3人のガーディアンーガーリー・エアフォース異聞ー (h.hokura)
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ALT01:接触
男性主人公が女性主人公(ヒロイン)になる話が好きな人間なので。
その船団は上空から迫り来る何物かに襲われていた、白く輝くガラスのような半透明の飛行物体に・・・
「船長、ザイが追って来ます、振り切れません。』
操舵室に船員の声が響き、船長は顔の表情を強張らせるて呟く。
「くそ!こんな所で・・・」
上海から日本へ向かった脱出船団は上海沖でザイの攻撃を受けてしまったのだ。
「護衛艦隊が攻撃を開始します。」
脱出船団を護衛する為に随伴していた4隻のフリゲート艦がVLSから次々とミサイルを発射する。
だがそのミサイルをザイは軽々と回避すると爆弾を分離しフリゲート艦を次々と攻撃して行く。
「船長空軍機が。」
船員が指した空に2機の空軍機が現れザイの後方に着くと空対空ミサイルを発射したのだったが。
ミサイルは命中寸前に迷走し始め目標に命中する事無く爆発してしまう。
そしてザイは飛行方向を変えぬまま姿勢をその場で変えると砲を空軍機に向け発射、1機は離脱したがもう1機は逃げ遅れ撃墜される。
「船長ザイが1機こちらへ来ます!」
空軍機を撃墜したザイが護衛艦を失った船団に迫って来ると再び爆弾を分離して1隻の貨客船を攻撃する。
爆弾は正確に貨客船中央部に命中し火災が発生、大きく傾くと積んであったコンテナが甲板上を滑りながら人々を巻き込んで海上に落下して行く。
「このままじゃ皆沈んじまう。」
沈み始めた船を隣の船の甲板上で見ていた一人の少年が呟く。
その直後、今度は少年の乗って居た船も爆撃を受け火災が発生する。
「何しているの慧、逃げなきゃ駄目じゃない。」
慧と呼ばれる少年の元に同じ年頃の黒髪をポニーテールにした少女がやって来る。
「うんそうだね明華、この船はもう・・・」
火災は船全体を覆い傾斜も酷くなっている、沈没は免れない事は慧にも分かる。
「大丈夫慧には私が付いて居るからね。」
自身も青ざめながら明華は慧を力付け様とぎゅっと手を握って来る。
「・・・ああ。」
その手が震えている事に慧は気付かないふりをして頷きつつ明華の言葉に答える。
そして二人は船尾に有る救命艇へ向かう、その間もザイの攻撃は続き今度は隣の船が攻撃され火を噴く。
慧の言葉通り船団は全船沈没から逃れられない状況になりつつあった。
日本・某所。
「室長!グリペンのシステムが勝手に起動しています。」
モニターを見ていた口元にひげを生やした男が振り向いて叫ぶ。
「何だと!?一体何が起こっていやがるんだ。」
室長と呼ばれたこちらは無精髭を生やし男がモニターに駆け寄り覗き込みながらぼやく。
「エンジン始動します、火器管制システムも作動開始・・・機関砲が発射体制に!」
轟音が辺りを包み激しい気流が様々な物を吹き飛ばし始める。
「ちぃ!格納庫の扉をさっさと開けるんだ。」
「し、しかしそれは不味いんじゃ・・・」
室長の指示にモニターを見ていた男はがそう答えるが。
「馬鹿野郎、開かなきゃグリペンは扉を機関砲で強引にこじ開けて出て行くぞ、そっちの方が不味いだろうが。」
「わ、分かりました、格納庫の扉を開けるんだ急げ!」
そう室長が叫ぶと男は慌てそう指示を飛ばす。
扉が開き外からの光が格納庫の中を照らし出す中そこにあったのは、 機体をクリムゾンに塗られたサーブJAS-39Dグリペンだった。
グリペンは扉が開き切ると滑走して格納庫を出て滑走路に向かった行く、それを見ながら扉を開ける様指示した男は壁にある電話機に取り付く。
「八代通だ、基地の発着を全て停止、今出て来たグリペンの離陸を優先しろ!何ぃ緊急事態なんだよさっさとやれ!」
電話機を乱暴に戻すと八代通は格納庫の外に飛び出し、離陸を開始するグリペンを見る。
「室長何が起こったというのですか?」
「お父様、あれってグリペンだよね?」
そんな八代通の元に2人の女性、いや少女が現れる。
黒のおかっぱ髪の少女とイエローのウェーブロングヘアの後頭部に白地に青のラインの入った大きなリボンを結んだ少女の2人だった。
「・・・まったく訳が分からん、だがグリペンが突然目覚めたのは確かだ、何かが起ころうとしている。」
大空に舞い上がったグリペンを見上げながら八代通は呟く。
「グリペンが・・・」
同様に見上げるおかっぱ髪の少女の表情は複雑な思いに満ちていた。
慧と明華が救命艇に辿り付いた頃、上空では残った1機の空軍機がザイのミサイルをフレアを使って回避し後方に着き攻撃を掛けようとしていた。
だがパイロットが機関砲の照準を合わせようとした瞬間ザイの姿がブレてその姿を見失ってしまう。
ザイは自分を見失った空軍機の後方に一瞬にして着くと砲を発射し撃墜してしまう。
既に護衛のフリゲート艦も全艦戦闘不能になっており、これで船団は完全に無防備状態になった。
「慧、何しているの早く乗って。」
その状況に茫然としてしまった慧を既に乗り込んで居た明華が呼ぶ。
「あ、ああ。」
慧が慌てて乗り込むと乗員が扉を閉め、救命艇は船外に繰り出されてロックが解除、海面に叩きつけられる様に着水する。
その衝撃に乗って居た人々が悲鳴を上げる中、明華は慧の手をしっかりと握って来る。
そして慧達の救命艇が船から離れ進み始めると、気付いたらしいザイの1機が攻撃を掛けようと急速に接近して来た。
「ああっ!」
慧はザイの攻撃に気付き絶望の声を上げる、最早誰も助けてくれないと分かっているからだ。
迫りくるザイの姿に慧は目を瞑り覚悟を決める、だが次の瞬間迫って来たザイに何かが命中し爆発するとバラバラに吹き飛んでしまう。
「えっ・・・?」
破片が救命艇に当たる音に目を開けた慧は目の前を轟音と衝撃を伴なって通り過ぎて行く赤のカラーを纏った戦闘機を見る。
その戦闘機は急上昇し残った2機を追尾しようとしたが突然様子がおかしくなる、速度が落ち失速し始めたのだ。
危うく墜落しそうになった戦闘機はフラフラになりがも慧の乗って居る救命艇の傍に着水して来る。
一方救命艇はそれに構わずその場から離れようとする。
「ちょっと待ってくれ、あの戦闘機のパイロットを助けないのか!?」
慧がそう叫ぶが周りの者は茫然としてて誰も反応を示さず救命艇も停止する気配も無かった。
「それなら・・・」
ベルトを外し慧は立ち上がるとハッチに向かう、自分が助けなければならないと思って。
「ちょっと慧、何をする積もりなの?」
明華が慌てて止めようとするが、慧は構わず救命艇の扉を開けて海に飛び込み戦闘機に向かって泳いで行く。
そうして戦闘機に辿り着いて機体によじ登った慧は普通なら透明なキャノピーが装甲らしき物で覆われ中が見えない事に気付く。
これでパイロットはどうやって操縦しているのだろうかと慧は不思議に思ったが、兎も角助けようとしてキャノピーを叩く。
「おい大丈夫か?早く出て来るんだ、救命艇がいっちまう。」
だが反応は無く慧は「くそぉ・・・」と呟いて更に強く何度も叩き続けていると突然空気の抜ける音と共に白い気体が噴出しキャノピーが開き始める。
慧は一瞬驚きで固まるが直ぐに気を取り直し、開いたコクピットの中に身をいれパイロットを助けようしたのだが。
「おい大丈夫か・・・ってこれは?」
そこには誰も乗って居なかった、慧は困惑する、これって無人機だったのかと。
「おわぁ!」
次の瞬間戦闘機が波で揺れたのか慧はコクピットに落ち込んでしまう。
「ってくそう俺は何をやって、痛てえ。」
姿勢を直そうとして両手を左右に有る透明な板の上に置いた慧は突然痛みを感じて驚く。
「何なんだこれ・・・」
痛みを感じた両手を見た慧はその肌に幾つかの傷と血を見つける、何かが刺さった後に見えるなと思った瞬間。
「あああ!!!」
全身に激しい激痛が走った慧は再び両手を左右の透明な板の上に置いてしまう。
すると今まで静かだったコクピット内に何かの作動音がし始め前方のパネルに文字が表示され始める。
慧が今まで見た事の無い文字だったが、何故かその意味を理解出来た。
『ガーディアンシステム起動開始。』
『該当者の各パラメータ登録を完了・・・第1次の適正化処理に問題無し。』
『エンジン及び火器管制システム再起動完了。」
それらの表示が流れると機体が振動し始める、どうやらエンジンが起動した様で、更にキャノピーが閉じられて行く。
閉じた瞬間コクピット内は真っ暗になるが直ぐに周りのキャノピーに外の風景が映し出される。
何が起こっているのか慧は訳が分からず周囲を見渡しているとコクピット内にアラーム音らしき物が響き、先程文字が表示されいたパネルにレーダー画面が浮かび上がって来る。
そう慧は始めて見るそれが何かを理解出来た、そして表示されるものの意味もだ。
ザイがこちらに接近して来る、目標は自分、攻撃を受ければ周りの救命艇も危険だと理解出来たのだ。
直ぐにここを離れねばならない、そう慧が思った瞬間、乗せていた両側のパネルに奇妙な模様が浮かび上がり、戦闘機は水上を滑走し飛び上がって行く。
明華はその光景に茫然と見ているしかなかった・・・
慧が救命艇を飛び出し戦闘機に取り付き、開いた機内に消えたと思ったら、突然動き出し空へ舞い上がって行くのを。
舞い上がった戦闘機は急上昇すると接近して来たザイの後方に食らい付いて行く。
ザイはそれに気付くと激しい機動で逃れ様としたが、慧はそれを許さず後方にぴったりと付いて行きながら照準をロックすると、翼下のパイロンから空対空ミサイルを発射する。
この一連の動作を慧は難なくこなして行く、今日初めて戦闘機を操縦したにも関わらず・・・
発射されたミサイルは不思議な事に先程の空軍機の物とは違って進路を狂わさせられることも無く正確にザイを追尾する。
ザイは更に激しい機動でかわそうとするがミサイルはそれを許さず、遂に命中しバラバラに吹き飛ばされる。
2機の仲間を撃墜されたザイは高度を上げ空域から離脱して行く。
「終わったのか?」
逃げて行くザイを見ながら慧は呟く、未だに一連の出来事が理解できないままに・・・
「これからどうすれば、ぐぅぁぁ!」
慧は突然身体中に激痛を感じ悲鳴を上げてしまう。
「な、何が・・・・あああ・・・!!」
激痛の余り慧は遂に気を失ってしまうが、戦闘機は何もなかった様に飛び続ける。
『第2次の適正化処理開始。』
新たな表示が前方のパネルに表示されるが気を失ってしまった慧は当然気付く事は無かった。
そんな状態の慧を乗せたまま戦闘機は脱出船団の居る海域から離れて行く。
「慧!?」
明華の悲痛な悲鳴を残して。
「室長!グリペンが戻って来たそうです。」
グリペンが出て行った格納庫に掛かって来た電話を取った口髭の男が振り向いて叫ぶ。
2人の少女と格納庫の真ん中で話していた八代通がうんざりした様子で答える。
「やっと帰って来たか、一体何処で何をやらかして来たんだか・・・舟戸変われ。」
電話を舟戸と変わった八代通が話始める。
「グリペンの着陸に一切干渉するな、着地後滑走路は別命あるまで閉鎖だ、あと基地警備部隊の1個小隊を実弾装備で第7格納庫まで寄こせ、何?権限があるのかだって?この件に関しては俺には有るんだよ、良いからさっさとやれ。」
電話を乱暴に戻すと八代通は少女達を伴なって格納庫の外に出る。
基地上空に戦闘機、グリペンが現れると滑走路に脚を出し着陸、直立させたカナードをエアブレーキ代わりにして減速、誘導路を通って格納庫へ向かって来る。
「舟戸、グリペンが格納庫に戻ったら扉を閉じて必要人員以外追い出せ。」
「了解です。」
格納庫に戻ると八代通は舟戸にそう指示を出す。
轟音を響かせグリペンが格納庫に入って来ると八代通と少女達の前で停止しエンジンを切る。
その後ろで格納庫の扉が閉じられて行く。
「海水で濡れていますね、グリペンは海上に着水した様ですね。」
機体から漂う塩の匂いにおかっぱ頭の少女が呟く。
「ねえファントム、グリペンの奴何をしにいったのかな?」
ロングヘアの少女の問いにファントムと呼ばれた少女は「さあ。」と言って肩を竦める。
扉が閉じられると同時に高機動車が数台到着し89式小銃を持った陸自隊員達が降車し次々と格納庫の中に入って行く。
入って来た隊員達は照明に照らし出されたグリペンの周りを囲むと一斉に小銃を向ける。
「舟戸、グリペンの状況は?」
グリペンにモニターシステムを接続し機体の状況を確認し始めた舟戸に八代通が聞いて来る。
「グリペンのシステムに問題無しです室長。」
画面を操作しながら舟戸が答える。
「室長、グリペンは一戦を交えた様ですね、ミサイルが2基ありません。」
ファントムがグリペンの翼下のパイロンを見て言って来る。
「そうらしな・・・」
八代通が眉を顰めて答える。
「無人のくせによく落とされなかったねこいつ。」
ロングヘアの少女は小馬鹿にした様に言う。
「その辺はどうなんだ?」
八代通の問いに舟戸は画面を切り替えながら答える。
「間違いないですね、記録によれば自動迎撃システムが作動・・・ただ途中で不具合を起こして・・・えっ?」
舟戸が驚いた声を上げる。
「何があったんだ?」
「それが・・・その後自動迎撃システムから手動に切り替わってます、つまりグリペンを誰かが操縦して戦った様です。」
舟戸の答えに八代通と二人の少女はグリペンを見る。
「えっ、それって今グリペンに乗って居る奴がいるって事だよねファントム。」
「そう言う事になりますねイーグル。」
イーグルと呼ばれた少女の問いにファントムは答える。
「コクピットを開ければ分かるだろうさ、舟戸さっさとやれ。」
八代通の指示に舟戸が操作するが。
「駄目です室長、グリペンが操作を受け付けません。」
「何だと?一体どうして・・・」
舟戸の報告に八代通は目をむいてグリペンを睨みつける。
「室長、皆を一旦離れさせて下さい、多分グリペンは警戒しているんです。」
ファントムの言葉に八代通が一瞬考え込むが、直ぐに周りに居る隊員達に指示する。
「おいお前達グリペンから離れろ、あと銃を降ろせ。」
「しかし室長・・・」
「早くしろ!」
躊躇する隊員達を一喝して下がらせる八代通、渋々彼らは銃を降ろしグリペンから距離を取る。
すると再び空気の抜ける音と共に白い気体をまき散らしキャノピーが開く。
「室長、後は私に任せて頂けますか?」
「分かったファントム、慎重にな。」
「はい。」
ファントムは八代通の言葉に頷くとグリペンに近寄って行く。
「私も一緒に行くよファントム。」
「勝手にしなさいイーグル。」
鼻歌を歌い腕を頭の後で組みながらイーグルが付いて行く。
途中隊員達の傍を通る際に視線、恐怖の籠ったものを向けられるがファントムもイーグルも気にした様子は無かった。
そしてグリペンに近づいたファントムは一動作で機体に上る、もちろんイーグルもそれに続き、二人はコクピットを覗き込む。
「・・・ねえファントム、この娘ってやっぱり?」
「ほぼ間違いないでしょうね。」
コクピットの中に居た小柄な体格でペールピンクのストレートロングヘアをした少女を見ながら2人は話す。
「でもこの娘、何でサイズの合わない男物の服なんか着ているんだろうね。」
確かにその少女はずぶ濡れの男物の服、シャツとジャケットにジーパン姿だった、イーグルの言った通りサイズがまったく合っていない。
「思った以上に厄介な状態の様ですね・・・」
ファントムはそう言って深い溜息を付くと八代通の方を振り向いて言う。
「室長、やはりガーディアンですね・・・但し私達とは少々違ったところがある様ですが。」
意味深なファントムの言葉に八代通は眉を顰めると頭を振って舟戸に指示を出す。
「舟戸、医療班を呼べ・・・新たな適格者が現れたと伝えるのを忘れずにな。」
「りょ、了解。」
その言葉の意味に舟戸は重々しい表情で頷くと電話機に向かう。
「お前たちは格納庫の周りの人払いをしろ、例え基地司令だろうが大臣だろうが、絶対誰も通すな。」
「は、はい、行くぞ。」
八代通の指示を受け格納庫の外へ向かう隊員達、電話で医療班を要請す舟戸、コクピット内の者を介抱するファントムとイーグル。
その光景を見ながら八代通は呟く。
「新たな適格者の出現か・・・喜ぶべきかそれとも厄介事が増えたと嘆くべきか、微妙なところだな。」
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ALT02:ガーディアン
八代通は深い溜息を付くと再び同じ質問を目の前の人物に掛ける。
「名前は?」
「鳴谷 慧・・・です。」
「年は?」
「17歳。」
「・・・性別は?」
「だから男だと何度も言っているじゃないですか。」
その答えに八代通はうんざりした様に首を振ると言う。
「悪いがどう見ても君は13,4歳の・・・女子にしか俺には見えんな。」
八代通の言葉に彼の前でベットに腰掛けている少女は絶望に満ちた表情を浮かべて肩を落とす。
グリペンが帰還後3時間が経っていた。
搭乗して居たペールピンクのストレートロングヘアをした小柄な少女はコクピットから連れ出され、この病室へ移動させられていた。
医療班の診察で身体に異常の無い事を確認された少女が意識を取り戻したのは1時間前の事。
「ここは?いや明華はどうなったんですか?」
意識を取り戻して最初にそう言って八代通に詰め寄った少女は、最初に声、やがて身体に対し戸惑った表情を浮かべると病室に有る鏡に慌てて近寄って、己の姿を確認すると顔を真っ青にしてこう叫んだ。
「わ、私女の子になっているの!?」
少女を取り敢えず落ち着かせ座らせた八代通が上記の質問を行ったのだが・・・未だに認識が一致しない状態が延々と続いているのだった。
「室長、よろしいでしょうか?」
イーグルと共に病室に来てそのやり取りを冷ややかに見ていたファントムが進み出来て言う。
「何だファントム?」
「このままでは埒が明きませんわ。」
不安そうに自分と八代通を見ている少女を一瞥しファントムは言う。
「でどうする気だ?」
「こうします。」
ファントムは少女に向かい合うとその両手を掴み自身の胸に当てさせる。
「!!??」
「これで分かった筈よ・・・元が男性だったかは別にして今は女性だと。」
感じる筈の無い柔らかい胸の感触に少女は狼狽しつつ聞き返す。
「な、何でこんな事に?」
そんな少女に冷たい視線を向けファントムは告げる。
「その姿になった理由は分からないわ・・・ただ貴女が私達と同じガーディアンになったのは確かね。」
「ガーディアン・・・?」
少女がファントムの言葉に動揺している最中、病室に看護師がやって来て八代通に書類を渡す。
その看護師は部屋の異様な様子に戸惑っていたが、八代通の鋭い視線に慌てて出て行く。
「鳴谷 慧、男、17歳、小松出身・・・間違いないか?」
書類を一瞥した八代通が少女に確認する。
「は、はいそうです間違いありません、だから・・・」
「違うわ。」
そう答えた少女を冷たい言葉で制止しファントムは告げる。
「もう貴女は鳴谷 慧では無い、先程言った通りガーディアンであるグリペンになったのよ。」
「いやそんな・・・」
余りにも理不尽なファントムの物言いに少女、グリペンが抗議しようとするが。
「ガーディアンシステムに登録された時点でもう貴女には選択の権利は無くなったのよ、いずれ鳴谷 慧の存在はこの世界から抹消される。」
「・・・・」
目を見開き見つめて来るグリペンにファントムは冷徹に伝える。
「もうグリペンとしてザイと戦ってゆくしか選択肢は残されていない、貴女には最早それ以外の存在意義は無いのよ。」
「そ、そんな私の人権は?」
まだ納得出来なグリペンにファントムは更に恐ろしい現実を突きつけて行く。
「人権?そんなもの人間では無くなった貴女には無いわ・・・」
ファントムの言葉にグリペンは身体をガタガタと震えさせ始める。
「人間で無くなったって?どう言う意味・・・」
「分からないかしら?貴方今日初めてグリペンを操縦したわよね、まったく訓練を受けていないのに、更に耐Gスーツも身に付けずによ、普通の人間にそんな事出来るか・・・理解出来る筈よ。」
自分があの戦闘機を操縦しザイを撃墜した時の事を思い出しグリペンは言葉を失う。
「・・・・・・・」
そんなやり取りを聞きながら八代通は内心苦笑していた。
(ファントムの奴、一切をオブラートに包まず言いやがったな。)
確かにファントムの言った事は事実であり、ガーディアンになった時点で鳴谷 慧にそれ以外の道は無くなっている。
だからハッキリと伝えた方が本人の為だ、今の合理的なファントムとしては当然の結論なのだろうと八代通は考える。
(だが・・・まだ何処かに残っているだろう昔の彼女は・・・深い葛藤に襲われているんだろうな。)
ファントムとはそれなりに長い付き合いである八代通はその心情を察し溜息を付く、もっとも彼女はそれを絶対認めないだろうが。
「認めなさいグリペン・・・それが貴女の為よ。」
グリペンは俯いて震えながらその言葉を聞いて居た・・・
「室長、グリペンもう動いても問題は無いのですね?」
そんなグリペンを暫し無表情で見ていたファントムが八代通に聞いて来る。
「・・・ああ身体的には問題無いそうだ。」
八代通の言葉にファントムは頷く。
「それではグリペンに私達が使用する施設を案内したいのですが。」
多分親切心と言うよりその方が早く事実を認識できると考えての事だろうなと八代通は思い頷く。
「分かったグリペンの事はお前達に任せる・・・イーグル、いい加減起きろ。」
ちなみに先程からイーグルが一言も発しなかったのは八代通の座って居る傍に椅子を置いて彼に寄りかかって寝ていたからだ。
「・・・はぁぃお父様。」
伸びをして起き上がったイーグルはファントムとグリペンを見て聞いて来る。
「話しは終わりファントム?」
「ええ、これからグリペンに施設を案内するからイーグルも付いて来なさい。」
「う~ん面倒くさいなぁ・・・ファントム1人で良くない?」
いかにも面倒だと言う様子のイーグルを一瞥したファントムが八代通を見る。
「イーグルお前も一緒に行け・・・後でちゃんと構ってやるから。」
ファントムから無言の圧力を感じた八代通は肩を竦めるとイーグルにそう言う。
「うん任せてお父様。」
一転やる気を起こすイーグルに八代通は苦笑を禁じ得なかった。
(こいつはこいつでファントムに劣らず扱いずらいな。)
「ではグリペン来なさい・・・まずはこれに着替えてもらうわ。」
ファントムは未だ茫然としているグリペンを立ち上がらせ、肩を押して病室の外へ行かせると、自身も紙袋を手にイーグルを伴なって出て行く。
八代通はそんな3人を肩を竦めながら見送ったのだった。
「あの・・・ここってどこなんですか?」
辺りを見渡しながら疲れた顔でそう尋ねる慧いやグリペン。
ちなみに何故そんなに疲れた顔をしているのかと言うと、病室を出た後に女子更衣室に連れ込まれ、着ていた入院服を脱がされ、ファントムのお古らしいサイズの合わない白のワンピースを無理やり着せられたからだ。
慧にとっては女子更衣室に入るのも女子の服を着るのも生まれて初めてなのに、ファントムは情け容赦無かった。
なおイーグルがそんな光景を腹を抱えて笑いながら見ていたのは言うまでも無い。
「航空自衛隊小松基地よ、ああそう貴女の所属と身分を伝えておくわ。」
歩みを止めファントムはグリペンに向き合う。
「貴女は本日付で航空自衛隊小松基地所属の第1特殊戦術飛行隊のパイロットになったわ、階級は3等空佐よ。」
正式に辞令が降りた訳では無いが、自分達と同じ扱いになる事は分かっていたのでファントムはそう説明する。
小松・・・基地、戻って来たのかと慧、それにしても第1特殊戦術飛行隊?3等空佐?
「第1特殊戦術飛行隊はザイに対抗する為に組織された部隊・・・階級については私も知らないわ。」
グリペンの疑問に表情で気付いたのかファントムが説明する。
「階級については、『お前達が特別な存在だからだ。』ってお父様は言っていたけどね。」
ファントムの横でイーグルが気楽そうに言いながら捕捉する。
「あと・・・自己紹介がまだだったわね、私はファントム、貴女と同じガーディアンよ。」
「私はイーグル!まあよろしくね!」
満面の笑みを浮かべイーグルも言って来る、そんな二人を見ながらグリペンは益々混乱してしまう。
今の自分の姿もだがファントムとイーグルはどう見ても10代の少女だ、それが空自のパイロットで3等空佐だと言うのだから。
「ちなみに先程貴女に色々質問していた男性は八代通 遥、防衛省技術研究本部の特別技術研究室室長、私達の直接の上司よ。」
「防衛省?自衛隊の人なんですか?」
自衛隊の制服では無く白衣を着た八代通の姿を思い出しグリペンは聞く。
「正確には技官よ、第1特殊戦術飛行隊の技術顧問、もっとも事実上指揮官も兼ねているけどね。」
実際には正式な部隊長が居るが名ばかりなのだ、そこにはとある事情があるのだが敢えてファントムは説明しなかった。
(嫌でも理由を知る事になるでしょうからね。)
混乱しているグリペンを見ながらファントムはそう考える。
「それ以外の飛行隊の人間については追々教えるわ、さあ行きましょう。」
「ちょっと待って、その肝心な事を聞いていないんだけど、ガーディアンって一体何?」
そう聞いて来るグリペンを暫く見つめるとファントムが答える。
「詳しい事は後日八代通室長が説明する筈よ・・・まあ簡単に言えばザイと唯一対等に戦える特殊装備の戦闘機、貴女の場合はJAS-39Dを操れる存在よ。」
再び歩き始めながらファントムが続ける。
「私はRF-4EJファントムII、この娘は・・・」
「F-15Jイーグルだよ、二人の戦闘機と比べられない程の高性能機!」
ファントムは兎も角、イーグルの方は悪気は感じられないものの小馬鹿にされている気がグリペンはしてしまう。
「この娘の言う事を気にする必要は無いわ、何時もこんな調子だから。」
肩を竦めファントムは言うとまだ疑問が残って居る様子のグリペンに続けて言う。
「それ以上の事はこんな所では話せないわ、私達の存在は最高機密だから。」
3人がそう話しながら歩いていると、前方から婦人自衛官が2人歩いて来る。
楽しそうに何かを話していた2人はファントム達3人を見ると途端に表情を変える・・・恐怖に。
「・・・?}
その姿にグリペンは戸惑ってしまうがファントムとイーグルは気にした様子も無い。
恐怖に固まったままのその2人をファントムとイーグルは無視して進んで行く。
グリペンはその様子に益々戸惑りながらファントムとイーグルに付いて行く。
ファントムはそんな戸惑っているグリペンに気付いていたが敢えて何も言わない。
やがて暫し歩いた3人は4階建ての建物の前に到着する。
「ここがこれから貴女の住む場所になるわ。」
そう説明しファントムはイーグルとグリペンを伴なって入って行く。
3人が入って行った所はロビーの様だったが、受付を含め人の気配がまったく無かった。
グリペンを伴うファントムも付いて来たイーグルもそれを気にした様子も無く設置されたエレベーターに向かう。
「えっとファントム・・さん、ここって他の人って居るの?」
静かすぎる周りの様子にグリペンは疑問に思いファントムに質問する。
「私の事はファントムで良いわ・・・さん付けは不要よ、イーグルにもだけど。」
エレベーターの呼び出しボタンを押しながらファントムが答える。
「それと・・・ここには私達しか住んで居ないわ、さっき言った通り存在が最高機密だからよ。」
「そう!ここには今まで私とファントム2人しか居なかったんだ、今日からグリペンが住むから3人だね。」
ファントムの言葉にイーグルが微笑みながら無邪気に続ける。
「ここにたった3人ですか?」
外見からかなり広い建物だったのにそこに住んで居るのが3人と言う状況にグリペンは更に戸惑う。
だがファントムはそれ以上説明する事も無くエレベーターにイーグルと共に乗り込んで行く。
「早く乗りなさい。」
エレベーター前で立ち止まって周りを見ているグリペンにファントムは言う。
「あ、はい・・・って何でこんな喋り方に?」
返事をして乗り込みながらグリペンは後半そう呟く、そう目覚めた時から一人称も喋り方もまるで女の子みたいになってしまい困惑していたのだ。
何故か男言葉で喋ろうとしても出て来るのは女の子の言葉遣い、なお本人はまだ気づいていない様だが仕草もそうなっていた。
ファントムはそんなグリペンを見ながら考えていた。
(容姿だけではなく言動までとはね・・・これもガーディアンシステムの所為?)
それなりにシステムと長く付き合っているファントムにも真意は分からなかった、男を女にしてまで何をしたいのかと。
エレベーターが4階で止まり3人は降り立つ。
「こっちよ、部屋は何処を使っても基本的には自由だけど、室長の指示で一応固まって居る様に言われているから。」
そう説明しながらファントムはグリペンをある部屋の扉前に連れて行く。
「隣がイーグル、前の部屋が私よ。」
自分達の部屋を簡単に紹介しファントムはドアを開けて室内に入って行く。
「さあさあ入って入って、今日からここがグリペンの部屋なんだから。」
イーグルがそう言ってドア前で動かないグリペンを押して室内に入って行く。
その部屋はベットとパソコンを乗せた机だけと言うシンプルな物だった、そこには使われていた形跡が無く真新しかった。
「必要な物、服や下着は後でサイズを測って用意するわ、どうせ分からないでしょうし。」
「服や下着って、やっぱり女の子の?」
言われたグリペンが真っ赤になって聞き返す。
「当たり前でしょう・・・女なんだから。」
今更何を言っているのかと言う顔をしてファントムは続ける。
「何も着飾れとは言わないわ・・・でも必要最低限の服装はしてもらうわ。」
逆らい難いファントムの言葉にグリペンは溜息を付く。
「ひひひ・・・グリペンはお人形さんみたいだからどうなるか楽しみだね。」
2人の会話を聞いていたイーグルが興味深げに言う、そして密かにグリペンを着せ替え人形にしてやろうと考えていたりする。
「その他必要な物はそこにあるパソコンで頼む事になるわ、そうすればここに届けてくれるわ。」
「パソコンでって、自分で店に買いに行くとかは・・・」
聞き返すグリペンにファントムは肩を竦めて言う。
「私達は特別な事情が無い限り基地外には出られないわ、基地内もこことさっきの格納庫以外出入り出来ないし。」
それって軟禁されているんじゃないかとグリペンは思ってしまう。
「貴女の考えている通りよ・・・私達は外部には絶対知られてはいけない存在、基地の人間達も口外する事は禁じられているわ。」
グリペンをじっと見つめながらファントムは淡々と話す。
「基地の人間達にとって私達は禁忌の存在なの。」
先程の婦人自衛官達が見せた恐怖の表情の意味をグリペンは理解する、考えてみればまだ10代にしか見えない少女が居る事自体異様だ。
しかもその少女達が戦闘機の乗っているのだから・・・
今更ながらグリペンは自分の置かれた状況に困惑と恐怖を覚える・・・俺は一体これからどうなるのかと。
「・・・食事時間は1800からよ、後で呼びに来るわ、それまでじっとしてなさい。」
グリペンの心境を知りつつファントムは事務的に予定を伝える、同情は無意味な事は明白だからだ。
むしろ早く状況に慣れて貰わなければこれからの対ザイ戦に於いて支障が出るのだからとファントム、沸き上がって来る葛藤を無視しそう考える。
「じゃねえグリペン。」
茫然とするグリペンを置いてファントムとイーグルは出て行くのだった。
グリペン暫し茫然としていたが何とか気を取り直し、自分の部屋になった場所を見渡す。
長く使われていないのにかかわらず掃除の行き届いているのだが、今のグリペンにとってはそれは寒々とした光景にしか見えなかった。
ふと壁に掛けてある時計を見ると14:30だった、ファントムが言った夕食時間までは大分あった。
それまで置いてあるパソコンでも触っても思ったが、やはり気が進まず溜息を付いたグリペンは部屋を見て回る事にする。
とは言えベットと机のある部屋以外にはトイレと風呂場しか無く直ぐに終わってしまったが。
「シャワーでも浴びるかな。」
今になって身体がベトベトしている事に気付きグリペンはそう呟く。
意識を失っている間に看護師が一応身体を拭いてくれたとファントムが言っていたが、やはりそれだけでは付いた不快感は消えなかった様だった。
先程確かめた脱衣所に入り服を脱ごうとして・・・グリペンはそこで固まる、今の己の姿に気付いて。
「えっと・・・良いのかな?」
例え自分の姿であっても少女の身体を見てしまう事にグリペン、いや慧は躊躇してしまう、何か罪を犯すような気がして。
暫くその場に佇んで居たグリペンは深呼吸すると着ているワンピースに手を掛ける・・・目を瞑りながら。
「見なければ良いんだわ、さっと脱いで、シャワーを浴びて、また服を着れば・・・」
そう呟き服を脱ごうとするのだが、女性の服を着るのも初めてなら脱ぐのも初めてのグリペンにスムーズに出来る訳も無く。
「あれ?これって、いやこっちが・・・」
直ぐににっちもさっちもいかなくなり・・・
「わぁっ!?」
半脱ぎの状態でこけてしまうグリペンだった。
「いてて・・・何でこうも女性の服って面倒くさいのかしら・・・えっ・・・」
仕方なく目を開けて立ち上がろうとしたグリペンの目に映る1人の少女の姿。
それが脱衣所の壁にある鏡に映っている今の自分の姿だと気付くのにグリペンは暫し時間が掛かってしまった。
「・・・・」
そして認識した途端、その鏡に映るどう見ても幼い少女にしか見えない姿に、自分がもう鳴谷 慧ではないのだとグリペンは思い知らされる。
「うう・・・うう・・・」
座り込みながら涙が溢れ嗚咽が漏れるのをグリペンは止められなかった。
(何でこんな事になったんだよ?)
だがそんなグリペンの問いに答えてくれる者は誰もおらず、ただ聞く者の無い嗚咽だけが脱衣所から無人の部屋に漏れて響くだけだった。
我ながら鬱な話を書いたものだと思ってます。
設定的には前に書いた女神物に近いのですが、あっちが人々に崇拝され、キャラ同士の関係も良好だったのですが。
それでは。
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