忍殺少女キュゥべえ☆スレイヤー (邪骨)
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ミタキハラシティ炎上
サツバツプロローグ


 

【挿絵表示】

 

 

 『暁美ほむら』

 それは見滝原中学校の二年生に転校してきた才色兼備の如き少女・・・ではない。

 

 彼女は現代日本においては『コスプレ』と称されるであろう姿をしていた。

 身にまとっているのは赤黒く血液めいたニンジャ装束であり、顔には『Q』『殺』という文字が決断的に刻まれた、これまた赤黒い硬質のメンポを装着。そのメンポの隙間から覗く彼女の瞳は虚無的であり、古事記に記されるマッポーをその身で体験したかのような壮絶さを感じさせる。

 

 とにかくこの『暁美ほむら』とは尋常ならざる少女なのである。

 

 しかし我々は知っているはずだ。

 我々の知る『暁美ほむら』がこのような地獄めいた少女ではないことを。

 

 いったい彼女の身に何が起きたというのか。

 

 それは数日前に遡る・・・。

 

♦♦♦

 

 赤いニンジャ装束を纏う男—————フジキド・ケンジはコトダマ空間において、自身に宿るニンジャソウル、すなわちナラク・ニンジャと対面していた。

 今のフジキドの体は、現から見事消滅していて、もはやニンジャの力をもってしてでも回復させることは困難である。

 

『・・・フジキドよ、なんたるウカツ。まさかアレ如き小童に滅ぼされるとは』

 

『ナラクよ、私は既に生ける屍だ。今更生きながらえて何になるというのだ』

 

 フジキドはとある事情からニンジャを殺し、ニンジャを滅ぼし、ニンジャを屠り続けてきた。

 しかしニンジャという半神存在とて知性あるものである。彼らは自身の友を殺されたことからフジキドを憎み、恨み、殺すべしとしたのである。

 

 なんという呪いの連鎖か。ブッダよ!寝ておられるのですか!

 

 そしてニンジャスレイヤーことフジキドは、かつて倒したニンジャソウルを持った少年に全身を尽く砕かれ、芥と化したのであった。

 ただそのことにフジキドは後悔していなかった。自身の魂がいずれ地獄めいた場所に向かうであろうことを彼は理解していたし、殺戮を繰り広げた自身に対する当然の報いであると思っていた。

 それにあの少年は自身の愛する息子、トチノキとよく似ていたのだ。それが私を今ここで殺すというのならば、それも悪くないと思ってしまったのである。

 

『ナラク・ニンジャ=サン、狂人の身勝手な復讐もここまでだということだ』

 

『お前がそうするというのならば・・・儂は他の素質のありそうな者に憑りつくまでよ』

 

 ナラクはそう言ってフジキドのコトダマ空間から去った。それは目にも止まらぬ瞬間的転移であった。

 

 

 

 

 

 

 ナラクの消えたコトダマ空間で、フジキドは当てもなく漂い続けていた。

 

         0101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101001010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010100101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101001010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010100101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101001010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010100101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101001010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010101010100101010101010・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すけて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たすけて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰・・・・・・・・・・・・か・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私を・・・・・・・・・・・・・・・・・・まど・・・・・・・・・・・を・・・・・・・・・すけて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『・・・?!』

 

 誰も居ないはずのコトダマ空間の奥から、圧倒的数式の渦の中から、擦り切れたレコード盤めいた音が聞こえた。

 

 それはよく聞けば人間の声であった。

 ニンジャに遭遇した人間が、絶望の淵で必死に叫んでいる・・・そんな声だった。

 

 

『・・・力が欲しい!まどかを救う力が!』

 

 

 今度こそはハッキリと聞こえた。

 やはりそれは助けを求める声であった。

 

 フジキド・ケンジは思った。(ニンジャの気配がする!)と。

 

 故にフジキドは少女の声に応えた。

 

 

『よかろう・・・お主の手助けをしてやろう』

 

 

 瞬間、フジキドの魂はコトダマ空間を抜け、次元の断層へと落ちる。そして先程の声の方へ、疾走。

 

 そこに居たのは儚げな少女であった。

 どうしようもなく悲しげで、今にもハイクを詠みセプクしそうな様子・・・あまりにも悲壮な表情であった。

 

 その少女・・・暁美ほむらは、瓦礫の上で一人の少女の亡骸を抱えて泣いていた。

 

『何があった』

 

 フジキドはほむらに問いかける。

 

「・・・あなたは?」

 

『私はフジキド・ケンジ・・・国際探偵だ』

 

「国際探偵・・・?あの、あなたは・・・」

 

『何があった』

 

「・・・」

 

 フジキドの問いにほむらは口を噤む。

 

 『私は国際探偵だ。もしかしたら力になれるかもしれない』

 

 フジキドは諭すように言う。

 

「まどかがね、私の大切な人が・・・死んじゃったの。私を庇って・・・魔女に殺されたんだ!」

 

 ほむらは叫びながら吐露する。

 

 まどかがどれだけ優しい子だったか。その優しさに自分がどれだけ救われたか。

 

 ・・・魔女・・・おそらくニンジャだろう。やはりニンジャは絶やさねばならない。アレらは悲劇を生みすぎる。

 フジキドは言った。

 

 『救いたくはないか?そのまどかという者を』

 

 

「・・・救いたいよ、救いたくないわけない!でも何回やってもまどかは死ぬの!死んじゃうのよォ!!」

 

 

 絶叫するほむら。

 その姿に、フジキドはかつて妻子を殺され狂人となった自身を見た。

 

 (この少女も・・・私と同じか)

 

 

『力を貸そう』

 

「どうするっていうの?!どうすれば!どうすればいい?!」

 

『今は少し休むといい』

 

「あっ・・・」

 

 ほむらの意識はその瞬間、脳の底に沈んだ。

 代わりに芽生えたのはフジキドの人格である。フジキドは自身の知らぬうちにニンジャソウルとなっていたのだった。

 

 そして今、ここに一人のニンジャが生まれた。

 

 邪悪なるインキュベーターを殺すもの、キュウべぇスレイヤーが!

 

 

 キュウべぇ殺すべし、慈悲はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一週間一本目指して頑張りたい


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第1話 ハブント・メット・イン・ア・ドリーム①

 息を切らし、それでも私は走っている。

 

 モノクロのタイルで敷き詰められた廊下を。

 

 走り続けていると、いつの間にか目の前には階段があった。緑にボウと光る誘導灯に誘われるがまま、私はゆっくりと、それでいて確かに地面を踏みしめながら階段を上る。

 

 上りきったところにあった、非常口めいた扉を押す。

 

 ガチャンと確かな手ごたえ。

 

 扉は開き、その先に広がっていたのは

 

 

物理法則に逆らい、宙に舞う瓦礫の山と奇妙な歯車のオバケ。

 

そして黒い魔法少女であった。

 

 

 黒い魔法少女はどうやら歯車のオバケとイクサをしているらしかった。黒い魔法少女は歯車のオバケの怪しげなジツにより、限界までジェットを噴かせた新幹線の如き加速で、宙に散乱する瓦礫に衝突する。このとき時速1000㎞、彼女が並のモータルであれば絶命していたであろう。

 しかして彼女は魔法少女だ。この程度で死ぬものではない。

 

「ひどい・・・ッ」

 

 しかしその光景は、未だモータルを決め込む私にとってはあまりに衝撃的で、恐ろしかった。

 

『———彼女も覚悟の上だろう』

 

 私の驚愕にそう返したのは、猫とも犬ともつかない、白く面妖な生き物であった。

 

「そんな・・・あんまりだよ!こんなのってないよ!」

 

 私はあまりの惨さに吠える。

 

 何故彼女があんなに痛ましい目に遭わなければならないの?!

 

 私がそう問答している内にも、黒い魔法少女はボロボロになってゆく。何度も何度も瓦礫に叩きつけられて、見るも無残な肉団子である。

 しかし彼女はそれでもまだ生きていた。生きて歯車のオバケに立ち向かおうとしていた。

 

 何故?!何故自分の命可愛さに逃げ出さない!何故そこまで出来る!

 

 答えは単純、彼女が魔法少女だからである。

 

 魔法少女はあのオバケを倒さなければならない宿命にあるのだ。

 

 黒い魔法少女が私の方を見る。その目は酷く心配そうなものだった。

 

 どうしてそんなになってまで他人の心配が出来るの?!

 

 答えは簡単、彼女が魔法少女だからである。

 

 魔法少女は守りたいもののために闘うのだ。故に彼女らはいつも自分以外の心配ばかりする。

 

『諦めたらそこまでだ』

 

 白き珍獣は言う。

 

『でも、君なら運命を変えられる』

 

 崩壊した世界で、狂った街灯が赤く明滅する。

 

『避けようのない滅びも、嘆きも、全て君が覆せばいい!そのための力が、君には備わっているんだから』

 

 だったら、だったら私は———————!

 

 

 

 その時一体何を願ったのだろうか?

 

 

 

「ふぁ?あぁ、んん・・・」

 

 私は間抜けな声で起き上がる。

 そこは先程までいた狂った世界ではなく、いつもの見慣れたベットの上であった。

 

「はぁ・・・夢オチ・・・」

 

 私は若干の落胆と、夢で良かったという安心感のないまぜになったため息をついた。

 

 

 私は鹿目まどか。

 見滝原中学校の二年生になる、何の取柄も無い平凡な中学生である。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 見滝原市*1立見滝原中学校*2、全面ガラス張りのイカレタ学校の、あるクラスルームに転校生が訪れた。

 

「ハジメマシテ、皆=サン。暁美ほむらです。ヨロシク、オネガイシマス」

 

 私の座る席から丁度真正面。デジタル白板に自身の名前を書き、ビシッと45度腰を前に曲げお辞儀する少女、『暁美ほむら』さんを見て、私は驚愕した。

 

 何故ならば、彼女が今朝見た夢に出た、黒い魔法少女とあまりにもよく似ていたから・・・あれ?やっぱり似てない、ナンデ?!

 

 私が夢に見た黒い魔法少女は『悲しげでどこか遠い目』であったのに対して、ほむらさんの目はどこか『虚無的』・・・似ているようで、全く似ていない。纏っている雰囲気?ううん、そうじゃない。

 

 あれは全くの別人なんだ。

 

 そもそも夢に出てきた人物と実在の人物が同じだなんて思う方がおかしい。私がどうかしていたんだ。

 ほむらさんの事はちょっと怖いけど、やっぱり初対面だし、そんなふうに人を一面だけで捉えるのは失礼だもんね。しっかりしろ鹿目まどか!こんなんじゃお母さんに叱られちゃう!

 

 って、え?

 

 何でほむらさんは私の方をジッと見てるの?まさか怖いって思ったことバレちゃったのかな?!あわわわ、どうしようどうしよう・・・やっぱりほむらさん怖いよ!

 

 

 A few hours later

 

 

 Q「暁美さんて、前はどこの学校だったの?」

 A「東京のミッション系の高校です。イマカ=サン」

 

 Q「前は部活とかやってた?運動系?文科系?」

 A「やっていませんでした。フジナカ=サン」

 

 暁美ほむらは社交辞令じみた返答を返すのみで、自身を取り囲む少女たちの輪に積極的に参加しようとしていない。

 これは暁美ほむらの生来の性質によるものもあったが、今ほむらの中で主人格を担っているフジキド・ケンジのニンジャスレイヤー時代の癖が原因でもあった。

 

 そう、何を隠そう前話『サツバツプロローグ』で語られた通り、今の暁美ほむらは、暁美ほむらであって暁美ほむらではないのだ。

 今の暁美ほむらの正体は、かつて『ニンジャスレイヤー』と名乗り、幾多ものニンジャを殺害してきた狂人、『フジキド・ケンジ』その人なのである。

 

 暁美ほむらはあの時、『ワルプルギスの夜』に『鹿目まどか』を失ってから、何度も何度も鹿目まどかを取り戻そうと、救おうと必死に藻掻いてきた。

 しかし何度目かの失敗のとき、彼女の心はポッキリ折れてしまったのだ。そしてただただモータルの如く泣き叫び、疲れ果ててもう何もしたくなくなってしまっていた。

 

 そんな時、彼女の目の前に現れたのが我らがニンジャスレイヤー、フジキドであった。

 

 フジキドはとある事情から死に、その魂をニンジャソウルへと変貌させて、コトダマ空間を当てもなく無意味に彷徨っていた。

 そこに響いたのが暁美ほむらの助けを求める声だった。

 フジキドは思った。

 

 「ニンジャとしての役目を果たさねばならぬ」と。

 

 故にフジキドは暁美ほむらに憑りつき、ほむらをニンジャとしたのである。『守りたいものを守れるように』と。

 ただ一つフジキドは誤算していた。

 最初に契約したとき、精神を休めさせる目的でほむらの人格を表装意識から切り離し眠らせたのだが、一向に起きてくる気配がなかったのである。

 一応ほむらのコトダマ空間にて起きてくれるようほむらに頼んでみたものの、まるで無反応。

 

 暁美ほむらの精神は、フジキドの思うより何十倍も衰弱していたのであった。

 

 (しかたあるまい・・・本来はサポートに徹するつもりであったが、起きぬというのであれば私が行動を起こすのみ・・・)

 

 フジキドはほむらの体でそう思考しながら、自身の周りを取り巻くモータル生徒に一つ言った。

 

 「体調がすぐれないので、保健室に行かせてくれないでしょうか」

 

 

 

 

 

「あ、あの、えと、何で私・・・なのかな、あはは、ぁう・・・」

 

「鹿目=サンに案内してもらうのが適任と聞き及びましたので」

 

「ああ、うん、確かに私保健係だもんね・・・ティヒヒ・・・」

 

 全面ガラス張りのマッド廊下を優雅に歩く二人。

 

 

 鹿目まどかと暁美ほむらである!

 

 

 ほむらは体調不良を理由に、現在鹿目まどかに保健室まで案内してもらっていたのだ。

 しかし体調不良とはブラフ、悪くいってしまえば真っ赤な嘘である。ならば何故今、鹿目まどかに保健室まで案内させているのか。

 

 ほむらの中のフジキドは知りたくなったのだ。暁美ほむらがあれほど執着した少女、鹿目まどかは一体どのような人物なのか。

 

 だから人気のなくなった場所でほむらは立ち止り、鹿目まどかを呼び止める。

 

「鹿目まどか=サン、一つ聞かせてもらえないだろうか」

 

「ほむらさん・・・あの、何・・・かな?」

 

「鹿目=サン、アナタは自分の生命を捧げなければ自分の大切なものが失われる時、自分の命を差し出せるだろうか」

 

「・・・それは・・・私、家族とか、友たちとか、皆大事で、皆大好きだから・・・うん、差し出せる。皆がピンチの時は、私命を差し出してでも皆を守るよ」

 

 ほむらはその答えに、オーガニックスシを食したような満足げな顔をし、「付き添いアリガトウ、鹿目=サン・・・ここからは私一人で行こう」と返した。

 

 

 

「何だったのかな・・・ほむらさん・・・」

 

 まどかは廊下に一人残され、不思議そうに首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
『見滝原市』は日本における地方都市。先進的な技術とデザインによるモデル都市の側面を持つ。

*2
『見滝原中学校』は見滝原市にある中学校。全面ガラス張りというトチ狂った外観を持つこの学校は、デジタル白板やノートの代わりにパソコンを使うなど、外観以外も先進的。モデル校の側面を持つ。




アニメ本編の流れを少し意識し過ぎた気がするので、次話はもう少し改変して短くまとめていきたいところ。




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第1話 ハブント・メット・イン・ア・ドリーム②

「ヹェエエエ?!何それー」

 

 どこか茶化したように笑う青髪の少女『美樹さやか』は、食べかけのフライドポテト*1を一気に頬張る。

 

 このフライドポテトは、塩分良し!イモ質良し!デンプン良し!の完全栄養食である。ターナー・マクディレインが考案したこれは、ニンジャ世界におけるスシと同じ位置づけの商品なのだ。

 

 Aside

 

「わけわかんないよねぇ・・・」

 

 さやかちゃんの素っ頓狂な叫びに、私はわりと真剣に返す。

 

 「んんん、転校生の奴、保健室に行ったと思えば早退!まったくキャラのつかめん奴~!そこが萌えなのか!病弱少女萌えなのか~!?」

 

 さやかちゃんはいつも通りにフザケテ自分の体を腕で覆い、ブルブル見悶えて見せる。世間一般的にはそれすっごくイタイよ?さやかちゃん・・・。

 

「まどかさん、ホントに暁美さんとは初対面ですの?」

 

 そのさやかちゃんの隣に座る少女、『志筑 仁美』ちゃん―――薄黄緑色の髪を肩まで伸ばした、たれ目の美少女である―――は、さやかちゃんの奇行をシカトして私に問いかける。

 

 ・・・どうなんだろう?夢の中で逢った気がするけど、あれは完全に別人って結論出ちゃったしなァ。

 

 「常識的観点から見ても非常識的観点から見ても、やっぱり私とほむらさんは初対面だよ」

 

 だから私はそう答えた。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 大型ショッピングモール『ヨロシクマイド』*2の中のフードコートで騒ぐ女子中学生のクラン―――鹿目まどか達だ!―――を、換気扇のダクト内から覗くものが居た。

 

 ソイツは犬とも猫ともつかぬ、白い四足歩行の奇天烈生物であった。

 

 ソイツは赤黒い眼を光らせ、口を使わずに呟く。

 

『アレが鹿目まどか、か・・・予想以上の膨大な魔力*3量だ・・・エントロピーの凌駕具合が凄まじいよ』

 

 奇怪!それの口から漏れ出たのは、何処か電子音めいた無機質な声音・・・感情が無いかの如くフラットな声だ。

 ソイツは背中にある、楕円形の赤い刺青をこじ開け、中からゴシックめいた黒い球形を取り出す。コワイ!

 

 『グリーフシード*4を孵化させて、あのお友達を襲わせるとしよう。そうすれば魔法少女になってくれるだろう?』

 

 我々ヘッズはまだ『グリーフシード』が何たるかを知らぬが、これだけはわかる、こいつは邪悪だ!ということが。

 

 彼の者の名を『インキュベーター』と言う。

 

 それは宇宙の彼方から飛来せし、悍ましい異星人である。

 

 

 

 「Wasshoi!」

 

 

 

 瞬間、ダクトは崩壊!

 

 天井は砕け散り、モールには瓦礫が降り積もる。

 

「アイエェェェェッ」

 

「アバーッ!?」

 

「グワーッ!」

 

「ンアーッ!」

 

 老若男女、屈強なスモトリですら泣き叫び、方々へ逃げんと大わらわである。その様はまさに阿鼻叫喚・・・地獄めいた光景。

 

 瓦礫が降り積もるモールの中、錐揉みしながら着地するのは、赤黒いニンジャ装束とメンポで全身を覆った

 

 ニンジャ*5であった。

 

 そしてそれに続くようにフワリと着地したのは、先程ダクトからフキツなことを口走った邪悪

 

 インキュベーターであった。

 

 両者は互いに向き合い、一定の間合いまで歩み寄る。

 

 そして

 

「ドーモ、インキュベーター=サン。キュウべえスレイヤーです」

 

『ド、ドーモ、キュウべえスレイヤー=サン。インキュベーターです・・・何者だい君は?!』

 

アイサツを交わした!

 

 ヘッズの皆=サンは「アイサツなんてしてる場合か?!」とお思いの事だろう。しかし!アイサツは神聖なる儀式であり、アイサツをされたものはし返さなければならない。『アイサツは大事』とは、古事記にも書かれているように常識的な行為なのである。

 そして、それは今この様な状況においても変わることはないのである。

 

「私はオヌシを殺す者だ」

 

『ナンデ?!』

 

 ダクト内では感情らしきものを見せなかったインキュベーターも、流石に驚愕!自分を殺すと言われれば、誰だって驚愕するというもの。それはインキュベーターも例外ではないのだ。

 

「オヌシがインキュベーターだからだ」

 

『狂人め!ボクに手を出したことを後悔させてあげる!』

 

 そうこうしている内に問答は済んだようで、二人は色付きの風となった。

 

「イヤーッ!」『グワーッ!』「イヤーッ!」『グワーッ!』「イヤーッ!」『グワーッ!』「イヤーッ!」『グワーッ!』「イヤーッ!」『グワーッ!』「イヤーッ!」『グワーッ!』「イヤーッ!」『グワーッ!』「イヤーッ!」『グワーッ!』「イヤーッ!」『グワーッ!』

 

『イヤーッ!』「グワーッ!」『イヤーッ!』「グワーッ!」『イヤーッ!』「グワーッ!」『イヤーッ!』「グワーッ!」『イヤーッ!』「グワーッ!」『イヤーッ!』「グワーッ!」『イヤーッ!』「グワーッ!」『イヤーッ!』「グワーッ!」『イヤーッ!』「グワーッ!」

 

 なんというカラテの応酬、ワザのぶつかり合い!

 

 キュウべえスレイヤーはカラテチョップでインキュベーターの肉を抉り、インキュベーターはショクワンでキュウべえスレイヤーの表皮を切り裂く!

 

 一見ゴカクに見えるこのイクサも、実際キュウべえスレイヤーの方が圧倒している。よく見ればわかるが、ワザを繰り出すタイミングがインキュベーターの方がワンテンポ遅い!これではインキュベーターが負けるのも致し方なし。

 

「イヤーーーーーーーッ!」

 

 一際大きな叫び声が上がった時、勝敗は決していた。

 

 そしてボロ雑巾の様に転がったのは、インキュベーターであった。

 

『ウ、ウソだ・・・なんで、なんで魔法少女でもない君に、このボクが・・・!!』

 

 インキュベーターは上手く動かぬ体を捩り、何とかキュウべえスレイヤーに一矢報いてやろうと足掻く。

 

「それが貴様のハイクか?インキュベーター=サン」

 

 しかしもう遅い。

 ヤツのジゴクめいたボイスが、インキュベーターの共有ネットワークに響く。

 

『ヌゥォオオオオオ!!!!』

 

 インキュベーターは最後の望みとばかりに、先程取り落とした『グリーフシード』を床に突き刺す!

 

『死なばもろとも!君も魔女に殺されるがいい!』

 

「ハイクを詠め、インキュベーター=サン」

 

『残念だね!今ここに居るボクが消滅しても、第二、第三のボクが貴様を襲うだろうね!』

 

「イヤーッ!」

 

 インキュベーターの頭蓋を掴むキュウべぇスレイヤー。彼女はインキュベーターの脊髄を引き摺り出した。

 

『サヨナラ!』

 

 インキュベーターの胴体はクルクルと宙を舞い、爆発四散。

 残骸すら残らない。

 

 キュウべえスレイヤーは、インキュベーターの頭部を投げ捨てると、最後の仕事とばかりにグリーフシードを拾い上げ、粉砕。

 

「これで、まずは一匹・・・」

 

 キュウべえスレイヤーは独り言ちて、メンポを外して素顔を晒す。

 

 

 

「ほ、ほむらさん・・・?」

 

 

 

 キュウべえスレイヤー・・・いや暁美ほむらは、後ろから自分に投げかけられた声に振り向く。

 

 

 

「もしかしてこれ、全部ほむらさんがやったの・・・?」

 

 

 

 そこに居たのは、ピンクの髪がトレードマークの

 

 

 

 鹿目まどかだった。

 

 

 

 

 

*1
『フライドポテト』は恐ろしいまでに美味しい、ポテトを使った現代に残る神話的存在である。今あるフライドポテトは1919年に、イギリス人のターナー・マクディレインが神話を元に再現した廉価版にすぎない。本来のフライドポテトは、一口頬張るだけで悟りを開き、解脱して心理に至ることが出来る程の効能を持つ。現在も、神話のフライドポテトへの果てしない再現の旅は続けられている。

*2
『ヨロシクマイド』は、『スマイルゲンキワラウグループ』の傘下企業。全国各地にショッピングモールを展開しており、モール内の品揃えは、社訓に掲げられた『大抵何でもある』の言葉に偽りなしのものとなっている。その気になればロケットランチャーだろうが戦車だろうが戦闘用サイボーグだろうが店に並べることが出来る。

*3
『魔力』は、生物の持つ生命力のこと。『気』や『プラーナ』ともいう。

*4
『グリーフシード』は、かつて魔法少女であった少女の魂を縛り続ける檻のこと。少女の魂は檻から抜け出そうと藻掻き、結果魔女となって人を喰らう。

*5
『ニンジャ』はフライドポテト同様、神話の中でのみ語られる存在のこと。しかし、ニンジャはブラフではない。実在するのだ。ニンジャは半神的存在であり、彼らにかかれば魔女を倒すことなど児戯に等しい。




既に原作はクラッシュしているが、かまわないだろう?(傍若無人)

これで第一話は終了です。
次回からはアニメでいうところの第二話の内容になってきます。

マミさんどうすっかなー。


次回!「第2話 イッツ・ベリー・ナイス」!

サツバツとしたウシミツアワー・・・そこでキュウべえスレイヤーが見たものとは。(週末更新)


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第2話 イッツ・ベリー・ナイス①

 空間を支配するのは、張り詰めた緊張。

 

「ねえ・・・答えてよ!ほむらさん!!」

 

 瓦礫の山と化したモールの上で、少女『鹿目まどか』は訳も分からずに怒鳴っていた。

 

 

 だって意味が分からないのだ。

 

 突然にして自分たちの居たショッピングモールが崩壊して、友達である『さやか』と『仁美』は瓦礫の下敷きになって重傷を負い、病院へ緊急搬送。

 周囲の人間達は「アイエッ、アイエェエエッ」と叫ぶばかりで、正気を保っているのは自分を除いて只の一人も居なかった。

 

 先程までモータルとしての平凡で幸せな時間を過ごしてきた彼女にとって、この光景は受け入れ難いものであった。

 

 だから彼女は『彼女に』問わずにはいられなかった。「こんな惨事を作り出したのは、アナタなのか」と。

 

 そして目の前の少女、『暁美ほむら』はそれに答える。

 

「ドーモ、鹿目=サン・・・確かにこの状況は私が作ったものだが、それはこれから起こる悲劇に比べればほんの些末事にすぎない」

 

 また彼女はこうも付け加えた。

 

「これは『暁美ほむら』サンからの手紙だ。読んでおくといい」

 

 そして瞬間、暁美ほむらはこの空間から姿を消した。

 

 残ったのは『鹿目まどか』と、彼女の手にいつの間にか握られていた、『怪しげな手紙』のみであった。

 

 

 

 

「ほあぁ?んにぃ・・・」

 

 

 

 

 微睡から目覚めなければならぬ。

 

 彼女は気だるげに瞼を持ち上げて目を覚ます。

 

 薄ピンクのパジャマを身に着けている彼女は『鹿目まどか』。この世界の収束点的存在である。

 

 

「また夢・・・」

 

 

 そう彼女は独り言ちて寝台から起き上がるが、その隣にある学習机の上には、『怪しげな手紙』が・・・・・・

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 今より137億年も昔、原始の空間にとてつもない爆発が生じた。その爆発は様々な粒子を拡散させ、それらは衝突し合い、電子が、原子が、元素が、惑星が、宇宙が誕生した。

 

 そしてその生じた中の一つが、『インキュベーター』であった。

 

 彼らは『惑星』として誕生したが、地球や火星や、その他惑星と違った性質を持っていた。

 彼らの内部核にはニューロン的構造が張り巡らされており、電気信号が絶えず交信され続けていた・・・つまり彼らには『知性』が存在していたのだ。

 

 しかし彼らは惑星であるが故に、自分以外の知生体を知らなかった。広大な宇宙の中浮かぶ球体である彼らは、自ら移動する手段を持っていなかった。

 

 だから彼らは創った。動き、自分以外の知生体と接触する存在を。

 

 

 彼らは『彼ら』を『キュゥべえ』と名付けた。

 

 

 『キュゥべえ』は彼らが遠隔操作することのできる小型生体端末及び群体の総称である。

 

 彼らは『超弩級インキュベーターマザー=キュゥべえクラフベイター』*1と名付けた『キュゥべえ』を幾億も宇宙空間に解き放ち、膨大な情報を収集し始めた。

 

 

『宇宙は到達点である【エントロピー】に向かって膨張中、ダークマターの随時補填が推奨される』

 これはとある惑星に存在した、魚頭の猿のような生き物が研究の末導き出した情報である。

 

『2千億年後、【エントロピー】は最大に達し、宇宙は破裂する。これは回避されなければならない』

 これはとある空間に存在した、次元を超越するビジョンから得られた情報である。

 

『宇宙の補修に必要なダークマターは、生命の感情の起伏によって生み出すことが可能』

 これはタコのようなフォルムの幾何学構造の生命体が認めた事実である。

 

 

 知性はあっても感情はなかったインキュベーターにとって、これらの情報はそのまま『自身の生きる目標』へと刷り込まれ、この宇宙のエントロピー到達を防ぐことがインキュベーターの悲願となっていった・・・・・・。

 

 インキュベーターは感情からダークマターを抽出する方法として、『魔法少女』のシステムを考案した。これはまだ前後するには未熟で、感情の起伏が大きい子供の『魂』を燃やし尽くしてダークマターを得ようという悪魔的計画であった。

 

 しかしそれはインキュベーターから言わせれば、『これはキミたちが願ったことじゃないか』とのこと。やはりインキュベーターに感情がないというのは事実らしい。

 もし仮にインキュベーターに感情があるのだとしても、我々とは思考パターンや物の感じ方がまるで異なっているに違いない。

 

 

 

『わけがわからないよ・・・』

 

 

 

 だが、そんなインキュベーターにも人間と同じように感じることが一つだけあった。

 

 それはあのニンジャのことであった。

 

 自身に対する憎悪も、怒りも、何も感じさせぬただただ虚無的な、メンポから覗いたあの瞳。あのような瞳をした生物など、インキュベーターは自身の生命の135億年の歴史の中で、唯の一個体も見たことが無かった。

 

 そう、自身を除いては。

 

 あの瞳は自身の依り代である『キュゥべえ』の赤い瞳とよく似ていたのだ。あの瞳は感情のない自分だからこそだとインキュベーターは考えていたが、そうではなかったようだ。そしてインキュベーターはあのニンジャ・・・『キュゥべえスレイヤー』を恐怖し、理解することを拒んだのである。(それは人間社会では『同族嫌悪』という言葉を使う感情であったが、それをまだインキュベーターは知らない)

 

 感情のないはずの彼が、初めて恐怖した瞬間であった!

 

 それもそのはず、突然現れたかと思えば『アイサツ』をして、襲い掛かってくる狂人のことなど、どのような存在でも理解できるはずがない。

 

 そもそも宇宙人如きが『ニンジャ』を理解しようなど笑止千万。我々ヘッズがその場に居れば、鼻で笑ってやりたいぐらいの愚かさである。

 

 

 そして、その宇宙人『キュゥべえ』は、とある路地裏に蹲ってプラーナ*2を嘔吐していた。

 

『おポロケケケケゲェッ、オゲェエッ』

 

 嘔吐、実際止まらない。

 

『ちくしょう、ちくしょう・・・このボクが【恐ろしい】だって・・・?フザケルナ!ボクが感情を覚えるなんて、そんなことは有り得ない!!あんなものは極めて希な精神疾患にすぎない!!』

 

 ボクがあんな取るに足らない精神病患者共と同列とは、なんたるクツジョク!

 

 インキュベーターは恐ろしさのほかに、『屈辱』や『悔しさ』をも感じてしまった。『キュゥべえ』は自身がどんどんと病に堕ちていくのを実感し、『恐怖』に震えた。

 

『何故こんなことになった・・・?何故だ、何故・・・』

 

 キュゥべえの呟きに答える者はいない。

 

『・・・ああ、そうか』

 

 キュゥべえは気づいた。

 今自分がこの様な惨めな気持ちで地べたに這いつくばっているのは、全てあの『キュゥべえスレイヤー』とかいうフザケタ名前のニンジャのせいだと。

 

 だからキュゥべえは思った。

 

 自分をこんなに苦しめたアイツに復讐したい、と。

 

 インキュベーターは今までにない思考の乱れに吐き気を感じながらも、うまく動かぬ手足で地を這い、強烈な頭痛でキュゥべえとのリンクを切りそうになりながらも必死になって進み続けた。

 その様は、見る人が見たら『芋虫』と答えるであろう、随分と間抜けな姿であった。

 

 そしてキュゥべえは辿り着いた。

 

 とあるマンションの個室の前に、彼は居た。

 

 

『巴・・・マミィ・・・ボクを、助けろ”ォ”ォ”・・・』

 

 

 彼が呼んだその名の主は、インキュベーターを妄信する正義ウーマン(笑)、見滝原市最強の魔法少女であった。

 

(これで・・・こいつを使って、ボクはキミに復讐してみせる・・・キュゥべえスレイヤー=サン・・・)

 

 キュゥべえはニヤリと口角を上げ、邪悪な笑みを作ると、そこで気を失った。

 

 

 

【挿絵表示】

 

↑邪悪な笑みのキュゥべえ

 

 

*1
『キュゥべえクラフベイター』は全長2500kmもある、宇宙空間航行用母艦兼『キュゥべえ』大型生産プラントのこと。見た目は内臓を継ぎ接ぎした戦艦のように見える。体表の至る所に赤いレンズ状の眼球を持ち、それから放たれるプラーナ光線は、月を一瞬で消滅させる威力を持つ。コワイ!

*2
プラーナとは、『キュゥべえ』の体を構成する重要な物質。ソレを吐くなんて、マヌケ!薄黄緑色に発光する、液体のような見た目をしている。




マミさんの扱いに困った私は、取り敢えず敵役にしてみようと思った。
今から後編を書くつもりだが、マミさんのせいで展開に困っている。しかし後悔はない。


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第2話 イッツ・ベリー・ナイス②

中古ショップで購入したほむほむのプライズフィギュアのパンツを凝視していたら思いつきましたので、初投稿です。


 見滝原のウシミツアワーはサツバツとしている。

 

 都市開発によって職にあぶれた浮浪者たちが寝床をめぐって言い争う声が絶えず響き、富裕層が大量に捨てたバイオドッグ*1が餌を求めてそこら中を徘徊している。

 

 そんなサツバツとした中、『ミタキハラカワイイパーク』*2と呼ばれる公園のベンチに、一人の少女が腰かけていた。

 

 キュゥべえスレイヤーこと、暁美ほむらである。

 

 彼女はニンジャ装束を脱いでおり、今は黒い襟の学生服に身を包んでいた。

 

「ヌゥ・・・このトロマグロスシ、なんたる旨さ・・・」

 

 ほむらはベンチの上に正座し、スシを食べていた。

 

 オーガニックトロマグロの豊かな脂が、醤油と共に彼女の味覚野を刺激する。ニューロンを駆け巡る多幸感に、無表情ながら身を震わせた彼女は、「ゴチソウサマ」と独り言ちる。

 

 しかし、その幸せも束の間、彼女のニンジャソウルに電流が走る。

 

『解放セヨ!我ガ魂ヲ解放セヨ!』

 

 脳内に響くのは、少女めいた存在の叫び声である。

 

 恐らく魔女だ!

 

 ほむらは瞬時にニンジャ装束を纏い、疾走。

 

 グリーフシードが羽化する前にカイシャクしてやらねばならぬ。醜悪な魔女にその身を堕とすよりは、正常な輪廻の輪に戻り、次の生を謳歌するほうが幸せだろうよ。

 

 『ミタキハラカブキホスピタル』*3その荘厳な構えの病院の前に、ニンジャ装束をはためかせ、『キュゥベえスレイヤー』参上。

 

 彼女の眼前にある柱には、今にもはち切れんと脈打つ『グリーフシード』の姿があった。

 

「間に合ったか・・・」

 

 キュゥべえスレイヤーはメンポの内側でそう安堵し、柱に刺さった『グリーフシード』を引き抜こうと手を伸ばす―――刹那、空間は歪み、キュゥべえスレイヤーはその姿をこの世から消した。

 

 

 ああ、我らがキュゥべえスレイヤー!いったい何処に行ってしまったのか?!見よ、あの脈打つグリーフシードを!このままではグリーフシードから魔女が孵るのもヒツゼン!

 

 早く帰ってくるんだ!キュゥべえスレイヤー!間に合わなくなるぞ!

 

 次回に続く!

 

 

♦♦♦

 

 

『さやかちゃん、しっかりしてッ、目を覚まして・・・!』

 

『おい君、大丈夫かね?!誰か救急車をッ!』

 

『この子息がないぞ!おい、しっかりしたまえ!』

 

『さやかちゃんッ!さやかちゃんッ!』

 

 

 朦朧とする意識の中、私はただその光景を客観的に見つめていた。

 

 自身の下半身は瓦礫に潰され紫に変色し、右腕はトマトソースみたいにべちゃべちゃ。私は死ぬのだろうな。そう思った。

 だってこの状態で今思考することが出来ているだけ奇跡ではないか。普通ならショック死していてもおかしくはない状況だ。

 

(まどか・・・仁美・・・ごめんね、私死ぬみたい・・・恭介・・・ごめんね・・・)

 

 私は友人らに、先立つことに対して、心の中で一通り謝罪をした。

 

 ああ、短い人生だった。

 きっと幸せな人生だったろう。友達が居て、家族が居て、女の子らしいことをやって、食うものに困らなくて、ちょっぴり恋をしてみて、幸せだった。

 

 でも一つだけ、一つだけ不幸なことがあったな。

 

 結局私は、あのフライドポテトを食べきることが出来なかった・・・・・・ただ、それだけ、それだけが気に食わない。

 

 あのフードコートで食べたそのフライドポテトは、アラスカの奥地で修業を積み、解脱の末超越人力を身に着けた仙人を自称する男、『ショウゲン・オミ』*4の経営するポテトショップ*5、その系列店が満を持して売りに出した『神秘のフライドポテト』であった。

 私は学校帰りに友人と連れ立ってその『神秘のフライドポテト』を販売する店のある、『ヨロシクマイド』の中に足を踏み入れたのだ。気分はウキウキ、足も浮き立ち心は踊り、財布も暖か、私はとてつもない希望を胸に、『神秘のフライドポテト/Dサイズ*6』を注文してさあいざ食べよう。一口頬張る。―――美味しい!旨い!なんという多幸感!!ほっぺ蕩ける!!もう一口!!―――って、ところで突如フードコートは崩壊。見事私は瓦礫の中ってワケ。

 

 ああ、出来ることならもう少しあのフライドポテトを味わっておきたかった!

 

 全身から力が抜けて、視界はボヤケて、何だか寒い・・・私はそこで意識を手放した。

 

 (あっ、死んだ)

 

 私はそう確信したね。

 

 

 

 

「・・・で、何でこうなってるワケ?」

 

 

 

 

 私の眼前に立つのは、『ユウカ』・・・何処にでもいて、何処にもいない、私の友達・・・・・・あ、彼女だけには何故か別れの挨拶をしていなかった・・・・・・

 

 彼女は嗜虐的な笑みを浮かべて、語る。

 

「ありゃァ?もしかしてチミって死にたかった系?チミとは長い付き合いだけどサァ、まさか自殺願望があるとは思わなかったヨ」

 

「あのね、私が言いのはそういうことじゃないんだ。何で私は今、五体満足で病院のベットに寝かせられてるワケ?

 

 確実に、私の足と右腕はホラー映画も真っ青な状態になってたよね。

 

「ははァ、チミはちと妄想癖のケがあるのではないかイ?チミは貧血で倒れて、ちょっとばかし入院している・・・それが真実だヨ

 

 手足が潰れているって?右手が?両足が?ハッ、君の妄想も大概ダナ・・・『ユウカ』はその屈折するクチクラを棚引かせて独り言ち、病室を後にする。

 

「ああ・・・一つだけアドバイスしておくヨ、『ワンフォーポテト・オールフォーポテト』フフフッ」

 

 

 最後の彼女の言葉の意味を、この時の私はまだ理解できなかった。そりゃあ突然現れて意味深めいたコトワザを残されても、大抵の人間は瞬時に意味を理解することなどできまい・・・まあ、それはともかくとして、このときの私は死ななかったことに対して大いに喜んだ。

 

 『イッツ・ベリー・ナイス』ってね。

 

 

 

*1
『バイオドッグ』は、人の手によって培養された犬のこと。通常の犬に比べて凶暴で、肉体は頑丈。体表を覆う毛は縫い針のごとく鋭い。

*2
『ミタキハラカワイイパーク』は、見滝原市に実在する公共の公園。滑り台やブランコは勿論、ジェットコースターなど各種遊具が充実している。昼の12時になると、パーク中央のステージに二体のオイランドロイドが出現し、様々なパフォーマンスを披露してくれる。ネコカワイイヤッター!・・・最近の課題は、彼女たちオイランドロイドの破壊や盗難が相次いでいること。

*3
『ミタキハラカブキホスピタル』は、見滝原市に存在する私立病院である。巨大商業ギルドの主、オヌダ・キッカイ(1894~1987)によって創設されたこの病院は、近代医療の全てが存在すると噂されるほどの設備を有しており、所属する医師や看護師のウデは一流である。

*4
『ショウゲン・オミ』は、熊本県出身の人物。男性。名前を漢字表記すると『麻績(おみ)影現(しょうげん)』となる。彼は幼少を貧しい開拓村で過ごし、七歳の頃実家より程遠い聾学校に入学した(彼は生まれつき耳が悪かった)。彼は15歳で聾学校を卒業後、上京。都内のおんぼろアパートで、東大受験のために勉学に勤しむ。しかし肝心の受験は二度も失敗し、流石に心が折れたのか東大は諦め、同じ都内の三流大学に入学した。受験費用や入学費用などは全て自分で稼いでいたようだ。それから四年後、22歳で彼は突然渡米。そこから紆余曲折を経てアラスカの地に降り立ち、そこで神秘との遭遇を果たし修行の末悟りを開き解脱した。(ついでに超越人力も身に着けた。空も飛べる。)彼はこの当時のことについて『ポテトだ、ポテトが私を解脱へと導いたのだ』と語っており、この頃からポテトに対する情熱の片鱗が窺える。彼はその後、アラスカで自分を解脱へと導いたポテト(一説によればそのポテトとは『神話のフライドポテト』なのではないかと言われているが、真偽は不明)に対する感動や感謝から、故郷である熊本の地に『ポテト御殿』を建立し、ポテトを祀った。しかし、彼のポテトへの情念はそれだけに留まらず、幾種ものイモ類を自ら畑に植え育て、さらにそれを使って究極の芋料理の完成を目指すようになる。その結果彼は新興都市神浜にて『マハーイーカルー』と名付けたポテト専門料理店を出店するに至った。

*5
『「ショウゲン・オミ」の経営するポテトショップ』は、正式名称を『マハーイーカルー』という・・・多種多様な芋料理(特にフライドポテト)を提供するポテトショップである。神浜市に本店が存在し、若者の憩いの場となっている。最近は紫芋を使ったスイートポテトが女性に人気。

*6
『Dサイズ』とは、死ぬほどスゲー量、食う前に寿命で死ねる量、みたいなニュアンスの言葉。『D』は『death』の頭文字を表す。




更新遅れてごめんね、ごめんね・・・次回はちゃんと話も進むし、投稿も早めにするし、大丈夫だって安心しろよ~。ヘーキヘーキ、ヘーキだから。

次回、第3話「フィーア・ナッシング・モア」!


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閑話 マハー・マハー・ブッダ

次回は『フィーア・ナッシング・モア』だと言ったな。アレは嘘だ。


 『マハーイーカルー』そのポテト加工工場である『サティパラ』*1、20ヘクタールもの広大な敷地に建てられたその巨大な建造物は、ウシミツアワーの月明りに照らされ、その輪郭を怪しく現す。ドームから煙突が幾本も生えた見た目のソレは、外見から予測されるものとは反した内部構造をしていた。

 外部からの唯一の出入り口である『サティアンゲート』*2を抜けると、キリスト教の大聖堂を思わせる装飾を施された広間に出る。そこをズウッと奥に行くと、五つに分かれた道が見えてくる。この道はそれぞれポテトの加工プラントに繋がっているが、中央の道だけは違って、その奥にあるのはこれまた巨大な『ユニハ』*3である。入口すぐの大聖堂めいた煌びやかな装飾はそこには無く、どこか和を思わせる質素な装飾が施されていた。

 仄暗いその部屋を照らすのは蝋燭の灯火のみ。これに炙り出されるのは一人の男の影。

 

 長く蓄えた髭に、ふくよかな顔と体。ゆったりとした赤紫のクルタを着用したその男は、ユニハの最奥にて座禅を組んで、瞑想に耽ているようだった。

 

 

「・・・流移魂(るいこん)*4が乱れている」

 

 

 男はふと、天啓を得たかごとく呟いた。

 

 

「流移魂を乱すものは、何人たりとも許されない・・・」

 

 

 大気は揺れ、空間は超音波により微細に振動を繰り返す。

 

 ふわり、と、突然男は浮いた。座禅を組んだまま。

 

 これぞ超越人力の秘儀、『空中浮遊』である。

 

 

「ポアだ、ポアするしかない」

 

 

 男は傍に控えていた細い男に言う。

 

 

「アーナンダー・・・流移魂の乱れの原因を調べよ」

 

『それがグルが命とあらば、悦んで』

 

「行け」

 

 細い男は瞳孔を細長く絞って、ニヤリと笑みを浮かべ、影となって消えた。

 

 

「私も、この穢れを浄化せねばな」

 

 男は宙に浮かんだまま、薄茶色の不揃いな球を手に掴む。ポテトだ。

 

「ア・ダガ・ダタダ・ムグリノケ・ハナツボミ・サエズリザクロ・モグリグラ・ハヤニエ・ミタマガテ」

 

 この文言に特筆すべき意味はないが、トランス状態に至るには効率的。男は左右の目を別々の方向に絶え間なく揺らして、ポテトを撫でる。すると、ポテトを包んでいた両の手がボウと光った。

 

 ここに記しておくが、これはマジックではない。真実に奇跡であり、神秘である。電飾などは決して仕込まれてはいない。

 

 この怪しげな光こそが生命の光。プラーナの光。この世の生きとし生けるものを構成する命の塊である。

 これをポテトに注ぐことによって、ポテトはその質を超常的なまでに引き上げる。それはそのポテトを食べたものに天上の快楽と悟りを与え、或いは超越人力に目覚めさせる程である。

 

 しかしこの紫の男は「ウムゥ」と唸る。ポテトの出来に納得がいかないからだ。

 

「私もまだまだだな・・・」

 

 男がプラーナを与えたポテトは、ポテトとしては破格の美味さを得た。だがしかし、これを食べたところで悟りに至ることも、超越人力を得ることもできない。ただ美味いだけのポテトだ。

 

 男が目指すのは神話のポテト。

 

 一たび口にすれば神に至れると云われる、神話のポテトだ。

 

 これを目指すには自分はまだ未熟であるとしかいえない・・・男は悔しさに顔を歪めて、地に降りる。

 

「しかし・・・流移魂を乱す者・・・一体何奴よ・・・」

 

 男の名は『麻績彰現』、ポテト料理店『マハーイーカルー』のグルであり、『超越人力』を使うポテトを愛せし者である。

 

 

♦♦♦

 

 

 キュゥべえは、いつも通りのルーチンに従って神浜の地を歩いていた。

 

 ああ、どっかに魔法少女になりたそうなメスガキは居ないかな~、なんて思いながら歩いていた。

 

 インキュベーターの端末であるキュゥべえは、思考能力がほとんどなく、自我もない。インキュベーターの操作がなければマトモに動けぬストローヘッドである。そしてあいにくこの時、このキュゥべえは自動操縦モード・・・つまりプログラム通りにしか動かない状態であった。

 

 だからだろうか、背後から忍び寄る影に反応できなかったのは。

 

 

『きゅぷッ?!』

 

 彼の赤い視界を覆ったのは、真っ白な煙。キュゥべえは突然の出来事に間抜けな声を出す。

 

『きゅぷいッ、ぶぽッ、ぽぽぽぽぽぽぽッ』

 

 煙が体表に触れた瞬間、強烈なエラーが生じる。彼は思わずプラーナを吐き散らかした。

 

『ぷえッ、ええッ、何が、エラー?本体ッ、本体ィ”イ”イ”イ”イ”イ”ッ”――――――』

 

 機械音めいた悲鳴を残して、キュゥべえは緑色の液体と化す。溶けたのだ。グロイ!

 

 

 ジュワジュワと煙を出すキュゥべえの残骸を踏みつけて、白色の防護服を纏った集団が現れる。彼らの手には消火器のようなものが握られていて、どうやら先程の白い煙はこれから噴射されたものらしかった。

 

『ザザッ・・・こちらヴァーユパダーティ。白い虫けら退治は順調、神の風の効き目は上々だ』

 

『ザッ・・・こちら本部了解。そのまま南進し、虫けら共を一匹残らず殲滅せよ』

 

『了解』

 

 白い防護服の者どもの中に、鬼の仮面を装着した者がトランシーバーを使って会話する姿があった。その見た目からして、彼はこの集団の隊長格の人物だろうか。彼は鬼面の奥で先程溶かしたキュゥべえを睨みつけていた。

 

「ナズナ・・・兄ちゃんが必ず仇を取ってやるからな・・・」

 

【挿絵表示】

 

 彼らは『マハーイーカルー』の裏組織、『マハーキータハン』*5の特定星外生物処理省『ヴァーユパダーティ』。インキュベーターを殲滅するためだけに創設された集団である。

 構成員の大半はインキュベーターに家族を殺された者達であり、志願理由は皆揃って『復讐』。彼らはアスラをも超える復讐鬼なのである。

 

 例えばこの鬼面の男の妹は、両親の病気を治したい・・・という願いから魔法少女となって、魔女に胴体を食いちぎられて死んだ。亡骸は彼女の友人である他の魔法少女たちが確保していたから、消滅することなく彼の元に届けられた。『ごめんなさい』と泣き叫ぶ少女たちから、彼は魔法少女の真実を教えてもらい、インキュベーターを知った。だから殺そうと思った。仇を取らねばと思ったのだ。

 故に彼はこの組織に入った。

 キュゥべえを殺すために。

 

 ほかの奴らも皆そうだ。妹だったり娘だったり、彼女だったり・・・皆キュゥべえに大切なものを奪われた者達だ。

 

 殺してやる。

 

 その純粋な思いこそが彼らを突き動かす原動力。

 

 インキュベーターには一生理解できないだろう思いだ。

 

「死ねッ、死ねぇええええええええッ!!!!」

 

「ナキナの仇だッ!!」

 

「死ねッ!!!!!!!」

 

 『ヴァーユパダーティ』は神浜から、いや世界からキュゥべえを駆逐せん勢いでインキュベーターの端末たちを破壊してゆく。

 彼らの武器は、消火器のような見た目の容器に詰められた『ヴァーユ』という液体である。これは『マハーキータハン』の魔法技術省*6が開発したもので、特定のプラーナ因子を持つ生物を尽く破壊する性質を持っている。

 その正体は、特定のプラーナ因子を持つ生物に対して反応する反プラーナ素子*7を組み込んだ細菌。ありていに言ってしまえば生物兵器である。(ここで云うところの特定のプラーナ因子を持つ生物とはキュゥべえの事であり、他の生物に対しては実際無害なので安心、しよう!)

 

 噴霧されたヴァーユに触れたインキュベーター達は、たちどころにドロドロに。『ヴァーユパダーティ』の面々は、その光景にどこか愉悦を感じていた。

 

「yaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!この程度なのかよ!!!!インキュベーターァアアアアア!!!!」

 

「ハハハハハッ!!このクソカス共が!!!!地獄に堕ちろォォオオオッ!!!!」

 

 キュゥべえたちは、その日のうちに神浜から姿を消した。

 

 

 

『・・・この通り、神浜からインキュベーターの影は全て消滅しました』

 

「うん、ご苦労」

 

 いつもの如く『ユニハ』の奥で空中浮遊し、『プラーナポテト』作りに勤しんでいた麻績は、忠実なる部下『アーナンダー』からの報告に頬を緩めた。

 

「ああ、少しだけ流移魂が正常に戻ったようだ・・・アーナンダー、私はこれから神浜に結界を張る。全ての構成員に伝えよ。『還魂薬の開発を急げ』とな」

 

『ハイヨロコンデー』

 

 アーナンダー*8はそう返事をし、闇に消えた。

 

 

「ポテトを広めるためには、出来る限り不幸を消さなければならない。インキュベーター=サン、貴様もポアだ」

 

 

 ポテトで笑顔を作りたい。しかしポテトにありつく前に人は死ぬ。不幸にも死ぬ。故に彼は人々が不幸に死なぬように努力してきた。全てはポテトを広めるために。

 

 だから『魔法少女』も救う。

 だから『インキュベーター』をポアする。

 

 当然路地裏で路頭に迷う孤児にはポテトを与え、苦痛に喘ぐものには手を貸してやる。『魔法少女』を救うのも、その一環なのである。

 そもそも『魂』が正常に流れないことが気に食わない。『魂』は幸せになるためにあるのだ、決して『インキュベーター』の私腹を肥やすためにあるのではない。

 

 インキュベーターが流移魂を乱していたと知った時、麻績は怒りに打ち震えた。

 

 純真無垢な少女の『魂』が無惨な結末を迎えている事に涙した。

 

 彼の宇宙生物に家族を奪われた者たちの嘆きに心を動かされた。

 

 だから『ヴァーユパダーティ』を作った。インキュベーターに復讐を誓った者達を集めて、復讐をさせてやろうと思った。復讐によって彼らを救いたいと考えたのだ。

 

 今から魔法技術省に作らせようとしている『還魂薬』は、ソウルジェムに囚われた少女たちの魂を、元の肉体に還す薬である。これは魔女と化した魔法少女にも有効となる予定である。

 

 

(インキュベーター=サン、貴様に安息の地は与えん・・・地の果てまで追ってやる)

 

 

 その日、神浜の地は不可視の大結界によって覆われた。

 

 これによりインキュベーターは神浜の地に侵入することが出来なくなり、また魔法少女を増やすことも不可能となった。

 

 1995年、3月20日のことであった。

 

 さらに数年後、『還魂薬』のプロトタイプが完成し、神浜の地から魔女が消え去ることになるが、それはまた別の話。

*1
『サティパラ』・・・裸の真実の意。

*2
『サティアンゲート』・・・心理の門。地獄の門とよく似た見た目をしている。

*3
『ユニハ』・・・儀式を執り行う場のこと。

*4
『流移魂』・・・流れ移る魂、つまりは魂の流れ、輪廻転生のこと。この流れを乱す者はどんな形であれ必ず滅びる。類魂ではない。

*5
『マハーキータハン』・・・『マハーイーカルー』の下部組織で、慈善団体。怪しい組織では決してない、いいね?

*6
『魔法技術省』・・・『マハーキータハン』の内部組織。主に魔法少女達の使う魔法の研究をしている。将来は魔法をポテトに転用したいと考えている。

*7
『反プラーナ素子』・・・準反物質とでもいうべき存在。キュゥべえの持つプラーナと接触すると対消滅を起こす。だから、ドロドロに溶けるんですね。

*8
『アーナンダー』・・・聡明なヘッズ諸君ならばもうお気づきだろうが、彼はニンジャである。暗殺や隠密が得意であるが、カラテは未熟である。




というわけで、マギアレコードは消滅しました。
本編では西暦何年だとか明記されてなかったけど、流石に1995年ではないでしょって。


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第3話 フィーア・ナッシング・モア①

まどマギのソウルジェムキーキャップがアニプレ通販で予約できたんですけども・・・数日買うか買わないか熟考している内に『巴マミモデル』を残して購入できなくなっていました。

マミさんはスピンオフ以外でも売れ残るのか・・・・・・


 幼児が適当にクレヨンを走らせたような、奇妙な空間*1

 

 そこで対面するのは

 

金髪ツインテドリルのおっとり系メンヘラ魔法少女『巴マミ』

 

赤黒いニンジャ装束を纏いし殺戮者『キュゥべえスレイヤー』

 

・・・彼女らは沈黙し、向き合ったまま微動だにしない。マミはキュゥべえスレイヤーを親の仇が如く睨みつけ、キュゥべえスレイヤーは虚無的な瞳のまま無表情を貫いていた。

 

 ヒタリ、ヒタリと、巴マミの後方より何かの足音。小動物めいたその足音は、だんだんとこちら側に近づいてきていることを感じさせる。

 

 そして、奴は現れた。

 

 

『ドーモォ、キュゥべえスレイヤー=サン。インキュベーターです』

 

 

 その体躯は白く小さく、猫のようなシルエット。しかし頭部から垂れ下がった触腕は、どこか犬の耳を思わせる。だがその顔はマズルが無く、つるんとしていてゆるキャラチック。二つ付いた赤い瞳は無機質で、何処を見ているかわからない。

 

 そう、皆さんご存じ『キュゥべえ』である。

 

 キュゥべえは『ω』の形をした口を吊り上げて、悍ましく嗤っている。感情がないとは何だったのか。

 

 

「・・・ドーモ、インキュベーター=サン。ウシミツアワーに何用だ。」

 

 

 最初に声を発したのは、キュゥべえスレイヤーだった。

 彼女はメンポの奥で何か不吉なものを感じながら、インキュベーターを見据える。

 

 

『きゅッ・・・』

 

 

 インキュベーターは顔を俯け、フルフルと震える。それはまるで―――

 

『きゅぷぷッ・・・キュぷぷぷぷぷぷェハハハハハハッ!!!!!』

 

―――可笑しくてたまらない、そんな()()があるような・・・・・・。

 

「何が可笑しいッ!」

 

 インキュベーターの不愉快極まりない機械音めいた笑いに、キュゥベえスレイヤーが吠える。

 

『可笑しい・・・?可笑しいねェ!とってぇえもオカシイッ!!僕は今狂っている!!!!

・・・これが笑わずにいられるかい?』

 

 彼はキュゥべえスレイヤーを嗤ったのではない。自身が『極めてまれな精神疾患』と呼んだ『感情』に感染して、こうして『復讐』のためにこの地にキュゥべえスレイヤーを招いたという『現実』が、可笑しくてたまらずに『笑った』のだ。そしてインキュベーターは、今の自身の状態を『気狂い』と判断したのである。

 狂っていてなお自身を客観的に評価できるとは流石インキュベーター。人間とは根本的に精神の構造が違うらしい。

 

 キュゥべえはさらに続けてこう言った。

 

 

『アヒャハッ、ハハハハハッ・・・君のせいなんだよ?今更謝っても許さない・・・ボクは今から『コイツ』を使って、君を殺すッ!!!!』

 

 

 それはまさしくイクサの合図であった。

 

 キュゥべえの後ろに控えていた『巴マミ』は瞬間掻き消え、QS*2が気が付いた時には、彼女はQSの腹部に弾丸を三発撃ち込んでいた!

 

「グワーーーーーッ?!」

 

 QS、衝撃により激しく平行に吹き飛ぶ!ゴウランガ!

 

 キュゥべえに『コイツ』と呼ばれた彼女、『巴マミ』は手に握ったマスケット銃から燻る煙を、フッと息を吹きかけて消す。

 彼女が今QSにお見舞いしてくれたのは、彼女の固有魔法によって生成された特殊な弾丸。その名も『魔弾』である!これは純粋な魔力(プラーナ)を弾丸サイズに圧縮したもので、銃筒から勢いを付けて射出されたそれは、冷酷無比にも敵の肉体を容赦なく抉り取る!コワイ!

 

「まったく、『私の友達』にオイタをしたっていうからどんな凶悪なクズかと思えば・・・何てことはない、ただの木端魔法少女よ!」

 

 マミはQSに対して勘違いも甚だしい評価を付けると、カツカツと足に穿いたブーツを鳴らしてQSに近づく。

 

 一方QSといえば先の衝撃に呻くも、そこまでのダメージは無いようで既に立ち上がっていた。

 

(ヌゥ・・・この少女、ニンジャではないとはいえ、何というワザマエ!)

 QSは少女『巴マミ』に対して、心の中で敵ながら賛辞を送る。

 

 

「あら、もう立てるの?思いのほか頑丈ね・・・なら、これはどうかしらッ!」

 

 

 マミはマスケット銃に黄色のリボンを幾重も重ね、大砲と見紛うほどの銃身を持った、巨大なマスケット銃を生成。

 

 

「懺悔なさい・・・『ティロ・フィナーレ』ッ!!!!

 

 

 彼女がそう叫んだ瞬間、大筒は爆音を伴い火を噴いた。

 

 特大の魔弾は大筒から射出されると、QSに向かって真っ直ぐに突っ込む!その勢い、まるで暴走新幹線の様!

 

「アバーーーーーッ!!」

 

 そしてキュゥべえスレイヤーは、これを・・・避けない!ナンデ?!

 

 またもやQSは吹き飛び、見えない壁に激突!!

 

「ヌグゥッ」

 

 さらには吐血!

 

 赤黒いメンポからは、同系色の液体が止めどなく溢れてくる。先程のワザ『ティロ・フィナーレ』によって、内臓を幾ばか破裂させたらしかった。

 

 しかし彼女はニンジャ。この程度では死なない。

 

 彼女は揺れる視界を耐え、立ち上がる。

 

 その目は虚無的であった。

 

 

「な・・・何なのよアナタッ!何で死なないの?何で起き上がるの?!」

 

 彼女のその七転び八起きな姿勢に、巴マミは恐怖した。

 

(ああ、ニンジャ・・・ニンジャ・・・)

 

 そして、その恐怖がトリガーとなって、マミの脳が本能の記憶を呼び覚ます。日ノ本の原初から存在し、血で血を洗う争いを繰り広げた神話の殺戮者・・・ニンジャの記憶を。

 

 ジャリ、ジャリ、とキュゥべえスレイヤーの地を踏みしめる音が、彼女の外耳道を伝い、聴神経を流れて脳へと到達する。

 

 見よ!彼奴の風体を!

 

 赤黒いニンジャ装束に身を纏い、フェイスにはメンポを装着している。あからさまにニンジャだ!何故気が付かなかった?!

 

「アイ・・・アイ・・・」

 

 マミは自身の目に涙が溜まっていることに気づかぬ。何故ならば混乱しているからだ。突然に古の記憶が蘇り、本能と理性がせめぎ合っているのだ。

 

『何をしているッ、巴マミィィィイイイイイッ!!動け、奴は手負いだぞッ!!!!殺せッ、早く殺せええええええええッ!!!!』

 

 動かぬマミにシビレを切らしたか、キュゥべえは焦り、叫ぶ。

 

 しかし理性は本能に勝てぬ。

 

 途端、彼女の中で何かが切れた。

 

 

「アイエエエエエ!ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」

 

 

 顔面を涙と鼻水で汚し、巴マミは無様に絶叫。そしてしめやかに失禁した!

 

 急性NRS(ニンジャリアリティショック)を発症したのである!

 

「アイェエエエッ!!アイエエエエエエッ!!!!」

 

『巴マミ?!何をしているッ?!早くキュゥべえスレイヤーを殺せ!!!!』

 

 内股にへたり込み、泣き喚いて後ずさる彼女に対して、キュゥべえは怒号を飛ばす。が、効果なし。

 

「お”か”ぁ”さ”ん”ッ”、お”か”ぁ”さ”ん”ッ”」

 

 マミは今は亡き母を呼び、必死になって逃げる。しかし腰が抜けてしまっているのか、まともに動けてはいなかったが。

 

 だがそんな哀れな姿を晒しても、キュゥべえスレイヤーは歩みを止めない。

 

 躊躇を見せることなく、確実に彼女のもとへ、キュゥべえスレイヤーは一歩ずつ歩みを進める。

 

「ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!」

 

『巴マミッ!!!!殺せッ!!!!』

 

 マミの叫びはむなしく響き、またキュゥべえの叫びも無視された。

 

 

「・・・・・・」

 

 無言のキュゥべえスレイヤーがその瞳に捉えていたのは、『巴マミ』・・・ではない。

 

『インキュベーター』だ。

 

 「ゴメンナサイ!」と額を地面に擦りつけて土下座する『巴マミ』ではなく、その後ろで『殺せッ!』とみっともなく喚く『インキュベーター』を見ていた。

 

 キュゥべえスレイヤーは、巴マミを横切った。

 

「アイエ?」

 

 そんな間抜けな声を出したのは、マミか、キュゥべえか、或いはそのどちらもだったのか・・・しかし確かなのは『キュゥべえ』の首根っこを『キュゥべえスレイヤー』が掴み上げている、ということだ。

 

 

「ドーモ、インキュベーター=サン」

 

『・・・ドーモ、キュゥべえスレイヤー=サン』

 

 モール以来のそのジゴクめいたボイスに、キュゥべえは一拍遅れて返す。

 

『何をするつもりだい?またボクを殺すのかい?』

 

「そうだ」

 

『ナンデ?!たとえ今ここに居るこのボクを殺しても、ボクが死ぬわけではないというのに!!』

 

「オヌシがインキュベーターだからだ」

 

『狂人めッ!!』

 

 夕刻のモールでの再現かのようなその問答は、結論まで似通っていた。

 

 

「イヤーーーーーーッ!!!!」

 

 

『アバーーーーーーッ!!!!』

 

 

 飛び散るのはうすぼんやりと発光する緑色の液体。

 

 キュゥべえスレイヤーの拳が、キュゥべえの腹部を貫いたのだ!

 

『アバッ、アバババッ』

 

「ハイクを詠め・・・いや、オヌシにハイクは詠めぬのであったな、インキュベーター=サン」

 

『きゅッ、ポオッ・・・キュきゅきゅきゅきゅッ、ハイクは詠めずとも、悪あがきは出来るさ!!』

 

「ナニ!?」

 

 インキュベーターの悪あがきとは何か、キュゥべえスレイヤーには皆目見当がつかず、思わず尋ねた。瞬間、キュゥべえは口角を吊り上げて、叫んだ。

 

 

『目覚めろッ!!シャルロッテェエエエエエッ!!!!』

 

 

「シャルロッテ?何だそれは!!」

 

『わからないのかい?ボクのカワイイ魔女ちゃんだよ!』

 

「まさかあのグリーフシードか!!」

 

(病院の柱に突き刺してあったあのグリーフシード・・・そうか、あれこそ私を誘き寄せる罠であり、私を殺すための道具だったのか!)

 

 キュゥべえスレイヤー、ウカツ!少し考えればわかったものを、わざわざ敵の罠に掛かりに行くとは!

 

 しかしキュゥべえスレイヤーに後悔している暇などはない。

 

 突如、空に亀裂が走り、崩落!数秒も経たぬうちに、周囲の景色は様を変えた。先程までは落書きめいたモザイク状だったそれは、イチゴや生クリームなどに塗れたスイーツめいた物体に姿を変えたのだ。

 

 

『―――――――』

 

 

 何か言っているようで言っていないような、曖昧な雄たけびが空間に響く。

 

 宙を見やれば、黒い人面ウナギのような物体が悠々と旋回している。それの顔は白塗りで、道化めいたメイクが施されており実際気持ち悪い。

 

「あれがシャルロッテか・・・!」

 

『そうさ、ボクが大切に育んだ自慢の愛し子だよ!!』

 

「オヌシ・・・少女を何と心得るか!!」

 

『取るに足らぬ燃料だよ!!』

 

「イヤーーーーーッ!」

 

 キュゥべえスレイヤーは思わずキュゥべえを投擲。

 

『サ ヨ ナ ラ !』

 

 そして間髪入れずにキュゥべえは爆発四散。

 

「はやくあの魔女をカイシャクしてやらねば・・・」

 

 呟いたキュゥべえスレイヤーは、スリケンを構える。

 

 瞬間。

 

 

「ンアーーーーーーッ」

 

 

 叫び声。

 

 

「ッ!」

 

 

 叫び声の主は、土下座していた巴マミ。彼女は先の戦闘で魔力を使い果たしたのか、ただ動けずにその光景を見つめるのみ。

 

 

「バカ!忘れていた!!」

 

 

 シャルロッテが、『美味しいケーキだ!』と言わんばかりに大口を開いて、巴マミを喰らおうとしていた。

 

 

♦♦♦

 

 

 モグモグ

 

 モチャッ、モチャッ・・・

 

 ウシミツアワーの『ミタキハラカブキホスピタル』内、その個室で響くのは、何かを喰らう音。

 

 サクッモチャッ・・・

 

 よくよく目を凝らせば、医療用ベッドに上体を起こした状態で座っている何者かが、一心不乱に何かを喰らっているのがわかった。

 

「私にはまだポテトを食べることの出来る体がある・・・こんなに嬉しいことはないッ」

 

 その者の正体は『美樹さやか』。

 

 彼女は密やかに『五体満足記念ポテトパーティー』を開催し、ポテトを食べていたのだ。

 

「うめ・・・うめ・・・」

 

 涙が頬を伝い落ちる。

 

 ああ、こんなに美味いもんが食えるなんて、生きていてよかったなァ・・・・・・彼女はそう思いながら、涙を拭う。

 

「おかわりも沢山買ってきてもらったんだ!吐くほど食って、食って、食いまくってやる!!」

 

 彼女の食べるフライドポテトは、『ショウゲン・オミ』の経営するポテトショップ『マハーイーカルー』の新商品である、『神秘のフライドポテト/Dサイズ』である。しかも三セットも買った。死ぬでアンタ。

 

「そうだ、明日恭介にも食わせてやろう・・・せっかく同じ病院に入院してるんだし」

 

 そう、彼女の言う通り、彼女の幼馴染である『上条恭介』も、この病院に入院していたのである。なんたる奇遇か。

 

「しかしこのポテト・・・塩味が素晴らしいな。ポテトの味を殺さず、極限まで高めているッ!さらに言うなればこの揚げ加減、控えめに言って最高。ショウゲン様マジリスペクトッす!」

 

 彼女はポテトソムリエにでもなったつもりなのだろうか・・・・・・。

 

 

 そうこうしているうちに、見滝原の夜は明けてゆくのであった。

 

 

 

*1
『幼児が適当にクレヨンを走らせたような、奇妙な空間』・・・おそらく魔女の張る結界に類似したものと思われる。が、今回この結界を展開したのはキュゥべえである。魔女の元である魔法少女を作ったのはキュゥべえなのだから、魔法少女や魔女と同じ芸当が出来るのは至極当然の事である。

*2
『QS』・・・キュゥべえスレイヤーの略。




ようやく話が少し進みました・・・二次創作って案外ムズイですね。


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第3話 フィーア・ナッシング・モア②

「ンアーーーーーーーーーーーーッ!!!!」

 

 

 おのれキュゥべえめ・・・汚い、流石キュゥべえ汚い。

 

 まさか自分の手駒である無垢な魔法少女を餌にするとは、ヒレツ!

 

 キュゥべえスレイヤーは自身のポリシーから、半ば詐欺的に契約させられたモータル魔法少女を手に掛けることが出来ぬ、また死にかけていれば助けようとする。この性質を彼の地球外生命体『インキュベーター』は、この短い期間で完全に把握していたのだ!

 

 つまりキュゥべえスレイヤーが『巴マミ』に対して攻撃できないことを初めから分かっていて、彼女をけしかけたのである。しかも彼女がしくじった場合には、秘蔵っ子の魔女『シャルロッテ』に彼女を攻撃させて、それをキュゥべえスレイヤーに庇わせる・・・何という完璧な二重セキュリティ!ノートンもビックリだ!

 

 しかしインキュベーターは、些か『ニンジャ』という存在に対して不勉強気味だったようだ。ニンジャがその程度の謀略でくたばるワケが無いのだ。

 

 

「グワーーーーーーッ!!!!」

 

 

 バタタッと床面にスパッタリングされた血液は、赤黒いシミを作り出す。

 

 

「アイエッ、アイエェェェ・・・・・・」

 

 

 巴マミは目の前の光景に、初めてブラクラを踏んでしまった中坊めいた無様な表情を晒した。

 

 彼女の眼前に広がるのは、一面の赤。

 

 ドス黒い血液が彼女の顔に降り注ぐが、そんなことは今は些末事。それよりも彼女の虹彩に飛び込んできた圧倒的現実の方が、よっぽど重要であった。

 

 赤黒いニンジャ装束を纏った少女『キュゥべえスレイヤー』は、彼女に覆いかぶさるように立っており、その腹からはピンク色の内臓が零れ落ちて、また血が延々と落ち続けている。『シャルロッテ』に喰われてしまったのだ。

 

「ナンデ、ナンデェ?」

 

 巴マミは自身を魔女の手から庇ったキュゥべえスレイヤーの気持ちがわからぬ。

 

 何故って自分は彼女を殺そうとしたのだし、何より彼女は『ニンジャ』だ。取るに足らぬハズのモータルである自分を、彼女が庇う道理がどこにあろうか。

 

 マミは自身の常識からしか物事を計れぬ。だから理解できないのだ。

 

 彼女の疑問に、キュゥべえスレイヤーは静かに答える。

 

 

「私がニンジャだからだ」

 

 

 しかしその答えは、彼女を余計混乱させるだけだった。

 

 

「イヤーーーーーーーーーッ!!!!」

 

 

 空気を震わせる見事なカラテシャウト。キュゥべえスレイヤーは、己の肉を咀嚼するシャルロッテのピノキオノーズにバク転をしながら蹴りを叩き込む!サマーソルトキックだ!!

 

『――――?!』

 

 シャルロッテ、これには思わず悶絶。カラフルな瞳に涙を浮かべ、キュゥべえスレイヤーを睨みつける。

 

「シャルロッテ=サン、先程までの威勢の良さはどうした。サンズ・リバーにでも落としてきたか?」

 

 キュゥべえスレイヤー、ここぞとばかりにシャルロッテを煽る。

 

「安心しろ、オヌシもすぐに渡らせてやる故」

 

kill I want to eat cheese!!!!』

 

 煽られることに慣れていないのか、シャルロッテ憤慨!

 

 『我がメガマウスで、もう一度貴様を喰らってくれようぞ!』そう言いたいのか定かではないが、シャルロッテはこめかみに青筋立てて吠え、キュゥべえスレイヤーに突進!

 そしてキュゥべえスレイヤーは、その猛進を難なくヒラリと避ける。まるで先程の負傷が何とでもないかのような華麗な舞だ。

 

 目を凝らし彼女の軌跡を追えば、彼女はシャルロッテの攻撃を躱しながら、何やら透明なパックのような物を抱えて、その内容物を食らっているようだった。

 

 

 そう、『スシ』だ!

 

 

 しかも極上トロマグロスシ!!一体こんなものを何処で・・・・・・まさかそれは、『第2話 イッツ・ベリー・ナイス②』の冒頭で登場したトロマグロスシか!ゴウランガ!!流石はキュゥべえスレイヤー、負傷した際の回復手段を切らさぬその姿勢、まさしくニンジャの鑑よ!

 

 キュゥべえスレイヤーは、『スシ』を補給することによって、先程の負傷を完治させたのである!

 

「イヤーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

 憔悴しきった様子のシャルロッテの顔面に、血中カラテを高めたカラテを繰り出した。しかも連続で!

 

 「イヤーッ!」『Gwaa!』「イヤーッ!」『Gwaa!』「イヤーッ!」『Gwaa!』「イヤーッ!」『Gwaa!』「イヤーッ!」『Gwaa!』「イヤーッ!」『Gwaa!』「イヤーッ!」『Gwaa!』「イヤーッ!」『Gwaa!』「イヤーッ!」『Gwaa!』「イヤーッ!」『Gwaa!』「イヤーッ!」『Gwaa!』

 

 反撃の隙を与えぬ見事なカラテの嵐!シャルロッテは顔面をネギトロにされ、息も絶え絶えである。

 

「さあ、シャルロッテ=サン。ここがオヌシのオブツダンだ」

 

 びくりとネギトロめいた顔面を揺らすシャルロッテ。その表情は肉と血に埋もれて見ることが出来ないが、おそらく恐怖に歪んでいるに違いない。

 

 この瞬間、シャルロッテは自身にデスノボリが建ったことを悟ったのだ。

 

 

「イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」

 

 

 一際大きなカラテシャウト。それは決着がついたことを表していた。

 

 放たれたのは強烈なポン・パンチ。

 これはシャルロッテの胴体を易々と貫いて、致命傷を与えた。

 

 

「ハイクを詠め、シャルロッテ=サン」

 

 

 この魔女が元は無辜の魔法少女であったことくらい、キュゥべえスレイヤーは重々承知していた。しかしそれが分かっていたからとて、この哀れな魔法少女の慣れ果てを元に戻す手段などどこにも無い。可哀そうだからと生かしておけば、コイツはきっとモータルに災いをもたらすだろう。

 

 故にカイシャクの他道はない。

 

 ハイクを詠ませる時間を与えるのは、彼女なりの慈悲の気持ちの表れなのである。

 

I don't want to die, I don't want to die ... I want to eat cheesecake

 

「ポエット、シャルロッテ=サン。来世は詩人になるといい」

 

 キュゥべえスレイヤーは、シャルロッテのハイクに惜しみない賛辞を贈る。

 

 

SA YO NA RA!

 

 

 叫ぶと、シャルロッテは爆発四散。

 

 キュゥべえスレイヤーの手の中には、グリーフシードだけが残された。

 

 

 この世の本質はショッギョ・ムッジョ。

 

 キュゥべえスレイヤーは、彼女の魂に安念あれ・・・そう願った。

 

 

♦♦♦

 

 

 暖かなアーカーシャの中、私は微睡揺蕩っている。

 

 やらなくてはいけないこと、伝えなくてはならないこと・・・たくさんあるハズなのに、体は思うように動かない。

 

 疲れてしまったのだろうか、私は。

 

 あの4月30日を、いったい何千何百と繰り返したろう・・・もう最初の頃の事なんて、朧気にしか覚えていない。

 

 

 何故彼女が死ぬのか。

 

 何故私は救われないのか。

 

 私たちはただ、幸せになりたかっただけなのに・・・・・・。

 

 

 目覚めなければならぬことは、私自身理解しているのだ。しかし頭で解っているとはいえ、体は言うことを聞かぬ。もう二度とあの悲劇を見たくないと動かぬ。

 

 

 わかっている。

 

 わかっていた。

 

 彼女が私の知る『彼女』と違うことくらい、わかっていた。

 

 

 それでも『彼女』の名残を残した『彼女たち』を、私は見捨てることなど、出来なかった。

 

 

 ごめんね、ごめんね、でもこれがアートマン。逃れられぬカルマ。

 

 

 ごめんなさい、フジキド・・・もう少しだけ時間をちょうだい・・・・・・。

 

 

♦♦♦

 

 

「おお、聞こえる・・・嘆きが、悲しみが、苦しみ悶える声が」

 

 『サティパラ』の『ユニハ』で、一人の男が泣いていた。男の名は『麻績彰現』、最もブッダに近き男である。

 

 麻績は毎日ウシミツアワーに瞑想をするのだが、稀に他人の感情が流れ込んでくるときがある。流れ込むのは大抵負の感情であり、麻績はこれをキャッチすると毎回その感情の主を救おうとする。悩みを解決するための手助けを惜しまない。

 

 そして今日聞こえてきたのは、最近は無沙汰であった特大の不の感情。

 

 これは即座に動かねばならぬと麻績は判断し、自身の忠実なる僕、『アーナンダ―』に指示を出す。

 

「アーナンダ―、負の源を調べよ」

 

『ハイ』

 

「もしものことがあるかもしれぬから、これも持って行け」

 

 麻績がアーナンダ―に差し出したのは、インド風香水瓶*1

 

『・・・ッ、まさかアヤツが動き出したとでも・・・?』

 

「そのまさかだ。これほどの絶望と悲しみを作り出せる存在を、私は一つしか知らない」

 

 アーナンダーの驚愕に、麻績は静かにそう返す。

 

 麻績の言葉に目を閉じたアーナンダ―の脳裏には、16年前の惨劇が浮かんでいた。市街の幼女が次々と魔法少女となり、無惨にも死んでいったあの惨劇が。

 

 あれから16年、鳴りを潜めていたアレの名は――――――

 

『・・・インキュベーター』

 

 アーナンダ―は呟くと、その香水瓶を受け取る。

 

 香水瓶の中に入っているのは真紅の液体、その名も『ハリ・アウシャディ』*2。『還魂薬』の完全版である。

 

「行け、アーナンダ―。救うのだ」

 

『ハイ、ヨロコンデー!』

 

 『サティパラ』を勢いよく飛び出したアーナンダ―は、宵闇の神浜市を風となって駆ける。目指すは『見滝原市』、あからさまに怪しい気配を放つ新興都市だ。

 

 

 

*1
『インド風香水瓶』・・・奇しくもソウルジェムと似た見た目をしている。ポテト神学者の間では『香水瓶はグリーフシードに芸術的価値を見出した時の権力者たちが作らせ始めたのではないか』などと実しやかに囁かれているが、真偽のほどは定かではない。

*2
『ハリ・アウシャディ』・・・『苦しみを取り去る薬』の意。振りかけたモノをあるべき姿に戻す性質を持つ。




『フィーア』はドイツ語で『4』を意味しています。『4』は日本では『し』と読むことが出来、これに当て字をすると『死』となります。
つまり今回の題名は『もう何も死なない』って感じの意味だったんですね。いやー、なんて高等なギャグなんだ(棒)

twitter.com/Stu_Dihi  ←去年作ってほったらかしにしていた作者のツイッターアカウントです、本作の更新情報などを呟きます。

次回、第4話『ゼア・アー・ミラクルス・アンド・ポテトーズ』!

その神秘、ポテトが力ぞ。


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閑話② マドカ・アーブセント

『第2話 イッツ・ベリー・ナイス①』の後、まどかの話です。


 昨日は何かとんでもない事を経験した気がするし、何故か自室の学習机の上には『怪しげな手紙』(第2話 イッツ・ベリー・ナイス① を参照だ!)が置いてある。自分はそんなところに手紙を置いた記憶はないし、そもそも手紙なぞ貰っただろうか?

 

 鹿目まどかは目の前に置かれた『怪しげな手紙』を見つめながら訝しんだ。しかし訝しむだけでは疑問の解決にはならぬので、取り敢えずその手紙の封を切ってみることにした。

 

 ビリリッ・・・カサッカサッ・・・ペラ・・・

 

 結果として、鹿目まどかは驚愕した。

 手紙に書かれていたのは、キチガイじみたアトモスフィアを醸し出す文字列だったのである・・・ヘッズの諸君にはその文章の一旦をお見せしよう。

 

 

『途方もなく昔、宇宙はニンジャによって創られた』

 

『インキュベーターは古代ニンジャ文明の遺産』

 

『インキュベーターを創造した古代ニンジャの一派は邪悪。よってインキュベーターも邪悪』

 

『インキュベーターは《キュゥべえ》という端末を使って少女を化け物に変えている。見つけても決して近寄ってはならない、いいね?』

 

『ちなみにこの世界は何百巡目の世界』

 

『そして私は原初の《鹿目まどか》と友人であった』

 

 

 ―――何だろうこの怪文書は?

 

 鹿目まどかは朝っぱらからイヤなモノを見てしまったと思い、その根源である手紙を処分しようとゴミ箱に手を伸ばす。が、その時彼女の網膜に飛び込んできたものがあった。

 

 それはこの『怪しげな手紙』の差出人の名前であった。

 

「あけみ・・・ほむら・・・?」

 

 彼女の脳裏に浮かぶのは、昨日知り合ったばかりの転校生の姿。赤黒いニンジャ装束を纏い、顔面には決断的に『Q殺』と刻んだメンポ・・・メンポ?ナンデ?

 転校生である彼女は果たしてそんな珍妙な姿格好をしていただろうか?否、断じて否である。彼女は黒髪ロングが特徴的な少女であり、服装に関しても以前在籍していた学校のモノであったはずだ。

 

 しかし、それは本当の事なのだろうか?自分は何か大事なことを忘れてはいないか?そもそも何故彼女を思い浮かべた時に真っ先に出てきたイメージが『ニンジャ』なのだ?

 

 私は『暁美ほむら』について他に何か知っているのではないか?

 

 瞬間の事である。鹿目まどかは極度の頭痛に襲われた。

 

 

「あがッ!?アギッ、ギエアッ、アイ、アイエッ!!」

 

 

 その痛みはいかほどのモノであったのだろうか。まどかは頭を押さえて蹲り、しめやかに失禁!ついでに嘔吐した。

 

「オゲェッ、ゲェエエエッ、ゴボボーーーー!」

 

 まどかは地べたで悶え、全身を小便と吐瀉物でしとどに濡らしながら思い出す。

 

 『暁美ほむら』が何者であったかを。

 

「オゲッ、ほむらさんはニンジャだった・・・?ナンデ?ナンデ?」

 

 そう、暁美ほむらの正体はニンジャ。キュゥべえを殺し、果てにはインキュベータを殺さんとする者。その名も『キュゥべえスレイヤー』。かつて『ニンジャスレイヤー』だった者が宿りし魔法少女である。

 

 ところで何故これ程の重大な事を彼女は忘れてしまっていたのだろうか?敬虔なニンジャヘッズならばこう思ったのではないか・・・これはNRS(ニンジャリアリティショック)によるものであると。

 NRSの後遺症には様々あるが、その中には『一時的な記憶障害』が挙げられる。何故そうなってしまうのかには諸説あり、単純にショックからくるものであるという説や、自己防衛的本能からニンジャの記憶を封印しようとした結果であるなど色々とある。

 

 が、しかし、今回の鹿目まどかの一時的な記憶障害はNRSとは無関係のモノである。

 

 それが何故なのかは今は言えない。

 

 何故言えないのかも言えない。

 

 ただ一つ覚えておいてほしいことは、この日、鹿目まどかは体調不良を理由に学校を欠席したということである。

 

 

 

 

 

 

 




回収し忘れそうだったので書いた話。次話はいつになるかわからんね。


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