物理攻撃極振り聖職者〜ヒーラーが鈍器で殴って何が悪い!!〜 (徒花/)
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一話 物理攻撃極振り聖職者爆誕①

『STR極振り聖職者だぁー? んなもんいらねえよ。回復職を求めてるってのにSTR極振りって事はその分INT振れてねえって事だろ? ……回復量少ねえ聖職者じゃあパーティー崩壊するじゃねえか。悪りぃが他をあたってくれ』

 

 そんな事を言われ、俺、灰風ハルカこと、プレイヤーネーム——ハルカは記念すべき0勝100敗という記念すべき100回目の敗北を噛み締める事となっていたのが数分前の話。

 何の敗北なのか。

 それは言わずもがな、

 

「う、があああああああ!!! おっかしいだろッ!!? なんでSTRに振ってる聖職者は要らねえって毎回毎回パーティー断られるんだよおおおおお!!!!」

 

 俺は脇目も振らず始まりの街に位置する酒場の中で叫び散らした。

 敗北というのはパーティー加入への拒絶回数の事である。かれこれ100回ほどパーティー加入を断られ、こうして発狂に至ったというわけなのだ。

 

 しかしながら此処は始まりの街。

 不幸中の幸いとでも言うべきか、サービス開始から既に1週間が経過しており、ユーザーの大半が先へと進んでいる。

 故に、始まりの街にひと気は殆どなく俺の発狂もあまり目立つ事はなかった。

 

「STR超便利じゃん!? 攻撃力増えるし!! 荷物の限界重量増えるし!! 武器だって色んなやつ使えるようになるし!!」

 

 このVRMMO——〝Another fantasìa〟ではプレイヤーが任意でステータス値を振り分ける事が出来るというシステムを採用している。

 振り分けられる種類は4種類。

 

 主に攻撃力を上昇させるSTR。

 魔法力を上昇させるINT。

 体力と防御力を上昇させるVIT。

 そして攻撃速度、移動速度といった素早さを上昇させるAGIである。

 

 この〝Another fantasìa〟では初期状態の際に予め自由に使えるステータスポイントを100各々に与えられており、それを各自で好みに振り分けてから冒険スタートという流れであった。

 

 事前に利点等は開示されており、その為、大半の者が前衛職であればアタッカーとしてSTR。もしくはAGIを。壁役としてVITを。後衛としてINTを。ヒーラーとしてINTを。などなど。

 当然と言わんばかりに皆がそのようなステータスの振り分け方をする中。

 

 ステータス振りの前に行われる職選び。

 ウォリアー。ブレイバー。ウィザード。クレリック。その四種の中から唯一の回復スキル持ちである聖職者——クレリックを選んだにもかかわらず、INTを上げずにSTRに極振りをする馬鹿が1人いたのだ。

 …………俺である。

 

「聖職者はヒノキの杖で十分だ? んなもん知るかああああああ!!!」

 

 この〝Another fantasìa〟には武器一つ一つに重量が決められており、一定のSTR値がなければ装備ができないという事態が発生するのだ。

 その為、強い武器を装備する為にもSTRは必須だろう! そう思ってSTRを上げていたというのに、誰もがいうのだ。

 ————聖職者はヒノキの杖で十分だ。と。

 

 ヒノキの杖とはプレイヤーに配られる聖職者の初期装備であり、武器効果として回復量+10%というロックパラメーターが存在している。

 

 ぶっちゃけ聖職者はヒーラーという立ち位置である為、パーティーを組むならばはっきり言って回復だけしておけばいいという立ち位置である。

 なので回復量を増やすヒノキの杖で十分だ。寧ろヒノキの杖を使えという話に落ち着く。

 

 しかも、ヒノキの杖の重量は0。

 つまり、STRを一切振らずとも装備が出来るという優れものなのだ。

 

 嗚呼! 素晴らしきかなヒノキの杖!

 その為、先を見越してSTRに極振りした聖職者()は先見性のあるヤツではなく、ただの馬鹿という事で落ち着いていた。ファック!!

 

「……サービス開始当初から始めてんのにまだ始まりの街から抜け出せてないヤツって多分俺だけだよな」

 

 そもそも、討伐クエストをこなさないと次の街に向かえないというシステムこそが諸悪の根源とも言えた。……まじ、素通りさせろよ。

 

「だぁっー!!!」

 

 がしがしと乱暴に髪を掻き毟りながらがむしゃらにまた叫ぶ。

 

「……つーか、ステ振り直し禁止とかまじあり得ないから」

 

 この〝Another fantasìa〟のルールの一つとして、ステータスの振り直し禁止がある。

 とはいえ実のところは禁止ではなく、振り直す手段が存在しないというだけなのだがであれば禁止となんら意味合いは変わらないだろう。

 

 もしどうしても振り直したいなら新たに〝Another fantasìa〟のソフトを購入しろと運営はサイトのHPで記載していたが、発売初日に完売し、生産終了したソフトをどうやって手に入れろというのだろうか。……討伐クエストといい、鬼畜の所業の連続である。

 

「……パーティーには入れない。ステータスは振り直せない。クエストを達成しないと次の街にたどり着けない」

 

 今の現状を一つ一つ噛み締めるように口にし、俺は考え込む。

 このゲームの為に数万の出費をしておきながら始まりの街でゲーム放棄というのは俺が許しても俺のお金ちゃんが許さない。

 

 とすれば、残された選択肢はたったひとつ。

 

「……ソロで討伐クエストをこなすか」

 

 本来4人パーティー推奨のクエストをソロでクリアする。それくらいのものであった。

 

「ステータスオープン」

 

 俺がそう呟くとピロン、と甲高い効果音と共に視界に青白いウィンドウが映り込む。

 

 そこには忌々しいステータスが映っており、レベルと装備、加えて残りSPポイント。

 つまり、振り終わっていないステータスポイントの数値が記載されていた。

 

 ステータスポイントはゲーム開始当初に100、自由に振り分けられる他、レベルを1上げるごとにステータスポイント——SPを1取得出来るシステムとなっている。

 その為、パーティーに入る為にはINTが必要と耳にした俺は必死にレベル100にしてそこらの連中とトントンにしてやろうと目論んだものの、20時間ぶっ続けで狩りをしても17レベルにしかならなかった為、その計画は呆気なく頓挫した。

 

 SPが100たまったらINTに振り分けるんだ!

 と意気込んでいた事もあり、未だそのSPは放置されたままであった。

 

「……ソロでやるんなら出来る限りSTRを上げておくべきだよなあ」

 

 聖職者の適性武器は杖、もしくは鈍器。

 

 適性武器とは職に合った武器の事で、適性武器を装備すればその装備の1.5倍の力が引き出せるのだ。その為、それを無視してたとえばウィザードなのにあえて剣を装備するやつ等は名誉あるおバカの称号が贈られる。

 

「聖職者に攻撃系の魔法はねえし、近接で攻撃するしかねえもんなぁ……」

 

 INTに関する能力を上昇させる杖は論外。

 なのでSTR極振りの俺に残されたのは聖職者だけが適性とされる鈍器。それ一択である。

 

「バザーになんかいい武器売ってたっけか」

 

 バザーとはユーザー同士で装備品などのトレードを可能とするシステムだ。

 ユーザーは物を出品し、それに値段を設定。

 するとそれが他のユーザーに閲覧可能となり、設定された値段を支払うと購入者の手元に装備が届くという素晴らしいシステム。それがバザーである。

 

 基本的にバザーはひとつの街にひとつは存在する露店といわれる場所でのみ使用が可能とされていた。特定のNPCに話しかけるとバザーの閲覧が可能となる。

 ちょうど酒場にそのNPCがいるので俺は近づき、コマンドを操作。

 

 バザー閲覧ボタンをタップし、自分が欲する武器である鈍器を検索。

 討伐クエストをソロで行わなければいけないので出来る限り一番いい武器をと17レベルまで上げた際に手に入れたポケットマネーと相談しながら探していると直ぐにお目当てのものは見つかった。

 

 鈍器。

 通称、ゴミ武器。

 

 武器の適性職業が聖職者のみであり、にもかかわらず筋力を必要とする鈍器はまごう事なきただのゴミ。

 プレイヤー間の中でそう認識されている鈍器なのだが、はじめの街から未だ出れていない俺が知る由はなかった。

 

 検索にかけていた鈍器の中で一番レアリティの高い物。それはずらりと表示され、こんなもんいらねえとばかりに種類豊富に出品されていた。

 その中でも最上位。

 レアリティは最上級の☆5。

 同レベルの剣や杖などは10億などという法外な値段が付けられていたにもかかわらず。

 

 レアリティ ☆5

 種類 鈍器

 武器名 雷鎚ミョルニル

 値段 1500s

 

「……………」

 

 俺は無言で自身のポケットマネーを確認。

 そこに15000sという数字が表示されている事を今一度確認し、

 

「流石に草」

 

 俺は雷鎚ミョルニルを購入した。



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