毛玉さん今日もふわふわと (あぱ)
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そこにあるのは毛玉のみ
ふわふわサバイバル


主人公うるさいかもしれないです


あ〜ふわふわするんじゃ〜

 

ここは夢の中ですか?やたらと視界がふわふわとしているのですよ〜

 

 

 

うん、現実逃避やめ

 

テンパるの開始

 

 

 

 

 

ふぁっ!?なんでなんで私浮いてんの!?あれ、これ手足の感覚無くねと思ったらふわふわ浮いてるんですけど!?ドユコトどゆこと!?あ、風に揺らされて視界がぐるっと一回転うっぷ………なんなの!?私人間だった気がするんだけど!?あれ!?記憶無くね!?なんなの!?記憶喪失!?もしかして死んじゃった!?死んで魂だけになっちゃった!?私今どんな見た目してる!?もしかして頭だけ!?頭だけ浮いちゃってる!?もしかして転生的なあれ!?私今生首かなんかなんですか!?頭だけ宙にあって浮かんでる生き物なんですか!?なんなんですかそれは新手の転生ですか!?転生したら生首だった件とかシャレになんないっすよ!?転生するならもうちょっとマシな始まり方ってもんがあるんじゃないですかねぇ!?

 

はぁ、はぁ、ふー・・・

 

よし、落ちつかないけど落ち着け私。

じょーきょーかくにん………

 

うむ、気がついたら森の中にいた。

そしてさらに自分がふわふわ浮いていることに気がついた。

そしてそのあと手足の感覚がないことに気がつき、風で揺らされたのか、視界がぐるっと一回転したところで、頭だけしかないような状態なのが分かった。。

 

おーうケイオスケイオス

とりあえず記憶がないです。私だーれ、ここどーこ。

 

 

 

ちょっと考えてみた。

どこかで死んじゃって、魂だけの状態なのかと思ったのだけれど、風も感じれるし、何より木にぶつかった。

魂なら木にぶつかんないよね?魂なんて存在信じてないけどさ。今の状況のが方が信じられないわけだけど。

 

・・・・・・

 

うむ、声が出ない。

ついでに表情筋がないっぽい。

声が出ないのは口がないから?そもそも、顔という物の認識ができない。

目はあるっぽいんだけど、瞬きすらしない。

目はある耳はある、口はない。鼻は…呼吸してないねぇ…

 

あっれれぇ?これもしかしなくても、人の形してないよねぇ…

あとは触覚……よくわかんないけどなんかこう、細い毛?みたいなもんが生えてる感覚はある。

うん、人間じゃない。

 

人間じゃないことが発覚したところで、動けるか試してみよう。

なんでこんな状態になったかなんてね、10秒考えたらやめたよね。

さっきからふわふわと浮かんでいて……木にぶつかるとそのまま跳ね返ってその方向へずっと進んでいく。

 

なんだろう……物理のシミュレーションゲームで摩擦をゼロにしたみたいな感じがするね。と言うか無重力。

 

さて、動くと言ってもどう動くかね。

手と足はないから論外。

なんか口で息を拭いてその勢いで動くことを考えたけど、うん無理だ。

口ないもん馬鹿だもん。

となると……なんやかんやで残された道は一つ。

 

念じるッ!!

 

動け動け動け動け動け動け動け動け動かなーいはいやめー。

 

え?もうちょっと粘れって?精神安定剤くれたら頑張るわ。

このまま動けないとどうなる?

 

おそらく私は今宙に浮かぶ謎の毛むくじゃらの物体。

言っちゃえばUMA、捕獲されてバッドエンドを迎えてもおかしくない。

 

もしくは何処かで軌道が逸れて遥か上空へと飛んでいき、宇宙空間で鉱物と生物の中間の生命体となり永遠に宇宙を彷徨ったり………

 

致命的じゃん。

 

と言っても念じるしかないんだなこれが………念じるとゆーか、祈るとゆーか………

 

 

 

 

ふわふわ日記、二日目

謎の物体になってから夜を超え二日目。

不思議と眠くならないこの体。

眠くならないのはいいんだけど、ただひたすらにやることがない。

ずっとふわふわ動いて移動しているから、周りの景色が変わらないと言うことはないんだけども………いつ方向が変わって天に昇っちゃうかを考えていると怖くて怖くて仕方がない。

 

まぁ丸一日ふわふわし続けてわかったこともある。

この場所の近くには、恐らく都市とか街とか、そう言ったものは無い。

なんてったって夜空が綺麗なんですもの。

近くにあるとしても、田舎の農村とかその辺だろう。

 

あと水面に移った自分の姿を見た。

うん、毛玉だったね、もろ毛玉。

あと顔が(°Д°)こんな感じだった。

口あるじゃんと思ったよね?残念喋れませーーん。…なんでだろーね。

あとあれからも割と念じてる、念じまくってるけどウゴケナイ。

 

そうして私は思考放棄をして二日目を終えた。

 

 

 

 

ふわふわ日記三日目

今日も一日ふわふわ

今日は初めて動物に会いました。狼でございます。

野生の狼とか珍しいなあとか思ってたら飛びかかられてびっくりしました。

飛びかかってきたら突然風が吹いて奇跡的な回避、勢いよく岩にぶつかって気絶した狼くんを見て可哀想だなと思いました。

 

終わり

 

 

 

 

ふわふわ日記四日目

今日も今日とてふわふわ

いつになったら動けるようになるんだろうふわふわ

なんかもう思考がふわふわ

ふわがふわしてふわふわってふわふわる

フ○ちゃんがふわふわしてふわふわと去っていく

ふわり

 

 

 

 

ふわふわ日記七日目

ふわふわがっふわってふわふわふわふわそのうちわふわふわふわふわふわふ

 

「ん?なんだこれ」

 

ふわふわがふわしてふわふわと思考がふわふわ

 

「んー?見て大ちゃん、毛の塊がふわふわして飛んできたよ」

 

ふわふわと急にふわりして

 

「うわっ、なにそれ………毛玉?なんか汚れてるし」

「よくわかんないけどとりあえず凍らしておいとこっかなー」

 

そもそもふわふわってなんだろう誰がそんな言葉作ったんだろうふわふわってなんだよなにを見てふわふわと思ったんだろ日本語って難しいふわ

 

「やめといたほうがいいよ、得体の知れない物体は」

「むぅ………あれ、よく見たらこれ顔ついてない?」

「あ、本当だ」

「やい!反応しろこの薄汚い毛玉!おらおらおらおら!」

 

ふわふわふわふ…………

ちょ、誰だよさっきからうるさい奴は!?人がふわふわしてる時は邪魔してはいけませんって親に習いませんでしたかァ!?え、なに!?そもそも人はふわふわしないしお前は人じゃないって!?そーですね!!つかさっきからツンツンツンツンツンツンツンツン鬱陶しいわ!!離せコンニャローがっ!!

 

「うおっ動いた」

「動くの!?ただの毛の塊じゃないんだね」

 

えっ動いたの!?私ってば動いちゃったの!?つか誰よこいつら!

 

「やーい毛玉ーお前の名前はなーんだ」

 

おぉん!?まずは己から名乗れや!!

よし、落ち着いてじょーきょーかくにん。

周りには女の子が二人。

一人が青い髪にリボンをつけてドレスを着ている。

もう一人が緑の髪でこれまたドレスを着ていると………最近の子供はどーゆー教育されてんのかね。

金髪とかならまだしも、青とか緑とか、んな派手な色にしたらイジメの格好のマトじゃないですかー。

 

「おいおーい、喋らないと氷漬けにしちゃうぞー」

「もしかしたら喋れないんじゃない?」

「口あるのに?」

 

やだこの子、本気で自分が氷を操れるとか思っちゃってるのかしら。

マァ可哀想!!早く現実を知ればいいのに!!

ってあれ?よく見たらこの子たちの背中になんかある気が………

青い髪の子は結晶のようなものがついつて、緑の髪の子は虫の羽?みたいなのがついてる………気がするぜっ!!

多分気のせいだなうん。

とりあえず動けるようになったらしいので逃げる。

 

「あ、逃げた」

「逃げたら本当に氷漬けにするぞー」

 

うひっ羽みたいなの使って飛んで追いかけてきとる!!なに怖い怖い何者!?妖精なの!?ふぇありー!?フェアリーとかその類ですか!?つかもろフェアリーだよね!!

ぐはっ掴まれた。

 

「よしっ捕まえた。もう逃げられないぞー」

「やめてあげなよチルノちゃん、可哀想だよ。離してあげて?」

「えー………大ちゃんがそう言うなら」

 

ありがとう大ちゃんっ!!こっち見んなチルノ!!

 

 

 

 

てなことがあった後、他の背中に羽を生やした女の子たちが集まってきて、私のことを放って置いて追いかけっこをし始めた。

なんだこの幼女パラダイスはァ………そーいや私毛玉なわけだけど、性別あるの?毛の塊に?

そのまま、他の女の子達と遊んでったチルノって子と大ちゃんと呼ばれてた子。

私の予想が正しければあの女の子達、というより幼女達は妖精………大丈夫?ここ私の知ってる世界じゃない系?異世界転生しちゃった?

 

まぁ考えるのはやめておいて、とりあえずあの妖精達を観察しておこう。

さっきの二人を含め、六人くらいの妖精がいるが、やっぱり目立っているのがあの二人だ。

 

チルノ、全体的に青い子。

あたいさいきょーを連呼している、多分あほの子。

でも実際氷をどこからともなく出して他の妖精に投げつけたりしている。何を言ってるかわからねぇと思うが、私も何が起こってるのかわからねぇ。

妖精がどの程度の力を持っているのかは知らないけど、多分その中でも強いほうなんじゃないかな?多分。

 

大ちゃん、全体的に緑の子。

会話の中で一度だけ名前を聞いたが、フルネームは大妖精らしい。

あれ?大妖精?あの可愛らしい優しい子が?

私の知ってる大妖精って、うっふーんとかあっはーんとか言いまくって勇者くんを誘惑してくるサキュバス的なアレなんだけども………

 

妖精の中でも一番違う雰囲気を出してきて、なんというか、とても大人な感じがする。

私を救ってくれた優しい子、好き。

 

 

しっかしこの世界どうなってんだろ。フツーの人間はいないのかね?今のところ狼とか妖精とか毛玉にしか会ってないよ。

妖精なんてもんがわんさかいる時点で多分人外魔境だな。

まぁ自分の意思で動けるようになったのは良かった。

一週間風に流され続けてそろそろ精神崩壊しかけてたところだったから、そういう意味ではあの二人に会えてよかったかも知れない。

 

「何考えてるの?」

 

ん?あ、大ちゃんが気づいたら隣にいた。顔近いよ顔の造形綺麗だね。

 

「あれ、毛玉ちゃん霊力あったんだね、気づかなかった」

 

毛玉ちゃん………?いやそこはいい。

れいりょくってなんだ?ファンタジー?やっぱり異世界転生しちゃってた?

あぁもう、口がないのが厄介すぎるぅ………

 

「何か色々と考え事してるの?」

 

あれ?なんでわかるんだ?

 

「私霊力に敏感だから、感情とか、その人の心境とか、ちょっとだけわかるんだ」

 

はえー、それは凄いねぇ。会話ができないのは残念だけど、感情わかるってだけでも嬉しいものがある。

 

「よく考え事するんだね?私たち妖精はそんなに物事考えたりしないのに」

 

いや、多分私口ないからその分心の中でうるさくしてるだけだと思うな。

あと君は絶対色々考えてるでしょ、口に出さないけど心の中ですんごい思考してる系だと思うんだけど。

 

「何考えてるかは分からないけど………チルノちゃんのことは嫌いにならないであげてね」

 

いやまぁ………嫌いではないですけれども。いきなり凍らそうとしてきたところが怖いと言いますか。

 

「怖い………まぁそうかもね。私も最初彼女を見た時怖かったよ。ちょっと他の子達より強いから、すぐ調子乗ったりするけど……いい子だから」

 

ふむ………大ちゃんがそう言うのならまぁ………

 

「おーい大ちゃーん!こっちきて遊ぼうよー!」

「ごめん今行くー!じゃあね毛玉ちゃん」

 

あーいっちゃったー。

いい子だったな、大ちゃん。

 

さて、動けるようになったのはいいけど、今度はどこへ行こうかな。

行く当てもないわけですが…………

 

 

 

 

日が暮れて世界が橙色に染まる時間。

妖精達は、また明日、と約束を交わし合い帰っていった。

 

「で、なんでこいつは付いてきてるの?」

 

現在チルノと大ちゃんをストーキングしています。

 

ちゃんと理由はある、私はある仮説を立てた。

それは、二人から何かしらの力をもらったのではないかと。

二人に会った時私は自分で動けるようになった、これと言った兆しもなくだ。

 

そして私に霊力があるのに気づかなかった大ちゃん。

多分それは、私はもともと霊力も何も持たない状態で、二人に会った時に、二人から発せられた霊力を吸収し、自分のものにしたから、だと思う。100%仮説だけど。

 

その霊力を使って、私は空中を動けるようになった、だからその後に大ちゃんは私に霊力があるのに気づいたと。

そう考えるのがしっくりくる、いやまぁ仮説だけども。

霊力ってのが具体的に何かってのも知らないし。

 

というわけで、もうちょっと良いことないかなーと思って二人についてきているのである。

決して寂しいからとか、そんな理由ではない。

 

「いっしょに来たいんじゃないかな?」

「本当にー?」

 

本当本当。

 

「じゃあ決定!お前は今からあたいの子分だ!」

「チルノちゃんいきなりそれはどうかと……え?いいの?いいらしいよチルノちゃん」

「そいつの考えなんてあたいには関係ない!あたいが子分と決めたらそいつは子分だ!」

 

うん、生意気。

まぁいっしょに居れるならそれでいいかな。アホだから子分にしたのもそのうち忘れてるでしょ、うんうん。

あと下手に動き回るのもそれはそれで怖い。

文字通り手も足も出ない毛玉、襲われたらその時点でバッドエンド。

東も西もわからないこの状況で、力を貸してくれそうな人物と離れるのは良くないと判断した所存でございます。

決して寂しかったとかそーゆーのじゃない。

 



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毛玉とふらわぁますたぁ

 

 

あー………

こ・こ・は・ど・こ

 

おっす私毛玉。

妖精二人の子分になって5日たったそんな日、強風にさらわれどこか遠くへと流されました。

いやぁ、動けると言っても馬力は全然ないらしいね、ちょっとした風でもすぐ変な方向に飛んでいくから危ないとは思ってたんだけどなぁ、見事にどこか遠くへ流されちゃったよHAHAHA。

 

霊力を使い、上空へと浮かび上がって周囲を見渡す。

この霊力と呼ばれているもの、すんごい便利。どれくらい便利かというと昭和の人にスマホを与えたぐらい便利。

自分の中の霊力というものを認識できるようになったのはつい先日。

 

霊力はどんなものかと思い、感じようとすると、自分の中にあるモヤッとしたものに気がついた。

そしてそれを感じた瞬間、チルノや大ちゃん他の妖精達の霊力も感じ取ることができるようになっていた。

 

いやぁ、チルノちゃんぱないね、霊力私の何倍もあるんだもん。

私の霊力が少ないだけかも知れないけれども。

私の霊力もごく僅かだけど増えている………気がする。

1日で1.00だったのが1.01くらいには増えてる気がする。

まぁ勘違いかも知れないわけで、深く考えるのはやめよう、それより今はこの状況をどうするかだな。

 

周囲の状況は、よくわからん緑の棒が立ちまくってる。

風で飛ばされたのは夜で、ここへ行き着いたのも夜だ。

大ちゃん達が寝ている間にちょっと音がして、外に出るともうどうしようもなくなった。

次からは気をつけます。

 

少し高度を上げ、緑の棒の正体を探る。

 

な・ん・だ・こ・こ

ひまわりがやたらと一面に咲いていらっしゃる。

確かひまわりって咲く季節夏だったよね?となると今の季節は夏になるけど………夏ならセミとかがミンミンなくよね?毛玉になってから聞いたことないんだけど………

もう少し高度を上げて遠くの方まで見れるようにする。

 

おっほう

 

さすがに地平線までひまわりでびっしりってことはないけど、それでも随分広いなぁ。

ところで私、ひまわりってじっと見てると怖くなるんだけど、こんなにいっぱいあると一周回ってどうでも良くなるね。

あと虫も無理、何が無理かって存在が。

 

しばらくひまわりの茎の中を、出来るだけ傷つけないように、あてもなく進んでいく。

すると、ひまわりの生えていない、ちょっとした道のようなものがあった。

茎の中は日陰だったけど、今は真昼間、太陽がめっちゃ照らしてくる。

この場所は特別日差しが強いのかな?

霊力とかいう謎物質の存在があると知った以上、もう何がなんだかわかんなくなってくる。

私の存在が現時点で一番謎だけどね。

 

しっかし、考えれば考えるほど変な場所だ。

いったい誰がこんなにひまわりを植えたのか、ひまわり愛好家?そりが合わなそうだぜ。

あと、所々に何かが浮かんでいるのも気になる。

なんだろこれ、球が光ってる。

私の霊力と似たようなものを感じるけど、霊力ではないことは確信できる。

大ちゃんやチルノ、他の妖精たちの霊力も見てきたけれど、そう言ったものとは本質的に違う………気がするっ!

確信は持てない、けども多分合ってる。

 

 

その道を進んでいくと、ちょっとした家があった。

割と綺麗な家、誰かいるのだろう。

よくこんなひまわりだらけのところで暮らせるね?私ならSAN値下がって発狂し始めてるねうん。

赤い屋根、白い壁………そこそこ派手な色してないかな?このひまわりだらけの場所にしては目立つ配色してるよね。

 

遠くの方から中の様子を見てみる。

 

……留守っぽい?

 

もうちょっと様子見ておこうかな。

誰かいて、そして私に危害を加えてくる場合、貧弱もやっとボールな私は終わる。

そもそも妖精とか、私みたいな人外がいるんだ。

こんな変な場所に住んでるとしたら、普通の人じゃ無い可能性が高い。

 

考えてたら怖くなってきた、早くここから離れよう、幸いにも私は体力とかは関係なく動ける、いつかはあの二人のいたところに戻れ………

 

「あら、こんなところに毛玉?」

 

・・・・・・・

 

ふぁ!?

ゆっくりと、後ろへと振り返る。

 

………目の前に顔があった。

 

ふぎゃっ

 

「汚いわね………」

 

ちょ、汚いって………お前初対面の人に何言うとんねん!!いや人じゃ無いけども!!毛の塊だからそりゃ汚れてるだろうけども!

つーか掴むんじゃ無いよ!!少しは躊躇しろよ!未確認浮遊物体だぞ!?普通は掴まんし躊躇するわ!!HANASE!私はまだ死にたく無いっ!!

 

「暴れない暴れない」

 

暴れるわ!じゃなきゃ離せい!

 

「それ以上暴れると燃やす」

 

あ、サーセン。

 

 

 

 

私を捕まえたのは綺麗な緑色の髪をした女性、服が家とおんなじ配色してた。

まず家の中に私を持ち込むなりすぐさま水で洗ってきよった。

匂いを嗅がれてまず真っ先に「臭っ」と言われたのはなかなか心にきたね。

いや、臭いんだろうけども。

あと水で洗われると身動きが完全に取れなくなった、やっぱり水って重いわ。

よく今まで降らないでくれたよ、雨。

とりあえず洗われた後は、手から謎の熱風を出して乾かしてくれた。

うん、頭がどうにかなるね。

なんか道具使うんならわかるけれども、なんで手から熱風出るの?

そんなことをしてもらったあと、なぜか私に鏡を見せてきた。

薄汚えもやっとボールがふわふわしたもやっとボールになってた、笑った。

 

で、結局何がしたいんだこの人。

時々鏡の前にたって変な表情してるし。

私を綺麗にしたあとは放置してくるんだけど、放置して自分は何か飲みながらひまわり眺め続けてるんだけど。

花以外に友達いないのかな?ぼっちなのかな?一人で寂しかったのかな?

まぁ言葉も通じないから煽っても意味ないわけで。

 

家の中にはたくさん花が飾ってあり、茶葉が瓶に入れられている。

さっきも紅茶を飲んでいたし、余程花と紅茶が好きらしい。

やっぱ一人で寂しいんじゃ無いの?

こんなひまわりばっかりあって……変なところとは言わないけど、近寄り難いとは思うんだよね。

そんなところに住んでるんだったら、自分から一人でいるのかな。

ひまわり見ながらめちゃくちゃ微笑んでるし、生きてて楽しそーですね。

 

 

 

 

しっかし気になるのは………

あの人から出る圧倒的強者の風格。

強そうとしか言えない。

語彙力が崩壊するくらい強そう。

ここについてから三日経ってもずっとここにいる理由はそれである。

もしあの人が私のことを既にペットだと思っていたら?

私が勝手に逃げ出したと思われたら?

それはもう、一瞬にしてふわふわもやっとボールはただの灰になるでしょうね。

相手にその気がなければいいんだけどさ……

 

というわけで、三日目、たまに家から出たりしてるけど、遠くへは行っていない。

そもそも、あの人に私を襲う意志がないのであれば、それはそれでOKなのである。

まぁ居心地は悪いんだけどね、ひまわりばっかりだし。

 

多分この人、ここ以外にも家があるんだよね。

家は見た感じは綺麗だけど、家具の隙間とかをみると割と埃が溜まってたりする。

他の道具とかも、そこまで使われた形跡はない。

まぁひまわりばかりのところにずっと住んでるってわけでも無いんだろうなぁ。

 

あの人、ただの人間じゃ無いだろうし。

 

溢れ出る強者の風格、一日目は気づかなかったけど二日目に気づいた。

ひまわりの生えているところにあった謎の球体。

あれは多分この人が作り出したものだ。

あの球一つで、私の持ってる霊力の何倍もの力を持ってる。

そしてそれを、割と簡単にあの人はぽんぽんつくってる。

私の霊力が少ないだけと言われればそうなんだけど、あの人の力は底が見えない。

果てしない力を持ってる、私如きが推し量ることなど到底不可能なくらいの。

 

そんなわけで

あんな化け物の近くにずっといるなんて気が気じゃないから、さっさとここから離れたいってわけです。

そして離れるのは明日。

この人は夜になると決まって何処かへ行く。

寝ずに何処かへと、私のことなんて気にしないで。

その時になら別に抜け出しても問題ないだろうというわけだ。

 

だがしかし、ひとつだけ、この家でやりたいことがある。

私は、なんのおかげかわからないが、謎の能力を得た。

それは、私が触れて霊力を流し込んだものは、私と同じように宙に浮くというものだ。

 

きっかけは、特に特別なことではない。

暇だから霊力弄ってたらあの人の脱いだ靴に当たり、靴が宙に浮き始めたのだ。

 

そう、これをうまく使えば、今までできなかった、物を動かす、という動作ができるようになるのだ!やったねた………

 

手も足も出ないけど、霊力は出ましたとさ。

 

そしてそれを使ってやりたいこととは、あの人が毎朝、外から帰ってきては書いているあの本。

表紙には何も書かれていなかったけど、とりあえず読みたくなった。

日記とか、自作の詩とか、そんなの書いてあるかもしれない。

いや、本当はそんなことしたくないよ?プライバシーの侵害だもんね。

でもさ、ずーっとあの人のことをあの人って呼ぶのもあれじゃん。

せめて名前ぐらいは知っておきたいなぁと思った、それだけです。

 

他意はないっ!!

 

 

 

 

というわけであの人が出かけたあとの夜。

私は少しの音も立てずに机の上に置かれた本に近づく。

皮の表紙の、ちょっとした手帳くらいの本。

 

表紙に触れて浮かし、横からぶつかってめくる。

そこには

 

日記

 

とだけ書かれていて、その下に

 

風見幽香

 

と書かれていた。

かざみゆうか、かな?

さらに次へと、ページをめくる。

 

 

何気ないことしか書かれていないな………

新しい花を植えたとか、植え替えたとか。

向日葵を荒らす野蛮な輩が現れたから消炭にしたとか………私は何も見ていない。

 

しばらくめくっていくと、この風見幽香という女性がわかってきた。

基本的に花のことばっかり書いていて、端の方に必ず一つは、花の絵が書いてある。

絵、上手

そして、私は怖いイメージを今まで持っていたけど、ちょっとだけそれはなくなった。

なぜかと言うと、日記の中の彼女が、私のイメージと違っていたからだ。

 

例えばこの日。

 

今日は太陽の畑の近くに妖精を見つけた。

ここに誰かが訪れることは珍しいから、花冠を作ってあげて持っていってあげた。

だけど、その妖精は私をみると血相を変えて叫びながら逃げていった。

私ってそんなに怖いの?

少し茫然としたあと、笑顔の練習をしてみた、だけどあんまり上手く笑えない。

私から怖いという印象を払拭するために、日々練習していくことに決めた。

がんばろう。

 

 

といった感じだ。

 

何だろう、彼女には似合わないけど、ちょっとかわいい。

そっかぁ、鏡の前で謎の顔をしてたのは、あれは笑顔の練習だったのね。

とても笑顔とは呼べない代物だったんだけどさ………見るだけで全身の毛が逆立ちそうになったよね。

 

この後一週間ほどこの妖精のことを引きずってた。

私に一度、燃やすと言っていたことが気になるけど、彼女の本質的には寂しがりなんだろうな。

多分花を傷つけられるとブチ切れるだけで、本当は優しいひとなんだろう。

なんか私がこの家に来た時も、日記の中ではなんか楽しそうだった。

 

うーむ………なんか勝手にいなくなったら落ち込んだりしないかな?

流石にずっとこんな場所にいる気は起きないし、やっぱりバレないうちに帰ろうかな。

いや、右も左も分からない状態でどうやって帰るんだって話なんだけども。

 

 

 

 

結局意思が固まらないまま、翌日の幽香さんがいない時間帯になった。

 

なんだかんだで私は、思い切って行動しないとだらだらとその状態を続けてしまうやつだ。

後先考えずに行動するのは良くないけど、後先考えすぎて行動できないのも御免だ。

もしかしたら、大ちゃんやチルノが私のことを心配しているかもしれない。

つかして欲しい!

そう考え、なぜか開いている窓の方へと進んでいく。

 

というわけでさっそく家を出た。

開いた窓から出ると、一面に咲くひまわり。

ここへ辿り着いた道を辿り、幽香さんの家を後にする。

 

来た時と違いがわからないひまわり達。

たとえ少し伸びていたとしても、それは私にはわからない、彼女になら、分かるのだろう。

なんてったって毎日花しか見てないからね。

ひまわりより上に浮いて進めば早いけど、なんとなく、この道を通っていく。

 

 

終わりが見えた。

道が途絶えている。

ここがこのひまわり畑の出口、ここを出れば危険いっぱいの自然へと私は戻ることになる。

 

 

ふと、後ろを振り返ると彼女が立っていた。

 

月光を背後に、片手に花冠をぶら下げて。

ゆっくりと、動かない私に近づいてきて、白い花で作られたその花冠を私へと被せる。

 

そして私をみると、満足したように微笑んだ。

背を向けてひまわりの道へと戻っていく彼女。

 

 

あの顔を浮かべながら、私は太陽の畑を後にした。



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毛玉は地に墜ちる

 

 

 

この、物を浮かすだけの能力。

おそらく私の毛玉として浮いている状態を付与するような物だと思うんだけど………

 

たのちぃ

 

どれだけ重そうなものでも、霊力を流しさえすれば関係なしに浮かすことができる。

たとえばこの大岩。

目測で直径一メートル以上はあるんだけど、私が少し触れて霊力を流し、ちょっとぶつかるだけでふわーっとその方向へと進み続ける。

大岩に流し込まれた霊力が消費されて、重ければ重いほど消費量は多くなるんだけど、そこそこ燃費良い。

こんな大岩はともかく、石ころぐらいなら、私の霊力の半分くらいを流し込んだら半日ぐらいは浮き続けているだろう。

実際はもっと浮いてるかもしれないけどね。

それに、私がやめようと思うと、即座に浮いている状態が解除されて落下する。

その時に流し込んでた霊力は私の元へは戻らないけど、なかなか楽しい能力だ。

 

まぁやっぱりというか、乱用はできない。

今の私は、霊力を使って低いところを色々ぶつかりながら進んでいる。

遊びすぎて霊力を切らしてそのまままた風に流されるなんて洒落にならない。

雨も怖いから晴れた日にしか移動していない、すこしでも雨が降りそうな予感がしたら全力で雨を凌げそうな場所を探す。

 

え?そんなことより今どこへ向かって進んでいるのか、だって?勘に決まってるだろいい加減にしろ。

あの二人のいる場所がわかれば苦労なんてものはこの世に存在していません!

 

一応、方法は考えてみたんだよ?

私の霊力はあの二人からもらったもの、ならなんらかの方法であの二人を探知することはできないかな?と色々模索した結果。

なんの成果も!!得られませんでした!!私が無能なばかりにィ!ただいたずらに時間を浪費し!彼女達の居場所を!特定することは、できませんでしたァ!!

考えるだけ無駄だって学んだよね、うん。

 

風に流される前、近くには大きな湖があったのは覚えている。

その湖を見つけることさえできれば、その湖の周りをぐるぐる回っていればあの場所に着くと思うんだけどなぁ………

 

できることなら高いところまで行って遠くまで見渡したいけど、木より高く浮くと、風が強いし、鳥が飛んでて身の危険を感じるしで全く安全じゃない。

はいそこ!今私のことチキンとかびびりとかって思ったでしょ!違うし!慎重なだけだし!決してビビリとかではないしっ!!

 

おそらくここは、私が毛玉になる前に生きてた場所とは違うところだ。

ダッテェワタシィ、レーリョクトカフェアリートカシラナーイカラァ。

つまり私のこの周辺の土地に関する知識も皆無!

実は私結構な方向音痴なんだけどね。

 

そんなわけで、私はずーっと、低いところを浮きながら、あてもなく進んでいくのだった。

 

 

 

 

後ろから物音………

やだよぉ振り返りたくないよぉこのまま全力疾走して逃げたいよぉ………

 

・・・・・チラッ

 

oh………こいつぁ随分と立派なワンコロでねぇですかい。

私の何倍もあるじゃあねぇか………私が小さいだけか?

明らかに敵意丸出し唸りまくり、よだれ垂らして食べる気満々。

正気か!?そのよだれをしまえ!こんなヘアーボール食ったっていいことひっとつも無いぞ!?え!?本気!?マジの目かそれは!?

 

・・・・・

 

睨み合い、私に目力なんてものは存在しないが睨み合い。

毛玉とでっかいワンコロが睨み合ってる絵面なんてそうそう見られるもんじゃないだほうな〜

私なら即ネットに上げてるな〜

 

沈黙を破るように、霊力を集中して放射し、ワンコロから距離を取る。

野生の生き物ってのは、自分から逃げる奴を積極的に追いかけるものだと、どこかで聞いた。

それは、相手が逃げるということは、その相手は自分より弱いということだからだと。

じゃあ襲っても大丈夫じゃん?的な感じで。

 

予想通り私を追いかけてきたワンコロ。

宙に浮かんでいる私に対して地を蹴って飛びかかってくる。

霊力を集めて一点集中、上に撃って体を急降下させ、ワンコロの真下へと潜り込む。

ぶつかる前にもう一度、今度は下に撃って自分の体を打ち上げる。

私の真上はワンコロの腹、そこへぶつかっていく。

だけど、重さが全くない私がちょっとぶつかった程度ではハリセンで撫でられた程度。

だからぶつかる時に、霊力を思いっきり流す。

ふわりと浮き始めたワンコロ。

いくらもがいても、上空へと向かうその勢いを止めることはできない。

 

高すぎて怖くなってきたのか、体を縮め動かなくなっていた。

 

流し込まれた私の霊力はもうすぐ尽きて、地面へと落下し死ぬだろう。

 

……………ダメだよねこれ

 

落下し始めたワンコロ、ぐるぐると空中で回りながら地面へと落ちていく。

頭から地面に衝突しようとした瞬間、私は横からワンコロにぶつかった。

慣性が変更されて、横向きにふわりと浮き始めるワンコロ。

浮遊状態を解除、地面へと落下する。

背中から落下し地面に叩きつけられる。

私が聞いても情けない声をだしながら、即座に去っていった。

 

殺傷ヨクナイ

いやさ?よくよく考えてみたんだよ。

あのまま落ちたらさ、私の目の前であのワンコロミンチだったじゃん?

私、グロ画像とか見ると二日は忘れられないからさ、そんなものを見るわけにはいかないんだよ。

それに、私を襲ってきたとは言え、それは私がいかにも怪しい見た目してたからだろうし。

あのまま死んでたら、私が殺したってことになるし、私十年は引きずるからね。

それに特に恨みないし。

つか犬は好きだし。

いや猫も好きだけれども。

 

まあいいや、とりあえず先へ進もう。

先はまだまだ長い………知らんけど。

 

 

 

 

お…………

なんだこの山…………よく見えないけど…上の方に家がある?

でも……この山普通じゃないよね?

だって……羽生えた人型の何かが飛び去っていくの見えたよ?

怖くない?UMAしかいないのかこの世界は。

いや、幽香さんが一番会った中で一般人ぽかったけど。

でもあの人霊力とかその類のやついっぱいあるし、多分人じゃないんだろうなぁ………

 

とりあえず入るのはやめておくか。

こんな山、湖の近くにあったっけなぁ……?

 

 

ぬぅ………やっぱり人影が見えるなぁ………

直視するのは怖いし、ささっと抜けてしまおう。

人影の見えない場所を探し、ずっと山の中へ進んでいく。

 

・・・・・・・・・・・?

 

あれ………なんかおかしくね?

なんで私山の中に進んでんの?ついさっき入るのはやめておくかって言ったばかりだよね?あれ?あれあれあれあれ?

あっれれぇ?おっかしいぞぉ?

とうとう私もボケてしまったか………まだ一歳未満なのに。

つか戻りたくても戻れない。

 

そんな私の意思とは関係なしに、ぐいぐいと進んでいくマイボディ。

途中誰かに見つかって、

 

「………ん?おいそこのもじゃもじゃ!止まれ!」

 

とか叫ばれたけど無理です。

私は止まらねぇからよ………

というより止めてくださいお願いします。

どんどん加速していく私。

霊力とか使ってないし、風とか吹いてる訳でもないのになぁ………

 

「止まれと言ってるだろうが!!」

 

だが断る!!

逃げるように私は加速し続け、底の見えない穴へと落ちていった。

えぇ………

 

 

 

 

ありのまま、今起こったことを話すぜ………山から離れようとしたと思ったらいつのまにか山の奥深くに入り込んで穴にインしていた、

超スピードだとかテレポートとかそんなもんじゃ断じてねぇ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ………

 

 

私を抱えているこのお嬢さんはだれ?暗くて良く見えないけど、とりあえずこの子も人外だな?

だってこのとてつもない深さの縦穴を、手から謎の光源をだしながらゆっくりと降りていってるもの。

まともな人間はいないのかこの世界!私?私は毛玉ですよそーですよ!!

もうやだ疲れた、考えるだけ無駄だわ。

 

 

そうこうしているうちに穴の一番下へと着いた。

ゆっくりと言っても、自由落下とかに比べたらの話で実際はそこそこの速さで落ちていたけど、それでも体感10分以上はかかってた。

どんだけ深いんだよ。

 

私を抱えた少女は、そのまま空を飛びながら地下空間の天井あたりで飛び続けている。

気づかれないようにゆっくりと下を見下ろす。

体の至る所に変なものが生えてる人とか、そもそも人の形してないやつとか………

ここが噂の魔界村ですか!?ついに魔界まで来ちゃった!?レッド○リーマーに襲われるの!?

あ、ダメだわ私死ぬわ。

ただでさえ耐久力スペランカーの私が魔界村に行ったら鎧取れるどころか内臓ぶちまけてR18指定なるわ。

え?私に内臓あるのかって?

 

し・ら・ね

 

見下ろす限り、額に角がついたやつとか額に角が生えてるやつとか、額に角がくっついてるやつが多い。

 

鬼ぃ………鬼ばっかぁ…

魔界村は鬼の住処だったんか………

 

ずっと抱えられながら浮いていくと、大きな建物があった。

ここは地下の空洞みたいな感じだが、その岩壁にめり込むような形で作られている。

どうやら私はここへ連行されるらしい、さようならみんな、私死ぬから。

抵抗?貧弱もやしボールにそんなのできると思ってんの?拳ねぇぞ?一歳未満だぞ?

下の方に大きな扉があるのが見える。

そこへいくのかと思ったら、窓からダイレクトタックルぶちかまして中に侵入しよった。

なんなのこの子、常識知らないの?扉あるじゃん、そこから入れよ。

飛行するのをやめて床に落ちて転がり、そのまま走って建物の奥へと進んでいく。

めっちゃアクロバットやん……

 

「お姉ちゃああああん!!」

「はいはいどうしたの………」

「見てみてぇ!」

「分かったからその変な動きをやめなさい」

 

めっちゃサイドステップしとる。

そして私の視界もぐわんぐわんと、私じゃなかったら吐いてるね。

 

「見て見てこの毛玉!花冠ついてるよ!」

「うわ、何それ汚い………早く元あった場所に戻してきなさい!!」

「えぇやだよ飼っていいでしょ!?」

「駄目よ」

「なんで!?」

「汚いから」

 

汚いばっか言うなよ………

 

「ねぇほら可愛いでしょ!?」

「ちょ、近づけないで汚い!触らないほうがいいわよ!」

「そんなこと言ってあげないであげてよ!可哀想でしょ!」

「そうやって鷲掴みにしてるほうが可哀想よ!」

 

そうだよ!抜けるわ!ハゲるわ!毛玉から毛を奪ったらなんになるんだよ!

 

「名前はもう考えてるんだ!」

「いや、早く離してあげ——」

「もじゃ十二号!」

 

悲報、私氏もじゃ十二号に命名。

 

「もじゃ系列はやめなさい早死にするわよ……つか離してあげなさい」

 

もじゃ系列何があった。

もじゃ死んだんか?尊いもじゃが今までに11体失われたんか?

 

「考えておくから、とりあえず手を洗ってきなさい」

「はーい」

 

おうふ、離す時も荒々しいな!!

 

「ごめんなさい、先程は失礼なことを言ってしまって」

 

んあ?まぁ汚いのは事実だし、それが普通の反応だよね。

気にしてないよ?うん、気にしてない………

 

「……本当にごめんなさい。私も最初は本当に猫が吐くあれに見えたので。あとで洗って差し上げます」

 

あ、ありがた…………い………

 

・・・

 

「………?どうしました?」

 

いや、どうしましたっていうか………どーゆーことなの?え?

 

「え?」

 

いや、あの………なんで考えてることわかるのかなーっというか………

 

「………あ」

 

はい

 

「すみません、基本知り合い以外と顔を合わせることがないのでつい………自己紹介をさせていただきます。私は古明地さとり、この地霊殿の主です」

 

これは丁寧にどうも……ただの毛玉です。

 

「私がさっきから貴方の考えていることが分かるのは、このサードアイによるものです」

 

サードアイ、第三の目。

その体から伸びている管に付いているその目玉がサードアイね。

あの女の子は?

 

「彼女は私の妹のこいし、よく地上をふらついては変なものを拾ってくる癖があって……本当にすみません」

 

いやいや、まぁ別に………私も半分迷子だったし、ようなものだったし………それはそうと、ここは一体?

 

「ここは………貴方のいたところより遥か下にある空間、地底と私たちは呼んでいます。たまに旧地獄と呼ぶ人もいますが」

 

旧地獄………そう呼ばれるからには、やっぱりもともとここは地獄だったの?いや、そもそも地獄あるの?

 

「ありますよ、訳あって今は地獄としての役割を果たしていませんが。それはそうと、何かお詫びをさせてください」

 

いや、体洗ってもらえるだけでも十分ありがたいんだけど……それじゃあ一つ。

 

「………右も左も分からない状態だから、いろいろ教えて欲しいと……いいでしょう、貴方には悪いことをしましたし」

 

心の中で呟くより先に思考を読むとは………さすが第三の目。

じゃあ早速いろいろ教えて———

 

「先洗わせてください。失礼だとは分かっていますが、その………匂いが」

 

あ、ごめん。

優しく洗ってください。



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身の危険を感じたので帰ります by毛玉

 

 

地底へ来て二日目。

現在地霊殿内の書庫にて色々と情報収集中、おっきい書庫だ、図書館ぐらいありそう。

霊力を流してページを浮かしてめくるやり方で本を読んでいる。

 

とりあえず分かったこと。

この土地は今幻想郷と呼ばれているらしい。

どんな土地名だよって思ったけど、よく考えたら妖怪やら妖精やらいるんだからそりゃ幻想だわ、ということに行き着いた。

妖怪とは、さとりやこいし、幽香さんがそれに入るらしい。

あと、地底にいた大量の鬼も妖怪に入るらしい。

妖怪というからには、河童とか猫又とかもいるのだろうか。

 

「いますよ」

 

おうびっくりした!

 

「すみません癖です」

 

自覚してんなら直そうぜ?

 

「直したくても簡単には直せないもの、それが癖ってやつです」

 

ふーん………そーゆーものかね。

 

「私はさっそくあなたの癖を見つけましたよ?」

 

え?なに。

 

「びっくりすると全身の毛が一瞬逆立ちます」

 

………それ癖なの?自分でやろうとしてやってる訳じゃないんだけどな。

つかそれ別に直さなくていいし。

 

「それはそうと、今日は話したいことがあってきました」

 

なんすか。

 

「あなた………相当に特殊な生まれ方をしてきますね?」

 

私の存在自体が特殊だと思うんですが。

 

「いえ、毛玉自体は割と探せば見つかります。まぁ地底にはいませんけどね、それでこいしも珍しがって拾ってきたのでしょうが。重要なのはそこではありません、あなたのその中身です。あ、中身といってもその体を切ったときの中身ではありませんよ、魂とかそういう奴です。魂なんてあるの?ですか。えぇ、割と普通にありますよ。先程毛玉は割と普通にいると言いましたが、あなたのように思考をしている毛玉は私は見たことがありません。おそらくあなたは転生か何かして、その体に入ったのでしょう。所謂憑依ってやつです。転生自体は普通に行われていますが、あなたのように魂が記憶を持って、それが毛玉に入るなんて事案は聞いたことがありません。毛玉とは本来、霊力を持って生まれる、というより存在自体が霊力の塊と言ったほうが正しいでしょうか。しかしながらあなたは霊力を全く待たずに生まれてきた。これは長年生きてきた私にとっても明らかに異質だということが感じ取れます。勝手ながらあなたの記憶などをいろいろ探らせてもらいましたが、どうやら私たちの存在がない世界から転生しているようですし、もうあなたに関してはほぼ全てが謎なんですよ」

 

……………………ふーん?

で、つまりどういうことだってばよ。

 

「あなたはとても不思議な存在です、あなたのような存在は、今までに私は見たことがありません」

 

最初にそれ言おうよ、長すぎるよ、てかよく噛まないね?割と早口だったし。

 

「すみません、これでも私、知らないものに関しては割と興味をそそられる系のあれなので」

 

はいそうですか。

ってか私、やっぱり転生してました?

 

「はい。ちゃんと聞こえてるじゃないですか。え?一部分だけですって?それは失礼」

 

ぱっぱと会話進めますねぇ、まぁ早いからいいけどさ。

 

「貴方みたいな人はそういませんよ、大概の人は気味悪がって私たちから離れて行きますから。そのおかげで結局はここへ………いえ、なんでもありません。話を戻しますが、あなたの記憶をのぞいた時、全く知らない世界が見えました。色々あなたにお聞きしたいこともあるのですが、何より驚いたのは妖怪や精霊の類がまったくもって居なかったことです。いや、いなかったというより存在していないといったところでしょうか」

 

つまり?

 

「あなたは私たちとは違う時代や世界から来た可能性が高いです」

 

ほほう………つまりマジもんの異世界転生だと。

つか今っていつなの?漢字あるし文字も読めるから日本だとは思うけど。

 

「時代は知りませんが………あ、そうだ。最近応仁のなんとかがが起きたとかなんとか」

 

応仁………?

応仁の乱ってこと?てことはあれ………戦国時代のアレで………えっと……500年くらい前?

元号が変わってるとかそういう次元じゃなかったぜ。

戦国時代ってあれよね?令和平成昭和大正明治江戸安土桃山戦国だよね?

めちゃくちゃ前やん。

 

「なるほど、そういう感じなのですか」

 

あ、やべ。

まぁ元号知ったところでなんだって話にもなるし、記憶も読めるんだったら隠したりしても無駄だろうな。

 

さとりのサードアイをじっと見つめる。

うん、見つめ返された。

 

「こいしのことですか………」

 

こいしのサードアイ、閉じてたからね。

 

「あれは………心を読むのをやめたのですよ。まぁ色々あったんです、昔。あなたには関係ない話ですけども」

 

じゃあ聞くのやめておきます。

 

「そうしてください、私もあまり……考えたくないので。………あなたみたいな人に、もっと早く会えていれば良かったんですけどね」

 

話は変わるけど、もじゃ系列なにがあったの?

 

「あぁ、こいしが拾ってきたもじゃもじゃした生き物ですね。毛が異様に伸びた兎とか、毛が異様に伸びた猫とか犬とか、過去に11匹いたんですが、全員死んじゃいました」

 

………死因は?

 

「こいしが力強く抱きしめすぎてです。自分の部屋に持ち込んで抱きしめながら寝てたようなんですけど、朝になったら私に、もじゃが冷たくなってる、と言われましたよ」

 

え、こわ。

抱きしめて殺すとか、こわ。

あれ?これ他人事じゃない?次のターゲット私?私次の被害者?

つか早死にっていうか普通に殺害されてるじゃん!

 

「大丈夫です安心してください、私がそうならないよう努力しますので」

 

尊きもじゃ11匹の前例があるんですが、それはそれはどうするつもりなので?

 

「…善処します」

 

おう頼りないお言葉ありがとうございます!

 

「お帰りになるのであれば言ってください、地底の出口くらいまでは道案内できますので」

 

そう言って書庫から出て行ったさとり。

地底から出るのは………まだいいかなぁ?

まだ色々と調べたいことがあるし。

せめて地上の地理ぐらいは知っておきたい。

 

地底、旧地獄とも言われる。

もともと地獄の一部だったらしいけど、なんらかの理由でここに移設されたらしい。

その時に、もともと地獄にいた怨霊とかに有効な覚り妖怪、といってもさとりとこいしだけのようだけど。

それと鬼とかも一緒に地底に来たらしい。

地底は上にある妖怪の山と呼ばれる山の地下深くにあって、その妖怪の山には現在河童や天狗が住んでいるらしい。

もともと鬼はその山を治めていたらしいんだけど、なぜか今は地底にいる。

 

地底は旧地獄と呼ばれるだけあって、灼熱地獄なるものがあり、なんかこう……管理しているらしい。

専門的な単語書いてあってちょっとよくわからん。

 

あと、妖怪及び妖精などの人外は基本的に歳を取らないらしい。

私は精霊の部類に入るらしい、妖精もそうらしい。

毛玉が精霊とか、この世界どうなってるのやら。

 

そもそも幻想郷なんて場所聞いたことないんだけど………戦国時代にはあったのかな?

いやでもこんな摩訶不思議な生き物がいるんだったら多少は絶対現代に伝わってるはず…

これはあれだな?考えるだけ無駄ってやつだな?私の本能がそう告げている。

 

あと気になるのはこの、八雲紫って人だ。

妖怪の賢者って呼ばれていて、なんでもすごい人らしい。

え?なにがすごいのかって?書いてないから知らん。

とりあえず、会ったらやばい系の人は極力会わないようにしないと、私の命が危ない。

まぁこの人は神出鬼没らしいから、そうそう会うことはないだろう。

 

……あれ?今フラグ立った?

 

まぁ調べ物もこれくらいにしておこう。頭の中整理整理っと。

 

部屋を出るためにドアの前に立った、いや立ってはいないけど。

 

………ん?

あれ?私、ここ閉めてないよね?

なんで閉まってんの?

え?

私、自力でドア開けられないんだけど、ドアノブ掴めないんだけど。

え?

あれ、これ………閉じ込められた?

 

 

出してェェェェェ!!誰かここから出してェェ!!おのれさとりィィ!ドアを閉じるとは酷いやつ!

 

うむ、全力でドアに突進したがどうしようも無い。

よし、本の続き読むか。

………また掴まれたよ………

 

「もじゃ十二号こんなところにいたの?さぁ、今日は私と一緒に寝よう?」

 

死刑宣告ありがとうございますっ!!

お母さん産んでくれてありがとう!あなたの毛玉は死にます!!さようならっ!!

 

ちょ、落ち着け、私にお母さんはいない。

え?お母さんいない?あれ、なんか目から毛屑が………

つか死にたくねェェェ!!

 

「暴れない暴れない、大丈夫、もじゃ十二号は誰かに襲われないように、ちゃんと抱き締めて寝るから」

 

それあかんやつ!それ一番したらあかんやつやて!つか襲ってんの君!!

うおあああああ!!

あ、なんか漏れた気がする。いや漏れてないけど漏らした気がする。

 

「すみません毛玉さん扉閉めたま………ま」

 

さ、さとりん…………

 

「こいし、離しなさい」

「なんで?お姉ちゃんも一緒に寝たいの?」

「寝たいけど、毛玉さんはダメよ」

「え?なんで?」

 

え?なんで?なんで私だけハブるの?

 

「毛玉の耐久性はあなたの思っている三倍脆いわ。小石をぶつけるだけで弾け飛ぶわよ」

 

えぇ…………

 

「そっかぁ………ごめんねもじゃ十二号、一緒に寝られなくて」

「もじゃ十二号は私が安全なところに避難させておくから、あなたは先に寝ておきなさい」

「はぁい」

 

た、助かった………

何故だろう、もじゃ十二号と呼ばれるとすごい身の危険を感じるぞ。

 

「扉閉めたことに気づかなくて……急いで戻ったら危ないところでしたね。本当にすみません」

 

いや、別にいいんだよ、うん………てかさとり、めっちゃくちゃすみませんって言うよね?癖?

 

「あぁ、多分癖です。それとできるだけ早く、地底から出ることをお勧めします。私までヒヤヒヤしてくるので………」

 

あ、はい………そうします………

 

「後、耐久性三倍脆いの発言は盛りました」

 

だよね!流石にそんなに脆いわけないよね!

 

「正確には、普通の人間が本気で殴ったら弾け飛ぶです」

 

いや、それはそれで………

つか本当に私脆いな?下手したら、自分で加速して何かにぶつかって飛び散るって事態になりかねないぞ………

もはや毛玉というよりただの埃カス。

 

 

 

 

「この縦穴を上に登っていけば地上に行き着きます。天狗に見つかると厄介なのでできるだけ早く移動してください。近くに道があるので、そこを通っていけば川があります。その川に沿って山を降りていけば、あなたが探している場所にたどり着けると思います」

 

いやほんと………何から何までありがとうございます。

 

「あとこれ」

 

あ、花冠、そういえば忘れてた。

つけてても違和感なくて、妙にフィットするからつけてるのも忘れるし、つけてなくても忘れる。

 

「これ、あの太陽の畑にいる人からもらったのでしょう?大丈夫だとは思いますけど、あんまりいい噂は聞かないので気をつけたほうがいいと思います」

 

そっかぁ、やっぱりそんな感じなのかぁ。

まぁしょうがないね、あの人オーラだけならここにいる怖そうな鬼の数倍はあるからね。

余裕でラスボスできるからねあの人。

よくそんな人に会って生きてたものだよ。

 

「あと一つ、できるだけ早く、落ち着いた場所に辿り着いた方がいいと思います。中途半端な場所だと大変なことになりかねないので」

 

ん?なんの話?

 

「それは………まぁ知らない方が楽しいこともありますから」

 

まぁそれはそうかもしれないけど。

危険なことだったらいくらでも教えてもらいたい。

 

「じゃあ危険なことを教えましょうか?」

 

え?

 

「今すぐ行かないとこいしに潰されますよ」

 

あばよぉさとりぃぃん!!

 

「さとりん………まぁ別にいいですけど」

 

ならよかったああああ!!

 

霊力を全力で放射しながら、全く明かりのない縦穴を上がっていった。

途中なんか居た気がするけど怖かったので速攻で登った。

 

もうやだこの世界

 

 

 

 

「………ねぇ大ちゃん」

「ん?どうしたの?」

「あたいなんか、忘れてる気がするんだ」

「奇遇だね私も。でも忘れるってことは大事なことじゃないんじゃない?」

「いやでも、忘れてる気がするってことは、思いだすべき何かがあるってことじゃないの?じゃなかったらそんなことも思わないと思うんだよ」

「おぉ………チルノちゃんらしからぬ鋭い考え。確かにそうだね……でも思い出せないものはしょうがなくない?」

「そうだよね!」

「うん。……あれ?チルノちゃん頭になんかついてるよ?」

「え?なにとって!」

「ほい。………あれ、この毛むくじゃらどこかで見たような…………」

 

気づくのに1時間ぐらいかかったかな………なんかもう疲れたよ

 

「………忘れてた」

「………なにこれ汚いなぁ……凍らすか」

「思い出してチルノちゃん。チルノちゃんの子分だよ?」

「え?あたいにそんなの居ないけど」

「えぇ………」

 

えぇ………私、影薄いのか?

あぁ、もう、なんか、疲れたよパトラックス………

 

すやぁ………



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念願だった………はずだけども

………は!

 

すやぁと言ったらマジで寝てしまった。

毛玉になってからの初めての睡眠、かもしれない。

というか寝てたのか?ぼうっとしてただけじゃね?寝るということが脳味噌を休憩させることを言うのであれば、間違いなく私は寝ていない。

だって脳味噌ないもん!!多分!

 

周りはちょっとした洞穴みたいな感じだ。

きっと大ちゃんが私をここに押し込んでくれていたんだろう。

 

さて、ずっと横になってるわけにも行かないので立ち上が………

 

立ち上がるってなんだろう………足無いのに。

いや、でも待てよ、私は今上を向いているし、感覚的には大の字で寝ていた。

つまり手足の感覚がある。

あれ………手足?私無いよ?手?足?動体?無いよ?だって私毛玉じゃん。

急に鼻で呼吸をする感覚を自覚する。

鼻?無いよね?

あっれれぇ?おっかしいぞぉ?

すごいデジャブを感じる………

 

これって………あれ………そーゆーこと………だよね?

んー………

 

 

私の毛玉ボディが消え去ってノーマルボディになってやがる………

ふとさとりんの言葉が脳裏を過ぎる。

なんか意味深なこと言ってたよなぁ………つまりこういうことなのかなぁ………

 

よし、このまま驚いているだけじゃあ何にも始まらない。

とりあえず体の確認をしなければ。

もしかしたら毛玉に手と足が生えて鼻がついただけかもしれない。

鼻がなかったら完全にス○モ。

いや、そんなことはあってはならないけれども!!

 

勇気を出して私の体を見る。

 

うん、全裸

 

悲報、私氏、手足が生えたら全裸だった。

そりゃそうだよね!人になったら服もセットでしたなんて、そんな都合いいことないもんね!!

急いで私の下に敷かれていた葉っぱを手に取ってあそこに当てる。

非常にまずい、ヒジョーにまずい、ヒジョーニマズイッチ。

まずい状況すぎてわけのわからない言葉を発してしまうゾイ。

おうふ落ち着け落ち着け、このままだとアキラ1○○%的なあれになりかねない。

ネタならともかく普通だったら公然猥褻でお縄になりかねない。

てかあれ、私って多分心の中は女性なんだけど体の方は?下半身しか隠してないけど。

 

………チラッ

 

即葉っぱ被したよね、ありのままの私隠したよね。

さーてどうするどうする。

この葉っぱで服作る?いや無理無理。

誰かに助けを呼ぶ?いや、でもこの状態だと気づいてくれる人がさとりんぐらいしか居なさそうだし………

でもこの状態はまずいよねぇ………

声出る?

 

「あー」

 

シャァベッタァァァァァァァ!!

 

まさか自分にこれを言う日が来るとは………

つかボイスが聴き慣れません!若干ロリボイスな気がします!!私の体型ロリなんですか!?

とと、とりあえず立ち上が——

 

「なんか騒がしいな………誰かいるのかな?」

 

あ………ずいぶんと聴き覚えのある声……

 

どうしようもねぇわぁ〜もう諦めたわ〜

よりによって大ちゃんに見つかったわ〜これはもう裸族認定確定になりましたわ〜

 

まて、まだあきらめるのは早い。

いや、手遅れなんだけども!あきらめるのは違うだろォ!?

そうだ!今すぐいつもの毛玉ボディになれば!そうすればこの状況を回避できるッ!!

うおおおおおおお!!戻ってこい私の毛玉ボディィィィィ!!

 

「………あ、失礼しましたー」

 

………帰っていった。

 

酷いよね、こんなのって。

私、悪くないよね、何一つ、悪くないよね。

せめてさ?何か予兆ぐらいあってもよかったじゃん。

毛玉ってさ?妖精と同じ精霊なんでしょ?じゃあさ?服くらいあってもいいよね?タチの悪いドッキリ番組でもさ?もーちょっと配慮あるよ。

せめてさ、下着ぐらいくださいよ。

全裸は無いですって、さすがに酷いですって。

まあ要するに

 

「服くれ………」

 

いやさ、うん。

世界って、残酷だね。

そりゃあね、毛玉に人権なんてないですよ、今の私が毛玉かは知らんけども。

そもそもなんで私こうなった?人ではない、うん、ただの人ではない。

となると妖怪にでもなったか?動物がなんらかの理由で妖怪になるケースもあるらしい。

いやでも、こいしやさとりん、幽香さんから感じられたようなものは私からは感じられない。

となると妖精コース?妖精のような何かになった?ありえる。

そもそも妖精と毛玉が同じ精霊なら、毛玉が妖精のような体を得てもいいはず……いや待て、そもそも精霊ってなんだろう?いやそれを言い出すともはや毛玉って何?毛の玉?誰が得するの?それ。

 

よし、ちょっと落ち込むついでに悟り開いてくっか。

 

と思って目を閉じて寝そべろうとした瞬間、顔面に何かが叩きつけられた。

 

「それ、着てください」

 

あ、スミマセンありがとうございます………

 

 

 

 

「えーっと………それで、あなたは毛玉さん………てことでいいんですかね?」

「ハイ」

「そ、そうでしたか………」

 

気まずい死にたい帰りたい、土に。

なんかすごい気を使われてるやん、敬語やん、初対面の相手扱いやん、確かに実質初対面だけども。

あー還たい。

 

「………」

「………」

 

………気まずい。

どうしてくれようかこの空気。

 

とりあえず服はもらった。

といっても、すこし小さいけどね。

包まっているだけなんだけど、周りから見たらまぁ全裸には見えないだろうからこのままでもいいや。

 

また、誰かが来たようだ。

 

 

「おうい大ちゃーん、よくわからない毛玉なんか放っておいて遊び………誰だお前!?」

 

毛玉です。

 

あなたの子分の毛玉です、まぁね、初見じゃこんなのわからんわ、うん。

 

「チルノちゃん、この人はあの毛玉さんだよ」

「え………はぁ?おいおい大ちゃん、いくらあたいの物覚えが悪いからって流石にそんな嘘には引っかからないよ?そもそもなんだよそのふざけた頭は!!」

 

ふざけた………頭?

いやぁ………まぁ、予想はつくけどさぁ?

 

「ちょっと川に行ってくるわ………」

「あ、はいお気をつけて。チルノちゃんには私から説明しておきますので」

 

ぐっ………敬語………

 

「おい待てよ!お前大ちゃんと何してたんだ!なんか悪いことしてないだろうな!!」

「してないしてないから、とりあえず私の話を聞いて?」

 

わぁー久しぶりのあんよだー感激だなー。

 

 

 

 

意外と歩けた、喋り方忘れてなかった。

前にもし体ができた時のこと考えてたんだけど、動かし方わかんなくなって最悪詰むんじゃないかと思ったんだけど、全然大丈夫だったね!

世界って優しいね!服関係以外は!

とはいえ素足で土の上を歩くのはなかなかきつい、この感覚も久しぶりだけど、不快なものは不快だ。

足の裏すんごい汚れる。

 

それにしても、なーんで私は記憶失ってるんだ?時代やくだらないことは覚えてるくせに、自分のことになるとなーんにも思い出せない。

急に体ができたのも謎だし………あ、よく考えたらもうこの世の全てが謎だわ、考えるだけ無駄だわ。

という思考放棄をこの状態になってから一体何回してきたのだろうか。

 

歩くにつれ川の音が流れてくる。

やはり、普段の毛玉状態の方が早く移動できるかな。

まず足を突っ込んで汚い足を洗い流す。

ちょっとした小さい川だけど、その綺麗な水面は私の顔を映し出す。

そっと覗き込んでみる。

 

……………

 

しってた

 

でも一応

、し

なんじゃこの白いもじゃもじゃは!?これじゃあまるであれじゃあないか!某糖尿病銀髪侍と緑のもじゃもじゃヒロオタを足して2で割った感じになってるじゃあないか!!もうちょっとマシな髪型は無かったんか!?クセありすぎだろ!?

 

ふぅ………

 

やーっぱり頭は毛玉そのものだったよ。

あれだね、毛玉の擬人化イラスト描いてもらったら五人中四人くらいはこんな髪の毛にしてるだろうね、だって毛玉だもの。

 

頭をぶんぶん振ると髪の毛がふぁっさぁってなってる感じがする。

試しに触ってみる。

 

………あれだよね、私今までふわふわって、浮いている感じで使ってきたけど、私の髪の毛あれだわ、ふわふわしてる。

すごく………ふわふわしてます。

 

そのあとも頑張って目を凝らして水面を見たけど、わかったのは髪の毛は白いもじゃもじゃ。

瞳の色は多分黒。

顔の形?水面じゃ見えないんだよ察しろや。

あれ?幽香さんとこ鏡あったよね?割と大きな。

つかあの人の暮らしっぷり割と現代に近かったんだけど………ここ本当に戦国時代?てかあの方何者?

いや、今更か。

てか私が何者だったわ。

 

この体の力………というか筋力。

ためしに近くにあった小さい木の枝を手に取ってへし折ってみよう。

うん、折れるわ。

じゃあこの人の頭くらいありそうな石………

あ、無理だわ、やっぱり貧弱もやっとヘアーボールだったわ、もはや貧弱もやしボール、もやし玉に改名した方がいいレベルで貧弱だったわ。

そんな岩でも、私がちょっと霊力を流せば簡単に浮くんだけどね。

うむ、手がある分浮かせたものを動かすのは楽なものだ。

 

あ、そうだ。

この状態でも私は宙に浮けるのかな?もし浮けなければ私の個性が一つ減って、ただの髪の毛が変な変態へと成り下がってしまう。

 

早速試そうとしたけど………そもそもどうやって私って浮いてたんだ?

霊力を持つ前から宙には浮いてたし………こんな時こそあれか、念じるのか、念じれば解決するのか。

うおおおお!!浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮け浮きましたー。

やったぜ。

念じたらどうにかなるもんだね。

なんとなく久しぶりな感覚だけど、足と腕がぶらんぶらんとしていることに関しては新鮮に感じる。

宇宙行ったらこんな感じなのかな?

今度は落ちろと念じてみる。

 

おっと……… 

落ちようと念じてからは早かった。

もう一度宙に浮こうと念じてみる、するとこんどはすんなりと宙に浮いた。

 

ふむ、なんとなくわかった。

一応、この人の形をしている状態であれば重みはある。

風で流されたりはしないし、貧弱ではあるけど筋力もあるらしい。

とりあえずもうこれで風に流されることはなくなったぜ!!

浮くことに関しても、2回目以降は割とスムーズに切り替えることができるようになった。

感覚的には………そうだなぁ

ゴムの風船を膨らますのは2回目から楽になる的な?辛いのは最初だけ?みたいな?

ちょーっと何言ってるかわかんないですなぁ。

まぁほんと、この辺のとこは感覚的なアレなので説明するのなんて無理無理。

 

浮遊状態での移動方法は毛玉の時とそんなに変わらない。

人の形をしていて重みがあると言っても浮遊状態であれば関係ないようだ。

ただあんまり急に体を動かすと、手足とかの関係で関節が痛くなったり、そもそもスピードが出なかったりする。

というか今更なんだけど、なんで落ちずにずっと宙に浮いていられるのだろうか。

チルノの頭にくっついてた感じ、毛玉の状態………というより浮いている状態では重みは発生しないらしい。

本人が全く気づかなかったのが根拠だ。

え?単にバカだったから?

………そんなことはないと信じている。

 

まだ眠気の残っている顔を、川の水で洗い流す。

 

にしてもなんで急に眠たくなったんだろ。

この体になるためにエネルギーが必要で、それを蓄えるために寝始めたとか?

いや、でも実際私は今も眠気というものを感じている。

目覚めた時からずっとだ。

考えられるのは………毛玉から人に近づいた?

胸に手を当てる。

あれ?心臓って右側だっけ?左側だっけ?

めんどくさいから両手つけてしまえ!!

 

………

 

あ〜鼓動の感覚〜

 

脇で手を挟んだり、口の中に指を突っ込んでみる。

どれも久しぶりの感覚だ。

いや、普段からこんなことしてるわけじゃないけども。

そもそも前世の記憶なかったから言い訳のしようがなかったわ。

それはともかく、脇に手を突っ込めばあったかく、口の中はちゃんと唾液で濡れていた。

 

うむ、間違いない。

今の私は、ちゃんと臓物がある。

多分心臓から胃、腸、その他もろもろちゃんとある。

頭から足の先まで血管が伸びている、爪も生えている。

今の私は、ちゃんと人だ。

もしかしたら人じゃないかもしれないけど、人間に近い何かだってことはわかる。

であれば、突然眠気が発生するのもまぁわかる。

だって普通の人なら睡眠が必要だもの。

ずっと毛玉で寝る必要なしに過ごしてきたのに、急に眠らないといけないようになりましたって、これもなかなか………まぁ体を得たのは嬉しいことだけども。

 

 

へぁっ!!

気づいてしまった…

ワタシ、カラダ、オンナ。

 

ちらっ

 

うん、うん………

ステータスステータス。

 

そもそも毛玉って性別ないよね!?そりゃあさ!一人称私だよ!!でもさ!そこは中性とかじゃあないの!?毛玉に性別なんてないでしょ!?あったとしてどこで見分けるの!?毛質!?毛質とか!?毛質で見分けられたりするんですか!?別にいいけどね!!

正直小さい方が好き。

なんの話かは言っていない。

 

とりあえず一旦戻るか………

多分大ちゃんはあれだろうな……初対面の相手にはちゃんと敬語使える人なんだろうなぁ……

感覚的にはあれでしょ?いなくなったペットが人間になって帰ってきた的な。

 

「はぁ………気まずい…」

 



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そして毛玉は名を得る

どうも、書いてた文が消えてヤケクソになった、ア○ホテルです。
今更ですが、誤字などがあればご指摘ください。


「あ、毛玉さん」

「おん?なんだお前、やっぱり見れば見るほど怪しいやつだな………」

「凍らさないでね?頼むから凍らさないでね?私まだ死にたくないから。貴方が最強でとても恐ろしい存在ってことは重々承知してるから」

「え?ふ、ふふん!あたいの強さにひれ伏して命ごいか!いいだろう今だけは見逃してやる!」

「チルノちゃんの扱い方をわかっている………やっぱり毛玉さんだ」

 

上機嫌なチルノを見てぼそっと呟いた大ちゃん。

やっぱり本人認定されていなかったか。

まぁ感覚的にはあれだもんね、消えたペットが人の姿になって帰って来た的なアレだからね。

ちょっと自分でも何言ってるかわからないですなぁ………

 

「あの、さっきはすみません。様子を見に行ったら全裸の女性がいたので………」

「あぁ、うん、まぁ誰だってそうなるよ。全然気にしなくていいよ」

「なにぃ?お前ぇ、裸を大ちゃんに見せつけて何がしたかったんだ!」

 

ちょ、言い方………私は露出狂じゃあない!というかすっぱだかだったことはもういいじゃないか!そっとしておいてあげなよ!可哀想でしょうが!私のことだけど!

 

「毛玉さん、すこし質問していいですか?」

「ん?全然いいよ。何?」

「毛玉さんはいつ妖力を得たんですか?しかもそれ、私の勘違いじゃなかったら……」

 

はい?

 

途端に自覚した。

私の中にある妖力と呼ばれるものを。

自分では気づかなかったけど、幽香さんやさとりん、こいしと同じ様な力を自分から感じる。

心当たりはある。

 

「多分………ここから飛ばされた後、ある人に出会ってさ。その人の近くにいたから、多分吸収的なことしてたんじゃない?」

「そんなことって………それにある人って………もしかしてそれ、緑色の髪で、向日葵がたくさん咲いているところに住んでいる人ですか?」

「そうだけど、知ってんの?」

「知ってるも何も、あの人はこの幻想郷で指折りの恐ろしくて強い人ですよ!?よく生きてましたね………」

 

あー………うん………

そんな噂広まっててもおかしくないよねぇ……あの人のオーラやばかったし……

強いってのは別に驚かないけど。

多分あの人に関するいろいろな噂聞いてから会ってたら多分私気絶してるわ。

無知は罪だけど、それで助かることもある。

 

「うん…まぁ、優しい人だったよ?」

「あんなお花化け物よりあたいの方が強いぞ!」

 

お花化け物……本人が聞いたら落ち込みそうだ。

私も日記読んだだけだから全てを知ってるってわけじゃあないけど。

あれ?日記読んだことバレたら、私捻り潰される?いやいや、きっと笑って許してくれるよね………

 

「じゃあ今から喧嘩売ってくれば?」

「え?いや、そそそそれは………えっと…生意気だぞ!子分のくせに!」

 

めっちゃ怯えてるし………てか子分てこと思い出したんだ、できることなら永遠に忘れていただきたかった。

イライラするだけだし。

まぁチルノに喧嘩売っても返り討ちにされそうだから我慢しておくけど。

 

「毛玉さんの妖力………あの人と全く同じ………それなのに体は霊力で作られていて………」

「やっぱり変?」

「正直に言えば、変ってどころじゃないです。最初は妖力を手に入れたからその姿になったのかと思ったのに、体自体は霊力から作られていて………」

 

どうやら私は、宙どころか世界からも浮いているようだ。

 

ってか、見ただけでそんなにわかる大ちゃんって凄くない?チルノの知能とは天と地ほどの差がありそうだ。

あと、多分私の霊力もすこしばかり変わっている……気がする。

確信は無い!ある訳ない!

最初は多分、チルノの霊力を吸収したんだ。

あの場にいた妖精の中で、一番チルノの霊力が強かった。

チルノから漏れ出た霊力を吸収して、私は体を動かせるようになった。

そしてその霊力は、チルノのものとはすこしだけ違うものになっている。

何が違うかって説明できるわけじゃないけど………比べれば違うってことくらいはわかる。

 

「ところでお前!名前はなんだ!」

「………吾輩は毛玉である。名前なんぞない」

「え?そうなの?」

「あぁ、そうか。今まで毛玉だったんだから、名前もつけてくれる相手いなかったでしょうね」

 

うん………いるにはいたよ?

もじゃ12号って名付けられたなぁ………いい思い出だよ、はは。

 

「じゃ、あたいがつけてやる!」

「えぇ、いいよ別に。今まで通り毛玉で」

「よくはないです。今毛玉さんは明らかに毛玉とは大きくかけ離れた存在。呼び方を同じにしたらいろいろと混ざって困惑しますよ」

 

うーん、そーゆーものなのか?

別に私、名前とかいらないんだけど。

 

「よし決めた!お前の名前はもじゃ鞠だ!」

「もじゃっ………ぐはっ」

「………あの、大丈夫ですか」

 

ダイジョウブジャナイデス………

もじゃはやめてくれ………もじゃだけは勘弁してくれ………鞠もなんか……やめてください。

 

「チルノちゃん、もうちょっといいの考えよう?」

「えー、じゃあまりも」

「まりも………?だぁれが年食って白髪になったス○モじゃボケエエエエエエ!!ブチ飛ばしたろかオルァン!!」

「ちょっと、落ち着いてください!どうしたんですか!」

 

まりもは無いわーまりもだけは無いわー。

この!?私が!?まりも!?ないわー!!私は毛の塊であって藻の塊じゃない!

 

「じゃあ私が考えます!それでいいですか!?」

「あ、それならいいよ」

「なんだと!?生意気だぞ!それにあたいより背が高いなんて!ずるいぞ!」

 

いや、大して変わんないと思うけど?背丈。

名前………名前かぁ。

自分で自分の名前を考えるってのは………まぁできないなぁ。

ゲームのマイユニットとかだったら割と自由につけられるけど………私は基本デフォルトネーム使ってたからなぁ。

こんなくだらないことは覚えてるのに……はぁ

 

「じゃあこれは………白珠毛糸……とか」

 

しらたまけいと………?

うん。

これ以上ないほど私の特徴を押さえて来たね。

確かに私は白い球さ。

自分で自分を髪の毛の塊みたいな扱いして来たけど、実際は犬とかその辺のふわふわとした体毛みたいな感じだ。

でも遠くから見たら、毛糸の塊に見えるかもしれない。

 

「私は別に全然それで………というかむしろそれがいいや」

「むぅ………やっぱりあたいの考えたやつの方が………でも大ちゃんが決めたんならそれでいいや」

「良かった………誰かに名前をつけるなんて初めてで………」

 

白珠毛糸かぁ……….さとりんやこいし、あ、幽香さんもか。

みんな苗字あったよねぇ………なんとなく不思議だなぁ。

私の場合、白珠が苗字か。

 

「じゃあ改めて………毛糸さん、これからよろしくお願いします」

「あ、え?あ、よろしくお願いします」

 

なんの挨拶?

 

「とりあえずあれだ。元の体に戻る方法ってある?」

「元の体………あの毛玉の状態ですか。すみません私は知らなくて……」

「そっかぁ………じゃあ手探りで探していくしかな——」

「あたい知ってるぞ」

「え?」

「え?」

「え?ってなんだよ。すごく失礼」

 

いや、意外すぎて………

 

「ごめん…でチルノちゃん、その方法って?」

「簡単な話だよ、何回も何回も想像するんだってさ」

「それ、誰から聞いたの?」

「この前なんかいきなり襲って来た奴がいたから頭以外凍らしたらなんか仲良くなって、その時に聞いた」

 

意外と器用なんだね………

あと方法が私の念じまくるそれと対して変わんないんだけど。

原点にして頂点だった。

じゃあとりあえず練習だけしておきますか。

 

「てわけで毛糸!あたいと勝負しろ!」

「はぁ?なんで?嫌だけど」

「なんでだ!?」

「死にたくないから」

「ふん、ざこが」

 

はいはい雑魚ですよー。

うん?チルノちゃん?その手に持った氷の塊はなんだい?

 

「ちょ、落ち着け早まるな!!」

「そい!」

「やめ——ぐふっ」

 

額に鈍い痛みが生じ、そのまま後ろに倒れた。

その時に後頭部も痛めた。

 

「何やってるのチルノちゃん!?大丈夫ですか毛糸さん!」

「う………ここはどこ私は誰」

「そんな………記憶が……」

「もう一回投げればきっと戻るぞ」

「あー戻った!戻ったから待って!その凶器を投げないで——ぶへぁ!」

「あ、手が滑った」

 

うんそうだねー氷の塊だから手も滑るよねー。

ってか痛い、頭ぐわんぐわんする。

何か仕返しを………

もし私の霊力がチルノに近いものなのなら、それを使ってチルノのように氷を生成することが可能なのではないか?

思いつきだけどやってみる。

霊力を掌へと集め、氷になるようイメージする。

気づくとひんやりと冷たい氷の玉が手に握られていた。

 

「仕返しだオラァ!」

「な——いて!何するんだこのまりもやろう!」

「あ?………んだと誰がス○モだコルァ!!」

「ちょ、落ち着いて二人とも!」

「あたいの技真似するなよ!」

「うっせえバーカ!!」

「誰がばかだこるぁ!!」

「お?やんのかオルァン!?」

「やってやるぞ!!」

「あ、駄目だ収集つかない」

 

顔を近づけ睨み合いを始める、ってかメンチ切ってる。

 

「くらえ!目つぶし!」

「ちょ急に——いった!」

 

目があ!目がアアアアアッ!!

 

「くそったれ!鼻フックデストロイ!!」

「んがああああ!!はなが!はながああああ!いだだだだだだ!」

 

チルノの鼻の穴に私の二本の指が突き刺さり体を宙にへと浮かせる。

霊力は使っていないからチルノの重みの分が鼻へのダメージとなる。

だけど指が痛いぃ!反動ダメージが私の指にぃ!

そして腕をつねられて鼻フックを解除されてしまう。

 

「いだだ………今回は引き分けにしておいてやるぞ………」

「目がぁ………目がぁ………」

 

 

 

 

「大ちゃん、こいつずっと目が目が言ってるぞ。頭おかしいのかな」

「チルノちゃんのせいでしょ」

 

バ○ス(物理)を喰らって大体1分後、ようやく目を開けられるようになった。

 

「視界が霞んでおる………」

「なんでまりもって呼ばれたくらいで怒ってるんだよばかか」

 

イラッ………

なんでだろうね、自分でもわかんないや。

 

「まりもに親でもやられたのか?」

「そうだね、バカに私の目はやられた」

「そのばかって誰?」

 

お・ま・え

まぁ口には出さないけどねー。

 

「というかお前、力は使わないのか?」

「力?なんのこと」

「さっき大ちゃんが話してた……よ…よ……」

「妖力?」

「そう、それだ。使わないのか?さすがに力を使わないやつにあたいは本気出さないぞ」

 

あら優しい。

でも使わないのではなく、使い方が分からないのである。

さっきあるのに気づいたばっかりだからさ。

それに、もしこの妖力が本当に幽香さんのものだとしたら?

下手にぶっぱなしたら大変なことになるかもしれない。

何がかって、私の体が。

妖力を放出した反動で私の体が爆発しそうで怖い。

だって幽香さんだから。

そもそも使い方わかんないし、霊力はなぜかいけたけど。

なんだろうね、馴染むっていうのかな?

さっき考えた通り、チルノから貰ったら霊力が私の中に入って変質したのなら、それが私特有の霊力になっている。

と、思う。

所詮は書庫で読んだにわか知識よ。

 

「それはそうと、毛玉さ………毛糸さんはこれからどうするんですか?」

「え?」

「どこに行くつもりなんですか?」

 

………てっきり養ってくれるもんだと。

そんな甘い話無いよね………永遠に誰かにパラサイトして生きていきたい。

 

「………行くところないんだったらここにいたらどうです」

「ぜひ!」

「ここにいるって、どこにいるんだよ」

「そうだね………じゃあ基本私とチルノちゃんと一緒にいるってのは?」

「いいの?」

「私は構いませんよ」

「あたいも全然いいぞ」

 

いつでもやり返せるし

という呟きがチルノから聞こえたのはきっと気のせい。

 

しかしそう言ってくれるのはすごくありがたい。

野垂れ死ぬのだけはごめんです。

やっぱりさ、体を手に入れてからが私の人生のスタートなんだよ。

私は今のところ超絶な幸運で襲われたことは一回しかないけど、この先どんな危険があるかわからない。

じゃあ誰か自分に被害を及ぼさない人と一緒にいるのが一番安全だと思うんだ。

チルノはともかく。

 

「じゃあ案内するのでついて来てください」

 

この世界で住む場所を得て、そして美少女二人に囲まれるとは………

やったぜ。

さてさて、この先どうしますかなぁ。

 

 

 

 

「ここです」

 

連れてこられたのは………木に囲まれた何にもない場所。

 

「………」

「お?なんか言いたいなら好きに言っていいんだぞ?」

「いえ、結構です」

 

素敵なツリーハウスでもあるのかと思ったあたいがバカだったよ。

本当に何にもないやー。

 

「えっと、妖精って基本的には寝ないんですよ。本当に何もやることのなくなった時の最終手段って感じでですね。だから寝床も、草だけ敷いて………という」

 

この時、私は決意した。

マイホーム作ろう、と。

あったかーいわーがやーがまっているー

せきすーーーーー○はうすーー



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試しにイ○撃ってみたら暴走してイ○ナズンになっちゃった的なアレ

新しいオリキャラがちょろっと出ます。


毛玉流、これが夢のまいほぉむ。

 

って、しようと思ったんだけどさ?

私に建築力なんてある訳なかったよね。

そもそも木を倒すことから苦労だし、運ぶのは楽だけどさ。

加工の仕方わかんないし。

現代人ってダメだね、便利すぎるものに慣れすぎてサバイバルできないね。

多分この時代から家を作る大工みたいな人はいただろうけど、そう言う人が都合よくいるわけでもないし。

一応、妖怪の山に住んでる河童はものづくりが得意とは本に記述されていたけど、妖怪の山は警備が厳重とも聞いている。

 

妖怪の山には天狗や河童、その他もろもろが住んでいるらしい。

あ、妖怪の山っていうけど、それは幻想郷内での呼び方なのかな?日本全国に妖怪がいるのなら妖怪が住んでる山なんてきっとたくさんあるだろうし。

河童は河童しかいないけど、あ、山童っていう似たようなのもいるらしい。天狗になるといろいろな種類がいるようだ。

私は鼻が長い天狗しか知らんけど。

えっと………鴉、白狼、山伏、鼻高………だっけ?あ、さとりも昔は山に住んでたらしい。

それと、なんでもあの山にはなんでもとってもお偉い天魔様というお方がいるようで、あの山を取り仕切っているって話。

山に侵入した輩は白狼天狗さんが即刻排除しに来るらしい。

おぉ、こわいこわい。

てわけで、山へ侵入することは出来ないってわけさ。

だって、死にたくないから。

 

 

悩みがある。

家がないのもそうだけど、もっと重大な悩みが。

 

何にも食べてねぇ。

 

そう、今まで毛玉だった分何かを食すのは完全に諦めていた。

だけど人の体を得た今となっては話は別、お腹減ったなんか食わせんしゃい。

妖精はなに食ってるのかなって観察してたら、なにも食べてなかった。

なにも食べなくてよくて寝なくていいとか、完全に人じゃないね。

まぁ精霊が食事を必要としないってのも分からなくはない。

私が必要な理由はわからんけどな!

やはりチルノたちとは体の作りが根本的に違うのだろう、眠いしお腹減ったあと髪の毛鬱陶しい。

微妙に長いせいで目にめっちゃ刺さってくる。

 

やはり文明の力は偉大であった。

この環境だと道具でもないと本当になにもできない。

だがしかし、今の私は知識なし力なし存在価値なし、あるのは体と髪の毛だけという悲しい生き物なのだ。

霊力や妖力を使えないとただの貧弱な毛むくじゃらなのは、人の姿になっても同じようだ。

幸いにも、前世ほどお腹がすいて何もできないってわけじゃないから活動はできる。

妖精も飛んでる間は少しづつ霊力を使ってるみたいだし、私も使い方を覚えないと………

 

 

 

 

てわけで、湖から少しだけ離れたところにやってきた、特に何もないここなら、なにか起きても大丈夫だろう。

 

まずは毛玉の姿へと戻ること………

この世界において大事なものは、具体的なイメージだと思う。

霊力や妖力なんてものは現代に存在していない、だけど今この瞬間は存在している。

霊力や妖力、もっと言えば魔力、神通力………それだけじゃない、河童や天狗、妖精なんてものまでいる。

現代では非科学的で、非常識と思われているものが、ここでは至って普通で、当然のものとして扱われている。

要は精神的な話だ、たとえ一般的に存在しないと思われていても、個人があると信じるならそれはきっとあるのだろう。

あると思ったらある、できると思ったらできる。

霊力をなんとなく使おうと思っただけで、簡単に使えたのがいい証拠だ。

要するに、念じたらいいって話だね。

まぁそれでも一応考えはしてみる。

 

私の体は霊力で構成されていると大ちゃんは言った。

ならその霊力をうまく操作できたなら、体を自由に操ることもできるはずだ。

まぁここまでは推測オブ推測なのでやってみないとわからない。

 

チルノに氷塊をぶつけたときのように体の中を巡る霊力を感じとる。

その霊力を体の中で動かして胸の中へと集め、自分の体、毛玉の状態を想像する。

ひたすら体の中にある霊力を感じて、毛玉の状態想像する。

具体的なイメージ………白くて薄汚い毛の塊……川面に移った自分の体………

 

気づくと、えらく視点が下がっていた。

手足の感覚がなくなり、宙に浮かんでいる。

多分成功だ、自分の状態を確認する術がないからなんとも言えないけど。

すこしだけ、自分の中の霊力が増えていた。

体を作ってた分の霊力が回収されたのかな?

こんどはあっちの体だ。

また、あの体を具体的に想像する。

髪の毛が白くてもじゃもじゃで、背は高くなくて黒目で………結構あやふやになってしまうけど、多分こんな感じだったはずだ。

毛玉になって増えた分の霊力を意識して、他の霊力と切り離す。

すると切り離した分の霊力が消えて、地に足がついた気がした。

これまた成功。

 

案外やろうと思えばできるものだ。

まぁ結構意識しないとできないけど。

とりあえずはこの状態でしばらく過ごそうかな、手足がないのは厄介だし。

 

次は妖力。

とりあえず拳に溜めてみようか。

霊力と同じ要領で手のひらへと集める。

こんどは氷塊ではなく、黄色の謎の光が出た。

 

「………なにこれ」

 

思わず口に出てしまう。

そういや妖精たちもこんな感じのポンポン出してたような………

ちょっと真似しようかな。

近くにあった木に投げる、

割と本気で投げたのに、めちゃくちゃひょろひょろと飛んでいく。

どんだけ筋力ないんだよ引くわ。

もうすぐで木に当たるね、ぶつかって弾けて消えそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

——うん?

あれ、ぼーっとしてたかな?記憶ねぇや。

うーん?

 

「………なにこれ」

 

なんか木、吹っ飛んでんだけど………

いやー、幽香さん怖いわーただひたすらに怖いわー。

ぶつけた木だけでなくその周辺の木々も、倒れていたり穴が開いてたり………

私も吹っ飛ばされたのか、その木々から離れたところで寝ていた。

最近寝起きでこういうのばっかだな。

とりあえず妖力は封印安定だね、うん。

こんなの使ってたら私の体持たないや。

その場から逃げるように踵を返し帰ろうとした………のだけど。

なんか視界が真っ赤に………

 

「血ィ………」

 

目に血が入ったかぁ………頭に吹っ飛んだ木片でもヒットしたかなぁ?もしかして気を失ったのもそのせいかも………

えっと、私は毛玉、白珠毛糸、0歳、女性、多分。

うん、自分のことはバッチリ覚えてた。

目に血の入った右目だけ閉じてどうするか考える。

やっぱりこのままはまずいよねぇ………よく貧弱な私が生きてたとも思う。

頭を色々触ってみるけど、額から血が出てたみたいなんだけど傷の跡がない。

頭もクラクラとかしないし、案外血にも動じないもんだ。

傷が塞がってるのは………寝てる間にでも治ったんでしょ、この世界ならありえるありえる。

とりあえず湖で顔洗うか………このままじゃ帰れないし。

これ、腕に妖力を込めて殴りつけたりしたら腕吹っ飛んでたんじゃないかな?こわいこわい。

そんなことより顔洗わないと。

 

 

 

 

 

 

「………おいおい、ありゃ相当やばいんじゃあないか?あの爆発………ただの妖怪かと思ってたが、そう楽観的には見てられねえな………上に報告すんのが面倒だ………」

 

はぁ、と、重い溜息をついてその白狼天狗はその場を後にした。

湖へと向かっていくそれを、とても面倒くさそうな目で見ながら。

 

 

 

 

 

 

あーよかったよかった。

もしかして髪の毛に水がついたら毛玉状態の時のように身動きできなくなるかもと思ったけど、別に大丈夫だった。

やっぱりさ、心配しすぎは良くないよね。

慎重なのは別にいいと思うけど、それで何かをするたびにヒイヒイ言ってたらキリがない。

大胆かつ慎重に、これからは過ごしていこう。

慎重をやめて大胆だけするとさっきみたいなことになるからね。

 

「おいっす大ちゃん。バ………チルノは?」

「あ、おかえりなさい。チルノちゃんならさっき湖から帰ってきましたけど」

 

ギクッ………

心の中でギクッて言っちゃったよ。でも私さっきまで湖にいたし…

もしかしたら見てた?いやでも、もし見てたとしたら私が倒れてるところ流石には私ないでしょ?木の爆発の跡だけだったら別に見られてもいいんだけどさ。

突然後ろから肩を掴まれる。

 

「おまえ………なんで生きてるんだよ」

「ギクッ、な、なんの話?」

「とぼけたってむだだぞ、あたいは確かに見た」

「見間違いとかじゃない?」

「あたいの目はうそつかない」

 

うん、見てたかぁ、見てた上で放置したかぁ。

ひどくない?見てたんなら起こそうぜ?

 

「血だらけで倒れてたから死んだと思って帰ってきたら、平気な顔でいるし………」

「ほら、勘違いってやつじゃ?」

「すごい血の匂いするぞ、あたいの鼻はうそつかない」

 

わぁ自信満々、ですっごいジト目で見られてる。

また後ろから肩を掴まれた。

 

「血だらけって…なんですか」

「こっちは目が死んでらぁ」

 

よしこうなったら私も対抗して煮込まれた魚の目で………ちょっと、肩重いですやめてください!二人して肩掴む手に力入れないでよ!

ちょ、いだだだだだだだ!うで取れる方取れる!外れる!沈む!

 

 

 

 

「はぁ………ちょっと気になったから妖力を使ってみたって………」

「あたいはなんであのけがから平気な顔で帰ってきてるのか気になるぞ。息してなかったのに」

「息してない?さすがに嘘でしょ。私今ここですっごいピンピンしてるじゃん」

「あたいの感覚はうそつかない」

 

なにそれ気に入ったの?

 

「血だらけって、具体的にどんな感じだったの?チルノちゃん」

「えっと………まず頭から血が出てるでしょ?そんで口から血が出てて………まぁ血だらけ」

 

服汚れてなかったと思ったら絶妙に頭部だけ痛めたのね。

 

「とりあえず、こんなことはもうしないでくださいよ」

「あ、はい、スミマセン」

 

また死んだ目で見られた。

よくそんな目できるね?逆にどうやってやるのか教えてもらいたいくらいなんだけど。

 

「でさ、反省したから、そろそろこれ外してくれない?」

「無理です」

「そんなぁ」

 

現在二人に簀巻きにされて逆さに吊られてる。まぁ私が悪いんだけどさ。

 

「あたまに血が上って脳味噌爆発しそうー助けてー」

「なに言ってるんだよ、その状態だとあたまに血が落ちていってるんだろ」

 

・・・

 

確かに

 

まぁ毛玉状態なったら抜けれると思うんだけどさ、私が悪いし別に辛くないからいいや。

危ないことはしない、これ大事。

私は体が貧弱もやしそのものなのでな、危険なことすると死んでしまうんだよ。

なんでけだますぐ死んでしまうん。

答えは毛玉がもはやヒエラルキーから外れた論外の存在だから。

 

「そういえばあの時だれかに見られてたような………」

「気のせいじゃね」

「そっか!気のせいか!」

「それでいいのかバカ妖精」

 

おうふっ!回し蹴りが腹にぃ!

 

「誰がバカだこのま——」

「だぁれがス○モだコルァ!」

「ちょっといい加減にしてください!!」

「あ、サーセン」

 

誰かに見られてたかぁ、私も誰かに見られてた気がするよ奇遇だねぇチルノ。

まぁ気のせいだよね!あっはっはっは。

 

ふぅ………まさか妖怪の山の天狗とかじゃないよねぇ?私一応あの山侵入してたことあるし、地上とはできるだけ関係をもたないようにしてる地底にも行ったし………まぁ毛玉状態の時の話だから大丈夫かなぁ?

てかもう既に危ないこと山のようにしてたわ。妖怪の山だけに……………さむっ、ちょっとチルノ冷気撒き散らすのやめてくれないかなあ?え?してない?じゃあなんでこんなに寒いんだよ。

 

「何言ってるんだばかじゃないの?」

「おんブーメラン脳天に突き刺してやろうか」

「ぶーめ………ちょっと訳わからない言葉ばっか使うなよ。大ちゃんも知らないんだぞ。す○もとか、ぶーめ…とか」

「あぁ、うん………しょうがないよ、生きてた時代違うんだしさ」

「ん?何か言った?」

「なんも言ってないよ気のせいじゃない?」

「あ、そっか!おーい大ちゃんかえる凍らしにいこうよー」

「もう日が暮れるよ、今日はもうやめよう?」

「ちぇっ」

 

あ、私このまま放置ですかそうですか。

 

 

 

 

「なるほど………そんな存在が湖の近くに」

「あぁ、俺の勘違いじゃなかったらあれは地底に侵入した例の毛玉と同じやつだ」

「それ、上には報告したんですか?」

「いいやまだだ」

「先にそっちに報告してくださいよ」

「いやだって………大天狗怖いし」

「まぁわかりますけど」

 

妖力を使って大きな爆発を起こす人の形をした毛玉………見張っておいた方がいいでしょうね。

 

「あんの白毬藻野郎、あいつのせいでこちとら旧地獄へ侵入させた責任取らされて減給くらってんだぞ」

「怪我しないようにだけ気をつけてくださいよ、あなたがいなくなると私達の仕事回らなくなるんで」

「人手不足って残酷だなぁ、そっちも気をつけろよ、椛」

「自分の心配してください、柊木さん」

 

また一つ、深い溜息をを吐きながら部屋を出て行った柊木さん。

私もその毛玉、見張っておきましょうかね。

 



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生きていることを実感する毛玉

 

ふぅ………

 

あれ?やっぱり私影薄い?

起きてもずっと簀巻きなんだけど、忘れられた?忘れられちゃった系?

うむ、じゃあもう抜け出してもいいよね。

毛玉の状態をイメージして………よし抜けた。

ちょっと時間はかかるけど問題なくできるか。

今日はあんまり風吹いてないみたいだし、しばらくこの状態でいるかな。

 

お二人さんはまた湖のほうに行ったっぽいし………放置か………よし、腹減った。

毛玉状態で腹も何もないけどお腹が空いた。

多分人の状態になったらお腹すごい鳴ると思う。

しかし妖精は気が向いたときにしか物を食べないし………私の食べるものなんてあるのか?

いや、ないと断定したほうがいいか。

この時代だと野生の植物なんて食べれるかわからないし、食べる気もないし。

狩りでもするかな。

今の私は襲われる側ではなく襲う側、逃走者ではなくハンター。

一狩りいこうぜ?

 

 

 

 

ところで、毛玉から人になっても服はそのままらしい。

変わるたびに裸族になるとかだったら私もう毛玉になってやんない絶対。

それはさておき、どうやって獣をおびき寄せようか。

罠は作れる技能もないし、そもそも道具がないし………

じゃあ何かを餌にするしかない訳だ。

ならば答えは簡単それは………

 

私自身が、餌となることだ!!

 

毛玉状態の私が獣に襲われやすいのはもう分かっている、現に2回襲われてるからね。

木に囲まれた場所で、ひたすら佇む、

心を無にして、世界と一つに………じゃなくて。

これ、獣さん襲ってくるまで暇すぎるわ。

ちょっと霊力垂れ流してみたり………

 

なんか後ろの方で音が聞こえたんだけど。

来るの早くない?襲ってくるまで暇とは言ったけど早く来いとは言ってない。

猪辺りだったらうれしいな………

 

背後から何かが突進してくるのを感じる。

できるだけ引き付けて一気に上空へと上がり、人の形になって足元の獣を踏んづけた。

すかさず首を手で掴んで頭を押さえる。

うん、猪だった。

やったぜ、捕獲完了!

さて、捕まえたのいいけどこっからどうしよう。

………いや、本当にどうしよう!

道具とかないから解体もできないし、縄とかもないから生捕もできないし。

そもそも、ちょっとしたホラゲーでも夜寝れなくなる私が解体作業なんてできるのか?

否、できるはずがありませんっ!!

お行きなさい、猪くんよ、せいぜい長生きするんじゃぞ。

 

さぁて、振り出しに戻ったなぁ。

お腹鳴るし………なんか食べたいなぁ。

 

 

 

 

「えっと、確かこの道で………ん?」

 

湖から少し離れたところにある道、そこで一人の大きな荷を背負った青年が歩みを進めていた。

何かの気配を感じ取ったのか、腰にある短剣に手を掛ける。

あたりを少し見渡したあと、気のせいかと短剣から手を離そうとしたとき。

 

「へいあんちゃん、なんか食いもんもってなぁい?腹減って死にそうなの」

「っ!?」

 

突然背後から女性の声がした。

振り向くと、えらく派手な頭をした質素な装いの背の低い女の子のようなものがそこに立っていた。

見た目は少女であっても、その気配、感じ取れる力は妖怪そのものだった。

反射的に、その青年は手に持っていた短剣をその少女に投げた。

 

「ふぇ?あっ——ぶな!ちょ、話聞こうよあんちゃん、私お腹空いてるだ——あぶな!?」

 

間髪入れずにもう一本の短剣で斬りかかるが、ギリギリで回避される。

 

「おいあんちゃん、人の話聞かんかい!」

「来るな!化け物め!」

「化け………」

 

突然突っ込んできた少女。

攻撃をくらうと思って身を固めると、手から短剣を奪い取られた。

 

「刃物を人に向けてはいけませんって習いませんでしたか!?」

「あ…あ………」

 

短剣を失い、明らかに怯えてしまった青年、しかし少女は近づいてくる。

 

「ったくもう、こっちは食べ物あったら分けてくださいって言おうとしてるだけって………泡吹いて気絶してる………あ、いっけね、妖力漏れてたや」

 

そういうと少女の気配が全く違うものになった。

 

「うん………とりあえず荷物だけ漁らせてもらおうかなぁ」

 

 

 

 

あ、干し肉ゲットー。

二つだけもらっておくとしよう、この人がのたれ死んだらダメだし。

他にめぼしいものは………ないな。

それにしても、なんでこんな人気のない道通ってたんだ?この人、獣とかに襲われるだろうに。

まぁ襲ってんの私だけどなー。

短剣も一本もらっておくとしよう、二本あるんだし一本くらいいいよね?

 

「それじゃ早速………いただきます」

 

そのなんの肉かもわからない干し肉を口の中へと突っ込み噛み切る。

うぇ………美味しくない………いや、あたりまえなんだけどさ?

こんな時代なんだから、普通の人なんて食べれればそれでいいって感じだろうし。

そもそも干し肉は保存食で、美味しさを求める方が間違っているんだ。

でもこれで味覚もちゃんと機能してることがわかった

もしかしてこの体、毛玉からなってるからどっかおかしいところあったりしないかなぁ?と思ってたけど、そんなことなくてよかったよかった。

強いて言えば貧弱だけど。

そう言えば私この人に下手したらやられてるんだよね………生きてるって素晴らしいや。

で、この人どうしようか。

結局この人は何しにきたんだろう。

思えばこの世界で初めて見る普通の人間なんだけど………

この道の先に、何かあるのかな?

ちょっと気になるなぁ。

 

 

 

 

「………ん……ん?あれ、なんで俺こんなところで寝て…あ!」

 

何かを思い出したかのようにあたりを見渡し始めるその青年、挙動不審かな?

まぁ多分私のこと探してるんだけど、私は今君の真上だよ。

 

「あれ、おかしいな………あ、もうすぐで日が暮れる、急がないと」

 

そう言って駆け足で道に沿って走っていくその青年。

やっぱりこの先に何かしらあると思っていいかな………大丈夫、道に沿えば湖へは辿り着ける。

そう思って上空からその青年を見下ろして後をついて行く。

 

 

ありゃ………人里ってあれのことかな?

あのあんちゃんあそこへ入って行ったけど、他にも人いるのかな?

まぁ私みたいなのとか、妖精、妖怪とかは人間からしたら危険なやつ扱いだし、近寄らないほうがいいんだろうけど………

毛玉とはいえ、私は心は一般ピーポー、普通の人間がいるなら敵対とかはしたくないもんだ。

えっと………なんだっけ、あれ。

すぐに呼びましょおんみょーじ?

あ、そうだ陰陽師だ陰陽師、妖狩りさんだ。

実際にいるらしいね、陰陽師、怖いね。

 

現代にそういった、非科学的な存在はいない訳だけど、この時代にある。

単に似ているようで違う世界って可能性もあるけど、もしここが私のいた現代の過去だとすると現代では妖怪や妖精やらがいなくなったことになる。

そういう存在がいなければ陰陽師も必要ないだろうし、一般的には妖怪なんて二次元でしか存在しないからなぁ。

となると、私たち非科学的存在はそのうち存在が抹消され………こわっ。

まぁ言うて現代まであと数百年はあるし、気長に行こうか。

あれ、毛玉って寿命どれくらいなの………?

妖怪はすごく長命、妖精はほぼ不死の存在、じゃあ毛玉は?いや、毛玉かどうかもはや怪しい存在になった私の寿命は?

これは大変なことだぞ………現代を迎えるまでに寿命で死ぬ可能性が………

やだ怖い。

いやでも、妖怪は長寿なんだから、私も長寿と考えて………

あれ?さとりんって何歳だ?もしかしてさとりん、ロリバ——。

そもそも、私は耐久力が豆腐に毛が生えた程度なんだよ、寿命の前に死ぬ可能性大だよ。

そんな耐久力で陰陽師なんぞに遭遇したら人生終了のお知らせが来ちゃうね、帰ろう。

 

 

 

 

あー………そうだよ今夜じゃん。

夜といえばあれよ?やれ魔物がでるやら、ゾンビが動き始めるやら………とりあえず夜に生きるものが活発になるんだよ。

夜になったら出歩かないって、ファンタジーの基本中の基本じゃないかーやっちゃったなー。

後ろに二匹、前に一匹、上に二羽………まっず。

狼さんと、なんかの野鳥さん。

しかもただの野生動物じゃない、妖力を持っている、これが噂の妖怪ってやつか。

あれ、妖怪ってだけならとびきりやばいのに会ってるよね?

じゃあ別にまずくないや、もっとやべー奴に会ってたわ、もう何も怖くない………!

 

「ぐるあぁ!!」

「前言撤回!怖いですっ!」

 

いや、正確には口に出してないから撤回する必要もないのか?

とりあえずフラグ立てちゃったけど、○ミりたくはないので全力で逃走するとしよう。

ジョー○ター家に伝わる伝統的な戦いのうんたら、使わせてもらうぜ!

逃げるんだよォ!スモー○ー!!

体を宙に浮かせ、霊力を後ろへ放出しながら妖怪からの包囲網を突き抜ける。

正面にいた狼は驚いたのか、横に飛び退いて私の突進を回避する。

即座に地に足をつけて走り出す、ただひた走る。

後ろの狼とは距離が空いたけど、上の鳥にずっとストーキングされている。

どうにかしようかと少し立ち止まり、体を浮かせて飛び上がろうとする。

その瞬間横から狼が飛び込んできて、私の右腕にその牙を食い込ませた。

鋭い痛みが脳へと伝わる。

右腕を振り払おうとするけど、痛みでうまく動かせない。

左手で狼の下顎を掴み、霊力を使って顎を凍らせ、さらに腹を蹴って狼を引き剥がす。

無理に牙が腕から外れて傷が広がる。

右腕を抑えようとするけど、嫌な予感がしてすぐにその場をしゃがんだ。

頭上を狼が一匹飛びかかってきた。

後ろ足をつかんで霊力を流しこみ、適当にぶん投げる。

そしたら次は首に鋭い痛みがやってきた、あぁもうキリがない。

完全に牙が食い込み、生温かい何かが出ていく感覚がやってくる。

顎を凍らせた狼が足にも噛み付いてきた。

どうすればいいか、とっさに考える。

完全に身動きが取れない、でも動かなくたってできることはある。

足に噛み付いている奴に、足から霊力を流し込んで、首のやつには右手と左手の両手で霊力を流し込む。

私も浮いて、噛み付いているやつと一緒に宙に浮く。

宙に浮いても絶対に噛みつくことはやめない、さらに血が出てきて、体の中がえぐれるような痛みがやってくる。

歯を食いしばるけど、すごく痛い、泣きそうだ、泣き叫びそう、つか泣きたい。

飛んでた二羽の鳥もやってくる。

お前らがいなかったら上から逃げれたんだよ畜生め。

同時にやってきたそいつらの嘴を掴み、まず凍らしてから浮かしてやった。

絶対に手は離さない、凍らすのもやめない。

羽まで凍ったのを確認したら、私以外の全員の浮遊状態を解除する。

そのまま真っ逆さまに落ちていく鳥と顎を凍らされた狼、もう一匹の狼だけは、まだ首に噛み付いている。

じゃあ一緒に落ちようじゃないか。

私の浮遊状態も解除する。

狼をちゃんと下敷きにして、地へと落ちた。

すぐにもう一度飛び上がる。

体の中で散らばっていた妖力を手に集める。

月に負けんばかりに光る黄色い玉。

全力で飛び上がりながら、その黄色い玉を真下へ向かって投げた。

今度は、ちゃんとした速度で飛んで行った。

地面が眩い光に包まれて、それを直視してしまった。

 

 

目が見えるようになり、やっと地面へと着いた。

 

そして一言

 

「いったあああああああああああああ!!こんの獣畜生どもがぁ!死ぬかと思ったぞチクショウ!」

 

その爆心地の中心、妙に焼け焦げた臭いがするその場所で、そう叫んだ。

後になって、これを聞いて他の妖怪や獣に見つかったらまずいと気がついた。

やっぱり、殺生は良くないとか言ってる場合じゃなかったんだよね。

死ぬか生きるか、それこそが世界の真理なのだよ、わたしゃサバイバー失格だな。

 

早くこの場所を離れようと、毛玉の状態になって宙を浮き始めた。

人の状態じゃ血は出る、毛玉だったら失血はしない。

すごく眠いけど、眠るわけにはいかない。

寝たら死ぬ気がする、寝るなー、寝たら死ぬぞー、永眠したいのかー。

そう言い聞かせながら、湖の方へと進んでいく。

死ななかっただけまし、生きてりゃ安い。

そうは言ってられない状況。

だってさ、首と脚と腕に穴が空いてるんだよ?血が出てるんだよ?逆によくついさっきまで、いや、今も生きてるな?

どうやら、生命力だけならそこそこあるらしい、ゴキじゃねえぞ、ブリじゃねえぞ。

つまらないこと考えてんなぁ、こんな様なのにさぁ。

 

 

 

 

毛玉の状態でいても、人の体の傷は治らない。

湖の近くで寝転がりながら、天仰いでいる今、私は死にかけです。

どうせ治らないのなら、あの時の額の塞がったであろう傷、あれの再生力にかけて寝るしかないでしょ。

はい、ウソつきました、考えるの面倒くさくなっただけです。

いやでも、死にかけでみるこんなの絶景の夜空も悪く無いもんだよ?現代じゃ、よほどの田舎に行かないとこんな夜空は見れないからね。

 

「………良い、夜空だなぁ」

 

これが遺言にならないことを祈りながら、私は意識を落とした。



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毛玉の災難な日々

「大ちゃんみてみてこれ」

「なに?」

「じゃーん、死体」

「えぇ………埋めてあげなよ」

「みょうに頭が毛むくじゃらだったから」

「あっ」

 

目の前の妙に頭が毛むくじゃらな死体、それを見た大妖精、死体を蹴っ飛ばす。

 

「——いって!?誰だ気持ちよく寝てるやつを蹴る奴は!?」

「あ、生きてたのか」

「なんであなたはいっつも死にかけてるんですか」

「うんごめんね!でも蹴るのはないでしょ!?怪我人だよ!?重傷者蹴るなよ!ってか本当に死んでたとしても蹴るなよ!オーバーキルだわ!酷いよ!死体蹴り!」

「怪我、ないですけど?」

「………はっ」

 

塞がってた。

 

「というか血生臭いんですよ」

「しょうがないね、ちょっとワンちゃんと鳥公ファイヤーしてきたからね。あと血流したし」

 

じゃあ湖に浸かってこようかな。

まぁ無事でよかった。

いや、無事ではなかったな、死にかけてたわ。

 

一瞬、口の中で鉄の味がした。

血が口から出てきそうになった。

傷は塞がったけど体の中はズタボロとかそういう系?ともかく体洗わなきゃ………

 

 

 

 

服を脱ぎ、全裸で湖の中に頭だけ出しながら考える。

結局傷は塞がった、死んだかと思ってたけど。

というか、あの状態から死なないのおかしいよね?流石人外。

傷が塞がったのって、なんでだろう?

霊力消費したとか?

いや、妖力かもしれない。

でも使った量とか調べようにも、寝る前の詳しい妖力量とか覚えてない。

試しにやってみる?

 

湖に浮かんでる小枝。

なんかすごい尖ってるんだけど、殺意高くない?

その尖ってる部分を、左手の中指に刺してみる。

ちょっとした痛みの後血が滲み出てきた。

放っておいても塞がるだろうけど、霊力を指に集めてみる。

………あ、塞がった。

じゃあ霊力を消費して傷が治ってたってことか。

妖力は………怖いからまた今度。

まぁ私のちっぽけな霊力量で本当にあの大怪我塞げたのかは疑わしいけど。

もう血落ちたかな?

 

「いてっ………」

 

傷かと思ったらサカナァ………魚が私の足にしゃぶりついてきよった。

ええ度胸やないかいわれぇ………

足から霊力を放ち魚の口の中で大きな氷塊を作る。

口の中で氷塊をつまらせた魚が足から離れたので、水の中に潜って口を両手で掴んで地面の上に放り投げる。

 

「獲ったどー」

 

言ってみたかった。

てか、最初から素潜りすればよかったんじゃ……私って本当バカ。

いやでも、こう、魚を突くやつ。

なんだっけ、もり?銛だっけ?あーゆーのないからできないってことだったから………でも今手掴みで出来てるよね?

後悔先に立たず、今生きてるんだからそれで良いジャマイカ。

とりあえず焼いてやるからなこの魚クンがよぉ、美味しくいただいてやるわ。

 

 

 

 

えっと………火……火、どうしよう………

流石に刺身はなんかいやだから、焼いて食べてやろうかと思ったんだけど………

どうやって火を起こすんだ……

手ごろな木の枝を棒の形にして、木材の上で回し続ける。

飽きた疲れた寝たい。

誰か私にチャッ○マンをくれ、火をくれ、文明をくれ。

寝そべってこのもやはビチビチ跳ねなくなった魚をどうするか考える。

 

「なにしてるんだ?」

「ん?チルノかぁ。この魚を焼く方法を考えてる」

「凍らしていい?」

「ダメ」

「ちぇ」

 

見たもの全てを凍らそうとするのやめようよ。

目と目があったら凍らしてきそう、新手のポケ○ントレーナーかな?

 

「そんな魚食べなきゃいけないなんて、かわいそうなやつだな」

「頭が可哀想な奴に言われたくない。ってか食べたことあるの?」

「髪の毛がかわいそうなやつに言われたくないぞ。友達がそれを食べて吐いてた」

「凍らして良いよ」

「やった!」

 

吐くって………吐くってどんだけやねん、相当やぞ。

私が食べたらどうなるか………血反吐かなー。

意気揚々と死んだ魚を手から出る冷気で凍らすチルノ。

そういやポケモ○を氷漬けにしてコレクションするサイコパスおばさんがいたような………

 

「チルノ、クラゲからは逃げるんだぞ」

「お?どうしたんだ急に、頭打ったのか?」

「年中頭打ってる奴に言われたくない………聞いてねえや」

 

おいなに凍った魚でカーリングしてんだよ楽しそうだな、私にもやらせなさい。

 

「チルノ、そういえば聞きたいことあったんだけどさ」

「お?なんだ?」

「あの金髪美少女、誰」

 

さっきから木の影でめっちゃこっちを見てる、赤い髪飾りをつけた赤い目の金髪美少女。

よだれ垂れてますよー。

 

「あれはルーミアだぞ、妖怪」

「はぁ、妖怪さんですか」

「よんだー?」

 

超速でこっちきよった。

な、なんて早い動き、私じゃなきゃ見逃しちゃうね。

というか、これまたバカそうな………

 

「お姉さん食べていい?」

「お姉さん毛玉だから、食べると喉つまらせて死んじゃうよ」

「そーなのかー」

「なにそのポーズ、流行らないよ?」

「流行れー」

 

目と目があったら捕食ですか、新手のハンターかな?ナルガクル○狩ってそう。

 

「ところでその魚、食べていいのかー?」

「いいけどお腹壊しても知らないよ?」

「いただきますなのだー」

「聞いてねー」

「ごちそうさまなのだー」

 

なん…………………だと…………!!

食べるのが早すぎる………その魚凍ってるんだよ?なんて奴だ。

 

「ルーミアはたしか人間早食い大会でぶっちぎりの一位だったぞ。さすがのあたいもあれは引いた」

「うげ……なにその大会、よく直視できたね」

「見てない、感じた」

 

目が悟り開いてる………チルノが扉開いちゃってるよ。

 

「じゃさらばー」

 

帰るのも早いなー。

突然ルーミアの周りが暗くなっていく。

少し経つとルーミアの周りが円形状に暗闇に包まれた。

な、に、そ、れ。

 

「あんな感じにになったルーミアは食べ物を探してるんだぞ」

「へー、あの状態どっかで見たような………」

 

あ、クリー○だ、ヴァニ○・アイスのあれだ。

新手のス○ンド使いだなてめー、てめーアヴ○ゥルをガオンする気だろ、○ギー蹴り殺す気かてめー。

 

「食べ物って、人間?」

「うん」

「oh………」

 

ま、まぁわかってたけど、日常的に人が喰われてるってなると………なかなかくるものがある。

あと一個だけ干し肉あるし、しゃぶっとこう。

 

「あ、そうだこれ忘れてた、はい。」

「ん?あ、花冠か」

 

そういや忘れてたなぁ。

これ、大きさ的にもう頭つけれないんだよ、腕に巻くにも大きすぎるし。

 

「チルノいらない?」

「いらない、お花化け物に目をつけられたくない」

「だよねぇ」

 

チルノの頭ならフィットするかと思ったんだけど………どっちにしろ小さいか。

なんで枯れないのかなって思ったら、妖力が染み付いてらっしゃるし………多分幽香さん妖力これに流し込みまくったよね?

………二つに変えるか。

茎と茎が巻かれているところを二箇所解いて、それぞれで繋ぎ直す。

手首に巻くといい感じにハマった。

このままでいいや、もう適当で。

 

「じゃああたいはもういくぞ」

「なぁチルノ」

「なに?」

「妖精って死ぬの?」

「死んでも生き返る」

「へー」

 

へ?あ、へ?

生き返るんか………妖精生き返るんか………じゃあもし私死んでも生き返る可能性が………それを試す気にはならないけどさ!

 

 

 

そろそろ暗くなってきたなー。

あのあと、湖と睨めっこして魚を見つけたら飛び込んで殺意満点の枝で刺して捕まえてたんだけど、あのゲテモノ魚しか手に入らなかった。

え?その魚どうしたのかって?

ポイ捨てしてきた。

まぁ今日はとりあえず寝るとしよう。

寝る場所もい外でグースカ寝てルーミア間に襲われるかもわかんないけど、寝る場所がないからしょうがない。

あ、ゲテモノ魚は一尾だけ取っといた。

大ちゃんなら美味しい調理方法知ってるかもしれない。

 

 

湖から離れて森の中へ入った。

今までに感じたことのない、誰かに見られているような感覚。

冷や汗………足をすこしづつ早めていく。

今すぐ駆け出してこの場を抜け出したいけど、そんなことをしたら急に襲われるかもしれない。

 

連日命の取り合いするとか、本当に勘弁して…

 

「——ッ!?」

 

とっさに体を浮かして霊力を放出しその場を離れる。

持ってた魚が抉れた。

尻尾を持ってたから頭の方を持ってかれた。

いや、魚はどうでもいい、どっからきた。

背筋が凍る。

その場を離れると、近くにあった木が突然倒れてきた。

腐食してたって感じでもない、攻撃によって倒された。

見えないどこだどこだ。

木に囲まれてると確認しようにもできない。

飛び上がって木の上に浮かぶ。

すると私を襲ってきた奴も一緒に浮かんできた。

いつの間にか日も落ちて、月明かりが木々を照らしている。

そんな中、明らかにそこだけ真っ暗な空間があった。

暗黒空間かな?というか暗黒空間だよね。

というか、闇だ。

昼間見たルーミア?いやでも、雰囲気が違う。

殺意剥き出しだし………でもあの形は昼間と同じなんだけど、どうなってんだ。

黒い球体がこっちに突進してくる。

月からの光のおかげでなんとか見れる。

霊力を放出して回避し続ける。

当たったら終わる、そんな緊張感がやってくる。

なんども避け続けていると、急に黒い球体が下の森の中へ消えた、その隙にその場を離れる。

さっさと逃げなければ、クリー○とやりあうとか絶対にお断りだ。

 

「逃さないよ」

 

聞いたことのある声

その直後、背中に焼かれたような痛みが襲った。

痛い、痛すぎて声も出ない。

とっさに振り向いてその顔を確認する。

 

「やっぱり、お前かいっ」

 

金色の髪に、赤い目。

だけど、昼間見たあの幼い顔とはかけ離れた顔。

笑みを浮かべながら、冷たい目で私を見ていた。

体を捻って足のつま先から霊力を放出、かかとでその顔を捉える。

柔らかい感触、そのままかかとが回って一回転した。

相手の確認をするより背中の痛みをどうするかを考える。

どんな攻撃を喰らった?傷の程度は?

ガオンされなかっただけましか。

霊力を背中に集中させる。

といっても傷の程度が分からなくて、どういう風に集中させたらいいか全く分からない。

 

「いたた………やるねぇ」

「見逃せ」

「断る」

「それを断る」

「無理だね」

 

周囲の闇を払ったルーミアが顔を出す。

背中の痛みが少しだけ引いた気がする。

 

「あたしは一度狙った獲物は逃さないって決めてるんだよ」

「獲物じゃねえよ毛玉だよ」

「獲物だろ?」

 

昼間会ったのになんでそんなに私のこと襲ってくるんだよ、ひどくない?

 

「さっき会ったの、覚えてない?」

「ん?知らないねぇ」

「というかルーミアだよね?」

「そうだよ」

 

多重人格者かおめーよー………そーゆーのもういいからあり溢れてるから、そーゆーキャラ付けもういいからぁ。

 

「あ、もしかして昼間会ったのか?」

「そうそう、思い出した?」

「いや、記憶にない」

「な、ん、で、や」

「こいつのせいだよ」

 

そういうと、頭につけたリボンを指差して話し始めた。

 

「こいつは昔派手にやった時につけられたもんで、一種のお札みたいなもんだな。ずっと封印されてて、お前が見たときみたいな感じになってたんだけどな。最近効果が弱まってきたみたいでなぁ、時々、夜の間だけこうやって本当の私が出てくるんだよ」

「話長い、わかりやすく言え」

「お前馬鹿だろ」

 

あら分かりやすい。

背中の痛みで頭が働かないんだよ察しやがれこんのパツキンがぁ。

 

「おっと、今から食う相手に長話しすぎたな。じゃ、足掻くだけ足掻いてくれよ」

「生命力ゴキブリなめんなよ、生きて生きて、家具の隙間に逃げ込んでやるわ」

「いいねぇ、やってみなよ」

 

闇に包まれてなければ姿が見える。

逃げるのは多分無理、追いつかれて追撃くらって死ねる。

じゃあ交戦するしかないわけだ。

食らえ!イメトレの成果!

うおおおおお!!

霊力を固めて氷塊にして宙に浮かばせる。

 

「エターナル○リザード!」

「いや、当たらんわ」

 

スルッと避けられた。

なんでやそこは当たれや!キーパー技だせよ!ゴールネットに入っちゃうでしょーが!

体を浮かして突っ込む。

右手を振りかぶって迎え打とうとするルーミア。

恐ろしく鋭いその爪が私の首を突き刺そうとした瞬間。

毛玉状態になって避けた。

もう一度人の形になり、ルーミアの頭を両手で掴む。

霊力を流し、浮かしながらそのまま前へと投げて地面へと叩きつけた。

反撃される前に両手を踏みつけて凍らし、忍ばせておいた短剣を首に突きつける。

 

「どうした、やらないのか?」

「刺しても死なないよね?」

「死なない」

「じゃあ私今から帰るから、襲わないでくれない?」

「え?」

 

お、どうしたそんな変な顔して、口閉じなよ。

よほど予想外の言葉だったのか、十秒くらいそのままの状態で固まってた。

 

「お前………変な奴だな」

「知ってるわ」

「あはは!いいよ行けよ。お前は今すぐ食うよりとっておいた方が美味しくなりそうだ。私が油断したのを見逃してくれるってんだからな」

「いや食うなよ」

 

あー背中痛い。

 

「じゃ、そゆことで、もう襲ってくんなよ」

「今は襲わんよ、今はね」

 

一生襲ってくんなって言ってんの、わかんない?

霊力を背中に集中する。

早く治ってくんないかな………

 

「あとお前、若いだろ」

「え?あ、まぁ、そうなのかな?」

「そんな力じゃなくて、妖力使ってみな」

「そんな力?妖力?」

「いいから」

 

じゃあ………

体の中で散らばっている妖力を背中へと集中する。

すると一瞬で痛みが引いた。

 

「え?どういうこと?」

「はは、思った通りだ」

「思った通りってなに!ちょ!教えて!」

「じゃあな毛玉さんよ!」

 

あ、もう氷砕いて行きよった………

 

さっきのはあっちが完全に舐めてたから勝てたようなものだし………

妖力についてもまだまだ知らないことだらけだ。

 

流石に明日は襲われないよね?

つか早く帰ろう、また大ちゃんに蹴られる。



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何かに巻き込まれそうな毛玉

活動報告書いてます。
気が向いたら見てあげてください。


服がボロボロだぁ。

針も糸もないんだ、縫えるわけがなかろう。

糸はないけど毛はあるよ、縫えないけど。

穴が開いたり、破けたり………大ちゃんやチルノって妙に洋服っぽいの着てるけど、あれってどうやって手に入れてるんだ?

聞いたらこの世に存在した時からあの服なんだってさ、解せぬ。

なぜ、私だけ全裸だったんだ、なぜ私だけツルピカザルだったんだ。

あ、毛玉だからか、そっかぁ。

自己完結した。

 

謎のスタン○使いルーミアに襲われてから三日ぐらい経った。

久々に平和な日常やでぇ。

 

さて、妖力についてだ。

この妖力、私の身の丈に合っていない。

体が傷ついたとき、霊力や妖力を消費して傷を癒すことができる。

これは、再生能力を高めるという意味だ。

私の場合は、体に穴が開いたら霊力が再生能力を高めて傷がだんだんと塞がってくる。

人間の自然治癒と比べたら、まあ結構回復力は高く、ちょっとした傷なら一分くらいで完全に治癒する。

しかしこの前は妖力を使うと大怪我でも構わずすぐに治った。

あのあと触って確かめたりしてみたけど、傷を負う前と何にも変わらなかった。

 

私の考えとしては、幽香さんの妖力は凄すぎて傷を治そうとしたら一瞬で治るってことだ。

だけど、私の体は霊力で構成されていると大ちゃんは言っていた。

気がする。

だったらなぜ、妖力で傷が塞がるんだろうか。

体と合わない力で傷は塞がるのか?

しばらく試していくうちに、答えがわかった。

 

私の妖力は霊力に変換できる、それも無意識に。

そして変換効率がヤバイ。

ちょっとの妖力で私の今持ってる霊力の倍以上増える。

しゅごい、しゅごい幽香さんしゅごい。

幽香さん怖い。

そしてこの変換によって大量に生成された霊力は再生じゃなくて体の再生成に使われている。

つまりもう一度体を作ってるってことだ。

そりゃあ治るの早くなるよね。

私の体は貧弱だから、きっと体を構築してる霊力も少なくて余計早いんだろう。

 

あと、霊力と妖力の量も、以前に比べてそこそこ増えた。

なぜだかわからないけど、増える分には別にいいや。

 

 

しっかし………誰かに見られてる気がしてならないんだよねぇ。

 

辺りを探っても誰かいた形跡とかは全く見つからないのに、誰かに見られているという違和感だけが常にある。

杞憂にしては、頻繁に襲うこの感覚。

やれ闇を操る妖怪や、人の心を読む妖怪や、よくわからないお花化け物がいる世界だ、何があってもおかしくない。

 

見られている感覚のする方向、妖怪の山の方を向く、なんかしてやろうか。

 

親指を伸ばして、首を掻き切る動作をしてやった。

どうせ誰も見てないしへーきへーき。

誰か見てたら?知らんな。

 

とにかく服どうにかしよーっと。

 

 

 

 

 

「………これは……」

 

あの毛玉、どうにかしてるんじゃ?

人の形をした毛玉ってとこには驚かないけど、これだけ離れていても微かに感じることができる妖力とあの再生力。

そして、この眼で見ているのを察知してあの表情………

あの動作は間違いない、これ以上私を見るならお前を殺すという意味だ。

いくら距離が離れているとはいえ、この距離から見られているのを察知したんだ、早くこの場を離れないと。

 

「柊木さん山に戻り………何やってるんですか」

「あ?昼寝」

「働けよ」

「ぐはっ、腹を思いっきり蹴るなよ!お前それでも女か!」

「女に蹴られただけで喚かないでくださいそれでも男ですか」

「いや、蹴りは男女問わず痛いからね!」

「………」

 

昼寝して天を仰いでいた同僚を蹴り飛ばしてやったら文句を垂れてきたので、思いっきり敵意を込めて睨み付ける。

 

「帰ろうか、うん」

「働かないならかえってください、土に」

「死ねと?」

「はい」

「お前最近ひどくない?」

 

最近ずっと寝る暇もなく働いて忙しいくて疲れてるのは分かるけど昼寝は違うでしょう。

職務怠慢するのが悪いんですよ。

 

「で、どうだった、あの毛玉」

「あれ本当に毛玉なんですか、その辺の野良妖怪よりやばいですよ」

「そうか、じゃあとりあえず上に報告な」

「柊木さんやってくださいよ」

「はぁ?人に押し付けるなよ」

「働いてないくせによく言いますねぇ」

「くっ………その目を止めろその目を!その死にかけの子犬を見るような目は止めろ!」

「子犬の糞を見る目ですけど?」

「………お前糞をいちいちそんな睨みつけてんのか」

 

腹が立ったから足を思いっきり踏んでやったら悶絶していた。

こんなくだらない事してる場合じゃないんですよ、早くあれの対策練らないと………

試しにあの毛玉をもう一度見てみるとこけて鼻から血を出していた。

 

「変な奴………」

 

 

 

 

今は白狼天狗専用の寮の中いる。

大天狗に報告を終え、一日の業務を終えて自分の部屋へ戻ろうとしたはずなんだが………

 

「こんにちは柊木さん!椛はどこでしょうか!あ、髪切りました!?」

「切ってないですうるさいです黙ってください。なんの用ですか射命丸さん」

 

自分の部屋の扉の前で足止めを喰らった。

目の前で顔を近づけて大声で話す射命丸文。

なんかお偉いさんとこの生まれとか聞いたから、言葉遣いだけは気を付けている。

一応俺たち白狼天狗の下っ端と比べたら位は高いんだが、なぜか気軽に話してくる。

こっちはちょっとでも言葉遣い間違えると減給が待っているからあまり話しかけて欲しくない。

彼女が俺たち下っ端に敬語を使うのは何故か知らない。

 

「いやぁ、湖の近くに変な毛玉が出たって話でしょう?なんでも人の形をしているとか。もうそれ毛玉なのか怪しいと思うんですけどぜひ色々知りたいんですよ。確か今日椛と柊木さんってあの毛玉の見張りの任務でしたよね?ですから色々お聞きしたいなぁ、と」

「はぁ………やっぱりそういう事ですか。椛は任務終えたあと別れたので知りません」

「あやや、それは残念、ではまたきますので」

 

もう来ないでくれ。

というか、男と女の寮は別なはずなんだが?椛探しに来たのになぜ男の寮へ?

鴉天狗特有の速さで飛んでさっていく射命丸。

風で備蓄品が吹っ飛んだ、直せよ。

 

「………行ったぞ」

「すみません匿ってもらって」

「いいから早く帰ってくんない?俺も寝たいの寝させろよ」

 

後ろの扉へ声をかけると、扉の隙間から頭が出てきた。

扉から頭だけ覗かせている椛。

射命丸がやってくると察したのか、なぜか俺の部屋に逃げ込んだ。

 

「早く帰れよ、変な噂立てられたら敵わん」

「私だってこんな臭い部屋入りたくないですよ、顔見知りで一番近かったのがここってだけです」

「え?臭かった?どのへんが?どのへんが臭かった?」

「あの辺です」

「あの辺ってどこ」

「やっぱその辺でした」

「いやどこだよ」

「じゃあ全部」

「じゃあってなんだよ」

 

臭いって傷つくんだけど。

 

「やっぱりここに居ましたか椛」

「「!?」」

 

背後から急に射命丸の声がしてびっくりした。

帰ったんじゃなかったのかよ。

 

「おじゃましまーす」

「あ、ちょ、勝手に入らないでください!」

 

当たり前のように人の部屋に侵入する射命丸、帰れよ頼むから帰れよ。

 

「な、何故ここが」

「ふっふっふ、甘いですよ椛。貴女が隠れそうなとこなんてこの私にはお見通しですよ」

「やめてください気持ち悪い」

「それは酷くないですか?長い付き合いじゃないですか、ちょっと話を聞くくらいいいでしょう?」

「そんなに気になるなら自分で見てくればいいのでは?」

「いやぁそうしようと思ったんですけどね?見に行こうと思ったその日に限って普段の二倍の仕事が上から投げられるんですよ。酷くないですか?」

 

いや、自分の素行のせいだと思う、完全に対策とられてるな。

そうやって勝手に行動して問題起こすからそうなるのでは?

 

「しょうがないですね………喋らないと帰らないですよね?」

「当然でしょう!今この瞬間も仕事抜け出して来てるんですから」

「いや、それはともかく俺の部屋でそのやりとりすんのやめてくれませんか?できれば他の場所で………」

「「断ります」」

「なんでそこだけ息合うんだよ」

 

 

 

 

「なるほど………宵闇の妖怪をも退ける力を持っている毛玉ですか………異常ですね。毛玉自体は少し探せば見つかる程度にはいますけど、そこまでの力を持つというのは聞いたことがないですね」

「しかもあの毛玉、私が見ているのに気づいてこれ以上見るなら殺す、とやってきました」

「おぉ、怖い怖い。では大天狗殿はどういう考えなのですか?」

「放置の方針らしいですよ、上の考えることはよくわかりません。あれは放って置いたら化け物になりますよ」

 

二人ですごい話に熱中していらっしゃる。

確かに、地底に侵入したやつを野放しにしておくというのは悪手にしか思えない。

あれのおかげで生活が苦しくなった。

 

「じゃあ椛、今度空いている日に行きましょうよ」

「行く?………まさかとは思いますけど」

「そうですねその毛玉のところですね」

「駄目ですよ!もしこっそり行くにしてももし上に気付かれたら文さんも私たちもどうなるかわからないんですよ!?」

「私たち?もしかして俺入ってる?嘘だろ?言い直せよほら、早く」

 

無視してきやがる………

確かに俺と椛はあの毛玉の監視任務の時であれば接触することも可能だが、射命丸が行くってことになると発覚すればただじゃ済まないだろう。

まず絶対上から許可下りない。

組織に関しての決め事は大天狗や天魔が決めるのだ、下っ端が勝手にいろいろ行動して言い訳がない。

 

「せめて許可取りましょうよ射命丸さん」

 

と、声をかけたら

 

「そんなの取れるわけないじゃないですかー。大丈夫です!私逃げ足だけは自信あるので」

 

と、無責任な言葉が返ってきた。

 

「俺達は大丈夫じゃないですよね?それ俺たちだけお叱りもらうやつですよね?」

「はぁ、しょうがないですねぇ。じゃあ私の独断行動ってことでいいですよ」

 

おい何がしょうがないだよ、当然だろ。

それに結局それ、俺たちが責任取らないといけなくなるだろ。

 

「報告しなきゃいいんですよ、知られなきゃ違反じゃないんですよ」

「私たちじゃなかったら粛清対象ですよ、その発言。やるのは勝手ですけど、どうせ私たちの任務の時にやるんでしょう?」

「もちろんですとも、その方がいろいろ都合いいですしねぇ」

「はぁ………じゃあいいですよ、付き合ってあげます」

「わーい椛優しいー!」

 

なんやかんやでこの人には甘いんだよなぁ。

椛に近づいていく射命丸。

 

「近づかないでください上に報告しますよ」

 

あ、蹴られた。

さて………近頃この山も不穏な雰囲気だし、厄介なことにならなきゃいいんだがなぁ。

 

 

 

 

「ばー」

「ピュァァァァァァ!?」

 

し、心臓破裂するかと思ったぁ!

真夜中の道で脅かしてくんなよ!寝れなくなるでしょうが!

 

「って、ルーミアか………今日はあれじゃないんだね。よかった………」

「こんな夜中に何してるのー?」

「え、あ、うん。この魚どうしようかなって」

 

例の魚、いっぱい獲れた。

あの湖、この魚しかいないの?こんなんサバイバル無理やて、生きてかれへんて。

 

あのルーミアとの戦いの後も、ちょくちょくルーミアとは顔を合わせたけど、あのやばいほうの彼女とは会っていない。

本人はあの夜のことは覚えていないようで、バカオーラを醸し出している。

 

「いる?」

「いらない、まずいから」

「あ、やっぱり不味かったのね」

 

こう見るとあの夜のルーミアと同じ人とは思えないなぁ。

まず髪の長さ違うでしょ?それに背丈も違うし………目つきも違う、あっちはすごい鋭かった。

 

「なぁルーミア、聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「別に構わないぞー」

「どうも。人って美味しいの?」

「変なこと聞くのだー」

 

まぁ、確かに妖怪からしたら変なことだろう。

妖怪に限らず、人を食う者はそれを当然のこととしか考えていない。

美味しいか美味しくないかはともかく、生きるために必要だから食べるということもあるだろう。

そこには人が家畜を育てて加工し、食すのとなんら変わらないものがある。

ただ、本人達はどう思っているのか聞きたい。

どう思って人を食べているのか。

 

「美味しいのと美味しくないやつもいるのだー。見た目がまんまるとしてる方が美味しいのだー」

「ふーん、じゃあなんで人を食べるの?」

「何で?そんなこと考えたことないのだー、普通に生きるためじゃないのかー?」

 

やっぱりなぁ。

突き詰めれば食べるという行為は全て生きるためにたどり着くだろう。

誰だってそうだ、生き物は何かを食べないと死んでしまう。

人と妖怪は違う。

種族が違うのなら、それはもう捕食対象なのだろう、生きるためには仕方のないことだ。

 

「人食べなくても生きられないの?」

「無理なのだー」

「なんで」

「なんでって言われても………そうしなければいけない気がするのだー」

 

人を食べなければ生きられない。

妖怪の中でも人を食べる奴と食べない奴がいるけど、ルーミアは食べる奴。

現代ではゆるキャラ的な感じになってるけど、この時代では妖怪は人からの恐怖の対象。

そこに何か、私如きには理解し得ない何かがあるのは間違いない。

妖怪は人に恐れられるもの。

人を食うという行為も、人に恐れられるための手段なのだろうか。

あぁもう、さとりん辺りに聞いておけばよかったなぁ。

 

まぁ結局何が言いたいのかというと。

 

毛玉の存在意義ってなんだろ

 

考えても考えてもわからん。

妖怪や妖精は、現代でも広く知られているし、昔は実際に信じられていた。

でも毛玉が生命体だなんて初耳だ。

毛玉なんてあれでしょ?猫がオエする奴でしょ?それがなんで生命体になってるんだよ。

しかもこの幻想郷では別に珍しくもないみたいだし………もうこれわかんねえな。

そういや私なんの毛なんだろう。

やっぱり猫?猫なの?

いいやもう、どうせ考えてもわかんないし。

 

「ちょっとルーミア、ベジタリアンになってみない?」

「べじた………なんなのだそれはー」

「肉を食わない植物だけ食べる人」

「そんなことしたら死んじゃうのだー」

 

人は死なないのに。

人が人喰い妖怪に食べられるのは自然の摂理。

それを阻止しようとするのは生態系の破壊に繋がる………のかもしれない。

 

 



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何かに巻き込まれるのは決定事項と化したのであった。



「………それで、山の天狗さんが何の用ですか?私たちは何かした覚えがないんですけど」

「いえいえ、何もあなた達に用があるってわけじゃないんですよ。ちょっと探している人がいまして、すこしお伺いしたいなぁ、と」

 

胡散臭い笑みを浮かべながら質問をしてくる妖怪の山の鴉天狗。

後ろには二人の白狼天狗がいる。

 

「探している人って、どんな人ですか?」

「そうですねぇ。こう、髪の毛が白くてすごくもじゃもじゃで、割と小柄な人って聞いてるんですけど。合ってます?」

「合ってます」

 

後ろの白狼天狗の女の人が相槌を打つ。

髪の毛が白くてもじゃもじゃ………完全に毛糸さんだよね。

この場にチルノちゃんがいなくてよかった、多分この人たちに突っかかっていたから。

 

「その人に何の用なんです?」

「いえ、別に何かしようという気ではないですよ。ただちょっとお話をね………」

「………知りません」

「あやや。そうですか。残念です」

 

とりあえず知らないふりをしておこう。

妖怪の山の天狗が山の外まで出てくるってことは、何か絶対に面倒くさいことのはずだから。

毛糸さんがいったい何をしたのか知らないけど………

 

「ご協力感謝します。では失礼」

「あ、はい、さようなら」

 

意外とあっさり帰っていったな………また来るのかな?あとで毛糸さんにこのことを伝えておこう。

天狗の人たちはお互いに何かを喋りながらどこかへと言ってしまった。

 

 

「よかったんですか?あの子いつもあの毛玉と一緒にいる子ですよ」

「いいんですよ、別に妖精に用はありませんし、無理に情報聞こうとしたところでって話です」

「どうせ椛の千里眼で探すから関係ないとか考えてるんだろうなぁ」

「お、よくわかりましたね柊木さん!ご名答です」

「え、嫌なんですけど。あの毛玉見たら殺害予告してくるから怖いんですよ」

「まぁまぁそう言わずに、ちょっと見るくらいなら気づかれませんよ。さぁ早く!」

「はぁ、しょうがないですね………」

 

一度目を閉じたあと、瞑想のようなものをしてもう一度目を開けた椛。

その視線の方向は目の前の木に向けられていたが、そんな近くを見てはいなかった。

 

「………………見つけました。ここから近いとこにある洞窟の中にいます」

「おぉ、さすが椛、見つけるのが早い。では早速向かいましょう」

「貴女は行動が早すぎます、もう少し考えて………ってもう行ってるし」

 

はぁ、と同時にため息をつく白狼天狗の二人。

走りながら、早々に飛んで行った文のあとを追っていく。

 

「なんであんなめちゃくちゃぶりで俺たちより偉いんだろうなぁあの人」

「知らないんですか柊木さん、あの人、仕事できて戦いに関してもその辺の白狼天狗はで手も足も出ないくらいつよいんですよ」

「え?そうなの?」

「それに加えて美人ですし、性格以外は最高の女性って噂されてます」

「ま、まぁ確かに美人だけども………」

 

そんな話をしながら文の後を追っていった。

 

 

 

 

「あ、いた!ちょっと文さんどんどん先に進まないでくださいよ」

「しっ、椛静かにしてください。今大事なところなんです」

 

洞窟の外から静かに中を覗き込む文、それに続いて椛と柊木も中を覗き込む。

 

「………なにやってるんだ、あれ」

 

洞窟の中では、毛糸が謎の動きをしていた。

 

「いっちにぃさんしっ、ごぉろっくしっちはちっ」

「………なんでしょうね」

「さぁ?わかりません。毛玉という種の独特の動きかもしれませんねぇ」

 

毛糸はただラジオ体操の動きをしているだけなのだが、無駄になまりのある掛け声と下手な体操が合わさって文達には謎の踊りか何かに見えていた。

 

「………よし、ラジオ体操終わり。今日も今日とてあのゲテモノ魚獲りにいきますか」

「あ、出てきますよ、隠れないと」

 

急いで近くにある茂みの中へ隠れる三人。

割と音を立てたが、毛糸がそれに気づくことはなかった。

 

「文さんいいんですか?話聞くんじゃなかったんじゃあ」

「いきなり押しかけたら向こうも警戒してまともに話すこともできなくなるかもしれないでしょう?それにいきなり接触するのも危険です。何事も下調べが重要なのですよ」

「へぇ、何も考えてないようで実はそこそこ考えてたんだなぁ」

「失礼ですね、私だって考え事ぐらいありますよ」

「例えば?」

「今日の晩ご飯!………すみませんそんな目で見ないでください傷つきます」

 

顔を伏せる文を冷ややかな目で文を見つめる椛を呆れた目で見つめる柊木。

逃げるように毛糸を追いかける文に2人はついて行った。

 

 

 

 

んー…………誰かが見ている、そんな気がしてならないのですよ。

というかもう、明らかに見ている、ついてきている、違和感が確信になってる。

最近はあの洞窟の中で過ごしているんだけど、入口の茂みでなんかガサガサしてたし。

いや、怖かったから放って置いたけどさ。

 

一人ではない、複数人私をつけている。

こっちから話しかける?いや、放って置いたら帰ってくれるかもしれない。

………もしかしたら、あの首を掻き切る動作で反応して近くまで来たの?やっべ、私死ぬじゃん。

もしあの感覚が本物で、あの動作が見られたのなら、私をつけているのは多分妖怪の山の天狗。

確かにさ?私は勝手に山に入って地底に侵入したさ。

でも不可抗力じゃん、わざとじゃないんだよ。

どちらにせよ、接触は避けられないかぁ………

 

「………隠れてないで出てきなよ」

 

後ろに気配のする方へ話しかける。

 

・・・

 

あれぇ?返事が返ってこない。

もしかして誰もいなかった?ただの気のせい?やばいやばい恥ずかしい、自信満々に出てこいとか言って誰もいなかったとか悲しすぎるでしょ、勘弁してください。お願いィ!誰か返事してェ!私を一人にしないでェ!!

 

「気付かれるとは………聞いた通り、なかなかの手練れのようですね」

「そりゃ気付かれますよ、そんなかっこつけないでください、翼がいろんなところに擦れて音立ってるんですよ。まずその翼折り畳んでから言ってください」

「ちょ、椛、今大事なところなんで水差さないでください。第一印象が大事なんです、天狗が舐められたらおしまいですよ」

「いや、多分もう手遅れだな」

 

………なんか騒がしいなぁ。

あーあー、私無視して言い合い始めちゃったよ、やっぱり私恥ずかしいじゃん。

 

「だいたい貴方はいつもですね——」

「そっちこそいつも人を振り回して——」

「あのぅ、すみません、そろそろ………」

「「部外者は黙っててください!」」

「なんでそこだけ息合うんすか、実は仲良いだろあんたら」

 

部外者て………そっちから話しかけてきたくせに、それはないでしょーが。

横の男の人は………

 

「立ったまま寝ている………だと」

 

なぜこの状況で寝ることができるんだ、そもそもなぜ寝るという行為にいたるんだ。

 

「こいつらこうなったらもうどうしようもないから、もう誰にも止めらんないから。諦めて寝ようぜ」

「お、おう………それでいいのかあんたは」

「考えるのやめたわ」

 

………なんか気が合いそうだな。

 

「名前は?」

「あ?柊木でいい、そっちは?」

「毛糸でいいよ」

「そうか」

 

………

やばい、やることがない。

前の二人が何かしてくれるまでなにもできない。

というか、言い合いの内容が相手の悪い点ばっか言い合ってるだけなんだけど。

そんなことのために私は今ここで待たされてるの?なんなん。

 

「………ところで柊木さん、どっかで会ったことある?」

「いや、会ったことはないはずだが」

 

そうか………声聞いたことある気がするんだけどなぁ、気のせいか………

 

「お前、地底に行っただろ」

「え?あ、うん」

「あの時お前を呼び止めたのが俺だ」

「………あ……ごめんわざとじゃなかったの!半分くらい拉致だったから!というか100%拉致だったから!」

「いいよ別に、給料減っただけだしな」

「………さーせん」

 

大丈夫じゃないね、目が遥か遠くを見据えてるね、ごめんね。

文句を言うならこいしに言ってね、

 

「………」

「………」

 

 

 

 

「おほん、失礼いたしました」

「本当ですよ、なんで毎回毎回こうなるんですか、学習能力無いんですか?」

「ちょっと椛、仕切り直そうとしてるんですから突っかかってこないでください。あと口悪いです、流石の私でも泣きますよ」

「いいですよ?帰ったらみんなに言いふらしますけど」

「あーもーキリがない!いい加減にしてくんない!?さっさと話ししてよ!こちとらさっきからずっと待ってんだよ!」

 

大声出したらなんか驚いてらした。

なんだろ、緊張感ってのがないんじゃないかな?もっとしっかりやりなさいよ、そんなんだったら舐められるよ?チルノに。

 

「すみません、じゃあ本題に入りま………」

「どうしたの?」

「いえその………私たちなにしにここにきたんでしたっけ」

「それ忘れたら駄目だろ、この毛玉について知りたいってあんたが言ってきたから俺たちが付き合ってやってんだよ馬鹿か」

「あ、あー!そうでしたね!すっかり忘れてました。あと柊木さん、敬語はどうしたんです?」

「あんたみたいな人に敬語使うのも面倒くさくなった」

「なんでこう、白狼天狗って口が悪いんですかね?まぁその方がこちらもやりやすいですけど」

 

なんだこいつら、いつまで経っても話が進まない、本当になにしにきたんだよ、帰っていい?

 

「申し遅れました!私、清く正しい射命丸と申します!以後お見知り置きを!」

「白狼天狗の犬走椛です、あまり下手な動きをしないでください、斬りますよ」

 

おうふ、しっかり警戒されていたでござる。

いや、警戒してさっきのあの言い合いしてたの?なんかスゴいね。

 

「ほら、柊木さん、貴方も自己紹介してくださいよ!」

「もうしたんだけど」

 

また呆れたような表情を浮かべる柊木さん。

間違いない、この人は苦労人タイプだ。

 

「じゃあ私も、白珠毛糸です、私に何か用で?」

「そうですそうです!毛玉でありながら野良妖怪以上の力を有している毛糸さんに是非お話をお伺いしたいなと!聞けばあの危険妖怪ルーミアさんをも退けたらしいじゃないですか!」

「いや、あの、そう一気に喋られたらなにから答えたらいいのか………あと、どこでそれを?」

「この二人が貴方を監視していたんですよ」

 

白狼天狗の二人かぁ。

見た目からして、さっきから文って呼ばれてるのが鴉天狗なのかな?

 

「じゃあ早速質問させていただきますね。普段はどんなことをなさってるんですか?」

「どんなことって言われても、まぁ普通にこの湖の近くで暮らしてるだけなんだけど」

「へぇ、では妖精たちとはどう言う関係で?かなり親しくしているようですが」

 

畳みかけてくるなぁ………私こーゆーガツガツくるタイプの人苦手なんだよなぁ、いろいろ知ってそうだし………あの椛って人は敵意むき出しだし、できれば穏便に済ませたいところ。

 

「まぁ近くに住んでるって感じかなぁ、時々遊んだりしてるけど、別に何か貴方が気になるようなことはないと思うんだよ」

「いえいえ、毛玉が人の形をしていて、それで強い力を持つなんて私も初耳ですので、どれも興味深いですよ」

 

笑みを崩さずに質問攻めをしてくる文。

こいつはあれだな、油断できないタイプの人だ、腹の中に獣を飼ってるとかそう言う人。

多分私に興味があるってのも本当だろうけど、一番は自分たちにとって私が害とならないか、その一点が気になるのだろう。

こっちだって向こうが何かしてこない限りは私だって何かしようって気にはならない、むしろ天狗なんて奴らとは出来るだけ関わりを持ちたくない。

 

「あとこれは別に咎めるわけじゃないんですけど、地底に侵入したのはどう言った理由でしょうか?地上と地底は不可侵条約を結んでいるので、故意に侵入したのであれば………」

 

ほら、本音が漏れた。

やっぱり私という存在より、私の腹の中を探ろうって気だ。

 

「あれは事故だよ、地底の人に拉致されたの。別に何か企んでとかじゃないから心配しなくてもいいよ」

「そうでしたか、それは災難でしたね。では最後の質問をさせていただきます」

 

雰囲気が変わった。

本人が一番聞きたいことを聞かれる。

私がそっちの意図に気付いたがバレたか。

 

「貴方が椛にしたという、首を掻き切る動作、あれはどういう意図があってなのでしょうか」

 

あちゃー、やっぱりそっちかぁ。

いや、これを好機と捉えよ、こっちだって面倒ごとはごめんなんだ。

 

「別にどうってことはないさ、ただ、私を変なことに巻き込むのは勘弁してってだけ。別に私は何かしようって気はないよ。ただし………」

 

霊力ではなく、妖力を前面に出す、相手を威圧するように。

自分の周りの空気が変わっていくのを感じる。

 

「そっちから仕掛けてくるってんなら、こっちも黙ってることはないけどね」

 

白狼天狗の二人が剣を握り構えをとる。

鴉天狗は私の目の前で様子を変えずに立っている。

さぁ、どうなる。

 

「剣を下ろしてください二人とも。この人は大丈夫ですよ」

「しかし………」

「大丈夫ですから。さて、毛糸さん。面倒ごとは避けて通りたい、それはこちらも同じです。そう威圧しなくたっていいですよ」

「………そうか。用が済んだなら帰ってくんないかな?」

「そうですね、此方もやりたいことはできましたし、これで帰らしていただきましょうか。では、またお伺いさせていただきますね」

 

背を向けて山へと飛び去っていく三人。

案外あっさり帰っていったなぁ………あれ?また来るって言った?

 

………

 

「いや、もう来るなよ………」

 

 

 

 

「よかったのか?放っておいて」

「いいんですよ、あちらも私たちが何かしない限りは手出ししてこないでしょう、それに」

 

後ろを向いてあの毛玉を見る射命丸。

 

「あれは上手く使えば、私たちにとって心強い存在となるでしょう」

「………やっぱりあんた、普段の間抜けっぷりは演技だろ」

 

また呆れた顔をとため息をしながら、山へと帰っていった。



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二つ返事でいいよと言うのは考えなし

「また来ちゃいましたーあははは」

「お引き取りください」

「そんなこと言わずに、ちょっとくらいお話しさせてくださいよー」

「お引き取りください」

「この前の話なんですけどね?ちょっと訂正したい部分があって」

「お、ひ、き、と、り、く、だ、さ、い」

「やっぱりあの部分なんですけどね?あそこはやっぱり東の方で」

「帰れや!あんたはタチの悪い宗教勧誘かなんかか!?勝手に話進めて行きよって!うちは無宗教じゃ!それともあれか!?N○Kかおめえはよぉ!うちにテレビはねぇぞコルァ!」

「ちょっと待ってください落ち着きましょう。別に宗教勧誘しに来たわけじゃないですしそのえぬえいちなんたらではありません、あ、ちょっと、石投げないでください、ちょ」

「かっえっれ!かっえっれ!」

「毛糸さんー、おちつきましょー、石投げないでくださいー」

「ひこうタイプにいわタイプは効果抜群なんだよ!知らんのかこのドンカ○ス!」

「なんの話ですか……」

 

よし参り始めてるな、これを後3日くらい続けたらもうこなくなるだろ。

 

また来ると言ってからすぐ、その日の夜に一回来よった。

内容は確か………忘れちゃった。

その日は確かもう寝るんでと言って帰ってもらった。

最近は朝は洞窟昼から夜まで湖にいるって感じで過ごしているんだけど、朝昼晩と、一日3回押しかけてくる。

1日3回凸られ、それを数日………もういい加減にしてくださいと言ったけれど、なんの意味もなく。

 

「あのねぇ文さん?何度も何度も言ってるけど、厄介ごとに巻き込まないでって、朝も言ったでしょーが。山の連中とは敵対も協力もしないから!おけ!?」

「まぁまぁ、そう言わずに、はい、差し入れのきゅうり」

「あ、どうも………じゃ、ねーよ!なんできゅうりぃ!?何ゆえキューカンバー!?きゅうりごときで私を落とせると思ったら大間違いだバーロー!」

「いて!もうー、きゅうりを人に投げつけるなってお母さんに習いませんでしたか?駄目ですよ食べ物を粗末にしちゃ」

「きゅうりで人を釣ろうとしたやつにそんなん言われたくないし!てか帰れよ!」

 

確かにきゅうりはカロリー低いよ?ヘルシーだよ?でもさ!毎日飢えてる人に差し出すのがきゅうりってどうなのさ。

 

「もう、そんなに帰れ帰れ言わないでくださいよ。こっちだって何の報酬もなしに協力してくださいって言ってるわけじゃないのに」

「そもそも協力するって何に?何に私を巻き込むつもりなんだよあんたは」

「え………一昨日話しましたよね?」

「話し長くて半分聞いてなかった」

「そんなぁ、酷いですよ。人が頑張って説明してるのを貴方は半分しか聞いてなかったって言うんですか?」

 

だって凄い早口だったんだもん、半分聞き取ったことを褒めてもらいたいくらいだわ。

 

「じゃあ今からもう一度説明しますよ?いいですか?ちゃんと聞いててくださいよ」

「いやいいから帰ってくれないかなぁ」

「それは無理な相談です、私もこれに給料かけてるんですよ」

「お前ら天狗は給料のことしか考えとらんのか」

「我々は今重大な問題を抱えています。それは我々の住む山が他の妖怪たちによって襲撃されそうという——」

「ちょいちょい、なに勝手に話進めとんねん」

「我々の山には昔、鬼が住んでいたことは毛糸さんもご存知かもしれません。地底で見たでしょう、角の生えた妖怪たちを。私たちは昔、彼ら鬼と天狗、その他の種族で山を支配していたのです。ですが地底で見たとおり、いくつかの種族は地底へ降りてしまったのです。私たちの山は鬼の圧倒的な力によって支配されていたので、彼らがいなくなると暴動が起きました。その暴動自体はなんとか終息したんですけど、周囲の他の天狗の集落に目をつけられまして。うちの山は本当に鬼の力に頼って、他の山に威張り散らしていたんで、鬼がいなくなったらそりゃあ狙われるわけですよ。今までなんとか凌いできたんですけど、そろそろ本当に潰されそうなんですよ。もちろん私たちの集落も簡単に落とされるほど弱くないんですが、周囲の山が全部結託して潰しに来られると本当にやばいんですね。戦力が足りないんです。地底にいる鬼に頼んでもきっと断られる、というかもうすでに断られたあとなんで、急いで戦力になり得る人たちを集めたいんですね。そこで近くの湖に突然現れた貴方という存在、もし私たちの力になってくれるのであればとても心強いというわけなのですよ。わかりましたか?」

「………」

 

いや、長い………長すぎるよそれは………

 

「ちょっと、聞いてました?」

「うん、まぁ、聞いてたよ?聞いてたけどさ、それ私関係ないじゃない。それであの山の天狗が全員死んだとしても、私はどうだっていいの。戦いから離れてたら私にはなんの影響もないし、別に移り住んだっていいんだよ。私は天狗同士の潰し合いになんて興味ない。だいたいそーゆーのは山に住んでるやつだけでやれば良いだろうに」

「そうですよねぇ、貴方が言うことも最もです。我らも急に出てきたよくわからなくて気持ち悪い毛玉に頼みたくはないんですよねぇ」

「おいてめぇもういっぺん言ってみろや羽もぎ取ったろか」

「おっと失礼、口が滑りました」

「おめぇなぁ………そんなに力を貸して欲しいなら、こんな毛玉じゃなくてもっと強い人に頼んだらいいんじゃないの?」

「いやぁ、そう簡単に見つかれば良いんですけどねぇ」

「あれは?あの、太陽の畑だっけ?あそこに住んでる人」

「………それはですね、自殺行為ってやつですよ毛糸さん。私だって考えなかったわけじゃないんですよ、でもあの方は論外です」

「なんでよ幽香さん強いでしょ?」

 

急に死んだ目をした文。

これあれだね、察した。

 

「この前、あそこを荒らした一人の妖怪が居たんですよ。あそこに住んでる風見幽香さんに喧嘩売りに行ったみたいですね。まぁそしたらあの方、すっごい形相でその妖怪に近づいてきましてね。太陽の畑の外まで蹴り飛ばしたんですよ。まぁ根性無しだったその妖怪は命乞いしたんですが、あの方、一瞬でその妖怪、消し炭にしたんですよ。見てた私は眩しかったんで何があったかはわかりませんでしたけど、目があっちゃったんでね。怖くてすぐに帰りしたよ。いやぁ怖かったですねぇあれ」

「そっか、生きててよかったね、うん」

「というわけですよ。それにあの方に頼んでも承諾してくれる気がしませんしね。つまり、一人でも戦力をかき集めたいからその辺の妖怪たちに協力を要請してるわけなんですよ」

 

事情は分かったけど………やっぱりそんなのやる気が起きない。

逆になぜ協力してもらえると思ったんだろうか。

 

「毛糸さんくらいですよ?こんなに拒否されてるの。他の妖怪ならちょっと食べるものをあげるって言っただけで簡単に乗ってくれるのに」

「結局物で釣ってるじゃないの」

「ねぇねぇどうしても無理ですかー?頼みますよー、生きるか死ぬかとかそういう感じのあれなんですよぉ」

「無理」

「はぁ………じゃあしょうがないですね、最終手段です」

「え?なに最終手段?こわいよ痛いのやめてね」

「そんな手荒な真似しませんよ。ちょっと山までついてきてもらいましょうか」

 

えぇ………

 

 

 

 

口に三本きゅうりを突っ込まれて、なにがなんだかわからない間に山の中へ連れてこられた。

 

「もがもが、もがもがもが?」

「口にきゅうり入れたまま喋らないでください、汚いですよ」

「あぁ!?」

 

人の口にきゅうり突っ込んだ奴が何言ってんの。

一気に入れるから噛み切れないんだよバカ。

 

「まぁいいよ………で?ここはどこよ」

「妖怪の山の中にある、河童の集落です」

「河童?」

 

河童といえばあれだよね、頭に皿を乗っけた顔色悪くてくちばしついてて川の中にいて人のあれのそこにある尻子玉というなぞの物体を抜き取ってくるやべーやつだよね。

 

「いや、なんで河童のいるところなんかに連れてきたし、私死にたくないから、抜かれたくないから。あ、もしかしてきゅうりって河童繋がり?」

「ご名答、この河童の集落ではきゅうりを全力栽培してます」

 

全力栽培て………きゅうり依存症かな?

 

「で、その河童さんとやらはどこよ」

「なに言ってるんですか、目の前にいっぱいいるでしょう」

 

え?目の前にいるのなんて帽子被った女の子たちだけ………

まさか………

 

「うっそだろぉ、これただの幼女の集団じゃないか、何でもかんでも女の子にすればいいって訳じゃないんだよ。これが河童とか冗談キツいんだけど」

「残念ながら正真正銘、私たちは河童だよ」

「うわっしょい!?ナニヤツ!?」

「あ、にとりさん、お久しぶりです」

「おー文か、久しぶりー」

「え!?なに!?お値段以上の方!?」

「値段をつけるなら思いっきり高値にして売りつけてやるよ、お値段相当かな、うちは」

「毛糸さん紹介しますね、この人は河城にとりさん、河童です」

「ちーっす」

「お、おう。なんか軽いな」

 

帽子被った青い髪のツインテールの少女が、きゅうりを咥えてサムズアップしてきた。

 

「こんな女の子が河童ぁ?冗談キツいぜあややん」

「あややん?いや、まぁいいです」

「私が知ってんのはもっと化け物みたいな奴なんだけど」

「失礼だね、私たちは正真正銘河童だよ。この人が前言ってた毛玉かい?」

「はい、白珠毛糸さんです」

「へぇ、毛玉ねぇ」

 

きゅうりを食べきったにとりがなんか申し訳なさそうな顔で見てくる。

 

「そんな顔してどうしたのよ」

「いやぁ、昔毛玉を気持ち悪い!って叫びながらこう、やっちゃったことがあってさぁ、なんか申し訳ないなぁって」

 

尊きもじゃの犠牲が発覚いたしました、毛玉殺害罪で逮捕致す。

 

「別にいいよ、気にしないし。それで文、私をここに連れてきた目的は?」

「あ、呼び方戻った。はいそうですね、毛糸さんならこの河童たちの作るよくわから………珍しい物を気に入ってくださるかと」

「おい今よくわからない物って言おうとしただろ、失礼だなぁ、私たちが作ってるのはとても素晴らしい論理に基づいたものだぞ」

「やれやれ、それも自分で見たら素晴らしいかもしれませんが、貴方たち河童以外から見れば変な論理なんですよ」

「言ってろ言ってろ、私たちの研究は上でふんぞり返ってる天狗どもにはわからんさ」

「他者との関わりも無視する協調性のない種族のことなんてわかりませんよ」

「なんだとこの鴉がぁ、やってやろうかこんにゃろう」

 

おう………なんかギスギスしてらっしゃる。

なんでみんな人を無視して言い争い始めちゃうのかなぁ?

もっと平和にいこうよ、平和に。

 

「だいたいこんな白くなったまりもに私達の研究がわかるわけないだろ!」

「誰が歳食って白くなったス○モじゃコルァァァ!!」

 

 

 

 

「はぁ………もう帰っていいかな?」

「ま、まぁそう言わずに、ひとまず見ていってくださいよ」

「ちょっと休憩しようか、疲れたよ」

 

三人揃って叫び散らしたあと、なんやかんやあってなんとか和解した。

私も火に油を注いだ気がするけど気のせい気のせい。

 

「はぁ………で、にとりたちはなにを作ってるの?」

 

待ってました!って感じのわかりやすい表情を浮かべるにとり、なんか可愛いな。

 

「よくぞ聞いてくれた!じゃあこっちへついて来てくれたまえ!案内しよう!」

「ちょ、ちょっと待ってください、もうちょっと休ませて………」

「しばらくここで休んでたら?先行っとくからさ」

「早く早く!」

「そう急かしなさんなって、今行くから。はぁ………元気だなぁ」

 

疲れ切った感じの文を置いて、にとりの後について行った。

 

「………よし、先に帰っときましょ」

 

 

「さぁここが、私達の研究の成果が詰まった神聖なる聖地だ!」

「おー、ただの小屋だねぇ、いい造形してるじゃないの」

「いや、建物じゃなくて中を見て欲しいんだけど」

 

うっさいなわかっとるわい、こちとら豆腐ハウスもろくに作れないんじゃ、少しくらい見させなさいよ。

入り口を入ったその先には、どこか見覚えのあるものがたくさんあった。

 

「どうだい!?これが私達が永い間作り上げてきた研究の成果だ!心が躍り血が沸き立つだろう!じっくり見てくれたまえ!」

「………ふーん」

 

研究の成果、ねぇ。

なんだろうこの、なんとも言えない感じは。

 

「えっと、この刃物が引っ付いてるやつはなに?」

「それはだね、この棒をこう回すと、そこの刃が回転してそこの台に乗っているものが三等分に切り刻まれるのだ!」

「なにするのそんな危なっかしいの」

「そうだな、例えば獣などを加工する際に、速度をつければ骨まで丸ごと一気に切れる!ほら!便利だろ!」

「ほーん………」

 

いや、それただの精肉機じゃないの?

いやでも、現代のあれこれに見慣れてるから反応が薄いのであって、実際はこれ………

 

「このレバーを回すだけで刃と下の台が勝手に回転するようになってるのか、下の台はベルトコンベアみたいだな。お?なんか印がある。そっかこれ、どこにおけば勝手に流れて刃で切られるのがわかるようになってるのか。その辺の微調整もしてあるのね。そしてそれをレバー一本でやってるのか。中には歯車とかもいっぱい詰まってるのかな?技術の使う方向性があれな気がするけど、これはなかなか、いや、私なんかとは比べ物にならないほどの技術力………恐るべし、河童」

「………えっと、つまりそれは、どう受け取れば」

「凄いよ、河童。こんな物を作るなんて」

「おぉ………おー!!そうか!わかってくれるか!いやぁ、今まで他人にこういうの見せることは無かったが、理解してもらえるってのは嬉しい物だなぁ!私はちょっと涙が出てきたよ」

 

それは大袈裟じゃ無い?

まぁでも、確かにこれはすごいなぁ。

あれ?なんか頭が痛くなってきた………しまった、脳のスペック低いのになんか頭良さそうな感じ出そうとしたから許容限界を超えそうになったか。

 

「まだまだ見せるものはある!まだまだ見て行ってくれ!まだまだ日は落ちない!さぁ!共に行こうではないか!我が盟友よ!」

「あんまり一人で突っ走んないでよぉ」

 

この後めちゃくちゃ見学した。



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引きこもりと毛玉

「………あのドンカ○ス先に帰りやがったな………」

「いやぁこんなところに私たちの研究の素晴らしさをわかってくれる人がいるとは、君こそ私達の真の盟友だよ!」

「あーどーしよー、帰り道わかんないしってかもう暗いし………帰れないことないだろうけど、またルーミアみたいな化け物に襲われたら敵わないし………」

「………」

「あーどーしよっかなー」

「寝床くらいは用意できるよ盟友!」

「ありがとにとりん愛してる!!」

「愛し………そ、そんな急に………」

「あ、ごめん口が滑ったわ、今のは気にしないでね」

 

この毛玉たる私が百合展開に行くわけなかろう、毛玉と河童の百合なんて一体誰に需要があるのだというのだ。

 

「さぁ行くのだにとりん、我が寝床へ!」

「にとりん………?まぁいっか!さぁ行こうぞ盟友!我らは止まることを知らない!明日へと走り続けるのだ!」

 

いやぁ、河童の発明とやらを見てたら日が暮れちゃってたねあはは。

でもまぁ、技術面に関してはこの時代にしては高いのは確実だろう。

半分以上がきゅうり関連の機械だったけど………

電気とかは無いのかなぁ?発電機とか作ったらすごい発展しそうだけどな、ここ。

 

「あ、そうだ。腹減ってない?きゅうりあるけど」

「あ、けっこーです。別に食べなくても平気なんで」

「そっか。いやね?やっぱり河童ときゅうりは切っても切れない関係なわけだから、全力を注いで生産しまくったのはいいんだけど、在庫があまりすぎててさ。まぁおかげできゅうりには困らないからいいんだけどさ」

 

本当に河童ってきゅうりが好きなんだなぁ。

こんな幼女たちが尻子玉を抜き取るとか、それはそれでホラーである。

 

「さぁ着いたよ!ここが河童たちの居住区だよ!」

「あら、意外と近い。そしてこの建物の形、もしかしてきゅうりを模してる?」

「よくわかったね!さすがは盟友、その洞察力は素晴らしいよ」

「なんかすごいベタ褒めされてんなぁ」

 

建物の形を簡単に言い表すと、豆腐の上にきゅうりが乗ってる感じだ。

何これ面白い、すごくユニークだね。

 

「一番端っこの赤い扉の部屋が空いてるから、そこに泊まるといいよ、私はまだやることがあるからここでお別れだね」

「いろいろとありがとうね。また明日会おう」

「くぅー!もっと盟友と科学について話し合いたい!なのに時間が邪魔をする!時よ止まってくれえ!!」

「あははは………随分元気のいいことで、じゃあねにとり」

「また明日迎えに来るよ!」

 

爽やかな笑みを浮かべて、工房のあるであろう場所へ飛んでいった。

うん、よくよく考えたらこの世界平然と人が空を飛びすぎだよね、こわ。

鴉天狗が飛ぶのは分かる、翼あるから。

でも白狼天狗はわからない、てかそもそも白狼天狗って何、なんなんすかあれ。

しまいには河童まで飛ぶんでしょ?みんな空を自由に飛びすぎ、タケコ○ターいらずだねぇ。

よく考えたら、まだ毛玉になって多分半年も経ってないのに、私の人生既に濃すぎじゃない?

まぁ色々あったなぁ………もう疲れちったよ。

さぁて、寝ましょうか。

 

部屋の中はいたって普通、ではない。

布団しかねぇよどうなってんだよ、寝させる気しかねぇなぁおい。

仕方がないなぁ、寝るかこのやろう。

今日は頭使いすぎてもうめっちゃ痛い、ぐっすり寝るとしよう。

スヤァ………

 

 

 

 

耳の奥にカリカリと、何かを引っ掻く音が響いてくる。

とても耳障りで寝れやしない。

耳の穴に小指を突っ込む。

 

「………寝れない………」

 

隣の部屋?確かに壁薄そうだからなぁ、音は漏れやすいだろうけど………どんだけカリカリしてんのよ、うるさいなぁもう。

何かに嫌なことでもあったのかな?確かに私もイラついたら地面とかぶん殴るけど………

もう眠いんだよ、寝さしてくれよ。

今何時だろう、寝る前は微かに聞こえていた何かの作業音も、今ではすっかり聞こえなくなっている。

人ではない、妖怪などの生物の範疇ではない存在は、ある程度なら飲まず食わず、寝ずに活動ができる。

だとしても、私は寝たい、全力で寝たい、寝さしてください。

まぁそのうち収まるだろう、隣の人もこんな布団しかない部屋に入ったからには寝る以外やることがないはずだ、いつまでもカリカリしてることないだろう。

 

「………」

 

………カリカリカリカリ

 

「………」

 

カリカリカリカリ

 

「………」

 

カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ

 

イラァ………

ドンっという低い音が部屋に響く。

足で壁を蹴ってしまったらしい、無意識って怖いわぁ。

 

………音収まったなぁ。

 

びっくりしたかな?まぁこっちも迷惑してたわけだし、やめてくれるならそれで構わない。

音が漏れてることに気づいたかな?

じゃあもう寝るとするか。

 

 

………カリカリカリカリ

 

 

………嘘やん。

まだやるかぁ、いい度胸だなぁおい、人の睡眠と食事だけは邪魔してはいけませんて習わなかったんかこんにゃろう。

今からカチコミに行って………

やめておこう、もしかしたら隣の人の寝相が悪いのかもしれない。

文句を言いに行って起こして変な騒ぎ起こして他の河童たちに潰される………それはマズイ。

 

多少うるさくても我慢しよう、気にしないようにすれば寝るのに支障はないはずだ。

 

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉ………」

 

あーもう朝だよぉ、寝れなかったよぉ、あの音が気になりだすともう寝れなくなったよ。

寝るのってこんなに難しかったっけ、こんな難しかったこと今までしてたんだっけ。

確かに時計の針の動く音が時々気になることはあったけど、ここまで寝れないことはなかったよ。

なんど壁に蹴りを入れそうになったことか。

ほんともう無理、眠い。

本来なら寝なくたって二日くらいなら活動できる、だけど昨日頭を使いすぎたせいで頭が痛い、マシにはなったけどまだ痛い。

 

「おーい毛糸ー、起きてるかい?」

「んあぁ、起きてる、入ってきていいよ」

「失礼しま………どうしたんだい、そんなこの世の全てに絶望して全てを焼き尽くさんばかりの顔は」

「何その例え、逆にどんな顔してるか気になるわ。寝れなかったんだよ、隣の部屋が夜中までカリカリカリカリうるさくて」

「え?それは………ちょっと待ってて、すぐ戻る」

 

そう言って部屋を飛び出していったにとり、何しにいったんだろ。

あ、帰ってきた。

 

「いやぁごめんね、隣の部屋、るりの部屋だったよ」

「るりぃ?隣のカリカリ煩かった奴?」

「あぁ、紫寺間るり、重度の引きこもりなんだ」

 

しじまぁ?

部屋を出て隣の部屋の扉を見てみると、なるほど、確かにこれは紫寺間って文字が彫ってある。

そして絵筆で書いたような文字で、開けるな、とも書いてある。

 

「河童って全体的に協調性の無い奴が多いんだけどさ」

「それ、自分で無いって言うの?」

「自覚してない奴が一番迷惑なんだよ、河童は自覚してるだけいいと思うんだけど」

「まぁ確かに」

「で、こいつは河童の中でも屈指の問題児、その証拠にこの建物、夜中に鳴る謎の音がうるさすぎてもはやあいつ以外の奴はもうこの建物に住んで無いよ」

「はぁ、そうだったの。………オラァ!」

「ちょ、何してんの!?」

 

扉を思いっきり蹴る。

脚力はないので扉は開かないけど、音は十分響く。

 

「社会人間関係その他もろもろォ!全てを舐め腐ってる引きこもりに現実を教えてやんだよ。オラァひきこもりるりぃ!出て来いやぁ!てめぇのねじ曲がった毛根から全て矯正してやんよォ!」

「ちょ、落ち着いて!あまりやるとあれが——」

「オンドゥル ‼︎ぐふぁ………」

「毛糸おおお!!」

 

腹にぃ………腹に何かがぁ………

 

「しっかり!気を確かにするんだ!は、腹に矢が刺さって………」

「ひいいいい!!放っておいてください放っておいてください!あたしは静かにこれからの余生を過ごすんですぅぅぅ!」

「ちょ、るりぃ!おまっこれ、毛糸死んじゃうぞ!」

「え?………は、はははは腹に矢がぁ、もしかしてあたしが侵入者抹殺用に仕込んでおいた弓が………知らない知らない知らないい!あたしは知らない何も見ていない関係ない!」

「侵入者抹殺用ってなんだよ!SEC○Mでもそこまでしないわ!」

「ぎゃあああああ生きてるぅぅぅぅ!?」

「大丈夫!?喋らないほうが………」

「まったく………私じゃなかったら死んでるよまったく」

「ななななななんで生きてるんですか!?まま、まさか不死身!?」

「ん、抜けないなこれ。ちょっとにとりんこれ抜いて」

「い、いいの?逆に血が出るんじゃ………」

「いいからいいから、早く抜いて」

「本当にいいんだね?いくよ?せーのっ」

「——!いっっったあああああああああ!!荒いわぁ!」

「ひいいいいい!成仏!成仏してくださいぃ!」

 

腹に刺さった矢が乱暴に抜かれる。

言葉で言い表すことのできない痛みの中、妖力を腹の痛みのするところは押し込み傷を塞ぐ。

すぐに痛みが引いて、血が流れるのが止まった。

 

「ふぅ………あー死ぬかと思った」

「逆になんで死んでないんですか!妖怪でもそんなすぐに傷治りませんよ!?」

「うっせえだあってろ!元はと言えばお前が悪いんでしょうが!」

 

目の前で喚き散らしてる、変な帽子をかぶった河童。

こいつが紫寺間るり、紫色の髪をした河童。

なんで紫?おばちゃんかよ。

 

「とりあえず、ゆっくり落ち着いてお話し、しようか」

「嫌あああああああ!!こ、殺されるぅぅ!助けてにとりさぁん!」

「なんで傷があんな速度で?力の強い妖怪でもあの傷では死なずとも完治するにはそれなりの時間を要するはず、それをなぜ毛玉であるはずの毛糸が妖怪をも超える速度の再生を………」

「人の話聞いてくださいぃ!!」

「まずはテメェだろうがぁ!説教で半殺しにしてやらぁ!」

「ひぃぃぃぃ!!誰か助けてええええええええ!!」

 

 

 

 

「ぐすん、もう反省してます、許してください」

「自分の口でぐすんって言うなよなんか腹立つ」

 

にとりは何か作業があるらしく帰った。

よって今はこのるりとかいう引きこもりの部屋で二人っきり。

とりあえず現代でお母さんが引きこもりの子供を説得するときの感じで小一時間説教してやった。

 

「で、なんで引きこもりなんかしてるのさ」

「そ、それを聞いちゃいます?いきなりそんなところに踏み込んできちゃいます?」

「お前のせいでみんないろいろ迷惑してんの。いいから話しやがれ」

「わ、わかりましたよぅ」

 

まぁ人のデリケートなとこに踏み込んでるのはわかる、だがそれでも構わず突っ込むのがこの私だぁ!

 

「あたし、昔っから人見知りだったんです」

 

渋々、と言った感じで話し始めるるり。

 

「最初は頑張って私も他のみんなと一緒に頑張ってたんです。でも段々と、みんなの視線が怖くなってきて………」

「視線?」

「はい、なんて言うんですかね、これ。たまに失敗とかしちゃうと、もうこいつは駄目なんじゃないか、もう何もしない方がいいんじゃないか、邪魔だからいなくなれって、そんな目を向けられている気がするんです」

「気がするだけじゃないの」

「あたしだってただの被害妄想ってことは自覚してますよ。でもやっぱり、そう言うこと考え始めるともう何もできなくなって、それでまた失敗して………悪循環って奴ですよ」

 

まあ周りの視線が気になるってのはわかる。

近くの誰かが笑った時も、自分に何かおかしいところがあるんじゃないか、馬鹿にされているんじゃないか。

自分は全く関係ないってわかってても、どうしてもそう考えてしまう。

 

「それでまぁ、疲れちゃったんですよね。そういう考えに引っ張られてどんどんどんどん、沼に引き摺り込まれていくような………自分が全部沈んでしまう前に、先に引きこもって他者との関わりを断ち切る。そうやって凌いできたんですよ」

「それでいいの?そのまま引きこもりってたらもっと他の人から白い目で見られるよ」

「あたしも最初はそう思ってたんですけどね、これが案外、引き篭もるのがあたしにぴったりだったんですよ」

「まぁわかる、私家ないけどさ。長いことやってたらさすがに疲れると思うけど、あの外界から遮断された感じはたまらない」

「あ、わかります?いいですよねぇあれ、自分の部屋だけで一日の全てが完結するあのなんとも言えない快感、自分の城を手に入れた感覚ですよ。流石にお腹すくので何か食べにいったりしますけど」

「まぁ部屋に侵入者抹殺用の弓があるのはおかしいと思うけど。それとこれは別、ちゃんと部屋から出て働け」

「嫌です」

「じゃあせめて夜中にカリカリ鳴らすのやめろ。あれのせいで私寝れなかったんだけど」

「それは善処します」

 

それ絶対やらんやつや。

 

「いやぁでも、こんなところに引きこもりの同士がいたとは、今日はいい日だなぁ」

「私は別に引きこもってないけど」

「じゃあ家作りますよ!あたし一応河童ですし!」

「え?いいけどソーラー発電と台所と畳の部屋と寝室と浴室つけてよ?」

「それは要求高くないですか?」



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毛玉、家を建てる

「よぉ迎えに来たぞ」

「どのツラ下げてきやがったァ!丸焼きにしたろか己ェ!」

「落ち着け、俺はただあの迷惑な鴉の尻拭いをしにきただけだ。お前を放って帰ってきたって言ったから代わりに俺が来てやったんだよ」

「余計なお世話じゃいこのワン公がァ!」

「おっそうかじゃあ帰るなー」

「待って待ってちょっと待って一旦落ち着こうね柊木さん」

「はぁ………とりあえず返答だけ聞いとく。あの件、受け入れるのか?」

 

あの件………ってなんだっけ。

あ、あれか、山に協力するとかしないとか………そのことなら寝れていないあの時間に考えていた。

 

「状況次第ね、前向きには検討しとくけどあんまりにもこの山の状況が悪かったらその場で協力すんのは無し。今はまだ様子見ってとこ」

「協力するんだなわかった」

「待って本当に聞いてる?ちゃんと今言ったこと上に伝えといてよね」

「わかってるわかってる、腹立つよなーあれ」

「おいなんの話ししてんだいい加減にしろよこのケモ耳が、腹に拳ねじ込んでやろうか」

「やれるもんならやってみろよ」

 

ほう………?貴様、本当に良いんだな、怪我しても知らんぞ。

正拳突きィィ!

腰を落とした構えから放たれる渾身の一撃ィ!

 

「オラァ!………硬っ!?何お前腹硬すぎんだろこわ!ちょ、これ手の骨砕けてない!?めっちゃくちゃ痛いんだけど!?硬化でもした!?物質系能力者かテメェ!」

「知らねぇよ、俺を殴ろうとしたお前が悪い」

「絶対物質系能力者だわお前!硬化できるんだろ!」

「そうだよできるんだよ、もう良いだろその話」

 

良いわけあるか、この世界は異能力系バトル漫画の世界じゃないんだよ、妖精とかがいるよくあるファンタジーな世界なんだよ。

こちとら既に知り合いに冷気操る妖精がいるんだよ、このままいったら絶対に風を操るとか水を操るとかその辺の奴らでてくるよ。

 

「で?その後ろで震えてるのは誰だよ」

 

柊木さんが、私の背後を指差す。

 

「あぁ、隣の部屋の紫寺間るり、引きこもりのシャイガールだから無理やり外に引っ張ってきた」

「へぇ………」

「ひっ」

 

ひっ?柊木さんが目を合わせた瞬間にひっ?初対面の相手と目があっただけでひっ?どれだけ人見知りなんだよ。

 

「な、なんなんですかその目はぁ!なんでそんなっ、社会の屑を見るような目で見てくるんですかぁ!」

「え、何普通に目が合っただけなんだが、なんでこんなに怯えられなきゃいけないんだよ」

「あー、柊木さん目つき悪いからなぁ、私はもうこういう目の人って思ってるけど、初めて会ったら怖いよねぇ」

「それよく言われるんだが何でだ?俺はいたって普通につもりなんだが」

「知らんよ、あんたの目つきが悪い、それ以上でもそれ以下でもなく、それ以外の何でもない」

「ただ眠いだけなんだけど………」

「ひぃっ!またこっち見た!助けてください毛糸さぁん」

「知らんがな、さっさとその人見知り直してくれない?」

「何でそんなこと言うんですかぁ!はっ!騒いだせいで周りから視線が………もういやだぁ帰りたいぃぃぃ!」

「誰もお前のこと見てないよ、アウトオブ眼中だよ、誰も興味なんか無いよ」

 

そーゆーの、被害妄想っていうより自意識過剰というのではないか。

あと眠いから目つき悪くなるんだったら寝ればいいと思うんだけど。

そう伝えたら、無職にはわからないよな、と白い目で言われた。

無職じゃない、そもそも職がないんだ、そんなこと言ったってしょうがないしゃないか。

まぁもしかしたら前世はニートだったかもしれないけど。

そもそもニートってのは働いていない奴のことを指すのであって、今の私は一歳未満、現代だったらそもそも働けない。

つまり私はニートではない、というか実質赤ちゃんだ。

うん、これで全てが解決したね、そもそも私は人じゃないとか気にしない気にしない。

 

「で、帰るのか?道わからんだろうから送ってやるよ」

「あ、どうも。でも荷物があるんだよ」

「じゃあ一緒に持っていけばいいだろ、さっさと持ってこい」

「じゃあはい、荷物」

「………」

「………いや、これ荷物じゃなくてさっきの河童………」

「いやだって、なんかついてくるって言うからさ」

「は?なんで」

「ほら、聞かれてるぞ、答えろよ」

 

るりにそう急かすとゆっくり口開いた。

 

「………この人、家、無い、だから、作りに、行く」

「はい、そーゆーこと、わかった柊木さん?」

「いや、わかったっていうか………もう知らんがな。勝手にしろよ、河童のすることにどうこう言うつもりないし」

「うぇーい話の分かる犬だ」

「狼だ、白狼だ。いいかよく聞け、俺の前ではまだいいが椛の前で犬呼ばわりするなよ、四肢もぎ取られて失血で死を待つだけになるからな」

「うわ、なにそれバイオレンス。こわっ」

「怒ると怖いんだよあいつ、そういや同僚が一人あいつの逆鱗に触れた時行方不明になったんだよな、そんで二日後に帰ってきたと思ったらごめんなさいしか言わなくなってたんだよ」

 

それもう廃人決めてますやん、やばっ。わぁ、ケモ耳だぁとか思ってたらそんなバイオレンスな人だったとは………人は見た目によらないねぇ全く。

 

「じゃあ行くならさっさと行くぞ、資材とか持ってかなくて大丈夫なのか?」

「現地調達、する」

「お、おう、そうか………完全に怯えられてるんだが、そんなに俺の目つき悪いか?流石にちょっと傷つくな」

「ほら、さっさといくぞ、私迷子になっても責任とれんのか」

「自分勝手すぎるだろ、そうなったら放って帰るわ」

「見殺しとは外道め」

「言ってろ」

 

そう言い合いながら、るりの首根っこを掴んで帰っていった。

 

 

 

 

「………で、なんですかこの死体」

「死体じゃないよ大ちゃん、河童」

「死体なら凍らしていい?」

「死体じゃないからだめ」

「………ぐふっ、外界の空気………あたしには重すぎ………骨は拾ってください………」

「ほら生きてるじゃん」

「今死にましたけど」

 

大自然の空気を吸って死ぬとは、なんと軟弱なやつよ。

換気の悪い部屋の中に閉じこもってた方が死ぬと思うんだけど、どうなってるんだろうその肺は。

 

「毛糸さぁん、なんですかこの生えた幼女たちは」

「妖精だけど、知らんのか」

「ふふん、このあたいを知らないとはばかなやつだな!」

「しかも片方は頭が随分平和なようですし………」

「頭が平和?どう言う意味?」

「知らなくていいんじゃないかな」

 

無知って残酷だよね。

 

「それでどうするんだ、家作るんじゃなかったのか」

「あ、柊木さんは帰っていいよ、特に用ないし」

「いや、お前はともかくその河童はどうするんだ、そいつも一人じゃ帰れないだろ」

「じゃあそのうちもう一回きてよ、そんときに持ち帰ってもらう」

「やっぱ自分勝手だなぁお前」

「そっちの都合で変な争いに巻き込まれるのほぼ確定になったんだからこのくらい許されるっしょ」

「はぁ………じゃあ俺一旦帰るわ、一応仕事あるし」

 

おうおう社畜なこって。

またため息をついて、山へと帰っていった。

ため息つき過ぎじゃない?一日に20回くらいため息してそう。

 

「急に帰ってきたと思ったら家を作るって………なんかもうめちゃくちゃですね」

「自覚はある、けど私には家が必要なのだよ」

「そ、それで、どこに作るんですか?この辺りは見通しが良くて落ち着かないんですけど………:」

「あ、そう?じゃああっちの洞窟近くに作ろうよ」

「え、洞窟?………暗いのやだなぁ、でもこんなに見通しのいい場所に比べたら幾分か………」

「じゃあこっちついてきて」

 

 

 

 

「あー、いいですよぉ、この洞窟いいですよぉ。洞窟の入り口にちょうど光が入り込んでくるおかげで適度な明るさが保たれて、それでいて閉鎖的なこの空間。風が入り込んでくるのも相まって、引きこもりをしながら自然に包まれてるって感じがしますぅ」

「気に入ったならよかった、それでどこにつくる?」

「そうですねぇ………すぅ」

「………おいおいおい寝るなよ」

 

どんだけ居心地いいんだよ、さっきまでヒイヒイ言ってた奴が洞窟入った瞬間これだよ、切り替え早いなおい。

 

「安住の地を見つけたって感じですね」

「先に私の安住の地作ってくれない?」

「ちょっと待ってください、今考えてるんですよ」

「あ、そう」

「………」

「………」

「………すぅ」

「寝てるやんけ!」

「もううるさいですね………洞窟に蓋をするように家を作りましょう、これならもし敵が攻めてきて家が壊されても、洞窟の中に引きこもって飛び道具投げとけば獣くらいなら簡単に倒せます」

「お、おう………絶対引きこもるのが前提なのな、それ」

「当たり前じゃないですか、引きこもりと言ったらあたしの構成物質の八割をしめてますよ、あたしから引きこもりを抜いたらもうそこに残ってるのはただの河童の亡骸です」

 

こいつ、引きこもることを中心に置いて生活してやがる。

引きこもりだってな、引きこもりたくて引きこもってるわけじゃないんだよ、外に出てもうまくいかないから引きこもってるんだよ。

 

「嵐がきてもこれなら洞窟で隠れられます。もうここなんて洞窟というかほぼ洞穴ですし、もうなんならこの洞穴に扉つけて家ってしてもいいんじゃないですか」

「引きこもること中心にしないでくれない?もうそれは家じゃないし」

「引きこもりに家設計させるのが悪いんですよ」

「お前ちょっと調子乗ってんな、いったん引き摺り出して改めさせてやる」

「ひぃぃぃ!虐めないでくださいぃ!」

「もう………なんなのこいつ」

 

 

洞窟の中で司令官気取りしてるるりにまずやれと言われたのが木材集め。

モノによって違うが、サバイバルゲームは基本最序盤に木こりをする。

某有名サンドボックスゲームなんかは、素手で木を殴り倒している。

普通素手で木を切るなんて頭がおかしい、そんなことをゲームに言っても仕方がないのはわかっている。

まぁなにが言いたいのかと言うと、斧をください。

だってだって、私貧弱毛玉だもん、道具も持たずに木材をとれるわけないじゃない。

 

困ったときはオカルトなモノに頼ろう。

妖力をほんの少しだけ腕に込める。

妖力のエネルギーの塊ではなく、妖力自体を腕に込めた。

普通に木を殴れば、私の拳が悲鳴を上げて終わりだ。

かといって気円○みたいなものが出せるわけでもない。

なら、妖力を直接ぶつけるんじゃなく、腕越しにぶつけてみる。

この妖力は幽香さん由来、私の身に余るものだ。

下手に使えば妖力が暴発して私まで巻き添えを喰らうことになる。

なら、腕の中の妖力が暴発しないようにしながら木を殴れば、木を折ることが可能と考えた。

 

まぁここまでながったらしいこと考えておいてあれだけど、物は試しだ、考えるな感じろ、当たって砕けろ。

 

「せいっ!」

 

木の前に立ち、妖力を込めた腕をその幹へと真っ直ぐ突き出した。

突き出された拳はなかなかの勢いで飛んでいき、その幹を貫いた。

そう、貫いたのだった。

 

「ちょっとこれは予想外かなぁ………」

 

まさか木の幹に腕が刺さるとは………つくづく道具って大事だなと思いました。

まぁそりゃそうだ、決して小さくはないこの木、まっすぐ正面から力を入れればそこだけ貫通して穴が開くだけだろう。

刺さった腕を全力で引き抜く。

ならばこんどは横向きに力を加えよう、貫くことはできたんだからやり方としてはあってるはずだ。

もう一度腕に妖力を込めて、こんどは裏拳をするような感じで木の幹に拳をねじ込んだ。

 

バキッ、という音が辺りに響き、殴った部分が吹っ飛んでいた。

支えを失った木が横向きに倒れ、土埃が舞う。

成功した………よかったぁ。

これならあれだ、もしなにかと戦うことになっても、妖力をぶつけて自分も自爆しそうにならなくて済むかもしれない。

まぁこれ殴ってるだけなんだけどさ。

 

あとはこれ、枝でももぎ取っておけばいいかな。

腕に妖力を込めて枝の付け根に手刀を打ち込む。

バキッという音がして簡単に枝が取れた。

いやぁなんだか楽しくなってきたねぇ、こういう単調作業なかなか好きよ。

 

しかしあの河童も変な奴だ。

普通ほぼ初対面のやつに家を作るなんて言えますか?普通は言わないよね、だって初対面だし、家を作るなんて面倒くさいことするわけないもの。

実はあいつ、コミュ力めちゃくちゃ高いんじゃないかな。

そんな初対面の相手に家を作るなんて私には到底真似できそうにない。

いやそもそも私は家を作れないのだけど。

大丈夫かな、変なセンス発揮されてきゅうりが二本刺さった豆腐みたいな感じにならないかな。

 

ボロボロになったその丸太とは到底呼べそうにないその物体を見て、なんだか凄い不安になってきた。

そうだなぁ、もう少しとってこようか、運ぶのは楽だしね。

 

いやぁ、森林破壊は楽しいZOY。



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一休みする毛玉

「はぁー、もう疲れたよ」

「まだ資材集め終わったくらいですよ、呑気なこと言ってないでさっさと働いてください」

「ニートに言われたくない」

「もうまたそれですかぁ、にーととか、どんか○すとか、訳の分からない単語ばっかり使わないでください」

 

くっ………この時代だと現代のカタカナの単語が基本全部通じなくて辛い………多分私だけボケても浮いてる感じがする。

資材を集め終わったって言ったって、三日全力でやってこれだよ?

今から丸太を加工して木材にして、そっから組み立てるんでしょ?もういいよ疲れたよ、いやよくはないけど、家欲しいけど、一旦休憩しようよ。

 

「洞窟の中で一人きゅうり咥えて寝てるだけのくせによぉ」

「河童がきゅうり咥えてなにが悪いんですか、河童からきゅうり取り上げたら発狂して自殺しますよ?」

「お前から引きこもる部屋を奪ったら?」

「穴掘ってそこに引きこもります」

「そのまま埋めて埋葬してやりたい」

 

きゅうりは柊木さんが渡しに来た。

なんかきゅうりだけ運びに来るあの人を見て、凄いパシリだなって思った。

焼きそばパン買ってこいって言ったら本当に買ってきそう。

 

「ほら、そこにのこぎりがあるじゃないですか、それで早く加工作業に移ってください」

 

るりが指差した先を見ると、のこぎりや斧、槌などいろいろ置いてあった。

 

「これ、いつのまに?どうしたの、作った?」

「まさか、あの目つきの悪い人に持ってきてって言ったら持ってきましたよ。………どうしたんですか膝ついて」

「いつか何かお返しするからね柊木さん………」

「まぁそれにしても、こんなに妖怪の出てきそうな場所でよく今まで生きてましたね。大した建築物もないから妖怪も興味示さなかったのかなぁ」

「お前はそれでいいのか、そんな洞窟に引きこもって、妖怪に襲われるかもしれないんだよ」

「いいんですよ別に、あの部屋にいたら絶対誰かが部屋に入ろうとしてくるんですよね。それに比べたら今の方が全然いいですよ」

 

人がいるより洞窟の中できゅうり食ってるほうがいいってか。

そういえば私にはあまり人見知り発動しないよね。

 

「私は話してて平気なの?」

「え?あぁ、そうですね………なんというか、こう。凄そうな感じがしないんですよね、毛糸さんって。毛玉だからかなぁ、そもそも人として見てないというか」

「………つまりそれは私を舐めてると捉えていいの?」

「ほら、そうやって脅してる雰囲気出してても、全然怖くないんですもん、なんなんですかね、これ。多分あれですよ、毛糸さんって知り合い全員に舐められてますよ」

「………」

 

私、そんな感じだったんだ………

 

「あ、毛玉になった。急にどうしたんですか?」

 

………

 

「あれ、もしかして傷ついちゃったりしましたか?」

 

………

 

「ごめんなさいそんなつもりはなかったんですけど、本当のことだから。あ、ちょっとどこ行くんですか!」

 

もうやだおうち帰るぅ!

あ、家まだ作り始めてすらいないんだった。

くっ………とりあえずここから離れよう。

べ、別に傷ついたとかそんなんじゃねえし!ちょっと気分転換しに行くだけだし!

 

 

 

 

「あれ、どうしたんですかけだ………毛糸さん、落ち込んでるみたいですけど、何かあったんですか」

「いや、うん。ちょっと休憩」

 

湖まできたらいつもの二人がいた。

相変わらず私の数倍頭良さそうな大ちゃんと、私の数倍頭悪そうなチルノが他の妖精たちと遊んでいた。

大ちゃんだけ木陰にいたので、その隣に座る。

 

「ほら、もっとあたいの近くに寄るんだ!暑くて死ぬぞ!」

「氷足りないよチルノー、もっと出してよー」

「ぐぬぬ………あたいもこれ以上はちょっと………」

 

チルノの周りに大量の氷塊があって、それに妖精たちがひっついている。

なんだあれ。

 

「なにしてんの、あれ」

「今はもう真夏ですからね、妖精は基本夏でも元気なので遊びまくって、それで暑さにやられてチルノちゃんの出した氷にひっつく。毎年の恒例みたいな感じになってます」

「へぇ」

 

そっか、もう夏か。

現代は地球温暖化が進んで気温も半端ないことになってるけど、この時代ならまだまだそんなことないだろう。

あの暑さは熱中症で死ぬ人がたくさんでるからなぁ。

なんか知らないけど学校で冷房効きすぎて腹壊した記憶もある。

あ、旅行先でも腹冷やして腹壊してたな。

なんかこう、一つはただの出来事は覚えてるけど、前世の私自身のことになるとなかなか思い出せない。

ただ、そんなことがあったという記憶だけが残っている。

まぁ別に、今更知ったところでどうなんだってことにもなるけど。

 

「大ちゃんは暑くないの?」

「私はあんまりはしゃいだりしないので、それに………」

 

大ちゃんが懐から氷を取り出した。

 

「もう既にもらってるんで」

「もう水浴びしたらいいんじゃないの」

「体がずぶ濡れになるし羽も濡れて重くなるから、そういうのはあんまりしないですかね」

「まぁ私も髪重くなるからしたくはないかな」

 

今は夏だと言われると、急にセミの鳴き声が耳の中に入ってきた。

ぶっちゃけセミの鳴き声より妖精どもの叫び声の方がうるさい。

 

「そういえばさ、前チルノに聞いた時妖精は生き返るって聞いたんだけど、あれって本当なの?」

「そんなこと聞いてたんですか、まぁ、生き返るのは生き返りますね」

「はえー」

 

やっぱり生き返るのか。

そもそも妖精が死ぬってどういうことなんだろうか、生き返るということは死なないわけではないのだろう。

死ぬけど生き返る、生き返るかぁ………

 

「死ぬのってどういう感じなの」

「私たち妖精は、死ぬと一回休みという状態になります。生き返るけど、死んだときの記憶はないんです、妖精って割とすぐ死ぬんですよ」

「え?そーなの?」

「はい、毛糸さんが山に行ってた間にも、チルノちゃん湖のでかい魚に食べられて死んでます」

「はぁ!?」

 

死んだ!?チルノがぁ!?

いやいやまてまて、生き返ってるんだよ、落ち着け。

 

「本人は覚えてませんけどね、だからあーやって学習せずに湖に近寄ってるんですよ」

「はぁ」

「だからですかね、妖精って基本怖れ知らずというか、馬鹿というか………とにかく、死んでいいことなんてないんですよね。私は怖いので危ないことはしませんけど、チルノちゃんたちは言っても聞かないのでもう放っておいてます」

「ふぅん………死んだときのことは覚えてないってことは、一回休みになってても本人は気付いてないってことか」

「はい、そうなりますね」

 

ふぅむ………この辺は妖精の存在に関しての話とか、その辺になってきそうだ。

 

「あ、毛糸!いるんなら言えよ!あたいこのままじゃ疲れて死んでじゃうぞ!手伝ってよ!」

「フッ、しょうがねぇなぁ?そこまで言うなら手伝ってやろうじゃないの」

「なんかえらそうだからやっぱいいや」

「あ、ごめん手伝わせていただきます」

 

チルノたちのもとに行き、手に手頃なサイズの氷を出して妖精たちに手渡す。

 

「きさまもチルノと同じことできるんだねー」

「きさ………貴様って………」

「もっと出してよー、暑くて溶けそうなんだよ、あたいが溶けてもいいのか!?」

「お前はもともと脳味噌溶けてるでしょーが」

「溶けるのは氷だけだぞなに言ってるんだ!」

 

えっ………なんかめちゃくちゃドヤ顔で言ってきとる………金属類は普通に液体になるのに………なんなら空気中の窒素やらも液体と固体になれるのに………その他もろもろもいろんな物質が状態変化するのに………

可哀想な子………

 

「おい、なんだその目は、やめろよその、かわいそうなやつを見るような目は」

「おっわかってんじゃん」

「なにが!?」

 

しっかしこんなに氷に囲まれてるとなぁ、アイスクリームとかその辺食べたくなるよねぇ。

 

「いや、どっちかっていうとかき氷………」

「かき氷?氷かいてどうするんだよ、爪が痛くなるだけじゃないのか」

「はー、これだから馬鹿は………かき氷ってのはな、細かく砕いた氷に甘い液体をかけて食べるものなの」

「ふーん………それもうその甘いやつだけ食ってたらよくない?」

「一緒に食べるから美味しいんでしょうが、そのまま飲んだら甘すぎて吐くね」

 

カル○スの原液だってみんな水で薄めて飲むはずだ、誰だってそうする私もそうする。

 

 

「じゃあその甘いやつ持ってきてよ」

「あったらな、あったらいくらでも持ってきてやるわ。お前は大人しく氷でもしゃぶってな」

 

う、寒っ。

ちょっと出しすぎたかな、あたり一面氷だらけになった。

 

「もうあたいも氷ばっかり出すの飽きたぞ、でもやめると溶けるしなぁ」

「じゃあ溶けてろよ、どうせ生き返るんだろうし。だったら湖でも凍らしたらいいんじゃない?スケートリンクみたいな感じで」

 

………おい、なんだその、なに言ってるんだこいつ、って顔、やめろよ殴るぞい。

 

「天才か………」

「おっ馬鹿には思いつかなかったか、じゃあ私ちょっと休むんで」

「お前らあ!最強のあたいがいまから湖を凍らす!よく見ておけよ!」

 

おっすごいリーダー気取りしてる。

いや実際、チルノは妖精の中でもリーダー的存在なのか、みんなチルノを慕ってる感じするもんね。

 

「あたいならできるあたいならできるやればできる」

 

なんか呪文みたいなの唱え始めたよ、どれだけ自己暗示すれば気が済むんだろうね。

 

「うおおおおお!いけえええ!凍れええ!!」

 

水面に手をつけたチルノから霊力が放出され、見る見るうちに湖の水面に氷が張っていく。

1分程度で湖の見える範囲は全部氷が張ってしまった。

 

「やりとげた………よし、お前らいけぇ!」

「わーい!氷がいっぱいだあ!」

 

はしゃぎ始めた妖精たち、ほぼ全員が湖へと向かっていく。

だけどなぁ、もしかしたらだけど、それ………

 

「はうあ!?ぼごごごごご………」

「みんなあああ!!」

 

あらら、やっぱり溺れちゃったよ。

そりゃね、水面がちょっと凍ったくらいじゃ簡単に氷が割れて水に沈むだろうよ。

第一の犠牲者が現れた後、第二、第三とどんどん増えていき、最終的にチルノ以外の妖精が水に沈んだ。

 

「ぼごごごごごご………」

「そ、そんな………早く助けないと!」

「いや、もうどう収集つけるんだこれ………」

 

チルノが必死に水面から妖精たちを引き上げる。

あー、確かにこれすぐに死んでいくなぁ。

悲しいなぁ、儚いなぁ。

いやいや、手伝わないといけないや。

 

 

 

 

うわ、なんかすごい溺れてる………なんかよくわからないもじゃもじゃも現れたし、妖精たちが溺れるし………最近どうなってるんだろう。

怖い、私怖いよ………

 

 

湖の底でそう怯えるわかさぎ姫なのであった。

 

 

 

 

 

「えー、死者3名、重傷者8名、軽傷者2名、意識不明3名、おっこれは大事件だ」

 

いったい誰がこんな悲劇を起こしたんだ、絶対許さねえ。

死者の数は最初にいた人数から今いる人数を引いてだした。

姿は見えないけど、まだ湖の底で沈んでるか、光の粒子となって消えたとかそんなんだろう。

てか本当に生き返るのかこれ、本当に大丈夫なの?重傷のやつとかほっといたら確実にお陀仏するよねこれ。

あー変なこと言わなかったらよかったなー。

 

「どうかしたんですか?」

「どうもこうも、妖精いっぱい死んじゃったよ」

「あー、気にしなくていいですよ、どうせ二日三日で生き返りますし」

「めっちゃドライやん………もしかしてサイコパス?」

「死んだって生き返るから、たとえ私が死んだってチルノちゃんは一日で忘れますよ、そこまで深く考える必要がないんです」

 

そうやってすぐ死ぬとか、どうせ死んだってとか………あんまりそういうことばっかり言うの好きじゃないなぁ。

まぁ本人たちの感覚からしたらそんなものってことなんだろうけど………

 

「そっか、でも私は、チルノや大ちゃんが死んだら悲しむよ。生き返るとしても、私の中では一度死んだってことになるからね:」

「そうですか………大丈夫ですよ、チルノちゃんも私も、そんなに簡単には死にません」

 

おっそれ死亡フラグってやつだぜ?

死ぬ………死ぬかぁ。

私だって、この時代に来てから何回か死にかけてるけど………

死んだらあの世に行くのだろう、そこで閻魔様とかに裁かれて………確か十王とかいたっけ?

前世だったらそんなのいないと思ってたから、死んだら脳が思考停止して、なにも感じないというすらなくなり虚無ですらなくなるとか思ってたから、死ぬことってめちゃくちゃ怖かったけど………

いやよく考えたら私転生してるんだから一回死んでるんじゃない?

 

うん、深く考えるのやめた。

余計なこと考えずに生きていこう。

………もしかして、閻魔様も女性だったりするのか………?

いやいや、普通はおっさんだからね、さすがにそんなことはあるはずがないよね。

いやでも………今のところ私の知り合いって柊木さん以外全員女性なんだよね………なんだこの圧倒的は女性率は。

 

「あたいが弱いせいでみんなからが………うおおおおん!」

「あれ、大丈夫なの?」

「夜になる頃には元気になってますよ」

 

おっ馬鹿だ、完全に馬鹿だ。



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前夜

「おー、ついに完成しましたね。よくできたんじゃないですか?」

「よくできた………?いや、これ、豆腐………」

「いいですか?この世にある家なんて、ほぼほぼ豆腐がちょっと出っぱってたり上になんか乗ってたりするんです、豆腐こそ原点なんです」

「そーなのかー………いや、でもこれ紛れもなく豆腐だよね、出っぱってもないし何か乗っかってるわけでもないし、純粋なる豆腐だよね」

「いいじゃないですか、豆腐、私は好きですよ」

「違う、そうじゃない」

 

だってこれ………豆腐じゃん。

いやこれ………100%豆腐じゃん、私は揚げ豆腐が好きです。

 

「なんなんですか不満そうですね………じゃあ煙突つけたらどうです?何気につけ忘れてますし」

「あ、ほんとだ、忘れてる。いやでもそれ、結局豆腐にきゅうりが刺さっただけじゃない?」

「もーうるさいですねぇ、内装は良いじゃないですか」

 

内装は、ないそうですけど。

うんまぁ、台所とか洗面所とか、将来的につけようとか思ってスペース開けてるから内装はないんだけどね。

 

「はぁー、ここまで何日くらいでした?結構ずっとやってましたよね」

「あぁ、多分二、三週間くらい?まぁこの豆腐なんだからそんなものだと思ってたけどね」

「じゃああたしももう帰るってことですね………ひぃ、またあたしを誰かに踏みつけられて無惨なことになった虫みたいに見てくるんだぁ」

「逆にそれどんな目だよ」

「よぉ、終わったんだな」

「ぴぎゃ」

 

背後から突然声がした。

振り向くと柊木さんがいて、これまた悪い目つきで豆腐ハウスを見つめていた。

気配消すのうまいっすねぇ、さすがは妖怪の山の警護を担っている白狼天狗、することがアサシン。

 

「そろそろ終わると思ったから、そこの河童持ち帰りに来た」

「柊木さん、女の子を持ち帰るとか意外にプレイボーイねぇ」

「なんの話だよ」

 

確かに柊木さん、目つきどうにかしたらモテる、気がする、だけだよ。

 

「るり、迎えが来たぞ、よかったな」

「………」

「おーい、聞いてますかぁ、大丈夫で——な!?」

「おい、どうかしたのか、大丈夫か」

「気絶している………立ったまま………」

「なんで!?」

「まぁちょうどいいや、この生きるしかばねもって帰りなよ、その方が楽でしょ、ひいひい言わなくてすむじゃない」

 

気絶してるやつの肩を持って霊力を流し込み浮かせる。

人一人分だったらこのくらいでも足りるだろう。

 

「ほら、行きなよ」

「お、おう………あれ、軽いな」

 

何回か持ち直して浮いていることに気付いたらしいけど、深く考えるのをやめて帰っていった。

今回はため息しなかったなぁ。

もしかしてあれ、後ろから突然声がしたから気絶したの?弱すぎ。

 

 

 

 

「ここがあたいの城か!」

「ちげーよ、私の城だよ」

「そーなのかー」

「城とは到底呼べない気がしますけど………まぁ立派なんじゃないですか?」

「あぁ、大ちゃんの心遣いが辛い」

 

せっかく家できたので、大ちゃんを呼んだらチルノとルーミアがくっついてきた、なんでやルーミア関係ないやろ。

 

「人肉があると聞いて来たのだー」

「無いわ、そんな恐ろしいもんないわ」

「あたいはあたいの城ができたって聞いたから」

「お前の城じゃない、私の城、でもないな、これは私の豆腐だ!」

「とうふ?なんなのだそれー美味しいのかー?」

「おう美味しいよ!私は揚げ豆腐が好き!」

「あげ……よくわからん!だけどここはあたいの城だ!」

「城ないよチルノちゃん、ただの一軒家だよ」

 

騒がしい………他の妖精たちまで一緒に連れてこなくてよかった。

この家、そこまで狭くはない。

だが、簡単に釘を打っただけの木製なので、そこまで強度がないのだ。

多分貧弱な私でも頑張ったら床くらいは穴を開けれる。

 

「お、ここはなんだ!?」

「囲炉裏」

「ここはっ!?」

「寝室」

「むこうは!?」

「ちっさい倉庫」

「あそこは!?」

「屋根裏」

「屋上じゃないのか!」

「だってまだ屋根ないもん」

「じゃこっちはぁ!?」

「肉とか乾燥させるとこ」

「肉?肉どこにあるのだー?」

「反応してくんなこの人喰い妖怪め!ってかお前らはしゃぎすぎ!こんな何にない家のどこにそんなはしゃぐ要素があるっていうんだ!」

「まともな家ってこの辺の近くだとほとんどないんです。人里は私たちみたいなのは入れませんから興奮してるんでしょう」

 

冷静に分析しないでくれない?

というか、このガキども落ち着かせてくれないかなぁ。

 

「おいひふはいほはー」

「あ、ちょテメェルーミア!なに机齧ってんだやめろ!」

「あー………」

「うーわ歯形ついてる、どんだけ顎頑丈なんだよ」

「おっこっちはなんだ!」

「あ、そっち洞窟!ってかウロチョロすんなよ!あ。おいルーミア机齧るなっていってるでしょーが!そんなもの食べちゃいけません!」

「あー………」

 

もうやだこいつら………

微かに声が聞こえて振り向くと、こちらに背を向けている大ちゃんの肩が震えている、どうした?

 

「どうしたの大ちゃん、何かあった?」

「いや、あの………ふふっ、なんだか毛糸さん、親って感じしますよね」

「親?」

 

・・・

はあ?

………はぁ?はぁ!?はあああああ!?

 

「ないないないないないない、ワタシロリコンジャナーイ、しかも、あんなバカと!?恐ろしい人喰い妖怪の!?親ぁ!?ないないない絶対ない断じて認めない」

「すみません例えです落ち着いてください」

「そうだぞ、一回頭冷やすんだぞ」

「冷やすのだー」

「お前らに言われたくないんだよ!この脳味噌トロトロコンビが!」

「脳みそとろとろ………美味しくなさそうなのだー」

「何でもかんでも食べる話に結びつけないでくれないかなぁ!」

「目玉はおやつなのだー」

 

おやつぅ!?おやつって目玉ぉ!?怖いわ!なんで目玉がおやつなんだよ!スナック感覚ですか!スナック感覚でサクサクいっちゃってんのか!美味しいのかそれぇ!いや、美味しいから食べてるんだろうけど!!え?なに?………おまっマジかよ!それ食べちゃったの!?大丈夫なのそれ!ってかキモいわ!え?不味かった?でしょーね!そんなもの食べて美味しいわけがないもんね!ちょ、変な想像が………いやああああああ!誰か私の脳味噌溶かしてえええ!!

 

 

「はぁ、はぁ、ふぅ………ってかいつになったら帰るんだよ」

「何言ってるんだここはあたいの城だぞ」

「人肉ー」

「振り出しに戻ってるよ二人とも、迷惑だしもう帰ろう?」

 

チルノは渋々、ルーミアは残念そうにしながら、扉を開けて出て行った。

 

「では、お邪魔しました」

「うん、またね」

 

ちゃんと挨拶ができるの偉いなー。

あの二人をまとめるなんて流石大ちゃん、頭の作りが違う。

 

「………急に静かになったな」

 

何か食べるものがあったらあの二人ももうちょっと落ち着いてくれたのだろうか、茶もないからね、毛玉しかないからねこの家。

河童のところへ行けばなにかしらあったのだろうか、私だって美味しいものでお腹満たしたいもん。

 

とりあえずあれだなぁ、屋根つけないとなぁ。

なんで屋根ないかって、洞窟と引っ付けたせいでいろいろ面倒くさいからなんだよね。

何が面倒くさいかって、ほらあれ………あぁもう考えるのもめんどくさいよ。

それからもう一回山に行って、河童のとこ行くでしょ?

そして火打ち石とか調理道具とか………あ、そうだ塩とかあるかな。

味気ないのはもういい加減飽きたんだよ。

それからあれだ糸とか針とかその辺のちっさい細々としたものももらっておかないとなぁ。

 

あーあ、やること多すぎてもう………

ねみぃ………………

 

 

 

 

んぁ?寝てたか、外はもう暗いからそこそこな時間寝てたらしい。

いやぁもう面倒臭すぎてふて寝しちゃったね、何が面倒なんだっけ、あぁもう考えるのも面倒くさい。

 

「———」

「———!」

「———………」

 

なんかうっせぇ。

頭痛い………家の前?またチルノとルーミア?勘弁してくれ。

わたしゃ疲れたんだってばよ、騒がないでくれ………

 

「———でしょう!?」

「落ち着いてください斬りますよ」

「お前が一番落ち着けよ」

 

なんか………どっかで聞いたような声が………おいおいおい、そりゃあないよな、流石にそれはないよな。

クラクラする頭を抱えて、扉をゆっくり開く。

 

「ひゃっほーう!」

「駄目ですねこれは完全に酒に飲まれてますね、せめて私の手で」

「早まるなっていってんだろ、飲まれてるのお前な」

「人んちでなにしとるんじゃおどれらはぁ!?なにパーリナイしてんだよ!ってかなにしにきたんだよこの馬鹿天狗ども!」

 

あれ?ここ私の家だよね、なんで天狗どもがいるの?なんで天狗どもが人の家の前で酒飲んでパーティーしてるの?えっえっえ、なんで?

 

「いやぁさっき呼んだんですよぉ?でもぉ返事がなくってぇ、先に私たちで始めちゃおうかなぁとぉ」

「なにその喋り方やめてくんない、腹立ってくる。つかなに、なんの話だよ、誰の許可とって人の家の前ではしゃいでんだよ」

「そぉ怒らないでくださいよぉ、ほらぁあなたも一杯」

「いるかボケェ!この酔っ払いカラスが!酒臭いわ!」

「毛糸さん、そりゃないですよ、乙女に向かって酒臭いはないですよぉ」

 

自分で自分を乙女言う奴は真の乙女ではない、ただのぶりっ子だ。

そしてなに酒瓶ラッパ飲みしてるのかなぁ、そこのケモ耳娘はぁ。

 

「言ったでしょう文さん、迷惑だって、ひっく、それに私も酒はそんなに好きじゃなひっく」

「飲んでたよね、今ラッパ飲みしてたよね、そして今凄い酔ってるね」

「すみません、お詫びとしてこの足臭同僚ひっく、腹切りますんで」

「おい、なんで俺が腹切らなきゃいけないんだよ、後足臭くねぇし」

「貴方は切りませんよ私が貴方の腹を切るんです」

「お前一回顔洗ってこい………」

 

せめて自分が代償支払えや、人の腹使って詫びるなや。

つーかなにこのカオスゥ、どーしてこーなった。

 

「いやぁそこの柊木?って人が伝え忘れてたみたいでさ、もともと山で小規模に飲む予定だったんだけど急遽こっちに変更したってわけ」

「にとりん………止めろや!」

「いや、私もさっき知った、誘われたから来ただけだよ」

 

あ、柊木さんが白刃取りしてる、すごーい。

じゃなーい、止めないと、ふて寝して夜に起きたらこれって、とんだカオスだなぁおい!あれ、椛もしかして吐く?吐くぅ!?ちょっとまってうちの家の壁には——

 

「いやああああああああああああ!!」

「あー綺麗にかかっちゃったね、いつもより飲みすぎちゃったねー水飲む?」

「あぁ、すみませんどうも………」

「おまっ、どうしてくれんねんこれ!おまっ、これっ、壁が、壁がぁ!つかくっっさ!」

 

うわぁ最悪だぁ、新築にもう傷がぁ…豆腐にゲロがぁ………

 

「まぁまぁ、嫌なことは忘れていっぱい飲みましょうよ毛糸さぁん」

「ちょ、酒瓶持ってこっちくんな!ちょま———」

 

 

 

 

・・・あれ?

今、意識が飛んで………

 

「いやぁ私も驚いたね、毛糸は酒無理なんだねぇ」

「へ?あれ、私なにしてたんだっけ」

「文がね、君のね、口にね、酒瓶をね、突っ込んだらね、気絶した」

「なんかその言い方腹立つな」

 

そっか、私酒飲まされて気絶………いやいや、気絶はおかしいでしょ、子供でも間違えて一口飲んじゃったりするけど大抵は無事だよ?なんで私気絶して………

 

「くさっ!何この匂い」

「なにって、そりゃあ、ね」

 

あ、はい。

どうやら寝室のところで寝かせてくれてたらしい、流石にとりんやさしい。

 

「みんなは?」

「外で飲むの飽きて中で飲んでた、その後また外行った」

「へぇー、ふーん、ほーん、ちょっとふて寝するわ」

「まぁ待ちなよ、今頃あの二人も外であれしてるからさ」

「外ねぇ………外ならまぁ………ってかあれは飲みすぎでしょ」

「文はねぇ、なかなか休みが取れないらしくって、今回急に休みになったからみんなで飲もうってなったらしいよ」

 

じゃあ自分たちでやればいいじゃん、私巻き込むなよ。

 

「椛はねぇ、一回飲むと止まらない系だね、極限までいって刃傷沙汰を柊木さんが止めてるらしいよ」

「柊木さんはあんまり酔ってなかったみたいだけど」

「めっちゃくちゃお酒強いらしい、私はあんまり飲まない」

 

はぁー、もう憂鬱だわー。

これあれでしょ?朝になったら周りに嘔吐物いっぱいあるパターンでしょ?で、それを片付けるのは?わ、た、し。

 

「どーしてこーなったんだよ」

「なんか文が大事な話があるからついでに飲むって言ってたような………」

 

大事な話?

それってもしかして、ほかの天狗たちがどうとか言うあれ?

 

「ちょっと私行ってくるわ」

「あ、私もついていくよ、どうせ河童たちも無関係じゃいられないだろうしね」

 

うん、そうだね、るりとか泣き叫びそうだね。

寝室から外へ出る扉へ真っ直ぐすすんで外に出る。

そこにはちゃんと桶をもってアレをする二人と背中をさする柊木さんの姿があった。

 

「文、何か大事な話、あるんでしょ?」

「うっぷ………えぇ、まぁ。そんな話もあったような気がしますね」

 

おい………腹蹴るぞ。

 

「冗談ですって、そんな目で見ないでください」

 

桶から手を離し顔を上げこちらに目を向ける文、その顔は真剣そのものだった。

 

「状況が変わったんですよ、いろいろとね」

「変わったって、つまりどういうことよ」

「そうですねぇ例えば………私のお腹とか………う、お—————」

 

桶の中の量が、また増えた。



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開戦

「ははっ………死ぬかと思いましたよ………」

「死んでも骨は拾ってあげませんよ」

「酷くないですか?あとあなたは回復するの早いですね」

「文さんとは体の作りが違うんですよ」

 

いや、椛あなた、すごい足元ふらついてるけど、まだ具合悪いでしょ。

 

「で、説明してくれる?」

「あ、はいはい、そうでしたそうでした」

 

だから、忘れんなよ。

何のために我が家の周りを汚してくれたんだよ。

 

「状況が変わったって?」

「えっと………なんでしたっけ。あ、そうだ!うちの山の偵察に来てた敵の白狼天狗を捕縛したんですよ。そしたらですね、お前らはもう終わりだとか言い出したんですよね」

 

それだけでわざわざ状況が変わったとは言い出さないだろうに。

まだ他に何かあるのだろう。

 

「それでですね、いろいろ尋問してみたら、向こうが攻めてくる日程がわかったんですよ」

「それが思ってたより早かったから、状況が変わったと」

「えぇ、お陰様で天狗の里の方はとてもつもなく混乱に陥ってますよ、天馬様と大天狗どものおかげでなんとか統率はとってますけどね」

 

思ってたより早かったって、どれくらいのを想定してたんだろうか。

というか、それなら自分ら人の家きて飲み始めるって呑気すぎるよね?

 

「で、それいつだって言ってたのよ」

「明日です」

「………は?」

「明日です、今が最後の夜ですね、決戦前夜って奴です」

「………はぁ?」

「大丈夫ですか?」

「はぁ」

 

はぁ!?

明日っておまっ、明日って!どんだけ呑気やねん!ちょっとまってや心の準備がまだ出来とらんのやけど!

ちょっとまって!?これ寝る暇ないよね!?時計あったらもう0時過ぎてると思うんだけど!これもう実質今日じゃない!

 

「いやでも、こっち側を錯乱するために嘘の情報をとか………」

「椛が確かめるために哨戒した時に、確かに敵は近くにいて、もう攻め込む準備をしてたらしいです」

「はぁ………じゃあなんでおたくらこんなところで飲んでんの」

「やけくそです」

 

めっちゃ堂々と言うやんけ………

 

「そういうわけで、そのことを柊木さんに言おうとしたんですけどもう帰ってきた後で、それからは私たちもやることいろいろあったので言うのが遅れたってわけです」

「それでやけくそになるぅ?ってか飲むなよ」

「ふっ、部下からの視線、同僚のとの競い合い、上司からの圧力、こんなに人生疲れる要素あるんですから、ちょっとくらい飲んだって問題ないでしょ」

「あるよ?もれなく天罰がくだるよ?」

 

はぁ………ったく。

ふて寝したから?ふて寝したからこんなことになってんの?天罰くだってんの私?

 

「ま、我々もなんの備えもしてないわけじゃないんですけどね。この日のために私たちは名の知れた妖怪から有象無象まで頭を下げに行ったんだから。天狗としての矜恃もあったもんじゃないですね!はっはっは!」

「文さん、本番は明日なんですから、帰って一度休んだほうが——うっ、また吐きそうに………」

「お前が一番休まなきゃ駄目だろうが。俺はこんな酒で死にそうになってる奴らを運ぶためにここにきたんじゃないんだよ」

「苦労人だなぁ柊木さんは」

 

次第に文も顔が真っ青になっていき、椛といっしょに死にかけになったので、霊力を使って浮かせて柊木さんにテイクアウトしてもらった。

 

「あ、そーだ。にとりんはどうすんの?」

「河童は臆病だからなぁ、多分情報伝達されるのは一部の河童だけだと思うよ。相手の狙いはうちの技術力でもあるだろうからね。多分毛糸も河童の集落まで来て防衛に加わることになるんじゃないかな。武器製造とかも全部河童が受け合ってるし」

「にとりんはしっかりしてるねぇ」

「お酒飲んでないだけだよ、普段ならあの二人ももっと有能なんだけどね。じゃあ明日、日が昇る頃に私のところまで来ておいてよ。近くの天狗にはちゃんと伝えておくからさ」

「あぁ、うん、わかった」

「お互い頑張ろう、盟友」

 

そう言ってにとりんも帰っていった。

 

 

こう言う戦争っぽいの、私いけるのかな………今まで何度か戦いというものはしたけれど、全部私死にかけてるし………

生き残ることを最優先にしたほうがいいかな。

 

なんで私はこの戦いに参戦する前提で話してるんだろうなぁ。

本当はそんな義務はない、私は争いなんてのはごめんだし、まだまだ人生を謳歌したい。

それなのになぜ、自ら争いに身を投じませようとしているのか。

わからない………だけど、このまま逃げるという選択肢が私の中にないのも事実、なら戦って生き残るしかないだろう。

 

なにかそれっぽい理由でも作っておこうか。

 

親しい人を、無くしたくないから。

 

私如きがそんな大層な理由作っていいのだろうか。

私にそんな、何かを守れるほど力があるとは思ってはいない。

私に守って欲しいも思っている人もいないだろう。

だったらこれは、私の胸の中にだけしまっておく。

 

それに、期待されているんだ、答えてあげなければいけないだろう。

死んだらそこまで。

明日は明日の風が吹くんだ、深く気にしたってしょうがない。

生きて帰る、なにも失わずに。

 

なんかすごい死亡フラグだってる気がするけど気のせいだよね。

気のせいだよね!?

あとめっちゃ臭いなぁ!我ながら恥ずか死ぬ!

 

 

 

 

「あわわわわわわ、せ、戦争?今日?今から?ふぇ?」

「うん、そーだね」

「ふぇ、ふぇ………ふぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「なんでこいつに教えたのにとりん」

「いや、どうせならここでお荷物を処分しようかなと」

 

あ、にとりんお前、このニートをこの戦いに乗じて抹殺しようと企んでるな?いいぞもっとやれ。

 

「無理です無理ですぅ!そんな、こここんな近くでたた、戦いなんて起きたらあたし、し、ししし、し死んでしまいますよおお!!」

「大丈夫だ、すでにお前は社会的に死んでいる、安心して逝け!」

「逝けるわけないでしょお!?あたしはまだまだやるべきことが——」

「じゃあ頑張って生き延びてね」

「そんなあああ!!」

 

力無きものは死ぬだけよ。

まぁここに攻め込まれる時点でもう終わってるような気もするけどね。

 

「にとりん、あとどれくらいで攻めてきそうなの?」

「北の方から大軍が押し寄せてきてるらしいよ。天狗の里より先にここが戦場になるだろうね」

「でもまぁ、こっちが有利は有利だよね」

「立地はね。戦力差は覆しがたいな」

「ま、なるようになるんじゃないの?最悪、河童は降伏したら生かしてもらえるんじゃないの」

 

相手が河童の技術を目的に攻め込んでくるならあっちだって河童を殺したくはないだろう、じゃあさっさとあっち側に寝返るのも手だ。

 

「そうはいかないんだよねぇ、今河童はこの山で天狗と対等な関係を結べている。降伏なんてしたら奴隷みたいな扱いになるのは目に見えてるからね」

「ど、どどど奴隷!?やだ!そんな引き込まれないような人生は!絶対に勝ってやる!意地でも勝ってやるうううう!!」

「なんか火がついた。いいぞその調子だ、そのまま命燃やしていけ、爆弾持って自爆特攻しろ、君はボマーだ」

「それ結局死ぬじゃないですかあああ!!」

 

いちいち騒がしい奴だなぁ。

騒ぎたいとはこっちだってのに………ってか眠いわぁ、緊張感のかけらもないからすごく眠いわぁ。

 

「あ、そうだ毛糸、部屋に置いてあったものは取っておいてくれた?」

「あぁ、うん、一応、全部じゃないけどさ」

 

私の部屋、つまりるりの隣のあの部屋、あそこににとりんが武器とかいろいろ用意してくれていた。

まぁ武器とは言っても短剣やら長剣やら細剣やら刀やら弓やら槍やら短槍やら投げ槍やら斧やら………武器オタかって思った。

あ、そうだ、ハルバードもあったわ、あと籠手も。

 

「短剣だけもらっておいた」

「なんでさ、あんなに用意してやったのに」

「バリエーション豊富過ぎない?重いわ、完全に枷になるわ」

「もっと小さくて殺傷力高いのもあったんだけどね、量産ができてないからさぁ。銃って知ってるかい?」

「あ、あるんだ、銃」

 

てっきりないもんだと………

どっちにしたって私使えないよね、だって私筋力ないもん。

例え両手でしっかり構えて撃っても多分腕が動かなくなる。

まぁやっぱり使い回しのいい武器しか使えなくなるんだよね。

 

「狙撃銃ってのもあるんだけど、それだけはいくつか作れたんだけど、いかんせん狙いがつかなくてね、目がいいやつしか使えないんだよ。あ、るりは使うけどね」

「え、使うの、狙撃銃」

「目だけはいいんだよ、目だけは」

 

そんなに目いいのか………

現代にも戦争はある。

歩兵は銃を乱射し、その弾丸がたまたま敵に当たって相手を殺す。

しかし狙撃は違う、引き金を引けば確実に敵が死ぬ。

これほど死がはっきりと分かるのは狙撃手くらいだ。

ってなんかの作品で聞いた気がする。

 

「できんの?こいつに」

「やらなきゃ死ぬだけだ!最終手段で投石機でお祈りする!」

「やっぱりやけくそじゃあないか」

 

やれやれ………大丈夫かな、私、死なないかな。

いや、死ぬ前に撤退しますけども………

 

「あ、そうだ、これも渡しておくよ」

「はれ?なに、妖怪メ○ルでもくれんの?」

 

にとりんから手渡されたのはやけに大きくて太いバレルがついている銃っぽいなにか。

なんだこれ、結構重いなぁ………

 

「これ、実弾は?入ってないけど」

「妖力を込めるんだよ」

「ほぇー、使い方わからないんだけど」

「妖力を持ち手から流し込むだけだよ。妖力を発射する分、弾を待つ必要がなくなるから軽くなる。妖力が通りやすくて丈夫な素材を特殊な配線でめぐらしているから、妖力を込めるだけで弾の装填と発射までできる優れものだよ。これなら妖力の扱いに慣れていない毛糸でも使えるでしょ?」

「なんで私が妖力あまり使えないって?」

「見てたらなんとなく分かるよ」

 

見てたら分かるんや………すごいな。

確かにこれなら込める妖力の量にだけ気をつければ私にでも扱えそうだ、いいものもらったね。

やっぱ河童すごいわ、うん。

 

「霊力込めても大丈夫?」

「え?さぁ、試してないからわからないけど」

 

そうかぁ。

妖力は傷の回復の為に出来るだけ温存しておきたいんだけどなぁ………まぁ、私の妖力量自体も、何故かそこそこ増えている。

むしろ最初に持っていた量が少なすぎたまである。

余裕のあるうちは、フレンドリーファイアしないように気を付けながら使っておこう。

まぁ幽香さんパワーハンパないからね、試し撃ちも怖くてできないけどね。

 

「きゅうりいる?」

「いらな…やっぱりもらっておく」

「お、きゅうりの魅力に気が付いたかい?」

「お腹空いたから」

 

無駄にめちゃくちゃ薄く輪切りにされたきゅうりを、手掴みで一気に口の中に放り込む。

 

「みずみずしい………なに、私の顔に何かついてる?」

「いや?………やっぱり最前線で戦うのかい?無理はしなくてもいいんじゃない?」

「後ろにいたってどうせびびって何もしないだろうからね。私みたいな臆病な奴は無理やりにでも前に行かせないと何もしなくなるから」

「そうか、そうか………」

 

………なにか言いたげだなぁ?

やたらと私に武装させようとするし………

 

「なにか言いたいことあるの?」

「いやぁ………死んで欲しくないなぁって」

 

なに恥ずかしそうにいってんだよ。

 

「だってさ、せっかく盟友と呼べる人物に出会ったと思ったら、いきなり戦いに行くって………そんなことってある?」

「さぁ?私まだまだ妖としても浅いし、自分の存在だってあやふやなんだよ。この世界はそういうものだって割り切ってるけどねぇ。首突っ込んじゃったし」

「まるで前世の記憶があるみたいに言うね。でもなぁ、天狗はわからないけど河童はさ、争いとかそういうのは無関係だったからさ。戦いが始まっても、普段通りの生活を送る奴も多いと思う」

「にとりんだって死ぬかもしれないじゃん」

「私は後ろで後方支援してるからね。というか、河童はほぼ全員後方支援だから」

 

いいなぁ!後方支援いいなぁ!私もそっちがいいなぁ!

私だって死にたくないもん!ルーミアとかあの辺の化け物が敵にいたらどうするんだよ!ってか人生経験少な過ぎてよくわかんないんだけどっ!ルーミアクラスの化け物とかうじゃうじゃいるかもしれないし、もしかしたら敵に幽香さんクラスのラスボスがあるかもしれないじゃん!どうしろと!?この貧弱もやしボールにどうしろっていうんだよ!

 

「はぁ………やだなぁ、憂鬱だなぁ」

「さ!しんみりするのは終わりだ!生き残る為になんでもするぞ私は!というわけで行ってこい盟友!」

「逝ってきます」

 

やってきた伝達役の鴉天狗が、もうすぐ開戦だと伝えてきた。

そういえば、相手妖怪だからちょっとやそっとじゃ死なないよね?腕吹っ飛んだくらいじゃ死なないよね?

いやでも、そんな甘っちょろいこと考えてるの私くらいかぁ。

うーん………憂鬱だなぁ。

ま、行くしかないんだよなぁ。

 

 

 

 

 

戦場にいるすべての兵は困惑していた。

 

空から降り注ぐ、氷の槍に。

 

突如現れたそれは、戦場を貫いた。



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上を取った方が有利になる、戦いの基本

妖力を霊力に変換し氷の塊をつくり、細長い棒をイメージしてその氷を大きくしていく。

できたのは私の3倍くらいはありそうな氷の柱。

妖怪の山の上空からその氷の柱を敵のいる方に落とす。

空高くから落とされたその氷の柱は、地面へと突き刺さると同時に砕け、その周囲の敵を破片が襲っていた。

我ながらよくこんなものを思いついたものだ、やっぱり勝つつもりで行くんなら安全なところからどんどん攻撃するに決まってるよねー。

私に気づいたのか、地上の方からいろんな色で光る謎の光弾が私を襲ってきた。

まぁ妖力でできてそうだから妖力弾とでも呼んでおこうか。

地上から放っているだろうから私には到底当たらない。

一応毛玉の状態になっておいて当たり判定を小さくしておこう、それと少しずつ距離を離す。

 

地上の方から飛んでくる人影が見える。

妖力弾を撃ってきてるけど、私のバックには太陽が待ち構えている。

眩しいのだろう、全く当たる気配がしない。

あと私いま氷作るのやめて毛玉なんだけど、よく見えるね?

人の姿に戻り、まだ落ちずに私の近くに浮いていた氷の柱を掴む。

下の私に向かってきている人影に向かって、氷の柱をもってくるくる回転しながら近寄らせないようにする。

浮かしているため重さが全くないとは言えど、空気抵抗はある。

霊力の衝撃波をだして加速しているけど、空気が当たって腕にそこそこの重みがやってくる。

でも回る分にはまだいける。

毛玉で長い間空中浮遊生活を過ごしていたおかげで、私の三半規管はちょっとやそっとじゃ悲鳴をあげることはない。

ローリング氷柱アタックをしながら敵の方へ向かっていき思いっきりぶつける。

鈍い音を立てて氷の柱に接触した敵は、ぐえっ、とか、あぐぁ、とか、色々な声を出していろんな方向打たれ空の彼方へと消えていった。

ホームラーン。

 

でもまだまだくるなこれ、いや見えないけど、くるくる回りすぎてて見えないけど妖力弾の数がバカみたいに増えてきている。

お前らぁ!グミ撃ちは負けフラグなんだぞ!やめろよそーゆーの!死にたいのか!

 

腕に謎の衝撃がくる。

どうやら敵に接触した時、とうとう氷の柱の耐久に限界がきてて砕け散ってしまったようだ。

あと私が早く回りすぎたのもあると思う、ってか指痺れた、頑張って氷の塊に指めり込ませて何とか振り回してたから凄い指が痺れてる。

そして減速した私の持っている氷の柱を敵の誰かが受け止めた。

まぁ軽いからね、誰でも簡単に持てるよね。

敵の顔を見るとなんかドヤ顔してた、ドヤってた。

 

「欲しいならやるよ」

 

この氷の柱は私の作った氷の柱で、氷ではあるがもとは霊力だ。

氷の柱の中を私の霊力を通して敵の掴んでいる手を凍らして手を離せないようにし、敵の体自体を浮かす。

そのまま振り回して地上の方に向けて氷の柱の浮遊状態を解除、そのまま敵と一緒に落ちていった。

ふぅ、疲れた。

じゃないじゃない!めっちゃこっち敵きてるし!

毛玉状態になり衝撃波を自分の上に発射して地面へ急降下していく。

私貧弱だから、ちょっと突かれたら死んじゃうから。

そのまま敵との距離を離し続け、河童の集落の方へ向かって落ちていった。

 

 

 

 

「うわぁ………なんですかあの氷の塊、大き過ぎませんかね」

「これは暑い真夏の戦場が涼しくなるなぁ、俺汗かくの嫌だから嬉しいぜ」

「何呑気なこと言ってるんですか、もう毛糸さん撤退したみたいですし行きますよ。あの氷のおかげで敵は随分混乱してますが、こっちも半分くらい同じような感じなってます」

 

でもまぁ、本格的に本陣がぶつかる前でよかった。

もし激戦区にあんなもの落としたら敵味方関係なく被害を被ってしまう。

その辺のことは彼女もしっかり考えていたのだろう。

周囲の天狗たちもどんどん敵の方向へと向かって移動している、私たちも移動しないと………

あの氷柱の被害を避けるために敵から離れていたから、早く向かわないと戦線を押し上げられてしまう。

こちらは山の中まで攻め込まれたら終わりのようなもの、戦線をできるだけ上げられないように敵の戦力を削ぎ落として追い詰めていくしか手がない。

 

「まぁ、あの氷のおかげでちょっとは勝てる希望がもてたかね」

「上は鴉天狗に任せて、私たち白狼天狗は下から攻めていきましょう、敵が混乱している今が好機です」

「いちいち説明しなくてもわかってるって………」

 

えっ。

 

「なんでそんなに驚いてんの?そんなに俺馬鹿に見えてるのか!?」

「はい」

「はい、じゃねぇよ!戦況把握くらいできるわ!」

「でもさっき、これで涼しくなるなぁ、とか言ってたじゃないですか」「緊張ほぐそうとしたんだよ!なんなんだお前はさぁ!二日酔いでくたばってろ!」

「そっちこそ、自分の足の匂い嗅いでくたばっててください」

「俺の足は臭くねぇ!………多分!」

 

 

 

 

「いやぁ、始まったね。でも激しくなるのはまだまだこれからだ」

「すみませんにとりさん、もうすでに激しさ絶頂まで行ってるんですけど、氷の柱が戦場に突き刺さってるんですけど………」

「え、あれるりにも見えてたの?なんだ幻覚じゃなかったのかぁ」

「現実逃避しないでくださいいい!あれどっちなんですかぁ!?」

「どっちって、なんのどっちだよ」

「敵か味方ですよおお!もしあれ敵の攻撃だったら、こんなちっぽけな山串刺しにされて終わりですよぉ!」

「まぁもし敵の攻撃だとしても、天狗たちがなんとかしてくれるでしょ」

「楽観的!」

 

はは、戦いなんてね、一生懸命考えるのは参謀のやることで、戦う兵は上からの指示に従って機械のように動いてればいいのさ。

この戦いに参加するのは、冷静な判断ができそうな河童だけを集めてきた。

といっても、そんなやつは臆病な河童の中でも珍しいやつなので、頑張って探しても河童全員の一割ほどしかいなかった。

河童が敵と正面からやりあったら負けるのは確定しているから、やることはまず第一に負傷兵の治療だ。

この戦いは戦力差が激し過ぎて、こっちの戦力が少しでも減るだけで一気に山を落とされかねない。

むこうの戦力は、それこそ山のようにあるだろうから、数百人倒した程度じゃ勝ちはまだまだ見えてこない。

一人でも多く、少しでも長く戦ってもらわないと。

文が集めた妖怪たちってのも、どれだけ役に立ってくれるかどうか………まぁ考えてもしょうがないか。

てか、考えるのは参謀の仕事だ、私のやることじゃない。

 

「はー、もうやだ引きこもりたい………にとりさん頭になんかついてますよ?」

「ほえ?」

 

頭に何か………

両手で頭の周りを探っていると、右側頭部のところになぞのもじゃもじゃした物体がついていた。

掴んで頭から引き剥がすと毛玉だった。

 

「………もしかして毛糸?」

 

毛玉にそう問うと、私の手から離れて瞬く間に人の体になった。

 

「いぐざくとりー、よく分かったねにとりぃん」

「にとりぃん?まぁいいや。そりゃあこの状況で現れる毛玉は君くらいしかいないさ」

「生きてたんですか毛糸さん、あたしはてっきりもう藻屑になったかと」

「おい私は毛玉だぞ、なるなら毛屑だろうがい」

「どうでもいいですよぉ………」

 

にとりんの次はにとりぃんか………にとりんはまぁわかるさ、語感がいいし。

でもりぃんはわからないよ、なんでりぃんなんだよ、りぃんにする必要あるの?いや、そんなことは今はどうでもいいか。

 

「あの大量の氷、出したの誰か知ってる?」

「ん?私ですけど?」

「へ?」

「へ?もしかして私、またなんかやっちゃいました?」

「なんか腹立つ、一回殴らせろこの毛屑が」

「ちょ、待てよ!早まるな!今ならまだ間に合う!話し合いをおうふ!………一回言ってみたかったんです、うざいってことはわかってるけど異世界チート主人公になってみたかったんです」

 

くだらない妄言吐き散らすより先にあの氷のこと説明してくれないかなぁ?あれが何回もできるなら戦況が大きく変わることになる。

 

「なんだよその目はぁ、わかりましたよ、説明しますよ。確かにあの氷は私が作ったものです、他に質問は?」

「あれ、あとどのくらいだせる?」

「えっとね………全部絞り出してあと3セットってところかな、でも妖力とかは温存しておきたいし、あんまりもう出したくないかなぁ」

「そうか………だったら——」

「毛糸さんって、ものを浮かせられるんですよね?」

「え?まぁ」

 

るりが自分から進んで話しかけた………だと。

 

「だったら、武器倉庫にある武器全部浮かしておとしたらどうです?氷の柱よりも数は多いですし、それなら敵もたくさん数を減らせると思うんですけど」

 

なるほど、それができれば随分楽になるだろう。

でもそれは………

 

「それまず味方を敵から引き剥がさないと、巻きぞえ食うじゃない、あと狙いをつけにくい」

「確かにそうですけど、敵の本陣に向けてやれば、敵も固まってますし大打撃を与えられるんじゃあ………」

「むぅ………じゃあ代替案として、アレ貸してよ」

 

あれ?

 

 

 

 

敵の位置を即座に把握し、待ち伏せしているところに真っ直ぐに剣を持って突っ込む。

柔らかい何かに刃が食い込む感覚。

背後から飛びかかってきた敵に刃を引き抜くと同時に回し蹴りで牽制、腕で防御したところを胴を斜めに切り裂く。

 

「やっばり!敵は雑兵ばかりのようですね!気配も殺気も隠すことを知らない甘ちゃんどものようです!」

「お前と一緒にすんな。お前は音もなく忍び寄って絞め落としてくるからな、世の中お前みたいなやつばかりだったら暗殺流行しまくってるぞ」

「べらべらと喋る余裕があるなんて、随分余裕そうですね!ちゃんと敵倒してますか!?足臭いくせに!」

「最後のいらねぇだろ!」

 

木々に囲まれた中で戦闘をするのは死角が多く、待ち伏せが基本的に有利、だからまずは敵の位置を把握することを念頭に置かなければいけない。

私たち白狼天狗は五感が優れている。

敵の呼吸、服の擦れる音、気配、殺気、様々なものを感じ取って敵のおよその位置を把握する。

前方から二人が切りかかってくる。

二人同時に腕を振り上げ剣を私に叩き込もうとしてくる。

こんなもの、懐に潜り込んで一気に——

 

「うっ、二日酔い……」

 

その場に伏せて口を押さえる、

まずい、戻しそう、あと斬られる。

顔を上げると、もうすぐそこまで刃が迫ってきていた。

その手に持った剣。、迷いなくそのまま振り下ろした二人。

しかしその剣の刀身は折れていた。

 

「ほら昨日言っただろ!そんなに飲んだら二日酔いでまともに戦えなくなるぞって!」

 

柊木さんが、その硬化させた腕で二つの刀身をへし折っていた。

そのままもう片方の腕で剣を振って敵の二人の腹に深い切り傷を刻んだ。

そのまま私の目の前まで近寄ってくる、

 

「二日酔い野郎の命助けるために俺はここにいるんじゃ——」

 

柊木さんの方に向けて剣を突き出していた。

 

「………」

「その二日酔いで死にそうになってる奴のおかげで命払いましたよ、よかったですね」

「お前なぁ………」

 

柊木さんのほうに向けて突き出した剣は、背後の額に突き刺さっていた。

 

「普通に気配消してくる敵、いるじゃないか………」

「こいつ、うちの山のとこじゃない白狼天狗ですね、空に鴉天狗もいたので敵の白狼天狗がいるのなんらおかしくないですけど」

「良い鍛え方してんなぁ、お前がいなかったら俺完全に死んでた」

「なんですか急に、いつになく素直ですね、そんなことしても足の臭さは改善しませんよ」

「お前もう良い加減にしろよ、そろそろ俺も怒るからな」

「お?やってやりましょうか?」

「やってやろうじゃねえか!」

 

柊木さんに本気で斬りかかろうとすると、突然立っているところが影になった。

お互いに動きが止まる。

日の光を遮っているその状態を探ろうとして、上を見ると、私の数倍はありそうな巨大な氷塊が宙を浮いていた。

 

 

 

 

投石機用の巨大な岩を凍らし、その周りを氷で何回も何回も包む。

私の多分10倍あたりの高さになった頃に浮かして、投石機乗せてもらい私と一緒にここまで飛んできた。

重さが無くなるなるからちゃんと投石機で飛んでくれるか心配だったけど、ちゃんとここまで来れてよかった。

 

「いやぁ、無茶なことしますねぇ」

「ま、鴉天狗がいなかったら私は飛んできた敵にすぐにやられてただろうからね、ありがとう文」

「いえいえ、この戦いに勝てるのならできることはなんでもしますよっと。後ろの人、もうちょっと加速しましょうか」

 

文が氷の玉を後ろで頑張って押している鴉天狗に命令する。

そのまま敵の本陣までもうすこしになると、一気に氷の玉を上昇させる。

どんどん氷の玉は空高くのぼっていき、人の形がめちゃくちゃ小さく見える高さで止まった。

わぁ、鴉天狗飛ぶのはやーい。

 

「おー、たかいたかーい、私高所恐怖症かもしれない」

「さて、このくらいの高さだったらいいでしょう、では、落としてもらえますか?」

「あいよっ」

 

体を氷の玉から離し、浮遊状態を解除した。

下に向かって落ちていく巨大な氷の玉は、どんどん速度を上げていき、敵の本陣のどまんなかに落下、とてつもなく大きな地響きを鳴らした。

 

「畳みかけましょう」

 

そういう文の横顔は、どことなく楽しそうだった。



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名前はうまくバランス取らないと大変なことになる

ルビを振ることを覚えた人間


「ははっ、自由落下コワーイ、私落チテルゥ、スゴク落チテルゥ」

「毛玉なのに落ちるの怖いんですか?ってか飛べますよね」

「何言ってるんだ馬鹿野郎!私はなぁ!バンジーとかあーゆーの!やるのは良いけどやったらやったで途中で気絶するタイプだからね!ジェットコースターとか絶叫マシン系イキって乗って!絶叫して二度と乗らねぇってなるタイプだからね!多分」

「多分って、不確定なんかい。そろそろ地面着きますよ」

「イヤアアアアア!」

 

まぁ冗談はさておき。

落とした氷の玉は真っ二つに割れながらも地面にめり込んでいた。

流石の重量である。

あと何人か潰されたねこれ、南無三。

そう、あの氷の玉のしたには無残に潰された敵の死体が………

シィィィィ○ァァァァ!!

タバコ逆さだぜぇ………

 

地面に落ちる前に体を浮かし、少しずつ小さな衝撃波を下に向けて撃って減速、ある程度の高さで宙に滞空する。

肩からぶら下げたこの妖力銃、名前は今適当につけた。

霊力と同じ感じで流し込むとやばいくらい流れ込んでしまうので、慎重に少しずつ妖力を持ち手から流し込む。

妖力銃の筒の中に小さな妖力弾が作られたのを感じ、妖力の操作をやめた。

妖力弾を押し出すために溜まっていた妖力が一気に噴出、妖力弾をすごい速度で真下の方向に撃ち出した。

 

イ○ラッ!!

ようりょくが ぼうそうした!!

 

実際は暴走してないけど。

妖力弾がすごい威力なら、押し出す妖力もすごい威力なわけで、体を浮かしていた私は結構後ろに吹っ飛ばされた。

同時に敵の密集している地面へ着弾した妖力弾が爆発、黒煙を上げて爆心地にいた敵たちを吹っ飛ばした。

私の飛ばされたとこまで爆発の余波が飛んできて、さらに遠くへ飛ばされそうになった。

やっぱ幽香さんパナイわぁ、名前だけランクアップしてイ○ラにしたけどやっぱりイ○ナズンくらいの威力は出てますわぁ。

これイ○ナズン撃ったらイ○グランデを余裕で越した威力になりそうだよね、私怖いわ。

本当はイ○系だけじゃなくてメ○系も使いたいけど、妖力で火って出せるのかわかんないからできないや。

ヒャ○系ならできるんだけどなぁ。

そろそろドラ○エの話しは終わりにして、文たち巻き込まれてないよね?一応爆発範囲にはいなかったはずなんだけど。

と思ったらちゃーんとみんな避難してました、空高くへ。

なんか文がすごい速度と形相で近づいてきた、なんすか、その手をどうするつもりですか。

 

「やるならやるって事前に言ってくださいよ!」

「へぶし!」

 

ビンタを食らった………

 

「なんで私敵からより味方からの方が攻撃受けてる回数多いの?」

「あなたの妖力に気づくのあと少し遅れていたら私爆散してたんですが!何考えてるんですか!」

「明日の朝ご飯!」

「私の朝ご飯が今永久に無くなりかけました!」

 

ぶはっ!お前!女の顔をグーでなぐるなんて!

私をぶったな!大ちゃんにもぶたれたことないのに!

 

「そう言ってもわざとじゃ——ないッ!」

 

異様な寒気がし、身をひねると顔を細長い何かが掠めていった。

下を見下ろし、こちらに狙いをつけている射手を見つけ、さっき放たれたのは矢だと確認。

近づいてなんとかしよう、そう思った時には既にそいつはのされていた。

 

「不意打ちなんて卑怯ですね………」

 

文さん、仕事早いっすね。

いやまじで、目で追えないくらいの超スピードだったんですけど、瞬間移動でもしました?ヤードラッ○星で瞬間移動習得してきました?

 

「飛び道具なんて捨ててかかって来なさい!」

 

そう叫んだ文は、目にも留まらぬ早技で周囲の敵全てに後ろから首トンで意識を刈り取っていった。

首トンできるんだ、すごいなぁ、私もできるようになりたい。

まぁ文がしてるの、どっちかっていうと首ドンッ!!だけどね。

いや、ほんと………射命丸さんどうなってんの?あなたそんな早かったの?音速くらい行ってない?

前方から私に向かって斬りかかってくる白狼天狗を発見、着てる服が椛や柊木さんと違うので殴ってよし。

右足と右腕に妖力を込めて姿勢を低くし、土を蹴って敵の懐に接近、強化された右腕で思いっきり顎にアッパーを決めた。

 

「いったぁ………」

 

やばい、めっちゃ拳痛い。

本気でやりすぎた、敵さんも体1メートルくらい浮いてたし、もうちょっと手加減すればよかった。

散り散りになっていく敵の間から、一人の人影が目に入った。

 

「我が逸楽、見つけたり」

 

戦場に飛び交う怒号や悲鳴の中で、図太い声のその言葉だけが、やけにはっきり聞こえた。

耳に豪風のような音が入ってくる、そのあと耳を大きな爆発のような音が襲い、思わず耳に手を当ててしまった。

 

「大丈夫ですか?」

「文?今のは………ふぁい?」

 

左で腕を掴んでいる文の視線の方向を見ると、私のすぐ右の地面が深くえぐれていた。

 

「あの正面にいる男、わかりますか」

「——え、あ、あぁ、あのゴツいおっさん」

「あれは隣の隣のその隣の山を根城にしている天狗、うちで言うなら天魔級の化け物。名を——」

鬼葬(きそう)

 

うわっなんだあいつ会話に入り込んできてまで自己紹介したよ、なんなの自己主張激しすぎじゃない。

あとなんだよ鬼葬って、ネーミングセンスどーなってんすか。

 

「鬼のように闘い敵を葬ることから付けられたその名は伊達じゃないですね………」

「えっ、そんな安直な由来だったの!?恥ずかしくないのおっさん!いい歳こいてそんな名前堂々と誇らしげに語ってんの!?ないわーそれはないわー、まじ引くわー」

 

私の名前も安直だとは言ってはいけない。

言ってはいけない!

 

「ちょっと!煽らないでくださいよ!」

「ほう?我のこの名を侮辱するか」

「侮辱じゃないっす、名前変えて来たほうがいいっすよ、そんなんじゃ恐れられるより舐められる方が多いと思うんすけど」

 

あ、血管浮き出てる。

 

「そうカリカリしなさんなって、カルシウム取った方がいいんじゃない?」

 

わざと煽る、煽りに煽る。

煽りはするが足はすごい逃げ腰だ。

こいつからはやばい匂いがするぜぇ………

どのくらいやばいかって言うと、あの夜のルーミアくらいやばい気がするんだぜぇ………

 

「口よりも闘った方が早かろう、行くぞ女」

「女じゃねえ!毛玉だ!」

「えっ、女性じゃなかったんですか!?」

「知らん!」

 

毛玉に性別ってあんの!?

おっさんは、近くにある私の出した氷の残った半分を軽々と手に取った。

もう半分はいつ使ったんだ?あ、さっきか、ありがとう文、君がいなかったら私は今頃ガメオベラしていたことだろう。

 

「来ますよ」

「危なくなったら救助頼みまーす」

「なに惨めなこと堂々と言ってるんですか!」

 

体を浮かし、おっさんが氷塊を振りかぶりこちらに投げてくる直前に霊力を全力で放出し、投げられて来た氷塊を避ける。

全身の毛が逆立つような感覚とともに轟音が響く。

おっさんはすぐに近くにあった武器………棍棒?棍棒を手に持って構えた。

 

「力より速さの方が重要なんですよっ!」

 

文が超速で接近しておっさんの顔面にビュウッという風を切る音を出しながら蹴りを入れた。

スパーンと気持ちの良い音があたりに響いたけど………

 

「いくら早かろうと攻撃が通らなければ意味を為さないな」

「——!」

「むぎゅ」

 

おわっ!なになに!?顔に何かが飛び込んできた!

そのまま後ろに倒れ込んでしまった、すぐに体を起こし飛び込んできたものの正体を探る。

文だった。

 

「いたた………近づきましたか、全速力で避けたつもりだったのに、攻撃の余波だけで吹っ飛んでしまいました」

「文のあの速度反応できるのか?」

 

鬼のような闘いっぷりからその名で呼ばれるようになったんだっけ?じゃあモノホンの鬼はどれだけ頭狂ってる強さなんですか!もう嫌になっちゃうね!世界って理不尽!

両手を胸の前で合わせ妖力を収束し、妖力弾を作る。

さっき撃った奴よりも多く妖力を使っている。

 

「文、私が合図したらあいつの近くまで私を移動させて」

「なにを………いえ、わかりました」

 

手の中の妖力がどんどん増幅していく。

大きくなりすぎないように、増えていく妖力を収束させてちいさな光の玉を作り出した。

 

「いけ!」

 

何も考えずにただただ手を前へと突き出す。

視界が一気に変わり、おっさんの背後に回り込む。

 

「む?」

 

む?って、む?ってなんだよ。

気づいたようだけどもう遅い、光の玉は私の手から離れてこちらに振り返ったおっさんの目と鼻の先まで迫っていた。

また視界が変わり、周りには味方の鴉天狗が何人かいた。

 

白い光がどこからともなく放たれ、そのすぐ後に爆発の余波が私たちを吹き飛ばした。

ぐるぐると視界が回る中、なんとか体制を立て直す。

空を見ると小さな点がたくさん吹っ飛んでいる。

あれ、人か。

 

「なんて爆発起こしてるんですかっ!」

「知らん!私だってこんなにやったの初めてだよ!」

 

体の中の妖力がごっそり持ってかれたのを感じる。

あと半分もないくらいか………

気づけばもう日が暮れかけている、時間の感覚が麻痺してたみたいだ。

しだいに土埃が晴れあたりの様子が見えるようになってくる。

 

「やりましたか………?」

「ちょ、それフラ——」

 

 

 

 

残ったのは二本の腕。

血を散らしながら地面へと落下し、地面を血が染めていく。

 

「なかなか良い攻撃であった。我もかなりのダメージを負った」

 

身体中から血を流しながらも、二本の足で立っている鬼葬。

いなくなった毛糸さん、地面に落ちている腕。

それが意味しているのは………、

 

「貴様ぁ………!」

「くるか、雑魚どもよ。ならば、この我を殺してみせろ」

 

 

 

 

・・・

寝てたらしい。

頭が痛む、だけどなにがあったかを思い起こさなければいけない。

たしか………吹っ飛ばされたんだ、倒せなかったから。

視界は真っ暗………目はどうなってる?

腕は………多分吹っ飛んだな、感覚がない。

足はあると思うけど動かない。

なんとか腕に妖力を纏わせて完全に直撃はしなかったから、なんとか生きているみたいだ。

私にしてはよくやったと思う。

 

「毛糸………」

 

その声はにとりぃん?

 

「毛糸さん………」

 

るりもいるのか。

 

「早く埋めてやろう」

「はい………」

 

は?

ちょ、なんか体持ち上げてるよね?え、ちょっと待って!ちょ!

なんか担がれてる!あ、今落としたな!?これもしかして穴!?穴ですか!?墓穴!?埋めるの!?私を!?

 

「絶対勝つからな………」

「あなたの死は無駄にはしません………」

 

生きてるよね!?私生きてるよねぇ!?

ちょ、なんか喋らないと、って声が出せないい!喉が潰れてる!?

妖力!妖力を喉に!

あ!今土かけただろ!やめ、やめろおおお!

 

「いぎでるうう!」

「「!?」」

 

はぁ、はぁ………

あれ、返答がないな。

 

「うわあああああああ喋ったああああああ!!」

「ひいいいい!成仏!成仏してくださいいい!!」

「生きてるって言ってんだろぉ!?」

 

 

 

 

「まったく、生きてるか死んでるか、ちゃんと確認してから埋めろよな!生き埋めにされるところだったわ」

「ひぃ、腕が生えてきてるぅ、おかしい、おかしいよぉ」

「いやだって………今目が見えないからわからないだろうけど、今すごいことになってるよ?誰が見たって死んでると思うよ。

「脈取った!?」

「………取ってない」

 

やっぱり!ま、許すけどね!

生きててよかった、ってか妖力残っててよかった。

まずは腕から再生していく、取れてるからね、ないからね、腕。

肩から肉が蠢く音がして、ものすごく不快だ。

ついでにいうとどんどん感覚が戻ってくる感じも不快、マジキモい。

腕に妖力を集中させるのと同時に、ズタズタになってるであろう足、それと体の中の方まで妖力を流しておく。

頭がどうにかなってるのか、痛みとか今は全く感じていないから再生自体は楽だ。

脊椎折れてたら治るのかな?これ、治るよね、きっと。

 

体の中身の方までめちゃくちゃになってて再生に時間はかかった、多分十分くらいかかった、でも治ったからよし。

目が完全に再生し終え、ゆっくり瞼をあげる。

昼間だったらうわっまぶし、ってなってたけど、今はすっかり夜らしい、満月と星々がが空高くで輝いていた。

 

「どのくらい寝てた?」

「そこまで時間は経ってません、まだ戦いは続いてます」

「そっか」

 

にとりぃんの視線が痛い。

めっちゃ突き刺してくる、串刺しにしてくる。

 

「本当、ひやっとしたよ、本当に死んだかと………それで?どうせまた行くんだろ?」

「わかってんじゃん」

 

あのおっさんの頭をハゲにするまで私は諦めないぞ。

 

「じゃあ行ってこいよ、やるだけやって、死ねばいい」

「冷たくない?」

「死ぬときは妖怪だって死ぬんだよ」

 

ま、そーだよねぇ。

妖力も、寝てる間に少し回復した、霊力はまだある。

 

「じゃ、行ってくる」

 

あのおっさん、絶対許さないからな。

 

「え?ちょっと、なんであたしの首根っこ掴んでるんですかぁ!」

「働け」

「殉職はいやあああ!!」

 

あ、やべ、あのおっさんどこにいるかわからねーや。

 

 

 

 

天狗の里の門の前、そこに私は立っている。

私の視線の先に、あいつがいる。

 

「やはり生きておったか、傷も全て治っておるとは驚いた」

「おっさんは結構ズタボロだなぁ?」

 

相手の体も傷だらけだ、私のあの爆発で負った傷もあるのだろう、血が体の至る所から滲み出ている。

だけど、その歩みは一切揺らぐことなく、真っ直ぐに私へと向かってくる。

 

「名を聞こう」

「………白珠毛糸」

「そうか………我に劣るが、良い名前ではないか」

 

あぁ?

妖力を足に込めて姿勢を低くする。

いつでも突っ込めるように。

 

「ほざけぇ!私の名前はなぁ!お前の3.14倍よく考えられてるわ!」

 

円、周、率!



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上には上がいるんだって知る毛玉

戦闘書くの疲れたぽよぉ………


突っ込もうと思ったけどやめました、だっておっさんがその辺に生えてる木をもぎ取って振り回してくるんだもん。

怖いやん、そんなん無理やん。

だけど、木を振り回してくる分にはまだ何とかなる。

あのおっさんの拳、あれはやばい、まじやばい、一発食らったら私は即終了、実質オワタ式である。

だけど、拳じゃないなら、木なのであれば防ぐことは可能だ。

例えるならそう、バッティングセンターで投げられてく球がスポンジでできているのと同じようなものだ。

いや、これは逆?ま、いっか。

腕に妖力を込め、前から向かってくる木の幹に腕をぶつけへし折る。

すぐさまこちらへ向かってくる拳を、体を浮かせて霊力を放出し回避、そのまま体を回転させ足に妖力を込めておっさんの後頭部へ蹴りを入れる。

ゴン、と鈍い音がした。

 

「甘い」

 

鈍い音がしたのは私の足、足首を掴まれて脛に拳をねじ込まれていた。

足が変形している、そのまま振り回されて投げ飛ばされた。

体に投げられた勢いの負荷がかかる。

体を浮かして霊力を横向きに放出、地面へと着地した。

妖力込めててよかった、再生に時間はかからない。

これがまるまる部位欠損だったら時間かかるけど。

直ぐに立ち上がれるようになり、足に軽く妖力を込める。

 

「ほう、凄まじいな、その再生力は。今の蹴りも、その身体の力では到底出せない威力が出ていた。だが、高いのは妖力の質だけよ」

「おっさんはなんつー化け物なんだよ。勝てそうにないや」

「そうだろうな、我の負けはつまり死、我は今生きている、今まで負けたことがない。貴様ごときが我に勝てるはずがない」

 

何その理論、ちょっと何言ってるかわかんない。

でも勝てないというのは本当、正面からやってまともにやり合えば一撃で粉砕されて終わる。

でも、変な風にやっても簡単に反応されて返り討ちだ。

だけど何もしないわけにもいかないよねぇ。

 

足に込めた妖力を全て霊力に変換し、地面の表面を凍らす、そこから巨大な氷壁をつくる。

目の前のおっさんが隠れて見えなくなるくらいの氷壁を、右手に作った弱い妖力弾で吹き飛ばす。

ばらばらに割れた氷のかけらがおっさんへと迫っていく。

 

「小癪な………ふん!」

 

おっさんが腕を一振りしただけで飛んでいった氷のかけらは全て弾かれてしまった。

だけどその隙におっさんに急接近、下半身に向かって足を振り上げる。

それも簡単に後ろに下がられて避けられてしまった、だが、おっさんは急に動かなくなった。

 

「貴様………今金的を………」

「急に何言い始めてんの!?被害妄想やめて!」

 

まったく………おっさんのくせに、なんてことを………

手を挙げて、天狗の里の門の方へ合図する。

何をしているのかわからない様子のおっさん、その身体に急に矢が迫ってきた。

 

「援護射撃か………飛び道具如きで我を傷つけることはできん」

 

これもまた片腕だけで吹き飛ばしてしまった。

しかしその腕を、黒い弾が貫き、血を辺りに散らした。

 

「なに………?」

「やっぱり、流石のおっさんでも鉛玉は簡単には防げないみたいだね」

「なんだと?」

 

私の目線の先には、銃口をまっすぐおっさんに向けるるりがいた。

もう一度引き金を引き銃声を鳴らす、今度はおっさんのほおを掠めていった。

 

「やればできるじゃんるりぃ」

「こっち見て喋らないでくださいぃ!あたしが狙われたらどうするんですかあああ!!」

 

狙われるとしたらお前の声がでかいせいだな、うん。

 

「ぴぎゅあああおあおあおおお!!」

 

という奇声を発しながら、目にも止まらぬ早技で弾を込めて引き金を引き、発砲を続けるるり。

その様は完全にトチ狂った危ない人だけど、その射撃は確実におっさんを追い詰めていた。

とりがぁはっぴぃ。

銃を触るのが初心者とは思えないほど狙いが正確だ、急所を執拗に狙いに行っている、やだ怖いあの子。

あと連射速度が狙撃銃のそれじゃない、どれだけ装填速度が早ければそうなるんですか。

 

「舐めるなぁ!」

 

おっさんがその辺の岩を掴んでるりの方へぶん投げた、なぜそんな都合のいい場所にあるんだよ岩。

まっすぐるりへと飛んでいく岩、私じゃ間に合わない、と思ったら岩が無くなっていた。

 

「やれやれ、生きてるって聞いて飛んできたらまーた生き急いでるんですか、呆れますよ」

「文………」

 

文が岩を防いでくれたらしい、絶対私より君の方が強いよね、早いもん、クロッ○アップしてるもん。

 

「また会いましたね鬼葬」

「退いたと思えば、また我と闘いに来たか、貴様の攻撃では我には傷一つつけることはできぬ」

「分かってますよ、私は援護に回るとします」

 

そんなぁ、絶対前線で戦うのに向いてるでしょ文は、クロッ○アップは無敵なんだよ、最強なんだよ。

カ○トはカッコいいんだよ!

足に大量の妖力を込め、るりと文に気を取られているおっさんに超速度で接近、何も考えずに足を振るう。

ゴンっという音と共になにかを蹴った感覚、おっさんは大きく後ろにのけぞっていた。

足痛い。

 

「よかろう、貴様らの全身全霊をかけて我を殺しに来い、我もそれに答えよう」

「物騒な考え方しかできないのかおっさん、そういうの止めようよ、平和が一番だよ?」

「そのような甘い考え方は、いつか貴様自身を滅ぼす」

 

知らんがな。

確かに大半の人間、というか生き物の奥底に闘争心が眠っているのは事実だ、だけどそれと命の取り合いをひっつけるのは違うでしょ。

まぁ、要するに死にたくないってことだけどさ。

 

「雑魚とのお遊びに付き合うのもまた闘いよ………」

「人と喋るときは何を言ってるか明確にしてしゃべりなさい、良い年したおっさんがそんなんじゃ若者に笑われるぜ」

 

全身に、今残ってる妖力のほとんどを循環させる。

これなら、もし一発食らったとしてもなんとか耐えられる、はず。

 

近くにあった木を二本もぎ取り、おっさんの方へぶん投げる。

そのまま木と一緒に接近、木を両手で弾いたおっさんの腹に拳を入れる。

本来なら腹にめり込んでダメージを与えられるはずだけど、おっさんの腹が固すぎておっさんを押し出しただけになった。

だけど攻撃の手を緩める理由はない、身体を浮かして回転、そのまま回し蹴りをねじ込む。

またすごい衝撃とともにおっさんの体が吹っ飛ぶ。

文の方を一目見ると察してくれたのか、私を抱えておっさんの頭上へ起動させてくれた。

足を振り上げて体を浮かし、落下速度を上げるように霊力を放出する。

おっさんには防ぐ暇も与えず、その脳天へかかとを落とした。

相手の体を伝って衝撃が地面を震えさせる。

数秒の沈黙の後、おっさんがうつ伏せに倒れた。

 

「みっしょんこんぷりぃと………」

 

怖いなぁ………死んでないよね?気絶してるだけだよね?

はぁ〜………あー疲れた!帰って寝たい、てか帰る。

私おうちかえりゅ!

 

「本当にやったんですか、これ。本当に?起きてきません?」

「わからん、怖いから私離れる」

 

おっさんに背を向けた瞬間、凄まじい轟音が鳴り響いた。

その衝撃に押され、私の体は吹っ飛び天狗の里の壁へと激突した。

私が吹っ飛んだだけじゃない、その周囲の木々まで殆どのものが吹き飛んだ。

背中に強い衝撃が走る。

衝撃がおさまったあと、揺らぐ視界の中おっさんが歩みを進めてくるのが見える。

 

「やはりこんなものか、だがなかなか楽しめたぞ、雑魚どもよ」

 

足が動かない、腕も動かない。

そして喋れない、喋る気もない。

 

「これで終わりだ」

 

だって………

おっさんの振り上げた腕が、肘から先が無くなっていた。

 

「よぉ、あんたが鬼葬って奴かい、もう死にかけに見えるが強いって話だ、楽しませてくれよ?」

「貴様………宵闇の………」

「おぉ、知ってるのか、嬉しいねぇ」

 

戦闘狂は戦闘狂を呼ぶのか………赤い瞳に狂気のようなものを感じ、その殺意を向けられてない私ですら、殺されると感じてしまった。

 

「貴様と闘える日を待ち望んでいたぞ………行くぞ」

 

私の事なぞ眼中にないようで、背中にいたルーミアに向き直る。

足を踏み出し残っている拳をルーミアへと向けて放つ。

対する彼女は、避けずにそのまま顔に拳をくらった。

また吹っ飛ばされそうになる衝撃のなか、ルーミアは平然とした顔でおっさんのことを睨む。

 

「なんだ、これっぽっちか。期待して損した」

「なんだと………?ならばこれなら——」

「あーもういいよ、お疲れさん」

 

ルーミアがそう言い放ったとき、おっさんの頭は無かった。

いや、喰われていた。

 

「硬いなぁこれ」

「うわぁ………」

「ん?なんだよお前、お前も死にかけかい、どうした、狩りにでも失敗したか?」

「あぁ、うん、もうどうでもいいやぁ」

 

敵にチーターが現れたと思ったら知り合いにもっとやばいチーターがいたわ、なんなのこの世界もう嫌だ。

突然、痛みが全身に走る。

今更痛みを思い出したのか、気を保っていられそうちない。

 

「もう一回言っておくが、お前を食べるのはこのあたしだ、覚えておけ。あと名前聞いてたか?」

「………」

「ありゃ、寝てる。なんだよつまらないな。あと残ってる雑魚どもは喰っていいんだよな?ひ、ひ………」

「柊木だ、覚えなくてもいい。あと敵味方間違えないでくれよ、あと食い散らかさないでくれ」

「心配するな、あたしは食べ物は全部丸ごと頂くんだよ」

「そこのおっさんは食い散らかしてるが?」

「そいつは硬いから別」

「なんだそりゃ………はぁ………」

 

 

 

 

「なにしてんの」

「料理」

 

聞いてくれ、起きたら目の前でルーミアが焚き火で料理してたでござる、わけわかんないでござる。

 

「ほら、食べろよ」

「は?」

 

なんか焼けた肉を目の前に突き出される。

ちょっとなにやってるかわかんない。

 

「もしかして人肉じゃ………」

「馬鹿か獣肉だ馬鹿」

「二回言ったよ」

「ほら、口開けろ」

 

威圧が凄いので仕方がなく口を開けたら思いっきり突っ込まれた。

うん、うん………

程よい熱さにいい焼け具合………塩もふりかけられてる。

 

「美味しいっす」

「おうそうか、ちゃんと食えよ、喰わなきゃ体治らないぞ」

 

あら心配してくれてたの。

 

「食うとこ減るからな」

「あ、やっぱりそっちだよね知ってた」

 

腕はかろうじて動くけど足は動かない、神経のほうがやられたのか。

あとなんか色々足りない気がする。

なにが足りないって、耳とか指とか………あれ、これ左足が膝から先無いじゃん。

 

「無いところはあれだ、ここに担いで来るときに千切れた」

「人の体は大切に扱ってください。そして食べたでしょ」

「おう、そこそこだったぞ」

 

私の足をルーミアが食べてる様子………

想像してみたけど何にも感じない、特になにも思わなかった。

 

それにしても助かった、ルーミアが今日このルーミアじゃなかったら確実に私はお亡くなりになっていた。

天狗たちが戦いに勝てていたかはしらないけど。

まぁ私将来的に喰われるらしいけどねー。

そういえばどのくらい寝ていたのだろうか、体感ではそこそこ長く寝ていた気がする。

 

「ねぇ、私一体どのくらい寝て………」

「あー?」

「なぜこのタイミングでそうなるんだい」

 

ルーミアがパツキン人喰い系美女からパツキン人喰い系少女に戻ってしまった………戻った?戻ったであってるのか?これ。

もういいや知らね。

 

「私はなぜこんなところにいるのだー?」

「知らんがな」

「おぉ毛糸、血を流してるな食べていい?」

「ダメですっ!」

 

まったく、こうなったら可愛らしい少女なのに………言動以外は。

あれがどうしたらこんな少女に………妖怪だからか。

あーもー知らね、考えても意味ないよね。

この世界では常識に囚われては行けないのだよ。

それはそうと、ここはどこだろうか。

知ってそうなルーミアがこうなったからなぁ、どうしようか。

まぁまず体を動ける状態にまで戻さないと。

 

「この肉食べていい?」

「いいよ」

 

うわ、3秒で平らげたよこの子供、怖いわー最近の子怖いわー。

とにかく、体の再生に集中しておくか。

目を瞑って体の霊力と妖力を操作し始めた。

 

 

 

 

む、何かの気配。

背後から何かが近づいてくる。

 

「なんでこんなところにいんの?お前」

「知るかいな」

 

柊木さんだった。

いつもなら気配消して近づいてくるのに………疲労かな?

柊木さんも柊木さんで結構ズタボロだけど、まぁ元気そうで何よりだった。

 

「あの後どうなったの?」

「あ?あぁ、まぁそうだな、結果的にいえば勝ったよ。まぁだいたいその妖怪のおかげだが」

 

あぁ、勝ったのね、そりゃあよかった。

 

「で、なんでお前は頭かじられてんの」

「はい?」

「いや、頭」

 

頭かじられてるって………あ。

 

「おいルーミア、なに人の頭にかじりついてるんだよ」

「ひまだったから」

 

それはないだろ、暇だったら人の頭を食べようとするのはないだろ。

傷の再生に集中してて気づかなかった私も私なんだけどさ。

もう日が登っている、そろそろ行動しないとなぁ。

 

「ちょっと待ってて、後ちょっとで動けるようになる気がする」

「それはいいが………頭から血が流れてるぞ」

 

どんだけ強く噛んでたんやルーミアお前ぇ………



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戦いは起こすのは簡単だけど大変なのは後片付け

頭にルーミアをつけて、柊木さんについていく。

ルーミアはアクセサリー、もうそう思うしかない。

何回も引き剥がしてもかぶりついてきたからねしょうがないね。

一人で帰ればいいのにさぁ………

 

柊木さんに連れられ、やってきたのは天狗たちが本拠地としている天狗の里。

門の近くにある寮みたいなところが柊木さんたち白狼天狗が住んでいる場所らしい、すぐに出撃ができるように里の入り口の近くにあるんだとか。

辺りの様子を見てみると、負傷者の手当てに大忙しのようだ、夜も明けたというのに皆さん働き者ですなぁ。

柊木さんは寮の近くの詰所で武装していたものを下ろして、今から文たちのところへ向かうらしい。

 

「勝ったは勝ったし、こっちの被害も案外小さかったんだが、戦場になってた場所がな………」

「戦場になってた場所が?」

「あぁ、氷塊とかが未だに溶けずに残ってるし、食い散らかされたような敵の死体も数え切れないくらい転がってる」

「あー………」

 

大体私とルーミアのせいだね分かる。

そんな感じじゃ戦場の後片付けも難しくなってるんだろうなぁ。

今は負傷者の手当てで手が回らないだろうし、実際ここにくるまでの道でも死体がいくつか転がっていた。

ルーミアを抑えるのにめちゃくちゃ力使った、屍肉を貪ろうとしないでほしい、切実に願う。

 

「そういえばルーミアはなんであそこに来たのか知ってる?」

「あぁ、俺が連れてきた」

 

え、そうなの。

なるほど、私は柊木さんに命を救われたようなものなのか………

 

「一度戦線から退いて、周囲の警戒に出てる時に脅されて、強いやつどこにいるか知ってるか?って聞かれてな。答えなきゃ喰うぞ、とも言われたな、逆らったら殺される気がしたから素直に教えた」

 

そっかぁ………

それ下手したらルーミア敵に回ってた可能性があるわけでしょ?やば、そうなってたら完全に詰んでたね。

そして柊木さんも命の危険を………

強者イコール美味しいって思考どうなってんだろうね、ほんと。

まぁ助かったからいいんだけどさぁ。

 

「本当に………化け物がいると思ったらそのさらに上の化け物がいるもんだな」

「本当にそうだよねぇ、妖怪の賢者って呼ばれてる八雲紫って人はもっとやばいのかな?」

「いや、どうだろうな、あの人は」

「え?なに知ってんの?」

「あー、まぁ、見たことがある程度だな、一度だけ」

 

妖怪の賢者八雲紫。

神出鬼没とか胡散臭いとか、めちゃくちゃに書物に書かれてた記憶がある。

 

「なんというか、こう………底無し沼を見ている感じ?なにを考えてるかわからないやつって大天狗達もよく言ってるな。賢者って呼ばれるくらいだから、まぁ俺たちとは格が違うのは確かだろうな」

 

うーむ、是非会うことなく一生を終えたいものですなぁ。

しばらくはのんびりスローライフを過ごしたい、過ごしたい!

 

「お、着いたな。中に椛達がいるからとりあえず色々聞いてもらう」

「それだけ?じゃあ私興味ないんで帰りま………ダメですよねはい、わかったからそんな睨まないでくれない?」

「眠いだけだ」

「嘘だ、今これでもかっていうほど目つき鋭かったもん」

 

 

柊木さんに睨まれながら、すこし大きめの建物に入る。

中に入ってすこし進み、扉に入ると文、椛、にとりん、るりがいた。

 

「あー、みんな揃ってんのね」

 

えっ、なに怖い、どうしたの椛その目つきは、さっきの柊木さんに負けず劣らずの鋭い眼光………

急に頭に剣突きつけられた。

 

「貴様、なにをしている………」

「んあー?」

「なにをしていると聞いてる!」

「あむっ」

「!?」

 

ルーミアが突きつけられた剣を噛んだ。

椛がすごい驚いている、目を見開きすぎて飛び出てくるんじゃないかというほどに。

金属が割れる音がして、ルーミアが剣を割ったのがわかった。

 

「なん………だと………流石は宵闇の妖怪、何という強靭な顎………」

「え………毛糸さんその頭にひっついてるの、あのルーミアさんなんですか?ルーミアさんというか、ルーミアちゃんなんですけど」

「あ、宵闇って単語聞いてるりが気絶した」

 

みんな私のことより頭のルーミアに興味津々のようだ、そうだよね、私も気になってたもん、いつまで頭に噛みついてるのか。

 

「普段はこんな感じらしいよ、というかみんな知らなかったんだね」

「私は以前見かけたことがありましたが………そんな少女ではなかったですよ」

「あーそれね、運が悪かっただけだね、普段はこれらしいから」

「気をつけてください文さん、この無垢な見た目の少女に化けて私たちを食おうって気なのかもしれませんよ」

「おうとりあえず落ち着けよみんな、今この状態のルーミアはあれだ、干し肉食わせておけばなんとかなる」

 

そう言ったらにとりんがどこからともなく干し肉を取り出してルーミアの口に華麗に突っ込んだ。

どこからだしたの、四次元ポケットでもあるのかい?

 

「肉ぅ………」

 

満足げに肉を2秒で平らげたルーミア、寝た。

私も寝たいなぁ。

 

「えっと………気を取り直して。毛糸さん、ご愁傷様でした」

「え?お疲れ様でしたじゃないの?それは予想外だった。まぁ確かに色々大変だったけれども」

「毛糸さん、それにルーミアさんの協力のおかげで、私達の組織は大した損害もなく、無事に勝利を収めることができました」

 

お、おう………なんか変な感じだな。

 

「あの後、ルーミアがやってきた後どうなったの?」

「その宵闇の妖怪が鬼葬を食ったあと、敵の兵の三割程度はその妖怪に喰われました。もともと大将格だった鬼葬が死んだこともあり、そこからは形勢逆転、一気に敵を押し込みなんとか敵に降伏させることができました」

 

椛が説明してくれた。

だいたいルーミアが無双してだいたいルーミアが喰い漁ったのはわかった、まぁ勝ててよかったよ、本当に。

顔見知りも全員無事みたいだし。

泡吹いて倒れてるるりは………平常運転だな、いつも通り。

 

「ま、相手のお偉いさんの処遇はこっちのお偉いさんが決めるので、私たちが気にすることではありませんけど」

「それと、毛糸さん傷が治るのが随分早いようですね」

「え?まぁ、そうだね」

 

突然椛がそんなことを聞いてきた。

今更なんなのだろうか、確かに私は他の妖怪に比べて傷が治るの早いけど。

 

「じゃあすこしお願いがあるんですけど」

「なに」

「試し斬りの相手に」

「無理断る断固拒否」

「そう言わずに、腕取れても再生するんですから」

「私の精神はすり減っていくよ?なんなの君、バーサーカーか何かですか?そんなことに生きている人を使うな」

「生きてるやつ切らないと切った実感湧かないんですよ」

 

うわ、怖いわこの子、ケモ耳生やしてなにとんでもないこと言ってんの、生きてる奴を切らないと切った実感が湧かない?試し斬りにそんなの求めないでくれ。

 

「いい案だと思ったんですけど」

「それはお前、流石に無いだろ」

「そうだ柊木さんもっと言ったれ」

「せめて取れた手足で試し斬りをしろ」

「あんたまで何言ってんの?」

 

だめだこいつら………はやく、なんとかしないと。

なんで私の身の回りには感覚狂ってる化け物しかいないの?

あ、よく考えたら全員妖怪っていう化け物だったわ、あはは。

はぁ………

 

「あ、そうだにとりん、河童のとこは大丈夫だった?」

「あー、そうだね、うん。大丈夫といえば大丈夫だし、大丈夫じゃ無いといえば大丈夫じゃ無い」

「どっちなんだよ」

「あれ、あったじゃん、河童の英知が詰まってるあそこ」

 

ん?

あぁ、あのでかい小屋か。

にとりんがすごい熱入っていろいろ解説してくれた覚えがある。

 

「全壊した」

「なんで!?」

「中に置いてた爆薬がねぇ、こう、戦いの中でどかーんと」

「なんで!?なんで爆薬なんか入れてんのバカなの!?」

「しょうがないじゃないか、置くとこなかったんだから。結果的に敵も吹っ飛んだし」

「その調子だと周りの建物も吹っ飛んだな?」

「あはは」

 

にとりん、目が笑ってないよ。

なんですぐ爆発してしまうん?なんで爆薬置いてしまうん?

 

「じゃあ私、帰っていいかな?」

「あ、大丈夫です。またお伺いしますねー」

「は?」

「勝利の美酒を………」

「酒は持ってくんな!」

「なんだ、つまらないですね。じゃあいいですいきません」

 

酒飲みたいだけだろぉ!?

私帰るの!おうちかえりゅ!

扉を勢いよく閉めて部屋から出て行った。

あ、帰り道わかんない、どうしよう。

ま、いっか!

 

 

「いやはや、死にかけたというのに元気いっぱいですね、私も毛糸さんくらいはやく傷治ってくれたらいいんですけど」

「文さんあばら折れてますもんね」

「案外折れても大丈夫ですね、痛いけど」

「本来戦うことが専門じゃないはずの鴉天狗が俺たち白狼天狗より強くて怪我をしている、なんでだ?」

「そんなこと言い始めたら毛糸はどうするんだよ、毛玉がどうやったらあんなことになるのか、私は知りたいよ」

「みんな元気ですね………さて、私たちも後片付けしますか」

「死体の処理………憂鬱だなぁ」

「肉ぅ」

「あ、そういえば」

 

 

 

 

苦節多分2時間。

なんとか家に辿り着いた。

そして気づいた。

ルーミアおいてきちゃったよぉ………ま、いいか。

いや、よくはないな。

まぁ空が曇ってて雨が降ってきそうだったからね。

雨に濡れたらあれだからね、私の天パ降りちゃうから、チャームポイントなくなっちゃうから。

 

さて、なんやかんやであんまり寝てないし、疲れてるし、死にそうだし、死にかけたし、妖力と霊力すごい枯渇してるし、毛玉だし、雨降し、眠いし、寝ますか。

 

と、思って家の中でお布団に包まり、起きたのが今。

そしてこの状況を私は理解できない。

世界が逆さまだった。

あっれれぇ?前にもこんなことあったようなぁ………

 

「どこ行ってたんですか」

 

と、随分聴き慣れた声で尋ねられた。

 

「いや、ちょっと………山登りに」

「山登りに行ったら服がほぼ全部真っ赤に染まるんですか?」

「いや、あの、その………なんというか、こう………そう、あれだよ!正体不明の金髪人喰い妖怪が山で暴れててさ、私も襲われかけたんだけどなんとか生き延びて帰ってきたんだよ」

「嘘ですね」

「何を根拠に!」

「顔」

 

あ、そっかぁ、顔に出ちゃってたかー、ならしょうがないねー。

はぁ………

 

「二回死にかけて一回勝手に埋葬されかけました」

「まったく………せめてなんか言ってから行ってくださいよ、私もチルノちゃんも心配したんですよ?」

「すみませんでした。反省してます、ですのでこの縄解いてください」

「そこでしばらく頭冷やしててください」

「そんなぁ」

 

やれやれだぜ。

そういえば急に明日が開戦と言われてパニックになってて、伝え忘れてたなぁ。

思えばあの夜から二日経ってるのか、意外と早かったなー。

 

「あ、そういえば大ちゃんは大丈夫だった?へんな天狗とかに襲われてない?」

「はい、まぁ、変な天狗なら見ましたけど、チルノちゃんが………」

「チルノが?そういえばあいつは?まさか………」

「天狗を氷漬けにしちゃって………」

 

そっちかぁ………

てっきりチルノに何かあったのかと………いや、何かはあったな、天狗の方に。

敵の天狗だよね?

 

「急いで溶かして氷からだしたらもう息してなくて………」

 

コールドスリープできなかったかぁ、永遠の眠りに入っちゃったかぁ、可哀想な天狗さん。

 

「何を思ったのかチルノちゃん、また凍らして湖に沈めたんですよね」

「何してんの、バカなのか」

「一瞬湖の底から悲鳴のようなものが聞こえた気がしたんですけど、多分気のせいです」

 

気のせいなのか?それは気のせいなのか?

もしかしたら湖の奥底に住んでる妖怪とかが驚いたのかもしれないじゃないか。

ま、いいか。

いや、よくはないか。

 

「まぁ無事でなによりだよ」

「やっぱり………私たちが危険な目に遭わないように山に行っていたんですね?昨日大きな爆発の音が聞こえて、そこから心配になって………」

「んー………そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「どっちなんですか」

 

呆れた目で私を見てくる大ちゃん。

そんな目で見ないでおくれよ、傷つくよ、泣いちゃうよ。

 

「私が今までやってきたことは誰かのためじゃなくて、自己満足。私がそれがいいなと思ったから、そうしたまで。誰かを守りたいとか、そんな大層な志、私には持てそうにないよ」

「でも、私たちのこと心配してくれたじゃないですか。家の中にいた時だって、死んだように眠っていたし」

 

そんなに寝てた?

あー、もう日も傾いてるし、確かによく寝た気がする、

 

「とにかく、もう危険なことはしないでくださいね?私たちは死んでも生き返りますし、心配をかけさせないでください」

「はいはい、わかりましたよー」

 

また呆れた目で見てくる大ちゃん。

死んでも生き返るってなー………

死ぬとかどうとか、あんまり軽々しく言わないで欲しいな。

まぁ私だって何回も死にかけてけど。

 

さて、もう一眠り行きますか。

 



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毛玉と人魚、出会う

「とまとまとぅまーと」

「けちゃぷっぷー」

「何してるんですか、二人とも」

「とまとまとぅまーと」

「けちゃぷっぷー」

「あの」

「とまとまとぅまーと」

「けちゃぷっぷー」

「………」

「とまとまとぅ——あふん!何すんの大ちゃん!」

「いや、洗脳されてたみたいなんで」

 

なんでやケチャップ悪ないやろ!

おむらいす食べたい。

 

「チルノちゃんも、何その歌」

「毛糸が教えてくれたんだぞ」

「リコピンとれよー」

「りこぴん?なんだそれ!」

「摂取すると血糖値が下がり、記憶力の低下が遅くなるうんたら」

「せっしゅ?けっとーち?なんだそれ」

「要するにさいきょーになる」

「なん………だと………どこにあるの!?」

「ふっ、知らね」

「えっ」

 

トマト食べたい、とうもろこし食べたい、牛乳飲みたい、お茶飲みたい、ハンバーグ食べたい、唐揚げ食べたい。

パンケーキ食べたくはない。

 

「あー、その辺にトマト生えてないかなぁ、日本には無いよなぁ」

「とまととまとって、急にどうしたんですか」

「いやね、最近赤い液体ばっかり見てたから、ケチャップを………いや、あれはトマトジュースか」

 

トマトジュースは普通に料理に使ってもいけるんだぞ、あんまり私は好きじゃ無いけどな。

 

「すぐに手に入りそうな野菜なんて、きゅうりくらいかぁ」

「きゅうり?なんだそれ、それも食べたらさいきょーになれるのか?」

「知らね」

「えっ」

 

でもなんやかんやで最近平和だなー、迷惑天狗どもも最近めっきり来なくなったし。

でもそれはそれでやることないんだよなー。

あ、ルーミアはなんかひょっこり帰ってきてた。

あーあ、暇だなー。

家庭菜園でもする?植物の種とか知り合いで持ってそうな人は………

河童は少し持ってるかもしれない、あとは………

あー、幽香さん………確かにあの人なら種とか山のように持ってるイメージが………

なぜだろう、幽香さんがペットのハムスターにひまわりの種をあげている様子が頭に………いやいや、この時代にハムスターなんて飼ってる人いないか。

ハムスターさ、割とすぐ死んじゃうんだよね、悲しくなる。

まぁ愛犬とかが死んじゃったときの喪失感の方がすごいと思うけどね。

結構みんなが犬とか猫とかを飼うのを迷うのは、手間とかお金の問題もあるんだろうけどやっぱり死んじゃったときの想像しちゃうからだよね、私は飼ったことないけど。

 

「大ちゃん、なんか育てるのに手頃な植物とかない?」

「なんですか急に、植物ですか。えっと………」

 

そう言って辺りを見渡す大ちゃん。

まぁ身の回りが大自然だからね、探せばいくらでもあるよね。

花とか草とか………花といえば、手に白い花冠巻いてたのを思い出した。

そういえば腕ぶっ飛んだ時になくしたんだよねぇ、うーん………殺される?私、幽香さんに殺される?

考えたってしょうがないか。

白い花かぁ、花とかあんまり詳しくないんだよなぁ。

えーと、桜とかも白いやつあるよね。

サボテンの花も白かったような………

白くなくていいから、もっと身近なもの………つくしとかたんぽぽとか………うん?たんぽぽ?

なんか妙にたんぽぽが引っかかるな………

たんぽぽって、綿毛が飛ぶあれでしょ?んー?

綿毛?綿毛………

毛玉………oh

 

「毛玉はたんぽぽだった………?」

「何言ってるんですか?あとすみません、植物といっても、育てやすいものと言われるとちょっと………」

「大妖精なのに?」

「大妖精は関係ないです」

 

緑のくせして、なんでそんなに目に優しい色で固めてる

のかしら。

というか、この時代の人は私含めて髪色が派手だ。

鴉天狗とか、白狼天狗とかは黒と白でわかりやすいけど、妖精や河童になってくるとマジで十人十色状態になる。

さすがに普通の人はそうじゃないよねぇ?

一般人まで頭がカラフルだとヤバくない?何がヤバいのかってこう、校則で毛染め禁止ってしてても周りがそんなのばっかりだから毛染めしてもバレないじゃん。

そしてみんな髪を痛めてボサボサになるんだ。

 

「なあ毛糸、他にもなんか教えてくれよ」

「ん?じゃあ、たーのしーい、なかまーが、死んじゃった、えーしー」

「何があったんですか?仲間に一体何があったんですか?」

「謎のロボットに変身させられて爆発四散させられた」

「ろぼっと?しさん?難しいぞ」

「お前はさいきょうの文字だけ描けるようになればそれでいいんじゃないかな」

「じゃあよみ書き教えてよ」

「教えても忘れるじゃん、馬鹿だし」

「ばかっていったほうがばかなんだぞ?知らないの?ばか」

「馬鹿の一つ覚え」

 

やれやれ、これだからバカの相手は疲れるぜ。

 

「してチルノよ」

「なんだ」

「この湖の底に見えるあの大きい影はなんだ」

「知らない」

 

そっか、そりゃ知らないよね、馬鹿だし。

さて、あれはなんなのだろうか、この湖のヌシとか?ぽくない?なんかそれっぽくない?

 

「なんかあの影、だんだん大きくなってません?」

「いやこれ、大きくなってるというよりこっちに近づいてきてるんじゃないかな」

「お、やる気か、相手してやるぞ」

「いよっ、頼りにしてるぞ空前絶後の地上最強の天下無敵の超絶怒涛最強の妖精、唯一神チルノ、湖の底に潜む化け物を退治してくれー」

「ふっふっふ、弱い子分のためにひと服履いてやるぞ」

「もう履いてるだろ」

 

人肌脱ぐんじゃないのか………

あーあ、その気になっちゃって氷作り出しちゃったよ、おいおいあいつ死んだな。

 

「バカはチョロくて助かるぜ」

「何言ってるんですか!危ないですよ!」

「でーじょーぶでーじょーぶ、野生の生き物なんて人を恐れてそうそう襲ってないよ、こっちが慌てて大きな音を出して刺激する方がいけな——」

 

水面からなにか巨大なものが飛び出してきたのがわかった。

なんでや、なんで出てきてしまうんや。

私すごいなんか偉そうに喋ってたじゃん、恥ずかしいじゃないか。

 

「逃げるよチルノちゃん!」

「まって!なんか人が喰われた!」

「この前落とした天狗じゃないのか!?」

「なんか助けてって聞こえた気がしたぞ!」

 

えっ、なに怖っ、生きてたってこと?その天狗生きてたってこと?やだ怖い、あたい怖いわ。

 

「助けないと!」

「どっちみちもう助からないよ!早く逃げないと、ってこっち見てる!?」

「本格的にやばいねー、魚みたいな形だけど普通に地上に上がってきそうだね、捕食対象としてロックオンされたね、逃げないと喰われるね」「なんか呑気ですね!」

「呑気じゃないよすごい焦ってるよ、焦ってるけどチルノが突っ込んでいってるの見てあいつ死んだなって思ってるだけ」

「チルノちゃああああん!」

「うおおおおおおお!!」

 

叫んで走り出したチルノ、放出した霊力を凝縮して無数の氷の粒にし、巨大な魚の方へと飛ばした。

あれいーなー、私も真似しようかなー。

氷の粒を飛ばしたはいいが、巨大な魚が水中にまた潜ってしまい氷の粒は空の彼方へと飛んでいった。

 

「当たらないぞっ!」

「今のうちに逃げよう!」

「いやだ!あたいがさいきょーであることを証明するために!あたいはこのしれんを乗り変えなきゃいけない!」

 

それは結構だけど、あの大きさだと中途半端な攻撃しても多分大したダメージは与えられないと思うな。

やるんならド派手にやらないと、うん。

 

「チルノー、やるなら巨大な氷の針とかを飛ばした方がいいぞー」

「おう!わかったぞ!大きい針だな!」

 

本当にわかってる?

チルノは両手を合わして氷を生成、その氷を高速で回転させながら徐々に大きく、尖らしていき、巨大な魚を貫くには充分な大きさになった。

 

「つぎ上がってきた時があいつの最後だぞ!」

「もうだめだこりゃ、完全に聞く気ないよ………」

「よくわからんけどいけるんじゃない?」

 

もうさ、メガロドンみたいなやつ出てきたら思考停止するしかないよね、考えるだけ無駄だよね。

どーせあれでしょ、幻想郷には神話の生物とかいっぱいいるんでしょ?なんなら神様もいるんでしょ?あー、みんな化け物で怖いわー。

チルノがひたすらに湖の水面を氷の針を持って眺めている。

小さな影の点が現れ、急速にそれが大きくなり、水面から巨大な魚が飛び出してきた。

その着地点は明らかに私たちを潰せる場所だ。

 

「うおおおお!いっけえええ!」

 

私たちの真上に達した巨大な魚、その落下してきて開く大きな口と中にチルノが回転する氷の針を飛ばした。

それがどうなったかを確認する前に、私は体を浮かし、大ちゃんとチルノに触れて巨大な魚の着地点から急いで移動した。

巨大な魚が地面に着地した衝撃を受け、三人まとめて吹っ飛ばされてしまった。

十数秒後、立ち上がりあたり見回すと、巨大な魚が土の上でバッタバッタ跳ねてた。

こう見たらただの魚が跳ねてるだけなんだけどなぁ、コイキ○グのはねるなんだけどなぁ。

サイズがサイズだからね、人を殺せるはねるだから、ダイ○ックスしちゃってるから。

 

「やったぞおお!あたいがさいきょー!」

「おっそうだな」

 

なんかめっちゃ勝ち誇ってる。

で、あれどうするんだよ、めちゃくちゃ跳ねてるよ、地響き起きてるよ。

よくよく考えたらあんなでかいのがいる湖ってやばくね?いや、もともと大きい湖だなとは思ってたけど。

 

「多分チルノの氷が刺さって痛くて暴れてるんだろうね」

「あれ、どうするんですか」

「死ぬのを待つ」

「えー………」

「そんなこと言ったって、しょうがないじゃないか。あんな巨体をどうしろと?まさか湖にリリースするわけでもないし」

「でも………」

 

あ、そういえば誰かが喰われたんだっけ、腹を裂いたらでてくるかな?

でも魚の解体作業とかやりたくないなー。

 

「とどめを刺せばいい話だぞ」

「そうはいってもねぇ、こんだけでかいと殺すっていう感覚がなぁ」

「放っておいて死なせるのも結局同じでしょ」

 

まぁ、それもそうか。

 

 

 

 

結局とどめを刺せずに死ぬまで放置した。

巨大な魚が暴れた跡は、土が全部ひっくり返り草地がなくなっていた。

 

「さて、腹の中にいるやつはもう死んでるだろうしこいつ丸ごと湖に沈めるか」

「いやきっと生きてるぞ」

「なぜそう思う?」

「なんとなく」

 

だめだこいつ、ただのバカだ。

まぁ、そんなにいうなら腹裂きますかね………

とは言ったものの、どうするんだ?これ。

 

「チルノ、そいつの腹のあたり凍らして」

「ん?なんでだ」

「いいからいいから」

 

何をさせられているのか理解できないようで、言われるがままに腹を凍らしていくチルノ。

まぁ何がしたいのかっていうと、凍らして割りやすくした肉を砕いて入れるようにしようというわけだ。

こんなにでかいと腹の中で何か化け物を飼っててもおかしくない気がするけどなぁ。

腹のあたりが凍ったのを確認すると、チルノを離れさせて、腕に妖力を込めてパンチした。

するといとも簡単に腹の部分は砕け、中が見えるようになった。

 

「うおっ生臭っ!いつものゲテモノ魚の数倍くさいぞこれ!」

「臭くて死にそう」

「怖いんでさっさと終わらせてきてくれません?」

 

めっちゃ距離取ってるよ大ちゃん、気持ちはわかるぜ。

 

 

詳しい説明は省くけど、とりあえずやばかった。

何がやばかったって、匂いとぶよぶよとしている周りの肉と体液と飛んでもなくでかい臓物と生臭さと腐乱臭、というか死臭がする。

やばかった。

すぐに毛玉の状態になって嗅覚とかその他もろもろを遮断したけど、たぶんこれ匂い染み付いてるなー、泣きたい。

チルノは早々にギブアップして外で伸びてる。

 

それっぽいやつが割とすぐに見つかってよかったよ、まったく………

そいつをなんとか腹の中から救出して、外へと引き摺り出してきた。

 

「………それで、これが食べられたっていう人?チルノちゃん」

「間違い無いぞ、こんな感じのや他だった」

「これさ………人魚?」

「はい、多分」

 

女の子だ………女の子の下半身が魚だ………どいうことだ………耳がなんかこう、すごい魚人っぽくて、下半身が魚っぽいこと以外は、完全に女の子だ………妖怪だろうけど、なんだこいつ………

 

「全然目を覚ましませんね………」

「毛糸の匂いで起きないかな?」

「起きたらいいけど、それはそれで傷つくねぇ………どうやって匂いとろうか」

「ん………うん?」

 

あ、目覚めた。

そんなに臭い?寝てるやつが起きるほど臭い?

言っておくけど私の匂いじゃ無いからねっ!魚の体内の匂いだからねっ!臭いの当たり前だからねっ!

 

「くさっ………」

「おうふ………」

「生きてたみたいで良かったです」

「さすがは妖怪だなぁ、生命力高い」

 

人魚の女の子が目を覚まし、目をパチパチとさせる。

するとまず最初に、こう一言。

 

「なにこの毬藻みたいな髪の毛してるやつ………」

「あぁん!?テンメッこのやろう!魚の叩きにしてやろうか!」

「ちょ、落ち着いてください!目を覚ましたばかりなんですから」

「確か私は食べられて………あっ………」

「おいなんか気絶したぞ、大丈夫か」

「大丈夫じゃないねぇ!私が今からそいつを切り刻んで刺身にするからねぇ!」

「だから落ち着いてください!いい加減にしないと怒りますよ!」

「さーせん………」

 

大方、食べられた時のこと思い出して気絶したんだろう、また起きるの待つか………

 

「とりあえず穴掘って、そこに水を貯めて入れておいてあげましょうか」

「そだねー」

 



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毛玉は体を綺麗に洗いたい

自分でも何書いてるかわからなくなった。


適当に穴を掘ってそこに水を溜めて、人魚を水に浸からせた。

 

「どうも、ありがとうございます。貴方達がいなかったらきっと私は今頃………くさっ」

「礼はいいですよ、無事で良かったです」

「感謝しろよな!あたいのおかげで助かったんだぞ!くさっ」

「人魚………人魚かぁ、くさっ」

「確かに今の私は臭いけど、人魚は臭くないから」

「うん、知ってる」

 

にしてもなぁ、人魚かぁ。

人魚ねぇ………

 

「どうしたんですか毛糸さん、なんか難しい顔して」

「ばかみたいな顔だな」

「うっせぇバカ、いやさ、人魚って食べたら不老長寿になるって聞いたことあるんだけど、本当なのかなーって」

「ぎくっ」

 

ぎくっ?ぎくってなにさ、口で言うのか?それ。

 

「やっぱり貴方達もそう言う奴ね!全力で抵抗してやるわ!」

「いやまて落ち着いて、私たち妖精と毛玉だぞ、なんで人魚なんて食わなきゃいかんのだよ」

「そうです落ち着いてください」

「人間が人魚乱獲するから、人魚はほぼ絶滅しかかってるのよ!」

「へー、そーなんだー」

 

いやー、いるもんだね、人魚。

本当に不老長寿になるのかはさておき、人魚って人間に狩られるのか、妖怪なのに。

 

「人間だけじゃない、妖怪だって昔は私たちを捕まえて食ってたのよ!酷いわ!私たちがなにをしたっていうのよ!」

「いや知らんがな、とりあえず落ち着きなよ、誰も食べないから」

 

ふぅむ、こう改めて見ると、人魚まで少女なのか………確かに人魚と言ったら大体が女性として作品とかに出てくるが、男の人魚だっているでしょーに。

あれか、男はみんな死んだんか、最後の一尾なんか。

 

「でも知りませんでした、あの湖に人魚がいたなんて」

「そりゃ私はずっと湖の底に隠れてるからね、襲われないように」

「人魚って食べたらさいきょーになれるのか?」

「はいはいバカは話に入ってこないでねー」

「あんだとこのやろー!?」

 

というかよく見たらこの人魚服着てるな、貝殻とかじゃないんだね、不思議だなぁ。

 

「少し前まではすごく平和だったんだけど、妖精が大量に沈んだり妖怪が沈んだりして、妖力とかが湖の中の妖怪に吸収されちゃって………」

「なるほど、それでこのデカ臭魚か、いったいだれのせいなんだろー」

「湖の中の生き物もみんな食べられて、私まで食べられそうに………はぁ、なんでこんなことに」

 

ほんと、一体誰のせいなんだろうか、見つけたらミンチにしてやるわ。

 

「私は大妖精、こっちはチルノちゃんと毛糸さん」

「よろしく!子分にしてやるぞ!」

「私はわかさぎ姫、助けてくれてありがとう」

「自分で自分を姫………?」

「細かいことは気にしないで、いろいろあるの、人魚にも」

「あっはい」

 

自分で自分を姫と呼ぶことに、いったいどんなことがあるっていうんだ………気になって夜は熟睡できそーだ。

 

「はぁー、助けてくれたのが貴方たちでよかった、人間や他の妖怪だったらどうなってたか」

「人魚ってそんなに数少ないの?」

「もうこの湖には私は一人しかいないわよ」

「絶滅危惧種かぁ」

「ぜつめつきがしゅ?なんだそれ」

「絶滅飢餓種?なにそれ私が聞きたい。絶滅危惧種ね、何というんだろう、種族が絶滅の危機に瀕してるってこと」

「へー」

 

こいつ、バカだな。

今な始まったことでもないか。

 

「こんな湖に一人って、寂しくないの?」

「一応、友達いるからね、足生えてるけど」

 

そーゆー区別の仕方するのか、人魚ってよくわかんないなぁ。

私の存在の方がよくわかんなかったわ。

 

「ところで、毛糸だったっけ?毬藻じゃないの?」

「あぁん!?………いや、うん、毛玉です………阿寒湖の特別天然記念物じゃないです………そもそも白いし………」

「そうなんだ、毛玉って初めて聞いたなぁ。そっか、最近湖に入ってくるもじゃもじゃがいると思ったら貴方だったの」

「最近湖の中から誰か見てると思ったらお前だったのか」

 

嘘をついた、なにも気づきませんでした。

殺し合いならすでに私は死んでいる………殺し合いじゃないけどな。

 

「じゃあ私、そろそろ失礼して湖の中へ帰らせてもらうわ」

「うん、そっか、またね」

「また会おう、あたいの子分よ」

「チルノちゃんその口調何?さようなら」

「また会うその日まで!」

「あ、ちょっと待ってチルノちゃん!」

 

おう二人とも先に行ってしまったよ。

あと私が変な口調を時々してしまうせいでチルノが真似してしまった、反省はしない後悔はしている。

 

「じゃあ私も後追うわ、じゃあね」

「あっ………」

「ん?どした?」

「い、いや、なんでもない………」

「ん?まぁいいや」

 

そう言って背を向けてわかさぎ姫と別れた。

別れた………いんだけど………

なんか、凄い見てくる、ビー玉みたいな目で私のことを見てくる………

 

「なに?」

「い、いや、その………」

「え?なに?なんなのさ」

「そのぉ………」

 

なんだこいつ、もじもじしやがって、なんか腹立ってくるな………なんか言いたいことがあるなら言いなさいよ、毬藻みたいな頭って素直に言いなさいよ、刺身にしてやるからな。

 

「………」

「………」

 

………もしかして。

 

「もしかして、自分一人で陸を移動できないとか?」

「………はい」

 

 

「よっこらせ」

「面目ない………私空も飛べないから、基本湖から出ないし………」

「おう不便だね………重いな」

「重いって失礼ね!」

 

そこは女の子からみたいな反応をするんだね。

持ち上げると実際重いんだからしょうがないじゃん、魚みたいな下半身してるからその分体積大きいんだよ、察しろ。

人魚だからどうやって運べばいいかわからないから、お姫様抱っこみたいになってるし。

いや待てよ?浮かせばよくね?こんなことに気づかないなんて、私はなんでバカなんだ、チルノ以下かもしれない………いや、それはないな断じてない。

手からわかさぎ姫に霊力を流し込み浮遊させる。

 

「えっえっなに!?なになんなの怖い!浮いてる!?私浮いてる!?」

「あーうんそだね、浮いてるねー」

 

この世界みんな飛ぶからなぁ、なんか反応がちょっと新鮮。

ん?これ………

 

「私は物を浮かせられるんだけどさ、ちょっと浮かしていろいろ飛び回ってみる?」

「え?いや、でも………怖いし………」

「高いのが?」

「鳥が」

「食べられないと思うよ?一応半分人に見えるし」

「足に食いついてきたらどうするのよ」

「飛ぶの?飛ばないの?」

「………飛んでみたい」

「よろしい、ならば空の彼方へレッツゴー」

「え、もう行くの!?ちょっと待って心の準備——きゃああ!浮いてる!浮いてるぅ!」

 

うん、うるさい。

わかさぎ姫を浮かして上の方向にゆっくりと飛ばす。

本人は手と下半身をバタバタさせているけど、そんなの関係なしに体が上昇していく。

 

「ちょ、止まらない!止まらない!もっと低くして!」

「お客様ー、高いところがご希望じゃなかったんですかー?」

「湖の周りを回るだけでいいから!」

「はいはい」

 

木の高さより低いところまで下ろし、軌道を整えて横方向に動くようにする。

このまま浮遊状態解除したらどうなるんだろう………いやしないけど。

 

「ふ、ふう………びっくりしたぁ」

「その状態から自分で動けない?」

「え?」

「いやさ、私が引き摺り回すのもあれだし」

「あ、うん。でもどうやるのか………」

「祈ればいいんじゃないかな」

「適当!」

 

そうは言いつつも目を閉じて多分念じ始めたわかさぎ姫。

するとすぐにわかさぎ姫の体が横に逸れた。

さすがは妖怪、私よりも早く浮いてる状態で動けるようになるとは。

 

「できた………私飛べないのに、なんで」

「浮いてるからじゃない?」

「そ、そうなのかな?」

「好きなとこ行っていいよ」

「あ、もう大丈夫です」

「え?そうなの、なんで?」

「いや、人間や妖怪に見つかって狙われたら困るし、気持ちはありがたいんだけど」

「ふぅん、だいたい分かった。じゃあ湖のところで下ろすよ」

「ありがとう」

「いや待って、自分で動けるなら自分で動いて」

「え、あ、うん」

 

そう言ったらふわふわと宙を浮きながら湖の上まで飛んで行った。

彼女の動きが止まったところで浮遊状態を解除、湖の中へと沈んだ。

 

「こんどこそまたね、また食べられないように気をつけてねー」

「うん、ありがとう。飛ぶって感覚が分かった気がするわ」

「どうだった?」

「………吐きそうになった」

「うん………」

 

そうだね、三半規管やられるよね。

ついさっきまででかい魚の腹の中にいたんだから、そういうことも考えたらさらに吐きそうになる。

まぁ私は乗り物酔いとかすることは多分ないと思うけど。

 

「さようなら」

「バイバイ」

 

そう告げてわかさぎ姫は湖の底へと潜っていった。

さて、私もやりたいことができた、まずは………

 

 

 

 

「なにしてるんだ?」

「水あぼごごごご」

「え?なに?」

「だから、水浴ぼごごこご」

「………?」

 

やれやれ、私としたことが、家にお風呂をつけ忘れるとは。

火は起こせるけど、どうやっても温かいお湯に浸かる方法が思いつかなかったから、しかなたなく湖の中で水浴びをしている。

なんかもう私、湖の近くしかうろついてないな。

 

「もしかして水あび?なんで水あびなんかしてんの」

「いやだって私臭いし」

「あー?確かにそうだった」

 

こんど河童のところに行くことがあったらドラム缶もらおう、あるか知らんけど。

 

「あの魚どうするんだ?」

「あー?あれかぁ、うーん………ルーミアに処理してもらう?」

「さすがにあんなに臭いの食べたくないと思うぞ」

「だよねぇ」

 

腐乱臭も刺激臭がすごいもん、例えるなら世界一臭い缶詰を汚い便所に突っ込んでカビ生えるまで放置した匂いがするもん。

要するにめっちゃ臭い。

 

「まぁ獣とかが食べにくるんじゃない?そしてそのまま腹を壊して悶絶すると」

「そーなのかー」

「ルーミアの真似はやめろ」

「なんで?」

「なんか命の危険を感じそうになる」

「よくわからない」

「でしょーね」

 

うーむ………そろそろ匂いとれたかなぁ?

一回水の中もぐるか………目をつまり頭を水の中に沈め、すこし髪の毛を揉んだあと水面に上がった。

 

「ぬれてももじゃもじゃなのか………」

「なんでだろうね、自分でも不思議だわ、もはや天然パーマの域を越してると思う」

 

本当は全裸で湖の水なんか入りたくないんだけどね、せめてもっと綺麗な水がいいんだけどなぁ。

 

「なぁ毛糸、お前ってさ」

「ん?」

「人間みたいだよな」

「………というと?」

「家作ったり、自分とは違う妖怪と友達になったり………すごく人間っぽい」

 

まぁ前世人間ですから。

今世毛玉だけど、中身はちゃんとした人間だからね。

 

「チルノは?人間っぽい、って思うってことは昔人間と友達にでもなったの?」

「うん………まぁ、死んじゃったけど」

「そっか」

 

今の私って、本当に毛玉なんだろうか。

精霊というには、自分がチルノや大ちゃんと同じような存在とは思えないし、妖力を持っている。

妖怪というには、幽香さんや山の連中みたいな感じはしないし、霊力を持っている。

毛玉は毛玉なんだろうけど、自分の存在がいくら考えてもわからない。

私は自分を名乗るときなんと言えばいいんだ?いや、毛玉って言えばいいか。

ぬぅ、でもなぁ、私本当に毛玉なのか?

もしかしたらいろいろと存在が変わって、毛玉のようで全く違う別の生命体になってたり………

もしそうだとしてももともと毛玉なんだから気にすることないかぁ。

 

「人間、ねぇ」

 

思えば私は、この世界で人間というものにほとんど遭遇していない。

人間と人外が生きてた時代なんて私は知らないし、きっとこの時代の人達も、私たちとは随分違った思考をするんじゃないか。

それこそ、私を見た瞬間逃げるかもしれないし、もしくは殺しに来るかもしれない。

なんせ人の集落の周りに行くと、恐らく人間に殺されたであろう妖怪の亡骸が転がっているからだ。

せめて話し合いが通じればいいんだけど………

人里かぁ。

多分私が中に入るのは無理だよねぇ。

話によれば人里の中には陰陽師や武士とかいう、妖怪を倒すのが仕事の人がわんさかいるらしいし。

妖怪だって人間を襲っているのだろう、恨まれるのは当然だ。

妖怪は基本家族や組織、友人以外で他人との関係を持つことはない。

人間は人間と様々な関係を持つ、だから誰かが死んだらたくさんの人が悲しむ。

妖怪はそもそも妖怪同士で殺し合いとかするからなぁ、妖怪と言っても種族がたくさんあるし、同族が死んだくらいじゃ人間に復讐しようだなんて思わないだろう。

その辺が違うから、妖怪と人間は相容れない、か。

この世界の人間を私はあんまり知らない。

知っておいた方がいいはずだ、私のためにも。

それに、遅かれ早かれ私も人間と会うはずだ。

 

人里とは言わず、誰でもいい、この世界の人間と話をしたい。



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毛玉は面倒ごとから逃れられない

「すみませーん、毛糸さーん、いるんでしょー!………私に居留守は通じませんよ、あなたの一日の過ごし方は大方把握しています。この時間ならまだ家の中で寝転がってますよね。いるのは分かってるんですから、出てきてくださーい!………はぁ、仕方がない」

 

………お?

帰って行ったか。

また急に訪ねてきたけど、どーせろくでもない話を持ち込まれるんだから、無視するに限るよね。

そもそも、私はあの戦争にちょっと参加しただけで山の組織に入ったつもりはまったくない。

故に山の連中とは無関係である。

というか私の生活把握してるの怖くない?なんなの?ストーカーなの?明日は早めに湖に行っておこう………

ん?なんか嫌な予感が………

 

「お邪魔しまーす」

「ほわっつ!?」

 

親方!空から鴉天狗がぁ!

なんでやここ室内やで!?

 

「扉開けてくれないんで上から来ました」

「あー屋根に穴空いたよどうしてくれんねん!慰謝料払えやおんどりゃあ!」

「知りませんよ、何の話ですか」

 

こ、こいつ………絶対お前だろ。

強引に入ってくるにしてもせめて扉からこいよ、扉を突き破ってこいよ、なんで上からくんだよ。

 

「そんなことより伝えておきたいことがあるんですよ」

「そんなことってお前!雨漏りするじゃん!いやもう漏れるとかそんな次元を超えて直接ダイレクトアタックしてくるよ!私の髪の毛に降り注いでくるよ」

「ここ最近、妖怪の動きが活発になっているのは知っていますか?」

 

あ、無視なのねそーなのね、私の髪の毛が濡れてもいいと、ほーん。

そういうことならこっちだって出るとこ出るからな、法廷で会おう。

 

「そりゃまたなんで」

「早い話、以前の戦いのせいです」

「あー」

 

もうあれも数ヶ月前の話だもんねぇ、いやはや、時間の流れは早いものだなぁ。

もうあの何度も死にかけた戦いからそんなに経つのかぁ………

とりあえず文を床に座らせて話を続ける。

 

「妖怪の動きが活発って言っても、私はそんなに遭遇してないけど」

「妖怪っていうのは野良妖怪、まぁつまり馬鹿で阿呆な妖怪です」

「ひどいねぇ………バカでアホな妖精なら知ってるけど」

「あの戦争に感化され、周囲の野良妖怪たちが動きが活発になりました。妖怪同士の大きな抗争とかは今のところ起きていないのですが、報告によればどうも人里にちょっかいを出しているようで………」

 

人里にちょっかい?私や妖精程度ならともかく、ルーミアやあのおっさんみたいな化け物がちょっかいだしたらそれはちょっかいではすまなそうなんですが。

 

「まぁ、人里にちょっかいというか、人間にちょっかいというか………時間に関係なく、人里の外で出歩く人間を襲おうとしているらしいんですよ」

「はぁ、妖怪って基本夜にしか人間を襲わないって聞いたけど」

「間違ってはいません、夜の方が多く襲われています」

「つまり昼間もそこそこ襲われてると………」

 

でもそれがどうしたというのだろうか。

人間が襲われているのなら私たちには関係ないし、人里を守ってる人とかがその妖怪たちを退治するんじゃないだろうか。

 

「で、それがどうしたの?」

「えぇ、まぁ、人間が襲われてるだけなら良いんですけどねぇ………人里の守護者がとうとう妖怪に本気を出してきたというか、滅しにきたというか………」

「守護者?なにそれ」

「妖怪を狩りすぎて、逆に妖怪に恐れられるようになった人間です」

 

うーん、なにそれ、普通逆だよね?

それもう人間やめてない?石○面装着してない?

 

「漆黒の長髪と真っ黒な刀を持つ女性で、その眼を見たものは蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。って椛が言ってました」

「椛ってさぁ、前から思ってたけど千里眼でも持ってんの?」

「そうですよ、よくわかりましたね」

「ほわぁい………まぁいいや、要するにその人がやばいってことね」

「多分毛糸さんの想像の何倍もやばいです」

「というと?」

「刀を一振りすると地面がぱっくり裂けたらしいです」

「ふーん」

「あやや、反応薄いですね。普通もっと驚きません?」

「そうはいってもねぇ、ルーミアならそのくらい余裕でできそうなんだよねぇ」

「それは、まぁ、はい、そうですね………」

 

まぁ私が遭遇したらまず間違いなく大変なことになるだろうなぁ。

まぁもし遭遇することがあったら全身全霊で逃走するけど。

 

「でもさぁ、私は人間を襲うつもりとかないし関係なくない?」

「それがですねぇ、普通なら人里の近くによって来た妖怪だけを殺しているはずが、最近は人里から離れたところにまでやって来て妖怪を撲滅してるんですよ」

「えー………なんで」

「さっきも言ったように戦争により野良妖怪たちの動きが活発になってるからだと思われます。まぁ今では、妖怪に襲われた人間の数より多くの妖怪が死んじゃってますけどね」

 

そうか………この地に住んでいるやつは妖精や文たち山の連中だけじゃない、人里に住む人間やその他にも色々な奴がいる。

それが急に大きな戦争なんて起これば人間も妖怪も多少なりとも影響を受けるだろう。

 

「というわけで、毛糸さんも注意してくださいね、って言いに来ただけです」

「山の方は大丈夫なの?」

「そうですね………人間に何かしたりということはうちの山は基本的にしていないので、人間たちが山に攻め込んでくるみたいなことはないと思いますけど………なにせ上がですね………」

「上?大天狗とか天魔とか?」

「はい、ときどきこう、人間の女の幼子をですね、つれかえってくるんですよしてくるんですよ」

 

お巡りさんあいつらです。

え?マジ?幼女を?拉致?誘拐?マジ?………え?

天狗はロリコンだったんか………

 

「実際にやってるのは下っ端天狗ですけどね、命令してるのが上の方たちなんですよ」

「なんでそんなことするんや」

「知りませんよ、幼子になんか興味ありませんし、偉い方の考えることはよくわかりません」

 

一体幼女になにをしているというんだ………

しかもなぜ女の子に限定されている、男子はいらんのか。

いや、ショタコンはそれでダメだけども。

 

「つまりそーゆーことです」

「どーゆーことだってばよ」

「では、お気を付けてー」

「あぁ、うん」

 

………あ。

あいつ屋根ぶち抜いたままじゃん。

そもそもなんで屋根なんだよ、せめて扉を突き破ってこいよ、なんでそうなるんだよ。

いや、まず押しかけてくるなし、もし本当に私がいなかったらどうするつもりだったんだよ、つか屋根直せよ。

帰るときもおんなじところから帰るしさぁ。

あーあ、こりゃ直すのに時間かかりそうだ。

木材調達するとこからやらなきゃいけないじゃん、あーめんど、あーめんど!

 

 

 

 

屋根の上に乗り、穴の空いた部分を手元にある木材で埋め、周りに釘を打ち固定した。

何故かめちゃくちゃ綺麗に穴が空いてたおかげで直すのが随分楽にだった。

なに?そういう気遣いなの?そこだけ配慮あるの?じゃあもっとマシな入り方しよう?

 

「おーい毛糸ー」

「ん?」

 

遠くの方でチルノが私を呼ぶ声が聞こえた。

なんだろう、妖精が件の妖怪狩りにでも襲われたのかな?流石にそんなわけないか。

そう思い屋根の上から声のする方を見てみると………

 

「見て、毛糸だ」

「ぅうん………」

 

毛玉を抱えてた。

毛玉を、抱えていました。

自分以外を見るのは初めてだなぁ。

 

 

「よっと。それ、どこで拾ってきたの」

「その辺で」

「その辺てどの辺よ」

「その辺はその辺だぞ」

「あーうん、もういいよ、うん、もういい………」

 

うーん、自分の種族だけど。こうやって改めて見ると本当に謎の生命体だな、毛玉って。

毛の塊。でもそれは押し込んで小さくなるわけでもなく、毛を引っ張っても抜けるわけでもない。

中に何か硬いものがあって、それから毛が大量に生えてるのかもしれないが、その正体は永遠の謎。

 

「毛糸、ちょっと毛玉になってみてよ」

「えー?まぁいいけど、はい」

「おー、まるで栗二つだ」

 

瓜二つじゃね?いやでもチルノだから、そんな言葉を知っているだけでも凄いことなのでは?凄いぞチルノ、覚え間違えてるけど。

毛玉の状態だと喋ることができないので、人の姿に戻る。

もうこっちの姿で過ごしてる時間の方が遥かに長いな、人間という生き物の形がいかに便利かをときどき思い知るよ。

 

「そんな強く毛を引っ張らないの、毛玉はストレス溜まると凄いんだぞ」

「すごい?どうすごいの?」

「毛が黒曜石のように硬く鋭くなり、触れるもの全てを串刺しにする最強の拒絶毛玉になる」

「よくわからん」

「私もわからない」

 

チルノに思いっきり掴まれてる毛玉が可哀想にみえたので、手を無理やり解いて宙に明かしてあげる。

うーん、このなんとも言えない顔文字フェイス、嫌いじゃないぜ。

 

「あ、なにするんだよ、あたいの新しい子分が」

「串刺しにされたいのか?黒曜石と針にぶっ刺されたいのか?」

「それはいやだけど手放すのもいやだ」

「あきらめ………ん?」

 

この毛玉、なんかおかしいような………

 

「どうしたんだ?」

「いや、ちょっと………」

 

見た目に不思議なところがあるわけじゃないんだよなぁ………

霊力?霊力か?この毛玉からは微弱ながら霊力を感じる。

私って最初の頃は霊力持ってなくて、多分チルノの霊力を吸収したんだよね。

でもこの毛玉はチルノや大ちゃん、ましてや妖精たちのそれとは本質的に違うような………

もしかして、毛玉ってもともと霊力を持ってたのか?多分そうだよね、地霊殿で読んだ時にも精霊の一種とは書いてあったけど、霊力もを持たないとは書いていなかった。

普通この世界の生き物は何かしらの力、人間や妖精であれば霊力、妖怪だあれば妖力を持っている。

毛玉だけそれを持っていないというのも考えづらいものだ、そもそも私はかなり異質な存在だし。

私が自我を持つ、もしくは転生という形で毛玉として生まれてしまったから、私本来の霊力は無くなってしまったのか?

それにこの毛玉、風に逆らって動いている。

私なら何もせずにいたら風に流される。

つまりこの毛玉は自分の意思で動いていることになる。

普通の毛玉に自我はないとはいうが、植物が葉を生やし根を伸ばすように、毛玉も動いているのだろう。

私は最初、霊力も持たずに動くこともままならなかった。

いったい私って………

 

「どうしたんだ?急にだまり込んで………」

「………え?いや、なんでもない。気にしないでいいよ」

 

考えてみれば不思議なものだ、毛玉に転生したというだけで霊力や妖力を吸収して自分で生成できるようになったり、人の形なったり………もしかしたら私は毛玉でもなんでもない、全く別の生き物なのかもしれない………

 

「………あたいにはよくわからないけど、なにか困ってることがあるならあたいや大ちゃんに言えよ?」

「え?」

「当たり前だろ、お前はあたいの子分なんだから」

「………うん、そうだね、気が向いたらそうさせてもらうよ」

 

優しいなぁ………完全に子分になってることにはちょっと腹が立つけど。

そういえば、大ちゃんは私が急に霊力を持っていたことに驚いていたような………だから私は毛玉は基本霊力を持たないものと思っていたんだけど。

 

「なぁチルノ」

「ん?なんだ」

「後で大ちゃん呼んできてくれる?」

「いいよ」

「ありがとう」

 

単純に毛玉を見る機会が少なかったから、毛玉の持っている霊力の量が少なかったからってのも大いにある。

それでも私の知らないことを大ちゃんなら知っていると思う。

持つものは頭のいい知り合いだなぁって。

 

「その毛玉、あたいもらっていい?」

「だめ、私が預かる」

「え?そんなことしたら刺されるぞ?」

「私も毛玉だから刺されない」

「なにそれ………その毛玉、なんか面白いところでも見つけたのか?」

「面白いかは知らないけど、私にとっては興味深いよ」

「ふーん………あ、あたいもう行かないと、じゃあな」

「おう、バイバイ」

 

そういってつまらなそうな去っていったチルノ、そして残された私と毛玉。

あ、ちょ、勝手に変なところ行かないでくれ、ねぇ、ちょっと待って!

ふぅ、捕まえた、まったく、すぐ風に流されるんだからもう。

私が私について知るために、この毛玉は私の手元に置いておく。

え?毛玉の気持ち?そんなもん知らんわ。

私という存在は明らかに異質、この世界から浮いている。

この毛玉について調べれば、私という存在が一体なんなのか、知ることができるかもしれない。

 

 

というわけで、簡単な鳥籠っぽいの作ってそこに毛玉をぶち込んでおいた。

これで、私について何か知ることがあればいいんだけどなぁ。

何故かあの顔文字フェイスが悲しい顔をしていた気がするのはきっと気のせいだ。



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毛玉は戦いを避けたい

「よし、じゃあ今日からお前の名前はホワイトス○モな。え?いや?いやなの?いやって顔なのそれは。じゃあもじゃ13号で。え?これもいやなの?じゃあもういいよお前はただの毛玉でいいよ」

 

籠の中に入れられた毛玉を覗き込みながら独り言を呟きまくる。

なんで私は毛玉と対話をしようとしているのだろうか、めちゃくちゃ一方的だし。

あれから数日、こいつを観察して過ごしていた。

わかったのは、この籠の中に入れられると浮いているだけで全く動かなくなるということ。

やっぱり喋らないこと。

私が寝て起きたら人の姿になってたりしないこと。

大ちゃんに見せてみたけど何かを考えている様子はないって言ってた。

すんごいどうでもいいし、まぁわかりきっていたことしかなかった。

やっぱりみてるだけじゃ毛玉のことなんてわかりゃしないよねぇ。

自分の種族のことだけど、私だけなんか変な感じだし、他のやつは何も考えてないし、そもそもみんな揃って謎の生物だし。

さとりんなら何かわかることがあるのかもしれないけど………私にはさっぱりだ、もういい加減こいつをずっと見てるのも飽きたし離してやろうかなぁ。

 

ここ最近で起きたことなんて、チルノがあたいの城とか言ってこの家に入り込んできてこの毛玉を氷漬けにしようとしたことくらいだよ。

あ、そういえばルーミア………なんかもう分かりにくいなぁ。

自分で言っててどっちがどっちなんだか………よし、もうルーミアとルーミアさんでいこう、さんをつける方針で行こう。

とにかく、ルーミアさんも最近は会っていない。

いや会いたいわけでもないのだけど。

とにかく今のところは平和で退屈な、暇を持て余す生活をしているってことだなぁ。

一日でやることが大ちゃんやチルノたち妖精に絡みに行くことか湖のゲテモノ魚を釣るか、寝てるか毛玉を眺めるかくらいしかやることがない。

オンライン環境の無いニートってこんな感じなんだなぁ、現代文明が恋しいよ全く。

 

 

そういえば、文が言ってたあの件はどうなっているのだろうか。

妖怪狩りっていうけど、妖精や私みたいな毛玉も滅す対象に入っているのだろうか。

妖精は………まぁ言ってしまえば殺しても死なないようなものだけど、私の場合それがどうなるかはまだわからない。

毛玉が復活するとしても、いまの私がそうなる保証なんてどこにも無いのだから。

 

「はぁ………なんか嫌になるな………」

 

いくら考えてもそれが必ず役に立つというわけでは無い。

死んだらそこまで、生きていれば明日がある。

そうはいっても、少し休んだだけで次の問題が私を襲ってくる。

命の危険を感じない日はない。

あぁ、なんとこの世の生きづらいことか。

浮世はクソゲーだよ、全く。

 

なんか思考がネガティブになってる………ポジティブシンキングしようそうしよう。

 

 

 

 

「よーしチルノー、お前ならできる絶対できるなんでそこで諦めるんだよもっと熱くなれよー。はい」

「エターナル○リザード!」

「よーしもうそれはいいや、次はスノーエ○ジェルいこうか」

「エターナル○リザードとかすのーえ○んじぇるとかもうわけわかんないぞ」

「あんごら、弱音吐いてる暇はお前にはないんだよ、あとアイスグラ○ドとかいろいろあるんだよ、吹雪○郎以外の技も叩き込むぞおら」

「もうわけわかんないし疲れたからもういいぞ」

 

んだよしょーもーねーなー。

せっかくできるんだからやれよ。

私は本当はファイヤート○ネードしたいけど炎出せないから無理なんだよ、あと氷を蹴るたび足が痛い。

さすが超次元サッカー、人外にやらせてもこれか。

 

「毛糸が玉になるならやってやるよ」

「おいどーゆー意味だよ。毛玉を蹴ろうとしてるのか?そんなことしたらどうなるかわかってんのか?死ぬよ?毛玉さんじゃうよ?」

 

おーい毛玉ー、サッカーしようぜー、お前ボールな、的な事案が起こるぞ。

そしてそのサッカーは超次元サッカーでした、死ぬなこりゃ。

 

「じゃあエターナルフォースブリザードは?」

「ふぉーすがついただけだろそれ」

 

フォースがあるとないじゃ全然違うんだよ、そもそも氷と名前以外共通点ないから。

マジモンの一撃必殺だからね、撃てるとは言っていない。

 

「そういえばさー」

「なんだよ」

「最近あたい達以外の妖精が少なくなってる気がするんだ」

「へー」

「一回休みになったらすぐ生き返るわけじゃないけど、そんなに頻繁に死ぬわけじゃないし、なんかおかしいなぁって」

「へぇー」

 

つまりあれか。

噂のあの人が大量に妖精もぶっ殺してると。

もしくは妖怪が大量に妖精をぶっ殺してると。

わーやばいなー、私も襲われるなー。

 

「なぁチルノ」

「なに」

「もし人間が妖精達を殺しまくってたらさ、妖精はどうする?」

「なんでそんなことあたいに聞くんだ?大ちゃんに聞けばいいじゃん」

 

大ちゃんとお前じゃ知能レベルが段違いなんだよ。

他の妖精達と似た思考してる奴に聞くのが1番いいじゃないか。

 

「もしそうだったら………あたいだったら他の妖精と一緒に人間にやり返しにいくかなー」

「やっぱり?」

「にげる妖精もいるだろうけど、やられてばっかりじゃむかつくじゃん、全力でやり返すね」

 

うーむ………そうだよなぁ。

妖精は一回休みになるとその時の記憶を少し無くすから、よほどのことがなかったらそんなことは起きないと思う。

けど妖怪だったら話は別だよね。

絶対きっちりやりかえしにくるよね、でも結局それは妖怪が悪いわけで………

 

 

 

 

「やめ、やめてくれ!」

「はは、断る」

 

森の中で、頭から血を流して倒れている人間の男が、長く舌を垂らした妖怪に襲われていた。

舌から涎を垂らしながら男へと近づく妖怪、男は後ろへ後ずさる。

 

「ひ、ひぃ!」

「いいねぇ、いい顔できるじゃねえか。てめぇら人間如きが調子に乗りやがって、てめぇらはそうやってびくびく怯えて俺たちに喰われてんのがお似合いだぜ」

 

妖怪は男の足を舌で絡めとって逃げられないようにし、その口を男の顔の前へ近づける。

 

「さ、大人しく俺に喰われてもらおうか」

「あ、あぁ………」

 

恐怖によりもはや言葉も出なくなった男。

その様子を見た妖怪は満足げな表情を浮かべて大口を開けた。

男の頭を噛み切ろうとしたその瞬間、遠くから聞こえる物音に気がついた。

 

「………なんだ?」

 

その物音がだんだん近づいてくるのを感じとり、男の足から舌を離し周囲を警戒する妖怪。

うねうねと動く舌に鋭い痛みが走る。

 

「うお!」

 

驚き飛び退いた妖怪の顔面に蹴りが入り、妖怪の体が大きく吹っ飛ぶ。

着地し舌を見ると氷の針が刺さっていた。

 

「ってて………誰だ、てめぇ」

 

妖怪は、男を庇うようにして立つその白いもじゃもじゃに問うた。

 

「通りすがりの毛玉だ」

 

 

 

 

「なぜ人間を庇う」

「お前に話すことはない、なんだよその舌は、ベロ○ンガかお前は」

「んだよ俺の舌を馬鹿にすんじゃねえよこのもじゃ女が」

 

なんだこいつ、めっちゃ気持ち悪いぞ。

なんなんだよその舌は、なんなのその長さ、その舌で一体なにをするつまりだったんだこのやろう。

あと体黒いし、なんで腰に布巻いてるだけなんだよ、そこだけは隠すのか、そこ以外は見えてもいいのか。

あと臭いんだよ、テメェの体臭だけで生き物殺せるわ、柊木さんの足くらい臭いわ。

さらにその舌を纏ってる涎も臭い、というかもう涎が臭すぎて嗅覚壊れそう。

 

「もう一度聞く、なぜその人間を庇う」

 

しつけーなこいつ。

じゃあ質問を質問で返してやろう。

 

「逆に聞くけどなんで人間を襲うんだ」

「あぁ?んなの当たり前だろ、妖怪が人間を襲うのに理由なんていらねぇだろ。ま、強いて言うならあの化け物に襲われた腹いせだな」

「化け物?」

「お前知らねぇのか?あの妖怪狩りを。これはあいつにつけられた傷だ」

 

そういうとベロ○ンガもどきは背中の傷を私に見せてきた。

右肩から腰にかけて一直線に刻まれたその傷は、塞がってはいたが跡が目立っていた。

 

「で、なぜ人間を庇う」

「はぁ………じゃあ言ってやるよ」

 

大きく息を吸い込み声を出す準備をする。

目の前のこの舌野郎に教えてやるために。

 

「お前らがそうやって人間を襲うからその妖怪狩りに仕返しされんだろうがああああ!!自分らなにしたか分かっとんのかああ!?そうやって人間を殺すことによってその妖怪狩りを怒らせてェ!それで妖怪どもが逆ギレしてェ!行き着く先は人間と妖怪の戦争だぞ!?もううんざりなんだよそういうの!お前らいい加減にしろよマジで!そんなに人を襲いたいのか!?自分らが仕返しで死ぬのに!?ましてやお前は一回痛い目にあってるのにそれでもなお人間を襲おうとしてる!ってか襲ってた!結局はそれで自分の身を滅ぼすんだろ!?馬鹿馬鹿しいわ!その行為のおかげで妖精が人間に殺されたりとくに関係ないやつが死んだらするんだよ!お前らが勝手にくたばるのは結構だがそれに関係のない他者を巻き込むんじゃねえ!そして戦争を起こす引き金にもするんじゃねえ!このクソ舌野郎がああああ!!はぁ、はぁ、わかったか、この、野郎」

 

あー疲れた!久しぶりに叫んだよこんちくしょう。

これで少しは状況が分かっただろう?

 

「………あ?終わった?全く聞いてなかったが終わったんならよかったな」

「は?」

「さ、どいてくれよそこ。俺も別に人間以外のやつを殺したいわけじゃあない、死にたくなかったら大人しくその人間こっちによこせ」

「は?」

 

後ろに振り返りなんかもう唖然としてる男性の顔を覗き込む。

 

「あんなこと言うんだけど、ねぇ、酷くない?私精一杯説明したよ?殺しあわなくても解決するように全力で説明したよ?このまま同じことを繰り返したらどうなるかも説明したよ?なのになんであいつあんなこというのかなぁ。人の気持ちも知らないでよくあんなこと言えるよねぇ」

「おい、なにしてんだ」

「うっせぇなこのクソ舌ペロ野郎が!その舌の根ひきちぎんぞコラァ!わかったら大人しく帰れやこのクソが!」

「いやわからねぇし。まぁてめぇがそういうつもりなら仕方がないな」

 

そう言った舌野郎は風を切る音を出しながらこちらに舌を伸ばしてきた。

すぐに男性を抱えて横へと飛び退く、避けた舌はその先にあった木へと突き刺さり貫通した。

 

「おま、なんだそれ!舌じゃないでしょそれ!ただの凶器でしょ!」

「この舌で人間の中身を喰うのがいいんだろうが」

「きも」

 

男性にほんの少しだけ霊力を込め浮かし、後ろへ突き飛ばす。

 

「相手になってやるよこの舌化け物」

「お前じゃ相手にならねぇよもじゃもじゃ」

「もじゃもじゃうっさいんだよ!」

 

舌化け物に向かって、生成した氷の針を数本飛ばす。

だけどその長い舌によってはたき落とされてしまう。

舌を動かすのは大きい分反動があるらしい、その隙に舌化け物に接近して手に妖力を込めて顔面目掛けて思いっきり殴る。

直前で腕で防御されたが、その衝撃で舌化け物の体が大きく吹っ飛んだ。

しかし吹っ飛ばされながらもその舌を伸ばして私の足に絡みつき、私の体を振り回して近くの木へと叩きつけられた。

なんだこいつ、まじでキモいぞ、足が汚くなったじゃないか、もう生理的に無理。

もうさっきので喋り疲れた、さっさと終わらそう。

妖力弾をいくつも生成、妖怪の方へ飛ばす。

これも弾こうとした妖怪の舌が爆発で吹っ飛び、他の妖力弾も誘爆して大きな音と共に眩い光が放たれた。

 

その爆発の後には黒こげになった舌化け物がいた。

いや、もう舌吹っ飛んでるし舌野郎だな。

一応あの爆発を受けても原型は留めてられるんだな。

生きてるか?これ。

 

 

そのあと、焦げ臭いその場所から離れて男性を回収しに行った。

なんか気絶していらしたので、そのまま運んで人里まで繋がる道を進み、人里が遠くの方で見えたところで男性を下ろした。

この人が人里へ向かってた人かは知らないけど、もうすぐ明るくなってくるし多分無事に着くだろう。

なんかすんごい疲れたけど、とりあえず、確実にあのままじゃ死ぬ人を助けれたのでよしとしよう。

 

 

 

 

「それで、変な奴が俺を助けたんだよ」

「変なやつってどんな奴だい」

「妖怪かなんだかわかんねぇけど、白いもじゃもじゃのやつだったよ」

「そりゃあ妖怪だろ」

「そうかなぁ、俺が喰われそうになってたところを助けてくれたしなぁ、妖怪がそんなことするかね」

「ま、少なくとも人間じゃねえだろうな」

「だよなぁ」

 

白いもじゃもじゃの妖怪か、そんな奴は聞いたことがない。

それも人を助けたって話だ、間違いなくその辺の野良妖怪とは何か違うな。

その白いもじゃもじゃは、一体なにを思ってあの男を助けたのか。

絶対何かあるはずだ、良からぬことを考えてるのだろう。

妖怪は全員、私がぶった斬ってやる。



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毛玉と妖怪狩りともう二人

「ねぇねぇ柊木さん」

「なんだよ、仕事忙しいんだよ喋りかけてこないでくれ」

「酷いですね………昔は敬語使ってくれてたのに」

「いつの話してるんだよ」

「一年以内ですが?割と最近ですよ?それまではずっと敬語でしたよ?」

「記憶にないな」

「記憶力大丈夫ですか?」

 

山の周辺の哨戒に出ていたところを絡まれた。

今すぐ帰っていただきたい、ってかあんたも仕事しろよ。

 

「相変わらず目が死んでますね………それより話を聞いてくださいよ」

「断る、仕事の邪魔をしないでくれ」

「仕事って言いますけど適当にほっつき歩いて空を眺めるだけでしょう?」

「それで飯食ってるんだから文句は言わせない」

 

もし山への侵入者がいて交戦することになったら命の危険を伴うことになるんだ、平常時くらい楽させてくれ。

 

「じゃあ仕方がないですね………この手段だけは使いたくなかったんですが………」

「………?」

「柊木さん、貴方より私の方が組織においての地位は高いですよね?」

「まぁそうだな」

「つまり上司ですよね?」

「………そうだな」

「命令です」

「職権乱用しやがって畜生が」

 

これだから組織って奴は………俺なんか悪いことしたか?みんな俺の足臭いって言ってくるけど全然匂わないし。

もしかして俺、弄られてるのか?

 

「じゃあ話すこと話して帰ってくれよ………」

「まぁそんなに大した話でもないんですがね、最近噂になってるでしょう?妖怪狩りの女」

「………その話か」

 

もう噂とかそういうんじゃないところまで来ている。

新人で馬鹿で若かったとはいえ、既に白狼天狗数人が首だけになって帰ってきていた。

誰がやったのか、目星はついていたが確証も無かったし、先に逃げていた奴から喧嘩をふっかけたのは天狗の方だった聞いて、何も行動を起こさないでいる。

 

「その妖怪狩りっての、そんなに強いのかね」

「まぁやられてるのは大体雑魚の野良妖怪達ですから、ある程度の実力があれば同じようなことはできると思いますけど………最近、少し名の知れた妖怪達が一気にやられましてね」

「だからといって、山が全力で警戒態勢になるほどでもないんじゃないか?たかが人間一人に」

「そうやって高を括る人から死ぬんですよね」

 

怖いこと言うなよお前………

まぁ俺なんかが本当に遭遇したら首が一瞬で飛ぶのは確実だろうがな。

 

「で、それが?」

「なんか、毛糸さんが妖怪に襲われてる人間を助けて回ってるんですよね、それも発狂しながら」

「なんで発狂?いやいい、なんでそんなことを」

「発狂しながら喋ってる内容聞いてるかぎりでは、このまま妖怪と人間の小競り合いが続いて最終的に人間と妖怪の大きな戦争になり、それに巻き込まれるのを回避したいようですよ」

 

なんでそんな自殺行為してるんだあいつ………

 

「まぁ状況がこのまま悪化していけばそうなるのは確かでしょうけど、だからといってそんなことしてたら他の妖怪からも目をつけられて敵を増やすだけでしょうねー」

「その妖怪狩り、どの程度の強さなんだ?」

「そうですね………これは上の人たちもも言ってたことですけど、多分その人は、あのルーミアさんと同等の化け物………そう思いますね」

 

あいつ死んだなぁ………

 

 

 

 

「お前か、近頃妖怪を襲って人間を助けている奴ってのは」

「んだごら文句あんのかこら」

 

人間を襲っていた妖怪を蹴り倒し、人間が持っていた剣を妖怪に刺し木に縫い付けた。

刺したところから血が少し滲んでいて、それを見るとすこし気分が悪くなる。

人間じゃないとはいえ生きている奴を刺してるんだ、今更ではあるが少しばかり気分が悪くなる。

 

「そりゃあ文句しかないがな。まずお前は妖怪なのか?そんな感じはしないよな」

「知らんわ、私が知りたいくらいだわ」

「なんで人間を助ける」

「さっき大声で言ったでしょうが、やっぱり聞いてなかったなお前」

「声でかいんだよ」

 

腹に剣刺さってるのによく喋るなこいつ………

近くで死んだように転がってる人間を見る。

死んではないと思うけど出血がひどい、このまま放って置いたら死ぬのは間違い無いだろう、早く人里へ送ってやらないと。

 

「私は今からあの人間を人里に送っていく、トドメは刺さないけど後ろから襲ってきたりするなよ」

 

私としても妖怪を殺すのは本望では無い、できれば話し合いでお互い平和に解決したいんだ。

話してたら人間を助けるのが間に合いそうに無いから攻撃するのであって、それ以降の攻撃はしたくない。

 

「わかってるよ、強い奴には逆らわない、お前の言う通りしばらくは人間を襲うのをやめておくよ」

「そうして」

 

こうやって相手がちゃんとわかってくれるのは初めてだな………

近くに血だらけになっている人間の近くに寄り、手を伸ばす。

 

「——え?」

 

手にナイフのようなものが刺さっていた。

どこからやられた、全く認識できなかった、早く何か行動をしないと。

 

「全く、お前ら妖怪は殺しても殺しても、虫みたいに湧いてきやがる。いい加減滅んでくれないか」

 

右の耳にその女性のような声が入ってくる。

その瞬間理解した。

右の方に木に縫い付けられた妖怪がいて、その先に女性がいた。

人間のことは考えずに、妖怪の腹の方に手を伸ばし、剣を体から引き抜いて妖怪を蹴り飛ばす。

驚いた顔をしていた妖怪、私の蹴った足が無くなっている。

 

「へぇ、そうくるか」

「ちょ——」

 

後ろから声がして即座に自分の首の後ろに引き抜いた剣を置き、首へと向かられた斬撃を受け止める。

 

「なんなんだ急に——ぐえっ!」

 

そのまま衝撃で体が吹っ飛び、蹴り飛ばした妖怪の体に衝突した。

首を触ると切り傷が刻まれており、受け止めきれなかったのがわかる。

 

「いたた………へぇ、その髪、その刀、最近俺たちの間でちょっとした話題になってる妖怪狩りさんじゃないか」

「へぇ、そりゃどうも」

 

さっきの攻撃、後ろから喋らなかったら確実に首が飛んでいた。

そのことがわかると急に冷や汗をかいて止まらなくなった。

足が膝から先がない、血が滴り落ちる。

首の傷はもう塞いだけど………

女性が左手に持ってるものは何かと気になり、目を凝らしてみると、いつぞやの舌野郎だった。

それが生首とわかりぞっとしたが、まぁなんか舌野郎だったらいいや。

 

「そいつも私たちの間では話題になってるよ、妖怪を襲い人間を助ける白いもじゃもじゃ」

「え?そんな感じで噂にされてんの?いや私のことが人間の間で話題になってるのはなんとなく知ってたけど白いもじゃもじゃ呼ばわりされてんの?マジで?」

「事実だろ」

 

はいその通りでございます。

目の前の女性が件の妖怪狩りということがわかり、緊張が高まる。

 

「どんなやつかと期待してたんだが、死にかけの人間を食おうとしたただの妖怪だったな」

「いや妖怪かは知らんが、誤解だよ。早く治療しないと出血多量で死んでしまうよ」

「じゃあなんでさっきその妖怪を助けた」

 

そう聞かれて何も言えなくなる。

あの状況で狙われるのなら身動きが取れなくなってるこの妖怪の人、あのままでは確実に体が真っ二つになっていただろう。

この人は話せばわかるいい人だ、多少殴って刺したけど本人気にしてないみたいだし。

そんな人が死んだら気分が悪い。

 

「無駄だもじゃもじゃ」

「あんたにもじゃもじゃ言われたくないんだけど」

「こいつには何を話したって聞かない、完全にもう俺たちを殺すと決めた目をしてる、生き残るにはやるしかないんだよ」

「………はぁ、結局こうなるのか」

 

片足で起き上がり、近くに木に持たれながら立ち上がる。

足に妖力を込めて再生を始める、片足じゃ流石にきついけど………

 

「その足治るまで俺が時間稼いでやる、動けるようになったらすぐに加勢しにこい」

「………ごめん、頼む」

 

体にある妖力をできるだけたくさん足へと突っ込む。

霊力を空中で氷にし、針にして妖怪狩りへと飛ばす。

その後に続くように走っていく妖怪、氷の針は刀で一振りされて吹き飛んだが、妖怪がその隙に蹴りをねじ込む。

だがその足が刀に貫かれ、胴体を殴られて吹っ飛んだ。足はまだ治癒しきっていないが、行くしかない。

体を浮かして霊力を放出し妖怪狩りに接近する。

片手に持った剣を相手に突き刺そうとするが、身を捻られ避けられる。

そんなことはわかりきっていた、体を霊力を放出して無理やり方向転換し回転してその胴体に剣を振った。

金属と金属がぶつかる音がする。

どうやら短剣を片手で持って塞がれたらしい、結構な威力があったはずなんだけどなぁ。

胴体を刀で刺され動けなくなり、短剣が喉元へと伸びてくる。

すぐに毛玉の状態になり回避、すぐに人の形に戻り距離を取る。

 

「あっぶな………化け物かよ」

「こんなものか、やれやれ、やっぱりその辺の妖怪と大して変わらないな」

 

この人、あの時のおっさんと同等、いやそれ以上の強さかも知れない。

相手の顔にはまだ余裕がある、本気を出されていなくてこれなんだ、まだ一撃も与えられていない。

 

「すこし本気出してやるか」

「おいおい、冗談じゃな——」

 

消えた。

その場を飛び退き背後に向かって剣を振った。

黒い刀と剣がぶつかった、あのままじゃ確実に斬られていた。

 

「へぇ、見えてたのか?」

「んなわけないでしょーが、山勘に決まってるだろ」

「面白い!」

「面白くない!」

 

繰り出される無数の斬撃、ひたすら距離を取り、剣で防ぐが捌き切れない。

体の至る所が斬られ、血が流れる。

この黒い刀が、なぜ黒いのかがわかった。

単純に見にくい。

今は夜、それも森の中だ、光を吸収する黒の斬撃が見えない。

かろうじて見える相手の手元だけを見て勘で捌いている。

このままじゃジリ貧だ。

 

「俺を忘れてんじゃ、ねぇ!」

「忘れてないよ」

 

さっきの妖怪の胴体をいとも容易く切った。

そしてすぐさま首を狙いその刀は振るわれた。

だけど動きが止まった。

 

「かかったな」

 

妖怪が首への攻撃を受け止めていた。

首の横で手を伸ばしその手に刃が食い込みながらも受け止めていた。

私が治った両足で地を蹴り拳に妖力を込めその身体へと叩き込む。

防御するために短剣で塞ごうとしていたが、それをも砕き胸へ拳をめり込ませ、木をへしおりながら吹っ飛んでいった。

 

「あーくっそいって。頼むから今のでくたばってくれ」

「いや殴った感じ多分まだ………」

土埃の中から一人の人影が見える。

その姿からはダメージを与えられた気がしない。

 

「ははっ、いいじゃないか。どうやら思ってたよりも骨のある奴ららしい。だが、もう終わりだ」

 

その黒い刀が霊力を纏い淡く光り出す。

 

「まずいな、今のうちに逃げるぞ」

 

そう言われて距離を取ろうとしたが、足がもつれて膝をついてしまう。

頭までクラクラしてきた、いよいよ私死ぬのか?

足の大事なところが切れたのか動かない、頭が痛いのは多分出血のしすぎ。

 

「おい、大丈夫か」

「気にしないでいい」

 

時間もない、早く体を再生しないと。

構えたその黒い刀から放たれる淡い光が一層強まり、横に振られた刀から斬撃が飛んでくる。

 

毛玉の状態になるかして避けないと………

 

いや、この位置はダメだ。

 

思ったよりも早いその斬撃は、木を切り裂きながらこっちに迫ってくる。

それをありったけの妖力を腕にこめて受け止める、持ってる剣じゃ簡単に斬られてしまうだろう。

斬撃が手のひらに食い込んでくる、どういうわけか痛みは感じないがやばい状況なのはわかった、妖力がめりめり減っていく。

私がかき消せる攻撃じゃない。

腕を傾けて斬撃の下から上へと押し出すように力を入れて、頭を下げて攻撃を上へと受け流した。

変わりに指は全部なくなって手の大きさが半分くらいになったけど。

妖怪狩りが驚いたような顔さをしている、それは真正面から避けずに受け止めたことなのか、受け流されたことなのかはわからない。

 

「危ないなぁもう!よく見なさいよ!このままじゃあの怪我してる人に当たっちゃうところだったじゃないか!」

「なんだお前………気持ち悪いな」

「はぁ!?」

「まぁいい、今回だけは見逃してやる、そいつこっちに寄越せ」

 

そう言って後ろで倒れている人間を指さした。

 

「勝手に持っていけよ、もとから人里に送ろうとしてたんだ」

「そうかい」

 

私の横を通り過ぎて人間を担ぎ、そのまま歩いて帰っていった。

妖怪狩りが去ったあと、まるで死体のように転がってる妖怪を見つけた。

 

「足取れた………」

「あんた馬鹿なのか?」

「否定はしない」

 

はぁ………またルーミアさんの時と同じ、見逃しかぁ。

地面に寝そべり、残った妖力を身体中に循環させて体を再生する。

 

「あーなんか俺もう駄目かもしれない」

「諦めんなよ」

 

弱音を吐く妖怪を担いで、私も家へ帰った。

こんな感じで死なれたらやっぱり気分悪いよ。



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毛玉は身の上話に付き合う

あの時の妖怪は、家へと連れ帰ったんだけど次の日起きたらいなくなっていた。

もう会うことはない、なんとなくそんな感じがした。

こんな世界だ、きっとその辺でのたれ死んでるかもしれないなぁ。

遺体見つけたら埋めてやろう。

昨日はやばかった、もう何がやばいかってもう、やばかった。

語彙力が崩壊するくらいにはやばかった。

あの妖怪の人がいなかったらたぶん私は今頃死んでいたんじゃないだろうか。

今思い出してもぞっとする。

もうね、怖いよねうん。

怖いよね。

 

朝起きると溜めてある水で顔を洗い、溜めてある食料から何か適当なものを選んで、毛玉を眺めながら朝食にする。

この時大体が干し肉である。

この環境だと自生してるものにもどれが食べられるのか全くわからないし、そもそもそんな知識もないので植物系は無しである。

妖精が稀に変なキノコ拾ってきて食べて死んでるのをみてるので本当に怖い、命の危険かそこら中に転がっている。

干し肉の貯蓄を見ると、そろそろ補充しておかないと絶食DAYが始まりそうである。

まぁ二日三日くらいなら食べなくても大丈夫だと思うんだけどね。

狩りをしに行くのは湖の近く、というか私は基本家から湖にしかいない、それ以外の場所に行くのが怖い。

そうですよ私はビビリなんですよ。

時々ルーミアが家に侵入してきて干し肉喰らいつくしていくからそういう日は完全に絶食DAYである。

河童のところからくすねてきた………ボウガン?クロスボウ?なんかよくわからないやつと短剣を持って湖の方へと向かっていった。

 

 

 

 

森の中、木の上から下を見下ろし、手頃な獲物がやってくるのを待つ。

鳥が近くを飛んできたらボウガンっぽいのを放ち、当たらなかったら全速力で追いかけて仕留める。

 

そのままひたすら待っていると、猪がやってきた。

多分この辺で最も手に入りやすい肉だ。

一度突進をモロに喰らって骨がいろいろ折れたことは懐かしい思い出だした、とても痛かったよ。

 

猪が立ち止まるまでひたすら息を潜めて待ち、脳天に向けて矢を放つ。

急所に刺さり動かなくなった猪のそばに行く。

ある程度狩った後は、食べる部位だけ捌いて残ったところは全部河童のところへまとめて押し付ける。

迷惑じゃないらしいからべつにいいよね?

 

猪を浮かして持って帰ろうと辺りを見回したとき。

 

「あ」

「ん?」

 

目と目が合った。

昨日の妖怪ではなく、人間の方と。

 

「あー、お前昨夜の」

「うわぁ………」

 

世界のなんと狭いことだろう。

2日連続で自分を殺そうとしてきたやつと会いますか?普通。

エンカウント率どうなってんすか、おかしいっしょ。

 

「お、お前なんか怖かねぇ!かかってこいやおんどぅらぁ!」

「めっちゃ足震えてるけど」

「え?あ、ほんとだ。い、いやこれ武者震いだから!ぜぜぜんぜん怖くねぇし!おら上等だこらかかってこいやぁ!」

「いや今は別に」

「この猪あげるから見逃してくださいこんちくしょう!」

「おい言ってること真逆になってんぞ」

「何が欲しいんだ!金か!?なに私の首!?そんなの欲しいの!?」

「そんなこと言ってないんだが、ってか落ち着けよ」

「落ち着いてるわ!これ以上ないほどに落ち着いてるわ!そうかあれだな!?他の妖怪の首持ってくればいいんだな!よし今からとって——」

「いいから落ち着け」

「アアアアア!!目潰しィ!なんで目潰しオアア!」

「落ち着け」

「ぐどぅふ!」

 

 

なんで蹴ったぁ………あばら数本逝ったぞこのやろう………

 

「頭冷えたかおい」

「頭どころか全身が冷え固まりそうな勢いだった、死にそうな勢いだった………ってか何しにきたんだよ!」

「散歩」

「………」

 

散歩て………散歩てなんやねん自分、あなたの散歩は他人を目潰ししてあばらを折ることなんですか?それは散歩とは言いません通り魔と言います。

 

「わかってんだろ?私に敵意がないことくらい」

「え?あ、うん、もも、もちろんわかってたよ」

「………」

 

なんだよその目、別の生き物を見るような目で見るなよ。

 

「お前が助けた人間、なんとか無事だった」

「ソーデスカ、ソレハヨカッタデス」

 

ったく、そんなことどうでもいいし。

もし死んだとしても私はできることはやったつもりだから悔いることもないだろう。

 

「なぁ、お前にもう一度聞いておきたいことがある」

「………なんだよ」

「なんで人間を助ける、まさかその頭で実は人間だから助けたとかはねぇだろ?」

「なんでや頭関係ないやろ、私は毛玉だよ」

 

おいなんだその顔は、どんだけ衝撃受けてるんだ。

毛玉が喋ったらあかんのか?

 

「存在的には妖精とかに近いらしい」

「妖精?でもお前妖力持ってるじゃねぇか。霊力もあるが」

「毛玉にも色々あるんですぅ」

 

なんで妖力も持ってるのかって、私が聞きたいわ。

なんで私だけがこんなに世界から空いてるんでしょうね全く。

 

「そうか、まぁお前がよくわからん変なやつってことは分かったが」

「おい誰が散り際のたんぽぽだこら」

「誰もそんなこと言ってねぇよ。あとお前が何かはいらん、何故人間助けるのかを答えろ」

 

そんなこと言ったってなぁ………私がやりたいと思ったからやっただけだし、それに関して聞かれてもどう答えようか。

 

「人間だからだよ、中身が」

「中身?」

「そ、前世ってあるでしょ?それが人間だった」

「そんなことあるのか?」

「実際あるんだからしょうがない。つまりそういうことだよ、自分の種族でもあった奴を殺す気にはならないし、そもそも殺す理由もないからね。それが目の前で殺されかけてたから助けてた。それだけのことだよ」

「だが私はお前のことを殺そうとしたぞ?」

 

なんだこの人めっちゃ質問してくるやん。

 

「そりゃあ私も命取られそうになったらやり返すけど、あんたは武器を下ろしてくれた。だったら私が戦う理由なんてないよ」

「………」

 

今度は黙ったよ、なんだこの人、変人か?

というかいい加減怖いんで帰っていいっすか?

 

「私がなんで妖怪狩りなんかやってるか、わかるか?」

 

え?すみませんどうでもいいです帰っていいっすか?

ダメですよねぇ………

 

「妖怪が憎いからじゃないの?」

「実のところ、別に妖怪に恨みはない」

 

じゃあ殺すなや。

 

「私が戦ってたのはそれでしか自分の価値を見出せなかったからだ」

「自分の価値?」

「昔っから私は馬鹿でな。学問もできず、女のように立ち振る舞うこともできず、力が強いだけが取り柄だった」

 

自分語り始めちゃったよ………帰っていいっすか?

 

「そうしていくうちになんかこう、全てがつまらなくなってな。周りから何も期待されず、親からは縁を切られ、何もすることがなかった。そんな時に、妖怪に襲われてる人がいたのを見つけたんだ。その辺に転がってたもので殴りつけてたら、気づいたら死んでいた。そしたら人里の奴ら、掌を返すように私を祭り上げた。その時理解したんだよ、私ができるのは何かの命を奪うことだけだって」

 

………あ、終わった?じゃあ帰るね。

ダメだよねはいはいわかってますよ………なんで自分の命狙ってきたやつの身の上話聞いてんだか。

 

「それからだ、こんなこと始めたのは。あいつらの掌返しくらったときは本当に唖然としたよ。人間価値がなければ死んでもいいんだって」

 

そんなこと思ってるのは一部の人だけだと思うけど………そんなことはこの人もわかってるだろう。

 

「お前らが羨ましいよ」

「え?」

「何にも縛られず、自由に生きていけるお前ら妖が。人間はそうはいかない、組織の中じゃないと生きていけない、弱い生き物だ。私だってこんなことをしてるのは組織の中にいるためだ」

 

人間は個として生きるには弱すぎる、か。

大きな組織の中で生きるのは楽だし、周りに同調するだけで生きていくことができる。

その分組織から外れると人間一人では厳しいことが多い。

それは前世でも変わっていない、むしろ妖怪から狙われる分こっちの方が厳しいんじゃないだろうか。

 

「私からしたら、そんな組織の中で自分の居場所を持てるあんたが羨ましいけどね。私はこんなもじゃもじゃに生まれてしまった以上そういったものの中に入ることは多分無理だ」

「確かにもとが人間ならそう思うだろうな、私がおかしいだけだよ、私だけが」

「全く持ってそのとう——がっは!みぞおち、みぞおちィィ………なんでこんなことするんだ!」

「腹が立ったから」

 

理不尽!

 

「はぁ………妖怪でも組織というしがらみに囚われてる奴はいるよ。本人たちは気にしちゃいないけどさ」

 

引き篭りとか足臭とかバーサーカーとか………

 

「私は今までどっちも見てきたから思うけどさ、妖怪も人間も、その本質は変わらないんじゃないかな。バカな人間もいればバカな妖怪もいるし、気のいい人間がいたら妖怪もいる。違うのは考え方とか持ってる力とか、そんなもんだと思うよ」

 

まぁ殴らなきゃわからないバカが多いし、殴ってもわからないどうしようも無いカスも多いけどな。

 

「そんなこと私だってわかってるよ。そういうやつは何人も見ていたが、私は構わず斬ってきた」

「じゃあ私はなんで」

「人間を襲わなかったからだよ。私が斬るのは人間を襲ってる奴だけだ、それをするのが私の価値だからな」

 

自分の価値かぁ。

それを見出せてるだけでもあんたは随分幸せだと思うがね。

 

「………なんでそんな話をこんな白いもじゃもじゃにするんだよ」

「そうだなぁ、なんでだろうな」

 

チッ、こいつもバカな人間だったか。

 

「お前が唯一まともに会話した奴だからかな。里のやつはみんな私を恐れて目も合わせない。妖怪は妖怪で私をみるなり攻撃してくるか逃げるかの二つだしな」

「そらそうだろうね。怖いもん、こうやって会話してる間もいつ首とりにくるかわからないもん」

「人間を襲ったら首取るわ」

「襲いません神に誓います」

 

正当防衛は許されるよね?

向こうが襲ってきたらやりかえすからね、許せ。

 

「………本当に、変なやつだな、お前」

「そりゃあ髪が白くてもじゃもじゃで毛玉だ前世が人間で霊力と妖力両方を使う奴だからね、変なのは承知だよ」

「そうだ、お前に聞きたいことがある」

「ん?なに」

 

馴れ馴れしいなこの人………断ったら斬られそうだから聞くしか無いか。

 

「最近人里で噂になってることがある」

「どうせあれでしょ?質屋の親父が浮気してるとか」

「なんで知ってるんだお前」

「oh………」

 

適当にホラ吹いたら当たってたでござる………なにやっとんねん質屋の親父ぃ………こりゃあ近いうちに修羅場を迎えるな。

 

「まぁそれは関係ない。最近になって大妖怪が姿を現したとかいう噂が立ってるんだよ」

「大妖怪?なにそれこわっ、どんなやつ」

「血のように赤い目、金色の髪に赤い装飾、黒い服に狂気的な笑み。満月の日に現れる妖怪らしく、とんでもない強さだって話だ」

「ふーん、そんなやつが………」

 

ん?

あれ、なんか聞いたことあるような………

赤い目、金髪、赤いリボン、とんでもない強さ………

脳内に、そーなのかー、とアホみたいなポーズをする少女と、それが背の伸びた姿が思い浮かぶ。

・・・

ルーミアやんけ。

いやまてよ?ルーミアさんとこの人がやりあったらどうなる?

天変地異が起こって天災となり、周囲は荒れ果てて血の海ができるかもしれない………

唐突に理解した。

この二人を合わせてはいけないと。

 

「………知らないなぁ」

「そうか、人外のお前なら知ってるかもしれないと思ってたんだが、当てが外れたな」

 

外れてよかったぁ。

いやもうほんと、あんな化け物とこの化け物が戦ったら世界壊れちゃうよ、遭遇してなくてよかったぁ。

 

ん?なんか後ろに気配が………

 

「そーなのか——ぷぎゃ」

「チェストオオ!」

「あ?なんか今いたような………」

「気のせい気のせい!いたとしてもあれだから、ロリしかいないから!」

「そうか?」

「そうそう!………ふぅ」

 

あっっっっっぶねぇぇぇ!!

終わるところだった、毛玉オワタになるところだった。

即座に蹴り飛ばしたしてぶっ飛ばしたからいいものを、あと少し遅かったら世界オワタになるところだった!

まぁ今は日中だからルーミアが死ぬだけで済むと思うけど。

それはそれで私は嫌だなうん。

 

「見かけたら教えてくれよ、そいつ妖怪も人間も見境なしに食ってるらしいからな」

「でしょうね………そういやあんた名前は?」

「名前?」

 

なにか考えるそぶりをしている。

もしかして今名前考えてるとか?

 

「………りんだ、りんでいい」

「絶対今考えたでしょ」

「名前なんて最後に呼ばれたのはいつか忘れたからな、自分の名前ももう忘れてるよ」

「なんじゃそりゃ………私の名前は白珠毛糸」

「そうか、いい名前だな」

「そりゃどうも」

 

そう言ってりんさんは帰っていった。

私の狩った猪を担ぎながら。

すんごい当然のように取っていったなあんた。



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質問を質問で返してはいけない

「ねぇ椛聞いてください」

「遺言ですか?」

「なんでそうなるかなぁ、件の妖怪狩りの話ですよ」

「それが遺言でいいんですね?」

 

あ、駄目だ、もう遺言にしか聞こえなくなっている。

なんで私最近こういう扱いばっかりなんでしょうか………えぇ素行のせいですよ、分かっていますとも。

 

「毛糸さんがその妖怪狩りと接触したんですがね」

「死んだんですか」

「そのすぐに死に直結させる思考やめません?まぁ私も生きてるはずないと思ってたんですけど、生きてたんですよね」

「返り討ちにでもしたんですか?」

「いや、どっちも生きてます。驚くことに和解したって言ってました、毛糸さん本人が」

「幽霊じゃないんですか?」

「実体ありましたよ」

 

幽霊って、結局それ死んじゃってますよね?生きてましたよ?五体満足で生きてましたよ?

 

「気になるんだったら今毛糸さんのこと見たらどうです?」

「あれすると目が乾くんですよね」

「え?そうだったんですか?長年貴女と一緒にいますけど今初めて聞きました」

「単純に瞬きするのを忘れるからなんですけどね」

「………それでですね、本人に聞いたら和解したって言ってたんですよ」

「へー、それで?」

「えっと…それでですね、夜に襲われる人間の数が減って、死んでいる妖怪の数も減ったようなんです。何か関係あるのかなぁと」

「すみません私興味ないんで帰ってもらっていいですか」

「………会ってみません?」

「………」

「無視はしないでくださいよ………」

 

 

 

 

「で、何しに来たん」

「やけ飲みです」

「帰れや」

「おつまみとかないんですか」

「帰れって」

「毛糸さんも飲みます?」

「………帰れよ」

「もう明日は仕事休みます」

「か、え、れ、や」

 

何しにきたんだこいつ………ラッパ飲みしてるし。

二日酔いで動かなくなっても知らないよマジで。

 

「嫌なことでもあったんじゃないですか?」

「いや、だとしても私関係な………大ちゃん?何しれっと入ってきてんの?」

「あたいもいるぞ」

「………」

 

なんなんお前ら………

 

「まぁまぁ、そんな日もありますって、今日は飲みましょうよ」

「お前が言うな——くっさ!酒くっさ!ちょ、こっち寄ってくんなし!オエッ」

「酒っておいしいのか?」

「私たちは飲めない飲み物だよチルノちゃん」

 

お前ら、時代が時代なら不法侵入で訴えてるからな………あと私は酒飲めないんで酒瓶こっちに近づけてくるのやめてくんない?殴るよ?マジで。

 

「毛玉のくせに一丁前に家なんか建てちゃって」

「あぁん?自分らは食い物あるからいいじゃん」

「お金貯めたら一軒家買えるんですよ天狗って」

「じゃあ仕事頑張りなさいよ」

「やってるんですけどねぇ、なかなか買えないんですよこれが。なんでかなぁ、やっぱり仕事抜け出してるからかなぁ」

「おい」

 

本当に何しにきたの?嫌がらせ?嫌がらせなら柊木さんにやってきてどうぞ。

 

「聞いてくださいよぉ〜」

「知らん、帰れ、帰れ帰れ」

「最近みんなの私の扱いがひどいんですよぉ、上司には挨拶しても無視されるし、部下からは目があったら舌打ちされるんですよ。椛ですら私を無視するようになっちゃって。私何か悪いことしましたか?生まれてこの方善行しか積んでないと思うんですけど」

「どの口が………屋根壊されて嘔吐物ばら撒かれて不法侵入されてるんですけど私は」

「いったい誰がそんなことを」

「お、ま、え、だ、よ」

 

あ、ちょチルノ!その毛玉に触るのはやめなさいって前も言ったでしょうが!だから凍らしたらダメだって!大ちゃんも止めて、ってなに微笑ましい表情浮かべてるんですか!?目の前で尊きもじゃの命の火が消えようとしてるんだよ!?

 

「それでまぁ、真面目な話をさせていただきますとね?」

「え?なに、真面目な話って。おいチルノ離れなさい」

 

文が椅子に座り直して手を組む。

その座り方は………司令座り?

 

「………どうやったら働かずに暮らせるんでしょうね。いたっ!氷投げつけないでくださいよ!」

「そういうことばっか言ってるから無視されるんだろ!?」

「毛糸さんは無視しないじゃないですか」

「屋根に穴開けて嘔吐物撒き散らして不法侵入したやつを無視しろと?訴えるよ?」

「その節はどうも」

「どうもじゃないんだよ!帰れよ!頼むから!」

「なにを言ってるんだここはあたいの城だぞ?」

「毛糸さんの家でなくチルノちゃんの城なら天狗の私がいても問題ありませんねー」

「刻むぞ貴様ら………」

 

よしわかった、肉を捌くためのナイフ持ってきて貴様らを捌いてやる。

 

「それで?例のあれ、えっと………そうだりん、りんって人とは今のところどうなんです?」

「………はぁ、本音はそれか」

「さっきのも本音ですよ?」

「だとしたらニートの素質あるよ」

「言っておきますけど、これも立派な仕事なんですよ?山の周囲の情勢を調査した上に報告するという」

「あなたのその仕事というのは人の家で酒を飲むことなんですか?違うよね?」

「経費で落ちます」

「おかしいだろ天狗社会………」

「で、これが手土産です」

「え?あ、どうも………酒?」

 

手渡されたのは紙に包まれた酒瓶のようなもの………酒飲めないんすけど?

 

「貴重なものですよそれ」

「なんかいい銘柄なの?」

「それは昔山にいた鬼が好んで飲んでいた酒です。鬼がいなくなった今となってはもう飲まれることも作られることも無くなった貴重なものです。お納めください」

「お、おう………つまり在庫処分?」

「その通り」

 

その通り、じゃないんですが?

 

「ちなみに、鬼ってどれくらい酒飲むの?」

「そうですねぇ、昔の話だからあまり覚えていませんが、確か樽一つは丸々飲んでた気がします」

 

そんな奴が飲むような酒?

絶対度数高いよね?急性アルコール中毒で死んでしまいますよ私。

 

「まぁそんなことはどうでもいいんですよ」

「どうでもいいの?私の家に飲んだら死ぬ劇薬が置いてあるようなもんなんだけど、どうでもいいの?」

「いいんです、それよりそのりん、って人ですよ」

 

やっぱりそれが聞きたいんじゃないか………

 

「どう話をつけたんです?」

「話ってなによ」

「狩られている妖怪の数が減っていることですよ。激減とまではいきませんが、山が把握できる程には減っています。あなたがその人と接触してからなんですよ、これ」

「私特になにもしてないけど?」

「あの後もなんどか接触してるみたいですし、なにしてるんです?」

 

何かと探りを入れてくるな………まぁ考えは大体読めるけど。

 

「私が人間たちと繋がってないか、とか疑ってたり?」

「いえいえそんな、滅相もない。ただ気になっただけですよ、それだけです」

「本当かなぁ?まぁいいや、ただよく会うだけだよ、その度に軽く話をしてるだけ」

「話ってどんな」

「そんなことまで聞く?んー………この前は人を襲ってない妖怪は殺さないように死ぬ気で説得したね」

「あー………それですね多分」

 

納得がいったような顔をしてまた酒を飲んだ文。

飲み過ぎじゃない?何回も言うけど知らないからね?動けなくなっても知らないからね?

 

「じゃありんさん、何もしてない関係ない妖怪も殺っちゃってたってことか………酷いなぁ」

「本当ですよ、状況変化が目まぐるしくて上だけじゃなく下まで全部がごちゃごちゃとしてきて………あと少しでなんとか落ち着きそうです。思えば最近みんなが冷たかったのはそれで疲れてたからなんでしょうねぇ」

 

いや、多分それは関係ないと思う。

単純に普段の行いが悪いせいだと思う、それに気づかないのがダメだね。

 

「それで、そのりんさんのお人柄をお聞きしたいんですけど」

「そんなことまで聞いて、本当にどうするんだよ………まぁ相手が妖怪じゃなかったら会話はできるんじゃない?」

「なんですかそれ、じゃあ私たち絶対会話できないじゃないですかぁ」

「その酒癖直したら喋れるんじゃね」

「適当なこと言わんでくださいよ」

 

じゃあ人の家で酒臭い息を吐き散らさないでくれと。

その息じゃ会話もままならないぜ。

 

「チルノちゃん駄目だよ飲んだら」

「なんで?あの人すごい飲んでるよ?」

「それはあの人がやけになってるからだよ」

「正解なんですけど、そう言われるとなんだか傷つきますね………」

「傷つくんだったら飲むのやめたら?」

「これがやめられないんですねぇ、毛糸さんも一度飲んでみたらどうです?」

「だから私は飲めないっ何回言ったらわかるんだよ」

「飲まず嫌いは駄目ですよー?」

「いや飲んだことあるから、事故で」

 

あの時は気絶したなぁ、うん。

そこまで度数が高くない酒なんだったら、そんなもので気を失う私は本格的にお酒なんて飲まないと思う。

そりゃあ毛玉が酒なんて飲めるわけないよね、当たり前だ。

そういえば妖精って飲めるのかな?大体幼女だけど、大ちゃんあたりならもしかしたらいけるかもしれない。

だってなんか大ちゃんだけ格が違うから。

とりあえず私は酒は飲まない。

 

「じゃあ用も済んだだろうしそろそろ帰ってもら………寝ている、だと」

「すみませんチルノちゃんがお酒飲んで気絶しちゃったんですけど」

「バカなのか?いやバカだったな。困ったな………しょうがないし、チルノは布団で寝かすかぁ。大ちゃんもいっしょにどう?」

「ありがとうございます、心配なのでそうします。それで、その人はどうするんですか?」

「んー?まぁ、大ちゃんが気にすることじゃないよ。チルノ運んでおいて」

 

布団、一つしかないけどな。

まぁ私はいいや、大ちゃんはチルノと一緒の布団でも寝れるだろう。

妖精って寝るよね?大丈夫だよね?

そして文は………

この世界美形多すぎて少し感覚狂ってきたんだけど、こう見たら美人がでろでろになって寝てるんだよね、他人の家で。

なかなか危ないと思うんですよ。

そしてそんな美人が嘔吐して屋根に穴を開けるんだよなぁ。

今更ながら、この世界やっぱり狂ってやがるぜ。

 

 

 

 

「引き取りに来た」

「毎度毎度、ご苦労な事っすねぇ。大丈夫?職場に不満ない?こんなパシリみたいなことされて辛くない?」

「辛い、面倒くさい、寝たい、働きたくない、寝たい、腹が立つ、寝たい、悔しい、寝たい、それだけだ」

「こいつぁ重症だなぁ」

 

翌朝、結局柊木さんが迎えに来た。

私思うの、この人ストレスめっちゃ溜まってるんじゃないかって。

 

「こいつを迎えに行くのも上司に命令されてるんだよ。断ったら減給」

 

あらなんてブラックな職場なんでしょう。

後ろで頭抱えてうずくまってる文を引き渡し、持っていってもらう。

 

「なんか……肉みたいな匂いと酒の匂いがするんだが」

「さすが白狼天狗、関係あるのかはわかんないけど鼻がいいね。勝手に人の家に来て酒飲んで寝やがったから肉を干してる部屋に突っ込んでやった」

「よくやった」

「いやいや」

「酷いですねぇ………」

 

何度も言うけど日頃の行いだからね。

嫌なら改善してどうぞ。

 

「そういえばお前、よく生きてたな」

「なにが?」

「妖怪狩り、和解したって聞いたんだが」

「んー?まぁ人を襲わない妖怪は殺さないように言っただけだよ。素直に聞き入れてくれて本当によかった」

「すごいなお前」

 

どうした急に、褒めても抜け毛しか出ないぞ。

なに言ってるんだ私は。

 

「普通の妖怪なら人間と会話しようなんて気にはならないからな」

「まぁ私毛玉ですし」

「だとしてもだ、どちらにせよお前は人間じゃない。そんなお前が人外に敵意を剥き出す相手と話をしたんだ。お前は………」

「まぁ柊木さんにもその辺のことは今度教えてあげるよ。私はただの毛玉、白珠毛糸。それだけだよ」

「………あぁ、そうだな」

 

私の前世が人間だと言うことは、あまり言いふらすつもりはない。

言ったところでなにか意味があるわけでもない。

私は毛玉だ、それだけ。

例え世界から浮いていたとしても、これは変わらない。

 

「柊木さん、帰る時はあんまり揺らさないでくださいね」

「吐いたらその時点で地面に放り投げるからな?」

「吐いたら柊木さんのせいです」

「は?ふざけるなよお前」

「いいから早く帰ってくださいよ………」

「はぁ………もうやだ仕事辞めたい」

 

同情するよ………まぁそんなもんだよね、仕事なんて。

文を浮かして持っていってもらう。

酒に酔った女をお持ち帰りする男の構図ができてる………どうでもいいか。

あ、吐いた。

浮かすのは不味かったかなぁ?

 

 

そんな二人の姿が、山の中に消えるまでずっと見つめていた。

 

「はぁ………やれやれ、来客が絶えないなぁ」

「迷惑だったかい?少し寄っただけなんだが、なんなら帰るぞ」

「いやいいよ、そんなこと言って本当は帰る気ないんでしょ?りんさん」

「よくわかってるじゃないか」

 

はぁ………なんだか忙しいなぁ。



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今ならム○カ大佐の気持ちがわかる気がする毛玉

「ん?お前酒なんて飲むのか?」

「いや、それさっきの人が置いてったやつね。というか、あともう少し来るの早かったら軽く修羅場になってたね」

「その辺はちゃんとわかってるよ、あいつらが去った後に来ただろ?」

「じゃあつまり結構な時間あそこで待ってたってことか………なんか意外だよ、そーゆー配慮するの」

「まぁ、知り合いの交友関係なんかどうでもいいからな」

 

知り合いねぇ。

私は自分のこといろいろ話したけど、りんさん素性を全然明かしてくれないじゃないか。

そっちが一方的に私のこと知ってるだけだけどねぇ。

 

「奥にいる二人はお前の家族か何かか?」

「家族ではない………というかよく気づいたね。やっばり気配とかでわかるの?」

「まぁな」

 

この人本当にやばいと思う。

時々思う、こういう異世界転生みたいなのって大体転生したらチート能力得るじゃない。

私も毛玉にしてはまぁおかしい存在だと思うけど、なんで周りの人たちの方がチートしてるんだろうね。

幽香さんだったり、いつかのおっさんだったり、ルーミアさんだったり、りんさんだったり。

私なんて宙に浮くことしか出来ないんだよ、大体みんな空飛べるのに。

浮く必要なんてどこにあるんだろう。

 

「はぁ………で、今日は何の用?私眠いんだよ」

「まぁいいたいことはそんなにないんだが。人里に行ってみないか?」

「は?」

 

なにを言ってるんだこの人は………そうか、バカなのか、やっぱりこの人もバカなのか。

バカならしょうがないね、うん。

ん?

 

「——いったぁ!だからなんで目潰しぃ!?」

「なんか腹が立ったから」

 

は!りんさん心読めるんですか?すごいね、さとりんみたいだ。

まぁ冗談はさておき………どういう魂胆だ?

 

「えっと………私は人間じゃないでしょ?」

「そうだな」

「私がそんなところ行ったら絶対攻撃されるでしょ?」

「そうだな」

「………なんで急にそんなことを?」

「そうだな」

「おいぃ………そうだなばっか言ってんじゃないよ」

「そうだな」

 

………ばなな。

んー………なに考えてるのか全くわからない、こういう時には心を読めたら便利だなと思う。

 

「単なる気まぐれだよ、気まぐれ」

「あんたは気まぐれで人に行ったら確実に死ぬ場所に行けというの?」

「そうだが」

 

なんなんだこいつぅ………本当になに考えてるんだ?私を殺すなら今この場で首を刎ね飛ばせばいいだけだし………考えが読めない、ってかなんなんだこの人は。

文が置いてった酒を当然のように持ち帰ろうとしてるし、まぁ誰も飲む人いないからいいんだけどさ。

 

「話がはっきりしないなぁ、要するにどういうことなんだよ」

「お前元は人間なんだろ?じゃあ一度人里を見ておいた方がいいんじゃないかと思ってな」

「あ、そゆこと。別にそれは構わないけどそんなことできないでしょ?」

 

なんで人里ができたのか。

それは簡単な話、妖怪たちから自分たちの身を守り、死なないためにそういう組織ができた。

そんな場所に人ならざるものが入り込もうものなら、人間が全力でそいつを排除しようとするだろう、なにもおかしくない、当然のことだ。

それをこの人は何食わぬ顔でそこに行ってみないかと………やっぱりこの人バカなんじゃないか、いやバカだ。

 

「おっと目潰しはさせな——んがぁ!は、鼻フックだと………ていたいいたい鼻、鼻取れるからやめて」

「やっぱりお前なんか腹立つわ」

「エスパーかな?というか人の鼻に指突っ込んだまま会話するつもり?」

「私は別に一向に構わないが」

「すみません離してください鼻取れます」

 

いったぁ………すぐ乱暴するんだから全く、自分がどれだけ化け物なのか少しは自覚していただきたい。

あなたがちょーっと力を出して私を目潰しするだけで血涙不可避になるからね。

 

「で、本気で言ってんの?」

「そうだが、何か問題でも?」

「問題って………別にあんたを疑うわけじゃないけど、流石にそりゃあ無茶がすぎるってものでしょーよ。どれだけ人里が人外を嫌っているかは私でもわかってるよ?」

「安心しろ、もうすでに人外が一人住み着いてる」

「は?」

 

この人今なんていったん?

………

 

「いやいやいやいやいやいやいやいや、いやぁいやいや、何言ってんの?いるわけないじゃん、仮にいたとしたら大問題でしょ?」

「いるんだよ、女の半妖」

「半妖?」

 

半妖ってなんだ………半分妖怪?どういうこと?半分妖怪で半分人間なの?仮にそうだとしてどうしてそんなやつが?

 

「迫害とかされないの?半分妖怪だとして、そんなのが人里で認められるわけ?」

 

相手が何者であろうと余所者に厳しいのが人間だ。

突然素性の知らないやつが田舎に引っ越してきたらそいつは大体ハブられる、偏見もかなり混ざってるがそういう印象なのは間違い無い。

それも人類の敵である妖怪が混じったやつなら、夜に寝首をかかれてもおかしくない。

 

「されてるし、認められてないよ」

「じゃあなんでそいつは………」

「半分人間だからだよ」

「え?」

「例え半分だけ妖怪だろうが、もう半分は人間なんだ。どっちの血が濃いかによるかもしれんが、そいつは人間に近いんだろうよ。半分人間なら人間の味方してもおかしくないだろ?」

「それは、そうかもしれないけど………」

 

その人の生まれた経緯とかにもよるんだろうけど………まぁ普通じゃない人生を送ってるのは確かだろうな。

自分とは違う存在の集団の中に入ろうとしてるんだ、そうとう苦労してるんだろうなぁ。

本意はわからないけど。

 

「そいつにお前を会わせたくてな」

「合わせるって、りんさんはその人と面識あんの?」

「いや、顔を見たことがある程度だ」

 

こわいよ、コミュ力ありすぎて私こわいよ。

顔を見たことがあるだけで知り合いを合わせようなんていう思考になるあたりがやばいっすわー。

 

「あいつもお前と同じ、周囲とは少し違った存在だ。私としても人を襲う気がなくて妖怪か怪しいやつを狩る気にはならない」

「私蹴られて骨が折れたんですけど」

「どうせすぐ治るだろ?」

「痛いもんは痛いんだよ、あんたいっつも気軽に人の骨折ってんの」

「妖怪の首なら折るが」

「………」

 

あんた首を折らなくてもやれるでしょーに。

もし私が人間を襲ってたらまず間違いなく処されてたね、襲わなくて良かったー。

見た目はもじゃもじゃ中身は人間。

 

「別に会うのはいいんだけどさぁ、会うって言ってもどこでさ。私湖の周りしか行ったことないから会うならそこなんだけど」

「いや、人里の中に入るが」

「あーやっぱりそだよねー」

 

そういうと思ってましたよええ。

昼間は人が多いから入ったら簡単に見つかるだろうし、夜は夜で見張りの人とかりんさんみたいな強い人がいるかもしれないし。

どーするつもりなんだろうこの人は。

バカなのかな?

 

「おっとそうはいかな——ぐふぉ」

 

目潰しと鼻フックを阻止するために手を顔に当てたらグーが飛んできた、グーで殴られた痛いです。

 

「お前が妖力を隠せたらその点は問題ない」

「はい?」

「お前の妖力、相当強いだろ?」

「え?まぁ」

 

幽香さんのだからなぁ………幽香さんの妖力が強いのであって私が強いわけではない。

大体私の霊力と妖力はもともと他人のもので………いやそれはいいか。

 

「お前の妖力は量はともかく質はそれこそ大妖怪のそれだ。そんなものを垂れ流してたら人里の外からすでにやり合うことになるだろうな」

「一応妖力引っ込めれるけど………こんなんでバレないの?」

「まぁまず間違いなく勘づかれるだろうな」

「ダメじゃん」

「それでこれだ」

 

と言って懐からなんか紙切れみたいなものを取り出したりんさん。

なんすか、それ。

 

「これは陰陽師とかが使う、まぁお札だな。わかるか?」

「わからなくはないけど………それをどうすんの?」

「こうする」

「え?」

 

ペタッとはっつけられた。

顔面に。

 

「え?なに?え?なにしてくれてんの?」

 

………外れない。

顔面にピタッと引っ付いたまま外れない。

 

「………え?外れないんだけど?え?なにこれどういうこと?えっえ、なにこのお札、怖いんだけど」

「それは妖力を封じる札だ」

「………ふぁ?ふぁ!?なにつけてんのあんた!え、ちょ、外れない、んごおおおあデコ痛い。外れないんですがこれ」

「妖力に反応して一度引っ付くと外れなくなる、私がやると」

「あ、外れた。人間には取れるのか?どういう仕組み?」

「知らん」

「だよねー知ってた」

 

不思議なものがあるもんだなー、やっぱりこの世界おかしいね。

私という存在そのものが不思議でおかしかったですはい。

 

「本来妖怪は妖力に主軸を置いてるから、妖力を封じられたら身動き取れないはずなんだが、お前の本質はその霊力だろ?だから動ける。貼ってる間は自分では外せないし妖力も使えんが、あとはその頭どうにかしたらいけんだろ」

「なんか適当に聞こえる………というか結局最後は頭なんだねぇ」

 

髪を下ろして黒くしたら完全に私の特徴がなくなってしまう。

ただの一般人である。

いや、人じゃなかったわ。

 

「まぁ頭なんてなんか適当に被ってたらなんとかなるだろ」

「でも普通の人間より私は霊力多いよ?妖力は気付かれないとして、霊力は気付かれるんじゃ?」

「人間にもいろいろいるんだよ、私みたいなやつとかな。それに霊力が多いくらいでいちいち反応してちゃあ手が回らんだろうよ」

「そーゆーもんなのね………そういえばりんさんは人里の守護とかはしないのね」

「外に行って首を刎ね飛ばす方が好みだ」

「お、おう………」

 

やっぱ怖いわこの人。

 

「それと、前々から気になってたんが」

「なんすか」

「お前、風見幽香となにか関係あるのか?」

 

おーう………有名人っすね、幽香さん。

 

「んー………まぁ気付いてるとは思うけど、私の妖力は幽香さんものなんだよね」

「やっぱりかぁ、なんか感じたことあると思ったんだよ」

「会ったことあんの?」

「昔にな。一回喧嘩売ってあと少しで死ぬところだった」

「なんでそんなことしたんだよ………ってかなんで生きてんの」

「あの時は首の骨折れた気がするなぁ」

「ほんとになんで生きてんの?」

 

なんてことしてるんだ………ってか幽香さんがその気になるって、なにしたんだ?あの人そんなに喧嘩っ早い人でもないと思うんだけどなぁ。

話したことないけど。

もしかして植物を踏み潰したりしたの?やばいわ、やばいわこの人、あの人相手になんでそんなことするのかってのもあるけど、生きてるのがやばいわ。

 

 

「で、なんでその妖力持ってんだ?」

「なんでって、ただ単にまだ人の形に慣れてない毛玉の時に、幽香さんの周りうろついてたらいつの間にか持ってたというか………」

「なんでそれで妖力手に入れるんだ………?まぁいい、多分お前が今みたいになったのは多分そのせいだ」

「え?」

「手に入れた妖力がなんやかんやでお前を人の形にしたってことだ」

「なんやかんやって………まぁいいや、それより随分詳しいんだね?妖怪とかのこと」

「殺す相手について学ぶのは当然だろ」

「ア、ハイ、ソッスネ」

 

いつか人間と人外が仲良くなれる日が来るといいなぁと、切実に思いました。

 

「話は戻すけど、その人ってどんな人なの?」

「あー、確か種族ははくたくとかなんとかって聞いた気がするな」

「はくたく?」

 

はくたく?

はくたくってなに?

待って、何かを思い出しそう。

はくたく………はくたく………は

 

「神獣じゃね!?待って待って!なんでそんなど偉い方が人里にいんの!?あとなんで半妖!?白澤って半分人間になれんの!?そんなことありえんの!?ふぁ!?ふぁああ!?」

「落ちつけ」

 

また目潰しぃぃぃぃ!!

なんでそんなに目潰しばっかりするんだよ。

 

「いやでも白澤って言ったらあれだよりんさん、聖獣とか神獣とか呼ばれてるやつだよ?」

 

そもそも絵によってはクリーチャーと化すあれが人里にいるの?

あ、でもどうせまた美人にでもなってるか。

いや待てよ?男だった場合はファッションセンス皆無で女遊びが好きな変人になるわけだから、女になったら逆に男遊びが好きな変人になる可能性が………

 

「その人変人じゃない?」

「喋ったことないから知らん。というか立場が立場だし変なことできないだろ」

「確かに」

 

それでも神獣ということは変わらないわけで………というか半分人間なの?半分神獣なの?そんなのありえるの?というか白澤は妖怪なの?神獣なのに?

でも広い目で見たら神獣も妖怪なのか………

うーん、この世界ややこしい。

というか、どうやったらそんな半妖なんて生まれるの?

人間と白澤がやっちゃったの?やってできた子がそんな感じで生まれてきたの?

そもそも人間と白澤がやっちゃうってどういう——

 

「あ、すまん力入れすぎた」

 

眼球貫通した。



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見てはいけないものをことごとく見る、そんな日

やってきました人里。

から500メートルくらい離れてる場所。

ここでりんさん待ち合わせって言ったのになぁ………なにかして待ってるか。

 

 

「ジャンケンポン、あいこでしょ、あいこでしょ、あいこでしょ、あいこでしょ、あいこで………」

虚しい、めっちゃ虚しい、虚無値高い

にしても来ないなぁー、待ち合わせ時間間違えた?

まだ結構明るいし、早く来すぎたのでは?

うーむ………暇だし回っとくか。

 

 

 

 

「何してんのお前」

「人間ベイブ○ードしたらめっちゃ酔った………というか何してたのりんさん」

「首とってた」

 

その謎の言葉が気になり顔を上げると生首が2つほど並べられていた。

何してんすかこの人は………びっくりして吐きそうに、うっ。

 

「危ない危ない、吐くところだったぜ………」

「まだ時間あるなと思って、近くにいた妖怪やってきた」

「やってきたって、人間襲ってないやつやってない?」

「大丈夫だ、全員私を見るなり攻撃してきたからな」

 

そりゃあんたみたいな化け物が突然現れたら誰だって警戒しますよ、だって怖いもん。

白昼堂々刀持ち歩いて殺気ビンビン放ってる人が突然現れたら逃げるか戦うか命乞いするかくらいしかなくなるじゃん。

私なら命乞いする。

 

「時間調整してたんだよ、今くらいの時間が人が多くて紛れやすいんだ。ほらいくぞ」

「いやまって、そんな人に会う覚悟がまだ………」

「刺すぞ」

「イキマス」

 

刺すぞって、刺すぞって………指で?

その指で私の眼球を?もう目玉を再生するのは嫌だ。

そもそも視覚がなくなるだけで結構不安になるのに………目って繊細なんだからね、この前のなんか完全に直るのに丸一日かかったんだからな。

すごいチルノにいたずらされたんだからなこのやろう。

一日で治るのがおかしい気もするけど。

そもそも普通は治らないよねぇ。

なんて便利な体なんだろうか、

 

「おら」

「んがっ。いきなり貼ってくるなよ………」

「お前いちいち拒否してくるだろ、面倒くさい」

 

なんでや拒否権ください。

 

「はぁ………嫌だなぁ」

「何が嫌なのか知らんが、なんやかんやでついてきてるあたりお前も興味あるんだろ」

「まぁね」

 

何が嫌かってあんたに物理的なパワハラうけることが嫌なんだよ。

まぁ私自身、りんさんの話にのったのは、私もその半妖の人に会ってみたいと思ったのもそうだし、人間が妖怪たちをどういうふうに思っているかが気になるからだ。

私個人としては、ぜひ人間と共存して生きていきたいのだけどなぁ。

もし可能になるとして、一体何十年後になることだろうか。

 

「ん?まって顔面にこれつけられたら怪しまれるじゃん」

「………あ」

「あ、じゃないよ早く貼り替えてよ」

「………別にそのままでも良くね」

「いいわけないでしょーが!!」

 

いてっ!乱暴に剥がすな!

 

「ぐふぉ………なぜ腹に直接………」

「服の下ならわからないだろ」

「わだじの体はボドボドだぁ!」

「おっそーか」

「………」

 

 

 

 

「ねぇ怖いんだけど、みんな私のこと見てない?気づかれてるよねこれ、早く逃げないとやばいよねこれ」

「大丈夫だ、誰もお前のことになんか興味ない」

 

ちょっと心に刺さりそうなその言葉やめてくれない?

あ、今目があった、もうダメだおしまいだぁ。

 

「ん?なにあのいかにもって感じの服着てる人」

「陰陽師だよ、見たことなかったのか?」

 

何故だか今まで会ったことがありませんでした。

うーん、陰陽師だぁ。

着てる服から持ってるものまで全部陰陽師だぁ。

 

「普段は人里中じゃなく外や入り口にいるはずなんだが、多分あれは買い出しとかに来てるな」

 

よーするにパシリじゃね?

確かに持ってる霊力の量もりんさんより全然少ないみたいだし、お金持ってるし、パシリだな。

柊さんと似た何かを感じる。

 

「あ、目があった。りんさんは普段人里の中じゃ霊力も一応抑えてるんだね」

「まぁな、別に垂れ流していいことないし」

 

妖力や霊力などは、意識していないときはその気配のようなものが周囲に漏れる。

わかりやすく言ったら妖気とかに近いんじゃないだろうか、オーラみたいなものだ。

別に妖気出したからといって妖力が減るわけじゃない、ただこれを放出していると割と周囲の人に見つかる。

妖力はお札で強制的に抑え込んでるけど、霊力は構わず出るから霊力は霊力で抑えなきゃいけない。

 

「これ貼ってるとさ、吐き気がするんだよね、腹に貼ってるせい?」

「知らね」

「だよねー」

 

 

歩き続けていると、だんだん人のいないところにやってきた。

ここまで来てわかったけど、やっぱり時代相応の暮らしをみんなしているようだ。

服装も貧相なものだし、髪色も黒だしやっぱりおかしいのは妖怪妖精連中だけだったよ。

まぁりんさんも結構美人なんだけどさぁ………私の知り合い美人しかいねぇなぁこれ。

あ、柊木さんいたわ。

 

「着いたぞ、ここだ。多分」

「最後の要る?ちょ、押すなよ」

 

確認しろってか?自信ないから確認してこいってか?

心の用意が………はい行けばいいんですねわかりました。

背中すごい押してくるからしょうがない、入り口を開き中の様子を覗き込む。

 

「失礼しま——」

 

秒で出た。

 

「あー違ったかー」

「マジかよ………こんな昼間から………昼間からそんなことを………」

「おい、一体何を見た」

「へっへっへっへ………」

「壊れた?」

「はっはっはっはぁ………よし、気を取り直して、次はどこのに行けばいいんだよ、あと場所覚えてから呼んでよ」

「あ、あぁ、すまない」

 

なんでそんな申し訳なさそうに謝ってるの?ちょっと何やってるかわからないです。

さぁ次の家へ、当たるまでやってやるよ!

 

「あー、そこだった気が………」

「はいはい、見ればいいんでしょ見れば。お邪魔しま——した」

「早いな」

「いやぁ………」

 

あれは………うん………

 

「その白澤の人はさぁ………見た目若いよね?」

「あぁ、そうだが」

「中におばちゃんがいた」

「あぁ、そうか」

 

おばちゃんがいた、うん、おばちゃんがいた。

中にはおばちゃんがいただけ、私はそれ以外何も知らない。

 

「なんか………すまん」

「いいよ………もう」

「………」

「………」

 

 

 

 

「ここが………今度は大丈夫だよね?もう日が暮れようとしてるよ?ねぇ大丈夫だよね」

「あぁうん、大丈夫大丈夫。間違いない、思い出したから」

「本当かなぁ?」

「私を信じろ」

「無理だよ、前科ありすぎるもん」

 

一体何度私が記憶を消したと思っているんだ。

一体何度私が、見ては行けないものを見てしまった………てなったと思っているんだ。

というか、みんな家の中で変なことしすぎでしょ、そりゃあほぼ不法侵入みたいなことやってる私が悪いのかもしれないよ?でもそんなことばっかしてて災害とか来たらどうするの、すぐに逃げれるの?無理でしょ?

 

「まぁ………この家だけ周りになんもないとこにあるし、もはや人里の外って感じすらするし、それっぽいけどさ」

「だろ?」

「じゃあなんでこんなわかりやすいところ忘れちゃうのさ」

「あんまり細かいこと言ってると刺すぞ」

「アッハイ」

 

私とあなたではナ○パとカカ○ットくらい戦闘力に差があるんです、あんまりそうやって脅さんでください。

目の前の家は割とこじんまりとした小さな家。

それでも一人で住む分には十分な大きさだろう。

というか、人里ってかなりでかいね。

村が少し集まった程度かと思ってたよ。

現代の東京相当の繁栄具合なのかもなぁ。

 

「これ中に人いるよね?」

「あぁ、気配はするな」

「妖怪?」

「そうだな、人間の中に妖怪が少し混ざった感じだ」

「わかるんならなんでさっきまで気配で探さなかったの?」

「刺す」

「待って」

 

なんなんだこの人は………とりあえず会ってみるか。

えっと………とりあえず話しかけるか。

 

「すみません!誰かいらっしゃいますか?」

 

………あれ?居留守?

 

「あぁ、今行く、待っていてくれ」

「お、いたな」

「いたね」

 

あっ、やばい、急に心臓鳴り始めた。

そうだよ今から会う人は神獣やら聖獣やらと人間のハーフじゃん、設定めっちゃ盛ってる人じゃん。

あっ、やべ、死ぬわ、なんか死ぬわ私。

あわただしい足音がだんだんとこちらは近づいてくる。

 

そして、扉が開かれて放たれた言葉が。

 

「うわ、なんだこの毬藻頭」

 

………

んだとこのっ、だれが漂白剤でなんやかんやされたス○モじゃこのっ………

よし、落ち着けぇ、落ち着け私ぃ………

 

「ふぅ………深呼吸、深呼吸だ私」

「………ま、こいつは置いといて。あんたが半妖だな?」

「あぁ、そうだが。貴方は人間のようだが、そこの白いまり——」

「毛玉ですッ!!」

「あ、あぁ、そうか………で、なんの用だ?そもそもここの周りには陰陽師やほかの妖怪狩りもいたはずだが、どうしてここにいる。それに貴方は妖怪狩りじゃないのか」

「ありゃ、私はそんなに有名になってたのか」

「人外界隈ではわりと有名っすよ」

 

気持ちを落ち着かせ、目の前の女性の姿を見る。

白っぽい髪に洋服のようなもの………

あんたもその口か………

まぁそれはともかく、これまた結構な美人なことで。

 

「あ、ここに来た理由だったな。このもじゃもじゃ、前世人間だったらしい」

「は?」

 

おう、すっげぇ何言ってんだこいつって顔で見られてるぜ。

やめて、そんな目で見ないで、泣いちゃう。

 

「それであんたは人間と友好関係築きたいって思ってるだろ?それはこいつも同じみたいなんだよ」

「なぜ貴方は私のことをそれほど知っている?」

「色んな話が入ってくるんだよ、なんならあんたを退治してくれって依頼も何度か来てる」

「そうか………やっぱりそうか………」

 

すごく残念そうな顔をしてる。

そりゃそうか、自分は努力してるのにそれがまったく相手に通じてないんだもんなぁ。

 

「まぁ今日の私はあんたをやりに来たんじゃない。単にこいつを合わせたかっただけだ」

「あ、どうも」

「どうも、まぁせっかくの来客だ、中で話をしよう」

「あ、はい、では失礼して………」

 

なんか知らないうちにお邪魔する感じになっちゃってるぅ!なにこれ、どゆことこれ、おのれりんさん、勝手にぱっぱと物事進めよって!

 

「私は外で待ってる」

 

は?

いや来てよ!寂しいんすけど!

とは流石に言えないので黙って半妖の人についていく、すると居間のような場所へ案内された。

座るように促されたので正座する。

なぜ正座かって?謎の使命感かな。

うん、自分でもなに言ってるかわからない。

 

「え、えーと………お名前をお聞きしてもよろしいですか?」

「上白沢慧音だ。………そんなに畏まらなくてもいいんだぞ?」

「いやあの、気にしなくていいんで」

「いやでも」

「本当に!いいんで!」

「あ、あぁ、わかったよ」

「あの、私は白珠毛糸です」

 

よし、自己紹介終えた!

帰る!

 

『刺す』

 

「へ!?」

「どうした?」

「い、いやあの、なんでもないです」

「そうか、ならいいんだが」

 

まさかとうとう幻聴が聞こえ始めるとは………とうとう私も頭がおかしくなってしまったらしい。

いや、もともとおかしな頭してたわ。

 

「で、さっきの話だが………前世が人間というのは本当か?」

「えぇ、まぁ」

 

時代は違うんだけどね。

 

「人間を襲おうとは?」

「思いませんよ、そもそも私毛玉だし、襲う理由がありません」

「そうか、そうか」

 

なにか考え込んでしまった。

んー………気まずいな。

 

「あの、半分人間で半分白澤ってのは?」

 

あと上白沢って白澤をもじっただけだよね。

 

「あぁ、間違いない。といっても、私はそういう生まれ方をしたんじゃなく、もともと人間だったんだ」

 

なるほど………つまり人間と白澤がやったわけじゃないんだね。

でも一体どうやったらそんなことになるんだろ。

まぁこの辺は流石に聞けないからなぁ。

 

「次は私が聞いていいか?」

「どうぞ」

「人里で噂になっていた、人間を助ける白いもじゃもじゃとは貴方のことか?」

「えー、はい、多分そっすね」

 

なんで白いもじゃもじゃなんだろう………私が白いもじゃもじゃだからか。

 

「では………あなたは人間と妖怪、どちら側だ」

「どちら側?」

 

全然そんな気しないけど私精霊なんすけと。

どちら側、かぁ。

 

「どっちでもないんじゃないですかね。少なくともどちらか一方だけに肩入れするような真似は今まではしてないから。私を襲ってくるなら、人間だろうと妖怪だろうと関係なくやるって気持ちではあります」

「そうか………私はもともと人間だった、だから死ぬまで人間の味方でいるつもりだ。だが、やっぱり私のような異物は認められないらしい」

 

そりゃそうだよなぁ。

存在が周りと違いすぎる、受け入れられない。

自分から何か行動を起こさないと、ねぇ。

 

「私もできることなら人間とは仲良くしたいと思っています。だけどまぁ、私の噂も人里ではそこまでいい印象は与えられてないみたいだし、難しいんでしょうね」

「そうだな、貴方の噂も、実は助けてると見せかけて生気を吸ってるとか、他にも色々余計なものがついていたよ」

「吸ってないし………」

 

まぁ大体予想はついてたけど………りんさんが私をそのもじゃもじゃとわかった上で襲いかかってきたのは、そういう依頼でも来てたんだろうな。

 

「やっぱり、人間とそれ以外が共存していくには、この世の何かを変えないと無理なんでしょうね」

「だな。少なくとも今の私たちにはそれは無理だろう、なにをやるべきかがわからないうちはな」

 

うーん。

生きるのって難しいね!



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誰かに見られている気がする、そんな日々

「まぁ、そんな私にも友人はいるんだ」

「へぇ、人間ですか?」

「当然人間だよ。いや待て、人間は人間だけどどういえばいいか………」

「自分も知り合いに妖怪なんかより数倍強い奴がいますよ」

「あの人か?」

「その人です」

 

お互い苦労してますなぁ。

 

「ありがとう」

「え?いやあの、え?急にどうしたんです?」

「貴方が人間たちを妖怪から助けてくれたのだろう?だがきっと礼を言われたことはないはずだ。だから私が、今まで助けられた人間に代わって礼を」

「やめてください、慧音さんから言われても………そもそも何かの見返りを期待してやってたわけでもないですし」

「それでも何度か命の危険があったはずだ」

「………まぁ」

 

だいったいりんさんのせいだけどな!

ほとんどの奴は一発殴ったら手を引いてくれたし………

 

「話は変わるが、なにか目標って持ってるか?」

「突然っすね………どういう意味です?」

「その永い寿命の中で自分が立てた目標だ。貴方も私も、突然永遠に近い命を手に入れた。なにかの目印を立てておかないと、道を踏み外してしまうかもしれないだろ?」

「はぁ、そういうものですかね」

 

言っていることは、まぁわかる。

私も妖精や妖怪と同じような存在と考えたなら、寿命なんてあってないようなものなのだろう。

確かに最近の私は特にやることもなく、時間を浪費し続けてたよなぁ。

道を踏み外すって言われても、あんまりそういうイメージは湧かないんだよなぁ。

目標、ねぇ。

 

「目標………成し遂げたいこと、か………やっぱり、人間たちと共存したいですよね。こんな体になってからまだ日も浅いし、中身はまだ人間の時のままのような感じがします。やっぱり人と話したいですよ、平和にね」

「………そうか。くるといいな、そんな日が。私もそれを目指しているが、まだまだ先は長そうだ」

「やっぱそうですよねぇ………慧音さんの目標は?」

「まぁ大方同じだ。ただやってみたいことがある」

「やってみたいこと?」

「あぁ。人間の子供たちにいろんなことを教えてやりたいと思ってな」

 

えーと、つまり教育関連?

時代が時代だから、やるなら寺子屋とかになるのかな。

なるほど、お似合いなんじゃなかろうか。

あとモノを教えるの上手そう、そーゆー神獣だし。

 

「まぁそれをするにも、まずは人間との関係を良くしないといけないですもんね」

「そうだな、まずはそれが一番の問題だ」

「慧音さんは普段なにしてるんです?」

「日々、出来るだけ人間との関係を良くしようと努力している。家の前で待っている彼女も私のことは容認してくれてるのだろう?」

「えぇ、まぁ」

 

そういえばりんさんって、だいぶ丸くなったよね。

最初はいきなり殺そうとしてきたのに………今では妖怪を見てもすぐには殺さないようにしてるっていうからなぁ。

 

「私がここに家を建てたのもここ最近の話だ、人間は寿命で死に、世代は変わる。そうしていつか、私達みたいな異物を認めてくれる日が来る、そう思ってるよ」

「だといいですね」

 

世代が変わる、かぁ。

いったいどれくらいの年月がかかるのやら。

 

「慧音さんは、妖怪の知り合いとかいないんですか?」

「いないことはないが………まぁそんなに深い関係を持ってるわけでもないな。そういう貴方は?」

「私?んー………妖精とか妖怪とか、妖怪の山のところにも何人か」

「そうか、私とは大違いだな。恵まれている」

「そんな………慧音さんも一人いるんでしょ?」

「まぁな。それはともかく、心を許せる相手は大切にしておけよ」

 

んー………慧音さんに言われると説得力がなんか半端ない。

心を許せる相手かぁ………私って相当変なやつのはずなのに、みんな変わらず接してくれてるし………こんど山に顔でも出そうかなぁ。

 

「さ、もうすぐ日が暮れる。陰陽師や妖怪狩りが動き始める時間だ、そろそろ帰ったほうがいいんじゃないか」

「あー、たしかに。じゃあもう帰るかぁ」

「あぁ、私もいい話ができたと思っているよ、よかったらまた訪ねてきてくれ」

「こちらこそ、私と同じことを思っている人がいるってわかっただけでよかったです」

 

立ち上がり、お辞儀をして入り口へ戻る。

できればここまで来るより、慧音さんに湖の方まで来てもらったほうが楽なんだけどなぁ。

まぁ場所は大体分かった、次こようと思ったらりんさんに案内してもらわなくていけるだろう。

扉を開け外に出ると、刀を抱えて壁にもたれかかって寝ているりんさんがいた。

どうせなら、日頃の恨みを今ここで………

 

「あべし!な、なんで急に腹パンを………」

「寝ている私に近寄ったお前が悪い」

「それの何が悪いんだよ!」

「寝首をかかれないように寝ている間も神経研ぎ澄ましてるんだよ。今回は眠りが浅くてよかったな、これが真夜中なら首を刎ねてるぞ」

「こっわ」

 

本当に、化け物とかそういう領域超えてるんじゃないかなこの人は。

腹パンも手加減してくれてるし………眠ってる間に誰かがやってきたら首をはねとばすって………

 

「で、話終わったのか」

「あぁ、うん」

「じゃあほい」

「いて」

 

腹に貼ってあるお札をベリっと剥がされる。

なんでそんなに簡単に剥がせるの、本当にどういう仕組みなってんだよそのお札。

 

「どうだった?」

「どうだった、って言われても………」

「なぁに、私が言っても警戒されてまともに話できないだろうからな、お前にやらせただけだよ」

「………あー、そゆこと。全部慧音さんの腹の内を探るためだったってわけか」

「今更気づいたのか。なんども退治の依頼が来ててな、本当にやるべきかどうか考えてたんだよ。いろいろ事情があるとは聞いてたしな」

 

ちゃんとその辺考えてたんだ。

まぁ私が話に乗ったからだろうし、損したわけでもないから別にいいけど。

 

「さぁ、帰れるだろ、さっさと立ち去れ」

「えぇ、すごい冷たくない?」

「馬鹿言えお前、妖力抑えてないんだから長居するとまずいんだよ」

「あぁそうっすね」

「私も妖怪とつるんでるって噂立ったらいろいろと困るんだよ。わかったらさっさと帰れ」

 

もうちょっと言い方優しくしてくれてもいいんじゃないかな………

りんさんがせっせと行ってしまったので、もう橙色になった空を見て湖の方へと歩を進める。

 

慧音さんは半妖だったから人間に友好的なんだろうけど、ほかに純粋な妖怪で人間と仲良くしたいとか思ってる人いないかなぁ。

いないよねぇ。

妖怪にとって人間なんて襲う対象でしかないんだから。

じゃあ逆に、妖怪に友好的な人間は?

いたとしても、私がそんな人を見つける術はないかぁ。

りんさんは、話はできるけど友好的ではないよね。

めっちゃ目潰ししてくるし。

 

 

 

「はぁ………あーあ、なんか凄い周囲に気配を感じるなぁ………」

 

移動するのが遅かったか………あー、やっべ、どーしよ。

 

「あの、すみません、自分いまから帰るとこなんで、見逃してもらっていいですか」

「ならば我々に大人しく退治されるがいい、妖よ」

 

なにその喋り方、カッコつけてんじゃねえぞ。

我々とか言ったらカッコいいとか思ってんだろ!

 

「あの、ほんとすみません。ここはお互いなにも見なかったってことで………あっはいダメですよね………」

「わかっているのなら早くこい」

 

なんか妖怪倒しますって感じの服装の人が言う。

こいってなに?喧嘩上等ってこと?ヤンキーだなぁ。

まぁそれだけ人間は妖怪を憎んでるってことなんだろうなぁ。

はぁ………まぁりんさんが近くにいなくてよかった。

 

「いいんだなお前ら!本気出すぞ!後悔するなよ!」

「なんなんだ貴様は………こないのならこちらが行くぞ!」

「あ、ちょっとすみませんごめんなさい!こないで!」

 

うわ本当にきやがったこいつら!

えっと、どうするどうする、どうやったら逃げられる?

 

「って危なっ!」

 

なんなんだこいつら!エネルギー弾出してきたぞ!

りんさん含めてお前ら人間じゃねぇ!

妖力を周囲にばら撒き全て霊力へと変換する。

周りが膨大な量の霊力の中に飲み込まれた。

そしてそれらの全てを使って氷を生成する。

突如現れた大量の氷に驚いている間に宙に浮いて妖力の衝撃波で空高くへと逃げた。

なんか暴言吐かれたけど、真正面から交戦することにならなくてよかった。

 

 

飛んで逃げてる最中に何か弾を飛ばしてきたけど、なんとか湖のところまで逃げることができた。

流石にここまでは追ってこないよね?

あー疲れた怖かった帰る寝るー。

 

ん?

 

「あれ………今なんか………気のせいか。帰って寝よ」

 

 

 

 

「ふふ………えぇ、貴女はそれでいいのよ」

「紫様、また覗きですか」

「あら藍、これも幻想郷の管理者としての務めよ?」

「止める気はありませんけどほどほどにしてくださいね。後で大変なことになっても知りませんよ」

「それは私の式として無責任じゃない?」

「そんなことにならないよう節度を持って欲しいと言っているんです」

「言うじゃない。新しく使えそうな駒が見つかったのよ、ちゃんと使えるかどうか、見極めないといけないわ」

「ほぼ自分の趣味のくせに………」

 

 

 

 

なんかこの数日、誰か見られてるような気が………なんだこれ。

頭がおかしくなったのか?いや、頭というか髪はもともとおかしいけど。

うーん………もやもやするなぁ。

 

「………なにしてんの?」

「なにって………自分でもよくわからない」

「ばかだなおまえ」

「バカはお前だろ」

「は?」

「は?」

「ちょっと二人とも!いつまでそのやりとり繰り返すつもりなの、もう今日で四回目だよ?」

「だってこのもじゃもじゃが」

「うっせぇバーカ」

「あ、またばかって言った!」

 

じゃあなに、アホって言えばいいの?もしくはうつけ?

 

「それはそうと、本当になんなんですかそれ」

「んー、墓石?」

「墓石?誰のですか?」

「その辺で死んでた妖怪」

 

りんさんさ、首とるだけとって後はそのまま放置なんだよ。

ちゃんと首がある死体もあるけど、あれは他の人間がやったか、妖怪同士でやったかのどっちかだろうし。

人間を襲う彼らが悪いとはいえ、そのまま地面に放っておくのも忍びない。

臭いし。

夜の森を歩いてて、首がない死体とか、もう腐敗してるやつとか、白骨化してるやつとか、バラバラになってるやつとか、突然視界に入ってきて本当に怖い。

みんな、後片付けはちゃんとしようよ。

というわけで、私自らその死体たちを運んで埋葬してあげてるわけです。

死体を見て半分吐きそうになってる中頑張って埋めてるわけです。

まぁその辺に死体が転がってるのが気持ち悪いというより、死んでも道端に放って置かれる、っていうのがなんか凄く残念に思えるから。

私だってそんなのは嫌だし。

誰だって死ぬのは嫌だろうし、死んでも道端で体は風化するのを待つだけってのは悲しい。

 

「石なんてその辺にあったもの拾っただけだけどさ。名前くらい彫ってあげたかったよね」

「毛糸さんは、人間でも妖怪でも、同じように接するんですね」

「ん?まぁ、人の形してたらね」

 

道端に人の形したものが転がってると、この世界の食物連鎖の頂点に人間はいない、そんな気がする。

 

「たまにくるあの人間の女性にもみんなと同じように会話してますし。普通ならもっと警戒しますよ?」

「うるさいね………そんなの、私がこの世界から浮いてるってだけだよ」

「世界?」

 

私という存在は、この世界において極めて異常。

慧音さんよりおかしい存在だと自覚している。

そんな私が、今ここにいるのは今まで会ってきた全ての人のおかげだ。

 

「大ちゃんってさぁ、人間好き?」

「え?急になにを………まぁ、嫌いじゃないですけど」

「妖精を殺そうとする人間もいるよ?」

「それは………まぁ、仕方のないことだと思っています、妖怪と人間が敵対している限り。人間からしたら妖精は妖怪と同じようなものでしょうから」

「そっか。チルノは?」

「え?なんの話?聞いてなかった」

「………」

「………」

 

やれやれ………ん?

 

「あれ………」

「どうしたんです?」

「いや、なんでもない」

「お、とうとう頭がおかしくなったか」

「確かに頭はおかしいけども」

 

むぅ………たまに感じるこの違和感、なんなんだこれ。

いくら休んでも変わらないし、疲れてるってわけでもなさそうだ。

誰かに見られてるような………でも誰がどこで見てるかわからないんだよなぁ。

まさか椛?お得意の千里眼で私のこと観察してるんですか。

でも割と頻繁に違和感を感じるんだよね。

椛だったらこんなに私のこと見るかな?それに今まで見られてこんなに何かわけのわからないものを見たことはなかった。

もっと強大な力を持ってる、そんな人が私を見てるのかもしれない。

なにを考えてるのかわからないけど、向こうがなにもしてこないのなら別にいい。

後数年はのんびり暮らしたいです、はい。




次回更新遅れます。
詳しくは活動報告をご覧ください。


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毛玉は周囲へ絡みつく
ちょうどいい時に現れる毛玉


「おーいるりー、いるー?」

 

返事がない、しかばねになっているようだ。

あっれぇおっかしいなぁ。

確かこの部屋………あ、ここ私の前の部屋だわ、るりの部屋となりだったわ、いっけね。

 

「るりー、生きてるなら返事をしろー」

 

返事がない、しかばねになっているようだ。

なんでだよ。

なに?引きこもり卒業したの?とうとう就職したの?ハローワーク行っちゃったの?社畜街道歩み始めちゃったの?

 

「るりならそこにはいないよ」

「あ、にとりん、久しぶり」

「久しぶり盟友!元気だったかい?」

「元気元気ー、何回か死にかけて殺されかけたけどすこぶる元気ー」

「お、おう、それは良かったね?」

「そっちこそ、なんなのその爆撃に巻き込まれたようなナリは」

「あ?これかい?ちょっと向こうのほうで爆発事故があってね。いやぁ、久しぶりに命の危険を感じたよ。はっはっは」

「笑ってなくね」

 

爆発に巻き込まれてもピンピンしてるあたりさすが妖怪といったところだろうか。

そしてその服の耐久性にも興味がある、爆発巻き込まれたんだよね?なんで汚れるだけで済んでるの?かっぱの技術すご。

 

「で、るりがいないってどういうこと?もしかして死んだ?」

「死んでないし生きてるし。まぁいろいろあったんだよね」

「いやなにがあったし。とりあえず今なにしてるのアイツは」

「地下労働してる」

「は?」

「山の地下で鉱石採取したり地下空間広げたりしてる」

「えぇ………」

 

どーしてそーなった………というかマジで社畜街道まっしぐらじゃん、怖い、妖怪の山怖い。

 

「何故そんなことに」

「私がやった」

「えぇ………」

 

お前がやったんかい………なんでそんなことを。

 

「毛糸なら知ってると思うけど、電力ってやつのちゃんとした使い道ができたからね、発電してその電力を消費するところとか、それによる装置の自動化とか工業の発展とかその他もろもろとか。とにかくやることがいっぱいでさ」

「つまり簡単に言うと?」

「人手不足」

「そっか。まぁ働けるのはいいことだよ。私は永遠無職だけどな!」

 

いやー、地下労働かぁ。

というより地下空間なんて作ってるのね、今なに時代だっけ?かっぱ怖いわー。

 

「無事に就職できたようで、よかったよかった」

「よくないですよおおおおお!!」

「あ、なんかでた」

「なんかってなんですかなんかって!」

「元気そうでなにより」

「元気じゃないですぅ!死にかけてますぅ!周りの視線があたしに突き刺さって体の至るところから血が吹き出てますぅ!」

「元気じゃん」

 

すごく、こう、悲惨な表情を浮かべて涙目になりながら叫ぶるりが目の前に現れた。

気配消すの上手だね、アサシンの素質あるよ、ダー○神殿行ってきなさい、そしてスキル全部奪われろ。

 

「よかったじゃん、これでもう遊び人名乗らなくてよくなるね」

「あたしもともと無職じゃありません!部屋の中で布織ってます!」

「へ、初耳。にとりん知ってた?」

「いやぁ、知ってたけどそれもう手作業でやる必要ないからさー。それにやってたって三日だけじゃん、研修じゃないんだぞ」

「どっちにしろもう地下はいやですぅ!時々変な煙が発生するんですよ!?あの日のあれなんてあの人があーなってあああああ」

「落ち着け」

 

いやぁ、懐かしいっちゃ懐かしいこのテンション。

そしてうるさいのも変わらないようで。

 

「そういえば聞いたよ?毛糸、なんかよくわからないへんな化け物と遭遇したんだよね?」

「なんかよくわからないへんな化け物?あーりんさんのことか、確かにあれはなんかよくわからないへんな化け物だね。まーとくにこれといって大したことはなかったよ」

「そうなのかい?それならいいんだけど」

「なんかよくわからないへんな化け物ってなんですか」

「なんかよくわからないへんな化け物」

「えー………」

 

あの人のどこがなんかよくわからん以下略なのかって、それはもう以下略だよね。以下略!

 

「それで、急にこんなとこ訪れてどうしたんだい?」

「あーそうそう、久しぶりにみんなに会いにきたのもそうなんだけどさ」

「寂しがりなんですか?案外そんな一面あるんですねぇー」

「うっせぇ黙ってろこの社会のゴミクズ」

「ごみくずっ!?」

「いろいろと作ってほしいものあってさー、頼める?」

「あぁもちろん!河童の技術の範囲内でできることならなんでも頼みなよ。なんてったって盟友だからね!」

 

前から思ってたけど盟友ってなんなんだ、会って一日で盟友認定されたのもなかなかに謎である。

 

「あ、これさらに品種改良を重ねたきゅうりなんだけど、食べる?」

「いやいらんし突然だな?そしてなんだその色は、黄色ってなんだ黄色って、怖いんだけど、漬物とかじゃないのそれ」

「視覚的にも新鮮な味がおえっ」

「それ食えないやつだよね、視覚的にもじゃなくて視覚的限定だよね?目で味わうやつだよね?そうだと言ってくれ」

「これがある一定層に人気があるんだよ、こんな気持ち悪い色してるのにねー、河童にもいろいろな奴がいるって再認識させられたよ」

「多分それ調合に使えますよ………劇薬の」

 

劇薬て………きゅうりが素材の劇薬とかなんか嫌なんですけど。

いやもはやそれはきゅうりなのか?河童としてそれがきゅうりでいいのか?認めるのか?

 

「そんなの食べるくらいなら漬物食べてるわ………漬物苦手だけど」

「そんなこと言ったらきゅうりの神様の天罰くだるよ」

「そんな神様いないし、もし天罰くだるんだったらきゅうりをそんな色にして食べ物じゃなくしたお前らが天罰くだるべき」

「人には人の好みってものがあるんだよ、その好みに合わせて品種改良することの何が悪いんだよ」

「いや悪くないけどそのきゅうりは悪い、もう見てるだけでまずい、存在自体がまずい」

「毛糸さん、きゅうりが泣いてますよ」

「泣かんわ」

 

八百万の神の中にきゅうりの神様っているの?いや、八百万の神っていろんなものに神様が宿ってるとかいう意味だからもしかしたらいるのかもしれないけど。

私べつにきゅうりは嫌いじゃないんだけどなぁ、知り合いがきゅうり教だからなんかいやだ。

というより最近きゅうり食べたっけ?そもそも毛玉になってからまともな食事したっけ?

河童もきゅうりしか食べないってことないよね、魚とかも食べるんだよね。

 

「とりあえず、その作って欲しいものとやらを聞こうじゃないか。向こうの建物の方でどうだい?」

「あたしも休憩ついでにいいですか………ちゃんと目標は達成してきたんでいいですよね?というか駄目って言われても休みます」

「るりは働け」

「なんでですか!?」

「いや、本来まだ休憩時間じゃないから」

 

おう、黒いなぁ。

 

 

 

 

柊木さんから渡された資料を手に取り、一通り目を通した。

一番上に書かれている文字を再び目にし、これから起こるであろう面倒ごとを考えて頭を抱えたくなった。

 

「地底への侵入者、ですか」

「あぁ、少女の姿をしたやつだって話だったが、どうもおかしいんだよこれが」

「おかしいとは?」

「この報告書によると、この日の朝に地底へ通じる穴から少女が現れたと書いてあって、そのまま姿が消えたらしい。そして次に確認されたのがこの二日後、また地底から現れた」

「ちょっと待ってくださいおかしくないですかそれ。ちゃんと穴の見張りはやっていたんですよね?」

「あぁ、三人交代でな。なのに何故か地底から出てくるところしか確認されていない。これだけじゃない、地底へ戻るのを二回連続で見たってのもある」

「同じような服装の人が出入りしてたってことは………まぁないですよね」

 

なんなんですかこれ………見張りの天狗が仕事してないってわけでもないでしょうし。

それになんのために地底と地上を行き来しているのか。

地底の人物なのか地上の人物なのか。

 

「こちらとしても調べたいところなんだがな、なんせ色々あるからなぁ。地底へ直接天狗を送り込むこともできんし。まぁできたとしてもやるやついないだろうけどな」

「まぁ鬼がいますからね………」

「あ、やべ、あの日の出来事が思い出されぐはっ」

「思い出して苦しまないでくださぐはっ」

 

天狗で鬼が苦手じゃないのなんて、鬼が地底に行ってから生まれたやつしかいないんじゃないですかね………からみ酒はもう勘弁してほしい。

 

「だから調査できなくてな。肝心のその少女を捕まえられれば話は早いんだが、まぁこれが捕まらない捕まらない」

「そんなに速いんですか?」

「部下に聞いた話だと、急に存在を認識できなくなるとか、わけわからんことほざいてたな。とりあえず引っ叩いてやったわ」

「酷くないです?」

「それはともかく………なんかちょうどいいやついない?」

「いないですよそんなの………」

 

でもこれは山としても看過できないことですし、何か手を打たないと………

でも不可侵条約とかもあるし、誰かいないかな………

 

「おいっすー久しぶりー元気ー?」

「………いた」

「ん?え?なになんすか、なんすかその目は。え?いやっすよ自分、なんかもう変なことに巻き込まれるのいやっすよ?」

 

 

 

 

作って欲しいものをにとりに伝えて二人とさよならして、偶然会った椛に二人の場所を訊いて、顔出したら変なことに巻き込まれそうになってるでござる、解せぬ。

 

「だからさぁ、いい加減よその変なもじゃもじゃにそーゆーことやらせるのやめない?」

「都合の良い時だけ変なもじゃもじゃにならないでください。お願いしますよー、もちろんお礼はしますし、毛糸さんなら絶対できますって」

「本音は?」

「お前もう前科あるから別に良いだろってこと」

「いやよくねぇし」

「大丈夫だ、既にお前は勝手に妖怪の山に侵入して地底へ行き、そのままひょっこり帰ってきている。あとはもう墜ちるだけだ」

「堕ちないし、浮くし。えぇ、いや、うん………うーん」

 

地底………地底かぁ。

いや、まぁ、それは置いておいて。

その謎の少女………こいしじゃね?いやこいしだな、うん。

自信ないから言わんけど。

 

「まー、一応話だけなら」

「引き受けてくれるんですね!ありがとうございます!」

「おい待てやおい」

「以前起きた毛糸さんにも参加していただいた戦争、そして件の妖怪狩り、そして今回の少女。このへんの処理は全て山の管轄で行わないといけません。そして戦争で一応天狗の数も減ってしまい、下手に重労働すると反乱が起きてしまうので、そのしわ寄せとかは全部上層部にいくんですよ。そしてとうとう我慢の限界だったようで、部下にあたるのが増えてきたんですね。わたしの知ってる人は両足が吹っ飛びました。その辺どうにかしたいんでさっさと今回の問題も片付けてしまいたいんですね」

「………あ、終わった?じゃあつまりあれだな、そのうち自分たちも上司にやつあたりされそうだか早く片付けたいってことだな。だいたいわかった」

 

うん、やっぱそっちがめんどくさいだけじゃない。

納得いかないわー、凄い不服だわー。

まぁ頭を悩ませるのはわかるけど。

地底と地上ってすごい微妙な関係らしいし、下手に行動すれば取り返しのつかないことになるから慎重にならざるを得ないんだろう。

まぁそれを私がやる意味だけど………

ちょっとさとりんに会ってみたいって思うんだよなぁ。

 

「………わかった、その少女ってやつを調べてきてくるよ」

「ありがとうございます!いやー無理言ってみるもんですねぇ」

「あーそうだな、上手いことめんどくさいこと押し付けれたよな」

「しーっ、柊木さんそれ言っちゃ駄目ですよ!」

「いや隠さなくても知ってるし」

「あ、そーですか」

 

逆になぜバレないと思ったのだ。

それにしても地底、地底かぁ。

何があったかもう忘れたなぁ、薄暗いところってのは覚えてるんだけど。

まぁさとりんにも改めて礼を言っておきたいし、この機会逃したらいつ会えるかわかんないからなぁ。

 

「それにしてもお前………髪伸びたか?」

「え?いや伸びてないと思うけど」

「確かに、ほんのちょっぴり伸びてる気はしますね」

「マジで?あれ、てっきり私髪の毛は伸びないもんだと。なにせこんなもじゃもじゃな訳だし、今まで伸びたって感じることなかったし」

「不思議ですね、毛玉って髪伸びるんですね」

 

私はともかく、毛玉の毛って髪の毛なのか体毛なのか。

………あんまり伸びないんだったら体毛?だとしたら私の髪の毛と思ってたものも実は体毛だったってことに………

ま、まぁいいや、とりあえず地底は行く準備でもするとしよう。

 

 

 

 

毛糸さんが部屋を出たあと、柊木さんといっしょに散らかった紙を片付ける。

 

「………なんか上手く行きましたね」

「本人もなんかやりたがってたみたいだったし、好都合だったな」



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毛玉は再度地に墜ちる

湖に一旦帰り、大ちゃんに地底へ行くことを伝えて承諾をもらい、その翌日に再び山へ来て柊木さんに地底へ通じる縦穴へ案内してもらった。

 

「ここだ」

「あ、どーも」

 

縦穴を覗き込む。

うむ、深い。

あの頃は抱えられてて周り見れなかったけど、今こうやってみると底がわからないくらい暗くて深いな。

 

「そういえば柊木さんが初めて私を見たのってここだったっけ」

「あぁ、そうだな。なんか変な玉が入って行こうとしてるのをみて追いかけたんだがもう落ちていってな、入らないとこまで行っていってしまった」

「そっかぁ、なんかごめんね?不可抗力だったの、いろいろあってさ」

「いいんだもう、過去の話だからな。あのあと部下からなんか馬鹿にされて上司に踏まれて減給になってやってはいけないことやろうとしたが、いいんだ。過去の話だからな」

「………ごめんね」

 

私悪くないんや、悪いのはこいしなんや。

 

「そんなことよりほら、早くいけよ。一応これいろいろ触れちゃ駄目なとこに触れてるからな。ややこしいことはこっちで揉み消しておくが危なくなったらすぐ帰って来いよ」

「お、おう。なんかいろいろとやらせてごめんね?」

「こっちもお前をまた山のことに巻き込んでるからな。まぁ今回の件に関しては、お前も何か知っていそうだったから軟禁して尋問することも考えたが」

「えっ」

「こうした方がいろいろと都合がいいからな」

 

やさしい世界でよかった………本当にやさしいのかこの世界、何回も死にかけてるけどやさしいのかこの世界。

 

「あとこれ、地霊殿の中の人に渡してきてくれ」

「ん?なにこれ封書?」

「上層部に承諾もらったあとついでに渡してくるように言われた。てわけで別に破いて燃やしてもらってもかまわんぞ」

「いや別にそんなことしませんけど。渡せばいいのね、了解」

 

さて、ぶっちゃけ行くのも怖いんだけど、行きたい気持ちのほうが勝っているからささっと行って帰ってこよう。

一応地上と地底を行き来している謎の少女の調査が目的だから、それを忘れないようにっと。

さて、それじゃあそろそろいってくるとしよう。

 

 

柊木さんに別れを告げてさっそく穴の中に飛び込む。

自由落下してもいいんだけど、どれくらいの深さか分からないから体を浮かして地面に激突しないくらいの速さで降りていく。

地霊殿の具体的な場所を教えてもらおうと思ったけど、地底の地形までは詳しく把握してる人はいないみたいだった。

でもまぁ、そんなに目立たない建物ではないだろうし、だれかに聞けば簡単にわかるはず。

そういえば地底って、もともとは地獄の一部で旧地獄とも呼ばれるようになったんだっけ。

地獄ねぇ。

前世じゃそんなものロクに信じてなかった、もちろんなにか非行に走っていたわけじゃないけど。

死んでもその先があるっていうのはいいことだ、脳が全く働かなくなってもそこで終わりじゃなく、輪廻転生をする。

まぁ私はそこから若干外れた存在な気がしないこともないけど、その辺はなんとか多めに見てくれないかなぁ。

まぁ死ぬ気はないんだけど。

 

一度上から見下ろしただけだけど、地獄とかそんな感じはあんまりしなくて、一つの地下都市って感じの印象を受けた。

たしか日の光も届かなかったはずなのにそこそこ明るかった。

この縦穴は暗いけど。

手から霊力弾を出して周りを少しだけ明るくする。

流石に手ぶらでくる勇気はないので使えそうなものを持ってきた。

短剣とかハンカチ代わりの布切れとか布切れとか布切れとか。

持ってくもの思いつかなかったから布切れしかねぇわ、あほくさ。

 

そういえば一人で行くのはそれなりに怖いからついてきてくれないかってみんなに聞いたら、即答で断られた。

みんな忙しいんやなって。

 

「へいへい、そこのもじゃもじゃ君何の用ー?」

「ハワインドゥル!?」

「はわいんどぅる!?どんな驚き方!?」

 

ふぁーびっくりした。

背後から突然女性の声がして、ふりむくと女性の顔があった。

逆さまの。

 

「ンドゥルアイ!?」

「大丈夫?さっきから変な声しか出してないよ?驚かしてる私も悪いんだけどさー」

「お、驚かすなよ、なんで逆さま?何故逆さま?」

「そういう種族柄なんで」

「あー、そう」

 

逆さまから私と同じ向きになる女性。

よく見ると手から糸のようなものが出ていて、それで逆さまになっていたんだと分かった。

………スパイ○ーマン。

いやでも女性か。

 

「迷い込んだんなら帰ったほうがいいよー?この先進んでも、地上から追い出されたならず者しかいないからね」

「いや、別に迷い込んだわけではないんで。ちょっとした用があって、地霊殿ってとこ目指してるんですけど」

「地霊殿?なんだってそんなとこに?まぁいいや、下に着いたら道なりに進んでいけばそのうち着くよ。あんまりお勧めしないけど」

「ん?まぁいいや、ありがとう。ついでに教えて欲しいんだけど、最近ここを行き来してる少女知らない?」

「んー?少女?あーこいしのこと?」

「やっぱりそうなんかい。ありがとう、じゃ、まだ用事あるから」

「じゃあねー。………なんか変な奴」

 

おい、聞こえてんぞ。

変な奴て………変な奴ってなんじゃ。

ハワインドゥル。

 

 

 

 

着いたね、一番下。

なんか広がってるね、地下世界。

これがアンダーワールドってやつだなぁ?

薄暗い印象だけど、意外と遠くが見渡せる程度には明るい。

さっきの人に言われた通り道なりに進んでいくと開場所についた。

思ったより広いなぁ、まぁこの道を進んでいけばつくらしいし、とりあえず歩いて行けば………ん?橋だ。

広いとはいえ感覚的には屋内だから、橋があるとこう、違和感がすごいな。

ん、誰かいる。

 

「どちら様?ここを訪れるなんて余程の世間知らずの馬鹿なのかしら」

「目があって一言目で馬鹿呼ばわりされるとは思わなかった」

「そんな派手な頭してたら人に顔を覚えられるのも簡単そうね、妬ましい」

「ね、妬ましい?え、なに、この頭がいいと思ってくれてんの?え、なんか複雑なんだけど。そっちこそ髪の毛ストレートでいいじゃん、そっちの方が妬ましいわ」

「誰がそのもじゃもじゃを妬ましいと言ったかしら?私はただ人に顔を覚えてもらいやすそうと思っただけよ」

「そりゃこんな頭だから確かに人間違いとかはないけどさぁ」

 

パツキンばっかりのこの世界もなかなかだと私は思います!

第一人を髪の毛で判断するのは間違ってると思いますっ!あれ!?私人のこと言えなくね!?私が一番人を髪の毛で判断してるじゃんっ!

 

「えっと、その橋通っていい?頼まれてることがあるんだけど」

「他人に頼み事をされるほど信頼されてるのね妬ましい」

「あの、通っていいっすか」

「そしてそうやって利用されてることにも気づかないその平和な頭も妬ましいわ」

「おい遊んでんだろあんた、私のこと煽って楽しんでんだろ」

「今更気づいたのかしら?その平和で派手な頭が」

「もういいから!」

「あら残念」

 

残念ってなに、残念ってなに!

そんなに人のこと煽って楽しいですか!?私は楽しくないですよ!!

もうやだ地底怖い、まだろくに入ってないのにスパイダーと煽り厨いるんだもん、地底怖い。

 

「で、地上のもじゃもじゃさんがこんな薄暗い場所へ何の用かしら。特に用もないならさっさもその派手な髪の毛巻いて逃げ帰ることを推奨するわ」

「さっきから私の頭のことばっかりじゃん、珍しい?そんなに珍しいこの頭。しょうがないじゃん種族柄なんだから」

「そんな寝癖を極めたような髪で堂々と外へ出られるその頭が」

「ええかげんにせい。ようするに私がバカって言いたいんだろそうなんだろ」

「さて、そろそろ飽きたし用件を聞きましょうか」

 

飽きたって、やっぱり遊んでたんじゃないか。

あと気まぐれすぎない?そんなに煽りたい、私のことをそんなに煽りたいですか、そーですか。

 

「地霊殿の人に渡したいものがあるからそこ通っていいですかって、さっきから言ってるんだけど」

「そこの穴から来たってことは妖怪の山連中からかしら。まぁそういうことなら通っても構わないわよ、さっきは悪かったわね」

 

絶対思ってないわ、一ミリたりとも悪いと思ってないわこの人、わかるもん、目を見たらわかるもん。

緑色のカラコンなんかしよってからに。

 

「地霊殿へはこの道をずっと進んでいけば着くわ。まぁ別に難しい場所に建ってるわけでもないから、この地底をぐるぐる回ってるだけでも着くでしょうけど」

「誰の頭がくるくるローリングもじゃ毛玉じゃ」

「誰もそこまで言ってないわよ」

 

会話をやめて橋へともたれかかって目を閉じたその人をここぞとばかりに睨め付け、その道をずっと進んで行った。

 

 

 

 

ぶっちゃけ宙に浮けばいいと思った。

でも上は上でなんか目立ちそうだし、空飛んで打ち落とされたりしても敵わないし、歩いているほうがしっくりくるので歩いている。

やっぱり人は地に足つけて生活しなきゃダメだよ、ずっと宙に空いてたら筋力低下するよ。

筋力もへったくれもない体だけどな。

しっかしまぁずいぶんと活気のある街だ。

活気のあるというか、血気盛んというか、視界に絶対殴り合いが入ってくるというか、なんというか、蛮族。

あと酒臭がすごい、嘔吐物もすごい、もらいゲロしそうなレベルですごいって言葉を通り越して一周回ってすごい。

確かに鬼は酒と喧嘩が好きって聞いたことがあるけど、吐くのも好きってのは聞いたことないです。

今妖怪の山は鬼が留守にしてるかは天狗がでかい顔できるって文が言ってたけど、まぁ確かにこんな蛮族たちが上司だったらそりゃあでかい顔するよね。

まぁそれにしても天狗や河童たちは怯え過ぎなんじゃないかと。

まぁ確かにこの光景を見て常人なら恐怖を覚えること間違いなしだけど、やっぱり同じ人の形をしてるもの同士なんだから多少なりとも話せばわかるはず。

いやまてよ、あのなんだっけ、名前忘れた。

き、き………おっさんが鬼みたいなやつって恐れられてたんだから、鬼が全員あんな感じだったら怖がるのも当然なのかな?

 

毛糸はこのあと、鬼という種族の恐ろしさを存分に味わうこととなったのであった。

 

的な展開にならないことを心の底を突き破ったさらにその深くから願ってます。

 

 

 

 

なんとか暴力、酒、嘔吐物の三要素を切り抜けて建物の少なくなってきた道はやってきた。

多分ここをまっすぐ進んだら地霊殿に着くはず、着くよね?道間違えてないよね?私もうここ通りたくないよ?

思えばさとりんはちょうどいい感じにこの道を避けて行ってくれてたんだなぁ。

 

 

と、思ってたのが10分前の出来事です。

 

「姐さんつれてきやした!」

「おうご苦労」

 

姐さんってなんだよ姐さんって………姐さんじゃん。

額に赤い一本角、なんか強そうな風格、周りの取り巻きの下っ端感。

間違いない、姐さんや。

 

 

地霊殿へ向かおうとしたら鬼の兄ちゃんに声かけられて職務質問みたいなのされてお前怪しい認定されて連れてこられました。

解せぬぅ………解せぬぞぉ………私の一体どこが怪しいというんだ。

挙動不審で変な頭してて、急に話しかけられて地上から来たって言っただけじゃないか………いったい私のどこが怪しいっていうんだ。

いったい!どこが!

ってふざけてる場合じゃないんだったよははっ。

 

「あの、すみません私なんかしましたか?」

「いーや特に?」

「じゃあなんで囲まれてるんですか」

「私の気まぐれ………かな」

「なんすかそれ」

「いやー、変な妖力だしてる強そうだけど弱そうなもじゃもじゃがいるって聞いたからさ、気になったから連れてきてもらった」

 

私って………どこにいっても誰に見られてもまずもじゃもじゃなんだね、間違ってないんだけどさ。

赤く大きい盃にひたすら酒を入れて飲み続ける目の前の女性。

最初見たときからすごい気になってたんだ。

なんなんだその体操服は………すごい気になるぞ。

 

「それで?山の連中に頼まれて来たそうじゃないか、あいつら元気にしてたか?」

「いやー、うん、元気だようん。すこぶる元気」

 

多分あんたらがいないから。

 

「そうか、そうか。いやー山の連中にも暫く会ってないからなぁ、また遊びに行きたいんだが、なかなか機会がなくてね」

「今ちょっと忙しいみたいだから、今はまだやめたほうがいいと思いますよはい。最近ちょっといろいろあってまだ落ち着くまで時間かかりそうだから」

「そっか、残念だなぁ、たまには他のやつとも飲んでみたいと思ってたんだが」

 

うむ、この人が地上に来るのは防いだぞ感謝しろ天狗諸君。

 

「おっと忘れてたな、私は星熊勇儀」

「白珠毛糸です」

「よし!表でろ」

「は?」



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毛玉はなにかと無警戒

「いや表でろってなんすか!?」

「ん?そのままの意味だが」

「いや出ませんよ!?」

「じゃあ今ここでやるか?私は構わんが」

「やるってなにを!?」

「喧嘩」

「なんで!?」

「え?やらないのか?」

「やりませんけど!?」

 

急に喧嘩しようって言われて、はいやります、って言う人はいないよ!いたら戦闘民族だわカカ○ット!

 

「お前くらいの妖力があるなら今まで相当な数戦って来たと思うんだが、やらないのか?」

「やりません、あとこの妖力はいろいろと複雑なんで」

「そうか………じゃあこうしよう」

 

嫌です。

どうせめんどくさいことになるやつじゃんあーやだやだ。

 

「お前はあの道の先の地霊殿へ行きたい。私はお前とやりあいたい」

 

あの、地霊殿行かなくてもいいんでやりあうのやめません?

そういうわけにもいかないかぁ。

 

「で、この辺り一帯を仕切ってるのは私だ、だからこうしよう。私とやりあってくれたら地霊殿へ行っていいぞ」

「はぁ………なんでそんなに私とやりたいの?この周りのガタイのいいお兄さんのほうが絶対やりごたえあるよ?」

「ばっかお前、そんな強い妖力持っておいてよく言うな」

「いやだからこれにはいろいろと………あーはいはいわかりました、わかりましたよ。やればいいんでしょやれば」

 

提示された条件を聞く限り、勝ち負け関係なしに、一度戦えば先へ行かしてくれるようだ。

じゃあ適当に全力出した風にして、負けて行かしてもらおう。

 

「よし、じゃあ表でろ」

「その言い方やめてくんない?」

 

いやあの、ほんとお金とか持ってないんで、勘弁してください。

 

 

 

 

「よし、じゃあ私はこの盃持つから入ってるの零したら………いや、お前相手なら手に余りそうだ。私は片手でこの盃をもつから、私に一発入れたらお前の勝ちだ」

「は、はぁ。よくわからないけど、手加減してくれるならそのほうがありがたいな」

 

なんか見物客?みたいなのもいっぱい増えて来た。

見せもんちゃうぞ!散れ!

そして勇儀さん、それは手加減というよりナメプでは?なになんなの?強者の余裕なの?絶対的な自信なの?

まぁそのほうが都合がいいんだけどさ。

私、この戦いが終わったら結婚はしないけどさとりんに会いに行くんだ。

 

「じゃあ始めるか」

「合図は?」

「んー、それじゃあれだ、この石を投げて地面についた瞬間でどうだ?」

「いいよそれで」

「決まりだな、ほい」

 

勇儀さんが石を宙に放り投げる。

どんどん上へと石は昇っていき減速、そして落下を始めた。

そして地面へ石がついた。

 

「——ありゃ、早すぎたか」

 

 

・・・あ。

気絶してた?もしかして気絶してた?

んー。

両腕ないし気絶してたねこりゃ。

どのくらい寝てた?

周りの土埃がまだ消えてないからそこまで長い時間寝てたわけじゃなさそうだ。

じゃあ自分、テンパっていいっすか。

 

「あっぶな………」

 

ある程度予想はしてたけど、その予想をまるごと踏み潰していく威力だった。

石を見ないで勇儀さんのことだけ見ててよかった、あの僅かな動作をみて即座に防御の姿勢をとらなかったら多分体がバラバラになってた。

こりゃあれだ、地上で戦ったおっさんとは比べものにならねぇや。

 

「あーごめんごめん、ちょっと急ぎ過ぎた。ってあれ?もう再生してるのか」

 

うーん投了したい。

 

「ほら、立てるか?」

「立てません、足もズタズタなんで」

「そうか、じゃあ治るまで待つわ」

 

投了、させてくれそうに無いなぁ。

肌で感じる、この人は、自分が満足するまで絶対やめない人だ。

あれ?詰んだ?

まぁ待て落ち着け私、私には幽香さんの妖力という最大の武器がある。

幽香さんはきっと鬼にも匹敵するほどの力を持ってるはず、ならばそれを持ってる私にも多少なりとも抵抗はできるはず。

 

「よっこらせ」

「よし、じゃあ続きを——」

「仕返しじゃオラァ!!」

 

不意打ち気味に勇儀さんの顔面に向けて妖力を込めたパンチを放つ。

当たっててください当たっててください当たっててください当たっててください。

 

「ははっ、いい攻撃だ」

「デスヨネー」

 

空いている方の手、右手で受け止められた。

すぐに距離を取る。

手応えはあった、少なくとも受け止めた腕がびくともしないなんてことにはなっていない。

なんとか隙をつければ一発くらい当てれるはず。

あとは勇儀さんの反応速度とかの問題でもある気がするけど。

距離をとり氷の粒を勇儀さんに向けて発射するが、腕を一振りされただけで吹っ飛ばされる。

その余波が私のところにまで飛んでくるくらいには。

今度は大きめの妖力弾を生成、投げつける。

当たれば大きな爆発が起こる、爆発したらその隙をつき、避けられたらそのまま畳み掛ける。

 

「よっと」

 

ん?え?私の妖力弾どこいったの?

頭上で爆発音がする。

上を見ればこの大きな空洞の天井で私の妖力弾が爆発していた。

………要するにあれか、爆発する前にすごい早さで吹っ飛ばして爆発にかすりすらしなかったってことか。

 

「分かってはいたけどバケモンだなぁ」

「そっちの番は終わったかい?じゃあ今度は私から」

「ずっと私のターン!」

 

妖力弾と氷の粒をひたすら勇儀さんに放ちながら牽制、上から崩れ落ちて来た巨岩を待ち構える。

 

「ふんっごおおお!!」

「おお、力持ちだねぇ」

 

力持ちではなく浮かしているだけです。

そのまま勇儀さんに投げつける。

あ、普通にパンチされて砕かれた。

 

一気に加速し、足に妖力をこめて高速で回転して蹴ろうとする。

グルグルと回る視界が一瞬で止まった。

 

「やっぱいい威力してるなぁ」

「片手で受け止められてるのにそんなこと言われましても」

 

そのまま思いっきり投げ飛ばされる。

霊力を放出して地面へ体を擦り付け減速させてなんとか持ち直す。

勇儀さんの方を見ようと思ったが、既に目と鼻の先、両腕に妖力を込め、体を浮かして攻撃を受ける。

頭に強い衝撃がきて思考が止まる。

気づけば壁に体が打ち付けられていた。

 

「よっと、おーい大丈夫かー」

 

なんかよくわからんけど喋れません。

妖力弾を大量に生成、闇雲にあたりに打ちまくる。

 

「おっ、まだまだ元気そうで何よりだよ」

 

私が当たったら普通に肉が弾け飛ぶレベルの威力の玉を危なげなく弾いてるのに違和感しか感じない。

なんかもう普通に攻撃しても全部塞がれる気しかしないや………

体の再生を終え、残っている妖力のほとんどを右腕に回す。

 

「へぇ、その一撃で終わりにしようって魂胆かい。名残惜しいがその勝負、受けて立つ」

 

そう、この一撃が当たれば終わりだし当たらなければそこで妖力がなくなって終わりだ。

走って近寄り、妖力が漏れ出すくほど込められた腕を振るう。

 

腕が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

腕を吹き飛ばした。

その最後の一撃を私は打ち消したはずだった。

だが何故だ、何故こうも手応えがない。

 

「本命は、こっち!」

 

あぁ、なるほど。

私の腕とぶつかる寸前で妖力を自分の体に戻したってわけか、最初から私と正面からやり合う気はなかったと。

まだくっついている左腕がこっちに伸びてくる。

対して私はもう腕を振り切っている、防御はできないだろう。

まさか負けるとは思っていなかったが、満足だ、気に入ったよ。

 

潔く負けを認め、目を瞑る。

 

「………って気絶してんのかい!」

 

 

 

 

気絶してた。

というよりあれだ、疲れとか再生のしすぎとか妖力の急激な減少とか自分の存在とかそもそも妖力ってなんだっけとかこれからこの世はどうなっていくのだろうとか私が生きていた時代になったらどうなるのだろうとか、いろいろなことがあって気絶したな。

あれ、半分以上関係ないじゃん。

 

「あ、起きた?」

「起きた。それで、あのあとは?」

「とりあえずここまで運んできて、そのまま続きで他の奴らとやりあって、それがひと段落してここに戻って来て、少し経ったらお前が起きた」

「あ、運んでくれたんですか、そりゃどうも」

「いいんだよ。多少強引に戦いに持ち込んだのは私だしな。戦い慣れもしていなさそうだったし、悪かったな」

「いや、勝手に地底に入り込んだの私だし、そんなに気にしなくても」

「そうか、ならいいんだが。その腕戻らないな」

 

あ、ほんとだ。

腕吹っ飛んだまま寝てたから再生していない。

止血はしてくれてるみたいだ、ありがたや。

妖力切れしてたから治らなかったのもあるだろうけど。

寝てる間に戻った妖力で腕を再生する。

 

「それにしてもその体、変な感じだな」

「変な感じって?」

「お前のその妖力、その身体に合ってない。普通そんなに強い妖力を持っていたら肉体の方もそれなりに強くなるはずだが」

「あー、まぁ、その辺はいろいろあるんですよ」

 

私の妖力や霊力のことは人に話すようなことでもないだろう、私自身自分のことがあまりわかっていないし。

 

「そういえば、一つ聞きたいことが」

「なんだ?」

「勇儀さんって、あの鬼の四天王の勇儀さん?」

「お?知ってるのか」

 

あーやっぱり。

なんか聞いたことのある名前だと思ってたんだ。

確か地霊殿のとこにそんな感じの名前が載ってたはず。

というか文たち、絶対知ってたよね、なんで教えてくれなかったの、こんなヤバい人がいるなら教えておいてよ。

そりゃそんな二つなみたいなのある人とおっさん比べちゃダメだよ、次元が違うもん、地球人とサイ○人くらいちがうもん。

 

「お、もう腕治ったのか、早いな」

「まぁそこくらいしか他の人より優れてるとこがないんで」

「そう自分を卑下しなくてもいいだろう、実際お前は戦ってる最中にあんなことを思いつくような奴だ。地上でやってく分には困らないだろ」

 

上は上で化け物が………まぁいいや。

 

「じゃあそろそろ私はこれで。地霊殿向かっていいんだよね?」

「あぁ、さっき連絡入れといたから向こうについたらそのまま中に入れると思うぞ」

「あー、いろいろと迷惑を………」

「だからいいんだって、もじゃもじゃが来たら中に通すように言いにいかせただけだからさ」

 

いやいい加減もじゃもじゃはやめろよ。

まぁ確かにすごい伝わりやすいだろうけど、それに白いを付け足して白いもじゃもじゃにしたら絶対わかりやすいだろうけど。

私はこの先も永遠にもじゃもじゃなのか?

 

「じゃあお世話になりましたー」

「おう、また会おうな」

 

いえ、できることなら一生会いたくありませぬ。

 

 

 

 

旧地獄、地獄というだけあってか、時々変なよくわからない禍々しい何かを見つける。

もしかして怨霊?怨霊とか?いやだなー。

いや、怖いとかではないんだけど、気味が悪い。

半透明の闇落ちした毛玉だと思えばいいか。

いやそれはそれで………

 

あまり人が通る様子もない街だけど、地底の要所につながっているだけあってかなり丁寧に道が舗装されている。

正直に言うと、やばい。

起きてすぐに再生したのは間違いだったか、妖力が足りない。

ついでに霊力もなんか少なくなっている、なんでや。

あ、わかった、あの巨岩浮かしたからだ。

もともとどっちもそんなに多くは持っていなかったから、あれだけ一気に再生したり弾を放ったりしたら減るのも当たり前だなぁ。

それとは別に疲労感が凄いので体を浮かして浮遊しながら向かっている。

 

思ってたより直ぐに地霊殿っぽいとこについた。

めっちゃあやふやな記憶だけど、来たことはあるから多分ここ、というかここじゃなかったらどこなんだ。

 

「お、あんたかな?」

「んえ?あ、こんちわ」

「どーも、あんたが白珠毛糸かい?」

「あ、はいそーですけど………」

 

んー?この人どっかで見たことある。

あ、そうだ。確か時々さとりと会話してた猫耳の人。

確かお燐って呼ばれてたよーな。

 

「まずは自己紹介、火焔猫燐。長いからお燐って呼んでね。さとり様に頼まれたからさとり様のとこまで案内するよ、よろしく」

「よろしく」

 

お燐と少し挨拶をして地霊殿の中へと案内してもらう。

その猫耳は椛とかのと同じようなものなのかな、よく見たら尻尾もあるし。

 

「しっかしまぁ、よくここまで生きてたどり着いたね。途中怨霊とかいっぱいいたんじゃない?」

「あ、やっぱりあれ怨霊だったんだ」

「知らなかったんだ。あれ妖怪が取り憑かれると死んじゃうから気をつけたほうがいいよ」

 

oh………私毛玉だからセーフだね!

 

「そんであの勇儀さんとやりあってその日のうちにここまで来たと。もしかして命知らず?」

「いやそんなことは………あるかなぁ」

 

まー何も考えずに地底に行ったりしてるから、命知らずと言われても仕方がないかなぁ。

妖怪が怨霊に取り憑かれたら死ぬってのも知らなかったし。

 

「おっと着いたな、じゃあ私はこれで。また機会があれば」

「あ、じゃあ。ここまでありがとう」

 

お燐と別れて少し経ったあと、目の前の年季の入った扉を開いた。



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毛玉と覚りの姉妹

「やっぱりあなたでしたか」

「えーと」

「大丈夫ですよ、ちゃんとわかってます。あの時の毛玉ですね」

「あ、はいそうです」

 

やっぱりさとりんならわかってくれた。

心を読む力がどんなものなのかは知らないけど、姿形は変わっていてもちゃんと同じ人ってわかるらしい。

 

「まぁこうして直接会ってみないとわかりませんけどね。あ、でも今回は大体予想できてましたよ」

「何故?」

「名前、あれ完全に毛玉じゃないですか」

「わかりやすくていいじゃない」

「私が名付けをすると、何故かみんなあだ名のようなもの考えてくるんですよね。何が気に入らないんでしょう。それはともかく、お久しぶりです」

「久しぶり」

 

うん、なんかこう、改めて声を出して会話するとなんか気恥ずかしいな。

 

「割とそういう人いますよね。まぁ私と話すなら心の声が丸聞こえになるので恥ずかしいとかそういうのでもなくなりますけど」

「まぁ普通の人なら心読まれたらびっくりするけどなぁ」

「そういう点ではあなたは最初にあった時の反応は動物とかのそれでしたよ」

「毛玉ってそもそも生き物なのか?まぁとりあえずはい」

「どうも」

 

さとりんに封書を渡す。

ちょっと汚れていたけど気にしない気にしない。

 

「まぁこれは後で読むとしましょう、先にやることを片付けておかないと。毛糸さんはどうします?もう地上へ帰るのですか?」

「いや、もう少し地底にいようかなって。前はなんか追われるように帰っちゃったし。もちろん地上と地底がややこしい感じになってるのは知ってるけど」

「いいんじゃないですかね、そんなのあんまり気にしないで。現に身内にも当然のように行き来してるのがいますし」

「あ、そのことなんだけどさ」

「なんでしょう。………あー、なるほど。こいしのせいで山の方々に迷惑がかかっているんですね、こちらとしてもできるだけやめさせたいのですが、言うことを聞かないので」

「ダメならダメで、気にしないように山に言っとくだけだから」

 

こいしよ、さとりん困らせたらダメだぞい。

 

「そういえば長いこと気になってたんだけどさ」

「仕事の方は構いません、続けてください」

「え?あ、はい。前にここ来て帰ろうとしたときに、さとりん今ありげなこと言ってたじゃん。あの後私こんな人の形になったんだけど、こうなるのわかってたの?」

 

そう、たまーに思い出しては気になってた。

 

「まぁ、わかってたといえばわかってましたね。毛糸さんの中にある妖力や霊力が影響してその存在自体が変異しようとしているのがわかっていましたから。こんな地底の薄暗いところで人になられても困るだけでしょうから、早く帰ることをお勧めしたまでです。普通の獣の妖怪とかだったらそこまでわからなかったのですが、毛玉だからですかね、割とわかりやすかったですよ。帰ったら帰ったで全裸で大分困ったと。でもそういう系の妖って人の形になると一気に妖力の量が増えるんです。それのせいで妖怪の山から出られなくなることも考えたので」

「んー、私が口挟む隙がねぇや」

「別に構わないって思ってるのでしょう?」

「まーね」

 

構わない、構わないけど私の頭がついていかないぜ、そんなに処理能力高くないから。

それにしても、私自身の存在が変異かぁ。

普通毛玉は霊力を持ってるけど、私は最初持っていなかった。

そこにチルノの霊力と幽香さんの妖力が………ってそもそもなんで他人のそういう力が私の中に入り込んでくるんだろ。

 

「私は少し心が読めて、そういうことに詳しいだけですのでそういうのはわかりませんね。まぁ探せばいると思いますよ、わかる人」

「探して会って、すぐに襲われたりしたら怖いじゃん」

「いやそんなことには………あぁ、もう既に何回も死にかけてるんですね。ついさっきも勇儀さんとやっちゃったみたいですし。傷の治りが早いみたいでよかったですね」

 

はい、本当に。

この傷の治りがめっちゃ早いのがなかったら、多分とっくの大昔に死んでると思う。

 

「そういえば。少し聞いて行きません?あなたが地底を去った後の一悶着」

「え?何それ怖い。まぁ聞くけど」

「わかりました。あの後こいしが少し暴れたんですよ、暴れたって言ってもちょっと家具が壊れただけですけど。もじゃ十二号はどこ!?私のもじゃ十二号は!?って。仕方がなく私は星になったのよ、って説明しました」

 

ふーん?ん?んー?星て。

 

「そしたらこいしが、動物の白い抜け毛を集め出してですね。固めてもじゃ十二号って呼び出したんですよ。ちなみにそれがあれです」

 

あれって………うわっ!なんだあれきったね!あれこそまさに毛玉じゃん!猫が吐く奴の。

 

「そしたらなんか楽しくなり出したみたいで、それを何十個も作り始めたんですよ」

「何十個も?あれを?」

「流石にほぼすべて燃やしましたけどね。あの残った一個は、こいしが燃やさないでって泣きついてきたので仕方がなく保存しているものです」

「………大変だねぇ」

「そちらのこの短期間で何回も死にかけた人生よりかは全然ですよ」

 

死にかけるって言ってもなぁ。

なんかこう………なんだこの感じ。

死ぬとかそういうのってあんまり想像つかないんだよ。

あ、死んだわ、とは思ってもなんやかんや生きてるし、生と死の境を彷徨うってのもないしなぁ。

 

「………一つ忠告です。あなたはここまでなんとか死なずにこれて、傷も治る。それ故に、あなたは何度命の危険に晒されても何も感じなくなっている、非常に危険な状態です。このままではあなた、何でもないところでひょっこり死にますよ」

「んー………その時はその時…って、その考えがダメなんだよね。確かにそうかもなぁ」

 

腕や足が取れてもすぐに再生する。

自分より強い相手に襲われても今まで何とか生きてきている。

つまりもっと慎重に行動しろと、そういうことか。

 

「まぁあなたには言っても無駄なんですけどね。私にはわかります」

「………いや、酷くない?」

 

 

 

 

「あなたが縦穴で見たのは黒谷ヤマメ、土蜘蛛です」

「蜘蛛?蜘蛛苦手なんだよなぁ、というより虫全般が。それに土蜘蛛………土蜘蛛まで女になるのかこの世界は」

「そして橋にいたのが水橋パルスィ。嫉妬心を操ります」

「え?操るの嫉妬心なの?私めっちゃ煽られたんだけど」

「あー、それ彼女の癖です。とりあえず煽ってその人を見極めるっていう」

「なにそれめっちゃ迷惑」

「でも本当はいい人なんです、嫌わないであげてください」

 

いや流石に一回会っただけの人を嫌うとかそういうのは………でもめっちゃ煽られたけどね。

 

「そしてあなたをずたずたにしたのが星熊勇儀、もともと妖怪の山を支配していた鬼の中の鬼、鬼の四天王と呼ばれるほどの強者です。ほんと、よく生きてましたね?多分相当手加減されてたとは思いますが」

「あれで手加減かぁ、底が見えないや。まぁいい人だったけど」

「そしてあなたを案内したのがお燐。火車猫です」

「火車猫?なんか聞いたことあるような………」

「平たく言って死体攫いです。………意外と驚かないんですね。もう慣れてるんでしょうか」

 

いや、もう慣れてるというか、知り合いに殺した相手の首をとるやつがいるからね、それくらいならいっそさらわれたほうがいいんじゃないかなって。

 

「ちなみに薪と同等の扱いを受けます」

「燃やされるんかい、火葬じゃん」

「そういえばこの旧地獄の地形とかについて話していませんでしたね。あんまり詳しくいうのも時間がかかるのに簡単に言いますが、地霊殿の中を経由していくと、灼熱地獄という場所に着きます。教えといてなんですが絶対に行かないでください」

「焦げる?」

「蒸発します。ある程度設備の揃っている場所なら、妖力とか全力で駆使すれば耐えれないことはないですが、それ以外の場所は本当に危険です。行かないでくださいよ」

 

いやいかんよ、そんな地獄。

地獄で受ける刑って、受ける人はもうすでに死んでいるから耐えられるのであって、生者が受けたら即死者に早変わりだよ。

 

「そういうわけで、とにかく危険なんです。管理も専門の妖怪じゃないとできないので、一般の立ち入りは禁止しているんです。まぁ皆さんそのことよーくわかってるので、近寄ろうとする人なんていませんけどね」

「そういえばさ、ここはもともと地獄にあったっていうけど、どうやってあの世のものをこっちに丸ごと持ってきたの?」

「そういうことができるすごい人がいるんですよね」

 

世界って広いなぁ!あの世の地形をごっそり持ってこれる人がいるんでしょ?一体何者なんだ。

というより、一体どうやったらそんなことができるほどの力が手に入るんだ。

「多くの場合は、そういう種族だから、という言葉ですべて片付けられてしまいます。事実私が心を読めるのもそういう種族だからですし」

「私の頭がもじゃもじゃなのは?」

「そういう種族だからです」

「解せぬ」

「あなたが解せようが解せなかろうが、それが世界の真理です」

「そんな真理なんかやだ」

 

部屋の内装を確認する。

最初に来た時も思ったけど、ちょっと洋式っぽい?

時代に合わないなとは思うけど、地底はそういうものなのだろうか。

そういうものだな、妖精だってバリバリ洋服だし、この屋敷の中の人も大体洋服だし。

勇儀さんの体操服もどきはマジでわからんが。

 

「そういえば今こいしはどこに?」

「わかりません」

「それでも姉か」

「生き物の認識から外れる妹を仕事に追われる中どうやって位置を把握しろと」

「ごめんなさい」

「わかればいいんです」

 

私働いてないからね、毛玉だしね、働いたら負けだよね。

ニートじゃないし、毛玉だからニートじゃないし。

 

「前々から思ってたけど、こいしって一体?姿が見えたり消えたりするって聞いたけど。それに認識から外れるって」

「そうですね………まぁ話してもいいでしょう。こいしは、簡単に言うと無意識です」

「………なるほど?」

「わかってないのになるほどとか、私の前では意味がないことわかってやってますよね?まぁいいです。詳しく説明しましょう」

 

そういうとさとりんは立ち上がり、その第三の目をこちらに向けてきた。

 

「このサードアイは私たち覚り妖怪にとって、存在そのものと言っていいほどのものなんです。鬼の角などのその種族を象徴するものと同じようなものですが、私達覚り妖怪はそれに加え、その精神を司っています。鬼の角などとはまた違った意味での身体の一部、いえ、むしろこの瞳こそが覚り妖怪といっても過言ではないほどです。実質的に、この瞳は脳の一部となっていて、もしこれがなくなるようなことがあればそれは死と同義です。そして、それが閉じればどうなるか、その結果があれです。もともと私たちは様々な場所から迫害され続けてここへたどり着きました。その過程で、こいしは他人の心を読むことに疲れ、サードアイを閉じてしまった。さっきも言った通り、サードアイは私たちにとってとても重要です。それが閉じられたことにより、こいしは思考する力を大幅に失ってしまった。私のサードアイは詳しくいえば相手の思考を読み取る力です。何も考えていない、つまり無意識な状態の思考を読み取ることはできません。そしてその無意識の状態と、閉ざされたサードアイの力の残滓によって、他者の認識にも介入できるようになったということです」

 

………あ。

寝てねーし!

 

「半分くらいは聞いてくれてますよね?別に必ずしも知っておかなければならないわけでもないですし、構いません。あと、さっき言ったことはだいたい私の決めつけです」

「決めつけでもそこまで考えれたら大体あってそうだけどねー」

「難しいんですよ、本当に。妖怪って精神にかなり比重をおいてますから、心が不安定になるだけで力が減る人も居ます」

 

心が不安定………るりぃ………

 

「あ、その人私知ってますよ」

「ほえ?マジすか」

「えぇ、このサードアイをみて1秒で気絶してた人です」

「るりぃ………こいしのそれって、どうにかならないの?」

「あの子のサードアイだから、他者がどうこうできるものじゃないですし、今のあの子の状況も、こいし自身が望んでやったことなんです。私は、人の心を読む力を持ち、それが理由で迫害されるあの子の辛さを誰よりも理解できる。だから、もし治すことができても、あの子がそれを望んでいないのなら………」

 

ぬぅ………心を読む力かぁ。

私にはそれを想像でしか考えることができない。

でも、自分の力が原因で迫害され、妹が心を閉ざしても、さとりんは今こうやってそこにいる。

強いなぁ。

 

「姉ですからね」

「さすが。………寂しくない?」

「別に妹が死んでいるわけではないですからね。ちゃんと会話もできるし、姉妹らしいやりとりもできる。ただまぁ、話をしている相手が、本当のあの子じゃないって思うと、時々は、そう思ってしまいます。でも——」

 

 

「ただいまお姉ちゃん!」

「お帰りなさい、こいし」

 

家族がいる、私はそれだけで充分だ。



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地霊殿の中の毛玉

「お姉ちゃんそこのもじゃもじゃの人だれ?」

「地上から来た白珠毛糸さんよ」

「そうなんだ、私こいし、よろしくね毛糸さん」

「よろしく」

 

毛糸さんって呼ばれとる………もう私はもじゃ十二号じゃねぇ!白珠毛糸だ!本当に心読まれてないよね?読まれてたらあの時の毛玉ってバレるじゃん。

なんかこいしがこっちに近づいてくる。

 

「すごい頭だね、まりもみたい」

「おぉん!?てめこのっ」

 

ふぅぅ、落ち着け、落ち着けわたしぃ。

無闇に切れるのは良くないぞーっ。

 

「毬藻とは呼ばないでね、うん」

「えー?毛糸って、普通の毛糸と呼び間違えられない?まりものほうがよくない?」

 

いや毬藻も似たようなもんだろ。

というか頑なに毬藻なんだね、許さん。

 

「じゃあ好きに呼んでいいからさ、毬藻はやめよーや」

「えー?わかった、じゃあ白いまりもっぽいから、しろまりさん」

「しろまりッ」

 

しろまり………しろまりて………確かに毬藻じゃないけどさ………白い鞠とも取れるけどさ………それはねーだろぉ………

 

「よろしくね、しろまりさん」

「こいし、名前で呼びなさい」

「いやいーよ、うん。しろまり………うん、まぁ、うん。うん………いいよ」

「やった!」

「毛糸さん………気を使わなくてもいいんですよ?」

 

白い毬藻じゃないから、私は白い鞠だから。

色設定ミスったス○モじゃないから。

 

「………なんなんですかその拘り」

「人には譲れないものというものがあるのだよ、私の場合それ」

「くだらないですね」

 

くだらない言うなし。

私にとってはとても重要なことなんだよ。

 

「あ、そーだみてお姉ちゃん、また一匹拾ったんだ」

「また変なやつ持って帰ってきてないわよね?」

「でもちょっと気になる」

 

よく見るとこいしは何かの籠のようなものに布をかぶせていた。

こいしがその布を外すと、それは鳥籠のようなものだとわかり、その中には………

 

「じゃーん、見てみて、もじゃ十二号にそっくりじゃない?」

「あぁ、うん、そうね」

 

それもじゃ十二号のペットおおお!!

今度は私の家に置かれてた毛玉が拉致られてるよおお!!やめろ、そんな目で見るな!というかこいしに家に侵入されてるじゃん!

 

「名前もう決めたんだ!もじゃ二十三号!」,

「23号!?」

 

もじゃまだ続いてたんかい!そして増えてんな!?私で12号だったのか今度は23号か!やったんか?今までのもじゃ全員抱き潰したんか!?

 

「安心してください、五匹くらい生きてます」

「思ったより生きてたっ、いやでも結局いっぱい死んでるし」

 

で、なにお前は?いいんか?もじゃ23号でいいんか?抱き潰されるぞ?その顔は別にいいってことか?

 

「余計かもしれませんが一応、毛玉というのは本来ほとんど自分の意思を持たないものなので、考えるだけ無駄ですね」

「おっ?私が変ってことか?そういうことか?」

「しろまりさんやっぱり毛玉なの?」

「毛玉ですけど?なにか?」

 

私は毛玉だ、しかしもじゃ12号ではない。

私は白珠毛糸だけど、もじゃ12号ではない。

私はしろまりさんだけど、もじゃ12号ではない。

そこ一番重要。

 

「じゃあさじゃあさ、この毛玉みたいになれるの?」

「なれるけど」

「見せて!」

「何故」

 

毛玉なんてあなたが今持ってるでしょうが。

毛玉なんてあれじゃない、私の首とったらそれもう毛玉だよ。

………くっ、やめろ!そのビー玉みたいな目と見せかけて実は全てを飲み込むくらいの闇に包まれた目で私を見るのをやめろ!

 

「じゃあ一回だけね」

 

こいしからすこし距離をとり、毛玉になる。

これすると喋れない手足がない毛しかないになるから、暇な時しかしないんだよ。

 

「わぁ、すごいねしろまりさん」

「こいし、それしろまりさんじゃない、あなたが持ち帰ってきた毛玉よ」

「あ、ほんとだ」

 

………ボケてるのか?

これが俗にいうアホの子ってやつか………嫌いじゃないわ。

 

「ま、それはさておき。こいし、大切な話があるんだ」

「ん?なに、しろまりさん」

「それは頑なに貫くんだなぁ。こいしってよく地上と地底を出入りしてるでしょ?それすると、山のわんことからすとかがびっくりするから、控えめにしてくれないかな?」

「んー、わかった!」

 

お、わかった、絶対に分かってないやつですなこれは。

まぁさとりんも言うだけ無駄って感じだったしぃ。

 

「じゃあ私この子部屋に置いてくるから、またねしろまりさん」

 

あ、行ってしまった。

達者でなぁ、もじゃ23号、君の犠牲は忘れない。

 

「多分あの籠の中から出さないので大丈夫だと思いますけど」

「結局外の世界を見ることなく永遠にあの狭い籠の中で漂い続けることになるんだな」

「最初に入れたのあなたでしょう?」

「ちょっと地霊殿見学させてもらいまーす」

「逃げるんですねー」

 

ちげーし、見学したいだけだし。

わー、改めて見ると立派な建物だなー。

 

 

 

 

建物中の中を探索していくと、前に私がさとりんに閉じ込められてこいしに一緒に就寝させられそうになった部屋があった。

いやー、懐かしいなぁ。

今ではこんなに立派、というより手足が生えちゃって。

 

「あれ?さとり様との話はもう終わったのかい?」

「ん?あ、えーとお燐だったっけ。火焔………」

「火焔猫燐、別にこっちは覚えなくたって構わないよ」

 

火焔猫燐か………知り合いにりんって名乗ってる人いるなぁ、あっちは多分実名じゃないけど。

 

「その名前って、さとりんが?」

「そうだけど、え?さとりん?え、ちょっと待ってさとりん?さとりんってさとり様のこと?さっき初めて会ったんだよね?」

「あー、いや、実はすこし前にもう会ったことがあるというか」

「ふーん?まぁあまりそこには触れないようにしておくよ」

 

あらお燐ちゃん空気の読める子。

それにさとりんはよくもまぁ、火焔猫燐なんていう名前を思いつくなぁ。

 

「にしてもすごい頭だね、もしかして種族は毛玉だったり?」

「おぉ?よくわかるね」

「そっかぁ、毛玉、毛玉かぁ」

 

んー?なんかお燐がすごい目を閉じて考え事をしている。

バレた?もじゃ12号ってことバレた。

 

「どしたの」

「いやー、あたいって猫じゃん」

「それが………あ、あー、そういうことね」

 

種族としての毛玉と猫が出す方の毛玉か。

こんな明らかに人の形してるのが毛玉を吐くなんて考えたくないけどな。

いや吐くなら猫の姿になるのか?火車猫っていうくらいだしきっと猫の姿になれるんだろう。

実際の火車猫の姿って知らないけど。

 

「まぁ安心してよ、あたいは出したりしないからさ」

「いや別に出そうが出さながろうがどっちでもいいんだけどさ。そういえばお燐はさとりんとどういう関係なの?」

「ん?飼い猫と飼い主かなぁ」

 

んー………さとりんはそういうのが好きなのかぁ。

要するにお燐はさとりんのペットと………お燐の方が体でかいのに。

 

「あたいってもともと普通の猫だったんだ。その時にあの人と出会ってね、いろいろとお世話になったんだよ」

「へぇ、それってまだ地上にいた頃の話?」

「そうだね。地上にいた頃って言っても、あたいたちがここにやってきたのもそこまで昔ってわけじゃないからね。大体二十年くらい前じゃないかな」

 

二十年前ってだいぶ昔だと思うんですが。

20年って言ったらあれだよ、小学生がもうバリバリの社会人になってるじゃん、昔人気だったアイドルがおじさんおばさんになってるじゃん。

やっぱり妖怪は人間とは寿命が違うんだろうなぁ。

私も多分長寿なんだろうけど、まだまだ心が一般人だから、多分慣れるのはかなり時間かかるんだろうな。

いやでも、もう変な種族とか出てきても驚かないし、だいぶ慣れてきたんじゃないだろうか。

 

「それより、あんたあの勇儀さんとやりあって五体満足だったんだって?すごいね、そんなに強いやつだとは思わなかった」

「いや実際には体結構吹き飛んでたけど。それに一番の決め所で気絶するし」

「ふーん?まぁすごいってことには変わりないさ。ところでここで何してたんだい?」

「ちょっとさとりんから逃げ………じゃなかった、この地霊殿の中をちょっと見学させてもらおうかと思ってさ」

 

建物自体は妖怪の山で見たことあったけど、ここまで大きな建造物はこの世界に来て初めてだ。

むしろ前世でもこんなに大きな建物はあまり見なかった。国会議事堂くらいありそう。

 

「そういうことなら案内するよ」

「え?いいの?」

「いいよいいよ、それに勝手に迷子になられてさとり様に怒られるのも御免だしね」

 

おう。

おう………?お、おう。

まぁ流石に迷子にはならないと思うんだけど………あ、自信なくなってきた、迷子なる気がする。

 

「じゃあまずはあそこにいこうか、ついてきて」

 

 

 

 

つれてこられたのはすごい大きな空間。

そして入って一言。

 

「臭、獣臭!」

「ここはさとり様が飼ってる動物たちが集まっている場所だよ。犬や猫、猿とか、空間ごとに分けられてて、別の場所には牛とか狼とか、魚とかを飼育してるとこもあるよ」

「ほえー………動物園………全部さとりんの趣味?」

「まぁそうだね。趣味というか、あの人はあんまり他人と関わるのが好きじゃないから」

 

そうかぁ。

動物って、カエルとか蛇とかバッタとかムカデとかミミズとかカニとかも飼ってる訳ですか?

私哺乳類以外は得意じゃないんだ。

 

「これだけの量、誰が面倒見てるの?」

「ほら、あそこに餌あげてる人がいるでしょ」

 

お燐が指をさした方を見てみると、たしかに餌をやっている人がいた。

なんか牛みたいなツノ生えてるけど。

 

「もしかしてあれも………」

「ここで飼われてた動物だよ。どうやら妖力とかの影響を受けて、稀に妖怪になる奴がいるみたいだね。基本飼育というか、この地霊殿はあいつらみたいな妖怪で回ってるんだ」

 

じゃあこの建物にいる人全員さとりんのペットじゃん。

軍隊できそう。

 

「さとり様は時々ここに来て動物たちとなんかしてるよ」

「なんかとは」

「だって見つめ合ってさとり様が独り言呟いてるだけだし。こいしはなんか毛がいっぱい生えてる奴持っていっちゃうけど」

「こいしのことは呼び捨てなんだね」

「だって本人がそうしろって言ったから」

 

そういえば私は………

毛糸、毛糸さん、もじゃ12号、しろまりさん、毬藻。

なんでこんなにあだ名みたいなの多いんだよ。

 

 

 

 

「ここが食堂だね。まぁあたいは適当に食べ物とっていろんな場所で適当に食べてるけど」

「ふーん。ご立派すねぇ。ん?あ、こいしじゃねあれ」

「あ、ほんとだ」

 

だだっ広い部屋のど真ん中の机にこいしが座ってた。

うぇーいぼっちぼっち。

まぁ私だっていつも一人で飯食ってるわけですけれども。

 

「あ、お燐!それとしろまりさんも、どうしてここに?」

「え?なに?しろまりさん?誰のこと?」

「私のこと」

「………えぇ。いやいや、それはとりあえず置いといて、帰ってきたなら言ってよ」

「だっていちいち探すの面倒くさいんだもん。それよりなんでしろまりさんとお燐が一緒にいるの?」

「案内してもらってる」

 

ところでなに食べてんの。

机の上の皿を覗き見る。

んー………ステーキじゃねえか。

ステーキじゃねえか!!

 

「え、これ、牛肉だよね?いいの?さっきの人牛だったよね?え?いいの?え?」

「あぁ、別に本人は食べないからね。もともと同じ種族のやつが食べられてるのを気にしてる奴もいないし」

「え、あ、いいのか」

 

おう、そういうものなのか。

でも文は椛に目の前で焼き鳥食われて嫌な顔してたような気が………よくよく考えたら椛酷いなおい。

地底と地上では妖怪の考え方も違うんだろうなぁ。

 

「そうだ、案内してるってことはお空にはもう会ったの?」

「お空はまだだね」

「お空って?」

「霊烏路空、私達はお空って呼んでるよ」

 

れ、れいうじうつほぉ?

うつほがお空の空になるの?え?

………

日本語って難しいね!!

 

「お空はこの地霊殿の下にある灼熱地獄で仕事してるんだ。灼熱地獄はそりゃもう熱くてね、まともに耐えられるのは地獄鴉であるお空くらいなんだ」

「そんなに熱いんだ」

 

地獄にあったっていうくらいだから、何千度とかあっても不思議じゃないように思える。

というか、灼熱地獄ってそもそもなんなんだろう。

というか、そんなもんの上に建ってるこの地霊殿って一体?

というか、ここにもいるのか、鴉。

 

「多分もう直ぐお空も休憩に入るから今からいこうかな」

「しろまりさん、お燐とお空はすごく仲がいいんだよ」

「そーなのかー」

 

お燐とお空って、そんなに前に、お、をつけたがるのか。

確かに呼びやすいけれども。

燐だったら私の中でりんさんと混ざるかもしれないし、空ってなんかこう、お空の方がいいよね。

 

その後食堂を出て多分お空のいる方へと向かっていった。

何故かこいしもついてきてた。



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既に完成されているグループに入るのは気が引ける毛玉

「でねー、もじゃ三号はいなくなっちゃってたんだ」

「悲しい事件だったねー」

「本当だよ、一体誰のせいなんだろう」

「それも全てイヌーイ・タクーミってやつの仕業なんだ」

「なんだって?それは本当なの?というか誰?」

「なんか死んでた人」

「いや故人なのかい。というかそれ、どう考えてもこいしじゃ………」

「許さない、いぬーい、たくーみ」

 

そんな感じのくっだらない会話をしながら、多分そのお空とやらがいる場所へと向かっていく。

ここまで歩いてやっと気づいたが、わりと放し飼いだ。

探せば二匹以上は動物が見つかる。

大体は犬とか猫だが、時々豚とか羊とかがいる。

 

ヤバイ、アニマルいっぱいでなんかヤバイ。

何がヤバイかって、そんなに獣臭くない。

あの空間がいろいろ多すぎただけかもしれないけど、それでもこんなに大量に動物がいるのにそこまで臭くないってことはちゃんと清潔に保たれているってことだ。

私なんてあのころは数日で泥のような匂いになったというのに。

そういった動物の管理とかも全部お燐みたいなやつがやってるんだろうか。

灼熱地獄の管理してるお空って人もさとりんのペットなんでしょ?さとりんやべー。

 

「ん?えー」

「どうしたんだい?」

「なにこの禍々しい………魔神とか封印されてそうな扉」

 

ふと横を見ると、それなりの長さの廊下の先に、鋼鉄で作られた、周りに怪しげなろうそく、骸骨が付いていて、よくわからん魔法陣的なのが描かれている扉を見つけた。

あ、や、し、す、ぎ、る、わ。

 

「あー、知らない方がいいよ」

「うん、知らない方がいい」

「二人してそんなに言う?一体なんだって言うんだあの扉は………ん?」

 

なんか………服?がかかってる。

………ん?

なん………だと…………!

 

「こ、これは………文字T、だと。なんでこんな時代にこんな時代を先取りしすぎて一周回ってダサいって言う扱いを受けている文字Tが!それに書いてある字がWelcome Hellだ。toが抜けている、というよりアルファベットだと?」

 

………………

ばなな。

ウェルカムヘルってなんだ、地獄ようこそってなんだ。

アルファベットだし英語圏の方?いやそれだったら普通toが抜けるはずがない、中学生でも間違えない。

となると英語圏じゃない………いやいや、もうそんなことどうでもいいんだ、なんでこんな地底に文字Tがあるんだ。

いいセンスしてるね!

 

「もしかして、さとりんの趣味だったり?」

「違う違う、それはね、もうめちゃくちゃに偉い人というか、お方というか、もうこの世界を超越してる存在の物だよ」

「どんだけぇ」

 

こっわ、そんな人が文字T着てんの?

………いや、そう言われると怖くない気が………いやでも世界超越とか言われたらねぇ。

とりあえずここから早く立ち去ろうそうしよう。

文字Tが気になってしょうがないけど。

文字Tかぁ………ちょっと欲しいぞ。

 

 

 

「お、いたいた。おーいお空ー」

「ん?あ、お燐、それにこいし様も」

「あ、そっちはこいし様なんだ」

「久しぶりお空ー」

 

休憩所のような場所に入ると、椅子に座った長い黒髪の女性が座っていた。

背中には文よりも大きいそうな鴉の翼があり、洋服を着ている。

その髪………そんなに長いといろいろ大変じゃない?私が会ってきた中でトップレベルに長いよ、腰ぐらいまであるじゃん。

なっが。

 

「ん?そっちのもじゃもじゃしたのは?」

「お姉ちゃんの知り合いのしろまりさんだよ」

「さとり様と知り合い?んー、悪い人じゃなさそう。よろしく、しろまり」

「いやもうしろまりで固定すんの?そういう感じなの?」

 

ノってやろうじゃねえかこんちくしょうが!

私はしろまりさんです、はい!

 

「すごい髪の毛だね、すごくもじゃもじゃしてる」

「そっちこそすごい髪の毛だね、すんごい長いね」

 

地上だろうと地底だろうと、みんな私を見たらまずは髪の毛の話になるんだ、そんなに珍しいかこの髪。

私、かっぱの技術革命起きたらストパーにするんだ。

私のアイデンティティ無くなるけど。

 

「二人から聞いてるかもしれないけど一応言っておくね、私は霊烏路空、お空って呼んでね。私はこの建物の下にある灼熱地獄の管理をしてるよ」

「管理って具体的になにをしてるので?」

「具体的に?うーん………お燐任せた」

「任された。灼熱地獄はその役目を終えてからだいぶ温度が下がったんだ、お空は主にその灼熱地獄の温度管理をしてるよ。温度を上げたり下げたり、上がる時は私の持って帰ってきた死体を投げ込んでる。ちなみに灼熱地獄っていっぱい言ってるけど正確には灼熱地獄跡だよ」

 

死体を燃料にするのか………成仏してくだせぇ、南無南無。

ていうか、温度管理をする必要ってあるの?別に放置で良くない?まーよくないから管理してるんだろうけれども。

別に私関係ないからいいか。

 

「元々は今よりもっと温度が高かったんだ、地獄に落ちてくる亡者たちがって、流石にもういいよね?」

「あ、はい、結構です」

「よかった、このままだと主に灼熱地獄がどういう罪を犯した者が落ちるとこなのかとか、その燃えてる仕組みとか、もういろいろ遡って教えることになるとこだったよ」

「物知りっすね」

 

やっぱり長いこと生きてると知識も自然と増えていくのだろうか。

 

「じゃあ三人はもう戻る?私は今から最終点検に入るから、少し時間がかかるけど」

「ならそうさせてもらおうかな」

 

お燐がそう言ったので、私は一足先に部屋の外に出ておく。

なんかこう、ホームステイに来たような感覚で、すごくここに居辛い。

ホームステイなんか行ったことないと思うけどね、多分。

 

外に出るとなにやら騒がしかった、どうやらその音は左の方から聞こえるらしい。

 

「なんの騒ぎ………馬ァ!?ヘグァア」

 

めっちゃロングでパーマの暴走馬に轢かれた。

出落ちやんけ………

 

 

 

 

「こいし、貴方が動物を持って帰ってきて世話をしないのは勝手よ、でもそうなった場合、誰が代わりに世話をすると思う?」

「………」

 

万○だ。

 

「貴方以外のみんなよ」

 

違うのか。

見事なまでの構文だったけど、あと規模大きい。

 

「ここで働いている人中にはあなたの境遇を知っている人も少なくないし、私の妹だということもあってあなたに強く言う人はいないわ。でもそれが、みんながそれを認めていると言うことにはならないの。あなたはちゃんと責任を取れるの?」

「もじゃ十八号は悪くない!」

「あいつはもじゃ十八号だったのか」

 

もじゃ十八号は生きてたんだな、めっちゃロングでパーマの馬。

あれ妖怪とかの類じゃないの?よく見つけてきたなぁ、無駄に白馬だし、個性強すぎ。

 

「そうね、もじゃ十八号は悪くないわ。ちょっと怒らせて暴走、そのまましろまりさんを轢いてそこには血飛沫が飛び立っていたとしても、もじゃ十八号は悪くないわ」

「え、血飛沫飛んでたの?マジで?こっわ」

 

いやこっわって自分のことじゃねーか、あとさとりんもしろまりさん呼びなの?なんなの?私は白珠毛糸です。

 

「今回の件、被害はしろまりさんだけで済んでいる。でもあのもじゃ十八号をここに持ってきたのはあなたよ、こいし。持ってくるだけ持ってきて、そのあとは放置なんて身勝手だと思わないかしら」

「うぅ………ごめんねしろまりさん」

「謝るなら今までもじゃと名付けてきた動物たちにどぞ」

 

あ、それならわたし謝られなきゃいかんやんけ。

我が名は、毛糸、もじゃ十二号、しろまりに分かれ、混沌を極めていた。

コノーママー。

 

「まぁ、幸いにも怪我した人は出なかったし、今回はいいわ。今回の件で反省したなら、ちゃんと自分で飼育できるやつを持って帰ってきなさい」

 

悲報、我、怪我人にカウントされず。

治るからか?30秒で完治したからノーカンなの?ひでぇや。

 

「それそうとしろまりさん、あ、間違えた。毛糸さん」

「間違えるなよ、わざとじゃない?」

「わざとじゃないです。いつ帰るんですか?べつにここに留まってくださっても構わないんですけど」

「あー………そうだなー」

 

別に地底にいても何かすることがあるわけでもないし………いや、それは地上でも同じか。

でもここって昼とか夜とかわかんないから、気づいたら数年経ってたっていうのも、ないとは思うけどあったらやだし。

あぁ、そうだ、私一応はいっちゃダメなとこに入ってたんだった。

 

「では、もう帰る支度を始めると」

「そだね、すんごい短い間だったけど世話になった、ありがとう」

「いえ、こちらこそ。封書も届けていただきましたし、いろいろ大変な目に遭わせてしまいましたし、申し訳ありません」

「いやいいって。あ、そうだ、あの封書ってなにが書いてあったの?中身知らないまま持ってきたからさ」

「あぁ、あれですか。………知りたいですか?」

 

急に真剣な表情になるさとりん。

気になるー。

 

「では言いましょう、恋文です」

「………こ、こいぶみぃ?」

「はい差出人は天魔」

「テンマァ!?」

「落ち着いてくださいそーいうんじゃないです。向こうが一方的に送ってきてるだけです、迷惑なんですけどね、ほんと。私が妖怪の山にいた頃もちょくちょく変なことに誘ってきて………時々縦穴に放り込んできますし、天魔って書いてある以上目を通すしかないんですよ。全て無視すればできればいいんですけど、時々重要なことも書いてくるから本当にもう………」

 

天魔………私の中でのイメージがなんか崩れ去ったぞ。

そんな奴がトップでいいのか妖怪の山ぁ。

 

「まぁ、そういう、くだらない話です」

「お、おつかれさん………」

「天魔さんもいい人なんですよ、私たち覚り妖怪にも良くしてくれましたし。ただあの女遊び癖が………」

 

けしからん奴だな、一回殴ってやろうか。

 

「やめたほうがいいですよ、妖怪の山を纏め上げることができる程度には強いので」

「あ、はい」

 

権力の濫用だ!ふざけんな!

 

「権力は使ってなんぼとも思いますけど、使わなきゃ損じゃないですか。使えるものは使わないと」

「はい、そーですね」

「ここでなんでもない会話をするより帰る支度をしてきたらどうですか?」

 

と言われても、特に何かを持ってきたわけでもないし、帰ろうと思えば帰れるし。

 

「それじゃあ帰ったらどうです?」

「いや冷たいし、寂しいし。あ、そうだ、返事の手紙とか書かなくていいの?」

「あー………そうですね、やっぱ書いといたほうがいいですよねぇ………わかりました、少し待っててください」

「あいよー」

 

よし、少しいろいろ回ってこよう。

と、思ったら扉の前にこいしとお燐とお空がいたでござる、急にどうしたんだ。

 

「しろまりさん帰るの?」

「帰るよ?怪我したから帰るよ?当然でしょ?」

「じゃあさじゃあさ、そこにお燐と二人で並んでよ」

「え?なんで?」

「いいからいいから」

 

お燐も困惑した様子で私の横に来た。

 

「はい、毛玉と猫になって!」

「え?いやそれは」

「早く早く」

 

言われるがままに毛玉になる、お燐は黒猫になった。

いやーこれってさー。

 

「見てみてお姉ちゃんお空!お燐が吐いた毛玉が浮いて——むぎゅ」

「やーっぱりそれだったかー、失礼だと思わないのかなー?」

「確かにあたいも一回考えたけどさ、実際にやらされるとは………」

「全くですね、お空あなたもそう思うで………」

「ぷっ………」

 

………えっ。

面白かったの?受けたの?マジで?どの辺に笑う要素があったよ?十人中十人がしらけてるよ?しらけて帰っちゃうよ?

 

「あー私満足、それじゃあねしろまりさん」

「さよならしろまぷっ………」

「しろまぷって………お燐もまたね」

「次会うのはいつかな?まぁいつでも来てくれて構わないよ」

「毛糸さん少し………」

 

さとりんが手招きしてくる、なんじゃらほい。

他の三人に聞こえない声でこう書かれた。

 

「………あなたは、自分の存在を理解していますか」

「………それは、どういう」

「わかっていないのですね、私からは以上です」

「え、あ、ちょ」

「これ、返事の手紙です、天狗にでも渡しといてください」

「あ、はい」

 

 

 

 

結局釈然としないまま地霊殿を出てしまった

毎回意味深な言葉ばっかり言ってきてもう朝と昼と夜しか寝れねぇぜ!

私という存在か………はっきり言って全くわからない。

私ってそもそもなんなんだいてっ。

 

「あっ、あなたは………」

「あら、もじゃもじゃ」

「白珠毛糸です、確か………パ、パルスィ?」

「そうよ、きっとさとりから聞いたのね」

 

考え事をしてたらパルスィさんにぶつかってしまった。

大丈夫?怒ってない?

 

「生きてたのね」

「まぁなんとか」

「それはよかったわ、下手に死なれて上と下でなにか問題が起こってもめんどくさいだけだからね」

「そりゃそうだ。………」

「なによ」

「いやー、煽ってこないのかなーって」

 

ここに来た時はめっちゃ煽られたのに、今回は全然やってこない。

 

「あぁ、飽きたからね、それに貴方は私の嫌いな種類の生き物じゃないし」

「嫌いな種類の生き物とは」

「いいから早く通りなさい、帰るんでしょう?」

 

早く行くよう急かされた、やっぱり余所者ははよ出てけってことなのだろうか。

 

「その簡単に人に覚えてもらえる髪が——」

「うっせぇバアアアアアアカ!!」



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毛玉はやっぱり絡まれる

「夜かなー?夜だったわ」

 

あそこにいると時間感覚が狂う、地底で生活するんなら別にいいだろうけど、ちょっと寄ってみるとかだったら気づいたら日付変わってましたとか普通にありそう。

とりあえず天狗の人探して、返事の手紙送らないと。

んー、天狗殿天狗殿ー………夜の間はみんな山の周りとかを哨戒に行ってるからいないのかな?地底への入り口だから探せば一人くらいいると思うんだけどなー。

探してみて、どうしても見つけられなかったらかっぱのとこにでも行こう、別にかっぱに渡してもいいでしょ、きっと天狗に渡してくれる。

 

夜はねー、ときどーき空に怪鳥飛んでるから飛びたくないんだよなー、でも下は下で妖怪いるし。

結局夜は行動すんなってことなんだよね。

ちょっやそっとじゃ死なない自信はあるけど、また化け物格とかの人が出てきて、私を本気で殺しに来たらもう無理だね。

 

………よくよく考えたら、こいしはどうやってあの馬地底に持って降りたんだ?担いだの?もしかして担いだの?さすが妖怪やることが人間とはちげーや。

お、あの辺りかな?火がついていて周りが明るくなっている。

近づいてみると小屋があった、小屋以外の何物でもない、小屋である。

人の気配はしないけどとりあえず中に入るか。

 

「失礼しまーす」

 

はいここどこですかぁぁぁぁ!?

 

 

なんでや!小屋に入ろうと来たらなんで急に異空間入んねん!なんでアナザーディメンションへの入り口が小屋の扉やねん!なんなんこの世界!常識も概念もへったくれもねぇな畜生!

周りを見渡すといっぱい眼球あった、コワイ、コワイヨアノメ、ヨウトンジョウノブタヲミルメデワタシノコトミテクルヨ。

ぐえぇ、SAN値削れるよぉ。

とりあえずなんだこれ?現実じゃないよね?精神世界?入っちゃった?私の精神って病んでんだな。

とりあえずさっさと帰んなきゃ。

後ろを向くと私が入ってきたと思われる扉があった、これで帰れるぜひゃっふぅ!!と、思ったら、バッテリー切れのどこ○もドア見たい感じでどこにも通じてあなかった。

え?もしかして私、帰れない?

あ、詰んだわ、さよなら私の人生、さよならお母さん、産んでくれてありがとう、あ、お母さんいなかったわ。

 

「はぁ………どーしよ」

「ごめんなさいね、無理やり連れてきてしまって」

「ファ!?フゥエアイァアァアァアァアイルブ!?」

「いやどんな驚き方よ」

 

そ、そそそらおめっ、こんな精神ゴリゴリ削ってくるような空間で突然背後から話しかけてきたらビビるに決まってんだろぁ!?全身の毛、主に頭部が逆立ったわ!

 

「えーと、落ち着いた?」

「おぢづいだ」

「本当に大丈夫?ま、まぁいいわ。気を取り直して………」

 

振り返った先にいたのは金髪の髪の長いすんごい美人。

このよくわからん空間にいたよくわからん人は、私を観察するような眼で見てくる。

 

「私は八雲紫、名前くらいは聞いたことあるんじゃないかしら」

「えーと、八雲八雲………あー」

 

八雲紫ぃ………何故こんな人とぉ………死にそう。

 

「…えーと、本当に大丈夫?顔真っ青よ?」

「いやあの、ホントもう無理、ヤバイ」

「え、まさか吐く?ここで?」

「うっ、おろ——」

 

 

「吐いたらすっきりしやした」

「そ、そうならよかったわ」

 

口から出した瞬間に口元に空間の裂け目的な何かが出来て嘔吐物がそこに入っていった、よくわかんねーけどこの人すげー。

 

「えっと………八雲様?さっきはとんだ無礼を」

「様はやめてもらえるかしら」

「なんで?妖怪の賢者と呼ばれるくらい凄い方なら様をつけないと………じゃあ八雲さん?」

 

なぜ様がいけないんだ、ええやん様、偉そうやん。

 

「とりあえず、私は白珠毛糸です」

「毛糸ね、よろしく」

「えと、ハイ、ヨロシクオネガイシマス」

 

なんだろう凄いフレンドリーな感じするのに放ってるオーラやばい、これは幽香さんと同等、もしかしたらそれ以上かもしれない。

 

「まぁこんな空間にいても落ち着かないでしょう?座って話をしましょう」

「座るってどこにわ〜お………」

 

既に座っていただと。

それだけじゃない、周囲が一瞬であの奇妙な空間から日本家屋てきな場所に変わっている。

どうなってんだ、空間を自在に操れるのか?しゅごい。

 

「今回貴方と会った理由は、一度話をしてみたいと思ったからよ」

「話、ですか。私なんかと」

「貴方だからこそ、よ」

「はぁ」

 

私だからこそ、かぁ。

地底に行ったことかなああああ!?謝るから見逃してくれないかなああああ!!

 

「別に貴方が地底に行ったことには何も思っていないから、安心して」

「あ、はい」

「前々から貴方にはとても興味を持っていたのよ」

「私に?」

「えぇ、なんの力も持たない毛玉という種族でありながらも、種族を大きく変えた力を持っている。それも、その力は他人由来、貴方自身も不思議に思うのでしょう?」

 

………

一体、この人は………

 

「どこまで知っているんだって顔してるわね。そうねぇ、貴方が今よりもっと先の未来から転生してきた、ということは知っているわよ」

 

ま、じ、でぇ?

ま、じ、かぁ。

 

「誰から聞いたんですか」

「誰からも。私はただ貴方が話しているのを聞いただけよ」

 

ふーむ、つまりなんらかの方法で盗み聞きしてたと。

なんて事しやがるんだこの美人、やばいやつやん、いや、やばいってことは前々から聞いてたけれども。

 

「えーと……八雲さん、あなたみたいなとんでもないお方がどうしてこんな毛屑のカスのゴミクズの価値ゼロのもじゃもじゃなんかに?」

「凄い卑屈ね、あと紫でいいわ」

 

とりあえず、問答無用でお前を消すゥ!!ってされてないから多分殺されたりはしないはず……されないよね?

 

「そうねぇ………まずは私の夢、理想から言いましょうか。私が妖怪の賢者としてこの幻想郷を管理しているのは、来るべき時に備えるためよ」

「来るべき時?」

「そうよ。貴方が元いた時代、そこには私たち妖怪は存在しておらず、伝承や伝説として語り継がれている。違うかしら?」

「えぇまぁ、大方」

 

なんか仲良くなったらメダル落としたり、目玉が親父だったりするけどね、あとそんなこと言ったことあったっけ。

 

「それを貴方はこの時代と比べて、別の世界だと思っている。でもそれは違うわ」

「えーと、どういう意味で?」

「貴方が元いた世界と、この世界は同一のものということよ」

「でもそれなら、こんなに妖怪がいるのがなんでこの先の時代で存在がなかったかのように………」

「貴方にはまず妖怪の本質を理解して貰わないとね」

 

今の話が本当なら、今の時代にこのわんさかいる妖怪や妖精が、未来で完全に消失してしまっているということになる。

どうしてそんなことになる?人間が妖怪を滅ぼしたのか?いやでもそれじゃ、存在が無かったことになっているのには説明がつかない。

…私のこのちっぽけな脳みそじゃ考えるだけ無駄か。

 

「妖怪とは、人間の恐怖から生まれたもの。感情という概念から生まれた妖怪は、精神に大きく比重を置いている。そして妖怪は人間から恐れられることで力を増す、他にも色々あるけど、これが一番強くなろうと思えば早いわね。つまり人間が妖怪を恐れなくなると、どうなるか分かるかしら?」

「……妖怪が消滅する、か」

「その通りよ、恐らく貴方の時代で妖怪が居なくなったのは、人間が妖怪を恐れなくなったから」

 

妖怪は恐怖から生まれたもの、ねぇ。

確かに幽香さんとかルーミアさんとかめっちゃくちゃ怖いもんね、ラスボスの風格出てるもんね、そら強いわ。

確かに私が元いた時代では、妖怪を恐れているものなんていない、だって存在を知らないから。

じゃあ人間が妖怪を恐れなくなった理由は………

 

「………技術力の発展?」

「恐らくね。河童を見れば分かりやすいんじゃないかしら。彼等はとんでもない早さでその技術力を上げている。人間が遅れをとっているのは、霊術などがあるからというのもあるだろうし、妖怪に襲われているというのもあるでしょうね」

「それでも、人間は少しずつ技術を発展させている」

「そうね」

 

河童はこのまま行くと、私のいた時代くらいになったらガン○ムくらい建造してそうだけど。

人間が銃などを発明し、妖怪と人間の力関係が逆転すれば妖怪は一気に消滅に追い込まれる。

もし私のいた時代と同じ世界なら、あの時代の歴史の教科者通りにことが進んでいくはずだ、鉄砲なんて言ったら、火縄銃だったらもう既に作られてるんじゃなかろうか。

 

「私が何をしたいのかというと、そんな貴方のいた時代のようにしたくない、阻止したいのよ」

「ってことはつまり、人間が科学を発展させる前に潰すってこと?」

「それも有効な手段かもしれないわね。でも人間はこの国に限らず他のいろんな土地にいるわ、逆にそのことで人間を刺激し、逆に消滅を早めてしまうかもしれない」

 

それならいいんだ、今は毛玉とはいえ人間が嫌いってわけじゃない、人間を滅亡させたら今度は妖怪が滅亡するだろうし。

 

「じゃあ、何をするつもりなんですか、紫さん」

 

そう聞くと、紫さんは僅かに口角を上げた。

 

「人間が妖怪を信じなくなる、それを逆転させるのよ」

「逆転?えーと………えー?」

「詳しく説明してもしょうがないから省くけど、この土地一体を全て結界で覆うわ」

 

んなアホな、それに結界で覆ったところでいったいどうするんだ。

 

「結界の効果は、その結界の外の非常識を中の常識とする、ってとこかしら」

 

バリバリ概念系キタコレ、ちょーっと何言ってるかわからないですねぇ、ここではリ○トの言葉で話せ。

 

「人間が妖怪を認知しなくなるその前にこの結界を張り、この土地を外界から遮断して妖怪の消滅を逃れさせる。これ以外に方法はないと私は思っているわ」

「んなめちゃくちゃな………でもできるから言ってるんですよね」

「その通りよ、まぁ成功するかしないかは一か八かってところかしら」

 

確かにそれなら、未来で妖怪の存在がなくなったままで、変に歴史改変みたいなのが起こる心配もないだろう、過去改変とかできるのかしらんけど。

そもそも私の記憶が全て私の妄想説も捨てきれないし、そんなことはないと信じたいけど。

 

「まぁこの話はこのくらいにしておきましょう。要するに私は、貴方に協力してほしいのよ」

「協力って………私なんて特に何かできるわけでもないと思いますけど」

「貴方はまだ今まで通り生活してもらって構わないわ。私と貴方、妖怪と人間が共存できるようになってほしいという想いは同じでしょう」

 

そんなこと一言も言ってないと思うけどなぁ。

まぁその通りなんだけど、まだってのが気になるなぁ。

あとどんだけ知ってるんだこの人、私の頭の中でも覗いてんの?

 

「ただ、私は同じ志を持つ仲間を増やしたい、それだけよ」

 

………嘘だ。

使える手駒を増やしておきたいっていう魂胆が丸見えだ、私なんていなくたって、目的を達成するならこの人一人でも十分なはず。

嘘だとはわかるんだけどなぁ、真意がまるでわからない、まるで底無し沼だ、考えれば考えるだけ沼にはまっていく。

私ごときが推し量れる人物じゃないってことは確かかな。

 

「それに、気に入ってくれたでしょう?この幻想郷を」

「うん、まぁいいところだとは思いますよ、何度も死にかけてることを除けば」

「貴方は相当運が強いみたいだから、そうそう死なないと思うわ」

「確かに、私は相当運がいいです、貴方みたいな凄いお方とこうやってお話できてるんですから」

「別に心にないことは言わなくたって構わないのよ」

 

ばれてたか。

本当に、どこまでわかってんだこの人。

 

「別に貴方に何かをしろと要求するわけじゃないわ、貴方は今まで通りの生活をしてくれたらいい。その日が来たら、私に協力して頂戴」

「えー、まぁ、はい、わかりました」

 

逆に考えたら、私がとんでもない危機に陥ったらこの人が助けてくれるかもしれないってことだ。

いやほんと、願望1000%なんだけど、そう願いたい。

断って、じゃあ貴方には消えてもらうわ、的なことなってもやだし。

 

「そう、感謝するわ。貴方は人間としても、人外としてもその思考を巡らせることができる、そこに私は惹かれてるのよ」

「それができないって、単純な相手の気持ち考えない自分勝手な奴って事じゃないですか」

「そういうのが妖怪には多いの、知ってるでしょう?」

 

うん、知ってる。

 

「じゃあ長くなってしまったし、そろそろお別れにしましょうか。最後に一ついいかしら?」

「え……いいですけど」

「なら言わしてもらうわね。貴方、自分の存在について相当悩んでるみたいね」

 

いやだからほんと、どこまで………

 

「今から言うことをしっかり覚えておくといいわ」

「………」

 

「毛玉としての貴方と、人間としての貴方、それは同じとも言えるし、別々とも言える。ただそれはどちらも貴方の中にあるわ」

「…えーと、どういう意—」

「それじゃあまた会いましょう」

「ですよねっ!」

 

 

 

 

「あだっ!ってぇ、ケツ割れたぞー……というか余計モヤモヤするようになっちゃったじゃん!もー、寝れっかな」

 

突然穴のようなものに吸い込まれて、自宅の前に落とされた。

パル○アかな?空間を司ってるのかな?

あと手紙天狗に渡し損ねてるし………

 

毛玉の私と、人間の私か……もし別々だとしたら、私は毛玉としての私となるのだろうか。

でもそれなら人間の私って一体……同じとも違うとも言ってたし、もうわっかんないねこれ。

まぁ、言われた通り、この言葉は忘れずに覚えておくけど。

 

「………もう夜明けかぁ」



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いつも通りのようで全然そうじゃなかった日々

あー、何回めの夏だっけこれ。

暑いよー、うちわで仰ぐの面倒くさいよー。

 

「ちょっと、こっちにもやってよ」

「なんで私が他人のためにうちわ振らなきゃいかないんだこのバカ氷精」

「ひょうせいだから暑いの苦手なの、溶けるから、こっちにもやってよー」

「ったくしょうがないなぁ」

 

なんか今年だけめっちゃ暑いなぁ。

夏は嫌いです。

セミは煩いし、蚊はいるし、虫が湧いて出てくるし、暑いし、梅雨時は湿気高くなるし。

にとりんよ、エアコンを発明するのはいつだい。

 

「いやでも本当に、今年の暑さは凄いですね。何人か妖精たちも暑さにやられて一回休みになってますし」

「バカは風邪ひかないけど暑さで死ぬんだな」

「ばかは風邪引かないならばか最強じゃん、すげーなばか」

「はー、これだからバカは」

「二人ともそのやり取りあと何年するつもり?もう聞いてて飽きてくるんだけど」

 

週四でやってるね、もうお互い慣れてきてよっぽどのことじゃないと言い合いにまで発展しなくなってきた。

慣れってやつだね、私は未だに毬藻って言われたらブチギレるけどな!心の中の私が叫ぶんだ、私はス○モなんかじゃないって。

 

「その髪暑そうだな、切ってやろうか、ずたずたに」

「やれるものならやってみるがいい、私の髪の毛は切られても10秒で元に戻るぞ」

 

何故か私の髪の毛は切ってもまたすぐ元の長さになる。

元の長さと言っても、切った時より短くなってる時はある。

私の髪の毛ってめちゃくちゃスローで伸びてるらしいから、多分切られると初期値に戻るんだろうね。

どうでもいいわ。

 

「ぬわあぁん暑いよー、なんか急に二人が避暑地としてこの家と奥の穴使い始めるから人口密度上がって暑いよー。氷もすごいペースで溶けていって霊力が微妙になくなっていくよー、もーやだー」

「多分もう少しで涼しくなっていくはずです、もう少しの辛抱です毛糸さん」

 

チルノは氷、つまり冬の妖精だから夏が苦手なのはわかる。

でも大ちゃんは緑っぽいから夏の妖精な気がするんだけどなぁ、まぁ今の状況を見るに違うってことなんだろうけど。

 

「というか、もうほんとむり、しぬ」

「おいチルノォ!死ぬなァ!チルノォ!」

「大声出したら毛糸さんも死にますよ」

 

無言でチルノの頭に氷をぶっかける。

もうこの家を氷で覆い尽くしてやろうか、豆腐を氷でコーティングしてやろうかこのやろう。

 

「こんな狭い家いてもしょうがないね、湖いこうよ二人とも」

「いいですけど、チルノちゃんおぶってくれませんか?」

「こいつぅ………」

 

 

 

 

湖、数年前までは普通の湖だった。

それが突如、今年になってからずーっと霧に覆われている。

ほんっとうに、マジで酷い時は数メートル離れた相手も見えなくなるくらい霧が濃くなって、誰なんだあんた一体状態になる。

そんなことは滅多にないけど。

 

「やっぱこっちのほうがまだ涼しいね、多分」

「それはそうですけど、毛糸さん頭大丈夫ですか?」

「大丈夫ですけど、至って正常ですけど」

「あ、いや、そうじゃなくて、髪の毛濡れるんじゃないかって」

「んあー?あー、洗うからいいや」

 

霧がずっと出てる原因は完全に不明だけど、あれだろ、その時不思議なことが起こったんだろ、もうそういうことでいいじゃん。

今は霧がそこまで濃くないけど、室内にいるよりは断然涼しい。

 

「んあー、こっちの方が涼しいなりー」

「あたい復活!ぐへっ」

「復活して1秒ももってないよ、生きかえれー、ザオ○ルー」

 

あえてザオ○クではなくザオ○ルである、特に理由はない。

真面目に熱中症かなんかじゃないのだろうか、チルノ。

 

「本当に、今年の夏は暑いわね」

「うわっ、なんか出た」

「なんかってなによなんかって」

「えーと………し、しらさぎ姫?」

「わかさぎ姫よ!惜しいけど間違えないで!」

「あ、あー、ワラ詐欺姫ね」

「わざとでしょ!」

 

そうですけど。

 

「どうしたんですかわかさぎ姫さん」

「そうだそうだ、いっつも湖の中で引きこもってるくせに何故急に上がってきたんだ」

「人魚って言ってもね、空気も吸わなきゃ生きていけないのよ」

「うぇ?マジ?」

 

人魚は両生類だったのか………いや絶対違うな。

じゃあ哺乳類なの?えーー?

そもそも妖怪は妖怪だな、うん。

あと湖は底が全く見えないくらいには深い。

 

「この夏は急に暑くなって、湖の中の他の奴らもなんかいろいろ影響あって、襲われそうになったから上に逃げてきた」

「いつも食べられそうになってますね」

「本当だよ、なんでそんなにみんな食べたがるのかしら」

 

確かに美味しそうだもんね、わかさぎ姫。

動物的目線から見て、栄養豊富そうだもん。

 

「う、急に寒気が、こんなに暑いっていうのに」

「誰かが食べようと思ってるんじゃない?」

「あり得なくはないわね……というかなにその目、怪しいんだけど、何その目、ちょ、こっち見ないで、獲物を見る目なんだけど」

 

ち、バレたか、察知能力だけは高いな。

いやー冗談なんだけどね冗談、ほんとだよ?毛玉嘘つかない。

 

「最近いろいろおかしいんだよねー、急に霧は出るわ、今年の夏はめっちゃ暑いわ、机の足に小指ぶつけるわ、こけて頭に石がクリーンヒットするわ、もうおかしいよね」

「いや後半関係ないですよね」

「それはそうとさー、ここに名前ってあったっけ」

「名前ー?」

 

そう言われてみれば確かに、この湖のことを湖としか呼んだことがなかったな。

まー多分幻想郷に湖ってここしかないんだろうけど。

 

「私はこの湖から外なんて出たことないからわからないけど、確かに名前って無かったわね」

「私もずっとこの湖の周りにいますけど、名前とかはついてなかったと思います」

 

名無しの湖ねぇ、別に名前なくてもいいとは思うんだけど。

名前つけるなら幻想湖?ないっすね、名前安直すぎる。

 

「じゃあもう霧の湖でいいんじゃねーの」

「チルノお前………私の三倍センスあるな」

 

どんぐりの背比べ感は否めない、でも個性的ではあると思う。

年中霧が出てる湖なんて日本全国探してもここくらいじゃないのかな?私が知らないだけなのかも知れないけど。

 

「じゃあそれでいいんじゃない?今日からここは霧の湖ってことで。深く考えても無駄だよ無駄」

「なら私、みんなにここの名前が決まったこと教えてきますね。どれくらい覚えてくれるかわかりませんけど」

「あたいも行く!あたいが名前決めたって自慢する!」

 

そんなんでマウント取るつもりなのかお前………もっと他のことで自慢しなさいよ。

あ、行っちゃった。

うむ、暇なり。

山の連中は………遠いし面倒くさいし今度でいいや。

 

「私はここから動けないからなぁ」

「じゃあちょっと遊ぼうよ」

「いいけどなにで?」

「じゃあまずルールを………規則説明するよ」

 

 

 

 

「じゃんけんぽん、あっちむいてほい」

「アアア!!また負けた!こういうのって普通慣れてる方が強いんもんでしょ!?おかしいでしょっ!」

「なんかこう………凄く読みやすい」

「なんで!?」

 

解せぬ、あっち向いてホイほどの部分で5回連続当てられるのは解せぬ。

さてはわかさぎ姫お前、超能力を………

 

「もう一回!」

「わかったわよ」

「ジャンケンポン!」

「あっち向いてほい」

「クッソがあああああああ!!」

「いや悔しがりすぎでしょ」

「もういいです!わかさぎ姫とは一緒に遊んであげません!」

「なんでそうなる」

「私が勝てないから」

「自分勝手か」

 

自分が勝てるゲームだけをする、これ常識じゃろ。

 

「じゃあこれで最後!」

「はいはい、じゃんけんぽん」

「しゃあ勝ったァ!あっち向いてホ——」

「そーなのかー」

「ぇ………」

 

私の右手が………食われている、だと。

後ろ向いたらルーミアがいた。

 

「ちょ、何食べてんの!?離しなさいこのっ、あ」

「あ」

「あああいってえぇええぇえ!!私の右手がああ!!」

「まずっ」

「てめぇ!人の手食っといて不味いとはなんだ!お世辞でも美味いって言っとけや!!」

「まずい」

「ぶっ潰したろかワレェ!!」

「ちょ、落ち着いて!」

「落ち着いた」

「うわこわ」

 

感情の起伏が激しいのかもしれない。

よくよく考えたら右手くらい食べられてもすぐまた生えてくるからね、別にいいよね。

なんから腕がどっちも吹き飛んでることあるし。

 

「………よし、治ってき」

「あむ」

「いい加減にしろォ!」

「あむあむ」

「いて!お前あむあむ言ってるけど思いっきり歯が食い込んでるんですけどっ!やめなさいこの、離れなさいっ!」

 

また手持ってかれたし………治るからって食べていいわけじゃないんだぞ!あと不味いなら食うな!

どうせなら左腕持っていけばいいのに、その時は思いっきり泣いてやるけど。

 

「あっち向いてホイ」

「え、ちょ」

「うぇーい私の勝ちィ!」

「不意打ちじゃないの!」

「勝てばよかろうなのだァァ!!」

 

過程や方法などどうでもいいんだよ!!

は!大ちゃんとチルノの気配。

 

「おーい、自慢してきたぞー」

「本当に自慢したんかい」

「まぁここ名前覚えててくれそうなのは三人くらいでしたけどね」

「逆にその覚えられる三人って一体なんなんだ、気になる」

 

並の妖精以上の知能は少なくとも持ち合わせていることになる。

一体何者なんだ。

妖精か。

妖精を馬鹿にしているのは私か。

 

「って、え、今気づいたけどその手どうしたんですか」

「食われた、こいつに」

「まずかったのだー」

「だから不味かったはやめろって、地味に傷つくでしょーが。せめてなんとも言えない味だったって言いなさいよ」

「なんの価値もない味だったー」

「ひど」

「いや問題はそこじゃないと思うんですけど」

 

というか、ルーミアさんの方には私旨そうって言われた気がするんだけど?やっぱ不味かったの?

不味いなら食べないでね!

んえ?チルノなんで震えてんの?

 

「おいバカ大丈夫?」

「チルノちゃん大丈夫?」

「こ……」

「こ?」

「ここであったが二年目!決着をつけてやる!」

「そーなのぶへっ」

「ルーミアー!」

 

先生!チルノさんがルーミアさんを殴りました!

グーで!

 

「おいどーしたバカやめろ!」

「こいつはあたいを怒らせた!なんか急に背が伸びてて生意気だから攻撃したらぺしってやられた!」

「お前ルーミアさんにケンカ売ったの!?本当にバカだな!あとなにそのピンポイントな記憶力!」

「え、なに、どういう状況、飲み込めないんだけど」

「チルノちゃんがルーミアに何か怒ってるとしか!」

「ふんぬ!」

 

チルノが一方的にルーミアを殴っている、ルーミアは、そーなのぶへ、と、そーなぶは、しか言わない。

 

「やめろ!そんなに刺激したらまだ昼間なのにえーと、その、夜の間だけ目覚める第二の人格的なのが目覚めちゃうかもしれないでしょーが!」

「そーなのぶへ」

「おりゃりゃりゃりゃ!」

「そーなのぶは」

「おいバカ、いい加減にゴフ」

「毛糸さーん!」

 

チルノに普通に殴られた。

 

「ここはどこ、私は誰」

「そんな………記憶が………」

「ってそんなことやってる場合じゃない!おいチルノ!いい加減にぃ………」

「毛玉…じゃなかった、毛糸さん?毛糸さーん!」

「気絶したね」

 

………っは!一瞬気絶してた!

チルノを止めないと……ん?

 

「親方正面から女の子がグハッ」

「へぐぁ」

「チルノちゃーん!」

 

急にチルノがふっとばされた。

何があったチルノ、って気絶してるし。

 

「一体何が……あ、あれは」

「んあ?あれってな……あ、アレは」

「あれってなによ、気にな…ちょっとよくわからない」

 

あ、あの見ただけで人を殺せそうな目つき、雑魚が近寄ることすら許されない風格。

 

「餓鬼が………舐めてると砕くぞ」

「な、なぜこんな昼間に…」

 

封印が完全に無くなったのか?いやでもまってよく見たら………

 

「ち、小さい」

 

本来のルーミアさんならもっと背が高いはずだ、それがちびっこサイズになっている。

中途半端に封印が解けたのか?

 

「お前ら、あんまり舐めてると食うなのかー」

「うぇ?」

 

え、いや、なんて?

 

「次舐めたことしたら次は本当になのかー」

「う、うえぇ?」

 

なんか最後の方凄く緩いんですけど。

え、いやあの、え?どうなってんの?

 

「ぶっこなのかー」

「あ、あの、大丈夫ですか?」

「そうなのかー」

「あ、完全に戻った」

 

な、なんだったんだ今のは………気のせいか、うんそうだ、気のせいだ。

私はなにも知らないしなにも見てないし知らないし無関係だし知らないし知らないし。

 

「おどろかせやがってこの——」

「そーなのかー」

「ぐは」

「チルノちゃーん!」

 

あ、やっぱ戻ってないわ。

 

「急に襲ってくるなんてなんなのだー?殺すのだー」

「い、いや戻って?ん、んー?ど、どどっちなんだこれ」

「チルノちゃんしっかり!」

「う、あたいはいったい、ここはどこなんだ」

 

せんせーチルノさんの冒険の書が消えましたー。



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毛玉と幽香

「あれかー?嫌だなー、嫌だなー、嫌だな……嫌です」

 

風に流されて辿り着いたから、場所なんてほぼほぼ覚えていなかった。

だからりんさんに聞いて、足を生まれたての子鹿の如くガクガクさせながら、いや浮いてるからガクガクはしないけど、なんとかここまで辿り着いてきた。

いやー、優しいの知ってるよ?知ってるけどさ、オーラってものがあるじゃん、強者の風格っていうの?

あのりんさんが死にかけたって言うくらいの強さだよ?怖くない?怖いよね。

でもそうやって自分で勝手にビクビクするのもいやだから、いい加減にケジメをつけようとここへ来た。

決意を抱くって大事だよね、うん。

 

太陽の畑

季節問わず一年中ひまわりが咲き、全てのひまわりが太陽の方を向いていてその景色はすごく壮観だ。

でもやっぱりひまわりは苦手だ、真ん中の部分が無理、なんか凄い密集してて無理、無理です。

もしかしたら私は集合体恐怖症なのかもしれない、私は毛が集合してできてる存在だけどね、多分。

 

頭、そして手首を順番にさする。

無くしちゃったなぁ、花、怒ってないかなぁ、そもそも私って気づくかなぁ。

もちろん攻撃されそうになったら全力で逃げるつもりだけど、大丈夫かなぁ、大丈夫だよね、根拠はなんもないけど。

 

太陽の畑の周りをぐるっと回り、入り口らしきところを見つけたところで足を止める。

来る時にりんさんに止められたんだよなぁ、目潰しまでされて。

ビクビクしてる私が言うのもなんだけど、みんな幽香さんのこと怖がりすぎなんじゃないだろうか。

そりゃここを荒らしたやつには容赦ないかもしれないけどさ、それだけで人を判断しちゃダメですわ。

髪だけで人を判断してはいけない。

 

意を決して、太陽の畑の中心へとつづいている道を進み、その先にある家に向かって歩み出した。

周りのひまわりが太陽の方を向いているはずなのに私のことを見ている気がする、落ち着かない、怖い、帰りたい。

でも行くしかないんだよなぁ………はぁ。

 

 

 

 

ダメだ、ここに来てコミュ障が発動してしまった、

ノックすらできない、いやそもそもこの時代にノックっていう概念あるの?でもこの家は洋式っぽいからノックが通じるんじゃ……いやそもそもここは日本だぞ?ノックってどこで生まれた文化なんだ?ノックしたとして曲者と思われて即爆殺されたらどうするの、どうするというより死んでるじゃん。え、なに、さりげなくここにいるアピールできないかな、ずっとここにいても気配感じ取られてたら絶対怪しまれるしそもそも手遅れかもしれな………

考えるのやーめた。

頭の中をを真っ白にしてノックをする。

 

だけど何秒待っても来ることはなかった。

もう一回……いややめとこ。

留守なのかなぁ?それとも寝てるのか。

いや寝てはないな、真昼間だし、寝てるかもしれないけど。

 

家の周りをぐるっと回ってみたけど、中に人がいる様子はない。

うっわ、せっかく死ぬ気で来たのに留守ですか、最悪。

場所覚えたし出直そ、三年後くらいにまたこよ。

後ろを向いて家を引き返した。

 

「あだ、すみません………ぇ」

 

誰かにぶつかった………だと?

えっと……あ、冷や汗やばい、やばいやばい。

すぐに謝ったけど顔が上がらない、というか上げたくない。

このまま粒子レベルに分解されて消えたい、もしくは溶けてなくなりたい。

 

「こんなところに人が来るなんて、珍しいわね」

 

あっへぇん。

お、おおあおいああ。

うぇ………幽香さんだ。

 

「ど、どどうも」

「何の用かしら、ここに来ると危ないって誰かに聞かなかったのかしら」

「いやあの、えと、まぁ、えと、こう………」

 

な、なななんて言ったらいいんだっけ。

えーあーえーっと、んーー?いやえーと……

 

「………」

「……何か話したいことがあるなら中で話しましょう」

「は、はぃ」

 

 

 

 

う、後ろから気配ゼロで超至近距離に来るなんて、普通声かけない?声かけるでしょ?かけないのが常識なの?

とりあえずめっちゃ背筋が伸びてるのは感じてる。

お茶を入れてくれたので落ち着くためにも飲ませていただいた。

で、顔を見てまたなんも言えなくなって。

そしてもう一杯入れてくれて、そして顔を見て。

今三杯目。

あっれぇ、紫さんのときでもこんなに緊張してなかったぞぉ?なんでや、二人とも放ってるオーラは同じくらいなのに。

 

「……すごい頭ね」

「えあ、はい、よく言われます」

 

会う人の8割に言われます。

なんか気分が一気に落ち着いた、ありがとう私の髪の毛。

 

「えっと………実は私、数年前に幽香さんにお世話になってまして………」

「………」

 

あ、やばい、眼光で死ぬ。

なにその目、え、怖いんだけど、え?私死ぬの?死んじゃうの?さようなら現世よろしく冥界しちゃうの?

というか柊木さんの65倍くらい眼光やばいんだけど。

 

「覚えて、ませんか?毛玉なんですけど………」

「………」

 

あ、目を瞑った。

………

いや止まったんですけど、今思い出してるのかな?何か言ってよちょっと、あの、おーい。

あ、空気が重すぎて圧死しそう。

 

「いらっしゃい」

「………うぇ?」

 

………ほわっと。

うぇあえ?いらっしゃいってなんぞ。

 

「覚えているわよ、あの時の毛玉でしょ。まぁ立派になったわね」

「えー、あ、おかげさまで」

「毛玉ってそんな頭になるのね」

 

やっぱり髪かい。

 

「それに、私とよく似た妖力を持っているようだし」

「あの、それに関しては」

「大体予想がつくからいいわよ、こっちもそんなに緊張されたら申し訳ないわ」

 

ごめんなさい、でも緊張はしょうがない。

理由はわからないけど、この人からもらった妖力のおかげで私は今まで生きてこれた、妖力がなかったらまず間違いなくとっくの昔に死んでいる。

本人がどう思ってるかは知らないけど私は五百回くらい感謝の気持ちを述べたい。

え?チルノ?あれは………本人忘れてるっしょ。

 

「気付いてる?」

「はい?何をですか」

「貴方、それなりに噂になってるのよ」

「えー?」

「多分大袈裟にされてるでしょうけど、妖精を従え山とも繋がりを持つ、とか言われてたわ」

 

山と繋がり?えーと………五人しか知り合いいないっす。

妖精なんか従えてないし、寧ろ従ってる時もあるし。

まぁ幽香さんも話だけ聞いてたらとんでもない悪人サディスト扱いされてるから噂なんてそんなものだと思う。

 

「流石にそこまでは……山に知り合いはいますけど」

「そう、その人達とは親しい仲なのかしら」

「親しい………親しいと言えば、まぁ」

 

突然押しかけてきて酒飲んで嘔吐してくるくらいには。

 

「いいことね」

「はぁ…それはどうも」

「友人はいるに越したことはないわ、大切にしなさい」

「え、あ、はい」

 

一体何を教えられてるんだ私は………

幽香さんがすごく寂しそうな顔をしている。

 

「私にはそういう友人っていうのがいないからね」

「……それは」

「えぇ、私が恐れられているからよ」

 

………そのオーラのせいでもあると思います。

 

「最も、妖怪ならば恐れられて当然、恐れられているから妖怪は存在することができる。それが力のある者なら尚更」

「でも私は、恐れられたいとは思わないです」

「そういう考えを持つ者もいるでしょうね。一口に妖怪と言っても、それは人間より遥かに多様なのだから」

 

そもそも私は未だに自分が何者かわかっていない。

きっと私という存在が不安定なんだ、妖力と霊力を持っているのが関係あるのかは知らないが。

自分が一体何者か分かるまではとりあえず、私の好きなようにするつもりではあるけど。

 

「貴方くらいよ、私みたいなのに近づいてくるのはね」

「それはまぁ、私だって怖いですけど」

「恐れを知らない生き物は生きる価値が無いのと同等よ。恐れているから生きることができる」

「………私の場合、怖いのは怖いけど幽香さんがどういう人かちょっとだけ分かるので」

「そう……貴方から見て私は何に見えるの?」

 

うぇ………んー、なんて答えよう。

 

「確かに気配とかは怖いし、凄く強くて何も知らなかったら怖がると思います。けどやっぱり優しいんですよ、私が知ってる幽香さんは。本当は一人が好きじゃなくて、ただ花が好きなだけ、そういう人だと思ってます」

 

幽香さんだってただの人だ。

妖怪や人間に、大した違いはないと私は思う。

どっちも感情を持っていて、どっちも生きていて、いつかは死ぬ。

違うのは寿命とか、力とか、種族的なものだけだ。

 

「私なんかが知ったように言ってしまってすいません」

「謝らなくていいのよ。そうね、私はそういう妖怪なのね」

「私は嫌いじゃないですよ、幽香さんのこと。じゃなきゃわざわざ会いに来ませんもん」

「ありがとう」

「寧ろお礼を言いたいのはこっちの方っていうか………」

 

幽香さんは普通の人だ。

寧ろ私より遥かに普通だ、異常な奴扱いされるなら本当は私がされるべきだと思う。

 

「あ、そういえば。あの時にもらった花冠、色々あって無くしちゃいました」

「あぁ、いいのよ別に気にしなくて。その様子だと大事にしてくれたんでしょう?それだけで嬉しかったと思うわ」

「嬉しい、花がですか」

「えぇ」

 

花が嬉しいとか思うのだろうか。

いや、幽香さんが言うならきっと感情とかあるんだろうけども。

私みたいな奴が見ても、植物は植物としか見えないなぁ。

 

「花、やっぱり好きですか」

「当然ね。孤独を紛らわせてくれるし、純粋で、汚れのない、色で表すなら白のような存在よ」

 

白………私は白色だけど色で表したらきったない色してるんだろうな。

花は色とりどりだけど、幽香さんから見たらそれは真っ白な存在だと……よくわからん。

 

「まぁ、私で良ければ友人?になりますよ」

「今まで生きてきてそう言われたのは初めてね」

 

めっちゃ寂しいじゃん………今までそうだったからこんな花に囲まれた生活を何年?何十年?わからないけど長い間続けているんだろう。

 

「名前いいましたっけ、白珠毛糸です」

「知ってるでしょうけど風見幽香よ。その名前は自分で考えたのかしら?」

「いや、付けてもらいました」

「そう」

 

思えば私って凄く友人に恵まれてるんだなぁ。

友人だけじゃ無い、それ以外も含めて、私は恵まれている。

 

「会いにきてくれてありがとう」

「こちらこそ、私なんかと話してくれてありがとうございます」

「よかったらまた遊びに来て。出せるものなんてないけど、また話をしたいわ」

「はい、わかりました。それじゃあ」

 

 

結局少しの時間話しただけだったけど、幽香さんの家を出て私は太陽の畑を後にした。

ずっと違和感があったんだけど、あの家って幽香さん以外に誰かいたのかな。

外はまだ全然明るいけど、さっさと帰ることにした。

 

 

 

 

「………隠れてないで出てきたらどう?」

「あら、見つかってたのね」

「胡散臭い気配で丸わかりよ」

「彼女には優しいのに私には酷いのね」

「何を今更」

 

彼女が去ったあと、天井に現れた不気味裂け目から八雲紫が薄ら笑いを浮かべながら体を半分現す。

 

「来るのは構わないけど歓迎はしないわよ」

「少し話をしようと思っただけじゃない」

「………彼女に何をしようとしているの」

「あら、まるで自分の所有物に手を出すなって顔ね」

 

この女はいつも腹の立つ言葉ばかり……

 

「凄い形相ね、私、嘘は言ってないと思うのだけれど」

「どうでもいいわ、煽りに来たのなら帰ってくれるかしら」

「安心して、別に彼女の意思を無視してやるって訳じゃないわ。ちゃんと本人の承諾を得てから協力してもらうわよ」

 

信用ならない。

いつだって自分の望んだ通りの結末にする、その為なら本人の意思なんて関係なく行動を起こすはずだ、この女は。

 

「何よその目、信用ないわね」

「信用が欲しいなら素行を改めたら?」

「いらないし、別に私素行悪くないでしょう?」

 

全く、どの口が………

 

「答えなさい、次は何をしようとしているか、あの子に何をする気なのか」

「そうねぇ、別に今すぐってわけじゃないわ。私の望む理想郷、それが完成する時に、彼女に手伝ってもらいたいことがあるってだけよ。というか、まだ二回しか会ってないのに随分彼女のことを気にかけるじゃない」

「………」

「今回貴方に会いに来たのは、彼女の力についてよ」

 

あの子の力?

 

「貴方が一体なぜそんなことを知っているのかしら

「今はそれはどうでも良いでしょう。いきなりだけど言わしてもらうわね。彼女、白珠毛糸の能力は………」

 

 

 

 

「………いいでしょう、本人がそれを良しとするなら」

「貴方の同意を得られて良かったわ、実行直前に貴方に敵対されたら堪ったものじゃないから」

 

きっとあの子はそれをやると言うのだろう。

 

 

それが彼女が選ぶ選択ならば。



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山の面倒なこと

「うぇーい柊木さんおつかれさーん」

「うわ!?なんだお前急に!」

「なにって、見かけたから絡みにきたんですけど」

「勤務中だ帰れ!」

「せっかく遊びに来たんだから茶くらい出せよ足臭ー」

「臭くねぇし、出そうにもなんも持ってねえわ!それに持っててもお前には出さん!」

 

うわ酷い、それが女性への態度ですか。

え?お前毛玉だろって?そーですね。

 

「勤務中ってなに、哨戒?」

「あぁそうだよ!人間の動きも探るついでにな!わかったら帰れ!」

「何連勤?」

「あ?」

「何日連続働いてんの」

「………二十超えてから数えるのやめた」

「社畜乙」

 

休みっていう概念があるだけ妖怪の山は時代を一歩先取りしているのかもしれないけど。

いやーしっかしよく働くなぁ柊木さん。

 

「そんなに金欲しいの?」

「金は無くても山では生きていける、支給品とかいろいろあるからな。だがその支給品を得るには働かなきゃいけないんだよ」

「自炊したら?」

「しない、天狗ってのはそういうもんなんだよ」

「へー」

 

確か、天狗の種族ごとに仕事って割り振られてるって聞いたことある。

じゃあ椛とか柊木さんとか見てる限り白狼天狗ってのは哨戒とか警備とか、そういうのが仕事なんだろうか。

見た感じ大体の白狼天狗がパシリなんだよね、時代が時代なら焼きそばパン買って来いって言われてそう。

 

「柊木さんって、柊木だけなの?」

「は?何言ってんだお前」

「んだとこら。名前たったそれだけなのかって聞いてんの」

「あぁそうだよ」

 

え、そーなの?

てっきり言うの面倒くさいかこの時代でも言うのが恥ずかしいくらいの名前なのかと思ってたんだけど。

というか柊って上の名前なのか下の名前なのかもわからずに結構迷ってたのに。

 

「なんで柊木だけ?椛は確かあれ………網走?」

「犬走な。別に大した理由ないしいいだろ。気づいた時には血の繋がったやつはいなくて、柊木って言葉だけが頭にあった。名前もわからなかったから柊って名乗ってるだけだ」

「………いや大した理由だと思うんですけど、なに記憶喪失かなにか?結構重大だと思うんですけど」

「知らね」

「そか」

 

この人なんか凄い適当なんだよなぁ………目つき悪いし。

 

「……あ、もしかして。柊木さんが何日も働いてるのって単にやることないだけじゃないの」

「………知らん」

「おい」

「知らん」

「知らんだけで乗り切ろうとするな」

「つか帰れよ」

「私もやることないんだよ」

「じゃあ人の仕事の邪魔すんのか」

「目が死んでる人を見つけたから確かめにきただけだし」

「とりあえず帰れよ」

「断る」

 

 

 

 

「くっ………こんな目が死んでるやつにまであっち向いてホイで負けるとは………無念」

「お前弱いな」

「勤務中にそんなに遊んで良いんですか!?」

「誘ってきたのお前だろ、で、無様に負けてると」

「お、殴り合いする?ファイナルバトルいっとく?」

「勘弁してくれ」

 

多分私の拳が砕けて終わりだと思うんだよね。

 

「ねー柊木さん」

「んだよ」

「私って小さくない?」

「……背が?」

「そうですよ?」

「おうまぁ、低いっちゃ低いな」

「やっぱり?」

 

大体の知り合いに私は背丈で負けている。

勝ってるのはそれこそ妖精連中くらいで、普通の妖怪よりは大体低い。

別に私戦うの好きってわけじゃないけど、体格差ってのは重要だと思うわけですよ。

それこそ昔戦ったき……き………おっさんなんてめっちゃくちゃガタイ良かったし、地底で見た鬼も男性も女性もみんな体格良かった。

 

「私の背って妖精以上妖怪未満なんだよね。低いなぁって、思います」

「人間の子供の大きさとほぼ変わらん妖精より高いだけ良いんじゃねえの」

「そりゃそうだけどさぁ、話す時結構見上げる形で会話することになるんだよね」

「それがどうしたんだよ」

「首痛い」

「へー」

 

へーってなに、首痛いんだぞ、首の痛み知らんのか。

 

「俺は日々の上司からの圧力と部下からの目線で頭痛いし朝から体が石みたいに重いし時々目眩するけどな」

「もう仕事やめちまえ」

 

 

 

 

「あー飽きたわー」

「いやいつまでいるつもりだお前」

「飽きるまで」

「さっき飽きたって言ったろ」

「そのような事実はありません」

「は?」

「睨むなよ怖い、友達減るよ」

「お前みたいな迷惑な奴なら減っても良いと思ってる」

 

ひど。

長々と話してたらもう日も暮れる。

いや話すというかちょっかいかけてだけなんだけど。

 

「そろそろ帰るの?」

「明日の朝まで帰らずにずっとここにいるが」

「oh………妖怪の山は働き手不足かなんかなの?まぁいいや。私やることなくて暇すぎるから妖怪の山に遊びに行くけど」

「河童のとこか?」

「イェア」

「いぇあ?………まぁいい、天狗の方には来るなよ、最近なんか色々と起きてるからな」

「色々ってなに」

「肩がぶつかるだけで殴り合いが起きるくらい全員機嫌悪い」

「治安わるっ」

 

みんなピリピリしすぎでしょ、なんでそんなに怒ってんの。

勤務時間長いからか。

 

 

 

 

「にとりさん見てください出来ました!」

「おぉ!ついに出来たか!」

「はい!毛糸さんに依頼された、もじてぃーってやつが!」

「おー、着心地も良さそうだ。もじてぃーの意味は分からないが私服にしたいくらいだよ。やればできるじゃないかるり!」

「当然です!……………下手に仕事したら地下労働に戻すっていったのにとりさんじゃないですか」

「ん?なんかいったかい?」

「いいいえなにも!」

 

 

なにやってんのあいつら。

 

「なんですかあの服」

「文字T、まぁ着やすさ抜群のダサい服かなうん。あと私の首の傷に関しては無視なのねそーなのね」

「こんなご時世に余所者が山に入ってくるのが悪いんですよ、そりゃ警戒もしますし首も斬りますよ」

「首は斬るなよ、どこの妖怪狩りさんですか」

「時に妖怪、時に人間、時に足臭、時に毛玉も斬ります」

「すみません結構ピンポイントなの入ってるんですけど」

 

こりゃ確かに治安悪いわ。

だって山に道を歩いてる頭もじゃもじゃか奴がいたとして斬るか?斬らないでしょ?職質しようよ。

無職です。

 

「というかなんで椛までついてきてんの?」

「いや私がいないと貴方その辺の巡回してる天狗に捕まりますよ?」

「前に私きた時そんなことなかったと思うんだけど」

「いろいろあるんですよ」

「へー」

 

今度は巻き込まないでよ………巻き込むんじゃねえぞ………マジで!!フリじゃないからな!

 

「あ、毛糸さん」

「おぉ、盟友、いいところに。ついに完成したんだ!もじてぃーが!」

「どんだけ文字Tのこと凄いもの扱いしてんの?それ普通着てたら凄い笑われるから、寧ろ笑いすらなくなってしらけてくる代物だから」

「な、そんなこと言う奴にこれは渡さんぞ!」

「いや頼んだの私!訴えようか?」

 

あ、どこに訴えたらいいんだろ。

にとりの手から文字Tを奪う。

 

「うわすご、これ素材なに?私の知ってるやつと全然変わんないや。………字が違うこと以外は、ってかこれ何書いてんの」

「それはですね、毛糸さんに頼まれた字は難しすぎてめんど力量不足だったので他の字で妥協しました。ちなみに胡瓜って書いてます」

「やっぱりきゅうりかい!胡瓜推しすぎ。しかもなんか無駄に字がカッコいいし」

「いらないならもらうよ?」

「あげません着ます」

「ちっ。ねぇるりもう一着作ってよ」

「めんどく…疲れたのでしばらく無理です」

「地下」

「やります」

 

おっ………見てはいけないモノを見た気がする。

とりあえずこの文字Tは家に持って帰るとして………

 

「きゅうりの種ってある?」

「え、どうしたんですか急に。きゅうりの種が好きなんですか?」

「家で育てる」

「あ、そうなんですか。じゃあはい」

「あ、どうも………いーや、え?今どこから出したの?袖から出てきたよ?うぇ?常時持ち歩いてんの?」

「河童はみんな持ってますよ」

「こわ、河童こわ」

 

やっぱり肌色悪くてくちばしがあって頭に皿があって甲羅を背負ってて尻子玉とかいう取られたら死ぬ奴をもぎ取ってるやつは違うわ、見た目こんなんでも全然違うわ。

 

「あ、そうだ見てよ。以前のあの銃なんだけど小型化できないかなって思ってなんとかやってたら片手サイズにまで収まったよ。ほら」

「んー?もろ拳銃じゃん」

「装填弾数は一発」

「おー?あー、まぁ、頑張ったね」

「こうやって眉間に押しつけて働けっていうだけで大体のやつは働くから楽でいいよ?」

 

るりが明らかに震えてるんですがあの。

そのうちロシアンルーレットしてそう。

まぁ働かない奴が悪いからね、しょーがないね。

と、無職の毛玉が申しても別に良いはず。

 

「こういう武器とかに力入れるのも本当は不本意なんだけどね、危険だし。やっぱり争い事とかに巻き込まれたら私たち河童は大体のやつが非力だからね。自衛手段くらいは待っておかないとね」

「半分嘘だろ、そーゆーの作るのに絶対楽しくなってきてるだろ」

「ははは」

「ちょあ、なななんで私に銃口向けるんですかあ!?助けて毛糸さん!」

「………」

「無視しないでえええ!!」

 

私、毛糸じゃない。

私、しろまり。

おけ?

 

「あ、そうだ。柊木さん見かけました?」

「ん?柊木さんなら山の外れで哨戒に行ってたよ」

「ありがとうございます。ちょっとあの人に用があるんで、失礼しますね。あ、帰りはなんか適当に帰っといてください」

「あ、おー……速いな」

 

椛が凄い速さでどこかへ行ってしまった。

適当に帰れって、不審者扱いされて連行される未来が見えるんですけど。

 

「ちょ、ちょっとにとりさん?いつまでこれやるつもりですか?そ、そろそろ気絶しそうなんですけどど」

 

まだやってたんかい。

 

「ばん」

「ぴぎゃ」

「えぇ………撃ってないのに死んだ?」

「玉入ってないのにね、臆病だなぁ」

「にとり、ちょっと君がそれを持つのは危険じゃないのだろうか。被害者が増える」

「え、嫌だけど」

「よこしなさい」

「嫌だ」

「よこせ」

「嫌ってあちょっと!」

 

はい没収!

くだらない寸劇しやがって、るりが死んじゃったじゃないか。

 

「おいるり起きろー、るりー。……ん?」

「どんだけ驚いたんだか。普通あのくらいで気絶する?」

「ちょ、ちょいにとり。これまずくね?」

「ん?どうしたの?」

「し、心臓動いてない」

「………は?」

 

 

 

 

「………………っは!」

「あ、蘇った」

「ザオ○ル唱え続けた甲斐があった、よかったー」

「側から見たら完全に奇行だったけどね」

「毛糸さんが川の向こうに見えた……」

「いや私死んでない」

 

完全に気絶した勢いで死にかけてたんだけど、焦ったー。

どのくらい焦ったかっていうと私が気絶しそうなくらい焦った。

 

「あれ?ここ私の部屋?」

「そうですよ?」

「………ああああ!」

 

え、なにどしたの発作?後遺症?

 

「なに人の部屋に勝手に入ってきてるんですかあああ!!出て行って!早く出て行ってええ!」

「うっせぇ大声出すんじゃないよこの引きこもり!勝手に気絶して死にかけてたのはどこの誰だコラ!」

「いいから出て行ってください!」

 

ぐいぐい私とにとりは部屋の外まで押し出され、扉を閉められた。

「こらー、出てきなさーい。田舎のおっかさんが泣いてっぞー」

「おっかさんいません!」

「じゃあハローワークいくぞー」

「なんかよくわかんないけど嫌です!」

「働けやコラア!」

「扉を蹴られたら出ようにも出れません!あと働いてます!寧ろ働いてないのは毛糸さんでしょ!?」

「毛玉に働く権利なんてあるわけないだろいい加減にしなさい!」

「そっちこそいい加減に扉蹴るのやめてください!」

 

 

「いやーごめんごめん、まさかあんなので気絶しちゃうとは思わなかったからさ」

「あんなのって、あんなのってなんですか!弾入ってたら死んでたんですけど!私が何かしましたかああ!?」

「うん、なにもしてないね」

「強いていうなら存在が罪」

「んな理不尽な!」

 

理不尽なものなんだよ世界ってのはさ。

 

「あ、そうだ。さっき部屋の中に何かの絵みたいなのあったけどあれって描いたのる」

「あああああああああああ!!あっ」

「あーあ、にとりんが変なこと言うから死んじゃった」

「え、私悪いの?私が悪いの?どこが?」

「強いて言うなら存在が悪い」

「またそれか」

 

 

今度は気絶しただけで生きてるみたいだったからそのまま部屋の中に放り投げて、私は隣の部屋で寝て、それから帰った。

絵を描いてたことがバレるだけで気絶するって、どんな絵を描いてたの?逆に気になる。

 

私は、妖怪の山が今後何かめんどくさそうなことが起きそうなので、しばらく近寄らないようにしようと思いました、まる

 

 

 

 

「はぁー………なーんでそれ俺に言っちゃうかなー。また面倒くさいやつだろそれ、知らない方が幸せだったやつだろこれ」

「妖怪の山の天狗である限り、変わらない遅かれ早かれ同じことです。それだったら早く言っておいたほうが柊木さんにとっても有利になると思ったんですけど?」

「あー、つまりあれか?俺があそこで生活してる限り絶対に避けられないと」

「そういうことですね」

「はあああぁー……」

 

もうやだ仕事辞めたい。



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引きこもり河童の日常

あたしって、なんなのだろう。

何のためにここに存在して、大したこともせず過ごしているのだろう。

生き物は皆、何かを成し遂げるために生きている。

虫や動物、植物はその種を繁栄させるため。

ならあたしは、何のために………何かをしたいっていう欲がない。

なにもしたくない、なにも考えずにただただ時間を浪費していたい。

だけど、そんな自分じゃ駄目だということも思っている。

 

なら、あたしは何がしたいのか、何を成し遂げたいのか。

 

その理由が見つからないから、今日もつまらない一日を過ごす。

このままだと駄目だという思いを無視して。

 

 

 

 

「………いい引きこもり日和だなぁ」

 

季節もよく、外にいても不快感のない気温、そんな日こそ部屋の中に引きこもるのが良い。

昔のこんな日に、誰かにこのことを言ったら変な目で見られた。

あのころは馬鹿だったなと、自分でも思い出すたびに思う。

まだ見知らぬ他人との関係を築きたいとか、思ってて………

 

「あー!ぁー……」

 

床に頭を打ちつけてあの頃の自分を嘆く。

本当に馬鹿、阿保、価値なしの屑。

あーあ………

もうやだ自分に嫌気がさす、寝たい、そのまま溶けたい。

そんなことを毎朝考えながらも、外に出るのは…

 

「るりー、起床時間だ起きて働けー」

 

声をかけてくれる人がいるから………

 

「今行きますぅ……」

 

 

 

 

「いやー、やっぱりよく考えてみても変わったよねるりって」

「そうですか?」

 

私なんて今も昔も人見知りの引きこもりだと思うけど………

 

「だって最初の頃なんて、私が声かけるだけで奇声をあげて泡吹いてたじゃん」

「えー……そんなことありましたっけ」

「気絶してたから覚えてないんだろうさ。それにしても酷かったよあの頃は」

「うっ」

「日の光浴びただけで体が焼けるー、とか言って気絶してたし」

「うっ」

「誰かと目が合うだけで、そんな目であたしを見ないでーとか」

「うぅ…もういいじゃないですか!今は良くなったんだから!」

「いーやどっこいどっこいだね」

 

そんなはずは………確かにちょっとしたことに叫んだらするけど、昔よりは良くなってる筈……

 

「……そういえば、ずっと聞きそびれてたんですけどいいです?」

「なーに急に」

「にとりさんは、なんであたしなんかに構ってくれるんですか?」

「今更だなぁ」

 

あたしみたいなやつ、放っておいてくれてもよかったはずなんだ。

事実、あたしに初めて静かに声をかけてくれたのはにとりさんが初めてだった、そこからあたしはいろいろと変わっていった。

にとりさんには感謝している、ただ、なぜそんなにあたしのことを気にかけてくれるのか疑問に思った。

 

「そうだなぁ………はっきり言って、許せなかったんだよ」

「え、許されてなかったんですかあたし」

「当たり前だろう?河童ってのは、一度夢中になったら気が済むまでそのことに没頭するやつだと私は思ってるんだ。私の知ってる奴はみんなそう。だけどるりは違う、そもそも夢中になることを探そうとすらしないし、偶然見つけても自分の中でしまっているだけ。そんな河童らしくないやつを、その時の私は許せなかったんだ」

「なんかごめんなさい」

「本当だよ、あの時何回毒殺しようと思ったことが」

 

・・・え?

 

「……いや冗談だって」

「本気でしたよね?いま凄く遠くの方を見つめてましたよね!?」

「はっはっは」

「なんですかその笑い!ここわいんですけど!」

「そんなことよりほら、早くあのもじてぃーってやつもう一個作ってくれよ」

「そんなことってなんですか!」

「地下」

「作りますっ!!」

 

やだ………閉ざされた空間なのにどこにでも人がいるあの空間は嫌だ…絶対にもう行きたくない………

 

「うぅ………そういえば、別に文字なくてよくないですか?」

「何言ってるんだ、文字がなかったらもじてぃーじゃないってあいつも言ってたじゃないか」

「言ってましたかそんなこと?」

「大体!文字がなかったらなんで呼べばいいんだ!」

「それは………てぃー?」

「てぃーってなんだよ!」

「ちょ落ち着いてください!どうでもいいじゃないですかそんなこと!」

「地下送りにするぞ!」

「理不尽!!」

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、ふぅ、はー………」

「え………どうしたんですか。死にかけてますけど」

「えあぁ、そ、その声は……あ、あばし———」

「犬走、あと椛でいいです」

「も、椛さん、どうしてこ、こんなところろに」

「いやこっちが聞きたいんですけど。何があったんですか」

「えっと……毎日の作業による負担が一気に出ちゃったのかな………普段はこんなことないんですけど……」

「そう見たいですね、叫ぶ元気もない、と」

 

あたし、そんなに毎日叫んでる?確かにさっきは驚いたものの、しんどくて声が出なかったけど……

 

「というか、どうしてこんなところに?天狗の寮の近くなんですけど」

「はぁ……多分、疲れて、それでも頑張って作業場から帰ろうとして………転げ回って今に至ると……」

「あー、じゃあ私さっさと帰った方がいいですかね。あんまり喋ってると負担になるんじゃないですか」

「そ、それは……まぁ、そうなんですけど」

「じゃあそれでは」

 

あっ………行っちゃった………

本当にこのまま転がって帰ろうかな………いやでも流石に無理があるよね……どうしよ……

あれ、誰かあたしのこと見てる?

椛さん……何故見てるんです。

 

「送っていきますね」

「……ありがとうございます…」

 

 

 

 

「ありがとうございますぅ……もう帰れるくらいには回復したので、ここで」

「そうですか、よいしょ」

 

あ、やっぱり体重い。

 

「なんか……凄いですね、そんなになるのに頑張って毎日……」

「はぁ……こんなのになる自分が情けないとは思ってるんですけど………やっぱり毎日人のいるところにいるといろいろ……ずっと我慢してたからこんなのになっちゃうんですかね…申し訳ないです」

「まぁ、あそこで死体になって発見されても困るんで」

 

いや流石に死んでるとは………野良妖怪に襲われたらあり得るけど。

あ、考えたら足が震えて……い、いや、これ以上迷惑をかけるわけには………

 

「椛さんも何かあったんですか?」

「え?なんのことです?」

「その、疲れた顔してたから……違いましたかね」

「……そんな性格なのに、人の顔みてそういうことはわかるんですね」

 

顔なんてそんなにみていない。

声の感じとか、気配とか、動き方でそうかなって思っただけなんだけど。

人の顔なんてそんなに見れるわけがないし………今もずっと足元見てるし。

 

「まぁ、河童には関係ない、というか関わって欲しくないことなんですけど……そうですね。面倒事に巻き込まれないように気をつけてとしか……」

「えっと、どういうことです?」

「知ったら気絶しそうなんで言いません」

「え?……ちょ、ちょっと!一体なんなんですか!?こ、怖いんですけどお!?あ!行かないでくださいよおおおおお!!」

「叫ぶ元気あるなら大丈夫そうですね、じゃあ」

 

あ、あぁ。

今夜は寝れそうにない、なぁ………

 

 

 

 

と思ってたらめちゃくちゃぐっすり眠れた。

昼過ぎになるまでぐっすり眠れた、昨日そんなに疲れてたのかあたし………帰ってきたらにとりさんに死人の顔してるって言われたし、その顔を沢山の人に見られたし、溶けてなくなりたい………あっ死にそう。

 

「おーいるりー、聞こえてるかー、生きる屍になったのかー、埋めるぞー」

「………あ、にとりさん。どうも」

「どうもじゃなくてさー、変だよ?驚かしても叫ばないし、呼び掛けても反応しないし……よく考えたらいつも変だったねごめん、全然普通だった」

「えー………凄い失礼なんですけど……すみません、なんか疲れてるみたいで……」

「疲れてるのはいつものこと………んー、まぁいいや、今日休んでていいよ」

「………え?今なんて」

 

おかしいな、耳までおかしくなったのかな。

少しでも働かないって言ったら地下労働という言葉をチラつかせて無理やり言うことを聞かせるにとりさんが、休んでていいって……

 

「や、ややややすすんでて、ていいっていいったんでぃすか」

「そうだけど、大丈夫?」

「あ、ああ、あああまずい!まずいですよおおおお!!にと、にとりさんがおかしくあああ!!」

「え、え………私は当たって普通だけど?」

「あば、あばばばばばばぼぼぼぼびべ」

「あぁ、うん………じゃあ休んでなよ、うん」

「滅ぶんだ………この世の全てが滅んで消え去るんだ………ぴぎゃ」

 

 

 

 

「っは!!………あ、あれ。確かにとりさんが……」

 

……まさか、気絶してた?

な、なんで、どうして……まぁいいや。

なんか今日は休みもらったような気がするし、ゆっくりしよー……

 

 

時々休憩しながら、にとりさんに頼まれてる例のあれを作る。

河童としての仕事じゃなくて、にとりさんからの個人的な頼みだからこれを仕事にするのは許されない、だから今日でできるだけ進めておきたい。

もちろん文字は無しで………あれのどこがいいんだろうか。

毛糸さんが何考えてるのか全くわからない、胡瓜ってやったあたしもあたしだけど。

 

毛糸さん………あたしが初めてまともに話すことができた相手。

なんで話すことができたのかは自分でもわからない。

頭がもじゃもじゃしてるからかもしれないし、あたしみたいに周囲からずれているからかもうしれない。

少し怖いと思う時はあるけど、近くにいたくないとは思わない。

できればもっと会いたいけど、それはきっとあたしだけが思っている。

あの人はあたしみたいに話せる相手が少ししかいないわけじゃないし、自分の居場所を自分で作っている。

あたしは会いたいけど、向こうはそこまでじゃないだろうからなぁ……唯一あたしの考えを肯定してくれた人だけど、別に毛糸さんが引きこもりってわけじゃないから。

でもあたしが今こうやって外に出れてるのは毛糸さんのおかげだと思う。あの人が無理やり扉を開けてくれたから………

 

「ぅうん、頭痛い……」

 

何も考えずに、あたま空っぽにしよう。

せっかく休みなんだ、やることだけやってあとは自由に過ごそう。

 

「そういえば……椛さんが言ってたあれって結局どういうことだったんだろう」

 

思い出してよかった、あれってきっと、数年前のあの戦争みたいなやつが起きるってことなのかな。

………だとしたらまずいよね……でもそうだとして、なんであたしなんかに……他の河童には知らされてない?だとしたら知らせた方が……いやいや、そんな危険そうなことがあるのなら普通みんなに晒されてるよね。

あたしが引きこもってて知らないだけだ、うん。

けどもし本当にそれに巻き込まれたらあたしはどうすれば………

駄目だ駄目だ、あたま空っぽにしようって思ったばかりなのに。

久しぶりにこういう日があると調子が狂うなぁ………

 

天狗の人って怖いし、河童なんて弱い妖怪だし……でもきっと、椛さんがああいう風に言ったのは、きっと臆病な河童を怖がらせないためとか、そういう理由だ。

きっと私が何もしなくても解決する、引きこもりの人見知りにできることなんて、そう多くないのだから。

でも、もしあたしの失いたくないものが失われたら……辛い、考えただけでも辛すぎる。

あたしは、一人が好きだけど一人じゃ生きられない。

 

引きこもりたいって言ってるくせに、他者との関わりを求めているあたしは一体……何がしたいんだろう。

 

前の戦争の時から最近まで、平和じゃなくなってきてるからなぁ、平和じゃないの嫌だなぁ。

なんでみんなそんなに争いたいのだろう、なんでそこまで傷つきたいのだろう、あたしにはわからない。

わからないけど、きっといつか、そういうことをやらなきゃいけない時が来るのは、わかってる。

わかってるけど……

 

「嫌だなー………」

 

 

 

 

「来ましたか椛、柊木さんと私でだいぶ先に話進めておきましたよ」

「それはいいんですけど……今日は特に警戒しなければいけないのに、柊木さんなんで先に上がってるんですか」

「眠かったから」

「ちっ………」

「すみませんでした」

「まぁまぁ。それで、どうでした?」

「多分明日ですね、夜が明ける頃に始まるんじゃないですか」

「早いな、じゃあ俺寝るわ」

「まぁ待ってください、椛、誰にも言ってませんよね?」

「もちろ………」

 

言ってしまった………

 

「………誰に言ったんです?」

「河童に一人……あの引きこもりの」

「あー、まー、いいんじゃねえの。多分言いふらしたりとかしないだろうし、向こう側でもないだろ」

「………やっぱり、今からでも言えないんですか?」

「無理です。何せ上に報告するにも確かな証拠がないですし、上にも敵がいるのはわかってますから」

「そんなことはわかってますけど……」

「不確定情報じゃ先に行動できないってことだ」

 

裏切り者、か…

 

 

 

 

 

なにが……いったい…

どうして、こんなことに……



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引きこもり河童の災難な一日

「ため込む程度の能力」


今日はにとりさんが起こしに来なかった。

別にそういう日は大して珍しくない、にとりさんが忙しい日は大体そうだ。

でも今日は外の様子が違った。

いつもなら外は河童の喧騒に溢れている、今日も騒がしいと言えば騒がしかったけど、いつもと違う感じがした。

なにかこう、凄く怯えているような、恐怖の気配。

今までなら外のことを気にしなかったのに、自分は変わったなあなんて思っていたけど、だんだんその恐怖の気配が大きくなり始め、外で何か大変なことが起ころうとしているのがわかった。

あたしがわざわざ外に出なくても、誰かが解決してくれるだろう。

そうは思いつつも、何故か部屋の中にいる方が怖くなってきた。

何故怖くなったのかわからなかったけど、あたしはその時自分で部屋を出た。

 

 

部屋を出ると、ここの周りは大した変化はなかった。

ただ一つ、河童が全くいないことを除いて。

 

「……お、置いてかれた……?」

 

周りに人の気配が全くない。

大した変化はないと言ったけど、少し道が荒れていたり、建物の壁に傷が入っていたりしている。

 

寒気がする

 

「ふぎゃ」

 

後ろから飛んできた何かにぶつかり、顔面から地面に当たりそのまま転がってしまった。

 

「な、に、今の」

 

不意を突かれたのと頭をぶつけたのがあって酷く目眩がする。

 

「まだいたのか、河童」

「……だ、誰ですか」

「見て分からないか?白狼天狗だよ」

「白狼天狗………じゃ、じゃあ、ここで一体何があったのか知って…」

「……お前阿呆だな」

「な、なにを」

「ここを襲ったのは俺たちだ」

 

………っは

 

「すすみません、も、もう一回言ってもらえますか」

「はぁ………お前ら河童を襲撃したのは俺たちだ」

二回聞いたけどやっぱり意味がわからない。

 

「なんでそんなことを……河童は今まで、安全な暮らしと環境を条件に山の傘下に……」

「河童だけおかしいだろ、そんなこと」

「そ、それが理由で?」

「いーや?特に河童に恨みはない、ただまあ必要だったってだけだ」

「そんな理不尽な…」

「理不尽で結構、かっぱの事情なんて知らんわ。ほら行けよ、他のやつは向こうのほうに行ったぞ」

 

逃げろということだろうか。

………逃げよう、このままだとどっちにしろすぐに死にそうだ。

 

背中を向け、他の河童がいると言う方へ向かう。

 

 

でも、そう言うわけにはいかない………

 

懐から銃を取り出して素早く後ろの天狗を撃ち抜く。

あたしには衝撃が強く、少し体が後ろへ飛んでしまったけど、弾丸は勢いよく天狗の首を掠めていった。

 

「はぁ…はぁ……し、死んでないよね」

 

不意に首を弾丸が掠めていけば、首の肉も多少は抉れるし、衝撃とかで気を失うはずだ。

倒れている天狗がまだ生きてることを確認したら次の弾を装填して、また他の河童がいるって言う方向に走り出した。

なにが起こったのかはわからないけど、とんでもなく悪いことが起こってるのはわかった。

 

 

 

 

 

なにが……いったい…

どうして、こんなことに……

 

「るり!無事だったのか」

「………ぁ…にとりさん。……何があったんですか」

「私にもわからない。ただ聞いた話によれば、鴉天狗や白狼天狗たちが突然河童の集落を破壊し始めたって……るりはどこにいたんだ?探してもいなかったから心配したんだよ」

「すみません、まぁ大丈夫でした。死んだ人はいないんですか」

「わからない、何にせよみんな混乱してる、こんな状況じゃいる奴といない奴なんて全くわからないよ」

 

他の河童は怪我をしていたり、混乱していたり……よほど天狗に攻撃されたのが衝撃だったのかな。

 

「るりは大丈夫なのかい?」

「なにがです?」

「いや、こういう時真っ先に叫び散らしそうなのはるりだからさ」

「あぁ、まぁ。あたしは大丈夫ですよ。そんなことより、何があったのかわかりますか?ここに来る道で何回か天狗に襲われたんですけど」

「やっぱりなんかあったじゃないか。………その様子だと鉛玉をぶち込んでやったみたいだね」

 

全員急所は外した、みんな不意からの一撃だったから気絶してるだろう。基本頭に撃たなきゃ即死はしないだろうし。

 

「そんなことはいいんです、何があったかわかりますか?」

「そ、そうか。まぁ私なりにいろいろ考えたけど、多分天狗たちの謀反じゃないかな」

「謀反………天魔に何か不満が……」

「多分、最近出てきたあの八雲紫って人が気に入らないんじゃないかな」

「じゃあこんなことにする必要は?」

「ん……あの賢者に下るのが気に入らないんじゃないか。天狗の矜持がーって。気持ちはわかるけど無謀だよね、こんなことして。ああいう奴らは私たちとは違う次元にいるんだから」

 

もし本当にそういうことなら、全く持って馬鹿らしい。

関係のないやつを巻き込むな、自分たちだけでやってろ。

そんなつまらないことで………私の平穏な日々は壊されたの?

 

「ちょっと、どこへ行くんだ」

「にとりさん、武器庫ってどこですか」

「武器庫…ってお前、冗談だろ?」

「冗談だったらいいんですけどね、もう止まりそうにないです」

「どうしたんだよ、一体」

「怒ってるんですよ、あたし」

 

自分勝手な理由で弱者を傷つける奴らに。

下の奴らの面倒も見れないで偉そうにしてる奴らに。

何より、そんなことが起こってたっていうのに呑気に引きこもってた自分に。

 

「もうあたし、自分以外の奴のことなんてどうでもいいとは思えないんです」

「るり……」

「たとえ見知らぬ他人でも、それはあたしの一日を作る一人だって知ってるから、こんなあたしでも気にかけてくれる人がいるから。居場所があるんです、あたしには。それを守ろうとするのは当然ですよね」

「………あー、別に止めはしないけどさ。まぁ、そういうことか、大体分かったよ。私にお前を止める権利は無いからな。向こうのほうに、私が作って置いてる奴が保管してある、。行ってこいよ」

「…ありがとう、ございます」

 

 

 

 

自分でも、あんなことを思ってるとは思わなかった。

何故ってにとりさんに聞かれて、自然と言葉が口から出ていた。

あれがあたしの本心だったのだろうか、あれがあたしのやりたいことだったのだろうか。

何にせよ、ここに立ったからには自分の満足いくまでやるつもりだ。

 

何処かへ向かっている天狗の一行に向かって、榴弾砲を向けて発射する。

弾に気づいた何人かは回避行動をとったけど、何人かは巻き込まれた。

こちらに気づいた様子の天狗にさらに弾を発射する。

火薬の爆発と同時に飛び散る破片が身体に刺さり、爆発に巻き込まれた天狗は動かなくなる、そしてそこにまた爆発がやってくる。

こちらへ飛んでくる天狗には、親指くらいの大きさの弾を狙撃銃で撃ち飛べなくする。

撃ってる方にも衝撃はすごいけど、弾丸が大きい分殺傷能力が高い。

 

「貴様ああ!!」

 

何かを天狗たちが叫んでいる気がするけど、聞く余裕はない。

ただひたすらに弾をこめて撃ち続ける。

 

予めここを通るということは予測していて、そこより上を取るようにあたしは位置している。

空を飛んで無理やりこっちにこようとすれば、こっちから放たれる大量の矢に刺さる。

下から走ってこようとすれば、飛んでくる弾ら避けれても地面に埋め込められた地雷に爆破される。

 

下準備と位置取りだけは有利だ、逆にそれ以外は何も勝ってない。

数も、個人の力も、種族としての力も。

だから、最初から私一人で全滅できるなんて思っていない。

私がここで死ぬまで抵抗したところで、少しの時間稼ぎにしかならないだろう。

 

あたし達河童は虐げられるだけ虐げられて、あいつらは革命家気取りでこのまま攻撃を続けるのだろう。

それが気に食わない。

要するに、完全にあたしたち河童は天狗より下の存在だと思われているっていうことだ。

もちろん河童の方が優秀と言い張るつもりもないけど、奴らには大した力もない臆病な奴らと認識されている。

自分たちで独立して生活している河童を、奴らは自分たちの成し遂げようとしていることを有利に進めるための駒だとしか思っていない。

 

いくつもの攻撃を避けて、あたしに真っ直ぐに突っ込んでくる敵が現れた。

近づけばもう終わりと思っているのか、馬鹿みたいに真っ直ぐ突っ込んでいる。

背中に背負っていた散弾銃を向けて放つ。

耳を塞ぎたくなる大きな音と、体が飛ばされるような衝撃波と共に弾丸が放たれ、近づいてきた天狗の体にめり込んでいく。

一度来られると、それが一瞬でも弾丸の密度は下がる。

すぐに攻撃に戻ろうとするけど、すでに何人もあたしの首を狙いに飛んできている。

全部あたし一人でやってた攻撃だ、あたしがやらなかったら一気に攻撃の手は止まる。

一回分の球しか装填できない散弾銃は、弾を再装填している時間がないから使い捨てになる。

そのことがわかってたから何丁もってきているんだ。

近づいてくる天狗に、ただひたすらに弾を撃ち続ける。

衝撃で体が後ろに仰反りながら、新しいのに持ち替えて撃ち続ける。

どんどん身体に衝撃が蓄積されていく、負荷がどんどん溜まっていく。

でも止まらない、止まれない。

山の土がどんどん血を吸っていく、どんどん肉片が飛び立っていく。

 

「き、っつい」

 

何発撃った?何人落とした?残ってる奴は?

近場にあった散弾銃がもうなくなった、もう取りに行く暇もないし、負荷がたまりすぎている。

溜めきれなくなった衝撃を、手のひらから一気に前方の天狗たちに放出する。

一発の威力が高い散弾銃を撃つ時の、何回分もの衝撃が至近距離で放たれて、遠くの天狗も含め吹っ飛んでいった。

 

さっきのをやったっきり、もう頭が働かない、体が動かない。

天狗は全然減ってない、むしろ増えてるようにまで見えてくる。

 

「それで終わりか」

「はぁ………はぁ………」

 

背中に翼の生えた天狗がやってきて、何かを言いにきた。

 

「河童の分際でよくここまでやったものだ。だがここまでだな」

「はぁ……はぁ……ふぅ」

「やれ」

 

天狗が近くにいる人達に手を振り下ろして命令を下す。

でも、何秒経ってもあたしには何も起こらなかった。

 

「どうした、やれと言っている…な」

「すみませーん、嫌でーす」

「誰だ貴様……こいつをやれ!」

「すみませーん、もう全員やっちゃいましたー」

「な——」

 

翼の生えた天狗が殴られて、坂を転がり落ちていった。

天狗を殴った人をよく見ると、凄く見覚えがあった。

 

「大した怪我がなさそうで良かったよ」

「はぁ……にとり、さ…ぐへ」

「あ、気絶した。……まぁいいか。おーい、残ってる奴ちゃんと縛っとけよー」

 

 

 

 

「……ん、んー?」

「おぉ起きたか」

「………夢?」

「夢じゃないな、うん。丸一日寝てたみたいだぞ」

「……あ、目つき悪い人」

「酷いな」

 

この人さっきなんて言ってたっけ………あ。

 

「なに人の部屋に勝手に入ってるんですかあああああ!!」

「ちょ——ぐはっ!!」

 

は、しまった、思わず殴り飛ばしちゃった。

 

「だ、だだだいじょ、ぶです、か」

「泥みたいに寝てた直後にこれか、元気そうで何よりだ」

「……は、鼻血」

「あ、ほんとだ。それよりここお前の部屋じゃねえから」

「えっ」

「残念だったな、ここは部屋じゃなくて思いっきり屋外だ」

 

そういえば、異様に風通りがいいなと思ったら、頭上に輝く星空が。

 

「なにがあったか知らんだろうから教えてやぐばぁ」

「起きたかるり!よかったー!」

「あ、にとりさん」

「なんか骨折れた気がするんだが、今突き飛ばされて完全に骨がいった気がしたんだが」

「大した怪我もないのに丸一日寝込むなんて、なんて貧弱なんだお前は!」

「え、えーと?んー?」

 

つまり………どういう意味なんだろう。

 

「……あ、そうだ。なんであの時にとりさんが?」

「ふぅ。なんでってお前、さすがの私でもお前一人では行かせないに決まってるだろ?他の河童を説得して、お前が戦ってた奴らを後ろからこう、ちょんちょんしたんだよ。都合よく文たちが来たから簡単に行けたしね」

「じゃあ、みんな無事なんですか?」

「あぁ、みんな修復作業してるよ」

「そうですか………」

 

よかった……死にに行った甲斐があったってものだ………

 

「つまり、あたしが最後にやられそうになった人が…」

「最後の一人だったってわけだな。なんとかなってよかったよ」

「ここで引きこもりの君に残念なお知らせだ」

「な、なんですか急に。残念なお知らせ?」

「後ろを見たまえ」

「後ろ?」

 

目つきの悪い人に言われた通り後ろを見ると、建物の崩れた跡があった。

 

「これは……?」

「お前の家の跡」

 

………

 

「ぴぎゃああああああああああああ!!」

 

 

 

 

やれやれ、なんか知らないうちに敵勢力が半分近くまで減ってるわ、河童が果敢に立ち向かってるわ、地形は荒れに荒れてるわ………こうなるとは思わなかったなぁ。

 

「次は俺たちの番かね……?」



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戦闘狂の近くにいると戦いに巻き込まれる

ドンドンと、扉を叩く音がする。

うるさいな………そんなに叩いたら扉が壊れちゃうでしょうが……ってか眠い、眠すぎてもう………ねむ。

 

「おら、客人だぞおら、あーけーろーよー」

 

なんだよ……りんさん?あ、眠い。

眠いしいいや、ほっとけ。流石に寝てる奴の家に強引に入っては来ないだろ……ねむぅ…てか今何時。

 

「そっちがその気ならいいだろう………おらあさっさと出ろや糞毬藻おおお!!」

「ちょ、あおああああ!?扉が!私の家の扉がっ!あと毬藻じゃない!」

「どうでもいいわ糞毛玉」

「今の私はただの毛玉を既に超えた!今の私は!ケサランパサランだっ!!」

「よし起きたな、外でろ」

「………」

 

 

「あのさりんさん。髪の毛掴んで引っ張るのはよしなさいよケサランパサランにそんなことしていいと思ってるの?幸運が訪れなくなるよ?いいの?超絶不幸体質になるよ?」

「ただの毛の集合体が調子に乗るな。あと寝すぎだ」

「りんさんが寝なさすぎなんだよ」

「妖怪が人間より長く寝るのかお前。私は昨日から寝てないけどな」

「人間やめてるじゃん、あと私は妖怪じゃない、多分。ってかそれより何の用ー?私今日は一日中寝るって決めてたんだけど」

「嘘つけ」

「なぜバレた」

 

自宅から浮いた状態で髪の毛を引っ張られてすいーっとどこかへ拉致られていく。

抵抗、というか毛玉になれば私の毛根は助かるだろうけど逆に酷いことされそうなのでこのままにしておこう。

というか家の扉直したい。

なんやかんや良く壊されるから予備の扉ががあるんですよこれが、それをつけるだけで修復できる。

 

「なんでみんな私のおうち壊すん?」

「壊し甲斐があるから……かな」

「?え、え?」

「少し用がある、付き合え」

「えっ………」

「おい、変なこと考えてるだろ刺すぞ」

「すみませんでした」

 

日本語って難しいねー。

 

そうこうしてるうちに既に湖、じゃなくて霧の湖までやってきた。

遠くの方に大ちゃんとチルノ、その他モブ妖精がいるのがわかる。

 

「ん?あれは……毛糸さん?なにやってるんだろう…」

「あ、お前は!」

「あぁん?」

「………大ちゃん帰ろうよ」

 

す、すげえ、あのチルノをにらみつけた退散させるとは、さすがりんさん、火の鳥並みの眼光。

あと何気に大ちゃんに白い目で見られた、責任とってね。

 

「最近よく妖精に絡まれるんだが。私のことが怖くないのかね」

「まぁ妖精と妖怪は違う生き物だし、私みたいにりんさんを見る目が違うんだろうさ。先に言っとくけど私は妖怪じゃない」

「妖力あるくせにか?」

「これにはね、私にもわからないこう、すごく不思議なことが関わってるんだよ、うん」

「不思議なのはお前の頭だろ」

「ほらそうやってすぐ人の頭に口出すー。りんさんだって人間要素見た目だけでしょうが。蹴るだけで木をへし折る人間なんて私知りません」

「私は人間だ、誰がなんと言おうとな」

 

人間ねぇ…

そっか………私は人間じゃないよね、誰がなんと言おうと。

人間と人間じゃない奴が絡んでるなんて、普通ならあり得ないんだろうなぁ。

最も、私もりんさんも、人間から浮いて、妖から浮いてる同士だからこうやって絡んでるのかもしれないけど。

 

「別に人間は妖怪と仲良くしちゃいけんなんていう決まりは無いと思うけどなー、まぁお互いが憎み合ってる時点でそもそも仲良くならんのだろうけど」

「私とお前が仲がいいのかは知らないが、まぁそうだろうな。そもそも寿命が違う、生き方も違う。考えるだけ無駄だな」

「いつかそんな時代が来たらいいのにねー」

「少なくとも私が生きてる間は確実に無理だな」

 

悲しいけど、事実なんだろうなー。

もう人間とか妖怪とか、そういう概念すら馬鹿らしく思えてくる。

一度毛玉になって拘束を解き、自分で浮いて歩く。

 

「で、どこ行くん?流石に行先くらい言ってよ」

「最近派手にやってる奴がいてな、何回も逃げられてるんだよ、お前暇だろ?手伝え」

「私武闘派じゃないのにー。暇は事実だけど………話は通じそうにないの?殺すのはちょっとアレなんだけど」

「無理だな、そもそも人喰い妖怪だ、どうしようもない。知性もないようだしな」

 

そういえば、山の天狗とかは人喰いじゃないのか………いやでも、なんかで、天狗は子供をさらってくるとか聞いたような……うーん?

 

「まぁいいけど……りんさんが何回も逃げられるって珍しいね」

「ま、お前にはわからんだろうが私も歳とってきてるからな」

「何歳?」

「知ってどうすんだ」

「別に」

 

体が追いつかなくなってきたとかなら、こういうことするのも程々にしておいた方がいいと思うんだけどな。

まぁそういう風なこと既に何回か言ってるけど、全部無視されてるから言っても無駄なんだろう、本人がやりたいって言ってること止めるのも無理だし。

 

「そっちはどうなんだ、あの後も何度かあそこの化け物に会いに行ってるんだろう?」

「化け物いうのやめたげて、というかなぜ知っている」

「見てるから」

「どこでぇ?」

 

あの後も、幽香さんには何ヶ月に一回くらいは会いに行ってる気がする。

私の一年の感覚が既に狂ってるので合ってるかはわからないけど。

 

「まぁ、ちょっと話するだけだよ?種とか少しもらって育てるけど」

「それだけじゃないだろ、見てたらわかるぞ」

「だからいつどこで見てるのさ。まぁ妖力の使い方とか、教えてもらうこともないこともないけど」

 

幽香さんの妖力は、私みたいな毛屑が持つには大きすぎる、だからといって手放すこともできないし、私に必要な力なのも事実だ。

だからせめて、ちゃんとした使い方を知っておきたい。

私なんてまだ生まれて数年、人間の子供より若い、前世の記憶もろくにないし知らないこともまだまだ多い。

そういうことを知っておくのも兼ねて、幽香さんに会いに行ってる。

 

「今度りんさんも行ってみる?いい人だよ」

「私に死ねってか、いいぞ受けて立とうじゃないか」

「なんでそうなるん?まぁいいや、どうせ来ないし」

 

というより、慣れたっちゃ慣れたけど、ルーミアさんも紫さんも幽香さんも地底であった鬼の人もりんさんも、オーラがやばいんだよ?

私いっつも気配がやばいとかオーラがやばいとかばっかり言ってるけど、こればっかりは事実だし怖いからしょうがない。

私も幽香さんと同じ妖力を持ってるから、それっぽいのなら出せるのかもしれないけど。

 

「りんさんて空飛べないの?いっつも地に足つけてるけど」

「飛べるには飛べるが……あれだ、見つかるだろ。先にこっちが見つけた方が楽だし早く終わるしな」

「まぁ確かに」

 

ふと気になってりんさんの歩き方をみてみると、あったばかりの頃と比べて威勢がないというか、落ち着いているような気がする。

まぁ妖精を見かけるたびに斬りにいってたころに比べたら遥かに落ち着いてるけど。

私が命をかけて話し合いしたおかげだな、うん。

 

「あとその服なんだよ」

「はい?」

「文字書いてんだろ、なんだよ」

「なにって、文字Tですよ?」

「は?」

「ん?」

「あぁ……そういう…」

「なんか変なこと考えてない?違うからね?いや、あってるのかもしれないけど」

 

変な服着てるのは事実だけど、自覚してるだけ私はマシな方だと思うよ?世の中には威風堂々とか書いておいてそれをカッコいいって思ってる残念な人がいるんだから。

 

「前から思ってたけどさ、その刀好きだよね。あった時からずっと使ってるし。気に入ってるの?つか壊れたりしないの」

「特別頑丈でいい素材使ってるからな、あと壊さないように使ってるんだよ。黒いのはあれだ、黒いというより月明かりに照らされないってとこだな。夜は見えづらいだろ」

「うん、見えづらいおかげで危うく私の膝から下が全部さよならしそうになったけどね」

「いいだろ、どうせ生えるんだから」

「よくないし、あれ私いっつも我慢してるけどめっちゃ気持ち悪いからね?こう、傷のところがぐぢゅぐちゅってなるからね」

 

まぁそのおかげでなんとか今も五体満足なんですけどね。

確か普通の妖怪なら、取れた手足とかもなにかしらでくっつけて結構な間放っておいたらくっつくんじゃなかった?

完全に欠損したら種族によって生えてくる生えてこないが変わるとかなんとか。

まぁ私には関係ない話だけど。

 

「一つ試したいんだが、身体を横に半分に切られたら治るのか?先に死ぬのか?」

「えー?さすがに先に死ぬんじゃない?」

「案外生きてると思うけどな、試そう」

「絶対断る。っておい近づいてくるな!それ以上近づいてきたら帰るよ私!」

「ちっ」

 

こわ、怖いんですけど、マジの舌打ちだったんですけど。

というかそんなに私に一緒に来て欲しいの?そういうこと?つまり……

 

「謝ります、すみませんでした、だから指をこっちに向けないでください」

「ってことはやっぱり変なこと考えてたな、腹立つから蹴るわ」

「ちょっ、いって!もう!そういう暴力的な思考よくないと思うな私っ!」

「お前が変なこと考えるから悪いんだろ」

 

だからなんで思考読んでくるんですか……

 

 

 

 

「そっち行った!」

 

もはや言葉にならないくらいめちゃくちゃな見た目をした怪物を見つけて交戦、動きが速くてなかなか仕留められない、さすがりんさんから何回も逃げてるだけあるな。

 

 

「おら死ねえ!」

 

りんさんの刀が怪物の胴体を真っ二つにする。

 

「こんなキモい見た目してるなんて聞いてなかったよ!?」

「言ってないからな!」

 

怪物の体が真っ二つになり死んだと思ったけど、下半身はそのままで、上半身が瞬く間に全身元どおりになった。

 

「お前と同じ感じか。やっぱり斬っても生きてるだろ」

「こんな奴と一緒にしないでくれる!?」

 

なるほど、傷を負っても回復するんじゃあ仕留め切れないってわけか。

これが私とやりあってきた人目線かな?こりゃ鬱陶しいわ。

逃げられないということを理解したのか、まっすぐこっちに向かってくる怪物。

霊力で冷気を操って氷を生成し、地面から尖った氷を怪物の体に刺す。

だけどその体はさっきよりも硬くなっていて、氷をそのまま砕いていった。

 

「うそん!硬くなるとか聞いてないし!」

「そいつ喋らんからな」

 

妖力を使って障壁を張り、突進を受け止める。

なかなかの衝撃が腕にくる、障壁はヒビ一つ入ってないけど私の体ごと後ろへと下がる。

私が受け止めてる間にりんさんが怪物の頭に刀を刺した。

 

「やったか」

「いやだからそれやってないやつ!」

 

お約束のように、刀が頭を貫通しているのに暴れまわる怪物、どうなってんのそれ、さすがに私でも死ぬよ。

そしてあの硬い体をスパスパ斬ってたりんさんもまぁ、技術が高いんでしょうねえ。

私なんてこうやって妖力込めて弾飛ばすか殴るか氷出すかくらいしかできないのにさ。

 

「おい!お前もっと派手なことしろよ!」

「無理いうなよ!あんたと違ってこっちはちゃんと死に対して恐怖あるの!今も足がガックガクして震えてんの!」

「いいからなんかしろ!いつまで経っても終わらん!」

 

そんなこと言ったってしょうがないじゃないか……

口からなんか変な液体を飛ばしてくる怪物、まるでとんでもない強さの酸みたいな感じのやつ飛ばしてきよる、真面目にクリーチャーじゃんもうやだ帰りたい。

 

「りんさん今の当たんないようにね!多分普通に腕とか取れるから!」

 

そう伝えている間に狙いを定めてきた怪物が液体を飛ばしてきた。

咄嗟に足から氷を生やして物理的に壁を作る、まだ妖力でバリアを張るのは咄嗟にはできない。

防いだと思ったけどあまりにも強力すぎて、氷の壁を普通に貫通してきた。

ギリギリ当たらなかったけどめっちゃ危なかった。

 

「どんな口してるんだよ……あ、服についた」

「人に忠告してる暇があるんなら自分のことに気を遣ってろ!」

「そういうあんたはこっち見ながら腕蹴り飛ばしてずいぶん余裕そうですね畜生!服に穴空いたじゃん!ぜってぇ許さねえ!」

 

両手を向けて妖力を集中、妖力弾をひたすらに撃ち続ける。

さすがの威力で、怪物の体をどんどん肉片にして弾き飛ばしている、それでも再生力の方が勝ってるけど。

 

「おい!私の刀壊れんだろうが!まだ刺さってんだろ!」

「じゃあさっさと抜けよ!このままあいつの妖力消費させて再生できないようにしてやるから!」

 

一番的の大きい胴体を打ち続けて妖力を消費させる。

私が体を高速で直すのに妖力を使うんだから、あの怪物にとっても一緒だろう。

現に最初は私の弾を無視してそのまま突っ込んでこようとしてたけど、今は嫌がっているように見える。

まあ限界のない再生なんてやばいだけだからね、ルーミアさんか幽香さん連れてこよう。

 

「とか考えてるうちに私の妖力も減ってるんだけどね!今のうちに!」

 

私がそういうと、一気に怪物に駆け寄り、私が放ってる弾を全てかわして刀を怪物の頭から抜いたりんさん。

あれよけるの?すごっ、こわ。

 

「終わりだ化け物が」

 

私は妖力弾の放出を止め、りんさんが霊力を込めた一撃をその頭に放ち首を飛ばす、そしてその頭を瞬く間に細切れにした。

 

「いやそうなるとは思ってなかった……」

「妖力が少なくなって再生力が落ちてる間にばらしとかないと、こういう奴は人間一人食うだけで元気になりやがるからな」

「まぁそれはともかく、お疲れりんさん、いぇーい」

「………」

「い、いぇー……どしたのさ」

 

返り血のついたまま、ただ自分の手を見つめるりんさん、いつもならさっさと帰るぞって言ってるとこなんだけど。

 

「なんでもない、先帰っとけ」

「えー……まぁここ臭いしわかったよ、じゃあね」

 

怪物の死体を見つめて立ち尽くすりんさんを見ながら家へと帰った。

 

 

 

 

やっとどっかいったか………

 

「ふぅ…」

 

軽くため息を吐いて腰を下ろす。

今回だけでだいぶ疲労が溜まっている、それに腕も落ちてきた。

 

今はもう治ったが、腕が震えるようになった。

 

 

 

こりゃ持ってあと数年ってとこかね………



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死に場所を探す剣士と先を見る闇

あぁ、心地いい。

忌々しい封印から解放された気分は最高だ。

今まで自分硬く縛り付けていた鎖が一気に引き千切れたような感覚、そして同時に、封印されていた間の記憶も流れ込んでくる。

 

「さて、一体この場所はどうなることやら……ま、あたしには拝めそうにないがね…」

 

自嘲気味の笑みを浮かべながら、その宵闇の妖怪の姿は闇へと溶けていった。

 

 

 

 

「むぅ………なんか喋りなよ」

「………」

「………はぁ…おーい、聞こえてますかー、耳大丈夫ですかー?急に人の家に押しかけて、ただ座ってじーっとしてるの、なんとかしてくれませんかー?おーい、りんさんのあほー」

「………」

 

 

返事がない、生きるしかばねのようだ。

 

「やれやれ………どーしちゃったのかね」

「私にだって偶にはなにもしたくない時もある」

 

うわ喋った。

 

「いやそれはいいけどさ、自分の家でやれば?」

「………」

 

もーやだこの空気!私なんでこんな目にあってるの!?ここ数年とくになーんにもせず穏やかに過ごしてきたから?天罰なの?重い空気が苦手な私への天罰なの?

天よ滅べ。

 

「……て、何人の顔見てるんすか」

「………」

「………」

 

ずっと見つめられてるんだけど、瞬きもせずに見つめられてるんだけど。

見ないでよ怖いなー………そうは思ったけど、いつものような威圧感というか、そういうのは感じない。

 

「よく見ると……少し痩せた?」

「…結構前からだ」

「大丈夫?」

「………」

 

自分、寝ていいっすか。

 

「やれやれ、変わんないなお前は」

「まぁそうだろうけど。本当に今日どうしたの、元気ないの?」

「いや、大丈夫だ、邪魔したな」

 

嫌な予感がする。

いや、予感というよりそれはもう確信に近かった。

立ち上がって出ていこうとするりんさんの肩を掴んで引き留める。

 

「待てよ、どこにいくつもり」

「……帰るだけだが」

「嘘つかないでよ、りんさんまさか……」

「やれやれ、最後に顔見にきただけなんだがな」

「どういう意味だよ、ちゃんと説明——」

 

その時一瞬だけ、りんさんの手刀が見えた。

 

「じゃあな」

 

 

 

 

感じたんだ、あの化け物の気配を。

私がずっと追ってきた相手、痕跡しか見つけられなかった妖怪。

それがやっと見つけられそうだった。

その時決意した、だから止まらない。

私を唯一止めてくるやつも、もう追ってこなくした。

 

「人を襲う妖怪は全員ぶっ殺す」

「威勢のいい人間だ、気に入った、食ってやるよ」

 

今日ここで、私は終わる。

 

 

 

 

月の光も届かない深森の中、1人の人間と1人の妖怪が戦いを始めた。

 

「もう生きることに執着はないって感じの戦い方じゃあないか!そんなに死にたいか人間!」

「ああ!もうこのまま生き続けても先が長くないんでね!」

「そうかい、じゃあ私がお前を終わらしてやるよ」

 

人間の刀が妖怪の首を捉え続ける。

体に残っている霊力を大量に消費して身体能力を底上げし、ひたすら距離を取り続ける。

一方で妖怪は刀を避け続け反撃をしない。

 

「どうした!何故反撃しない!」

「気分だ」

 

そういうと妖怪は斬撃をかわし爪を尖らせ剣士の首を狙う。

体を捻り避けた人間の体に蹴りを入れて吹き飛ばす、そのまま追い討ちをかけようとするが、自分の喉元に刀が迫っているのを感じて踏みとどまった。

一瞬で受け身をとった人間は反撃で刀を振るう。

しかし力がこもっておらず、少し妖怪の腕に切り傷を入れただけに終わった。

 

「どうした、その程度で私を殺すとか言ってやがんのか、笑わせんな」

「舐めるな、こちとら文字通り死ぬ気で来てんだ、こんな程度で終わりと思ってんじゃねえよ」

「ならせいぜい楽しませてくれよ、人間」

「死ぬまで付き合ってもらうぞ、妖怪」

 

 

 

自分でも嫌な別れ方をしたなとは思う、だがあぁでもしないと吹っ切れなかった。

私の望みを、願いを全て話せば、あいつは何も言わずに私が死にに行くのを許してくれただろうか。

いや、間違いなく許さない、一緒にこの化け物を倒そうとするだろう。

巻き込まない。

戦うことでしか自分の価値を示せない人間の身勝手に、人間じゃないあいつを巻き込まない。

目の前の化け物が生きてる限り、人間は襲われ続ける。

だがあいつはどうだろうか、少なくとも人間よりは襲われないだろう。

あいつは私とは違う、戦わずとも周りのやつはあいつを認める。

だから、あいつには関係ない、必要ない。

そもそもほんの数年前までは私に失うものなんてなかった、いつ死んでもいいと思ってた。

他人のことをここまで考えたのなんて、私の人生でこの一回だけだろう。

もう引き返さない、覚悟は決めた。

だが一つだけ、聞いておきたいことがあった。

 

 

なぁ、私はちゃんと、お前の友達だったか?毛糸。

 

 

「死にに来た奴の目じゃないな」

「黙ってろ、こちとらほっといても何年かしたらくたばってんだ、最後くらい派手にやりたいだろうが」

「派手なのはあたしも好きだ、お前の最後を派手な血で飾ってやろうじゃないか」

 

確かな殺意をお互いに向ける。

 

「あぁ、悲しいよ、お前のようなやつとやりあえるのがこれで最後だなんてな」

「お前が悲しかろうがどうだろうが知らん、私は私がやりたいことをするだけだ」

「それは本当にお前がやりたいことか?」

「…なに?」

 

不意をつかれた質問に、人間は戸惑いの表情を見せる。

 

「本当に全てを覚悟した奴の目をあたしは知っている、迷いのない目。だがお前は違う、何かを迷っている。いや、何かを期待しているって言ったほうが合ってるか?」

「何が言いたい」

「あたしはお前よりも遥かに長く生きている、その過程で様々な人妖に会ってきた、そいうらの目を、私は忘れたことはない。だから分かる、お前は忘れ物をしてる」

「………」

 

言っている意味がよくわからなかった。

だがそれが、自分の中にあるもやもやとした感情を指しているのはわかった。

 

「結局お前は全てを失う覚悟ができる人間じゃない」

「黙れ」

「おっと悪い悪い、今更何を言ったってお前と私がやり合うことに変わりはないんだからな、無駄話をした」

 

気に入らない。

そのいかにも全てを見通しているという目が気に入らない。

湧き上がる感情のままに人間は斬りかかった。

 

 

 

 

生まれた時から私は、周囲の人間に恐れられていた。

同じ人間だというのに、私に向けられる恐れは妖怪に対するそれと同じだった。

寂しい、というのがその時の感情だった。

普通の人間を遥かに超える力を持って生まれた私を、非力な人間たちは恐れていた、何も知らない子供の私を。

その時の私は、必死に他者に認められようとした、いろいろなことをした、そして一つの結論に辿り着いた。

 

私は、戦わなければ価値がない。

 

誰にも求められていなくても、私が望まなくても、私が私の価値というものを自覚するためにはそれしかなかった。

戦えば周りは私を褒めた、殺せば周りは私を称賛した。

くだらないと思った、単純な思考の人間が。

くだらないと思った、そんな人間に認められたいと思っている私が。

 

気がつけば私は戦うことしかできなくなった、命を奪うことしかできなくなった。

周囲の人間に言われるがままに殺し、傷ついてきた、そうしているうちに私は、本心から妖怪を憎んでいると自分で錯覚していた。

実際は妖怪なんてどうでも良かった、ただ自分の価値を示すための道具のように思っていた。

今になって思う、自らの寿命を削ってまで戦ってきたことに、意味はあったのかと。

だが私は既にそれでしか生きられなくなっていた。

このまま戦い続けて、そのうち死ぬんだろうと思った、どこかで私自身、そう願っていた。

 

だがある日、あいつに出会った。

私を殺そうとしなかったあいつに、人間を守ったあいつに。

あいつに会うたびに考えが変わっていった。

あいつを知るたびに、世界の見方が変わった。

別に価値なんてなくてもいい、私がやりたいことをやればいいと思い始めた。

でもやっぱり今更変われなかった、変わらなかった。

変わるには遅すぎた。

 

もっと早く会っていたかった。

あと数年早ければ私は、もっと違う結末を迎えていたかもしれなかったっていうのに。

 

 

 

 

「何考え事してんだ人間!」

 

どうやら動きが止まっていたらしい、背後から妖怪が仕掛けてくる。

刀に霊力を込めて振り向いて刀を振り、斬撃を飛ばす。

だが妖怪は腕を振ってそれをかき消し、妖力の込もった拳をこちらへ伸ばしてくる。

伸びて来た拳を避け近づき、顎に拳を入れ、続けてその首に刀を突き刺す。

 

「なっ…」

 

私の腹に爪が突き刺さっていた、あの体勢から私の腹に攻撃を入れて来たということだ。

すぐに爪を引き抜き距離を取ろうとするが、それと同時に距離を詰められる。

 

「そんなもんじゃあたしは殺せないぞ人間!もっとお前の命懸けを見せてみろ!」

「うるせぇ!」

 

覚悟をして来た割には、考えることが多い。

覚悟を決めたと自分では思っていたが、どうやらそうじゃなかったらしい、色々と心残りがあるようだ。

情けないな。

 

「今更引き返せないってのは分かってるのに、どうにも考えてしまう。私がこんなのになったのも、あいつのせいか」

「何喋ってるこの——」

 

棒立ちしていた私に向かってくる妖怪の腹に刀を振るう。

私の出せる最速で斬る。

斬った箇所から血が流れ出る、そのまま向かってくる妖怪に向かって斬撃を飛ばし、私自身が突っ込みその体へ刀を突き刺す。

 

「やればできるじゃないか」

「人間舐めんな」

 

そのまま突っ込み、奥の木に突き刺す。

首に向かってくる手を払い、刀を抜いて距離を取る。

 

「どこ行くんだよ」

 

抜けなかった。

自分に刺さった刀をそのまま掴んだ妖怪、その手を首へ伸ばしてくる。

咄嗟に身体を捻るが肩へ爪が突き刺さる。

 

「がっ……てめぇ」

 

理不尽なほどの強さ、だんだん苛立ちが募ってくる。

全身に霊力を込めて爪を引き抜きその顔に拳をねじ込んで吹っ飛ばす。

そのまま刀を引き抜いて妖怪の方へと突き刺し、そのまま振り回して岩へと叩きつけた。

肩に力を込めたせいで傷口が痛む。

だがそれは向こうも同じようなもの、それなのに何事もないように動くあいつはやはり化け物。

まぁ、人間目線で言えば私も十分化け物なんだろうが。

 

「さぁ、その状態からじゃ動けても大したことはできないだろう」

「さっきも言ったろ、人間舐めんな」

「ならそういうだけの足掻きを精々見せてくれよ?」

 

既にここまでで私は霊力を大量に消費している。

それ以前にもう寿命が近づいていた、体力はほとんど残っていない。

体が動かない、気力もない。

どうやら私は、とうとう死ぬことができるらしい。

妖怪がこちらへと近づいてきて私の体を貫こうとする。

 

終わりか………

 

途端に頭の中に記憶が流れ込んでくる。

小さかった頃の記憶、妖怪狩りを始めた頃の記憶。

そして、あいつに会ってからの記憶。

あぁ……寂しいな。

 

 

 

 

「なっ………お前、なんで」

「ふざけんなよこの野郎……何勝手に私を置いて死にに行ってんだ、りんさん!」

「おいおい……何邪魔してくれてんだ、お前」

 

りんさんを庇って、体をルーミアの腕が貫通している。

毛玉になって腕を抜き、もう一度人の体になってルーミアの腹に妖力弾を放出して炸裂、吹き飛ばす。

体に穴が空いて、思わず地面に倒れてしまう。

 

「お前……なんでここが」

「真夜中にドンパチやかましくしてる奴らなんて、あんたらくらいしかいないでしょうが……」

 

 

呑気にも私は夢を見てた。

いつもとは違う表情をしたりんさんが、私に背を向けてどこか遠くへと行ってしまう夢。

追って引き留めようとしても、その体は私の手をすり抜けてしまう。

嫌だった、勝手に行かないで欲しかった。

りんさんの名前を呼びながら、私は目覚めた。

 

 

腹が立つし、情けないし、不甲斐ない。

私に黙って勝手に行ってしまったりんさんが。

りんさんの思いも分からずに、一人で行かせてしまった私が。

悲しいし、寂しいし、辛い。

 

「………わかった、わかったから、そんな顔をするな」

「……もう1人では勝手に行かせない、置いていかせない。死ぬまで付き合ってやる。私たち、友達でしょ?」

「……あぁ、そうだな」

 

全力で傷を塞ぎ、立ち上がる。

視線の先には狂気的な笑みを浮かべたルーミア。

 

「邪魔をするなよ、毛糸。そいつは私が殺すんだ」

「ルーミア、いつか言ったよね私を喰うって」

「……ははっ。あー、やっぱりお前は面白いな」

 

心底愉快そうに笑うルーミア。

 

「ここからは、私が相手だ」



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終わった二人と残った毛玉

必死に攻撃を避け続ける。

デカい口叩いたけど私にはルーミアを倒す度胸もないし実力もない。

ひたすら、急所に当たるのだけを避けて反撃のチャンスを伺う。

 

「本気出せよ毛糸!お前はそんなもんじゃないだろ!」

「るっせ!」

 

全身に妖力を込めてルーミアの拳を受け止め反撃に一撃入れる。

当たるには当たったけどそのまま反撃を顔に食らって体が宙に浮く。妖力を放出して吹っ飛ぶ方向を変えてルーミアに接近、体を回転させて思いっきり蹴りを入れて妖力弾と氷を放ち続ける。

だけど当たってない、一瞬で私の真横に回り込んで胸を貫こうとする。

毛玉になって回避して、すぐに戻って至近距離で妖力弾を浴びせる。

妖力弾を無視してルーミアは攻撃してくるけど、妖力の障壁で受け止めてそのまま一旦距離を取る。

 

「あぁ、やっぱりあたしの見込み通りだ。随分成長してるじゃないか」

「あんたは私のなんなんだよ、何目線の感想なんだよそれは」

 

ルーミアの体が闇に包まれた。

昼間の方のルーミアが時々やるやつだ、だけど規模が違う。

あれはせいぜい自分の体を覆う程度だったけど、今のルーミアは私たちの周辺を全て闇で覆った。

完全に真っ暗で何も見えない、月明かりも頼りにできない。

どうにかしないと——

 

「遅い」

 

体が全部宙に浮いた、そして急に思考が加速し今の私の状況を理解させようとしてくる。

急に浮いたけど吹っ飛ばされた感覚はしない、つまり足を全部やられた、そして腕も多分全部吹っ飛んだ。

つまり今の私は手足が全くない状態で、胴体と頭だけが浮いている状態。

背後から寒気が迫ってくる、一回反応が遅れただけでこれだ。

 

「……は?」

「間抜けな声出してんじゃないよ」

 

腕で背後からの攻撃を受け止め、そのまま腕を掴んで背負い投げ、地面へ叩きつける。

同時に妖力を腕から溢れるくらいに込めてルーミアを殴った、だけど一瞬で反撃をもらった。

周囲の闇が消えていき、ルーミアの姿が見えるようになった。

 

「おかしいよなぁ、確かにお前の手足もぎ取ったはずなんだがな」

「へー、気のせいじゃない?」

「なるほど…過剰に妖力を消費することで一瞬で傷を治したか」

「へー、そーなんだー」

 

当たりだ。

さっきのあの瞬間、体にある全ての妖力を手足に回して再生した。

普通に再生するより数倍多く妖力を消費したけど、あのままじゃやられていた。

ただまぁ、妖力はまだまだある。

ここ数年、ずーっとのんびりしてきた、たまに戦ったりはしたけど、それこそ死闘というのは一度もしていない。

だからその間にも妖力は常に私の中に溜まり続けていた。

何もしていなくても勝手に最大量は増えていった、その妖力をここで全部使い切る。

そうじゃないと勝てない。

 

「私だってそれなり強くなってきたんだ、数年前といっしょにするな」

「してないさ、妖力の使い方もろくにわかってなかった奴がよくここまで成り上がってきたもんだ」

 

そうかもしれない。

でも、ここまで生きてかれた理由は、ルーミアがいたからだ。

ルーミアがいたから私はここにいる、私の恩人の中にはルーミア、あんたも入っている。

だから、できればずっとこのまま過ごしていたかった、こんな戦いなんてしないまま、ずっと。

でもそれは叶わなかった、ルーミアは人を殺す妖怪で、それを私が止めることはできない。

出来るのはこうやって戦って、どっちが先に死ぬかを決めることだけだ。

わかってるけど、嫌になる。

ルーミアが私が動かないのに痺れを切らしたのか、自分から私へと突っ込んでくる。

 

難しいことは、悲しいことは、考えるのをやめた。

今を生きることだけを考える、りんさんを生かすことだけを考える。

 

霊力を使って氷壁を作り、それをたやすく砕いてきた私に攻撃したところに妖力を収縮させてレーザーを放つ。

 

勢いよく吹っ飛んでいくルーミアに止めどなく妖力弾を放ち続ける。

私がそんなことを続けていると、向こうも大量に妖力弾を撒いてきた。

そしてそれは私の妖力弾を擦り抜けて直接こっちに飛んできた。

 

「おかしいよそれっ!」

 

やっぱり技術が違う。

私の妖力弾を全部擦り抜けてくる時点でおかしいし、弾道を曲げてきている、どうやったらできんのそれ。

 

前方に障壁を張り妖力弾を防ぐ。

最後の一発を防いだ時に障壁が割れて、衝撃が伝わって体が後ろにのけぞった。

そして急に視界が回転し、地面へと顔を擦り付ける。

 

「はやっ」

 

思わず口からその言葉が出たときには既に私の後ろにまたルーミアが回り込んでいた。

頭を狙ってくる攻撃を毛玉になってかわし、妖力を腕に収縮させて思いっきり放った。

爆発音が周囲に響き渡り、私の視界が真っ白になった。

数秒経ち目を開けると右腕が吹き飛んでいた、奥の方には倒れているルーミア。

過剰に妖力を詰め込んで、私の腕が衝撃に耐えきれずに爆ぜてしまった。

 

「りんさんは……どこに」

 

急に霊力と妖力を一気に消費したせいで目眩がする。

あたりを見渡してやっとりんさんの姿を見つけると、そっちの方へ歩いて行く。

 

「———!」

 

なにか……言って…

その時、体が勝手に動いて右に傾いた。

脇腹を腕が通り過ぎて行く。

 

「まだ終わりじゃないぞ」

「まじで…」

 

さっきのを食らってもまだ元気そうに動いているルーミア。

頭が働かない、体が動かない。

ルーミアの攻撃が直撃しそうになって、私は目を閉じた。

でも、攻撃が当たるより先に私の体が地面へ倒れた。

 

「ぼーっとしてんじゃねえぞ、毛糸」

「りん、さん」

「まだ動けるか……人間!」

 

途端に頭が冴えて行く。

そして冷や汗が大量に出る、さっきまでは完全に思考がやられていた、りんさんが防いでくれなかったら完全に死んでた。

りんさんがルーミアの腕を跳ね除け刀で斬りつけようとするが、ルーミアはそれを簡単に防ぐ。

その間に私は体を浮かして霊力を放出してルーミアへ突っ込み蹴りを入れて吹っ飛ばす。

 

「もう私もお前も持たない、死ぬ気で決めないと先に死ぬぞ」

「りんさん……あんたは無茶しちゃ」

「私が無茶しなきゃお前が先に死ぬだろうが!」

「ご、ごめん」

「これでさっきの分はおあいこだ。まぁそんなもの気にする前に死ぬと思うが…」

「とりあえず、ルーミアをなんとかしないと…」

「お前がやってた間に少しは回復した、お前も休むか?」

「まさか……いくよりんさん」

 

二人揃ってルーミアへ距離を詰める。

ルーミアは何故かこれ以上ないほど嬉しそうな表情をしている。

何故そんな顔をするのかわからないけど、私達が殺し合ってるているのは変わらない。

無駄な思考はやめて目の前のことに集中しないと。

再生させた両腕で氷を放つ、妖力は回復のためにも取っておきたい。

けど氷なんかでは意味がなかったらしく、ルーミアが腕を一振りさせただけで氷を全て吹き飛ばした。

そのわずかな隙に距離を詰めて攻撃するりんさん、だけどその攻撃は全く当たらない。

やっぱり、回復したとか言ってたけど、ルーミアと戦うくらいまでには全然なってない。

 

「終わりにしてやるよ」

 

ルーミアが刀を受け止めてりんさんの息の根を止めようとする。

まずい。

全速力でルーミアとりんさんの間に割って入り、私が代わりに受け止めようとする。

私ならよほどのことがない限り死なない。

そう思っていたけど、ルーミアには見透かされていたらしい。

私の心臓目掛けてその手を伸ばしてきた。

完全に避けれない、でも攻撃されてからでも反撃すれば……

 

「なっ…」

 

りんさんが私の体を押して、その体でルーミア攻撃をくらった。

一瞬、頭が真っ白になったけど、私の方へ投げられた真っ黒な刀を見て正気に戻る。

 

霊力を放出し体の向きを変え、刀を手に持った。

そしていつもりんさんがやっているように、私のありったけの霊力と妖力を込める。

真っ黒な刀身を白い妖力と霊力が包み込み、何も考えずに振ったそれはルーミアの体を斬った。

 

 

 

 

 

 

「なんで………今の防がなかったんだよ」

 

その場に倒れ込んだルーミアを見下ろして聞く。

せめて腕で防御しようとするとか、そういうことはできたはずだ。

それなのに今、ルーミアは何もせずに、ただ私の一撃を受けた。

 

「最初からそのつもりだったからだよ」

「え?」

 

ルーミアが自嘲気味の笑みを浮かべて私を真っ直ぐ見据えてくる。

 

「お前みたいなやつは良い、世がどんな風に変わっても適応できる、頭が柔らかいからな」

「どういう意味だよ」

「封印が解けたとき、昼間の記憶も全部頭の中に入ってきた。そして理解したんだよ、私はこの先の時代に相応しく無い」

 

その言葉の意味を考えているうちにルーミアが話を続けていく。

 

「あたしが封印されたのは、まぁ数えちゃいないが相当昔だ。その頃は今とは全く妖怪ってやつが違かった。みんな相手を殺し、自分が生き残ることしか考えていない、あたしみたいな奴らがわんさかいた。そんな時に私は封印された、昼間のあの姿になった」

 

傷口から血が出て行くのにも構わず、ただ一方的に喋り続ける。

 

「そして時代は変わっていった。妖怪は妖怪たちで己の集落を作り、随分人間らしい生き方をするようになった。なんなら、妖怪狩りと人外が仲良くやってるときた。そしてあたしは思ったんだよ、この先の時代、人間と妖怪が殺し合わなくなる時代が来るってな。つまりだ、人間を殺すことしか考えちゃいないような奴は時代の流れに押しつぶされる。生憎、あたしって奴は殺して喰う、それしかできない、だからそんなやつは」

「この世界に相応しくないって……そう言いたいのか」

「あぁ、そうだ」

 

なんだよそれ………二人とも最初っから死ぬ気だったってことか?

 

「お前たちが殺したのはあくまでこの私だ、あっちのあたしじゃない。この封印は完全に解けたわけじゃない、単に私の力がこれを上回っただけだ。死にかけて力が衰えれば勝手にまた私を封印する」

「それで…この先ずっとあのままでいるって言うのか」

「かもしれないな」

 

なんで……なんでだよ。

やらせない気持ちが沢山心から湧き出て来る、どうしようもない、何かしたいけどもう手遅れ。

本人が望んでいたことなら私は止めない、けれど虚しい。

 

「さ、言いたいことは大方言ったしお別れだ」

 

そう言ったルーミアの姿が段々半透明になって行く。

 

「また、生きてたらまた会おう、毛糸」

「………そう、だね」

 

悲しい表情をして、ルーミアの姿は消えた。

残ったのは小さい少女の体のみ。

寝息を静かに立てながら寝ている。

 

「……そいつが、そんなこと考えてたなんてな」

「……りんさん」

 

私とルーミアのやり取りをずっと黙って聞いてきたりんさんが口を開いた。

 

「悪いが、私もお前とお別れしなきゃいけない」

「………うん」

「……おい、そんな顔するなって言っただろ」

「無理」

 

顔が歪む。

止めたいけど、止まらない、勝手に体が動く。

 

「私は………まぁ、満足だったよ、この人生」

「………」

「そいつの言ったように、私は殺すことしか出来なかった。だが、そんな私を変えたのはお前だ。お前に会ってから、私っていう存在が変わったように感じる」

「柄にもないことばっか言うなよ……」

「死際なんだ、言いたいこと全部言わないと気が済まないだろ」

 

りんさんも……そんな表情をするのか。

 

「私が今まで生きてきて、まぁ短かったけど、お前に会ってからの人生が私にとって一番濃かった。悪かったな、勝手に行って」

「謝るなよ…」

「嬉しいよ、最期に看取ってもらえるのがお前で」

「………」

 

あぁ、そうだ。

この人は最初から、私に会う前からずっと死に場所を探していたんだ。

友達面してたけど、私はりんさんのこと全然理解してなかった。

 

「……お前が気負う必要はないさ。どっちにしろ遅から早かれ

こうなってたさ」

「……じゃあ、わざわざ戦わなくても、何もしないでゆっくり生きててくれたらよかったのに」

「言ったろ、私は戦うことでしか自分の価値を示せない。ただ生きてたってなんの価値もないんだよ」

「誰にとっての価値だよそれは、私はそんなの求めてない」

「私にとっての価値さ。後悔はしてない」

 

結局私はこの人に、戦うこと以外の価値を見い出せてあげられなかったってことだ、友達とか思ってた自分を殴ってやりたい。

りんさんが仰向けに寝そべり夜空を眺める、

 

「どうやら、お喋りできるのもここまで、みたいだ」

「りんさん…」

「私にとっての大事なものは、お前だけ、だからさ。失いたくなかったんだよ、お前を」

 

そんなことは知らない、私はあなたを失いたくなかったんだよ。

 

「だから、そんな顔をするなって。いいんだよ……これで」

「よくないよ…」

「私は向こうで待ってる…お前が来るのをな。せいぜい長生きしろよ、毛糸」

 

 

幾分もの時間が経ち、私はようやく口を開いた。

 

「…………うん。また、会おう、りんさん」

 

それでも、もう、返事が返って来ることはなかった。



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毛玉は何かに支えられて浮いている

「なにか喋ったらどうです、そこで寝てないで」

「………」

 

察してよ、落ち込んでんの。

 

「いや、そう言われても」

「………」

「まぁ考えてることはわかりますけど…」

 

じゃあいいじゃん。

 

「聞くには聞きますけど、まずは自分の口で喋ってください」

「……ぇ」

「まずは自分の口で吐き出してみることです、私が代弁して話を聞いてもなにも変わりません。黙ってるのと口から吐き出すのでは随分違いますよ」

 

えー………はぁ………

 

「…辛いことがあったけど喋る元気もないので心を読んでください」

「そうきましたか……まぁいいでしょう」

 

やったー。

 

「あなたは目の前で二人の友人を無くして、それをまだ引きずってるということですね」

 

…まぁ一人は姿変わって生きてるけどね。

 

「心中お察しします」

「………」

 

え、それだけ?

もっとこう…なんか言ってくれないの?

 

「人の心の中に入るのは趣味じゃないので」

「………」

「励ましの言葉とか求められましても……とりあえず、はやく立ち直ってください。妖怪とは精神に比重を置いている存在、貴方といえど例外ではないはず。その状態が長く続くとどんどん弱っていきますよ」

 

わかってるよ………わかってるけどさぁ。

なんかこう……さ、こう………ね。

気力というか、活力とか湧かなくてさ、ただただ後悔ばっかりでさ。

 

「過ぎたことはしょうがないと割り切ってください」

「割り切れたらこんなとこまで来てないよ………」

「はぁ……結構面倒くさいんですね、貴方」

 

そうだよ構って欲しいんだよ。

誰かに相談する勇気もなくて、どうすればいいか考えた結果、さとりんに心を読んでもらうという結論に至った。

 

「弱気ですね、あなたの友人なら誰でも話を聞いてくれるでしょうに。……まあ、そんな顔してたら誰でも心配で話しかけてくれるでしょうけど」

「話すにも話せないよ………」

 

ただまぁ、心配かけてるのは間違い無いし、チルノは知らないけど大ちゃんはきっとある程度察してくれているだろう。

 

「……こんな姿、あんまり見せたく無いしさ」

「……なら、その刀を捨てましょう」

「へ?」

 

えー……これりんさんの形見なのに……

 

「形見っていうのは貴方の場合辛いことを思い出させるものでしかありません。さっきからその刀を見るたびに落ち込んでますし、目の届かない場所に置いたらどうですか」

「………いや、まぁ、一理ある」

「まぁそんなことする気ないのはわかってますけど」

 

満足するまで私はこれを肌身離さず持ってやる、いつかりんさんにあったときに、汚えんだよ毛屑がって言われかねないけど。

 

「地底って、あの世に繋がってんの?」

「だとしたらどうします?」

「いや、どうにも」

「そうですか」

 

私がやってることは、あの二人の選択を否定するのと同じことだ。

あの二人が自ら終わることを求めていたのに、私はそれを認められなかった、許せなかった。

そんな私をまた、私は許せない。

 

「やるせないよ………」

「無理しなくてもいいです、時間が経てば、慣れますよ」

「自分でもそう思うよ、そうであればいいなと」

「まぁ、辛いのはわかりますよ、私も似たような経験ありますし」

「……どんな?」

「話すほどのことでもありません」

 

うむ………

まぁ私はわざわざさとりんに話を聞いて、って会いにきてるからなぁ、迷惑かなぁ?

 

「迷惑じゃない、といえば嘘になりますけど」

「帰りまーす」

「まぁ、話聞くくらいならいつでも聞きますよ」

「さとりん………」

「貴方の友人は、彼女達以外にもいるんですよ?」

 

あー………心にしみるぅ………元気100倍だわ。

まぁ0のものを100倍しても0なんだけどね。

 

「どうしますか?ここにいてしばらく休むのも構いませんし、地上に出て現実と向き合うのもいいと思いますよ」

「そだね……その言い方だと、ここにいると現実逃避してるみたいになってなーい?」

「だってそうじゃないですか」

「………じゃあね」

「はい、さようなら」

 

 

さとりんの部屋を出てそのまま出口へと歩いていく。

一歩進むたびに嫌な気分になるけどまぁ、我慢しよう。

 

「しーろまーりさん」

「うわっしょい!?な、なんだこいしか、びっくりさせるなよ死ぬかと思ったよ」

「貧弱だね」

「そうですよ」

 

背後から突然こいしに話しかけられる。

 

「ねぇねぇ、お姉ちゃんとの話し聞いてたけどさ、死んじゃったのってあの黒い髪の刀持ってたお姉さん?」

「んまぁそうだけど………ん?」

「やっぱりそうなんだ……残念だね」

 

あれ、まって。

なんでこいしがりんさんのこと知ってんの?なんで?え?怖いんですけど、え?えっえ?えー?

 

「なな、なんでこいしがあの人のこと知ってんの?」

「え?だってよくしろまりさんの家に来るじゃない」

 

ぇあ、え?

 

「私の家、知ってんの?」

「うん、よく遊びにいくよ?」

 

は、はー、そ、そそゆことねぇ。

確かこいしは他人から認識されなくなるんだっけ、そういう感じだっけ。

それで私とりんさんが会ってるところを見てたと………よく気づかれないね?りんさんに。

 

「とりあえず私が言えることは一つだけ」

「ふぇ?」

「しろまりさんに、そんな顔は似合わないよ」

 

そう言ってこいしは去っていってしまった。

………そんなに私って、しけた顔してる?

 

 

 

 

「ふむふむ、なるほどなるほど。つまりあれですね、毛糸さんは何かがあって落ち込んでるんですね、そして何日も家で引きこもってると」

「そうなんです。あの人のことだから何日か放って置いたら寂しくなって出てくるかと思ってたんですけど……」

「全然出てこないんだぞ、きっと死んでるんだな」

「いや流石にそれはないでしょうけど……なんでそんなに落ち込んでるのかわかりますか?」

「多分、あれだと思うんですけど………」

 

大妖精が示した先は、湖のすぐそばに作られた墓のようなものだった。

 

「あれは………もしかして妖怪狩りさんのですかね」

「なにがあったのか詳しくは知らないんですけど、ここ数日一回も姿を見せていなくて……流石に心配に」

 

まぁ、彼女がそこまで落ち込むと言うことは、ろくなお別れの仕方はしていないと言うことだろう。

地底の穴からふわふわ浮く謎の物体が目撃されて、一応何をしてきたのかを聞きにきただけだったけど………

 

「よし、私に任せてください。あの方を引き摺り出してやりますよ」

 

まず扉を開けようとしてみる。

だけど何かで押さえつけられているのか、引いても押しても動かない。

隙間から覗いてみると、中は見えなかったが冷気が漏れ出ているのはわかった、恐らく氷漬けにして完全に塞いでいるのだろう。

 

「となればいつものように上から…」

 

屋根をぶち抜いて無理やりお邪魔しますをしようと思ったけど、よくよくみると屋根の一部分だけ鉄板のようなもので補強されている。

思い出してみると、私がいつも突っ込んでいる場所だった。

 

「ふむ……かなり対策をしてきていますね、この調子だと壁を壊して無理やり入っても中なんらかの罠がありそう…」

 

よし、作戦変更、二人の妖精の元にもどる。

 

「入れそうではありますが、無理やり入ってもこちらが危険に晒される羽目になりそうです」

「どれだけ落ち込んでるんだ、あのまりも」

「あ、それはどうだったんですか?」

「それって…あぁ。試しに毬藻ーって、チルノちゃんに叫んでもらったんですけど反応なくて」

「なんですって……あの毬藻と聞いただけで理不尽に怒ると有名な毛糸さんがその言葉を無視するなんて……相当塞ぎこんでますね」

 

これは由々しき事態…いざと言う時に毛糸さんを頼れない。

 

「よし、なんらかの策を講じてくるので一旦山へ戻ります」

「別に放っておいてもいいと思うけどなー」

「でもやっぱり心配だよ」

 

いろいろな方法を考えながら、疲れない程度の速度で山へと帰っていった。

 

 

 

 

「えっと……なんですか、これ」

「名付けるならば『あれ、焼き魚の良い匂いがするぞ?』作戦です」

「…ばかなのか?」

「河童から借りてきた、七輪でしたっけ?それとそこの湖で一番美味しそうな魚を持ってきました。ちなみに魚はわかさぎ姫さんの提供です」

 

さっそく火をつけて魚を乗せて、扇子で仰ぎ始める。

 

「ほらー、毛糸さーん。大好きな焼き魚ですよー、良い匂いがしますよー」

 

しばらく待ってみるけど、反応はなかった。

壁に所々穴が開いているので、そこから匂いは入っていくはずなのに…

 

「何故……これほどまでに美味しそうな匂いがしていると言うのに…私の全身全霊をかけて火加減を調節して美味しくなるように焼き上げているのに何故……」

「ばかだ」

「えっと、文さん、さすがにそれは無理が…」

「いや、諦めないことが大事なんですよ。外に出ていないと言うことは食料をもまともに無いはず。何度か家にお邪魔してますけど、不味そうな干し肉くらいしかありませんでした。いつか、いつか出てくるはず…」

「あむ」

 

根気よく焼き魚の匂いを家に送り続け…って、あむ?

 

「あ!ちょっとルーミアさん!これ食べちゃダメなやつです!」

「うま」

「いやうま、じゃなくて」

「しょうがない、ルーミアだもの、ね大ちゃん」

「まぁそうだね…」

「ね大ちゃん、ルーミアさんをちょっと抑えててくれませんか?」

「ね大ちゃんってなんですか」

 

新しい魚を乗せて準備をしていると、誰かの視線を感じた。

家の方をよくみてみると、壁の隙間から毛糸さんと思われる人がこちらを覗いていた。

 

「見てください二人とも!毛糸さんが興味を示しましたよ!やはりこの「『あれ、焼き魚の良い匂いがするぞ?』作戦は成功です!」

「いや絶対違うと思うんですけど」

「どっちかっていうとルーミアを気にしてるんじゃないかな?」

「何故そう思うんですチルノちゃん」

「なんとなく」

 

ふむ……正直悔しいですが、毛糸さんはルーミアさんを気にしているという方が合ってるでしょうね。

となれば…

 

「ルーミアさん、あの家の前に立って毛糸さんの名前呼んでくれません?」

「なんでー?」

「やってくれたら魚あげます」

「やる」

 

よし成功、ルーミアさんはふわふわと飛びながら扉の前に立った。

 

「けーてー」

「なんか違う」

「けーとー」

「こう、もうちょっと」

「けいとー」

 

何回も微妙に間違えたあと、最後の呼びかけで毛糸さんが扉を開けて出てきた。

 

「毛糸さんこーんにーちはー、美味しい焼き魚がありますよー、みんなで食べましょー」

「たべるー」

 

そう言ったのはルーミアさん。

毛糸さんは扉の前で突っ立ったままだ。

 

「毛糸さーん?どーしたんですかー、なくなっちゃいますよー」

「よこせー」

「………ぃ」

 

毛糸さんが何かを呟いたが、声が小さくて聞き取れなかった。

 

「すいませーん、もう一回お願いできますかー」

「やかましいんじゃボケがあああ!!」

 

怒られた。

 

「もうちょっと頑張って呼びかけてくれたら出るよ!?流石の私も出るよ!?確かにお腹空いてたもん!でもさ!お前ら途中で焼き魚焼き始めるじゃん!出るに出れないでしょーが!あのタイミングで出ていったら完全に焼き魚に釣られたみたいになるでしょうが!ふざけるのも大概にせえよほんまぁ!そりゃ引きこもってる私だって心配かけてたよ!?でも焼き魚ってなんだよ!『あれ、焼き魚良い匂いがするぞ?』作戦ってなんだよ!提供わかさぎ姫ってなんだよ!舐めてるじゃん!完全に舐めきってるじゃん!そんなんで、わーい焼き魚おいしそー、って出ていけるわけないでしょうが!こちとら落ち込んでんですよ!?それなのにまぁお前らは人を煽るわ煽るわ!私を気遣ってくれてんのは分かるけど焼き魚はないでしょうがあああああ!!」

「………」

「ぜぇ…ぜぇ…」

「あ、終わりました?」

「………ぅん」

「じゃあこっちにきてみんなで焼き魚食べましょー」

 

 

 

 

「塩ないの?」

「醤油なら」

「何故醤油あって塩ないの」

「好みですかね」

「取ってきてよ」

「取りに帰ったら働かされるので嫌です」

「サボってんのかい」

 

んぅ……焼き魚旨し。

 

「焼き加減じゃちょうどいいっすね」

「どうもー」

 

焦げたやつを食べて舌を火傷したチルノと、それを見て慌てる大ちゃん。

 

「どーです?」

「…どーってなに」

「数日引きこもって、気持ちに踏ん切りはつきましたか?」

「………んー…まー…自分では、つけたつもりだけどね」

「ならよかったです」

 

まぁ踏ん切り自体は少し前にできてたけど。

こう、構ってオーラを出してたから、家から出ずにこう、構って欲しかったからなぁ。

 

「どうせこの先も何も考えずに友達増やそうとか思ってるんでしょ?」

「え、何バカにしてんのそれは」

「そうじゃなくてですね、人間に限らず妖怪でも、全ての種族は終わりというものがいつか来ます。貴方の知り合いがそうなる覚悟は出来ているんですか?」

 

まぁ………なんとも言えないなぁ。

 

「私みたいなやつが考えたってどうせ無駄だよ、やりたいことやって、満足するか後悔するか。それはその時になってみないとわからないや」

「そうですか、ならいつか、何かあって引きこもった時には家の前でまた魚焼いてあげますよ」

「……そだね」



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ハイテンションを極めすぎて不審者

「夜は焼肉っしょおおおおおおおお!!フォオオオオオオオオ」

「大ちゃーん、毛糸がおかしくなっちゃったー」

「ご愁傷様です」

「焼肉なのかー」

「焼肉パーリナイッフォオオオオオオオオ」

「ぱりないなのかー」

 

ハイテンションじゃねえとやってらんねえぜこんな世界!その辺の食えそうな肉、じゃなくて獣を根こそぎ狩ってやったぜ!

あのドンカ○スが置いてった七輪でチマチマ焼いていくぜ!

後ろで首を繋いだまだ生きてる鳥がギャーギャー鳴いてくる。

 

「んだよ……この世界は弱肉強食なんだよ、大人しく強者に喰われろこのタンパク質野郎が」

「たんぱくなのかー」

「んなこたあどーでもいいぜ!どんどん焼いていくぜ!焼肉だぜ!」

「大ちゃーん、毛糸がすくいようがないよー」

「ご愁傷様です」

「ごしゅーしょーなのかー」

 

私の頭ご愁傷様です!色んな意味で!

 

「あー焼肉うまうま」

「人間の肉ー」

「ないわそんなもん」

「ないのかー」

 

 

 

 

「いやどうするんですあれ」

「救いようが無いな、前々から頭おかしいと思ってたが堕ちるとこまで墜ちたか。色んな意味で」

「でも焼く手際はめっちゃ上手ですよあれ」

「鳥焼かれてるけどいいのかあんたは」

「鴉も鳥食べますし」

「あぁ、そう」

 

二人の白狼天狗と一人の鴉天狗が、家の屋根から気の狂った毛玉を見下ろしている。

 

「最近休暇なかったんで毛糸さん励ましに行くのを口実に飲みに行こうと思ったらなんか宴始まってるとは」

「飲むだけ飲みに行きましょうよ、今なら壁に吐いてもきっと怒られませんて」

「椛、お前は吐く前提で飲みに行こうとするな」

「飲めるときに飲まないと損です」

「椛の言う通りです、せっかくの休みなんですから同族のいないところで飲もうってみんなで決めたじゃ無いですか」

「俺は首掴まれて連れてこられただけだし、明らかに同族より嫌な奴があそこで肉焼いて発狂してるんだが」

「あ、ほら河童の二人ももう行って皿とってますよ」

「何やってんのあいつら……河童ってきゅうり以外も食べるのか」

「いやきゅうり焼いてますね」

「きゅうりを………焼く?意味がわから——ぐはっ」

 

困惑していた柊木の頭に氷塊がクリティカルヒットした。

 

「オラァテメェらぁ!何こそこそ見てんだコラァ!焼肉その口にぶち込んでやろうかワッショオイ!」

「て訳で行きますか」

「そうですね、足臭は放っておきましょう」

 

 

 

 

「ひぃ!?目つき悪い人が屋根から落ちてきた!?あ、ああたまからちがっ、血がっ!」

「焼くか」

「焼くの!?」

「食うか」

「食うの!?」

「焼肉ってのは常にバイオレンスなことをしてるんだよ、生き物であった奴を肉塊へと変貌させ、その果てに地獄の業火で焼き、そして己が牙で噛み砕いて胃液という全てを溶かす液体で溶かしてんだよ」

「ちょっと気分悪くなったので帰ります……」

 

なんでや当然のことを言っただけだろ。

 

「というか盟友大丈夫かい?」

「大丈夫ってなに、頭が?」

「頭が」

「頭は常に爆発してますが?」

「いやそうじゃなくて、精神的に」

「るっせえ!叫ばないとやってらんねえんだよ!あーつら!もう悲しみが一周回って焼肉をしたいという欲望に変わったね!」

「なぁ本当に何があったんだい?話してみなよ」

「明日っていい天気ですね」

「は?………誤魔化し下手か!」

「るせえ肉食ってろ!」

「むがっ」

 

なんか色々勝手にやってきて飲み散らかしてるんですけど。

おいそこのワンコロ!うちの壁に吐くんじゃねえ滅ぼすぞ!あ、地面にやった。

 

「肉ううううう!」

「にとりさんあれもう駄目です、本格的に壊れてます」

「何かあったんだろうけどなぁ………本人があーじゃどうしようもないな」

「私は至って正常ですが!?」

「どの口が言ってるんだよ」

「むが、むがむごがが」

「頬張ったまま喋るな」

 

あー自作の焼肉のタレ美味しいなー、これ作るために何回か腹下したけど。

 

「にくー」

「だからルーミア、人肉はないって……私の腕があああ」

「あむあむ」

「食べるならこっちの体に悪くない方食べとけよ!あと私は人じゃないからそれは人肉じゃない」

「おえー」

 

あ、吐いた。

 

「毛糸さーん、こっちに肉くださーい」

「自分で焼けや!ソイヤ!」

「あ、くれるんですね」

 

カラスって肉食べんの?と思ったけど結構食べてたねそういえば。

 

「おらあ!もう肉あんまりねえぞ!」

「あんなに狂ってんのに肉だけは美味いんだな、わけわからん」

「肉を焼く人が頭おかしかろうが毛玉だろうが、焼かれた肉には関係のないことですし。足臭いんでこっち来ないでください」

「お前それいつまで言ってんの」

「足が臭く無くなるまで」

「いや臭くねえし」

「私が嘘ついてるいって言うんですか?その首と足首ぶった斬りますよ」

「いやだから怖いなお前………酔ってる?」

「酔ってる訳ひっく」

「あーそーですかそーですか」

 

あ、肉無くなった。

 

「焼肉ぱーてぃ終わり!お開き!解散!」

「えー、まだ私たち来てちょっとしかたってないんですけどー」

「おめーらが来たから肉がすぐ無くなったんでしょうが!来るなら来るって事前に言いなさいよ!」

「いやー、驚かそうと思ったんですけどねー、あははは」

 

驚いたわ、そして迷惑。

まぁ帰れとは言わないけど。

そのままの勢いで七輪を蹴り飛ばして、なんか燃えるかもしれないって気づいたから氷漬けもしてその場に寝転がる。

 

「あー、胃もたれするわー」

「大丈夫ですか?」

「大ちゃん……大丈夫とも言えるし、そうでないとも言える」

「……?」

 

大ちゃんが固まってしまった。

 

「無理に明るくしなくてもいいんですよ」

 

明るくなりすぎって思われてそう。

でも今日は叫びたい気分だったんだよ、パーリィしたい気分だったんだよ、もう疲れたけど、

 

「自分の気持ちを抑えこんじゃ駄目ですよ」

あ、これ完全にヒャッハーしすぎて逆に心配されちゃってる奴だ。

 

「みんな優しくて私泣きそう」

「そんなこと言って、泣いたこともないじゃないですか」

 

ん?そーだっけ。

 

「自分の気持ちって言われてもねぇ……なんかあれだけど、私の気持ちは私にしかわからないからさ。気にしなくていいよ、私のことは。勝手に落ち込んで、勝手に立ち直ってるよ」

「そうですか……何かあったら言ってください。友達ですから」

 

そう言ってチルノの方へ行ってしまった大ちゃん。

なんかチルノに睨まれた、やめて、そんな目で見ないでー。

 

 

「……はぁ。何かあったら言ってくださいって………友達だから巻き込めないんじゃん」

「なるほどねえ」

「今度は誰………あ、こんばんは」

「はいこんばんは、少し移動しましょうか」

 

声が聞こえた方向を見ると、なんで言えばいいんだろう、空間の裂け目的な何かがあった。

そして私のいる場所が森の中へ変わり、目の前に久しぶりに見た人がいます、と。

 

「え、えええーっとと。紫さん?」

「久しぶりね。元気にしてたかしら」

 

なんで急に………

 

「貴方の気持ち、よーく分かったわ」

「え?はい?」

「辛いでしょう?突然の別れって」

「すみません、何考えてるのかはわかりませんがもうその話はやめてくれませんか」

「あら、嫌だったかしら」

「いやも何も、私の中ではもう終わったことなんで」

「あらそう」

 

つまらなさそうな表情を浮かべる紫さん。

なんで急に私に会いに来たのかわからないけど、もうあのことに触れられるのは勘弁願いたい。

 

「なんで急に会いに来たのかって思ってるでしょう」

「…まぁ」

「そんなに大したことじゃないわ、ただ一つ、聞いておきたいだけよ」

「……なんですか」

「今回の事で分かったでしょう。人間と関わるというのがどういうことか」

 

……これはあれか、あの夜の出来事は全部見られてたってことか。

 

「何が言いたいんです」

「これからどういう風にしていくのか、気になってね。貴方が人間と非常に友好的なのは分かっているわ。でも人間と関わるのがつまりどういうことか、貴方は理解したはずよ」

 

人間、妖怪、その差。

 

「人間は脆く儚いわ、私も幾度となく人間と別れてきた。貴方は知ってしまった、その辛さを」

「………」

「これからこの先、貴方はどう人間と接していくのかしら」

「………」

「まぁ答えは聞かないでおくわ。どうするか、しっかり考えておいてね」

 

一方的に喋られて勝手に帰られた。

気づけば元いた場所に戻っていた、神出鬼没すぎい。

 

「そんなもの、考えるだけ無駄じゃん」

 

私は自分がどうしたいかなんてわからないし、別にどうでもいい。

この世界はきっと、私なんかがいなくても何も変わらずに回ってるんだ、私がいたって何かが変わることなんてないんだ。

 

「私のことなんてどうでもいいし、気にする必要はない」

 

私が好きなのは自分じゃない、この世界だ。

この世界が変わらずに回るのなら、私はどうなってもいい。

 

「あー……頭痛くなってきた」

 

ダメだ、こんな大して大きくもない頭で難しいこと考えたら頭痛で死ぬね。

 

「おーい、私の家の周りで刃傷沙汰起こすのやめてねー」

「いや止めてくれええ!!」

「足臭、斬る」

 

酔うと辻斬りみたいになるとか、笑い事じゃなくて逆に笑えるね。

 

「俺の足は臭くねえ!」

「臭いから斬る」

「臭いですよ、臭い臭い」

「るりきゅうり食べるー?」

「あ、もらいます」

「大ちゃん、あたいお腹いっぱいで死ぬ…」

「だから食べ過ぎないようにって言ったのに…」

「誰か止めてくれよおおお!!」

「うるさ」

 

あー、今夜は月が綺麗だなー、うんうん。

なんかこう、綺麗だねうん。

うん?

 

「あー」

 

ルーミアが、私が作ったりんさんの墓石の前で佇んでいる。

私がルーミアに質問した限りでは、なんにも覚えてなさそうだったけど……何か感じることでもあるのかな。

それとも不自然にある石が気になってるだけか。

 

「ルーミアくーん、そんなところで何してるんだい」

「あー?よくわからない」

「えぇ………」

 

あったの方のルーミアさんは完全に消滅したのかな………

私は別にどっちでもいいんだけど、胸にあるモヤモヤしたものがなかなかとれない。

まぁそれはルーミアも同じかなぁ。

 

「いってえええ!!背中、背中が切れたああ!?」

「あ、すみません手が滑りましたそのまま楽にしてあげますね」

「楽に死なせる気ないだろ!四肢を一つずつ落としていくとかそういうこと考えてるだろお前!」

「足臭は黙って死んでください」

「まぁまぁ、椛落ち着いて」

 

あ、文に言われたら止まるんだね。

 

「肴は手羽先かな」

「あやや!?」

 

バーサーカーは止まらなかったわ。

 

「ちょ、こっちに来ないで……って、あれ?」

「ぐぅ………」

「完全に潰れたな、なんでいつもこうなるかなぁ………」

「まぁ今日は吐いてないだけマシだよ、あーよかった、今日は私の家は無傷だー」

「あ、すまん、壁に当たって削れた」

「oh……」

 

 

 

 

「それでさ、ここの配線に迷ってるんだけど、なにか良い案ないかな」

「別にこれ、ここ通さなくてもよくない?直接こっちからじゃダメなの?」

「あ、確かにそうすればよかったですね」

「流石だなぁ……ってかなんで私達より電気とかに詳しいんだよ」

「なんでって言われましても……」

 

どうやらにとり達河童は現在、いつでも冷たいきゅうりを食べるための装置を作っているらしい。

完全に冷蔵庫ですねわかります。

 

「さっきはあんなに煩かったのに、今じゃすっかり戻ったね」

「まぁあれで溜まってたもの全部吐き出せたかなぁ………まぁ叫びすぎたせいで獣が襲ってきたんだけどね」

「聞きましたよ毛糸さん、とうとうこれで引きこもり仲間ですね」

「勝手に仲間にするな」

 

というかるり、お前も最近大して引きこもってないんじゃ………会ったばかりのころなんて外出た瞬間に過呼吸になってたのに。

 

「そうそう、この前るりが凄かったんだよ」

「え、なに」

「山で小さな反乱が起きたんだけどさ、るりがなんか一人で五十人くらいやっちゃってたんだよ」

「え、すご」

「変わりにあたしの部屋は無くなりましたけどね……ははっ」

 

顔が笑ってない笑ってない。

 

「その後さ、河童みんなでるりを胴上げしたらすぐに泡吹いて気絶したんだよ」

「しょうがないじゃないですか。部屋が無くなった衝撃で既に気絶寸前だったのに、それでそんなことされたら誰だって泡吹きますよ」

「いや絶対に吹かんわ」

「そうだね、それにもし吹いたとしても白目向いて絶叫しながはとんでもない顔で周囲を引かせるようなことはしないね」

「そんな顔してたんですかあたし!?」

 

してそう。

引きこもりはマシになっても、本質は変わらないんだなぁ。

 

「椛本格的にやばいので帰ります、今日はお邪魔しましたー」

「ほら、ちゃんと立って歩け、息くさっ」

「もう、二度と飲まない………」

「じゃあたしたちも帰りましょう」

「そうだね」

「毛糸さん、新しいあたしの部屋に引きこもりたかったらいつでも歓迎しますよ」

「え、あ、うん。うん?」

 

完全に引きこもり仲間認定されて、山の奴らは帰っていった。

ルーミアも気づいたらどっか行ってた。

 

さーて、今夜はよく眠れそうかなー?



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毛玉は放浪するもの

「やい!現れたわね毛玉」

「私たち三人がお前!」

「成敗する!」

「………誰?」

 

聞いてアロエリ○ナ、ちょっと言いにくいんだけどー。

聞いてアロエリー○、三色の妖精がつるんできたんだけどー。

「……ごめん誰」

「な……わざわざ森からやってきたっていうのに、私たちのことを知らないって!?」

「チルノの馬鹿が言うからどんな奴かと思ったけど、私たちのことも知らないなんて…」

「大したことなさそうね、頭以外は。私たちのことも知らないなんて」

「うるさいね君たち」

「私がサニーミルク」

「私がルナチャイルド」

「私がスターサファイア」

「どちら様でしょうか」

 

仲良く名乗られたけど全く記憶にございません、本当に誰ですか。

なんか赤っぽいのと白っぽいのと青っぽいの………あ、まってなんか思い出しそう。

オランダ……いやロシアかな。

 

「いや違う違う、えーっと………あ、あれか、チルノとたまーに遊んでる奴か」

「記憶力はチルノ以下なのかしら」

「きっとチルノよりも馬鹿なのね」

「すごいのは頭だけのようね」

「はいお前らセリフ多くて長いんだよだまらっしゃい」

 

参ったな………毎回一気に三人分のセリフが飛んでくるのか。

誰に反応したら良いのかわからんし、そもそも聞き取れるかどうかも怪しい、というかうるさい。

やだ、変なのに絡まれた。

 

「えーと、さにーみるく?何の用ですか」

「貴方が毛玉のくせに調子乗ってるっていうから、私たち妖精の上下関係を教えてあげにきたのよ」

 

………あ、よかった、指名したらその子だけ喋ってくれるわ。

サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイア………うん覚えた、多分。

で、さっきなんて言われたんだっけ。

えーと、私が毬藻でゴミでカスの癖して、調子にのってるから最強の自分たちがしばきにきたぞ、かな?

ふーん?爆発したいのかなー?いいよ、跡形も残らず三人一緒に消してあげるよ。

まぁ冗談はさておき、よく私が毛玉ってわかるね?毛玉要素ほとんどないのに、宙に浮いてるのと髪以外の毛玉要素ないのに。

というか、チルノはなんて面倒くさいことしてくれたんだ………

 

「でさー、なんで私上に座られてんの?」

「上下関係を教えてあげるって言ったじゃない」

 

あ、そうくる?物理的な上下関係でくる?いいの?私このまま空高くまで浮くよ?天空のお城の高さくらいまで昇っていくよ?

人が考え事してる間に下敷きにするなんて、流石いたずらが好きな妖精、やることが違うね。

あーめんどくさいよー、こんな、こんなよくわからん三色に絡まれるとかめんどくさいよー。

誰か助けてー。

 

「やいお前ら、それはあたいのいすだぞ」

「うん、突っ込みたいけど我慢するわ」

 

突然現れたチルノ、私と上に乗ってる三人を見下ろして、堂々と私を椅子宣言してきた。

 

「早い者勝ちよ」

「早い勝ちもなんもないわ、人の上に乗るなよ」

「それはあたいのいすだ」

「椅子じゃねーし、なんとかしてくれよチルノー」

「無駄よ、私たちは」

「ここを絶対に」

「のかない」

 

なんだこのガキども………めんどくさいよー、あーもう、めんどくさいよー。

もうめんどくさすぎて……あーめんどくさ。

寝よ。

 

「なら氷をおみまいしてやる!」

「ちょ、下に人がいるのよ!?」

「ふん!」

「あぶな!」

「ぐほああああああ………ガハッ」

「あ、ごめん」

 

せ、背中に……背中に突然でかい氷がぁ。

あ、ヤバい、骨ヤバい、背骨ヤバい、体動かん。

 

「ぐはぁ……何してんの君たち、ねぇ」

「あやまったじゃん」

「謝って済むならサツはいらねえんだよ……この時代にサツはいねえけどなぁ………」

 

もう……こんな変なことで妖力消費したくないんだけど……

 

「えっと……そこの君、白いの」

「え、私?」

「そうだよ君だよ。えーっと、るな……ルナ…ルナチャイルド」

 

体を浮かして立ち上がると、なんか落ち着いた雰囲気のルナ……あーもう知らん、白いのを呼ぶ。

困惑した様子の白いの、こちらへ来るように言うと、恐る恐るやってくる。

 

「あのね、世の中にはやっていいことと駄目なことがあるの、わかりますか?人を下にして上に乗るって、乗られてるひと凄い不愉快でしょ?ね?そーゆーことしちゃダメだよ?」

「なんで私だけ…」

「だってあの二人に言っても聞きそうにないから」

「ちょっと!私たちのこと馬鹿にしたわね!」

「馬鹿みたいな頭のくせに」

 

私がバカじゃないと言うつもりはないけど、少なくとも妖精で頭が悪くないの少ないでしょ。

大体チルノとかそーゆー感じのだからね、大ちゃんみたいなのとかそうそういないけどね。

 

「いーぞー、もっと言ってやれー」

「チィルノくーん、君もさー、そうやって考えなしに氷飛ばすのやめなさいよー」

「なんだよ、あやまったからいいじゃん」

「それさっき聞いた。あのさぁ、私は別に謝罪を求めてるんじゃないんだよ、どうせあれでしょ?明日になったらまた同じようなことするんでしょ?学習能力ないから」

 

あーもう疲れたよパトラッ○ュ、この妖精たちの頭にかぶりついてよパトラッ○ュ。

ん?なんか嫌な気配が……

 

「いてっ。なんだよマジでさー…」

 

突然頭に小石が落ちてきた、痛い。

 

「いてっ、いてっ。もうなんだよ!」

 

何個も何個も落ちてくる。

上を向いても何もない、ただ顔面に小石が当たるだけ。

見えない小石が、落ちてくるときだけ見えるような感じだ、とりあえず腕で防いでおく。

 

「………?」

 

目の前の怪奇現象に頭がフリーズする。

あっれれえ?なにこれえ、おかしくなーい?

とりあえず屋内に避難しよう、家の中に入って扉を閉める。

 

「ぬぅ………えーと……んー?」

 

これはあれか、透明人間ってやつか。

毛玉が擬人化する世界だしね、いてもおかしくないよね。

そういやさっき、あのサニーうんたらってのだけいなかったなぁ……

アホみたいに酒飲んで具合悪くなる白狼天狗が千里眼持ってるくらいだからね、妖精が姿隠す能力持っててもおかしくないよね

なんにせよ、このまま閉じこもってるわけにもいかない、小石ごときを警戒して引きこもりとかいやだよ私。

てわけで意を決して外へ出る!

 

「おらかかってこいよ!………なんで誰もいないん?」

 

ぼっちなん?ぼっちなの私。

小石が痛くて家に入っただけなのになんで放置されるん?

……もういいやふて寝しよ。

家の中に帰る。

 

「あー、もう散々だうぇー?」

 

家の中がなんかめっちゃ荒らされとるんですけど!?なにこれ酷くない!?空き巣!?

いやまて、落ち着け、これはきっとさっきの妖精たちがやったことなんだ。

きっとあのサニーうんたらは自分以外の姿も消すことができるんだ、そうに違いない。

でも、私が外に出た一瞬でここまで荒らせるか?

となると外に出る前から荒らされてた、でも家の中に入った時は荒らされてなかった。

そもそも、こんなに荒らされたら大きな音くらいは出るはずだ。

そうなると………音を消すやつがいるのか?三人組ならそんな感じの能力のやつがいてもおかしくないだろうし……あーあ、家がなかったら全方位に氷放つのになー。

 

「音はしなくて姿は見えない……おっほ、めんどくさすぎ」

 

先生ギブ!自分無理っす!

音も鳴らないのならどこかで暴れられてもわかんないな………

うーん、どうしたらいいんだよこれ、うーん………頭痛くなってきたんですけど。

あれ、詰んでない?私詰んでない?だってどうしようもないじゃんこの状況、姿見えなくて音もしないって。

気配を感じ取ろうとしても、音も姿も見えないんじゃ私にはそんなもの感じ取れないし………オワタ。

だーけーどーなー……あの妖精たちにいいようにやられるのもなぁ……てかチルノどこいったんだろう。

帰ったか、帰ったことにしておこう。

 

 

「うーむ………あ」

 

良いかはわかんないけど策は思いついた。

冷気を手から出して、小さな氷の粒を作り出して宙に浮かせる。

いっぱい浮かせる、とにかく浮かせる。

姿を消せるとしても、さすがにこの家中に浮く全て氷の粒までは消せないだろう。

浮かせるために霊力をほんの少しだけ入れているから、そんなすぐに溶ける心配もない。

動けば氷の粒が動き、あいつらのいる場所だけ氷の粒がなくなるはずだ。

うむ、我ながらなんて安直な策、まぁ私みたいなちっさな脳みそじゃこれが限界なんでね。

氷の粒をばら撒き仲間は家中を回っていく。

もう既に出て行ってたとしても、被害状況を把握したいし、外から覗かれてで圧力はかけられるからね。

 

もう家の仲が氷の粒で満たされそうなくらいになったから、ばら撒くのはやめたけど、一向にあの三色の姿が見えないなり。いや、姿は見えないだろうけど。

おっかしーなぁ……私ちっとも物音も出してないはずだから、そのうち遭遇してもいいはずなのに……やっぱりもう外にいるのかなぁ?

でもなぁ……被害がどんどん大きくなって行ってんだよね…全ての部屋が荒らされたといっても過言じゃない、というか全部やられた。

貴方達を器物損壊罪で訴えます、理由はもちろんお分かりですね。貴方達が無駄にすごいステルスで私の家を荒らしまくったからです。

法廷で会おう。

 

 

うーむ………家を外から見てみたけど……

 

「えーらいこっちゃ」

 

外から見たらまだマシだけどなぁ……中がなぁ……

いったい私が何をしたっていうんだ、存在が罪なんですか、誕生罪ですか、生まれてきたことが罪なんですか。

あーあ…萎えすぎて苗になりそう。

 

うしっ、吹っ切れた。

大事なものは引っ張り出してきたし、どうせ修復作業とかマジ面倒くさいしぃ………爆破するか。

 

手に妖力を集めて圧縮して妖力弾作り、マイホームに向かって勢いよく投げた。

 

「イオ○ズンッ!!」

 

 

 

 

「いたたっ………急になんなのよ。ほら、ルナ、スター起きて」

「う、うーん……いったい何が」

「おぉはよおごおざいまあああす」

 

妖力を垂れ流して圧力をかけて、精一杯の怖そうな顔をして睨みつける。

ビビったのか、急に三人の姿が消えて何処かへ行ってしまった。

これで悪は去ったっと………

 

「うーん、芸術は爆発と言いますけれど……単に悲惨なことになっただけだね」

 

ま、スッキリはしたんですけど。

とりあえず私のできる精一杯で脅かしたから、しばらく私に近寄ってくることはないだろう。

ないよね?さすがにバカじゃないもんね。

記憶に残っている私の家と、変わり果ててしまった私の家の跡地を思い浮かべる。

 

「………」

 

ま、まぁね、もともと使いづらかったからね、いつかリフォームしなきゃなって思ってたし。

後悔はしてないし、ちょっとやりすぎたかなーなんて思ってないし。

むしろね、爆発さしてちょうどよかったよね、いいきっかけになったよね。

決して、決して一時のテンションに身を任せたわけじゃないよ、めんどくさくなって思考放棄したわけじゃないよ。

 

「そろそろ変わり時って奴なのかなぁ………」

 

まぁ変わり時って言っても、なにか変わらないといけないことがあるってわけじゃないんだけどさ。

なんかこう、ね。

私はあまりにもこの幻想郷のこと知らないし。

行ったことあるのなんてあれですよ、湖と山と地底と人里くらいですよ。

これだけ聞いたらなかなかいろんなとこ行ってる気がするけど、竹林とか森とかもあるみたいだしさ。

放浪の旅的な……自分探しみたいな……

なんで言えばいいんだろうね?一回仕切り直したいっていうかなぁ。

どうしても、ここにずっといると、縛りつけられてる気がする。

ここの場所に愛着湧きすぎたっていうのかな、出会いも別れも経験したし、ここが私の帰る場所ってなってる。

帰る場所があるのはいいことだし、友達って言える人もできてる。

ただ、このままじゃいけないんだ、いつまでも死んだ人を気にしているようじゃ。

 

「はぁ…」

 

変わる気はないけど変わりたい、変わりたくないけど、変わらないといけないと分かっている。

なんなんだろうなぁ………辛いのかなぁ私。

こんな顔してちゃどーせ心配かけるだけだろうし…別の場所で新たな出会いとか求めちゃったり……しよーかな。

 

よし決めた、どっかいこ。

 

そう言えばこの洞穴って、確か私が初めて裸族になったところじゃん。

いいねいいね、なんか再スタートって気がするね。

さーて、そうと決めたらチルノや大ちゃんに何かしら言っておかないとなー、何言おうかなー。

 

むぅ………雨が降ってるせいで外に出られないし、良い言葉思いつかないし……ふて寝しよ。

 

横になって、あの人の形見の鞘に収まっている刀を見つめる。

 

なんだかんだ言って、やっぱり私はあんたに後ろ髪引かれてたんだねえ、りんさん。

いつかあの人の声や顔も忘れる時が来るのだろう。

そういうものだし、悲しいけど諦めはつく。

 

これも置いていこう、てか誰かに預けておこう。

どうせ忘れてしまうなら、さっさと忘れてしまった方が楽だ。

 

 

ま、絶対に忘れてやんないけどね。



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急にエンカウント

さーてっとー。

荷物は必要最低限、それと河童の便利そうな奴で、服装は至って普通、さすがに見知らぬ土地に行くのに文字T着る勇気はない。

会話が可能で友好的な妖怪か人間に会えたら良いなあと思いつつ、毛玉状態で移動を続ける。

さすがに風に身を任せて脱力モードする勇気はない、だって幻想郷の外に出ちゃう可能性あるし。

さすがにまだそんなとこまで行こうとは思わない。

ひとまずは慧音さんのところ行きたいなー、幻想郷って人里が大体中心らしいし、そこからなら基本何処へでも行きやすいだろう。

 

 

と、思ってたのが数分前でー。

 

いきなりさ、嵐くるとかさ、おっかしいよねえ!

決意したのに足止め食らうのが一番カッコ悪いし腹立つんだよこんちくしょー。

岩場の雨風から逃れられそうな場所を捜して、毛玉状態でめっちゃちっちゃくなってなんとか濡れずに済んでいる。

雨が流れてきそうなところは氷で塞いだ、なんか溶けた水がかかりそうな気がするけどまあ多分大丈夫、根拠はない。

めっちゃ狭くて動けないけど、まあ大丈夫だろう。

 

雨が降ると湿度高くなって、なんか毛玉の状態だと浮くのにほんの少しだけ霊力を消費するようになるんだよね。

移動自体にそこまで影響はないけど、私自身雨が嫌いだし、降った後のジメジメとした雰囲気もあまり好きじゃない。

どうせ雨降ってたら移動できないし、風も吹いてるからな……雨が止むまで移動はできなさそうだ。

 

りんさんの刀は結局柊木さんに預けてきた、理由はなんか知り合いの中で1番まともに扱ってくれそうだったから。

文は根本的になんか信用できないし、椛はなんか酔った勢いでへし折られそうだし。

地底のさとりんに預けに行くのも、わざわざそんなことでなぁ…って感じだし、消去法だよ消去法。

柊木さんもなんか快く請け負ってくれたし、大切に保管しといてねって念を押しまくった。

 

こんなこと考えてる時点で未練たらたらなんだよなぁ……未練をすっぱり断ち切れる人はすごいようん。

 

 

 

 

ふー………あー暇だったあ!雨止むまで本当にやることがなくって、ただただ暇だった。

今度からはすぐに雨宿りができそうな場所を探そう、あんな狭いところだと数時間もいたら頭がおかしくなる。

上を見て歩こうね、雲行きが怪しかったら雨宿りできそうなところを探そうね。

 

「………ふん!」

 

ぐはぅ……

唐突に自分の腹をぶん殴った、いたい、めちゃいたーい。

なんで急に殴ったかって……なんとなく後悔しかけたから。

悪い癖だよ、自分では決心したつもりでも実際全然そんなことない。

そんな気持ちを抑えて、やろうと思ったことをやらなきゃいかないわけだけど。

 

いやー、一人は寂しいなぁ…孤独だなぁ………

 

 

 

 

 

寂しかったので、急ぎました。

 

もう慧音さんの家の前だよ、やればできるな私、やれば出来る子だな私。

いざ家の前に立つとなんか緊張してくるなぁ……幽香さんほど頻繁に会わないし、急に押し掛けられたら向こうも迷惑だろうし……まあずっと家の前で待機してるわけにもいかないな。

 

 

「すみませーん!毛糸でーす!」

 

ノックをして、中から返事が返ってくるのを待つ。

 

 

三分後………

 

まさかの留守!?

留守かぁ………そっかぁ………そりゃそうだよね、急に会いに行った時にいるなんてのも都合よすぎだもんね……

 

「はぁ……どうしようこれ」

 

流石に帰るっていう選択肢は存在しないし……かといってここで帰ってくるのずっと待ってるわけにもいかないし……

勝手に中にお邪魔する?

あ、論外だった、知り合いには日常的に侵入してくるやついるけどあれ非常識だった…

 

とりあえず今日は一旦ここから離れて夜を越せそうな場所を探して寝泊りして、明日来ようか。

 

「なんかついてないなぁ……んぁ?」

 

 

目があった、女の人と。

白く長い髪で、普通の人間とは違う気配。

見ただけでわかる、人間じゃない。

そして目があっただけでわかる。

すごく…….不審者を見る目で見られてる。

 

「………」

「………」

 

凄い目で私のこと凝視してくるんだけど、何この人。

いや、向こうのほうが何このもじゃもじゃなんだろうけど、実際私は不審者なんだけれども。

構図は蛇に睨まれたカエルのそれだ、一歩も動けない。

別に威圧されてるわけでもなく、恐怖を感じているわけでもないんだけど、こう、目があった瞬間から動けない、気まずくて。

瞬きすらできない、てことで目が痛い、大丈夫?瞬きは許される?やるよ?いいの?

あ、許された。

こっちが目を逸らしても構わず見つめてくる、なんなのこの人マージで。

いやだから、私がなんなのこのもじゃもじゃなんだけど………

 

 

二分後

 

「…….…」

「………」

 

 

五分後

 

「………」

「………」

 

いや……流石に長くない?よくそんなに私のこと見つめ続けられるね?私なら無理だよ、実際もう下向いたり上向いたりしてるもん。

なに?何を求められてるの?私は何をすればいいの?何をすればこの空間から抜け出せるの?

誰だよまずは慧音さんのところ行こうって言ったやつ!

見つけたらただじゃおかねえぞ!

 

まあ落ち着こうそーしよう。

多分この人は、私がここにいた数分の間に私を見つけて凝視してきたってことは、多分ここにもともと用があったとかそういう感じだろう。

ってことは多分慧音さんの知り合いで、私のことは知らなかったから急にもじゃもじゃが慧音さんの家の前で現れて驚いているのだろう。

あってる…かなあ?

 

「あの…」

 

意を決して話しかけてみる。

大丈夫、多分慧音さんの友人とかだったら話は通じるまともな人だろう、多分、きっと。

 

「えっと……すみません帰りますね」

 

話しかけても顔色一つ変わらないじゃん、なんなのこの人。

実はこの人はただの人形で、私は生きてもない人形にびくびく怯えてた、とか…。

あーーー、帰ろ。

 

「待てよ」

「あ、はい、なんでしょう」

 

し、喋った……

落ち着いた口調だ、話はできそう。

 

「名前は?」

「え?あ…えっと…白珠毛糸です」

「やっぱりか」

 

やっぱり?

あー、慧音さんに私の名前だけ教えてもらってたとか?

 

「慧音になにか用か?」

「え?あ、いや、大したことじゃないんで」

「そう言うなよ、さっきは悪かったな」

 

んー、思ってたより遥かに友好的?

なんというか、こう、強者特有の隙のない感じはあるけど、こっちが怯えるほどのプレッシャーは感じない。

 

「えっと……少し話したいことがあったと言いますか、相談したいことと言いますか」

「そうか。まあ大体分かった、生憎だが慧音は今は他の場所にいる、案内してやるからついてこい」

「え?あ、ありがとうございます」

「その話し方やめてくれないか?」

 

いや、そうは言われてもなあ…

 

「んー…まあ分かったよ、えっと…」

「藤原妹紅だ、まあ私のことは移動しながら話すよ。早く行こう」

 

なんか凄く友好的で逆に疑ってしまいそうになるけど、多分悪い人じゃないだろうからありがたく案内を受ける。

 

 

 

 

「流石に驚いたよ、友人の家の前に変な頭のやつがいたから」

「よく言われる」

「それに服が汚れてるしな」

「んあ?あー、色々あったんだよ、うん」

 

藤原妹紅、とりあえず妹紅さんと呼ぼう。

藤原ってことは、藤原氏となんか繋がりあるのかな?いやでも普通の人間じゃないだろうし。

妖怪…って感じもしないんだよなあ。

まあ歴史に詳しくない私が考えてもしょうがないんだろうけどさ。

 

「慧音さんとはどういう関係?」

「こっちが聞きたいくらいなんだけどな。まあただの友人だよ」

「へぇ……私はまあ、知り合い」

「そうか」

 

聞いてる限りではかなり慧音さんと親しそうだ。

友人と言っていたから、まあそういう付き合いなんだろう、少なくとも私と慧音さんはそういう関係じゃないけど。

 

「で、慧音から聞いたが本当に毛玉なのか?」

「まあ、一応」

「本当に?」

「ほんと」

 

すごい疑ってきたので、一度毛玉状態になって証拠として見せる。

 

「あ、本当に毛玉だ」

「まあこの姿だと頭がもじゃもじゃなだけだし…」

「悪かったな疑って。私の知ってる毛玉って浮いて、風に流されてはちょっとしたことで消滅してる奴だったからさ。そういう毛玉もいるんだな」

「まあ多分私が相当異質なだけだと」

 

私は私で結構妹紅さんのことを観察してるつもりだろうけど、向こうは質問してる以上に私のことを観察してそうだ。

多分、慧音さんが事前に私のことを話してくれてなかったら攻撃されてたんじゃないかなあ、って。

まあ絶対白いもじゃもじゃって言われてるだろうな!

 

妹紅さんの気配というか、近くにいて感じるのは、かなり妖怪に近い存在なんじゃないかなと。

その妖怪っぽさの中に人間のような感じも混じって、さらにそこに何か別の要素があるような………

よぐわがんね。

 

「一つ疑問なのがさ、どうやったら毛玉がそんな力を手に入れることができるのかなって」

「………えっと、これ?」

 

急に話しかけられて理解が遅れたけど、多分私の中にある妖力の事を言われているのだろう。そう思い体から妖力を少しだけ放出する。

 

「それ。普通の妖怪が持っていい力じゃない。人のような体を持っていなかった奴が、そういう風な身体を持つこと自体は珍しくないが、明らかにおかしい。身体に釣り合ってない力だ」

「これもまあ、色々とありまして……まあ、私の力ではないよ。他の人から取ったというか、なんというか……」

 

そもそも私由来の力なんてほぼ、というか全くない。

私が何かをできるようになったのは、チルノの霊力を吸収してから。それ以前は本当に何もできなかった。

というか、隠してたつもりだったんだけどよく分かったなぁ……やっぱり強い人なんだろうか。

 

「まあいい、悪いやつじゃなさそうだしな」

「一目見ただけでそれ?ありがたいけど」

「一目っていうか、ずっと見てたけどな」

「まあ、うん。そっすね」

 

 

 

 

 

「なあ」

「なんでしょうか」

「お前の種族って、寿命ってどのくらいなんだ?」

「はい?あ、えっと……自分でもよくわからないけど、まあ歳はとらないんじゃないかな」

「そうか」

 

なんで急にそんなこと………不老不死なんて、この世界じゃ大して珍しいものでもないだろう。

妖怪やその類の存在であればほぼ不老不死みたいなもんだろうし、なんで私のことなんか………

 

「そういうそっちは?人間ではないみたいだけど」

「あー、そうだな……また後でいいかな、もうすぐ着く」

「あ、やっと?」

 

結構長かった。

いや、長いっていうか、妹紅さんがめっちゃ駆け足になったり飛び上がったりするから、時間で言ったらそんなにだと思うけど。

それでここは………竹林?

竹林の中へと続く道にちょっとした家がある。

 

「あれ、私の家な」

「え、あ、ふーん?」

 

………今は無き私の家と見比べてしまう。

すげえ!私の家より小さいのに私の家よりずっと家してる!

 

「中に慧音さんが?」

「あぁ、ちょうど私の家に来てたんだよ」

「へぇ……じゃなんで妹紅さんは慧音さんの家に?」

「やり忘れた用事があったらしくてな、せっかく来てくれたから、代わりに私が行ってたんだよ、大した用事じゃないかったからな。……まあお前と遭遇したおかげで結構時間かかったが」

「……すみませんでした」

「あーいや、気にしないでくれ」

 

自分の身なりをすこし整える。

もうすでに服とか色々汚れちゃってるんだけど、人と会う時ってこういうの気になるじゃん、いろいろと手遅れだけど。

 

妹紅さんが扉を開けて中へと入ったので、私もそれに続く。

中には慧音さんが静かに座って待っていた。

 

「遅かったじゃないか、何かあった……って、毛糸じゃないか」

「あ、どうも。久しぶりです」

「やっぱり知り合いだったか」

 

慧音さんと目があった。

すぐに目線を逸らしたけど挨拶はした、うん。

 

「元気なようでなによりだ、それと妹紅、大丈夫だったか?」

「あぁ、別に火は消し忘れてなかったよ、ちゃんと消えてた」

「そうか、よかった。悪いな、行かせてしまって」

 

ほーん……慧音さんは心配性なのかな?

ま、私にはもう失う物、というより失う家なんてないんだけどね!ははっ!

 

「で、毛糸は何故ここに?」

「慧音の家の前でこんな身なりで突っ立ってたからさ、話聞いたら慧音に用事があるって言うから連れてきた」

「あっやっぱり汚いですよねぇ………ちょっと外行って汚れ落としきます、別に急ぎの用事でもないので」

「わかった、待っておく」

 

 

っていうのはまあ、口実なんだけど……

外に出て服を叩いて汚れを落とす。

 

「………なんだろこの感じ」

 

周囲の竹林になにか変なものを感じる。

それが何かって言われてもまあ、答えられないんだけど………

まるで何かを隠してるような、行手を阻むような……なんか不穏な感じがする。

まあ私が竹林を見慣れてないだけなのかも知れないし、もともと竹林ってそんな感じなのかも。

というかこの世界で初めて竹をみたような………

 

私は!キノコ派だ!

………

 

さーてと、服の汚れ落ちたかなあ?



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毛玉はにょろにょろしたものが苦手らしい

「なるほど……それで私に…」

「そんなに大したことじゃないんですけど……まあ」

 

とりあえず話をして、いろいろ伝えてみた。

自分の今まで生きてきて起きた、いろいろなこと、そう遠くないけど、どこか知らない場所へ行ってみたいということ。

後それと、聞かれたからりんさんのことも。

 

「そんなに長いこと生きていないだろうに、もうそんなに濃い人生送ってるのか。それで旅みたいなことするって、凄いな」

「濃い…?」

 

濃い人生………

濃いも何も、この世界の普通の人生がわからないからなあ………そもそも私は人じゃないというのは置いておいて。

まあ確かに、前世での普通の感覚で言ったらまあ、比べ物にならないくらい濃いだろうけど。

 

「しかしどこかと言われてもな………妖怪という存在がいる以上、どこへ行っても危険は付き纏うからな…」

「別に、ただ適当な場所を言ってくれたらいいんです。私この幻想郷って未だにどんなところか理解できてないから」

 

妖怪の山も、いまだに道に迷いかけることあるからね、全然土地勘がない。

なんなら、ちょっと木が生えてるとこいくだけで迷うことも……あれ、私って方向音痴?

 

「幻想郷はどこも過酷だからなあ、他の土地に比べたら良いところなのは間違いないけど、なにせ安全って言い切れる場所が人里くらいしかない。もちろん、そんなところに私たちみたいなやつは普通に入ることはできない。妖怪の山だと天狗たちがいて組織を作ってるし、迷いの竹林はその名の通り、正しい道を知らなきゃ絶対に迷う。魔法の森なんかは瘴気なんてのがあるからな。確実に安全って言い切れる場所はないな」

 

まあ、知ってた。

そもそもの話、たぶん湖の辺りがそれなりに安全な方だと思う。

幻想郷って言っても、バカ広いってほどじゃないだろうから行ける場所も限られてくる。

 

「妹紅さんは昔はどの辺に?」

「あー、そうだな……放浪してるうちにここへ来て………居心地がいいからここに止まってるって感じだな」

 

今、言葉を選んだ。

居心地がいいと思ってるのはそうだろうけど、まあそれだけじゃないのだろう。

なにか、人には言いたくない別の理由…まあ知り合ったばかりの私に話したくないことなんてたくさんあるだろう。

変なこと考えるのはよそう。

 

「この迷いの竹林って、なんで迷いの竹林って言うんですか?」

「単に一度入ったら本当に出られなくなるからかな。私も一度入ったが、妹紅がいなかったら出るのにどのくらいかかっていたことか」

 

どんだけ迷うねん、どんな構造してんだろこの竹林、それはそれで気になる。

 

「というか、妹紅さんは竹林の中は普通に行けるんだ」

「まあな、中は入って食料とか調達することも多いしな」

 

何度も出入りしてたら道がわかるようになるのだろうか。

そもそもこの竹林のなかって何か建物とかないのかな?そんな迷うような場所に建物作るって相当な物好きな気がするけど。

 

「この竹林のなかって建物あるんですか?そんなところに人も妖怪もいる気がしないんですけど」

「なくはないな」

 

え、あるんだ。

 

「ただまあ、あまり知らない方がいい相手だ」

「慧音さんはその人たちのこと知ってるんですか?」

「いや、私というよりは妹紅が………」

「そうだな」

 

妹紅さんの気配が変わった。

うん、やっぱりなんか抱えてるなこの人。

もちろんそれに関わる気なんて少しもないけど、なにがあったのか気になるのはしょうがないと思う。

 

「あーすまない、ちょっと用事思い出したから行ってくる」

「…そうか」

 

妹紅さんは逃げるようにして去っていった。

こんな時さとりんならなに考えてるかわかるから、私みたいなモヤモヤ抱えなくていいんだろうなぁ………

 

「妹紅はな、不死身なんだ」

「不死身?それだったらただ単に寿命が無いのと一緒じゃ……」

「いや違う、死なないんだよ、本当に」

「………?」

 

慧音さんの言ってる意味がわからず首を傾げてしまう。

不死身って………

 

「不老不死と何か違いが?」

「…これは私の勝手な解釈だが、私は不老不死とはただ単に寿命がないのだと思っている。年老いて死ぬことはないが、外傷によって致命傷を負えば死ぬことはあると思っている」

「…その言い方だと妹紅さんの不死身って」

「あぁ、死なないんだよ、なにをしても。本人曰く、例え体を引き裂かれようが燃やされて灰にされようが、絶対に再生して死なないらしい」

 

どういう種族なんだ一体。

絶対に死なないって、本当に?死んだことないだけじゃ?

でも灰にされても元に戻って死なないって言うってことは、つまりそれに近いようなことになったってことだよね。

それで………

 

「ってか、そんな話私にして良かったんです?」

「構わないさ、私が勝手に言ったことだから、聞かなかったことにしてくれても良い。妹紅はまあ、多分良い顔はしないだろうが」

 

そりゃまあそうだろう、自分の触れられたくないことを勝手に言われたら悪い気分にもなる、私だって嫌だ。

 

「そういえば慧音さん、人里とはどうなんです?なにか進展とかは」

「残念だが、なにも変わってない。いや、少しは変わったかな、一部の人にだけだが受け入れられたような気がするよ。まあ私の単なる思い込みかもしれないが」

「まあ、そりゃそんなに早く変わらないですよね」

 

人間って私たちみたいなやつのことどう思ってるんだろうなあ。

いや、私はそんなに人間と会わないから存在すら知られてるか怪しいけど、慧音さんのことはどう思っているのだろう。

人間卒業してそれなりに経つから、もう人間の気持ちとかわかんない。

それ以前に、時代も違うんだから、私が生きてた頃の思想なんて……そもそも私前世の記憶ないし、自分のこともよくわからんし。

 

慧音さんと妹紅さんはどうやって知り合ったのだろう。

興味あるっちゃあるけど、そんなこと聞くのもなあ、妹紅さんの知らないところでもう既に重大なこと知っちゃってるし。

 

 

 

何も話すことがなくなって、めっちゃ静かになって私が耐えきれなくなったから外に出てきた。

なんだろう、湖の方とは空気が違うなあ。

湖の方はなんでかわからないけど妖精が多いし、妖怪の山には妖怪が多かったけど、この竹林はなんかこう、すごくモヤモヤっとする。

漂ってるものが違うのかな、妖精がたくさんあると霊力の気配がするし、妖怪がたくさんいると妖力の気配が濃くなる。

そういえば魔力とかもあるのだろうか、魔法の森っていうくらいなんだから。

魔法使いとかいるのかな?この時代の魔法がどんな感じのものを指すのかわからないけど。

魔法の森に行ったら魔力吸収して魔法使えるようになるとか……ないかなあ?ないよねぇ……

あと妖怪の山が遠い、凄い遠い。

 

竹林……竹…竹ねえ。

竹って何に使うっけ、籠とかには使えるだろうけど、河童からそういう類のものはすでにもらっ