…あぁ、お前、
あ、男が切れた。木刀で打ち合いを始めた。
打ち合いをするのは稽古になるしいいんだけど、もうちょっと場所を考えて言葉を発して欲しいわね。
…人の胸の話をするのはやめてくれるかしら!?
驚き(怒り)のあまり手に握っていた筆を折ってしまった。お気に入りだったのに…。
八つ当たりだとは思うが、男を殴りたくなった。
────
蝶屋敷の庭では、姉さんがあいも変わらず稽古をつけている。ただ呼吸を身につけた今は剣術指南に重点を置いているようだが…
そう、男は何事もなく、順調に稽古の段階を終えていき、2週間経った今では全集中の呼吸を常中で行えるようになっていた。
正直ここまで早く習得できるとは思っていなかった。
もともとの体格を鑑みても才能はあったのだろうが、負けたという感情が徐々に湧き上がってくる。
稽古に一段落つけた姉さんがこちらを見てくる。
「あ、しのぶも隆景君と鍛錬したいんだって。相手してあげてくれるかな?」
は?姉さん何言ってるの?
「妹さん、よろしくお願いします」
あんたも何、頭下げてんのよ!
え、何、本当にやる流れなの?
仕方なく対面した男を見る。
身長は高く、私とは頭ひとつ分は違う。
…前に立ったわりにぼうっと呆けるのもやめて欲しい。隙だらけだ。
人は頭から離れるほど認識が鈍くなる。
木刀で足を叩くと、ハッと顔を歪めた。
ちっ、どうせ姉さんに見とれてたんでしょ?
「あらあら、足元がお留守ですよ。その目は飾りですか?ならその目は要らないですよね、抉りとってあげましょうか」
今は、私を見なさいよ。
私と試合をしているのに、その目は私を捉えていないような気がして、苛立つ。
脇腹もふくらはぎも、なんなら首だって隙だらけだ。
この男は、私を舐めているのか?稽古だから、試合であって死合いでないから油断しているのか?
「隙だらけですね。姉さんは甘いですけど、私はそんな調子なら殺しますよ?」
私は自慢の突き技で、確実に突ける箇所を攻めていく。
少しくらい私を意識しろ、馬鹿野郎。
稽古が終わった時には、男の体には私が突いてできた痣が多くあった。
やりすぎたかもしれない。謝らないけど。
────
この後は、夕食を食べてから、仕事である夜の見回りだ。
見回りのある日は姉さんがご飯を作ってくれる。
ふと、童磨との戦いで生きて帰れなかったら、こんなことももう無かったんだと気づく。
私たち姉妹は、あの男に日常を守られたのだ。
そう考えると、男への苛立ちは一瞬なりを潜める。
まあ、だからって受け入れるわけでもないけど。
夕食の席で、また男がぼうっとしている。
いや姉さんの料理が美味しいから、箸はよく動き、ぱくぱくと口を動かしている。
男の視線の先を見ると、ずっと姉さんを見てる気がする。
あんたねぇ、そんなに姉さんを見るんじゃないわよ。
背中をバシッと叩く。
男はなぜ叩かれたか分からず、終始顔をキョロキョロさせていた。
姉さんはそのやり取りを見て優しく笑う。
なんだか、家族みたいだ。
────
見回りは特に何も無く終わった。
毎夜毎夜、鬼が出る訳でもないのでこんなこともよくある。
個人的には毒の調合の成果を試したかったのだが、仕方ない。
家に帰ったら、姉さんが朝食を用意してくれた。
ああ〜、お味噌汁が美味しい〜〜。
一口飲み、冷えていた体が温まる。
ふぅっ、と緊張を緩める。
姉さんのお味噌汁は見回りから帰ってきた時、現実に戻してくれる、私の必需品だ。
男はまだ帰ってきてないが、別に待つことも無い。
早々に湯浴みをして寝よう。
今日はまた、新しい毒の調合を試さなきゃ…
────
仮眠を終えて、居間に行くと姉さんがあるものを見ながら赤い顔をしていた。
どうしたの…?
あっ、つげの櫛??誰から?
あいつかァ!
どうせ贈る意味も何も分かってないんだろうと決めつけるが、問いたださなくてはいけない。
男の部屋に行き、枕元に立つ。
このまま頭を踏みつけてしまいたい。
…とっとと、起きてください、クソ野郎。
男は都合よく目を覚ました。
私の顔を見てヒェッと声を上げる。
そんなに怖い顔してますかね?
「極楽かと思ったら地獄か…」
お前、口から出てるんですよ。もうちょっと聞こえないようにとか言わないようにしてくれませんかね?
「…今から聞くことに正直に答えないと首を斬ります」
今日、鬼で試せなかった毒があるんです。
思わず持ってきた日輪刀に手をかける。
男はダラダラと汗を流した。
────
結局、あのつげの櫛はただの贈り物で深い意味はなかったらしい。
私の気にしすぎであっただけで、良かった。
男は私にも手鏡を買ってきたらしく、それをみたらなかなかセンスがあって悔しかった。
でもなんで手鏡なんだろうと聞いたら、前に手鏡を割ってしまってしょげていた、と姉さんに聞いていたらしい。
わざわざ私のことを考えて贈り物をしてくれたのかと、まあほんの少しですけど胸が暖かくなりました。本当に少しですけど。
まあ、あの贈り物が本当にそんな意味を持ってたとしても、まだ貴方に姉さんは渡しませんから。
もう少し我慢してくださいね。
話としては全く進んでなくて許してつかぁさい…( ˆ̑‵̮ˆ̑ )
感想とか評価とか、まじでありがとうございます。
特にプロットとかなくて、行き当たりばったりその場で書いてるんで、投稿遅くなったりするかもです…。
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呼び方
視点がコロコロ変わっちゃうので見にくいなと思ったらまた、修正が入るかもです。すみません。
昼、起きたら枕元に日輪刀を持った妹さんが立っていた。(恐怖)
胡蝶様に渡したつげの櫛について問い詰められたが、世話になってる礼でただの贈り物だと言うと、気の抜けたような顔をした。
「あなたって紛らわしいですよね」
いきなり馬鹿にされた感が否めないが、否定をするとまたボコボコにされそうなので黙っておく。
口は災いの元なり。
そういえば、手鏡は受け取ったのだろうか?
その旨を聞くと、まだ受けとっていないという。
寝起きすぐでここに来たらしい。
苦笑すると、胡蝶様に渡してあるから受け取っておいで、と言う。
羞恥故か、少し顔を赤らめたが、特に何も言わずに部屋から出ていった。
ん?俺がどんなものを渡したのかって?
胡蝶様には桜と鶯が描かれたつげの櫛だ。
綺麗な長い髪なので、そのまま艶やかな髪でいて欲しいからである。
妹さんには手鏡を。これは妹さんが手鏡を割ってしまったと聞いたのもあったが、花札の絵柄である蝶と牡丹が漆塗りの手鏡に装飾されていて、妹さんの雰囲気にあっていたからだ。
我ながらいい買い物をしたと思う。
妹さんには手鏡を受け取ったあと、控えめながらお礼を言われ、とても心がポカポカした。
美人の照れてる顔っていいなぁ…(変態)
みてたら目潰しを食らった。
ああああああああぁぁぁ!
────
「そういえば、隆景君は翼の呼吸を使っているのよね?どの流派から派生したの?やっぱり風の呼吸?」
胡蝶様達は、私、気になります!と言わんばかりにこちらを見てきた。
「俺の呼吸は炎の呼吸の派生です」
たしかに、胡蝶様の言う通り風の呼吸からの派生と言われた方が納得もしやすい。
だって、鳥だよ?めっちゃ風じゃん。
「俺の呼吸の型は、今、捌ノ型まであるんですけど、漆ノ型と捌ノ型を見て頂ければ、炎の呼吸の派生であるとわかりやすいんですよ」
話して見た反応からすると、2人とも興味津々という感じだ。
たしかに個人で派生させた呼吸でも少しばかり型が多いのだと思う。
「それってやって頂いてもいいですか?」
妹さんの方が気になるみたいだ。
別に見せて困るものもないので、了承する。
3人で庭に移動する。
2人は縁側に座ってもらい、自分は離れて庭の中心に立つ。
────
隆景君が庭の中心に移動した。
刀を納め、柄に手を添える。
────漆ノ型・炎帝朱雀
急に周りの温度が高くなった気がした。
次の瞬間、超高速の刀が横を薙ぐように振るわれる。
剣圧なのだろうか、凄まじい勢いで熱の刃が首にかけられた。
思わず、私としのぶは日輪刀を抜き、構えてしまった。私たちに向けられた訳では無いのにだ。広範囲殲滅型の技なのだろう、その威力は身をもって体感した。
続いて技を放つ準備をする。
────捌ノ型・鳳凰
上段の構えから、ただ愚直に振り下ろす。
それだけのはずが、鳳凰が走っていったように見えた。
その後は、地面が抉れ、全てを無に帰したようであった。
「すごい…」
ふと隣から声が聞こえる。しのぶは殊更力に憧れる子だ。自分には無いものだから。
でも確かに凄かった。
この威力ならそこら辺にいる鬼から十二鬼月まで屠ることが出来るだろう。
────
やっべぇ、めっちゃ威力上がってる…。
とりあえず、こちらを見ていた2人に声をかける。
「どうでしたか?」
そう聞くと、妹さんはただ一言、凄いです、と言って黙った。
ただ胡蝶様に
「何故、この技を上弦ノ弐に使わなかったの?」
と言われた。
「それはあの時ではここまでの力は出なかったからですね。今、ここまで威力が上がったのは呼吸を鍛えたからです。
なおかつ、あの時は街での戦闘で大っぴらに使いすぎると、街全体の修復が難しくなると考えたからです」
そういうと、ふむふむ、と頷かれる。
「確かにそうかもね。…はぁ、なんだか悔しいなぁ」
それは自分の持っていた力を思い出して、もう隊士として刀を振るうことが叶わないからなのだろうか。
そうなっていない俺には彼女の気持ちを推し量ることはできない。
────
庭から座敷に戻り、今日の予定を立てる。
もともと見回りの日の翌日は非番だ。
たまたま、俺と妹さんの勤務日が被っていたので今日は3人して休みだ。
「街にでも出かけようか?」
そう聞くと、胡蝶様の耳がぴくっと反応した。
「それ、私も一緒に行っていい?」
まさかの発言に少し戸惑いを隠せなかったが、俺としても胡蝶様の提案を下げる理由もない。
了承すると、今度は妹さんが大声を上げた。
「ね、姉さん?何言ってるの?
…そんなの、私も行く!!」
素直!
今までで一番素直な妹さんを見た気がする。
「じゃあ、みんなで行きましょ」
朗らかな笑みで決定する胡蝶様。
決まったのなら、用意をするとしよう。
もともと服は着替えていたので財布と手ぬぐいを持って玄関に向かった。
…女の準備には時間がかかるというのはほんとうだった。着替えてるし。
────
街に出ると、なかなか人の賑わいで豊かだった。
2人は化粧品を見たり、簪や髪飾り、着物を見たりしている。
やはり、2人は姉妹なんだなぁと後ろ姿がそっくりで微笑ましくなる。
しかし、笑っていると妹さんから
「何一人で笑ってるんですか?気持ち悪いですよ」
と言われる。
ほんとに辛辣だなぁ!この子!さっきの素直な妹さんはどこに行ったよ!!
一通り見て満足したのか店から出てくる。
ちゃんと風呂敷を持ってるあたりいいものを見つけたようだ。
いい感じに小腹がすいてきたので、茶屋に入らないかと提案する。
2人とも快い返事だった。
────
隆景さんが茶屋に入ろうと提案したので、別段断ることも無く了承する。
「妹さんは何にする?」
妹さん…、この前はそれでも呼ばれるのは嫌だったのに、今はその呼び方を変えて欲しいとも思う。
多分、私の中で彼への評価が良くなったんだろう。名前で呼ぶことも呼ばせることも躊躇いはなかった。
「しのぶ。いつまでも妹さんは長いでしょ」
私はこれ、とあんみつを指さしながらそう言う。
ぽけっとした顔をしてたが意味を理解すると、嬉しそうに名前を呼ばれた。
「そうか、しのぶはあんみつだな!」
案外悪くないわね。
…姉さんからの視線が地味に刺さってるんだけど気にしたら負け。
そしたら姉さんも
「じゃあ、私も胡蝶様じゃなくてカナエって呼んで欲しいな〜」
と便乗する。
「あ、じゃあ、か、カナエさんは何にしますか?」
私の時とは違ったように緊張する隆景さんを見てちょっと悔しい。
「いって!」
…机の下の足を蹴ってしまったのは足が滑ってしまったからだ。別にそれ以外何も無い。
姉さんは結局桜餅とよもぎ餅を頼んでいた。
相変わらずよく食べるわよね。
「しのぶって、甘い物食べてる時は眉間のしわ無くなるよな」
三色団子を食べながら、隆景さんは急にそう言って笑った。
あんまり意識してなかったんだけど、普段そんなにしかめっ面をしていたっけ?
…違う。私が隆景さんのことを一方的に敵視してたからしかめっ面だったんだ。
自分の勢いのいい手のひら返しに苦笑する。
「まあ、女の子は得てして甘いものが好きなんですよ。私も頬を緩めちゃうくらいですから」
そう言って誤魔化しながら、あんみつを口に運ぶ。うん、やっぱり甘いものは美味しい。
茶屋を後にして蝶屋敷に帰る時、私は隆景さんと姉さんに挟まれて歩いていた。
前も思ったけど、なんだか家族みたいだ。
もし、兄さんがいたらこんな感じなんだと思う。
『兄さん』
意外と悪くない響きかも。
思わず笑っちゃって、両隣にいる2人に訝しげに見られてしまったけど、今は全然気にしない。
こんな日が続けばいいなぁ。
しのぶちゃんデレる。
早くカナエさんも書かなきゃ(使命感)
感想とかあればよろしくお願いします( ˆ̑‵̮ˆ̑ )
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下弦ノ参
皆さん、感想、お気に入り、誤字報告まで、ありがとうございます!
しのぶとカナエさんと共に街へ出かけた数日後、鴉から見回り以外で、久しぶりに任務を言い渡された。
「タカカゲェ!胡蝶シノブトトモニ、ココカラ南西ノ方向ニアル山マデイケ!複数人隊士ガ負傷シテ、未討伐ノママ帰ッテキテイル。十二鬼月ノ可能性アリ!!」
ん???十二鬼月????
ハッハッハッ…ナンデェ!?
もう柱が行けよ…十二鬼月は柱が討伐したらええやん…。
「柱ハ今夜、ソレゾレガ別ノ任務二着イテイル!距離ガ近イノハ、オ前ラダ!」
心を読むなよ。…皆、心読みガチじゃない??
「それは隆景さんがわかりやすいんですよ」
うっせ、隠し事ができない素直なやつなんだよ、俺は。
立ち上がり、日輪刀を腰に差す。
また、廃刀令で煩い警官に絡まれないように、それを覆い隠すような紅い羽織りを着る。
「よし、しのぶ行くか」
俺と同じような風体をしたしのぶに声をかける。もう用意は済んでいたらしい。
「それじゃあ、気をつけていってきてね」
見送りに来てくれたカナエさんは、不安で瞳が揺れている。
そりゃそうだ、自分の体を今のようなものにしたのも上弦ノ弐、十二鬼月の連中だ。
今回もその可能性が高いと言われており、そんな中に妹を送り込むのだ。
不安しかないだろう。
「任せてください。しのぶには傷1つつけさせないで帰しますよ」
羽織をまくり、力こぶを見せるようなポーズをとる。…隊服で見えないけど。
そこ?ちょっと呆れた目でこちらを見ないで頂けますか??
しのぶの目線に少しばかり居心地が悪くなったので視線から逃げるように玄関を出た。
しのぶはカナエさんと三言程交わして、俺の後を追うように出てきた。
さぁ、初めての共同任務、頑張りますか!
────
鴉に場所を確認したところ、徒歩で凡そ30分程、人里から離れた山中との事だ。
いや、現存している人里から離れたと言うだけで、これから行く山にはかつて里がいくつかあった。
…つまるところは鬼が全部を食ったということだろう。
山に着くと、人はおろか動物の気配さえない。
これは別に鬼がいることから、そこまで想定していなかった訳では無い。
しかし、いやな匂いが立ちこめている。
鼻が曲がりそうだ。
「ほい、そこら辺根っことかあるから転ぶなよ」
しのぶの前に立ち、草木を掻き分けて進む。
まだ、山の中に入って間もないが、少しずつ血の匂いが濃くなってきた。
そろそろ鬼と遭遇するかもしれない。
「隆景さん、これ…」
しのぶが前の大木に何かを見つける。
人の死体だ。血の匂いはこれが原因だったか。
鬼は人の腐乱臭で匂いを消しているのかもしれない。
「…百舌鳥の早贄ってことか。今回の鬼は異形型かもしれん。しかも空を飛ぶ分厄介だ」
刀に手をかける。素早く枝を切り落とし、骸を下ろす。
「しのぶは周りの見張りを頼む。これは予想だが、やつは鳥型であることの可能性が高い。この山には鬼と俺たち以外の動物はいないから、何か生き物を発見した時点で俺に伝えろ」
「分かりました」
死体を埋める。恐らく、ここにあった里の1人だろう。この山にある死体は、殆どが同じような状態であると考えられる。
「隆景さん!上です!」
バサッ、と鳥の羽が広げられる音がする。
上を見上げると、予想していた通り、百舌鳥に近い見た目の怪鳥がいた。
今回の討伐対象である鬼だろう。瞳にある文字が十二鬼月の一角であるとわかる。
「お前、下弦ノ参か。」
「アァ、鬼狩リカ。ドウセ、マタ逃ゲル、ダケ」
しのぶに視線を送り、隠れるように促す。
「一つ質問していいか?お前ほどの鬼なら、今までここに来た隊士も傷を負わせて返すだけじゃなく、殺すこと、ましてや食べることも出来たはずだ。何故それをしない?」
「簡単ナ、理由ダ。俺ハ子供シカ食ワナイ。柔ラカク、歯ガ無クテモ食ベラレル」
「理由が爺じゃねぇか!」
思わずつっこんでしまった。
しかし、子供しか食べていないのなら、周りのこの惨状にも頷ける。
「とりあえず、お前の頸狩ってやるよ」
木に止まる怪鳥と同じように自分も木の上に上がる。
────壱ノ型・飛鳥
怪鳥に向かって放った斬撃は上に飛ばれて避けられる。
2次元的な動きが多い剣士と、高さの有利性を持ち、3次元的な動きを可能にする鬼。
…こりゃ、普通の隊士には荷が重いぜ。
仕方ない。────空中歩行
木から空に跳躍し、怪鳥に迫る。
鬼はその進路から予想し、進路外に避けて静観する。
どうせこんなものだ、と思っていた瞬間、急に進路を変えて自分の方に向かってきた剣士に驚き、刀を避けられない。
────弐ノ型・千鳥
無数の突きを身体に喰らい、鬼はその大きな翼を折る。
地に落ちた鬼は高速再生で瞬時に再生するが、予想外の動きをした目の前の剣士に恐怖する。
しかし、そこは下弦ノ鬼。
直ぐに空の上にあがり、反撃として超高速でこちらに突っ込んできた。
その体重を乗せた一突きは思わず抜いた刀に罅を入れてしまった。
さすがに馬鹿力かよ…。
さすがにこのまま逃げても後ろから刺されるだけか。
刀は…くそ、あと触れて一振。
どうするか。
鬼は二打撃目の準備をする。
その高さは先程よりも高く、日輪刀を壊すことも覚悟しなければならない。
出来れば最良、無理ならその時はその時だ。
鬼が突っ込んで来る。
こちらに突っ込んでくるその瞬間、その嘴の僅かな隙間に刀を差し込む。
特攻は止められたが、そのまま頸を斬ることは出来なかった。
勝ち誇った目をして、俺の日輪刀を噛み砕く。
その柄だけになった刀を見て笑う。
「ドウダ、オ前デモ防ゲナカッ…!?」
「────いつから、敵が独りだと思っていましたか?」
────蝶ノ舞・戯
後ろからしのぶが鬼を一突きする。
「…兄さんを傷つける人は、許しませんから」
鬼が汚い高音で呻きながら、事切れる。
えっ、こわ、毒ってこんな風になるの…??
しのぶがこちらに向かって微笑んでくる。
「隆景さん、お怪我は無いですか?」
「…はぁ、助かったよ。しかし、いい感じに持ってかれたな。俺も途中まで気配さえ気取れなかったよ」
笑いながら褒めると、ぷくーっと、頬を膨らませる。
「私が褒めて欲しいのはそこでは無いです!」
えぇ、じゃあ、何を褒めろって…、そういう事ね。
「しのぶ、お前いつの間に下弦ノ鬼に通用する毒を作ったんだよ!めっちゃびっくりした!」
「ふふふ〜、それは内緒です。でも凄いでしょ?」
胸を張りながら、しのぶが刀をカチャカチャと出し入れする。
テンション上がりすぎて全然落ち着いてない。
「とりあえず、これでしのぶは十二鬼月を倒したし、鬼の討伐数は50体は行ってたよな?すごいなー!もう柱になるのかー!」
頭をグリグリと撫で回す。
しのぶがなんか言ってたけど、別に聞こえんかったし特に重要なことでもないだろ。
ずっと撫で回してたら、怒られた。
髪が乱れるってさ…。
鴉に伝令と隠の派遣を頼み、その場を後にする。
夜も明けてきたし、あとは家に帰るだけだ。
家に帰るまでが任務ってな!
────
「「カナエ(姉)さん、ただいま!!」」
2人して笑顔で蝶屋敷に戻って来た。
一気に蝶屋敷が騒がしくなる。
「ねぇ!聞いて、私、下弦ノ参を倒せたの!十二鬼月に効く毒が作れたのよ!」
興奮冷めやらぬとはこういうことなのだろう。
しかし、下弦とはいえ十二鬼月を倒せたのはとてもめでたいことだ。
「すごいわ、しのぶ!さすが私の妹ね」
しのぶをぎゅっと抱きしめる。
こんな小さい体で鬼を沢山切って、毒で殺して、涙が溢れそうだった。
それにしても…隆景君は刀をどうしたのかしら…
「いやぁ、下弦ノ鬼との戦いで折られちゃって…」
HAHAHA…と乾いた笑いをため息と一緒に吐き出している。確かに新しい刀を打ってもらうには里に行かなければならない。
その…頑張ってね!一緒に行ってあげるから!
────
鴉に伝令を送ったあと、御館様から連絡が入った。
『胡蝶しのぶを蟲柱に』
との事だ。もともとそうなるだろうと考えていたため、驚きは少なかったが、それでも喜びはひとしおだった。
「今日は宴だー!!しのぶーー!好きなもん買ってやる!好きなもん食べさせてやる!なんでも俺に言え!!」
その日、貯め続けていた貯金が半分消えた。
いいんだ…宴だから。可愛いしのぶのためだもの…。
────
翌日、御館様の屋敷に招かれて、しのぶは蟲柱になった。
…俺はカナエさんと、刀鍛冶の里に行くことになった。
絶対、あのおっさんに殺される気しかしないんだけど、どうしたらいいかなぁ。
藁にもすがる思いでカナエさんに尋ねる。
カナエさん曰く「諦めも肝心」らしい。
誰か助けてェ!
蟲柱になっちゃった〜!
次こそちゃんとカナエさんだから!!ちゃんと書くから!!!
しかし戦闘描写苦手だなぁ…。
アドバイスめっちゃ欲しい…。
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