気がついたらウルトラマンティガになれるようになっていました。 (紅乃 晴@小説アカ)
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ウルトラマンティガになれるようになりました

 

 

 

遥か遠い昔。

 

古き魔神たちにより太陽は地に落ち、地上が闇で覆い尽くされていた超古代の地球。

 

増悪と腐臭に満ち、闇に包まれた地に宇宙の何処からともなく現れる。

 

そして闇の魔神を倒した光の巨人。

 

魔神たちから人々を救ったその巨人は、魂と肉体を分離させる。

 

彼らは肉体に固執しない生命であり、本来の光の姿となって星雲へと帰った。人々は彼らが宿っていた肉体を深い山の奥にピラミッドを建造し、その中で石像に姿を変え埋葬。

 

光を失った巨人は、幾万年も続く長い眠りについていた———。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は遥かに流れる。

 

現代、日本。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

34° 58′ 36″ N, 139° 21′ 48″ E

 

南太平洋。

 

近年、その区域の地下に出来上がる海底トンネルの地下施設では、掘削機やそれに準ずる作業員たちによる工事が進んでいた。

 

だが、ある区画で発掘された「存在」によって、国家規模で行われていた海底トンネル工事は、同じように国家規模の圧力により中断。徹底した厳戒令と、警備体制が引かれ、工事されているトンネル内に踏みれられる者は居ない。

 

ある組織の人間を除いては。

 

 

「外郭電化率、規定値に達しました」

 

 

海底トンネルの作業上に似ても似つかない設備と無菌室の中、防護服を着た数人の人影が、モジュール化された作業台の上に置かれた岩石の塊に電極を差し込み、実験を繰り返していた。

 

電極からの放電現象が発生し、辺りに稲妻が走るが、モニタリングする研究員の視線は期待とは外れたものとなってゆく。

 

 

「これでもダメか」

 

 

実験中止をアナウンスすると、放電は中止され、再び防護服を着た作業員たちが岩塊から電極を取り外してゆく。

 

 

「まさにオーパーツだな。これは」

 

「これに内包されている技術は、我々の科学技術では解読できないほど、はるかに高度なものです」

 

 

作業台に置かれている物は、この地区の採掘作業中に発掘されたものであり、数十メートルからなる掘削機の刃のほぼ全てを跳ね除け、刃をすり減らさせた代物だ。

 

内部へのレントゲン調査と、岩塊の放射能物質の調査を行った結果、岩塊の中身には今の科学技術では解読すらできない機械が封印されており、それを覆い隠す岩塊も、紀元前350万年前……およそ、三千万年前の地層と同じ成分で構成されている。

 

破砕機や、レーザー、熱処理でも岩塊に傷をつけることは叶わず、その場にいる研究員たちは手を尽くせる手段を全て講じた中、絶望的な雰囲気に包まれていた。

 

 

「むしろ逆かもしれんぞ?1900年代初頭にできた電算機器のコードを見ても、我々がすぐに解読できるか?文明の利器なんてものは案外そんなものかもしれんな」

 

 

そんな研究員たちを励ますようにいうのは、政府が運営する研究機関の所長だった。

 

海底トンネル内での採掘時に出土した、このオーパーツの管理や調査を一任されている彼は、多くの時間と労力をかける中でも、希望は捨てていない。

 

頑ななこのオーパーツだが、何か手掛かりは掴めるはずだ。なにせ、この不明な物質は遥か昔から埋まっており、今自分たちの前に姿を表したのだ。

 

これには何か、意味があるはずだ。

 

すると、広く掘り起こされた空間が、僅かな振動に包まれてゆく。

 

 

「なんだ…?」

 

 

揺れは小さいものから、大きく変わってゆく。これは地下から伝わる振動ではないと誰もが判断できた。揺れの震源は、明らかに自分たちの頭上だった。

 

まるで巨大な何かが地を這うような地響きと、地獄の底のような唸り声を轟かせながら、その揺れは自分たちから遠ざかってゆく。

 

簡易的に吊るされた照明が光点を瞬かせる。明かりに満ちていた実験場が闇に包まれようとしていた時。

 

 

「オーパーツに熱反応を感知!!」

 

 

誰かがそう叫んだ刹那。暗闇の中にあった岩塊が青白く光る。何をしても傷一つ付かなかった岩塊がひび割れ、光の中へと溶けてゆく。

 

そこにあったのは、岩塊の封印から解かれたオーパーツそのものだった。

 

 

《私は地球星警備団長、ユザレ》

 

 

ふと、所長が目を向けると、そこには白いビジョンと映し出された真っ白な装束に身を包んだ女性が立っていた。ホログラムだと気がついたのは、全員が息を飲んでその映像を見つめていることに気が付いてからだった。

 

 

《このカプセルが起動したということは、地球に大異変が相次いで起きます。この兆しで、大地を揺るがす怪獣と、空を切り裂く怪獣が復活します》

 

 

彼女は語りかける。これから世界に起こる大異変の一幕を。

 

 

《大異変から地球を守れるのは、ティガの巨人だけです。かつて地球上の守神だった巨人は、戦いに用いた身体をティガのピラミッドに隠すと、本来の姿である光となって星雲へ帰ってゆきました》

 

 

誰もが顔を向き合って、戸惑いを隠せない表情をしていたが、所長だけは「ユザレ」と名乗ったそのビジョンの映像を食い入るような眼差しで見つめている。

 

 

《我が末裔たちよ》

 

 

ビジョンが揺らぐ。ユザレの映像は砂嵐に見舞われたように思えた。彼女は消えゆくノイズの中でも、言葉を紡いでいた。

 

 

《巨人を蘇らせる方法はただ一つ——》

 

 

そこで、青白く輝いていた映像は途切れた。

 

気がつくと、明点していた灯りが元に戻っており、過ぎ去った地震もなく、実験場は静寂さを取り戻していた。我を取り戻した研究員たちは、さっそく測定したデータの採取へ取り掛かる。

 

所長は一人、急造された施設を出て、岩肌が露出する巨大なトンネルの空間を見上げていた。

 

 

「少なくとも、これらは我々の進歩を大きく進ませることになるだろう」

 

 

そっと、誰かに言うわけでもない呟きは薄くらいトンネル内に響き渡る。延々と続く平和の中、世界の黎明がやってくる。

 

今、未曾有の大異変が起ころうとしている。

 

所長が見上げる先には、二体の巨像が聳え立っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ULTRAMAN TIGA

TAKE ME HIGHER

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日突然、ウルトラマンティガになれるようになりました。

 

開口一番になんてこと言ってるんだと自分でも思うんだけど、事実だからしょうがないじゃん?

 

あなたは人であり光ですとか、最初はなんか変な夢見てるのかなって思ったら部屋にスパークレンスあるし、ほったらかしにして仕事に向かっても気がついたら内ポケットとか鞄の中とか、下手すりゃあお尻のポケットに突き刺さってることもあった。

 

最初は気味悪がってたけど会議室の椅子に座ろうとした時にお尻のポケットに刺さったスパークレンスごと踏んづけてしまって変な声を上げた時から、必ず内ポケットに常備するようになった。

 

置いてきてもいきなりポケットに現れるとか逆に怖すぎる。身につけて大人しくさせておく手に限るぜ。

 

さて、ウルトラマンという特撮ヒーローものだが、なぜかこの世界の人々はご存知なかった。

 

「この世界」という表現も理由がある。

 

俺がウルトラマンティガになれるようになった日から世界から特撮ヒーローという枠が消えて無くなったのだ。プリキュアとか戦隊モノはあるのに。あっ、あと仮面ライダーも放送されてない。というか歴史から抹消…というよりも元から存在していない。

 

なんと円谷プロダクションすら無いのだ。はっはっはっ、参ったわい。

 

それ以外の日常は至って普通だった。

 

怪獣が突如として現れるわけでも無いし、巨大ロボットが防衛機構で使われているわけでも無いし、ゴジラがいることもない。TOHO世界線じゃなくて安心だわ。ゴジラがいたら日本は最低でも二回は滅んでるからね?

 

そんなこんなで、戦隊モノの特撮ヒーロー以外が消失した世界ではあるが、過ごしてみれば何ら変化のないものだった。

 

仕事は普通にあるし、上司や先輩も変わりはない。テレビ番組も何も変わってない。10時からはきっちり報道ステーションもやってる。ニュース23もだ!

 

行きつけの定食屋さんは相変わらず美味しいし、帰りによるコンビニの店員さんはやる気がないし、住んでる部屋も何もかも変わっていない。

 

ただ、ウルトラマンという名がこの世から忘れら去られた世界だった。

 

そして、俺にはスパークレンスとウルトラマンティガという力がある。

 

まぁまだ変身してないけど!

 

憧れはあるよ?だって世代直撃だし、長野くんカッコよかったし。ティガのヴィジュアルとか今のウルトラ戦士にも負けないほど洗練されてるよね。個人的にはダイナとガイアも大好きです。また映画をやってほしい。この世界じゃ無理だけど。

 

そんな安易な好奇心で変身なんてしてみろ。即自衛隊案件でオールウェポンズフリーでタコ殴りにされて実験室送りだぞ。

 

おお怖、近寄らんとこ。

 

その渦中であるスパークレンスが俺から離れようとしないんだなぁ、これが!!

 

とりあえずウルトラマンティガになれると言われても、こっちにはこっちの生活あるし、仕事もあるし、生きるためには働かにゃならん。

 

地球を守るとかたいそうな事、一般庶民である自分にはイメージつかないし、そもそも怪獣が現れないなら単なる宝の持ち腐れだ。

 

気がつけば、スパークレンスは会社に持ってくハンカチなみの常時携帯な意識に落ち着き、俺は世界が変わる前と同じ日々を過ごしていた。

 

 

〝地球に大異変が相次いで起きます。この兆しで、大地を揺るがす怪獣と、空を切り裂く怪獣が復活します〟

 

 

夢の中で、現れたユザレさんがなんか言ってる。

 

この人が現れてから世界は変わり、俺の元にスパークレンスが出現するようになったのだ。

 

今まで特に動きを見せなかったユザレさんがいきなり夢に出てくるなんて…ははーん、さてはティガの責任とか全く取ってない俺にハッパをかけにきたな?

 

だが残念だなぁ!!怪獣なんてこの世界に現れてないんだ!!いくら脅しかけようが俺は屈しない!!この世界にはガッツもないし、地球防衛機構なんてものない!!

 

そんなデタラメな嘘なんかに屈しないんだから!!

 

 

 

 

 

 

と、思っていた私がいました。

 

朝起きてスマホを見ればモンゴルで巨大な生物が発見されたというトレンドが…。え、まじで?すげぇブレてる航空写真だけど、地を割って進むように動く巨大な影。そこから光る二つの目にはかなり見覚えがあった。

 

いや、ゴルザじゃん?

 

ということはイースター島からメルバもログインするフラグ?

 

そんなこと言ってたらトレンドに巨大翼竜の項目が追加されたわクソが。

 

しかも各国が出した進行方向を照らし合わせると、目指してるところはなんとこの日本らしい。

 

あぁぁぁあぁああもうやだぁああぁぁあ!!

 

静まりたまえ!なぜ貴方達は頑なに日本を目指すのか!!

 

帰巣本能でもあるのですかね!?

 

出勤して昼になると二体の怪獣はもう日本領土に侵入している。自衛隊が艦砲射撃や戦闘機での迎撃をテスト的にチクチク行っているがまっっっったく動じない。

 

かなりえぐい攻撃とか当たってるんですけど?え?装甲が分厚い?貫くならアートデッセイ号を持ってこい?そうですか。

 

各国政府も日本政府も未知の巨大生物相手にパニック状態だ。自衛隊の防衛もかなり過激になってゆく。ミサイルを失った戦闘機は機銃などの牽制をかけるが効果がない。

 

おいおいおいそんなに近づくと死人が出るぞ、

 

ふと、他人事のように思った矢先。

 

一気の戦闘機がゴルザの放ったエネルギー弾に当たり火を噴いた。

 

パイロットが脱出する間も無く、飛行機は火だるまになってバラバラと空中で分解していった。

 

かなりショッキングな映像だった。

 

まるで映画のワンシーンのような光景。

 

だが、たしかに、あの瞬間。

 

戦闘機に乗っていたパイロットの命は奪われたのだ。

 

 

 

 

 

 

気がついたら走っていた。

 

息切れもしないで勤めてる会社の最上階を目指して、階段を駆け上がっていた。

 

施錠されている扉なんか知らない。鍵ごとこじ開けて俺は誰もいない屋上へと上がった。

 

 

〝異変から地球を守れるのは、ティガの巨人だけです。かつて地球上の守神だった巨人は、戦いに用いた身体をティガのピラミッドに隠すと、本来の姿である光となって星雲へ帰ってゆきました〟

 

 

夢の中で語りかけてきたユザレの言葉が頭をよぎる。

 

本来ならゴルザとメルバは目覚めずに石像となったティガや光の巨人を倒すために日本を目指した。

 

なら今あの二体の怪獣が目指す先はどこか?

 

内ポケットに収まるスパークレンスを見つめる。

 

 

〝我が末裔たちよ〟

 

〝巨人を蘇らせる方法はただ一つ——〟

 

 

怖い。

 

そう思った。

 

けど、そんな気持ちは飛散する。

 

自分でもよくわからない衝動が体を突き動かしていく。

 

俺はスパークレンスを空高く掲げて、叫んだ。

 

 

「ディガァー!!!!」

 

 

眩い光と一体となった俺の体は空へと登り、そして目にも止まらぬ速さで飛翔する。

 

目指す先は二体の怪獣だった。

 

 

 

 

 

 

 

光の巨人、立つ。

 

新たなる巨人の出現に、その足元にいる自衛官たちの表情は驚愕に染め上がった。

 

 

「ティガの…巨人」

 

「巨人が蘇ったのか…?でも、どうやって?」

 

 

自衛隊の中でも特殊部隊に属する宗方と新城。二人は蘇ったティガを前にする。

 

破壊のかぎりを尽くしていたゴルザとメルバがティガが睨み合っている間に、巨大な存在同士の戦いに巻き込まれないように戦車部隊や戦闘機隊は退避した。

 

ティガもそれを知るかのように、逃げる自衛隊の部隊を背にして二体の怪獣との戦闘を開始した。

 

鈍く重い音が辺りにこだまし、ティガはその巨大な体躯を利用した回し蹴りや拳を用いた格闘戦をゴルザに仕掛け、空中にいるメルバには手から光弾を放って牽制する。

 

だが、力ではゴルザに分があった。

 

ティガの体当たりを難なく受け止めたゴルザは、そのままティガを振りまして投げ飛ばす。

 

吹き飛ばされた巨人の地響きは、鍛え抜かれた自衛隊の隊員たちを揺るがすほどの衝撃を辺りにもたらした。

 

 

このままではダメだ…!

 

 

パワーではなす術がないティガは、腰を上げるとその場で額のクリスタルの前へ腕をクロスさせた。

 

光が身体中を駆け巡り、肉体はティガの望む力強いパワーを…。

 

 

 

 

その瞬間、ティガの肉体に稲妻が走り、体に駆け巡っていた光が空へと飛散していった。

 

 

 

 

膝から崩れ落ちる。

 

ティガは震える手を見た。

 

手のひらからも抜けていく光のエネルギーを止めることができず、赤と紫のマーブルカラーが銀色へと変異していく。

 

なんだ…これは…力が抜けてゆく…!

 

色味を失い、ついに銀色の肉体となったティガの胸には、赤く点滅するカラータイマーがあった。

 

肉体の負荷に戸惑いを隠せないティガへ目をつけたゴルザとメルバは、さらに攻勢を強めてティガを圧倒してゆく。

 

翻すような打撃を受けて、吹き飛ばされ、窮地に立たされたティガ。

 

だが諦めはしない。

 

最後の力を振り絞り、両腕を腰の位置まで引き前方で交差させる。

 

迫るゴルザの前で、左右に大きく広げてエネルギーを集約し、広げた腕をL字型に組んだ瞬間、その腕から眩い超高熱光線「ゼペリオン光線」が撃ち放たれた。

 

光は直線上に伸びて、迫り来るゴルザと空にいたメルバをそれぞれ掠めるが、不完全な状態から放ったことと、直撃はしなかったことでゼペリオン光線は威力が足りず、倒すことは叶わない。

 

怯んだゴルザとメルバは大きく反転。ティガから逃げるように空と地中へ逃げていく。

 

すかさず立ち上がり追おうとするティガだが、自身のエネルギーを極限まで消費していた為、その場に膝を落としてしまい、怪獣の逃亡を阻止することはできなかった。

 

カラータイマーの点滅音が響く中、ティガの巨人は淡い光の粒子となって放出してゆき、その姿は霞のように消え去って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「柳瀬隊員!!」

 

 

巨人が消え去ったあと、宗方たちと合流することができた女性自衛官の柳瀬は、混乱が残る中でまるで何も無かったかのように静寂に包まれる森林と山々を見つめる。

 

 

「無事だったか、ほかの隊員は?」

 

 

宗方の言葉に、伶那は力弱く首を横に振った。

 

 

「逃げた巨大生命体の攻撃を受けて…」

 

 

あのエネルギーの中、爆炎に包まれた仲間の姿は確認できず、吹き飛ばされた場所には遺体すら残っていなかった。

 

焼け跡を探し歩く中でわかってしまうほど、生存は絶望的な状況だ。

 

落胆する伶那を新城が心配する中、宗方へ本部から通信が入った。

 

「了解、送れ」と通信を切った宗方は、悲痛な面持ちで各隊員に言葉を放つ。

 

 

「全員よく聞け、ここにいる者たちに〝上〟から戒厳令が出た。この件を内部にも外部にも出すのは禁止だ」

 

「そんな!じゃあティガの巨人のことは…!!」

 

「これは政府の決定だ。現れたティガの巨人の存在を揉み消したいらしい。無理だろうけどな。まぁ都合よく、海外で出てくれれば、日本政府として知らぬ存ぜぬを貫き通せるのだろう」

 

 

撤収するぞ、そう言って宗方は指揮者の方へと引き返して行く。隊員たちも不服そうな顔をしながらも、先導する宗方に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《このカプセルが起動したということは、地球に大異変が相次いで起きます。この兆しで、大地を揺るがす怪獣「ゴルザ」と、空を切り裂く怪獣「メルバ」が復活します》

 

 

彼女は語りかける。

 

これから世界に起こる大異変の一幕を。

 

暗い部屋の中で、東京湾沖合で発掘されたオーパーツが淡い白色の光を放って輝いている。現れるユザレは、言葉を紡いだ。

 

 

《大異変から地球を守れるのは、ティガの巨人だけです。かつて地球上の守神だった巨人は、戦いに用いた身体をティガのピラミッドに隠すと、本来の姿である光となって星雲へ帰ってゆきました》

 

 

現れた光の巨人、ティガ。

 

ゴルザと呼ばれる巨大生命体を跳ね除けたそれは、どこかへ光となって消え去り、その行方は分からずじまいだ。

 

 

《我が末裔たちよ》

 

 

ノイズが入り始めるユザレの言葉。だが、彼女を含む古代人の末裔たちには、そのノイズは聞こえない。

 

 

《巨人を蘇らせる方法はただ一つ——ダイゴが光となることです》

 

 

その言葉を終えて、カプセルは光をなくして再び沈黙する。暗い部屋の中でユザレの言葉を聞いていた人物は、ゴルザが現れた近域の民間人の情報を見つめながらそっと呟いた、

 

 

「ダイゴが光、ね」

 

 

暗闇にあるその表情には、笑みが浮かび上がっているのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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人の心の光ってやつをよぉ!!

 

 

見せなきゃならないダルォ!?

 

人の心の光ってやつをよぉ!!

 

それが出来なかったからあの醜態なんですけどねぇええ!!

 

 

ネットニュースが怪獣と謎の光の巨人の与太話で炎上しているのをトイレの個室で見つめながら俺はのたうち回りたい感覚をなんとか押し殺していた。

 

てゆーか何なん?自衛隊の人が亡くなったから戦わなきゃとか衝動に駆られて勇んで出て行ったくせにパワータイプどころかマルチタイプすら維持できないとか。

 

帰ってきてから昼休み超えても行方くらましてたことを先輩に軽く叱られたけど内心それどころじゃなかったんですよ、マジで。

 

悔し涙流しながら泥のように寝たら、ユザレから「まだ光を信じきれていませんね?」ってありがたいお小言を貰いましたよクソが。

 

なんでも俺自身は光の因子を充分に備えてるらしいんだけど、いかんせん心が光を拒絶してる節があるらしくて、マルチタイプすら維持できない貧弱ウルトラマンとなってしまったわけでした。

 

いや、信じてはいるんだけどさ。こえーじゃん?やっぱりさ?体はティガだけど中身はそこらへんで働いてる社会人と変わらんのよ。

 

日常から非日常な生活にうまく切り替えられない頭の硬い人とか思っとけばいいよ!!とにもかくにも、弱体化ウルトラマンティガ問題を早々にどうにかせねばならん。

 

ユザレは「ウルトラマンティガ・オルタナティブタイプ」とか言ってたけど、当面の目標はマルチタイプの維持となりますね!特訓とかしてーけど怪獣出てないのに変身したら以下略なんだわ!!はっはっはっ、困ったわい!

 

そんなこんなでゴルザとメルバをかろうじて撃退したわけなんだが、連日報道されるウルトラマンについて、日本政府はコメントを拒否してるらしい。

 

ニュース越しに見ても苦しい言い訳のオンパレードだが、政府的にはあまりウルトラマンと関わり合いたくはないという姿勢が如実に現れている。

 

だが、不自然な点もあった。俺がティガになったときに足元にいた自衛隊はたしかに俺のことを「ティガの巨人」って言ってたんだよね。

 

ウルトラマンという特撮も何もない世界で何で知ってんの?ってなったけど、冷静に考えればゴルザとメルバが現れた段階で、この地球の古代には光の巨人が存在していたのは確実。コーラを飲めばゲップがでるほどに!

 

そうなると、どこかの遺跡が発掘されてる可能性もある。まぁ憶測に過ぎないけど。巨人の遺跡があるなら、ティガやルルイエのことを知ってる組織もあるかもしれない。

 

 

「おい、円。時間になったから出るぞ?」

 

「はい、先輩」

 

 

今日は協力会社に出張だ。車で数時間程度の道のりを、入社当時から一緒に仕事をしている女性社員の先輩と走る。

 

口は悪いし指導も厳しいが優しくて頼りなる先輩だ。助手席で協力会社に見せる資料を整理する先輩を乗せて、俺は車を走らせてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界保健機関「WHO」は、近年増加する地球の異常気象、その裏側にある不可解な地殻変動や、生態系を調査するため、直轄組織の中で「TPC」設立した。

 

正式名称は「Terrestrial Peaceable Consortium」であり、世界中の人々がよりよい暮らしを営めるように地球環境の調査、整備をすると共に、最新科学を駆使した様々な研究開発が行われている。

 

 

「ご覧のように、光の巨人…ティガと呼称する巨人は、戦闘の途中で著しいパワーダウンを起こしました」

 

 

TPC日本支部の施設内で、白衣を着て説明するのは、TPC局長「安藤 棗(アンドウ・ナツメ)」。彼女はモニターに映るティガの映像をわかりやすいデータシートともに解説していた。

 

 

「観測班からのデータでもわかるように現れた時のティガの肉体は、赤と紫のマーブルカラーでしたが、額付近で腕を交差させた瞬間、肉体が銀色へと変化しています」

 

 

GUTSが遭遇した巨大生命体「ゴルザ」と「メルバ」、そして光の巨人「ティガ」の映像は、同行していた指揮者からも観測しており、その戦いの様子はモニタリングされていた。

 

安藤の言うように、モニターに映るティガは額付近で腕をクロスさせた途端に体から稲妻が走り、その場に膝を付いている。

 

 

「戦闘も見て分かるように、ティガの格闘能力が低下し、モンゴルで観測された巨大生物とイースター島から飛来した巨大生物を逃してまう結果に…」

 

『説明はもう良い』

 

 

安藤の声を遮ったのは、その映像を見つめていたスーツ姿の政治家だった。

 

 

『安藤くん。我々が知りたいのは、あの巨人が人類の味方なのか、巨大生物はどこから、なぜ、現れたのかだ』

 

 

TPC日本支部と映像通信で繋がっている政治家たちの関心はそこに尽きる。怪獣の能力や、巨人の肉体の変化など二の次で、それらの脅威がいつ、どこで現れるのかを知りたがっている。

 

安藤はいつも変わらない視点しか持たない政治家たちの相手にうんざりしていたが、この施設の運用資金を出している出所も、政治家だ。

 

張り付いた笑みを浮かべたまま、今度はゴルザとメルバの進行ルートと、反応が消えたポイントマップを取り出す。

 

 

『ユザレの予言だとか、そんなオカルト染みた話ではなく、もっと具体性を持った回答をだね———』

 

 

明らかに小馬鹿な言い草をする政治家たちの質問は、結果的に徒労に終わるのだった。反応の消えたゴルザの居場所は、未だにわかっていない。そして光の巨人であるティガも…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼らは信じませんよ。ただでさえ、モンゴルで発見されたゴルザの詳細すら隠蔽しようとしているのですから」

 

 

フォーマルなレディーススーツと白衣と言った格好をしている安藤のあとを、TPC直轄部隊であるGUTSの指揮官、「入麻 恵(イルマ・メグミ)」は政治家たちの意向に従う安藤の言葉に反論していた。

 

東北地方で地中へと姿を消したゴルザは、日本海側の海底まで潜り続け、そこから消息を経っている。再び現れる可能性を考慮すれば、日本海側の防衛網を見直すべきだと、入麻は自衛隊やTPCに打診を続けていたのだ。

 

 

「政治家たちは、これで一連の騒動は収まったと思っているのさ」

 

 

安藤も、入麻の言っていることに理解は示していたが、その費用を出すのも政治家の仕事だ。彼らがゴルザやティガが消えたことで騒動が収まったと考えているのなら、入麻の言う案が採用されないことも必然だろう。

 

 

「どこからともなく現れた二体の怪獣と、光の巨人。それだけでも、永田町の政治家たちをひっくり返すには充分な情報だ。なんとも貧弱な政治家たちだよ」

 

 

そう言いながら歩みを緩めない安藤に、入麻は立ち止まって湧いてきた疑問を彼女にぶつける。

 

 

「所長は、また怪獣が現れると…?」

 

 

その言葉に、安藤は足を止めると、白衣を閃かせながら入麻の方へと振り返った。

 

 

「いや、それ以上の脅威だ。ゴルザとメルバは始まりにすぎない…」

 

 

その言葉は、現実のものとなる。

 

TPC本部から通信が入ったのは、それから僅か数分後であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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石の神話(1)

 

 

 

 

 

「ダイゴ」

 

 

夢の中で見た真っ白な髪の毛をした女性が、穏やかな声で大悟に語りかけてくる。

 

 

「あんたは…誰だ」

 

「私はユザレ。貴方にとっては遠い祖先となる者」

 

 

彼女は睨みつけるような声で返した大悟を気にもしないで、あるビジョンを映し出した。

 

そこには二体の巨像の姿がある。

 

雄叫びを上げたダイゴが光となり、銀色の巨人はゴルザと対峙した。

 

 

「力を蘇らせたのですね、ダイゴ。またの名をウルトラマンティガ」

 

「ティガ…あの巨人は、ウルトラマンティガだと言うのか?」

 

「貴方自身がですよ」

 

 

ユザレの言葉に、無意識に怒りを覚えた。

 

何を勝手なことを言っている。あれだけ頭に鳴り響かせた声が、一体何を言っている…!!

 

 

「俺は…俺はあんな巨人じゃない!俺は俺だ!」

 

「貴方の持つスパークレンスが、ティガであるという何よりの証拠なのです」

 

 

ユザレが指差す。

 

胸の中で熱い光を感じら取り出すとあの日から手にしたスパークレンスが輝いていた。

 

 

「こんなもの!!」

 

 

怒りのまま、スパークレンスを光しかない世界へと放り投げる。

 

ユザレは何も言わないまま、憤るダイゴを静かに見つめていた。

 

しばらく息を荒げてから小さな声でユザレへ問いかける。

 

 

「なぜ、なぜ俺なんだ…俺には、なんの特別な力もない。ただの一般人でしかない俺が、なんで!!」

 

「それは貴方が私と同じ、超古代人の末裔だからです」

 

「なら、あんた達がすればいいだろう!!」

 

「私たちはすでに滅んでいる存在。地球を救えるのは、貴方しかいない」

 

 

ユザレたちは古代文明人。

 

彼女が意識に入り込めるのも、東京湾沖合で発掘されたタイムカプセルが起動したおかげだ。

 

ユザレの言葉をゆっくりと飲み込みながら、ダイゴは最後の疑問をユザレへ投げかける。

 

 

「他の巨人達は…なぜ、あれほどの力を持ちながら、巨人達は人類を守るために戦わないんだ!!」

 

 

その言葉に、ユザレはゆっくりと目を閉じてから言葉を紡いだ。

 

 

「彼らは人の選択にまで干渉はしません。なぜなら、彼らは光だから。けれど、ダイゴは違う」

 

 

 

——貴方は人であり、光だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「各機、応答せよ」

 

 

通信を受けたのは、横田の自衛隊基地から飛び立った三機の爆装したF-2戦闘機だ。

 

 

「ホーネット1、準備よし」

「ホーネット2、準備よし」

「ホーネット3、準備よし」

 

 

日本政府とTPCからの要望で選出された伶那や新城を含めたパイロットたちは、司令として任についた入麻の言葉に返答する。

 

緊急スクランブルとはいえ同伴してくれた横田のパイロットも、入麻の指揮下に入り、沖縄諸島に現れた巨大生物の対応へと回されることになった。

 

 

「入麻より各機へ。我々の目的は巨大生物を市街地に入れないことと、生物の調査よ。火器使用制限は、第二級まで。迂闊な行動は避けなさい」

 

「了解」

 

 

ゴルザとメルバの脅威と謎に包まれたままのティガの巨人が去ったばかりだというのに。ティガの出現に呼応…いや、喚起するように、地球各地で異常気象や、不明確な地震が相次ぎ、そして沖縄諸島で巨大生物が現れた。

 

横田から沖縄まで飛ぶには燃料が足りない。かと言って、九州地区の航空自衛隊に巨大生物の処理と言っても対応が出来ないことも実情だ。

 

それにゴルザの存在は政府から徹底した情報規制が入っていた為、沖縄に巨大生物が現れたなど、現地の人々にとっては寝耳に水と言えた。

 

九州地区の基地で補給を受けた後、現地の避難指示や救援活動を行う為、陸自と空自の共同戦線が設けられることになる。

 

伶那や、新城たちの任務は、共同戦線が構築されるまでの時間稼ぎと、巨大生物の生態系の調査だ。

 

 

「巨大生物確認…大きい…!!」

 

 

陸自の輸送ヘリ隊と別れた伶那たちは、岩山の合間を這うように進む巨大生物を発見した。

 

あたりには、現地のメディアヘリらしき残骸が山中に墜落しているのが見える。

 

すでに、巨大生物による被害は出ていた。

 

 

「あんな図体してるくせに、自重で潰れてないところを見ると、大きさから概算して外皮はごっつい硬いで!!」

 

「政府からは第二級火器使用要請が出てるわ。まずはその巨体の外殻を判別しましょう」

 

 

司令室から指示を出す入麻の言葉に答えて、三機のF-2は、各機それぞれが旋回し、猛進する巨大な体をHADに捉えた。

 

 

「よし、性能確認!!20mmバルカン砲、射撃準備!ターゲットインサイド!」

 

「てぇーーっ!!」

 

 

新城の言葉と共に、三機から搭載されている20mmのバルカン砲が放たれる。その閃光は確かに巨大生物の巨体を捉えた。だが…。

 

 

「くっそぉー!野郎、傷一つ付いてねぇぞ!!」

 

 

バルカンを三方向から受けているというのに、巨大生物は何食わぬ顔で巨体を進め続けている。20mm程度では豆鉄砲にもならないほどの硬さを巨大生物は有しているのだ。

 

 

「爆装したF-2やったら対艦ミサイルしか!!入麻隊長!!」

 

「巨大生物、市街地まで残り10キロ!!」

 

 

報告を受けて、入麻はすぐさま決断を下した。

 

 

「第一級火器使用制限を解除します!!責任は私が取ります!!巨大生物を市街地に入れることはなりません!!」

 

「それでこそ、私たちの隊長ね!!」

 

 

入麻の決断に笑みを浮かべた伶那は、機体を翻すと再び巨大生物への攻撃体制へと入った。新城や他のパイロットも伶那の動きに続く。

 

 

「対艦ミサイル、用意!!目標、巨大生物!!」

 

「てぇーー!!」

 

 

充分な距離から放たれた対艦ミサイルは、巨大生物の背部を捉え、火の玉となって弾けた。新城たちも続けてミサイルを放つと、巨大生物は苦しげな声を滾らせて、その場に留まる。

 

 

「着弾確認!!出血してる模様!!」

 

「よっしゃあ!!外郭は割れたで!!」

 

 

モニタリングしていた宗方の言葉を聞き、堀井が手を派手に叩いて喜びの声を上げる。

 

実兵器が効かない相手ではないことは分かった。ならば、対策を打つことはできる。

 

 

 

だが、喜ぶには早すぎた。

 

 

 

再び攻撃態勢へと入ろうとする戦闘機を、巨大生物はゆっくりと見上げながら、口元に青い光を灯らせてゆく。

 

 

「な、なんだ…あの光…」

 

 

パイロットが巨大生物の口から溢れる青い光に目を向けた瞬間、巨大生物は鋭く戦闘機を捉えて咆哮を放つ。

 

茫然と青い光を見つめていたパイロットは反応する間も無く、放たれた青い放流に飲み込まれた。

 

 

「ホーネット2!ロスト!?」

 

 

瞬時に、攻撃を受けた戦闘機がレーダー上から消え去った。

 

青い光に飲み込まれた戦闘機は、その最新鋭の能力そのものを固い岩へと変えられ、共に果てたパイロットと共に、切り揉みながら地面へと落下。

 

爆炎を上げることなく砕け散った。

 

 

「なんてこった…!!撃墜なんかじゃねぇ…ホーネット2は石に変えられたぞ!!」

 

「なんですって!?」

 

 

一部始終を見ていた新城が青ざめた顔で入麻へ報告する。

 

青い光を受けた僚機はなす術なく石へと変えられてしまった。巨大生物は、再び口に青い光を滾らせて空を旋回する新城のF-2へ視線を向けた。

 

 

「新城!!回避だ!!」

 

「こなくそぉ!!」

 

 

急降下する形で回避姿勢をとったおかげか、放たれた青い光は新城の機体をわずかにそれて空へと打ち上がってゆく。伶那も攻撃しようと近づくが、青い光を迸らせる巨大生物相手に手こずるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くそったれ!

 

俺は現場視察で訪れた鉱山の中に閉じ込められたことに内心で舌を打った。

 

沖縄本社から数時間程度の場所であったが、まさかここに怪獣が現れるなんて思いもしなかったし、ガグマという2話くらいで登場した怪獣なんて覚えてねぇよ!!ってキレ気味になっていた。

 

落ち着け、クールになるんだ。こう言った時に混乱するやつから死んでゆくのだ。

 

作業員が「化け物が出る」って言って恐れ慄いていたのを監督者が一蹴して鉱山内に入ったのが運の尽き。

 

作業員のことを小馬鹿にしていた監督者が青い白い光に包まれたと思ったら石に変わっていた。

 

 

「円!なんなんだ…どうなってるんだ!?」

 

 

普段は冷静な判断力と表情をしてある先輩がかなり混乱している。怪獣の気配を感じ取った俺が、咄嗟に先輩を抱き寄せて逃げ込んだことで何とか石にされずに済んだが、逃げ道は塞がれてしまっていた。

 

 

「落ち着いて下さい、先輩!今はここから出ることだけを考えましょう」

 

 

わずかにパニック状態となっていたが、俺の言葉で平静を保ってくれた。ここでパニックになるのも非常にまずい。走って逃げようものなら落盤や落石のせいで命を落とすこともあるのだから。

 

 

「あの眉唾物のネットニュースが本当のことだったとは…」

 

 

全く、とんだ出張になったものだと言いつつ、スマホのライフを頼りに二人で出口を探す。

 

すると、かなり激しい揺れが坑道に響き渡った。普段聞かない先輩の甲高い声を聞いて、振り向く。

 

 

「今聞いた声は忘れろっ!」

 

 

顔を赤くして彼女の様子を見て、俺は黙って前に進んだ。ここで下手なことを言ってヘソを曲げられるとめんどくさいとか思ってない。顔を赤らめていたのは可愛かったけどな!

 

そんなこんなで入り組んだ坑道を進むと、かなり広い場所につながっていることがわかった。縦にすっぽりと空いた大穴だ。おそらくガクマが地上に出るために通った穴だろう。

 

下を見るとかなり暗く、深い。落ちたらひとたまりもない高さだ。

 

 

「行き止まりだな…どうする?」

 

 

不安な目で見てくる先輩に「ひとまず戻りましょう」と答えようとした瞬間。再び激しい揺れが俺たちを襲った。

 

バランスを崩した先輩が大穴の淵から身を落としかける。

 

俺はすぐに落ちそうになった先輩の手を掴んだ。

 

 

「ま、円!!」

 

 

握りしめた手を引き上げようとしたが、下に向けていた視線がとんでもないものを捉えた。

 

なんと、2本角のガクマが轟音を轟かせて穴を這い上がってきていたのだ。しかもとんでもない速度で。

 

 

「ま、円…なにか後ろから迫ってきてるのか!?」

 

「ええ、とんでもないやつがです!!」

 

 

取り繕えずそう答えると、涙を浮かべた先輩が震える声で言った。

 

 

「ま、まどか…お前だけでも生きろ!」

 

「先輩!?」

 

「お前は私を怖がらずに、ついてきてくれた初めての後輩だ…。だから、お前だけでも生きて…」

 

「嫌です、先輩!俺は諦めません!!」

 

 

ドクン、と内ポケットに収まる光が脈打つ。ガクマはすぐそこに迫っていた。

 

迷ってる時間は、ない。

 

俺は先輩の手を離さないまま、内ポケットに手を突っ込んだ。

 

 

「先輩!俺が今からすることは、他言無用で頼みます!」

 

「まどか!?」

 

 

手に収まったスパークレンスを見つめる。脈打つ光はガンガンと俺に語りかけてくる。

 

 

何度も捨てたはずのに、スパークレンスは必ず自分の元へと戻ってきた。

 

 

いったい何だって言うんだ。

 

何をどうしろって言うんだ。

 

俺は、ただの人間だ。

 

主人公でも、ましてやヒーローでもない。

 

 

毎日同じ時間に起きて、電車に揺られ、仕事をして、何もすることなく夜に眠り、休日を無碍に過ごす、何の取り柄もない男だと言うのに。

 

なぜ、こんなにも鳴り響く。

 

 

 

うるさい。

 

うるさい!うるさい!!

 

 

 

「ああ、わかってるよ。そんなに戦えと言うなら…戦ってやるよ…!!だから…ガンガンと鳴り響くな!!」

 

 

片腕を捧げ、天に掲げた〝スパークレンス〟から光が昇った。

 

俺の体は、ティガとなった。

 

その肉体は、まだ光を信じられていない故に、未熟。

 

変身能力すら失った未完成。

 

その名は、ティガ・オルタナティブ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「巨大生物、市街地まで残り5キロ!!」

 

 

その間も巨大生物の進行は続いている。

 

あんな怪光線を放つ存在が市街地に到達すれば、現地の民間人にどれほどの被害が出るか。

 

 

「あの光を受けたら…カチンコチンにされちゃう…!!」

 

 

伶那は歯を食いしばって機体を低空へと落とした。岩山の肌をスレスレで飛び、巨大生物が向けない背後へと回る。

 

 

「柳瀬!何をするつもりだ!」

 

「割れた外殻にもう一発!!」

 

「柳瀬!!危険だ!!柳瀬!!」

 

 

最初に当てた対艦ミサイルの傷ははっきりと残っている。出血が目立つ場所目掛けて伶那は意識を鋭く走らせる。

 

巨大生物は、伶那の接近に感づいており、四つ這いになる尻尾を奮って伶那のF-2を叩き落とそうとした。

 

 

「——今!!」

 

 

その一撃を伶那は巧みな操縦技術で避けつつ、生まれた隙へ集中力を注ぎ込み、翼に備わる対艦ミサイルを放った。

 

ミサイルは驚くほど正確に巨大生物の傷口へと飛翔し、ついに到達した。

 

 

「やったぁ!!」

 

 

巨大な爆発と飛散する巨大生物の血液。巨大生物は苦しげな呻き声を轟かせたのち、這っていた巨体を大地へと落としたのだ。

 

 

「巨大生物、停止を確認!!爆発の様子から致命傷を負った模様!!」

 

「やったな!!ホーネット1!!」

 

「伊達にエースじゃありませんよ!」

 

 

報告を受けて、入麻やモニタリングをしていた宗方たちはホッと胸を撫で下ろした。

 

新城も上昇した伶那の機体へ近づき、称賛の声をかける。

 

 

「全く…無茶な飛び方をする。全機、帰りの燃料もある。周辺警戒を終えたら帰還を——」

 

「隊長!!地底より、高エネルギー反応!!これは!!」

 

 

宗方が帰還命令を通達しようとした瞬間、歓喜にあふれていた司令室の中で矢栖が叫んだ。

 

入麻が通信を入れる間も無く、伶那たちの眼下では倒れた巨大生物の近くからもう一つの影が、山を切り崩して現れたのだ。

 

 

「角が二本の…怪獣!?」

 

「柳瀬!!」

 

 

ハッと伶那が気がつくと、現れたもう一匹の巨大生物が、伶那の機体へ青い光を放ったのだ。回避行動をとるが、光は伶那の機体の主翼を捉え、その一部を固い岩へと変えたのだ。

 

 

「翼が…!!キャアーーっ!!」

 

 

片側の翼の機能を奪われた伶那の機体が姿勢を崩して降下していく。

 

 

「柳瀬!!脱出しろ!!柳瀬!!」

 

「ダメ…電子機器が…」

 

 

脱出レバーを引くが、青い光によって電子回路が完全に破壊されている。凄まじい負荷がかかる中で、伶那はギュッと目を瞑った。

 

 

(こんなところで死にたくない…助けて…ダイゴ…)

 

 

心の中で幼なじみの名を叫んだと同時。

 

伶那を襲っていた重力の嵐が止まった。

 

落下していく浮遊間もなくなり、機体は驚くほど静寂に包まれていた。

 

伶那は閉じていた目を開いて、バブルキャノピーから外を見上げる。

 

 

「光…?」

 

 

そこには眩い人の形をした光があった。

 

ゆっくりと降下してゆくそれは、伶那の戦闘機を安全な場所へと下ろして、荒れ狂う巨大生物の前へと降り立つ。

 

光が収まると、そこに立っていたのは東北地方で遭遇した銀色の巨人だった。

 

 

「ティガの…巨人…」

 

「現れたのか…」

 

 

入麻や宗方たちが、信じられないものを見るようにモニターは視線が釘付けになる。

 

銀色の体を翻したティガの巨人は、ゆっくりと腕を構えて、暴れている巨大生物…ガグマへと立ち向かった。

 

 

 

 

 

 



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石の神話(2)

 

 

 

「円…お前…」

 

 

ゼネラルリオールで働く久留米 さやか(くるべ さやか)は、銀色の巨人と化した後輩の姿に言葉を失った。

 

円 大悟(まどか だいご)。

 

彼はさやかにとって、はじめて自分の元についてくれた後輩で、ミスで怒っても決して離れていかない社員であった。

 

随分と長く苦楽を共にしてきた仕事仲間であった彼が、ネット上でまことしやかに囁かれている銀色の巨人とは誰が想像できたものか。

 

大きな銀色の手から安全な丘に降ろされ、彼はさやかを見下ろして小さく頷くと、光と化して元の場所へと飛び立ってゆく。

 

 

「お前は昔から…責任感が強いやつだとは思っていたよ」

 

 

不思議なやつだと、さやかは感じ取っていた。普段はとぼけているのに、肝心なタイミングで大吾は必ず答えた。仕事に対しては必ず成果を出してくれた。向き合うことをやめずに前に進み続ける姿勢に、さやかも救われたときが何度もあった。

 

だからだろうか。

 

彼が銀色の巨人だったと分かった瞬間、驚きや恐怖よりも先に納得が混ざってしまった。

 

 

「これでサヨナラなんて認めないからな、円…必ず戻ってこい」

 

 

遠くで爆音が響く。さやかの視線の先では、銀色の巨人とそれに匹敵する怪獣の死闘が繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光から銀色の色へと変わったティガは、伶那の戦闘機からゆっくりと離れると、四つん這いで唸り声を上げるガグマとの戦いに備える。

 

市街地までもう距離はない。

 

ティガは背に街を背負ってガグマへと走り出した。

 

鈍い打撃音が辺りに響く。

 

角が二本あるガグマは、ティガの猛攻を跳ね除けるように体を逸らし、ティガの巨体を投げ飛ばした。

 

 

「キャアーーっ!!」

 

 

巨人が倒れた振動で、戦闘機から脱出した伶那の体が想像絶する揺れに襲われる。

 

あたりの岩も激しく揺れ、傾斜になっている部分では大小様々な岩が転がり落ちてきていた。

 

それを見たティガは、パワーで勝るガグマに対抗しようと額で腕をクロスし、パワータイプへの変身を試みる。

 

だが、ティガの体は変化せず、変わりに光の稲妻が体を駆け巡った。

 

オルタナティブタイプであるティガには、本来のパワータイプ、スカイタイプといった変身をする力が発生しない。光のエネルギーが圧倒的に不足しているのだ。

 

その隙に、ガグマが角を突き出した突進。ティガの体は再び宙を舞うことになる。

 

ダメだ。このままでは…!!

 

地面に叩きつけられてから、ティガの起こした行動は早かった。

 

膝をついて体を起こすと、腕を脇へ構えてエネルギーを収束させてゆく。

 

ハンドスラッシュ。

 

構えた腕に螺旋状の風が巻き上がり、一閃と放たれた一撃は、光の刃と風を織り混ぜてガグマの頭部にある角を吹き飛ばした。

 

 

「———っ!!!」

 

 

喉の器官を振るわせて苦しみと痛みの咆哮を上げるガグマ。すると、青白い燐光を発すると、角を破壊された怒りからかガグマが閃光をティガへと撃ち放つ。

 

 

「巨人の体が…!!」

 

 

光が当たったティガの脚部が、岩へと変貌する。

 

じわじわと下半身が岩へと変えられてゆく中、ティガは冷静さを失わずに胸の前で腕を交差させた。

 

 

「全機!巨人と巨大生物から離れろ!!今すぐにだ!!」

 

 

宗方の叫び声のような通信が響いた瞬間、紫の光を収束させL字に腕を組んだティガが、体の表面にこびり付いた岩を吹き飛ばして必殺の「ゼペリオン光線」をガグマへと放った。

 

ガグマの肉体から迸るような爆発が吹き、巨大生物として猛威を振るったガグマは断末魔の叫びと共に大爆発を起こして消え去った。

 

胸に付くカラータイマーが赤い光を発して点滅を繰り返している。

 

ティガの巨人は消耗したように呼吸を整えると、空を見上げて手を——。

 

 

「撃てぇ——っ!!」

 

 

同時に、背中に光が走った。

 

想像絶する衝撃と痛みを受けて、ティガの巨人は呻き声を上げるような声を響かせて膝をついた。

 

誰だ?誰が打った?まさか新しい怪獣が…。

 

 

「ティガの巨人を逃すな!!ここで仕留めるぞ!!」

 

 

背後へ目をやると、陸自の戦車部隊と攻撃ヘリ部隊が大軍を為して市街地からティガの方めがけて前進を続けていた。

 

人間が、ティガに攻撃を仕掛けたのだ。

 

空を飛ぶ新城と、丘へと登った伶那は驚いたように目を見開く。

 

 

「た、隊長!!陸自がティガに攻撃を!!」

 

 

伶那の通信の最中も陸自からティガへの攻撃は続けられており、ティガはくぐもった声を発しながら飛んでくる攻撃と巻き上がる火花を受けてうずくまった。

 

 

「隊長!!あの巨人は柳瀬を救ったんですよ!?市街地を背にあの巨大生物とも戦ったというのに何故——!!」

 

「本部からの命令は、巨大生物を市街地に入れないようにするための撃破よ」

 

 

新城の言葉に、隊を率いる入麻は簡潔に答えた。

 

あの巨人が、たとえ伶那を助けていたとしても、出現した巨大生物と同じように市街地から5キロも離れていない地点にいる以上、陸自や自分たちに下された命令の対象となる。

 

攻撃命令が解除されない以上、新城や柳瀬も、ティガの巨人を攻撃する任務の責任がある。

 

 

「…ターゲット、ロック」

 

「新城!!」

 

 

数刻の沈黙の後、陸自の戦車部隊と共にティガへ対艦ミサイルの照準を合わせる新城に、堀井が怒声のような声を上げる。

 

 

「お前!!助けてもらった恩を仇で返すつもりなんか!?」

 

「俺は自衛隊の士官だ!命令は守らなければならない!!」

 

「状況を見ずに何を抜かしてるんや!!」

 

 

たしかにティガの巨人は、客観的に見れば自分たちを助けてくれた存在かもしれない。

 

しかし、意思疎通ができない以上、あの巨人が味方である保証はない。

 

巨大生物を倒したのは単なる縄張り争いが目的か、それともまた別の目的なのか。

 

すると、ティガの巨人は砲撃が止んだ一瞬の隙に両手を組み、手のひらから不可視の円形の光の壁を形成する。

 

 

「バリアか…くそがっ!なんでもありかよ!!」

 

 

攻撃ヘリから放たれたロケット弾や、陸自の戦車の砲撃を防ぐ中、新城が爆煙の中にいるティガへミサイルを放つ。

 

ミサイルを見たティガはバリアを解除すると腕を構える。

 

刹那、新城のミサイルが着弾、爆発。

 

凄まじい衝撃波が辺りに響く中、爆炎から空へと舞い上がったティガは、音の速度を優に超えて空の彼方へと飛び立っていった。

 

 

「新城!追えるか?」

 

「あんな速度、機体がバラバラになっちまうぞ」

 

 

戦車隊や、ヘリ隊も、空へと舞い上がったティガを茫然と見上げるだけで、誰も言葉を発することはなかった。

 

 

「あれが…ティガの巨人」

 

 

ただ一人、伶那は丘の上から星となったティガの軌跡の後をじっと見守っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「円!おい、円!しっかりしろ!」

 

 

先輩の声で、俺の薄れていた意識は覚醒した。木にもたれかかる形で座り込んでいた俺を、先輩が心配そうな表情で見つめている。

 

ああ、そうか。俺は先輩を助けるためにティガに変身して…それから。

 

無意識に起きあがろうとして、腕に激痛が走った。上着は脱がされていて、シャツは捲り上げられているが血が付いているのが見える。

 

腕にはいくつもの切り傷ができていた。これはガグマとの戦いで負ったものじゃない。

 

俺はたしかに撃たれたのだ。

 

自衛隊に…人間に。

 

 

「全く、恩を仇で返すとは…不躾な奴らめ」

 

 

車から取ってきたのか、先輩は応急キットで俺の傷ついた腕を消毒し、ガーゼを当て、包帯で包んでくれている。

 

 

「そういう割には、あまり怒った口調じゃありませんね。先輩」

 

「ああ、怒ってるとも。自分でも驚くほどにな」

 

 

しかし、その怒りはどこにもぶつけられない。先輩も俺も、よくわかっていることだった。

 

もし、そんなことを言えば俺が「ティガ」であることが自衛隊や国にバレてしまうからだ。

 

 

「やはり、これは秘密にするべきなのだろうか」

 

「名乗り出ても実験動物になる未来しか見えませんしねぇ」

 

 

はっはっはっ、やはり現実ってクソだな。それもそうだな、先輩も答えると、俺に肩を貸してくれた。正直、歩くものやっとなのですごく助かります。

 

 

「けど、私は知っているぞ。お前が助けてくれたことをな」

 

 

だから、ありがとう。

 

そう言って微笑んでくれた先輩の言葉に救われる。自衛隊に撃たれたクソッタレだ出来事もチャラになるほど、俺はお人好しだった。

 

肩を貸してもらいながら丘を下ってゆく。今頃鉱山の管理会社は血眼になって俺たちを探しているところだろう。

 

先輩と共に丘から見た空は、綺麗な夕暮れに染まっているのだった。

 

 

 

 

 



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空に駆ける(1)

 

 

時は令和。

 

新たな時代を迎えた世界は、大いなる危機に瀕していた。

 

 

日本へ現れたゴルザとメルバ。

 

沖縄諸島に出現したガグマ。

 

そして、謎の光の巨人…ティガ。

 

 

その出現を皮切りに、世界各地で巨大生物による被害が勃発。

 

 

最初に現れたのはサンフランシスコだった。

 

 

米国は陸海空軍の総攻撃を実施するが、巨体を支える外殻をもつ巨大生物には、現状の兵器では効果が薄い。

 

世界最大の軍事力を誇る米軍ですら、突如として現れた巨大生物に苦戦を強いられることとなった。

 

 

そんな中、眩い光の柱と共に現れたのは光の巨人。

 

 

壮絶な銀色の巨人と巨大生物の戦いの後、銀色の巨人が放った白熱光線で巨大生物は撃退。

 

 

米国による核発射の一歩手前まで危惧されていた事態は、光の巨人「ティガ」によって防がれた。

 

 

 

その後、オーストラリア、イギリス、ロシア、中国と、次々と巨大生物が出現。現地の軍との武力衝突の最中にも、ティガの巨人は現れ、巨大生物を撃退したのちに空へと去ってゆく。

 

巨大生物の存在と、ティガの巨人の存在が世界に示されてから、国家という勢力図は大きく書き換えられることになる。

 

ある国は「怪獣」を怒れる神の使いとし崇め、「ティガ」を人の業として唾棄する。

 

ある国は逆に「ティガ」を神の化身として崇める。あるいはその両方を脅威として恐れ慄く。

 

そしてある国は、「怪獣」と「ティガ」を捉えようと躍起なる。

 

果ては、嘘の怪獣出現情報を流し、ティガの巨人を誘き出そうとする国まで出る始末だった。

 

しかし、惑わしにティガは姿を表せることはなかった。

 

あの光の巨人が現れるのは、決まって巨大生物によって人々が苦しめられようとしている時だ。

 

その時、人々の願いに応えるように光の柱が現れ、ティガの巨人がその地に降り立つ。

 

やがて人々は、「ティガ」と「怪獣」をフィクションとは思わず、世界の一部というように受け入れ始めた。

 

世界各地に猛威を振るう怪獣がいるという、少し前まででは想像も出来なかった世界が現実になってゆく。そして人は、そんな混沌たる世界にも順応していく。

 

 

そんな時だ。

 

世界各地で謎の爆発事故が発生した。

 

爆破物が不明。

 

目的も不明。

 

主犯者も不明。

 

予告もなく爆破されるテロ事件に、世界が恐怖する中、ひとつだけその現場で目撃される共通点があった。

 

それは、その場にいる人の中で必ずいる。

 

体の一部を欠損した〝人間〟が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらが東京湾海底で確認されたピラミッドについてです」

 

 

TPS日本支部の司令室に集まったGUTSの隊員たちは、TPS日本支部の局長である安藤の言葉に耳を傾けていた。

 

 

「モンゴルとイースター島で確認された巨大生物「ゴルザ」と「メルバ」の進行方向は、明らかにに東京湾沖合の海底ピラミッドを目指していました。また調査した結果、東京湾沖合で発掘されたオーパーツは紀元前350万年前……およそ、三千万年前の地層と同じ成分で構成されていた」

 

 

しかも、我々が知らない元素も含まれていると安藤は言葉を括ると、東北地方の地図を写し始めた。

 

 

「東北地方では過去の伝承に魔を断つ光の存在として「奥特曼」という伝承があった」

 

 

モニターには伝承が伝えられているという祠の調査をする研究員たちの姿があった。

 

石畳の階段を登った先にある小さな祠は、見た目はひどく、作りも古いものであったが、その地下には狭く続くトンネルがある。人1人がやっと通れるような隙間の奥には、おびただしい壁画と象形文字が象られた遺跡が眠っていたのだ。

 

 

「遺跡に記された「奥特曼」を、堀井くんのサウンドトランスメーターで解読し、現代文字へと翻訳した結果、その魔を断つ光の存在が「ウルトラマン」と呼ばれるということが判明した」

 

「ウルトラマン…ウルトラマン、ティガ」

 

「ウルトラマンと呼ばれる存在は、過去に赤い目をした巨人と、光の柱を背負った存在が争い、空へと消えていったと記されていました」

 

 

安藤と共に解読を担当していた堀井も同意するように頷きながら、入麻の呟くような言葉に答える。他のモニターには、ワイドショーで外国の地で巨大生物と戦いを繰り広げる銀色のティガの姿があった。

 

 

「しかし、ウルトラマンという存在も、ティガという存在も、人類の味方であるという保証はありません」

 

 

宗方のいう意見も最もだ。これまでティガはまるで人類を守るように巨大生物の前に現れて戦いを繰り広げ、そして去っていく。しかし、それは客観的に見た意見であり、ティガが人類の味方をしているという事実はどこにもありはしない。

 

ふと、ワイドショーが街中の取材をしているシーンへと切り替わる。

 

 

《巨大生物も、あの巨人も、たまったもんじゃありませんよ》

 

《巨大生物を倒してくれる巨人は、きっと良い巨人なんですよ!》

 

《派手に暴れるなら、どこか他所でやってほしいものですな。潰されたら脚が弱い私では何もできませんよ》

 

 

リポーターのマイクにそれぞれの人が答える言葉を聞いていると、立ち上がった新城が苛立ち気味に側に置かれてあるリモコンでモニターを消した。

 

 

「くだらねぇ…。どいつもこいつも怪獣だの、巨人だの!俺たちGUTSがいるっていうのによ!」

 

 

そう吐き捨てるように呟くと、新城は苛立った足取りのまま司令室を出ていってしまった。伶那が入麻とアイコンタクトをすると、彼女は出ていった新城を追いかけてゆく。

 

ここのところ、新城の様子がおかしい。入麻は言葉にできない嫌な予感を1人感じ取ってあるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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空に駆ける(2)

 

 

 

 

 

GUTS作戦司令室が置かれているのは、千葉県房総半島にあるTPC日本支部。

 

航空自衛隊の峰岡山分屯基地と隣接する支部であり、TPC日本支部直轄であるGUTSの航空基地としても機能する場所で、新城は1人屋上で風に当たりながら遠くに見える景色を眺めていた。

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

そんな新城に追いかけてきた伶那が話しかけた。伶那と新城は一つ違いの後輩と先輩であり、武器に強い新城と、戦闘機パイロットとして高い成績を残す伶那は、同期の中でも目立って活躍していたのだ。

 

後輩であり、ライバルでもあった伶那に、新城は不機嫌そうに顔をしかめながら一瞥する。

 

 

「いつもの新城さんらしくないですよ?」

 

「うるせーな。だいたい、いつもの俺ってなんだよ」

 

 

そうですねぇ、と伶那は目元を両手の人差し指でキッと吊り上げて新城を見た。

 

 

「こんな顔で、頑固で負けず嫌いで責任感が強くて、誰よりも戦闘機と武器が好きなミリタリーオタク?」

 

「あのな、喧嘩売ってるのか?」

 

 

不機嫌そうな顔から呆れたような表情に変わった新城を見て、伶那は面白そうに笑うと新城も釣られて伶那と同じように笑みを浮かべた。

 

 

「それくらいが、いつもの新城さんらしいですよ」

 

 

新城がここ最近、変に肩肘を張っているのは誰から見ても明らかだった。伶那のほうが若いが、新城の姿を見つめていた彼女にとって、彼の異変に気付くなど時間は掛からなかった。

 

 

「すまないな、柳瀬。どうにも最近、カッカしすぎてる」

 

「——ティガのことですか?」

 

「いや、全部さ」

 

 

そう言って新城は手をかけていた手すりから手を離して柵へ背を向けて体重を預けた。

 

周りは巨大生物のことを「怪獣」だなんて当たり前のように受け入れ始めていて。

 

新城自身、まだそんな存在を信じられないといつのに。

 

 

「…なんか、俺だけ置いてけぼりにされてるような気がしてな」

 

 

そう溢す新城に、伶那は首を傾げる。

 

彼がオカルトチックなことや、そういう迷信めいたことを信じていないことは知っていたが、それでも頑なな新城を見るのを伶那は初めてでもあったからだ。

 

 

「新城さんは、なんで怪獣を信じないんですか?」

 

 

その言葉に、新城はわずかに顔を硬らせてから柵に腕をかけて上を見上げる。空はどこまでも突き抜けるような晴天だった。

 

 

「——俺の父親は航空事故で死んだんだ」

 

 

そう言って、新城は胸ポケットに入れていた父のパイロットワッペンを取り出した。

 

同じ航空自衛隊のパイロットであった父は、パトロール任務中の1万5000メートルの高度で消息を経った。後に行われた調査や捜索の後、太平洋千葉県沖合で、戦闘機の残骸が発見された。

 

父の遺体がない中で行われた葬儀のことを、新城は今でも覚えている。

 

 

「葬儀の時に、僚機だった親父の同僚が言ったのさ。「空で怪獣に襲われた」って。その同僚は精神病を患ってると診断され空から降りたが…それを信じた俺は皆の笑い者だった」

 

 

まだ幼かった自分は、父の死の実感が持てないまま、同僚が言った「空の化け物」を信じて疑わずに、多くの人の笑い者にされた。

 

そして、それを信じてしまったがために、自分の母にも苦労をかけることになってしまった。そんな現実から逃げたい一心で、新城は自衛隊への道を歩み出した思いがあったのだ。

 

 

「父の死は、不慮の航空事故。そう自分に言い聞かせてきたから、怪獣なんてものを認められないのかもしれないな」

 

 

そう呟く新城。すると、彼の腕時計がアラームを発した。柵から外を見るとパトロールを終えた戦闘機が着陸している様子が見える。交代で出るのは新城だった。

 

 

「パトロールの時間だ。柳瀬、お前も休め」

 

 

そう言って伶那の肩を叩いて出口から出て行く新城の背中は、どこか儚さと憂いを帯びているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近やりすぎだぞ、円」

 

 

昼食後、屋上でボケっとしていたところにタバコを加えた先輩がやってきた。差し出された缶コーヒーを受け取ると、彼女は煙を小さな吐息で吐き出す。

 

 

「すいません、先輩」

 

「先方や上司に誤魔化さなきゃならない私の気苦労を慰めろ」

 

「流石っす!先輩!」

 

「はっはっはっ!もっと褒めるが良い!」

 

 

腰に手を当てて笑う先輩をここぞとばかりに持ち上げる。いよっ、日本一というと二人揃っておかしくて笑った。

 

先輩にティガであることが知られた時はどうなるかと思っていたが、先輩はかなり協力的…というか、全面的に味方をしてくれた。

 

商談や立ち合いのときも、彼女は俺の不在を誤魔化したりしてくれることで今の職場でもとくに目立つことなく、生活にも事なき済んでいる。

 

正直に言えば、めちゃくちゃ助かってる。先輩の助力がなければ、サンフランシスコから続いた怒涛の怪獣出現ラッシュが終わる頃には俺は会社をクビになっていただろう。

 

 

「しかし頑張りすぎているのは確かだぞ、円。少しは自分を労れ。無理をすれば体なんてすぐに壊れる」

 

 

ひとしきり笑った後、先輩はタバコを一服し真剣な眼差しでそう言った。ここのところ、怪獣が出る時期もペースが早くなってきているし、海外に出現していた怪獣たちの分布も日本に集中していっているように感じた。

 

今あついのはハワイやオーストラリア、中国とロシアで、反対側なんて平和そのものだ。まぁ怪獣被害で破壊された市街地などの復興に莫大な予算を投じてあるらしいが。

 

 

「ありがとうございます、先輩。けど俺は…」

 

 

皆まで言うなと、先輩は俺の言葉を遮る。ウルトラマンティガである以上、怪獣と戦うことは宿命つけられている。俺が戦わなければ、世界は破壊され、やがて訪れる〝破滅〟の前に滅んでしまうから。

 

 

「わかってるさ。ただ、言わなければ私がおさまらんというだけさ」

 

 

ふぅ、と最後の一口を吸い終わって、先輩はタバコの日をぐしゃりと消した。

 

 

「ティガの巨人が現れてから、多くのことが変わった。ある人はお前を神さまの使いだと言う。けど忘れるなよ?円。お前は人間だ」

 

 

ズバリ、と言い刺された気がした。ウルトラマンティガの主人公であるダイゴも、直面した光と人の分岐点に大いに悩み、苦しんでいた。

 

俺も同じだ。

 

人であり、光である。ユザレの言葉が呪詛のように体に絡みついていて、ウルトラマンティガに変身するたびにその境界線が曖昧になってゆくような感覚があった。

 

けれど、先輩はハッキリと断言したのだ。「お前は人だ」と。

 

 

「人間が人間たる所以を忘れれば、それは世界中で暴れる怪獣と何ら変わらんと私は思う。立ち向かうには、お前が何者かを知っていなければならない」

 

 

仕事も同じさ。自分のやるべきことも分からないのに良い仕事なんてできないだろ?なんて言って笑う先輩に、俺は返す言葉が見つからずに震える声で答えた。

 

 

「先輩らしいですね」

 

 

照れるように笑う先輩。すると、内ポケットにしまっていたスパークレンスが熱さを持ち出した。

 

 

「行くのか?」

 

 

その異変に先輩も気が付いたのか。俺は内ポケットからスパークレンスを引き抜き、真っ直ぐに先輩を見つめる。

 

 

「俺は行きます。人間として、助けを待つ人を助けるために」

 

 

そして空へ、スパークレンスを掲げた。眩い光が溢れ、肉体が光へと変換される。迸った光の流れに乗ったまま、ウルトラマンティガとなった俺は空へと飛び立った。

 

 

「ああ、行ってこい。私は待っていてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちら新城。高度1万5000。異常なし」

 

 

F-2戦闘機のコクピットの中で、新城は地上にいる管制官へ通信を送る。雲の合間を縫って飛ぶ新城の戦闘機は鮮やかなラインを描いて空を舞っていく。

 

親父が死んだ空、か。

 

高度計を見た新城は、ふとそんなことを思った。父もまた、自分と同じ光景を見つめながら死んでいったのだろうか。太陽の光が燐光となってキャノピーを照らす。穏やかな空だ。

 

そんな空を、一迅の影が横切った。新城の機体が予想だにしなかった気流の変化により激しく揺れる。

 

 

「なんだ?!」

 

《どうした、新城!》

 

 

スロットルを引き絞りながら機体を立て直す新城の目に、信じられない光景が飛び込んできた。

 

 

「何かが雲の中にいる!戦闘機…?いや、それよりも…」

 

 

自分の真横に位置する雲の中に、明らかな影が潜んでいたのだ。自分の機体の影にしてもあまりにも大きく、そして太陽の方向から自機の影ではないのは直ぐにわかった。

 

新城が雲からすぐに離れるよう進路を取った瞬間、雲の煙を切り裂きながら巨大な翼を持った生物が新城の機体を追うように飛び出してきた。

 

 

「怪…獣…っ!!」

 

 

ユザレの予言。

 

新城の中に安藤から聞いた予言の言葉が蘇る。鋭い爪と翼を羽ばたかせるそれは、明らかに今まで見てきたどんな敵よりも歪であり、なにより恐ろしい存在だった。

 

メルバは新城の戦闘機に目をつけると、目から光を溢れさせて光線を放つ。

 

まずい…!!新城はすぐさまスロットルとフットペダルを踏み込み、機体を旋回させた。

 

 

「…ぐっ…が——っ!!なんて機動力だ…!!戦闘機じゃ相手にならねぇ!!」

 

 

想像絶する重力負荷がかかっているというのに、戦闘機の機動力をモノともせずにメルバは新城へと近づいてくる。

 

そこで新城は直感的に理解したのだ。父やその同僚を襲ったのが、このメルバのような怪獣であったと言うことを。

 

 

「やば…っ」

 

 

その言葉を呟いた時には、メルバが再び放った攻撃が新城の機体を捉えていた。

 

エンジンの側面を掠めた攻撃は、戦闘機の出力を奪うには充分な威力を有していた。

 

 

《ホーネット3、被弾!!》

 

《新城!!》

 

 

異常を知り、通信に加わってきたGUTSのメンバーからの声を聞きながら、新城は姿勢を崩した戦闘機の中で脱出レバーを引く。だが、機体に反応は無かった。

 

 

「ダメだ…脱出レバーが…電気系統がやられたか…!!」

 

《新城さん!!》

 

《脱出するんや!!新城!!諦めたらアカン!!》

 

 

霧揉みながら1万メートルの空から落ちてゆく新城の機体。言うことを聞かなくなった戦闘機の中、自由落下の負荷に耐える新城はヘルメットの中で叫び声を上げた。

 

 

「くっそぉおお!!俺は!!こんなところで…!!」

 

 

まだ何もできていないと言うに…まだ父の背中すら見えていないと言うのに…!!

 

負荷に耐える新城は、落ちてゆく景色が見えていなかった。

 

すると、煙を上げて落下していた機体は緩やかに姿勢を取り戻していく。

 

身体中が浮くような感覚に襲われていたが、気がつくと新城の体に掛かっていた負荷は消え去っていた。

 

 

「な、なんだ…?………光……?」

 

 

顔を上げた新城の目に入ってきたのは、眩い光だった。手で光を遮ってキャノピーから空を見上げると、そこには青空はなく青く光る〝カラータイマー〟があった。

 

 

「ティガ…!?」

 

 

新城の戦闘機を抱えるように現れたのは、ウルトラマンティガだった。

 

メルバが唸るような声を轟かせる。手を前に広げて心情を抱えたまま飛ぶティガを、メルバは速度を上げて追い始めた。

 

 

「ティガ!!なんだってこんなタイミングで!!くそっ!!」

 

 

レバーを動かすにも、ティガの大きな腕に抱えられている新城に為せる事は何もない。

 

ティガに捻り潰されて死ぬくらいなら、墜落して死んだほうがマシだ!!

 

そう心の中で思う新城だったが、ティガは一向に新城へ危害を加える素振りは見せなかった。

 

それどころか、メルバから放たれる光線を背に受けながらも、ティガは高度を新城に負担が掛からないように緩やかに落として地に向かって飛んでいたのだ。

 

 

「俺を…庇っているのか…?」

 

 

再びメルバの攻撃がティガを襲う。

 

くぐもった巨人の声が新城の耳に届いた。新城はヘルメットを外して真上にあるティガに向かって言葉を放った。

 

 

「なぜだ!俺はお前を……俺を離せ!!俺を掴んだままじゃ戦えない!!俺を捨てろ!!」

 

 

その声が聞こえているのか……ティガは新城の言葉を無視して抱えたまま地に向かって飛び続ける。絶え間なく続くメルバの攻撃を受けながらも、ティガは新城を見捨てることはなかった。

 

 

「聞こえないのか!!俺を、捨てるんだ!!」

 

 

カラータイマーが赤く点滅し始める。

 

この合図を皮切りに、ティガの体力が著しく低下するのは、各国の調査隊からの報告で明らかになっていることだ。

 

そこまでして、自分を庇うのか…!!

 

 

「何もできないで…俺は…!!」

 

 

瞬間、新城とティガは激しい衝撃に襲われた。

 

速度が落ちたティガに追いついたメルバが、ティガへ直接攻撃を始めたのだ。鋭い両手の鋏でティガを痛めつけるメルバに、ついにティガは新城の機体を手放してしまう。

 

浮遊感に襲われる新城へ、ティガは手をかざして光を送り込んだ。

 

 

「落ちて…ない…飛んでいる…?出力は出ていないはずなのに」

 

 

新城の戦闘機は、ティガから発せられた光によって空を飛んでいたのだ。スロットルを傾ければ、まるで異常がないように戦闘機が理想的な軌跡を辿ってゆく。

 

 

「飛べる…今なら、俺は飛んでいる!」

 

 

飛び立った新城の戦闘機を見送ったティガは頷くと、襲いかかっていたメルバの嘴を掴み、距離を離す。

 

 

「ターゲット、インサイド…喰らえ!!」

 

 

その隙に狙いを定めた新城が、緊急用に装備していたミサイルを放つと、ティガも合わせるように腕を交差させ、ゼペリオン光線をメルバへと放った。

 

メルバはミサイルによる爆撃と、ティガの光線を立て続けに受け、耐えきれずに空の彼方へと爆散する。

 

 

「よっしゃあ!!」

 

 

ガッツポーズをする新城は空に浮かぶティガの周りを旋回していると、ティガは役目を終えたように光り輝いた。

 

巨人から光へと変わってゆくティガの光に新城は包まれていく。

 

 

「暖かい…光…」

 

 

意識が遠のく。

 

懐かしい温もり。

 

これは、父に頭を撫でてもらったときの思い出だ。

 

遥かに彼方から、誰かの呼び声が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新城!!」

 

 

ハッと目を覚ましたら、見覚えのない天井が視界の先にあった。目を横へと向けると、副隊長の宗方や、伶那たちが心配そうな目で自分を見つめていた。

 

 

「お、俺は…いったい…」

 

「ここは横田の医務室だ。着陸した時は冷や冷やものだったぞ?」

 

 

ゆっくりと上半身を起き上がらせると、たしかにそこは医務室だった。しかし、自分はどうやってここにきたのだろうか。横田まで飛んだ記憶すらない新城は、宗方へ疑問をぶつける。

 

 

「宗方副隊長…自分は」

 

「無動力のまま、滑空して無事に着陸したぞ。肝心のお前はキャノピーの中で伸びていたがな?」

 

 

しばらく休んでおけと言って宗方はGUTSのメンバーを連れて部屋から出て行く。宗方たちの出て行った扉を見つめていた新城は、ふと自分の胸ポケットに温かみがあるような感覚を覚えた。

 

ポケットから父が着けていたパイロットワッペンを取り出す。

 

 

「そうか…俺は…」

 

 

そのワッペンからは、微かにだが光があった。人肌のような温もりが新城の手を包み込むと、ワッペンが纏っていた光は小さく放散し、空へと上がってゆく。

 

 

「ウルトラマン…ティガ、か」

 

 

医務室の窓から、大きな一番星が夕暮れの空に輝いているのが見えるのだった。

 

 

 

 

 

 



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