四人の灰は薪を目指す (蛸夜鬼の分身)
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episode1 目覚め

竜狩りの鎧をハンマーヘッドシャークと呼んではいけない。いいね?


 鐘の音が聞こえる。それは頭に直接響き、私の意識を呼び起こした。

 

「ぐ⋯⋯ぅ⋯⋯」

 

 呻き声を上げながら起き上がろうとすると、頭をガツンと何かにぶつける。これは⋯⋯私は何かに入っているのか?

 

 狭い空間の中でなんとか腕を動かし、蓋らしき物をこじ開ける。どうやら私が入っていたのは石造りの棺桶だったらしい。

 

 蓋を開けると隙間から光が差し込み、眼前に白い曇天の空が広がる。蓋を完全に退かし辺りを確認する。どうやらここは墓地の様だ。死の空気が充満し、そして灰に塗れている。

 

 ここはどこなのか。そして何故この様な場所にいるのか。様々な疑問が浮かび上がるが、その中で最も気味が悪い事が一つ。

 

 それは、私の記憶が一切として抜けている事だ。辛うじてだが、私はかつて竜狩りの戦士だったということだけを覚えている。

 

 そんな気味の悪さを感じながらもう一度辺りを見渡すと、私が入っていた棺桶の近くには同じ様な物が“三つ”置かれている事に気付く。棺桶の蓋は開いている為、もしかしたら私と同じく棺桶から起きた者がいるのだろうか。

 

「⋯⋯む?」

 

 棺桶から出ようとすると私の右手が何かに触れる。見るとそこには多くの武器が一緒に寝かされていた。変に狭いと思ったら武器も入っていたのか。

 

 そして今気付いたが、私はどうやら鎧を着ている様だ。それも“鉄が溶けたかの様な黒い鎧(溶鉄の竜狩りシリーズ)”を。今まで違和感を感じなかったのは恐らく、この防具が異様に身体に馴染んでいるからだろう。更に指には四つの指輪が填められている。

 

 さて、私と共に寝かされていた武器は六つ。まず防具と同じ材質の無骨な大斧(竜狩りの大斧)、そして同じく無骨な大盾(竜狩りの大盾)

 

 他にも金色の槍(竜狩りの槍)シンプルな鉄の小盾(鉄の円盾)赤と白のタリスマン(太陽のタリスマン)。最後の一つは私の背丈以上にある巨大な弓(竜狩りの大弓)だった。

 

「これは⋯⋯私の武器なのだろうか」

 

 だがどう考えても一度に装備出来る数ではない。それに今の鎧に加えてこの数の武器を装備したら確実に動けないだろう。そう考えながら大斧を手に取ると

 

『灰よ、ソウルの業を使い給え』

 

 という声が頭に響き、大斧が白い粒子となって私の身体に吸い込まれていく。

 

「っ!? な、何だ!?」

 

 大斧が消えた事に驚き腕を振ると先程消えた大斧が手に顕現され地面に振り下ろされる。

 

「これは⋯⋯」

 

 確かソウルの業、と聞こえたな。武器を白い粒子として身体に取り込み、そして顕現する⋯⋯これならあの量の武器を扱えるのも納得出来る。

 

 私は取り敢えず棺桶に入っていた武器を業で仕舞い右手に大斧を、左手に大盾を持つ。

 

「⋯⋯とにかく、先に進んでみるか」

 

 私の棺桶の場所から別の場所に向かう道が一本見える。私はその先に進む事にした。

 

 何が来ても対応出来る様に大盾を構えながら先に進む。この墓地に大雨でも降ったのだろうか。異様な程に水が溜まっている。

 

 暫く先を歩いて行くと何やら剣戟の音が聞こえる。誰かが戦っているのか?

 

 丁度良い岩陰を見つけ、そこに隠れて先の様子を見ると⋯⋯

 

「はぁあああ!!」

 

 禍々しい大曲剣(ハーラルドの大曲剣)を持った修道女らしき女が黒いローブを羽織った人間を斬り殺していた。

 

「貴公、何をしているのだ?」

 

「っ!? また亡者ですか。どうやら火が陰っているのは本当の様ですね⋯⋯」

 

 修道女は何かを呟くと大曲剣を構え襲い掛かって来る。私は驚きながらも大盾を滑り込ませ、大曲剣の一撃を防いだ。

 

「くっ⋯⋯盾で防ぐとは、亡者になる前は相当な手練れだった様ですね」

 

「おい貴公、何を言っている!?」

 

「ですが、亡者程度に遅れは取りません! 盾など剥がしてしまえば良い!」

 

 修道女はバックステップで距離を取ると大曲剣と左手に持っていた黒い中盾(黒騎士の盾)を消し、小さな手鎌(湿った手鎌)燃え盛る謎の火(呪術の送り火)を取り出す。

 

「はぁあああ!」

 

「ぬぅっ⋯⋯!」

 

 修道女は手鎌を素早く振り、手鎌の湾曲した刃を利用して盾越しからダメージを与えていく。

 

「《黒炎》!」

 

「ぐおっ!?」

 

 瞬間、修道女の燃え盛る左手から真っ黒な炎が吹き出し私の大盾を僅かに崩す。どうやらこの炎は盾受けのスタミナを大きく削るらしい。もう一発喰らえば完全に崩され、大きな隙を晒してしまう。

 

『灰よ。竜狩りの戦いを思い出し給え』

 

 その言葉が聞こえた瞬間、私は盾を構え、大きく踏み込む。そして大盾を突き出すと衝撃波を発生させ修道女を吹き飛ばす。

 

「ああっ!?」

 

 修道女が吹き飛んだと同時に大盾を背中に背負い、大斧を両手に持つと倒れている修道女に振り下ろした。

 

「っ⋯⋯!」

 

「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」

 

 私は修道女の顔の真横に外した大斧を持ち上げる。修道女は起き上がると困惑した表情で私を見た。

 

「亡者が、攻撃を止めた⋯⋯?」

 

「ハァ⋯⋯何度も言うが、私は亡者ではない。言葉が聞こえてないのか?」

 

「えっ⋯⋯あっ!」

 

 修道女はやっと私が亡者ではないと分かったのか、顔を青ざめて頭を下げてくる。

 

「すみません! まさか生者の方でしたとは⋯⋯」

 

「いや、両者無事だったのだから良い。所で貴公はここで何をしていたのだ?」

 

「えっと、私は貴方がやって来た方にある棺桶の中で寝かされていまして⋯⋯」

 

「む、貴公もあの場所で目覚めたのか?」

 

「貴公も、という事は⋯⋯貴方も?」

 

「ああ。まあ、それは追々話そう。それで?」

 

「あ、はい。それで目が覚め、取り敢えず先に進んだら⋯⋯」

 

 修道女の視線の先には先程殺されていた黒いローブの人間が倒れている。近付き、その顔を見ると⋯⋯

 

「っ! これは⋯⋯」

 

 肌は血の気が失せ白く、目は窪んだ⋯⋯この世界の根本、“始まりの火”が陰った時に現れる亡者そのものだった。成る程。修道女が亡者と騒いでいたのはこれのせいだったのか。

 

「⋯⋯なあ貴公。この先にも亡者がいる可能性がある。どうだ、同じ境遇同士ここは協力しないか?」

 

「⋯⋯そうですね。私の事は『修道女』と呼んで下さい。記憶が無く、名前を覚えていないのです」

 

「分かった。私も記憶が無い。だから『竜狩り』と呼んでくれ」

 

 自己紹介を終えた私達は先に進む。途中亡者が何体か居たが、修道女の実力は中々のもので一撃の内に屠っていた。

 

 そして真正面に進む道と右に進む水場の道がある。取り敢えず右に進む事にすると、先から戦闘音が聞こえてきた。

 

 走って先の様子を見に行くと、結晶が生えた巨大な魔物と俊敏な動きで特大剣を振るう何者かが戦っていた。

 

「クソッタレ! いつになったら死にやがるんだ!」

 

「貴公、助太刀するぞ!」

 

 私は大斧を構えて結晶の魔物に突撃する。修道女も大曲剣を構え私の後ろを走る。

 

「おおっ!? 誰だか知らねえがありがてえ!」

 

 私は未だ剣士の方に向いている結晶の魔物へとダッシュした際の勢いを付けた大斧の一撃は相手を怯ませるに十分の威力だった様だ。

 

「隙ありです!」

 

 すると修道女がその隙を狙い、魔物の顔面に大曲剣を二回叩き込む。魔物はその衝撃で吹き飛び体勢を崩した。

 

「死ね! この! クソトカゲがぁあああ!!」

 

 すると剣士が左手に持った変な形状の短剣を地面に刺し、それを軸として右、左と大剣を振り回しながら回転。そして飛び上がり短剣と大剣を振り下ろす。

 

 その連撃を喰らった魔物は断末魔を上げて倒れ、白い粒子となって消えていく。その際、少しの粒子が私達三人の身体に吸い込まれていった。

 

 更にまた別の粒子が私の手元に集まり、青色の謎の石が現れた。何なのだろうか、これは。ウロコ⋯⋯の様だが。取り敢えずソウルの業で仕舞っておこう。

 

「おうアンタら。さっきは助かったぜ。ありがとな」

 

「ああ。貴公は何故ここに?」

 

「え~っと、まずこっから戻って左に行った場所にある棺桶の中で目ぇ覚めて⋯⋯途中にいる亡者倒しながら探索してたらさっきのトカゲの縄張り入っちまったみてえでな。襲われて戦ってたらアンタらが来た訳だ」

 

「成る程⋯⋯実は私達も同じ場所にあった棺桶に入っていたんだ。これも何かの縁だ。暫く共に進まないか?」

 

 剣士はその言葉を聞いて少し考え、頷いた。

 

「そうだな。俺にも利点はあるし、断る理由もねえ。よろしく頼むぜ。そうそう、俺の事は監視者って呼んでくれ。名前は忘れちまったんでな」

 

「分かった。私は竜狩りと呼んでくれ。そしてこっちが⋯⋯」

 

「修道女です。監視者さん、よろしくお願いしますね」

 

「おう! 俺はこのファランの剣技の他に魔術も使えるから力不足にはならねえ事を保障するぜ。アンタらは何が出来るんだ?」

 

 そう言えば自分はこの大斧以外に何が出来るのか分かっていないな。この際に調べてしまおう。

 

「あ、私は属性を変質させた武器を敵に合わせて使います。あと本職の方程ではありませんが、呪術や奇跡なども少し嗜んでいます」、

 

「成る程、万能戦士って奴か。頼もしいぜ。竜狩り、アンタは?」

 

 監視者の言葉に記憶が無い為何が出来るか分からないと答えようとすると、バチッと頭に電撃の様なものが走り、僅かな記憶が戻ってくる。それは私の持っている武器の記憶だった。

 

「私は⋯⋯まず竜狩りの大斧と竜狩りの大盾が基本となる。そしてこの竜狩りの槍での刺突攻撃。それと愚者変質させた鉄の円盾による集中力の回復とパリィ。あとは⋯⋯竜狩りの大弓による遠距離攻撃と、太陽のタリスマンで奇跡も扱えるぞ」

 

「信仰戦士か。アンタも凄え頼もしいな」

 

「では大盾を持っている竜狩りさんが前。次に私。魔術が使える監視者さんが後ろで良いですか?」

 

「そうだな。私もそれで良いと思う」

 

「竜狩りが守り、修道女が斬り、俺が撃つって構成か。良いねえ、お伽話の勇者一党みてえで楽しいじゃねえか」

 

 監視者はクククッと楽しげに笑う。今大変な状況だというのに、楽観的なものだな。いや、これが彼の良さなのか?

 

「それでは早速先に進もう。確かまだ行っていない道があった筈だ」

 

「分かりました」

 

「おうよ!」

 

 私達はこの場所に来る道から見て右の、曇天の空が見える崖際の道に来る。

 

「おほっ。すっげー崖だな。どうだ修道女、落ちてみねえ?」

 

「何を馬鹿言ってるんですか!」

 

「いやいや、0.1パーセントくらいの確率で生き残るかもしれねえぞ?」

 

「おい貴公達。前に何かあるぞ」

 

 崖際の道を進んでいくと先の少し開けた場所に何か螺旋状の物が突き刺さっている。近付くとどうやらそれは剣の様で、何かの灰に突き刺さり燃えている。

 

「おっ! こりゃあ『篝火』じゃねえか!」

 

「知っているのか監視者」

 

「おう。この篝火ってのは俺達の持ってるコレの量を補充してくれたり、別の篝火に移動する事が出来るんだ」

 

 監視者が権現したのは黄色い液体が入っている緑色の瓶と、青色の液体が入っている灰色の瓶だ。

 

「これは⋯⋯?」

 

「あれ? 竜狩りさんも不死なら持っている筈ですよ?」

 

 修道女に言われ手に瓶が出るよう念じると監視者の物の様な瓶が権現する。中の液体は緑色の瓶が十回、灰色の瓶が五回程飲める量だな。

 

「これはエスト瓶とエストの灰瓶っていう不死の宝です。エスト瓶は生命力を、灰瓶は集中力を回復してくれます」

 

 ふむ⋯⋯私はエスト瓶を傾け、黄色い液体を飲む。その暖かな液体は私の体に染み渡り、傷を癒やしていく。

 

「普通なら補充が出来ねえエスト瓶だが、篝火の火に近付けると補充される。それに亡者共を近付けねえ力を持ってるから篝火は俺達の生命線であり、これがある場所は拠点として使えるって訳だ」

 

「成る程⋯⋯では早速エストの補充とやらを試しても良いだろうか」

 

「そうだな、百聞は一見にしかずだ。試した方が早いだろ。俺達も一旦休憩しようぜ」

 

「そうですね。私も灰瓶を補充しておきたいですし」

 

 そうして私達が篝火に近付くと、結晶の魔物を倒した時の様な白い粒子が集まり人の形を作る。何事かと思い盾を構え様子を窺うと⋯⋯

 

「う~む、また失敗してしまったか」

 

 黄色い服を纏った男が、さも同然の様にそこに立っていた。




 はいどーも、作者の蛸夜鬼の分身です。普段は小説家になろうにて投稿させて戴いてます。

 今回の作品『四人の灰は火を目指す』は私が趣味で書いてたダークソウルの二次創作作品となります。その為主人公や仲間の装備が充実していますが、その点は目を瞑って戴くと幸いです。

 さて、この作品は飽くまで趣味のもので、そして私はなろうの方を優先させてもらいます。その為、数ヶ月間投稿しないなどもありますがご了承ください。ただ投稿を止めるなどはしません。

 それでは今回はこの辺で。また今度、お会いしましょう!


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episode2 審判者

 竜狩りの盾をホタテと言ってはいけない(戒め)


「何モンだテメェ!」

 

 監視者は突然現れた男に剣先を向けて威嚇する。その声で男は私達に気付き、振り向いた。

 

「む? おお、貴様ら火の無い灰か! 丁度良い所に来てくれた!」

 

「⋯⋯何を言っている?」

 

 この男は私の事を知っているのか? すると男は篝火に座り込み、近くの地面を叩く。

 

「ほれ、この吾輩が説明してやるから座らぬか」

 

「⋯⋯どうしますか?」

 

「敵ではなさそうだ。それに襲ってきたとしてもこちらは三人。負ける事は無いだろう」

 

「一応、警戒しとけよ。色々ヤバそうな奴だからな。特に性格が⋯⋯」

 

 まあ、一人称が吾輩の奴だから性格に難がありそうなのは分かる。俺達は警戒を解かずに篝火近くに行くとそこに座り込んだ。

 

「では吾輩の自己紹介をしておこう。ただ名は忘れてしまったのでな。『呪い師』と呼ぶと良い。不死になる前はそれの真似事をしていたのでな」

 

「修道女です」

 

「監視者だ」

 

「竜狩りと呼んでくれ。それで呪い師、何を説明してくれるんだ?」

 

「うむ。まずあの広場が見えるであろう?」

 

 呪い師が指差す先には円形の広場がある。私は『遠くを見たい』と思った際に顕現した遠眼鏡を覗き込んだ。

 

 その広場の中央には、背中から謎の黒い物が蠢いている甲冑の様なものが跪いている。それは巨大で、大きさから見ても私の二倍近くの大きさがあるだろう。

 

「あれは⋯⋯?」

 

「あの者は『灰の審判者、グンダ』。我ら火の無い灰の力を試す審判者よ」

 

「火の無い灰って⋯⋯それ、俺達の事か?」

 

「ああ。この『灰の墓所』で蘇りし者はそう呼ばれ、審判者の試練を受ける。それは今後の偉大なる使命の為だ」

 

「⋯⋯その使命というのは?」

 

「それは吾輩も分からぬ。だがグンダを倒さねば先に進めぬのが事実だ」

 

 偉大なる使命⋯⋯それは分からないが、とにかくグンダを倒さねばならないのか。

 

「分かった。呪い師、目的は同じの筈だ。ここは一旦協力しないか?」

 

「ぬぁははは! それは百も承知よ! 吾輩が極めし数多の呪術、貴様らの為に使ってやろう!」

 

 呪い師は豪快に笑いながら立ち上がる。私達も立ち上がるとそれぞれの武器を説明し、グンダがいる広場の前にやって来た。途中に何体かの亡者がいたが、特に苦戦する事無くここにやって来た。

 

「さて、広場の前にやって来た訳だが⋯⋯呪い師、グンダに何度かやられていた様子だな。どのような戦いをしてくる?」

 

「うむ。審判者は斧槍と強力な体術を絡めた近接攻撃を仕掛けてくる。巨体だが素早い攻撃なので誰かが囮として動いた方が良かろう」

 

「では私が囮になろう。修道女と監視者は隙を見て攻撃。一撃離脱を心掛けろ。呪い師は確か呪術が出来るのだったな。グンダの注意が向かない程度に遠くから攻撃してくれ」

 

「分かりました」

 

「オーケーオーケー。了解だぜ」

 

「承った!」

 

 三人が頷いたのを見た私は大盾と、少しでもリーチと手数を増やす為に槍を持って広場に入る。

 

 少し先に進むとグンダが動き出し、斧槍を持って立ち上がった。

 

『灰よ、審判者にその力を認めさせ給え』

 

─────灰の審判者、グンダ

 

 頭に響く声を聞きながら盾を構えグンダに近付く。

 

「貴公ら! 先程の通りに!」

 

 私は開幕走るとその勢いを乗せて槍を突く。竜狩りの槍は雷の力を持つ。金属鎧を来ているグンダにはかなりの攻撃力が期待出来るだろう。

 

 グンダは一番近い私に注意を向け、その斧槍を突いてくる。かなりの衝撃だが、これならまだ耐えられる。

 

「はぁあああ!」

 

「喰らいやがれ!」

 

 修道女と監視者の二人は、グンダが私を攻撃した隙に大曲剣と特大剣を振り抜く。

 

「存分に堪能したまえ、我が呪術を! 《苗床の残滓》!」

 

 更に呪い師が呪術を唱え、巨大な火球を投擲。それはグンダの胴体に当たり、周りにかなりの熱を撒き散らす。

 

 グンダは攻撃を加えた三人の方に向こうとするが、私は槍を何度も突き注意を私に向ける。

 

 これを何度か繰り返しているとグンダが段々と疲弊して来た様に怯み始めた。

 

「良し! この方法ならやれるぞ!」

 

「順調ですね! あ、もう一度行けますよ監視者さん!」

 

「おうよ! 審判者も四人には勝てねえみたいだな!」

 

「⋯⋯」

 

 私達が順調に戦っている中、呪い師だけが何やら考え事をしていた。

 

「おかしい⋯⋯審判者とも呼ばれる者がこの様に簡単にやられるだろうか?」

 

「おい呪い師! 何ブツブツ言ってんだ、さっさと呪術投げろ!」

 

 考え事をしている呪い師に、監視者が怒声を飛ばす⋯⋯その時だった。

 

 突如グンダの様子が変わり、甲冑の中から蠢く何かが肥大化。腕の様なものを振り回し近くにいた私達を吹き飛ばす。

 

「ぐっ!?」

 

「ああっ!」

 

「ぐえっ! っおぉおおお⋯⋯!」

 

 私は盾を構えていたお陰でダメージは無かったが、修道女と監視者は吹き飛ばされ衝撃に悶えている。

 

「貴様ら、大丈夫か!」

 

「い、一体何が⋯⋯」

 

「恐らく長い年月が経ったせいでグンダの人間性が暴走したのだろう! 言うなれば『人の膿』だ!」

 

 その人の膿はグンダの武人的な動きとは打って変わり、まるで獣の様に暴れ回る。クソッ、攻撃する暇が無い! 動きも複雑で攻撃を避けにくいぞ!

 

「呪い師! どうすれば良いんだ!」

 

「人の膿は火に弱い! 隙さえ作ってくれれば吾輩が⋯⋯ぐおっ!」

 

 呪い師が呪術を唱えようとした隙を突かれ、薙ぎ払いで吹き飛ばされる。

 

「ぐっ⋯⋯っ⋯⋯!」

 

 私はグンダの膿の連撃を盾で防いでいるが⋯⋯それも時間の問題だ。段々と腕が痺れてきた。いつかは盾受けを崩され、そして⋯⋯

 

 ゾクリと、背中に恐怖が這い上がってくる。幾ら復活するといっても死にたいとは思わない。かつてこのグンダに挑んだ者も、恐怖に怯えながら亡者となったのだろうか。

 

 そんな事を考えながら膿の連撃を防いでいると⋯⋯

 

「うらぁああああ!!」

 

 先程まで倒れていた監視者が勇敢にもグンダの膿に攻撃を仕掛けた。グンダの膿は監視者の攻撃を喰らう度に大きく怯んでいる。

 

「ふざけやがって! 深淵狩りを舐めんじゃねえぞ!」

 

 監視者の剣技によってグンダの膿は怯む。どうやら膿を含めた深淵という存在には監視者の剣が効くらしい。

 

「悪いな竜狩り! さっさと決めちまうぞ!」

 

「ああ!」

 

 私はその隙に槍を両手に持つ。そして

 

『灰よ。かつての竜狩りの雷鳴を呼び給え』

 

「《雷の突撃》!」

 

 その言葉に従い槍を構え突撃。槍は雷を纏い、私はそれを突き出す。すると槍に纏っていた雷が放たれグンダの膿に着弾した。

 

 

《戦技・雷の突撃》

腰だめからの突撃で槍に雷を纏わせ

また最後の突きから、その雷を放つ

 

 

 その雷はグンダの膿の頭部に直撃し、膿は断末魔を上げてその巨体を倒しソウルにして消えていく。

 

 例に漏れずそのソウルの少しは私達に吸い込まれ、また一部は私の目の前で集まり、篝火に突き刺さっていた物と同じ螺旋の剣を顕現する。

 

「終わったか⋯⋯」

 

「ふい~。何なんだよコイツの強さ。これが審判者って事はこの先の敵はもっと強いってか?」

 

 監視者はそう言いながら座り込む。確かに、最初でこの強さだ。この先はもっと強い者が出てくると考えた方が良いだろう。

 

「っと、二人を回復させなければな」

 

 私は未だに倒れ呻いている修道女と呪い師を近くに連れてくるとタリスマンを持ち

 

「《太陽の光の癒し》」

 

 奇跡の物語を紡ぎ、二人の傷を癒やす。

 

 

《奇跡・太陽の光の癒し》

太陽の光の王女に仕えた聖女たちに

特別に伝えられたという奇跡

 

周囲を大きく含め、生命力を大きく回復する

 

全てに愛されたグウィネヴィアの奇跡は

その恩恵をひろく戦士たちに分け与えた

 

 

「っ⋯⋯あ、ありがとうございます竜狩りさん」

 

「むう⋯⋯まさかあの様な変態を残していたとは⋯⋯すまぬな竜狩りの」

 

「おい! アンタら竜狩りにばっかじゃなくて俺にも礼を言うべきじゃねえのか? 俺がグンダを怯ませたから勝てたんだぜ!」

 

「いや、監視者さんは美味しいとこを持って行こうとしていた気がしますし⋯⋯」

 

「虎の威を借る狐であったな」

 

「て、テメエら⋯⋯」

 

「監視者。お前に助けられたのは私が良く分かっている。本当に助かった」

 

「お、おう! いや~、竜狩りはこの二人とは違うな! 分かってたぜ!」

 

 さて、ここからどこに向かえば良いのだろうか。そう考えながら辺りを見渡すとこの広場の入り口、その対極に位置する場所に大きな門がある。

 

 そこに近付き、門に手を掛けると

 

「むぅん⋯⋯!」

 

 力を込め、門を押す。ゴゴッと低い音を出しながら門が開いていき、何とか人間一人が通れる程の大きさまで開いた。

 

「おお! 竜狩りの、凄まじい膂力を持っているではないか!」

 

「中々に重かったがな。これでも重量のある装備を着てるんだ。力には自信がある」

 

 そして私達は門の先に進む。先には大きな建物があり次はそこに向かう事にした。

 

 道中、やはりと言うか亡者がいたがグンダに比べて赤子の手を捻る様なものだ。特に問題も起きなかった。

 

「しかし、ここはそれなりに広い場所の様だな」

 

「そうですね。建物を調べる者と外を調べる者に分かれましょうか?」

 

「そうすっか。じゃあ俺は外を調べる」

 

「吾輩も外を調べる事にしよう」

 

「では私と修道女は中に入ろう」

 

 そうして二手に分かれた私達は探索が終わったら入り口で再会する事にした。二人を見送った私と修道女は建物の中に入る。

 

 建物の中には松明で明かりを確保されており、大きな広場の様な場所には玉座の様な物が五つ。灰塗れの中央には誰かが立っていた。

 

「あれは⋯⋯?」

 

「分かりません。亡者かもしれませんし、注意しましょう」

 

 私は大盾を構えながら中央の人物に近付く。ある程度近付くと相手は私達に気付き、なんと頭を下げてきた。

 

「篝火にようこそ、火の無き灰の方々。私は『火防女』。篝火を保ち、貴方達に仕える者です」

 

「火防女⋯⋯?」

 

「はい。火防女は灰の方の使命が無事終える事が出来る様に手助けをする者です」

 

「ふむ⋯⋯」

 

 どうやら敵ではなさそうだ。辺りを見渡すと何人かの人間もいる様だし、どうやらここは安全らしい。

 

「火防女とやら。質問なのだが、ここは何と言うのだ?」

 

「ここは火継ぎの祭祀場。審判者の試練を越えた者はここを始まりとして使命を果たすのです」

 

「祭祀場⋯⋯では、その使命とは?」

 

「⋯⋯王たちの故郷が集まる王国ロスリック。その各地いる薪の王を玉座に戻すことです」

 

 その後の火防女の話によれば、蘇った薪の王は五人。その内『追放者ルドレス』を除く四人が自らの故郷に帰ってしまった。

 

『深淵の監視者』はファランの城塞に。

 

『聖者エルドリッチ』は深みの聖堂に。

 

『巨人の王ヨーム』は罪の都に。

 

 そして『王子ロスリック』はロスリック城に行ったという。

 

「つまりその故郷とやらに行き、王を説得して玉座に戻せと?」

 

「はい。そういう事になりましょう」

 

「成る程⋯⋯分かった。それが使命というのならやるとしよう」

 

「ちょっ、竜狩りさん! そんな安請け合いして良いんですか!?」

 

「構わん。どの道断っても世界の終わりが訪れるだけだからな」

 

 それにこの使命をどう思うかは後々じっくりと考えればいい。今は目的を持つことが大切だ。

 

「ありがとうございます。ここには祭祀場の従僕や貴方達と同じ火の無い灰の方が何人かいらっしゃいます。使命の協力を仰ぐと良いでしょう」

 

 その後、祭祀場周りの探索を終え戻ってきた監視者と呪い師にも火防女は同じ事を話す。

 

「⋯⋯薪の王たち、か」

 

「だが王たちを連れ戻すのは分かったが、どこに向かえば良いのだ? この周りを探索したが辺りは断崖絶壁だぞ?」

 

「審判者を倒した時、一本の螺旋の剣を手に入れた筈です」

 

 それを言われて私は先程手に入れた剣を権現する。

 

「灰の方。篝火に、その螺旋の剣をお示しください。貴方達を、王たちの地に導くでしょう」

 

「⋯⋯分かった」

 

 私は螺旋の剣を祭祀場の中央に突き刺す。するとそれは篝火となり、火が燃え上がった。

 

「それに触れる事で王たちの地、ロスリックに向かう事が出来ます」

 

「成る程⋯⋯貴公ら。一度身体を休めてから先に進もう」

 

「分かりました」

 

「⋯⋯あいよ」

 

「ふむ。ではここに居る者達と一度話そうではないか。何か有益な話を聞けるかもしれん」

 

 呪い師の言葉に頷いた私達は、取り敢えず通路方面にいる老婆と鍛冶屋らしき男へと向かう。ただ、監視者一人だけが広場に座り込んでいる戦士と玉座に座っている薪の王と話すといって一度別れる事になった。




 はいどーも、作者の蛸夜鬼の分身です。今回は主人公である竜狩りのステータスを公開します。

名称・竜狩り
素性・騎士
誓約・ロザリアの指

SL(ソウルレベル)
総 合・350
生命力・65
集中力・60
持久力・55
体 力・80
筋 力・60
技 量・60
理 力・9
信 仰・50
 運 ・10

《武器》
右手1・竜狩りの大斧
右手2・竜狩りの槍
右手3・竜狩りの大弓

左手1・竜狩りの大盾
左手2・愚者の鉄円盾
左手3・太陽のタリスマン

《防具》
兜 ・溶鉄の竜狩り兜
鎧 ・溶鉄の竜狩り鎧
手甲・溶鉄の竜狩り手甲
足甲・溶鉄の竜狩り足甲

《指輪》
・ハベルの指輪+3
・寵愛の指輪+3
・虜囚の鎖
・鉄の加護の指輪+3

《魔法》
1・太陽の光の癒し
2・放つ回復
3・太陽の光の槍
4・雷の矢
5・雷の杭
6・フォース
7・固い誓い

《道具》
・エスト瓶
・エストの灰瓶
・緑花草
・ククリ
・雷壺
・紐付き黒火炎壺
・誘い頭蓋
・不死狩りの護符
・遠眼鏡
・帰還の骨片

矢1・竜狩りの大矢
矢2・竜狩りの雷矢


 こんなものですかね。ああ、主人公達は高ステータスですが敵やボスは今回のグンダの様に強くしておきます。最初の亡者? 知らない子ですね⋯⋯。

 それでは今回はこの辺で。また今度お会いしましょう!


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episode3 ロスリックの高壁・1

 初見の時、ルドレスに気付かなかったのは自分だけじゃないはず。


 監視者がへたり込んでいる戦士に話し掛けたのを見ると、私達は通路の椅子に座っている老婆に話し掛けた。

 

「すまない、そこの老婦の方。少しよろしいだろうか」

 

「おお、これはこれは灰のお方。婆めはこの祭祀場の侍女」

 

「侍女さん、ですか」

 

「はいですじゃ。武器や防具、道具や魔法の類⋯⋯灰の方々の使命、そのために必要な諸々を、用立てますのじゃ」

 

「ほう。しかしタダではないのだろう? 一体どんな対価を支払うのだ、婆よ」

 

「もちろん、婆めも不死。只ではありませんがの。灰のお方、ソウルを奪いお持ち帰り下さいませ。それこそが、貴方様の生業ですじゃろう? イッヒッヒッ⋯⋯」

 

「あ、あはは⋯⋯」

 

 祭祀場の侍女は少々気味の悪い笑い声を上げる。修道女はそれを見て顔を少し引き攣らせた。

 

「ふむ。それでは早速何か買わせて戴こう。何があるんだ」

 

 侍女は足元に広がっている複数の商品を並べる。ダガーに、シミター⋯⋯金色の粉と魔法や奇跡のスクロール。他にも色々ある。

 

 そんな中でも興味を持ったのは毒々しい色をした苔の塊と、どこかの鍵。そして⋯⋯

 

「⋯⋯これは?」

 

「それは『残り火』。英雄たちの内にある、火の無い灰たちが終に得られなかったものですじゃ」

 

「ふむ⋯⋯」

 

 ⋯⋯何故だろう。この残り火とやらに惹かれるのは。火の無い灰が得られなかった、というのが関係しているのだろうか。

 

「これを買おう。それとこの苔の塊と鍵もだ。これは何だ?」

 

「それは『毒紫の苔玉』。体内の毒の蓄積を減らし、解毒するもので、そしてこの鍵はあちらにある塔の鍵ですじゃ」

 

「成る程。では対価を支払おう」

 

「分かりました、ソウルを戴きますぞ」

 

 侍女が私達に手を翳すと、身体から白い粒子⋯⋯ソウルが流れ出る。それは侍女の身体に吸い込まれ、ある程度の量が出ると侍女は手を降ろした。

 

「灰のお方、またソウルをお持ち下さいませ。アハハ⋯⋯ッ」

 

 侍女から買い物をした私達はそこから離れ、次は通路一番奥の鍛冶職人に話し掛ける。

 

「ん? よう、新顔だな。俺は、この祭祀場の従僕、アンドレイ。見ての通り、武器を打つ鍛冶屋さ。あんた、薪の王を探すんだろう?」

 

「ああ」

 

「それは、簡単な旅じゃあない。きっと、強い武器が必要になる。だから、俺にあんたの武器を鍛えさせてくれ。俺は鍛冶屋。それだけが生きがいなのさ」

 

「分かった。だが、鍛えると言っても何かを持ってこなければならないのではないか?」

 

「ああ。武器を鍛えるやり方は、大きく2つある。単純な強化と、変質強化だ」

 

 そう言ったアンドレイは三本のロングソードを取り出す。

 

「これは何にも手を加えてないロングソード。これは一度強化した物。そしてこっちは炎の貴石で変質させた物だ。強化の方は単純だ。武器の性質を変えずに、その武器を強くする」

 

 アンドレイは無強化のロングソードを適当な鉄屑の棒に振り下ろす。鉄屑は傷付いたが、斬れるまでには至らない。

 

 そして次は強化されたロングソード。それを鉄屑に振り下ろすと、鉄屑はスパンと綺麗に斬れた。

 

「そして変質強化は、武器の性質を変える、高度な鍛冶だ」

 

 次にアンドレイは三本目のロングソードを振るう。すると火の粉が舞い、炎の力が付与されていると見て分かった。

 

「強化には楔石が、変質強化には貴石が、それぞれ素材として必要だが、そこから先は俺の鍛冶屋の仕事。遠慮なく任せてくれればいいさ。武器は戦友。厳しく鍛えれば、決してあんたを裏切らないぜ」

 

「成る程⋯⋯では楔石とやらが集まったら頼むことにしよう」

 

「ああ、あと1つ伝えておくことがあった。貴石による変質強化には、種火と呼ばれる鍛冶道具が必要なんだが、幾つかの特別な貴石はここにある種火じゃあ手に負えないんだ」

 

「種火⋯⋯」

 

「鍛冶屋としちゃあ情けない話が、こればっかりはどうしようもない。すまないが、あまり責めんでくれよ。こう見えて繊細なんだ。ハハ⋯⋯ウワッハハハ」

 

「ああ、分かった。その種火とやらを見つけたら持ってくる事にする」

 

 私達はアンドレイと別れ、中央の広場に戻る事にする。監視者の方も話は終わった頃だろうか。

 

 

~監視者 side~

 

 

「さて、と⋯⋯」

 

 取り敢えず竜狩り達と離れた俺は広場の階段でへたり込んでる男の隣に座る。

 

「誰だ⋯⋯」

 

「お前の同士、って言えば分かるか? 脱走野郎」

 

「っ⋯⋯そうか。お前も死に損ないになったのか⋯⋯フンッ⋯⋯フッフッ⋯⋯」

 

 男は俺の姿を見ると諦めているかの様な笑みを浮かべる。

 

 そう。こいつは俺と同じくファランの不死隊に所属し、そして不死隊の使命から脱走しやがった野郎だ。名前をホークウッド。

 

 ホークウッドが脱走した理由は、古竜の高みを目指したからだ。竜の力を己の物とする、古竜の高みを。

 

「で? テメエは古竜の高みとやらを見つけたのか? 使命から逃げまでしやがって」

 

「黙りやがれ⋯⋯」

 

「⋯⋯結局見つからなかったんじゃねえか。それで今度は火の無い灰の使命から逃げやがんのか?」

 

「笑わせるな。死にきることすら出来なかった半端者に、火を継いだ英雄様をカビた玉座に連れ戻せなどと⋯⋯俺たちに何か出来るものかよ」

 

「チッ⋯⋯ああそうかよ。じゃあな、テメエと話す事は何もねえ。精々、そこでへたり込んでいやがれ」

 

「フンッ⋯⋯お前もいつか分かるさ⋯⋯」

 

 俺はホークウッドに蔑んだ視線を向けると、玉座に座っている薪の王に話し掛ける。

 

「ああ、君が火の無き灰、王の探索者の一人だね」

 

「おう」

 

「私はクールラントのルドレス。信じられないかもしれないが⋯⋯かつて火を継いだ薪の王さ。その証拠に、未だこの体は燻りに焼かれている。壊れた体だ。近寄れば君にも見えるはずだよ」

 

 そう言われてルドレスのおっさんの身体を見ると、確かに足が無くなっている。始まりの火に燃やされて無くなったんかな?

 

「ああ、それともう一つ話しておこう。薪の王となる前、私は『錬成』の研究者だった。ソウルからその特質を凝固させ取り出す⋯⋯かつてクールラントの名を貶めた、禁忌だよ」

 

「禁忌の業、ってか」

 

「ああ。だがそれは確かに、得難い力を得る業でもある。錬成炉の多くはクールラントに失われただろうが⋯⋯ここは、あらゆる呪いが流れ着く地だ。君がもし、どこかで錬成炉を見つけたら持ってきたまえよ」

 

「おう分かったぜ。おっと、そろそろアイツらが戻って来たな。じゃあ錬成炉とか言うやつ拾ったら持ってくるわ。じゃあな、ルドレスのおっさん」

 

「おっさ⋯⋯」

 

 俺はルドレスのおっさんの玉座から飛び降りると竜狩り達と合流する事にした。

 

 

~竜狩り side~

 

 

「さて、それでは先に進む事にしよう」

 

 私達は篝火を囲うと、その螺旋の剣に触れる。すると辺りの風景が揺らめき、それと同時に身体が軽くなっていく。

 

 そして次に気付いた時は、祭祀場ではなく小さな一室だった。

 

「ここは⋯⋯」

 

「転送されたんじゃねえか?」

 

「その様ですね」

 

「むっ。あの扉から出れそうだぞ」

 

 転送先にあった螺旋の剣の|模造品を眺め、そして呪い師の言う扉を開く。

 

 扉の先には建物が広がっており、遙か遠くには城らしきものが見える。

 

─────ロスリックの高壁

 

 頭に響く言葉を聞きながら少し進むと篝火を見付ける。あの篝火も灯しておこう。階段を降りた私は篝火に手をかざし、火を灯す。

 

「こんなすぐ近くに篝火があるとは」

 

「ここを拠点にして進みましょう。右と左、どちらにも道がありますがどうしますか?」

 

「ふむ⋯⋯今回も一度分かれるか。私は右に行こう。貴公らは?」

 

「じゃあ私は竜狩りさんに着いていきます」

 

「オッケー。じゃあ俺と呪い師は左の方に行くぜ」

 

「あい分かった。では貴様ら、道が続いていたら一度ここで合流するとしよう」

 

 一度二人と分かれた私と修道女は右の亡者が大量に見える道へと向かう。ここの亡者は枝先が人間の様に変異した木に向かって何か祈っている様だ。

 

「⋯⋯あの木も、火が陰っているからなのだろうか」

 

「多分、そうでしょうね」

 

 私は盾を構えながら階段を降りる。だがここの亡者達は私達に興味が無いのか、襲ってくる気配がない。

 

「ふむ⋯⋯ここの亡者達は襲ってこない様だ。警戒に越した事は無いが─────」

 

 刹那、余所見をしていた私の耳に亡者の叫び声が聞こえる。振り向くとランタンを持った亡者が叫び、周りの亡者達が立ち上がる。

 

 その手には折れた直剣を持っており、どうやら先程の叫び声で襲撃体勢に入った様だ。

 

「⋯⋯先程の言葉を撤回する。どうやら私達を襲う気の様だな」

 

「この量、少々時間が掛かりますね」

 

 私達は襲い来る亡者へと武器を振り下ろす。ここの亡者達は防具を着ていない。故に斧の振り下ろし一回で簡単に倒せる。最初は数が多く手こずると思っていたが、予想外に早く終わった。

 

 だが今回は防具や武器が充実していない亡者が多かったからだろう。この先、兵士亡者が多く出れば多少なりとも手こずる事になるだろう。

 

「良し、先に進もう」

 

 亡者を掃討した私達は先に進む。ランタン持ちが出てきた階段の先は薄暗く、大量の物が置かれている。テーブルや椅子が置かれている辺り、ここは兵士の休憩所だったのだろうか。

 

 その中にいるへたり込んでいた兵士亡者を一応殲滅すると、中にあった梯子を降りていく。

 

 薄暗い部屋を抜けると塀に囲まれた通路に出る。目の前には既に槍を持った亡者とクロスボウを持った亡者がいる。

 

「修道女、貴公はクロスボウを頼む。私は槍をやろう」

 

「分かりました」

 

 私達は走り出すと修道女はクロスボウ亡者を切り飛ばす。私は槍亡者に突っ込むが、どうやら気付かれてしまった様だ。ウッドシールドを構えられた。

 

「フンッ!」

 

 私は盾を蹴り、体勢を崩した隙を見て致命の一撃を喰らわせた。

 

「ふぅ⋯⋯」

 

「終わりましたか。どうします? ここらで一度戻りますか?」

 

「⋯⋯いや、もう少しだけ進もう」

 

 今一度盾を構えた私はすぐ近くにある階段を上る。そこは小さな広場となっていて、そこには多数の亡者が歩き回っていた。

 

「む⋯⋯先程よりも兵士亡者が多いな」

 

「それに見て下さい、あの長身の亡者。武器はグレートアクスの様ですよ?」

 

 修道女の言葉で気付いたが、確かに長身の亡者が一体紛れている。これといった防具は着けていないものの、手に持っている鉄塊の様な斧は受ければただでは済まないだろう。

 

「ふむ⋯⋯しょうがない、上は止めて下に進む事に─────」

 

 そう言った瞬間、空が暗くなる。何事かと空を見ると巨大な翼が空を覆っていた。これは⋯⋯まさか飛竜なのか!?

 

 飛竜はその広場の先にある建物に着地すると雄叫びを上げ、口の端から炎を吹き出す。

 

「っ! 修道女、逃げるぞ!」

 

「えっ、わわっ!?」

 

 私は修道女を担ぐと階段を降りる。そして次の瞬間、飛竜から炎のブレスが吐かれた。

 

 ゴォオオオッ! という音と共に亡者達が焼かれていく。辺りに焦げた臭いが立ち込み、地面には炎が揺らめいている。

 

「ま、まさかアレは飛竜ですか!?」

 

「ああ。まさかこんな場所で出会う事になるとは。このまま進むのは危うい。一度篝火に戻るとしよう」

 

 私はそう言うと飛竜から離れ、監視者と呪い師が待っているであろう篝火に戻る事にした。



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episode4 ロスリックの高壁・2

 黒鉄の大盾を炎派生すると炎カットが99.6%になる。苗床の残滓すらダメージ一桁でガード出来るぞ。覚えておきたまえ(但し受け値は中盾並になる)。


「むう、飛竜とは面倒な⋯⋯」

 

「おいおい、ブレスで通れねえってどうするんだよ?」

 

 篝火まで戻ってきた私達は、既にここに戻ってきていた二人に先程の飛竜の事を話した。二人とも、やはり飛竜の恐ろしさは分かっている様でその話を聞くと焦った様な声色になる。

 

「なあ、竜狩りっていうくらいだから何か手はねえのか?」

 

「ふむ⋯⋯斧が届かない以上、竜狩りの大弓で攻撃する手もあるのだが⋯⋯恐らく手痛い反撃を喰らうだろう」

 

 本当なら斧で攻撃したいのだが、相手は建物の屋根の上だ。降りてもこないだろうし、雷の奇跡もある程度近付かないといけない。厄介な場所にいるものだ。

 

「あの⋯⋯」

 

「ん? どうした、修道女」

 

「竜がブレスを吐く間に走り抜けるのは、駄目なんですか?」

 

 ふむ⋯⋯確かに竜はブレスを何度も即座に吐く事は少ない。あったとしてもそれは類い稀な場合だろう。

 

「⋯⋯なる程、ブレスが再び吐かれるまでの時間に走り抜けるか。あの距離なら全速力で走れば抜ける事も出来るだろう」

 

「んじゃあ、それでいくか?」

 

「では貴様らにこれを渡しておこう」

 

 そう言って呪い師が取り出したのは小さな箱に入った赤い玉だった。

 

「これは『赤虫の丸薬』。これを飲む事で炎への防御力を高める事が出来るぞ。いつの間にか持っていた物でな、恐らく生前に持ってたものだろう」

 

「む、虫を食うのかよ⋯⋯」

 

「ちょ、ちょっとそれは⋯⋯」

 

 虫、という単語に反応した監視者と修道女は引いた様な声を出す。炎の防御力を高めるか⋯⋯。

 

「ふむ⋯⋯」

 

 私は箱に入っている丸薬を一つ取ると口に運んで飲み込む。口に入れた瞬間、なんとも言えない⋯⋯少し辛みのある味が広がった。

 

 そして飲み込んだと同時に体に赤いオーラの様なものが纏わり付く。これは効果が出ていると考えて良いのだろうか?

 

「おまっ! マジで飲みやがった!」

 

「良く飲み込めますね⋯⋯」

 

「だが飲まなければブレスで焼き殺されるかもしれんぞ? 生きたいのなら我慢して飲め」

 

 修道女と監視者は一つずつ丸薬を取ると、嫌そうな表情をしながら口に入れる。そして二人にも赤いオーラが現れた。

 

「うげぇ⋯⋯まっず⋯⋯」

 

「これは⋯⋯何にも喩えがたい味ですね⋯⋯」

 

「うむ、では吾輩も戴こう」

 

 そうして丸薬を飲み込んだ私達は再び飛竜がいる場所までやってくる。

 

「よし、まずは私がブレスを誘発させよう。貴公らは一応これを持って待っていてくれ」

 

「おう、任せな⋯⋯って、重っ! 何だこの盾!」

 

「こ、これ⋯⋯二人で持ってやっとの重さですよ!? これを片手で扱うなんて⋯⋯」

 

 私は三人に保険として盾を預ける。だがどうやら彼らには重すぎた様で、修道女と監視者の二人で持ってやっと構えている。

 

「ああ、すまないな。少しだけ我慢していてくれ」

 

 そう言って私は通路の先に出る。すると飛竜が反応し、私に向かってブレスを吐いてくる。

 

 それを見た私は全速力で三人の元に走り、ブレスを回避した。そして盾を返してもらうと

 

「走れ!」

 

 叫び、未だ地面が燃えている通路を全速力で駆ける。飛竜はもう一度ブレスを吐こうとするが、タメが長い。あれならここを抜ける事が出来るだろう。

 

「⋯⋯あっ!」

 

「修道女!」

 

 だが、あと少しで通路を抜けるというところで修道女が転ぶ。どうやらブレスによって焼かれた亡者の死体に足を引っ掛けた様だ。

 

「くっ⋯⋯」

 

「修道女、立て! 早く!」

 

「おいアンタら! ブレスが来ちまうぞ!」

 

 監視者の声を聞いて顔を上げると、そこにはブレスを吐こうとする飛竜の姿があった。私は修道女を抱え込み、盾を構える。

 

 それと同時に飛竜がブレスを吐く。ここからでも分かる熱が私達へと迫った。

 

『灰よ。業火から身を守る盾を構え給え』

 

「っ!?」

 

 そして炎が私達を飲み込もうとした時、声が聞こえる。私は自然と体が動き竜狩りの大盾をソウルの業で仕舞い、別の盾を権現した。

 

 その瞬間、飛竜のブレスが私達を飲み込む。監視者と呪い師の叫び声が聞こえる。だがブレスの音であまり良く聞こえない。

 

 暫くすると竜のブレスが止む。それを確認すると修道女を立たせ、二人の元に走った。

 

「ふぅ⋯⋯」

 

「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」

 

「ア、アンタら無事だったか!」

 

「ふむぅ⋯⋯竜のブレスを防ぐとは。む? 竜狩り、その盾は何だ?」

 

 呪い師の言葉で修道女と監視者も私の盾を見る。今持っている盾は竜狩りの大盾ではなく、黒鉄(くろがね)で作られたタワーシールドだった。

 

「これは黒鉄の大盾だ。炎への防御力が非常に高くてな。咄嗟に出したがまさかブレスをも防ぐとはな⋯⋯」

 

「あ、あの、竜狩りさん!」

 

「ん?」

 

「さっきは助かりました! 本当にありがとうございます!」

 

「いや、別にいい。仲間を助けるのは当然の事だ」

 

 さて、何とか飛竜地帯を抜けた訳だが⋯⋯そのまま階段を上がると少し開けた場所に出る。周りには死体が数体⋯⋯いや、死んだふりをしている亡者だな。取り敢えず処理するか。

 

 そう思っていると前方の塔らしき建物から何者かが現れる。その者は上質そうな鎧に身を包み、片手剣と中盾を持っている。その騎士風の見た目からして、このロスリックの騎士だったのだろうか。

 

「⋯⋯騎士?」

 

 そう呟いた瞬間、そのロスリック騎士は私達の元へと走り出し素早い攻撃を仕掛けてくる。

 

「ぐうっ!?」

 

 強烈な一撃。咄嗟に盾で防御したが、それでも分かる一撃の重さ。これを喰らえば一溜まりもないだろう。

 

「貴公ら! この騎士を倒すぞ!」

 

 私の声を聞いた三人はロスリック騎士を囲う様に動く。このロスリック騎士は動きは素早いが、亡者の様だ。囲まれているにも関わらず未だに私の方に向いている。

 

「攻撃は私が防ぐ! 隙を突いてこの騎士に攻撃してくれ!」

 

 そう叫び、盾を変えると同時にロスリック騎士が動き出す。私は盾を大きく構えるとシールドバッシュを繰り出した。

 

 ロスリック騎士はその衝撃波で吹き飛び、大きな隙を晒す。

 

「はぁああああ!」

 

 修道女はその隙を見逃さず、倒れているロスリック騎士を大曲剣でかち上げる(・ ・ ・ ・ ・)。私達よりも長身であり、全身鎧を着込んでいるロスリック騎士を片手でかち上げた事に驚きが隠せない。

 

「いくぜぇ⋯⋯《ソウルの結晶槍》!」

 

「燃え尽きろ! 《苗床の残滓》!」

 

 そして天高くかち上げられたロスリック騎士に、監視者と呪い師はそれぞれ魔術、呪術を器用に当てる。強力な魔法攻撃を喰らったその騎士は地面に落ちると同時にその動きを止めた。ソウルが入ってきたから倒したのだろう。

 

「ふぅ⋯⋯何とか倒したか。しかし凄まじい膂力だな、修道女」

 

「あ、いえ。私の力はそこまで高くないです。ただ⋯⋯この大曲剣を持つと自分でも信じられない強力な攻撃が繰り出せるんです」

 

「ほう⋯⋯」

 

 一体何なのだろうか。もしや不死の能力か何かか? その武器の扱い方を即座に記憶する、といった様なものだろうか。

 

「まあ、良いか⋯⋯取り敢えず建物の中に入ろう」

 

 ロスリック騎士を倒した私達は、騎士が出てきた建物の中に入る。ふむ、光が入っていないからかなり暗いな。

 

 すると呪い師がどこから出したのか松明を灯す。火の光によって辺りが少し明るくなった。

 

「どうだ、これなら少しマシになったであろう?」

 

「ああ。感謝する、呪い師」

 

 そして先に進もうとすると、左側の暗がりから軽装な亡者が飛び出してくる。私は盾でその一撃を防ぐと亡者を蹴り、大斧で叩き切る。

 

「ふぅ⋯⋯まさか暗がりに紛れて攻撃してくるとは」

 

 動きも相当速く、武器も短剣だ。もしかしたらロスリックの刺客だったのかもしれない。

 

 そして私達は塔の上に登る階段を見つけ、そこを登ると少し開けた場所の中央に篝火があった。

 

「む、篝火か」

 

「やりましたね。少し休憩していきましょう」

 

 私達は篝火を灯し、囲むとそこに座る。今度はここを拠点として動く事にしよう。

 

「ふい~、ちょっと疲れたな。エストも補充したかった所だし、丁度良かったぜ」

 

「そんなにエストを消費するとは、何かあったのか?」

 

「ああ。吾輩達が向かった先だが、なんと人の膿が亡者から現れてな。近くにいた監視者が吹き飛ばされ、エストを消費したのだよ」

 

「まさか、人の膿が現れるなんて⋯⋯」

 

「俺も驚いちまったよ。呪い師が炎で動きを止めてくれたから良かったモンを⋯⋯」

 

 そう監視者が言った瞬間、ゾワリと背筋が凍り付く様な感覚に襲われる。

 

『闇霊 騎士リッター に侵入されました』

『闇霊 北の戦士ノルデン に侵入されました』

 

 その言葉が頭に響いた瞬間、私達はそれぞれ武器を持つ。

 

「一体何だ!?」

 

「闇霊!? 侵入者ですか!?」

 

「おいおい、ちょっと待てよ!」

 

 闇霊、とは何だ? 二人に聞くとどうやら別世界から火の無い灰が私達を殺し『青ざめた舌』とやらを奪い取る為に侵入してくるらしい。

 

「貴様ら、一旦落ち着け! ここはそこの階段しか入り口は無い。そこに注意しておけば良いだろう!」

 

 呪い師の言葉を聞いた私達は階段方面を警戒する。だが、そこで私はとある疑問を感じた。

 

「(わざわざ、相手が警戒している場所に殴り込んでくるだろうか? それに、もしも塔の上から侵入していたら⋯⋯)」

 

 そう考えた瞬間、フッと辺りが暗くなる。何事かと見上げると、騎士装備の闇霊が剣を振り下ろしながら落下してきていた。

 

「っ! 避けろぉ!」

 

 私の叫び声により修道女と呪い師が落下攻撃を回避する。しかし監視者だけが遅れ、攻撃を喰らってしまう。

 

「ガ、ハァッ!?」

 

「クッ⋯⋯! 監視者、少し待っていろ! 今回復を─────」

 

 ダメージを喰らった監視者を回復させようとタリスマンを出すと、背後からドンッ! という音がする。今度は何だと振り向くと、北の戦士がバトルアクスを振り上げていた。

 

「ハァアアア!」

 

 バトルアクスの攻撃が当たる直前、修道女が大曲剣を振り抜きそれを妨害する。私はその隙を突いて太陽の光の癒しを唱えた。

 

「っ⋯⋯悪い、竜狩り」

 

「気にするな。貴公ら、二対一で応戦しろ! 私と監視者は騎士リッターをやる! 修道女と呪い師は北の戦士ノルデンを頼む!」

 

「応よ! さっきの落下攻撃の礼をしてやるぜ!」

 

「分かりました! 行きますよ呪い師さん!」

 

「ぬぁははは! 無礼な闇霊に引導を渡してやろう!」

 

 さて、騎士リッターはロングソードと騎士の盾、そして騎士装備の基本的な装備だ。ロングソードは平凡な剣だが、弱点が無いと言える。騎士の盾や騎士装備の性能もそれなりの物だ。注意しなけばならないだろう。

 

「どうりゃあああ!」

 

「おい、待て監視者!」

 

 そんな事を考えていると監視者が突っ込んでいく。相手の実力はまだ未知数だ。こうして無闇に攻撃するのは⋯⋯。

 

 監視者は私の制止の声が聞こえていないのか、そのまま大剣を振り回す。だがリッターは器用に回避し、そして監視者が飛び上がり大剣を振り下ろした瞬間⋯⋯

 

「ぐおっ!?」

 

「何っ!?」

 

 リッターが盾を振り、監視者の攻撃を弾く(パリィ)。そして監視者は大きな隙を晒してしまい、リッターはその隙を付いてロングソードを突き刺そうとする。

 

「させるかぁああああ!」

 

 それを見た私は走り出し、大斧を振り下ろす。リッターは流石に盾で受けたくなかったのか攻撃を回避して距離を取った。

 

「す、すまねえ竜狩り⋯⋯」

 

「構わん。それと監視者、私に作戦がある」

 

「おっ、何だよ作戦って」

 

 監視者に私の考えた作戦を耳打ちする。監視者は私の作戦に同意したのか、コクリと頷いた。

 

「オッケー。それで行くか」

 

「では、やるぞ」

 

「あいよ! 頼んだぜ竜狩り!」

 

 私はまず鉄の加護の指輪を別の指輪に取り替えると斧を担ぎ盾を構えて騎士リッターに突進する。騎士リッターは盾を構えたまま動かない。攻撃を守り隙を突く堅実な戦闘スタイルと見た。

 

「ならば、その守りを崩す!」

 

 私はリッターに近付くと奴が構えている盾を蹴る。奴は体勢を少し崩したが構えを解くには至らない⋯⋯だが、これで良い。

 

「今だ、監視者!」

 

「おう! 《ソウルの大剣》!」

 

 私が屈むと同時に青白いソウルの大剣が頭の上を通っていく。その大剣はリッターの盾を弾き飛ばし、奴は大きな隙を作る。

 

 

《ソウルの大剣》

おもに魔術剣士のため開発された魔術

ソウルにより大剣を形作り、攻撃する

 

大剣の姿は一瞬であり、放たれることもないが

その威力は騎士の大剣にも勝るといい

純粋な魔術師も、ときにこれを切り札とする

 

 

 そしてすぐさま立ち上がると、まず胴体に一撃。そして頭を鷲掴みにして頭部に叩き込む。そして地面に倒れた所に最後の追撃で斧を叩き落とした。

 

 リッターは苦しむ様な素振りを見せると、そのまま赤い霧となって消えていく。どうやら、何とか倒せた様だ。

 

「うっわ、お前の致命の一撃威力高いな」

 

「ああ。この指輪を付けていたからな」

 

 私が監視者に見せたのはスズメバチの指輪だ。これを付けると致命の一撃の威力を上げる事が出来る。

 

「っと、こんな事を話している暇はない。修道女達の元に行かなければ」

 

「修道女達なら下の階に行ったぜ。早く行こう」

 

 監視者の言葉に頷くと、私と監視者は修道女達がいると言う下の階に向かった。




 はいどーも、作者の蛸夜鬼の分身です。今回は修道女のステータスを公開します。

名称・修道女
素性・傭兵
誓約・ファランの番人


SL(ソウルレベル)
総 合・210
生命力・45
集中力・28
持久力・43
体 力・25
筋 力・30
技 量・18
理 力・50
信 仰・50
 運 ・9

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《武器》
右手1・闇のハーラルド大曲剣
右手2・結晶の聖鈴

左手1・黒騎士の盾
左手2・呪術の送り火

サブ・闇の湿った手鎌(他にも沢山。今後も増えてく可能性有り)


《防具》
兜 ・修道女のフード
鎧 ・修道女のスカート
手甲・グンダの手甲
足甲・溶鉄の竜狩り足甲


《指輪》
・寵愛の指輪+3
・闇の奇手の指輪
・古老の指輪+2
・生命の指輪+3


《魔法》
1・黒炎
2・大回復
3・惜別の涙


《道具》
・エスト瓶
・エストの灰瓶
・花付き緑花草
・協会守りの薄刃
・雷壺
・紐付き黒火炎壺
・決闘の護符
・不死狩りの護符
・七色石


 こんな感じですね。それと闇霊の名前の決め方は適当です。リッターはドイツ語で『騎士』という意味だし、ノルデンもドイツ語で『北』という意味です。深い意味はありません。

 それでは今回はこの辺で。また今度お会いしましょう!


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episode5 ロスリックの高壁・3

 エルドリッチの指輪を使い《浄火》を使うと指輪の効果が発動する。覚えておきたm⋯⋯ん? それだったらバクスタや致命取った方が良い? それは言わない約束だゾ。


~修道女 side~

 

「さて、何とか闇霊を連れ出した訳ですが⋯⋯」

 

「警戒したまえ。あのバトルアクスの一撃は相当に強力なものだろう」

 

 呪い師さんの言葉に頷く。目の前では首をゴキゴキと鳴らす素振りを見せる北の戦士の闇霊が立っています。

 

 闇霊 北の戦士ノルデン。名前からして屈強で知られる北の戦士の末裔でしょう。不死になる前、一度だけその剛力を見たことがありますが、特大剣や重量の斧を軽々と振り回すその姿に驚かされたものです。

 

 ⋯⋯大斧と大盾を振り回す竜狩りさんも、もしかしたら何かの戦士だったのでしょうか。

 

「っと、それは後で考えましょう⋯⋯呪い師さん、私が前に出ますから呪術で援護をお願いします」

 

「あい分かった」

 

 呪い師さんが頷くと同時に、私は大曲剣を担いでノルデンに攻撃を仕掛けます。相手の武器はバトルアクスとラウンドシールド。北の戦士の性格からして多少の被弾は無視して無理矢理攻撃してくるでしょう。

 

「一撃離脱で行きましょうか」

 

 私は大曲剣を仕舞うと闇のショーテルを取り出します。これは曲剣の中でも取り回しやすい種類のもので、バク転しながら斬る事も出来る代物です。

 

「ハァアアア!」

 

 ノルデンの振るってきた一撃を避け、その胴体にショーテルを斬り付ける。ですが、やはり屈強な戦士。曲剣の軽い一撃をものともせずに斧を振り下ろしてきました。

 

「っ⋯⋯今です!」

 

「喰らえよ我が呪術! 《浄火》!」

 

 私が合図を出すと同時に、ノルデンの死角から近寄っていた呪い師さんが奴の胴体を呪術の火で掴みました。それと同時にノルデンの胴体から真っ赤な火が膨れ上がっていき、そして⋯⋯

 

「⋯⋯爆ぜろ」

 

 強烈な爆音と共にノルデンの胴体が発火しました。その勢いは凄まじく、少し離れていた私にさえ熱風が伝わってきた程です。

 

 

《浄火》

蛮族に伝わる呪術

敵の内に火を育て、一気に発火させる

 

元は生贄の穢れを祓う儀式であり

故にその火は浄火と呼ばれる

 

どれだけ野蛮に見えようとも

あるいはだからこそ相応しく

蛮族の呪術師は、また神官なのだ

 

 

 身体に火を爆ぜられたノルデンは流石に耐えられなかったのか、そのまま赤い霧となって消えていきました。

 

「ふう⋯⋯侵入された時は焦りましたが、勝てましたね」

 

「うむ。それより修道女よ、竜狩り達の様子を見に行かぬか」

 

「あ、そうですね。今すぐ行きましょう」

 

 そう行って私達は階段へと向かおうとすると、竜狩りさんと監視者さんが現れました。

 

「おお、そっちも終わったか」

 

「はい。竜狩りさん達の方も?」

 

「おう! 俺と竜狩りの見事なコンビネーションでぶっ倒してやったぜ!」

 

 そう言う監視者さんに、竜狩りさんは少し呆れた様に笑いました。何かあったのでしょうか?

 

「さて貴様ら、休んでいる暇はない。先に進むことにしようじゃないか」

 

 そう言う呪い師さんの言葉に私達は頷き、ここから見える出口の方に向かいました。

 

 

~竜狩り side~

 

 二人の闇霊を撃退した私達はこの塔の出口に向かう。その先には竜の遺骸が横たわっており、先には建物の屋根に繋がっている様だ。

 

「随分と不思議な構造だな。まさか屋根に出るとは」

 

「火が陰り、王たちの故郷がロスリックに流れ着いたと聞きます。その際に町の形状が変化したのでしょうか?」

 

「ふむ⋯⋯」

 

 私はその事に考えを巡らせながら先に進む。途中、二人の亡者兵士が襲い掛かってきたが難なく倒し、建物の屋根に降りた。

 

 先には平民亡者の集団が気味の悪い気に祈っているのが見える。平民亡者はどうやら私達が危害を加えなければ攻撃してこないらしい。無視するに越したことはない。

 

 そう思って横を通り過ぎようとすると一体の亡者が立ち上がる。そして様子がおかしくなったと思うと

 

『GAOOOOOOO!!』

 

「なっ!?」

 

 背中から人の膿が現れ、雄叫びを上げて暴れ回る。人の膿は辺りの亡者を蹴散らしながらこちらに向かって歩いてきた。

 

「全員、膿を倒すぞ! 呪い師、確か奴は火に弱いと言っていたな。呪術で隙を作ってくれ!」

 

「あい分かった! 苗床の残滓!」

 

 呪い師は苗床の残滓を投擲。巨大な混沌の火球を喰らった膿はまた叫びながら動きを止める。

 

「今だ!」

 

 その隙を突き私達は膿に攻撃を仕掛ける。流石に三人の一斉攻撃は耐えられないらしく、その巨体はソウルとなり消滅した。

 

「まったく⋯⋯油断も隙も無いな」

 

「この下は広場らしいですが⋯⋯っ!」

 

 膿を倒し、先に進んだ修道女が下を覗くと顔を驚愕の色に染める。何事かと私も覗くと巨大な斧槍を持ち、鎧を着た巨体で広場を徘徊する謎の騎士が居た。

 

「何なんだ奴は!?」

 

「わ、分かりません。ロスリックの騎士とも違う様ですが⋯⋯」

 

「なあ呪い師、何か知ってるか?」

 

「うむぅ⋯⋯奴は恐らく羽の騎士ではないか?」

 

「羽の騎士?」

 

「うむ」

 

 呪い師の説明によると、ロスリックでは異端とされる天使信仰、その騎士だと言う。ロスリック王妃の聖女でありながら「天使の娘」と呼ばれたゲルトルードがその発端で、ゲルトルードはロスリック城にある大書庫、その天井牢に幽閉されていると言う。

 

「随分と詳しいのだな」

 

「ロスリックでは有名な話だよ。ロスリックに住む誰しもが一度は聞いた事があるのだよ」

 

「ふむ⋯⋯」

 

 呪い師の話を聞いた私は取り敢えず、近くにある梯子を降りた。どうやら先程通った屋根の建物に入る道と、広場に降りる道の二つがある様だ。

 

「また分かれ道じゃねえか。どうする竜狩り?」

 

「私は羽の騎士を倒しに行こうと思う。この建物から回避出来るかもしれないが、倒しておくに越したことはないだろうからな」

 

「では私は竜狩りさんに協力をしましょう」

 

「では先程の組み分けという事で良いのだな?」

 

「んじゃ、それで行きますか。それじゃあ行こうぜ呪い師」

 

 そうして私達は広場で落ち合う事にして今一度分かれると、私は修道女と共に羽の騎士を倒しに向かった。

 

 

~呪い師 side~

 

 

「ふむぅ、薄暗いな」

 

 竜狩りと修道女の二人と別れた吾輩と監視者は建物の中に入った。建物の中には明かりなど無く、ただ窓からの光で何とか中が見えている。

 

「⋯⋯おっと、待ちな呪い師」

 

「む、どうしたのだ?」

 

 中を歩いていると監視者が足を止める何事かと先を見ると長槍と大盾を持ったロスリック騎士がこちらに歩いてきていた。

 

「またロスリック騎士か⋯⋯」

 

「槍騎士ねぇ⋯⋯呪い師、ここは任せな」

 

 すると監視者は真っ直ぐロスリックの槍騎士に歩いて行く。一体何をすると言うのだ?

 

 ロスリック騎士は監視者に気付くと大盾を構えゆっくり近付いてくる。監視者は特に何もせず、ただ武器を構えて立っていた。

 

「監視者?」

 

「だ~いじょーぶだって、待ってな」

 

 そう言った瞬間、ロスリック騎士が槍を突く。監視者は攻撃が迫ると左手に持つ短剣を振り抜いた。

 

 すると槍が弾かれ、ロスリック騎士は大きな隙を晒す。そこを狙い、監視者は大剣を二撃打ち込んだ。

 

「ヘッ! どうよ!」

 

「ほう、パリィか。やるではないか監視者」

 

 だが倒し切れていなかったのだろう。ロスリック騎士は立ち上がり、背を向けている監視者に攻撃を仕掛けようとする。吾輩は直ぐさま左手に持つライトクロスボウを構え、ロスリック騎士の頭を撃ち抜いた。

 

「うおっ!? あ、危ねぇ⋯⋯」

 

「詰めが甘いぞ監視者。貴様は竜狩りの様な馬鹿げた筋力を持つ訳ではなかろう。確実に仕留めるのだ」

 

「おう、分かってるさ」

 

 そうして先を進んだ我々は、背後や側面から亡者の奇襲に遭いながらも少し開けた場所の手前に辿り着いた。その広場では飢えた犬やグレートアクス、ハルバード持ちの亡者が徘徊している。

 

「⋯⋯数が多いな。これは骨が折れそうだ」

 

「だなぁ。広場にある樽は全部火薬樽みたいだぜ? どうにかして利用出来ねえかな」

 

「ううむ⋯⋯」

 

 少し考えると、吾輩はソウルを権限し一つの道具を取り出す。それは青白く光り輝くソウルのにおいが染み付いた頭蓋骨だ。

 

「うわっ、ソウル臭ぇ! 誘い頭蓋かよ」

 

「うむ。これなら犬も亡者も一カ所に誘う事が出来る。投げるぞ。何か炎攻撃を出来る物は無いか?」

 

「ああ、それなら火矢使うぞ。先に投げといてくれ」

 

 吾輩は頷くと誘い頭蓋を樽の近くへと投げる。するとそれに反応した亡者達がそれに近付いていく。

 

「よぉっし、そのまま行けよ⋯⋯」

 

 監視者はいつの間にか権限していた白い木の弓を構えていた。そしてヒュンッという風を切る音と共に火矢が放たれ、火薬樽に接触すると爆発。辺りの亡者を吹き飛ばし、一気に殲滅した。

 

「ふむ、中々の腕前だな」

 

「流石にこの距離で外さねえよ」

 

 そして我々は広場へと降り辺りを探索する。だが特にこれといって有用な物は見付からず、せいぜい飢えた犬が一匹隠れていた程度だ。

 

「⋯⋯ん? お~い、呪い師!」

 

 だが監視者が何かを見つけた様で吾輩を呼ぶ。何事かと向かうと、監視者が一本の鍵を持っていた。

 

「これは?」

 

「分からねえ。見た感じ牢の鍵って所じゃねえか?」

 

「ふむ⋯⋯」

 

 このロスリックの高壁の下には不死街という街がある。そこから高壁を登ったのだろう。ロスリックに無謀な盗人は絶えない。だから牢の鍵というのはあながち間違いではないだろう。

 

 そういえば、闇霊が侵入してきた塔に更に下に向かう梯子があったな。もしやそこに牢があるのだろうか。

 

 それを監視者に伝えると、一度そこに向かう事になった。先程通ってきた道を戻り、また塔内部に戻るとやはり下に向かう梯子を発見する。

 

「ふむ、やはりあったな」

 

「んじゃあ、早速降りてみようぜ」

 

 監視者のコトバに頷くと、下にはハルバード持ちの亡者が立っていた。まだこちらに気付いていない様だ。

 

「先手必勝。魔法で倒しちまおうぜ」

 

「あい分かった。ではやるぞ? 《苗床の残滓》!」

 

「《ソウルの結晶槍》!」

 

 吾輩の放つ呪術と、監視者の放つ結晶槍が亡者を襲う。亡者は混沌の火によって体を焼かれ、結晶槍で体を貫かれその場に倒れる。

 

「うむぅ⋯⋯呪術の使い過ぎで集中力が途切れてきたな⋯⋯」

 

 吾輩はエストの灰瓶を権限するとそれを飲む。生命力を回復するエスト瓶とは違い、集中力を回復するエストの灰瓶は非常に冷たい。だがそれによって頭も冷えると言うものだ。

 

 

 そうして先に進む。途中二体程の亡者がいたが監視者が難なく倒し、先にあった階段を降りる。

 

「む、誰かがいる様だな」

 

 階段を降りた先には一つの牢と、奴隷の頭巾を被った何者かが座り込んでいる。中の奴隷頭巾は吾輩達に気付くと口を開く。

 

「⋯⋯ああ、あんたらは、どうやら牢番じゃあないようだね。おそらくはよそ者、それに、あの鐘の音の後だ⋯⋯もしかして、火の無い灰ってやつかね?」

 

「うむ、如何にも」

 

「だったら、一つお願いがあるんだ。ここの牢を開けてくれないか。勿論、礼はするさ。どこかに鍵があるはずさ。なあ、頼むよ」

 

 吾輩と監視者は目を合わせると頷き、鍵を使って牢を開ける。すると奴隷頭巾は嬉しそうな声を上げる。

 

「ああ、ありがとう。先程言った通り、あんたらに礼をさせてもらおう。それと、すまないがもう一つお願いを聞いてくれないか?」

 

「またかよ。まあ内容によるな」

 

「まあ話だけでも聞いてくれ。この高壁の下に、汚い街がある。王たちの故郷じゃあない、昔からそこにある⋯⋯不死街さ。その街に、ロレッタという、老いた女がいるはずだ。そいつに、この指輪を渡してはもらえんかね」

 

 そう言って奴隷頭巾が取り出したのは、希少な大宝石である青い涙石の指輪だった。

 

「もちろんタダとは言わん。儂の願いを聞いてくれるのなら、先程の礼も兼ねてあんたらに協力させてもらうよ。ケチな盗人だが、育ちのいいバカよりは余程役に立つ。悪い話じゃあないだろう?」

 

「う~ん⋯⋯どうする、呪い師?」

 

「ふむ⋯⋯まあ別に良いだろう。旅を続ける傍らでロレッタとやらを見つけ出せば良い。協力しようじゃあないか」

 

「⋯⋯分かった。あんたを信じよう。儂は不死街のグレイラット、あんたに協力させてもらうよ。だからこの指輪を、高壁の下の街、ロレッタという老いた女に渡して欲しい⋯⋯まあ、よろしく頼むよ」

 

 そう言って吾輩に指輪を渡すとグレイラットは帰還の骨片でも使ったのか、その場から消える。

 

「⋯⋯では、吾輩達も一度広場に行こう。そろそろ竜狩り達も戻ってきている所だろう」

 

「あいよ。でもあんな安請け合いして良かったのか? グレイラットは盗人なんだろう?」

 

 監視者の言葉を聞いた吾輩は、フッと少し笑い

 

「育ちの良い口八丁な貴族より、生きる事に貪欲な手八丁の盗人の方がよっぽど信用出来るのものだよ」

 

 そう言って竜狩り達が待っている広場へと向かった。




 はいどーも、作者の蛸夜鬼の分身です。今回は監視者のステータスを公開します。

名称・監視者
素性・刺客
誓約・ファランの番人


SL(ソウルレベル)
総 合・210
生命力・50
集中力・50
持久力・40
体 力・10
筋 力・20
技 量・60
理 力・50
信 仰・10
 運 ・9


《武器》
右手1・ファランの大剣
右手2・藍玉の短剣

左手1・古老の結晶杖
左手2・白木の弓


《防具》
兜 ・不死隊の兜
鎧 ・不死隊の鎧
手甲・不死隊の手甲
足甲・不死隊の足甲


《指輪》
・ハベルの指輪+3
・寵愛の指輪+3
・狼の指輪+3
・吠える竜印の指輪

《魔法》
1・強いファランの短矢
2・ファランの矢雨
3・追尾するソウルの結晶塊
4・ソウルの結晶槍
5・ソウルの大剣
6・ファランの速剣
7・見えない体


矢1・闇の矢
矢2・火矢


 監視者はタグにもある通り、技魔のステータスですね。白木の弓にしたのはフレーバーテキストを読めば何となく察すると思います。

 次回は遂にロスリックの高壁の攻略が終了するかも? そして呪い師のステータス公開ですね。

 それでは今回はこの辺で。また今度、お会いしましょう!


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episode6 ロスリックの高壁・4

 折角だし好き勝手やりたかった。反省はしているが後悔はしていない。


「ふむ、グレイラットか」

 

「盗人⋯⋯なんですね」

 

 羽の騎士を倒した広場で呪い師と合流した私達はグレイラットの話を聞いた。私は協力者が増えるのは嬉しいと思っていたが、修道女は良くは思ってない様子だ。

 

「おう。呪い師曰く、口八丁な貴族より手八丁な盗人の方が信用出来るんだと」

 

「吾輩達が奴にとって利益の出る相手だと分からせている間は裏切りなどせん。それに盗人故に有用な物も売ってるだろう。利用しない手はない」

 

 私はそれに同意して頷くが、修道女と監視者は納得しづらいのだろう。悩んでいる様な声を漏らす。

 

「まあ、グレイラットの事は取り敢えず置いておこう。まずはこの先についてだ」

 

 そう言って広場を少し抜けた先は、左には少し開けた通路。右には小さな階段がある。

 

「この別れ道⋯⋯右の道は最初の篝火に戻るエレベーターがあっただけで特に何も無かったから恐らくこっちの道が先に進めるだろうが、ロスリック騎士が見えただけでも三体いたんだ」

 

「流石に二人で相手する訳にいかないので戻ってきたんですよ」

 

「俺が魔術でふきとばしてやろうか?」

 

「いや、もし倒しきれなかったら全員相手するハメになる。ここは吾輩の呪術の出番だ」

 

 呪い師は何か策があるのか先に行く。私達もそれについて行くと、呪い師はロスリックの槍騎士の前に出た。ロスリック騎士は呪い師という標的を見つけ走り出す。

 

「呪い師、危ないぞ! 何をしている!」

 

 私がそう叫ぶと同時に呪い師がロスリック騎士へ呪術の火を向け、何かを詠唱する。すると謎の音が聞こえたと同時に騎士の頭にピンク色のモヤが現れた。すると⋯⋯

 

「行け、我が傀儡よ」

 

「なっ⋯⋯!」

 

 モヤが現れたロスリック騎士が、何と近くのロスリック騎士に攻撃を仕掛けたのだ。これはどういう事だ? 何故同士討ちを始めたんだ?

 

「おい、おいおいおい! こりゃあどういう事だよ呪い師!」

 

「《魅了》ですか。考えましたね」

 

「うむ。修道女は知っている様だな」

 

 

《魅了》

イザリスの魔女の一人

クラーナの特別な呪術

 

敵を魅了し、一時的に味方とする

 

生命とは炎に惹かれるものであり

こうした業もまた呪術の一側面であろう

性別に関係なく使用できる

 

 

 ほう、呪術の一つだったか。しかし、イザリスの魔女の呪術まで記憶しているとは呪い師は博識なのだな。

 

 暫くすると魅了したロスリック騎士が残り、効果が出ている間にその騎士も倒す。ふむ、魅了している間は幾ら攻撃しても反撃されないから便利だな。

 

 だが集中力をかなり削るらしく連発は厳しく、一部の敵にしか効果が無い様だ。使い所を考えなければならないな。

 

 その後残ったロスリック騎士と、騎士長らしき青いサーコートのロスリック騎士を倒した私達はその近くの建物の扉を開く。中は薄暗く、奥に一人の老婆が座っている。

 

「⋯⋯あの老婆は?」

 

「分かりません。ですが遠目から見た感じは亡者では無いようですよ?」

 

「取り敢えず近付いてみようぜ」

 

「うむ。ここで立っていても始まらないだろう」

 

 私達は慎重に歩を進める。ある程度近付くとその老婆は私達に気付いたのか口を開いた。

 

「おお、お待ちしていました。火の無い灰よ。私はエンマ。この城、ロスリックの祭儀長」

 

 祭儀長⋯⋯祭儀は確か聖所や神殿で行われる儀礼の事だ。ここはその様な場所なのだろうか。

 

「ふむ、もしや王子の乳母か」

 

「何?」

 

「ええ。良くご存知で」

 

 呪い師に聞くと、どうやらロスリックにおいての祭議長は王を支える三柱の一つなのだそうだ。そして祭議長は常に女であり、王子の乳母だったという。

 

「⋯⋯何故そんな三柱の一人がここに?」

 

「貴方に伝えることがあるのです。薪の王たちは、この城にはおりません。皆、帰っていったのです。この城の麓に流れ着き、淀んだ、かつての故郷へと」

 

「はい、存じています。私達はその故郷に向かう旅をしているのです」

 

「なら話は早い⋯⋯高壁の下に向かいなさい。大城門の先、この小環旗が貴方を導くでしょう」

 

 そう言ったエンマは私に一本の旗を手渡す。ふむ、これを大城門の前で掲げれば良いのか?

 

「分かった。小環旗を授けてくれた事に感謝する」

 

「ええ⋯⋯そして、注意なさい。大城門には、番犬がおります。忌々しい、冷たい谷の番犬が⋯⋯」

 

 冷たい谷の番犬⋯⋯三人に顔を向けると何も知らないのか首を振るう。ふむ、取り敢えず警戒しておくことにしよう。

 

 私達はエンマに礼を言うと建物を出て先に向かう。大城門とやらが見える階段に亡者が三人程いたが、亡者程度取るに足らない。早々に倒して先に進んだ。

 

 そして大城門前の開けた場所に着く。何故か冷気が漂っており、不穏な空気が流れている。

 

「⋯⋯貴公ら、気を付けたまえ。何やら嫌な雰囲気がする」

 

「はい。分かっています」

 

「⋯⋯何か寒いな」

 

「うむ。何故冷気が漂っているのか分からぬ⋯⋯」

 

 私達は辺りを警戒しながら進み、蔦が絡んだ大城門に手を伸ばす。すると後ろから謎の声が聞こえた。

 

 何事かと思い振り向くと、何やら不穏な空気を漏らす“穴”がそこに現れていた。

 

「っ⋯⋯一体何だ!」

 

「りゅ、竜狩りさん⋯⋯あれ⋯⋯」

 

 修道女が震える手で穴を指差す。目を凝らして穴を見ると、そこから冷気を纏った巨大な鎧と─────

 

『王たちの番人 魔術師マギア に侵入されました』

 

 ─────灰色の霊体の姿をした、魔術師が共に現れた。

 

『灰よ。高壁の下に向かう事を阻止する冷たい谷の番犬と、王の番人たる魔術師を退け給え』

 

 ─────冷たい谷のボルド&魔術師マギア

 

「っ⋯⋯!」

 

 頭に、グンダの時に聞こえた謎の声が響き渡る。これは⋯⋯ボルドとマギアを倒さなければ先に進めないという事か。

 

「貴公ら、武器を構えろ! 相手は私達を殺す気の様だぞ!」

 

「わ、分かりました!」

 

「成る程、文字通りの番犬とその飼い主って事か」

 

「ふん、冷たい冷気など我が呪術で押し返してやろう!」

 

 私達は自分達を鼓舞すると武器を構える。それと同時にボルドは雄叫びを上げ、マギアはボルドの背中に乗り、器用に立つ。

 

「攻撃は私が引き付ける! 修道女と監視者はボルドに、呪い師はマギアに攻撃を仕掛けてくれ!」

 

「分かりました!」

 

「ほいよ!」

 

「ぬぁははは! 吾輩に任せたまえ!」

 

 私が指示を飛ばすと三人は頷き、散開する。マギアは辺りを見渡すとボルドを杖で叩く。するとボルドが動き出し、背後にいた呪い師に向かって突進した。

 

「ぬぉおおお!?」

 

 呪い師は間一髪それを回避する。そうだ、奴にはマギアという考える目がある。杖で叩きボルドを操ったとすれば、グンダの時の様な誘導は不可能と考えた方が良いだろう。

 

「貴公ら、攻め方を変える! まずはマギアを倒す事に専念するんだ!」

 

 そう叫び、私はタリスマンを取り出して《太陽の光の槍》を投擲する。マギアはボルドをバックステップさせて避けると、ボルドはメイスで地面を擦りながら私に近付き、振り上げる。

 

「ぐっ⋯⋯!」

 

 すぐさまタリスマンを盾に変え、それを防ぐ。巨大故に強烈な一撃。更に冷気が付与されているのか、私の盾が少し凍り付いた。盾受けはあまり賢くないな。

 

「フンッ!」

 

 目の前にあるボルドの頭部へ斧を振り下ろす。だがそれをものともせずに右手を振り下ろした。私はそれを何とか回避する。

 

 ⋯⋯瞬間、私の目の前が青く染まり強烈な衝撃が脳を揺さぶる。恐らくだが回避した時に生じる一瞬の隙を、マギアが魔術で追撃したのだろう。

 

「ぐっ⋯⋯」

 

 私はすぐさま体制を立て直すと、回避ではなく走り距離を取る。多少無様な姿だろうが、死んでは元も子もない。

 

「ふっ⋯⋯はぁあああ!」

 

 ボルドが私を追おうとした隙に、修道女が背後から近付き跳躍。更にボルドを踏み台にしてマギアに斬り掛かる。

 

 だがマギアはそれをしゃがんで避けると右手に持つ鎧貫きで反撃。修道女はまたボルドを蹴り付け、跳躍して回避した。

 

「《ソウルの結晶槍》!」

 

「《浮かぶ混沌》! 《苗床の残滓》!」

 

 魔法持ちの監視者と呪い師はそれぞれ結晶槍と浮かび上がる火球、残滓を投擲する。浮かぶ混沌は暫く漂うと数個の飛沫をマギアへ飛ばした。

 

 マギアは結晶槍と残滓は避けたが、浮かぶ混沌の飛沫が数発当たる。だが威力が乏しいのか、ボルドから落とす事は出来なかった。もっと大きな隙を狙い、強力な一撃で引きずり下ろすべきか。そう考えた私は斧から槍に持ち替え、それを逆手に持ち盾を構えて好機を待つ。

 

「《ソウルの結晶槍》! あぁっ、クソが! 器用に避けやがってよお! っ、危ねえ!」

 

 マギアは魔法や攻撃が飛んでくるとボルドを操りそれを避けつつ、三人が見せた隙を狙ってソウルの矢やソウルの太矢を飛ばす。

 

「アァアアアア! イライラするなぁクソッタレ!」

 

「落ち着きたまえよ、監視者! そうだ、弓はどうだ! 結晶槍よりも正確に狙えるだろう!」

 

「その手があった!」

 

 監視者は杖から白い木の弓へと持ち替え、強く引き絞る。すると大きく引き絞られた矢が黄金の魔力を纏い、ほぼ透明となった。

 

「喰らえっ!」

 

 監視者はその透明の矢を放つ。だがタイミング悪くボルドが走り出し矢が当たる事は無かった。

 

 だがマギアはその透明の矢に警戒したのだろう。左手のレザーシールドを構えて頭部を守る。だがその行為は視界を狭める事となった。

 

「ぬぅ、ああああ!」

 

 私はマギアの視界が狭まったのを見逃さず、恐らく一番見えていない筈のマギアの左前方に移動して槍を投擲する。

 

 ドスンッ、という鈍い音が響き槍はマギアの胴体に突き刺さる。その衝撃でマギアはボルドから滑り落ち、地面に倒れた。

 

「ようやく降りてきましたね!」

 

 そして一番近くにいた修道女が大曲剣を振り下ろし、マギアにトドメを差す。マギアは苦しんだかの様に手を伸ばすと、そのまま粒子となって消えていった。

 

「よしっ、マギアは倒した! 残るはボルドのみだ!」

 

「やりましたね竜狩りさん! まさか槍を投げてマギアを落とすとは!」

 

「⋯⋯何か、美味しい所を持ってかれた様な気がするのは俺だけ?」

 

「気にするな、監視者」

 

 私は修道女から槍を受け取るとソウルの業で仕舞い、斧を取り出す。

 

 すると、ボルドが突然として雄叫びを上げメイスを地面に突き立てる。それと同時に目が青く光り、先程よりも強い冷気が辺りに放出された。

 

「な、何だ!?」

 

 突然の事に驚いているとボルドが突進してくる。反応が遅れた私はその突進に直撃。凄まじい衝撃が私を襲い視界が目まぐるしく変わる。そしていつの間にか私は壁に叩き付けられていた。

 

「ガッ⋯⋯!?」

 

「竜狩りさん!」

 

 相当強力な一撃だったのだろう。そのたった一撃の突進により、私は腕を動かすのすら辛くなった。血を吐いたのか鉄の味がする⋯⋯骨が何本か折れているな。内臓も損傷しただろう。死んでいないのが不思議な程だ。

 

「マギアは⋯⋯前座という、事か⋯⋯」

 

 制する者が居なくなった事により、その番犬は秘めた狂暴さを一切我慢する事が無くなった訳か⋯⋯これはボルドから倒すべきだったか? まったく、詰めが甘いな⋯⋯。

 

 そんな事を、不思議な程に冷静な思考で考えていると目の前にボルドが迫る。ボルドの背に向かって三人が攻撃を仕掛けているが、奴は一切興味を示さずにメイスを振り上げる。

 

 そしてメイスが振り下ろされた瞬間⋯⋯私の意識はブツンと途絶えた。



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episode7 ロスリックの高壁・終

 最初の頃グンダとボルドの名前を謎に間違えていたのは自分だけじゃない筈。


「っ⋯⋯」

 

 パチパチと火が弾ける音で目を覚ます。身体を起こし辺りを見ると、どうやら高壁の塔の篝火で倒れていた様だ。

 

「⋯⋯私は、死んだ筈では?」

 

 ボルドの突進で致命傷を負い、そのままメイスによって叩き潰された筈だ。だが私の身体に痛みは無く、鎧にも傷一つ付いていない。

 

「む⋯⋯気付いたのか、竜狩り」

 

 すると階段から呪い師が登ってくる。

 

「呪い師⋯⋯?」

 

「どうやら状況が分かっておらん様だな」

 

 そう言って呪い師は篝火に座る。今気付いたが、私の隣には修道女と監視者が寝ていた。これは一体⋯⋯。

 

「⋯⋯私は死んだのではないのか?」

 

「ああ、確かに死んだ。貴様はボルドのメイスに叩き潰されてな」

 

「ならば何故⋯⋯」

 

「何故今ここで生きているのか、だろう?」

 

 思考を読み取ったかの様に、呪い師は私が言おうとしたことを口にする。私は少し戸惑いながらも頷いた。

 

「⋯⋯良いか? まず吾輩達は火の無い灰だ。だがそれ以前に不死でもある。それは分かっているな?」

 

「ああ」

 

「不死とは、文字通り死なない。というよりも、死んでも最後に休憩した篝火で復活するのだよ。全てが巻き戻ったかの様にな」

 

「だからか⋯⋯そうだ、貴公らはあの後どうなったんだ!?」

 

「死んだよ。貴様と同じ様に、ボルドによってな」

 

「っ⋯⋯!」

 

「修道女は振り向きざまのメイスに吹き飛ばされ壁に激突。監視者は奴の吐いた冷気のブレスで凍死。吾輩はあの巨体によって押し潰された」

 

「⋯⋯」

 

 私のせいか⋯⋯私が相手を見定め、しっかりとした作戦を立て、マギアを倒した時に油断しなければ⋯⋯。

 

「クソッ⋯⋯!」

 

 私は拳を地面に叩き付ける。何が竜狩りだ⋯⋯あの様な獣一匹狩れないで⋯⋯実力に傲っていた自分が怨めしい。

 

「うぅ⋯⋯ん⋯⋯」

 

「⋯⋯ぉんの冷凍駄犬がぁあああ!! ⋯⋯アレ?」

 

 すると気絶していた修道女と監視者が起き上がる。

 

「⋯⋯あ、竜狩りさん! 良かった、みんな無事ですね」

 

「おお、みんな復活したんだな。あークソッ。あの冷凍駄犬がブレス吐くとは思わなかったぜ⋯⋯」

 

「⋯⋯」

 

「あれ、どうしたんですか竜狩りさん?」

 

 私が黙っていると修道女が顔を覗き込んでくる。私は三人に向き直ると頭を地面に擦りつけた。

 

「⋯⋯貴公ら、すまない!」

 

「えっ!?」

 

「ちょっ、どうしたんだよ竜狩り!」

 

 私が頭を擦り付けると、二人は驚いた様な声を出す。だが呪い師だけは分かっている様で、ただ黙って静観している。

 

「すまない! 私が力に傲り、油断しなければ貴公らが死ぬ事は無かった⋯⋯本当にすまない!」

 

「⋯⋯竜狩り、ちょっと頭上げろ」

 

 監視者がそう言うので、恐る恐る頭を上げる。するとピシッと音がして少しだけ兜が揺れる。どうやら監視者が私の兜に弱く手刀を当てた様だ。

 

「一回死んだくらいでウダウダすんなよ。別に俺ぁ気にしてねえさ」

 

「だが⋯⋯」

 

「監視者さんの言うとおりですよ。私達は不死なんです。一回や二回、なんてことないですよ」

 

「吾輩はグンダ戦で何度も死んでいるぞ? 今回の失敗など気にしないに決まっておろう」

 

「貴公ら⋯⋯ありがとう⋯⋯!」

 

 私はもう一度頭を下げる。三人は気にしていない様だが、今回の事を心に刻もう。次はこの様な事が起きない様に。

 

 そして私達は一度最初の篝火に戻ると、そこからエレベーターを使ってボルドの広場の前までやって来る。前と違うのは入り口に濃い霧が掛かっており、肌を刺す様な冷たい殺意がヒシヒシと伝わってくる事だろうか。

 

「何だぁこの霧?」

 

「最初はこんな霧⋯⋯そうだ、グンダの広場に入る時もありましたよね?」

 

「⋯⋯もしかしたら、大きな障害を前に死ぬと次からはこの様な霧が掛かるのかもしれないな」

 

「うむ。そういえば貴様らが来る前に、吾輩がグンダと何回か戦ったのは知っているだろう。どうやら死んで篝火に飛ばされると相手の体力が戻る様なのだ」

 

「それって⋯⋯」

 

「おいおい、折角削ったボルドがピンピンしてるって事かよ」

 

「⋯⋯もっと最悪なのは、マギアが復活している事だろうな」

 

 私がそう言うと、修道女と監視者が顔を青ざめる。本当はこの様な事など考えたくないがな⋯⋯。

 

「では、マギアが復活していると考えて作戦を立てようではないか。まずマギアがいる時はボルドは大人しく、基本的に奴の命令が無ければ自主的に動く事はないな」

 

「ああ。そしてマギアを倒すとボルドが狂暴化して暴れ回る。あの様子と監視者達の死亡原因を考えると動きも変わっているだろうな」

 

「じゃあ最初にボルドを倒してしまえば⋯⋯あっ、でもマギアが邪魔するんですよね」

 

「ああ。せめて魔術をどうにかしなければならない。せめてダメージを軽減出来れば⋯⋯」

 

 そう思った所で、私は一つ案を思い付く。だが実際成功するかは分からない⋯⋯取り敢えず三人にその案を話すと、それで行こうという事になった。

 

「では、行こうか」

 

 私は大斧を担ぎ、とある奇跡を唱えた。そして竜狩りの大盾⋯⋯ではなく別の大盾を持つと、私達は霧の壁を抜け広場に入る。目の前にはボルド。その隣から再びマギアが侵入してきた。

 

「やるぞ貴公ら! 作戦通りに!」

 

 私と修道女、呪い師は相手を中心に散開。敵の注意を分散させる。そして私はタリスマンを取り出し

 

「《太陽の光の槍》!」

 

「《炸裂火球》!」

 

 呪い師と共に魔法を放つ。攻撃性のある奇跡の中でも特に威力のある太陽の光の槍と、投げると炸裂して無数の火球となり広範囲に飛んでいく炸裂火球は巨体のボルドに良く当たる。

 

 マギアは魔法を扱う私達から倒そうとボルドを操るが、あの活性化しているボルドで無いのなら十分に避ける事は出来る。マギアの魔術も、今回はしっかりと対策してきている。

 

 それは今持っているタワーシールド。名を結晶のロスリック騎士大盾。魔力属性のダメージを、なんと九割も防いでくれる様だ。

 

 そして鉄の加護の指輪を魔力属性のダメージを軽減する魔力方石の指輪に付け替え、奇跡の大魔力防護で更に魔力ダメージを軽減する。今の私には魔力ダメージは殆ど通らないだろう。

 

「はぁああああ!!」

 

 マギアとボルドの注意が私達に向いている間に、修道女が大曲剣でボルドを斬る。そして修道女に注意が向くと、私と呪い師がボルドに魔法を放つ。

 

 最初はマギアを最初に倒してしまったが為に全滅したが、今回はボルドを最初に倒そうという作戦だ。そんな戦いを繰り返しているとボルドが怯んだ。ボルドは体勢を立て直す為に大きな隙を晒す。

 

「今だ、監視者!」

 

「応よ!」

 

 すると霧に入ってから今まで魔術の見えない体で隠れていた監視者が声を上げる。そして透明の体のまま、白木の弓の戦技を放った。

 

 

《白木の弓 戦技「見えない矢」》

 

大きく引き絞り放たれた矢は

黄金の魔力を纏い、ほぼ透明となる

 

 

「追尾性のある闇の矢だ! 落ちろ糞魔術師!」

 

 黄金の魔力を纏った矢は、吸い込まれる様にマギアへと直撃。ボルドという足場が不安定になっていたマギアはそのまま地面に落下した。

 

「オマケだ、吹っ飛べ!」

 

 監視者は落下したマギアを蹴り飛ばしボルドから離す。良し、奴らを分断することに成功した! あとはボルドを⋯⋯!

 

「修道女と呪い師はそのままボルドへ攻撃! 監視者もボルドへの攻撃に参加しろ! 私はマギアへの牽制に入る!」

 

「分かりました!」

 

「あいよ! 誤って殺すんじゃねえぞ!」

 

「あい分かった! 今度こそ引導を渡してやろうではないか!」

 

 三人は意気込むとボルドへ攻撃を仕掛ける。さあ、私も自分の仕事をしようじゃないか。

 

「来い、マギア。貴公の相手は私だ」

 

 私は竜狩りの槍と大盾を構えマギアと対峙する。だが何故がマギアは諦めたかの様にその場に立ち止まる。

 

「⋯⋯?」

 

「竜狩りさん!」

 

「何だ⋯⋯っ!?」

 

 すると後ろからボルドが突進してくる。私は何とか避けたが、ボルドはそのままマギアを轢き、そのままメイスを叩き付けて撲殺した。

 

「なっ!?」

 

 ボルドがマギアを殺すなど誰が予想出来るだろう。マギアが死亡し、案の定ボルドは狂暴化した。

 

「グッ⋯⋯!!」

 

 そして一番近い私に突進を喰らわす。盾で受けたが、最初の戦いで致命傷を負わせたその突進は盾ごと私を吹き飛ばす。

 

「竜狩りさん!」

 

「大丈夫、だ⋯⋯! 気を付けろ!」

 

 クソッ、ふざけるな⋯⋯ここまで来てまた死亡など、認められるか!

 

 そう思い立ち上がると、ボルドは旋回して再び突進。それを避けるが、三度目の突進を繰り出してくる。

 

「くどい!」

 

 私はそれも避けると、旋回したボルドの頭部に斧を叩き込む。だがボルドは怯むことはなく、口に冷気を溜め始めた。これは⋯⋯冷気のブレスか!?

 

「《苗床の残滓》!」

 

 すると背後から呪い師の呪術が飛んでくる。それはボルドの頭部に当たり、ボルドは大きく怯んで隙を晒した。

 

「よくやった呪い師!」

 

 私は走り出しボルドへと近付くと、その隙だらけの頭部に斧を一撃。そして力を溜めてもう一撃叩き込む。

 

「修道女は相手の隙を見て攻撃! 監視者と呪い師は十分距離を取って魔法で攻撃しろ! 私は奴の気を引く!」

 

 ボルドが大きく体勢を崩したと同時に、三人へと指示を飛ばしながら竜狩りの大盾へと持ち替える。更にスズメバチの指輪を頭蓋の指輪へと付け替えた。

 

 

《頭蓋の指輪》

クールラントが錬成した秘宝のひとつ

「魂喰らい」のソウルに由来するもの

 

《i》《/i敵から狙われやすくなる

 

「魂喰らい」は無限のソウルを吸収し

己の力とする化け物であったという

その呪われた死骸が燃え尽きようと

ソウルの臭いの消えることはなかったと

 

 

「さあ来いボルド!」

 

 私は盾を斧で叩き挑発し、こちらに気を向けさせる。ボルドは私へとゆっくり顔を向け、咆哮すると私へ二度右手を叩き付ける。私は盾で防いだが、ボルドその巨体で押し潰そうと身体を持ち上げる。

 

 だがそんな予備動作が長い攻撃など当たる訳が無い。私はそれをバックステップで避け、そのまま斧を頭部に叩き付ける。

 

「《断ち切り》!」

 

 修道女はボルドの背後から近付き、大曲剣の戦技らしき技を使う。大曲剣を両手で持ち、それを勢い良く何度も叩き付けた。

 

「《ソウルの結晶槍》!」

 

「《苗床の残滓》!」

 

 そして例のごとく監視者と呪い師が結晶槍と残滓を発射。三人の攻撃を喰らい、ボルドは大きな隙を晒す。

 

 私はその隙を狙い、力を込めた一撃を入れる─────

 

『灰よ。貴公の持つ大斧の力を、竜狩りの力たる雷の力を振るい給え』

 

 そう考えた矢先、例の謎の声が頭に響く。私はその声を聞くと身体が自然に動く。盾を背負い、斧を両手に持つとそれを高々と掲げた。そして⋯⋯

 

「⋯⋯戦技─────」

 

 ─────《落雷》。

 

 

 ガァアアアアアアンッッッ!!

 

 

《落雷》

竜狩りの大斧の戦技

 

大きく掲げた斧に激しい雷を纏い

それを地面に叩きつけ落雷をなす

 

 

 雷を帯びた斧をボルドの頭部に振り下ろすと、それと同時に帯びていた雷が落雷と化す。その一撃はボルドの命を刈り取るのに十分で、これを喰らったボルドは断末魔を上げてその巨体を地面に倒し、ソウルとなって消え去った。

 

「ハァッ⋯⋯ハァッ⋯⋯」

 

「倒、した⋯⋯倒しましたよ、遂に!」

 

「ヘ、ヘヘッ⋯⋯やってやったぜ!」

 

「ぬぁはははは!! 遂にボルドを倒したぞ!」

 

 三人はボルドを倒した事に喜び、歓喜の声を上げる。だが私は先程の感覚に気を引かれていた。

 

 先の戦技を使ったとき⋯⋯今まで忘れていた何かを思い出した様な気分だ。私の記憶は、この旅の課程で思い出されていくのだろうか⋯⋯。

 

 そんな事を考えていると、ボルドと戦っていた場所にあった巨大な扉が開く。その先には、エンマが話していた高壁の下が見える。どうやら大きな町が広がっている様だ。

 

「貴公ら、喜んでいる所悪いが一先ず祭祀場に戻り休息を取ろう。丁度篝火があることだからな」

 

「そうですね⋯⋯流石に気を張りすぎて疲れましたからね」

 

「ふぃ~。んじゃ、俺ぁ早速戻らせてもらうぜ」

 

「うむ。休息無くして旅は出来んからな」

 

 そうして三人は我先にと篝火に近付き、火を灯すと祭祀場へ転送していく。私も戻ろうとした時、目の前にソウルが集まり、巨大なソウルの塊となった。

 

 

《冷たい谷のボルドのソウル》

冷たい谷のボルドのソウル。

 

使用することで、大量のソウルを得るほか錬成によりその力を取り戻すこともできる

 

ボルドは冷たい谷の外征騎士の一人であり常に儚い踊り子の側にあったという

 

 

「ボルドのソウル、か⋯⋯」

 

 私はそう一言呟くと、それを業を使って仕舞い篝火から祭祀場へと戻った。




 はいどーも、作者の蛸夜鬼です。多機能フォームを使ってみたんですが、凄いですねコレ。感動したわぁ⋯⋯。

 もしかしたら今後も多機能フォームを使う機会があるかもしれないですね。コレ楽しいですし。

 あ、あと二ヶ月以上不投稿で申し訳ないです。今後はもう少し頻度を上げようと思っています。

 それでは今回はこの辺で。また今度お会いしましょう!


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