ヲタクが謳う恋の唄 (大賢者こんすけ)
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芝さんと俺兼私
『やっはろ!初めましての人は初めまして!また来てくれた人は毎度ご贔屓に!芝です!』
何時もどおり、「芝さん」の配信がスタートする。暗い部屋でスマホから漏れる灯りが俺の顔を照らす。
俺、
『あ!まつりんさんいらっしゃい!今日はね、今話題のホラゲーやるから最後まで見ていってね!』
芝さんはボイスチェンジャーで声を誤魔化すタイプの配信者で、登録者数が300万人を超える今でも誰か正体なのかわかっておらず、顔出しすらもしていない。
「相変わらず芝さんはすげぇなぁ……あれだけのコメの中から俺を見つけてくれるんだから」
俺は芝さんが配信者を始めた頃からの所謂「古参」というやつで、いつものコメントをすると拾ってくれる程度には憶えられている。
『はぁっ!?なんかケミ子死んだんだけど!?ちょっ!後ろから急に追いかけてくるのは卑怯だろ!やべっ!死ぬっ!!』
今、芝さんがプレイしてるゲームは、最近話題の新作ホラーゲーム『ケミカルケミティ』、真っ暗な研究所に連れてこられた主人公とヒロインのケミ子がどんどん迫ってくる毒ガスや異形のモンスターから逃げながら脱出を目指すという内容で、芝さん以外のゲーム実況者もこぞってプレイしている。
『ケミ子ぉ………俺を救ってくれよぉ…なんだよあのキモいのぉ…』
芝さんは極度の怖がりなので、今までホラゲなどやったこと無かったのに、何故今日はホラゲ実況をしているのだろうと疑問に思ったが、
『………ん?ここでその話題振る?茶しぶさん』
芝さんが少し笑いながらそう呟いたので、コメント欄を見ると、『茶しぶ』という名前のユーザーから「SNSに流れてたんですけど今度、桂川のコスイベに参加するってマジですか?」とコメントが書き込まれていた。
「マジで……?ここに来るの?」
桂川というのは俺が住む町の地名で、都会程発展しては無いものの、アニメの聖地などがあり、毎年それに因んだアニメイベントやコスプレイベント等が開催される。
『あー、ゲーム終わってから言いたかったんだけどなぁ……まぁ良いか、どうせ今謎解きで暇だから話すか』
コメント欄では、「桂川に来るの!?」「こいつぁ参加しねぇと!!」「顔出しはよ(ノシ 'ω')ノシ顔出しはよ(ノシ 'ω')ノシ」とコメントが次々に入れ替わり、流れていく。
『そうなのよ。誘われたから今度、イベント行くことにしたのよ。まぁ、お面つけて携帯型のボイスチェンジャー持ってくから顔出しはしねぇけどな』
その一言で、「顔出し無しかぁー」「わいは芝さんに会いに行くで!」「わざわざ携帯型ボイスチェンジャー持っていくのかよwww」とまたコメントが荒れる。
『桂川のイベント来るなら周りの人とか地域の人に迷惑かけるなよ?芝生が迷惑かけてイベント無くなったら俺が怒られるんだからな?』
「芝生」とは芝さんの配信にいつも来る常連の人達の呼び名で、とある視聴者が「芝さんの声聴かないと生きていけない」というコメントを上げたときに出来上がった所謂「信者」というやつだ。
『まぁ、そんなところよ。おっ、丁度解読終わったな……まぁ、切りもいいし今日の配信はこれでお終い!また明日、続きやるからな!んだらばじゃあのー』
軽快なエンディングBGMと画面に映し出されたポップな字体の「配信しゅーりょー」の文字。
「まじ……か…」
ここ、桂川で行われるコスイベは同じ学校の奴と出くわす可能性もあるので、できれば参加したくないが、しかし、芝さんに会えるなら是非とも行きたい……
「っても俺も誘われてる身だからなぁ……」
そう呟きながら、部屋の隅でハンガーに吊るされている某有名アニメのヒロインが着ていたセーラー服を見る。
そう、私こと安達 祭里はそこそこ有名な女装レイヤーなのである。ジャンルは様々でロリ系からお姉さん系までなんでもこなす珍しいタイプのレイヤーなのだ。
「いやぁ………でもなぁ……女装コスしててクラスメイトにバレるなんてもう定石みたいになってるとこあるからなぁ………」
主人公が女装レイヤーで、コスイベに参加するとクラスメイトに見つかるなんてこと二次元世界じゃよく聞く話だ。ましてや、自分の住んでる町でのイベントに参加するなど、自ら見つけてくださいと言っているようなものだ。
「う……うーん……どうしたものか……」
その時、動画配信アプリの画面のままだったスマホからアニメのopに設定してある通知音が鳴る。
「ん……?あ、芝さんが投稿してる」
スマホをスクロールし、通知欄を確認すると、SNSで芝さんがこのような投稿をしていた。
『桂川のイベントなんですけど、先着5名様まではツーショット写真を撮影します!』
「……………しゃあねぇ行くか」
スマホを操作し、今話題の『ケミカルケミティ』のヒロイン、ケミ子の衣装を作る為、全身像を保存した。
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私と彼女
暴力とかで心がボロボロになった女の子を励まして、甘えさせて、支えて自分がいなきゃいけないダメ人間にしたい。
(本作品とこの阿呆の性癖は一切関係ないというわけではないですけど無いです)
それではお楽しみください
ここは男の娘カフェ「しすたぁ」。俺のバイト先だ。
「うっわ……いらっしゃい…」
「あっ!まつりちゃんだ!今日のサービスは何?手でしてくれるの?」
「……警察呼b…びますよ?」
「ウィッス…」
私、まつりはここで働く高校二年生!いつもは男なんだけど、この時は女装して男の娘として働いてるの!キャピキャピ……はぁ…
「……んで?ご注文は?」
「んー、貴女をください」
「病院は勝手口を出て左側ですよ」
「その侮蔑的な切り返し好き!結婚して!」
「嫌ですよ」
先程から私にセクハラ紛いの発言を繰り返すのはこの店の常連の女性、名前はしょうかさん。いつも深めに帽子を被り、マスクをつけているのであまりよく顔は見えないが、少なくとも俺の学校に通う生徒と比べると段違いに美少女と言えるだろう。まぁ、張り合えるのは生徒会長の…………名前なんだっけ?ま、まぁ、生徒会長ぐらいではないだろうか
「じゃあさ!デートしてよデート!」
「しませんよ、そもそもプライベートは男だし…」
「それでもいいから!もちろん、ホ別!」
「公衆の面前でそんなきったねぇ用語使わないでくださいよ……」
「ホ別で5万でどうよ!」
「そんな無闇矢鱈に身体売るほどお金に困ってないのでやめときますよ」
「んー、じゃあ10万!」
「話聞いてます?」
なんだこの人……ほんと男が女にセクハラすると速攻お縄にかかるのになんでこの人元気にここに来るんだろ…
「んじゃあ、ホ別10万に私とキスもつけたげる!」
「いや、別に好きでもない人とキスしたくないし」
「え………まつりちゃん、私の事好きじゃなかったの?」
「うん」
「全く否定しないどころかノータイムで同意してくるのほんとに好き………だけど、私を好きじゃなかったらこんな毎回毎回私のセクハラ発言に付き合ってくれないでしょ?」
「セクハラなのは理解してたんだ。確信犯じゃねぇか」
急にヤンデレっぽい言い回しで自分のセクハラを認め始めたしょうかさん。
「んで?注文はどうするんですか?これ以上引き止めるなら営業妨害で出禁にしますよ」
「流石にそれは許して。じゃあ、このハッピーオムライスください!もちろん、オプションでまつりちゃんのケチャップイラストね!」
「この店指名制度ねぇんだけど……まぁ、いいや。んじゃあ待っててくださいね」
厨房に戻りながら何故この店はメイド喫茶のような「美味しくなーれ!萌え萌えキュン」といった謎めいたサービスを始めたのか愚考していた。まぁ、考えるだけ無駄なんだが
「まつりちゃんモテモテね」
厨房で調理をしていた店長がにやけながら俺に話しかけてきた。
「あれ、流石にセクハラですよね」
「私は嫌いじゃないわよ?」
「店長の好き嫌いを聞いた覚えはないんですけど……」
店長は女性で、店員と客のイチャイチャを見るのが死ぬほど好きでこの店を開いたとかいうなかなかの変人だ。まぁ、時給1200円とかいう破格の値段で働かせてもらってるから仕方ないかなと思うところもあるんだけどな。好かれるってことはそれだけ相手にとって好意的に映ってるってことだし。
「は〜い、オムライスかんせ〜♪持ってって〜」
「はーい」
湯気が昇るオムライスとケチャップ、サービスのお菓子をお盆に乗せしょうかさんのテーブルまで歩く。
「おまたせしました!オムライスとケチャップ、サービスのお菓子です!」
「やったー!お菓子もらっちゃったー!持って帰って飾ろ!」
「せめて食べて」
「じゃあ!ケチャップイラストお願いしますっ!イラストは………そうね………『しょうかさん愛してる』にしましょうか!」
キャーッと頬を赤らめながらセクハラ行為を繰り返すしょうかさん。
「了解しました。では………これでどうでしょう?」
卵のキャンバスにでかでかと『しょうかさんあいしてる』と書き上げ、最後にハートをつけておく
「は、ハート……そんなサービスまでくれるの!?」
「サービスて…」
「もうこれは……持ち帰るしか無いわね…」
「店長ー、この人出禁にしてくださーい」
「冗談っ!冗談だからっ!!」
この人の言動は冗談に見えないから仕方ないと思う。
「んじゃあ私は接客してくるので」
「えー?私が食べるとこ座って見ててよー」
「えー……」
「否定しないんだね、てんちょー!まつりちゃん借りるね!」
返答を渋っていると急にホストを指定するような発言を始めるしょうかさん
「手は出しちゃ駄目よー味見はお店の外でねー」
二つ返事で許可する店長……
「私に拒否権は無いのか……」
そのまま10分程俺の作ったイラストを削らないように外枠から少しずつ食べるしょうかさんを観察させたれた。まぁ、可愛かったから良いけど。
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生徒会長と君
では、お楽しみください
長ったらしい挨拶は嫌いだ、簡潔に済ませよう。
私は
周りからは容姿端麗、成績優秀、性格も難無しと言われもてはやされているが、正直、私の胸や脚元を見ながら会話をしてくる男子や教師はみんなチ〇コが腐って死ねばいいと思ってるし、学業程煩わしいものは無いとも思う。性格も学校という舞台で人にもてはやされるために作った仮の夏目唱花という人間だ。
本性は………
「いやぁ………やっぱりさ、『ちまつり』ちゃんのコスは最高だと思うのよ。この脚のラインとかさ、私にイチモツがあったら勃起しちゃうね」
「姉ちゃん………今年で16になる弟に向かって女装コスの人がエロいとか言われても賛同しかねるのよ……まぁ確かにちまつりさんはエロいけどさ」
こんなふうに自分が撮影した女装レイヤーの写真を眺めてはウヘへと気持ち悪い笑みを浮かべる所謂変態というやつだ。
「そういや最近さ、女装カフェでちまつりちゃんに似てる『まつり』ちゃんって男の娘見つけたのよ」
「それ多分本人だぞ」
「いやぁ………ちまつりちゃんは私の中では汗ばんだ男の人に一晩を売ってお金を稼ぐ女の子なんだけど」
「本人に謝れ」
弟が溜息を吐きながら悪態をつくが、容易く想像できたようで少し頬を赤らめていた。
「いやぁ、やっぱり可愛いなぁ………可愛すぎてTwitterの裏垢まで特定しちゃったよ」
「それ、ストーカーになるって知ってた?」
「いやいや、これはれっきとした純愛だぞ」
「客観的に見たらただの偏愛だ」
「何を言うか、わたしはちまつりちゃんになら全てを捧げたって構わない!もちろん私のはじめてを含めて………///」
「今まで散々下ネタ言ってたくせにここに来て急に照れるな気持ち悪い…」
「そ、そこまで言うことないじゃん!ほんと、お前は女の気持ちがわからない流石オタク童貞だな!」
「オタクなのは認めるけど、童貞じゃねぇよ。彼女居るし、事は済ませた」
「不順異性交友じゃねぇかぶっ飛ばすぞ」
「痛っ!?蹴ってくるんじゃねぇよ!」
双方、リビングに敷かれたカーペットに寝そべり、古き良き格ゲーの如く蹴り合いを始める。
『通知だよー
数秒程度したとき、スマホに設定されたちまつりちゃんの私限定通知ボイスが鳴り、脚元に転がっていたスマホを蹴り寄せる
「姉ちゃん幾ら積んでちまつりさんにそのボイス貰ったの?」
「んー?ちゅーせんであたったー」
「こいつ………スマホ見てるから返答まで適当になってやがる……」
弟を放置し、スマホを起動させる。
「TLには何も流れ…………ん?」
通知欄にメールのアイコンが出ていた。スクロールバーを下ろし、メールをタップする。そこには……
『資料に不備が見つかりました。本当に申し訳ないのですが本日の午後1時から登校してきてください。生徒会担当 峰元』
「うっわ………休日出勤か………」
私がなんの変哲もない高校生ならばこんなクソみたいなメールを放置し、「寝てました☆」とでも夜に返信すればいいのだろうが、残念ながら私は生徒会長、見過ごすわけにはいかない……いや、いけないのだ…………
「ふぃーーーおーわりっ!!」
「お疲れ様、夏目さん」
生徒会長としての雑務を終わらせると、外はもう暗くなり、星が出ていた。待っていましたと言わんばかりにクソ変態デブ童貞眼鏡教師の峰元がニコニコと気味の悪い笑みを浮かべながら近寄ってきた。
「休みの日なのにありがとねー、そうだ!奢るからさ、晩御飯食べに行かない?」
ナンパをしているのだろうが、目線が完全に胸に行っている生憎、私の顔は胸元についてないし、そこに顔があるのはジャミラくらいだぞ
「いえ、この後、用事があるので…」
「えー?用事なら僕の車で送ってあげようか?どこへ行くの?」
荷物をまとめ、生徒会室を出たがまだクソ童貞はつきまとってくる。ビワアンコウか……まぁ、確かに成功すれば雌と同化というか一体化できるな。HAHAHA
「あの……ほんと、そういうの大丈夫なんで…」
「えー?だってこのご時世だよ?君みたいな可愛い女の子だったらどんな男に狙われるかわかったものじゃないよ?」
少なくともお前にだけは狙われたくないよ
「では、私帰りますので……」
「あっ、ちょっとまってよ!」
クッソしつこいなこのクソ童貞が…これだから30過ぎても嫁どころか彼女もできねぇんだよ……
どうにか撒く手立ては無いものかと模索していると、廊下の曲がり角から眼鏡の薄暗い幽霊のような男子が現れた。
「ッ!?」
あの子は確か………あれ?全く出てこない。確か同級生だったような記憶はあるのだが、どこのクラスの誰なのかが全くわからない。
「そ、そこの君!」
「へっ!?」
男子のもとに駆け寄り、その女子の様にか細い華奢な腕に抱きつく
「へっ!?えっ!?」
「クソd……峰元先生。申し訳ないのですが、彼氏が迎えに来てくれましたので帰りますね」
「かっ、えっ!?」
男子が困惑し、固まる
「彼っ………お、おう、気をつけて帰れよ…」
峰田は180度方向転換し、早足気味に去っていった。
「あ……あの……」
「へ…?あっ、ごめんね……急に彼氏とかウソついちゃって」
男子が顔を真っ赤に火照らせながらバッと手を離す
「あっ、いやっ、その………もしかして峰元に…?」
「うん………凄くしつこかったから君を利用させてもらっちゃった…」
「あっ、う、うん………俺は大丈夫だけど……」
嘘つけ、顔真っ赤じゃねぇか(笑)こいつ、中々可愛いなちょっとからかってみよっと
「その………もしかしたらまた変なのに話しかけられるかもしれないからさ……良かったら…ほんとに良かったらで良いんだけど、帰るまで私の彼氏役になってくれない?」
「え……あ、あぁ、俺なんかで良ければ…」
珍しい……こいつ、私の顔見て話してやがる。
「じ、じゃあ帰ろっか」
「う、うん…」
男女が薄暗い廊下を歩いていく。しかし、恋愛のようなものではなく、男は顔を真っ赤にし、女はそれを面白そうに見つめている。しかし、
「あ、そうだ。良かったらLINE交換しない?私………わかるよね……?」
「え、あ、うん……生徒会長……だよね」
「おー、正解。君は?」
「あ、俺は安達 祭里」
「まつりクンかー!可愛い名前だね!」
「えっ、あ、ありがとう……///」
LINE交換の為に電源を切っていたスマホを起動させる。そして、
『通知だよー
世界が凍りついた。
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