Re:Imagination Orga (T oga)
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Start World『はじまりの世界』

最初の1000文字くらいは読み飛ばしても構いません。いつもの転生前のやつです。



P.D.325年 クリュセ郊外 アドモス商会。

 

マクギリスの助けもありギャラルホルンの包囲網を突破し、アトラとクーデリアをアドモス商会へ届けた俺──オルガ・イツカはそこで連絡がついた時苗の爺さんやアジーさんの朗報を聞いて、希望を胸に抱きつつ、鉄華団本部へと戻ろうとしていた。

 

アドモス商会の廊下を歩く俺の隣で足取り軽やかなライドが口を開く。

 

「なんか静かですね。街の中にはギャラルホルンもいないし、本部とはえらい違いだ」

「あぁ……火星の戦力は軒並み向こうに回してんのかもな」

「ま……!そんなのもう関係ないですけどねぇ!」

「上機嫌だな?」

「そりゃそうですよ!みんな助かるし、タカキも頑張ってたし!俺も頑張らないと!」

「あぁ……」

 

そうだ。俺達が今まで積み上げてきたモンは全部無駄じゃなかった。これからも俺達が立ち止まらないかぎり、道は続く……!

 

そして、アドモス商会を出て、ライドとチャドが用意してくれた車に乗り込もうとしたその時──事件は起こった。

 

キィィィィィ ガチャン

 

車のブレーキ音と扉を開く音が俺の耳に届く。

何事かと思い、そちらを見た瞬間──

 

()()()()()()()()

 

ズドドドドドド

 

俺は咄嗟(とっさ)に近くにいたライドを(かば)う。

 

「団長!?……何やってんだよ、団長!!?」

「う"う"っ!」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

俺はミカから借りた銃で、謎の襲撃者目掛けて発砲。

その銃弾は振り向きながら撃ったものにも関わらず、襲撃者の一人の頭を掠める。

 

「なんだよ、結構当たんじゃねぇか……」

 

着弾した仲間を車に乗せ、謎の襲撃者は逃げ去った。

 

しかし、俺はどうやらここまでみてぇだ……。

 

「だ……団長!?あぁ……ああ……!」

 

ライドは俺の身体から流れて止まらない血を見て、そんな声にもならない声を漏らす。

 

「なんて声……出してやがる……ライドォ!」

「だって……だってぇ……!」

「俺は……鉄華団団長……オルガ・イツカだぞ!こんくれぇ、なんて事はねぇ!」

「そんな……俺なんかの為に……!」

「団員を守んのは、俺の仕事だ……!」

「でもぉ……!!」

「いいから行くぞぉ……!」

 

俺は止まらずに歩き出す。

ライドとチャドに…鉄華団の団員──皆に、俺は止まらねぇ、ってことをこの満身創痍の身体で示してやらなきゃならねぇ……。

それが俺の、鉄華団団長として出来る最期の仕事だ……。

 

「皆が……待ってんだ!それに……!」

 

俺が最期の最後に思い浮かべた顔は──やはりミカの顔だった……。

 

「ミカ……やっと分かったんだ。俺達には辿り着く場所なんていらねぇ……。ただ進み続けるだけでいい……!止まんねぇ限り……道は……続く……!」

 

《謝ったら許さない》

 

ああ、わかってる。

 

「俺は止まんねぇからよぉ……!お前らが止まんねぇ限り、その先に俺はいるぞ……!」

 

俺はその場で倒れこむ。

 

ライドやチャドの声はもう聞こえない。俺の口も動いてんの動いてないのかもう分からねぇ……。

だけど、これだけは伝えなきゃいけねぇんだ。

 

俺は最期の力を振り絞って、こう叫んだ。

 

「だからよ……止まるんじゃねぇぞ……!」

 

そして、俺は意識を失った。

 

 


 

 

 

────目覚めると俺はアドモス商会の前で倒れていた。

 

身体から流れて止まらなかった血は何故かもう止まっている。

 

俺は立ち上がって周りを見渡すが、ライドもチャドも……クーデリアとアトラの姿もない。

 

「どういうことだ……?」

 

ライドとチャドが用意してくれたはずの車もなく、鉄華団本部に戻ることも出来やしねぇ……。

 

俺は仕方なく、アドモス商会に戻ることにした。

 

………のだが、

 

「お嬢さーん、アトラ~、ククビータさん……誰もいねぇな……」

 

アドモス商会の中には誰もいなかった。

 

「……ん?なんだありゃ?」

 

社長室にやってくると、部屋の中央には古いカメラが置かれていた。

 

三脚に乗ったそれを覗いて、俺は目を見開いて驚く。

 

ファインダーの中に見えたのは、カメラの先の景色ではなく、広い砂漠だった。

 

「は?」

 

俺はカメラから目を放して社長室を見渡した。そこはやはり見慣れたアドモス商会の社長室だ。

 

「…………見間違いか?」

 

俺は再度確認の為に、もう一度そのカメラを覗き見る。

 

「やっぱり、砂漠じゃねぇか……」

 

カメラのファインダーの先は広大な砂漠。しかし、カメラから目を放すとアドモス商会の社長室。

突然いなくなったライドやクーデリア達のことも含め、俺の頭の中は疑問でいっぱいだった。

 

「意味わかんねぇ……」

 

そう言いながら頭を掻きつつ、俺は落ち着いて外の空気を吸おうとアドモス商会から出る。

 

するとアドモス商会の外は────

 

「砂漠じゃねぇか……」

 

先ほどカメラのファインダーから覗き見た砂漠が一面に広がっていた。

 

 

「勘弁してくれよ……。ライドやクーデリア達もいねぇし、さっきまでクリュセに居たはずなのにいきなり外は砂漠になっちまってるし、一体何がどうなってるんだ?」

 

俺はパニックになって大きな独り言を呟く。

 

後ろを振り向くと砂漠の中にぽつりとアドモス商会だけがあった。

 

「……俺は鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……。こんな状況、なんて事はねぇ…………はずだ」

 

一度アドモス商会に戻って、飲み物やらなんやらを探すが……何もなかった。

 

もう一度外に出たらまた景色が変わるんじゃねぇかと思ったが……そんなことはなかった。

 

俺は大きなため息をついてからこう呟いた。

 

「とりあえず、この砂漠にずっといるわけにはいかねぇ。オアシスか……とにかく飲み物を探さねぇと……あと今何時なんだ?」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

そして、俺が砂漠のど真ん中を歩き続けて約数分後──

 

《ハッハッハッハーー!!》

 

いきなり現れたグレイズに俺は追われていた。

 

なんでグレイズが?

なんで俺は追われてるんだ?

 

疑問は未だ絶えないが、俺はまずそんな疑問は一旦置いといて必死に足を動かして砂漠の中を逃げ続けていた。

 

ユージンなら「死ぬ死ぬ死ぬうゥゥゥ!?」って叫んでるだろうが……。

 

「俺は死なねぇ!」

 

おそらく、俺はあの時クリュセで死んだんだろう。ここは多分、昔昭弘が言ってた死後の世界ってやつだ。

 

「一回死んでんだ!もっかい死んでたまるかよ!!」

 

俺は逃げながらそう叫ぶ。

 

「このままじゃ……」

 

そう、このままじゃ……。

 

「こんなところじゃ……終われねぇ!」

 

俺はとある男の顔を思い浮かべた。

 

あいつの目に映る俺は、いつだって最高に粋がって、格好いいオルガ・イツカじゃなきゃいけねぇんだ。

 

だから、俺は諦めない。

 

生きることを諦めない。

 

二回も死ぬなんて、格好悪い姿をあいつに見せられねぇ。

 

……それに、諦めなければあいつは必ず俺に応えてくれる。

 

「……だろう?」

 

俺はその男の名前を叫んだ。

 

ミカの……三日月・オーガスの名を……。

 

 

「ミカアァァァ!!」

 

 

その声とともに砂漠の地面が割れる。

 

地下から現れた悪魔の名を冠するガンダムが大きなメイスを振りかざし、俺を追っていたグレイズを叩き潰した。

 

そして、その機体──ガンダム・バルバトスルプスに乗っているミカの声がスピーカー越しに届く。

 

《ねぇ、次はどうすればいい?オルガ》

「決まってんだろ」

《うん?》

「行くんだよ」

《どこに?》

「ここじゃない……どこか」

 

そう……。ここじゃない……どこか。

 

幼き俺がミカに示したその場所は……ヒューマンデブリも宇宙ネズミも関係なく人が人らしく、皆で笑い合える場所──俺達の本当の居場所は……鉄華団だった……。

 

だけど、その鉄華団はもうここにはいない。

 

ならどうする?

 

……新しい鉄華団をまた作るしかないだろ?

 

新しい仲間を……またこの死後の世界で……。

 

《うん……行こう……。俺達の本当の居場所に……》

 

 




死後の世界に辿り着いたオルガと三日月。彼らはその世界で何を見るのか?

次回『神の世界』

お楽しみに!


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First World『神の世界』

アドモス商会の社長室にあった変なカメラを覗いた後、外に出てみると、そこは砂漠の世界だった。

 

その砂漠の世界で歩いていた俺は突如現れたグレイズに追われる事となったが……

 

「このままじゃ……こんなところじゃ、終われねぇ!」

 

「ミカアァァァ!!」

 

俺がそう叫ぶと同時に地下から現れたバルバトスルプスが大きなメイスを振りかざし、俺を追っていたグレイズを叩き潰した。

 

「大丈夫、オルガ?」

「よう。ミカ」

 

この死後の世界で俺──オルガ・イツカとミカ──三日月・オーガスは無事再開を果たしたのだった。

 

……いや、この世界にミカもいるって事はミカも死んでしまったって訳か。「無事」じゃねぇな。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

俺はミカのバルバトスルプスの操縦席(コクピット)に入れてもらって、砂漠の真ん中にポツンと立つアドモス商会まで戻ってきた。

 

その間にミカから色んな話を聞いた。

 

俺が死んだ後の事を……。

 

「そうか……それでミカも……」

「うん。でも……死んだ後も良い事あったよ」

「……俺もあるぜ、ミカ」

「体も元通りに動くようになったし……」

「こうしてまた……お前といられるんだからな」

「そうだね。オルガ」

 

そして、バルバトスルプスをアドモス商会の前に(ひざまず)かせ、操縦席(コクピット)から降り、アドモス商会の中へ入るとミカが社長室の真ん中にあったカメラへと一目散に向かい、それを覗き見る。

 

「これがオルガがさっき言ってた変なカメラ?」

「あぁ……。多分外の景色がこのカメラで見れるみてぇなんだ。砂漠が映ってるだろ?」

「……ううん。砂漠じゃないよ?」

「は?」

 

ミカに代わってもらって俺もカメラのファインダーを覗く。

 

見えたのは輝く雲海。どこまでも雲の絨毯(じゅうたん)が広がり、果てが見えない。

その雲海に畳がポツンと浮かんでおり、歳星などで見た卓袱台(ちゃぶだい)茶箪笥(ちゃだんす)なども見える。

 

「もしかしたらだけどさ。また別の世界に来たんじゃない?」

 

カメラを覗く俺の後ろからミカがそう声を掛ける。

 

「……かもしれねぇな。外出てみるか」

「うん。行こう。オルガ」

 

そうして、俺とミカは再びアドモス商会を後にした。

 

 


 

 

「おぉ、オルガ君に三日月君。久しぶりじゃのう」

「久しぶりなのよ~」

 

アドモス商会の扉をあけるとそこはカメラで見たまんまの雲海に浮かぶ畳の上だった。

 

その畳の上で卓袱台(ちゃぶだい)を囲んで座る白髪に白髭の爺さんとピンク色の髪をした胸のでけぇ女が俺達に声を掛けてきた。

 

「アンタら誰だ?なんで俺らの名前を知ってる」

 

俺は警戒して銃をそいつらに向けた。

 

この銃はさっきミカに返そうとしたのだが「やっぱまだオルガが持ってて」と言われて預かったモンだ。

 

ミカも俺の隣で卓袱台(ちゃぶだい)を囲んで座る二人を睨みつけている。

 

「何言ってるのよ?私は恋愛神。この方は世界神様なのよ」

「正直ピンときませんね」

 

俺のその言葉に世界神とか呼ばれた爺さんの方が何やら考えこむ仕草をしたが、俺は手に持つ銃を下げる事は絶対にしなかった。

 

「もしかして忘れたのよ?異世界の旅を何年も続けて記憶が薄れてしまったのよ?」

「アンタは何を言ってんだ?俺らが変な世界に飛ばされたのはついさっきだぞ?」

「そんなはずはないのよ!?もしかして冬夜君の事も覚えてないのよ!?」

「誰だ、そいつは?」

「……忘れたんじゃなくて、本当に知らんようじゃの。オルガ君は」

 

ピンク髪の胸のでけぇアホそうな女と俺が話してる間、ずっと考えこんでた爺さんがついに口を開いた。

 

「三日月君もワシらの事を覚えておらんのじゃろう?」

「当たり前じゃん。知らないよ、アンタらなんか」

「ふむふむ。やはり……」

「やはり……なんだよ?」

「なんなのよ?」

 

俺とピンク髪のアホが爺さんにそう聞くが爺さんは一人で納得して俺らを無視してアホにこう言った。

 

「花恋……いや、恋愛神。冬夜君達のところに降りておってくれんかの?」

「…………わかったのよ。あとでちゃんと説明してもらうのよ!」

 

そう言って恋愛神とやらは畳から飛び降りて雲海の雲の下に消えてしまった。

 

「さて、すまんかったのう。ワシらの勘違いじゃ。お前さん達とは初対面じゃよ」

「それじゃ、アンタらが俺らの名前を知っていた筋が通らねぇ。どういう事か説明してもらおうか」

「神界のルールでな。お前さんらに話す事は出来ん」

 

バン!

 

俺は迷いなく発砲した。

銃弾は爺さんの真横を通りすぎ、後ろの茶箪笥(ちゃだんす)に着弾する。

 

「ふざけてんのか?」

「ふざけてなどおらんよ。先ほど恋愛神も言ったが、ワシの名は世界神。世界を統べる神じゃ」

「……話せる事は全て吐け。詳しく聞かせてもらおうか」

「うむ。話せる事は全て話すと約束しよう。その代わり君達がどうやってここまで来たのかも教えてもらえんかのう?」

「わかった」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

神の爺さんの話によると俺とミカはやはり死んであの砂漠の世界についたようだ。

 

アドモス商会にあったカメラはおそらく別世界へ行くための切符のようなものじゃないかという事らしい。

 

この爺さんと恋愛神が俺らの名前を知っていた理由はやはり話さなかったが、まぁそれはさして重要じゃない。

 

それよりも重要な事がある。それは……

 

「とりあえずアンタらが神で、俺らが死んだって事は良くわかった。それで俺らは別世界への行き来が出来るってこともな。それでだ。俺らは元の世界に戻る事は出来るのか?」

「ワシら神々の力で元の世界に戻るのは神界のルールを破る事になるから出来んが、お前さんらの……アドモス商会じゃったか?それのカメラを覗けば、行けない事はないとは思うがのう……」

「なんか……はっきりしない言い方だね」

 

ミカの言う通りだ。出来るなら出来るってはっきり言えばいいのに「行けない事はないと思う」なんて言い方をするっつー事は何か問題があるって事だ。

 

「出来るとは思うが……なんだ?」

「元の世界ではお前さんらは死んだ事になっとるはずじゃ。異世界間は移動出来ても過去に戻る事は基本的には出来んからの」

「それの何が問題なの?ガリガリみたいに死んだはずのやつが生きててもおかしくないんじゃない?」

「そうだ。アンタは多分世界の歴史だかバランスだかがどうこう言うつもりなんだろうが、そんなの俺達には関係ねぇ!」

 

それに元の世界に戻ったらIDも書き換えて、別人になるんだしな……。

 

俺が立ち上がってそう言うと神の爺さんは小さな声で何か呟いたが、それは良く聞こえなかった。

 

「やはり、お前さんも鉄華団団長、オルガ・イツカなんじゃな……」

「は?」

「いや、なんでもない。しかし元の世界に戻れるかどうかはお前さん達次第じゃぞ?」

「わかってる。だがこれで俺達の道は決まった」

「うん。そうだね」

 

畳の上で座っていたミカも立ち上がる。

 

ここまで分かればもうこの世界に用はねぇ。

 

「俺達は異世界を旅して回って新しい仲間と鉄華団を作る。もしかしたら旅の途中で死んじまったやつらにも会えるかもしれねぇ!……そして最終的には元の世界に戻って死んじまったやつらと元の世界で生き残ったやつら。新しい仲間達と鉄華団をもう一度作り上げる。これが俺達の進む道だ!」

 

俺はアドモス商会に戻る扉へと手を掛けた。すると最後に神の爺さんからこう言われた。

 

「ワシも応援しとるよ。お前さん達が元の世界へ戻れるように」

「ありがとよ」

「じゃあね」

 

そして、俺とミカは再びアドモス商会へ戻ってきて、異世界へ行く為のカメラを覗く。

 

すると、新たな異世界の景色が…………

 

 

 

 

 

見えなかった。

 

 

俺は再び神界に戻り、神の爺さんに質問する。

 

「なぁ……。どうやって異世界に行けばいいんだ?カメラの景色変わらねぇぞ?」

「さぁ……わからん」

 

俺達の旅はこんな調子でうまく行くんだろうか?

 

少し心配になる俺とミカだった。

 

 

 




神の紹介でオルガと三日月はとある国の王と出会う。その王との会合は彼らに何をもたらすのか?

次回『冬夜の世界 1/2』

お楽しみに!


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First´World-1『冬夜の世界 1/2』

冒頭のみ冬夜目線
他は前回同様オルガ目線でお送りします。



「大変なのよ、大変なのよ~!!」

 

僕の名前は望月冬夜。ブリュンヒルド公国の公王をしており、今まさに書類仕事に追われている。

 

宰相である高坂さんが隣に立って監視しているため、逃げようにも逃げられない状況だ。

 

そんな時、恋愛神であり、僕の血の繋がっていない姉でもある花恋姉さんが空から降ってきて、窓を突き破って僕と高坂さんのいる実務室にやってきた。

 

あーあ、窓割れちゃったよ。高坂さん怒ってるぞ……。ほら顔見てよ。鬼みたいな形相してるし……。

 

「大変なのよ!冬夜くん!!」

「何がですか?あと窓直しといて下さいね」

 

僕がそう言うと、花恋姉さんは神力で窓を元に戻しながら要件を話した。

 

その要件に僕は耳を疑った。

 

「オルガくんと三日月くんが戻ってきたのよ!」

「えっ!?」

 

 


 

 

「ここが俺とミカを知ってる冬夜ってやつが治めてる国か」

「なんか……賑やかだね」

 

俺とミカは神の爺さんから言われて、この世界へとやってきた。

 

神界の扉の先にあるアドモス商会のカメラを覗いても別の世界へ行けなかったのは、まだこの世界で何かやらなきゃならねぇ事があるからなんじゃねぇか?ってのが神の爺さんの見解だ。

 

それで俺とミカは神の爺さんからブリュンヒルド公国とかいう国の王様である望月冬夜と会ってみたらどうかって言われてこの国までやってきた。

 

どうやらその冬夜ってやつも俺らの事を知っているらしい。

 

なんでその冬夜って王様が俺らの事を知っているのかはやはり神界のルールとやらで話せないとの事だ。

 

話せないなら仕方ねぇ。その冬夜ってのに直接問いただすまでだ。

 

そして、俺らが今歩いている大通りはミカが言った通り、商人や観光客で賑わっていた。

こんな賑やかな街は今まで見た事がねぇ……。その冬夜って王様がいい王様なんだろうという事はなんとなくだがわかった気がする。

 

俺が地位も名誉も手に入れて、火星の王になれたとしても、こんな国は多分作れなかったと思う。

 

すげぇよ、その冬夜ってやつは……。

 

 

そんなこんなで街を歩いていると、ミカがふと何かに気付いたようで、路地裏の方を指差した。

 

「ねぇ、オルガ。あっちから何か声がする」

「声……?」

 

確かに耳をすましてみると、なにやら言い争うような声が途切れ途切れに聞こえてくる。

 

「……行ってみるか」

「うん、行こう。オルガ」

 

そうして俺とミカは路地裏へと足を踏み入れた。

 

 

路地裏を進んでいくと、突き当たりで四人の男女が言い争っていた。

 

「邪魔すんじゃねぇよ!人が気持ち良く飲んでたのによお!!」

「こんな昼間っから酒に溺れて、店員の女の子に襲いかかるやつなんて、止めるに決まってるでしょ!!」

 

男の一人が長い銀髪の少女の胸ぐらを掴むが、少女の方は怯まず言葉を返す。

その少女の後ろでは短めの銀髪の子が小さく「お姉ちゃん……」と呟いていた。

この銀髪の少女達はどうやら姉妹のようだ。

 

「言ってくれるじゃねぇか姉ちゃん!俺らを誰だと思ってやがる!リーフリース皇国の貴族様だぞ!」

「俺らの親は皇王様とも知り合いなんだぞ!」

「だから何よ!貴族なら平民の見本となるように行動するべきでしょうが!私達の知ってる貴族とアンタ達じゃ比べるのもおこがましいわ!同郷として恥ずかしいったらありゃしない!大体その貴族ってのも疑わしいわね!!」

 

話から察するにこの男二人も銀髪の姉妹もリーフリースとかいう国の出身のようだ。

 

同郷の貴族らしいこの男達が酒に酔って暴れていたのをこの姉が止めたということなんだろう。

 

「このアマ!言わせておけば!」

「もう許さねぇ!!」

 

姉の胸ぐらを掴んでいた男がその手で姉を壁に叩きつけ、もう一人の男が懐からナイフを抜く。

 

「やべぇぞ……!」

 

俺は男達に襲われている銀髪の姉を護る為飛び出そうとするが、それをミカに止められる。

 

「大丈夫……あっちの姉妹の方が強い」

「は?……何言って……?」

 

そんな訳ない。と思いつつも一先(ひとま)ずミカの言葉を信じる。

ただし、何か危険があればすぐ飛び出せるように準備はしておくがな。

 

ポケットの中に手をつっこんで銃を握り締め、いつでも取り出せるようにしておきながら、ナイフを構えた男達に襲われようとしている姉妹の状況を見守ると……

 

「仕方、ないなぁ……お姉ちゃん、は」

 

妹の方がふとそう呟き……

 

「【氷よ絡め、氷結の呪縛、アイスバインド】」

 

呪文を唱えた瞬間、男二人の足元が急に凍っていき、男達は身動きが取れなくなる。

 

「今だよ、お姉ちゃん!」

「ナイス、リンゼ!【アクセルブースト】ッ!!」

 

そして、姉が目にも見えない早さで男達を殴りつけた。

 

「こいつら……」

「強ぇ……」

 

バタッ!

 

男二人はその場で倒れこむ。

 

ミカの言った通り……あの姉妹のが強いじゃねぇか……。

 

 

呆然としながら、その様子を見ていると、銀髪の姉妹が俺とミカの姿に気付いて声を掛けてきた。

 

「……あれ?オルガに三日月じゃない!?」

「久しぶり、ですね。この世界に、戻って来てたんですか?」

「……は?」

 

どうやらこの姉妹も俺とミカの名前を知っているようだ。

 

何でなんだよ……?

勘弁してくれよ……。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

銀髪の双子の姉妹、エルゼ・シルエスカとリンゼ・シルエスカに連れられて俺とミカはこの国『ブリュンヒルド公国』の王城の謁見の間……ではなく実務室へと通された。

 

「……こういう時は謁見の間に通されるモンじゃねぇのか?アンタ王様なんだろ?」

「まぁ、そうなんだけどね。あそこ落ち着かないから嫌いなんだよ」

 

俺の目の前には、神の爺さんが会いに行けと言っていた望月冬夜が居た。

 

初めて会うはずなのだが、どこかで見た顔のような気もする。こんなパッとしない顔の知り合いなんていないと思うのだが……?なんとも不思議な感覚だ。

 

「一つ確認させて欲しいんだけど、鉄華団のオルガとミカさんなのは確かなんだよね」

「あぁ……。俺は……鉄華団団長……オルガ・イツカだぞ!」

 

なんとなく、そう答えなきゃいけねぇ気がして、俺は怪我もしてねぇのに満身創痍みたいな声を出して自己紹介をした。

 

すると冬夜は俺の自己紹介を聞いて、小さく笑みを溢した。

 

「その挨拶、一緒に旅してる間に何度も聞いたよ。まぁ、それは()()()()()なんだろうけどさ

 

小さな声で言った「別のオルガ」という台詞を俺とミカは聞き逃さなかった。

 

「別の俺……どういう事だ?それが神の爺さんや双子の姉妹、それにアンタが俺らの名前を知ってた理由に繋がるってわけか?」

「別のオルガがいるなら別の俺もいるってこと?」

 

俺とミカの質問を聞いた冬夜は逡巡する。

 

そして、数秒無言の時間が続いた後、ハァーと、息を吐いて説明をし始めた。

 

「少し長い話になるけど……」

 

 

 




冬夜の口から告げられる真実にオルガと三日月は耳を疑う。動揺するオルガに対し、冬夜は銃口を向けた!

次回『冬夜の世界 2/2』

お楽しみに!


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First´World-2『冬夜の世界 2/2』

俺とミカは冬夜から別の世界の俺らについての説明を受けた。しかし……

 

「正直ピンと来ませんね」

 

俺にはさっぱり分からなかった。

 

「オルガはそう言う気がしてたよ。ミカさんは分かりました?」

 

冬夜がそう聞くと、ミカは「うーん」と唸りながらも答え始める。

 

「つまり、俺やオルガが元の世界で死んだ時、魂が何十個にも別れてその魂一つ一つが俺やオルガの形になったってこと?神様や冬夜が会ったっていう俺とオルガは元は同じ存在だったって……」

「はい。そういうことになります」

「すげぇよ、ミカは……」

 

魂が生まれ変わって云々(うんぬん)ってのは良く分からねぇが、とにかく別の世界に何十人も俺やミカがいるってことなんだろう。

 

その俺らは冬夜と会った記憶があるやつとないやつ。そもそも元の世界の記憶がないやつなんかもいるらしい。

 

同じ姿の俺が別の世界に何十人もいるなんて、ホント勘弁してくれよ……。

 

「そして、別の世界のオルガ達がほぼ共通して持ってる力が【希望の花】」

「なんなんだよ、そいつは……」

「オルガにもその能力があるか、ちょっと試させてもらうね?ミカさんは手を出さないで」

「……?わかった」

「は?」

 

パンパンパン

 

俺は冬夜が懐から取り出した変な形の銃でいきなり撃たれた。

 

……痛ってぇ……。

血が……止まらねぇ……。

なんで、こんな事で殺されなきゃならねぇんだ……。

 

「オルガっ!?」

「待って、ミカさん!」

「オルガを殺るなんて聞いてない……!」

 

ミカが冬夜の胸ぐらを掴み、冬夜の体を持ち上げているのが、薄れていく意識の中でなんとなくわかった……。

 

「オルガ!「止まるんじゃねぇぞ」って唱えて!!」

 

冬夜の焦った声が聞こえる。

良く分からねぇが、言われた通りにするしかないみたいだ。

 

俺は薄れゆく意識の中、何とかその言葉を口にした。

 

「止まるんじゃ……ねぇぞ……」

 

しかし……何も起こらなかった。

 

勘弁……して、くれよ……。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「【リカバリー】」

 

その冬夜の呪文とともに、俺は死にかけの状態から復活した。

 

俺が朦朧としながら、立ち上がるとミカがすぐに駆け寄ってくる。

 

「オルガ!?」

 

そして、その後ろからやってきた冬夜が、頭を下げて謝った。

 

「ごめんオルガ!僕達の知っているオルガには【希望の花】っていう蘇生能力があって、「止まるんじゃねぇぞ」って唱えれば何度でも甦る事が出来たんだ。てっきりオルガにも同じ能力があると思って確認したんだけど、まさかこんな事になるなんて……ホントごめん!」

 

別の世界の俺はそんなトンでもねぇ能力を持ってるのか……すげぇよ……。

 

「理不尽に殺されたのは確かに文句の一つも言いたくなるが、さっき魔法で俺を直してくれたのもお前だろ?もう何も言わねぇよ」

「ありがとう。本当にごめんなさい」

 

そんな時、冬夜の懐にしまってあった携帯端末が鳴り響いた。

 

ピロピロピロピロ

 

「……?ギルドのレリシャさんからだ。何だろう?」

 

冬夜がそう言って、携帯端末を耳に当てる。どうやらあれは電話のようだ。

 

電話越しに俺の耳にも女の声が届く。

 

感知板(タブレット)に反応がありました!フレイズです!》

 

フレイズ……?

 

さっきからピンとこねぇ話ばっかしやがって……いったいなんなんだよ……。

 

「場所はベルファスト王国、パラメス領の領都、パラメイア!出現数はおよそ五千!明日には結界が破られるみたいです!!」

「何だって!今日中に避難指示を出さないと!すぐにベルファスト国王に連絡します。ギルドも避難誘導を手伝って下さい!ユミナにも連絡しなきゃ!」

 

電話を受けた冬夜が血相をかいて、電話の向こうの相手に指示を出す。

 

そして、電話が終わったかと思ったらまた別のやつに電話を掛けた。何回も何回も……。

 

しばらく放置されていた俺らだったが、最初の電話から15分くらい経った頃、金髪でオッドアイの少女がやってきて俺らを案内すると言い出した。

 

その金髪オッドアイの少女──ユミナとか名乗ったこいつは長く広い廊下を歩きながらこう喋りだした。

 

「お久しぶりですとは言いません。貴方達が私達と出会っていない別世界のオルガさんと三日月さんなのはすでに耳にしています」

「ふーん」

 

心底どうでもよさそうなミカの相槌には何も反応せず、ユミナはミカにこう話しかけた。

 

「それを承知で三日月さんにお尋ねします」

「何?」

「バルバトスは……召喚出来ますね?」

 

は?バルバトスを召喚?

バルバトスはモビルスーツだ。この世界のモンスターとかじゃねぇんだぞ?

召喚なんて出来る訳が……

 

「……出来ると思うよ」

「は?」

「なら問題ありませんね。三日月さんもいらっしゃれば五千のフレイズなど恐るるに足りません」

 

話のついていけない俺はユミナとミカの話を遮ってミカに質問する。

 

「ま、待ってくれ!?ミカ!バルバトスを召喚なんて出来るのか?」

「うん出来るよ。バルバトスなら呼べば答えてくれる」

「すげぇよ、ミカは……」

 

良く分からねぇが出来るみたいだ……。

俺はまだピンと来てねぇが、ミカが出来るって言うんなら出来るんだろう。

 

 

そうして、ユミナに連れてこられたのは本がいっぱいある部屋だった。

 

いわゆる図書室ってやつか。

 

その図書室で待っていた背中に透明な羽を生やした銀髪の少女が俺らを見るなり、こう口を開いた。

 

「あら?貴方達が別世界のオルガと三日月なの?本当に見た目じゃ判断つかないじゃない」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

俺達がユミナに連れられ、図書室へとやってくると、そこではリーンとかいう妖精族の少女が待っていた。

 

その妖精族ってのもピンと来ねぇんだけどよ……。

 

そして、リーンはフレイズについて長々と説明をした。

 

「まぁ、今長ったらしく説明した事をまとめるとフレイズというのは体が水晶の様な物質と赤く光る核で構成された生命体のことで、様々な異世界を渡る事が出来るの。異世界へ旅立ったフレイズの王を探す為に色んな異世界へ渡ってはそこの住民をしらみ潰しに殺してるってわけ。それでそのフレイズの王……女王ね。その子は今この国に居る」

 

この世界に来てからピンと来ねぇ事ばかり言われて頭の中が止まりそうだ。

 

俺は話についていけていないが、ミカはちゃんと理解しているようで、リーンにこう確認をとる。

 

「で、そのフレイズは体が固くて、魔法を吸収して、ついでに傷ついても回復するんだっけ?」

「そうよ。さすが三日月。オルガと違って話が分かるわね」

「勘弁してくれよ……」

「バルバトスのメイスなら潰せるの?」

「以前、別世界のあなたがそのフレイズと戦った時は第4形態の太刀でなんとか傷をつけられたって聞いたわ」

「……元のグシオンと一緒か。わかった何とかするよ」

「頼むわね。核を砕けば再生する事もないわ」

 

「元のグシオンと一緒」というミカの言葉でやっとわかった。

 

とにかくブルワーズのグシオンと同じような硬い装甲のやつらが明日五千体も現れるっつーわけか。

 

「やべぇじゃねぇか……」

「そうよ。だから貴方達にも手伝って欲しいって言ってるわけ」

 

そういうことか……。

 

「よーし!鉄華団初の異世界での大仕事だ!気ぃ引き締めて行くぞー!」

「…………」

「うん。行こうオルガ」

「あ……あぁ」

 

もっと「おー!」とか、言えねぇのか……?

 

乗り悪いなぁ……ミカもリーンも……。

 

まぁ、ミカに言っても今さらだけどな……。

 

 

 




迫り来る水晶の魔物(フレイズ)の軍勢。その戦場で白狼の悪魔(バルバトスルプス)神々を継ぐ者(レギンレイヴ)そして、戦姫(ヴァルキュリア)達が舞い踊る!

次回『水晶の魔物(フレイズ)の世界』

お楽しみに!



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First´World-3『水晶の魔物(フレイズ)の世界』

フレームギア御披露目回です!
これを読んで「このスパロボ面白いな」って思ったら騙されたと思ってイセスマ本編も読んでみて下さい。アニメ版イセスマが苦行だと感じなかった人は面白いと感じるはずです。



ブリュンヒルド城の客間で一晩過ごして、その翌日。

 

俺達は今、広い高原に居る。

 

冬夜の【ゲート】とかいう魔法を使ったお陰で、城からここまでくるのは数分とも掛からなかった。

 

すげぇよ、冬夜の魔法は……。

 

俺が心の中でそう呟くと、隣に来たミカも同じ事を口にする。

 

「すごいね。冬夜」

「あぁ、【ゲート】といい【リカバリー】といい、冬夜の魔法は……」

「そっちもすごいけど、そうじゃなくて」

「ん?」

 

ミカは俺らの後ろにある本陣にズラッと並ぶモビルスーツと同じくらいの大きさの機体(「フレームギア」というらしい)を指差してこう言った。

 

「冬夜、一日であの数の機体を揃えちゃった」

 

あぁ、ミカが驚いてんのはそっちか。

 

確かにちゃんと数えた訳じゃねぇが百機は軽く超えるだろう。

 

「……あれが王様の権力ってやつなんだろうな」

「火星の王になってたらオルガも冬夜みたいになってたの?」

「いや、多分俺には無理だったろうな。俺は家族を……鉄華団を護るだけで手一杯だった。集められても数十機。金もカツカツだったしな……」

「そっか、やっぱりすごいね冬夜。まぁいきなりオルガを殺ろうとしたり、少しおかしいところもあるけど」

「あぁ、そうだな……」

 

俺とミカがそんな話をしていると、紫色の腰に刀をぶら下げた機体が近付いてきて、その機体から一人の和服の少女が降りてきた。

 

「冬夜殿は拙者達の自慢の夫でござるよ!」

「うん。その夫って話も聞いた時は驚いた」

 

その和服の少女──八重に対してミカがそう答える。

 

昨日、ユミナから聞かされた話だが冬夜には九人の嫁がいるらしい。全く羨ましい限りだ。

 

女との好いた惚れたは良くわからねぇ……。

そう感じた俺はすぐさま話を切り替える。

 

「エルゼとリンゼの双子姉妹、ユミナとリーン、それとお前がこの世界に居た俺の事を知ってるんだったな」

「拙者達がスゥ殿と初めて会った時にはオルガ殿も三日月殿も一緒にいたのでござるが……スゥ殿は印象がうすいと言っておったでござるよ」

 

スゥ……ってのは昨日紹介してもらった冬夜の嫁の中で一番年が低いスゥシィってやつの愛称だったな。

 

「そのスゥシィとは一緒に旅したって訳じゃねぇのか?」

「そうでござるな。どちらかといえばスゥ殿のお父上であるオルトリンデ公爵のがオルガ殿や三日月殿と顔馴染みでござるよ」

 

公爵とも顔馴染みだったのか……。この世界にいた俺とミカは……。まぁ、国王の冬夜もいるんだし、今さら感はあるけどな。

 

そんな時だった。

 

《空間に亀裂を確認! フレイズの出現兆候あり! 総員直ちに戦闘準備に入れ!》

 

警報が鳴り響き、本陣が慌ただしくなる。

 

「来たでござるな……!三日月殿もバルバトスの召喚を!!」

「わかった」

 

バルバトスの召喚……本当にそんな事出来るのか、ミカ?

 

俺が少し心配しながら隣でミカを見ていると、ミカはこう呟いた。

 

「【来い!バルバトス】」

 

するとその呟きとともにミカの左腕につけられていたミサンガが輝き、そこから発せられた光にミカが包み込まれる。

 

その途端、ミカを包んだ光はモビルスーツと同等の大きさまで広がっていき──

 

やがて光が晴れると、そこにはバルバトスルプスが精悍(せいかん)とした(たたず)まいで立っていた。

 

本当に召喚出来ちまった……。

何度も言ってるがまた言わせてもらう。

 

……すげぇよ、ミカは……。

 

 

そして、数秒待っていると、平原の奥からモビルアーマーの子機であるプルーマと同じような水晶の魔物の群れが現れた。あいつらがフレイズって魔物か……!

 

「あれが敵か……!」

 

ミカもフレイズを確認したらしく、臨戦態勢を整える。

 

「いざ!出陣でござる!!」

 

紫の機体に搭乗した八重の号令で後ろに待機していたフレームギアが一斉にフレイズの群れへ向けて突撃。

 

ミカのバルバトスルプスも大きく跳躍して、フレイズの群れへと向かっていく。

 

俺は元の世界でもこの世界でも見てる事しか出来やしねぇ……。少し歯痒いが、ミカの戦いを見守るのが鉄華団団長である俺の使命だ……。

 

こうして、ブリュンヒルド公国連合軍とフレイズとの戦闘が始まった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

飛操剣(フラガラッハ)展開!」

 

冬夜の多様戦万能型フレームギア『レギンレイヴ』が畳まれた背中の翼を開き、十二枚の水晶板を展開する。

その十二枚の水晶板がさらに四つに分かれ、四十八個の短剣がレギンレイヴの前にズラリと並んだ。そして──

 

「行け!【流星剣群(グラウディウス)】」

 

その掛け声とともに四十八個の短剣はフレイズの群れへとまっすぐ飛んで行き、その一つ一つが数十キロ先のフレイズを一体ずつ的確に突き穿つ。

 

「敵は下級種と中級種だけみたいだ!このまま殲滅する!各員、気は緩めないように!!」

 

「了解しました!冬夜さん」

 

そう答えるユミナの乗る機体は狙撃戦特化型フレームギア『ブリュンヒルデ』。

その白銀のフレームギアは片膝をついて、スナイパーライフルを構えていた。

 

「ユミナ・エルネア・ベルファスト、ブリュンヒルデ!狙い撃ちます!!」

 

 

所変わって、ブリュンヒルド公国連合軍中衛

 

「弾切れを惜しむ必要はないわね」

 

リーンの乗る殲滅戦砲撃型フレームギア『グリムゲルデ』が両腕と胸部に取り付けられたガトリング砲で何百発もの弾丸の雨をフレイズに浴びせた。

 

黒いグリムゲルデがある程度撃ち終わると機体に取り付けてある冷却口から排熱を行う。

 

その排熱の一瞬の隙をついたフレイズがグリムゲルデに近付くが──

 

「させ、ません!」

 

そこに飛んで来た青い戦闘機が変形し、細身の人型へとその姿を変える。

リンゼの空中戦可変型フレームギア『ヘルムヴィーゲ』だ。

 

ヘルムヴィーゲが手に持つライフルを構えながらリンゼは柄にもなくこう叫ぶ。

 

「一方的に攻められる、痛さと怖さを、教えてあげます!!」

 

 

そして、前衛では──

 

「今日の拙者は阿修羅すら凌駕する存在でござる!!」

「どんな装甲でも撃ち貫いてあげるわ!!部の悪い賭けは嫌いじゃないのよ!!」

 

八重の白兵戦軽装型フレームギア『シュヴェルトライテ』とエルゼの格闘戦突撃型フレームギア『ゲルヒルデ』がフレイズの群れへと斬り込んでいく。

 

その二機の後ろから一機の黄金(きん)色のフレームギアと三機の支援機(サポートメカ)が追従していた。

 

その黄金(きん)色の防衛戦武装型フレームギア『オルトリンデ』を駆るスゥシィが支援機(サポートメカ)に乗る三人(?)のアンドロイドに声を掛ける。

 

「シェスカ、ロゼッタ、モニカ、準備はいいか?」

「グングニル、問題ありませン」

「レーヴァテイン、準備完了でありまス」

「ミョルニル、いつでもいけるゼ!」

「うむ、ならば行くぞ!冬夜!」

 

スゥシィのスマートフォンから冬夜へと連絡が入る。

 

「よし。スゥ、合体シークエンス開始。ドッキング承認!」

 

「フレーーームッ!チェーーーンジッ!!」

 

スゥシィの叫びとともにオルトリンデは空高く飛翔し、宙に浮かび上がってその手足を折りたたむ。

そのまま空中で、二つに分かれた万能地底戦車『ミョルニル』がそれぞれ右足と左足のパーツに変形し、オルトリンデの両足にドッキング。

同様に二つに分かれた弾丸装甲列車『レーヴァテイン』もそれぞれ右腕と左腕にドッキングし、その先から右手と左手が回転しながら飛び出した。

最後に高速飛行艇『グングニル』が背中に取り付くと、胸部から飛び出したマスクが頭部を覆い、額の角が光を放つ。

 

「完成ッ! オルトリンデ・オーバーローーーードッ!!」

 

合体してフレームギアの二倍ほどの巨体になったオルトリンデ・オーバーロードは右手にとある武器を召喚する。

 

「ゴルドッ!ハンマーーッ!!」

 

……これが、勝利の鍵だッ!!

 

 

────────────────────────────────────────────

 

「すげぇよ、冬夜も……リーン達も……」

 

冬夜とその嫁達のフレームギアが圧倒的な力を見せ、フレイズを殲滅していく中、ミカも同様にフレイズと戦闘を繰り広げていた。

 

《慣性制御システム、スラスター全開》

 

バルバトスルプスがフレイズの群れの真ん中へ落下していきながら、腕部200mm砲を収納状態のまま真下に発砲した。

 

ちなみに俺は今、本陣に居る。

ミカや他のフレームギアの操縦者(パイロット)達の声や様子は冬夜からもらったこの携帯端末──量産型スマートフォンを通して見て、聞いている。

 

そのスマートフォンの映像には大きな土煙をあげて着地し、近くにいたフレイズをメイスで攻撃するバルバトスルプスが映っていた。しかし……

 

キィィン

 

《硬いな……それに丸っこいから太刀(アレ)も効かなさそうだ……ならっ!》

 

そう言ってミカが取り出した武器はバルバトス第5形態と第6形態で使用していたレンチメイス。

 

どうやらあのバルバトスルプスはすべてのバルバトスの武器を何もない空間から取り出す事が出来るようだ。

 

レンチメイスでフレイズを挟んで内蔵されたチェーンソー刃でフレイズを切り刻んだ。

 

《これなら、行ける……!》

 

そう言ってミカのバルバトスルプスはレンチメイス片手にフレイズの群れへと突っ込んでいった。

 

 


 

 

そして、ブリュンヒルド公国連合軍とフレイズとの戦闘は一時間程で決着がついた。

 

結果はブリュンヒルド公国連合軍の圧勝だ。

 

冬夜は戦闘後の事後処理の為、すぐに城へと戻ったが俺とミカはまだフレイズと戦闘を繰り広げてた平原に残っていた。

 

「ミカ。終わったな」

「うん」

 

この世界で俺らがやるべき事

 

それは冬夜達と出会い、この戦いを共に戦い抜く事だったのだろう。

 

「……なぁ、ミカ。次は何をすればいい?」

「そんなの決まってるでしょ」

「あぁ、そうだな。……行こう」

「次の異世界へ」

 

 

 

 




水晶の魔物(フレイズ)の軍勢に勝利したブリュンヒルド公国連合軍。この世界でのすべき事を終えたオルガと三日月は新たな世界へと旅立つ!

次回『旅立ちの世界』

お楽しみに!


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First´World-4『旅立ちの世界』

イセスマ編最終話です!

それはそうとリゼロ2期楽しみですね。
エキドナの声優がめちゃくちゃ気になる件について



「本当に行ってしまわれるのですか?オルガさん、三日月さん」

 

フレイズを倒した次の日。ブリュンヒルド公国から旅立つ俺とミカを見送りに来たユミナがそう口を開いた。

 

「あぁ、この世界で俺らのするべき事は終わったからな」

「するべき事、って……?」

「フレイズと戦うのがオルガ達のするべき事だったの?」

 

リンゼとエルゼの問いにミカがこう答える。

 

フレイズ(アイツら)もそうだけど、多分皆に会う事も俺達のするべき事だったんだと思う」

「三日月殿と手合わせ願いたかったでござるよ……」

「あぁ……俺、模擬戦とか苦手なんだ」

「ミカは手加減っつーのを知らねぇからな」

「そうでござるか……。残念でござる」

 

八重はそう言ってガクッと項垂れた。

 

「別にこの世界に居座っても誰も文句言わないと思うわよ。神殺しの呪いがあるわけでもないんだし、別の異世界に旅立たなきゃいけない理由はないでしょう?」

 

リーンはそう言って、俺達を引き留めようとするが、俺達の答えは決まっている。

 

「俺達は元の世界に戻りたいんだ。だからこんなところで立ち止まる訳にはいかねぇ……!」

 

それに神殺しの呪いってなんだよ……?

 

 

「オルガくんと三日月くんは何を言っても聞かないのよ。仕方ないのよ」

 

恋愛神がそう言いながら空から降りてくる。ちなみにこいつは神界への案内役だ。

 

異世界へ行く為のカメラがあるアドモス商会の扉が神界と繋がってるからな。

 

この世界から旅立つにはまず神界を経由しなくちゃならねぇ。

 

 

「……んじゃ、行くわ」

 

俺のその言葉と同時に、恋愛神が神界への【ゲート】を開く。

 

「じゃあね。オルガ、三日月。別の世界でも頑張りなさいよ」

「オルガさんと、三日月さんが、元の世界へ戻れる事を、心からお祈りしています」

「あぁ、ありがとな」

 

まず、エルゼとリンゼが見送りの挨拶をくれる。

 

「拙者ももっと腕を磨いて、三日月殿より強くなるでござるよ!」

「うん。俺とバルバトスも……まだ止まれない」

 

八重も三日月に別れの言葉を告げる。

 

「もしかしたらまたどこか別の世界で会えるかも知れないわね。前の目玉魔族の時みたいに」

 

目玉魔族って何の事だよ?

まぁ、別の俺に関する事なんだろうが……。

リーンは俺らにその記憶はないって分かって言ってるんだよな……?

 

 

「では、先の戦闘での事後処理でお忙しい冬夜さんの代わりに、ブリュンヒルド公国第一王妃であるこのユミナ・エルネア・ベルファストが神界までお見送り致します」

 

その第一王妃って言う必要あったか?というツッコミが最初に浮かんだが、その後に言葉の意味をしっかりと理解し、俺は驚いてユミナに聞いた。

 

「はぁ!?神界までついてくるのか!?」

「はい。そこまで見送るのが客人であり、ともに戦った仲間であるオルガさんと三日月さんへの礼儀だと思います」

 

俺は大きくため息をついてから、渋々承諾した。

 

「はぁ……分かったよ。神界のルール的にも問題ないんだよな?」

「ユミナちゃんは半神である冬夜くんの眷属だから問題ないのよ」

 

半神?眷属?

この世界は最後まで良くわからねぇ事ばかりだったが……もういい。

 

「とにかく問題ねぇんだな。それじゃ行くぞ」

「うん。行こうオルガ」

「はい。神界までお見送りします」

「じゃあ、レッツゴー!なのよ!!」

 

恋愛神の開いた【ゲート】を潜り、俺とミカ、それと何故かついてきたユミナはあの雲海の上に畳と卓袱台(ちゃぶだい)が浮かぶ神界へとやってきた。

 

その神界には神の爺さんの他にもう一人、卓袱台(ちゃぶだい)を囲む者が居た。

 

「来たね。オルガ、ミカさん……ってユミナぁ!?」

「やっぱり、オルガさん達についていくつもりでしたね!冬夜さん!!」

 

……ユミナがついてきた理由が分かった気がする。

 

 


 

 

「いいじゃんか。僕もオルガやミカさんとまた旅がしたいんだよ」

「ダメですよ、冬夜さん!国はどうするんですか!?また昨日みたいにフレイズが現れたら?誰があの世界を守るんです!?」

 

さっきから冬夜とユミナはこの調子だ。

 

俺は二人を置いてさっさと次の異世界へ行きたいんだが、神の爺さんは自分との連絡の為に冬夜を俺らについていかせたいらしい。

 

冬夜もそれを承諾した為、この神界で俺とミカを待っていたのだが、ユミナは冬夜がこの世界を離れる事に反対のようだ。

 

「ユミナさん、冬夜君は【異空間転移(ゲート)】が使えるし、異世界間でもスマートフォンで連絡を取れるようにする。もしユミナさん達の世界に何か問題があっても連絡すれば冬夜君ももちろんすぐに飛んで行くじゃろう。なぁ、冬夜君」

「うん。神様も言ってるようにユミナでも高坂さんでもレリシャさんでも誰かが連絡をしてくれればすぐに【異空間転移(ゲート)】で駆けつける。だから……」

「そういうことじゃないんです!!」

 

ユミナが叫ぶ。その目は涙で潤んでいた。

 

俺は何も言えない。冬夜も神の爺さんも恋愛神もユミナの涙の前に言葉を出せずにいた。しかし、その静寂をミカが破る。

 

「冬夜は多分、俺やオルガと一緒に異世界へ行かなきゃいけない理由があるんじゃない?フレイズの事で」

「……え?」

「は?」

 

ユミナと俺はそのミカの言葉を聞いて、すっとんきょうな声を上げてしまった。

 

それに対し、冬夜は小さくため息をついてからこう呟いた。

 

「……さすがはミカさん。何でもお見通しだなぁ……」

 

俺は素直に疑問を口にする。

 

「どういうことだ?」

 

すると冬夜はちゃんと異世界へ行く理由を説明し始めた。

 

「実は……エンデとメルが僕らの世界からいなくなったんだ」

「えっ!?」

 

ユミナが驚くが俺は正直ピンと来ない。

誰なんだよ……エンデとメルっつーのは?

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「正直ピンと来ませんね……」

 

冬夜とユミナからフレイズの事を改めて教えてもらったがやはり理解に苦しむ。

 

とりあえず分かったのはメルってのがフレイズの女王でエンデはそいつの彼氏って事くらいだ。

 

「前の戦闘で上級種も支配種も現れなかったのに違和感を覚えたんだ。それでバビロンの城に幽閉してたメルに話を聞きに行こうと思ったら、そのメルが居なくなっていたってわけ」

 

前の戦闘はあれでフレイズの数が少なかったようだ。あいつらよりももっと大きな上級種ってフレイズとフレイズを束ねる幹部クラスの支配種って奴らが居るらしい。

 

「メルさんは冬夜さんの【プリズン】で外に出られないようにしてたはずです!そんな事ありえません!」

「あまり心配掛けたくなかったから言わなかったんだけど……まぁ、帰ったらバビロンの城を確認してみて。とにかくメルが居なくなったのが問題だ」

「おそらく何者かに場所を知られて別の世界へ連れて行かれたのじゃろう。それが支配種なのか別の何者かなのかは分からんが……ともかく別の世界でフレイズが現れる可能性も出て来たんじゃ。だから冬夜君をオルガ君と三日月君についていかせたいと思ったんじゃよ。フレイズ(あやつら)は厄介で神々(ワシら)も何とかしたいとは思っとる……。だから冬夜君をオルガ君達の旅に同行させて貰えんかのう?」

「俺とミカは別に構わねぇよ。なぁ、ミカ?」

「うん。後はユミナ次第だけど」

 

俺らはユミナの顔を見る。確かに好きな人と別れるのは辛いのかもしれねぇが、国王と第一王妃の両方が居なくなるのは流石に国としても問題あるだろう。

まだ知り合って三日ほどだが、それが分かってないユミナじゃねぇとは思う。

 

「……わかりました。冬夜さんがオルガさん達の旅に同行するのを認めます」

 

少し悲しそうな表情をしながらもユミナは渋々承諾した。

 

 

そして、ユミナからブリュンヒルド公国の関係者にそのフレイズの王がいなくなった話をしてから旅立ってほしいと言われた冬夜が一旦、元の世界へ戻り皆に説明をした後、再び神界に戻ってきた。

 

「……では冬夜さん。オルガさんと三日月さんもお気をつけて」

 

やはり神界まで見送りに来たユミナがそう別れの挨拶を告げた。

 

「ごめんねユミナ。国の事は任せっきりになっちゃうけど」

「はい。仕事に行く夫を待つのも妻の務めです。国と私達の世界の事はお任せ下さい。でも……連絡はこまめに頂けると嬉しいです」

「分かった。スマホで毎日連絡するから」

「約束ですよ」

「うん」

 

俺は何を見せられてるんだ……。

 

「……じゃあな。神の爺さん、恋愛神。それにユミナ」

「うむ。気をつけてのう」

「オルガくんも冬夜くんも三日月くんも別の世界でも頑張れ!なのよ!!」

「…………」

 

ユミナは何も言わねぇ……。

 

「行こう、オルガ。冬夜も後で来てね」

「……!ありがとうございます。ミカさん」

「は?」

「いいから」

 

俺が首を傾げると俺はミカに背中を押され、神界の扉からアドモス商会まで押し出された。

 

「冬夜とユミナ。二人きりにしてあげようよ」

「……そういうことか」

 

まぁ、神の爺さんと恋愛神がいるから実際は二人きりってわけじゃないがな。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

数分後、アドモス商会の扉から冬夜がやってきた。

 

「お待たせしました、ミカさん。オルガもありがとう」

「こんくれぇ、なんて事はねぇ。いいから行くぞ!」

「うん!行こう!」

 

そして、再び俺はアドモス商会の社長室にあるカメラのファインダーを覗いた。続けてミカと冬夜も同じくカメラを覗き込んだ。

 

そこに写った景色に俺とミカ、冬夜は胸を踊らせる。

 

写っていたのは……学校だった。

 

 

 

 


 

 

 

 

緑が風に揺れる草原の中、その小高い丘の上に置かれた白いテーブルを囲む椅子に二人の少女が座っていた。

 

一人は雪を映したように儚げな純白の長髪と理知的な輝きを灯す双眸を持ち、漆黒の服を身に纏った少女。

もう一人は水晶色の長い髪と澄んだ瞳をしている美しい結晶体のドレスのようなものを着飾っている少女。

 

二人の少女はテーブルに置かれた紅茶らしきものを飲んで一息。

 

その数秒後、モノクロの少女の方が水晶の少女に話し掛けた。

 

「どうだい、ドナ茶は?」

「味はしませんね。冬夜さんが出してくれた緑茶のがおいしかったです」

「そうか、それは残念。僕の自慢のお茶だったんだけど」

 

モノクロの少女がそう肩を落とすような素振りをする。

 

それはどうでもいい、といった様子で水晶の少女はモノクロの少女にこう話をし始めた。

 

「エキドナさん、と申しましたね?あなたは何故私があそこに居る事を知っていたのですか?そしてここは何処なのですか?次元の狭間でもどこかの異世界という訳でもなさそうですけれど?」

「まず確認したいんだけど、君が結晶界(フレイジア)の女王、メル様で間違いないんだよね?」

「えぇ、「元」女王ですけれど」

「その「元」というのは他のフレイズ達は納得していないらしいよ?僕達が作った世界にも君を探してフレイズが現れた。その世界は酷い有り様さ」

「私の元部下達のご無礼は謝ります。……ですが、私をここに呼んだ本当の理由は別にあるのでしょう?その世界の事で怒っている訳ではなさそうですもの」

「その通り、良くわかったね」

「その用件、早く話してもらえませんか?私はいつまでもこんな所に居る程暇ではありません」

「そんな悲しい事言わないで欲しいな」

「…………」

 

水晶の少女(メル)は黙ってモノクロの少女(エキドナ)を睨み付ける。

 

するとモノクロの少女(エキドナ)は観念して話をし始めた。

 

「残念だけど、君は当分僕とここに居てもらう。僕の知識欲を満たす為にね……」

 

 

 




元々自分達のいた世界では通った事も無かった学校という教育施設。オルガと三日月はその学校で何を学ぶのか?

次回『学校のある世界 1/2』

お楽しみに!


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Second World-1『学校のある世界 1/2』

「ここが次の異世界か……」

 

俺とミカと冬夜がアドモス商会の扉を開けると、カメラに写っていた学園の廊下であろう場所に出た。

 

出て来た扉には1025室と書かれている。

 

「部屋番号って事は、この学園は全寮制なのかな?」

 

冬夜がそう呟く。

 

学校なんざ、元の世界で通った事もねぇからな……。ここは冬夜に任せるのが一番良さそうだ。なんだかんだでついてきてもらって良かったな。

 

廊下に掛けられている時計は7時50分を指していた。

 

「ん?……オルガ」

 

俺達が辺りをキョロキョロと見回しているとミカが何かに気付いたようで俺を呼ぶ。

 

「どうした、ミカ?」

「誰か、来る」

 

ミカがそう言って指差した先の廊下からは誰かが走ってくる足音のようなものが聞こえた。

それは冬夜にも聞こえたらしく、冬夜はこう口にする。

 

「本当だ。ここは学校で間違いないみたいだし関係者じゃない僕達がここにいるってバレたらまずいかも。透明化の魔法使った方がいいかな?」

「あぁ、頼む。冬夜」

「了解。【光よ歪め、屈曲の先導、インビジブル】」

 

すると、俺とミカと冬夜の体が辺りの景色と一体化する。

 

そして、透明化した俺らの前を白い制服に身を包んだ一人の男子生徒が走り去った。

 

「やばい!もう8時だ!遅刻する!!なんでオルガとミカは起こしてくれなかったんだよ!!」

 

どうやら、アイツも冬夜や神の爺さんと同じように俺とミカの事を知ってるみたいだな。俺らにはアイツと出会った記憶はないんだが……。

 

 

男子生徒が走り去った後、透明化の魔法を解いた冬夜がこう言う。

 

「あの人、オルガとミカさんの名前を知ってたね」

「この世界にも別の俺やオルガが居たってこと?」

「「なんで起こしてくれなかったんだ」とか言ってたからまだ居るって事じゃねぇか?」

「オルガの言ったそれはないはずだよ」

「は?」

 

冬夜は俺の意見を否定した。どういうことだ?

 

「同じ世界に同じ人は二人存在出来ないっていうのが世界に共通するルールなんだ。だからもしこの世界に別のオルガとミカさんが居たとしてもこの世界に僕達が来た瞬間にオルガとミカさんはどっちかに統合されたはずだよ」

「つまり、この世界に居た別の俺らは消えちまったって訳か。申し訳ない事しちまったな」

「そうかな?これは使えると思うけど?」

 

冬夜はニヤリと意味深な笑みを溢す。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「【ミラージュ】」

 

冬夜がそう魔法を唱えると、俺とミカの服がさっき走り去った男子生徒と同じ白い制服に変化する。

 

「ありがとう、冬夜」

「……もうお前の魔法には驚かねぇよ」

「ははは……まぁ、これでオルガとミカさんはこの学校の中で情報を集められるね。僕は学校の外からこの世界の事を調べてみるよ」

「頼んだ」

「了解。じゃあ、何か分かったらスマホで連絡して」

 

冬夜はそう言った後【フライ】の魔法で空を飛び、窓から出ていった。

 

俺の制服のポケットの中には冬夜から持たされた量産型スマートフォンが入っている。これで離れてても冬夜といつでも連絡が出来るっつーわけだ。

 

「よし、んじゃ行くか、ミカ!」

「うん、行こう。オルガ」

 

 

そして、歩いていると二人の少女に後ろから声を掛けられた。

 

「何してるのオルガ?急がないと遅刻するよ」

「ミカがこの時間に教室にいないのは珍しいな」

 

金髪で紫の瞳を持つめちゃくちゃ可愛い美少女と銀髪で左目に眼帯をかけた少女が俺とミカに話し掛けてきた。

 

俺はなんて返事をしていいのか分からず、黙っていたが、ミカが二人にこう答えた。

 

「おはよう。二人共。一緒に教室まで行こうと思って二人を待ってたんだ」

「さすがは嫁だ!よし、急いで行くぞ!シャルロットとオルガ団長も遅れないようにな」

 

銀髪の眼帯少女はそう言ってミカの手を握って走り出す。

すげぇよ、ミカは……。戸惑ってる俺とは違って、もうこの世界に順応してるみたいだ。クーデリアから学校の話を聞いていたのも大きいんだろうな。

 

「あ、ちょっと待ってよ。ラウラ!……もう」

 

今のやり取りでこの二人の名前は分かった。金髪の美少女はシャルロット。銀髪の眼帯少女はラウラと言うようだ。

 

シャルロットを良く見てみると髪を首の後ろで束ねているのが分かった。

一見ショートカットかと思ったが違ったようだ。どちらにせよ、可愛いのは間違いない。

 

「……じゃあ、行こうか。オルガ」

 

シャルロットはそう言って右手を差し出す。……これは手を繋げって事か?

 

「あ……あぁ」

 

良くわからないまま、左手でシャルロットの右手を握ったが彼女の意図と俺の判断は一致していたようだ。

 

……でも、なんで手を繋ぐ必要があるんだ?これじゃ、恋人みた……いや勘違いだろ。

 

シャルロットと手を繋ぎながら、目的の教室とやらまで向かう。

その間、分かった事はシャルロットの手がすげぇ柔らかかったことくらいで、他には何も考える事が出来なかった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

一年一組と書かれた教室にやってきた俺らはそこで青い瞳の金髪ロングの少女に話し掛けられた。

 

「おはようございます。オルガさん、三日月さん。今日はいつもより登校が遅かったですわね」

「今日はちょっとね……」

 

ミカが言葉を濁す。

 

そこに黒髪のポニーテールの少女も声を掛けてきた。

 

「オルガ、三日月。一夏を知らないか?まだ登校していないようなのだが?」

「……さぁ、知らねぇな」

「うん」

「そうか、おそらく朝を食べるのが遅れたのだろう。遅刻しないといいのだが……」

 

黒髪ポニーテールの少女がそう呟いた後、俺らはシャルロットやラウラに合わしながら、他のクラスメイトの会話に混ざって情報を集めていた。

 

どうやらここは「アイエス」とかいうのを学ぶ学校のようだ。なんなんだよ、そいつは……?

 

 

そして、その数分後──

 

キーンコーンカーンコーン

 

鐘の音が教室にあるスピーカーから鳴り響き、先ほど透明化した俺らの前を走り去った男子生徒が教室に走り込んできた。

 

「ハァハァ……セーフ……!」

「アウトだ。バカ者」

 

バシン!

 

男子生徒の後ろに立っていた黒いスーツに黒髪で吊り目の女性が手に持つ帳簿で男子生徒の頭を容赦なく叩いた。

 

「全く遅刻ギリギリだぞ。あと廊下は走るな。次からは気をつけろ」

「分かりました。織斑先生」

「分かればいい。席につけ」

「はい」

 

そう言って男子生徒は席へと移動する。

気付くと、俺ら以外の全員が教室で席についていた。

 

バシン!バシン!

 

そして、そのオリムラ先生と呼ばれた女性は俺とミカの頭もその男子生徒と同様、帳簿で叩く。

 

「何をしている。お前達も早く席につけ」

 

……痛ってぇな、勘弁してくれよ……。

 

「オルガ、ここは逆らうとヤバそうだ」

「そうだな……」

 

ミカがほんの少しだが、怯えてるようにも見える。そこまでの相手って訳か……。

 

俺ら以外の生徒は皆座っている為、空いてる席は二つ。

 

おそらく席は決まっているんだろう。

どちらが俺の席で、どっちがミカの席かわからねぇがそれは勘で座るしかねぇ。

 

俺が席に座ると、また帳簿で頭を叩かれた。

 

バシン!

 

「何を焦ってるバカ者。そこは三日月の席だ」

 

……間違えたみてぇだ。

 

 




IS学園の授業に戸惑うオルガと三日月。そんな彼らはクラスメイトの瞳にどう写るのか?

次回『学校のある世界 2/2』

お楽しみに!


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Second World-2『学校のある世界 2/2』

「ISは現在最も進化したパワードスーツであると言える。パワードスーツの原点は第二次世界大戦後、原子力の発展に伴い、放射線物質を扱ったり原子炉の内部に立ち入ったりする際に用いられた『モデル・マニュピレータ』だ。しかしこれは遠隔操作型であり、今のISや国連で開発中のEOSのように人が乗り込むタイプの物ではなかった。人が乗り込むパワードスーツが初めて登場したのが1961年……」

 

オリムラ先生と呼ばれた女性が教室の真ん中に立ち、ISとかいうパワードスーツの授業を始めるが……。

 

「……正直ピンと来ませんね」

 

その授業の意味が全く分からず、俺はオリムラ先生にバレないような小さな声でそう呟いた。

するとその呟きを後ろの席のミカも聞いたようで、小さな声で俺にこう耳打ちした。

 

「オルガもわからないんだ?」

「ミカもわからねぇのか?」

「うん。参考書みたいなのをもらえれば分かるかもしれないけど、途中から話し聞いてるだけじゃ全然」

「そうか、ミカがわかんねぇなら俺がわからねぇのも仕方ねぇな。それにしても……」

 

授業は俺もミカもついていけてないので理解する事を諦めた。

それに他にも俺は気になる事があった為、ミカにこう聞く。

 

「ミカ、このクラス。女子が多すぎないか?」

「俺とオルガ、あとさっきのイチカ?しかいないよね。なんでだろう?」

「わからねぇ」

「ふーん」

 

冬夜の世界もわからねぇことだらけだったが、この世界もやっぱ意味がわからねぇところが多すぎる。

 

やっぱ説明なしにいきなり知らない世界に放り出されて理解しろって方がおかしいんだよ。

 

「なぁ、ミカ……」

 

俺が再びミカに話し掛けようと後ろを振り向いたその時、本日三度目の衝撃が頭に走った。

 

ガン!

 

「私語は慎め」

「すいませんでした……」

 

オリムラ先生の拳骨をモロに食らった。

 

……痛ぇじゃねぇか。

 

「やはり【希望の花(ワンオフアビリティ)】は発動しないか……」

「……?」

 

オリムラ先生が何か言った気がしたが、良く聞こえなかった。

 

「授業を続ける。ISにも人が乗り込む以外の物が存在する。遠隔操作型や生体同期型といったものだ。その中でも特に生体同期型は対戦相手に幻覚を見せたり、自身の姿を変えられるような物も……」

 

オリムラ先生はすぐさま、授業に戻った。俺とミカも大人しく授業を聞く事にした。

 

「やっぱり、ピンと来ませんね……」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

再び鐘の音が放送で鳴り響くと、どうやら授業が終わったようでオリムラ先生がこう言った。

 

「分かっているとは思うが次の授業はIS実習だ。10時までにISスーツに着替えて第三アリーナに集合しろ。遅れた者は懲罰を与える!一分足りとも遅れるな!」

「「「はい!」」」

 

教室に生徒達の返事が響いた直後、俺はイチカとかいう男子生徒に腕を掴まれる。

 

「何、ボーっとしてんだよ!?早く更衣室行くぞ」

「あ、あぁ……ISスーツに着替えなきゃいけねぇもんな」

「そうだよ。ミカも行こうぜ」

「うん」

 

イチカとともに教室を出るとオリムラ先生から声を掛けられた。

 

「織斑、オルガ、三日月!遅れるなよ。今は廊下を走るのも見逃してやる」

「分かってます!ありがとうございます」

 

イチカは一言そう返して、廊下を走り出した。

 

「イチカを追うぞ。ミカ」

「うん。早く行かなきゃ」

 

俺とミカもイチカの後を追うように走った。

 

「…………」

 

その様子を後ろから睨んでいるオリムラ先生にこの時の俺は気付かなかった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

第三アリーナの更衣室についた俺とミカはそこら辺のロッカーに入っていたISスーツへと着替える。

 

冬夜の【ミラージュ】は俺のワインレッドのスーツとミカの鉄華団のジャケットに掛けた魔法らしく、脱いでもIS学園の制服から元の服に戻る事はなかった。

 

ありがとよ、冬夜。

 

その着替えの最中、イチカがこう聞いてきた。

 

「オルガ、ミカ。なんで今日起こしてくれなかったんだよ。危うく遅刻するところだったじゃねぇか!朝食急いで食べたからあんまり味わえなかったし……」

「すまねぇな。こっちも色々あってよ……」

「色々?そういやオルガも今日の朝なんか様子おかしかったよな?なんかあったのか?」

「様子が……え、えっと……」

 

俺が言い淀んでいるとISスーツに着替え終わったらしいミカが助け舟を出してくれた。

 

「早く着替えないとオリムラ先生に怒られるよ」

「確かに!オルガも早く着替えろよ」

「待ってくれ……待てって言ってんだろ……!」

 

 

そして、俺とミカとイチカがISスーツに着替えて、第三アリーナにやってくるとオリムラ先生が何やら大きな剣を持って待っていた。

その後にゾロゾロと女子生徒達も集まっていく。

その女子生徒達はさっき教室で見た数の倍くらいの人数になる。

 

キーンコーンカーンコーン

 

授業の始まりであろう鐘の音が鳴ると、オリムラ先生は早速話しを始めた。

 

「今日の一組と二組の合同実習ではISの武器についての実習を行う。今、私が持っているのはIS用の太刀だ。これは打鉄の主要武器であり……」

 

やはり理解出来ない話が始まり、俺もミカも首を傾げる。

 

そして、一通り説明が終わると、オリムラ先生は俺の名前を呼んだ。

 

「オルガ、(ファン)。前に出て来い」

「はい!」

 

ファンと呼ばれたツインテールの小柄な少女が大きな声で返事をする。

 

俺もその後にこう返事をした。

 

「は?……はい」

 

……なんだ?もしかして俺が別世界の俺だとバレたのか?

 

不安を覚えながらもオリムラ先生の前まで歩いていくと、彼女からこう指示を受けた。

 

「オルガ、(ファン)。ISを展開してくれ」

「はい」

 

ファンという少女は右腕の黒いブレスレットを光らせ、その光を全身に広げる。

 

ミカがバルバトスを召喚した時と似たような現象だ。

 

そして、光が消えると、背中、腕、足だけにモビルスーツのような赤い装甲がつき、両肩の上にモビルスーツの肩装甲のような物が宙に浮かんでいた。

背中の装甲には大きな斧のような物も折り畳んで取り付けてある。

 

「なんなんだよ、こいつは……」

 

俺がそう呟くのを聞いてか聞かずか、オリムラ先生は俺にこう言う。

 

「どうしたオルガ?早くISを展開しろ」

「…………」

 

ヤバいぞ……。どうやらこの世界にいた俺はあのファンとかいう子と同じようなパワードスーツを纏えたみたいだが、今の俺にはあんなのどうやって召喚すればいいのか分かんねぇ……。

 

無言のまま数秒間、どうこの場を乗り切ろうか考えてみるが、俺の頭じゃいい案が思い付かねぇ。

 

黙って見ていた生徒達もヒソヒソと小さな声で何かを話し始めた。

 

ミカの方をふと見ると、ミカは首を縦に振った後、手を上げてこう言った。

 

「えっと……実はオルガ、IS…を展開するファンのブレスレットみたいなのを失くしちゃったみたいで今日の朝探したんだけど、見つからなかったんです」

「……そういう事か。なら仕方ないな。三日月。代わりにISを展開してみてくれ」

「分かりました」

 

助かったぜ、ナイスだ!ミカ!

 

前に出てきたミカはバルバトスを人間サイズで召喚する。その大きさにも出来るのか、すげぇよ、ミカは……。

 

「ほう。三日月はバルバトスを展開出来るのか。だが、少し調べが足らなかったな」

「は?」

 

オリムラ先生は手に持つIS用らしい剣を俺とミカに突き付ける。

 

「正体を現せ!」

「は?」

 

隣にいたファンも同じように背中の斧を手に持って、俺達を警戒していた。

 

「アンタ達、何者?」

 

朝、教室で話し掛けてきた青い瞳の金髪ロングの少女も同じく青いISを纏う。

 

「貴方達、本当にオルガさんと三日月さんですの?」

 

シャルロットとラウラも俺達に疑問を問いかける。

 

「今日のオルガ様子おかしいよ?何かあったならちゃんと説明して」

「ミカ、どういう事だ!?」

 

そんな彼女達の様子にピンと来ていないらしいイチカが皆に向けてこう言った。

 

「鈴、セシリア、千冬姉!シャルロットにラウラも!?どうしたんだよ?オルガはオルガ、ミカはミカだろ?」

「……一夏、三日月がさっき鈴の事をなんと呼んだか聞いたか?」

「え?なんだよ箒?……良く聞いてなかったけど……「リン」じゃないのか?」

「あの三日月は鈴の事を「ファン」と呼んだんだ。今日の朝の二人の行動と合わせても何かおかしい」

 

……名前の呼び方が違ったのか!

 

「ちっ……!」

 

ミカは小さく舌打ちをした。

 

「それにオルガのIS待機状態はその前髪のはずだ。失くしたというのもおかしな話だな」

 

オリムラ先生がさらにそう付け足す。

 

……つまり、この世界の俺は前髪が光るってのか?勘弁してくれよ……。

 

「もう一度言う。正体を現せ……!」

「正体も何も、俺は俺、ミカはミカだ!イチカも言っただろ」

「この後に及んでまだ言い訳するか……」

 

オリムラ先生は俺達に剣を向けたまま、ざわめく生徒達にこう説明した。

 

「一組には先ほど生体同期型のISについての授業を行ったな。私は生体同期型のISについてなんと説明した?……織斑」

「えっと……確か、敵に幻覚を見せたり、姿を変えたり……あ!」

「そういう事だ。わかったな!」

 

マジかよ……勘弁してくれよ……。

 

「さぁ、正体を現せ!オルガの姿をしたお前が生体同期型のISを使えるんじゃないのか!?」

「違う。そうじゃねぇ!」

「もう無理だ。オルガ……」

 

ミカがそう呟く。

 

辺りを見回すと、六機のISに取り囲まれていた。

 

イチカは白いISを

ホウキと呼ばれた黒髪ポニーテールの少女はファン…じゃなくてリンのやつより薄めの赤色のISを

シャルロットはオレンジ色の

そしてラウラも黒いISをそれぞれ身に纏って俺達を取り囲んでいる。

 

そして、他の生徒は第三アリーナからすぐさま離れていく。この避難の早さ……何回も襲撃を受けて修羅場に慣れてるような動きだな。どうやらここは力ずくで乗り切るしかなさそうだ。

 

 

「こうなったら仕方ねぇ!やっちまえ、ミカアァァァ!!」

 

俺の叫びとともにバルバトスルプスはモビルスーツサイズまで巨大化し、六機のISと対峙したのだった。

 

 

 

 




激しい攻防を繰り広げるバルバトスルプスと六機のIS、そして織斑千冬。この戦いにどんな意味があるというのか?

次回『IS(インフィニット・ストラトス)の世界 1/5』

お楽しみに!


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Second World-3『IS(インフィニット・ストラトス)の世界 1/5』

今回は三人称でお送りします。



「こうなったら仕方ねぇ!やっちまえ、ミカアァァァ!!」

 

オルガの叫びとともに三日月のバルバトスルプスが巨大化する。

 

「何っ!?巨大化だと!」

「嘘だろっ!?」

 

織斑姉弟はそのバルバトスを見て驚きの声をあげる。

 

(ひる)んでいる間に三日月はオルガをバルバトスの手の平に乗せ、操縦席(コクピット)の中へと避難させる。

 

「ちっ……!逃がすな!所詮体が大きいだけの傀儡だ。全機一斉攻撃!!」

 

千冬の号令に、専用機持ち六人が声を揃えて返事をする。

 

「「「了解!!」」」

 

 

オレンジ色のIS(インフィニット・ストラトス)──ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを纏うシャルロット・デュノアは歯軋りしながら、その巨大化したバルバトスと対峙する。

 

「とは言ったものの……」

 

(オルガだけどオルガじゃない。朝感じた違和感はこれだったんだ……。でも………なんだろう……?)

 

同じく黒いIS──シュヴァルツェア・レーゲンを展開したラウラ・ボーデヴィッヒも心の中でこう呟く。

 

(普通に考えればあれは私の知る嫁ではない……のだが………一体なんなのだこの感じは………!)

 

シャルロットとラウラが攻撃を戸惑っている間、一夏、箒、セシリア、鈴は一斉にバルバトスルプスへ攻撃を仕掛ける。

 

最初に仕掛けたのはセシリアだ。

 

「さぁ、踊りなさい!ワタクシ、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!!……最も、その巨体で踊れるのかは疑わしいところですけれど」

「ごちゃごちゃうるさいよ……」

「三日月さんの声で喋らないで下さいまし!!」

 

セシリアのIS──ブルー・ティアーズが腕に構えるスナイパーライフル『スターライトMk-Ⅲ』でバルバトスを狙う。

 

しかし、その攻撃はバルバトスのナノラミネート装甲で防がれてしまう。

 

「ビームが効かないんですの!?」

「なら、これはどう!!」

 

鈴の甲龍(シェンロン)が両肩の龍砲を放つ。

 

「箒、合わせろ!!」

「あぁ……!」

 

その龍砲の攻撃と同時に、一夏の白式と箒の紅椿もバルバトスへ接近し、それぞれの主要武器『雪片弐型』と『雨月』『空烈』を振るうが……

 

「邪魔だな……」

 

バルバトスがメイスを一振りするだけで、白式と紅椿、そして甲龍(シェンロン)も吹き飛ばされてしまった。

 

「うわっ……!」

「くっ……!」

「きゃあぁぁぁ!!」

 

吹き飛ばされた三人だが、ISのシールドエネルギーによる絶対防御のおかげで怪我はない。

しかし、簡単にいなされた様子を見て、ただでさえ攻撃を戸惑っていたシャルロットとラウラは尻込みしてしまう。

 

「ダメだよ。大きさが違いすぎる……!」

「ビームが効かないとなると、ブリッツも意味がないな……」

 

そんな中、一人生身でバルバトスに立ち向かう者がいた。もちろん、織斑千冬だ。

 

千冬はバルバトスの腕部200mm砲の砲撃をすべて避けながら近付き、高く跳躍。

IS用の剣を使って、まっすぐメインカメラを潰そうと目を斬り込む。

 

「ちっ……!」

 

バルバトスは最初、メイスを持っていない左手で千冬を掴もうと試みたが彼女の反射神経の高さから掴もうとするのを諦め、そのまま左手で目を隠し、剣を防ぐ。

 

「ダメか……ラウラ!VTシステムの使用を許可する!」

「しかし……っ!」

「構わん!それにあれは三日月ではない!!」

「は……はい!」

 

戸惑いながらも左目の眼帯に手を掛けたラウラはその眼帯を外しながら、こう叫ぶ。

 

「くっ……行くぞ、アイン!!」

 

すると、シュヴァルツェア・レーゲンは全く別の姿へと形を変える。

 

《えぇ、行きましょう!ボーデヴィッヒ特務三佐》

「……っ!?」

「あれは……!?」

 

三日月とオルガもその姿を見て驚きの声を上げる。

 

「アーブラウのエドモントンで戦ったあの時のでけぇグレイズじゃねぇか……」

「……でも、大きさはISサイズなんだね」

《また……またお前か!クランク二尉を手に掛けた罪深き子供!》

「誰、そいつ?」

《貴様ぁぁぁ!!》

 

グレイズ・アインがバルバトスルプスへと突貫してくる。

それと同時に千冬も再び動き出す。

 

「私もそちらの動きに合わせる。一夏、篠ノ之、(ファン)も同時に斬り込め!オルコット、デュノアはビーム兵装以外で援護しろ!」

 

そして、IS学園の専用機持ち&千冬VSオルガ、三日月の戦いは激化していった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

数分後、膠着状態にあったその戦いに終止符を打ったのはIS学園に戻ってきた冬夜の魔法だった。

 

「【マルチプル】!【光よ穿て、輝く聖槍、シャイニングジャベリン】!!」

 

その冬夜の呪文とともに無数の光の槍がIS学園の第三アリーナに降り注いだ。

 

「何だっ!!」

「くっ……!」

 

IS学園の専用機持ち達はその光の槍を避けながら後退。

 

「冬夜か!」

「ありがとね、冬夜」

「いえいえ、でも面倒くさい事になりましたね。ここは一旦、撤退しましょう」

「そうだな……」

「【ゲート】」

 

冬夜の【ゲート】でオルガと三日月を乗せたバルバトスルプスはIS学園の第三アリーナから文字通り消え去ってしまった。

 

「……消えた?」

 

箒が一言そう呟いて首を傾げる。

セシリアや鈴も同様に困惑していた。

 

「何だったんですの?鈴さん……」

「アタシに聞かれても分かんないわよ!」

「とにかく一度、教室に戻るぞ」

「分かったよ、千冬姉……」

 

ガツン!

 

「織斑先生と呼べ!」

「はい……」

 

 

そして、シャルロットとラウラは……

 

(やっぱり、オルガじゃないのかな……。でも声と姿はオルガのまんまだし、違和感は確かにあるけど……何か……)

 

(教官は、あれは嫁じゃないと言った。それは分かる。しかし、アインの反応は明らかにミカに対するものだ。ミカではあるが嫁ではない……?)

 

心の中で葛藤を繰り広げ、最終的に一つの仮説に辿り着いた。

 

「もしかして……」

「もしかすると……」

「「記憶がないの(か)?」」

 

(でも、あのオルガ。ISを展開出来なかったし……やっぱり違うのかな?展開方法を覚えてないって可能性もあるけど……)

 

(記憶がないにしても、あの巨大化したバルバトスはおかしい……。あれは……ISではない)

 

確証が持てず、さらに混乱する二人であった。

 

 

 




IS学園に追われる身となったオルガと三日月(それと冬夜)。最愛の人とどこか違う存在に悩むシャルロットとラウラ。少年少女はその果てにどんな答えを見出だすのか?


次回『IS(インフィニット・ストラトス)の世界 2/5』

お楽しみに!


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Second World-4『IS(インフィニット・ストラトス)の世界 2/5』

今回は最初の1000文字くらいまでは三人称。
それ以降からはオルガ視点でお送りします。



「IS学園の機密が漏洩される訳にはいかん!!あのオルガ・イツカと三日月・オーガスは何としても探し出せ!!」

 

千冬からそう指示がでて、IS学園の教師や専用機持ちが総出でオルガと三日月の捜索を始めてから数時間後──

 

オルガと三日月、そして冬夜はIS学園から少し離れた森の中で【インビジブル】の魔法で透明化しながら身を隠していた。

 

 

「どうする?オルガ」

 

三日月がオルガにそう聞く。

 

「どうもこうもねぇ。逃げるって決めたんだ。逃げるだけだ」

「逃げるって言ったって、アドモス商会への入り口はIS学園の寮にあるんだよ。IS学園にはどんな国や組織であろうと一切干渉が許されないって国際規約もあるみたいだし、警備を破るのはそんな簡単じゃない」

 

冬夜はオルガと三日月が一限目の授業を受けている間に世界を文字通り飛び回って、この世界の情報を集めていた。

 

そこで得た情報の中にはあの学園──IS学園についての情報ももちろんあった。

 

「でも、破れなくはないんだろ?」

 

オルガはそう言って不敵な笑みを浮かべるが、冬夜はそのオルガの言動に対して顔を(しか)めた。

 

「難しいとは思う。まぁ【ゲート】を使ってアドモス商会に戻ってもいいけど、それじゃ解決にならない気がするし……」

「確かに……この世界で俺らがするべき事が何なのかは分からねぇが……」

「戻っても次の異世界に行けないんじゃ意味ないしね」

「「「…………」」」

 

三人は黙ってしまった。

 

数秒無言の時間が続いたが、冬夜は手をパンと叩いて、こう口を開いた。

 

「とにかく、今日はここで野宿しよう。もう日も落ちてきたし、これからの事はまた明日……っ!」

 

冬夜が言う途中で言葉を詰まらせる。

同じタイミングで三日月も何かに気付いたようで急に、茂みの奥を睨み付けた。

 

「……誰か来る!」

「何っ!」

 

その茂みの奥から誰かがこちらへ近付いてくる。

 

(冬夜の魔法で透明化しているから、見つからないとは思うが……)

 

オルガのその予想はすぐに覆された。

 

「透明化とは驚いたな。これは見つからない訳だ。先程の光の槍といい、巨大化するISといい、どんなカラクリなのだ?」

「まぁ、でも透明化は無意味だったね。ISのハイパーセンサーで丸見えだよ。あっ……警戒しないで!こっちに敵対する意思はないから!」

 

そう言って奥から出て来たのは、シャルロットとラウラの二人であった。

 

 


 

 

「えっと……つまり……?」

「お前達は別の世界から来た団長とミカという事か?にわかに信じがたいが……」

「嘘は言ってねぇよ。信じてもらうしかねぇな」

 

夜、IS学園から少し離れた森の中で野宿をしながら俺とミカ、冬夜の三人でシャルロットとラウラにここまでの経緯を簡単に説明した。

 

「私達の知っている嫁……ミカとオルガ団長も異世界からこの世界に来たのか?そんな話は聞いた事無かったが?」

「言わなかったんでしょ?混乱するだろうし……それで?ラウラは俺の事、たまに「嫁」って呼ぶけど、なんで?」

 

確かにそこは俺も気になってた。

ミカのその質問にラウラはこう答える。

 

「うむ……お前ではないお前に「私の嫁にする!」と言って了承してくれたのでな………」

 

俺は思わず「は?」と言葉を漏らしてしまった。

なんなんだよ、それ……。

 

「はははは………」

「でも、ミカさんらしいというか……なんというか……」

 

シャルロットと冬夜も愛想笑いを浮かべていたが、ミカは……

 

「ふーん、そっか」

 

と軽く答えた。

 

「ミカ、そこは驚くとこじゃねぇのか!?」

「俺なら多分そうすると思うから別に違和感はないよ」

「分かんのか?」

「なんとなく」

 

正直ピンとこねぇが、ミカがそう言うんならそうなんだろう。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

そして、夜も更けた頃──

 

冬夜が収納魔法【ストレージ】から二つのテント(男子用と女子用)を取り出し、そこでとりあえず一夜を過ごす事にした。

 

シャルロットとラウラにはIS学園に戻れと言ったのだが……。

 

「ううん。戻らない!」

「今日話して良く分かった。ミカはミカだ。やはり根本的なところは何も変わっていない」

 

などと言い、ここに居座った。

 

あんま、女の子に野宿とかしてほしくねぇんだがな……。

 

特にシャルロットには……。

 

なんでかは分からねぇが彼女を危険な目には合わせたくねぇ。

護らなくちゃならねぇって思えてくる。

 

「ホント、何なんだろうな?この感覚……」

 

今、俺はもしかしたらここがバレるかもしれないと思い、寝る間も惜しんで見張りをしていた。

 

そこら辺から薪になりそうな木の枝を見つけて来て、火を焚く。

 

その焚き火に当たりながら見張りをしていると、後ろから声を掛けられた。

 

「団長自ら見張りだなんて、さすがはオルガだね」

「……シャルロットか。一瞬誰かに見つかったのかと思っちまったじゃねぇか……」

「ごめんね。あと……」

「ん?」

 

シャルロットは少し顔を火照らせているように見えた。焚き火のせいか?

 

「シャル」

「は?」

「この世界のオルガは僕の事、そう呼んでたんだ。だからオルガもそう呼んでくれると嬉しい」

「そうか……分かった。……シャル」

「うん……。オルガ」

 

なんだよ……。

照れくさいじゃねぇか……。

 

「隣……座っていいかな?」

「あ…あぁ……」

 

静かな時間が過ぎていく。

俺もシャルロット……シャルも黙ったまま、ただ焚き火が燃える音だけが夜闇の中に響いていた。

 

「あのね、オルガ」

「なんだよ……シャル」

「……確かにオルガは僕が知るオルガじゃないけど……間違いなくオルガだよ。……仲間思いで、優しくて、ちょっと不器用だけど一生懸命で……何があっても決して止まらない。……僕達の鉄華団団長、オルガ・イツカだよ」

「…………」

 

俺は黙ってシャルの言葉を聞いていた。

 

「きっと、イチカ達もわかってくれると思う。だからさ……オルガ」

 

 

 

「そうだな……やってみるか」

 

俺はシャルの言う通り、やってみようと思った。

 

俺は知らなくても……あいつらも鉄華団の一員だってんなら……。

 

 

……鉄華団同士で争い合うなんて、絶対にあっちゃいけねぇんだ!

 

 




IS学園へと乗り込んだオルガ達。彼らを待ち受けていたのはもちろんIS学園の専用機持ちだった。
鉄華団同士の戦いが今、始まる!

次回『IS(インフィニット・ストラトス)の世界 3/5』

お楽しみに!


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Second World-5『IS(インフィニット・ストラトス)の世界 3/5』

戦闘開始(バトルスタート)です!



「行くぞ、ミカ!冬夜!」

「残さず賭けるよ、俺の全部」

「僕も本気で行かせてもらう!」

「シャル!ラウラもいいか!?」

「大丈夫だよ、オルガ!」

「あぁ、問題ない」

 

俺達はIS学園へと真っ正面から突撃した。

 

ミカはバルバトスルプスをISサイズで召喚、シャルとラウラもそれぞれのISを展開し、俺は冬夜に【フライ】の魔法を掛けてもらって、空を飛んでそれについていく。もちろん冬夜も【フライ】を使っている。

 

IS学園からは教師の打鉄とかいうISが全部で十二機ほど向かってくるが、俺達はそれを避けながら、IS学園へと侵入する。

 

俺達の目的はイチカやホウキ(この世界の俺は「シノ」と呼んでいたらしいが……)、セシリア、リンを第三アリーナに集める事だ。

 

その四人が集まったら、冬夜の防御魔法【プリズン】を第三アリーナ内に掛けてもらい、アリーナへ他の者が侵入してくるのを防ぐ。

 

そして、イチカ達へもシャルやラウラにしたのと同じ説明をして、俺達は敵じゃねぇってのを分かってもらおうって魂胆だ。

 

そうそううまく行くとは思えねぇが、やるしかねぇ!

こんなところで止まる訳にはいかねぇんだ!

 

「んじゃあ、手筈通りに頼む!」

「うん。オルガも気をつけてね」

「行くぞ、シャルロット」

「オッケー!ラウラ」

「僕はイチカさん達の顔が良くわからないから期待はしないでね」

「わかってる。時間になったら第三アリーナに来てくれりゃいい」

「了解。じゃあ久しぶりにスマホのサーチに頼らず、地道に探してみますか~」

 

どこに居るか分からねぇイチカ達を探す為、俺とミカ、冬夜、シャルとラウラの三手に別れ、IS学園の捜索を始めた。

 

シャルとラウラ、冬夜が俺達と別れた後、俺とミカは一緒に歩き出す。

 

「でもさ、オルガ?」

 

ミカが何か思い出したように聞いてきた。

 

「何だ?ミカ」

「どのくらいやればいいの?やるっていっても相手はIS学園の人間でしょ?」

「あぁ……そうだな」

 

この質問は前に名瀬の兄貴やアミダさん、ラフタの仇討ちをした時、ミカが聞いてきた質問と似てる。

あの時は「徹底的にやれ」って言ったが今回は状況が違う。

 

「殺さないように……だな」

「わかった」

 

ミカはそう言って頷いた。

 

それにしても「殺さないように」か……。

今までは相手の命なんて考えたりもしなかった。でもこれからは違ぇ……!

これからは人はなるべく殺さないように、出来るだけ穏便に事を運ぶようにしねぇとな……。

 

俺が感傷に浸りながら歩いていると、隣を歩くミカが再び口を開く。

 

「じゃあ問題は……オリムラ先生だね」

「……なんとか出来るか、ミカ?」

「オルガがやれって言うんならやるよ。殺さないように……ね」

「……ったく、お前は……」

 

ありがとな、ミカ。

 

 


 

 

数分後、シャルロットとラウラはIS学園の廊下で鈴と戦闘を繰り広げていた。

 

戦闘といっても、鈴が一方的に攻めてシャルロットとラウラは逃げるだけだが……。

 

「アンタ達、あのオルガと三日月の偽者にまんまと(ほだ)されたって訳!?それともアンタ達も偽者!?」

「違う!話を聞いて、鈴!」

「シャルロット、この状態で私達が説得しようとしても無駄だ」

「でも……」

「問答無用ぉぉぉ!!」

 

鈴の甲龍(シェンロン)が手に持つ青龍刀『双天牙月』でシャルロットのリヴァイヴを捕らえる。

 

「くっ……!」

「シャルロット!」

 

逃げるシャルロットを守るようにラウラのレーゲンがA.I.Cを展開。

 

「ありがとう、ラウラ」

「私達は止まる訳には行かんのだ。それはシャルロットが一番わかってるはずだろう」

「うん、そうだよね……!」

 

そんなシャルロットとラウラを狙撃ポイントである校舎の屋上から狙おうとするセシリアだったが……。

 

「鈴さんも廊下なんかで仕掛けないでくださいまし……。狙いにくいですわ」

「じゃあ、先に第三アリーナで待っててもらえるかな?」

「はい……?」

 

セシリアがゆっくりと後ろを振り向くと……。

 

「君がセシリア・オルコットさんで間違いないんだよね?」

「貴方は……昨日、オルガさん達を連れ去った……」

「望月冬夜です」

 

当然のように生身で空を飛ぶ冬夜はそう自分の名を名乗った後、こう呟いた。

 

「【闇よ誘え、安らかなる眠り、スリープクラウド】」

 

すると、冬夜の周りから雲のような白い煙が立ち込める。

 

その煙を吸ったセシリアは目を瞑り、眠ってしまった。

 

「よし、後はゲートでセシリアさんを第三アリーナまで運んで……」

「待てっ!貴様!!」

「……っ!そこのお前!セシリアを離せ!!」

 

セシリアを連れていこうとした冬夜の行く手を阻んだのは、校舎の屋上にやってきた紅色と白のISを纏う少年少女だった。

 

箒の紅椿と一夏の白式である。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

冬夜と一夏、箒が会敵した頃──

 

第三アリーナに入ったオルガと三日月を待ち受けていたのは……。

 

「やはり、ここに来るか」

「……オリムラ・チフユ」

 

オルガが小さく彼女の名を呟いた。

 

織斑千冬──織斑一夏の姉でありIS学園一年一組の担任を務める女性。元日本代表のIS操縦者で第一回IS世界大会「モンド・グロッソ」の総合優勝および格闘部門優勝者でもある。ついた二つ名は『世界最強(ブリュンヒルデ)

 

冬夜の国の名前やユミナの機体名と同じその二つ名はオルガと三日月の警戒心を煽るのには十分なものであった。

 

その千冬は黒ずくめのまるで忍者のようなボディースーツに身を包み、太腿に左右三本ずつの刀を納刀。更に黒い手袋をはめた両手にも二本の太刀を握っている。顔もマスクのようなもので全体を覆っており、肌の露出は全くない。

 

オルガはそんな彼女の姿を見ながら、三日月にこう言った。三日月もそれに頷く。

 

「……頼む、ミカ」

「うん。オルガはここで待ってて」

「……まさか、三日月のバルバトスと本気で戦う事になるとはな」

「本気は出さないよ。オルガから殺さないようにって言われてるから。それにそっちも本気じゃないでしょ。IS使わないんだから」

「……ふっ」

 

千冬は小さく鼻を鳴らす。

 

「三日月・オーガス。ガンダム・バルバトスルプス……行くよ」

「織斑千冬……いざ、参る!」

 

 

 

 




IS学園へと乗り込んだオルガ達。彼らを待ち受けていたのはもちろんIS学園の専用機持ちだった。
鉄華団同士の戦いが今、始まる!

次回『IS(インフィニット・ストラトス)の世界 4/5』

お楽しみに!


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Second World-6『IS(インフィニット・ストラトス)の世界 4/5』

「逃げてばっかりで……戦いなさいよ!!」

 

そう叫ぶ鈴の甲龍(シェンロン)は逃げるシャルロットとラウラに向けて、龍砲を放つ。

 

「狙いが甘いな」

「当たらないよ!」

 

しかし、その龍砲は二人に簡単に避けられてしまう。

 

さらに避けながらスリップストリームを利用してコーナーを曲がったシャルロットとラウラはそのまままっすぐ第三アリーナへと入っていく。

 

「ちっ、アタシの甲龍(シェンロン)じゃリヴァイヴとレーゲンよりもスピードが足らないか……なら!」

 

鈴は甲龍(シェンロン)の高速機動パッケージ『(フェン)』を装備し、四基の増設スラスターで一気に加速する。

 

「このまま体当たりしてあげるわ!!……って、え!?」

 

加速し、第三アリーナに入った鈴を待ち受けていたのは四枚の盾。

 

シャルロットのリヴァイヴの防御パッケージ『ガーデン・カーテン』の二枚の実体シールドと同じく二枚のエネルギーシールドが高速機動パッケージで加速した鈴の甲龍(シェンロン)の動きを止める。

 

さらにラウラのレーゲンのA.I.C.で鈴は確実にその動きを封じられた。

 

「ゴーール!ふふっ、まんまと誘き寄せられたね」

「少しここで大人しくしていてもらおうか」

 

シャルロットとラウラの台詞を聞いて、鈴はやっと自分がこの第三アリーナまで誘き寄せられていた事実を知る。

 

「何が目的なのかは知らないけど、アタシは一杯食わされたってわけね……」

「俺が頼んだんだ。この第三アリーナに鉄華団を集めてくれってな」

 

そんな鈴に第三アリーナで待っていたオルガが声を掛ける。

 

「……アンタ、本当にオルガなの?偽物じゃないってこと……?」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

鈴が捕まる数分前、冬夜は一夏の白式、箒の紅椿と対峙していた。

 

「【マルチプル】【光よ穿て、輝く聖槍、シャイニングジャベリン】」

 

冬夜の背後から無数の光の槍が出現し、それが一斉に白式と紅椿へと放たれる。

 

「箒!」

「あぁ、絢爛舞踏発動!」

 

白式の左手を握った紅椿は絢爛舞踏を発動させ、白式へとエネルギーを送る。

 

送られてきたエネルギーを右手に集中し、巨大なエネルギーシールドを展開させながら、一夏と箒は冬夜の【シャイニングジャベリン】を防ぐ。

 

「「うおおおおぉぉぉぉ!!!!」」

 

絢爛舞踏のエネルギーと気合いでどうにか【シャイニングジャベリン】を防ぎ切った二人はそのまま攻撃に転じる。

 

「次はこっちから行くぞ!」

「奇妙な技を使う奴だが、所詮はISも纏っていないただの生身の男!負けはしない!!」

 

一夏の白式が左手の『雪羅』で牽制射撃をしながら冬夜に近付き、右手に呼び出(コール)した雪片弐型で斬り込む。

 

しかし、その刹那、一夏は心の中でこう思った。

 

(生身の人にISの武器を向けていいのか?もし殺しちまったら……。でもこのままじゃセシリアが連れていかれちまうし……。どうしたら……?)

 

迷いは剣先を鈍らせる。

その間に冬夜は【ストレージ】から銃剣『ブリュンヒルド』を取り出し、右手に構える。

 

「【ブレードモード】」

 

そして、ブリュンヒルドの刀身部分を伸ばし、その刀身で白式の雪片弐型と鍔を迫り合わせた。

 

「何っ!?」

「私も忘れないでもらおうか!」

 

対する箒はその剣筋に迷いなどない。

思いっきり振りかぶり、右手に持つ刀『空裂』で斬り込むが……。

 

「【ストレージ】から取り出したのはブリュンヒルドだけじゃないんですよ」

 

冬夜はそう言うと、自分の腰にいつの間にか下げられていた刀を左手で抜き、その刀で空裂をいなした。

 

冬夜は先程【ストレージ】からブリュンヒルドを取り出したのと同時に腰にも刀を出現させていたのだ。

 

右手に銃剣『ブリュンヒルド』左手に刀を持った冬夜に箒は勝機を見る。

 

「しかし、それで両手は塞がった。私が二刀流だという事を懸念していたな!もらった!!」

 

左手の刀『雨月』を振り下ろしながらそう言う箒。

 

だが、冬夜は無情にもこう唱えた。

 

「【シールド】」

 

その呪文とともに何もない空間から透明な宙に浮く盾を召喚した冬夜は、その盾で雨月を受ける。

 

そして──

 

「【土よ絡め、大地の呪縛、アースバインド】」

 

突如、地面から土が舞い上がり、その土が一夏と箒の足元に絡みつく。

 

「なっ、なんだよこれ!?」

「貴様、またも珍妙な技を……!?」

「これだけじゃ、弱いかな?じゃあ【パラライズ】」

 

無慈悲な彼は土で動きを封じるだけでは飽き足らず、二人を麻痺させた。

 

「あががががが……!!」

「ぐっ……!うっ……!!」

「あれ?ちょっとやり過ぎた?……まぁ、いいか」

 

流す電力(魔力)が多すぎたのか痺れから声にならない声を漏らす一夏と箒を見て、冬夜は首を傾げながら笑みを溢した。

 

「セシリアさんと一夏さん、それに箒さん確保っと。それじゃ【ゲート】」

 

冬夜は眠るセシリアと痺れる一夏、箒を連れて第三アリーナまで【ゲート】で飛んでいった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

それと時を同じくして、第三アリーナから少し離れた場所で千冬と三日月も激しい戦闘を繰り広げていた。

 

ギィィィン!!

 

もう何度目かになる剣戟。

 

千冬の刀の何本かはすでに刃こぼれしており、近くに針のむしろのように投げ捨てられている。

 

「ねぇ、まだやるの?」

 

ISサイズのバルバトスルプスに身を包んだ三日月がそう問う。

 

「三日月こそ、昨日のようにバルバトスを巨大化させなくてもいいのか?」

「ちっちゃくてすばしっこいやつは相手にするのめんどくさいから」

「同じ大きさに合わせて戦うほうが楽だという事か」

「うん」

 

そう話しながらも千冬は刀での連戟をやめる事はなかった。

 

しかし、三日月のバルバトスルプスの装甲は破れない。

メインカメラがやられては元も子もないので目だけは死守しているが、それ以外の場所ならば別に攻撃を食らってもどうということはない。また、こちらから無理に攻撃すると殺してしまうかもしれないから何もしない。それが三日月の判断だった。

 

「で?いつまでやるの、それ」

 

千冬は答えない。

ただただ、攻撃を繰り返すのみであった。

 

「……はぁ」

 

三日月はため息をしながら、オルガに連絡を取る。

 

「オルガ……俺はそっち行けなさそうだ」

《わかった。オリムラ先生はそっちで食い止めてくれ。頼んだぞ、ミカ》

「任され……た!」

 

三日月のバルバトスルプスはメイスを振るい、斬りかかる千冬の刀を折った。

 

その折れた刀を見て千冬は歯軋りし、こう呟いた。

 

「……あと三本か」

 

 

 

 




一夏、箒、セシリア、鈴を第三アリーナに集めたオルガ達。オルガと冬夜、シャルロット、ラウラの四人で一夏達を説得する中、三日月は千冬と熾烈な戦いを繰り広げていた!

次回『IS(インフィニット・ストラトス)の世界 5/5』

お楽しみに!


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Second World-7『IS(インフィニット・ストラトス)の世界 5/5』

イチカ、ホウキ、セシリア、リンの四人を第三アリーナに集め、冬夜の【プリズン】っつー魔法で邪魔が入らないよう取り囲んだ後、俺は何度も頭を下げながら彼らにこう言った。

 

「まずはすまねぇ!こんな方法しか思い付かなかったんだ。無理矢理連れてきた事は謝る。これは団長である俺の責任だ。本当にすまなかった。……だが、手前勝手なのはわかってるが、俺達の話をちゃんと聞いてほしい。頼む!」

 

イチカ達は無言を貫いている。

その状況を見兼ねてか、シャルとラウラも助け舟を出してくれた。

 

「僕からもお願い!オルガと冬夜君の話しを聞いたら今の状況にも納得出来るはずだから」

「私もシャルロットと同意見だ。とりあえず話しを聞いた方がいい。敵か味方かの判断はその後でも遅くはないはずだ」

 

するとイチカ達はゆっくりと口を開く。

 

「わかった。とりあえずオルガとシャルロット達を信じてみる」

「まぁ……一夏がそう言うなら。話しだけだからな!」

「今の謝り方はオルガ団長そのものでしたし、シャルロットさんとラウラさんがそこまで言うなら信じてもいいかもしれませんわね」

「これで皆、意見はまとまったって訳ね!さぁ、聞かせてもらおうかしら?」

「恩にきます……!」

「ありがとう、みんな……!」

「じゃあ、その説明は僕からするよ。僕の名前は望月冬夜……」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

俺と冬夜の話を聞いたイチカ達は思い思いにこう言葉を漏らす。

 

「流行りの小説みてぇな話だ……混乱してきた……」

「異世界とはなんとファンタジーなものだな………」

「通りでお強いと思いましたわ……なるほど異世界でしたら………」

「異世界……でもなんとなくわかる気がする………オルガとか元々雰囲気が少し違ったから………」

 

とりあえず、信じてくれたみてぇだ。

胸を撫で下ろした俺だったが、イチカの台詞で再び不安に引き戻される。

 

「でも千冬姉はこんな話信じるかな……」

「「「…………」」」

 

皆、言葉を失ってしまう。

そんな中、冬夜だけが頭にはてなを浮かべた状態でこう質問をした。

 

「僕はその織斑先生とあった事がないからわからないんだけど、そんなに難しい人なの?」

 

それに対して一夏達は……

 

「一言で言うなら「真面目な狼」ってところだな。家ではズボラな所もあるけど、厳しい姉であり先生って感じか」

「確かに厳しい人だが、その中にも優しさが合間見える。真剣に話せば聞く耳を持ってくれるとは思うが……」

「でもワタクシ、あんなに怒っているオリムラ先生を初めて見ましたわ」

「あれはもう関羽通り越して呂布ね…」

「うわぁ……怒ってるオリムラ先生想像したくないなぁ……。正直、怖い」

「ドイツで教官をしていた時に戻っているのかも知れんな。さて、どうしたものか……」

 

その言葉を聞いて、俺はこう言った。

 

「どうもこうもねぇ。逃げるって決めたんだ。逃げるだけだ」

「これ以上、この世界にいるのはまずそうだね。仕方ないか」

 

冬夜も俺の意見に賛成のようだ。

 

「んじゃ、ミカを回収してさっさとズラかるか……!」

「俺達も手伝うぜ、オルガ!」

「もちろん、僕達も!」

「ありがとな、イチカ、シャル」

 

 


 

 

一方、その頃──

 

ガキン!

 

その鈍い音とともに千冬の最後の一本の刀が折れ曲がる。

 

「……終わった?」

 

三日月はつまらなそうにそう聞く。

 

「あぁ、終わりだ。……そちらがな」

 

その台詞とともにポケットからライターを取り出した千冬。

 

三日月はその行為に一瞬疑問を覚えたが、すぐに折れた刀を手にとって確認した。

 

その刀についた油の匂いを……

 

「……っ!?」

「もう遅い!!」

 

三日月が慌てて持った刀を捨てるのと同時に千冬も火のついたライターを投げ捨てる。

 

「バルバトスの耐熱性を確かめてやる」

 

その言葉とともに千冬は後退り、三日月とバルバトスルプスは炎の中に取り残された。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

いかにバルバトスのナノラミネートアーマーが圧倒的な防御力を発揮するといっても、一定時間熱を与え続けられたら操縦席(コクピット)内の温度が急上昇し、中のパイロットは無事ではすまないだろう。

 

燃える炎の中、三日月はこの窮地をどう脱するかを必死に考えていた。

 

(バルバトスから降りる?……それはダメだ。外に出たら焼け死にそうだし、まだ中のが安全だと思う。ここからすぐに動けば……ダメか。なんかバルバトス動かなくなってる。っていうかあっついし……。巨大化すればなんとかなるかもしれないけど天井壊していいのかな?殺すなとは言われたけど壊すのはいいの?わかんないや……)

 

そんな中、千冬は涼しそうな顔でそこに立っていた。

 

全身を覆うボディスーツは耐熱スーツだったようだ。顔のマスクも熱と煙対策だろう。

 

「……全部、あんたの作戦通りって訳か」

「答えろ。お前達は『織斑計画(プロジェクト・モザイカ)』の関係者か!?」

「……何それ?」

「あくまでしらを切るつもりか。ならばこのまま燃えて死ね」

 

その時だった。

 

「【水よ来たれ、激流の大渦巻、メイルシュトローム】」

 

その呪文とともに突如現れた巨大な水の竜巻が千冬を吹き飛ばし、バルバトスルプスの辺り一面を燃やしていた炎を鎮めた。

 

言わずもがな、冬夜の魔法である。

 

「ミカさん!こっちへ」

「冬夜!?」

 

三日月はバルバトスを戻し、冬夜の元へ走る。

 

「【ゲート】!」

 

そして、二人で【ゲート】の中へ飛び込んだ。

 

「くっ……!またも逃がしたか」

 

そんな千冬の元に一本の電話が入る。

 

《ちーちゃん、はっぴー!!》

「……束。私は今忙しいんだが」

《ちーちゃんが今戦ってたミカくんだけどね。正体知りたいかな~って思って!!ちーちゃんなら教えてあげてもいいよ~》

「……詳しく聞かせろ」

《あのねあのね、あのオルガくんとミカくんはね~》

「…………」

《ここじゃない異世界から来たんだよ》

 

 

 




一夏達の助けもあり、ISの世界から旅立った鉄華団。そんな彼らを追うように色々な組織も異世界へと動き出す!

次回『思惑渦巻く世界』

お楽しみに!


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Second World-8『思惑渦巻く世界』

IO編最終回です!
伏線バラまきますよ~



冬夜がオリムラ先生と戦っていたミカを回収した後、俺達は学園寮の1025室へと戻ってきた。

 

「こっち異常ないわよ」

「こちらも問題ありませんわ」

「どうやら先生達は撒けたようだな」

 

それぞれ見張りをしてくれているリン、セシリア、ホウキからそう連絡が入る。

 

「それじゃ、これでお別れか。なんか悲しいけどオルガ達は元の世界に戻りたいんだもんな。この世界にはもういられないだろうし……」

「すまねぇな、イチカ。この世界に俺らが来た事で本来この世界にいたはずの俺らが消えちまう事になっちまって……思い出とかもあっただろ?」

「関係ねぇよ。オルガはオルガ、ミカはミカだろ。まぁ、確かに少し寂しくなるけどさ。泣き事は男らしくないからな」

「ありがとう、イチカ」

「ふへっ、お前も立派な鉄華団の男だな」

「団長が教えてくれたんだぜ?「止まるんじゃねぇぞ」ってさ」

「……そうか」

「だから、オルガもミカも止まるんじゃねぇぞ!」

「あぁ……わかってる」

 

きっとこの世界の俺は幸せだっただろうな。こんなあったけぇ仲間に囲まれて……。

 

俺は次にシャルとラウラの方に向き直り、別れを告げる。

 

「シャルとラウラもサンキューな。二人が信じてくれたからここまで戻ってこれた。この世界の鉄華団にもちゃんと会って心を通わせられた。全部、二人のおかげだ」

「ありがとう。シャルロット、ラウラ」

 

俺とミカは二人に感謝を述べるが、二人は何故か顔をうつむかせたままだった。

 

そんな二人の様子に俺は疑問を覚え、「どうかしたのか?」と声を掛けようとしたが、それより先にイチカと冬夜が口を開く。

 

「シャルロット、ラウラ。オルガ達について行きたいなら一緒に行ってもいいんだぞ?」

「僕達は来てくれた方が心強いです。ね!オルガ、ミカさん」

 

その二人の言葉にシャルとラウラは顔を上げる。

なんだよ……。そういう事なら早く言ってくれりゃいいのによ。

 

「いいの……?」

「あぁ、シャルが居てくれると助かる」

「本当に良いのか……?」

「うん。俺もラウラと一緒にいたいな」

「じゃ、じゃあ……」

「なら……」

 

俺はシャルの手を、ミカはラウラの手を取り、俺達は1025室の扉を開けた。

 

「さよならは言わないぜ。オルガ、ミカ!」

「また会う日まで……というやつだな」

「オルガ団長、三日月さん!それにシャルロットさんとラウラさんもどうかお気をつけて」

「僕もいるんだけどな……」

「アンタ達!止まるんじゃないわよ!!」

「あぁ、本当に世話になった。お前らこそ止まるんじゃねぇぞ……!!」

「またね。みんな」

「ありがとう。一夏、みんな!!」

「このIS学園での生活、決して忘れん……!!」

 

イチカ達の為にもますます俺達は止まれなくなった。だが、それでいい!

 

俺達は鉄華団だ。今までもこれからも決して枯れない、止まらない鉄の華だからな!!

 

 


 

 

そして、オルガ達がこの世界から脱した頃、IS学園の生徒会室ではとある姉妹と教師がこう言葉を交わしていた。

 

「楯無、君はいいのか?」

「何が?私にはオルガ君や三日月君を止める理由も異世界に行きたい理由も無いわよ。それよりも簪ちゃんのが行きたかったんじゃないの?」

「ううん。私はいいの。シャルロットさんとオルガの間には入れないって分かったから」

「そう……」

 

楯無と呼ばれた青髪の生徒会長──更識楯無は妹である簪の言葉を聞いて、少し悲しそうな表情をするが、簪の心は晴れやかであった。

 

(オルガ、シャルロットさん。二人の幸せを心から祈ってます……)

 

「しかし、生徒が減るのは問題ではないのか?」

「確かに専用機持ちが一気に四人も減ったのは痛手だけど、別に問題はないわ。忘れたの?私は生徒会長なのよ」

「彼らが抜けた穴は君が埋めるという訳か。頼もしい限りだな」

「お姉ちゃんだけじゃない。私も一夏君達も頑張るから」

「簪ちゃんの言うとおりよ。……それにファリド先生も旅立つんでしょう?篠ノ之博士から貴方宛に届いていた手紙、悪いとは思ったけど勝手に読ませてもらったわ」

「君も読んだのか。ならば私もそろそろ行くとしよう」

 

ファリド先生と呼ばれた金髪の教師──マクギリスは、そう言って生徒会室を後にする。

 

「あっ、ファリド先生!忘れ物よ」

 

楯無は生徒会長の机の引き出しからとある仮面を取り出し、マクギリスへと投げ渡す。

 

マクギリスはそれを受け取り、笑みを溢した後、その仮面を顔に付ける。

 

「もうファリド先生ではないよ」

「あら、そうなの?」

「じゃあ、どう呼べばいいんですか?」

 

そして、仮面の男はこう名乗った。

 

「モンタークで結構。それが真実の名ですので」

 

 


 

 

所変わって、篠ノ之束の移動式ラボ内では──

 

「ちーちゃんでも驚く事あるんだね~。異世界って言葉慣れてないみたいだし、面白かった~」

「……それは良かったですね」

「良かった良かった良かったよ~。可愛いちーちゃんの声が聞けて束さんは満足です。…………それでキラくん?」

「はい……?」

「マッキーの新しいISとキラ君の専用ISどこまで組み終わった?」

 

束にそう言葉を掛けられた少年──キラ・ヤマトの前には紅色の戦姫の名を冠したISと自由の名を持つ蒼天の翼を広げたISが置かれていた。

 

 


 

 

そして、亡国機業(ファントム・タスク)もまた異世界へ向けて動き出そうとしていた。

 

「……IS学園に侵入しているレインから連絡があったわ。セカンドマンとサードマン、それにデュノア家の妾とドイツの遺伝子強化素体(アドヴァンスド)が異世界に行ったみたいね。貴方の予想は正しかったという事かしら?」

「分からぬさ、誰にも……この先はな」

「織斑一夏はこの世界に残るのだな。ならば私には関係ない話だ」

「……ではエム。君とはここでお別れになるか。悲しいな」

「私は全く悲しくもないがな」

「その言い草も悲しいよ。私は君の事は好きだったがね」

「ふん……!」

「……それで連れていくのは結局誰なのだ。私も悠長に待っているほど暇ではない」

「まぁ、慌てるな。ユラ」

 

この中で一人だけ明らかに人間とは違う生命体だと一目で分かるのが全身が水晶で出来た身体をしているユラと呼ばれたこの男。

彼はフレイズの支配種である。

 

「スコール。以前奪った福音のコアはもらっていくぞ」

「そういえば、前回京都を襲撃した時に貴方のISは破壊されていたわね」

「直すさ。だがそれまでの繋ぎの機体もいるのでな。シグー……いや、ゲイツにするか」

「いいわ。持っていきなさい」

「では、ユラ。行こうか」

「うむ。貴様の力、当てにさせて貰う」

 

こうして、異世界への扉は開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くくくっ、面白くなってきたね。そう思わないかい?メル様?」

「…………」

「そんなに警戒することはないじゃないか」

「無理矢理連れてこられて警戒するなという方が難しいです」

「なるほど。それは確かに君の言う通りだ。これはボクの手落ちだったね」

 

そう笑顔で語る強欲の魔女(エキドナ)を見ながら、フレイズの女王(メル)は心の中で愛しき人の名前を呼ぶ。

 

(エンデ……貴方は今、どこにいるの?)

 

 




篠ノ之束、亡国機業(ファントム・タスク)、そして強欲の魔女(エキドナ)。様々な思惑が絡み合う中、鉄華団の少年少女達は世界を旅して何を得るのか?

次回『幕間~鉄華団炊事担当 シャルロット~』

お楽しみに!



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幕間 ~鉄華団炊事担当 シャルロット~

次の異世界へ行く前に一旦小休止です。



「腹へった~」

 

イチカ達の世界からアドモス商会に戻ってきたミカが最初に言った台詞はそれだった。

 

「ねぇ、オルガ。仕事の後は腹減るんだよ」

「……つってもな。ここの冷蔵庫なんも入ってねぇぞ」

 

俺が最初、砂漠の世界に行った時に飲み物を探しにこのアドモス商会にある冷蔵庫を開けて中を確認した事はあるが、冷蔵庫の中身はからっぽだった。

あの後、何か入れた覚えもないからまだ冷蔵庫には何も入ってねぇはずだ。

 

「昨日野宿の時に出してもらった焼き鳥みたいなの、冬夜まだあるか?」

 

俺は冬夜にそう聞く。

昨日、IS学園から少し離れた森に逃げ込んだ時、冬夜の収納魔法【ストレージ】から焼き鳥を出してもらってそれを夕飯にした。

 

冬夜の【ストレージ】は良くわからねぇが中のモノの時間を止められるらしい。

だからだろう。【ストレージ】の中に入れてあった焼き鳥は暖かった。

 

「あるにはあるけど……ここ調理室とかないの?折角ならちゃんとした物でお腹膨らませたいなぁ」

「調理室……?」

 

俺はそんな部屋に検討もつかず首を傾げるが、ミカは知ってるようでこう答えた。

 

「料理する部屋なら確かあるよ。アトラとかククビータさんもよく使ってた」

 

あるのかよ……じゃあ砂漠の世界に行った時もそこで水飲めば良かったじゃねぇか……。

まぁ、過ぎた話はもういい。そんなことより……

 

「……冬夜は料理出来んのか?」

「……スマホでレシピを調べれば?」

 

……不安だ。

 

「どうしたのだ?」

「何の話をしてるの?」

 

俺らがそんな話をしているとアドモス商会の二階の客間を覗きに行っていたシャルとラウラが戻ってきた。

 

アドモス商会に来てまず先に異世界へ行くカメラを覗きに行ったミカや冬夜と違い、これから住む場所を見ておきたいって考えるのはやっぱ女の子だからなんだろうな、などと考えつつ俺は冬夜としていた話をシャルとラウラにも話した。

 

すると、二人はこう言った。

 

「なら僕が何か作るよ!」

「私も手伝おう!」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「止まら~ない からだじゅ~うに♪」

 

鼻歌を口ずさみながらアドモス商会の事務所の奥にあった小さな調理室で何やら料理を作っているシャル。

冬夜がそこらの布を【モデリング】して作ったエプロン姿がめちゃくちゃ似合ってる。可愛い。

冬夜には感謝しなきゃだな。

 

「シャルロット、じゃがいもの皮むき終わったぞ」

 

同じくエプロンを掛けるラウラも手際よくじゃがいもの皮むきを終えた。でもそのナイフ、料理で使うもんじゃねぇよな?サバイバルナイフっつーやつか?まぁ、いいけどよ。

 

ちなみに今、シャル達が使っているじゃがいもやらタマネギ、ニンジンなどは冬夜の【ストレージ】から出した物だ。

お前ホントなんでも持ってるな……。

 

「ありがとう、ラウラ。じゃあ次はそのじゃがいもを半分に切って鍋に入れてくれる?」

「了解した」

 

ラウラはそう言うと、ダンッ!という音を立てながらじゃがいもを真っ二つに斬っていく。「切る」ではなく「斬る」だ。

そっちのがしっくり来る。

 

「シャルロットさんは料理部に所属してたって聞いたし、料理のする姿も様になってるから安心して見てられるけど……ラウラさんは大丈夫かな?」

 

冬夜が調理室の様子を覗きながらそう言う。

 

するとミカが冬夜にこう言った。

 

「俺のラウラを馬鹿にしないで」

「……ごめんなさい」

「すいませんでした……」

 

俺のラウラって……いや、あの世界のミカとラウラは夫婦?だったらしいからな。間違いじゃないんだろうが……。

 

と、そこまで心の中で呟いてふと思う。

 

俺とシャルはどんな関係だったんだ……?

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

数時間後──

 

「はい!出来たよみんな!」

 

事務所で待ってた俺らにシャルとラウラが作った料理を披露する。

 

作った料理はポトフのようだ。

 

「コンソメとソーセージかベーコンがあればもっと良かったんだけどね……」

「あー、ごめんね。もっと【ストレージ】に材料入れとけば良かったかな?」

 

冬夜はそう謝るが、シャルは笑顔でこう言った。

 

「ううん。大丈夫!塩こしょうは調理室に置いてあったし、冬夜君の用意してくれた野菜も結構あったからそれを炒めて入れるだけでも充分味は出るよ!」

「うん。うまい」

 

ミカが真っ先に料理に食い付く。相当腹減ってたんだな。

さて、んじゃ俺も……っと。

 

「おお!めちゃくちゃうまいぞ!シャル。これからの炊事担当はシャルでいいんじゃねぇのぉ?なぁ?」

「私も!!作ったのだが!!」

「あっ……すまねぇなラウラ」

「全く……」

 

ラウラが拗ねちまった……。

ミカもポトフを口に入れながら睨んでくるし……勘弁してくれよ。

 

「ふふっ、ありがと。オルガ!」

「お、おぉ……」

 

まぁ、でもシャルが嬉しそうな顔をしてくれたし、悪い気分じゃねぇな。

 

そんなシャルの笑顔を見て俺はとある事に気付いた。

 

なんだよ……。思ってみれば簡単な事じゃねぇか。

 

前の俺とシャルがどうだったかなんて関係ねえ!思い出はこれから先いくらでも作れるんだからな!!

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

そして食べ終わった後、ラウラがこう話を切り出した。

 

「そういえば、このアドモス商会の社長室にあるという異世界を見るカメラ。まだ私達は見せてもらっていないな」

「あっ!そうだった!オルガ達はもう見たの?次の世界行けそう?」

 

実は俺とミカ、冬夜は先ほどシャルとラウラが料理を作っている間にカメラを覗いて次の異世界の景色が見えるか試していたのだ。

 

そこにはIS学園ではない別の場所が写っていた。つまり、オリムラ先生から逃げるようにアドモス商会に来た俺達だったが、無事次の異世界には行ける事が証明された訳になる。

 

「うん、行けるみたいだよ」

「アメリカの都市外れみたいな街並みだったかな」

 

アメリカってのは、俺達の世界で言うとSAUの経済圏に位置するところらしい。

 

まぁ確かに言われてみればSAUで似た街並みを見たかもしれねぇな。

 

「へぇ~。見せて見せて!」

「興味深い……!早く見せろ!」

「ふへっ、待ってろよ……」

 

ウズウズワクワクしている二人を俺達は社長室へと連れていく。

 

そこのカメラを覗いてシャルはこう言葉を漏らした。

 

「うわ~。青くてキレイな月だね。でも何だろう?本物じゃないみたい……」

 

そう。俺達が次にやって来たのは青い月が煌めく世界。

 

この世界で俺とミカは因縁のアイツらと再び戦う事となる。

 

 

 




鉄華団が新たにやって来た異世界はラスタル・エリオン率いるギャラルホルン月外縁軌道統制統合艦隊アリアンロッドのいる世界だった!

次回『アリアンロッドのいる世界』

お楽しみに!


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Third World-1『アリアンロッドがいる世界』

今回からは殺戮のオルガ編です!



『ビルの火災現場で保護された少女はガードナー夫妻殺人事件の事情聴取中に行方不明になっていたレイチェル・ガードナーだと判明しました。レイチェル・ガードナーと行動を共にしていた鉄華団とアイザック・フォスターは過去複数の事件に関与していたとみられています。しかし現在も鉄華団と呼ばれる武装集団の行方は依然不明。艦隊司令部はこの事態に関して「ギャラルホルンのアリアンロッド主力艦隊が現在その鎮圧に当たっており、まもなく平和は戻るだろう」と語り、住民への落ち着いた行動を求めました』

 

アドモス商会の事務所のテレビをつけると、テレビの中でニュースアナウンサーがそのように読み上げる。

 

「オルガ!?これって!?」

 

それを聞いたシャルがそう声を上げた。

 

「あぁ、鉄華団が俺ら以外にあるとも思えねぇ……十中八九俺らの事を言ってんだろうな」

「指名手配って何したのさ、オルガ?」

「知らねぇよ。この世界の俺に聞いてくれ」

 

俺が冬夜の冗談にそう返すとラウラが首を傾けて疑問を口にした。

 

「オルガ団長とミカがこの世界に来たらその世界のミカ達は消えてしまうのであろう?ではもう聞けないではないか?」

 

……いや、そうなんだけどよ。

 

そう質問したラウラにミカはこう答える。

 

「ラウラ、冬夜とオルガは冗談で言ったんだよ」

「今、冗談を言って何か状況が変わるというのか?」

「冬夜とオルガに危機感がないだけ」

「……ごめんなさい」

「……すいませんでした」

 

何でか俺も謝る流れになったじゃねぇか……勘弁してくれよ……。

 

 

とまぁ、冗談はこれくらいにしておいて俺はもうひとつ気になった事があった。

 

どうやらミカも同じ事を考えていたようで……

 

「ギャラルホルンのアリアンロッド……」

「やっぱりミカもそこが気になるか……」

「うん」

 

ミカが静かに頷く。

 

「ギャラルホルン?アリアンロッド?」

「何なのだ、それは?」

「オルガの元いた世界の組織かなんか?」

 

シャルとラウラ、冬夜がそう聞いてくる。

 

「あぁ、冬夜の言う通りだ。ギャラルホルンっつーのは……」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

俺はシャルとラウラ、冬夜の三人にギャラルホルンとアリアンロッドについてと元の世界でそのアリアンロッドと何があったのかを説明した。

 

長い話になるので所々省いちゃいるが、大体は説明出来たはずだ。

 

それを聞いた三人はこう感想を漏らす。

 

「オルガ団長とミカ、それにファリド先生にそんな事があったとはな……」

「オルガは特に悔しかっただろうね。道半ばで希望も見えてたのに……」

「それで「止まるんじゃねぇぞ……」か。あんまり笑えない話だね……なんか今まで何も考えずに笑っててごめん」

「いや、俺はそこまで笑われた記憶はねぇからよ……あんまり謝るんじゃねぇぞ」

 

話をしている内にシャル、ラウラの世界にも冬夜の世界にもマクギリスが居た事を知る事が出来た。

 

この世界にも居んのか?マクギリス……

 

 

三人への説明が終わると、ミカが俺にこう聞いてきた。

 

「それでオルガ、次はどうすればいいの?」

「そうだな。まずはニュースで言ってたレイチェルとアイザックってやつに会うべきだと思う」

「うん。僕も同じ事言おうと思ってた」

「そのレイチェルさんとアイザックさんがこの世界でのオルガ達の仲間なんだろうしね」

「うむ。私もそれで異論はないぞ」

「よし、んじゃ行くかー!」

 

そう言って、俺達がアドモス商会を出ると──

 

キィィィィィ ガチャン

 

車のブレーキ音と扉を開く音が聞こえ、()()()()()()()()()

 

ズドドドドドド

 

 


 

 

一方、その頃──

 

「……それで、レイチェル、心が落ち着かなくなることは?」

「いいえ、別に」

「じゃあ、最近は良く眠れているの?」

「……はい」

「……そう」

 

話をしているのは、レイチェルと彼女のカウンセラーである女性だ。

 

レイチェルは最初、警察に保護された時はアイザックや鉄華団に誘拐された事を否定していたが、この更正保護施設に移送され、毎日カウンセラーと話している内に精神的錯乱も徐々に減っていき、大分落ち着きを取り戻していた。

 

 

カウンセラーがレイチェルに色々と質問をして数分が経った頃──

 

時計で時間を確認した後、カウンセラーはこう言ってカウンセリングを終わらせた。

 

「今日はここまでにしましょうか」

「……はい」

「部屋まで一緒に行きましょう」

「……部屋には、一人で戻れます」

 

レイチェルはそう言うが、カウンセラーは立ち上がりながらこう返す。

 

「そういうわけにはいかないのよ。ごめんなさいね」

「…………はい」

 

そして、二人はカウンセリング室を出る。

 

廊下の窓から射し込む月の光を浴びながら、カウンセラーはこう言葉を漏らす。

 

「あらぁ、今日はとても月がキレイだこと。ねぇ、レイチェル。ステキな夜よ」

「……ステキな夜?」

「えぇ、こんな日は大人しくベッドに入るといいわ。いい夢が見られるわよ」

 

そんな会話を続けながら廊下を歩いていると二人の向かいから誰かがやって来てレイチェルに声を掛けた。

 

「君が噂の悲劇の少女か」

「あなた、誰なの?」

「私はギャラルホルン最大最強を誇る月外縁軌道統制統合艦隊アリアンロッドの司令、ラスタル・エリオン。後ろの二人はイオクとジュリエッタという」

「……そう」

「ガードナー夫妻の死には我々も心を痛めていました。これからはギャラルホルンの総力をあげて、鉄華団を断固断罪の実現に取り組むつもりです」

「…………」

 

レイチェルはラスタルと名乗ったその男を濁って死んだような青い瞳でただ見つめている。

 

「圧倒的な武力を持って世間を騒がせた悪魔の組織──鉄華団。我がアリアンロッド艦隊がその鉄華団を屠る事で世界の秩序は保たれる。君は安心してここで朗報を待つといい」

「……そう、ですか」

 

そう言いながらもレイチェルは心の中でこう思っていた。

 

(多分、今夜も眠れない。でもオルガと三日月、それにザックに誓ったもの。「誓いを背負って持っていく」って。だから……私は止まらない)

 

 

 




アドモス商会を出たオルガを襲った謎の襲撃者。
捕らえた彼らに対して冬夜が取った行動とは?

次回『人ならざる者が王になった世界』

お楽しみに!


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Third World-2『人ならざる者が王になった世界』

俺が一番書きたかったゲス冬夜(笑)

でも、4月一発目がこの話ってのは……まぁ、仕方ないけどさ



キィィィィィ ガチャン ズドドドドドド

 

アドモス商会を出た俺達を待っていたのは謎の襲撃者と無数の銃弾の雨だった。

 

「オルガっ!?」

 

かつて俺がライドを庇った時と同じようにシャルが俺を庇う。

 

俺と違うのはリヴァイヴを展開してから俺を庇った為、銃弾をISのエネルギーシールドで受け止められる点だ。

 

「ちぃっ!」

 

ラウラが舌打ちしながらレーゲンを展開し、A.I.Cで銃弾を防ぐ。

 

これでシャルも護られた。

 

「ミカさん!」

「あぁ……!!」

 

冬夜がミカの名を呼ぶと、ミカはバルバトスルプスをISサイズで召喚してその身に纏い、大きく跳躍。

 

「【パラライズ】」

 

それと同時に冬夜は【パラライズ】で襲撃者を麻痺させ、動きを止める。

 

そして──

 

「管制制御システム、スラスター全開」

 

バルバトスルプスは襲撃者の車へと落下しながら腕部200mm砲を収納状態のまま真下に発砲し、そのまま着陸。

 

襲撃者の車は木っ端微塵に砕け散った。

 

「どうすればいい、オルガ?」

 

「潰せ」と言おうとして、その言葉を飲み込む。

邪魔した奴らは殺しても別にいいかも知れねぇが、まず俺らを襲った用件を聞かなきゃならねぇからな。

 

因みに襲撃者は三人。皆、冬夜の【パラライズ】を受けて痺れて動けないようだ。

 

「見せしめに一人だけ潰しとけ」

「わかった」

 

ミカはそう言って容赦なくメイスを振り下ろした。

 

そんな俺らを見ていたのは空に浮かぶ青い月だけだった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「さて、俺らを襲った用件を聞こうか?」

 

俺は捕まえた襲撃者二人をアドモス商会の事務所の柱に縛り付け、そう問う。

 

「「…………」」

 

二人ともあくまで黙秘を続けるみてぇだ。

 

「ふん、強情なやつらめ」

「もう一人殺っとく?」

 

ラウラとミカがそう言う。

 

「本当にこんな事していいのかな?ただでさえ指名手配されてるのに……」

 

シャルは心配そうに声を漏らすが、これは仕方ねぇだろ。邪魔した奴らは皆敵だ。俺達は今までもずっとこうやって来たんだからな。やっぱ簡単には変えられねぇよ。

 

殺すやつと殺さないやつの区別ははっきりしないといけねぇがな。

 

「……そうだな。口を割らねぇってんなら拷問でもして……」

 

俺がそう言うと、冬夜が嬉しそうな顔をしてこう言い放った。

 

「オルガ!拷問なら僕良いもの持ってるよ」

「は?」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

冬夜は【ストレージ】から何かを取り出す。

 

ドンッ!

 

その音とともに事務所に置かれたのは三メートル四方の立方体。底辺以外はガラスのように透き通り、中が丸見えだ。

そして、その箱の中には毒々しい色の魔物が何匹か入っていた。

 

「冬夜、これはなんなのだ?」

 

ラウラがそう質問すると、冬夜は嬉々としてこう答えた。

 

「あれはヘドロスライムっていう僕がいた世界の魔物で、水を綺麗にしてくれるありがたいスライムなんだ。ただ、ひとつ欠点があってね」

「欠点?」

 

ミカが首を傾げる。

 

「死んで一時間ほど経つととてつもない悪臭を放つんです。まあ、それも二時間ほどで消えるらしいんですけど。で、あの中のヘドロスライムは一時間ほど前に死んでまして、ね」

 

冬夜はそう説明しつつ、横目で捕らわれた襲撃者を見る。

 

「お、おい……」

「えっ?まさか……」

 

俺とシャルが嫌な予感を感じ取る。

 

「お、おい……マジでふざけんなよ……!」

「ま、まさか……アタシらをあの箱の中に入れるつもりじゃ……」

 

襲撃者二人も察したらしく手足をじたばたし始めたが、ラウラがドイツ軍に居た頃に教わった紐の結び方らしくどうやっても緩む事はなかった。

 

そして、冬夜は無慈悲にもこう唱えた。

 

「その通りです。まずはそっちの彼から……【ゲート】!」

 

……俺の予感は当たったようだ。

 

 

襲撃者の一人が姿を消す。

消えた襲撃者がどこに行ったのかといえば……

 

「ぐわああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

【ゲート】で箱の中へと飛ばされた襲撃者が絶叫し、鼻をつまむ。彼の顔はたちまち真っ青になり、滝のような汗が流れてきた。

 

「くっ、くさあああっ!?くっせぇぇ!!なんだこの臭いは!?おうぇえぇえぇえ!!」

「はいはい。まだ終わりませんよ~。お次はこれね」

 

冬夜がそう言いながら箱の外側にあるボタンを押すと、襲撃者はまたも悶え苦しみ、耳を塞ぎ始めた。

 

「冬夜……お前、何したんだ?」

「……えっと、そのボタンは?」

 

俺とシャルが恐る恐るそう聞くと、冬夜は嬉しそうな顔でこう答える。

 

「あーこのボタンを押すとね、中のスピーカーから「黒板をフォークで引っ掻く音」が大音量で流れるようになってるんだ~」

「「「…………」」」

 

……子供のいたずらか。

 

「スピーカーからその音が流れたら【サイレンス】の魔法で音が漏れないように【プログラム】しておいたから大丈夫だよ」

 

何が大丈夫なんだよ。

 

箱の中の襲撃者は顔色が青から紫へと変化しており、音を防ごうと耳を塞ぐと鼻から悪臭を吸い込んでしまい、その鼻を押さえ付けると今度は耳が、といった動きを繰り返している。

もう一人の襲撃者も「ヒッ……」と驚いて引いていた。

 

そんな襲撃者達の様子を見て、シャルが怯えた口調で冬夜にこう言った。

 

「と……冬夜君、さすがにやり過ぎなんじゃ?」

「えっ、まだですよ?」

「は?」

 

まだって何だよ?

 

「【ミラージュ】」

「────ッ!! ────ッ!!! 」

 

冬夜がまた呪文を唱えると、襲撃者は箱の中を逃げ回り、壁を叩き始めた。

 

「……今度は何したんだ?」

 

俺が聞くと、やはり冬夜は嬉しそうにこう答える。

 

「【ミラージュ】で足元いっぱいに、芋虫やらムカデやらゴキブリなんかの幻を敷き詰めてやった。嗅覚と聴覚にはダメージを与えたけど、まだ視覚は潰してないからさ」

「……もうやめてやれよ」

「なんで?あっ、壁叩いても無駄だから心配しなくていいよ。そのガラスはフレイズの晶材で出来てるからフレームギアかモビルスーツか、あとは同じ晶材製の武器じゃないと壊せないから」

「そうじゃねぇよ……」

 

こいつが一番捕まるべきなんじゃねぇのか?ユミナやリーン達は良くこいつの事好きになったな……。

 

数分後、糸が切れた人形のようにその襲撃者は箱の中でぶっ倒れた。

口から泡を吹き、白目を剥いて、全身を痙攣させている。

 

「「「「…………」」」」

 

俺らはただ唖然としていた。

あのミカですら驚きを隠せずに目を丸くしている。

 

そんな俺らの様子は気にもせずに、笑顔を浮かべている冬夜はもう一人の襲撃者にこう聞いた。

 

「さて、次は君だね。どうする?同じようにヘドロボックスに入りたい?それとも何でも答えてくれるのかな?あっ、中の彼を魔法で回復させてもう一回同じ事するのも面白いかもよ」

 

もう一人の襲撃者は脅えながら、話し始めた。

 

そりゃそうだ。誰だってあの中には入りたくねぇからな。

 

 

そして、俺は一つ確信した。

 

 

冬夜は人じゃねぇ。

 

 

アイツがいた世界は──

 

人ならざる者が王になった世界だ。

 

 

 




アドモス商会を出たオルガ達鉄華団を襲ったのはラスタル・エリオンの息が掛かった者達だった。
彼らから得た情報を鉄華団はどう利用するのか?

次回『殺戮の世界』

お楽しみに!


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Third World-3『殺戮の世界』

アドモス商会を出た俺達を襲撃してきた奴らの裏に居たのはやはりラスタル・エリオンだった。

 

このアドモス商会を狙ったのは偶然、ここを出てくる俺の顔を見たからだという。

 

また、テレビのニュースで聞いたこの世界での俺らの仲間らしいアイザックはアリアンロッド艦隊に捕まり、協議の末──

 

「死刑だと!?」

「うん、まだ報道はされてないけどね。死刑判決が下されたって聞いたわよ」

 

 

俺達はこの世界の状況を詳しく把握する為、捕らえたラスタルの間者からアイザックが死刑になるまでの経緯を聞いた。

 

「アイザック・フォスターとアンタ達鉄華団はガードナー夫妻の娘、悲劇の少女レイチェルを誘拐した容疑者として追われてるってワケ」

「鉄華団が誘拐なんてするはずない!だよね!オルガ!」

 

シャルがそう声を荒げる。

 

「あぁ、俺らが誘拐なんて真似する訳がねぇ!」

「うむ。オルガ団長の言う通りだ」

「うん。いい加減な事言わないで」

 

ラウラとミカも相当怒ってるみてぇだ。

 

「捕まったアイザック・フォスターも同じ事を言っていたらしいわよ。誘拐の容疑は否定してる。でも殺人の方は事実でしょ?事実、アタシとサンポの監視役だったやつがそこの白い悪魔に殺された。サンポもその箱の中で気絶しているしね」

「あはは……」

 

冬夜……笑ってる状況じゃねぇぞ。

 

ちなみに「サンポ」ってのはこいつともう一人の襲撃犯の名前らしい。冬夜のヘドロボックスの中で気絶してる男だ。

 

そして、もう一人の襲撃犯は自分の名前を「ユハナ」と名乗った。この二人は兄妹で傭兵のようだ。

それでミカが殺したのがこいつら兄妹の傭兵を監視していたラスタル配下のギャラルホルン兵士だったんだと。

まぁ、それは今どうでもいいことだがな。

 

「それで今はガードナー夫妻殺害事件の犯人がアイザック・フォスターと鉄華団じゃないかって線で捜査を進めているらしいよ」

「「「「…………」」」」

 

ユハナと名乗った襲撃犯はそう話を続けたが、レイチェルってお嬢さんの両親を殺したかどうかについては正直わからねぇとしか言いようがねぇ。

 

その両親が俺らの邪魔をしてくる奴らだったりしたら、()っちまってるって可能性はなくはない。

もしくはレイチェルを護る為に殺した……とかな。

 

「レイチェルの誘拐事件と連続殺人事件、ガードナー夫妻殺害事件の犯人として、アイザック・フォスターは死刑、アンタ達鉄華団は指名手配って流れ。これでいいでしょ」

 

とにかくこの世界の状況は理解出来た。

 

だが……まだこいつには聞かなきゃならねぇ事がある。

 

「いや、まだだ。今レイチェルとアイザックはどこにいる?」

「アタシ達は傭兵だよ?取引先を簡単に売ると思う?」

「言わないと、あなたもヘドロボックスご招待ですよ?それとも女に生まれた事を後悔するような辱しめを受けるか」

「……わ、わかった、言う!言うから!!」

 

冬夜の脅しに怯えながら、ラスタルの間者は二人の居場所を漏らした。

 

やっぱ酷ぇ奴だろ、冬夜……

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

次の日、俺とシャル、そして冬夜は街の中を散策していた。

冬夜の【ストレージ】の中に入ってる食材が少なくなってきたので買いに行くついでに外を見回る為だ。

 

俺は冬夜に【モデリング】で作ってもらった大きめなフードで顔を隠している。

 

ミカとラウラは昨日捕らえたラスタルの間者の見張りとしてアドモス商会に残してきた。

 

そして、出歩く時間も人通りが少なくなる夜を選んだ。

ちなみに昼は昨日、色々あって寝られなかった事もあり、ラスタルの間者の監視に一人、窓から外を監視する者を一人置いて、交代しながら休息を取った。

飯はもちろんシャルが作った飯だ。少ない食材にも関わらず、うめぇ飯をちゃんと食わせてくれる。すげぇよ、シャルは……。

ちゃんとラスタルの間者にも飯は食わせてやったぞ。さすがに俺は冬夜と違って鬼じゃねぇからな。

ヘドロボックスに入れられた方のやつは食べたくないって断ってたが……。

 

「向かうなら、まずはレイチェルって子がいる更正保護施設だよね。アイザックって人のいる刑務所はどうしよう?」

 

隣を歩きながら小さな声でシャルが俺にそう聞いてきた。

それに対して、冬夜もこう口を出す。

 

「刑務所も別に突破出来なくはないけどね」

「まぁ、あのラスタル・エリオンの事だ。刑務所も保護施設も厳重に警備されてるだろうしな……」

「でも刑務所は訓練を受けた警察がいて、保護施設にはただのカウンセラーがほとんどって違いはあるから」

「そうだな」

 

街を散策している理由は食材を買いに行く以外にもう一つある。

それはレイチェルとアイザックのいる保護施設と刑務所までのルートを調べる為だ。

 

「とにかく、保護施設までのルートを確認しておくか」

「うん。そうしよう」

「僕もそれで異論ないよ」

 

 

俺達三人で冬夜のスマホの地図を頼りに保護施設の方へと歩いていると、何やら声が聞こえてきた。

 

「なんなんだよ!?てめぇらはよぉ!!」

 

それは男の声だった。

 

「冬夜……!」

「分かってる!【ロングセンス】」

 

冬夜が【ロングセンス】で視覚を拡張させ、声のした方向の先の様子を見る。

 

すると、冬夜は驚いた顔でこう言った。

 

「あれは……フレイズだ!見たことない形だけど、間違いない!」

「何だと!?」

「え、えっと……フレイズって?」

「冬夜の世界の水晶の化け物だ!」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

俺達が男の声が聞こえた方までやってくると、そこには何十体もの水晶の骸骨と対峙する大きな鎌をもった包帯男がいた。

 

近くには警官の死体らしきものが辺り一面に散らばっている。

 

「うわ……何これ!?」

 

シャルがその惨状を見て絶句する。

近くに目撃者が誰もいなかったのが唯一の救いだ。

 

「【ストレージ】!【ガンモード】」

 

冬夜は【ストレージ】から銃剣ブリュンヒルドを取り出し、銃で水晶の骸骨の心臓あたりに見える赤い核を撃ち抜いた。

放った弾丸がその核を貫くと、骸骨は全身バラバラに砕け散った。

 

自らが戦っていた骸骨が目の前で急に砕け散った事で大きな鎌を持った包帯男も後ろからやって来た俺達の存在にようやく気付く。

 

「アァ?……誰だ、テメェら?……ってオルガじゃねぇか」

「俺の名前を知ってるっつーことはもしかしてお前がアイザックなのか?」

「ハァ?何言ってやがる前髪凶器。頭でもイカれたか?」

「は?」

「俺ぁザックだ!そう呼べってビルん中でも言ったはずだぞ。……あ"?言ってなかったか?チッ…!まぁいい手ェ貸せオルガァ!!」

 

ザックと名乗ったこの包帯男はそう言って鎌を構え、骸骨の群れに突っ込んでいく。

俺は少し困惑しながらもザックの後に続いた。

 

「あ……あぁ、行くぞ。シャル、冬夜」

「う、うん」

「すぐ片付けて話を聞こう!」

 

 

 




ザックと合流したオルガ達鉄華団はレイチェルを助け出す為、更正保護施設襲撃作戦を開始する!

次回『青い月の世界』

お楽しみに!


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Third World-4『青い月の世界』

水晶の骸骨をなんとか倒した俺達はザックをアドモス商会まで連れていく事にした。ザックも見掛けによらず素直に言う事を聞いてくれる。

なんだかんだでいい奴じゃねぇか……。

 

その道中、俺がこの世界のオルガ・イツカではなく異世界から来たのだとザックに説明したのだが……

 

「異世界がどーとか言われても意味わかんねぇよ。俺の頭で理解出来るわけねぇだろ。レイなら分かんだろうけどな」

 

ザックはそうぼやいた後、続けてこう言った。

 

「それよりもさっきの青い骨はなんだったんだよ?俺の鎌で切っても全然刃が立たねぇってどういうことだ?」

「僕のリヴァイヴの武装も全然効かなかった。盾殺し(シールドピアス)でやっとだったもん……」

「あれは僕が元居た世界から来た魔物でフレイズって言うんです。正確には僕の居た世界の魔物とは少し違うんですけど……」

 

そして冬夜はアドモス商会へ戻りながら、リーンが俺とミカにしてくれたのと同じ説明をシャルとザックにもした。

 

「魔法を吸収して、非常に硬い硬度を持つ水晶の魔物か~。おまけに核を壊さない限り何回も再生する……」

「……って言われてもわかんねぇよ!」

 

シャルは理解したが、ザックは理解出来なかったようだ。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

そうこうしているうちに、アドモス商会へ戻ってきた俺らはミカ、ラウラも交えて、ザックからちゃんと話を聞くことにした。

 

アドモス商会の事務所でラスタルの間者を見張っていたミカを見るなり、ザックはこう口を開く。

 

「三日月もこんなところに隠れてたのか。まぁここならレイも連れてこられるかもな」

「……さて、ザック。まず聞きてぇんだが、本当にお前がアイザック・フォスターで間違いないんだよな」

 

俺がザックにそう確認すると、ラスタルの間者の一人が口を出した。

 

「……ん?鉄華団とフォスターは一緒にビルから出てきたはずだろ?」

「うるさいな……オルガ達の声が聞こえないだろ」

「ごめんなさい、ミカさん。こいつら黙らせますね」

 

冬夜がミカに謝りながら、ラスタルの間者二人を魔法で眠らせる。

 

「これでよしっと」

「……改めて確認する。お前がアイザック・フォスターだな」

 

俺がそう言うとザックは首を傾げてこう言った。

 

「……オルガ、三日月。お前らホントどうしちまったんだ?俺は俺だ。見りゃ分かんだろ」

「だから、俺はお前の知ってるオルガ・イツカとは少し違うんだっつってんだろ」

「オルガはオルガ、三日月は三日月だろ?さっきからずっとわけわかんねぇ話ばっかしやがってよォ」

「まぁ、理解出来ないなら無理に理解しなくても大丈夫ですよ」

 

冬夜がそう言って話を一旦切り上げる。

どことなく話が噛み合ってない気もするが……とりあえず、このザックがテレビのニュースで言っていたアイザック・フォスターなのは間違いないみてぇだ。

 

 

「つーか、テメェらは誰なんだよ?そいつらがオルガがビルん中で言ってた鉄華団って組織のやつらなのか?」

 

そう言うザックに冬夜、シャル、ラウラがそれぞれ簡単な自己紹介をした後、俺達は今後の方針について話し合った。

 

その話し合いでやっと色々と分かってきた。

 

俺とミカはザックや今、更正保護施設で匿われているレイ──レイチェルと一緒にニュースで言っていたビルの地下で閉じ込められていたらしい。

 

そのビルの各階に住む殺人鬼と戦いながらなんとかビルを脱出したところをアリアンロッド艦隊に捕まったのだという。

 

そしてザックは刑務所に入れられたが、そこからも脱出。しかし、街でレイチェルを探して歩いていたところを警察に囲まれてまた刑務所に送られそうになった時、突如現れた水晶骸骨(フレイズ)に襲われたって経緯のようだ。

 

そして、これからどうするかも決まった。

 

「レイチェルってお嬢さんを今から助けに行くぞ!!」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

そして、深夜。

 

青い満月の下、俺達はレイチェルがいる更正保護施設までやってきた。

 

保護施設はアリアンロッドの武装した兵士達やモビルワーカー、モビルスーツで厳重に警備されているが、冬夜の【インビジブル】で透明化している為、難なく侵入する事が出来た。

 

「よし、今のところは順調だな」

 

俺がそう呟くと隣でシャルも頷く。

 

「そうだね。このままレイチェルさんのいる部屋を調べよう」

「じゃあ、ザック。僕の手を握ってくれる?【リコール】の魔法でザックの記憶からレイチェルさんの姿を取り出して【サーチ】するから」

「あ"?良くわかんねぇが冬夜の手ェ握ればいいのか?」

「うん」

「気持ちわりぃなァ、オメェ……ほらよ」

 

ザックが冬夜の手を握ると冬夜は呪文を唱えた。

 

「【リコール】……あった。レイチェルさんの顔はニュースでちょっと見ただけだから【サーチ】で掛かりにくいんだよなぁ……。まぁこれでレイチェルさんの姿はザックの記憶の中から取り出せたし、もういいよ」

 

ザックは冬夜の手を放す。そして冬夜は次に【サーチ】と唱え、レイチェルのいる部屋をスマートフォンの地図上に表示する。

 

カウンセリング室?誰かと話してるのか?

 

「とりあえず、レイチェルの場所は分かった。それじゃ派手に助けに行くぞ!!」

「俺はどうすればいいの、オルガ?」

「私はどうすればいいのだ、オルガ団長?」

「安心しろ。ミカとラウラの出番はちゃんと考えてある」

「僕や冬夜君と一緒だよ」

「ああ……」

 

俺は少し間を置いてから、こう言った。

 

「俺とザックがお嬢さんを助けに行く間、冬夜とミカ、シャル、ラウラは出来るだけ派手に暴れて時間を稼いでくれ!相手はアリアンロッドだ!遠慮はいらねぇ!!」

「うん。任され……た!」

「了解!」

「行こう、ラウラ!」

「うむ。この世界の奴らにISの力を見せ付けようではないか」

 

 

 

 

 

そして、ザックも誰にも聞こえない小さな声でそう呟いた。

 

「……待ってろよ、レイ。お前は俺が殺し(救っ)てやる」

 

 

 




青い月の煌めく中、彼女は今日も祈り続ける。
「私を殺して」と……

次回『冷たい記憶と空っぽの世界』

お楽しみに!


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Third World-5『冷たい記憶と空っぽの世界』

レイチェル目線です。
ただの殺戮の天使のノベライズみたいな感じになったけど、気にしないで……
(出来るだけ戦闘は書きたくないの……疲れるから……)


足りないカタチを縫い合わせたら──

 

そうしたら、それは『私のモノ』になるんだって……そう思ってた。

 

だからあの日、私を噛んだ犬を殺して縫い合わせて『私のモノ』にした。

 

だから、お母さんを殺したお父さんも私が殺して、死んだお母さんと縫い合わせて『私のモノ』にした。

 

だから、連れていかれた保護施設の小動物も全部殺して縫い合わせて『私のモノ』にした。

 

 

だからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだから…………

 

 

だから……私の過去を知ったザックやオルガ、三日月達──鉄華団も『私のモノ』にするために殺そうとした。

 

でも、それは違うって三日月が言ってくれた。

 

そんな考え方だった私をザックが殺してくれた。

 

過去は変えられなくても未来は変えられるってオルガが教えてくれた。

 

 

だから、私はあのビルから外に出た後も鉄華団の誓い──止まらない誓いを忘れずに今を精一杯過ごしている。

 

もう何日も寝ていない。捕まったっていうザックやオルガ、三日月が心配で眠れないけど鉄華団なら、きっと──

 

 


 

 

「じゃあ、今日はここまでにしましょうか」

 

私のカウンセリングをしてくれる女のカウンセラーさんがいつもの台詞で話を切り上げて、席を立つ。

 

「ごめんなさいね。カウンセリングが長引いた子がいて、今日は来るのが遅くなってしまったわね」

「いいえ」

 

今日はいつもよりもカウンセリングの時間が遅かった。

どうせ今夜も眠れないし、この場所でする事も制限されているから別にいいのだけど……。

 

「部屋まで一緒に行きましょう」

 

部屋には一人で戻れるから、私はついてこなくてもいいって最初の頃はいつも言っていたのだけど、何度言ってもついてくるのでもう諦めた。

 

私は小さく首を縦に振る。

 

「はい」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

カウンセラーさんと二人で部屋までの道──冷たい廊下を歩いている時、何か物音がした気がして、私は一瞬立ち止まる。

 

「レイチェル、どうしたの?」

 

カウンセラーさんは気付かなかったのかな?まぁ、いいや。

 

「……いえ、何も」

「……そう、ならいいの」

「……ええ」

 

しかし、私もカウンセラーさんも再び歩き出す事はしなかった。

 

私はカウンセラーさんが振り向いて歩き出したら歩くつもりでいたのだけれど、カウンセラーさんは私の目をジッと見つめてから、こう言った。

 

「……レイチェル、もしかして怖いのかしら……?」

「…………え」

 

怖い?……何が?

 

カウンセラーさんが何のことを言っているのか分からず、その場で立ち尽くしていると、彼女はこう話し始めた。

 

「あなたはここに来てからずいぶんと良くなったわ」

 

あのビルを出てから、もう一ヶ月くらい経つのかな?

ここに来てからは二週間くらい?

いつから寝てないんだっけ?

最初の頃は「ザックに会わせて!鉄華団の皆に会わせて!」って泣いて喚いて……その後、疲れて眠っていたけれど、途中からはそれも疲れて寝るのも億劫(おっくう)になった。

 

「……あなたとともにいた人達。あの殺人鬼と武装集団のことばかり気にしていた頃とは違う」

 

確か、眠れなくなって三日目くらいにザックやオルガ、三日月の幻を見たの。

「止まるんじゃねぇぞ……」って言われた。その時、誓いも思い出したんだ。

 

その様子からカウンセラーさんは私が良くなったって感じ取ったのかな?

良くわからないけど……

 

 

「……だから、そんなあなたを安心させるために教えてあげる」

「……?」

 

何を?

 

 

「……本当はいけないのだけど」

 

 

……何か胸騒ぎがする。

 

 

「あ の 殺 人 鬼 は 」

 

 

ザックのこと……?

 

 

「──死刑が決まったのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………そう」

 

 

私は静かに呟いた。

 

 

「……そうですか」

「……ええ、驚いたでしょうけど、これで今夜も安心して眠れると思うの」

「……はい」

「……じゃあ行きましょうね」

 

彼女は歩き出した。

私も歩き出した。

 

そして、部屋に辿り着いた。

 

「おとなしくおやすみなさい。いいわね?」

 

 

ガチャン

 

 

部屋の扉は閉められた。

 

「…………」

 

部屋に入った私はまっすぐに机に向かい、引き出しを開く。

 

「……今夜も眠れないはずだった」

 

その引き出しからザックからもらったナイフを取り出して、電気を消して、ベッドに入る。

 

「……でも、もう目を閉じるしか、なくなったんだ」

 

 

おやすみなさい……

 

 

眠ろうと目を瞑ったその時──

 

ドン

 

ドン

 

ドン

 

「この音……窓から?」

 

ドン

 

ドン

 

「なんの音なの!?レイチェル!!」

 

扉の方からカウンセラーさんの声が聞こえてくる。この音は施設の人じゃないみたい。…………だったら……っ!

 

ドン

 

ドン

 

窓を叩く音を聞きながら、私は部屋の扉の前に物を集めて置く。扉が開かないように。

 

「レイチェル!?開けなさい!!」

 

ドン

 

ドン

 

私は窓のカーテンを開く。梨地のガラスの窓だから人っぽい影しか見えない。

でも……やっぱり……っ!!

 

ドン

 

ドン

 

窓を叩く音はどんどん大きくなっていく。

 

「レ、レイチェル!?何が起きているの!?……た、大変!警察……いや、ギャラルホルン……!ラスタル様を呼ばないと……!!」

 

ドン

 

ドン

 

そして──

 

「よけろ」

 

彼は一言そう言った。

 

「……!」

 

私が慌てて、窓から離れると……

 

ドン

 

青い満月の光に照らされて、彼は私の目の前に再び現れた。

 

「……よぉ」

「…………ザック?」

 

そう、ザックだった。

 

ザックは私の顔を見るなり、ため息をついてこう口を開く。

 

「あーあ、お前、またつまんねぇ顔してやがんなぁ」

「……ザック、どうして……?」

「あ?なにがだよ」

「だって……刑務所にいるんじゃ?」

「……んなもん、出てきてやったに決まってんだろ!?」

「……でも、私、あの時……誓いを……背負って、持っていくって……」

「……それがどうしたんだよ。つーか、勝手に持っていこうとしてんじゃねぇよ!」

「……ザック……じゃあ、まだ……」

 

私はこう言葉を続ける。

 

「私のこと……殺したいって思ってくれてる?」

 

するとザックはこう言った。

 

「俺だぞ……?」

 

そのザックの言葉に私の心の中の青い月は再び輝きを取り戻す。

 

「俺が、俺の欲しいもん、逃がすわけねぇだろ!?」

「…………っ!」

 

その時、窓の外からオルガの声も聞こえてきた。

 

「早くしろ!ザック!!油売ってる時間はねぇ……!」

「わかってるっつーの!」

 

良かった。オルガもいる。オルガがいるなら三日月もいるはず……!

 

「……それともお前は、忘れちまったのか?」

「……っ!」

 

ザックの言葉に私は心を打たれた。

 

「ううん、ザック……忘れてない!忘れてなんかない!!」

 

忘れるはずがない……!

 

「だって、誓ったもの……!」

 

そう、誓ったから……。

 

「オルガと三日月とザックと私、四人で誓ったもの!!」

「……おう」

 

すると、扉の方からまた女性カウンセラーの声が聞こえてきた。

 

「はやく!こっちよ!!……って、ラスタル様はどうしたのよ!?ラスタル様も呼んでって言ったじゃない!!」

 

もう彼女はどうでもいい。

 

私にはザックがいる。

 

私には、鉄華団のみんながいる!

 

「来い!レイ!」

 

ザックが手を伸ばす。

 

「うん……っ!うん!」

 

私はもちろん、その手をとった。

 

「ねぇ、ザック……」

 

私はザックにこう願った。

 

「……私を、殺して……」

「……だったら、泣いてねぇで笑えよ」

 

 

 

 




レイチェルを助け出したザックとオルガ達。しかしアドモス商会に戻ってきた途端、レイチェルは突然倒れてしまう。

次回『約束の世界』

お楽しみに!


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Third World-6『約束の世界』

ザックが保護施設からレイチェルを助け出した後、俺達は冬夜の【ゲート】でアドモス商会まで戻ってきた。

 

「レイ!ここまでこればもう安心だ」

 

ザックがレイチェルにそう言葉を掛けたその瞬間、急にレイチェルがその場に崩れ落ちた。

 

「ザック……私をこ…ろ……

 

バタッ!

 

「お、おい!?お嬢さん!?」

「大丈夫!?レイチェルちゃん!」

「レイ!?おい、レイ!!しっかりしろ!」

 

俺とシャル、ザックが心配して倒れたレイチェルに駆け寄る。

 

「オルガ団長、シャルロット、それに貴様も安心しろ」

「大丈夫。寝てるだけだよ」

 

しかし、ラウラとミカは冷静にレイチェルの容態を確認してそう言った。

 

なんだよ……寝てるだけかよ……。

 

「保護施設にいる間、寝られなかったんだろうね。体の中の魔力量……生命力っていうのかな?それが極端に少ない。まぁ……でも数日寝れば十分回復すると思うよ。一応、回復魔法掛けておくね」

 

冬夜もそう言ってレイチェルに回復魔法を掛けてくれた。

 

みんな、サンキューな。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

レイチェルが倒れて数日後──

 

『レイチェル・ガードナーが保護されていた施設を襲撃し、彼女を誘拐した容疑に掛けられている鉄華団とアイザック・フォスターの行方は依然不明。艦隊司令部は「ギャラルホルンのアリアンロッド主力艦隊が現在その鎮圧に当たっている」と語るのみでそれ以上のコメントは上げていません。この対応に民衆の不安も高まっている様子です』

 

俺達はまだこの世界に留まっていた。

 

「ねぇ、オルガ。いつ次の世界に行くの?」

 

テレビのニュースを見ながら、ミカが俺にそう質問する。

 

「あぁ……それはな……」

 

俺が言い淀んでいると、冬夜とラウラが横から声を掛けてきた。

 

「いつ見つかるかも分からないし、早く別の世界に旅立ちたいのは山々なんだけどね」

「あの、レイチェルって少女をこのまま説明もなしに連れていくのはまずいだろう」

「そっか」

 

テレビのニュースを見る限り、アリアンロッドはまだこのアドモス商会を嗅ぎ付けてはいないようだが、いつまでも隠れ続けるって訳にもいかねぇしな……。

 

ちなみに今、シャルは夕飯の準備をしていて、ザックはずっとレイチェルの側から離れない。

 

冬夜はストックなんちゃら症候群とか意味わかんねぇ事言ってたが、まぁザックからしたらレイチェルがたった一人の家族みたいなモンなんだろうな。俺もミカやシャルが倒れて何日も目ぇ覚まさなかったら……

 

「はい!みんな出来たよ~」

 

などと俺が色々考えている間にシャルの料理が出来たみてぇだ。

 

「おお、今日はカレーなんですね!」

「うん!冬夜君も買い出し一緒にしてくれてありがとね。やっぱ【ゲート】は便利でいいね」

 

俺とミカ、ザックは顔が割れてて外に出られないので料理に使う食材の買い出しは【ゲート】の使える冬夜と実際料理をするシャルの二人に行ってもらっている。

 

少し妬きもきするが、まぁ仕方ない。

 

……ん?なんで俺は嫉妬してるんだ?

 

少し疑問に思った俺だったが、シャルにこう声を掛けられてすぐに考えから抜け出す。

 

「ねぇ、オルガ。アイザックさんにも持っていった方がいいよね」

「そうだな。呼んでも客室から降りてこねぇし、仕方ねぇ。俺が持ってく」

「僕が行くよ」

「いや、大丈夫だ。シャルが料理作ってくれてた間、俺は何もしてなかったからな。少しは仕事させてくれ」

「料理は僕の担当なんだから、アイザックさんにも僕が持ってくよ。オルガはゆっくり食べてて」

「でもなぁ」

「でも……」

 

最近わかってきた事だが、少しシャルは頑固な一面がある。

こっからは俺の仕事だって言ってんのに、自分が料理を持っていこうとして譲らねぇ……

そんな俺とシャルの様子を見て、ミカと冬夜とラウラが口を揃えてこう言った。

 

「なら、二人で行けば?」

「なら、二人で行けばいいんじゃない?」

「なら、二人で行けば良いではないか?」

 

…………。

 

「そうだな」

「……そう、だね」

 

はにかんで笑うシャルはすごく可愛かった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「……もう起きて大丈夫なのかよ、レイ」

「うん……」

「そうかよ……」

 

俺とシャルが二階の客室までカレーを持っていこうと階段を上っている途中、ザックとレイチェルの話している声が聞こえてきた。

 

「お嬢さん、起きたのか!」

「待って、オルガ」

 

部屋に入っていこうとした俺の袖をシャルが掴む。

 

「ん?どうした、シャル?」

「ちょっと、このまま……」

 

最初ピンと来てなかった俺だったが、シャルに言われてすぐ理解した。

 

ここは二人きりで話させた方がいいかもな。

 

 

「ねぇ、ザック。寝ている間に私を殺そうとはしなかったの?」

「あ?テメェは寝てる時に殺されてぇのかよ?」

「……やだ」

「ったく、んなわかりきったこと聞いてくんじゃねぇよ」

 

少しの沈黙。その後再びレイチェルが口を開く。

 

「ねぇ、ザック。私起きたよ?」

「あ"?……そうだな」

「ビルからも出たよ?」

「……あァ」

「約束、忘れてないって言ったよね?」

「…………」

 

その二人の会話を聞きながら、隣のシャルが小さな声でこう呟いた。

 

「約束か……」

「ん?どうした、シャル?」

「あ、ううん。なんでもない。アイザックさんとレイチェルちゃんの約束ってなんだろうね?」

「そうだな……」

 

少しシャルの様子が気になったが、無理に聞くのはやめた方がいいだろう。

 

再び二人の会話に耳を傾ける俺とシャルだったが、次のレイチェルの言葉に驚愕する。

 

「ザック……私を殺して?」

 

「……っ!?」

「……え?レイチェルちゃんはアイザックさんに殺してほしいってこと?じゃあさっきの約束っていうのは……」

 

シャルが小さく呟きながら考え込む。

俺は驚きながらも二人の会話に耳を傾け続けた。

そんな俺らには気付かない様子のザックはレイチェルにこう言う。

 

「……だったらちったぁイイ顔してみろってんだ」

「うん」

 

そう頷いてレイチェルは笑顔を作ろうとするが……どこかぎこちない。

 

「お前、笑うのヘタクソなんだよ」

「でも、ビルを出たら殺してくれるって言った!誓った!!」

「だから……ビルを出た時、お前がイイ顔してたら殺すっつったろ!」

「ザック、嘘は嫌いって言った!」

「んだよ!嘘は別についてねぇだろ!」

 

なにやら言い争いになってきたので、俺は二人の前に出ていく。

シャルがもしかしたら止めるかとも思ったが、彼女は顎に指を当てながら考え込んだままだった。

 

今来たように装って俺は部屋に入りながら、ザックとレイチェルに声を掛ける。

 

「おい二人とも、何言い争ってんだ?そんだけ元気ならもうお嬢さんも大丈夫だな」

「オルガ、邪魔」

 

いきなりレイチェルにそう言われた。

ひでぇじゃねぇか……

 

「私はザックと話してたの」

「こっちもお嬢さんに話があるんだよ」

「オルガと三日月が私達の知ってるオルガ達とはどっか違うのはなんとなくわかるよ」

「は?」

 

分かんのか?すげぇな、お嬢さん……

 

その時、俺の後ろからシャルが部屋に入ってきた。

何やら考えていたが、答えはまとまったようだ。

 

「はい。アイザックさん、レイチェルちゃん!今日の夕飯のカレーだよ。とりあえずこれ食べながら話をするくらいはいいんじゃない?」

 

シャルが持ってきたカレーを二人に渡しながらそう言うとレイチェルは首を傾げてこう質問した。

 

「……あなたは?」

「私はシャルロット・デュノア。鉄華団の一員で……炊事担当、かな」

 

 

 




オルガや三日月、シャルロットやラウラとはまた違う親無き子──レイチェル。あらゆる事情を抱える孤児達(オルフェンズ)は世界の旅の果てに何を望むのか?

次回『孤児達(オルフェンズ)の世界』

お楽しみに!


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Third World-7『孤児達(オルフェンズ)の世界』

冬夜の祖父は暴力団と関係を持ってて
シャルは妾の子
ラウラはドイツの遺伝子強化素体(アドヴァンスド)
ザックとレイは自分で親を殺した

……みんななんだかんだでヤバい過去持ってるな

殺オル編最終回はシャル目線です!



レイチェルちゃんとアイザックさんに二階の客間から降りてきてもらって、リビング代わりの事務所スペースで皆と一緒にカレーを食べる。

 

その夕飯の最中、オルガと冬夜君がレイチェルちゃんとアイザックさんに今までの経緯とか諸々を説明してるんだけど……

 

「異世界……?」

 

レイチェルちゃんは正直ピンと来てないみたい。

 

「レイがわかんねぇんじゃ、俺がわかるわけねぇなァ」

「貴様はなぜそうも自信ありげなのだ?」

 

ラウラのツッコミも最もだと思う。

 

そんな中、三日月君が冬夜君にこう質問をした。

 

「ねぇ、冬夜。レイチェルを探す時、冬夜がザックに使った記憶を取り出す魔法でオルガ達の記憶をレイチェルに見せる事は出来ないの?」

 

冬夜君がアイザックさんに使った記憶を取り出す魔法……?

 

そういえば──

 

 

『じゃあ、ザック。僕の手を握ってくれる?【リコール】の魔法でザックの記憶からレイチェルさんの姿を取り出して【サーチ】するから』

『あ"?良くわかんねぇが冬夜の手ェ握ればいいのか?』

 

 

僕はレイチェルちゃんを助ける為、保護施設を襲撃した時の事を思い出した。

 

「そうだよ!確か【リコール】って魔法の……!」

 

僕がそう言うと、冬夜君は少し逡巡してからこう口を開く。

 

「試した事ないけど……出来るかも」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「じゃあ、オルガ。レイチェルさん。行くよ」

「あぁ、頼む」

「……うん」

 

冬夜君が右手をオルガの左手と左手をレイチェルちゃんの右手と繋ぎ、呪文を唱える。

 

「【リコール】」

 

すると、オルガとレイチェルちゃんは……

 

「……これはっ!?」

「……っ!?」

 

そう言って冬夜君と繋いでない方の手で頭を抱えた。

 

「オルガっ!?」

「オルガ、大丈夫!?」

「大丈夫か、レイ!?」

 

三日月君と僕がオルガをアイザックさんがレイチェルちゃんを心配する。

 

「こんくらい……なんてこたぁねぇ……!」

「うん……ちょっと頭がズキズキするけど……」

 

少し頭に痛みがあるけど大丈夫みたい。

僕がホッと胸を撫で下ろしていると、ラウラがこう聞いた。

 

「……で、どうなのだ?お互いの記憶は見えたのか?」

「あぁ……うっすらとだが、俺とミカがザックやレイチェルと一緒に炎の中で階段を駆け上がってんのが見えた」

「ビルから脱出する時だなァ」

「私もオルガと三日月が他の色んな男の人達といるのが見えたよ。……赤い船の中かな?」

「イサリビだね」

 

アイザックさんや三日月君の反応からも察するにどうやら本当に見えるらしい。

 

「じゃあ、冬夜君!次は僕もオルガの記憶見たい!」

「私もミカの記憶には興味があるぞ!」

「分かりました。じゃあ次はオルガとシャルロットさんでいいかな?」

「あっ!あと、レイチェルちゃんの記憶も覗いていいかな?」

「……?別にいいです……けど」

 

 

そして、僕達はお互いの記憶を冬夜君の【リコール】を介して共有した。

 

確かにオルガやレイチェルちゃんの記憶が僕の中に入ってくる時、頭に少し痛みを感じたけれど、我慢出来ないほどじゃなかった。

 

オルガの記憶は聞いていた通りだったけど、僕が気になったのはレイチェルちゃんの記憶……

 

「本当にみんな、異世界から来た人達なんですね」

 

そう感想を漏らすレイチェルちゃんに僕はこう声を掛けた。

 

「ねぇ、レイチェルちゃん。ちょっとお話しない?」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「それで、シャルロットさん。お話って何ですか?」

 

僕の部屋(ラウラと共同で使ってるんだけど)に入って、すぐレイチェルちゃんがそう聞いてきた。

 

「うん。あのね……」

 

僕は彼女にこう質問する。

 

「レイチェルちゃんはアイザックさんに殺してほしいの?」

 

すると、レイチェルちゃんは青い瞳で僕をジッと見つめた後、静かにこう頷いた。

 

「……はい」

「レイチェルちゃんが殺されたいって思ったのは自分が両親を殺した罰を受ける為……であってるのかな?」

「…………」

 

無言になったけれど、小さく首を縦に振った。僕の勘はあってたみたい。

 

数秒間、無言の時間が続いたけれど、少し経つとレイチェルちゃんはゆっくりと語り始めた。

 

自分が「殺されたい」と願った理由を……

 

 

「まずお父さんがお母さんを殺してるところを見ちゃって……それで次は私が殺されそうになったから……お母さんが隠してた銃を使ってお父さんを殺したんです。その時は何も感じなかったけど、後で聖書を読んだ時に「殺しは悪い事」だって知ったから……聖書には「悪い事をした人間は死んで罪を償わなきゃいけない」って書いてあって……それでザックが私を殺してくれるって誓ってくれて…………」

「……そっか」

 

少し言い淀む事があったけど、表情はあまり動かず淡々とした口調だった。

もしかしたら、レイチェルちゃんにとっては思い出したくない過去だったのかもしれない。悪い事聞いちゃったかな……。

 

僕がさっき冬夜君の【リコール】を通して見たレイチェルちゃんの記憶はオルガ達と出会ってからどうやってビルを出たのかをほんの数秒間ダイジェストで見せられたみたいな感じだったから、レイチェルちゃんの過去は今聞かされて初めて知ったモノだ。

 

「…………」

「…………」

 

数秒間、静寂が部屋を包む。

 

そして、僕はゆっくりとレイチェルちゃんに語り始める。

 

僕の両親の話を……。

 

「……レイチェルちゃん。僕はね。妾の子なんだ……」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「……そう、なんですか」

 

僕の両親の話を聞いたレイチェルちゃんは静かに一言、そう呟いた。

 

「でも、私のお父さんとお母さん以外にも……えっと……色んな家庭…があるのは分かってます。シャルロットさんのお父さんとお母さんのお話は私と関係あるんですか?」

「え……その……」

 

僕は色んな家庭の事情があるから、自分だけが不幸じゃないんだって教えたかったんだけど……

 

「えっと……ね。レイチェルちゃんはまだ13歳だし、これから色んな事を知ってくと思うの。だからね……死ぬのはまだ早いんじゃないかって……」

「……?」

 

レイチェルちゃんが死にたがってるのを何とかしたいと僕は思ってるんだけど……

レイチェルちゃんはただ首を傾げるのみである。

 

僕が頭を抱えていると部屋にラウラが入ってきて、こう言った。

 

「レイチェルは死にたいのだろう。なら一人で死ねば良いではないか」

「ちょっ……!?ラウラ!?」

「自殺はダメなの」

「何故だ?」

「神様が……そうおっしゃったから?」

「私に聞かれても知らん」

 

聖書に書いてあったから

神様が仰ったから

 

レイチェルちゃんの宗教観念はどこか歪だ。オルガや三日月君と同じようにレイチェルちゃんも勉学というモノに一切触れずに育ったのだろう。

 

妾の子であれど、ちゃんと義務教育を終えた僕や軍で教養を受けたラウラとはまた違う孤児(オルフェン)

 

そんな彼女にどう言葉を掛けていいのか分からなくなってしまった僕だったが、ラウラは呆れたようにこう口を開いた。

 

「ふん、お前も彼奴(アイザック)も私には全く持って理解しがたい。死ぬ理由だの殺す条件だの……そんなモノ気にする必要なとないではないか」

「あなたにとってはそうかもしれないけど!ザックと私にとっては重要なのっ!」

「そもそも、この世界から別の異世界へ行って二度と同じ世界に戻ってこないのであれば、もはやその世界では死んだも同然ではないか」

「……え?」

 

レイチェルちゃんは鳩が豆鉄砲を食らったみたいに驚いて目を見開いた。

 

「まぁ、オルガ団長やミカは元の世界に戻りたいらしいがな。私の居場所はミカの側だ。それだけ分かっていればいい」

 

ラウラのこういうところは素直に感心する……。なんだかんだで優しいところあるんだよね。

 

「お前も自分がどうしたいかは自分で決めるんだな。神とやらに聞いても答えは出んぞ」

 

そう言ってラウラは部屋を出ていった。

 

きっとラウラはずっと僕とレイチェルちゃんの話を部屋の外から聞いていたのだろう。

 

僕のやりたい事を察してくれて、困った時に助けてくれたんだ。

 

…………ありがとう、ラウラ。

 

 

そして、レイチェルちゃんも自分の中で一つの答えが出たみたい。

 

「シャルロットさん。私とザックもオルガ達の旅について行ってもいいですか?」

「うん!もちろん!」

 

僕はレイチェルちゃんの手を握る。

 

「これからよろしくね!レイチェルちゃん!」

 

 




辿り着く場所を求めて進むその裏に、常に、否応なく存在するもう一つの道。
とどまることのできぬのが、時の車と言うのなら、いま再び、ここから始まる未来とは?

次回『幕間 ~螺旋の邂逅~』

お楽しみに!



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幕間 ~螺旋の邂逅~

※鉄華団は出てきません。
※インフィニットオルフェンズ2ノベライズのネタバレが少しあります。

とりあえず現状のストックが減ってきたので次回以降はまた日を改めて投稿する予定です。
少し期間が空きますが、それまでお待ちいただけると幸いです



レイチェルがオルガ達の旅についていく事を決意した日の夜──

 

青い月の光が射し込む夜空で二機のISが激しくぶつかり合っていた。

 

「君を彼らの元に辿り着かせる訳にはいかない。君の相手は私がしよう」

「その剣技、その戦い方、また君か!こんな異世界まで追ってきて、厄介なやつだよ、君も」

 

一機は深紅の装甲と兎の耳のような二本のアンテナが特徴的なIS

両腕のシールドから剣を展開し、敵機目掛けて接近を試みる。

 

対するもう一機はパールグレーの機体色で単眼(モノアイ)式の頭部メインカメラを持つトサカ頭が特徴的なIS

背中の大きなスラスターも特徴的であると言えよう。

右手に持つ銃から()()()を放ち、敵機の接近を防いでいた。

 

両機とも全身装甲(フルスキン)のISで中の操縦者は見えないが、声から察するに男だろう。

 

ISの世界で確認されていた男のIS操縦者は計五人、その内二人はオルガ達がISの世界を訪れた為、世界から消え……

 

残った三人は

織斑一夏

マクギリス・ファリド

ラウ・ル・クルーゼ

 

織斑一夏がISの世界から異世界へ旅立ったという情報はない。

この異世界に他の男性IS操縦者がいるという可能性もないことはないが、その確率は限りなくゼロに近いだろう。

 

その為、二人とも機体は変わっていても中の操縦者はお互いに察する事が出来た。

 

「やはり亡国機業(ファントムタスク)のラウ・ル・クルーゼだな。あのBT兵器が無くとも、簡単に接近はさせてくれないようだ」

「そう言う君はIS学園のマクギリス・ファリドだろう?あの白いIS──バエルだったか?あれはどうしたのだ?」

「今の私はモンタークだ。マクギリスではないよ」

「ほう……」

 

一先ず、接近を諦めたモンタークのIS『グリムゲルデ』は両腕のヴァルキュリアブレードをシールドの裏側にマウントし、拡張領域(バススロット)からヴァルキュリアライフルを呼び出(コール)し、発砲。

 

クルーゼのIS『ゲイツ』はその銃弾を左腕の盾で防ぎつつ、右手に持つビームライフルで応戦する。

 

「その機体には射撃武器もあるのか。良い機体だな、()()()()()()()()

「その言葉……アグニカ・カイエルへの侮辱と捉えるぞ!下衆めっ!!」

 

クルーゼの煽りに対して激情したモンタークは再びヴァルキュリアブレードを展開し、瞬時加速(イグニッションブースト)

一気にゲイツへと迫る。

 

しかし、無論それは罠であった。

 

「今だ、ユラ」

 

クルーゼが小さくそう呟くと、何もなかったはずの夜空が急に歪曲し、四方の異空間から水晶の触手が伸びてくる。

 

その四つの水晶の触手によってグリムゲルデは拘束されてしまった。

 

「……っ!?もしやこれは束の言っていた…フレイズか?」

「その通りだ。マクギリス・ファリド……いや、モンターク」

 

そして、モンタークの目の前の空がまた歪曲し、そこに現れた異空間から一人の男が出てくる。

 

その男は全身が水晶で出来ているフレイズの現王。ユラであった。

彼とともに、モンタークのグリムゲルデを拘束した触手が伸びてきた四方の異空間からもそれぞれ触手を伸ばしたフレイズが現れる。

 

「あのシノノノタバネとかいう人間の女……どこまで多元世界について知っているのだ?もしやあの女もエンデュミオンと同じ『渡る者』……『シフトウォーカー』なのか?」

 

四匹の巨大なフレイズ──上級種を引き連れたユラはモンタークにそう尋ねるが……

 

「私に聞かれても知らんな」

 

モンタークはこう答えるのみであった。

 

ユラは数秒間、グリムゲルデをジッと睨みつけた後、ため息をついてこう言った。

 

「……どうやら、本当に知らないようだ」

「分かるのか。ユラ?」

「我々、フレイズは共鳴音……人の心の音を聴く事が出来るのだ。彼の音は嘘をついてる者の音ではない」

「ふむ……。やはりどの世界でも人は所詮、己の知る事しか知らぬという訳だな」

 

クルーゼとユラが話している間、モンタークはこの場にフレイズが現れた事について動揺していた。

 

(フレイズと亡国機業(ファントムタスク)が手を組んだのか?……いや、違うな。おそらくラウ・ル・クルーゼ自身がフレイズと手を組んだのだ。亡国機業(ファントムタスク)の目的とフレイズの目的はおそらく合致しないはず……)

 

「……あぁ、君の想像のとおりだよ。我々フレイズは亡国機業(ファントムタスク)と手を組んだわけではない」

「……っ!?」

 

(何故、心の声が……!?)

 

「何故だと?先ほど言ったではないか。我々フレイズは人の心の音が聴こえるとな」

「マクギリス・ファリド……いやモンターク。彼らを甘く見ない方がいい。フレイズは結果だよ。だから知る!この多元世界は自ら育てた闇に喰われて滅ぶのだ。そして私にはあるのだよ!この多元世界でただ一人、全ての世界を滅ぼす権利がな!!」

 

クルーゼが能弁に語る。

 

それほどに彼の心は憎悪に満ち溢れているのだろう。

モンタークは以前、ISの世界でキラ・ヤマトから聞いた忠告を思い出した。

 

『気を付けて。あの人は…僕のいた世界での…色々な、良くない部分を、一番見てきた人です。……だから強い。もしあの憎悪が、この世界にも向けられるなら、それは止めないといけない』

 

その憎悪がISの世界だけではなく、全ての世界に向けられてしまったという事だ。

 

そこまで思考してモンタークは一つ、疑問を浮かべる。

 

「……ならば、君は何故、フレイズとともにISの世界を滅ぼさなかった?亡国機業(ファントムタスク)と袂を別ち、そうする事も出来たはずだ」

「…………」

 

クルーゼは何も言わない。

 

しかし、その隣でユラは笑みを浮かべていた。

 

一体、彼らは何を企んでいるのだろうか?

 

「……君が何を望もうが、願おうが、もう無意味だ。どう足掻いたとて、君はここで死に絶える運命(さだめ)なのだからな」

 

クルーゼは一言そう言って、ゲイツの左腕の盾に内蔵された2連装ビームクローを展開させ、それをフレイズに拘束されたグリムゲルデへと振り下ろす。

 

その時だった──

 

《それでも僕は……!》

 

突如現れた閃光に遮られ、ゲイツは後方へと退く。

その閃光はまるで神の炎。

 

「……っ!?」

 

ゲイツが避けた炎の光はそのまま一匹のフレイズの上級種へと向かい、光を浴びたフレイズの上級種はそれに飲み込まれ、四散した。

 

「何っ!?上級種を一撃で葬るだとぉ!?」

「あの機体は……!?」

 

ユラとモンタークはその光の出所である地上に立つ白き機体を見る。

 

その機体には赤いバックアップや緑の砲台、青い刀剣がこれでもかと取り付けられていた。機動力の低下や取り回しの重さなどは考えられていない。重武装の機体。

 

「……ストライク。ムウ…いや君か、キラ・ヤマト」

 

パーフェクトストライク。『エール』『ソード』『ランチャー』の各種ストライカーパックの特性を全て併せ持つマルチプルストライカーを装備したストライクの姿。

かつて煌めく雲海で三日月のバルバトスルプスと激しい戦闘を繰り広げた無人ISと同じものである。

先ほどの炎の光は左腕に抱えた320mm超高インパルス砲『アグニ』だ。

 

 

そして、そのストライクから拡声器越しに彼の声が聞こえてきた。

 

《種を植えるだけじゃない。多くの花が咲き続ける世界を僕らが護っていくんだ!》

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

パーフェクトストライクが右手に持つ対艦刀『シュベルトゲベール』でグリムゲルデを拘束するフレイズの触手を全て叩き斬ると、モンタークはすぐさまクルーゼとユラから離れて態勢を立て直す。

 

「すまない、キラ君。助かった」

《いえ、束さんにはマク…モンタークさんをサポートするようにと言われているので》

 

ちなみにこのパーフェクトストライクは束から借り受けたキラ専用の移動式ラボの中から遠隔操作している。

そして、この移動式ラボは異世界間の移動も可能とするのだ。

 

どういう原理で異世界間の移動を可能にしたのかは束しか知り得ない情報である。

 

キラの操るパーフェクトストライクはクルーゼのゲイツへ向けて、アグニを掃射。ゲイツはそれを避けるが、その隙をついて接近し、シュベルトゲベールで斬りかかる。

 

《やはり、貴方は世界を滅ぼそうというんですか!?》

 

パーフェクトストライクのシュベルトゲベールを盾で防ぎながら、クルーゼはキラの問いにこう答えた。

 

「私達の居た世界も、織斑一夏の居たあの世界もやはり人は戦いを求める。引き金を引く指しか持たぬ。だから滅ぶ。世界は!人は!滅ぶべくしてな!!」

《それは貴方の理屈だと!》

 

キラはそう叫びながら、シュベルトゲベールを手放し、次はビームサーベルを抜いて、再度斬りかかる。

 

《そう言ったはずだぁぁ!!》

「くっ……!」

 

ゲイツはパーフェクトストライクのビームサーベルをすんでのところで避け、距離を取ろうとする。

 

《確かに人はどれだけ花を咲かせても、また吹き飛ばしてしまうのかもしれない》

 

しかし、そのクルーゼの判断は悪手だった。

 

《それでも、人はまた花を植える!そして、僕らがそんな世界を護るんだ!》

 

キラはそう決意の叫びを上げながら、距離を取ろうとするゲイツへ正確にアグニを向けて、その光を放つ。

 

何とか上昇して避けようと試みたクルーゼだったが、ゲイツの左足はアグニの光で溶けて消えてしまった。

 

「……撤退だ、ユラ」

 

クルーゼは左手を剣の形に変え、モンタークのグリムゲルデと斬りあっているユラへとそう言った。

 

「確かに、これ以上戦闘を続ければ我々は不利か」

 

ユラは一度、グリムゲルデの目の前から姿を消し、瞬間移動のごとくクルーゼのゲイツの隣へすぐさま移動する。

 

「まもなく最後の扉が開く!…私が開く!そして世界は終わる!全ての世界が!」

「我々…いや私がメル様を取り込めば、全ての世界を滅ぼす力が手に入る!そうなれば、我々の勝ちだ!」

「もう誰にも止められはしないさ!この多元世界を覆う、憎しみの渦はな!」

 

そう言葉を残して、ユラとクルーゼは異空間へと消えていった。

 

「ありがとう、キラ君。助けてもらった件、もう一度礼を言わせてもらうよ」

「いえ、あの人とはやっぱり……僕が決着をつけないといけないかも知れません」

「君のISは……?」

「残念ながらまだです」

「ならば、君はそのISの調整を急いだ方がいい」

「そうさせて頂きます。オルガさんと三日月さんについては……」

「わかっているよ。鉄華団とは早急に合流した方が良さそうだ」

 

そう言ってモンタークもまた異世界へと旅立つ。

 

 


 

 

「ふむ。レイチェル・ガードナーは見失ったか」

「はい。申し訳ございません。ラスタル様」

「やはり、私も捜索に出るべきだったのだ!」

「イオク様は黙っていて下さい」

「なんだと!?」

「ということはもう鉄華団はこの世界から旅立ったのかもしれんな」

「その……ラスタル様の意見を否定する訳ではないのですが、その異世界…こことは異なる世界など本当にあるのでしょうか?」

「私は反対です!あのような人外の異生物と手を組むなど!」

「イオク様と意見を同じくするのは癪ですが…私もそう思います。それにあの仮面の男も信用出来ません」

「しかし、本当にあのユラという者が人外の異生物であるならばやはり異世界でもないと説明がつかん。そして、仮面の彼の言う事にも一理ある」

「…………」

「それは……」

「それに私は見てみたいのだよ。もし本当に異世界があるなら、そこはどんな世界なのか、とな」

 

そして、彼らもまた導かれる。

 

 




誕生日──それは孤児達にとってあまりいい思い出が少ないものだった。オルガや三日月は自分の生まれた日すら知らない。しかし、仲間とともに、家族とともに過ごす誕生日は戦う彼らに安らぎと平穏を与える。

次回『外伝 ~???の誕生日~』

6月10日18時から、お楽しみに!



この日は誰の誕生日でしょう?




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外伝 ~レイチェルの誕生日~

本日、6月10日はレイチェル・ガードナーの誕生日です!
レイチェル生誕記念として、短編を一本作ったので良ければお読み下さい。

本編の続きは7月頃から投稿していく予定です。
もう少々お待ち下さい……


「えっ?レイチェルちゃんの誕生日って来週なの?」

 

とある日のアドモス商会。

 

レイチェルはシャルロットとラウラの部屋に遊びに来ていた。

 

そこでシャルロットとラウラはレイチェルに自分達の世界で一夏の誕生日を盛大に祝った時の話をしていたのだが、ふとラウラが聞いた「そういえばレイチェルの誕生日はいつなのだ?」という質問の末、今に至る。

 

シャルロットとラウラの部屋に置かれているデジタル時計が示す本日の日付は6月3日の水曜日。

それに対して、レイチェルの誕生日は6月10日。

まさに一週間後であった。

 

「そういえば、そうですね……。全然気付かなかった」

「では、一夏の時のようにサプライズパーティをしようではないか!」

「ラウラ、レイチェルちゃんの前で言っちゃったらもうそれはサプライズじゃないよ……」

 

シャルロットはラウラにそうツッコむ。

レイチェルも自然な笑顔で笑っていた。

 

 

「とにかく、レイチェルちゃんが鉄華団に正式に入ってくれた歓迎パーティも兼ねて、お誕生日会をやろうよ!」

 

こうして、レイチェルの誕生日パーティーが開催される運びとなった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

その日の夕飯後、シャルロットは冬夜と三日月、オルガを集め、来週がレイチェルの誕生日であるという事実を告げた。

 

「レイチェルさんの誕生日?」

「ふーん。来週なんだ」

「なんだよ……めでてぇじゃねぇか!」

「うん!それでね。レイチェルちゃんとアイザックさんの歓迎パーティも含めて、レイチェルちゃんのお誕生日会をしようと思うんだ!」

「いいんじゃねぇのぉ~なぁ」

 

オルガは冬夜、三日月にも了承を取る。

 

「うん。いいね、それ」

「僕も賛成」

「よーし、鉄華団員初の誕生日パーティーだ!気ぃ引き締めて行くぞー!」

 

オルガが盛り上がっているのを半場無視して、三日月と冬夜はシャルロットにこう質問する。

 

「でも、ザックにはその話しないの?」

「僕もそれが少し気になってました。なんでザックだけ呼ばなかったのかな…って」

「ふふっ、仕込みは万全…ってね」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

その頃、ザックは自分の部屋のベッドで寝転がりながら、とある事を考えていた。

 

(なんで俺はレイを殺したいと思わねぇんだ?もうレイは普通に笑顔を作れる。それにビルの外にも出た……。俺は嘘が嫌いだ!約束を破るのは嫌いだ……!でも「レイを殺す」って約束はどうしても叶えちゃいけねぇ。そんな気がする……)

 

「あぁぁ!!意味わっかんねェ!!」

 

珍しく長考した後、ふと自分らしくないと感じてベッドで手足を暴れさせるザック。

 

そんな時、彼は部屋の扉の下の隙間に何やら手紙のようなものが挟まっているのを見つけた。

 

「あァ?」

 

ザックは扉を開けて、廊下を確認するが──

 

「誰も居ねェなァ」

 

そして、彼はその手紙を拾い、それを読むが……

 

「……読めねぇよ」

 

ザックは字が読めなかった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

次の日の朝、皆で食卓を囲んでいる時、ザックが不意にこう聞いた。

 

「あのよォ、昨日の夜、部屋に変な紙切れがあったけど、あれ誰のだ?俺、字読めねぇから捨てちまったんだけどよォ……」

「えっ……?」

 

シャルロットは絶句する。

 

(嘘っ!?アイザックさん、字読めなかったの!?あの手紙にレイチェルちゃんの誕生日を書いといて、アイザックさんがレイチェルちゃんの誕生日プレゼントをどうするのか確認してみたかったのに~!?これじゃ、アイザックさんとレイチェルちゃんを恋人同士にする僕の計画が……)

 

心の中で喋り続けるシャルロット。

いつもは話の中心に居るシャルロットが急に喋らなくなった事を心配してオルガが声を掛ける。

 

「おい、シャル!大丈夫か?」

「あ、う……うん。なんでもない!なんでもないよ」

「レイもオルガ達もあの紙切れの事知らねぇのか。なら捨てちまっても良かったやつなんだな」

 

(違うよ!もう~)

 

自分の万全だと思っていた仕込みが思わぬ方向に動いてしまった事に対して、シャルロットは一人で頭を抱えていた。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「どうしたのだ、シャルロット?」

「朝、なんか様子がおかしかったけど?」

 

朝食後、ラウラと三日月がまだ食卓に残り、一人考え事をしているシャルロットに声を掛けた。

 

「ラウラ、三日月くん……ってあれ?オルガ達は?」

「洗濯しに行った」

 

三日月の言葉の通り、オルガとレイチェル、ザックは冬夜の【スプラッシュ】と【ヒールウィンド】の魔法で洗濯をしに外へ出て行っていた。

 

今、アドモス商会に居るのはシャルロットとラウラ、三日月のみだった。

 

「それで、どうしたの?昨日言ってたレイチェルの誕生日の事?」

 

三日月の質問にシャルロットは首を縦に振る。

そして、二人にザックの部屋の手紙について話し出した。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「だから、昨日、俺やオルガ達が居た時と一緒にザックも集めれば良かったのに」

「うっ……」

「シャルロットはたまに変な作戦を練ろうとするからな」

「変な作戦じゃないよ……」

 

話を聞いた三日月とラウラはシャルロットに少し辛辣な言葉を浴びせる。

 

「まぁ、ちゃんとザックにレイチェルの誕生日の事、口で伝えた方がいいかもね」

「……うん。そうなんだけど……」

 

シャルロットは口ごもる。

その反応にラウラはとある仮説を立て、その真偽をシャルロットに問う。

 

「もしかして、だが……シャルロット」

「うん。何?」

「アイザックの事、怖がっているのか?」

「うっ……」

 

図星であった。

 

「そうなの?たしかにザックは顔が包帯グルグル巻きでなんか不気味だけど、優しいよ」

「分かってるよ。いい人なのはちゃんと……でもやっぱりなんか苦手で……」

 

シャルロットがうつむきながらそう言うと、ラウラは一言こう言った。

 

「別にいいのではないか?多少苦手でも」

「えっ……?」

 

シャルロットは顔をあげる。

 

「私もあやつはあまり好かん。だが最低限の会話はするぞ。会話を避けているから今回のようになる。ちゃんと話せ。話すのは得意なはずだろう?」

「うん……。そうだよね。アイザックさんともちゃんと話してみるよ」

「そうするといい」

「ありがとね、ラウラ」

「うむ」

 

そうして、この日からシャルロットはザックとも会話をするようになった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

そして、誕生日パーティー当日

 

「レイチェルちゃん!誕生日おめでとう!」

「ありがとうございます!シャルロットさん。私多分、誕生日をちゃんとお祝いしてもらったの初めてかもしれません」

「そっか……。今日はレイチェルちゃんの為にケーキ作ったからさ!皆で食べよ!」

「はい!」

「僕も前いた世界で作ったバニラアイスを作ったから食べてみてよ」

 

シャルロットはイチゴののったショートケーキを、冬夜はバニラアイスを作ったようで、それらを食卓にズラリと並べる。

 

「レイチェル。お前でも使えるように少し軽めにしたサバイバルナイフだ。私のナイフを元にして、冬夜に新しく作ってもらった。これからの戦いで活用してくれ」

「あ、ありがとうございます」

 

ラウラはサバイバルナイフをプレゼントする。レイチェルは少し戸惑いつつもそれを受け取った。

 

「お嬢さん!俺とミカからのプレゼントはこれだ!」

 

そう言ってオルガが渡したのは鉄華団のマークが背中に大きくプリントされた緑のジャケット。

 

「レイチェルは俺と同じくらいのサイズにしてもらったけど、良かった?」

 

三日月がレイチェルにそう聞く。

誰が作ったのかなど言うまでもないだろう。

 

「ピッタシです!」

 

レイチェルは鉄華団ジャケットを着込んで、クルリと回転しながらそう答える。

 

「いいな~!オルガ!これ僕達にもないの?」

 

シャルロットがそう聞くと、オルガは笑みを溢しながら、こう言った。

 

「あぁ~、あるに決まってんだろ!」

 

オルガと三日月、そしてその鉄華団ジャケットを作った張本人の冬夜はそのジャケットをシャルロットとラウラ、ザックにも渡したのだった。

 

そして、ザックもレイチェルにプレゼントを贈る。

 

「シャルロットから言われて、色々考えたんだけどよォ……」

「うん」

「……結局、これにした」

 

ザックはとある本を差し出した。

 

それは──聖書だった。

 

「これからは俺がずっとレイの側にいてやる。神に誓ってな」

 

 




レイチェルの誕生日を皆で祝い、さらに結束を深めた鉄華団。そんな彼らが次にやってきた世界は盾の勇者の世界。その世界に着いた時、アドモス商会で捕らえられていた兄妹が何者かの手引きにより脱出を図る。

次回『四聖勇者の世界』

7月4日18時から、お楽しみに!

殺戮の天使 Episode:Eddieもよろしく!
https://youtu.be/zxPlMeXbuOY



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Fourth World-1『四聖勇者の世界』

ついに始まりました。第4章!
遅くなり、申し訳ございませんm(__)m
また3日に1話ペースで投稿していきます!

原作は『犬の奴隷の成り済まし』になります!
私のお気に入りの動画なので是非原作もご覧になってください!

http://sp.nicovideo.jp/watch/sm35419669



「ただいま~」

「おかえり、冬夜」

「これでみんな戻ってきたね」

「あぁ、そうだな」

 

レイチェルとザックを仲間に加えた俺達は次の異世界へとやってきた。

 

カメラのファインダーを覗いて見えたのは剣・弓・槍を象ったシンボルがある大きな教会が見える街。

 

シャルやラウラが言うには『中世のイギリスみたいな雰囲気』とのこと。

 

まずはその異世界の情報を集める為、それぞれ別れ、アドモス商会を出て街を散策し、今全員が戻ってきたところだ。

 

ミカと二人で街を見回った俺の印象としては街自体は悪くない。むしろ空気もうめぇし、いい街だと思う。

だが、街に住むやつらが辛気臭ぇ顔をしているのが少し気になったって感じか。

 

ミカも『冬夜の国のが活気があった』って言っていた。同感だ。

 

街のやつらの会話を少し聞いただけだが、召喚された勇者の一人がなにやら問題を起こしたらしい。

 

俺らが話を聞こうとしたら、そいつらはそそくさと逃げちまったから聞けなかったんだけどよ……

 

そして、最後に戻ってきた冬夜が早速こう言った。

 

「じゃあ、みんな集めた情報を共有しようか」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

まず冬夜は【インビジブル】の魔法で教会や王城に忍び込んで色々情報を集めたらしい。それ大丈夫なのかよ……

 

シャルとラウラは街のやつらから色々と話を聞けたようだ。

 

ザックは俺らと同じく街のやつらに話を掛けようとしたら逃げられたらしいので、レイチェルと一緒に街の掲示板などを見て回ったとのこと。

 

俺らだけなんの成果も得られてねぇって事か。勘弁してくれよ……

 

 

まぁ、皆が色々な方法で調べてくれたおかげでこの国の事も色々と分かってきた。

 

まずはこの国の名前は『メルロマルク』

 

次元の亀裂から魔物が大量に沸き出す『波』とかいう現象から世界を護るため、剣・弓・槍・盾の四人の勇者(四聖勇者というらしい)を召喚したのが先日のことのようだ。

 

『次元の亀裂から魔物が現れる』という状況からフレイズがこの世界に進行してきているのかと疑ったが、冬夜が王城や教会で調べた限りでは、この『波』で現れるのはフレイズとはまた違う魔物らしい。

 

フレイズの魔の手はまだこの世界には伸びてねぇ訳だな。

 

フレイズの関与はとりあえずないと分かり一安心したのも束の間、新たな事実が判明した。

 

四聖勇者の一人、盾の勇者が仲間の女性を無理矢理強姦しようとした為、国の信用を失い、一人旅に出たのだそうだ。

 

シャルやラウラ、レイチェルの女性陣はその盾の勇者に対し──

 

「その盾の勇者って人、最低だよ!」

「まさに外道だな」

「死ねばいいのに……」

 

そう怒りを露にした。

 

「確かにひでェ野郎だなァ!ぶっ殺したくなってきたぜ……!」

「そいつは殺していいやつ?だったら全力で潰すだけだ」

 

ザックとミカも盾の勇者に敵意を向ける。

 

俺もその盾の勇者は許せねぇ!

もしシャルやうちの女性陣に手を出そうとしたら、全力で潰してやる。

 

と、そう心に誓ったがどうやら冬夜はそうでもないらしい。

 

「教会は『三勇教』って宗教を信仰してるみたいなんだ。もしかしたら、その教会が悪いやつで、盾の勇者は嵌められただけって可能性もなくはないと思うよ」

「どちらにせよ、その盾の勇者ってやつに一回会ってみれば分かる話だろ。その盾の勇者をぶっ潰すのが俺達のこの世界でのやるべき事なのかも知れねぇしな」

「うん!そうだよ、絶対そう!!」

 

シャルも俺の意見に激しく同意する。

 

そのシャルの目は今まで見た事もないくらい恐い目をしていた。

もしかしたら、俺らの中で一番怒らせちゃいけねぇのはシャルなのかも知れねぇ……

 

 

それに元の世界で名瀬の兄貴はこう言っていた。

 

『女は太陽なのさ、太陽がいつも輝いてなくちゃ男はしなびちまう』

 

つまり、盾の勇者はそんな太陽を脅かす敵って訳だ。

 

この世界でのやるべき事も見えてきた気がするな。

 

「んじゃあ、まずはその盾の勇者ってやつを探すとすっか!」

 

俺がそう言って立ち上がったその瞬間、急にアドモス商会が地震のような揺れを起こした。

 

大きな爆発音とともに──

 

 


 

 

数分前──

 

青い月の世界でラスタルの命令を受け、オルガを襲撃し、冬夜達に捕らえられた二人はアドモス商会の地下に作られた仮設独房に居た。

 

「ねぇ、サンポ……これからどうすんの?」

 

そう聞く彼女はユハナ・ハクリ。ラスタル・エリオンの下で働く16才のヒューマンデブリの少女である

 

「なんとか機会を見つけてここから脱出する。それしかないだろ」

 

そして、彼はサンポ・ハクリ。ユハナの兄で同じくラスタル・エリオン下のヒューマンデブリ。ちなみに歳は17才だ。

 

「でもここ…ご飯も美味しいし、別にこのままでもいいんじゃない?」

「何言ってんだよ、ユハナ!?やっとあのラスタル・エリオンと繋がりを持つ所まで行ったんだ!もうすぐで俺らも大金を手に入れて「人間」になれるんだろ」

「大金……「人間」になる……。そう…だったね」

 

そんな時、突如空間が歪み、そこから全身水晶色の男がハクリ兄妹の前に現れた。

 

「……っ!?」

「な、なに!?誰よ、アンタ!?人間?」

「……ふっ、私の名はユラ。お前達がラスタル・エリオンの飼ってるネズミ兄妹だな?」

「ネズミ兄妹とは失礼ね!アタシはユハナ・ハクリって名前があんのよ!?」

「待て、ユハナ……」

「何よ!?」

「……アンタ、ラスタル・エリオンの知り合いなのか?」

 

サンポの問いに対し、ユラは肯定する。

 

「あぁ、そうだ。アリアンロッドは今、我々と協力関係にある」

 

そして彼はハクリ兄妹にこう告げ……

 

「ラスタルがお前達を待っている。私が脱出の手助けをしてやろう」

 

大きな雷鳴を轟かせた。

 

「【晶雷爆発(プリズムプラズマ)】!!」

 

 

 




ユラの助けもあり、アドモス商会から脱出する事に成功したハクリ兄妹。そんな彼らを鉄華団も追跡し始める。
一方その頃、盾の勇者『岩谷尚文』と彼の仲間である犬の奴隷『ポチ』はとあるモノトーンの少年と遭遇する。

次回『盾の勇者の世界 1/2』

7月7日18時から、お楽しみに!



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Fourth World-2『盾の勇者の世界 1/2』

今日はISのファースト幼馴染の誕生日ですね。

それはそうと明日のリゼロ2期が楽しみ過ぎて脳が震える



「【晶雷爆発(プリズムプラズマ)】」

 

ユラのその詠唱とともにアドモス商会の地下が大きく揺れる。

 

「……っ!!」

「何だ!?襲撃か!?」

「これはっ……!?」

 

三日月とラウラがすぐさま反応し、オルガが驚きから辺りを見回す。

 

「この揺れ……地下だ!」

「もしかして、脱走?」

 

冬夜とシャルロットがそう言うと、オルガはすぐに指示を出し、いの一番に走り出す。

 

「地下に行くぞ!」

「……!」

「うん!」

「うむ!」

 

無言で頷いた三日月と同じく頷いたシャルロットとラウラがオルガに続く。

 

 

「はァ?何の話だよ?何が起きやがった!?」

「地下に誰か居るの?」

 

この状況に困惑していたザックとレイチェルに冬夜はこう説明をした。

 

「レイチェルさん達の世界でラスタルって人の部下が僕達を襲撃してきたんです。その襲撃犯を地下に閉じ込めてたんですけど」

「じゃあ、さっきの爆発は……」

「そいつらの仕業って事か!」

「うん。十中八九そうだろうね。僕達も地下に行こう!」

「おう!」

 

ザックと冬夜も先ほど地下に走っていったオルガ達の後を追う。

 

そして、レイチェルも皆の後を追いながら、ラスタルの顔を思い浮かべていた。

 

『君が噂の悲劇の少女か』

 

『ガードナー夫妻の死には我々も心を痛めていました。これからはギャラルホルンの総力をあげて、鉄華団を断固断罪の実現に取り組むつもりです』

 

(アリアンロッドのラスタル・エリオン。あの人ももしかしてこの世界に?オルガ達を……鉄華団を捕まえるために)

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

オルガ達が地下にやってくると、そこには異空間へのゲートを開くユラと、そのゲートに飛び込んでいくハクリ兄妹の姿があった。

 

「待て!」

 

地下にやってきたオルガがそう叫ぶが、それを無視してサンポはユラの作ったゲートに入る。

 

そして、ユハナも

 

「待つわけないじゃん!」

 

そう言ってサンポの後を追っていった。

 

三日月はバルバトスをISサイズで召喚、シャルロットとラウラもすぐにISを展開したが時すでに遅く……

 

「待てっていってるだろ!!クソッ!」

「……襲撃犯達には逃げられちゃったか」

「ちっ!顔を拝む事も出来ねぇとはなァ」

 

冬夜とザックがやってきた頃にはすでにユラも姿を消しており、地下の仮設独房は藻抜けの空であった。

 

「どうする、オルガ?」

「あのラスタルとかいう男がもしこの世界に来ているならば、この場所がバレるかも知れんぞ?」

 

シャルロットとラウラがそう言うと、ザックが壁を殴り付けながらこう叫ぶ。

 

「あの狸親父!まだレイを付け狙ってやがんのか!」

「ううん、多分あの人は私じゃなくてオルガと三日月とザックを狙ってるんだと思う」

「どういうことだ?」

 

レイチェルの言葉にオルガが問う。

するとレイチェルは静かな声でこう

 

「あの人はキャシーと同じ断罪人。私達、鉄華団にありもしない罪を擦り付けて自分の正義の為に作り上げた悪を討つ人……そんな風に感じた。前にあった時、「鉄華団を断罪する」とか言ってたし……」

「ふーん。じゃあ、とりあえず逃げた奴ら追う?」

 

三日月がそう言うが、オルガは冷静に状況を判断し、こう言った。

 

「いや、追おうにもあいつらがどこに行ったのかがわからねぇし、動こうにも動けねぇよ」

「うん……それは僕も思った」

「確かにそうだな」

 

シャルロットとラウラもオルガの意見に肯定するが、三日月は冬夜の方を向いて、こう質問した。

 

「冬夜なら追えるんじゃないの?」

「は?」

「そうだよ、いくら冬夜君の魔法が凄いっていっても……」

 

シャルロットはそう言ったが冬夜は軽く首を縦に振った。

 

「はい。追えますよ。あの襲撃犯達の顔は覚えてるから別の世界へ行ってなければ【サーチ】で見つかるはずです」

「なんだよ……なら早速、奴らを追うぞ!」

「わかった。【サーチ】」

 

ポケットからスマートフォンを取り出しながら冬夜はそう唱えた。

 

しかし、冬夜の懸念はハクリ兄妹とは別の所にあるようで……

 

(メルを閉じ込めていた時といい、今回といい……なんで【プリズン】が破られたんだ?それにさっき見えた襲撃犯達を逃がしたやつ……あれはフレイズの支配種だ。ラスタル・エリオンとフレイズが手を組んでいるのか?一体何のために……?)

 

 


 

 

一方、その頃──

 

「……この世界でもメルの共鳴音が聞こえない……」

 

フレイズの元女王であるメルを探す少年はこの世界にやって来てすぐそう呟いた。

 

その少年の名はエンデュミオン。フレイズからは『渡る者』『シフトウォーカー』などと呼ばれている異世界放浪者である。

 

「……メル、君は一体今どこに……?」

 

白い髪に白いマフラー、黒いジャケットに黒いズボンと全身モノトーンで固めたエンデュミオン──エンデはそう呟くとその場で倒れ込んだ。

 

「…………お腹、すいた」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「お、おい!お前っ!」

「大丈夫、なのです?」

 

誰かの声を耳にしながらエンデは目を覚ます。

 

「……うっ……うう……」

 

エンデが顔を上げると、そこには緑のマントを翻す青年と犬耳としっぽをつけた幼い少女が居た。

 

「君……たちは?」

「俺は……」

 

緑のマントの青年は口ごもる。

 

しかし、犬耳の少女はそんな青年の様子には気づきもせずにこう言った。

 

「盾のご主人様は勇者(ヒーロー)なのです!!」

「おい!お前!!」

 

犬耳の少女がそう言うと、街行く人がひそひそと噂話をし始める。

 

「盾って……もしかして」

「あの盾の勇者?」

「仲間の女冒険者を強姦しようとしたっていう……」

 

その街人の噂話に緑のマントの青年は舌打ちをしながら、悪態をつく。

 

「またか。この街の奴らはどいつもコイツも俺の話を聞くつもりがありやしねえ……」

「あっ、ごめんなさい、なのです……」

「もう、いい……」

 

犬耳の少女はそんな青年の様子にシュンとして、耳を垂らす。

青年は「もう慣れた」とでも言いたげに話を戻した。

 

「それで?お前はなんでこんなところで倒れてたんだ?……というかこの街の奴らは誰も助けようとか思わないのかよ

「お腹、すいてたのです?」

「なわけないだろ……お前じゃないんだぞ」

 

青年は否定したが、エンデの倒れた理由は正に少女の言うとおりであった。

 

「実は……そうなんだ。最近何も食べてなかったし、無一文だしね」

「はぁ?」

「じゃあ、何か食べに行くのです!!」

「お前も食べたいだけだろ……」

「そう、なのです!」

「お前は少しは遠慮ってもんを覚えろ」

 

緑のマントの青年と犬耳の少女はそう話しながら歩き出す。

 

少し歩いて、後ろを振り向いた二人はエンデに対してこう言った。

 

「……どうしたのです?」

「何してるんだ?お前も行くぞ」

「えっ?どうして……」

 

エンデがそう聞くと、青年はさも当然のようにこう口を開く。

 

「お前が腹減って倒れたんだろうが、何か食べなきゃまた倒れるぞ?」

「食事は重要なのです!ご主人様もいつもポチにお腹いっぱい食べさせてくれたのです!」

「その前のご主人様ってのがお前にそのふざけた名前をつけた犯人か?」

「ふざけた名前じゃないのです!ポチはポチなのです!」

 

彼らを見てエンデは以前居た世界で同じく食べ物を奢ってくれた少年の事を思い出す。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

『金が無いなら無銭飲食だ。警備兵のところへ突き出してやる』

『ええっ、だからこれで払えないの? これもお金だよ?』

『だからこの国ではそんな金使えねえって…!』

『あのー……』

『なんだい、アンタは?』

『通りすがりの者ですけど、その代金、僕が払いますよ。それならいいでしょ?』

 

 

『ありがとう。助かったよ』

『いや、困ったときはお互い様だし。僕は冬夜。望月冬夜。君は?』

『エンデ。よろしく、冬夜』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「おい!早く行くぞ」

「ポチもお腹すいてきたのです!」

「わかった。ありがとう」

 

エンデはそう礼を言って彼らの後ろをついていく。

 

「犬耳の君はポチって名前なのかい?」

「そうなのです!ご主人様がつけてくれたのです!」

「君は?」

「……岩谷尚文だ」

 

(尚文か。少し無愛想だけど、根は優しいんだろうな。彼の共鳴音は冬夜に似てる)

 

「僕はエンデ。よろしく、尚文、ポチ」

 

 




脱走したハクリ兄妹を追う為、二手に別れる鉄華団。
追跡中、冬夜とザック、レイチェルは尚文とポチ、そしてエンデと遭遇し、オルガと三日月、シャルロット、ラウラは仮面の男の襲撃を受ける。

次回『盾の勇者の世界 2/2』

7月10日18時から、お楽しみに!



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Fourth World-3『盾の勇者の世界 2/2』

シャルが榊遊矢と結婚したと聞いて

とてもおめでたいんだけど、何故かオルガがNTRれたみたいに感じるのは何なんだろう?



逃げた襲撃犯を追う為に冬夜が【サーチ】の魔法を使う。

 

「【サーチ】」

「どうだ、冬夜?」

 

俺が冬夜にそう聞くと……

 

「分かったよ。襲撃犯の一人はこの街の先にある草原を走ってる。もう一人はこの街の中にまだいるみたい」

 

そう答えた。

 

街の近くの草原と街の中か

なら、二手に別れて追った方がいいな

 

「冬夜、どっちがここから近い?やっぱ街ん中か?」

「どっちもそんな変わらないかな?でもミカさんとシャルロットさん、ラウラさんは街の外の襲撃犯を追った方がいいかも。街の中だとバルバトスやISを使いにくいと思う」

「確かにそうだな……なら」

 

俺は一瞬の逡巡のあと、皆にこう指示を出した。

 

「冬夜、俺のスマートフォンに街の外に逃げた奴の位置情報を送ってくれ!」

「りょーかい」

「俺とミカ、シャルとラウラはバルバトスとISで飛んで街の外の奴を追う」

「うん」

「わかった!」

「うむ。了解した」

「冬夜とザック、んでレイチェル(お嬢さん)は冬夜の【ゲート】で近くまで行って、街の中の奴を捕まえてくれ!」

「オッケー!あとオルガのスマホに位置情報送信したよ!」

「サンキューな、冬夜」

「んで?ぶっ殺してもいいのかァ?」

「出来るだけ穏便に頼む。まぁどうしても無理なら殺しちまっても構わねぇよ」

「私も一応、銃持っておくね」

レイチェル(お嬢さん)も気をつけてな」

 

捕まえてもまた逃げられるだけかも知れねぇし、口封じには殺しちまうのが一番だしな。

 

 


 

 

そして、オルガ達と冬夜達はそれぞれ二手に別れてハクリ兄妹の追跡を開始した。

 

 

「【ゲート】」

「冬夜さん、ここら辺に逃げた襲撃犯がいるんですか?」

「うん、そのはずだけど……」

 

冬夜は周りを見渡す。

 

周りには建物があるのみで良くある路地裏の風景そのものだ。

 

「もっと詳しい場所はわからねぇのかよ?」

 

ザックが少しイライラしているような口調でそう冬夜に質問する。

 

「スマホの位置情報はここを指してるんだけど……見当たらないな」

「ちっ、使えねぇなァ!」

「ザック……っ!!」

 

辛辣な言葉を放つザックにレイチェルが叱責する。

 

「いや、いいよ。実際見つからないのは確かだし、ザックが苛つくのも仕方ない」

「ごめんなさい、ザックが短気な性格だから……」

「いや、大丈夫」

 

レイチェルがザックのかわりに冬夜に対して謝るが冬夜はさほど気にしていないようだ。

 

二人が話している間、ザックはとある疑問をレイチェルに投げかける。

 

「……なぁレイ、タンキってどーいう意味だ?」

 

そのザックの質問を聞いて少しの間無言でいた二人だが、その後すぐに歩き出した。

 

「とりあえず、ここら辺を歩いて探してみようか」

「そうですね」

「おい、レイ!だから、タンキってどーいう意味なんだって聞いてンだろーが!!」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「おいしかったのです!」

「ごめんね、尚文。僕もご馳走になっちゃって」

「ふんっ!また倒れられても面倒だからな」

「ははは……それより尚文は食べなくても良かったのかい?」

「俺は……いい……食べてもどうせ味なんてしないんだ……

「……っ!?盾のご主人様!誰かいるのです!」

 

食事を終えた尚文とポチ、エンデが外に出ると……

 

「え?……もしかして、エンデ?」

「……冬夜?」

 

そこでバッタリ冬夜達と遭遇した。

 

 

尚文とポチはエンデにこう尋ねる。

 

「どうした、エンデ?知り合いか?」

「お友達、なのです?」

「あぁ、彼は……」

 

エンデが尚文とポチに冬夜の事を紹介しようとしたその時、レイチェルとザックがポチの言葉からとある事に気付いた。

 

「あん?誰だ、こいつら?」

「……盾のご主人様って……もしかして……!」

「……っ!じゃあコイツが仲間をヤったっつー『盾の勇者』か!?」

 

ザックは警戒してレイチェルを庇うように鎌を構える。

レイチェルもカバンから静かに銃を取り出した。

 

「待って、ザック、レイチェルさん!」

 

冬夜が止めようとするが、ザックの動きは早かった。

 

「うるせぇ、レイに手出しはさせねぇぞ!クソ野郎!!」

「いきなり何なんだ!!」

 

ザックの鎌を尚文は盾で咄嗟に防ぐ。

 

スッ…パン!パン!パン!

 

レイチェルも無駄のない動作で尚文へ向けて銃を撃つが……

 

「【エアストシールド】」

 

尚文がそう唱えると緑色の透明な盾が尚文の近くに現れ、その緑の盾が銃弾を防いだ。

 

「ポチ!そっちの銃持った金髪の女を頼む」

「はい、なのです!」

 

尚文がポチにそう指示を出すと、ポチは腰に下げている剣を抜き、レイチェルを狙い走る。

 

「……っ!?レイ!!」

「行かせない!【シールドプリズン】」

 

ザックはレイチェルのもとへ戻ろうとするが、突如現れた盾が四方を囲む檻を作りだし、その檻にザックは阻まれてしまった。

 

「……ザックっ!?……くっ……!」

 

パン!パン!パン!

 

レイチェルは向かってくるポチへ向けて発砲するが、ポチは左腕につけた盾でその銃弾を防ぎながらレイチェルへと駆け寄っていく。

 

「覚悟、なのです!」

 

そして、ポチはレイチェルに近付くのと同時に真っ直ぐ剣を振り下ろそうとした。

 

「…いやっ!」

 

レイチェルは思わず目を瞑る。

 

「レイチェルさん!?」

 

冬夜が慌てて、レイチェルの名を呼ぶが、エンデが冬夜の肩に手を置いて彼を止める。

 

「大丈夫だよ」

「何が!?」

「……ほら」

 

レイチェルが恐る恐る目を開けると、ポチは剣をレイチェルの頭の上で寸止めしていた。

 

レイチェルが手に握る銃は剣を持っていない左手で弾き、手放させ、その後ポチは笑顔でこう口を開いた。

 

「喧嘩はダメ、なのです」

「いきなり攻撃を仕掛けてくるからだ。少しはこっちの話も聞け」

 

尚文もザックの動きを【シールドプリズン】で止めつつ、そう言ったのだった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

そして、街の外の襲撃犯を追うオルガ達はついにその襲撃犯を目で捉えるところまで来ていた。

 

「見えた。あれ?」

「あぁ、あのロディタイプのモビルスーツに乗ってんのが襲撃犯で間違いなさそうだ」

 

オルガはモビルスーツサイズのバルバトスルプスの操縦席(コクピット)に座る三日月の後ろでスマートフォンの位置情報と目の前のモニターを交互に見ながらそう言った。

 

バルバトスルプスのモニターに映っているモビルスーツは全身が灰色に塗られたマン・ロディのカスタム機。

左肩と頭部のみが黄色く塗装されており、ガンダム・グシオンと同型のロングアックスを持っている。

 

「あぁ、もう!追い付かれちゃったじゃん!!」

 

乗っているのはユハナ・ハクリ。妹の方だ。

 

「…………なんてね!!後はお願い!仮面のたいちょーさんっ!」

《……ふっ、任されよう》

 

ユハナのハクリ・ロディにその通信が入ったのと同時に空から一筋のビームの光が差した。

 

その光は黒いIS──つまりラウラのシュヴァルツェア・レーゲンを捉え、そして……

 

 

「……っ!?ラウラ!?」

「おい、ラウラ!止まるんじゃねぇぞ!!」

「えっ?ウソ?……ラウラ?…ラウラァァァァ!!

 

 




クルーゼのゲイツにより凶弾を受けたラウラのシュヴァルツェア・レーゲン。彼女の生死はいかに……?
そして、時を同じくして冬夜達は尚文から真実を聞かされた!

次回『嵌められた勇者の世界』

7月13日18時から、お楽しみに!



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Fourth World-4『嵌められた勇者の世界』

「見えた。あれ?」

「あぁ、あのロディタイプのモビルスーツに乗ってんのが襲撃犯で間違いなさそうだ」

「リヴァイヴのハイパーセンサーでも確認出来た!」

「あれを止めれば良いのだな!」

「三方から挟撃で追い込むぞ。シャル、ラウラ!」

「うん。わかった!」

「了解した!」

 

ユハナのハクリ・ロディを挟撃するため、シャルロットのIS──ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡとラウラのIS──シュヴァルツェア・レーゲンが円を描くような軌道で動き出す。

 

その時、ラウラのレーゲンの真上からラウ・ル・クルーゼのIS──ゲイツが現れた。

 

「……っ!?ラウラ!?」

 

三日月がまず先にクルーゼに気付いた為、ラウラの方へと注意を向ける。

 

「どうした、ミカ?」

 

オルガが三日月にそう聞こうと口を開いたその瞬間、クルーゼの放つビームライフルの凶弾にラウラは撃たれてしまった。

 

大きな爆発。

 

それを見たオルガとシャルロットは声をあげる。

 

「なっ?おい、ラウラ!止まるんじゃねぇぞ!!」

「えっ?ウソ?……ラウラ?…ラウラァァァァ!!

 

 

砂塵が晴れると、そこにはA.I.Cを展開してビームを防いだラウラのレーゲンの姿があった。

 

「……大丈夫だ。こちらは問題ない」

「……良かった」

「なんだよ、心配させんじゃねぇぞ……」

「びっくりした~ラウラがやられちゃったかと思ったよ……」

 

オルガ達が安堵する中、ラウラを撃った敵──ラウ・ル・クルーゼは通信で彼らにこう声をかける。

 

《今の一撃で仕留められなかったのは少々痛いが……まぁ良いだろう。久しぶりだな、IS学園の諸君》

「誰なんだよ、あんたは?」

「…………」

「……っ!?まさか、その声!?」

亡国機業(ファントム・タスク)の……!?」

 

オルガと三日月はIS学園での記憶を無くしている為、面識がないが、シャルロットとラウラは彼と二回ほど戦闘を繰り広げた為、声を聞いてすぐにピンときた。

 

「……ふっ」

 

クルーゼは仮面の下の素顔に見えない笑みを見せる。

 

 

そんな時、シャルがとある事に気付いた。

 

「……って、オルガ!?」

「急にどうした、シャル?」

「…………」

 

三日月も無言で警戒している。

 

そして、ラウラがオルガにこう言った。

 

「周りを見てみろ、オルガ団長……」

「ん?…………何っ!?」

「うん……」

 

オルガもそれに気付き、シャルロットが頷く。

 

 

オルガと三日月の乗るバルバトスルプスとシャルロットのリヴァイヴ、ラウラのレーゲンの周りは──

 

「……ふふふ、まんまと誘い込まれたね」

「……これもラスタル様の為。イオク様はそこでジッとしていて下さい」

「恩に着るぞジュリエッタ。そこまでこの身を案じてくれるとは……」

「はい?」

 

ユハナのハクリ・ロディとジュリエッタのレギンレイズ・ジュリア、そしてイオクのレギンレイズと……無数のフレイズの軍勢に囲まれていた。

 

 


 

時を同じくして、尚文と冬夜達は近くの酒屋に入り、そこで尚文から詳しい話を聞いていた。

 

「……尚文にそんな事が……!?」

「……僕が召喚された世界はまともな世界で良かったと心から思ったよ……」

 

尚文が受けた冤罪について話すとエンデと冬夜はそう感想を述べる。

 

「盾のご主人様の話、初めて聞いたのです!!」

「……ん?お前にも言ってなかったか?」

「はい。なのです!」

 

どうやら、彼の冤罪についてはポチも初めて知ったようだ。

 

しかし、レイチェルとザックは彼を信用していないらしく……

 

「……本当に?にわかには信じられない」

「……てめェがウソついてるだけなんじゃねぇのかァ?」

 

二人はそう言った。

 

「ザックとレイチェルさんはもう少し人を信用してもいいと思うよ」

 

冬夜はそう言うが、二人は尚文への警戒を緩めようとしない。

 

「……じゃあ、また【リコール】で尚文さんの記憶をレイチェルさんに流すから。それで本当か確かめてよ」

「……分かりました。冬夜さんの魔法は一応、信用してますし、それで事実だったら認める事にします。ザックもそれでいいよね」

「俺は嘘が嫌いだ。レイは知ってンだろ?」

「うん」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「【リコール】」

 

冬夜がそれぞれの手をレイチェルと尚文に繋いでそう唱えると、レイチェルと尚文の記憶がお互いに共有される。

 

「……ザック。盾の勇者の言っている事、本当みたい」

「ちっ、わかった……レイがそういうんなら信じるしかねぇなァ。なんとなくいけすかねぇ野郎だが……」

 

レイチェルとザックはそれでようやく尚文の事を信じた。

対するレイチェルの記憶を覗いた尚文は自身の疑いが晴れた事よりも驚いた事があったようで慌ててこう口を開く。

 

「……っ!?オルガだと!?まさかこのオルガってのがポチの言ってた……!?」

「オルガがこの世界に来ているのです!?」

 

その尚文の言葉にポチも驚いてそう言った。

 

そして、尚文とポチのその慌てようから冬夜はやっとポチの事を思い出す。

 

「あっ……!?やっと思い出した!君、確かサトゥーさんの奴隷だった……!」

「ご主人様の事も知ってるのです!?」

「うん。昔、一回だけポチにも会った事があったよ」

「オルガとご主人様はどこにいるのです?」

「サトゥーさんはまだあの世界にいるはずだと思うけど、オルガはこの世界に来ているよ」

「やっぱりオルガがこの世界に来ているのです!?」

 

ポチは何度も確認するようにそう言った。

 

「ポチ、オルガに会いたいのです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな状況の中、ジュリエッタ達に囲まれたオルガ達を見ている一機のISがいた。

 

「劇的な舞台に似つかわしい、劇的な演出だな。この状況下でこそ私が本当に望んでいた世界を手に入れられるかもしれない……」

 

 




クルーゼ、ユハナ、ジュリエッタ、イオク、そしてフレイズの軍勢に囲まれ、襲撃を受けるオルガ達。
そんな中モンタークは一人、ユラの思惑に気付く。
そして、冬夜達もオルガ達の戦う戦場へと辿り着いた。

次回『因縁の生まれる世界』

7月16日18時から、お楽しみに!





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Fourth World-5『因縁の生まれる世界』

オルガが空気だ……
いいのか、これ?



「……これもラスタル様の為。イオク様はそこでジッとしていて下さい」

「恩に着るぞジュリエッタ。そこまでこの身を案じてくれるとは……」

「はい?」

「しかし!やはり私は行かねばならぬ!私は今まで多くの部下たちに窮地を救ってもらった。部下たちの命で私の命をつないでもらってきたのだ。だからこそ今度は私の命で皆の命をつなぐ番だ!」

 

そう言って、イオクが突撃してから数分が経過した。

 

「受けよ!正義の一撃!!」

 

イオクのレギンレイズが長距離レールガンで援護射撃を行うが、一向に当たる気配はない。

 

「……なんなのだ、この射撃は?ふざけているのか?」

 

ラウラはそう呟く。

 

「うん。避けた方が当たりそうだよね。無視してても当たらないんじゃないかな?」

 

シャルロットもそう頷きながら、ユハナのハクリ・ロディに向けて55口径アサルトライフル『ヴェント』を放つ。

 

「ちびっこいやつが、うっとおしいなぁ!!」

 

そう言いながら、ユハナも90mmサブマシンガンで応戦した。

 

 

「やはり先ほど倒せなかったのは、痛かった……ここで見過ごさばその代価、いずれ我らの命で支払わねばならなくなるか……」

 

そう呟きながら、クルーゼはラウラを狙う。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……君の姿は私に似ている」

「一緒にするな!」

「同じだとも!ドイツの遺伝子強化素体(アドヴァンスド)!!人に作られしモノ!!君もいわば、コーディネイター、いや、私と同じクローンと言ったところか……!」

「黙れぇぇぇ!!」

 

ラウラはクルーゼの口から出て止まらぬ言葉に怒りを覚え、自らの瞳の眼帯に手をかけた。

 

「あのうるさい口を無理矢理閉じる!手伝え、アイン!!」

 

 

そして、オルガを乗せた三日月のバルバトスルプスはジュリエッタのレギンレイズ・ジュリアと剣激を繰り広げていた。

 

「あなたの相手はこの私です!」

「誰が決めたの?」

「無論、私が!」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

その戦場を少し離れた場所から見ている一機のISが居た。

 

モンタークのグリムゲルデである。

 

彼はオルガ達を囲みながらも動く気配のないフレイズの軍勢に疑問を感じていた。

 

「あのフレイズの群れは鉄華団を逃がさない為のただの壁役なのか?……いや、違うな。おそらくあの支配種、ユラがいないから動かせないのだ。ならば、ユラは今、どこにいる……」

 

その時、移動式ラボにいるキラから通信が入る。

 

《モンタークさん、ユラの居場所分かりました。おそらく、メルロマルクの三勇教会の地下です》

「教会の地下?」

《はい。三勇教の保有する勇者の武器の複製品。それを手に入れるのが目的だと考えられます》

「……これ以上、やつらが戦力を増やすのはマズイな……。鉄華団、ここはなんとか凌いでくれよ」

 

モンタークはそう言ってグリムゲルデを走らせた。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「ええい!どうして当たらん!?」

「イオク様、邪魔です!」

「お前も邪魔だ……!」

「ミカ、少し落ち着け!このままじゃ当たり負けるぞ」

 

 

「何てことだ……君の罪は止まらない、加速する!」

「そうだ、それで良い! どの道、君は戦う運命にあるのだよ!」

「貴様もまた、野蛮な獣!私の!正義の鉄槌にて裁かれろぉぉ!!」

「いいぞ! 己の血のおもむくまま、破壊の限りを尽くすが良い!」

 

 

「ねぇ?アンタは何で戦うの!?」

「そんなの!守る為に決まってる!」

「ダウトだね!聞いたよ、シャルロット・デュノア。アンタ妾の子なんでしょ?」

「……っ!?」

「アタシやアンタみたいな普通の家族を知らない女が!まともに育つはずないもんねー!!」

 

 

三日月、オルガとイオク、ジュリエッタ

ラウラ(アイン)とクルーゼ

シャルロットとユハナ

 

三者三様の戦場はそのすべてがお互いに決定打を与えられずにいた。

 

 

そんな状況の中、オルガに会いたいと言ったポチの為、冬夜達がこの戦場の近くまでやってきた。

 

「……っ!?あれはフレイズ!?……でも動かない?」

 

【ゲート】から出た途端、フレイズを見た冬夜は驚くが、エンデが冷静に状況を観察する。

 

「支配種の命令がないから動かせないみたいだね」

 

フレイズが囲む中、モビルスーツやISが撃ち合う戦場を指差してポチはこう言った。

 

「あそこにオルガがいるのです?」

「みたいだな。だがあんなロボット同士の撃ち合いの中、盾だけで突っ込むのは俺はいやだぞ……」

「モビルスーツと……ラウラ達のあれは…アイエスだったかァ?あいつらの戦いには俺やレイでもどうにも出来ねぇよ……」

「うん」

 

尚文やザック、レイチェルが尻込みする中、冬夜とエンデが動く。

 

「あのフレイズ達は僕が引き付けるよ」

「頼む、エンデ。ポチとザック、レイチェルさんはここで待ってて、尚文さんは盾で皆を守ってくれる?」

「別にいいが……お前達はどうするんだ?」

 

尚文がそう聞くと、エンデは「フフッ」と笑みを溢して、人差し指と中指で細長い薄いガラスのようなものを出した。

理科の実験で使うプレパラートのようなものだ。

 

冬夜も【ストレージ】の魔法を使って、水晶色のフレームギア『レギンレイヴ』を呼び出す。

 

その『レギンレイヴ』に乗り込みながら、冬夜はまるで買い物にでも行くような軽い口調でこう尚文達に告げたのだった。

 

「僕とエンデはちょっとオルガ達を助けに行ってくるよ」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

エンデは人ならざる速さで走り、尚文達から一瞬で遠ざかると、手の中のプレパラートを割る。

 

すると、オルガと三日月、シャルロットとラウラを囲んでいたフレイズがプレパラートの割れた音に反応して、一斉にエンデの方へと動き出した。

 

エンデはもう一つプレパラートを取り出してまた割ると白黒の高機動型フレームギア『ドラグーン』を呼び出す。

そして、その『ドラグーン』にそそくさと乗り込むと、踵に取り付けてある車輪を動かし、戦場とは逆方向へと逃げていった。

 

 

「【流星剣群(グラウディウス)】」

 

冬夜の『レギンレイヴ』が四十八枚の飛操剣(フラガラッハ)を放ち、エンデを追うフレイズの群れを半分以上倒すと、そのままオルガ達が戦う戦場の方へ駆けていく。

 

「エンデ!残りのフレイズは頼んだ!」

「任された。じゃあね、冬夜。またどこかの世界で会おう!」

 

そして、エンデはそのままフレイズを引き連れて森の向こうへと消えていったのだった。

 

 

 




冬夜の介入により、撤退したクルーゼ達。
そして、盾の勇者への誤解を正したオルガ達は新たな仲間──ポチと出会う。

次回『犬の奴隷の世界 1/4』

7月19日18時から、お楽しみに!



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Fourth World-6『犬の奴隷の世界 1/4』

今日で異世界オルガ三周年ですね!

異世界オルガ三周年記念MADをニコニコ動画に投稿したのでよろしければご覧下さい!

http://sp.nicovideo.jp/watch/sm37213560


「……ん?ねぇ、オルガ」

「あぁ、こっちにも見えてる。でもなんだ?……フレイズが一斉に動き出した?」

 

戦闘中のバルバトスに乗っているミカとオルガは急に動き出したフレイズに気を取られ、少しの間動きを止めてしまっていた。

 

しかし、それは敵も同じようで……

 

「!?ジュリエッタ、どういう事だ?化け物どもが急に動き出したぞ!?」

「私に聞かないで下さい、イオク様!分かるはずがないでしょう!」

 

ジュリエッタとイオクの二人もオルガ達と同じタイミングで動きを止めていた。

 

 

「……?どういう事だろう」

 

シャルロットも同じく困惑しているようでそう言い首を傾げるが……

 

「警戒を緩めるな、シャルロット!敵の罠かもしれん!」

 

ラウラにそう言われ、警戒を強める。

 

しかし……

 

「何?何!?なんなの。聞いてないんですけど!」

 

(ユラが動き出したのか?いや、奴は今、四聖勇者の武器の複製品を奪いに行っているはずだ。一体、この状況は……?)

 

「……どうやら、あちらさんにも想定外の事態らしいな」

「そうだね」

 

シャルロットと戦っていたユハナもラウラと戦っていたクルーゼもこの状況を理解出来ていないようで、オルガ達の視点からでも動揺が目に見えて分かるほど急に動きを止めたのだった。

 

そんな状況の中、冬夜のフレームギア『レギンレイヴ』が突如現れ、動き出したフレイズを飛操剣(フラガラッハ)で掃討する。

 

「もう一丁!【流星剣群(グラウディウス)】!」

 

冬夜のフレームギアを見て、クルーゼは自軍のMSとISに通信を入れる。

 

「あれは相手にするな!うかつに近寄れば命はないぞ。全機散開し、ポイントデルタに集結しろ。これはラスタルからの指示でもある」

「ラスタル様を呼び捨てにするのは気に入りませんが、いいでしょう。この場は貴方の言う通りにします」

「待て、ジュリエッタ!私はまだやれる!」

「ダメです!撤退しますよ、イオク様」

「くっ……ちぃ!この屈辱、決して忘れんぞ!!」

 

本当はラスタルからの指示ではなく、クルーゼ自らの判断なのだが、「ラスタルから言われた」と言っておけばジュリエッタが言う事を聞くのはクルーゼはすでに既知の上であった。

 

「サンポは?」

「彼とユラもポイントデルタで合流予定だ」

「りょーかーい!んじゃ撤退ね」

 

そう言ってクルーゼ達は撤退していった。

オルガも彼らを追うのは諦め、冬夜へと連絡を入れる。

 

「冬夜か!もう一人の襲撃犯の方は?」

「ごめん。見つからなかった。でもその代わり、この世界でオルガの事を知ってる人が居たから後で紹介するよ。向こうで待たせてる」

 

 


 

 

この世界で俺の事を知っていたやつが居たという冬夜に連れられて、さっきまで戦っていたところから少し離れた森の中までやってくると、急にビスケットの妹達とおんなじくらいの年の女の子が俺に飛びついてきた。

 

「オルガ、なのです!!」

「うおっ!?……って誰なんだよ、お嬢ちゃんは?」

「ポチはポチなのです!」

 

ポチ?犬の名前か?

俺はお嬢ちゃんの名前を聞いてんだけどな……

 

「だから、お嬢ちゃんの名前をだな……」

「ポチなのです」

「名前を……」

「ポチ……なのです」

 

冬夜は俺とこの娘の会話が面白くて仕方がないといった様子で笑っている。

おい、紹介してくれるって言ってたじゃねぇか……!

笑ってねぇでなんとかしてくれよ……!

 

「全く意味が分からねぇ。勘弁してくれよ……」

 

俺がポチとしか名乗らない女の子に抱きつかれながら頭を抱えていたら、そこに緑のマントの男が現れて、こう言った。

 

「ポチってのは犬の名前じゃなくて、そいつの名前らしいぞ。こいつも犬の亜人奴隷だからな」

「あんたは誰なんだよ?」

「俺は……」

 

緑のマントの男は何故か口ごもる。

 

代わりに緑のマントの男の後ろから現れたレイチェルとザックがこう答えた。

 

「この人は岩谷尚文さん」

「盾の勇者なんだとよ……」

 

そうレイチェルとザックに言われた俺とシャル、ラウラは警戒を強める。

 

「何っ!?」

「この人があの……!」

「悪名高い盾の悪魔か!?」

 

しかし、ザックとレイチェル、ポチはそれぞれこう言って、俺達の警戒を緩めようとしてきた。

 

「まぁ、待ちやがれ。オルガ」

「シャルロットさんとラウラさんも話を聞いて!」

「盾のご主人様はいい人なのです!」

 

そして、冬夜もこう口を開いた。

 

「そこら辺の話も詳しくしたいからさ、まずはアドモス商会まで戻ろうよ」

「「…………」」

 

シャルとラウラはまだ半信半疑みてぇだ。

 

俺はとりあえず、冬夜の言うとおりにする事にした。

 

「わかった。詳しく聞かせてもらおうか」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「……仲間の冒険者に嵌められて、ああいう噂を流されたって訳か……」

 

俺らはアドモス商会で尚文から詳しい事情を聞いた。

 

「あの……ごめんなさい。何も知らずに疑ったりして……」

「私もすまなかった」

 

シャルとラウラが尚文にそう謝るが……

 

「ふん……」

 

尚文はそう鼻を鳴らすだけだった。

 

何とも言えない状況の中、冬夜がこう口を開く。

 

「それで、ポチはこれからどうしたいの?」

「ポチがどうしたいか、なのです?」

「うん。このまま尚文さんと一緒に居るか。それともオルガや僕達と一緒に来るか」

「うーん、ポチは……」

 

ポチが何か言おうとしたが、それより先に尚文が少し慌てたようにこう言った。

 

「待ってくれ!確かにそいつは飯ばかり食って面倒見切れないやつだが、なけなしの金で買った大事な戦力なんだ!俺は盾しか使えない。戦える仲間が必要だ!簡単にこいつを手放せはしないぞ!」

 

どうやらこの世界の四聖勇者は自分の武器以外は使えないらしい。

つまり盾の勇者は盾しか使えないって訳だ。盾だけじゃ戦えないから仲間が必要。しかし、国に嵌められて信用を失っている為、盾の勇者の仲間になりたいやつも現れない。だから奴隷を買ったとの事だ。

その時、ザックとレイチェルがこう言った。

 

「尚文も一緒にこの世界から逃げちまえばいいんじゃねぇのかよ?」

「私もそれでいいと思うけど」

 

その二人の意見に俺とシャル、ラウラも賛成する。

 

「いいんじゃねぇのぉ?なぁ」

「うん。僕もそれがいいと思う!」

「裏切られた国の為に戦う必要もあるまい」

「いいのか……?」

「あぁ、尚文がいいならだけどよ。鉄華団はお前を歓迎するぞ?」

 

俺は尚文に手を差し出す。

その俺の手を尚文が取ろうとしたが、そんな時、冬夜のスマホが鳴った。

 

「もしもし……?」

《やぁ、冬夜君。久しぶりじゃな?神様じゃよ》

「神様?どうしたんです?」

《ちょっと君達の事を見ておったんじゃが、少し面倒な方向に話が傾きそうだったから連絡したんじゃ》

「はぁ…」

《今居る世界の盾の勇者君じゃがな。彼は別の世界に行く事は出来んのじゃ、すまんのぉ》

 

 




四聖勇者が他の世界に移動出来ない事を知ったポチと尚文。二人はそれぞれこれからの道を模索し、悩み始める。

次回『犬の奴隷の世界 2/4』

7月22日18時から、お楽しみに!



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Fourth World-7『犬の奴隷の世界 2/4』

(異世界オルガ三周年で投稿された動画期待してたより少なくて正直残念だった……最初のウィンターさんの動画の投稿日すら覚えてない人もいたみたいで……なんか悲しいね)



「という事でごめんなさい。尚文さんには悪いけど、この世界に召喚された四聖勇者は世界移動出来ないみたいなんだ……」

 

神の爺さんからの電話の後、冬夜は尚文に説明をして、最後にこう言った。

 

俺は正直ピンと来なかったのだが、どうやらこの世界で四聖勇者が世界移動するには霊亀(れいき)とかいう聖獣の力を借りなきゃなんねぇらしい。

これは冬夜の魔法でも神の爺さんの力でもどうにも出来ねぇみたいだ。

その霊亀(れいき)の力を使っても、緊急事態じゃない限り世界移動はおそらく認められないだろう。というのが神の爺さんと冬夜の見解だ。

 

「……くそっ!!この世界はどこまで……!!」

 

尚文は壁を殴りつけて、こう叫ぶ。

 

「盾のご主人様……」

 

ポチはそんな尚文を見て、悲しげな表情を浮かべていた。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「とにかく、尚文さんもポチちゃんも今日はここに泊まってよ」

 

シャルのその一言でとりあえず今日は尚文とポチをアドモス商会に泊める事にして、夕飯もろもろを済ませた後、俺らはこれからどうするかを話し合う事にした。

 

この場に居るのは俺と冬夜、シャルにラウラ、レイチェルとザック、そして尚文の五人だ。

 

ポチは疲れたのかもう寝ちまった。

ミカはそんなポチを見てくれてる。

 

「さて、とりあえずこれからどうすっかだが……」

 

俺が話を切り出すと、尚文は考えていた事を伝えるかのようにこう言った。

 

ポチ(あいつ)がどうしたいのかは知らないが、俺はとにかくあいつの面倒は見切れない。引き取ってくれるなら喜んで差し出すが、あんなでも大事な戦力だったんだ。代わりの戦闘力とポチを育てるのにかかった費用くらいは出して貰わなきゃ困る」

 

その尚文の言葉に対する皆の反応は三者三様だ。

 

「まぁ、そうなりますよね」

 

冬夜はそう簡潔に言う。

 

「そういう言い方は無いんじゃないかな!?ポチちゃんも一緒に旅した仲間なんだから……!」

 

シャルは仲間の大切さを説く。

 

「確かに貴様の言い分は最もだ。しかし、シャルロットの言う事も分かるぞ」

「私もラウラさんと同じ感じかな?尚文さんもシャルロットさんも正しいと思う」

 

ラウラとレイチェルは尚文とシャルの二人とも正しいと言った。

 

「メンドクセェなぁ……。そもそもこんな国護る必要あんのか?滅びちまってもいいんじゃねぇのかよ?」

 

ザックはそう呟いていた。

 

「まぁ、とにかく。尚文の要望を聞くしかねぇだろ。金の方は冬夜、なんとか出来るか?」

「うん。大丈夫」

「じゃあ後はポチの代わりになる戦力か……」

 

俺はそう言って頭を抱えた。

 

 


 

 

一方、その頃──

 

「う……ううん」

「ん?ポチ、起きたの?」

「……三日月、なのです?」

「うん」

 

寝ていたポチが目を覚ました。

ポチはベッドから起き上がると、部屋を見渡す。

その部屋にいたのは、火星ヤシを食べながら、農業の本を読んでいる三日月だけだった。

 

「オルガと盾のご主人様はどこに行ったのです?」

「冬夜達と向こうで話してる。尚文はこの世界に留まらなきゃいけないみたいだから」

 

三日月がそう言うと、ポチは少し顔を俯かせた。

 

「…………」

 

そのままポチは黙ってしまい、部屋は静寂に包まれる。

 

しかし、その静寂を三日月が破った。

 

「さっき冬夜も言ってたけどさ、ポチはこれからどうしたいの?」

 

三日月がそう聞くと、ポチは口を開き、こう話し始めた。

 

「ポチはオルガに会いたかったのです……。今は会えたから次はご主人様に会いたいのです!でも盾のご主人様は盾しかないから戦えないのです!ポチが頑張らなきゃいけないのです!盾のご主人様を一人ぼっちにしちゃいけないのです!」

 

どんどん言葉が溢れて止まらないポチを三日月が珍しく少し慌てた顔をして制止する。

 

「待って、落ち着いて、ポチ」

「…………一人ぼっちはダメなのです」

 

ポチはそう言ってまた無言で俯いてしまった。

 

「尚文の助けになる人がいれば、ポチはどうする?」

「えっと……」

「これはポチが決める事だよ。これはポチの全部を決めるような決断だ。だからこれはポチが自分で決めなきゃいけないんだ」

「ポチは……」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

そして、とりあえずポチの代わりになる戦力を探そうという話に決まった一行は、街の掲示板に仲間募集の貼り紙などを確認し、その掲示板で仲間募集をしている冒険者を片っ端から当たっていった。

 

しかし、分かっていた事だがそう簡単に盾の勇者の仲間になってくれるはずがない。

 

尚文の冤罪を晴らそうにも、こうまで噂が街にひろがっている状況ではどうしようもないだろう。

 

そんな中、当事者の尚文は一人で王都から少し離れた川に来て、魚釣りをしていた。

 

(あの冬夜とかオルガとかは少しは信用出来そうだが、油断は禁物だ。いつまた裏切られるか分からん)

 

心の中でそう呟きながら、尚文はポンポンと釣り上げた魚を魚籠に入れていく。

 

(魚は売れるからな。これで当分の資金は稼げる)

 

そして、順調に魚を釣っていると、尚文の目の前の川面から独り言を喋りながら一人の亜人が這い上がってきた。

 

「モトヤスちゃんの話によるとラフタリアちゃんはこの街にいるらしいんだけど、どこかしらねぇ~って」

 

その亜人は近くで魚釣りをしていた尚文を見て、こう挨拶をした。

 

「あら、こんにちは。旅人さんかしら?」

 

 




尚文が出会った亜人の女性──サディナ
彼女との出会いは尚文に一体何をもたらすのか?
そしてポチも自らの未来を選択する。

次回『犬の奴隷の世界 3/4』

7月25日18時から、お楽しみに!



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Fourth World-8『犬の奴隷の世界 3/4』

ここら辺、難産だった……




「あら、こんにちは。旅人さんかしら?」

 

尚文が魚釣りをしていた川の水面から現れたシャチ系の亜人は尚文にそう声を掛けた。

 

「……亜人か?俺に何の様だ?」

「別に挨拶をしただけなのだけれど?」

「そうか、ならとっとと失せろ」

 

尚文は警戒してそう言うが、それが彼女の好奇心を募らせた。

 

「何故、そこまで警戒心が強いの?」

「うるさい。とっとと去れ」

「私の名前はサディナって言うのよ、旅人ちゃんの名前はなんて言うのかしら?」

 

名前を尋ねてくるサディナに対し、やはり尚文は警戒するが、同時にこうも感じていた。

 

(もしかして、こいつもポチやあの冬夜、オルガ達と同じなのか?少し探ってみるか……)

 

「岩谷尚文……尚文が名前だ」

「そう、ナオフミちゃんって言うのね。ナオフミちゃんは釣り目的でここに?」

「……ああ」

 

(俺の名前を聞いても、警戒しない……。こいつはあの噂を知らないのか?)

 

「そう。じゃあ釣った魚はどうするの?食べる専門かしら?」

「そんな事を知ってどうするんだ!」

「なんか様子が違う気がしたから聞いただけよー」

 

尚文は逡巡した末、こう答える。

 

「別に……売って金にするだけだ」

 

すると、サディナはこんな提案をしてきた。

 

「高く売れる魚があるわよ、取って来てあげようかしら?」

 

その言葉に尚文はさらに警戒を強め、こう答える。

 

「金を払う気は無い!」

「タダで良いわよーその代わり、お金を手に入れて何をしたいか教えてほしいわね」

 

再び、逡巡する尚文。

数秒考えてから彼はこう答えた。

 

「ただ装備を揃えたいだけだ」

「装備? 武器とかかしら?」

 

サディナは尚文の盾に視線を向ける。

逆に尚文は盾を隠す様にしながらこう言った。

 

「……話す気は無い」

「疑い深いのね」

「俺の勝手だろ。さっきから鬱陶しい!」

「あらー……じゃあ約束通りに取ってくるかしらね」

 

そう言って、サディナは陽気に海岸の方へと泳いで行った

 

「なんなんだアイツは……まったく」

 

尚文はそう愚痴った後、再び魚釣りに戻った。

 

そこに一部始終を見ていた冬夜が空から現れる。

 

「尚文さん、ここに居たんですね。さっきの人は?」

「知らん。付きまとってきたから相手していただけだ」

「そうなんですね……。彼女、戻ってくるとか言ってました?」

「高く売れる魚を取ってくるとかなんとか言ってたが、信用は出来ん。どうせそのままいなくなったんだろ」

「……少し、待ちましょうか」

「ふん、勝手にしろ。俺はもう少し魚を釣ったらアドモス商会に戻るからな」

 

尚文のその言葉に冬夜は少し笑みを溢してこう言う。

 

「アドモス商会に戻ってくるんですね」

「……あそこは隠れるのにちょうどいいからな。少し利用させてもらってるだけだ」

「僕らがこの世界を去るまではどうぞご自由に使って下さい」

「ふん…」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

そして、約20分ぐらい川の近くで待っていると、サディナが魚を持って戻ってきた。

 

「はい。約束の魚よ」

「あ、あぁ……」

「ところでその男の子は?ナオフミちゃんのお友達?」

「違うっ!」

 

尚文は必死に否定するが、それを無視して冬夜はサディナにこう言った。

 

「僕の名前は望月冬夜。サディナさん。あなたに少しお願いがあるんですけど……」

 

 


 

 

一方、その頃──

 

「シャル、ラウラ。そっちはどうだった?」

「こっちはダメ。オルガとポチちゃん、三日月君の方は?」

「ダメダメなのです……」

「仲間になってもいいって言うやつらはみんな胡散臭いやつらばっかだったよ」

「やっぱオルガ達もそうかァ~。俺とレイも似たようなモンだな」

「ザックの場合はその顔のせいで怖がられてたけどね」

「うっせぇな」

 

街の掲示板で仲間募集をしている冒険者を片っ端から当たっていったオルガと三日月、シャルロットとラウラ、レイチェルとザック、そしてポチ。

 

しかし、悪名高い盾の勇者と関わりあいになりたいという冒険者はあまり居なかった。

 

そんな時、オルガのスマートフォンに冬夜から一通のメールが届いた。

その内容は──

 

「何っ!?」

「どうしたの、オルガ?」

「シャル、みんな!聞いてくれ!冬夜と尚文がもしかしたら仲間になってくれるかも知れねぇってやつを見つけたらしい」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

そして、冬夜はサディナをアドモス商会に連れてきて、皆に紹介をした。

 

「彼女はサディナさん」

「はーい!お姉さんの名前はサディナって言うのよ!よろしくね」

「お、おぅ……。そいつが俺達がこの世界を出た後も尚文の仲間で居てくれるやつなのか?」

「うん」

 

冬夜の頷きに肯定するようにサディナもこう言った。

 

「トウヤちゃんの話は聞かせてもらったわ~。難しい事はわからないけど、この世界で勇者として召喚されたナオフミちゃんだけがこの世界に残らなきゃいけないって事なんでしょう?私はナオフミちゃんを気に入ったし、トウヤちゃん達の異世界の旅ってのもあんまり興味はないし、別に構わないわ~」

 

あの後、サディナは冬夜の話をすべて聞いた上で「尚文の仲間になってもらいたい」という願いを聞き入れたのだ。

 

三日月はポチにこう尋ねる。

 

「ポチはどう?この人で大丈夫?」

「う~ん」

 

ポチは注意深くサディナを観察する。

 

「……この人、強い人の匂いがするのです!!この人なら盾のご主人様の剣になってくれそうなのです!」

「うん。じゃあ、俺もそれでいいと思う」

「もちろん私達も異論ないよ」

 

ポチがサディナを認めた為、三日月やシャルロット達も異論は特にないようだ。

 

「サディナさん!ポチはオルガと旅をしたいのです!でも盾のご主人様はこの世界でポチを拾ってくれた人なのです!だから……えっと……よろしくなのです!!」

「ふふふ……よろしくされました」

 

しかし、やはり尚文は警戒しているらしく──

 

「俺は認めた訳じゃないからな!」

 

そう強くサディナを否定した。

 

そんな尚文に対し、サディナはこう提案をする。

 

「どうしても信用出来ないなら……私がナオフミちゃんの奴隷になってあげてもいいわよ」

 

 

 




サディナに奴隷紋を施すのとポチをオルガの奴隷として再登録するため、奴隷商に会いに行く事となった尚文とオルガ達。そこでサディナと尚文は運命の出会いを果たす。

次回『犬の奴隷の世界 4/4』

7月28日18時から、お楽しみに!


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Fourth World-9 『犬の奴隷の世界 4/4』

犬の奴隷の成り済まし編はとりあえずここで完結となります。

モンタークの動向や、見失ったサンポなどについては次回投稿の幕間にて書かせていただく予定です。

出来次第、すぐにtwitterかここの活動報告にて連絡させて頂きますのでもうしばらくお待ち下さい




尚文と俺達はこのサディナって亜人の提案に乗り、サディナに奴隷紋を施す為、奴隷商へ行く事に決めた。

 

サディナは尚文を気に入ったって言ってたが、尚文は警戒を解こうともしねぇ……

 

仲間は嫌だが、奴隷なら裏切る事はないから信用出来るっつーことらしい。

 

この世界で生きていく内にこういう考え方も治っていってくれればいいんだけどよぉ……

 

あと、ついでにポチの主人も尚文から俺に変えてもらう予定だ。

 

薄暗い路地裏を進んでいると、冬夜がこう呟いた。

 

「なんか、静かだねぇ……」

「街の中にはフレイズもいないし、さっきの亡国機業(ファントムタスク)はもう別の世界に行っちゃったのかな?」

「どうだろうな、あやつらの目的が良くわからん」

 

シャルとラウラはそう首を傾げる。

 

そんな中、俺は「なんか静か」という言葉に少しトラウマを覚えていた。

 

しかし、冬夜の言うとおり、確かに静かだ。路地裏を進んでいけば進んでいくほど、だんだんと薄暗い道になっていく。

奴隷商があるのはどうやら日が当たらない場所のようだ。

 

「なんかサーカス団のテント小屋みたいな感じです……」

「サーカスってなんだ?」

「あぁ、サーカスって言うのはね……」

 

レイチェルとザックがそんな感じの会話をしていると、奴隷商人がテントから顔を出した。

 

シルクハットのような帽子と燕尾服を、まるでビスケットみたいに太った体で着こなして、変な丸眼鏡を掛けている髭を生やした男

 

「これはこれは勇者様。今日はどのような用事で?」

 

奴隷商はそう言って、もったいぶった礼儀の掛かるポーズで尚文を出迎える。

 

「おや?……まさか、お仲間を作られたので?」

 

尚文の近くにいた俺らを見た奴隷商が首を傾げてそう言う。

俺が肯定する前に尚文はこう言い放った。

 

「違う。こいつらは俺と交渉をしただけだ」

「ふむ。交渉とはどのような?」

「こいつらは俺が買った犬の奴隷を買い取りたいらしい。その代わりに金をいくらかもらったのと……」

 

その会話に俺は少し憤りを覚える。

 

俺は尚文とも仲間になれたと思ってたんだけどな

 

他の皆の顔色を伺うと、シャルやラウラ、レイチェルも俺と同じく少しばかりか怒りを感じているようだ。冬夜とポチは呆れている様子で、ミカとザックはあんま変わらねぇ

 

尚文は一人、笑顔を見せていたサディナを指差して──

 

「そこのシャチの亜人を俺の奴隷にしたいんだが、いくら掛かる?」

「なるほど、そういう事でしたか。詳しく査定したいので、どうぞ中へとお進み下さい。皆様もどうぞ」

 

そうして、俺たちは奴隷商のテントへと入っていった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

ガチャン!という音と共にテントの奥で厳重に区切られた扉が開く。

 

「ここが奴隷売り場か……」

「久しぶり、なのです」

「「「……」」」

 

俺がそう呟き、ポチが少し陰りを見せた表情で懐かしむ。

他の全員は何か考え込むように黙りこんだ。

 

ミカやザックは多分昔のスラム街を思い出してるんだろうか?

シャルやラウラ、レイチェルも何かしら思うところはあるのだろう……。

 

「裏世界のゴレム売り場みたいだ……」

 

冬夜はそんな事を呟いていた。

裏世界やゴレムなどは聞いた覚えがないが、おそらく前の世界で冬夜が体験した出来事にどこか似ているのだろう。

 

店内の照明は薄暗く、仄かに腐敗臭が立ち込めている。

 

獣のような匂いも強く、あまり環境が良くないのはすぐに分かった。

 

 

「さっそく、サディナに奴隷紋を施してもらうぞ。サディナもいいな」

「わかったわ」

「では勇者様、血を分けて頂けますかな」

 

俺らがキョロキョロ辺りを見回しているのを他所に尚文は奴隷商と話を進めて行く。

 

数分後、サディナの奴隷紋を施す儀式のようなものが終わったようで、俺とポチ、冬夜は尚文と奴隷商に声を掛けられた。

 

「では次は犬の奴隷の登録変更を致しましょう」

「おい、次はお前らもだぞ!」

 

俺とポチが奴隷登録をするため、尚文と奴隷商が居た少し開けた場所へとやってくると、そこにはインクの入った二つの壺と少量のインクが移された小皿、そして一本の小さなナイフが置いてあった。

 

「まずは犬の奴隷と勇者様の奴隷登録を解消致します」

 

一つの壺から取り出した筆の液体が零れ、ポチの耳に刻まれていた奴隷紋に染み込むとその奴隷紋は瞬く間に消えていった。

 

「では、次にオルガ・イツカ様。少量の血をお分けください。そうすれば奴隷登録は終了し、この犬の奴隷はオルガ様の物になります」

「あ、あぁ……」

 

ナイフで指を少し切り、その血を小皿に数滴垂らす。

 

ナイフで指を切った時、何故か「止まるんじゃねぇぞ……」とふと言い掛けたんだが、まぁそれはどうでもいいだろう。

 

奴隷商は先ほど奴隷登録を解消するときに使ったのとは別の壺から取り出した筆で小皿のインクを吸いとって、ポチの耳に奴隷の紋様を塗りたくる。

 

「うぁぁぁぁぁ……」

 

おそらく痛みを伴うのだろう。ポチは少し顔をひきつって痛みを訴えていた。

 

「大丈夫か、ポチ?」

 

俺がポチにそう聞くと、ポチは痛そうにしながらも、こう言ったのだった

 

「……だい…じょうぶ、なのです。これでオルガとずっと一緒なのです!」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

そして、サディナへ奴隷紋を施し、ポチの奴隷登録の変更も終了し、奴隷商から帰ろうとしたその時、サディナがとある奴隷の少女を見つけた。

 

「……待って、ナオフミちゃん」

「……?どうした?サディナ」

 

サディナは急に立ち止まって、檻の向こうで怯えて縮こまる奴隷の少女をジッと見つめた。

 

その奴隷の少女はおそらく病に伏しているのだろう。ガリガリに痩せ細り、震えながらゴホゴホと咳き込んでいた。

 

犬の奴隷のポチとは少し違う丸みを帯びた耳を生やし、妙に太い尻尾を伸ばしている。年はポチと同じくらいか?

 

その奴隷の少女を数秒ほど見つめた後、サディナは小さな声でこう呟く。

 

「もしかして……ラフタリアちゃん?」

 

 

 




尚文は新たな奴隷であるサディナ、ラフタリアとともに盾の勇者としてこの世界で生きていく事を誓う。
その数時間前、ユラとサンポは自軍の戦力強化の為、四聖武器の複製品の奪取を目論むが……


次回
『幕間 ~盾の勇者の新たなる旅立ち~(仮)』

?月?日??時から、お楽しみに!


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