美女と憑依系残念オリ主な野獣。 (sesamer)
しおりを挟む

第1話 異世界転生

 
 RWBYも第8章が始まったので初投稿です。
 いろいろと書き直しているので前に読んでくれた方ももう一度付き合ってくれれば幸いです。

 さらにシンダーさんの過去も明らかになってしまったので書き直します...


 死んで異世界に転生出来ます! それもあなたの好きな作品です! と言われたかどうかは覚えていない。

 だが実際に前世の知識や経験があり、その前世の自分が好きなアニメの世界にいるとなると、僕は異世界転生をしたんだろうと推測できる。

 しかしながら今の僕は第二の人生を楽しもう、とかハーレムを目指そうというような楽観的な気持ちにはどうしてもなれない。

 それもこれも転生先に問題がありすぎた所為だ。

 

 僕の転生した作品は「RWBY」という海外アニメで、ルビィ、ワイス、ブレイク、ヤンの4人の少女がアカデミーに通い、互いに成長しながら悪党やグリムという化け物を退治するハンター(女性の場合はハントレス)を目指すという王道の物語である。

 大筋は王道ではあるが、質の高いアクションバトルと緻密な世界観、甘くないシナリオでとても面白かった。

 

 別に世界の方には問題があった訳じゃない。まぁ敵は強大だしちょっとした不幸で死ぬ可能性もあるが、今すぐに世界が滅ぶ可能性があったり、常識が崩壊していたりはしない。(仮に転生するとしたら僕はエロゲ世界にts転生が1番やばいと思う)

 転生先のキャラがやばかったわけだが、ここは異世界転生の先駆者に倣って日記でも書きながら自己紹介ならぬ事故紹介とでもしよう。

 

 

 僕の名前はアダム・トーラス。容姿は赤髪碧眼で原作では仮面を着けているが、今の僕は顔の左半分が隠れるような大きな眼帯をしている。

 種族はファウナスという所謂亜人獣人のようなもので頭に赤い角を持っている。これは雄牛の特徴のひとつなので牛のファウナスになるのだろう。

 

 どうしても分かりやすくファンタジー世界で例えるならドワーフとかになるのか?(ドワーフとは違って身長は低くないし、顔も悪くないと思うのだが)

 

 僕の話が続くが、RWBY世界ではオーラというバトル漫画でいう気のようなものと、センブランスという異能があり、アダムのセンブランスは受けた衝撃を自分の攻撃力に変換するものである。

 

 今の僕がそれほど強い訳ではないが、原作での彼の戦闘能力はトップクラスで、射出機構のある日本刀を使い居合を得意とする。ゲームのキャラに例えれば、スタイリッシュな鬼いちゃんで有名なバージルだろう。

 

 それだけだと厨二だけどかっこいいキャラじゃんと思われるかもしれないがこのキャラに転生したのがやばいのには理由がある。

 

 このキャラは原作では悪役として登場し、主人公の1人ブレイク・ベラドンナ(クール系黒髪猫耳娘)の元パートナーとして彼女のストーキングをし、挙げ句の果てには他の主人公の1人であるヤン・シァオロン(活発金髪巨乳娘)の片腕を切断してしまうのだ。

 

 彼はブレイクがヤンのパートナーをしているのを認めず、2人を力で捩じ伏せてブレイクを奪おうとする(百合の間に割り込み隊長)

 

 最終的にはトラウマを抱えながらも2人は互いを支えながら彼にケーキ入刀し(意味深)、アダムは死に、キマシタワーが建った、というのが彼の最期だ。

 

 全世界のヤンブレ派が感動し、僕も放送終了後は片腕を無くしたトラウマを乗り越え、かつてのパートナーを殺したブレイクの悲しみを慰めるヤンの姿に後方親父面をしていたものだった(しみじみ)

 

 しみじみとしている場合ではない。

 

 そうなのだ、このままだと僕はレズカップルの当て馬になって死ぬのだ。

 まぁそれはそれで名誉ある気もするが、当然僕は死にたくないし出来れば本編で起こる不幸を少しでも無くしたい。(ていうかヤンの片腕を斬るとかマジあり得ない)

 

 それなら悪役をしなければいいじゃん、と思うかもしれないし僕もそう思うが、そう簡単にいかない事情がある。

 

 アダムやその元パートナーであるブレイクだが、彼女や僕は先述した通りファウナス(獣人)であり、この世界では僕らは差別対象なのだ。

 そして僕らは差別撤廃を求めてテロ活動を起こす反政府組織であるホワイトファングに所属しているのだ。このままではブレイクが主人公になれない。

 

 彼女は、パートナーである僕をはじめとするホワイトファング全体が人間に対して非道なテロ行為をするようになったことに反発し、ホワイトファングを抜けハンター養成校であるビーコンアカデミーに入学して、ルビィ達と出会うのだ。

 

 つまり僕が悪役にならないと、もしかすると主人公の1人が不在。最悪知らないやつがチームRWBYに入ってしまう恐れがある。所謂修正力があるとしてもそれだけはファンとしては認めたくない。

 

 現在原作開始まで10年以上あり、僕はホワイトファングに所属(ほぼ内定という形だが)している。だが主導者ギラ・ベラドンナ(ブレイクの父さん)は平和的で抗争も起きず、人を殺すようなことは無い。

 ブレイクもまだ7歳なので僕も悪役になる必要は無い。

 

 悪役になる、それはどれだけの悪事をすればなれるのだろうか? 

他人の物を盗む? 街を破壊する? そして、人を殺す? 

 ...駄目だ。元日本人の僕にとって殺人は忌避すべきものだし、なによりそこまでいくとメンタル弱者の僕は狂ってしまうという自信がある。

 

 さっきは世界は問題ではなく転生先に問題があると言ったが、多分僕の低メンタルにも問題があると思う(解決することはないが)

 

 まぁ考えても仕方ない部分であるし、今のところ解決策も考えている。今日はもう寝て明日に備えよう。おやすみ。

 

 

 

 

 

 夢の中彼は仮面を着けた自分と対峙していた。

 少年は男の声から必死に耳を背けていた。

 

「奴らを殺せ! オレを嬲り、奴隷のように扱い、母さんを殺したニンゲンを許すな!」

(駄目だ! 僕はそいつらと同じになってはいけない!)

 

「そうして逃げ続けるつもりか? 奴らの奴隷のままでいいのか!?」

(そんなわけじゃない! だけど平和的に解決出来るはずのものを壊しちゃいけない!)

 

「そんな手段でニンゲンは差別を止めるのか?」

 

 少年は反論することが出来なかった。

 

 

それに、と男は自分の仮面を取った。その下にあったものは大きな焼印だった。

少年の眼帯も共鳴するように外れ、同じ焼印を晒した。

 

「オマエのまわりのファウナスは認められてもオマエは奴隷のままだろうな」

「他のファウナスもオマエの素顔を見たら見下してくるんじゃないか?」

(違う! ギラさんもカーリーさんも優しく接してくれた! 僕の居場所も用意してくれた!)

 

「それで他の者には? その顔を見せられるのか? 見下されない自信がないのか?」

(...きっと分かってくれる...!)

 

「強がったところで無駄だ、オマエの憎しみも不安もオレと同じ。それを晴らすためには、奴らに復讐するしかない!」

 

そうしないとオマエは壊れるだろうな、という言葉を背後に僕は体を揺さぶられる感覚に目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アダム! 起きて!」

 

 目を覚ますと猫耳の天使がいた。あれ? 僕もう壊れたのか? はやくね

 

「アダム! まだ寝ぼけてるの? 早く起きて!」

「天使に起こしてもらえるなんて光栄だな」

「何言ってるの! 今日はアカデミーの入学式なんだから遅刻しちゃ駄目!」

 

 昨日はこのキャラに転生したことを悲観していたが、幼馴染の家に居候してロリ美少女に起こして貰えるのだから僕はやっぱり恵まれてるな。

 

「はいはい。了解しました。ブレイクお嬢様」

「む、アダムのくせに生意気」

 

 原作のクールなブレイクも良いが、このブレイクもすごい(語彙消失)

 ブレイクの両親であるギラさんもカーリーさんも良い人だし美男美女やし、常に眼帯をした厨二隠キャ少年には肩身が狭くなるねんな。

 

「アダムはアカデミーが楽しみか?」

「はい、早く色々な人と出会って一緒に学んだり強くなりたいです、ギラさん」

 

「アダムは賢くて強いから、アカデミーでも1番取れるでしょう」

「カーリーさんの期待に応えるよう頑張ります」

 

 本当に彼らは優しくてファウナスのリーダーとしてだけでなく親としても忙しいのに、僕なんかを拾ってくれて多大なる感謝と恩を感じている。

 彼らの為にも今は余計なことを考えるべきじゃない。今はアカデミーの事に集中しよう。

 

 そう、昨日言った解決策とはアカデミーに通うことである。

 何言ってんだコイツと思われるかもしれないが、この策は問題を解決してくれるだけでなく他にもいいことづくめなのである。

 

 まず目下の問題はこのままズルズルと過ごしていれば僕もブレイクもホワイトファングに所属する他無いことである。

 

 物語の開始までにはブレイクをビーコンアカデミーに入学させることが必要で、そのとっかかりとして僕がアカデミーに行けば彼女にも入学を勧めることがしやすくなる。

 

 さらにアカデミーに通えば、仲間も出来るし強くもなれる(かもしれない)まさしく一石二鳥とも言える妙手であると言えよう(自画自賛)

 

 不安なのは原作を大きく逸脱する可能性があることだが、これは僕がブレイクの両親に拾われた時点で手遅れだし、これをチャンスに変えるのがアカデミー入学だ。

 

 アカデミーといえばルビィ姉妹は僕が通おうとしている初等アカデミーで戦闘訓練だけではなく武器の製作も習ったらしい。

 

 RWBYといえば、ロマンがある(変態的ともいう)武器が多数登場するのも特徴の1つだ。

 

 例えば、ルビィの武器はボルトアクションライフルと大鎌の2つの機能を持ち、変形までするクレセントローズである。

 

 原作ではアダムはライフルのギミックを持った日本刀を持ってたし、僕もカッコいい武器が持てるのは楽しみだ。

 

「アダムだけアカデミーなんてずるい!」

「じゃあ帰ってきたら一緒に教科書でも読んで勉強しようか?」

「ホント!? アダム大好き!」

 

 

 

 

 

 

 

はっ! 意識が飛んでいた。 スタンド攻撃でも受けたか!? 

 

「そろそろ行かないと船に乗り遅れるわよ」

「あっやばい。御馳走様でした、カーリーさん」

「入学式の感想を聞かせてくれよ」

「了解です。行ってきます!」

 

 あぁ本当に平和で彼らは愛すべき人たちだ。これを壊すことは許されない。彼らは絶対に守ってみせる。

 その為にも絶対に憎悪に負けるわけにいかない。

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 ギラ・ベラドンナとカーリー・ベラドンナは出て行ったアダムを見ながら話していた。

 

「本当に良かったのかしら、アダムをアカデミーに行かせるなんて」

「あいつは賢いし強い。だがホワイトファングに所属するには早い。独り立ちできるようになってからだというのは2人で決めたことだ。アダムがアカデミーに行きたいなんて言ったのは丁度よかった」

 

 ベラドンナ夫妻はホワイトファングの活動中に彼を保護した。彼は人間によって母を殺され、シュニーダストカンパニーによって奴隷のように扱われていた。

 

 当初は孤児院に預ける予定だったが、本人がホワイトファングに所属したい、と強く主張したことでそのままベラドンナ夫妻が面倒を見ることになったのであった。

 

「だけどアカデミーには人間も通っているのよ! 彼が人間を憎んでいるのは知っているでしょう」

「大丈夫だ。あいつは憎しみなんかに負ける男じゃない」

「もし彼が何かあったらすぐに連れ戻しますよ」

 

 当初は彼は人間に復讐するため、ホワイトファングに入りたいのではないかと思っていた。その為、彼がホワイトファングに入り、その復讐心を育てることを2人は反対していた。

 

 しかし、彼は憎しみは争いの連鎖を引き起こすことを理解していて、ファウナスと人との共存のために彼は自分を抑えることも覚悟していた。

 

 その想いに2人は心を動かされ、アダムの義理の親となり彼をホワイトファングの一員として迎えるのだった。

 

 しかし幼い頃からホワイトファングにいることでアダムの価値観が歪み、憎悪に囚われてしまうことを恐れた2人は、本人の希望もありヘイヴンのサンクタムアカデミーに通い、卒業後にホワイトファングに所属することを認めたのだった。

 

(アダムが人間と向き合い、その上で人間とファウナスの友好を願えるようだったら、彼を俺の後継者として次代のホワイトファングの指導者にするのも良いかもしれない)

 

 彼らはアダムの心の奥底にある憎悪の深さまでは推し量ることは出来なかった。

 

 

 

 

 彼が原作と呼ぶ世界では少年はベラドンナ夫妻に拾われることも、アカデミーに通うことも無かった。

 彼はただ人間の悪意によって人格を歪ませ、その憤怒のままに体制の変わったホワイトファングに所属し、人間を殺していった。

 そしてブレイクを失ったことで彼女に執着し、周囲に悪意を振り撒き、最後に彼女達によって殺された。

 

 だが、彼は悪役ではあったが決して彼1人が悪いわけではなかった。

 彼はただ子供だったのだ。他者の悪意から自分を守るため、同じように憎悪を持っただけの。

 もし、彼が子供ではなくて悪意に立ち向かうことを選べばどうなるのか? 彼と同じように憎悪に歪むのか? それとも...

 

 

 

 

 

 




アダムについて容姿とホワイトファング活動中以外の設定が無いので捏造マシマシです。というかファウナス全体の詳しい設定を作者は知らないので、この世界のファウナスは
・メナジェリーという大陸に住む(人間が押し込んだ)
・メナジェリーにはアカデミーなどの施設は無い
・他の大陸にも住んでいるが差別による被害を受けている
・シュニーダストカンパニー(ワイスの家の会社)によって奴隷として働かされている者もいる
ていう設定以外はほぼ捏造です。

次回からは更に捏造、オリキャラが多くなると思いますのでご了承を。
あと作者に文才が無いので誰か代わってください(懇願)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 逃げても回り込まれる系女子

 
 RWBYも第8章が始まったので初投稿です。
 みんなも見よう!途中辛いところもあるけど...
 というか8章のオープニングが不穏すぎる件。



 今僕はメナジェリーからサンクタムアカデミーのある、ミストラルへ行く連絡船に乗っている。

 

 僕らの住むメナジェリーはファウナスが人間に与えられた、ファウナスにとっての楽園である。

 

 しかし、国として認められてないメナジェリーは他国との国交を開いていないこともあり、飛行機も通ってないので入学式の前日から船旅をすることになっているのだ。

 

 

 船上では暇なので、この世界のことであるレムナントについて説明しよう。

 

 レムナントにはヴェイル、ミストラル、アトラスそしてヴァキュオの4つの国がある。

 

 それぞれに特色があるわけだが、ここは原作での舞台であるヴェイル、それと今から行くミストラルについて説明していこう。

 ヴァキュオのことは全然知らないし、アトラスには嫌な思い出しかないし。

 

 その前にグリムについても簡単に説明しないといけない。グリムとは人間やその製作物を襲う化け物のことで、奴らは闇から湧き、人間の負の感情によって引き寄せられるのだ。

 

 その為に人間も自由に生きることが出来ず、結果として人々は守りの堅い場所に身を寄せ合い、4大国が生まれることとなった。

 

 その代表例がヴェイルで、あそこは周囲を海と山に囲まれているので攻められにくい。そこに人々が集まり、大きな国となった。

 

 かつては起きた4大国間戦争では、ヴェイルの王が戦争を終結させ、ハンターを育てるアカデミーを創ったんだとか言われている。

 まぁ如何にも舞台にちょうど良い平和な国というわけだ。

 

 ミストラルはヴェイルの西にある、レムナントでもっとも広く、多くの人が住む国だ。現代で言えばアジアの国々をイメージしてもらえば分かりやすいかな。

 

 裕福な人々は高度な文化や豪華な芸術の恩恵を受け、それを受けられない人々は裏市場に集まり、犯罪の温床となってる結構アブナイ国だ。

 アカデミーは実力主義なので、試験さえ受かれば生まれは問われない。だから僕も入学できるという話だ。(さすがに犯罪歴とかも調べられるだろうが)

 

 

 

 正直に言えば僕はミストラルではなくヴェイルに行きたかったが、突然アカデミーに行きたいって言うのもちょっと不自然なのにわざわざメナジェリーから遠いヴェイルに行くのは不自然どころではないので言えなかったという背景がある。

 

 何故かといえば、まずブレイクにビーコンアカデミーを入学させるのにはそっちの方が自然であるという点があるのと、もう一つはミストラルはちょっと、いや結構、いや大分ヤバいことになってるからである。

 

 ミストラルは治安が悪いことは先述した通りだが、そんなレベルではない。

 

 実はミストラルのアカデミーの1つであるヘイヴンアカデミーの学長は黒幕と内通しているのである。

 

 原作ではヘイヴンからの留学生として黒幕の配下がビーコンにやって来て、彼らがビーコンを滅茶苦茶にしたのだ。

 

 まぁサンクタムアカデミーは主要キャラの1人であるピュラも無事卒業してたし、黒幕と内通しているとは考えられない(考えたくないともいう)

 

 黒幕であるセイラムは強大ではあるものの、序盤の話にはあまり出てこない上にその配下も現時点では大規模に行動しているとは思えないので、原作開始まではあまり関係の無い話ではある。

 

 まぁセイラムの直接の配下であるシンダー、ティリアン、アーサーには気をつけていた方がいいだろう。

 

 あと1人いるって?あんな優しそうなおじさんが悪いことできるわけないじゃないですか!

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと、もうミストラルに着くけど思ったより早かったな。下船の準備でもしとこ」

 

 ミストラルについてはその程度の知識しか持ってなかったので、実際に見たのは初めてだが今まで見た中では1番良い街で圧倒された。

 

(まぁ今まで見たのがメナジェリーにマントルだからっていう理由もあるんだがな)

 

 それにミストラルは所謂ファンタジー世界のような洋風ではなく、むしろ親近感のある建物が多いことにも驚いた。

 

 中国のような建築様式の建物が並び、街には屋台もある。メナジェリーでは感じていた閉塞感がここには無かった。

 

 眼帯をしたファウナスの少年という異質さから目を引いてはいるが、それはしょうがないし、実際アカデミーに入学したらもっと奇異の目で見られ...最悪苛めにも遭うかもしれない。

 

 まぁ苛められるのは悲しいが、その程度で諦めるほど僕の覚悟は軟弱ではない。寧ろ前世の経験、この身体の能力も合わせてアカデミーでもトップで卒業してやるぐらいの気持ちで臨むつもりだ。

 

 入学試験では残念ながらトップは取れなかったらしい。

 

 少なくとも勉強も戦闘訓練もベラドンナ夫妻やホワイトファングの皆さんに教えられて、そこら辺のハンター志願者には負けないとは自負していたが、上には上がいるということか。

 

 それに物心がついてからマントルで働かされ、ベラドンナさん達に拾われてメナジェリーで住んできた僕は、前世はともかくこの世界での人生経験に乏しい。

 慢心は良くない、油断せずに行こう(TDKKNMT)

 

 

 

 

 

 

「そうこうしているうちにサンクタムに着いたみたいだな。サンクタムの場所も把握したしお次は寮を探して荷物を下ろそう」

 

 寮はすぐ近くにあったので一瞬で見つかったし、これで準備すべきことは終わってしまった。

 

 ちなみに初等アカデミーのチームはアカデミーのフォーマンセルとは違ってスリーマンセルらしく、寮もその3人で一部屋みたいだ。

 

 相方が気になるところだが実は既にアカデミーの方から連絡はされていて、男女1人ずつらしい。

 

 その理由はファウナス同士の部屋にしないと問題が起こる可能性があるというわけだ。原作ではファウナスでも関係なく同じチームに入れられるので、恐らく初級アカデミーの入学生では何か起こる不安がある為の措置なのかもしれない。(ミストラルではファウナスとの区別がしっかりしているという可能性もあるが)

 

「青少年少女の3人を1つの部屋に入れるだと!? うらやまけしからん!」と、かつての友人の声が聞こえてくるが、原作でも男女2人ずつなんて部屋もあったのでセーフ(まだ小学生だし)

 

 まぁそんなこと気にしないぐらいにファウナスと人との関係は微妙なのだ。

 元々奴隷同然だったファウナスが、権利革命を求めて戦争を起こした。

 それによって全てののファウナスがメナジェリーに封じ込められることは回避されたが、当然それで差別が全て消えるわけじゃなかった。

 

 まぁ表立って差別をする人は少なくなったが、消えたわけではなく議員の中でも未だファウナス差別を奨励する政策を主張する人もいる(ファウナスにも参政権が認められている以上、それで当選するとは思えないが)

 

 さらに近年はシュニーダストカンパニーのこともある。

 主人公の1人であるワイス・シュニーの実家の企業で、ダストという便利エネルギーに関する事業を展開する会社なのだが、その社長がワイスの父親であるジャック・シュニーになってからファウナスへの扱いが酷くなってしまったのだ。

 

 ダスト掘削の為の奴隷、人道に反する実験台など、公にはなってないが確実に後ろ暗いことをやっている。

 

 何故言い切れるかって?それは僕がその被害者の1人であるからだ。

 

 眼帯の裏の焼印(シュニーダストカンパニーの略であるSDCと入れられた)はその時つけられたもので、あの時のことを思い出すと今でも疼くし、しょっちゅうその時の悪夢も見る。

 

 勿論本当に悪いのは、新しい社長であるワイスの父親だけでワイスは悪くない(寧ろ被害者)のだが、かつてはワイスのことが大好きだったオタクが苦手意識を植えられたと考えると、どれだけ酷い目に遭ったか想像しやすいと思う。

 

 

 

 なんか嫌なことを考えてたらお腹が空いてきたな。

 

 今の時刻は夕方過ぎ、入学式前なので相部屋の人はいない。学校を探索して顔を変に覚えられたくないので、今日の夜ご飯は街を散策しながら奮発して外食でもしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 昼のミストラルも活気があったが、夜のミストラルはもっと活気溢れているな。居酒屋と思われる店に入る大人達、お店の呼び子に声をかけられる女性など人がたくさんいる。

 パッと目に入った屋台にラーメンの店があったのでそこに入ることにした。店主は異質な風貌の子供の来店に少し驚いたものの笑顔で歓迎してくれた。

 

 寮生活1日目で外食は贅沢な気がしないでもないが、お金はたくさん貰ったので(ベラドンナ夫妻には感謝だ)多少は贅沢しても大丈夫だと思う。

 

 ベラドンナ夫妻はファウナス全体のリーダーなのでかなりのお金持ちなのだ。僕がアカデミーに通えるのも彼らの力あってこそだし、卒業したら恩を返さないとね。

 その為にもサンクタムでは頑張るぞい。

 

 

 

 美味しかったラーメンによって明日へのやる気も補充され、満足した気分で寮まで戻っていると、大きな荷物を持った少女にチャラ男が付き纏っているのが見えた。

 

「ヘイお嬢ちゃん、その荷物重そうだね。お兄さんが持ってあげようか」

「必要ない」

 

 少女の思いの外強い語気にびっくりした男はそれでもしつこく声をかける。

 ちなみに僕も少しびっくりした。(どうでもいい)

 

「別に取って食おうなんて考えてないけど、ただお兄さんは可愛い子の助けになりたいだけだよ?」

「・・・」

「ちょっーとお礼してくれるなら喜んでやるのになぁ」

 

 困ってそうだけどどうしようかな。注意すべきなんだろうけど、寧ろそれもナンパと思われて迷惑なのでは?(隠キャ特有の思考)

 

 いや僕も立派なハンターになろうとしてるんだし、それに見合った行動をしていかないと(使命感)

 

「なぁそのナンパ無駄そうだが、諦めた方がいいんじゃないか?」

「はぁ?なんだぁテメェ?」

「俺もいちハンター志望としては困っている人は助けないといけないんでね。それとも今ここで身体で理解しないと分からないのか?」

 

 そう言って構えると露骨に男は動揺した。

 背は低いものの、ファウナスと分かる角と顔の眼帯に威圧されたのだろう。男は言い訳しながら帰って行った。

 

 残った怖そうな雰囲気の少女を放置して帰りたくなったが、これも立派なハンターになる為の修行だと思って話しかける。

 

「なんか怪我はありませんか?」

「逆に何故貴様は私が怪我をしていると思ったのだ?」

 

 ぐはっ! この少女なんか刺々しい!

 

「すみません。なんて声をかけようか分かんなくて」

「随分と頼りないハンター志望だな」

「まぁ明日サンクタムに入学だし、まだギリギリハンター志望じゃないかもですね」

 

 ふぇぇ初対面なのに高圧的すぎるよぉ。(泣)

 この少女なんか怖いし早めに切り上げよう。

 

「そんな訳で明日も早いし僕はこれで」

「ハンター志望はか弱い女性が持っている荷物を持ちたくはならないのか?」

「え?」

 

 

 

 というわけで少女の荷物持ちをすることになってしまった。(悲しいようでちょっと嬉しい)

 

 え?コミュ力が低すぎるって?寧ろ考えてみて欲しい。隠キャ童貞のオタクくんが女の子に声をかけてコミュ力を発揮できるわけないだろ!?

 

 ごめんなさい全世界のアダムファンの皆さん。ごめんなさい原作のアダムさん。僕はこれからも情けない姿を見せることをお許しください!

 

 まぁ原作でもアダムは情けないとこあるしどっこいどっこいよ(全世界のファンに喧嘩を売るスタイル)

 

「ここまで来ればあとは自分で運んでやろう」

「別に最後まで持つけど」

「お前の耳は節穴か?」

「すんませんでした」

 

 最速の謝罪を見せた僕の姿に少女は初めて笑顔を見せた。可愛い子を笑顔にさせた僕はひょっとしたらモテる可能性が微粒子レベルで存在する...?

 笑顔じゃなくて嘲笑だろというツッコミはスルーで。

 

「まぁそんなに名残惜しくしなくとも明日以降は毎日私と会えるだろう」

「え?」

「入学式ではよろしくな」

 

そう言って彼女は消えて行った。

 

 

 

 え?あの子もアカデミー生なの?

 その問いに答える者は誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 入学式当日、昨日のせいで遅刻...なんてことは無く(ファウナスになったからか基本的に目覚めが良い)僕は余裕を持って会場に着いた。

 昨日の少女に妙な既視感を感じ、探したものの見つけることは出来なかった。

 

 あの黒髪の子...どっかで見たことあるような気がする。

 うーんどこだったっけな? このタイミングで入学となると僕と同世代だし原作では登場しなさそうだけど...

 

 

 

 

「それではサンクタムアカデミーの入学式を始めます。まずは校長の言葉から」

 

 入学式が始まっても彼女は姿を見せず、僕は安心したような気になるような複雑な気分になるのであった。

 だけど、本当に彼女は何者なんだったんだ?これでモブキャラだったら僕よりキャラたってることに自信を失うのだが。

 

「次に新入生代表より挨拶を」

 

 新入生代表ということはこの人が恐らく試験のトップを取った人...どういう人なんだろう?と思っていたら舞台の裏から出てきた人はなんと昨日の少女だった。

 

 昨日偶然出会って助けた(笑)女性がまさか入学試験でトップを取った人だったなんてすごい偶然があったものだなぁ、と驚いていたのだが、

 

 しかし僕はそんなこと鼻で笑える衝撃を彼女から受けるのだった。

 

 

「今日からサンクタムアカデミーにおいて学べることを誇りに思い、ハンターに向けて精一杯努力することを誓います。新入生代表シンダー・エイラ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁセイラムの直接の配下であるシンダー、ティリアン、アーサーには気をつけていた方がいいだろう(ドヤァ

 

 

 

 なんでシンダーがここにいるんだよぉぉぉおおお!?

 

 僕の心からの叫びに目が合った壇上の彼女はこっちに笑顔を返した。

 

 

 

 

 




というわけで恐らくこの小説最大のオリ設定であるシンダーをぶち込みます。
ただでさえ原作より前なのに捏造しっぱなしで、書けるかどうか不安ですが(誰か代わって書いてくれ...)

アダムくんは見た目こそ原作相応の近寄りがたい雰囲気ですが、中身はコミュ障でかっこいいとは対極にあるので、シンダーのような自我の強い女性とは相性が悪いです。

(RWBYに登場する殆どの女性の自我が強いことを考えてはいけない)

彼が前世で1番好きなのはヤンでしたが(転生してからは当然ブレイク)多分相性は悪いでしょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 散々なご同輩

 
 RWBYの世界観ですが、world of remnantという解説回が不定期で配信されてます。
 独自設定と乖離するのでは?とヒヤヒヤしながら観てましたが、大丈夫だったので安心しました。
 



 

 あまりに驚きすぎてで逆に冷静になった気がするので、ここはシンダーについてまとめとこう。

 

 シンダーはRWBY第1期から第3期までの黒幕を務めたキャラだ。その性格は不遜にして狡猾。

 

 セイラムの部下である彼女はアカデミーに封印されたレリックと乙女の力を狙い、彼女によって第3期ではルビー達の友達のペニーとピュラが殺され、ビーコンアカデミーは崩壊、世界に混乱と恐怖が振り撒かれた(ペニーはアンドロイドなので後に復活したが)

 

 戦闘能力はとても高く、秋の乙女という超人を打倒した事からもその強さは窺える。

 

 レリックとか秋の乙女は何なんだよと思った方も多いだろう。RWBYは第3期までは有名なのだが、第4期以降は見ていない人もいるかもしれない。

 レリックや季節の乙女に関する詳しい説明は4期以降にあったのだ。

 

 なので詳しく知らない人に説明させて貰うと、この世界にはレリックと呼ばれる特別なアイテムがあり、それの番人としてオズという1人の魔法使いが4人の女性を選び、彼女らに力を渡した。

 

 彼女らは4季節の乙女として代々その力を受け継ぎ、4大国のアカデミーに封印されたレリックを守っていた。(本編中の乙女の殆どが乙女とは言えない年齢なのは言ってはいけない)

 

 レムナントに存在する魔法使いはそのオズとセイラムの2人しか存在しない。

 何故なら彼らは旧時代の人間であり、旧時代の人間は神様に反乱し滅ぼされたからだ(なお元凶のセイラムは生かされている模様)

 

 じゃあセンブランスは何なんだよと言われると解説に困るが、少なくともダストは魔法文明による産物だと言われている。(石炭みたいに結晶化したのだろう)

 

 ちなみに魔法使いである2人だが、勿論今も生きている。セイラムは元々神様に不老不死の呪いを受けているし、オズは彼女を止めるため神様によって遣わされ、その時に肉体が死んでも魂を転生させられるようになった。

 

 この辺はマッチポンプじみているが、レムナントには神様が2柱いて彼らの仲が良くないためにそう感じられるのだろう。

 

 話が二転三転してしまったが、要約すると

・シンダーさんが強い!

・レリックが奪われると世界の危機!

・それを守るも乙女も殺されると世界の危機!

 

っていう感じである。

 

「というわけで今日の授業は無いので、皆さんは寮に戻り荷物の整理をして、ルームメイトと親交を深めて明日の授業の準備をしてください」

 

 ようやくショックが抜け出した頃には入学式はもちろん、初日のオリエンテーションも終わったところだった。

 先生にも言われたので早めに教室を抜けて寮に戻ろう。こっちを見てるシンダーさんが怖いし。

 

 実際のところシンダーが何故ここにいるのか?バックにはセイラムがいるのか?など、分からない事だらけな現状で接するのは危険だ。

 

 もう遅い気がするって?それは僕も思ってるところだ。だからこれは一時退却的なあれだ。一旦寮に戻って落ち着いて日記でも書いて落ち着こう(支離滅裂)

 

 

 

 

 ルームメイトはファウナスということもあり個性的ではあるものの、原作に登場するキャラではないのでとても安心した。これで更に原作キャラが登場したら僕はパンクしてたかもしれない。

 

「アダムはもう勉強するの?やっぱ成績優秀者ともなると勉強熱心なんだね」

「今は日記を書こうとしているだけだ、カラバ」

 

 カラバ・シルバは猫のファウナスでブレイクみたいな猫耳(色は灰色だが)を持った少年だ。拾ってくれたご主人に恩を返す為に一流のハンターを目指しているらしい。

 なんだかシンパシーを感じるとても人が良さそうな子だ。

 

「この日記、読めないんだけど」

「ハンナ、人の日記を勝手に覗くな」

 

 ハンナ・イーゲルは見たところファウナスらしい特徴は見えないが、ハリネズミのファウナスらしい。かなりのマイペースだと思われる。

 

「この言語、暗号か何かかしら? それにしては複雑で文法からして違う気がする。所々では明らかに異なる種類の言語が使用されているし...」

 

 彼女もまた成績上位者の1人であり、日本語で書いてる日記(原作のことを知られるとヤバいので)を見て解読しようとしている。こいつ、天才ってやつだな?

 

「サンクタムは思ったより才能ある生徒が多いな」

「まぁ腐っても大陸最大の都市だし、特にファウナスは風当たり強いんだから成績良くないと舐められるもんね、カラバ」

「うぐっ」

 

 ハンナがカラバの方を見て言った。コイツ結構イイ性格してんな。シンダー程ではないが。

 

「べっ、別に平均は超えてるもん! 寧ろ2人が凄すぎるだけだよ!」

「まぁこれからの頑張り次第で成績なんて変わる。カラバが頑張れば成績上位者にだってなれるさ」

「そうそう!アダムの言う通りだよ!」

「その言葉を自分で言えない時点でカラバはダメそうな気がするわ」

 

 ハンナのトゲのある言葉にカラバは撃沈した。

 あ、今のは言葉のトゲとハリネズミのトゲを掛けた高度なギャ

 

「おい、私から逃げるとは良い度胸をしているじゃないか」

 

 

 

 うわあぁぁ!ラスボスが来てしまったぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

「ハンナの客じゃないか?」

「アダムのでしょ(無慈悲)」

「ふん、貴様はアダムというのか。今の無礼は忘れてやろう」

 

 当然のようにシンダーは部屋に入って来た。僕...死ぬのか...?

 

「紹介が遅れてすまない。俺はアダム・トーラスだ」

「カラバ・シルバって言います。よろしくね」

「ハンナ・イーゲルよ」

「私はシンダー・エイラだ」

 

 あれ?そういえばシンダーの名字ってフォールじゃなかったか? それともフォールは偽名だったのかな。

 

「それでアダムとシンダーは知り合いなの?」

「昨日コイツが話しかけてきたのだ。あれはナンパか?私にナンパしにきたのか?」

「俺はナンパ男から君を助けた方だよ!」

 

 こ...コイツ明らかにこちらをおちょくってきてる...!

 

「アダムって思ったより良い人なんだね」

「貴方はさっきフォローして貰ったのをもう忘れたのかしら?」

 

 シンダーもハンナも毒が強すぎる(焦燥) やはりRWBY世界では女子が強くて男子はクソザコになる運命なのか!?

 ここはなんとかして話の主導権を握らないと...!

 

「それで?ここに来た用事はそれだけじゃないんだろう?」

「用事もなにも、挨拶以外に来る理由などないが?」

 

 原作でのシンダーは計画の上で無駄な行動や任務の失敗、遅延は許さない非情な人物だった。そんな彼女がやって来るということは何かがあるに違いない(疑心暗鬼)

 

「き...昨日の礼はまだ貰ってないぞ?」

「あぁ、あの時は荷物運び御苦労だった。お蔭で楽でき...助かったよ」

「今楽出来たと言わなかったか?」

 

 それにナンパ男から助けられたことは完全に忘れてやがる...!

 

「それじゃあ挨拶は終わっただろう。また明日な」

「...まぁ明日も早いし、今日はこれぐらいで勘弁してやろう」

 

 そう言ってシンダーは帰って行った。なんか授業も無いのに一気に疲れてしまった。

 

「なんというか強烈な女の子だったね」

「思ったより面白いわね、貴方」

「...お褒めに預かり光栄だよ」

 

 さっきまでは警戒していたが、実際に話してみた感じ今のシンダーは原作並みに傲慢さは溢れてるが、悪人という感じはしなかった。

 それに彼女が悪人でないと思う理由もある。

 

 原作の彼女は留学生と偽り、ビーコンアカデミーに潜入するのだが(そのためシンダーさんじゅうななさい、とか散々な渾名でファンから呼ばれる)その時の彼女はむしろ丁寧で礼儀正しい感じだった。

 

 それに比べれば、今の彼女は大分素の状態な感じがする。

 

 それにセイラムと内通していると仮定したとすると、サンクタムに来ている理由が分からないのだ。

 ミストラルにおいてレリックを封印されているのはヘイヴンアカデミーだし、恐らくそれはセイラムも予測できるはず。

 

 そういう意味でセイラムの配下がサンクタムに通う意味はないと言い切れる。

 

 まぁ100%信頼するわけではないが、普通に喋っても問題は無いだろう。

 もしセイラムと繋がっていたとしても、僕が彼女を知っている事がバレなければ何の問題も無い...きっと、多分、恐らく、メイビー。

 

 よくよく考えてみれば、この世界においての1番のイレギュラーは僕自身なのだ。僕はこの世界の真実にかなり近いし、ある程度の未来は予測できる。

 そう考えれば、今のシンダーにある程度の警戒心は抱いても恐れる必要までは無いはずだ。

 

 今日は疲れたし日記はお休みしよう。2日目で休むなんて典型的な三日坊主じゃん、っていうツッコミが聴こえてくるが逆に考えて欲しい。学校も仕事も休みがあるんだから日記にも休みがあってもいいだろう?

 

 はい、明日からは毎日しっかりやります。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 私はハンターになりたいとは思ってアカデミーに入学したわけではなかった。

 

 かつて私は義母に拾われ、彼女の経営するホテルで働かされた。2人の義姉からは灰被りの女と虐められ、満足に食事することも許されなかった。

 

 毎日出入りする豪華に飾り立てた客達を横目に私は床に這いつくばって埃を掃除し、空腹は客が残した残飯を食べて紛らわす。そんな日々に絶望していた私は1人のハンターと出会った。

 

 その男は私にハンターになるという1つの道を教え、またそのための技術も彼は教えてくれた。

 私は何年も義母達からの屈辱を我慢し、それと並行して奴らから逃げてハンターとなるために力を蓄えた。

 

 だが、私は気付いたのだ、逃げるだけならハンターになる必要など無いと。

 

 義姉達に隠していた武器が見つかってしまった私は彼女達を殺した。それをあの男に見られて捕まりそうになったが、返り討ちにしてやった。

 

 全てを捨てて逃げた私は自由に生きる為、そして更なる力をつける為にハンターのアカデミーに通うことにした。

 

 ハンターにも勝てた実力なら試験は間違いなく合格するだろうし、何の後ろ盾の無いまま生きようとしたところで以前のようなことになるのは想像に難くなかった。

 

 

 

 この世は力が全てなのだ。弱い者が助けを呼んだところで助ける人などいない。助かる為には力を手に入れるしか無い。そうして入学手続きが済みあの男と出会った。

 

 最初はその辺のお人好しと同じだと思い、そんな奴等が大嫌いな私は義母達が私にする仕打ちと同じようにした。

 そうすればヒーロー気取りの偽善の仮面は崩れ、怒って本性を表すだろうと思った。

 だがアイツは底抜けにお人好しで、そして見た目よりも愉快な奴だった。

 

 私はハンターやヒーローのことが大嫌いだ。奴等は偽善的な言葉や平和主義的な言葉を並べ、その癖に平気で弱者を裏切る。

 私がどれだけ助けを求めても、結局あの男は私を助けてくれなかった。

 

 だけど、もし、助けを求めたのがアダムだったらどうなっていたんだろう?

 昨日のように助けに来たんだろうか?

 

 

 

 

 

 ...何を馬鹿考えをしているんだ、私らしくもない。終わったことを考えるなんて無駄だ。

 なにより昨日会ったばかりの人間に期待するなんて、私の嫌いな人間どもとなにも変わらないじゃないか。

 

 大事なことはただ一つ。今の弱い立場から私がどうやって這い上がり、自分の居場所を手に入れるかだけだ。

 

 そのためには何だって利用してやる、勉学の才能だろうがセンブランスだろうが、もしくは...友人だろうが、私は自分のためなら喜んで差し出してやる。

 

 まぁ、暫くは学校生活に集中した方がいいかもしれない。幸い寮の奴等も先生どももお人好しばっかりで私の本性に気付いていない。

 

 アダム達の前では今更猫を被ることはしなかったが、どうせアイツ等が指摘したところでファウナスの言うことだ。私の成績に嫉妬して悪評を流したとでも思われるだけだ。

 

 まぁアイツ等は成績も良かったし恐らく戦闘能力もあるのだろう、利用価値があるから仲良くするのも良いかもしれない。

 

 

 そう考えればちょっと威圧的に接した所為でアダムには怯えられている気がする。

 明日からは少し優しくしてみるか。

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「なんか身体の震えが止まんないんですけど」

「アダムはメナジェリーから来たんでしょ?もしかしたらもうホームシックになったのかもね」

「まぁメナジェリーには人間なんて居ないし、あそこまで落ち着ける場所は無いものね」

 

 この震えはホームシックではないと思うが、そう言われるとメナジェリーに帰りたくなってきた。というかとてもブレイクに会いたいです(シスコン並感)

 

 この寂しさはカラバの猫耳を触ることで癒されるしかない! だけど会ったばかりの人が触って来るのは気持ち悪いと思われるし、なんか話の流れから触れないだろうか?(コミュ障チャレンジ)

 

「2人はメナジェリーに居たことが?」

「僕は聞いたことしかないなぁ」

「私は一時期は住んでたわ。だけど窮屈になって家族で引っ越したの」

 

 ハンナは自由な子だし、イメージがしやすいな。カラバは拾われる前まで苦労してきたんだろう。

 

「俺もカラバみたいに拾われてメナジェリーに住むようになった」

「そうなの!? なんか親近感わくね!」

「へー、じゃあその前はどこに居たのかしら?」

 

 この流れの時点でコミュニケーション失敗した感がするが、言わないのは不自然だし...まぁ自信を持っていえば大丈夫な気がする!

 

「マントルだ」

「あっ(察し)」

「貴方も苦労してきたのね」

 

 深い同情をされた上に会話も終わってしまった。やはり失敗か...(コミュ障チャレンジ)

 

「今はギラさん達に拾われて幸せだから気にしてはいない」

「えっ!ギラさんって?」

「まさか、ホワイトファング指導者にしてメナジェリー代表のギラ・ベラドンナのことかしら」

 

 あー、さらに墓穴を掘ったかもしれない。いや、遅かれ早かれバレるのは分かっていたし、今のホワイトファングは文字通り白(平和)の牙。

 別にバラしても問題ない気がする。ここにいるのはファウナスオンリーだし。

 

「...そうだ。俺もここを卒業したらファングに所属するつもりだ」

「へー、そのために力をつけてるんだね!」

「貴方がファングに所属する理由は何かしら?」

 

 カラバは俺のことを疑わない純朴少年だが、ハンナは僕がテロリストとして危険な人物じゃないかと疑っているのだろう。

 ハンナの気持ちは当然だ。それが分かるからこそ、原作においてファングの構成員であったブレイクとも和解したチームRWBYの友情が凄いと思えるのだから。

 

「俺がファングに入りたいと思った理由は、ギラさん達に貰った恩を返し、彼らのような優しいファウナスが人と仲良くする光景を見たいからだ」

 

 そうだ、彼らのような方がファウナスだから、という理由で人々から追い出されるのを、僕ははいそうですかと認めたくない。

 そしてファウナスと人間の友好に暴力は必要無いのだ。必要なのは対話、そして彼らの意思を継ぐ若者だ。

 

「今もファウナスは差別されている。だが、ファウナスの中にも素晴らしい者がいると分かれば、人々の見る目は少しずつ変わって来るだろう。そうなる上で暴力に訴えるのは1番やってはいけないことだ。憎しみの連鎖は俺達が終わらせないといけない」

 

 突然熱く喋った僕に2人は驚いていた。というかこれはドン引きされたのでは?

 拝啓尊敬するベラドンナ夫妻と愛するブレイクへ、僕の心は折れそうです。

 

「感動したよ!僕もホワイトファングに入りたくなってきちゃった!」

「私も貴方のこと見直したわ。疑ってごめんなさい」

 

 あぁ、良かったぁ。引かれてはいないみたいだ。流石に同族からも引かれてたら闇堕ちしてたかもしれない。

 

「それは良いんだが、俺がホワイトファングであることは俺達だけの秘密にしてくれないか?」

「まぁ他の人は貴方の事をを信じそうにないものね」

「うん!いいよ!」

 

 あぁ”〜2人の優しさが身にしみるわ〜。

 これは今日は安心して寝れるだろう。

 

「恩に着るよ。じゃあ明日もあるし寝ようか」

「うんおやすみ」

「おやすみなさい」

 

 こうして入学初日はなんだかんだ充実した1日になったのであった。

 あ、猫耳を触るのを忘れてた。まぁ次思い出した時に頼むとするか。もしくは急に触ってもスキンシップのうちに入るか...?

 

 




 アダムはホワイトファングのことになると早口になります。
だけどブレイクのことになるとその比ではなくなります。

 シンダーに関しては捏造してすみません!なんでもしますから!
ちなみにシンダーとの恋愛ルートなんてものはありませんし、童貞拗らせているアダムくんに恋愛は出来ないです(無慈悲)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 酔うのはいけない特に自分には

 
 今回の前部分は解説回です。
 world of remnantをご視聴の方は既にご存知のものであると思います。
 サブタイトルってどうやって決めればいいんでしょうかね?



 今日からサンクタムの授業は始まった。

 

 授業は普通の学校と同じような数学や歴史がある一方、科学のかわりにダスト学やハンター学など僕には聞き覚えの無い授業もあった。

 さらにこれにハンターになる為の訓練もある。僕の前世の経験はあまり役に立たないかもしれないな。

 

 今は歴史の授業の最中。レムナントの歴史は、大雑把ではあるが8割ぐらいは覚えているので、大雑把にノートを取りながら日記を書いているのだ。

 

「今のレムナントは人々が協力してグリムに対抗しているが、昔はそうであったわけではない。ヴェイル、ミストラル、マントル、ヴァキュオの4国が生まれ今に至るまでに一度、大規模な戦争があった」

 

「これが大戦と呼ばれる、レムナントの記録にある限り最も大きな戦争だ。そしてその原因は4大国の複雑な思惑にあった」

 

「元々安全な土地に根付いたヴェイルとヴァキュオとは違い、ミストラルとマントルは土地を征服、開拓して生まれた国だ。他国の支援が欲しい2国は同盟関係を結んだ」

 

「ミストラルは極寒のマントルでは手に入らない資源を提供、マントルはその進んだ技術をミストラルにもたらし、ミストラルはアニマ大陸の征服を完了した」

 

「だが、突然マントルは奇妙な法律を作った。それは人々が芸術や自己表現をするのを禁止するものだった。ではマントルがこの法律を作った理由が分かる人はいるか?」

「はい」

「ではアダム」

 

「グリムは人々の感情によって引き寄せられます。だからマントルは国民の感情を抑圧することで、グリムの脅威を減らそうとしたんだと思います」

「正解だ。マントルのこの法律は同盟関係にあるミストラルにも影響が及んだ」

 

「ミストラルはその時から優れた芸術の文化を持っていため、マントルの法律は国民には受け入れられなかった。そこでミストラルは法律の一部を受け入れる事を認めた」

 

 

 

 ここでは法律の一部を受け入れるとボカされた表現をしているが、実際のミストラルの所業は最低だと言っていいだろう。

 

 彼らは表向きには芸術を禁止し、裏では中央の権力者達が芸術を独占。ミストラルで元から根付いていた貧富の差はさらに広まった。

 

 ヴェイルやヴァキュオでは、そんなミストラルとマントルに反感を持つ者が多かった。既にこの時から戦争は避けられなかったかもしれない。

 

 

 

「ミストラルとマントルの同盟は続き、その勢いはヴェイルのあるサナス大陸にまで及んだ。そうして大戦は始まってしまった」

 

「ミストラルにはマントル、ヴェイルにはヴァキュオが味方し大戦は更に過激になった。グリムの侵攻も激しさを増し、このときの人類は絶滅に向かっていたと言っても過言ではないだろう」

 

「その大戦はミストラル陣営の勝ちが予想されたが、勝ったのはヴェイルだった。ヴェイル側のダスト供給源であるヴァキュオのダスト鉱山が狙われた時、ヴェイルの王は自ら戦士として戦争に参加した。彼は敵を蹂躙し、その剣と笏によって多くの敵を葬った」

 

「...まぁ、歴史には多くの誇張がある。歴史家はミストラル側はヴァキュオの砂漠に慣れていなかったことが敗因である、と予想している」

 

「とにかく、ヴェイルは大戦に勝利した。世界はヴェイルによる支配を望んだが、王はこれを拒んだ」

 

「その代わりヴェイルの王は4大国が二度と互いに争いをしないように条約を締結、領土の分配や奴隷制の廃止、政府の再編をした」

 

「そして、最後には彼は各国にアカデミーを設立した。彼の信頼する部下によってアカデミーは運営されて人々はグリムと闘う術を学び、今の平和な世の中となった」

 

 

 

 

 

 このように歴史に大きな影響を与えたヴェイルの王であるが、僕はオズがヴェイルの王だったのではないかと思っている。

 

 オズはその魂を代々転生させており、現在はオズピンという名でビーコンアカデミーの学長をしている。

 

 何故そのオズがヴェイルの王だったのかの一番の理由がそれだけ偉大なことをした王の名前が伝わってないというメタ的な理由であるが、彼の行動は一貫して平和主義的であることもこの説に拍車をかける。

 

 本編を観ている人なら分かるかもしれないが、オズ(原作でのオズピン)は一見全てを見透かしているように見えて、その行動は後に徹することが多く、彼は人々の平和を疑っておらずその中に脅威が迫っていることに気がつかなかった(正確には気がついていたが対策が出来なかった)。

 

 それは彼の勝利条件がレリックを守ることにあることにもあったかもしれないが、彼のその場当たり的な行動はヴェイルの王にも共通する。

 

 ヴェイルの王はミストラルがサナスに侵攻したときにも平和的な思想を崩さず、その土地をヴェイルとミストラルが共有することにこだわった。それが多くの国民から反対されたにも関わらずだ。

 

 結果的にその行動が身を結ぶことはなく、ヴェイルが滅ぼされる寸前に彼は動き、その力で戦争を終わらせた。

 僕の説ではミストラル陣営は不慣れな砂漠戦ではなく、歴史の通りヴェイルの王(オズ)が敵を無双したことが敗因だということになる。

 

 そして戦争に勝利したオズは人々が二度と戦争を起こさず、グリムの脅威に立ち向かい、ついでに自分がレリックを封印する場所にする為にアカデミーを作った。

 そう考えると、何故アカデミーの地下深くにレリックがあるのかの理由としてしっくりくる。

 

 まぁもしかしたらオズがビーコンアカデミーの学長になってから他の学長と連携してアカデミーにレリックを封じたのかもしれない。

 

 

 そんな感じでオタク特有の考察を交えると歴史の授業はとても楽しく過ごせた。次の授業は訓練で平和にはならないだろう。気合いを入れるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 RWBYの舞台であるビーコンやヘイヴンを中学校や高校だとすると、サンクタムアカデミーは初等部...つまるところ小学校だと思えばいいだろう。

 

 ハンターの卵である生徒は、ここで戦いの基礎やハンターとしての心構えを学ぶ。次の授業は戦闘訓練だと聞いて少し不安だったが、最初の授業は基礎の基礎、オーラについて学ぶというものだったので安心した。

 

「オーラとは生命力のことであり魂の発露でもある。これは魂を持つ者なら誰にでも使え、ハンターの強さは自らの肉体、戦闘技術とオーラの力に因って決まると言っても過言ではない」

 

 だか、と先生は続ける。

 

「オーラを発現するためには訓練が必要であり、その一番の近道は瞑想だ。よってこの1週間の戦闘訓練は瞑想の時間とする」

 

「中には既にオーラを発現している者もいるだろう。その者は自由に過ごしても構わないが、瞑想は集中力の向上にも役立つということをアドバイスしておこう」

 

 素直に瞑想をしとけ、ということですね分かります。

 そんなわけで僕らは校庭の思い思いの場所で瞑想をすることになった。ちなみに今はハンナとガラバの3人で森に近い場所にいた。

 

「まぁ私はオーラは生まれた時から使えたんだけどね」

「生まれた時からって、そんなことがあるのか?」

「私のセンブランスはファウナスとしての能力を発揮するもの。だから生まれた時には既にセンブランスを持っていたらしいわ」

 

 そう言いながらハンナは自らの髪の毛を一本抜き、木に向かって投げた。髪の毛は木まで真っ直ぐ飛び、木に刺さった。あれは鬼太郎の髪の毛針...!

 

「カッコいいよ!ハンナ!既にセンブランスまで使えるなんて凄いね!アダム」

「そうだな...」

 

 僕も既にセンブランスまで使えるとは言いづらい...

 そんな感じでぐだぐだ瞑想をし始めてたらなんか3人の生徒がやって来た。(シンダーではないことに一安心)

 

「おいおい、ファウナスの皆さんは瞑想の意味も知らないのか?」

「...すまない。少しうるさかったかもしれないな」

 

 そう謝罪すると真ん中の男は調子に乗ったのか、

 

「あ?お前さっきの時間手を挙げてた優等生くんかい?謝るんだったらどっか行ってくれない?ここ、俺たちが使うから君達がいると邪魔だわ」

「別に瞑想する分にはここはそこまで狭くないと思うが」

 

 よく見ると、左の男はサッカーボールを持っている。遊ぶ気だなコイツら。

 

「あぁ、お前達オーラも使えないのか。だったら親切な俺たちが目覚めさせないとなぁ?」

 

 

 真ん中の男はそう言うと、オーラを使ってこっちに殴りかかってきた。

 反射的にオーラを使ってガードしたが、それが気に食わないらしい。

 

「オーラが使える癖に瞑想してたなんて、やっぱ優等生くんともなると違うなぁ!」

「なんで攻撃するんだよ!アダムは何もしてないだろ!」

「はぁ?ファウナスを殴ってはいけないなんてルールあったっけ?」

 

 こっちには反撃の意志が感じられないからか、男の攻撃はさらにエスカレートしていく。

 男は別にそこまで強くないし、まともにやればこっちの勝ちは目に見えてる。

 

 だが、入学早々暴力沙汰なんて起こしたとすると、ファウナスの立場はもっと悪くなる。2人もそれが分かっているのか手を出してこない。

 

 そんなことを考えてると男が放った蹴りで吹っ飛ばされた。蹴り自体はガードしてたが、衝撃で腕がピリピリする。流石はハンター志望なだけあって弱くはないな。

 

 

「おいおい優等生くんは反撃はしないのかい?それとも喧嘩なんか怖くて出来ません〜ってか?」

「もうそろそろか」

「おい。ファウナスの癖に人間様を無視するのか?俺が教育してあげよう」

 

 

 

 そう言って男はアダムに殴りかかり、それは当たらなかった。

 

「なっ!?消えた!?」

「この程度か?」

 

 アダムは男の後ろに回り込んでいて、男の首に手を当てていた。

 

「テメェいつの間に...!」

「これ以上の戦闘はお勧めしないが...続けるか?」

「くそっ!テメェら覚えてろよ!」

 

 男達は逃げ出し、森には平穏が戻ってきた。

 

「何だったの!?今の?」

「今の...間違いなくセンブランスね」

 

 

 ハンナの言う通り、僕はセンブランスを使った。前にも言ったが、僕のセンブランスは受けた衝撃を自らの力に変える。

 これはヤンのセンブランス、受けたダメージを力に変えるというものと似ているがその中身は大分違う。

 

 ヤンはダメージを受けることによって自身が強化されるので、それを活かす彼女の戦い方はダメージ覚悟で殴り合うというものだ。

 対する僕のセンブランスは、ダメージを受けずにガードしてもその力は僕のものとして扱える。そう聞くと上位互換に聞こえるし、ヤン自身もチートだと言ってたがそういうわけではない。

 

 ヤンの強化は永続的なバフで僕のはあくまでそういう技だと考えれば分かりやすいかな?

 僕がセンブランスとして発揮できるものは受けた分だけで、一度使うと溜めた分は使われるし、どうしても発動にも時間が掛かってしまう。

 

 必然的に僕の戦い方は敵の攻撃をガードしたり受け流して力を溜め、強化した一撃でカウンターを狙うというものが一番良いのだろう(本編のアダムも多分似たような感じだと思われる)

 

 さっきのは男の攻撃をガードし続けることでチャージし、それをスピードに変えることで男の背後に回った。

 

「え!? アダムもセンブランス使えるの?そうなると」

「オーラもセンブランスも発現していないのはガラバだけ...ということになるな」

「そんな〜」

 

 ガラバは崩れた。彼の活躍を見れるのは遠いだろう。

 

「そんなことしてる場合じゃないでしょ、私達より出来ないんだったらそれ以上に頑張るって昨日言ってたじゃない(アダムが言ったけど)」

「そうだった!今日の授業の内にオーラを使えるようになってやるぞー!」

 

 

 そう言ったガラバが瞑想に入った瞬間に授業終了の鐘が鳴ってしまった。

 ガラバはそのまま崩れた。現実はいつだってこんなはずじゃないことばっかりだよな...

 

「うわーん!神様はなんで僕だけにこんな仕打ちを!」

「寮に戻ったら俺達も手伝ってやるから...」

「まぁ仕方ないわね」

「うう、ありがとう2人とも」

 

 そんな感じで立ち直ったガラバは驚く程の集中力を見せ、オーラを使えるようになったのだった。

 もしかしたらオーラの発現は幼少期の方が目覚めやすいのかもしれないなぁと、本編では苦戦していたジョーンと比べながらそう思ったのだった。

 

 まぁファウナス特有の差別に遭ったが、あれぐらいのちょっかいだったら可愛いものだ。

 平和な1日を日記にまとめ、明日の授業に備えて早めに眠るのだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 男は話す。

 

「学長、アダム・トーラスは危険です。あの歳にしてセンブランスを使いこなし、まともな教育機関の無いメナジェリー出身でありながら試験でもトップを取りました」

 

「彼は今は人間にも協調的な態度を見せていますが所詮ホワイトファング、人間に反旗を翻すのも時間の問題です。彼を入学させることは間違っています。」

 

 それに対して学長と呼ばれた男は答える。

 

「だが、彼は子供だ。ここにいる間に躾をつければいい」

 

「それに...彼はあのホワイトファングのリーダーの義理の息子らしいではないか。義理とはいえ彼を人質としていればホワイトファングどもも迂闊に行動出来ないということだ」

 

 それを聞いた男は笑みを浮かべる。

 

「成程、ベラドンナには感謝しないといけませんね。彼が望んで自分達の力を削ってくれるのだから」

 

「ミストラルの繁栄のその犠牲となるがいい。アダム・トーラスよ」

 

 

 




 
 前はRWBY見てたけど4期になってから見てないですって?
 まぁ監督が亡くなったことでアクションが劣化したのは事実ですが、6期からの戦闘のクオリティは高いし、YouTubeやニコニコで日本語訳つきで観られるので是非見て下さい!
 それにしても8期はどうなってしまうのやら(震え)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 誤算の訂正は不可能

 今回は文章を書く上で初めてのことが多く、小説を書く人は凄いなぁと改めて尊敬の念を抱きました。
 ということで見難いかもしれませんが第5話です。
 それにしても文才はどこに売ってますかね?



 

 アカデミーでは武器やその扱いについても学ぶ。

 ハンターにとって武器は必需品なのでそれは当然のことだと言えよう。

 

 オーラは防御にも攻撃にも使えるので、それを使えば直接グリムと殴り合うことも可能だ。しかしオーラとは実質的なHPであり、枯渇した状態では普通の人間と同じ耐久力となってしまう。

 

 よってハンターはオーラの消費には細心の注意を払い、オーラを使わない攻撃手段である武器を使うのだ。

 

 RWBYという作品は、登場人物が特殊な武器を使っていることが特徴の一つに挙げられる。何故わざわざ複雑な武器を、と思われる人もいるだろうがそれにも理由は考えられる。

 

 グリムには沢山の種類がいて、陸海空全ての領域で出没する。そんなグリムに対抗するためには近接戦闘だけでなく遠距離にも攻撃出来る手段が必要、というわけであろう。

 

 作中の武器は、使用者が自前で遠距離への攻撃手段を持っているケース(ワイスとか)を除き、殆どが銃火器としての機能も持ち合わせていた。

 

 ハンターとしては二つ以上の武器を持ち運び、同時に扱うのは不便なため(作者の都合的にも)に遠近同時に対応する武器を使うのだろう。

 

 

 

 

「ということで、今日の授業の目的は自分の武器を決めることだ。模擬戦用の武器を持って来たので、自分の適正や戦い方に合わせて決めたまえ」

 

 

 ハンター学の最初の授業に集まった僕達の前にはいろんな種類の武器があった。どうやらこれらは武器の作成を習った先輩方が授業で作ったものらしい。

 

 剣や棍、ハンマーや小手などの人気な物は使っている先輩も多いらしく、数も多かったし、一見ただの板に見えるようなものもあった(どうやってこれで戦うんだよ)

 

 しかし、ここで僕は奇妙なことに気付いた。日本刀が一つしか用意されていなかったのだ。日本刀と言えば日本では勿論、海外でも人気な武器の一つだ。

 

 例え異世界であるレムナントでも変わらず人気なんだろう、と思ってて意外だったので先生に聞いてみることにした。

 

 

「先生、サンクタムで日本刀を使う人は少ないんですか?」

「...あぁ。ここでそれを使う生徒は一人しかいない。その生徒の名前は、」

 

 

その時大きな音を立てて扉が吹っ飛んだ。僕らは何が起きたか分からずビックリしていたが、先生は何故か死んだ目をしていた。

 

そして扉を吹っ飛ばした人影は一瞬で僕の目の前に移動して呆然としていた僕の肩に手を置いた。

 

「少年は刀に興味があるのかい!?」

「え...」

「カナタ、授業はどうした?」

 

突然現れた女性は周囲から視線も先生からの言葉も気にせず、僕に語り続ける。

 

「少年よ、日本刀はいいぞ。持ち運びにも便利だし、他の刀剣に比べて切れ味が高くグリムに効果的なダメージを与えやすい」

「は...はい」

 

それに、と続ける彼女の目からはなにか狂気的なものを感じた。

 

「日本刀には他の武器には感じられない美しさがあるんだ!曲線的なフォルムは対象を切断することに特化し、構えていない状態から即座に斬る武術まで編み出した。これは日常の中に於いても彼らが闘いに対しての心構えを持っていたことが分かるよね!」

「如何に優秀なハンターにも油断というものはある。だけど日本刀の技術を修めればその致命的な隙を居合によってカバー出来るんだよ!私だって今ここで君が攻撃しても即座に君の首を斬り飛ばせる!」

 

 

 

 この人はヤバイ。おそらく日本刀への愛が深いだけでなく、その戦闘力も尋常ではないのだろう。外見だけだと容姿端麗な生徒としか感じないのに、その凶悪なオーラからここにいる全員が恐怖している。

 

 なまじ顔が整っている分、歪んだ顔が他の生徒の教育に悪いのではないかと思えて来た(他人事)

 

 

「少年はこんなに素晴らしい日本刀を使わないわけないよね!」

「アッハイ」

 

 先生を含め周囲が可哀想なものを見る目で見てきたが、可哀想だと思うなら代わって欲しい。

 

「それならこの授業が終わったらグラウンドに来て!私が日本刀の使い方をみっちり教えてあげる!」

「」

「じゃあ私授業に戻るから絶対に来てね、約束だよ!」

 

 

 

 そうして嵐は過ぎ去った。

 わーい入学早々に美女と放課後デートだー

 

 

 

「我が校に日本刀を使う者がいないのは奴のせいだ。サンクタムに入学してからその圧倒的な力によって他の生徒に喧嘩を売っている、危険な3年生で名前はカナタ・スウォートだ」

 

「普段は大人しい生徒なのだが、日本刀が絡むと人が変わりああなってしまう。君が日本刀について言及したので止めるつもりだったが、どうやら遅かったようだ」

 

「彼女の訓練にこれまで耐えられた生徒はいないが、君ならもしかしたら最後まで出来るかもしれないだろう。多分」

 

 そう言って先生は僕の肩に手を置いて慰めた。

 

 僕は助けを求めるために頼りになる友人達に視線を向ける。

 

「まぁ貴方なら頑張ればなんとかなると思うわ」

「そうだな、私達は貴様が頑張る姿を遠くから見守ることにしよう」

「えっと、人生諦めなければなんとかなるよ。アダム!」

 

 我らが友人達(なんか混じってるが)は励ますのが下手なことが分かった。

 

 

 

 そして僕は...今日あったことは約束のこと以外忘れることにした。

 

 

 

 

 

 

 放課後、カナタさんとの約束がある僕はグラウンドに来た。サンクタムのグラウンドはそこそこ広かったので、カナタさんは見つからないのではと期待していたが、何故か彼女の周囲だけ人がいなかったのでそれは期待できませんでした(悲)

 

「よく来てくれたね、少年。今日は私のお下がりを少年にあげます」

 

 そう言ってカナタさんは持っている刀を渡してくれた。サービスが良いなぁ。(白目)

 

「あ、ありがとうございます」

「それでは今から私と打ち合ってもらいます。時間は1時間くらいにしましょうか。もしくはどっちかが負けるまでにしましょう」

 

 前言撤回。コイツ滅茶苦茶なスパルタだ。入学したばっかの生徒が3年生と打ち合えるわけないだろ!

 

「あぁ安心してください、勿論手加減はしますよ!それに医務室の先生は腕が良いんです」

 

 何一つ安心出来る要素が無いのですがそれは...?

 

「先輩!少なくとも構えは教えて頂きたいのですが!」

「それは私の真似をしながらでも出来るはずです。それでは始めましょう」

 

 

 

 そう言って先輩はとんでもないスピードでこっちに突っ込んで来た。はっや!

 ファングにて鍛えられた動体視力でなんとか反応、彼女の一閃を避けることが出来た。

 

 

「私の攻撃を避けるとは!貴方は今までの希望者とは違いますね!」

「くっ!受けきれないっ」

 

 

初撃は距離が離れている為にアダムは反応できたが、以降はそうならない。

アダムが反応出来るのは、カナタの攻撃が到達する一瞬前。防御することは出来ず、その一瞬でなんとか刀が間に合っても、体重の乗らない刃では彼女の攻撃を受けきれない。

 

カナタの抜刀からの一閃を前に転んで回避し、返す刀をオーラを纏わせた腕で防御する。あまりの痛さにアダムの動きが一瞬止まってしまう。

そこにカナタの一撃をまともに受け、アダムは吹っ飛ばされ倒れた。

 

 

「あら、ついやり過ぎてしまったかも。少年、まだいけるわよね?」

(この状況でまだやろうとしてるのかよ!?こっちはもうボロボロだってのに!)

 

「...ダメかしら、せっかく期待させられたのに拍子抜けね、うーん、少し痛い目に遭わせればまだ立ち上がるかも」

 

 

「問題、無い!」

(なんでボコボコにされた挙句さらに痛い目に遭わなくちゃいけないんだよ!)

 

「そうよねまだいけるわよね!安心したわ」

 

(こうなったら奴に一泡吹かせるしか無い!)

「やああぁぁぁ!」

「今度はそっちからということね!いいわ乗ってあげる!」

 

 

居合とも呼ばれる鞘からの抜き打ちは受け流され、身体の回転を利用した回し蹴りは鞘によって防御される。

 

アダムから攻めたところで戦況が変わるわけが無く、直ぐに攻守逆転し先程と同じようになってしまった。

 

 

「ほらほら!攻め手が止まってるわ!それじゃいつまで経っても私に勝てるわけないじゃない!」

「くそっ!」

(だがこれでいい!彼女の攻撃はどうせ防御出来ない。攻撃を受けるならば攻める姿勢を見せてトドメを刺されなければいい...!)

 

 

外から見ればアダムはカナタによって滅多打ちにされているだけなのだが、カナタが感じたものはそうでは無かった。

 

 

 

(少年の目...少なくとも何かをするつもり、やられっぱなしにはならないというわけね。いいわその何か、真っ向から斬り破ってあげます!)

 

 

「私も貴方の努力に応じて、本気でいかせてもらいます!」

(ふざけんな!此処で本気なんて出されたら死ぬ!だがこの状態で上手くできるのか?いや、やらなければ死ぬ!)

 

 

アダムの突きを逸らしながらカナタはアダムの胴に一撃、それによって吹っ飛ばされるもアダムはオーラによってダメージを抑え、追撃の上段を峰で防御し両者は鍔迫り合いによって均衡を得る。

 

しかしそれも長くは続かず、斬り払いによって体勢を崩したアダムにカナタは今度こそ刃を振り下ろす。それを受け、敗北する筈だったアダムの目には赤い光が宿っていた。

 

 

(チャンスは一瞬にして一度。刀を使った事なんて無いし、こんな激しい闘いだって一度もしたこと無い。だが僕は知っている!アダムは刀を使う才能があるということを!)

 

(そしてセンブランスを使えば先輩に致命的な一撃を入れることが出来るはず!)

 

 

 

 

「ここだぁ!」

 

 

 

今までに受けた衝撃を自身の能力によって力に加えたアダムの一閃はカナタの刃と真っ向からぶつかり、それはカナタの手から刀を落とさせることに成功した。

 

アダムは直ぐ様後ろに下がり、動きの止まったカナタを警戒する。

 

 

(どうだ!これで満足したか!)

「ふふっ、すごいわ貴方!初めて日本刀を使って私に勝利するなんて!」

(この感じはまさか?)

 

「楽しくなってきたわ!」

そういうカナタの顔は狂気に歪んでいた。

 

 

 

 えーこの感じは、モブが好戦的な強キャラに反撃したことで、却って喜ばせて本気を出させてしまう、っていうパターンですかね?

 

「貴方なら私を超えられるかもしれない。さっきの訓練では全くもの足りない!今日は時間ギリギリまで模擬戦よ!」

 

 これは...アダム君の物語はこれでおしまいですね(諦め)

 

「待ってください!僕はもう動けません!」

「そうなの?うーん、それは仕方ないわね」

 

 まだだ!アダム君の物語は終わらないかもしれない(一筋の希望)

 

「じゃあ今日は素振りだけで我慢しましょう。勿論時間までね」

「分かりました!」

 

 アダム君の物語継続決定!皆さんこれからも宜しくお願いします(喜び)

 そんなわけで今日は日本刀の構えや足運びを学んで、先輩に調整してもらいながら素振りをした!(模擬戦の前にするべきだと思うんですが)

 

「うん!中々構えも様になったと思う!」

「ありがとうございます!」

「じゃあ明日も模擬戦から始めるから、放課後にグラウンドね!」

「えっ?」

 

 (悲報)アダム君の物語終了のお知らせ

 

「じゃあお疲れ様!明日の訓練を楽しみにしてるわ!」

 

 そう言って先輩は帰っていった。模擬戦の時にはいたギャラリーもすっかりいなくなってしまって、僕は暫くの間一人で呆然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「タダイマ」

「あぁ、お邪魔しているぞ」

「大変だったわね」

「アダム、大丈夫?」

「ダイジョーブダヨ」

 

 友達(シンダーも含む)が天使に見える...此処が天国か。

 

「今日はもうお風呂入ったら直ぐに寝た方が良いと思うわ」

「まぁあんだけ頑張ったんだから休息を取った方がいい」

「僕もそう思うよ」

「アリガトウ」

 

 こうして僕は友達に感謝しながらお風呂に入って寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツのお風呂長くないか?」

「あっ!アダムお風呂で寝ちゃダメだよ!」

「...それだけ疲れていたのね」

 

 

 お風呂から上がって僕は今度こそ布団で寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても模擬戦を見てて思ったが、コイツかなり強いな」

「そうね。既にセンブランスを戦闘に使ってるあたり、多分実戦は経験してると思うわ」

「まぁホワイトファングらしいし、そこで訓練してたとか?」

 

「何?ホワイトファングだと?コイツはホワイトファングに所属しているのか?」

「カラバ」

「あっ」

 

そう言ってカラバは口に手を当てるが、それでシンダーが追求を止める筈がない。

 

「なんでホワイトファングの構成員がアカデミーに通ってるんだ?」

「うーん、それは」

「ホワイトファングといえば死者は出さないものの、その活動はテロリストと一緒だ。そんな奴がアカデミーに来るなんて、なにを企んでいる?」

 

「それは有り得ないと思うわ。第一ファングはただのテロ組織じゃない。信念に基づいて活動しているわ」

「それはファウナスから見た時の話だ。実社会においてホワイトファングがしていることはテロ以外の何者でもない」

「だけどアダムは拾ってもらった恩義があるって言ってたよ。多分本格的な活動はしてないんじゃないかな」

 

二人の話を理解しながらも、シンダーの表情は疑念を浮かべていた。

 

「それなら明日にでも直接聞いてみればいいんじゃない?」

「...そうだな。アダムに話があると伝えておいてくれ」

 

そうしてシンダーは自分の寮へと戻って行った。

 

「ねえハンナ、やっぱりファウナスと人間が手を取り合うのは難しいのかな?」

「個人同士で親しくなるのは出来る。けどファウナス全体の偏見を取り除いて人間と仲良くなるのは難しいかもしれないわね」

 

その返答にカラバは顔を暗くする。しかし、だけどとハンナは付け加える。

 

「それでもアダムには頑張って欲しいわね」

「何言ってんの?頑張るのはアダムだけじゃない」

 

カラバは立ち上がりながら言う。

 

「これはファングだけの問題じゃない、僕ら全員で頑張るんだよ。そうでしょ?」

「...そうね、その通りだわ」

 

そう言って二人は笑い合う、いつか来る未来を夢見て。

 

 

 

「だけどアダムの秘密を漏らしたのは貴方の所為ね」

「あっ!そうだった。ごめんアダム!」

「許して貰えると良いわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(アダムがホワイトファングの構成員だと?あのお人好しがテロリストの一味?信じられないが私はアイツのことを知らない、否定する事も出来ない)

 

シンダーは考える。それが自分の力だと知っているからだ。

 

(だが、ホワイトファングということは人間を憎んでいるのか?人間を憎んで犯罪行為を行う低俗な奴なのかアイツは?)

 

そして彼女は辿り着く、真実の可能性へと。

 

(違う、低俗なのはホワイトファングではないとしたら?あくまでホワイトファングの活動には犯罪は無く、それに乗じて犯罪が行われているとしたら?そして、ミストラルはその全てをホワイトファングの所為にしていたら?)

 

「まずは明日直接聞いてからだ。そしてもし...」

 

(もし、予想通りだったならばミストラルは最低だ。それにそれだけじゃない。その毒牙は間違いなくアダム達にも...)

 

そこまで考えてシンダーはかぶりを振った。

 

(だから何なんだ?奴等がどうなろうが知った事じゃない。私が奴等と関わるのは私の役に立ちそうだからだ。そいつらの心配をするなど、私らしくない!)

 

「明日、もしアダムが私の役に立たないのなら奴等とは関わらない」

 

彼女は深く心に決め、自室で眠った。

 

 

 

 

 




 
 戦闘シーンをもっと上手く書けるようになりたい...(切実)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 碌な学生ではない

 
 オリキャラ、オリ設定も結構出てきました。キャラクター紹介とか必要ですかね?
 だけどRWBYってまだ完結してない分、あまり捏造すると公式と矛盾するかもしれないんですよね...



 今日は朝から衝撃的なことの連続だった。

 先ず寝起き一番にカラバに土下座された。どうやら僕がファングのメンバーであることがシンダーにバレてしまったらしい。

 

 まぁ起きてしまった事を気にしてもしょうがないし、許してやるよォ!と思っていたら、シンダーが僕と2人で話がしたいらしいとハンナが言ってきた。

 ファング関連で話があるのかもしれないのだろう、2人きりは怖いが覚悟を決めて授業の準備をして寮を出た。

 

 そこからが問題だった。

 なんだか分からないが、通り過ぎる生徒が僕を見て噂をしているのだ。何があったのか聞こうとしても逃げられたのでカラバ達に頼んで聞いてもらったのだが、その内容がとんでもなかった。

 

 どうやらカナタ先輩が昨日の模擬戦での僕の勝利を吹聴しているらしく、その結果僕は先輩の弟子で、先輩にも勝ったヤベーヤツだと思われているのである。

 

 昨日の模擬戦は断じて僕の勝ちではない。確かに僕は先輩から武器を落とさせた。

 だがあの模擬戦は武器を落としたら負けなんて決まってなかったし、あの後先輩が武器を拾って攻撃してきたら僕は余裕で敗北だ。

 あれ以上戦闘が続かなかったのは僕が続行できないことが理由だったし、あれは僕の降参であると考えるべきだ。

 

 第一あれはセンブランスを使った初見殺しだ。実力差が圧倒的で細かいルールが無かったが、模擬戦でセンブランスを使った僕は卑怯者となるはず。

 まぁ問題は先輩がそう思ってなさそうなことだが...

 

 そう言った弁明も聞いてもらえず、授業が始まるまで悲しい思いをしてたら、なにやら不機嫌そうなシンダーが目の前に現れ、昼休みになったら来いと言われた。

 訓練に向けて休もうと思ってたので拒否しようとしたが、更に不機嫌になりそうだったので了解してしまった。

 

 そうして僕は授業中、今日の騒動を日記に書いたのであった。

 え、昨日の日記はどうしたって? そんなもの知りませんね(あの後書けるわけもなく)

 

 

 

 

 

 そうして、半ば休憩時間となりつつある座学を終え、僕は売店で昼食を買ってからシンダーの待つ中庭まで向かった。

 

 昼休みの中庭は遊ぶ生徒が多いが、皆今はご飯を食べているのか人は多くなかった。

 シンダーは中庭の端の方で木に寄り掛かっていた(なんだかシンダーらしい感じだ)

 

「待たせたか?」

「...少しな」

「お詫びと云えばなんだが売店でパンを買ってきた。好きな方をやるよ」

 

 そう言うとシンダーさんは無言でクリームパンを取った。普通昼食に菓子パンを食べないと思うんですけど(自分は普通じゃない人)

 仕方なくサンドウィッチを食べ始めると、シンダーは口を開いた。

 

「お前は気が利くのか利かないのか分からないな」

「え?俺が気が利かないと?」

 

 失礼な。前世ではワガママ姉妹達がいた分、気を遣うことには定評があった僕に気が利かないなんて!

 

「お前は飲み物を買ってきたのか?」

「あ。」

「...忘れてたみたいだな」

 

 そう言えばそうだった。まぁ近くに自販機もあるし問題は無い。

 

「買ってこようか、何がいい?」

「別にお前とお喋りをしに来たわけじゃない。さっさと本題に入るぞ」

 

 そっちから振った話だった気がするが、正直僕も腹の探り合いは苦手なので助かったところだった。

 

「お前がホワイトファングの構成員だという話を聞いたが、それは事実か?」

「...そうだな。実質的には僕はホワイトファングに所属している」

「実質的とはどういうことだ?」

 

 原作よりもシンダーが幼いのは確かだが、それでも目の前の彼女は確かなカリスマ性や、威圧感を放っていた。

 それに飲み込まれないようにしながら、僕は口を開く。

 

「サンクタムを卒業すること、それがギラさん達が僕に提示したファングに入る条件だった」

「ギラさん...そいつはホワイトファング指導者のギラ・ベラドンナか?」

「ああ、僕は前に彼らに拾われて育てられた。その恩義を返すため、僕はファングに入ることを決めた」

 

 シンダーは目を細めて尋ねる。

 

「では、お前は将来テロ組織に加担する。そういう事であっているか?」

 

「...ホワイトファングはテロ組織じゃない。彼らは人間とファウナスの友好を目指すという信念に基づいた組織だ。」

「では貴様は信念さえ有れば幾ら犯罪をしても良いと言うつもりか?」

 

 ファングの皆が侮辱され、思わず内心苛立ってしまう。

 

「彼らは不当に差別されたファウナスを解放することが目的で、犯罪なんてしてないはずだ!」

「貴様は組織の活動に参加した事は無いんだろう、本当にそう言い切れるか?」

 

 ベラドンナ夫妻がリーダーだったファングは平和的だったと原作では言われていた。

 それに原作で人を殺した描写だって僕がメンバーを守るためやむを得ずっていうぐらいで、それにさえもギラさんは不満を言ったのだ。

 そう考えても今のファングが犯罪するはずが無い!

 

 

「ああ。僕は彼らが犯罪をしてないと確信している」

「そうか。では、貴様はどうなのだ?」

 

 

 

「僕?」

「貴様は恩義を感じたからという理由だけでそんな組織に入ることを決めるのか?」

 

 思いもよらなかった話の展開に僕は動揺する。

 

「僕にとっては十分大切な理由だ。彼らのような優しい人が不当な差別を受けるのを、僕は黙って見てられない」

 

 半ば自分に言い聞かせながら話すと、シンダーは納得したみたいだ。

 

「そうか、聞きたいことは概ね分かった。最後に一つ聞きたい」

「なんだ?」

 

 話も終わりそうなので食べ終わったパンを片付けながら聞く。微妙に時間が残ったし、戻って日記の続きでも書くかな。

 

 

 

 

 

「お前は本当にそう思っているのか?」

 

 

 

 

 

 僕は思わずシンダーの方を向く。目の前にいたはずのシンダーは消え、同じ場所にアダム(アイツ)、その足元には倒れて動かなくなった人間がいた。

 血のついた刀を見せながら彼は言う。

 

「ファングに入る本当の理由は復讐だろう?」

「なんだと?」

 

「本当は人間に復讐したくて仕方ない。だが人を殺すのは悪い事、悪い事をしてはいけない。そう考えたお前は一つ思いついたんだ、ホワイトファングに入れば、悪い人間に正義の暴力を振るえることにな」

 

 徐々に近づく彼とは反対に僕は一歩づつ後ろに下がる。

 

「ち...違う!僕はお前みたいな理由じゃ、」

「俺か?俺はお前なんかより単純だ。同族に、そして人に認められたかっただけ。それに比べるとお前のは更に性質が悪いな?」

 

「なんせ、お前は自分が正しいと思って暴力を振るうんだ。その本質は復讐以外ではないのにな!」

「やめろ...やめろ!」

 

 後ろの壁にぶつかり、僕はこれ以上後退出来ないことに気付いた。彼は足を止めず、とうとう僕を捕まえる。

 

「もしお前が人間との友好を望んでるんだったら、あの時の人間どもにトドメを刺さなかったのに!」

 

 

 彼は僕の顔を掴んで目の前の光景を見せる。僕の目の前に映る彼らは全員死んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめろぉぉおおお!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいっ!しっかりしろっ!」

 

 頬に衝撃を受け、気がついた僕の目の前には息を荒くしたシンダーさんが居た。あれ、僕シンダーさんに殴られたのか?

 

「いったい何が...」

「それはこちらが聞きたい。貴様が喋らなくなったと思ったら突然譫言を言い出して私から逃げ出したんだよ。」

「捕まえて殴ったら目覚めたみたいだが、いったいどうしたんだ?」

 

 

 幻影が蘇る。

 

 

 

 

「あー、あれだよ。昨日の地獄の訓練がトラウマになってさ。カナタ先輩が襲ってくる夢を見たんだよ」

 

 そう言うとシンダーは納得した様で、憐憫の目を向けてきた。なんとか誤魔化せたようだ。

 

「まぁ...あれは仕方ない気もするな」

「実は今日の放課後もあるんですね」

 

「まぁ...強く生きろ」

 

 シンダーさんに同情されるなんて、これは訓練で死ぬ可能性が濃厚になりましたね。

 

「それより、次の授業が始まる、さっさと行くぞ」

「ああ、それで?僕のことは信じてもらえたかな?」

 

 

 シンダーは微笑みながら僕の先を歩く。

 

「まぁ...お前がお人好しだってことは再確認出来たな」

 

「それだけでも分かってくれれば十分だよ」

 

 僕は目蓋の奥に見える幻影から目を逸らし、シンダーの背中を追っかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 合法的に休憩(瞑想)しても良いという夢のような内容の午後の授業は一瞬で終わり、地獄の訓練が始まろうとしていた。

 

 なのだが、

 

「あの後友達に説教されちゃってね。せっかくの後輩なんだから先輩らしい事をしなさい!って言われちゃったからさ、今日は訓練はお休みして私がここら辺の案内をしてあげるよ!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 カナタさんの友達はなんて良い人達なんだろう、こんな人の友達をしているってだけでも凄いのに。

 

「まぁ私もあんまり外で食べたりしないからたくさんお店知ってるわけじゃないけど。いつも行ってるお店があるから、今日はお姉さんがそこで奢ってあげよう」

 

「本当に感謝します!」

 

 カナタさんも戦わなければ素晴らしい人だ。彼女といる時にはその腰の日本刀を抜かせない様にしないと(フラグ)

 

 

 

 

 

「それで少年の名前はアダムって言うんだね、今まで聞きそびれてたよ!」

「確かに、名乗らないのは失礼でした。すみません」

 

 カナタさんの外面は長い黒髪で後ろで高く纏めていて(所謂ポニーテールってやつだな)長身の美形なので、今の僕はとても役得だ。

 まるで午前中の不運が精算されたみたいだぁ。

 

「アダム君はどこの出身なの?」

「僕はメナジェリーから来ましたね。メナジェリーは不便ですが、僕らファウナスにとっては心温まる良い町なんですよ」

 

 カナタ先輩は表情を綻ばせながら話を聞いてくるのでシンダーさんに比べると話してて楽しいなぁ(すごく失礼)

 

「へえー、そう聞くとなんだか安心するよ」

「安心、ですか?」

「うん、元々メナジェリーって人間が追いやろうとしたところでしょ。そんな場所に生まれたことで不幸になっていたなら、私は申し訳無くなっちゃう」

 

 う、先輩から後光が差していて直視出来ない。なんでこんな人間の鑑みたいな人がああなってしまうんだ。僕は世界の理不尽を恨んだ。

 

「先輩はどこ出身なんですか?」

「私?私はクロユリって言う村の生まれなんだ。聞いたことはないと思うよ」

 

 クロユリ?いや、それは聞いたことあるぞ。原作で登場した場所だったはずだが...どこだったかな?(記憶ガバ)

 

 いや、しょうがないんだ。原作の登場人物やストーリーは覚えているけど細かい舞台とかは思い出せないんだよ。オタクとしては本当に不甲斐ない。

 

 そもそも海外アニメだった分、名称とかはあんまり気にして無かったのも理由の一つかもしれない。映像としては思い出せるけど名称だけじゃ思い出せないみたいな感じよ(言い訳)

 

「どうしたの?考えごとかな」

「あぁー、先輩の強さの秘密はその村にもあるのかなって」

「私の強さの秘密ー?そんな嬉しいこと言われてもなぁ」

 

 先輩はとても嬉しそうだ。誤魔化して会話の内容的にもしかしたら豹変するかもしれないと身構えてたがそういうことは無くて一安心だ。

 

 

 

 

 

 

 平和な会話を楽しみつつ、先輩の行きつけの喫茶店に到着した。

 凄い都会って感じがする(田舎民感)

 

「マスター!今日は後輩を連れて来たよ!」

「これはこれはカナタさん。いつもありがとうございます」

「アダムと申します。よろしくお願いします」

 

 年齢は50代ぐらいか?壮年の男性がマスターらしい。喫茶店歴はスタバに何回か自習しに行ったぐらいだったので、勝手が分からない。取り敢えずお勧めを注文する。

 

「あ、あんまり苦くないものをお願いします」

「分かりました」

「私はいつものね!」

 

 マスターいつものをやった先輩はドヤ顔を決めている。僕はもう彼女は武器が絡まなければ純粋な少女みたいな性格なんじゃないかと思えてきた。

 

 彼女は例えるなら武器への偏愛がさらに強くなってちょっと狂ってルビーなんだろう。まぁ戦闘モードの時だって口調自体は明るかったんだから、多分自分が楽しいことは相手も楽しいと考えている故に起こる善意があの悪魔の正体なのだろうな。

 

 

「それにしてもアダムはなんで最初に日本刀が良いって思ったの?」

 

 貴方が言うセリフか?というツッコミは我慢して、原作のことは濁しつつ自分の考えを話す。

 

「昨日の模擬戦の最後を覚えてますよね?あの時は僕のセンブランスが発動したんです」

「あぁ!あの力はやっぱりセンブランスだったのね!」

 

「僕のセンブランスは受けた衝撃を自分の力に変換するものです。だから僕の戦い方は相手の攻撃を受け止め、吸収した力で敵を倒すというものが理想です」

「それで切断力があって一撃の威力が高い日本刀を選んだのね」

 

 流石に先輩なだけあって僕の考えはお見通しみたいだ。

 

「確かに新入生でセンブランスを使えるなんて思ってなかったからびっくりしちゃったよ。その君の戦い方は理に適ってると思うよ」

「ありがとうございます。因みに先輩のセンブランスとかは聞けます?」

 

 センブランスは他人に公言するものではないって考える人もいるから、この辺は気を付けないといけないのだ(これも個人性が強い初等アカデミー特有のものだろう)

 

「私のセンブランスは斬撃を放つことだよ!」

「斬撃...!」

 

 それって月牙天衝的なサムシングですか!?

 

「オーラを斬撃として飛ばすんだけど、普通にオーラを飛ばすのと違って当たったら斬ることも出来るし、消費オーラも少ないスグレモノなんだ!」

 

「それで先輩は刀以外の装備が無いんですね」

「そ、刀一本で遠い敵にも対応できるから便利なんだよ!」

 

 そして先輩はニヤっと笑いながら、

 

「それに刀を振るモーションで遠距離攻撃が出来るってのは遠距離で油断した敵に刺さるし、刀がギリギリ届かない中距離戦でも強さを発揮するんだよ」

「確かに、相手からしたら届かないと思った攻撃を受けるわけで、かなり精神的にキツいですね」

 

 もし昨日先輩がセンブランスを使っていたら、初撃がクリーンヒットして終わっていただろう。助かった。

 

「まぁセンブランスにも色々あるわけだし、今日は私の知ってるセンブランスとそれの対処法を教えてあげるよ!」

「本当ですか!ありがとうございます!」

 

 

 そんな感じで今日の放課後はとても楽しく過ごすことが出来た!

 

 

「今日はありがとうございました、先輩」

「明日こそはちゃんとした訓練をするから、楽しみにしててね!」

 

 あんまり楽しみにはなりませんね(正直な感想)

 お出掛けも終わり、寮に着いたのだが待っていたのは不機嫌そうな顔をしたシンダーさんと、それを宥めるカラバとハンナだった。

 

「貴様、地獄の訓練とやらがあったのではないのか?随分と楽しそうだったが」

「う、訓練は中止してこの辺の案内をするってカナタ先輩が」

「シンダーはアダムの事が心配だったんだよ、だから謝らないとね」

「ごめん」

 

「まぁ心配というよりかはボロボロになった貴様を見に来ただけだったんだが」

「逆にそっちが謝罪すべきだと思う」

 

 あまりにも失礼な物言いに思わず真面目なツッコミをしてしまった。

 

「やっぱりアダムとシンダーは仲が良いね」

「まぁアダムって弄り甲斐があるし」

 

 そんな感じで夜もあっという間に更けていった。

 

 

 

 

 

 

 




 
 主人公のメンタルが低いのは仕様です。
 どうしてもRWBYということで女性ばかり登場しますが、ハーレムなんてことにはならないと思います。
 というか、作者が恋愛描写を書けないのです。非力な私を許してくれ・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 名乗りあげる絶望

 RWBY8期開始ということで初投稿です。
 以前までの文も直したので最初から読んで頂けると嬉しいです。



 

 現実の学校に長期休暇が存在するように、サンクタムもあと1週間で一学期は終わり長期の休みに突入する。カナタ先輩にボロボロにされたりされなかったりする毎日に漸く一休みが出来るのだ。

 

 

 まぁ今日も授業が無いので一日中休めるのだが、明日もその次も休みであるという事実は大きな違いだと思う人も多いだろう。

 

「ハンナ!起きてよ!もう10時だよ!」

「もう朝食の時間も過ぎてるぞ」

 

 うちの寮ではいつもハンナは遅くに起きる。授業がある日ではまだギリギリには起きてくるが、休みの日は全く起きる気配が無い。

 

「はぁ、もう2人で朝食を済ませようよ」

「まぁ今日一日中寝て過ごすんだろうな」

 

 カラバは逆に起きるのが物凄く早い。本人曰く、今まで御主人の支度をしたきたから、らしい。猫耳従者の少年とか、一部の人は大喜びしそうだ。

 

 

 

 

 

 ミストラルは東洋のような文化を持つがアカデミーの雰囲気は、原作が海外ドラマなのもあり基本的にはアメリカやヨーロッパに近い文化が多い(前世では留学なんてしたことないけど)

 

 どうしてこんなことを述べたかというと、アカデミーでは学食があるのだ。

 学食は良い、好きなものを食べられるしお金も掛からない。さらに幾らでも時間を潰せる。

 まぁ今世でも前世でも友達の少ない隠の者である僕には無縁のことだが。

 

「アダムは今日はなんか用事があるの?」

「あぁ、ギラさん達に通信したいと思ってな。サンクタムに来てからなかなか時間を取れなかったから、どうせだったらCCTタワーまで行こうかと」

 

 

 CCTとは大陸間通信システムの略称だ。かつてグリムの脅威に怯えた人類は国に纏まって被害を減らすことはできたものの、国同士の連絡が出来ず纏まることはできなかった。

 

 その結果起きたのが4大国間での戦争であった。大戦に勝利したヴェイルの王はお互いの国が意思疎通を図り、戦争を回避するように努力した。

 

 そうしてヴァイタルフェスティバルという、現代のオリンピックのような国際行事(漫画の中盤にありがちな武闘大会)が2年毎に開催されるようになり、アトラスの技術者によって世界規模で通信するシステムは出来上がった。

 

 このシステムは4大国にそれぞれ主要なタワーとを作り、世界各地に作ったタワーがその補助をすることで、4大国のタワーが全て機能停止に追い込まれない限り人類が通信手段を失うことは無くなった。

 

 グリムによる被害で各地のタワーが破壊されても、影響はないのだ。主要なタワーが生きている限りは(フラグ)

 

 僕らファウナスにとって問題なのはメナジェリーが大陸から離れていて4大国のタワーの電波が届かないので、万が一補助タワーが死ぬとメナジェリーと大陸では連絡できなくなることであるが、これは人間にとっては些細なことらしい。

 

「CCTタワーに行くのかい?それだったら僕も一緒に行こうかな」

「なんか用事があるのか?」

 

 僕の質問にカラバは胸を張って答える。

 

「特に無いけど、宿題も終わったから他にする事も無いからね!」

「確か数学だけ後回しにしてなかったか?」

 

 そう聞くと、カラバの耳は垂れ下がった。

 

「う、忘れてた」

「まぁ着いてきてくれるのは嬉しいし、数学は後で一緒に解けば早く終わるだろう」

 

「ホント!?」

 

 カラバの耳が勢いよく立ち上がった。コイツ面白いな、ハンナが揶揄いたがるのも無理はない。

 

「ありがとう!アダム!」

「じゃあ食べ終わったし、早速準備したら行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 CCTタワーに無事着いてカラバと一旦分かれ、連絡した僕を待っていたのは怒った天使だった。

 

「ちゃんと連絡するって言ったくせに!アダムのばか!」

「あぁ、ごめんよブレイク。好きなもの買ってきてやるから」

「うーー、じゃあ本をたくさん買ってきたら許してあげる」

 

 メナジェリーは大陸との距離が遠いのもあって娯楽は限られてくる。通信自体は出来るのでラジオやテレビなどはあるが、ゲームや本など取り寄せもできないためかなり珍しいのだ。

 

 ベラドンナ夫妻はお金持ちなので、本も大量に持っていたが生粋の本の虫である我が天使は全て読み終えているらしい。

 

「勉強は順調?なにかいじめられたりしてない?」

「あ、カーリーさん。大丈夫です。友達もできましたし」

「あら、もうお友達ができたなんてすごいわ。お友達はどんな子?」

 

 もうって言ったって入学してからひと月も経とうとしてるが、カーリーさんは僕がぼっち気質なのを見抜いているのだろうか?

 

「同じチームの子がファウナスなのもあって仲良くなったし、人間の中でもよく話す人が2人もできました」

 

 1人は未だに距離感が掴めてないし、1人はその人の所為で周りから恐れられているのだが。

 

「ほう、その人達は大事にしなさい。私たちに偏見なく接してくれる人は少ない。良い人達に巡り会えたな」

「勿論です、ギラさん」

 

 正直シンダーはいつか闇堕ちするかもしれないからあまり距離を詰めすぎるのは良くない気がしないわけではないが。

 

「夏休みには帰ってきます。もしかしたらチームの友達も連れて来るかもしれません」

「あら、もしそうならお義母さんが腕によりをかけておもてなししなきゃね」

「えっ、知らない人が来るの?」

 

 いけない、ブレイクは人見知りだから怖がるかもしれない。カラバには申し訳ないがこの話は無かったことになるかな...

 

「ブレイク、たしかに知らない人は怖いかもしれない。だけど怖がっていては誰とも仲良くなれない」

「お父さん...」

「アダムのお友達だからきっと良い人よ、貴女ともお友達になれるわ」

「お母さん...そうだね、私頑張る!」

 

 

 

 

 うわ、まぢ尊い...(限界オタク感)

 

 

 

 

「そういうわけでお友達を連れてきてね、アダム。あと、勉強頑張るのよ」

「あぁ、分かりました。カーリーさん」

 

 やはり、彼らは最高だ。原作で彼らが死ぬなんてことは起きないが、彼らの不幸だけは絶対に起こさせてはならない(使命感)

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな感じで幸福を噛み締めながら通話を終え、CCTタワーから出てカラバを探すが見つからない。

 こんな時原作ではスクロール(スマホみたいなもの)で連絡してたが、まだ1年生なので授業で触ることがあっても個人のものは持たされていない(まぁ無くされても困るし妥当であると思うが)

 

 無いものを嘆いても仕方ないし、観光ついででカラバの捜索でもしようかな。

 そう思って暫くぶらぶらしていると裏通りの方から怒号が聞こえてきた。

 気になって見に行ったのだが、そこで待っていた光景に衝撃を受けることとなる。

 

 

 

 

「待ちやがれ!この坊主」

「うわーん!見逃してくださーい!」

 

 なんと店の店主らしき人物にカラバが追われているではないか!

 

 え、実はカラバってサンみたいな感じで手癖が悪かったりするの?なんて思ってたらカラバに見つかって一緒に逃げることになる。

 

「カラバ!お前何やったんだ!?」

「僕は悪く無いんだよ、アダム!悪いのはご主人様なのー!」

 

 とりあえず表通りの方に逃げるフリをして、壁を伝って屋根に登る。ファウナスの身体能力があればこのぐらいは可能なのだ(カラバは特に猫のファウナスだから身軽なんだろう)

 

「それで何やったんだよ、友達が犯罪してたなんて信じたくはないが...」

「ち、違うよ!僕は犯罪なんてしてないよー」

()()か、さっきもご主人様が悪いって言ってたな。カラバのご主人様がやったっていうのか?」

 

 そう聞くとカラバは小さな声で「うん」と首を縦に振る。

 

 もしかしてカラバのご主人って犯罪を犯しつつ、純朴な猫耳少年を従者としてこき使っている極悪人なのか!?

 

「あっだけど、ご主人様は悪い人じゃないよ!ちょっとお酒に弱くて、いっつもあそこのお店でツケにしちゃうの」

「あー、成程ツケが溜まってて、店主がカラバを追いかけて払わそうとしたのか」

 

 つまり、これはカラバのご主人が完全に悪いな!カラバが追いかけられてるのは冤罪というわけでセーフ!

 

「ううーん、ご主人様がいればお金を払えるんだけど、僕はお金持ってないしなぁ」

「カラバのご主人はどこにいるんだ?」

 

 このまま逃げても構わないが、せっかくなら彼にツケを精算させる方が気分良く休日を終えられるだろう。

 

「ご主人様は仕事で暫くこっちに帰らないって言ってたしなぁ」

「仕事?」

「うん、依頼でグリムの調査をするって」

「そう言えばご主人は凄腕のハンターって言ってたな」

 

 そう聞くとまるでクロウのようだな、と思う。クロウとはルビーやヤンの叔父であり(少し家庭環境が複雑で厳密にはルビーの叔父ではないが)、オズピンの右腕として闇の勢力の調査をしている、まさに凄腕のハンターだ。

 

 間違いなくその腕は劇中でトップクラスであり、セイラムの直接の配下を何度も退けるほどであるが、その分私生活はかなりダメっぽく、常にお酒を携帯して飲んでいるような人間である。

 

 まぁ、クロウはセンブランスが周囲を不幸にするということで、仲間を作らないし1人でしか行動しないからカラバの主人は彼ではないだろう(原作直前までの彼はシグナルアカデミーの教授だったのもあるし)

 

 だがクロウのような人物であれば探して見つかるわけないだろうし、今日のところは諦めるしかないかもしれない。

 

「ちなみに、調査でどこに行くって言ってたんだ?」

「たしかオニユリの近くでグリムが出たとかなんとか」

「へー、オニユリってこっから遠いのか?」

「うーん別に遠いってわけじゃないんだけど、少なくとも車でも結構かかるよ」

 

「そうなると、今日のところはツケの精算は無理ってことだし寮に帰るか」

「えっ、でも店主の人怒ってたしな、出来ればお金返したいんだけどな...」

 

 そう言いながら、カラバは考え込む。ゆらゆらと尻尾が揺れているのが可愛くて、つい触りたいと思う衝動を抑えていると、ピンと尻尾が立って

 

「そうだ、今から店主の人に謝って、働いて返すようにしよう!」

「えっ、正気か?少なくともすぐに返せるような額ではないと思うのだが...」

「それでも働いた分だけでもツケが軽くなるなら良いよね!」

 

 コイツ...天使か?どう考えても悪いのは主人なのに自ら働いてツケを精算するなんて、なんていい子なんだ...(感涙)

 

 そんなこんなでカラバはバーで働くこととなる。当然ツケはその日だけでは払えず、昼は学校夜はバイトの12才にして大学の苦学生のような日々を送ることになるのであった。

 

 まぁ大変さだったら放課後カナタ先輩との訓練がある僕の方が大変だと思うけどね!(謎マウント)

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局カラバを残して寮に帰ってきた僕を待っていたのは未だに寝ていたハンナなのであった。

 

「であった。じゃない!いい加減起きろ!ハンナ!」

 

 ハンナはよろよろと起きるとあくびをひとつして、

 

「アダム?おはよう」

「もうこんばんはの時間になろうとしてるぞ」

「そうなの?通りでお腹が空くと思ったわ」

 

 そりゃほぼ一日中ご飯食べてないんだからお腹も空くわな

 

「本当にマイペースだな、ハンナは」

「夕食に行きましょ、あれ?カラバは?」

「カラバは今バーで働いてる。夕食はあっちで食べるんじゃないか?」

「へぇそうなの」

 

 寝てる間に友人が突然バイト始めることになったのをへえそうなの、で済ますのは絶対に違うと思う(確信)

 

 そういえばアカデミーに通いながらバイトをするのは校則的にオッケーなのか?そこのところ気にしてなかったが、まぁバレなければ問題ないだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それにしても、ひとつ気になることがあった。

 

「なぁ、ハンナ。オニユリってどんな場所なんだ?」

「オニユリ?あぁ、確かいま開発中のところじゃなかったかしら」

「開発中?」

「そう、富裕層が新たな都市を郊外に作るっていうことで開拓されてるらしいわ」

 

 成程、所謂ニュータウンってやつか。富裕層としては政府の目の届かないところに行って一体何をしているのやら。もしくは政府の方が腐ってて逃げ出したという可能性もあるのか。

 

「確かカナタ先輩の出身がクロユリって言ってたけど...」

「確かそこも開拓された村だったはずよ」

 

 何か引っかかる...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩はどこ出身なんですか?」

「私?私はクロユリって言う村の生まれなんだ。聞いたことはないと思うよ」

 

クロユリ?いや、それは聞いたことあるぞ。原作で登場した場所だったはずだが...どこだったかな?(記憶ガバ)

 

 

 

 

 

「ちなみに、調査でどこに行くって言ってたんだ?」

「たしかオニユリの近くでグリムが出たとかなんとか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライ、起きて。逃げるわよ。

 

母さま?

 

 

 

父さま? 何が…、母さまはどこ? どうなってるんですか!? 母さまはどこ?

 

ライ、お前は逃げろ。

 

 

 

お互いを助け合うんだ。 君の名前は?

 

ノーラ。

 

僕の名前はライ・レン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オニユリは一体のグリムに襲撃され放棄、クロユリ村もナックラヴィーとネヴァーモアの襲撃を受け、レンとノーラを残して住民が全滅する

 

 

 

 

 

「まさか...そんな、ことっ」

 

 呼吸が苦しい。アニメで見た惨劇が起ころうとしている。いつかは分からない。もしかしたら今起こってるかもしれないし、あと数年後に起こることなのかもしれない。

 

 僕はどうすればいいんだ。介入するべきなのか?だけどもし中途半端に介入してノーラやレンを死なせてしまったら?第一介入したとしてあのグリムに勝てるのか?いやそれは絶対無理だから、例えばグリムが襲撃してきたら住民を避難させるとして、その時間を稼ぐとこはできるのか?

 

 ならばそもそも開発を諦めてもらってミストラルに戻ってもらうのは?どう説明するんだよ?「いつかは分かりませんがここは凶悪なグリムに襲われるので開発は諦めて下さい」なんて信じられるわけないだろう!?

 

「いや、でも...」

「ねぇ、ちょっと。ほんとにどうしたの?」

「あぁ、いやなんでもない」

 

 どうするんだ?介入するのか?しないのか?レンとノーラは生き残るからと彼らやカナタ先輩の両親、その他多くの人を見捨てるのか?それとも手を出せばどうなるか分からない中で助けるのか?

 

 そもそも介入は可能なのか?カラバの主人が調査に行ったのは1ヶ月前だとすると、コトは今起こってるのかもしれない。だけど未確認の大型グリムが出てその調査に行ってるならもっと大事になってるんじゃないか?

 

「結局、僕はどうすればいいんだ...?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 答えは出なかった。

 

 

 




 RWBYの2次小説としてRWBYらしさを出していきたいよね!
→RWBYらしさとは...?こういうことか...?(不安)
 誰か教えて下さい(懇願)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 発破の掛け方

 
 今回は名前だけのキャラも出てきたのでキャラの紹介をしています。本編で出るキャラの紹介はしていませんが需要が有ればいくらでもします。



「〜でさ、明日からはアダムのところにお邪魔しても良いんだよね?」

「・・・」

「...アダム?」

「ん?あぁ、そうだな。悪い、聞いてなかった」

 

 結局ずるずると1週間は過ぎ、夏休みが始まる。

 僕はどうすればいいのか?こうやって迷っている間に全て終わって仕舞えば良いなんて最低の思考をしながら、楽園に逃げようとしている。

 

「本当にどうしたの?カラバ、なんかした?」

「えっ!僕も別にそんなにアダムに迷惑かけてないよね?」

「あぁ、これは俺の問題だから。別に誰かが悪いわけじゃない」

 

 問題はまず原作知識が曖昧なことだ。クロユリ崩壊がいつ起こったのか?これが全く分からないのだ。

 恐らくオニユリがナックラヴィーに襲われて放棄された後に襲撃されたんだろうが、これがどのくらい後なのか検討もつかない。

 

 この状況を例えるなら、一般人が凄腕の暗殺者に狙われてて、しかもいつ襲われるのか不明なんていうまさに絶体絶命。しかもその情報を渡したって信じて貰えない。

 ...終わってる!

 

「そういえばアダム、カナタ先輩との特訓はどうしたの?」

「あっ、そうだった!忘れてた」

「夏休み中にもあるのね(困惑)」

 

 やばい、先輩なら笑って許してくれはしそうだけど、そのまま特訓の量が倍増したっておかしくない。ただでさえ最近は集中が切れててボコボコにされてるのにこのままじゃ本当に医務室送りにされる...(恐怖)

 

「とりあえず行ってくる!」

「まだ授業終わったばっかだし、時間に余裕はあると思うけど、って」

「完全に聞いてなかったね」

 

 いつものグラウンドに行こう。ちょっと授業が終わるのが遅かったって言えばそう怒られないはず...!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、先輩いないけど」

 

 グラウンドのいつもの場所には誰もいなかった。それどころか今日は夏休み開始日だからみんな学外に遊んでいるのか、グラウンドにいる人なんて僕しかいなかった。

 

 もしや、やる気のない態度と見られて愛想を尽かされたのか!?そ、そんな!先輩の特訓は辛いことだらけだけど、先輩とカラバしか日々の生活に癒しが無いというのに!(嘆き)

 

 

 

 いやそんなレベルじゃない!ただでさえみんなからカナタ先輩の弟子って恐れられてるのに先輩から捨てられたら何をされるか分からない(戦々恐々)

 

「とにかく謝りに行こう。先輩の寮って確か3棟の...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、カナタの弟子くんじゃん。やっほー」

「あれ、アダムくん。どうしたの?」

 

「先輩、遅刻してすみませんでした!見捨てないで下さい!」

 

 

 

 僕の初手最速謝罪が決まった!これを受けた相手は僕の情け無さに呆れて思わず許してしまいそうになるという、前世から受け継いだ僕の奥義!

 これが決まればカナタ先輩だって呆れて許してくれるに決まってる!と思って顔をあげると、

 

「...遅刻?見捨てる?なんのこと?」

 

 カナタ先輩の頭の上には大量のハテナマークが浮かんでいた。ついでにご学友の頭にもだった。もちろん僕の頭にも。

 

 え?俺またなにかやっちゃいました?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、そうですね。今日の特訓は元から休みで、はい。昨日言ってたのを僕が聞き流してたんですね。それで勘違いして謝った、ええ。そういうわけなんですね」

 

「ふふふ、弟子くんって怖そうな見た目して意外と可愛いのね」

「夏休み中は私の方が忙しくなるから、特訓は手伝えないの。ごめんね」

 

「いえいえ!元はといえば聞いてなかった僕に全責任があるわけですし」

 

 ぐぐぐ、年上のお姉さんの前で情けない失態を見せてしまったせいでとても恥ずかしい。今の僕は全身真っ赤になってるに違いない。

 

「それにしても先輩は夏休み中になにかあるんですか?」

「うん!今年は実家の方に帰って過ごそうって思ってるの!」

「うわーん!カナタまで私を寮に置いていくの!」

 

 先輩のご学友さんが悲しみの演技をすると、カナタ先輩はそれにオロオロしながら慰めようとする。これは...百合じゃ!百合の波動じゃ!

 

「ごめんって、その代わりお土産も買ってくるから」

「しょーがないわねー。夏休みの間はアダムくんに慰めて貰おうかしら!」

 

 百合の間に割り込み隊長を特殊召喚!トラップ発動、はさみ撃ち!破壊!

 

「勘弁してください...それに僕にも帰郷の予定があるんですよ。」

 

 ぐっ、百合の間に割り込み殺された未経験のトラウマが!(未経験のトラウマって何だよ)

 

「あぁ、まだ一年生だしね。寮に残る人は少ないのかも」

 

 多分僕は何年生になっても愛するブレイクに会いに帰ると思う(確信)

 久しぶりだし、明日は耳触っても怒られないよね。こう、ナチュラルに触りにいけばバレないか...(変態並感)

 

「それで、って電話が来た。ちょっと失礼するね」

 

 そう言ってカナタ先輩はスクロールを手に部屋を出て行った。それを見送ったご学友さんが話しかけてくる。

 

 

 

 

 

 

 

「アダムくん。カナタのこと、見捨てないでね」

 

「えっ急にどうしました。いきなり怖いことを言い出さないで下さいよ」

 

 急に言われるとフラグにしか聞こえなくて実際コワイ!

 

「あら、ごめんなさい。ただ、知ってると思うけどカナタってちょっとおかしなところもあるから友達も少なくて、アダムくんははじめての後輩だから、これからもよろしくしてくれると私も嬉しいって」

 

「あぁ、そういうことですか。僕も先輩と同じで彼女がちょっと変なだけで普通の女の子ってことは理解してます。僕が彼女を見捨てるなんてことはありませんよ」

 

 まぁ、ちょっと変って言ってもそこが怖くて近寄り難いという気持ちも全然分かるというか、仮に僕とカラバが逆の立場だったら、美少女と接するのにちょっとした嫉妬はしても自分から関わろうとはしなかっただろう。

 

「ふふ、ちょっと情けないって思ってたけど。カナタに似合う良い子ね」

「先輩こそ、友人のためになにかができるって素晴らしいと思います」

 

 これはグッドコミュニケーションなんじゃないか?入学してから今までバッドコミュニケーションしかできなかったからこれは僕のコミュ力が114514上昇したと見て間違いないな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...そんな!今すぐ行きます!」

 

 

 

 カナタ先輩が帰ってきたが、その顔は明らかに焦燥していた。僕は半ば確信に近い嫌な予感を感じつつ2人の会話を聞くことしか出来なかった。

 

「どうしたの?何があったの?」

 

「オニユリに大型グリムが出て、警備中だった父さんが...!」

 

 そっから先はあっという間だった。荷物をまとめていたカナタ先輩はすぐにサンクタムを出発し、僕は2人に顔を合わせることが出来ず逃げてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げて、走って、誰もいない中庭で蹲る。

 

 

 

 ついに始まってしまった。なのに、今僕は何をしてるんだ?こうやって膝を抱えて、明日には全てを忘れてメナジェリーに逃げるのか?

 

 だけどしょうがないじゃないか、いくら原作知識があると言っても今の僕はアカデミーの一年生。原作直後のルビーやオスカーとだって3歳も離れてる!

 

 それに対してナックラヴィーは原作でもルビーとピュラの抜けたチームJNPRで漸く討伐できた個体だ。仮にカナタ先輩がルビー並に強いとしても、地元のハンターと連携した程度では倒せるような個体じゃない。

 

 そこに僕1人が加わったってなにも変わりはしない。せいぜい惨劇をこの目に見るだけ、最悪殺されるだろう。

 

「だから、どうしようも無い。僕なんかこのまま震えてるだけで」

「それで貴様はいいのか?」

 

 そこには1ヶ月前で中庭で話したようにシンダーが木に寄りかかっていた。

 

「...シンダー?」

「貴様は今何が行動を起こすべきではないのか?それとも貴様はそうやって迷った挙句、自己保身をして行動しないクズの仲間なのか?」

 

「っ!助けようとは前から考えてた!だけど僕が行ったって解決なんかできっこない!」

「貴様、最近そんなことばかり考えていたのか。ガッカリだな」

 

「...なんだと」

「行動を起こす前からあれこれ考えて、挙げ句の果てに諦めるなんて下らん。まず貴様がしたいことをしろ。解決策は後から考えろ」

 

 ぐっ、なんて無責任な!自分はあんなに狡猾な計画でビーコンを陥れたっていうのに!

 

 

 

 

 

 

 

 いや、違う。

 

 ...そうか、僕は計画なんてする前から諦めてたのか。確かに原作知識があるからといって未来まで確定してないのに、僕はクロユリが襲われる前提で考えてた。

 

「そうだ...!まだ間に合うかもしれない!」

 

 説得するんだ!オニユリの次はクロユリが襲われるって!例え説得力が無くても真摯に話せば助けられる人はいるかもしれない!

 

「まずは、ベラドンナさん達に連絡しなきゃ。急がないと!」

「あ...シンダー。励ましてくれてありがとな」

 

 取り敢えずお礼を言うと、シンダーは目を閉じながら、

 

「別に、私は貴様が情けないのを見てられなかっただけだ」

 

 ふふ、此奴素直じゃない系だな。所謂ツンデレとか、クーデレってやつか?このこの。

 

「その情けない顔も今すぐやめて早く行け。その不快な顔を見たくない」

 

 グサッ 美少女から不快な顔って言われるのは結構キツイものがあるな。

 ってそんなこと言ってる場合じゃない!走れ!

 

 

 

 

「...ふん、あまり私を失望させるなよ...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギラさん」

「おお、アダムか。明日の何時にこっちに着く予定なんだ?」

「ごめんなさい、やらなきゃいけないことができました。いつそっちに帰れるか分かりません」

 

 突然そう言われたって明らかに迷惑で、訳は聞かれるだろうし、最悪怒られるかもしれないって思ってたのにギラさんは、

 

「そうか、お前の悔いが残らないようにしろよ」

 

 と一言だけだった。僕は彼の信頼に報いる必要がある。絶対に彼らを助けてみせる!

 

 

 

「ギラさんも帰ってくるまでブレイクを宥めといて」

「あっ、ちょっと待」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、アダム。おかえり」

「グラウンドにはいなかったみたいだけど何してたの?」

 

「ごめん、カラバ。メナジェリーに行くのはナシだ。俺は今からクロユリに行く」

「えっどうしたのさ。そんな急に」

「そう、決めたのね。だったら私も行くわ」

 

 そう言うとハンナは立ち上がる。彼女はもしかしたら何で悩んでたのか気づいていたのかもしれない。ひょっとして集中してて考えが口に出ちゃってたかも。

 

「ハンナ...」

「貴方にはなにかしなければならないことがあるんでしょ、それにメナジェリーじゃないんだったら私も貴方達の旅行について行く予定だったわ」

「だったら僕も行くよ!誰かさんのせいで予定が空いちゃったし!」

「カラバ...」

 

 うおお!僕の友達はいいやつばかりだ。今までの僕はなんでも1人でやろうとしてチームを頼ろうとしていなかった。1人では出来なくてもみんなとだったら出来るかもしれない...!

 

「話は終わったか?」

「うわっ、シンダーさん(心に余裕ができた故の驚き)」

「私も休暇中は暇だし、協力してやる」

 

 シンダーの協力は心強い。流石に今の時点で原作ほど強いわけではないが、明らかにこの中では最強だろう。

 

「恩に着る」

「これは貸しだぞ」

 

 

 

 

 

 

「じゃあ出発だ!クロユリ村へ!」

 

 

 

 

 

 

 と言ったもののクロユリ村へのバスは今日は無かったので、みんなそのまま寮に帰って明日に備えて寝たのだった。

 

 ...なんかごめん。そんな目で見んといてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本編ではあまり登場しない人物の紹介

 

ルビー・ローズ

チームRWBYのリーダーであり、作品の主人公の1人。ちょっと人見知りだったり武器オタクなところがあったりするが、その明るさやリーダーシップは間違いなくみんなの要となっている。

初等部で落ちこぼれだったのを、クロウに鎌を教えてもらうとその才能を開花させ、2年も飛び級してビーコンに入学したと言う経緯を持つ。

 

ワイス・シュニー

チームRWBYの過労死要因。お前は出来ることが多すぎる。

小説で述べた通り実家の会社がかなり後ろ暗いことをやっていて、家庭内も冷え切っている。元々実家であるアトラスのアカデミーに通う予定だったが、半ば家出のような形でビーコンに入学した。

 

ブレイク・ベラドンナ

チームRWBYにおいては常に冷静でサポートに回ることが多い。小説では7歳と言うことで幼い言動はしているものの、この時点でかなりの読書家。

 

ヤン・シャオロン

チームRWBYの切り込み役。ルビーの義理の姉だが姉妹仲はとても良い。

小説で述べたアダムとヤンのセンブランスの設定は本小説オリジナル。じゃないと本当にアダムの下位互換になっちゃうからねしょうがないね。

作中では4人の中で勝率が低いが、これはヤンの戦い方が相性差のつきやすいもののせいであり、単純な強さでいえば最も強いと思われる。

お前8期でどうなっちゃうんだよぉ!

 

ジョーン・アーク

チームJNPRのリーダーで間違いなく主人公の1人。元々裏口入学で入った生徒であり、戦える能力(オーラやセンブランス)を持ってなかったが、ピュラとの特訓や実戦のなかでその才能はどんどん覚醒していく。

チームの役割でいえば司令塔であり、タンクであり、ヒーラーでもあるという、ワイスもびっくりな過労死要因である。

 

ノーラ・ヴァルキリー

チームJNPRの1人で、火力要因。ヤンに打ち勝つレベルのパワーファイターで大型グリムとの戦闘ではまず間違いなく彼女の貢献度はトップ。性格は天真爛漫でムードメーカーだが、レンに依存している。

お前8期でどうなっちゃうんだよぉ!

 

ライ・レン

チームJNPRの1人でサポートに回ることが多い。これはチームJNPRには特化した人間が多く、レンは万能型の戦士であることが原因。

センブランスが少し特殊で、これは人の感情を抑制する。グリムは負の感情に引き寄せられるため、グリムに対する透明化のように使われる。

幼少期にはこの能力でノーラと一緒に生き延びることができた。

 

ピュラ・ニコス

学生の身でありながらその戦闘能力はトップクラスで、それでいて性格や戦い方に欠点が無く高いレベルで完成している戦士。ミストラルのトーナメントでは4年連続優勝の記録を遂げているのだが、これは13歳の時点で優勝していることになりその高い才能を表している(本小説のアダムが今12歳)

チームJNPRでの役割?...んにゃぴ

 

オスカー・パイン

元々はミストラルの農夫の子供だったのがオズに憑依されることで戦う運命に投げ出された可哀想な子。ピュラが抜けたチームJNPRの1人として戦ったり戦わなかったりする。

 

クロウ・ブランウェン

小説内で殆どは述べたが、彼のセンブランスである周囲を不幸にする能力は常に発動していて、自身も適用されているため彼が単独行動をする原因となっている。

センブランス無しで斬撃を飛ばすヤベーやつ。

 

サン・ウーコン

ヘイヴンアカデミーの生徒。ひょんなことからブレイクと知り合い、彼女のサポートをしていくことになる。猿のファウナスであり、その高い身体能力やショットガンとヌンチャクを合体させた武器を用いたアクションは必見。

 




 なんでブレイブルー クロスタッグバトルにはレンもノーラもクロウもシンダーもアダムもペニーも出ないんでしょうね?
 なんならブレイブルー の新作も出して欲しいし、森Pには一生働いてて欲しい(無茶振り)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 牛歩の進み

 
 迷走中なので初登校です。誰か文才を下さい(切実)
 もしくはRWBYの二次小説を僕の代わりに



 唐突だが原作でオニユリやクロユリが出てくるのは4期になってからである。

 

 この辺はかなり話が暗いので思い出すのもしんどくなってくるが、大雑把に纏めるとまずシンダー達の所為でビーコンは崩壊、彼女の手掛かりを掴んだクロウを追って、チームが解散し1人になったルビーは、チームJNPRに合流してヘイヴンアカデミーのあるミストラルを目指す、という内容である。

 

 ヴェイルのCCTタワーが墜とされたために連絡も出来なくなったので、彼女達は仕方なく徒歩でミストラルを目指すのだが、ヴェイルからミストラルはほぼ大陸の反対側に位置するため現実的ではなかった。

 

 オニユリやクロユリはその途中で通過することになる。そこで問題のナックラヴィーとも戦うことになるのだが、コイツがまた強かった。

 

 

 

 

 基本的にグリムは知能が低く、本能的に人類(ファウナスも含む)の悪意に引き寄せられ攻撃するのだが、長い間生きたグリムは独自の進化と経験により、戦闘に強くなるだけでなく狡猾になり、勝てない戦いを避けたり弱点を探したりなど人類の脅威として成長していく。

 

 ナックラヴィーは恐らくその中でもかなり強い個体だと思われる。馬のようなグリムに人型のグリムの上半身が繋がっていて、2体のグリムが融合しているらしい。

 

 伸縮自在な腕による攻撃など強い点はたくさんあるが特に脅威的なところを挙げるとすれば、それは奴の防御力にあるだろう。

 

 クロユリ襲撃の際にもハンターによる攻撃が通っておらず、ルビー達の銃火器も通用しなかった(特にノーラのグレネードが通らなかった時点で遠距離攻撃は殆ど効かないと言ってもいいだろう)

 

 残るは近接攻撃で、これは手足や頭に攻撃が通るのだが、如何せん長射程の攻撃と周囲を行動不能にする叫び声を持つため、攻撃を通すのが至難の業なのである。

 

 そういうわけで、正直言ってこのメンバーにカナタ先輩を加えたとしても恐らく勝てないため、エンカウントしたら逃げる他無い。

 

 それでも万が一のためにも連携ぐらいはしたかったが、まだ皆武器が決まったばかりの段階で連携なんて夢のまた夢だろう。

 

 

 

 

「そういえば、シンダーは何の武器を使うんだ?俺は刀でカラバとハンナは長剣なんだけど」

 

「私も剣を持ってきた。弓も使えるが許可が降りなかったのでな」

 

 ハンターは武器が自作できるようになってから、なんていう決まりがあるのか無いのか分からないが、まだ一年生である僕らは武器の携行は許可を得られないとできない。

 

 それにシンダーを見る限り、遠距離武器や2種以上の貸し出しはさらに厳しいのだろうか?シンダーで駄目ならファウナスである僕らは絶対認められなさそうだ。そう断言できる程、貸し出しの教師の態度は悪かった。

 

 

 

 というかミストラルの人達は大概そんなものらしい。別に表立って差別をする人は少ないし、中には関係無く接してくれる良い人もいるのだが。

 

 むしろこれはブレイクに対してミストラルのアカデミーよりヴェイルのアカデミーが良いと勧める理由にもなるから個人的には悪くないことだ。

 

 

 

「それとシンダーもセンブランス使えるんだろ?」

 

 確かシンダーは炎を使ったり、ダストを剣や弓矢に変えて攻撃していた。もしかしたらまだ使えないのかもしれないが、彼女の才能からすれば既に使えてもおかしくない。

 

「も、ということはお前達は既に使えるのか?」

 

「うう、僕だけは使えないんだけどね」

 

 カラバがしょんぼりと項垂れる。一緒に練習してからはオーラはすぐ使えるようになったが、センブランスの発動はまだまだ先みたいだ。

 

 まぁジョーンもセンブランス発動までにかなり時間かかったし、そう悲観するものでも無いと思うが。

 

「生憎だが、私もセンブランスは使えない」

 

 真顔で言い放つシンダーに固まる。てっきり既に使えるものだと思ってたが、むしろこの年でセンブランスを使えるのはひょっとしてとても凄いことなのか?(今更感)

 

 

 

「ま、まぁセンブランスなんて戦術のひとつにはなっても、それだけで勝利を決めるようなものでもないし」

 

「内容には同感だが、下手な同情や弁明は寧ろ逆効果だとは思わないのか?」

 

 

 

 (アダムのメンタルにダメージが入る音)

 

 

 

「貴方も中々学習しないわね」

「まぁそれだけ既に使えるハンナやアダムが凄いってことだよね!」

「私はレアケースってだけで、私の能力が凄いわけではないわ」

 

 遠回しに褒められて良い気がしないわけではないが、シンダーはやっぱり怒らせると怖いな。というか僕と喋ると大体怒ってるか嗤われてるかでまともなコミュニケーションを取れてる気がしないんだが。

 

 

 

 

 

「それにしても、バスに乗ってからもう1時間ね。クロユリまであとどれくらいかかるのかしら?」

 

「さあな、クロユリ行きのバスは朝夕の2回しかないから、そっから考えれば往復に5、6時間ぐらいじゃないのか?」

 

「なんかお菓子とかトランプでも持ってきたら良かった」

 

「カラバ。別に俺達はピクニックに行くわけじゃないだから、あっちでなんか食べればいいだろ」

 

 まぁ友達と集まって旅行に出てるわけだから、浮かれるのも分かるけども。

 ぶっちゃけ僕もこの状況を楽しんでる面が無いわけではないし。

 

 

 

 

 

「説得といってたが、具体的な方法は決まったのか?」

 

「...えーと、とにかく村を一軒一軒訪ねてグリムの危険性を語って...」

 

「論外だな、そんなやり方じゃ夏休みが無駄になるだけだ」

 

 シンダーのダメ出しに心理的なダメージを受けるが、計画とか立案に関しては彼女は頼りになるだろう。何故ならオズピンを陥れてビーコンを崩壊させるという実績があるからな!

 

「まず、オニユリは開発途中であってその途中でグリムの襲撃にあった。恐らくクロユリにはその開発に携わっていた者が多くいるだろう」

 

 確かにレンの両親が開発に関わっていたのは本人が言ってたし、労働力的な面からも近くにあるクロユリから人や資源が派遣されていたのかも。

 

「今その人物達はクロユリにいて、少なくとも全員ではないがグリムの脅威を実感し、開発の中止も提案する者もでているはずだ」

 

 その推測も正しい。オニユリの開発は放棄されるのは確定で、そのしばらく後にクロユリが襲撃されるはずだ。原作でのクロユリの雰囲気からは開発中のような慌ただしさを感じなかった。

 

「そういった開発のリーダーにクロユリの襲撃の可能性を知らせれば、クロユリから住民を避難させることも視野に入れるはずだ」

 

「とんでもなく強いグリムらしいんでしょ。それでハンターも殺されたらしいし」

 

 

 

 

 現状僕以外は、オニユリの開発中にグリムに襲われてハンターも含むたくさんの犠牲者が出たという情報しか知らない。

 

 僕はクロユリが襲撃されるのは知っていることだが、みんなはあくまでそういう可能性も十分考えられ、それを周知する必要性を感じているため僕についてきてるが、この場合はもしかすると問題も出てくるかもしれない。

 

 

 まぁ悪いことばっか考えるのも良くない。ポジティブにいこうポジティブに。

 

 

 

 

 

「それにしても何故、こんな離れたところに危険を冒してまで移りたいのかしら」

 

「ミストラルの治安は控えめに言って良くないけど、命をかけてまで移住する価値があるとは思えないよねー」

 

 まぁ確かに、前世の世界で金持ちが郊外に豪邸を建てるような簡単な話ではないからな。いくら都市部に嫌気がさしたってここまでするのは少し違和感を覚える。

 

「正直ミストラルは胡散臭いところが多い。このオニユリ開発には何か裏があるのかもしれないな」

 

 シンダーが爽やかとは対極にある笑みを浮かべる。うーん、どう見てもハンター志望ではないですありがとうございました。

 

 こう見えてアカデミーの中では清廉で才能あふれる新入生と言われてるんだから不思議だ。後者は間違いなくても前者はどんだけ猫被ってんだよと言わざるをえない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...やっぱヴェイルに行きたいって言えば良かった」

「なんか言ったか?」

「なんも」

 

 ボソッと漏れた一言にカラバとハンナは無言で頷いていたのが印象的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、ようやく着いたかぁー。座りっぱで体が固くなっちゃったよ」

 

 カラバが伸びをしながら話す。3時間座りっぱなしだったが、特に猫は動きたがるイメージだし自由に動けないのは嫌だったのかも。

 

 

「それじゃあまず、カナタ先輩に会いに行っていいか?」

 

 

 そう言うとみんなが白い目で見てくる。

 

 こ、これはいつまで経っても親離れできない子供を見るような目っ!?

 

「ち、違う!あくまで先輩の父親が被害に遭ってて、状況を確認しやすいからであって、決して心配だからと言う理由では無くてだな...!」

 

「まぁ最初から分かってたから大丈夫よ。それに下手な弁明は逆効果だと言ってたわ」

 

 ハンナの視線の先を見ると、シンダーさんが満面の笑顔を見せていた。笑うという行為は本来攻撃的なものであり(ry

 

 確かにシンダーさんから見れば僕が昨日までうじうじしてたのが、気になる先輩に会いに行くためにあれこれ理屈をつけているためだったと思われてるだろう。せっかく励まして協力してもらってるのにこれはキレても仕方がない。

 

「すまない、シンダー。だが分かってくれ、こうする方が良いはずだ」

 

「...下らん。そう決まってるならさっさと行くぞ」

 

 シンダーさんは不機嫌なままに歩き出した。多分論理的には合ってるから彼女も否定しづらいなかもしれない。もしかしたら小数点以下の確率で僕を信頼してくれている可能性が...

 

 

 

 

 

 

 

「あ、いや、場所は知らないから近くの人に聞いて探すしかないんだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでウチに来たの!?かなり行動的なんだね」

 

 あの後頭にたんこぶを作りながらスウォート家を探して、なんとか太陽が昇りきった時点では辿り着いたのだった。

 

「あの、お父様の方はどうだったんですか?」

 

 僕の問いに先輩は悲しそうに目を伏せふるふると首をふる。

 

「ダメだった。捜索隊が派遣されたんだけど、死体も残ってなかったみたいで...」

 

 彼女の瞳は赤みがかかっており、握る手は僅かに震えていた。だけど先輩は顔を上げ、努めて明るい声で

 

「それにしても、皆お昼ご飯食べてないんでしょ!良かったら一緒に食べようよ!」

 

「え!いいんですか?」

 

 流石にこの人数だとお邪魔だし、なによりそんな気分ではないんじゃないか?

 

「だいじょぶだいじょぶ!お母さんも多分喜んでくれるよ、ねぇ、お母さーん!」

 

「あら、どうしたのカナタ。その人達は?」

 

 

 

 玄関の奥からやってきた長い黒髪の女性は、先頭の僕を見て少し眉をひそめると、話してかけてくる。

 

 

 

「アカデミーでの後輩なの!一緒に特訓もしててね!」

 

「アダムって言います。こちらはカラバ、ハンナ、シンダーです。よろしくお願いします」

 

「あら、礼儀正しいわね。私はカナタの母のパスよ、よろしくね」

 

 パス・スウォート夫人は先輩に似て美しい人で、14にもなる子供がいるとは思えないほど若々しい人だった。まぁウチのカーリーさんもメチャクチャ若いけど(家族自慢)

 

「まだ、お昼ご飯食べてないんだって。一緒にいいよね?」

 

「良いわよ。貴女が友達を連れて来るなんて滅多に無いし、学校での様子を聞きたいわ」

 

 そういうわけで、昼食を御同伴させて頂くことになったのである。ありがたい。

 

 

 

 

 

 

「それにしても、4人はなんでこの村に来たの?」

 

 先輩が聞いてくる。先輩に会うにしても僕だけなら理解できても、残りの3人がついてくることはないからだろう。

 

「オニユリを襲ったグリムですが、奴はここも襲う可能性もあります。だから僕らはここの住民に避難を呼びかける予定なんです」

 

「避難?」

 

 先輩の瞳から不穏なものを一瞬感じとったが、気のせいかと思って続きを話す。

 

「ええ、クロユリを襲ったグリムの危険性は非常に高いです。なのでここから離れてミストラルに戻らないと、とても危険です」

 

「そう、確かにそうだね。だったら皆にも伝えないと」

 

 そこでシンダーが口を開く。

 

「先輩はオニユリの開発を取り仕切っている人に心当たりがありませんか?その人に訴えれば避難もスムーズに行くはずです」

 

 

 

 

 

 

 なんだコイツ!?(驚愕)

 

 

 

 

「あー、それなら知ってるよ!ウチの父さんはハンターの中でも指揮をとっててね、直接は会えないけどレンさんを通して会えると思う!」

 

 レンさんってレンのお父さんか!確かに彼もハンターだったっぽいし、今は彼がハンターをまとめてるみたいだね。

 

「だったら食べ終わったら直ぐ会いに行きましょう。この話はできるだけ早く通すべきです」

 

 

 

 

 

 

 なんだコイ(ry

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先輩のおかげでスムーズに話も進み、レンのお父さんと話すことになった。

 

「それで、話があるのはそこの子供達か?」

 

 流石に歴戦の戦士らしく、鋭い目つきをしている。僕は軽い緊張を感じながら話し始める(他人から見れば赤い髪に眼帯を付けた自分の方が怖いかもしれないが)

 

「そうです。先日オニユリを襲ったグリムですが、ここを襲う可能性があります。皆さんもここから避難するべきだという意見を伝えに来ました」

 

「そうか、確かにオニユリとクロユリの距離はそう遠くない。その可能性は大いにあり得ると言ってもいいだろう」

 

「だったらここを離れ、ミストラルに戻った方が良いはずです。今はアカデミーも長期休業なので、受け入れ先にも余裕がある!」

 

 

 

 思わず熱くなって早口で語った僕に対し、レンさんはだが、と力強く話す。

 

 

 

「その可能性は既に検討済みの上で、クロユリの防備を固まるという方針で決まったのだ。避難するにしてもこちらが支援することはなく、したい者は個人でしてもらうことで決まっている」

 

「しかし...襲ってくるグリムがもしハンターが束になっても敵わない強力な個体だったとしたらどうするんですか?オニユリだってハンターが守ってたはずです」

 

「例えそうであったとしても人々を守るのがハンターの仕事であり、そのために習う技術だ。見たところ君達もアカデミーの生徒だから習う時が来るだろう」

 

 

 

 

 

 まずい、これ以上は踏み込む余地が無い。普通に考えれば話はこれで終わりなのだ。僕はナックラヴィー相手では不可能であることを知っているが、他の人はそうじゃない。ハンターが村を守るなら大丈夫ってなるのが普通の人間だ。

 

 そしてそれは、僕らも同じ。実際この話を聞いた上で危機感を覚えてるのは僕だけしかいない。これ以上話を続けても馬鹿にしてるだけと思われるだろう。

 

 

 

 

 

「そう、ですね。でしたらハンターの卵として避難を希望する人達の手伝いをすることにします。ありがとうございました」

 

 と告げると、レンさんは初めて笑みを浮かべ、

 

「君たちが一人前のハンターまで成長することを応援してるよ」

 

 そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アダム、これからどうするの?」

 

 カラバの問いに頭を覆う苛立ちを抑えて答える。

 

「さっきも言った通り、避難希望者の手伝いをする。そのついでで避難の呼び掛けもしていくつもりだ」

 

 だが、それだけでは多くの命を取り零すだろう。だからといってどうすれば他の人を助けられるんだ?

 

 

 

 

 

 そう考えながら歩いていると、後ろから軽そうな男の声が掛かる。

 

 

「あれ、子猫ちゃんジャーン。もしかして心配で俺に会いに来たのか?」

 

「は?」

 

 

 なんだこのオッサン!?

 いきなり子猫ちゃんとか新手のナンパか?妹は絶対やらんぞ。私はヤンブレかサンブレしか認めません!

 

 

 

 「...ご...」

 

 

 

 ほら、誰も反応しない。うちの女性陣は控えめに言って癖が強い(精一杯控えめな表現)なのでナンパは諦めた方が良いと思うんだが、

 

 

「ご、ご、ごごご...」

「カラバ?」

 

 

 

 

 

「ご主人様ぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 え?ご主人様?

 

 この軽薄そうな男が、カラバのご主人様だと?

 

 ...つまり、将来的にカラバもこうなってしまうのか...?

 

 

 

(膨らむ妄想)

 

「アダムっちジャーン、チョー久しぶりー。覚えてるー?オレだヨー」

 

「えっ、あの。どちら様でしょうか?」(陽キャに対する耐性の無い隠キャの鑑)

 

「ウソー。オレっちのこと忘れちゃったノ?アカデミーであんなに仲良かったのニー」

 

「カラバだヨー。アダムっちってば、意外と薄情者?」

 

(妄想終了)

 

 

 

 そ、そんな...信じて送り出した従順弟ポジな友人が、隠の者にとっての最大の脅威とも言うべきチャラ男になって帰ってくるなんて...

 

 

「そ、そんなのは嫌だ...そんな現実なんて認めない...」

 

「コイツどうしたんだ一体?」

「さぁ今日は慣れないことばっかしてたから疲れてたのかも(精一杯の擁護)」

 

「それより子猫ちゃんはなんでここにいんの?」

「あぁ、それはですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、クロユリからの避難をあのガキがか...」

 

「やっぱり考えすぎですよね。ハンターが守る以上、そんなことは起きないと思います」

 

「いや、ハンターなら常に最悪を想定しとけ。さらにこのケースだとあのガキの言うことは間違ってねぇ」

 

「えっ!」

 

「オニユリを襲ったグリムを見た、俺はアイツをナックラヴィーと名付けたがヤツは尋常ではなかった。まともな攻撃が効かずハンターは次々と殺されていた。俺は依頼では調査だけだったが、ヤツの討伐だったらと思うと寒気がするぜ」

 

「そんな...ご主人でも勝てないんですか!?」

 

「少なくともここのハンターのレベルでは、だがな。ヤツを討伐するなら俺レベルのハンターが後数人は欲しい」

 

「だったら避難をしなければ、惨劇は回避できない...!」

 

「そういうことだ、お嬢ちゃん。あー、君の名前は聞いてたっけ?」

 

「ハンナ・イーゲルよ。宿を貸してくれてありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!ここは?」

 

「私の家だよ。アダムが放心してる間にここに泊まることになったけど、大丈夫?」

 

「そうなんですか?ありがとうございます、先輩」

 

 なんか衝撃的なことがあった気がしたんだけど、まぁいいか。それよりもお泊まりなんて楽しみだなぁ。

 

「カラバの主人のところにハンナがついていったので2人泊まることになるのですが、大丈夫ですか?」

 

「ああ、うん。シンダーさんは客間に布団を敷くからそこで寝てもらって、アダムくんはお父さんの部屋で寝てもらっていい?」 

 

「え、それって大丈夫ですか?」

 

「うんうん、お母さんもいいって。多分お父さんだって認めてると思うよ」

 

 

 彼女の儚い笑顔から、僕は例えこの行動が失礼であっても、必ず聞くべきだという義務を感じた。

 

 

「そうですか、あの、お父さんの話を聞いても良いですか?」

 

 

 

 




 シリアスとギャグのバランス、丁寧に書くかある程度巻くかの調整が出来ません。なので文章全体が軽く感じるものになるんですよね。

 それは兎も角、今タイトルとか試行錯誤してるんですけどどう感じたかアンケートを取るので答えて頂けるとありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 遠く彼方の君は

 
 お気に入りが減るのが可視化されてるのって中々精神に応えますね。
 できれば一言でも感想を聞かせて欲しいです。なんでも改善致す所存であります。



 先輩は手にした自分の刀を見つめながら、僕の不躾な質問に答えてくれた。

 

「ウチの父さんはね、武器を作るのが好きでその熱意でハンターになった人だったんだ。その中でも刀は特別で、自分には扱えないなんて言いながら暇があったら作ってたぐらいだった」

 

 

「それで、幼い頃の私は父さんの刀を使えるようになりたいって思ったんだ。父さんが作った最高の刀で私が最高のハンターになれば、父さんも喜ぶだろうって」

 

 

「幸運なことに私には才能があったみたいで、自惚れてるかもしれないけど強くなったと思う。それを父さんは自分のことのように喜んでくれたし、私も褒められたのが嬉しくて、もっともっと強くなりたいって思った」

 

 

「村1番のハンターになれるだろうって持て囃されて、アカデミーでも最強だって噂されてさらに調子に乗ってた。今年こそトーナメントを優勝して私は1番のハンターでそうなれたのは父さんのおかげなんだ!って伝えたかった」

 

 

「...先輩は最高のハンターです。お父様だってそれを分かっていると思いますよ」

 

 

 

 

 

 紛れもない僕の本心からの言葉だったが、彼女はゆっくりと首を振るだけで

 

 

 

 

「だけど今日、私は自分がハンターに相応しくないって気づいたの。そしてそれを気づかせてくれたのは貴方達だったの」

 

 

「僕たちが...?」

 

「家に戻って父さんがグリムに殺されたって聞いて、私が思ったのはなんとしても父さんを殺したグリムに復讐したいっていう昏い気持ちだった。今もその気持ちはあるし、私はそれを否定するつもりはない」

 

 

 先輩の瞳から光が消える。彼女から感じる圧は今までに他人から感じたものの中でも最も強く、これが殺意なのだと実感した。

 しかし暫くして先輩はでもね、と話を続ける。その顔は凄く怖いのに今にも泣き出しそうで不安に思えた。

 

 

 

「貴方達がこの村にやって来て、ここの人達を避難させるべきだって訴えたのを見て、ハンターはただグリムを退治するだけの存在じゃないって気づいたの」

 

 

「誇り高きハンターであれって先生達もよく言ってたけど私には分からなかった、私にとってはただ強くなることが誇りだったけど他の人はそうじゃなかった、人々を護ることこそ彼らが誇りだったんだ」

 

 

 先輩は自嘲気味な笑みを浮かべると僕に向かって話す。

 

「そんなことにも気づかずに最高のハンターになるって言って、お笑いだよ。その上で人に物を教えるつもりだなんて、冗談でも笑えない」

 

 

 

 

 

 そんなこと、

 

「違います」

 

 認められるわけがない!

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

「先輩が努力を続けてきたことは、教えられた僕には分かります。そんな先輩を笑うなんて、それこそ馬鹿げてます。それに誇りなんて曖昧なものをハンター全員が持つべきなんて考え方、それを僕は認めたくありません」

 

「ハンターだって自分に自信や誇りをもって仕事をしている者もいれば、むしろそれらが無いからこそ最善の行動ができる人だっているはずです。そういう人達を蔑ろにするのは許されることではない!」

 

 種族、思想、性別、レムナントでは前世の世界ほど多くの差別があるわけではない。その殆どはファウナスに向けられているが、差別の始まりなんてこれらの価値観を統一しようとする人間のせいだ。これを許す限り、差別が終わりを見せるわけがない。

 

「そうだな」

 

 

 思わず熱く語って僕に予想外の援護射撃が飛んでくる。

 

 

「それぞれがハンターを目指す理由だって違うのだから、その根底にあるものはみな違うはずだ。そしてそれが誇りと呼ばれるものだと思う。先輩がハンターを目指す理由はそんなつまらないものなのか?」

 

 

「アダムくん、シンダーさん...」

 

 

 

 

 ダーさん...まさか僕を肯定してくれるなんて思ってなかった、今まで実は黒いんじゃないかとか疑っててごめん。

 

 ダーさんはあくまで悪い性格なだけで、少なくともまだ悪い人間じゃないんだね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...アダム、その顔は凄まじく不愉快だ。私の目の前から消えろ」

 

「あまりにも辛辣すぎる」

 

 

 

 

 

「ふふふ、あはははは!2人は仲が良いんだね!」

 

 先輩がとてもおかしそうに笑い出す。そんなことはないです(確信)

 たしかに信頼関係のある友達同士だったら仲良く暴言も吐くような関係もあるけど、ぶっちゃけ僕とシンダーの間に信頼関係なんて無いゾ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、うん元気が出たよ!...そうだ!折角だし、一緒に特訓でもしようよ!夏休み期間はお互い帰省するからできないと思ってたけど、ここでならいくらでも出来るね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっふーん(察し)

 

 

 

 

 

 

 

「あっどうせならシンダーも一緒にしようぜ」

 

「私は遠慮しとく」

 

「遠慮なんてしなくてもいいよ!2人には元気付けられたし、いっぱい恩返ししないとね!」

 

 

 

 

 

 

 ...あの、その恩返しってヤクザとかが使う系の言葉だったりするんですか...?

 

 

 喉まで出かかった言葉はギリギリ飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして折角の美少女の家に泊まるという、一生に一度しか体験できないと断言できるイベントを、僕は碌に満喫できずほぼ死に掛けの状態で終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで2人はぐったりしてるわけね」

 

「ご主人様に会えて良かったと心の底から思ったよ」

 

「ハンナ、次は交代だ」

 

「えっまさか俺は固定なんです?」

 

 

 翌日、僕らは避難者の手伝いと呼びかけを行うために集合した。先輩は今は避難のために荷物を纏めたりしてて、カラバの主人は仕事のため一緒に行動はできないらしい。なので暫くはこの面子で、追加に先輩が来て行動することになる。

 

 

「だけど、僕らの呼びかけで避難者は増えると良いけど...」

 

「カラバの主人はオニユリを襲ったグリムが出ればどうなるか最悪の事態にもなるって言ってたわ」

 

 

 ハンター側にも危機感を覚えている人がいるなら、なんとかなるかもしれないが...いや楽観はよそう。いまの時点でのイレギュラーなんて些細なもので、あの惨劇がなんとかなるとは思えない。

 

 

「じゃあハンナとシンダーは避難者の手伝いをしてくれ。カラバは避難の呼び掛けを頼む」

 

 

「...確かにファウナスに見える僕たちが荷物を運ぶって言っても信用してもらえないかもしれないしね」

 

「...そういうことだ。俺はまずバスの人に避難者が集まるまで待ってくれないか頼みにいってくる」

 

 

 ここの人達は諸手を挙げてファウナスを差別しているわけではないが、それでも無条件で自分の家に招き持ち物を触らせるほど信頼しているわけではないだろう。

 

 ハンナもファウナスではあるが外見から判断すると全くファウナスに見えないため、問題は起きない筈だ。

 

 

 負の感情はグリムを呼び寄せる。余計なイザコザを起こしてグリムに襲撃される最悪だけは避けなければ。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日から父さまが忙しそうだ。父さまだけじゃなく、村のみんなもいつもより騒がしい。ぼくは騒がしいのは好きだ。父さまが帰ってこないから今日のは好きじゃないけど。

 

 

「ライ、お父さんは昨日から仕事なの。今日もいつ帰るかは分からないの」

 

「じゃあ父さまに会えるのはいつ?」

 

 

 そう母さまに聞くと、ちょっと困ったような顔をして考え、その後いいことを思いついた顔になり

 

「じゃあライ、お父さんにこれを渡しに行って貰える?昨日は忙しくてお弁当を渡せなかったから」

 

「はい、母さま」

 

 

 早速ぼくは家を出て父さまの仕事場に行く。今父さまはハンターとして、仕事をするみんなを守る仕事をしているらしい。

 

 ハンターである父さまはカッコいい。そう言うと母さまはぼくもハンターになりたいかと聞かれるけど、ぼくはハンターは怖いからイヤなんだよね。母さまにしか言ったことはないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 父さまの仕事場はちょっと遠いから歩くのだけど、その途中で男の子たちが女の子をいじめているのを見た。

 

「逃げんなよ!そのパンどこから盗んだんだよ!」

「オマエみたいなのをドロボーって言うんだぜ!」

「やーいドロボー!」

 

 女の子は必死にパンを抱えていて、男の子たちは彼女からパンを奪おうとしている。

 

「そのパンを返せっていってんだよ!」

「これ、カビ生えてるぞ!」

「じゃあゴミ箱から盗んできたんだ!」

 

「コイツ、変な服着てるぞ!」

「どこから来たんだ?」

「パンと同じだ!捨てられたんだ!」

 

 

 

 女の子はいまにも泣きそうになり、ぼくは彼女を助けようとした。だけど足が動かない。ぼくよりも大きい子が怖くて動くことができなかった。

 

「何をしている!」

 

 そこで聞こえた声はずっと聞きたかったけど、いまだけは聞きたくなかった。

 

「と、父さま...」

 

「うわっ!逃げろ!」

 

 

 

 

 

 

 男の子達や女の子は逃げて、ぼくと父さまだけが残される。

 

「えっと、ぼくはお弁当を届けにきて、それで」

 

「お前はあの女の子を助けようとしたのか?」

 

 父さまが聞いてくる。父さまは優しいけどこういうときは厳しい。だからぼくは泣き出さないように答える。

 

「うん。だけど怖くて動けなかった」

 

「そうか」

 

 父さまは優しい顔になり、ぼくを抱きしめた。ぼくはさっきまでとは別の意味で泣きそうになる。

 

「ライ、助けようとしたのは立派だ。だが、動かないことは時に最悪な行動にもなる。だから動くんだ。これからは私がいないときはお前がみんなを助けるんだ」

 

「そんなこと、ぼくには無理です!」

 

 父さまはぼくを離してじっと目を見つめると、腰からナイフを取り出し、ぼくに渡してくる。

 

「勇気を持つんだ、ライ。怖くてもお前ならできる!何故ならお前は私と母さんが愛した子供だからだ。私たちを信じろ!」

 

「...うん」

 

「良い子だ、私もこれから動いて市長に相談しにいく。私がいない間はお前に任せるぞ」

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうやって始まった僕たちの活動は順調に進んではいるものの、完璧とは言えるものではなかった。それは避難すべきだというまだハンターの卵である僕らの判断と、ここは安全だという現役のハンターの判断では、後者の方が説得力が高いのもあるだろう。

 

 

 それに急に避難しろと言われて中々できるものでもない。ましてや避難する期間や避難先での生活の保証だって不透明なのが事実である。頼れる人が別の場所に住んでいるとかならまだしも、そうではない場合は受け入れづらい話だろう。

 

 

 

 しかし、全員がそうではなく、上手くいったこともあった。バスの方は会社に連絡してくれて、何台かこちらで待機してくれるように手配してくれたし、こういった避難するという動きが大々的に見えれば、避難した方がいいのではないかと思わせられるため、より効果的であろう。

 

 

 

 途中からは先輩も参加し、この動きはさらに大きくなる。地元の子であれば呼び掛けられても無視しづらいだろうし、こういう動きは知り合いが動けば自分も動こうといった集団心理が働くものだ。

 

 ハンターの中でも妻や息子を避難させる者も中には出て、レンさんの妻子らしき人物も見かけた。

 

 

 

 その結果、村全体で見て少なく見積もって3割の住民が避難することになった。

 それだけでは少なく感じるかもしれないが、避難者には特に高齢の方や女性や子供が多く、もしも残された人達がグリムの襲撃があっても対応しやすくはなったんじゃないかと感じた。

 

 原作では唐突に始まったように描写されたグリムの襲撃だったが、これだけ危機感が煽られればハンターの対応が間に合い、村から逃げられる人も出て全滅することはないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バスに続々と乗っていく避難希望者を見て感慨深い気分になる。

 この人達は僕が助けることができた人なんだ。残った人だってもしかしたら生き残れるかもしれない。

 

 良かった、本当に良かった。もしかしたら原作で起きることは既に確定していて、僕が何をしようとも変えられない未来なのではないかとずっと思ってた。

 

 クロユリのことを思い出すことができなかったかもしれないし、みんなが集まらなければここまで行動することはできなかったかもしれない。そうでなくても修正力が働いてここまででなにか失敗していたかもしれない。

 

 

 

 だけど未来は変えられるんだ!原作で起きた悲劇は回避可能で、それは僕の運命もまた決まってないということ。それだけ分かっただけでもここに来てよかった。サンクタムに入学して良かった。

 

 

 

「...みんなと会えて良かった」

 

「どうしたのさ、いきなり」

 

「みんながいなかったらこんなこと出来なかった。ありがとう」

 

「何言ってるのよ、むしろ貴方が言い出したから私達が集まったのよ」

 

 

 そうか、僕があの時動き出したから変えられた未来なのか。

 

 

「シンダー、勇気づけてくれてありがとう。君のおかげだ」

 

「...ふん。ただ私はお前が情けなく悩んでいたのが不快だっただけだ」

 

 そういうと彼女は手を組んで明後日の方向を向いた。おまえベジータみたいだな。

 

 

 

 

「それでもさ、俺がお前から勇気を貰ったのは事実だから。この借りはいつか返すよ」

 

「じゃあ協力したのも合わせて2つ分だぞ」

 

 

 コイツ、ちゃっかりしてんな。

 

 

「それだったら私達も1つ貸しがあることになるわね、ねぇカラバ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...え、何これ...?」

 

 

 

 

「...カラバ?」

 

 カラバは身体を震わせていて、何かを恐れているような、とにかくこの場面では異常な様子だった。

 

「どうしたんだ?どこか痛いのか?」

 

「ち、違うんだ!なにかが...なにかが来る!」

 

 もう夕方にもなって涼しくなっているのにも関わらず、彼の顔には尋常でない量の汗が浮いていて、その顔色は髪や瞳の色と同じ灰色になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「...違う、灰色ではなく、銀色?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い間生きたグリムは知恵を手に入れる。そして自分が死ぬ可能性を最大限排除し、より効率的に多くの人間を殺せるようにその知恵と力を振るう。

 

 だから原作においてナックラヴィーは人間が動きづらい夜を狙ってクロユリを鳥型のグリムであるネヴァーモアと一緒に襲撃。村の人間を誰も逃さずに全滅させた。

 

 だが、もしその前に大勢が避難することになったら?その動きを察知したグリムはそのまま逃すだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今すぐバスを出発させろ!早く!」

 

 

 

「アダム!?」

 

 

 

 

 その時バスから1人の子供が飛び出す。彼はそのまま村の方に走り出す。

 

「ライ!どうしたの!?戻って来なさい!」

 

 

 

 

「まさか...ノーラ?」

 

「どういうことだ?カラバも様子が変だし、今すぐ出発させろとは...」

 

「だから、グリムが襲ってくる!手遅れになる前にバスを出発させろ!俺はあの子と避難して後から合流する!」

 

 

 

 

 

 まずいまずいまずいまずい、もしここでレンとノーラを殺したら原作崩壊なんてレベルじゃなくなる!

 

 僕の命に代えても彼らは助けないと!

 

 

 

 

 

 焦る僕を嘲笑するかの様にグリムの咆哮が村を木霊した。

 

 

 

 




 このままやって僕はいつ原作にたどり着けるんだ...?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 良い子悪い子

 
 この小説は基本的にアダム視点で進みますが、今日はレン視点から始まります。
 それにしても戦闘シーンが書けないのですが、どうしましょう(汗)



 

 グリムが襲撃してくるかもしれない、危ないからと父さまに言われて、ぼくと母さまは多くの人と一緒に避難することになった。

 バスに乗り込みながら、ぼくは父さまに言われた言葉を思い出す。

 

(動かないことは時に最悪の行動になる。だからこれからは動いてお前がみんなを助けるんだ!)

 

 

 

 その時のことを思い出すと、ぼくはさっき助けられなかった女の子のことが気になった。彼女は避難できたのだろうか?

 

 バスの中を見渡して彼女を探すが見つからない。

 彼女はもう片方のバスに乗ってるのかもと一瞬考えたが、ひょっとしたら彼女は村に取り残されたのでは?と思い始める。

 

 

 

 彼女をいじめてた男の子たちは、彼女のことを捨てられたって言ってた。

 

 もし彼女には父さまや母さまがいなかったら?

 

 彼女を守ってくれる人はどこにもいない!

 

 

 

 

 

 

 

「ライ!どうしたの!?」

 

 

 勇気を出せ、ライ・レン!ぼくが彼女を助けないと彼女は死んでしまうかもしれない!

 

 バスを飛び出す。母さまや周りの人が戻ってくるように叫ぶが、今戻るわけにはいかない。

 

 ぼくは彼女を一度見捨ててしまった。これ以上見捨てることはできない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライ!止まれ!」

 

 無我夢中で走っていたぼくは、誰かに肩を押さえられて強制的に止められる。

 

 思わず振り向くと、そこには赤い髪に片目に眼帯をしたぼくより少し大きい男の子がいた。

 

 頭にはツノらしきものもあり見た目がとても怖かった。

 だからといって立ち止まるわけにはいかない、ぼくは勇気を振り絞って彼に離すように言おうとするが、その前に男の子は話しかけてきた。

 

 

 

「女の子を助けたいんだろ?俺も協力する」

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レンを背に乗せ、彼にノーラをどこで見かけたか教えてもらいながら村を走る。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「礼は要らない。それよりもキミの力も借りることになるかもしれない」

 

 

 僕の言葉にレンは動揺とそれ以上の期待を返す。

 

「ぼくの力...?ぼくになにかできることがあるんですか!?」

 

 

 

 ...そうか、確かレンは襲撃の途中でセンブランスに目覚めたんだったか。

 

 

 それはまずいかもしれない、てっきり既に使えるものだと思い込んでた。今の状態でグリムに捕捉されたらノーラの捜索どころの話ではない。

 僕は彼にセンブランスに目覚めるように促す。

 

 

「そうだ。だが今のキミは力を持っていない、今身につけるんだ!」

 

「ど、どうやって?」

 

 

 確か原作で彼はグリムによって崩壊するクロユリを見て悲しみ、そこでセンブランス発動まで至った筈。だったら今すぐ使えるようになっても不思議じゃない。

 

 僕は彼のセンブランスを思い出しながら、それを発動できるように指示する。

 

「気持ちを落ち着けるんだ。深呼吸をして、余計な感情を捨てればできるばず...!」

 

「わ...わかった!」

 

 

 そう言って彼は気持ちを落ち着けようとするが、センブランスは発動しない。

 

 このままレンのセンブランスが無い状態で足を動かせばグリムに見つかる可能性は飛躍的に上がり、だからといって足を止めればノーラが間に合わない可能性が上がる。

 

 村を覆う喧騒とグリムの咆哮は徐々に大きくなっており、それらがこの状況も併せより焦燥を掻き立てるが、レンを不安にさせないよう自ら心を落ち着かせる。

 

 

 

「ダメだ!上手くいかない!」

 

「大丈夫だ、キミならきっとできる。だからもう一回集中して、心を冷静に保つんだ」

 

 

 

 

 

 

 このままもし、レンがセンブランスを身につけられなかったら?センブランスはあのシンダーだってすぐには身につけられない技術だ。原作では発動できたからと言って今できるとは限らないし、なによりこの状況は既に原作とは大きく乖離している。

 

 だとしても今更止まることはできない。とにかく冷静になればセンブランスが無くてもグリムに発見される可能性は下がる。

 

 もしこの状況でグリムに相対すれば..今更だが覚悟はしとかないといけないな。

 

 

 

 

 

 

 

「この辺です!確かこの辺りにいたはず!」

 

「じゃあこの辺りを探すぞ。彼女は恐らく身を隠しているはずだ」

 

 建物の下や裏手の方などを重点的に探すが早々には見つからない。確か原作では水路の方にいなかったかとそっちの方に足を向ける。しかしその時上から羽ばたく音が聞こえた。

 

 

 

 

「グリムが来たっ!隠れろ!」

 

「う、うん」

 

 レンを建物の下に隠し、自らも隠れる。

 

「いいか、グリムは俺達の不安や怒りを感知して襲って来る。だから何があっても冷静でいるんだ!自分の心をコントロールしろ」

 

 そう言ってレンに教えながら、ネヴァーモアが過ぎ去るのを待つ。いつ襲われてもいいように構えていたが、幸いヤツはこちらへは見向きもせず水路の方へ向かう。

 

 どうにかレンは間に合ったかと思って、彼の方を見るが特にセンブランスを発動したような雰囲気は無い。それどころか彼は動揺した様子で、グリムの向かった方を食い入る様に見つめている。

 

 グリムはこちらなんて最初から眼中に無いようだった。それはあそこに隠れている人がいるからではないのか?

 

 

 

 

 

 まさか...!

 

 

 

「あっ!あっちに女の子がいるっ!」

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界は私にばかり嫌なことをする。父さんも母さんもどこかへといなくなった。

 私を助けてくれる親切な人がいつか現れることを毎日夢に願っていたけれど、その夢も最近はただの時間の無駄だってことに気づいた。

 

 他の子には困ってたら助けてくれる人がいるのに。

 私をいじめた子達も、それを見ていた子にだって父さんがいた。

 

 だけど私にはそんな人はいない。私の帰りを待つ人はいないし、帰る場所もない。毎日のご飯だって食べられるかは分からない。

 

 

 今日は一日中みんな忙しそうにしていて、そうやって私だけを残して世界が回っている気がして、取り残されたことが悲しくてみんなが憎くて、みんなみんな滅んじゃえばいいのにって思ってた。

 

 

 

 そう思ってたのがいけなかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グリムが出たぞ!」

 

「ハンターは!?守ってくれるんじゃなかったの!?」

 

「駄目だ!ハンターも頼りにならないって、市長ももう逃げたらしいぞ!」

 

「だったら避難した人達は!?彼らに合流すれば...」

 

「それが出発してしまった!俺達は置いてかれたんだ!とにかく避難所に集まるしかない!」

 

 

 

 そう話す人達の会話が聞こえて、とにかく彼らについて行こうとしたが、私の足ではみるみる離されていき、周りには誰も居なくなった。

 

 不安になって近くに隠れる。周りの人達はみんな避難したのか?もしかして怪物に殺されたのか?もしそうだったら私も...

 

 

 とにかく怖くなってその場で震える。怪物の声や誰かの叫び声が村中に響いていて、怪物がこの近くにいるのか、もしくはここに迫ってきてるのかも分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 あぁ、私はここで死ぬのか。いつだって世界は私を助けてくれなかった、このまま誰にも知られず、誰の記憶にも残らずに私は死んでいく。

 

 

 ほら、怪物が私を見つけた。空を飛んでいた怪物は私の近くに降りてきて、そのまま真っ直ぐに私の方に向かってくる。

 

 

 

 

 

 

 私は目を閉じて殺されるのを待つ。あぁ神様、もし次があるとすれば私を助けてくれる人がいる世界がいいな。

 

 

 

 

 

 

 思ってた痛みは来なくて、恐る恐る目を開けるとそこに怪物はいなくて、怪物の代わりに私と同じくらいの、昼に見かけた子供がいたのだった。

 

「きみを助けに来た。大丈夫?立てる?」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノーラをレンに任せて、ネヴァーモアに奇襲を仕掛ける。ヤツにとってはノーラしか眼中に無かった様で、一気にヤツの首を斬りつけることができたが、センブランスによる強化のない僕の腕力ではトドメを刺すに至らず、空へと逃げてしまった。

 

 咄嗟に追いかけようとするが、今は2人を連れて逃げることが先だと判断する。

 

 

「2人とも着いて来い!グリムが来る前に急げ!」

 

 そう2人を急かすが、僕以上に小さい(ブレイクと同じ歳ならまだ7歳だ)2人がそう素早く行動できるわけもなく、1人だけならともかく2人を背負うのは流石に不可能で、モタモタしている内に仲間を呼んだネヴァーモアによって囲まれてしまう。

 

 

「ど、どうしよう!?」

 

「う、うわあぁぁん!」

 

 

 ノーラが泣き出しレンも泣き出す寸前で絶望的としか思えない状況で僕は覚悟を決める。

 

(ボクじゃ2人を助けられない。力を貸してくれ、アダム!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくと周囲にいたはずのグリムやレン達は消え、その代わりに仮面を着けた自分が目の前にいた。

 

「誰かを助けるためにはオレは要らなかったんじゃなかったのか?」

 

(今は2人のためにお前の力が必要だ!)

 

「2人、か。このままだとオマエ自身も死ぬことになる。この状況で自分より他人を優先する理由なんてあるわけないだろう」

 

(僕なんかより2人がよっぽど重要なんだ!それは彼らが)

 

 

 

 

「原作出てくるから、とでも言うつもりか?」

 

(っ!)

 

「...いつだってそうだ。お前は原作に出てくる人が大事で、悪役であるオレ達はそうじゃない。だからオレ達が死のうがどうだっていいんだろう?」

 

(...そういうわけじゃない!)

 

「オマエが言ってるのはそういうことだ。もしオマエはこれが原作とやらに出てこない人の危機だったならオレの力なんて頼ってなかった!オマエは人を助けるって言いながらその程度の覚悟しか持ってない」

 

「人間への憎悪をオレという人格として纏めて捨てて、そうして行き着いたのは他人の為に戦う意志でもファウナスと人間の友好の為に戦う覚悟でもなかった!」

 

 

「ただ原作とやらを滞りなく進ませる、オマエのその程度の為にオレは捨てられたのか...?」

 

(ち、違う!僕はアダムが自分勝手に力を使うか不安で...)

 

「オマエも同じだ!自分勝手にオレを封じて、自分勝手にオレに力を使わせようとしている!」

 

 そうだな...僕も同じだ。

 

 アダムが悪役で人を殺したがってたからって、僕が彼を殺してたんだ。

 

 

 

 

(僕もお前と一緒だった。他人には耳触りの良い言葉を弄して、その力を自分のために使う。まさに悪役ってヤツだ)

 

「...そうだ、だからオレを認めろ。そうすれば力を貸してやる」

 

「それならっ!」

 

「なんだ?」

 

 

 

 

「それなら認める代わりに、お前が人間に手を出さないことを誓え!そうしなければ許さない!」

 

「...なんだと?散々自分勝手にしといて、オレが勝手にするのは許さないと?それを言う権利がお前にはあるのか?」

 

「確かにそんな権利無いかもな」

 

「...だけど僕は悪役だ。悪役が言うことは理不尽で勝手だからな」

 

 

 

 

「...くく、オマエが悪役か。ならオレはオマエに脅される哀れな被害者ってところだな」

 

「お前は僕の共犯者だ。僕は別に悪い人間まで殺すなとは言わない。僕がお前の言うことを聞いてお前を受け入れて、お前も僕の言うことを聞いて僕を受け入れる。互いに利益があるだろう?」

 

「その減らず口をオマエのお仲間にも見せたらどうだ?」

 

「...これからはお前の仲間にもなる」

 

 

 

 

 

 

「......ふん、良いだろう。その条件で受け入れてやる。だが忘れるなよ、オレの持つ人間への憎しみを!奴らへの復讐心を!」

 

(...そうだな、これからはお前みたいなヤツが生まれないように改革していかないとな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、2人ともここから離れろ」

 

 子供達は恐怖心から動こうにも動けない様だった。アダムはレンに目を配ると、周囲のネヴァーモアに対して構えながら話す。

 

「ここからは俺はお前達を守ってやれない。だからお前が守れ。その為の方法は散々伝えた筈だ」

 

「俺とお前どちらかがしくじった時点で、全滅だ。絶対に成功させろ」

 

 

 その時一体のネヴァーモアが襲い掛かってくる。アダムはそれを刀の鞘で受け流すと、すれ違い様に背後を斬る。

 

 それが引き金となって次々とネヴァーモアはアダムへと襲い掛かっていく。

 

 

 

 

 

 それを見たレンは全神経を集中させて、心を落ち着けようとする。その時彼の頭には今日一日で教わったことを思い出していた。

 

 

(ここからは俺はお前達を守ってやれない。だからお前が守れ)

 

(気持ちを落ち着けるんだ。深呼吸をして、余計な感情を捨てればできるばず...!)

 

 

 

(ライ、動かないことは時に最悪な行動にもなる。だから動くんだ。これからは私がいないときはお前がみんなを助けるんだ)

 

 

 

(はい、父さま!)

 

 

 レンのオーラが2人を包む。今までの2人の恐怖心や絶望感は消え去り、その心は凪のような穏やかなものになる。

 

「GYA?」

 

 2人を襲おうとしていたネヴァーモア達は動いていない筈の2人を見失う、見失った彼らは2人を探すが一向に見つからない。

 

 仕方なく残った少年に襲い掛かろうと彼の方を向くが、そこに彼はいなかった。

 

 

 

「GYA?」

 

 仲間によって既に殺されたかと残念に思ったが、よく考えるとそれにしてはおかしい。少年の気配が消えただけでなく、仲間達も消えたのである。

 

 不審に思って上を見上げると、そこには赤い光があった。その光は徐々に自分達の方へと落ちて来る。彼らは結局それが何かも分からずに最期を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アダムは襲い掛かってくるネヴァーモアを受け止めながら、反撃によって沈めていく。

 

(僕のことながらショックだな。ここまで強さに違いが出てくるとは)

 

(別に強さに違いがあるわけじゃない。オマエの刃には殺意が篭っていない。殺意の無い攻撃では、あるものに劣るのも不思議では無い)

 

(ハイハイ、どうせ僕1人じゃ人も1人殺せないチキンですよーだ)

 

 

 堪らず一体のネヴァーモアが空へと逃げ出そうとするが、先程のように逃がして応援を呼ばれるわけにはいかない。

 

「逃すか!」

 

 斬って消滅する前のグリムを足場にして高く飛び上がる。

 そのまま空を飛ぶネヴァーモアの背中に着地しグリムが振り落とそうとするのを掴まり、そのまま首を斬り落とした。

 

 頭を失って消滅したグリムから手を離したアダムはそのまま空中を落下する。

 

(このまま落ちたらヤバくない?)

 

(安心しろ、センブランスを使う)

 

(え...?まさか今まで使ってなかったのか!す、すげー。まるでナメック星に来た時の悟空じゃん)

 

(変なことを言う暇があったら集中しろ!)

 

 

 

 アダムは赤い光を発しながら、そのまま地上にいたグリムに向けて落下、彼のセンブランスによる衝撃でグリムは全滅した。

 僕は暫く警戒して後続のグリムが来ないのを確認すると、刀を納めてレンとノーラの方に向かう。

 

「大丈夫か?」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

「女の子の方も大丈夫か?」

 

「...うん」

 

 2人の怪我が無いことを確認すると、2人に顔を合わせて話をする。

 

「俺はアダム・トーラス。2人は?」

 

「僕の名前はライ・レンです。この子は..」

 

「ノーラ」

 

「レンとノーラか、分かってるだろうがここも今みたいにグリムが来るかもしれない。レン、さっきの力はあとどれくらい使える?」

 

「まだまだ使える、と思うけど...」

 

 原作のことを思い出すと、彼は自分とノーラをグリムから村が滅ぶまで守り切った。恐らくだが、ここに自分が入ったとしてもすぐにオーラが切れるとは思えない。

 

「だったらレンを中心に手を繋いで行こう。レンのセンブランスだったらグリムに補足されない筈だ」

 

「センブランス?」

 

「その力のことだ。急ごう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人と一緒に村の外へ向かいながら、もう1人と心の中で話す。

 

(それにしてもこのままミストラルへと戻るつもりか?どんだけかかると思ってるんだ)

 

(しょうがないさ。原作で2人がどう保護されたのかは分からないが、このままグリムから隠れるよりかは逃げる方が楽なのは確かだ)

 

(そうだとしても1人で2人も面倒見れるのか?恐らく途中で野宿することになるぞ)

 

(それなら、僕たちは1人じゃないだろ?)

 

(はぁ?オレにガキの面倒を見ろと?)

 

(大丈夫だって、2人とも良い子だし。それにブレイクの友達になるんだぞ。ここでカッコよくしてれば、ブレイクの株も上がるに違いない!)

 

 もしブレイクが2人と会った時に僕の話が出れば、頼りになってカッコいい自慢の兄が2人を助けたとしてさらに僕のことを誇らしく思うだろう!

 

 というか、今ここで自然とブレイクの話をして友達になれたら、すんなりとブレイクのビーコン入学まで進むかもしんないな。

 

 それは僕にとってかなり都合が良い。正直に言って、僕の行動が原作に縛られてるのはブレイクの為と言っても過言ではないところがあるからな。

 

 原作の悲劇を変えたいのなら、今すぐヴェイルまで行ってオズピンに未来の話をすれば良い。

 

 何故そうしないかっていうと、他の人はともかくブレイクやチームRWBYにまで影響が及ぶかもしれないからだ、あとシンダー。

 

 

(お前だってブレイクの前では良い格好したいだろ?)

 

 なんせお前は将来ブレイクのストーカーになるからな!ワハハ!

 

 

 

 

 

 

 

 

(はぁ、受け入れたのは早計だったかもな)

 

 

 

 




 気がついてるかもしれませんが、戦闘シーンでは出来るだけ三人称視点で書くようにしてます。もし見辛いとかあれば、ぜひ感想を下さい。
 そうでなくとも感想はいつでも募集してますが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 意に通せぬもの

 2人を連れてクロユリを走る。周りを見ると村の家々はグリムによって襲われ空を見ても沢山のグリムが飛んでいて、まさに地獄に相応しい光景だった。

 

 しかし、グリムの全ては僕らに気付くことは無く、僕らもこの光景を見て怯えて足を止めることなども無く走っていた。

 

 今まで散々レンのセンブランスが重要だと言ってたがそれは大正解だった。

 人類の負の感情に寄ってくるグリムに対しては、感情を抑えることが姿を消すことと同じになる。なのでレンのセンブランスはグリム限定での透明化ということになる。

 

 だったら明鏡止水とか無心を会得すれば、グリムにとっては知覚できなくなるから最強じゃんと思ったが、そこらへんは一体どうなってんだろうか。今後は全力で瞑想に取り組んでみることにしよう。

 

「レン、まだ大丈夫か?あともう少しで外に出られると思うが」

 

「はい、大丈夫です!ちょっと疲れましたが、まだまだやれると思います」

 

「センブランスが途切れそうになったら直ぐに言ってくれ。この距離なら2人を抱えて全力で離脱すれば、逃げ切れないことも無い筈だ」

 

 センブランス発動によってどれくらいのオーラを使うのか、それは分からない。

 僕自身のセンブランスの話だと、オーラの消費は吸収した衝撃のレベルによって違うし、それを加味してもセンブランスによるオーラ消費量は微々たるものと言ってもいいだろう。

 

 ハンターにとってオーラは攻撃手段よりも身を守る手段としての方がとても重要で、個人が所有するスクロールにその人のオーラ量が反映される。

 

 大会や模擬戦などではオーラ量をHPとして退場などのルールを決めていたが、センブランスがオーラを枯渇させるほどのものだったらみんな気軽に使えないだろう。

 それに原作の描写を見ても、オーラの減るのはダメージを受けたときぐらいだ。センブランスによる消費量は基本的には無いレベルなのだろう。あくまで普通に使う分には、であるが。

 

 しかし同時に、レンのセンブランスには限界があることは原作でも描写されていた。多くの人々を隠蔽する時に彼は不可能だと言っていて、その時にはジョーンによってオーラを貸して貰うことでこれを可能にしていた。

 

 これらを考えると、恐らくはレンはセンブランスを発動するためのオーラ消費が、対象人数によって増減し一度発動すれば維持によるコストは無く、集中してさえいれば永続するのだろう。

 

 まぁ例えそれが正解でも、初めてのセンブランス発動で安定しない可能性がある。万が一の為な備えておくべきだろう。

 

 

 

 

 

 そうやって3人の逃避行は順調に進んでいたが、進む先の方から戦っている音が聞こえて足を止める。

 

 僕らが逃げている間にもハンターの人達は戦っている、それは分かっていたことだったがいざ彼らを見捨てる段階になるとそれを実感し、彼らを助けるべきだという考えが湧いてくる。

 

 それに逃げられなかった人だっているはずだ。避難を希望していた人達は全員逃げられただろうが、避難したくてもできなかった人もいたかもしれない。

 それこそノーラのような子がいたのが答えだ。誰も頼ることができず、震えていた子達も多かったかもしれない。

 

 ハンターとして、彼らを見捨てても良いのだろうか?

本当は何をしてでも彼らを助けるべきなんじゃないのか?

 

 だけど彼らを助けるなんてそれは無理な話だ。レンのセンブランスには対象人数に限界があるとさっき確認したばかりだし、現時点で限界が分からないのに博打を打って全滅しましたではお話にならない。

 

(本来は守るべきであるオレ達に大人しく守られるような奴らじゃないだろう。それに戦いに割って入ることだってかなり無茶なことだ。ここまで来てるのはお前1人の力じゃない、自惚れるなよ)

 

(...そうだな。今は自分達が最優先だ、他人を見ている余裕なんて無い)

 

 ここまでこれたのはレンの力があってこそだ。自分の判断で彼やノーラを危険な目に遭わせるのはあってはならないことだ。

 

「すまない、少し考え事をしていた。先を急ごう」

 

 そうやって僕らは足を進める。その覚悟が如何に甘いものだったか、後に僕は思い知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 その先でハンター戦っていたのはこの地獄を作り出した元凶だった。ヤツは各々の武器を振り上げたハンター達をその長い腕で一掃すると、倒れた1人の脚を掴み持ち上げる。

 

「うわあああ!やめろおおおお!」

 

 そのまま彼は地面に叩きつけられようとして、誰かによってその長い腕を切断されることで助けられる。即座に腕を生やしたグリムは彼らを葬ろうとするが、彼らはなんとか抵抗できていた。

 

 だが助けたその人が僕にとって信じられない人だった。

 

「カナタ先輩!?なんで戦ってるんですか!?」

 

 僕の声は地獄の喧騒によって掻き消されて彼女には届かなかった。彼らの視界にはナックラヴィー以外映っていないようだった。

 

 そういえばさっき避難者をバスに乗せていた時、先輩はいなかった。あの時から彼女はグリムの方に向かってたのか!?

 

 僕は咄嗟に彼女を助け出そうとして、突然立ち止まった僕を伺うレンとノーラを見て踏み止まる。

 さっき彼らは見捨てると決断したのは僕だ。僕が勝手に動いて誰が危険になるのか考えれば、最善の行動が分かるはずだ。

 

 村の外までもう少し。僕が余計なことをするのを、2人は勿論先輩やハンターの人達だって認めないだろう。

 だから先輩は助けることは、出来ない。このまま見捨てるしか、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 (ごめんなさい、一緒に戦えなくてごめんなさい。あんなに良くしてもらってたのに、何も返すことが出来なくて、本当にごめんなさい)

 

 

 

 

 

 ナックラヴィーの猛攻を凌いでいた彼女は、縋るように赦しを請う僕と目を合わせると、僅かに微笑んだ。

 

 

 

 

 ドスッ

 

 

 

 

 ナックラヴィーの腕が彼女の胸へと突き刺さる。そのまま振り抜いて吹っ飛ばすと、凶悪な叫び声でハンター達の動きを封じる。

 

 

 

 だが、僕には無意味だった。だって何も聞こえなかったのだから。村の喧騒も、ナックラヴィーの叫び声も、飛び出した僕をレンとノーラが呼ぶ声すらも。

 

「先輩っ!」

 

 僕はレンと繋いでいた手を離し、吹き飛ばされた彼女の元へ飛ぶ。彼女を抱えて持ち上げようとするが重くて上手く持ち上がらない。

 

 それは先輩が2.3歳も年上なだけではなく、彼女から命が失われていっていることにも原因があるのかもしれない。

 

 なんとか彼女を抱えて離脱しようとする。幸いナックラヴィーがこちらに手を出すことは無く、そのままレンとノーラを連れて村の外へと逃げる。

 

 

 

 

 

 外へと逃げて、どうする?先輩を助けるには今すぐ病院に連れて行かないといけない。だが、どうやって?

 

 クロユリを出て、2人を連れて先輩を抱えて森を歩く。さっきまでの地獄が嘘のように森は静かだったが、それが嘘じゃないことは抱える先輩から流れる血が教えてくれた。

 

「...アダムくん...」

 

「喋らないで下さい傷が開きます」

 

「もういいよ...わたし」

 

「喋らないでって言ってるだろ!」

 

 死へと向かうのを認めたくなくて、僕は声を荒げる。しかし逸る子供を諭す母親の様な先輩の目を見て、思わず詰まる。何故そんな穏やかな顔をしているか、僕にはちっとも分からなかった。

 

「無理だもん。もう助からないってことは自分でも分かってる」

 

「...なんで、そんなこと言うんですか...」

 

「わたし、アダムくんに会えて、良かった」

 

 彼女は満面の笑みを僕に浮かべる。それが自分が助かる安心感からの笑みではないことは僕の目でも明らかだった。

 

 

 ...なんでだよ...

 

 

「なんでだよ!僕は貴女を見捨てたんだ!最初から貴女を連れて逃げればこうはならなかったのに!」

 

 そうだ!僕だけはこうなることが分かってた!分かってたのに!

 ...僕は最初から見捨ててたんだ...貴女も...みんなも...

 

「駄目だよ、キミがやったことは、正し...かったんだ。それを、否定しちゃ、駄目」

 

「...それに、わたしには、逃げる気なんて、無かった。父さんを討った、仇と、戦うことばっかり、考えてたもん」

 

「だったら...貴女と一緒に戦うべきだった!一緒に戦えば...」

 

「無理だよ。キミじゃヤツの相手にすらならないよ」

 

「っ!それでもっ!」

 

 先輩は厳しい目を僕に向けて黙らせると、静かに語り出す。

 

「キミは弱かった。弱いのは罪じゃないってみんなは言うけど、わたしは違う。弱いと戦うことは出来ない。自分のしたいことすら出来ないんだ」

 

「わたしも弱かった。あの人達も弱いから死ぬんだよ」

 

「っ!」

 

「...だけど、キミはまだ強くなれる。わたしよりも、あの人達よりも、あのグリムよりも、もっともっと強くなれる...!」

 

 先輩はどうみても衰弱しているのに、その声と瞳には今までにない程の力が込められており、その狂気とも言える感情に僕だけではなく2人も呑まれていた。

 

「わたしは、死んじゃうから、見られないのは、残念だけど、頑張ってね」

 

 

 

「...はい。僕頑張ります、頑張って強くなります!」

 

「...うん、キミな...ら、で...きる...よ...」

 

「...先輩?」

 

 抱えた彼女からの体温は無く、今まで強い感情を灯していた瞳には何も写ってなかった。

 

「・・・」

 

「...そっか。今までありがとうございました、先輩」

 

 こちらこそありがとうね、アダムくん。

 

 それが聞こえたのはもしかしたら幻聴だったのかもしれないし、もしくは彼女がまだ生きていてなんとか話せたからだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人を連れて森を歩き続けるにも限界が来て、僕も彼女を抱えるのも限界を感じて、野宿の準備をする。

 流石にテントなどは持ってなかったが、いざという時のため寝袋や火のダストなどは持ってたので、焚き火をして2人を寝袋で寝かせて2人から離れる。

 

 僕は地面を掘り返すと、彼女をそこに埋める。できればちゃんとしたところで弔ってやりたかったが、それも出来ないので仕方なかった。

 

 彼女の持っていた刀を持っていくべきか迷ったが、僕は既に貰ったからいいかと思い、それを墓標代わりに埋めた場所に突き刺す。

 

 このままだともしかしたら盗まれるかもしれない、後で必ずちゃんとしたお墓を作ってあげますからと言い訳をすると、自分の刀を抜く。

 

 

 

 毎日のように先輩の特訓に付き合ったおかげか、多少は動けるようになってグリムも倒せると慢心していたけど、実際は僕の力では倒せなかった。

 ネヴァーモアの大群も倒せて、2人だったらなんとかなるって漠然とした自信を持ってたけど、ナックラヴィーを見てそんなことは無いと痛感した。

 

 力が無ければ自分の意思を通すこともできない、先輩の言っていた通りだった。ここに来てから僕は武力にしても権力にしても、その力が無かったから村のみんなを守ることが出来なかった。

 

 

 

「...だから、強くなってやる...!」

 

 

 強くなる、原作だろうがなかろうが関係無い。これ以上目の前で悲劇を起こさせない!そう誓うとナックラヴィーを思い浮かべる。ヤツは原作でルビー達に討伐されたが、その間にも狡猾なヤツは人間達を襲った筈だ。

 

 ヤツは生かしてはおけない、けど今の僕ではヤツに歯が立たない。そのためにも今は強くなる。強くなって、ヤツを殺す。

 そうすれば彼女も喜んでくれるだろう、彼女の最期の願いだ。僕はそれを成し遂げなければならない。

 

「強くなる...!先輩よりも、アイツよりも、もっともっと!」

 

 

 

 

 

 

 幸運にもグリムの襲撃は無く、最悪の夜も明けて朝がやってきた。

 

 僕達は捜索隊によって救助され、2人はレンの母親によって連れられ、僕もアカデミーへと帰ることになった。

 

 

「あっ!アダム!おかえり!大丈夫だった!?」

 

「あぁ、俺は生きてる」

 

「...カナタ先輩は...?」

 

「・・・」

 

「...そうか。だが貴様は人を救ったんだ。先輩も喜ぶだろうさ」

 

 

 3人に出迎えられ、僕達のクロユリへの旅が終わったことを実感した。それと同時にサンクタムアカデミーに入学してから最初の夏休みは始まった。

 

 夏休み最初の僕達の仕事は先輩のお墓を作ることだった。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 意味が無いなんてことは無い

 
 volume8が不穏すぎるんですけど(不安)
 


 アカデミーにおける夏休みは日本におけるそれよりも期間が短く、だからこそ夏休みに実家に帰省するという文化は学生全体には無いらしい。

 

 そもそもどこの国にもアカデミーがある以上、わざわざ実家から遠い国のアカデミーに通うなんてことは少ない。それこそ原作のワイスやピュラみたいな特殊な事情がある人ぐらいしかいないだろう。

 

 僕のようなメナジェリーに住むファウナスもその1人だ。メナジェリーにはアカデミーが無いので、このような船旅をしてでも遠くの国へ行く必要がある。

 

 

「それでカラバはこっちに来るので良かったのか?」

 

「うん、ご主人様もまだ仕事らしくって、また暫くは居ないみたいだから」

 

「クロユリの時も仕事だったようだけど、同じ仕事?」

 

「そうみたい、今回の依頼はオオゴトだって言ってたよ」

 

 

 確かグリムの調査って言ってたな。てっきりナックラヴィーのことかと思ってたけど、それだけじゃないらしい。

 

「それにバーのバイトだってご主人様にお金を返して貰ったから、しなくてもよくなったんだ。することも無くなったし、アダムがどっか行くんだったら着いて行こうって思ってたんだ」

 

「そこで丁度良く俺の誘いが来たって訳だ。俺としては本が好きなハンナにも来て欲しかったんだが...」

 

 ハンナはお土産を買うところまでは同行したが、メナジェリーには来なかった。ブレイクと気が合いそうだっただけに残念だ。ハンナはパッと見て人間に見えるからファウナスだけの楽園に行くのに躊躇したのかも。

 

 

「そういえば、アダムはトーナメントはどうするの?」

 

「あー、来月からはそれがあったな」

 

 2学期からは普通の授業に加えてトーナメントの時期にもなり、学生も忙しくなる。トーナメントとはアカデミーで主催する大会で、原作でのヴァイタルフェスティバルほどの規模ではないものの、初等アカデミーに通う生徒が優勝を争う大型行事だ。

 

 トーナメントには大勢の観客も来るらしく、ここで優勝することは世代を担う優秀なハンター候補としてとても名誉あることである、とは先生言ってたことだが実際そうらしい。

 

 原作ではピュラが4年連続で優勝して、かなりの有名人になっていた。(マスコットとしてお菓子のパッケージになるぐらい)

 

 たかが初等アカデミーの大会なんて思われるかもしれないが、ピュラの歳を考えれば彼女は二年生の時から優勝してたことになる。化け物かよ、そりゃ有名人にもなるわ。

 

 

「トーナメントか、今の俺じゃあ優勝なんて夢でしかない...が」

 

 

 

 

「〜今年こそ優勝して私は1番のハンターでそうなれたのは父さんのおかげなんだ!って伝えたかった」

 

 

 

 

「...参加する。強くなるって決めたからな」

 

「そっか。僕はセンブランスもないし、今年は応援だけにするよ」

 

「カラバも絶対強くなるって、安心しろよ」

 

「うん、だけど僕ちっともセンブランス発動できる気がしないし。シンダーさんみたいに模擬戦の戦績だって良くないし...」

 

「まぁシンダーは学年トップだし、カラバだって悪くないじゃないか」

 

「...だけど僕ら4人の中で僕が1番低いじゃん」

 

「まぁ、そうだけど...とにかく!カラバは絶対強くなるから!」

 

 

 ホント?とカラバの尻尾が不安そうに揺れる。今の時点では弱くても僕の推測では彼は絶対に強くなるだろう。

 

 

 レムナントにおいて伝承や神話と呼ばれるものは数多くある。その中でも、「魔法使いと4季節の乙女」と「銀色の目の戦士」は誰だって知っている御伽話だ。

 

 しかし、これの話は事実だ。魔法使いと4季節の乙女は、魔法を使える旧時代の人間であるオズが世界を揺がす力を持つレリックを守る為、その力を継承させた4人の女性のことである。そして銀色の目の戦士も、大昔から受け継がれた神々の加護とその加護を持つ人々のことである。

 

 銀の目は元々この世界を創造した二柱の神の内、生命の力を操る光の神の加護のことで、これはグリムを退ける力を持つ。

 

 原作においてはルビーや彼女の母親であるサマーが持っていたとされ、ルビーは第3期のラストでその力に目覚め、ビーコンを襲ったグリムやシンダーさんを倒した。

 

 

 ちなみに、なんでシンダーさんも倒せたの?というのは地味にわからないことだったりする。第4期からはシンダーさんはグリムの腕を移植したからグリム特攻の銀の目に弱くなる、というのは分かるがその前でダメージを食らっているのはおかしい部分ではある。

 

 あの理由を説明するとなると、最初からシンダーさんはセイラムによってグリムの力を得ていたから。もしくは銀の目には4季節の乙女、もっと言うならば魔法使いに対しても力を発揮するから、というのが僕の推論だ。

 

 特に後者に関して自信がある説だ。銀の目が光の神が与えた加護で、これが闇の神が創造したグリムにダメージを与える。それなら魔法はどちらの神が旧時代の人間に与えたのか?

 

 旧時代の人間は魔法を使ってグリムに対抗してたんだから光の神だろう、と思うかもしれないが、それなら最初から銀の目を与えれば良い。

 

 わざわざ人間同士の争いにも使える魔法は、破壊の力を使う闇の神が与えたものだと仮定すると話は分かりやすくなる。

 

 光の神の加護である銀の目は、闇の神の創造物であるグリムや彼の加護である魔法に対して影響を与える。そう考えればルビーの銀の目が、魔法の力とも言える乙女の力を継承したシンダーさんにダメージを与えたのは不自然じゃない。

 

 それだけじゃない。その場合オズがルビーをビーコンに入学させたのも、銀の目の戦士が優秀な戦士になると言う理由だけでなく、自分の近くに置いてその力をコントロールすることも考えていたと推測できる。

 

 この説を考えた時はかなりイケてる、と思ったね!まぁ僕の推論でしかなく何の証拠もないが。

 

 それで何の話だったっけ?

 

 

 そうだ!カラバはその銀の目を受け継いでる可能性があるって話だ。ファウナスが銀の目を持っているのが唯一の否定材料であるが、凄腕のハンターであるらしいカラバのご主人が彼を拾ったのも、クロユリで誰よりも早くグリムの接近に気付いたのも彼が銀の目を持っていると考えれば説明がつく。

 

 まぁ銀の目の習得はかなり大変らしいから、センブランスを使えないカラバにとっては夢の話だが、仮に使えるようになれば対グリムにおいては最強だ。

 

 だって一瞬で発動してどんなに強いグリムだって消しとばすマップ兵器だ。発動時のコストやリスクなど明らかになってない部分もあるが、なんだそのチートは、ズル!インチキ!と思うだろう。

 

 それがなくても伝承通りなら、銀の目の戦士は優秀な戦士になる。もしカラバが銀の目の戦士ならカラバは絶対強くなる訳だ。

 

 

「...そうだ!カラバも一緒に特訓しようぜ。先輩は居なくなったけど、特訓は毎日続ける予定なんだ」

 

「それは...いいかなって...」

 

「...そうか...」

 

 

 2人の間に沈黙が訪れた。最初の1週間の僕を見てればやりたくない気持ちも十分過ぎるほど分かるけども!

 

 そんな感じで緩い雰囲気なまま、船はメナジェリーに着いた。

 

 その先で僕は最大の試練に出会うこととなる...!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アダムなんか、大っ嫌い!」

 

 

ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 

 

 

「アダム、お帰りなさい。その子が言ってたお友達?」

 

「そうです。カラバって言います」

 

 俺の紹介にカラバはおずおずと名乗る。ちなみに今主人格の方は泣きながら引きこもってしまった、あほくさ。

 

「カラバ・シルバです。よろしくお願いします」

 

「そうなの、私の名前はカーリー・ベラドンナ。この子はブレイク。お父さんは後で帰ってくるから、その時に紹介するわね。とにかく上がってらっしゃい」

 

「お邪魔します」

 

 そう言ってカーリーさんとブレイクへ家に入り、カラバも続く。俺は一瞬躊躇したが、主人格が死んでたので気にせずに入ることにする。

 

「ただいま」

 

 俺の小さな一言にカーリーさんは優しく、ブレイクはそっぽを向きながら。

 

「おかえりなさい」

 

 と返した。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、サンクタムはどう?ミストラルも都会で大変なんじゃないの?」

 

「ええ、こことは随分と勝手が違いますか上手くやれてると思います」

 

 カーリーさんが作ったクッキーを食べながら、僕はカーリーさんの質問に答えていく。

 

 カラバはその尻尾から、カーリーさんのクッキーに大興奮していることが分かるし、ブレイクは顔はそっぽを向いているが、僕の話に興味を持ってるのが彼女の猫耳から丸分かりだ。

 

 うーん、この空間は天国かな?

 

「ミストラルって治安が悪いって聞くけど、何か犯罪とかに巻き込まれなかった?」

 

「大丈夫ですよ。アカデミーにいる間は安全ですし、犯罪とかも特に聞いてないので言うほど治安が悪いわけじゃないですよ」

 

「そうですよ、むしろ首都であるミストラルは治安が良い方ですよ。いろんな場所に行ったことあるのでそこら辺は分かります」

 

 カラバが自信満々に話す。裏を返せば首都でない方は治安が悪いことになるのだが、カーリーさんは気にすることなく

 

「まぁ、その歳で偉いわね。今まででどこが良かったのかしら」

 

「ここも来たばっかですけど、とても良い場所ですよ。他には〜」

 

 

 そうやってギラさんが帰ってくるまで、僕らは和やかに談笑した。

 

 ギラさんが帰ってくると、彼の巨体にカラバは恐縮したが、優しい人だと分かると直ぐに打ち解けてカーリーさんが夕飯の準備に取り掛かるまで、僕らは楽しい時間を過ごした。

 

 

 その後僕はカラバを部屋に案内すると(ウチはかなりの豪邸だから客人の為の部屋もある)まだ人見知りがちなブレイクを預けて、ギラさんとあの電話の後何をしたのか、何があったのかを語った。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 アダムに客間に案内された後、僕はブレイクちゃんのことを任せられた。ブレイクちゃんは一瞬絶望的な顔をしたが、大嫌いって言った手前アダムに縋ることも出来なかったみたいだった。

 

 かなり大切に育てられてるとはアダムが言ってた通りで僕に怯えていたが、任せられたんだと気合を込めてまず自己紹介から始める。

 

「えーと、ブレイクちゃん。さっき聞いてたと思うけど、僕の名前はカラバって言うんだ。改めてよろしくね」

 

「...うん」

 

「アダムは君のことしょっちゅう話してたから、僕は君のことで知ってることも多いんだよね」

 

「アダムはなんて言ってたの?」

 

 ブレイクちゃんが僕の話に食いつく。アダムが溺愛してる分、彼女もなんだかんだで気にしてるみたいだ。

 

「とにかく可愛いって言ってたなぁ。あと本が好きだとか、無口でクールだとか」

 

「ううう」

 

 彼女の顔は赤くなり、猫のファウナスの特徴である猫耳がピクピクしていて照れていることが一眼で分かる。

 

 こうやって似ているファウナスを見てると、アダムが僕の頭だったりお尻だったりを見ている理由が分かる。

 

 分かると言っても正直彼は手遅れな気がしてならないが。

 

「ブレイクちゃんはアダムが好きなんだね」

 

「む、違うもん。アダムは頼りないから私が見てあげてるだけだよ!」

 

「そうなの?アダムって強いし頼りになると思うけどな」

 

「この間も、アダムが中心になってグリムから村の人達を避難させたんだよ」

 

「そうなの?」

 

 そうだ、多分彼はカナタ先輩を助けられなかったことを悔やんでいるが、彼がやったことは紛れもないハンターの鑑のようなことだった。

 

「そうなんだよ。避難させたのは僕を含めて4人だったけど、彼が始めなければあの村の人は助からなかったと思う」

 

「貴方とアダムと、他にも2人いるの?」

 

「うん、1人は僕らのルームメイトの1人でハンナって言って、1人はシンダーって名前で人間なんだよ」

 

「人間と仲が良いの!?」

 

 僕の言葉に彼女は驚いた。まぁここに住んでるファウナスにとっては人間は雲の上の様な存在なのだろう、そもそも差別が激しいミストラルにおいて、シンダーさんの様な人はとても貴重だ。

 

 もしかしたらクロユリのことはニュースになってるかも

 

「そうだ!ここってスクロールはあるの?」

 

「うん!お母さん達の部屋にあるし、私も使えるよ!」

 

 ブレイクちゃんは自信満々に言う。ベラドンナさんちはかなり豪邸だし、メナジェリーでスクロールを持ってるのはなかなか無いのかもしれない。

 

「多分クロユリの記事が今頃ニュースになってるんじゃないかな?スクロールに載ってると思うよ」

 

「だったら調べてみる!」

 

 そう言うと彼女は素早く部屋を出る。着いていこうか迷ったけど、任されたのは自分だったと思い返し、彼女を追ってみる。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 ギラさんは僕に何も聞かずに、帰りが遅れることを承知してくれた。だから僕も彼に説明する責任を感じたし、彼もそのつもりだった様だ。

 

「最初に連絡した時、僕と仲良くしてくれる人間が2人居たって言ってましたよね」

 

「あぁ、大切にしなさいって言ったな」

 

「その内の1人がカナタっていう人で、僕の先輩として色々教えてもらってたんです。最初は先輩の特訓は大変でしんどかったけど、それだけ充実してて先輩との時間は楽しかった」

 

「あの日、先輩の実家の村の近くでグリムが出ました。色々あってそのグリムの脅威を感じた僕は友人と一緒に村の人達へ避難を呼びかけたんです」

 

 最初は出来ないだろうって諦めてた。だけどシンダーさんと話して、何も行動しない内から諦めるのは間違ってることに気付いて、それで動けたんだ。

 

「避難はできました。村に留まった人もいましたが、あれ以上は出来なかったと思います」

 

「だけど、僕は分かってなかった。先輩はそのグリムに父を殺されて、その復讐に燃えていたのを」

 

 仮に、僕でなく俺だったら気付いてたのかもしれない。人間への怒りを捨てた僕には彼女の悲しみは理解しても、彼女の怒りは分からなかったのだから。

 

「結局、僕は彼女を死なせてしまった。彼女を助けるって息巻いて、その途中で満足しては意味が無いのに!」

 

「...そうだな。お前が彼女の復讐心に気付いて、その無意味さを説けば彼女は助かったかもしれない」

 

 ギラさんは厳かに、でもなと続ける。

 

「それでもお前がやったことに意味が無いなんてことは無い。お前が助けた人がいたのは事実だろう?それにもし誰も助けられなくても、その行動はお前を成長させるんだ」

 

「だから、よくやった。お前がやったことは確かにお前を成長させた筈だ」

 

「...はい」

 

 僕は湧いてくる涙を堪えながら頷く。ギラさんは静かに僕を抱きしめた。

 

 

 

 

「アダム!見て見てシンダーがニュースに、って」

 

「あ、お父さん...」

 

 

 場に静寂が流れる。カラバが滝のように汗を流していたのはメナジェリーの気候が暑いだけではなかったのだろう。

 

 正面の僕からは見えなかったが、ギラさんは現役の指導者だ。その覇気は尋常でなかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「へー、クロユリのことがニュースなってるのか」

 

「若きハンターの卵がクロユリの危機を救う!ってね」

 

 スクロールのニュースには美しく微笑むシンダーさんが写っている。多分内心では面倒だと思ってるに違いない。

 

「丁度俺たちが出て行った後のことみたいだな」

 

「ハンナはこういうの苦手そうだし、撮影は拒否したのかも」

 

 あー、ハンナは恐らく逃げたのだろう。こういう場面でちゃっかりしてるのはハンナらしいというべきか。

 

「この人がシンダーっていう人?」

 

 ブレイクが尋ねてくるけど、なんか滅茶苦茶不機嫌だ。一向に機嫌が直らないし、そろそろ秘密兵器の用意をしなきゃな。

 

「そうだよ。成績も優秀なんだよね」

 

「ハンナっていう人もこれぐらい綺麗なの?」

 

「え?まぁ2人とも綺麗な人だよな」

 

「そうだね、クロユリの時も2人が呼びかけてたから話を聞いた人も居たんじゃないかな」

 

 あー確かに。美少女のハンター見習いが避難を呼びかけたら話を聞く人は多いだろう。僕だって避難するわ。

 

 そんな風に納得してると、

 

 

「ふーん、やっぱり私もサンクタムに行く!」

 

 

「えっ!」

 

 

 ブレイクの突然の主張に真っ先に反応したのはギラさんだった。僕の方というと、声の出ないほど驚いたわけだが。

 

 人見知りなブレイクがアカデミーに通いたいって言うのはかなり意外だ。正直ホワイトファングに行くよりかはマシかもしれないが、ミストラルには来て欲しくないためギラさんに便乗してヴェイルを勧める。

 

「いやいや、ブレイクはまだ7歳だ。アカデミーは早すぎるだろう」

 

「そうそう、ミストラルもファウナスにとって良い場所とは言いづらいし、ヴェイルとかだったら良いと思うんだけどなー」

 

「あー確かに、ヴェイルの人達はあんまり差別しないし、ブレイクちゃんはそっちの方がいいかもね」

 

「ううー」

 

 3人に否定されたブレイクは頬を膨らまして怒る。あぁ、これは直ぐに秘密兵器を出さなきゃ!

 

「そうだ!お土産を買ってきたんだった!ほら、ブレイクも本が欲しいって言ってただろ!?」

 

「...買ってきたの?」

 

「そうそう、ハンナも本が好きでね。ブレイクちゃんに合うんじゃないかって3人で探したんだよ」

 

 

 2人で本を勧めると、ブレイクはみるみると機嫌を回復させた。なんで分かるかって?それは僕が彼女の猫耳でどんな感情か大体わかるからさ...(変態並感)

 

 

 そうやってブレイクに本を紹介しながら機嫌を取って、メナジェリーでの1日は終わったのだった。

 

 

 

 




 原作のキャラを崩壊させないように書くのは難しい。
 シンダーは書いてる内にベジータみたいになってしまった。やっぱり貴様ではなくお前の方が良かったかも...
 いつでも感想待ってます。なんでもいいので!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 遺志を継ぐ

 
 感想が来ない!→感想受付設定が限定してるのに気付く→解除する→感想キター(歓喜) なのでタイトルを変えて初投稿です。
 


 メナジェリーで過ごす夏休みはカラバと一緒に課題をしたり、ホワイトファングの人達に会ったり、ブレイクと遊んだり、ブレイクに構ってもらったりしている内に一瞬で終わった。

 

 天使との別れに悲しみつつ、2学期のトーナメントへの闘志を燃やしながらサンクタムに帰ってくると、学校内の雰囲気は一変していた。

 

 今までは僕やカラバは他の生徒に見下されてたり、それでなくても話しかけられることなど皆無だったのだが(特に僕はあのカナタ先輩の弟子ということで敬遠されてた)、何故か通りがかる生徒達に褒め称えられるのだ。

 

 

 話を聞くとどうやらクロユリのことでシンダーが表彰を受け、その仲間として僕達もかなり注目を受けているらしい。

 

 まぁ褒められて悪い気がしないわけではないが、そう尊敬されることをしたわけじゃないし正直このような扱いは困る。

 シンダーとかこれを良い機会にシンパとか作ってそうだが(偏見)

 

 そういうわけで半ば逃げるように寮に戻ったのだが、寮にも学生新聞だかの生徒が取材にやってきたりして、結局2人でサンクタムから逃げ出したのだった。

 

 

「想像以上にとんでもないことになってたな...」

 

「まぁ確かに一年生としては凄いことを成し遂げたと思うけど...」

 

 それにしたってなんか大袈裟に感じたけど、一体僕らが居ない間に何が起こったんだ?

 

「取り敢えずこれからどうしようか?」

 

「うーん、寮内にハンナが居なかったから彼女を探しに行くのは?」

 

「そうだな、ハンナはこの騒動を知ってるだろうし、多分学校には居ないだろう」

 

 恐らくどっかに逃げてるんじゃないだろうか?そのどこかが分からないから2人でミストラル中を歩いて探すしかないわけだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハンナってどういうお店に行くんだ...?」

 

「そもそもお店に行ってるかどうかも怪しいよ」

 

「それこそ俺達みたいに実家に帰ってるとかもありえる」

 

「そうなるとお手上げだね...」

 

「...カラバはなんか行きたいお店とかあるか?」

 

「そういうアダムは?」

 

「正直寮で休むつもりだったから、お店に行きたいとかはないかな...」

 

「だよね」

 

 そうやって2人でミストラルを散歩していると、見知った後ろ姿を見かける。

 ハンナではなかったが、地味にあの後から気になってた人達だったので呼びかける。

 

「おーいレン、ノーラ」

 

「あ、アダムさん!」

 

「どうしたんだ?保護者はいないのか?」

 

 そう言うとレンは少し得意げに、

 

「僕は今お使いの途中なのです。今母さまは働いてるので、そのお手伝いをしてます」

 

「アタシはお手伝いのお手伝い!」

 

 ノーラはレンの背中から元気に顔を出す。どうやら2人しか居ないらしい。

 

 何かあった時が危険なので、2人と話をしながら着いていくことにする。カラバも正直ミストラルを歩き回ってまでハンナを捜索する気は無いみたいだった。

 

「結局あの後2人はどうなったんだ?レンのお母さんが保護するところまでは一緒だったよな?」

 

「ええ、母さまはずっと父さまと僕のことを待ってたみたいでした。結局父さまは帰ってきませんでしたが、母さまはアダムさん達に感謝してました」

 

「そっか、それだったら頑張った甲斐があったね」

 

「そうだな、全員は無理だったけど、確かに救える命はあったんだ」

 

 

 僕の持つ原作知識によって助けられる人がいたなら、やはり僕の行動に意味はあったのだと実感した。例え彼女のように助けられない人がいても、例え1人しか助けられなくても、可能性があるのなら絶対に諦めない。

 

 そのために僕は強くなるって誓ったから。

 

 

「アタシはお父さんもお母さんも居ないから、施設に引き取られることになったけど...」

 

 ノーラは俯いて悲しげな声で話し始めるが、徐々に声は明るくなり

 

「アタシにはレンがついてるからね、レン!」

 

「そうですね、ノーラ」

 

 ノーラも最初に出会った時は暗かったけど、助けられてからは明るくなったみたいだ。

 

「もっとウチが裕福だったら引き取ることだってあったんですが...」

 

「俺の両親も優しいけど、ファウナスじゃないノーラにメナジェリーは住みにくいだろうしな」

 

「うーん、ご主人様は論外だし...」

 

 そう言って3人でノーラの引取先について悩むが、当のノーラは明るい声で、

 

「いいよいいよ!今の方がずっと幸せだもん!」

 

「そうなんですか?」

 

「そうそう!レンと一緒にいるだけで幸せ!」

 

「それなら良いんですが...」

 

 

 

 ぐ、ぐああああぁぁぁぁ(昇天)

 

 

 

 尊みが深すぎて口角が無限に上がり続ける!

 やっぱりレンノラは大正義!はっきりわかんだね。

 

 

 

「...アダム?どうしたの?」

 

「...いや、幸せを噛み締めててな」

 

「?...あぁそうか、こうやって見られる風景は僕らが助けたからこそだもんね」

 

 

 カラバのあまりにも好意的解釈に、内心変なことを考えてたのが申し訳なくなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手伝ってくれてありがとうございました。また会いに来て下さい!」

 

「あぁ、お母さんにも助かって良かったと伝えてくれ」

 

「はい!」

 

 

 2人を家にまで送って、ハンナの捜索を再開する(という名のミストラルのお散歩だが)

 

 2人でだらだらと歩いてると、武器や銃を取り扱うお店の前を通りがかり、唐突にカラバが「あっ!そうだ!」と言い出した。

 

「トーナメントに出るんだったら、今のうちに武器を整えないといけないんじゃない?」

 

「武器だったら先輩から貰った刀がある...って、そういえば遠距離武器とかも準備しないといけないのか」

 

「無くても大丈夫だとは思うけど...上級生とかは当然準備してると思うよ」

 

 

 確かに、RWBYで登場する人物の殆どは武器に銃火器のギミックを取り入れてたり、範囲の広いセンブランスを持ってたりして、遠距離用の攻撃手段を常備している。

 

 僕ことアダム・トーラスも、ウィルト・アンド・ブラッシュという鞘の方がライフルとなっている直刀を使っていた。ちなみにウィルトが直刀の方でブラッシュがライフルの鞘の方らしい(どうでもいい)

 

「確かに銃が無いと不利かもしれない...が正直今の腕では銃は有っても役に立たないだろう」

 

「まぁ確かに。流石のアダムも銃火器は習ってないか」

 

「そんなハワイで親父に習ったじゃああるまいし...」

 

 確かにハワイ(メナジェリー)で親父(バリバリの現役)に習おうと思えば習えそうだけど...

 

「そもそも元々は武器だって学校に来てから習い始めただろう」

 

「あ、そうだった。あまりに自然に使いこなすから、つい」

 

「まぁ、これの習熟だけは相当進んでると思うが」

 

 

 流れるように刀を抜く。トーナメントにおいて僕の強みといえば近接戦では先輩とも打ち合える技量ぐらいだろう。それでも上級生に通用するかは分からない(正直通用しなかったらレベル高すぎだろとは思うが)

 

 まぁもし通用しなかったら通用するまで強くなるだけだし、通用したところでまず負けるだろうから来年勝てるようになるまで強くなるだけだ。

 

 

「だけど、そう考えると先輩は刀一本でやってたんだよね」

 

「多分な、先輩はセンブランスで遠距離に対応してたんだろう」

 

「あー、僕もそういうセンブランスに目覚めば銃火器の練習をしなくてすむのになぁ」

 

「センブランスは各々の個性を表すものだから、思い通りにはいかないと思うぞ」

 

 例えばルビー・ローズはその名の通りにセンブランスの発動時に薔薇の花弁を撒くし、みんなを守ると誓ったジョーン・アークはセンブランスによってオーラの譲渡やそれによる他者の治癒をできるようになった。

 

 ちなみにルビーの高速移動は、自身を微粒子レベルまで分解しその状態で移動していることが、ペニーの分析によって明らかになる。分解?ちょっと何言ってるかわからないですね。

 

 ちょっと話が逸れたが簡単に言うと、オーラに関してはハンターハンターの念能力をイメージすれば分かりやすいが、センブランスは念能力の発とは違って自由に作れないのだ。

 

「ハンターハンターか...」

 

「どうかした?」

 

 あぁ、結局冨樫は連載再開したのだろうか?...

 

 ...じゃなくて、念能力とオーラが似てるんだったらそのままこっちでも活かすことできないか...?

 

 赤い刀身を見つめる。もし上手くいけば、先輩みたいに刀一本で戦えるかもしれない...

 

 

「ちょっと!真顔で刀を凝視してるのは怖いよ!」

 

「ん?ああ、すまん。なんだって?」

 

「なんでもない!それより、もうそろそろ帰らない?あと1時間で食堂が閉まっちゃうよ」

 

「マジ?だったら早く帰ろうぜ、というか俺たちって何しに来たんだっけ?」

 

「え、えーと...なんだっけ?」

 

 

「取材が面倒で逃げてきたんでしょ」

 

「そうそう!それでハンナを探しにきたんだよって」

 

「あら、私を探してたの?」

 

 カラバの後ろにはハンナが何食わぬ顔で居た。え、いつからそこに!?

 

「貴方達が街をうろついてたから、後ろから着いてきてたわ」

 

「つまり...今までの苦労は骨折り損の...」

 

「くたびれ儲けってところか...」

 

「ちょっと申し訳ないわね」

 

「はぁ、まぁいいさ。早く帰ろうぜ、俺達の寮へ」

 

 約1ヶ月ぶりの学食はあぁこれこれって感じの味だった。美味しいかって?いや美味しいは美味しいけどカーリーさんの料理に比べると...ね?(隙あらば家族自慢)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明日からは授業。だから今日は早めに寝ないといけない...のだが、気になって眠れないことがあったので寮を抜け出して外に出る。

 

(なぁ、ちょっと聞いてみていいか?)

 

(...なんだ?オレ達の知ってることに違いなんて無いと思うが)

 

(いや...これは思い込みの問題だ。正直大したことないことだと自分でも思ってる。だけど、その思い込みで強くなることができるんだったら聞くべきだろ?)

 

(はいはい、なんでも聞いてくれ)

 

 

(僕たちのどっちが先にセンブランスに目覚めたっけ?)

 

(...はぁ?あの時のこと忘れたのかよ。オレ達があのクソ野郎どもから逃げて、追い詰められて、そして...)

 

(いや、それは覚えてるさ、ハッキリとな。問題はあの時初めてムーン・スライスを使っただろ?その時は僕かお前どっちだったかって聞いてるんだ)

 

(分かってることだろ。お前には人間への憎しみは無いけどオレにはある。人格が明確に分かれたのはもっと後だったけど、あれは紛れも無くオレだった)

 

(だよな)

 

(そんなことを気にしてどうする?思い込みで強くなるって何をするつもりだ?)

 

 

 

(...いや、僕もセンブランスを習得するって言ったら?)

 

(はぁ?)

 

 

 

(いやそんな顔しないでくれ、これは思い込みの問題だ。お前はムーンスライスを使えるけど僕は使えない、そう定義すれば僕が新たにセンブランスを覚えられるんじゃないかって)

 

(いやいや、そんな無茶な。第一そんなことすれば最悪お前はセンブランスを失うだけだぞ)

 

(大丈夫大丈夫、僕とお前はいつでも一緒じゃん)

 

(オレにだってやりたいことやりたくないことぐらいあるぞ)

 

(そんなことはしないし、させないって決めただろ?)

 

 

 

(...はぁ、別にお前だけが苦労するなら構わん、勝手にしろ)

 

(ありがとう)

 

(...だが、センブランスを新たに習得するなんて原作にも無いことだ。普通に考えて出来るわけがない)

 

(そうなんだよ、普通に考えてセンブランスなんて出来ない。だって身体を微粒子レベルに分解だよ?どう考えても無理だ)

 

(だけどさ、このレムナントにはたくさんの人々がいて、それぞれがセンブランスを覚える可能性があるんだ。そう考えればなんとか再現出来そうなセンブランスだってあるだろう)

 

 

(...成程。要は自分で技を開発して、それを思い込みによってセンブランスに昇華したいって訳か、馬鹿が)

 

(ナチュラルに馬鹿って言われた!)

 

(当たり前だ。まずお前の言う思い込みがあやふや過ぎて話にならん。それが全く効果の無いゴミの可能性もあれば、中途半端に効果を発揮してお前がセンブランスを失うだけの可能性もあるんだ)

 

(大丈夫、覚悟はしてるさ。それこそ思い込みが力になるんだったら、僕はそんなのいくらでもしてやるよ)

 

 

(...はぁ、さっきも言ったがお前が勝手にやりたいならやってろ)

 

(...いや、そっちにも思い込んでもらった方が強くなりそうじゃん)

 

(知らん。オレはそんなことしないぞ)

 

(そんなぁー)

 

 

「1人で随分と百面相をしているな」

 

 黒い髪の少女が目の前に現れた。どうやら一部始終を見られてたらしい。

 

「シンダーか」

 

「窓を見てたら見知った顔がウロウロしててな、寮を閉め出されたのか?」

 

「別にそんなわけではない」

 

「なんだ。もしそうだったら寝床を貸してやろうと思ったのにな」

 

 シンダーはニヤニヤと明らかにこちらを馬鹿にしている。イラッときたが、ここで騒ぎを起こしても無駄なのでスルーしてやる。

 

「少し眠れなかっただけだ。今戻るところだった」

 

「そうか、私としては知り合いの情け無い姿は見たくないのでな」

 

 そう言う彼女に背を向けて自分の寮に帰ろうとする。

 

「アダム」

 

「...なんだ?」

 

「失ったものをどれだけ嘆こうと無駄だ」

 

 ??? よく分からないことを言う彼女を無視してそのまま寮へと帰る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...アイツ、折角私が助言してやったというのに、反応すらしないとはな、夏休み中ずっと落ち込んでたのか?」

 

「まぁ親しい者が死んだのだから当然かもしれんな、だが死んだの者よりも生きてる者を大切にすべきだろうに...」

 

 

 

 

 

「...そういえばアイツってあんな色の目だったか?確か青色だった気がするが...」

 

「まぁ気の所為か、暗くてよく分かんなかったしな...」

 

 

 




 アダムがとんでもないことを口走っていますが許してください!なんでも(前書きでも書きましたが感想の設定を解除したので気楽に書いてくれるとありがたいです!)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 居心地の良さ(悪さ)


 サブタイトルを数字の語呂合わせにしてるんですけど、16ってなんかありますかね...?
 淫夢しか出てこないんですけど()



「今日は君たちにスクロールを配布する。スクロールの用途は分かるか?」

 

 2学期の授業が始まってから最初の戦闘訓練で、僕らはスクロールを配られた。以前も説明した気もするがスクロールとはスマホのような機械で、連絡手段になるハンターの必需品だ。

 

「えーと、電話したりインターネットで情報を集めたりとか...ですかね」

 

「ふむ...まだ重要なことが残ってるな」

 

 先生に当てられた子が回答するが、スクロールで出来ることは下手したら今のスマホよりも多い。メールやチャットなどの通信サービスや動画の再生や撮影、電子決済サービスに果てにはゲームのハードやコントローラーとしての機能まで備えている。

 

「ではシンダー、ハンターにとって1番重要な機能は何だか分かるか?」

 

「はい、登録した人物のオーラの計測が最も重要だと思います」

 

「その通りだ」

 

 シンダーが正しい答えを言うと、周りの生徒が口々に褒め称える。彼女はとても上機嫌なようだが、正直僕らまで褒め称えられるので精神がキツい。

 

 カラバやハンナもそうだろう。今まで陰口などを叩かれてきたのが当たり前だったのが、唐突に持ち上げられ始めたのだ。彼らの変わり具合に困惑するし、控えめに言って気持ちが悪いものを感じる。

 

「オーラについての授業を忘れた訳じゃないだろう。ハンターにとってオーラとは、攻撃や防御あらゆる場面で使う生命線だ。これの枯渇することは非常に危険な状態である。しかし自分ではオーラがどれくらい残っているのか、大体の予測でしか分からない」

 

「正確なオーラ量が分からずに自分のオーラ量を過信して使い過ぎると死は免れないし、だからといってオーラの使用量をケチってしまえば、グリムを仕留めることが出来ずに致命的なダメージを受けてしまうだろう」

 

 それを考えていたからこそ、アトラスの技術者達は国同士での通信手段と同じくらい、オーラの研究にも力を入れていたのだろう。

 

「しかしスクロールはその全てを解決した。自身やチームメンバーの正確なオーラ量が分かればその場に応じた戦術や陣形を組めるし、オーラの無い状態を回避すれば死ぬ可能性をぐっと下げることが出来る」

 

 しかしオーラがあるからと言って油断してはいけない。そのオーラ量を上回る程の攻撃を食らえばその守りは機能しない。

 

 原作ではそれでヤンがアダムの攻撃よって右腕を切断された。可哀想なヤン...トラウマになる位だから相当なものだっただろう。

 

 

 

 アダム...誰だか知らないがなんて酷いヤツだ!顔を見てみたいわ!

 

 

 

「また、スクロールは折り畳むことで非常にコンパクトになり耐久性にも優れる。だから無いとは思うが、万が一これを破壊したり紛失してしまった場合は、申請して購入してもらう。精々大切に保管することだ」

 

 そう言って先生はスクロールの使い方や、模擬戦を通じてオーラの確認方法を教える。そのまま授業は終わるかと思ったが、最後にある意味で爆弾を残していった。

 

 

「そういえば、今期にはトーナメントがある。希望者は申し込みに来てくれ」

 

 先生の言葉にクラスメイトは騒然とし、僕達やシンダーの方を伺う。

 そしてその中の1人が「シンダーさん達は参加するんですか?」と尋ねると、それを皮切りにクラスが盛り上がっていく。

 

「...私は参加しない。こういう催し物はあまり好きではないので」

 

「あー、僕もいいかな。ハンナはどうするの?」

 

「私も参加しないわ。あまり注目されるのは勘弁ね」

 

 3人が答えると、そのままクラスメイトの視線は僕に集中する。流れで辞退しようにも嘘を吐くことになるし、そもそもみんなの期待を裏切るのは怖いしで僕はこう言うしかなかった。

 

「...参加する。自分がどれだけ戦えるか分からないが、全力を尽くすつもりだ」

 

 その後3人が退散する中、僕は延々と周囲から応援や期待を受けるのだった。

 これは暫く続くのかな...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後になると僕は一目散に外に出て、いつもの特訓場所へと急ぐ。流石にみんなも特訓の邪魔をするつもりは無いらしく、ようやく1人で落ち着くことができた。

 

 特にこれから練習することは集中する必要があるため、ここにも人がいたら学校の外に逃げてたかもしれない。

 

 

「オーラとは魂の力。これを纏わせることで肉体を強化できる」

 

 声に出しながら集中してオーラを解放する。その後刀を抜いてそれにオーラを浸透させるイメージでオーラを練っていく。

 

「オーラは武器や道具を媒介できる。この技術自体は大したことじゃない...が確かこれはハンターハンターにも同様の技術があった筈だ」

 

 確か「周」って言ってたっけ。同様の技術があるということはハンターハンターにおけるオーラの応用はそのままこっちでも活かせる可能性がある。

 

「オーラを込めて...」

 

 刀を戻して右手を開く。右手にオーラを集めるイメージで集中すると、右手が他の部分に比べて明るく光ってくる。

 

「...この状態で放つ!」

 

 右手を振りかぶって近くの地面へと投げるが地面には何の変化もない。それもその筈、オーラが右手に溜まったままだった。

 

 

 

「...まぁそう簡単にはいかないか。まずは簡単なことからやっていくか」

 

 近くにあった手頃な大きさの石を拾う。

 それを右手に乗せてオーラを集中させると、石にオーラは通るが先程の右手のようには集まらない。

 

「...成程。まずはオーラのコントロールから練習しないといけないのか?」

 

 自分の身体の一部にはオーラを集めることができても、それが外部となると難しくなるのか。

 

 確かに、ハンターハンターでも「周」は高等技術だった。それは単に武器にオーラを通すだけで無く、多量のオーラを込めて強化することを考えていたならば納得がいく。

 

(単にRWBYのオーラとハンターハンターのオーラでは同じことが出来ないだけの可能性もあるがな)

 

(まぁその可能性だって充分分かってるよ。そもそも、あれは心源流の話であって本来はここみたいに系統化されてない状態だとうんぬんかんぬん....)

 

(めんどくさい。ハンターハンターを知らない人向けに簡潔に言ってくれ)

 

(ただ単に難しいってだけで出来ない訳じゃないかもってコト!)

 

 心の中では騒いでても傍目には静かにオーラを練る。

 そうやって集中してる内に石に少しずつオーラが集まっていく。

 

「よし、出来た!」

 

 そうして出来た石をさっきと同じように地面へと投げると、今度はその石は地面の深くへと沈み込んだ。

 これだけの威力が出るなら攻撃手段としても信頼できるかもしれない。

 

 今度はさっきより小さな石で同じことを試す。

 まだまだ実践には程遠いが、さっきよりも早い時間でオーラが集まった。

 時間に関してはもっと改善する余地はあるだろう。

 

「...だけどこれ、思ったよりオーラの消費が激しいな」

 

 手に入れたばかりのスクロールを確認すると、オーラの量は半分まで減っていた。

 僕はオーラ量に結構自信をもっていた方だったので、その自信にヒビが入った。

 

 いや、だけど本当に思ったより減ってるな。理想としてはドラゴンボールの気弾のように使いやすい遠距離攻撃手段が欲しかったが、そう簡単にはいかなそうだな。

 

 

 

 まぁ、例え使いづらくても戦えればなんとかなる。オーラ量だって特訓すれば増えるだろうし、そもそも無駄なオーラの消費を抑えるように動けばいいだけだ。

 

 先生は先程オーラの消費をケチることに反対してたが、これはそういう話ではない。要はオーラの消費を抑えつつ、防御するときにだけオーラを使えればいいのだ。

 

 散々ハンターハンターの話を持ち出して申し訳ないが、これの回答がそこに載っている。よく読んでいる方ならお気づきであろうし、今日の特訓の中にもヒントはあった。

 

「ガードする部位にだけオーラを移動させる...確か「流」とかそういう名前だった気がする」

 

 攻撃を受けるときにその部位だけをオーラで守るのだ。そうすれば余計なオーラ消費は抑えられるし、その分だけ大きなダメージも防ぐことが出来るかもしれない。

 

「そうなると今からは刀の練習に加えて、石にオーラを込める練習、身体の一部に素早くオーラを集中させる練習もしないといけない訳だ。うん、トーナメントには間に合わないな!」

 

 まぁ別にトーナメントを優勝しないと死ぬ訳じゃないから、間に合わせる必要は無いけども。

 

「だけど周囲の期待がな...先輩の弟子としても結果を残したいし...」

 

 まぁ、あれこれ考えるよりも練習あるのみだ。オーラを使う練習を先にやって、無くなったら素振りにすることにしよう。

 

 

 

 

「いや、流石にハード過ぎないか...」

 

 

 

 結局は毎日どれか一つをするだけに決まり、先程と同じ石にオーラを込めて投げるのを何度か繰り返して特訓は終わる。

 

 まぁこのまま特訓ばっかしてたら先輩以上のぼっちが誕生するだけやし...

 

 先輩を超えるとは言ってもそういう部分まで一緒になることは...多少はね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特訓が終わった後、僕はトーナメントの申し込みをしてなかったことに気づき急いで先生の元へ行く。

 ずっと特訓してたら気づかないところだった、危ない危ない。

 

「失礼します。トーナメントの申し込みに来ました」

 

「あぁアダムか、入ってこい」

 

 先生のいる部屋(この場合職員室って言うのか?)に入ると、他の先生からも注目される。ただでさえ特異な見た目をしている分に加えて、先日の活躍?で僕の知名度は上がってるらしい。

 

 そんなもの要らなかったのに...

 

「君の友人達は参加しないのか?」

 

「えぇ、参加するのは僕だけですね」

 

「そうか...」

 

 先生の質問に答えると先生は考え込む。

 

 

「...先生?」

 

「あぁすまない、申し込みを受け付けた。頑張ってくれ」

 

「はい!失礼しました」

 

 部屋を出た後に寮へと戻ると、カラバとハンナは2人でスクロールを触って遊んでた。

 

 僕は先程見捨てられたことに文句を言いながら、3人でスクロールを触りつつ遊ぶのだった。

 せっかくだから今度の週末にはゲームでも買ってみようかな。原作ではルビーやヤンが格闘ゲームをしてたし、3人で遊べるゲームもあるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか...シンダー・エイラは参加しないと」

 

「はい、アダム・トーラスが言っていたことではありますが、実際に申し込みが来てない以上そうなります」

 

 そう答える男に対し、椅子に座った男は深く溜息を吐くと

 

「それは喜ばしくないことだな。先日のクロユリの件でアダム・トーラスを含む彼らは英雄視されている。今はこの学校だけの話であるが、トーナメントが始まればその限りでは無いだろう」

 

「...ではシンダー・エイラに参加を打診しますか?」

 

「いやその必要は無い。まだヤツも一年生で勝ち抜ける程ではない。もし彼が勝ち進めば自然とそう言った話も出てくるかもしれないが、初戦で敗退すればそれでおしまいだ」

 

「そして1年経てば、それまでにシンダー・エイラに参加させるように誘導できる。そう言うことですか?」

 

 男の話に満足気に頷くと

 

「そうだ。一年前に初戦敗退した者と、初めて参加する者。どちらが注目されるかは明白だ。更にそこでクロユリの件が明らかになれば尚良いな」

 

「となると、今回の実況と解説はこちらが用意致しましょう」

 

「...それだけではないぞ。重要なことが一つある」

 

 

「重要なこと...ですか?」

 

 男は顔の前に手を組むと声を低くして話す。

 

「アダム・トーラスの対戦相手だ。一年生では到底敵わない相手を用意することだ。いいな?」

 

「...成程。ヤツの能力では生半可な生徒では負ける可能性がある」

 

「ミストラルでファウナスが英雄視されることだけは避けねばならない。そのためにも私は対抗馬となるシンダー・エイラには期待している。君は彼女にとっての魔法使いになりたまえ」

 

「了解です」

 

 

 

 





 かなり独自設定が増えてきました(殆どハンターハンターのことですが)
 これってタグにハンターハンターって書いとくべきなんでしょうか?
 だけど読む人減りそうだしな...(今更感)


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。