【未完、リメイクへ】残響世界の聖剣譚【プロトタイプ(打ち切り)】 (気力♪)
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プロローグ 少年と鉄パイプ
01 鉄パイプで狼を殺した日のこと


「……なぁメディ、俺生きてる?」

『はい。マスターのバイタルは危険値ギリギリですが正常です。運が良かったですね』

「……あー、死に損なった」

『否定、生きる意志を放棄することを私は推奨しません』

「あー、すまん。言葉の綾だ」

『よろしい』

 

『通信が回復し次第救急車は呼びます。今はお休み下さい』

「ありがと、メディ」

『いえ、私の仕事ですから』

 

 新月の夜、路地にて空を見る。

 それは酷く現実味はなく。しかし手に残った感触と、()()()()()()()()()()()()()()()()それが確かにあったことなのだと告げている。

 

「とりあえず、夢オチであることを祈るよ」

『否定、マスターは覚醒状態にありました。故に先ほどまでの戦闘は現実のものです。ネットワーク遮断によりクラウドストレージに映像は保存できませんでしたが、それは確かかと』

「そこは乗ってくれやメディさん」

 

 こんなことになったきっかけは、きっと今日から始めたあるゲーム。

 

《Echo World》という怪し気なVRMMOにログインしてしまったことにあるのだろう。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 自分こと風見琢磨(かざみたくま)はVRゲーム中毒である。現実ではあまり動かない体のせいで自由に動き回れる仮想世界の中に依存しているタイプの。

 

 自分は義父の計らいで黎明期よりVRマシンのゲームをやらせてもらっていた。具体的には小学校に入る前から。当時のゲームシステムの関係と自分の相性のせいでそんなに名作アクションゲームはやっていないが、VR剣道、VRパルクールなどは友人たちが引くくらいにやり込んだ。いや、どちらのゲームの方も異名の方が有名なのだけれど。

 

 閑話休題

 

 さて、そんな仮想世界での様々なデータから、偉い人たちは魂と呼べるものを発見した。それが一年半くらい前の話。それに対して刺激を与える事でより低コストで仮想現実体験をできるという画期的なハードが発表された。

 

 それが、今手元にある《Soul Linker》というびっくりマシンである。

 

 お値段なんと1万5千円。しかもサイズはそれまでのVRマシンとは比較にならないほど極小。

 

 具体的にはチョーカーくらい。かがくのちからってすげー。しかも持ち運び可能なウェアラブルデバイス。真面目に何この超技術。

 

 しかし、そんなハードはあってもゲームとして成り立っているものは少なかった。なにせ、魂とかいう意味不明なものへのアプローチだ。最初期に発売されたSoul Burstなどリアリティのありすぎる体の感覚に対してグラフィックがお粗末すぎたりしたりした。気持ち的には最初期のCG映画を見ている気分。味があるといえばあるんだけれども。

 

 しかし、発表から一年が経ち、どっかの天才が作ったSoul Linker専用の超簡単作製ツールのおかげでそれなりの製作環境が作られ、まさにVRMMO新時代の始まりだ! という感じだったりする。

 

 尚、そのツールはフリーで配布されたので数多のインディーズゲーがストアに並ぶ事になったり。

 

 そんなこんながあって、大手会社が大作を準備中! な今、自分がそのゲームを見つけたのはそこはかとなくスルメゲーの匂いを感じたからだったり。

 

 それが、《Echo World》。価格は600円買い切り、ジャンルはなんとMMOミステリーアクションだとか。

 

 超容量の軽い公式サイトの情報によると、ワールド全体での謎解き。どうして《Echo World》は同じ時を繰り返し続けるのかを解き明かせ! とのこと。 

 

 大手の作る大作までの繋ぎにはなるだろうなーとの思いと、ミステリーならゲーム音痴の友人を誘えるかも知れないとの思いからちょっと手を出して見たのだ。

 

 それが、この奇妙な世界との俺の出会いだった。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

《王都エコーリル セントリア噴水前》

 

 サーバー分けなどは特になく、サービス開始と同時にログインした自分は同時期にプレイを開始したプレイヤー(と思わしき)皆さんと共にいきなり困惑をしていた。

 

 このゲーム、チュートリアルがないのだ。

 メニューウィンドウは思考操作で開けるが、できるのはスクリーンショット、メモ、ログアウトの3つだけ。尖ってんなオイ。ヘルプくらいくれや頼むから。

 

 次に、アバターの問題。なんとびっくりログインしてる人たち全員がマネキンみたいな体とのっぺらぼうな顔。身長はそれぞれだが、それだけだ。声が音にならないので情報共有もできない。どーすんのさコレ? 

 

『推定、何かしらの基本アクションを身につけなければ先に進めないような設計になっているのかと』

 

 メディさんありがとう。古典である某RPGのはなすコマンドを覚えないと先に進めないみたいなのかね? 

 

 となると周囲の探索を進める方が良いだろう。見える所にいるNPCは現在城門を守る衛兵さん2人。彼らのの周りではプレイヤーの方々があの手この手で反応を試している。あ、すり抜けるのね体。ておい待て何で会話もできたないのに千手観音ごっこを始めたよお前ら。ツーカーの仲なのか? 

 

 しかしそんな若干遊ばれている衛兵さんは時たま仕事の愚痴をするくらいである。気付かないのね。

 

 さて、こうなると単独行動をするべきだろうか? ここに集まっているのは50人ほど。大した宣伝もないこのゲームなのでこれから増えてもそう多くはないだろう。

 

 つまり、適当に走り回るのが正解なのでは? と思うのだ。

 

 現在いる王城前っぽい噴水広場は、北に王城、遠いが西、東、南にフィールドに繋がる城門が見える。

 

 とすると、謎解きとかは他の人に任せて自分はアクションを楽しみに行こう。やはり自分の根は脳筋なのだ。

 

 そうして、走って10分。体の動き方はものすごく自然だが、しかし鍛え上げられたスプリンターのようなスピードで動くことができた。ヤバイこのゲーム大当たりだ。

 

 というのも、開発ツールがあっても人体を動かす諸々はゲームそれぞれに違うのである。なので自分のような敏感脳な奴はそういった違和感を感じ取ってしまう。それが旧世代のVRゲームの大作をプレイできなかった理由だったりする。

 

 それは Soul Linker になって改善されたが、ここまでの違和感のなさはそうそうない。良いプログラマーがいるのだろう。

 

 そうして、門を守る兵団をすり抜けてフィールドに向かう。そこには、手慣れた感じで狼的なモンスターの侵入を阻む軽装の兵士たちがいた。

 

 危なげないなー。

 

『そういった訓練を受けているのでしょう』

 

 というわけで、参戦しよう。馬鹿をやったとしても後ろの兵士さんがなんとかしてくれる状況ならば、どうにでもできるはずだ。

 

 まぁ、多分デスペナるだろうけれど。剣とか持ってないし。

 

 だが、人には体という最古の武器がある! 

 

『疑問、蛮族ですか?』

 

 うっさいわメディ。

 

 というわけで参戦である。兵士さんたちをすり抜けて、左翼の端っこに回り込もうとしている狼の群に喧嘩を売る。

 

 多分すり抜けるキック! 

 

 しかし、その蹴りは意外なことに狼に衝撃を与えた。

 なにこれびっくり。兵士さんたちもびっくり。そして狼達は俺をロックオン。

 

 空手空拳で狼とか無理だろが! という心の声を上げつつも、これまでのゲーム経験を下地にした戦闘スタイルで交戦開始。

 敵狼の群れの数は六匹。増援は未知数。

 こちら側には狼ハンター戦士さん達が8人ほど。とすればやる事は一つ。

 

 狼はおちょくってトドメは兵士さん達に刺してもらおう。

 

『最適解だと同意しますが、プライドなどはないのでしょうか?』

 

 犬に食わせたよそんなもん。

 

『目の前にいるのは狼です』

 

 そういう事じゃなくてね! 

 

 などと、ある意味いつも通りの会話で戦闘のスイッチを入れる。

 まずやってきたのは狼二匹、自然生物っぽく取り囲んで様子をみたりしないで、首と足を狙って同時に飛びかかってきた。かなり速いが、対応できないわけじゃない。

 

 足を狙ってきた狼を踏みつけ、その反動のままに首狙いの狼を蹴り上げる。VR的なのを感じさせない体の柔らかさにちょっと感動。リアルでもこれくらいできるようになりたいなー。風呂上りの柔軟ちゃんとしよ。

 

『背後の戦士達に動きあり。二体の狼にトドメを刺したようです』

 

 見えてるよー。ついでに言うなら死体が残るタイプのゲームなのね。剥ぎ取りとかするのかな? まぁなんにせよ目の前の残り4匹をどうにかしてからだろうけれど。

 

 と、構え直した所で狼の動きに変化あり。

 どこかからの遠吠えと共に生き残りが集結し始めた。

 

 そして、完全に日が落ちる。

 それと同時に空の満月が赤く輝き始め

 

 集まった狼達は、巨大な1匹の黒狼と化した。

 

 自然と頭に浮かぶのは、その狼の名前。

 

《群狼シリウス》

 

 存在感の集まりのような奇妙な大狼が、雄々しくそこにあった。

 

 しょっぱなからボス戦に関われるとは、なんか人柱になった気分だ。今は透明人間なのだけれども。

 

『透明人間が人柱にならないとは、誰が決めたのですか?』

 

 あ、確かに聞いた事ないや。

 

 などと言いつつ、戦い(殺し合い)の空気に顔を綻ばせるのだった。

 



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02 群狼シリウスと見えない剣の人

《群狼シリウス》、その威圧感はちょっとやめてほしいくらいにはしんどい。重いんだよ空気が。

 

「来たぞ、群狼だ! 前線部隊、命を燃やせ! 伝令は中央騎士団に連絡を! 今日はウチが当たりだ!」

 

 その声と同時に、戦士達は己の武器に何かを込めていた。

 それと同時に、武器の存在感が変わった。オーラ的なものが見えるのならば多分炎のように燃えているのだろう。まぁ自分には見えないのだが。

 

 さて、自分にはなにができるだろうか。

 狼の死体は血を残して消えている。あの群狼の素材になったのだろう。

 

 そして、あの高さ3メートルサイズのスーパー狼に対して空手空拳でどうにかできるとは思えない。ひたすらにローキックで足止めでもしようかと迷うが、まぁ効かないだろう。

 

 せめて剣でもあればいいのだが。

 

 そうして前線部隊と群狼が交戦を始める。

 

 群狼は、凄まじい速さと攻撃の際に()()()体によって一度に3人の兵士を食い千切っていた。

 

 アレ、攻撃の瞬間に分裂したか? 

 

『はい。私にもそう見えました』

 

 だが、兵士たちは死ぬ前にボロボロの体で群狼に一太刀を入れていた。それは微かな傷でしかないが、それでも誇り高いものに思えた。

 

「騎士団が来るまで死守するぞ! 命を惜しむな! 一瞬でも奴を止めろ!」

 

 ……あー、こういうのに弱いんだよなぁ畜生! ゲームで熱くならないでどうすんだ! 馬鹿になってくぜ! 

 

『ではどうするので?』

 

 デスペナ上等! 特攻さ! 

 

 まず、状況を確認。先程喰われた戦士達の剣は存在感を放っている。アレは多分俺でも触れることができるだろう。

 だから、アレを回収するのが大前提。それを使って肉壁をすれば多少の時間は稼げるだろう。

 

 だから、最短で走り込む。

 

 戦士達は狼の速度に目が慣れたのか攻撃の的にされても数合打ち合えている。ブレる攻撃には対応できていないが、それは近くの仲間が対応している。本当に歴戦の戦士たちだ。

 

 だが、目に見えて練度に差がある。後方の方の戦士達は目に見えて臆している。それもそうだろう。あの威圧感は並みのものじゃない。

 

 けれども、武器を落としている者は誰もいない。恐怖に震えていても、戦う意志だけは消えていない。

 

 本当に、俺のツボを突いてくるなこのゲーム! 

 

 そうして、落ちている剣を拾って群狼を斬りつける。

 

 不思議と、力が湧いてくる。肉体的なものでなく、精神的な温かいものが。

 これがきっと剣に込めていた魂的なものなのだろう。

 

「剣が勝手に動いている⁉︎」

「奴を攻撃してるならなんでもいい! 詳しくはコイツを撃退したからだ!」

「だな!」

 

 剣を手に入れた事で、俺には攻撃力が手に入った。

 これならば、群狼に嫌がらせするくらいはできるだろう。

 

 対モンスター用の剣術はまだまだ未熟だが、基本は変わらない。

 

 避けて、切ればいいのだ。

 

 群狼の前足を狙って一閃を放つ。皮膚は硬く、通りは浅い。だが、通らない訳じゃない。

 その剣を追いかけてか戦士達が足への攻撃を重ねてくる。だがやはり浅く、群狼の動きに支障は見えない。

 

 そして、その反撃にブレての噛みつきを放ってくる。今度はしっかりと見えた。口の数は3つ。最初の反撃を警戒してか、確実に命を断てるように俺たちの頭を狙っていた。

 

 しかし、それは読めていた。だから俺は剣を持ったまま一回転し、俺の首を狙う狼に合わせて上段切りを叩き込んだ。

 

 その剣は群狼の一体にジャストミートし、そのまま脳の辺りまで切り裂いた。しかし、そこまでだ。

 

 剣を体で止められた感覚がした瞬間に、即座に剣を離して横に飛ぶ。

 すると先ほどまで自分がいた所ならおおよそ25匹の狼による噛みつきの嵐が放たれ、空間を抉り喰われていた。

 

 いや、そのスピードは生物としてどうなんだよオイ。というか空間を食うな。冗談抜きに風で引っ張られんだよ。

 

 だが、どうにか踏ん張れた自分は即座に離脱。最初に喰われた戦士さんの剣を再び拾い構える。どうにも感触が違うが、この剣にもオーラ的なのが籠もっている。それも、先ほどよりしっくりくる感じのが。

 相性とか属性とかだろうか? 

 

「……剣の人! 次からは俺が投げます! 前で集中してて下さい! いや、人かどうかは知りませんけど!」

 

『これは嬉しい声援ですね』

 

 本当だ。喋れるならば応! と答えたいところだが声は響かない。なのでせいぜい体で頑張るとしよう。

 

 そうして群狼を見てみると、先程のカウンターで殺せたと思わしき狼が1匹捨てられている。体から切り離されたのだろう。

 つまりコイツには、反撃などに使う狼を殺せば大ダメージを与えられるのだろうか。流石に学習するタイプの奴だろうから二度目はそう簡単には通じないだろうが。

 

 そうして、俺とベテラン戦士3人で前線を作りながら時間を稼ぐ。

 その姿を見て本来の動きを取り戻したのか、中衛の戦士達も援護に入ってきてくれる。特に盾の人と弓の人が特にいぶし銀な感じだ。

 

 だが、それが逆に群狼の危機感を煽ったのだろう。奴は大きく飛び退いて。20匹の狼へと姿を変えた。

 

 リーダー個体のようなものはなく、どれも姿は一緒だ。

 

 そして、そのスピードは大きかった頃と対して変わらないッ⁉︎

 

「防衛ラインを下げろ! 連中に足を使わせるな!」

 

 そんな声を上げた指揮官は、3方から一斉に飛びかかってくる狼のブレる噛みつきによりその体を食いちぎられた。

 それに遅れて反応して剣を振るった護衛達は、回避してからのブレる噛みつきにより命を落とした。

 

「クソ、抜かれた!」

「体勢を立て直す! 全班作戦通りに!」

 

 そうして、各グループに一人ずつ殿を置いて戦士達は引いていく。島津かこの連中は畜生! 捨て奸かよ! 

 

「剣の方! 我々も殿に! 連携を取って被害を最小限に!」

 

 覚悟ガンギマリだなぁもう! 率先して逃げる奴より好きだけどさ! 

 

『疑問、マスターもそちら側なのでは?』

 

 いや俺は割とノリで動いてるだけだし。

 

 

 殿をしている戦士に襲いかかる狼達、彼らも奮闘しているが速さと攻撃のスピードは如何ともし難いようで、徐々に傷を負い押されていた。

 

 それでも、誰一人として逃げ出す者は居なかったが。

 

『マスター、殿の彼らの奮戦にて新たなデータを確認。分裂した群狼の耐久力は低下しています』

 

 つまり、分裂してる今はチャンスってことか! 

 

『はい』

 

 ならば突くさ! その弱点! 

 

 そうして殿に襲いかかっている狼の首を狙って一太刀入れようとする。

 それを見た殿の人は、その体を持って狼を拘束した。それは一瞬で振り払われてしまったが、その一瞬で剣は届いた。

 

『まず、20分の1ですね』

 

 瞬間爆ぜる群狼。中身は狼の群れだったもの。同じく首を落とされた狼が約50匹。つまりシンプルに考えると1000匹の狼が合体したのだろう。いやそんないなかったろこの平原には! どっから取り寄せて来た! 

 

『推定、合体する前の狼がそもそも何匹分かの狼だったのでは?』

 

 かもな。まぁ何にせよ狼狩りだ。分裂した事で奴らは弱体化した。

 被害の出ないようにしっかりと殺させて貰おう。

 

 だが、先ほどまで最前線にいた自分たちに向けられた狼は五体。向こうの一足の射程で、俺たちが本陣に戻るのを妨げている。

 

「クッ、我々を押し留める気か!」

「んー、矢を見てから避けられる距離に居るよ連中。しんどいッね!」

「ならば俺が切り開こう。盾はここにあるのだから」

 

 そうして突出する盾の人。その後ろについて走り出す皆。

 

 先頭の狼はさらに分裂し、5匹になる事で盾の人のカバー範囲を潜ろうとした。しかも、弓矢の人の射線を人で隠すようにして。

 

「……ここが切り時か。生命転換(ライフフォース)、全開!」

 

 瞬間、盾の人の存在感が爆発する。

 

 それはまるで、命を燃やす炎のようだった。

 

 盾の人はその存在感のままに、大盾で狼を薙ぎ払う。それはクリーンヒットであるようには見えなかったが、しかし盾に触れた狼を()()()()()()()()

 

 その原理はわからないが、狼は死んだ。これで2/20。

 

「……ロックス、防御任せるよ! 生命転換(ライフフォース)風属性付与(エンチャント・ウィンド)。乱れ打ち!」

「今だ、突っ込め!」

 

 そして、狼が怯んだ隙に放たれる連射。その速度はこれまでの矢よりも速く、狼は回避しきることはできていなかった。それによって両翼に広がっていた狼は動きを制限され、道ができた。

 

 この道を作った、二人の大きな消耗と共に。

 

 瞬間、躊躇う。この二人を置いて行って良いのだろうかと。あの存在感はとても薄れている。戦う力も相応に低くなっているのだろうと分かったからだ。

 

 しかし、その躊躇いは見抜かれていたようだ。命をかけた二人には。

 

「行って剣の人! 君の目的は知らないけど、君が守る側の人である事を信じてる!」

「俺たちは、ここで命を燃やし切る!」

 

 そして、近接戦闘に移行する二人。その動きは鋭くはなかったが、それでも気迫は凄まじかった。

 

 だから、信じた。

 

 彼らに襲いかかる狼は多い。そう遠くなく死ぬだろう。

 

 だから、俺の選ぶべき最適なルートはただ一つ! 

 

 道を切り開いて取って返して二人を助ける! 

 

『無茶が過ぎると思いますけれど』

 

 ゲームなんだから、無茶も馬鹿も上等よぉ! 

 

『では、お好きなように』

 

 ……アドバイスとかくれても良いのよ? 

 

『では、寄って切って下さい』

 

 何て的確なアドバイスなんだ! まぁ考えるより剣を振るった方が早いし、ね!



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03 命への気づき

 メディからのありがたいアドバイスは貰えたわけで、いくつかの実験をしながらの戦闘再開する。

 

 まず、このファンタジー狼に生物的な感性があるのかどうか。

 

 1匹の狼に向けて、研ぎ澄ました殺意を叩きつける。すると、狼は不意に飛び退いて回避行動を行った。多分システム的なものなのだろうが、これはとてもありがたい。殺意のコントロールこそが俺のVR剣道で磨いた技の肝なのだから。

 

 続いて、俺の周りに狼が集まってくる。これで、実験2が成功。どうやらこいつらは視界か意識を共有しているようだ。殺意に対して群れとして反応できたということは意識の共有と決め打ちしてもいいだろう。間違っててもそんなに損失はないのだし。

 

 さて、この辺で思考は中断。現状の戦闘に関する疑問点は解消したし狼と戦うとしよう。まだ厄ネタがあるかもしれないが、それは俺が囲まれる前に合流した元殿兵士さんズに任せよう。本陣にきちんと合流できているのだし。

 

 まぁ、共に戦った仲間として! 俺が居なくなったのを見て見ぬ振りをした方々には思うところがありますけどね! 一言くらい頑張れ! とかくれてもいいじゃないのさ。

 

『推論、気づいていなかっただけなのでは?』

 

 だよねー。俺透明人間だものねー。

 

 何て事を考えながら狼の波状攻撃を凌ぐ。

 

 囲んでいる狼は六体。そのうち1/20が2匹。大盤振る舞いだなー。

 

 まず最初に小型が俺の体勢を崩すために足狙いで爪を振るってくる。ジャンプして躱すと後が続かないので、半歩下がっての切り上げにて前腕と頭に衝撃を与える。雑な当て方は剣が痛むのであまりやりたくはないのだが、まぁ西洋剣など基本切れる鈍器なのだし構わないだろう。自分のものでもないのだし。

 

 さて、吹っ飛ばした哀れな狼くんはあいにくと仕留める事は出来なかったが、狙い通りこちらを狙う二匹目の狼にその身体をぶつけた。これで一息。残りは4匹。

 

 かと思ったが、あろう事か負傷したその2匹が霧になって小型2匹に吸い込まれていく。そしてすかさずの同時攻撃。

 スピードも耐久力も大した変化はないだろうけれど、問題なのは手数だ。やっこさん、同時に二つの首や爪で攻撃できるようになったと考えるのが当然だろう。そして、もっと厄介なのは回り込んで背中に回った大型2匹。歌は聞こえないが、四面楚歌と言っても過言ではないだろう。

 

 だからといって降伏なり自殺なりをするほど諦めが良い人間ではないのだが。

 

 前の2匹が襲いかかってくる。同時に背後から大型が走り出した音を感じる。

 

 速度を考えると、前の2匹にかけられるのは大目に見てニ手ほど。だが2手かければ間違いなく振り向く前に食い殺されるだろう。だから取れるるのは一手のみ。

 

 ここが狭い路地とかならどうにでもできる自信はあるのだが、それはないものねだりだ。なので、いつもの乱取りモードの技を使うとしよう。

 

 目の前の2匹の狼に対して脇構えで殺意を叩きつける。地に構えた一太刀にて2匹を殺すという意志を伝えるのだ。

 

 だが、当然臆したりはしないだろう。むしろビビられたら困る。

 

 何故なら、その2匹が足場なのだから。

 

 そして、狼がこちらに噛みつこうとしたその寸前に殺気をゼロにして前に出る。そして、俺と逆方向の運動エネルギーを持ったその狼を足場にして後方へと上下反転しながら跳ぶ。

 

 明太子流・敵踏みエスケープだ。

 

『一般にはムーンステップと呼ばれていますね』

 

 本当誰だし俺の技の命名権取ったやつ。訴訟を起こしたい気分になってきた。マネーパワーで負けるのは当然だろうけれども。

 

『そんなに思考を外に置いてよろしいのですか? 戦場ですのに』

 

 大丈夫。大型は俺のことを完全に見失ってる。殺意の残りが俺がそこにいると錯覚させている……らしい。

 

『私には理解できませんが、高等技術なのでしょうね』

 

 ただのフェイントだよメディさん。強い人なら初見で見切ってくるし。

 

『狼を騙せたのなら構わないのでは?』

 

 まぁそれもそうか。

 

 というわけで落下開始。割と狙ったが、きちんと大型の背中に着弾できるようになっていた。これで、まず大型1匹。

 

 落下のエネルギー全てを使って大型の首を跳ね飛ばす。そして、もう1匹が着地に気付く前に残っている運動エネルギーを受け身の要領で剣に伝えてもう1匹の首を跳ねる。

 

 ……正直そろそろ油で切れなくなって鈍器になるものだと思っていたから結構びっくりしている。この剣名剣なのな。すげーや。

 

 そして、今目の前には状況を理解できていない小型が2匹。

 当然ながら、パワーアップされる前に切り捨てるのみである。

 

 脇構えからの横一閃。普通に切って普通に殺す。やったぜ。

 

『2匹同時に切るのは普通とは言い難いと思うのですが』

 

 いやいや、動けてない的だぜアレ? しかもこっちには切れ味バツグンの名剣がある。それくらいやれなきゃ元ランカーの名折れだよ。

 

『なるほど。マスターが警察に捕まった時はゲームと現実の区別がつかなかったと証言しておきます』

 

 否定できないからやめーや。

 

 さて、現状を把握する。まず、「ここは任せて先に行け!」という絶大な死亡フラグを立てた盾さんと弓さんはしれっと生き残っていた。しかも傷は浅い。強か過ぎるだろこの人ら。

 

 次に、本陣の方に戻った殿戦士達は、前線を下げて狼に対抗している。この分では、防衛は不可能ではないだろう。しっかりと陣取れれば狼の群れに互角以上で戦える強さを彼らは持っているのだから。

 

 なので、とりあえず今日は終わ……メディ。

 

『はい、確認しました。死体が霧散し本陣の方へと集まっています』

 

 今までは死んだフリだったってか! 

 

『そう考えるのが自然でしょう。そして、狼の中に本陣深くに入り込んでいる個体がいます』

 

 ……全力で走っても2分届かないか

 

『ですが、走るべきかと』

 

 その心は? 

 

『運が良ければ不意が打てます』

 

 そいつは上々! 

 

 そうして、今持てる最速で狼へと走る。

 

 

 

 しかし、たった30秒の差で

 

 本陣にいた兵士たちは、全滅した。

 

 まず、殿をやっていた彼らが1000の力を取り戻した群狼シリウスにより喰い散らかされた。あのクソ狼はスピードで三味線引いてやがったのだ。その速度の変化についていけなかった彼らは、迎撃する前に分身噛みつきにより殺された。そこからは流れ作業だ。

 

 ただ本陣を走り回り、射程に入ったら分身が食い殺す。逃げる間もなく、立て直すまもなく、たった1分半で精兵達は全滅したのだ。

 

 そして邪魔を殺し切った後に堂々とした姿で。

 

 シリウスは俺を待ち構えていた。

 

 なんともまぁ、ムカつく話だ。相対して、目を合わせている俺には感じられる。コイツは、俺を殺すために邪魔になりそうな戦士達を皆殺しにしたのだ。

 

 そんなことをしなくても、ちょっと街の外に足を向ければホイホイついていく馬鹿相手だというのにだ。

 

 全く割に合わない。仮想世界の中だといえ、俺の命より先に他人の命が失われるのは、後味が悪いのだ。

 

 だから、メディ。

 

『はい、マスター』

 

 アイツを殺すぞ。

 

『はい』

 

『では、戦術プランニングを。大前提として、1000のシリウス相手にはその剣で致命傷を負わせるのは不可能です。硬いので。ですが、現状これ以上の武器を拾うことは不可能です。その隙に殺されます』

 

 手持ちにガソリンでもあればワンチャンあるんだが……

 

『無い物ねだりは思考の無駄です。そして、現在地は平原、大木などの位置エネルギーを稼げるものはありません。城壁に登れたとしても、あの程度の高さでは手傷を負わせる程度で終わるでしょう』

 

 んで、運動エネルギーを作り出せるモノは体以外何もないと。さて、あいにく俺には藁にもすがるような馬鹿な発想しか思いつかないぞ? 

 

『私も同様です。しかし、最も実現可能なプランがそれしかないのです』

 

『ヒントは、いくつかありました。戦端を開けた時の“命を燃やせ”という言葉、生命転換(ライフフォース)というキーワード、そして後ろの二人がそれを使った後の消耗具合。これらから推察するに、マスターと私が見たあの存在感の増大はHPや生命力などのものを消費して使う技と見るべきでしょう』

 

『そして、マスターのバイタルを魂側から管理している私にはマスターが剣を拾ってからその剣の命に引かれて力を出している……と思わしきデータを測定しています』

 

 確信はないのかよ

 

『つまり、可能性はゼロではありません』

 

 スルーすんなし。

 けど、サンキューメディ。

 

『ですがこのプランの問題点は3つ。高速で移動してくるシリウスに対してどう一撃を叩き込むか。生命転換(ライフフォース)を使った状態での身体強化状態にマスターが適応できるかどうか。そして、生命転換(ライフフォース)の使用可能時間がどれだけあるのかが未知数であることです』

 

 それなら何も問題はないな。奴は俺が生命転換ライフフォースを扱い切れてない事を前提に置いている。だから、カケラを掴んだ生命転換(ライフフォース)は見せられない。つまり、力を引き出す意味があるのはインパクトの瞬間だけだ。

 

『では、どのように一撃を当てるのですか?』

 

 そんなものは考えるだけ無駄だ。俺はなるべく考えるようにしているが、それでも頭が良いわけじゃない。

 

 だから、俺が剣に捧げてきた時間を、経験を信じて行く。

 

『つまり行き当たりばったりと』

 

 そういう事。

 

『ならば方針は決定ですね。マスター、お体とお心にお気をつけて』

 

 メディのその言葉を最後に、左足を前に出し剣を右脇に構え意識を集中させる。視界はあまり意味はない。シリウスのスピードなら俺の視界の外に消える事は一瞬だからだ。

 

 しかし、シリウスには遠距離攻撃手段がない。行っていないというだけの可能性はあるが、その時はまぁ死ぬだけなので考えるだけ無駄だ。

 

 つまり、シリウスは剣の届く間合いに確実にやってくる。そこに合わせるのがこちらの唯一の牙だ。

 

 咆哮と共にシリウスが駆け回る。それには、これから殺すという獣の意志がしっかりと感じられた。そして、吠えた理由はもちろんそれだけじゃ決してない。足跡を消すつもりだ。咆哮の声に比べれば足音は小さい。耳が慣れないうちは草を踏む音など感じられないだろう。そして間違いなくそんな時間を奴は与えてはくれない。それが、奴の考えた戦術なのだろう。

 

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 そして、予想通りのタイミングでシリウスはやってきた。

 

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 そして、その完璧なタイミングでありったけの殺意を込めて身体の向きを腰を落としつつ捻る事で変える。

 

 そして、斬撃が来ると判断したシリウスは一瞬で生み出せる限りであろう分身を出し、しかしそこに痛みがない事に気がついた。

 

「フェイントって、殺気だけでも結構通じるんだよな」

『ええ、これによりシリウスの分身攻撃は回避できました。彼は自分の体から分身を生み出す時に若干のタイムラグがある。連続での使用は不可能です』

 

 分身が体に戻るシリウス。しかしトップスピードで突撃してきたコイツは回避行動をすることが出来ず、本体のまま俺の射程圏内に首を差し出してきた。

 故にやるべき事は一つのみ。

 

生命転換(ライフフォース)、全ッ、開!」

 

 生兵法ながらも可能な限りの力で命を込めた剣にて、シリウスの喉元を貫いた。

 

 そしてそのまま剣を捻り、心臓に向かって剣を走らせる。

 

 シリウスはとても硬い。しかし、全力の命を使った今の自分なら、この剣ならばその身を切り裂くことができる。

 

 そうして剣が心臓に達した所で再び剣を捻り、さらに深く突き刺す。

 

 この狼がどんな生モノかはわからないが、まぁこれで死ぬだろう。

 

 と、油断した。

 

 走る姿が、見えた。

 

 それはとても小さいが、確かにシリウスの分身である事が感じられてしまった。

 

 夜の闇の中、黒い子犬が街の中へと走り出す。

 

 しかし、俺にはもう攻撃手段がない。そして、命を燃やし過ぎてしまったせいか体がうまく動かない。

 

 だが、視線の先に倒れた盾の人と、矢を放った弓の人の姿を見て安心した。

 

 流石、死亡フラグブレイカーさんだ。

 

 その矢は、暗闇の中で放たれたと思えないほどの正確さで黒犬を貫いた。

 

 そして、その命は潰えた。

 

「お疲れ様でしたー! ……畜生、なんだこのバケモン狼! チュートリアルの難易度じゃねぇよクソが!」

『愚痴を吐いても仕方がないかと。しかし、勝利したのは私たちです。とりあえずスクリーンショットでも撮って自慢するのが良いかと』

「流石メディさん。煽りの心を学んでいらっしゃる」

『ええ、氷華様とお話しする際にこういったモノを提示すると面白い反応が見られるので』

 

 などと会話しながらもぞもぞとシリウスの死体の下から這い出る。が、正直顔を出したくらいで体に力が全く入らない。どうしたものか……

 

 などと考えていたら弓の人と盾の人がこちらにやったきてくれた。透明人間なのだけれども気付いてくれるだろうか? まぁ気付いてくれなかったら素直にログアウトするつもりではいるのだが。

 

「……こんにちは剣の人、気分はどう?」

「こんにちは弓の人。ぶっちゃけ死にそう。死んでも迷惑かけてくるとかこの狼マジでクソだわ」

「否定はしないわ。……コイツは、皆を殺したのだから」

「ん?」

「ん?」

 

『マスター、会話が成立しているかと』

「マジですか! お願いしますちょっとこの狼どけて下さい重いんです地味に胸が苦しいんですあと血を拭きたいんです」

「まぁ、さっきまで透明人間だったものねあなた。何かの精霊だったりするの? 私農奴上がりだから良く知らないんだけど」

「剣をあれほど見事に振るう精霊は、俺も知らん。まぁ男爵程度では知ることができないものなのかもしれないがな」

 

 なんて良いつつ狼から俺を引き摺り出してくれるお二方。優しさ満点か。

 

「お二方、トドメありがとうございました。アレがなかったら街に入られていたでしょうから」

「こちらこそ。私達じゃあ特大のシリウスは殺せなかった。……犠牲は大きかったけれど、それでも私たちは勝ったのよね?」

「ああ、群狼を殺した。それが今日の全てだ」

 

 そうして息をついたその時、群狼が霧散し、一つの方向へと向かって行く。

 

 それはまるで、あの時1000の力が集まったあの時のようだった。

 

「弓の人! まだ生き残りがいるかも知れません! いや、まだ居ます! 方向は城に一直線! 走れますか⁉︎」

「……こちらは罠かッ!」

「まだ、終わってないわ。行くわよロックス! 剣の人、あなたは⁉︎」

「半死半生の身ですが、行かない理由はないですね」

「ならば死力を尽くそうか。届かない事は、足掻かない理由にはならんからな」

 

 そうして駆け出す俺たち3人。正直しんどいどころではないが、それでもここは走る時だろう。

 

 そうして門を潜ったその時、待っていたのは地獄絵図だった。

 

 街の中央部から、数多の魔物が湧き出でている。それは、黒い肌の大鬼であったり、返り血で紅い蛇だったり、緑の肌の小人だったりと多種多様だ。

 

 それが、人々を蹂躙しながらまちの外へとやって来ている。

 

 不思議と、背筋が伸びた。足下に転がっていた衛兵さんの剣を拾い、それに自分を流し込む。

 

 ここから先は帰る道などない死地だろう。

 

「タクマ、明太子タクマです」

「こんな時に自己紹介? まぁいいけどさ。私はイレースよ」

「俺はロックス・ラッド。男爵の三男坊だ」

「奇妙な食い合わせですね、俺たち」

「1番奇妙なのが何言ってんのよ精霊(仮)。……矢はもうないわ。援護は期待しないで」

「タクマの体も、俺の体も限界が近い。イレース、お前だけなら逃げれるかもしれんぞ?」

「馬鹿言わないで。私はここで生きたいから戦ってんの。行くわよ!」

 

 そうして、やってくる魔物の群れにひたすらに攻めかかる。

 

 始めに、ロックスさんが死んだ。体力切れで転んだ所に大蛇が食らいついたのだ。だか、ロックスさんは死ぬ間際に剣を抜き内側から蛇を貫き相討った。

 

 次に、イレースさんが死んだ。ロックスさんのカバーリングがなくなった事で生まれた隙に小鬼の投石を差し込まれ、動きの止まった所に大鬼の一撃が襲った。しかし、イレースさんは死ぬ前に命の全てを込めた短刀を大鬼に突き刺し、大鬼の心臓に小さな台風を作り出し抉り取った。

 

 そして、俺は小鬼を捌きながら命を奪い、ただひたすらに前に行く。

 

 そこになにがあるのかはわからない。しかし、ここまできたのだから最後まで戦っていたいと思ったのだ。

 

 それはおそらく八つ当たりのような感覚だったけれど、それでも。

 

 だが、やはり多勢に無勢。まず左手を奪われ、剣が砕かれ、右腕が抉られてボロボロになっている。バランスが崩れた事により蹴りでの攻撃力は激減してしている。どうしようもない。

 

 やがて、どこかからの閃光によって右足が焼かれて身動きが取れなくなる。

 

 そんな薄れ行く意識の中で、「ったくしょうがねえな」なんて声と共に俺の体が抱えられるのを感じた。

 

 強く暖かい、大人の男の背中だった。

 

 それを見てどこか安心してしまい、俺の意識は落ちた。

 

 

 それが俺が《Echo World》においての初めての死だった。



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04 第0回デブリーフィング

 そうして目が覚めると、そこは黒を基調にした空間だった。なにか分からずにキョロキョロとしていると、俺に気付いた青年が声をかけてくれた。

 

「やぁ、お疲れ様。君随分と生き延びたね」

「あー……はい。コイントスで表が12回くらい連続で出た気分です」

「それは幸運……なのかな?」

「所でここは?」

「とりあえずデスペナ待機場って呼んでる。あのばけものパレードで死んだ人達が集まってきてる感じかな? まぁ、あのボードを見てわかる通り、デブリーフィングが8:52分から始まるらしいよ。……まぁ、延長しまくってたからアテにならないけども」

 

 そう言って指し示されたボードを見る。そこには“第0回デブリーフィング! ”という明るい文字の下に開催時間と“一部のプレイヤーの生存能力が想定以上だった為にデブリーフィング開始をここまで延長してしまいました。デブリーフィングの内容は後に確認できる為、御用事のある方は自由にログアウトしても構いません。ですが、作った身としては参加して欲しいのです……”と言い訳がましく書かれてあった。

 

 ちなみに下の方はなんと手書き。なんだか切なさが伝わってくる。

 

「あー、わかりました。とりあえず自分は明太子タクマです」

「僕はマスタードマスター。所でなんで明太子?」

「いや、好きなんですよ」

「まぁゲームのHNに大した意味は持たせないよね、うん。僕もそうだし」

 

 そんなことを言っていると、死んだのかログインしたのか分からないがゾロゾロと人が集まってきた。どうやら時間のようだ。

 

 そして、表示される時間加速5.8倍という表示。マジで? とメディに確認してみた所、ネット同期にそれくらいの遅延が起こっていると述べてくれた。サラッとオーバーテクノロジーなーこの会社。

 

「皆さん、《Echo World》第一話、群狼シリウス(体験版)を遊んでいただき本当にありがとうございました。このゲームの管理AIをさせていただいていますマテリアと申します」

 

 ディスプレイの下に現れたのは黒いドレスに白い髪、そして紅い目をしている少女型のアバターだった。

 

「それではまず、このゲーム《Echo World》の簡単な説明をさせて頂きます。このゲームは限られた時間のループの中で、プレイヤー皆さんが世界を滅びから救い次のステージに進めるというのを目的としています。第一話においての滅びの原因は群狼シリウス。その特性については皆さんで話し合って解き明かして下さい」

 

 ふむ、あのクソ狼やっぱりボスだったのか。幸先が良いのか悪いのか……

 

「では、皆さんが時間前に送って下さった質問にいくつか答えていきたいと思います。まず、チュートリアルについて。このゲームのチュートリアルは、先ほどの第1話体験版がそれに当たります。触れないこと、見えない事、話せない事、それらはこのゲームの第0形態アバターの特性です。それらを体験していただきつつ、この世界がどういうものなのか、どうやってこの世界が滅ぶのか、この世界を滅びから回避する為になにが必要なのかを皆さん自身で考えて頂くことがこのチュートリアルの目的なのでした」

 

 なるほど、たしかにただシリウスを殺すだけではクリアはできなかった。つまり、調査的な何かが足りなかったのだろう。

 脳筋には難しいゲームだ。

 

「では次です。このエリア、デブリーフィングエリアについてお話し致します。このエリアは文字通りの作戦会議室。プレイヤー皆さんの認識したデータ、プレイ動画、そう言ったものが自由に閲覧できるようになっています。ただ、個人情報に関しては自動でマスクがかかるようになっているのですが完璧だとは言い切れません。自身のプレイ動画を見てこれは危ないという所があったのならご連絡下さい、修正致します」

 

 と、真面目そうな話が終わった所で突然にマテリア嬢のテンションが変わる。さっきまでの冷血モードが嘘のようにニッコニコだった。

 

「さて、デブリーフィングエリアの説明まで終わった所で! 皆さんにリワードポイントを配布したいと思います! リワードポイントはその名の通り、事件の対処、解決に貢献した事に応じてのポイントです。それらを使えば、特殊なアイテムと交換することが可能ですもっとも、今回の皆さんはほとんどが参加賞の100ポイントなのであまり良いものは買えないのですけどね。……ちなみに、このデブリーフィングエリアにおいて皆さんに周知させた作戦などが効果的であった場合もポイントが配布されます。なので皆さん頑張って作戦を考えてくださいね!」

 

 配布されたリワードポイントは、……2600。ちょっと数字おかしくないです? 

 

『詳細欄のモンスター討伐数に間違いがないのであれば正しい数字かと。もちろん、私の記録と討伐数は一致しています』

 

 とはいえ、交換できる物にあまり魅力を感じない。剣は透明人間モードこと第0アバターで盗むなり拾うなりすれば良いのだし、なんか見えるようになった時にはファンタジーっぽい服を着ていたし。

 

 ガソリンを入れる入れ物でも有ればいいのだが……

 

『掘るのですか?』

 

 できたら掘りたい。ガソリンと火炎瓶がないとVRパルクール民は禁断症状を起こしてしまうんだ! 

 

『流石に無理かと』

 

「じゃあ、再びの質問タイム! 口に出しても、メニューのフォーラムにメッセージを入れても構いません。ただ、誰からの質問なのかは隠させて頂きます。無理に話を聞いてしまってそれが人間関係のトラブルになるというのは嫌ですからね。……ジワ売れを期待しているので、そういうトラブルは無くしたいんですよ本当」

 

 良いのか管理AI、そこまでぶっちゃけて。

 

『よろしいのではないでしょうか。ゲームとしてのクオリティは高いモノですし、マスターも氷華様をお誘いになるのでしょう? この高度情報化社会においては、良きものは良く売れるものです』

 

 まぁ確かにそうやね。

 

 さて、質問タイムももうすぐ終わってしまうのであるが、やっぱり気になるので一言くらいは聞いておこう。感性の代物である生命転換(ライフフォース)について。理論的な説明があるのなら、イメージしやすくなるのかもしれないし。

 

「第二回質問タイム終了! では、早速お便りを読んでいくぜー! ……さて、アバターの形態についての質問ですね。このゲームにおいて、アバターは基本的に3段階あります。透明人間モードこと第0形態。モンスターには見つかりますが、人間からは見つかりませんまた、薄い壁なら通り抜けることが可能です。次に第一形態。これは、第0形態の方が存在を表に出すことで発生する形態です。他の方の質問にも絡んでしまいますが、これは生命転換(ライフフォース)という技術を使うことで可能になります。いわゆるHPを燃料にしてパワーを得るみたいなものですので、練習中に死なないようにご注意を。……実際今回のラストワン(最後の一人)はそれで死んじゃいましたからねー」

 

 なんとも間抜けな奴がいたものだ。是非とも一緒に修行したいところだな、うん。お互いに監視すればなんか良い感じになるかもしれないし。

 

『マスターが最後の一人という可能性はどうですか?』

 

 その時は笑うしかないなー。

 

「では、お待ちかねの第二形態! と言いたいですがこちらについての説明はほとんど意味がないので概略だけ説明させて頂きます。第二形態はプレイヤーそれぞれによって違う能力の……強化変身? みたいなものです。ですが、時間制限があること、使用後はまともに動けなくなることは共通ですね。強力な力であるものの、とてもリスクのあるモノです。ご使用にはご注意を」

 

 その後、様々な質問への回答が発せられたが、正直戦闘疲れで眠いので若干聞いていなかった。というか10分くらい寝てた。

 

 まぁ、大体の質問は今回のシリウス関係なのだろうから、放っておいても大丈夫だろう。俺の役目は、とりあえずぶった斬る事で問題はないのだから。

 

「では、デブリーフィングを終了します! 時間加速は元に戻りますが、世界が巻き戻るまでの間は直接、あるいは掲示板やチャットなどを用いての作戦会議に制限はありません。むしろガシガシやって下さいな! ただ、一つだけ」

 

「滅んだ世界の残響があなた方の世界に響いてくることもあるでしょう。くれぐれも夜道にはご注意を」

 

 なんともまぁ厨二スピリッツに響く注意勧告である。カッコいい夜道には気をつけてネ! だ。

 

 けれど、その言葉が何故か心に引っ掛かった。何かの小説の引用だろうか? こんど氷華に聞いてみよう。

 

 そんなんで、デブリーフィングは終了した。



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05 狼と殺しあう現実の話

「ふぃー」

『お疲れ様でした、マスター』

「いやー、人気者って辛いねー! 人気者って辛いねー!」

『マスター、少々喜びすぎかと。率直に言って気持ち悪いです』

「お前本当に健康管理AIなんだよなオイ」

 

 上がりきったテンションの所に氷水をぶっかけてくるような健康管理AIがいるらしい。なんだかなー。

 

「さて、メディさん。メディカルチェック頼むわ」

『はい。30秒動かないで下さい』

「はーい」

 

 VRゲームが終わった後の恒例のチェックである。

 

 残念なのか幸いなのかはわからないが、自分は微妙な重さの心臓病を患っている。手術するほどではないが、かといって安全とも言い切れないみたいなの。そんなことがあるから、義父(おやじ)の友人の作ったこの高性能健康管理AI“メディ”のテスターをやっているのである。

 

 まぁ、長い付き合いなのでもう最新型とは言えないが、生憎とメディ以外に命をコントロールされるという未来はしっくり来ていないので多分俺の病気が治るまで、あるいは治った後でもメディと一緒に生きるのだろうなーとは思う。

 

 尚、親父の友人である人はかなりの面白主義者? なのでメディにはいろいろな要らないような機能が詰め込まれていたりする。具体的にはバイクの排気音を聞くだけでどの車種かを表示するとかの。誰得かって? 俺得だよ。バイク好きなんだよ悪いか。

 

『チェック完了です。身体的問題は見つかりませんでした。体に違和感はありますか?』

「んー、左手に若干の違和感。まぁぶった斬られたし当然かね?」

『幻痛などは?』

「ないない。というかあったら言ってるっての」

『念のための確認です。では、明日の準備の後ストレッチをして眠りましょうか』

「そうだな……あ」

 

 やっべ忘れてた、親父のコーヒー買ってねぇ。

 

「メディ、今何時?」

『10:30ですね』

「うわ、補導ギリギリライン。まぁコンビニ行くだけだし大丈夫か」

『明日の朝買いに行くのでも間に合うのでは?』

「親父帰ってくるの大体4時だからなー、その前に起きるとか苦行だっての」

『補足、朝4時前も補導の対象となります。今行くしかありませんね』

「だなー。メディ、バイクのエンジンかけといて」

『了解です。しかしあれは完全自動二輪(ベビーカー)と呼ぶべきでは?』

「……雰囲気だけでも格好つけたいお年頃なんだよ」

 

 完全自動二輪、通称ベビーカー。言われるまでもなく蔑称である。

 バイクの自動運転というだけなのだが、対象年齢がちょっと幼い、具体的には小中生が対象なのだ。けど、真っ当な体を持っているならその年頃の子供たちは自転車を買うだろう。つまり、“自転車も漕げねー赤ちゃんかよーwww”ということだ。泣くぞコラ。

 

 まぁVR教習で免許取ったからバイクとしても使えるのだが、それを許すマイ親父ではない。“調子乗って事故なんざ起こしてくれんじゃねぇぞ! ”とか言いながらケーキと新しいプロテクター買ってお祝いしてくれたりしてるもはや狙ってるとしか思えないツンデレなのだから。なのでその心配はちゃんと受け止めるつもりでいるのだ。

 

 まぁ、とにかくプロテクターを付けてコンビニに行こう。

 

 ……なんであの親父コンビニブランドのコーヒーしか飲まないんだろうなー? なんて事を考えつつも自動運転に任せてコンビニに行く。ついでだしシュークリームでも買ってしまおう。

 

 なんてちょっと自分を甘やかした所で事件は起こった。

 

 帰り道、突然にベビーカーが停止したのだ。

 手動でエンジンをかける分には問題はない。つまり自動運転側のトラブルだろうか? 

 

「メディ、どうなってる?」

『……不明。現在私たちはスタンドアロン状態となっています』

「……携帯も通信不能か。大丈夫か現代社会?」

『ですが、私とベビーカーとのリンクは存在しています。おそらくはこの周辺一帯と外部の通信が遮断されているのだと』

「……テロとか?」

『さて。とりあえずはこの大通りから動くべきではないという所でしょう。貧弱な中学生であるマスターにできる通報という必殺技が封じられてしまったのですから、嵐が過ぎるのを待つのが良いでしょう』

「だなー。メディ、監視カメラの位置と視界算出できるか?」

『ご安心を。現在停車しているここは近隣のビルの監視カメラの視界内です。なにか起きることはないかと』

「運がいいのか悪いのか。とりあえずのんびりしてるか」

 

 そんな自分の声を咎めたのか、「嫌ァアアアア!」と甲高い声が鳴り響く。近い。

 

『マスター、私は推奨しません』

「知ってる。けど行くよ」

 

 バイクのエンジンをふかし、手動運転で悲鳴の鳴った方へ向かう。ついでに携帯端末にインストールしていたサイレンの音を最大音量で流す。運が良ければこれでゴタゴタは片付くだろう。

 

 などと思っていたら、今度は狼の遠吠えが響いてきた。

 

 おい待て首都圏だぞココ! と悩むのも馬鹿らしい事を考えながら悲鳴の元へと辿り着く。

 

 そこには、一匹の影の狼。という表現しかできない異物が存在していた。

 

「メディ! 運転任せた! ドリフト停車で道塞げ!」

『了解です。マスターはお早くお逃げ下さい』

 

 そうして足をもつれさせて転んだ女性の手を掴んで立ち上がらせる。

 

「ヒールは脱いで! 意味が全くわからんですけどとにかく逃げますよ!」

「え、ええ!」

 

 まぁ、この場合先にバテるのは俺だろうけれどもそこはまぁ考えない。

 何せ、バイクの壁をジャンプして飛び越えてきやがったのだあのクソ狼は。狼って凄いのな畜生! 

 

 そうして、火事場の馬鹿力的な運動能力にてどうにか狼から逃げる。しかしここらは複雑な路地裏。人のいる可能性のある大通りへ辿り着く前にクソ狼のご飯になるだろう。意味わからん。早く助けてお巡りさん! 冗談抜きで心臓破裂するから! 

 

 なんて考えていたが、そこは運命のT路地。ちなみに、メディの見せてくれる地図では、右が行き止まり、左が正解。

 

 しかし、クソ狼との相対速度的に考えて二人で左に行ったら絶対に追いつかれる。

 

 ……あー、どうしてこういう時にピカッと二人で助かる閃きを引き込めないのやら。やめろや自己犠牲とか中二病の権化だろうが。やめろや親父に恩を全く返せないだろうが。やめろや氷華と一緒に旅行に行けてないだろうが! 

 

 だから! 俺の最適解は! 

 

「二手に、分かれます! あなたは()! 俺は右! 引っ掛かった方は逃げ回って、逃げられた方は助けを呼ぶ感じで!」

「何、を⁉︎」

「いいから!」

 

 そうして、運命のT路地の分かれ道にやってくる。

 

 そして俺は女の人を左に追いやってから真っ直ぐに狼に相対する。

 

 ここでこいつをぶちのめす。体のフィーバータイムがいつまで続くのかは不明。だがまだ動く。だから! 

 

「あなた⁉︎」

「行けェエエエエエ!」

 

 狼の飛びつきを回避してケツを蹴り飛ばし、壁に叩きつける。効果なし。ファンタジー生物かこの野郎。

 

 だが、まだ体は動く。不思議だ。まるでゲームか何かの中のように感じられてしまう。これは、多分麻薬の類だ。

 

 けれど、今はそれで良い。

 

 いつものように殺意を研ぎ澄ます。

 そして、殺し方を探す。

 

 現在位置はT路地の分かれ道部分。ベビーカーからはかなり距離がある。どうにかバッテリーを爆発させればダメージを起こせるかも知れないが、このクソ狼は壁にぶつかったダメージを受けていなかった。物理無効か? いや、蹴りは確かに入ってる。ダメージとしては微弱すぎたが。

 

 となると、狼を踏みつけまくってコンクリートの硬さで頭蓋を砕くというVRパルクールスタイルの殺し方は通じないだろう。

 

 とすれば、あのファンタジーが生物に類するものである事を祈るしかないだろう。狼にやったことはないが、絞め技だ。呼吸ができなくなれば大人しく死ぬだろう……多分。

 

 さて、そんなか細い希望を抱きつつも高速で動いてくる狼の飛びつきに対処する。足狙いの爪撃だが、幸いにも背中は壁。ならば一つ飛んで、壁を蹴ってもう一つ飛んで稼いだ位置エネルギーをそのまま狼の頭に叩きつけるように空中回転蹴りを放つ。

 だが、蹴りを放った瞬間に嫌な予感がビシビシと伝わってくる。

 

 躱される? いや、そんなことはない。この狼は俺のことを一瞬たりとも視界に捉えていないのだから。影が被る事もこの明かりの少ない路地ではないだろう。

 

 だとすると、なんだ? 視界以外の知覚方? ファンタジーか? 

 そう止められない蹴りを放つまでの間に考えていると、()()()()()()()()()()目が合った。

 

『マスター!』

「冗談、そこに目ができるって事はッ⁉︎」

 

 俺の放った蹴りは、背中から生えた狼の首による噛みつきで食い止められた。

 

 幸い、プロテクターのおかげで噛みちぎられてはいない。が、傷は深い。激痛で頭がおかしくなりそうだ。

 

 だが、今ここで恐怖の叫びを上げる事に意味はないッ! 

 

「ァァァァアアアアア!」

 

 噛まれ止められたた右足を、体の捻りを使ってさらに押し込む。噛みつき系は基本的に引いたらダメージが大きくなるからだ。

 

『マスター、ゲームの通りならあの分身はもうすぐ消えるでしょう。しかし、足にダメージを負った今逃げる方法はありません。そして、組みついて絞め殺すのも分身噛みつきによって塞がれてしまいます。……勝機は、ありません』

 

 だろうな。だが、まだ諦めるには早い。俺はまだ、生きている。

 そして、敵がゲームの通りならば、こっちもゲームの通りにやってやる。

 

『ここは現実ですよ?』

「残念、俺はゲームと現実の区別がつかない今時の中学生なんだ」

 

 だが、足のダメージは大きい。高さを稼いでの攻撃も防がれるのだから火力が足りない。

 

 そんな時、女性らしからぬ猛々しい声と共に鉄パイプが投げつけられた。逃したはずの女性からの援護だった。どうして戻ってきたのか問いただしたいが、それは後だ。

 

 鉄パイプは生憎とコントロールが悪く狼に当たる前に地面に落ちてバウンドしたが

 

 その瞬間に、狼の分身が消えた。地に落ちた左足を全力で動かして、その着地点に滑り込む。

 

 そして、掴んだ瞬間に痛む右足を軸足に、体全体を捻るように運動エネルギーを乗せて、背中に迫るクソ狼に鉄パイプを叩き込む。

 

 この世界にあり得ない筈の、力のトリガーを引きながら。

 

「行くぞ、本日2回目謎パワー!」

『有り得ない事ばかりですが、溺れるものとしては藁を掴むのが正道というものでしょう』

 

生命転換(ライフフォース)! 全ッ開!」

 

 叩きつける瞬間に、溢れ出す生命力を鉄パイプに込める。それにより狼の頭蓋は砕かれ、それからすぐにその体は霧散した。

 

「あー、終わった。もう無理ダメだわ。体動かねえ」

『お疲れ様でした。ですが、この狼がゲーム通りならば、後998匹居ますね』

「そんときゃ死ぬわな。死にたくはないけどこればっかりは無理。右足が逝ったのが致命的だわ。メディ、ベビーカー呼んでくれ」

『最後は逃げると』

「そりゃそうさ」

 

 そんなぐだぐだな会話をしていると、本気で体がしんどくなったので大の字に倒れて空を見る。

 

「……なぁメディ、俺生きてる?」

『はい。マスターのバイタルは危険値ギリギリですが正常です。運が良かったですね』

「……あー、死に損なった」

『否定、生きる意志を放棄することを私は推奨しません』

「あー、すまん。言葉の綾だ」

『よろしい』

 

『通信が回復し次第警察と救急車を呼びます。今はお休み下さい』

「ありがと、メディ」

『いえ、私の仕事ですから』

 

 新月の夜、路地にて空を見る。

 それは酷く現実味はなく。しかし手に残った感触がそれが確かにあったことなのだと告げている。

 

「とりあえず、夢オチであることを祈るよ」

『否定、マスターは覚醒状態にありました。故に先ほどまでの戦闘は現実のものです。ネットワーク遮断によりクラウドストレージに映像は保存できませんでしたが、それは確かかと』

「そこは乗ってくれやメディさん」

 

 さて、ベビーカーのモーター音は聞こえてきた。流石俺の愛機だ。

 そして、先ほど鉄パイプを投げてくれたファインプレーお姉さんが恐る恐るという感じで寄ってきていた。

 

「こんばんはお姉さん。鉄パイプありがとうございました」

「……正直、何がなんだかわからないんだけど……あなたは何?」

「通りすがりの一般中学生Aです」

「あんな化け物みたいな動きする中学生がいるか! いや助けてくれた事には本当の本当に感謝してるんだけどね!」

 

 そんな話をしていると、急に体にいつもの感覚が戻ってきた。

 

 体が、動くことを許していないこの感覚、やはり動けたのは奇跡か何かだったのだろうか。

 

 だが、意味がわからないことがさらに増えた。

 

 俺の右足はあのクソ狼に噛まれた。プロテクターは破損している。噛みちぎられる寸前だったのは感覚として覚えている。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まるで、先ほどの死闘が夢か何か出会ったかのように。

 戦いの痕跡は、消えていた。

 

 さっぱり意味がわからんぜ。

 

「あー、夢オチって事にならねーかなー」

『マスター、2回目です』

 

 これが、俺と謎のインディーズゲーム《Echo World》との付き合いの始まりの日の終わりだった。




プロローグ終了です。

現実世界での戦争と、VR世界での冒険、どっちも描ききれるかは不安ですが、精一杯頑張らせて頂きます。


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第一話 少年と臆病者の剣(チキンソード)
01 見えなくなった異常/見飽きている日常


「あー、眠い」

「私もよ……ていうか、後日来いとかちょっと危機管理杜撰過ぎないこの辺の警察」

「ですよね、あんなファンタジーが来ているってのに」

『仕方がありません、()()()()()()()()()()

 

 取り敢えず、現状確認。

 現在時刻は午前0時を回った所。

 クソ狼シャドー(命名俺)が死んで少ししたら通信が回復したので、早速通報をしたのだが、ちょっと予想外すぎる事が起こった。

 

 まず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。綺麗さっぱり、なんの痕跡もなくだ。

 そして、それは生物にのみ適応されるものではなく、ちょっと曲がった鉄パイプや、噛まれたプロテクターも元に戻っていた。何これホラー? 

 

 次に、映像記録の消滅。あいにくとメディに外部カメラは繋いでいなかったが、ベビーカーのドライブレコーダーには狼が写っているはずなのだ。が、あの通信障害とともに映像が真っ暗になり、音も当然無くなっていた。よって証拠になるものはなし。

 

 そして、最悪なのはメディだ。メディは俺と接続しており、俺の視界をデータとして取り込んでいる。だからあの死闘においては的確に俺のサポートをすることができた。

 

 しかし、その映像記録が最悪なのだ。なにせ、写っているのは路地のみ。狼も俺たちも、通信障害がなくなるまで記録として残すことは出来なかった。

 

 つまり、完全に証拠ゼロである。

 

 一応深夜番のお巡りさんは話を聞いてくれたものの、その目は懐疑的だった。それでも一応調書取るあたりあの人すごく良い人だと思う。ロボット越しの会話だったけども。

 

 だがしかし、被害はゼロ。皮肉にも俺の頑張りがこの異常事態の発見を遅らせてしまったようだ。

 

 ……まぁ、だからといって人を見捨てられるような人間であるつもりはないので、何度同じ状況になっても同じことをするだろうけれども。

 

「さて、お姉さん。俺はお姉さんの命の恩人ですよね?」

「……何よ。私顔に出てないけど、あなたには感謝してるわよ。とっても」

「正直言ってクソ疲れた上に足の幻痛が引かないんでしんどいんです。ベビーカーに乗っけてくれません?」

「……あんた、自転車乗りなさいよ。健康に悪いわよ?」

「本来自転車乗れるような健康マンじゃないんですよーだ」

「まぁ、良いけどね。自動運転は戻ってるの?」

『はい、テストしてみましたが、正確に動作しています。故障などはありませんね』

「……本当にいい子だわメディちゃん。ウチにも欲しいわ」

「あげませんよ」

「分かってるわよ」

 

 ちなみに、現在メディは外部スピーカー接続済みだ。なのでお姉さんと会話ができているのだった。

 

 そんなこんながあってお姉さんの介助があり俺はベビーカーへと搭乗した。が、お姉さんも一人で帰るというのも何なので、俺の家までついてきて貰ってそこからタクシーを呼ぶつもりらしい。

 

 正直ありがたい限りである。現在時刻は補導ラインをオーバーしているのだから! 

 ……いや、単に親父に心配かけたくないってだけなんだけどもネ。多分補導されたとか聞いたら患者さん放り出してこっち来るだろうし。

 

 あのツンデレ親父、真面目にゴッドハンドやから受け持ってる患者さんは多いのだ。うん。

 

 患者さんの為にも、親父の精神安定のためにもこんな小さなことで心配はかけたくはないのだったり。

 

 ……いや、ファンタジー狼については折を見てちゃんと話すけどもね。アレはガチの大事やし。

 

「所で、頑なに名乗らないけど何か事情があるの?」

「え、それ聞きますお姉さん?」

「そりゃね、恩人の名前くらい覚えておきたいし」

「……てっきり“今日の出来事なんて覚えていてたまりますかよ! ”って感じかと邪推してました」

「何キャラよ私は」

「一目で人のキャラクター見抜けるような目は持ってないですねー」

『つまり適当という訳です』

「馬鹿じゃないのアンタ」

 

 その言葉に、こっちの気遣いが無駄である事を思い知らされた。うん、それなら仕方ないのかな? 

 

「それじゃ改めて、風見琢磨、松中の二年生です」

矢車楓(やぐるまかえで)よ。てか松中って後輩じゃない。タレ先まだ元気?」

「はい。今日も元気にカツラハンターと戦ってますね」

「タレ先マジで面白良い人よねー」

「ですよねー」

 

 ちなみにタレ先とは前垂之雄(まえだれこれお)先生。植毛せずにカツラを被り続ける名物先生である。ちなみに担任なので結構迷惑をかけてたりする。

 

 さて、自己紹介も終わったのだしのんびりと路地を出よう。こういう時ベビーカーはまぁ便利である。オートバランサー様々だ。

 

「しっかし、風見くんが心臓弱いとか信じられないわねー。ゲームのおかげとか言ってたけど何やってたの?」

「ちょっと剣道を」

VR剣道(殺人教習所)⁉︎」

「免許も段位も貰えないですけどねー」

「……ちなみにどれくらいやってんの?」

「元ランカーです」

 

 ちょっとドヤ顔で決めて見る。まぁランクインしたのは3分だけだったけれども。

 

「うん、そりゃ常識の外の動きするわね」

「ちなみに矢車さんはやってたんですか?」

「ええ、ただ鎖鎌がねー」

「距離詰めればそんな怖くはないですよ? 最悪武器で分銅止めて殴れば良いんですし」

「そんなん実践できるのが常識の外だって言ってるの」

「えー」

 

 ちなみに、殺人教習所ことVR剣道とは、VRゲーム初期時代からマッチング回りと反応速度対応以外のアップデートを行わないにも関わらず8年以上のロングサービスを続けているスルメゲーである。

 

 その1番の売りは武器指定自由、防具指定自由、()()()()()()なんでもアリ(バーリトゥード)ルール。そのあんまりな自由度から冗談抜きで現実の殺しに応用できたりするのだとか。

 剣の道がどこに行ったかについてはプレイヤー達の中では最早議論されてはいない。

 

「とか言ってたら家着いちゃいましたね」

「あ、ここなんだ。良いとこ住んでるね」

「自慢の親父の自慢の家ですから」

「キミお父さん好き過ぎじゃない?」

「ファザコンと笑いたくば笑え!」

「笑わないわよ。……それじゃあね。とりあえず明日の朝連絡してよ? 正直夢かどうかまだ覚束ないんだから」

「モーニング猫動画で良いですか?」

「やめてくれない? 朝からあんな畜生のことなんか見たくないわよ」

「……猫嫌いかー」

「ええ、アレルギーなの」

「じゃあイルカとかにしておきますねー」

「お願い……ってなんで動物動画縛りなのよ」

「そりゃなんとなくですよ」

 

 矢車さんの端末からタクシーを呼んだのがわかる。どうせだしウチの中で待つかと聞いたが、流石に悪いとの事だった。

 

「んで、なんでアンタは玄関前で待ってるの?」

「そりゃなんとなくですよ」

「感性で生きすぎじゃない?」

「ノリって大事じゃないですか」

「否定はしないけどね……」

 

 ガレージへの収納を自動運転に任せて玄関前で矢車さんと話す。

 

 なんでもない日常の話でしかなかったが、それでもそれは俺たちに生きているという事を実感させるのには十分だった。

 

「それで、気分は晴れた?」

「そっちこそ、大丈夫になりましたか?」

「私はまぁ、別に何かあるって訳じゃないし」

「俺はゲームと現実の区別がつかない系の男子なんで最初から平気でしたよ」

「……つまり、お互いに気を使いすぎって感じ?」

「じゃないかと」

 

 プッとお互いに笑みが溢れる。この人は本当に良い人のようだ。

 

「じゃあ、また」

「ええ、また」

 

 そんな会話を最後に、矢車さんはタクシーに乗って帰って行った。

 

 そして、玄関を開けてリビングに適当にコーヒーを放ると

 

 痛みに堪えられず、俺は足を抱えて蹲った。

 

『よく、頑張りましたね』

「痩せ我慢、気付かれてたと思うか?」

『おそらく気付いてはいないでしょう。マスターの戦い事に関するポーカーフェイスは一級品ですから』

「そっか。……あーやばい、立ちたくない。コレ治るのか?」

『肉体的なダメージがないのですから、どうとも言えません。マスターは何を喰われたのかすら分かっていないのですから』

「……明日治ってなかったら病院行くわ。鎮痛剤とか効くのかコレ」

『不明です。が、マスターが今考えるべきことはそちらのソファで休むことかと』

「部屋に行けとは言わないん?」

『行けるのですか?』

「……無理」

『ならば、床で寝るよりはソファで眠る方がマシでしょう。気疲れで眠ってしまう前に、横になるべきかと』

「へーい」

 

 ズルズルと体を引きずってソファへと片足で登り横になる。すると、痛みがあるにも関わらず意識はストンと落ちていった。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

「……治ってる」

『おはようございますマスター。お父様から“こんな所で寝るなクソガキ”と掛け布団とともにお言葉を頂いております』

「……愛の力か!」

『違うかと』

 

 それでは、朝飯としよう。

 自動調理器(クッカー)に適当に材料を入れて作るフレンチトーストと野菜スムージーだ。

 

 現在時刻は午前7時、登校にはまだ余裕がある。

 

 寝ていると思うが、一応親父に声をかけておこう。

 

「親父、寝てるー?」

「……今起きた」

「徹夜やめーや医者の不養生とか笑えねぇからな」

「寝たっつってんだろ」

「まぁ起きてるなら良いや、メシ作ったよ」

「手が離せん、持ってきてくれ」

「はいよ」

 

 というわけでポットのお湯でインスタントコーヒーを入れて、フレンチトースト、スムージー、コーヒーという割と噛み合うようで噛み合わない組み合わせだが、まぁウチのメシはだいたいこんなものである。

 

「入るよー」

「おう」

 

 親父は、家にいる時のいつものようにパソコンで何かを調べていた。だが、珍しいことに論文がドイツ語ではない。日本語だ。

 

「仮想世界におけるダメージフィードバックの現実侵食性?」

「脇から覗くなや」

「ごめん、珍しく日本語だから気になって」

「まぁいい。時間はあるか?」

「うん。それなりに」

「なら良い。お前VRについて詳しいよな」

「5歳からやってるからね。この幻痛ってのも似たのが覚えはあるよ」

「……本当か?」

「まぁ親父の問題とは違うと思うけどね。アレは多分梅干先生の殺意のせいだし」

「殺意ッ⁉︎何かされたのか⁉︎」

「ゲームで首落とされただけだよ。それからちょっと首が繋がってるか不安になったことがあるってくらい」

「……最近のゲームは凄いな」

「本当にねー。んで、俺に聞くってことは八方塞がりなんでしょ? ちょっと愚痴ってみたら?」

 

 その言葉に親父は少し悩み、渋々といった感じで口を開いた。

 

「今日の早朝、救急車で担ぎ込まれた患者がいた」

「うん」

「そいつは、外傷は全く負っていなかった。にも関わらず激しい痛みでショック死寸前まで追い込まれていた」

「それをVR関連だと?」

「ああ。違法アプリやハッキングなどで付けていた機器から“痛み”を植え付けられたのではないかと邪推している。……証拠はないがな」

「わかった、気をつけるよ。まぁ俺にはメディが付いてるからへいきへっちゃらだけどネ!」

『微力ながら、力を尽くさせて頂くつもりです』

「おう、馬鹿息子を頼むぞ」

 

 ちなみに今の話をツンデレ翻訳すると“VRで危ないのが流行ってるっぽいから今まで以上に気をつけろ! ”という事である。どうして素直にそう言わないのだろうか疑問だが、まぁ親父だし仕方ないか。

 

「じゃ、無理しないで頑張ってね。けど、本当にちゃんと休んで。親父が倒れたら俺ギャン泣きするから」

「面倒なガキだ」

 

 笑顔が隠せていない親父殿である。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 さて、食事は取った。メディカルチェックも問題なし。ベビーカーも問題なし。

 

 それでは学校に登校するとしよう。

 

「行ってきまーす」

「おー」

 

 バイクに乗って自動運転でトロトロと行く。登校時間は事故が怖いのだ。

 

「おはよーベビーカー!」

「バイクと言えこの野郎! 免許持ってんだよ俺は!」

「でも乗ってんのベビーカーじゃん」

「放課後教習所来いや頭カチ割ってやる」

「やだよ死にたくないし。あのゲーム痛みが生々しいんだよ」

 

 などと言いながら自転車の速度を俺に合わせるのは近所に住んでる大作ゲーム好きの一ノ瀬慎吾(いちのせしんご)。所謂一般的なカジュアルゲーマーである。

 

「そういやお前あのクソチュートリアルゲーム買ってたよな」

「《Echo World》のことか?」

「そーそー。レビュークッソ荒れてたぜアレ。実際どうなん?」

「クオリティお化け。体の動きは真面目に現実と間違えるレベル。多分教習所シリーズクラスにモーキャプに金使ってるぞ」

「へー。そこだけ聞くと面白そうだな。まぁそれ以上の酷評を聞いてるんだけども」

「どんな風に言われてんの?」

「意味わからず透明人間にさせられてたらなんか出てきた魔物にぶっ殺されるゲームだって」

「まぁそれがチュートリアルの目的らしいからな。サーバー単位の死にゲーなんだよアレ」

「じゃあ俺は良いや。ソドマスSまで貯金しないとだし」

「あのシリーズ体の違和感ヤバイんだよなー。良く耐えられるのな」

「まぁそれも今作で改善されるでしょ。やれる感じだったらパーティ組もうぜ」

「PK厨をパーティに誘うとはお主やる気か?」

「……普通に友人を誘ってるだけなんだが」

「なんだつまらん」

「お前なー」

 

 さて、駄弁っているといつの間にやら学校だ。まぁ駐輪場まで完全オートだから迷うことはないのだけれども。

 

 そして校門前で友人達と合流してぐだぐたと二階への階段を登る。

 結構な重労働なのだコレ。昨日みたく麻薬パワー湧き上がって来ないかなー。

 

 エレベーターを使えば良いのではないかと思う人もいるだろうが、この校舎エレベーターの位置に悪意が(多分)あり、ぶっちゃけエレベーター使って上がるのと階段使って上がるので大した運動量の違いが生まれないのだ。マジでくたばれ設計者。

 

 ちなみにこういう時に友人が集まって来てくれるのは俺の人徳……などでは決してなく、去年卒業したフツメン先輩が階段でダウンした俺に手を差し伸べた姿に同じクラスの美少女先輩が惚れたのが理由だったりしたからなのだ。下心丸出しかよ。嫌いじゃないけども。

 

「ちわー」

「あ、明太子ー。クソゲーどうだったー?」

「リアルで明太子言うなや。あとアレはクソゲーじゃなくてスルメゲーだから。多分」

 

 などとわちゃわちゃしながら授業を受けて、わちゃわちゃしつつ学校を終える。いつもの光景である。

 

 んでメディさん。今日休みの奴はいた? 

『幸いにも居ませんでした。マスターのようなメンタルの人ならば別でしょうが、それはないでしょう』

 自覚してんだから言うなっての。()()()()()()()()()()()ってのは普通じゃないんだって。

『まぁそれも個性の一つでしょう。お気になさらず』

 じゃあ、アテは矢車の姉さんだけか。しんどいねー。

『最も、次あんな事に巻き込まれる事があるとは思えませんがね』

 ま、一応な。

 

「じゃあ、俺帰るわー」

「送るぜ親友!」

「そうだぜ親友!」

「気をつけてねー明太子くん」

「自称親友はやめーや。あと明太子もやめーっての」

 

 などと言いつつも受け入れる。親友親友うるさいのは杉田と小泉の二人。俺が見るにそこそこ顔は整っていると思うのになんか彼女ができない二人である。

 

 部活で鍛えた筋肉がダメなのだろうか? 

 

 まぁ良いのだけれども。二人は親友などと言っているが、ふざけてると皆わかっているのだし。

 

「サンキューな二人共。だが、残念ながら見ていた女子はゼロだ」

「「なん……だと……」」

「そう簡単に運命の出会いはないってこったよ」

 

「じゃあなー」と分かれてバイクに乗る。

 

 今日は一応病院に行くとしよう。痛みが振り返して来たら嫌だし。

 

『氷華様のお顔も見たいですしね』

 

 否定はしないが、言うなよ? 

 

『はい、もちろんです』

 

 これがメディ以外のAIなら信用できるのになーという諦めを込めて思う。



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02 Mrs.ダイハードという女

 さて、今日は足の検査をしに病院に行くわけだが、当初予定していた病院の主こと御影氷華(みかげひょうか)に会いに行くという予定もあるわけだ。が、予定していた《Echo World》を勧めるべきか結構悩むのだ。どうしたものだろうか。

 

 あいにくとまだ“これだ! ”というインディーズゲームはあまり見つけていないので、何を紹介するかちょっと困る。

 が、良く考えてみたら別に《Echo World》自体に問題があるわけではないのだし、これからの謎解きの手助けをして欲しいのだから誘うのは問題ないのではないか? とも思う。

 

 そこんとこどう? メディさん

 

『論外、氷華様へのプレゼント関係の事はマスター自身が悩んで決めるべきだと邪推します』

 

 論外ってなかなか酷いなオイ。

 

 まぁ食い物はアウトだし、娯楽品の類はVRでやれるのに限られているのだからそんなに選択肢はないのだけれども。

 

 装飾品は、これからサイズ変わるだろうからまだもったいないしなー。

 

『相変わらず信じているのですね』

 

 そりゃね。あいつより死んでも死なない(ダイ・ハード)な女は知らないし。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 帝大医学部付属病院には、一人の伝説になっている少女がいる。

 その名は、御影氷華。僅か14歳にして、実に16回の大手術を受けて尚生き残っているなんかおかしな少女だ。

 

 その回数だけでもうすでに常人離れしているが、それよりも恐ろしいのはその各手術の成功率である。

 

 受けた手術の最高成功率はなんと13%。最低は新手術の治験未満の暴挙(実験台)としてのものである測定不能(0%)

 

 そんな彼女は奇跡の少女と最初期には呼ばれたが、それが間違いであることを病院に勤めている者たちは知っている。

 

 栄養管理、リハビリ、体力作り。病状に触らないギリギリで常に生きる努力を積み重ねてきたからこその奇跡なのだと。

 

 その生きる強さを見た者は、彼女のことをこう呼ぶ。

 

 Mrs.(ミセス)ダイハード、と。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

「ありがとうございましたー」

「お父さんによろしくねー」

「へーい」

 

 一応病院での検査はした。CT、MRI、VRボディチェックの全てにおいて問題なしの結果が出てしまったのは幸運なのか不幸なのかわからない。なので、あのファンタジークソ狼がこれ以上俺の前に現れることなく、警察や自衛隊にぶっ殺される事を祈る事にしよう。

 

「やっぱまだゲームの層が薄いなー」

『今出ている脱出ゲームの類は、もうクリアなされているとの事ですからね』

「じゃあ腹括るか」

 

 そうしていつものようにナースステーションで顔パスし、彼女病室へと入る。どうやら彼女はようやくマトモに動くようになった体でリアル読書を楽しんでいるようだった。

 

「ただいまー」

「あらお帰りなさい。ご飯にする? お風呂にする? それとも酸化炭素で暖かい部屋で愛を語り合う?」

「練炭云々がなかったら3つ目だったかなー」

「あらそう」

「というかただいまにツッコミはないんかい」

「私のいる場所をあなたの帰る場所に()()のだから、特に問題はないわね」

「やっぱこの女強すぎるわ」

「当然よ、私だもの」

 

 最近ようやく伸ばすことができるようになった青みがかった黒髪と触れば折れてしまいそうな細く骨の浮き出た腕、そしてその二つが見間違いかと思うほどに“命”に溢れた顔をしている彼女は、威風堂々とそんな事を宣った。

 

「それにしても今日は遅かったわね。補修でも受けていたのかしら」

「あいにくと成績は中の上をキープしてるよ。勉強を理由にゲームを縛られてたまるかっての」

「お義父様はあなたにダダ甘なのだし平気だと思うけどね」

「まぁそれはちょっと思うけど、それはそれよ」

「それで、どうして遅れたの?」

「まぁ、正直白昼夢だと言われれば否定できる根拠はないんだが……」

 

「なんか狼的ファンタジー生物に噛まれた」

「話を聞かせて、そいつを殺すわ」

 

 驚くべきノータイムだった。なので答える言葉は一つだ。

 

「安心しろ、ちゃんと始末した」

「……あら、やるじゃない。けれどそんな事が起こっていたらニュースになるのではなくて?」

「それがな、噛まれた足はこの通り綺麗に治って壊れた筈のプロテクターは元どおり。おまけに映像はなんもなし。笑えるくらいになんもないんだよ、証拠が」

「何、それなら闇の組織のAR実験に巻き込まれたとでも言うのかしら?」

「……あいにくと否定はできねぇわ」

「冗談のつもりだったのだけれど」

「何もわからないから否定できないってだけだよ畜生」

「……まぁ、証拠をそこまで消しているような組織なら、あなたのような一般市民(仮)に関わる事はないでしょう。気にしないで良いと思うわ」

「オイ待て(仮)の意味を教えろや」

「嫌よ、面倒くさい」

「鬼か」

「私よ」

「その返し強すぎるんだが」

 

 なんて会話をしながら、備え付けのARリンクで手元に食品データ、クッキーと紅茶を投影する。消化器系はまだ馴染んでないとの事なので、お茶会ならばコレだろう。いつもはVRだったが、せっかくなのだし。

 

「あら、そういえばそんな機能もあったわね」

「忘れんなやVIP患者」

 

 そうして、味しか残らないお茶会をちょっとだけ楽しむ。まぁ、氷華さん的にはそんなに興味がなかったのかあっさりと飲み切ってしまったが。

 

「お前もうちっと食事に風情を持てや」

「そういうのは実際に食べてから学ぶことに決めているの。というか、データの味ってなんか味気ないのよ」

「水の美味しさで泣き出した奴がそこまで語るか」

「ええ、だからこそグルメになったのよ」

「金のかかる趣味だこって」

「あら、養えないか不安?」

「自分の金で一生遊べる奴が何を言うか」

 

 この女、治験の報酬だけで一生暮らしていけるほど稼いでいるのだ。なんとも強かな女である。誑かしたの俺なのだけれども。

 

「それじゃあ、今日のゲームを教えてくれないかしら」

「あいよ。今日は紹介するか迷ったが、まぁクソゲーではないから期待してろ」

「珍しいわね。どんなゲーム?」

「サーバー単位での死にゲー&謎解きアクション」

「MMOなの、楽しそうね」

「ただ、かなり理不尽なのよ。いろいろ説明が無くてなー」

「それも含めて楽しめば良いだけよ。謎解きは好きなの」

「得意とは言わないんだな」

「……私、学校マトモに通ってないから常識系に疎いんだって最近分かったのよ」

「まぁ、本格的な謎解きはガチ勢に任せればいいだろ。やるか?」

「やるわ。サーバー選択とかあるの?」

「今のところ一個だけだな。じゃソファ借りるな」

「ええ。それじゃあ向こうで」

「あいよ」

 

 そうして、俺と氷華は《Echo World》へとログインした。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

「あら、近未来的なのね」

「ここにログインするのかー」

 

 俺と氷華がやってきたのは、先日のデブリーフィングルーム。世界の再会はもう始まっているようだが、過去のデータの閲覧はここでできるようだ。

 

 掲示板の使用はここでのみ可能あり、ついでにログアウト代わりにここに戻れるようになったのだとか。ただし転送は噴水広場のみと。これもう前線基地か何かでは? 

 

「へぇ、ここで作戦を練って謎を解けって感じなのね」

「まぁな。んで、お前はどうする? デブリーフィングと記録データは見れるから謎解きするなら見てて欲しいんだが」

「そうね……あなたと何人か適当に引っ張って映像を見るわ。どうにも並行視聴も早送りもできるみたいだし。30分くらいで合流するわ」

「じゃ、謎解きは任せたぜダイハード」

「Mrs.をつけなさい、タクミ」

「はいよ」

 

 さて、それじゃあ適当にブラブラするとするか。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 転送して、相変わらずの透明人間っぷりにちょっと萎えた。が、広場では数人のプレイヤーがなんか惜しい感じに生命転換(ライフフォース)を試している。すげーなこの人ら。ベタ踏みしか出来ない俺よりかなりうまいぞ。

 

 と、そんな事はどうでもいい。とりあえず昨日の戦場である西門へと向かってみる。

 

 が、その最中で妙な騒ぎを聞きつけてしまった。どうやらこの真昼間から酒を飲んでいた奴が金を払えなかったとの事で店主に怒られているのだが、その背中に妙に既視感があった。

 

 というか、昨日最後に見た頼れる大人の背中(と思ってた背中)だった。

 

 だが、まだ憧れを捨てるには早いかもしれない。詳しく話を聞いてみよう。

 

「アンタ、財布を忘れたとかそれでも大人かい?」

「仕方ねぇだろ女将さん。ねぇもんはねぇ」

「じゃあその腰のモン売って金にしな!」

「騎士からコレ取ったら何が残るってんだよ婆さん! 頼むぜこの通り!」

 

 なんて言いながら逃走の準備をしてやがるこのクソ野郎。流石に逃すのはなんなので、憧れを粉砕してくれやがった事の恨みも含めて1発かますとしよう。

 

 そう思って生命転換(ライフフォース)を起こして実体化し、腰を浮かせたコイツの背中を蹴り飛ばそうとする。

 

 瞬間、足が切り飛ばされて宙を飛ぶ幻影を見た。

 

 が、「あ、やべ」との言葉からオッサンは剣を止め、俺の蹴りを柔らかく受け止めてみせた。底が知れないぞなんだこのオッサン。

 

「あんた、なんだい突然⁉︎」

「あ、すいません奥さん」

「どうにも俺が逃げようとしたのを見咎められたみたいでね。義侠心からの行動なんだ。騎士団を呼ぶのは勘弁してくれや」

「……じゃあ、腰のモンを売るのかい?」

「……しゃーねぇ。婆さんのトコ今日人があんま居ないだろ? 裏方で働いてやるよ。俺とコイツでよ」

「え、俺巻き込まれんの⁉︎」

「たりめぇだ。人のこと蹴ろうとして何もなしってのはこの国ではねぇんだよ」

 

「それに、お前生命転換(ソレ)の使い方素人だろ? 教えてやるからちょっと手伝え」

 

 そんな言葉と共に、俺はこのへんなオッサンと共に酒場の裏方仕事をする事になったのだった。

 

 



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03 自称師匠の迷指導(アルバイト)

「ホラ、力の流れがブレてんぞー」

「脇腹つつくなオッサン! 集中してんだよこっちは!」

 

 酒場、荒野の西風にて俺は今皿洗いをしている。

 ただし、条件付きで。

 

「あっ」

「ホレ、4枚目。そろそろお前の取り分がなくなってきたなぁ!」

「畜生なんでそんな良い動きしやがるんだこのオッサンは!」

 

 要するに、皿を一枚落とす度に俺の給料がオッサンの取り分へと消えていくのである。一枚1割というレートで。ちなみに落とす皿はオッサンがキッチリ回収してやがる。何かのオッサン強すぎんだろ。

 

 どうしてそんなので受け入れたのかといえば、正直この()()()()()()を舐めていたとしか言いようがないのだが、それは後の祭りだ。

 

 そんなわけで、食洗機の発展により消えた皿の手洗いという文化と、生命転換(ライフフォース)の最小出力コントロールの二つが、今の俺の修行な訳である。

 

 いや、コントロールだけに集中するならそこそこできるようになったのだ。本当だからな! 

 

『疑問、それでは食器を落としてしまう事は生まれないのではないでしょうか』

 

 ……はい、強がりました。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 遡る事30分前、婆さんはなんとオッサンと俺をバイトとして受け入れた。人手がないとは本当のことだったようだ。

 

 まぁ、ゲームのサブイベントか何かだろうという気分の元流れるようにやってきたのだが、そこでオッサンが待ったをかけた。

 

 曰く「その放出量のままだと5分で死ぬぞ」と。

 

 まぁ考えてみればその通りである。限りある命の蛇口を全開にしているのがいまの状態なのだから。

 

 なので、昔教わったなんかそれっぽい精神集中をしてみたが全く効果はない。余裕綽綽で「できらぁ!」と言った自分が馬鹿みたいである。

 

 しかし、それをなんとかしてみせたのがこのオッサンだ。ただ指で触るだけ、それだけで俺は()()()()()()()()()()()()。実際には生命転換(ライフフォース)の圧で俺の圧を無理やり押し込んだのだそうだけれども、感じたのはそんな超然としたものだった。

 

 あとはその感覚を身体で覚えてひたすらに押さえ込むだけであるのだとか。そしてそれを習慣化して無意識でできるようにする事は、戦場に置いて最低限の能力なのだとオッサンは言った。

 

 この時点で、性格や生活力はともかく、実力は認めざるを得なかった訳である。

 

 そして倉庫からの材料出しや掃除、テーブルや調度品の整頓などは教わりながらなんとかやる事ができ、これでひと段落と思った矢先に団体様がやってきたのだ。店が賑わうのは構わないけれどもネ! 今日くらいはやめて欲しかった次第である。

 

 そして、この辺りで俺の生命転換(ライフフォース)を維持していた集中力が切れる。

 そこからは、危なっかしいという理由で皿洗い専門になったのだった。そして、そんな所に煽りに来たのがオッサンだ。

 

 そうして口車に乗り、手玉に取られ、あっという間にこの契約を結んでしまったのである。くたばれ。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 そうして、団体様がはけた頃には落とした皿のカウントは9枚。俺の取り分の9割がオッサンの懐に入る訳である。嫌なミニゲームだった……

 

「しっかし、9枚で収まるとは思わなかったぜ坊主。お前色々危なっかしいからな」

「うっせーよオッサン。いたいけな青少年の金を毟り取るのは楽しいか?」

「超楽しい」

「くたばれクソ野郎」

「口だけは達者だなオイ」

 

 そんな会話をしていると、婆さんが「あんたら、もう上がって良いよ!」とお達しをくれた。買い出しに行っていた息子さんが戻ってきたのだとか。やったぜ。

 

「それじゃあ、約束通りあんたら二人の給料だ。コイツの飲み代はきっちり引いておいたよ」

「案外あるんだな」

「アホか、銅貨20枚(200G)とか労働の対価としちゃあ安すぎるっての」

「ちなみにオッサンの飲み代は?」

「200G」

「単純労働の対価ってのは酒代くらいなんだな……」

「そんなもんだよ、この街はな」

 

「じゃあ、約束通りな」

「はいよ、銅貨18枚。所で20Gって何ができる?」

「……焼き鳥一本くらいだな」

「まぁ、ないよかマシか」

 

『所で、ミセスとの集合時刻を1時間ほどオーバーしているのですが、問題はありませんか?』

「……あ、やべ」

「どしたよ少年」

「待ち合わせしてたの忘れてた」

「……ドンマイ!」

「他人事だと笑いやがって!」

「まぁまぁまぁ、せっかくだし良いもんやるから勘弁してくれや。一応、弟子扱いだからな」

「皿洗いで弟子扱いされるのかこの世界」

「いや、本当は()()()ができるようになったら渡すやつなんだがな、お前いきなり出来ちゃってるし」

「……つまり俺は天才だと!」

「いや、死亡まで一直線の暴走馬鹿だな」

「知ってた」

「だろうな」

「んで、何をくれるんだよ。というかあんたは誰なんだよオッサン。俺は明太子タクマだ」

「意外とマナーなってる奴だなお前さん。俺は……まぁ師匠とでも呼んでくれ。あんまし良い名前で通ってなくてね」

「へぇ、他でも酒代払わなかったのか?」

「いやいやいや、今日は別だよ。単に財布の中身を数え間違えただけだ」

「何やってんだ大人」

「まぁ、こいつにはまだそれなりの権威はある。見せる時は使いな」

 

 ■■■■(ゲート・オープン)

 

 その言葉と共に空に開く境界。それは生命転換(ライフフォース)で開かれた異界の門。その中からオッサンは剣を取り出した。

 

 鞘には無骨な剣と星の紋様が描かれた紋章が刻まれた鞘に包まれた不思議な雰囲気の剣だ。

 

「……これは?」

「“起こし”を覚えた奴に送る記念の剣みたいなもんだ。通称は臆病者の剣(チキンソード)。その剣に傷がないことは己が前に出ないことの証であるってな」

「抜いてもいいのか?」

「ああ」

 

 そうして、見えた刀身は分厚く、切れ味も然程良いというわけでもなさそうだった。

 しかし、とても手に馴染む。長さは目測で90センチ程。重心の位置はスタンダードなもので、しかし分厚い刀身に反してさほど重くもない。

 

 自分の身長が(まだ!)小柄であることでそこまで長い剣を使えない今、この獲物はかなり適切な武器だろう。

 

「……これ幾らくらいで買えるんだ? 武器に関してはさほど詳しくない俺にもなかなかのものってわかるんだが」

「そいつはその剣を折った奴にしか教えないしきたりなんだよ」

「変な風習だな。……けど、ありがとう」

「ま、気にすんな。元聖騎士団員のお古だしな」

「……そういや、歪みも傷もないな。柄もなんか綺麗だし」

「ま、臆病者にもなれなかったオッサンが居たってだけのことさね」

「あんたがそうとは、思えないけどな」

「そこんとこは気にすんな。それじゃあな、少年」

「……ご指導ありがとうございました。師匠」

「お、俺を師匠と認めんのお前さん? なら年会費5000Gな」

「台無しだよ!」

「ハッハッハ」

 

 そんな声を最後に俺を小突いて、オッサンは店から去っていった。

 名無しの師匠というのはなんかアレなので、台無し師匠と仮称することにしよう。うん。

 

 初期衣装の左腰にある剣帯に臆病者の剣を刺し、婆さんに一礼してから“荒野の西風亭”を去ろうとした。

 

 そして、扉の前でとても良い笑顔をしている彼女を見かけて、思わず天を仰ぐ。

 

「すまん、ちょっとイベント踏んでた」

「いいえ構わないわ。あなたが私とこの街を歩くことよりも、その剣を手に入れることを優先しただけなのでしょうからね。あなたが私に1時間近く人探しをさせてもそれは仕方のないことだものね」

「マジですいませんでした。なんでもするので機嫌直して下さい」

「あら、じゃあリアルでサインして欲しい書類があるのだけれど」

「そういうのやめろっていつも言ってんだろ! 一つしか知らないからそれを選ぶってかなりアレだからな!」

「なんでもするんじゃなかったの?」

「いや、でも流石に駄目だ。お前が元気になって世界を見てその上でこの話をするなら俺は拒否しないと思うけど、今その話をするくらいならお前に嫌われたままで良い」

「……つれないのね」

「性分なんだ」

 

 そんな言葉を返すと彼女はクスリと笑みを見せた。整った顔でそれをやられると結構困る。美人ってずるいよなー畜生! 勝てる気がしねぇ! 

 

「じゃあ、なにか奢ってよ。酒場で働いていたんだから、少しくらいお金はあるでしょう?」

「……焼き鳥一本でいい?」

「私があなた限定で安い女で良かったわね」

「……まぁ、誰彼構わず自分を安売りするよりは良いか」

「ええ。そう納得すると良いわ」

「なんか思考を誘導されてる気がしてならないんだよなー」

「心外よそれは。私は基本的にタクマの全部が好きなんだから、そんな無粋な真似をすると思って?」

「だからそういう事言うのやめろっての」

「でも、嫌ではないんでしょう? 多くの男を見て、それでも自分を選んで欲しいタクマくん?」

 

 その言葉には、流石に白旗を上げるしかなかった。何故かって? 図星だからだよ畜生! 

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 露店で焼き鳥を買って食べたダイハードは「味覚エンジン良いの使ってるわね」と珍しく高評価をしたがそれはそれ。

 

 今日の日が、暮れようとしている。

 

「さて、ログ見たんなら分かると思うけど、狼がやってくる訳だ」

「ええ、けれど西門で頑張っても意味はなかったと」

「それでだけどさ、お前なんかわかった? 街からモンスターが溢れ出た理由とか」

「あいにくと手掛かりは少ししかないわ」

「少しはあるのかよ」

「ええ。噴水前にいたプレイヤーは、中央騎士団とか聖騎士団とかいう街の切り札を見なかった。つまりそれどころじゃない事が狼の来訪と一緒に起こったのよ」

「モンスターの大量召喚とか?」

「かもね。けれど今はそんなにいろいろ考える必要はないと思うわよ」

「その心は?」

「今回はチュートリアルの時とは違ってちゃんと準備期間がある筈もの。訳もわからず死ね! とはならないと思うわ」

「ま、そりゃそうか……所で今更なんだが、お前どうして第一アバターになれてんの? 生命転換(ライフフォース)ってそんな簡単に使えないと思うんだが」

「そう? 見てればわかったわよ。命をグッと溜めてフワッと包んでガッと燃やす。簡単じゃない」

「俺多分包むのが出来なくて矯正訓練やってたんだがなぁ……」

「あら残念ね。あなたが試行錯誤している所って割と滑稽で好きだったのだけれど」

「やめーや」

 

 そんな風に駄弁っていると、襲撃を知らせると思わしき鐘が鳴った。

 

「これは完全にハズレね。前回の襲撃では、鐘なんて鳴らなかった。それに、方向は西門じゃなくて南門よ」

「じゃあ、ちょっと暴れてくるわ。じっとしてても意味は無さそうだし」

「脳筋ね。なら私は城の中に入ってみるわ。聖騎士が出てくる時に透明人間になってれば多分入れるもの」

「そっちは任せた。じゃ、また後で」

「ええ、また後で」

 

 そんな訳で、二度目の狼狩りに出かけるのだった。

 

『所で、今回は姿を見せての参戦ですが、問題はないのでしょうか?』

「その時は、その時さ!」

 

 とりあえず暴れれば良いという楽観と共に。



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04 新米騎士アルフォンスの《ゲート》

 南門へと走る最中、背後から馬車の音が聞こえてくる。噂の騎士団がやってくるようだ。

 

 これは、そう遠くないうちに追い抜いてくるだろう。だが、スタートダッシュはできている。

 VRパルクールで鍛えた走法が火を吐くぜー! 

 

 と、頑張ってみたが到着は同時。残念。

 

「お前、鐘は聞いていたよな? どうしてここに来た」

「いや、試し斬りがしたくて」

「殺伐としてるな……まぁ良い。どういう縁か知らぬがその紋を持つものだ、それなりの力になるだろう」

「ちなみに鞘の紋章がなかったら?」

「とりあえず寝かせておくな」

「うわー、あのオッサンに感謝しないといけないとか罰ゲームかよ」

 

 と、言いながら戦士たちの間をすり抜けて最前線に出る。

 

 敵は相変わらずの狼。数えるのは面倒だが、だいたい100はいるだろう。

 

 10倍狼かー、めんどいなーコレ

 

『ですが、さほど苦にならないのでは? 戦闘経験も数もありますし』

 

 それもそうだな。100匹全部相手にしないといけない訳じゃないんだし。

 

 というわけで、わざと突出して囮になる。剣を抜き、腰を落として、視野を広く持つ。うん、パーペキだ。

 

「馬鹿か! 前に出すぎだ!」

「ご心配なく! これでも結構……」

 

 やってくる狼の波状攻撃。だが、その速度はもう見慣れている。トップスピードでないなら最短で振るう剣の方が速い。殺すまではいかないだろうが、この頑丈な剣ならば防ぐことは十分に可能だ。

 

 そう思い剣に生命転換(ライフフォース)を込めると、とても良い感じに馴染む。予想以上だ。

 

 故に、受け止めるついでに狼の体に傷つけられたらなーって置いた剣がそのまま狼を両断し、大量の血が体にかかったのは起きたちょっとした惨事だ。

 

「……強いですから」

「その惨状から目を背けて言うことか⁉︎確かに強さは認めるが!」

 

 なんて格好つけようとして失敗したことは脇に置いておいて、狼狩りの時間である。今のでもまだ込めすぎだ。今出す力はもっと薄くて良い。群狼になったその時に全力を出せれば良いのだから。

 

 そして、何故か騎士さんが俺の背後に陣取る。闇討ちか? と思ったが殺気の類は感じられない。

 

「アレか? 背中は任せるぜ! 的な?」

「その通りだ。君一人でも大事はないだろうが、それで良いと認めるような奴はそもそも騎士団員にはいない。力を貸すさ」

「んじゃまぁ、名乗りをば。明太子タクマだ」

「……面妖な名前だな。ぼ……私はアルフォンス。今は中央騎士団員だ」

 

 なんか“今は”というキーワードが引っかかるが、それはべつに良いだろう。特に悪党という感じではないのだし。

 

「じゃ、暴れようか!」

「ああ、魔物にこの門を潜らせてたまるものか!」

 

 そうして、アルフォンスを背後に置きながら狼たちと対峙する。

 俺を脅威と見たか何匹かの狼が同時にかかってくるが、正直前とは獲物が違いすぎる。丁寧に刃を立てて振れば、向こうのスピードも相まって綺麗にぶった斬れるのだ。前は獲物が手に馴染んでいないという事もあったが、今はそんなことはない。しかも、油で切れ味が落ちるなんてことも今のところ実感できていない。

 

 生命転換(ライフフォース)、恐ろしい力だ。これなら鉄パイプで狼を撲殺できて当然だろう。

 

 ……まぁ、ゲームや漫画の“気”とかと違い、身体能力の向上は全開にしても微々たるものだったのだけれども。

 

 そんなことを脇に考えられるくらいには、今日の狼は大人しかった。なんというか、普通だ。動きは速いし鋭いが、あいにくとまったくもって怖くない。分身噛みつきなりをまったくやってこないのだ。不思議だなー。

 

 と、適当に殺しまくっていたら夜が来た。

 天に浮かぶは少しだけ欠けた月。2、3日後は満月か? と思うが、天体にさほど詳しくない自分にはわからない。

 

 まぁ、急に赤くなる月など不幸の前触れとしか思えないのだけれども。

 

「気を付けろアルフォンス、本命が来るぞ」

「……空気でわかるさ。大物だ」

 

 そして、俺とアルフォンスの前から狼が全て消え、少し離れたところに現れた巨大な狼が遠吠えを上げた。

 

 そして、頭に浮かぶのはこの単語

 

《群狼シリウス》

 

「名乗りを上げた⁉︎」

「まぁ、その辺は後で聞くとして。殺して良いよな? ちょっとコイツ関連でムカつく事があってさ!」

「……当然だ。その為に僕はここにいる! 我が母の自由を取り戻す為、消え去れ大魔!」

 

 足並みを自然と揃えて俺とアルフォンスは駆ける。他の騎士たちはどうにも静観の構えのようだ。何? ハブられてんのアルフォンスくん? 

 

『あるいは、信頼によるものかもしれませんね』

 

 そいつは良いね。背中を預けるには十分だ。

 

「一番槍! 明太子タクマ参上!」

 

 そう名乗って目立って、狼の右側を駆ける。なんか舐めプして止まっていてくれているので、足を二本ほど貰うとしよう。

 

 そうして力を込めた臆病者の剣により足を切り裂き、体勢を崩す。その最中にアルフォンスが力を込めたロングソードによりクソ狼の首を取ろうとするが

 

 当然のように放たれた分身噛みつきによりその剣は止められた。

 

 まぁ、そこまでは読めていたのでアルフォンスが身体を張って作ってくれたこの隙で命を貰おう。

 

 殺気だけの幻の剣で胴に斬りかかりつつ、殺気を消した実の剣で首を狙う。どれほどの力が必要かはわからないので、当てた瞬間に全開にする奴をやるつもりで。

 

 しかし、あろう事かクソ狼は()()()()()()首も胴も纏めて高速バックステップで。狼ってそんな動きできるのね。流石のファンタジー。

 

「助かった、タクマ!」

「面倒なのはこれからだ! やっこさん、走り始めるぞ!」

 

 いたの間にやら再生していた右の足を見せつけるように高速で走り始める。以前と違うのは、その走りがよく見えているという事。体感時間の延長か? コレ。

 

 よくわからん。メディ、わかるか? 

 

『回答。動体視力が良くなっているのかと。それと、体感時間がおかしいのはいつものことです』

 

 マジか。

 

『マジです』

 

 ……うん、今はとりあえず便利ってだけで良いや。んで、どうするべ? あの狼が後衛を襲い始めたらいっぱい死ぬぞ。

 

『さて、挑発でもしてみるのはどうでしょう』

 

 よし、そうしよう。

 

「やーいやーい。通りすがりのガキンチョに殺されかける大魔さーん。巣に帰ってママに泣き付く準備はできてますかー?」

「……それは挑発のつもりなのかい?」

「いやだって、それ以外出来ることねぇですし」

「まぁ、あそこまで速く動かれるとな。私も()()()を開かなければ対応は不可能だろう」

 

 なにやら、つい先ほど聞いたキーワードが予想外の所から飛んできた。という事は、ゲートとはこの世界の魔法的サムシングなのだろうか? 

 

「……力の詳細を聞くのはマナー違反か?」

「構わないさ。僕の場合隠すことはできないからね」

 

「短時間の身体能力強化、それだけだ」

「出たシンプルにやべータイプの能力」

 

『そして、ゲートとは個人差のある切り札のようですね』

 

 だなー。あと、第二形態のアバターの手掛かりになるかも。多分アレも生命転換(ライフフォース)でどうにかする類のものだろうし

 

「それで、挑発はさっぱり効果がないが、どうする? 切るのか?」

「一応聞くが、君のゲートは使える奴か?」

「そもそも使い方が分からない奴です」

「……それで良くこんなところに来たものだ」

「切り札に頼りきりになるような剣は持ってませんからね。とはいってもこの状況をひっくり返せないのは事実なんですけど」

「……しかし妙だな。あの狼は高速で走り回っているが、こちらを攻撃して来ない。分身を出しては騎士団に狩られているだけだ。消耗戦狙いか?」

「んー、じゃあ餌役やってくるわ。狼が俺に釣られればそこを殺せるんだろ? お前なら。間合いの確認はずっとしているみたいだし」

「……ああ。やれるさ」

「心強いなー」

 

 そうして、俺は狼に向けて駆け出す。

 

 しかし、俺が狼に近づいた瞬間に狼は予想外の行動を取った。

 

 分離している全ての狼を一つにし、最速のスピードで()()()()()()()駆け出したのだ。

 

 瞬間、理解する。この狼は分かっていたのだ。結局の所自分の目的を完全に挫く事ができる使い手は一番前にいるこの男なのだと。

 

 それが直感によるものか理性によるものかは分からないが、とにかく今、シリウスの最速でアルフォンスへを殺そうとしていた。

 

 なので、その直線ルートへと割り込みをする。足に生命転換(ライフフォース)を集中させての一歩は、シリウスの鼻先にちょっとだけ剣を当てる事を許した。

 

 そして、そうやって稼いだ一瞬で、アルフォンスは準備を終えていた。

 

■■、■■(ゲート、オープン)ッ!」

 

 瞬間、狼とアルフォンスの間に命の壁が出来上がる。それは透き通っている丸鏡み見えた。しかし、今この場においてその表現は少し違う。

 

 それは、狼の突撃を真っ向から止めた、鏡のような盾であった。

 

 狼はアルフォンスに食らいつく半足前でゲートへと衝突し、対してアルフォンスはその門を潜り抜けた。

 

 そして、変わる姿。これまで軽装だが騎士然としていたその姿は、全身鎧を纏った紅の剣士のそれに変わった。装備の色ではない。門を潜る瞬間にその姿が変わったのだ。

 

 焔のように思える強さの、仮面の騎士に。

 

 ……まぁ、その活躍が見えたのはたった一振りの間だけだったのだけれども。門に正面からぶつかって体勢崩れている奴とか生命転換(ライフフォース)の籠もった剣にかかれば一刀両断ずんばらりん、というわけなので。

 

 そして、剣を鞘に収めたアルフォンスは力を抜き、元の騎士の姿へと戻った。片膝をつきながら。

 

「うん、格好いいねアルフォンス」

「茶化さないでくれ、一瞬とはいえかなり疲れているんだ」

「……まぁ、あれだけの命を使ってりゃそうなるか。燃えてるかと錯覚したからな真面目に」

「僕のは短時間型だからね。強くあれるが負担も大きいんだ」

「へー、そうなんか」

 

 そんな話をしながら、アルフォンスとシリウスの間に入る。奴は、死んでも死なない謎生物だ。体が左右にぶった斬られていても生き返るかもしれないのだし。

 

「タクマ、助かった。君の稼いだ一瞬がなければゲートを開く前に食い殺されて居ただろうから」

「やめれやめれ。俺はあのクソ狼を殺そうと動いただけだ。お前を助けたのはついでだよ」

「そっちの方が僕は嬉しいさ。あいにくと騎士としては初陣でね」

「嘘つけや、戦場慣れしまくってたやん」

「……君がいるからものすごく気が楽だったんだよ。僕より年下の小さい子が、当たり前のように戦場にいてくれるんだから」

「へぇ、邪魔には思わなかったん?」

「……まぁ正直背中を切られるかもしれないとは思っていた」

「正直ものめー」

 

 そうしていると、ついにシリウスが霧散し始める。方向は、街の外。どうやら最後の1匹(仮)はまだ街には入っていないようだ。

 

「んじゃ、追撃行ってくる。アルフォンスは休んでろ」

「……奴は死んでいないのか?」

「見えなかったか? モヤモヤが飛んでいく所」

「ああ、君はどうやら目がいいようだな」

「まぁ、鍛えてるからな」

 

 その言葉を最後にして、アルフォンスの元を去った。

 

 その選択が何を意味するのかを知らないままに。



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05 夜の廃砦は無理だよねという話

「……バイク欲しいな真面目に」

『推測、ゲートを開けば作り出せるかもしれませんよ?』

「流石にバイクは無理じゃない?」

『不明のゲームシステムに対して、ありえないはありえないかと』

「ま、想像するだけは自由だわな」

 

 10分ほど、モヤを目印に走り続けている。周囲に狼の影はなく、しかし他の動物やモンスターの影もない。夜といえばモンスターいっぱいな気がするのだけれども。

 

『昼行性のモンスターが多いのでは?』

 

 かもねー。

 

 

 さて、モンスターが出て来ないのは結構困ったが、それ以上に困った事がある。あのモヤの行き先は山だった。それもかなり自然豊かな。

 

 流石に夜なのにあそこに突っ込んだら死ぬわな。

 

『少なくとも遭難は間違いないかと』

 

 つまりは死地だ。

 

 よっしゃあ! やる気出てきた! 絶対お宝か情報あるぞアソコ! 

 

『では、参りましょうか』

 

 あいよ! 

 

 方向は今まで一定だった。つまりこの直線状の何処かにまだ狼がいるのだろう。そいつを殺せば、多分勝ちだ。

 

 なので、今回はちょっとズルをする。生命転換(ライフフォース)をゼロにしてアバターを第零に戻す。これで道中にどんなに木々があろうともすり抜ける事ができる。

 

 どうやって地面を踏んでるのかは疑問だが、そこは気にしない方向で。

 

 そしてモヤを追いかけていくと、明らかに廃棄された山砦! という感じの建物にたどり着いた。モヤが入った瞬間を見かけたのでここが敵の巣、もしくは拠点で間違いないだろう。

 

 さて、通路の幅はどれくらいなものか。この臆病者の剣はそこそこ長いので閉所での戦闘は向かない。こういう時に必要なのはガソリンであるはずなのにどうして手元にないのだろうか? 

 

 まぁ、いいか。思考を他所に流す必要はない。ぶらりとこの砦の中に行くとしよう。

 

 命を起こす。最小限の力で。ここからはダンジョンアタックになるのだから、体力は温存しよう。どうせ死ぬだろうが、持ち帰れる情報は多い方がいい。

 

 とはいえ、灯りがない。そりゃこんな廃砦にしっかり灯りがついていたらそれはそれで山火事とかの問題になるのだから当たり前なのだけれども。

 

 ……まぁ、目が慣れてくれば多少は見えるか? ……ないな。

 

『さて、どうでしょう。現実ならこの小さな窓からの月明かりでは光量が足りませんが、ここはゲームですから』

 

 しまった、ゲームと現実の区別がついてなかったぜ。

 

『お気になさらず』

 

 そうして目が慣れてくると、自然と大雑把に空間が認識できるようになってきた。さすがファンタジー。

 

 どうせ隠れられたらどうしようもないので、堂々と足音を立てて歩き続ける。襲ってきてくれー、俺はここにいるぞー。

 

 瞬間、前方から何かが飛んでくる。それを剣を盾にして防ぐが、どうにも感触が妙だ。生物が当たったような感じ。

 

 そして、その悪寒に反応して自然と体は動いた。半歩下がって即応の構えを取ったが

 

 瞬間、俺の上半身は何かに包まれ、暗闇の中で俺の上半身と下半身は泣き別れした。

 

 二度目のデスペナである。わからん殺しかー。などと恐らく食いちぎられた胴の痛みを感じながら思う。結構しんどいぞこの野郎。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 死んだことによりやってきたのは黒い部屋。デブリーフィングルームだ。確かに、死んでから話し合うのでデブリーフィングだな、うん。とちょっと納得した。

 

「ちわーす」

「あ、明太子くん。今ログインしてきたの?」

「ちょっと殺されてました。なんだ今の」

「へー、どこで?」

「南門から南南東に行ったくらいにある山の廃砦ですね。敵のアジトだったみたいです」

「気をつけるねー。じゃ行ってきまーす」

「いってらー」

 

 さて、めでたくなくデスペナ食らった訳だが、このゲームのデスペナルティは重いんだか軽いんだかわからない。ワールドへの転移まで時間がかかるというものだ。

 

 とりあえず今回のデスペナは60分。かなり重いものだ。コレは死に方によって時間が変わるという予想が当たっていたのだろう。マスタードマスターさん、さすが切れ物だ……

 

「あー、まだログは見れないんだ」

『そのようですね。今回の周が終わった時に解放されるというシステムなのではないでしょうか?』

「そんなもんかね? ……つーか1時間あるならそろそろ帰るか?」

『そうですね。とはいえメッセージ機能はありませんし、どうしましょうか?』

 

 などと考えていると、ミセスが転移してきた。どうやらデスペナではないようだが何かあったのだろうか? 

 

「やっほー、首尾はどう?」

「ええ、最悪ね。そりゃこの国滅ぶわ」

「へぇ、なんかわかったのか?」

「ええ、この国の最後の王子が、今防衛線で戦ってるのよ。病床の王様置いておいて」

「アレか? 士気が高まる! とかの理由?」

「違うわ、王子は死ねって話よ」

「うわー、エグい」

「まぁご愁傷様って話だけど、それだけじゃないみたいなのよ」

「というと?」

「その王子サマの母親が、なんかこの国の結界の巫女長だって話なのよ。だから、その心が折れたら国は滅ぶんだとか」

「……なんか機密みたいな話だけど、大丈夫なん?」

「ええ、ちょっと落ちていたナイフを使ってインタビューしただけだから。それに顔は見られてないわ」

「インタビューなら仕方ないな」

「ええ、快く答えてくれたわ。素敵なメイドさんね。……まぁ、警戒が強くてその子からしか話は聞かなかったんだけど」

「ま、その子のことは気にしない方向で。掲示板に投稿するのか?」

「するわよ。私たち学生よ? ログインしてないうちに王子サマや母親が殺されたらゲームオーバーじゃない。どうせなるなら一枚も二枚も噛みたいわよ」

 

 そんなこんなで掲示板で情報共有。数人でつるんでアジトに向かう者、とりあえず城に潜入するもの達に大体別れていった。

 

「んじゃあ、結構な時間だし俺帰るな」

「あらそう、なら私も一旦ログアウトしようかしら」

「見送りありがとさん」

「構わないわ。あなただもの」

 

 どういう理由だ? とは聞かない。でもこいつちょっとは俺離れしてくれないものだろうか。でないと弱みにつけ込んだような気がしてならないのだ。

 

 いや、あの時の行動を後悔するつもりはないなだけれども。

 

「んじゃあ、またなー。家帰って色々やったら連絡するわ」

「ええ、よろしく」

 

 そうしてログアウトして、面会時間ギリギリであることにいつもながらジト目で見られながら家に帰る。

 

 婦長さんよ。「やることやってないでしょうね?」とか聞くなや。お互いの体調的に死人が出るぞおのれ。

 

『まぁ、思春期のお二人ですし仕方がない所はあるのでは?』

 

 うるせー。

 

 そんなことを考えながら、駐輪場からベビーカーを呼び出して乗る。

 

 微妙に寄り道する時間はあるわけだけど、どっか行きたい場所はあるか? メディ。

 

『それでは、昨日の事件現場を』

 

 .トラウマスイッチ押す気ですかいな

 

『その程度の心の人なら私はもっと模範的な健康管理AIになっているでしょうね』

 

 なんつー皮肉だよメディさん。まぁ、気になるから行くけどさ。

 

『では、ナビゲートします』

 

 そんな風にバイクを走らせると、路地裏になんか妙にくるくるする変な機械を持った青年が見えた。なんだあれ、風車? 

 

『現在風はそうありませんね』

 

 なんぞや一体。

 

「すいません、何やってるんですかこんな所で?」

「あ、ああ。ちょっと個人的な調べ物、かな?」

「……へーそうですか」

 

 バイクを降りて近くの駐輪場まで送ってから、路地裏を歩き出す。

 

 戦いの記憶はあっても記録はない。痕跡もない。ついでに言えばあの時の麻薬じみたパワーもない。

 

「……何がなんだかわからんな、本当」

『そうですね。ですが構いませんかと。ぶつかった物事が全て既知になることなどあり得ません。たまたま今回がそうだっただけなのでは?』

「そうだな」

 

 なんとなく、落ちていた鉄パイプを拾う。それは自分の今の体には重くて、昨夜のように振り回すことなど不可能なものに思えた。

 

「……何やってるの? 君」

「あ、さっきの怪しげなお兄さん。どうも」

「……否定はしないけどさ。先輩にコレ持たされてこんなとこに行けとか言われたわけだし」

「そのクルクルはなんなのか聞いても良い奴ですか?」

「うん」

 

「これは重量子変化探知機……らしい。先輩が半日で作り上げたものだから全く信用はないんだけどさ!」

「……なんでこんな所に?」

「昨日の夜この辺りでなんか出たんだって。知らないけど」

「へぇ」

 

 アレのことだろうか? だが、通信は遮断されていたのにどうして測定できたんだ? 

 

 謎だ。

 

「それで、君はどうしてこんな所に? もう暗いし、危ないよ?」

「まぁ、実は昨日ファンタジー狼とここで殺し合うことになりまして。それが夢であることを祈ってる感じですよ」

「……君って中学何年生?」

「もちろん2年生です」

「……うん、頑張ろうね!」

「やめろその目で俺を見るなや」

 

 中二病の自覚はあるのだけれども、それをそうだと見られるのはまた別に恥ずかしいのだぞこの野郎! 

 

「それじゃあ俺はこれで」

「うん、帰りは気をつけてねー」

 

 そんなちょっとした出会いの後に、バイクに乗って家路に着く。

 

 なんだか今日は炊き込みご飯の気分になったし、ちょっとスーパー寄って行こう。

 

『その心は?』

 

 特にない! 

 

『いつも通りで安心致しました』



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06 傷の男とドリルの女

 帰って食事を終え、風呂などの諸々を済ませてストレッチ。それから再びSoul Linkerをつけてベッドで横になる。

 

 そして、氷華に連絡を入れてゲームにログインをする。

 

 一応探しているのだが、まだ良さげなソフトに巡り合えていないので今日も今日とて《Echo World》だ。

 

「あ、明太子くん!」

「ども、マスタードマスターさん。今からインですか?」

「いや、色々こんがらがってるから作戦会議中。明太子くんもどう?」

「一応聞いときます。まぁ基本脳筋なんで力にはなれないと思いますけど」

 

 そうして少し移動した所には、大きなモニターと十個ほどの椅子が設置されていた。こんな所あるのかー。

 

「じゃあ目標の10人が集まった所で、作戦会議……というか現状の確認をしたい。構わないね?」

 

 肯く皆。どいつもこいつも一癖ありそうな雰囲気だが、よく考えたらこんなインディーズゲームに初期からハマるような奴にまともな奴がいるわけもないわなと自己完結。

 

「それじゃあ、始めよう。まず、僕らはもう既に騎士団に出向いている王子を守ることを失敗した。彼は《群狼シリウス》という魔物によって殺されてしまったみたいなんだ。今日の夜すぐのことだね」

「質問良いか?」

「はい、明太子くん」

「王子が死んだのはどの門だ? 南門のクソ狼はキッチリぶっ殺したし騎士団にも目立った被害は出てなかったんだが」

「ほかの門に襲撃はなかった。だから南門だろうね。おそらくその少ない被害の中に王子がいたのだろう」

 

 まぁ、そう考えればあの妙に前に出てこない騎士団の動きにも納得ができる。王子サマを守っていたのだろう。その隙を突かれるとはなんとも情けない連中だことで。

 

「んで、お袋さんが泣いて喚いて結界が危ないって話?」

「……いや、巫女様は気丈に振る舞っているよ。少なくとも今日明日で結界が崩れるって事は考えられないと思う」

 

「だけど、問題はそこじゃあないんだ。今、王様が病床に附している今最高権力者は宰相だ。彼が王子を守れなかった事で騎士団に疑念を抱いている。というか、悪だと断じているといっても過言じゃあない」

 

 なんかまずい感じの流れだが、何がまずいのかわからない。とっとと本題に入ってくれないだろうか? 

 

『マスターは本当にいつも通りですね』

 

 そう褒めるな。

 

『……マスターは本当にいつも通りですね』

 

 何故に二度言ったのだし。

 

「という訳で、現在騎士団は政府への反発が根付いている。もしかしたらずっと前からあったもので、それが王子の件で表に出たのかもしれない。……コレって、世界が滅んだ原因に引っかかりそうじゃないかい?」

「つまり! (わたくし)はその騎士団をぶっ飛ばして改心させてあげればよろしいのですね!」

 

「なんだこの縦ロール」

『なんですかこの縦ロール』

 

 あ、メディと被った。

 

「縦ロールではありません! 金髪ドリルでございますわ!」

「え、ドリルって自分で言うの⁉︎」

強者(つわもの)か……」

「キワモノだろどう考えても!」

「まぁなんでもよろしいですわ! 私はプリンセス・ドリル! その役目、引き受けましてよ!」

「あはははは……」

 

 マスタードマスターさん苦笑いしかできてねぇ。絶対に議論が斜め方向にかっ飛んでる感じだわな。

 

「ですが、武力という面で私が劣るというのは事実。そこの少年と顔に傷のあるそちらのおじ様、私について来て下さいますか?」

「……意外だな、“ついてくる事を許して差し上げますわ! ”とか言いそうな感じだったのに」

「あら、私をそんじょそこらの二流と同じに見るとはあなたなかなか見る目がありませんのね」

「そいつは悪かった。俺は友人を待ってるからそいつとの合意があれば構わないよ。用心棒やってやるさ」

「ありがとう、明太子くん。おじ様は?」

「……一切承知だ」

「では、行きましょうか!」

 

 そんなわけで、キワモノ面白お嬢様ロールのドリルさんと、顔にお洒落傷のある寡黙な長親(ながちか)さんが仲間に加わった。なんというか、不安である。

 

「ちょっと待って! 話はまだ終わってないから!」

「「「あ」」」

 

 だってブレーキがいないんだもの! 

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 そんなこんなで会議は終わり、騎士団殴り込みチームの俺たちと、巫女様守りたいチームの残りの皆という感じに分かれて動き出した。

 定時連絡などはなし。アバウト万歳なやり方である。

 

 高度に柔軟性を維持しつつ臨機応変に! 

 

『素敵な言い回しですね。マスターにぴったりかと』

 

 俺もそう思う。

 

 などと脳内で会話しつつドリスさんと俺が話すだけの時間がちょっと過ぎた所で氷華がログインして来た。

 

「……タクマくん。私というものがありながらそんなのに釣られるなんて信じ難いのだけれど、なにか言い分はあるのかしら?」

「いや、流石にコレに釣られる馬鹿ではない自覚はあるぞ」

「ふーん、私はかなりデレデレしていたように見えたけど?」

「誤解にも程があるわ」

 

 そうして、ミセスはドリルさんの身体を見た。

 

 自然に作られた違和感のないとても良いスタイル。そしてどこか気品が漂う美しい顔形。健康的で綺麗な容姿だ。

 

 それを見て何を思うかはとても良く理解できる。なので、ミセスの目をちょっと両手で塞いでおく。

 

「何をしているの? タクマくん」

「目隠し」

「それは分かってるわ。その理由を聞いているの」

「なんか羨んでいるように見えたからさ。馬鹿な方に思考が向く前に軌道修正をしようと」

「……否定はしないわ」

「最後の手術が終わって、お前が健康体になって、ちゃんと飯を食えば、ドリルさんに劣らない美人になるさ。きっとな」

「……ありがとう、タクマくん」

「長い付き合いだ。これくらいはな」

「ええ。同じ墓に入る仲ですものね」

「それはまだ認めてねぇです!」

「そう? どうせ近い将来認めるのだから今認めても同じだと思うのだけれど」

「弱みにつけ込むのは嫌いだって言ってんだろが」

「そうね、惚れたは弱みだもの」

「だめだコイツ強すぎる」

 

 ミセスへの目隠しを外す。その目ならもう大丈夫そうだ。

 

「ごめんなさい、タクマくんとのイチャイチャを見せつけてしまって。彼はどうやら私との関係にヒビを入れたくなかったようなの」

「あれー、なんか事実と違うような」

「気のせいよ。それじゃあ改めて自己紹介を。私はMrs.ダイハード。私を呼ぶ時には必ずミセスと付けて欲しいわ。ミセスだけでも構わないけどね」

「あら、どうしてミセスですの? まだ結婚はできない年頃にしか見えませんけど」

「理由は()()。一つ目はミスやミズよりミセスの方がカッコいいから」

「もう一つは?」

「乙女の秘密という事でお願いするわ」

「なるほど、素敵な理由ですね」

 

 なんか通じ合ってる女子二人。なんだアレ。

 

『私が答えるべきでない事は確かかと』

 

「して、行くのか?」

「ええ、参りましょう! 騎士団の方々をぶっ飛ばしに!」

「バイオレンスだね、好きだよ私は」

「ウチのチームの女子連中が強すぎる……」

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 そんなわけでやってきた騎士団駐屯所。全員生命転換(ライフフォース)の起こしはできている。が、その強さを考えるとメインの戦闘役は俺だけだろう。ダイハさんは出力はあっても武術がクソ雑魚ナメクジだし。

 

 尚、ダイハとは彼女が言い出した新しい呼び方である。他人にミセスを強要しつつ俺には渾名で呼ばせる事で男避けにしようとの魂胆だそうだ。絶対嘘だけど。否定できる根拠はないのだし、受け入れるしかない訳だ。

 

 まぁMMOでコイツと付き合う機会はそんなにないのだし、そのくらいの遊びには付き合ってやらねばなーとは思ってる。

 

 閑話休題

 

 この世界の時間は、現実の時間と大体リンクしている。つまるところ、今は深夜なのである。

 

 そんな時に、騎士団の詰所に行ってどうするのか。

 

「起こしてぶん殴ればいいのですわ!」

 

 やだバイオレンス。

 

「なかなか良いわね。何人か首を晒しておけば快挙妄動を起こすこともなくなるんじゃないかしら」

 

 やださらにバイオレンス。

 

「……とりあえず待つ、というのはないのか?」

「「ありえませんわ/ないわね」」

 

「時をおけば、一手許してしまいます。その前に手を打たねばまたゲームオーバーでしてよ」

「そうね、出番を敵方に握らせるのは悪手だし、あまり好きではないわ」

 

「んじゃあ、とりあえず詰所の門をぶっ飛ばして後は流れにするか。最悪透明人間になりゃいいんだし」

『マスターは人のことバイオレンスとか言ってはいけないと思いますよ』

 

 というわけで詰所前で門番をしている二人を闇討ちしようと位置取りをし、剣を抜こうとすると後ろから物凄い勢いでそれを止められた。

 

「……そういやお前も騎士団員だったな、アルフォンス」

「何をしようとしているんだ、タクマ」

「ちょっと騎士団の方々にお勉強をさせようかとウチの姫様ズが宣ったので」

「恐ろしい勉強だな……済まないが私をその仲間の元へと連れて行ってくれないか。攻め込むのは今ではならないんだ」

「お、情報アリな感じか」

「ああ、僕は君に君が思った以上に命を救われていたという話をしようと思ってね」

 

 そんなわけで攻撃中止の合図を送る。舌打ちが二つ聞こえたような気がするがそれは気のせいだと思いたい。かこつけて暴れたいだけな危険人物じゃないよな? ……人の事は言えないけれどもネ。

 

「それで、そっちの金髪イケメン崩れは何者なのかしら?」

「いや崩れてねぇよガチのイケメンさんだよ」

「いや、顔隠しをしているのにどうして君はそう言い切れるんだよ」

「顔隠し?」

「まぁ、小細工だよ」

 

 そうしてアルフォンスの存在感がフラットになる。どうやら今までは生命転換(ライフフォース)の力を顔以外に送る事で顔の印象を消していたらしい。

 

 そこには、王子様オーラが凄まじい金髪イケメンが居た。いや、俺がイケメンって言ったのは内面の話だよ! なんだコイツ⁉︎

 

「アルフォンス……」

「そう、私がこの国の……」

「そのイケメンオーラの出し方を教えてくれ! 後生だから!」

「先に反応するのはそこなのかタクマ⁉︎」

 

 そんなぐだぐだな会話から、最後の王子とタクマとの交流が始まった。



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07 傀儡の騎士

「つまるところ、あの騎士団の連中だ誰かに操られているだけの木偶だと?」

「ああ、そうだ。だが、その木偶たちでは王城の結界を抜けられない。だから私の体……というかゲートを使ってその辺りをどうにかするつもりなのだと思っている」

 

 なるほどなー。

 

「それでアルフォンスはこんなところいても良いわけ? 探されてると思うんだけども」

「灯台下暗しだ。……いや、なんか外を異常に警戒してるのさ。心当たりあるかい?」

「んー、あの廃砦に行った連中がなんかやったかね?」

「廃砦……そこから群狼は来ていたのか」

「そ。そこでわからん殺しされたから人柱を送り込んだのよ。もしかして、あの連中が成功しやがったのか?」

「しれっと外道ですわよね明太子くんって」

「昔から戦うとか殺すとかに思考が回るときはこうなの。そこも結構好きなところだけれどね」

「……愛されているな?」

「俺はもちっと外を見て欲しいんだけどなー」

「とにかく、この辺りでしばらく騎士団を見張りたい。君たちの寝ぐらに案内してくれないか?」

「「「「「そんなもの、ウチには無いよ」」」」」

「全員が根無草⁉︎」

 

「まぁ、ちょっと心当たりをあたってみるから、この辺で隠れててくれや。もしかしたら婆さんなら匿ってくれるかも知れないし」

「あー良かった! ちょっとでもまともな選択肢があって良かった! 流石に操られているだけの仲間を切りたくはなかったからね」

「ちなみに、今日どこで寝るつもりでしたん?」

「詰所だね。やってくる連中を全員倒せば安全な訳だし」

「ヤベェこと考えてる化け物がいやがるぞ」

「ええ、先に全員切ってからじゃないと不安だものね」

「そうですわ。少なくとも四肢をへし折り拘束くらいはしてあげませんと」

「……女性陣は、生まれる世代を間違えてやいないか?」

「ダイハはともかくドリルさんは予想外すぎて笑うしかないですよね」

「まぁ、そういう連中とつるむのもMMOの楽しみだ……と思うことにしよう」

「ですね」

 

「君ら自己催眠を始めていないかい?」

 

 そんなわけで、この世界の唯一の伝手を頼りに俺は一人“荒野の西風亭”へと向かうのであった。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

「こんばんわー」

「冷やかしなら帰っておくれ……と言いたいけど、生憎暇なもんでね。なんか面白いネタを持ってきたんだろう? 坊や」

「坊や呼ばわりは御免だよ! ……って言えるほど何かしてきた人生ではないんで、今は受け止めさせて頂きますよ」

「ほう」

「ちょっと確認したい事があってここに来ました。自称やんごとなきお方が寝ぐらを探してるんですけど、ここの宿今は空いてますか?」

「空いてるよ、最悪なほどにね。いつもは防衛戦の後なんざ娘達の声で眠れないってのにさ」

「……あー、ガチに操られてるパターンかー。怖いな」

「原因を知ってるのかい?」

「知ってる奴を知ってます。ただ、厄ネタですよ?」

「構いやしないよ。腐っても紋章付きの紹介なんだから」

 

 この鞘の紋章マジでなんなのだろうか。権力強すぎない? 便利だけれども。

 

「じゃ、連れてきますね」

 

 そんな話の後でアルフォンスたちのところへと戻る。第0アバターはこういう時便利でならない。なにせ面倒なステルスアクションをしなくて済むのだか……メディ。

 

『はい、見られていますね。右前方の3人です』

 

 迂回する。マップは……ないんだったな

 

『はい。ですが合流地点までの方向と距離はマークしています。迷う事はおそらくないかと』

 

 さて、どうするか。

 

 ……と、おもったが別段困る事じゃなかったわ。第0ならアレができる。

 

『最新技術での古典的行動ですね』

 

 タンスとかツボとか漁らないと(使命感)

 

 というわけで、尾行についてきた一人の目線が切れる瞬間に()()()()()()()()()()

 

 当然ながらこの辺りの建物は壁が薄く、抜けられるのだ。

 

 透明人間万歳だな、こりゃ。

 

『それで、探索はするのですか?』

 

 うかつに動きたくはねぇが、建物内部くらいは把握しておきたいなコレは。外からはわからなかったが、アパート的なののようだし。

 

 敵方の奴が入り込んでいたら危ない……ってもう来てるッ⁉︎

 

『見られていますし、剣を抜かれていますね』

 

 やめろや畜生。制圧とかガチに苦手なんだよ。

 

『いっそ殺してしまうのはどうでしょうか?』

 

 んー、個人的にノーで! 

 

『では?』

 

 ノープランで行くさ! いつも通りだ! 

 

 そんな思考と共に生命転換(ライフフォース)を起こし、臆病者の剣を抜く。

 

 現在位置はアパートのロビー。広さはそこそこだが、壁が背にあるので下がれないし振りかぶれない。

 

 アレ、割とピンチでは? 

 

 などと考えていると最適化されている剣が真っ直ぐに俺を襲う。

 

 とりあえず受け流すが、力負けしている感じが強い。

 

 壁に刺さってくれればよかったものを。

 

 ……だが、妙だ。

 

 力を見誤って受け流しはした結果体幹を崩せてはいなかったのだし、体格差を考えれば剣を手放してぶん殴りに来てもおかしくなかった。しかもそれをやられた場合回避方法はなかったのだ。

 

 あの綺麗な剣を振るう人がそんななまっちょろい戦い方をするわけもないので、何かカラクリがあるのかもしれない。

 

 が、手首を狙おうにもそこにあるのはとても頑丈そうな籠手だ。いいなー、欲しいなーそれ。

 

 なんで剣への打撃を中心に組み立てていこう。手が痺れてくれるかも知れないし

 そんな思いから切り上げを受け止めつつ、その力により体が少し浮く。

 

 それを、そのまま上方向へのベクトルに変えて、背後にある壁を蹴る。

 

 かなり無理やりな首狙いタックルだ。まぁドタドタうるさかったから相当にまずかったのだけれど。やばいぜー、コレから多分千客万来だよー。

 

『楽しそうですね、マスター』

 

 だってほら、アルフォンス見てからこの世界の剣士の技に興味津々なわけよ。狙ったわけじゃないけどこの状況なら仕方ないよね! 

 

『本当に狙っていなかったのですか?』

 

 ああ。さっきのタックル、防がれた。本当はタックルの勢いで、刃を立てた剣での首狩りを狙ったんだけど、あの人自分からバック宙じみた回転をして剣を躱しやがった。なんだあのチグハグさ。あんなんが相手だったら俺6手くらいの詰めで殺されてる自信はあるぞ。

 

『洗脳の影響でしょうか?』

 

 だと思う。本能的な体捌きは自然に出るんだ。理詰めの攻撃は指示待ちで繋ぎがおざなりになるけれど。

 

 というか、そうであってくれ。

 

『では、どうするおつもりで?』

 

 思いつくか! あの体捌きだけでもランカークラスだぞこの騎士さん! 罠もないのに勝ててたまるか! 

 

『つまり、現実は非情であると』

 

 そゆこと。なんで戦略的には出来るだけ綺麗に死んですぐにリスポンすることかね? 

 

『その気はさらさらないようですが』

 

 わかってんじゃんメディさん。大物狩りは、VR剣道家の花よ! 散るならば、食らいついてでも相打ち取ったらぁ! 

 

『カミカゼスタイルですね』

 

 歴史家さんにごめんなさいしようなー、メディさん。否定はしないけどさ! 

 

 という馬鹿な脳内会話をしながらも現状の把握と体勢の立て直しをする。

 普通ならここで追撃の3つや4つ飛んでくる所だが、やはり攻撃については剣だけを学んだ甘ちゃんだった。汚さがたりねぇぜ。

 

 現在俺がいるのはロビーの中央部、右手には入り口、正面には敵さんがいる。敵さんは壁との距離は十分にある。地の利は特にない。

 

 左手側には申し訳程度に置かれたテーブルと椅子がちらほらと。頑丈そうだが、生命転換(ライフフォース)の乗った剣ならバターのように切れるだろう。壁としては使えない。

 

 

 そして、外からは具足の足音がガシャガシャと聞こえてきたりする。コレもしかしなくても増援だろうなー。3人組じゃなくて、ここの一人とバックアップ3人の4人組だったのだろう。目的は王子の来そうな建物の監視か制圧か? ……どっちにしても俺運悪すぎない⁉︎

 

『結論、やはり現実は非情でしたね』

 

 ならば攻め込むだけよ! 

 

「あんたら! ガタガタうっさいのよ! 今何時だと思ってんのよ馬鹿どもが!」

「何故に暴れているのか、聞かせて貰おうか少年」

 

 あ、しかも現地人の乱入だよ。しかもイレースさんとロックスさんとかいう死亡フラグブレイカーズ。これはどうしようもなくない? 背後からズドンだよ俺。

 

「ていうか副長サマはなに子供に手こずってんですか。それでよく“戦士団は騎士団の元支援をしていろ! ”とか言えますね!」

「副長なら問題もないだろう。寝酒の肴にするか」

「あんたら良い性格してんなマジで!」

 

 などと言いつつじりじりと間合いを詰める。こちらの勝ち筋があるとすれば、それは磨かれた技の欠点にこそある。

 

 最適な剣は、躱しやすい。何故ならその剣は一本の線だからだ。それがどんなに綺麗でも、本当の理詰めの殺し方に基づいていなくてはただ速いだけの剣なのだから。今は先ほどと違い自由に動ける。一手躱すのは不可能ではない! ……はずだ。

 

 小細工込みで半々くらいかなー? でもやるしかないよなー。

 

『では、いつものように?』

 

 ああ、いつものようにさ! だってもう、こっちが抑えておく必要はないもんな! 

 

 殺気を、研ぎ澄ます。その意思全てを副長さんとやらに当ててこちらの攻め筋をいくつも見せる。

 すると、自然に構えが最も強い殺気を乗せた攻め筋に対応したものに変わった。下段の攻めに対応する構え。そこからの剣筋は限定できる。つまり、ここが命の張りどころ! 

 下段への殺気と共に一歩踏み込んで半歩下がる。殺気と足音によるフェイントだ。それに対応した副長さんと、対応できなかった操りマンの動作のブレによってその剣は最適な剣筋を、最高速に達さないままに振り抜いた。

 そして、その剣筋から逃れた俺は身体全体を使った加速で副長に近づき、その両腕を肘から切り飛ばす。

 

「無作法ながら、一本だ!」

 

 そうして腕ごと剣を落とした副長さんは。「……見事」との一言と共に座り込んだ。

 

「副長⁉︎」

「イレース! 武器を持って来い! この階段は通さない!」

「馬鹿どもが。敵を間違えるな。だから貴様らは騎士になれんのだよ。この少年は味方で、敵は……」

 

 その言葉と同時に入り口が蹴破られる。そこには先ほど俺を監視していた3人が抜剣したままにやってきている。

 

「こいつらだ。悪いが俺の両腕はこの通りでな、こいつらを止めてやれ。でなければ王子もろとも貴様らは死ぬぞ」

「……何がなんだかわかんないけどやってやるわよ! その代わり、私を騎士団に推薦しなさいよ!」

「俺のも頼む。こいつとのコンビは悪くない」

 

 そうして、俺にとっては二度目の、イレースとロックスにとってははじめての変な組み合わせ3人共闘が始まった。



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08 再びの/初めての共闘

 一斉に襲いかかって来る3人。どうにも息ピッタリだ。チーム組んでたのかな? 

 

 それにしては、組み立てがお粗末だが。

 

 一人目が大上段でかましつつ、残り二人が避けたり防いだりしたのを狩る形だが、足の速さが人間レベルではどうにでもできるだろう。

 

 狼を操り続けた結果人を操るのは苦手になったのかね? まぁまだ決まったわけじゃあないけれど。というかどうやったら操れるのかとかさっぱりわからないけれども! 

 

 わかる? メディさん。

 

『さて。ファンタジー系列の法則は私にはわかりかねます』

 

 だよなー。

 

『せいぜいが、電気信号をコントロールして脳を操る程度の事でしょうか』

 

 簡単に頼む。ドイツ語はさっぱりなんだ。

 

『おそらく剣からの電気信号で、脳の短期的な目的意識を上書きしているのでしょう。どうやったらそれが可能なのかは聞かないで下さいね、私にはわかりませんから』

 

 つまり変わらない感じか、剣を弾き飛ばすか腕を切り飛ばすかの二つに一つだと。

 

『ええ、とはいえ両腕を切られたのです。副長さんももうすぐに死ぬでしょ……あれは何を?』

 

 副長さんは口だけで今日にその瓶を取り出し、傷口に塗ってからその他を腕をくっつけると、なんとくっついたのである。流石ファンタジー。なんでもアリ過ぎる。

 

『他がリアルな分、余計に際立ちましたね』

 

 ああ。本当にな。

 

 ……それにしても、騎士団とはこの程度の連中なのだろうか? 一人目を使ってうまく壁にしているだけであっさりと攻め手を遅らせていやがる。

 

 上の足音から察するに、そろそろロックスさんとイレースさんがやってくる頃だろう。ならば無理せず、イレースさんの射線に被らないように立ち位置を整えなくては。

 

 とか余裕を持っていた自分を殴りたい。聞き覚えのある嫌なワードが耳に響いてきやがった。いや、確かに使えないなんて誰も言ってないものね! 

 

■■■■(ゲートオープン)

 

 瞬間、弾かれる俺の体。出す場所を俺の正面にした事で俺の動きを阻害した上で一手動きやがった。

 

 使ったのは、右の奴! そして、左と正面は多段攻撃の構えを取っているッ! 

 

 ゲートを使った奴がアルフォンス並のヤバさを持っていたらヤバイというレベルではない。皆殺しだワン。

 

『何故に犬なのですか?』

 

 ノリさ! 

 

 という訳で、殺しの解禁である。いままでちょっと有利に浸り過ぎた。

 

 というわけで、どうしよう。

 

 とりあえず二人を壁にしながら様子を見るというのに一票

 

『二人での多数決には意味がないので心のままに動くのに一票で』

 

 それもそうやな

 

『そうやねん、です』

 

 というわけで再び襲ってくる大上段に対して動く。内側に入って片手で手首を受け止め、足を払って体勢を崩しつつ引き倒す。次に二人目の剣を受け止めて重心移動でゲート使いとの壁にする。

 

 しかし、それは二人目の()()()()()()()()剣を見て愚作と知る。

 

 反射的に二人目を蹴り飛ばしてみるが、奥にいる男に対して何が変わったわけではない。というかすり抜けてきやがりましたよこのお方! 仲間もろともスタイルより安心で安全ですね! 

 

 蹴りの反動を流さないで思いっきり体勢を崩し、ゴロゴロと無様に転がる事で攻撃をひたすらに回避する。

 

 漫画やアニメでは、こういった能力の敵の弱点は攻撃する瞬間! とかやるんだろうけど、無理やろこれ。だって攻撃手段が剣だし。

 

 剣に剣を当てることは不可能ではないが、敵の特性から考えると絶対にやりたくない。奴は生命転換(ライフフォース)のある命すらすり抜けて攻撃できるのだ。冗談も大概にせぇや。いや、その理不尽さがゲートなんだろうけども。

 

 そして、苦し紛れに透過系能力の例外のテンプレートである足の裏にかかるように剣を振るうが、普通にジャンプして躱された。ねぇ希望を尽く潰さないでお願い! 

 

「しかもお二人様起き上がってきてますし! どうすんのコレ⁉︎」

「こうするのよ! 生命転換(ライフフォース)風属性付与(エンチャントウィンド)。一矢入魂! 弾け飛べ!」

 

 そうして、3人の中心に矢が突き刺さり、それに内包された命の風が全員の体勢を崩した。そしてその隙を逃さずに上階から飛び降りてくるロックスさん。その手にはあの時の大盾が。

 

生命転換(ライフフォース)重力変換(シフトグラビティ)放出(ディスチャージ)!」

 

 そしてゼロ距離の大盾から放たれる力の波動により、透明野郎は膝をついた。重力操作とかなんでもアリだな本当に! 

 

「「ゲートを使わせるな!」」

「分かってますよ!」

 

 そして俺は体勢が崩れ、風邪で壁に叩きつけられた二人の剣を思いっきり叩き落とす。コレで排除の完了だ。仲間が居るって楽だね! 

 

 さて、二人をどう殺すかを考えなければ。

 

『精神に異常が見られません。私のバグでしょうか?』

 

 いやいや、マナーだよマナー。技を見せるってことはそれを破られて殺されても良いってことなんだから。

 

『剣道家のマナーは私には解りかねますね』

 

 安心しろ、俺も実の所そんなに分かってない。

 

『適当ですか』

 

 適当よ! 

 

 そんなこんなの後で重力に耐えきれなかったゲートの男がその両手を地面につく。そこを()()()()()()()()()()()()()が射抜き、剣を落とし、ロックスさんがそれを蹴り飛ばした。

 

 うわ、この二人強すぎない? 

 

『洗脳がなければ互角程度だと思いますが』

 

 それもそうか。

 

「はいはーい。全員制圧完了です。ただ念のため剣には触らないで下さいな。洗脳されたくはないでしょう?」

「んで、あんたは誰なのよ不審者」

「明太子タクマ。まぁ色々あって新米騎士くんの友達をやってる人ですよ」

「……私は見ていたぞ。コイツが王子と肩を並べて戦っているのをな。惑わしの中であったが」

「副長⁉︎」

「霊薬を使った。死にはしないが、3日は動けんだろう。イービー、お前が指揮を代行しろ。この戦士二人も使って良い。元凶を探し出して始末するぞ」

「ハッ!」

 

 それに答えたのは透過剣士さん。

 

「じゃあ、俺はこれにて」

「我らを止めに来たのではないのか?」

「いや、逃げ込んだら虎口だったという最悪の奴でした、ハイ。そんなわけで俺は友人の所に向かいますよ」

 

 そうして、副長さんにだけ「“荒野の西風亭”に隠れます」と耳打ちしたのちに第0アバターへと戻る。消えたように見えるだろうなー。

 

 強キャラムーブできただろうか? 

 

『そうですね、58点と言うところではないかと』

 

 辛辣なー

 

『まず、幼い見た目で減点です。次に、ゲートを使ったイービー様に無様に負けかけたというのもマイナスです。せいぜいが“なんかよくわからない奴”程度でしょう』

 

 辛辣な! 

 

 なんで会話をしたのちに集合場所へと戻り、皆に状況を説明する。第0なので尾行の可能性はないと思うが、念のためいくつかのダミールートを通ってから西風亭の裏口から侵入させてもらった。

 

「ここがアテだよ。なんか皆洗脳されてるから今暇なんだってさ」

「あんたら、鍵かけてる裏口から入ってくるんじゃないよ。どうやったのさ」

「薄い壁ならすり抜けられるんで」

「悪霊の類いかい。やだね本当に」

 

「待てタクマ。彼女は叔母上様だぞ⁉︎どうしてこのような酒場におられるのだ!」

「何言ってんだいアル坊。働かないと食っていけないだろうに」

「いやそれはそうですが!」

 

「……まいいや。婆さん、コイツ泊まりなんで部屋貸して下さいな」

「構わんよ。宿賃もこのゴタゴタを収めてくれるってんならツケにしといてやるさ。6人だね?」

「いや、俺らは元の世界に帰るんでコイツの寝床だけで良いです」

「……やっぱ悪霊じゃないかい? あんたら」

 

 そんな話を間に受けてくれたのか、プレイヤーのことにそんなに突っ込まないように作られているのかは分からないが、まぁ匿ってくれるなら是非もない。

 

「じゃあ、話し合いにはこの辺を勝手に使いな。私は部屋を作ってくるよ」

「あざーす」

「……にしても、あんた以外の連中どうしてそんなに警戒してるのさ?」

 

 そんな話の中で、黙っていたドリルさんか口を開いた。

 

「……話が美味しすぎるからですわ。明太子くんが偶然知っていた所に王家に連なる方がいらっしゃるだなんて冗談か……偽物と決め打つのが自然だと思いませんこと?」

「ちなみにこの馬鹿坊主との出会いは人の店の前で男を蹴り飛ばそうとしたのを黙ってやった事からだよ。そんな面倒な政治なんてやってられるかいね」

「あ、タクマくんの奇運が原因なのね。なら私はもう信じたわ」

「奇運?」

 

 その言葉に頭を傾げる3人。

 

「だってタクマ、偶然逃げ込んだところが王子サマの逃げ込み候補の所だったのでしょう? そんなのが普通あり得る?」

「……ありえませんわね」

「そう。だから奇運なの。運がいいのか悪いのか誰にも分からない変なのだと考えておけば良いと思うわ」

「……その信頼っぷりを見ていると疑っているのが馬鹿らしく思えてきましたわ。レディ、あなたを疑ってしまったことに謝罪を。申し訳ありませんでしたわ」

「構いやしないよ。あんたらがあんたらなりに考えた結果なんだからね」

 

 そんなわけでひとまず休足兼作戦会議が始まった。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

「なるほど、剣を媒介にした傀儡の術か」

「ああ、こっちじゃメジャーなのか?」

「……そんなものが行き渡っているのなら国など成り立つものか」

「なら、その術の使い手を探ればよろしいのですね」

「というより、使い手にした誰かじゃないかしら。群狼シリウスの大元と傀儡術師は別物よ」

「……なぜ、そうだと?」

「だって私が群狼なら、死んだはずなのにピンピンしてるタクマくんをもっと警戒するもの。それこそ、副長さんにあんな適当な指示なんてしないで数と詐術で速攻で殺すわ」

「確かに、タクマは妙に強いし、自由にさせておくと面倒な手合いだからな」

「照れますぜ」

「それ、褒められていますの?」

「ポジティブに捉える派なので」

「そうですの。なかなか良い心持ちをしておりますね、明太子くん」

 

「それで、霊薬とやらのおかげで生きてる副長さん以下5名が反乱戦士としてこっち側に付いてくれてる。だから、城に入ってる連中と協同させて動くのが定石か?」

「……まぁ、城の連中が生きていたらの話だけれどね」

「なんかあんのかよあの城」

「だって今門番洗脳下なのよ? んで、洗脳された連中は私たちの第0を見る事ができる。そんなの斬られて当然でしょう」

「あー」

「……ところで君の仲間が城に潜入しているということに対して王子の僕はどう反応したら良いと思う?」

「後で斬首な! で良いんじゃないか?」

「邪悪がいるぞここに」

 

 そんな話の後に『とりあえず掲示板での報告を待ってから動く』というゆるゆるな手でお茶を濁す事となった。というか、それ以外できる事はなかった。

 

 だって明日平日だし。リアルは捨てられないのだよアルフォンスくん。

 

「じゃ、明日の夜にな」

「ああ、待っているよ稀人の皆。君たちの明日……いやもう今日か。君たちの今日に良き響きがある事を祈ってる」

「……すまん、どう返せばいいん? ソレ」

「特にないよ。昔から父が使っていた、古典のさようならの挨拶なだけだからね」

「……素敵なお父様ですのね! (ふる)きを(たず)ねて新しきを知る、上に立つものの鑑ですわ!」

 

「それでは、アルフォンス王子にも良き響きがある事を祈らせて頂きますわ。それでは、さようなら。また夜に会いましょう」

 

 そうして、《Echo World》の二日目は終了した。なんとも恐ろしいボリュームのゲームである。

 

 なんてのは、自分を騙せる嘘だと思う? 

 

『さてどうでしょう。ですが、とりあえず今は不思議なゲームという事にしておけばよろしいかと。ゲーム自体に害はないのですから」

 

 だなー。

 

 このゲームに疑問を持ちながらも、それはそれとしてゲームを楽しむのが良いだろう。うん。



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09 事情聴取01

特に理由はないですが、投稿時間をノリで前倒しにしてみました。反響変わるかなー?(そもそもあるとは言ってない)


 何事も(多分)なく。今日も今日とてベビーカーで登校する。

 メディによると、今のところ変死事件なり通信障害なりは発生していないということ。よきかなよきかな。

 

 つまり、毎晩毎晩狼と殺し合うなんて不吉な活動をすることはないということである。やったぜ。というわけで様子見も終わり、“もし時間があるなら”くらいの緩さで矢車さんにゲームを教えてみる。「このゲームのおかげで狼を殺せました!」みたいな馬鹿らしいポップ風なのは、ノリだ。後悔はしていない。

 

 そうしていると、なんだかいつもとは違う感じの視線がある。なんだろう、ベビーカーにARペイントでも付けられてる? 

 

『いえ、確認できるところにはありませんね』

 

 ならなんだろなー。

 

「はよー」

「はよー」

 

 そんな時にやってきたのは大作ゲーマーの一ノ瀬だ。こいつもなんかそわそわしてる。

 

「なぁ、お前ほんとうに《Echo World》やってんだよな?」

「なんだよ突然に」

「なんかさ、昨日有名な色物VRアイドルの動画でアレが配信された訳よ」

「へー。そうなんだ」

「……なんかクオリティが予想の80倍くらい良いんだけど、何あれ」

「わからん。多分頭の中宇宙人な開発者がいるんだよ」

「真面目に買おうかと思ってんだけどさ、お前案内してくれたりするか?」

「するか。残念なことに俺は王子様暗殺部隊をぶちのめすというオーダーがあるんだよ。こんなヒリヒリするイベント放っておけるか」

「やっぱお前か明太子! お前動画出てんぞ! 10万再生行ってる奴に!」

「えー、大変だ訴えなきゃ」

「ちなみにその投稿者はドリルお嬢様だ」

「……よし、どさくさに紛れて殺そう」

「何その殺る気スイッチの軽さ。人として怖いわ」

 

 あ、やべ。

 

「流石に冗談だよ」

「だよなー」

「だって放っておいても多分死ぬし」

「お前は……」

「だって敵のレベルも能力も頭おかしいんだよ! 強すぎて笑うしかないからな!」

 

 本当に、昨日はやばかった。副長さんは基本強すぎるし、イービーさんはゲートがチートすぎるし。あんなん相手にしたら後ろとか守れねぇよ常識的に考えて。

 

「……それでさ、その動画におまえととっても仲の良い女の子が写ってた訳なんだが……」

「あー、ダイハさんのこと?」

「お前一体何したらあんな美人に惚れられるんだよ。アレ自然メイクのアバターだろ!」

「……命をかけて剣鬼を一回殺したくらい?」

「知ってた、お前まともじゃねぇよ本当。幸せに爆死しやがれ!」

「あ、興奮すると爆死はしないけど心筋梗塞はあるから程々に頼む」

「そこマジレスやめーや」

 

 ちなみにあの時の命をかけてってのはガチ。成功の見込みのない手術をどうしたら受けさせられるか悩んだ所で、何をとち狂ったのか勝率100%を誇っていた剣鬼“梅干”先生に果し合いを申し込んだのだ。()()()()()()()()()()()()()()()なんて事を約束した上でだ。

 

 そして、その生中継での勝負をずっと見届けさせたのだ。氷華に。

 

 そんなイベントと、新規医療制度のちょっとした悪用とかその他諸々があって、今のもうすぐ健康体のMrs.ダイハードは出来上がったのだったり。

 

 ちなみに果し合いの結果は2673敗1勝。我ながらよくやったもんである。

 

 そうしていつも通りに階段待機組と合流して、相変わらずの俺に引きつつも“お前だしなぁ”くらいに思ってくれている彼らは普通に良い奴だと思う。なんでコイツらに彼女できないのかなー? 世の中は不思議だ。

 

 そうしていつも通りに退屈な授業を受けて、弁当を忘れた事に気付く。

 

 どうしたものか……

 

「一ノ瀬ー、金払うから飯買ってきてー」

「弁当忘れたのかよお前。仕方ない、おにぎりを恵んでやろう。金を出せ」

「ありがたやー」

 

 なんて話をした瞬間、俺の端末にメッセージが届く。校長室に来いとのこと。何故に? 

 

「すまん、お呼ばれした。悪いんだけど飯の買い出しお願いできるか? ちゃんと金は払うから」

「構わないっての。入学以来の付き合いだぞ」

「さんきゅー」

「じゃあ、ツナマヨで良いよな?」

「頼むわ」

 

 そうして呼び出されて校長室。ここはエレベーターから距離が近くて楽だ。なので校長はいつか殺す。教室に近く作れやあのフサフサ野郎。

 

「失礼します」

「あー、お前さんが一昨日狼を見たって子か?」

「オオカミ少年扱いは嫌ですよ?」

「安心しろ、ある程度確証を持って来てる。座ってくれ」

「校長先生、良いんですか?」

「彼はれっきとした警察官だ。安心して良いよ」

「そうですか。なら失礼します」

 

 そうして目の前の警察の人を見る。コートはヨレヨレだし、若干寝癖も残ってる。けれど、なんだか強い意志を感じる。これがロボット越しじゃないモノホンの警察かー。

 

「んで、放って置かれると思ってたんですけどどうして俺のところに?」

「ああ。今朝幻痛事件……お前らが見つかった所の近くでぶっ倒れてた奴がマトモ喋れるようにになった。そしたら、どうにも狼に襲われたらしいって言うんだよ本人は。誰かさんと違って、殺せなかったらしいがな」

「明日は我が身ならぬ昨日の我が身ですね。同じこともっかいやれって言われたらそいつを生贄にして逃げるくらいにはハードな出来事でしたよ」

「物騒なガキだ。お前、よく「ゲームと現実の区別がついてない少年」……って呼ばれてるのな。自覚してるのな。……まぁ、今回はそれが良い方に転がったんだろうから特に何も言わねえよ」

 

「それで、問題は狼の方だ。お前さん、出したデータは調書の時ので全部か?」

「はい。ドラレコと俺の視界のログだけです。けどどっちにも何も写ってなかった」

「……本当に、災難な話だよ」

 

 そうして刑事さんはARタバコに手を掛ける。構わないと肯くと、一服してスッと雰囲気が鋭くなった。

 

「お前さん。どうやって狼を殺せた? 身体的にはまともに走ることすらできねぇってのに」

「あの空間、麻薬みたいなんですよ。大して鍛えてない俺でもトップアスリート並みの速さが出せました。力も多分それくらいです。それに慣れて、狼に“命の力”を叩き込んだって感じです」 

「命の力? ゲームじゃねぇんだぞ」

「ゲームのように気合を入れたらできた現象ってのが正しいかもしれません。《Echo World》っていうインディーズゲームでの技術なんですけど、それがあの空間だと使えたんですよ」

「なるほどな……思った以上の収穫だ。ありがとよ坊主」

「あ、それと一応言っておくんですけど」

 

「あの狼、蹴られた事に対してのダメージはあってもコンクリートに叩きつけたダメージはありませんでした。ファンタジーすぎて意味わかりませんけど、それだけです」

「あいよ。狼がでたらぶん殴れ。良いアドバイスだぜオオカミ少年」

 

「ならこっちからも一つ教えてやる。あの日、通信障害区域にいた人間は4()()なんだよ。れっきとした経歴を持つ、ちゃんとした人間がそこにはもう一人いた」

 

「いったいそいつは、何処に行っちまったのかねぇ?」

 

 そんな意味深な忠告と共に「じゃあ、またな」と連絡先を渡してからすぐに刑事さんは去っていった。刑事さんの名前は栗本丈(くりもとじょう)。ジョー刑事と呼ぶ事にしよう。次に会うことがない事を祈るけども。

 

 そうして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()はゆっくりと体を起こす。早く戻らねば昼休みが終わってしまう。

 

 飯を食べなければ! 

 

「じゃあ、戻って良いよ風見くん。……というか、こういうのは事前に学校に相談して欲しいんだけどなぁ……」

「え、なんかできたんですか?」

「何もできないよ、悪かったね! 教育者って以外と雁字搦めなの!」

「わかりましたー、程々に頼る事にしますねー」

「ああ、それで良いよもう」

 

 校長、若いのになんであんな苦労性なんだろ。背筋伸ばせばイケメンって言い張れなくはない容姿をしてるのになー。

 

 そうして悠々とエレベータに乗り、手すり伝いにえっちらと教室に戻るとそこにはおにぎりの入ってる袋をひらひらとさせてる一ノ瀬がいた

 

「出迎えご苦労さん」

「おー」

 

「そんで、何があったん? VR犯罪に手を貸したとか?」

「さぁな。言って良いのかわかんねぇから言わないでおくわ」

「えー、楽しそうなネタなのに」

「とりあえず俺はこの中学で唯一の刑事さんの連絡先を手に入れた男になったと言うことさ! なんか困りごとがあったら俺に相談するが良いさ! 右から左に受け流してなんとかしてくれる!」

「刑事さんがな!」

 

「所でおまえさん、この聖なる握り飯をどうする?」

「ありがたく受け取らせていただきたいと思いやす。へい」

 

 というテンションを変えて膝をつき、天から捧げられた袋を受け取る。「なんであいつらあの一瞬からああなるんだ?」とか「やっぱ明太子もいっちーもおもしろいよねー」とか色々言われる。

 

 だが、これがいつも通りなのだし気にしない。俺も一ノ瀬も結構ノリで生きているのだ。

 

 受け取った袋の中身はツナマヨのおにぎりと野菜ジュース。こいつ他人の金だからとちよっとお高い奴を買いやがったな! 好きだけど! 

 

 ドロドロ感がたまらんのよねー。

 

「へーい」

「へーい」

 

 端末を翳して代金を精算。まぁ400円以内なので許してやろう。食堂行けたら300円で定食が食べられるのだが、生憎と俺はそこまでの移動でグロッキーになるのでまともに食べられないのだけれど。悲しみ。

 

「んじゃ、どうする? エコワの話なら多少はできるけど、俺って基本鉄砲玉よ?」

「エコワっておこわみたいだな」

「じゃあなんて略したらいいと思う?」

「……エコワだな」

「だよなー」

「気を衒った略し方が思いつかん」

「俺もだわ」

 

「んで、どんな話?」

「基本だな。あのゲーム。スキルとか何にもないけど生命燃焼(ライフフォース)っていう技術があってな。アレが使いこなせないとそもそもコミュニケーションすらできないのだ」

「……は?」

「いや、ゲーム世界での俺たちって幽霊とか透明人間とかのサムシングなのよ。だからそこで形を取るには命の力を漲らせないといかんのですよ」

「命の力ねぇ。チュートリアルとかは……ないんだよな」

「ねぇよ。だから感性と見取り稽古だけで模倣してとっかかりを掴むしかなかったりすんだよなー」

「ちなみに、それを使うとどうなるんだ?」

「ちょっとだけ身体能力が上がるだけ。ただし、武器に力を入れられるようになってからはぶっ飛ぶぞ。馬鹿みたいな切れ味や攻撃力に変わる。しかもその先に力のステージがあって、多分変身して超強化できる」

「変身ってオイ」

「時間切れになるとぶっ倒れるらしいけど、正直強すぎて笑う。約20メートルを一瞬で詰める身体能力強化とか、任意対象以外全てをすり抜ける無敵モードとか」

「ガチにヒーロー変身だな」

「必殺モードって方が正しいかも。まぁ気の遠い話だよ。まだ普通の力すら使いこなせないんだから」

「へぇ」

 

「ガチにやりたくなってきたかも」

「ま、歓迎するよ。実際手数が欲しいゲームだからな」

 

 そんな会話を最後に昼休みは終わった。

 

 そしてぐだぐだと授業を受けて家に帰る。しかしそろそろ真面目に授業の復習をしないとテストが危ないかな? とは思いつつも、テストはまだ遠い話。

 

 今日はそのまま家に帰ってログインする事にしよう。

 

 

 一応ログインする前に刑事さんに聞いた話と、“もしもあの空間に深く関わったら何も残らず消えてしまうかもしれない”なんて妄想を矢車さんに送っておく。これで深入りするようなことはないだろう。俺もする気はもうないし。

 

 そうやって後顧の憂いを断ってからゲームを再開する。

 アルフォンス護衛作戦、本格的に開幕だ。



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10 進撃!ハラスメント9!(のうち5人+1)

 黒い部屋にログインして掲示板を確認しつつちょっと散策する。が、一人ではこれといって面白そうな機能は発見できなかった。うーん、なんだろなー? 

 

「……それにしても早く来過ぎたな」

 

 集合時刻は午後20時。現在時刻は16時。なんと4時間もフリータイムである。

 

 氷華は検査でちょっと遅くなり、ドリルさんはまだ学校で、長親さんはまだ会社とのこと。とすると、皆が集合するときにこっちに転移しておけばいいか。メディさん、アラームお願いね。

 

『はい、お任せ下さい』

 

 ちなみに、掲示板にはあの砦クソゲー! という愚痴の数々が流れていた。とてもよくわかる。そしてニートと思わしきマスタードマスターさんは今でもアタックし続けているとのこと。やべぇよガチだ。

 

「む、君は!」

「噂をすればなんとやら。マスタードマスターさん。お疲れ様です」

「ああ、お疲れ様。僕ら休日組は交代交代で敵を寝かせなかったけど、君らは?」

「地獄の連戦の結果、5人の騎士が仲間になりました。やったぜ」

「あー、NPC動かす系かー。今からそこに?」

「いや、俺はちょっと砦覗こうかと。今なら明るいですし」

「なら一緒に行こうか。中を少しは案内できるよ」

「あざーっす」

「軽いなー」

 

 そんなわけでマスタードさんの共に行く事になった。ちなみに当然走り。だが、やはりフォームやらの関係で俺の方が良いスピードを出せるようだった。

 

「ちなみに何人体勢です? 今」

「9人だね。何人か計画寝落ちしてるから今現場は2組。2人1組が二つと余り一人で動いてるのさ」

「へー」

 

「ちなみに結構狼の動き荒くなってるよ」

「楽しそうな事やってんなーこの人ら」

 

 そうして、おそらく真っ当なMMOなら速攻でBANされているだろう精神的邪悪の数々の一端を聞きながら走る。そうしていると、山砦までのところに()()()()()()()踏み固められた、人の道だった。

 

「ヤベェぞこの人ら」

生命転換(ライフフォース)できるようになってからね、できることが増えてね、つい」

「マジで尊敬します。今度明太子に辛子かけてみますよ」

「限界突破チャレンジャーかい? 君は」

「Yes I am!」

「古いネタにさらに古いので返してきたねー」

 

 

 そうしていると、何故か転がっている武具のうち棍棒を手に取ってマスタードさんは砦を指差した。

 

「あの中からパクったのや、その辺のを加工したのとかだよ。この辺にあるのは、砦から投げて返却するからだね」

「すげぇ攻略スタイルだ」

蛮族(バンディット)スタイルは嫌いじゃないだろう?」

「ええ、大変好みです」

『魂の故郷ですものね』

「だなー」

「? ……誰かいるのかい?」

「あ、すいません。健康管理AIと話してました」

「嘘、このゲームAIサポート入れられんの⁉︎」

「ああ、メディの場合は入れ方が特殊ですから。本体は脳にインプラントされてて、それをSoul Linkerとリンクさせてるって感じなんですよ」

「かなり便利そうだね」

「いやいや、なかなか愉快な相棒で難儀してますよ」

『心外です。私ほど完璧にマスターの相棒をできるAIなど存在しないと言うのに』

 

 さて、無駄話はこれくらいにして砦へと攻め込む。

 

 とりあえず、入り口を増やすところから始めよう。

 

「2階のあの辺って安全圏でしたよね?」

「まぁ、徘徊連中がいるから完全にじゃないけどね」

「じゃあ、入り口開けてきます」

 

 そう言って砦のレンガの出っ張りに足を引っ掛けてそのまま登る。そして高さを稼いだらそのまま生命転換(ライフフォース)を強めにしてパパパっと三角に切り、最後に蹴っ飛ばしてレンガを中へと叩き込む。

 

 実に見事な曲芸だった。我ながら惚れ惚れするネ。

 

「うわぁ、このアバター性能でアクション映画やってるよ……」

「これくらいできなきゃ動物園は走り抜けられませんて」

「……所で君、ガソリンはあるかい?」

「探してるんですよ。最悪掘ろうかと考えます」

 

 そうして無言の握手。やはり同士とは巡り合えるものなのだ! 

 

『テロリズムが助長されなければ良いのですが』

 

 流石にポリスロボからは逃げられねぇよ。人間スペックじゃ。

 

『逆説的に、人間スペックじゃなければやりかねないと言う事ですね』

 

 だって爆発は浪漫的解決方法なんだもの。

 

『そう言ったことは遠隔発火式などの安全性を保持してからやってくださいね。まぁ私は準備の時点で通報をする気ですけれど』

 

 メディさんの監視を掻い潜らなくては! 

 

「じゃあ、どっちから行きます? 俺上から行きたいです」

「あーじゃあ僕は下からかな? ちょっと煩くするから気をつけてね!」

 

 そういえば、ハラスメント9人集の中でマスタードさんだけは手口を聞いていなかった。どうやって狼使い(又は人語を理解する狼)を挑発するのだろうか? 

 

 なんて考えていると、正面入り口から巨大な歌らしきものが聞こえてきた。それも、絶望的に下手くそであり、なんだかナメクジが耳の中に入ってくるような不快感を伴うものだった。やべぇ。これが9人の戦い方! 

 

 兎にも角にも精神的消耗戦を仕掛けて大元を動かさないという覚悟の現れ! 流石に即興で官能小説を語る人が最強だと思うが、他の連中も負けていない。恐るべし。

 

 そして、もう隠す気すらないのか狼がどこか疲れた表情で音源に向かって走り出している。

 

 ならば、戦闘役としての仕事をしよう。

 

 走ってくる狼に対して角で待ち、最小限の力で一閃。ついで後ろのもう一体に対しての切り返しでもう一閃。梅干先生の逆風の太刀(命名者不明)には及ばないが、やはりそれなりにやれるようになっているみたいだった。

 

 ちなみに、本人にその技名を言うと怒られる。普通に流派の技として別の逆風の太刀があるそうなのだ。鎧を抜いて傷をつける類の剣技らしい。

 

「さて、BGMが消えないうちにステルスゲームと行きますか」

『こういった状態でのマスターのステルスゲームでの傾向的に、やることが分かりきっているのですが、どうするので?』

「当然、目撃者をゼロにすれば良い。サイレントキリングだよ」

『走った後が静寂(サイレント)になるキリングですね』

「つまりミッションの成功は確定的に明らか」

『では、頑張って下さい。聞いた話から作成した簡易マップを使って抜けられる道は探しておきますから』

「流石メディさん」

 

 さて、早速だが階段を探すのも面倒なので、適当な部屋に近道を作ろうと思う。アテはあるか? 

 

『では、ここから左に二つ目の部屋からならどこからでも、どうやら寝所のようなので2段ベットなりがあるでしょう。利便性を考えるならそこが良いかと』

 

 あー、なるほど。あの番号は管理用の部屋番号と見えるね

 

『はい』

 

 じゃあ、せっかくだから俺は一番の部屋を選ぶぜ! 

 

『珍しいですね。罠とは思わないのですか?』

 

 いやだって、狼の動きが遅いもん。砦が抜かれるのは想定外だったと思うのさ。だから考えるよりは早く動いたほうが良いかなーって。兵は神速を貴ぶのだ。

 

『では、拙い策で手痛い結果にならない事を祈りましょうか』

 

 Let’s pray! 

 

『とぅぎゃざー』

 

 そうして入った中には、ものすごく疲れた顔の狼人間さんが項垂れていた。

 

 自然と剣が走る。自然体からの抜き打ちは鍛えられたものだ。

 

 その抜き打ちに反応したは良いものの項垂れていた事で、体を起こすには一瞬あった。それだけあれば、剣が胴に致命傷を負わせるのは当然だった。

 

 けどやっぱり怖いのでもう一度力を込めて剣を振り、しっかりと首を跳ねる。再生とかされると嫌だからねー。

 

 という感じにお互い何が何やら考える前に、結着は着いてしまった。なんだコイツ? 

 

 まぁ、狼の群れに混ざってしまった人狼って感じなのだろうけど、この項垂れウルフが大将だったり? 

 

『可能性はありますね。現に彼の死体は消える気配がありません』

 

 ……もうちょい刻んどくか? 

 

『では両足を。再生には時間がかかるでしょうし、それなら一手稼げるかと』

 

 りょーかい。

 

 そうして刻んで、ついでに何かないかと持ち物を漁ってみたりしたが大したものはなかった。せいぜいが2000G相当のものが入っている財布くらいだろう。おまえどこで金使うの? 

 

『案外人狼の隠れ里などがあるのかもしれませんね』

 

 嫌な話だ。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

「いやー、突然狼がクソ雑魚になったからびっくりしたよ」

「だよねー」

「あんたはセリフに熱中して変化に気付かずに殺される所だっただろうに」

「生きてんだから気にしなーい」

 

 そんなこんなで集まった6人。ハラスメント部隊の精鋭アンド俺だ。

 

「それで、コイツがボス?」

「分からん。くまなく砦を探してみたが、残った狼はだいたい少年が殺したし、そうじゃないボスのような奴は居なかった。空振りではないか? ココは」

「……かもねー。あるいはフラグ足りなかった?」

「むしろ先に折った感じじゃないか?」

「んー、よくわかんないし私たちはこの辺で警戒してるよ。明太子くんは掲示板に作戦終了だって書いてくれない?」

「了解っす」

「……やっと終わるのか。この苦行が」

「またまたー。お話聞いておっきくなってたじゃん、君も」

「VRでデカくなってたまるかよ」

「え、なってたよ」

 

「「「「「え⁉︎」」」」」

 

 そうして己が股座を触る男性陣。ゲームなのに、あるッ⁉︎

 

「これもしかしてNPCにセクハラできる奴では?」

「マジでやめとけ、試そうとしたやつは皆触る前に殺されてる。この世界の警察めちゃ強いぞ」

「あんな連中だからなぁ……」

 

 そんなわけで、山砦攻略戦は終了した。なんとも微妙な幕切れである。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 そうして掲示板に作戦のあらましと終了のお知らせをマスタードさんの画像つきスクショと共に貼り付ける。

 

 だが、まだ集合時間には微妙に早い。どうせだし街でも回ってみようか。まだ日は出ているのだからさっき調達した小金を使って買い物はできるだろう

 

『金使いが強盗のソレでは?』

 

 人じゃないしセーフセーフ。

 

 では、出店巡りだ。

 

 昨日はだった20Gだったが、今日はその100倍。ちゃっちい籠手とか買えないだろうか? 

 

『中古品に命をかけるのは推奨しませんよ?』

 

 まあねー。

 

 そんなわけで武器屋探しの旅である。

 

 広場のプレイヤーに聞いてみたところ、装備とかが置いてあるのは南区の商店らしい。しかも中古品があるのだ! と腰にぶら下げた剣を見せながら教えてくれた。

 

 ありがとう親切な人。多分その剣折れるから死ぬだろうけどあなたの事は忘れるまで忘れない。

 

 そして、商店に入った所で

 

 中古の武具を懐かしげに見ていた、台無し師匠がそこに居た。

 

「昨日ぶりです、自称師匠」

「ん? ああ、馬鹿弟子か」

 

 そんなちょっと尖った社交辞令から、俺の籠手探しは始まった。



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11 台無し師匠と拾い物の籠手

「お前さん、もうあの剣に嫌気が差したんか?」

「いやいや、あんな名剣そうそうないでしょうに。石をバターのように切り裂くってどんな魔剣ですか」

「ん? アレ切れ味クソなんだがな」

「ん?」

 

 なんだか話が食い違う。どういう事だろうか。

 

「よし、ちょっと抜いてみろ」

「店内でです?」

「大丈夫だっての。ここは実戦用の獲物を買う店だからな。力を流さないで獲物の具合が分かるかよ」

「へぇ、やっていいんですかそういうの」

「ああ、便利だろ?」

「はい。便利ですね」

 

 というわけで臆病者の剣(チキンソード)を抜く。そして力を込めてみると「うわ、引くわ」とか言われた。ふざけんなオッサン。

 

「どういう話だコラ。叩っ斬るぞ。多分殺し返されるけど」

「いや、盛大に我流を突っ走ってるなって思ってな」

「へぇ?」

「それ、風属性付与(エンチャントウインド)が恐ろしく鋭くかかってるぞ」

「マジです?」

「ああ。普通の付与できないのによくもまぁそんな殺す気満々な力の出し方覚えたもんだな。何か? 殺し屋なのかお前さん?」

「学生兼VR剣道家だよ。あいにくとまだリアルで人殺しはしたことはない」

「まだってあたりがおっちゃん不安なんだけど」

 

 あ、しまった。……まぁ厨二病と受け取ってくれるだろう。多分。

 

「それで、なんか問題あるのか?」

「まぁ、特にないな。お前が生命の属性なら大問題だったが、風って基本戦闘にしか使われないからな」

「生命?」

生命転換(ライフフォース)の属性だよ。まぁ、めっちゃ珍しい奴だ」

「適当なのな、そこ」

「まぁな。お前には関係ない話だし」

 

 というわけでち力を抜いて鞘に戻す。もしかして力を抜かないで鞘に入れたら鞘ごとぶった斬れていたのか? 

 何気に危なかったなー。

 

「それで、なんでオッサンはこんな所に?」

「癖だよ。戦いがあったあとには、ここに剣が売られるんだよ。お前の臆病者の剣(チキンソード)がな」

「んで、それを見て売ったやつは馬鹿だなぁと笑い話にすんのか」

「そ。あとはまぁ、実力が伴ってなかったら借金こさえさせても買い戻させたりな」

「大変だなそれ。売値と買値に相当差がでるんだろ? 知ってる」

 

 ゲームのテンプレやしね

 

『同意です。けれどたまに同じ価格のゲームもあるので忘れないように』

 

 そこそこ普通に楽しかったロボゲーなー。

 

『あれは素晴らしいものでした。私のAIとしての自覚の始まりでしたしね』

 

 それに影響されてたまに“疑問”とか言ってるのよなー

 

『はい。憧れとはそういうものだとマスターから学んでいるので』

 

 厨二病ってか? 言い返せねぇわ真面目に。

 

「それじゃあついでに聞きたいんだけどさ。捨て値で売られてる中古の籠手とかここにあったりする?」

「お前、防具はちゃんとしたの買えや。死ぬぞ」

「金がないのにデカイ戦いが近いんだよ」

「なら、あの棚だな。前の持ち主の“生命の残り火”が強すぎて扱えない類の武具だ。ちょうど籠手があるし、サイズ試してみたらどうだ?」

「あ、良さそう。サイズいいかん……ジ⁉︎」

 

 ヤバい、これは重いぞ。

 

『ですが、乗りこなせれば良い武器になりそうです』

 

 だな! 残り火ってんなら! 

 

生命転換(ライフフォース)!」

 

 自分の色で、塗り潰せ! 

 

「……っらぁ!」

「あ、やりやがった」

「失敗望んでたんか? アンタは」

「借金で首が回らなくなる奴とか楽しそうだなってな」

「やっぱ最悪だわこの人」

「そう褒めるな」

 

 そうして、籠手をしっかりと装着する。手に馴染む、良い籠手だ。

 

 前に使っていた者か、手入れをしたものが良かったのか、状態は良好。細かいメンテナンスなどは必要だろうが、時間的にそろそろ合流なのでそれは無理だろう。

 

 けれど、やはり籠手があれば今までよりかなり無茶な動きができる。いざという時に腕を剣を持つ手を(ちょっとは)守れるというのは結構違ったりするのだ。

 

「店主さん、これ幾らです?」

「……お前さんみたいなのに惜しむ金はねぇよ。どっちにしろ棚を占拠しててうざったいと思ってた所だ。調整込みで2000……いや、1980で良いさ」

「あざーっす」

 

 そうして細かなサイズの調整や可動域の確認などでちょっと時間をかけた結果、そこそこ良い籠手を買うことができた訳である。やったぜ。ありがとう人狼さん。次のまでその命は忘れないよ。

 

「しっかしあり金全部籠手に使うとか、お前割と大雑把な奴なのな」

「そりゃ泡銭ですし」

「……何やったんだよお前」

「出会い頭にちょっとあって、つい」

「本当に何やったよ馬鹿弟子」

「弟子ってほどなんか教えられてねぇよ台無し師匠」

「なんじゃそりゃ」

「強さとか格好よさとかをなんか色々台無しにしてるから台無し師匠。どーよ?」

「……なんか偽名作らなきゃなーと思ってた所だ。ちょうど良いしダイナにするわ。今から俺はダイナ師匠な」

「“し”が一個消えてんじゃねぇか」

「“死”は離れた方がいいだろ?」

「それはちょっと思うわな」

 

 そうしていると、店員さんが籠手の調整を終わらせてくれた。

 

「お、いい感じ。良い仕事ありがとうございました」

「ただ対人やるらな気を付けろよ? ミスリル純度がそこそこ高い分生命転換(ライフフォース)の通りが高いからな。雷や炎はめっちゃ通るから」

「そもそも籠手でんなもん防ぐかよ。避けるか死ぬかだよ普通」

「ま、わかってるから良いさ」

 

「じゃ、頑張れよ馬鹿弟子」

「そのうちシアイでも頼みますよ、ダイナ師匠」

「シアイね。おっかねぇことで」

 

 そんな言葉を最後にオッサンは店を去って行った。なんでサマになってんだろなぁ、あの落ち武者のフリ。

 あの人、普通に副長さんより強いと思うんだけど。

 

 ていうか、正直、シアイってだけで死合いだと判別するあのオッサンも相当だと思うの俺だけかね? 性格の不一致で騎士団を追い出されたのかな? 

 

『マスターと同じレベルの破綻者ですし、あり得ないことではないかと。というかもしかして、あの方が事件の黒幕なのでは?』

 

 それはそれで楽しみだな。気圧されただけで死ぬかと思ったのは久しぶりだし。梅干先生の殺気には慣れちまったからな。

 

『慣れたというか、絆されたのではありませんか? お互いに。私にはマスター達は孫と祖父という関係に思えるのですけれど』

 

 先生が爺ちゃんとか最高じゃねぇか。

 

 という話をメディとしながら店の裏で剣を振る。

 

 籠手による動きの阻害は特になし。滑り止めにより握りも安定した。そして何より、軽い。

 

 良い拾い物をしたものだ。今度から金を手に入れたらこの店で荒らししよ。

 

 そうして動きの確認をした所で良い時間になった。店員さんに挨拶して転移する事にした。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 デブリーフィングルームに来た所で、ちょっと早くに来ていた長親さんとドリルさんがいた。

 

「こんにちはトリルさん。お金ください」

「藪から棒になんですの⁉︎」

「人の顔を晒して稼いだ再生数は美味しかったですか⁉︎どうせ撮るならもっとカッコよくして下さいよ!」

「あ、動画を見ましたの? それはどうもご贔屓に」

「……動画?」

「この人昨日の件動画にしてやがったんですよ。しかもなかなかの再生数」

「ええ、中学生カップルというのは絵になりますからね。あなたは妬まれてばかりでしたけども」

「それは嬉しいな。ダイハさんのことを良く思ってくれてるって事だし」

「へぇ、では視聴者の方々の中にミセスに声をかける人が出てきたらどうするので?」

「特に何もしないって。まぁ軽い気持ちで“付き合おうぜ! ”とか言う奴がいるなら何度か剣道するつもりだけど」

「おっかない話ですわね」

「だが、それだけ彼女を大事に思っているという事だ。良い男だな、君は」

「ありがとうございます」

 

「「それで、どこまで行ってんの?」です?」

「残念だけどAまでよ」

「唐突にやってきて何を言うだ貴様は⁉︎やった覚えとかないんですけど⁉︎」

 

 ふらっと現れてとんでもないことを曰うダイハさん。え、俺のファーストキス大丈夫だよね⁉︎

 

『推測、意識がないときに奪われてしまったのでは?」

 

 怖い事言わないでメディさん! 

 

「で、本当の所どこまでなのです?」

「ええ、呑気に寝ている顔を見ていると我慢ができなくなってしまってね、つい」

「ねぇいつの話? ねぇそれいつの話⁉︎」

「8年前ね。それを見た義父様に、我慢することの大切さを教わったわ」

「ありがとう親父! 信じてたぞ親父!」

 

「そういうのは、大切な時にやるから心に残るんだと。慣れさせてはいけないのですって」

「ブレーキじゃなくてジェットエンジンへの換装だったのか……」

「愉快な仲ですのね。素敵ですわ」

「.年相応に甘酸っぱくはないがな」

 

「ああ、それとドリルさん、動画を見たわ」

「お二人とも、無断での投稿申し訳ありませんでした。慰謝料ならきちんと払いますわ」

「そんなことはどうでも良いの」

 

「私とタクマの仲を広く周知させてくれるのなら、願ったりだわ」

「外堀をさらに埋めにくるかこの女」

「ただで転んでたまるものですか。私はそれなりに強いのよ」

 

「では、そのように」

 

 あれ? 俺の意志は? 

 

『古今東西、こういった場に置いてそんなものはないかと』

 

 男女平等主義はどこに行ったよこの野郎。

 

『AIに性別はありません』

 

 ですよねー。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

「んで、どうして無断で投稿なんてしたんだ? そういう不義理な事する人じゃないでしょドリルさんって」

「……動画の編集や投稿は妹がやっているのですわ。昨日は個人用の録画を投稿用の録画と間違えてしまったようで……」

「なんだ事故か。面白くない」

「そうね。もっと邪悪な理由ならこっちも邪悪に振る舞えるのに」

「ですわね。私も少し大人しすぎましたもの」

 

「……お前らは、自分達が善良だとおもっているのか?」

 

「「「当然」」」

 

「……真の邪悪か!」

 

 そんな感じに長親さんが覚悟を決めた顔をしたが、気にせずに噴水前に転移する。

 

 監視の目はない。リスキルはまだないようだ。ありがたい事である。



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12 王城奇襲作戦 プランB開幕

 第0アバターで西風亭へと赴き、路地の横から侵入する。便利だなーコレ本当。

 

「ちわーす」

「ああ、タクマ達か。よく来てくれたね」

「あれからどうだ?」

「……それは、少し妙なんだ。今までは僕がここに残ってイービーが変装してる騎士を護衛する形で敵をあしらっていた」

「だが、2時間ほど前から連中の動きが鈍くなり、城から遠い連中は意識を取り戻すこともできている。なんだか分からんが、弱くなっているぞ」

「つまり、反撃開始?」

「そのつもりで、私のゲートを使った。私のゲートは遠くに声を繋げることができる長期戦型だ。あいにくとこの連絡が終わってからは寝るしかできんが、どんなのが来ようと王子が正面で戦えるなら余裕だし、そうでなくても王がいる」

「……病床に伏せってるという話ではありませんの?」

「ああ、そうだ。だが、どうせ治らず助からぬ命ならと平然と燃やすお方だ。いざとなれば王は動ける」

「……そもそも、何故王が動からことが大事なのだ?」

「このソルディアル王国の最強は王だからだ」

 

 何その冗談。

 

「生命の属性はそれほどの力を持つのだ、と認識しておけばいい。稀人達の文化は分からぬが、我が国が少しおかしいとは理解しているからな」

「そうなの。生命の属性ね……」

「そんなんなくても強化版アルフォンスだろ? そりゃ強いと思うの俺だけか?」

「……その答えは、王国が出来てからずっと多くの学者が議論しているが! 分からぬのだ! 何故王族があれほどの剣才を持つのかなどということは!」

 

 そう叫ぶ副長さん。そりゃ守るべき人が自分より強いってもにょるよなぁ……

 

「……父上のことは置いておこう。城に行くぞ、皆!」

 

 ものすごく慣れない感じに誤魔化すアルフォンスの鶴の一声で、俺たちは城へと進軍を開始した。

 

 当然ながら、正面衝突である。城に侵入しようとていた皆には最終作戦コードを伝えてある。それぞれがチーム、あるいは個人で動いているだろうけれど、最終的にどういう作戦にするかだけは決めていたのだ。

 

 そうして噴水前にて生命転換(ライフフォース)の練習をしている皆について来い! と言う。大体が俺かドリルさんを見て察して動き始めた。

 

 そうして、数を集めて城の警備の類にぶつかろうと言う時に、イービーさんと一人のプレイヤーがやってきたのを見つける。

 

「監視要員の無力化は完了した。プレイヤー側の指揮官は誰だ?」

 

 “何このできるメガネ? ”とイービーさんに目を向けると、“お前達の仲間だろ? ”と返された。マジか。プレイヤーなのかこの人。

 

 スパイ映画とかに出てきそうなタイプのイケメンだった。滅べばいいのに。

 

「んで、俺たちの指揮官って誰なの?」

「ドリルで良いんじゃないかしら。人の上に立つのは得意でしょう?」

「ならば、私が。これよりプランBを開始致します。皆さま、存分に」

 

 そうして湧き上がる「ヒャッハァ!」という声。メガネさん⁉︎

 

「良い事言うじゃねぇかお嬢! なら、俺は行くぜ! 上からな!」

「なら騎士団は王にこのことを伝えよう。念のため護衛は必要だからな」

「イービー先輩、地面に転がりながら言っても威厳とかないですよ」

「……辛辣だなビーツ」

「なら僕……私たちは巫女達を護りに行こう。万が一があっては事だ」

 

 そうして始まる城攻め。

 

「所でプランBとはなんなんだ?」

「犯人を見つけ出す作戦です」

「それは頼もしいな」

「ええ、誉めてもらっても構わないわ」

 

 プランBとは、「第0を見れる怪しいやつ全員ぶん殴っておかしな反撃をしてきた奴が犯人よ」というどこぞのバイオレンスダイハードが二日目に“これまともに推理するより暴れ回った方が効率いいのではないか? ”という暴論をそれっぽく飾り立てて打ち出した方針である。この作戦を知った時、顔に傷のあるだけでめちゃ常識的な長親さんは「人は、ここまで邪悪になれるのか……」と項垂れていた。なんでこの人こんなゲームやってんだろ? 

 

「では、行こうか!」

 

 そうして号令をかける王子。しかしその頃にはもう敵方の騎士達はやってきていた。

 

 こちらの想定通りに。

 

「ナイスですね、メガネさん」

「ハハッ! 俺は適当にやっただけださ! あと俺は一応メガ・ネビュラな」

「明太子タクマです。てか絶対メガネに繋がるように付けたなそのHN」

「そりゃそうさ」

 

 そう言って笑う俺たち。

 

 眼前では、集まった騎士達の事を、騎士のビーツさんが押さえ込む。

 

■■■■(ゲートオープン)! 痺れて止まれ!」

 

 彼のゲートは、無差別放電の能力。本人は色々頑張っているらしいのだが未だにコントロールはできていないのだとか。というわけでの爆弾じみた特攻である。

 

 そうして騎士達が痺れて動かなくなった所で号令もなく皆が攻め込む。

 

 技が拙い者、巧い者、様々がいたが皆が一手で剣を弾き落として味方を増やしていった。

 

 

 

 

 

 そうして勝てるぞ! と誰かが言った時、アルフォンスが震えた声でこう言った。

 

「どうして……()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、それは前提の崩壊。ここは巫女の結界があるから騎士を操れない。そのはずなのに()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それはつまり、結界がなくなったということ。

 

「作戦変更! タクマ! アルフォンスくん! 巫女さんのところに最速で! メガネさんは騎士達と王様の安否確認に! 残りは第0でタクマを追いかける! 駆け足!」

 

 そう叫ぶダイハさんの声に、俺とアルフォンスは心で反応していた。

 

「最短経路は⁉︎」

「床を抜く! 大広間へ!」

 

 そうして大広間までの道を走り、扉を蹴破った先には。

 

 一人の、闇を纏う騎士がいた。

 

 そうして、その男から。正確にはその男の胸にある金色の球体からは()()()()()()()()()()()

 

《天狼シリウス》と。

 

 目を合わせる事もなく、言葉を交わす事もなく、全開の生命転換(ライフフォース)でシリウスに斬りかかる。そして俺にさきんじてアルフォンスの光の剣による突きが着弾するが。

 

 闇を纏ったその爪にて、その剣はかき消された。

 

 そしてそのままの回し蹴りにて俺の首を跳ねに来たのを殺気のフェイントで半歩ずらして潜ろうとしたが、完全に読み切られて致命のはずの一太刀を斬撃による防御に使わされた。

 

 そして、俺の剣は奴の足を切り裂けなかった。単純な硬さ故に。

 

「何故ですか? 何故あなたが大魔の下僕になっているのですか!」

 

「護衛長殿!」

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 その男は、アルフォンス達との作戦会議にて真っ先に容疑から外された者であった。

 

 品行方正、というのを最も体現しているその生き方がその理由だ。

 

 彼は、純潔である(とされているだけでかなりの肉食の)巫女達に幾度と無く真摯に言い寄られていた。しかし、彼は一度たりともその想いに応える事をしなかった。

 

 “愛した者が居るからだ”、と。

 

 もう亡くした方に操を立ててどうするのですか! と叫んだ巫女もいた。しかし、彼は決して頷かなかった。

 

 そういう、クソ真面目で堅物で、しかし巫女の皆を深く思いやっている男だ。故に彼には数多の巫女の分けた命による護りにがあり、巫女の結界の最も近くに存在して、そして彼自身王に次ぐほどの剣の腕を持っていた。

 

 それが彼、護衛長エディという男だった。

 

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

「私の目的はただ一つ。彼女達を安らかに眠らせる事だ」

「それはどういう⁉︎」

「巫女達は、半年前の戦線崩壊からずっと死に続けている。内と外に結界を張り続けているからだ。しかし、我らにはもう力はない。そうなれば訪れるのは終わりだけだ。ならせめて、その終わりを安らかなものにしたいというのは間違いか?」

「間違いだ! 彼女達の献身は必ず身を結ぶ! そうさせる! 私が必ず、その術を見つけ出す!」

「できるものか!」

 

「己が母の死すら知らぬ、若輩が!」

 

 そうしてアルフォンスが惚けた一瞬で、シリウスになった彼は襲ってくる。狙いは当然アルフォンスだ。

 

 どうにかカバーに入る事ができた俺は内心冷や汗を掻く。狼としての身体の変化が理由で剣を持てない手になった事は救いだろう。こんな化け物じみた身体能力で振るわれる剣など面倒な事この上ないのだから! 

 

「何故邪魔をする! 小僧! 貴様には関係ないというのに!」

「いや、事情がわかんないんだから友達の味方するだろ普通」

「タクマ?」

「異邦人風情が……」

「ああ、俺は異邦人だ、稀人だ。この世界が滅ぼうが関係なんてないよ。けどさ」

 

「だからってムカつく奴を切らない理由にはならないだろ」

 

 その言葉に唖然とするシリウスを見据えながら、小声でアルフォンスに声をかける。

 

「それくらいシンプルで良いんだよ、アルフォンス。幸いあいつは硬いから、殺す気でいってもそう死なないだろうさ。だから、奴を倒すぞ」

「……全く、年下の君には救われてばかりだ!」

 

 さて、それじゃあコイツをボコボコにするとしますか。

 

『切るのではないのですか?』

 

 だってあいつ硬いんだもん。切れないんだよ。ストレスだよ。

 

『面倒な手合いですね。それではあのあからさまなコアを狙いますか?』

 

 とりあえず身体的か精神的にダメージを与えたいな。そこからのあのコアの動きを知りたい。治すのか、犯すのか。身体を犯してくれるってんなら、技がなくなって()りやすくなる。治すってんなら俺が体張ってアルフォンスがトドメだな。

 

『ですが、良いのでしょうか? 何やらこの戦いは突飛に思えます。巫女を殺すのが目的なら、一人でやれば良かったではありませんか? というか、犯人発覚がどうにも唐突ではありませんか? これは推理ゲームだというのに』

 

 さぁ、その辺のことは氷華が推理してくれるさ。だから、今は。

 

『ええ、戦いに集中しましょうか』

 

 

 爪による斬撃により空気が削られる。それにより引っ張られる俺とアルフォンス。しかしアルフォンスは光の剣で、俺は風の剣でその勢いに乗って殺しにかかる。

 

 跳躍しての大上段を放つアルフォンスの足元を潜って関節部を狙う俺。だがシリウスはそれを受け切れないと見るやすぐに引き、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それに対して再び振るわれる剣。アルフォンスが光の剣を()()()()その脳天に叩きつける。しかし闇で受け切られる。とはいえ速度は落ち、シリウスは地面に落ちたのでそのまま俺の剣を膝に向けて振り抜く。

 

 その剣に乗る風の刃は、闇を切り裂き狼の膝に深手を与えるに至った。

 そして、それによる威力で狼の弾道は変化したことでアルフォンスはシリウスの攻撃から逃げ延びた。

 

「まずは」

「足一つ!」

 

 戦いは、まだまだこれからだ。しかし、どうしてか負ける気はしなかった。



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13 王城奇襲作戦 天狼シリウス

日刊オリジナルすら落ちた悲しみにめげずに連日投稿。
頑張るぞー。

尚、評価、感想をくれると泣くほど驚きます。


「敵の能力にアテは?」

「彼のゲートは長期戦型、雷属性、神経の反応を操る力と聞いている。使えないとは思わない方が良いだろう」

「あのコアで能力を拡張してうんぬんかね? って事は、傷の治療はそのついでか」

「いや、違う。アレは生命の属性の力だ。心を闇に染めているとああなる」

「へぇ、二重属性ってのか?」

「生命の属性は本来皆が使えるのだ。それが強い者が居ないだけでな」

「今度教えてくれよ、便利そうだ」

「わかったが、そう期待するなよ?」

 

「随分と余裕だな、貴様ら」

 

「「お前の強さは理解した」」

 

「未知がないのなら」

「だいたい()れるさ」

 

「ほざくな、小僧共!」

 

 そうして、シリウスは駆けてくる。だが、やはり自由さがない。

 

 アレほどの身体能力を持っているのに、それに見合った力技が磨かれていない。当然だろう。彼は長期戦型の使い手、今のような適当な一撃が必殺の状態などそうそう出会えないのだから。

 

 突くなら、そこだ。

 

 トップスピードに乗るその直前に、踏み込んだアルフォンスが光を纏った剣により衝撃を叩きつけ、そこにすかさず俺が踏み込む。

 

 コイツの総合スペックは俺よりも強いアルフォンスもゲートを使わなければまず負けるだろう。

 

 だが、そんなのは向こうが全力を出せた場合だ。

 

 単純に、1vs2であることによる手数、光と風による攻撃力。そして、必然の連携。

 

 それが、()()()()()()()()()()天狼シリウスの動きを的確に潰していた。

 

 シリウスは、生命の生命転換(ライフフォース)のお陰で硬いうえに再生する。だが、やはり生命転換(ライフフォース)なのだとか。ガス欠にすれば殺せる。

 

 まぁ、そんな楽には行かないのだとは理解しているが。

 

 瞬間、シリウスの生命転換(ライフフォース)が爆発する。所謂全方位攻撃だ。

 切って少しは衝撃を和らげたが、その一手が奴に最悪の手を打たせた。

 

■■■■(ゲートオープン)!」

「決死の覚悟か!」

 

 そのゲートはアルフォンスとの直線上にあり、その足を止めている。今なら首を跳ねることが出来るかもしれないが、あからさまに罠だ。

 

 なので、ちょっと緩く前に出る。そして殺気だけ飛ばして攻撃を匂わすと、そこでは狼の爪が空間を削っていた。やっぱ罠かー。

 

 削られた空気に乗って距離を詰めるが、向こうはゲートを潜り終えている。

 

 見た目の変化は、頭部が兜に覆われたくらい。狼型の兜とかオーダーメイド? 

 

『魂でのオーダーメイドかと』

 

 たしかにそうな! 

 

 そして、反射的に背後に剣を振ってしまった。聞いてはいたが厄介な力だ。

 

 先程の一瞬、背後からの奇襲を体が察知したからだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 アルフォンスはギリギリ堪えてくれたようだ。ありがたい。

 

 だから当然シリウスの狙いは俺であり、そこに振った剣の勢いを殺さないで放つ回転切りを叩きつける。あいにくと爪に防がれたが、それで良い。そのまま押し込もうとして()()()()()()()()によって握りを崩しかけた。が、流石に二度目は喰らわない。そのまま無理やり握りを強くして剣を振る。早速役に立ったガントレットの滑り止め! 

 

 しかし、何かの鬼みたいなゲート。出来る事はそう多くないとは聞いているけど、多くないからこそ厄介だ。一度でも傷を負えば終わりだとひしひしと伝わってくるのだから。

 

 アレは間違いなく()()()()()()()()()()()()()。かすり傷一つの痛みが倍増し、あるいは致命部への傷の痛みが消滅し、それが故で殺される。

 

 本当に本当に剣を持たれなくて良かったッ! ありがとう両手の爪さん! 

 

 というわけで死ね。

 

 合わせた剣だが、当然そのままでは力が足りない。だから操るのは風の力。剣が風を纏っているのならそれをある程度操る事もできるはずだ。

 

 直感に任せて、剣の風をより鋭くする。そしてその刃はするりとシリウスの片腕を切り落とした

 

 切れ味を伸ばす風。恐ろしい使い勝手だ。

 

 そして、こんなチャンスは次には来ない。

 

「アルフォンス!」

■■■■(ゲートオープン)! 言われなくても!」

 

 そうしてシリウスの背後に出されたゲートは彼の逃走を封じ、そのままアルフォンスの光の剣が胸にあるコアを貫いた。

 

 ……貫いてしまった。

 

 瞬間爆発するモヤ。その中の怨念と意志がシリウスへと纏わりついて3メートルほどの巨大な狼へと化身した。

 

 そしてそれがさらに蠢き、2メートルほどの高さを持つ()()()()()黒い狼人へと変身した。

 

 ヤバい、これはヤバい。

 

「なぁアルフォンス。一旦逃げね?」

「タクマ、背中を奴に向けられるか?」

「死ぬわな、普通に」

 

「あら、勝機は見えたわよ」

「ダイハード!」

「今のを第0でよく見ていたの。体の色の変色や動きの変化をね。あのシリウスの中の男は死んだわ」

「クッ護衛長殿!」

 

「だから、生き返らせればあの黒いのは離れる。そうなったらボコれば終わりよ」

 

「「は?」」

 

「王子サマは知らないでしょうけど、私は死にかけのプロなの。蘇生可能かどうかは見ればわかるし、生命転換(ライフフォース)放出(ディスチャージ)で戻せる確信はあるわ。どう? 乗る?」

 

「……とんでもないな、君の奥方は」

「その辺の事は微妙な間柄なので追及はやめて欲しかったり」

「決まりね。どうにかしてシリウスを止めなさい。あとは私がなんとかするわ」

 

 スッと闇の剣を構えるシリウス。

 それに対しての構えは、俺もアルフォンスも正眼の構えみたいなの。名称? ロングソードの流派とか我流だからわかんねぇよ! 

 

『プフルークという構えが近いですが、細かく違っていますしね』

 

 だよなー。動画見たけど殺意が足りなくて参考にならんのよ。

 

 そんな自然体でゆっくりと近づいていく3人。摺り足の文化はあるのな。不思議。

 

 と、そんなのはファンタジーだからで済ませてしまえばいいのだ。目の前の奴を殺すことに集中集中。

 

 ……しっかし見れば見るほど勝てる気がしないんだが

 

『技量で負けている上にゲートも使えませんものね』

 

 もうだいぶ見たからあとなんかのきっかけがあれば使えそうなもんなんだけどなぁ……

 そうして、誰も仕掛けることなくあと一歩の間合いまで入った。

 

「一つ聞く」

「なんだ? 狼男さん」

「貴様の、名前は?」

「タクマ。明太子タクマだ」

「……メンタイコ?」

 

 今だ! とは言わない。どう見ても誘いの隙だし。

 

 そしてなにより“行ける! ”という錯覚が自分の中にある。これが彼の本来のスタイルなのだろう。エグいことこの上ない。

 

「アルフォンス」

「ああ!」

 

 そうして、俺とアルフォンスは小細工のない全力の一閃を最高の踏み込みと共に放つ。俺は切り上げ、アルフォンスは上段切りだ。

 

 どうせ小細工や策など大した意味をなさない。一流とは往々にしてそういうものだ。

 

 そうしてその二つの剣は、ゆっくり速いという意味のわからない綺麗さの剣術によって振り払われた。手への反射的な痛みとともに。相変わらずやってくれるが、まだ想定内だ。

 

 俺とアルフォンスはそのまま剣を捨て格闘戦へと移行する。生命転換(ライフフォース)を全力で叩き込む。それしかロクなダメージにはならないからだ。

 

 だが、そんなものは見られている。だから今まで向けていなかった方向に殺気を向けた。

 

 それは地面。砕ける自信などはない。しかし、無駄に鋭いともっぱらの噂である俺の殺気を地面に向けられたのなら奴は反応してしまう。

 

 彼の殺すべき、巫女達の存在があるために。

 

 貴様! と叫ぶ声の出る前に、アルフォンスの拳が届く。その拳は顔面にある兜を吹き飛ばし、俺にトドメを任せてくれた。

 

 単に俺が半手遅れたというだけなのだけれども。それは任せてくれたと思うべきだ。

 

生命転換(ライフフォース)風属性付与(エンチャントウインド)!」

 

 竜巻を、右腕の籠手の上に作り出す。それは自分のいま唯一作れる風である“切り裂く風”をひたすらに回転させたもの。

 

 その拳はアルフォンスのダメージを負ったシリウスの、顔面へと闇を切り裂き突き刺さった。

 

「「今だ!」」

「わかっている、わ!」

 

 そうして突っ込んでくる光り輝くダイハード。そして、闇の吹き飛んだ顔面を両手で掴み、その命の光をたたき込んだ。

 

生命転換(ライフフォース)放出(ディスチャージ)

 

 その、生きるという意志そのものの輝きはシリウスの、いや護衛長の体の中から闇をはじき飛ばし、護衛長さんの命に再び火を灯した。

 

「あなた、根本的には死人にしか取り付けないのでしょう? だから今回は便利な力を持っただけの護衛長さんを最後まで利用した。本来は途中でアルフォンスへと乗り換えるつもりだったのでしょうけど、ご愁傷様ね。私のタクマくんに会ったのが運の尽きだわ」

 

「キ、サ、マァ!」

 

 そうして自信満々に彼女が天狼シリウスに放った攻撃。

 

 そこには、今まで感じていたどんな命よりも凄まじい存在感を感じさせる、当たればどんな化け物だろうと一撃で倒せるだろう命の輝きがあった。

 

 そしてそれは。

 

 あっさりと躱されて、致命傷を負わされた。

 

「……流石ボスキャラね。私の攻撃を簡単に防ぐだなんて」

「あのテレフォンを防げない奴はこのにはいねぇと思うぞ」

「まぁ、いいわ。タクマくん、私がデスペナる前に伝えたい事があるの。顔をこっちに」

「……なんだ?」

 

 そうして氷華は、俺の頬にキスをした。

 

 残り全ての、生命の力と共に。

 

「じゃあ、任せたわ。派手にぶっ飛ばしてやりなさい」

「キスである意味はあったか?」

「その方が、気合が出ない? 男の子」

「ノーコメント、だ!」

 

 そうして死を迎える彼女、その身体はログアウトのエフェクトと共に宙に消えた。

 

 そして、アルフォンスから臆病者の剣術(チキンソード)が投げ渡される。どうにか拾ってくれていたようだ。あのテレフォンその為かよ本当にただでは転ばないな! 

 

「行くぞ、タクマ! これで終わらせる!」

「ああ!」

 

閃光剣(レイブレード)、展開!」

生命転換(ライフフォース)、全開!」

 

「「ぁあああああああああ!!!」」

 

 そうして、後先を考えることをやめた俺とアルフォンスの剣が、再び狼の形を取った天狼シリウスへと襲いかかる。

 

 シリウスは自前の高速移動で退避しようとしているが。いまなら俺もアルフォンスもそのスピードに追いつける。

 

 大広間全てを使った超高速戦闘が、今始まった。



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14 王城奇襲作戦 彼の聖剣の目覚め

 まず、全力で一歩踏み込んだ。すると着弾点はシリアスの目の前。隣にはアルフォンス。速度を基準にアバター性能を大体把握。ついでに無拍子気味に一太刀。シリウスの闇によって受け止められるが、切れ込みは入っておりそこから氷華の命は侵食している。

 

 あいつのやったのは他人への生命の譲渡、生命変換(ライフフォース)により作られたエネルギーを俺の魂の根幹に叩き込んでそれを賦活した状態。……てな感じに解釈している。頼むから俺のためなら死ねる! とかいう自己犠牲ではないでくれと願う。

 

『その可能性が最も高いかと』

 

 否定の言葉が欲しかったかな! 

 

 

 俺の剣が首の払いにより弾かれると、シリウスはアルフォンスの剣が届く前に分身を生成、噛み付きによる真剣白刃取りを実行してみせた。しかし、流石のアルフォンス。鎧モードの光剣の出力を上げることでその歯を蒸発させてシリウスに切り込んだ。

 

 しかし、()()()()()()()のスピードでその場を離れ、追撃を回避した。

 

 群狼の時より、死体の回収が速い。というか一瞬だった。

 

「パワーアップ?」

「条件が不明だが、どちらにせよ長期戦は無理だ! 速攻でカタをつける!」

「だよな! ダイハードモードもそんなに保たなそうだし!」

 

『なんですかダイハードモードとは』

 

 なかなか死なない奴の加護だ。死ににくそうだろ? 

 

『確かに。今のマスターからは氷華様の生きる魂が乗り移っているかのようです』

 

 つーわけで、コレ切れるまでは戦いまくる! 

 つーか殺す! 

 

『マスター、敵が死ぬたびに強くなると言うのなら、面倒なことになるのでは?』

 

 大丈夫、アイツは多分コアになってる1匹を殺せば残りも全員死ぬ。じゃなかったら幻痛事件の被害者の一人が生きてる理由にはならない。

 

『それは現実の話ですよ?』

 

 混同しちゃ不味いか? 

 

『いえ、理解しているのなら構いません。いつものように行きましょう。ゲームと現実の区別がつかない少年として』

 

 わかってるじゃん相棒! 

 

 攻め手はもはや変えられない。俺もアルフォンスもアクセルを踏みぬいてニトロを点火しているような状態だからだ。俺の今の状態は疑似ゲートというに足る状態なのだろう。アルフォンス同様に命がバカみたいな速度ではじけ飛んで輝いている。

 だから、攻めて攻めて攻め続ける。パワーアップの原理など、アップしたパワーの上から切り殺せばどうでもいいのだぁ! 

 

 と、冗談のような思考を吹き飛ばす敵の妙手がやってきた。3体に分身し、いったいずつによる俺たちの対応。そして残った一体は()()()()()()()()()。冗談! 

 

「2体引き受けた!」

「暗殺任された!」

 

 即時に自分の役割を宣言。地面を抜かせるわけにはいかない。そうなれば内向きの結界とやらの中にいる魔物たちがあふれ出てバッドエンドだ。だから防御力はないが殺傷力のある俺が前に出て穴掘りを殺す。

 

 そのために、ステップフェイントを混ぜて一匹を抜き去り穴掘りの前に出る。

 地面に向けていた爪が俺に向けられるが、そんなものは今更だ。空間を削られようとどうでもいいくらいには今の身体能力は馬鹿げている。

 

 その一太刀は、確実に狼の頭蓋を貫いた。

 

「また、強くなった!」

「分身の死亡がトリガーか!」

 

 そうして剣をとって返すも、奴は一瞬で回収した死体でもう一体分身を作っている。無限ループの無限強化パターン! 

 

「大技あるか⁉」

「まとめてやれるかもしれないが、溜めが要る!」

「条件!」

「高さ! 、5秒!」

 

 つまり、一閃で切り裂くので狼たちのバイタルパートは剣筋の直線状に高さを合わせなければならないと。そしてその溜めには5秒必要だと。

 

 なかなかハードなオーダーだ。

 

『ですが、やるのでしょう?』

 

 当然! 

 

 3体の狼を速度で翻弄することはできない。阿呆みたく速いのだから。だから3体にするべきは、虚実入り混ぜた牽制による位置調整! 

 

 殺気を一体のシリウスにぶつける。上段からの首狩りだ。

 しかしそれは当然ブラフで、横薙ぎによる爪への攻撃を行う。それは当然防がれるが、それにより一匹はほかの2匹の近くへと吹き飛ぶ。無駄に硬いからそうなるのだ。

 続いて、3体すべてに対しての連撃のフェイント。それはただのフェイントだと()()()()()。それにより奴らはこちらを警戒し集結。3匹同時でのアルフォンスへの攻撃を実行しようとしていた。

 

 今度はそれに対して脇を抜けながら殺気を乗せずに放つ無拍子もどき。それは先頭のシリウスの足を切り裂き、玉突き事故により3匹を転倒させた。そうなればやるのは当然の同化と別部位の分身再現。奴は固まった3匹がまとまりながらその背中に狼の4本脚を生やして異形のまま距離をとる。

 しかし、そこに向けて俺の剣の殺気を乗せた一閃を放っている。そして、今までの奴の俺との戦闘経験からその()()()()()()一撃はフェイントであると決めつけているだろう。

 

 何せ今の奴は体が狼型ではなく完全な異形。目で俺の動きをとらえることはできない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして叩き込んだ上段からの一撃。それはシリウスの生命の生命転換(ライフフォース)を完全に抜くことはできていない。

 

 だから、その剣は鈍器としての一撃をシリウスに与えた。床にたたきつけたのだ。

 そして、そこからはシリウスに何もさせない。分身噛みつきをいつでも回避できるように反応できる距離は取りながら、ひたすらにシリウスを叩き続ける。

 

 だが、それの抜け方は実は簡単だったりする。おれは別にマウントをとっているわけではないのだから、俺の連打の間に大量に分身して群れになって逃げればいい。

 それに気づくのはそろそろだろう。何せシリウスは()()()()()知能を持っているのだから。

 

『カウントゼロです』

 

 さすがメディさん! わかってるぅ! 

 

 そうして分身回避されるように少し大振りに振りかぶった瞬間に奴は大量に分身した。その数は数えるのが馬鹿らしいほどだ。

 

 だが、この大振りには叩きつけは存在しない。振り上げた勢いのまま跳躍し、バック中のようなさなかアルフォンスの振るう光の、生命の剣を見る。それは一瞬で20メートル近い長さへと変貌し、すべてを切断する鋭い輝きを放たせ。

 

 ゲートを開いた身体能力のすべてを用いて、すべてのシリウスを一閃の元に切り裂いた。

 

 瞬く間、動体視力に優れる俺でも“振った”という事実しか認識できなかった、絶殺の一閃だった。

 

 だから安心してしまったのだろう。たった一瞬。時間にして0.05秒もないその隙に

 

 極小サイズの()()()()のシリウスが、床を食い破って下の、巫女の部屋へと侵入することを許させてしまった。

 

「タクマァ!」

「アルフォンスゥ!」

 

 もはや言葉で説明するのも放棄し、二人での一撃によりシリウスの開けた穴を大穴にする。

 

 そこで見えたのは。

 

 命を無残に散らされながらも、少しでも仲間たちの命を長らえようと反射でシリウスを止めようとあがいていた熟練の巫女たちと

 

 たった一人になっておびえている少女が、それでも内側にいるモノたちを解放させないように全力を尽くしている姿だった。

 

 そして、その背中にシリウスが襲い掛かろうとしている。

 それに対して、俺はアルフォンスのことを全力で蹴り飛ばし、アルフォンスはそれに合わせて俺の足から跳躍しシリウスを叩き切ろうとして

 

 ゲートの時間切れにより、無力化したアルフォンスと少女は無残に食い殺された。最後の一瞬で、動かない体を使ってそれでもシリウスから彼女を、この国を守ろうとした誇り高き王子は、ここに死んだのだ。

 

 

 

 ……時間は、まだあっただろ。

 

『おそらく、大技に使った時間が響いたのでしょう』

 

 そうして、茫然自失となった俺が見たのは

 

 “あとは任せた”なんて無責任に思いやがっているこの世界の友人の目だった。

 

 メディ、残り時間は? 

 

『あって3秒かと』

 

 ならば、一太刀は放てる。

 アルフォンスを飛ばした反動で天井に着地した俺は、すべての技を加速状態での突きにかけて天井を蹴る。

 

 そしてその神速の突きはシリウスの生命転換(ライフフォース)を突き破り、しかしその頑強な表皮をわずかに貫く程度に終わった。

 

 そうして俺の命が消えかけるその時

 

 

 アルフォンスと似た温かさの、命の光がシリウスを両断した。

 

「……勝手に死ぬな、アルフォンス」

 

 そう呟いたのは、アルフォンスによく似た顔立ちの、青白い顔色をした寝巻の中年だった。

 魂で理解できる。彼こそがアルフォンスの父親なのだと。

 

「少年、まだやれるか? 

「……やります」

「じゃあ、私が死んだら頼む。ここから先は地獄だ。封印が消えれば結晶からアレの子供たちが出てくるだろうが、私が生きている限りは皆殺しにする。そして、私が死んで尚アレが出てこないのなら、君に続きを頼みたい。これから続きやってくる、私の国には過ぎた騎士たちに戦いをつなぐために」

「何言ってんですか。そんな、()()()()なんかでできるわけが!」

「やるのさ。これが今の私の聖剣だからね」

 

「この国では、聖剣を信仰している。けれどそれは伝説の剣を指しているんじゃないんだ」

 

「守ると決めたその時に、持ってるそいつが聖剣だ」

 

「そういうことなんだってさ」

 

「だから、君は君の思いでその聖剣を振るってほしい。それが息子のための怒りであることが、私には誇らしくてならない」

 

「さぁ、ラズワルド=S=エコーリア。最後の舞台だ! ■■抜刀(ゲートオープン)!!」

 

 そうして現れたのは、アルフォンスに似た鎧の剣士。

 

 彼は、結晶から溢れ出た数多の魔物を火かき棒で切り裂き殺し続ける剣の鬼。剣王という異名がするりと頭に入ってきた。

 

 そして、5分間の聖戦が終わり、ラズワルド王は殺された。

 俺の目に、しっかりと生命転換(ライフフォース)とゲートの使い方を見せつけて、次の戦いに、あるいは次の次の戦いに繋げる為に。

 

 その背中を見ていたから、俺は剣を投げ渡す事も、隣に飛び出す事も出来なかった。

 

 それが、命を燃やしている王への礼儀だからだ。

 

 だが、もう王は死んでしまった。

 

 なら後は、回復に努めていた俺が立つ時だ。

 

『準備はよろしいですか?』

 

 ああ。最後のピースは王様が埋めてくれた。抜くぞ、俺の聖剣を! 

 

聖剣抜刀(ゲートオープン)!」

 

 そうして、俺は初めて俺の聖剣を抜いた。

 

 俺の姿を後で確認した所によると、それは緑のマフラーが追加されただけのチンケな変身だったらしいが。

 

 時間切れ以外で負ける気は、しなかった。

 

「風よ、荒れ狂え!」

 

 ラズワルド王の刈り残した雑魚を、纏めて風の刃で斬り殺す。

 

 俺のゲートは短期戦型には長い。中期戦タイプのゲートだろう。能力は、風の操作。とりわけ風で作られた刃の操作が能力だ。

 

 そうして出てくる次の魔物ども。まだまだ奴とやらには遠いようだ。大蛇やら大鬼やらワイバーンやら、雑魚がまだ多い。

 

『推定カウントは、20分です。大技は抜いての力の消費の最小化を続けて下さい。……この戦いに限ってはマスターに正義の理由があると信じられます。私の作られた心でも。ですから、勝ってそれを証明しましょう』

 

 一切承知! 

 

 

 まず、自分への追い風によって加速して大蛇に近付き、風の刃を口の中に入れて爆発させる。そして俺の背中を襲おうとしている大鬼を局地的向かい風で崩し、返す刀で首を跳ねる。そしてワイバーンは火を吹いてくるが、それは俺へは意味がない。風で逸らして、1匹ずつ身体能力を生かした斬撃で斬り殺していく。

 

 そうして現れるのは、次の陣の敵。そこにはこの地下の半分を統べるような巨竜が現れた。なので、その口の中に侵入して内部から体をズタズタにして殺す。そして腹を破って次を見る。

 

 そこには、金属でできた体のゴーレムが数十体。近づいて関節部を風を纏わせた刃で斬って分解する。それを数十回。次

 

 現れたのは背中に翼を持つ剣士達。加速した意識の中で聞く限りではゲートを使えるようだ。なので開く前に風を使って崩してまとめて風で削り殺す。次

 

 現れたのはよくわからない光の生き物達。炎や風などさまざまな属性の生命転換(ライフフォース)にて守られている。だが良く見ればコアになってる奴は見えるので、そこに剣を振る。

 

 すると、炎が俺の腕を焼いてみせた。反射的に力を込めて払えたものの、ダメージは大きい。初見殺しが混ざってるのかよモンスターども! 

 

 距離をとって風の刃でコアを狙い斬り殺す。今ので腕の大事なところが壊れた感触がある。もう細やかな技は使えないだろう。だが、次

 

 現れたのは、闇に纏われた鎧の騎士達。

 アレが生命の生命転換(ライフフォース)によるものなら、大技でなければ殺せないだろう。

 

 そう悩んでいた所で、足音が聞こえてきた。おそらく騎士達がやってきたのだろう。ならば思い残す事は何もない。

 

「残り火、全部使い切る!」

『マスター、出力を全て推進力と切れ味に! 剣を振るう技がないのなら!』

 

「『ただのスピードだけで切り裂き続ける!』」

 

 そうして風に乗った俺は固めた腕の剣の風によって騎士達を斬り殺した。だが、最後の一人にゲートを使われた。能力は恐らく重力系。

 

 おれの足は自重を支えきれずに折れ曲がった。

 

 だが、まだだ。剣を奴に向けて最後の技を放つ。圧縮した斬撃の風を爆発させる、必殺の自爆技。

 

「後は、任せた!」

 

 そう言い残して騎士を道連れに俺は死んだ。

 

 

 

 それが、《Echo World》における、俺の二度目の死であった。



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15 第一回デブリーフィング

「それでは! 記念すべき第一回デブリーフィングを開始します! ……アレ?」

 

 AIのマテリア嬢が叫ぶが、場は冷え切っていた。

 

 具体的には俺の隣にいるダイハさんのせいで。

 

 まず、あれから起きた事を語ろう。ラズワルド王と俺の決死の時間稼ぎにより、あの結晶の中にいた護衛のモンスターは壊滅した。それは、辿り着いたプレイヤーのうちの最初の犠牲者が、「影っぽいのが喋って良くやったとか言ってた」という事を吐いていたし、他に敵も居なかったので本当にソイツが王の言っていた奴とやらなのだろう。

 

 そして、当然のように騎士達とプレイヤー達は戦いを始めた。俺たちが命懸けで繋いだレイドバトルだ。それはもう派手な戦いだった事だろう。騎士達はゲートを出し惜しみせず。プレイヤー達も死力を尽くして戦い抜いたのだろう。

 

 そして俺は今回のプレイヤー大勝利の踏み台になる。まぁそれも良いかとか考えていた。

 

 だけどこのゲーム、ちょっと頭がおかしい。

 

 騎士達と数合交え、現状を把握したその奴とやらは。

 

 ガン逃げに徹したのである。

 

 そうして、ゲートが切れるまで逃げ回った奴は短期戦型、中期戦型、長期戦型と順番に時間切れになった奴を殺して周り、そのあとまるで理解しているかのようにプレイヤーをズタズタにして殺し始めたのだ。そうしなければすぐ戻ってくるのだと。

 

 実際、俺はズタボロ(自爆)かつ生命の使いすぎで再出撃可能時間は12時間を超えていた。それほどに死体の状況とは重要なのだろう。

 

 まぁ、つまりだ。

 

 今この空気を作り出しているダイハさんの思いとは。

 

 “なんであそこまで詰めといて負けてんだこのクソ雑魚どもが。ウチの鉄砲玉はちゃんと仕事したぞ? なのにどうしてだ? ”という感じだろう。

 

「えー! 第一回! デブリーフィングを始めまーす! ……だから、この空気をなんとかしてくれないかな? ダイハードちゃん」

「ミセスをつけてくれません?」

「ごめんなさいミセス」

 

 管理AIすら謝るこの事態。誰が収集を付けるというのか! 

 

 “なんとかしてくれ! ”と長親さんが目で訴える。ドリルさんは申し訳なさから自ら率先して正座しているので意志の疎通は不可能だ。

 

 ハラスメント9は、仕方ないよなーみたいな空気で傍観しており、メガネさんはその知的なメガネをクイっと上げつつ特に何もしていなかった。あいつ絶対こっち側(馬鹿サイド)だ。魂で分かる。

 

 だが、俺も思う所が無いわけではないのだ。

 

 命をかけて希望を繋いだぞ? 俺は。最強クラスの勝利フラグを立てただろう? 俺。

 

 

 

 

 

 なんでそっから負けてんだコイツら。それでもこのインディーズの腐海に足を踏み入れた猛者かよと説教を始めたい気分なのだ。真面目に。

 

『同感です』

 

 まさかのメディさんからのゴーサイン。止める理由は何もないな! 

 

「……まぁ、少し大人気なさすぎたわね。ごめんなさい。あなた達の主人公補正のなさを見縊っていた私の間違いだったわ」

 

 そんな言葉を最後に俺の手を握ってその威圧を留めた。止めたではなく留めただ。チッ、もう少し連中は地獄を味あっていれば良いものを。とは少し思ったが、隣の彼女がそれを許してはくれない。

 

 隣の俺にはとても良く伝わってくるのである。彼女の隠した内心が。ひしひしと。やめいこの馬鹿娘め。

 

 というか主人公補正とかお前以外には誰も待ってねぇよ畜生め。

 

「で、では! またまた改めて! 第一回デブリーフィングを今度こそ始めます! 皆さん、あと一歩でしたね! よく頑張りました!」

 

 その一歩って巨人サイズのじゃない? と思ってる感じのプレイヤー達。実際に見てないから分からないが、多分逃がさないように動けばそう難しい敵ではなかったと思う。だってそいつのゲート間違いなくモンスター生成が能力だし。

 

「えー、では! 恒例の質問タイムに移りたいと思います! 前半の質問者は最後の一人(ラストワン)の前までに届けられた質問を適当に回答していきます。

 では一つめ。“デスペナの回復時間は、死亡時の生命転換(ライフフォース)量に決まるので間違ってませんね”と。断言して来ましたね! これは正解です! そしてご褒美に追加情報を。

 デスペナルティは、生命転換(ライフフォース)の回復のための時間です。その人の容量の空白を埋められるまでの充電タイムですね。なのでズタズタに殺されたらその再構築分命が削られ、結果デスペナ時間が伸びるということになります」

 

 それを聞いてニヤリと微笑むこの女。何か酷えこと思い付いたな。

 

 めちゃ楽しみである。

 

『率先して巻き込まれに行くのですね』

 

 だってそっちのが楽しいし

 

『この刹那的思考は止めるべきなのでしょうか……』

 

 まぁいいじゃない。友人と馬鹿やるのも良いものだ。

 

「それでは! 次のお便り! “仲間が一線を超えそうで心配です。このゲームでのハラスメントによる垢BANはあるのでしょうか? ”。

 勿論ありますが、プレイヤー同士では申告制となっております。他の少年少女などの清いプレイヤーに見つからなければ現地住民には何をしてもBANはありません! 思う存分セクハラをやってみると良いですよ……できるものならね!」

 

 随分と緩いな。

 

『そうなのですか?』

 

 いやだって、このゲーム股間のアレ感触があるんだぞ。なら、擬似的な行為も出来るだろうし。

 

『ですがレーティングは全年齢でしたよ?』

 

 多分、その辺本気で気づいてなかったんじゃないか? 審査員もここまでの化け物ゲームとは思わんだろうし。

 

『かも知れませんが、一つだけ懸念が』

 

 なんぞ? 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という可能性はありませんか?』

 

 さてな。何にせよ俺はこのゲームのおかげで命を繋げたわけだから、その辺はどうでも良いさ。あんな事とはもう関わり合いは無いだろうし。

 

「それでは! 質問タイム1回目が終わった所で! リワードポイントの配布を行います! 今回は皆さん頑張ったので、沢山入ってますよー! また、商品ラインナップは皆様の冒険によりアンロックされていきます。強い装備が欲しい方は、皆と協力してたくさんの冒険をしましょう!」

 

 そうして、俺は自分のポイントを見る。

 

 そこには、2万4600ポイントの大量のポイントがあった。やった億万長者! 

 

 と思った所で、隣で愉快な顔をしているダイハさんのポイントを見る。そこには10万を超える凄まじいポイントが表示されていた。

 

 上には上がいるのよねーうん。

 

 だが、違うと腕を引かれる。そこには“現場における最適指揮”という項目での大量のポイント獲得があった。

 

 どうやら、このゲームで金を稼ぐのはダイハさんに任せた方が良さそうだ。

 

 さて、となると質問だ。せっかくなので現実に現れた狼について聞いてみよう。

 

 

 当然のように、全く返答はなかった。

 

 

 けれど、マテリア嬢はどこかホッとしたような目で俺を一瞬見つめた。てっきり殺意を向けられると思ったので、意外である。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

「では、第二回質問タイム終了! 皆、今回は本当にお疲れ様でした! 正直1回目の試行でここまで食らいつけるとは思わなかったから、制作者共々本気で驚いています。ですが、王国の奥に眠るあの影は強者です。皆さま、知恵と力を振り絞って頑張って下さい!」

 

 その言葉と共にマテリア嬢は消えていった。

 

 そして、今度は背筋が凍るような冷たさをした隣の彼女は、近くでまだ自主正座をしているドリルさんに耳打ちをした。

 

 手には、ドリルさんの動画があった。俺と同じように、死んだ後のボスとの戦いを調べるためだろう。

 

 少しすると、パッと輝きを取り戻し、ドリルが回転しているように見えるほどやる気を取り戻し、不遜に高笑いを始めた。

 

「皆様! 私達のチームの参謀! こちらのMrs.ダイハードから作戦の提案がございますわ! 一度お聞きになって頂けませんこと?」

 

 そうして上に立つ者の威厳により静まる空気。そこに彼女が凛とした声を放つ。

 

「単刀直入に言うわ。今回のシナリオの攻略法がわかった。だけどそれはこのワールド全体で協力しないと不可能よ。だから貴方達」

 

「最短最速で王国を救済するわ。ワールド単位でのRTA(リアルタイムアタック)と洒落込みましょう」

 

 その不敵な言葉に、皆は燃え上がった。面白そうなのに食いつくのがゲーマーだものな。

 



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16 人狼たちとの現実

「滅んだ世界の残響があなた方の世界に響いてくることもあるでしょう。くれぐれも夜道にはご注意を」

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 

 そうして、RTA会議が終わり、流石に疲れたのでガチ眠りする事にする。動画のチェックは別に良いだろう。

 

 そんな事を考えて、目が覚めた時には。

 

 ()()()()()()()()が体を包んでいた。

 

「メディ!」

『たった今からです! 周囲の警戒と武器の確保を』

「武器なんざ果物ナイフくらいしかねぇよ! 流石に脆すぎて逆に邪魔だわ!」

『どうしますか⁉︎』

「ベビーカーにエンジン! パトランプでご近所迷惑しながら通信障害の外に出て通報! 問題は⁉︎」

『バイクのバッテリーは満タンであり、24時間の連続走行が可能です。外には十分逃走可能かと。しかし!』

 

「よし、逃げるぞ……ッ⁉︎」

 

 瞬間、俺の顔面に衝撃が走る。

 

 ぶつかったのだ、家の中で。

 

 見えない、壁に。

 

 やめて欲しいぞこの野郎、この現象って逃げられないタイプの奴なのかよ! 

 

『マスター、ベビーカーとリンクが繋がりません。家の約半分の家電ともです。家が、途中で切り離されたのだと』

「くたばれファンタジー!」

 

 そう言って壁を殴りつけようとしたら。

 

 拳のインパクトのポイントが数mm単位だがずれていた。

 

「……メディ、リンクが新たに繋がる家電って増えてたりしてるか?」

『……はい。新たに一階のスピーカーと繋がりました』

 

 ヤバイ。その言葉しか浮かばない。

 

 だが、この世界は所詮現実(ゲーム)だ。死ねば終わり。変わらない。

 

 思考を止めるな。何をするべきかを考えろ。

 

「メディ、壁の広がる時間を計算できるか?」

『はい。時速1キロ程度です。毒のように広がりますねコレは』

「ベビーカーは待てない。外行くぞ!」

 

 そうして部屋にある昔使っていたプロテクターの脛当てと学校では買わされただけの体育館シューズだけを付けて外に出る。体用のプロテクターはもうサイズは合わない。服にしたところで寝巻きから着替えても対して防御力は上がらない。なら、脛当てくらいが丁度いいだろう。

 

 そうして窓から外に着地。こちらの目的はもう暗殺に切り替わっているのでパトランプは鳴らさない。

 

 前と条件が同じなら、おそらくコアになっている狼が居る。そいつを探し出して始末する。それが俺にできるこの現実からの最良の逃走だ。

 

「こういう時、近くに工事現場でもありゃな!」

『残念なことに周辺にそう言った施設はありません。住宅街ですから』

「最っ悪。家の中に出てるなよファンタジー狼!」

 

 そうしてメディを頼りに塀を伝って最短経路を走る。目的は外周の確認。

 

 この空間が円形ならば3点で、正方形なら角から45度に進み中心点を把握すること。おそらく円形なので、目的はほどほどに離れた3点から円の中心を求める事だ。

 

 おそらくコアは、そこにいる。

 

『移動していた場合は?』

「どうしようもねぇよ! その時は足で探す!」

『了解です。マスター、その道を左に。接触してください』

 

 苛立ちを含めて壁をぶん殴る。全く動きはしない。くたばれファンタジー。

 

『マスター、冷静に』

「わかってる。あいにくと俺は理性を失ったまま戦えるほど強くはないからな」

 

 そうして再び走る。数軒家を超えたあたりで、咀嚼音が聞こえてきた。

 

 叫びがないということは、もう死んでいるのだろう。助けられはしないのだろう。

 

「だが殺す」

 

 二階建ての家の屋根から飛び降り、咀嚼している狼に着弾。生命転換(ライフフォース)にて作った風の膜で足を守りつつ狼を削り、一匹を殺した。

 

 硬さは、最初の狼レベル。剣があれば俺は大丈夫だろう。

 

 奴の死ねば死ぬほど強くなるあの性質が無ければ。

 

『悪手とは思いません。敵の強さを実感できました』

「ありがとさん、メディ。その人……は……」

 

 狼に食われ咀嚼されていたその人物は、まるでログアウトしたかのように粒子となって消えていった。

 

 死人が消えるとは、こういう事なのだろう。

 

「メディ、とりあえず今はコレを殺すぞ」

『はい。必ず。では、その通路を北に。それで三点取れました。拡大スピードを考慮して中心を計算すると、ホテル街の方に中心はいるかと』

「最悪じゃねぇか畜生が。出るんなら山の中で孤独死してろっての」

 

 そうぼやきながらスプリンターのような走りでホテル街の方へと走る。

 

 そこは、今が午前2時程度だというのに全く明かりが消えていなかった。

 

 そして、最も赤く、叫びに満ちていた。狼達の咆哮、死際の被害者の叫び声。助けてという願い。

 

 それを受け止めて、全て助けるのは不可能だと判断。なので最小限の戦闘で中心に向かう。

 

「中心までの距離は⁉︎」

『あと1キロほど! 回り道よりも!』

「殺して通った方が速い!」

 

 ホテルのロビーから出てきた狼、ゲームセンターの二階から飛び降りてきた狼、どれにもシリウスの名前は見えなかった。しかし、初日に俺が殺した狼にもシリウスの名前はなかった。つまりあくまで端末でしかないのだろう。

 

 このどっちかがコアであることが最良だが、流石に剣なしで2対1はしんどい。心の中では同数だってのにな! 

 

『では、助けを呼びましょう。私の操るベビーカーでございます』

「素敵ですねメディさん!」

『当然です。あなたのAIですから』

 

 いくらスプリンター並みの力が出せても、それがバイクより遅いのは当たり前だ。

 

 なので、ここからは移動時間を気にしないでやりあえる。

 

 続いて、狼が落としてくれたゲームセンターの椅子が丁度いい位置に落ちている。コレを鈍器として扱うとしよう。

 

「馬鹿、逃げろ!」

 

 その時、かけられる声。狼は弱きものだと判断し一瞬だけ目を向けたが、俺はハナから無視して椅子を持つ。そして、そこに生命転換(ライフフォース)を流して即席の武器にする。ウェイトはあるしバランスも悪いが、戦えないわけじゃない。

 

 そして、俺を見ていた方の狼の噛みつきを体全体でのフルスイングにてぶっ飛ばす。風の刃は表面を削る程度だったが、それでもファンタジー狼を殺す程度は可能だった。

 

「次!」

「バウッ!」

 

 そうして俺が狼を殺し得ると理解したそいつは、せめてもの道連れにとさっき声をかけてくれた青年に襲いかかる。

 

 なので、その着弾点寸前を狙って椅子をぶん投げる。

 追い風に乗ったそれは、風を纏った質量の弾丸と化し、狼に着弾しその胴を抉った。

 

 だが、まだ生きてる。狙いが甘かったのだろう。まぁ椅子投げなんてあまりやらないので仕方ない仕方ない。メンタルリセットついでにトドメ。

 

「無事ですか⁉︎」

「あ、あんたこそ! 大丈夫なのか⁉︎どうなってんだコレは! あの狼達はなんだ!」

「わかりませんが、敵です。この空間は2回目ですけど、中心になってる奴を殺さないとコレは多分解けません。死にたくないんで、俺はコアを殺しに行きます」

「もっとちゃんと説明してくれ! どうして、あんな風に人が消えなきゃならないんだよ!」

「知らねぇよ! だから必死こいて戦ってんだろが!」

 

 その声にハッとする男の人。一つ深呼吸したら、そこには知性を感じさせる大人の顔があった。

 

「君はどうして奴らを殺せる?」

「基本的に、殴る蹴るなら通じます。あと、命を纏わせた物で攻撃してもどうにかできます。生命転換(ライフフォース)の使い方は自分の感覚で覚えてください。俺もそうだったんで教えられません」

「わかった。次に俺はどうしたらいい?」

「逃げてください。情報網がない今だと、守りながらコアを探すなんて俺には無理です。だから、俺はコアを殺す。あなたは命を繋いでついでに偉い人に目撃者として証言する。役割分担、任せていいですか?」

「……ありがとう。君のような子供に全てを任せて、ごめん」

「あなたが俺を助けるように動いたから、少しだけあなたを助けた。俺たちはそれだけです。では」

 

「メディ、中心は?」

『あそこの角を曲がってすぐです。お覚悟を』

「了解!」

 

 そうしてそこにいたのは。

 今日、ゲームで適当に殺した人狼だった。

 

 感覚でわかる。アレがコアだ。()()()()()()()()()()

 

 なら、少しふざけてテンションを戻しつつ行くとしよう。

 

「罠ならそれまで賭けるは命! 決めるぜ特攻俺蛮行!」

『何故にラップか知らないですが、私の心も賭けるは当然!』

「『ノリだけで、命賭けるさ、現実(ゲーム)なら!』」

 

聖剣抜刀(ゲートオープン)!」

 

 そうして、生命転換(ライフフォース)の力で開いたゲートから出てきた剣を握り、籠手がつけられ、服が変わり、緑のマフラーが巻かれる。

 

 いよいよもって、ゲームの武器が現実に出てきやがったぞ。なんでもありだなファンタジー。

 

『ですが、20分です。決して逃さないで、確実に仕留めましょう』

 

 そうして、人狼が叫ぶ。すると周囲の狼が集まって人狼に闇の衣、負の生命の生命転換(ライフフォース)がその身を覆い、その両手には巨大な爪が作られる。

 

 あ、負けフラグの爪だ! 

 

『言ってはなりません。本来の彼ならば使いこなせる獲物かもしれませんよ?』

 

 まぁ、ぶっちゃけると使いこなされようと

 

「ちょっと速くて強いだけの奴が、そうそう怖いと思うなや! 護衛長がやばかったのは自分の感覚全てが信用できなかったからだからな! お前は普通に殺せるんだよ!」

 

 そんな負け惜しみじみた言葉をかけながら、人狼を観察する。

 

 あの命の鎧は、ツギハギだ。多分だけど狼を取り込まないで群体としての鎧にしてる。その方がパージするのに一瞬早いから。

 

 考えられて作られたモンスターなのだろう。おそらく誰かのゲートの力で。ならば。

 

 とりあえず首を鎧ごと跳ね飛ばそう。ダイハードモードではできなかったが、今なら二つの理由でそれが可能だ。

 

 一つ目は、この人狼に限らずコイツらが弱くなってるからだ。身体能力や、意識の共有の能力など。

 

 でなければ、こいつは俺が角を曲がる瞬間に食い殺すか斬り殺すだろう。

 

 だから、鎧も相応に弱体化しているということ。そしてもう一つ。

 

 身体能力、生存能力はダイハードモードの方が高いと今でも思うが。

 

 こと切れ味については、扱い慣れない他人の命を使うよりもこちらの方が鋭く作ることができる。

 

 だが、向こうのスピードがわからない。追い風を使えば相当な速さは作れるが、かなりの時間を使う。奴を仕留められなかった場合は最悪嬲り殺される。

 

 自分一人なら別に構わないが、生憎と生存者のことを俺は認識してしまっている。そして、俺は俺が人の社会に表面上溶け込むには、彼らを助けなければならないと教え込まれて、理解している。

 

 だから、ここで引く理由はどこにもない。

 

 先の先。それで殺す! 

 

「なんで、なんでシリウスがいるの! 私死にたくない! 死にたくないの!」

 

「助けてよ! 誰かぁ!」

 

 瞬間、一瞬意識をその方向に向ける。それに反応するのは人狼だった。一足で俺の首を取りに両爪と噛みつきのコンビネーションを放とうとして。

 

 そのまま俺は人狼を見ないでその上半身を斜めに跳ね飛ばした。

 

 なんてことはない、ただの視線を使ったフェイントである。

 

 まさか武器がそこらへんに転がってくれるとは、ありがたい限りだ。今のでコアの人狼が死んだので、さっきの叫びの女性も運が良ければ助かるだろう。

 

 というか、そう祈る以外出来ることないのだし。

 

 そうしていると、バイクの音が聞こえて来る。それに群がる狼の声は聞こえなかったので、コアはこの人狼だったのだろう。もしかしたら人狼アーマーの誰かかもしれないが、それはそれ。念のため両足を切り飛ばして、蹴り飛ばし、周囲を警戒する。

 

 そうしてバイクが来た所で、空間の変化が終わった。

 

「メディ、あの人生きてるかな?」

『わかりません。しかし、先ほど叫び声のあった場所には青年が行っています。無視しても問題はないでしょう』

「そうもいかない。世界的には狭い日本つってもこの小さなエリアの中に二人もプレイヤーがいる。その事が冗談じゃないなら、それは作為的な物なんだろ? 顔の確認くらいはしておくよ」

 

 そうしてその女性のもとにバイクで向かうと

 

 そこには、何もない空間を抱き抱えるようにして涙を流す先程の青年がいた。

 

 とにかく、この作為はまだ明かされない。それが、近い未来に自分たちを脅かさないことを祈るしか、今はなかった。



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17 思わぬ再会/再びの事情聴取

「生きてるか? お兄さん」

「……ああ、俺はな」

「そっか」

 

 虚空を抱きしめ、涙を流しながら彼はそう言った。

 

 その目に、怒りを抱いたままに。

 

「とりあえず、警察呼びますね。1回目の時間でお世話になった刑事さんがいるんです」

「……頼む」

 

 そうして、渡された連絡先からジョー刑事の携帯へと連絡を入れる。

 

「坊主! 無事か!」

「どうも刑事さん。なんとか無事ですよ。……中心はホテル街、ホテルMIKADOから正面側に30メートル。そのあたりから半径900メートルくらいに空間ができて、時速1キロ程度で広がって行きました」

「それで、今お前は?」

「その中心近くにいます。パトカー出してくれると嬉しいですね。ついでにオオカミ少年扱いしないことも」

「……上を説得できる証拠がねぇ。現場の辛いところだよ」

「まぁ、その辺りはお任せします。とりあえずパトカーお願いできませんか? ショックを受けてる人がいるんです」

「何があった?」

「目の前で、人が死にました。そして、その死体が消えました」

「……冗談だったら、お前の事は冤罪ぶっかけても院に入れるぞ」

「あいにく、そこまでジョークに命かけてませんよ」

「わかってるさ」

 

 そうして、ポリスロボとパトカーがすぐにやってきた。元からこの辺りに通信障害云々の捜査の手を入れていたのだろうか? 

 そうしてポリスロボを観察すると、いつかのお人よしっぽいお巡りさんの顔がディスプレイに見えていた。

 

「君は! またかい! 深夜の僕の仕事を増やさないで……何があった?」

「人が、死んで消えました」

 

 答えたのはお兄さん、俺とは違ってまっとうに命が失われたことに悲しんでいる。本当にいい人だ。

 

「確認するよ、君たちはさっきまでこの通信障害区域にいた。そして、そこで人が消えるのを見た。それでいいかい?」

「違います。殺されて消えていったんです!」

「殺されたって影の狼にかい? あいにくと一般的警察官はオカルトは信じてないよ。だから君は相当おかしい奴だと思われると思う。それでも……」

 

「君は、君の責任でそれを証言する覚悟があるのかい? 君だってまだ高校生の子供なのに」

 

「あります!」

「即答かー、若いって凄いねぇ」

「お巡りさんもそんな老けてないじゃないですか」

「いやいや、精神的な話だよ。学生って凄いのかな?」

 

 そうして、お巡りさんの巧みな話術により俺とお兄さんは心のダメージを思い出す事なくすらすらと話とお兄さんの連絡先を書き出していた。

 

 改めて見ると、この人の緩さは演技入ってるなと思う。自称“付け上がってる人を捕まえるのって楽しいよね! ”と言って警官になったという話を聞いた教習所でのランカー争い相手“じゅーじゅん”さんを思い出す感じの人の良さだ。顔もどこか似てる。あの人初心者が殻を取るまではとても丁寧に接するから。

 

 殻が剥けた後は教習所のルールに則って情もなく動くようになるサイコ野郎だけども。

 

「所でさ、君《Echo World》って知ってる?」

「……すいません、知りません」

「あ、プレイしてます俺」

「君は知ってるから。……とすると、やはり偶然?」

「多分違います。この人が看取った消えた人は《Echo World》を知ってます。じゃないとあの影の狼を見て()()()()なんて言葉は口に出さない」

「シリウスって星のことじゃないよね」

「ゲームで出てきた、狼のボスの事です」

「なるほどね。うん、よくわかんないから調書だけ上げとくよ! ごめんね、最近ウチの署に来たスモーカーがそんな事調べててさ。なんでもVRが悪い! ってタイプなのかな? 面倒な人だよ本当に!」

「は、はい。どうも」

「じゃあ……今日の事は置いておいて、ちゃんと布団かぶって横になる事。分かったかい? 証言者くん?」

「ありがとうございます」

「じゃね。詳しいことはまた後日ってね!」

 

 そう言って高校生さんをパトカーに乗せるポリスロボさん。

 

 しかし、彼は振り返ってこう名乗った。

 

乾勇治(いぬいゆうじ)だ。君の名前を聞いても?」

「めんた……じゃなくて風見琢磨です。今度会うときは平和な日常か馬鹿なゲームの中であることを祈りますよ」

「……ああ。そうだな」

 

 そう言ってパトカーの自動運転により乾さんは送られていく。

 

 そして、なんだか睨んでくるポリスロボお巡りさん。

 

「明太子だな?」

「子育てサイコかお前」

「……僕は興味本位でEcho World始めようと思ってる」

「俺は明太子タクマで変わらないよ」

「じゃあ僕も前と同じでいいかな。……近くにこんなのがいるとか、僕の勤務地不幸だと思うなーコレは」

「大丈夫、リアルの俺ガチに病弱野郎だから」

「本当に?」

「本当本当、嘘つかない」

「まぁ、記録撮られてるからこの辺で。じゃね。またやろう」

「はい。また」

 

 そうして、じゅーじゅんさんはポリスロボで帰っていった。

 

「んじゃあ帰るか」

『はい。しかしよろしかったのですか?』

「大丈夫。あのサイコは頭おかしいけど信じられる人だから」

『男同士の友情ですか』

「まぁそんな感じで」

 

 そう言ってベビーカーにのって家に帰る。さて、流石に今日のはニュースになるし親父にも連絡が行くだろう。果たしてどうしたものやら。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 翌日、2時間ほどしか眠れずに寝不足の俺は、やってきた刑事さんと帰ってきた親父のバッティングに頭を痛ませていた。

 

「何やってんすかジョー刑事。普通に入ってくださいよ。詳しい話聞くんでしょう?」

「ああ。だけどお前さん本当にゴッドハンド風見の義息なんだな」

「……タクマ、このヨレヨレはお前の知り合いか?」

「昨日の通信障害の時にちょっと助けて貰った刑事さん」

「なんだ現場か」

「いちおう警部補なんて階級貰ってますよ。警視庁特殊技術犯罪課の栗本です。今日は朝早くからすいません。お子さんに聞かなくてはならないことがあるので」

「同席するが構わないな?」

「もちろん。大人としてはもうこれ以上足を踏み入れては欲しくないんでね」

「言っとくけど被害者ですからね俺」

『はい、クラウド、外付けストレージ、全てに記録は残せませんでしたが、私は事件を記憶しています。映像、音声などの情報はどうやっても引き出せませんが』

「構わんさ。どうせまだ与太話としか見られねぇ」

 

 ジョー刑事はそう言った。

 

「とりあえず上がってくださいな。お茶でも出します?」

「よろしくお願いしますよ先生」

「……承知した」

 

 そうして、態度が悪い親父(間違いなくめちゃ心配してる。ちょい嬉しいぞ)と、それを見抜いたと思わしきニヤニヤがうざいジョー刑事がリビングへと入った。

 

「それじゃあ、昨日のことを教えてくれませんか? 風見琢磨くん」

「はい。つっても今回も意味わからないんですけどね」

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 そうして俺は昨日のことを話した。

 

 殺した狼は3匹、いずれも少なくとも1匹は1人以上食ってる。

 殺した人狼は1匹。影じゃない奴を殺せばあの空間は解けるという事。

 ゲームで学んだ命の力、そして武器はあの空間でも使えてしまったという事。

 

 そして、目撃した死者は直接的に1人、直接的に見ていないがもう1人いる事。

 

「……お前さん、淡々としてるな」

「……ゲームと現実の区別がつかない昨今の少年としては、自分が死んでないのでプラス評価なんですよ」

『細くしておきますが、マスターは人でなしである事を自覚しています。だからこそ、今回の件では最速での事態の解決を目的として動きました。そこは、健康管理AI“メディ”の名において保証します』

「人でなし言うなし」

『はい。訂正します。人の輪の好きな人でなしですね』

「お前は……」

 

 そうして話を聞き終えた2人は苦虫を噛み潰したような表情をしていた。そして親父は、さまざまな思いを込めて俺の頭に手を置いてくれた。

 

 とても、暖かかった。

 

 この事を後で聴くと“引っ叩いたんだよ”と言うだろうから、しばらくは言及しないでおこうとは思うけど。

 

「……消える死人見たところ、消える死人のいたようなところ、それぞれ地図に出せるか?」

『お安い御用です。ジョー刑事』

 

 そうして渡した地図データには、ついでに初期のエリアと中心点など、とにかく書けるだけの情報を書き込んだものだ。

 

「お願いしますよお巡りさん。じゃないとまた殺されかける」

「分かってるさ。誰が企んだ事かは知らねぇし、どんな裏があるのかも知らねぇが」

 

 そうしてARタバコを吸ったジョー刑事は鋭い目でそれを宣言した。

 

「必ず報いを受けさせる。安心して良いぜ少年、この件は必ず警察がなんとかする。この国の法律には“狼を放って人を消して良い”なんて法律はないからな」

 

 そうしてジョーさんは帰っていった。

 

「多少は見るところのある男だったな」と父が、『同感です』とメディが、「正義のC調刑事だな」と俺はふざけて口にする。

 

 そんな風にふざけていると、自動調理機の終了音が鳴る。せっかく家族が揃っているのだから、朝食にするとしよう。



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18 黒い部屋での二人

 ダメージはないが、念のためにと休まされた学校。なんだかズル休みをしている気分だ。

 

 そうして眠って朝8時。自分は端末の着信コールにて呼び起こされた。

 

「もひもひ?」

「……無事ね。良かったわ」

「ん? どうした氷華。なんかあったのか?」

 

 そう言うと、彼女はとても良い声で。

 

「それは、こちらの、台詞、なのなけれど?」

 

 と言ってきた。

 

「いや、なんぞや?」

『おそらくは朝7時からの1時間ずっとマスターが起きなかったことが氷華様の危機感を煽ったのかと』

「あ、心配してくれたのか。ありがとう」

「勘違いしないでほしいのだけれど」

 

「私はもし貴方が死んでたら自刃するつもりだっただけなの。それだけなのよ?」

「待てや頼むから。色々飛び越えてくるな。もっとゆっくりな」

「え、私あまり特殊な方ではないからゆっくりとした死に方だと普通に苦しいだけなのだけれど」

「そっちじゃねぇですよ! 死なないでって事! 俺、無事! 親父、病院来た! それで察しろ! 俺がどうにかなってたら親父がまともな訳ねぇだろうが!」

「見た目がまともだったから痩せ我慢かと思ったの」

「いや、それはちょっと待てや」

 

 親父全然大丈夫じゃねぇのかよ! 手術を控えた奴に負担かけてんなや! 

 

『普通、息子が殺し合いをしてきたというのにまともなままでは居られないと思うのですが』

 

 それでもまともでいるのが医者の仕事だろうに。まったく親父め。嬉しいじゃねぇか畜生。

 

「あなた、今にやけてるわね?」

「あ、わかる? わかる?」

「痛いほどにね。そのにやけの原因が私じゃない事で嫉妬に狂いそうだわ。なので一緒になにかしましょう」

「つっても出来ることなんざねぇぜ? 今もうリンカー以外のVRダメだろ? 脳内物質がどうたらで」

「なら、一緒に映画館デートといきかないかしら? 無様な雑兵たちの死というタイトルの」

「あー、了解。黒い部屋で駄弁ってるか」

「じゃあ、待ってるわ」

 

 そんな訳で、《Echo World》へとログインすることになった。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

「「うわ、ひっでぇ」」

 

 そんな言葉しか浮かばなかった。

 

 敵の戦略は、完全に崩した。だから、あとは数の暴力で死ぬだけだったのに、あそこから自分の技量だけで切り抜けたのだ、このシャドウサーバントとやらのゲートはモンスター生成能力と見て間違いはない。それ以外の力なら、幾度も訪れた危機に対してとっくに使っている筈だから。

 

 そして、剣の技量はさほど高くない。ラズワルド王なら火かき棒でも倒せたと思うくらいだ。

 

 だが、とてつもなく生き汚い。時に死んだままのモンスターの死体の中に隠れたりもしていた。すげぇわこの執念。

 

 そして、短期戦型のゲートが崩れ始めてから奴は攻撃を始めた。

 

 黒く光る剣での攻撃。これは生命の属性が堕ちた姿だろう。これも閃光剣(レイブレード)なのだろうか? 

 

「えぐいわね、この伸びる剣」

「だな。的確に伸ばして使ってる。もはや銃みたいに考えて方がいいなコイツのは」

「あ、この人死んだ。次ね」

「じゃあこの人か」

 

 そうして見ていくと、そこは図書館だった。マスタードさんたちは噴水リスキルだったので、この人たちがラストワンだろうか。

 

「特に面白いものはないわね。本の内容はこの国の神話みたいだし」

「だな。たまたま拾った剣が大魔を倒し得る聖剣だった。けれどそれを失った王はそれでも戦い続け、“守ると決めた時に握る剣こそ聖剣なのだ”と高らかに叫んだ、か」

 

 それが、この国の建国神話なのだとか。つまりコレが、王族の方々が妙に強いことのルーツなのだろう。

 まぁ、事実から逆算した創作なのかもしれないがその辺はどうでもいい。ここに敵の情報が乗っていないことが不自然だった。

 

 こんな凝った作りのゲームであるのに、敵の存在にフラグがないなんてのは勿体無いだろう。設定資料の一つや二つ置いておくのが遊び心だろうになぁ。

 

「ねぇ、タクマくん」

「どうした?」

「今朝会ったこと、話してくれるかしら」

「……変な、信じられないような話だぞ?」

「私、貴方になら騙されても良いと思ってるのよ?」

「こっちがやだわ。人間としての情がない訳じゃないんだぞオイ」

「知ってるわよ」

「……正直、何が原因かとかは分からない。わかんないなりに動いただけだったから」

 

 そうして、ポツリポツリと氷華に話し始めた。今のわからないファンタジー狼、人狼、麻薬のような空間、現実でできた生命転換(ライフフォース)聖剣抜刀(ゲートオープン)

 

 そして、死んだらこの世界から消えてしまうという現実のこと。

 

 どれも、自分には重い話だった。現実とゲームを混同することで保っていたそれを背負うバランスを、少しだけ崩す。これは、甘えなのはわかっている。だけど、態度に似合わず甘えられたがりの彼女につい甘えてしまう。喜ばせたいなんて言い訳が自分を後押ししてしまう。

 

 だから、デコピンされたときはちょっと驚いた。

 

「慰めては、くれないんだな」

「貴方は、()()()()()()のでしょう? じゃなかったら私の知る風見琢磨はそんな事を言わないわ。……価値観の違いが、見えたのね」

「……ああ。俺は、人狼を殺す事が助ける最短路だと信じてた。けど、その俺の思った最短路でも救えなかった人がいて、そこに手が届かないで涙を流す人がいて、いつも通り()()()()()()()()()()()。人が死んでんのにさ、頭は冷えて根っこはいつも通りのフラットで。表面上しか怒るフリができなかった。ゲームじゃなくて現実の方でだぜ?やっぱ、人と違うってわかってても応えるわけよ」

 

 そう、呟く。かつて先生は俺に言った。お前は鬼子だと。生まれる時代を間違えたのだと。

 

 それは、とても的を射ている言葉だと思う。だから先生は俺に人のフリの仕方を教えてくれた。

 

 なのに、こんなにもあっさりとボロが出る。

 

 こんなんじゃ、誰かを助けられる人になるなんてのは夢のまた夢だ。大切な人を守れる男になるなど世迷言だ。

 

 両親が死んだ時のように、親父や氷華が死んでもどうでもいいと思えてしまう奴のままだ。

 

『マスター』

 

 なによメディさん。

 

『氷華様を見て下さい。貴方が手を差し伸べた最初の一人を』

 

 そんなメディの言葉を頼りに氷華へと視線を戻すと、抱きしめられた。優しく、暖かく、強く。

 

「あなたが、普通じゃないなんてのはわかってる。それを駄目だと思ってる事も。けど、忘れないで。私は普通の人じゃなくて、おかしいあなたに心を救われたの。だから、全部を否定したままでいないで、私と半分分け合いましょう」

「氷華……」

 

「もう大丈夫になった。だからお前のその手には乗らないぜ?」

「あら残念。言質が欲しかったのに」

「油断ならない女だ事で」

「だってそれが私だもの」

「本当に強すぎるわお前」

「私はMrs.(ミセス)ダイハード。当然でしょう?」

「ああ、本当にな」

 

 そう言って、氷華は俺に笑いかけてくれた。

 それだけで、全てが楽になった。

 

 ああ、本当に、どうしようもなく。

 

 俺は、御影氷華が大好きだ。だから、彼女には生きて、多くを見て、その先で俺と共に生きたいと言わせたい。言って欲しい。

 

 俺の願いは、きっとそう言う事なのだ。

 

 だから、まだ彼女に寄りかかることは許されない。この愛は、破綻者のものだろうけれど真実なんだと証明したいから。

 

「じゃあ、録画見直すか?」

「そうね、もう少しこっちで戦える人のリストを作っておきたいわ。わたしの燃料は莫大だけど無限じゃないもの」

「だな」

 

 そうして、二手に分かれてそこそこ戦える奴、戦える奴、道場通いの奴を探す。

 

 そうしていると、ワールド開始まであと10時間近くもあるこんな時に、ログインしてくる人がいた。

 

 それも、二人。

 

 一人は、剣道でよく見た顔。子育てサイコのじゅーじゅん。もう一人は、髪色を赤く染めた端正な顔立ちの鍛えられた青年。

 

 そんな二人が、戸惑いながら周囲を見回していた。

 

「ニュービーか?」

「じゃないかしら。彼らリセットの時間を知らなかったみたいだもの」

「じゃあ、片方知り合いだし声かけてくるわ」

「なら私も行くわ。暇だもの」

「言いやがったぞコイツ」

「レベルが低いのよ。せめてドラゴンは殺せる人までは欲しかったのに」

 

 そうして、「今日も子育てか?」と煽り「……女連れ、だと⁉︎」と驚愕されつつもサイコ野郎と会話を始める。

 

「んで、平日になにやってんだあんた」

「何って、サボり?」

「流石だわあんた。改めて明太子タクマだ」

「じゅーじゅんだよ。PvPがあったら殺すから覚えておいてね」

「オーケー、暇な時連絡くれよ」

「いつかって今さ!」

「上等!」

 

 そうして素手でのスパーリングを始める俺たち。貫手が鋭くてうざったい。実力は衰えてないみたいだな! 

 

「なんでこの人らナチュラルに殺し合いの相談始めてるの⁉︎」

「VR剣道家ってそういう生き物なのよ。私はMrs.ダイハード。あなたは?」

「ああ、ユージだ。よろしく頼む、さっきこのゲーム買ったばかりなんだ」

「ええ、なら掲示板を見ると良いわ。新規用にそれなりにガイドラインがあるもの」

「……んで、あの2人は止めなくて良いのか? 素手でやり合い始めてるけど」

「大丈夫よ。この空間だとダメージは発生しないもの。じゃれあうには良いんじゃないかしら?」

「俺には殺し合ってるようにしか見えないよ」

「そう? なら貴方は比較的普通の側にいるのね」

 

 そんな会話を横に聞きながら、殺気のフェイントを入れて追い込んだところにシャイニングウィザードを放つ。だが、それを読んでいたじゅーじゅんさんはそのまま空中でサブミッションを仕掛けて俺の技を潰しながら地面に叩き落としてきた。

 

 強いわやっぱ。素手じゃ3分だなこれは。

 

「うわー、なんか一皮剥けた感じ。そんなやばいのこのゲーム」

「はい。モンスター型が多いんで剣道家の皆さんには勧められないですけど、めちゃやばいです」

「ゲーマーとしては楽しみだなぁ本当に」

 

 そうしてじゅーじゅんさんはユージさんと共に掲示板などでこのゲームのいろはを学んだり、デブリーフィングを見て次の作戦を予習したりしていた。

 

 あとはじゅーじゅんさんが生命転換(ライフフォース)を使えてくれればドラゴンキラーは任せられるというのになー。と、ちょっと思った。

 

「明太子、シリウスってコレ?」

「そうですよ。群狼がちょい大きい狼か合体巨大狼。それのフルパワーが天狼です」

「……影だけだったけど、確かにコイツだ! この狼が!」

「うん、モデルの出所を探るので良いのかな? じゃあ僕休憩終わりだから、サボり組はゆっくりしてると良いよー」

「……いや、誘ったのあんたでしょうに足柄さん」

「じゅーじゅんね。今はあくまでプライベートな休憩時間だから」

「……はい」

 

 そんなのを最後に足柄さんはログアウトしようとした。しかしそれに待ったをかけたのがダイハード。

 

「すみませんじゅーじゅんさん。獲物はなんですか?」

「あ、アレの関係で奢ってくれるの? じゃあメイスをお願い。重心は先端寄りで頑丈なやつを」

「なら、この鋼のメイスをどうぞ」

 

 そう言って、300ポイントのちょっと良い武器をじゅーじゅんさんは受け取る。リワードポイントでのお買い物は、他人に渡すことが可能なのだ。

 

「ありがとー。今夜は定時だから仮眠室使って普通に遊びに来るよ。頑張るからよろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

 

「なや、俺も落ちるわ。途中からでも学校行っときたいし」

「「なんたる真面目さ⁉︎」」

「普通だろ!」

 

 そう言ってユージさんはログアウトする。

 

 なんだか、頼れる大人が援軍に来てくれたようだった。

 

「どう? まだ何か無駄に悩んでる?」

「いいや、もうなんかどうでも良くなった。今は学校サボってゲームを楽しんで、ついでに鍛えて、ついでに狼の謎を解く。その全部を目的にしてもやること一つとか簡単だな!」

「ええ、それくらい単純な方が良いわ。フリでしか悲しまないのなら、全力でフリをしましょう。それが心になるまでずっと」

 

 その言葉を貰って、俺はまた笑った。

 

 この黒い部屋での無粋なデートは、案外良い感じになりそうだった。



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19 第一話攻略RTA 巫女詐欺/群狼暗殺/ゾンビアタック

 途中昼食休憩を挟みつつ、ぐだぐだ喋ってるだけで時間を過ごす。

 

 そうしていると、徐々に寝起き組や休日組、サボり組などのさまざまな人々が集まったきた。作戦会議の必要はない。それぞれの作戦自体は簡単にできているからだ。

 

「あら、お早いですねお二方」

「サボりは感心しないぞ」

「私は学校行ってないから関係ないわね」

「うるせぇですよ、そういうお二方こそどうしたんです?」

「私は少し頭が痛くなりまして」

「俺は半休だ」

「オイこのクソドリル人のこと言えねぇじゃねえかよ」

「私はともかくドリルを馬鹿にするならば出る所に出ていただきますわよ」

「財力アタックは卑怯じゃないっすかドリル様。あ、靴をお舐めしましょうか?」

「変わり身⁉︎」

「冗談はやめてよねタクマくん。そんなことを私以外にしたならソイツを破滅させなければならないじゃない」

「ご心配なく。靴も足も舐められるのは好きではありませんの」

「「やられた事あるのかよ⁉︎」」

 

 そんなんで集まった4人。そして、まともな時間にログインしてきた2人組。子育てサイコとユージさんだ。

 

「おい、僕はじゅーじゅんだからね? そんな呼び方をすると怒るからな明太子」

「へいへい、悪かったなサイコ野郎」

「わかりゃいいんだよ」

「子育ての部分が駄目だったんですか⁉︎」

「そだよ。彼らは戦士になるんだから」

「独特の世界観してるよなー」

 

「して、こちらは?」

「VR剣道家とニュービーだよ。リアル友達? になる」

「ども、じゅーじゅんです。配信ちょっと見たよドリルちゃん」

「あ、ユージです。最近自分の常識を疑い始めています」

「安心しろ、おかしいのはコイツらだ……」

「「「「誰がおかしいって?」」」」

「自覚があるくせに青少年に絡むな奇人ども!」

 

「てか、なんで長親さんまだ仲間やってんです?」

「まぁ、ゲームだからな。常識人と絡むよりこっちの方が面白い」

「俺この人もそっち側だと思うんだけど」

 

 一瞬のうちに始まるぐだぐだトーク。だが、もう時間だ。

 

 ワールド開始は18:30分。

 

 作戦の最終確認は18:15分から。

 

「それではお集まりの皆様! このRTAへと参加していただき感謝を申し上げますわ! 特別な扱いをする者たちはいらっしゃいますが、皆様の基本の仕事は雑兵の排除です。そのことに不満のある方は申し上げて下さい。一瞬で首が飛ぶようなスリリング狼とのバトルへと回してあげますわ」

「作戦は簡単。中ボスを暗殺し、ボスの軍勢を足止めし、大ボスとやれる奴を届ける。その過程で見せる“数の力”が大切になるから、皆に戦いに貢献することは求めていない。だから、相打ちを取ってくれれば私たちの利益になる。戦いが苦手な者はそれを忘れないで、自分にできる最善をその場で頑張ってほしい」

 

 そう言うドリルとダイハさん。見目麗しい美少女が、堂々と言葉を放つだけでこれだけよく通るとは本当に魅力とは強い能力である。

 

「それでは、武器の配布を行います! 皆さまお並びになって下さいな。私たち6人が配布を行います。そして、現地でそれに電池役の生命転換(ライフフォース)を注ぎますわ。それまでに使い心地を確認しておいて下さい」

 

 そうして、今回のRTA協力のメリットである200ポイント武器、上質な剣を皆に配布する。

 

 今いるメンバーは、初期より多少増えて60人ほど。その中で自前の武器を持っているのは1/3程度。40×200ポイントで8000ポイントの大出費である。

 

 その程度の出費が気にならないほど馬鹿みたくポイントを持っているのが彼女なわけなのだが。

 

「では、各自武器に慣れて下さい。システムアシストはないので、握りをちゃんとすることを心がけて」

「あ、完全素人って人は僕のところ来てー。簡単な相打ちの取り方くらいは教えてあげられるから」

 

 やはりじゅーじゅんさんは変わらない。恐ろしいな。

 

 そして、18:29分、全員が同時にメニューを開き転送準備を行う。

 

 そして、マテリアさんが「開始です!」の“か”を口にした瞬間に全員で転移を行った。

 

「鉄砲玉部隊! 南進して山砦へ! 潜入部隊! 行動開始! 対雑兵部隊! 私に剣を触らせなさい!」

 

 そうしてRTAが始まる。

 

 俺は当然鉄砲玉部隊。今回はハラスメント9の皆さんも一緒だ。

 

 とにかく山砦へと急がなければならないのだ。シリウスの分体が行動を起こす前に止めるために。

 

 それと同時に、対雑兵部隊は武器にダイハさんの生命転換(ライフフォース)をかけて動き出す。すると剣だけ見えるようになり、自分の力を使わずとも戦えるようになる。そしてなにより、デスペナ条件を考えるとこれが最速でゾンビアタックができるのだ。

 

 そうして全員分付与を行ったダイハさんは、ドリルさんとともに正面から堂々と王城の門を叩く。

 

 ここからは、完全に別行動だ。俺は俺の仕事をするとしよう。

 

「行くぞ! 特攻部隊Aチーム!」

「地味に危なくないか⁉︎それ!」

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 南門へと走り去っていくタクマくんを見送って、ポイントで買ったドリルの“貴族のバトルドレス”、私の“巫女の戦衣”と無駄に強い生命転換(ライフフォース)を見せびらかしながら行く。

 

 当然門番たちは動揺しているが、ドリルのあまりにも堂々とした姿に見惚れて動きを固めていた。

 

 その隙に、メガネを筆頭にした潜入部隊が侵入する。彼らの役割は内側から門の閂を開けること。

 

 そうすれば。

 

「私たちは! 未来から来た稀人です! このソルディアル王国を最悪から救う為にやって参りました!」

「な、たしかにその服は貴人のもの! そしてその強大な生命転換(ライフフォース)は間違いなく巫女のもの!」

 

「私達の話に信憑性がないのはわかります。事が終わり、私たちが事を謀った者だとわかったのなら当然切り捨てて構いませんわ。故に、今ここに第一の証明を」

 

 そうして、私は門に手をかけ、ゆっくりと押し上ける。身体能力の強化により高まった力は、本来10数人で開ける正門を真っ直ぐに押し上けた。

 

「いまこの門には閂は空いています。その事がわかっているから私は扉を開けたのです」

 

 こういう演出があれば、勘違いして色々納得してくれる。本当に美人とは得なものだ。

 

「待て」

「なんでしょう、部隊長さま」

「お前たちが未来から来たというのは今のところ信じよう。攻め込んできていないからな。しかし、そうであるからと通しては筋が合わん。貴様らの後ろにいる剣の精霊たちの強さを見たい。1人、前に出ろ」

 

 一応想定していた問題だ。が、今回は棚ぼたによりこの問題は解決している。前の作戦ではタクマを前に出す予定だったが。

 

「ではじゅーじゅんさん。力をお見せして下さいな。しかし、生命転換(ライフフォース)は使わないように。部隊長さまも、どうか」

「これからの戦いのためか。承知した」

 

 そうして構えるじゅーじゅんさんと部隊長。

 

 その交錯は一瞬で終わった。

 

 じゅーじゅんが、メイスにより剣を巻き取る奇術のような一合で彼の剣を上に飛ばしたからだ。

 

 そして、その剣を手で掴み、彼に返却する。

 

 そこには、器用に手だけに力を入れた彼の姿があった。さすがタクマくんと争っていた人物だ。もう力の使い方に慣れたのだろう。

 

「戦鎚の精霊よ、良き技であった。……これからは俺が同行する! お前たちは門の警護を続けろ!」

 

 まさかの援軍にちょっと嬉しい誤算。プランをさらに上方修正。

 

「では、真っ直ぐに巫女の間へと赴きます。皆さま、手筈通りに」

 

 その言葉で、もう動き出していた潜入部隊がさらにスピードを上げる。

 

 本当にあのヒャッハーメガネは有能だ。とりあえず見えるかどうかの確認だけで良かったが、これならば現場を押さえられるかもしれない。

 

 そうして巫女の間まで行く過程でさまざまな騎士達がやってくるが、部隊長さんの言葉により私たちを巫女の間へと通してくれた。まぁ見えているのは私とドリルだけなのだけれど。

 

 そしてたどり着いたそこには

 

 息も絶え絶えな女性、恐らくはアルフォンスの母親の巫女長、地面に固められている護衛長、そしてその体を古風な拘束術により捉えているメガネがいて

 

 そして、シリウスのコアの黄金の玉が転がっていた。

 

「これは⁉︎」

「……どう⁉︎」

「まだ余裕で助かる! だから先はこっち!」

 

 そうしてコアを握りしめて、そこにそこそこの量の生命転換(ライフフォース)を叩き込む。

 

 どうしてか私が使えてしまっている、生命の属性の生命転換(ライフフォース)を。

 

「何故、何故だ⁉︎貴様ぁ!」

「何故? それは単純よ」

 

「あなた、相手が悪かったのよ。死んでも死なない(ダイハード)な女なんてね」

 

 そうして、黄金のシリウスのコアは破壊され、その命はモヤになり南の方へと向かっていった。

 

 そして、次の動きに移る。

 

「足軽太郎さん! 帰還からの転移で方向の確認! 間違ってないならそのまま追いかけて下さいまし! ミセスは!」

「わかってます。巫女長の治療をさせて頂きます」

 

「な、なんなんだお前たちは?」

「未来からこの国を救いに来た稀人だそうだ。先程の大魔の核を見るに、誠のことだったようだな」

「……アレは、結晶の隙間から転がってきた。彼女の命が尽きかけたのが原因だ」

「だから、内側の結界は()()()()()。その内側のシャドウサーバントごと。その為には貴方にも動いてもらいますけど構いませんね? エディ護衛長さん」

「馬鹿な! そんな事をすれば!」

「結界の出力が半分で済み、この国の決定的破滅は遠のきますわ。内側のを倒す戦力はもう整っていますもの」

 

 そう言って、堂々と背中にいる第0アバターたちを見せる。そこには、私の生命転換(ライフフォース)にて強化された強力な武器を携えた者たちがいた。

 

「では、皆さま。予定通りに。今の穴から漏れ出す雑魚は、ローテーションで殺して差し上げましょう」

 

 そんな事を言うと、結晶から1匹のゴブリンが飛び出してきた。それは結晶の穴をこじ開けようと動くが、その前に踏み込んだユージくんが斬っていた。

 判断が速い。生命転換(ライフフォース)を覚えれば即戦力に間違いはないだろう。

 

 良い人を連れてきてくれたものだ、と今は天狼を殺しに動いている彼の事を思う。

 

 彼がいるのだから、作戦の前段階はすぐに終わるだろう。

 そうなってからの現地協力者との交渉が肝だ。だから、アルフォンスくんのお母様には生き返って貰おう。

 死ぬ気がない人は、適切な処理をすれば割と命を繋ぐものなのだから。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

「伝令! 第一段階終了! 到着まであと5分くらい!」

「りょーかい。て言ってももう人狼以外殺し終わってるけどね」

 

 ここの配置された10人は、このゲームにおける精鋭中の精鋭だ。ロクに武器もないのに狼を狩り続けた9人と、キルスコア連続1位を誇っている俺。

 

 そんなのが囲んで奇襲をすれば、狼をいくら出せたとしても()()()()()()()()()使()()()()群狼シリウスではどうすることもできなかった。

 

 それに気付いたのは、誰かの掲示板での書き込み。

 

 “群狼シリウスになる時は、絶対に夜の時だよな”という当たり前のことと、“なんか育成ゲームの進化エフェクトみたい! 夜にしか進化しないかタイプなのかな? ”という若干のネタ。

 

 そう、進化だ。

 

 群狼になった時も、天狼になっていた時もそれぞれ条件はあったのだろうが、その根本には夜があった。推測を交えて話すなら、死んだ数と、夜であることの二つが条件じゃないかとダイハさんは言っていた。

 

 今は夕暮れには早く、シリウスはまだ生命転換(ライフフォース)による防壁を出していない。

 

 結構な数の狼を殺したのにだ。

 

 つまり、だいたい合ってるということなのだろう。

 

「キサマラァ!」

「そろそろだね。明太子くん、トドメ準備して」

「あー、やっと終わる。さっさと合体してくれよ面倒だな」

「ナンナノダ、オマエタチハァ!」

「ゲーマーだよ、僕たちは」

 

 そうしてコアから戻ってきた人狼たちの魂を受け止めて一つになったシリウスの首を跳ね飛ばし、さっぱり殺して終わらせる。

 数秒待機したが、もう生き返る様子はない。モヤになってどこかに飛ぶような事もない。

 

 全く、全員死ねばそれで良いみたいなのがわかってればここは短縮できたというのに。面倒だ。

 

 が、これはもう大丈夫だろう。

 

「じゃあ俺は本陣の方行ってくる皆もコイツを確認したら助けに来てくれ!」

「今度はクライマックスまでに行くからね! 前回の地味に根に持ってるから!」

 

 グッと親指を立て、その声に応える。

 そうして転移を行う。すると、「しゃあ! デスペナ3分!」と叫ぶ人がいた。

 

「了解! 現場に伝えてくる!」

「任せたぞ明太子くん!」

 

 そうして、第一の犠牲者さんを置いて再び転移を起動する。そして噴水前広場へと降り立ってからまっすぐに王城へと向かう。

 

 そこには、精鋭の騎士達がもう詰めていた。内側狩りを終わらせるという稀人たちの力になる為に。

 

「しゃあ! 騎士への推薦勝ち取るわよロックス!」

「イレース、あまり無茶はするなよ?」

「……壁から失礼!」

「あ、抜け駆けするなガキンチョ!」

「まて、あの鞘の紋!」

「……まさか⁉︎」

 

 だからなんだよこの紋章のヤバさは! ありがたく使わせてもらうぞコレ! 

 

 そうして、大広間の下にあるその封印の間へと向かう。

 

 そこには、第0で雑魚を殺してる人々、第一で生命転換(ライフフォース)を使って大鬼や大蛇をぶちのめしている人々が居る。

 

「戻った! 1人目のデスペナは3分! 第0の人たちのゾンビアタックは可能だ!」

「最高ですわね! タクマくん! 皆さま! この作戦ならやはり死んでも問題はありませんわよ! 戦士として存分に経験を積むのです!」

 

 そうしていると、2人同時に第一形態に変わる人達がいた。そこには、メイスを自在に操るじゅーじゅんさんと、荒っぽく剣を使っているユージさんがいた。

 

「じゅーじゅんさん! ユージくん! 一旦下がって! タクマくんはその穴埋めを!」

「あ、なんか出来てる⁉︎」

「これが命の力ね! やりやすい!」

 

 そうして剣を投げて攻め込んできた大蛇の目を貫き、そこに追撃の打撃を加えて仕留めたユージさんと、大鬼の攻撃に完璧にカウンターを合わせて頭を吹き飛ばしたじゅーじゅんさんが戻った。

 

 そして、空いた穴に俺が入り、風の刃でケンタウロスを切り刻む。

 

 そして起きるこの感じ、第一陣を超えたようだ。

 

「さぁ、ここからもチャンスタイムですわよ! 戦いに慣れれば力が馴染み! 力が馴染めばより強くなれる! レベリングのボーナスタイム、惜しんではなりません!」

 

 そうして、かつてはラズワルド王の死闘において最も時間をかけた雑魚ばかりの第一陣は、プレイヤーのゾンビアタックと覚醒により安全に終わらせることができた。

 

 上等な滑り出し。戦いは、ここからだ。

 



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20 第一話攻略RTA 前座の前座

 生命転換(ライフフォース)に慣れた者達は下がり、ゾンビアタック部隊は率先して雑魚を散らす。そこまでは変わらない。

 

 だが、そろそろこっちが息切れしてきた。デスペナや転送からの移動時間のために、常に一定の人数が前線を張れないのだ。

 

 だからこそ、力を見せる者達がいる。

 

「マスタード! コンビネーション行くよ!」

「ああ!」

 

 そうして始まるハラスメント9による連携攻撃。

 

 それは、省エネでは面倒くさい奴筆頭の大鬼の足を切り、崩れた体へと刃を突き立てる最小限の殺し方。

 

「正面は、苦手なのだが、な!」

 

 などと言いながらしっかりとゾンビアタックに味方が専念できるように弓や投げ槍使いを崩して回っているメガネさん。

 

 その崩れた敵を必ず射抜く、(多分無断で)やってきたイレースさんの狙撃、そしてイレースさんを護衛するロックスさん。

 

 そして、おそらくもう8回はデスペナを食らっているのに全く衰えないミスターゾンビアタッカーのフーさん。

 

 様々な人が、様々に己が力を発揮し始めている。

 

 そうしていると、だんだんと戦いを無理なく援護する形で地下に入ってきてくれている騎士達が来る。それぞれが“死んでも死なない変な奴ら”を疑問視しながらも、とりあえず敵対したら殺せばいいやなんて考えで援護してくれている。

 

 というか、実際に口に出す奴もいる。まぁ怪しいもんなー俺たち。

 

 なにせ、戦いながら裏でドリルさんが生命転換(ライフフォース)の起こしをできるようになった人たちに指導をしているような軍団だもの。

 

 指導法は、かなりのスパルタだけど。

 

 そうしていると、大蛇が群れでやってくる。ラズワルド王は一振りで薙ぎ払っていたが、省エネで戦うには面倒な奴らだ。

 

「そろそろ時間切れよ」

「……ですわね! 攻撃部隊に抜擢された皆さん! 行動を開始します! 攻撃対象は大型! 大蛇、大鬼、ワイバーンなど消費無しに倒せないモノ達! 細かくは言いません、個人プレイでぶちのめして下さいませ!」

 

 大声で叫ぶ皆。当然俺もノりたいが、あいにくと俺はまだ援護程度にしか動くなとは言われている。援護ならしてもいいのだろうが、後々の連中の相手をすると考えると力も時間も使えない。あの最後の黒騎士達、俺の焼けた腕を見て舐めプしていたのだ。

 

 絶対殺す。

 

 しかし、敵のゲートは重力使いが1人という事しかわかっていない。なので、騎士達全員のゲートをまとめて相手にするくらいの覚悟は必要なのだ。

 

 ちょっと泣きたい気分である。まぁせっかくなので楽しんで殺すつもりではいるのだけれど。

 それはそれで今暴れられている皆が恨めしい。だって新しい力に馴染んで楽しそうなのだ。

 

「らぁあああああ、ぁあ!」

「気合入れても、あんまり力は変わらないよ!」

 

「ああ妬ましい! なんだよ拳闘(グラップル)スタイルでの燃える拳とか主人公かユージさん! 普通に暴れられてるのがマジで妬ましいぞじゅーじゅんさん!」

「ははは! 負け犬の声が心地いいなぁ!」

「タクマくん。流石に今出られると困るのだけど」

「あ、ちょっと待って」

 

 そう言って、透明になって近づいてきていた奴を斬り殺す。この混戦の中で正面からの暗殺に踏み切るとか凄い度胸だなコイツ。

 

「あら、守ってくれたのね。お礼は私の半分でいいかしら?」

「駄目です。シャークトレードは認めません!」

「つれないわね」

「あなた達⁉︎ちょっと落ち着きすぎてはいません事⁉︎」

「だってタクマくんを近くに置いているのは暗殺警戒のためなのよ?」

「……それもそうですね。良く役割を果たしてくれましたタクマさん」

「あざーっす」

「適当! 傷つきましたわ、謝罪として結婚式には呼んでくださいませ」

「まさかの援護射撃⁉︎」

「根回しは万全なのよ」

「……お前ら、表面上は真面目にやれ」

 

 普通に大鬼をぶっ殺して帰ってきた長親さんがそんなことを言う。やってることがあまりにも普通だからか、気にも止めてなかったぜ。

 

「怒るぞ明太子」

「え、俺だけ?」

「……俺は、影が薄い訳では、ないッ!」

「あ、気にしてたんですか。すいませんお洒落キズの長親さん」

「……おのれ!」

「言った本人が遊んでるんじゃあありませんよ、長親」

「それもそうだ」

「ですね」

 

 などと言いながら、しっかりと仕事を済ませる。

 

 暗殺型のゲート使いは、どうやら他人を透明にできるタイプだったようだ。なんかマスタードさんについでに殺されてた。流石にVRパルクール(テロラン)やってる人は違うわ。

 

 なので、残った輩は長親さんと一緒にしっかり殺しておく。周りはうるさい事この上ないが、普通に殺せる程度の隠密性と実力でしかなかった。弱くはないが、コンビでやれればめんどうになることもない。

 

「何かと実力者なのね、長親さん」

「でなければ誘いやしませんわ」

「見る目があるのね、ドリル」

「私の勘は当たりますの」

「……勘なのね」

 

 勘すげーな。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 戦いも中盤に差し掛かった時から、死に落ちのリスク抱えつもガンガン攻めていく。

 

 ここからが、本格的な時間との勝負だ。

 

 何故なら、生命転換(ライフフォース)の残量は人それぞれに差があるが、限界を迎え始めてる人が増えてきたという事。戦い続けてもう30分が経っているというマイナスの原因。

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()がプラスの原因だ。

 

 切り札、切るなら今だろう。

 

「いくわよタクマ。ダイハードモード」

「あいよ。何分だ?」

「2分くらい。ラズワルド王にどれくらい使うのかわからないしね」

「じゃあ、護衛長さん! お願いします! 断ったら殺しますからね!」

「……事ここに至ってどうこうできる立場ではないのだ! せめて散る意味はまかり通す!」

 

聖剣抜刀(ゲートオープン)!」

「タクマ!」

「受け取った! ダイハードモード、スタート!」

 

 握ったその手から、力を受け取る。それを自身の命の起爆剤にして、擬似的なゲートを作り出す。それがダイハードモード。

 

 ゲートに比べると俺自身の燃費がとても良いのでる。凄まじいモノだ、この生命の属性という奴は。

 

「遅ればせながら参上した! 騎士アルフォンス! ここからは助太刀に入る!」

「ゲートは使うな! 大物が残ってる!」

「わかっている! 私をゲート一本の三流と見まごうな! 閃光剣(レイブレード)!」

 

 そのアルフォンスの声と共に、これまで静観を保っていた騎士達が動き出す。

 

 その理由は、ただ一つ。

 

 ラズワルド王の説得が終わったのだろう。実際、背中に気高い王気を感じるのだから。

 

 フル装備ラズワルド王へダイハードの生命の属性を叩き込んで、限定的に動けるようにする事。それがこのRTAの最後の切り札だ。

 騎士軍団に関しては俺でもアルフォンスでも確実な勝利を掴めない為、そんな死人に鞭を打つような事をしでかす訳である。そうでもしないとあの連中は殺せない。それほどに強いのだ。

 

 数では勝っているために油断も誘えない。うざったいものだ。

 

「2人! 暴れろ!」

「「はい!」」

 

 そうしていると一陣が終わり、ワイバーンの群れが現れる。残った雑魚どもの数も考えると結構な手間になる。普通なら。

 

 この辺りは、もう対策済みなのだ。

 

 アルフォンスと目配せをして、俺が地下空間を高速で飛び回りながら俺が叩き落とし、蹴り飛ばし、一箇所に纏めてそこをアルフォンスの閃光剣(レイブレード)でトドメを刺す。12秒、次。

 

 ドラゴンが出てくる直前に今使える最大の力で斬撃を置き、ドラゴンの口に傷を作る。そこに副長さんのゲートが響き、ダメージからの強い反射で口が開き、そこから脳髄へと向けて風と光の剣を突き刺す。

 4秒、次。

 

 現れるはゴーレムの群れ。ただの剣では太刀打ちできない難敵だが、アルフォンスと分かれて左右から解体する。

 

 関節を断ち切り動かなくなったゴーレムは無視して次に行く。場所取りが面倒で時間をかけてしまったが、それでもアルフォンスの存在により予定タイムよりプラス。

 58秒、次

 

 現れる翼を持った戦士達。ゲートなど開かせてたまるわけはないので、ここからは全力の支援を受ける。

 

「クソガキ! 王子! 適当になんとかしなさい! 生命転換(ライフフォース)風属性付与(エンチャントウィンド)! 吸い尽くせ、風よ!」

 

 そうして放たれたイレースさんの支援射撃。

 それは翼で風を受ける翼人達には効果が覿面であり、完全に何をすることもできずに矢の刺さった場所に吸い込まれ、俺とアルフォンスにより切り刻まれた。

 16秒、次

 

 現れるのは光のクソども。ネタはもう割れているので、きっちり時間をかけて遠距離攻撃によりコアを破壊する。

 

 30秒、ちょうどダイハードモードが終了。

 だが、まだ余裕はある。ダイハードモード切れとは、結局のところ外付けのブースターが切れただけなのだから。今回のようにセーブした量の力なら、終わった後でもまだまだ動ける。

 

「さ、こっからが本番だぜアルフォンス」

「ああ、だが君の隣なら負ける気がしないな!」

「へぇ? どうしてだ?」

「心が、そう言っている!」

 

 なんだか、嬉しいものだ。潜在的な好感度とかがデータとしてあるのだろうか? まぁそういう考察は後でいいだろう。

 

 今は、共に戦う時だ。

 

「俺が先に崩す! アルフォンスはギリギリまで見極めろ!」

「わかっているとも!」

 

 そうして現れるのは闇に纏われた鎧の騎士達。

 

 数は9人。前は認識できていなかったが、陣形を組んで完全に殺す気で出てきているこいつらは明らかな強敵だ。空気でわかる。

 

 だからこそ、戦うことに意味はある。

 コイツらよりも俺が強ければ、守れるものは必ずできる。かつて守れなかった人々やアルフォンスのような手の届かないことで納得してしまえる自分を殺す事ができる。

 

 それができるなら、現実で何が現れても対処ができる。

 

 人でなしは人でなしなりに、命をかけて戦わなければならないとわかっているのだ、今は! 

 

 だから俺は、強くなる! 

 

聖剣抜刀(ゲートオープン)!」

 

 首に巻かれる緑の、風のマフラー。

 

 体全体で感じる風。

 

 それらは全て、俺の殺しに繋がっていた。

 

「改めて名乗ろうか! 俺は我流、明太子タクマ!」

 

「ダチの信じた願いのためと、俺自身の我欲の為に!」

 

「貴様らを、殺す」

 

 純度100%の殺意が自分のなかから湧き出でる。

 それを束ねて剣にする。

 

 さぁ、最後の前座の始まりだ。

 

 



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21 第一話攻略RTA 魔を産む者

 陣形を構えて俺を迎撃する3人。

 即座にゲートを発動し俺の動きを妨害する3人。

 そして、ゲートをくぐってもう発動している3人。

 

 隙が無い。が、読めている。

 これだけ人数がいるのならそりゃやるわ。俺だってそうする。

 

 だけど、それはまだ常識的な行動だ。

 

 いきなり6人の戦闘不能のリスクは抱えないだろうから、いまゲートを使っている6人は中期戦、長期戦型のゲートだろう。ならば、純粋パワーでのごまかしはそうそうない。

 

 なので、フェイントを絡めて迎撃役の三人をすり抜け追い風に乗り、ゲートを使った3人の後ろに滑り込みその命を狙う。

 一人の首は跳ねられたが、なかなかどうして反応が早い。二人には躱された。そうしていると壁を作っていたの3人ゲートが彼らを潜り抜ける。

 やはり中期戦タイプ、あまり姿は変わらない。いや傾向なんか全然知らないんだけど。

 

 そうして、六人がゲートを潜った瞬間に、ゲートで作った風の刃に力を込めて、全力の殺気で全員を狙う。

 

 そして、それだけ俺に集中するならば

 

 狙っていたコイツは必ずやってくれると信じていた。

 

聖剣抜刀(ゲートオープン)! 閃光剣(レイブレード)! オーバーエッジ!」

 

 そして、アルフォンスは鎧の剣士と化し、光の剣で騎士達九人を一撃で叩き切った。

 

 だが、防御の力があるのかわからないが2人生き残った。そして、その2人は別々に分かれて死んだ人々に触れていく。

 

 すると、触れられた騎士はどんな身体からでも元に戻り、再び剣を取った。

 

「ざけんな手前⁉︎蘇生とかなんでもありか!」

「恐らくは魔生物の類! 体に魂がそれほど紐付いていないのだ!」

「どっちにしても治療役のどっちかを確実に仕留めるぞ! 俺は右!」

「任された!」

 

 そうして駆け出すアルフォンスと俺。だが、そこを止めるのが重力結界。前回の俺を殺したゲート使いだ。似たような鎧だからわかんねぇんだよ手前ら!」

「だけど、そいつに対しては対策済み!」

 

 そうして、風を解き放ち全力で横に飛ぶ。

 

 俺の死に方を三人称視点でみたところ、どうやら奴の重力は近づけば強なるが、さほど範囲は広くないらしい。なので、風に乗せた緊急回避用の出力で重力に逆らって飛び、重力に関わらない初速を手に入れる。

 

 そして、死んだ騎士達の1人をその重力の中へ放り込む。そうすると、命に守られていない脆弱な身体は潰れていき、消滅した。

 

 ログアウトと同じような現象。つまり生命転換(ライフフォース)に使える力が消えたのだろう。

 

 あの蘇生は、無条件ではなかったようだ。

 

 それが分かれば十分。重力高いは今のところ無視して、蘇生役を狙って斬りかかる。だが、腐っても騎士、生きる意志の籠もった剣術で俺の剣の斬撃を抜ける。だが、切れ味だけでその剣は切り飛ばせた。

 

「良いものもらい!」

 

 そして、回復役に蹴りを放つフリをしながら風で切り落とした剣の刃先を拾い、重力使いの上空へと蹴り飛ばす。

 

 すると、狙っていたらしいイレースさんの矢が重力使いへと放たれる。込められた力から警戒し当然重力で逸らすが、すると上空で飛んでいた刃先が重力に引かれて凄まじい速さになり鎧に突き刺さる。

 

 そこに戦闘スタイルがイケメンのグラップラーユージが飛び込んできて、燃える拳を叩き込んでそいつを仕留めた。

 

 なので、後顧の憂いなくしっかりぶっ殺す。蘇生などさせてやるものかよ! まぁ重力さん拳の所から焼け死んで消えたけど! 

 

 だが、コイツの首を飛ばしてもコイツは死にはしなかった。

 

 目を離したわけではない。気付けば繋がっていたのだ。頭が。

 

 そして、剣がいつのまにか戻っていた。

 

 ()()()()()()()。折れた刃先が消えることなく。

 

「どういうカラクリ⁉︎アルフォンス! こっちは殺しても死なない!」

「こっちもだ! 再生能力のゲートにしてもかなりおかしい!」

「ならコイツらは!」

「僕たちに任せてよ。何もさせなきゃ良いんでしょ? この2人に。ボコり続ければ誰かが見つけてくれるよ弱点を」

「頼む! ユージさん! じゅーじゅんさん!」

「構わないからゲートの開き方教えてね! やってみたいから!」

「俺も頼む!」

「へいよ!」

「ああ!」

 

 そうして、俺とアルフォンスはゲートを潜った短時間型と相対する。

 

 こいつは、肉体が竜の鱗に覆われた巨体へと変化した。うわめんどくせぇタイプ! 大きいやつは基本的に強いんだよなー。

 

「竜の鱗は生命転換(ライフフォース)を弾く! 気を付けろ!」

「うわさらにめんどくせぇ!」

 

 そう言いながらドラゴンマンへと接近し、足に剣で打撃を当てる。風で切れ込みすらは入らない。切実に硬い。

 

 そして、即座に反応して剣を返してくる反射もある。受け流した感覚では、力はアルフォンス以上、スピードはアルフォンス以下。

 時間が同等と考えると、どうにかして騙し討ちするしかないだろう。でなければアルフォンスが時間切れで死ぬ。

 

『さて、それでは奴を倒す作戦を提示しましょう』

 

 メディさん! これでかつる! 

 

『褒め称えてください。奴は、鱗で覆わていない部分はほとんど人程度の耐久力です。なので、急所から風の刃を入れ、体内を切り刻むのがよろしいかと』

 

 ああ! つまりそういう事か! 

 

 瞬間、アルフォンスの剣が奴の剣とぶつかり合い、力と技の戦いが始まった。

 

 なので、スルッと後ろに回って剣を突き出しながらこう言い放つ。

 

Penetrate your ass(ケツの穴ブチ抜いてやるぜ)!」

『素敵に馬鹿なセリフですね。嫌いではありません』

 

 だろ? 

 

 というわけで、剣に込めた風の刃を拡散させて、奴の腹を吹き飛ばす。ガワは鍛えられても、中は鍛えられない。そういう事のようだ。

 

『そういえば、内容物の飛散がありませんね』

 

 ……あー、こいつ何も腹に入れてなくてよかった! 

 

『何も考えていませんでしたね』

 

 仕方ないじゃん! ノリで動いてるんだから! 

 

 

 そうして惨たらしく死んだコイツは消え去り、残りの騎士はあと回復コンビだけ。

 

 そいつらもいつのまにかボコボコにされ、命を奪われていた。あの2人強いわ本当。思わぬ拾い物? 

 

「さぁ! 本番始まるぞ! 絶対逃すな! 囲んでボコって俺たちの勝利だ!」

 

「そう易々とは、いかせないさ」

 

 そんな事を言ってきたのは、狼。しかし、影でできた人の顔を体に生やしている。

 

 あ、コイツ死ぬと分かって全力で道連れ取りにきやがった。

 それはそれとして、いうことは一つ。

 

「その造形正直引くわ、デザインの趣味悪いんじゃない?」

「作る! 時間が! なかったのだ! どこかの連中がやってきたせいでな!」

「そいつは不幸なことで。お詫びにあの世への特急券をやるよ。なに、痛いのは一瞬だ」

「それはもったいないんじゃない? 鈍行列車で勘弁してあげましょうよ。せっかくだしいっぱいのアトラクションを体で感じさせてあげないと」

「ですわね、経費分の面白さは提示して頂けなければ動画映えしませんもの」

「貴様ら本当に心が邪悪だな!」

「だが、味方であるなら心強い!」

 

 そうして、この場にいる全員の剣気が満ちる。

 

 そんな中、王気を放ってやってきたラズワルド王に自然と目が行く。

 

 その姿は壮健ではないが、しかし強者のものであった。

 

「アルフォンス、そのまま聞け」

「父上……」

「これより、王認の儀を行う。その大魔シリウスを斬る事、それがお前への最後の試練だ。お前が持っている聖剣で、その意を示せ」

「ハッ!」

 

 そうして、アルフォンスは真っ直ぐに澄んだ心でシリウスと向き合う。時間はどれくらい残っているだろうか? 

 

『おそらく、1分はないかと』

「なら、構えておくか」

「頼む。これは僕の試練だが、それを理由に僕の聖剣を曲げてたまるものか」

「へぇ、そいつはどんな?」

「守り抜く、覚悟だ!」

 

 そう言って、アルフォンスはシリウスと相対する。その中で、3人動き出した奴がいた。

 

 炎の拳を構え、シリウスの逃げる動きを制限したユージ。

 メイスを構え、シリウスが止まれないようにぶん投げたじゅーじゅんさん

 そして、上段の構えから力を込めて、ひたすらの殺気を放った俺。

 

 3人の援護により、前にしか出れなくなったシリウスはその通りに前に出て

 

 アルフォンスの最高の一閃によりその命を絶たれた。

 

「これで終わりだ!」

 

 そう叫ぶ、アルフォンスはまさしく希望を受け止める王の器だった。

 

 そのあとすぐにぶっ倒れたのだけど、その顔はやはり笑顔だった。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 しかし、それで終わるのならこの件はもっと簡単だったのだろう。

 

 ガス欠で倒れた皆。そんな中で結晶が割れて、1人の影が出てきた。

 

 魔物を作った者とは違い、ただそこにいるだけで死を感じさせる強大な生命転換(ライフフォース)を感じる大物。

 

「来たか、魔国の」

「私が出張るほどの事とは思わなかったよ。シリウスには期待していたのだが、所詮は影か」

「貴様とて、影だろうに」

「その通りだよ」

 

「だが、今の年老い聖剣を失った貴様ならこの影で十分よ」

「ほう? 私の聖剣ならここにあるが?」

「馬鹿を言え。私が言っているのは本当の聖剣だ。かの一族が守った生命を未来に繋ぐ奇跡の剣。……単刀直入に聞く、今アレはどこにある?」

「さてな。あやつの動向など私が知るものか」

「……出張る意味は本当になかったな。予想はしていたが」

 

 そんな、大事なキーワードばかりの会話と、その間で交わされる凄まじい剣気の応酬で俺たちは黙らされていた。下手に動けば、命は無い。それが分かっているのだから。

 

「なら、せめて次代の命だけは奪わせて貰おうか!」

「させるものか! 聖剣抜刀(ゲートオープン)!」

 

 そうしてぶつかり合う二つの剣。どちらも無骨で、戦う以外の用途には使えそうには全くない。

 

 だが、それはどちらも命に溢れていた。

 

 そして、位置取りの関係で一手無理をした王は、奴の剣を防ぎきれずにいたが。

 

 こんなときでも、命を捨てて戦う事を基本にしていた奴がもう動いていた。

 

「動けるプレイヤー! 運ぶのと肉壁に!」

 

 そう言ったのは、本日最多死亡回数を誇るゾンビアタッカーのフーさん。

 

 その体は、奴の剣を体を使って受け止めていた。

 

「皆さま! 動きましょう! 我々は、死んでも勝ちに繋げられるのです!」

 

 次に動いたのはドリルさんと長親さん。フーさんの体を貫いた事で鈍ったその剣をドリルさんと長親さんの槍で叩く。そしてメガネさんがアルフォンスを抱えて騎士達の方へと走っていく。

 

 そうしている姿を見た奴は、闇の斬撃を雨のように放ったが、プレイヤーの全力がそれぞれを弾いて、受け止めて、アルフォンスへの一撃を塞いでいた。

 

 そして、どうにかしているうちに影はラズワルド王に一度斬り殺され、再生した。

 

「……このように、影の連中はただ殺すのでは死なない。だからよく見ておくように。少年、アルフォンス、君たちにこれからの戦いを任せるよ」

 

 そう言って、ラズワルド王は影の腹に絶死の一突きを放ってから、ひたすらの生命転換(ライフフォース)て焼き切った。

 

 そうして残った黒の結晶体を見せて、それを両断した。

 

「これが、奴らの殺し方だ。この影のように臓腑の中に結晶があるとされる者、獣の群体の中に1匹だけ違うモノがいる事、様々だが、それでも核を殺せばどんなルールで生きている者とて殺す事ができる。それが、大魔の殺し方だ。だから、戦いの中で謎を謎のままにするな。考え続けて、見つけ出すのだ、敵の殺すべき核を。それが、大魔と戦うという事だ」

 

「では、言うべきは終わった。エリーゼ、ロドリグ、後事を託す」

「「王命、承りました」」

 

 その言葉と共に、王の鎧は消え去り、安らかな顔で王は生き絶えた。

 

 俺たちを通じて数多のプレイヤーと、数多の騎士達にその大切な言葉を託して。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

《Congratulations!》という言葉が、視界の脇に見える。

 

「なぁダイハさん。どうにかならないのか?」

「私は、沢山の死にかけた奴を見たわ。けど、私には初めて王を見た時からこの人が助かるとは思えなかった。だから、使い切るように告げたのよ」

「ま、しょうがないか」

 

 そんな会話の中で、今までのログアウトとは違うゆっくりとした消え方で、俺たちはこの世界から消えていった。

 

「じゃ、多分また来るよアルフォンス。今度会うときもロク事にはなってないだろうけどさ、また会えたら嬉しいよ」

「ああ、救国の稀人達よ、いつかまた」

 

 そうして、俺達少ない生き残りは帰って行った。

 あの、黒い部屋へと。

 

 

 



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22 第一話リザルト発表

 いつもの黒い部屋に、デカデカと第一話クリア記念と描かれた垂幕が場違いに目立つそこは、第一話リザルト発表会場と言われていた。デブリーフィングルームじゃないのかいな。

 

「皆さん! 私達の想定とはカケラも擦りもしない大立ち回りでしたが! 結果的に第一話、群狼シリウス編、終了です! ちなみに! 普通ではクリアタイムなどは申し上げないのですが今回はワールド規模でのRTAという事だったので宣言しちゃいます! クリアタイムは、2時間41分25秒! ネックだった数の暴力をあんな方法で解決するとは本当に見事でした!」

 

 そんな言葉を、マテリア嬢は言う。

 

 なんというか、相当楽しそうだ。

 

「なので、通常のクリアリワードの1000ポイントに加えて特別ボーナスの1500ポイントを加えた2500ポイントを基礎点として与えたいと思います! さらにさらに! 討伐、作戦のポイントの倍率を1.2倍にします! 皆さん、本当にお疲れ様でした!」

 

 なんか、結構なポイントを貰える事になっていそうだ。やったぜ。

 

「では、このゲームについて意図的に伏せていた攻略法を開示させていきたいと思います。今回の解き方の答え合わせですね」

 

「今回の事件、シリウス編の根本的な滅びの原因はこの国を守る結界の維持そのものです。結晶体として封印されているシャドウには、万全の騎士団、ひいては王をぶつければ多くの犠牲を出しながらも勝利する事が可能でした。なので、それができるようになるまで騎士団の方々の潜在好感度を上げる事が今回のクリア条件だと想定していました。もっとも、今回のやり方では現在の周での好感度を上げる事でコレをクリアしたのですけどね」

 

 あー、なるほど。アルフォンスがなんか俺を覚えていたのはそういう事か。

 

『ですね。潜在的に“この人物は信頼してもいい”と思えるようになれば怪しい頼みでも聞いてくれるでしょうから』

 

「そして、それを得る過程で護衛長エディについての色恋話などの大切なストーリーを知り、それをもとに説得することで仲間にするという事が本来のシナリオでした」

 

「ですが、この世界はその辺りをかなりフレキシブルです。推理ゲームで例えれば、犯人が犯行をする前にぶっ飛ばして拘束してもクリアになるようなものです。なのでコレをズルだなどと思わずに、これからもありとあらゆる手を尽くしてクリアを目指してくれていると嬉しいですね」

 

 それはなんとも“なんでもあり”に強い氷華に向いているゲームだな。というか、そういうのを理解したからこそのRTA宣言なのだろうけれども。

 

「では、これにて余談は終了! リザルトの本格的な説明に入ります!」

 

 なんとも、楽しそうに説明するAIだ。まるでメディだな

 

『そうでしょうか? 私はさほど感情のエミュレーションは得意なAIではないのですが』

 

 あれよ、慣れてからば結構表情が分かる的な。

 

『顔はドクターの設定画モドキでしかないですけどね』

 

 と、話を聞かねば。

 

「これから毎話のクリアごとに、そのクリアに貢献した4人のプレイヤーの方にはストーリーポイントが加算されます! その用途は、ポイントとさまざまな特典との交換です! その交換対象は、これらです!」

 

 そうして、目の前にウィンドウが開かれる。

 

 そこには、ストーリーポイントで現金が手に入れられるという凄まじい事が書かれていた。

 

 もっとも、1ポイントにつき2000円というちゃっちさであったが。

 

「もっとお金を跳ね上げろ? そんな金があるならもっとマシな方法とってますよ!」

 

『マスター、それよりも下をごらん下さい』

 

 メディに言われるがままにスクロールを進めていくと、そこにはいくつものアイテムとの交換ができると書かれていた。

 

 まず、地図。現実世界で使えるこのゲームデザイナーの作ったオリジナルUIの()()()()()地図である。

 

 次に、時計。こちらも現実世界で使える()()()()()()()()()()()()時計。

 

 そして最後に、権利。

 10ストーリーポイントというこれまでの最大の消費を代価にして、得られる()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 マテリア嬢を見る。そこには、どこか申し訳なさそうで、しかし嬉しそうに俺たちを見る姿があった。

 

『マスター』

 

 だな。謎を解くならこのゲームでPOGになって20ポイント集めなきゃならない。だが! 

 

 そういうのは子育てサイコに任せて、俺は地図か時計のどっちか持ってればええなー。幸いポイントは1つ貰えたからどっちかは買えるのだし。

 

 

 けど、どっちが良いと思う? 

 

『間違いなく氷華様のポイントも入るのですし、2人でそれぞれを買うのでよろしいのでは?』

 

 それもそうか。

 

「尚、このポイントの交換はこの会場でしか行えず、譲渡なども不可能です。そして、思考操作でしかポイントの使用は行えませんし、他人の交換対象は見ることができません。また、交換対象の順番に関しても、一番上と一番下以外はランダムとなっています。これは、その人個人個人によって交換対象が違うからです。ネタバレ防止というやつですね」

 

「なので交換対象についての情報は鵜呑みにし過ぎない方がよろしいかと」

 

 釘を刺してきた? 理由はわかるかメディ

 

『……いずれ来る混乱に備えるため、でしょうか』

 

 そいつは怖い。じゅーじゅんさんには是非に頑張って貰おう。

 

『まぁ、マスターは所詮貧弱中学生ですしね』

 

 そゆこと。じゃあ、せっかくだし俺はこの時計を選ぶぜ! 

 

『何故に時計なんですか?』

 

 毎度毎度寝起きで遭遇するのやなんだよ。

 

『それもそうですね』

 

 そうして時計を手にして、その表示に驚く。

 

「コレ、バグってるのか?」

 

 表示が、88:88を示している。旧世代のデジタル時計か! 

 

 まぁ、多分時間加速だのがアレコレしてるのだろう。気にしない方向で。

 

 役に立たなくても、所詮2000円だ。

 

「では! これにて説明は終了です! これ以降は製作者のメッセージくらいなので、帰っても構いませんよー」

 

 その言葉を聞いて、残ったのは過半数。まぁこのクオリティのゲームを作れる人の言葉とか気になるわな。

 

 そうしていると、マテリアさんの姿はそのままに、雰囲気が変わった。

 

「プレイヤーの諸君、私の《Echo World》を購入してくれてありがとう。私はDr.イヴ、このゲームの製作者だ」

 

「このゲームを作るにあたり、様々な技術革新があった。それは私1人の力では決して届かなかったものだ。本当にこの時代に生まれたことに感謝している。そして、製作費に金を使いすぎて宣伝費の欠片もなかったこのゲームを購入しプレイしてくれたプレイヤーの皆様には感謝してもしたりない」

 

「だが、これから先のこの世界には多くの苦難があるだろう。それから逃げ出すことは決して悪ではない。誰か1人が居なくなって結果が変わるのなら、それはその程度のことだったというだけなのだから。故に、君たちは自由に、この世界と向き合って欲しい。その為の協力を私は惜しまない。……預金残高が残っている限りはな!」

 

「というのが、ドクターの言葉です。要約すると、“もう買ったから良いけど! もっとたくさんお友達を誘ってプレイヤーを増やしてね! ”という事です! ……いやだなー、皆さん一斉にツッコまないで下さいよ。まぁ、良い歳して中2の抜けてない人ですが技術は本物なので、楽しんでプレイして欲しいなと思います! では、これにて第一回リザルト発表会を終了します!」

 

「ですが、現実でもくれぐれも気を抜かないようにしてください。滅ぼされた者たちの残響は大きさで響くものです。その残響に引きずられてしまわないようにお気をつけて」

 

 そんな、いつもとは違う言葉を最後に、リザルト発表は終了した。

 

 その後、皆で簡単に打ち上げを行った。飲み物も何もないが、わちゃわちゃするだけでも楽しいものだ。

 

 今回のGOPはダイハさん、俺、ドリルさん、メガネさんの4人。なんともまぁそれぞれやってるゲームが違う連中である。

 

 ペテンと推理、無双系入った対人、シミュレーション、ステルス。それぞれがそれぞれの強さでもぎ取ったGOPだった。

 

 それぞれポイントは1ずつであり、俺以外にポイントを使った奴はいないとのこと。まぁあの一見クソなラインナップならそうだろうなー。

 

 俺のような確信を持っていないのなら、時計も地図も買う気にはならないだろうし。

 

 まぁ、流石に3回連続で遭遇するなんて事はないだろう。あとはじゅーじゅんさんやジョー刑事がなんとかしてくれるさ! 

 

『流石の他力本願ですね』

 

 所詮中学生の俺に何ができるのだし。

 

 そんなことを思いながら、良い感じにお開きになって現実へとログアウトした。

 

 そうすると、時計の時間が進み出す。

 

 時間は、48時間後。これならとりあえずゆっくりできそうだ。

 



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23 第一話最終戦 土曜日の帝大附属病院

《Echo World》での打ち上げも終わり、特に設定したわけでもないカウントダウンもあと40時間分以上残っている今、俺は心を落ち着かせてゆっくりと今日の事を思っていた。

 

 今日の午後からは、氷華の最後の手術だ。これまで合併症などが原因で手をつけられず、薬で抑えていた癌を外科的手法で取り除いてクローン臓器へと置換するのだとか。

 

 それを乗り越えれば、彼女はようやく健康体になれる。

 

 リハビリは多分必要になるだろうが、あのダイハードな女なら笑って乗り越えるだろう。

 

 これでようやく、おれはこの恋へのスタートラインに立つ事ができる。今までのように約束を盾にした関係ではなく、ただ1人と1人の人間として。

 

『そのような事、考えるだけ無駄かと具申しても?』

 

 気持ちの問題なの! 中学生のピュアハートの関係なんだよ! 

 

『まぁ構いませんが、そろそろ出なくても?」

「それもそうだな」

 

 そうして、朝食を食べ終わった俺は片付けをして、ベビーカーに乗り、いつものように病院へと向かう。

 

「そういえば、なんか気が楽だな」

『それは、マスターがリラックスしているからだと』

「緊張してたの? 俺」

『はい。初めて狼と会ってから、ずっと“いつまた戦いになるかわからない”という緊張感にありました』

「……VRでは割といつものことでは?」

『現実ではたまにしかしてませんでしたよ? そんな無駄な警戒』

「え、たまにしてたの?」

『古典にある、学校にテロリストが来たらどうしようか。という妄想でしょうか?』

「やめろや、リアルに来たら1人くらいしか殺せないだろが」

『反論が予想通りで残念です』

「しまった、テンプレだったか」

『単純ですからね、マスターは』

 

 などと緩く会話しつつ、ネットニュースを流し見する。するとそこには、《Echo World》の事が取り上げられていた。なんだかんだで第一話RTAは動画映えしたのだろう。多分。

 

 尚、トップの動画がドリルさんの奴なあたり、ちゃっかりしてるなーと思う。ドリルさんなんだかんだと人気なのな。

 

「……なんやねん“たらし明太子”って」

『さて、辛子明太子とかけたのでは?」

「嫌にうまいあたりムカつききれないな」

『まぁ、たらしたのが氷華様以外全て男性だと嗤われていますが』

「そこはいいんだよ。そこは」

 

 ドリルさんの動画のコメントにあったのが、俺の明太子を弄ったその名前。今度ドリルさんの動画撮影に協力するときは登場ネタとして使うとしよう。

 

『着きましたよ』

「……うし! 頑張ろう!」

『マスターが頑張る必要はどこにもありませんけどね』

 

 うっさいわメディさん。あ、駐輪場まで頼むなー

 

『了解です』

 

 そうして、いつものように面会手続きをして、氷華の病室へと入る。

 

「あら、お帰りなさいタクマくん」

「ただいま、氷華」

「乗ってきたのね、珍しい」

「たまにはな」

「なら、お茶にしましょうか。ARだけど」

「お前も珍しいな」

「もう手術が終わるまでのカロリーは点滴で取ってしまったからね。口寂しいのよ」

「なら、お茶にでもしようか」

「ええ、玉露というのは悪くなかったわ。だからそれに合うお茶菓子を貰えないかしら?」

「また高いもんに手を出して……だけど、どうせだし高級羊羹とかにするか」

「ええ、良さそうね。早くリアルで食べたいところよ」

 

『では、そのように。港区にある老舗の和菓子屋に予約を入れておきましょうか』

「ちなみにそのお金は何処から?」

『マスターの氷華様の為の貯金からです』

「あら、嬉しい事をしていたのねタクマくんは」

「やめて下さい氷華様、メディ様、私めの恥を晒さないで下さいませ」

「嫌よ。私タクマくんの困っている顔も割と好きなんだから」

『私は最適な行動を取っているつもりです』

「悪意と善意のハーモニーですね!」

 

 そんな俺の姿を見て、クスクスと氷華は笑った。

 それに釣られて、俺も自然と笑顔になった。

 

 なんというか、いつも通りだった。

 

 これが、多分最後の事だけど。

 

「なぁ、氷華」

「ええ、この手術が終わったらあの日の約束は終わり。だから、私たちの関係はリセット。そう言いたいのでしょう?」

「……ああ」

「そんな事だと思ったわ」

 

「だから、手術が終わったらちゃんと話をしましょう。私たちの関係について」

 

 その言葉にある強さを感じて、もう氷華は大丈夫なんだと確信した。

 

 だから、この関係はもう終わりにしよう。

 

 その先で今までのようになれるかはわからないけれど。それでも間違った始まりのこの恋を始めるために。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

「それじゃあ、手でも握ってくれないかしら?」

「珍しく弱気だな」

「仕方ないじゃない。成功するって言われる手術なんて初めてなんだから」

「だよなー」

「だから、ハグしてくれても良いのよ? 私は不安なんだから」

 

 その言葉に応えて、しっかり氷華を抱きしめる。

 

「何よタクマ、幸せで私を殺すつもり?」

「心配で悪いか」

「……大丈夫よ、私は死なないもの」

「ああ、頑張ってこい」

 

 そう言って、氷華の身体をストレッチャーに戻す。

 

 見ていた看護師さんたちにニヤニヤされながら。それでも「よろしくお願いします」と声と共に頭を下げる。

 

 その声に、しっかりとまっすぐ応えてくれるあたりが、この人たちの命を救う覚悟があった。

 

 そうして数時間が経ち、手術が始まった。

 

 そして、それからすぐに()()()()()()()()()()()()

 

 一瞬で、残り時間が数分以内になると理解できるほどに。

 

 

「は?」

『マスター⁉︎栗本様とじゅーじゅん様への連絡は私からします! マスターは今から3分以内に武器を……いえ、もう間に合わない!』

「メッセージは⁉︎」

『送りました!』

 

 そうして、世界が切り替わる。力が満ちて、心臓が落ち着き、意識が冴え渡る。

 

『マスター、どうしますか⁉︎』

「……氷華の確認! 今どうなってるのか調べないと!」

『ならば?』

「どうせ直る! こじ開けるぞ、この扉!」

 

 そうして、風の生命変換(ライフフォース)を用いての貫手でドアに両手を突き刺し、円形に回してドアに穴を開ける。

 

「何⁉︎」

「氷華はどうなってますか⁉︎」

「息子くん……今、氷華さんの手術は……」

 

 そうしていると、親父の叫び声が聞こえる。命を繋げという声だ。

 

 その声から、氷華の現状は把握できた。

 

 やはり今回もアイツは死にかけている。

 

 だから、ドア越しに声をかける。俺が何をするべきか納得したいが為に。

 

「親父!」

「タクマ! 何やってる外に居ろ!」

「何分以内にこの現象が治ったら、氷華は生き延びれる!」

「……わからん!」

「何が原因!」

「メスも針も通らんのでインオペができん! そして、腹を開けたままでは輸血が保たん!」

「わかった! 俺が10分以内にこの件を終わらせる! だから死ぬ気で命を繋いでくれ! 親父!」

「待っ、て! タクマ!」

 

 その声に、仰天した。氷華の麻酔が切れてる⁉︎

 

『出血性ショック死の可能性があります!』

「クソが、何なんだよこの空間は!」

 

「なんだ⁉︎、傷が、治っていく⁉︎」

「馬鹿ね、私が、そんな簡単に、死ぬ、わけ、ないじゃない。Mrs.ダイハードを、舐めない、で」

 

 そうして、呼ぶ声に引かれて手術室に向かう。

 そこには、息も絶え絶えで、痛みに苦しみ続け、しかし命を諦めていない女がそこにいた。

 

「これは、前に言ってた空間ね?」

「……ああ」

「なら、任せるわ。私の力を持って行って。私は残りを全て生きる力に注ぐ。だから、私を助けて」

 

「私の、婚約者様(ダーリン)

 

 その、呪いのような言葉に俺は答える。まだ、約束は残っているから。

 

「任された」

 

 そうして、氷華の生命転換(ライフフォース)を貰い、ダイハードモードのままに走り出す。

 

 今回、完璧にヒントはない。だから、自分の出来る事を考えて動く。

 

 警備室に意味はない。どうせカメラでの監視はできないのだから。

 

 そして、窓から周囲を見回すことに意味はない。ほぼ間違いなく中心はこの病院だからだ。というかそう決め打ちしてないと賭けになんて出られるか

 

 だからこそ、その姿を見た時に驚いた。

 

 壁をぶち抜いてきたその狼の群れは、明らかに俺を狙っていたのだから。

 

「上等! 餌役やってやるさ!」

 

 襲ってくる6匹の狼と2人のゴブリン。2人のゴブリンはゲートを開く気配がしたので、割れた窓ガラスに命を込めて投げつけながら、距離を詰める。そして、その手に持っていた無骨で雑そうな剣を盗み、高まった身体能力に乗せて放った剣によりその全てを斬り殺す。

 

 そして、そのまま敵の現れた方向にまっすぐ進む。そこは病院の中庭であり

 

 俺が氷華に契約を持ちかけた約束の場所だった。

 

 そこに、大魔シリウスは、数多の狼や人狼、巨狼などを従えて立ち塞がっていた。

 

 互いに、言葉はなかった。

 

 ただ、俺は1人で。奴は数多の数で、殺意だけをぶつけ合った。

 

 俺の約束を、守ると決めたから。

 

聖剣抜刀(ゲートオープン)!」

 

 そうして氷華の命を内側に大切に仕舞い込み、己の風と剣で奴を殺す為に走り始めた。

 

 いつのまにか変化した、臆病者の剣(チキンソード)を握りしめて。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 俺は、多分人間じゃなかった。

 

 いや生物学的には人間だったし、超能力が使えるとかそういう特別はなかった。

 

 ただ、両親の死に何も感じなかったという事だけが、自分を人非人として形作っていた。

 

 だからこそ、親父は俺に「誰かを助ける男になれ」と命令をくれた。寄るべのなかった俺に、生きる指針をくれた。

 

 その結果、俺は氷華と出会った。出会えた。

 

 俺と同じように両親と死に別れ、特別な病を抱えて、その手術を受けても死ぬ確率が高く、しかしそもそも手術を受ける資格を持っていない。

 

 そんな彼女に、俺は多分ものすごく間違った形で手を差し伸べた。しかし、彼女は最終的に笑ってそれを受け入れてくれた。

 

 それは、そんなところからの約束の話だった。

 

 



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24 第一話最終戦 大魔シリウス

 現状、中庭にはもう誰もいない。誰かのいた後は残っているのかもしれないが、そんなのは見ても仕方がない。

 

 目の前には軍勢、今回は今までのような狼縛りはなく、ゴブリンなどが混ざっている。

 

 そしてそいつらは、間違いなくゲートを使える。

 

 1人で相手にするのはかなり難しい相手だが、もうこっちはゲートを切っている。なら、戦いは死ぬか殺すかだ。

 

 シンプルに、ゲーム(いつも)のように思考を研ぎ澄ませ。

 

 1人だけ明らかに違う個体。あのヒトガタの大魔シリウスがコアだろう。

 

 つまり、数を相手にする必要はどこにもない! 

 

「死ね」

 

 そう声を放って殺意を叩きつける。しかしヒトガタは落ち着いて自分の影から影のモンスターを生産していた。

 

 そしてその中から、明らかに達人の雰囲気を醸し出している騎士の姿が現れた。その数は2人、装備を見るに、あの地下での戦いにて見た奴だ。回復役であり、ネタがわからないうちに殺された奴。当然のようにゲートはもう潜っている。ちょっとは侮れやクソが! 

 

 周りのゴブリンや狼たちの攻撃は最小限で回避して、右の騎士に斬りかかる。当然切れ味MAXでだ。しかし、それは首を跳ねたにも関わらず、その体は一瞬のブレと共に元に戻った。

 

 やはり、無尽蔵な再生じみている。体力の衰えが見えない。

 

 コイツもコアを持つタイプの大魔という奴なのか? 

 

 だが、コイツらは前に死んだ時ボコボコにされた遺体を残していた。としたら、傷を負うダメージに条件がある? ……わからん! 

 

「……どうせ時間はないんだから! 殺さずに無力化する! 生命転換(ライフフォース)風属性付与(エンチャントウィンド)!」

 

 圧縮した風を腹打ちに乗せて叩きつけ、もう片方の騎士へと打ち出す。それを受けた騎士2人は吹き飛び壁にめり込む。

 

 しかし、新たに作られるゴブリンの群れの半分が俺を止め、もう半分が奴らを助けに行く。ヤバイ、手数が足りないッ! 

 

『……命を無理に使ってでも、ここは!』

「わかってる! 生命転換(ライフフォース)風属性付与(エンチャントウィンド)! 切り刻め!」

 

 風の刃の雨がゴブリンや狼などの雑魚を切り刻む。だが、広範囲に伸ばした俺の刃の作り方ではかなりの命を使わされた。この感じ、残り10分はないッ! 

 

「だが、道は!」

 

「開けるわけねぇだろタコが」と言わんばかりのカバーリング。やはり強い! 

 

 やってくる2人の騎士。ゴブリンを殺すのが間に合わなかったか……ッ⁉︎

 

 メディ! 奴らの右頬! 

 

『はい、鎧が斬られて血が出ています! 明らかなダメージ確認です!』

 

 理由は⁉︎

 

『同じ位置、ならば2体一対の力?』

 

 ……二体同時がヒントだな。まぁ、やれるかは別なんだけど! 

 

 そうしていると、背後からの狼の突撃を喰らいかける。どうにか躱せたが、この位置取りは嫌な感じだ。

 

 シリウス本体が、遠い。

 

『ここは、一度逃げて暗殺を狙うべきでは?』

 

 駄目だ。それをやるとコイツらは無差別に人を襲い始める。そうなったらどこにも隠れられない。

 

『では、命を捨てる覚悟で特攻を?』

 

 元から覚悟なんざできてるよ。守るって、決めたからな。

 

『ならば提案です。ギリギリまでの持久戦を』

 

 さっさと殺さないと不味いってのにそれは⁉︎

 

 瞬間、生み出されたゴブリンにより放たれた矢により意識を切らされる。まずい、ちょっと掠った。毒とかあるなよマジに。

 

 んで、なんで持久戦⁉︎

 

『持久戦を提案する理由は2つ。まず、この病院から広がる異界の中にプレイヤーが混ざる可能性がゼロではないこと』

 

 他力本願! 好きよそれ! 

 

『もう一つは、弱って侮られてくれれば今届かないワンチャンスがあるからです』

 

「……上等! 泥臭くやるのが俺のスタイルだよ!」

 

 まず、思考からシリウス本体へのルートをカット。最小限の力で周りの雑魚を殺しながら、俺を攻める騎士のシリウスの護衛を続ける騎士の攻撃を躱す。

 

 そうして頭が冴えてくると、いくつかの疑問が出てくる。

 

 どうしてあのシリウスは他の騎士を作らないのか。あるいはバードマンでも良い。ゲート使いが増えたら俺はどうしようも無く殺されるのだから。

 

 ならば、原因は? 

 

『推測、キャパシティの関係では?』

 

 ありそうだ。さっきから殺した数と生み出す数が同じ、それにシリウスの1000匹のアレもそういう事なら、納得できる。多分騎士2人のキャパが9割とか必要なんだ。だから残りをうまくやりくりして波状攻撃で誤魔化してる。

 

『なので、今あの騎士2人を殺すのは悪手かと。次の万全な騎士が生まれます』

 

 元から同時攻撃かなんかでしか殺せないけどさ! 

 

 ゴブリンが低空タックルで俺の足を止めようと突っ込んでくる。それを踏みつけて、空を跳び、病院の壁に着地する。そして跳ね飛び、護衛の方の騎士に蹴りを叩き込む。そして当然のように自らを守るモノを生み出そうとしているシリウスに斬りかかれるか見たが、奴の手が黒の生命転換(ライフフォース)で隠しているが獲物を持っているのがわかった。

 

 コイツ自分を餌にして殺す気満々かよやめろやおのれ。

 

『これはやはり、助けが来るのを待ちましょうか』

 

 いや、大丈夫だ。“もう来てる”。

 

「……助けてお巡りさん! ファンタジー生物が殺しに来るんです!」

 

「なんだって? それは大変だ! 殺さなきゃ!」

 

 そこには、俺とは逆方向から警棒を使ってゴブリンや狼を殴り殺してやってくるじゅーじゅんさんがいた。

 

「なんでそんなノリノリなんですか足柄さん! 俺を追いかけてきたって話でしょうに!」

 

 そして、ゴブリンを殴り殺しながらしれっと戦いに混ざっているユージさんがやってくる。

 

 強いわ、やっぱり。

 

「しゃあ! 賭けには勝った! ナイス連絡だよメディさん!」

「たまたまこの辺パトロールしていた僕らを褒めてね!」

 

 そう言い放ったじゅーじゅんさんの後ろからジョー刑事が顔を出した。

 

「オイ足柄ァ! 勝手に前に出てんじゃねぇぞ!」

「先輩! 避難はどうですか⁉︎」

「できるか! 逃げられねぇんだぞここから! この中庭で食い止めろ!」

「酷いですねぇ、そんな無茶を言うなんて!」

 

「アイツを殺さないなんて、僕らがやらないわけないじゃないですか!」

「全くもって同感です!」

「余裕だなあんたら!」

 

 自然と、戦うことに馴染んでいる俺たち。3人の実力者がいる。ならばできる事はある! 

 

「シリウスを殺します! つーわけで、またまたあの2匹任せて良いですか? 同じところに同じダメージを受けると傷になります!」

「オーケー! ユージくん! マウント取って顔面殴りまくるよ!」

「バイオレンスだなぁもう!」

「嫌いかい?」

「……ここで引いたら、姉貴がどうなるかわからない! だったらやるさ! 男らしくさ!」

「さすがイケメン高校生! けど先輩からのお叱りは覚悟してね!」

 

 そう言って進む俺たち。

 

「メディ! 残り時間!」

『3分はありますね。光の巨人と時間は同じです」

「なら、余裕だな!」

 

 そうして、殺気をコントロールして殺しをばら撒く。1匹1匹、丁寧にどう殺すのかを叩きつけながら。

 

 一発芸の類だが、これは一瞬俺に注目を向けさせることができる俺のバトロワ系、無双系ゲームでの奥義だ。

 

 その隙は一瞬であるが、しかしそれを見過ごさない不良警官と高校生ヒーローは動き出す。

 

 止まった雑魚を無視して、それぞれが騎士の顔面に攻撃を叩き込む。

 

 それは、微妙にタイミングがズレていたが為に殺しきれなかったようだが、衝撃でぶっ飛ばす事は可能だったようだ。

 

 それだけの仕事をしてくれたのならもう十分。

 

『それでは、準備はよろしいですか?』

 

「当、然!」

 

 そうして、今出せる最高速度で首を刈りに剣を振る。それに反応して剣破壊の用途に用いられる短剣、ソードブレイカーを合わせるシリウス。

 

 だが、今更その程度のもので止まるような剣じゃない! 

 

「らぁっ!」

 

 俺の剣は、シリウスのソードブレイカーを切り裂き、右肩から真っ直ぐにその身体を断ち切った。

 

 しかし、そこからモヤが現れて騎士へと取り憑いた。それに、じゅーじゅんさんは気付いていない⁉︎

 

『推論、アレはマスターにしか見えないのでは?』

 

 だとしたら、今ここからどうする⁉︎あんな意味不明なモヤによる無茶苦茶な生き物なんてどう殺せ……ば……

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

「これが、奴らの殺し方だ。この影のように臓腑の中に結晶があるとされる者、獣の群体の中に1匹だけ違うモノがいる事、様々だが、それでも核を殺せばどんなルールで生きている者とて殺す事ができる。それが、大魔の殺し方だ。だから、戦いの中で謎を謎のままにするな。考え続けて、見つけ出すのだ、敵の殺すべき核を。それが、大魔と戦うという事だ」

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 剣王ラズワルドの言葉が頭を走る。

 

 考えろ、考えろ、考えろ。

 

 そもそも、奴はどうして昨日の地下での戦いの時に現れた? あの雑魚っぷりだったが、それでも奴はそこにいた。

 

 つまり、コイツは残りの体がある限り死なない。それがどこにあっても。

 

『では、コアを今から探すのですか?』

 

 違う、コアはもう見えている! 一番最初にシリウスを殺した時から、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! そこに命が感じられたから危ない何かだと思ってたが、それだけじゃないのなら! 

 

「2人とも! そいつらを殺してくれ! それから先のとトドメは俺がやる!」

「わかんないけどわかったよ! どっちにしてもコイツは殺すし!」

「コイツらは、HPとかそういうのを他人に合わせさせられる! だから!」

 

「「そんな事考えさせないくらいに殺しまくる!」」

 

 そうして、じゅーじゅんさんの乱打による撲殺と、ユージさんの炎の拳がコイツらを包む。

 

 そうして、現れたのは黒いモヤ。それを今一度よく見てみると、小さなコアに風と生命の生命転換(ライフフォース)が包まっているように見えた。俺が見えたのは。あるいは最初の時にイレースさんが見えたのはそれが理由だったのだろう。

 

 だが、コアは極小。風の剣では殺すのは難しいだろう。

 

 だから、今こそ使う時。氷華に託された、生命の生命転換(ライフフォース)の技を。ずっと隣で見てきたように思えるアルフォンスの剣を! 

 

閃光剣(レイブレード)!」

 

 それは、酷く不格好な剣だった。

 

 しかしその収束のまともにできていないクソみたいな光の剣は、しかし極小のコアを焼き尽くすには十分な力であり。

 

 シリウスを殺すには、十分なモノであった。

 

『ゲームオーバーです』

「二度と来るなよクソ野郎」

 

 その言葉を最後に、パリンという音と共に空間が割れた。今までのような消える感じではなく、割れて崩れるようなモノだった。

 

 そして、すべてのモノが元に戻る。破壊された痕跡は消え、証拠も全て消滅する。

 

 そして戻ってくるいつもの倦怠感。

 

 どうやら、どうにかなったようだ。

 

「あー、お疲れ様でしたー」

「……終わった、あー生きてるって感じだなー!」

「君たち、まだ周り警戒してようね。終わった後にさらにドンってのがあるんだからね現実だと」

 

 疲れからと心労から中庭に横になる俺とユージさん。それをやれやれと見つめるじゅーじゅんさんにどうにか証拠がないかを探しているジョー刑事。

 

 それぞれはそれぞれだが、戦いはここに終わった。そう思うことにする。

 

『これ以上来られたら死にますものね、間違いなく』

 

 それは言わないお約束ですよメディさん。

 

 あとは、親父次第だ。氷華のことを助けられるのは、結局親父しかいない。だから、あとは祈るしか無い。

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 久しぶりに、私は夢を見た。

 それは、私が私の命より大切にしたいと思った人の事。

 

 当時の私は両親を事故で失い、親族はもうおらず、しかも精密検査で様々な病気が見つかっていた状態だった。

 

 幸い怪我はないのだけれど、それでも生きる気力は全く存在していなかった。

 

 そんな時、彼に出会った。

 

 自分は能面のような顔で、「君を助けさせてくれ」なんて言葉を吐いた変な子。

 

 でも、私は全てが投げやりになっていて、その子に全部を吐き出してしまった。沢山の病気のこと。まず助からないということ。そんなことを。

 

 そして、今可能性のある手術の成功率はほとんどゼロだということを。

 

 それを聞いた彼は、それから1時間くらい後に私の病室へと現れてこう言った。

 

「今から0%を破ってみせる。だから、手術を受けるって約束してくれ」

 

「できなかったら、俺も一緒に死ぬから」

 

 そうして、彼の2674番勝負が始まった。

 

 ただ、ただひたすらに、無茶苦茶に、彼は剣を振るっていた。相手は勝率100%の達人。何がどうしても勝ち目なんてない。なのに、負けても負けても戦いをやめなかった。殆どが一瞬で負けるような戦いだったのにだ。

 

 そうして1時間近い戦いの最中で彼は成長し、対して達人は疲労して、奇跡のような一勝を決めて見せた。

 

 そうして彼は私に言った。

 

「俺はゼロは超えられた。だから君も諦めないで手術を受けてくれ。君を助けたいって人がいるから」

 

 能面のような顔のまま、言ったその言葉は私を酷く惑わせた。

 

 そして、私を彼の父親の身内にし、新しい手術を受ける権利を得る為に、婚約届をネットで役所に提出した。私と、彼の。

 

 そして、最初の手術が終わった後、中庭で彼は言った。

 

「これで、1人は守れたのかな?」

「……まだよ。私は、まだ沢山の病気があるから」

 

「だから、私が治るまで、私を守って。婚約したんだから」

「……わかった」

 

 それはきっと、私からも彼からも卑怯な約束。

 私が彼と離れたくないからでっち上げた約束。

 彼を私と離したくなかったから作った約束。

 

 そうして私は彼を知り、その危うい心の中にある優しさを知り、気付けば彼と生きたいと思っていた。

 

 それが、Mrs.ダイハードの正体。

 私はきっとただの恋する娘。

 

 だから、死ねない。

 

 私が死ねば、私の恋は始まる前に終わってしまう。誰が吹き込んだのか知らないけれど、ずっと1人の男を見たいと思っている女なのだ私は。

 

 だから、死ねない。

 

 私が死ねば、彼はきっと心を間違えたままで涙を止めてしまうから。

 

「だから、死なない。私はMr.sダイハード、死んでも死なない女なんだから」

 

 そう口に出せたときには、いつもの倦怠感がやってきた。

 お腹が焼けるような痛みもやってきた。

 心を強く持たなければショック死してしまうだろう。

 

 麻酔が入るまで、私は気合で生き残る。

 そうすれば、義父様が私を助けてくれるから。

 そう、信じられるから。

 

 私は、命を燃やして命を繋ぐことにした。

 

 

 

 



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25 第一話エピローグ 御影氷華との約束

「……ん?」

「あら、起きたのね」

 

 そこは、いつものVIPルーム。氷華の病室だ。

 

 どうやら、ガッツリと眠っていたらしい。まぁ疲れたものな。

 

「とりあえず、手術お疲れ様」

「ええ、お疲れ様。久々にインオペになったからまだ治ってないのだけどね」

「まぁ、じゃあないわな」

「だけど体調には問題ないから、日曜の朝には手術できるとか言ってたわよ、お義父様は」

「それはそれでどうなんだオイ」

「だって、出血も全部無くなったもの。記録上も体調上も私は寝ていただけ。だから、病院の都合てさっさと治って欲しいんだって。勝手よね」

「……大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。馬鹿みたいに検査を沢山受けた上での結論だから」

「そいつは……お疲れ様?」

「ええ、疲れたわ。ハグを要求しても良い?」

「味をせしめたのかお前」

「さて、どうかしらね」

 

 そんな彼女の、震えを隠していた手を見て、守りたいと心が動いた。

 

 そっと、ガラス細工を触るように抱きしめた。

 

 すると鳴り出すシャッター音の嵐。

 

『マスター、周囲をご覧下さい』

 

 そこには、さまざまな方法で仕込まれていた小型カメラの数々が! 

 

 そして入り口の方には、ニヤニヤと笑うナース長さんと申し訳無さげなユージさんが! 

 

 

「ハメやがったこの女!」

「ええ。コレで私は合成じゃない映像証拠と証人とついでにあなたとの愛を手に入れたのよ」

「愛についてはまだノーコメントで!」

 

「あら、けれどあなたは抱きしめてくれたのでしょう?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

「……ハメやがった! マジで!」

 

 つまり、窓の向こうにあるあの夜景はAR。現在時刻を示す時計とかは全て時間をごまかされ、そしてメディは裏切っていた! 

 

 現在時刻は! 日曜の13時! 

 

 もう手術が終わった後だったッ! 

 

「じゃあ改めてお話をしましょうか。婚約解消は約束だから受け入れるけれど、それから先何をするかは分かる?」

「いや、ね。俺としてはやっぱり俺だけを見て俺を選ぶってのは、ね」

「散々聞いたわよ。だからこうして逃げられなくしたんじゃない」

「聞いててコレなの⁉︎なんでさ」

 

「だって私、タクマの事を愛してるもの。あなたがいないと死ぬことを選ぶくらいには」

 

「始まりは利用し合うだけ。あなたは守る相手が欲しくて、私は命を繋ぎたかった。けれど、そこから生まれた愛だってあったの」

 

「あなたもそうだから、私を抱きしめてくれたんでしょう?」

 

 その言葉に、完全に降参した。やっぱりコイツには勝てる気がしない。

 

「じゃあ、婚約を解消しましょうか」

「……わかったよ」

 

 そうして、ネットの操作で俺は氷華との婚約を解消し、そしてすぐに出された()()()()を見て、それにサインするのを躊躇った。

 

「言っておくけど、私が他の男を見てないってのはもう通じないわよ。VRだと、私の体目当ての男も、金目当ての男もたくさんいたもの。一目でお帰り願ったけれど」

 

「それに、昨日の手術の時に気付いたの。私、死ぬなら貴方に看取られてないと嫌よ。そうじゃないと死んで死にきれないわ」

 

「だから、風見琢磨くん。貴方と同じお墓に入る事を前提にお付き合いをしてくれませんか?」

 

 その言葉に、俺は完全に参った。

 その言葉は、どこまでも澄んでいた。ずっとずっと心の中で正しく育ててきたどこまでも綺麗な想いだった。

 

 だから、真っ直ぐ向き合って、真っ直ぐに答える。今の俺の答えを。

 

「俺は、氷華が好きだと思う。だから、氷華には幸せになって欲しいと思ってる。だから、お前が幸せに死ぬまで、俺にお前を守らせて欲しい」

「それは断るわ」

「……えー」

「だって私、守られるだけのお姫様なんて柄じゃないもの」

「なら、なんて言えば良い?」

「そうね……」

 

「飾らないで良いんじゃない?」

「それもそうだな」

 

「御影氷華さん、俺も貴方を、愛してます」

 

 そうして、俺と氷華の手術の為の偽装婚約は終わり、そして本当の婚約が結ばれた。

 

 まぁ、俺たちの関係は実のところ全くと言って良いほど変わらなかったのが逆に笑える話なのだけれども、それはそれだ。

 

 今は、この病院全体に拡散したこの婚約話の収集をつけなければ! 知り合いの人達が皆ニヤニヤしててうざったいんだよ! 

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 それから数日。病院での行方不明者は異界の展開時に中庭にいた3名で片付いたらしい。じゅーじゅんさん、本名は足柄圭一という刑事さんとジョー刑事が色々と調べてくれた結果だ。

 

 なんというか、本当に運が無い。今回も俺が巻き込まれたという事で、俺の位置は常にジョー刑事の端末で確認できるようになった。プライバシーが死んでいく! が、自分の命には変えられないので受け入れるしか無いだろう。うん。

 

 して、部屋の掃除は終わったわけなんだが。本当に受け入れて良いんだろうか? 

 

『氷華様は天涯孤独の身。構わないでしょう。法律的にもマスターと氷華様は内縁の関係となっていますし』

「いやいや、それはわかってるけどさ」

 

 けれど、好きな子が同じ屋根の下というのは、なんだが少し心が浮つくものがある。間違って殺してしまわないか心配だ。

 

『それはないでしょう。マスターは私と出会った時より大分マシになりましたから』

「マシって酷いなオイ」

『事実です。覚えていませんか? 《Echo World》にてアルフォンス様が亡くなった時に貴方がどう感じたか』

 

 アレは、シリウスがアルフォンスごと巫女さんを殺した時のことだ。俺は、その事実に驚愕して、そして……

 

「そういや、ショック受けてたな」

『つまりマスターは、友人以上の相手ならきちんとその死を悼むことができるようになったのです。間違いなく氷華様の躾の結果とはいえ、上々かと』

「言い方ァ!」

『事実でしょう?』

「せめて、教え込まれたとかでマイルドにさぁ」

 

 そうしていると、ドアの鍵が開く音が聞こえた。

 これからこの部屋を使う、氷華の来た音だろう。

 

「改めて、おかえり氷華」

「ええ、ただいまタクマくん。ご飯にする? お風呂にする? それとも」

 

「私のいない間に無駄に勢力を広げている新参を締めにゲームをしに行く?」

「じゃあ、風呂も飯もタイマー入れて、ゲームにしようか。なんだかんだ俺も新しくできたプラクティスエリアは気になってるからな」

「ええ、誰が上かを魂に刻み込んであげましょう。そして……」

 

「私達を襲ったあの現象、突き止めて潰すわよ」

「だな。あんなのが来るんじゃおちおちゲームもできやしない。それなりに探ってみようぜ、警察とかがなんとかしてくれるまでさ」

 

 ⬛︎⬜︎⬛︎

 

 警察庁特殊技術犯罪対策課、かつては伝説の30秒デスゲーム事件などに活躍したその素子部署だったが、今では新たに作られたVR犯罪対策課によって追いやられ窓際部署となっている。

 ……そこにいる者たちは、それでも正義を捨てない曲者ぞろいであったが。

 

 そんな部署に、足柄圭一は戻ってきた。与えられた仕事を終えて。

 

「栗本先輩、帝大病院での件、目撃者の証言集め終わりました」

「足柄、お前本当に新入りか? 若いのにしては妙に使えるんだが」

「昔明太子……友人と本格的なケードロみたいなゲームやってまして」

「ゲームってのも案外侮れないもんだな」

「まぁアレはガチの捜査合戦でしたからねー」

 

 そう話す足柄は、栗本の端末に纏めた情報を送った。

 

 信じられないような事件だったが、主な戦場が中庭であったが為に犠牲者は少なく、目撃者は多かった。

 

 しかし、それでも上を動かす決定的証拠にはならない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「栗本先輩、これドラマに良くある“上の陰謀だ! ”とかだったりしません?」

「アホか。そんな連中が上がれるほど今の警察は腐っちゃいねぇよ」

「でも先輩はここで腐ってるじゃないですか」

「俺は良いんだよ。体動かなくなるまでは現場って決めてんだから」

「まぁ、僕も本気では言ってないですけどね」

 

 そうして、2人は黙る。互いに、どうしたらこの異常事態を知らしめられるかを考えながら。

 

「明太子のタイマー、アレは罠でしたよね」

「いや、多分カウントの条件が違うんだろうさ。時間だけじゃなくて、他の何かもカウントしてるだから、急速にカウントダウンが早まった」

「つまり、ゲーム運営は一応の味方側だと?」

「じゃなきゃ繋がらん。風見琢磨はゲームの中じゃあ強い奴だったんだろ? 現状は全部の事件に対してのカウンターとして風見が置かれているって事だ。どう考えてもそんなん無駄だろ、敵ならば」

「……じゃあ、なんで警察とか軍とかに頼らないんですかねぇ?」

「それがわかれば、こんな人探しなんざしなくて良いんだがな。ったくウチを便利屋扱いしやがって」

「で、結局製作者Dr.イヴってのは何者なんですか?」

「偽造戸籍、偽造ID、なんでも偽造だらけの正体不明だよ。ゲームへの干渉も初日以降はほとんどAIに任せてるから逆探知もできん」

「うわ、今時そんなマンガみたいな設定の奴居るんですね」

「俺だって初めてだわこんな冗談は」

 

「そこなる2人、遊んでないで仕事して欲しいんだガ」

「はーい」

「あいよ」

 

 そうして、顔写真すらないDr.イヴについて2人は調べを再開した。

 

 その先にある市民の安全を信じて。




これにて、残響世界の聖剣譚の第一話は終了となります。ですが、とても素敵なお方(露骨なゴマすり)の企画でのレビューがあり、自分でもこの作品の書き方を考え直すほうがいいのではないかと思いました。
 なので、思い切ってこの小説は大改造したいと思います。
 ですが、せっかく書いたこの作品、捨てるにはもったいないので残したいという気持ちもあるのです。そこで、この作品をまるまるプロトタイプとして、完結作品にしてしまおうと思ったのです。当然タイトルは変えます。【未完、改訂作品執筆中】残響世界の聖剣譚【プロトタイプ】、みたく。
なので、この作品をブックマークしている方は、作者をフォローなりして新しくなった残響世界の聖剣譚を見つけてくれるとありがたいです。


イベント「評価が欲しい方、全部読みます」
作者 高田丑歩
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894635885

カクヨム内でのイベントで書かれたレビュー集です。こちらに様々な作品への鋭いレビューがありますので、紹介される前に一度読み、これを読んでもう一度読みましょう。違った視点が見えて楽しいです。自分も鋭いのをもらいましたがそれ以上に刺激になりました。


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