閉物語 (ドラゴン竜)
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おじさんの独白

 あぁ、最悪だ。何故俺がこのような雑事に身を投げねばならないのだ。まぁ、仕事だから仕方ない。しかし、これを俺に投げたのが、あの全身をテキトーで武装した女だと言うのがムカつく。適当、では無い。テキトーである。適当では、まるであの人が褒められるべきような存在の様でないか。

 

 

『ふふん、褒めてくれて構わないよ?』

 

 

 失せろ、思考の中にまで飛び出して来るんじゃない。ええい、鬱陶しい。そのニヤケ面をどうにかしろってんだ。もう。でも、それが許されるだけの物を、あの人は持っている。

 

 

 この俺を嘲笑うかの様に、太陽から降り注ぐ陽光が全身を焼き焦がす。うぜぇ。まだ5月だというのに、まるで真夏日のようだ。異常気象、地球温暖化。

 

 

『もしかして────()()かもよ?』

 

 かもな。でも残念。これはただの気象ってやつだ。あんたも専門家なら軽々と怪異なんて口にするもんじゃ⋯⋯いや、俺の頭の中だけだから別にいいのか。改めて、とんでもない存在感だ。あの人は、常に自信満々、余裕綽々、全知全能、そんな言葉を思わず零しそうになる。

 

 

『私はなんでも知っている』

 

 

 そんな事を恥ずかしげも無く、口から垂れ流す。しかし、それを反論する術は無い。事実、俺はあの人に何かしら弱点なんて物があるなんて聞いたことが無い。完全無欠なのだ。

 

 

 おっと、余りに愚痴が先行して色々と説明を忘れているようだ。では、まず自己紹介。俺は⋯⋯まぁ親しみでも込めて、おじさん、とでも呼んでくれ。名前?それは今の信頼度じゃ聞き出せない情報って奴だ。もっと仲良くなってもう一度試してみてくれ。教えないから。そんでもって、俺が今いるこの場所は、千葉県の市川市。住んでる訳じゃない。お仕事だからここにいる。そして、今回のお仕事。

 

 

『人探しさ。それも凄ーく狭い場所での人探し。神隠しにあったように突如として人が消えたそうだ。しかも、情報が嫌ってほど溢れる現代でだよ?ちょっとおかしい。いや、かなりおかしいよね?て訳で、調査よろしくね☆』

 

 

 ⋯⋯まぁ上に書いてある通りである。別に警察に頼めば良くないか?て思われたそこの貴方。うん、俺もそう思う。しかし、大事にしたくない事ってあるよね?どうやら今回はそういう話みたいだ。

 

 

 いや、別にややこしい事情がある訳じゃ無いみたいだ。あの人の人脈は、地球全土といっても過言ではない訳で。行方が知れなくなった、とその手の話はあの人の元へと転がり込む。そして、あの人の未来視とでも言うべき直感で、それが俺たちの仕事であるかどうか判断し、俺みたいな現場の奴らに流す。ヤレヤレ、あの人を敵に回すような事だけはしたくないな。

 

 

 そう言えば、今は何やら伝説の吸血鬼とその眷属を追っているそうな。とてもじゃないが自分は吸血鬼なんて関わろうなんて思えない。しかも伝説。響きだけで心が折れる。かの歴戦のトレーナーでさえ、伝説の渦に飲まれ、チャンピオンの座を逃している。おー、やだやだ。俺の知り合いで手を出せる人なんて、メメさんとあの人くらいだ。

 

 

 まぁ俺は、今日も自分の手に負えるだけの仕事を抱えて。それを解決する為にじたばたと藻掻く。これは青春でも無ければ、感動でも無く、愛も無ければ死もない⋯⋯恐らく。これは俺にとっての日常。日の常。そんなもので良ければ、覗いていってくれ。



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