ULTRAMAN TIGA TAKE ME HIGHER (紅乃 晴@小説アカ)
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プロローグ

 

 

遥か遠い昔。

 

古き魔神たちにより太陽は地に落ち、地上が闇で覆い尽くされていた超古代の地球。

 

増悪と腐臭に満ち、闇に包まれたその地に、遥か宇宙の彼方より光の巨人たちが飛来した。

 

巨人たちは闇の者を打ち倒し、人々を暗黒から救った。

 

魔神たちから人々を救ったその巨人たちは、戦いの後、その魂と肉体を分離させた。

 

彼らは肉体に固執しない生命であり、本来の光の姿となって自分たちの星雲へと帰って行った。人々は深い山の奥にピラミッドを建造し、魂が抜けた事で石像へと姿を変えた彼らの肉体を、その中に埋葬した。

 

光を失った巨人たちの肉体は、幾万年も続く長い眠りについた———。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は遥かに流れる。

 

現代、日本。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

34° 58′ 36″ N, 139° 21′ 48″ E

 

南太平洋。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近年、その区域の地下に出来上がる海底トンネルの地下施設では、掘削機やそれに準ずる作業員たちによる工事が進んでいた。

 

だが、ある区画で発掘された「存在」によって、国家規模で行われていた海底トンネル工事は、同じように国家規模の圧力により中断。徹底した厳戒令と、警備体制が引かれ、工事されているトンネル内に踏みれられる者は居ない。

 

ある組織の人間を除いては。

 

「外郭電化率、規定値に達しました」

 

海底トンネルの作業上に似ても似つかない設備と無菌室の中、防護服を着た数人の人影が、モジュール化された作業台の上に置かれた岩石の塊に電極を差し込み、実験を繰り返していた。

 

電極からの放電現象が発生し、辺りに稲妻が走るが、モニタリングする研究員の視線は期待とは外れたものとなってゆく。

 

「これでもダメか」

 

実験中止をアナウンスすると、放電は中止され、再び防護服を着た作業員たちが岩塊から電極を取り外してゆく。

 

「まさにオーパーツだな。これは」

 

「これに内包されている技術は、我々の科学技術では解読できないほど、はるかに高度なものです」

 

作業台に置かれている物は、この地区の採掘作業中に発掘されたものであり、数十メートルからなる掘削機の刃のほぼ全てを跳ね除け、刃をすり減らさせた代物だ。

 

内部へのレントゲン調査と、岩塊の放射能物質の調査を行った結果、岩塊の中身には今の科学技術では解読すらできない機械が封印されており、それを覆い隠す岩塊も、紀元前350万年前……およそ、三千万年前の地層と同じ成分で構成されている。

 

破砕機や、レーザー、熱処理でも岩塊に傷をつけることは叶わず、その場にいる研究員たちは手を尽くせる手段を全て講じた中、絶望的な雰囲気に包まれていた。

 

「むしろ逆かもしれんぞ?1900年代初頭にできた電算機器のコードを見ても、我々がすぐに解読できるか?文明の利器なんてものは案外そんなものかもしれんな」

 

そんな研究員たちを励ますようにいうのは、政府が運営する研究機関の所長だった。

 

海底トンネル内での採掘時に出土した、このオーパーツの管理や調査を一任されている彼は、多くの時間と労力をかける中でも、希望は捨てていない。

 

頑ななこのオーパーツだが、何か手掛かりは掴めるはずだ。なにせ、この不明な物質は遥か昔から埋まっており、今自分たちの前に姿を表したのだ。

 

これには何か、意味があるはずだ。

 

すると、広く掘り起こされた空間が、僅かな振動に包まれてゆく。

 

「なんだ…?」

 

揺れは小さいものから、大きく変わってゆく。これは地下から伝わる振動ではないと誰もが判断できた。揺れの震源は、明らかに自分たちの頭上だった。

 

まるで巨大な何かが地を這うような地響きと、地獄の底のような唸り声を轟かせながら、その揺れは自分たちから遠ざかってゆく。

 

簡易的に吊るされた照明が光点を瞬かせる。明かりに満ちていた実験場が闇に包まれようとしていた時。

 

「オーパーツに熱反応を感知!!」

 

誰かがそう叫んだ刹那。暗闇の中にあった岩塊が青白く光る。何をしても傷一つ付かなかった岩塊がひび割れ、光の中へと溶けてゆく。

 

そこにあったのは、岩塊の封印から解かれたオーパーツそのものだった。

 

《私は地球星警備団長、ユザレ》

 

ふと、所長が目を向けると、そこには白いビジョンと映し出された真っ白な装束に身を包んだ女性が立っていた。ホログラムだと気がついたのは、全員が息を飲んでその映像を見つめていることに気が付いてからだった。

 

《このカプセルが起動したということは、地球に大異変が相次いで起こる事でしょう。この兆しを境に、大地を揺るがす怪獣と、空を切り裂く怪獣が復活します》

 

彼女は語りかける。これから世界に起こる大異変の一幕を。

 

《この大異変から地球を守れるのは、光の巨人ティガだけです。かつて地球の守神だった巨人たちは、戦いに用いた身体をこの地に残して、本来の姿である光となって自らの星雲へ帰って行きました》

 

誰もが顔を向き合って、戸惑いを隠せない表情をしていたが、所長だけは「ユザレ」と名乗ったそのビジョンの映像を食い入るような眼差しで見つめている。

 

《我が末裔たちよ》

 

ビジョンが揺らぐ。ユザレの映像は砂嵐に見舞われたように思えた。彼女は消えゆくノイズの中でも、言葉を紡いでいた。

 

《巨人を蘇らせる方法はただ一つ——》

 

そこで、青白く輝いていた映像は途切れた。

 

気がつくと、明点していた灯りが元に戻っており、過ぎ去った地震もなく、実験場は静寂さを取り戻していた。我を取り戻した研究員たちは、さっそく測定したデータの採取へ取り掛かる。

 

所長は一人、急造された施設を出て、岩肌が露出する巨大なトンネルの空間を見上げていた。

 

「少なくとも、これらは我々の進歩を大きく進ませることになるだろう」

 

そっと、誰かに言うわけでもない呟きは薄くらいトンネル内に響き渡る。延々と続く平和の中、世界の黎明がやってくる。

 

今、未曾有の大異変が起ころうとしている。

 

所長が見上げる先には、二体の巨像が聳え立っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ULTRAMAN TIGA

TAKE ME HIGHER

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供の頃、大人になれば多くのことができるようになれると思っていた。

 

親がいい例だ。大人というものは我慢をしなくていいし、好きなものを買えるし、子供なんかよりもよっぽど自由、やることなすことも全てが正しい。いつも諌められるのは子供である自分だ。

 

だから、早く大人になりたいと思ったし、誰よりも大人になろうという道を選んできた。

 

就職先に困らないと言う謳い文句に誘われて工業高校へと入り、三年という高校生活を特に何ら思入れもなく過ごし、社会へと出た俺は、『大人になればなんでもできる』なんていう夢があっけない幻想だったということを思い知らされた。

 

仕事というレール。

 

社会と言う名のルール。

 

お金が無ければ何もできない閉塞感。

 

気がつけば、子供の頃の方がよほど自由だったと思えた。寝ては起きて仕事をし、そして帰宅しては特に楽しみもなく飯を食ってすぐに寝る。

 

そんな普遍的な生活が永遠に続くものだと思い知らされ、俺は夢見た大人への期待をすっかりと失ってしまっていた。

 

あの頃の俺は、そんな打ちのめされた気持ちを少しでも癒そうと思い、卒業後逃げるように飛び出した田舎へと顔を出すことにしたのだ。

 

こんな場所にきても普遍的な毎日は変わらないというのに。そんな感覚を覚えながらも、俺は久々に触れる自然と、センチメンタルな気持ちに踊らされて、どこか陽気だったのかもしれない。

 

変わることのない、普遍的な日々。

 

いつもの場所にある自販機。

 

立ち寄れば明かりが灯っているコンビニエンスストア。

 

ルーチンワークへと成り下がった朝の挨拶。

 

そして仕事。

 

覆ることないと、心のどこかで信じていた日常は———あの日を境に、全てが塗り替えられることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大悟」

 

遊びに来た実家で、母親から声をかけられた円 大吾はだらしなく座っていたソファから顔を上げた。

 

円 大悟(マドカ ダイゴ)

 

自然豊かな田舎町で育った彼は、その地元にいる誰よりも早く都会へと飛び出し、社会の荒波に飲まれた哀れな青年だった。

 

荒波に揉まれ、傷ついた彼は、夏のわずかな休みの期間、久々に山奥の実家へと帰省していた。

 

「お仕事で疲れてるだろうけど、たまには外に出ないと戻った時がしんどいよ?」

 

「わかってるよ、母さん…けど、実家にいる時くらい、そっとしておいてくれよぉ」

 

スウェット吸水性のいいTシャツ姿の大悟は、掃除機をせわしなくかける母の苦言にウンザリしたような素振りで答える。

 

今年の夏は例年のそれを遥かに上回る異常な暑さだった。

 

山奥であるここは、夏場は猛暑から逃げる絶好の避暑地だったはずなのに、今日だけでも40度を超える猛暑日となっている。この地では観測史上最高気温を連日更新してあるらしい。

 

「たまには外に出ておいで。ほら、せっかく久々に帰ってきたんだから」

 

そう言ってガツガツと掃除機の先を大悟が陣取るソファの足元へとぶつける母。貫禄ある掃除機が甲高い騒音をあげて、平穏を望む大悟の心を蝕んでいった。

 

「あーもう、わかった。わかったよ!出かけるよ!うるっさいなぁ!」

 

ガツガツ小気味良くなる音に観念したようで、大悟はめんどくさそうに欠伸を出してだらしない格好のまま、玄関先へと向かった。

 

ちゃんと水分は取るんだよ、と奥から聞こえてきたが、それなら家にゆっくり居させてくれよと悪態を心でついて、うだるような暑さの元へも歩み出す。

 

《続いてのニュースです。3日前から日本各地で相次いで発生している地震について、気象庁は「地震の原因となるプレートにはどこも異常が見られず、現時点では震源が全く特定出来ていない状況にある」と発表しました。専門家によりますと、「どうも震源そのものが移動している可能性がある」との事ですが、具体的な状況は未だ不明のままであり——》

 

母の掃除するリビングにあるテレビでは、そんなワイドショーが流されている。世界各地で起こる地震と余震は、大悟がいるこの地にある平穏さとはかけ離れた様相を見せていた。

 

 

 

 

 

 



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第一話 光を継ぐ者 ACT.1

 

「大悟か、大変な時に帰ってきたな」

 

実家から少し離れた繁華街にやってきた大悟に、片付けをしながら出迎えたのは、大悟の幼なじみである「真崎 圭吾」だ。作業着と、タオルを鉢巻きのように頭に巻いてる圭吾に、マウンテンバイクを適当に置いた大悟は言葉を投げる。

 

「久しぶり、圭吾。お母さんは元気?」

 

圭吾の母は、大悟が幼い頃が病弱であり、入退院を繰り返している。今も地元の大きな病院に入院しており、たまに圭吾と共にお見舞いに付き合ったりしていた。

 

荷物を運び込む圭吾は、普段と変わらない様子で答える。

 

「普段通りってところさ。それよりもこっちの方が大変さ」

 

「昨日の市内の地震?」

 

「ウチも打撃を受けてな。とりあえず使える物は回収して、作業員たちはここに避難ってわけさ。まったく、いつ稼働が再開するやら」

 

圭吾は、市内から程近い湾岸にある原子力発電所に勤務している電力会社の社員だ。ただ、彼が赴任してから、勤務する原発が稼働したことは一度もない。

 

「仕方ないよ、あんな事故があってまだ五年だろ?」

 

東北地方を襲った巨大地震の爪痕。人々は力では抗えない大きな自然の災いに恐怖しており、今もなお、原発稼働に反対する人々は多い。そんな大悟のいい草に、圭吾は肩をすくめた。

 

「大悟。動かない、使わない設備を管理し続けるのも大変なんだぜ?」

 

維持費も、運営費用もタダではない。動かすことが許されない設備など、電力会社からしたら負担と負債の塊でしかないのだ。当然、そこを管理する側に回される人材に対する負担や扱いも劣悪なものになってゆく。

 

局地的な地震とはいえ、その非難を業者ではなく、管理する社員が担っている段階で、その実情を知るには充分と言えた。

 

大悟も手伝いながら、発電所から避難させてきた資料や機材を片付けている最中、市街地や一番大きな通りに、複数の車列が通りかかってゆく。

 

「自衛隊の車?」

 

深緑に塗装された自衛隊の車列だ。

装甲車のようなものから、人員や物資を運ぶトラックなどなど、多くの自衛隊の車が、こんな片田舎の道を車列を作って走ってゆく。

 

荷物を運び込みながら、大悟と圭吾がそれを見つめていると、一台のジープが二人の前に止まった。

 

「懐かしい顔だね。大悟、圭吾」

 

窓を開けて顔を見せた人物に、二人は顔を見合わせて驚いた。

 

「伶那!」

 

ジープから顔を覗かせたのは、大悟と圭吾と共に幼なじみとして過ごしてきた女性、「柳瀬 伶那」だ。

 

彼女は自衛隊の空自パイロットであった父に憧れて空自への道を進んでおり、こうやって顔を合わせるのは地元を離れた時以来だった。

 

「久しぶりじゃないか。だが…志望はパイロットじゃなかったのか?」

 

そう言う圭吾に、伶那は少し困ったような顔をしてから自身が着る深緑の陸上自衛隊制服を摘む。

 

「ああ、これ?今は休暇中。もちろん、航空士官学校は主席で出たけど、前の震災でね。空撮の仕事をやってたから…」

 

彼女は一流のパイロットとしての素質はあったが、日本を襲った数々の自然災害で、空からの救助者の捜索や、被害状況を調べるための空撮機のパイロットを務めていた。

 

結果、精神にかかる負担を考慮した上司たちから一時的に配置を変えて、陸上自衛隊勤務を命じられていたのだ。

 

「柳瀬空尉」

 

すると、伶那の隣に乗っていた強面の上官が、はっきりとした目つきで伶那を見つめながら言葉を放つ。

 

「旧友との再会を喜ぶのは構わんが、今は任務中だ。行くぞ」

 

伶那も姿勢を正して了解と答えると、路肩に停車させていた車をゆっくりと発進させる。彼女の去り際に、圭吾が大声で問いかけた。

 

「伶那!なんで自衛隊がここに!?」

 

「地震の調査!」

 

窓から言葉だけを返して、伶那たちが乗るジープと自衛隊の車列は遠ざかってゆく。圭吾は残った荷物を持ち上げながら大悟に呟いた。

 

「アイツも大変だな」

 

圭吾の言葉を、大悟は聞いていなかった。伶那たちが向かった先とは違う、繁華街からでも見える深い山の方角を見つめながら何も言わずに立ち尽くしていた。

 

《ダイゴ…ダイゴ…》

 

遠くから声が聞こえる。誰かが、遠く、彼方から呼ぶ声が。

 

「大悟?」

 

立ち尽くしている大悟を見る圭吾。彼にはこの声が聞こえていないようだった。

 

「誰かが…呼んでる…」

 

手に持っていた圭吾の荷物を下ろして、大悟はその言葉だけを紡ぐと、置いていたマウンテンバイクにまたがって声が響く方向へとペダルを漕ぎ始めた。

 

「お、おい!大悟!どこに行くんだよ!」

 

圭吾も走り出した大悟を呼び止めるが、走り出したマウンテンバイクは止まることなく、深く続く山側の道を突き進んでゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひどいな…」

 

震源地はすぐ近くだったというのに、揺れはさほど感じなかった地震。

 

高校時代の愛車であるマウンテンバイクを駆って出かけた先で、大悟は予想外の光景を目にする。

 

地割れたアスファルトの道と、崩れた斜面。電柱は斜めに傾き、道路標識とガードレールもひどく歪んでいる。

 

まるで何かが這ったような地震の傷跡が、大吾が向かう先を阻んでいるように思えた。

 

《ダイゴ…ダイゴ…》

 

声が聞こえる。

 

大悟は、走破性に優れたマウンテンバイクで崩れた歩道を走る。

 

ここから反対方向に走れば、遠回りになるが目的の場所へ向かうことはできるが、そんな気分になることができなかった。

 

囁くような声に導かれるまま、荒れた路面を無理やり走りながら、大悟は声が聞こえる先にある場所へと向かう。

 

幼い頃、まだ自分が大人に憧れていた頃に近付きたくて、子供だからと制限も注意もされない秘密基地を作った。

 

圭吾や、伶那——幼なじみたちとの思い出の場所。

 

幸いにも、そこに向かう場所に地震の目立った傷跡は無かった。

 

古い神社の祠。

 

そこに上がってゆく階段の入り口にマウンテンバイクを置いて、大悟は石畳の階段を登ってゆく。

 

登った先は、少しひらけた場所となっており、奥には小さな祠がポツリと建っている。

 

作られてから手入れがされてないそれは、いつも古びた様子をしていて、賽銭箱や鐘も子供の力で引っ張れば壊れてしまうんじゃないかとボロボロだ。大悟は昔のように祠に手を合わせてから、脇にある獣道へと入ってゆく。

 

この街を離れる時。

 

二人の幼なじみと離れ離れになる別れの時に、大悟たちはこの奥にある秘密基地に思い出の代物を集めて埋めていた。

 

場所は今でも、はっきりと覚えている。

 

《ダイゴ…ダイゴ…》

 

囁くような声は形を作り上げて、さらに大悟へと語りかけてくる。

 

鬱蒼とした雑木林を抜けて、小高い丘から見下ろす自然豊かな景色。そこがあまりにも綺麗で、三人でそこに秘密基地を作った。

 

だが、大悟が見た景色には、あの日とは違う〝何か〟が聳えていた。

 

「光の…ピラミッド…?」

 

 

 

 

 



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第一話 光を継ぐ者 ACT.2

 

 

 

「本当にこんな山奥にピラミッドがあるのか?」

 

自衛隊の中で設立された研究機関直轄組織、Global Unlimited Task Squad、通称GUTS。

 

表向きは災害時における原因の調査や、研究機関の指示を受けて現地での視察を行う組織という側面を持ち、裏では東京湾沖合で発掘された「ユザレの予言」から得られる情報を収集する極秘部隊だ。

 

空自のエースパイロットである「柳瀬 伶那〝ヤナセ レナ〟」をはじめ、自衛隊の各分野で優秀な成績を収めている者達が招集されたエキスパート集団であるが、その中で射撃の名手である「新城 哲夫〝シンジョウ テツオ〟」は、山の中を探索する今の任務に不満げな声を上げた。

 

《各班に告ぐ、連絡は密に取れ。何かあったらすぐに報告しろ》

 

そんな新城の不満を聞こえない素振りをして指示を出すのは、陸自で鬼軍曹と恐らる副隊長である「宗方 誠一〝ムナカタ セイイチ〟」だ。彼の指示通り、特殊な測定機器を持って分散した自衛隊の小隊は道なき山道を波状攻撃するように探索していた。

 

後方にある宗方が乗る指揮車には、研究機関から派遣された若きエンジニアである「矢栖 純〝ヤズミ ジュン〟」が、最新鋭の電子タブレットを操りながら、部隊が展開する山中に張り巡らされたデータを解析してゆく。

 

「たしかに、磁場の揺らぎはここが発信源になります。あの遺跡が発掘されてから相次ぐ地震。そして、この磁場の揺らぎ…関係性が無いとは思えません」

 

ユザレの予言の中にある「ティガのピラミッド」。それが事実であるなら、ユザレの予言が発せられた日から感知された磁場の歪みと、モンゴル大陸から日本へと向かってきている〝何か〟との辻褄が会う。

 

もし、そんなものがこの地球上に実在するならば、という話だが。

 

「巨人をすっぽりと覆ってしまうほどのピラミッドが、衛星写真に写らんわけないやろ?」

 

矢栖がいうことを真っ向から否定したのは、向かい側に座る自衛開発部に所属していた「堀井 真澄〝ホリイ マスミ〟」だった。

 

古代遺跡から発せられた予言を信じる研究機関。そんな怪しげな組織に引き抜かれたことに不満を持っていた堀井は、今回も大規模な探索にも否定的な考えを持っていた。

 

「だから我々がこうやって調査に来ているのだ」

 

「お役所仕事の辛いところだな、こりゃあ」

 

通信機越しに聞こえる新城の声に、内心で宗方も同意する。彼もまた、空想ごとには懐疑的な思考の持ち主だ。巨人の遺跡や、それを覆い隠すピラミッド、そして地を揺るがす怪獣…。与太話もここまでくると度し難いものになる。

 

こんな作戦を承認した国家と上層部は一体何を考えているのか。

 

そんな中、通信機が妙な静けさに包まれていた。宗方が全員の反応を確認しようとしたところ、指揮車のモニターに映るとんでもない映像に宗方は自分の目を疑った。

 

「嘘やろ…」

 

堀井や、矢栖。探索に出ていた伶那や、新城の前には、緑深い山にはあまりにも不釣り合いな、黄金のピラミッドが、その姿を見せていたのだ。

 

河原を登るように探索していた伶那のヘッドカメラには、ピラミッドと自身の間にある小高い丘の上から、そのピラミッドを見つめる一人も影が写っていた。

 

「あれは…民間人か!?」

 

宗方が伶那に問いかけるが、伶那にとってその後ろ姿は、見覚えのあるものだった。

 

(大悟…!?)

 

さっき、繁華街で別れたはずの幼なじみが、こんな場所にいるなんて信じられない。だが、伶那の驚きを他所に、ピラミッドを見つめていた人物は、丘を下ってピラミッドに向かって走り出したのだ。

 

「アカン!!柳瀬!!止めろ!!」

 

怒鳴るような堀井の言葉に、伶那は了解と返して山の奥へと入ってゆく人影を追うために走り出す。部隊を指揮する宗方も、各班へ通信を出すが、一時的な通信機にノイズが走る。

 

一体、何が起ころうとしているんだ。戸惑いと驚愕に包まれる中、宗方もすぐにヘルメットを被り、新城や伶那がいる現場へと走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ダイゴ…ダイゴ…》

 

ピラミッドに足を向かわせるたびに、頭の中に響く声は大きくなってゆく。何かに導かれるままに、大悟は黄金色に光る巨大なピラミッドの目の前までやって来ていた。

 

「呼んでいる…誰が…?」

 

「そこの民間人!危険だ!引き返せ!!」

 

後ろから追ってくる自衛官たちに気付く様子もなく、大悟は躊躇いなくピラミッドの中へと足を進めてゆく。

 

その体はピラミッドを通る境で真っ白な光に包まれて行き、自衛官たちが目を凝らすと、そこに大悟の姿はもうなかった。

 

「大悟!!」

 

追ってきた伶那に続いて、新城も到着すると、二人は息を飲んで光のピラミッドを見上げる。てっぺんが見えないほど高くそびえるそれは、何故今まで見つからなかったのか不思議なほど巨大な建造物だった。

 

伶那がピラミッドの壁面に触れると、そこには実体的な存在はなく、まるで霧や霞のようにピラミッドの壁面に手が溶けてゆく。

 

新城も伶那に続いてピラミッドの境目に手を入れると、二人は眩い光のなかへと足を進めていった。

 

「巨人の…石像…」

 

そこにあったのは、三体の巨大な石像だった。

 

目も眩むような真っ白なピラミッドの中で、先に入った大悟は言葉を発することなく頭上を見上げている。頭に響く音はより激しくなり、大悟は苦しむようにその場に膝を落とした。

 

「うぅ…ぐぅ…頭が…!!」

 

苦しみだす大悟を見つけた伶那が、慌ててうずくまる大悟の元へと駆けつける。それを追いながら新城は、ヘルメットに搭載されているカメラを起動して、そびえる巨像の姿を矢栖たちのもとへと送信していた。

 

「——あの予言は…正しかったと言うのか」

 

遅れて到着した宗方も、そびえる巨人の像を見上げた。

 

ピラミッド、そして巨人の像。全てが「ユザレの予言」が言い当てたものだ。これであの予言の言葉にかなりの信憑性があるということだった。

 

「民間人を保護!!」

 

「伶那…?」

 

救護班を要請する伶那にようやく気がついた大悟は、戸惑った様子で介抱してくれる伶那の顔を見上げる。

 

「柳瀬隊員!彼と面識があるなら、早く彼を安全なところへ——」

 

宗方が伶那に指示を出そうとした瞬間、大悟たちがいるピラミッドの中は壮絶な地響きと揺れに襲われた。大悟を支えていた伶那も、大吾と共にピラミッドの内部で転倒してしまう。

 

「なんや!?」

 

堀井や矢栖がいる自衛隊の指揮車も激しく揺れており、壁際に設置されている機器や小物が車内に落下し、二人も座っている席から投げ出されそうな衝撃に襲われている。

 

「全員、この場から退避!!急げ!!」

 

宗方の指示通り、大悟を連れた伶那や新城、自衛隊の隊員たちも黄金のピラミッドから急いで退避する。

 

ピラミッドの神々たる光の膜を抜け出し、身を隠せる雑木林へと逃げ込んだ全員が見たのは、地中から這い出すように現れた———巨大生物の姿だった。

 

 

 

 



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第一話 光を継ぐ者 ACT.3

 

 

地を割るように現れたのは、全長60メートルを超える大型の恐竜…いや、それを凌駕する骨格を持った生命体だ。

 

土煙を体から溢れさせながら、山の麓から姿を現したその怪獣は、文字通り大地を揺るがしながら光のピラミッドに向かって歩んでくる。

 

「あれは…なんだ…!?」

 

頭痛に苛まれる大悟は、自衛隊と共に雑木林の中から歩んでくる巨大生命体を見つめながら驚愕する。非現実的な光景すぎる。地響きは現実的であり、揺れもその巨大な体躯を動かすたびに発せられ、大悟や自衛隊の隊員たちのバランス感覚を脅かすほどの脅威を持っていた。

 

「大地を揺るがす怪獣、ゴルザ…。モンゴルで捕捉された巨大生命体…やはり、あれが一連の地震の正体だったのか…!!」

 

ユザレの予言は正しかったと、今になって宗方をはじめとした調査隊の誰もが確信する。

 

地球に起こる大異変。

 

その兆しと現れると予測されたのが、「大地を揺るがす怪獣ゴルザ」と、「空を切り裂く怪獣メルバ」だ。

 

モンゴルで突如として姿を現した謎の巨大な影。

 

それを怪獣だとか、巨大な生命体だと断定するにはあまりにも情報が不足していた上に、国家や軍事組織がそれを認めるには、膨大な時間を要することはわかりきっていた。

 

宗方や伶那たちも、あんな存在がこの世界に実在するなんて心の中では思いもしなかったし、ティガのピラミッドなども眉唾物だと唾棄する者も少なくなかった。

 

 

だが、現実は自分たちの前に現れた。

 

確かに、怪獣ゴルザは実在する。

 

 

そして、そこから始まる地球の大異変を止めるために、ティガの力が必要だということも。

 

「うっ…うう…うわああぁあああ!!」

 

ゴルザを見つめていた隊員たちの中にいた大悟は、まるで発狂したかのように叫び声を上げて、ゴルザから遠ざかるように雑木林の中へと駆け出してゆく。

 

恐怖に駆られたのか、自身の受け止めれる許容量を超えたのか、その行動に目を剥いた伶那が反射的に駆け出した大悟を追いかける。

 

「大悟!!」

 

「我々も撤退するぞ!!」

 

駆け出した伶那に続くように、宗方たちもゴルザや光のピラミッドから離れる方向へと進路を定める。そんな中、揺れから立ち直った指揮車から堀井が宗方へ通信を投げた。

 

「せやけど、ピラミッドはどないするんや!?」

 

「今は他のことより自身の命だ!急げ!!」

 

ティガ…あの石像を蘇らせない限り、地球に起こる大異変に太刀打ちはできない。しかし、あんなものを蘇らせる術を自分たちは持ち合わせていないし、その準備をするにも時間が掛かりすぎる。

 

振り返ると、ピラミッドにたどり着いたゴルザが、体内からエネルギーを放出し、巨人を覆い隠していたピラミッドの破壊を始めていた。

 

「まさか…あの巨大生命体は、巨人の像を破壊するのが目的なのか!?」

 

神秘のベールを剥がされた三体の巨像に狙いを定めたゴルザは、手始めにその一体の首を剛腕から発する一撃の元、粉砕する。

 

誰もがその悲惨な光景を目の当たりにするだけで、宗方たちに対抗する手段は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大悟!待ちなさない!!」

 

雑木林を抜けてかけてゆく大悟に追いついた伶那が、錯乱している大悟の肩を押さえて何とか落ち着かせようとしていた。

 

「れ…伶那」

 

意識はあるようだった大悟は青ざめた顔つきで伶那を見つめている。大悟の体は、服越しでも分かるほど熱く、震えているのがわかった。

 

「落ち着いて、大悟!!」

 

「俺は…ぐ…うぅう…!!」

 

激しく痛む頭を抑えて、大悟はその場にうずくまる。呼吸ができない。体が燃えるように熱い。頭に響く何かが、大悟の意識を蝕んでいった。

 

「大悟!!しっかりして!!どうしたの!?頭が痛むの!?」

 

伶那が言葉をかけるが、大悟の耳には届かなかった。激しい苦痛の中で、大悟は目の前で起こる惨劇を見つめる。石像の首を吹き飛ばしたゴルザが、二体目の巨像に狙いを定めた。巨大な尻尾を叩きつけて足を砕き、倒れた巨像の頭を踏みにじる。

 

《ダイゴ…ダイゴ…》

 

頭が痛む。

 

言葉が響く。

 

遠く、遥か彼方からの呼び声。

 

どこかで聞いたことがあるような声で、それは語りかけてくる。

 

戦え、と。

 

何かがこみ上げ、訴えてくるように、その言葉は大悟の思考を走った。

 

「やめろ…」

 

巨像を蹂躙するゴルザが、最後の巨像へ視線を向ける。唸り声を上げて、その巨像へ手をかけようとする。

 

「やめろ」

 

頭を蝕んでいた痛みはない。響く声も心の中へと入り込んでくる。苦痛に苛まれていた体は羽ような軽さがあった。

 

大悟は立ち上がる。

 

ゴルザが手にかけた巨像を倒している。

 

その痛みが自分に入ってくるように、大悟は手をぐっと握りしめる。

 

戦え。

 

戦え、戦え、戦え。

 

ダイゴ、貴方は——。

 

「やめろおおおぉおぉ!!」

 

「大悟!!危険よ!!戻って!!」

 

雄叫びを上げて走り出した大悟。

 

後ろから伶那が悲鳴のような声を上げた。

 

巨像を破壊しようとしていたゴルザが、雄叫びを上げて走る大悟に気づくと、その視線を向けて頭部のトサカにエネルギーを収束させてゆき——放った。

 

「大悟ーー!!」

 

ゴルザから発せられた高純度の破壊エネルギーは、走っていた大悟の体を包み込み、その無慈悲な力で彼の命を奪おうとした。

 

爆発で舞い上がった爆炎と、土煙の中で、大悟は光となり、その一閃は倒れている巨像の胸部へと煌めいて、一体と化した。

 

伶那が大悟の死に落胆して、その場に崩れ落ちる中、邪魔者を消したゴルザは最後の巨像を壊そうと振り返った時。

 

光が溢れた。

 

ゴルザが思わず数歩後ずさると、そこには石像ではなく、光を取り戻した巨人が立ち上がっていた。

 

大悟は光となって巨人の体内へ溢れ、巨人は遥かなる眠りから覚め、大地へと立ちがる。

 

 

 

その名は——ウルトラマンティガ。

 

 

 

 

 

 

 



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第一話 光を継ぐ者 ACT.4

 

 

光の巨人、立つ。

 

新たなる巨人の出現に、その足元にいる自衛官たちの表情は驚愕に染め上がった。

 

「ティガの…巨人」

 

「巨人が蘇ったのか…?でも、どうやって?」

 

宗方と新城が、蘇ったティガを前にするが、武装すら持たない彼らには何かをする術はなく、破壊のかぎりを尽くしていたゴルザとティガが睨み合っている間に、巨大な存在同士の戦いに巻き込まれないように退避してゆく。

 

ティガもそれを知るかのように、逃げる自衛隊の部隊を背にしてゴルザとの戦闘を開始した。

 

鈍く重い音が辺りにこだまし、ティガはその巨大な体躯を利用した回し蹴りや拳を用いた格闘戦をゴルザに仕掛け、進撃していたゴルザを大きく後退させてゆく。

 

だが、力ではゴルザに分があった。ティガの体当たりを難なく受け止めたゴルザは、そのままティガを振りまして山の麓へと投げ飛ばす。

 

吹き飛ばされた巨人の地響きは、鍛え抜かれた自衛隊の隊員たちを揺るがすほどの衝撃を辺りにもたらした。

 

このままではダメだ…。

 

パワーではなす術がないティガは、腰を上げるとその場で額のクリスタルの前へ腕をクロスさせた。

 

光が身体中を駆け巡り、肉体はティガの望む力強いパワーを…。

 

 

 

 

その瞬間、ティガの肉体に稲妻が走り、体に駆け巡っていた光が空へと飛散していく。

 

 

 

 

膝から崩れ落ちたティガは、震える手を見た。手のひらからも抜けていく光のエネルギーを止めることができず、赤と紫のマーブルカラーが銀色へと変異していく。

 

なんだ…これは…力が抜けてゆく…。

 

色味を失い、ついに銀色の肉体となったティガの胸には、赤く点滅するカラータイマーがあった。

 

肉体の負荷に戸惑いを隠せないティガへ目をつけたゴルザは、さらに攻勢を強めてティガを圧倒してゆく。

 

翻すような打撃を受けて、吹き飛ばされ、窮地に立たされたティガは、最後の力を振り絞り、両腕を腰の位置まで引き前方で交差させる。

 

迫るゴルザの前で、左右に大きく広げてエネルギーを集約し、広げた腕をL字型に組んだ瞬間、その腕から眩い超高熱光線「ゼペリオン光線」が撃ち放たれた。

 

光はゴルザを捉えたが、不完全な状態から放ったゼペリオン光線は威力が足りず、ゴルザを倒すことは叶わない。

 

怯んだゴルザは、大きく反転し、ティガから逃げるように地中へと穴を掘って行く。

 

すかさず立ち上がり、ゴルザを追おうとするティガだが、自身のエネルギーを極限まで消費していた為、その場に膝を落としてしまい、ゴルザの逃亡を阻止することはできなかった。

 

カラータイマーの点滅音が響く中、ティガの巨人は淡い光の粒子となって放出してゆき、その姿は霞のように消え去って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「柳瀬隊員!!」

 

巨人が消え去ったあと、宗方たちと合流することができた伶那は、混乱が残る中でまるで何も無かったかのように静寂に包まれる森林と山々を見つめる。

 

「無事だったか、民間人は?」

 

宗方の言葉に、伶那は力弱く首を横に振った。

 

「逃げた巨大生命体の攻撃を受けて…」

 

あのエネルギーの中、爆炎に包まれた大悟の姿は確認できず、吹き飛ばされた場所には遺体すら残っていなかった。焼け跡を探し歩く中でわかってしまう。あれほどの爆発が大悟を襲った以上、生存は絶望的な状況だ。

 

落胆する伶那を新城が心配する中、宗方へ本部から通信が入った。「了解した」と通信を切った宗方は、悲痛な面持ちで各隊員に言葉を放つ。

 

「全員よく聞け、ここにいる者たちに〝上〟から戒厳令が出た。この件を内部にも外部にも出すのは禁止だ」

 

「そんな!民間人の捜索は…!!」

 

「これは政府の決定だ。消えた二体の巨大生命体の存在を揉み消したいらしい。都合よく、海外で出てくれれば、日本政府として知らぬ存ぜぬを貫き通せるのだろうな」

 

撤収するぞ、そう言って宗方は指揮者の方へと引き返して行く。隊員たちも不服そうな顔をしながらも、先導する宗方に続いた。

 

伶那は大悟を最後に見た場所へと振り返る。あんな非現実的なことで、昔から知っていた幼なじみを失うことになるなんて、ここに来るまで伶那は想像すらしていなかった。

 

「大悟…ごめん…」

 

小さく伶那は呟くと、離れて行く自衛隊の隊員たちに続くように歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《このカプセルが起動したということは、地球に大異変が相次いで起きます。この兆しで、大地を揺るがす怪獣「ゴルザ」と、空を切り裂く怪獣「メルバ」が復活します》

 

彼女は語りかける。

 

これから世界に起こる大異変の一幕を。

 

暗い部屋の中で、東京湾沖合で発掘されたオーパーツが淡い白色の光を放って輝いている。現れるユザレは、言葉を紡いだ。

 

《大異変から地球を守れるのは、ティガの巨人だけです。かつて地球上の守神だった巨人は、戦いに用いた身体をティガのピラミッドに隠すと、本来の姿である光となって星雲へ帰ってゆきました》

 

現れた光の巨人、ティガ。

 

ゴルザと呼ばれる巨大生命体を跳ね除けたそれは、どこかへ光となって消え去り、その行方は分からずじまいだ。

 

《我が末裔たちよ》

 

ノイズが入り始めるユザレの言葉。だが、彼女を含む古代人の末裔たちには、そのノイズは聞こえない。

 

《巨人を蘇らせる方法はただ一つ——ダイゴが光となることです》

 

その言葉を終えて、カプセルは光をなくして再び沈黙する。暗い部屋の中でユザレの言葉を聞いていた人物は、ゴルザが現れた近域の民間人の情報を見つめながらそっと呟いた、

 

「ダイゴが光、ね」

 

暗闇にあるその表情には、笑みが浮かび上がっているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目が覚めたか?」

 

起き上がった大悟は、まるで状況が把握できなかった。ベッドの上で上体を起こした大悟を見つめていたのは、圭吾だった。

 

わずかに響く頭痛を、頭を振って追いやりながら、大悟は自分を見下ろす圭吾に問いかける。

 

「圭吾…俺は一体…」

 

「驚いたぞ?急に何処かに向かって走り出したかと思えば、すぐそこで倒れてたんだからな」

 

彼がいうには、自分が飛び出した後に山道で倒れていたらしい。乗り込んでいたマウンテンバイクは行方不明になっているが、そのままにしておくこともできずに、いったん圭吾の家へと運び込んでいたのだ。

 

「凄い地震だったからな。おおかた、落ちてきた何かに頭でもぶつけたんだろ」

 

何か飲み物でも持ってくると言って、圭吾は部屋を出て行く。大悟はしばらく窓から夕暮れに包まれる景色を眺めていた。

 

あの時。

 

あの巨大生命体が現れたビジョン。

 

そして、自分が光となって巨人として戦ったこと。

 

夢にしてはあまりにもリアルであり、今でもはっきりと思い出すことができる。

 

あれはなんだったのだろうか。本当にただの夢だったのだろうか。大悟がそんな思いに更けていると身につけていたズボンの後ろポケットに妙な違和感を覚えた。

 

そこへ手をやり、違和感の正体を自身の眼前へと持ってくる。

 

「これは…」

 

手の中に治っていたのは、水晶や大理石のような意匠が見られる物だった。

 

普段は先端部分には、石像の巨人の胸部プロテクターと酷似したパーツがあり、その中では何かが光を輝かせていた。

 

「ダイゴが…光になる…」

 

夢の中、大悟が光の巨人となった直前に聞いた言葉を思い返して呟く。

 

手にした〝スパークレンス〟。

 

ただの青年だった大悟を待ち受ける運命を、その時はまだ誰も知らなかった。

 

 

 

 

 



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第二話 ウルトラマン Act.1

世界保健機関「WHO」は、近年増加する地球の異常気象、その裏側にある不可解な地殻変動や、生態系を調査するため、直轄組織の中で「TPC」設立した。

 

正式名称は「Terrestrial Peaceable Consortium」であり、世界中の人々がよりよい暮らしを営めるように地球環境の調査、整備をすると共に、最新科学を駆使した様々な研究開発が行われている。

 

「ご覧のように、光の巨人…ティガと呼称する巨人は、戦闘の途中で著しいパワーダウンを起こしました」

 

TPC日本支部の施設内で、白衣を着て説明するのは、TPC局長である「安藤 棗(アンドウ・ナツメ)」は、モニターに映るティガの映像をわかりやすいデータシートともに解説していた。

 

「観測班からのデータでもわかるように蘇ったばかりのティガの肉体は、赤と紫のマーブルカラーでしたが、額付近で腕を交差させた瞬間、肉体が銀色へと変化しています」

 

GUTSが遭遇した巨大生命体「ゴルザ」と、光の巨人「ティガ」の映像は、同行していた指揮者からも観測しており、その戦いの様子はモニタリングされていた。

 

安藤の言うように、モニターに映るティガは額付近で腕をクロスさせた途端に体から稲妻が走り、その場に膝を付いている。

 

「戦闘も見て分かるように、ティガの格闘能力が低下し、モンゴルで観測された巨大生物を逃してまう結果に…」

 

『説明はもう良い』

 

安藤の声を遮ったのは、その映像を見つめていたスーツ姿の政治家だった。

 

『安藤くん。我々が知りたいのは、あの巨人が人類の味方なのか、巨大生物はどこから、なぜ、現れたのかだ』

 

TPC日本支部と映像通信で繋がっている政治家たちの関心はそこに尽きる。怪獣の能力や、巨人の肉体の変化など二の次で、それらの脅威がいつ、どこで現れるのかを知りたがっている。

 

安藤は、いつも変わらない視点しか持たない政治家たちの相手にうんざりしていたが、この施設の運用資金を出している出所も、政治家だ。張り付いた笑みを浮かべたまま、今度はゴルザの進行ルートと、反応が消えたポイントマップを取り出す。

 

『ユザレの予言だとか、そんなオカルト染みた話ではなく、もっと具体性を持った回答をだね———』

 

明らかに小馬鹿な言い草をする政治家たちの質問は、結果的に徒労に終わるのだった。反応の消えたゴルザの居場所は、未だにわかっていない。そして光の巨人であるティガも…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼らは信じませんよ。ただでさえ、モンゴルで発見されたゴルザの詳細すら隠蔽しようとしているのですから」

 

フォーマルなレディーススーツと白衣と言った格好をしている安藤のあとを、TPC直轄部隊であるGUTSの指揮官、「入麻 恵(イルマ・メグミ)」は政治家たちの意向に従う安藤の言葉に反論していた。

 

東北地方で地中へと姿を消したゴルザは、日本海側の海底まで潜り続け、そこから消息を経っている。再び現れる可能性を考慮すれば、日本海側の防衛網を見直すべきだと、入麻は自衛隊やTPCに打診を続けていたのだ。

 

「政治家たちは、これで一連の騒動は収まったと思っているのさ」

 

安藤も、入麻の言っていることに理解は示していたが、その費用を出すのも政治家の仕事だ。彼らがゴルザやティガが消えたことで騒動が収まったと考えているのなら、入麻の言う案が採用されないことも必然だろう。

 

「どこからともなく現れたゴルザと、光の巨人。それだけでも、永田町の政治家たちをひっくり返すには充分な情報だ。なんとも貧弱な政治家たちだよ」

 

そう言いながら歩みを緩めない安藤に、入麻は立ち止まって湧いてきた疑問を彼女にぶつける。

 

「所長は、またゴルザが現れると…?」

 

その言葉に、安藤は足を止めると、白衣を閃かせながら入麻の方へと振り返った。

 

「いや、それ以上の脅威だ。ゴルザは始まりにすぎない…」

 

その言葉は、現実のものとなる。TPC本部から通信が入ったのは、それから僅か数分後であった。

 

 

 

 

 

 

 

都内某所。

 

日本の鉄鋼資材の管理を担う企業、ゼネラル・ジャパンの社員食堂では、連日ともに同じニュースが繰り返されていた。

 

《先日発生した、関東から東北方面へと断続的に続いた地震についてですが、被害は大きいものの余震などの心配はなく、事態は収束しています。ですが、専門家の意見では異常的な震源の点在により、地球の地殻が大きく異常を起こしているなどという意見もあり——》

 

「まったく、夏だというのに急に寒くなったり、異常なくらい暑くなったり、そして地震か。どうなってんだろうな、地球ってのは」

 

いい加減、不規則な事件の内容に飽きてきた大悟の先輩は、社員食堂のうどんを啜りながら茫然とニュースを見る大悟に語りかける。

 

大悟は頼んだランチを手につけずにニュースを見つめており、先輩の言葉に気づいたのは数秒経って怪訝そうに見つめる先輩の視線を感じてからだった。

 

「大悟。お前、こないだの休みに東北に行ってたんだろ?大丈夫だったのか?」

 

「え、ああ、はい。友人が被害を受けてましたが、大事にはなってなくて」

 

「なら、よかったな。お前も無事で」

 

そう言いながら揚げを食べる先輩。入社当時から大悟の教育と仕事を見ている人物で、だらしないところはあるが、よく大悟のことを見てくれている面倒見のいい先輩だった。

 

上京してから、優しく接してくれた初めての人であり、大悟は内ポケットにある違和感を感じ取りながら、東北に帰った時の出来事を言うか言うまいか、思い悩んでいた。

 

《たった今入ったニュースです!沖縄県西南諸島の久良々島で巨大生物…が出現したようです!》

 

そんなとき、緊急速報の音ともに、ワイドショーだった画面がリポーターのものへと切り替わった。

 

ヘリコプターから撮影しているような映像には、山々を四つん這いで這いながら移動する巨大な生き物が見える。

 

《こちら現地です!巨大生物は久良々島の鉱山地区から出現した模様です!関係者によりますと、鉱山内部には多数の作業員が取り残されているようで、巨大生物は市街地へと向かってゆっくりと…》

 

バタバタと騒音を立て近づくヘリに気がついたのか、不運にもその巨大生物はリポートするヘリへ視線を向ける。頭部から生えるツノから青白い光が立ち上がった。

 

《ああ、こちらを見てるぞ!!なんだ…あの光は…!!》

 

それが映像の最後の言葉だった。青白い光の濁流にのまれた映像は即座にシャットアウトさせる。砂嵐となった映像から、別の静止画像に切り替わるまで数秒間。その映像だけでも、現れた脅威の大きさを測るには充分だった。

 

「巨大生物…って…おい、手の込んだ嘘にしては…」

 

突然のニュースに、テレビを見つめていた先輩は怪訝な表情をするが、大悟の顔つきはひどく青ざめていた。胸に収まる〝光〟が熱を帯びてゆく。

 

「地球に…大異変が起こる…」

 

昨夜の夢の中で聞こえた言葉がリフレインすると、大悟の頭は痛みに苛まれた。あの光のピラミッドの中で感じた痛みと同じだ。

 

「だ、大悟!大丈夫か!?」

 

「すいません、先輩…すこし、席を外します」

 

そう言って大悟は幽鬼のように立ち上がった。後ろで声をかけてくる先輩の声すら反応せずに、壁伝いに通路を歩む。

 

ガンガンと頭で鳴り響く。

 

戦え。戦え。

 

ガンガンと鳴り響く。

 

貴方は光の戦士だ。戦士たる役目を果たせ。

 

鳴り響く。鳴り響く。鳴り響く。

 

ティガ。貴方はティガの力を得た——。

 

祈りのような呪いの言葉に引きずられて、大悟は屋外へと足を向ける。

 

見えないはずのに。ニュースでしか見ていないのに。モニターの向こう側にいるはずの正体不明の巨大生物が、目の前で街を破壊しているように見えた。

 

大悟は、いつの間にか身につけていた大理石で出来た代物を内ポケットから取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダイゴ」

 

あの時、夢の中で見た真っ白な髪の毛をした女性が、穏やかな声で大悟に語りかけてくる。

 

「あんたは…誰だ」

 

「私はユザレ。貴方にとっては遠い祖先となる者」

 

彼女は睨みつけるような声で返した大悟を気にもしないで、あるビジョンを映し出した。そこにはゴルザによって破壊される光のピラミッドと、二体の巨像の姿がある。

 

雄叫びを上げた大悟が光となり、最後に残ったティガの石像へと飛び込むと、巨人は色を取り戻してゴルザと対峙した。

 

「力を蘇らせたのですね、ダイゴ。またの名をウルトラマンティガ」

 

「ティガ…あの巨人は、ウルトラマンティガだと言うのか?」

 

「貴方自身がですよ」

 

ユザレの言葉に、無意識に怒りを覚えた。何を勝手なことを言っている。あれだけ頭に鳴り響かせた声が、一体何を言っている…!!

 

「俺は…俺はあんな巨人じゃない!俺は俺だ!」

 

「貴方の持つスパークレンスが、ティガであるという何よりの証拠なのです」

 

ユザレが指差すと、胸の中で熱い光を感じた。大悟がそれを取り出すと、あの日から手にしたスパークレンスがその手に輝いていた。

 

「こんなもの!!」

 

大悟は怒りのまま、スパークレンスを光しかない世界へと放り投げる。ユザレは何も言わないまま、憤る大悟を静かに見つめていた。しばらく息を荒げてから、大悟は小さな声でユザレへ問いかける。

 

「なぜ、なぜ俺なんだ…俺には、なんの特別な力もない。ただの一般人でしかない俺が、なんで!!」

 

「それは貴方が私と同じ、超古代人の末裔だからです」

 

「なら、あんた達がすればいいだろう!!」

 

「私たちはすでに滅んでいる存在。地球を救えるのは、貴方しかいない」

 

ユザレたちは古代文明人。彼女が大悟の意識に入り込めるのも、東京湾沖合で発掘されたタイムカプセルが起動したおかげだ。ユザレの言葉をゆっくりと飲み込みながら、大悟は最後の疑問をユザレへ投げかける。

 

「他の巨人達は…なぜ、あれほどの力を持ちながら、巨人達は人類を守るために戦わないんだ!!」

 

その言葉に、ユザレはゆっくりと目を閉じてから言葉を紡いだ。

 

「彼らは人の選択にまで干渉はしません。なぜなら、彼らは光だから。けれど、ダイゴは違う」

 

 

 

——貴方は人であり、光だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度も捨てたはずのに、スパークレンスは必ず自分の元へと戻ってきた。

 

いったい何だって言うんだ。

 

何をどうしろって言うんだ。

 

俺は、ただの人間だ。

 

主人公でも、ましてやヒーローでもない。

 

毎日同じ時間に起きて、電車に揺られ、仕事をして、何もすることなく夜に眠り、休日を無碍に過ごす、何の取り柄もない男だと言うのに。

 

なぜ、こんなにも鳴り響く。

 

 

 

うるさい。

 

うるさい!うるさい!!うるさい!!!

 

 

 

 

「そんなに戦えと言うなら…戦ってやるよ…!!だから…ガンガンと鳴り響くな!!」

 

大悟は空へ吐き捨てて、片腕を捧げる。天に掲げた〝スパークレンス〟から光が昇る。肉体を光に変えた大悟は、ティガとなって大地に立った。

 

その肉体は、まだ彼が光を信じられていない故に、未熟。

 

変身能力すら失った未完成。

 

その名は、ティガ・オルタナティブ。

 

鳴り響く音に引きずられながら、彼は光となって飛び立つ。

 

向かう先は、沖縄諸島だ。

 

 

 

 

 

 



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第二話 ウルトラマン Act.2

 

 

「各機、応答せよ」

 

通信を受けたのは、横田の自衛隊基地から飛び立った三機の爆装したF-2戦闘機だ。

 

「ホーネット1、準備よし」

 

「ホーネット2、準備よし」

 

「ホーネット3、準備よし」

 

日本政府とTPCからの要望で選出された伶那や新城を含めたパイロットたちは、司令として任についた入麻の言葉に返答する。

 

緊急スクランブルとはいえ同伴してくれた横田のパイロットも、入麻の指揮下に入り、沖縄諸島に現れた巨大生物の対応へと回されることになった。

 

「入麻より各機へ。我々の目的は巨大生物を市街地に入れないことと、生物の調査よ。火器使用制限は、第二級まで。迂闊な行動は避けなさい」

 

「了解」

 

モンゴルで確認されたゴルザの脅威と、謎に包まれたままのティガの巨人が去ったばかりだというのに。ゴルザやティガの出現に呼応…いや、喚起するように、地球各地で異常気象や、不明確な地震が相次ぎ、そして沖縄諸島で巨大生物が現れた。

 

横田から沖縄まで飛ぶには燃料が足りない。かと言って、九州地区の航空自衛隊に巨大生物の処理と言っても対応が出来ないことも実情だ。

 

それに、ゴルザの存在は政府から徹底した情報規制が入っていた為、沖縄に巨大生物が現れたなど、現地の人々にとっては寝耳に水と言えた。

 

九州地区の基地で補給を受けた後、現地の避難指示や、救援活動を行う為、陸自と空自の共同戦線が設けられることになる。

 

伶那や、新城たちの任務は、共同戦線が構築されるまでの時間稼ぎと、巨大生物の生態系の調査だ。

 

「巨大生物確認…大きい…!!」

 

陸自の輸送ヘリ隊と別れた伶那たちは、岩山の合間を這うように進む巨大生物を発見した。あたりには、現地のメディアヘリらしき残骸が山中に墜落しているのが見える。

 

すでに、巨大生物による被害は出ていた。

 

「あんな図体してるくせに、自重で潰れてないところを見ると、大きさから概算して外皮はごっつい硬いで!!」

 

「政府からは第二級火器使用要請が出てるわ。まずはその巨体の外殻を判別しましょう」

 

司令室から指示を出す入麻の言葉に答えて、三機のF-2は、各機それぞれが旋回し、猛進する巨大な体をHADに捉えた。

 

「よし、性能確認!!20mmバルカン砲、射撃準備!ターゲットインサイド!」

 

「てぇーーっ!!」

 

新城の言葉と共に、三機から搭載されている20mmのバルカン砲が放たれる。その閃光は確かに巨大生物の巨体を捉えた。だが…。

 

「くっそぉー!野郎、傷一つ付いてねぇぞ!!」

 

バルカンを三方向から受けているというのに、巨大生物は何食わぬ顔で巨体を進め続けている。20mm程度では豆鉄砲にもならないほどの硬さを巨大生物は有しているのだ。

 

「爆装したF-2やったら対艦ミサイルしか!!入麻隊長!!」

 

「巨大生物、市街地まで残り10キロ!!」

 

堀井と矢栖の報告を受けて、入麻はすぐさま決断を下した。

 

「第一級火器使用制限を解除します!!責任は私が取ります!!巨大生物を市街地に入れることはなりません!!」

 

「それでこそ、私たちの隊長ね!!」

 

入麻の決断に笑みを浮かべた伶那は、機体を翻すと再び巨大生物への攻撃体制へと入った。新城や他のパイロットも伶那の動きに続く。

 

「対艦ミサイル、用意!!目標、巨大生物!!」

 

「てぇーー!!」

 

充分な距離から放たれた対艦ミサイルは、巨大生物の背部を捉え、火の玉となって弾けた。新城たちも続けてミサイルを放つと、巨大生物は苦しげな声を滾らせて、その場に留まる。

 

「着弾確認!!出血してる模様!!」

 

「よっしゃあ!!外郭は割れたで!!」

 

モニタリングしていた宗方の言葉を聞き、堀井が手を派手に叩いて喜びの声を上げる。実兵器が効かない相手ではないことは分かった。ならば、対策を打つことはできる。

 

再び攻撃態勢へと入ろうとする戦闘機を、巨大生物はゆっくりと見上げながら、口元に青い光を灯らせてゆく。

 

「な、なんだ…あの光…」

 

一人のパイロットが巨大生物の口から溢れる青い光に目を向けた瞬間、巨大生物は鋭く戦闘機を捉えて咆哮を放つ。

 

茫然と青い光を見つめていたパイロットは反応する間も無く、放たれた青い放流に飲み込まれた。

 

「ホーネット2!ロスト!?」

 

瞬時に、攻撃を受けた戦闘機がレーダー上から消え去った。

 

青い光に飲み込まれた戦闘機は、その最新鋭の能力そのものを固い岩へと変えられ、共に果てたパイロットと共に、切り揉みながら地面へと落下。爆炎を上げることなく砕け散った。

 

「なんてこった…!!撃墜なんかじゃねぇ…ホーネット2は石に変えられたぞ!!」

 

「なんですって!?」

 

一部始終を見ていた新城が青ざめた顔で入麻へ報告する。青い光を受けた僚機はなす術なく石へと変えられてしまった。巨大生物は、再び口に青い光を滾らせて空を旋回する新城のF-2へ視線を向けた。

 

「新城!!回避だ!!」

 

「こなくそぉ!!」

 

急降下する形で回避姿勢をとったおかげか、放たれた青い光は新城の機体をわずかにそれて空へと打ち上がってゆく。伶那も攻撃しようと近づくが、青い光を迸らせる巨大生物相手に手こずるばかりだ。

 

「巨大生物、市街地まで残り5キロ!!」

 

その間も巨大生物の進行は続いている。あんな怪光線を放つ存在が市街地に到達すれば、現地の民間人にどれほどの被害が出るか。

 

「あの光を受けたら…カチンコチンにされちゃう…!!」

 

伶那は歯を食いしばって機体を低空へと落とした。岩山の肌をスレスレで飛び、巨大生物が向けない背後へと回る。

 

「柳瀬!何をするつもりだ!」

 

「割れた外殻にもう一発!!」

 

「柳瀬!!危険だ!!柳瀬!!」

 

最初に当てた対艦ミサイルの傷ははっきりと残っている。出血が目立つ場所目掛けて伶那は意識を鋭く走らせる。

 

巨大生物は、伶那の接近に感づいており、四つ這いになる尻尾を奮って伶那のF-2を叩き落とそうとした。

 

「——今!!」

 

その一撃を伶那は巧みな操縦技術で避けつつ、生まれた隙へ集中力を注ぎ込み、翼に備わる対艦ミサイルを放った。ミサイルは驚くほど正確に巨大生物の傷口へと飛翔し、ついに到達した。

 

「やったぁ!!」

 

巨大な爆発と飛散する巨大生物の血液。巨大生物は苦しげな呻き声を轟かせたのち、這っていた巨体を大地へと落としたのだ。

 

「巨大生物、停止を確認!!爆発の様子から致命傷を負った模様!!」

 

「やったな!!ホーネット1!!」

 

「伊達にエースじゃありませんよ!」

 

矢栖の報告を受けて、入麻やモニタリングをしていた宗方たちはホッと胸を撫で下ろした。新城も上昇した伶那の機体へ近づき、称賛の声をかける。

 

「全く…無茶な飛び方をする。全機、帰りの燃料もある。周辺警戒を終えたら帰還を——」

 

「隊長!!地底より、高エネルギー反応!!これは!!」

 

宗方が帰還命令を通達しようとした瞬間、歓喜にあふれていた司令室の中で矢栖が叫んだ。入麻が通信を入れる間も無く、伶那たちの眼下では倒れた巨大生物の近くからもう一つの影が、山を切り崩して現れたのだ。

 

「角が二本の…怪獣!?」

 

「柳瀬!!」

 

ハッと伶那が気がつくと、現れたもう一匹の巨大生物が、伶那の機体へ青い光を放ったのだ。回避行動をとるが、光は伶那の機体の主翼を捉え、その一部を固い岩へと変えたのだ。

 

「翼が…!!キャアーーっ!!」

 

片側の翼の機能を奪われた伶那の機体が姿勢を崩して降下していく。

 

「柳瀬!!脱出しろ!!柳瀬!!」

 

「ダメ…電子機器が…」

 

脱出レバーを引くが、青い光によって電子回路が完全に破壊されている。凄まじい負荷がかかる中で、伶那はギュッと目を瞑った。瞼によってできた暗闇の中で、行方不明となった大悟の顔が浮かぶ。

 

(大悟…!!)

 

心の中で幼なじみの名を叫んだと同時、伶那を襲っていた重力の嵐が止まった。落下していく浮遊間もなくなり、機体は驚くほど静寂に包まれていた。

 

伶那は閉じていた目を開いて、バブルキャノピーから外を見上げる。

 

「光…?」

 

そこには眩い人の形をした光があった。ゆっくりと降下してゆくそれは、伶那の戦闘機を安全な場所へと下ろして、荒れ狂う巨大生物の前へと降り立つ。

 

光が収まると、そこに立っていたのは東北地方で遭遇した銀色の巨人だった。

 

「ティガの…巨人…」

 

「現れたのか…」

 

入麻や宗方たちが、信じられないものを見るようにモニターは視線が釘付けになる。ティガの巨人は、ゆっくりと腕を構えて、暴れている巨大生物…ガグマへと立ち向かった。

 

 

 

 

 



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第二話 ウルトラマン Act.3

 

光から銀色の色へと変わったティガは、伶那の戦闘機からゆっくりと離れてゆき、四つん這いで唸り声を上げるガグマとの戦いに備える。

 

市街地までもう距離はない。ティガは背に街を背負ってガグマへと走り出した。

 

鈍い打撃音が辺りに響く。角が二本あるガグマは、ティガの猛攻を跳ね除けるように体を逸らし、ティガの巨体を投げ飛ばした。

 

「キャアーーっ!!」

 

巨人が倒れた振動で、戦闘機から脱出した伶那の体が想像絶する揺れに襲われる。あたりの岩も激しく揺れ、傾斜になっている部分では大小様々な岩が転がり落ちてきていた。

 

それを見たティガは、パワーで勝るガグマに対抗しようと額で腕をクロスし、パワータイプへの変身を試みる。

 

だが、ティガの体は変化せず、変わりに光の稲妻が体を駆け巡る。オルタナティブタイプであるティガには、本来のパワータイプ、スカイタイプといった変身をする力が発生していないのだ。

 

その隙にガグマが角を突き出した突進をティガへと繰り出し、ティガの体は再び宙を舞うことになる。

 

ダメだ。このままでは…!!

 

地面に叩きつけられてから、ティガの起こした行動は早かった。膝をついて体を起こすと、腕を脇へ構えてエネルギーを収束させてゆく。

 

構えた腕には螺旋状の風が巻き上がり、一閃と共に放たれたそれは、光の刃と風を織り混ぜてガグマの頭部にある角を吹き飛ばした。

 

「———っ!!!」

 

喉の器官を振るわせて苦しみと痛みの咆哮を上げるガグマ。青白い燐光を発すると、角を破壊された怒りからかガグマが閃光をティガへと撃ち放つ。

 

「巨人の体が…!!」

 

光が当たったティガの脚部が、岩へと変貌する。じわじわと下半身が岩へと変えられてゆく中、ティガは冷静さを失わずに胸の前で腕を交差させた。

 

「全機!巨人と巨大生物から離れろ!!今すぐにだ!!」

 

宗方の叫び声のような通信が響いた瞬間、紫の光を収束させL字に腕を組んだティガが、必殺の「ゼペリオン光線」をガグマへと放った。

 

ガグマの肉体から迸るような爆発が吹き、巨大生物として猛威を振るったガグマは断末魔の叫びと共に大爆発を起こして地上から消え去った。

 

胸に付くカラータイマーが赤い光を発して点滅を繰り返している、ティガの巨人は消耗したように呼吸を整えると、空を見上げて手を——。

 

「撃てぇ——っ!!」

 

そして背中に光が走った。

 

想像絶する衝撃と痛みを受けて、ティガの巨人は呻き声を上げるような声を響かせて膝をついた。誰だ?誰が打った?まさか新しい怪獣が…。

 

「ティガの巨人を逃すな!!ここで仕留めるぞ!!」

 

背後へ目をやると、陸自の戦車部隊と攻撃ヘリ部隊が大軍を為して市街地からティガの方めがけて前進を続けていた。空を飛ぶ新城と、丘へと登った伶那は驚いたように目を見開く。

 

「た、隊長!!陸自がティガに攻撃を!!」

 

伶那の通信の最中も、陸自からティガへの攻撃は続けられており、ティガはくぐもった声を発しながら飛んでくる攻撃と巻き上がる火花を受けて膝を折ってうずくまった。

 

「隊長!!あの巨人は柳瀬を救ったんですよ!?市街地を背にあの巨大生物とも戦ったというのに何故——!!」

 

「本部からの命令は、巨大生物を市街地に入れないようにするための撃破よ」

 

新城の言葉に、隊を率いる入麻は簡潔に答えた。

 

あの巨人が、たとえ伶那を助けていたとしても、出現した巨大生物と同じように市街地から5キロも離れていない地点にいる以上、陸自や自分たちに下された命令の対象となる。攻撃命令が解除されない以上、新城や柳瀬も、ティガの巨人を攻撃する任務の責任がある。

 

「…ターゲット、ロック」

 

「新城!!」

 

数刻の沈黙の後、陸自の戦車部隊と共にティガへ対艦ミサイルの照準を合わせる新城に、堀井が怒声のような声を上げる。

 

「お前!!助けてもらった恩を仇で返すつもりなんか!?」

 

「俺は自衛隊の士官だ!命令は守らなければならない!!」

 

「状況を見ずに何を抜かしてるんや!!」

 

たしかにティガの巨人は、客観的に見れば自分たちを助けてくれた存在かもしれない。しかし、意思疎通ができない以上、あの巨人が味方である保証はない。

 

巨大生物を倒したのは単なる縄張り争いが目的か、それともまた別の目的なのか。

 

すると、ティガの巨人は砲撃が止んだ一瞬の隙に両手を組み、手のひらから不可視の円形の光の壁を形成する。

 

「バリアか…くそがっ!なんでもありかよ!!」

 

攻撃ヘリから放たれたロケット弾や、陸自の戦車の砲撃を防ぐ中、新城が爆煙の中にいるティガへミサイルを放つ。ミサイルを見たティガはバリアを解除すると腕を構える。

 

刹那、新城のミサイルが着弾、爆発。

 

凄まじい衝撃波が辺りに響く中、爆炎から空へと舞い上がったティガは、音の速度を優に超えて空の彼方へと飛び立っていった。

 

「新城!追えるか?」

 

「あんな速度、機体がバラバラになっちまうぞ」

 

戦車隊や、ヘリ隊も、空へと舞い上がったティガを茫然と見上げるだけで、誰も言葉を発することはなかった。

 

「あれが…ティガの巨人」

 

ただ一人、伶那は丘の上から星となったティガの軌跡の後をじっと見守っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、すいません。遅くなりました」

 

医務室から戻った大悟は、ふらつく足をなんとか踏ん張りながら、デスクで書類を作っている先輩の元へと戻ってくる。

 

青ざめる大悟の顔を見て、先輩はギョッと目を剥いた。

 

「おいおい、昼より体調悪そうじゃないか…無理はするなよ」

 

「はい…すいません」

 

心配してくれる先輩に一礼して、大悟は席につき、続きである仕事に手をつけていく。ただ、仕事の内容は頭に入ってくることはなかった。大悟はグッと歯を食いしばり、手に力を込める。彼のシャツからは赤い血が数滴、滴り落ちているのだった。

 

 

 

 



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第三話 空の記憶 Act.1

時は令和。

 

新たな時代を迎えた世界は、大いなる危機に瀕していた。

 

モンゴルから日本へ現れたゴルザ。

 

沖縄諸島に出現したガグマ。

 

そして、謎の光の巨人…ティガ。

 

その出現を皮切りに、世界各地で巨大生物による被害が勃発。

 

最初に現れたのはサンフランシスコだった。

 

米国は陸海空軍の総攻撃を実施するが、巨体を支える外殻をもつ巨大生物には、現状の兵器では効果が薄い。世界最大の軍事力を誇る米軍ですら、突如として現れた巨大生物に苦戦を強いられることとなった。

 

そんな中、眩い光の柱と共に現れたのは光の巨人。

 

壮絶な銀色の巨人と巨大生物の戦いの後、銀色の巨人が放った白熱光線で巨大生物は撃退。

 

米国による核発射の一歩手前まで危惧されていた事態は、光の巨人「ティガ」によって防がれた。

 

その後、オーストラリア、イギリス、ロシア、中国と、次々と巨大生物が出現。現地の軍との武力衝突の最中にも、ティガの巨人は現れ、巨大生物を撃退したのちに空へと去ってゆく。

 

巨大生物の存在と、ティガの巨人の存在が世界に示されてから、国家という勢力図は大きく書き換えられることになる。

 

ある国は「怪獣」を怒れる神の使いとし崇め、「ティガ」を人の業として唾棄する。

 

ある国は逆に「ティガ」を神の化身として崇める。あるいはその両方を脅威として恐れ慄く。

 

そしてある国は、「怪獣」と「ティガ」を捉えようと躍起なる。果ては、嘘の怪獣出現情報を流し、ティガの巨人を誘き出そうとする国まで出る始末だった。

 

しかし、惑わしにティガは姿を表せることはなかった。

 

あの光の巨人が現れるのは、決まって巨大生物によって人々が苦しめられようとしている時だ。

 

その時、人々の願いに応えるように光の柱が現れ、ティガの巨人がその地に降り立つ。

 

やがて人々は、「ティガ」と「怪獣」をフィクションとは思わず、世界の一部というように受け入れ始める。世界各地に猛威を振るう怪獣がいるという、少し前まででは想像も出来なかった世界が現実になってゆく。そして人は、そんな混沌たる世界にも順応していく。

 

そんな時だ。

 

世界各地で謎の爆発事故が発生した。

 

爆破物が不明。

 

目的も不明。

 

主犯者も不明。

 

予告もなく爆破されるテロ事件に、世界が恐怖する中、ひとつだけその現場で目撃される共通点があった。

 

それは、その場にいる人の中で必ずいる。

 

体の一部を欠損した〝人間〟が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東北地方で発見されたティガのピラミッドについてです」

 

TPS日本支部の司令室に集まったGUTSの隊員たちは、TPS日本支部の局長である安藤の言葉に耳を傾けていた。

 

「モンゴルで発見された巨大生物「ゴルザ」によって破壊されたピラミッドの破片を採取し、調査した結果、東京湾沖合で発掘されたオーパーツと同じくわ紀元前350万年前……およそ、三千万年前の地層と同じ成分で構成されていた」

 

しかも、我々が知らない元素も含まれていると安藤は言葉を括ると、東北地方の地図を写し始めた。

 

「東北地方。特にティガの遺跡がある地域では過去の伝承に魔を断つ光の存在として「奥特曼」という伝承があった」

 

モニターには伝承が伝えられているという祠の調査をする研究員たちの姿があった。

 

石畳の階段を登った先にある小さな祠は、見た目はひどく、作りも古いものであったが、その地下には狭く続くトンネルがある。人1人がやっと通れるような隙間の奥には、おびただしい壁画と象形文字が象られた遺跡が眠っていたのだ。

 

「遺跡に記された「奥特曼」を、堀井くんのサウンドトランスメーターで解読し、現代文字へと翻訳した結果、その魔を断つ光の存在が「ウルトラマン」と呼ばれるということが判明した」

 

「ウルトラマン…ウルトラマン、ティガ」

 

「ウルトラマンと呼ばれる存在は、過去に赤い目をした巨人と、光の柱を背負った存在が争い、空へと消えていったと記されていました」

 

安藤と共に解読を担当していた堀井も同意するように頷きながら、入麻の呟くような言葉に答える。他のモニターには、ワイドショーで外国の地で巨大生物と戦いを繰り広げる銀色のティガの姿があった。

 

「しかし、ウルトラマンという存在も、ティガという存在も、人類の味方であるという保証はありません」

 

宗方のいう意見も最もだ。これまでティガはまるで人類を守るように巨大生物の前に現れて戦いを繰り広げ、そして去っていく。しかし、それは客観的に見た意見であり、ティガが人類の味方をしているという事実はどこにもありはしない。

 

ふと、ワイドショーが街中の取材をしているシーンへと切り替わる。

 

《巨大生物も、あの巨人も、たまったもんじゃありませんよ》

 

《巨大生物を倒してくれる巨人は、きっと良い巨人なんですよ!》

 

《派手に暴れるなら、どこか他所でやってほしいものですな。潰されたら脚が弱い私では何もできませんよ》

 

リポーターのマイクにそれぞれの人が答える言葉を聞いていると、立ち上がった新城が苛立ち気味に側に置かれてあるリモコンでモニターを消した。

 

「くだらねぇ…。どいつもこいつも怪獣だの、巨人だの!俺たちGUTSがいるっていうのによ!」

 

そう吐き捨てるように呟くと、新城は苛立った足取りのまま司令室を出ていってしまった。伶那が入麻とアイコンタクトをすると、彼女は出ていった新城を追いかけてゆく。

 

ここのところ、新城の様子がおかしい。入麻は言葉にできない嫌な予感を1人感じ取ってあるのだった。

 

 

 



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第三話 空の記憶 Act.2

 

GUTS作戦司令室が置かれているのは、千葉県房総半島にあるTPC日本支部。

 

航空自衛隊の峰岡山分屯基地と隣接する支部であり、TPC日本支部直轄であるGUTSの航空基地としても機能する場所で、新城は1人屋上で風に当たりながら遠くに見える景色を眺めていた。

 

「どうしたんですか?」

 

そんな新城に追いかけてきた伶那が話しかけた。伶那と新城は一つ違いの後輩と先輩であり、武器に強い新城と、戦闘機パイロットとして高い成績を残す伶那は、同期の中でも目立って活躍していたのだ。

 

後輩であり、ライバルでもあった伶那に、新城は不機嫌そうに顔をしかめながら一瞥する。

 

「いつもの新城さんらしくないですよ?」

 

「うるせーな。だいたい、いつもの俺ってなんだよ」

 

そうですねぇ、と伶那は目元を両手の人差し指でキッと吊り上げて新城を見た。

 

「こんな顔で、頑固で負けず嫌いで責任感が強くて、誰よりも戦闘機と武器が好きなミリタリーオタク?」

 

「あのな、喧嘩売ってるのか?」

 

不機嫌そうな顔から呆れたような表情に変わった新城を見て、伶那は面白そうに笑うと新城も釣られて伶那と同じように笑みを浮かべた。

 

「それくらいが、いつもの新城さんらしいですよ」

 

新城がここ最近、変に肩肘を張っているのは誰から見ても明らかだった。伶那のほうが若いが、新城の姿を見つめていた彼女にとって、彼の異変に気付くなど時間は掛からなかった。

 

「すまないな、柳瀬。どうにも最近、カッカしすぎてる」

 

「——ティガのことですか?」

 

「いや、全部さ」

 

そう言って新城は手をかけていた手すりから手を離して柵へ背を向けて体重を預けた。周りは巨大生物のことを「怪獣」だなんて当たり前のように受け入れ始めていて。

 

新城自身、まだそんな存在を信じられないといつのに。

 

「…なんか、俺だけ置いてけぼりにされてるような気がしてな」

 

そう溢す新城に、伶那は首を傾げる。

 

彼がオカルトチックなことや、そういう迷信めいたことを信じていないことは知っていたが、それでも頑なな新城を見るのを伶那は初めてでもあったからだ。

 

「新城さんは、なんで怪獣を信じないんですか?」

 

その言葉に、新城はわずかに顔を硬らせてから柵に腕をかけて上を見上げる。空はどこまでも突き抜けるような晴天だった。

 

「——俺の父親は航空事故で死んだんだ」

 

そう言って、新城は胸ポケットに入れていた父のパイロットワッペンを取り出した。

 

同じ航空自衛隊のパイロットであった父は、パトロール任務中の1万5000メートルの高度で消息を経った。後に行われた調査や捜索の後、太平洋千葉県沖合で、戦闘機の残骸が発見された。

 

父の遺体がない中で行われた葬儀のことを、新城は今でも覚えている。

 

「葬儀の時に、僚機だった親父の同僚が言ったのさ。「空で怪獣に襲われた」って。その同僚は精神病を患ってると診断され空から降りたが…それを信じた俺は皆の笑い者だった」

 

まだ幼かった自分は、父の死の実感が持てないまま、同僚が言った「空の化け物」を信じて疑わずに、多くの人の笑い者にされた。

 

そして、それを信じてしまったがために、自分の母にも苦労をかけることになってしまった。そんな現実から逃げたい一心で、新城は自衛隊への道を歩み出した思いがあったのだ。

 

「父の死は、不慮の航空事故。そう自分に言い聞かせてきたから、怪獣なんてものを認められないのかもしれないな」

 

そう呟く新城。すると、彼の腕時計がアラームを発した。柵から外を見るとパトロールを終えた戦闘機が着陸している様子が見える。交代で出るのは新城だった。

 

「パトロールの時間だ。柳瀬、お前も休め」

 

そう言って伶那の肩を叩いて出口から出て行く新城の背中は、どこか儚さと憂いを帯びているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちら新城。高度1万5000。異常なし」

 

F-2戦闘機のコクピットの中で、新城は地上にいる管制官へ通信を送る。雲の合間を縫って飛ぶ新城の戦闘機は鮮やかなラインを描いて空を舞っていく。

 

親父が死んだ空、か。

 

高度計を見た新城は、ふとそんなことを思った。父もまた、自分と同じ光景を見つめながら死んでいったのだろうか。太陽の光が燐光となってキャノピーを照らす。穏やかな空だ。

 

そんな空を、一迅の影が横切った。新城の機体が予想だにしなかった気流の変化により激しく揺れる。

 

「なんだ?!」

 

《どうした、新城!》

 

スロットルを引き絞りながら機体を立て直す新城の目に、信じられない光景が飛び込んできた。

 

「何かが雲の中にいる!戦闘機…?いや、それよりも…」

 

自分の真横に位置する雲の中に、明らかな影が潜んでいたのだ。自分の機体の影にしてもあまりにも大きく、そして太陽の方向から自機の影ではないのは直ぐにわかった。

 

新城が雲からすぐに離れるよう進路を取った瞬間、雲の煙を切り裂きながら巨大な翼を持った生物が新城の機体を追うように飛び出してきた。

 

「怪…獣…っ!!」

 

ユザレの予言。

 

「空を切り裂く怪獣〝メルバ〟」。新城の中に、安藤から聞いた予言の言葉が蘇る。鋭い爪と翼を羽ばたかせるそれは、明らかに今まで見てきたどんな生命体よりも歪であり、なにより恐ろしい存在だった。

 

メルバは新城の戦闘機に目をつけると、目から光を溢れさせて光線を放つ。

 

まずい…!!新城はすぐさまスロットルとフットペダルを踏み込み、機体を旋回させた。

 

「…ぐっ…が——っ!!なんて機動力だ…!!戦闘機じゃ相手にならねぇ!!」

 

想像絶する重力負荷がかかっているというのに、戦闘機の機動力をモノともせずにメルバは新城へと近づいてくる。そこで新城は直感的に理解したのだ。父やその同僚を襲ったのが、このメルバのような怪獣であったと言うことを。

 

「やば…っ」

 

その言葉を呟いた時には、メルバが再び放った攻撃が新城の機体を捉えていた。エンジンの側面を掠めた攻撃は、戦闘機の出力を奪うには充分な威力を有していた。

 

《ホーネット3、被弾!!》

 

《新城!!》

 

異常を知り、通信に加わってきたGUTSのメンバーからの声を聞きながら、新城は姿勢を崩した戦闘機の中で脱出レバーを引く。だが、機体に反応は無かった。

 

「ダメだ…脱出レバーが…電気系統がやられたか…!!」

 

《新城さん!!》

 

《脱出するんや!!新城!!諦めたらアカン!!》

 

霧揉みながら1万メートルの空から落ちてゆく新城の機体。言うことを聞かなくなった戦闘機の中、自由落下の負荷に耐える新城はヘルメットの中で叫び声を上げた。

 

「くっそぉおお!!俺は!!こんなところで…!!」

 

まだ何もできていないと言うに…まだ父の背中すら見えていないと言うのに…!!負荷に耐える新城は、落ちてゆく景色が見えていなかった。

 

すると、煙を上げて落下していた機体は緩やかに姿勢を取り戻していく。身体中が浮くような感覚に襲われていたが、気がつくと新城の体に掛かっていた負荷は消え去っていた。

 

「な、なんだ…?光…?」

 

顔を上げた新城の目に入ってきたのは、眩い光だった。手で光を遮ってキャノピーから空を見上げると、そこには青空はなく青く光る〝カラータイマー〟があった。

 

「ティガ…!?」

 

新城の戦闘機を抱えるように現れたのは、ウルトラマンティガだった。メルバが唸るような声を轟かせる。手を前に広げて心情を抱えたまま飛ぶティガを、メルバは速度を上げて追い始めた。

 

「ティガ!!なんだってこんなタイミングで!!くそっ!!」

 

レバーを動かすにも、ティガの大きな腕に抱えられている新城に為せる事は何もない。

 

ティガに捻り潰されて死ぬくらいなら、墜落して死んだほうがマシだ!!そう心の中で思う新城だったが、ティガは一向に新城へ危害を加える素振りは見せなかった。

 

それどころか、メルバから放たれる光線を背に受けながらも、ティガは高度を新城に負担が掛からないように緩やかに落として地に向かって飛んでいたのだ。

 

「俺を…庇っているのか…?」

 

再びメルバの攻撃がティガを襲う。くぐもった巨人の声が新城の耳に届いた。新城はヘルメットを外して真上にあるティガに向かって言葉を放った。

 

「俺を離せ!!俺を掴んだままじゃ戦えない!!俺を捨てろ!!」

 

その声が聞こえているのか……ティガは新城の言葉を無視して抱えたまま地に向かって飛び続ける。絶え間なく続くメルバの攻撃を受けながらも、ティガは新城を見捨てることはなかった。

 

「聞こえないのか!!俺を、捨てるんだ!!」

 

カラータイマーが赤く点滅し始める。この合図を皮切りに、ティガの体力が著しく低下するのは、各国の調査隊からの報告で明らかになっていることだ。

 

そこまでして、自分を庇うのか…!!

 

「何もできないで…俺は…!!」

 

瞬間、新城とティガは激しい衝撃に襲われた。速度が落ちたティガに追いついたメルバが、ティガへ直接攻撃を始めたのだ。鋭い両手の鋏でティガを痛めつけるメルバに、ついにティガは新城の機体を手放してしまう。

 

浮遊感に襲われる新城へ、ティガは手をかざして光を送り込んだ。

 

「落ちて…ない…飛んでいる…?出力は出ていないはずなのに」

 

新城の戦闘機は、ティガから発せられた光によって空を飛んでいたのだ。スロットルを傾ければ、まるで異常がないように戦闘機が理想的な軌跡を辿ってゆく。

 

「飛べる…今なら、俺は飛んでいる!」

 

飛び立った新城の戦闘機を見送ったティガは頷くと、襲いかかっていたメルバの嘴を掴み、距離を離す。

 

「ターゲット、インサイド…喰らえ!!」

 

その隙に狙いを定めた新城が、緊急用に装備していたミサイルを放つと、ティガも合わせるように腕を交差させ、ゼペリオン光線をメルバへと放った。

 

メルバはミサイルによる爆撃と、ティガの光線を立て続けに受け、耐えきれずに空の彼方へと爆散する。

 

「よっしゃあ!!」

 

ガッツポーズをする新城は空に浮かぶティガの周りを旋回していると、ティガは役目を終えたように光り輝いた。巨人から光へと変わってゆくティガの光に新城は包まれていく。

 

「暖かい…光…」

 

意識が遠のく。

 

懐かしい温もり。

 

これは、父に頭を撫でてもらったときの思い出だ。遥かに彼方から、誰かの呼び声が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新城!!」

 

ハッと目を覚ましたら、見覚えのない天井が視界の先にあった。目を横へと向けると、副隊長の宗方や、伶那たちが心配そうな目で自分を見つめていた。

 

「お、俺は…いったい…」

 

「ここは横田の医務室だ。着陸した時は冷や冷やものだったぞ?」

 

ゆっくりと上半身を起き上がらせると、たしかにそこは医務室だった。しかし、自分はどうやってここにきたのだろうか。横田まで飛んだ記憶すらない新城は、宗方へ疑問をぶつける。

 

「宗方副隊長…自分は」

 

「無動力のまま、滑空して無事に着陸したぞ。肝心のお前はキャノピーの中で伸びていたがな?」

 

しばらく休んでおけと言って宗方はGUTSのメンバーを連れて部屋から出て行く。宗方たちの出て行った扉を見つめていた新城は、ふと自分の胸ポケットに温かみがあるような感覚を覚えた。

 

ポケットから父が着けていたパイロットワッペンを取り出す。

 

「そうか…俺は…」

 

そのワッペンからは、微かにだが光があった。人肌のような温もりが新城の手を包み込むと、ワッペンが纏っていた光は小さく放散し、空へと上がってゆく。

 

「ウルトラマン…ティガ、か」

 

医務室の窓から、大きな一番星が夕暮れの空に輝いているのが見えるのだった。

 

 

 

 

 

 



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