野比のび太の物語  (宇宙戦争)
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第一章・フローズン・バイオハザード編
設定


◇登場人物

 

野比 のび太 11歳

 

数々の大冒険を潜り抜けた歴戦の猛者。今回は一家と共にイギリスへと観光旅行に出掛けるが・・・

 

野比のび郎

 

野比ユリア(結婚によって1度姓が変わったが、夫に先立たれた為、旧姓に戻った)の曾孫。のび太からすると、孫の孫にあたる。余談だが、後に産まれ、のび太の人生に大きく影響することをやらかす野比セワシの祖父でもある人物。

 

◇年表

 

西暦1968年、のび太の父である野比のび助が産まれる。

西暦1973年、クリス・レッドフィールド誕生。

西暦1977年、レオン・S・ケネディ誕生。

西暦1982年、伊丹耀司誕生。

西暦1985年、シェバ・アローマ、赤井秀一誕生。

西暦1986年、シェリー・バーキン、降家零誕生。

西暦1989年、ヘレナ・ハーパー誕生。

西暦1990年、富長タケル誕生。

西暦1993年、優希マユ誕生。

西暦1992年、リッキー・トザワ、ジェイク・ミューラー誕生。

西暦1995年、満月美夜子誕生。

西暦1996年12月1日、宮水三葉誕生。

同年、中須賀エマ誕生。

西暦1997年7月1日、西住まほ誕生。

西暦1998年5月4日、工藤新一誕生

同年7月23日、バイオハザード0。

同年同月24日、バイオハザード。

同年8月7日、野比のび太誕生。

同年同月8日、比企谷八幡誕生。

同年9月下旬~10月1日、バイオハザード2&3。

同年10月23日、西住みほ誕生。

同年12月、バイオハザード~コード・ベロニカ~。

西暦1999年12月1日、立花瀧誕生。

西暦2001年10月24日、島田愛里寿誕生。

西暦2002年、バイオハザード・ダークサイドクロニカルズ『オペレーション・ハヴィエ』。

西暦2003年2月、バイオハザード・ダークサイドクロニカルズ『アンブレラ終焉』

同年、宮水四葉、鶴野留美誕生。

西暦2004年秋、バイオハザード4。

西暦2005年4月、バイオハザード・リベレーションズ。

同年8月~11月、バイオハザード・ディジェネレーション。

同年、森嶋帆高誕生。

西暦2006年8月、バイオハザード5・Alternative Edition『LOST IN NIGHTMARES』。

同年同月8月22日、天野陽菜誕生。

西暦2009年3月、バイオハザード5。

同年夏、ドラえもん劇場版。同じ頃、南米でジェイク=ミューラーが信頼していた傭兵に裏切られる。

同年12月、本編開始

 

補足

 

ちなみに戦車道大会が6月となっているのは、アニメ本編で西住まほが高校3年生で17歳とあったのと、誕生日が7月1日なことから、7月以降は無いと思い、しかし、夏に開催されていないというのも可笑しな話なので、6月としました。ちなみに劇場版では西住まほは18歳になっており、この事から7月、それも夏休み期間中である事から、7月下旬~8月下旬までと思い、散々迷った末、間をとって劇場版の大洗連合対大学選抜チームの試合は8月上旬としました。

 

そして、ガルパン本編を2015年とした根拠は、劇場版で角谷杏が文科省から取得した大学選抜チームとの試合に関する念書のアップを確認し、文書番号が「27文科高第307号」となっており、平成27年=2015年ということになるからです。

 

それとリトルアーミーですが、この物語は元々西住姉妹の年が2つ離れているなど、原作やリトルアーミーⅡと違う部分あったので、原作やリトルアーミーⅡに合わせる形で、小学6年生の頃に起きたという設定で書かれています。中須賀エミが転校した時期ですが、これは一学期も居たとの事なので、同年6月からということで。

 

・登場用語   

 

BSAA

 

原作バイオ参考。・・・と言いたいところだが、改めて説明すると、BSAAは2003年に設立された対バイオテロ特殊部隊。私設バイオハザード部隊が前身となっており、製薬企業連盟というスポンサーがついたことで、BSAAとなった。その後、FBCを取り込む形で国連直轄の組織となり、今に至る。世界中に支部を持っており、8つのブロック(欧州本部、北米支部、南米支部、オセアニア支部、極東支部、西部アフリカ支部、東部アフリカ支部、中東支部)に別けられている。



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プロローグ 観光旅行

野比 のび太 享年82歳(西暦1998年~西暦2080年)

数々の功績を残した21世紀の英雄の一人。後にタイムマシンが発明されると、更に功績を残していることがわかり、畏怖と畏敬を込めて『21世紀最大の英雄』とも称されている。


◇西暦2080年 12月15日 日本 

 

 

「ねぇ、曾お婆ちゃん?」

 

 

「どうしたの?」

 

 

 とある日本の家。

 

 そこでは一人の老人の女性と小学生くらいの少年があることを話していた。

 

 

「曾お婆ちゃんのお父さん・・・曾々お祖父ちゃんだっけ?どういう人だったの?」

 

 

「・・・何故、そんなことを聞くの?」

 

 

 そう、老人の女性の父である男はつい4日前の西暦2080年12月11日に亡くなった。

 

 老人の女性の記憶では、この少年は自分の父親に興味が無かった筈なので、どうしてそんなことを聞くのか、首を傾げた。

 

 

「いや、なんだか葬儀に来た皆がさ。なんか、曾々お祖父ちゃんの事を英雄って言うからさ。どういう人か気になったんだ」

 

 

 少年は照れ臭そうにそう言った。

 

 実際、少年の曾々祖父に対する葬儀は確かに盛大に行われた。

 

 参列者には日本人は勿論、外国人、果ては何処かの国の王族まで居たのだから。

 

 そして、そんな少年を見た女性は嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「ふふっ、分かったわ。話してあげる」

 

 

 そう言いながら、女性──野比ユリアは、少年──野比のび郎に自分の父である男──野比のび太の過去について話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇西暦2009年 12月21日 イギリス フローズン町

 

 

「わぁ、凄いなぁ」

 

 

 少年──野比のび太は目の前の光景に感動していた。

 

 のび太は小学5年生ながら、様々な大冒険を潜り抜けた猛者であり、その功績は知られていれば称えられて余りあることは間違いないだろう。

 

 しかし、のび太はそれを望まなかった。

 

 目立ちたくないから、ではない。

 

 何故なら、のび太は小心者ではあるものの、目立ちたくない性格という訳ではなかったのだから。

 

 だが、何故か大冒険の事だけは自分達だけの秘密にしておこうと思ったのだ。

 

 だからこそ、のび太の功績は後の未来にしか知られていない。

 

 

「やっぱり、イギリスは日本とは違うね」

 

 

「そうだね。なんというか・・・建物に品があるねぇ」

 

 

 のび太の言葉に、のび太の親友であるドラえもんは相槌を打った。

 

 イギリスの建物は基本的に日本より上品に感じられる。

 

 発展具合から言えば、日本人の視点では自分達の方が上だと思えるのだが、普段高層ビルなどの無機質な建物を見ている身からすれば、イギリスの建物は歴史と品があるように思えた。

 

 勿論、日本も古い国ではあるので、上品な建物は多いが、イギリスはまたそれとは違った美しさがあった。

 

 云わば、西洋的な美しさ、とでも言えるのだろうか?

 

 

「しかし、ラッキーだったねぇ。まさか、のび太くんがくじ引きでイギリス行きの旅行券を当てるなんて」

 

 

 ドラえもんは珍しく運の良いのび太の幸運を褒め称える。

 

 のび太の家はこう言ってはなんだが、別に金持ちという訳ではない(金持ちの友人は居るが)。

 

 それどころか、中の下くらいだろう。

 

 勿論、ドラえもんの“どこでもドア”を使ってしまえば、一発で世界中何処にでも行ける(それどころか、10光年という範囲付きなら宇宙にも行ける)のだが、今回は正規の手段で旅行をしている。

 

 では、何故正規の手段でイギリスまで旅行が出来たかというと、冬休み前に行われていた商店街の福引きで、イギリス旅行が当たってしまったからだ。

 

 折角だからと、一家は冬休み中に旅行をしてしまう事に決め、こうしてイギリスまで遙々やって来ていた。

 

 

「本当だよ。まさか、当たるなんてね。いやぁ、これも日頃の行いが良いからかなぁ」

 

 

 のび太はそう言いながら、自分を自画自賛する。

 

 が、のび太を知っている人間からすれば、これは突っ込みどころ満載のセリフだろう。

 

 何故なら、学校によく遅刻をしたり、0点のテストを取ったり(何故か○Xテストでも)、授業中に居眠りをしたり、宿題を忘れたり、しずかのお風呂をよく覗いたり、その事でママに怒られたりしているのだから。

 

 その証拠に、ドラえもんは若干白けた目を向けている。

 

 

「ま、まあ、それは兎も角、折角旅行に来れたんだから、この光景を写真に撮ってみんなに自慢しようよ」

 

 

「そうだね。特にスネオの羨ましがる顔が目に浮かぶぞぉ」

 

 

 のび太はそう言いながら、首に掲げたカメラを持ち、辺りの写真を撮り始める。

 

 実際、この写真でスネオが何処まで羨ましがるかは疑問だ。

 

 何故なら、スネオは金持ちであり、のび太も幾度となくその自慢をされたことをよく覚えているのだから。

 

 まあ、実際はイギリスなどへの観光はスネオにとっても負担が高かったりする。

 

 ハワイなどとは違い、観光に行きやすい土地、という訳でもないのだから。

 

 勿論、そんな事実はのび太は知るよしもないが。

 

 

「はーい。みんな、並んで!写真撮るわよ!」

 

 

 のび太の母──野比玉子はそう言いながら、写真を撮ることを促した。

 

 それを受けた野比一家は慌てて並び始める。

 

 

「はい、チーズ!」

 

 

 

カシャ

 

 

 

 ──こうして、家族は時折写真を撮りながら、旅行を満喫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同日 夜 フローズン町 ホテル

 

 観光を満喫した野比一家はその後、ホテルに泊まっていたが、のび太は今日の光景を思い出して胸が高鳴っていた。

 

 

「いやぁ、面白かったなぁ」

 

 

「そうだね」

 

 

 泊まる部屋は2部屋。

 

 野比一家は四人なので、必然的に比率は2・2となる。

 

 ちなみにのび太はドラえもんと同室だった。

 

 

「でも、最後の予防接種の注射が頂けないなぁ」

 

 

 のび太はそう言いながら、絆創膏に隠された左手の注射痕を見る。

 

 実はこの町では伝染病が流行っているとの噂があり、今日、町の住人達は全員が予防接種を受けることになっていた。

 

 野比一家もまた、午後9時という時間帯に予防接種を受けたのだ。

 

 ちなみにドラえもんはロボット故に見逃されたが、どうしてそんな簡単に見逃されたかは突っ込んではいけない。

 

 

「うん、まあ、仕方ないよ。決まりらしいし」

 

 

「まあ、そうなんだけどさ」

 

 

 のび太は何か腑に落ちなかった。

 

 こんな深夜に、しかも無償で町に大々的に予防接種を行うなど。

 

 一見、聖人君主な行いに思えるが、だからこそ可笑しい。

 

 のび太はそう思ったが、何故そうなのかは検討もつかなかった。

 

 ちなみに、のび太の懸念は間違いではない。

 

 のび太の母国である日本では、社会保険制度の充実に金を掛けているだけあって、保険制度は他の国よりもかなり整っている。

 

 これがアメリカとかだと、いちいち病院ごとに全く桁の違う治療費を払わなくてはならない(事情の知らない日本人が治療費の高い病院に行った結果、風邪1つ治療するのに何百万掛かったという話もある)。

 

 そのお蔭で、日本の国籍を持った者ならば、日本で治療を受けた際に、病院に支払わなければならない額は少ないが、それでも金を全く払わないという訳ではない。

 

 そして、タダより高いものはないという諺が日本にはある。

 

 何かある。

 

 のび太は漠然とそんなことを感じ取っていた。

 

 ・・・しかし、この思考自体が既に可笑しいことにのび太自身は気づいていない。

 

 のび太は決して頭が悪いという訳ではない。

 

 もし悪ければ、大冒険などで秘密道具を上手く運用したり、仲間が危機的状況の際に機転を効かすなどといった行動は出来ないだろう。

 

 しかし、物事を深く考える方では無かったのは明らかだった。

 

 そうでなければ毎回0点など取っていないだろう。

 

 実際、のび太が本気で勉強した時(1日だけだが)は65点というそこそこの点数を取ることが出来たのだから。

 

 

「まあ、いっか。もう寝よう。お休み」

 

 

「おやすみ」

 

 

 どのみち考えても仕方ない。

 

 そう思ったのび太は、疑問を払拭するためにも早く寝ることにした。

 

 そして、二人は眠りにつき、翌朝を迎えることとなる。

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──この時、運命が変わっていることに気づかないまま。



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第1話 異変

◇西暦2009年 12月22日 イギリス フローズン町

 

 

「・・・んんぅ」

 

 

 何時もなら誰かに起こされるまで惰眠を貪っているこの頃。

 

 のび太は何か胸騒ぎを感じたのか、早くに起きた。

 

 

「ん・・・眼鏡、眼鏡」

 

 

 のび太は基本的に眼鏡をかけないと目が見えないのも同然のため、眼鏡を探す。

 

 そして、視界に映った(・・・・・・)それを取ると、のび太は何時もの通り、装着する。

 

 

「あれ?ドラえもん?」

 

 

 そして、辺りを見回したが、何故かドラえもんが居なかった。

 

 しかし、布団がそのままだったので、どうやら先に起きて何処かに行ったらしい。

 

 のび太はそう推測すると、未だ自分が寝不足であるかのような感触を覚える。

 

 

「ちょっと早く起きすぎたかな?」

 

 

 のび太はそう思ったが、二度寝しようにも、何故か寝る気が起きなかったので、そのまま起きて着替え始めた。

 

 そして、着替え終えると、そのまま異変の様子を確かめようと、外へと向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ?この匂い」

 

 

 のび太は不愉快げに眉をしかめる。

 

 部屋を出て廊下へと出たのび太だったが、途端に何か強烈な匂いがした。

 

 それは鉄のような匂い。

 

 もっと分かりやすく言えば血の匂いだということにすぐに思い当たった(・・・・・・・・・)

 

 

(あれ?なんですぐに分かったんだろう?)

 

 

 のび太は自分自身でも、何故これが血の匂いだということがすぐに分かったのか分からなかった。

 

 自分は大冒険を数々経験してきて、実践経験そのものは豊富だが、その中での血生臭い戦いなど数えるほどしか経験していない。

 

 なので、普通なら血の匂いだとは分からない筈だった。

 

 しかし、血の匂いを敏感に嗅ぎ取っていた今、そんな違和感は些細なものだろうと、のび太は思い直す。

 

 何故なら、血の匂いがするということは、それだけの異常事態が現在、起きているということなのだから。

 

 そして、のび太はまず両親の無事を確認するために両親の部屋へと行く。

 

 

 

コン、コン

 

 

 

 両親の泊まる部屋をノックする音が響く。

 

 ・・・しかし、反応はない。

 

 

「パパ、ママ?」

 

 

 まだ寝ているのかと思うが、なにか嫌な予感がして扉のノブを回してドアを開けようとする。

 

 幸い、鍵は掛かっていなかった為か、ドアはあっさりと開いた。

  

 

「パパ、ママ?」

 

 

 再び呼び掛けるが、やはり返事はない。

 

 のび太は嫌な予感を全身で感じつつ、そのまま真っ直ぐと部屋の中へと進んだ。

 

 すると──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パパ・・・ママ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のび太はその光景に絶句せざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オオオオォォオオ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──何故なら、そこには肝心の両親は居らず、代わりに脳がやけに増幅した2体の化け物が居たのだから。

 

 そして、のび太は気づいてしまった。

 

 その化け物達が両親の着ていたであろうパジャマをその身に纏っていることを。

 

 

 

 

 

 

 

ギロッ

 

 

 

 

 

 

 化け物は部屋に入ってきたのび太に気づいた。

 

 そして、のび太に向かってゆっくりと進んでいく。

 

 それを見たのび太は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、助けてぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 脇目も降らず、一目散に部屋から逃走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 フローズン町

 

 

「そう・・・もう手遅れだったのね」

 

 

 のび太がホテルで起きていた頃、一人の赤い服を着た30代半ばの女性が町へと入ろうとしていた。

 

 しかし、今、この町を見た者が居れば、彼女の正気を疑ってしまうだろう。

 

 何故なら、町にはあちこちに先程のび太が見たような脳を増大化させた化け物が彷徨いていたのだから。

 

 それは見る者が見れば、バイオハザードだと一発で分かる光景だった。

 

 そんな街に進んで入ろうとするものは、仕事で入らざるを得ないものか、自殺志願のある者、もしくは誰か大切な者を助け出そうという者の3つでしかない。

 

 そして、女性の場合は1つ目だった。

 

 

「それで・・・この少年を助ければ良いのね?」

 

 

 女性──エイダ・ウォンは写真を右手でヒラヒラとさせながら、後ろに居た青い小さい影──ドラえもんにそう尋ねる。

 

 ちなみに、エイダが手に取った写真には彼の親友である野比のび太が写し出されていた。

 

 

「その通りだよ」

 

 

「まあ、情報は前払いで貰ったし、その上報酬も高額だから約束は守るけど・・・でも、本当にこの町から助け出すだけで良いのかしら?まだ11だという話だけど?」

 

 

 エイダはそう言いながら、本当に町から助け出すだけで良いのかと問う。

 

 彼から聞いた情報が確かならば、この少年は今年11歳になったばかり。

 

 おまけにこれまた彼の情報ではあるが、既に少年の両親は新型ウィルス──Sウィルスに犯されて亡くなっている。

 

 この時点で両親を亡くしているにも関わらず、ここからこの町でバイオハザードを生き延びさせ、更にその後はたった一人にしてほっぽり出すというのは、流石のエイダでさえも躊躇いが出る程の行為だ。

 

 彼女は自分を善人だとは思っていない。

 

 むしろ、悪人だとすら思っている。

 

 が、流石にこのようなことを意図的にするほど鬼畜ではない。

 

 そうであったら、最終的にウェスカーを裏切ったりはしなかっただろう。

 

 

「うん、そうしてくれ。と言うより、本来ならこれですらルール違反なんだ。でも、僕がのび太くんが心配でね」

 

 

「・・・そう」

 

 

 未来の人間(・・・・・)というのは、こんな子供にまで重みを背負わせてどうするつもりなんだ。

 

 エイダはそう思ったが、なんにせよ、自分のやることに変わりはない。

 

 だが・・・最後に1つ、確認しなければならないことがあった。

 

 

「それで、あなたの体が透けていることと何か関係があるの?」

 

 

 エイダはそう言いながら、ドラえもんの体を見る。

 

 ドラえもんの体はエイダの目にすぐに分かるほどに透明化していた。

 

 そして、これを見たのび太のような未来世界を知っている者ならば、こう言うだろう。

 

 歴史の修正力、と。

 

 例えば、ある過去の人間を消した場合、その過去の人間の子孫は最初から存在しなかったことになってしまうという理論だ。

 

 これはのび太も身をもって体験している。

 

 しかし、ドラえもんは西暦2112年という今から100年以上後に造られた猫型ロボット。

 

 その開発者の子孫が消えたという以外の要因では、本来なら消えない筈だ。

 

 ちなみにだが、ドラえもんの開発者の祖先は未だ死んではいない。

 

 にも関わらず、ドラえもんが消え始めていたのは、実はドラえもんにはあるプログラムが内蔵されていたからだ。

 

 と言うより、むしろこのプログラムを設定しなければ、ドラえもんを21世紀には送り出せなかったと言える。

 

 

「うん、まあ、色々事情があってね。たぶん、もうすぐ僕は消えちゃうけど、最後にこの手紙をのび太くんに渡して欲しいんだ」

 

 

 ドラえもんはそう言うと、ある手紙をエイダへと渡す。

 

 

「・・・分かったわ。でも、何故そこまで私を信用するの?報酬だけ持って逃げる、ということは考えなかったのかしら?」

 

 

「それは無いと思いました。あなたは22世紀では結構有名なスパイですから」

 

 

 その発言に、エイダは珍しく苦笑した。

 

 確かに自分はそこそこのスパイだと自負しているが、まさか100年後まで名前が載る程の人物だとは思っていないからだ。

 

 しかし、もし100年後まで名前が載っているのであれば、精々それを汚さないようにしよう。

 

 エイダは自分自身に誓いを立てる。

 

 

「じゃあ、私はそろそろ行くわよ。・・・また会えると良いわね」

 

 

 エイダがそう言った直後、ドラえもんの姿は完全に消えた。

 

 だが、エイダはそれを気にすることもなく、自らの仕事をするためにフローズン町へと侵入していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──こうして、21世紀に存在した22世紀の最先端技術は、今この時を以て消滅したのである。



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第2話 狂気

◇西暦2009年 12月22日 イギリス フローズン ホテル

 

 のび太はホテルの施設内を必死に走り回っていた。

 

 

(どうしよう・・・どうしよう)

 

 

 のび太の頭は完全に錯乱していた。

 

 まあ、朝起きたら両親があんな姿になっていれば当たり前の反応ではあったが、今のこの状況では場合によっては致命的に近い行動だった。

 

 しかし、今までの経験が効いたのか、のび太はすぐにある行動に出る。

 

 

(そうだ!フロントの方に向かえば)

 

 

 自分は英語が話せる(・・・・・・)ので、フロントに行けば取り敢えず危機的状況は知らせられるだろう。

 

 ・・・もっとも、この時点で可笑しいことにのび太は気づいていない。

 

 何故なら、のび太は英語が話せない筈であり、ドラえもんから貰った“ほんやくこんにゃく”の効き目は既に切れていたのだから。

 

 フロントに行くには、エレベーターか非常階段を下らなければならないが、幸い誰にも遭遇することなく、あっさりとのび太はエレベーターへと着いた。

 

 

「よし、これで!」

 

 

 のび太はそう言いながら中へと入り、下りのボタンを押す。

 

 すると、エレベーターのドアは閉まって下へと降り始める。

 

 

 

チン

 

 

 

 その音と共に、エレベーターは一階へと着いた。

 

 のび太はドアが開いた時、急いでエレベーターから下りる。

 

 が──

 

 

「なに・・・これ?」

 

 

 フロントにもまた、あの化け物が大量に居た。

 

 しかも、エレベーターが鳴った音によって、それらの影はのび太に気づいた。

 

 

 

オオオオォォオオ!!!

 

 

 

 そして、化け物たちは各々の得物を持つと、のび太に向かって一斉に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 フローズン町

 

 

「ふん、やはりただの凡人ではこうなるのも道理か」

 

 

 フローズン町のとある施設。

 

 そこでは一人の研究社風の男が、嘲笑と共にその光景を見ていた。

 

 男は東アジア特有の黄色い肌をしており、その事から一発で東洋人だという事が分かる。

 

 

「新型ウィルスは1から造った最高の代物なのに、あの去年逃げた造った小娘(・・・・・)以外、誰も完全適合者が現れないとは、これではあの計画が実行できんではないか!!」

 

 

 男は理不尽な怒りを抱きながら叫ぶ。

 

 そう、男はある計画を実行するために男が造ったウィルスの完全適合者を探していた。

 

 こういうT─ウィルスを始めとしたバイオテロに使われるウィルスは、その全てが始祖ウィルスを介して作られるのだが、男はなんと始祖ウィルスを介さずに1からそれを造ってしまったのだ。

 

 それだけで、男がどれだけ並外れた異才であるかが分かる。

 

 しかも、このウィルスは抗体保持者が誰も居ないように作られており、変異体と完全適合者しか居ないという両極端なウィルスだった。

 

 しかも、その完全適合者でさえ一億人に一人の比率。

 

 T─ウィルスの完全適合者がその10倍である一千万人に一人(それでも奇跡的なまでに低いが)だった事を考えれば、どれだけ強力で人間を選ぶウィルスという事が分かるだろう。

 

 更に言えば、T─ウィルスのように10人に1人という比率で抗体保持者が居るわけではないので、このウィルスに感染した人間は化け物に変異したら、BSAAや各国の軍、警察にBOWとして処分されるだろうし、完全適合者は化け物に変異こそしないが、その潜在能力はT─ウィルス完全適合者などとは比較にならない程高いことを知られれば、普通の生活には2度と戻れないという正に悪夢のウィルスだった。

 

 ・・・ここまで聞けば、既に想像はついているだろうが、町や観光に来た人間に予防接種だと偽ってウィルス入りの注射を打ったのは男とその配下の集団である。

 

 もっとも、それがウィルスであったことは男本人しか知らなかったが。

 

 そして、一晩のうちに効果が出始めた結果、このようなバイオハザードが起きてしまったという訳である。

 

 しかし、そのようなことを起こしても、男には罪悪感というものは欠片も存在していなかった。

 

 全てとある計画を実行するために必要なことだと断じていたからだ。

 

 巻き込まれた人達からすれば、自分勝手な意見であったが、男にとってはそれこそが正義だった。

 

 

「やはり、一億人に一人という比率ではデータが少なすぎるか。もっと──」

 

 

 

ピー、ピー、ピー

 

 

 

 その時、ある音が研究室内に鳴り響いた。

 

 

「むっ。これは・・・」

 

 

 そこで男はあるモニターに映し出された二人の人物を見る。

 

 それは必死になって町中を逃げ回るのび太と町に侵入したエイダだった。

 

 

「・・・」

 

 

 男は気になって更に詳しく調べるため、キーボードを叩く。

 

 すると──

 

 

「ふふっ、女ネズミが一匹入ったか。まあ、こちらはどうでもいい。だが──」

 

 

 男は半ば狂気的な笑みを浮かべながら、のび太を見る。

 

 

「なんとしても、こいつからデータを取らなくてはな」

 

 

 男はニヤリと笑いながらそう言っていた。

 

 ・・・それが自身にもたらす決定的な破滅の判断だということを知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同日 イギリス フローズン町

 

 のび太は必死に町の中を逃げ回った。

 

 しかし、何処に行ってもあの化け物が居る。

 

 加えて言えば、このフローズン町は人口3000人という町としてはそこそこ大きいが、市として考えれば小さい場所でしかない。

 

 当然、そんなので町そのものの面積が大きい筈もないため、隠れる場所そのものも少ない。

 

 

(せめて、武器が手に入れば!)

 

 

 のび太はそう思いながら、武器になりそうなものを探した。

 

 拳銃が手に入れば、最良だが、そんな簡単には手に入らないであろうので、この際ナイフでも包丁でも構わない。

 

 兎に角、素手ではどうにもなりそうにもないので武器が欲しかった。

 

 そんな時──

 

 

「ん?あれは・・・」

 

 

 物陰に隠れていたのび太はある格好をした化け物を発見していた。

 

 それは見るからに警察官か何かの変異体だった。

 

 しかも、よく見ればホルスターには拳銃があったし、肩に掛けていたショルダーにはサブマシンガンがあった。

 

 本来、イギリスの警察は拳銃などの銃火器を持っていない筈なのだが、昨今のバイオハザードによって警察の一部の人間に拳銃や一部ではサプリメントなどの武装が与えられていた。

 

 のび太はその両方を持った警官の化け物と遭遇したのである。

 

 

「・・・」

 

 

 のび太はすぐにあれをどうやって奪うか考え始めた。

 

 既に先程のホテルやここまで来るまでの道程で、向こうがこちらを襲ってくる際にはまず得物を使うということが分かっている。

 

 ・・・ということは、のび太が見つかればまず間違いなく拳銃なり、サブマシンガンなりをぶっぱなしてくるだろう。

 

 そうなる前に倒す必要がある。

 

 何か長い棒でもあればと、のび太は周囲を見渡すが、そう都合よくは落ちていない。

 

 

(いや、待てよ・・・)

 

 

 少々危険ではあったが、のび太はあることを思い付き、それを実行することにした。

 

 化け物がこちら側を向いていない間に、のび太がゆっくりとそれに近づいていく。

 

 その時に一瞬だけ周囲を見渡すが、その警官の服を着た化け物以外の影はない。

 

 これはチャンスだと、のび太は思いつつ更に近づいていく。

 

 

(今だ!)

 

 

 のび太は化け物に向けて急ダッシュした。

 

 流石にその時になると、化け物の方ものび太に気づいたが、その時には既に遅かった。

 

 のび太はその化け物のホルスターから拳銃──ベレッタM92を素早く奪う。

 

 幸い、日本の警察かのように拳銃とホルスターがコードで括り付けられていなかった為、のび太はこれを楽に奪うことが出来た。

 

 そして、そのまま頭に拳銃の照準を向けると、素早く発砲する。

 

 

 

ドン!

 

 

 

 発射された弾丸は化け物の脳にそのまま直撃し、その頭に風穴を開けた。

 

 直後、化け物はそのまま絶命した様子で倒れる。 

 

 

「・・・ふぅ。なんとかなったか」

 

 

 のび太は冷や汗を掻きつつ、なんとかなったこの現状に安堵する。

 

 そして、その警官の化け物からベレッタM92のホルスターとそのマガジン3個、更にはサブマシンガン──H&K MP5とそのマガジン(8発マガジン)を手に入れる。

 

 

(これで、なんとなるかな?)

 

 

 のび太は僅かな希望を持ちつつ、それらを剥ぎ取った。

 

 しかし──

 

 

 

オオオオォォオオ

 

 

 

「!? さっきの銃声で集まってきたか」

 

 

 のび太はそれに気付くと、弾薬の節約を図るために、その場を素早く立ち去っていった。



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第3話 狂人

◇西暦2009年 12月22日 イギリス フローズン町 

 

 

 

ドン!ドン!

 

 

 

 また2体の化け物に風穴を開け、のび太は化け物を倒す。

 

 あれからすぐ、のび太はこの町を脱出するため、観光旅行で入ってきた入り口まで向かったのだが、なかなか辿り着かなかった。

 

 理由は分かる。

 

 大通りには大量の化け物が蔓延っていて、倒しても倒してもキリが無かったからだ。

 

 路地道でも使えれば話は違ったのだろうが、昨日この町に来たばかりののび太が地形に明るい訳もなかった。

 

 加えて言えば、無理に路地道を行っても、その先が行き止まりになったりしていたら、完全にアウトとなる。

 

 それを恐れて、のび太は路地道を使えなかった。

 

 ドラえもんの“通り抜けフープ”でも使えればこれまた話は別だろうが、生憎、そんなものはない。

 

 まあ、そんなことをしなくてもどこでもドアさえ有れば、なんの苦労もせずに全ての問題が解決するのだが。

 

 故に、のび太の取れる選択肢は正面突破しかなかったのである。

 

 

「くそっ!これ捨ててくれば良かった!!」

 

 

 のび太は肩に掛かっているMP5サブマシンガンに向かってそう吐き捨てた。

 

 折角持ってきたこのサブマシンガンであったが、のび太はサブマシンガンの扱いに慣れてなかった上に、あっという間に弾を使いきってしまい、ただの鉄の塊になっていた。

 

 勿論、サブマシンガンは拳銃の弾を応用できるので、ベレッタの弾丸も使えるのだが、肝心のマガジンが元から装填されていたものと予備の物と2つとも、最大10発しか装填できないタイプの物だったのだ。

 

 ちなみにベレッタM92はマガジン内では最大15発装填できる。

 

 勿論、サブマシンガンから発射される拳銃弾は普通に拳銃から撃つよりも威力は高いのだが、装填弾数が少ないということは再装填(リロード)しなければならない回数も多いということでもある。

 

 とてもではないが、今はそんなことを悠長にはやっていられないため、のび太はMP5が全く役に立っていない現状に、悪態をついていたのだ。

 

 

 

ドン!

 

 

 

オオオオォォオオ

 

 

 

 また1体の化け物を倒すが、キリがないとのび太は感じていた。

 

 

(こうなったら、邪魔になる奴だけ倒して突撃を──)

 

 

 のび太がそう決意しかけた時だった。

 

 

「こっちだ!急げ!」

 

 

 そう言いながら、叫ぶ日本人の男が居た。

 

 

「!?」

 

 

 のび太はその男の呼び掛けに反応する形で、のび太は方向転換し、その男が居る建物まで向かっていく。

 

 そして、のび太がその建物まで入った瞬間、男は扉を閉じた。

 

 

「ふぅ、助かったねぇ」

 

 

 男はそう言いながら、一息ついていた。

 

 

「はい、助かりました。ありがとうございます」

 

 

「いやいや、気にしなくて良いよ。それより、向こうの部屋へ行こう。ここも突破されたら大変だからね」

 

 

「はい、分かりました」

 

 

 のび太はそう言いながら、男の指差す方向に進もうとして──

 

 

 

ゾクッ

 

 

 

 妙な悪感が身体を迸った為、本能的に身体を前に倒した。

 

 すると──

 

 

「──おや、残念だ」

 

 

 ──そこには注射器を持った男の姿があった。

 

 どう見ても、自分に刺そうとしたとしか思えないその行動は、のび太に警戒の色を浮かべさせるのに十分だった。

 

 

「おじさん、なんのつもりですか?」

 

 

「いやいや、何処か怪我しているのではないかと思って治療してあげたいと思ってね。それでこの注射を用意したんだよ」

 

 

 男はそう言いながら、ニコニコと笑っていたが、それが却って100パーセント嘘だということをのび太に認識させた。

 

 加えて、もう1つ、あることに気づく。

 

 

「おじさん、もしかして、この騒動の原因を知っているの?」

 

  

 のび太が感じたもう1つの疑問。

 

 それは男が生きていることそのものだった。

 

 見ての通り、この街は地獄と化しており、自分が起きてから今まで“人間”を見たのはこの男が初めてである。

 

 しかし、周囲が真っ黒な空間の中に白という色が有れば、白が異質に見えるように、化け物だらけの空間の中では人間が居ることこそが異質に見えるのだ。

 

 どうして自分だけが無事なのかは知らないが、この男に何か原因があるのではないか?

 

 そのようにのび太は考えていた。

 

 しかし、そういう推測を立てて男に言ったとしても、男がそれに答えなければならないという道理はない。

 

 しかし──

 

 

「ほう、よく分かったね」

 

 

 男はいともあっさりとのび太の発言を認めた。

 

 

「やっぱり・・・なんでこんなことをしたんです!!」

 

 

「それは君、娘のためだよ」

 

 

「娘のため?」

 

 

「そう。私には今、8歳の娘が居てね。その子がとてつもなく天才なんだ」

 

 

「・・・」

 

 

 のび太は黙ってその男の言葉を聞いていた。

 

 しかし、同時に男が抱え持っているであろう何か異質なものに気づいてしまい、思わず冷や汗を掻く。

 

 

「そして、私は考えたのだよ。その天才性をもっと活かせないのか、と。そこで私はあることを考えた」

 

 

「あること?」

 

 

「そうだ!君や周りの人間に予防接種として投与したウィルス。S─ウィルスを世界中に広めて、愛里寿と同じような天才を広め、天才同士で競争させる事で人類を進化へと導くと!!」

 

 

 男はそう演説したが、のび太には何を言っているのか分からない。

 

 いや、むしろ、これを理解できたら、そいつは相当なヤバイ奴だろう。

 

 なんせ、彼の言っていることは要約すれば、『人類を一部の優秀な人物だけ残して、あとは絶滅させます』と言っているようなものなのだから。

 

 

「何を言っているのか、分からないけど・・・おじさんがこの騒動を起こしたんだね?」

 

 

「そうだ!」

 

 

「そうですか・・・ところで、化け物になった人達は元に戻せますか?」

 

 

 のび太は若干冷めたような声で問う。

 

 そして、男はその問いに対して、小馬鹿にしたような態度でこう言った。

 

 

「戻せるわけないだろう。いや、むしろ不要と言える。S─ウィルスに適合できなかったという事は凡人に過ぎないのだからな。生きている価値がない」

 

 

 男は誇るようにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけるな!!!」

 

 

 

 のび太は普段は絶対に出さないであろうほどの大声で叫ぶ。

 

 

「なんだね、いきなり」

 

 

 男はそう言いながら、心底分からないといった風な反応を示す。

 

 だが、当然のことながら、そのような反応はこの場では当人が狂人であるということを主張しているようなものだ。

 

 なんせ、のび太の怒りは世間一般では常識的なものだったのだから。

 

 

「何が天才だ!!そんなことの為に、僕のパパとママは死んだっていうのか!!」

 

 

 のび太は怒り狂っていた。

 

 当然だろう。

 

 何故こんなことになったのかと思えば、その元凶が現れて訳の分からない事を言い出したのだから。

 

 おまけに化け物に変異させておきながら、元に戻す手段がないと言う。

 

 このようなふざけた状況に、幾ら臆病で優しいのび太も怒り狂わざるを得なかったのだ。

 

 

「ふむ、どうやら君の両親は君と違って天才ではなかった訳だね。これで凡人の子が必ずしも凡人ではないと証明された訳か」

 

 

 男は感心したような感じでそう言いながら、次いてのび太にこう言葉を発する。

 

 

「教えてくれてありがとう。だが、どうやら君は私の思考には賛同してくれないようだね。・・・非常に残念だ」

 

 

 男はそう言うと、何かのリモコンを取りだし、そのスイッチを押した。

 

 すると──

 

 

 

オオオオォォオオ

 

 

 

オオオオォォオオ

 

 

 

オオオオォォオオ

 

 

 

 突然、壁が開き、その四方にあの化け物が何体も存在していた。

 

 

「ああ、それと言い忘れていた。私の名前は島田透。君が生きていたら、また会おう」

 

 

 男──島田透はそう言いながら、化け物の中を掻い潜ってその包囲網の外へと出ていった。

 

 何故か化け物たちは透を襲うことはなく、その包囲網の中にはのび太だけが残される形となった。

 

 

「くそおおおおぉぉおおお!!!」

 

 

 のび太は透に続こうとするが──

 

 

 

オオオオォォオオ!!!!

 

 

 

 先に化け物の方がのび太へと襲い掛かっていった。



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第4話 心の壊音

◇西暦2009年 12月22日 イギリス フローズン町

 

 

 

ドン!ドン!

 

 

 

 のび太の周囲に現れた化け物は四方で合計12体。

 

 つまり、一方向につき3体ということになる。

 

 のび太はその内、前方の2体の頭にベレッタM92の弾丸をぶちこむと、そのまま倒された2体が開ける形となった穴に向けてダッシュ。

 

 その後、前方の最後の一体の腕を捻りつつ、のび太が居た時点から左方向の敵に向けさせる。

 

 

 

ドン!ドン!ドン!

 

 

 

 その後、右方向の敵三体に向けてそれぞれ頭部に銃弾を撃ち込んで倒す。

 

 その間にのび太の居た位置から後方に居た敵はのび太へと接近したが、攻撃には今一歩距離が足りなかった。

 

 左方向の3体は間に合ったが、盾にされた前方の最後の1体が邪魔でのび太まで攻撃が通らなかったのだ。

 

 そして、のび太は後方の3体の脳へとベレッタの弾丸を発砲し、これまた倒す。

 

 残りは4体。

 

 のび太は盾にしていた化け物を左方向の3体の方へと思いきりつき出す。

 

 そして、残り4体を得意の早撃ちで仕留めようした。

 

 しかし──

 

 

 

カチッ、カチッ

 

 

 

「嘘だろ!ここで弾切れかよ!!」

 

 

 のび太の拳銃は先程の3発で既に弾切れになっていた。

 

 予備のマガジンももう無い。

 

 如何にのび太の射撃能力が素晴らしくとも、銃とその弾丸が無ければ機能しないのだ。

 

 それを理解し、のび太は拳銃をホルスターに戻しつつ身構える。

 

 その時──

 

 

 

ドドドドドドドドドド

 

 

 

 ──救援はやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事かしら?」

 

 

 女性──エイダはのび太が持っている物と同じMP5を抱えながら佇んでいた。

 

 

「あなたは?」

 

 

「説明は後。とにかく、私と一緒に来なさい」

 

 

 エイダはそう言いながら、さっさと建物を出て先へと行った。

 

 

「・・・」

 

 

 のび太は突如として現れた女性に半ば呆然としつつ、どうするか暫し迷った。

 

 つい先程の事もあり、罠であることを警戒していたからだ。

 

 しかし、ここに居ても仕方の無い事は確かだった。

 

 何故なら、土地勘もない上に、武器である拳銃とサブマシンガンも既に弾薬が尽きている。

 

 それに他に宛があるわけでもない。

 

 エイダについていく意外の選択肢は実質無いに等しいのだ。

 

 

「ついていくしかないか・・・」

 

 

 のび太はそう思いながら、エイダの後を追う形で建物を出た。

 

 そして、建物を出ると、先程の女性と共に、化け物の大群が目に映る。

 

 

「・・・残念だけど、あなたに構っている暇は無さそうね。これを渡すから自分でなんとかしなさい」

 

 

 エイダはそう言って、のび太にベレッタM92の予備マガジンとMP5のマガジン(32発マガジン)を渡す。

 

 

 

オオオオォォオオ

 

 

 

 そんなエイダとのび太に向かって化け物達は襲い掛かってくる。

 

 

「!?」

 

 

 のび太はまず自分の持つMP5に装備されていた10発マガジンを引き抜いて捨てつつ、先程エイダに渡された32発マガジンを装填する。

 

 そして、のび太はそれをフルオートモードにすると、襲い掛かってくる化け物達に向けて発砲する。

 

 MP5の発射速度は毎分800発。

 

 毎秒に直すと13発強だ。

 

 これだけのペースだと如何にMP5の中では弾数が一番多い32発マガジンといえども、全弾を撃ち尽くすには3秒と掛からない。

 

 加えて言えば、フルオートモードとなると、のび太ですら精密な射撃はほぼ不可能だ。

 

 特に今までのように一人一発などという芸当はほぼ不可能だろう。

 

 しかし、それを分かっていて尚、のび太はこのモードを選んだ。

 

 何故かというと、今は少しでも瞬間火力が必要だからだ。

 

 そして、フルオートされたMP5は3秒ほどで撃ち尽くされたが、化け物の7体ほどの態勢を崩すことに成功していた。

 

 その内、4体がフルオートにも関わらず頭部に命中したことで倒されたのは、流石のび太だと言えるだろう。

 

 だが、それでのび太が油断することはない。

 

 のび太はその隙に先程渡されたベレッタM92のマガジンをホルスターから取り出したベレッタM92へと装填する。

 

 

 

ドン!ドン!ドン!

 

 

 

 そして、先程、撃ち漏らし、倒れていた3体の化け物に対して発砲し、頭部に命中させる。

 

 

「よし!次だ!」

 

 

 のび太はそう言いながら、同じく次々に化け物を撃ち倒していくエイダに続いていく。

 

 そして、30分後。

 

 二人は無事にフローズンからの脱出に成功することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇イギリス フローズン町 郊外

 

 

「助けてくれてありがとうございます」

 

 

 あれから助けに来てくれた女性──エイダの助けでフローズン町を脱出したのび太はエイダに礼を言っていた。

 

 ただし、その声には警戒の色が含まれている。

 

 当然だろう。

 

 先程、自分を助けた島田透が敵であったと判明したばかりだったのだから。

 

 しかし、エイダはそれに気づいていながらも、気にしていないように振る舞う。

 

 

「まあ、警戒するのは分かるわ。だから、まずはこれを見て」

 

 

 エイダはそう言うと、懐から書類を取り出してのび太に向けて投げ渡す。

 

 そして、のび太はエイダに警戒しながらもそれを拾い、中身を読み進めた。

 

 

「こ、これって・・・」

 

 

 それはドラえもんの手紙だった。

 

『のび太くんへ

 

急にこんなことになってしまって君は驚いてもいるだろうし、悲しんでもいるだろう。しかし、今ここに書かれてあることをよく読んで欲しい。僕が君の時代、つまり、21世紀に来た理由。それは君の未来をより良くする為じゃない。いや、正確に言えば君の人生に関わることじゃない。夏に様々な冒険をしただろう?中には地球に関わる危機もあった。あれを解決するために僕はこの時代に派遣されたんだ。まあ、それだけならば僕一人で解決すれば良いことなんだけど、それが君のところだったのは、もう1つ理由があるんだ。それは君を鍛えること。より正確には君がこれから経験する数々の危機を乗り越えるような人物に仕立て上げることだ。本来なら、そんなことは航時法で許可されないんだけど、君の場合は特例でね。そして、君に投与されたS─ウィルスは22世紀でも詳細が分かっていない代物で、様々な潜在能力を開花させる。それを駆使してどうにか生き残ってくれ

 

ドラえもんより

 

追悼

 

僕が居なくても、頑張ってね』

 

 

「ど、ドラえもん・・・」

 

 

 のび太はその手紙を震えながら、読んでいた。

 

 今考えれば可笑しいとは思う。

 

 時間軸を変えるのはいけないと普段から口を酸っぱくしておきながら、ドラえもんはのび太の時代へとやって来てのび太という人物の時間軸に干渉している。

 

 この矛盾に気づかなかったのは、ただのび太が子供だったからなのだろう。

 

 ・・・いや、それでも出木杉やスネオ辺りは気づいていたかもしれない。

 

 やはり、自分はただの馬鹿だった。

 

 そういうことだろう。

 

 そして、もう1つの事実に気づいてしまう。

 

 

「エイダさんって言いましたっけ?」

 

 

「なに?」

 

 

「ドラえもんはどうなりましたか?」

 

 

「・・・」

 

 

 のび太の質問にエイダはため息をはく。

 

 めんどくさい質問をしてくれた、という顔だ。

 

 とは言っても、誤魔化すつもりはない。

 

 

「消えたわ」

 

 

「・・・」

 

 

 のび太は黙ったままそれを聞き入れる。

 

 そして、悟る。

 

 もうドラえもんは帰ってこないのだということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うわああああああああああああああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然の両親の死。

 

 次に化け物に襲われるという体験と戦う事への恐怖。

 

 そして、親友との別れ。

 

 これらの事態が立て続けに続いた事で、少年の涙腺は遂に決壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イギリスの冬の空の下。

 

 一人の少年の泣き叫ぶ声が響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、少年はこの日を境に何かが壊れたような行動を示すこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇西暦2009年 12月23日 日本 とある街頭

 

 

『臨時ニュースをお伝えします。今日未明、イギリスのフローズンという町でバイオハザードが発生し、町の住民が全滅するという事件が発生しました。また、このバイオハザードが起きた現場には日本人観光客も存在しており──』



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第二章・白の聖女編
設定2


◇登場人物

 

野比 のび太 11歳→12歳

 

数々の大冒険を潜り抜けた歴戦の猛者。一家と共にイギリスへと観光旅行に出掛けるが、その時に両親と親友であるドラえもんを亡くした。その後、のび太は修羅の道を歩み・・・

 

フィーネ 13歳

 

のび太より2つ年上の銀髪碧眼の美少女。自分が好きだった男を殺したのび太を恨み、彼に近づくが・・・

 

◇年表

 

西暦1968年、のび太の父である野比のび助が産まれる。

西暦1973年、クリス・レッドフィールド誕生。

西暦1977年、レオン・S・ケネディ誕生。

西暦1979年、クレア・レッドフィールド、須賀圭佑誕生。

西暦1980年、レベッカ・チェンバース誕生。

西暦1982年、伊丹耀司誕生。

西暦1985年、シェバ・アローマ、赤井秀一誕生。

西暦1986年、シェリー・バーキン、降家零誕生。

西暦1989年、ヘレナ・ハーパー誕生。

西暦1990年、富長タケル誕生。

西暦1993年、優希マユ誕生。

西暦1992年、リッキー・トザワ、ジェイク・ミューラー誕生。

西暦1995年、満月美夜子誕生。

西暦1996年12月1日、宮水三葉誕生。

同年、中須賀エマ、フィーネ誕生。

西暦1997年7月1日、西住まほ誕生。

西暦1998年5月4日、工藤新一誕生。

同年7月23日、バイオハザード0。

同年同月24日、バイオハザード。

同年8月7日、野比のび太誕生。

同年同月8日、比企谷八幡誕生。

同年9月下旬~10月1日、バイオハザード2&3。

同年10月23日、西住みほ誕生。

同年12月、バイオハザード~コード・ベロニカ~。

西暦1999年12月1日、立花瀧誕生。

西暦2001年10月24日、島田愛里寿誕生。

西暦2002年、バイオハザード・ダークサイドクロニカルズ『オペレーション・ハヴィエ』。

西暦2003年2月、バイオハザード・ダークサイドクロニカルズ『アンブレラ終焉』

同年、宮水四葉、鶴野留美誕生。

西暦2004年秋、バイオハザード4。

西暦2005年4月、バイオハザード・リベレーションズ。

同年8月~11月、バイオハザード・ディジェネレーション。

同年、森嶋帆高誕生。

西暦2006年8月、バイオハザード5・Alternative Edition『LOST IN NIGHTMARES』。

同年同月8月22日、天野陽菜誕生。

西暦2009年3月、バイオハザード5。

同年夏、ドラえもん劇場版。同じ頃、南米でジェイク=ミューラーが信頼していた傭兵に裏切られる。

同年12月、第一章・フローズンバイオハザード編。

西暦2010年4月~10月、ガールズ&パンツァー リトルアーミー。

同年8月、バイオハザード THE STAGE。

同年7月、第二章・白の聖女編開始。

 

補足

 

ちなみに戦車道大会が6月となっているのは、アニメ本編で西住まほが高校3年生で17歳とあったのと、誕生日が7月1日なことから、7月以降は無いと思い、しかし、夏に開催されていないというのも可笑しな話なので、6月としました。ちなみに劇場版では西住まほは18歳になっており、この事から7月、それも夏休み期間中である事から、7月下旬~8月下旬までと思い、散々迷った末、間をとって劇場版の大洗連合対大学選抜チームの試合は8月上旬としました。

 

そして、ガルパン本編を2015年とした根拠は、劇場版で角谷杏が文科省から取得した大学選抜チームとの試合に関する念書のアップを確認し、文書番号が「27文科高第307号」となっており、平成27年=2015年ということになるからです。

 

それとリトルアーミーですが、この物語は元々西住姉妹の年が2つ離れているなど、原作やリトルアーミーⅡと違う部分あったので、原作やリトルアーミーⅡに合わせる形で、小学6年生の頃に起きたという設定で書かれています。中須賀エミが転校した時期ですが、これは一学期も居たとの事なので、同年6月からということで。

 

・登場用語    

 

BSAA

 

原作バイオ参考。・・・と言いたいところだが、改めて説明すると、BSAAは2003年に設立された対バイオテロ特殊部隊。私設バイオハザード部隊が前身となっており、製薬企業連盟というスポンサーがついたことで、BSAAとなった。その後、FBCを取り込む形で国連直轄の組織となり、今に至る。世界中に支部を持っており、8つのブロック(欧州本部、北米支部、南米支部、オセアニア支部、極東支部、西部アフリカ支部、東部アフリカ支部、中東支部)に別けられている。

 

オールレンジ

 

のび太に付けられたコードネーム。射撃においてかなりの腕を誇ると見なされたことから、このコードネームが付けられた。



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第5話 1年後

今回の章はある漫画の主人公の過去の出来事が基になっています。まあ、分かる人には分かると思います。


◇西暦2010年 6月28日 ドイツ

 

 

「あ、あの・・・これ、受け取ってくれませんか?」

 

 

 ドイツのとある都市の公園。

 

 そこでは一人の少女が青年へとハンカチを渡していた。

 

 少女は絶大な美貌を誇る美少女であり、同じく公園に居る他の人達もまた、彼女の美貌に釘付けとなっている。

 

 しかし、対称的に青年は普通といった感じの容姿をしているので、どうしてこんな奴が、という視線もそれに混じっている状態だった。

 

 更に言えば、青年へと渡したハンカチもまた、少女が独自に編んだ刺繍こそされているものの、微妙に高級感が溢れる生地であることが分かる。

 

 この事から、少女が金持ちであり、しっかりとした躾がされた家柄であることは、見る人が見れば分かる。

 

 しかし、青年はというと、これはなんの変鉄もない、それこそ近くの研究施設の警備員の仕事をしているだけの普通の一般人だった。

 

 そんな二人が会って、こうして会話をしていることには、ある運命的な出会いがあったのだが、今は割愛する。

 

 

「これを?」

 

 

「は、はい!」

 

 

「ありがとう。じゃあ、遠慮なく貰っていくね」

 

 

 青年はそう言いながら、ハンカチを折り畳み、ポケットへと仕舞う。

 

 しかし、少女の方はそれを見て、何故かションボリとした反応を見せる。

 

 

「どうしたの?」

 

 

「い、いえ!なんでもないです!!」

 

 

 少女は慌てて否定した。

 

 実は少女が青年に本当にプレゼントしたかったのは、ハンカチではなく、刺繍で書かれた文字の方だったのだ。

 

 しかし、今更指摘するのは恥ずかしいと思った為、なんでもないと答えてしまった。

 

 

「そう?あっ、そうだ」

 

 

 青年は何かを思い出したかのように、ポケットから二枚のチケットを取り出す。

 

 

「今度、ジェームズのコンサートが有るんだ。一緒に行かない?」

 

 

「は、はい!喜んで!」

 

 

 少女は青年にデートに誘われた事が嬉しかったのか、見る者をあっという間に心の底まで魅了してしまう程の笑みで微笑んだ。

 

 この時、少女は間違いなく幸せだったと言えるだろう。

 

 この場に居た誰もがそう思ってしまうほど、彼女の笑みは美しかったのだから。

 

 しかし、彼女は気づいていただろうか?

 

 この幸せが1ヶ月もしないうちに脆くも崩れ去ることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇西暦2010年 7月6日 深夜 ドイツ 某研究施設

 

 この日の夜、ドイツでは雨が降っていた。

 

 雨とは言うまでもないが、酸性の水が空の雲から降ってくる現象である。

 

 しかし、それは時として別の表現をする場合もある。

 

 例えば、血の海。

 

 人が死んで、その周りが血で覆われていることから表現される。

 

 そして、この日、研究施設の内外では普通の雨と共に血の雨が降り注いでいた。

 

 

「・・・ふぅ。終わったか」

 

 

 少年──野比のび太は周囲を見渡しながらそう呟いた。

 

 しかし、そんな気の抜けたような言葉とは裏腹に、その目には冷たい眼光が宿っており、今のび太を一般人が見たとしたら、恐怖で身体を震えさせてしまうだろう。

 

 それほどの雰囲気がのび太から漂っていた。

 

 そして、そんなのび太が抱え込んでいる銃の名はH&K MP7。

 

 かつてのび太やエイダが使用したH&K MP5を造ったのと同じH&K社(ヘッケラー&コッホ社)が開発したPDWだ。

 

 ちなみにPDWとは、一見サブマシンガンのように見えるが、弾丸に専門の物を使うことで威力と火力を高めた銃火器だ。

 

 流石にアサルトライフルには及ばないが、サブマシンガンよりは明らかに威力や火力はある。 

 

 更に携帯性などを考えれば、ある意味では最高に使い勝手の良い銃種と言えるだろう。

 

 ただし、サブマシンガンのように拳銃の弾は使えないので、互換性が無いため、汎用性という意味ではサブマシンガンよりは劣るが。

 

 

「ん?」

 

 

 そんな風に辺りを見回していた時、1つの死体がのび太の目に入った。

 

 いや、正確にはその死体が持っていたハンカチに、と言った方が正しいだろうか?

 

 あまりに大事そうに持っていたので、つい目に入れてしまったのだ。

 

 おそらく、死の間際にそのハンカチを取り出したのだろう。

 

 逆に言えば、その死体の男にとってはかなり大事なものだったということだ。

 

 

「これは・・・」

 

 

 のび太はそのハンカチを拾い上げる。

 

 既に血に濡れてはいたが、かなり高級そうな生地で造られたハンカチであることはすぐに分かった。

 

 そして、のび太はそのハンカチに文字の刺繍がされていることに気づき、その刺繍の文字を読んだ。

 

 すると──

 

 

「!?」

 

 

 その文字を読み上げた途端、今まで冷たい目のままだったのび太の眼光に動揺の感情が走った。

 

 そして、なにを思ったのか、そのハンカチを胸ポケットの中へと仕舞い、そのままこの場から立ち去っていった。

 

 その一時間後、通報を受けた警官隊が到着したが、そのあまりの凄惨な光景に絶句し、その後、研究所の“中身”を見たことによって、このニュースはドイツ中を震え上がらせることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇西暦2010年 12月24日 深夜 ドイツ 

 

 

(もうあれから1年か)

 

 

 深夜のドイツのとある公園。

 

 その中のベンチに座るのび太は1年前から今までの事を思い返していた。

 

 あの日、家族と親友をいっぺんに失ったのび太は、日本に帰国するという道を選ばなかった。

 

 いや、選べなかったのだ。

 

 あのまま日本に帰ってしまえば、何か自分の大事なものが決定的に壊れてしまいそうだったのだから。

 

 そして、のび太は復讐への道を選んだ。

 

 最終目標は勿論だが、島田透の殺害。

 

 その為、のび太はこの1年、ヨーロッパ各国を周り、彼とその配下の居る施設を襲いまくった。

 

 だが、結局、島田透の殺害は達成することは出来ておらず、のび太の復讐戦はまだ終わっていなかった。

 

 だが、今日はクリスマスイブ。

 

 去年はその直前にフローズン・バイオハザードが起こったので無理だっただろうが、あの時大人しく日本に帰国していれば、もしかしたら引き取られた先によってクリスマスイブを祝って貰えたかもしれない。

 

 まあ、もしそうなる未来が確定されていても、のび太はそれを選ばなかっただろうが、それでものび太は思わずにはいられなかった。

 

 

「・・・しかし、寒いな。宿に戻ろうかな?」

 

 

 12月のドイツはかなり寒い。

 

 日本より緯度が高いのだから当たり前だが、如何にヨーロッパの寒さにある程度慣れたのび太と言えど、去年までは日本に住むれっきとした日本人だったのだ。

 

 加えて、自分の惨めさを自覚してしまえば、寒さは余計に感じ取られる。

 

 のび太はベンチから立ち上がると、宿へと戻る帰路へと着こうとして──

 

 

 

チャキ

 

 

 

 ──流れるように右腰のホルスターに入っていたベレッタM92を引き抜く。

 

 

「誰?」

 

 

 姿は見えない。

 

 しかし、確かに何かが居る。

 

 そのような感触を、のび太は確かに感じ取った。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、それは現れる。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・オールレンジ、だな?」

 

 

「!?」

 

 

 いきなり現れた気配にのび太は思わず身を固くする。

 

 オールレンジ。

 

 それは数ヶ月前から、何時の間にやら、裏社会でのび太に付けられたコードネームだ。

 

 つまり、それを表す意味は『オールレンジと呼ぶ人間=裏社会の人間』ということでもある。

 

 しかし、目の前の人間はマフィアなどといった類いのものではないだろう。

 

 裏社会の人間には2つの種類がある。

 

 直接的な行動を取る暴力系の人間と、隠密行動を取る暗躍系の人間。

 

 この2つは一見すると、後者の方が強いように感じられるが、実際はそうでもない。

 

 何故なら、一流の諜報員が手練れの傭兵に負ける例など、決して少なくは無いからだ。

 

 ちなみにのび太はどちらかというと前者の直接的な行動を取るタイプだが、目の前の男はおそらく後者の暗躍系の人間であろう事はすぐに分かった。

 

 そして、のび太もこの1年間、実戦は経験しているため、この手の直前まで気配を感じ取れない輩が余程の手練れであるという事は、のび太も理解していた。

 

 更に言えば、この僅かに漏れる殺気。

 

 のび太に仕事を依頼しに来た訳ではなく、のび太を殺しに来た方だろう事は丸分かりだ。

 

 のび太は喉をゴクリと鳴らしつつ、戦闘態勢を整える。

 

 

「念のため聞いておくけど・・・何者?」

 

 

「・・・」

 

 

 男は答えない。

 

 だが、のび太にとってはそれで十分だった。

 

 少なくとも、自分を殺しに来たということは分かったのだから。

 

 

「・・・行くぞ」

 

 

 ──男はナイフを引き抜くと、のび太に向けて突撃していった。



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第6話 目撃者の少女

◇西暦2010年 12月24日 夜 ドイツ とある公園

 

 

 

ドン!ドン!

 

 

 

 のび太はまずベレッタM92から2発の銃弾を発射する。

 

 狙いは頭部。

 

 この男がどういう装備をしているのかは分からない。

 

 しかし、防弾チョッキを着込んでいる可能性もあり、もしそうだとすれば威力の低い拳銃の弾丸など、サブマシンガンから発射でもしない限り、まず効果的な打撃は不可能だ。

 

 となると、狙い目は頭部しかない。

 

 幸い、防弾ヘルメットなどを被っている様子はないので、命中させすれば十分絶命させられる。

 

 のび太はそう読んで銃弾を発射し、2発の9×19ミリパラベラム弾はその目論見にしたがって、男の頭部へと向かっていく。

 

 そのまま当たってしまえさえすれば、まず間違いなく男は絶命していただろう。

 

 しかし──

 

 

 

ガキン!ガキン!

 

 

 

 男はその弾丸をナイフで一閃した。

 

 その結果、弾丸は真っ二つに切られたまま失速し、地面へと落ちる。

 

 

「!?」

 

 

 のび太は驚く。

 

 弾丸をかわすまでは想定していたが、まさか弾丸を斬るとは思っていなかったからだ。

 

 だが、大冒険でこの手の想定外の事態に慣れていたお蔭か、表情をすぐに戻すが、その間に男はどんどんと接近してきて、のび太を捉えられる位置まで近づいていた。

 

 

「チッ!」

 

 

 男をナイフの横凪ぎにしてのび太に攻撃を加えるが、のび太は膝を曲げて上半身を伏せる事でかわすと、すぐさまがら空きになった男の胴体に向けて発砲する。

 

 至近距離での攻撃。

 

 これだけの距離であれば、防弾チョッキを着込んでいたとしても衝撃によって多少の打撃にはなる。

 

 そう読んでのび太は発砲した。

 

 だが──

 

 

 

ドン!ドン!

 

 

 

シュッ

 

 

 

 それすらも男にはかわされてしまう。

 

 これだけの至近距離だったら、特殊部隊クラスの人間ですら全く反応が出来ないのだが、どうやら男は特殊部隊の隊員以上の手練れらしい。

 

 そして、男は再びナイフをのび太に向けて振るってきたが、のび太は右に向けて転げ回る事でかわしつつ、その態勢のまま、男に向けて更に発砲した。

 

 

 

ドン!ドン!ドン!

 

 

 

シュッ、シュッ、シュッ

 

 

 

 しかし、先程と同じくまたかわされてしまう。

 

 のび太は体を起こしながら、一旦、距離を置くべくバックステップをする。

 

 すると、男はそれをチャンスと思ったらしく、距離を詰めてくる。

 

 確かにバックステップは本来ならば、相手に隙がある時に距離を取る手段であり、隙がない時は相手に隙を見せる悪手でしかない。

 

 それを男がチャンスだと見たのは、決して間違いではない。

 

 だが、男はこの時、致命的なミスを犯していた。

 

 それはのび太自身を侮ってしまっていたことだ。

 

 確かにのび太は一見子供だし、実際もそうだ。

 

 銃などの武器さえ何とかしてしまえば、あまり脅威ではない。

 

 そう考えたとしても、その人物を責めることは出来ないだろう。

 

 しかし、責めることは出来なかったとしても、男にとってはミスであることは変わり無かった。

 

 何故なら、のび太はS─ウィルスの適合者であり、特に身体能力の強化はお手の物だったのだから。

 

 それに男が気づいた時には既に遅かった。

 

 

「──!?」

 

 

 最後に男が見た光景。

 

 それは自分に物凄い速さで迫ってくるのび太の足だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ。なかなか手強かったな」

 

 

 のび太は数分間の激闘を終えて、思わず息を吐いていた。

 

 先程の男の首はのび太の蹴りによって胴体と切り離されており、絶命していることは明らかであったが、それでものび太は後続を警戒して周囲を見渡す。

 

 

「!?」

 

 

 そして、見てしまう。

 

 白銀の髪に碧眼の瞳をしたとてつもない美少女がジッとこちらを見ているのを。

 

 不味い、とのび太は思う。

 

 

(この現場を見られたか)

 

 

 少女の雰囲気を見るに、この現場を見ていたのは間違いない。

 

 百歩譲って殺害の光景を見ていなかったとしても、自分の姿を見られたのは確定している。

 

 となると、警察に通報された結果、今後のドイツでの活動は難しくなることが懸念される。

 

 まあ、そうでなくとも先程の戦闘による銃声によって警察は来るだろうが、この公園には監視カメラはないし、目撃者が居ない以上、誰がやったのかは分からない。

 

 しかし、目撃者が居るとなると話は別だ。

 

 彼女が証言すれば、ただでさえヨーロッパでは東洋人と分かる自分はたちどころに見つかってしまう。

 

 

「・・・」 

 

 

 のび太は安全装置を付けたままのベレッタM92を握り締める。

 

 この場で一番手っ取り早い手段は目撃者の抹殺だろう。

 

 そうすれば、警察であっても捜査は困難になる。

 

 だが、流石に見たというだけで抹殺をして良いものかどうか。 

 

 そういう迷いがのび太にはあった。

 

 そして、そんなのび太より先に少女の方が口を開く。

 

 

「あなたは・・・」

 

 

「?」

 

 

「あなたは・・・いつもこのような血の海を造るのですか?」

 

 

「!?」

 

 

 少女の美しい声は何故だかのび太の心に響く。

 

 のび太がその言葉に呆然としていると──

 

 

 

バタリ

 

 

 

 少女は突然倒れた。

 

 それを見たのび太は少女の近くに駆け寄り、様子を見る。

 

 

「失神したか・・・」

 

 

 のび太は少女の様子をそう分析した。   

 

 考えてみれば当たり前のことだった。

 

 このような殺人現場を普通の人が見て平然としていられる訳はないのだ。

 

 ましてや、首が吹っ飛ばされている遺体なら尚更だ。

 

 自分だって1年以上前ならば、少女と同じ反応をしただろう。

 

 まあ、それは兎も角、のび太が次に考えたのはこの少女をどうするかだった。  

    

 しかし、これは案外簡単に結論が出た。

 

 

「宿に連れて帰るか」

 

 

 既に殺すタイミングは逸した。

 

 そう判断したのび太は、彼女を宿に連れ帰ることに決めた。

 

 そして、のび太は少女をお姫様だっこしつつ、宿への帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同日 深夜 宿

 

 宿のベッドに少女を寝かせたのび太は、改めて彼女をどうするかを考える。

 

 

「しかし、なんでこんな時間に」

 

 

 少女は見た感じ、のび太より少し上くらいであり、何故あの時間にあんな所に居たのか気になった。

 

 当然だろう。

 

 のび太より少し上と言ったら日本では中学生。

 

 そんな人物がこんな真夜中に、しかもあんな虚ろな目で立っていたというのは、殺人現場を目撃したという点を加味しても不自然でしかないのだ。

 

 

「もしかして、奴等の仲間とか?」

 

 

 のび太は一瞬だけそう思ったが、すぐにそれを頭から引き払う。

 

 確かに状況は不自然ではあったが、少女からは先程の男に感じような危険な匂いは感じられない。

 

 仲間という線は薄いだろう。

 

 

「となると、元々こんな感じだったのかな?」

 

 

 世の中には変人奇人といった類いの人間は居る。

 

 よくよく考えれば、かつての自分もそんな類いの人間に含まれていたのだろう。

 

 のび太は過去を思い出しながらそう思い、少女を自分の同類かもしれないと思い始める。

 

 しかし、だからと言って、目撃者をどうするのかという問題は丸々残ってしまう。

 

 それに朝になれば、この少女の両親やら友人やらが心配になって警察に通報するという可能性は十分存在するので、なるべく早くこの宿を出なければならない。

 

 

「しかし、どうしろって言うんだ」

 

 

 先程は夜だったから良かったものの、本来なら自分のような人間が少女を抱えていれば、注目されることはまず間違いない。

 

 そうなると、どのみち見つかる。

 

 何処かの映画の誘拐犯の如く、眠らせた状態のままバッグなどに仕舞い込むという手もあるが、生憎、そのような大きなバッグは持っていないし、睡眠薬も持っていない。

 

 しかし、かといって今更少女を始末したとしてもそれはそれで不味い。

 

 つまり、手詰まりなのだ。

 

 

「うーん・・・・・・やっぱり、当面はあれしかないか」

 

 

 のび太は方針を決めた。

 

 それは今晩のうちに少女を連れてこの街を出ることだ。

 

 幸い、今の時期は冬であり夜明けまでにはまだ時間がある。

 

 徹夜をすることにはなるが、少女を連れて街を出ることは可能だった。

 

 

「さて、そうと決まれば急いで支度をしないとね」

 

 

 のび太はそう言うと、街を出るべく準備を進めた。



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第7話 銀髪の少女

◇西暦2010年 12月25日 ドイツ とある森

 

 

「ここなら大丈夫だろう」

 

 

 のび太は少女を引き連れる形で、とある森までその拠点を移していた。

 

 この辺りの森は人気がなく、死体を放り出しても簡単には気づかれないような場所であり、今ののび太にはうってつけの場所と言えた。

 

 そして、そんな森にテントを張って拠点を構えたのび太だったが──

 

 

(でも、なんでこうなったんだろう?)

 

 

 のび太は今のような状態になった結果が今になってもよく分からずにいた。

 

 

「お気に召しませんでしたか?」

 

 

 少女はそう言いながら、自分が作った食事が不味かったのかと尋ねる。

 

 そう、彼女はいつの間にか食事を作ってのび太に提供していたのだ。

 

 勿論、毒の存在を警戒したものの、結局、そんなものはなく、のび太は彼女の作った食事を食べているところだった。

 

 そして、肝心の食事の味だったが、これは旨かったの一言だった。

 

 

「いや、美味しいよ。美味しいんだけどね」

 

 

「?」

 

 

「何故君はここに何時までも居るつもりなんだい?追うつもりはないから、帰った方が良いと思うんだけど?」

 

 

 のび太はここで少女が帰るつもりなら追うつもりは更々無かった。

 

 それで通報されたとしても、警察が来る前に逃げてしまえば良いことだからである。

 

 しかし、当の少女はと言えば、今朝から一向に逃げる気配がなく、のび太も扱いに困っていたところだった。

 

 

「───んで、そんなことを」

 

 

「えっ?」

 

 

「いえ、なんでもありません。しかし、私には帰る所がありませんので、あなたと行動していた方が都合が良いんです」

 

 

 少女は無表情な顔付きのままそう言った。

 

 

「帰る所が無いって・・・家出か何か?」

 

 

 それならあの時間にあんな場所に居たことも納得できる。

 

 のび太はそう思ったが、何か違う気がした。

 

 少女があの公園に居た理由がそのような偶然ではなく、必然だったような気がする。

 

 のび太の直感はそう囁いていたのだが、具体的な証拠があるわけでもなく、その考えを無意識のうちに否定していた。

 

 

「いえ、その言葉のままです」

 

 

 のび太はその少女の発言を聞いて、これ以上の追求を止めることにした。

 

 戦争ということは無いのだろうが、何かしらの原因で家族や住む場所を無くしたと思ったからだ。

 

 それを突っ込む事は野暮でしかないだろう。

 

 この一年間であれだけの殺戮をしておきながら、不思議なことに、そのくらいの優しさはまだのび太の中にあった。

 

 

「いや、でも、着いてくると言っても・・・」

 

 

 しかし、のび太はどうにかして断る方法を頭の中で検索する。

 

 当然だろう。

 

 自分が普段している仕事はどう解釈するにしろ、人殺しという誇れる仕事ではない。

 

 まあ、彼女もその点は分かっているだろう。

 

 なんせ、あの現場を見た上でそう言っているのだから。

 

 逆に言えば、ここで下手なことを言えば少女は早まった行動を取ってしまう可能性もあるということだ。

 

 それは後味が悪い。

 

 だが、のび太自身も何時死ぬか分からない以上、簡単に連れていくと言うことなど出来る筈もない。

 

 だからこそ、連れていく以外の方法で何とかする案を頭の中で検索したのだが、そんな簡単に良い案が思い浮かぶわけもなかった。

 

 

「何かご迷惑でしょうか?」

 

 

「いや・・・でもね。見ての通り、僕は殺人者だよ。君がそれに関わることはお薦めできないな。ましてや、会ったばかりの人間ではね。誰か親戚でも居ないのかい?」

 

 

「・・・」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「いえ、別に」

 

 

 少女はそう言って誤魔化したが、のび太は見逃していなかった。

 

 先程の沈黙の時に、少女が憎悪の目でのび太を見ていたことを。

 

 

(この子は・・・)

 

 

 もしかしたら、以前、自分に関わった人間なのかもしれない。

 

 それも自分が殺人者として活動を開始したここ1年以内に。

 

 だが、それがどの時期なのか、そして、本当にその期間の間に会ったことが有るのかは検討もついていなかった。

 

 いや、もしかしたらその間に殺した人物の遺族だったのかもしれない。

 

 

「──分かった。良いよ」

 

 

 もしそうだとするのなら、贖罪の意味も込めて彼女の責任を負わなければならないだろう。

 

 ・・・場合によっては自分が死ぬことも。

 

 しかし、まだ自分は死ぬわけにはいかない。

 

 せめてあの島田透に復讐を果たすまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇西暦2011年 4月2日 北欧 ノルウェー

 

 

「・・・」

 

 

 ノルウェーのとある町にある宿屋。

 

 そこで少女──フィーネは、物思いに耽りながら日記を書いていた。

 

 ちなみにのび太は居ない。

 

 今は野暮用で外に出掛けているからだ。

 

 

(なんで、あの人はボロを出さない)

 

 

 フィーネは内心での苛立ちを込めて、悪態をついていた。

 

 あれから4ヶ月。

 

 のび太とフィーネは行動を共にしていたが、のび太はフィーネを何かと気遣っており、フィーネが望むような結果にはなっていなかった。

 

 それどころか、本当にあの人物が自分が好きだった男を殺したのか、疑問に思えてきていた。

 

 しかし、のび太が偶々持っていたハンカチを見たときから、その疑問は払拭された。

 

 

(あの人が殺したのは間違いない。間違いない・・・のに)

 

 

 フィーネは殺したのはのび太だと分かっていても、どうしても憎めなかったのだ。

 

 これはのび太が自身より年下の子供であるという事も関係していたが、それより少し前にのび太自身から聞いたことではあったが、のび太が殺人者としての道程を歩んだ過程に同情の余地が有ったことも挙げられた。

 

 要は自分と同じなのだ。

 

 のび太は両親と親友を殺した島田透に復讐するため、フィーネは好きだった男を殺したのび太に復讐するためにそれぞれ行動した。

 

 かつてのび太はフィーネと自分を『奇人変人類いの同類』と称していたが、こういう行動原理でも似た者同士だった訳である。

 

 そして、フィーネの好きだった人が巻き込まれたのは、単にのび太が襲った施設の警備員をその人物がやっていたからにすぎない。

 

 しかし──

 

 

「なんで・・・なんであの人の所だったの」

 

 

 それを受け入れられるかどうかは別問題だった。

 

 しかし、それでも復讐だけに思考を囚われていない辺り、フィーネは優しいのだろう。

 

 まあ、これはのび太もまた然りではあったが。

 

 しかし、もしのび太が復讐だけに思考を囚われていたのならば、フィーネとてこのような複雑な感情などを抱かず、彼女もまた復讐者としての道程をひたすら歩んだだろうし、フィーネが復讐だけに思考を囚われた愚者だった場合もまた同じだっただろう。

 

 だが、現実は見ての通り、のび太とフィーネのそれぞれの優しさが、彼女自身にこのような感情を抱かせていた。

 

 しかも、それだけではない。

 

 

「ッ!?」

 

 

 フィーネは突如として胸に走った痛みに思わず胸に手を添える。

 

 と言っても、実際に胸が痛むわけではない。

 

 それは心の痛み。

 

 そう、実を言えばフィーネはのび太という存在に惹かれ始めていたのだ。

 

 切っ掛けなどない。

 

 ただ気づいていたらそうなっていただけだ。

 

 しかし、フィーネもそう軽い女ではない。

 

 そんな簡単に相手を乗り換えるなど出来るわけがない。

 

 ましてや、その相手が自分の仇だというのなら尚更だ。

 

 しかし、だからこそ彼女は苦しんでいた。

 

 故に、最近では彼女は憎しみの感情を向ける度にこのように胸が痛くなるようになってしまったのだ。

 

 

「なんで・・・なんで・・・」

 

 

 あまりの心の痛みにフィーネは思わず涙を流し始めた。

 

 当然だろう。

 

 好きだった人は突然亡くなり、復讐を果たそうとした相手は、自分が思い描いていたような人物では無かった上に、挙げ句の果てにはその人物を好きになってしまったのだから。

 

 そんな自分に嫌悪したのか、それとも軽蔑しているのか、彼女の心は痛み続けていたのだ。

 

 今回はそれが遂に決壊しただけだった。

 

 そして、それはのび太が帰ってくるまで続くこととなる。



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第8話 暗躍する者達

◇西暦2011年 4月2日 ノルウェー 

 

 

「はぁ・・・」

 

 

 のび太は宿への帰路を歩きながら溜め息をついていた。

 

 自分は何故こんなことになっているのだろう、と。

 

 まあ、今更ではあるかもしれないが、それも当然だろう。

 

 本来であれば、のび太は今頃小学校を卒業し、新しく始まるであろう中学生活にウキウキしている頃だった筈だったのだから。

 

 

「みんなは今月から中学生か。良いなぁ」

 

 

 のび太は1年半程前までの友達、特に3人の少年少女を思い出す。

 

 のび太と同学年の彼らは、先月に小学校を卒業し、あと数日後には中学生生活が始まっている筈だ。

 

 それを考えれば、自分だけ仲間外れにされているような感覚を覚えてしまう。

 

 まあ、実際のところは先月起きた東日本大震災のせいで幸先の良い小学校卒業とはいかなかったのだが、この時ののび太には知るよしもない。

 

 

(まっ、今更なんだけどね)

 

 

 のび太はそう思いつつ、こんな考えが出来るようになった自分に皮肉の笑みを送った。

 

 自分の手はもう血に汚れている。

 

 今更、そんなことを望むのか、と。

 

 しかし、それでも今ののび太にとっては眩しく思えた。

 

 このように去年までなら考えすらしなかったであろう考えであるが、このような考え方が出来るようになった理由についても検討がついていた。

 

 あの少女のせいだ。

 

 時折、のび太に鋭いことを指摘してくるお蔭で、のび太はその感覚を徐々に以前のようなものに戻していた。

 

 それが良いことかどうかは分からない。

 

 だが、少なくともその事を気持ちいいと感じていることは確かだった。

 

 

「でも・・・やっぱり、彼女は僕を恨んでいるのかな?」

 

 

 既に去年の7月にあの警備員から奪ったハンカチは、少女の物という事が分かっている。

 

 そして、それは少女が贈った物であるということも本人から聞いており、そこから自分を恨んでいるという事実は簡単に連想できた。

 

 何故なら、あのハンカチの刺繍はドイツ語でこのような文字を刻んでいたのだ。

 

 Ich liebe dich(イヒ・リーベ・ディヒ)。

 

 これはドイツ語ではあるが、英語で言えば、I love youである。

 

 もはやここまで来ると、日本語で訳すのは小学生でも出来るだろうが、敢えて言えば『あなたを愛しています』という意味である。

 

 つまり、彼女はその男の事をそこまで想っていた事になる。

 

 

「ッ!?」

 

 

 ズキッと胸が痛む。

 

 そして、次の瞬間にはその胸の痛みの正体が分かってしまった為、大きく落ち込んでいた。

 

 そう、フィーネと同様にのび太もまた彼女に恋をしていたのだ。

 

 まあ、ある意味それは健全な反応とも言えるのかもしれない。

 

 フィーネは誰もが認める美少女であり、もしのび太が復讐者になる前に出会っていれば、もしかしたら告白まで行ったかもしれない。

 

 

(いや、僕にそんな意気地が有るわけないか)

 

 

 のび太はそう思い、内心で苦笑する。

 

 あの頃の自分に告白する勇気など有るわけもないし、そもそも言葉すら話せなかっただろう。

 

 まあ、今の状況だと告白する勇気どころか、その資格すら無いのだが。

 

 

「ははっ、皮肉な話だな」

 

 

 のび太はそう思いながら、自分自身を嘲笑う。

 

 そして、考えても仕方ないと、一旦彼女に対する思考を打ち切り、次の仕事に思考を移すことにした。

 

 

「さて・・・次の仕事は確かドイツだったか」

 

 

 そして、この数分後、のび太は宿屋へと帰ることになるが、そこで泣いていたフィーネを見て大いに慌てることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同年 4月21日 ドイツ ???

 

 ドイツの某所。

 

 そこでは複数の人影が何やら話をしていた。

 

 そして、リーダー各の初老の男は一堂に向けてこう言った。

 

 

「諸君、よく聞け。オールレンジがこのドイツへと帰ってきた」

 

 

 返ってくる言葉はない。

 

 男達にとって驚くべきほどの事ではないからだ。

 

 むしろ、来るべき時が来たという感じだろう。

 

 

「オールレンジは我らの中でも腕利きのアインを葬った男だ。油断は出来ん」

 

 

 アインとは去年のクリスマスイブに公園でのび太を襲撃してきたあの男だ。

 

 そして、この場に居る男達はその男の仲間ということになる。

 

 そもそも彼らは何者なのか?

 

 纏っている服装と雰囲気から暗殺集団であることは素人でも分かる。

 

 だが、彼らはただの暗殺集団ではない。

 

 ドイツ政府直属の暗部組織“死の手”、しかもその中でも腕利きの部類に入る者達だった。

 

 彼らの歴史は意外と古い。

 

 古くは帝政ドイツ時代まで遡り、その次はナチス、更にその次は西ドイツ、そして、ソ連崩壊後はこうしてドイツ政府直属の暗部となる。

 

 もっとも、離散の危機が無いわけではなかった。

 

 ナチスから西ドイツに鞍替えする際は当然揉めることになったし、その西ドイツ時代にしてもナチスに従属していたということで、かなり冷や飯を食わされていた。

 

 だが、そういった様々な苦難を乗り越えた結果、今の“死の手”があった。

 

 しかし、何故、そのような組織がのび太を狙うのか?

 

 死の手は基本、政府の依頼以外では動くことはない。

 

 信用問題に関わるからだ。

 

 まあ、自分達に襲い掛かってくるのであれば、政府の依頼以外でもやるが、あくまでそれは向こうが襲い掛かってくれば、という前提から成り立っている。

 

 つまり、死の手がのび太を襲う理由としては、政府の命令か、何かやむを得ない理由でのび太を襲っているかのどちらかでしかないのだ。

 

 そして、今回の場合は前者であり、彼らはドイツ政府に依頼される形で動いていた。

 

 何故かと言えば、それはフィーネが好きだった警備員の男が関係している。

 

 いや、正確には彼が守っていた施設に、と言うべきだろうか?

 

 その男が守っていた施設。

 

 それは島田透配下の施設の内の1つであり、その中にはS─ウィルスのサンプルやら、資料やらが満載だった。

 

 おまけにフローズン・バイオハザードの二の舞を狙ったのか、予防接種と称した注射器まで大量にあり、もしのび太が襲撃していなければ、フローズン・バイオハザードと同じような事態が起こったのは間違いないだろう。

 

 そして、のび太の襲撃後、そこにあった資料やサンプルはドイツ警察に押収された訳だが、ある一点だけ回収されなかった資料がある。

 

 それは幾つかのドイツの有力政治家がこの研究所の研究内容に関わっていたという証拠だった。

 

 勿論、のび太はそんな資料を回収どころか、発見してすらおらず、ドイツの有力政治家があの研究所の設立に関わっていた事実など知るよしもない。

 

 しかし、ドイツ政府はそうは考えていなかった。

 

 確かに一度は戦闘後の混乱で消失したのかもしれないとは考えたが、もしかしたらという考えは頭の中にこびりついていたのだ。   

 

 まあ、それも当然だろう。   

 

 消失していれば良いが、もししておらず、何かの拍子にその情報が公開されてしまえば、自分達の首は瞬く間に飛んでしまう。

 

 しかも、日本の政治家のように社会的に飛ぶ程度ならまだ良い方で、場合によっては物理的に首が飛ぶかもしれないのだ。

 

 政治家達が必死になるのも当然と言えた。

 

 

「だが、2度の失敗は許されない。今度こそ奴を確実に始末しなくてはならない。そうでなくては“仕込み”をした意味もないからな」

 

 

 そして、彼らもまた、先の失点の回復と仲間の仇を討つために様々な策を用意し、準備を進めていた。

 

 更に確実にのび太を仕留めるために、とある仕込みまで行っていたのだ。

 

 ここまでして仕留められなければ、彼らの組織は正真正銘、致命的な打撃を帯びることとなるだろう。

 

 だからこそ、失敗は許されない。

 

 

「さて、諸君。“ここ”でオールレンジを迎え打つ。準備を急げ!」

 

 

「「「おお!!」」」

 

 

 ──こうして、ドイツで暗躍している裏の者達が遂に牙を剥こうとしていた。



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第9話 襲撃

西暦2011年 4月22日 ドイツ 宿屋

 

 

「・・・どうも可笑しいな」

 

 

 今日の一通りの行動を終えたのび太は、何か違和感があるのを感じ取っていた。

 

 それは視線。

 

 おそらくは自分を監視するものだろうが、それにしては何か異質だった。

 

 

(まるで、警察の諜報機関と暗部の非合法組織の諜報員に同時に見張られているような感じだったな)

 

 

 警察などの正規の諜報員や非合法組織の諜報員というのは、微妙にその視線に差異がある。

 

 勿論、普通なら分からないのだが、のび太は1年余りの実戦で、既にそれを分かるほどの強者となっていた。

 

 しかし、それだけならば別段可笑しいものではない。

 

 自分が複数の組織に見張られることなど、珍しくもないのだから。

 

 しかし、それにしては今回の場合、連携が取れていた気がした。

 

 

(・・・遂にドイツ政府が本気になって僕を潰しに来たか?)

 

 

 のび太は自分が派手に動いているという自覚はあったので、それが基で何時か政府単位に目を付けられても可笑しくはないと思っていた。

 

 それが遂に“目障り”という段階に変わり、自分を排除しようと動いただろうか?

 

 それも、表裏どちらの機関も動員して。

 

 のび太はそう思いつつ、去年のクリスマスイブの事を思い返した。

 

 

(となると、あれはやっぱりドイツ政府の刺客っていう訳だったか)

 

 

 あれだけの手練れの人材だ。

 

 何処かの雇われという可能性もあり、のび太はその雇い主が何処か、この4ヶ月考え続けていた。

 

 その中でも一番可能性が高かったのが、ドイツ政府か、あるいはドイツ政府の誰かが個人的に持っている刺客という可能性であったが、わざわざ他の国から送ってきた刺客という可能性も否定できず、考えは保留となっていた。

 

 しかし、ここに至ってのび太はあれはドイツ政府か何かが雇った刺客ではないかと疑う。

 

 まあ、この際、誰が雇い主かはどうでも良い。

 

 問題はどうやってこの状況を切り抜けるかだ。

 

 

「一番良いのは、フィーネを連れてとっととドイツを出ることだろうけど、まだ仕事が終わっていないしなぁ」

 

 

 のび太はそう思いながら、様々な案を考慮する。

 

 しかし、実は危機はすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部隊の配置完了」

 

 

『分かった。こちらの合図で突入しろ』

 

 

「了解」

 

 

 のび太の部屋の外。

 

 そこでは5人ほどの完全武装をした男達が突入態勢を取っていた。

 

 ちなみにフィーネの居る部屋にも同じく5人ほどの男達が居り、出口付近にも5人ほどの男が居る。

 

 つまり、この宿屋での完全武装をした男達は合計で15人。

 

 しかも、状況から判断するに、のび太達一行を狙っていることは明白だった。

 

 彼らの組織の名はKSK。

 

 ドイツ陸軍の特殊部隊である。

 

 今回はオールレンジこと、のび太を討伐するためにこうして派遣されていた。

 

 

『よし。突入しろ』

 

 

 そして、暫く後、突入開始の指示が出るが──

 

 

 

ドドドドドドドドドド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドドドドドドドド

 

 

 

 のび太はKSKの接近(と言っても、正体は分からなかったが)に気づき、のび太は銃を取り出すと、先手を打って発砲する。

 

 使った銃はFN社が開発したPDWの代表の1つとも言われるP90だった。

 

 5、7×28ミリ弾を使用し、火力も高い本銃が装填できる弾数は50発。

 

 のび太はそれをフルオートにしつつ、全て使用する形でのび太の部屋の前にいたKSKの5名に毎分900発の発射速度の弾丸を浴びせていた。

 

 完全武装をしているとは言え、そんなものをいきなり浴びせられれば堪ったものではない。

 

 おまけにこの弾丸は並みのボディーアーマーすら貫通するように造られているのだ。

 

 流石に特殊部隊クラスの装備ともなると、この弾丸ですらそう容易く貫通しないのだが、ボディーアーマーというのは言葉の通りに全身を覆い尽くすものではない。

 

 当然、剥き出しの部分も存在するし、人体の構造上覆えない部分もある。

 

 そして、それを浴びた5名の隊員は体のあちこちを蜂の巣にされ、ボディーアーマーに覆われていない間接部分に命中して手足が千切れたり、頭部に弾丸を直接受けたり、はたまたボディーアーマーは着ていたものの、急所に弾丸を叩き込まれたり、5名全員が何らかの被害を受けた上に、その内2名は当たりどころが悪く、即死することとなった。

 

 応戦など不可能だった。

 

 前述したように、あまりにも急だった上にドア越しに射撃してきたせいで、相手が何処に居るのかも分からないのだ。

 

 おまけに無事だった3名も負傷しているという状況では応戦など出来よう筈もなかった。

 

 しかし、前述したようにP90の発射速度は毎分900発であり、弾丸は50発。 

 

 つまり、1秒につき15発撃つ計算になるので、フルオートで射撃すると撃ち尽くすまでに4秒と掛からない為、50発の装填弾数と言えども、あっという間に弾丸は尽きた。

 

 もっとも、その間に相手も反撃出来ない状況まで追い込まれたので、それで十分という見方もあるが。

 

 そして、のび太は50発の弾丸を撃ち尽くすと、P90を一旦その辺に捨てる。

 

 ちなみに再装填しなかったのは、このP90の装填方式がマガジン方式ではなく、独特の物であったからだ。

 

 まあ、これが無ければ50発という数の弾丸を装填する設計は出来なかっただろうし、画期的と言えばそれまでであるが、慣れていないと迅速な装填が出来ないという事は確かだった。

 

 そして、生憎だが、のび太はこの銃の扱いには慣れていない。

 

 その為、一旦捨てて別の銃を取った。

 

 それは去年フィーネの好きだった人の命を奪った銃でもあるH&K MP7(40発マガジン装着)だった。

 

 その前にと、のび太は閃光手榴弾を取り出すと、ピンを抜いて、先程銃撃で抜かれた穴に向かって思いっきり投げる。

 

 そして、目と耳を塞いだその数秒後、凄まじい音と光が鳴り響いた。

 

 それが治まった後、のび太はMP7を手に持ち、そのまま部屋の外へと突撃する。

 

 

「!?」 

 

 

 その時、最初にのび太の目に映ったのは立っていた3名のKSKの隊員。

 

 実はこの3人は先程の5名の内の無事だった3名ではなく、出口付近に居た5名の内の3人だった。

 

 この3人は異常を感じ取って増援に来たのだが、運悪くのび太が閃光手榴弾を投げ込んだタイミングで来てしまい、その閃光と音波をもろに食らってしまい、悶えていた。

 

 しかし、そんなことはのび太には関係のない話だ。

 

 何故なら、彼らはのび太の敵ではあったのだから。

 

 そして、のび太はMP7のセレクターをフルオートモードにすると、その3名に向かって浴びせる。

 

 MP7から発射される4、6×30ミリ弾は彼らの頭部付近へと的確に命中する。

 

 彼らは防弾フェイスやヘルメットを纏っていたが、拳銃やギリギリでサブマシンガン程度なら耐えられるそれも、流石にPDWのフルオートが相手では耐えられる筈もなく、呆気なく貫通し、蜂の巣にした。

 

 当然、それなれば絶命は間違いない。

 

 そして、のび太は向こうが崩れ落ちたと判断すると、射撃を止め辺りを見渡す。

 

 しかし、そこに映ったのは倒れている5名のKSKの隊員だった。

 

 

(・・・さっきの射撃で死んだか)

 

 

 実際には倒れている5人の内、死んでいたのは二人だけだったのだが、残り3人は先程の射撃と閃光手榴弾の2コンボによって気絶していたので、戦闘不能と考えても差し支えなかった。

 

 そして、のび太はそう判断すると、フィーネの無事を確認しようとして──

 

 

「!?」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

 隣にあるフィーネの前に居た5名の隊員と目が遭う。

 

 実はこの5名はフィーネの部屋に突入しようとしたのだが、彼らも隣に居た5名の隊員への突然の銃撃に動揺していたのだが、彼らもまた先程の閃光手榴弾をもろに食らってしまい、つい今しがたまで行動不能になっていた。

 

 しかし、やっと回復したところでのび太の姿を目にしたのだ。

 

 そして、先に行動したのはのび太だった。

 

 MP7の照準を彼らに向けると、そのまま発砲する。

 

 一方、5名の隊員の方はワンテンポ行動が遅れてしまい、のび太のMP7の銃撃をもろに受ける形となった。

 

 

 

ドドドドドドドドドド

 

 

 

 のび太はMP7のマガジンが全て無くなるまで撃ち尽くし、その結果5名の隊員はそのまま全員が死傷して死ぬか、行動不能になる。

 

 そして、のび太はMP7のマガジンを新しいものへと変えると、フィーネの無事を確認するためにフィーネの部屋へと入る。

 

 

「フィーネさん、大丈夫ですか!?」

 

 

「は、はい!」

 

 

 少し怯えた様子だったが、フィーネの無事を確認してのび太は安堵の息をつく。

 

 しかし、次の瞬間には元の警戒の視線へと戻し、フィーネに向かってこう言った。

 

 

「フィーネさん、襲撃です!急いで逃げましょう」

 

 

「わ、分かりました!」

 

 

 フィーネは驚きながらも、急いで外行きの支度をする。

 

 本来ならそんな余裕は無いのだが、流石にこの状態で外に出ても後が困るだろうと、のび太はその動きを見逃していた。

 

 そして、数十秒後──

 

 

「準備できました!」

 

 

「分かりました。じゃあ、行きましょう!!」

 

 

 のび太はそう言うと、フィーネを引き連れて外へと出た。



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第10話 拉致

◇西暦2011年 4月22日 ドイツ 宿屋 

 

 

「不味いな・・・」

 

 

 のび太はフィーネと共に物陰に隠れながら舌打ちをしていた。

 

 フィーネの部屋を出た後、自分の部屋に様々な武器弾薬を取りに行き(ついでにP90の再装填も終えた)、この宿屋から出ようとしていたが、その出口にはKSKの残りの隊員の2名が待ち構えていた。

 

 しかも、持っているのは現在の世界最高アサルトライフルと言われているH&K HK416だ。

 

 米軍の主力小銃であるM4カービンをH&K社が近代化改修する形で造ったこの銃は、射程こそM4カービンより落ちてしまったものの、信頼性と拡張性に関しては格段に向上している代物だ。

 

 そんな代物を持った2名がこちらにその銃口を向けたまま突っ立っている。

 

 しかも、こちらが持っているのは拳銃2丁とナイフ1本、それとPDW2丁のみ。

 

 火力的にはギリギリ勝負になるが、今の状況では蜂の巣にされる事は目に見えていた。

 

 

(仕方ない。ここはリミッター解除を使って・・・ん?)

 

 

 のび太は首を傾げた。

 

 何故かと言えば、出口付近の2名のKSKの隊員が突如として撤退を始めたからだ。

 

 

(なんだ?)

 

 

 のび太はそれを不思議に思う。

 

 しかし、次の瞬間──

 

 

 

ドッゴオオオオン!!!

 

 

 

「ひゃっほおおおお!!!」

 

 

「!?」

 

 

 天井から突如として一人の人間が現れる。

 

 そして、その人間はのび太を視認すると、素早くのび太が持っているのと同じPDW、H&K MP7をフルオートで発射する。

 

 

 

ドドドドドドドドドド

 

 

 

 4、6×30ミリ弾の嵐はのび太に降って掛かってくる。

 

 

「くそっ!?」

 

 

 のび太は体内のリミッターを解除すると、回避行動を取る。

 

 これにより、常人だったら瞬く間に蜂の巣にされた筈の攻撃もどうにか回避することが出来た。

 

 しかし──

 

 

「フィーネさん!?」

 

 

 フィーネとは分断されてしまう形となり、護る者が居なくなったフィーネは瞬く間に天井から現れた男によって捕らえられてしまう。

 

 

「おい!オールレンジ!女は預かった!!返して欲しくば!!夜明けまでにこの近くの森へと来い!!」

 

 

「!? おい、待て!!」

 

 

 そう言って立ち去ろうとした男をのび太は止めようとするが、男はのび太を無視して呆気なく立ち去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同年 4月22日 深夜 ドイツ とある森

 

 

「ふむ、無事だったようだな」

 

 

 “死の手”のボス、ケインはそう言いながらフィーネを見る。

 

 

「何故、こんなことを?」

 

 

 対するフィーネは縛られた腕を見せつつ、困惑した表情で答える。

 

 何故こんなことをされるのか分からない、といった表情だ。

 

 それに対して、ケインはこう答えた。

 

 

「ふん、知れたことよ。お前が奴の弱点だからに決まっているだろう?」

 

 

「・・・どういうことです?私にあの人の弱点を見つけて欲しいという事だったのでは?」

 

 

 元々、フィーネは好きだった人を殺された後、偶々のび太を殺そうとしていたこの死の手のスパイとなったのだが、その時の依頼ではのび太の弱点を探して欲しい、という事だった筈なのだ。

 

 しかし、ケインは自分こそがのび太の弱点なのだという。

 

 何がなんだか分からなかった。

 

 

「そんなわけ有るまい?そもそも弱点が分かったところで、それを一番熟知しているのは奴だ。その対策くらい練っているだろうよ」

 

 

 それはフィーネを送り込む前から分かりきっていたことだった。

 

 そもそものび太は命懸けの戦いを何度も潜り抜けてきた猛者。

 

 その命取りになりかねない弱点など、克服か、あるいは対策を練っているだろうし、有ったとしても素人であるフィーネが見たところで分かるとは思えない。

 

 そして、死の手の面々も彼女から送られる弱点をそのまま鵜呑みにする程、馬鹿ではない。

 

 むしろ、全く信用しないと言った方が正しいだろう。

 

 にも関わらず、彼女をのび太の元へと送り込んだ理由。

 

 それは──

 

 

「本当の目的はお前そのものを弱点として仕立てあげることだ。そうすれば、奴の動きをこちらで制限できる」

 

 

 ケインはそうニヤリと笑うが、フィーネは困惑したままだった。

 

 

「ん?どうした?」

 

 

「・・・私があの人の弱点だというのは信じられません。だって、あの人は──」

 

 

「お前の仇、と言うのだろう?そして、奴もそれを知っている。おまけにあのような性格だ。お前のことで罪悪感を抱いていたとしても可笑しくはない。お前を助けには来るだろうが、弱点というくらいにはなり得ない。そう言いたいのだろう?」

 

 

「・・・」

 

 

「だが、男というのはな。美しいものには惚れざるを得ない生き物なのだよ。ましてや、お前ほどの美貌ではな。現にお前との生活は部下によって報告されていたが、奴はお前のことを必要以上に気遣っていた。普通なら、事情を聞かされれば、腫れ物を扱うような対応になるにも関わらず、な」

 

 

「!?」

 

 

 フィーネは今更ながらにその事に気づかされた。

 

 確かに事情を知ったなら気遣う必要はない。

 

 良くてケインの言ったように腫れ物を扱うような対応、悪ければそのままなにも言わずに立ち去られる可能性すらあった。

 

 それを考えれば、構ってくれるだけ自分に関心があるという事だ。

 

 

「ふふっ、気づいたようだな。まあ、今さら遅いが」

 

 

「ッ!?」

 

 

 フィーネはケインを睨み付ける。

 

 それと同時に自分の迂闊さに腹が立った。

 

 結局、自分がのび太を窮地に陥れてしまったと。

 

 そんなフィーネを見ながら、ケインは途端に下卑た視線を向ける。

 

 

「ふふっ。まだ奴の到着までに時間はあろうな。それまでにゆっくりと楽しむとするか」

 

 

「・・・!?」

 

 

 フィーネはその台詞とケインが近づいてくる状況に、思わず身を固くする。

 

 そして、勝手であることを自覚しつつも、こう思ってしまう。

 

 助けてノビタ、と。

 

 そんな想いをしながら身を固くしてどうにか貞操を守ろうとするフィーネを更に下卑た視線で見ながら、男がフィーネに手を付けようとしたその時──

 

 

「ケイン、大変だ。奴が来た!」

 

 

 一人の部下の男からの急報を受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻

 

 

「森林か・・・厄介だな」

 

 

 指定の森までやって来たのび太はそう呟きつつ、周囲を警戒する。

 

 辺りには2つの死体がその骸を晒している。

 

 彼らはこの森で待ち構えていたケインの部下達だ。

 

 二人はのび太の侵入を確認した後、迎撃を行ったものの、こうして返り討ちに遇ったのだ。

 

 一方、のび太の方は無傷で切り抜けられたものの、この夜の森林の中ではなかなか動き回る事が難しく、煩わしさを感じていた。

 

 

(残りの奴はまだこの辺に隠れている筈だが・・・)

 

 

 のび太が戦闘時に確認した人影は4つ。

 

 内2人は既に死んだので、残り2人が近くに居ることになる。

 

 勿論、撤退した可能性も否定できないが、近くに居るとのび太は勘は囁いていた。

 

 そして、のび太が少し歩いたところで──

 

 

「一人・・・」

 

 

 先程逃げた二人の内の一人が虫の息といった感じに死亡寸前の状態で倒れていた。

 

 のび太は躊躇いなくP90の銃口を向けると、セミオートモードのまま一発発砲する。

 

 発射された5、7×28ミリ弾は対象の脳に穴を開け、今度こそ絶命させた。

 

 

「・・・」

 

 

 のび太は再び周囲を警戒する。

 

 これで仕留めた人数は3人。

 

 しかし、最初襲ってきた数は4人だったので、残り一人が何処かに居ることになる。

 

 いや、そうでなくとも、他の増援が来る可能性があるので注意が必要だ。

 

 もう既にここは死の手、つまり、敵方の領域だったのだから。

 

 そして、のび太が周囲の警戒を続けながら目的地まで向かっていたその時── 

 

 

 

ドドドドドドドドドド

 

 

 

「ひゃっほおおおお!!」

 

 

 ──先程の宿屋でのび太を襲ってきた死の手の男がMP7を乱射しながらやって来た



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第11話 突然の終結

◇西暦2011年 4月22日 ドイツ とある森

 

 

「で?フィーネさんは何処にやった?」

 

 

 のび太は男の体を踏みつけつつ、尋問する。

 

 既に男は銃撃によって虫の息寸前であり、もう長くはないだろう。

 

 だからこそ、のび太は拷問に近い尋問を行っている。

 

 本来ならこんなことに時間を食っている余裕はないのだが、時間と手懸かりが無い以上仕方なかった。

 

 向こうがこの森に来いと言った以上、フィーネもここに居る可能性が高い。

 

 しかし、同時にこの森に居ない可能性も少なからずあるのだ。

 

 それを聞き出すために、のび太はこの男を拷問していたのだ。

 

 

(くそっ!強すぎる!)

 

 

 一方、男の方は状況の理不尽さを切に感じていた。

 

 相手は強いと言っても、たかが12歳。

 

 自分達の経験と数を活かせば十分勝てると踏んでいた。

 

 それがどうだろうか?

 

 自分達はあっさりと負けてこの目の前の子供は立っており、殆ど無傷。

 

 対して、自分は致命傷を負っていて長くはない。

 

 滑稽だ。

 

 そんな感情を男は抱いてしまい、こんな状況にも関わらず笑ってしまう。

 

 

「・・・」

 

 

「答えろ!」

 

 

 

ドゴッ

 

 

 

 のび太はそんな男の顔を更に蹴り付ける。

 

 この一年余りの間で、のび太の性格はすっかり変動を見せており、その言動もまた過激になっていた。

 

 ましてや、今は大事な人(・・・・)を取り戻そうと焦っている段階だ。

 

 元の甘さなど、微塵もなかった。

 

 しかし、そんなのび太に対して、男は不適に笑うばかりであり、それが焦っていたのび太の癪に触った。

 

 だが──

 

 

「この先の建物だ。早くしないと、あの野郎が犯しちしまうかもよ?」

 

 

 男は案外あっさりと答えを口にした。

 

 そして、それを言った途端、男は力尽きたように息絶える。

 

 のび太はそれを見届けながら、最後に男が顔を向けた方向を見る。

 

 

「あっちか・・・」

 

 

 のび太はその方角に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇30分後

 

 

「ほう。もうここまで来たか」

 

 

 カールは自分の想定よりも早く来たことに、感心しながらのび太を見つめていた。

 

 一方ののび太は当然の事ながらカールの事を怒りの表情で睨み付けている。

 

 

「お前がここのボスだな?」

 

 

「その通りだ。俺の名はカール。“死の手”を束ねる長だ」

 

 

「フィーネさんは何処だ?」

 

 

 ケインはそう自己紹介するが、のび太は意に返さない。

 

 それどころか、フィーネの居場所を喋れと急かしていた。

 

 のび太にとって、目の前の男が何者かなど関係のある話ではなかった。

 

 ただ邪魔する者は殺すだけ。

 

 そんな思いと共に、のび太はケインを睨み付ける。

 

 その冷酷な怒りは普通の人間が見れば体が震えて動かないか、あるいは恐怖のあまり失神する類いのものだったが、流石に経験を積み続け死の手のボスまで出世したカールにはあまり効果の無いものだった。

 

 ただ、そのカールでさえ滅多に浴びることのない猛烈な殺気を真に受けていることは確かだった為、ケインは自分でも気づかぬ内に冷や汗を流してはいたが。

 

 しかし、だからこそその優位性をケインは感じ取っていた。

 

 

「ふっ、女ならあの建物の中だ。俺を倒して行くと良い。だが──」

 

 

 

パチン

 

 

 

 男がそう言って、指をパチンと鳴らす。

 

 その行動にのび太は首をかしげていると、突如として建物全体が燃え上がった。

 

 

「早く倒さなければ死ぬが、な」

 

 

「貴様!」

 

 

「さて、行くぞ」

 

 

 ケインはそう言いながら、のび太に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドドドドドドドド

 

 

 

 のび太は先手必勝とばかりにP90のセレクターをセミオートからフルオートに変えて、ケインに向けて撃ちまくる。

 

 こうなった以上、ケインの言った通り早く倒さなければフィーネは死ぬ。

 

 そう判断して確実に殺すために効率の良いセミオートではなく、手数のフルオートを選択した。

 

 しかし──

 

 

 

シュッ、シュッ

 

 

 

 ケインは銃の照準と発砲のタイミングを見計らって、その銃撃から身をかわし続ける。

 

 のび太は追撃しようとするが、フルオートで撃っていた上に、先程の戦闘での再装填を忘れていた為か、追撃の前にP90の弾丸は全て尽きた。

 

 

「はぁ!!」

 

 

 すると、それを好機と見なしたケインが素早い動きでのび太に急接近し、掌打の構えをした。

 

 

「!?」

 

 

 その動きはあまりにも早く回避が困難だと判断したのび太はP90を前に突き出して盾にした。

 

 すると──

 

 

 

バキッ

 

 

 

 その嫌な音がP90から鳴り、次いて部品の幾つかが滑落する。

 

 詳しくはよく調べないと分からないだろうが、壊れたのは間違いない。

 

 

 

ドン!ドン!ドン!

 

 

 

 P90が壊されるのと同時に、のび太はP90を放棄し、2丁持っていた拳銃の1つであるコルト・ガバメントを取り出し、ケインに向けて3発程発砲する。

 

 コルト・ガバメントは設計こそ古いが、現在でも軍で採用されているほどの傑作銃である。

 

 マガジンに7発、そして、薬室に1発の最大計8発を装填できるこの銃はベレッタよりも大きい45口径弾を使用しており、流石にマグナムには及ばないものの、通常の拳銃の中では強力な部類に入る。

 

 ちなみにだが、自衛隊でも9ミリ拳銃が採用される前はこの拳銃が使用されていた。

 

 そして、ガバメントから発射された45ACP弾は狙い通りならば、のび太の正確な射撃によって、ケインの頭部に叩き込まれている筈だった。

 

 しかし──

 

 

 

シュッ、シュッ、シュッ

 

 

 

 3発の銃弾はいずれもかわされてしまった。

 

 しかし、それでも状況の不利を悟ったのか、ケインはバックステップで一旦距離を取った。

 

 

(・・・危なかった)

 

 

 のび太は放棄されたP90をチラッと見ながら安堵していた。

 

 デリケートとは言え、銃というのは鋼鉄の塊である。

 

 そんな銃を殴っただけで破壊するという芸当を行えた以上、まともに人体に食らっていれば、即死はまず間違いないだろう。

 

 のび太はS─ウィルス完全適合者なので、常人には到底不可能な外傷の“急速治癒”が行え、潰れた臓器などの“再生”も出来るが、頭に食らったら当然死ぬし、そうでなくとも痛い思いは真っ平御免だった。

 

 一方、ケインの方は表情こそ不敵な笑みを浮かべたままだったが、内心ではかなり焦っていた。

 

 

(少し不味いな)

 

 

 ケインの戦い方は暗殺者特有の“初見殺し”の要素が強いために、文字通りの意味で一撃必殺で無くてはならない。

 

 しかし、その肝心の一撃はのび太が銃を盾にした事によって完全に防がれてまった。

 

 いや、正確には銃が1つ壊れたので、戦力という意味ではのび太の方も打撃を受けていたが、逆に言えばそれだけである。

 

 それでも相手が弱ければなんとかなるかもしれないが、のび太のような手練れ相手にはもう2度と同じ手は使えないだろう。

 

 

(まあいい、別の手を取るまでだ)

 

 

 ケインはそう言いながら構え直す。

 

 別にケインの初見殺し手段は何も1つではないのだ。

 

 幾つかの手段の内、1つでものび太に食らわせられればそれで勝つ。

 

 ケインにはそんな目論見があった。

 

 そして、のび太もまたガバメントを構えている手とは反対の手でベレッタが入ったホルスターを握りつつ、改めて戦闘態勢を整える。

 

 そして、お互いが第2ラウンド開始前とばかりに膠着状態に入った時──

 

 

 

 

 

 

 

 

「双方、武器納めろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、轟音が二人の間に駆け巡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フィーネさん!!」

 

 

 現れたのは二人の男女。

 

 一人は初老といったくらいの銀髪の男であり、もう一人は正反対に自分とほぼ同じくらいの年頃の金髪碧眼の美少女だった。

 

 しかも、金髪の少女の脇にはフィーネが抱えられている。

 

 のび太はそれを見て思わず叫んでしまった。

 

 しかし、一方でケインは男に鋭い視線を向けながらこう尋ねる。

 

 

「なんだ、お前は?」

 

 

「グレートランド王国の者、と言えば分かるかな?」

 

 

「!?」

 

 

「?」

 

 

 のび太の方は首をかしげていたが、ケインの方は驚きのあまり目を見開いていた。

 

 それはまだ暗部に入って比較的日が浅いのび太は知らないことであったが、暗部に入って長いケインの方はよく知っていた。

 

 グレートランド王国。

 

 それは名目上こそ国ではあったのだが、明確に言えば国と呼べるかは微妙な存在だった。

 

 それは世界の中で領土を持たず、国民も限られた人間だけしか居ないという存在自体が曖昧な国家だからだ。

 

 しかし、反面、その権力は絶大であり、欧州諸国は勿論、アメリカ合衆国にすら絶大な権力を持っているという評判だった。

 

 まあ、だからこそ国として成り立っているとも言えたのだが。

 

 

「既にドイツ政府と話はついている。君は撤退したまえ」

 

 

「・・・」

 

 

 その言葉にケインは全てを悟って、最後はのび太に憎悪の視線を向けつつその場を去っていった。

 

 そして、その後、男はのび太に対して目を向ける。

 

 

「君は一緒に来て貰おう」

 

 

「・・・その前にフィーネを返せ」

 

 

 のび太の言葉に、傍らに居た金髪の少女が殺気を向けるが、男はそれを手で制した。

 

 

「では、聞こう。お前にとって、フィーネはどういう存在だ」

 

 

「大事な存在だ!僕の命を賭けても守りたい程のね」

 

 

 のび太は躊躇なくそう宣言した。

 

 普段ならば、恥ずかしくて言えない台詞ではあったが、この時は気持ちがハイになっていた事もあり、容易に言うことが出来た。

 

 

「ほう、なるほど。では、改めて自己紹介せねばならんな」

 

 

 男はそう言うと、ニヤリと笑いながら自己紹介を始める。

 

 のび太は男を見てブルッと体を震わせつつも、次の言葉を聞いて驚愕することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の名はカール・シューベルト。このフィーネ・シューベルトの祖父だ」




これで第2章は完結となります。


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第三章・復讐編
設定3


◇登場人物

 

野比 のび太 12歳

 

数々の大冒険を潜り抜けた歴戦の猛者。一家と共にイギリスへと観光旅行に出掛けるが、その時に両親と親友であるドラえもんを亡くした。その後、のび太は修羅の道を歩む。そして、この度はニコライからの情報を受けてオーセールに赴き・・・

 

クリス・レッドフィールド 38歳

 

バイオハザードを初期から生き残ってきた正真正銘の英雄。今回は北米支部・アルファチームのリーダーとしてピアーズと10名の隊員と共にオーセールへと赴く。

 

ピアーズ・ニヴァンス 25歳

 

BSAAアルファチームの隊員の一人。クリスの相棒でもあり、副隊長でもある人物。そして、優秀なスナイパーでもある。

 

◇年表

 

西暦1968年、のび太の父である野比のび助が産まれる。

西暦1973年、クリス・レッドフィールド誕生。

西暦1977年、レオン・S・ケネディ誕生。

西暦1979年、クレア・レッドフィールド、須賀圭佑誕生。

西暦1980年、レベッカ・チェンバース誕生。

西暦1982年、伊丹耀司誕生。

西暦1985年、シェバ・アローマ、赤井秀一誕生。

西暦1986年、シェリー・バーキン、、ピアーズ・ニヴァンス、降家零誕生。

西暦1989年、ヘレナ・ハーパー誕生。

西暦1990年、富長タケル誕生。

西暦1992年、リッキー・トザワ、ジェイク・ミューラー誕生。 

西暦1993年、優希マユ誕生。

西暦1995年、満月美夜子誕生。

西暦1996年12月1日、宮水三葉誕生。

同年、中須賀エマ、フィーネ誕生。

西暦1997年7月1日、西住まほ誕生。

西暦1998年5月4日、工藤新一誕生。

同年7月23日、バイオハザード0。

同年同月24日、バイオハザード。

同年8月7日、野比のび太誕生。

同年同月8日、比企谷八幡誕生。

同年9月下旬~10月1日、バイオハザード2&3。

同年10月23日、西住みほ誕生。

同年12月、バイオハザード~コード・ベロニカ~。

西暦1999年12月1日、立花瀧誕生。

西暦2001年10月24日、島田愛里寿誕生。

西暦2002年、バイオハザード・ダークサイドクロニカルズ『オペレーション・ハヴィエ』。

西暦2003年2月、バイオハザード・ダークサイドクロニカルズ『アンブレラ終焉』

同年、宮水四葉、鶴野留美誕生。

西暦2004年秋、バイオハザード4。

西暦2005年4月、バイオハザード・リベレーションズ。

同年8月~11月、バイオハザード・ディジェネレーション。

同年、森嶋帆高誕生。

西暦2006年8月、バイオハザード5・Alternative Edition『LOST IN NIGHTMARES』。

同年同月8月22日、天野陽菜誕生。

西暦2009年3月、バイオハザード5。

同年夏、ドラえもん劇場版。同じ頃、南米でジェイク=ミューラーが信頼していた傭兵に裏切られる。

同年12月、第一章・フローズンバイオハザード編。

西暦2010年4月~10月、ガールズ&パンツァー リトルアーミー。

同年8月、バイオハザード THE STAGE。

同年11月、東スラブ共和国で内戦が再開される(バイオハザード ダムネーション・プロローグ)

同年7月~西暦2011年4月、第二章・白の聖女編。

西暦2011年2月、バイオハザード ダムネーション本編。

同年6月、第三章・The dawn編開始。

 

補足

 

ちなみに戦車道大会が6月となっているのは、アニメ本編で西住まほが高校3年生で17歳とあったのと、誕生日が7月1日なことから、7月以降は無いと思い、しかし、夏に開催されていないというのも可笑しな話なので、6月としました。ちなみに劇場版では西住まほは18歳になっており、この事から7月、それも夏休み期間中である事から、7月下旬~8月下旬までと思い、散々迷った末、間をとって劇場版の大洗連合対大学選抜チームの試合は8月上旬としました。

 

そして、ガルパン本編を2015年とした根拠は、劇場版で角谷杏が文科省から取得した大学選抜チームとの試合に関する念書のアップを確認し、文書番号が「27文科高第307号」となっており、平成27年=2015年ということになるからです。

 

それとリトルアーミーですが、この物語は元々西住姉妹の年が2つ離れているなど、原作やリトルアーミーⅡと違う部分あったので、原作やリトルアーミーⅡに合わせる形で、小学6年生の頃に起きたという設定で書かれています。中須賀エミが転校した時期ですが、これは一学期も居たとの事なので、同年6月からということで。

 

・登場用語    

 

BSAA

 

原作バイオ参考。・・・と言いたいところだが、改めて説明すると、BSAAは2003年に設立された対バイオテロ特殊部隊。私設対バイオハザード部隊が前身となっており、製薬企業連盟というスポンサーがついたことで、BSAAとなった。その後、アメリカ合衆国の対バイオテロ組織・FBCを取り込む形で国連直轄の組織となり、今に至る。世界中に支部を持っており、8つのブロック(欧州本部、北米支部、南米支部、オセアニア支部、極東支部、西部アフリカ支部、東部アフリカ支部、中東支部)に別けられている。

 

オールレンジ

 

のび太に付けられたコードネーム。射撃においてかなりの腕を誇ると見なされたことから、このコードネームが付けられた。



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第12話 決着までの序章

今作ではバイオハザード6でピアーズが使っていた対物ライフルはバレットM82としています。それが一番しっくり来たので。


◇西暦2011年 6月12日 カナダ オーセール市

 

 ここはカナダのハドソン湾沿岸に存在するオーセールという町。

 

 この町は人口が一万人と、そこそこな規模の街並みであるが、現在は何人居ようが意味がなかった。

 

 いや、むしろ小さい街並みであった方が良かったかもしれない。

 

 何故なら、この町は現在、バイオハザードによって炎に包まれていたのだから。

 

 

「ひでえ有り様だ」

 

 

 BSAA北米支部アルファチームに所属する隊員の一人、ピアーズ・ニヴァンスはそう言いながら、地獄と化した街並みをビルの上からバレットM82に装備されたスコープ越しに眺めていた。

 

 もっとも、ただ眺めているだけではない。

 

 ピアーズ、そして、チームの隊長であるクリス・レッドフィールドを初めとした隊員達にとっての敵であるBOWを駆逐している最中だった。

 

 

「そら、もう1つ」

 

 

 ピアーズはバレットM82から12、7×99ミリ弾を発射して、まだ無事な民間人を追い掛けるゾンビの脳天に撃ち込む。

 

 元々対物ライフルという分類に入るバレットM82は人間に向ける類いのものではない。

 

 何故なら、オーバーキルとなるからだ。

 

 しかし、その分威力は強烈であり、当たったゾンビは脳どころか頭部全体が吹き飛んだ。

 

 いや、首から上が消えて無くなったという言い方が一番適切かもしれない。

 

 兎に角、それほどバレットM82から発射される12、7×99ミリ弾の威力は強力だった訳である。

 

 そうしたことを何度か繰り返していた時、隊長であるクリスから連絡が入る。

 

 

『こちらクリスだ。ピアーズ、聞こえるか?』

 

 

「はい、聞こえます」

 

 

『一旦、下に降りてきてくれ。こちらの人手が欲しい』

 

 

「了解。・・・ん?」

 

 

『どうした?』

 

 

「ああ、いえ。今、子供のような人影を見たような気がして」

 

 

『なに?』

 

 

「確認しますか?」

 

 

『いや、見た位置をまず知らせてくれ。場合によっては俺達が行く』

 

 

「はい。位置は──」

 

 

『その位置なら俺たちの方が近いな。ピアーズは下に降りて仲間と合流してくれ』

 

 

「了解」

 

 

 ピアーズはそう言いながら通信を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻

 

 

「地図によると、あと少しか」

 

 

 のび太はM4カービン・アサルトライフルを腕に抱えながら、とある目的地に向かっていた。

 

 事は数日前。

 

 前に会ったニコライというロシア人が島田透についての情報を送ってきたのだ。

 

 なんでもカナダのオーセールという町で何かを起こそうとしているとの事だった。

 

 残念ながら、ニコライ当人は昨日から連絡が取れなくなっていたので、確かめる術は無かったのだが、のび太はこの情報に賭けた。

 

 そして、のび太が向かった時には既にバイオハザードは起きていたのだが、のび太はそのお蔭でこのような大荷物を抱えながらも侵入に成功していたのだ。

 

 

「!? 前方に2体」

 

 

 弾はなるべく消費したくはないが、2体のゾンビの位置からして避けられないと、のび太は始末することに決定した。

 

 M4カービンのセレクターをセミオートにしてゾンビの頭部に銃の照準を合わせる。

 

 

 

ド! ド!

 

 

 

 その射撃と共に、2発の5、56×45ミリ弾は2体のゾンビの頭部へと命中し、2体の活動を完全に停止させる。

 

 

「・・・使い慣れていない銃だけど、案外上手く行くもんだな」

 

 

 このM4カービンは最近手に入れた銃なので、のび太も不安があったのだが、実際に扱ってみるとかなり扱いやすかった。

 

 特にその汎用性はのび太もかなり気に入っていた。

 

 まあ、元々アサルトライフルという銃種は汎用性が売りなのだが。

 

 それは兎も角、のび太はそんな感じに次々とゾンビを倒していった後、目的の建物へと辿り着いた。

 

 

「ここか・・・」

 

 

 一見、なんの変鉄もない建物であったのだが、ニコライの情報によると、ここが件の島田透の研究施設なのは間違いないだろう。

 

 何故なら、建物の前にはハンターが4体とタイラントが1体が突っ立っているのだから。

 

 

(あんな如何にも“ここが怪しいです”なんて事をして、連中は何を考えているんだ?)

 

 

 のび太は物陰に隠れながらそう思うが、これはあながち間違いな判断とも言えない。

 

 逃げ回っている最中の普通の人間なら、ここには近寄らないだろうし、間違って近寄ってしまったとしてもすぐ殺される。

 

 BSAAでもあらかじめこの建物の存在を知らなければ、ただ単にBOWが佇んでいるとしか思わないだろう。

 

 むしろ、のび太のようにあらかじめこの建物を知っていて、尚且つ普通の人間ではないという事が異例なのだ。

 

 無論、のび太はその事には気づいていないが、兎に角、のび太にとっては情報の正確さを再認識させるのに十分な状況だった。

 

 そして、のび太がハンター達を倒すために物陰から出ようとしたその時──

 

 

 

キシャアアアア

 

 

 

 側面の壁から突如としてリッカーが現れた。

 

 

 

チャキ

 

 

 

 のび太はM4カービンの旋回が間に合わないと判断し、右手をM4カービンの引き金から離してベレッタM92をリッカーに素早く向ける。

 

 そして、発砲しようとした正にその時──

 

 

 

ドドド

 

 

 

 ──リッカーに向けて銃撃が行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のび太の側面を襲撃しようとしたリッカーを撃ったのはクリスだった。

 

 クリスが使っていたのは、H&K G36・アサルトライフル。

 

 1990年代後半に、ドイツのH&K社が1から開発したアサルトライフルである。

 

 89式小銃、M4カービンより後に出来たこのアサルトライフルは、当然の事ながら三店バースト機能がある。

 

 クリスはその機能を駆使してリッカーを見事仕留めていた。

 

 

「ふぅ、なんとか仕留めたか」

 

 

 そして、クリスは改めて救助対象の少年──のび太の顔を見る。

 

 

(まだ子供だな)

 

 

 クリスはそう思った。

 

 欧米人から見て東洋人は、実年齢より数歳若く見られる事があるが、のび太は元々が12歳。

 

 クリスから見ると、小さな子供と見られるのも当然と言えば当然だった。

 

 しかし、現在ののび太の状態はクリスから見ても異常だった。

 

 いや、クリスではなく、誰から見ても異常なように思えるだろう。

 

 何故なら、のび太はM4カービンを左手で持ちながら、その右手にはBSAAで採用されているのと同じ銃であるベレッタM92(ちなみにBSAAで採用されているのは、正確にはベレッタM92F)が構えられているのだから。

 

 おまけにのび太の様子を見るに、偶然拾ったとかでは無さそうなのは丸分かりだ。

 

 こんな少年は滅多にお目にかかれるものではない。

 

 クリスにそのような目で見られていたのび太であったが、現れた男達の胸に付けられたログに思わず少しばかり動揺する。

 

 

(BSAA?)

 

 

 BSAA。

 

 それは8年前に発足した国連直轄の対バイオテロ特殊部隊である。

 

 元々は民間のNGO団体であったが、アメリカの対バイオテロ組織だったFBCを吸収する形で現在の組織となった。

 

 ちなみにのび太は知らないことだが、クリスはBSAAの前身だった私設対バイオハザード部隊からの所属であり、今はその地位を捨てたとはいえオリジナル・イレブンの一人だった男である。

 

 その上、2年前にはあのアルバート・ウェスカーを倒しており、BSAA内では英雄という扱いだった。 

 

 まあ、それは兎も角、のび太は敵ではない事に安堵しつつ、ベレッタM92の撃鉄を元に戻して銃をホルスターに戻しながら、どうしようかと思案する。

 

 しかし、すぐにそんなことをしている場合ではないと思い至った。

 

 

(しまった。さっきのハンター達、もしかしたらこっちに)

 

 

 銃声でこちらの存在を掴んだかもしれない。

 

 のび太はその事を思い出して、M4カービンを構え直しながら周囲を警戒する。

 

 そして──

 

 

 

グオオオォオオ

 

 

 

 ──そんなのび太の言葉を肯定するかのように、4体のハンターと1体のタイラント。

 

 そして──

 

 

 

オオォォオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

 何処に隠れていたのか、大量のクリムゾンヘッドが姿を現し、のび太達に襲い掛かった。



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第13話 アリス計画

◇西暦2011年 6月12日 カナダ オーセール

 

 次々とモンスターの出現に対し、のび太は即座にM4カービンを構えて応戦に入った。

 

 セレクターをバーストモードにして、まずハンターへと発砲する。

 

 

ドドド ドドド ドドド ドドド

 

 

 その3発の4連打、計12発の銃弾はハンターにそれぞれ3発ずつ叩き込まれ、4体のハンターは瞬く間にやられた。

 

 しかし、他にタイラントや大量のクリムゾンヘッドが残っている。

 

 だが、その時にはクリス達四人のBSAAの隊員(この時、クリスは3人の部下を引き連れていた)も状況を把握し、応戦を開始する。

 

 

 

ドドド ド ドドド

 

 

 

 のび太とクリス、そして、一人の部下の隊員の銃弾はグリムゾンヘッドの群れに、残り二人の隊員はタイラントに向けて銃撃を開始した。

 

 対するタイラントとクリムゾンヘッドはと言うと、総勢5丁のアサルトライフルから放たれた銃弾は前者は兎も角、後者のクリムゾンヘッドにとってはかなり脅威であり、次々と倒されることとなった。

 

 クリムゾンヘッドは動きが早いので、並の隊員では対処が難しいのだが、そこは流石のクリスが率いるアルファチームというべきか、キチンと頭に当てて目標を処理する。

 

 そして、タイラントもまた、意外に弱い個体だったのか、2つのアサルトライフルの銃撃のみで怯んでいる様子だった。

 

 これなら、状況を切り抜けられる。

 

 5名全員はそう確信し始めていた。

 

 しかし──

 

 

「ごはっ!」

 

 

 突然、タイラントに銃撃していた2名の隊員の内の一人が血を吐いた。

 

 そして、その胸には舌のようなものが生える形で貫通している。

 

 

 

キシャアアアア

 

 

 

 その隊員の後ろには、いつの間にか接近していたリッカーが居た。

 

 

「ケニー!」

 

 

 タイラントを撃っていたもう一人の隊員がリッカーに向けて銃撃する。

 

 

 

ドドド

 

 

 

 三点バースト射撃によってそのリッカーは倒された。

 

 しかし、それは逆に言えばタイラントへの牽制をする者が誰も居なくなった事になる。

 

 そして──

 

 

 

グシャッ

 

 

 

 案の定、たった今リッカーを倒した隊員はタイラントの攻撃によって頭を潰されてしまう。

 

 

「ちっ!」

 

 

 のび太は再装填が完了したM4カービンの銃口をタイラントに向けてセレクターをフルオートにして引き金を引く。

 

 

 

ドドドドドドドドドド

 

 

 

 毎分700~900発のペースで銃弾はタイラントに向かっていく。

 

 しかし、装填されている弾薬は30発なので、フルオートでは数秒で撃ち尽くす。

 

 しかも、弾丸は先程までBSAAの隊員が撃っていたものと同じ5、56×45ミリNATO弾。

 

 まともに当てたとしても撃破は不可能だ。 

 

 しかし、ここでのび太に幸運の女神が微笑んだ。

 

 その数秒の間に発射された30発の内の1発がタイラントの目に命中したのだ。

 

 そして、ただでさえ耐久力が低い個体だったこのタイラントは、目を貫通した後、銃弾が頭部に達し、絶命することとなった。

 

 

 

ドシィイイン

 

 

 

 戦場にタイラントの倒れる音が響く。

 

 のび太にしては珍しい“まぐれによる勝利”だったが、のび太にその勝利の余韻を味わっている余裕はなかった。

 

 

「ぎゃあああ!!」

 

 

 のび太の耳に悲鳴の音が聞こえ、そちらを見るとクリスと共にクリムゾンヘッドの相手をしていた隊員がクリムゾンヘッドに取り付かれていた。

 

 クリムゾンヘッドは通常のゾンビよりも力が強い。

 

 しかも、噛み付かれたのは首元であり、そこを思いっきり噛み千切られれば、致命傷はまず間違いない。

 

 

「くそっ!キール!!」

 

 

 仇を取る形でクリスはそのクリムゾンヘッドを倒す。

 

 しかし、クリムゾンヘッドはまだ沢山居る。

 

 その為、クリスにキールと呼ばれた男は明らかに致命的な怪我をしていたが、クリスにそれに構っている余裕はなかった。

 

 まずクリムゾンヘッドを倒さなければ自分は生き残れないし、隊員を連れて安全地帯に行くことも不可能なのだから。

 

 その上──

 

 

 

キシャアアアア

 

 

 

 のび太が鳴き声をした方を見ると、近くの壁に何体かリッカーが張り付いていた。

 

 

「不味いな・・・」

 

 

 のび太は空になった30発用STANAGマガジンをそこら辺に捨て、代わりにフル装填された30発用STANAGマガジンをM4カービンに装着しながら、状況の不味さに思わず舌打ちをしそうになる。

 

 前方には十数体程のクリムゾンヘッドが現在クリスと交戦中であり、後ろには数体のリッカーが居る。

 

 つまり、のび太とクリスは完全に挟み打ちとなった訳だ。

 

 今、リッカーが襲い掛かってこないのは、おそらく戦場が混乱しすぎていて訳が分からなくなっているからだろう。

 

 何故なら、リッカーはゾンビやクリムゾンヘッドなどとは違って、聴覚こそ発達してはいるが、目は見えないからだ。

 

 とは言え、戦場の混乱が治まれば即座にリッカーが襲い掛かってくるのは間違いない。

 

 音を立てなければ話は別だが、この状況でそんな器用な事が出来る訳がない。

 

 

(あの人はリッカーの存在に気づいていないか・・・)

 

 

 のび太はそう思う。

 

 まあ、気づいていたとしても、のび太が相手をしなければならない状況に変わりはないだろうが。

 

 のび太はクリムゾンヘッドを次々と倒すクリスの様子を見ながら、やはり自分がリッカーを相手にするしかないと決意する。

 

 しかし──

 

 

「ああ、くそっ!最悪だ!」

 

 

 のび太は思わず状況に悪態をつく。

 

 何故なら、最初にリッカーに殺られたBSAAの隊員がゾンビ化して現れたからだ。

 

 タイラントに殺られた隊員は頭を潰されているので復活は無いだろうが、程なく先程クリムゾンヘッドに倒された隊員もゾンビ化するだろう。

 

 そして、のび太はM4カービンの銃口をまずリッカーに殺られたBSAAの隊員のゾンビに向けて攻撃を行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇オーセール 地下

 

 

「ふむ、まさかあのクリス・レッドフィールドが現れるとはな」

 

 

 オーセールのとある建物の地下。

 

 そこでは島田透が、建物の前に設置された監視カメラから送られる映像をモニターを見つめていた。

 

 クリス・レッドフィールド。

 

 その名は島田透にも届いている。

 

 と言うより、この業界で彼の名前を知らない人間は余程の素人くらいだろう。

 

 ラクーンシティ事件の裏に隠された洋館事件を始めとしたバイオハザードを生き残り、2年前にはあのアルバート・ウェスカーを倒して、ウロボロス計画を阻止し、世界を救った英雄。

 

 それが世界中のBSAAやテラセイブ等の反バイオテロ関係者のクリスへの評価であった。

 

 無論、その存在は自分のようなバイオテロ関係者にとっては忌々しいものではあったが、透にとってはバイオテロなどというものはあくまで手段であって目的ではないため、クリスの事は評価していた。

 

 まあ、自分と合間見えることはないだろうと島田透自身は思っていたのだが、こんな形で会ったことには驚いた。

 

 

「まあいい」

 

 

 どのみちのび太もクリスも、あの計画を遂行するために邪魔なのは変わり無いのだ。

 

 ちなみにあの計画とは、1年半前にフローズンで透がのび太に話したあの計画、通称“アリス計画”の事だ。

 

 のび太に邪魔され続けたせいで延期に延期を重ねたこの計画ではあったが、ようやく成就の目処が立ったのだ。

 

 その邪魔をされては堪らないので、のび太とクリスにはこれで死んでくれれば良し、もしこれを切り抜けられたとしても新たな手段を考えるまでと透は思うが、ふとあることを思い付く。

 

 

「・・・いや、むしろ、丁度良いかもしれないな」

 

 

 透はそう言うと、キーボードを叩きながら何かを探し始める。

 

 そして、目的のものを発見すると、その端正な顔を歪めてニヤリと笑う。

 

 

「彼らには私の計画の目撃者となって貰おう」

 

 

 透はそのようなことを呟くと、戦闘が終わるのをじっくりと待った。



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第14話 復讐

◇西暦2011年 6月12日 カナダ オーセール

 

 

「・・・一通りなんとかなったな」

 

 

 クリスはそう言いながら、辺りの警戒を続ける。

 

 ちなみに辺りには彼が倒した元隊員のゾンビやクリムゾンヘッドの山が倒れている。

 

 

(この人、本当にただの人間か?BOWかなんかじゃないの?)

 

 

 そんなクリスを見ながら、のび太はそう思う。

 

 ちなみに何故そう思ったのかと言えば、クリスはクリムゾンヘッドの殆どを倒したのだが、アサルトライフルや拳銃はおろか、素手まで使って倒したのだ。

 

 普通ゾンビなどを相手に素手で戦おうとする者は居ない。

 

 百歩譲ってナイフが良いところだろう。

 

 何故なら、効率が悪い(弾薬節約という意味なら話は別だが)し、一歩間違えれば感染してしまうからだ。

 

 のび太でさえ、BOW相手に銃の銃弾が足りないときはナイフを使うが、素手で戦おうとはしない。

 

 ナイフさえ無い時は逃げるか、足を引っ掻けて転ばせるかするくらいだ。

 

 それをいとも簡単にやってのけたクリスに、本人のゴリラのような体格も相俟って、本当に人間なのかどうか怪しく思っていた。

 

 今なら人間型のゴリラBOWと言われても信じられそうである。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

 一通り警戒が終わったところで、クリスがのび太に声を掛ける。

 

 

「あっ、はい。なんとか・・・」

 

 

「そうか。今、応援を呼ぶからもう安心して良いぞ」

 

 

「そ、そうですか」

 

 

 不味い、とのび太は思う。

 

 元々のび太の用事はすぐ目の前にあるあの建物を調査して、島田透関係の物が有れば破壊し、本人が居ればその本人を殺すこと。

 

 ここでBSAAに保護されれば、それは不可能になる。

 

 しかし、だからと言って実力行使をすることも憚られる。

 

 この人達は善意でやっているのだろうし、気絶させるにしてもここはバイオハザード発生地点のど真ん中。

 

 気絶などすれば、生き残れる可能性は全く無くなるだろう。

 

 どうしようかとのび太は考えるが、そこで“何故か”建物の前に据え付けられていたマイクから声が聞こえる。

 

 

『やあ、野比のび太君。そして、英雄、クリス・レッドフィールド。ようこそ、私のテリトリーへ』

 

 

 それはのび太にとって忌々しい聞き覚えのある声だった。

 

 クリスは警戒しながらも、何が起こっているのか分からないと言った顔をしていたが、のび太には分かる。

 

 

「今さっきゾンビ達を放出したのはお前だな!」

 

 

『如何にも。だが、仕方ないだろう。あの程度のBOWの攻撃に耐えられない人間など、生きている価値はない』

 

 

「・・・なんだと?」

 

 

 透の言葉に対し、低い声でクリスは問い返す。

 

 ちなみにのび太と透は母国語である日本語を使っていたが、クリスも元アメリカ空軍所属であったし、日本語は朧気ながら理解できる。

 

 しかし、理解できたからこそ、当然の事ながらクリスは怒る。

 

 何故なら、さっきのゾンビやBOWの攻撃によって、クリスは部下を3人も失ったのだ。

 

 ましてや、クリスは人並み以上に仲間思いだ。

  

 怒るのも道理と言える。

 

 しかし、島田透にとってはそんなことはどうでも良い話だろう。

 

 彼にとって、凡人というのはなんの価値もないものなのだから。

 

 

『何故怒るのかね?君も普段から思っているだろう?凡人に生きる価値はないと』

 

 

「!お前!!」

 

 

『ふむ、どうしても言いたいことが有るなら、私の研究室まで来たまえ。そこの建物の入り口から入れる』

 

 

「・・・折角だが、遠慮しておこう。要救助者が居るのでな」

 

 

 クリスは一瞬怒るが、要救助者であるのび太の存在を思い出し、頭を冷やす。

 

 しかし、それすらも透にとっては想定済みのようだった。

 

 

『では、これを見たまえ』

 

 

 透がそう喋った直後、映像が映し出され、その映像にはピアーズら、残りのアルファチームの隊員8名が映っていた。

 

 

「! どういうつもりだ!!」

 

 

『どういうも何も、これから彼らを殺すのだよ。当たり前だろう?』

 

 

 あっさりとそう言う透に、クリスは唖然としながらもこう確信する。

 

 こいつはウェスカー以上の狂人だ、と。

 

 しかし、もしここに居ないかつてラクーンシティのバイオハザードを生き残ったクリスの妹であるクレア・レッドフィールドやレオン・S・ケネディが居たらこう思うだろう。

 

 こいつはウィリアム・バーキンと同類である、と。

 

 まあ、この場にはウィリアム・バーキンを知る者は居ないので、意味の無いことであったが。

 

 

「ピアーズ、急いでそこから離脱しろ!」

 

 

 クリスは慌てて通信をピアーズに向けて繋げ、危機を伝えようとする。

 

 しかし──

 

 

 

ガーーー

 

 

 

 そんな雑音が入り、通信は一切繋がらなかった。

 

 

『無駄だ。私が妨害電波を流しているからな』

 

 

「・・・くそっ!」

 

 

 クリスは通信機を思わず叩き付ける。

 

 しかし、そんなことをしてもはっきり言って無意味だ。

 

 何故なら、部下が人質に取られている状況には変わりなかったのだから。

 

 

『ふふっ、どうやら分かったようだね。では、招待に応じてくれ。以上だ』

 

 

 透はそう言うと、マイクと映像の電源を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同日 カナダ オーセール 建物内

 

 クリスとのび太は建物内に入り、そこで見つけたエレベーターに乗って下へと降りるボタンを押した。

 

 

「しかし、あの男は何者だ?君を知っているようだったが?」

 

 

 クリスのそんな問いに、のび太はM4カービンの30発用STANAGマガジンをフル装填された物に交換しながら答える。

 

 

「おそらく、このバイオハザードを起こした張本人でしょう。島田透(トオル=シマダ)、と前に会った時に言っていましたよ。あの時はフローズンでしたが」

 

 

「フローズンだと?」

 

 

 クリスはその町の名前に聞き覚えがあった。

 

 約1年半前にバイオハザードによって消えたイギリスにある町。

 

 それだけならば、流石のクリスの記憶にも残らなかっただろうが、問題なのは生存者が全く居ないという点だった。

 

 それどころか、原因と思われる透の研究室が粉々に爆破され、資料が持ち去られた事で、新型のウィルスによるバイオハザードということ以外、何も分からない案件だったらしい。

 

 しかし、何故この少年があの町に居て、生き残ったのかは気になった。

 

 

「何故、君がフローズンに?」

 

 

「観光ですよ。家族と一緒にね」

 

 

「その家族は?」

 

 

「・・・」

 

 

 のび太は沈黙を以て答える。

 

 

「・・・そうか、悪いことを聞いたな」

 

 

「いえ」

 

 

「しかし、何故、保護を求めなかったんだ?」

 

 

「求めて、どうなるんです?」

 

 

 のび太はクリスを見上げながら、彼に対して光の無い目を向ける。

 

 

(この子は・・・)

 

 

 クリスはその目を見て、のび太の闇が深いという事を理解してしまった。

 

 

「ええ、確かに保護を求めれば身の安全は保証されるでしょう。たぶん、僕自身も叔父さんが引き取ってくれるでしょうし。でも、心の中はそうはいかない」

 

 

 だからこそ、のび太は復讐の道を選んだ。

 

 その根幹にあるのは『自分の心がスッキリしないから』。

 

 普通の人間からしてみれば、それだけか?と思えるような事だが、これはケースによっては重大な意味を持つことが多い。

 

 例えば、虐められている人間が居たとして、学校側が上手く対処できず、そのまま泣き寝入りという事態になってしまえば、虐められた当人の選ぶ道は精神的に追い詰めら、この世と自分に絶望するか、それとも逆に怒り暴力をその虐めた当人に向けて自分の気を晴らすかのどちらかでしかない。

 

 こういうのは現代の日本では大抵の場合は前者である。

 

 これは『暴力はいけないよ』という事無かれ気質がそうさせるのだが、それでも稀に後者の人間も居る。

 

 そして、のび太はその稀である後者の人間だった。

 

 ただそれだけの話である。

 

 もっとも、こんなことをフローズン・バイオハザード以前ののび太に言っても全然信じないだろう。

 

 何故なら、のび太は虐められっ子であり、常に誰かに劣等感を抱いていたのだから。

 

 しかし、幾度もの冒険を見ていれば分かる通り、のび太は一線を越えると、その内に秘められた凄まじい潜在能力を解放するのだ。

 

 

「だから、僕はあの男に復讐する道を選んだんですよ」

 

 

 のび太はそう言ったが、実を言うと、もう1つ理由があった。

 

 保護を求めた結果、もし自分の体の中のS─ウィルスの存在がバレれば人体実験送りにされるのではないか、そして、今後、自分の意思で生活を送れなくなるのではないかという疑念があったのだ。

 

 ちなみにこののび太の懸念は全くもって正しかった。

 

 実際に13年前のラクーンシティ事件で起きたバイオハザードでは、G─ウィルスを宿した12歳の少女であるシェリー・バーキンが事件後にアメリカ合衆国によって保護という名の軟禁、そして、人体実験が行われたのだから。

 

 ついでに言えば、2年前にクリスがウェスカーを倒したことによってその保護は必要なくなったが、自由の身にするには合衆国のエージェントにならなければならないという条件がアメリカ政府より出されている。

 

 もっとも、このあまりに鬼畜すぎる現実をのび太は知らないし、知っていたとしたら益々自分がS─ウィルス完全適合者であるという事は言わないだろう。

 

 そして、今もクリスにそこまで言うつもりはのび太にはない。

 

 だが、クリスはそれで納得したようだった。

 

 

「そうか。辛かったな」

 

 

 そして、クリスがそう言った直後、エレベーターは目的の場所へと着いた。




今思ったんだけど、シェリー・バーキンの境遇ってあまりにも厳しすぎないですか?折角解放されたと思ったら、完全に解放される条件が合衆国のエージェントになることとか。シェリー自身がエージェントになりたいという心境だから良かったものの、なりたくないと思っていたらどうだったのやら。


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第15話 両親との再会

◇西暦2011年 6月12日 カナダ オーセール とある建物 地下 

 

 エレベーターで地下に降りたクリスとのび太は、それぞれアサルトライフルであるG36、M4カービンを構えながら周囲を警戒する。

 

 

(何もなし・・・ということは中で襲撃するつもりはないのか?)

 

 

 のび太はそう思うが、だからと言って油断するつもりはないし、それはクリスも同様だろう。

 

 まあ、あんな狂人を相手に油断できる方がどうかしていると言えるかもしれないが。

 

 

「・・・進むぞ」

 

 

「ええ、それしかありませんね」

 

 

 クリスの言葉に、のび太は同意する。

 

 彼らが出た廊下は一本道だ。

 

 だとすると、退くという選択肢が有り得ない以上、罠があったとしても進むしかないのだ。

 

 

「行きましょう」

 

 

 そうして二人は進んでいった。

 

 そして、暫く進んだ後、丸形の広い部屋へと辿り着く。

 

 そこで待ち構えていたのは──

 

 

「ようこそ、と言うべきかな?私が島田透だ」

 

 

 そう言って自己紹介したのは、のび太にとっては1年半ぶりのあの男だった。

 

 

「・・・久し振りだね。でも、どういうつもりで僕達をここまで呼んだんだ?」

 

 

「それは簡単だ。君達には目撃して欲しいからだよ。この歴史的瞬間を」

 

 

「歴史的瞬間?」

 

 

「そうだ。アリス計画の成就の瞬間をね」

 

 

「アリス計画だと?」

 

 

 クリスは首を傾げる。

 

 そんな計画の名前を聞くのは初めてだからだ。

 

 しかし、2年前のアルバート・ウェスカーが行おうとしたウロボロス計画の時みたく、とんでもない計画で有りそうなのは朧気ながらに理解できた為、クリスは警戒しながら透に尋ねる。

 

 

「そのアリス計画とはなんだ?」

 

 

「そうだね。まあ、のび太君には2年前に言っているが、全世界に隠された私の配下の支部にS─ウィルスを散布させ、全人類の再整備を促そうという計画だよ」

 

 

「!?」

 

 

 これまたクリスにとっては何処かで聞いたことのある計画の内容だった。

 

 そう、散布させるウィルスと散布方法こそ違うが、これはあのウロボロス計画とほぼ同じ内容だったのだ。

 

 

「散々自慢しておいて、ウェスカーの真似事か?笑えるな」

 

 

「真似事とは失礼だね。偶々、被っただけだよ」

 

 

「そうか。まあ、どちらにせよ、俺がお前を見逃がすとでも思っているのか?」

 

 

「思っているさ。なんせ、君らにはそれしかすることが無いんだから」

 

 

「あ?それはどういう──」

 

 

 

ピー

 

 

 

 その音と共に、中央部分の下にあった扉が開かれ、何かが島田透の背後に現れる。

 

 それは──

 

 

「なっ、これは・・・」

 

 

 のび太は驚愕する。

 

 現れたのは、フローズンでも見た脳を誇大化させたあの化け物だった。

 

 しかし、大きさは桁違いだ。

 

 あの時は元の人物に数十センチ足した程の大きさでしかなかったが、この化け物の大きさはそのような次元ではなく、少なくとも3メートルという大きさがある。

 

 それが2体。

 

 のび太とクリスの前に現れていた。

 

 

「こんな切り札を残していたとはね」 

 

 

 のび太はそう言いながら、M4カービンを向けるが、そこで透がある事実を言う。

 

 

「ふふっ、のび太君。本当に撃って良いのかな?」

 

 

「?」

 

 

「分からないか?この2体をよく見てみろ」

 

 

 のび太はそう言われて、改めて2体をよく観察する。

 

 一見、なんの変鉄もない化け物。

 

 何処からどう見てもフローズン・バイオハザードの時に襲ってきた化け物であろう事は分かる。

 

 だが・・・のび太は何か引っ掛かっていた。

 

 

(誰かに似ているような・・・)

 

 

 その時、頭の中で物凄い警報が鳴る。

 

 気づくな、と。

 

 しかし、そう思ったからこそ却って気づいてしまった。

 

 これが自分の両親が化け物となった姿である(・・・・・・・・・・・・・・)ということを。

 

 

「これって・・・」

 

 

「そうだ。君の両親だよ」

 

 

「貴様!」

 

 

 

ドドド 

 

 

 

 透の意図が分かり、クリスが怒鳴ろうとするが、その前に銃声が鳴り響いた。

 

 

「なっ」

 

 

 透は自らの右胸を見る。

 

 そこにはくっかりと風穴が空いていた。

 

 M4カービンの三点バースト射撃。

 

 それによって発射された三発の5、56×45ミリNATO弾は島田透の右胸を撃ち抜いたのだ。

 

 小口径のライフル弾とはいえ、腐ってもアサルトライフルから発射された銃弾。

 

 並の防弾チョッキや防弾ベストでは防げもしない。

 

 ましてや、透は防弾チョッキも防弾ベストも着ていないのだ。

 

 肉体も人間特有のものでしかない。

 

 その為、三発の銃弾はあっさりと右胸を貫いた。

 

 しかし、これでものび太は冷静さを失って射撃した方だと言える。 

 

 何故なら、普段ののび太なら真っ先にヘッドショットを食らわせていた筈だからだ。

 

 もしそうだったとすれば、透は銃声が聞こえた時には、何も感じぬまま絶命していただろう。

 

 しかし、そうなっていないということは、のび太の方に若干冷静さが欠けていたということでもある。

 

 まあ、どちらにしても人間にとっては致命傷であることには変わりなかったが。

 

 

「う、うおぉぉ」

 

 

 そんな苦しげな声を上げながら、透は倒れた。

 

 そして、それを見た?化け物2体が遂に動き出し、仇を打とうとするかのようにのび太とクリスに対して牙を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドドドド

 

 

 

 化け物がのび太とクリスの方に向かってきた時、のび太とクリスはそれぞれ左右にバラけた。

 

 そして、2体の化け物は2体ともが先程主人を撃ったのび太の方に向かっていったが、クリスのG36の銃撃を受けた事によって1体が向きを変えてクリスの方に向かった。

 

 

 

ドドドド ドドドドド

 

 

 

 のび太は向かってくる化け物に向けて、M4カービンのセレクターをバーストからフルオートに変えながら、マガジン内に残った27発の弾薬の事も考慮して適切な配分で化け物の内の1体に対して引き金を引く。

 

 その行動に全く躊躇いはなかった。

 

 のび太は化け物の正体が両親と分かっても、容赦なく攻撃を行ったのだ。

 

 これには2つの要素があった。

 

 1つはのび太が既にフィーネという護る者を得たこと。

 

 のび太は本来の気質からか、護るべき者に脅威が近づくと、途端に覚醒するという性質があったが、今回は継続的にそれが出た形となった。

 

 そして、もう1つはドラえもんとの約束だ。

 

 ドラえもんはのび太に生きろと言った。

 

 これは呪いの言葉ではあったが、同時にのび太に生きることを促す福音でもあった。

 

 そして、この2つの要素が“両親の打ち取りへの躊躇”という心境を上回った為、のび太はこうして躊躇わずに戦うことが出来たのだ。

 

 ・・・しかし、それで結果が残せるかどうかは話は別だ。

 

 5、56×45ミリNATO弾は先程から何発も命中している筈なのだが、なかなか効いている気配がない。

 

 と言うより、弾が吸収されているような感じがする。

 

 クリスもまた同様にのび太とは違う化け物相手にG36の引き金を引きながら、応戦しているが、G36はその威力こそのび太が持っているM4カービンより後に出来た為か、若干強まっているが根本的に使っている弾薬が同じなので、今回に限っては然程違いはなかった。

 

 

(・・・この分だと銃系統は殆ど効果が無いだろうな)

 

 

 のび太はそう思い、化け物の攻撃をかわしながら物凄い速さで思考を重ねる。 

 

 

「となると・・・」

 

 

 のび太は腰のポーチからMK3攻撃手榴弾を取り出す。

 

 MK3攻撃手榴弾はアメリカ軍や陸上自衛隊で採用されている手榴弾であり、破片ではなく爆風で相手を殺傷する。

 

 それ故に被害半径は2メートルと短いが、その分使いやすいという利点がある。

 

 勿論、のび太は破片で相手を殺傷するM67破片手榴弾も持っていたが、こちらは遮蔽物が無いと安心して使えないという事で、のび太はよっぽどの状況でも無い限り、この手榴弾は使わないことにしていた。

 

 そして、のび太は安全ピンを抜き、化け物の近くにMK3攻撃手榴弾を1つ投げる。

 

 勿論、クリスに当たらない事も考慮して。

 

 そして、数秒後──

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガアァァアアン

 

 

 

 

 

 

 

 ──MK3攻撃手榴弾の爆風が、のび太を襲っていた化け物を襲った。



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第16話 弔い

◇西暦2011年 6月12日 カナダ オーセール とある建物 地下

 

 

 

ドガアァァアアン

 

 

 

 MK3攻撃手榴弾の爆風は、その近くに居た化け物に被害を与えた。

 

 

「うっ」

 

 

 しかし、のび太も若干であるが巻き込まれてしまい、思わず腕で顔を覆う。

 

 勿論、10メートル近く離れていた為、化け物と違って、その被害は皆無であったが。

 

 そして、爆風が治まると、のび太は化け物に向けてM4カービンの銃口を向けながら、化け物をよく観察する。

 

 

「・・・やっぱり、思った通りだったな」

 

 

 化け物は先の苦戦が嘘のようにあっさりと脳のようなものを破裂させながら倒れ込んでいた。

 

 のび太が推測したのはこうだった。

 

 おそらく、化け物は銃弾などをスボンジのようなもので吸収している。

 

 これによって、アサルトライフルの銃弾はおろか、ありとあらゆる物体攻撃は通用しなくなっており、こちらのM4カービンやG36の銃弾も吸収しているという推測だ。

 

 しかし、これに対する対抗策は至極、単純明快だった。

 

 爆風で吹き飛ばせば良いのだ。

 

 だが、そんな推測が合っているという保証もないため、のび太は半信半疑であったのだが、だからと言って他に妙案が有るわけでもなかった為、やむを得ず自らの推測に基づいた賭けを行った。

 

 そして、結果、その賭けは見事に大正解という形で終わる事となった訳である。

 

 

「そうだ、クリスさんは?」

 

 

 のび太はもう一体の化け物と戦っているクリスを思い出し、そちらの方に目を向ける。

 

 すると、そこには苦戦したままのクリスの姿があった。

 

 

「不味い!」

 

 

 のび太は自分に注意を引き付けようと、M4カービンの銃弾をもう一体の化け物へと浴びせようとする。

 

 だが──

 

 

 

カチッ、カチッ

 

 

 

 弾切れだった。

 

 

「くそっ!」

 

 

 のび太は悪態をつきながら、再装填が間に合わないと判断し、新たに最近手に入れた拳銃──デザートイーグル(50AEバージョン)を取り出す。

 

 このデザートイーグルの50AEバージョンは、デザートイーグルの中でも最大の口径の弾丸を使用する物であり、同時に現在存在するオートマチック拳銃の中でも最大の威力を誇る代物でもある。

 

 もっとも、その威力の代償として、装填できる弾数は1マガジンにつき7発と少ないし、反動も大きいのだが、発射される50AE弾の運動エネルギーは大口径のアサルトライフルであるAK47とほぼ同等とも言われている(ただし、初速は遅いので、射程はAK47より遥かに劣る)。

 

 つまり、拳銃でありながら、射程によってはM4カービンよりも威力は強力であるというとんでもない代物だった。

 

 そのデザートイーグルの50AEバージョンの有効射程は80メートル程であったが、のび太と化け物の距離は50メートルと離れていないので、問題はなかった。

 

 問題は反動の受け流し方だ。

 

 のび太もこの銃を初めて撃ってみた時、この反動(と言っても、回転式のマグナム銃に比べれば反動は小さいが)にはかなり悩まされた。

 

 ここ最近行った訓練によってようやく射撃についてはどうにかなるレベルになったが、早撃ちはその反動から到底不可能だという結論に至る事になり、そういう意味ではのび太もあまり多用したくない銃ではあった。

 

 しかし、クリスがアサルトライフルを使っている以上、それより圧倒的に威力が劣る普通の拳銃を撃ったとしても、こちらに注意を向けるかは分からないし、時間が無い以上、贅沢は言えない。

 

 

 

ドーン!

 

 

 

 拳銃より1段階甲高い銃声が響く。

 

 そして、デザートイーグルから発射された50AE弾は、確かに化け物の頭部へと命中し、のび太に注意を向けることとなった。

 

 

「よし、こっちだ!」

 

 

 のび太はそう叫び、一旦デザートイーグルを仕舞うと、もう一度、MK3攻撃手榴弾の安全ピンを抜きながら、化け物の近くに対して投げる。

 

 そして、数秒後──

 

 

 

ドガアァァアアン

 

 

 

 MK3攻撃手榴弾の爆発は起きた。

 

 しかし──

 

 

「くそっ!やっぱり、難しいか!?」

 

 

 爆発した頃には化け物はMK3攻撃手榴弾の被害半径から去っていた。

 

 元々、前述したように、このMK3攻撃手榴弾は被害半径が2メートルと小さい。

 

 故に、このように“爆発したのに敵に被害がない”などという事態は非常に多い。

 

 先程は偶々上手くいっただけである。

 

 もっとも、その分、使える場面が多いのだが、今回に限ってはなんの意味もない。

 

 しかし、全く意味の無い行動という訳ではなかった。

 

 手榴弾が爆発したことで、それに反応したのか、化け物はそちらを向いたからだ。

 

 

「! 今だ!!」

 

 

 のび太はこの隙にと、持っていたMK3攻撃手榴弾を化け物に向かって投げる。

 

 しかも、今度は爆発範囲を広めるために、持っていた残り3つのMK3攻撃手榴弾を全部投入して。

 

 そして──

 

 

 

ドガアァァアアン、ドガアァァアアン、ドガアァァアアン

 

 

 

 ──3つのMK3攻撃手榴弾が爆発したことで、化け物はその爆風の嵐に包まれる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か?」

 

 

「ええ、なんとか」

 

 

 化け物を2体とも仕留め、警戒を終えた後、クリスはのび太に声を掛ける。

 

 対して、のび太は表面上はいつも通りではあったが、内心、心穏やかではなかった。

 

 

(遂に殺ってしまった)

 

 

 それは両親殺しに対する自分への嫌悪感。

 

 先の島田透であれば、遠慮なく殺せた。

 

 彼は狂人であり、この世界で生きていてはいけない類いの人間であると本能的に分かっていたからだ。

 

 しかし、両親はそうではなかった。

 

 化け物に変えられたとは言え、自分を産み、育ててくれた両親だ。

 

 これで虐待を受けていたとかなら、また話も違っただろうが、あいにくとそうではない。

 

 のび太はそんな両親の命を決定的に奪った事に、酷い嫌悪感を感じていたが、同時にこれで良かったとも感じていた。

 

 両親を他でもない自分の手で弔うことが出来たからだ。

 

 そんなのび太の様子を見て、クリスが心配したのか、また声を掛けてきた。

 

 

「もう一度聞くが、本当に大丈夫か?」

 

 

 これに対して、のび太は先にクリスと今後の事を話すことが先決と、意識を戻す。

 

 

「・・・ええ、勿論。心配かけてすいません。それよりも、まずはこの建物の何処かにある妨害電波を解除しないといけませんね」

 

 

「あ、ああ。俺の仲間に連絡を着けたいからな。その後──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ、ふふふ」

 

 

 

「!?」

 

 

「!?」

 

 

 クリスが今後の事を言おうとした時、不気味な笑い声が聞こえ、のび太とクリスは即座に警戒態勢に入る。

 

 そして、当の笑いの主──島田透は、先程ののび太の銃撃によって血に染まった状態のまま立ち上がった。

 

 

「お前、まだ生きてられたのか?」

 

 

「ああ、その通りだ」

 

 

 島田はきっぱりとそう言うが、体がふらついていて、とても先が長そうには見えない。

 

 おそらく、あと一押しで死亡するだろう。

 

 しかし、それは透も分かっているのか、不気味な薄笑いを浮かべている。

 

 

「と言っても、今のままでは長くは無いがね。だが、この薬を打てば──」

 

 

 

プスッ

 

 

 

 そう言って島田透は緑色の液体が入った注射を取りだし、自分の首に向けて打った。

 

 そして──

 

 

「お、おおおおおおお!!」

 

 

 透の体が膨大化し始める。

 

 更に言えば、心なしか、化け物に近い様相となり、まるでドラえもんのビックライトを浴びせたかのようにドンドンと巨大化していく。

 

 そして、それが10メートル以上という体長となった時、ようやくその膨張は止まった。

 

 これが強化型S─ウィルスの力だった。

 

 ちなみにこの強化型S─ウィルスが完成したのはつい最近であり、アリス計画においても、本来ならこれを使わない予定だった。

 

 なにぶん、強力すぎて予算が足りなかったし、ここまで来ると、S─ウィルスの元となったあの愛里寿でさえ無事で居られるかどうか分からないからである。

 

 しかし、今回、透は最後の手段としてこれを使用していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イクゾオオォォオオオ」



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第17話 決着

◇西暦2011年 6月12日 カナダ オーセール

 

 

「どうだ?」

 

 

「駄目です。繋がりません」

 

 

 クリス達が透と対面していた頃、別動のピアーズ率いるアルファチーム総計8名の隊員は、なんとかクリスと連絡を着けようと、先程から無線機を弄り続けていた。

 

 しかし、現実にはクリスどころか、HQ(最高司令部)にすら繋がらず、どう動くか迷っている状態だった。

 

 セオリー通りであれば、こういう場合は“生還を優先して、生存者を救助しつつ撤退”であるが、クリスを置いて撤退しても良いものかどうかの迷いがあった。

 

 しかし、このまま何も行動せずにバイオハザードの現場のど真ん中に居ても、自分や仲間を危険に晒すだけだという事は分かりきった事である。

 

 その為、ピアーズは一時撤退を決めることにした。

 

 

「・・・仕方ない。隊長の捜索は一時中断する。今は生存者救出に全力を掛けよう。その後は撤退だ」

 

 

 どのみちHQはおろか、他に展開している部隊にも連絡は繋がっていない以上、この部隊は孤立したも同然。

 

 やはりセオリー通りに撤退するのが一番の良策。

 

 ピアーズはそう考え、決断を下す。

 

 その時だった。

 

 

 

ドッゴオオオオン

 

 

 

 巨大な音がピアーズ達の居る場所まで鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急げ!脱出するぞ!!」

 

 

 クリスとのび太は来た時に乗ってきたエレベーターへ滑り込むようにして乗りながら、地下から脱出するためにエレベーターの上階行きのボタンを押した。

 

 10メートル以上の怪物。

 

 そんなのと対決する火力など、のび太とクリスに有るわけもなく(しかも、戦う戦場そのものが狭い)、二人は一も二もなく撤退を開始する。

 

 幸い、エレベーターは無事に起動し、ゆっくりとであるが上昇を始めた。

 

 

「・・・」

 

 

「・・・」

 

 

 二人は尚も警戒したまま、それぞれM4カービンとG36を構える。

 

 ちなみにM4カービンは今しがた再装填済みで、何時でも撃てる状態にしてあった。

 

 しかし、エレベーターが途中で壊されると、脱出する手段が極端に少なくなってしまうし(それでも皆無ではないが)、危険も大きくなるので、二人は冷や汗を掻きながら何事もなく脱出できるように、必死に祈っていた。

 

 そして、その願いはどうにか通じたのか、エレベーターは無事に建物の一階へと辿り着いた。

 

 二人は急いでそこから下りると、尚も警戒を続けたが、それも暫くすると危険が無いと判断し、警戒レベルを1段階下げた。

 

 

「・・・閉じ込められたんですかね?」

 

 

「みたいだな。向こうがモグラみたいに地面を潜って来ない限りは、だが」

 

 

 そういうのはフラグであるので言って欲しくないと、のび太は言いたかったが、外国人であるクリスにフラグなどという言葉が分かる訳はないので、そのまま口を閉じる。

 

 

「兎も角、奴自身はもう自我を保っていない。もう俺の仲間に危険が迫ることもないだろう。一旦、俺の仲間と合流する。・・・君はそれで良いか?」

 

 

「ええ、構いませんよ」

 

 

 クリスの提案にのび太は即答する。

 

 正直、復讐する前ののび太であればクリスの提案をどうにか拒否する事を考えただろうが、現在は復讐対象である島田透はあの通り。

 

 S─ウィルスの事から、自分に繋がる秘密に気づかれると不味いが、その時はその時と、のび太は割り切ることにしていた。

 

 

「よし、じゃあ、早速出発を──」

 

 

 

ゴゴゴゴゴ

 

 

 

 しかし、クリスが行動しようとしたその時、突然地面が揺れた。

 

 

「なんだ?地震か!?」

 

 

 地震大国・日本の出身であるのび太はまずそう考えたが、まずはすぐに崩れそうなこの建物から脱出することが先決と考え、クリスと共に建物の外へと出た。

 

 そして、二人が建物を出た瞬間──

 

 

 

 

ドッゴオオオオン

 

 

 

 

 

 

 

グオオオォオオオオオオオオオ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──見計らったように、あの怪物は現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その化け物を視認した時、クリスとのび太がまず取った行動は、化け物が現れた時に飛び散った瓦礫に身を隠すことだった。

 

 化け物は後ろを向いている。

 

 という事は、こちらに気づいていない可能性もあるわけだ。

 

 現状、自分達の装備ではどうにも出来そうにない以上、隠れてやり過ごすというのは、非常に賢い選択と言えた。

 

 もっとも、これらの動作は普通の隊員ならば、怪物そのものの存在そのものに驚愕して出来なかっただろうが、生憎と初見ではないし、クリスものび太も非常識な状況には慣れきっている。

 

 これらの動作に移るのは、彼らにとっては比較的容易い事だった。

 

 

(このままやり過ごすぞ)

 

 

(了解)

 

 

 何処まで聴覚が発達しているのかは不明なので、クリスは声に出さず、サインラインゲージでのび太に合図を送る。

 

 それを受けたのび太もそれを理解し、了解と返した。

 

 そして、化け物が二人とは全く違う方向に動きだ出そうとした時、思いも寄らない事態が起きた結果、二人の思惑は頓挫することとなる。

 

 

 

ドドドドドド

 

 

 

 そう、別動隊のピアーズ達アルファチームの隊員8名が怪物に攻撃を開始したのだ。

 

 

「なっ、ピアーズ!」

 

 

 それに気づいたクリスは慌てて止めさせようとするが、それはあまりにも遅い行動だった。

 

 怪物は腕を振り上げると、一気にBSAAの隊員に向けて降り下ろした。

 

 そして、8人の隊員の内、2人が運悪くその降り下ろされた腕の先に居た為、文字通りの意味で叩き潰され、肉片と化した。

 

 

「くそおおおおおおおお!!!」

 

 

「クリスさん!」

 

 

 それに激発されたのか、クリスが暴走気味に飛び出し、怪物へと攻撃を開始した。

 

 のび太は呼び止めようと、制止の言葉を投げ掛けるが、クリスの暴走はその程度で止まる訳もなかった。

 

 

「くそっ、何か無いのか!?」

 

 

 今のままでは分が悪い。

 

 なんせ、のび太が持っているのはM4カービンとそのマガジンである30発用STANAGマガジンが3つ(内1つはM4カービンに装填済み)と、M67破片手榴弾が2つ、そして、拳銃であるベレッタ92とコルトガバメント、デザートイーグル、それとM9コンバットナイフと仕込み用の小型ナイフくらいしかないのだ。

 

 これではとても体長10メートルを越えるあの怪物には対抗できない。

 

 その為、のび太は何か強力な武器は無いかと、辺りを探す。

 

 すると──

 

 

「あっ!あれだ!!」

 

 

 のび太は“あるもの”を見つけ、そちらに向かって走り出す。

 

 一方、クリスもまたG36を撃ちまくりながら、手榴弾を投げるなどして、自分の持っているあらゆる火力を駆使して戦っていた。

 

 他に生き残ったピアーズを含めたBSAA隊員6名もまた、クリスと合流したことで士気を上げつつ、クリスに続き、各々の得物で怪物に対して猛射を浴びせる。 

 

 しかし──

 

 

「駄目だ!効いてない!!」

 

 

 そう、アサルトライフルや手榴弾を使っても、まるで効いている様子がないのだ。

 

 ピアーズに至ってはバレットM82対物狙撃銃まで使っているが、若干嫌がっている動作はあっても、それほど致命的な傷にはなっていない。

 

 そして、またもや怪物の反撃が行われようとしたその時だった。

 

 

 

ドッゴオオオオン

 

 

 

 ロケット弾が怪物へと着弾。

 

 内蔵された成形炸薬弾頭が炸裂し、怪物の胴体に穴を開ける。

 

 

 

ギャアアアアアアア!!!

 

 

 

 怪物もこれには堪らなかったらしく、大きな悲鳴らしき鳴き声を上げた。

 

 驚いたBSAAの隊員達がロケット弾が飛んできた方向を向くと、そこにはBSAAで採用されたロケットランチャー、RPG─7を構えたのび太の姿があった。

 

 RPG─7は言うまでもなくソ連が開発した兵器であり、現在でも世界中の軍警察はおろか、テロ組織でも愛用されている代物だ。

 

 最新式の西側諸国のロケットランチャーに比べると、様々な機構で劣るが、非常に安価で強力あることから、BSAAでも(主に予算的な問題から)採用されている代物である。

 

 そして、のび太は素早く持っていたRPG─7をその辺に置き、もう1つあったRPG─7を素早く構えて怪物の頭部へと照準を向ける。

 

 ちなみに再装填しないのは、ロケットランチャーは再装填に時間が掛かる代物だからである。

 

 

 

 

 

 

 

good-bye(さよなら)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のび太はそう言いつつ、RPG─7の引き金を引く。

 

 そして、発射されたロケット弾は確かに怪物の頭部へと命中し、脳部分そのものを吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──1年半にも及ぶ二人の因縁に決着が着いた瞬間だった。



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第四章・領土獲得戦争編
設定4


◇登場人物

 

野比 のび太 13歳

 

数々の大冒険を潜り抜けた歴戦の猛者。一家と共にイギリスへと観光旅行に出掛けるが、その時に両親と親友であるドラえもんを亡くした。その後、のび太は修羅の道を歩む。そして、ニコライからの情報を受けてオーセールに赴き、復讐を果たした後、今度はグレードランド王国軍の一員として戦争に参加する。

 

◇年表

 

西暦1968年、のび太の父である野比のび助が産まれる。

西暦1973年、クリス・レッドフィールド誕生。

西暦1977年、レオン・S・ケネディ誕生。

西暦1979年、クレア・レッドフィールド、須賀圭佑誕生。

西暦1980年、レベッカ・チェンバース誕生。

西暦1982年、伊丹耀司誕生。

西暦1985年、シェバ・アローマ、赤井秀一誕生。

西暦1986年、シェリー・バーキン、降家零誕生。

西暦1989年、ヘレナ・ハーパー誕生。

西暦1990年、富長タケル誕生。

西暦1992年、リッキー・トザワ、ジェイク・ミューラー誕生。 

西暦1993年、優希マユ誕生。

西暦1995年、満月美夜子、御坂美琴誕生。

西暦1996年12月1日、宮水三葉誕生。

同年、中須賀エマ、フィーネ誕生。

西暦1997年7月1日、西住まほ誕生。

西暦1998年5月4日、工藤新一誕生。

同年7月23日、バイオハザード0。

同年同月24日、バイオハザード。

同年8月7日、野比のび太誕生。

同年同月8日、比企谷八幡誕生。

同年9月下旬~10月1日、バイオハザード2&3。

同年10月23日、西住みほ誕生。

同年12月、バイオハザード~コード・ベロニカ~。

西暦1999年12月1日、立花瀧誕生。

西暦2001年10月24日、島田愛里寿誕生。

西暦2002年、バイオハザード・ダークサイドクロニカルズ『オペレーション・ハヴィエ』。

西暦2003年2月、バイオハザード・ダークサイドクロニカルズ『アンブレラ終焉』

同年、宮水四葉、鶴野留美誕生。

西暦2004年秋、バイオハザード4。

西暦2005年4月、バイオハザード・リベレーションズ。

同年8月~11月、バイオハザード・ディジェネレーション。

同年、森嶋帆高誕生。

西暦2006年8月、バイオハザード5・Alternative Edition『LOST IN NIGHTMARES』。

同年同月8月22日、天野陽菜誕生。

西暦2009年3月、バイオハザード5。

同年7月~12月、とある魔術の禁書目録。

同年夏、ドラえもん劇場版。

同年12月、第一章・フローズンバイオハザード編。

西暦2010年4月~10月、ガールズ&パンツァー リトルアーミー。

同年8月、バイオハザード THE STAGE。

同年11月、東スラブ共和国で内戦が再開される(バイオハザード ダムネーション・プロローグ)

同年7月~西暦2011年4月、第二章・白の聖女編。

西暦2011年2月、バイオハザード ダムネーション本編。

同年6月、第三章・復讐編&CoD4 MW。

同年7月、バイオハザード リベレーションズ2。

同年9月、第四章・領土獲得戦争編開始。

 

補足

 

ちなみに戦車道大会が6月となっているのは、アニメ本編で西住まほが高校3年生で17歳とあったのと、誕生日が7月1日なことから、7月以降は無いと思い、しかし、夏に開催されていないというのも可笑しな話なので、6月としました。ちなみに劇場版では西住まほは18歳になっており、この事から7月、それも夏休み期間中である事から、7月下旬~8月下旬までと思い、散々迷った末、間をとって劇場版の大洗連合対大学選抜チームの試合は8月上旬としました。

 

そして、ガルパン本編を2015年とした根拠は、劇場版で角谷杏が文科省から取得した大学選抜チームとの試合に関する念書のアップを確認し、文書番号が「27文科高第307号」となっており、平成27年=2015年ということになるからです。

 

それとリトルアーミーですが、この物語は元々西住姉妹の年が2つ離れているなど、原作やリトルアーミーⅡと違う部分あったので、原作やリトルアーミーⅡに合わせる形で、小学6年生の頃に起きたという設定で書かれています。中須賀エミが転校した時期ですが、これは一学期も居たとの事なので、同年6月からということで。

 

・登場用語    

 

BSAA

 

原作バイオ参考。・・・と言いたいところだが、改めて説明すると、BSAAは2003年に設立された対バイオテロ特殊部隊。私設対バイオハザード部隊が前身となっており、製薬企業連盟というスポンサーがついたことで、BSAAとなった。その後、アメリカ合衆国の対バイオテロ組織・FBCを取り込む形で国連直轄の組織となり、今に至る。世界中に支部を持っており、8つのブロック(欧州本部、北米支部、南米支部、オセアニア支部、極東支部、西部アフリカ支部、東部アフリカ支部、中東支部)に別けられている。

 

オールレンジ

 

のび太に付けられたコードネーム。射撃においてかなりの腕を誇ると見なされたことから、このコードネームが付けられた。

 

グレードランド王国

 

領土を持たない国。その“国民”は非常に限られた人間ばかりであり、到底国として成立しているとは言いがたく、有名無実化している国であったが、領土を獲得するために西暦2011年9月にスカンジナビア半島北部にある国家、ノイスアイランド共和国に侵攻した。



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第18話 開戦

第四章、始まりました。


◇西暦2011年 9月28日 アメリカ合衆国 

 

 

「準備はどうだ?」

 

 

「万全だ。1週間後には開始できる」

 

 

 アメリカのとある州。

 

 その場に存在するビルにて、複数の人間達が会合を持っていた。

 

 彼らは皆、アメリカ合衆国ではそれなりの資金力、政治的権力を持っている者達ばかりである。

 

 しかし、アメリカを事実上、牛耳っているシモンズ家率いる“ファミリー”とは敵対関係となっているので、そういう意味では反政府勢力とも言える。

 

 だが、ファミリーからすると、彼らを排除すると、同時に自分達も致命的な損害を負いかねない存在であった。

 

 特にファミリーの中心であるシモンズ家には、ラクーンシティを始め、8年前に崩壊したアンブレラ、更にはその翌年に起きたテラグリジア・パニックの真実を、更にその翌年に当時、NGO(非政府組織)の対バイオハザード部隊だったBSAAに暴かれた結果、そのBSAAに吸収されたアメリカ合衆国の対バイオハザード組織であるFBCに関わる後ろめたい情報が多々あり、それを彼らは握っていたのだ。

 

 強引に排除することなど出来るわけがない。

 

 もっとも、同時に彼らもまたアメリカ合衆国で最大の勢力を誇るファミリーに目を付けられているが故に、この国で好き勝手を出来る訳ではない。

 

 実際、そこを勘違いした“大馬鹿者”は何人も消されている。

 

 

「幸いなのは、奴等が中東での核爆発にてんてこ舞いになっていることだな。そうでなければ、こんなスムーズに計画は進むまい」

 

 

 会議に参加している内の一人がそう言うと、一同は皆揃って頷いた。

 

 そう、3ヶ月前。

 

 丁度、のび太がカナダで島田透に対する復讐を行ったのとほぼ同時期に中東で核爆発が起き、作戦地域に居たアメリカ海兵隊員が3万人も消されるという事態が起きた。

 

 当然、世論は大騒ぎとなっており、それを治めるためにファミリーはてんてこ舞いであり、そのお蔭で彼らのこの計画を実行段階まで持っていくことが出来た。

 

 

「しかし、その後に我々の方も少しばかり不祥事による被害が出たがな」

 

 

 一人の男が忌々しげに言う。

 

 それは中東での核爆発カナダのバイオハザードから1ヶ月が過ぎた頃の話だった。

 

 彼らが支援している反バイオテロNGO組織『テラセイブ』の本部で催されたパーティの席で謎の特殊部隊からの襲撃を受け、テラセイブの主要人物が誘拐されるという事件が起きた。

 

 最終的に事件は解決したものの、彼らと交渉していたテラセイブの幹部であり、FBCの残党ニール・フィッシャーがその事件の首謀者の一人であった為、自分達に火の粉が降り掛かってくるのを恐れて、彼らはその処理に奔走する羽目になったのだ。

 

 幸い、世論はの注目が中東での核爆発に依然として集まっていた事によって事なきを得たが、お蔭で8月下旬に発動する筈だったこの計画が10月上旬まで延期させられる羽目になっていた。

 

 

「今更言っても仕方ないだろう。2ヶ月の遅れで済んだことを良しとするべきだ」

 

 

「・・・そうだな。だが、それはそうとロシアの動きは大丈夫なのか?我々の計画ではあの国の動きが大きく関わってくるぞ?」

 

 

 男達の一人が懸念を示す。

 

 そう、彼らにとってはロシアが動いてくれない方が嬉しい立場であり、その為の交渉もロシア政府としてきたが、近年はスターリンを辛抱する超国家主義派こと、インナーサークルが台頭してきた為、ロシア内部の雲行きが怪しくなってきていた。

 

 そして、アメリカに所属する勢力がロシアの近くで騒ぎを起こすとなれば、当然のことながら彼らは動く可能性が高い。

 

 そうなった時、ロシア全体が動いた挙げ句、ロシア軍が介入してくるという事態だけは彼らとしては絶対に避けたかった。

 

 

「・・・それは手早く済ませるしかあるまい。この期を逃せば、シモンズの連中に計画を嗅ぎ付けられる恐れがある」

 

 

「そうだ。やるしかない」

 

 

 男二人の言葉に、懸念を示していた者達も黙り込まざるを得なかった。

 

 こうして、計画の遂行は決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、この6日後の10月4日の深夜。

 

 北欧のとある国で戦火が巻き起こることとなる。

 

 後に“グレードランド王国領土獲得戦争”と言われる物語の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇西暦2011年 10月5日 早朝 北欧 スカンジナビア半島北部

 

 

「うぅ・・・寒い」

 

 

 のび太はM4カービン(M320グレネードランチャーが装着)を抱えながら、あまりの寒さに震えていた。

 

 のび太がそう反応するのも無理はない。

 

 何故なら、ここはドイツはおろか、4ヶ月前に訪れたカナダのオーセールよりも更に北に位置する緯度にある地なのだから。

 

 

「なんだって、こんな土地を獲ろうなんて考えたんだ?」

 

 

 そう、実は昨日、のび太の知らない間に新設されていたグレードランド王国軍(仮)が、この土地の本来の持ち主であるノイスアイランド共和国を侵攻する形で戦争が始まったのだ。

 

 のび太はグレードランド王国側に与しており、この侵攻作戦に参加していた。

 

 そして、宣戦布告から一夜明け、のび太は敵に警戒しながら最前線付近に居るという訳である。

 

 しかし、ここはのび太も感じている通り、物凄い寒い土地。

 

 こんなところを獲って何か意味があるのかと、のび太は疑問に思わざるを得なかった。

 

 実際はそこが獲りやすい土地だったのと、このノイスアイランド共和国が近年、東スラブ共和国程ではないが、政府の圧政により、反政府勢力が蔓延りまくっている土地だったからなのだが、流石にそこまでのび太が知るよしはない。

 

 

「しかも、こんな軍隊よく造れたな」

 

 

 のび太は味方であるグレードランド王国軍を見渡す。

 

 グレードランド王国軍の装備はヘリはUH─60(ブラックホーク)、戦車はどうやって調達したのか、M1エイブラムス戦車。

 

 戦闘ヘリこそ旧式のAH─1コブラであるが、歩兵の装備などはこれまたどうやって調達したのか、M4カービンやM16などの高価な西側諸国の装備ばかり。

 

 はっきり言って準先進国並みの軍隊装備であり、軍備に関しては比較的後進国のノイスアイランド共和国軍はひとたまりも無いだろう。

 

 もっとも、今まで対峙したのは数の少ない国境警備隊程度なので、向こうの軍隊の実力の程はまだ分からなかったのだが。

 

 

「しかし、これだけ大っぴらにやって大丈夫なのかな?」

 

 

 のび太はこれだけの軍事行動に懸念を示す。

 

 ちなみにその懸念は国際社会からの非難ではない。

 

 軍事侵攻という大それた事をやらかすのだから、グレードランド王国(仮)上層部もそれぐらいは考えているであろうことはのび太にも分かる。

 

 では、何を恐れているのかと言えば、それはやはりロシアの介入だった。

 

 ここは地理的にロシアとかなり近い。

 

 故に、その気になれば他国とはいえ、ロシアでも介入してこれそうな場所であり、もしロシア軍が本格的に介入すれば、グレードランド王国(仮)の目論みは阻止されるであろうことは容易に想像が着いた。

 

 しかも、元が日本人であるのび太にはロシア人=暴力的というイメージがどうしても拭えないのだ。

 

 まあ、付き合ってみればそういった人間ばかりではないことも分かるが、それでものび太の心底にあるその感情を完全に拭い去る事は出来ずに居た為、どうにも最終的に介入してくるのではないかという疑念が強かった。

 

 特に戦いが泥沼化したりすれば、間違いなく介入してくる。

 

 そんな予感がした。

 

 

「・・・まあいっか。僕が考えることじゃない」

 

 

 どのみち自分は傭兵に近い立場なのだ。

 

 考えても仕方がないと、のび太はその思考を止めることにした。

 

 ・・・それが正に上の人間の恐れていたことであると知らないまま。



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第19話 演説

◇西暦2011年 10月17日 スカンジナビア半島 北部

 

 

『諸君、我々グレードアイランドはようやく領土を得ることが出来た。我々が正式な領土の所有者となった暁には、君達にも相応の待遇を約束しよう』

 

 

 開戦から13日。

 

 ラジオから、グレードランド王国の指導者であるフィーネの父であるポーラ・シューベルトの演説が行われていた。

 

 開戦からこの方、グレードランド王国の進撃は順調であり、現在はノイスアイランド共和国の3分の1の領土を占領していた。

 

 予定では、このままノイスアイランド共和国の半分程を占領できれば、独立宣言を行うことになっているが、のび太としては少し調子に乗りすぎであり、今のうちに独立宣言をした方が良いのではないかと感じていた。

 

 もっとも、自分の意見など通らないであろうし、上は上で何か考えが有るのだろうが。

 

 そんなのび太の思いを他所に演説は更に続く。

 

 

『なお、我々の行動は国際連合では既に承認されている。国際社会の事は気にせず、思う存分やってくれたまえ、以上だ』

 

 

 その言葉と共に、演説は途切れ、辺りには静寂が戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、ノビタ。さっきの演説、どう思った?」

 

 

 演説から暫くして、のび太に声を掛けてきたのはマイケルという男だった。

 

 陽気な人物で、よくのび太に話し掛けてくる男でもある。

 

 

「さあ、だけど、1つだけ言えることがありますね」

 

 

「なんだ?」

 

 

「とっととこの寒い土地での戦争を終わらせたいって事です」

 

 

「ああ、なるほど」

 

 

 マイケルは賛同するように笑う。

 

 兵士としてはあるまじき事ではあるが、のび太の言葉はこの軍の兵士の誰もが思っていることだろう。

 

 何故なら、この土地は寒い上にこれから冬になることでもっと寒くなることが確定しているからだ。

 

 と言うより、既に凍傷者も出ている。

 

 早く済ませたいと思うのは道理だろう。

 

 

(向こうはこれを待ってあるんだろうなぁ)

 

 

 かつての第二次世界大戦でドイツ軍を苦しめた冬将軍。

 

 それは現代の技術でも多少はなんとかなっても、キチンと装備を整えていないと、防ぎ得ないものだった。

 

 兵器こそ凍り付いてはいないものの、メンテナンスによって多大な物資を消費している有り様だ。 

 

 このまま長期戦になれば不味い。

 

 そして、これらの事は当然の事ながら、元々が北の国であるノイスアイランド共和国で想定していない訳はない。

 

 しかも、向こうにはロシア生まれが大半の寒さに強い東側兵器が多いのだ。

 

 これからは厳しい戦いになるだろう。

 

 

(それにロシアにも不穏な動きが有るらしいからね)

 

 

 それは先日連絡が着いたニコライから送られてきた情報だった。

 

 なんでも、今回のグレードランド王国の行動に対して、超国家主義派(インナーサークル)が不穏な動きをし始めているらしい。

 

 まあ、これは想定の内であったし、のび太にはどうすることも出来ないのだが、すぐに決着を着けないと不味い予感はする。

 

 もっとも、これらの事はマイケルには言えない。

 

 不安を煽るのは不味いからだ。

 

 

「そうだな。上の人間は事を急いでいるって話だし、上も早く戦争を終わらせたいのかもしれないな」

 

 

 だが、とマイケルは言葉を一旦切り、次いて言葉を紡ぐ。 

 

 その顔には普段のおふざけは微塵もなかった。

 

 

「何故、この戦争にお前を加えたのかは分からないな。確かに戦闘力は見せて貰ったが、お前は18どころか、15にすら満たっていないだろう?」

 

 

「・・・」

 

 

 のび太は黙り込むしかなかった。

 

 国際法では、軍に入隊できるのは15歳からと規定されていて、その内戦場に投入して良いのは18歳からという規定がある。

 

 もっとも、平然と無視している国もあるのだが、少なくとも先進国や西側諸国陣営では暗黙の了解とされている。

 

 ちなみに第二次世界大戦の日本軍ですら、この規定は破っていなかったりする(もっとも、それは人道的な問題からではなく、ただ単に18歳以下に分け与える武器が無くて、戦闘に参加できなかっただけだが)。

 

 話を戻すと、のび太は現在13歳の為、どちらの規定も満たしていない。

 

 確かに戦闘能力は数日前に見せて貰ったが、何故国際法違反を犯してまでこの戦争に参加しているのかが分からなかった。

 

 

「まあ、色々と理由があるんですよ」

 

 

 そう、のび太の言う通り、今回ののび太の派遣には色々と理由があった。

 

 まずノイスアイランド共和国がバイオテロ兵器を入手したという情報が入っていたこと。

 

 それがなんなのか分からなかったが、通常の軍隊ではゾンビやガナード(あるいはマジニ)はおろか、ハンターなどのBOWにも荷が重いであろうことは分かりきっている。

 

 でなければ、BSAAや今は亡きFBCなどいった組織が存在する訳がない。

 

 しかし、残念ながらノイスアイランド共和国政府はBSAAの調査を拒否していたので、BSAAも非公式なものを除いて、なかなか調査することが出来ずに居た為、もしBOWが前線に出てきた場合、グレードランド王国軍の苦戦は免れないだろう。

 

 かといって、グレードランド王国軍にBSAAを同行させる訳にもいかない。

 

 BSAAは戦争のための組織ではないという国連の建前が有るのだから。

 

 しかし、だからと言ってグレードランド王国の戦争遂行計画に支障が出ても困るので、BOWなどとの戦闘に経験があり、少年兵という批難覚悟で何処の組織にも属していないのび太にそれを依頼することになったのだ。

 

 もっとも、のび太はゾンビやハンター、リッカーなどのBOWと戦ったことはあっても、ガナードやマジニといったプラーダ寄生体と戦ったことはないので、もしそれが出てくれば、のび太の知識もあまり役に立たないのだが。

 

 まあ、のび太にとってはそれだけではない。

 

 実はフィーネは今、のび太の子を身籠っていた。

 

 既に妊娠4ヶ月目に入っており、フィーネの引き締まったお腹は膨れ始めていた。

 

 そして、のび太が彼女を任される条件として、この仕事を宛がわれていた為、のび太としてはなんとしてもこの仕事を受けなければならなかったのだ。

 

 そういった訳で、本来だったら絶対に手を出さなかったであろう戦争にも首を突っ込んでいた訳である。

 

 まあ、このような経緯は当然の事ながらマイケルには話してはいけないが、かといって何も話さずにいるのは不味いので、のび太はどうにか言葉を紡いだ。

 

 

「ちょっと家族の事で色々あってお金を稼がなくてはいけなくなったんですよ。それで知り合いの人に頼んだら、ここに放り込まれて・・・」

 

 

 半分は本当だ。

 

 ここに来たのは放り込まれた訳ではなく、相手の提案をキチンとした形で自分から呑んだからだし、相手は知り合いではなかった。

 

 ちなみにお金を稼がなくてはならなくなったというのは丸っきり嘘ではないが、本当でもない。

 

 本当の父親になる以上、お金は何時何処で必要になるか分からないからだ。

 

 特にフィーネのような立場の娘ならば尚更だ。

 

 

「そうか・・・お金か。早く帰れると良いな」

 

 

 マイケルはそう言いながら、のび太の肩を叩いて励ます。 

 

 普通、お金のためと言ったら、人によっては悪印象を抱きそうだが、お金が無ければ出来ないこともあるという事をマイケルもよく知っている。

 

 お金が無ければ医療機関の治療を受けられないし、薬を買うなど以ての他である。

 

 他に食料も買えないだろうし、武器などはもっと買えないだろう。

 

 そういう意味では、お金を稼ぐというのは非常に時として命に直結しかねない程、大事なことなのだ。

 

 しかし、のび太は13歳(しかも西洋人から見れば、数歳若く見える)であり、どう見ても戦闘に参加して良いような年齢でないにも関わらずここに来ている。

 

 である以上、あまり理由を深く追求するべきではない。

 

 マイケルはそう思ったのか、それ以上のび太に問い詰めてくることはなかった。



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第20話 プラーガ幼生体

◇西暦2011年 10月19日 スカンジナビア 半島 北部 

 

 

「この村もか・・・」

 

 

 グレードランド王国軍の兵士の一人はそう言う。

 

 ここはもうすぐグレードランド王国軍が占領する予定の地域にある村の付近。

 

 そこに近づくのはグレードランド王国軍本隊から派遣された偵察隊であるが、その偵察目標である村は藻抜けの空だった。

 

 それもここだけではなく、他の方面の村でも同じであり、それどころか街ですらひとっこ一人居なかった。

 

 しかし、これは別に珍しいことではない。

 

 他国の軍隊が侵攻していれば、自国民の住民の退避くらいさせるだろう。

 

 しかし、ゲリラ、レジスタンス活動どころか、ここまで見事に民間人どころか軍人や警察ですら立ち去っているところを見ると、やはり不気味だった。

 

 加えて、ノイスアイランド共和国の北部は特に反政府勢力の蔓延る地域だと聞いている。

 

 普通、そのような住民を待避させようと思うだろうか?

 

 グレードランド王国上層部にはそのような疑問があった。

 

 しかし、その後、村の住民の確認は続けられたが、やはり住民を発見することはできず、後に来た本隊によってこの村は占領されることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、この6日後の西暦2011年10月25日。

 

 グレードランド王国を建国宣言を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、彼らは知らなかった。

 

 この村のような住民の不在の事実が、後にグレードランド王国の存亡に大きく関わることなど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇西暦2011年 11月28日 アメリカ合衆国 ワシントンD・C ホワイトハウス

 

 

「ノイスアイランド共和国に潜入ですか?」

 

 

「そうだ」

 

 

 ホワイトハウスの大統領執務室。

 

 そこには二人の男が居た。

 

 初老の男の名はアダム・ベンフォード。

 

 このアメリカ合衆国の大統領であり、日々激化するバイトテロに危機感を抱き、色々と対策を練り続けている男でもある。

 

 対して、相対する30代の男の名はレオン・S・ケネディ。

 

 このアダム・ベンフォードが創設した大統領直轄のエージェント組織──DSOのエージェントである。

 

 アダムとはラクーン生還以来からの友人だった。

 

 

「実は彼の国はつい最近国土の半分を削り取られた事は知っているな?」

 

 

「ええ」

 

 

 ノイスアイランド共和国という国が、つい最近グレードランド王国との戦争で国土の半分を削られた挙げ句、その領土をそのまま奪い取られたことはアメリカでもよく報道されていたので、レオンも知っている。

 

 世論は思いっきり侵略戦争だと喚いたが、レオンとしては若干の不快な思いはしたものの、アメリカも対してやっていることは変わらないと思っていたので、特にこれといって文句が有るわけではない。

 

 

「ノイスアイランド共和国はグレードランド王国に取られた領土から批難させた避難民を残された領土のとある場所に隔離されて保護されている訳だが・・・政府はその避難民達に注射をしているらしい」

 

 

「予防接種・・・ではありませんね」

 

 

「表向きはそうなっているがな。だが、CIAに調査させると、投与されているのはこれであることが分かった」

 

 

 アダムはそう言いながら、ある写真を机の中から取り出す。

 

 レオンはそれを見るが、その写真の中身はレオンにとって、とても見覚えのあるものだった。

 

 

「これは・・・プラーガですか?」

 

 

 プラーガ。

 

 それはかつてスペインや東スラブ共和国で目撃した寄生体型のバイオテロ兵器。

 

 人間の精神を神経から犯すことで、その人間を操るという類いのものだ。

 

 BSAAのクリスも西部アフリカのキジュジュで(ガナードとマジニの違いはあるが)遭遇している。

 

 

「幼生体プラーガらしい。相手の精神を犯すまでには時間が掛かる代物だが、どうやら兵器としての制御面で言えば、君がスペインで確認したガナードやキジュジュで目撃されたマジニ以上らしい」

 

 

「はぁ・・・しかし、ここまで多いとBSAAに任せた方が良いのでは?」

 

  

 DSOはバイオハザードにも対応できるようにされているとはいえ、所詮は少数精鋭のエージェント組織に過ぎない。

 

 部隊単位で活動するBSAAのSOUとは訳が違う。

 

 その為、DSOでは精々、BSAAのSOAと同じか、ちょっと上程度までの活動しかできない。

 

 新設されたばかりで、権限も低い今なら尚更だ。

 

 そして、今回の任務の概要を見るに、BSAAが動いた方が適切とレオンは判断していた。

 

 FBCが健在であれば、また話も違っただろうが、残念ながらそのFBCは6年も前に解体され、現在はBSAAに吸収されている。

 

 

「私も出来ればそうしたかったさ。だが、大統領補佐官がDSOで行うべきだと煩くてな」

 

 

「補佐官・・・」

 

 

 大統領補佐官と言えば、レオンの中で思い当たるのは一人だけだ。

 

 ディレック・C・シモンズ。

 

 かつてラクーンシティを吹っ飛ばした核兵器による滅菌作戦に関与しているとされる政府の高官だった。

 

 結局はラクーンシティ消滅に一定の理があったことや、アメリカ政府が事件の公表をしたがらなかった事から不問となったが、その後もあの悪名高きFBCの設立や暗躍に関わったという疑惑を持たれているが、前者のFBCの設立は兎も角、後者の暗躍については明確な証拠がなく、テラグリジア事件の首謀者である元FBC長官のモルガン・ランズディールも詳細については口をつぐんでしまった為、結局はうやむやになっていた。

 

 しかし、その黒い噂はレオンからしてみれば嫌悪に値する者であり、もしこの人物がアダムの旧友という間柄でなければ、近づきすらしなかっただろう。

 

 

「そしたらいつの間にか、DSO単独で行う話が閣僚で持ち上がっていた。まあ、その代わり、人事は私に一任されることになったがね」

 

 

「・・・まるで影の大統領ですね」

 

 

「影の大統領、か。・・・あながち間違ってもいないんだがな」

 

 

「は?」

 

 

「いや、なんでもない。それより行ってくれるかね?」

 

 

「・・・命令とあれば。それと念のため聞いておきますが、FOSのサポートは受けられるのですよね?」

 

 

「勿論だとも。だいたい、FOSはその為の組織だからな」

 

 

「では、行きます」

 

 

「ああ、頼んだぞ」

 

 

 二人はそう言って握手を交わす。

 

 そして、この翌日、レオンはノイスアイランド共和国に向けて旅立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 ノイスアイランド共和国 首都エーベルト 郊外

 

 レオンが大統領と面談している頃、ノイスアイランド共和国の首都エーベルトでは、一人の少年がエーベルトの付近にある山の中からエーベルトの街並みを見つめていた。

 

 

「ここが首都のエーベルトか・・・」

 

 

 少年──野比のび太はエーベルトの廃れた街を見ながら、のび太はどう潜入しようかと考える。

 

 ちなみに戦争が終わったにも関わらず、のび太がここに居る理由は別にアメリカのようにプラーガ幼生体の情報を掴んだから、という訳ではない。

 

 あまりにもあっさりと戦争が終わりすぎた戦争に不自然さを感じたのだ。

 

 ノイスアイランド共和国は領土を半分を削り取られながら、まともな軍すら出してこないというのは流石に可笑しい。

 

 それにBOWなどの良くない情報もある。

 

 適当なタイミングでこれらを放ってグレードランド王国が混乱する隙に奪回に来るのではないか?

 

 のび太はそのような推測を立てていた。

 

 もしそうだとすれば、どのみちグレードランド王国に住む予定のフィーネ達は安住の地を得られない為、のび太は再度戦争という事態だけは何がなんでも防ごうと、ノイスアイランド共和国に潜入する事となったのだ。

 

 しかし、ノイスアイランドとグレードランドの国境には当然の事ながら軍が多く居るため、のび太はわざわざノイスアイランド共和国の南に回り込んでから潜入していた。

 

 だが、当のシューベルトは戒厳令真っ只中であり、町中のあちこちに兵士が立っており、潜入はかなり困難だった。

 

 

「さて、どうしますかね」

 

 

 元々、今回持ってきてる武器はかなり少ない。

 

 拳銃が2丁とPDWが1つ、それとナイフとグレネードランチャーくらいだ。

 

 強引に突破するにも火力が少なすぎるし、第一、今回の任務は潜入だ。

 

 あまり大暴れするという思考は得策ではない。

 

 その為、のび太はじっと時を待つことにした。



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第21話 下水道

◇西暦2011年 12月2日 深夜 ノイスアイランド共和国 首都エーベルト 下水道

 

 

「・・・」

 

 

 DSOのエージェント、レオン・S・ケネディはノイスアイランド共和国の下水道から都市内部に侵入していた。

 

 流石にここまで兵隊は配置されていないらしく、レオンはスムーズに街に侵入できた。

 

 監視カメラが有るかもと警戒したが、見た感じそれも無さそうであり、このまま行けば、ノイスアイランド共和国の人間に気づかれることなく潜入できるだろう。

 

 

『レオン、そのまま真っ直ぐ行けば、例の研究施設のマンホールまですぐそこよ』

 

 

 通信機から聞こえるのは女の声はハニガン。

 

 FOSのオペレーターの一人であり、7年前のロス・イルミナドス教団の一件以来、度々レオンの補佐をしてくれる女性である。

 

 ちなみにハニガンの言う例の研究施設とは、つい1日前にCIAが見つけたらしいプラーガ幼生体を造成しているという研究所だ。

 

 残念ながら、そのCIAのエージェントはその報告を送ってきた直後に音信が途絶した為、研究所の場所の位置以外の詳細は何も分かっていなかったが。

 

 

(しかし、今度の装備は貧弱だな)

 

 

 レオンはそう思い、若干だが装備に不安を持っていた。

 

 なんせ、今回持ってきているのはハンドガンと手榴弾、閃光手榴弾くらいである。

 

 支援が受けやすいアメリカ国内やその国の政府と協力関係とかであればそれでも良いのだが、生憎、今回はそのどちらでもない。

 

 東スラブの時は拳銃どころか、アサルトライフルや防弾チョッキまで持っていった身としては、こんな軽装備で本当に本国はやる気があるのかどうか疑問に思わざるを得ない。

 

 しかし、考えてみれば、東スラブの時の方が異常だったということにすぐに気づく。

 

 独立派に捕まった時、サーシャに突っ込まれたように、あんな堂々とした装備を持っていきながらの潜入など、本来は不可能なのだ。

 

 おまけに東スラブのように内戦も起きていない上に、グレードランド王国との戦争も終結している現在では尚更だ。

 

 むしろ、今持っている装備のまま潜入する方が自然というものだろう。

 

 

「まったく・・・泣けるぜ」

 

 

 すっかり癖になってしまった口癖を呟きながら、ハニガンの誘導通りにレオンは下水道の中を突き進む。

 

 そして、目的地直下に着くと、そのマンホールを開けて外へと出る。

 

 完全に音を立てないで、というのはマンホールという物体の質量上無理だが、それでもなるべく音を立てないように苦心して慎重に開ける。

 

 その後、素早く外へと踊り出し、近くに偶々あった物陰に身を隠す。

 

 すると──

 

 

(・・・ついているな)

 

 

 そこは偶々研究所の裏口辺りであり、比較的警備の薄い場所だった。

 

 レオンは慎重に移動して、研究所の警備員の目を避け、裏口のドアへと取り付いた。

 

 

「・・・」

 

 

 そして、そのまま裏口のドアから研究所の中へと侵入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇西暦2011年 12月3日 早朝 ノイスアイランド共和国 首都エーベルト 郊外

 

 

「・・・!? 動いた!!」

 

 

 あれから5日。

 

 のび太は寝袋で野宿をしながらエーベルトを監視しながら過ごしていたが、今朝、エーベルトで戒厳令下の軍が大きく動き出したのを確認していた。

 

 

(戒厳令の解除か?・・・いや、なんか違うような)

 

 

 普通、幾ら戒厳令を解除すると言っても、軍というものをいっぺんに動かすことは有り得ない。

 

 徐々に解除していく、というやり方が適当だろう。

 

 その点をのび太は不審に思い、街の様子などをよく観察する。

 

 すると──

 

 

「あっ、煙が上がってるな」

 

 

 街の一角から煙が上がっていた。

 

 見る限り、研究所と思われる建物が燃えているようだ。

 

 事故か、あるいは何処かの工作員が爆弾でも使って爆破したのだろうか?

 

 のび太はそう思ったが、どちらにせよ軍を丸ごと動かして向かわせるということは、余程重要な施設であるという事に違いはないだろう。

 

 

(潜入するか?)

 

 

 のび太は良い機会かもしれないと、街に潜入することも考えたがすぐにその考えを却下する。

 

 子供とはいえ、外国人、それも東洋人である自分が軍の戒厳令が一時溶けた後に存在しているという現象は、当のノイスアイランド共和国の人間から見ればあまりにも不自然すぎる。

 

 バレるのはほぼ間違いなく、下手をすれば研究所の件に関係のあるスパイという濡れ衣を着せられる事になるかもしれない。

 

 そう考えると、リスクの多い賭けだった。

 

 しかし、だからと言って何しないのも不味いと、のび太は思うが、やはりそうなると何をすべきかという問題が浮上してくる。

 

 のび太がそれを考えていると──

 

 

「ん?」

 

 

 件の工作員と思わしき男が、デザートイーグル(50AE版)を構えながらマンホールから下水道へと飛び込むのがのび太の目に映される。

 

 

(なるほど、そう来たか)

 

 

 下水道からの侵入。

 

 のび太も考えなかった訳ではないが、下水道内部の地図が分からなかったことで断念する。

 

 ここら辺がアメリカ合衆国という国家そのものの情報力を活用できるエージェントと、所詮個人に過ぎないのび太との明確な違いであった。

 

 しかも、それを無視して場当たり的に潜入したとしても市内は軍隊が封鎖している以上、下手をすればマンホールを開けたと同時に兵士とかち合ってしまう、などという状況が起きかねないのだ。

 

 断念するのは非常に賢い選択と言えるだろう。

 

 

(しかし、どうしようかな?)

 

 

 のび太はどう行動しようか迷うが、今のところは様子見を決め込むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 下水道

 

 

(たくっ、ついてないぜ)

 

 

 先程とは全く真逆のことを思うレオン。

 

 どうにかバイオテロについての機密資料を奪取したものの、そこで警備員数名に見つかったのは、確かに運がないと言えるかもしれないが、そもそも警戒が厳重な研究所の中に潜入して機密資料を奪取するまで気づかれなかった事自体が奇跡に近いので、この場合はそのつけを払わされていると言った方が正しいだろう。

 

 しかし、当のレオンからすれば、最後まで見つからなかった方が良い立場なのは変わらず、レオンは自分の運の無さに舌打ちをせざるを得なかった。

 

 そして、運が悪いときには悪いことが重なるものだった。

 

 

「居たぞ!」

 

 

 それは別のマンホールから地下へと入ったノイスアイランド共和国の兵士だった。

 

 

(不味い!)

 

 

 薄暗くてよく見えないが、兵士ならばアサルトライフルぐらいは装備しているだろう。

 

 レオンのデザートイーグルも威力に関しては似たようなものだが、火力という視点で言うならばアサルトライフルとは比べるまでもない。

 

 よって、レオンは偶々あった曲がり角に身を隠す。

 

 こういうところではついていると言えた。

 

 

 

ドドドドドド

 

 

 

ドーン!

 

 

 

「ぐっ!」

 

 

 

 相手はアサルトライフル──AKー74を撃ってきたが、レオンはデザートイーグルを相手の脳天に叩き込んで倒す。

 

 しかし、すぐに増援が来ることは想像できたので、迷わずその場から去った。

 

 そして、ハニガンに新たな脱出ルートを選定するように促す。

 

 

「ハニガン、悪いが別の脱出ルートを選定してくれ。このままじゃ不味い」

 

 

『レオン、残念だけど、さっきの道以外にエーベルトの外へと続く道はないわ』

 

 

「なんだと!?」

 

 

 レオンは思わず悪態をつく。

 

 当然だろう。

 

 さっきの道以外にエーベルトの外へと続く道はないということは、脱出するにはあの道へ戻って敵兵の居る中を強引に突っ切らなくてはならないのだから。

 

 

『でも、地上に出るマンホールならその先に有るわよ?』

 

 

「この際、それでも良い。教えてくれ」

 

 

『了解。じゃあ、その先に右への曲がり角が有るから真っ直ぐ進んで』

 

 

「OK。・・・たくっ、ついてないぜ」

 

 

 レオンはそう呟きながら、ハニガンの指示に従って下水道の出口を目指した。



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第22話 逆侵攻

◇西暦2011年 12月3日 昼 ノイスアイランド共和国 首都エーベルト 大統領官邸

 

 

「まだ侵入者は捕まらないのか!?」

 

 

 ノイスアイランド共和国の大統領官邸。

 

 そこでは一人の男が吠えていた。

 

 男の名はルータス=トーリヘ。

 

 このノイスアイランド共和国の大統領である。

 

 

「申し訳ありません。行方を眩ましてしまいまして・・・街への出口は封鎖してあるので、エーベルトに居ることは確かなのですが・・・」

 

 

「ふん、大方、グレードランドのスパイだろう。まったく、面倒な連中だ」

 

 

 ルータスはそう思うが、実際はグレードランドではなく、(今のところは)全く関係のないアメリカ合衆国のエージェントである。

 

 まあ、よく調べなければ分からないだろうし、そもそもそのグレードランドのスパイも郊外からずっとエーベルトの様子を伺っていたので、あながち間違いではないかもしれないが、実際に直接行動に移した訳ではないので、グレードランドが要らぬ濡れ衣を着せられる形となったのは間違いない。

 

 

「・・・しかし、不味いな。あの情報を公開されたら」

 

 

「はい」

 

 

 データを手に入れられ、更に1度取り逃がした以上、エージェントの本国に例の資料のデータが送られたのは間違いないだろう。

 

 今時、わざわざ情報を持って帰らなくとも、データを送信するだけで簡単に情報が送れてしまうのだから。

 

 そうなれば、それを理由にBSAAが介入してくるだろうし、不当に奪われたノイスアイランド共和国北部の領土はグレードランド王国の領土になることが既成事実化してしまうだろう。

 

 彼らはそれを恐れていた。

 

 ・・・もっとも、領土を不当に奪われたという点は全く間違ってはいないが、彼らのルータスの焦点はあくまで領土に対してであって、国民ではない。

 

 はっきり言えば、ルータスは北部の領土を取り戻せるならば、北部の住民全てを犠牲にしても構わないと思っていた。

 

 むしろ、そうしてくれた方が反政府勢力の一掃になって良いとすら。

 

 まあ、そうでもなければ、わざわざ北部の住民を撤退させた後に、その北部の住民に“とある勢力”から手に入れた幼生体プラーガを注射させてグレードランド王国の方へと放とうなどとは考えないだろう。

 

 しかも、かなりあくどいやり方で。

 

 まあ、どのみち、情報が公開されれば頓挫することは決定されているのだが。

 

 

「・・・こうなったら、BSAAの介入前に計画を発動するか?」

 

 

 ルータスは一瞬そう考えるが、慌てて補佐官の男が止めようとする。

 

 

「それは駄目です!そんなことをすれば、我々に“正義”は無くなります!!」

 

 

 意外な事だが、そのような非道なことを考える政府が支配する国家だったとしても、彼らには一定の国際社会での正義があった。

 

 まあ、そもそもグレードランドの行動自体、端から見れば、どう言い繕ったところで侵略戦争そのものなので、世論では反感を抱く人間も少なくなかったのだ。

 

 もっとも、それを言うなら2年前の第三次世界大戦でのロシアもそうなのだが、こちらはあまりにも学園都市にボコられすぎたせいか、却って同情される有り様だった。

 

 その中でも有力なのはこれまた意外なことにアメリカだった。

 

 まあ、当然の事であり、そもそもアメリカで絶大な権力と財力を持つシモンズ家率いるファミリーの敵対勢力がグレードランド王国の上層部なのだ。

 

 今は半年前の中東の核爆発の件で思い切った行動こそ起こせないが、これくらいの世論操作による嫌がらせくらいなら可能だった。

 

 とは言っても、バイオテロの件がバレれば、それらのアメリカ国民の同情も全て吹き飛んでしまうだろうが。

 

 

「しかしな。他に良い案が有るかね?このままでは我が国は滅亡するかもしれないぞ?」

 

 

「・・・」

 

 

 補佐官の男は、一瞬言葉に詰まる。

 

 ちなみにだが、ルータスの言った国が滅びるという言葉はあながち冗談ではなかったりする。

 

 国家ぐるみでバイオテロを行っていたとなれば、それを理由にアメリカやロシアなどの国がその制裁を目的として侵攻してくる可能性が高いのだ。

 

 実際、10ヶ月前の東スラブ共和国では、バイオテロを名目(実際もそうだが)にして、問答無用に国家機関の解体が行われたのだから。

 

 ノイスアイランド共和国が同じような運命を辿る可能性は高いと言える。

 

 まあ、そうなるリスクを分かった上でバイオテロを強行しようとしていた彼らも彼らであるが、これには“スポンサー”の意向もあったので、無下にする訳にもいかなかった。

 

 無下にすれば、社会的に政治の世界から追い出されるのは勿論、物理的にこの世から消されても可笑しくはないのだから。

 

 

「・・・では、当初の予定を変更して、こうしては如何でしょうか?」

 

 

 補佐官はある提案をルータスに行った。

 

 ──そして、それは後にグレードランドはおろか、アメリカまでをも巻き込む騒乱となることをこの時点では世界中の誰もが知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇西暦2011年 12月10日 グレードランド王国 南部

 

 グレードランド王国南部。

 

 そこは前述したように、ノイスアイランド共和国が住民を全面撤退させた為、今は誰も済んでいない土地であり、軍のみが駐留を行っている。

 

 だが、その駐留施設は現在大混乱となっていた。

 

 

 

ドドドドドド

 

 

 

ドドドドドド

 

 

 

「くそっ!なんだ、こいつらは!!」

 

 

 グレードランド王国南部の兵士は悪態をつく。

 

 それは今から数分前の事だった。

 

 突如として現れたアメリカの国籍が記された(・・・・・・・・・・・・)輸送機が現れ、その機体から無数の人間が落下傘付きで放出されたのだ。

 

 しかも、超低空で迫ってきた為か、レーダーも反応せず、これは完全なる奇襲となってしまっていた。

 

 しかし、通常なら落下傘降下にはそれなりの高度が必要であり、あまりに低空過ぎると降りる兵士が怪我を負ったりするのだが、グレードランド王国軍にとっては残念なことに、この兵士は普通ではなかった。

 

 幼生体プラーガを投与されたあの北部の住人達だった。

 

 無事に羽化を果たし、マジニとして覚醒していたのだ。

 

 しかも、どんな改良を施したのか、閃光の攻撃も効かないようにするというおまけ付きで。

 

 更に言えば、ご丁寧にAK─47を装備させたまま下ろしてきたので、あちこちで乱戦となっており、グレード王国軍の兵士達は苦戦していた。

 

 おまけに──

 

 

「や、止めてくれ!」

 

 

 

グチュ

 

 

 

 東スラブで見られた時のようにマジニが体からプラーガを出して捕らえたグレードランド王国の兵士達の体に入れて、その兵士をマジニへと変えて自分の武器を持ってつい先程まで所属であった筈のグレードランド王国軍に攻撃を加え始めるという例も所々で起きていた。

 

 しかし、それでもグレードランド王国軍とマジニでは知能という根本的なものにおいて比べ物にならず、4割以上もの兵を失ったところで、ようやく態勢を建て直す。

 

 だが──

 

 

「お、おい。あれを見ろ」

 

 

 グレードランド王国の兵士の一人が指したのは、南から向かってくる戦車や装甲車の大群だった。

 

 

「くそっ、こんなときに!!」

 

 

 別の兵士が悪態をつくが、そんなことをしたところで状況が変わる訳もない。

 

 そして、この数時間後、グレードランド王国の南部国境はやって来たノイスアイランド共和国軍とマジニによって占領されることとなる。

 

 それはここだけではない。

 

 グレードランド王国南部国境のいずれのグレードランド王国軍基地で起こっていた事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、それから僅か3日。

 

 グレードランド王国南部はノイスアイランド共和国によって奪還されることとなった。



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第23話 危機一髪

◇西暦2011年 12月14日 グレードランド王国 首都スノーシティ 首相官邸

 

 

「不味いぞ。これは不味いぞ!」

 

 

 新しくグレードランド王国の首都になったスノーシティ。

 

 そこでは連日、緊急閣僚会議が開かれていた。

 

 勿論、議題は言うまでもなくグレードランド王国南部を電撃占領して、更なる侵攻を準備中のノイスアイランド共和国軍に対する対応だ。

 

 しかし、あまりにも呆気なく国境の軍が殺られてしまった為、残った軍を動員してもどうしても防衛は難しい。

 

 何故なら、国境や南部の軍には精鋭や比較的最新の兵器を配置していたので、これがほぼ全滅した以上、残ったのは実戦に耐えられないとは言わないが、それより1段劣る二線級の者ばかりだったのだから。

 

 これが学園都市の装備とかだったら、容易に状況を引っくり返せるのだが、生憎とグレードランド王国軍の装備はアメリカのお下がりでしかない。

 

 まあ、そもそも学園都市の装備があったら、南部の領土を奪還されるようなへまはしなかっただろうが。

 

 ・・・それは兎も角、状況を再確認すると、現状はかなりピンチである事がよく分かった。

 

 

「おい、あのアメリカのFOSに持ち込まれた情報は公開できないのか?」

 

 

 あの情報とは、レオンが11日前にエーベルトの研究所から持ち去った幼生体プラーガについての情報である。

 

 既にレオンはこの情報を端末からDSOの支援組織であるFOSまで送っていたのだが、10日以上経った今になってもアメリカ国内では公表されていなかった。

 

 その理由は──

 

 

「駄目だ。シモンズの奴が握り潰してしまった。まあ、何時までも隠すわけにはいかないだろうからいずれは公表するんだろうが、その頃には国は滅んでいるだろうな」

 

 

「・・・そして、我々が滅んだところを見計らってアメリカ国内で情報を公表し、ノイスアイランド共和国を制裁。アメリカは世界中から称賛される正義の味方、という筋書きか」

 

 

 男達はその状況を想像し、歯軋りする。

 

 そう、こんなことになっているのは、彼らが憎んでもあまりある存在であるシモンズの仕業だった。

 

 彼はFOSを統括する大統領補佐官。

 

 しかも、彼の家系はアメリカ合衆国の建国以来から始まり、この21世紀を10年以上過ぎた頃までアメリカそのものを牽引してきた存在だ。

 

 云わば、歴代の影の大統領と呼ぶべき存在でもある。

 

 更に言えば、シモンズと現大統領であるアダムは旧友同士。

 

 公表の時期を調整することくらいわけないだろう。

 

 そして、何だかんだで腹立たしいのは、自分達の敵対者であるシモンズが美味しいところを全部持っていこうとしているという点だ。

 

 それも自分達は消滅、あるいは大きく弱体化させる形に追い込んで。

 

 しかし、具体的な打開策が無いため、このままではシモンズの思惑通りとなるだろう。

 

 彼らに力付くでシモンズの思惑を粉砕する程の力はないのだから。

 

 だが、そんな苦悩する彼らに、数時間後、とある朗報がもたらされることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 ノイスアイランド共和国 首都エーベルト 研究所

 

 

「あったあったこれだ」

 

 

 そこは10日以上前にアメリカの某DSOエージェントが侵入した研究所。 

 

 現在は藻抜けの空となっており、軍の兵士どころか、研究員すら誰一人居ない。

 

 そんな施設にのび太は一人忍び込み、パソコンからあるデータを取っていた。

 

 

「しかし、無防備だね。こんなデータを残していくとは・・・」

 

 

 それは10日以上前に目撃したアメリカのエージェントが持っていった情報と全く同じものだった。

 

 どうやら、アメリカのエージェントはデータの入ったUSBをそのまま盗むのではなく、わざわざコピーして持っていったらしい。

 

 何故、そんな時間も手間も掛かり、リスクが高そうな事をしたのかはのび太にも分からないが、のび太本人からしてみれば、幸いな事であった。

 

 ・・・とは言え、幾ら既にアメリカのエージェントが盗んだであろうデータとはいえ、ここまで無防備にされると何かの罠かと思ってしまう。

 

 一応、念のために罠が無いかどうかは調べたが、これといって無い様子だった。

 

 しかし、それは何もこの研究施設だけではない。

 

 数日前から、この首都エーベルトで戒厳令を敷いていた軍の兵士の大半が北に向かっていたのだ。

 

 故に、警戒が厳重なのは大統領官邸のみという状況となっていた。

 

 

「どういう事かな?幾らなんでも無警戒すぎるぞ?」

 

 

 北に向かったということは十中八九、グレードランドとの再戦に望むつもりなのはほぼ確定と言っても良いだろう。

 

 しかし、幾ら再戦に挑むと言っても、首都を空にするというのは無謀だ。

 

 確かに攻めることに兵力を集中するというのは良い選択肢だろうが、グレードランド王国軍が首都に逆侵攻を仕掛けてくる可能性もある以上、首都をがら空きにするというのは相当なリスクを負うことになる。

 

 それを敢えて承知した上で兵力を集中しているということは、答えは2つ。

 

 1つは、グレードランドがまた侵攻を仕掛けてそれに苦戦している為、その対応に集中している。

 

 もう1つは、グレードランドが首都への逆侵攻もままならない状況へと陥っている。

 

 この2つのどちらかだろう。

 

 だが、前者ということは考えづらい。

 

 そもそものび太が聞いただけでも、グレードランドのノイスアイランドへの侵攻は正当性が低く、国際社会からもあまり良い目を見られていないと聞く。

 

 まあ、色々手回しをして行動は最終的に黙認されたらしいが、また再侵攻などという真似事をすれば、今度こそ見捨てられるのは間違いないだろう。

 

 グレードランド上層部がそれを分からない程、愚かだとはのび太も思わない。

 

 いや、可能性が無いわけではないが、それでも低いことには変わり無かった。

 

 となると、考えたくはないが二つ目の可能性の方が高い。

 

 だとすると、のび太は急がなくてはならないだろう。

 

 

「このデータをこの機械に接続して送信、と」

 

 

 のび太は幼生体プラーガについてのデータをある場所に送信する。

 

 そして、数時間後、この情報は世界中を驚愕の渦に巻き込ませることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇数分後 研究所 敷地内

 

 

「! 居たぞ!あいつだ!!」

 

 

 無事に研究所からあちらこちらの国のマスコミにプラーガについての情報を送り付けた後、のび太は急いで脱出しようとしたが、建物から出たところで、そうは問屋が卸さないとばかりにこの研究所に駆け付けたノイスアイランド共和国兵に発見された。

 

 

「くそっ!見つかったか!!」

 

 

 のび太はそう判断すると、H&K HK416C・PDWを発砲する。

 

 

 

ドドドドドドド

 

 

 

 H&K HK416C・PDWはその名の通り、アサルトライフルであるH&K HK416の銃身を短縮させ、携帯性を上げたPDWである。

 

 元がアサルトライフルなのを銃身を短縮させただけの為、PDWとは名ばかりであり、殆どアサルトライフルであるが、携帯性を上げる為に銃身を縮めた結果、通常のH&K HK416よりは威力と射程に劣る。

 

 しかし、アサルトライフルの弾丸をそのまま使うことには変わりないので、PDWの中で言えば、このHK416Cは最高クラスの火力を誇る。

 

 そして、もう1つ、のび太にとって幸運だったのが、敵兵の数が思ったより少ないということだった。

 

 いや、それでも1個小隊という規模で来ているため、普通だったら対応は難しいのだが、それくらいの数の戦闘はのび太にとっては既に幾らでもこなしている。

 

 

「さて、あとは生還するだけだな」

 

 

 のび太はそう呟きながら、HK416Cを抱えながら、ノイスアイランド共和国兵に向けて攻撃を行い続けた。



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第24話 シモンズの誤算

◇西暦2011年 12月17日 アメリカ合衆国 ホワイトハウス

 

 

「くそっ!何故だ!!」

 

 

 アメリカ合衆国のホワイトハウスの一室。

 

 そこでは一人の男が苛立ちを込めた怒鳴り声をあげていた。

 

 3日前にのび太がアメリカやヨーロッパなどの各国のマスコミへと送り付けた情報はその翌日には世界各地で報道されることとなった。

 

 それはのび太がエーベルトに潜入した日から、更に10日以上前にDSOのレオンが手に入れた情報と全く同じものであったが、公表はされていなかった為、極一部の人間を除いて、アメリカ政府が既にその情報を持っていたという事は知らない代物だった。

 

 よって、今更知ってましたとアメリカ政府が言える訳もなく、レオンの功績は丸々無駄になってしまう形となり、先程、アダムから苦言を言われていた。

 

 勿論、ファミリーの組織力は伊達ではないので、発表前に事前に察知はしていたのだが、ここで考えてみよう。

 

 世界各地のマスコミが報道している中で、アメリカのマスコミだけがこの事を報道していなかったらどういう事になるか?

 

 それはオセロの白の空間の中に1つだけ黒が混じるようにかなり目立つ光景だ。

 

 更にこれはバイオテロ案件の報道。

 

 そして、アメリカはバイオテロ発祥の地であり、アメリカ政府そのものもそのウィルス研究に関わっていたのではと世界各国からは疑われている段階だ。

 

 特にアメリカが主導で発足させた対バイオテロ組織であるFBCはテラグリジア・パニックを起こしたという過去がある。

 

 各国からは見れば、アメリカは限りなく黒に近い灰色という立場だろう。

 

 そして、今回の件で世界各国のマスコミが報道しているのにアメリカのマスコミが報道していないとなれば、場合によっては今回のバイオテロ情報にアメリカが関わっているという要らぬ誤解を受けかねない。

 

 しかしだからと言って、アメリカはおろか、世界各地のマスコミに報道管制を強いるというのは、更なる悪手でしかない。

 

 自分から怪しいと言っているようなものなのだから。

 

 特に反米国家などは鬼の首を取ったかのように、アメリカの陰謀論を唱えるだろうし、幾つかの国はこの論理に乗るかもしれない。

 

 そういうわけで、報道管制を敷くという選択肢は最初から無いに等しかった訳であり、シモンズは自分の計画が破綻したことに苛立っていた。

 

 加えて、シモンズを苛立たせているのはそれだけではない。

 

 シモンズは自らの家、ひいてはアメリカの繁栄を考慮し、世界の覇者アメリカを維持するために様々な手を打っていた。

 

 一年前にロベルト・カッツェ元大統領を大統領の座から追放したのもその一環である。

 

 しかし、現在のところ、シモンズの思惑とは別に、アメリカは覇権国家の座から転落しつつあった。

 

 切っ掛けは13年前のラクーンシティ事件によるアンブレラの盛大なやらかし。

 

 次いて、アメリカが主導して造り上げたFBCのテラグリジア・パニックの自作自演などで、アメリカの汚点を残した。

 

 更に武力としての覇権国家アメリカの座も、2年前の第三次世界大戦で世界第二位の軍事力を持つロシアが表向き日本の一都市でしかない学園都市に事実上敗北したことで、学園都市へと移る事となった。

 

 残るは世界の警察としての座であったが、これも昨今では怪しくなってきていた。

 

 それもそうだろう。

 

 誰が黒い評判の立つ警察を信用しようと考えるだろうか?

 

 それでもそのご自慢の武力によって、アメリカは依然として世界の警察としての座に君臨していたが、前述したようにロシアに勝ったことで、学園都市に注目が集まり、更に言えばハワイにおいて米軍が魔術勢力(グレムリン)に良いようにやられたことから、アメリカの軍事力に?が付き始めていた。

 

 いや、そもそもアメリカは魔術勢力からしてみればひよっこも良いところであり、学園都市よりも下に見ている伏がある。

 

 さて、ここで問題だ。

 

 アメリカの軍事力に?が付いたらどうなるだろうか?

 

 そうなったとしてはヨーロッパなどは変わらない。

 

 彼らからしてみれば、科学の代表は良くも悪くもアメリカではなく学園都市なのだから。

 

 しかし、魔術の存在を知らない勢力からしてみれば、アメリカが世界の警察から失墜したという事実を意味するものでしかない。

 

 特に反米勢力からしてみれば、これは絶好の反米活動やテロの機会だろう。

 

 幸い、今は学園都市が必要以上にでしゃばる事がなく、アメリカを現在も世界の警察として認めていたことから表向きは平穏を保っている状態だ。

 

 しかし、それはいつ爆発しても可笑しくないものでしかない。

 

 事実、半年前には3万人という数の海兵隊員が中東の地で散ったのだから。

 

 そう考えると、今現在、世界で一番安全な国は、国内に学園都市という世界最強の軍事力を持つ地域を抱え、更にアメリカの庇護を受けている日本という事になるだろう。

 

 まあ、その代わりとして学園都市とアメリカの二大勢力の事実上の傀儡となることが求められるが、少なくとも平和は維持できる。

 

 それは兎も角、シモンズはアメリカが覇権国家の座から失墜しつつある状況に、かなりの危機感を覚えていた。

 

 ・・・もっとも、その根本にあるのは、シモンズ家の地位が損なわれるという危機感であり、ぶっちゃけそれさえなんとかなればアメリカの繁栄など、どうでも良いのであるが。

 

 

「おのれ、このままでは終わらんぞ!」

 

 

 シモンズはそう粋がるが、彼は知らなかった。

 

 この11ヶ月後に、またもや世界を揺るがすとんでもない出来事が起きるということを。

 

 そして、自分の死が残り約1年半までに迫っているということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇西暦2011年 12月20日 グレードランド王国 スノーシティ

 

 

「よくやってくれた」

 

 

 銀髪の老人はそう言いながら、エーベルトから帰還した少年──野比のび太を労う。

 

 グレードランド王国の危機は去った。

 

 今回の事でBSAAが本格的な介入を決めてノイスアイランド共和国首脳部を制圧。

 

 彼らの行いが白日の下に晒されることとなった。

 

 そして、現在、グレードランド王国軍は上層部を失い、烏合の衆と化したノイスアイランド共和国軍を叩くべく、反攻作戦を準備中である。

 

 だが、あの危機の状況からここまでひっくり返せたのは、一重にのび太の活躍によるところが大きかった。

 

 

「いえ、当然の事をしただけです」

 

 

「そう言ってくれるとありがたいが・・・報酬は後で払わせてもらうよ。それより、君は本当に来月に日本に帰国するのかね?」

 

 

「はい、ただし故郷ではありませんけどね」

 

 

 老人の問いに、のび太はそう答える。

 

 そう、来月、のび太は日本に帰国することを決めていた。

 

 ただし、帰る先はのび太が住んでいた東京練馬区ススキヶ原ではない。

 

 その西にある東京都中央に存在する人口250万人(・・・・・)の科学都市──学園都市だった。

 

 実は前々から誘いだけは受けていたのだが、のび太はフィーネへの義理を果たすためにそれを断っていたのだ。

 

 しかし、何時でも来て良いとは言われているので、とある理由(・・・・・)もあって、のび太は学園都市を訪れる事を既に決めていた。

 

 

「そうか。フィーネが寂しがるな」

 

 

「また春には戻ってくる予定です。幸い、長期休みには帰ってこれるらしいですから」

 

 

 学園都市は今も昔も高位能力者やそれに匹敵するか、それ以上の存在には“外”に出ることをあまり許可したがらない。

 

 特にレベル5などはよっぽどの場合を除き、夏に申請して、冬にようやく許可されるという例がざらにあるのだ。

 

 しかし、のび太の場合は貴重な“原石”候補であり、フィーネの出産などの問題もあることから、学園都市側がそれを考慮してくれた為、比較的早くこの国に戻ってこれる事が出来るらしい。

 

 まあ、とは言っても、短い期間だけらしかったが、それだけでものび太にとっては十分だった。

 

 ちなみに練馬の故郷には今後とも、いや、下手すれば一生戻るつもりはない。

 

 既にあの時の野比のび太は死んでいる。

 

 それに子供も3ヶ月後には産まれるので、その世話をしなければならない。

 

 だからこそ、故郷に戻るわけにはいかないのだ。

 

 

「では、お世話になりました」

 

 

 のび太はそう言って頭を下げ、部屋を去っていった。

 

 そして、この1ヶ月後、のび太は学園都市に向けて旅立つこととなる。

 

 物語は新たな局面へと進むこととなる。



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第五章・天草の残党編
設定5


◇登場人物

 

野比 のび太 17歳

 

数々の大冒険を潜り抜けた歴戦の猛者。一家と共にイギリスへと観光旅行に出掛けるが、その時に両親と親友であるドラえもんを亡くした。その後、のび太は修羅の道を歩む。そして、ニコライからの情報を受けてオーセールに赴き、復讐を果たした後、今度はグレードランド王国軍の一員として戦争に参加する。その後、西暦2012年1月に学園都市に渡り、現在は長点上機学園高等部2年生のレベル5の第0位。通称、ナンバーゼロの座を手に入れた。能力は“空間支配(オールレンジ)”であり、事実上、空間系最強能力者となっている。が、学園都市の能力開発を受けずに独自の方法で演算とパーソナル・アビリティ(自分だけの現実)を行っているため、能力は1日に1分ちょっと程度(これでも長くなった方)しか使えない。しかし、逆に言えば能力開発を受けていないので、魔術はある程度使える。ちなみに一部では第二世代英雄(セカンドシーズンヒーローズ)の一人に数えられている。

 

武蔵野 公太 17歳 

 

かつて上条当麻が通っていたとある高校に通う2年生で、のび太と同い年。能力はレベル0の無能力者であるが、武道などに長けている他、とある人物が学園都市の技術を一部用いて造った新型竹刀などを装備しており、戦闘能力は意外に高い。そして、彼もまた、その功績から第二世代英雄(セカンドシーズンヒーローズ)の一人に数えられている。

 

◇年表

 

西暦1968年、のび太の父である野比のび助が産まれる。

西暦1973年、クリス・レッドフィールド誕生。

西暦1977年、レオン・S・ケネディ誕生。

西暦1979年、クレア・レッドフィールド、須賀圭佑誕生。

西暦1980年、レベッカ・チェンバース誕生。

西暦1982年、伊丹耀司誕生。

西暦1985年、シェバ・アローマ、赤井秀一誕生。

西暦1986年、シェリー・バーキン、降家零誕生。

西暦1989年、ヘレナ・ハーパー誕生。

西暦1990年、富長タケル誕生。

西暦1992年、リッキー・トザワ、ジェイク・ミューラー、雲川芹亜誕生。 

西暦1993年、上条当麻、優希マユ誕生。

西暦1995年、満月美夜子、御坂美琴誕生。

西暦1996年12月1日、宮水三葉誕生。

同年、中須賀エマ、フィーネ誕生。

西暦1997年7月1日、西住まほ誕生。

西暦1998年5月4日、工藤新一誕生。

同年7月23日、バイオハザード0。

同年同月24日、バイオハザード。

同年8月7日、野比のび太誕生。

同年同月8日、比企谷八幡誕生。

同年9月下旬~10月1日、バイオハザード2&3。

同年10月23日、西住みほ誕生。

同年12月、バイオハザード~コード・ベロニカ~。

西暦1999年12月1日、立花瀧誕生。

西暦2001年10月24日、島田愛里寿誕生。

西暦2002年、バイオハザード・ダークサイドクロニカルズ『オペレーション・ハヴィエ』。

西暦2003年2月、バイオハザード・ダークサイドクロニカルズ『アンブレラ終焉』

同年、宮水四葉、鶴野留美誕生。

西暦2004年秋、バイオハザード4。

西暦2005年4月、バイオハザード・リベレーションズ。

同年8月~11月、バイオハザード・ディジェネレーション。

同年、森嶋帆高誕生。

西暦2006年8月、バイオハザード5・Alternative Edition『LOST IN NIGHTMARES』。

同年同月8月22日、天野陽菜誕生。

西暦2009年3月、バイオハザード5。

同年7月~12月、とある魔術の禁書目録。

同年夏、ドラえもん劇場版。

同年12月、第一章・フローズンバイオハザード編。

西暦2010年4月~10月、ガールズ&パンツァー リトルアーミー。

同年8月、バイオハザード THE STAGE。

同年11月、東スラブ共和国で内戦が再開される(バイオハザード ダムネーション・プロローグ)

同年7月~西暦2011年4月、第二章・白の聖女編。

西暦2011年2月、バイオハザード ダムネーション本編。

同年6月、第三章・復讐編&CoD4 MW。

同年7月、バイオハザード リベレーションズ2。

同年9月~12月、第四章・領土獲得戦争編。

西暦2012年9月、バイオハザード マルハワデザイア。

同年11月、白騎士事件(インフィニット・ストラトス)。

同年12月~西暦2013年7月1日、バイオハザード6。

西暦2013年10月4日、糸守町に隕石が落ちる(君の名は)

同年11月、メキシコの洋館でBSAAから出向したクリスを残して、メキシコの特殊部隊GAFEが全滅する(バイオハザード ヴェンデッタ プロローグ)。

西暦2014年3月、バイオハザード ヴェンデッタ本編。

同年6月、第62回全国戦車道大会で、プラウダが黒森峰を破る。

同年夏、バイオハザード ヘヴンリーアイランド。

同年10月、バイオハザード7 レジデント イービル

『DAUGHTERS』。

西暦2015年4月、比企谷八幡が奉仕部に入部する。

同年4月~12月、名探偵コナン。

同年6月、第63回戦車道大会で大洗女子学園が優勝する。

同年7月下旬~8月上旬、ガールズ&パンツァー劇場版。

同年7月上旬~12月、リトルアーミーⅡ。

同年8月中旬、銀座に異世界への門が開く。

同年11月、異世界に自衛隊が派遣される。

同年12月、伊丹が日本に帰国し、参考人招致を受ける。

同年12月31日、第五章・天草の残党編開始。

 

補足

 

ちなみに戦車道大会が6月となっているのは、アニメ本編で西住まほが高校3年生で17歳とあったのと、誕生日が7月1日なことから、7月以降は無いと思い、しかし、夏に開催されていないというのも可笑しな話なので、6月としました。ちなみに劇場版では西住まほは18歳になっており、この事から7月、それも夏休み期間中である事から、7月下旬~8月下旬までと思い、散々迷った末、間をとって劇場版の大洗連合対大学選抜チームの試合は8月上旬としました。

 

そして、ガルパン本編を2015年とした根拠は、劇場版で角谷杏が文科省から取得した大学選抜チームとの試合に関する念書のアップを確認し、文書番号が「27文科高第307号」となっており、平成27年=2015年ということになるからです。

 

それとリトルアーミーですが、この物語は元々西住姉妹の年が2つ離れているなど、原作やリトルアーミーⅡと違う部分あったので、原作やリトルアーミーⅡに合わせる形で、小学6年生の頃に起きたという設定で書かれています。中須賀エミが転校した時期ですが、これは一学期も居たとの事なので、同年6月からということで。

 

 

・登場用語    

 

BSAA

 

原作バイオ参考。・・・と言いたいところだが、改めて説明すると、BSAAは2003年に設立された対バイオテロ特殊部隊。私設対バイオハザード部隊が前身となっており、製薬企業連盟というスポンサーがついたことで、BSAAとなった。その後、アメリカ合衆国の対バイオテロ組織・FBCを取り込む形で国連直轄の組織となり、今に至る。世界中に支部を持っており、8つのブロック(欧州本部、北米支部、南米支部、オセアニア支部、極東支部、西部アフリカ支部、東部アフリカ支部、中東支部)に別けられている。

 

オールレンジ

 

のび太に付けられたコードネーム。射撃においてかなりの腕を誇ると見なされたことから、このコードネームが付けられた。その後は能力の通称名としてこの名が学園都市で通っている。

 

グレードランド王国

 

領土を持たない国。その“国民”は非常に限られた人間ばかりであり、到底国として成立しているとは言いがたく、有名無実化している国であったが、領土を獲得するために西暦2011年9月にスカンジナビア半島北部にある国家、ノイスアイランド共和国に侵攻した。

 

第二世代英雄(セカンドシーズンヒーローズ)

 

主に西暦2014年6月~12月までに世界の危機を救った2名の英雄である野比のび太、武蔵野公太の2名の事を表す。ちなみに第一世代英雄(ファーストシーズンヒーローズ)は、西暦2009年7月~12月までに活躍した上条当麻、一方通行、浜面仕上の3名を表す。



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第25話 3つの時系列

◇西暦2015年 12月31日 日本 熊本

 

 

「ふぅ・・・帰ってきたわね」

 

 

 赤髪の少女はそう言いながら、父方の祖母の家を見る。

 

 この家に帰ってきたのは5ヶ月振り。

 

 自分がこの日本に留学した時に、ある人物を預けて以来だ。

 

 

「──待たせたわね。のび助」

 

 

 少女──中須賀エミはそう言いながら、自らが世話になっている家へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 北欧 スカンジナビア半島北部 グレードランド王国 スノーシティ

 

 

「あら?」

 

 

 建国から既に4年の月日が経ったグレードランド王国のとある施設。

 

 そこは高い身分の者が住む住宅だった。

 

 その住宅に住む一人の女性──フィリア・シューベルトは首を傾げながらある客を見掛け、声を掛ける。

 

 

「お帰りになっていたのですか?」

 

 

「・・・ええ」

 

 

 フィリアが話し掛けた眼鏡を掛けた少年──野比のび太は、若干めんどくさいことになったという顔で彼女を迎えていた。

 

 のび太は彼女が苦手だ。

 

 彼女は3年前に亡くなった(・・・・・・・・・)フィーネの姉であり、このシューベルト家の長女でもある女性だった。

 

 ちなみにこのシューベルト家はグレードランド王国の王家そのものとなっており、一応はイギリスの王室や日本の皇室などと同格となっている。

 

 その為、フィーネとの間に設けた娘であるユリアが居る以上、一応はのび太もシューベルト家の一員であり、王子様とも言える立場だ。

 

 しかし、のび太は自分が成り上がりに過ぎないことをよく理解しており、ユリアが何らかの原因で亡くなれば、自分はシューベルト家から即座に放り出されることも分かっている。

 

 もっとも、そうなったとしても、のび太としてはシューベルト家に特に未練が有るわけではないのでどうでも良いが、逆に言えばそうなった時はユリアが亡くなった時であるという事でもあるので、そうなって欲しくは無いと切に願っていた。

 

 だが、彼女は違う。

 

 彼女はれっきとしたシューベルト家の血を引く女性でもあり、更には政治の世界にも少なからず関わっているので、その立場はのび太と比べるとかなり安定している。

 

 まあ、政治の世界ならば、のび太も1年前に一人の少女を守る過程だったとはいえ、少なからず関わっているのだが、それとは比べ物にならない場数を彼女は踏んでいた。

 

 そのせいか、考え方もかなり腹黒い。

 

 おまけに容姿も銀髪碧眼と、髪形以外はフィーネに似ていると来ている。

 

 なんとなくだが、自分の中のフィーネを汚されているような気がするため、出来ればのび太はこの女性とは関わりたくなかったのだ。

 

 過去にソフィアなどの国どころか、種族すら異なる王族などには会ったとことがあるが、このような感情を抱いたのは初めてだった。

 

 しかし、それでも粗末に扱うわけにはいかない。

 

 名目上、彼女はのび太の姉に近い立場となっているのだから。

 

 

「新年の挨拶を、と思いまして。日本では新しい年を記念して縁のある目上の人には挨拶に行くのが礼儀なんですよ」

 

 

 意外なことだが、日本とは違い、欧米では新年の行事にそれほど畏まった儀式はしない。

 

 精々、happy new yearという言葉でささやかに祝うくらいである。

 

 しかし、グレードランド王国籍を取っているとはいえ、のび太は生粋の元日本人。

 

 なかなか元の国の習慣を忘れることはできず、結局、毎年年末にグレードランドに帰国して、このような挨拶をしていた。

 

 ちなみにユリアは今年度の4月より、学園都市の幼稚園に通っていたが、のび太はユリアをとある過去に守った一人の少女(・・・・・・・・・・・)に預けて、ここまで来ている。

 

 そして、当然の事ながら、それはフィリアもそれを知っている。

 

 もっとも、それが日本人の習慣であるということは、今知ったばかりであるが。

 

 

「まあ、そうでしたか。それは素晴らしい行いですね」

 

 

「・・・どうも。では、次の用事があるので、私はこれで」

 

 

 そう言ってのび太は足早に立ち去ろうとするが、そこにフィリアが呼び止めるように言う。

 

 

「ああ、そうだ。お爺様からあのお話。聞いていらっしゃいますか?」

 

 

「あの話?」

 

 

 のび太は先程挨拶したカールとの会話を思い返していたが、それほど重要な話はなかった。

 

 精々、学園都市に居る自分の娘(・・・・)を今年もよろしくと言われたくらいだ。

 

 特段、気になる話題はなかったとのび太は思う。

 

 

「・・・いえ、分かりませんね。なんの事です?」

 

 

「・・・そうですか。聞いていませんか」

 

 

「はい」

 

 

「それならば構いません。どうせ近いうちに分かることでしょうから」

 

 

 フィリアはそう言うと、のび太の前から立ち去っていった。

 

 そして、のび太はフィリアの言葉に首を傾げながら、同時に嫌な予感を感じつつ、その後姿を見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 日本 学園都市 第7学区 

 

 

「我に熊本へ行けと?」

 

 

「はい、その通りです」

 

 

 学園都市第7学区。

 

 そこは学園都市の中でも中高生の年代の学生が通う学区でもある。

 

 少しばかり古風な言い方をする少年──武蔵野 公太もまたこの学区にあるとある高校という高校に通っている高校2年生の少年でもあった。

 

 そんな彼のアパートを訪れているのは、統括理事会からの使いだった。

 

 

「熊本で反科学サイドを唱える魔術結社が居るという情報があり、あなたにはこれに対処して欲しいのです」

 

 

 使いの男、いや、厳密に言えば統括理事会が依頼してきたのは、九州の熊本に存在する魔術結社に対する対応であった。

 

 元々魔術サイドに、親学園都市派など居ない。

 

 協力関係という意味では、大分弱体化したものの、イギリス清教などがあるが、それでさえ学園都市とは相容れないと思っている人間ばかりである。

 

 しかし、今回の相手はその魔術サイドの中でも特に反科学(厳密に言えば学園都市)を標榜している魔術師達であった。

 

 

「・・・しかし、そういうのは本来、学園都市の仕事ではないか?」

 

 

 6年前に2代目統括理事長となった一方通行(アクセラレータ)が暗部を一掃してから、この学園都市には学生の暗部組織というものは無くなっていた。

 

 しかし、ただ暗部を無くしただけでは学園都市の防備が薄くなるだけなので、代わりとして学園都市保安局を設立して、防諜・諜報に対処している。

 

 また魔術師などに対抗するために警備員(アンチスキル)には対魔術師部隊(表向きの名前は違うが)なども創設している上に、1年前に幾度として世界の危機に立ち向かった一人である公太でさえ、存在こそ知っているものの、未だにあまり詳細の分からない学園都市統括理事会直轄部隊もある。

 

 公太はそういう人間を行かせれば良いのではと言う。

 

 実のところ、あまり公太は自分から戦地に出向くことは好きではなかった。

 

 何故なら、自分はそれなりの戦功を挙げてきたと自負しているが、それでも自分の出来ることには限度があるということをよく理解していたからだ。

 

 特に親友(・・)に比べれば、自分は圧倒的に出来ることは少ないのだ。

 

 だからこそ、暗に断ろうという思惑もあり、そう言ったのだが、使いの男は首を横に振った。

 

 

「それが無理なのです。学園都市を除く協力機関の大半の警備員は現在、黒の組織の掃討に狩り出されてしまして・・・」

 

 

 そう言えば、と公太は数日前のニュースを思い出す。

 

 世界的な犯罪組織が各国の警察・諜報関係者によって一斉摘発が行われたというニュースを。

 

 学園都市もそれに参加したと聞いていたが、まさか協力機関の大半の人間を動員してまで掃討しているとは思ってもいなかった。

 

 しかし、この点はのび太も不審に思うだろう。

 

 何故なら、たかだか黒の組織程度(・・・・・・)にそれだけの人員は必要ないからだ。

 

 警備員の一部を使うだけで、その気になれば簡単に黒の組織は壊滅させられた。

 

 しかし、そうしなかったのはこの黒の組織が各国が追っている組織でもあったので、その国々の面子を潰さないように配慮したからに過ぎない。

 

 だが、ここに至って、学園都市は本気で黒の組織を潰そうとしている。

 

 のび太ならばその点を男に追求したかもしれないが、あいにく公太はそこまで深く考えることはなかった。

 

 確かに学園都市以外の警備員を動員している以上、出せるのは学園都市そのものの警備員しか居ないが、それをやったら学園都市の警備体制に不備が出てしまう。

 

 しかし、それだけでは自分を向かわせる理由にならないとは思っていたので、改めてこんな問いを行う。

 

 

「だが、それでは我が行く理由にはならぬだろう?学園都市の警備員に対魔術師部隊が居るではないか?」

 

 

 学園都市の警備員の特殊対策部隊。

 

 これこそが科学サイドの頂点足る学園都市が保有する対魔術師部隊の名称だった。

 

 確かにこの部隊を使えば、魔術師に対しては適切と言えるだろう。

 

 この部隊を学園都市から抜けば、魔術師に対する備えの1つが減るが、学園都市にはまだ他に魔術に対応する手段はあるのだ。

 

 そういう意味では派遣しても問題ないように思える。

 

 しかし──

 

 

「これをご覧ください」

 

 

 男はある手紙を公太に差し出す。

 

 それは脅迫文だった。

 

 その中身を要約すると、『2ヶ月後、西住邸を襲撃します 魔術結社 天草式十字()教』ということらしい。

 

 

「この脅迫文が既にこの文の中にある西住邸の近辺の町まで配られています」

 

 

「・・・魔術とは秘匿されるものでは無かったのか?」 

 

 

「さあ、向こうの考えることは私にもさっぱりです」

 

 

「・・・」

 

 

 あまりにも自分の想定していた状況の斜め上を行ってる現象に、公太は少々絶句していた。

 

 ついでに言えば、天草式という言葉も聞いたことが有りすぎた。

 

 まあ、それは兎も角、公太は何か可笑しいと思った。

 

 ここまで堂々とやれば、同じ魔術サイドからも粛清のための魔術師が襲い掛かってくるだろう。 

 

 脅迫文を書いた人間が、それを知らない筈もない。

 

 魔術サイドに所属するということはそういうことだからだ。

 

 しかし、同時に何故科学サイドに所属する人間がこの問題に首を突っ込もうとするのかはだいたい分かった。

 

 普通は科学サイドと魔術サイドはお互いの領域を侵さないというのがルールであるが、今回はあまりにも大っぴらに破りすぎている。

 

 ついでに言えば、あまりにも大っぴら過ぎるが故に、逆に学園都市が介入しづらい状況を作った。

 

 おそらく、それも向こうの狙いだろう。

 

 だからこそ、自分に学園都市から熊本に旅行か何かに行くという名目でこの問題を解決して欲しいのだと。

 

 つまり、そういうことだ。

 

 そして、自分にお鉢が回ってきた理由もだいたい想像はつく。

 

 親友は北欧のとある国に帰っていると言うし、幻想殺しこと、上条当麻はそもそも魔術・科学サイド問わず、いろんな意味で注目を集めている彼を投入すれば大事になる可能性が高い。

 

 魔術の秘匿をしたい魔術サイドとしても、科学サイドの要石と化している事を理解している学園都市としてもいろんな意味でここは投入を見送りたい。

 

 ・・・更に個人的なことを言えば、彼の妻達(・・)は妊娠・出産ラッシュ中である。

 

 ここで彼に何かあれば、どのような影響が起きるのかは考えたくもない。

 

 しかし、だからといって一方通行は社会適性的にこのような任務に向かないし、能力も近年では(ベクトル操作の方は)弱体化している。

 

 浜面に至っては対魔術師戦闘に至っては自分より劣るし、そもそも行きたがらないだろう。

 

 とすると、魔術に精通していて、学園都市にとっては比較的重要ではなく、こういうことにある程度耐性のある人間で、尚且つ引き受けてくれそうな人物。

 

 そこに自分が宛て嵌まったという訳である。

 

 

「良いように使われている気がするのぅ」

 

 

 公太は苦笑したが、やがてその笑いを止めると、真剣な顔でこう言った。

 

 

「よし分かった。ただし、お礼はある程度弾んでくれ。こう見えても貧乏学生なのでな」

 

 

 その公太の言葉に、男は恐縮そうに、ゆっくりと頭を下げた。



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第26話 懸念

ガルパンの時系列は優勝記念杯後、冬季無限軌道杯前となっています。


◇西暦2016年 1月1日 日本 熊本 中須賀邸

 

 

「~~~♪」

 

 

 新しい年が明けた頃、中須賀邸ではエミが今年3歳になる我が子(・・・)を抱き締めながら、子守唄を歌っていた。

 

 それはドイツ語で言われていた子守唄なので、日本人には殆ど理解できないだろうが、子守唄というのは日本を含め、何処の国でも、殆ど外の世界にも無知な赤ん坊でもなんとなく理解できるように出来ている。

 

 その為、この歌を聞いたドイツ語を理解できない日本人も良い歌であるとは薄々気づくだろう。

 

 そして、その歌を歌ったエミは、あっという間に赤ん坊を寝かし付けた。

 

 

「流石、パウラの歌ね」

 

 

 ぐっすりと眠る我が子──のび助を見ながら、エミは素直に感心する。

 

 実を言うと、今エミが歌っていたのはドイツの民謡とかそういうものではない。

 

 エミの友人である日系三世のクォーター、パウラという少女が造った歌だった。

 

 心無いものからは『魔女の歌声』とも言われるその美しい歌は、エミを含めてドイツでも魅了される者も多い。

 

 そんな(悲しいことに)エミの数少ない友人から教わった歌は、不機嫌でグズっていた赤ん坊ですら簡単に寝かし付ける。

 

 大したものだと、エミは感心せざるを得ない。

 

 

「あっ」

 

 

 そこでエミはあることを思い出した。

 

 

「そう言えば、あいつには日本に留学したことを伝えてなかったなぁ」

 

 

 エミは父親である自分と同い年の少年のことを思い出す。

 

 毎年、長期休みになると、エミの前に顔を表すが、夏は用事が出来たとか言っていた上に、エミがその時留学したことを伝えることを忘れていた為、まだ彼はエミが日本に居ることを知らない。

 

 そして、もし冬に自分に顔を会わせようと、ドイツに現れているとしたら、無駄足を踏ませることになる。

 

 その為、エミは今からでも伝えようかと考える。

 

 が──

 

 

「・・・やっぱり、止めよう」

 

 

 留学した理由が理由だけに、なんだか自分がみっともない気がして、エミはその考えを封印した。

 

 勿論、いけない事だとは分かっているが、ある意味でエミの幼馴染み以上に自分の現状を知られたくない相手である。

 

 そう思うのも無理はなく、それでも連絡をしようかと考えていた時──

 

 

 

ピンポーン

 

 

 

 家のチャイムが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻 学園都市 第7学区 

 

 

「なンで、俺がこんなことをしなければならないンだァ?」

 

 

 元統括理事長にして、現在は統括理事長代理の白髪の青年──一方通行はそう呟きながら、自分の現状を嘆いていた。

 

 一方通行は元々この街の2代目の統括理事長だった。

 

 しかし、既に例の“暗部一掃の件”で、すぐに引退し、早くも3代目となった統括理事長の座は雲川芹亜へと移されていた。

 

 だが、その雲川も現在は上条へと姓を変えた上に、妊娠による産休中のため、前統括理事長である一方通行に、一時代行を頼んでいた。

 

 一方通行は渋ったのだが、その独自の話術にまんまと言いくるめられてしまい、今に至る。

 

 仕方ないとばかりに一方通行は仕事をし続けるが、最近の情報を見る限り、特に変わった問題はない。

 

 それはそうだろう。

 

 先の外部の学園都市協力機関の警備員の大半を投入した黒の組織掃討作戦の案件だって、黒の組織に誘拐された妹達の何人かをどうにか回収するという案件でしかなかったのだから。

 

 と言うか、あの時は一方通行本人がわざわざ出向いたので、よく覚えている。

 

 まあ、これを知ったらのび太であっても動いただろう。

 

 彼も様々な事情から、妹達の存在が外にバレることは望んでいなかったのだから。

 

 ましてや、犯罪組織にバレるなど以ての他だ。

 

 しかし、のび太が投入されるまでもなく事件は解決された為、学園都市は平穏を保った状態だった。

 

 まあ、強いて言うなら──

 

 

「今年の学園都市への入学希望者の男女比が片寄ってンなァ」

 

 

 前年度と入学者の数は然程変わらない。

 

 だが、年々、学園都市に入学してくる子供の男女比がどんどん片寄り続けていたのだ。

 

 原因は一方通行にもなんとなく分かっている。

 

 ISの存在だ。

 

 四年前の白騎士事件によって、ISは2000発以上の弾道ミサイルの撃墜と戦闘機、イージス艦などを無力化して見せたことでISはその存在を世界中に知らしめることになった。

 

 一方、白騎士事件において学園都市は何もしなかった。

 

 いや、出来なかった。

 

 学園都市には世界中に行われたようなハッキングではなく、コンピューターウィルス、それも防空兵器関係に集中して流された為、その排除に手一杯だったのだ。

 

 勿論、並のコンピューターウィルスでは学園都市の技術によって簡単に排除されてしまうのだが、このコンピューターウィルスは意外に強力なウィルスであり、おまけに防空兵器関係に集中的に流された為、完全排除した頃には事が全て終わっていた。

 

 その後は世界中に行われたハッキングからハッキング元を特定して学園都市の警備員が向かったが、そこは既に藻抜けの空になっていたのだ。

 

 学園都市はまんまと出し抜かれてしまう形となり、同時にISの強さを世界に知らしめた事で、世界はISの時代となったと(勝手に)認識した。

 

 しかし、ISには欠点があり、女性しか使えないという重大な欠陥があったのだ。

 

 だが、それを以てしても、今まで学園都市に頼るしかなかった新たな科学技術をISを解析することで持ち得るかもしれないと、人々、特に先進国の国民は希望を持ち、女性優遇制度を造ることで女性優位の社会を造った。

 

 特に学園都市の所属する日本はそれに顕著であり、自衛隊に至っては世界で一番早くISの軍用化を計った。

 

 勿論、左の考えを持つ人間はそれに反発したのだが、防衛省はそれを強引に押し切る形で軍用化を推し進めた。

 

 そして、このような大胆な考えに至ったのは勿論理由がある。

 

 先の白騎士事件もそうだが、その前の第三次世界大戦でも戦争は日本が半分当事国になっているにも関わらず、ロシアの侵攻に対して殆ど何もしなかった(と言うより、出来なかった)事で、自衛隊は案山子同然と考える人間が増えていたのだ。

 

 まあ、国防を担当する立場なのになにもしなかったのだからそれは全くの事実なのであるが、そもそも自衛隊は国防を前提とした組織ではない(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 勿論、憲法としての建前上は兎も角、事実上は国防を前提とした組織なのではあるが、その割りに国防というものを真剣に考えている人間は殆ど居なかったりする。

 

 いや、そもそも後期(日露戦争後)の大日本帝国時代から軍は国防を前提とした組織ではなくなっていた。

 

 勿論、建前上はそうであり、大日本帝国軍も、そして、戦後発足した自衛隊も戦争を前提とした組織ではある(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 だが、そもそも戦争と国防は全くの別問題である。

 

 勿論、戦争と国防では前者の方がより大きい視点なのだが、戦争は最終的に勝てば良いのに対して、国防は国土を歩兵の一人、ミサイル一発の侵入を許した時点で、敗北であり、失敗なのだ。

 

 何故か?

 

 それは簡単だ。

 

 攻める相手は被害を受けたとしても、精々戦闘兵か消耗品の兵器を消耗する程度なのに対して、守る側は戦闘兵と消耗品の兵器は勿論のこと、民間人なり建物なりインフラなりの国や国民にとって重要な代物を破壊される可能性が高いのだから。

 

 とまあ、こんな事情があったが、防衛省としてはそのような事を当然の事ながら認める訳にはいかない。

 

 もっとも、こういった事情が無かったにしても、もはや次元の違う戦いとなっていた学園都市とロシアの戦い、あるいは2000発以上もの弾道ミサイルの迎撃に自衛隊が対応できたとも思えないが、このまま何もせずにいれば、予算大幅なカットは勿論のこと、下手をすれば自衛隊解体も現実的になるため、彼らはここでこういう賭けをせざるを得なかったのだ。

 

 しかし、当然の事ながら、こんなことをすれば女性優遇制度を真っ先に認めざるを得なくなる。

 

 これはISによって成り立つ制度となっているのだから当たり前である。

 

 その為、女尊男卑な思想は何処よりも早く進んでいた。

 

 そして、学園都市は留学生こそ多少は居るものの、研究者を除き、学生の大半は日本人で構成されている。

 

 娘を学園都市よりも女性に優しい制度がある学園都市外の学校に入れようと考えるのは当然の帰結だった。

 

 しかし、対称的に男性には全く優しくなく、むしろ害悪となる制度である。 

 

 実際、この制度を利用しての男性に対する冤罪押し付けなどの野蛮な行為は早くも始まっており、社会問題となっている。

 

 その為、将来を憂いた親が息子を女性優遇制度を取り入れていない学園都市に入れようと考えるのも、これまた当然の帰結だった。

 

 そんな訳で、学園都市に入る男女比は今では男性側に片寄るようになっていたという訳である。

 

 

「妙な事にならなきゃ良いがなァ」

 

 

 一方通行はある最悪の想定を頭に思い浮かべる。

 

 そして、その想定は10年もしないうちに現実のものとなるのを、彼は知らない。




ちなみにパウラは映画『ローレライ』のあのキャラをイメージして造ったキャラです。


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第27話 友

◇西暦2016年 1月1日 日本 熊本 中須賀邸

 

 

「エ~ミちゃん。遊びに来たよ~」

 

 

 中須賀邸の玄関でそう言いながら、エミに呼び掛ける声。

 

 エミはその声の主に、盛大に心当たりがあった。

 

 

「瞳!」

 

  

 それはエミの幼馴染みであり、現在の学校のクラスメートでもある少女──柚本瞳だった。

 

 昨日、共に熊本までやって来たが、エミはのび助に会いたかったことから、駅まで迎えに来た同じく友人である遊佐千紘、西住みほとは途中から別行動を取っていた。

 

 それでのび助の世話をするうちにすっかり忘れていた可能性の1つが、彼女達が遊びに来る可能性だった。

 

 そもそもエミの家は、3人の幼馴染みの内、みほ以外来たことが無いし、教えていない。

 

 つまり、瞳がここに居るという事は、家の位置をみほに教わったということでもある。

 

 そして、それは逆に言えば、瞳の他にみほも家の前に居る可能性が高いという事でもある。

 

 更に言えば、二人が居るならば、当然の事ながら千紘も居るだろう。

 

 そこまで思い至り、エミはどうしようか考える。

 

 正直言えば、会わせるのは怖い。

 

 別に自分の愛情に変化が有るという訳ではないが、のび助の出自はお世辞にも良いとは言えない。

 

 エミが子供を産むと決断した時、一番嫌な顔をされたのは両親の顔だった。

 

 ドイツでは日本と違い、出来ちゃった婚などは推奨されていたりするものの、のび助を産んだ時の自分の15歳であり、結婚の年齢基準を満たしおらず、その他にも様々な壁があった為、結局、相手の男と結婚することが出来なかった。

 

 当然、そうなるとエミの子供は私生児ということになる。

 

 私生児となると、ドイツでさえ外聞はかなり悪い。

 

 相手の男は長期休みの際に顔を見せたりしていたが、逆に言えばそれだけしか出来ずにいた上に、エミも学校などの関係で子育ては普段の両親に任せっきりになってしまったので、エミとしては子供を育てられない罪悪感などから、肩身の狭い思いをしていた。

 

 そして、その事でイラついてしまい、元々自分を認めていなかったチームメイトと更に衝突するという悪循環を繰り返し、挙げ句、大事な大会では1回戦負けという悲惨な結果を残したのだ。

 

 その後、日本に留学する際にのび助を連れてきたが、結局、父方の祖父母の元に預けることになった。

 

 そして、エミは日本に来てから、誰にものび助の事を話していない。

 

 だからこそ怖かった。

 

 のび助の事を話せば、離れてしまうのではないかと。

 

 しかし、無視するわけにもいかないので、エミは応答に応えることにした。

 

 

「・・・ちょっと、待っててね」

 

 

 エミはのび助をベッドに寝かせて布団を掛けつつ、やって来た瞳に応対するために玄関の方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね。いきなり訪ねてきちゃって」

 

 

 瞳に着いてきたらしい千紘がバツが悪そうにそう言う。

 

 同じくみほも千紘と同じような苦笑いを浮かべている。

 

 暢気なのは瞳だけだった。

 

 案の定、瞳は友達である千紘とみほを連れてきたが、エミにとっては想定内の出来事でしかない。

 

 まあ、もっとも──

 

 

(のび助の事、どうやって説明しよう)

 

 

 どうするかは考えてなかったので、想定していても全く無意味であったのだが。

 

 

「あの・・・もしかして、迷惑だったかな?」

 

 

 そして、エミがどうするかを考えていた時、みほが恐る恐るといった感じに言う。

 

 

「いや、そんなことは無いんだけどね。その・・・今はちょっと立て込んでて」

 

 

「そっか、ごめんね。すぐ帰るから」

 

 

「・・・本当にごめんなさい」

 

 

 エミは素直に頭を下げながら謝る。

 

 

「いや、良いんだよ。ほら、瞳ちゃん、遊佐さん。帰ろう」

 

 

「うん、ごめんね。エミちゃん」

 

 

 彼女達はそう言いながら、家の前から立ち去っていった。

 

 エミはそれを見届けながら、彼女達を一方的に追い返してしまった罪悪感で胸をチクチクと痛ませるが、エミはこう見えても2歳の子供を持つ一児の母。

 

 おまけに普段は面倒を見てくれる祖父母も今は隣町に出掛けてしまっている。

 

 そうでなくとも、のび助の母である以上、まだ幼いのび助を置いて、自分だけ遊ぶなど出来る筈もなかった。

 

 それはこの家で遊んだとしても同じ。

 

 彼は今、ぐっすりと眠っているので、その眠りを妨げる訳にもいかない。

 

 そういった気配りが出来る点、彼女は立派な母親であったが、1つだけ抜けている点があった。

 

 それは子供の存在を告げなかったこと。

 

 それは彼女が前述の理由から、無意識のうちに拒否していたことであったが、こればっかりは勇気を出して告げた方が良かっただろう。

 

 何故なら、子供の存在を言えば、驚かれはするだろうが、最終的に理解を得られて子供についての事で協力を得られ、結果的にエミの負担が軽くなったであろうから。

 

 更に言えば、先程のように一方的に追い返すことが続けば、友達関係は極自然な流れで疎遠となってしまう。

 

 もっとも、エミの判断は決して間違ってはいない。

 

 前述したように、エミの子供はまだ2歳と幼いので、彼を置いて遊ぶことなど、余程の薄情な親か、子供というものを甘く見ている親でない限り、する筈がないのだから。

 

 しかし、同時にエミの判断は決して最善とは言えない。

 

 確かに自分の子供と友達を天秤にかければ、自分の子供を優先するのが、普通の親というものなのだから。

 

 これは自分の子供と友達の子供というケースであったとしても同じだ。

 

 モンスターペアレントという訳ではないが、普通の親なら自分の子供を優先して考えるのが人情というものである。

 

 ・・・もっとも、これについては某眼鏡の少年が聞けば、若干ひきつった顔をするだろう。

 

 何故なら、もうこの世には居ないその少年の母親は、自分の出来の悪さという自業自得な部分もあったとはいえ、自分の子供の言うことよりも、他人の子供の言った事を信じるという親として少々問題の有ることをしていたのだから。

 

 話を戻すと、幾ら自分の子供が大切だからと言って、友達は軽視すべき存在ではないこともまた確かだった。

 

 何故なら、自らの子供が『愛の結晶』ならば、友達は『人生の宝』であるからだ。

 

 どちらもベクトルは違うが、大事にすべきものに変わりはない。

 

 しかし、エミは今回、片方だけを取り、もう片方に若干の亀裂を入れた。

 

 

「・・・さて、私も自分の仕事をしないとね」

 

 

 ──それによる影響を彼女は気づいていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇西暦2016年 1月2日(日本時間) ドイツ 

 

 

「えっ?エミさんは居ないんですか?」

 

 

 ここはドイツの名門校。

 

 正しくエミが在籍している高校だった。

 

 戦車道において名門校だった(・・・)その高校の敷地はかなり広く、冗談抜きで迷い込んでしまえば遭難しそうな程である。

 

 そして、そんな高校にのび太はエミに会うために訪れていた。

 

 

「うん。去年の夏頃から日本に留学していてね。今は確かベルウォールとか言ったかな?その高校に居るよ」

 

 

「そうですか。・・・分かりました。ありがとうございます」

 

 

 のび太はそう言いながら頭を下げ、職員室を出ていった。

 

 

「なんだ。エミさん、日本に留学したのか。言ってくれれば良かったのに」

 

 

 のび太はそう思うが、何か事情があったのだろうと推測し、それ以上の愚痴を止める。

 

 次に考えたのは、エミに会いに行くかどうかであったのだが──

 

 

「──止めておこうかな?」

 

 

 のび太は少し考えた後、そう言う。

 

 それは別にエミを気遣ってという訳ではない。

 

 そもそも先程の考えは、のび太の推測に過ぎず、もし間違っていて自分が登場することを彼女が望んでいるのだとすれば、それは単なる検討違いであり、彼女を苦しめる結果になってしまう。

 

 自惚れではないが、相手が嫌がる言葉を発していても、本心では救って欲しい人間は多々居るのだという事ものび太はそ知っていたのだから。

 

 勿論、その逆もまた然りであり、本当に今は放っておいて欲しいという場合もある。

 

 しかし、どちらにせよ、会ってみなければ分からないという事は共通しており、その考えに従うのならば、のび太は日本に行くべきなのだろう。

 

 しかし、最近の日本政府は学園都市に対して徐々に硬化的な態度を取り始めており、摩擦も多い。

 

 そんな中、レベル5である自分が外に出れば色々と面倒な事態になりかねない。

 

 それを考慮すると、結果的に自分が行くことはエミの迷惑になってしまう可能性が高い。

 

 そう考慮しての事だった。

 

 

「じゃあ、このまま学園都市に帰ろうかな?」

 

 

 のび太がそう思い始めていた時、後ろから声が聞こえた。

 

 

「あの・・・」

 

 

「ん?」

 

 

 のび太は声がした方向を振り向く。

 

 そこに居たのは、黒髪に青い瞳をした美少女だった。

 

 

「あなたはもしかして、エミの恋人?」

 

 

「・・・まあ、そうだけど。君は?」

 

 

「私の名前はパウラ。エミの友達」

 

 

「なるほど。それで、僕に何か用かな?」

 

 

「エミに会いに行くの?」

 

 

「うん、まあね」

 

 

 のび太はそこで嘘をついた。

 

 何故かと言えば、この少女の反応を見るためだ。

 

 先程はエミの友人だと言っていたが、本当に友人かどうかはのび太には分からない。

 

 エミに紹介された訳でもないし、女子の醜さは一昨年の末頃から去年の年始頃に起こった“とある出来事”から、よく思い知らされていたのだから。

 

 それにエミは我を押し通すタイプなので、それによる反発から嫌がらせなどを受けているかもしれず、この少女もその一人かもしれない。

 

 そんな考えで、のび太はこう言って少女の反応を見ることにしたのだ。

 

 

「良かったぁ。エミ、色々と辛い思いをしていたから」

 

 

「辛い思い?何かあったの?」

 

 

「うん、嫌がらせをされたり、同じ戦車道の仲間と喧嘩しちゃったりして」

 

 

「ああ、なるほど」

 

 

 ある意味でのび太の推測通りだった。

 

 しかし、そこで首をかしげる。

 

 確かに状況は一見すれば、エミがその環境に耐えかねて、日本への留学という形で逃げたように見える。

 

 しかし、先も言った通り、エミは我を押し通すタイプだ。

 

 おまけに喧嘩をしたということは、嫌がらせなどには屈していない事を意味している。

 

 そんな彼女が何故、日本に行ったのかがのび太には分からなかった。

 

 のび太の居る学園都市も一応は同じ日本だが、前述した政治的事情もあり、学園都市の外と中では全然違う場所であるのだから。

 

 だが、それは彼女の次の言葉で解決することとなる。

 

 

「それで夏の大会で1回戦負けしちゃって、エミとチームメイトが仲間割れしてチームのみんなが出ていっちゃったの」

 

 

 その言葉で、のび太はエミが自分に何も言わずに日本に行った理由が分かった。

 

 おそらく、そのような無様な結末で結果的に学校という場から逃げた自分が許せずに、助けを求めなかったのだろう。

 

 思い遣りはあるが、プライドは高い彼女らしい判断だった。

 

 だが──

 

 

(それでも、言って相談くらいはして欲しかったなぁ)

 

 

 それを考慮して相談くらいはして欲しかったとのび太は思った。

 

 別にエミの判断を非難する訳ではない。

 

 そもそも夏に用事が出来て会いに行けなかったのび太としては非難する資格などない。

 

 だが、のび太としてはそうしてくれた方がエミに会いに行く算段が取りやすかった事もまた確かだった。

 

 

(仕方ない。学園都市側には少々無理を言って会いに行かせて貰おうかなぁ)

 

 

 のび太はそう思いつつ、放置状態となってしまったパウラに向かってこう言う。

 

 

「教えてくれてありがとう。じゃあ、僕はこれで」

 

 

「うん、エミによろしくね」

 

 

 そう言って、パウラはのび太の前から立ち去っていった。



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