贈り物のその先に (灯家ぷろふぁち)
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見逃されたサイン

ガンビア・ベイの事を心配した提督が彼女の相談に乗っています。単にそれだけであれば別に良かったのですが…。


 日の高さを見ると、夕刻まではまだ余裕がある。そんな時間帯に、艦隊が一つ、鎮守府に帰投した。

 旗艦を務める艦娘が点呼を取り、その場で一旦解散となった。

 その解散した艦隊の中には軽空母が一隻。ガンビア・ベイである。彼女はふう、と安堵のため息をついた。

「今日はありがとな。上空押さえてくれてて助かったよ」

 彼女の後ろから声をかけてくる者がいる、振り返るとそこにいたのは長波であった。

「あ、私も皆さんのお役に立てましたか?」

 控えめにそう聞くと長波は笑顔を浮かべて、

「あの状況であんだけやりゃ十分じゃない? おかげで損失出なかったようなもんなんだし」

 と、ガンビア・ベイの力量を素直に褒めた。

「そ、そうですか……」

 途端、ガンビア・ベイは照れたような表情になる。それを見た長波は微笑みをたたえたまま、

「ま、次も宜しく頼むよ。じゃ、あたしは先に提督に報告に行くから」

 と、ガンビア・ベイの肩をポンと叩いて去って行った。

(一歩前進、かな?)

 ホッとした気分とともにガンビア・ベイは心の中でそう呟く。彼女が苦手意識を持っている栗田艦隊のメンバーの内、その一人と艦隊を組んで無事に出撃任務を終える事が出来たからだ。

 

「ほう、それは良かったな」

 提督は執務室に据えられたソファに座り、斜め前のソファに座っているガンビア・ベイにそう言った。彼は先程帰投した艦隊のメンバーのうち、ガンビア・ベイからの報告は最後に回した。これは別に悪意があってそうした訳ではなく、彼女と話す時間を長く取りたかった為である。

 元々、ガンビア・ベイはかつての大戦における武勲艦ではあるが、悲惨な最期を迎えた艦でもある。帝国海軍から集中砲火を浴びせられて沈められたという経緯を持つ彼女は艦娘となった今も、日本の艦娘、特に栗田艦隊のメンバー達に恐怖感とも言える意識を持ち、着任当初から何かと怯えるような様子が目立った。

 戦力として期待してはいるものの、このままでは鎮守府の他のメンバーとの連携に不安が残る。それに、そんな状態で放ったらかしにしてしまっては彼女自身もここには居づらいに違いない。

 自分の権限で栗田艦隊の誰かと強引に組ませて慣れさせるという手も無くは無いだろうが、強烈なトラウマを持つ彼女にそんな事をしては却って逆効果だろう。そう思った提督はガンビア・ベイとの個別ミーティングの機会を設け、彼女の話を聞きながら解決の糸口を探る事にしたのである。

 そんな対話が数回程続いたある日、ガンビア・ベイの方から、「自分も栗田艦隊の誰かと出撃した方がいいと思う」と言って来たため、本人達の了承を取った上で、ガンビア・ベイが一番威圧感を覚えづらいであろう、気さくな性格の長波と組ませたという訳である。

 当の長波からは「別に混乱して変な行動を取ったりとかも無かったし、他と組ませても大きなトラブルを起こすような真似はしないんじゃないか」という報告を既に受けている為、提督としてもホッとしているところだ。

「で、これからはどうする? 俺としても連中と無理に組ませるつもりはないが……」

「そうですね……。あと、何回かは長波さんと……その後で、他の人と組めれば良いかなって思ってます」

 この反応を見る限り、状況は悪くは無さそうである。

「お前がそう言うのならその方向で考えようか。ただ、次に長波と組むのはある程度間隔を開けてからでも良いんじゃないかとは思うが」

「ええ……」

「とにかく、今日は疲れたろう。後はゆっくり休んでくれ」

 そう言って話を切り上げようとしたところ、ガンビア・ベイが声をかけてきた。

「あの、アドミラル……」

「うん? どうした?」

 提督が聞き返すと、彼女はおずおずと片手を差し出してきた。その手のひらの上には色とりどりの紙に包まれたキャンディが乗っている。

「えっと、これ、持って来たんですけど、いかがでしょうか?」

 そう言うガンビア・ベイの目には今までに見た事のない不思議な光が宿っているように見えた。期待を表す光とでも言おうか。

「ありがとう、頂くよ」

 提督は何の気も無しにそれを受け取った。些細な行動ではあったが、これがその後の話をややこしくする転換点でもあった。

 

 

 それから数日が経ったある日の事である。提督は休憩がてら庁舎の外に出て、そこで出くわしたとある艦娘と談笑をしていた。話題に一区切り付き、その艦娘は提督に挨拶をして自分の持ち場へと戻って行った。さて、俺も仕事を再開するか、そう思って執務室に戻ろうとした矢先、

「アドミラル」

 と声をかけられる。声のした方向を向くとそこにはいつの間にかガンビア・ベイがいた。

(コイツ、さっきまでここにはいなかったよな……)

 その点が不思議だったが、それ以上に彼女が不機嫌そうな表情をしているのが気になった。こんな表情をしているガンビア・ベイを見た記憶など提督にはほとんどない。

「何か、あったか?」

 と聞く。するとガンビア・ベイは、

「さっきの人なんですけど、ずいぶんアドミラルと仲が良さそうでしたよね?」

 と、妙な事を聞いてくる。その声のトーンもいつもより低い。

「うん? アイツはここに着任して結構長いからな。それなりにくだけた会話ぐらいはするよ」

「ふぅん、そうですか……」

 提督の回答を聞いた彼女はそうつまらなそうに言う。

「それがどうかしたか?」

「いえ、何でもありません。それでは失礼します……」

 そう言ってガンビア・ベイはその場から立ち去った。

(どうしたんだ、アイツは……)

 提督は内心で首をひねるしかなかった。

 

 別の日の昼休憩の時間、提督が今日の昼飯はどうしようかと考えていたところ、複数の艦娘から、食堂で一緒に食べないか、と誘われた。特に断る理由も無い為、昼食は彼女達と食堂へ移動して摂る事になった。皆で食事をしながらの会話も盛り上がり、結局昼休憩の時間一杯を提督は食堂で過ごした。

(やはり、ああいう時間も楽しいものだな)

 そう考えながら執務をこなしているとガンビア・ベイが執務室に入室してきた。入室前のノックの仕方から、入室時のドアの開け閉めまで、どこか乱暴さを感じさせ、いまいち彼女らしくない。

「前回の出撃についてレポートをまとめましたので提出にあがりました」

 そう言いつつ書類を差し出すガンビア・ベイの声には苛立ちが紛れているような気がする。

「ああ、ご苦労」

 と言いつつ書類を受け取る提督は彼女に何かあったのかなどと考えた。

「長波と組むのはこの出撃で二回目だったよな。あいつからは別段問題無かったという報告を受けている」

 提督の話を聞いているガンビア・ベイは無表情だ。

「後で時間を設けて詳しく話を聞こうとは思っているんだが、ひとまず簡単に聞いておきたい。お前自身は今回長波と組んで何か不味いと感じたことはあったか?」

 そう問われたガンビア・ベイは、

「いいえ、特にそういった事は……それよりも」

 と言って机ごしに身を乗り出して提督に顔を近づけ、

「なにか、今日の食堂で他の子と楽しそうにお昼ごはんを食べていましたよね?」

 と、全く関係のない事を聞いてきた。何だコイツは、と思いつつも提督は答える。

「うん、あいつらに誘われてな。部下と交流が出来ればそれに越した事は無い訳だから」

「そう、です、か……」

 そう呟いた彼女は「それでは失礼します」とだけ言って執務室を出て行った。入室時よりも心なしかドアの扱いが更に乱暴になっているように提督には見えた。バタン、と大きな音を立てて閉められたドアを見つめたまま、彼はしばらく唖然とする他なかった。

 

 更に別の日、提督は執務室の書庫にしまっていた資料を確認しようと思い、椅子から立ち上がったところ、そのタイミングで突如としてガンビア・ベイが勢いよくドアを開けて執務室に入ってきたと思ったら、提督の机を叩いた。驚いている提督に険しい表情を向けて彼女は言う。

「アドミラル……昨晩は艦娘の皆さんと飲み会だったそうですね!? 間違いを起こしかねない行動をするのはどうかと思いますよ? もう少し身の回りに気を使うべきです!」

 この日の前日、一部の艦娘達と集まって飲んでいたのは確かだが、それはガンビア・ベイには関係の無い事柄のはずだ。一体コイツは何を考えているんだ、と思いつつ、

「間違いも何も、別にあいつらの事はそういう目じゃ見ちゃいないぞ?」

 と答えると、ガンビア・ベイは更にこう聞いてきた。

「何で私に嘘を吐くんですか……。それに、あの人達だってアドミラルを狙っていないなんて断言出来ないでしょう? 次の飲み会の約束ももうしてるそうじゃないですか!?」

 流石に提督は眉をひそめた。あのおとなしいガンビア・ベイが、自分の上官が飲み会に出席した程度で何故ここまで感情的になるのか。大体、最近の彼女は提督の行動や予定についてやけに細かく把握しており、どうも薄気味悪い。

「あのなあ、お前が俺の行動に一々チェックを入れるのは流石におかしいだろ? お前が俺に対してそこまでするような義理なんか何も無かったじゃないか」

 提督もこれまではガンビア・ベイの性格を考えて控えてきたが、流石に今回ばかりは苦言を呈した。その途端、

「何も無い……? ふざけないで下さい!! 大アリです!!」

 と彼女は叫ぶように言った。その体は震えている。

「アドミラルは私の事が好きなんですよね!? だったら私達、相思相愛じゃないですか!! 何で好きな人が他の子と仲良くしているのを黙って見てる必要があるんですか!?」

「……はっ!?」

 突然、出自の不明な前提がガンビア・ベイの口から飛び出し、少なからず混乱する。提督と彼女が果たしていつ相思相愛になったと言うのだろうか。

「しらばっくれないで下さい!!」

 ガンビア・ベイは提督を更に問い詰めるつもりでいるようだが、そんな事をされても提督にしてみれば答えようが無く、困惑するしかない。

「俺はお前の事が好きだなんて言った事は一度も無いぞ!?」

「言ってなくても気持ちはちゃんと伝わってます!!」

「……?」

 いよいよ訳が分からない。そんな気持ちをガンビア・ベイに伝えた記憶が無いどころか、そんな気持ちを抱いた記憶すら無い。先程とは一転して、ガンビア・ベイはうつむき気味に弱々しい声で訴えかけて来る。

「私のキャンディ、受け取ってくれたじゃないですか……」

「キャンディ……?」

「忘れたとか言いませんよね? 初めて長波さんと出撃して、帰投した時に私がキャンディを渡したじゃないですか……」

(もしかして……)

 提督は思い出した。ガンビア・ベイに長波と出撃した際の経過や本人の気持ちについてヒアリングをしていた際、その終わりぎわにキャンディを渡された事を、である。

「あれって私の気持ち、受け取ってくれたって事ですよね……? 私の事、好きって事ですよね……?」

 ガンビア・ベイの目つきは真剣そのものだ。悲痛と言っても良い。提督自身は軽い気持ちで受け取っただけなのだが、ガンビア・ベイに取っては決してそうではなかった。あのキャンディは単なる差し入れではなく、ガンビア・ベイの提督に対する恋慕の情もが同居した代物だったのである。そんな物を受け取れば、それは相手の気持ちをも受け取った事と同義だ。もはや、自分の取った行動は、単に彼女の善意に甘えたというような、そんなレベルでは済ませる事の出来ない物であったという事を、提督はようやく理解した。

 彼は下を向いてガンビア・ベイから目線を一瞬外した後、改めて顔を持ち上げ、彼女の目を見つめて言う。

「俺はそんなつもりでアレを受け取った訳じゃない。そういった所までは気が回らなかったのは悪かったが、たまたま差し出されたから受け取ったというだけの話だ。お前の気持ちまで受け取ったと考えてしまっているのなら、それについては謝る」

「そ、んな……」

 ガンビア・ベイの顔がみるみる青ざめていく。これは提督が彼女の想いを拒絶したという事に等しい。

「嘘……嘘ですよ、ね……?」

「嘘じゃないんだ。俺の正直な気持ちだよ。どうも俺はお前に勘違いをさせてしまっていたみたいだな。飴玉を受け取った件については単に俺の気まぐれだと思って欲しい」

 そう言ってひと呼吸置いた後、提督は「すまん」とだけ言った。

 だが、ガンビア・ベイにとって、提督の言い分は到底納得出来るような物では無かった。

 まるで我が事のように親身になって自分の悩みや苦しみについて聞いていてくれていたではないか。自分を救う為に様々な手助けをしてくれているではないか。上官だからという理由だけでそこまでするとは思えない。

(いつも私の隣に寄り添ってくれていたじゃないですかアドミラル……あれがただの気まぐれのはずが無いですよね?)

 すっかりうつむいてしまい、ここまで考えてしまっているガンビア・ベイにいきなり諦めろと言っても無理があろう。そんな中、提督はこう続ける。

「ただな、俺がお前の心配をしているのは本当だ。好きかどうかという話は別として、お前の面倒はきちんと見ていくつもりでいるからそこはどうにか安心して欲しい」

 自分のミスを自覚した上で、相手をフォローする為に言ったのであろうが、こんな発言をした時点で、提督は更に判断を誤っていたのかもしれない。

 この直後にゆっくりと顔を上げたガンビア・ベイの目には、先ほどまでとは打って変わったような力強さが宿っていたからだ。

「……これから私の事を好きになる……ううん、私の事を好きになっても、ずっとずっと面倒を見てくれるという理解で良いんですね?」

 彼女の解釈にズレがあると感じた提督は少なからず慌てる。

「何もそこまで言った訳じゃ……」

「そうじゃないと言った訳でもないじゃないですか」

 ガンビア・ベイはそう言いつつ足を前に踏み出した。

「『好きかどうかという話は別』って言いましたよね? ……つまり、アドミラルが私の事を好きになってくれる可能性もあるという事ですよね?」

 ガンビア・ベイがゆっくりと歩みを進め、正面から提督にそっと寄り添った。これまでの彼女であれば決して取らなかったであろう行動だ。

「My knight……アドミラル……。……どうか、どうか私の事を好きになって下さい。私はアドミラルの事がどうしようもなく好きなんです。確かにアドミラルは私が単に勘違いしていると思っているのかも知れません。ですが、誰が何と言おうと私は本気です。その事を分かって欲しいんです。いえ、分かってもらいます」

 そう言う彼女の瞳は大きく見開かれ、提督以外を視界に収めていない程に真っ直ぐなものであった。まるでグローリーホールのごとく全てを吸い込むかのようなその視線に提督は思わず寒気を覚える。

「待ってくれ。少しは、冷静になってくれ」

「冷静……? 私は、冷静ですよ」

 そう言ったガンビア・ベイは視線を外さないままにそろりと、提督から離れた。

「別に今すぐって訳じゃないんです。いずれ好きになってくれれば、それで、良いんですから」

 ガンビア・ベイは最後にそう言い、ふわりとした挙動で執務室のドアを開け、そのまま退室した。

 その場に残された提督の心境は暗澹たる物だった。自分が無意識に取った何気ない行動が、自覚も無いままに一人の艦娘を妄執とも言うべき世界へといざなってしまったという事を、理解せざるを得なかったからだ。

 

 翌日。会議を終えた後で執務室に戻る提督の視界が認めたのは出撃へ向かうガンビア・ベイの姿であった。その表情からはこれまでにあった気弱さは影を潜めていた。

「これだけは、諦めませんから」

 すれ違いざま、ガンビア・ベイは提督にそう囁いた。いつも、「無理無理」とばかり言っていた彼女のこの姿勢を果たして進歩といって良いのかどうか、自分を諦めさせるにはどうすれば良いか、去って行く小さな背中を見ながら提督はそんな事を考える。

 とは言えガンビア・ベイの事ばかり気にかけている訳にはいかない。彼女の件はいかにも不味い状況だが、提督が面倒を見てあげなければいけない艦娘は他にもいる。その中にはガンビア・ベイと同じレベル、あるいはそれ以上に深刻な心の傷を抱えている艦娘だっているのだ。

 

「そうか、じゃあ今の所は問題は無い訳だな?」

「うん、まあ一応与えられた役目は出来てると思ってる。……確かにあの子達はウザいけど」

 提督の目の前にいるのは防空巡洋艦アトランタ。ガンビア・ベイと同じく出身はアメリカである。まだこの鎮守府においては新人の部類に入る。アメリカ当局からは「実力は十分にあると見ているが、どうもウチや日本の艦娘に苦手な子がいるようだ。出来る限りフォローをしてあげて欲しい」と頼まれている子でもある。

 他の艦娘からの報告を聞く限り、訓練や軽度の哨戒任務において問題は無いという。むしろ持ち前の高い防空能力だけでも十分に戦力になり得るとも聞いている。となれば問題となるのは他の一部の艦娘に対する深刻な苦手意識な訳で、そこを何とか解消出来ないかと思い、不定期ではあるものの、個別で彼女と会話する機会を設けているのである。

 今日もまた執務室にあるソファに座り、斜め前のソファに座っているアトランタの話を提督なりに丁寧に聞き取っていた。

「ま、ウザいのがいるのはどこも同じだが……でもお前の場合はそれどころじゃなかったろうしな」

 提督はそう言う。彼だってかつての大戦でアトランタがどのような最期を迎えたのかぐらいは流石に知っている。

「悪いヤツじゃない、とは思ってるし、あんまりムカつかないで済ませたいんだけどね……」

「怖い、と言う感じじゃ無いのかな?」

 そう話を繋げる提督に対して、アトランタはテーブルを見つめ、ほんの少し首を傾げながら、答える。

「それは、もうあんまり無い、かな……?」

「そう思えるなら、今は良いと思うがね。お前がここに居てくれれば、こっちとしても心強いからな」

 アトランタはふと提督の顔を見た。気のせいか普段の暗い表情が少しだけ晴れて見える。

「まあ、今の所はこんなもんだろう。このまま地道に進んでいけば良いと思うけどね、俺は。とりあえず、今日はもう休んでいいぞ」

 そう言って立ち上がろうとした提督に対してアトランタが声をかけた。

「提督さん」

 彼女はそう言って片手を提督に伸ばしてくる。その手のひらに乗っている物を見て彼は既視感を覚えた。

「あたし、今日はキャンディ持ってきたの。食べる?」

 彼女の目を見れば普段と異なる光が静かに灯っていた。その光には見覚えがある。

「……………………」

 提督は言葉に詰まってしまった。

 

 彼の背中をヒヤリと、冷たい汗が流れ落ちた。



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連鎖の裏側

偶然にも、アトランタがガンビア・ベイと同じ方法で提督に気持ちを伝えようとしています。提督はどうにか彼女のアプローチを避けようとしますが、さて、どうなるでしょうか。


「食べる?」

 そうアトランタが言い、自分に渡そうとしている色とりどりの紙に包まれたキャンディ。これを見た提督は自身の内側にある動揺を極力表情に出さないようにし、こう答えた。

「悪いが、受け取れん」

「……何で?」

「……その、昼に食堂でたまたま甘味を食ったばかりでな。今は甘いものは、ちょっとな……」

 提督はらしくもなく嘘を吐いてその場を逃れようとする。しかしアトランタは更に食い下がった。

「今、食べなくてもいい。貰ってくれるだけでも」

「いや、遠慮しておく。それに、こういった場でそういった物は別にいいからな?」

「……そう」

 大人しくアトランタはキャンディをしまう。にべもなく提督が断ったせいか、少しだけ明るくなったように見えた彼女の表情は当初の暗いそれへと戻っていた。

 

(不味いな、こりゃ……)

 一人になった執務室で提督は大きなため息と共に天井を眺める。今のアトランタは、ガンビア・ベイと同じ状態に陥っているとしか思えない。提督からすれば、あくまで深刻な悩みを抱え込んでいるあの二人の艦娘の話を聞き取る事で、出来れば改善を促し、それを今後の艦隊運営に活かしたいと考えているだけなのである。それが何故提督と艦娘が好きあってるだの何だのという話になるのか。もしかするとこまめに話を聞き取る事自体が彼女達に好意を抱かせるような作用を起こさせているのか。

(アトランタには悪いが、今のペースだと勘違いがひどくなるかもしれんな……)

 そう思った提督は多忙を名目にアトランタとの個別ミーティングの日時を後ろ倒しにする事にした。ある程度時間をおけば、気持ちが冷めるという事もあり得るかもしれないからだ。逃げと受け止められても仕方が無いが、この場合、他に打つ手が無い。

 そしてミーティングの日が来た。若干間隔が空いてしまったが、見た限りではアトランタが不満を覚えているようには見えない。

 対話の内容も無難であった。現状について聞いている限り、特にここの生活で苦痛を覚えているという事は無いようだ。

「なら、良い。お前が考えているように、今後は他の連中と組ませる事も検討しよう」

 そう言って提督は今日の面談の終了をアトランタに伝えた。やれやれ、無事に終わってくれたか、日時をずらしたのは正解だったな、などと考えながら席を立とうとすると、アトランタが声をかけてきた。

「提督さん」

 彼女は片手を伸ばしてくる。その手にはスナック菓子の小袋があった。

「知ってるかもだけど、これ、スナイダーズって言うの。キャンディは嫌だったみたいだから、しょっぱいやつだよ。結構量も多いし」

(おい……)

 提督は内心で苦い顔を浮かべた。彼女の気持ちは全く冷めてなどいない。それどころか、前回提督が断った理由を曲解している。

「いや、悪いが、受け取れん」

 そう言われたアトランタは不思議そうな顔をした。

「甘い物はあんまり食べたくないのかなと思って持ってきたんだけど……」

「そういう訳じゃあ、無くてだな……」

 そう言って提督はアトランタに対し、現状のミーティングの趣旨を改めて説明した。今、こうやって提督がアトランタと会話する機会を設けているのは、アトランタ自身がこの鎮守府において極力円滑に任務を遂行出来るよう、その心理的な障害を解決出来るようにと、上官の立場から手助けする事が目的だ。相談に乗ったからといって何らかの報酬を期待しているわけではないし、こちらから呼び出しておいてそんなものを提供されたら二重に気が引ける。だからこそ、そういった物は控えて欲しいと伝えた。

 アトランタのスナック菓子を受け取らなかった理由に関しては、結局この場では建前しか言えなかった。仮に本当の事を言ってしまえば、彼女に与える心理的なダメージは計り知れないものになるだろうし、そうなればわざわざミーティングの機会を設けている事自体が、無意味に終わるどころか却ってマイナスの結果を招きかねない。

「ん、そう……」

 アトランタはそう言って引き下がったが、最近明るくなりつつあった表情は再び以前の暗いものへと戻ってしまっていた。提督としても良心が痛むところであるが、安直に受け取ってしまえばシャレにならない事態になると予想されるだけに、こればかりは容認する事が出来なかったのである。

 

 そして再度アトランタとのミーティングの日が来た。流石にあれだけ言ったのであれば自制出来るようになっていて欲しいものだ。

 しかし、提督の期待はアトランタが執務室に入室した段階で半ば打ち砕かれていたといって良い。

「はあ、ギリギリ、だった、ね……」

 息を切らせながら執務室に入ってきたアトランタ。その左肩には何やら見慣れないバッグを担いでいた。おそらく、バッグの中身は、以前から自分へ渡そうとしてきた差し入れのグレードアップ版ではないか。アトランタの表情を見ても、急いで駆け込んできたという状況を見ても、その可能性が高いと思わざるを得なかった。

 あそこまで言って伝わらないのか。そう思いつつ、自分の推測が間違いであって欲しいと考えながら提督はアトランタとのミーティングを開始したのである。

 

「よし、時間だな。お前ももういいぞ」

 キリの良い所で、提督は今回のミーティングの終了を宣言した。心のどこかに焦りでもあったのか、自分でも言い方が冷たいような気がした。

「提督さん」

 それでもなお、アトランタは提督に声をかける。彼女はバッグの中からサンドイッチケースを取り出した。

「今日は忙しかったみたいだし、お昼ご飯まだ食べてないよね? 私が作ったから、一緒に食べよ?」

「…………」

 アトランタの表情からは今まで以上の期待感が見て取れた。ここまでやれば受け取ってくれるだろうと言わんばかりである。確かに正午をとうに過ぎているにも関わらず、今日の提督は執務を優先して昼食をまだ摂っていない。アトランタにとっては都合が良い事この上ないが、提督にとっては真逆だ。大体、何で自分が忙しくてまだ昼食を摂っていない事まで彼女が把握しているのか。更に言えばその状況を知ったアトランタがこれは使えると思いつき、それから昼食の用意を始めたせいで今回のミーティングに遅刻しかけたのではないかと推測するのは考え過ぎだろうか。

「……いや、俺はまだ片付けないといけない作業が残っているから別で摂る。悪いが、それは他の皆とでも食べてくれ」

 有無を言わさぬという態度で提督はアトランタに言い席を立った。またも彼女の表情は暗くなった。

 

 ガンビア・ベイは廊下の向こう側から歩いてくるアトランタの姿に気が付いた。普段から決して明るいとは言えないが、今のアトランタはガンビア・ベイから見ても明らかに落ち込んでいる。

「アトランタ、どうかした?」

「……ん、ガンビー、か……」

 伏し目がちに歩いていたアトランタがガンビア・ベイに呼び止められ、暗い眼差しを向けてきた。流石にここまで沈んだ表情をしている彼女を見るのはガンビア・ベイにとっても初めてである。

「なんだか、ずいぶん落ち込んでるみたいだけど……」

 ガンビア・ベイは少々戸惑いながら聞く。

「別に。大した事は、無いんだけどさ……」

 アトランタのこの言葉が強がりな事くらいはすぐに分かる。

「提督さん、忙しいから……これ、食べてくれなかったんだよね……」

 そう言って彼女は自分の肩にかけたバッグを顎で示す。

「うーん、食べてくれなかったのはもったいないね。せっかく作ってあげたのに……」

 そう言われたアトランタの顔には一瞬、自嘲の笑みが浮かんだ。ただ、ガンビア・ベイが同調した事で言葉が引き出されたのだろうか、アトランタは更にこうも言った。

「あの人、全然他の人から物受け取らないんだね。前もあたしがキャンディあげようとしたら、断られたし」

「キャンディを……?」

 それで思い出したかのように、ガンビア・ベイが少々首を傾げながら空中に視線を向け、呟いた。

「そういえばアドミラル、私のキャンディは受け取ってくれたけど……」

 次の瞬間、彼女の胸ぐらはアトランタによって掴まれていた。それと前後して、提督の為に作った昼食の入ったバッグは床へと落下する。

「何で? どうしてガンビーのが良くて、あたしのがダメなの?」

 険しい表情のアトランタはガンビア・ベイを睨みつけたまま言う。ガンビア・ベイの方はと言えば、あまりにも突然だったその驚きで状況が把握出来ていない。

「……何でなんだよ。あたしはキャンディ渡そうとしたら断られたよ……。それで、スナック菓子渡そうとしたんだ。でも断られた。だから今日は自分で昼飯作って食べてもらおうと思ったんだ……でも、提督さんはアッサリ断った!!」

 正気を失ったかのようなアトランタは言葉を続ける。

「なのにさあ、何であんたのキャンディ受け取っちゃえる訳!? あたしの物は何にも受け取ってくれないのに!!」

 この瞬間、ガンビア・ベイはアトランタの心情を初めて理解した。

(そっか。アトランタもアドミラルの事を……)

 直後、アトランタに対する激しい敵意が芽生える。このような事はガンビア・ベイにおいては珍しい。同時に、その目は驚きを含んだものから、まるで相手を見下すかのような冷え切ったものへと変化していた。

「八つ当たりはやめてくれない? いきなりで驚いたんですけど?」

 静かに言うガンビア・ベイ。アトランタにとって、彼女は慌ててばかりいるという印象が強い。だからこんな態度を取られるのは意外であったし、実に腹立たしい。

(余裕ぶりやがって……)

 そう言いたいのをこらえ、改めて問う。

「あたしは何で提督さんがあんたのキャンディを受け取ってくれて、あたしのを受け取ってくれないか、その理由を聞いてるんだけど?」

「ずいぶんキャンディを渡す事にこだわるのね?」

「誤魔化すんじゃねえよ!!」

 冷えた態度のガンビア・ベイに対してつい大声が出てしまう。だが、それで相手が動揺する訳でもなかった。

「誤魔化したつもりはないよ。だってさ、そのキャンディって単に差し入れのつもりで渡そうとした訳じゃないんでしょ?」

「!?」

「やっぱり」

 硬直するアトランタを見ながら、ふふ、と笑って皮肉な表情を浮かべるガンビア・ベイ。

「アドミラルは貴女の気持ちに気付いてるよ。キャンディを受け取ったらその気持ちを受け取る事になるのも知ってる。でもね……」

 そこで一息ついたガンビア・ベイは言う。

「あの人にはそういうつもりは全然無い。単に、それだけだよ」

 ガンビア・ベイを吊し上げるアトランタの手の力が弱まっていく。

「だったら、何で……」

 怒りを通り越して泣き出しそうな表情のアトランタに対してガンビア・ベイは説明を始めた。

「実を言っちゃうとね、私のを受け取ったのは、あの時のアドミラルはそういう気持ちの伝え方もあるんだって事を知らなかっただけなんだよ」

 アトランタは意外な思いに駆られた。では、提督がキャンディを受け取ったのはガンビア・ベイと気持ちが通じ合っているからでは無いという事なのか。それを肯定するようにガンビア・ベイは続ける。

「だからあの人は今、後悔してる。私ともそういうつもりは無いもの。それで、アトランタがキャンディを渡そうとしたの見て、『ああ、これガンビア・ベイと同じパターンだ』って思ったんじゃない? 最初から受け取らなければ揉めないよね? 贈り物がエスカレートしたのは流石に予想外だっただろうけど」

 そう言う彼女のとてつもなく暗い表情。それはアトランタの今の内面を鏡に映した物とも言えた。

「同じなんだよ、貴女も、私も。アドミラルはあくまで相談に乗ってあげてるだけ。私達の事、勘違いしてるって思ってる」

 とうとう、アトランタの腕から完全に力が抜け切り、ガンビア・ベイが解放される。

「そんな、勘違いなんて……」

「向こうはそう思ってないよ。私はアドミラルに『お前を勘違いさせてしまった』って謝られたもの」

 アトランタの目はこれ以上無い程大きく開かれ、その視線の先は廊下の床の上にあった。嘘だと思いたい。が、既に同様の経験をしている相手が目の前にいる時点で、それはもはや困難であった。ガンビア・ベイは床に転がったアトランタのバッグを見て、

「こういうのを用意するのはやめた方が良いと思うよ? アドミラルの事、困らせちゃうだけだから」

 とアトランタに言って彼女の横をすれ違ったが、すぐに歩みを止めて、振り返った。

「あ、最後に一つ」

 立ちすくんだままのアトランタにガンビア・ベイは語りかける。

「私はそれでもアドミラルに直接伝えたんだ。『この気持ちは勘違いじゃなくて本気なんだって分かってもらいます』って」

 途端、アトランタは振り返り、見つめてきた。真っ直ぐな眼差しでガンビア・ベイは続ける。

「本人は迷惑がってるかもだけど、これが私の気持ちだから。はっきりと口で伝えたの。『もっと良い物を贈ればきっと分かってくれる』なんて考えてる誰かさんと違って」

 その間、アトランタは終始無表情であった。

「じゃあね」

 と、片手をひらひらと振りながらガンビア・ベイは歩き去って行った。アトランタは無言のままその後ろ姿を見つめるだけだ。

 

 しばらくして、アトランタの噛み合わされた歯から、ギリッ、という音がした。



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避けられなかった崩落

提督をめぐって不穏な雰囲気へと陥ったガンビア・ベイとアトランタ。そんな中、アトランタは提督とのミーティングに出席するべく執務室に向かっています。


 今日はアトランタの個別ミーティングがある日だ。時間が近づいて来ていた為、彼女は執務室へと急いでいた。

 例え真実を知らされていたとしても、やはり提督と会って話をするのは楽しみだ。向こうが仕事の一環としてやっているのは分かっているが、それでも浮かれた気分にさせられるあたり、自分は毒されているなと内心苦笑する。

 だが、そんな気持ちも一瞬にして冷え込んだ。ちょうど執務室から出てきたガンビア・ベイとすれ違ったのである。この二人が目を合わせる事は無かった。

 アトランタは執務室に入室して着席した直後、提督に聞く。

「あたしが入る前に、ガンビーがここから出てきたけど」

 提督は別に不思議な事でも無いといった感じで答える。

「ああ、あいつもお前と同じなんだよ。ここでやってく上で色々と不安を抱え込んでいてな」

 だからガンビーはあそこまで提督さんの気持ちに詳しかったのか、この返事を聞いてアトランタは得心が行った。

「それで相談に?」

「そういう事。さっきまで話を聞いてたんだ。二人を同じ日にってのはなかなか難しいんだが、今日はまとまった時間が取れてな」

(結局、この人にとってはガンビーもあたしもひとまとめなんだ……)

 言いようのない哀しさがある。

(今日は何か持ってくるって事はしてないようだな。諦めてくれたか……)

 提督がそんな事を考えていたところ、アトランタがこう聞いてきた。

「ところで、ガンビーはどんな話をしてたの?」

「うん? その辺りもお前と似たようなもんだよ。あいつにとって苦手意識のある奴がウチの連中の中にはいるからさ」

「そうなんだ。てっきり提督さんの事、口説いてるんじゃないかと思ってたんだけど」

 アトランタの言い方には刺があった。心当たりのある提督は内心ギクリとしながらも平静を装って、聞く。

「……何でそんな話になる?」

「キャンディ、受け取ってあげたらしいじゃない?」

 思わず絶句する。本来ならアトランタが知っているような事ではない。

「変な顔。ガンビーが言ってたんだよ。あたしのキャンディを提督さんが受け取ってくれない理由もその時教えてくれた」

 ふっ、と笑いながらアトランタは言う。そして、

「提督さんは断ってるみたいだけど、ガンビーは落とすつもりでいるみたいだね……アイツ、殺してやろうかと思ったよ」

 と言いながら立ち上がり、彼の肩に両手をおいて語りかける。

「フェアなんて気取るつもりはないけどね、あたしも言わないと。提督さんはあたしのモノにする。ガンビーなんかのモノにはさせない」

 自分の目も耳も届かない所でアトランタとガンビア・ベイの間に妙なやりとりがあったらしい。その事を知った提督は苦い顔を浮かべながら、

「どっちのモノになるつもりもないんだがな……」

 とだけ言い、諭すようにこう続ける。

「あのなあ、このミーティングの趣旨は散々説明したよな? お前らに苦手な奴らがいるから、出来ればそれを解消させたくてこういう事をやってる訳でな?」

 これを聞いた後、アトランタは軽く頷き、言った。

「うん、知ったこっちゃないんだよそんなの」

 自分の発言をバッサリと切り捨てられた事で提督は二の句が継げない。もはやアトランタの意識は本来の提督の目的を完全に逸脱してしまっている。

「大体さあ、同じ事ガンビーにも言ってるんでしょ? 納得してたのかなあ? 確実にしてないよねえ? あたしもおんなじ。納得なんて出来ない」

 視線を逸らす事もなくアトランタは言うが、彼女が浮かべるその微笑みは、むしろ薄ら寒いものを感じさせた。

「提督さんがあたしと二人きりで話してくれる。この時間がいつも凄く楽しみなんだ」

 更にアトランタは言葉を続ける。その目は心持ち細められたように見えた。

「あったかい気持ちにさせてくれる。隣に寄り添ってくれる。そんな提督さんが好きって思いたくなるんだよ」

 彼女の意識をどうにか是正させたい提督は極力淡々と返答した。

「それはお前の勘違いだ。俺はこういうのは仕事としてやってる訳だからな」

「勘違いだなんて思いたくない!!」

 とうとうアトランタは叫ぶ。そうして提督の肩から手を離し、

「……目的がどうだなんて話をするつもりならもうあたしは帰らせてもらうね。あたしは提督さんと一緒にいたい。なのに、そんな変な説教なんて……」

 そう言って、提督を見下ろすアトランタの目つきは鋭い。怒りが込められているのは間違い無いだろうが、心なしか獲物を狙う猛獣のようにも提督には見えた。

「おい、じゃあ、今日のミーティングは……」

「今日はもういいよ。とりあえず気持ちだけ伝えたらそれ以外はどうでも良かったし」

 そう言ってアトランタは足早に執務室のドアに向かい、それを開けた。

 次の瞬間、彼女の視界に入ってきたのは廊下の壁を背に腕を組んでいるガンビア・ベイの姿であった。

「……何でここにいるんだよ?」

「なんか、執務室に入って行くのが気になったから。アドミラルにおかしな事言うんじゃ無いかと思ってたら案の定……」

 アトランタを不快極まりないといった表情で睨むガンビア・ベイ。そんな彼女に対して、自身の中に急激に湧き上がってきた苛立ちを吐き出すようにアトランタは言う。

「盗み聞きかよ。ヘタレってのは趣味が悪いのか?」

 それに対してガンビア・ベイは皮肉めいた含み笑いと共にこう返す。

「私が教えてあげるまでズレた事やってたネクラに言われたく無いんだけど?」

 途端、アトランタはガンビア・ベイに掴みかかった。

「てんめえっ……!! 何偉そうに!! フラれたヤツがどのツラさげてこんな事してんだ!!」

「私はフラれた訳じゃ無いっ!! 分かってもらうって伝えてるもん!! 悪い虫がいたら監視するのが当然じゃない!!」

「結局フラれてんのと同じじゃねえかっ!! 姑にでもなったつもりかよっ!! 変に嗅ぎ回ってねえでさっさと引けっ!!」

 そう二人が罵り合いながら掴み合いをしていると、別の方向から、

「お前らいい加減にしろっ!!」

 と怒声が響いた。その声に驚き、瞬間的に硬直した二人が恐る恐るその方向を見ると、執務室から出てきた提督がこれ以上ないという険しい表情で睨んでいた。その眼力には流石の二人もゾッとする。

「……何やってんだ、お前ら?」

 提督はそう聞くと沈黙し、これ以上ないだろう不機嫌さを備えた鋭い視線を二人に向け続けた。しばらくして、

「何って、その……」

 と、気まずい表情でガンビア・ベイが言ったのに続き、

「け、喧嘩……か、な……」

 と、アトランタが不安そうに言う。提督は決して険しい雰囲気を緩める事なく、聞いた。

「……原因は?」

「……………………」

 ガンビア・ベイとアトランタは黙り込んでしまう。しかし、そんな態度はもはや提督には許せないものになっていたようだ。

「原因は何だと聞いているっ!!」

 軍人らしい腹の底からの大声を怒りと共に二人に叩きつける。ビクリと体を跳ね上げたのはどちらも同じであったが、先に発言したのはガンビア・ベイであった。

「アドミラルを口説いてる変な子がいるから、注意しようと思ったら……」

「はあっ!? 思い込みで彼女ヅラしてるヤツが何ぬかしてんだよ!?」

 アトランタがガンビア・ベイの発言に思い切り反発する。今のアトランタにとって、ガンビア・ベイは大切な人を抜け駆けして奪い取ろうとしている泥棒猫だ。そんな女が原因を自分に押し付けようとしたのだから当然の反応であった。

「つまり、俺が原因なんだな!?」

 再び口論になりかけたガンビア・ベイとアトランタは提督のこの一言で冷や水を浴びせられたかのようにまたも静かになった。額に手をあてた提督は言う。

「もう、散々言ってきたと思うんだけどな。あくまで俺は仕事の一環としてお前らと話をしていたんだ。だが、途中から不味い方向へ話が進んでいってな。どうにか出来ないかと思っていたら、今日これだ」

 そう言って顔を上げた提督ははっきりと言った。

「俺は元々その手の気持ち云々に関わるつもりは無い。まだ戦力として不安定なのにこれ以上こんな事で揉めるようならお前らを前線から下げる」

「好きにすればいい」

 一瞬、不安げな表情を見せたガンビア・ベイを横目にアトランタは即答する。彼女にしてみればその程度の扱いなど些細な事だ。

「それから、しばらくはこう言った相談の時間も無しだ」

「えっ……!?」

 続いて発せられた提督の発言には流石に二人とも声を上げる。驚きを隠せないという二人の表情をよそに、

「完全に対処をミスっちまったな……。本当なら、出来る限り面倒は見てやりたかったんだが……」

 と、提督は苦渋に満ちた表情で言う。

「俺が原因なら、むしろお前らには関わらない方が良かろう。いっぺん落ち着いて自分の気持ちをきちんと見つめ直せ」

 提督は最後にそう言って再び執務室へと戻り、バタン、と音を立ててそのドアを閉めてしまった。その際にちらりと見えた彼の表情は、これまでの二人が見た事も無い程暗いものであった。

 好意的に見れば、提督は二人の為に冷却期間を用意したと見る事も出来るだろう。確かに、この手のものは熱病に例えられる事もあるし、直ぐに治ると説明される事もある。だが、一過性の疾病だって拗らせれば慢性化する事だってあるし、彼女達が既にその状態に陥っていないと断言出来る理由などその実どこにも無い。

(見つめ直す? 分かり切っているものを何で見つめ直すの……?)

 その場に残された二人にはそんな疑問しか思い浮かばなかった。

 

 

 アトランタは自分に充てがわれた寮の自室の片隅でうずくまっていた。室内灯のスイッチはろくに入っておらず、薄暗い。

(何でだよ……そんなに怒らなくてもいいだろ……)

 彼女はそう心の中で呟く。この時点で、アトランタ、そしてガンビア・ベイには提督から書面による無期限待機の指示が下って既に数日が経つ。二人が喧嘩をして鎮守府内に余計な混乱を招いた、というのがその理由だ。

 この鎮守府では艦娘に割り当てられる寮の部屋は一人当たり一室が原則だ。部屋はそれなりに広く、生活に必要な設備は室内に一通り揃っているから待遇としては十二分であろう。が、身の回りの空間がどうあってもアトランタの心は空虚そのものであった。部屋の広さこそが彼女の虚しさを助長しているとも言えた。

「提督さんに会えなきゃ、意味が無い……」

 そう呟いたアトランタは一瞬沈黙した後、気がついたように顔を上げた。微笑みが浮かんでいたが、状況に似合わないだけにその表情が与える印象は不気味さが先に立つ。

(別にアポイントメントを取らなきゃ会っちゃいけないなんてえ、そんな事は無いもんねえ……)

 そう思いついたアトランタは立ち上がり、外出の為の準備をし始めた。

 

 この日の執務を終えた提督は自室に戻る最中であったが、気分は全く晴れない。目下、一番の気がかりはアトランタとガンビア・ベイの処遇についてであった。

(あいつらがあそこまで酷くなるとはな……)

 与えられた職務から自分が何者なのかを突き詰めて考えるに、極論を言ってしまえば艦娘に必要な指示を出すだけの存在という事になる。にも関わらず、そんな自分を巡って艦娘が衝突をしてしまっている訳で、当初目標としていた鎮守府の円滑な運用からはかえって離れつつある。それも、自分が行動を起こしたせいでそうなってしまっているのだからなおさら悩みは深くならざるを得ない。

 一旦、突き放して反省を促すという目的で二人には自宅待機を命じた。が、この処置にしたって、最善と言えるかどうかと問われればやはり疑問が残る。

(関わったら関わったで結局揉めるだろうし、かと言って何もしないのも、なあ……)

 提督はため息をつく。

 この鎮守府は一般の艦娘の寮とは別に、司令官クラスやそれに近い立場の者達が住む為の施設が同じ敷地内の別の場所に設けられている。提督の自室もまたそちらにあり、沈んだ気持ちのままそこに向かう。

 と、自室の近くまで来た提督は不審げな表情をした。

 何故か武装状態のアトランタがいたのである。

「どうした? お前には待機を命じていたはずだが」

 何で場違いな事なんかやっているんだという思いとともにそう質問する。すると、アトランタはこう答えた。

「うん、そうなんだけどね。提督さんの事をコソコソと嗅ぎ回るネズミがいるみたいだから」

 薄ら笑いを浮かべて提督に見せたのは撃墜された偵察機。よくよく見ると塗装のパターンからガンビア・ベイのものであると提督にも分かった。

「あたし、撃ち落とすのは得意だからさ」

 自慢げに言うアトランタに向かって、もはや提督は何かを言い返す気にもなれなかった。弾薬を使ったのなら報告書を出させるべきだが、あまりにもイレギュラーなケースだし、ならばどうさせたら良いのかなど考えるのも億劫になってしまっていた。

 

「堕とされた……」

 ガンビア・ベイはそう呟く。

 彼女は偵察機を飛ばして提督の行動を監視するようになっていた。本来なら交戦や敵への警戒・監視に用いる物であって、それ以外での使用は事故のリスクや運用時の消耗等を考えれば褒められたものではない。むしろ出撃を止められているからこそ、こういった使い方もそれらを考慮する必要無く出来るようになる訳で、そういった意味では提督の措置は悪手であると言えた。

 防空を主目的とする艦娘であるから、その側面から見れば、アトランタはガンビア・ベイとは相性が悪い相手である。

「でも、結構撮れてる」

 ガンビア・ベイは偵察機が撮影し、無線で送信してきた提督の画像データをPCに取り込んでチェックしていた。マウスを操作してあるフォルダを開く。そこにはこれまで彼女が自分の偵察機を利用して盗撮した提督の写真がずらりと並んでいた。

「えへへ、結構揃ってきたな。アドミラルが一杯だあ……」

 そう呟くガンビア・ベイの表情は暗かった。これまでのような撮影ペースは望めまい。彼女の行動に気付いたアトランタが、今後は提督の撮影を試みる機体を撃墜するようになるであろうからだ。

「大体、こんなの集めた所で……」

 ガンビア・ベイは呟き、苦しそうに俯いてしまった。彼女が欲しいのは提督本人であって、いくら画像を集めてもそれらは所詮ダミーだ。とても空虚さを埋める事など出来る訳ではないが、だからと言って今の行動を止められる訳でもなかった。

「好きなのに……アドミラルの事、本気、なのに……!」

 

 薄暗いガンビア・ベイの私室に、いつまでも彼女の嗚咽が響き渡っていた。



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不合理な清算

提督が望んでいないにもかかわらず、彼の護衛を買って出たアトランタ。こうして提督のすぐそばの立ち位置を手に入れた彼女はガンビア・ベイに備えます。


 最近、アトランタが提督の周辺を頻繁に見まわるようになった。第一の目的はガンビア・ベイの偵察機が提督を盗撮するような真似などしないよう、発見次第撃墜出来るように備えているという事なのだろう。だが、実質は単にアトランタが提督のそばに居たいだけという事ではあるまいか。提督の存在を身近に感じたいし、自分の存在を出来る限り提督に意識させたい。そういう意味では、ガンビア・ベイの偵察機を撃墜するという目的は、アトランタにとって都合の良い言い訳でしかない。

 だが、出撃の予定が無いのにも関わらず、フル武装の艦娘が提督の周りをうろついているというのは奇妙な光景である。その姿を見て不審げな視線を送った艦娘は一人や二人ではない。

(何でそういう変な事やりたがるんだお前は)

 原因が自分にあるとは分かっているものの、アトランタのこの行動は提督にしてみればいい迷惑でしかない。しかし味方の航空機さえ平気で撃墜するような真似をする今の彼女が素直に指示に従うとも思えないし、もっとはっきり言えば、何をしでかすかも分からない。だから、提督が出来るのは彼女にそれとなく注意し、自制を促すことくらいである。

「あのな、わざわざそんな事をしなくてもいいぞ。俺はガンビア・ベイに関しては特に気にしちゃいない」

 アトランタは一瞬嬉しそうな顔をした。「気にしていない」という文言を彼女なりに極めてポジティブな方向へ歪曲して解釈したせいかもしれない。が、すぐにいつもの寡黙な表情に戻り、

「提督さんが気にしてなくても、ガンビーが撮った写真を悪用しないとは限らないでしょ? それに、提督さんの動きが気になるのは別にあの子だけじゃ無いはずだよ」

 と答えた。もはや、アトランタにとっても現在の立ち位置は譲れない一線であるようだ。

 

 執務室で作業を続ける提督のそばに立ち、周囲を警戒し続けるアトランタ。しかし、彼女の体力だって無限という訳ではない。特にここ数日はほとんど不眠不休に近い状態で周囲の艦娘、特にガンビア・ベイに対する警戒を続けていたから、頻繁に強烈な睡魔に襲われるようになっていた。これも提督さんの為だ、と自分に言い聞かせて懸命に耐えてきたが、そろそろ限界である。

「ゴメン、あたし、ちょっと仮眠取るね」

 そう言ってアトランタは壁を背に座り込み、目をつむった。

 そんな彼女の行動が心底バカバカしいと感じている提督は、呆れ返った表情で、

「眠るならソファにしろソファに。今日は来客がある訳じゃ無い。目の前で直接床に寝られてても気分悪いんだよ」

 と言うが、アトランタはいかにも生気の欠けたような声で、

「そこは、我慢してよ……護衛がのんびり寝てる訳には、いかないんだからさ……」

 と答え、スヤスヤと寝息を立て始めてしまった。

 

(何が護衛だよ……)

 提督は心の中で呟いたが、その声は暗い。確かにガンビア・ベイが何かしらかの手段で今も自分の事を監視している可能性は高いし、それはそれで不気味だが、アトランタが常時自分のそばで武器を構え続けているというのも精神的になかなか辛いものがある。

 結局の所、これはアトランタとガンビア・ベイによる提督の争奪戦でしかない。しかも、提督自身はどちらの気持ちに応えるつもりもなく、つまりは物理的な意味ならばともかく、肝心の精神的な意味においては、奪い合いの対象はどこにも存在しないのである。端から無い物を巡って争っているのだから極めて不毛であるが、しかしながらそれで銃弾すらも飛ぶような事態にまでなってしまうなど誰が想像出来ようか。しかも、その原因を作ったのは他でもない提督本人なのである。

 ふと、提督はアトランタに視線を向ける。寝ている彼女の顔色は青白く、目元にはクマさえ出来ていた。どうしてここまで出来るんだ、などと考える。

 今日片付けたいと思っていた書類は一通り片付いた。しかし、それは提督自身の当初の予測よりも時間がかかってしまっていた。どうやら、自分も連日のアトランタとガンビア・ベイの行動の影響を受けて疲れてしまっているようだ。

「俺も仮眠、取るか……」

 そう独り言ち、提督は椅子からゆっくりと立ち上がった。彼もまたその表情にやつれが見える。

 はっきり言って、提督はこれまでの自分の行動に対しても嫌気が差してきていた。もちろん、ガンビア・ベイとアトランタの件である。この二人が苦しい思いをしているのであれば手助けしてあげよう、そうすれば艦隊の運用はより円滑になるだろう、そう考え、鎮守府そのものの改善の為にと思って行動してきた。しかし、その結果がこれである。手助けしようとしていた二人どころか、提督自身でさえも精神的に追い詰められてしまっていた。

 これが無能な働き者ってヤツか、いや、俺は働き者ですらないが、などと自分自身に悪態を吐きつつ、提督はソファに座り込んだ。大きなため息を吐き出し、天井を見る。ただし、その焦点はどこに合っている訳でも無く虚ろであった。

 そのうち、猛烈な眠気が提督を襲ってきた。仕事に一区切りついたという気持ちもあったのだろう。彼はそれに抵抗する事無く、眠りの世界へと落ちていった。

 

 そののち、ほんのしばらくして、カチャ、と小さな音だけを立てて、ゆっくりと執務室のドアが開いた。姿を覗かせたのはガンビア・ベイだ。

「クスクス……二人とも同時に寝ちゃうなんて……」

 彼女は静かに笑いながら言うが、明らかに顔色が悪い。おそらく、彼女もまた他の二人と同じく、まともな睡眠もとれないような、全く心の休まらない日々を過ごしていたのだろう。

 そして今の行動から、やはりガンビア・ベイは提督とアトランタの行動を何処からか監視していたらしい。1機や2機、アトランタに撃墜された所で、予備の偵察機は他にもある。

 ガンビア・ベイは物音を立てないように、そろりそろりとソファで寝入っている提督に近付いて行った。そしてその顔を覗き込む。

(ああ、アドミラル……やっぱり素敵……)

 これがガンビア・ベイの偽らざる感想だ。そしてただ眺めているだけでは飽き足らず、まるで吸い寄せられるように自らの顔を提督の顔へと近づけていったその瞬間、ガンビア・ベイの背後からガチャリ、という音がした。

 いつの間にか起きていたアトランタがガンビア・ベイの後頭部に機銃を突き付けていたのである。

「舐め腐ったマネしてんじゃねえよ……ど頭ブチ抜かれたくなかったらさっさと提督さんから離れな」

「……その前に構えちゃんと直したら? その位置だとアドミラルにも弾が当たっちゃうよ?」

 相変わらず冷えた態度のガンビア・ベイにはイラつかされるが、今は彼女を提督から離れさせることが優先だ。仮に撃つとすればそれからである。

「提督さんが疲れて寝てるの分からないの? 誰が原因かくらいわかるでしょ?」

「そうだよね、私だよね……」

 素直に答えるガンビア・ベイに対して、アトランタは分かってるんなら最初からやるなと思い、

「でしょ? だったら、大人しく……」

 と言いかけたところ、

「アトランタだって共犯なの、実は分かってるんだよね?」

 と、ガンビア・ベイが聞いてきた。

「!?」

 何も言えずにいるアトランタ。そんな彼女の方へと少しばかり首を回し、横目で見つめながらガンビア・ベイは、

「貴女がそうやって見張りをしてるのを見てるのも、アドミラルは辛いはずだよ。でも、止められないんだよね……?」

 と言い、提督の方に向き直って更に続ける。

「私達、アドミラルの事こんなに苦しめてる。でも、止められない……」

 コイツは何が言いたいんだ。そうアトランタが思っていると、

「だから、こうやって撃ってくれる?」

 と、ガンビア・ベイは提督を抱き抱えるようにして言った。

「私も、もう疲れたの。でも、アドミラルと離れるのはイヤ。だから、一緒に撃って? そうすれば、アドミラルと私はずっと一緒……」

 ガンビア・ベイはアトランタが予想も出来ないようなとんでもない行動に出た。ガンビア・ベイはともかく、提督を自らの手にかけるなど、今やアトランタにとっては自らの魂を殺すようなものである。

「そんなの、出来るかよ……! 提督さんから離れろ!」

 怯えたような表情で、悲痛な声を上げるアトランタ。その機銃を持つ手は震えている。

「離れろ……! 離れろよお!! 撃つのはテメエ一人だけなんだよぉ!!」

 アトランタは泣きそうな表情で必死の思いと共にガンビア・ベイに訴えかける。そんな彼女に対して、先程から微笑みを浮かべたままのガンビア・ベイは、一つの提案をする。

「じゃあ、さあ……三人まとめて、撃てばいいんじゃない? アトランタのソレだったらあ、人が三人重なってても、抜けるよね?」

 完全に正常さを失ってしまった目つきのガンビア・ベイは、アトランタに向かってそう言う。ただし、提案の内容自体は極めて本気のようだ。確かにアトランタの機銃なら、姿勢さえ工夫すればその弾丸で三人の頭蓋骨を一気に貫通させる事も出来るだろう。

「そうすればあ……もう誰も、苦しまないんだよ……?」

 虚ろながらもアトランタの恐慌じみた目を捉えて離さないガンビア・ベイの視線。アトランタもまた、ここ最近の自らの内面から生み出される強迫観念じみた精神状態と、それに由来する行動によって消耗しきっていた。だからガンビア・ベイの提案はとても魅力的に感じられ、提督と、そしてガンビア・ベイと共に心中を遂げるというのは、現状を打開するための最善の方法であるように思えた。

 

 それだ。

 

 アトランタがガンビア・ベイの提案をそう感じ取り、一歩踏み出した途端、

「ガンビア・ベイは俺から離れるな」

 と言う声が執務室内に響いた。よくよく見れば、眠っていたはずの提督が既に目を覚ましており、クマの出来た目でアトランタを見つめながら、ガンビア・ベイを片手で離れないように抱きしめていた。

「アトランタ、まず艤装全部外せ」

 提督はアトランタに艤装の解除を指示した。

「で、でも……」

「いいから外せ! これは命令だ!!」

 今ここでガンビア・ベイが自分から離れたら彼女だけが撃たれる可能性がある。ゴネようとするアトランタを強引に言い伏せ、艤装を解かせる。

「よぉし……もう良いからガンビア・ベイも離れろ。アトランタと一緒にそこ座れ」

 来客用のソファにガンビア・ベイとアトランタが並んで座る。そして、テーブルを挟んで向かい合わせで置かれているもう一つの来客用のソファに提督が座った。

「俺もライフルやらなんやら担いで訓練なんてのは散々やらされたがな、ここまで疲れたのはこれが初めてだ」

 両手で顔を擦りながら提督は言う。

「良かれと思ってやったのがこれなんだからざまあないが」

 そう言った彼は顔を上げてほんの少しだけ視線を空中に投げた。その呆れ顔は自分自身に向けられたものであろう。提督の配慮がガンビア・ベイとアトランタに想定外の変化を引き起こし、結果として三人とも疲弊し切ってしまった。しかし、単に働きかけただけで二人がここまで彼に執着するようになるものなのだろうか。ここが提督にとって理解出来ない点であった。

 提督が見た所、対面にいる二人は先程の狂気に取り憑かれたような状態では無く、ある程度落ち着きを取り戻しているようだ。多少話を聞く事ぐらいは出来るだろう。

「……聞いて無かった気がするから聞くんだけど、ちょっと、質問いいか?」

 二人が揃ってコクリと頷いたのを確認して、率直に聞いた。

「お前ら、えらく俺にこだわるよな? 何でそこまでこだわるのか、理由が分からないんだよ。……何でだ?」

「前にも言ったでしょ。一緒にいるとあったかい気持ちにさせてくれるって。他の人じゃ、ありえないよ」

 アトランタが言う。これにはガンビア・ベイも同意見のようで、無言で頷いている。じゃあ、何でそんな気持ちになるんだと感じた提督は整理するように質問を重ねる。

「そう思うようになったのって、いつ頃?」

 これにはガンビア・ベイが先に答えた。

「それは、アドミラルが私にお話をしてくれるようになってからです」

「……あたしも、同じ」

 アトランタも同調する。恐らく、きっかけそのものは二人とも全く同じではないだろうか。

「つまり個別でミーティングをするようになってからって事か。あれ、ちゃんと仕事上の目的があってやってた訳だよな? それは分かってるよな? だから、俺の立場からするとお前らの言う『あったかい気持ちになる』ってのが分からん訳だ」

「……それで、私達の気持ちをやたらと『勘違い』って言ってるんですか?」

 不満そうにガンビア・ベイが言う。

「そう言う事。だって俺の中じゃ、繋がってないからな? あくまで解決のヒントが欲しくて、話を聞いてただけだ。これってお前らの気持ちが変化する要因がどっかにあるか?」

 提督が言った途端、相手方の二人からは不機嫌そうな雰囲気が漂い始めた。それを証明するように、アトランタが言う。

「……なんか、それだけじゃ気持ちは変わらないはずって決めつけてる提督さんに、腹が立ってくるんだけど」

 これに続けて、提督はなおも分かっていないという事に気付いたらしいガンビア・ベイが真っ直ぐな視線で言う。

「そういうのも、十分きっかけなんです! それにミーティングなんてしなくても、アドミラルの事ならいつか好きになってました!」

「……ああ?」

 訝しげな表情の提督に対して、ガンビア・ベイは自分の内側を整理するように説明を続ける。

「悩んでる事を話してる時も、それを別に悪く言ったりしないで聞いててくれてましたよね? それだけですごく楽になったんです」

「あと、無理に『ああしろ、こうしろ』みたいな事も絶対言わなかったよね? あたしが自分でどうにか出来るようになるのをそばでずっと見守ってくれてる感じでさ。『ああ、この人いれば大丈夫だ』って思えるようになったよ?」

 アトランタが補足するように言うと、ガンビア・ベイは更に言った。

「そういう事してくれる人、居ませんでした。だから好きになったんだと思いますし、そんな人が近くにいたら、何も無くても後は時間の問題というか……」

「そういうもんなのか……」

 そう言いつつ首を傾げる提督に対して、アトランタは呆れた顔をして、

「……提督さん、人から鈍感って言われた事ない? 主に女の人からだけど」

 と聞いた。

「いやまあ……言われてみれば、まあ……うん、心当たりは、無くは無いんだが……」

「やっぱり」

 提督の歯切れの悪い返答を聞いたアトランタの表情は実につまらなそうだ。その様子を見た後、ガンビア・ベイは続ける。

「それに、アドミラルと話してる時、別に私達だけが一方的に色々言ってた訳じゃないですよね。アドミラルも自分の事話してくれたりして、それでアドミラルの事どんどん知るようになっていって……」

 これも提督にとっては意外であった。別に彼の意識としてはある程度こちらから自分の事を言った方が相手も話しやすかろうと思っていた程度なのであるが、相手方の二人にとっては提督の内面に対する関心を強める結果となっていたようだ。

「提督さんの新しい事知るとさ、それでどんどんハマってくんだよ。もちろん、貴方にだってダメな所がある事ぐらい知ってる。でも、もうそんな事はどうでも良いんだよ」

(ダメな所がある事ぐらい知ってる、か……)

 アトランタのこの一言が提督の心に響いた。この二人は自分の様々な負の要因をも飲み込んだ上で、気持ちを向けているのである。

 おそらくこの二人は気質的に一旦、この人だ、と思えば、その相手の事をとことん好きになってしまう、言ってしまえば一途なタイプなのであろう。そして現在のこの状況はその一途さが過剰になったものと捉える事も出来る。となれば、現状、提督が思い浮かべる事の出来る選択肢は二つある。一つは、二人の気持ちをハッキリと拒否し、帰国させてしまう事。未練など一切残してはいけないし、その為には二度と会ってはいけないからだ。そして、もう一つは過剰になったものも含めて自分が受け止める。つまり、二人の気持ちを受け入れる事だ。

 本当は自分がこの二人の事をどう思っているのか、どうにか整理したくなった提督は二人にこう聞いた。

「少し、俺の話を聞いてくれるか?」

 途端、二人は神妙な顔つきになった。その表情からは、これから何を言われてしまうのかという不安も覗く。

「俺はな、お前達に意地悪がしたいとかそういう訳じゃないんだ。むしろ心配だったからというのは前も言った通りだ」

 と、提督は切り出した。

「お前らは元々、十分な地力はあると思ってる。だけど、いつもどこか不安そうで本当にか細くてな。それはやっぱり辛い思いをしてきたからだろうなというのはあったんだよ。そんなのに引きずられてなければ俺よりもよっぽど人の役に立つ」

 そう言った途端、ガンビア・ベイとアトランタが猛烈に反論する。

「アドミラルが私達より人の役に立たないなんてありえません!! アドミラルが人の役に立たないのなら、貴方がいないと何の意味も無い私は一体何なんですか!?」

「気に食わねえがガンビーに同じだ!! あたしは提督さんに会えたからやっと自分に意味があると思えるようになったのに!!」

 悲痛な声で言う二人を片手で制するように、「まあ、聞いてくれ」と言う提督。

「放置するという選択だってあったんだ。前からいた連中だけで人員を回してこれまで通りの防衛線を維持する。冷淡だがそういった事も可能な訳だ」

 無言で聞いている二人に向かって、更に続ける。

「現状維持だけならそれでもいいかもしれん。だが、それだけじゃ保たなくなる時が来るかもしれない。そう考えるとさっきの選択はあっていいもんじゃない」

 これはあくまで戦術・戦略の観点から提督は言っている。鎮守府を預かる立場の人間であるから自然とそうなるのであろう。

「で、ここからなんだよな、俺にとっては」

 提督は話題の方向性を変えた。

「だけどな、本当のところを言うと俺はそういった計算だけでお前らを扱いたくなかったんだよ。他との連携が取れないから追い返すなんて真似、絶対にやりたくなかったしな。ここに来て辛い思いをさせているのかもしれないのなら少しでも楽にさせてやりたい。こいつらに居場所があって欲しいとも思っててだな」

 一瞬黙り込む提督。彼の雰囲気が先程とは若干ながら変わった事をガンビア・ベイもアトランタも感じ取った。

「それとな……あー、やっぱり整理すると、俺はお前らの明るい顔が見たかったんだよ。お前らの表情を暗くしているものがあったのなら、俺の出来る範囲でどうにかしてやりたかったからな」

 聞いている側の二人は顔を見合わせる。まさか提督がそんな事を考えていたとは思いもよらなかったからだ。

「それで……もうハッキリ言ってしまうとな、立場の違いさえなければ、ひたすら甘やかしてやりたいくらいに考えてる。そんな相手が放っておけなかったんだな。最後に私情が入ってしまうのは情けないが、これが俺の正直な気持ちでね」

 そう一気に言って、提督は軽いため息をついた。何かを噛み潰したような表情をしているが、決して深刻に思い詰めている様子ではない。最後の彼の発言に驚いたガンビア・ベイが信じられなさそうな表情で聞く。

「え、アドミラルって私達を甘やかしたいんですか?」

「今話しながら考えてたら、そうなっちまったな」

 真っ直ぐ見つめ返しながら答える提督に対して、今度はアトランタが問う。

「じゃ、元々気持ち的に『ノー』は無いんだ?」

「正直、な……」

 提督は素直に認める。

「しかも、二人から好意を向けられて嫌な訳が無い。どっちか選べって言われると困るんだが……後は、何だか他の連中の扱いが雑に思えてきて、自己嫌悪してるところだけどな」

 提督は苦い顔をして、首筋をかきながら下を向いてしまった。心底自分に呆れているらしい。そんな彼に対して、まるで蘇生したかのような表情をしたガンビア・ベイが、

「じゃあ、私達二人だけが、アドミラルの特別っていう事ですよね?」

 と言うと、アトランタも、

「そうなるよね、そっかそっか」

 と言って続く。更に二人は目配せをして立ち上がり、反対側のソファに移動して提督の両側に着席した。ガンビア・ベイが提督の顔を覗き込むようにして言う。

「もうこの際、二人一緒でもいいです。私達の事好きになって下さい」

 その反対側からは、アトランタが同様に覗き込むようにして言ってくる。

「そうそう、素直になれよ。こっちは何が何でも好きなんだし、もう勘違いなんて言わせないよ?」

 困惑した提督は二人の表情を交互に見る。正直なところ、気持ちを向けられるのは嬉しい。が、自分はこの二人を散々振り回してしまったのである。この二人にふさわしい相手とも思えない。二股というのも如何なものだろうか。

「いいのか、こんなロクデナシで?」

 提督はそう聞くしかないが、

「少なくとも助けられたあたし達にとっちゃロクデナシじゃないけどね」

 と、アトランタがあっさり否定してしまう。

「そうです。アドミラルはもう少し自覚を持つべきだと思います」

 ガンビア・ベイがアトランタの発言を補足したが、よく分からない点が一つ。

「おい、なんで助けたって話になってるんだ? さっきまで俺はお前らを追い詰めてたんだぞ?」

 と聞いたが、即座に、

「『必要悪』って言葉知ってます?」

 と、ガンビア・ベイに切り返された。

「だね。提督さんが気付くには避けて通れなかったって事」

 と、アトランタも楽しそうに言う。

 どうやっても二人は自分に気持ちを受け入れさせるつもりらしい。その証拠に、提督の両腕に二人がいつの間にか抱きついた状態になってしまっており、身動きが取れなくなってしまっていた。すっかり観念した提督は冗談まじりで最後に一言だけ言った。

「……向こうじゃディベートの訓練をやる事もあるらしいな? こういうのもやったりすんのか?」

「……さあ?」

 これは別にガンビア・ベイとアトランタが罠を張ったという事ではあるまい。結局は諦めきれずに狙い続けていた二人が最後の最後、ギリギリのタイミングでようやく提督が隙を見せたところを、見逃さずに捕らえたと考えた方が良さそうである。

 

 

「おい、アトランタ。お前また演習で張り切りすぎたろ? 弾薬の数が合ってないぞ?」

 提督は一枚の報告書を手に、そう言った。言われた側のアトランタは急いで立ち上がり、

「え、本当?」

 と言いながら提督のデスクに駆け寄る。

「こんなんで嘘は吐かんよ。ちょっとこれ見ろ」

 提督が示す報告書をアトランタは慌てて確認する。

「……で、ここ。最終的な残弾の数な。どうやったらこれで済むんだ?」

 報告書のある一点を指差し、ジロリと提督がアトランタを見る。彼女は気まずそうに、

「……これって誤魔化したり出来ない?」

 と言うが、提督は苦い顔でこう返す。

「却下だ。大体、どうすればこんだけの差を誤魔化せるんだよ? キチッと記録精査して直しとけ!」

「面倒くさいなあ、もう……」

 自身の戦闘の報告書を修正する作業に取りかかったアトランタはつい愚痴る。

「まあまあ、そういう面倒くさい作業も今まではアドミラルがずっとやっていた訳だし……」

 書類を手にガンビア・ベイがなだめる。

 提督を補佐する担当として秘書艦、と言うポジションが海軍の制度として以前から存在している。この鎮守府でも以前から秘書艦を担当する者はいたが、それはその日のスケジュールに応じて決まるというかなり変則的なもので、とある艦娘で固定されるという事は無かった。

 ところが、最近この鎮守府ではガンビア・ベイとアトランタというコンビが秘書艦を務める事が多くなり、この二人が執務室に半ば常駐するかのような状態になっていた。

 かと言って他の艦娘がそれを不審に思うかと言えばそうでもなく、先程のようにアトランタがミスをしたせいで提督に叱られているのを見て、「ああ、秘書艦って大変だもんねえ」と思う程度であった。

「でもアドミラルってこんな事毎日やってるんだよね。やっぱり尊敬しちゃう」

 複数の書類をファイリングしながらガンビア・ベイがそう言うのに同意して、

「だね。だけど弾薬の計算くらいもう少しいい加減でも……」

 とアトランタが言いかけた途端、

「弾薬ってのはタダじゃないんだぞ? その大元の金は誰が出してくれてるのか考えろ?」

 と言う提督の声がその耳に届いた。

「あー、ヤダヤダ」

 ウンザリしたように言うアトランタに対して、ガンビア・ベイはなだめるように、

「終わったらアドミラルのお部屋に行って遊べるんだし、ここは我慢しよ?」

 と言うが、それに対しても提督から、

「今日はそれも却下だ」

 と言う声が届いた。

「ええっ!? 何でですかあ!」

 途端に書類を秘書艦用のデスクの上に放り出し、立ち上がって抗議しようとするガンビア・ベイ。それに対して自分のデスクに肘をつき、その手に顎を乗せて気怠そうにした提督が言う。

「昨日お前らいつまで俺の部屋に残ってたよ? 俺は朝辛かったし、お前らも遅刻しかけたろうが」

「うう……それはそうですけどお……」

 いかにも不満顔のガンビア・ベイ。アトランタはアトランタで「冗談キツいよ……」と言いながらデスクに伏せていた。この二人、隙さえあれば提督の自室に押し掛けるようになっているのである。もはや提督にとってもそれ自体は悪い気はしないのだが、次の日の事を考えればいつまでもグダグダとのさばられるのは考えものだ。

 それでもアトランタが様子をうかがうようにして、聞く。

「ほんの少しだけでも……ダメ?」

 それに対する提督の返答は素早い。

「ふざけるな。そうやってズルズル引き延ばしするつもりだろ?」

「チッ、バレてたか……」

 微塵も反省の色が見えないアトランタの発言を聞いて、全くしょうがない奴らだ、と提督は呆れる。彼女達は提督の自室を訪問したらしたで、そろそろ帰れと言われてもなんだかんだと理屈をこねては部屋を離れたがらないのである。アトランタの言う「ほんの少し」が絶対に少しどころでは済まない事ぐらい提督の経験則で把握済みであった。

「今日くらいは我慢しようよ、明後日ってアドミラルはオフでしょ? それは私達も同じ……」

 いつになく悪い表情を浮かべたガンビア・ベイがアトランタに耳打ちをする。

「ああ、そうだったね。提督さんと三人で……」

 そして二人はクスクスと笑う。

(あー、あいつらまた何か企んでるな……)

 そうは思いつつも、提督はこれ以上何かを言う気は無かった。この二人に悪印象を抱きようが無いからというのもある。

 

「アドミラル、そろそろお昼休みですが」

 と、ガンビア・ベイが声をかけると、

「ああ、もうそんな時間か」

 と、時計を見ながら提督はそう返す。秘書艦にガンビア・ベイとアトランタがメインに据えられるようになってから、昼食も三人で摂るというのが当たり前になっていた。基本的に食堂へは行かず、ガンビア・ベイとアトランタが作った弁当を執務室で食べるという形式だ。

 ちなみに、この二人は仮に前日の深夜まで提督の私室にいたとしても、昼食を作って持参するという事だけは忘れない。

「ほら、今日のお昼ご飯はこういうの用意してみた」

 アトランタがランチボックスを取り出す。サンドイッチがメインだが、具材はかなり凝っており、おまけにサラダがふんだんに盛り込まれていた。

「こっちは、これです」

 ガンビア・ベイがそう言って、アトランタと同様にランチボックスを取り出したが、その献立は肉類を中心に組み立てられているようだ。やはりこちらもかなり凝っているようだし、どちらも分量としては盛り沢山である。

「それでさ、明日はピーマンの肉詰め持ってきていい? こないだ習って作って、それで評判良かったやつ」

 アトランタが明るい表情でガンビア・ベイに言い、ガンビア・ベイは、

「あ、だったらそれに合わせたもの用意してみるね」

 と答えた。もはや明日の昼食の献立がこの場で決まってしまったらしい。

「それから、飲み物。コーヒーですよね」

 そう言ってガンビア・ベイは楽しそうに三人分のマグカップを取り出す。

(いい加減甘いなあ、俺も)

 提督はそう思い、内心苦笑しつつも自らの首を撫でてから、こう言った。

 

「ああ、頂こう」



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