光の巨人と終わりの巫女 (無名篠(ナナシノ))
しおりを挟む

1. 始まりはあの寒い日の朝

 2020年一発目の作品なので実質初投稿です。


 それは、いつも通りの何気ない一日のはずだった。

 朝起きて飯食って、今日は休みだからとなんとなく腹ごなしの散歩に行こうと思い立って。

 歩き始めて数分もしない内に見知った景色に飽き飽きして、だからいつも通る道とはなんとなく別の道を進んだりして。

 

 

 今日一日のそんななんとなく(・・・・・)の積み重ねが、俺の運命の分かれ目だったのかもしれない。

 

 

 見事な紅葉を魅せる、しかしもうほとんどが枯れ落ちてしまっている並木道を抜け、赤信号表示がされている横断歩道の前に立つ。時折、ヒュゥウッ!と吹く冷えた風に体を震わせる。

 

 季節はもう秋の後半。朝でも、いや朝だからこそだいぶ冷え込んできている。こんな時は温かいものが欲しくなる。そろそろ家に戻ってあったかいコーヒーでも飲もうか。いや、その前に熱々の中華まんでも買おうか。飯なら食べたばかりだが、せっかくの散歩だ。買い食いもオツなものだ。この時間なら出来立てのものが食えるだろう。早速、近場のコンビニにでも向かおうか。そう思った矢先───

 

 

 

 ───誰かに背中を強く押された。

 

 

 

「え」

 

 

 突然のことで前へ倒れこむ体を、とっさに足を出して踏みとどまる。だがそれがいけなかった。

 すぐさま体を歩道側へ戻せばよかったのに、押した犯人を確認しようと最初に体ではなく顔を動かしてしまった。

 

 そのせいで───いや、どちらを選択しても結局は間に合わなかっただろう。

 

 トップスピードの乗用車が目と鼻の先に迫っていたのだから。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 そうして俺は事故に遭い、不幸にも死んでしまった────はずだ。なら、俺の目の前に広がるこの不可解な光景はなんなんだろう。

 

 

 雲ひとつない青空。

 

 一面の透き通った青い海。

 

 

 これは死んだものが行き着く果てなのか?───なるほど、たしかに魂が安らぎそうな穏やかな光景だ。ある意味、天国なのかもしれない。

 本当にここがあの世ならの話だが(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 足元を見下ろす。透き通っているため見え辛いが、辛うじて今の俺の姿が映し出されているのを確認する。

 

 鏡代わりに目を凝らして覗き込むと、そこに映っていたのは───

 

 

 

 

 銀の顔に乳白色に輝く目。

 頭部には菱形のクリスタル。

 赤、青紫、銀のカラーリングのボディ。

 そして、胸のプロテクターと中心にある青々と光るカラータイマー(・・・・・・・)

 

 

 

 >【なんとびっくり玉手箱!そこには平成最初の光の巨人の姿が!】

 

 

 

「───チェアッ!!?(ってなんでだぁぁぁぁぁぁ!!?)」

 

 

 

 

 ───そう、本当にここがあの世であるのなら、誰か俺が【ウルトラマンティガ】になっていることの説明をしてください。

 

 

 

 




 短く、あらすじの保管みたいな冒頭書いたので失踪します。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2. ティガの力の把握をしよう

 早起きしたので初投稿です。


 ───ウルトラマンティガ。

 

 三千万年前の超古代より現代に復活したウルトラマン。世界を闇に染めようとした邪神と戦い人類を救った光の巨人。

 

 

 それが今の俺の姿。

 

 

 どうしてそんな偉大な存在になってしまったのかは分からないが、とりあえず、

 

 ・ありえないが来世がティガだった。

 ・神様なんざに会っていないが転生特典がティガだった。

 

 として無理矢理にでも納得しておく。原因なんてもはや確認のしようがないからな。

 

 

 

 ちなみにこれはおもっきり余談だが。

 

 ウルトラマンティガであることを確認した俺は地味にテンションが上がっていた。何を隠そう俺はウルトラマンティガが大好きなのである。幼少期の憧れというやつだ。

 

 

 

 閑話休題(それはおいといて)

 

 

 改めて体を動かしたり腕を触ったりしてみる。画面越しに見る特撮用のスーツではなく、しっかりとした皮膚の感触であることがわかる。つねれば痛みを感じ、体はきちんと俺の意思で動かせている。

 

 

(って当たり前か。これが今の俺の体なわけだし……)

 

 

 そうして確認をしていく中、ふとこの体は劇中の【ウルトラマンティガ】の力を使えることができるのか試したくなった。

 

 

 

 

 

「──うっし、それじゃやるか!」

 

 

 そんなわけで、まず最初に試したのはティガの特徴ともいえるタイプチェンジ能力だ。

 

 このタイプチェンジ能力とは、ティガの基本形態である【マルチタイプ】の性能を力か速さに特化させるものだ。これに伴って力を上げれば速さが、速さを上げれば力が、といった風に正反対の能力が低下する。

 

 さっそく、俺はワクワクと共に劇中のティガの動きを真似て二の腕を頭部のクリスタルで組み、力強く振り下ろす動作を行った。

 

 が、体は三色のまま変化はナシ。思わず首を傾げてしまった。

 

 何度か繰り返すが変化はなく。そこで、少し視点を変えて考えてみた。

 

 こういったものはイメージが不可欠になるパターンが多い。だからそれぞれのタイプを彷彿とさせるものを思い描きながらタイプチェンジの動作を行えばイケるんじゃないかと思いついた。。

 

 なので、【パワータイプ】は筋肉(マッスル)、ボディビルダー、火山や戦車といった、とにかく力強いものをイメージし、【スカイタイプ】は忍者やスポーツカー、陸上選手といったとにかく速いものをイメージした。何がトリガーになるかわからないからいろんなものを思い浮かべて数でゴリ押しした。

 

 ちなみに、劇中のティガの【パワー】・【スカイ】の両タイプをイメージしながらはダメだった。特撮スーツの外見だけで実際の中身の具体的なイメージが固まらなかったからだと思われる。

 

 

 

 そんなこんなでタイプチェンジはなんとか成功し、以降【パワータイプ】は筋肉(マッスル)、【スカイタイプ】は忍者のイメージでいくことになった。

 

 

 【マルチタイプ】?前の世界の人間だった頃の普段の俺をイメージしたら成功した。マルチタイプがティガの基本の姿だからつまりそういうことなんだろう。

 

 

 

 

 ではここで、各タイプのスペックを実際に体を動かし、体感した範囲で大雑把に話そう。

 

 

 

 まずは赤と銀の姿、【パワータイプ】。

 

 パワーと耐久力に優れた形態。どこかの\筋☆肉/ウルトラマンほどではないがそれが見て取れるほど筋肉は張り、体の奥から力がもりもり湧き上がってくる。

 

 劇中のティガ同様、パワフルな肉弾戦が出来そうではあるが、スピードが落ちるのが難点か。ドシ!ドシ!ドシ!と漫画みたいな走り方したの初めてだぞ。

 

 当然、必殺技である「デラシウム光流」も撃ってみた。光流が通った部分の海が蒸発して一時的な窪みを発生させたんだがこれこんなに威力があったっけ?

 

 

 

 

 次に青紫と銀の姿、【スカイタイプ】。

 

 飛ぶことも含めてスピードとテクニックに優れた形態。いわゆる細マッチョのような見た目になり体がとても軽い。

 

 どれくらい速いのかと言われても比較対象がないのでなんとも言えないが、とりあえず軽く走るつもりでジグザグ動いていたら残像が発生していた。

 

 必殺の「ランバルト光弾」は、先んじて撃った各タイプ隔たりなく使える「ハンドスラッシュ」と比べると強く、俺の身長を優に超える水飛沫が轟音と共に上がったんだが、こんなに威力ある感じだったっけ?

 

 

 

 

 最後に赤と青紫と銀の姿、【マルチタイプ】。

 

 ウルトラマンティガの基本形態。この地で目覚めた最初の姿。

 

 パワー、スピード、どちらもバランス良く振り分けられている。なので【パワータイプ】ほど力強くも重くもなく、【スカイタイプ】ほど素早くも軽くもない。しかし特出したステータスがないぶん体が思うように動きやすいというのが印象。

 

 必殺の「ゼペリオン光線」は言わずもがな。上記の2つの技に劣ることのない威力を見せてくれた。もう驚かないぞ。

 

 

 

 

 ある程度肉体のスペックを把握できたので、次は空に目を向けることにする。

 

 

 原理はよく分からないし知らないが、ウルトラマンは空を飛べる。

 

 怪獣を倒したあとに飛び去るとか、墜落する防衛チームの戦闘機と並走し、キャッチして救助したりとか、怪獣相手の空中戦を行ったりと結構飛ぶ。映画だとCG使ってめっちゃ飛ぶ。

 

 よほどの高所恐怖症だとか、飛行機がダメとかじゃない限り、人間一度は空を自由に飛んでみたいと考えるだろう。たぶん。俺は考えるタイプだ。

 

 

 

 というわけなので飛んでみた。

 

 

 

 ここでもイメージの力は働くようで、覚束ないがなんとか空に飛び上がれた。この地に足がつかない感覚は思った以上に気持ち悪いものがあるけど。

 

 ヨロヨロと不安定な低空飛行から始まり、徐々に高度とスピードを上げていく。体と感覚、あと気持ちが慣れた頃には安定して飛べるようになり、気がつけば星を脱出し宇宙に出ていた。

 

 

 

「綺麗だなぁ……」

 

 

 

 宇宙から先ほどまでいた星を見て、テレパシーのような何かを通じて圧巻の声を溢す。ちなみに、口は開いていない。俺としては人間だった頃の感覚は残っているので普通に開けているつもりなんだがティガフェイスに変化はない。鉄仮面である。ウルトラマン最大の謎の一つだな。食事とかどうしてるんだろうほんと……。

 

 

 話がズレたな。戻そう。

 

 

 見下ろす星には大地は存在せず海だけだが、逆にそれが星の美しさを引き立てているように感じる。

 

 これだけ美しい星だ。長い時をかけていつの日か大地が現れ、生命で溢れるのだろう。そんな予感がした。

 

 というか、この星はぶっちゃけ地球なのだろうか? 命が芽吹ける全く違う星という可能性もあるが、結局は可能性の話。確認の方法はない。

 

 

 

「どっちにしろこんな真っ暗な宇宙に飛び立って旅する気は起きないし……ウルトラマンって確か長命だから変化があるまでのんびり過ごすのも……ん?」

 

 

 

 地球(仮)を眺めながら先について考えていると、海に浮かぶ黒い点の存在に気づいた。よく見るとそれは黒くぶ厚い雲であり、嵐でも起こっているのかゴロゴロと赤い稲妻が走っている。

 

 

 

「なんだ………アレ」

 

 

 

 不自然なほどにポツンと存在する【黒点】。白雲一つとして存在しないこの青い星において、宇宙から目立つことこの上ない。

 

 一体あそこに何があるのか。興味を唆られはするが、好き好んで嵐らしきところに飛び込む気は起きないし、【黒点】の不気味な雰囲気も拍車をかけて向かう気を失せさせていた。

 

 

 

 ───だが何故だろうか。俺は、ティガは(・・・・)、あそこへ行かなくてはならないという使命感めいたものが胸の内から湧いて出てくる。

 

 

 アレを止めなくてはならないと。

 

 アレを倒さなくてはならないと。

 

 

 

 しかし、()はそれを無視した。

 好奇心から生まれたものとして取り繕わなかった。

 不気味だったが故に、恐ろしかったが故に、黒点に近づく事を嫌悪した。

 俺という人間(・・)があるが故に、危険と本能が教えた。

 

 

 ───そしてウルトラマンとして情けなくも、人間として当然のように【黒点】に背を向けた。

 

 

(二度と【黒点(あそこ)】には近づかんとこ)

 

 

 そう強く心に刻んで俺はその場を大急ぎで離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 ティガが【黒点(そこ)】から遠ざかる頃、それ(・・)は【黒点】の中心(・・)から見ていた。

 

 

 それ(・・)の周りは常に闇に包まれている。光は存在しないし通しもしない。例外があるとするならば、それ(・・)と同等で対極にいる存在だけだろう。

 

 【闇の化身】とも呼べるそれ(・・)と同等で対極にいる存在。すなわち【光の化身】。それ(・・)の闇を越えて光を届かせることができる存在。

 

 

 繰り返すが、ここは光も存在しないし通さない闇の中。そんな中でそれ(・・)は気配と共に上空の光をハッキリとその目で確認していた。

 

 遠ざかる光───すなわちティガを。

 

 

 

 闇と共にこの世界に誕生したその瞬間からそれ(・・)は自分がどういう存在か理解していた。光というものが対極に位置することも。

 

 故に決して相容れない忌むべきものなのだと、そう思っていた。

 

 

 しかし、想定とは裏腹に(ティガ)の存在は興味深かった。変化のない暗闇の世界に届いた光というものはそれ(・・)が思うほど嫌悪するものではなく、むしろその逆。闇の化身としてはあり得てはいけないほどに温かな心地良さを感じていた。

 

 

 

 

 ───欲しい。

 

 

 漠然とそれ(・・)は思った。知らなければよかった。たった一目見ただけだ。なのに、それなのに、どうしようもなく求めてしまう。

 

 

 ───欲しい。欲しい。

 

 

 あの暖かさが欲しい。包み込む優しさが欲しい。

 側に居て欲しい。光で自分だけを照らして欲しい。

 自分()にない全部()が欲しい!!

 

 

 ───欲しい。欲しい。欲しい!欲しい!!欲しいッ!!!

 

 

 

 

 

 ?なんだ、これは?

 それ(・・)は首を傾げた。

 

 そして、それ(・・)は言語化出来ない熱いものが胸のあたりから込み上げてくることに疑問を感じた。

 

 (ティガ)を見てから、それのことしか浮かんでこない。なら、(ティガ)を手に入れれば、この込み上げる熱いものが何か分かるのだろうか?

 

 その答えはあの(ティガ)が持っているだろう。気配は覚えた───。

 

 

 

 それ(・・)(ティガ)が去った方を見据えると、【黒点】をと共にゆっくりと移動を始めたのであった。

 

 

 

 




 意味不明な出来なんで失踪します。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3. 深淵より這い寄るもの

原作キャラ早く出したくて初心に帰ったので実質初投稿です。



 【黒点(アレ)】と遭遇したあの日からとても長い時が経った。

 

 あれからというもの、俺は特に何かをすることもなくウロウロとこの星のあちこちを彷徨っていた。もちろん、【黒点(あそこ)】を除いてだ。

 

 初めは探検、あるいは冒険のつもりでしていたのだが、どこに行っても海、海、海。代わり映えのしない日々に早くも参っていた。

 

 いくら肉体がウルトラマンで長い時を生きていられるとはいえ、精神が一般人では気が狂いそうになってくる。まぁ【黒点(アレ)】のストレスも相まってそうなるのも時間の問題か。

 

 というのもあの【黒点】、どうやら俺に向かって移動しているのか、初めて目撃した時に感じた不気味な気配が自分から近づいていないのに何度もするのだ。全身の毛が逆立つような、心臓がキュっと竦むような感覚が。

 

 しかし動きはとても遅いのか早くて数日、遅くても数週間の頻度なので近くに来たことを感じ取ってはその場を離れるということを繰り返している。

 

 今日もまた、近づいて来た【黒点】の気配から離れるために空を飛んでいた。

 

 

(いい加減向き合うべき、なんだろうなぁ……)

 

 

 星を挟んで【黒点】と反対になるように距離を取って海に降り立ち、少し曇った空を見上げて思う。

 

 もう長い間【黒点(アレ)】から逃げて回っていたから分かってはいた。【黒点(アレ)】を初めて見たとき、この肉体から感じていた使命感は決して勘違いなんかじゃないと。

 

 このウルトラマンの肉体にとって、

 ティガにとって関係のある存在(・・・・・・・・・・・・・・)が潜んでいるのではないかということを。

 

 

 

 

 

 ──でも、だからどうしろっていうんだ。

 

 立ち向かう勇気なんてない。存在しているのは俺と【黒点(アレ)】だけだ。守るべき人々や町は存在しない。だから、命を張る必要なんてない。なら、近づく道理なんてないだろう?

 

 なんとも情けない話であることか。でも、それが前世から続いてしまっている俺という人間性だ。いまさら切り離せやしない。

 

 それに、今のところ【黒点(アレ)】は本当にゆっくりと近づいてくるだけで害があるわけじゃないし。今すぐどうこうしなくても……って──

 

 

 

「──はぁ……ほんと、何度同じこと考えてるんだ俺。暇だからって……はぁ。だめだ、ため息しか出ない」

 

 

 

 思わず頭を抱えてしまう。もはや数えるのもバカらしい。

結論はすでに出ているというのに、拭いきれない不安からずるずると引きずって囚われてしまっている。

 

 そして、それをどうにかしなければと考えるほど深みにハマっていっている。

 

 

 これはなにか……「きっかけ(・・・・)」が必要だ。そう、「きっかけ(・・・・)」さえあれば、この気持ちにも整理がつけられるかもしれないのに──

 

 

 

「──!! え…これ……なんで…!?」

 

 

 

 そしてその「きっかけ」は、もうすぐ側まで近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──時を少々遡り、【黒点】にて。

 

 

 

 光と出逢ってしまったあの日から、それ(・・)(ティガ)に逢いたい一心で、気配を頼りに星のあちこちを彷徨っていた。

 

 

 だが、求める(ティガ)は、あと少しでという距離まで近づくとすぐに離れてしまう。

 

 

 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も!!!

 

 

 そして、一体どれだけの時が過ぎたのか。

 

 自身の肉体が巨体のためか、はたまた力の制御が上手くいっていないのか。

 

 ───もしくはいまだに自身が未完成だからなのか(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 結局、これまで(ティガ)出逢う(追いつく)ことは叶わなかった。

 

 

 何故、光は離れるのか?

 

 何故、光は逢ってくれないのか?

 

 何故、光は己を照らしてくれないのか?

 

 

 

 

 光の存在だから? なるほど、たしかに対極に位置する存在ではある。

 

 だが、だからこそ。

 

 その対極に位置する、互いに反発する筈の(もの)(じぶん)が惹かれているのに(ティガ)もそうではないのはおかしい。なら何故?

 

 

 

 わからない。わからない。わからない。いくら自問自答すれど答えは出ない。それは自らがその答えを持ちえないからだ。

 

 故に(ティガ)を強く欲するのだ。この湧き上がる感情(もの)理由(わけ)を知るために。

 

 

 

 そのためにもまずは出逢う方法を考えなくてはいけない。それ(・・)は一度追いかける足を止めて考える。

 

 それ(・・)が単身追いつくことは現状不可能だ。それは長年続けていた追いかけっこの経験から確信できる。

 

 ならばどうするか。

 

 自分で追いつくのが無理ならば、誰かに連れてきて貰えばいい。

 

 名案を思いついたとばかりにそれ(・・)はすぐさま行動に移す。

まず、自身の領域である【黒点】から闇を目の前に集めた。闇は重なり合って凝縮し、さらに重なり大きくなって、それ(・・)が望む形に変化していく。

 

 今の自分より遥かに早く動ける形に。

 

 この海に適した形に。

 

 こうして、それ(・・)の手足となる存在。最初の【眷属】が誕生した。

 

 【眷属】は海に着水すると体の調子を確かめるようにそれ(・・)の周りを泳ぎ始める。設定通り自分の歩行スピードよりも遥かに速い。誕生した己の【眷属】の出来を見てそれ(・・)はとても満足げだ。だがこれだけで満足してはいけない。手段を生み出しただけでまだ目的を果たしていないのだ。

 

 動作確認を終えた【眷属】は造物主の前で静かに与えられる言葉を待つ。

 それ(・・)が告げる命令はただ一つ。

 

 

 

 

 

 

 ───光に逢いたい(ティガを連れてこい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

 

 

 

「───なんで、なんで【黒点(アレ)】の気配が、こんなスピードで近づいてくるんだっ!?」

 

 

 

 なんで!? どうして!? Why!?

 どどどどどうする俺! あんなものと鉢合わせたところで勝てるヴィジョンなんて浮かばんぞッ!? いや、そもそも戦うことが論外だ!

 

 とにかく、早く離れ───ッ!!?

 

 

 

 ───そう思った時には手遅れで、背後から飛んでくる【黒点(ヤツ)】の気配から俺はとっさに地に伏せることで事なきを得る。

 

 空振りに終わり俺の背を飛び越えて目の前の海に着水した襲撃者を見れば、それはとても奇怪で、おぞましくて、名状し難くも特徴的な見た目をしていた。

 

 肉体の形状はサメか、イルカか、シャチか。それに似通った姿。

 10はあろう目は顔から体にかけて規則正しく横一列に並んでいて、口は二つも重なって存在してる。

 

 だが【黒点(ヤツ)】じゃない。その気配はプンプンするが……違う。

 そして、目の前にこいつが来て気付く。俺の遥か後方に比較にならないほど強大な気配───【黒点(ヤツ)】の存在に。

 

 

 俺は勢いよく起き上がり、目の前の……なんて呼ぶべきか。【サカナモドキ】でいいな。サカナモドキに向けて構えをとる。そう、あのティガの戦いの構えを。

 それを見たサカナモドキは海へ深く潜り離れていく。

 

 逃げた……訳ではないだろう。気配はまだある。

 案の定、ヤツは大きく口を開けて飛びかかってきた。

 

 

「ッ!」

 

 

 体を逸らして避ければ、またヤツは海深くに潜り次の攻撃の準備をする。時間はかけられない。モタモタしていたら【黒点(アレ)】がここに着いてしまうから、早々に決着をつけなくてはいけないだろう。

 

 

 

 ───ぶっちゃけるとめっちゃ逃げたい。というか逃げようと思えば、まぁ今この場から逃げ出すことはできるだろう。

 

 じゃあなんでそれをしないのかといえば、この状況は俺が望んでいた「きっかけ」だからだ。

 

 今逃げればこれまでの逃亡生活に逆戻り。それどころか【黒点】だけじゃなく今度はサカナモドキからも逃げなくてはいけない。

 

 【黒点(アレ)】はともかく、サカナモドキは今までの動きとその姿から泳ぎに特化しているように思える。故に、たとえ【黒点(アレ)】から逃げ切れても休む間もなく追ってくるサカナモドキの相手をしなくてはいけなくなってしまう。

 

 

 だからこそ求めた、覚悟を固めるための「きっかけ」。

 

 逃げに徹する弱い心を捨て去り、戦う意思を俺自身に示し、現時点で俺の命を脅かすサカナモドキ(こいつ)を、そしてその元凶である【黒点(ヤツ)】を倒す覚悟を───!!

 

 

 俺は顔の位置に交差した腕を上げて構える。そこに隙と見たのかまたヤツは飛びかかってきた。

 

 だが正面からだったため難なく避け、すぐに構えた腕を振り下ろしてパワータイプへと変化する。

 

 

「ヌゥゥン……! ハァ!!」

 

 

 そしてヤツが海に着水する前に尾びれの根本を両手で掴み、背負い投げのように海に叩きつけた。

 

 

「%¥#*°〆!?」

 

 

 予想外の反撃をだったのか聞くに耐えない金切り声を上げるサカナモドキ。それを無視して大振りに振り回して何度も海に叩きつける。

 

 

「これでどう───ッ!?」

 

 

 だがヤツも黙ってやられている筈もなく、振り上げたタイミングで体をグンッ! と曲げて噛みつこうとしてきた。

 

 とっさに掴んでいた手を離して胸前で交差させ防御の体制を取るが、ぶつかってきた勢いに押されて足を滑らせ海に落ちてしまった。

 

 

「ぐっ!? こんや───ろおぉぉぉぉ!?」

 

 

 体制を立て直そうとする間も無く、そのまま腕に噛みつかれ猛スピードで海を泳ぎ回るサカナモドキ。

 

 何とか抜け出そうにもガッチリと噛みついていて外せず、ならば殴って離させようにも水の抵抗力とサカナモドキのデタラメな泳ぎのせいで思ったように力を込めて殴ることも出来ない。

 

 それでもと些細な抵抗を続けていると、煩わしく思ったのか、今度は俺が海底へ叩きつけられた。

 

 

「ウグッ!?」

 

 

 そしてそのままサカナモドキは先程までのメチャクチャな軌道ではなく、まるで俺を何処かに連れて行くようにまっすぐ引きずりながら泳ぎ出した───って!!?

 

 

「ちょ……おま、まてまてまてまてッ!!」

 

 

 ───こいつ、【黒点】に向かってるじゃねーか!!?

 

 まずいまずいまずいまずい!! 今【黒点(ヤツ)】とサカナモドキ(こいつ)を同時に相手にできる余裕はねぇ!! なんとかここで止めねぇと!!

 

 だが海底の岩を掴んで止めようとしてもサカナモドキのパワーに逆に岩が耐え切れず砕けてしまって止められない。くそっ、どうすれば………そうだ!! デラシウム光流をぶつけて吹き飛ばせば……!!

 

 

「こん……のぉ……! 止まりぃ……やがれぇぇぇぇ!!!」

「@#&//?/@/!!!?」

 

 

 ボォォンッ!! とサカナモドキの体にデラシウム光流をぶつけ爆発が起こる。爆発の反動でサカナモドキはもちろん、俺も吹き飛ばされ拘束から脱出することに成功した。海中なのでゆったりとした動きで体制を整え、反対方向に吹き飛ばされたサカナモドキを見ると思いのほかデラシウム光流が効いたのかビクンッ! ビクンッ! と体を痙攣させて倒れていた。うわぁ、痛そう……いや、やった本人が何言ってるんだって話だな。うん。

 

 と、ともかく! 倒すなら動けない今しかないッ!!

 

 とどめを刺すため、俺はデラシウム光流を放つ構えをとった。

 

 

「ハッ! ハァァァァァ……ハァッ!!」

 

 

 両の手に集めたエネルギーを胸の前で球状に固め、投げるように放つ。放たれたデラシウム光流は真っ直ぐ飛び、痙攣して動けないサカナモドキの体を貫いたッ!

 

 貫かれたサカナモドキは断末魔を上げることなく爆発し、その肉体は黒い塵となって消滅した。

 

 

「お、終わったぁ〜……」

 

 

 なんとか勝てたことで全身の気が抜けて思わず座り込む。倒せたことによる達成感よりも、終わったことによる脱力感が強い。まぁ初戦闘だってこともあるたまろうけど、こんなんで【黒点】の主を続けて相手にできるのか……?

 

 【黒点】の方へ顔を向ける。黒いモヤが海の中にも広がっていて先を見通すことができない。だが、サカナモドキによってモヤと海の境界が見えるくらい近くに連れてこられたためヤツの気配がすごい。すごく重い。ていうか視線がすごい。めっちゃ見てる。いや、自惚れとかじゃなくて。ガチで。

 

 そんなヤツと今から戦わないといけないの……?

 

 

 タイトルマッチ[元気モリモリな【黒点】の主 vs 初戦闘で疲れ切った光の巨人]ウルトラファイッ!!

 

 

 ───うん、無理だな! 逃げよう!

 

 「命あっての物種」ともいうし、無理は禁物。万全の状態になってから出直そうかなッ!

 

 そうと決まればすぐにこの場を離れよう。

 

 そうして飛び上がった瞬間───

 

 

「んっ!?」

 

 

 何かに引っ張られるように先に進めなくなった。何かと思い負荷がかかっている足を見れば、【黒点】のモヤの中から無数の触手が伸びて絡み付いていた。さらに【黒点】の中に引き摺り込もうしているのかものすごい力で引っ張っている。

 

 

「逃さないつもりかッ!? それは勘弁ッ!!」

 

 

 すぐさまハンドスラッシュで触手を切り離し、大急ぎでその場を離れる。しかし逃さないよう退路を阻むように無数に伸びてくる触手。すごく……気持ち悪いです。

 

 そこからはひたすら触手との鬼ごっこ。紙一重でなんとか避けたり、捕まってもすぐに切り飛ばしたりと、それはもう無我夢中で逃げまくった。

 

 気づいた時には触手はもう追ってこなくて、【黒点】からもだいぶ離れていた。

 

 

「ハァ……ハァ……な、なんとか……逃げ出せたか……」

 

 

 もはや満身創痍だ。精神的にだけど。疲れたものは疲れた。当分動きたくない。はぁ……ぬくぬくの布団が恋しいぜ……。

 

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

 

 触手群から逃げてる時にとても気になることがあった。

 

 【黒点】の主、その正体だ。

 

 あの時、触手を避けている最中、【黒点】の中に潜む何者かの鳴き声を───まだ本体までとの距離が離れているのか、とてもか細いものだったが───ウルトラマンの超人的な耳で拾っていた。

 

 それはなんというか、例えるのなら甲高い象のような鳴き声だった(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 そんな鳴き声で、触手を持ち、闇を統べ、この肉体(ティガ)と縁を持つヤツなんて一つしか俺は知らない。予想は当たっていたわけか……。

 

 

 

 

「───邪神、ガタノゾーア……」

 

 

 

 

 原作のティガが一度は敗北し、倒すのにも子供たちの光と共にある必要があった存在に、果たして自分一人で立ち向かい、そして倒せるのだろうか。それはわからない。だが、やらねばなるまい。あんなのは放っておくことはできない。主に俺の身の安全のためにも。サカナモドキのお陰で覚悟は出来ている。次こそは───倒す。

 

 

 しかしそんな恐ろしい怪物が、何かを悲しむような、何かを求めるような、幼子が手を伸ばすような、そんな嘆きの声をあげているような気がしてならなかったのは何故なんだろうか───

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 ───パオオオオオオォォォォオオオオン………。

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───ま、そんな訳ないか。

 

 

 

 




 ───余談だが、ティガが膝くらいしか浸かっていない海であるにもかかわらず沈むほど深いのは、普段彼が見えない足場を作って立っているからである。


 戦闘シーン難しすぎて把握しきれなくなったんで失踪します。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4. 彼方より来たる

続きを一年も投稿しない投稿者の屑は誰でしょう? そう、私です。
2021年になったので実質初投稿です。(早く原作に行きたい)
それとガバガバ歴史はゆるして……ゆるして……。



 あの【黒点】での戦いからさらに時が経ち、この星にも大なり小なりの変化が起こった。

 

 まずは生命体が誕生した。初めは小さなもの──俺からすれば全てがサイズ的な意味で小さいのだが──だったのが、だんだんと大きくなり動物や植物、その大本と呼べるような存在にまで進化した。

 

 さらに大地が浮上。そこへ生命体は上陸し、陸上生物が誕生。植物も本格的に群生を始め、前世に本で見たような太古の地上の景色になった。

 

 そして今や恐竜が支配する時代である。ティラノサウルスを始め、様々な恐竜が地上に存在している。ここまでが、前世で本に載っているような地球の歴史と変わりがない部分だ。つまりこの星は地球であることに間違いはなかったということだな。(今更)

 

 で、だ。

 

 当然、その歴史とは違いがある部分も存在しているわけで。

 言わずもがな、ガタノゾーアとその眷属である。………いや、そうなると光の巨人()も含まれるか。まぁ地球に害を及ぼすつもりはまったくないので俺のことは一旦置いといて。

 

 ガタノゾーア。

 結局のところ、奴との決着はつかなかった。いや、つけられなかった、が正しいか。

 

 もちろん、日和って倒しに行かなかったわけではない。ないったらない。鋼の意思で立ち向かいましたとも。膝は笑っていたが。

 

 遭遇戦(3話後半のアレ)のあと、俺は体力の回復を待って奴のもとへと飛び、その道中でサカナモドキと同様に海を泳ぐタイプの眷属と、新たに現れた空を飛ぶタイプの眷属に数えきれないほど襲われた。

 

 サカナモドキよりかは弱く、一発殴るだけで面白いくらいぶっ飛ばされてくれるので苦戦することはなかったが……外見はとてつもなくグロかった。デロデロに溶けていたり、一部分が欠損していたりして俺のSAN値(正気度)は大幅に削れた。

 

 この後に控えるガタノゾーアとの戦いのことも考えるとあまり体力を消耗はしたくなかったが、最小限の動きで切り抜けるなんて強者な真似ができるはずもなく。結局、力技で薙ぎ倒しながら進んだ。

 

 そうしてガタノゾーアのもとへ辿り着いて───何もなかった。

 

 あの光を飲み込む闇の渦も、おそらく原作と同じであろうあの恐ろしい姿も、あの禍々しい気配さえ、初めからそんなものは存在していかったと言わんばかりに綺麗さっぱり消えていた。

 

 もともと、奴に対してのティガ()の感知範囲は地球の裏側にいてもわかるくらい広く───ガタノゾーア自身の気配が巨大だというのもあるが───この星にいる以上どこにいて、どこから来るのかといった反応を逃すことはこれまでなかった。まぁそのおかげで四六時中背筋がぞわついていたんだが。

 

 それなのに、この〈一度感じたら己の手で始末するまで感じとるのをやめない、やめてくれないガタノゾーア感知能力〉にまったく引っ掛からなくなったのだ。もちろん、恐竜時代となった今も変わらずガタノゾーアを感じ取ることはできていない。

 

 気配だけでなく肉眼でもそう。念の為に大気圏域からぐるっと地球を一望してみたが、あの禍々しく星を侵すかのような【黒点】はどこにも見当たらなかった。

 

 というわけで、いったいどういう手段を用いたのかはわからないが、この地球上からヤツの存在は消え去った。考えられるのは別の宇宙、もしくは別の次元に旅立ってくれたことなんだが………元ネタ(クトゥルフ神話)的にそうであってくれれば嬉しいんだけどな……会わなくていいし戦わなくて済むし。

 

 そんな感じで不確定要素しかないが、ひとまずガタノゾーアの影に怯えて過ごす日々は終わりを告げた。しかし、じゃあ穏やかに過ごせるかと言われるとそうでもない。まだ奴の眷属が残っているからだ。

 

 そう、眷属。闇の尖兵たち。

 

 主であるガタノゾーアが消えた今も、眷属は消えることなく存在している。いや、眷属というのは少し違うか……。

 

 というのも奴ら、ガタノゾーアの眷属のくせにどういうわけか奴の力の気配───俺はこれを〈ガタノゾーア成分〉と名付けた───が少ししかしない個体ばっかりなのだ。ガタノゾーアが純度も量も100%なのは大元なので当たり前として、サカナモドキも少量ながらも純度100%だったのに、今ではこの星に生息する通常の生命体が持つ生命力……と言えばいいのだろうか。全く違うものが混ざっているのを感じた。

 

 実際に確認してみても、怪物というよりは生物寄りの生態に変化したかのように見える。恐竜を捕食したり眠ったり、住処を持ったり。子供まで作れるようになっていた。つまるところ、ウルトラ怪獣の前身みたいな感じになっていた。

 

 これなら、眷属に向ける様な警戒はしなくていいかなぁ。純粋な眷属以外の通常生命体からは襲われるどころか何故か懐かれるし───。

 

 

 なーんて安心して近づいたらガタノゾーア成分が爆発的に活性化して目の色を変えて襲われたんだけどネ!

 

 まぁ理由としては子供とか自分とかを守るために起こっている現象だと思ってる。闘争本能みたいな。ガタノゾーアの指示とかではないだろう……多分。

 

 

 ───もっとも、目の前にいる二体の怪獣は、最初からティガ()が目当ての様だが。

 

 

「ゴギャアアアアア!」

 

「キュァァァァァァ!」

 

 

 大地を揺るがす怪獣〈超古代怪獣 ゴルザ〉。

 

 空を切り裂く怪獣〈超古代竜 メルバ〉。

 

 原作の顔である怪獣が揃い踏みでそこにいた。その内にはサカナモドキより劣るが純度の高いガタノゾーア成分。そこに他の気配が混ざっている様子はない。間違いなくガタノゾーア直系の眷属だ。

 

 ガタノゾーアがいない今、なぜ眷属が現れるのかはわからない。が、コイツらは敵意を持って俺の前に立っている。つまり敵だ。今は戦わなければならない。考えるのは後回しだ。

 

 

 

 そうして今ここに、原作〈ウルトラマンティガ〉の因縁の戦いが始まろうとしていた───!

 

 

 

「───チェア(いくぞ)!!」

 

 

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

 

 コツ、コツ、コツ………と踵を足音が通路に響き渡る。

 

 音の発生源である男は、入り組んだ迷路のような複雑な石造りの通路を迷いなく進み、突き当たりの扉の前に立つ。すると扉は触れていないのにも関わらずひとりでに左右へスライドして開いた。

 

 その扉をくぐり、男は中へと入っていく。

 

 そこはとても広く、そして薄暗い部屋であった。

 

 部屋を照らすのは中央の床に備え付けられている仄かに光る三柱の青い石。その青い石より一つの惑星が立体的な映像(ホログラム)で部屋の中央の空間に大きく投影されている。

 

 すぐ近くにこの装置を操作する石柱(コンソール)が設置されており、その周りに複数のモニターが空間に表示され、そこに様々な風景が映し出されている。

 

 弱肉強食を体現する恐竜たち。

 

 仲睦まじい様子で暮らす怪獣たち。

 

 それは、ホログラムで投影された惑星───地球。その地表の様子を映した映像だった。

 

 そして、大画面で真ん中にデカデカと映し出されていたのは───因縁の戦いを繰り広げるティガ、ゴルザ、メルバ。

 

 跳び上がったティガがゴルザの頭へチョップを繰り出し、続けてパンチやキックと攻撃する。ゴルザはそんな攻撃に怯まずにパンチを受け止めて掴み、ティガをその場に固定すると額から紫の光線〈超音波光線〉がティガの顔に向けて放たれた。

 

 顔をとっさに横に逸らすことで難を逃れるティガ。だがゴルザは間髪入れずに二発、三発と超音波光線を放つ。両手をガッチリと掴まれてその場から離れられないティガは、動かせる範囲で必死に体を動かし、なんとか超音波光線を躱すとゴルザの顔めがけて頭突きした。

 

 突然のことに堪らず掴んでいた手を離し後ずさるゴルザ。その隙にティガも後退して距離を置き、両腕を額前で交差させ、パワータイプへタイプチェンジをしようとする。

 

 だがそれは敵が二体いる状況では明確な隙だ。

 

 ティガのタイプチェンジは、上空で待機していたメルバがティガの背後へ急降下し、鎌状の尻尾が背中を斬ったことによって阻止される。さらにメルバは振り向きざまに目から怪光線〈メルバニックレイ〉を放った。速攻といえる攻撃にティガは反応できず胸に直撃。『グゥゥ……!』と呻き声が漏れる。

 

 

『ゴギャアアアアア!』

 

 

 そして、すかさずゴルザが頭突きのお礼だと言わんばかりに怒りの咆哮を上げながら怯んでいるティガへ全体重を乗せて突進した。当然、身構えることなく食らったため受け止めきれず大きく突き飛ばされるティガ。地面を削りながら転がり、膝を突く彼の姿にゴルザは力強く雄叫びをあげた。

 

 追撃はない。ゴルザは地上で、メルバは空中でティガの出方を窺っている。すぐに立ち上がり攻撃するにしても、一度距離を置いて体制を立て直すにしても、どちらか一方にかまけていてはもう一方に手痛い反撃を喰らうだろう。

 

 ティガとて複数を相手にする戦いの経験がないわけではない。これまで2体どころか無双ゲームかとツッコミを入れるような戦いを経験している。だがそのどれもは質より量といったり、一体一体が思い思い勝手に襲ってくるといったもので、この二体のように連携をする個体はいなかった。

 

 

『…………ヂャ!!』

 

 

 サカナモドキ以来の強敵に、ティガは気合を入れ直すように声を上げると、勢いよく構えて二体の怪獣へと立ち向かっていった。

 

 

「───シェム・ハ」

 

 

 と、そこで。部屋に入った男が石柱(コンソール)前でその映像を食い入るように眺めていたもう一人に声をかけた。

 

 男が声をかけるまで気づかなかったのだろう。体を大きく跳ねさせると、恨めしいという念を全身から発しながら振り返る。部屋の薄暗さに隠された表情が、振り向くために体を逸らしたことで遮るものがなくなった石柱(コンソール)の淡い光に照らされ露わになる。

 

 そこに居たのは"白"。病的なまでに白い肌を持ち、白い布地の少ない衣服を纏った美しき女。

 

 彼女は映像の視聴を邪魔をされたことか、それとも集中して周りが見えていなかったとはいえ()()()()に驚き体を跳ねさせてしまった自己嫌悪からか、元凶である男へ険しい顔を向けた。

 

 

「エンキ……」

 

「……すまない、驚かせるつもりはなかったんだ。てっきり気づいているかと」

 

「…………」

 

 

 エンキの言葉にシェム・ハはこめかみに青筋を浮かべるが、特に何も言わず映像へと向き直った。部屋に漂う気まずい空気に冷や汗を流すエンキもおずおずとシェム・ハの隣に立ち映像を見る。シェム・ハは小さく舌打ちをした。

 

 場面は、空へと逃れてスカイタイプにタイプチェンジしたティガが、メルバと激しい空中戦を繰り広げているところだった。空を飛べないゴルザはその様子を眺めて〈超音波光線〉で援護をするかどうか迷っているのか、額に紫の光が点滅している。

 

 

「やはり今回も現れたのか、奴らは」

 

「──実に業腹である。我の管理下より離れた挙句、ここまで蔓延るとは……」

 

「闇の嵐が観測できなくなって幾星霜……あれから何か他にわかったことは?」

 

 

 エンキの問いにシェム・ハは石柱(コンソール)を操作すると、中央の地球のホログラムにいくつかの点が表示される。巨大大陸の中心地より少し東に青い点。その近くに二つの黒い点。そして、それより遥か南の海に赤い点が一つ存在していた。

 

 

「"青"は巨人、"黒"は闇の配下共、そして闇が存在を眩ませたのち発見した、奴らの発生地点である"赤"。これまで蒐集したデータから割り出したほぼ正確なものだ。ここまではすでにわかっていたこと。だが……」

 

 

 石柱(コンソール)を叩き、新たに表示された映像に映るのは青い海。周りには何もなく、母なる海が広がっている光景。

 

 

「幾度となく観測しても視覚的にその場所には何もない。そこから奴らは生まれているはずなのにだ」

 

「俺たちの船の様な、バリアフィールドが張られていると?」

 

「当然、それも考えた。だが結局のところ、()()より地上を見ただけの情報では想像の域を出ん。故に現地調査並びにサンプルの回収が早急に求められるのだが………」

 

「………」

 

 

 チラリとエンキを見れば、言わんとしていることを察した彼は首を横に振った。シェム・ハはそれがわかっていたのか深くため息をついた。

 

 

「"協議会"の過半数がこの件に消極的になっていて、許可は降りなかった。闇の配下はともかく、巨人に我々への敵対の意思がないことへの証明が欲しい、とな。アレはこの星にある俺たちの計画の外の一つだから、安心したいんだろう」

 

「矛盾であるな。証明を得るためにも現地へ赴かねばばならんと言うのに………残りは?」

 

「闇の配下と巨人の両方を排除すべきだそうだ。兵器を撃ち込み出す勢いだったな。なんとか諌めておいたが」

 

 

 シェム・ハは顔を覆った。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()てから未知のものへの反応が酷すぎる。

 

 そんなシェム・ハも自分の知識欲を刺激する対象なので生かして研究材料にしたいと考えているのでどっちもどっちだろう。

 

 エンキはそのどちらでもない。実際に会って自分の目と耳で判断する。自分たちやこの星にとって害となるなら差し違えてでも倒す覚悟だ。闇の配下には問答無用で駆除判定を下した。

 

 

「とにかく、今はまだ様子見だ。下手に動けば他の者たちを刺激しかねない」

 

「くっ………もどかしいが致し方ない。貴様の忠告に従うのは癇に障るが、素直に受け入れるとしよう」

 

 

 何故か敵意マシマシな言葉を返されるが、ブツブツとシェム・ハの口から恨み言が垂れ流れることを止めることに成功したエンキは、ティガを映しているモニターへと目を向ける。戦いは終盤へ差し掛かっていた。

 

 スカイタイプの空中蹴りによって撃墜されたメルバはゴルザと衝突し、盛大に倒れ込む。

 

 仰向けに倒れたメルバは、翼が邪魔をして立ち上がることが出来ずに手足をバタつかせ、ゴルザはそんなメルバの動きに邪魔をされて退けて起き上がることが出来ずにいた。

 

 その隙をつき、勢いそのままに地上へ着地したティガは、素早くトドメのランバルト光弾を放った。

 

 危機を察知したゴルザは、とっさにメルバを突き飛ばし、そして自分も回避しようとするが一手遅かった。

 

 上半身を少し、ほんの少しだけ起こしたあたりで胸にランバルト光弾が突き刺さり、ゴルザは敢えなく爆発四散することとなった。

 

 突き飛ばされたことでうつ伏せに向きが変わったメルバはなんとか立ち上がり、ティガに向き直って怒りの咆哮を上げる。しかし、何してんだコイツと言わんばかりに素早く放たれたランバルト光弾がメルバに突き刺さり、呆気なくメルバも爆発四散。ショッギョムッジョ!

 

 二体を倒したティガは大きく息を吐き、肩の力を抜く。そして左腕を静かに天へ突き上げた。

 

 ───winner TIGA!

 

 そんな幻聴が聞こえてきそうな勝利ポーズだった。心なしかカメラも寄り気味で上から拳を突き上げている姿を収めている。

 

 

(この映像を含めて、これまで記録した巨人の動きを見るだけで相手に敵対の意思は無いことはわかるはずなんだが……)

 

 

 実際、巨人は自分から原生生物に手を出す事はなかった。シェム・ハの設計から離れ、怪しき獣と変貌した存在にさえも。

 

 巨人が積極的にその拳を振るうのは邪悪な者のみ。すなわち、闇の配下たち。

 

 故に、こちらが巨人に対して敵対の意思を見せなければ問題とはならないだろう。

 

───ならない、はずなのだが………。

 

 

「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ………」

 

「……………はぁ」

 

 

 そのためにも、彼女を含めた怪しい思惑を抱えた者たちを諌め続けなければならないだろう。エンキはそう遠く無い未来を考え、深くため息をついた。

 

 

 その時である。

 

 

 ───ビィィィィィ! ビィィィィィ!

 

 

「ッ! 何事だ!?」

 

 

 けたたましく警報(アラート)が鳴り響いた。

 

 シェム・ハはすぐさま思考の海から浮上すると、状況を確認するため石柱(コンソール)を操作する。

 

 この宇宙域(太陽系)のマップデータが投影され、警報の原因は何か、どこかに異常がないかを二人は組まなく探す。

 

 そして驚愕に目を見開いた。

 

 

「───こ、れは」

 

「まさか、そんな……ッ!」

 

 

 "全数値(ゼロ)"。

 

 そんな、データ上にぽっかりと空いた"穴"のようなあり得ないナニカが、巨人がいるこの星へ接近してきていたからだ。

 

 事態は瞬く間に船全体へ知れ渡った。

 

 

 早すぎる、とシェム・ハは慄いた。

 

 戦うのだ、と過激派は奮い立った。

 

 手遅れだ、と穏便派は諦めた。

 

 

 ───それが現れることは、全てが無に還ることなのだから。

 

 

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

 

 ゴルザとメルバは強敵でしたね!!!

 

 流石は原作の闇の尖兵の顔、抜群のコンビネーションでした。原作のメルバを放置して逃げるゴルザ? 私の記録(ログ)には何も無いな(すっとぼけ)。

 

 あ、もちろんきちんと仲良くまとめてランバルトました。……語呂悪いな。

 

 とまぁ、こんな感じで最近は毎日を過ごしてます。まる。星の脅威と呼べる存在はおらず、穏やかに命が、星が育まれていく平和な日々。

 

 え、眷属? あー……うん、まぁ……(目逸らし)。

 

 ガタノゾーアに直接作られた純粋な眷属自体は確認する限りもういないし、いるのは極薄の因子を持っただけのウルトラ怪獣の前身的存在で、他の生命体と同じように生態系を築いて馴染んでるし、比較的平和と呼べる筈。うん、平和平和。

 

 じゃあさっき戦ったゴルザとメルバはなんだって? そんなの俺が知りたい。

 

 まず、間違いなくガタノゾーアは今この地球にはいない。だから眷属を作れるやつはいるはずがない。ガタノゾーアほど強大な力を持ってる奴は、感じ取る限りこの星にいないからだ。でも、時たまああして眷属は現れる。ウルトラ怪獣の前身的存在ではなく、奴の尖兵たる闇の眷属が。

 

 気になって世界中を探して回ったりしたのだが、ガタノゾーア基準で考える様になっている俺には違いがよくわからなかった。でかい気配はガタノゾーア、それ以外は眷属か怪獣ってな感じ。面倒になった俺はそのうちあっちからくるだろうと待ちの姿勢で放置して今に至る。

 

 というわけで、俺ほどの巨体が地面に寝転びながらこんなことを考えていられる時点で平和以外の何者でもないだろう。そう考えると、随分と久々の穏やかな時間だ。昔はガタノゾーアの気配が邪魔して本当の意味で心休まることはなかった。

 

 

「あ゛ぁ゛ーーーー……平和だなぁ」

 

 

 空を見上げてひと時の平和を享受する。肌を撫でる風が心地良く、温かな太陽の光に照らされてつい寝てしまいそうになる。というか寝てしまおう。ここまで戦い続きだったしぃー? しばらくは大丈夫的な?? というか何も起こってほしくない休みたい。かつて、戦う決意で押し込めた弱々な日和一般人モードを再発させてそう思った。

 

 

───しかし、厄介ごとというものはそういう時に限ってよく起こるもので。

 

 

 キイィィィィン……と何かが近づいてくる音を耳が捉えた。

 

 何事かと体を起こし音のする空ヘ顔を向けると、遥か上空より何かが落下してきているのが見えた。隕石だろうかと目を凝らしてみると、それは鉱物というより生物の特徴を有していた。

 

 見た目はトゲトゲとした球体でドクンッ、ドクンッと脈打ち、全体が紫色に発光している。

 球状発光体と呼ぶべきそれは、そのまま一直線に地面へ激突。轟音と共に大地にクレーターを形成した。

 

 落下地点に鎮座するそれはすぐさま浮かび上がり、ぐにゃり、とまるで空間が歪んでいくかの様に形を変えていく。特緒的な黄色く発光する頭部、逆三角形のシュッとしたボディを持つ人型へと。

 

 人型へと変わったそれは体をぶるりと震わせると、こちらに向かってユラユラと揺れながらゆっくりと一歩ずつ歩み始めた───。

 

 

 

 

 

 

 ヒャッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ

               ヒャッハッハッハッハッハッハッハッ

 ヒャホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホ

       ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ

 ヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハ

 ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ

 ホヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ

          ヒャホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホ

   ヒャッハッハッハッハッハッハッハッ

         ヒャッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ

 ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ

         ヒャホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホ

 ヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハ

                ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ

 ヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハ

 ホヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ

     ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ

 ヒャホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホ

            ホヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ

 ヒャッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ

 

 

 

 

 

 

 ───不気味な歓声をあげながら。

 

 




アヌンナキの情報無さすぎてワカラナイヨ……。
あと、アダム・ヴァイスハウプトとの絡みが思いつかないのと、どう足掻いても絶望なので失踪します。

……まだ四話ってマ???


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5. 虚無


|ὤ•᷅)チラッ

| ὤ')╮=͟͟͞͞ 【5話】

| =3 ニゲニゲ



 

 俺が「ウルトラマンティガ」という作品を知ったのは、たしか5歳か6歳ぐらいの時だった。

 

 家に何故かあった「ウルトラマンティガ」のDVDを見つけ、気になってそれを見たのが始まり。

 

 劇中で活躍するウルトラマンティガの姿と、人類の脅威となる恐ろしい姿の怪獣・宇宙人たち。そして、作中の神秘的な雰囲気はなんとなくで見始めた幼かった俺の心に強い衝撃を与えた。

 

 以来、子供の頃はもちろん、大人になった後も暇を見つけては「ウルトラマンティガ」を飽きもせず何度も見返していた。

 

 そのためというかなんというか、俺は他のウルトラマンというものをロクに知らなかった。

 

 残念なことに、当時の俺──こうしてティガになる以前の人生──はティガのDVDで満足してそれ以降のウルトラマンは見ていないのだ。

 

 ………いや、平成三部作と言われるダイナとガイアのOVAとかは見てたから知らない訳ではない………いや、ウルトラシリーズ全体で見ると氷山の一角に過ぎないから結局知らないのと変わらない……のか?

 

 あとはよくて昭和の有名怪獣くらいだろうか。ゼットンとか。

 

 ………まぁつまるところ、なにが言いたいのかと言うと。

 

 誰かパっと見、ゼットンに似てる、笑ってるかのような不気味な鳴き声を出すこの怪獣かも怪しいナニカについて教えてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ

 

 

 明滅する黄色いマスクのような頭部、人の笑い声とも鳥の鳴き声とも付かない独特な声、見た目だけならそれはまさに人型の宇宙人と呼べる存在だろう。

 

 しかし、肉体の輪郭は時折蜃気楼の如くブレブレでハッキリしない上、まるで空間に穴が空いたかのようにそれそのものから生気やエネルギーといったものを感じ取ることができない。

 

 そんな不条理で不気味なナニカ───とりあえず『ナニカ』と呼称する───は、落下地点から宙に浮かび上がると頭部を激しく発光させ、稲妻状の怪光線──攻撃時のエネルギーはなぜが感じ取れた──を無差別に放って破壊活動を開始した。

 

 

「マッ!? っぶなっ!!」

 

 

 突然のことに思わず変な声が出てしまったが、咄嗟に両腕を胸元で交差させ、体全体を覆うような半透明なドーム状のバリアを展開し身を守る。怪光線は耳障りな音を奏でながらバリアの形に沿って逸れていき、大地を抉り、森を破壊し、生物を焼いていった。

 

 突然の事態に怪獣・恐竜は誰一匹としてナニカに襲い掛かる様子はなく、思い思いに逃げ惑う。おそらく、野生の本能がアレと戦ってはダメだと警鐘を鳴らしているのだろう。恐竜も怪獣もナニカや俺と比べて体が小さい。自分より何倍も大きい相手には挑むより逃げる方を選ぶだろう。俺もその立場なら迷わずそうする。

 

 ───だからこそ、このままアレを放っておくことはできない。誰かが止めねば、さらに被害が大きくなるのは火を見るより明らかだ。

 

 沸々と、今までのように胸の内から使命感が湧き上がる。アレを止めなくてはならない。───(ティガ)が、止めなくてはならないと。

 

 

「───デュア!(いくぞ!)

 

 

 意識が切り替わり、自分を鼓舞した俺は怪光線が外れたタイミングでバリアを解除しハンドスラッシュを連射する。狂いなくナニカへと放たれたそれは、しっかりと命中し───しかしナニカに堪えた様子はなかった。

 

 

 ───ヒャハヒャハヒャハヒャハ

 

 

 明確に敵意を持って攻撃したことからか無差別だった怪光線が俺に向かって飛んでくる。それをバリアを張って防がずに紙一重で避けつつハンドスラッシュで応戦する。

 

 ナニカに当たる瞬間をよく見てみれば、光線はヤツの体に当たりはしているものの、その全てがどうやら吸収されているようだった。

 

 

(───生半可な光線技はNGか。なら肉弾戦だ!)

 

 

 とはいえ、フワフワ浮いてる相手に対してスピードを犠牲にするパワータイプでは捉えきれないだろう。だから───ッ!

 

 

「ハァァァァァァァ……フッ!」

 

 

 降り注ぐ怪光線の中、素早くスカイタイプへチェンジして浮遊してるナニカ目掛けて跳躍。勢いそのままに手刀を叩き込もうとした。が───

 

 

 ───キャハハハハハハハハハハ

 

「ッ!?」

 

 

 近付く俺の姿に気付いたのか怪光線を撃つのを止め、ナニカを中心に空間が歪んだかと思えばその姿が忽然と消えた。

 

 攻撃は空振り、俺は周りを見回す。

 一体どこへ……? 最大限の警戒をしていたつもりだったが、不意に左脇腹に衝撃が走った。

 

 

「───カハッ……!」

 

 

 そこへさらに背中へもう1発。先ほどよりかなりの力が込められたのか前へぶっ飛ばされた。体制を整え、背後にいるであろう元凶へ顔を向ける。

 

 そうして目にしたのは腰の捻りが加わった、見事なまでの拳を振り抜いたナニカの姿だった。

 

 

(くっそ、あいつ普通に殴ったりするのかよ!)

 

 

 遠距離特化みたいな見た目してるくせにっ!

 ───違う、そうじゃない。

 カーっと熱くなった頭を左右に振って冷ます。

 急に消え、現れる。瞬間移動? ワープ? 同じ意味か。なんにしても厄介だ。ナニカそのもののエネルギーは感じないため、消えてしまえばすぐに見失ってしまう。

 

 うんざりしながらも視界に捉えているナニカへ向かって突撃。その勢いのままにダイナミックエントリー(飛び蹴り)。スカイタイプの速さが加わったそれは、まるで引き絞られた弓から放たれた矢の如く。

 

 だがまたしても瞬間移動(ワープ)で躱されてしまった。

 

 

(だよナ! 知ってた!! だったら──)

 

 

 スカイタイプのスピードを活かしてデタラメに、縦横無尽に飛んでみる。第三者が見ればきっと紫の線が空にいくつも走っていることだろう。

 

 狙うはカウンター。瞬間移動(ワープ)でヤツが近くに現れ、近接攻撃してきたらそれに合わせて殴り返す。遠距離攻撃だったら? 気合いで避けて近距離してくるまで待つ。

 

 さぁ来い。早く来い。すぐに来い。来い、来い、来い───

 

 

「ッ!(よし、正面ッ!)」

 

 

 運がいいことに、俺の前に立ち塞がるよう現れたナニカ目掛けて拳を突き出す。当たった! と思ったのがフラグだった。

 

 

「っ!? な───」

 

 ───キャハハハハハ

 

 

 コマ取りの連続した細かい動きを、不規則に再生させたような奇怪な動きでナニカは俺の脇をすり抜け、拳は虚しく残された残像を貫くだけであった。

 

 だが、俺はすぐさま体を捻りUターン。伸ばし切った腕を横薙ぎに払い、背後のナニカへ叩き込もうとした。

 

 瞬間、発光。無数の光の鞭がナニカの背から生え伸びる。手刀は弾かれ、右から、左から、上から、あらゆる方向から逆に無防備になった俺の体に容赦なく襲いかかった。

 

 

「あだだだだだだだっ!?くっ、こんのぉ───!」

 

 

 ガードする暇もなく繰り出される連撃をどうにかしようとするも、文字通り手が足りないため耐えきれず、それでもなんとか鞭の嵐の衝撃をなんとか利用して後方へ離脱する。

 

 だがヤツもみすみす逃してはくれないようで、瞬間移動(ワープ)で先回りされ、俺の頭部を両手でがっちりと掴むと電撃を流された。

 

 

「ガァァァァアアア!!!!??」

 

 

 全身がバチバチと沸騰する。痛い。つらい。しんどい。きつい。頭にナニカの鳴き声が反響して気分が悪くなる。

 

 打開の術は想像を絶する痛みによってすぐには思い付かず、そもそも戦闘を感覚(ノリ)で行なっているためそれが最善かどうかすらわからない。

 

 それでもと、なんとかしなければと咄嗟に選んだのはエネルギーの枯渇など考えもしない全力のゼペリオン光線を目の前にいるナニカに撃つことだった。

 

 

「ぐぅぅうぅぅう……あああああぁぁぁああぁあぁあッ!!!」

 

 

 予備動作を全工程カットし、無理やりエネルギーを即チャージしてゼペリオン光線を撃つ。ナニカが瞬間移動(ワープ)する間もなく胴体に命中、激しい発光と光の奔流が発生する。

 

 

(───あこれ、やばっ……ガリガリと急激に削られるっ……エネルギーというか、体力というか、元気というか……!)

 

 

 かつてない程の消耗を感じながら、しかしこれでナニカがエネルギーを吸収できるといっても限界が来るハズ。吸収行為が止まっても無理やり注ぎ込んでやれば過剰吸収で体が膨張し、内側から爆発。盛大に汚ねぇ花火を咲かせて終わり───そう思った。

 

 

「なん………だと………ッ」

 

 

 予想に反して、ナニカのエネルギー吸収は止まることはなかった。加えて、ヤツの体のどこにも膨張のような変化は見られない。

 

 

(こいつ、まだ限界がこないのか……!? このままじゃ俺の方が力尽きそうだ……!)

 

 

 そうなれば、これまでなんだかんだ鳴ることのなかったカラータイマーが鳴るのもおそらく時間の問題だろう。それはダメだ。エネルギーが尽き、動けなくなることだけは避けなくてはならない。

 

 そう思ったオレは光線を止め、オレの頭を掴んでいるナニカの腕を掴んで引き剥がそうと力を込める。だがそれを咎めるようにナニカに力強く抱き寄せられた。

 

 そして、不思議なことが起こった。

 

 

「───は?」

 

 

 俺の頭部はやつに抱き寄せられ、胸に当たったはずだった。普通なら。

 

 だが、おかしなことに俺の頭部はナニカの胸を通り抜け闇が視界に広がっている。

 

 見渡す限りの闇、光を飲み込む深淵。

 

 まるで別の空間のような───

 

 

(ッ!! なんだこれ、俺……コイツの体の中に入ったのか!?)

 

 

 なんとか抜けようと足掻いてみるも、特に抵抗感もなくオレの体はさらにこの暗闇の空間へ入っていた。

 

 

(なんだ、どんどん体が押し込まれ……ッ! まさかコイツ……オレを取り込もうとして……!? ハァ!?)

 

 

 理由はわからない。しかし、ロクなことにならないのはわかる。

 

 必死に取り込まれまいとバタバタと体を激しく動かしたり、ゼペリオン光線で推進力を得て脱出出来ないか試したりするも全て空振り。体はあっという間に腰、足と飲みこまれ───

 

 

「ああああぁぁぁぁぁ………!!!」

 

 

 俺は、この深淵の空間へと放り出されたのだった。

 

 




土下座。

投稿せずモチベ下がるのを防ぐため、短いですがここまで。
え? 年単位で放置? ハハッ。
本来なら「もうちょっとだけ続くんじゃよ」したかったのですが、まぁ思いついたら追加するか次話に回すかなんやかんやします。

ので、失踪します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。