くくく、チート転生者のこの俺に勝てるわけが……ぐふっ!? (とある達人の筋肉無双)
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001、ぐふっ!?

知り合いに喧嘩でボコボコに負けて入院中なので初投稿です。
入院中暇なので描き始めました。
プロットも、設定集も、ストックもありません。
エタるの前提でよろしくお願いします。






 1.

 

「と、言うわけでお前さんは死んでしまったのじゃ」

 

 

 と俺がヤクザにボッコボコに殴り殺されるシーンを丁寧に解説した目の前の爺さんはどうやら神らしい。

 なんで俺がヤクザにボコボコにされたかだって? 

 100%俺の両親が借金を踏み倒そうとしたのが悪い。

 600万円もヤクザから借金踏み倒すとか頭おかしいとしか言えない。

 

 

「で、お主は特別に何か3つの特典と記憶と知識をもって転生できるが何が欲しい?」

「え? まさか神様転生ってやつですか!? という事は俺って手違いで死んだとかそういう?」

「なわけないじゃろ、そもそもお前さんのいた世界には運命(プロット)なんて存在せんからの。

 お前さんが特典をもって転生するのは全能たるワシが決めた事じゃ、気分での」

「気分かい!?」

 

 

 さすが神。

 気分一つで特典付き転生とかやばいとしか言えねぇな。

 

 

「で、何をもって転生するのじゃ?」

「何度でも死の淵から蘇る事で戦闘力が大幅に成長する能力とこれでもかという程の圧倒的な武術の才能と死にさえしなければどんな怪我や病気、毒からも一日で回復できるような超再生力が欲しい!」

 

 

 もう決まっておりそれはこの3つだ。

 野菜人ことサイヤ人の特性と圧倒的な治癒力、ついでに武術の才能さえあれば範馬勇次郎ムーブが狙える。

 来世では単身でアメリア合衆国に喧嘩を売ってやるぜ。

 

 

「ほう? 要はヤクザだろうがなんだろうがボコボコにできるレベルの力が欲しいということじゃな?」

「成長のしない人生(ゲーム)とかクソだろ? だから初期スペックは普通でいい」

「うぬ、では達者でな」

 

 

 そう神様が言うと俺の視界は徐々に真っ暗になって行った。

 

 

 

 2.

 

 

「おぉぉぉぉおぎゃァァァァ!」

「よしよし、いい子いい子」

 

 

 目が覚めたら転生していた。

 な、何を言っているのか分かんねぇとは思うが俺にも何が何だかさっぱりだ。

 だが、とりあえずこれだけは分かる。

 ここは日本だ。

 圧倒的日本! 

 それもちょっと昔の日本で西暦1983年だ。

 

 

 ビットコインが世に出るのは2009年だったので26歳と普通に仕事もできる年齢なので割と良い年代に生まれたと言える。

 今くっそバブルなお陰で両親共にモロに大金持ちなので今のうちに現金で貯金させる習慣をつけさせておきたい。

 銀行破綻とかまじで笑えんからな。

 

 

 まあ、しばらくはバブル景気真っ最中なので両親に頼み込んで伝説の武術家とかそういう人から武術を教えて貰うなんて事も可能だろう。

 俺が目指すは流水岩砕拳みたいな感じの攻防一体の戦闘スタイルだ。

 最低でもガロウさんみたいに銃弾くらいはヌルヌルと流せるようになりたいところだ。

 

 

「オギャァァァ!」

「よ〜しよし」

 

 

 今は何もできないがな(`・ω・´)キリッ

 

 

 3.

 

 

 あれから5年程の月日が経った。

 現在の俺は学力大学4年生レベルの天才扱いされている5歳児ってところか? 

 元々の俺が高校3年生だった事と、子供の頃は記憶力がめちゃくちゃ良いぽいので両親が雇った家庭教師が教えてくれる事は1発で覚えられる事が大きく影響している。

 チート無しの転生者でもこれだけあれば十分に活躍できるだろう。

 

 

 そんな感じで勉強がひと段落着いた事もあり、両親に護身術を習いたいと言えばあっさりとOKされた。

 養神館か極真会館が良かったのだがそのどちらもないらしい……なんでさ!? 

 

 

 そんなこんなで加入させられたのはどこにでもありそうな近所のにある空手教室。

 毎日15時から17時までの2時間だけやっている子供向けの空手教室だ。

(´・ω・`)

 

 

 幸いにしてこの体はかなり物覚えが良いし適当に頑張るか。

 

 

「君、かなり小さいけど大丈夫かい?」

「あ、お構いなく、素手でアメリカを倒せるくらいを目指してますので全力でお願いします」

「あはは、素手でアメリカを、ねぇ。

 君面白いね」

 

 

 俺の目指すところは『核にも負けず』だ。

 核にも負けず、毒にも負けず、病魔にも寿命にも負けぬ。

 丈夫な身体を持ち、負けはなく、決して死なず。

 いつも笑顔で嗤っているってね。

 

 

「じゃあ軽く体験してみるかい?」

「おい、藤村……相手はまだ5歳児だぞ? しかもあの東坂社長のご子息だ、怪我させたらタダじゃすまねぇぞ?」

「安心してください。

 傷の治りは早いので、死ななきゃ次の日にはピンピンした状態で復帰しますよ」

 

 

 神様のくれたチートの内2つは確認済みだ。

 腕をへし折っても足をへし折っても一眠りすれば元の通り、いやちょっとだけ頑丈になって帰って来る。

 しかも、筋肉痛にもならなければ風邪やインフルにすらかかる事がないとかいうチートスペックだ。

 それが分かってからというもの毎晩毎晩ひたすらに自分の体の骨をバッキバキに砕いたりしていたお陰で痛みには慣れた。

 

 

 最初の一回目が一番怖かったし、その一回が一番痛かったが人間安全だと言うことが分かっていればどうということはないようで今では痛みを食らってもそのまま笑顔でいられる程だ。

 ほら、ジェットコースターやバンジージャンプだって最初の一回目は怖いがその1度さえやってしまえばすぐになれるだろ? 

 腕を折る痛みも、包丁を体に刺す痛みも結局は慣れるものでしか無いわけだ。

 

 

「ほら、この子もこういっている事だし良いんじゃないかな?」

「ったく……藤村、てめぇが一番強いんだからしっかりしろよ?」

「はいはい、カッコイイ所を見せて上げますよっと。

 それじゃあ君、やろうか?」

「はい、手加減なしでお願いします」

 

 

 そういうと藤村さんは構えを取ってこう言った。

「好きに攻めてきていいよ」

 ならば我が生涯(計23年)の成果を見せつけてやろうではないか! 

 

 

「てやァァァっ!」

「うぉおっ!?」

 

 

 体格差があるので打撃面では圧倒的に不利。

 つまり、俺が選ぶのは投げや崩し一択。

 相手の重心を崩すようにして膝下のあたりに体全体を使って全力で当身を行う。

 相手がそれで一瞬でも崩れれば良し、押す力に抵抗しても良しだ。

 そして相手が押し返してきたならば、その瞬間を見計らって引っ張る! 

 

 

 4.

 

 

 手押し相撲を経験した事はあるだろうか? 

 相手の手を手で押し、そして動いた方が負けという非常に簡単なゲーム。

 藤村の受けた感覚はあれで避けられた時に近かった。

 そう、一気に重心を崩され一瞬で転びそうになるあの感覚だ。

 だが、ここで忘れては行けないのが藤村がそれなりに武道を嗜んだ者であるという事だ。

 

 

「ふん!」

「ぐふぉおッッッ!!!」

 

 

 体格差、体重差があるので多少崩されようが攻撃をして相手を振り払えばいいのだ。

 反射で体がつい動いてしまった藤村はそのまま、いやむしろ自分から体を倒しながら掴まれている方とは逆の左足を使って目の前の少年を蹴り飛ばした。

 少年はそのまま吹っ飛んでいき壁に当たって床に崩れ落ちた。

 

 

「ちょ、おい藤村!? 今モロにアバラに入って吹っ飛んだぞ!?」

「あ、や、やばっ!?」

「やべぇですむかよ! あれじゃあ最悪死ぬぞ!?」

 

 

 そう言って二人は東坂少年に目を向ける。

 するとそこにはぴくぴくと震えるものの、笑顔で立ち上がる少年の姿があった。

 

 

 5.

 

 

 い、痛い。

 めっさ痛い。

 俺以外の5歳児だったら死んでるねこれ。

 初めと比べればかなり強化されている筈の俺の肋骨はボッキボキ。

 脊髄は辛うじて無事だが、まさに死の淵という言葉がピッタリだろう。

 

 

 何あの容赦のない蹴り。

 手加減なしでとは言ったがあんなに強いのか……。

 いや、というかやべぇガチで肋骨がくい込んで痛い。

 吐き出しそうな血を飲み込みつつも気合いを振り絞ってそのまま立ち上がるが、もうフラフラでいつ倒れてもおかしくない。

 

 

「あ、あは、は……も、物凄くお強いですね」

「き、君……あれ受けて立てるの?」

「ええ、かなりフラフラですが……ちょ、ちょっと今日はこれで失礼します。

 特訓して出直して来ます」

 

 

 意識が朦朧とし始める中、気合いを振り絞ってそう告げるとそのまま200m先にある家のお布団まで走り抜いた。



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002、ぐべらっ!

 6.

 

 

 骨がボッキボキに折れてまじで死にそうだったが、次の日には何とかなったぜ(`・ω・´)キリッ

 いやー人体の神秘って不思議よな。

 

 

 チートのお陰でこれでまた一つ強くなれた訳だがムキムキになったりする訳ではなく、筋肉の量も質も殆ど変化していないというのに何故かパワーが格段に上昇し、防御力や体力といった面でもそれなりに強くなれた。

 お陰で両親からも怪しまれることは無く、普通に暮らせている。

 マジで便利だなこの力。

 

 

「あ、どうも藤村さん、今日も手加減なしでよろしくお願いします」

「き、君……ほ、本当に大丈夫?」

「もちろんこの通りピンピンしてますよ? 今日も出来れば半殺しでお願いします」

 

 

 うん、藤村さんの顔が引きつってるが気にしたら負けだ。

 俺はアメリカを取る男なのだから。

 

 

「え、えと……本当に大丈夫なのかい?」

「大丈夫ですよ? 昨日も言いましたが死ななければ次の日には完全に元の状態で戻ってきますから」

「そ、そうかい? なら好きに打ち込んできても大丈夫だよ」

「では……」

 

 

 今日も好きに打ち込んできて良いと言ってくれたので今回も全力でツッコミに行く。

 今回はパワーが上がったので打撃系と流水岩砕拳を試してみようと思う。

 手が届かない為に中段がせいぜいなので、今日は全力で中段を撃たせてもらうぜ。

 

 

「うらっ!」

「お、体重の乗った体全体で打ち込む良い突きだね」

 

 

 だがその中段突きはあっさりと流されてカウンターの拳が飛んできた。

 読み通りと言ったところだ。

 

 

「滑水拳!」

 

 

 その拳に手を這わせるようにして滑らし、斜めへと攻撃の軌道をずらす。

 そしてそのまま前に出るようにして腕を滑らしていき、カウンターの一撃を叩き込む。

 技名を叫ぶのはロマンだ。

 

 

「あっぶな!」

 

 

 その俺が放った拳は後ろに体を開くようにして避けられるが、避けられたならばそれに合わせて間合いを詰めてひたすらに殴り続ければそのうち勝てる。

 今は右半身が前に出ており、左手は体で隠れていてほぼ見えない。

 これを使わない手はないだろう。

 

 

「影拳!」

 

 

 そのまま打撃のインパクトまで左腕を隠し、一気に左半身を前に出す事によって拳を突き出す。

 体重を拳の先端に乗せて、殺す気で殴る。

 

 

「うぉっ!?」

 

 

 が、その俺の一撃はそれよりも速い蹴りを出すことで防がれる。

 まずいと思って身をよじって避けようとするものの綺麗に俺の脇腹にクリーンヒット。

 

 

『メリィィィッッッ!』

「ぐべらっ!」

 

 

 体の中で響くめっちゃ嫌な音と共に俺は回転しながら吹っ飛んだ。

 うん、やばい。

 痛い、死ぬ。

 

 

「ごほっ……ぐっふぉ……おご……」

 

 

 何とか血は吐き出さないように堪えて立ち上がろうとするがフラフラとよろけてしまいなかなか上手く立ち上がることができない。

 まさに半死半生という理想的な形、さすが藤村さんといったところだ。

 

 

「あ、だ、大丈夫!?」

「だ、大丈夫……です。

 ま、また……あ、明日も、お、お願い、しま……す」

 

 

 それだけ言い残して気合いを振り絞って立ち上がると、俺はお布団へとダッシュした。

 

 

 7.

 

 

 東坂とかいう不死身の少年がいるらしい。

 そんな噂が広まるのはある意味当然と言えるだろう。

 何度も半殺しされても毎日毎日立ち上がり、そしてその度に強くなりたった13日でその道場で一番強い先生を倒した。

 有名にならない方がおかしいだろう。

 

 

「カカッ、面白そうな者がおるわいのう」

 

 

 初めは空手教室に来ている子供達とその両親が語っていただけなのだが、噂は噂を呼び。

 そしてあっという間に広がって行った。

 そして、その噂はもちろん闇の達人達の耳にも入っていく事になる。

 そう、それはこの拳魔邪神シルクァッド・ジュナザードも例外ではない。

 

 

 誰かが言った「本当に武術をやりたい人の前には、必ずそれに適した師が現れる」という名言。

 では本気でアメリカに勝ちたい等という意味不明な目標を掲げて、それに向かって全力で突き進む少年の前にはどんな師が相応しいのだろうか? 

 

 

 それはスポーツ空手の達人か? 

 そう聞かれれば答えはもちろんNoだ。

 所詮スポーツ空手はスポーツ空手。

 対武器、それも対アメリカなんて真似ができるわけが無い。

 

 

 では活人拳の達人か? 

 それもNoだ。

 誰一人として殺さずにしてアメリカに勝つ? 

 そんな事は不可能だ。

 

 

 であるならば残るはたった一つ。

 殺人拳の達人しかない。

 そして、彼とそのありえない程の才能を余すところ無く引き出せる技術と力の持ち主等たった1人しか居ない。

 そう、この拳魔邪神シルクァッド・ジュナザードだけだ。

 

 

「さて、今度はどれだけ楽しめるかのう」

 

 

 邪神は日本に向かって足を運び始めた。

 

 

 

 8.

 

 

 

「やる事がない」

 

 

 つい先月、近所の空手教室の藤村さんを完封する事ができるようになって以来は時々来る道場破りの人と立ち合うくらいしかやることが無くガチで暇である。

 アニメと漫画を元にして実際に使えるように新たにリメイクした流水岩砕拳の形を練習するくらいしかやる事が無く、もう半殺しにしてくれそうな人も居ない。

 

 

 こうなったらもう車に飛び出すとかそういう事をするしかないのだが、さすがにそれは色々と迷惑な上に、両親にも多分バレるし、このチート能力もバレる恐れもある。

 どこかに範馬勇次郎みたいな化け物はいないものだろうか? 

 

 

「お前さんがあやつの言っておった奴かのう?」

 

 

 そんな事を考えながら、自分で作った型の練習をしているといきなり後ろから声がかけられた。

 

 

「っ!?」

 

 

 咄嗟に振り返って構えを取ると、そこに居たのは仮面をつけた男だった。

 ただそこに居るだけなのに、そこに居ないような錯覚を起こさせる程の圧倒的潜伏力。

 一体この人は何者なのだろうか? 

 

 

「い、いつからそこに?」

「カカッ、お前さんが型の稽古を始めた時からだわいのう」

 

 

 つ、強い……。

 見てわかる。

 見なくてもわかる。

 ただそこに居るだけで圧倒的な格の違いというものをとことん感じさせられる。

 

 

「……貴方が私の師匠(マスター)か」

 

 

 間違いなくこの目の前の男はまともな人間じゃない。

 というか人間かどうかすら怪しい。

 このような存在は神か悪魔か、もしくは邪神か、そう言った言葉がまさに相応しいだろう。

 だから俺は

 

 

『選択肢』

 →相手に向かって構えを取り直した。

 ・とりあえず質問を投げかけた。

 

 

 

「一手、お相手できませんか?」

「カカ、カカカカッ! 威勢がいいのは嫌いじゃないのう」

 

 

 そう、まさに願っても叶うかどうかすら怪しい千載一遇のチャンス! 

 ならばここは全力で相手をしてもらうのが吉。

 

 

「では行くぞ?」

「手加減なしで、半殺しでお願いします」

「カカカッ! 了解したわいのう」

 

 

 俺がそういうと既に顔面を殴られていた。

 早く、速く、捷い突き。

 容易く音速の壁を超えたような突きが既に突き刺さっていた。

 

 

 いつ放ったのか不明。

 どうやって放ったのかも不明。

 初動モーションすらも見抜けない圧倒的な突き。

 

 

「お、おぐッ……が、ごほッ……」

 

 

 情けなく吐血して地面に倒れる。

 これまでも一撃で半殺しにされるような場面には何度も出くわした事があるが今回ばかりはダメージが段違いだと言える。

 視界がドロドロになってあっという間に崩れる。

 

 

「で、弟子に、弟子にして貰えませんか?」

 

 

 何となく最後にそう言えたのは辛うじて覚えているが、それを言い終わったら気が抜けたのか俺の意識は簡単に闇へと落ちていった。

 

 

「カカカッ! こやつはどこまで耐えられるかのう?」

 

 

 _______闇へと落ちていく意識の中で、邪神が楽しそうに嗤っていたのを耳にしたような気がした。



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003、ん、修羅の道? 当たり前の事だろ?

 9.

 

 

「ごほっ、グッほ……うぇ……」

「カカッ! もう目を覚ましおったか!」

 

 

 目を開けるとそこにあったのは仮面の男と、大量の果物だった。

 そして、仮面の男は美味しそうにリンゴを頬張っている。

 俺のチートがあるにもかかわらずまだ殴られた頭が痛い事を考えると、寝ていたのはほんの1、2時間といったところだろうか? 

 

 

「で、ここは一体?」

「飛行機の中じゃわいのう」

「へ?」

 

 

 ひ、飛行機? 

 飛行機……え? 

 飛行機!? 

 ちょ、ちょっと待て。

 なんで俺は飛行機に乗っているんだ? 

 思い出せ、思い出せ俺……

 って寝てたから思い出すも何も知らねぇよ!? 

 

 

「なんで、飛行機に?」

「われの弟子になりたいんじゃろ?」

「ああ、なるほど……つまりはその道場とかがある場所に飛行機で向かっていると?」

「まあ、そういうことじゃわいのう」

 

 

 うん、弟子入りするとなればそりゃあ相手の方に出向くのは当然か。

 というかフットワーク軽いぞ!? 

 なんでいきなり飛行機が出てくるんだ!? 

 ……ま、まあ、良いか。

 

 

「それで、つい弟子にして貰うように頼み込んだんですけど一体なんの武術をなされているんですか? 

 あ、あとお名前を教えて頂ければ」

「プンチャック・シラットという武術だのう、東南アジアの方では有名なんじゃが知っておるかのう? 

 それと、われの名はシルクァッド・ジュナザードじゃわいのう」

 

 

 プンチャック・シラット……えーと? 

 わからん。

 とりあえず日本の武術じゃない事は分かる。

 えーと、前世で見たようつべの最凶の武術TOP10とか言うのでなんか聞いた事はある気がする。

 それでも何となくだが、この人が一番強いんだろうなということは分かる。

 

 

 良くボクサーとかMMAファイターとかが異名を持っていたりするよな? 

 あれだマグナムパンチとか、音速の拳とか、光速のパンチとか、スモーキーとか、60億分の1とかそんな感じのやつ。

 でも実際にマグナムより強いパンチなんて放てる人は居ないし、音速の拳が放てる人もいなければ光速の拳とか物理的に不可能だ。

 

 

 だが、この人の拳は違う。

 あまりにも速い。

 軽く音を置き去りにするレベルの速さ。

 そしてあまりにも重い。

 まるでトラックに衝突したかのようなインパクト。

 この人に異名を付けるのであればそんなものでは生ぬるい。

 神や邪神といった言葉がまさに相応しい。

 というか実際に神か邪神かなんかだろこの人!? 

 

 

「え、えと……修行を付けて頂けるので?」

「カカッ、弟子入りは断らぬ主義でのう」

「あの〜それでなんですが1つお願いしてもいいですかね?」

「一応聞くだけ聞いておこうかのう?」

 

 

 一つ、一つだけ、これだけは言って置かなければならない。

 

 

「も、もし良ければ手加減」

 

 

 俺がそう言うとピクリと目の前の仮面の男は反応した。

 ま、まさか地雷でも踏んだのだろうか? 

 だが、仮面の男が言ったのは俺が予想したのとは全く別な言葉だった。

 

 

 

 

「手加減をしろ、とか言うのであれば断るのう」

「はい? あ、いえ、むしろ一切の手加減はせずに半殺しでお願いします」

「ほう?」

 

 

 そう、これだけは絶対に譲れない。

 子供だからと言って手加減されていたのでは伸びるものも伸びない。

 せっかく神様がくれたチートがあるのだから最大限に活用するべきだろう。

 それが活用できない生ぬるい修行なんかさせられたら弟子入りする意味が無いどころか、むしろ害悪だ。

 

 

「自分から修羅の道に飛び込むつもりかのう? 

 その先にあるのは地獄しかないわいのう」

「この星で一番、いえ素手で史上最強を目指す一人の存在として当然の事ではないですかね? 

 自分は死の淵を超えて、神の頂へ(範馬勇次郎)と辿り着くつもりですから……

 その為なら地獄の業火ですら生ぬるい」

 

 

 目指す果ては遠い。

 地震を拳一発で止めるとかどうやってんだよって話だ。

 とりあえずの目標は世界中のあらゆる武術を極めて、その上で自分なりの流水岩砕拳(オリジナル)を完成させる事。

 そして、それらを持って単身で堂々とアメリカ戦に挑む。

 もちろん銃や、爆弾等というものが立ちはだかるが、ガロウに銃が流せて俺に流せない道理はない。

 そして、核を超えた時にようやく俺は史上最強、まさに神の頂へと辿り着く事ができるのだ。

 

 

「カカッ! 良く言ったわいのう! 

 これなら洗脳も必要なさそうじゃ」

 

 

 せ、洗脳!? 

 ちょ、怖い怖い!? 

 何が怖いかってこの人ならなんか本気でやりそうなところが怖い。

 

 

「せ、洗脳って……何の為にそんな事をするんです?」

「時おり、心や情といったものに動かされて手加減を加える等という情けない奴がおってのう。

 一つの武として完成する為には仕方の無いことじゃわいのう」

「成程……合理的ですね」

 

 

 心や感情に負けているようでは史上最強になるなんて以ての外だ。

 時々、アニメや漫画等では背負っているもの重みとか信念とかで強さが変わるような事を書いている場合があるが、あれは間違いだ。

 誰か大切な者がそれは明確な弱点になるだけで、あとは大義名分、それをする理由が手に入るだけだ。

 大義名分(そんなもの)に頼らねければ自分の力も出せず、努力もできないようでは史上最強の生物なんて名乗る事はできないだろう。

 

 

 俺が目標とするあの範馬勇次郎もそうだ。

 あの人の強さは心や情といったものが関係ないという事もある。

 人質も効かなければ、情に訴える事も効かなければ、金や権力も効かない。

 対アメリカを視野に入れて、本物の史上最強を目指す俺にとっては心や情(じゃくてん)は不要だ。

 

 

 簡単に纏めると、

 人質をとって脅せるような存在を史上最強の生物だと認めてくれるかと言えば間違いなくNoという事だ。

 

 

「カカッ、面白い奴じゃわいのう」

「そうですかね?」

 

 

 そう言えば他人から面白いやつなんて言われた事はあんまりないな。

 それが出来ると分かっているからやっているだけなのだが、それってそんなに珍しい事なのだろうか? 

 

 

 

 10.

 

 

「さて、着いたぞい」

 

 

 そんなシルクァッドさんに連れられて、やって来たのはインドネシアのティダード王国にある謎の闘技場。

 ……うん? 

 

 

 辺りを見回すと禍々しい玉座やなんかそれっぽい彫刻に、シルクァッドさんがつけているような意味深な仮面が飾られていたりする。

 ……うん? 

 

 

「え、えと……ここは?」

「カカッ! まずはお前さんの今の力量を見ようと思ってのう」

 

 

 そう言うと、シルクァッドさんは消えるようにしてどこかに行ったかと思えば一人の男を連れて帰って来た。

 年齢は15、6といったところか? 

 俺が言えたことでは無いが、そこまで強そうな雰囲気はない。

 

 

『シュトラッド出来るな?』

『は、はい、師匠(グル)

『では、殺せ』

 

 

 何を話しているのか分からないが、とりあえずこの少年が俺の相手なのだろう。

 よかろう……叩きのめしてくれるわ! 

 

 

「こやつはわれの弟子候補のようなものじゃ。

 まずはこやつを殺してみせよ」

「え、殺していいの?」

「構わぬ、殺れ」

 

 

 お、おう……。

 ま、まさかいきなり命のやり取りを経験させるとは思わなかった。

 なんて……な、なんて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 _______良い人なんだ! 

 

 

 普通に考えれば頭がおかしい人か何かに思えるかもしれないが、俺にははっきりとこの意味が分かる。

 殺し、殺されるという命のやり取り。

 強いものが勝ち弱いものが死ぬという自然の摂理。

 俺が史上最強を目指すのであれば当然、誰かを殺す事になるがそれで一々心を乱していたんじゃ話にならない。

 

 

 帰りを待つ家族がいる? 

 大切な恋人がいる? 

 子供がいる? 

 友人が? 

 はっきりと言おう、そんなものは知った事では無い。

 

 

 あの範馬勇次郎がそんなものを一度でも気にかけたか? 

 否、断じて否! 

 そんな弱点を晒したままで史上最強なんて名乗れるわけが無いのだ。

 自分が生きるためには常に他の生き物を殺す必要がある。

 害虫として駆除される虫に然り、食用の豚や牛に然り、ペットとして死ぬまで首輪に繋がれる犬や猫も然り、それは人だって例外ではない。

 

 

 人権? 

 そんなものは所詮合意の上の産物。

 権利と義務なんて話を持ち出す奴も居るだろう。

 だが、そういう奴は根本的に間違っている。

 相手の権利を保障する為に必要なのが義務であって、それを保障する必要性もなければ保障される必要も無い。

 

 

 エゴ、エゴ、エゴ。

 人間なんて所詮はエゴの塊に過ぎない。

 相手を助けるとかそう言う場合だとしても、

 自分がそうしたいからするのであって、

 相手が本当はどう考えているのかも、

 本当はどうすれば良かったのかなんて事も全ては分からないのが人間だ。

 

 

 ならば、俺が人権を守る必要性は無い。

 俺が誰かの権利を保障する必要性も無い。

 ただ殺し、殺される。

 弱肉強食の世界に不純物(そんなもの)は必要無い。

 

 

「ヤァッ!」

 

 

 俺の方へとやって来て、まだ小さな5歳児に全力のキックをお見舞するこの少年を見てみろ。

 素晴らしい。

 まさに武を体現しているじゃないか。

 弟子の育成まで完璧さすがはシルクァッドさんだ。

 いや、弟子候補だったか? 

 

 

 ならば、ならばこちらも応えよう。

 神から授けられた才能と努力によって作られた一撃で。

 

 

「滑水」

 

 

 そんな殺意のこもった蹴りに対して俺は腕を滑らかに滑らせる事で完全に受け流す。

 かなり強い蹴りだったのかもしれないが、真っ向から立ち向かわずに受け流すのであれば力で対抗する必要性は皆無だ。

 

 

 そして、そのまま手を滑らせるようにして相手との間合いを詰める。

 こちらはまだ5歳児、相手とはリーチの差が段違いだがこうして極限まで間合いを詰めてやればそんなものは関係ない。

 

 

 _______チェックメイトだ。

 

 

「岩砕拳ッ!」

 

 

 サイヤ人の能力によって増強されたパワーと体重を一点に込める完璧な重心移動によって繰り出される文字通り岩程度ならばギリギリ砕けるという一撃。

 蹴りを流された後で完全に体勢が崩れているお陰で回避も防御も不可能。

 

 

「うらァッ!」

 

 

 そのまま拳を腹に叩き込むと地面に向かって叩き込むようにして殴りつけた。

 これでまともな人間ならば辞めておくのだろう。

 だが、シルクァッドさんは殺せと言ったのだ。

 ならばトドメの一撃は必須。

 

 

 狙うのは頭部もしくは首だ。

 そのまま足を振り上げると、殺気を込めて全力で振り下ろした。

 グジャリッ! 

 という生々しい音が響く。

 この音が俺は

 

 

 『選択肢』

 →心地よかった。

 ・あまり好きになれなかった。




選択肢は後2つ程考えてます。
適当に作ったプロット的にルートはいくつかありますが、今回はとことん外道でなんの意味もなくアメリカに喧嘩を売りに行くようなラスボス系主人公で行きます(予定)


ルート1→外道
ルート2→覇道
ルート3→殺人拳
ルート4→闇人
ルート5→英雄
ルート6→正義の味方
ルート7→活人拳
ルート8→たとえ悪と呼ばれようとも


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004、ぐふぉっ!?

 11.

 

 

「カカカカカッ! やはりこの程度じゃあ相手にもならんわいのう。

 お前さんを正式な弟子として認めてやるわいのう、これからわれの事は師匠(グル)と呼ぶように」

「はい、師匠(グル)

 

 

 俺がそう言うとシルクァッドさん……いや、師匠(グル)はこちらに向かって構えを取った。

 打ち込めばいいという事だろうか? 

 

 

「お前さんはその年齢でもう既に妙手の域に達し掛けておる。

 ならわれとの組手が一番効率が良かろう。

 好きに掛かってくると良いわいのう」

「はい師匠(グル)、ありがとうございます」

 

 

 師匠(グル)は確かに圧倒的な力と技の持ち主だが、しっかりとそこには合理が存在する。

 圧倒的なまでに研ぎ澄まされており、もはや何がなんだか分からないほどだが師匠(グル)が使っているのは確かに人間が使う人間の為の技なのだ。

 

 

 この組手ではその技術を盗み、自分のものとする良い機会だ。

 それに人間の編み出して作った技ならば破れない道理はない。

 その技の弱点や特徴を知ることも大切だ。

 

 

「フゥ……行きますッ!」

 

 

 身体を前に倒す事で自然に一歩を踏み出し、そのままの勢いで流れを崩さないようにスっと間合いを詰める。

 即座に迎撃の拳が飛んでくるがこれを気合いで見切る。

 

 

「重っも!?」

 

 

 滑水で流すのにはまだ難しいと判断したので普通の化勁を使って、腕を回転させるようにしながら受け流す。

 まともに防いだりなんかしたら即死が確定しているようなものだ。

 あくまでも流す。

 

 

「カカッ、それで終わりなのかのう?」

「いいえ、まだまだァッ!」

 

 

 そのまま身を強引に前へとねじ込む。

 体格差的に安全圏は相手の懐。

 間合いの外側はむしろ危険。

 ならば強引にでも有利な状況に持ち込めば良い。

 

 

「ラァッ!」

 

 

 そのまま全力で拳を叩き込む。

 ここで気が付いた。

 おかしい。

 手応えがない。

 そもそも、こんな簡単に間合いに入れる事がおかしい。

 

 

「残像か!?」

 

 

 よく格闘漫画とかで出てくるこの残像。

 恐らく元はドラゴンボールか何かだとは思うが実際にあれをやってのけるなんて達人とか名人とかそう言うレベルでは無い。

 

 

「カカカッ、上出来じゃわいのう!」

 

 

 咄嗟に後ろから来る攻撃に備えようとする。

 残像が使える程速い奴には1つの共通点が存在する。

 それは相手の背後をやたらと取りたがろうとする事だ。

 

 

 だが俺のその勘はあっさりと外れる事になった。

 

 

「カカッ、ハズレじゃわいのう!」

「が、ぐふぉっ!?」

 

 

 右横から唐突に降ってきた蹴りが吸い込まれるように首に叩き込まれた。

 そしてそのままの勢いで吹っ飛ばされ、勢いよく壁にぶつかって止まった。

 

 

「あ、かはっ……」

 

 

 ちょ、やばいやばい。

 これ首の骨折れたんじゃね!? 

 本来ならこんな攻撃を喰らえば意識が落ちる筈なのにそれすら無い。

 俺じゃなかったら即死もいい所だ。

 

 

「カカッ、今のが当分のお前さんが目指すべき所じゃ。

 しばらくはその傷を治療してやるわい。

 ……治ってからが楽しみじゃわいのう」

 

 

 そう言って師匠(グル)が俺に得体の知れない薬を飲ませるとあっという間に俺の意識は暗闇へと沈んで行った。

 

 

 

 12.

 

 

「カカカカッ、全く……面白いやつじゃわいのう」

 

 

 拳魔邪神は自分が拾ってきた小さな少年を担ぎながら嗤う。

 まるで神に祝福されたような完璧とも言える武術の才能。

 自ら自分を地獄へと追い込み続けるその精神。

 まさに武術をやり、強くなる為だけに生まれてきたようなそんな存在だ。

 

 

 5歳児で既に妙手? 

 そんな話はこの拳魔邪神をもってしても今までに聞いた事すらもない。

 

 

「カカッ、こやつならば本当に到れるかもしれんわいのう」

 

 

 そう、それは自分が望んで止まないもの。

 神の領域。

 この子供ならば人間の限界である超人を越えられるかもしれない。

 そして、自分をその領域まで引っ張り上げてくれるかもしれない。

 

 

 いや……かもしれないではなく、できる。

 この他ならぬ自分、拳魔邪神シルクァッド・ジュナザードなら。

 そこにはいずれ訪れるだろう神との戦いに胸を踊らせる拳魔邪神があった。

 

 

 

 13.

 

 

「さて、今日はお前さんにプンチャック・シラットの技を教えてやるわいのう」

 

 

 あれから一週間程の時間が過ぎ去り、その間に何度となく半殺し、いや9割殺しにされたが、俺は元気だ。

 その間で分かった事がある。

 師匠(グル)、ガチで邪神らしい。

 拳魔邪神なんて呼ばれてこの国の人々から崇拝、いやもう信仰されているような存在だ。

 

 

 そりゃあ、勝てるわけがねぇわな。

 というか本気でこられたら一撃で死ぬ。

 手加減は無用とか言ったが、前言撤回だ。

 まさか小指の先だけでワンパンできるようなそんな相手だとは思わなかった。

 

 

 強い? 

 いや、もうそんなレベルの話じゃない。

 アメリカどころか全世界に対して喧嘩売っても勝てるレベルだ。

 さすが邪神である。

 

 

 今日はそんな邪神様が技を教えてくれるらしい。

 いや、ようやくかよって話なんだが、半殺しにすればする程に俺が強くなるという事を知った師匠(グル)は最初のうちに強くして技に体が付いて行かないなんて事が無いように躊躇なく念入りに死の淵へと叩き込んでくれた。

 まさに邪神の所業だが、それを喜んで自分から受ける俺もちょっとどうかしてるんじゃないかと最近良く思う。

 

 

 元々俺の治癒能力はかなりのチートレベルなのだが、それが師匠(グル)の作る『邪神印の危ないお薬』によって更に加速され、2時間に1回のハイペースで死の淵へと叩き込まれた。

 さすがに修行キチのサイヤ人だってこんな事しねぇよ!? 

 

 

 さて、そんな事より技だ。

 俺の中でプンチャック・シラットの技と言えば師匠(グル)の使う技のようなイメージがある。

 つまりは残像とか分身とか、消える奴とか、音を置き去りにする拳とかだ。

……だめだ、まともな技が一つもねぇ。

 

 

「え、えと……どんな技を教えてくださるので?」

「安心せい、普通の技じゃわいのう」

 

 

そうして教えられたのはジュルスという18つの型のようなもの。

普通にできるまともな型だったが、明らかに人を殺す事を想定した暗殺拳みたいな感じの技だ。

 

 

とりあえず習った技を1~17のジュルス、そして必殺のジュルスと一通り通してみる。

 

 

「えーと、こうか?」

「一回でそれだけできれば上出来じゃわいのう。

 カカッ、今からジュルスだけに絞って組手をしようかのう。

 覚えるには実践で使うのが一番早いからのう」

「はい、師匠(グル)!」

 

 

 言われた通りにジュルスを使って攻めてみるが、手も足も出ずにボッコボコに完封された。

 ……こ、こういう技の練習の時には、ちょ、ちょっと手加減してくれてもいいんじゃないかな?







感想ありがとうございます。
これからも気まぐれに更新していきますのでよろしくお願いします。


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005、闇のお仕事

 14.

 

 

 殴り殴られ、殺し、殺されかけ、そんなこんなで4年の月日が経ちましたが俺は元気です。

 もう9歳、本来ならば小学生3年生に上がる頃なのですが、俺の場合は小学校の学年ではなく武術の位階が上がったようです。

 元々、俺の武術の腕は妙手と呼ばれるクラスだったらしいのですが達人級と呼ばれるランクへとついに登り上げたらしいです。

 

 

 師匠(グル)曰く、史上最速らしいのですがまだ師匠(グル)から一本も取ることができません。

 毎日、毎日組手組手とひたすらに続け、時々やって来た弟子入り希望の人の処理を任される日々。

 厳しい毎日ですが、何とか食らいついてやっていっています。

 

 

 最近の楽しみはティダード王国の観光です。

 インドネシア語を完全にマスターしたお陰でもう誰が何を言っているのか完全に聞き取れます。

 後ついでに師匠(グル)から教わってロシア語と中国語もマスターしました。

 これで元から話せる英語と日本語を合わせると5つの言語をマスターした事になります。

 もう完全なマルチリンガルの一員ですね。

 

 

 ティダード王国で師匠(グル)、拳魔邪神シルクァッド・ジュナザードが信仰されているお陰もあってその教えを受けている俺もなんだが一緒に持ち上げられてしまい、まるで王様のような待遇を受けれたりします。

 ですが、俺が自分の事を流水岩砕拳の使い手とかそう言う風に名乗っていたお陰でいつしか『リュウスイ』という名前だと勘違いされていたのは遺憾です。

 

 

 そして、この事を師匠(グル)に話すともう『東坂』としてのお前は死んでいる事になってるからこれからは『リュウスイ』を名乗れとの事。

 まあ、元の名前はそこまで気に入っている訳でもなかったので別に良いのですが……。

 って俺、いつの間に死んでる事になってたんですかね!? 

 

 

 何も知らされずに死んでいる事にされたのは多少ショックですが、俺の両親にしても自分の息子が行方不明になっている方が辛いでしょう。

 探す手間というものの事を考えれば、ちゃっちゃと死んだ事にして自分で立ち直って貰う方が遥かに効率がいいと思うので別に文句はありませんが、一言くらいは欲しかったものです。

 

 

 流水岩砕拳が半分程完成したお陰で、今は防御だけに限れば師匠(グル)を相手にしても20秒は持ちます。

 それ以前ではどれだけ足掻こうが秒殺されていた事を考えると大進歩だと言えるでしょう。

 師匠(グル)以外を相手にするケースだと元から殆ど完勝できてしまうので実感はあまりありませんが、意外と強くなれたんじゃないでしょうか? 

 

 

 師匠(グル)曰く、20歳未満に限ればの話だと俺は間違いなく最強との事ですが、20に上がるまでには世界最強とまでは行かなくても良いので最高位の達人の一人には上り詰めたいものです。

 っと、長くなりましたがここらで筆を閉じさせて貰います。

 1992年11月22日、リュウスイ。

 

 

 

 15.

 

 

「リュウスイよ、われの代わりに行って参れ」

「は、はい?」

 

 

 ある日、唐突に師匠(グル)に呼び出された俺は一枚の紙を突きつけられた。

 何やらインドネシア語で色々と記載されている。

 読んでみるとそこに記載されていたのは依頼内容と報酬。

 えーと、何なに? 

 

 

 ______________

 

『トム=リドラの抹殺依頼』

 報酬150万£

【依頼内容】

 我社を裏切り、マラッドグループに寝返ったリドラ社の社長の抹殺。

【募集要項】

 達人級以上である事。

 ______________

 

 

「って、もろに抹殺の依頼じゃないですかこれ!?」

「カカッ、そろそろこういう事を経験するのも良かろう? 

 自分の仕事故、報酬は好きに使うとええわいのう」

 

 

 抹殺依頼。

 というかえ? 

 これポ、ポンドっすか? 

 1ポンド140円だとしたらなんとお値段2億円。

 これだけあればしばらく豪遊しまくれる事間違いなしだ。

 

 

「い、行ってきます」

「カカッ、ただし走って行くようにのう」

「え?」

 

 

 うん? 

 い、今……な、なんって? 

 思いっきりこの依頼の場所ヨーロッパ、それもイギリスなんだが地球の裏側(そんなとこ)まで走っていけど? 

 

 

「あの、海があるんですけど……」

「海の上くらい走れる筈じゃわいのう」

「い、行ってきます」

 

 

 師匠(グル)が言外にさっさと行けと言ってきたのでそのまま全力でイギリスに向かって走り始めた。

 こうなったらもうやけだ。

 何も気にせず直線距離を走り抜けるぜ。

 

 

 俺ももう達人級だけあって、水の上を走るなんてお茶の子さいさいだ。

 問題は水の上を走っている間は休む暇が無いということだが、師匠(グル)のお陰で俺の体力は化け物クラスになっており数日程度であればぶっ通しで組手を続けられる程だ。

 なら後は気合と根性の問題でどうにかなる。

 

 

「うぬぐぉぉぉぉぉっ!?」

 

 

 走った。

 疾走った。

 とにかくひたすらに走り続ける事、丸2日。

 ようやく俺はイギリスまで辿り着いた。

 

 

「はぁ、はぁ……ぜぇ、ぜぇ……おぇ……は、走り、走り切ったぞぉぉぉぉッ!」

 

 

 インドネシアからロンドンまでのノンストップランなんてバカバカしい真似を見事成し遂げるなんて自分でも少し驚きだが、これが圧倒的な筋力による暴力というものだ。

 パスポートも何も無く、検問とかそう言うのもガン無視してやって来たので後々何か問題になるかもしれないが、そんなものは俺が史上最強の名を手に入れさえすればいくらでももみ消せるものだろう。

 そんな事よりも今は依頼だ。

 

 

 とりあえず依頼主に話を聞いて、そこから人狩り行ってホテルで寝る。

 もう睡魔が俺に襲い掛かり始めているので、今日の内に終わらせたいところだ。

 

 

「で、えーと……依頼主のオフィスは〜っと……」

 

 

 ロンドンに着いた俺は依頼書片手に街中を走り回るのだった。

 

 

 

 16.

 

 

「はぁ、てめぇみてぇなガキが依頼を受けるだァ? 

 家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな」

 

 

 俺が依頼主のスコットさんの元まで向かうと、ボディガードらしきムッキムキの大男からイチャモンをつけられた。

 確かに見た目も実際も完全に子供。

 リアル9歳児に抹殺の依頼がこなせるかと言えば普通はNoだろう。

 俺だってそう思うが、生憎と何事にも例外というものはあるものだ。

 それはそうと馬鹿にされ続けるのはいくら何でも見過ごせない。

 

 

「……ぶっ殺しても良いかなこれ」

「あ、いえ、これでも腕は確かで……

 わ、私の1番のボディガードですので、そ、それは流石にやめて頂けると……」

 

 

 そのボディガードに対してスコットさんの方はいかにも気の弱そうな感じの人といった感じだ。

 こんな人が抹殺依頼を頼むなんて人は見かけじゃ分からないものだ。

 

 

「とりあえず報酬は後払いで現金一括で頂ければ問題ありません。

 それでよろしかったですかね?」

「は、はい、ええ、大丈夫です」

「ちょっと待やがれッ! 

 てめぇみてぇなガキにこの依頼がこなせんのかアン?」

 

 

 ああ、うるせぇ。

 こっちは眠いんだ。

 さっさと依頼を終わらせたいのになんなんだこの馬鹿は。

 

 

「すいません、とりあえず話の邪魔ですので眠らせても?」

「え? ええ、ど、どうぞ……」

「ア? この俺を眠らせるだァ? 

 やれるもんならやってみやが、ガッ!?」

「うるせぇ、さっさと眠れ」

 

 

 背後に回って後頭部に手刀を一撃。

 この程度の雑魚であればもうこれだけで大体は片がつく。

 腕が立つとは言ってもそれは一般人から見た話で、この男の実力は高く見積っても精々が妙手の最下級だ。

 間違いなくその実力は弟子級の上位といった所だろう。

 

 

 その程度の実力の持ち主が、仮にも達人級(マスタークラス)の名を冠する俺に勝てるわけが無い。

 しかも俺を子供と油断しまくりで、実力の差すら見抜けないこの男なら一発ももてばいい方だ。

 

 

「っと、私の実力はこの程度です。

 ご不満はありますか?」

 

 

 気絶させた男を椅子に座らせながらニッコリと微笑むと依頼主の顔が一気に真っ青になっていった。

 ……まあ、こんな子供が結構な大男をワンパンで倒せばそりゃあビビっても仕方がないか。

 

 

「い、いえいえ、滅相もない!」

「なら、今相手の居る場所と主な護衛とかを教えて頂けますか?」

「は、はぃ! ほ、本社ビルにいると裏は取れてますが、げ、現在アイツにはマラッドグループの護衛がついておりまして……」

 

 

 護衛ねぇ。

 どのくらいの腕かは分からないが、せめて達人級であって欲しいものだ。

 全く楽しめずに単なる単純作業になるのであれば、せっかく走ってここまで来た意味も半減するというものだ。

 

 

「その護衛について教えて貰えますか?」

「恐らくですが、アイツの護衛はマラッドグループに雇われている『イー・リャオソン』という中国拳法の達人です」

 

 

 イー・リャオソンねぇ……いかにもって感じの名前だが、師匠(グル)から聞いた特A級の達人の中にそんな名前はなかった筈だ。

 偽名を使っているという可能性を除けば、そいつは俺と同格かそれ以下という事になる。

 ならば毎日毎日、ひたすらに超格上と戦い続けた俺にとっては楽勝だと言えるだろう。

 

 

 単純に相手をすれば結果は分からないが、俺の依頼はその同格の相手をすり抜けて対象を抹殺、殺すことだ。

 何かを守りながら戦うなどというハンデを抱えた状態で同格の相手に勝てるかと言われれば間違いなくNoだと言える。

 何かを守りながら戦う者が強い等というのは幻想に過ぎないのだ。

 

 

「ふむ、とりあえずそれだけ聞ければ大丈夫です。

 では可能であれば証拠の生首をもって参りますので、しっかりと報酬を用意してお待ちください」

「は、はい! よ、よろしくお願いします!」

 

 

 こうして俺の初めての闇のお仕事が始まるのだった。






~次回予告~
「なんと、ティダード王国からイギリスまでの距離は約1万2000km、そんな距離を一切休ますに走り切った主人公。
え、地球の裏側じゃないって?
そんなの気にしたら負けよ、負け!


次回は中国拳法の達人VS流水岩砕拳の使い手とかいう謎の異種マッチ!
自称中国拳法の達人として中国拳法に勝って欲しい作者の心と主人公を勝たせたい作者の心が揺れ動く、さあ、その結果はいかに!?
頑張って、達人!
ここを耐えれば護衛対象を護れるんだから!


次回、達人死す。
デュエルスタンバイ!」




次回もまた来てね♪


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006、スタイリッシュ社長スレイヤー

 17.

 

 

「ここがリドラ社の本社ビルか……」

 

 

 依頼主のスコットさんが教えてくれた場所に向かうと、そこにはそれなりに大きなビルが立っていた。

 社長室は一番上らしいので正々堂々正面から乗り込むと少しめんどくさい。

 さて問題だ。

 こういう時はどうすれば良いか? 

 

 

「答えはこうだ!」

 

 

 隣に立っているビルを駆け上がり! 

 そのまま全力で壁を蹴り! 

 ターゲットのビルの窓をぶち破る! 

 これぞまさに、ダイナミック入社だ! 

(`・ω・´)キリッ

 

 

What(なんだ)!?」

「HAHAHA! I'm your killer(俺はお前を殺す者だ)!」

 

 

 適当に名乗りを上げつつ、そのままターゲットの頭を抉り取るために勢いよく貫手を放つ。

 かなり良い一撃だったのだが、当然殺し屋だと名乗りを上げてから攻撃するような真似をしたら防いでくださいと言うようなものだ。

 

 

「ふんっ!」

 

 

 俺の貫手はあっさりとボディガードらしい男の手によって防がれてしまう。

 その手付きを見る限りではかなり戦い慣れしている百戦錬磨の達人といった所だろうか? 

 

 

「イー・リャオソンか?」

 

 

 俺は間合いを詰めながら中国語で尋ねる。

 すると、相手は一本身を引きながら答えた。

 

 

「いかにも、私が伊遼孫だ」

 

 

 歳は40代、見るからに中国人といった感じの男だ。

 身長はかなり高めで、体格差的にはかなり不利だが、そんなものはいつもの事だ。

 一応、念を入れてその辺の店で買った仮面を付けてはいるが調べれば俺の情報なんてすぐにバレてしまうだろう。

 まあ、隠すような情報なんてないんだがな。

 

 

「……ほう?」

 

 

 一歩ずつ間合いを詰めていくと、その度に伊遼孫はターゲットのリドラを庇いつつ後ろへ後ろへと下がっていく。

 だが、先程の一瞬でこちらはドアを背にしており逃げるには俺が割った窓から飛び降りるしかない。

 だが、当然そんな隙を見せれば俺の追撃を避ける事などできるわけが無い。

 

 

 更に一歩間合いを詰めるとついに二人は窓を背にしてしまう。

 これで背水の陣の出来上がりだ。

 

 

「ひ、ひィ!? お、おい!? 

 か、金は払ってるんだ! 

 な、なん、何とかしてくれよ!?」

「いえ、相手は間違いなく格上、恐らくは私が負けるでしょう」

「おいおい……、こんな小さい奴を格上呼ばわりするとは大したボディガードだな?」

 

 

 俺が少し笑いながらそう言うと、伊遼孫はしっかりと構えを取りつつ答えを返した。

 

 

「まさかこんな所で闇の十拳の一人に出くわすとは思わなかったぞ。

 そうだろう?」

 

 

 闇の十拳? 

 なんだそりゃあ? 

 四天王や十二天将とかそう言う感じの匂いがするのでめちゃくちゃ強い10人の拳法家とかそう言う事だろうか? 

 残念ながらまだ俺はそんな10人にカウントされる程の力を持った訳では無いんだが……。

 

 

 まあ……別に良いか。

 過小評価されるのは嫌いだが、過大評価されるのは嫌いじゃない。

 この男がそう思ったのならそう思わせておけばいいのだ。

 

 

「ふっ、闇の十拳? なんの事だ? 

 俺はただのスタイリッシュ社長スレイヤーだ。

 そんなものは関係ないな」

 

 

 そう言って俺が一歩前に出るとついにお互いの制空圏が重なった。

 ここから一気に攻撃に入ってもいいのだが、更にプレッシャーを与えるようにもう一歩だけ間合いを詰める。

 

 

「くっ!」

「どうした? 別に打ち込んで来ても構わんぞ?」

 

 

 こっちは防御主体でついでに静の気の流水岩砕拳。

 相手が攻撃しないのであれば、そのまま師匠(グル)に教わったプンチャック・シラットでめっためったにするだけだが、せっかくの初仕事なのでここは流水岩砕拳を使うべきだろう。

 さあ、どこからでも打ち込んで来い。

 言外にそう言いつつ、更にもう一歩間合いを詰めると流石にこれ以上詰められるのを嫌ったのか、かなり激しい拳が飛んできた。

 

 

「覇合崩拳ッッ!!!」

 

 

 もう必殺の間合いとも言える超至近距離から放たれる崩拳、中段突きが物凄いスピードで俺を捉えようと襲ってくる。

 毎日毎日、拳魔邪神である師匠(グル)と組手という名の暴力を受けている俺でも、もちろん当たればかなりのダメージを受けるだろう。

 だが、

 

 

「……流水」

 

 

 _______当たらなければどうということはない。

 

 

 

 右手を使ってまるで流れる水のように自然に攻撃を流す。

 あくまでも力を外側に加えることによって流すだけであって、真っ向面から防ぐような真似は絶対にしない。

 体格で負けている相手に対して正面から挑むなどただの馬鹿としか言えないだろう。

 

 

「なっ!?」

 

 

 そしてそのまま相手の拳を受け流した勢いを使用して右手が相手の方へと向かっていく。

 まさに攻防一体となった究極の武。

 それが、流水岩砕拳だ。

 

 

「岩砕拳ッ!」

「うぐッ!?」

 

 

 流水の後にやってくる俺の右手による一撃は伊遼孫が攻撃に使わず残った反対側の手、右手による化勁で受け流されてしまうが残念ながらこちらにはまだ左手が残っている。

 それに対して伊遼孫は左手を崩拳に、右手を化勁にと両方とも使っており、更には崩拳を放つ時に脚までもを使い切っている。

 ここから経ち直す為には更に一動作が必要なのだが、そんなものはできる暇は無い。

 

 

「はァっ!」

「グアッ!?」

 

 

 俺が左手で狙うのは一撃での決着が狙える首。

 どうやっても鍛えようが無い人間の弱点にして、最大の急所に全力全開の殺意を込めた貫手を放つ。

 

 

「さぁ、死に急げ!」

 

 

 当然、その抜き手を避ける事が出来なかった伊遼孫は俺の強烈な貫手をくらい、床へと崩れ落ちる。

 一手、二手、三手のたった三つの攻防だったが、これでも普通に凄いことだ。

 普通、格上と当たるのであれば最初の一手目で大体勝敗が決まるのだ。

 

 

「さて、護衛も居なくなったが、俺も鬼じゃない」

「ひ、ひぃ!? か、金か! 

 金なら出す! そ、そうだ、お前の雇われた額の1.5、いや2倍だす! 

 た、頼む! 見逃してくれ」

 

 

 話をしようとした途端に謎の命乞いタイムが、始まったが別に俺はそんな事を望んでいるわけじゃない。

 こういう場面でやることと言えばたった一つだけだ。

 

 

「いや、遺言でも聞いておこうと思ってな?」

「ひ、ひぃッッッ!?」

 

 

 俺がそう言うと、リドラは情けなく悲鳴を上げて後ろに下がろうとするが残念ながら後ろは壁でこれ以上下がる事は出来ない。

 まさにチェックメイトと言うやつだ。

 

 

「さぁ、死ね!」

「はァっ!」

 

 

 そう言って、首を刎ねようと手刀を放ったのだがそれはいきなり蹴りが飛んできた事によって中断する事になった。

 そう、伊遼孫が立ち上がったのだ。

 

 

「させぬ、やらせはせぬぞ!」

 

 

 ……あ、あれを受けて立つのか? 

 すげぇ根性だな。

 普通の人なら確実に死ぬ一撃、普通じゃなくてもまず間違いなく意識は落ちる喉への貫手。

 まさかそんなものを受けて再び立てるなど思いもしなかった。

 

 

「もうふらふらだな。

 ゆっくりそこで寝ていたらどうだ?」

 

 

 いかにも限界といった感じでふらふらと立ち上がる伊遼孫に俺は優しく声を掛けるも、その提案は当然のように却下された。

 

 

「ああ、そうしたいのは山々だが、このリドラ社長を殺させる訳には行かないのでな! 

 返しても返しきれぬ恩というものがあるのだ!」

 

 

 恩、恩ねぇ……これじゃあ丸っきり俺が悪者みたいじゃないか。

 いや、というか実際俺が悪者なのか? 

 うん……殺しの依頼受けてるしな。

 ならもういっその事、魔王ロールでもしてみるか? 

 この傷では俺が勝ったも同然、ならば少し遊んでも問題は無いはずだ。

 

 

「ふふふ、ふははっ! フゥーッハハハハハハ! 

 良かろう、ならばその恩とやらの為にこの俺を超えてみせろ!」

 

 

 俺は大きく高笑いを上げて発破を掛けてみる。

 これで更に立ち向かって来て良し、立ち向かえずに崩れるのであれば依頼が達成できて良しだ。

 

 

「我が生涯を掛けて積み上げた武の全て、その身で受けてみろ! 

 行くぞぉぉぉッ!」

 

 

 伊遼孫はそう言って全力で、次の一撃に全てを込めるようにして固く、強く構えを取る。

 それに対してこちらも奥義の構えで返事を返す。

 

 

「来い!」

 

 

 そして、俺がそう言うと伊遼孫は始めに俺に対して放った崩拳のもっと凄い版を放って来た。

 それに対して俺が使うのは当然、初歩にして極意。

 全てを受け流し、そして全てに対してカウンターを放つ最強の拳。

 

 

「覇合崩拳!」

「流水岩砕拳!」

 

 

 今ここに2つの奥義がぶつかりあった。

 そして、盾と矛その勝者は言わずもがな俺だ。

 

 

「ふんっ!」

「グワガァァァァァッッ!?」

 

 

 そして、俺の流水岩砕拳によるカウンターが綺麗に顎にクリーンヒット。

 伊遼孫はビルの窓を突き破ると、そのままの勢いで大きく下へと落ちていった。






主人公のそこはかとない強ボス感が出せたらいいなぁ(粉みかん)。


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007、闇

 18.

 

 

師匠(グル)、リュウスイただいま帰還しました」

「カカカッ! 意外と早かったのう」

 

 

 あの後ターゲットの首をそのまま持ち帰りそのまま現金で報酬を受け取ると、そのままホテルにダッシュして一泊。

 お土産のイギリス産の果物を大量に買い込んで帰りは飛行機だ。

 行きは走っていけと言われたが別に帰りは指定されてないからな。

 飛行機で楽々と帰還させて貰った。

 

 

「どうぞ、これがイギリス産の最高級果物の詰め合わせです」

「カカッ、でかしたわい」

 

 

 だが、気が付かれて後で文句を言われても困るのでここで果物の詰め合わせを差し出す。

 師匠(グル)の好きそうなものを片っ端から買って来たのでそれなりに喜んで貰えるだろう。

 

 

「ふむ、意外と美味いのう」

 

 

 俺が師匠(グル)に持って帰ってきた箱を全部渡すと、早速と言わんばかりに食べ始めた。

 仮面を付けているのであんまり分からないが、超凶悪と行ってもいい師匠(グル)も果物を食べている時だけは雰囲気が柔らかくなる。

 そんな事を口に出しでもしたら間違いなく拳が飛んでくるが……。

 

 

「そりゃあ一応最高級ですからね」

「カカッ、それで初めての仕事はどうじゃったかのう?」

「そうですね……ボディガードの中国拳法使いとの戦いは良い経験になりました。

 それなりの奥義も1つ盗めましたしね」

 

 

 俺が盗んだ技というのはもちろんあの人が使っていた覇合崩拳の事だ。

 一度だけならまだ奪えなかった可能性はあるが、二回も見れれば大抵の技はその場で盗み取れる。

 武術の技というのは何かしらの動作を複合して組み上げるパズルのようなもの、そしてそのピースが揃っていれば後は組み立てるだけで良いのだ。

 

 

 ならば基礎とそこから生まれる合理をとことん突き詰め、その武術(パズル)必要素(ピース)の数を膨大に増やしていけばいく程に使える技もその分増えていくのだ。

 どれだけの才能を持っていようとも、土台がなければ城は立たないというわけだ。

 

 

「カカッ、お前さんの見取りの技術だけはもはや超人級じゃわいのう」

 

 

 俺のその見取りの才能は師匠(グル)でさえも驚く程のものらしい。

 恐らくだが神様のお陰だろう。

 祈っておこう。

(-∧-)合掌。

 

 

「ああ、それでその達人が闇の十拳なるものを口にしていたのですが師匠(グル)はご存知ですか?」

「カカカカッ! まさかお前さんからその名が出るとはのう。

 われも十拳、その中でも王のエンブレムを持つ達人じゃわいのう」

 

 

 ……お、おう? 

 流石は師匠(グル)、王の称号とかどこからどう聞いても一番強そうだ。

 帝とかがあれば別だが、この拳魔邪神シルクァッド・ジュナザードを差し置いてそんなものを名乗れる者がいるのであればもうそいつは間違いなく世界最強と言っても良いだろう。

 

 

「そのエンブレムって他には何があるんですかね?」

「王、水、影、空、流、氷、月、炎、鋼、無じゃわいのう。

 王のわれと、水の女宿以外はお前さんより少し格上と言った感じじゃわいのう」

 

 

 その後、師匠(グル)から闇の十拳についての説明を受けたのだがどうやら闇とかいう世界を裏から操る謎の巨大組織があるとの事。

 そして、その闇は大きく2つ派閥、無手組と武器組に別れているらしく、闇の十拳とはその無手組の中でも上位10名の事を言うらしい。

 そこにランクインできた者には殺人許可証(フリーマーダラー)という、その名の通りに殺人をしても一切の罪に問われない資格のようなものが常に発行され、他にも色々な面で高待遇を受けれるみたいだ。

 何それやべぇ。

 

 

 そんな闇の十拳になる方法は3つ。

 1つは弟子として引き継ぐという真っ当な方法。

 2つ目は十拳の誰かが死んだ時にその代わりとして引き継ぐというこれもまた真っ当な方法。

 ここまではいかにも普通な感じなのだが、最後の一つは違う。

 

 

 3つ目は倒す、もしくは殺して奪い取るという方法だ。

 めちゃくちゃアレだが実にシンプルだ。

 上から十人の猛者を判断するにはこれ以上ない程の完璧な回答だと言える。

 

 

 だが、そうやって世代交代を繰り返す闇の十拳は他の無手組の者と比べれば格が何段も違うらしい。

 その中でも王の十拳だけは名前を呼んだだけでも寿命が3年縮むと噂される程には強いらしい……そりゃあ勝てるわけないわな。

 

 

「流のエンブレム欲しいですね……」

 

 

 俺が取りに行くのであれば問答無用で流のエンブレム一筋だ。

 だって俺、流水岩砕拳の使い手だぜ? 

 名前も流水だし、流の一文字を逃すような真似はするべきじゃないだろう。

 もし仮にこれで炎とか取ったりしたら笑い話じゃ済まない。

 

 

「カッカッカ、まだまだお前さんには早いわいのう」

「確かに、まだ達人級に達しただけですからね。

 せめて特A級まで上がってから狙いに行きますよ」

 

 

 師匠(グル)の言う通り、今の俺では特A級の達人を相手にすれば時間稼ぎがせいぜいで倒すなんて無理だ。

 弟子級や妙手級であればまぐれで勝ちを拾えるかもしれないが、達人級以降になってくると油断しているとか手加減をしてくれたとかそう言うケースを除けば基本的に階級が一つ上の相手を倒すなんて事は不可能だ。

 仮にエンブレムを狙うのならば満を持して、全力全開で言い訳の一切利かないように圧倒的な実力差をもってぶっ殺す。

 それだけだ。

 

 

 

 19.

 

 

 

「では師匠(グル)、離れていた分の組手をお願いします」

「カカッ、熱心な事じゃわいのう。

 どこからでも掛かって来るとええわい」

 

 

 最高位の達人である師匠(グル)はともかく、まだ俺は特A級の達人にも勝つ事が出来ない。

 だからやる事はたった一つ、鍛練あるのみだ。

 

 

「はい、では行かせて貰います……」

 

 

 どこからでも掛かって来いと言った師匠(グル)の隙を窺うが、やっぱりどこにもそんなものは無い。

 何かに集中している時や、果物を食べている時にはほんの少しだけ気が緩んだりする時はあるもののそういう時でさえも師匠(グル)に攻撃を仕掛けたらあっと言う間に殺されるか、取り押さえられるかしてしまうだろう。

 

 

 師匠(グル)を人間だと思って掛かったらその時点で負けている。

 この目の前の存在は神、それも凶悪極まりない最凶の邪神だ。

 一本でも取りたければ一切の容赦なく、卑怯な手を使って殺意をもって当たるしかない。

 

 

「はァッ!」

 

 

 しかし、そんな事は向こうも想定済み、ならば最初は正面から行く。

 これが最善にして最高の策だ。

 

 

「カッカッカ、正面から来るとは度胸があるわいのう」

 

 

 そのまま師匠(グル)の方に向かって全力の蹴りを叩き込もうとする。

 当然真正面からの蹴りが当たるわけが無い。

 だが、蹴り狙いは師匠(グル)じゃない。

 

 

砕石目隠し(ストーンブラインド)!」

 

 

 バコンッと何かを粉砕したような音がきこえてくるが、俺が蹴ったのは当然師匠(グル)では無い。

 蹴りと同時に師匠(グル)からは見えない様にこっそり投げた小石だ。

 

 

『カカッ、よく考えたわいのう!』

 

 

 気当たりを駆使して言外にそう伝えてくる師匠(グル)に、『今日こそは一本、頂きますッ!』とこちらも気当たりを使って返信する。

 超高速で行われる達人同士の戦いではある意味必須とも言える気当たりの運用で行うテレパシーのようなものだ。

 

 

 この奥義、【念話】は俺が作った最初の奥義だ。

 奥義といってもほんの小技のようなものだが、超高速で戦闘を行っている間に会話なんてする暇がある訳が無いのでこれを使える者と使えない者との間では天と地程の差が出るのだ。

 

 

「オラオラオラオラオラオラァッッ!!!」

 

 

 目を潰したら後はひたすらに猛攻撃を加え続ける。

 一発一発に殺意と気合を込めて全力で殴り続けるが、俺のその攻撃全ては目を瞑った状態の師匠(グル)にあっさりと受け流された。

 目を使わずに攻撃を防御するとか一体どうやってんだよ……。

 

 

「カッカッカ、まだまだわれには届かぬわいのう」

「しまっ!?」

 

 

 俺がその師匠(グル)がどういう原理で避けているかを探ろうと一瞬だけ気を緩めたその瞬間に一発だけ拳が完全に空を切った。

 

 

「残像!?」

「正解じゃわいのう!」

 

 

 殴ったその師匠(グル)を残像だと見抜いた時にはもう時すでに遅し。

 

 

「アビシッ!?」

 

 

 完全に俺の顎へと師匠(グル)の蹴りがクリーンヒットし、顎が砕かれるような感触が襲ったかと思えば意識がカクッと、まるでブレーカーでも落ちたかのように一気にブラックアウトした。





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008、卒業試験

 20.

 

 

 師匠(グル)のもとで修行を始めて、早くも7年の時が経った。

 12歳と、もう小学生から中学生へと上がる頃合いだが、俺の武術階級が特A級へと上がったかと聞かれると正直言って微妙な所だ。

 

 

 その間に数多くの小技を編み出し、まるで人間ビックリ箱のような存在にはなれたものの俺の実力はまだまだこれからと言った所で、師匠(グル)からはまだ一本も取ることが出来ていない。

 そんなある日、師匠(グル)に試験をするとか言われて珍しく海外へと足を運ぶ事になった。

 

 

「で、これってどこに向かってるんですか?」

 

 

 飛行機に乗り込んだのは良いものの行先も特に伝えられておらず、今度は誰と死合いをすればいいのかさっぱり分からない。

 向かっている方向は北アメリカの方なので北アメリカで有名な武術を使う人物が俺の相手なのだとは思うが……北アメリカって一体なんの武術が有名なんだろうか? 

 ボクシングとMMAくらいしか思いつかないのだが、そう言う事で良いのだろうか? 

 

 

「カカ、お前さんが欲しくて止まないある物を持っている男の元じゃわいのう」

「俺が欲しくて止まないものですか?」

 

 

 んん? 俺が欲しいものか……。

 俺が現在進行形で今すぐにでも欲しいものといえば、史上最強の生物の称号と師匠(グル)からの勝利といったものくらいだ。

 うん、無いな。

 

 

 ということはそのうち手に入れるつもりのものか? 

 まずは可愛い嫁。

 俺は童貞を捨てるぞジョジョ〜ッ! 

 次に、莫大な資産。

 俺は仕事を捨てるぞジョジョ〜ッ! 

 そして、最後に殺人許可証(フリーマーダラー)

 貴様は今までに殺した人間の数を覚えているのか? 

 

 

 え? 最後だけやたら物騒だって? 

 いや、だって……ねぇ? 

 武術のチートとサイヤ人の力と、そしてどんな怪我を負っても回復できる圧倒的な再生能力があれば誰だって戦いたくなるだろう? 

 ついでに、世界最強とかも目指したくなっても仕方がないだろう? 

 

 

 そして戦えば相手は死ぬ。

 つまりはそういうことだ。

 一々、一つ一つ警察沙汰とかにされたら面倒とかそう言うレベルじゃ済まない。

 最悪他の殺人拳の達人や闇に所属する達人とかに追われる羽目になる。

 それが単なる達人ならまだ良いんだが、師匠(グル)並の力を持った化け物に襲われるかもしれないとなると話は別だ。

 

 

 最近闇の十拳から一影九拳へと名前を変えたらしい上位十人とかに奇襲でも受ければ今の俺なら最悪即死しかねない。

 特にその上位三名、師匠(グル)、妖拳の女宿、一影の3人はもはや人間と言うより化け物といった方が正しいだろう。

 数十年と闇のトップに君臨してきた二人(バケモノ)は言うまでもないが、確実にその片割れたる妖拳の女宿より強いとか師匠(グル)が言う程の一影も当然今の俺が戦って勝てるような相手ではない。

 

 

 ってあ! 

 もしかしてだがアレか? 

 これならば俺が欲しいものの一つだと言えるし、結構前からこれを目標にして頑張ってきたのだ。

 

 

「もしかして流のエンブレムですか?」

「カカ、そういう事じゃわいのう」

 

 

 これならば良い試験になる。

 なんせ、相手は闇の上位10位に入る猛者。

 闇の十拳からその名前を一影九拳へと変えようとも、その強さには何ら変わりはない。

 間違いなく相手は特A級の最上級とも言える達人なはずだ。

 これならば試験という言葉もピッタリだ。

 

 

「も、もしかしてこれって卒業試験的なアレですか?」

「カッカッカ、これで仮にお前さんが負ける様な事があればどうなるかは分かっておるのう?」

 

 

 お、おう……。

 つまりは負けるようならぶっ殺すって事ね。

 好意的に解釈すると今の俺の実力ならば確実に良い勝負ができると邪神直々にお墨付きを貰ったようなものだ。

 なんか自信が出てきたな。

 これで勝てれば堂々と特A級を名乗れるというものだ。

 

 

 それに現在の流のエンブレムを持つ一影九拳は打撃を主とするボクシングの使い手であり、俺の流水岩砕拳と相性がいいとも言える。

 相手が柔術系だったらわざわざ流水岩砕拳に拘らずに普通にプンチャック・シラットとか空手の技を使った方が強いので俺のオリジナルの見せ所が完全に無くなるのだ。

 

 

 相性と言ってもそれくらいで、別に俺が苦手としているタイプが居るとかそう言う話ではない。

 最悪そう言う相手が居たとしても俺の固有奥義、見様見真似(デッド・コピー)を駆使して相手の技をその場で奪いながら戦えば肉体のスペック的に多分勝てる筈だ。

 所詮は見様見真似にしか過ぎないので相手の技量次第では簡単に崩されたりするのだが、そんな事が出来る存在は今のところ師匠(グル)くらいしか居ないので同格相手なのであれば相手の技だけに絞って戦ってもそれなりに戦えると思う。

 ……せめて同格であって欲しいものだ。

 

 

「もちろん命を懸けて、死ぬ気で戦いますので師匠(グル)の手を煩わせる事は無いと思いますよ。

 負ける時はそれ即ち死だけですからね」

「カッカッカッ! さすがはわれの弟子じゃわいのう! 

 武術に対する心意気まで完璧じゃわいのう」

 

 

 負ければ死ぬ。

 そんな事はいつもの事だ。

 俺は自分が何もせずにのほほんと明日を生きれるとは思ってはいないし、明日とは自分の力で強引に掴み取るものだと思っている。

 本気を出して、ひたすらに死ぬ気で明日なんてものを気にせずに今を生きる。

 

 

 今の俺にとっては、もはや当たり前の事なのだがこれがなかなかに難しい事なのだ。

 何せ、人間は当たり前な物事に対して意識を向けるのが下手だからだ。

 自分が今も生きていれば、何となく明日も大丈夫だろうなんて甘い考えで生きてしまうのが人間という生き物なのだ。

 

 

 師匠(グル)の弟子として、一人の今を生きる生き物として、その前に立ち塞がる者はどんな相手であろうとも、躊躇をせずに全力で殴り殺す。

 それが相手に対しての精一杯の誠意であり、それ以上は不要。

 相手がどんなものを背負っていようとも、相手がどれだけ高潔な思想を持っていようとも、相手が何を成そうとしていても、そんなものは丸っきり関係ない。

 

 

 ただ殺し、殺される。

 そんな武の中に情や心といった甘えは不要なのだ。

 そういったものを持ち込みたいのであれば、武術の外側で自由にしていればいい。

 俺と師匠(グル)武術に関する心の有り様というのは極めて近いのだ。

 

 

 合理、最強、最短! 

 この3つを突き詰める上で不必要な要素はとりあえず置いておけば良く、武術にはそれさえあれば問題ないのだ。

 

 

「カカ、そろそろ着くわいのう」

「……そう言えば聞いてませんでしたがどこで降りるつもりで?」

 

 

 唐突に荷物を纏めようとした師匠(グル)に疑問をぶつけると、半ば予想していた答えが帰ってきた。

 

 

「カカッ、この後ろのドアから上空で降りるに決まっておるわいのう」

「……」

 

 

 え? 

 ちょ、パラシュートないんですけども!? 

 もしかしてこれってゴム無しバンジーとかそういうやつか!? 

 

 

「さて、そろそろ行くわいのう」

「と、飛べ……と?」

「パラシュートが無いのであればそのままジャンプするしかないわいのう」

 

 

 俺がその師匠(グル)の言葉でビビっていると、飛行機の後ろ側のドアが大きく開いた。

 いや、え? 

 ここ上空1万メートルなんだがガチで飛べと? 

 

 

「え、えと……本当にパラシュートとかなんにもないんですか?」

「カカカ、さっさと飛ぶわいのう」

 

 

 ……仕方ない飛ぶか。

 師匠(グル)が飛べと言ったらどうせ飛ぶ以外の手段なんて元から用意していないのだ。

 結局どう足掻こうと変わらないのであれば、やっぱり飛ぶしかないというものだ。

 

 

「I can't fly!!!」

 

 

 とりあえず全力の受け身体勢を整えると、俺はそのままダッシュして飛行機のドアから飛び降りたのだった。





毎度毎度誤字脱字報告を下さる方へ
本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
m(*_ _)m


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009、流のエンブレム

 21.

 

 

師匠(グル)、この人がその流の一影九拳、ウェイコット・ソムファンですか?」

「カカ、いかにも、あやつがお前さんの獲物じゃわいのう」

 

 

 上位1万メートルからの紐なしバンジーをし、綺麗に森の中へと着地を成功させると、そのまま師匠(グル)に連れられて歩く事3分。

 ほんの少しだけ歩くと少し開けた場所で一人の男が待ち構えていた。

 この筋骨隆々な金髪の男は闇ボクシング界の王者、ウェイコット・ソムファンだ。

 

 

 ……強い。

 あまりにも強い。

 今の俺と比べても更に一回り程は強いと言えるだろう。

 その拳は大砲の一撃を遥かに上回り、もし仮に一発でも喰らえば例え俺でさえもその場でこと切れてしまうだろう。

 そんな彼に一発即殺(ワンショットキラー)の異名はまさに相応しいと言える。

 

 

「……貴様が俺に挑む拳魔邪神の弟子か?」

 

 

 出会ったその瞬間から既にその男はとてつもない眼力でこちらを睨めつけていただけだったが、ようやく口を開いた。

 な、なんというアナゴさんボイス……。

 あの声優さんが英語を喋ったらまさにこんな感じなんじゃないだろうか? 

 

 

 さて、どう返そうか……。

 あまり弱そうな事を言って侮られたら俺の実力を最後まで見せ付ける事が出来ない。

 そう、この場にいるのは俺とコイツと師匠(グル)の三人だけでは無いのだ。

 邪魔にならないように隠れてはいるものの、闇人の見届け人らしい人が13人も周りでスタンバっている。

 

 

 そして、その中の3人が超高そうなカメラをこちらに向けているのだ。

 別に撮影された所で問題は無いのだが、かっこ悪い姿を映すのだけは問題だ。

 できれば絶えず薄らと笑顔を顔に浮かべ、実際はどんなに厳しい時でも余裕があるように見せるべきだ。

 

 

 だが、問題は台詞。

 ……えぇい! ままよ! 

 なるようになれ! 

 

 

「ああ、俺がお前に挑む、いや……俺がお前を殺す者だ。

 俺の名前はリュウスイ、その魂の奥底にこの名を恐怖とともに刻め!」

 

 

 そうして言ってしまったのは超厨二病全開な台詞。

 うん、やらかした。

 超やらかした! 

 一影九拳の一人が厨二病ってはっきり言ってどうよ? 

 それよりも撮影されている前で厨二台詞を言うのって後になったらくっそ恥ずかしい! 

 

 

 い、いや待て! 

 冷静に考えるんだ俺……12歳なら厨二病でもまだまだ全然許されるんじゃないか? 

 そうだ! 

 俺は12歳。

 別に厨二病だろうがおかしい事は無いはずだ。

 

 

「ふっ、若いな……、貴様のような子供が特A級の達人とは……。

 その才能はまさに天が与えしものだろう、良い拾い物をしたな拳魔邪神」

「カッカッカ、自慢の弟子じゃわいのう」

 

 

 は、鼻で笑われたァァァァ! 

 く、くそぅ……だが、表情には一切出さなかった筈だ。

 ずっとこの薄ら笑いを浮かべておけばとりあえずは安泰だと証明された。

 

 

「さて、そろそろ始めるとするか……拳魔邪神、合図を頼む。

 貴様もそれで構わないな?」

「ええ、問題ありません」

「カカ、引き受けたわいのう」

 

 

 師匠(グル)が引き受けてくれたのを確認すると、俺は軽く半歩後ろに下がって制空圏を展開する。

 攻めが得意な相手に特攻を仕掛けて勝っても別に面白くも何ともない。

 相手の得意分野を真っ向からねじ伏せる事でのみ俺の強さは証明されるのだ。

 

 

初め(Dimulai)!」

「では行くぞ!」

 

 

 師匠(グル)の合図と共に一気に間合いを詰めてくるウェイコット、それに対して俺は一歩も動かずに正々堂々の待ちの構え。

 外野で見ている多くの闇人もおそらくはこう思っているだろう。

 この勝負は俺の負けだと。

 

 

「ワンショットマグナムッ!」

 

 

 そして、彼が放って来たのはその代名詞たる一撃必殺の右ストレート、ワンショットマグナム。

 もしこの拳が当たれば身体を貫かれるどころか、上半身が吹っ飛びかねない一撃だ。

 俺はその攻撃を一歩も動かずに身体で受け止めた。

 

 

「グッ!?」

 

 

 ように見える。

 しかし、ダメージを負ったのは俺ではなく拳を放ったウェイコットだ。

 これを見ている闇人達は何がなんだか分からずに困惑しているが、それぞまさにこの技の真髄。

 外からでは何をしたのかさっぱり分からないし、受けた側も何をされたのかも分からない。

 あの師匠(グル)でさえも一発目は掠った程の、まさに初見殺しの一撃。

 

 

「奥義、幻水(まぼろみず)

 

 

 この奥義は俺が師匠(グル)に初めてかすり傷を与える事に成功した技だ。

 相手の攻撃を気当たりによる分身とスリッピング・アウェーを応用して一歩も動かずその場で防ぎ、そして相手の死角からのカウンターを同時に合わせる超高度な技術だ。

 

 

「ッ!? すり抜けた、だと……!?」

 

 

 ただ気当たりの分身によって避けただけなら当然の如く種は直ぐにバレるし、スリッピング・アウェーだけでも当然分かるし、ただのカウンター等バレバレにも程がある。

 だが、この3つを同時に行い、即座に身体を元に戻すのならば話は違う。

 初見だけならば絶対に種も仕掛けも全く分からないという意味不明な魔拳の出来上がりという訳だ。

 

 

「ふっ、この程度を見切れないか? 

 なら手加減してやる、今から俺は幻水は使わない」

 

 

 使わないんじゃなくて種が割れて普通に殴られる恐れがあるので使えないというのが正しいんだが、馬鹿正直にそれを言う程俺は愚かじゃない。

 どこまでも上から目線で、ハンデまでつけて戦って、その上で完封したように見せかける。

 ただ見せかけるだけなのだが、それでも接戦で何とか勝ちましたとか言うよりは圧倒的に見栄えがいいし、見聞もいい。

 

 

 それに、せっかく流のエンブレムを奪ったのにこんなガキなら余裕とか思われて挑まれるのも癪だ。

 せっかく動画を撮ってくれているんだ、あくまでも最強のように見せかけ、それっぽく勝てばいいのだ、それっぽく! 

 

 

「この俺を相手に手加減だと? 

 舐めた真似をするじゃないか……」

「さてと……今度はこちらから行くとするかッ!」

 

 

 真っ向からは絶対に勝てない奴が相手だが、真っ向から行かないと強さを証明できない? 

 ならば真っ向から攻めているように見せかければ良いじゃないか! 

 自分より強い相手を確実に倒す手段はいくつかあるが、その中でも最も有名かつ単純な方法がある。

 

 

 そう『カウンター』だ。

 どんなに強い相手だろうが、攻撃の一瞬だけは隙が出来てしまうというものだ。

 俺は全力で相手の方へと走って行くが、狙いは自分からの攻撃じゃない。

 

 

「フッ!」

「奥義、逆流水」

 

 

 狙いはあくまでもカウンター。

 相手の方へと全力で突撃する事で相手からの攻撃を誘発し、それに対して流水からのカウンターと繋ぐこれまた初見殺しの一撃。

 迎撃の為に撃ったカウンターのつもりの一撃にむしろカウンターを返されるという意識の隙間を縫う人間の心理を突いたこの技もまた初見だけは奇妙に感じる技だ。

 

 

「なんの!」

「まだまだァ!」

 

 

 ただ、この技の弱点は先手を取って相手に一発クリーンヒットを入れるだけの一撃だという事。

 そのままヒットアンドアウェイが出来ずに乱戦へと持ち込まれると、一発分有利に進めるという以上の効果は無い。

 これで俺は合計2発も相手に入れた訳だが、ここで出てくるのが体重差の問題だ。

 

 

 例え筋力で勝っていようともこっちはまだまだ育ち盛りの12歳の身体。

 それに対して相手はムッキムキのアメリカ人で、その体重差は2倍程存在する。

 こっちがどれだけ工夫をしても、結局体重差の問題はそう簡単に覆るものじゃない。

 それが簡単にできるのであればありとあらゆる格闘技は体重差で階級に分けられていたりしないだろうし、ストロー級チャンピオンがヘビー級チャンピオンを倒すなんて話の1つや2つ位はあっても良いはずなのだ。

 だが、そんな事は実際には有り得ない。

 それが体重差というものだ。

 

 

 これを覆す方法は2つ。

 肉体のスペックと技量。

 肉体のスペックは間違いなく問題ない。

 問題があるとすれば俺は体重差で負けている相手を覆せる程の技量があるかとうかだ。

 

 

 

 _______俺たちの戦いはここから先が本番だ!




なんか変なのが来るみたいなので明日はちょっと投稿できないかも知れませんがエタるワケでは無いのでご安心ください。


-追記-
反省します。
後書き欄でも紛らわしいネタはもう記載しません。
この場でお詫び申し上げますm(*_ _)m


-追記-
日間ランキングで3位
二次創作の日間ランキングで1位

……Σ(゚ω゚ノ)ノファ!?
記念に感想欄にGoodボタンを追加しました。
試験的に評価の必要文字数を0にしました。

いつも誤字脱字報告や、感想等頂ける方に感謝を!
2020/02/19 8時15分


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010、六つの奥義

ぎ、ギリギリセーフ!






「流水岩砕拳ッ!」

 

 

 攻防一体、攻撃の動作で受け流しを行い、受け流しの動作で攻撃を行い、攻撃の動作で回避し、回避の動作で攻撃する。

 まるで水が流れるように、まるで変幻自在に姿を変える霞のように。

 元はただの漫画の技だったのだが、勝手にそれを参考にして遥か高みへと昇華させた独自の拳法。

 だが、これだけではまだ五分。

 だからここに、更に一つの奥義を発動させる。

 

 

「裏奥義……剥奪水域!」

「ば、馬鹿な!?」

 

 

 相手を一方的に制する静の気による奥義の一つ。

 ある達人が使うと言われる、静の気の極みと言われている流水制空圏とは違い、俺のこの剥奪水域は制空圏を完全に相殺する事で、相手に制空圏に頼らない戦いを強要するという奥義だ。

 流水制空圏を表の奥義とするのであれば、剥奪水域はまさにその真逆を行く裏の奥義だと言えるだろう。

 

 

 だが本来静の気は動の気と比べると、攻撃という面で一歩劣る。

 そして相手はガチガチの動の気を持ったボクサーであり、こちらは完全に静の気。

 相手が静の気の持ち主ならばともかく、動の気の持ち主では、制空圏を潰すという事はこちらの利点を消し去る事に他ならない。

 ウェイコットはそれで驚いたというわけだ。

 

 

 だがこれは相手の意表を突くためだけに使った奥義では無い。

 正真正銘の攻めの為の奥義。

 俺が作り上げた六つの奥義の中で最強の技、一撃で相手を仕留める為の文字通りの必殺技を確実にヒットさせる為の布石だ。

 

 

 この奥義は相手を圧倒する様に見せかけるだけの初見殺しの一撃。

 そして動画で撮られている以上は、一度使ってしまえばこの技は完全にネタが割れて必殺技では無くなってしまうだろう。

 本来の予定では師匠(グル)に一番最初に見せる技で、師匠(グル)から一本もぎ取る為の技。

 だが、この場で使わないのであればいつ使うのが良いだろうか? 

 そんな場面はきっと無い。

 どうせいつかはネタが割れる奥義、ならば今撃っても惜しくは無い! 

 

 

「幻水岩砕拳ッ!」

 

 

 幻水岩砕拳、幻水の応用によって相手の防御をすり抜ける幻の拳。

 左手で狙うのは顔面、しかしこれは完全に囮の一撃。

 実際に攻撃を行うのは首。

 

 

 ……だと思ったら大間違いだ。

 その首を狙った攻撃は幻で実際に攻撃が入ったのは中段。

 相手が制空圏を使えないからこそ騙される一撃。

 動画で撮ればまず間違いなくネタが割れる一撃。

 だが、今ここで勝てればとりあえずはそれでいい。

 

 

「死に晒せ!」

「まだだァッ!! 

 ワンショットマグナムッ!!!」

 

 

 ここで相手が選んだのはその防御も回避もできない一撃に対しての捨て身のカウンター。

 両手は使えない。

 こんなタイミングでは足を使った防御も間に合わない。

 当然スリッピング・アウェーによる回避もできない。

 なるほど、まさに最高の判断と言えるだろう。

 ……ヤバくね? 

 

 

 

 

 _______ミスった。

 ミスった。

 失敗した。

 失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した! 

 相手を圧倒する事だけ考えて相手のことを全く読み切れていなかった。

 これでは良くて相打ち、悪ければ相手は生き残ってこちらだけ死ぬ。

 

 

 どうする? 

 何ができる? 

 どうすればいい? 

 

 

 攻撃を辞める? 

 無理だ。

 だってもう攻撃は終わっている。

 今更キャンセルなんてできない。

 

 

 どうにかして相手を止める? 

 ……それしかない。

 だが、一体どうやって? 

 見様見真似(デッド・コピー)も、幻水(まぼろみず)も、逆流水も、剥奪水域も、幻水岩砕拳も、念話もこんな場面で効果を発揮できるものでは……待て、念話? 

 

 

 念話ならこの場面でも何とか使える。

 そして、相手はまだ念話を知らない。

 これも防がれる事はまず無い初見殺しの一撃だといって言いだろう。

 ……だがこの場で一発成功できるか? 

 いや、もうこれしかない! 

 

 

『■■■■■■■■ッ!!!!』

 

 

 全力で、とにかく力強く、大きく叫ぶ。

 普通に声を出すよりも遥かに速く、これならば音速を超える拳よりも先に届かせる事ができる。

 耳を塞ごうとも、鼓膜を破ろうとも聞こえてくる爆音。

 念話を開発した存在であり、念話に最も詳しいと言える俺だからこそ使える奥義。

 

 

 名付けるなら、超思念爆音(アブソリュート・ヴォイス)だ。

 当然特A級というレベルの達人がただの爆音でダメージを受ける訳が無い。

 だが、どんなに達人でもいきなり頭の中で爆音が響き渡れば一瞬だけは動きが止まる。

 

 

 俺の全力で放った幻水岩砕拳は胴体を貫通しており、後はとことん逃げて時間を稼ぐだけでいい。

 そして、とりあえずこの場から逃げきるだけならばその一瞬さえあれば十二分だ。

 そのまま腕を引き抜いて大きく後ろに飛ぶと、制空圏を張って相手の追撃を少し過剰な程に警戒する。

 俺の作った初見殺し奥義はこれで5つ全て全て出し切ったし、もう他にオリジナルの初見殺しがあったりするわけじゃない。

 後は純粋な殴り合いになるのだ。

 

 

「今のは少しヒヤッとしたな……」

「う、ぐふっ……ま、まさか手も足も出ないとは……」

「……?」

 

 

 いや、あのカウンターとかめっちゃ危なかったんだが、何を……。

 ってあ! 

 この人から見れば俺は涼し気な薄ら笑いをずっと浮かべ、自分が全力で放った捨て身のカウンターでさえも余裕で避けてみせるような化け物という事になる。

 開幕から今に至るまで完全に表情を崩さないとか、俺のポーカーフェイスも大したものだ。

 

 

「安心しろ、お前は意外と健闘している。

 ただ俺とお前の相性が悪かっただけの事」

「達人級以降では相性等というものは殆ど無くなる。

 貴様が今こうして俺に勝っているのは単純な実力差があるからに過ぎん。

 そもそも、相性が悪い相手に対応できない時点で俺が未熟だったという事だ」

 

 

 まともに戦えばまず間違いなく負けると思うんだが……。

 初見殺しも実力に数えていいのであれば実力差があるって言えるのか? 

 まあいいか、とりあえずここは格好つけておこう。

 

 

「仮にお前の目の前にいるのが俺以外の武術家ならば確実にお前が勝っていただろう。

 お前の死因はただ一つ、お前の持つそのエンブレムがその流のエンブレムだったという事だ」

「ふっ、そうだな。

 お前ならば俺以外の一影九拳も難無く倒せただろうな」

 

 

 師匠(グル)とか女宿とか一影さんとかいう意味不明な強さの持ち主もいるんで、勝てるかどうかは正直言って危うい所だ。

 そんな事は絶対に顔には出さないがな。

 

 

「さて……もちろんまだやるんだろう? 

 なら最後まで俺を楽しませてみせろ!」

「ふっ、よく言うガキだ。

 行くぞッ!」

 

 

 会話で時間稼ぎもできたし、ダメージ的にもう間違いなく勝てる。

 という事はもう好きにしても構わないだろう。

 ならば相手の技を全て奪い取る! 

 

 

「奥義、見様見真似(デッド・コピー)!」

 

 

 相手が放ってきたジャブをこちらもジャブで返す。

 相手の技をその場で奪う俺の固有奥義。

 相手と同じ技が使いたい? 

 でも相手の使っている武術ができない? 

 ならこの場で相手の使っている武術を習得すれば良いじゃないか! 

 そんな馬鹿みたいな謎理論によって生まれた奥義。

 

 

 その場でピースを組み合わせパーツを作り、パーツとパーツを結び合わせ、即興で相手と同じ絵のパズルを組み上げる。

 相手が何か技を見せればその技を組み上げ、相手が戦いの運び方を見せればその運び方を組み上げ、相手が筋肉の使い方を見せればその筋肉の使い方を組み上げる。

 そして、それらの技術を完全に自分のものとし、その場で使う。

 これぞ見様見真似(デッド・コピー)! 

 

 

 相手のフックはフックで、相手のストレートはストレートで。

 相手に俺の糧となって喰われろ、そう言わんばかりに全力で相手の技を使い続ける。

 さあ、フィナーレだ! 

 

 

「「ワンショットマグナムッ!」」

 

 

 拳と拳がぶつかり合い、激しい衝撃波が辺へと放たれる。

 体重差で負けている為にこちらの一撃は本来の威力よりもかなり落ちてはいるが、相手もまた同じくダメージによってかなり威力が落ちていた。

 

 

「ゴハッ……」

 

 

 その結果、競り勝ったのは俺だ。

 

 

 

 

 

 

 倒れていくウェイコットと目があった。

『その技を有効に使ってくれ』

 何となく彼がそう言ったような気がした。





皆様方のおかげで日間ランキング1位を獲得できました!
誤字脱字報告、感想、評価等を下さった方へ全力の感謝を!



そ、それでなのですが感想が物凄く増えた為にコラムはその話にコメントを下さった先着数名に限定させていただきます。
そのうちコラムまとめのようなものも作らせていただきますm(*_ _)m


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011、微笑の絶拳

 22.

 

 

 一影九拳、それは十人の達人により構成される闇の無手組の最高機関である。

 そんな一影九拳にはその時代において最強の十人が所属し、各々を象徴する漢字一文字のエンブレムを持っている。

 そのエンブレムは影、王、水、無、鋼、月、炎、空、氷、流。

 その中でも流のエンブレムの持ち主はつい先日変わったばかりだ。

 

 

 

 その姿を見ると寿命が一日縮むと恐れられ、上位の実力者はたった一人で一国の軍隊にも匹敵する力を持つという。

 所属者は一影九拳会議を行い、その議決によって組織を運営するというまさに組織の根幹。

 実力、権力と2つの面においてどちらも、正真正銘の闇の無手組のトップなのだ。

 

 

 さて、そんな一影九拳会議に何故かまだ中学校に上がったばかりだと思われる小さい子供が一人だけ参加している絵面を思い描いて欲しい。

 今回参加しているのはその子供を含む一影九拳が六人。

 まずその子供の左側にいるのは怪しげな仮面を付けた邪神。

 その隣は凄まじい巨乳とスタイルを持つ女性……の姿をした妖怪。

 次はいかにも達人といった姿の男。

 そして、二十代半ば程の、これまたいかにもな感じの筋骨隆々の男。

 残る最後の一人はこの組織のボスたる一影だ。

 

 

 ……なんだこの図!? 

 もう全力で逃げ出したくなるような光景だが、ただ単にこの場から逃げ出そうとした所で誰かに捕まるだろう。

 もし本気で逃げ切るのであれば、命の覚悟を決めて戦うしかないだろう。

 そんなことをしたら殺されるのは当たり前だが……。

 

 

「カッカッカッ、こやつが新しい一影九拳『微笑の絶拳』リュウスイじゃわいのう」

 

 

 そうして師匠(グル)に紹介をされた俺は一本前に出ると、あらかじめ考えてあった自己紹介をする。

『微笑の絶拳』という俺の異名は俺が戦いの時や緊張する時とかに、表情を読まれないように使う薄ら笑いから付けられた異名である。

 常に心に余裕を持って、圧倒的な技量で相手を制する故に『微笑の絶拳』らしい。

 

 

「初めまして、今回皆様方のお仲間に加えて頂く事になりましたリュウスイと申します。

 こんな子供が自分達と同列に並ぶのには不服かも知れませんが、仲良くして頂ければ幸いです」

 

 

 そう自己紹介をし、ぺこりとお辞儀をして俺は用意された流の席に座る。

 ……視線が痛い。

 なんで師匠(グル)以外の全員が奇妙な目線でこっち見てんのさ!? 

 ……そんなに俺の自己紹介っておかしかっただろうか? 

 改めてもう一度全員の顔色をうかがってみる。

 

 

 まずは一影の異名を持つ「影」のエンブレムの持ち主にして一影九拳の長、風林寺砕牙。

 何やら神妙そうにこちらを観察しており、何となく動揺している気がする。

 

 

 拳豪鬼神の異名を持つ「月」のエンブレムの持ち主、馬槍月。

 鋭い目付きでこちらを睨んでおり、いや、これは俺を睨んでいるわけじゃないな。

 ただ目付きが悪いだけだ。

 

 

 拳を秘めたブラフマンの異名を持つ「無」のエンブレムの持ち主、セロ・ラフマン。

 この人はなにか微笑ましいものを見るような笑顔でこちらを見ている。

 直感で分かる、間違いなくこの人は良い人だ。

 

 

 妖拳の女宿の異名を持つ「水」のエンブレムの持ち主、櫛灘美雲。

 どこからどう見ても若そうに見えるのだが、それは違う。

 なんせこの人はあの師匠(グル)の事を若造扱いする程の年寄り。

 コイツは間違いなく実年齢3桁の妖怪ババアだ。

 醸し出している雰囲気も何となくヤバそうだし、俺の足元をみるような高圧的な目線も相まって、関わりたくない相手No1に任命したい程だ。

 

 

 そして、拳魔邪神の異名を持つ「王」のエンブレムの持ち主、師匠(グル)こと、シルクァッド・ジュナザード。

 うん、師匠(グル)はいつも通りだな。

 ただちょっと誇らしそうだ。

 

 

 よし、結論が出た。

 とりあえず女宿の婆さんだけに気を付けていれば良さそうだ。

 

 

「ふむ、人当たりの良さそうな少年ですな」

「噂には聞いていたが……。

 本当にまだ中学生とかそう言うレベルじゃねぇか」

「確かに才能には溢れておるようじゃな」

「もうこれは才能に溢れてるとかそう言うレベルじゃあねぇだろ。

 こんな年齢で一影九拳とか恐ろしいにも程があるぞ」

「カッカッカッカッカッカッ、自慢の弟子じゃわいのう」

 

 

 みんな各々に意見を言うが、否定的な意見は出てこない。

 とりあえずホッとした。

 これでもしも「お前のようなものは一影九拳には相応しくない!」とか言われていたら色々とめんどくさい事になる事間違いなしなので意外と心配だったのだ。

 

 

「さて、では本題に入ろうか。

 本来一影九拳は弟子を取るという規定になっているが、彼はまだ12歳と非常に若くYOMI達と比べても最年少の部類に含まれると言えるだろう。

 そこで当分の間、彼のYOMIは代理の者から立てようと思うが異論はあるだろうか?」

 

 

 今日の一影九拳会議の議題は俺の顔見せとこれだ。

 YOMIとは闇人の弟子で構成される弟子育成機関の事だ。

 表社会では武闘派不良チームとして知られるが、その実態は言わば『闇の達人への登竜門』だ。

 末端構成員はどこにでもいるただの不良だが、主な構成員は闇人の弟子であり、幹部は一影九拳の直弟子が務める。

 そして、構成員がどこにでもいるただの不良という事もあって俺以下の年齢の奴は比較的稀だと言える。

 

 

 いくら俺が強いからとは言ってもまだこの世界での年齢は12歳、こんな俺に弟子入りをしようなんて奴は殆どいないだろうし、俺も自分より年上の弟子とかさすがに抵抗感がある。

 一影九拳としてもまだまだ経験不足と言える12歳の子供に弟子入りさせる訳にも行かないのだろう。

 というか弟子入りされたら俺が困る。

 

 

 一影からのこの提案は俺にとっても嬉しいし、YOMIの人も嬉しいし、闇の無手組全体としても嬉しいまさにWINWINな提案だと言える。

 俺は当然賛成だ。

 

 

「異論はありません、まだまだ自分も未熟な所がありますので。

 こちらからもよろしくお願いします」

「ええ、異論は無いですな」

「オレもそれで構わねぇな」

「それで異論は無いのう」

「カカッ、われも異議はないわいのう」

 

 

 そう言ってぺこりとお辞儀をすると、全員が口を揃えて賛同してくれた。

 やったぜ。

 弟子の育成もそれはそれで面白そうなのだが、今はまだその時では無い。

 弟子を取るならばせめて俺がもう少し成長してからの方が間違いなく効率も段違いだ。

 それに俺自身の修行も遅れてしまうので、今弟子を取る事にはデメリットしか無いのだ。

 

 

「では次の話に移ろう。

 ここ最近妨害行為が目立つ、一部の武器組に対する対応だが、これは新しく一影九拳の一員となった、微笑の絶拳リュウスイの初陣としたいのだが構わないだろうか?」

「ん?」

 

 

 これは師匠(グル)からは事前に聞いていない。

 武器組の対応という事は戦いになるという事は間違いない。

 師匠(グル)から俺へのサプライズか何かだろうか? 

 そう思ってチラッと師匠(グル)の方を見てみると、どうやら関係ないようだ。

 

 

「えーと、派手にやっても大丈夫ですかね?」

「ああ、むしろできるだけ派手に行う事で君の力を示して貰いたい」

 

 

 か、神依頼じゃないか! 

 それなりの達人を相手に自由に暴れまくっても良い依頼なんか中々あるものじゃあない。

 それに、相手は俺があまり戦った事の無い武器の達人だと言うことで、引き受けない理由が無い。

 

 

「その依頼、全力を尽くさせていただきます」

「カッカッカッ! 初陣は派手なのが一番良いわいのう」

「異論は無いという事でこれで決定と言うことで」

 

 

 初めての一影九拳会議は後は簡単な報告程度で終わりを迎えた。

 

 

 

 

 さーて、一影九拳としての初仕事、頑張ってくるとしますかね!






逃げて〜!
武器組さん、超逃げて〜!
次回、初陣。


感想、評価、誤字脱字報告を下さる方、本当にありがとうございます。
この小説はあなた方に育てられました!


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012、初陣

 23.

 

 

 武器組、それは世界を影から操る組織『闇』の片割れ。

 剣、槍、ナイフ、鍋、弓、鎌、釜、斧、槍、鍬、盾、棒、杓文字と様々な武器を使用して戦う者達だ。

 その中でも上位の力を持つ達人と呼ばれる者は、いとも簡単に最新の科学技術を使って作られた銃や戦車と言ったものさえ凌駕する。

 達人の持つその肉体と技量の前では、拳銃よりも剣が、ライフルよりも弓が強い世界が存在してしまうのだ。

 

 

 ここで俺は疑問に思ったんだ。

 それってつまりは鍛え上げられた肉体こそが一番強いんじゃないかと。

 ある程度のずる(神様がくれたチート)はあったものの、俺の肉体のスペックはまだ普通に鍛えても辿り着けるレベル。

 そんな俺がもし武器組を完全にねじ伏せる事ができれば武器なんて無い方が強いという事を証明できる。

 

 

 久しぶりの日本での仕事だし、今回は自由にしてもいいという一影直々の依頼。

 今回は武器を使うよりも素手の方が強いという事をとことんアピールしながら戦ってみるか。

 

 

「すまんが扉を開けてくれないか? 

 ここから飛び降りる」

 

 

 俺が今回の依頼で攻め落とす予定の闇の武器組に所属するグループ、聖剣連合がアジトとして使用している建物が見えたので俺は飛行機を運転しているパイロットにそう告げた。

 

 

「よ、よろしいのですか? ま、まだ高度は4000メートルもありますよ!?」

「つい昨日上空1万メートルからの紐無しバンジーをしたところだからな。

 それに比べれば4000メートル程度は余裕だな」

 

 

 俺がパイロットにそう伝えるとドアのロックが解除され、扉が開け放たれた。

 スピードのせいで風が少し強い感じはあるが良い天気だ。

 まさに戦闘日和だと言えるだろう。

 

 

「よっと」

 

 

 少しタイミングを見計らった後、そのまま地面に向かって飛び降りる。

 狙いは少し開けた山道だ。

 普通の街中にアジトがあれば着地場所探しに困るのでわざわざ山の中にアジトを作ってくれた聖剣連合の方々に感謝だな。

 

 

 その今回のターゲットである聖剣連合はそれなりに大きなグループの一つで、リーダーは特A級の達人である本松大蔵という老人だ。

 その他に敵の戦力としてカウントできそうなのはギリギリ特A級に至らない程度の実力を持つ副リーダーと、普通の達人クラスが2人と言ったところか? 

 

 

 しかし、残念ながら今回はその副リーダーの芝川蛍次は何かの要件で出ているらしいので敵は残りの三人だけだ。

 1対1であればまず間違いなく勝てるとは思うが、三人を同時に相手するとなれば少し危ういかもしれない。

 リーダーは日本刀を使う侍らしいのである程度の予測はつくが、あとの二人はどんな技を使うのだろうか? 

 今からもう楽しみで仕方がない。

 

 

 そうこう考えながら落下しているとあっという間に地面である。

 体を少しよじって体勢を整え、体全身に衝撃を吸収させるようにしてなるべくフワッと着地を決める。

 この五点着地法はバキでも登場していたように、全身で衝撃を分散することで身体が受けるダメージを少なくする着地方法だ。

 

 

 昨日飛び降りた時に、どれだけ高い所から落ちようが空気抵抗のおかげで最終的には時速200キロメートル程度に落ち着く事が分かっているので、正直に言えば受け身とか必要ないのだが、無理やり着地するとバカでかい音が鳴ってうるさいので受け身をしておいて損をするような事はない。

 

 

「さてと、行きますか」

 

 

 チラッと見た感じだとアジトには門番が2人、恐らくどちらも妙手級だ。

 よっぽど気配を消すのが上手い奴が門番をやっていなければこれだけだと思っていいだろう。

 

 

「あの、すいません……。

 少し迷ってしまいまして、道をお尋ねしたいのですが」

「こんな所に一人で来るなんて珍しいね」

「あ? 何処へ行く道が知りたいんだ?」

「え、ええとですね」

 

 

 このタイミングでアメリカで買った怖いマスクを一瞬で装着して顔をあげて相手を見つめる。

 コツはマスクを事前に持っているとバレない事と、つける時に相手に分からないように気当たりを使って誤魔化す事だ。

 そして、それが終わったらクワッと目を見開いてこう言うのだ。

 

 

「アナタハ天国ヘノ道ヲ知ッテイマスカ?」

「うおぉぉぉぉッ!?」「うわぁぁぁぁッ!?」

 

 

 宴会芸とかでやったらまさに無双出来そうなネタ技だが、こんなネタ技で倒される二人は少し哀れだ。

 驚いている二人に足払いを掛けて相手の重心を崩し、そのまま倒れる勢いを使って全力で後頭部を地面に叩きつける。

 後の奴らは見つける度にMI☆NA☆GO☆RO☆SHIするつもりなので、名を轟かせるという目的の為にトドメは刺さない。

 綺麗に後頭部から入ったのでこれで何時間かは目が覚めないだろうし、後は放置でいいだろう。

 

 

 彼らをそのまま入口に放置し、入口……。

 ではなく少し離れた壁の元まで歩いていく。

 そして、アジトの壁に向かって全力で走り抜ける事でダイナミック侵入ッ! 

 ドアを壊して入るよりも大変なのだが、この方が明らかにインパクトがあるのでこちらを採用だ。

 

 

「フンッ! こんにちは〜、あの世送りのデリバリーサービスです。

 ご注文頂は天国(即死)ですか? 

 それとも地獄(苦痛)ですか?」

「な、なんだコイツ!?」

「壁を無視して走るとかもはや人間じゃねぇよ!?」

「お前ら侵入者、いや、敵だ! 

 全員武器を持てッ! 全力で警戒態勢!」

 

 

 いきなり現れた俺に対して軽いパニック状態になると思っていたのだが、しっかりと指揮を取れる人がいたみたいで、即座に全員が武器を取ると警戒態勢を整えた。

 この部屋にいるのは達人級の男が一人、後は妙手以下って感じだ。

 達人の得物は槍、剣や刀であれば戦った事は少しはあるのだが、槍を使う奴って意外と少ないんだよな。

 俺の糧となって喰われて貰おうか。

 

 

「お前ら行くぞッ!」

「「「「了解!」」」」

 

 

 そう言って全員で攻めて来るが、あえてその槍使いの攻撃以外は全て防がない。

 当然そんな事をすれば斬られたり、刺されたりと酷い目にあう。

 _______普通は。

 

 

「ば、馬鹿な! 真正面から武器の方が負けるだと!?」

「お、オイラの剣が曲っちまったぞ!?」

「何を馬鹿な事を言っているんだ? 

 鍛えられた最強の体の前に武器なんて効くわけないだろう?」

 

 

 まあ、種も仕掛けもあるんだが、俺はそんな事を言う程のお人好しではない。

 必要なのは「お前らの武器なんて効かねぇよ」といういうアピールである。

 

 

「お前ら全員下がれ! 数がいても無駄だ! 

 さっさと組長を呼びにいけ!」

「りょ、了解です!」

 

 

 向こうからリーダーが来てくれるのはむしろ嬉しいのだが、この場から逃げられると探す手間がかかるので厄介だ。

 一人だけ残して後はこの場で死んで貰うとするか……。

 

 

「暗鶚流、人手裏剣ッ!」

 

 

 近くにいた二人の足首を掴み、全力で投げる。

 受けた側は当然として、投げられた側も殺せる一石二鳥の技だ。

 この技を俺が習得したのは、いかにもな忍者との戦いだったのだが、その辺にいる人を武器にするなんて思わなかったのでかなり印象強く残っている。

 

 

「暗鶚だと!? 貴様まさ……」

「あ、これ、どっかの忍者が使ってた技なんで、別に俺は暗鶚衆とは関係ないな」

「暗鶚衆の者から教わったという事か、あの気難しい奴らに認められるとは流石と言ったところか?」

 

 

 いきなり会話タイムが始まったが、狙いは透け透けである。

 会話で時間を稼いで、さっきこっそりとこの場から逃げる事に成功した忍者っぽい人がボスを呼びに行っているのを待っているのだろう。

 うん……それ、わざと逃してるから。

 

 

「……相手の技を見て盗んだまでだ。

 さて、そろそろ第二ラウンドと行こうか!」

「クククッ、俺の部下の一人が組長を呼びに行った事に貴様は気が付かなかったようだな」

 

 

 ……いや、確かにあの人めっちゃ影薄かったけど気が付いてたよ? 

 そもそも、俺は組長をむしろ呼んできて欲しいという……。

 この人、空回りし過ぎてむしろこっちが恥ずかしい。

 もはや一種の精神攻撃の域だ。

 

 

「確かに俺では貴様を倒す事はできないだろう。

 だが、俺はここで時間を稼ぐだけで良いのだ! 

 3分、いや5分は持たせてみせるぞ!」

 

 

 そう言って槍使いの男は入口に背を向けて立つと、決死の覚悟を決めてこちらに槍を構えた。






感想返せていませんが、しっかりと読んでます!
そのうちまとめて返しますので少々お待ち下さい。

2020年2月21日現在
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|*・ω・)チラッ
(._.?) ン?
|*・ω・)チラッ
Σ(*oωo艸;)エェ!?


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013、聖剣という名の妖刀

 24.

 

 

「フンッ!」

 

 

 俺の全身の筋力を使って、相手に全力の拳を叩き込む。

 なるべく小さく小さくと細く動き、威力ではなく手数を求めながら、相手との距離を全力で詰め続ける。

 武器に対して素手を使うメリットその1。

 手数と小回りの利きだ。

 

 

 武器を使う1番のメリットと言えばその間合いである。

 本来は相手の攻撃が届かない場所から一方的に攻撃をする事ができるのだが、こうして間合いを詰めてやると武器を持っているという事自体がデメリットと化す。

 俺が知りたいのはこういう超近距離戦の時に槍使いがどうするかだ。

 とりあえずそれを見る為に技の一つすら使わずにただ手数と取れる選択肢を増やし続けていく。

 

 

「くっ!?」

「武器なんて邪魔にしかならないだろう? 

 そんなもの捨ててみてはどうだ?」

 

 

 一手、一手と相手の手数を奪って行くが未だに対処する技が出ない。

 そもそもそんな技はなかったのか、それとも出すタイミングを見失ってしまったのか。

 どちらにせよピッタリと張り付かれた時の対処法は無いという事で良いのか? 

 

 

「はぁ、期待ハズレだな……。

 ならば死ね!」

 

 

 相手の取れる手段を殆ど奪い去った後で、俺は全力の一撃を放つ構えを取る。

 もうこうなってしまえばどの技でも仕留めれるのだが、ここは手に入れたばかりのワンショットマグナムでも使わせて貰うか。

 

 

 俺が拳を繰り出そうとしたそのタイミングで、槍使いはその持っている槍を使って自分の腹を貫いた。

 そして、正確に喉を狙った一突きが背中から飛び出す。

 

 

「うぉっ!?」

 

 

 咄嗟に後ろに倒れ込むようにして攻撃を避けるが、完全には回避しきれずに頬に傷が走った。

 お、追い詰められた槍使いは自分の腹を貫くのか……。

 コイツが特A級の達人じゃなかったからこそ比較的軽傷で済んだが、もしもコイツが同格だったならばあっさりと喉を貫かれていた可能性がある。

 

 

「ごふッ……や、やはり届かないか!」

「お前のお陰でいい事を知れた。

 次から武器組の達人を相手にする時には参考にしよう」

 

 

 それでは、_______死ね。

 俺がそう付け足して首に対しての貫手を放とうとした瞬間、1人の老人と恐らく50代前半の女性がやって来た。

 老人の方は間違いなく特A級。

 恐らくコイツが本松大蔵、この組織のボスなのだろう。

 女性の方は今俺が殺そうとしている男と同じ槍使いだ。

 

 

「ほう? ギリギリ間に合ったみたいだな?」

「か、勝也!?」

「す、すまねぇ……お、おふくろ。

 先に、逝くぜ。

 組長……後を頼みます」

「残念じゃが若い者を先に死なせる訳にはいかんなぁ。

 清美さん、儂が隙を作る故、さっさと回収して逃げるんじゃ」

「ええ、分かりま」「グハッ!」

 

 

 その会話の途中で俺はトドメの一撃を放つ。

 残念だが、俺はそんな事を待ってやる程のお人好しじゃない。

 そして、トドメを刺している間に攻撃をされてもダメージは負ってしまうだろうがそれで即死する訳じゃない。

 ならばさっさと殺しておくのが必然だ。

 

 

「か、勝也〜〜ッ! よくも、よくも勝也を〜ッ!」

「待たんか清美さんッ!」

 

 

 息子を殺された怒りで、我を忘れてこちらに突っ込んで来るが生憎と達人級の槍使いとは先程戦ったばかりでもう一度戦ったとしても旨みが非常に少ない。

 ここは容赦なく一撃で決めるが吉だ。

 

 

 繰り出された槍を流水岩砕拳を使って受け流し、そのまま流れるように体勢を変え一撃で殺す用意を整える。

 放つのは昨日習得した一撃。

 

 

「ワンショットマグナムッ!」

 

 

 その拳が頭部を一撃で粉砕すると、悲鳴を発する事もできずにその場に崩れ落ちた。

 ふむふむ、意外に使えるなコレ。

 

 

 酷いとか言う奴も居るだろうが、子供だろうと、女性だろうと、老人だろうと、一切関係は無い。

 俺に殺意を持って戦うことを決めた以上は全てが俺の敵。

 改心しようが、俺に非があろうとも、そんな事は些細な事だ。

 殺されたくないなら最初から戦うことなんて選ぶなって話だ。

 

 

「激怒して冷静さを失った相手程容易く殺せるものは無い……それに槍使いとはさっき戦ったものでな? 

 お前は不要だ」

「お主……まるで修羅じゃな」

「修羅か……これ以上無いほどの褒め言葉だ」

 

 

 そう言って俺が構えるとそれに応じて本松も二本ある鞘の内から脇差サイズの小刀の方を引き抜いた。

 その瞬間、咄嗟に死の危険を感じて体が動きそうになるがそれを全力で抑え込む。

 

 

「ッッッ!?!?」

 

 

 鞘から刀を抜いたその瞬間からまるで台風の様な気当たりが放たれたのだ。

 気当たり的に明らかに師匠(グル)以上。

 この本松大蔵がそれほどまでの強者だったのか? 

 いや、違う。

 

 

「この気当たり、放っているのはその刀か!?」

「聖剣、常滅之白夜、剣じゃなく刀で、さらに聖ではなく妖刀の類いではあるが、この世に残る数少ない呪われた武器の一振。

 これからお主の命を奪う刀の名じゃ」

 

 

 ヤバい、ヤバい、ヤバい!? 

 あの師匠(グル)、拳魔邪神より強い気当たりを放つ妖刀とか笑えないにも程がある。

 どこからどう考えても今の俺に勝てる様な相手ではない。

 救いなのはそれがただの武器だという事だが、あの規模となれば強く精神を保って静の気をコントロールし続けなければ掠っただけで卒倒しかねない。

 

 

 しかも、こっちの気当たりを使った技の全てが妖刀の気当たりによって掻き消される為に俺の奥義はほぼ全滅。

 初見殺し技が完封された状態でどうやって勝てと? 

 相手が別な武器ならばそれでも勝てただろうが、その妖刀と特A級の達人が合わさればあの師匠(グル)ですら苦戦する可能性がある。

 

 

「さあ、逝くがよい!」

「りゅ、流水岩砕拳!」

 

 

 咄嗟に流すが、カウンターが出せない。

 この妖刀、実際の長さがさっぱり分からない。

 元々の50センチくらいの時もあれば、3メートルを超える時もあるという長さ。

 しかも気当たりで見せかけている訳ではなく、実際に伸びているようだ。

 まるで意味不明である。

 

 

「く、くぉぉっ!?」

 

 

 受け流す為に刀に触れる度に体内の静の気が乱され、その乱れを押さえ込み、押さえ込んでいる間に来る一閃を身を捩る事で避けようとするが、徐々に徐々にかすり傷が増えていく。

 強いのは相手自身ではなくその刀。

 ならばどうにかして相手から奪い取ればそれだけで何とかなる。

 

 

「さっきまでの威勢はどうしたんじゃ? 

 防戦一方ではないか」

 

 

 くそっ! 

 返答を返す暇すらない! 

 どうやって奪う? 

 こんな防戦一方な時にはどうすればいい? 

 そりゃあ都合よく答えなんて直ぐには出ねぇよな!? 

 

 

 とりあえず一旦無理やりにでも攻撃してみるか? 

 それとも諦めて逃げるか? 

 いや、どっちも無理だ。

 そもそも逃げる為に間合いを開けようとすると確実に詰めてくるし、攻撃に踏み込めばその一瞬で首を撥ねられる。

 

 

「ほれほれ、あと少しじゃ!」

「くっ!?」

 

 

 流し流し、徐々に下がっていくうちにいつの間にか俺は壁を背にして立っていた。

 いや、立たされていた。

 相手からすれば俺が開けた穴と、出入口から遠ざけるようにして刀を振るい続けるだけで楽にこの状況下に持ち込む事ができる。

 

 

 壁なんていくらでも壊せるが、それをしようとすれば確実に一瞬だけは動きが止まる。

 その瞬間があれば俺を斬り捨てるのには十分だ。

 よって壁なんて壊している暇もない。

 後ろに下がらずにこの妖刀を流し続けると数手で死にかねない。

 

 

「終いじゃ!」

「うぉぉぉぉッ!」

 

 

 その瞬間、俺が頭に思い浮かべたのはさっき俺が殺した槍使いの男が使っていたあの技。

 自分を傷付ける事でむしろ戦いを有利に運ぶという、槍使いの男が見せたあの技だった。

 

 

 

 

_______続く!






日間ランキングトップから落ちてしまいましたね。
ついでに本日退院です。
時の流れは早いものですね(´・ω・`)


さて、そろそろヒロインが登場してもいいんじゃないかなぁと思ったのでアンケートを取りたいと思います。

https://enque.jp/u/12105


もし良ければどうぞ
その他を選び続けると自由記述が出てきます。
自由記述は原作キャラ以外も記載して大丈夫だと言う事にしますので好きに書いちゃって下さい。
(ただし選ばれる可能性は微レ存)


マイページをオープンにしました!
そっちの方にもキャラ投票があるのでもし良ければどうぞm(*_ _)m


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肉を切らせて骨で絡める

当作品は
https://syosetu.org/?mode=user&uid=222615
咲さんスポンサーのご提供でお送りしております。
盛大なる感謝を!




 25.

 

 

「うぉぉぉぉぉッ!」

 

 

 迫ってくるその刀に、俺は自分から突っ込んだ。

 当然そんな事をすれば俺の肉はあっさりと貫かれてしまう。

 だが、人間というのは急所を外していれば即死するような事はまず無い。

 

 

「ぐぅぅぅらァァァァッ!」

「なぬッ!?」

 

 

 そして、そのまま肋骨の隙間で刀を無理やりに絡め取ろうとする。

 だが、相手が両腕の筋肉をしっかり使っているのに対してこちらは肋骨。

 

 

 当然、そのままだと確実に俺が不利。

 しかも、妖刀の気によって俺の体内で作り上げた気はめちゃくちゃだ。

 だがこの予想外の一手は確実に相手の動きを止めた。

 

 

「貰ったァァァ!」

 

 

 その一瞬だけの虚に俺は全力で拳を叩き込んだ。

 もはやなんの気も乗っていないただの拳。

 だが、その一撃は確実に本松の顎を捉えた。

 威力もない何の変哲もない拳、だがそれでも俺が放った拳である。

 その一撃で本松は大きく体を後ろに逸らし、そのお陰で俺は完全に刀を奪い取る事に成功した。

 

 

「はぁはぁ……ぐっ」

 

 

 こちらはボロボロなのに対して、相手は拳一発分のダメージしか受けていない。

 それに妖刀は奪い取ったとは言え、まだ相手には刀がもう一本ある。

 ここからが本番と言った所だ。

 

 

「まだ、ここからぁぁぁぁっ!」

 

 

 肋骨の隙間に刺さった刀を引き抜いて全力で遠くに放り投げた。

 そして、しっかりと胸の筋肉を使って圧迫止血を行い、血を止めると、改めて俺は気を練り直して構えを取った。

 少しでも時間を稼いで傷と体力を回復させる待ちの構えである。

 後はここから粘れるだけ粘る。

 

 

 俺は回復チートのおかげで1日あればどんな怪我だろうが完全に完治できる。

 かなりの大怪我とは言え、この程度の傷であれば俺は数時間で完治できる。

 完治にこだわらなければ30分といった所か? 

 それに俺は流しを基本として戦う流水岩砕拳の使い手、受けに対してはかなりの自信がある。

 傷が治るまで守りきれば一気に攻め込んで俺の勝ちだ。

 

 

「ではゆくぞ!」

「くぉぉぉぉ!」

 

 

 やって来たのは首を狙った見事な居合。

 前動作を完全に隠して腰を切る事によって放たれる、目に見にくい斬撃。

 だが、俺はその斬撃を完全に流しきった。

 

 

「残念だが、師匠(グル)の拳はもっと速いんだよぉッ!」

 

 

 そう、師匠(グル)の拳はもっともっと速い。

 そんな拳を何度も見ながら目と拳を研ぎ澄ましてきた俺がこの程度の斬撃を流せないはずがない。

 

 

「なんのぉ!」

「くぅッ!?」

 

 

 避けれる攻撃は避け、流せる攻撃は流し、ここぞというタイミングでカウンターを合わせる。

 だが怪我のせいで受け流しがいくらか遅れ、簡単な攻防を十数度繰り返す度にかすり傷が1つ1つと増えていく。

 

 

「はぁッ!」

「ぬぅ……」

 

 

 だが、それは相手も同じだ。

 こちらのカウンターを受けきれずに攻防を続ける度にかすり傷とは言え怪我が増えていく。

 現状はほぼ互角、ならばオートヒールがある分俺の方が遥かに有利だ。

 

 

「ああ、そうだ。

 死ぬ気でかかってこい!」

 

 

 ならば相手がどういう手を取るかは一目瞭然だ。

 全力全開の特攻、これに尽きる。

 ならば俺はそれに対してカウンターの回数をぐっと減らし、猛攻に耐える。

 これで俺が万全の状態ならば逆に攻め込むのだが、既にかなりのダメージを負っているので耐久力を武器にした戦い方は取れない。

 相手もそれを読んでいるのか、守りを完全に無視した捨て身の攻めである。

 

 

「なんと、これを捌きおるか!?」

 

 

 確かに俺の方がダメージも負っている。

 そしてそのダメージのおかげで確かに俺の方が反応速度が遅い。

 さらに、筋肉で血管を圧迫しているとはいえ、かなりの血を流している。

 

 

 この差は技量。

 純粋なる技量だ。

 

 

「さて、そろそろ攻め手も無くなるか?」

 

 

 通常ならば完全に攻めに入るのは確かにいい選択だと言えるだろう。

 本来ならばそれで決着がついていただろう。

 だが受け流しに特化した俺に対して完全に攻めに入るのは完全な悪手だ。

 

 

 一手向こうが攻める度に回避を交えず受け流す。

 そして、徐々に徐々にと相手から取れる選択肢を奪っていく。

 確かに相手が特攻に切り替える事でかすり傷を負う回数自体は増えたのが致命傷となるような攻撃は完全にゼロだ。

 

 

「まさかお主!?」

 

 

 俺への微かなダメージ(かすり傷)を撒き餌に数十手先にある決着(敗北)へと誘導していく。

 より不利な体勢へ、よりこちらが有利な体勢に持ち込む。

 この約10分間程度の攻防で、俺は相手に悟られないように自然に打てる手を奪い取り続けていたのだ。

 

 

「ようやく気が付いたかよっと!」

「ば、馬鹿な……ありえぬ!」

 

 

 そう言って体勢を立て直そうとするが気が付いた所でもう遅い。

 体勢を立て直す為に距離を離そうとも、この体勢からだと完全にこちらが有利を保ったまま追従できる上に、そもそもそんな事をする暇を与えずに殴り込める。

 

 

「だが気が付いた所でもう遅い!」

「くっ!」

 

 

 完全に死に体で切り込まれた一撃を流しながら体捌きで相手の内側へとするりと入り込んだ。

 

 

 ここから俺が放つのは全力の貫手。

 一撃で相手の命を吹き飛ばす為に、狙うのは喉。

 ヒヤヒヤして少し楽しかった戦いもこれで終わりだ。

 

 

「さぁ、死に晒せ!」

 

 

 俺の貫手はそのまま本松の首を貫き、その命をあっさりと奪い取った。

 






どうやらランキングトップになってエタりかけていた作者がいるらしいですね。
しかも、別作品書いてたらしいですね。


( ゚∀゚) ∀゚) ∀゚) ∀゚) ∀゚):∵グハッ!!


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