狂気の緑化運動 (銀ちゃんというもの)
しおりを挟む

狂気の緑化運動

Twitterの『#リプで来た要素を全て詰め込んだ小説を書く』で送られてきた単語、『臨床実験』『折れたポッキー』『ニンジャ』『リンボーダンス』『終末阻止』から作った狂気の短編。


 空間が悲鳴をあげて、傲岸不遜(にんげん)が怒号で黙らせる。

 大地は水玉模様の穴を空けて、海は業火に蒸発する。

 寒色を探すのが困難な程満ちる砂漠(きいろ)砂漠(あかいろ)砂漠(ぴんくいろ)

 阿鼻叫喚、狂瀾怒濤、悪夢を丸ごと絵に書いた様な光景に得物1つで立ち向かう者がいた。

()()は血の雨降り注ぐ戦場を駆る。

 ビルの代わりに築かれた屍山血河を超えて、烈火に魂を溶かし。

 鉄降り注ぐ最後の争い(ハルマゲドン)の中、ただ1つの信念、─────をもって。

 

 

 

 事の発端は休暇中の事、緑化運動を手伝う単発のアルバイトだった。

 通常ボランティアでやる様な仕事の割には給料が高く仕事次第ではボーナスもある。しかし当日まで仕事内容が伏せられている所がとても怪しい。

 だが彼は万年金欠であった為、たとえ血反吐を吐くような内容であろうとやり遂げてやるという気合いと共に仕事を受けた。

 受けてしまった。

 

 

 当日、とても緑化の仕事の集合場所とは思えない、極々平凡な都会のコンクリートジャングル。

 その中の公園ですらない鉄筋コンクリート製のビル。

 蒸し暑い猛暑の夏の日、そこへ訪れた。

 

「なーぜ……なぜ。こんな日に階段にぼんなきゃなんねーんだ……はぁ。なんで、エレベーターが故障してんだよ! ……はぁ……疲れた……」

 

 暑い、暑いと苦言を零し、黒い髪に暑まる熱を鬱陶しいと嘆きつつ、彼はビルの外壁に引っ付いて付いた鉄の階段を昇って4階へと辿り着く。

 

 重々しい鉄の扉の取手を捻り前に引くと、涼しい室内の空気が彼の体を掠って癒す。

 天国(エデン)はここにあったと言わんばかりの表情を浮かべ、ころっと顔色を嬉々とした物に変えて室内へ素早く入り込む。

 

「おっ……ここかな。ふぅ……やっと着いたぜ……」

 

 先まで白い廊下が広がる広いビルの中、目標の事務所を探した彼はすぐにその札を見つけた。

 

『山田脳医学研究所機械科第四支部』

 

 何処に緑化しようという意欲があるのか問い質したい衝動に駆られるツッコミどころ満載の文字が、アクリルの透き通った札に黒く印刷されている。

 

「まあ、いいか」

 

 彼は研究所の戸を、遠慮なく開いて中へ入った。

 

「こんにちは。緑化アルバイトの方でございますね……お手数お掛け致しますが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

 プラスチックの人より少し高い敷居で区切られたそこで待ち受けていたその女性に彼が「こんにちは。窪木(くぼき)幸人(ゆきと)です」と答えると「ありがとうございます。では、こちらです」と奥へ案内される。

 

 その部屋はなんとも面妖な物であった。

 何も植えられていない長方形の植木鉢が部屋の右端に並べられ、左端にはとてもまともに生きている中では見ない巨大かつ超精密な近未来的なモニターや操作版が付いた機械が置かれる。

 

 それらに挟まれるように、それは鎮座していた。

 

 白い掛け布団、ふかふかしていそうな敷布団それが木製の台の上に乗っかっている。簡単に言えば白いベットだった。

 しかしそれだけではない。

 これまた白い枕の横に置かれたそれは鉄製のリング。

 ちょうど頭にすっぽりハマりそうな大きさをしたそれは赤黄色青その他、多種多様な色のコードで例の機械と繋がっており、一筋の虹を描いている。

 

 その傍ら、彼を待っていた白衣の男が居た。

 

「やぁ、こんにちは。今回は私達、山田脳医学研究所の緑化プロジェクトのアルバイトに参加してくれてありがとう」

 

 突如話しかけられた彼はどう返事を返せばいいか迷ってしまう。

 その様子に、「これはいい結果になりそうだ」とぼそりと男が言った言葉は彼に届かなかった。

 

「さて、早速、今日の仕事の内容を話していこう」

 

 そう男が始めたところで初めに居た女性がパイプ椅子を2人分持ってきて、幸人にどうぞ座ってくださいと勧め、荷物を端へ置く。

 

「幸人君、君には最初にあそこにある疑似生態信号発信装置を頭に付けて、電子的な仮想空間へ意識を落としてもらう事になる」

「……はい?」

 

 それはいわゆるどういう事だと、VRMMORPGやSFという単語すら浮かばない。

 ちなみにこの世界の技術力でもまだVRMMORPGなどは研究されている途中な筈なのだ。

 浮かんで当然の疑問符の海に沈んだ彼は。

 

「そしてそこで『草生える』行動をしてもらう事になる」

「……?」

 

 更に告げられる理解不能な内容によってさらに深くへと溺れることになる。

 おかしい、この男は日本語を話しているはずなのだが全くもって意味を理解することが出来ない。だいたい緑化なんだから苗木を植えに行ったりするのでは無いのか。

 そう、内心頭を抱えている彼を気に留めず、男の話は進んでいく。

 

「まあ、小難しい事を言ったところで、これは理解できるものでは無いだろう。……取り敢えず、そこのベットへ寝て疑似生態信号発生装置を頭に取り付けてもらおうか」

 

 男にそう言われ、彼は誘導されるがままにベットに寝転がり頭に疑似生態信号発信装置とやらを取り付けた。

 

 男が近未来的な機械の操作部らしき所の電源ボタンに触れると彼の意識はまるで寝ている時の様に暗転していく。

 ただ寝る時と違うのは外界から強制的に意識を散らされる感覚が割り込んできた事だった。

 

 

 

「ここはどこだ! 何があった!?」

 

 ふと意識が戻った彼は寝起きにしては嫌に鮮明な記憶に反応して起き上がる。

 しかし妙に身体の感覚がおかしい。

 声の質も元々はまるで違った。

 

「これは……どういう……?」

 

 成人した男から発せられるものとは思えない程、鈴のように甲高く幼い音色。

 肩や腰に常に感じていた痛みが全く無く、少し悪かった筈の視力も昔友人の眼鏡をかけた時のように焦点があっている。

 何より、先程寝させられたベットの上ではなく木造の床に転がっているだけであった。

 

『これで、理解してくれたかね』

 

 困惑する彼の眼前、虚空に出現したモニターには先程の男が映っていた。

 

「これは……どういう事ですか?」

『先程言った通り。疑似生態信号発信装置、一般的にはVRMMORPGなどと呼ばれる作品で使われる生態信号を送る機械を使い幸人君の意識を仮想空間へ落した。だからそこで『草生える』行動をして貰いたい』

「……えっと……これはどうして緑化に繋がるので……?」

『ああ、今説明しよう。今君の状態は全国100ヶ所以上ある私達の研究所の研究員全員がリアルタイムで頭に疑似生態信号発信装置の様な装置を付けながら視聴している』

「……はあ」

『そして、幸人君、そして全国で募り今別の場所でこのアルバイトを受けている人達がした行動で、その配信を視聴する研究員が『草生える』と感じたところで、それをなんやかんや深層意識と無意識分野がなんとかかんとかほにゃららをして現実へ影響を及ぼし何も植えていない植木鉢に無から草を生やそうという計画の臨床実験なのだ』

 

 情報量の嵐に一瞬ふらつくも、内心諦めてきた彼は簡潔に済ませようと「で、これからどうすればいいので?」と質問する。

 

『ふむ、幸人君がいる部屋の扉から出ると終末の地球の最終決戦場とも言える場所へ繋がることになる。そこで幸人君が巨大ポッキーを片手に単騎で戦い、『草生える』行動をしてくれると嬉しい』

「……????」

 

 容量オーバーで大爆発しそうな思考を押さえ込みつつ彼は最後の質問をした。

 

「では……今俺の姿どうなってます?」

『うん? ……ああ、すごく可愛らしくなっている。見たいならその部屋に鏡があるから見ればいいと思うよ』

 

 そう言われて、彼は部屋を見回すと彼の身長程ある鏡を見つける。

 そこへ歩を進め、覗き込むと初めに視界に入ったのは焼け残った灰のような色だった。

 それを自分の髪だと理解できたのはその10秒後。

 しっかりと硬直した彼は今の己の姿を見る。

 

 まだあどけない顔をした少女であった。

 歳は10を少し過ぎた程だろうか。

 白磁の柔肌と凹凸の無い胸が庇護欲を誘い。

 腰まである灰の髪はそれより黒い灰色をした瞳を守るように隠している。

 どうしてその瞬間まで気付かなかったのか、服とも言えない様な奴隷みたいな茶色いボロ布。

 

 彼──いや、少女は困惑以前にこのアバター(しょうじょ)を作った人間の趣味は相当終わっていると悟る。

 

『ふむ、では、頑張ってくれたまえ』

 

 その声とともに、鏡に反射して見えていた少女の後ろにあるモニターは何処かへと消えた。

 

「えっえぇ……どうしろと……」

 

 いつの間にか足元に出現した巨大ポッキーを見て、まずこれを持ち上げられるのか、そこから悩んで頭を抱える少女だった。

 

 

 

 数時間経って不毛の大地を裸足で駆けて巨大ポッキー片手に幾千もの銃兵の軍勢を相手に鎧袖一触する少女の姿があった。

 

 それはなんとも狂気的、とても草生えるから離れて寧ろ捻じ曲がって近づいた様な冒涜さを感じさせる。

 それはそうだ。

 まだ幼い少女が巨大な鈍器(ポッキー)を振り回して兵を防具ごと撲殺して血に(まみ)れているのだから。

 

 時に原型を無くした死体を盾に使うことも、投擲武器に使うことも厭わずただただ無双する。

 時に銃弾を視覚に捉えポッキーでハエのように叩くことも、リンボーダンスの選手も真っ青な体勢で避けることも可能とする。

 

 少女の表情は色ひとつ無い『無』。

 瞳は死んで、表情筋は衰え、敵を空虚に見つめる。

 

「ぎゃああああああ! 逃げろ! 悪魔が、無の悪魔が来──」

「助けてくれ俺には妻と子──」

「金でもなん──」

 

 無慈悲に、必要最低限の力を最大効率で振るう。

 顔の下に隠す感情はただ1つ、『金稼ぎたい』。

 

 冷酷無情の死神、冷淡な戦天使、無色の悪魔、狂乱の悪鬼、戦車より戦車してる奴……これはNPC(銃兵)達にたった1時間程で呼ばれるようになった異名達だ。

 

 何故、一般人出会ったはずの彼がこのようなことが出来ているのか。

 答えは単純、作者の都合(システムアシスト)である。

 そのお陰か兵を瞬殺する力を自在に扱う少女だが、決してこの仮想空間で最強という訳では無い。

 

 バキッそう音をたて、折れる少女のポッキー。

 寧ろどうして今まで折れなかったのかという疑問が浮かぶが諦めるしかない。

 

 一体何が原因か、それはひとつ、他のプレイヤーが拳銃より放った15.7mmがポッキーに命中、破壊したのだ。

 何故折れただけで済んだのかとか言っちゃいけない。

 

 さて、ゲテモノ拳銃をぶっぱなしたそのプレイヤーの見た目は完璧に忍であった。

 拳銃は最後の武器じゃないのか、と言いたいところだが月光でも忍者部隊でもない人間にそれを伝えたところで無駄なものは無駄。

 その忍は姿かたちを少女と同じく変えられていないのならば青年と言った風体でとてもネタを理解出来る年齢ではない。

 理解できるのだとしたらそれはもうサンダーバードが人形劇と言って伝わる人間か、親が原因くらいなものだろう。

 

 ロマン砲をいつの間にか少女の(こめかみ)の押し付けて忍は言った。

 

「…………」

「えぇ……今なんて言ったのです!?」

 

 なぜどうしてこういう場面で決めゼリフ決めるならヘタレてボソボソ声で話すなよと言う意味も込めてツッコミを放った少女は。

 

「……」

 

 最後までヘタレた忍びの銃声と共に頭に強い衝撃を受けることも無く、破裂するような感覚と共に人生で1回しかないはずの死の中でも平和の中では珍しい銃殺という体験を痛覚軽減無しで味わったのだ……。

 

 

 

「痛えよ……ッ!」

 

 痛えよ、で済む少女……いや彼……あれ? 少女……? の精神性に驚くべきか。

 何故か現実に戻ったはずが少女の姿のままの彼を憐れむべきか羨むべきか。

 少女の衣服まで変わらない状況に悩むべきか。

 

 それとも、緑で包まれた研究所にツッコミを入れるべきか。

 

「……Why!? どうゆうことだってばよ!」

 

 情報過多に混乱困惑、理解不能な現状に口調も性格も崩壊しかける少女の耳に聞こえてくる笑い声。

 

「はっはっはっはっ……思った以上の効果だ! まさか物を写すだけでなく既存の物質すら形を変えてしまうとは!」

 

 あまりの喜び故か狂ったように爆笑を続ける男は、少女の肩を叩いて「取り敢えず、服を用意しておこう」と思考が混沌と化している少女を宥める。

 

「あっ……はい。これ一体どうなっているので?」

「ああ、この現象か。これは恐らくだが、人間の意識が───やはりあれがこうして───深層意識に───法則の影響で───………………」

「いや全く理解できません」

「ふむ、では簡潔に。『集団の認識を具現しようとしたら既存の物質にも影響が及んだ』」

「……うん?」

「いや、だから……集団の──…………」

「いやいいですから! 凄いことはわかりましたから黙ってください!」

「そうかそうか、ああ、服と給料はそこに用意しておいた。今日はありがとう」

「あっはい」

 

 男が天才なこと以外、あまりに現実離れした事象の数々が少女を襲った為に理解能力が追い付かず、その日に少女に起こった出来事を理解出来たのはその1週間後の事だった。

 ちなみにTSしていることを自覚したのは四日後のことである。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。