波動ねじれのヒーローアカデミア 【台本式Ver】 (へたくそ)
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1 出会い

この作品は台本形式となっています。















緑谷 出久が中学1年生の時、彼はある人と出会った。彼がヒーローになると決めたのはこの人のおかげだろう。

 

 

 

 

 

バクゴウ「おいデク!!今日も俺らの代わりに掃除しといくれや」

 

イズク「で、でもかっちゃん僕この後用事が…」

 

バクゴウ「ああ!!??俺に逆らう気かデク!!!」

 

イズク「っ!!」

 

 

 

爆豪が自身の個性である爆破を見せびらかして出久を脅す。それを見て出久は引き腰になってしまった。

 

 

 

生徒1「おい勝己〜、まだかよ〜。早く行こうぜ〜」

 

生徒2「早くしなとカモがいなくなっちまうよ」

 

バクゴウ「ん?あぁ、こいつが俺たちより他の用事を優先するって言っててよ。お前らも手伝ってくれねえか?」

 

生徒1「なんだよ緑谷、俺たちのために代わってくれるよな?」

 

生徒2「こんなところで怪我したくないもんな?緑谷」

 

イズク「わかったよ…」

 

 

 

 

勝己の取り巻きも個性を発動させて脅しに加わる。無個性の出久が3人に敵う筈がない。

それ故出久は諦めて首を縦に振ることしか出来なかった。そんな自分に苛つきながら拳を握りしめた。

勝己たちを横目に見ながら出久は今日も掃除を始める。もちろんこれが初めて、というわけではない。

勝己の出久に対するこの扱いは出久が無個性と分かってからだ。

周りも勝己に感化されているか、それを見て見ないフリをしているかのどっちかだ。

出久を庇おうとする人は誰一人としていなかった。

 

 

 

イズク「はぁ…なんでいつもこんな事してるんだろう…。早く終わらせて買い物いかなきゃな」

 

 

 

出久は一人でボヤを言いながら教室を掃除した。20分かけて教室の掃除を終わらせてゴミを袋にまとめてゴミ捨て場に向う為に校舎裏を歩いてると、綺麗な夕日が目に入った。普通こんな夕日を見たら感動するだろう。

しかし出久は違った。この夕日を一緒に見る友達も、分かち合える仲間も、思い出せる思い出もない。

自分は空っぽだ。ただヒーローに憧れる事だけしか出来ない、それが自分だ。悔しい。

校舎の壁にもたれながら(うずくま)り静かに涙を流していた。

 

 

 

イズク「ほんと、何やってんだろ。もう嫌だ、こんな人生…」

 

 

 

13歳の少年にとってこれまでの人生はあまりにも苦痛なモノだった。幼い頃はヒーローになることが夢だった。

今の社会でヒーローは警察、消防に似た、それでいて圧倒的人気の公務員だ。誰もがなれる可能性のある職業だ。

しかし、出久はその「誰も」には当てはまらなかった。4歳までに発動する個性。ヒーローに個性は必須条件。

無個性、この一言で出久の全てが崩れ落ちた。出久は個性がない。そう、出久はヒーローになれない。

それが判明したのは4歳の時、あまりにも残酷な現実を突きつけれた。

 

 

それでも無駄な努力だと分かっていても出久はヒーローの分析を始めた。本当に無駄な努力だ。

生身の人間が生き残れる程ヒーローは甘い職業ではない。頭では分かっていても諦めることができなかった。

どうしようもない憧れ。一生くることのない将来を夢を見て足掻いてきた。それも限界を迎えようとしていた。

 

そんな時、出久に近づく1つの影が

 

 

 

「ねえねえ、君泣いてるの?どこか怪我したの?大丈夫?」

 

 

 

それが緑谷出久と波動ねじれとの出会いであった

ここから二人の物語が始まった。




違う作品でメリッサ・シールドのヒーロアカデミアという小説も書いています。


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2 また明日

突然話しかけられて出久は顔を上げる。そこには水色の長い髪を下ろした女子が立っていた。

 

 

 

イズク「なんですか、貴方は。放っておいて下さい」

 

ネジレ「ええ?でも君泣いているよね?大丈夫じゃないよね?どうしたの?」

 

イズク「なんでもないですよ…」

 

ネジレ「ねえねえ不思議、君いつもここにゴミ捨てに来てるよね?当番とか決まってないの?」

 

 

 

出久は黙る。なんでこの人はそんな事を知っているのだろう。

いつもは出久一人で掃除をしている為、他のクラスよりゴミ出しがかなり遅れる。だから誰かに見られると言うのはない筈だ。

なのにこの人は『いつも』と言った。ならこの人もいつもここに来てると言う事だ。

 

 

 

イズク「そういう貴方だって僕がいつもここに来てるって知ってるのは、毎日ここに来てるからじゃないですか」

 

ネジレ「うん!私は委員長だから手伝ってるの!でも君はそうじゃなさそうだったから。なんで君はそんな助けて欲しい目をしてるの?」

 

イズク「…!!な、なんでそんな事「分かるよ。私には分かる。」

 

 

 

出久の言葉を遮ってねじれが割り込んできた。出久はそれを黙って聞くしかなかった。

ねじれの言ってる事は当たってる。出久は確かに助けを求めている。それを認めたくなかったが反論も出来なかった。

 

 

 

ネジレ「私に君を助けられるか分からない。でもね?私は君をこのままにしてはおけないの。余計なお世話かもしれないけど、それでも君を助けれるかも知れない。だからお姉さんに話してみてよ!」

 

イズク「貴方みたいな人に話しても何も変わりませんよ」

 

ネジレ「かもしれないね!ねえねえでも知ってた?ヒーローは困ってる人を助ける、泣いてる人を笑顔にするんだよ?だから私は君を助けて笑顔にさせるの!」

 

 

前半はかなり真面目な顔をしていたが最後はドヤ顔で胸を張りながら言った。

しかし出久の胸にその言葉は深く刺さった。ヒーロー、僕の憧れ。僕のヒーローはオールマイトだけだと思ってた。

でもそれは今日で変わるかもしれない。この人になら話しても良いかもしれない。そう思って彼女の顔を見てみると、子供みたいにキラキラした顔でこっちを見ていた。

それを見て出久は少し可笑しくなり笑うのを堪えていたが、我慢できなくなり笑った。

ねじれもそれを見て嬉しそうな顔をになった。

しかし、もう一度出久を見てると、出久が涙を流している事に気付いた。

 

 

ねじれはそんな出久に近づき、優しく抱きしめながら頭を撫でた。

誰もいない校舎の裏側で、互いに名も知らない悲しい少年とそれを救おうとする少女を綺麗な夕日が照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イズク「もう大丈夫です。いきなり泣いてしまってすみません」

 

ネジレ「ううん!大丈夫!それで、良かったらだけど私に話してくれないかな?」

 

イズク「はい、実は僕…」

 

 

 

出久は全て話した。無個性である事、ヒーローに憧れている事、それ故自分が周りから偏見の目で見られている事を、自分の全てを。

中学1年でこの人生は耐え切れるようなモノではない。それを他人に、しかも今日会ったばかりの人に話すのはかなり勇気がいる筈なのだが、不思議と心には余裕があった。

 

 

それはきっとこの人が僕のヒーローになってくれる人だからかもしれない。本当に僕を救おうとしてくれているから僕はこの人の事を信用できるのだろう。僕の憧れたヒーローと言う姿が僕の目の前にあった。

 

 

 

ネジレ「そっか、そんな事が。ねえねえ、でも知ってた?個性がなくてもヒーローを諦めない事はできるのは誰にでもできる事じゃないんだよ?」

 

イズク「でも、それでも僕はヒーローになれない」

 

 

 

出久がそう言うとねじれは勢いよく立って手を後ろで組みながら体を揺らして出久の方に振り返る。

 

 

 

 

ネジレ「そんな事ないよ!ヒーローは個性を使うだけじゃないんだよ?色んな人を笑わせたり、幸せにしたり、個性がなくても出来ることはいっぱいあるの!確かにそれを実現させるは大変なことだけど、、ヒーローはどんな時でも諦めないんだよ?今の君みたいに。だから君ならきっと出来る!なれるよ!立派なヒーローに!」

 

 

 

それは出久にとって衝撃的な言葉だった。無個性の事を話してもこの人は出久がヒーローになれると断言した。

しかもそれは同情や哀れみなどではなく、ねじれは本心からそう思っていた。出久もねじれの目を見て分かった。

 

 

こんなにも心が穏やかになったのはいつ以来だろう。この人はもう僕のヒーローだ。

まさか今日会った人にこんなにも簡単に救われるなんて、なんだか今まで悩んでいたのがバカらしくなってきた。

そんな事を考えているとねじれのケータイが鳴った。

 

 

 

ネジレ「はいはーい!もしもし?どうしたの〜?……うんうん、分かったよ!はぁーい!ごめんねもう帰らないといけなくなって!もう行くね」

 

イズク「あ、はい。今日はありがとうございました。話を聞いてもらってスッキリしました」

 

ネジレ「大丈夫だよ!それじゃまたね!」

 

 

 

ねじれはゴミ袋を拾ってゴミ捨て場に走って行く。出久も向かおうと思い袋を拾おうとした時、ねじれが振り返り

 

 

 

ネジレ「私は3年A組の波動ねじれ!君はー!?」

 

 

 

大声で自己紹介をしてきた。出久もそういえばまだ名前も知らなかったと思い大声で返した。

 

 

 

イズク「1年C組の緑谷出久です!」

 

ネジレ「それじゃ出久君!また明日ねー!」

 

 

 

ねじれは手を大きく振った後、ゴミ捨て場に走って行った。

また明日、その言葉に出久はここに来るのが楽しみになった。



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3 いつも通りじゃない一日

ねじれと出会った次の日、出久はいつも通り学校に来ていた。いつも通り登校して、いつも通り後ろの席に着く。

何も変わらない1日、周りの目も、それに対する恐怖も。しかし唯一違う事があった。

昨日別れ際にねじれに言われたあの一言だ。

 

 

『また明日ねー!』

 

 

そう、今日もまた会えるかもしれないと言う事だ。

いつも通り、自分に掃除が押し付けられ、ねじれもいつも通り掃除の手伝いをする。

そうすれば昨日みたいに…。そう考えるだけで放課後が楽しみになってきた。

早く放課後にならないかと出久はいつもより胸をドキドキさせながら授業を受けた。

 

 

 

 

 

 

午前の授業が終わり、出久はいつも通り一人自分の席で弁当を食べようとしていた。

弁当を机の上に持ってくるの同時に出久は廊下が少し騒がしいことに気付いた。

また誰かがおふざけ半分に個性を発動させて先生に叱られているのだと思い、あまり気に止めなかった。

そんな出久の元に爆豪と二人の取り巻きが寄ってきた。

 

 

 

バクゴウ「おいデク、お前金貸せや。今俺たち金欠なんだわ」

 

イズク「いきなりそんな事言われても僕だって持ってないよ…」

 

バクゴウ「あぁ?んな事どうでもいいんだよ!さっさとよこせや!!」

 

 

 

爆豪がいつも通り出久の事を脅迫して金を取ろうとする。これもまたいつも通りの光景だ。

出久もいつもならすぐに財布を開けて千円札を2、3枚取り出して渡していたが、今回の出久は渋っていた。

昨日の事もあるので少し抵抗しようと試みたのだ。それでも出久はいつも通り取られるのだろうと思っていた。

そんな時だった。

 

 

 

ネジレ「えぇ〜っと、あ!いたいた!おーい!出久くーん!!一緒にご飯食べよー!」

 

 

 

前のドアから大きく手を振るねじれが出久を呼んだのだ。

これには出久も突然のこと過ぎて言葉が出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜廊下〜

 

 

 

ネジレ「♫〜」

 

 

 

ねじれは今一人で鼻歌を歌いながら一年生の階に来ていた。そしてねじれの片手には可愛い巾着に入った弁当を持っていた。

 

 

 

生徒「おい、あの人波動先輩じゃないか?」

 

生徒「本当だ、何で一年の階にきてるんだ?」

 

生徒「知らないけど、これは話しかけれるチャンスじゃないか?」

 

 

 

この学校でねじれはかなりの有名人だ。その容姿はもちろん、今中学3年のねじれが受験するのは超難関高、雄英高校、ヒーローを目指すモノが必ずと言っても良いほど憧れる学校だ。

ねじれはその雄英高校を受験して合格できる可能性がある程の偏差値も高く、個性もかなり強力なモノなのだ。

それに加えて分け隔てなく皆に明るく接してくれる性格、好かれない方が可笑しいと思えるほど良く出来た人間だ。

 

 

そんな学校のアイドルと言っても差し支えないねじれが一年生の階に来れば誰だってソワソワするに決まっている。

皆がねじれの目的をアレコレ想像してるいると、ねじれが1年C組の前で止まり、教室の中を見渡してると思いきや

 

 

 

ネジレ「えぇ〜っと、あ!いたいた!おーい!出久くーん!!一緒にご飯食べよー!」

 

 

 

無個性である緑谷出久を昼ご飯に誘っていた。

 

 

 

 

 

 

出久は突然名前を呼ばれて返事も出来ないまま固まっていた。

確かにまた明日ねとは言われたがまさか昼に、しかも教室に来るなんて思いもしなかった。

出久が今の状況を整理しようとしているとねじれが出久の元に駆け寄り、出久の手を引っ張り「行こ?」と言いながら教室を出ようとした。

しかし爆豪がそれを止めた。

 

 

 

バクゴウ「おい待てや。何勝手にそいつを連れてって行こうとしてんだよ」

 

ネジレ「何でダメなの?私は出久君とご飯食べたいだけなのに、不思議〜」

 

バクゴウ「何が不思議だ!いきなり出てきてなんだてめえ!ぶっ殺すぞ!」

 

ネジレ「わぁ、不思議〜。この子凄い口悪いよ〜?何で何で?」

 

バクゴウ「っっっ!!!!!」

 

 

ねじれは出久に問いかける。出久もその返答に困り苦笑いで誤魔化すが、ねじれは不思議そうに出久のことを見ている。

そして爆豪は自分の事を無視された事に苛立ちを覚えコメカミに怒りマークが浮かぶ。

そして当たり前だが教室にいる生徒全員の注目を集めていた。

 

 

 

バクゴウ「おお、俺を無視とは良い度胸じゃねえか。てめえ確か雄英受けるっつってたよな。ここで受けれないくらいボコボコにしてやろうか」

 

ネジレ「この子凄い顔だよ〜。いつもこんな感じなの?後知ってた?学校で個性の使用は禁止だよ?」

 

バクゴウ「だから何だよ!そんなの今は関係ねえ!てめえが雄英を受けれなくなれば俺がこの学校で最初の雄英合格者になれんだ!ボコられんのが嫌ならさっさとそいつを置いてどっかに消えな!」

 

ネジレ「ふぅ〜ん…君、雄英に行きたいんだ」

 

 

 

爆豪が雄英を目指していると知ると、ねじれの雰囲気が一気に変わった。

さっきまで不思議そうに興味津々と言った顔で爆豪を見ていたが、今はどこか冷たい目で爆豪を見ていた。

それに出久は気付いた。しかし理由は分からなかった。でもねじれが怒っている事だけは確かに分かった。

 

 

 

バクゴウ「そうだ!俺は雄英を卒業したらオールマイトをも超えるNo. 1ヒーローとなり、必ずや高額のう「なれないよ、君」

 

 

 

ねじれは爆豪の言葉を聞き終わる前に言い切った。それに爆豪の口が空いたまま止まった。それを気にも止めないかの様にねじれが続けた。

 

 

 

ネジレ「君はヒーローになれないよ。ヒーローどころか雄英にだって入れない。入れたとしても間違いなくヒーローにはなれない」

 

バクゴウ「何だてめえ、喧嘩売ってんのか?あぁ!?!?」

 

ネジレ「君自分が何をしてるのか分かっているの?自分より弱い人を脅す事を何とも思わないで行動に移す。それはヒーローがする事じゃない。ヴィランのする事だよ」

 

バクゴウ「っ!」

 

イズク「は、波動先輩、それ以上は流石に…」

 

ネジレ「出久君は少し黙ってて」

 

 

 

ねじれの放つ覇気ともいえるモノに教室にいる全員が何も言えなくなっていた。

まさかあのねじれが、人の事をヴィランと言うなんて考えられなかった。しかも冗談などではなく本気でだ。

そして爆豪はねじれの言葉に反論出来ずにいた。ねじれが言ってる事は何も間違っていないのだから当たり前だ。

 

 

 

ネジレ「君が何をしようとそれは君の勝手だと思う。でもヒーローを暴力を振る理由にするのは絶対に許せない。自分より弱い人間を痛ぶろうとする人がヒーローになんてなって欲しくない。君にはヒーローになる資格はないよ」

 

 

 

爆豪は立ち尽くす。一方的に言われ、反論も出来ずにいた。ねじれはそんな爆豪に言いたい事を全て言うと出久に「行こ」っとだけ言い手を引っ張って教室を後にした。

爆豪は俯いたまま肩を震わせ、それに気付いた取り巻きは爆豪から少し離れた。

そして爆豪は溜まりにたまった怒りを出久の隣の席に個性を使って思いっきりぶつけた。そのせいで机が粉々になったが爆豪は全く気にして無い様子だった。

 

 

 

バクゴウ「あのクソナードどもが…!」

 

 

 

爆豪はその一言だけ言い残し教室を後にした。その目どこか血迷っているようにも見える。

それを目にしたクラスメイトや取り巻きは、爆豪がいかに危ないのかをこの時知ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

出久はねじれに引っ張られ廊下を歩いていた。ねじれも少し機嫌が悪そうに見え、出久はなんて話しかけて良いのか分からずにいた。

しかし女子と全くと言って良いほど接した事のない出久は、手を繋いでいるだけで心臓のドキドキがさっきから止まらずにいた。

 

 

 

イズク「あ、あの、波動先輩。どこまで行くんですか?」

 

ネジレ「え?あ、ごめん、そう言えばまだ決めてなかった。どこでご飯食べようか」

 

イズク「それなら僕について来て下さい。良い場所があるんですよ」

 

ネジレ「本当?楽しみ!」

 

 

 

出久はねじれの調子がだんだん良くなっていくのが分かると笑顔になっていった。

ねじれはまさか自分が案内される側になるとは思わなかったが少しワクワクしていた。

出久は階段を登り、一番上までに来た。そこには屋上に出れる扉があるが、うちの学校は屋上に出るのが禁止されている為鍵が掛けられている。

しかし出久はポケットから鍵を取り出し、扉の鍵を開けた。それを見てねじれは多少驚いた。

出久はそんなねじれに微笑みながら「さぁ、どうぞ」と言い、自分だけの特別な場所にねじれを案内した。

 

 

二人はフェンスに寄りかかりながら座り、弁当を開ける。

 

 

 

イズク「あの波動先輩、さっきはどうしてかっちゃんにあんな事を…」

 

ネジレ「ん〜?間違っていると思ったからだよ?それに出久君がいじめれてるのを放っておけなかったし!」

 

イズク「波動先輩…、ありがとうございます」

 

ネジレ「うん!それより早くお弁当食べよ!」

 

イズク「あ、はい」

 

 

 

出久は弁当を開ける。そして箸を付けようとしたがいつもより弁当が美味しそ言うに見えた。

何でだろう。いつもと同じはずなのに。少しだけ、でも確かにそう見える。原因は何となく想像は付いた。

隣で弁当を食べているねじれの事だ。無個性だと話しても自分から離れない人は初めてだった。

美味しそうに弁当を食べているねじれを見ているとこっちに気付いた。

 

 

 

ネジレ「ん?どうしたの?食べないの?」

 

イズク「いえ、何だか不思議な感じがして。誰かと弁当を食べるのが初めてで。こう、どうして良いのか分からなくて」

 

ネジレ「どうすれば良い…か。んん〜お弁当食べて、お話をする!それだけだよ!」

 

イズク「話ですか、」

 

ネジレ「うん!例えば出久君の好きなヒーローの話とか!私もこう見えてヒーローに詳しいんだよ?例えばボイスヒーロー『プレゼントマイク』と抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』が同じ雄英の同級生だって知ってた?」

 

イズク「イレイザーヘッドのこと知ってるんですか!?メディアの露出が全くと言って良いほどないのに!」

 

 

 

そこから二人はヒーローの話で盛り上がった。昨日までとは違う出久の一日。初めて学校が楽しいと思えた。

ヒーローの話を誰ともした事がない。一緒に弁当を食べた事がない。そんな出久にとって今の時間はとても楽しい時間だ。

それから二人はチャイムが鳴るまで屋上で二人きりの時間を過ごした。



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4 二人の時間

11月の下旬、二人が屋上で一緒に昼を過ごしてからはねじれと出久は一緒にいる時間がかなり増えた。

昼もちろん、登下校や放課後、更には休日までもだ。基本的にはねじれが出久に勉強を教えるなど学生らしい事をしている。

後は雄英を受ける事もあって出久がねじれに受験の事なども聞いていた。

 

 

 

ネジレ「あ、出久君、そこ違うよ?」

 

イズク「え、本当ですか?英語はちょっと苦手で…」

 

ネジレ「うちの学校は上手く教えれる人少ないもんね〜。私も最初は大変だったよ?あ、ここの問題はまずここから略して…そうしたらホラ!」

 

イズク「本当だ!先輩凄いです!」

 

 

 

大抵はこんな感じで勉強している。そんな事をしている内にねじれに近づく無個性がいる、と言う噂が広まった。

この学校にいる無個性は出久のみ。なので出久を見る目は前より嫌なものになっていた。

しかし出久もねじれも全く気にしている様子もなかった。正確にはねじれが出久に絡みに行っているのでねじれが出久に気にするなと言ったのだ。

出久は気にしてないと言うよりは、気にしない様にしている。

 

 

 

 

 

 

 

そして出久とねじれはいつもの如く屋上で昼ごはんを食べていた。

 

 

 

ネジレ「むむ〜…」

 

イズク「ど、どうしたんですか?先輩」

 

ネジレ「ずごく気に入らないの。私と出久君が一緒にいるのを反対されるの!不思議なことだけどとっても気に入らないの!」

 

イズク「そ、そうなんですか(先輩がここまで拗ねるなんて珍しいな)」

 

 

 

ねじれが拗ねること自体珍しい、と言うよりも出久が拗ねるねじれを見ること自体が初めてだった。

不機嫌オーラが漂っている。何とかして話題を逸そうとねじれの受験の話をした。

 

 

 

イズク「そういえば!先輩は雄英を受けるんですよね?調子はどうですか?実技もかなり難関と聞いてますけど」

 

ネジレ「ん?そっちの方は問題ないよ!私の個性ってすごくヒーロー向きなの知ってた?」

 

イズク「もちろんですよ!先輩の個性はとても強力ですからね。先輩の必殺技も一緒に考えたじゃないですか」

 

 

 

出久は昔からヒーローの個性を分析するのが大好きだった。それを知ったねじれは出久に一緒に必殺技を考えて欲しいと頼んだ。

それからと言うのもねじれの成長は目を見張るものあった。それもあってかねじれは出久をよく頼る様になった。

個性の制御や個性の伸び代は出久と会う前と後では大きく違っていた。

最初は出久も付きっきりで教えていたが、ここ最近途中で変えることが多くなった。

 

 

 

ネジレ「そういえば今日も早く帰るの?」

 

イズク「はい、すいません。今度埋め合わせするので」

 

 

 

ねじれはそれを聞くや否や顔をグッと近づけて

 

 

 

ネジレ「ねえねえ知ってた?この前駅の近くに新しい喫茶店が出来たんだって!」

 

イズク「わ、わかりました。今度一緒に行きましょう」

 

 

 

それを聞くとねじれは嬉しそうに返事をした。それを見た出久は少し申し訳ない気持ちになりながら勉強道具を片付ける。

それと同じ様にねじれも片付けを始めた。喫茶店の約束が嬉しかったのか、ねじれは先ほどよりも笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ねじれと別れた出久はある道場に来ていた。昔からある道場らしくそこには60を迎える老人が師範代をしている。

その人物は昔、世界的にも有名な格闘家だったらしいのだが、今となっては忘れられ、この道場にいた沢山の弟子も今は見る影もない。

しかし出久は一度この師範代の技を見た瞬間、何と美しいのだろうと思った。そしてその場で弟子入りを志願したのだ。

最初は軽くあしらわれるだけだったが、1ヶ月門を叩き続けると弟子入りを認めてくれたのだ。

 

しかし弟子になってから2ヶ月、出久には一つだけどうしても納得いかないことがあった。

 

 

 

師範「緑谷、今日も2時間たっぷり基本の型の特訓だ。それが終わったら今日は終わりだ帰っていいぞ」

 

イズク「あの…師匠、今日も僕の型を見てくれないんですか?弟子になってから一回も見てくれないですし」

 

師範「その必要はない。お前に型は見せた。それに俺の型は俺の型だ。お前が俺の型を覚えてどうする」

 

イズク「でも僕は先生の技を覚えたいんです!お願いです!先生の技を教えてください!」

 

師範「ダメだ。教えることはできん」

 

イズク「何でですかっ!!!」

 

師範「それは俺と違う目的でこの技を覚えようとしているからだ」

 

 

 

珍しく怒鳴っている出久、それに対して師範代は冷静に対応する。出久は無個性であり、師範代も無個性だった。

それ故出久は師範代の技に惹かれた。これでヒーローに一歩近づける。そう思って弟子入りしたのに師範代は相手にしてくれない。

出久はそれに焦りを覚えていた。何故あの技を教えてくれないのか。本当は技を身につける事は出来ないんじゃないかと。

 

しかしそれは違った

 

 

 

師範「いいか緑谷。この型はな、剣にも盾にもなれる型だ。それは殺す事も守る事もできると言う事だ。お前が必要としているのは俺の技じゃない。誰かを傷つける技じゃなく、誰かを守る技を身に付けろ。」

 

イズク「誰かを守る技、ですか」

 

師範「そうだ。お前がうちの門の前に立っている時から分かっていた。だから本当は俺がお前に教える資格はないんだ。だがあそこまで必死に頭を下げられちゃな。だから俺にできるのはお前を導くだけで、技を教える事じゃない。分かったか?バカ弟子」

 

 

 

師範代はそう言いながら出久の頭を乱暴に撫で回した。出久はその手にされるがまま頭を揺らされている。

それから出久の型の稽古を師範代が見てくれる様になった。出久の型で無駄な動き、力の入れ方など初歩の初歩を徹底的に教え込んだ。

 

 

しかしねじれには事をまだ話していなかった。理由はないが出久自信、本気でヒーローになれるとは思っていなかった。

だがねじれにヒーローになれると言われたのだ。何もしない訳にはいかない。できる事は全てやる、出久はそう決めていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日曜日の午前11時

 

 

ネジレ「えぇっと、この『フルーツとチョコとクリームたっぷりパフェ』と『チーズレアケーキ』と『蜂蜜たっぷりホットケーキ』下さい!!あ、あとジャスミンティーもお願いします!ねぇねぇ、出久君はどうするの?」

 

イズク「ぼ、僕はショートケーキとオレンジジュースで…」

 

 

 

二人は約束通り、駅前にできた喫茶店に来ていた。出久はねじれの頼んだメニューの量にこれが女子なのかと思っていた。

そんなに食べれるのか不安になったがねじれの楽しそうな顔を見て言う気も失せた。そんなねじれを見ただけで今日ここに連れて来た甲斐があると言うものだ。

まぁ全て出久の奢りだが。

 

 

 

ネジレ「楽しみだね〜!早く来ないかなぁ〜!ねぇねぇ出久君今日はありがとうね!」

 

イズク「いえ、約束してましたし。最近先輩の訓練にも付き合えてないですし、気にしないで下さい」

 

ネジレ「む、約束してなかったら一緒に来てくれなかったの?」

 

イズク「いえ!そんな事は!先輩さえよければ、その、い、いつでも…」

 

 

 

少しむくれるねじれに出久は答えるが恥ずかしくなりどんどん声が小さくなっていく。

それを見たねじれは満足そうな顔をして自然と出久の頭を撫でる。それで出久は更に顔真っ赤にした。

 

 

 

イズク「ちょ、先輩こんな所でやめてくださいよ…」

 

ネジレ「えぇ〜?それは残念。あ、パフェ来たみたいだよ!食べよ!」

 

 

ねじれはテーブルに並んだスイーツに目を輝かせている。

そんなねじれを見て出久は違う意味お腹いっぱいになったが、ねじれが美味しそうに食べる姿を皆がらケーキを食べ始めた。

そしてねじれは見事にテーブル並んだスイーツを全て食べ切った。

 

その後二人は街で何でもない様な事を話しながらブラブラしていた。それは側から見ればカップルがデートしている様に見えるだろう。

そんな事を周りの人に思われているのではないだろうか。もしそうだとしたら。そう考えてるだけでねじれの口元が緩んでしまっていた。

 

 

そしてそんな何でもない様な日常は雄英高校の受験まで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ねじれ雄英高校受験当日の朝、出久とねじれは雄英に向かっていた。丘の上にはもう雄英の後者が見えている。

ねじれも珍しく緊張しているようで単語帳を必死でめくっている。出久はそんなねじれに話しかけられずにいた。

そして二人は雄英の前に着き、ねじれもそれに気が付いた。単語帳に集中しすぎてねじれは雄英に着いたことに驚いていた。

 

 

 

ネジレ「どどどどどうしよう出久君!不思議だよとっても不思議だよ!!もう雄英に着いちゃったよ!全然自信ないよ落ちちゃったらどうしよう!」

 

イズク「落ち着いてください!大丈夫ですよ!先輩はたくさん頑張って来たじゃないですか!」

 

ネジレ「で、でも…」

 

 

 

昨日までは自信満々に受験を受ける気でいたのだが、いざ今日会ってみるとすごく不安そうな顔をしていた。

それからここに来るまでどうしても不安を拭いきれない様だった。ねじれが(うな)っていると出久がポケットから何かを出した。

 

 

 

イズク「先輩、これよかったら持っていってください」

 

ネジレ「ん?これって、お守り?」

 

イズク「はい、気休めなのかもしれないですけど合格祈願です。一緒には居れないですけど合格するように祈ってますから!」

 

 

 

出久はねじれを不安にさせない様に必死でガッツポーズをする。

ねじれはそれを見て一瞬ポカーンとなるが出久から貰ったお守りを胸の上で両手で握りしめると少し顔を赤くして

 

 

『ありがとう、出久君』

 

 

 

そう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一週間後、合格したとねじれが泣きながら電話をして来た。

その日は珍しくねじれが街で遊ぼうと誘って来た。出久はこれがデートじゃないかとドギマギしながらOKを出した。



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5 今度こそは

ねじれが雄英に合格して出久は一人で登校する事になった。

一年の時はねじれが一緒にいたので出久は何もされずにいたのだが、2年になってたから周りの、特に爆豪が出久に絡む様になった。もちろん悪い意味でだ。

ねじれとの一件もあったせいでねじれが雄英に合格したことに納得いかずその鬱憤を全て出久にぶつけていた。

そしてまた今日も放課後の教室で言い合う二人と野次がいた。

 

 

バクゴウ「おいデク!お前なんで昨日俺たちの昼飯買いに行かなかったなだ!?あぁ!!??」

 

イズク「そ、それぐらい自分で買いに行きなよ!ぼ、僕だってそんなお金ないよ!」

 

バクゴウ「何だてめえ!俺に逆らうのかぁ!!??」

 

 

 

出久と爆豪はいつもこんな感じなのだ。ねじれと出会ってから出久は爆豪とぶつかることが多くなった。

爆豪も自分に逆らう出久を見て面白くないと感じ、何とか従わせようとするが、中学に入る前とは違い思い通りにならない。

その事に段々と苛立ちを覚えていった。

 

 

 

バクゴウ「お前…調子に乗ってんじゃねえぞ…。あの不思議女に何言われたか知らねえけどなデク…てめえは…!!」

 

イズク「っ!?」

 

 

 

爆豪は出久に向かって走り出す。それに対して出久は構えいつもの右の大振りに対して対応しようとするが爆豪の手から火花が発生した。

そう、個性を発動させたのだ。それも教師がいない事を分かっていてだ。大きな威力と音さえ出さなければクラスメイトは爆豪の側に着く。

それは出久も爆豪も分かっていた。故に爆豪は容赦無く、出久は一瞬対応が遅れた。その一瞬が大きな隙に繋がった。

 

 

 

バクゴウ「俺より下だああああ!!!」

 

イズク「ぐぁぁ!!」

 

 

 

右の大振り+個性の爆破。それに対応しきれんかった出久は左に吹き飛ばされ壁に激突した。

爆豪は腐っても雄英のヒーロー化志望。そして戦闘センスにおいて彼に敵う者がいると思えないほど高い。

格闘術を教わっている出久でもそんな爆豪と互角にやり合う事すらできないのだ。

 

 

 

バクゴウ「明日もこうなりたくなかったら俺の言うことだけ聞いてろ、デク」

 

イズク「い、いやだっ!絶対に聞くもんかっ!」

 

 

 

(うずくま)っている出久は爆豪に見上げながら睨みつける。それが気に食わなかった爆豪は

 

 

 

バクゴウ「何だぁ?その目はよぉ。イラつくなぁあ!おい!!」

 

イズク「うぐっ!」

 

 

 

出久の腹に蹴りを入れた。爆豪はその後にすぐ帰路に着いた。出久はしばらく動けなくなり、野次はやっと終わったかと言う顔をしてそれぞれ帰路に着いていった。

出久もしばらくしてから師範代の元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

師範「どうした出久、浮かない顔をして。また学校で何かあったか」

 

イズク「いえ、何もないです。すいません集中できなくて」

 

師範「お前が言いたくないならこれ以上は何も聞きはしない。ただあまり溜めすぎるなよ」

 

 

 

出久は師範代の言葉に何も返せなかった。今はヒーローになる為の訓練をしてはいるがやはり出久もまだ14歳。今日みたいな事が毎日、そしてこの先続くと思うと参って当然なのだ。

一年の時はねじれがいたが今年からはねじれがいない。一人で何とかしなくていけないのだ。ねじれには大丈夫と言ったが実際大丈夫なわけが無い。

いつも通り2時間の訓練を終え、出久の家かねじれの家での勉強会をする。これはねじれが提案して来た事だ。出久は何故だろうと思ったが理由は聞かなかった。

まさかその理由がねじれがただ出久に会いたいと言う理由だと気づくのはかなり先のことになだろう。

 

 

そして出久が中学2年のせいの夏休み、いつも通りの一日。訓練の時間は朝6時から8時までに変わり、その後は宿題とねじれとの勉強会。

何も無い一日。ヒーローになる為に精進するだけ。そう思っていた。

唯一違うことがあるとするなら今日はどちらかの家ではなくファミリーレストランでの勉強会をしている。

それだけだった。それだけのはずだった。

 

 

 

ネジレ「あれ、出久君ジュースなくなってるよ?私持ってくるね!何がいい?」

 

イズク「あ、すみません。それじゃオレンジジュースを」

 

ネジレ「はいは〜い!」

 

 

 

ねじれが席を離れ少し申し訳ない気持ちになりながら出久は宿題に目を戻す。

早く終わらせなければ。そう思い少しでも早く問題を解いていく、そんな時だった。

 

 

 

 

ネジレ「キャァ!やめて離して!」

 

???「うるせえ静かにしろこのガキ!お前らも変なことするんじゃねえぞ!少しでも変なことしようとしたならこの女の命はないと思え!」

 

 

 

ねじれの悲鳴のする方向を見るとそこにはそれぞれ違う色をしたマスクを着けている3人のヴィランがいた。

そしてねじれはそのヴィランの一人に銃を突きつけられていた。

 

 

 

イズク「お前達!先輩を今すぐ離せ!!」

 

ネジレ「い、出久くん…」

 

青マスク「何だ?お前。もしかしてこの女の彼氏か?」

 

黄マスク「おうおう、お熱いことだね。彼女のために立ち上がる彼氏ねえ。かっこいい」

 

赤マスク「青春をするのは結構だけど、彼氏君、この状況分かってって…待て。お前もしかしてあん時のガキか…?」

 

イズク「何のことだ!僕はお前にことなんて知らないぞ!!」

 

 

 

 

ねじれは自分の為にヴィランに立ち向かう出久を見て嬉しいと思った。それと同時に怖いとも思った。

自分のせいで出久にもしもの事があったら、大きな怪我をしたら、もし銃で撃たれたら。またあの時と同じ事になったら。

そんな事ばかり考えてしまうのだ。

それに赤いマスクが出久のことを知っている風な口ぶりだった。そしてその瞬間から赤いマスクの目が何か恨む様な目をしていた。

 

 

 

赤「あぁ、このマスクが邪魔で分からねえか。まぁこの個性を見たら思い出すだろ。おい、そこの店員こっちに来い。早くしろ」

 

店員「は、はい!お、お願いです!殺さないで!お願いです!」

 

赤「ああ、殺しはしねえよ。ただ少し眠っててくれや」

 

 

 

その瞬間バチンッ!!!と大きな音が鳴り店員が倒れた。白目を向き泡を吹きながら。

一瞬何が起こったか分からなかったが出久は赤いマスクの親指と人差し指の間に流れる目に見える電気を見て思い出した。

出久が師範代と出会ったきっかけで、自分の無力さを一番実感したあの1年前の事件。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年前

 

 

ねじれと出久が出会って2ヶ月が経ち、二人の仲は今とさほど変わらないくらいのモノになっていた。

そして二人は一緒に下校している時、大通りの方で何か騒ぎがあるのが聞こえた。

ねじれはいつもの如く好奇心に身を任せその騒ぎのある方へと出久を引っ張って行く。

 

 

 

ネジレ「ねえねえ!何か向こうであるみたいだよ!すごく気になる!行こう出久君!」

 

イズク「で、でも先輩危ないですよ!行かないほうがいいんじゃ」

 

ネジレ「大丈夫だよ!きっとヒーローだって来てるよ!出久君ヒーロー見たくないの?」

 

 

 

出久はヒーローと言う言葉に心が揺らぐ。ヒーローオタクとしてはヒーローを間近で見られる機会を逃すのはかなり惜しい。

悩んでいるとねじれが

 

 

 

ネジレ「あ!ほら!見て!ヒーローがもう来てる!早く行かないといなくなっちゃうよ!」

 

 

 

その一言に出久は負けた。ねじれの好奇心と出久のヒーローオタクが二人の足を騒ぎのある現場に向かわせたのだ。

それがどういう事になるかも知らずに。

 

 

 

ヴィラン1「くそ!何でもうヒーローが来てるんだよ!ここはヒーロー事務所から遠いんじゃなかったのか!」

 

ヴィラン2「そのはずだ!偶然近くをパトロールでもしてたんだろ!」

 

ヴィラン3「何だよ!それくらい調べておけよ!どうすんだよこれ!」

 

 

 

3人のヴィランとヒーローが一人。出久が横で初めて見るヒーロだと言っていることから最近出て来たヒーローかサイドキックだろう。

少し不安ではあるがヴィランもそこまで強くなさそうなので心配いらなだろう。そう思っていたがねじれの予想は外れた。

 

 

 

ヴィラン1「くそ!何だてめえら見せもんじゃねえぞ!」

 

ヴィラン2「どうやって脱出する…ん?あれは」

 

ヴィラン3「どうしたんだ?野次の中に誰かいたのか?」

 

ヴィラン2「あぁ、人質にちょうどいいやつがな…」

 

 

 

ヴィラン2がそう言うと突然走り出した。そのスピードはかなり速い。目には見えるものの、そのスピードは確実に個性だろう。

10メートルくらい離れてはいたが1秒程でねじれの元に着いた。状況を飲み込めなかったねじれは動けなかった。

しかし出久は何とか反応できてねじれに手を伸ばしたがその手は届かずヴィランに囚われ、野次のいない後ろの方まで連れ行かれた。

そしてその瞬間、野次達は悲鳴を上げて散っていき、その場はヴィラン3人と倒れたヒーロー、出久に人質のねじれだけになった。

 

 

 

 

ヴィラン2「おいヒーロー!この女がどうなってもいいのか!?手を出してほしくいなかったら金をよこせ!」

 

ヒーロー「な!お前卑怯だぞ!その子は何もしてないだろ!今すぐ解放しろ!」

 

ヴィラン2「嫌なこった!俺の言う事を聞かないならこの女の命はないぞ!」

 

ネジレ「ぇ…ぃ…ぃゃ…助けて…」

 

イズク「せ、先輩!!」

 

 

ねじれは囚われ、上手く声が発せられる状況になった。

そしてヴィランとヒーローが言い合っている中、二人のヴィランが後からヒーローに近づく、そして

 

 

 

『バチンっ!!』

 

 

 

その音がするとヒーローは倒れた。その後ろに立っていたヴィランの人差し指と親指の間には目に見える電気が流れていた。

 

 

 

ヴィラン2「よくやった!これでトンズラできるぞ!」

 

イズク「お、おい!もういいだろ!先輩を離せ!!」

 

ヴィラン2「何だお前、こいつの彼氏か何かか?やめとけヒーローの真似事でもする気か?無理無理」

 

ヴィラン3「こんなヒョロっこい体で何ができるんだ?え?はっはっはっはっは!」

 

イズク「っ!先輩を、離せえええ!」

 

 

 

 

出久はねじれを人質にしているヴィランに向かって走る。がしかし出久の足に後ろから何かぶつかり激痛が走る。

そして出久は足から血を流しながら倒れた。貫通はしていないが出久は悶え苦しむ。何が起こったのが確認する為に後ろのヴィランを見る。

一人のヴィランはさっきスタンガンの様な個性を使っていた。

だとしたらさっきの痛みの正体はもう一人の方、そのヴィランに目をやると片手を銃の様な形にして人差し指をこっちに向けていた。

 

 

 

ヴィラン3「へ、俺の個性だ。指から空気砲を出せるんだ。威力は小さいが、まぁそこそこ痛いだろ?何回も当てれば骨だって折る事もできるんだぜ?」

 

ネジレ「ぇ、や…やめて!い、出久君には何もしないで!」

 

ヴィラン2「彼氏思いのいい彼女だなぁ、羨ましいぜ」

 

ヴィラン3「あぁ、羨ましくてムカつくからゲームしようぜ?」

 

イズク「げ、ゲームだと?」

 

ヴィラン3「あぁ、これから10分間俺の個性にお前が耐えれたら彼女は返してやる。ただし、お前が降参したり気絶したらお前の彼女がどうなるかは、俺たちの気分次第ってわけだ。どうだ?受けるか?」

 

 

 

ねじれはその内容に血の気が引けた。一発当たっただけで出久の足からが血が出るほどのダメージを受けている。

それを10分間耐え抜く?無理だ死んでしまう。そんな事したら本当に死んでしまう。そう思ったねじれは出久を止めようとした。

 

 

 

ネジレ「出久君!そんなの受けちゃd「受けます」っ!?!い、出久君!何言ってるの!?早く逃げて!」

 

イズク「いやです。僕は逃げません。先輩を助けるまで絶対に逃げません」

 

 

 

出久は足から血を出しながらゆっくり立つ。少しフラついているが出久の目は真っ直ぐねじれの方を向いていた。

そしてねじれに笑いかけながら大丈夫ですよと言った。次の瞬間、出久が打たれる。それを見てねじれはまた血の気が引いた。

 

 

 

イズク「ぐっ!!ぁ”あ”…、ぐぁっ!」

 

ヴィラン3「おぉ、頑張るな。それじゃご褒美にもう一個追加だ!」

 

イズク「な…!ぐぁぁあ!」

 

ネジレ「やめて!お願い!出久君が死んじゃう!お願いだからやめて!」

 

イズク「だ、大丈夫ですよ先輩。絶対に助けますから…」

 

ヴィラン3「かっこいいこと言うね。それじゃ張り切って行ってみるか!」

 

 

 

血だらけになりながら先輩を助ける為に必死に耐える。痛みと出血で意識が朦朧とする。

ヴィランが僕を嘲笑う声も、先輩が泣いて僕を呼ぶ声もどんどん遠のいていく。

でもダメだ!!ここで気を失ったら先輩を助けられない!目を覚ませ緑谷出久!ヒーローになるんだろ!

こんな所でみっともない姿を見せるな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10分後

 

 

ピピピピ!ピピピピ!ピピピピ!ピピピピ!

 

 

イズク「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

 

ヴィラン1「ほう、10分経ったぞ。あのガキマジで耐えやがったぞ。どうすんだ?」

 

ヴィラン3「ん?そうだなぁ。おいガキよ!耐えたな。褒めてやるよ」

 

イズク「約束どおり、先輩を返せ…!」

 

ネジレ「出久君…」

 

ヴィラン3「その事なんだけどよ。事情が変わって後10分追加だ!ぎゃっはっはっは!」

 

イズク「お、お前!ふざけるウグっ!!」

 

ヴィラン1「おうおう、なかなかエグいな。このままじゃマジで死にそうだけどいいのか?」

 

ヴィラン3「いいのいいの」

 

ネジレ「お願い!やめて!誰か!誰か助けて!お願い!出久君を助けて!お願い…、出久君を、助けて…」

 

 

 

出久は気絶一歩手前、そんな出久を見てねじれはもう泣く事しか出来ない。

誰かに助けを求めるが誰もいない。こないのは分かっていても言わずにはいられなかったのだ。助けてと。

ヒーローに届かない一言。そうヒーローには届かない、だが違う者には届く一言だった。

 

 

 

ヴィラン2「無駄だぜ?嬢ちゃん。ここにはもう誰もいない。ヒーローもまだこない事を見ると後10分は来ないだろうな。そんな状況で助けなんt……」

 

ヴィラン1「??おいどうした〜?いきなりダンマリになっ…て…」

 

ネジレ「え…?」

 

 

 

ねじれを捕らえているヴィランはいきなりが倒れた。ねじれもヴィラン達も驚いていた。

そして3人の目に映ったのは後に出久の師匠になった豪円(ごうえん) (さとる)その人だった。

 

 

 

『こんな子供相手に何をしてるお前ら』

 

 

 

そこからは一方的だった。個性を使わずヴィラン二人を相手に無傷で制圧した。出久も意識が朦朧とする中で豪円の体術を見ていた。

それを見て出久は弟子入りを志願しようと決め意識を手放した。

 

 

そして出久が目を覚ましたのは次の日の夕方の病室だった。目が覚めたのと同時にねじれが泣きながらに抱き付いてきた。

その後すぐに引子も病室に入ってきて安堵した様子だった。ねじれがあまりにも泣いていたので出久はこれからはあまり無茶できないなと思った。

そして警察からの事情聴取を受けていた所、豪円と再会。そこから弟子入り志願を始めたのだ。

何も出来なかった。二度とあんな事が起きにように。今度こそは自分が救う事を誓って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イズク「あの時のヴィランか。何でこんなと所に?刑務所の中のはずじゃ」

 

赤「脱走したんだよ。なかなか緩い所でな。そんなに難しい事じゃなかったぜ」

 

イズク「そうか。おいヴィラン、三度目は無いぞ。今すぐ先輩を離せ」

 

青「おいおいまたそんなこと言うのかよ。俺の個性でボロボロになった癖によ」

 

黄「今度は俺も参戦してやろうか?はっはっはっは!この前は相手できなかったからな!俺が相手してやるぜ!」

 

 

 

 

そう言いながら黄色いマスクをしたヴィランはあの時と同じ個性を使う。しかし性能はあの時以上だった。

常人には目には移るが残像しか映らず目で追える者と追え無い者がいた。だが出久はあの時とは違う。

ヴィランが高速で出久に近づきパンチを入れようとした。しかし出久はそれを横にかわし、ヴィランに手刀を入れて気絶させた。

 

 

 

赤「な、何が起きた。おい!何倒れてんだ!さっさと起きろ!」

 

イズク「無駄だよ。気絶しているから。さっき言ったよね?三度目は無いよって」

 

ネジレ「出久君、すごい…」

 

赤「何なんだよお前!前はただのガキだった癖に何なんだよ!」

 

イズク「君たちが先輩にあんな事をしたからだよ。今度は先輩を助けれる様に僕は今まで修行してきたんだ。だから今回は僕が君たちを倒す!」

 

 

 

 

そこから出久は見事な身のこなしでヴィラン二人を気絶させた。その動きを見てねじれはただただ呆然と見ているだけだった。

店員が警察を呼んでいのかすぐパトカーが来た。今回の事情聴取はものの5分程度で終わりすぐに解放された。

 

 

 

イズク「大丈夫ですか?怪我はありませんか?」

 

ネジレ「う、うん。大丈夫だけど出久君、今の動きあの時のあの人みたいだったよ」

 

イズク「実はあの人の弟子になったんですよ。隠していてすみません。本当はもっと強くなってから教えたかったんですけど」

 

ネジレ「そうだったんだ…ありがとう、出久君…」

 

 

 

 

ねじれが顔を赤くしてお礼を言ってきたので出久も恥ずかしくなり顔を赤くした。

それを見ていた周りの人たちは何故か皆背中を掻こうとしていた。

 

 

そしてねじれはそれ以降今まで以上の努力をする様になったと言う。

まさか後に雄英のビック3と呼ばれる様になるとはこの時の二人は想像もしないだろう。



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6 僕のヒーロー

出久が中学2年、ねじれが雄英1年の肌寒い12月、休日の午後の今二人はねじれの部屋ベッドの上でゆっくりした。

ねじれはあの事件以来余計に出久にくっつく様になった。出久も最初は戸惑ってはいたが今はされるがままになっている。

ねじれもその様子に満足している様で遠慮なしに甘える、その光景はただのバカップルなのだが付き合っていないという事実に引子やねじれの母親ももどかしさを感じていた。

 

 

 

ネジレ「ねえねえ、今日は何する?私はね、すっとこうしてたいかな!出久君は〜?」

 

イズク「ず、ずっとですか。でも今日は確か勉強するはずじゃ…。」

 

ネジレ「いつもいっぱいやってるから大丈夫だよ!たまにはゆっくりしないと!」

 

 

 

ねじれは親猫に甘える子猫の様に出久に甘え始めた。

流石にこれはいずくもマイずいと思ったのか離れようとするがねじれが離してくれない為どうしようもない。

こうなってしまった以上ねじれは自分が満足するまで離れようとしない。

無理やりになら離すことは出来るが、その後の相悪感が尋常では無いので出来ない。

いつもの様に諦めた出久はねじれの頭を撫でる。するとねじれは幸せそうな顔をして出久の胸に顔を埋めた。

ねじれの事はそこそこ分かっている出久だが、何故ここまで自分に心を許すのか。それだけはどうしても分からない。

そこで出久は前から聞きたかった事を聞く事にした。

 

 

 

イズク「あの、先輩。何で僕にここまで親しくしてくれるんですか?」

 

ネジレ「不思議〜、今それ聞いちゃうの〜?でもいいよ教えてあげる!それはもちろん出久君が可愛い後輩だからだよ!」

 

 

 

 

ねじれは少し調子に乗った様な感じで答える。しかし出久から反応がない為顔を上げて見るとそこには真剣な顔をした出久がいた。

その顔を見てねじれは出久が何を考えているか何となくだが理解した。

 

 

私は出久に恋心を抱いている。いつから?何故?正確な事は分からないがきっと彼が誰よりもヒーローに憧れ、その憧れに手を伸ばすその姿を見て好きになったのだと理解している。

そんな私は出久以上に出久のことを理解している自信がある。出久はどうしても自分を過小評価してしまうのだ。

だから出久は今のこの状況が不思議で仕方なのだろう。

 

 

 

ネジレ「理由はあるよ。でも今はそれを言う事はできないかな。でも今こうしているのは私が君と触れ合っていたいからだよ。この前私が人質になっちゃった時だって出久君が危険な目に遭わないか凄く怖かった。出久君はこんな私を不意義に思うかもしれないけど君の事が大切で、ずっと一緒にいたいって思っているの。だから…」

 

 

 

ねじれはそれから出久から一旦離れて、その後出久を優しく包み込む様にそっと抱き寄せた。

さっきまで出久にされていた事を、今度は自分がする様に優しく。

 

 

 

ネジレ「そんな不安そうな顔をしながら泣かないで?」

 

イズク「え……?あ…」

 

 

 

出久はねじれに言われて初めて自分が泣いてる事に気付く。そこで慌てて涙を拭くが自覚してしまうと涙が止まらなくなった。

 

 

 

 

ネジレ「いつも頑張ってるもんね。我慢してるもんね。でもね、私は知ってるんだよ?君がたくさん悩んで、たくさん努力してる事。でも私には隠さなくていいんだよ?辛かったら頼っても、泣きたかったら泣いても。だから今は何も気にしないで、ね?」

 

 

 

その言葉に出久はとうとう涙を堪えるのをやめた。ねじれの優しさに包まれながら出久はまたねじれの前で自分の弱さを晒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間、月の光が差し込む部屋。もう日は落ち夜になっていた。ねじれと出久は二人っきりで寄り添いながらベッドの上で向かい合っていた。

出久は泣き疲れて寝ている。その目は赤くなっており、少し幼っぽくく見える。そんな出久をねじれはそれは黙って見ている。何時間も。

そんな出久が愛おしくなり少しほっぺを突くと、出久が目を覚ました。

 

 

 

ネジレ「あ、ごめん。起こしちゃったね」

 

イズク「いえ、大丈夫です。もうこんなに暗くなっちゃたんですね」

 

ネジレ「うん。きっと疲れてたんだよ。ぐっすり寝てたもん」

 

イズク「…また助けられちゃいましたね」

 

ネジレ「また?」

 

イズク「はい。先輩と初めて会ったあの日、僕は先輩に救われたんです。ヒーローになれると言ってくれたあの日、僕の世界は変わったんです。先輩はそんな事ないって言うかもしませんが。でも先輩は僕にとって、オールマイトと同じくらいの憧れなんです」

 

ネジレ「そんな事言われたら照れちゃうよ。でも嬉しいな。まさかあの日の事が出久君の中でそんな大きな出来事だったなんて。私あ思ったこと言っただけなんだけどな」

 

イズク「だから嬉しかったんだです。ずっと言ってほしくて諦めきれなくて、それを本気で言ってくれたのが嬉しくて、でも先輩がどう何で僕に構ってくれるのかが分らなくて、凄く不安で…」

 

ネジレ「今もまだ不安?」

 

イズク「いえ、もう大丈夫です」

 

ネジレ「なら良かった。ねえ出久君、今日はずっと一緒にいよ?もう時間も遅いし、引子さんには連絡入れておいたから」

 

イズク「そう…ですね。僕も、今日は先輩と一緒にいたいです」

 

 

 

出久は初めてねじれに甘えていた。出久はねじれに、ねじれは出久に依存し始めていた。

しかし自分では気付いてはいるが、まさか相手まで自分に依存している何て考えてもいない。

二人がその事に気がつくのはまだまだ先の事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネジレ「出久君。起きて起きて、朝だよ。」

 

イズク「ん、んん…せん、ぱい…?何で僕の部屋に…?」

 

ネジレ「私の部屋だよ?まだ寝ぼけれるのかな?」

 

イズク「??寝ぼけてないですよ?それより何で先輩ここに?」

 

ネジレ「もう、早く起きないと朝ごはん出来てるよ?」

 

 

 

出久は珍しく寝ぼけていた。本来寝起きは良い方なのだが、今日に限ってはまだ目が覚めきっていない。

ここが自分の部屋だと思っている出久に、ねじれの部屋だと伝えるが中々理解してくれない事に少し可笑しくなる。

毎日こんな朝が来てくれたならと思ってしまう自分にニヤついてしまう。そんな事を考えているとねじれはいきなり出久に引き寄せられ抱きつかれた。

 

 

 

ネジレ「ちょっと出久君!?さ、流石に朝にこんな事はダメだよ!あ、じゃなくてまだ恋人同士でも無いのに!こ、こういうのはちゃ、ちゃんと順番を守ってからしなきゃ…そ、それに私初めてだし…い、出久君がダメって訳じゃなくてむしろ嬉しいと言うか、で、でもちゃんと優しくしてくれるならっ……………???」

 

イズク「スゥ…スゥ…」

 

ネジレ「えぇ…もう…、また寝ちゃうなんて…」

 

 

 

また寝始めた出久の横に寝転がる。何處の寝顔を眺める。そしてねじれは眠気に襲われてまた眠りに付く、こんな日もたまには良いなと思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日以来、と言うか今日の出久の様子にねじれはかなり困惑していた。いつもならねじれが出久にベッタリなのだが今はその逆、出久がねじれから離れようとしないのだ。嬉しい、嬉しいのだが何故いきなりこうなったのか分からなくて対応に困っっていた。

 

 

 

ネジレ「い、出久君?ど、どうしたの?」

 

イズク「先輩が言ったからですよ。頼っても良いって。だからこうしてるんです。」

 

ネジレ「そ、そうか、そうだよね。うん、そう言う事だもんね…。それはそうと朝ご飯できてると思うよ?食べに行こ?」

 

イズク「はい」

 

 

 

 

二人で朝飯を食べ、出久は一度家に帰るのだろうかと思ったが出久は帰らなかった。

何をするかと尋ねても返答もなくねじれを後ろから抱きしめて黙っている。外に出る事もなく、勉学に励む訳でも無い。

出久が何もしないなんて初めての事だった。いつもヒーローになる事を考えている為である。

トレーニングや勉強、ヴィランと遭遇した時の立ち回りなどやれる事は何でも率先してやっていた。

そんな出久が今はねじれから離れようとしない。ねじれにとってそれは嬉しいことではあるが心の準備ができていなかった為ソワソワしっぱなしだった。

 

 

 

ネジレ「い、出久君。頼ってくれるのは嬉しいんだけど、私は何をしたら良いのかな?」

 

イズク「このままで、後少しだけ。後少しでいつもの僕に戻りますから」

 

 

 

弱々しい声。出久は昨日から喋る事を避けていた気がした。あまり気には留めていなかったが今ようやく分かった。

出久は弱っている。精神的に、それもかなり弱っている。出久は強いと思っていた。思わされていた。

自分は出久の強さを分かっていると思い込んでいた。しかしそれは違った。出久の心はどちらかと言うと弱い方だ。

そんなことに気付かないなんて、何と情けないことなのだろうねじれはと思ったの。

しかしそれは仕方なの無いことだった。出久は他人に自分の弱さを見せない。そして努力も見せない。弱さを見せない様にしている。その結果出久は勇気のある、強い人間。ヒーローに強く憧れる男と見られるのだ。それは出久にとってとんでもないプレッシャーだった。

強く無いが人の期待を裏切る事を恐れている。自分を認めてくれた人、応援してくれている人、その人達のことを考えると出久はガムシャラに頑張るしかなかった。ひたすら何も考えず。

 

 

しかし先ほど言った様に出久の心は弱く脆い。一つ、たった一つの疑問や不信感を覚えると一気に出久の虚勢は崩れ落ちた。

今回の要因はねじれであった。ねじれに会ったあの日以来ねじれは唯一ヒーローになれると言ってくれた人。夢と憧れを理解してくれた人。そして傍にいてくれる人だと思っていた。

 

そんな出久が抱いた疑問とは?

 

ねじれは本当に自分のそばに入れくれる人なのか?と言うものだった。

当たり前だ。ねじれは自分とは違う。容姿端麗、性格は明るく分け隔てなく人に接する事ができ、正義感に溢れた人物だ。

自分とは真逆、住む世界が違う。そんなねじれがいつまでも自分の傍にいてくれるのか?そもそもねじれにとって自分の存在とは?

考えたくも無い事が頭の中に溢れ出てきた。その結果出久の心は半日と経たず崩れた。

 

 

 

ねじれはあくまで出久の心の弱さを知っただけで、何故出久の心が崩れたのかは分からないままだったが、その原因の一つは自分である事が分かった。そんなねじれはある一つの覚悟を決めた。いや覚悟は前に一度してはいた。だが自分が甘かった。それ故今度は間違えない様に、改めて覚悟をした。

 

 

 

ネジレ「ねえ出久君、大丈夫だよ。私はずっとここにいるから」

 

イズク「ぁ…。?先輩?」

 

 

 

ねじれは出久の抱擁から一度抜け出した。そのことに出久は少し不安を抱いたが、その不安はねじれの抱擁によってすぐに解消された。

 

 

 

ネジレ「ずっと君の横に居るから。離れないから、大丈夫。君を絶対に一人になんてさせない。だから安心して?」

 

イズク「本当にですか?僕が、もし僕がヒーローになっても先輩は僕のそばにいてくれますか?」

 

 

 

出久の弱々しい質問にねじれは精一杯の元気を込めて

 

 

 

ネジレ「もちろん!!だって私は出久君のヒーロだから!!」

 

 

 

出久はその返答を聞いた瞬間、ねじれの顔を見た。そこにはあまりにも綺麗で、あまりにも眩しく輝くねじれの笑顔があった。

そんな笑顔を見て出久は自然と微笑み

 

「ありがとうございます」

 

とただ一言、その言葉を放った。

その言葉にはもう出久の弱さは感じられなかった。

出久は改めて自分のヒーローは誰なのかを知ったのだった。



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7 ついに原作突入です

逆転。まさに状況が逆転した。今までは、ねじれが出久にくっ付いていたのだが、先日ねじれの家に泊まった日から見事に逆転した。

出久がねじれを後ろから抱きしめて離れようとしない。ねじれから見れば出久の精神年齢が下がったようにしか見えない。し

出久本人は何も意識してないようだが、今までの出久の方が本来の出久ではない出久のなのだ。

これが本来の姿と言ってもいいだろう。それに気づいたねじれは自分にしか知らない出久を知る事ができて、少しだけ優越感に浸っていた。

 

 

 

ネジレ「出久君?今日やる事はもう終わったの?」

 

イズク「はい、明日の分も一応終わらせました。だから大丈夫です」

 

ネジレ「そっか、頑張ったんだね。偉い偉い」

 

 

 

出久はあからさまに褒めてほしいとアピールする為に抱き締めてる腕に少しだけ、ほんの少しだけ力を込めた。、

今までに無かった出久の姿にねじれは新鮮さを感じて、思いっきり甘やかしていた。

流石に限度は考えてはいるが、側から見れば完全に甘やかしまくっている彼女とダメダメな彼氏だ。

ねじれもそれは分かってはいるが、出久は全くの無自覚だ。

 

 

 

ネジレ「そう言えば出久君、豪円先生の稽古は?昨日も無かったって言ってたけど」

 

イズク「しばらく休みって言われました。何でも海外で武術を教えて欲しいと言う人がいるらしくて。もしかしたら半年は帰ってこないかもしれないですね。」

 

ネジレ「半年も!?その間どうするの!?稽古は!?」

 

イズク「大丈夫ですよ、道場の鍵は預かっているので。それに元々師匠はあまり口を出さない人だったので。後、師匠がいない間は先輩も道場を使っても良いと言ってました」

 

ネジレ「そっか、それならいいけど…」

 

 

 

ねじれは少し驚いていたが、鍵を預かっていると聞くと次はねじれの機嫌が悪くなった

 

 

 

イズク「先輩?どうしたんですか?」

 

ネジレ「私ね。前々から不思議に思っていた事があるの」

 

イズク「前から?何ですか?」

 

ネジレ「うん。いつになったら私のこと名前で呼んでくれるのかなぁって」

 

イズク「………え」

 

 

 

ねじれの意外な回答に一瞬、言葉を無くした。確かに言われてみれば今まで【先輩】としか呼んだことが無い。

そんな事でねじれが不機嫌になるはずが…、そう思ったが出久はすぐに自分の考えを自分で否定した。

もし自分がねじれから名前で呼ばれなかったら?そう考えただけでもとても切なくなる。

あの優しい明るい声で自分の名前を呼ばれる事がなくなるなんて考えたくも無い。

そう思い出久はすぐに考えを改めたのだ。

 

 

 

イズク「す、すいません。今まで気付かなかくて。そ、その…ね…ねじ…れ…先輩…」

 

 

 

出久は慣れない名前呼びが恥ずかしいせいでどんどん声が小さくなっていく。

しかし何故、出久は苗字ではなく名前で呼んだのか。それは簡単だ。

自分がされて嬉しいから、そうして欲しいと思うからだ。だから出久はそうした。

確かに恥ずかしいが、流行りここはどうしても譲れなかった。

 

 

 

ネジレ「やっとだよ。もう、全然言ってくれないんだもん」

 

イズク「ご、ごめんなさい…」

 

ネジレ「まぁ、これからちゃんと呼んでくれるなら許してあげる」

 

イズク「は、はい。ありがとうございます」

 

ネジレ「うん…」

 

 

 

そう言いながら再び出久はねじれに甘え始め、ねじれは出久を甘やかす。

その時、部屋の外で二人のやりとりで聞いていたねじれの母親はこう思った

 

 

 

 

『さっさと付き合えこいつら』

 

 

 

と…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れ中三の春(ここから原作でっす!!)

出久は登校中にヒーローの活動現場に遭遇した。新人ヒーローのシンリンカムイ、そして今回がデビュー戦のMt.レディーについて【ヒーロー分析ノート】に纏めていた。

 

 

 

担任「お前たちもこれから進路について考える大切な時期なんだが……皆んな大体ヒーロー志望だよねぇ」

 

生徒「「「はぁーい!!」」

 

担任「うんうん、皆んないい個性だ。でも校内での個性使用は原則禁止だからな?」

 

バクゴウ「せんせえ〜、皆んなとか一緒くたにすんなよ。俺はこんな没個性の奴らと一緒に底辺に行く気なんざねえよ」

 

生徒「そりゃねえぜ勝己!」

 

爆豪「モブがモブらしくうっせえ!!」

 

 

 

爆豪の言葉にクラス全体がブーイングをする。しかしそのブーイングも担任の一言で収まる。

 

 

 

担任「あぁ、確か爆豪は【雄英志望】だったな」

 

生徒「あの国立のかよ!?今年の偏差値79って聞いたぞ!?」

 

生徒2「倍率も毎度やべえんだろ!?」

 

バクゴウ「そのザワザワがモブたる所以だ!!!模試じゃA判定!俺はウチ唯一の雄英圏内!!あのオールマイトをも超えてトップヒーローとなり!!必ずや納額納税者に名を刻むのだ!……それで、お前はどうなんだよ、【デク】」

 

イズク「……僕も雄英だよ」

 

バクゴウ「やっぱりあの不思議女と一緒かよ……。おいデクてめえ、没個性どころか無個性のお前がどうして俺と同じ土俵に立とうとしてんだ?あぁ!?」

 

イズク「僕がどこに行こうが僕の勝手だ!君に決められる事じゃ無い!僕は雄英に行く!」

 

バクゴウ「俺がお前と同列視されんだろうが!!ふざけんじゃねえ!無個性のてめえが何をやれんだぁ!?」

 

 

 

爆豪は怒りに任せて出久に個性を発動させた。当たりはしなかったものの爆風で飛ばされる。

それを見てクラス全員出久を嘲笑う。しかし出久は吹き飛ばされてもなお爆豪を見る目は死んではいない。

 

 

 

イズク「そんなのやってみないと分からないだろ!!」

 

バクゴウ「何がやってみないと分からないだ!」

 

担任「そこ二人、喧嘩は後にしろ〜」

 

 

 

担任の言葉に二人は渋々席に戻る。出久は席に戻ると再びノートにデータを書き始める。

爆豪は横目に出久を睨み付ける。出久はそれに気づかないで書き続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、再び出久と爆豪が衝突した。爆豪は出久の分析ノートを爆破して池に投げ捨てた。

その後、ヴィランが下校する出久に襲いかかった。そこにオールマイトが助けにきて、出久は救われた。

出久はオールマイトに【自分はヒーローになれるか?】と聞いたが、その問いに対する答えは限りなく【NO】に近かった。

そしてその答えの重みは、【弱り切ったオールマイト】だからこその説得力があった。

 

 

 

オールマイト「夢を見ることは悪いことじゃ無い。しかし、相応の現実も見なければな…」

 

イズク「僕は…見ているつもりです!だからこそ僕はヒーローにならなきゃいけないんです!ある人のためにも…!」

 

オールマイト「…っ、君がそう言うなら私からは何も言うまい。それなら私にできる事は君のその想いが絶えない事を祈るだけだ。めげるなよ、少年」

 

イズク「はい、ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」

 

 

 

オールマイトが屋上から姿を消した瞬間、出久の顔は悔しいあまりに暗くなっていた。分かっている。分かっていた。

自分がなれない事なんて一番分かっているのは自分だ。しかし前にも言ったが出久は何もやらずには終われないのだ。

しかし、あんなにも正面切って言われては出久の心は折れるまでに至らずとも、深いダメージを与えられた。

そんな時、一番聞きたい声の持ち主から電話がかかってきた。

 

 

 

ネジレ「あ!出てくれた!ねえねえ出久君今どこにいるの〜?」

 

イズク「今はビルの屋上にいますよ。どうしたんですか?」

 

ネジレ「屋上??不思議〜、どうしてそんな所にいるの〜?あ、今はそんな事聞いてる場合じゃ無いんだ!ねぇねぇ知ってた!?今オールマイトが今この街に来てるんだって!」

 

イズク「お、オールマイトが…。そうなんですか…」

 

ネジレ「あれ、知らなかったんだ。出久君なら知ってると思ったんだけどな。あ、そう言えばこの前新しいパフェ屋さんがオープンしたんだって!出久君も一緒に行こうよ!」

 

イズク「良いですね、それじゃ待ち合わせ場所はいつもの場所で」

 

ネジレ「分かったよー!それじゃ待っててねー!」

 

 

 

電話を切った後、ねじれは切れた画面に映る出久の文字と写真を眺めながら、出久の声に違和感を覚えながら画面をロックした。

いつもとは違う影のある声、オールマイトがこの街にいると言う情報を知らなかった、そしてその情報を知っても出久は興味を示さなかった。それどころか、声の影が濃くなった気がした。不安だ、不安で仕方ない。正直、今すぐ個性を使ってでも会いに行きたい。抱き締めたい。

 

 

 

「ねじれ〜、今の電話誰なの〜?彼氏〜?」

 

ネジレ「ち、違うよ!中学の頃の後輩!この後一緒にパフェ食べに行くんだ!」

 

「でもさっきのイズク君?だっけ?男の子でしょ〜?さっきのねじれ随分と女の子顔してたけど、もしかして好きだったりするの?」

 

ネジレ「何言ってるの!?そ、そもそも出久君が私の事どう思ってるか分からないし…」

 

「あ、好きなのね…。それより早く待ち合わせ場所に行かなくて良いの?さっきから行きたくてうずうずしてるじゃん」

 

ネジレ「うっ…、バレていたか」

 

「バレバレよ!ほら!早く行ってきなって!」

 

ネジレ「ありがとう!また明日ね!」

 

 

 

ねじれは友達と別れて急いで出久の元に向かった。ねじれの居場所からは少し走って約5分もあれば余裕で着いた。

早く出久に会いたいと思いなが待っていると、ある程度近くから爆発音が2、3キロ先で響いた。

爆現地であろう場所から黒煙が見える。それを眺めていると出久が来た。

 

 

 

イズク「お待たせしました。向こうで何かあったようですね」

 

ネジレ「うん、気になるね。少し寄って行く?」

 

イズク「え、でもパフェを食べに行くんじゃ」

 

ネジレ「それもそうだけど、もしかしたらオールマイトが来てるかもしれないよ?」

 

イズク「で、でも…」

 

 

 

さっきも気になったがねじれは確信した。出久はまた何かを抱えている。オールマイトが近くに居るかもしれない現場に行きたがらない。

出久はかなりのオールマイトオタク、普段の出久なら是が非でも行きたがる。しかしそれが無い、むしろ避けている様な雰囲気がある。

 

 

 

ネジレ(もしかしてオールマイトに会った?いやでもそれだけで出久君がこんなになるとは思えないな。あそこに行けば分かるかな…)

 

イズク「ねじれ先輩?どうしたんですか?早く行かないと混んじゃうかもしれませんよ?」

 

ネジレ「んー、やっぱり行こう!」

 

イズク「え?あっ、ちょっと先輩待って!」

 

 

 

ねじれは出久の手を引っ張り爆発のあった現場に向かう。

出久にとっては何か嫌な事があるかもしれない、でもねじれはそれを知らなければ後悔するかもしれないと思った。

知っても後悔するかもしれないが、自分が行動しなかった事で出久を救えないなんてねじれにとっては真っ平御免なのだ。

だからとにかく行く。それしか選択肢はない、そう思った。

 

 

 

イズク「ねじれ先輩、どこに行くんですか!?」

 

ネジレ「あの煙の上がってる所だよ!」

 

イズク「でも僕はあそこには…」

 

ネジレ「良いから!行くの!」

 

 

 

出久は訳のわからないまま、ねじれに手を引かれ現場に着いた。その場所には大きな野次ができていた。

そしてその中心にいたのはオールマイトが捕まえたはずのドロドロのヴィランだった。

 

 

 

イズク「な、なんであいつが…オールマイトが捕まえたはずじゃ…、もしかして僕があの時あんな事したから」

 

ネジレ「出久君、あいつのこと知ってるの?それにオールマイトが捕まえたって一体…」

 

イズク「それは…」

 

 

 

出久は言葉を詰まらせる。その言葉に先は恐らく出てこないだろう。

そう思いねじれは視線をヴィランに戻す。ヒーローはヴィランとの相性が悪く手を出せないでいる。

そこでねじれと出久は誰か自分たちと同じくらいの中学生が捕まっている事を耳に挟む。

出久は一度ヴィランに襲われている、だからその苦痛は身に染みていた。

 

 

 

イズク「僕のせいだ…、僕が余計な事をしなきゃこんな事には」

 

ネジレ「出久君…」

 

 

 

出久は自分のした事でオールマイトがヴィランを落とした事に気が付く。

そしてそのせいで、自分の知らない人を巻き込んでしまった。

 

 

 

イズク(僕のせいだ…オールマイトは怪我のせいで今は動けない。それにあのヴィランは掴めない…。有利な個性のヒーローが来るのを待つしか…。ごめん、僕のせいだ…。きっとすぐに助けが来てくれるから、きっと、ヒーローがすぐ……)

 

 

 

自分では無理だった。体術を教わっていたとはいえ自分は無個性、それにあの体は僕にはどうしようもない。

一度襲われて手も足も出なかった。そんな僕には何もできない。いくらでしゃばった所で…。

そんな時、ヴィランに捕まっている中学生の目を、爆豪 勝己の目を見た瞬間

 

 

 

イズク「っっっ!!!!!」

 

 

 

【出久は走り出したのだ】

 

 

 

「「「!?!?!?!?!」」」」

 

 

 

その瞬間、野次が、ヒーローが、ヴィランが、爆豪が、ねじれが、そしてその場で動けずにいたオールマイトが緑谷 出久に目を奪われた。

 

 

 

ネジレ「まっ、待って!出久君!!」

 

デステゴロ「馬鹿やろー!!止まれええ!止まれええええええ!」

 

イズク(なんで、なんで前に出た!?何してんだ!なんで!?)

 

 

 

出久は自分自身の行動に戸惑いつつもヴィランが自分に向かって爆豪の個性を使ってくると判断した。

その時出久の脳裏に過ぎったのはヒーロー分析ノートの25ページ、シンリンカムイの先制攻撃。

そこで自分の持っている学校の鞄をヴィランに投げつけた。カバンの中身は散らばり、運よくヴィランの目に入った。

ヴィランは怯み、出久はその隙にヴィランの懐に入り爆豪を助けるために泥をひたすらに掘った。

 

 

 

イズク「かっちゃん!!」

 

バクゴウ「何でてめえが!」

 

イズク「足が勝手に!何でって、分からないけど!!」

 

 

 

その時の出久は分からなかった。爆豪に散々に馬鹿にされ続けた。そして今日オールマイトにヒーローにもなれないと言われた。

それでも僕が動けたのは色々と理屈はあったと思う。今思い出されるこれまで否定の声が頭を過った。もちろんその中には爆豪の声もあった。

ただその時は…

 

 

 

イズク【君が、助けを求める顔をしてた】

 

 

オールマイト「!!!!!」

 

バクゴウ「ヤメ…ロ」

 

オールマイト(……情けない、情けない!!)

 

ヴィラン「もう少しなんだから、邪魔するなあ!」

 

 

 

出久がヴィランに襲われそうになる。

それにヒーローが手を伸ばそうとするが確実に間に合わない距離にいた。

 

 

 

ネジレ「出久君!!!!」

 

デステゴロ「無駄死にだあ!自殺志願者かよ!」

 

 

 

そしてヴィランは出久に向かって腕を振り落とし、土煙が舞った。

終わった、誰もがそう思った。ねじれは膝から崩れ落ちる。

 

 

 

ネジレ「そ、そんな…出久君…」

 

 

土煙が晴れた。そしてそこにいたのはヴィランの攻撃を受けたオールマイトの姿だった。

 

 

 

オールマイト「全く情けない。君を諭しておいて、己が実践しないなんて!!」

 

 

【プロはいつだって命懸け!!!!】

 

 

DETROIT(デトロイト) SMASH(スマッシュ)!!!!』

 

 

 

その瞬間、とてつもない風圧がその場にいる全員を襲った。そして雨が降ってきたのだ。

それはオールマイトによる風圧で上昇気流が発生、雲を作った結果だった。

 

 

この後、散ったベトベトはヒーロー達に回収され警察に引き取られた。

僕はヒーロー達からものすごく怒られた。それとは逆にかっちゃんは称賛された。

更にその後には、ねじれ先輩には泣きながら怒れ、本当に申し訳なくなった。

 

 

 

ネジレ「もう一体何を考えてるのかな!?いきなり飛び出して本当に心臓止まるかと思ったんだからね!」

 

イズク「す、すみんません。また心配かけちゃって」

 

ネジレ「出久君のバカ……」

 

 

 

ねじれは出久の胸に顔を埋めてがら泣いていた。

出久にとってこの感じは久しい。最近は自分が甘える側だった。

そんな時、ヒーロー達から称賛をもらっていた爆豪が声をかけてきた。

 

 

 

バクゴウ「デク!!俺は、俺は、助けを求めてなんかいねえぞ。助けられてもねえ!!一人でやれたんだ…。無個性のてめえが俺を見下すんじゃねえぞ。そこの不思議女もだ!このクソナードが変な事しねえようにちゃんどリード持ってろや!!!!」

 

イズク「タスネス…」

 

ネジレ「やっぱり嫌な子。出久君気にしないでよ?」

 

イズク「大丈夫ですよ。遅くなっちゃったので、帰りましょうか」

 

ネジレ「うん…」

 

 

 

出久とねじれは当初の目的であったパフェをやめて帰路に着く。

その間、二人に会話がなかった。しかしねじれは出久の手を離さないままだった。

出久は外でこれは流石に恥ずかしいと感じた。それと同時に、自分のことを考えていた。

 

 

 

イズク(かっちゃんの言う通りだ。何ができた訳でも変わった訳でもない。今までしてきた事を生かす事はできなかったけど、今まで努力してきた事は無駄じゃない。きっとオールマイトが言った通りなんだ。ねじれ先輩には悪いけど今回の事で分かった。僕はヒーローになれない。これで、ちゃんと身の丈にあった将来を…)

 

オールマイト「私がきた!!!

 

イズク「オールマイト!?!?!」

 

ネジレ「え!?な、何で何で!?」

 

イズク「さっきまで取材陣に囲まれていたんじゃ…」

 

オールマイト「あれを抜けるくらい訳ないさ!何故なら私はオールマイテゲボォ!!」

 

 

 

オールマイトが咳き込むのと同時にマッスルフォームからガリガリのトゥツーフォームに戻る。

オールマイトが現れただけでも大騒ぎなのだが、オールマイトのありえない姿に出久は再度驚くが、ねじれは言葉を失った。

 

 

 

イズク「オールマイトオオオオオ!!」

 

ネジレ「え…!?お、オールマイトなの!?」

 

オールマイト「し、しまった。少年一人だと思い込んでいた…。驚かせてすまない少女、私のこの姿はどうか秘密にしてくれないか?」

 

イズク「ね、ねじれ先輩、僕からもお願いします」

 

ネジレ「二人がそう言うなら」

 

オールマイト「すまないな」

 

 

 

3人が少し落ち着いたところでオールマイトが出久の元にきた理由を話す。

 

 

 

オールマイト「少年。礼と訂正、そして提案をしにきたんだ。君がいなければ、君の身の上を知らなければ…口先だけのニセ筋となる所だった!ありがとう」

 

イズク「いえ、そんな事。そもそも僕が悪いですし。仕事の邪魔して、無個性のくせに生意気な事言って…」

 

ネジレ「出久君…」

 

オールマイト「そうさ!!あの場の誰でもない小心者で無個性の君だったから、私は動かされた!!!!トップヒーローは学生時代から逸話を残している。彼らの多くが話をこう結ぶ。【考えるより先に体が動いていた】と!」

 

イズク「オールマイト…」

 

オールマイト「君も、そうだったんだろ!?」

 

イズク「…はい」

 

 

 

オールマイト『君は、ヒーローになれる』

 

 

 

何故だろう。僕はなれないはずなんだ。個性はヒーローでは絶対条件。それはトップヒーローである彼が誰よりも見に染みているはずだ。

その彼を僕に言ってくれた。僕の横にいつもいてくれるねじれ先輩みたいに。

 

 

 

ネジレ「だから言ったでしょ?出久君はヒーローになれるって」

 

 

 

ねじれが自信満々に出久に言う。初めて会ったあの日のような無邪気な笑顔で。

ああ、この人は全く。どこまで僕を嬉しくさせてくれるのだろう。

 

 

 

オールマイト(この少女は少年の恋人かな?それにしても、無個性である彼にヒーローになれると言えるとは。生半可な覚悟では言えないだろう。彼女にとって少年はどんな存在なのだろうか)

 

ネジレ「後オールマイト!」

 

オールマイト「む、何かな?少女」

 

ネジレ「さっき言ってた礼と訂正は分かったけど、提案って何?」

 

オールマイト「よくぞ聞いてくれた!!少年よ、君になら私の個性…受け継ぐに値する!!」

 

 

 

その言葉に出久とねじれの頭の中はハテナマークで埋め尽くされた。




ねじれちゃんと出久のキャラ設定が揺れまっている気が、、、それに文字数が8000文字もいってしまった、、、




話が突然変わってしまいすが皆さん、今はなるべく外出は控えましょう!
やる事がなくて退屈してしまうかもしれませんが、無用の外出はダメです!
自分は大丈夫。他の人のことだから自分には関係ない。一体何人の人がそう思って感染したのか考えてみてください。
今では数週間で終息する事ができると言われてますが、一人が軽い考えで外出するせいで終息に、数ヶ月、数年かかることになるかもしれないです。そう言う事態になる事は避けなければなりません。


今自分にできる事はこの小説や、他の小説を投稿してなるべく皆さんの時間を少しでも有意義にする事です。
自分一人がこんな事言って、一体どれだけの人が共感してくれて、どれだけの人が考えを改めてくれるかは分かりません。
しかしそれが二人、三人、いろんな人が共感してくれれば話は変わってきます。
ですので皆さん、無用の派出は控えてください。これ以上コロナで悲しい思いをする人は増やしてはいけません。
それだけのお願いです。

口下手(文字)ですが、自分が言いたい事はこれだけです。
これからもこのへたくそをよろしくお願いします!


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8 少女

イズク「力を受け継ぐ…?」

 

ネジレ「オールマイトそれってどう言う…」

 

オールマイト「はーっはっはっは!なんて顔をしてるんだ!提案だよ、本番はここからさ…いいかい?少年、私の力を」

 

 

 

オールマイトは出久に近づき、出久を指しながら大きな声で

 

 

 

オールマイト「君が受け取ってみないかと言う話sブファッ!!!」

 

 

 

盛大に血を吐きながら提案してきた。

ねじれはその様子にかなり驚いた様子だが、出久はあまりの事におもわずオールマイトの吐血を華麗にスルーし疑問をぶつけた。

 

 

 

イズク「な、何を言っているんですか、オールマイト⁈」

 

オールマイト「私の力の話さ、少年」

 

イズク/ネジレ 「「!!??」」

 

 

オールマイト「写真週刊誌には、幾度も怪力だのブーストだのと書かれ、インタビューでは、爆笑ジョークで茶を濁してきた。平和の象徴オールマイトは、ナチュラルボーンヒーローでなければいけないからね。だが少年少女、君達には真実を伝えよう…」

 

 

【私の個性は聖火の如く引き継がれてきたものなんだ!】

 

 

イズク「引き継がれてきた…もの?」

 

オールマイト「そう、そして次は君の番と言うことさ」

 

 

 

話の規格外さに出久の頭はパンク寸前だった。そんな中でねじれは口を開ける。

 

 

 

ネジレ「ま、待ってください!オールマイト!受け継がれてきたって、個性をですか!?確かにオールマイトの個性については世界七不思議の1つとして議論されています。出久君の横で聞いているだけでしたが、個性を他人に引き継がせる個性なんて、そんな個性、聞いたこともありません!」

 

イズク「ねじれ先輩の言う通りだ。有史以来そんな個性は確認されていないはず。確かにあり得なくはない話だけど、自分の個性を受け継がせるって事は自分が個性を使えなくなるわけで……ブツブツブツブツブツブツブツ」

 

オールマイト「君はとりあえず否定から入るな…ナンセンス!!!力を譲渡する力、それが私の受け継いだ個性。冠された名はワン・フォー・オール」

 

イズク「ワンフォー、オール…」

 

オールマイト「そう、一人が力を培い、その力を人へ渡し、また培い次へ。そうして救いを求める声と、義勇の心が紡いできた、力の結晶!」

 

 

 

話を聞く限り、力の譲渡は1世代や2世代ではない。もっと多くの、沢山の人を渡り、オールマイトへ辿り着いたのだと分かる。出久は話を聞けば聞くほど、驚かずにはいられなかった。

 

 

 

イズク「そんな大層なものを、なんで…なんで僕にそこまで」

 

オールマイト「元々、後継は探していたんだ。そして、君になら渡してもいいと思ったのさ。無個性でただのヒーロー好きな君は、あの場の、あの時の、誰よりも、”ヒーローだった”!」

 

イズク「っっっっっっ!」

 

ネジレ「っ!!」

 

 

出久にオールマイトの言葉が刺さる。そして誰よりも出久がヒーローになれると思っていたねじれにとって、その言葉は何よりの救いだった。

出久は自分のせいでヒーローというものに囚われているのではないかと。

自分が信じてしまったが故に、出久を縛り付けているのではないと。

しかし、オールマイトの言葉は、ヒーローになりたくてもなれない少年と、その少年を信じていたいという少女の、二人を救ったのだ。

 

 

 

オールマイト「まぁしかし、君次第なんだけどさ。どうする?」

 

 

 

オールマイトは少しだけおちゃらけて見せたが、最後の問いかけは真剣そのものだ。

そしてどこか期待している様な力強い問いかけだった。

 

 

 

 

イズク(ここまで言ってもらえて…僕なんかに大事な秘密を晒してくれて…あるか?いや、ないだろ。あるわけない!断る理由なんて!)

 

 

 

出久は涙を流しながら、それでもオールマイトをまっすぐ見て立ち上がる。

 

 

 

イズク「お願い…します!!」

 

オールマイト「即答…そうきてくれると思ったぜ…!!!」

 

 

 

この時の心境を、ねじれは後にこう語る。

 

 

 

【あの時あの瞬間、最高のヒーローが誕生した】っと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出久とねじれがオールマイトの秘密を知ってから2日後の朝、まだ(うっす)らと明るくなり始める時間に、出久は海浜公園で

 

 

 

 

イズク「くっ…んぐぅぅぅっ!ぐっ!」

 

 

 

マッスルフォームのオールマイトが乗った冷蔵庫を縄で縛り引っ張っていた。

 

 

 

オールマイト「へいへいへいへい、なんて座り心地のいいい冷蔵庫だよ!」

 

イズク「ぐぐっ!ぐわぁ!」

 

 

 

そうして出久は冷蔵庫を動かせないまま、地面に倒れる。

 

 

 

オールマイト「ぴくりとでも動けば、ちょっとは楽だったんだけどな」

 

イズク「そりゃだってオールマイト、274キロあるんでしょ?」

 

オールマイト「いんや?痩せちゃって255キロ、この姿だと」

 

 

 

 

そこまで行くと、約20キロの違いなんて些細なもんだと出久は呆れるしかなかった。

 

 

 

イズク「はぁ、て言うか僕なんで海浜公園でゴミ引っ張ってるんですか?」

 

オールマイト「はっはっは、それはあれさ、君、器じゃないもん」

 

イズク「え!?仰っていることが前と真逆!?うわああああ!」

 

 

 

オールマイトはスマホで出久の写真を何枚か撮りながら言う。

そしてそれを聞いた出久はあまりにもショックに泣き始めるが、オールマイトはすぐに訂正を入れた。

 

 

 

オールマイト「体だよ、体」

 

イズク「え?体??」

 

オールマイト「私の個性、ワン・フォー・オールはいわば何人もの極まりし身体能力が一つに収束されたもの!生半可な体では受け取りきれず、四肢が爆散する!!」

 

イズク「ば、爆散…それじゃつまり、ゴミ掃除で体を作り上げるためのトレーニングをする、と言うことですか?」

 

オールマイト「イエス!だがそれだけじゃない。昨日ネットで調べたらこの海浜公園、一部の沿岸は何年もこの様の様だね」

 

イズク「はい。海流的なアレで漂着物も多くて、それにつけ込んで不法投棄もまかり通っていて地元の人間も寄り付かないです」

 

オールマイト「最近のヒーローは派手さばかり追い求めるけどね、本来ヒーローってのは奉仕活動!地味だなんだと言われてもそこがブレちゃいかんのさ」

 

 

 

オールマイトはそう言いながら、出久が先ほどまで引っ張っていた冷蔵庫を片手でぺしゃんこにしていく。

そして完璧に潰し、その力の風圧でオールマイトの周りにあるゴミが吹き飛んでいく。

そしてその背後には本来あるべきはずの綺麗な海と太陽の姿があった。

 

 

 

オールマイト「この区画一帯の水平線を蘇らせる!それが君のヒーローへの、第一歩だ!」

 

イズク「第一歩?これを掃除?全部!?!?」

 

 

 

掃除と言うが、この海浜公園には一体何トンものゴミがあるのだろうか。

いや確実に一桁ではなく、二桁、三桁は行っているだろう。

それを掃除するのだ、いくら時間と体力があっても足りやしないだろう。

しかしオールマイトもただガムシャラにやらせるほど馬鹿ではない。

 

 

 

オールマイト「緑谷少年は雄英志望だろ?」

 

イズク「は、はい!雄英はオールマイトの出身校ですから、いくなら絶対雄英だと思ってます…!」

 

オールマイト「この行動派オタクめ!クゥー!!!だが緑谷少年、それだけの回答だと、ある御仁が満足しない様だぞ?」

 

イズク「え?」

 

 

 

オールマイトが何を言っているのか分からなかったが、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

 

「ふ〜ん、そっかぁ。オールマイトの出身校だからかぁ〜。不思議〜。私がいるから絶対に落ちるわけにはいかないって言ってたのに、私のことは忘れちゃってるんだ〜」

 

 

 

出久が後ろを向くとそこには、今日ここに出久がいる事を知らないはずのねじれがジャージ姿で立っていた。

 

 

 

イズク「ね、ねじれ先輩!?なんでここに!?」

 

ネジレ「オールマイトが教えてくれたの。もし良かったら出久君の特訓の様子を見にきてくれって」

 

オールマイト「彼女は数少ない君の理解者。そして雄英の生徒だからね。流石に毎日は無理だろうけど、時間が空いてる時にでも来てもらえる様に頼んでいたのさ」

 

ネジレ「それなのに出久君は、【オールマイトの母校だから】って言う理由で雄英に来るんだね〜。私は出久君がくるのとても楽しみにしていたのな〜」

 

イズク「ぼ、僕もねじれ先輩とまた一緒の学校に行けるのを楽しみにしてますよ!?」

 

ネジレ「本当に〜?」

 

イズク「もちろんです!」

 

 

 

ねじれは出久をジッと見つめる。出久はそのねじれの視線にドキドキしながら耐える。

 

 

 

 

ネジレ「ンフ、冗談だよ冗談!ちょっと出久君をからかいたくなっただけ!ほら!私は向こうで見てるから頑張るんだよ!」

 

イズク「は、はい!ありがとうございます!」

 

 

 

 

ねじれは階段を上がり、ゴミで埋め尽くされた浜辺を一望できる所に座った。

 

 

 

 

オールマイト「それじゃ緑谷少年、これから訓練を始めるが、言わなければならないことがある」

 

イズク「は、はい」

 

オールマイト「今の君が雄英を目指す事がどれほどの苦難か、それは言うまでもないだろう。しかし、前にも言ったがヒーローとは無個性で成り立つ様な仕事じゃない。悲しいかな、現実はそんなもんだ。ましてや雄英はヒーロー最難関、つまり」

 

イズク「入試当日までの残り10ヶ月で器を完成させなきゃいけない…」

 

オールマイト「そこでこいつ!私考案!目指せ合格アメリカンドリームプラン!ゴミ掃除をより確実にクリアするためのトレーニングプラン!生活全てをこれに従ってもらう!」

 

イズク「寝る時間で…」

 

 

 

オールマイトから渡されたプラン表を見て、出久はその過密さに改めて思い知らされる…

 

 

 

オールマイト「ぶっちゃけね、超ハードこれ、ついてこれるかな?」

 

イズク「それりゃもう、他の人より何倍も頑張らないと僕はダメんだ…!」

 

 

 

今自分が歩き出そうとしている、茨の道を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オールマイトの秘密を知った次の日、私のケータイにオールマイトからのメールがきた。

 

 

【明日の早朝5時から、緑谷少年の訓練を始めようと思う。もし波動少女さへ良ければいつでも来て欲しい。君は緑谷少年の唯一の精神的な支えだ。それも彼が最も信頼しているだろう。しかし君も雄英生徒だ、忙しいのは分かっている、だから無理しない程度でいい。緑谷少年のこと、頼んだよ。】

 

 

 

オールマイトから来たメール。嬉しい、嬉しいには嬉しいのだがどうも素直に喜べない。

なぜなら、今までは出久の母親以外、出久の事を分かってあげれてるのは自分だけだった。

自分は出久の特別な存在なんだと、心のどこかで思っていた。

しかしそんな中、オールマイトが突然現れた。出久が絶対的な憧れを抱き、ヒーローになりたいと、夢を与えたその人が。

 

 

 

ネジレ「不思議、これが…嫉妬なのかな」

 

 

 

ねじれは今まで自分とは無縁だった2つの感情に、戸惑いを感じていた。

それでもねじれは、少しでも出久に会いたくて、出久のいる海浜公園に行く事にしたのだ。




皆さんお久しぶりです
更新が遅れてしまって申し訳ないです
プライベートや、仕事がゴタついていて手が付けられませんでした…
他の作品も更新していきますが、それ以外にもう一つの作品を描きたいと思っています

これからも【へたくそ】をよろしくお願いします!


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9 出久の誓い

あれからねじれは、出久の訓練には顔を一切出していなかった。

理由は聞いていないが、そんなの聞かなくても分かる。

いくら学生とは言え、雄英に通う以上は体調管理はしっかりしなくてはいけない。それだけではなく、勉強面においても他に遅れを取ってはいけない為、予習復習も必要となってくる。

そんな状況で朝の5時からの訓練に来て欲しいなんて言えた者ではなかった。

L○NEで連絡はとっているが、ここ3ヶ月まともに会っていない。

 

 

 

そんな状況に、出久のメンタルは少しずつ削られていった。

元から自分の感情を隠すことの得意だった出久は、オールマイトと豪円(ごうえん)にそれを悟られる事なく訓練をしていた。

 

 

 

オールマイト「緑谷少年。昨日は豪円さんとどんな訓練をしたんだい?」

 

イズク「昨日は反射神経を鍛えるために、ひたすら師匠の攻撃を交わす訓練をしてました!」

 

 

 

オールマイトは出久に豪円との訓練内容の確認をしていた。

驚くべき事にオールマイトと豪円はそれなりに長い付き合いがあるという。

昔、オールマイトがまだ学生の頃、稽古をつけてもらっていたのだという。

その為、オールマイトと豪円は訓練内容を共有していた。

 

 

 

オールマイト「ふむ、それならば私たちは瞬発力を鍛えようか」

 

イズク「はい!」

 

オールマイト「それと緑谷少年、波動少女とは最近どうなんだい?あの訓練に来たのもあの一回きり、まぁ無理はしてほしくなのだがこんなにも来ないのが少し心配でね」

 

イズク「実は僕も3ヶ月近く会えていないんです。連絡は取れているんですが、やっぱり学校の方が忙しい様で」

オールマイト「そうか。(できれば波動少女には緑谷少年の精神的支柱になってもらいたかったのだが…)」

 

 

 

オールマイトはねじれがこれ程長い期間、ここに来ないのは予想外だった。この二人の関係は一目見ただけで何となく分かった。

そんな二人がもう3ヶ月も会っていない、何かあったとしか思えないのだが出久を見た限りでは喧嘩ではない様に見える。

 

 

 

オールマイト「(心配だが、まだ私の出る幕ではないだろう。これは二人の問題、もう少し様子を見ておくか)」

 

 

 

オールマイトは二人の問題にはまだ手出ししないと決めた。

この二人なら自分たちで解決できるだろうと信じての事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネジレ「はぁ、もう3ヶ月か…。ずっと出久君に会えてない」

 

 

 

今は朝の5時、ちょうど出久とオールマイトが訓練をしている時間。最後に出久に会って以来ずっとこんな感じだ。

基本的に頭も運動センスも良いねじれは、少しの予習とストレッチさえしていれば授業に遅れることはまずない。

毎朝4時に起きて、5時には登校の準備は終えている。後はねじれが出久に会いに行く勇気が出ないのだ。

ねじれ自身、本当は会いに行きたい。でも会ってしまえばまた嫉妬してしまうかもしれない。

 

 

 

ネジレ「私だけが出久君の理解者でいたいなんて、出久君に知ったらなんて思われるんだろう…」

 

 

 

この前のオールマイトの件がかなりキテいる様だ。今まで恋愛のした事の無いねじれにとって、今まで関係が基準になってしまう。

出久の夢を理解しているのは家族を除けば自分と豪円だけ。豪円に至っては、理解者というより師匠のイメージが強い。

だからあまり気にはしていなかった。しかしオールマイトは違う。

確かに師匠というイメージもあるが、それ以上にオールマイトは出久の絶対的な憧れ。

そんな彼が出久のヒーローになる為の手助けをするという。それは喜ばしい、喜ばしい事なのは分かっているのに素直に喜べない。

 

 

 

ネジレ「……今頃、頑張ってるんだろうな。出久君、頑張っているんだろうな。最近L○NEの返信も少なくなってきてるし。もしかしてこのまま離れていっちゃうのかな…」

 

 

 

出久の依存先がこのままオールマイトに変わってもおかしくは無い。そうなれば出久は自分から離れていくのでは無いかと不安になる。

出久に限ってそんな事はありえないのだが、今のねじれにはどうしてもこの不安は簡単に拭い切れるモノではなかった。

 

出久が離れていく事を想像してしまう。とても辛い、苦しい、どうしようもなく心が痛く、切なくなる。

そして涙が止まらなくなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねじれちゃ〜ん?早く起きなさ〜い?学校遅れちゃうわよ〜!」

 

ネジレ「ん、んん。寝ちゃってたんだ、私」

 

 

 

ねじれはあのまま眠りについてしまい、気がつけば時計は7時半を指していた。

もう学校に行くのすら面倒くさくて、いっそこのままサボってしまおうかと思ったがそんな訳にはいかない。

それこそ出久に幻滅されかねない。重い体を起こし、鞄を持って玄関に向かう。

 

 

 

「おはよう、どうしたの?元気ないみたいだけど」

 

ネジレ「なんでも無いよ。寝起きだからちょっと頭が冴えてないだけ」

 

「そう?あまり無理しないようにね。それじゃあいってらっしゃい。出久君が外で待ってるわよ?」

 

ネジレ「…え?」

 

 

 

ねじれはケータイを確認して出久からのL○NEを見るが、新着は入っていない。

3ヶ月も会っていないのに、いきなり会うのはねじれもかなりの勇気がいる。

もしかしたら、ねじれにとってあまり良く無い事を言われるかもしれない。

不安に不安が重なり、ドアを開けるのが怖くなり手が震える。

それを見て、何かを察したねじれの母は

 

 

 

「ねじれちゃん、大丈夫よ。出久君は今ねじれちゃんが思っているような事は絶対にしないわ。あの子はヒーローになる子でしょ?それを信じたねじれちゃんの事を裏切る事は絶対にしない。だから少し勇気を出してみなさい?そうすればきっとあの子もそれに答えてくれるわ」

 

 

 

ねじれは母の方を見ると、自信満々な顔ねじれを見ていた。

確かに出久は優しい子だ。しかし今のねじれはその言葉を信じるにはそれ相応の根拠が欲しいのだ。

 

 

 

ネジレ「どうしてそう思うの?」

 

 

 

ねじれは緊張した顔で返答を待つ。そして母から放たれた言葉は

 

 

 

「女の勘よ!!!」

 

 

 

その一言でねじれの顔は一瞬にして惚け顔になった。

しかし何故か自信満々の顔、それ見ていると今まで考えていた事が少しだけ小さい事の様に思えた。

それに母の言った様に出久がねじれの思っていた様な事をする少年では無い事を、ねじれは理解している。

いや、理解していたはずなのにそれをいつの間にか信じれなくなっていた。

 

 

 

ネジレ「そうだよね、うん、いつまでもウジウジしていたらダメだよね。ありがとうお母さん!!私、頑張る!」

 

 

 

 

そう言うとさっきまで震えていた手の震えは収まっていた。

そして母が見たねじれに背中は、いつも通りの天真爛漫な自慢の愛娘の背中だった。

 

 

 

ネジレ「いってきます!!!」

 

「いってらっしゃい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イズク「はぁ、はぁ、はぁ」

 

オールマイト「どうした?緑谷少年。そんなもんか?」

 

イズク「ま、まだいけます!」

 

 

 

出久は今、オールマイトに総重80キロの負担がかかるサポーターを付けながら反復横跳びをしていた。

 

 

 

オールマイト「…いや、緑谷少年。今日の訓練はこれで終わりにしよう」

 

イズク「え。で、でもまだ1時間しか」

 

オールマイト「ここ最近、君は訓練に集中できていない。原因はねじれ少女だと言うことも分かっている。君たちの間で何があったかは分からない。本当ならもう少し待とうと思っていたんだが、これ以上放っておくと双方にとっても良く無い。だからまずは、君たちの問題を解決してきなさい。もちろん訓練はするがそれでも時間を短くする。いいかね?」

 

イズク「は、はい。」

 

オールマイト「君がどうしていいのか分からないのも分かるよ。だから君に私なりのアドバイスを送ろう」

 

イズク「アドバイス?」

 

オールマイト「うむ!それは、『シンプルイズベスト』さ!!」

 

イズク「は、はぁ」

 

オールマイト「ふむ、あまり分かっていない様だな。いいかい?緑谷少年。分からない事はいくら考えても分かりっこ無い。ならばどうするか。それはもう明白だろう。後は君が勇気を出して、実行できるかどうかさ」

 

 

 

オールマイトの言う様に出久は、どうしてねじれとの関係がこんな風になったのか分からないのだ。

ここ最近、その事ばかり考えていて授業も集中できていない。

そんな出久だからこそ、オールマイトの言葉に納得できた。

出久は何もねじれの全てを知っているわけでは無い。ならば本人に聞くしかない。

 

 

 

オールマイト「うむ、どうやら覚悟は決まったみたいだな」

 

イズク「はい!それじゃ僕お先に失礼します!」

 

 

 

出久は急いで家に向かう。シャワーをして、学校に行く準備を済ませ、直ぐにねじれの家に向かう。

ねじれにそれを教えると避けられるかもしれないので、あえて連絡入れない。

そして7時半にねじれの家の前に着いた。そこでインターホンを今まさに押そうとしていると、ねじれの母親が出てきた。

 

 

 

「あら?出久くんじゃ無い!最近来ないからどうしたのかと思ったわ」

 

イズク「す、すみません。それよりまだねじれ先輩いますか?」

 

「えぇ、いるわよ?今呼んでくるから少し待ってね」

 

 

 

その5分後、ねじれが家から出てきた。ねじれは出久をまっすぐ見て、出久の前に立つ。

その様子に出久は少したじろぎそうになるが、グッと堪える。

 

 

 

イズク「あ、あのねじれせんp…」

 

ネジレ「出久君!ごめんなさい!!」

 

 

 

ねじれは出久に向かって頭を下げる。

まさか頭を下げられるなんて思ってなかった出久は何がなんだか分からなくなる。

 

 

 

イズク「え、ねじれ先輩!?何してるんですか!?」

 

ネジレ「出久君に謝ってるの」

 

イズク「いや、それは分かっているんですが…」

 

ネジレ「私ね、実はすごく不安だったの」

 

イズク「え…」

 

 

 

ねじれは出久の事なんて気にしないで、今まで自分が持っている事を出久に話始める。

 

 

 

ネジレ「オールマイトと出会って、出久君がもしかしたら私から離れていくんじゃ無いかって思っちゃって。そう思ったらどんどん嫌な事ばかり思い浮かんじゃって。でもね、さっきお母さんに言われて気付いたんだ」

 

 

 

ねじれは最初、俯きながら話していた。それは出久に不信感を抱いたと言う申し訳なさからくるモノだった。

だが、次第にねじれは顔を上げていく。

 

 

 

ネジレ「このままじゃ、離れてくのは出久君じゃなくて私の方なんだって。それじゃきっと後悔しちゃう」

 

イズク「ねじれ先輩…」

 

ネジレ「今日まで避けていてごめんなさい。だからその、これからも一緒にいてくれるかな?」

 

 

 

ねじれは、ここで出久の返事が帰ってくるモノだと思っていた。

しかし返事は返ってこない。不安になり、出久の方を見上げると、出久が口を開いた。

 

 

 

イズク「ねじれ先輩、この前先輩はずっと僕の隣にいてくれると言ってくれました」

 

ネジレ「え、あ。うん」

 

イズク「あの時はすごい嬉しかったです。それで、今回の事で気付いた事があります。……ねじれ先輩」

 

 

 

ねじれの中ではこの5秒にも満たない時間でも、何十分と言う長い時間に感じられた。

 

 

 

イズク「僕も約束します。ずっと、貴方の傍にいます。先輩がどこに行こうと、どんなに僕から離れようとしても絶対に離れません」

 

ネジレ「っ!!……い、ずく君…ありがとう…ありがとう…」

 

 

 

ねじれは一気に緊張の糸が切れた様に感情が溢れ出し、泣き始めてしまったのだ。

そんなねじれを出久は優しく抱きしめた。いつもは自分がされている様に、ただ何も言わずに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた達、学校にも行かないで何朝っぱらから家の前でラブコメしてるの?」

 

 

 

まぁこの人のせいで出久の勇姿も台無しだが…。



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10 第一歩

土曜の朝5時からの訓練、始まって8ヶ月近くになる。

そして、ねじれが見学に参加して5ヶ月が経った。

 

 

 

イズク「はぁっ…はぁっ…はぁっ…!」

 

オールマイト「うむ…、まさかここまでとは思わなかった。10ヶ月もあったとは言え、ギリギリに仕上がると思っていたのだが」

 

ネジレ「出久君凄い、本当に終わらせちゃうなんて」

 

 

 

海浜公園のゴミ山は、見る影もなかった。

出久は腕を後ろについて、もたれる様に尻餅をつく。

 

 

 

ネジレ「おめでとう出久君!!本当に凄いよ!私感動しちゃった!あんなにいっぱいあったゴミの山が無くなっちゃうなんて!」

 

 

 

ねじれはもたれている出久に飛びついた。

その勢いに耐えきれなかった出久はとうとう倒れる。

 

 

 

イズク「ちょっ!待ってねじれ先輩!汗かいてるから今はダメですって!」

 

ネジレ「凄い!やっぱり出久君は凄いよ!」

 

イズク「今は臭いのでやめてくださいってば!」

 

 

 

ねじれは出久に抱きついて離れようとしない。

それどころか出久の胸に頬をすり付けてくる。

出久は汗だくの状態で、自分の匂いを気にしているが、ねじれにその様子はまったく見られない。

いや、見られない訳では無い。どちらかと言うと、嗅がれている気がする。

 

 

 

 

イズク「あの、ねじれ先輩。一つ聞いていいですか」

 

ネジレ「ん?何?」

 

 

 

 

出久が質問するが、ねじれはすり付けを止めようとしない。

 

 

 

 

イズク「あの、僕の匂い嗅ぐのやめてくれませんか?」

 

ネジレ「……何の事かな?」

 

 

 

ピクッと反応するねじれを見て、確信した。

まぁ、ねじれが自分から嗅いでるという事は不快ではないという事だろう。なので出久はため息をつき、ねじれのされるがままになっていた。

出久が抵抗しないと分かったねじれは、さっきまでこそこそと嗅いでいたが、堂々と嗅ぎ始めた。

 

 

 

オールマイト「さて、緑谷少年。君は今日、私の個性を、「ワン・フォー・オール」を受け継ぐ」

 

イズク「はい」

 

オールマイト「そこで、君に忘れないで欲しい事がある」

 

 

 

出久は緊張した顔でオールマイト見上げる。

ねじれも流石に空気を読んで、出久から離れた。

 

 

 

オールマイト「これは師匠の受け売りだが、最初から運良く授かった者と、認められ譲渡された者では、その本質が違う。肝に銘じておきな。これは、君自身が勝ち取った力だ」

 

イズク「オールマイト…」

 

ネジレ「良かったね、出久君。おめでとう」

 

 

 

ねじれがさっきまでの様子とは打って変わって、どこか優しい目で出久の頭を撫でる。

出久はそれを照れながらも受け入れる。

ねじれとオールマイト、出久の中で特別な意味を持つヒーローだ。

そんな二人に認められるとは、出久にとってが大きな意味を持っていた。

 

 

 

 

オールマイト「さて、緑谷出久!授与式だ!!」

 

イズク「はい!」

 

 

 

ここからが本番だ。まだ手放しで喜べる状況では無いだろう。

しかし、これは出久にとっては人生で最も大きな意味を持つ一歩となる。

出久は生涯、今日の事を忘れないだろう。

 

 

 

オールマイト「さぁ、食え!」

 

イズク「なっ!」

 

 

 

 

オールマイトの髪を食えと言われた事を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何とかオールマイトの髪を食べた出久は、出久の家でねじれと共に朝食をとっていた。

 

 

 

 

ネジレ「それにしても、いきなり食えなんて言うからびっくりしちゃったよ」

 

イズク「僕が一番びっくりしましたよ…。『DNAを直接取り込めれば何でもいい』なんてめちゃくちゃな渡し方なんて」

 

ネジレ「それで、個性の方はどう?何か感じる?」

 

イズク「いえ、昼までには発動できる様になるって聞いたけど、どう何でしょうね」

 

 

 

個性の訓練は来週の土曜日からとなっている。

一週間は休んでもいいとの事だが出久自身、訓練が習慣化しているので基本はやると決めている。

OFA(ワン・フォー・オール)は自分の体を鍛えれば、それに応じて大きな力も使えるとオールマイトが言っていた。

ここで立ち止まっていてはダメだ。試験を受けるみんなは、個性を体の一部として自由に扱う事ができる。

 

 

 

イズク「もっと頑張らないとな…」

 

ネジレ「ジィー…」

 

イズク「ん?どうしたんですか?」

 

ネジレ「出久君が最近かまってくれないなぁって」

 

 

 

訓練をしていた8ヶ月間、出久はオールマイトのスケジュールに従って生活してきた。

そこには遊ぶ時間など無い。しかしそれは当たり前の事だ。

無個性という自分が雄英を受けるのだ。遊んでる暇などある方がおかしな話だ。

 

 

 

ネジレ「出久君の為だって分かってるんだよ?毎日会ってるし、我が儘はあまり言いたく無いけど、それでも少しは構ってほしいなって…」

 

 

 

ねじれは少し控えめに出久に言う。自分が出久の負担にはなりたくはない。

しかし、それでも8ヶ月も我慢もしていれば不安も溜まるだろう。

 

 

 

イズク「そう言えば、この前新しいケーキのバイキングができたってクラスの人が話してました」

 

ネジレ「え?」

 

イズク「ねじれ先輩の誕生日、何もしてあげれなかったので、もし良かったら一緒に出かけませんか?」

 

 

 

出久は前々から考えいてはいたのだ。

ねじれの誕生日は10月、今は12月でかなり遅れているが、それでもねじれの誕生日を祝いたかった。

ケーキ屋も、クラスメイトの話を聞いたのではなく、出久が調べた情報だった。

ねじれにそんな事は分からないが、出久が誘ってくれた。その事実が嬉しかった。

 

 

 

ネジレ「うん!!行こう!!私楽しみ!!」

 

イズク「その前にデパートにも行きましょうか」

 

ネジレ「本当!?それじゃ早く行こう!今すぐ行こう!」

 

イズク「い、今からですか」

 

ネジレ「だって出久君とのお出かけなんて久々なんだもん!」

 

 

 

ねじれは身を乗り出して出久に迫る。その様子に出久は少し苦笑いするが、ねじれが喜んでいくれている様なので安心した。

ご飯を食べた二人は、街に行く為の準備をする。ねじれは引子の部屋に3着服を置いている。

なので家には帰らず、出久の家から直接行くことができる。

 

 

 

引子とねじれは、二人が出会ってからすぐに顔を合わせている。

ねじれは小さい頃の出久に興味津々で、引子がそれを喜んで話してからは、仲良くやっている様だ。

 

 

 

ネジレ「出久く〜ん!準備できたよ!」

 

 

 

そう言ってねじれは引子の部屋から出てきた。

その格好は、白のワンピースの上に、黒ニットのアウターを羽織っている。

手にはミニバックを持っており、どこかお嬢様にような雰囲気を感じた。

 

 

 

ネジレ「ねえねえ出久君、似合ってるかな?」

 

イズク「あ、は、はい。とっても、似合ってます…」

 

 

 

出久は赤面し、ねじれを直視できていない。

それもそうだ。いくら毎日一緒にいるとは言っても、ねじれは美人。

そのねじれが出久だけの為にオシャレをしているのだ。

ねじれ自身、出久に何かしらの反応をしてもらわなければ困る。

 

 

 

ネジレ「ふふ、良かった!それじゃ行こうか!」

 

イズク「はい!」

 

 

 

出久の手を引っ張り、家を出る。

その時のねじれの顔は、とてもキレだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからは出久にとっても、ねじれにとっても幸せな時間だった。

普通に店をまわり、普通にご飯を食べ、いつもの様に会話を交わす。

それだけでもいつまでも続いて欲しいと思うのは、きっとお互いがお互いを特別に思っているからだろう。

 

 

 

ネジレ「ねえねえ知ってた?ここのジャスミン茶この前テレビでやってたんだよ!」

 

イズク「それってねじれ先輩がいつも飲んでるブランドですよね?僕も見てました」

 

ネジレ「そうだよ美味しいんだよ!」

 

イズク「僕もテレビで見てからジャスミン茶飲み始める様になって、ねじれ先輩と同じのを飲んでるんですよ」

 

ネジレ「そうだったの!?それどうだった!?美味しかった!?」

 

イズク「はい、とても美味しかったです。ねじれ先輩が好きになるもの分かりますよ」

 

ネジレ「でしょでしょ!?出久くんにも気に入ってもらえて良かったよ!」

 

 

 

ねじれは出久が自分と同じ物を口にしている事が嬉しかった。

年頃の女子だ、こんな些細な事で舞い上がってしまう。それはねじれだ。

そしてねじれは相当嬉しかったのか、外にも関わらず出久に抱きついしまう。

 

 

 

ネジレ「ねえねえ!出久君!この後何しようか!」

 

イズク「ね、ねじれ先輩。外でくっつくのは…」

 

ネジレ「家だったらいつもくっついてるのに〜?」

 

イズク「そ、外は人の目があるので…」

 

ネジレ「仕方ないなぁ〜。それじゃ、家に帰ったらいっぱいくっついてもいいって事だよね?」

 

イズク「そ、それはちょっと…」

 

ネジレ「…ダメなの?」

 

 

 

ねじれは上目遣いで出久を見る。

 

 

 

イズク「ぅ…。す、少しだけなら…」

 

ネジレ「やった!出久君大好き!」

 

 

 

出久の承諾がなくても、今まで散々抱きついていたので今更という気もするが、出久の承諾を取れるなら越した事はないだろう。

そんなねじれは、出久の腕に抱きついていたが更に強く抱きしめる。

 

 

 

イズク「ねじれ先輩!だからこういうのは家に帰ってから!」

 

ネジレ「ええ!少しくらいなら大丈夫!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久々に二人だけの時間を過ごせた出久とねじれは、この後もお互いの誕生日プレゼントを買った後、出久の家でのんびりしてから解散になった。

勿論、ねじれはいつも通り出久にくっついていたという。



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11 ヒーローの大前提

雄英高校ヒーロー科。毎年の倍率は300を超え、さらに卒業する事でさえも容易では無い世界最高峰の高校だ。

そこはオールマイト、エンデヴァー、ベストジーニストと言った、プロヒーローの中でもトップに立つ者で雄英を卒業した者は多い。

ベスト10でなくとも、雄英OBは確かな実力を持つものが多い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネジレ「出久君、大丈夫?」

 

イズク「大丈夫ですよ、ねじれ先輩。この2ヶ月で、ワンフォーオールのコントロールは出来るようにはなりましたから」

 

ネジレ「でも、まだ制御だって上手くできていないでしょ?前だって骨にヒビが入ってたって…」

 

イズク「まだ体が個性に追いつけていないから、仕方ないですよ。それに前みたいに腕を壊したりして無いですし」

 

 

 

 

オールマイトからOFA(ワンフォーオール)を授かった日から、個性の制御の訓練に移行した。

出久がいくら豪円の修行を受けているとは言え、まだ弟子になって3年も経っていない。

体はそこら辺の中学生よりしっかりとした体だが、出来上がっては無い。

OFA(ワンフォーオール)は強力すぎる為、鍛えていない体で使うと、その負荷に耐えきれず壊れてしまう。

その為、今回の様な海浜公園でのトレーニングを提案したのだ。そして『最低限』の条件を満たした出久は個性を授かったのだ。

 

 

 

ネジレ「それは今の話、最初の頃はすごく心配したんだよ?知ってた?」

 

 

 

ねじれは少しむくれていた。それもそうだ。

最初の頃は力の調整ができず、体に耐えきれない程のパワーを使っていたので、体を壊してばかりだった。

その度、オールマイトが連れてきてくれたリカバリーガールに治癒を施してもらっていた。

 

 

 

イズク「そ、その節は大変ご迷惑をおかけしました…」

 

ネジレ「本当にそう思ってる?」

 

イズク「はい」

 

 

 

出久が苦笑いしながら謝る。ねじれはそんな出久を見て余計にむくれた。

ねじれは怒っているわけでは無いが、心配で心配で仕方ないのだ。

ここ2週間は大きな影こそ減ってきてはいるが、体を痛める事はしょっちゅうある。

 

 

 

ネジレ「ねえ出久くん」

 

イズク「なんですか?」

 

ネジレ「これ、作ってきたんだ」

 

 

 

ねじれが出久に渡してきたのは、手作りのお守りだった。そこには『出久がんばれ!!』と文字が縫ってあった。

 

 

一昨年、ねじれが実技試験を受ける直前に、緊張で頭が真っ白になり震えが止まらなくなった。

そんな時に出久から貰ったお守りを思い出し、緊張が解け無事に合格したのだ。

出久は精神的に強くは無い。自分と同じようになった時に、次は自分が出久を助けたいと思い作ってきたのだ。

 

 

 

ネジレ「ねえ知ってた?私が雄英に合格できたのって、出久君のおかげなんだよ?だから今度は私の番!出久君が合格できる様にと思って。気休めかもしれないけどね」

 

 

ねじれは最後に、はにかんだ笑顔を見せた。

 

 

 

イズク「ねじれ先輩、ありがとうございます。僕、絶対に合格します!」

 

ネジレ「うん!応援してるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実技試験前、受験生はプレゼントマイクから事前説明を受けていた。

その内容は、4種の仮装ヴィランを倒し、ポイントを稼ぐ。そのポイントが高ければ合格する確率が高くなる。

ヴィランはそれぞれ1ポイント、2ポイント、3ポイント、そして0ポイント。

プレゼントマイク曰く、0ポイントヴィランは避けて通る事をお勧めするそうだ。

 

 

イズク(0?4では無くて?それに、確かに倒してもポイントは貰えないだろうけど避ける事を勧めるなんて)

 

 

 

マイク「俺からは以上だ。最後にリスナーへ、我が校の校訓をプレゼントしよう」

 

 

かの英雄、ナポレオン・ボナパルトは言った

 

 

 

 

『真の英雄は人生の不幸を乗り越えて行く者』と

 

 

 

「更に向こうへ、Plus Ultra!!それでは皆んな、良い受難を」

 

 

 

プレゼントマイクの説明が終わり、ぞれぞれが指定された会場に向かっていく中。

 

 

 

バクゴウ「おい、デク」

 

 

 

 

爆豪は出久を呼び止めた。今までとは違う爆豪の目、幼馴染の出久にはそれがハッキリと分かった。

ここにいるのは出久と爆豪の二人だけ、いつもよりも思い空気が二人を包んだ。

 

 

 

イズク「な、なに?かっちゃん」

 

バクゴウ「お前、何を隠してやがる」

 

イズク「隠してるって、どういう事?」

 

バクゴウ「惚けんじゃねえ。いくらオールマイトに憧れたお前でも、この雄英を受けるはずがねえ。それを一番理解してるのはデク、てめえ自身のはずだ。何のお前はここに来た。あの不思議女も関係してるかもしんねえが、もっと他に理由はあんだろ」

 

 

 

相変わらずの洞察力。爆豪は言わば天才と呼ばれる部類に入る。それでいて誰にも負けたくない、追い越されたくない、必ず追い越して見せるとういう向上心。

それが爆豪の才能にさらなる磨きをかける。この洞察力もヒーローを目指す上で必要不可欠なもの。同い年の子と比べるとずば抜けて目が良い。

 

だから嘘は付けない。なら本当のこと言うしかない。いずくの覚悟を。

 

 

 

イズク「確かに前の僕だったら、雄英を受ける前に諦めてたかもしない。でも、今は違う・・・言ってくれたんだ。僕はなれるって。ヒーローになれるって!僕を信じてくれる人がいる!だから、なるんだ!」

 

 

 

明らかに以前と違う出久のように、爆豪はわずかだが気圧された。爆豪と目すら合わせる事もできなかった出久が、爆豪の目を真っ直ぐに見て言い放った言葉。

いつもなら少し怒鳴れば、出久の決心は揺らいでいた。しかし今はどうだ?ここで怒鳴りつけたとして、脅したとして、出久の決心が揺らぐか?

いいや、間違いなく揺らがない。腐っても幼馴染の爆豪だ、それぐらいの事はすぐに分かった。

 

一体何がこいつを変えた?誰がこいつを変えた?なぜこいつを変えた?いくら考えても答えに辿り着けない。

 

 

 

バクゴウ「ッケ。そうかよ」

 

イズク「・・・」

 

 

 

爆豪も指定された会場に向かう。それを見て、出久も会場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試験会場前に集まっていた受験生たちは皆自信があるようだった。

個性に自信がある者、技術に自信がある者、備に自信がある者。理由はそれぞれだが、皆がこの試験に対する熱量が分かる。

 

 

 

イズク「みんな凄い。自分の個性にあった装備をしてるんだ・・・」

 

 

 

出久が歩きながら周囲を気にしている。それは気になると言う事もあるが、何か考えてないと緊張して落ち着かなくなるからだ。

そして出久は歩き回っていると、自分より少しだけ背の低い茶髪の少女が目に入った。

その少女は何の装備もしていない。着ているのは恐らく中学の指定ジャージだろう。

 

 

 

イズク「(手を合わせて深呼吸している。僕と同じ方に緊張しているんだ)」

 

 

 

少女のその姿を見てある人物と姿が重なり、出久は思い出した。そう、ねじれから貰ったお守りだ。

ポケットから取り出したそれを両手で祈るようにも持った。それだけで緊張が大分和らぐ。

 

 

よし!と心の中で喝を入れ、会場の入り口の近くに移動しようとしたが、完全に解れきれていなかった緊張のせいで足がもたれてしまった。

倒れそうになり、目をぎゅっとつぶるが、いつまで経っても痛みが来ない。恐る恐る目を開けてみると、さっきの少女が目の前にいた。

 

 

 

少女「だ、大丈夫?」

 

イズク「え?うわぁぁ何だこれ!」

 

 

 

出久は宙に浮いたまま止まっていた。その事に気づくとあわててしまったが、目の前の少女がちゃんとした体勢に戻しくれた。

一体にがどうなっているんだと思っていると、その答えを少女が教えてくれた。

 

 

 

少女「私の個性!ごめんね、勝手に。でも、転んじゃったら縁起悪いもんね!緊張するよね〜」

 

 

 

少女は少しだけ強張った顔しているが、どこか期待しているようにも見えた。

 

 

 

イズク「あ、ありがとうございます!こちらこそごめんなさい。集中してたみたいなのに邪魔しちゃって・・・」

 

少女「大丈夫大丈夫!怪我しちゃたら大変だもん!」

 

 

 

少女は満面の笑みで答えてくれた。雄英の試験は万全の状態であったとして落ちる確率が高い。

転んで怪我でもしてしまったら、その確率がさらに上がってしまう。出久が改めてお礼をしようとするが。

 

 

 

マイク「スタアアアアアアッッット!!!」

 

 

「「「!?」」」

 

マイク「どうした!?実戦にカウントなんざねえんだよ!走れ走れ!賽は投げられてんぞ!?」

 

 

 

 

塔の上からプレゼントマイクが叫んでいた。さすがプレゼントマイク。マイクも使わずこの距離で声が聞こえるなんて。

 

 

 

イズク「ってそんなこと考えてる場合じゃない!君も速く行かないと!!」

 

少女「うぇ!?あ、はっ、はい!」

 

 

 

他の皆んなが走っていく中、呆然と立ち尽くしていた女子に出久は声を掛ける。少女はハッとした顔をして我に戻り、出久に続いて走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからすぐに出久と少女は別れて行動を始めた。一緒にいてもメリットはない。このポイント制の試験で誰かと行動するのはあまりにもリスキーだ。

 

 

 

イズク「これで21ポイント。でも、またコントロールが少し乱れた・・・」

 

 

 

出久はあれからOFAを使い、仮想ヴィランを壊していった。しかしまだまだうまくコントロールができず、思う様な結果だ出ていなかった。

緊張で、訓練時よりコントロールの精度が大幅に下がっているのだ。

 

 

 

イズク「でも、そんなこと言ってる場合じゃない。はやく仮想ヴィランを倒さないと・・・。っ!!??」

 

 

 

そんな時、大きな揺れが会場を襲う。それと同時に大きな何かがこちらに近づいてくる音がした、次々と建物が壊れていく。

そこに姿を表したのは、30メートル以上はあるであろう仮想ヴィランが姿を表した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オールマイト「(少年。やはり緊張してるのか、コントロールが上手くできていないな。ポイントは稼げてはいるが・・・・)」

 

 

 

オールマイトはモニタールームで出久の様子を伺っていた。訓練をしていた時よりもコントロールが乱れているを一眼で見抜くとは、流石No1ヒーローといったところだ。

そしてそこにはオールマイトの他に、校長をはじめとした雄英の教師陣が試験を見ていた。

 

 

 

ネヅ「この実技試験は、受験生たちにヴィランの総数も配置も伝えていない。限られた時間と広大な敷地、そこからあぶり出されるのさ」

 

 

 

 

状況をいち早く把握するための『情報力』

 

あらゆる局面に対応する『機動力』

 

どんな状況でも冷静でいられる『判断力』

 

そして、純然たる『戦闘力』

 

 

 

 

ネヅ「市井の平和を守るための基礎能力が、ポイント数という形でね」

 

キョウシ1「今年はなかなか豊作じゃない?」

 

キョウシ2「いやぁ、まだ分からんよ?真価が問われるのは、これからさ」

 

 

 

教師の一人があるボタンを押す。それに合わせて会場では、0ポイントの大型ギミックが起動していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その大型ギミックを目の前にして出久はプレゼントマイクの言葉を思い出す。

 

 

 

『所狭しと大暴れるギミックよ!リスナーには、うまく避けることを勧めるぜ?』

 

 

 

イズク「デカ過ぎない・・・??」

 

 

 

あまりの大きさに身体中が震えた。

前方から迫るギミックから逃げるように、他の受験生たちが走ってくる。誰も戦おうとしない。当たり前だ。そもそも戦える様な相手ではない。

 

 

 

 

 

イズク「まずいぞこれ洒落にならん!速く逃げないと・・・」

 

 

 

出久も人波には逆らわず後ろへ逃げようとする。AFOの力を100%使えば、今の出久でもあのギミックは倒せるだろう。

しかし、それをしてしてしまえば腕は間違いなく使い物にならなくなる。それに今では恐怖心の方が勝ってしまっているため、戦おうなんて考えてすらしていないだろう。

 

 

 

 

オールマイト「(圧倒的恐怖、それを目の前にした人間の行動は正直さ。まずは自分の安全を第一に考え、他の者が助けを求めていたとしてもそれに答えてくれる人は少ないだろう。)」

 

 

「ここはあのギミックから逃げつつ、他の仮想ヴィランを倒していかないと・・・。まだ21ポイントしか稼げていない。これじゃ間違いなく落とされる!速くここから逃げないと・・・」

 

 

 

出久が今の状況でできる最善を行動しようと、後ろ部振り返り走り出そうとしたその時

 

 

 

「イタっ・・・」

 

イズク「っ!?」

 

 

 

振り返った出久の後ろから聞こえた声。幻聴ではない、間違いなく人がいる。それにこの声を知ってる。震えながらだが出久がゆっくりと振り返ると

 

 

 

少女「う、うぅ・・・」

 

 

 

出久が転びそうになった時、助けてくれた少女だった。

 

 

 

あの時、怪我をしてはいけないと助けてくれ。縁起が悪いと個性を使ってくれた。自分が緊張しているはずなのに、僕の事を気にかけてくれた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

『(転んじゃったら、縁起悪いもんね!)』

 

 

 

 

 

『っ!!!っく!!」

 

 

 

出久は走り出した。後ろに逃げるのではなく、前に進み始めた。

ポイントは21、今のままでは間違いなく合格できない。受かりたいのならギミックになんて構ってる暇ない。

 

 

 

イズク「そんなこと知ったことか!!」

 

 

 

OFAを発動させた出久は、仮想ヴィランの頭部に向かい飛んだ。そのスピードは気を緩めば完璧に見失ってしまう程の速さ。

 

 

 

 

オールマイト「(あの仮想ヴィランに挑んでもメリットは一切ない。だからこそ、色濃く、まばゆく、浮かび上がる時がある!)」

 

 

 

 

出久は腕にOFAを集中させた。その反動でジャージの腕の部分の布だけが弾け飛ぶ。

相当な負担。この感覚はコントールが全く出来なかったと時に、100%のパワーでOFAを放った時と一緒だ。

しかし今はそんなことを気にしている暇ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SMASH(スマッシュ)!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オールイマイト「(そう、浮かび上がるのだ。ヒーローの大前提、『自己犠牲の精神』ってやつが・・・!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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「願い」「思い」「祈り」そして「光」

今回は台本式では無い投稿です。



巨大仮想ヴィラン。それをOFA100%でぶっ飛ばした出久だったが、その後すぐにタイムアウト。試験はその場で終了となった。それまでに出久が稼げたポイントは21。周りの受験生と比べても、そのポイントはあまりにも少なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出久は試験会場でそのまま治療された。OFAで負った怪我は、今ではほとんど治っている。試験から約一週間が経ったが、オールマイトとの連絡が取れていない。ねじれとは連絡を取ってはいるが、実技試験の結果のこともあり会ってはいなかった。

 

 

 

「はぁ・・・」

 

「い、出久?大丈夫?」

 

「あ、うん。大丈夫だよ。気にしないで」

 

 

 

 

 

なんとも気まずい食卓の雰囲気。引子と出久は仲のいい親子だが、出久の憧れと試験での結果を知っている引子はなんと声をかけてたら良いのか分からないでいた。

 

 

 

「し・・・試験の結果、今日明日くらいだっけ?」

 

「うん・・・」

 

「雄英を受けたってだけでも、すごいと思うよ!お母さんは!」

 

 

 

これが今の引子が出久にかけれる精一杯だった。引子と2人で晩御飯を食べているが、食が思うように進まない。いつもなら体作りのためにしっかり食べなければいけないのだが、今はどうしても喉を通らなかった。そして引子は回覧板を回しに外へ出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出久は食器を片付けると、すぐに自室に戻る。床に転がっているダンベルを持ち上げ筋トレを始める。今ではオールマイトが考案してくれたトレーニングが日課になっている事もあるが、何より何かして気を紛らわせていないと落ちつかなかった。

 

 

 

(オールマイト。せっかく見初めてくれたのに、ごめんなさい。でも僕は正しいと思う事をしたんだよ。あそこで逃げてたらきっと僕は、ねじれ先輩とオールマイトを、本当の意味で裏切ると思ったから・・・)

 

 

 

出久は悔しいとは思ったが、後悔はしていなかった。本当の意味でヒーローであるオールマイトの背中を追いかけて育ってきた出久にとって、試験の合格より人を助ける事の方が大事だったからだ。これで不合格だったとしても、それは自分が選んだ道だ。素直に受け入れよう。そう思っていた時、部屋の外から慌ただしい足音が聞こえてきたと思ったら、引子が慌ててドアを開けてきた。

 

 

 

「イズ、イイイズ、イズイズイズ・・・イズク!着てた!着てたよ」

 

 

 

そう言って引子が差し出してきたのは、封蝋にUAと刻印された手紙だった。その中には出久の合否の結果が入っている。自分を認めてくれる人に出会って、憧れの人に出会って、力をもらった。だが結果は自分の思い描いていたのモノとは大きく違い、不安ばかりが募る。そして今、自分のこれからの運命を大きく左右するたった一枚の紙切れを、出久はその手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間前、出久の試験当日の夜、ベッドでゴロゴロしているとねじれのケータイが鳴っていた。体を起こし画面を確認すると、出久からの電話だった。きっと試験の報告だろう。筆記試験の方はねじれも一緒に勉強していた事もあり心配はないが、実技の方はどうしても心配だった。しかしオールマイトに見てもらった出久なら大丈夫。そう思っていた。

 

 

 

「もしもし出久君!こんばんは!」

 

『ねじれ先輩。こんばんは』

 

「ん?ねえねえどうしたの?元気ないみたいだけど、試験そんなに大変だった」

 

 

 

電話越しに聞いた出久の声は、あまりにも弱々しかった。確かに雄英の試験は難易度が高く、かなり疲れるであろうが、ここまで表に疲れが出るほどキツいものを雄英は試験には出さないはず。それは2年前に受けたねじれがよく分かっていた。それに出久の体力はオールマイトとの訓練の成果もあり、かなりついているはずだと思っていた。

 

 

 

『えぇ、まぁそうですね。確かにすごい疲れました。筆記も難しかったですけど、実技の方も緊張してしまって。でも先輩からもらったお守りのおかげで、緊張がほぐれました。ありがとうございます」

 

「そっか!少しでも役に立てたなら良かった!出久君なら大丈夫だよ!筆記は私も一緒に勉強したんだし、実技の方だってオールマイトと訓練したんだからきっと!」

 

「21ポイント・・・」

 

「え?」

 

 

 

いきなり出久が口にした数字。一瞬なんのことか分からなかったが、それも一秒と経たずにねじれは理解した。仮想ヴィランを倒した時に与えられるポイント。この試験を合格ラインは最低でも30Pは必要になってくる。

 

 

 

『個性の調節がうまく出来なくて、仮想ヴィランを倒すのに手間取ってしまいました。ロボットを見つけるのにも時間がかかってしまって。せっかくオールマイトとねじれ先輩に協力してもらって、一緒に雄英に通ってヒーローになるって約束もしたのに・・・』

 

「出久君・・・」

 

 

 

そこでねじれは出久に、ある事を言い出そう思ったが、出来なかった。もし自分が期待させるだけさせて、出久が受かってなかったらと思うと、それはあまりにも無責任過ぎた。出久のヒーローの志を疑っているわけでは無い。ただ、志でどうにも出来ない問題がある事も事実だ。個性がなければヒーローになれないのと同じように、志だけでヒーローになれる程、ヒーロー社会は甘くはない。努力しても実らない事だって当たり前の様に溢れている。それが、現実というモノだ。

 

 

だが、それでも、ねじれの中で絶対に変わらない想いがある。

 

 

 

「確かに、今の出久君の結果だとすごく厳しいかもしれない。一緒に雄英に通う事も、一緒にヒーローになる事もできないかもしれない」

 

『・・・』

 

「でもね?知ってた?」

 

 

 

 

 

 

 

私に取って出久君は、もうヒーローなんだよ?

 

 

 

 

 

 

この言葉に出久は、自分がした事を全て認められた気がした。ヒーローになるために見捨てるのではなく、ヒーローに憧れてるからこそ自分のとった行動は正しいのだと。それが緑谷 出久と言うヒーローに憧れた少年だと言うことを。

 

 

 

『あがとうございます、ねじれ先輩。おかげで気が晴れました』

 

「そっか、それなら良かった。それじゃ、結果が来たら教えてね?」

 

『はい、それじゃまた』

 

 

 

ねじれは電話を切り、背中からベッドに倒れ込んだ。こんな時にどうしたらいいのか分からない。本人はあぁは言ってるが、それでもそう簡単に割り切れる程、ヒーローに対する出久の気持ちは軽くはない。

 

 

 

「明日、神社に行かなくちゃ」

 

 

 

ねじれは自分ができる事をしようと、神社でお参りいくことにした。いるかいないのか分からない神様に願っても、意味があるのかどうかも分からない。だが例え気休めでも、出久の努力を無駄にしたくはないねじれの思いだった。そしてそれから一週間、ねじれは神社に欠かさず通っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出久の部屋、机の上にあるオールマイトの映像が投影されていた。それは雄英の合格通知の封筒に入っていた丸い機械から投影されたものだった。

 

 

 

「お、オールマイト!?こ、これ雄英からだよな・・・?」

 

 

 

試験以降連絡が付かなかったオールマイトが、まさか雄英の合格通知で出てくると思っても見なかった。

 

 

 

『もろもろ手続きに時間がかかってね。連絡取れなくてごめんね。いや、本当にすまない。実は私がこの街に来たのは他でもない。雄英に勤めることになったからなんだ』

 

「え、オールマイトが雄英に?」

 

『うん、え?なんだい?巻きで?』

 

 

 

出久が驚いているところで、オールマイトが他の誰かに急かされ始めていた。

 

 

 

『いや、彼には話さなきゃいけないことが・・・』

 

 

 

オールマイトが説得しようとするが、画面の隅から出ている手がジェスチャーする。

 

 

 

『後がつかえてる?あ〜、分かった、OK。・・・筆記は取れていても、実技は21ポイント。決して低くはないが、高いポイントでもない。これでは合格ラインには達していない為、当然不合格だ』

 

 

 

覚悟はしていた。後悔もしていない。自分はやれる事を全てやった。こうなる事も当然分かっていた。分かってたよ。分かってたけど・・・悔しい。

 

この一つの感情が出久の中で大きく膨れ上がった。この2年間、出久は雄英合格のために頑張ってきた。個性がないながらも豪円の元で修行し、オールマイトから受け継いだ個性を扱える様になるために訓練もした。それでも、願いには届かなかったのいだと・・・そう思ったがオールマイトは再び口を開く。

 

 

 

『それだけならね』

 

「え?」

 

『私もまた、エンターティナー!まずは、こちらのVTRをどうぞ!』

 

 

そう言ってオールマイトがリモコンを押すと、画面が切り替わった。場所は雄英の校舎内。そしてそこに写っていたのは、出久が巨大仮想ヴィランから助けた少女だった。

 

 

 

『あの、すみません』

 

「この人は、あの時の」

 

『試験後すぐに、直談判しに来たんだってさ』

 

「え?」

 

『何をって?それでは続きをどうぞ!』

 

 

 

いきなり言われても主語がないため当然出久は理解できない。そしてオールマイトはそんな出久に直談判の内容を教えるため、止めていた映像を再び再生し始めると、少女がプレゼントマイクに直談判していた。

 

 

 

『あの、頭モッサモサの人。そばかすのあった・・・。分かりますか?えぇっと、地味目の・・・」

 

 

 

少女が言っている特徴は、まんま出久のそれだった。出久の頭の中では益々ハテナマークが浮かび上がってくる。この人は一体僕の何を直談判しに来たのだろうと。しかし、その正解がすぐに分かった。

 

 

 

『その人に、私のポイント分ける事ってできませんか?あの人、すごい焦ってる顔してて、あのでっかいロボットを倒してボロボロになった後も、必死で試験を続けようとしてたんです。だから、ポイントをそんなに稼げなかったんじゃないかって思って』

 

 

 

出久の脳裏に、ある記憶が蘇る。いつか言われた、爆豪の言葉

『お前に何ができるんだぁ?』

 

 

 

 

『せめて私のせいでロスした分!』

 

 

 

いつか言われた、ヒーローの言葉

『君が危険を冒す必要は、全くなかったんだ!』

 

 

 

 

『あの人!私を助けてけてくれたんです!』

 

 

 

自分も試験に受かりたいはずなのに、この少女は出久のために自分のポイントを分けようとしていた。

 

 

 

『お願いします!』

 

 

その僅かなポイントの低下で不合格になる事だって十分にあり得る。そんな事をする義理をこの少女は持ち合わせてはない。

 

 

 

『お願いします!』

 

 

 

なのに、それなのに・・・

 

 

 

 

『個性を得てなお、君の行動は人を動かした。先日の入試、見ていたのはヴィランポイントのみにあらず!』

 

「え?」

 

 

 

 

『お願いされても、ポイントは分らんねえ。そもそも分ける必要ないと思うぜ?女子リスナー』

 

 

 

プレゼントマイクが少女をに言い聞かせていた。その言葉に、出久は希望を抱いてしまう。あり得ない現実が起こる予感がすると。

 

 

 

『人助けを、正しい事をした人間を排斥にしちまうヒーロー科など、あってたまるかって話だよ!』

 

 

 

みんなの言葉一つ一つが、自分だけでは手の届かないあの場所に導いてくれているかもしれないと。心の中の小さな光が、あまりにも遠すぎた光が近く、大きく、眩しくなっていくのを感じる。

 

 

 

『きれい事?上等さ!命をとしてきれい事実践するお仕事だ!』

 

 

 

そしてその光がついに、出久の心の中全てに満たれた。

 

 

 

 

『レスキューポイント!しかも審査制!我々雄英が見ていた、もう一つの基礎能力』

 

 

 

 

緑谷 出久 60ポイント!!

 

 

ついでに麗日 お茶子 45ポイント

 

 

 

『合格だってさ』

 

「無茶苦茶だよ・・・オールマイト」

 

 

 

僕は涙を流す。あの時と同じように光を照らしてくれた。

 

ヒーローになれると言ってくれたあの時と同じように、涙が止まらなかった。

 

ヒーローになれると言ってくれた時と同じように、手を差し伸ばしてくれた。

 

ヒーローになれると言ってくれたあの時と同じ様に、また・・・

 

 

 

 

 

『来いよ、緑谷少年。ここが、君のヒーローアカデミアだ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕が欲しくてたまらなかった言葉を、僕に聞かせてくれたんだ。



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13 恋

いきなりですが、台本式の投稿は今回で終了させていただきます。
次回からは台本なしのみの更新となりますので、よろしくお願いします


ネジレ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ」

 

 

 

私は今走っている。寒い冬の中コートも着ないで部屋着のまま、お母さんには「出かけてくる!」とだけ言い残し飛び出してきた。

 

 

 

もっと早く、もっと早く!自分にそう言い聞かせながら。私は愛しい彼の元にひたすら走っている。冬の寒さなんてどうでもいい、心臓の鼓動なんてどうでもいい、早く、早く彼の元に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして私は彼の家の前にたどり着いた。表札には見慣れた緑谷の文字。インターホンを押す前に深く深く深呼吸をする。それは緊張をほぐす為なのか、それともここまで走ってきた心臓を落ち着かせる為なのか自分でもよく分からない。

 

 

 

ネジレ「スゥー、ハァー・・・よしっ」

 

 

 

ここで決意して、私はついにインターホンを押した。するとまた謎の緊張感に襲われる。まだ心臓がバクバク鳴っている。顔も暑くなってきた。そんな事を考えているうちに、目の前のドアが空いた。

 

 

 

そこには出久君が立っていた。目は赤く浮腫んおり、手には雄英から届いたであろう合格通知の封筒。先程、引子さんから電話があった。『雄英からの合格通知が届いた』と。それだけ聞き私はすぐに家を飛び出したのだ。

 

 

 

ネジレ「出久君・・・?」

 

 

 

私の問いかけに彼が、長い、とても長く感じられる沈黙を作り出した。私の心臓の鼓動は、もう出久君にも届いているんじゃないかと思うほどにうるさかった。そして出久君の口が開かれ、その口から出た言葉は弱々しく震えながらも、それでも確かにこう言ったのだ。

 

 

 

イズク「やりました、ねじれ先輩」

 

 

 

その顔にはもう二度目であろう涙が溢れ、もうおかしいくらいクシャクシャな顔で、だけどとても嬉しいそうな顔で言ったのだ。

 

嬉しかった。ただただ嬉しかった。自分が雄英に受かった時よりも、生きてきた中で一番嬉しいのではないかと思う程に。そう思うと私の目にも一気に涙が溢れ、我慢できず出久君に抱きついた。

 

 

 

ネジレ「おめでとう!」

 

 

私はこれでもかと言うほど強く抱きしめた。後で恥ずかしくなだろう、きっと二人してしばらく顔を合わせなくなるだろう。でもいい、それでもいいのだ。それほどに私は今、幸せに満ちているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ勢いというものは怖いものでして、冷静さを取り戻すとまともに顔を見れないのは必然であるからして・・・

 

 

 

ネジレ「・・・」

 

イズク「・・・」

 

 

二人はまともに顔を合わせられないでいるのであった。引子が持ってきてくれたケーキや紅茶も、今のねじれの喉に通るわけも無く。しかし、出久とねじれの間で無言の時間はそう珍しくもない事だ。二人の存在を近くに感じられる時間でもあり、同じ時を共有している事を強く感じれる時間でもあるから。

 

 

 

ネジレ「ねえ出久君」

 

イズク「なんですか?」

 

ネジレ「これからも、一緒に頑張ろうね」

 

 

 

そう、これからはもっといろんな事を共有できる。共に同じ校舎へ通い、同じ屋根の下同じ目標に向かう。自分の好きな人と、同じ夢を目指す。これほど胸躍るものがあるだろうか。ヒーローを目指すのは憧れたからだ。雄英に入ったのはその憧れを掴むためだ。しかし、今の自分は浮かれている。不純だと言われる事もあるだろう。

 

それでも今、限られた時間の中で彼といれる時間が増えることに喜びを隠せない。だがそれを恥じることはないだろう。自分は胸を張って言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

波動ねじれは、緑谷 出久に恋をしているのだと

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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